あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part216
1 :
sage:
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part215
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1235088757/ まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
4 :
zeropon!:2009/02/28(土) 15:07:17 ID:coX8fBH2
規制されました。ごめんなさい
仕切り直すのもOK、避難所に投下して代理してもらうのもOK
決めるのは君だ!
6 :
zeropon!:2009/02/28(土) 15:26:59 ID:coX8fBH2
前途多難。もっかい仕切りなおし
30から
7 :
zeropon!:2009/02/28(土) 15:29:50 ID:coX8fBH2
第四話
『ゼロ』の使い魔
きゅるるるるるるるるる
軽快な空腹音が響く。
「・・・あなたご飯食べなかったの?」
キュルケが聞いてくる。
「うるさいわねえ・・・食べそびれちゃったのよ。」
「そう・・・あなた,使い魔は?」
「ふえ?・・・あれ?メデン?」
いつもはほっといてもついてくるメデンがいなかった。今日の授業は使い魔のお披露目も兼ねている。
「もう!こんなときに使い魔がいないだなんて、いったい・・・」
「ルイズ様」
にゅうっとルイズの横にいつの間にか現れたメデンがいた。
「・・・あんた、急に出てくるのやめなさい。心臓に悪いから。で、それはなに?」
突然現れたメデンは包みを抱えていた。その包みからはえもいわれぬいい匂いがしている。
「シエスタ様がルイズ様に、と」
「私に?なにかしら?」
ルイズが包みを開けてみると二つの白米の塊があった。
「なにこれ?」
「シエスタ様の故郷の携帯食で、『オーニギャリ』というものらしいです。朝食の代わりに是非と」
「へえ、おいしそうね。ルイズ、一個もらうわよ」
ひょいっと横から二個あったうちの一個を取るキュルケ
「あ!ちょっとキュルケ!私がもらったのに!あんた朝ごはん食べたんでしょ?」
「いいじゃない、一個ぐらい。あらおいしい」
「・・・あんたダイエット中じゃなかった?」
「ぐうっ」
乙女の脅威のひとつを指摘されたキュルケはオーニギャリの手を止める。
「あんた最近太ってきてない?」
「ぐぐうう・・・」
完全に朝の仕返しを成し遂げたルイズはオーニギャリをほおばる。
「うーん、いいわね。これ。塩味が適度にきいてて美味しい。あとでシエスタにお礼言わなきゃね」
キレイに平らげたルイズ。横を見ればキュルケが涙を流しながら最後の一欠けらを食べていた。
「・・・なんでダイエット中のご飯っておいしいのかしら?」
「・・・お腹が減ってるからよ」
世の無情とシエスタの愛情をを二人で噛み締めていると、始業のベルが鳴った。
8 :
zeropon!:2009/02/28(土) 15:31:22 ID:coX8fBH2
惨憺たる有様だった。授業の教師であるシュヴルーズは黒こげになっていた。その他にも爆心地である教卓から半径五メイルが吹き飛んでいた。
「ルイズがまた失敗したぞ!」
「だから止めたのに!」
「俺の使い魔はどこだ?!」
「目が!目がああああ!!」
本日の授業の内容は『錬金』である。教師であるシュヴルーズがまず、小石を真鍮に変えて見せたのだが、それを次に生徒にさせた。
ルイズに、である。キュルケの抗議と警告、他の生徒の反対を押し切り、ルイズが『錬金』の実演を行った結果がこれである。グラウンドゼロに黒こげで憮然とたたずんでいたルイズはぽつりと言った。
「ふう、ちょっと失敗したわね」
「ふざけるなあああ!」
「いつもいつも失敗しやがって!」
「『ゼロ』のルイズめ!!」
非難していた無傷のキュルケは教室の後ろからそんなルイズを見ていて気づいた。
彼女の手が微かに震えているのに・・・。
「わかったでしょ、なんで『ゼロ』って呼ばれているか」
部屋の片付けの為に他のパタポンたちを呼んできたメデンにルイズは背を向けそう言った。
「メイジなのに魔法の成功率『ゼロ』パーセント、魔法の才能『ゼロ』・・・だからみんな『ゼロ』って呼ぶのよ」
背を向けたままメデンに話すルイズ。その拳はくやしさで強く握り締められて入れた。
「こんな・・・主人で軽蔑したでしょ?」
そういって振り向いたら・・・普通にメデンたちは教室を掃除していた。
「・・・なにしてんのよ」
「はい?ルイズ様が吹き飛ばしたので激怒された先生から魔法を使わず部屋をキレイにするように、
ルイズ様が命ぜられてたのでルイズ様と一緒に部屋をかたづけているのですが?」
「説明ありがとう。じゃなくて!私が」
「『ゼロ』と呼ばれる理由ですか?」
「っつ、そうよ!私が『ゼロ』なんて呼ばれて、みんなからさげすまれて!」
「ルイズ様」
「最低限のコモンマジックすらつかえない・・・」
「ルイズ様!」
メデンの声によって遮られるルイズの独白、メデンの一つしかない瞳はルイズをしっかりと見据えていた。
「・・・なによ」
「あなた様が望むのなら、私たちは全てのことを致します。敵を討てといえば敵を討ち、あなたを守れと言われたなら守り、魔法を使えといわれれば魔法も使いましょう。
あなた様が望むのならあなた様を『ゼロ』と蔑む全てのものを排除します。あなたはそれを望んでおられるのですか?」
「それは・・・」
「そう、あなたはきっとそんなことは求めないでしょう。そんなことをしても自分が『ゼロ』だという本質が変わるわけではないと分かっておられるから。ならば貴方がされることは唯一つ。
『ゼロ』ではないことの証明です。それはここで愚痴を言われ、使い魔に同情されれば為せるのですか!」
メデンの叱責にルイズは言葉もなく俯く。
「メデン様、片付け終わりました」
ルイズたちのやり取りの間に他のパタポンたちによってすっかり教室はキレイになっていた。
「ごくろう、貴方たちは先に食堂へ行ってなさい」
「ハッ」
ぞろぞろと教室を出て行くパタポンたち、残ったのはルイズとメデンのみ。メデンは俯き何も言わないルイズにすっ、と近づく。そしてルイズの前に立ったメデンは右手をルイズにそっとさし出した。
「さあ、ルイズ様、昼食を食べに行きましょう。魔法の練習をするのもお腹が減ってはできませんよ?」
「・・・うん。」
ゆっくりとその手を握り返すルイズ。メデンはルイズの手を引いて食堂へ向かう。
教室を出るときには俯いたままではあったルイズだったが、食堂に着くまでには少し赤くはれた目をしてても、しっかりと前を見ていた。そんなルイズを見ながらメデンは思った。
(・・・扱いやすい御方です)
メデンは意外と黒かった。
9 :
zeropon!:2009/02/28(土) 15:33:10 ID:coX8fBH2
食堂の席に着くと、メデンは昼食を受け取りに厨房に向かっていった。
(一緒に食べさせようかしら・・・)
一人の食事はなかなかに寂しいものだった。もぐもぐと一人で食べていると横にキュルケがやってきた。
「ハァイ、ルイズ。一人の食事なんて侘しいわね」
「ほっといてよ、あんたに同情されるなんてそれこそ侘しいわよ」
「あらひどいわね、そんな言い方しなくてもいいじゃない、お・と・も・だ・ちに」
「お・こ・と・わ・り・よ、ツェルプストー。・・・あと、あんたにもう一回聞くわね?」
「聞かないで・・・」
キュルケの食事、それは傍目に見ても脂肪分、炭水化物、に特化した食事だった。
「・・・涙流しながら横で食べないでよ」
「・・・おいしいわあ」
そんなキュルケを見てると横からルイズにデザートが差し出された。給仕が持ってきてくれたのかと思い見ると、
「ルイズさまー、キュルケさまー、デザートですー」
メイド服を着た目玉がいた。
「・・・なにしてんの?えーと?」
「ザッツ・ヨーです!シエスタさんのお手伝いです!」
元気に答える目玉ことパタポンことザッツ・ヨー。周りを見れば同じようにメイド服をきたパタポンたちがぞろぞろとデザートを運んでいる。
「というか、あんたらそのメイド服はどうしたの?」
「さあ?シエスタさんに『お礼にお手伝いを』って言いましたら奥からたくさん出されました!」
「なんでこんなのを常備してんのここ?」
メイド服パタポンに驚いた生徒は最初はざわざわしていたが、普通に給仕をこなすパタポンたちに慣れたようですぐに騒ぎも収まる。
「・・・おいしいわあ・・・おいしいわあ」
代わりにもぐもぐもぐもぐと、涙を流しながら親の敵のようにデザートに挑むキュルケが周りの注目を集めていた。そしてもう一箇所、
「どうしてくれるんだ!」
「ひっ、も、申し訳ありません!」
シエスタと、それを叱責する金髪の少年に注目が集まっていた。金髪の少年の名はギーシュと言った。
「君が香水瓶を拾ったりしなければ、二人のレディを傷つけることはなかったんだ!」
「すいません!すいません!」
「・・・ザッツ・ヨー」
「はい?」
「あれは何なの?」
「しばらくお待ちを」
ザッツ・ヨーは周りのパタポンに事情を聞いてくる。
「どうもシエスタ様が拾った香水のビンから、あのギーシュ様の二股がばれたのをシエスタ様のせいにしてるようです」
「なにそれ?最低じゃない」
どう考えてもギーシュが悪い。どうせ振られた憂さ晴らしにシエスタをいじめているのだろう。
「・・・シエスタには朝食の分もあるしね」
そういってルイズは席を立つとギーシュ達のところに行った。
「ちょっとギーシュ!なにシエスタいじめてんのよ!」
ルイズの声によって、遮られた理不尽な糾弾。
「なんだね、ヴァリエール、ほっといてくれ。このメイドのせいで僕の名誉は傷つけられたのだよ!」
「は?ばっかじゃない?二股なんかしてるあんたが悪いんじゃない」
「そうだ!そうだ!今回ばかりはお前が悪い!」
「認めろよギーシュ!」
周りの野次にどんどんギーシュは顔を紅潮させる。ギーシュはシエスタに向けていたそれは今度はルイズに向けられた。
「黙りたまえ!はっ、平民をかばうなんてそれでも貴族かね?魔法が使えない同士仲良くってことかい?」
「なん・・・!」
「そんなことだから君は『ゼロ』なのだよ!君のような人間が貴族かと・・・」
そこまで言ってギーシュは気づいた。先ほどまで周りで囃し立てていた悪友達が黙ってる。そして・・・周りに充満する異様な空気。
「なんだね?みんな?どうか・・・」
そこまで言ってギーシュは気づく。それを発しているのは周りで給仕をしていたパタポンたちであった。いままで給仕をしていた全てのパタポンがギーシュを見ていた。
ぎょろりぎょろりと、まばたき一つせず見つめる幾つもの目玉。その異様な空気に食堂の空気が凍り付いていた。
「ひい?!」
そのあまりにも異様な光景と空気にギーシュは息を呑んだ。そして彼は気づくべきだった。その異様な空気。それはあまりにも冷たい殺気という名の空気だということを。
四話目投下終わり
GJ
ダイエットキュルケと黒メデン吹いたww
と思ったら…これ何てホラーwwギーシュイ`www
なんかすごくwktkして来た
>>9 > ぎょろりぎょろりと、まばたき一つせず見つめる幾つもの目玉。その異様な空気に食堂の空気が凍り付いていた。
ひぃぃぃ。ホラーだよw
ところで目玉といえば、他の生徒が召喚した使い魔の中にバックベアードも居た様な気がするのだが、目玉どうしの絡みが見てみたい。
ゼロポンの人乙!!
ギーシュ‥‥やはりお前はどこの次元でもこういう運命にあるんだなw
>>12 あれはバグベアであってロリコン嫌いのあのお方じゃねーよw
実は大怪球のほうだったり
たまにはロリコンもいいよね!
>>1 ふと思ったんだが、実質Part217では?
まあ、次にスレ立てする人が思い出せば良いことなんだが……
行頭の「・」は wiki と相性が悪い、というか wiki で特別な意味があるんだね
知らなかった
>zeropon!のヒト
なので、数カ所ある行頭の「・」の前に全角空白入れて登録しといた
じゃあ五話目
40からいきます
zeropon!
第五話
撃滅!青銅のギーシュ!
「な、なんだね君たちは!?」
じいっと、自分を見つめる幾つもの目がルイズの使い魔だと気づいたギーシュ。
「ふ、ふはは。なんだね?よ、よく見れば『ゼロ』、君の使い魔じゃあないか。さっさとこいつらと一緒に魔法の練習でも・・・」
「黙りなさい」
いつの間にかメデンがルイズの隣にいた。そして彼女もまたギーシュをまっすぐと見据えていた。
「・・・なん!き、貴様!貴族に対して・・・」
「黙れ、言ったのですこの『金髪豚野郎』」
メデンの言葉に周りが凍りつく。貴族に逆らう、平民がこれをやれば反逆とみなされその場で殺されても文句が言えないのだ。ましてや使い魔が、である。メデンの言葉に固まっていたギーシュは突然高笑いをあげた。
「く、くはははは、まったく『ゼロ』のルイズが呼んだだけあって、躾のなっていない使い魔だね!いいだろう!君たちには躾が必要なようだね!君達に決闘を申し込む!!」
びしりっとメデンに指をさして言い放つギーシュ。
「いいでしょう」
一言で何事も無いかのようにうけるメデン。そんなメデンに慌てたのはルイズであった。
「ちょっとメデン!あんた何勝手に・・・」
「邪魔しないでくれるかね、ヴァリエール。彼女たちは決闘を受けたのだ!・・・準備ができたらヴェストリ広場まで来たまえ!」
そう言い放つとギーシュは食堂から怒りの足取りで出て行った。メデンはシタ・パンをよぶとこう命じた。
「シタ・パン、準備をしてヴェストリ広場へ。装備は・・・好きにしなさい」
「わかりましたー」
そういうとメイド服姿のシタ・パンとてとてと食堂をでていった。
他のパタポン達も何事も無かったように給仕にもどる。メデンはそれを見送るとルイズの前にひざまずく。
「勝手なまねをして申し訳ありません、ルイズ様」
「あんた達、貴族にあんなことして無事に済むと思ってるの!?」
「罰ならばいくらでも」
「違うわよ!ギーシュはメイジなのよ!あんたたちがかなうわけないじゃない!」
「貴方たち殺されちゃう・・・」
声を荒げるルイズ、怯えた様子で顔を覆うシエスタ、そんな二人とは対極にメデンは平然としている。
「いまからギーシュに謝りに行くわよ!いまならまだあいつも・・・」
「必要ございません、悪いのはあちらです。謝る道理があるのですか?」
「それは、そうだけど・・・でもそれじゃああんた達が・・・」
「ルイズ様、なんら問題はございません。さあヴェストリ広場へ行きましょうか。きっととても楽しい処け・・・失礼、決闘になりますよ?」
心配するルイズたちにメデンは笑みを返す。とてもとても黒い目だけの笑みを。
「諸君、決闘だ!」
広場の真ん中で宣言するギーシュ。いつの間にか広場の周りにはギャラリーが集まっていた。
「逃げずに来たのは褒めてやろう!しかし・・・二匹だけなのかね?」
ギーシュの視線の先、そこにいたのは、メデンとシタ・パンだけであった。シタ・パンは奇妙な形の、斧の様な剣の様なものと、いかつい装飾の盾を持っていた。
ギーシュの問いに、二匹は沈黙を持って返す。そんな両者の間に乱入者が現れる。ルイズだ。
「ギーシュ!決闘は禁止されてるのよ!いますぐやめなさいこんなこと!」
「それは『貴族同士の』だろ?使い魔となら禁止されてないさ!そこをどきたまえヴァリエール!」
「ちょっとあん・・・」
「お下がりをルイズ様」
メデンが後ろから静かに促した。
「あんた達もやめなさい!かなうわけないでしょ!」
「お下がりを、ルイズ様」
ルイズの静止に同じ言葉で返すメデン。その目には強い意志が宿っていた。
「っつ!もお勝手にしなさい!」
ずんずんとその場から離れギャラリーに混じるルイズ。腕組みをして仁王立ちになると、それっきり何も言わなくなる。
「さあ、邪魔者はいなくなったね。では始めようか。勝敗はどちらかが参ったというまで・・・そうだな、僕が杖を落としても負けとしよう」
そして手に持っていた造花を振るうギーシュ。同時に現れたのは青銅でできた一体の女性型の華美な装飾を施したゴーレム。ギーシュの魔法に沸く観衆。
しかし・・・それに対してもメデンとシタ・パンは沈黙を保つ。
そこに不気味さを感じるギーシュ。ワルキューレを一瞥したメデンはシタ・パンに一言だけ告げると、ルイズのそばで観客の一員と化した。
「一匹だけとは僕も舐められたものだね・・・覚悟はいいかい、目玉君?」
問いに一切答えないシタ・パン。そんな生意気な目玉にギーシュは切れた。
「言葉がしゃべれないのなら!悲鳴をあげるがいい!行け!ワルキューレ!」
ワルキューレがその拳を振り上げてシタ・パンに襲い掛かる。
しかし、シタ・パンはその拳に左手の盾をかざす。青銅でできたその拳が当たれば小柄なパタポンはひとたまりもない。
しかし盾を構えようとも質量差が大きい。まともに食らえば盾ごと吹き飛ぶはずだ、とギーシュは考えほくそえむ。
が、結果、その攻撃の後、パタポンは吹き飛びも、転がりもせずかすり傷一つ負わず、
逆にワルキューレのほうが胴体から真っ二つにされた。
「「「・・・は?」」」
あまりのことに一瞬静寂に包まれる広場。単純な挙動ではある。振り下ろされた拳を盾で受け流し、その勢いを殺さぬまま、回転。
左手の剣によってワルキューレの胴を薙いだのである。しかしそれは一切の淀みなく行われ、それを一切の迷いもなく行った。
ワルキューレを真っ二つにしたその挙動はまちがいなく戦士のそれであった。驚いたギーシュ、しかし彼のワルキューレ、まだ敗れたわけではない。
「ふふふ・・・どうやら多少はやるみたいだね。だが、残念ながらワルキューレは七体・・・」
「・・・のてき・・・」
「は?」
ギーシュは気づいた。ギーシュに聞こえるか聞こえないかのぎりぎりの大きさ。そんな声でシタ・パンがつぶやいている。
「かみのて・・・」
なんだ?と、ギーシュは耳をすまし、そして驚愕した。それはこうつぶやいていた。
「・・・かみのてきにしをかみのてきにしをかみのてきにしをかみの・・・」
「ひいっ!!?」
それは殺意の言霊、自分の前にいる目玉の生き物が持つ紛れもない殺気、それにギーシュはやっと気づいた。殺らなければ、殺られる。
「わ、ワルキューレ!」
再びバラを振るギーシュ。現れたワルキューレは六体、先ほどと違い、その手にはランスや剣が握られている。それを見たシタ・パンは、すっ、と構えを解いた。
突如、構えを解いたシタ・パンにギーシュはいぶかしむも決闘をやめるチャンスだと思い、シタ・パンに声を投げる。
「な、なんだね?い、命乞いなら今のうちだぞ!!」
声を荒げるギーシュに対し、シタ・パンから紡がれた声は、
「・・・二股の罪をシエスタになすりつけ・・・」
まさに氷の業火。そして一言紡がれるたびに、その頭からにょきにょきと何かが伸びる。
「あまつさえ、神を侮辱した・・・」
見開かれたその目に映るは極大の殺意。怒りと共に、光りだす右手のルーン、そして頭から伸びていくそれは、
「・・・生きて帰れると思うなよ」
猫耳だった。
「ねえ、タバサ」
「なに?」
塔と塔の間を結ぶ広場を見渡せる通路の上、キュルケは友人の蒼い髪の小柄な少女と共にその決闘を見ていたのだが・・・その決闘を行っている目玉の生き物、パタポンから、猫耳が生えた。
「猫耳生えたら強くなるの?」
「なる」
断言するタバサ。
「そうなんだ。じゃあギーシュの負け?」
「猫耳が出た時点で全て終わり」
「そうなの・・・」
「ねこみみ・・・かわいい」
「・・・そう」
時折、ついていけなくなるが、大切な友達と共に、事の成り行きを見るキュルケの手には・・・さきほど配られたデザートがあった。
「・・・おいしいわあ」
彼女のダイエットに対する思いは既に決着がついていた・・・。
50匹のネコ耳ガンダールブ軍団って結構えげつないかも
「猫耳がなんだっていうんだあああああっ!!いけえ!ワルキュウウウレエエエ!!」
最早、それは、自らを鼓舞する為の絶叫。恋人であるモンモラシーに、いつか着けさせようと買っていた猫耳は既に恐怖の権化でしかない。
その言葉と共にランスを持った三体のワルキューレがシタ・パンに突撃する。そして今度はシタ・パンもそれに合わせてギーシュに向かって動く。
ゆっくりとゆっくりと。
しかしその方向はワルキューレたちの包囲のど真ん中。格好の標的に突き出されたその青銅のランスによって、シタ・パンは串刺しに・・・ならない。
「な、なんだそれはあああ!?」
ギーシュの悲鳴、それはシタ・パンを包む、光る蒼い膜のようなそれによって引き起こされていた。
「あれは・・・盾?」
その蒼い膜は良く見れば盾の形をしているが、しかしそれはとてもランスの一撃を防げるような厚さではない。だがそれは幾度も突き出されるランスを確かに弾き返していた。
そしてその蒼い盾に呼応するかのように光を増すルーン。ルーンから生まれるオーラがそれを形作っていた。
「ちょっとメデン!なによ、あれ?!」
「あれは・・・『ムテッペキ』!だけどなぜ、あれをシタ・パンが?」
ルイズは驚きの声を上げる、しかしルイズの傍にいたメデンもまた驚きの声を上げた。どうやらあの力はメデンにとっても意外な事態らしい。
「はああああっ!!」
シタ・パンの気合一閃。その剣速は先ほどのものを遥かに凌駕し、そこから繰り出されるのは光速の剣。
見ているものには残像しか見えぬそれは三体のワルキューレを持っているランスごと、一瞬にして左右上下に四つに分かつ。崩れ去る包囲網。
「うわああああ!」
もはや、恐慌状態のギーシュは闇雲に杖を振り、ワルキューレに己が身を守らせようとするも、統制を失ったワルキューレなど、シタ・パンの敵であるはずもなく、
残りの三体もなす術も無く切り刻まれ、砕かれていく。そして、ギーシュの前に残ったのは、シタ・パン唯一匹。
「ひっ!」
シタ・パンのそのガラス球のような目はギーシュを写し、その目の殺意に竦むギーシュ。このままで殺されると、ギーシュは『参った』と、声を上げようとする。が、
「まい、いいいいいい?!」
その一瞬でシタ・パンは跳躍、ギーシュの眼前にいた。その剣はギーシュの喉に当てられ、一息でその喉を掻き切れる位置にあった。
ギーシュの喉に剣が食い込む一瞬前、
「そこまでよっ!」
からんっ、とギーシュの足元にそのバラの造花の杖が落ちていた。喉を掻ききられる恐怖にギーシュは杖を手離していた。彼がハンデにあげた条件、それが彼の命を救っていた。
「そこまでよ、シタ・パン。ギーシュ!まだやるの?貴方の杖はそこに落ちているわよ?」
ギーシュの喉に当てられていたそれは、ルイズの言葉と共にゆっくりと引かれる。緊張の糸が切れたのかその場にへたり込むギーシュ。
「・・・僕の負けだ」
ギーシュによる敗北宣言、それによって一気に歓声が上がる広場。
「ルイズの使い魔が勝ったぞ!」
「なんてこった!?」
「ほう、勝ちおったか」
「そのようですね・・・」
そこは学院の一室、学院長室、そこにいるのはコルベール。そして・・・曰く、四つの系統を全て修めた。曰く、三百年生きている。そこに存在するのは生ける伝説、学院長オールド・オスマン。
彼は、『遠見の鏡』というマジックアイテムで一緒にいたコルベールと共に、今までの決闘の様子を見ていた。
「やはり、あの力、ガンダールブのルーンが・・・」
「しかし、グラモンの息子の力を受け付けぬあの力、あれはガンダールブのそれとは違うのう?」
「確かに・・・此の事、王宮の方には?」
「ばかもん。あんな力を、王宮の馬鹿共が知ればどうなるかわからんじゃろうが」
「わかりました・・・決闘を行ったものに対する処分は?」
「別によい。ほうっておけ。しかしガンダールブのう・・・厄介な話になってきおった」
とりだしたパイプに火を灯し、オスマンは自分が宝物庫に封印しているアレを思い出す。そしてかつて自分を守ってくれたあの『一つ目』の友の事を。
五話目投下終わり
支援!
ガンダールブのルーンから軍団作ろうとしてた使い魔いたな
彼の夢がパタポンで実現されるとは!
さて『Louise&Little Familiar's Order』第11話の代理投下いきますんで支援お願いします
どーも作者です。季節はあと少しで春ですね。生き物が活発に動き出し、木々も芽吹く季節。
そして涙とくしゃみの季節……ちきしょー!春なんかちっとも嬉しくないやい!
お後が宜しい様で(よろしかねーよ……)では行きます。
ギーシュ以外の叫び声が上がるより早く、タバサが自分の背丈より大きな杖を構えて呪文を唱える。するとゴーレムと同じ高さもある巨大な竜巻が巻き起こり、ゴーレムへと向かっていった。
しかし竜巻が止んだ時、ゴーレムは傷一つ負った様子さえ見せず、そこに変わらぬ様子で仁王立ちになっていた。
次いでキュルケが懐から杖を引き抜き、自身にとって十八番でもある強力な火炎を放ってみる。だがゴーレムは、その場から一歩たりとてたじろぐ事も無くゆっくりとした調子で全員に向かって近付いてくる。
流石に焦ってきたキュルケは隣にいたコルベール氏に助けを求めた。
「先生!先生も何か撃ってみて下さい!!」
コルベール氏はその言葉に対して若干の逡巡を見せたが、直ぐに頭を振り、タバサの物と同じくらい大きな杖を前に掲げ、ゴーレムに向かって青白い炎を勢い良く放つ。
人間ならば恐らく炭化してしまうような高温の炎に、流石のゴーレムも耐え切れないのかどんどんと動きが鈍くなり、遂には表層面に当たる部分が飴細工の様に泡を吹きながらどろどろと見苦しく溶け出す。
これで何とかなったか?その答えは体を徐々に崩しながらも尚も動き続けるゴーレムが身をもって示していた。背丈こそ最初の半分位にはなっていたが、まだまだ自分達にとっては巨躯である事に変わりは無い。
そしてコルベール氏の精神力が切れたのか、杖からは一片の炎も出なくなった。最早枯れ枝一本を燃やすほどの炎も放てないだろう。
残されたギーシュやルイズでは有効な攻撃を与えられないだろう。完全に万事休すといった所だ。
「退却」
タバサが呟き、それに釣られる形で全員が森からの出口に向かって一目散に駆け出した。
しかし直ぐにルイズと使い魔のミー、そしてヒメグマがついて来ていない事に気づき、全員が慌てて空き地まで歩を戻す。
見るとルイズは小屋の残骸の近くでゴーレムと対峙し、杖を構えている。ミーはその近くでヒメグマと『鉄拳の箱』を脇に抱えながらへたりこんでしまっていた。
ゴーレムの対処で注意散漫になっていた事を悔やみながら、コルベール氏はルイズに向かってありったけの大声で怒鳴った。
「ミス・ヴァリエール!そこから皆を連れて早く逃げなさい!」
「出来ません!今ここでこいつを倒しておかないと、何処まで逃げたってまた襲われるじゃないですか!それに……それに……もう誰にもゼロなんて言われたくないんです!!」
言い終わったのを合図に、ルイズは素早く魔法を詠唱してゴーレムに向かって放つ。すると一際大きな爆発音が発生し、ゴーレムの脇腹が粉々に吹き飛んだ。
まるで、本塔の壁を破壊した時の様に凄まじい物であったが、吹き飛ばされた箇所は瞬く間に再生していく。
ルイズの心中で徐々に恐怖心というものが沸き起こってくるが、隣にいる使い魔達を見て未だ手が尽きたわけでは無いと考え、ミーに向かって叫んだ。
「ミー!あんたの小熊、何かわざを使えるって言ってたわよね?!何か出せないの?!!」
「あ、あの……その、何が出せるか……ミー、分からない!!」
ルイズにとっては、予想もしていなかったあまりの回答なのか、視界が一瞬ぐゎらと揺らめく。
本人から詳細を訊いていなかったせいもあるが、これでは全く何にも役に立たない。木偶の坊の方がまだ遥かにマシとも思えてきた。
その間にもゴーレムはルイズ達との距離を詰めていき、力のあるルイズを先に叩き潰さんとばかりに大きく足を上げた。
最早これまでと目を瞑るルイズ。しかし突然、離れた所から素早く駆けつけたコルベール氏によって抱きかかえられ、間一髪のところでクレープの様になるのを免れた。
半瞬呆気に取られた後、ルイズはゴーレムの足元を注視する。見ると足の縁から10サントと離れていない所で、ミーがヒメグマを丸く抱えながら震えていた。
そんなルイズに、コルベール氏は半ば怒鳴りつける形で注意をする。
「ミス・ヴァリエール!いい加減に意地を張るのは止めなさい!!全員が無事なら『鉄拳の箱』を持って撤退するのも作戦の内です!!」
「でも……ここで逃げたら……先生、また私は……!」
「冷やかされるというのですか?見下されるというのですか?ここで死ぬよりはもっとましでしょう!!
さっきも言ったように、我々は奪われた『鉄拳の箱』を誰一人欠ける事無く持ち帰る事が第一義務なのです!学院長には私から幾らでも取り成します!さあ、早く使い魔と共にここを……」
その先はゴーレムによる容赦無い攻撃によって遮られてしまった。しかしこれで、相手はただ蹲っているだけのミーから注意を逸らしただろう。
コルベール氏と、改めてミーの方を向いて呼ぼうとしたルイズはその瞬間、ある不思議な事が起こっているのに気付いた。
ヒメグマに触れているミーの右手。そこにあるルーンが、今までの物とは比べ物にならないほど強く光り輝いていたのである。
そしてミーは、段々明瞭さと力強さが増していくような声でルイズに話しかけた。
「御主人様……ミーのヒメグマは‘ひっかく’を覚えています!!」
Louise&Little Familiar's Order「The box of irony fist」
その言葉の意味を理解するのに、咄嗟の判断にしてはかなりの時間を食ったが、ルイズはミーに対して矢継ぎ早に命令した。
「いいわ!なら、ゴーレムに向かってひっかくをやってみなさい!!」
「……はい!!ヒメグマっ、ひっかく攻撃!!」
その命令を受けてヒメグマはミーの手から離れ、自分の何倍もの大きさを持つゴーレムへ何の迷いも無く勇敢に向かって行く。
そして持ち前の鋭い爪を使い、ゴーレムに向かって大振り気味のひっかき攻撃を繰り出したが、ゴーレムの表層は全く傷つく事も無く、また体自体も微々として傾がない。
あまりの無反応振りだったが、ヒメグマもある程度それを予想していたのか、慌てる気配は露程も見せない。
両者が睨み合いを続ける中、コルベール氏は大声でミーに向かって叫んだ。
「駄目だ、使い魔君!!その小熊を連れて早くそこから逃げるんだ!!わざがあるといっても、それだけ効果が無いのではとてもじゃないがまともに戦って勝てるはずが無い!!」
しかしミーは自分の元に「ヒメグマ、戻って来て!」と言っただけで、そこから動くような素振りは毛ほども見せない。ひっかくという攻撃以外にも何かわざがあるのだろうか?
その時、ミーは近くに転がっていた『鉄拳の箱』を急いで手にし、側面に付いていた突起に触れる。
すると、箱は両側に向かってきらきらと輝く粒子をふんだんに放ちながらすうっと割れるように開いた。
そして、例えるなら「ピンポーン」という聞き慣れぬ音と共に、奇妙な抑揚だが割りと涼やかな声が、周囲に向けて穏やかに響き渡った。
『わざマシンを起動します。中には『ばくれつパンチ』が記録されています。『ばくれつパンチ』をポケモンに覚えさせます。よろしければ再度記録ボタンを、キャンセルの場合はキャンセルボタンを押して下さい。』
これを聞いたミーの心臓は、忽ちにして大きな鼓動を打ち始める。
自分が思った通り、これは『鉄拳の箱』なんて物じゃなかった。これは自分の元いた世界でわざマシンと呼ばれているポケモン用の道具だったのだ。
しかも『ばくれつパンチ』がどれ程の威力は自分自身よく知っている。ここに来る前……ミーにとってはわりとつい最近の出来事なのだが、全く同じわざで相手が持っているポケモンを吹っ飛ばした事があるのだ。
ただ……それは相手も同じくらいの大きさのポケモンだったからこそ起きた出来事なのだ。体格が何倍も違う相手に、多少の誤差はあるとしても同じような効果が出るかどうかははっきり言って怪しいものだ。
それに『ばくれつパンチ』は命中確率がかなり低いという事と、使える回数が普通のわざに比べてかなり限られているという事もマイナス条件としてはある。だがミーはそんな条件なぞよくは知らない。
そんなに深く考える事も無く、わざマシンの記録ボタンを押した。すると箱から噴き出していた光の粒子が、傍らにいたヒメグマに向かって降りかかり始める。
上手くいったのか気になったミーは、ヒメグマに向かって命令を出す。
「ヒメグマ、ばくれつパンチ!!」
新たな命令を受けたヒメグマは軽く助走を付け、ゴーレムの胸元辺りにジャンプした直後、光り輝く鉄拳を繰り出す。
その時、その場にいた全員は信じられない光景を目にした。
ばくれつパンチが炸裂した瞬間、凄まじい勢い、そして音と共にゴーレムの上半身が幾つもの岩塊になりそして吹っ飛んだのだ。
下半身だけになった姿を晒しているゴーレムを見て、ルイズ達は歓声をあげる。
しかしその喜びも束の間、ゴーレムは足元にある土を取り込んでいき、再び元の体を形成させる。
ゴーレムを操っている術者―十中八九フーケと思われる―がそれだけ強い精神力を持っているのだ。同じわざを再び繰り出して同じ様な結果になるかもしれない。
諦めたルイズがミーを呼び出そうとした時、コルベール氏が離れた所にいたキュルケ達に向かって呼びかける。
「ミスタ・グラモン!ミス・ツェルプストー!ミス・タバサ!考えがある!早くこっちに来るんだ!!」
呼びかけに答える様に、キュルケ達は隠れていた茂みから飛び出し、脱兎の如く反対側へ走り出す。
すると、術者はゴーレムに全員を効率良く潰してしまえと指令を出したのか、三人がミーの影に重なった瞬間に巨大な拳を振り回す。
落ち着いてみれば決して早くないその動き。キュルケ達は鮮やかにかわすが、ミーは突然の事にパニックを起こしたのか、ヒメグマに向かって再度命令を出す。
「ひ……ヒメグマ!もう一度ばくれつパンチ!!」
命令を受けたヒメグマは、自分に向けられた岩の拳に対して渾身の力を込めた拳で応える。
するとゴーレムの右腕は腕の付け根の辺りまで、またも勢い良くただの岩塊となって周囲に吹き飛ぶ。
力の逃げ場が無くなった為にバランスを失ったゴーレムは、後方に向かって派手に尻餅をついた。
その間にギーシュがミーの腕を引っ張り、コルベール氏のいる安全圏まで引き離す。
ここまでくると、流石に相手側もそれなりに疲弊してきたのか、ゴーレムは腕が再生する様子も、再び立ち上がる様子も見せない。それを見ながらコルベール氏は全員に小さく早口に囁く。
「これから皆である作戦を実行する。先ずミスタ・グラモン、君はあのゴーレムに向かって薔薇の花弁を出来るだけ沢山吹き付けたまえ。
その直後に錬金を唱えて花弁を油に変えた後、私とミス・ツェルプストーが出来得る限りで強力な炎攻撃を出す。
その攻撃が終わったら今度は再度ミス・タバサが氷雪魔法でゴーレムの全体を出来るだけ急速に冷やしていく。
最後はミス・ヴァリエールの使い魔の小熊だ。先程繰り出した攻撃をもう一度出させる。そうすれば……ゴーレムは粉々になるはずだ。」
「上手くいく保証はあるんですか?」
数に入れられていないルイズが不安そうに訊ねる。だがコルベール氏は至って真剣な表情で答えた。
「私がこれまで行ってきた実験で導き出した考えが確かなら、これ程に有効な手は無いと考えられる。乾坤一擲ともいえる手だが今は迷っている時間は無い。さあ、直ぐに実行に移すぞ!」
その言葉を合図に、腕を再生し立ち上がろうとしているゴーレムに向かって全員が杖を向ける。
先ずギーシュが造花の薔薇を一振りすると、大量の花弁が空中に舞う。次にタバサが風魔法でそれをゴーレムに向かって勢い良く吹き付けた。
そして全体が満遍なく真っ赤になったのを確認した後、再びギーシュが錬金の魔法を唱えて花弁を油に変えた。
間髪入れずにキュルケとコルベール氏が、持てる全ての精神力を動員して強力な炎を放つ。
一瞬にしてゴーレムは青白く輝く劫火に包まれ、成す術も無く前のめりに倒れた。
それから二人の精神力が尽きかけた頃、再びタバサが強力な『アイス・ストーム』をゴーレムに放つ。
体が大きい事から全体が氷結する事は無かったが、全てを立案したコルベール氏にとってはそれでも十分なものであった。
何とか動こうとするゴーレムを見ながら、コルベール氏はミーに言った。
「今だ使い魔君!!さっき小熊が出した技をもう一度出すんだ!!」
ぼうっとその場に突っ立っていたミーは、はっとしてヒメグマに命令を出す。
「ヒメグマ!ばくれつパンチ!!!」
ヒメグマは待ってましたとばかりに、拳を振り回しながらゴーレムへ向かっていく。
そしてそれが丁度腹の辺りに衝突した瞬間、ゴーレムの体は無数の細かい土くれとなり四散した。
金属物質の凝結した破片と水分の凝結した箇所の見られるそれは、空き地へ広範囲に広がった後、二度とゴーレムの体として復活する事はなかった。
事態を見守っていたコルベール氏はほっとした様に息を吐く。
「金属を含む物質は急激に加熱した直後、逆に急激に冷やしてやるととても脆くなる。まさかとは思っていたが……成功して良かった。」
だがそれを聞いている者など誰一人としていない。皆、互いの手を取り合って作戦の成功を喜んでいた。
ただ、ルイズだけは素直に喜べずにいた。戦力に関しても作戦に関しても何一つとして欠けてはならない要素足りえなかったからだ。
そんな時、別の方向にある茂みから、偵察に行っていたミス・ロングビルが姿を現す。
「おお、ミス・ロングビル。どうでしたかな?フーケはいましたかな?」
コルベール氏の質問にミス・ロングビルは、分からないといった様に軽く首を振って答えた。
ともかくこれで一件落着。開きっ放しになっていた『鉄拳の箱』をミーが抱えようとする。すると、代わりにミス・ロングビルの手が伸び、すっとそれを自分の手の中に収めた。
それを見ていたコルベール氏は表情を瞬時に変え、厳しい目つきでミス・ロングビルを見つめる。
「ミス・ロングビル……やはりあなたが……」
「そうよ。私が『土くれ』のフーケよ。」
そこにいるのは最早ミス・ロングビルという名前の女性ではない。数多の貴族を手玉にしてきた、猛禽類の様な目を持つ女怪盗フーケであった。
「やはり、って呟いたって事は随分と察しが良いのね。あの人の良さそうな耄碌爺なら騙くらかせるかと思ったんだけど、とんだ計算違いだったみたいね。
あんたもあんたよ。金属を含む土の特性を利用したあんな即席の作戦を立てるだなんて、伊達に研究室に篭もって火の研究をしていないだけはあったようね。あたし御自慢のゴーレムが粉々じゃないのよ!!」
そう言ってフーケは自分の杖を全員に向ける。だが、コルベール氏はその脅しに屈する事は無く、自分も杖を掲げて冷静に答えた。
「抵抗するのは止したまえ。君はあれだけのゴーレムを作り、あれだけの攻撃に耐えた。もう精神力は微々として残ってまい。小さな土人形を作るので精一杯だろう。降参したまえ。」
「偉そうな口利くんじゃないよ!!それはお互い様じゃないか!!それに降参?死ぬほど嫌いな貴族共に情けをかけられるなんざ御免だね。そんな目に会うなら、あたしゃどんな事をしてでも生き抜いてみせるよ!!
……さてと、あまりおしゃべりしている時間はないんだよ、あんた達と違ってね。どっかに逃げた後にでかい力を生むこいつをとっとと金に換えたいんだよ……」
フーケはそこまで言って小さく笑う。だがそれを聞いていたミーはふっとある事を口にした。
「おねえさん……それもう使えないよ。」
その言葉にルイズ達はえっ?という表情を浮かべる。使えないとはどういう事なのか?フーケも一瞬怪訝そうな表情を浮かべたが、直ぐに小馬鹿にした様な薄ら笑いを浮かべる。
「お嬢ちゃん、面白い事を言うんだねえ。お姉さんにその理由教えてくれないかしら?」
「だって、わざマシンを使えるのは一回だけだもん。それに人間には使えないもん。」
支援
ミーの言を最初から疑っていたフーケは、ミーが先程やったように『鉄拳の箱』もとい、わざマシンの箱の側面にある記録ボタンを押してみる。
しかし何の反応も返っては来なかった。焦ったように何度も押してみるが、何度やっても結果は同じだった。
その段になって、フーケは初めてミーの言っている事は本当なのだと分かった。最早何の役にも立ちはしない物を自分の手に収めたって意味が無い。
そしてフーケはその時ミスを犯していた。自分の周囲に対して注意が散漫になっていたのである。
端的に言えば、先程の戦いで比較的精神力をあまり消費していなかったギーシュが、ごく小さく杖を振り、自分の背後に青銅のワルキューレを一体立たせた事にも気づかなかったのだ。
フーケが気付いた時には時既に遅し。ワルキューレはかなりの速さで彼女に近付き、首元に強力な肘鉄を喰らわせた。
瞬間フーケの体はびくりと痙攣し、それからゆっくりと地面に崩れ落ちる。
そして上手く気絶したのだろうか、起き上がる気配は全く無くなった。
キュルケ達は再びゴーレムを倒した時の様に互いに顔を見つめあい、そして自分達の勝利を喜んだ。
そして、ギーシュがフーケの杖を取り青銅の手錠をはめる中で、やはりルイズはミーの側に寄り、とある疑問を口にした。
「ねえ、あんた……どうしてこの熊が覚えているわざを最初は知らなかったのに、後で知ってるなんて答えたの?」
「よく、分からないです。いきなり、あっ、知ってるっていう風になったから……」
なんともはっきりしない答えだ。だが、その出来事がもしヴィンダールブのルーンに因るものであったのなら……考える価値のある考察ではある。
抜けるような青空の下、ルイズは改めて自分の使い魔が如何なる力を持っているのかを不思議に思うのだった。
以上で投下終了します。途中、電池切れのせいでマウスのいうことが利かなくなるなどトラブルはありましたが、何とか投下終了できました。
鉄拳の箱の正体。映画を見ていた方は何となく予想はついていたかなあと思ったりもしました。
アンノーンの箱と考えた方もいらっしゃいましたが、あれだと殆ど問答無用で何でも出来る無双状態になるのでそれは避けました。
さてさてストック分は終に底を尽きました。これからまた書き溜めにゃ。
ではまたお会いしましょう。
代理投下終了しました、
しかし自分が好きな作品なのに自分では支援が出来ないのはなんというジレンマ……
ルイズ、未だに自分が保護者という自覚無いな
何だかんだでミー活躍したんだから次回では褒めてやって欲しいものだ
鉄拳って言うからメタルクローかと思ったらこれだよ!!
パタポンの人GJ
てかパタポンKOEEEEEEEEガクガクブルブル
パタポンの人乙
面白かった
ルイズに対して忠誠心どころか崇拝すらしている使い魔が50人とか
原作は知らんがこれは先が楽しみだ
連携すれば対7万でもいけそうだ
>>1乙
前スレ重複で正しくは217
次スレは218
パタポンがワタポンに見えた
召喚即生贄
パタポン、ミゴールみたいだな
小っこいの複数召喚は他に小鬼とボールズ(自己増殖)ぐらいだったか
パタポンといい面白いのばかりだ
乙
本当に自分の事しか考えてないんだなこのルイズ
アンノーンの箱ってのはどういうもんなの?
超力ガーヂアンの最終話を投下したいと思います。
やたら長くなったので今日のところは前編を投下して、明日後編を投下します。
20:55から宜しいですか?
ミーの人乙です。
しかし、ルイズが1ミリも役に立ってないな。あの名セリフも無かったし。
そろそろ名誉挽回のシーンとか来ないんだろうか。
待ってました
調理器支援w
夢を見ている。
奇妙なことだが、これは夢だと確信できた。
自分でも不思議だとは思うが、目覚めた時には、きっとこの事は忘れてしまっているだろう。
空を見上げている。
小さな船に乗り、ユラユラと波間をたゆたう。
まるで、揺り籠に入っているかのようだ。
2つの月が水面に映り、風は静かに凪いでいる。優しいさざ波が船を揺らし、まどろみを誘う。
ふと、小さな足音が聞こえてきた。
小さく顔だけを動かしてそちらを見やる。辺りには薄っすらと霧がかかり、視界は余り利かない。
次の瞬間、唐突に視点が切り替わった。
いつの間にか、空から地上を見下ろしていた。
だが驚くことはない、だってこれは夢なのだから。夢の中なのだから、不思議な事など何一つない。
池のほとりで女の子が泣いている。
何か悲しい事でもあったのか、先ほどまで私が乗っていた小船に潜り込んだ。そして、毛布に包まる。
しばらくすると、女の子を探す声が聞こえてきたが、それはやがて小さくなり、完全に聞こえなくなった。
闇を月と星が照らし、波が船を揺らす音だけが満ちる。
私は、その光景に見覚えがある事に気がついた。そして、女の子が誰なのかを悟った。
あれは、小さな頃の自分だ。最近では思い出す事もなかったが、これはあの夜の出来事だ。
過去の通りに再生されているのならば、もうすぐあの人が現れる筈だ。自分の目標であり、尊敬するあの人が。
霧の中に人影が浮かび上がった。期待を込めた眼差しで影を見つめ、霧から抜け出てくるのを待つ。
だがそれは、私が思い描いていた人物ではなかった。
それは、よく見知った自分の使い魔……
「人間、どうしてないてるの? どっかいたいの?」
その心配そうな声に、幼い私は首を横に振るばかりだ。モー・ショボーは困ったように首を傾げる。
しかし、そうしていたのは暫くの間であった。
モー・ショボーはおもむろに幼い私の手を引くと、屈託なく微笑みかける。
「ねえ人間、いっしょにあそぼ?」
視界に光が満ち、夢から引き揚げられた。
支援
超力ガーヂアン 3
〜デビルサマナー(仮) ルイズ・(中略)・ヴァリエール 対 閃光魔道士〜
「姫殿下ばんざーい! トリステインに栄えあれ!」
学院中が歓声に沸き立つ。
本日、魔法学院では授業が執り行われてはいない。それは何故かというと、我が国の王女が視察に訪れているからだ。
故に、教師と生徒が総出で歓迎し、盛大にもてなす必要がある。
そうでなくとも、先王の忘れ形見であり、トリステインの至宝とまで呼ばれる王女を敬愛しない者は、この国には居ないだろう。
もしいるとしたなら、それは思い上がった外来の成り上がり者くらいだ。
「あれが王女? ふん、あたしの方が美人じゃない」
キュルケがつまらなさそうに呟く。
この女には、いつか物の道理というものを教え込んでやらねばなるまい。
よりもよって、姫殿下を相手にそんな大言を吐くとはいい度胸をしている。
それにしても、私の周りにる奴らは、姫殿下への敬意というものが欠けているようだ。
モー・ショボーは、大勢の人が集まっているのを物珍しそうに眺めている。好奇心の赴くまま、フラフラと何処かへ飛ん行こうとするので、抑えておくのに一苦労だ。
タバサは周りの騒ぎなどには興味がないようで、何時もの如く無関係を貫き、何時もの通り本に目を落としている。はたして、本以外の事に興味があるのだろうか?
モー・ショボーはしょうがないにしても、タバサまでもこの有様だとは思わなかった。礼儀はキチンとしているのだと思っていたが、そうでもないようだ。
キュルケは飽きもせずに姫殿下との比較を続け、モー・ショボーはキョロキョロと落ち着きがなく、タバサは本の世界に没頭している。
注意をしたいところだが、言っても聞くような連中でもないし、何よりも、この場で声を荒げるような真似はしたくはない。
結局、放っておくのが一番だと判断する。下手に注意して、諍いを起こすのは避けたい。
弱腰と言うなかれ、最近、喧嘩の所為で碌な目に合っていないのだ。
ここは大人しくしているに限る。そう、それは植物のような心で平穏に……
「ねえ、人間。アレおいしそう!」
「アレ?」
どうやら、平穏には過ごせないようだ。まあ、少しぐらい騒がしい方がいいか。
モー・ショボーの指差す方向に視線をやる。
そこには、背に人を乗せたグリフォンがいた。グリフォンとは、ワシの頭と翼を持ち、胴体は獅子という幻獣だ。
そして、その幻獣の背に乗っているのは、魔法衛士隊だろう。マントに施されたグリフォンのエンブレムがその証だ。
魔法衛士隊というのは、名門貴族の子弟でのみ構成されたエリート部隊であり、王家を守護する近衛隊だ。
近衛隊は3つの隊からなっているのだが、その内の2つまでもが私と私の家族に関係している。
そして、グリフォン隊は私と関係がある1つだ。正確には、その隊員と関係があるのだが、その前に……
「……どれが美味しそうなの?」
これだけは聞いておかねば。訊くのが少し怖いが、訊いておかねばなるまい。
グリフォンが美味しそうだと言っているのだろうか? まさか、そんな筈は……
「あのおっきいトリ!」
「…………」
多くは訊くまい。
いや、私は何も聞かなかった。やっぱり平穏が一番よね……
問い詰める気にはなれず、頭を振って視線を元に戻した。
視線の先では、姫殿下が歓声に応えて手を振り返している。その光景を見ているだけでも胸が満たされる思いだ。
敬意が足りない奴らは無視して、私も観衆に混じって手を振り、歓声を上げる。
姫殿下は私の存在に気がついていないだろうけど、手はこの場に居る者全てに対して振られているのだから、それで十分だ。
私が、ひいては、この学院の者達が姫殿下を敬愛している事さえ伝わればそれで良いのだ。まあ、例外はいるが……
そうしていると、視界の隅をグリフォンが掠めた。
上空を警戒している近衛隊なのだろう。気に留める必要もないのだが、惹かれるモノを感じてそちらへ視線を移した。
立派なグリフォンだ。他のグリフォンと比べると、頭ひとつ飛び抜けている。
他のグリフォンが平凡というわけではない。
どのグリフォンも体格が良く、離れていても力強さを感じる事が出来るし、毛艶もいい。調教が行き届いているようで、搭乗者の命令をよく聞いている。
ただ、あのグリフォンと比較すると、どうしても見劣りしてしまうのだ。
あのグリフォンは獣だというのに、ひとつの気品を感じさせる。四肢は言うに及ばず、その羽毛一つ一つにも力が漲っているようだ。
おそらく、隊長格の人物が有するグリフォンなのだろう。
「あ……っ!」
グリフォンが旋回し、その背に乗った人物の顔が露となった。
その顔を見てハッとなる。
遠くて良く見えないが、その顔には見覚えがあった。懐かしみがあった。
それは、幼い日に憧れた人。雰囲気は違っているが、その顔には記憶にあるあの人の名残があった。
言葉をなくしてその姿を追う事に没頭する。周囲の音など耳に届かない。
しかしそれも、本塔の向こう側に消えていくまでだった。
会いたい。会って確かめたい。
けれど、不安もある。最後に会ったのは10年以上前の話だ。
向こうは私の事など憶えていないかもしれないし、魔法がいまだに使えない事を知られるのも嫌だ。
それを知られると、きっと嫌われてしまうだろう。それが怖い。
けれど、そんな不安を気にする前に、やるべき事があるようだ。
「イイコでおるすばんしててね!」
何処かへ飛んで行こうとするモー・ショボーの足を咄嗟に掴む。
どうやら、ボーッとしている暇はないようだ。
◆◇◆
モーショボー支援
時刻は夜。
部屋には私とモー・ショボー、そしてアンリエッタ王女がいる。
なぜ姫殿下がいるのかというと、実を言うと私と姫殿下は幼馴染なのだ。
子供の頃の話になるが、姫殿下の遊び相手を務めていた。
その縁で、今宵、私の部屋に訊ねてきたようだ。あの頃は、イロイロとやんちゃをしたものだ。
まさか、今でも私の事を憶えていて下さるとは、思ってもいなかった。
再会を喜び合い、昔話に花を咲かせる。
ひとしきりの談笑の後、姫殿下は沈んだ表情を覗かせた。
それが気になり問い詰めると、姫殿下は儚げな笑みを見せた。
「結婚することが決まったのよ、わたくし」
「……おめでとうございます」
姫殿下は笑っているが、落ち込んでいる事はその寂しげな声で分かる。
けれども、下手な慰めなど望んではいないだろう。
王女としての責務を放棄させるようなことは、私の口からは言えないし、望まれてもいないだろう。
重苦しい空気が部屋を支配し、お互いに口を噤んでしまった。沈黙が耳に痛い。
沈黙が漂う中、姫殿下は何かに気がついたらしく、不意に顔を上げた。
「あら?」
そんな中、姫殿下はモー・ショボーの存在に気がついたらしく、キョトンとした顔になった。
あれだけ重たかった雰囲気が少し和らいだ。
「ルイズ・フランソワーズ、この子はどなた? 同級生かしら?」
「私の使い魔です」
私も姫殿下の来訪に気を取られて、モー・ショボーの事を忘れていた。
モー・ショボーはベッドの上にうつ伏せで寝転び、眠たそうにうつらうつらとしている。
「使い魔? 人に見えますけど……?」
「ええと、人間と同じように見えますが、亜人です。
シップウ族とかいう種族の亜人で、モー・ショボーと申します。はい。
ほら、飛んで見せなさい」
「はぁ〜い……」
モー・ショボーはノロノロと浮かび上がった。
まだまだ眠いようで、欠伸を噛み殺しながら眼を擦っている。
「まあっ! 魔法も使わずに空が飛べるのですね!
でも、翼人とも違うようですし、シップウ族というのも聞いた事がありませんわ。ドコから来たのかしら?」
「そう言えば、私も聞いた事がありませんでした。
モー・ショボー、アンタってドコから来たの? ほらっ、起きなさい」
肩を揺すって目を覚まさせる。
姫殿下の御前なのだ。無様な格好を見せ続けるわけにはいかない。
「んーとね、生まれたのは『モンゴル』で、ここに来る前は『ニホン』の『テイト』にいたよ。
もういい? おやすみ〜」
再びベッドへ蹲ってしまった。
起こそうかと思ったが、小さな鼾が聞こえて来たのでそっとしておく。
無理やり起こして暴れられても困る。
「……どれも聞いた事がないわね。本当に何処から来たのかしら?」
「ひょっとして、東方から来たのかもしれませんわよ?」
「もしかしたら、そうかも知れませんね」
少なくとも、ハルケギニアではないようだ。
恐らく、エルフの支配するサハラの向こう側、東方とも呼ばれる地域、ロバ・アル・カリイエから来たのだろう。
和やかな雰囲気が部屋に戻り、姫殿下の表情からも陰りが薄れてきた。
「貴女って昔からどこか変わっていたけど、相変わらずのようね。なんだか、安心したわ」
「はじめは不安でしたが、ああ見えて結構頼りになる子です」
「それは僥倖でなによりです。良い使い魔を持ちましたね、ルイズ・フランソワーズ。
はぁ…… 本当に貴女が羨ましいわ……」
まただ。一体どうしたというのだろう。
晴れやかな表情だったのはホンの一瞬で、姫殿下は再び重く沈んだ表情で俯いた。
どうやら、悩み事があるらしい。それも、気の持ちようでどうにかなるものでもなさそうだ。
「姫様、どうしたのですか? 溜息など吐いて」
「嫌だわ、わたくしったら…… ごめんなさいね。
他人に話せるような事ではないのに、自分が恥ずかしいわ。
懐かしさにかまけて、貴女に不快な思いをさせるなんて…… 都合のいい時だけ甘えるなんてダメよね……」
弱々しい声で頭を振った。
そんな姫殿下を見て、いや、項垂れている親友を見て、黙っていられるわけがない。
落ち込んでいるのならば、その悩みを聞き、解決の力になるのが友達ではないのか?
項垂れる姫殿下の両肩を掴み、吐息が触れ合う程に近づく。
「そんな水臭いことを仰られないで下さい。
親友といったのは姫様ではないですか! でしたら、その親友に相談してくださいまし。
出来る限りの力になりましょう!」
「わたくしを友達といってくれるのね。ありがとう、ルイズ・フランソワーズ。とても嬉しいわ」
姫殿下は力なく笑う。
だが、先程までよりは、よっぽどマシな顔だ。
「ならば、親友の貴女にだけ話しましょう。当然、他言無用ですよ?」
「ええ、心得ています」
そんな事は言われるまでもない。どこぞの口の軽い女ではないのだ。
佇まいを正して神妙に耳を傾ける。
「わたくしは、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが、実は一つ問題があるのです……」
姫殿下は、訥々と語り始めた。
語られたその内容に、私の忠義心と友情は燃え上がるのであった。
◆◇◆
バイナルストライク支援
朝靄が立ち込める正門に私は立っている。こんなに早起きしたのは初めてだ。
吐く息は少し白く、太陽が昇っていないせいか肌寒い。
昨晩、姫殿下から聞いた話の内容を要約するとこうだ。
現アルビオン王家はレコン・キスタという反乱軍により、滅亡は時間の問題であるという事。
そのレコン・キスタに対抗するためには、ゲルマニア帝国と婚姻による軍事同盟を結ぶ必要がある。
レコン・キスタは同盟を阻止すべく、妨げとなる材料を血眼で探しているのだという。
姫殿下が以前にアルビオンの皇太子、ウェールズ殿下にしたためた一通の手紙が最大の障害になるであろう事を姫殿下は話してくれた。
それを聞いて黙っていられるわけがない。今こそ、姫殿下への忠誠と友情を示す時ぞ!
その結果、私たち3人はアルビオンへと赴くこととなった。
そう、3人だ。
私とモー・ショボーの2人、ではなく、3人だ。
「なあルイズ、ぼくの使い魔を連れて行ってもいいかい?」
3人目とは、愛すべき馬鹿ともいえるギーシュであった。
コイツは昨晩、事もあろうに姫殿下の後をつけ、話の内容を盗み聞きしていたのだ。
連れて行きたくもなかったのだが、話を聞いてしまった以上、放置しておくわけにもいかない。
空気読みなさいよ。ここは、私と姫殿下の麗しい友情があらゆる困難を打ち破るシーンでしょうが!
目を細めて睨みつける。
「……アンタの使い魔って、ジャイアントモールじゃなかったっけ?」
「そうさ、どの使い魔よりも可憐で健気なヴェルダンデさ!」
「駄目に決まってんでしょ。モグラが馬についてこれるわけないじゃない」
「ふっ、ヴェルダンデの穴を掘るスピードを舐めてもらっては困る。馬ごときなら、余裕でついて行けるのさ」
「大体、アルビオンまではどうやっていくのよ? 穴を掘っては、ついて来れないでしょ」
「頼むよ〜 少しでも一緒にいたいんだ。最悪、ラ・ロシェーヌまででもいいんだ。
頼む! この通りだ!
ヴェルダンデ、君からも頼むんだ。君の愛らしい仕草を見れば、ルイズも考え直してくれるさ」
ギーシュの呼びかけに応え、地面からジャイアントモールが顔を出した。
このモグラがヴェルダンデなのだろう。鼻をひくつかせながら、擦り寄ってくる。
ギーシュはこれが愛らしく見えるのだろうか?
生憎と私には、土塗れの毛むくじゃらが迫ってくるのは不快にしか感じない。ギーシュの感性は理解不能だ。
そんな事を考えている間にも、モグラは前進を止めず、どんどんと迫ってきていた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! こらっ!」
モグラに押し倒され、その突き出た鼻で体のあちこちを突っつきまわされる。
なんなの、このモグラは!
あっ! そこは駄目! やめてっ!
鼻先で体中を弄られ、着衣が乱れる。跳ね除けようと精一杯にもがくが、ジャイアントモールの巨体はビクともしない。
「ギーシュっ! ボケっと見てないで、止めさせなさいよ!
モー・ショボーも、私がピンチなんだから助けなさい!」
「いやぁ、なんとなく官能的だねぇ」
「人間ずるいっ、アタシもあそぶ〜」
「馬鹿なこと言ってないで、早く!」
こいつら使えねぇ。
ギーシュは腕組みして眺めているだけだし、モー・ショボーはモグラとじゃれている。
当然、そんな事でモグラが止まるわけもなく、好き放題に鼻で弄られ続ける。
そして、モグラの鼻先は、とうとう右手の薬指にはめている指輪に辿り着いた。
モグラの動きが止まり、鼻先は指輪に固定される。
「何よ、このモグラ! 姫殿下から頂いた指輪に鼻をつけるなんて、無礼にもほどがあるわ!」
右手の指輪は、手紙の回収を引き受けた際に、姫殿下からお守りとして渡された物だ。
『水のルビー』という物らしい。姫殿下は母君、つまりマリアンヌ王妃から貰ったものだとおっしゃっていた。
自らにとっても大切なモノであろうに、それを惜しげもなく私に譲り渡されたのだ。その信頼に報いなくては女がすたる。
それなのに、この汚らしいアホは、土だらけの鼻でソレを突っつきまわしているのだ。許せるはずがない。
「なるほど、指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね」
「宝石なら、アタシもすきだよ」
「ふっふ……
ヴェルダンデは、貴重な鉱石や宝石をその鼻を使って見つけてきてくれるのだよ。
土系統のメイジであるぼくにとって、まさにベストパートナーなのさ!」
「へー、いいな〜」
「があぁぁぁっ!
呑気にくっちゃべってないで、早く助けなさいよ!」
いつもは、薔薇がどうとか乙女がどうとか言っているくせに、どうして、そうのほほんとしていられるのよ?
それとも何か? 私が薔薇でも乙女でもないと言いたいのか?
屈辱だ…… ギーシュのくせに生意気よ!
もう他人など当てにはしない。道は自分の力で切り開くのみ!
そう決心して、両腕に力をこめる。
すると、今までビクとも動かなかったのが嘘のように、モグラの巨体が持ち上がった。
しかも、持ち上がるだけにとどまらず、モグラは渦巻く風と共に空中の放り投げられた。
これが竜巻投げというものかしら? ……そんなわけないか。
私がモグラを空中に投げ飛ばしたのではなく、別の力…… そう、魔法の力が働いたのだ。
使われたのは、おそらく『風』のスペル。
ギーシュが激昂している事から、第3者の介入があったのだろう。
「なにをするだぁー、貴様! ゆるさん!」
服に付いた土を払いながら立ち上がり、ギーシュの向いている方に目を向ける。
朝靄をかき分けて現れたのは、羽帽子を被った長身の青年であった。グリフォンのエンブレムが施されたマントを纏い、腰には長い金属製の杖を下げている。
その青年を見て、私はハッとなった。遠い記憶が呼び覚まされる。
この人は……
「貴様ぁ、何者だ!
ぼくのヴェルダンデに、なんていう真似をしてくれるんだ!」
ギーシュが造花の杖を構えた瞬間、烈風によって杖だけが吹き飛ばされた。
けれど、そんな事は問題ではない。青年を穴があくほどに観察する。
口元に髭を生やしているが、間違いない。子供の頃の記憶に残っているあの人の面影が、確かに感じられる。
私は目を丸くして、ポカンと見上げていた。青年の顔から眼を外すことが出来ない。
「僕は敵ではない。姫殿下より、君たちを守るよう命じられてきたのだ。
どうにも、君たちだけでは心もとないらしい。しかし、お忍びの任務ゆえ、一個小隊をつけるわけにもいかない。
そこで、僕が任命されたわけさ」
青年は羽根つき帽子を脱いで胸の前で抱え、優雅に一礼した。
記憶の中にある声、仕草がソレと一致する。
「王室の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵だ。
以後、よろしく頼む」
名乗りを聞き、全ては確信へと変わった。間違いなく彼だ。
記憶に埋もれかけていた思い出に、鮮やかな色が戻る。
ギーシュは、相手が魔法衛士隊の隊長だと聞いて、文句も言えずにうなだれてしまった。
無理もないだろう、相手は確かな実力を持つメイジだ。喧嘩を売るには分が悪すぎる。
青年、いや、ワルドは、ギーシュへ声を掛けた。
「そこの君、すまないね。そのジャイアントモールは君の使い魔なのだろう?
咄嗟のこととはいえ、手荒な真似をしてすまなかったね。
ただ……」
そこで言葉を切って、私に視線を移した。
視線が交差する。
時間が止まる感覚。目を逸らす事を忘れ、ただ、ただ見上げる。
「僕としても、婚約者がモグラ襲われているのを見て、素知らぬ振りは出来なかったというのを覚えておいてくれたまえ」
「えっ、は、はい。
……てっ、えぇっ?! 婚約者ぁ!?」
ギーシュは、私とワルドを交互に見つめて素っ頓狂な声を上げる。
いつもなら煩わしいと感じる声も、今はそよ風と同じだ。気にもならない。
「ワルド様……」
震える声でなんとか名前を呼ぶ。名前を呼ぶのが、こんなにも緊張する事だとは思わなかった。
呼びかけに応え、ワルドがにっこりと笑いかけてくる。
それは、子供の頃に見たあの笑顔と変わっていない。憧れたモノ、そのままだ。
「久しぶりだね、ルイズ!
僕のルイズ! 元気にしていたかい? もしや、僕を忘れていないだろうね?」
「忘れるわけがございませんわ。お久しぶりでございます」
高鳴る胸の鼓動を抑えて、社交辞令的な挨拶を返す。
ワルドの顔をまともに見る事が出来ない。目と目が合ったなら、きっと何も言えなくなるだろう。
と、不意に視界が反転し、空を見上げる形になった。
そして、ワルドと目が合った瞬間、何が起こったのかを理解した。私はワルドに抱きかかえられているのだ。
力強く、それでいて優しいワルドの両腕を背中と足に感じる。
いわゆる、お姫様だっこというヤツだ。ワルドが私の顔を覗きこんでくる。
「ハハハっ、君は相変わらず軽いね!」
「……恥ずかしいですわ」
「恥ずかしがることはないさ、小さなルイズ。
さあ、彼らを紹介してくれるかな?」
そう言うと、私は地面へと降ろされた。
少し名残惜しくも感じるが、あれ以上抱きかかえられていたなら、どうなっていたか分からない。
火照る頬を片手で押さえながら、もう片方の手でギーシュとモー・ショボーを順に指差し、紹介する。
「はい、学友のギーシュ・ド・グラモンと、私の使い魔のモー・ショボーです。
ついでに言うと、さっきのモグラは彼の使い魔です」
「グラモン? もしかして、あのグラモン元帥の息子かい?」
「は、はいっ、そうです。グラモン家が四男、ギーシュ・ド・グラモンであります!
姫殿下より賜ったこの任務、命に代えてもやり遂げる所存であります!」
「うむ、任務が成功したならば、僕からそう報告しておこう」
直立不動で敬礼するギーシュから視線を外すと、ワルドは気さくな口調でモー・ショボーに話しかけた。
「さて、君がルイズの使い魔かい? まさか、亜人だとは思わなかったな。
僕の婚約者がお世話になっているよ」
「ねえねえ、コンヤクシャってな〜に?」
せめて、初対面の人には挨拶をして欲しいものだ。
使い魔がこんな態度では、私の品性が疑われてしまう。
最低限の礼儀くらいは教えておけばよかった。今更ながらそう思う。
「将来を誓い合った仲だという事さ」
「ん〜? どういうこと?」
グリフォンってさ、場所によって獣肉の味がしたり、鶏肉の味がしたりするのかな?
境目のところはどんな味がするんだろ
がんばれ、モーショボー、味をレポートしてくれ
しえん
しょぼたん支援
ワルドは嫌な顔ひとつせず、簡素に説明する。
だが、モー・ショボーはいまいち理解出来ないらしく、首を捻って考え込む。
それにしても、臆面もなしにそんな事を言われると、照れてしまう。
大体、婚約は親同士の口約束みたいなもので、正式なモノではない。
いや、ワルドの事が嫌いっていうわけじゃない。むしろ、尊敬しているし、憧れもある。
だけど、もう少し順序というものが……
「分からないのならそれでいいさ。
さて、互いの紹介も済んだことだし、そろそろ出発しようか。時間が惜しい」
そう言うと、ワルドはおもむろに口笛を吹いた。甲高い口笛が響き渡り、やがてか細く消えてゆく。
暫くすると、朝靄をかき分けて、空からグリフォンが舞い降りた。背中には、騎乗するための鞍が乗せられている。
「さっ、おいで、ルイズ」
身軽にグリフォンに跨ると、ワルドは手をさし伸ばしてきた。
ドギマギしながらその手を取ると、鞍上に引き上げられ、背中から抱きすくめられる。
やだっ…… 人前でこんな事されるなんて、頭がフットーしちゃうよぉ。
「では、諸君! 出発だ!」
ワルドが勇ましく号令をかけると、グリフォンが力強く羽ばたき浮遊感が生じる。
下を向くと、ギーシュは慌てて馬に跨るのが見えた。見る見るうちに地面が遠ざかり、風が吹きつけてくる。
空は空気が冷たく、そのお陰か、何とか平静さを取り戻すことが出来た。とはいっても、やはり背中のワルドを意識すると、どうしても顔が火照ってしまう。
こういう時は、何か別の事に意識を向ければいいのだ。ギーシュは地上にいるので駄目だが、私の使い魔なら空が飛べる。
モー・ショボーの姿を探すと、ちゃんと後ろについて来ていた。本気ではないとはいえ、グリフォンのスピードについて来れているのは、我ながら鼻が高い。
でも……、グリフォンを見つめるモー・ショボーの目の輝きがちょっと気になる。
◆◇◆
道中、多少のトラブルもあったが、夜中にラ・ロシェールへと無事到着した。一行の中には、何故かキュルケとタバサが増えている。
なんでも、私たちが出発するところをキュルケが見ていたらしく、好奇心丸出しで追いかけてきたらしい。
碌な準備をする時間もなかったのか、タバサはパジャマ姿のままだった。非難がましい目を向けられたが、そんな物はキュルケにしてほしいところだ。
合流した経緯は省略するが、野盗に襲われていたところにしゃしゃり出てきたとだけ言っておこう。
襲ってきた野盗を尋問すると、どうやら物取りであったようだ。
しかし、グリフォンに乗っているメイジを襲うとは考えが浅い奴らである。返り討ちにあうとは、考えなかったのだろうか?
どうも、アルビオンの騒動の所為で、ラ・ロシェール近辺の治安が悪化しているようだ。
傭兵やならず者が、戦火におびき寄せられているのだろう。
そして、私達はラ・ロシェールで一日を過ごし、再び夜となった。
夜空では、赤の月が白の月の後ろに隠れ、1つとなった月が青白い光を放っている。
月に一度あるこの『スヴェルの夜』の翌日、ラ・ロシェールにアルビオンが最接近するのだという。そのため、アルビオンに出航するフネはなく、一日足止めされてしまったのである。
階下では、ギーシュ達が酒盛りをして盛り上がっているが、私はそういう気分にはなれず、部屋に戻っていた。
モー・ショボーは酒盛りに参加していて、傍には居ない。
どうも、あの子はワインがいたく気に入ったようで、浴びるように飲んでいる。飲み過ぎないように言っておいたが、ちょっと不安だ。
開け放たれた窓からは、夜風に乗って階下の騒ぎが聞こえてくる。
「はぁ……」
窓辺に寄り添い、夜空を見上げる。星屑が瞬く夜空の向こうにアルビオンがある。
聞いた話では、ウェールズ殿下率いる王党派は、アルビオンの端、ニューカッスル付近に追い詰められているそうだ。
もう一刻の猶予もない。王党派の命運は、風前の灯火である。
はたして、レコン・キスタに包囲されている所にどうやっていけばよいのか、とんと見当がつかない。
与えられた任務の重さと困難さに気が重くなる。
と、その時、扉を叩く音が静かに響いた。
「ルイズ、僕だ。入ってもいいかい?」
「ワルド……?
……ええ、どうぞ」
誰とも話す気にはなれなかったが、追い返す訳にもいかない。
ワルドを招き入れる。
「どうしたんだい? 1人ぼっちで」
「……今は、1人でいたいの」
「心配なのかい?」
「…………」
不安でないわけがない。内心を見透かされ、言葉に詰まる。
しかし、ワルドはそんな私を見て、自信ありげに笑い飛ばした。
「ふふ、心配することはないさ。僕がついているんだからね。
なにも問題ないさ。そう、なにも、ね」
「そうよね、貴方がいれば、きっと上手くいくわよね。
昔から頼もしかったもの。」
自信満々のワルドに微笑み返し、昔を思い出す。
あの時もそうだった。
魔法の事で母様に叱られ、使用人からも優秀な姉と比較される声に耳をふさぎ、中庭の小池で泣いていた時。
その時も、ワルドは優しい言葉で慰めてくれた。大きく温かい手で頭を撫で、涙を拭ってくれた。
あの時の事は、今も鮮明に憶えている。
ワルドに出会ったからこそ、立派な貴族になろうと思ったのだ。
しかし、いくら志が高かろうとも、現状はどうだ? 完膚無きまでに劣等性ではないか。
魔法を使えば必ず失敗する、いくら座学や品位を身につけようとも、貴族ならば当り前に使える魔法を使えないのでは意味がない。
眼を瞑ろうとも、理想と現実の乖離を嫌という程に思い知らされ、膝を折りそうになることも多々あった。
「何を考えているんだい?」
「い、いいえ…… 何でもないわ」
「ふむ、そうかい?
そうだといいんだが、もしかして君は、自分の事を役立たずだとか思っていないかい?」
その言葉が胸に突き刺さる。
学院の誰にそう言われようとも平気だが、ワルドからそう言われると胸が張り裂けそうだ。
けれど、そう言われても仕方がないと思う。
10年前ならまだしも、未だに魔法が成功したためしがないのだから、愛想を尽かされるのも当然だ。
「ルイズ、それは違う。確かに君は、不器用で失敗ばかりしていたけれど、それは違うんだ。
デキが悪いなんて言われて、お姉さん達と比べられていたけれど、それは間違いだ。誤った評価だ。
僕は君に何か、他の人にはない輝きがあると感じていた。そして、再会してそれが間違いでないと確信したよ。
君は特別なんだ。君には特別な力がある」
「意地悪ね……
そんな慰めなんて、惨めになるだけだわ」
ありもしない事を言われたところで、信じられるはずがない。
10年前なら無邪気に喜べたかもしれないが、自分が何者でもないことは、私がよく知っている。
ワルドが言う様な特別な力なんて、あるわけがない。
「嘘じゃないさ。
僕だって並みのメイジじゃない、だからこそわかる。君には、特別な力がある」
「でも、そんなの信じられないわ。もう、子供じゃないのよ?」
「例えば、君の使い魔……」
「モー・ショボーのこと?」
どうしてここで、あの子の話が出てくるのだろう?
それに、ワルドの様子がおかしい。どこがおかしいのかは分からないけれど、何かが違う。記憶にあるソレとは、微妙な差異がある。
声こそ優しいが、何処か不気味な印象すら覚えてしまう。
「そうだ、アレは尋常な使い魔ではない。
伝説の使い魔、始祖ブリミルが使役していたといわれる『ガンダールヴ』だ。
左手にルーンが浮かびあがっているだろう?」
「え、ええ。
確かに左手にルーンがあるけれど、そんな……
伝説だなんて、信じられるわけがないわ」
確かにあの子の左手にはルーンが刻まれている。
強力な先住魔法を使うという点では普通ではないけれど、それは、ルーン云々は関係が無い筈だ。
倫理観が欠けているところはあるけれど、それは人間社会の価値観を知らないだけで、それ以外は子供と一緒だ。
とてもじゃないが、伝説の使い魔だなんて信じられるわけがない。
「信じる信じないは君の自由だ。けれど、それが真実だとじきにわかるさ」
「…………」
ワルドの顔はいたって真面目だ。冗談を言ってるようにも見えない。
本当か嘘か判別がつかないが、1つ疑問に思う事がある。
なぜ、ワルドはこんな事を言い出したのだろうか?
私に自信をつけさせるため? いや、違う。
いきなり伝説だなんていわれて、ハイそうですかと信じられるほど子供じゃない。
それは、ワルドだって分かっている筈だ。
それならば、なぜ……
「この任務を無事に終えたら、僕と結婚してくれないか、ルイズ?」
「えっ……?」
私の耳が確かならば、プロポーズのように聞こえた。
鳩が豆鉄砲をくらったかのように目をパチクリとさせる私に、ワルドは続ける。
「唐突だとは思うし、今までほったらかしにしておいて言えた義理じゃないのは分かっている。
だけど、僕には君が必要なんだ。君となら、僕は更に上を目指せる」
「…………」
結、婚?
いつかそういう時がくるものだと漠然と思っていたけれど、これは唐突過ぎる。心の準備なんて、欠片ほども出来ていない。
再会しただけで既に持て余しているというのに、これ以上は頭がパンクしそうだ。
「あ、あのねワルド、私はまだ学生なのよ? 結婚なんてまだ早いわ。
それに、魔法だって全然ダメで……」
「僕は本気だよ、ルイズ。冗談でこんな事は言わない。
返事は今すぐとは言わないけれど、考えておいてくれないか?
手紙を回収したらもう一度聞くから、それまでに心を決めておいてほしい」
そう言って、ワルドは踵を返して部屋から出ていった。
部屋に1人取り残され、両肩を掻き抱く。
冷たい月の光が部屋に長い影を落とし、沈黙が場を支配する。
そっと壁に背を預けると、影もそれに倣って動く。その様をボンヤリと見つめながら、先ほどのやり取りを反芻する。
プロポーズをされて嬉しくないわけがないけれど、どこか釈然としない。
はたして、10年という年月は長過ぎたのだろうか? 手放しには喜べない自分に首を捻る。
本来ならば、拒む要素はない筈だ。ならば、何故……
思考の海に沈んでいきそうになったその時、階下からギーシュの叫ぶ声が耳に届き、現実に引き戻された。
「敵襲だーっ!」
-後編へ続く-
以上で前編は終わりです。
後編はまた明日。さよならー
投下乙です。
最終話ということでここからどうまとめるのか楽しみにしてます。
調理器だけにワルドがどう料理されるのか楽しみにしてますw
一体どう締めくくるのか期待せざるをえない
モーショボーの人乙です。
なんか…「グリフォンの丸焼きワルドの黒焦げ添え」というメニューが浮かんだ。調理器だけにw
…やっぱりグリフォンは食べられちゃうんだろうか…楽しみにしてます。
しかし最終話か…きちんとまとめに入れる人ってすごいと思う。
…どなたか「逆襲の魔王」のラジャスとか書いてくれないかなぁ。
なんか自分で書こうとしてもすぐダメな感じになるorz
魔力を失った元魔王っておいしい素材のようには思うんだが。
>>71 ラジャスはちょっと、ハードルが高くないか?
彼が使い魔になる姿からして、想像外なんだが。
何より、サラが異世界からでもやってきそうで、マジ命の保障なし……
あれは、原作がもっと掘り下げてくれればなぁと未だに悔やまれる。
最後が余りに唐突すぎた、いろんな意味で勿体ない素材だったと思う。
>>43 アンノーンが出てきて持ち主の願いを色々かなえてくれます。
たとえば炎帝がミーのお父さんがわりになったり。
>>71 ラジャス様は自身の魔力が殆ど無くて肉体も人間とどっこいになっちゃったけど
敵が使用した魔法を操ったりでまだまだチートな方だからなぁ……
偏在とかゴーレムとか良いカモになりかねん
更にもし世界が同じだったら国際問題発展でサラが問答無用に乗り込んで来るからなぁ
しまった何時の間に……皆さん乙。
時にパタポンの作者さん。
超絶望の一周目はそれでいいのですが、2周目がクリア出来ないのです。
遅くなったけどゼロポンのひと乙!
しかし、俺的には以外にあっさりやられちゃった後にメデンがルイズに太鼓を渡して指示通り叩いて勝利…ってのを想像してたんだけど
船に乗ってるって事はそれなりに軍備強化した後だろうから強くてもおかしくないか。
ともかくこの雰囲気大好きだwメデンも良いキャラしてるし。
これからも頑張ってください!
>72-73>74
む、やっぱハードル高いか。
ここだと聖帝とか色々来てたから考えてみてたが…確かに諸々の魔力操作はチートだわな。
だからって勇者時代のサラが召喚されたとしても魔力吸収能力はやっぱりチートだし。
あの作品の主役級はよっぽどいいネタ浮かばない限り自重した方が良さそうか。
…あの作品好きだったんだがなあ…
今日もあと86200秒くらいか…。投下あるかなぁ…。
ラジャスは人に従わん上に運命に抗う人だから、始祖の使い魔とか絶対に受け入れないきがする。
SIRENからSDK召喚物書いてみようかと思ったけど・・・基本性能が不老不死とか神の武器×2とか∞ライフルとか
その上幻視とか・・・チートすぎてオレにはムリだった・・・
>>81 SDKは普通に元の世界に帰れそうだからな…(異界限定で)
そういえばSDKって闇人の絶対防御無効化持ってたしエルフの反射くらいなら貫けそうで怖いな(笑)
では、最終話後編を投下します。
時間は0:50からで。
チート的な能力を持つキャラって、そのチート能力を違和感も無理も蹂躙っぽさもなく溶け込まさなきゃならんからな。
あるいはその能力を強引に封印させるって手もあるけど、そんなチート級能力を封印する力って何やねん、という話になってしまう。
意図的に使わないにしても、その理由付けに納得が出来るのかどうかがまた面倒臭い。
古典的な能力封印法としては『記憶喪失』って手もあるにはあるが、これはこれでテクニックが必要だし。
作家の皆さんは、よくあれだけ話が書けるなぁ…。
「はぁ、はぁ、はぁっ……」
息を切らせながら石段を駆け上がる。
眼下に広がるのは、ラ・ロシェールの町並み、その夜景である。
渓谷の底に、誘蛾灯の様な淡い光が幾つも煌き、ゆっくりと眺めて記憶に留めておきたい景色だ。
しかし、今はそんな時ではない。今は先を急ぐのが先決だ。
「急ぐんだ、ルイズ!」
前からワルドが急かす。その声で気を引き締め、より一層足に力をこめて走る。
やがて、石段を抜けると、ひらけた丘の上に出た。
丘には、巨大な、それこそ山の様な大きさの巨木が根を下ろしている。
見上げると、巨木の枝葉は四方八方に伸び、天蓋のように空を覆っている。そして、太い枝には、フネが果実のようにぶら下がっているのが見えた。
アルビオンとは、空に浮遊する大陸だ。何故、浮遊しているのかは正確には判明していない。一説には、大陸の中心に巨大な風石が在るのだという。
風石とは、風の力が結晶化したものだと言われている。
これを用いることによって、巨大なモノ、例えばフネなんかを飛ばすことが出来る。つまり、枝からぶら下がっているのは、そういった類のフネだ。
私達は、空飛ぶフネに乗ってアルビオンを目指すのである。
予定では、朝に出発する予定であったが、急遽、それは前倒しになった。何故なら、宿が襲撃されたである。
おそらく、貴族派が何処からか嗅ぎつけてきて、傭兵を差し向けてきたのだろう。
襲撃を察知したワルドの指示は早かった。
アルビオンに赴くのを第一として、私とワルド、そしてモー・ショボーで先を急ぎ、残る3人を迎撃兼足止めとして残したのだ。
傭兵の集団といえど、メイジ3人を相手にしてただで済むわけがない。
それに、キュルケとタバサはトライアングルだ。気を揉む必要すらないだろう。
ギーシュは…… まあ、大丈夫でしょ。たぶん、きっと、おそらくは、万が一がある事を期待しよう。
「ココまで来れば、あともうひと踏ん張りだ。まだ走れるかい?」
「ええ、まだ大丈夫よ」
「ねえ、人間。この木、なんの木? なんだか、すっごくきになる!」
「世界樹の枯れ木よ。これ以上は後でね」
腕を引っ張ってくるモー・ショボーには悪いが、詳しく説明している暇はない。
簡素な説明にとどめ、樹の根元に駆け寄る。根元に穿たれた穴から内部に入ることが出来るのだ。
枯れた世界樹は中空になっており、見上げると、壁沿いに螺旋を描く階段が上へと続いている。
この枯れた大樹は、空飛ぶフネを係留させておく桟橋の役割を果たしているのだ。
先頭を走るワルドの背中を追って、階段を駆け上がっていく。
長い長い階段も半ばまで来ただろうか、息を切らせる私の耳に背後からの足音が届いた。
ワルドは前にいるし、モー・ショボーは浮いているので足音を出すはずがない。
咄嗟に振り返ると、白い仮面の男の姿が目に映った。白い仮面は、嘲笑の表情を見せている。
こんなに近づかれるまで気がつかなかったとは、相手はかなりの手練だ。
そう驚く時間しか私には与えられず、あっという間に担ぎ上げられてしまった。
バイナルストライク→マハザン支援
「きゃあ!」
視界が巡るましく移り変わり、浮遊感に翻弄される。
男は軽業師のように跳躍して、ワルドの前に降り立ったようだ。
さしものワルドも、突然の事態に眼を剥いて驚いている。しかしそれも束の間、すぐさま気を取り直すと、腰に下げた杖をいつでも抜けるようにして構える。
それを受けて、仮面の男も油断なく構え、両者は一触即発の膠着状態に陥った
しかし、そんな緊迫感を無視して行動する者が1人。
「アタシのトモダチになにするのよっ!」
ワルドの背中を抜けて、モー・ショボーが突進してくる。
しかし、それは無謀だ。仮面の男は既にルーンを唱え切ろうとしている。
警告しようとするが、時間は待ってはくれない。
無情にも、仮面の男はルーンを完成させ、強力な電撃を解き放った。『ライトニング・クラウド』 雷撃を放つ風の上級スペルである。
恐るべき雷は、刹那の瞬間だけ網膜にその軌跡を残し、モー・ショボーに直撃した。
思わず眼をそむける。それは、モー・ショボーの死ぬ瞬間を見たくなかったのか、それとも自分の所為だという事実から目を逸らしたかったのか……
「これでもくらっちゃえっ!」
「えっ?」
もう聞く筈がない声が聞こえ、視線を戻す。
すると、モー・ショボーは眼前に迫ってきていた。傷一つない。
モー・ショボーは憤慨した様子で翼を激しくはためかし、仮面の男をしたたかに打ちすえた。私ごと。
思いの外に強烈な打撃を受けて仮面の男はよろめき、階段の手摺の向こう側に追いやられる。私ごと。
大樹の中は吹き抜けになっており、手摺の向こう側には何もない。
当然、足場など無い場所に放り出された仮面の男は、自然の法則に従って落下を始める。私ごと。
視界の端にワルドが杖を振るのが見えるが、おそらく、僅差で間に合わないだろう。
不自然なまでにゆっくりと流れる現実を前に、不思議と私の心に焦りはなかった。それは、避け得ぬ死を前にした諦めか、それとも……
そこまで考えた所で、落下は上昇に転じた。
背中から体重を支えているのは、誰でもない私の使い魔。見なくたって分かる。私を支えてくれるのは、この子だけだ。
下を見ると、どんどん小さくなっていく仮面の男が見えた。しかしそれも、闇にまぎれて見えなくなり、宙ぶらりんになった私の両足だけが見える。
私は助かったことを喜ぶ前に、どうしても不思議で仕方ないことを訊ねた。
「ねえ、大丈夫なの?」
「あんなのゼンセンきいてないよ!」
どういう理屈か知らないけれど、怪我はないらしい。それどころか、元気になっているとさえ感じる。
階段に戻ってワルドと一言二言交わした後、船着き場を目指して再び階段を駆け上がり始めた。
◆◇◆
「よくここまで足労してくれた。礼を言おう、使者殿。
さて、コレが姫からの手紙だ。受け取るがよい」
「……はい、確かに」
小さな宝箱から取り出された手紙を受け取り、頭を深々と下げる。これで、当初の目的は達成した。
場所はアルビオン大陸のニューカッスル城の一室、プリンス・ウェールズの居室だ。ワルドとモー・ショボーは控室で待機している。
フネを徴発してからどうしたかというと、話せば長くなるので簡潔に説明しよう。
ウェールズ皇太子が空賊をしていました。身分証明に『水のルビー』が一役買いました。以上。
つまり、紆余曲折を経て今に至るというわけだ。
「明日の朝、マリー・ガラント号が非戦闘員を乗せて秘密の港から脱出する。
それに同乗して、トリステインに帰るといい」
マリー・ガラント号、それは、ラ・ロシェールで徴発した輸送船のことだ。
そこに積んであった硫黄を狙い、ウェールズ殿下は空賊に身をやつしたのであった。その時、互いが出会えたことは、まさに幸運としか言いようがない。
現在、ニューカッスル城はレコン・キスタに包囲されているので、正規の港は使用できない。しかし、城の地下、つまり、大陸の裏側にある巨大な縦穴に秘密の港がある。
そこを使えば、ニューカッスル城に出入りは可能である。事実、私達が城に入る時は気づかれなかった。よっぽど下手を打たない限り、見つかりはしないだろう。
けれど、ひとつ気になる事がある。
それを訊いていいものか迷うけれど、結局は、躊躇いがちに訊ねる。
それに、ここで訊いておかないと、きっと後悔するだろう。そうなれば、姫殿下に合わせる顔がない。
「あの……殿下は……
殿下は、どうなされるおつもりなのですか?」
「私は最後まで戦うつもりだ」
殿下はキッパリとした即答した。
「王党派に勝ち目は?」
「万が一にもないだろう。
向こうは5万、こちらは300だ。勝ち目などあるわけがない」
どこか諦念を感じさせる瞳で殿下は窓の外を見やる。
窓の遥か先には、空から頭を押さえつけるような威圧感を発するレコン・キスタの軍勢が存在していた。
それを見据えたまま淡々と続ける。
「明日の昼、奴らは総攻撃を仕掛けてくるそうだ。その時がアルビオン王家の最期になるだろう。
だが、逃げつもりもないし、投降などあり得ない。
ならば、せいぜい勇壮な死に様を奴らに見せつけてやるつもりだ」
窓の外を見つめる殿下の背中には、脅えなど微塵もない。ただ強い意志があるのみ。
それは、強がりでもやせ我慢でもない、何人たりとも揺るがすことの出来ない巌の意志であろう。
しかし、私は問うのを止めない。止められるはずがない。何が何でも引き留めなければ……
殿下は、きっと、姫殿下の思い人なのだから。
嬉しげに手紙に接吻をする殿下。姫殿下が結婚すると知り、少し寂しげな様子の殿下。それらの光景を思い出す。
「ですが……
ですが、姫殿下は貴方の無事を望んでいる筈です!」
「……もう君は気付いているようだが、私とアンリエッタの仲について話そう。
君の思っている通り、私たち2人は恋仲だった」
「すると、この手紙は……」
「そう、恋文だ。
彼女はこの手紙で永遠の愛を誓ってしまっている。
もし、これがレコン・キスタの手に渡り、内容がゲルマニアに知れたならば、彼女の婚約は白紙に戻されてしまうだろう。
そうなれば同盟も成らず、トリステインは独力でレコン・キスタに立ち向かわなくてはいけなくなる。
だからこそ、王女は回収を君に命じたのだ」
レコン・キスタに、トリステイン一国で立ち向かうのは容易ではないと判断した上での同盟なのだろう。
それぐらいは私にだって分かる。悔しいが、ゲルマニアとの同盟は必要だ。
しかし…… しかし、どうしても殿下を死なせてはいけない。
理由や理屈などではなく、アンリエッタの友達としてウェールズ殿下を引き留めなければいけないのだ。
「……亡命を、亡命をなさいませ!
お願いです。トリステインに亡命しなさって下さい!
きっと、姫殿下もそれを望まれている筈です!」
「……君から受け取った手紙には、そんな事は書かれてはいないよ。
彼女は王女だ。個人と国とを天秤に掛けたりはしない。僕の名誉に誓ってそう断言しよう。
これでも君は、アンリエッタが僕に亡命を勧めたと言うかい?」
「そ、それは……」
きっと、姫殿下は亡命を勧めたはずだ。けれど、それを口に出すことは出来ない。
なぜなら、殿下は姫殿下を庇っていらっしゃる。一国の王女とあろうものが、情に流されて国よりも個を優先するはずがない、と。
それを無視して進言するわけにはいかない。
やるせない思いだけが心に渦巻き、ガックリと項垂れる。
「それに、態々トリステインへ攻め入る口実を与えるわけにもいかない。
これがアンリエッタの、いや、トリステインのために出来る唯一の事なのだ。どうか分かってほしい」
「…………」
「君が気に病む必要はない。こうなるのが運命だったのだ。
アンリエッタには、ウェールズは最後まで勇敢に戦ったと伝えてくれ。それ以上は望まない」
俯いて頭を振る私の肩を軽く叩き、穏やかに微笑む。
白い歯を覗かせて笑う殿下は魅力的だ。きっと、姫殿下はこの笑顔に心惹かれたのだろう。
しかし、姫殿下がこの笑顔を見るのはもう叶わない。それだけが口惜しい。
私は無力だ。親友とまで言ってくれた姫殿下に、何もしてあげられない。
「君は優しい女の子だね。ラ・ヴァリエール嬢。
アンリエッタの事を思っての行動だったのだろうが、それに応えるわけにはいかないのだよ。許しておくれ。
……さあ、そろそろパーティーの準備も出来ただろう。
君たちは、我らが王国が迎える最後の賓客だ。是非とも参加してほしい」
殿下の声は明るいが、私はそういう気にはなれなかった。だって、最後の晩餐なのだから。
しかし、辞退するわけにもいかない。
私に出来るのは、彼等の姿をこの目に焼き付けておくことだけなのだろうか?
◆◇◆
眠れぬ夜が明け、とうとうこの日がやってきてしまった。おそらく、アルビオン王家最後の日だ。
昨日の晩餐会の様子を思い起こす。彼等は、死ぬと分かっていながら底抜けに明るく振る舞っていた。
死の恐怖を振り払い、団結を再確認して勇気を奮い起すためなのだろう。理屈では分かっている。
しかし、私はその光景をただ只管に物悲しく思い、とてもではないが見ていられなかった。モー・ショボーのように、彼等の輪に入って騒ぐのは、私には無理だ。
会場を飛び出し、城内を彷徨う。1人になれる場所を探していたのかもしれない。
しかし、1人になっても、心はどんどん曇っていき、とうとう感情の堰は決壊してしまった。私には、何も分からない。何を信じていいのかすら分からなかった。
そんな時、ワルドと出会い、彼の申し出を受けてしまったのだ。
そうして、今この場所に立っている。後悔はない、と言えば嘘になるだろう。けれど、今更、反故には出来ない。
今日この場で、私はワルドと結婚するのだ。
「では、式を始める」
媒酌人を務めるのは、ウェールズ殿下だ。
場所は、ニューカッスル城内にある礼拝堂。
そこにいるのは、新郎新婦である私とワルド、媒酌人を務めるウェールズ殿下、そして、参列者としてモー・ショボーが1人いるだけだ。
他の人々は、決戦に向けての準備に追われ、ここには居ない。
この式も略式で行われ、その後、速やかに城を離れる予定だ。
既に、非戦闘員を乗せたフネはラ・ロシェールを目指して出航してしまっているが、滑空するだけならばグリフォンでも事足りるのだそうだ。
「新郎、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。
汝、始祖ブリミルの名において、その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
殿下が朗々と、宣誓の問いかけを読み上げる。
ワルドはそれに重々しく頷くと、杖を握った左手を胸の前に置き、軽く目を瞑った。
「誓います」
簡潔に、そして神妙な声が静かな聖堂に響く。
殿下はそれを聞き届けると軽く頷き、今度は私に先程と同じ文句で問いかけてくる。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵家三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
汝、始祖ブリミルの名において……」
私は何処か空虚な面持ちでそれを聞いていた。耳には届いているのだが、それが自分に向いている事とはどうしても実感できない。
純白のドレスに身を包み、こうして隣にワルドがいようとも、私には現実感というものが湧いてこなかった。
全てが夢の中の出来事か、空想の産物とさえ思えてくる。
「新婦?」
ハッとなって顔を上げると、訝しげな表情の殿下が視界に映った。
何か弁明すべきなのだろうが、何も言葉が出てこない。酸欠にあえぐ金魚のように、ただ口をパクパクさせる事しか出来なかった。
「ルイズ、緊張しているのかい? ほら、深呼吸をして」
言われるがままに深呼吸を繰り返す。
肺の中の空気が入れ替わる毎に、だんだんと気持ちが落ち着いてくる。
そして、漸く自分が結婚式の主役だという現実が受け止められたように思う。
「落ち着いたかい? なら式を進めようか。
なに、迷う事はない、君は一言『誓う』と言うだけでいいんだ。何も難しいことはない。
そうだろう? だって、君と僕とは婚約者なんだ。結婚するのが当たり前なんだから、ね」
結婚するのが当たり前…… その言葉を反芻する。
ワルドとの婚約は、互いの父親が取り決めた事柄だ。
幼い頃は、それがどういう事かを理解していなかったが、憧れの人と一緒にいられるのが何よりも嬉しかった。
今でもワルドは憧れの人だ。いずれ、彼と結婚するのだと、漠然と思っていた。彼以外と結婚するなどと考えたことすらない。
ワルドと結婚するのが当たり前で、迷う事などない筈だ。なのに、どうして心は曇ったままなのだろう?
支援
「よろしいかな?
これは所詮、儀式であって、当人たちの心が一番の問題であるけれど、儀礼にはそれだけで意味がある。
では、繰り返そう。
汝……」
「ねえねえ、人間。ちょっと、い〜い?」
突然、それまで大人しくしていたモー・ショボーが声を上げた。
この厳かな場にはおおよそ似つかわしくない、いつもどおりの無邪気な声で割り込んでくる。
それは、誰も予期していなかっただろう。私だってキョトンとしているのだ。他の2人が予測できたはずがない。
ワルドも渋い顔をしている。
「……すまないが、後にしてくれないか。今は大切な儀式をしているのだ」
「ねえ、人間。アイってなぁに?」
「えっ?」
「……なに?」
この質問は聞いた覚えがある。確か、この子を召喚した時にも訊かれた。
しかし、何故こんな時に同じ質問をするのだろうか?
この質問には、ワルドも意図が分からず、少し戸惑っているようだ。
「きのう、その人間にきいたんだ。アイしあってるからケッコンするんだって。
コンヤクシャだからアイしてるの? それとも、アイしてるからコンヤクシャなの?
ねえ、アイってなぁに?」
愛、か。あの時訊かれて答えられなかったことが、今答えられるはずもない。
確かにワルドに対しての憧れはある。けれど、それが愛なのか、それとも別の感情なのか、私には分からない。
婚約者同士だから愛していると錯覚しているのだろうか?
分からない。でも、一つ言える事は、私とワルドは釣り合っていないという事だ。
片や魔法衛士隊の隊長で、押しも押されぬエリートであるメイジと、片や生まれてこの方、魔法が碌に成功したことのない劣等生。釣り合うはずがない。
状況に流されて結婚したのでは、きっと、お互いが不幸になるだけだ。そうだ。きっとそうなのだ。
「新婦?」
「ルイズ?」
2人が顔を覗き込んでくる。黙りこくっている私の態度に疑問を感じたのだろう。
迷いはある。しかし、今この時の判断は固まった。
顔を上げて首を横に振る。
「それは、私にも分からないわ。
でもきっと、いつかは分かる時が来ると思う。その時に教えてあげるわ」
これはモー・ショボーに対してだ。
2人は怪訝な顔で私を見つめている。
意を決して、ワルドの瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
思えば、こんな風にワルドを直視するなど、初めての事だ。何時もは、恥ずかしくてまともに顔を見れていなかった。
「ごめんなさい、ワルド。私、あなたとは結婚できません。
少なくとも、今は……」
「新婦は結婚を望まぬというのか?」
「その通りでございます。
この期に及んでこんな事を申し上げるのは、大変失礼だとは思いますが、私はこの結婚を望みません」
「どうしたというんだ?
昨日は承諾してくれたじゃないか。それなのにどうして……」
困惑を隠せないワルドを見て、良心が痛むのを感じるが、今すぐ結婚というわけにはいかない。
分かってもらえるとは思えないけれど、自分なりの理由を伝える。
「ごめんなさい、ワルド。我儘を言っているのは百も承知よ。
でも……」
「でも? でも、なんだというんだ?
今更撤回すると言うのか?!」
「そこまでだ、子爵。
彼女が結婚を望んでいないというのなら、これ以上、式を続けるわけにはいかない」
激昂するワルドの肩に殿下の手が置かれる。
ワルドの感情は、困惑から怒りへと変じているようで、そんな事ではおさまらないようだ。
殿下の手を振り払い、私の両肩を乱暴に掴んでくる。痛みが走り、思わず呻く。
「痛っ……」
「何故だルイズ。何故僕を拒む!」
「子爵、無理に引き止めても恥を掻くだけだ。引き際も肝心だぞ?」
こんな、声を荒げて取り乱すワルドを見るのは初めてだ。
戸惑いと僅かな恐怖が湧き上がってくる。
ワルドは止めようとする殿下の言葉にも耳を貸さず、語気を荒げたまま捲し立てる。
「ルイズ!
君には誰にもない才能があるんだ! それさえあれば、世界だって手に入れられる!
僕には君が必要なんだ! 君のその才能が!」
「なにを……」
才能? 前にもそんな事を言っていたけれど、それは一体なに?
得体の知れない何かを感じ取って後ずさる。
「一体、何を言っているの?!
どうして、ありもしない才能に執着するのよ! 分からないわ!」
「君は気付いていないだけだ。
君はいずれ、始祖ブリミルにさえ匹敵するメイジになる。だからこそ、僕は君が欲しい」
憧れだったワルドの姿が崩れていく。一体、この10年間で彼に何があったのだろう?
こんな事を言う人間ではなかったはずだ。それとも、私は彼の本性に気がついていなかっただけなのだろうか?
ともかく、もうワルドに対する思慕はない。幼稚な憧れなのか、それとも恋心なのか、自分でも分からず悩んでいたのは全て無意味だった。
ワルドは私を愛してなどいない事が、ハッキリと分かってしまったのだから。
「嫌よ」
「……なに?」
「嫌よ! こんな結婚、絶対に嫌よ!
真面目に悩んでいたのが馬鹿みたい! 貴方は私のことなんかちっとも愛していないのに、あれこれ悩んでて馬鹿みたいだわ!
ありもしない才能に固執して、私のことなんてちっとも見てやしない!
そんな人と結婚するなんて、死んでもお断りよ!」
激情が堰を切ったかのように溢れだしてくる。
もう憧れだったワルドはいないのだと理解した。今、彼に感じるのは、耐え難い怒りと嫌悪感だけだ。
近くにいるのも嫌だ。
渾身の力を込めてワルドを突き放そうとする。だが、体格差は歴然としており、ビクともしない。
それどころか逆に、乱暴に振り払われてしまう。転倒しそうになるが、殿下に支えられ事なきを得た。
ともあれ、ようやくワルドから離れられた。それだけで気が軽くなる。
「君の気持ちを掴むために、かなり骨を折ったのだが、あと一歩足りなかったようだ。
残念だが、君の事は諦めなければなるまい」
「破廉恥な! 子爵、君は彼女の事をなんだと思っているのだ。
答えいかんによっては、我が誇りにかけて君を許してはおけぬ!」
支援
大仰に肩を竦め、全く悪びれたところのないワルドの態度に、殿下が杖を引き抜き怒りをあらわにする。
ワルドの表情は、先程までとは打って変わって穏やかなものだったが、私には酷く醜いものに見えた。嘘に塗れた顔が、こんなにも嫌悪感を催すものだとは。
静かににじり寄ってくるワルドに身を硬くする。
その時、こんな緊迫した場面には場違いな呑気な声が上がった。
いわずもがな、モー・ショボーだ。この子ときたら、目の前の出来事が飲み込めていないようで、一生懸命首を捻っている。
「んー? アタシのせい?」
「……そうだ。貴様が余計な事を言うからだ。
相応の報いを受けてもらう!」
ワルドの逆鱗に触れてしまったようだ。矛先がモー・ショボーへと向く。
怒りで顔を歪ませたワルドは、素早く杖を引き抜くと、モー・ショボーへと踊りかかった。杖は青白い光で覆われ、十分な殺傷力を秘めている。
ワルドの行動は素早く、妨害する暇さえ私にはない。横では、殿下が杖を構えてルーンを詠唱しているが、到底間に合わないだろう。
私は杖を取り出すことさえできず、手を伸ばして一言叫ぶしかできない。
「やめてっ!」
叫びは無為に響き、ワルドの杖がモー・ショボーに迫る。
自分に危険が迫っている事に気がつかないのか、モー・ショボーはボンヤリとワルドを見つめ返している。
あと一歩、ワルドが踏み出せば、あの子は杖に刺し貫かれるだろう。
だが、その一歩は永遠にやってこなかった。
何故なら、突如、ワルドの目の前の地面に穴が出現したのだ。
突進していたワルドが急に止まれるはずもなく、叫び声すら残さず、その穴へと真っ逆さまに落っこちていった。
それらは一瞬の出来事で、何が起こったのか理解が及ぶのには時間がかかった。
眼をキョトンとさせたまま、穴を覗き込む。
「なんでしょうか、これ?」
「分からない……」
その穴は、地面を掘って出来たモノではないようだ。何処へ続いているのか分からない深淵のふち、いうなれば『奈落』だろうか?
そう表現するしかない、不可思議な穴であった。
先ほどまでの張りつめた空気が嘘のように、ただ沈黙が落ちる。
一体何時までその穴を見つめていただろうか? すごく長かったような気もするし、ホンの数瞬だったかもしれない。
ともかく、突如として穴に異変が起きたのだ。ソレが現れた時のように前触れもなく、変化が起きたのだった。
穴の縁が盛り上がったかと思うと、黒い何かが膨れ上がる。その黒い何かには、懐かしい何かが見えた気がした。
膨れ上がった黒い何かは破裂し、中から小さな影が飛び出してきた。
「十五代目葛葉ライホー、見参だホー」
飛び出して来た小さな影は、高らかに片手を上げ、誇らしげにそう名乗りを上げた。
◆◇◆
いやはや、十四代目の執念には恐れ入った。まさか、アカラナ回廊に飛び込むとは……
ん? おっと、失礼した。挨拶もなしに愚痴を言ってしまうとは、このゴウト、不覚であった。
我が名は業斗童子。仮の名と猫の姿で失礼するが、そこは許してほしい、こればかりは自分の意志ではどうにもならないのだから。
そして、隣にいるのが十四代目葛葉ライドウとその仲魔。
我らが此処に立っているのは、合体事故により1体の仲魔が行方不明になった事に端を発する。
それは、仲魔が消えるという前例のない事故であった。
仲魔が消滅したのは残念に思うが、我は嘆いていても仕方がない、と考え、当然ライドウもそう判断すると思っていた。
思っていたのだが、ライドウはそう受け止めはしなかった。
その結果がこれだ。
ライドウはヤタガラスが保管する秘宝『天津金木』を借り受け(如何なる手段を用いたのかは、とても我の口からは言えぬ)、アカラナ回廊に飛び込んだのであった。
何処をどう通ってきたのかよく覚えていないが、とにかく、どうにかして此処まで辿り着いたのである。
無理を通せば道理が引っ込むとは、この事か。
さて、アカラナ回廊を出た先は、どうやら教会のようだ。晴海町にある天主協会と趣がよく似ている。
その教会には、金髪の青年と桃色の髪の少女(異国の人間には、髪が桃色の者までいるとは知らなかった)、そしてお目当ての仲魔、モー・ショボーがいた。
ライドウはモー・ショボーの姿を認めるやいなや、脇目も振らずに話しかける。
その様子に溜息を吐いてから、改めて辺りを見回すと、青年と少女が呆気にとられた表情をしていた。
無理もない、彼等にしてみれば、何もない所からいきなり人が現れたように見えたのだろう。驚くなと言うのがどだい無茶な話だ。
ライドウがあんな様子では埒が明かない。と、なると、我が代わりに事情を説明したいところなのだが、あいにくと、我の声は普通の人間には聞こえぬのだ。
さて、どうしたものか……
「ヒーホー! オイラ、銀氷属ライホーくんだホー。
こんごともよろぴー」
こら、悪戯はよせ。
アクマの姿は通常、一般人には見えない。だからといって、悪戯をしていいわけがない。
お前もライドウを目指しているのであれば、不用意な行動は慎むのだ。
「ヒホホー、ピンクの髪なんて初めて見るホー」
まったく、しょうのない。
少女に話しかけたり、手を振ったりしているのは、ライホーというアクマだ。
自由気ままな雪の精ジャックフロストの亜種である。ライドウの真似をして、学生服と黒い外套を着こみ、ついでに学帽まで被っている。
こ奴はライドウに憧れ、そして、追い抜こうとしている野心あふれるアクマだ。ライドウの仲魔になっているのも、力を得るための手段なのだそうだ。
「なにコレ? 雪だるま?
な、なんで雪だるまが喋ってるのよ??」
む? もしや、ライホーの姿が見えているのか?
隣の青年も、少女と同じように驚いた表情を見せている。どうやら、両者共にライホーの姿が見えているようだ。
ふむ? 此処はひとつ、挨拶をしておこうか。
「お初にお目にかかる。我が名は業斗童子。その雪だるまはライホー。ついでに、あの男はライドウ。
さて、こちらの挨拶は終わりだ。もし良ければ、貴殿たちの名前を教えてもらえると有難い」
「猫まで喋った!」
「落ち着くんだ、ヴァリエール嬢。敵意はないようだ。
私の名前はウェールズ・テューダー。彼女はルイズ・フランソワーズ嬢だ。
これで宜しいかな、猫君?」
「これは丁寧痛み入る」
この事態に取り乱すことなく、更にこの物腰の柔らかさ、恐らくこの青年は由緒正しい出に違いない。
此方としても、冷静な者がいるのはありがたい。
本来ならば、ライドウがせねばならぬ事柄なのだが、あの調子では多くは望めまい。我が掻い摘んで説明しておこう。
・
・
・
「……と、いうわけなのだ」
「じゃあアンタたちは、あの子、モー・ショボーを追ってここまで来たってわけ?」
「そういう事になるな」
簡単な説明で、少女は此方の事情を飲み込んでくれたようだ。
勿論、アカラナ回廊などの込み入った事情の説明はしていない。単純に、遠方よりやってきたと説明した。
なにはともあれ、飲み込みが早いのは助かる。
「でも駄目よ。あの子は私の使い魔なんだから。
今更、アンタたちに返すなんて出来ないわ。犬猫じゃないのよ」
「まあ待て。当人の意見も聞いてみなければなるまい」
当人、つまりモー・ショボーの事だ。
ライドウの仲魔に戻るのか、現状のまま、この少女を主人と仰ぐのか、本人の意見も聞いてみない事には始まるまい。
それに、ちょうどあちらの話も終わりそうだ。
「訊くまでもないと思うけどね……」
桃色の髪の少女が我を抱き上げる。
情けない…… これでは、本当に猫のようではないか。
文句の一つも言いたいが、無駄に時間を消費するわけにもいかぬ。
ライドウとモー・ショボーの会話に耳を傾ける。どうやら、決着がつきそうだ。
「ゴメンネ、人間。
アタシ、この人間といるほうがたのしいから、いっしょにはいけないの。
ばいば〜い」
むう、アクマとはいえ、子供とはなんとも残酷なものよ。
あれだけ熱く語ったというのに、一蹴とは。
衝撃の余り、ライドウは手と膝をついて項垂れている。確か若者の言葉でオー、アール、ゼットと言ったか?
我にはよく分からぬが、そういった体勢で落ち込んでいるというのは確かだ。
「ふふん、当然の結果よね。これからもよろしくね、モー・ショボー」
「うん、人間。コンゴトモヨロシク!
コレあげる。アタシのとっておきだよ!」
少女は我を投げ出し、モー・ショボーと手を取り合ってクルクルと踊る。
どうやら、少女はモー・ショボーから従属の証を受け取ったようだ。やれやれ、残念だったなライドウ。
此処まで来てこんな結果に終わるとは、正に骨折り損のくたびれ儲けというものだ。
……何時まで惚けておるのだ、ライドウ。これ以上、ここに留まるのは好ましくない。さっさと引き揚げるぞ。
ええい、しゃんとせぬか! お前は十四代目ライドウだろう! これ以上、我に恥をかかすでない!
「ライドウ、オイラがついてるから元気出すホー」
モー・ショボーがあの少女に懐いておるように、お前を慕う仲魔もまたいるのだ。
気持ちを切り替えて未来へ邁進しようではないか。
暫くすると、フラフラとライドウは立ちあがった。うむ、それでこそ、だ。
腰に力が入っておらず、まるでグールのようだが、いずれ立ち直るであろう。我はそう信じておるぞ、ライドウ。
ライドウは弱々しく頭を振った後、両手を外套の中に突っ込んだ。口元には不敵な笑い。
嫌な予感が頭を掠め、我は身を低くして身構える。
外套を大仰に翻し、ライドウの両手に握られたのはイネ科の一年草。それが両手に計8本。
ライドウのMAGの輝きを帯びた植物が左右に、そして上下に揺れる様は、まさしく変幻自在である。
その魔性の魅力が、この体に備わった忌々しい本性を呼び覚ます。
「ニャー!! わかった! 降参だ! 我のとっておきをやるから許せ!!」
◆◇◆
一体何だったのかしら? あの奇妙な3人?組は。
あいつらはあの後、ひとしきり猫とじゃれあってから、現れた時とは正反対の慌ただしさで去って行った。
現実なのかどうか、いまひとつ確信できなかったけれど、頬を抓ると確かな痛みが奔った。どうやら、白昼夢ではなかったらしい。
全ては現実だった。ワルドが私を騙していたのも、全ては現実だった。
失ったモノもあるけれど、得たモノもある。それは、何よりも替えがたいモノ。モー・ショボーから貰った金属片を握りしめる。
今日、モー・ショボーと本当の意味での絆が結べた様な気がする。これからは、この絆を大切に育てていこう。まだ生まれたばかりなのだ。
そういえば、穴に落ちたワルドがどうなったのかを訊くのを忘れていたけれど、まあいいか。もう会う事はないだろう。あの穴は、そういうモノのように思えた。
そんな感慨に耽っていると、突如として轟音が響き、重たく激しい震動が襲ってきた。
「……攻撃が始まったか」
「攻撃って…… レコン・キスタが?」
「そのようだ。
まだ予定時間には程遠い筈だが、どうやら痺れを切らしたらしいな。
君は早く脱出しなさい」
殿下はその場に紫の僧衣を脱ぎ棄て聖堂の入口へと向かう。
ダメだ! いかせてはいけない!
私は形振り構わず、殿下の背に縋り付いて引き留める。
「お止め下さい!
どうか生き延びて、姫殿下と再会してください。後生です、殿下!」
「……君は残酷だね。
私に残された最後の名誉を奪おうというのだから」
「そんな……」
でも、でも、みすみす見殺しになんて出来ない。
我儘なのは分かっている。無い物ねだりだという事も分かっている。貴族の義務や責任も理解できる。
分かるけれども、分かりたくない。ただ、駄々っ子のように殿下の背に追い縋る。
だがその縛めも、一際大きな振動に襲われたことで外れてしまった。
「キャアッ!」
「早くお逃げなさい。今ならまだ間に合う」
殿下は倒れ伏した私に優しく、だが手は差し伸べずにそう言った。
けれど、こんな事では諦められない。死地に行かせまいとして、懸命に手を伸ばす。
そんな私を見て、殿下は目を伏せて悲しげに首を振った。
「残念だが、君の頼みはきけない。
誰にでも譲れない時がある。私にとって、今がその時なのだ」
「だったら……!」
「だったらなんだというのかね?
最後まで食い下がるでも言う気かい? 今、脱出しなければ、君は確実に死ぬだろう。
その子を残して、その子を道連れにして死ぬ気かい?」
「…………」
「人間、どーしたの?」
とても、そんな事は出来はしない。本当の絆をこの子と結べた気がしたのだから。
私と死を覚悟した殿下とでは、覚悟が違うというのか?
私が間違っていて、殿下が正しいというのか?
認められない。認めたくない……
その時、すぐ間近で岩の崩れる音が聞こえた。
弾かれるように背後を見やると、床に大穴が開いていた。先程のものとは違い、正真正銘の穴だ。
まさか、レコン・キスタが地下から攻めてきたのか?
そう思い身硬くするが、穴から顔を出したのは茶色の塊、ジャイアントモールであった。
そして、次いで顔を出してきたのは……
支援
「ぷはー!
ヴァルダンデ、君はいったいどこまで穴を掘れば気が済むんだい?」
「ギーシュ……」
「ん? おおっ! こんな所にいたのかね!」
穴の中には、キュルケとタバサの姿も見える。
どうやって追いかけてきたのだろうか? ここにいる事は、ギーシュ達は知らないはずなのに。
断続的に砲撃の振動が伝わってくる。攻撃が本格化してきたようだ。
「なんだか剣呑な雰囲気だね? まるで戦争でもしてるかのような……」
「そのまさか、よ」
「なんだってー! なら早く逃げないと!」
呆れた。状況の把握もせずにこんなところまで来るなんて。
……あっ ギーシュに気を取られていて殿下の事を忘れていた。逃げられていたらどうしよう。
焦燥に駆られて咄嗟に振り返ると、殿下は先程の位置で微笑みながら佇んでいた。穏やかな声で告げてくる。
「どうやら迎えが来たようだね。ここでサヨナラだ、ラ・ヴァリエール嬢。
君は友達を悲しませるような女の子ではない筈だ」
「…………」
「さあ、生きなさい。君にはその権利がある」
もう、これ以上引き留めるのは無理だ。
殿下の言う通り、私は生に執着している。
モー・ショボーやギーシュ達の手を振り払ってまで殿下に追い縋る事は出来ない。
悔しさの涙を堪える。最後にひとつだけ悪足掻きをしよう。
「ひとつだけ。最後にひとつだけ、お許し下さい」
「何かね?」
「何か、何か姫殿下に伝えることは?」
「……私の事は忘れろと伝えてくれ。他の誰かを愛するようになっても、私は恨まない。とも」
涙を堪えて無言で頷くと、殿下は満足そうに頷き走り去っていった。
砲撃の音は激しさを増し、城全体を震わせる。
「ルイズ、早くするんだ!」
殿下とは正反対の方向に向かって、私は駆け出した。
◆◇◆
支援
あれから1月以上が経った。
トリステインは今、ウェールズ殿下の願いも虚しく、レコン・キスタ、いやアルビオン帝国に脅かされている。
奴らは、旧アルビオン政府を下した後『神聖アルビオン帝国』と名乗りをあげ、新政府の座にすっぽりと収まった。
そして、不可侵条約が結ばれたのだが、奴らは姫殿下の結婚式に招待された際、自作自演の工作を行ってトリステイン側からの攻撃を受けたと主張し、戦争の火蓋は切って落とされたのであった。
何とかタルブ戦役を切り抜けたとはいえ、気を抜きのにはまだ早い。奴らの力が衰えたわけではないのだから。次の戦いに向けて、力を蓄えているのだろう。
あとトリステインにも変化があった。姫殿下が戴冠したのだ。つまり、今は姫殿下ではなく、アンリエッタ女王陛下なのだ。
これにより、ゲルマニアとの婚約は解消された。
ウェールズ殿下の死を報告した後は、悲しみに暮れていたが、今では立ち直ったように見える。本当に立ち直ったのか、ただの強がりかは分からないがただ悲しんでいるよりはましだろう。
そんな姫殿下の為にも、私はこの『力』を使いたい。私の本当の『力』を。
「人間、あそんであそんでー」
「はいはい、今は旅の準備してるんだから、邪魔しないでね」
抱きついてくるモー・ショボーの頭を撫でてやる。
これらの出来事の間、当然、私とモー・ショボーの絆がより深くなったのは言うまでもない。
だが、今の状況は以上だ。
必要以上にベタベタと寄り添ってくる。身の危険を感じるほどに。
これでは、気が休まる暇がない。
と、いうのも、とあるアクシデントで強力な惚れ薬を飲んでしまったからだ。あの縦ロールめ、痴話喧嘩なら他人に迷惑がかからないようにしろ!
そんなこんなで、惚れ薬の解除薬がいるのだが、それをつくるのには、ある秘薬が足りないというのだ。
その秘薬とは、水精霊の涙というものである。しかし、その秘薬はどこもかしこも品薄状態が続いており、入荷は絶望的なのだそうだ。
だが、座して待つほど私は呑気ではない。入荷が望めないというのなら、直接出向いて水精霊と交渉するまでだ。
目指すは、ガリアとの国境にあるラグドリアン湖、そこに水の精霊が住まっている。
「人間っておいしそうねぇ」
痛い、後頭部が!
早くラグドリアン湖に行かないと、私の体がもたないわね。
さあ、行くわよモー・ショボー!
・
・
・
ルイズは仲魔から更なる忠誠を得て、称号が『アヴァンギャルド少女メイジ』から『グロテスクを統べるモガ』に変化し、『グロテスク統べるモガのルイズ』と呼ばれるようになった。
-完-
乙
面白かったです
ライドウかわいそうにwww
グロテスク統べるモガのルイズ
乙
おまけ
帝都某所の地下に轟音が響き渡る。
「見よ! 新たな刀の誕生だ! 持っていくがよい」
「おでれーた! もうないと思ってのに、出番があっておでれーた!
こうなったら、本気で行くぜ!
俺っちは魔剣デルフリンガー。コンゴトモヨロシクな、相棒!」
「…………」
「ぬぅ、刀が喋るなど面妖な……」
なぜこ奴の周りには、奇特なモノばかり集まるのだ?
-終われ-
私たちの物語はまだまだ続くのよENDでした。
これにて『超力ガーヂアン』を終了させていただきます。
支援して下さった方、拙作を読んで下さった方、そんでもってこのスレの住人の方にお礼申し上げます。
これからもゼロ魔ssを書いていく予定なので、その時はどうぞ読んで下さい。お願い致します。
では、次回作『ゼロの壁マイスター』にご期待下さい(嘘)
最後にモー・ショボーのステータスを公開しておきますね。
疾風属モー・ショボー Lv.??
火炎・呪殺弱点 / 銃撃に弱い / 衝撃無効 / 電撃吸収
戦闘特技
真空刃 ショックウェーブ
絶対零度 天命滅門
雄渾撃 サマリカーム
マカカジャ 打撃
捜査特技
偵察 / 神風
思い出特技
火炎半減 呪殺半減
破壊神のゆえつ 魔弾の射手
衝撃高揚 ヒロ右衛門
てっきり乱入したライドウと仲魔達がワルドをフルボッコにすると予想してたんだが、あっさりと片付いたな。
お疲れ様でした。
しかし、モーショボーが衝撃無効の電撃吸収持ちかw
ワルドには最悪の相手だなw
ワルドは永劫アルカナを彷徨うのかw
閣下に拾ってもらうかしないと廃人になっちゃうぞ
ところでワルドの切り札って偏在でいいのだろうか
切り札というにはいろんなところでホイホイ使ってるから違うんだろうな
馬鹿、偏在なめるな。
偏在はヨグ・ソトース様にも出来ない大技だぞ。
でも風のスクエアメイジは程度の差は有れど普通にできると言う
だからこそメイジは平民以上という選民意識を持てるのだろう
メイジがスレイヤーズの世界かオーフェンの世界に飛ばされたら発狂しそうだな
武術や剣の達人とかはいないのかね
魔法使えなくて銃とかに頼らなくてもどうにかしてしまうようなの
鬼哭街の人がそれに該当する。
続きはまだかなー。
メイジ殺しにはそういうのは居るかもね
ただ武器や武術使うメイジが居てはいけないというのもないわけで・・・
やはりメイジと平民の差は埋まると思えない
いや大抵の魔法が存在する世界なら発狂しかねんぞ
ゼロ魔の魔法は生活から戦闘までと色々便利なものも揃ってはいるんだが
どこぞの世界みたく死者蘇生したり瀕死だろうと綺麗さっぱり元通りとか
誰でも覚えられます、買えば使えます、宝箱から発見します、契約しとけば使えますときたもんだ
きっと独歩ちゃんなら回し受けで火炎も電撃も受けきってくれる
バキキャラならガチで30mのゴーレムぐらいなら沈めそうだし
スペックが自由の女神破壊しかけたことがあるくらいだし
>武器や武術使うメイジが居てはいけないというのもないわけで
STRAY DOGの魔法使いさんですか
スレイヤーズの世界でさえガウリイとかは魔導士や魔法剣士をも脅かすんだがな
オーガとか通りすがりの忍者サラリーマンに仙人志望のスプリガンとか
抜刀斎およびその後継者とか世紀末救世主とか中平版ストZEROとか
そういや抜刀斎召喚は見ないな
>>116 どうだろ?武道って概念自体、西洋に伝わったのって結構最近だし
メイジだって鍛錬しないと魔法使えんわけだから、メイジが魔法鍛錬してる時間を
対メイジの訓練に使えるわけだし。
つかまあ原作最初の方にある「メイジに平民は絶対勝てない」ってのは戦闘に関してでなく権力的なもんが大きいんだろうなぁ
個対個ではまだ(とは言えメイジの方がかなり有利なのは間違いないが)別として権力持ってきて云々やられた場合はまあ、勝てんだろうなぁ
予約が無ければ2分後に投下しますね。
戦闘能力を抜きにしてもインフラを完全に握られてるのが痛いよな
鍛錬しだいで拳で巨岩を砕いたり出来る世界観ならなあ
拳銃が普及してガンマンが出てきたらメイジたちはやばいだろうな
リボルバーオセロットみたいな兆弾使いやホープエマーソンみたいな精密射撃に早撃ちなんかされた日には
メイジの詠唱って言う弱点が浮き彫りになりそう
45.ジャックとオリヴァー
ルイズがタルブから出発してしばらくしてから、
ティファニアがタバサの薬を完成させた。
笑顔でタバサの下へやって来たティファニアは、
やはりピンク色の液体が入ったビンを二つ持っている。
「これでおそらく大丈夫です」
タバサはおそらくという言葉がひどく頭に引っかかったが、
そんな事を言い出したらきりがない。
タバサは礼をしてそれを受け取って寝室に行き、
未だグッスリ眠っている自身の使い魔をたたき起こす。
悲鳴を上げて飛び起きたシルフィードの目には主人が映る。
頭をさすりながら、うーと唸ってタバサを見る。
なにしやがりますのねこのちびすけは。とは言わず、
正論で訴えることにした。
「今日は、帰んないって、お姉様はいいましたわ」
杖で頭を思い切りぶん殴られた使い魔が抗議の声を上げるが、
タバサはいつも通り、表情の読めない顔のままだ。
「事情が変わった」
彼女はこんなに早く薬が出来るとは思っていなかったのだ。
叔父が何を考えているのかは分からないが、
今この事に気付かれるとやっかいだ。
次の夏期休暇まで大人しくしておく方が無難だと思い、
タバサは早々に帰る事にした。
「きゅいきゅいきゅいきゅい……」
恨みのこもる声に杖を持ってタバサは対抗する。
その目はジャベリンでもどう?と言いたげだ。
シルフィードも負けじと、にらみを利かせる。
結局そのまま数分経って、先に折れたのはシルフィードだった。
「まったく、使い魔使いが荒すぎるのね」
ぼやいてからとぼとぼと外に出て、元の姿に戻った。
マーティンはふむとその様を見続ける。
シルフィードが服を脱ぐ辺りから。
「やっぱり、女性の裸に興味があるんだ?」
キュルケの問いに、いやいやと首を横に振った。
「こんな魔法、見たことが無いからね。シルフィード、今度その魔法の原理を教えてもらってもいいかい?」
シルフィードは目をそらし、言いにくそうに言った。
「えーと、知らないのね。そもそもお父さんやお母さんに先生とかから教わっただけだから、
どういう風にこうなってるかなんて、わたしにはわかんないのね。
学校で色々とどーのこーの聞いたけれど、よく覚えてないのね」
えへへ。と龍の姿に戻ったシルフィードはぽりぽり頭を掻く。
少し恥ずかしげなその仕草は、年頃の龍娘らしく可愛らしいものだった。
>>124 インフラ握れるほど数いるのかねえ
オーフェンの世界なんかは魔術師の絶対量が少ないから迫害されてたけど
「なるほど……」
今のシルフィードが言った言葉で、韻竜達は魔法の原理をそれほど知らなくても、
使用する事が出来るとマーティンは分かった。
つまり魔法体系が簡略化されていて、それだけ魔法が一般的に使われているということだ。
タムリエルのそれに似ている。彼の地も本格的な理解を深めずとも、
それなりに魔法を使う事ができるのだ。
「今度、知っている魔法を教えてくれないか?」
「きゅい?かまわないのね」
大いなる意志とは何か?友の手紙にはこの地はアカトシュが創ったと書かれていた。
ならば、やはり彼らの魔法こそタムリエルの魔法なのかもしれない。
ルイズが帰るまでにやる事が一つ出来たマーティンは、
笑顔でシルフィードの方へ向かう。
マーティンとキュルケと共にタバサが龍に乗り、
タルブの村を後にする。見送りの盗賊の一人が空に浮かんでいく龍に向かって言った。
「ありがとうよ貴族のお嬢さんがた!
マスターがいないから代わりに俺が言わせてもらうぜ」
「気にしないで。お互い利用しあったんでしょ?」
「ちげえねぇ!」
キュルケの返しに黒い頭巾の男は笑って答える。
龍は機嫌が悪そうにきゅいと吠えて、
そのまま風の様な速さで飛び去った。
「行っちゃいましたね」
途中からいる事すら忘れられていたウェールズに、優しくティファニアが話しかける。
彼女が近づこうとすると、微妙にウェールズが離れる。
名残惜しそうな、しかし確固たる意志を持って距離を空けている。
「あ、ああ。そうです、ね」
彼女は従妹であり、自分にはアンリエッタという女性がいる。
そう己に言い聞かせ、精神破壊兵器に目が行かぬように視線を空に固定する。
それは男を狂わす凶器。ありえない破壊力を秘めているのだ。
「フォックスさんはああ言っていますけど、
しばらくはここでのんびりしてくださいね。
街道の警備が強化されているでしょうから」
姫様が誘拐されてしまったのだから、
しばらくは街道等の警備が強化される事だろう。
テファはアンリエッタの結婚式までは、ここにいる予定だ。
「そ、そうですね」
ティファニアは歯切れの悪さを不思議に思ったが、
アルビオンに色々と思い残した事もあるのでしょうと、
敢えて聞かない事にした。実際の所誘惑と戦っているのだが、
そんなこと、ティファニアに分かるはずもない。
盗賊達は姐ごさんのフーケにはそんなちょっかいをかけるが、
おそれおおいからと、テファにはそんな事一切しない。
何というか、神性とかそういうオーラがテファからは透けて見えるらしい。
それを聞いたフーケは何であたしからは出てないんだよ!と答えた野郎に詰め寄ったそうな。
だから彼らからは手を出したりはしない。もちろんルイズの様にあんな事をされていたら、
危険性が無いときはそのまま眺める。仕方ない。盗賊達はそういう連中なのだ。
女よりも男の方が多いのだ。
それではと彼女が去って、ようやくウェールズは視線を下に降ろす。
見るべきだったのだろうか。だが、見てしまったら何か大事な事を忘れてしまうかも知れない。
青年にとって、一番愛すべきアンリエッタは遠くへ行った。
浮気はダメだ。そう、浮気はダメなのだ。浮気に成り得そうな物を見るのもよした方が良い。
そうしてウェールズは気持ちを落ち着かせる。
「ふぅ……」
「ハァイ。色男」
そんなウェールズの肩がポンと叩かれた。だが叩いた手はそのまま肩にのっている。
「なにか――あの子に?」
「い、いえ、何もないですヨ」
「そう。良かった」
お姉さんは笑っていた。緑色の髪の綺麗なお姉さんだった。
ただ、「妹に手を出したら殺す」と目が言っているのと、
のせられた手が肩を強く掴み、強烈な痛みを伴っていただけだ。
手が離れたウェールズはああ、とこれからの事について両手を額に当てて考えようとして、やめた。
何か自分の将来が不安なことこの上ない。しかし自分は生きている。
それにアンリエッタと結ばれたのだ。これ以上の幸せはない。
なら、どこだって天国ではなかろうか。ああ、そうとも。
アンリエッタの様な女性に恋をするということは、
それなりに大変な事である。ウェールズはそれを分かった上で、
彼女の事を愛する事にした。理由なんて「好きだから」以外に何もない。
それ以外何が必要だというのだろう?
「住めば都……かなぁ?」
牧歌的なタルブの村で、ウェールズは一人周りを見る。
どう見ても田舎であり、住んでも田舎であることは変わらないだろう。
「まぁ、悪い所じゃないか」
ぐっとのびをして、とりあえず家に戻る事にした。
王家の束縛から解放されて、少し憑きものが落ちたのかもしれない。
その憑きものとは王家が持つべき様々な義務や意地等だが、
アンリエッタによって、それらのほとんどが破壊されたのだ。
愛しいアンリエッタの説得によって、ウェールズはとてものんびりと生活が出来るようになった。
今彼に、レコン・キスタと戦って死んでこいと誰かが言っても、きっといやだと言うだろう。
ルイズが学院に戻った日。ワルドは、アルビオンまでどうにか逃げ出す事に成功した。
烈風カリンの一撃を回避できた理由は奇跡としか言いようが無いが、
それでも生きていることに、彼は感謝した。
しかしどういうわけか、彼の今の雇い主であるクロムウェルの秘書という名の上司であるマニマルコは、
帰ってきたワルドを見ていい顔はしなかった。
「ああ、帰ったのか」
首都ロンディニウムに向かうレキシントンの仕事部屋にいた彼女は、
冷たい声で労をねぎらいもしない。死んでいればよかったのにと言いたげな口調だ。
仕方が無いとワルドは思った。彼女の性格はある程度共に行動した事もあって知っている。
仕事が出来ない者には用が無いから死んで実験材料にでもなれと言い切る人だ。
手紙を奪えずアンリエッタを誘拐出来なかったのだから、怒るのも無理はない。
マニマルコに会う前に、桃色がかったブロンド髪の死体が無いかと兵隊に聞いて回ったが、
どこにもそんなのは無かったと言われた。ならば、どうやってか逃げてしまったのだろう。
その事についてワルドが謝罪しようとして、口を開いた。
「マニマルコ殿。手紙と姫の誘拐の件は私のミスです。何なりと罰をお与え下さい」
「それ『だけ』か?」
「は?」
聞き返したワルドを見て、マニマルコは心の底からため息をついた。
ああ、こいつ使えない。シロディールのメイジより使えない。
何でこんな使えないメイジが世の中に存在しているのだという声を、
ため息に詰め込んでいるようだ。詰め込めるだけ詰め込んでから、
ようやくマニマルコは話をする気になれた。
「ウェールズはまだ生きているのだが」
「そんな!あの男は私の目の前で死んだはずです!」
苦虫を数十匹噛みつぶした様ないらだたしげな顔で、マニマルコはワルドの方へ何かを投げた。
手に持って確かめると、切り傷とほこりで汚れた人形だと分かった。
「これは……?」
「スキルニルだ。ウェールズに化けていた」
ワルドの顔から血の気が引いた。マニマルコは続ける。
「私とて悪魔では無い。二度までなら失敗も許そうではないか。
手紙を奪取出来ず、王子をまんまと逃し、アンリエッタの誘拐までしくじった。
私が言いたいことは、分かるな?」
マニマルコはワルドに近づいていく。その手からは禍々しい緑色の光が発せられている。
ワルドは以前その障気を含んだ様な光を見たことがあった。その光に浴びた者は意識を失い、死んでしまうのだ。
それは体から魂が抜き取られる魔法である。危険なこの魔法は当然死霊術の一種で、
マニマルコを倒したメイジギルドの精鋭はこの呪文によって敗れるはずだった。
結局のところ、対抗策によりマニマルコが敗れる事になったのだが。
「マニマルコ殿、水の精霊との『危険な交渉』の際、私が身を挺してあなたをお守りしたではありませんか」
「そうだったか?忘れたな。では、ごきげんようワルド。いや、それは領地の名か。
さようならだ。ただのジャック」
ワルドが杖を抜くより早く、緑光が彼の胸を貫く。そしてその身体は霧の様に消えた。
「……使えない上に悪知恵だけは働くか。スクウェアメイジの魂と身体が欲しかったのだがな」
マニマルコはまたため息をついて、肩を回す。
大方どこかから遍在で操作しているのだろう。そして本体はどこか遠くへ逃げているに違いない。
ああ、と気を落として、自室で死体の調整にとりかかるマニマルコであった。
「で、どうだったのですかな?子爵」
比較的近いクロムウェルの部屋、その部屋の主であるクロムウェルと、
たまたま来ていたイザベラが見守る中、ワルドは首を横に振った。
二人はレコン・キスタ結成以来の付き合いであり、水の精霊への襲撃や裏工作等を、
共に行ってきた者同士でメイジと非メイジの枠を超えた友であった。
とはいえ、クロムウェルの方がワルドを上に見ている。
親しき仲にも礼儀ありといった事も多少有るが、
非メイジとして生きている人間にとって、メイジとはそれ程凄いものなのだ。
特にスクウェアクラスのメイジに全く敬意を払わずに接すること等、出来るはずがない。
そんなクロムウェルは馬鹿正直にマニマルコの部屋へ行こうとしたワルドに、
とりあえず、遍在で様子を見るべきだと提案したのだ。
「マニマルコは変に厳しい時があるからね〜。まぁ、気を落としちゃだめだよ」
いまいち空気を読めていないイザベラがワルドの肩を軽く叩く。
朗らかな表情でのんびりとした口調だったが、それが逆に場の温度を下げてしまう。
クロムウェルは神妙な顔をしてワルドを見る。彼は先の無い男の顔になっていた。
「母を、蘇らせてくれるとあの女は言ったんだ。だからこそ全て裏切ったのだと言うのに。
なぁオリヴァー……私はどうすれば良いのだろうか?」
25を過ぎてお母さんってどうなんだろう。とはこの張りつめた空気の中で言えるはずもないし、
彼にとってはそれが至上の命題なのだから、口を挟む訳にもいかない。
クロムウェルは神妙な顔のまま、ワルドに答えた。
「ヤケになってはなりませんよ。貴方は優秀なメイジなのですから。
これから先、やろうと思えばどうとでもなるでしょう?」
クロムウェルは近くのタンスから袋を取り出し、ワルドに渡した。
「500エキュー程入っています。身を隠すも良し、他の方法を探すために聖地に行くのも良し……」
イザベラに聞こえないように、ワルドに近づいて小さく言った。
「トリステインに戻り、この惨状を伝えるのも良し」
ワルドは驚いてクロムウェルを見る。そこにはうまい話にのせられて、
今の立ち位置に少しばかり後悔している男がいた。やはり元司教として、
死体と魂を思うがままに操る存在には、何か思うところがあるようだ。
「なになに?何の話?」
「男同士の会話だから秘密だよ」
「男同士ぃ?いいじゃない別に〜」
はっはっはとクロムウェルはごまかし笑いを浮かべて、イザベラをなだめる。
手慣れたものだな。とワルドはそれを見て、すっくと立ち上がった。
「感謝するよ。もしまたアルビオンに戻る事が出来たなら、何か奢らせてくれ。オリヴァー」
「余計な事を考えずに、今後どう生きるかを考えて下さいよ」
母の死からどれほど経ったのだろうか。
今から何年か前のある日、あの女が現れて死霊術についてワルドに話した。
実演を見て彼はトリステインを裏切ることを決意したが、
それは失敗だったらしい。ようやく踏ん切りがついたワルドは、とりあえず身を隠す事にした。
「今までありがとうワルド殿。気を付けて」
「バイバイ。元気でね」
帽子をかぶり直し、男は部屋から出て行く。
甲板まで出て口笛を鳴らすと、長年親しんでいるグリフォンが現れた。
「お出かけですか?ワルド様」
甲板にいた兵士が声をかける。ワルドは短く答えてグリフォンに乗り込む。
「お気を付けて」
「ああ、分かっている」
グリフォンがレキシントンを離れ、ワルドは少々気が楽になった。
少なくとも今すぐ死ぬ可能性は無くなったからだ。
蘇生は夢物語では無い。マニマルコは確かに死者を蘇らせることが出来る。
しかし、それで母を蘇らせる事は出来なくなった。ならば、どうするべきか。
おそらく何かがある聖地に赴くか、それとも不思議な力を持っているらしいルイズに、
再び会ってみるか。どちらなら成功するだろうか。
「500エキューでは当座は何とかなるが、色々と足りないな。まずはゲルマニアで稼いでみるか」
どちらの奇跡に赴くにも、もう少々金が欲しい。一山当てるにはゲルマニアが良いのはメイジも平民も共通の事柄だ。
ひとまずワルドはゲルマニアで身を隠す事にした。
「名前も変えないとな……」
『閃光』のワルドはトリステイン王国魔法衛士グリフォン隊隊長の、良く知られた通り名だ。
そのまま名乗っていたら、すぐにばれてしまうだろう。
「ジャック、『ただの』ジャック……『名無し』のジャック。悪くないな」
国を裏切り、名を捨てた己を皮肉った二つ名だがそう悪い気はしなかった。
グリフォンに乗るジャックは雲の中に消えて、そして二度とレコン・キスタには戻らなかった。
投下終了。16巻はキュンとした。とってもキュンとした。
ルイズもイザベラ様も。では、また次の投下まで。
あー寄生獣の胞子を大量に召喚してロングビルに「お前すこし混じっているな」とか、ミギーに「私は1日でトリステイン語を覚えたんだぞ?」とか言われて戦略だけの魔法無しで勝利を収めるルイズが見たい。
つか「悪魔というのを辞書で調べたがいちばんそれに近いのは…」の下りを言われて頭抱えて悩んだり苦しんだりするところがみt
05:30から投下しますがよろしいでしょうか?
>>137 投下終了後に発表するつもりです。……文中に名前が出ますけどね。
「使い魔は地獄のコックさん」
――これが最後の(逆)オークションです。
――ここに金貨200枚あります。
――貴方はこの金額で人を殺せますか?
『YES・殺ス』
――人様に迷惑をかける悪い子は……。
「はい、これでよし」
ルイズが召喚した平民の女性・詩織は、シエスタの服の背中側にあるリボンを結び終えた。
「それじゃシエスタちゃん、気をつけて行ってくるのよ」
「はい、ミス・シオリ」
「今日はいっぱい楽しい事ばかりだけど、人様に迷惑や悪い事したら私はもう許さないんだから」
「はい、ミス・シオリ。私絶対にしませんよ!」
「いい子……、シエスタちゃんは本当に『いい子』ねえ……」
「それではミス・シオリ、いってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
シエスタを見送って室内に戻った詩織にルイズが声をかける。
「シエスタも今日は休みでしょ?」
「ええ、故郷のタルブ村に里帰りするんですって」
「そうなの……、シエスタはいい子ね……。元気で優しくてまっすぐで……。昨日コックのマルトーも言ってたわよ……。シエスタの事……、本当にいい子だって……」
「そう……、私も嬉しいわ。こんな物騒な世の中でもシエスタちゃんだけは……」
(――……だから、放っておけない)
「みんなシオリのおかげよ」
「もう……、何言ってるの、ルイズちゃん……」
(――悪い子は……)
>>120 逆に言うとガウリィ級でさえ無差別広範囲系を唱えられてしまうと対処手段なしだけどな
「来んな……」
モット伯はパイプの煙を吐き出しつつそう呟いた。
「ノーザとセントラ……、あれから3日経つがまったく連絡が取れん……。いったいどうなっておるのだ?」
「え……、本当ですか?」
「1度連絡はあったのだがな……。『美女に誘惑されました 連絡を待ってください』……。それっきり何ら音沙汰無しだ」
「え、本当ですか!? 2人ともずるいですよ! 今頃お楽しみですよ!」
「とにかく……む?」
その時、モット伯達は黒眼鏡をかけた赤髪の少女が物陰から自分達を手招きしている事に気付いた。
「ま、待たんか!」
「伯爵様、あの女きっとノーザとセントラを誘惑した女ですよ。きっと迎えに来たんです」
「馬鹿が! それよりもあの娘を逃がすな!」
「はいい!」
しばらく走ってモット伯と部下は少女を袋小路に追い詰めた。
「やっと追い詰めたぞ! 手間を掛けさせてくれる。ノーザとセントラはどうした? 黙っていないで答えんか!」
しかし少女は答えない。
「貴様……、酷い目に遭いたいようだな……」
「酷い目に遭うだって? このあたしが……? 馬鹿言ってんじゃないわよ、そんな事ばっかピーピーほざく『悪い子は』――」
少女は黒眼鏡を外し、ぞっとするような視線と共に手にした鎌をちらつかせて宣言する。
「――地獄に堕ちなさい」
「うっ……っああああ!」
――蜘蛛だ……。その時私は桃髪の蜘蛛を見た……。
――それから何がいったいどうなったのか……。訳がわからん……。ただ覚えているのはあの娘の言葉……。
『悪い子は地獄に堕ちなさい』
「む……?」
目を覚ましたモット伯の視界には、薄暗い厨房と料理をしている女性の後ろ姿が映っていた。
「尻だ……」
「あら……、目が覚めたみたいね。はい」
「あ……、え?」
「シチューよ。待ってて、少し冷ましますから。……はい、あーん」
女性・詩織はそう言ってシチューをすくったスプーンをモット伯の口に運ぶ。
「あーん……ではないぞ、おい!」
「あら、シチューはお嫌い?」
「いや、そうではない……。む……、ちょっと待て。何から話したものか……」
その時両足に鈍い痛みが走り、モット伯は思わず呻き声を上げた。
「あら? どうしたの? どこか痛むの? まあ……」
「いや、その……、何か急に……!」
そこでふと自分が女性に尋ねるべき事を思い出し、
「ここは……、どこだ? 私は家臣と2人で紅い娘を追いかけていたのだ。ノーザと……セントラを誘惑した娘だ。追い詰めたのはいいのだが、突然黒い影が落ちてきて目を開けたらこんな場所だ。何だここは?」
そこまで一気にまくし立てたかと思うと今度は突然、
「……っき、貴様何者だあ!? なぜ私がこんなくらい場所でシチューを食べねばならんのだあ!」
自分が座っている椅子を激しく揺らして暴れまわる。
「こらあ、明かりを点けんかあ!」
「ああ、駄目、動いちゃ」
「ぐわあ!」
その勢いで椅子がひっくり返り、モット伯は体で扉を押し開けて眩い光溢れる隣室に転がり込んだ。
「っく、いたたた……。なぜ私がこのような目に……」
ようやく光に慣れてきたモット伯の視界に入ってきたのは、巨大な寸胴や何本も並べられた包丁といった厨房の風景だった。
「え? 何だ、ここは?」
「地獄よ。あんたは地獄に堕ちたのよ……」
その言葉と共に、モット伯の背後の暗がりからキュルケが姿を現す。
「は? ……あ! 赤い娘!」
「じ……、地獄だと? 何を言っておる? 厨房だろう?」
「ふん、厨房ね……。言われてみればやっぱりそうかもね」
「ふう……、やれやれ。なかなか大変なものなのね……、こういうのって……」
続いて現れたのは、顔に蜘蛛の刺青が浮かび上がったルイズ。
(もっ、もっ、桃髪の蜘蛛……!)
「いつもはただ殺しちゃうだけなのに、後始末なんて」
「仕方ないでしょ、逆オークションで落札した人が応援を求めた時、『それ』に『参加した人』はヘルプしくちゃいけないんだから……。ルールは守らないとね、職業・殺し屋。は」
「しょ……、コロ……」
「そう、殺し屋なの。職業・殺し屋。それが私達のお仕事なの。人を殺す事が……」
回転ノコギリを手にモット伯を見つめる詩織。
「……っな……」
「だからね……、頼まれたのよ。『あんた達を殺せ』ってね……。あんた達が権力に物を言わせてさらった女達の家族からよ……。その中には婚約してた女もいたって話よ」
「自殺したそうよ……。慰みものにされたショックで……。崖からポオオン……」
「あなた……、悪い子ね」
詩織は身を屈めかすかに笑みすら浮かべてモット伯の顔を覗き込んだ。
「っひ!?」
「人様に迷惑ばかりかけて。あなたって本当に悪い子……。そう……、私のお姉さんみたい」
詩織は淡々と語り始める。
「……私にはね、双子のお姉さんがいたの……。私もお姉さんも双子だから、姿……形……みんなそっくりなの……。
でもね……、私とお姉さん、1つだけ大きな違いがあったの。それは、お姉さんは『悪い子』だったの。お姉さんは悪い子だから、悪い事をしたらみんな私のせいにするの……。
だから私……、いつもお父さんとお母さんに叱られて泣いていたの。私はいい子なのに……、いい子なのに……。
……だから落としちゃったの、村外れの用水路に……。お姉さんが……、私にそっくりな悪いお姉さんがどんどん沈んでいくの……。……死んじゃえ、悪い子なんか。悪い子はみんな死んじゃえ……」
「依頼人はこう注文しててね。殺る時は『とっても厳しいやり方』で……ってね」
中身の煮立った寸胴から目を離したくても離せない。
尋ねてはいけない、尋ねてはいけないと思いつつもモット伯は詩織に尋ねてしまった。
「……ノ、ノーザ達……は……」
「煮ちゃった……」
「ひいいいいっ!」
そこから一目散に逃亡しようとしたモット伯だったが、それは不可能だった。
……なぜなら彼の足は足首から先が切り取られていたからだ……。
「え、きひ、ひいいやああああああいいいいい」
半狂乱になって首ももげよとばかりに激しく振り乱して絶叫するモット伯の声が、室内に響き渡る。
「あしいいひいひ、あし、はあはあ、ひ、あっ、ひいはあひ、あひい、あしいい、ああはああ、なひい、はあー、あひいあしあし、はあひいい」
「駄目よ、男の子がそんなに痛がっちゃ……。本当に仕方がないんだから」
最早意味をなさない音の羅列を口から放っているだけのモット伯を冷たく見据える3人の殺し屋。
「ふんいいいいい、ふんいいいいいいっ、あし、ひ、はああ、はあ、はあ……」
「あなた達が悪さをしなければ、連れ去られた女性も幸せな人生を遅れたでしょうに」
「タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ……」
「ほんとに悪い子」
回転ノコギリのスイッチが入る。
「さあ、次はあなたの番よ……ね」
微笑みを浮かべてモット伯を見つめそう言ったのだった。
――そうだ……。
――私は聞いた……。
――暗闇の中で……。
「ねえ、これどうするのよ? こんなに煮込んじゃって。ミス・シオリが始末するの?」
「フフ、まさか。キュルケちゃん、いかがですか?」
「要らないわよ、馬鹿!」
「ルイズちゃんは……?」
「川に流せば……?」
「うフフ、そうね」
――川か……。やはり悪い子は地獄に堕ちるのだな……、
「まったく怖いわね、『死織』は」
――ミス・死織……。
「それじゃ行ってくるわね」
「はい、ルイズちゃん」
「ミス・シオリ、行ってきます」
「はい、シエスタちゃんも行ってらっしゃい。今日もいい子で頑張るのよ。人様に迷惑や悪い事をしたら私はもう許さないんだから」
「はい、ミス・シオリ。私絶対にしませんよ!」
「本当にシエスタちゃんはいい子ね」
「私いい子ですよ!」
「私もいい子は大好きよ。……でも、悪い子は大嫌い。だからシエスタちゃん、いい子でいるのよ」
「はい!」
「うふふ……、うふふふふふ……」
以上投下終了です。
「職業・殺し屋。」から「死織」召喚です。
小ネタと書き忘れていてすいませんでした。
146 :
蒼い使い魔:2009/03/01(日) 06:28:54 ID:yK8/RbCL
コックさん乙であります
さて、予想より早く筆が進んだんで
6時35分に投下しようと思います
今回は、まぁ、話しのつなぎみたいなものなので
あんまし期待しないでくださいまし
アンリエッタは裸に近い格好でベッドへ体を預けていた、身を纏う物は一枚の薄着だけである。
女王になってから使い始めた、亡き父王の居室であった。
巨大な天蓋付きのベッドには父が愛用していたテーブルがある。
すっと手を伸ばし、その先にあるワインの壜を手に取った。
杯に注ぎ、一気に飲み干す。
昔は酒など食事の時に軽く嗜む程度だったのだが……女王になってから量が増えた。
政治の飾りの花に過ぎなかったアンリエッタにとって、国運を左右する決断を毎日のように求められる、
ということはかなりの心労となった。
決議はほとんど決まった状態で彼女の所へ持ち込まれるのだが、それでもその承認を下すのは自分である。
その上、小康状態とはいえ、今は戦時、飾りの王とはいえ、飾りなりの責任はすでに発生していたのであった。
その重圧を彼女はまだ扱いかねており、、もはや飲まずには眠れなくなってしまっていた。
再びワインを杯に注ぐ、飲みすぎかもしれない、ととろんと濁った頭で考える、
アンリエッタは杖を使って小さくルーンを唱える、すると杖先から水が溢れ、杯を満たす
水蒸気を液体に戻す、『水』系統の初歩魔法である。
水が溢れ、杯から零れた。酔いのせいか加減がつけにくくなっているようだ。
再び飲み干したアンリエッタは再びベッドへと倒れこんだ。
酔うと決まって思い出すのは……かつての楽しかった日々、輝いていた日々だった。
ほんのわずかだった、生きていると実感できた日々。
十四歳の夏の、短い時間、一度でいいから聞きたかった言葉。
「どうして……あなたはあの時なにもおっしゃってくださらなかったの?」
顔を隠し、アンリエッタは問う、しかしその答えを返してくれるものはもういない、この世のどこにも……。
涙が彼女の頬を伝う。
感傷に浸り過ぎた、明日の朝も早い、ゲルマニアの大使との折衝が控えている。
一刻も早くこの戦争を終わらせたい両国にとって大事な折衝なのだ。
涙に濡れた顔を見せるわけにもいかない、もう弱いところは誰にも見せてはならないのだ。
涙をぬぐい、もう一度ワインの杯に手を伸ばそうとしたその時……。
扉がノックされた。
こんな夜遅くに何の用事であろうか、また面倒なことが起こったのであろうか、
億劫だが無視することもできない、万一アルビオンが再び艦隊を送り込んできていたらそれこそ事である。
アンリエッタは物憂げな表情でガウンを羽織ると、ベッドの上から誰何した。
「誰ですか? こんな夜中に、ラ・ポルト? それとも枢機卿かしら?」
「ぼくだ」
その言葉を耳にしてアンリエッタの顔から表情が消えた。
「飲み過ぎたわ……こんなはっきり幻聴を聞こえるなんて……いやだわ」
そう呟き、胸に手を置く、しかし激しい動悸は治まらない。
「ぼくだよ、アンリエッタ。この扉を開けておくれ」
アンリエッタは扉へと駆け寄った。
「ウェールズ様? 嘘、貴方は裏切り者の手にかかったはず……」
震える声で、そう口にすると
「それは間違いだ、ぼくはこうして生きている」
「嘘、嘘よ。どうして」
「ぼくは落ちのびたんだ、死んだのはぼくの影武者さ」
「そんな……こうして風のルビーだって……」
アンリエッタは自分の指にはめたウェールズの形見である指輪を確かめる
「敵を欺くにはまずは味方から、というだろう? でも、信じられないのも無理はない
では、ぼくがぼくである証拠を聞かせよう」
アンリエッタは震えながらウェールズの言葉を待った。
「風吹く夜に」
ラグドリアンの湖畔で何度も聞いた合言葉
アンリエッタは返事をすることも忘れ、ドアを開け放つ。
何度も夢見た笑顔がそこにあった。
「ウェールズ様っ……! よくぞ……よくぞご無事で……」
その先は言葉にならない、アンリエッタはウェールズの胸を抱きしめ
そこに顔をよせむせび泣いた。
ウェールズはその頭を優しく撫でる
「相変わらずだね、アンリエッタ。なんて泣き虫なんだ」
「だって……だって! てっきり貴方は死んだものだと! どうしてもっと早くにいらしてくださらなかったの?」
「敗戦のあと、巡洋艦に乗って落ち延びたんだ。敵に居場所を知られてはいけないからずっと隠れてたんだよ。
きみが一人でいる時間を調べるのに時間がかかってしまってね。まさか昼間に謁見待合室に並ぶわけにはいかないだろう?」
いたずらっぽくウェールズは笑った。
「昔と変わらず意地悪な方……。どんなにわたしが悲しんだが……、寂しい想いをしたか、あなたにはわからないでしょうね」
「わかるとも。わかるからこそこうやって迎えにきた、もう寂しい思いはさせないよ、アンリエッタ」
時がたつことも忘れ、二人はしばらく抱き合った。
「遠慮なさらずに、この城にいらしてくださいな。今のアルビオンにはこちらへ攻め込む力はありません。
この城はハルケギニアのどこよりも安全です。敵はウェールズさまに指一本触れることはできませんわ」
「そういうわけにはいかないんだ」
ウェールズはにっこりと笑う
「どうなさるおつもりなの?」
「ぼくはアルビオンへ戻らなくてはならない」
「何を仰るのですか!? 今の命を捨てるだけではないですか!」
「それでも、行かなくちゃならないんだ。アルビオンを、レコン・キスタの手から解放しなくちゃならないんだ」
「ご冗談を!」
「冗談なんかじゃない。そのために今日きみを迎えに来たんだ」
「わたし……を?」
「そうだ。アルビオンを解放するにはきみの力が必要なんだ。
国内には仲間がいるが……、やはり信頼できる人が少ない。いっしょに来てくれるかね?」
「それは……できることならそうしたいのですが、わたくしはもうこの国の女王なのです。
国と民が肩にのっているのです、無理を仰らないでくださいまし」
しかしウェールズはあきらめない、さらに熱心な言葉でアンリエッタを説き伏せにかかる。
「無理は承知さ、でも、勝利にはきみが必要なんだ。敗戦の中で気付いた。
アルビオンとぼくには『聖女』が必要なんだ! 」
アンリエッタは体の底から熱いものがこみあげてくるのを感じた、
愛しい人に必要とされている、酔いとさみしさが内なる衝動を加速させる。
しかし、アンリエッタは必死に踏みとどまり答えた。
「これ以上私を困らせないでくださいまし、今、人をやってお部屋を用意いたしますわ
このことは明日また、ゆっくり……」
ウェールズは首を振る。
「明日じゃ、間に合わない」
それからウェールズはアンリエッタがずっと聞きたがっていた言葉をあっさりと口にした。
「愛している、アンリエッタ、だからぼくと一緒に来てくれ」
アンリエッタの心が、ラグドリアンの湖畔でウェールズと逢引を重ねていたころと同じ鼓動のリズムをはじき出す。
ゆっくりと、ウェールズはアンリエッタに唇を近付けた。
何かを言おうとしたアンリエッタの唇がウェールズのそれに塞がれる。
アンリエッタの脳裏に甘い記憶が洪水のようにあふれ出る
そのためアンリエッタは己にかけられた眠りの魔法に気づくことができなかった。
幸せな気分のまま、アンリエッタは眠りの世界へと落ちていった。
一方そのころ……
トリステイン魔法学院の女子寮の一室で、ルイズ達が見守る中、
モンモランシーが一生懸命に調合にいそしんでいた。
「出来たわ! ふぅっ! しっかし苦労したわー!!」
モンモランシーは額の汗を拭いながら、椅子の背もたれにどかっと体を預ける。
テーブルの上の坩堝には調合したばかりの解除薬が入っている
「このまま飲めば解除されるんだな?」
「ええ」
バージルはその坩堝を手に取ると、シルフィードの鼻先に突きつける
「飲め」
「やだやだ! お薬なんて飲みたくないのね! シルフィはいたって健康なのね!」
シルフィードはぶんぶんと首を横に振る。ここまできてまだ手間を取らせるのか。
バージルがギリと奥歯をならし眉間にしわを寄せる。
「言ったはずだ、これ以上聞きわけがないことを抜かしたら……」
バージルがそこまで言うと、シルフィードは上目遣いでバージルを見つめる。
「きゅい……、じゃあ、おにいさま、約束して? 飲んだらキスして欲しいのね」
「……いいからさっさと飲め」
「約束なのね……きゅい」
そう言うとシルフィードは坩堝を受け取った。
しばらく躊躇しているようにも見えたが、やがて覚悟を決めたようにぐいっと飲みほした。
ぷはー! っと飲みほしたシルフィードは、ひっくと一つ、しゃっくりをした
「ふぇ……」
それから、憑き物が落ちたように、けろっと元の表情に戻る、
目の前のバージルに気がつくと、顔がみるみる赤くなり、唇をかみしめると……
きゅいきゅい喚き立てるわけでも、怒り出すわけでもなく、静かに両手で顔を覆った。
「う〜、恥ずかしいのね〜……おにいさまにあんなことやこんなこと……きゅいきゅい」
元に戻ったにしてはなんともおとなしい反応である、自分がしてしまったことの恥ずかしさにもっと騒ぎ立てるものだと思っていたが……
皆の予想とは裏腹にシルフィードは赤くなった顔を両手で覆いぶつぶつと呟くだけでそんな様子は一切見られなかった。
「でもしちゃったことはしちゃったことなのね、今考えても仕方がないのね!」
シルフィードは持前の前向き思考(?)で顔を上げると何を思ったかバージルに向かい唇を突き出した。
「はい、ちゃんと飲んだの、それじゃ、おにいさま、キスしてほしいのね! 約束っ! きゅいきゅい!」
「……ッ!?」
「「「んなっ!?」」」
その行動に一同が凍りつく、バージルは即座にモンモランシーの胸倉を掴み、怒鳴りつけた。
「どういうことだ! 何も変わらんぞ!」
「そ、そんなはずないわよ! 調合は完璧よ!」
モンモランシーはそう言うと、はっと気が付いたように坩堝を指差した。
「そ、そうだ! きっと飲んだ量が足らないのよ! だから中途半端にしかっ!」
その言葉を聞いたルイズがすぐさま坩堝の中身を確認する、中身は……
「ないわ……全部飲んでるわよ!」
「そんなっ! それじゃどうして!?」
青くなるモンモランシーにシルフィードが首をかしげながらけろりと口を開いた。
「きゅい? だからちゃんと元に戻ったのね、まさか惚れ薬を飲んじゃうなんて!
シルフィ一生の不覚なのね! きゅいきゅい!」
そこまで理解している、ということはやはり解除薬の効果はきちんとあったようだ
「でもぉ、シルフィのおにいさまを想う気持ちは何一つ変わらないのね!
そりゃたくさん節操無いことしちゃったけど! 後悔はあんましないのね!」
あっさりと言ってのけるシルフィードをみて全員が唖然とした表情を浮かべる。
「ということはつまり……」
ルイズの後に続く様にギーシュが呟く
「本当に惚れた?」
「ふざけるな! 今までの苦労は――ッ!?」
怒りに声を荒げるバージルの反論はそこで中断される、
またもやシルフィードが身を乗り出し強引に彼と唇を重ね口を塞いだのだった。
目の前で起こったその光景にその場の空気が凍りつく、全員目を大きく見開き、ぽかんと開いた口がふさがらない、
はたから見れば、それはまるで恋人同士がするような長い情熱的なキスのようだ。
「ん〜〜〜……ぷぁっ」
シルフィードがバージルから唇を離す、絡みあった二人の唾液がつぅっと糸を引く、
口元に垂れたそれをシルフィードが指で絡め取るとペロっと舌で舐めとった。
一体どこで覚えてきたのか、なんとももはや官能的な場面である、美男美女の組み合わせだけに破壊力は半端ではない。
ギーシュとモンモランシーは顔を真っ赤にしながら呆然と立ちすくんでいる。
――バタン、っと誰かが倒れる音、その音に気が付いたキュルケが急いで振り向く、
どさくさに紛れシルフィードと感覚の共有を行っていたのであろうか、
耳まで真っ赤になったタバサが大量の鼻血を流し、目をくるくるとまわしながら気を失っていた。
「タっ、タバサ! 大丈夫!? ちょっと! 返事なさいな!」
キュルケが必死にタバサを介抱する、その横をふらりとルイズが通り過ぎ
おぼつかない足取りで静かに部屋を退出していった。
「ふぅっ、満足したのね、それじゃあ帰るのね、きゅいきゅい! こんなに長く変化したのは初めてなのね!
疲れちゃった、それじゃあおにいさま! また遊びにくるのね〜!」
そういうと軽い足取りでシルフィードが窓から飛び降りる、そしてぼいんっと音を立てると
たちまち竜の姿になり、夜の闇の中へ消えて行った。
どうやら状況は改善されないらしい、彼には珍しくなにもかもあきらめたような表情になると
「もうどうとでもなれ……」
ぐったりと肩を落とし力なく呟いた。
モンモランシーの部屋を飛び出したルイズはアウストリの広場のベンチにぐったりと座っていた。
その空間だけドス黒い負のオーラが満ちている。
「おい」
「なっなによ……なんか用?」
探しに来たバージルが無遠慮に声をかけると、ルイズが不機嫌さがありありと満ちた様子で答えた。
「いつまでそうしているつもりだ」
「なんでもいいでしょ、あんたには関係ないわ」
ぐすっと鼻をすすり膝を抱えて丸くなってしまった。
「なぜヘソを曲げている」
「だって! 女の人と! シルフィードとキスしたじゃない!」
ルイズは今にも泣きそうな表情でバージルに怒鳴りつける
しかし、バージルは心底呆れたような表情を浮かべた。
「それだけでか……? そのことに何故お前がヘソを曲げねばならない、それに、不本意だがあれで二回目だ」
「に、に、二回目ですってぇ!?」
それを聞いたルイズががばっと立ち上がる、そしてバージルの胸板を拳を握りしめ叩き始めた。
「ばかっ! ばかばか! なによ! なんでそんなことするのよっ!」
「何故お前が機嫌を損ねる必要がある、俺が一番迷惑しているんだ」
バージルは思い出すのも忌々しいとばかりに吐き捨てる、
「言っておくがシルフィードは竜だ、人間ではない」
「違うの! そういう問題じゃないもん!」
「……何が問題だというのだ……くだらん」
泣きながら首を横に振るルイズを見てうんざりとした表情を浮かべると
泣きやむまでルイズの癇癪を受け続けていた。
「気が済んだか?」
「……手が痛いわ」
赤くなった手をぷらぷらとさせながらルイズが呟く、
無抵抗だったとはいえバージルを甘く見ていた、殴っている内にだんだんと手が痛くなってきたのだ、
手が痛くなるにつれ、ルイズもだんだんと冷静になってきたようだった。
原因はなにもかもあの忌々しい惚れ薬、そしてシルフィードだ、バージルに非はない、むしろ被害者だ。
あの光景を見たとき、目の前が真っ白になった、その後、自分を心配して(?)探しに来てくれたバージルに当たり散らしてしまった。
シルフィードなんかに取られた気がしてものすごく悔しくなってこんなことをしてしまったのだ。
少しだけ申し訳なく思ったのかちょっと拗ねたようにルイズは謝る。
「その、ごめんなさい、わたしもう怒らない、だって、あんたに非はないものね」
「気がすんだらさっさと部屋のカギをよこせ、ドアが無くなってもいいなら別だがな」
上目遣いに謝るルイズを冷然と見下ろしながらバージルが右手を差し出す、
それを聞いたルイズが顔を真っ赤にして再び怒りを再燃させた。
「なっ、なっ、なによ! 心配して探しに来たんじゃなかったの!?」
「心配? なんの話だ」
軽く首をかしげ本当に何のことだかわからない、と言いたげな表情でバージルが聞き返す
本当はバージルはあの後すぐに部屋に戻ったのだが、生憎鍵がかかっていた、解除できるのはルイズだけだ、
そのためルイズをさがしここまで来ていたのであった。
「ばか! もう知らない! あんた今日は外で寝なさい! んも〜〜!!」
「はいはい、そこまでよ」
ルイズが再び怒りを爆発させバージルに殴りかかった時
いまだぐったりとしたタバサを背負ったキュルケが現れ、ルイズをたしなめる、
支援!
「なによっ! あんたたち見てたの!?」
「まぁね〜、こんなに貴重な場面を何度も見れるなんて、今日はツイてるわね」
んっふっふーとキュルケが笑った、
「特にシルフィードとのキスシーン……あぁ、一度でいい! あぁいう身も心もとけそうな情熱的な――いたっ!」
両手を胸の前で組み、うっとりするキュルケの頭をタバサが杖で叩き中断させる
頭をさすりながらキュルケが意識を取り戻したタバサに唇をとがらせながら聞いた。
「も〜、痛いじゃない、それでタバサ? あの子と感覚を共有してたんでしょ? ね、ね、どうだった?」
その言葉とともにタバサの顔が再び赤くなってゆく、またも鼻血がつぅっと流れ始めた。
「わぁーーー!! キュルケッ! あんたちょっといい加減にしなさいよ!!」
ついに我慢しきれなくなったルイズが杖を抜きキュルケを追いかけ回し始める、
ルイズとキュルケの追いかけっこを少々呆れたような顔で見ていたバージルは、小さくため息をついた。
「はぁ、で、でも、懐かしかったなぁ、あのラグドリアン湖、散々だったけど」
放っておけばまたいつキュルケがキスの話題を蒸し返すか分からない、
その流れをなんとでも阻止するために、無理やりルイズが話題を変える。
「あら? 行ったことあったの?」
「ええ、十三歳のころ、姫様のお供で行ったことがあるわ、
とっても盛大な園遊会が開かれたわ、すっごく華やかで、楽しかったなぁ」
ルイズは記憶の底をたどるように語り始める。
「あのラグドリアン湖はね、ウェールズ皇太子と姫様が出会った場所なのよ、
夜中に姫様に身代わりを頼まれたけど、その時に逢引していたのかもしれないわね」
ルイズがそう言った時にキュルケがようやく思い出した、といった表情で頓狂な声を上げた
「あぁーー!! なんであたし今まで忘れてたのよ!! あれってウェールズ皇太子だったわ!」
「なっ、なによ? 急に、ウェールズ皇太子がどうしたの?」
興味なさげにそっぽを向いていたバージルやタバサも少々驚いたのかキュルケを見た。
「そうそう、どっかで見た顔ねーって思ってたら……いやー、そうだった、あれはアルビオンの色男
ウェールズ皇太子さまじゃないの」
どっかでみた、どころかつい最近の話だ、それを忘れているとはこの女の頭も相当なものである
しかしキュルケはそんなことはつゆにも気にしていないのかうんうんと頷くだけだった。
「『あれはウェールズ皇太子だった』ってどういう意味?」
キュルケはルイズとバージルに説明した
ラグドリアン湖に向かう時にトリステインの方角へ向かう馬に乗った一行にすれ違ったこと、
その時みた顔に見覚えがあったがうまく思い出せなかったこと。
「今思い出したわ〜、あれはウェールズ皇太子よ、でもおかしいわねぇ、あの時たしかにダーリンにトドメを刺されて……」
言い方は悪いがほぼ事実だ、あの時、たしかにバージルに心臓を貫かれ絶命したはずだ。
なのに生きているとはどういうことだろうか?
「なんであんた今までそれに気がつかないのよ!」
「ん〜、ほらあたしって、今を生きてるから? 亡くなった男のことなんて覚えちゃいないのよ」
そう言うとキュルケは自慢の赤い髪を豪快にかきあげる。
それを少々呆れた表情で見ていたルイズ達だったが、頭の中で何かが結びついた。
それはバージルやタバサも同じだったらしい、
「なるほど、アンドバリの指輪、か」
バージルはそう言うとルイズを見る
「レコン・キスタ、件の連中の仕業か、どうするんだ? 奴らの狙いはおそらく女王だ」
非常事態とも呼べる状況にも関わらずバージルはどこか他人事のようにゆっくりとした口調でルイズに聞いた
「どうって! 姫様を助けなきゃ!」
ルイズは当然のように声を張り上げる、バージルがやれやれと言った風に首を横に振った。
「今からどうするつもりだ? 馬では間に合わん」
「それはっ……」
ルイズが言葉に詰まる、そしてゆっくりとタバサをみた、この状況、アイツを呼ぶしかない……
「ぅ〜〜……タバサ……お願いしていい?」
「……わかった」
タバサがコクリと頷くとピィっと口笛を吹く、するとすぐさまシルフィードがバージル達の前へ降り立った。
出来ればしばらくの間、見たくない顔だったが……場合が場合だけに仕方がない。
シルフィードはバージルの姿を確認するや否や、すぐさま『変化』を使い、人間の姿になると彼に抱きついた
「もうっ、おにいさま? シルフィに会いたいならおねえさまがいない時にお願いなのね! ――んぎゃ!」
シルフィードの頭にタバサの杖が勢いよく叩きつけられる
だんだん威力が増して行っているのは気のせいではないだろう、
大きなコブを作りしゃがみ込んだシルフィードにタバサが命令を下す、
竜の姿になったシルフィードに乗り込み、一行はトリスタニアへと急行した。
今回の投下はここまでです
37話が長すぎたんでその反動で内容が薄い上に短くなっちまいました、
さて、どうしよう、対ウェールズ&アン様戦
兄貴の性格上、問答無用で殺しに行きそうだから……
どうやってルイズにディスペルを使わせられるように持っていくか
では次の投下に……お会いしませう
朝の投下乙でした!
タバサ、ウブだな〜
鼻血を出すほど強烈な感覚だったのかw
それにしてもシルフィがバージルに惚れちゃうなんて…
主従の絆は男で壊れるのか?w
タバサの巻き返しに期待!
>兄貴の性格上、問答無用で殺しに行きそうだから……
ですよね〜
原作のアン様のあのセリフとか聞いたら問答無用でバッサリいきそうだw
次回も楽しみにしております
職コロの人乙です。
ルイズ=蜘蛛
キュルケ=マンティス
シエスタ=モンド君ですか…
なんか…
タバサ=多重人格の人
ギーシュ=死条
コッパゲール=AA
ワルド=数学の先生
アニエス=赤松
てな電波を受信した。ヤベェwktkが止まらないw
兄貴の人乙です。
なんという泥沼wそしてアン様の運命やいかに…なんかウェールズごと惨殺されそうww
パンクラティオンと聞いて直ぐに暗黒拳闘伝セスタスのルスカを思い出したぜ
ところで鷲の人マダー?
別に殺してもいんじゃね?
生きてても周囲の人が迷惑するだけだし
蒼い使い魔の人乙です。
VSアンリエッタ・再生ウェールズ戦は本当難しそうですね。
バージルならアンリエッタの例のセリフの後、いや言い終わる前に二人まとめて
ぶった斬りそうだし。
職コロの人乙です。
ルイズが『魔法も使えないゼロなのに、メイジを名乗る私って卑しいぃぃぃ』
とか言って、失敗魔法で挽肉を量産してそうで嫌だなぁ。
職コロ&蒼い使い魔の人乙です!!
うわぁ‥‥ある意味一番怖い人呼んじゃったよw
サイトはさしずめモンドだろうか?
アンリエッタに関しては‥‥まー兄貴が丸くなってる事を祈るか、
周囲のストッピング能力に期待するしかないだろうなー。
シルフィの件でストレス溜まってるだろうしな
真っ二つにされるどころかミンチより酷いことになりそう
古式のフェンシングには教本があったり
そこそこ体系化された騎士の訓練風景の資料が残ってたりするんで
西洋でも武道と言えるかどうかは兎も角、戦闘術の流れがあった事は間違いない
スイスには伝統的な素手格闘術もあるしな
165 :
虚無の闇:2009/03/01(日) 11:24:52 ID:ggQEb1wX
お久しぶりです。進路問題なしならば、35分から投下させてください
166 :
虚無の闇:2009/03/01(日) 11:36:14 ID:ggQEb1wX
エルザは恐怖していた。
心臓が今にも破裂しそうなほど高鳴り、極めて早いビートを刻み続けている。
本当にばれていないのだろうか? 実はマスターが、私を嘲るために遊んでいるのではないだろうか。
背後でコルベールの感極まった声が聞こえ、更に恐怖が煽られる。
現在エルザは、オスマンと胸を押し付けあう形で抱えられていた。
ルイズやタバサ、コルベールらには背を向けている。顔を見せる事はないが、見えないからこそ余計に想像してしまうのだ。
何度も酸っぱい物を飲み下す。あの短時間ではこの老人をグールに作り変える事が出来ず、エルザはオスマンの首筋に牙を埋め、ボロが出ないように必死に操作していた。
もし今エルザが牙を抜けば、作りかけのグールはたちまち死体に戻る。首に開いた二つの穴は、絶対的な証拠として残ってしまう。
「やはり、ヴィンダールヴのルーン! 間違いないですな!」
「確かに……。じゃが、ミスタ・コルベール。そんなに興奮しなさんな」
すぐ後ろで声が聞こえ、エルザは掌に爪が食い込むほど強く握った。おそらく、あの剥げたメイジがにじり寄ってきたのだろう。
あまりの恐怖で顎が震え、生命線である牙が抜けそうになる。エルザは頬を涙が伝うのを自覚しながら、意識を繋ぎ止めるべく碇のように深く牙を打ち込んだ。
あのメイジは怖くない。彼も非常に優秀なメイジではあるようだが、しょせんはただの人間。杖を奪えば狼にさえてこずるような、実に馴染み深い種族だ。
しかしマスターは違う。アレは人の形をした何かであって、吸血鬼など比べ物にならない化け物。悪魔。エルフでさえ笑いながら嬲り殺すような。あまりにも実力が違いすぎる。
おそらくその気になれば、一流のメイジだろうが伝説の傭兵だろうが、それどころか小規模の軍隊さえ苦もなく蹂躙するだろう。
その力を身をもって理解しているエルザは震えた。ルイズの暴力が自身にも向けられる事を、この世の何よりも恐怖している。
「これが興奮せずに居られますか! 6000年ぶりに虚無が復活するのですぞ!」
額まで赤くしたコルベールにオスマンの声も効果はなく、エルザは更に近寄ってきた声の発生源に追い詰められる。彼ははエルザの顔まで2メイルもない場所にいた。
もう少し、おそらくあと3歩も近づかれれば気づかれる。強烈な嘔吐感に襲われ、エルザは飲み込んだばかりの血を逆流させまいと必死だった。
「伝説の復活は喜ばしい。しかし虚無に目覚めたとはいえ、ミス・ヴァリエールはまだ学生……。
我ら大人の都合で人生を振り回されるような事態は、何としても避けねばならぬ。
お主なら分かってくれるだろう? ミスタ・コルベール」
対応はこれで合っているのだろうか。気づかれたらどうしよう。怖い怖い怖い。
私はまだ死にたくないし、死ぬより酷い目に会うのはもう沢山だ。
エルザは再び湧き上がってきた胃酸を無理やりに飲み下し、出来る限り早期にこの地獄を終わらせようと歩を進める。
167 :
虚無の闇:2009/03/01(日) 11:37:18 ID:ggQEb1wX
「ミス・ヴァリエール、及びミス・タバサ。……君らには、フェニアのライブラリーに立ち入る許可を出そう。
虚無は伝説でな、空にある雲を掴もうとするような話でしかない。普通のメイジであるワシやミスタ・コルベールだけでは、とても辿り着けんじゃろう。
また、ミス・ヴァリエールについては、学期末のテストさえクリアできるのなら、無理に授業に出る必要は無い。
出来るなら、出て貰いたいが……。この学校のカリキュラムでは、虚無など扱っておらんからのぉ」
先ほど伝えられたばかりの指令を、出来るだけ違和感の無いように喋らせた。もしあの剥げたメイジが異論を唱えたらどうしようかと、魂を削るような焦燥がエルザを苛む。
茹った頭ではまともな言い訳が思い浮かばない。もし問題点を指摘されれば、まず間違いなくボロが出る。頭の中では最悪の状況が回っていた。
「酷な事かもしれん。しかし、強くなってもらわねば、な……。
代わりと言っては何じゃが、ワシらは手助けを惜しまんよ。この老いぼれに出来ることなら、なんでもしよう。
そうさな、手始めに……ミスタ・コルベール。君は引き続き、虚無に関する資料の捜索を頼む。
それから図書室の管理人に、ワシから生徒二人にフェニアのライブラリーへの立ち入り許可が出たと伝えておいてくれ。書類は後からミス・ロングビルに頼むのでな」
何か言われる前に流してしまおうと思い、オスマンの心を穿り返して適当な理由をつけた。相変わらず鼓動がうるさい。
この部屋の中だけでも、自分を殺せるだけの実力を持った人間が犇いている。マスターは守ってくれるだろうが、それも自身に危険の及ばない所までだ。
もし失敗を犯せば、また全身の骨を砕かれるだろう。あの時のように目玉を舐め上げられながら、内臓に食い込む鋼のような指の感触を味あわされるかもしれない。そして死ぬ事も許されない。
エルザは恐ろしかった。ただ、ただ恐ろしかった。
「わかりましたぞ! オールド・オスマン!
ではさっそく、一足先に探索を進めますので……失礼」
使命感に燃えたコルベールはこぶしを力強く握り締めると、足早に部屋を出て行いった。やや乱暴に閉じられた扉が大きい音を立て、サイレントが解けているために遠ざかっていく音も聞こえる。
5秒、10秒と時が流れても、学院長室に近づいてくる気配はない。ようやく重圧から開放されたエルザは、ずるずると崩れ落ちる寸前まで脱力した。
エルザは長い長いため息を吐く。頬を暖かいものが伝い、安堵のあまり泣いていた事を遅れて知覚する。ついに終わったのだ。
後はオスマンの死体さえグールに変えてしまえば、エルザの仕事はほとんど残っていない。マスターから支給されるだろうメイドの血でも吸いながら、左団扇で使用人の真似事でもしていればいい。
期待してはダメだと分かっていても、例のご褒美が頭をちらついた。十分に潤っているはずの喉が再び乾くのを感じる。エルザは口中に溜まった唾を飲み込み、グールの製作を再開する。
エルザはルイズの元から逃げようとは考えていない。逃げられないだろうと本能的に理解しているし、そして逃げた所で利益があまり無いからだ。
メリットは皆無ではないがデメリットのほうが遥かに大きい。朝も夜も追跡者の影に震え、絶対的な死の恐怖に怯えながら過ごすなど、とても出来ない相談である。
エルザが腰を落ち着けて人形の製作に励んでいると、部屋の隅にある本棚に目を走らせているルイズの姿が映った。
「むぅ……。もしかしたら、と思ったのだけど……。
何よ、このメイドの午後とかバタフライ伯爵夫人の優雅な一日とかは……。真面目に仕事してるのかしら……」
「厳しいことを言うのう……。面倒な業務の合間に、ちょっとした潤いがあってもいいじゃろ?」
ルイズの質問には嘘偽り無く答えるように、と命令済みだったため、オスマンの形をしたグールはそう嘯く。
その台詞は実にオスマン臭い。まだ生きているのではないかとルイズは怪訝な顔をしたが、しっかりとエルザの牙が突き刺さっている事を確認し、片眉を挙げて見せた。
これは長い年月を人間を欺きながら過ごしてきたエルザだからこそ出来た事だ。人間に怯えて生きているだけの吸血鬼と比べ、グールの操作や製造には一日の長があった。下手な者は殺されるのだから。
168 :
虚無の闇:2009/03/01(日) 11:38:49 ID:ggQEb1wX
「……聞くけど、この世界の物ではない書物、あるいはその情報は無い?」
ルイズは軽蔑の色を隠しもせずに言った。それ以上の言葉を重ねようとして、無意味である事を思い出したのか口を閉ざす。
エルザはルイズに逆らえないし、グールは吸血鬼に逆らえない。どのような脅しをかけたとしても時間の無駄であり、敵地と言える場所でする事ではない。
「それなら、両方ともあるのう。確実ではないが、十中八九はそうじゃろう」
グールについては多分の自負があったエルザだが、ルイズから発される「獲物を前にした超高位の幻獣」のようなオーラを感じて少なからず後悔した。
緩やかな歩調でエルザへと向かうルイズの目は怪しい光を帯びており、今にも舌なめずりをしそうなほど釣り上がった唇からは熱い吐息が漏れている。もし無関係な事だった場合、とばっちりが飛んでこないとも限らない。
今更だが、エルザはルイズが猛烈に怖いのだ。
例えば手を握るにしても、ルイズが激情にでも駆られて力の加減を間違えれば、貧弱な吸血鬼の肉体などひとたまりも無い。砕けた骨や肉が混ざり合い、ただ肩から生えているだけの棒になるだろう。
人間とドラゴンが同じベッドで眠ろうとすれば無理が出る。朝起きたら自分の体がパイのように潰れていた、などと。
エルザが望むのは上司と部下の関係だった。エルザはオスマンと言う極めて重要なカードを握っているのだから、切り捨てられる事はまずありえないだろうし、後は気楽に過ごしていたい。
お気楽ライフの一つとして、日向ぼっこ、という行為には非常に興味がある。今まで太陽の光と言えば熱湯と同義だったから、一度ゆっくり味わってみたかった。
「三十年前、森を散策していた私は、ワイバーンに襲われた。そこを救ってくれたのが、今は宝物庫にある、破壊の魔法書の持ち主じゃった。
青い法衣を着込んだ青年で、恐らくはどこかの貴族だったのだろう。手には背丈ほどのスタッフを持っておった。
彼が杖を振りかざし、イオラという聞いたことも無い呪文を唱えると、すさまじい爆発が発生してワイバーンどもを吹き飛ばした。
繁殖期で凶暴化し、目玉を血走らせていた群れが、たった一発で尻尾を巻いて逃げるほどの爆発だった。今も昨日のように覚えておる。
だが……彼もそれで力尽きたのか、ばったりと倒れおった。酷い怪我をしていたのじゃ。
私は彼を学院に運び込み、手厚く看護した。しかし、治療の甲斐なく……」
「……それで? 何か聞き出せたの?」
「残念ながら、彼については何も。
しかし最後を迎える寸前、懐に抱えていた巻物を私に託し……。必要とする人が居れば、渡してやって欲しい、と言い残して息絶えた。
彼の使っていた杖を共に墓へと埋めた後、遺言を守ろうと書を開いたのだが……。ハルキゲニアで使われておる文字ではなく、恥ずかしながら一文字も読めんかった。
魔法書に見えたが、もしかしたら料理の本だったのかもしれん。何に使うのか、さっぱり分からん。あちこちを巡って解読に努めたが、20年以上探し続けても手がかり一つ見つからなんだ。
最終手段だと思ってアカデミーに持ち込むことも考えたが、もし始祖ブリミルを僅かでも否定してしまうような内容があった場合、焚書にされてしまうかもしれん。
万策尽きた私は厳重に固定化をかけ、破壊の魔法書と名づけて宝物庫にしまいこんだんじゃ。恩人の形見としてな……」
オスマンは一度言葉を切り、むしろ自分に言い聞かせるように続ける。
「もしかしたら、彼は……。この世界の住人では、無かったのかもしれん。
ベッドの上で、死ぬまでうわごとのように繰り返しておった……。ここはどこだ。元の世界に帰りたい、と」
「……なるほど。素晴らしい、実に、素晴らしいわね!」
ルイズから発される狂気と狂喜のオーラは、薄っすらと闇を纏うほどに強くなっていた。学院長室は血に飢えた野獣の檻と化し、肌を焼くような威圧感が撒き散らされている。
ひのきの棒と鍋の蓋を武器にオーク鬼の巣窟に投げ込まれたらこんな気分だろうとエルザは思った。あの青い髪の少女もルイズの豹変についていけず、呆気にとられたような表情のままソファーの上で固まっていた。
ドラゴンの口へ飛び込むような重圧を感じるも、命令に逆らう事は出来ない。エルザは出来る限りルイズのほうを見ないようにしながら、完成したグールから牙を抜いた。
シ・エーン!
ルイズとエルザのエログロい甘美な日々を描いた番外編を期待しています。避難所確定だろうけど。
170 :
虚無の闇:2009/03/01(日) 11:40:27 ID:ggQEb1wX
「あの、マスター……。グールが、完成、しました……ひっ」
血走ったルイズの目がエルザを射抜き、恐怖のあまり小さく悲鳴を漏らす。
「よろしい! ……では、グールを連れて宝物庫へ行きましょうか。
タバサ、喜んでいいわよ。あなたの母親を治す術を、まず間違いなく見つけたからね」
ルイズは獰猛に笑いながら、大きく手を打ち鳴らした。
手を前に突き出して合図をし、軍隊の指揮者のように堂々と扉を開け放つ。
状況に翻弄されて忘我していたタバサも、彼女の人生と命題一つである母を救う手段と聞いて杖を握りなおした。エルザには目もくれず、足早にルイズの後を追いかけていく。
先ほどまではエルザでも聞き漏らすような小さな声でオスマンへ謝罪を続けていたのに、今となっては完全に視野の外へを追いやられたらしい。エルザは恐怖を誤魔化す為、内心でタバサを攻めた。
ルイズは分厚い宝物庫の扉に手を当てた。少し前なら絶対防御だと思えたそれも、今のルイズにとってはさしたる障害にはならない。
もしこの扉がオリハルコンならば話は違うが、ただ錬金だけで作られた金属など脆過ぎる。その気になれば素手で破壊する事も可能だろうし、魔法を使えばもっと手早く事は済むだろう。
スクェア数人がかりで作った扉が、たかが落ちこぼれの生徒一人に篭絡させられる瞬間を想像すると、楽しくて楽しくて仕方が無かった。ギリギリと音がするほど握りこんだ拳を、心行くまで叩きつけたくなる。
「どうぞ、ミス・ヴァリエール」
しかし最早、それすらルイズには必要ないのだ。グールは自分の腕ほどもある大きな鍵を鍵穴へと差込み、従者のように鉄壁を開け放ってくれる。ルイズはただ見ているだけでいい。
「ありがとう、オールド・オスマン?」
多分の皮肉に唇を歪ませて扉をくぐると、ルイズは雑多な物が押し込められている宝物庫の中を睥睨した。
強化された視力や免疫を持つルイズには無関係だが、中は空気がこもっている上に薄暗く、洞窟のような湿り気を感じた。空気の動きによって薄く埃が舞い、どちらかといえば物置のような有様だ。
見ただけで宝と分かるような金銀財宝の姿は無く、どちらかと言えば処理に困ったアイテムたちの墓場に見える。何に使うのか分からないガラクタのような物も転がっており、あのコルベールの部屋と似たような雰囲気があった。
ここまで換気が悪いのも問題だと思ったが、固定化の魔法さえかけてしまえば多少の湿気など問題にならない。換気口から小型の使い魔に侵入される危険を考えれば、管理者に苦労させる方が良いのだろう。
「で、その破壊の魔法書ってのは?」
「んむ、たしか、この箱の中に……。これじゃな」
無数の杖がぶら下げられている一角の前を通り、オスマンは宝物庫の奥深くに置かれていた小さな金庫へと手を伸ばした。
埃を被ってはいるが金庫自体は重厚な作りで、かけられている固定化やロックもかなり強力な物だ。人間が抱えられる重さでもなく、宝物庫の中にあってなお厳重な警備である。
もしかしたら、オスマンが直々に作ったものかもしれない。この国でも有数メイジである彼の作品となれば、そこらのメイジでは数人がかりでも手に負えないだろう。
グールと化した事によって自意識の大半を改竄されているとはいえ、今でも魔法の才能は衰えてないようだった。タバサでも手こずるようなアンロックの呪文を容易く唱え、神妙な手つきで中の巻物を取り出している。
「これがそうじゃよ」
差し出されたそれを見て、ルイズの心臓は一際力強く脈打った。興奮が体中を駆け巡り、血管を突き破らんばかりに鳴動する。
アンロックを待てず、金庫を叩き壊したい衝動を必死に抑えていたルイズからすれば限界だった。オスマンの手から巻物を引ったくり、慎重に、しかし引き裂かんばかりに目を通す。
171 :
虚無の闇:2009/03/01(日) 11:43:56 ID:ggQEb1wX
「まさか、こんなに早く手に入るとはね!」
ルイズはそれを見たことがあった。かつて人間どもが悟りの書と呼んでいた、悟りを開き賢者になるためのアイテム。ルイズが最も欲しかった物だ。
魔法使いは攻撃呪文に優れるが、その反面回復や補助といったヒーラーとしてのスキルは劣る。僧侶はその真逆で、攻撃呪文はほとんど使えない。
しかし、その二つを兼ねるのが、賢者。
心臓の鼓動が五月蝿い。項を読み進める目があまりにも遅く、無限とも思える焦燥が駆り立てる。まるで天国のように愉悦を感じるのに、貪欲な心を駆り立てる炎は地獄のよう。
氾濫する活字が濁流となって脳裏を埋め尽くし、契約の魔法陣が灰色の脳細胞へと焼きついていく。自分の意思で読んでいるのか、それとも誰かに読まされているのかとさえ思えるほどの情報の渦だった。
ずっと昔から魔法が欲しかった。立派なメイジになりたかった。普通のメイジでもいいから、ドットでもいいから、メイジと呼ばれる存在になりたかった。でもなれなかった。
笑われた。哂われた。嗤われた。家族も周囲の人もみなメイジで貴族だったのに、自分はそうではなかった。平民以下の存在だと、誰からも後ろ指を指された。
神に見捨てられ、ついに神を見捨て、人道を踏み外した今、求めていた物に手が届いた。魔法とは素晴らしい。力とは素晴らしい、素晴らしかった。
身を焼くような愉悦に理性をゆだね、ルイズはただ貪欲に吸収する。
時間は戻らない。殺してしまった人は生き返らない。だから沈んでいくしかない。
人を止めた事は間違いではなかったのだと、自分は正しいのだと、だから悲観することは何も無いのだと。この胸の痛みなど無視してかまわないのだと。
私を貶めるその他大勢からすれば、元来自分は人間ではなかったのだ。始祖から賜った技を使えぬ貴族など貴族に非ず。人に非ず。ならば力を得た今の私こそ人間のはず。貴族のはず。
「エルザ……、いい子ね。ご褒美をあげるわ……。後で、私の血を飲ませてあげる」
悟りの書を丁寧に巻きなおし、当然のように懐へ入れた。
人間から離れていく感覚に人肌が恋しくなり、小さなエルザの体を抱き上げる。その肌は柔らかくて、暖かくて、心地よい。
エルザが自分を怖れている事は知っている。必死に隠していようとも、触れる度に恐怖が大きくなるのを感じ取れるからだ。
それがまた面白いのだが、今は幸せな幻でも見ているかのように恍惚とした表情を浮かべていた。どうやら人外に成り下がったこの体に流れる血潮は、彼女にとって麻薬にも等しいようだ。
首筋にか細いくも熱い吐息を感じ、ルイズは苦笑しながらエルザをたしなめた。グールでさえ傷跡を治したのに、自室までエルザに噛み付かれたまま帰る訳にはいかない。エルザの蕩けた返答を聞いてくすりと笑う。
「タバサ。私はこれから、この書にある魔法を習得にかかるわ。
あなたの母を治す呪文もあったけれど、中途半端な物では逆に心を壊す可能性もある。治療には万全の体制で挑まないとね。
だから、タバサは資料を探しながらコルベールの監視をお願い。気付いていないとは思うけれど、万が一はありえる」
ルイズは振り返って、先ほどから真剣な表情をしていたタバサへと命令を飛ばした。
一瞬だけ母に縋る少女の顔を見せたタバサだったが、すぐにいつもの人形へと戻って大きく頷く。瞳には蠢く狂気と苛烈すぎる決意が滲み出ていて、それがルイズには心地よい。
彼女の内臓を引きずり出して殺し、邪法によってアンデットモンスターにして自分専属のメイドにしたい。それとも人形の名を持つ少女だから、首から下を無機質なゴーレムに変えるほうが良いだろうか?
おぞましい考えだと自分でも思うけれど、止められない。人であったころの感覚がどんどんと失われていくのが分かるのに、戻りたいと強く願えない。
そもそも普通の人間としての感覚とはなんだろう。サラビエ村でエルザを解体してからは、闇へ向かう傾向は更に加速していた。
機会を見て王都にでも行き、スラム街で人間を何人か惨殺してこなければならないだろう。このままでは、いつエルザの首を引き千切るか分からないから。
「わかった。……待っていて、お母様……」
タバサは本当に小さな声で母を呼び、弱さを振り払うように鋭く踵を返す。
彼女の白い手も血で汚れているのだろう。果たして何人、何匹を任務の元に殺したのかは知らないが、少なくとも両手の指に落ちる事は無い筈だ。
172 :
虚無の闇:2009/03/01(日) 11:45:25 ID:ggQEb1wX
タバサの姿が扉の向こうへと消えても、ルイズはしばらく視線を動かさなかった。タバサの秘めた絶望と怒りに馳せていたら、本当にタバサを壊したくなってしまったのだ。
生きるために罪に染まったタバサの心臓は宝石のように美しいのだろうと考え、一度でいいから見てみたいなと思う。
まだタバサは必要なのに、それゆえに破壊してみたい。悲鳴を聞いてみたい。苦痛でのたうつ様を見てみたい。
「ますたぁ…・・・怖いです……」
耳元で囁かれる、怯えを色濃く見せるエルザの声。それを聞いただけで体が微熱を帯びる。胸の奥が切なくなって、ああ、とルイズは吐息を漏らす。
入念に回復呪文を使用し続ければ、胸を開いても多少の時間なら大丈夫かもしれない。スラムの平民を何人か犠牲にして試し、問題が無いようなら今度やらせてもらおうと思った。
サファイアのような自分の血液も嫌いではないが、やはり血はルビーの色が良い。流れ落ちる鮮血は零れ出す命のようで美しく、魅惑的だ。
復讐者たる少女の後姿を想像しながら、ルイズはタバサに呪文を教えるのはもっと後にしようと決めた。
今はまだ檻が完成していない。タバサにとって母の治療は極めて重要な意味を持っているが、治してしまえば彼女を縛る鎖が無くなってしまう。
もっと罪を重ねさせ、闇に貶め、日の光を忌むようになってから、壊された親と壊れた子供の感動の再開といこう。
彼女が絶対に私の元を去らないように、去れないように、白い肌に何重にも枷と鎖を巻きつけてから。
壁に掛かっていた豪華な鏡を覗き込んだルイズは、かつて光り輝いていたはずの鳶色の瞳が濁り切っている事を自覚した。
--------
今回は以上になります
支援ありがとうございました
ゾーマの人乙です。
闇ルイズ可愛いよ闇ルイズ
あんたって人は何で俺のツボを知ってるんだGJ!
ルイズの前で常に戦々恐々なエルザもかわいい。ちょっと(かなり)不憫だが
そろそろ強敵の登場を望むのは俺だけなんだろうなぁ……
強敵との戦いを愉しむルイズも想像すると楽しみだが大魔王が戦うのは最後・・・か?
朝から投下ラッシュきてるなー。皆様乙です。
えっと、SSの続きを投下したいのですが、
微量ながら16巻の内容含む場合って、
ネタバレ回避の為に避難所行った方がいいでしょうか?
時期的にまだ早いような気がしますし。
それ以前に名を名乗れ
っと、申し訳ないです。
あんまり議論が長くなるのも迷惑なので避難所行ってきます。
赤胴! 鈴之助だ!
お前達に名乗る名前はない!
通りすがりの仮面ライダーだ
>>182 ほう・・・いい性能だな
貴様の作戦番号とIDは!?
外伝の続きなのか、それとも本編の続きなのか…
避難所に行かないと。
wikiの避難所のリンク、ウィルスが入ってるぜ
乙です。
見てきました。
外伝だけど、どんどん続きが読みたくなる。
最終的に本編と外伝がクロスするのかしないのか…
その辺りも気になる。
とにかく楽しみだ!
こんにちは、ウルトラマンの歌をローテーションさせて聴きながら、執筆にいそしんでいます。
昭和ではエース、レオ、平成ではガイア、コスモスのテーマが特に気に入っています。
さて、それでは第37話の投下を開始しようと思います。よろしければ15:05でお願いします。
ウルトラ支援
イザベラ様が漢前だったw
乙です
第37話
シルフィを返して!! (後編) ヒマラワールドをぶっ潰せ!!
宇宙超人 スチール星人
怪宇宙人 ヒマラ 登場!
「へ……変身、できない」
才人は焦っていた。ルイズと分断され、訳も分からない異次元空間に一人っきり、しかも目の前には巨大化した
宇宙人、これは非常にやばい。
懐には秘蔵しているガッツブラスターがあるが、巨大化した星人相手にどこまで役に立つか、もちろんデルフは
論外だ。
「おいいっ!! そういうことはせめて抜いてから言ってくれよ!!」
何やらやかましい声が聞こえるような気がするが、今はそれどころではない。
だが、才人を見下ろすヒマラは余裕たっぷりな様子でこう言った。
「ふふふ、まあそんなに緊張しなくてもいいだろう。言っただろう、私は野蛮なことは嫌いでね。君には私が
引き上げるときまでここにいてもらう。なあに、ここには君の仲間達もいるから、寂しくはないだろう。では、
はっはっはっはっ」
笑い声とともにヒマラの姿は消えていった。
残された才人はがっくりと芝生の上に腰を降ろす。
「なんてこった……」
まんまとヒマラの思う壺にはめられてしまった。ルイズがいっしょにいなければウルトラマンAになることは
できない。あのときヒマラはルイズを狙ったんだろうが、才人が飛ばされても結局は同じことだ。
だが、正々堂々と戦ってやられるならまだしも、あんなアホ共のいいようにされるのは我慢ならない。とにかく、
今は現状を把握しなければ。ヒマラの言った通りならば、ここには消された街にいた人々や行方不明になった
使い魔達もいるはずだ、何はともあれ情報収集は戦術の基本だと、才人は自分を励ましながら学院の中へと
入っていった。
一方そのころ、元の世界に残されたルイズ達4人は突然才人が消されて大パニックに陥っていたが、そこへ
再びヒマラが現れて、一行を見下ろして悠然と話しかけてきた。
「やあ諸君、ごきげんよう」
「ああっ、あんた、サイトを、サイトをどこにやったのよ!!」
いきり立ってヒマラに杖を向けるルイズだったが、こいつを倒しても才人が戻ってくるわけではない。今は
ともかく少しでも情報を引き出さなければと、キュルケとタバサが必死に止める。ヒマラも、それが分かっている
のだろう、まったく恐れる様子もなく平然と目の前に浮いている。
「あははは、そんなに心配しなくても、私は野蛮なことは好まないよ。怪盗ではあっても強盗ではないからね。
彼も他の者達もかすり傷ひとつ無いよ」
「ふざけてないで、さっさとみんなを返しなさいよ!!」
「うーん、それはできないね。集めたものは私達の大事なコレクションになるのだから、まあ余計なものは
後で返還してあげてもいいけど、今はだめだね」
チッチッと指を振りながらヒマラは首を振った。
だが、大切な使い魔達をさらわれたルイズ達がそれで納得するはずもない。遂にキレていっせいに杖を
ヒマラに向けた。
「いいのかな、私を倒してしまっては彼らを元に戻せなくなるよ?」
「くっ!!」
ギリギリのところで彼女達は踏みとどまった。悔しいが、杖を下ろすしかない。
だが、タバサは杖を向けたままでヒマラに質問をぶつけた。
「シルフィードをさらっていった奴は、どうしたの?」
そのときのタバサの声は、小柄な彼女の喉から出たとは思えないほど重く、キュルケでさえ一瞬びくりと
してしまったほどドスが効いていた。
「ん? スチール星人かね、さあ今頃はまたどこかで新しいものを探しに行っているんじゃないかな。彼は
足が速いからもうどこに行ってしまったのやら」
どうやらヒマラとスチール星人はそれぞれ勝手に欲しいものを探し回っているらしい。そして気が向いたら
集まってコレクションを自慢しあう、本人達は楽しんでいるだけなのだろうが、こっちからしてみれば本当に
迷惑としか言いようがない。
「では、そろそろ失敬するよ。私達にはまだまだ欲しいものがあるのでね。アッハハハ」
「まっ、待て、待ちなさい!!」
高らかな笑い声を残して、ヒマラは夕闇の中に消えていった。
「サイト……」
どうしようもなく、肩を落として4人は何もなくなってしまった草原の中に立ち尽くした。
「シルフィード……」
「元気を出して、みんなまだ殺されたわけじゃないんだから、助け出す術は必ずあるわよ」
キュルケがなんとか励まそうとして大きな声を出すが、彼女もまた空元気だということは声色から察することができた。
これからどうすればいいのか、まったく見等もつかない。
けれど、皆が希望を失いかけたそのとき、ちょうどヒマラが浮いていたところの真下で、何かがそろそろ
顔を見せてきた月明かりに反射してキラリと光り、ルイズは草むらに隠れたそれを手にとって拾い上げてみた。
「……? 宝石入れ?」
それは細やかな装飾が施されたアンティーク趣味の小さな木の小箱であった。それだけならどこにでも
あるようなありふれた品物に見えるが、何気なく箱のふたを開けてみてルイズは驚いた。
「え? 何これ、学院が見える……あ、あれはサイト!?」
なんと、箱の中にはヒマラワールドの風景が上空から映したテレビ画面のように映し出されていたのだ。
それを聞いたキュルケやタバサも我勝ちに小箱の中を覗き込んで、フレイムやシルフィードの姿を捜し求める。
まあロビンは小さすぎて無理だが、それでも学院が無事な姿を見れてうれしいことに変わりは無い。
「よかった……みんな無事みたいね。けど、この箱の中にみんなが閉じ込められてるのかしら?」
「よーし、そうと分かれば、さっそくぶっ壊して」
ルイズは短絡的に考えて小箱に杖を向けるが、タバサが箱のふたに紙切れがはさまれているのを
見つけて、それを取り上げると書いてあったことを読みあげた。
「……君達が無茶なことを考えないように、お友達の姿を映し出す道具を残しておいてあげよう。
多分、こんなこともあろうかと用意しておいたのだが役に立ってよかった。なお、その箱はただ風景を
映し出すだけで、本物は私が大事に保管してあるから箱を壊したりしても無駄だよ。ヒマラ」
……けっこう親切な奴なのかもしれない。もしくは、コレクションをとにかく見せびらかしたかったのか。
けれど、こういう状況ではとにかくムカつくだけだ。
「くーっ!! 馬鹿にしてくれちゃってえ!!」
思わず地団太を踏むルイズだが、かといってせっかく才人の様子を見れるアイテムなので捨てるわけにも
いかない。なんとか怒りを押し殺しながら、皆で箱の中を覗き込んだ。
「サイト……無事なのね。もう、心配かけるんじゃないわよ、馬鹿」
「あっ、フレイム……やっぱりそこにいたのね」
心配していた者の元気な姿を見つけて、ルイズとキュルケはほっと胸をなでおろした。
「この様子なら、他の使い魔や生徒達も無事ね。こうなったら絶対にあのこそ泥達を捕まえてみんなを元に
戻させましょう!!」
「ええ!!」
希望は見えた。こうなれば何が何でも奪われたものを取り返してやると、ルイズとキュルケは普段の
いざこざも忘れて手を取り合った。
だが……
「んで、どこにいるんでしょうね。そいつら」
「わからない……」
水と風の使い手の冷たい言葉が、氷雪となって炎のような情熱に降りかかった。
けれども、ヒマラワールドに閉じ込められていた才人達も手をこまねいていたわけではなかった。
「とにかく、みんな無事でよかった」
学院にはギーシュ達や使い魔ら、ヒマラとスチール星人に盗まれてきたものたちがごっそりあって、
とりあえず才人は安心した。
消されたトリスタニアの街もざっと見たが、住民達は皆無事で、それに出張に出ていて巻き込まれた
のであろうミス・ロングビルの姿もそこにあった。
もっとも、みんな軽い催眠状態に置かれていたらしく、空を見上げながらぼおっとしていたが、そこは
非常事態につきさっさと起きてもらわねばならない。
まずはギムリとレイナールには目覚ましの常套手段。
「おらおらおら、さっさと目を覚まさんかい!!」
と怒鳴りながらほっぺたを往復びんたして覚醒させ、ギーシュに対しては。
「あっ、あんなところに裸の女が!!」
「なに!? どこだ、どこだい!!」
モンモランシーの苦労が忍ばれて涙が出てくる。
あとはとりあえず中庭で寝かされていたフレイムやヴェルダンデの頭をこずいて起こした。他の生徒や教師達は
騒ぎを起こされると面倒なのでそのままにしてある。
「あいてぇ、少しは手加減しろよサイト」
「貴族にこんな真似して、本来なら手打ちにされても文句は言えないぞお前」
レイナールとギムリは頬を赤くしてぶつくさと言うが、そこに憎しみはない。そんな心の狭い奴ならば
始めから才人と友人にはなれないし、ずっと共に戦ってきた戦友としての友情が彼らの心をつないでいた。
「で、裸の女はどこだいサイト」
「……」
この馬鹿は、根っから馬鹿のようだ。頭が痛くなるのをなんとか抑えて状況を丁寧かつ分かりやすくギーシュに
説明してやるのに、またいらん時間を喰ってしまった。
「なるほど、事情はよくわかったよ。つまりぼく達は奴のおもちゃ箱の中に閉じ込められちゃったってことだね」
「ま、平たく言えばそんなとこだ。いずれ出すとは言ってたけど、そのときにはハルケギニア中のあらゆるものが
盗まれた後で、使い魔達も根こそぎ分捕られるだろうな。俺はいらないみたいだが」
最後のところをやや自嘲的に言った才人に、そりゃそうだろうと3人は思った。才人みたいなのを欲しがる物好きな
人間はルイズやシエスタ、キュルケ……あれ? けっこういるな。しかも美少女ばっかり、こいつ自分がどれだけ
恵まれた境遇にいるのか自覚してないんじゃないのか。
「ま、まあそれはいいとして……このまま手をこまねいている訳にはいかないということだろ、学院を盗むなんて
これは我らトリステイン貴族に対する挑戦だ。断じて許すわけにはいかない!」
「で、具体的にはどうしようか?」
「う……」
と、レイナールに冷静に突っ込まれて見事にギーシュは意気をくじかれた。戦意旺盛なのはけっこうだが、それだけでは
早死にするぞ。まずは落ち着いて作戦を立てて行動するのが勝利への近道だ。
ルイズ落ち着けw支援
「よし、まずは情報を整理してみよう。その、ヒマラとスチール星人ってやつは、美しいものや珍しい生き物をコレクション
するつもりで、こんな騒ぎを起こしたんだな」
「まあな、侵略する気はないようだけど、果てしなく迷惑な連中だよ」
とあるTVアニメで見た、もみ上げ猿顔の怪盗に振り回されるトレンチコートの警部の気持ちが少し分かったような気がする。
まあそれはいいとして、あの怪盗きどりの馬鹿二人は何が何でも捕まえる。そして元の世界にみんなを戻させて、
あわよくばぶっ飛ばす。いや絶対にぶっ飛ばす。
「しかし、そんなに何もかも持っていかれたらトリステインはめちゃめちゃになっちまうぞ。まったく、見境無くなんでも
かんでも欲しがる奴ってのは迷惑だよなあ……そう思わないか、ギーシュ?」
「へ? なんでぼくを見るんだね君達」
ギムリにそう言われて怪訝な顔をするギーシュだったが、才人とレイナールはその意図をすぐに読み取った。
可愛い娘と見ればすぐに口説こうとするギーシュも似たようなものだと、そういうことだ。
それにようやく気づいたギーシュはプライドを傷つけられて、顔を真っ赤にして怒った。
「し、失礼だね君達!! ぼくが女性を愛するのは万人が美しい薔薇を愛でるのと同じ、至極当然のことなのだ。
そこにやましい気持ちはない!! もしぼくの愛する花たちを傷つけようなどというものがいたら、ぼくは命を懸けて
戦うだろうよ」
違う、そういうことを考えるのはお前だけだ。というか後でモンモランシーに言ってやったら面白いかもしれない。
しかし、そのギーシュのアホらしい主張の中に、状況を打開できるかもしれないヒントが隠されていた。
「ん、ちょっと待ってくれ……ギーシュ、今の台詞もう一度言ってみてくれないか?」
「なに? えーと、もしぼくの愛する花たちを傷つけようなどというものがいたら、ぼくは命を懸けて戦うだろう……」
「そうか、もしかしたら」
何か思いついたらしいレイナールに、三人の期待する視線が集中する。
そして考えをまとめた彼は、いかにも賢そうに眼鏡をくいっと上げて見せて話し始めた。
「いいかい、彼らは物を集めるのが目的のコレクターだと名乗った。だから、自分のものへの執着心は人一倍
強いはずだ。例えばギーシュ、君が自分の好きな子、そうだな、モンモランシーにサイトが手を出したらどうする?」
「なにぃ!? サイト、君はいつの間にモンモランシーと付き合っていたんだね!! ゆ、許せん、今すぐ決闘だ!!」
いきり立ったギーシュは才人に飛び掛った。
「バカ!! 例えだって言ってただろうが……だけど、おかげで言いたいことがよーく分かったぜ」
「なるほど、ここは奴らのコレクションルームだって言ってたからな。そーいうことなら話が早い」
レイナールの考えを読んだ才人とギムリもニヤリと笑う。彼は大人しそうな見た目に反して、意外と強引で
ダークな面も持っていた。典型的な軍師タイプといえるだろう。
一人、ギーシュだけが話に着いていけずに、ぽつんとやり場の無くなった怒りを空振りさせて立ち尽くしていたが、
才人が耳打ちして教えてやると、ぱあっと晴れ上がった青空のような笑顔を、見せた。
「素晴らしいレイナール、君は天才だ!!」
「ようし、作戦は決まった。人手を集めてさっそく決行だ!!」
「おおーっ!!」
右手を高く上げて意気を上げると、4人は作戦を決行するための人手を集めるために学院のほうぼうへ散っていった。
それからしばらく経って、ヒマラとスチール星人の姿は、トリスタニアの一角、街を見下ろせる教会の尖塔の上にあった。
街ではすでにあちこちの区画が丸ごと消し去られてしまって大混乱に陥っている。もちろんヒマラの仕業だが、
奴はトリステインでの最後の標的として、国の象徴であるトリステイン王宮を狙っていた。
「うーむ、夕焼けの風景もいいが、二つの月を背にした城もまた美しい……この国の最後の獲物はこれにして、
次はガリアの火竜山脈でもいただこうかな?」
「ふよふよ、ガリアは豊かな国だから、使い魔もさぞ珍しいものがいるだろう。楽しみだ、ささ早く盗ってしまいなさいよ」
「ぬはは、そう焦るな。物事には段取りというものが……ぬ、なに?」
ヒマラは街を転送させるための赤いフィルム型の空間移動アイテムを、ヒマラワールドに通じている箱から
取り出そうとして、その中の様子に愕然とした。
なんと、後で整理しようと置いておいた魔法学院の建物の周りで爆発や火の手があがり、彼のコレクションが
次々と壊されていっていた。
「ああっ! 私の大切なコレクションが!」
それだけではない。スチール星人が盗んできた使い魔達もそれに加わってヒマラワールドの中で好き放題に暴れていた。
「わ、私の動物達もみんな逃げ出して……おのれ、あの小僧たちめ!!」
「ああっ、私の二宮金次郎像が……おのれ、もう許さんぞ!」
怒りが頂点に達した二人は四次元小箱の中へと飛び込んでいった。
「小僧ども!!」
「おっ、来たぞ!!」
ヒマラワールドのど真ん中、学院の正面門のちょっと先あたりに巨大化したヒマラとスチール星人が降り立ってきた。
「お前達、もう許さんぞ!!」
どうやら、思いっきり怒っている様なのは表情のない星人の顔からもはっきりと分かった。
「作戦成功、みんな撤退だ!!」
両者が現れたと見た瞬間、破壊活動を楽しんでいた生徒達は一斉に学院に撤退を始めた。
そう、レイナールの立てた作戦とはヒマラワールドに展示されているコレクション品を壊すことで両者を怒らせ、
こっちの前に引きずり出そうというものだった。
「踏み潰してくれる!!」
完全にいきり立った二人の星人は巨大な足を振り下ろして生徒達に向かってくる。魔法で応戦する者もいるが、
当然ほとんど効果はない。しかし、彼らが学院の中に逃げこんでしまうと、奴らはまったく手出しをしてこなくなってしまった。
「くっ、卑怯だぞ」
「どっちがだ、俺たちを捕まえたかったら学院を壊すしかないよな、ざまーみろ」
ヒマラにとって、魔法学院もまた大切なコレクション候補の一つだ、それを自分から壊すなどできるわけがない。
生徒達は口々にヒマラとスチール星人に向かって言いたいことを言った。
その様子を、才人は学院から少し離れた巨大な招き猫の陰からこっそりと見ていた。
「こんなところに俺達を閉じ込めたのがそもそも間違いだったんだよ。さてと、あとはあいつらに俺達を戻させる
だけだが……ここが正念場だな」
奴らをこの世界に来させることには成功した。これで手助けしてくれた生徒達はもう充分だ、後は少数で姿を
隠しながら移動して、コレクションを壊されたくなければみんなを元に戻せと交渉していくわけだが、さてうまく
いくかどうか。
「おーい、ヒマラ聞こえるか?」
「うぬ、その声は……そうかお前達の差し金だな!!」
「そーだ、これ以上コレクションを壊されたくなかったら、とっとと盗んだものを元に戻せ!! さもないともっと
めちゃくちゃにしてやるぞ」
位置を知られないようにして脅しをかける才人だったが、正直ばれたらどうしようかと内心冷や冷やしていた。
しかし、あんな奴らの贅沢な横暴に負けるわけにはいかない。
だが、ヒマラだけならともかくスチール星人の目までごまかし続けるのはやはり無理だったようで、隠れていた
場所をついに見つけられてしまった。
「見つけたぞ、小僧!!」
「んなっ!? まずい」
スチール星人の場合、どこに目がついているのか分からない頭つきをしているから、うっかり顔を出しすぎて
しまった。ヒマラはまだしも紳士ぶっているが、こいつは堪忍してくれそうもない。
「サイト、逃げろ!!」
別のところに隠れていたギーシュたちが叫ぶと同時に才人は招き猫の影から飛び出した。次の瞬間スチール星人の
頭の三つのランプから赤色のスチール光線が放たれて、才人のいた場所を吹き飛ばし、慌ててガンダールヴを
発動して逃げる才人へ向けて、頭からの2万度の火炎放射が襲い掛かる。
「ち、ちっくしょおーっ!!」
普段ルイズのおかげで逃げ足が鍛えられていなければ、とっくに燃えカスにされていただろう。ガッツブラスターを
撃つ為に振り向く余裕すらない。学院に逃げこもうにも、そちらに逃げられないように攻撃を振ってくる。このままでは
本当に黒焦げにされてしまうだろうが、どうしようもなかった。
そして、そんな様子を彼らの頭上からルイズ達は必死の様相で見ていた。
「サイト!! サイト、あの馬鹿。無茶するんじゃないわよ!!」
開いた小箱の中で繰り広げられている惨劇に焦るルイズだったが、いくら叫ぼうとも異次元にいる才人には
その声は届かない。仮に届いたとしても意味は無いだろうが、今にも才人が焼き殺されようとしている状況では
叫んででもいないと気が狂いそうだ。
「落ち着いてルイズ、ここで焦っても仕方が無いわ」
「離してよキュルケ、サイトが、サイトが死んじゃう!!」
暴れるルイズをモンモランシーと二人がかりで押さえつけるが、必死のルイズは手足をばたつかせて、
今にも手のひらサイズの小箱の中に頭を突っ込もうとする。
だが、焦っているのはルイズだけではない、気持ちはみんな同じなのだ。
「タバサ、何か方法ないの?」
「……」
と、言われてもタバサも異次元に突入する方法など知っているはずもない。平民からは神のごとく思われている
メイジの4系統魔法も、この状況を打開する力はなかった。
「サイト!! サイト早く逃げて」
ルイズの見ている前で、スチール星人の火炎が才人を追い詰めていく。
そして、とうとう真赤に燃える炎が才人の姿を包み込んでしまった。
「ああっ……サイ、ト……あっ、う……」
その光景を見てしまったとき、ルイズの中で何かがはじけた。世界が急に静かになり、急速に心が落ち着いていき、
やがて心の中から聞いたことも無いような、不思議な魔法のルーンが浮かんできて、ルイズの体は何かに
操られているかのように杖を構えて、詠唱を始めていた。
「ユル・イル・ナウシズ・ゲーボ・シル・マリ……」
なぜだろう、才人が死んだかもしれないというのに、この呪文を唱えていると気持ちが落ち着いてくる。いや、
この呪文に才人は無事だと教えられているような気さえする。
「ちょっと、ルイズ、どうしちゃったの!?」
「ねえ、ルイズったら目が変よ、まさかおかしくなっちゃったの!?」
キュルケやモンモランシーの心配する声も、聞こえるが頭に入らない。
ただ、今はこの呪文を完成させる。そうすればサイトに会える。その思いだけがルイズを動かしていた。
「ハガス・エオルー・ペオース!!」
そこでルイズは心のおもむくままに杖を振り下ろした。
すると、ルイズの足元に小さな一点の光が現れたと思った瞬間、それは瞬間的に膨張して半径5メイルほどの
巨大な銀色の鏡のようになり、驚く間もなく落とし穴のように彼女達を引きずりこんだ。
「え!?」
「き、きゃああーっ!!」
『フライ』で飛び上がる余裕もなく、4人はルイズの作り出した光の鏡に吸い込まれて、鏡はそれを見届けたかのように
宙に薄れて消えてしまった。
一方、ヒマラワールドではルイズ達からは死んだかと思われていた才人が、どうにか生き残っていた。
「あっちぃ、危なかったぜ」
あのとき、火炎に呑まれる寸前に偶然あった日本庭園の池に飛び込んで助かった。見渡せばウルトラセブンと
ビラ星人が戦ったときのような風景が広がっている。本当にヒマラの趣味はどうなっているのか分からないが、
何はともあれ命拾いした。
けれども、スチール星人はなおも迫ってくる。
「くっそぉ、こんな奴に……」
池の中でもがく才人に向かって巨大な足が、一歩、また一歩と近づいてくる。あきらめるつもりはないが、
そろそろ体力も限界に近い。
だがそのとき、信じられない出来事が起きた。
突然、才人の目の前が光ったかと思うと、そこに光り輝く大きな鏡のようなものが現れたではないか!!
こいつはあのときの!?
才人の脳裏にルイズに召喚されたときのサモンサーヴァントのゲートの姿が蘇る。だが、見とれている
暇も無く、その中から見慣れた桃色の髪の毛と鳶色の瞳が現れた。
「んなっ!? ええっ!!」
その事態は才人の脳の情報処理能力をはるかに超えていた。だが落ちてくるルイズに向かって
とにかく受け止めようと手を伸ばす。
「サイトー!!」
「ルイズー!!」
二人の伸ばした手と手が引かれあい、二人の顔と顔が一瞬で近づく。
そして、距離がゼロとなった瞬間……にぶい音がして、目から火花が出た。
「だっ!?」
「いっ!??」
疲労していた才人はルイズを受け止めきれず、見事に二人のおでことおでこがごっつんこしたのだった。
派手な水しぶきを上げて、二人は目をナルトのようにぐるぐると回しながら池の中に沈んでいく。
そんな、せっかくのロマンチックなムードを間抜けなものに変えてしまった二人を見て、デルフはしみじみと
つぶやいた。
「ほんと、どうしていまいち肝心なところで決まらないかねえ、こいつらは……」
だめだこりゃ、としか言い様がない。
ぶくぶくと泡を出して轟沈していく二人の周りで、光る鏡の中からまだ残っていた面々が、ぼとぼとと
落ちてきて水しぶきをあげた。
「きゃーっ!!」
「あーれーっ!!」
「……」
もう何がなんだか……
しかし、そんなよく分からない状況の中、沈んでいく才人とルイズの手が偶然にも触れ合った。
その瞬間、待ってましたとばかりに二人のリングが光を放ち、二人の姿が光に変わる!!
「デヤァッ!!」
調子に乗って近づいてきたスチール星人をふっとばし、合体変身、真打ち登場!!
「ウルトラマンAだ!!」
「よっしゃあ、そんな奴らやっつけろ!!」
エースの登場に、学院の生徒達から一斉に歓声が上がった。
「ショワッ!!」
ヒマラワールドに満ちている人工の夕日を浴びて、その身を紅く染めながらエースは2大怪盗宇宙人に
向かって構えをとった。
さるさんらしいので、代理投下いきます
「ぬぬ、ウルトラマンA……どうやってここに!?」
「ヘヤッ!!」
ヒマラも突如現れたエースに驚くが、実際一番驚いているのはエースだろう。説明できる人がいるなら是非
来てもらいたい。なお、才人とルイズはまだ気を失ったままなので、今のエースは北斗単独の意思で活動している。
しかし、経過はどうあれ来れた以上やることは一つ、この宇宙のこそ泥二人をやっつけるのみ!!
そして、奴らもまたエースが現れたぐらいではあきらめるつもりはないらしい。
「どうやってここに来たかは知らんが、我々の計画をあくまで邪魔しようというなら消えてもらうぞ」
戦闘が苦手なヒマラに代わってスチール星人が前に出てきて、エースはこれを迎え撃つ。
「ダァッ!!」
有無を言わさずスチール星人に飛びかかり、そのボディにパンチ、キックの連撃を浴びせる。
鎧超獣とも呼ばれるスチール星人の体は鋼鉄製の頑丈な鎧に覆われて、ちょっとやそっとの攻撃には
動じないが、エースのパンチに砕けない物など無い!!
よろめくスチール星人は、まともにやり合っては敵わないと、見た目に反して相当に軽い身のこなしを活かして
間合いを取ろうとするが、同族とやりあってスチール星人の癖を知っているエースはそうはさせじと連続攻撃を
加えて、さらに背負い投げの要領で思いっきり投げ飛ばした。
「テヤァッ!!」
地響きと砂煙をあげて、スチール星人の体がヒマラワールドの地面に叩き付けられる。
「やったあ、さっすがエース!」
池からようやく上がって濡れネズミなままのキュルケが万歳をしながら叫んだ。散々馬鹿にされた相手だけに、
そいつが一方的にぶちのめされているのは見ていてすっきりする。
続いて、同じようにずぶぬれになりながらようやくモンモランシーが池から上がってきた。ちなみに、全身ずぶぬれに
なったというのに彼女の縦ロールはまったく崩れていない。どういうセットの仕方をしているのか気になるが、
それはともかく、彼女は周りを見渡してルイズの姿が見えないのに気がついて言った。
「ねえ、ルイズの姿が見えないわよ」
「ええ? そんなに離れた場所に落ちたのかしら。けど、あの子のことだからきっとダーリンといっしょね。心配
しなくても、ヴァリエールの人間はそんな簡単にくたばりゃしないわよ。執念深さと嫉妬深さでは昔からうちと
やりあってきた仲なんだから」
彼女達が落ちたときには才人とルイズは仲良く撃沈した後だったので、ギリギリの線で変身の瞬間を見られずに
すんでいた。
「それよりも、シルフィード達を取り戻さないと」
「あ、そうだったわね。宇宙人たちはエースに任せて、今のうちに行きましょう」
エースも、これなら苦戦するまいと思った彼女達は、落ちるときに一瞬見えた学院の方向へ向かって駆け出した。
「ぬぬぬ、さすがに強いなウルトラマンA。スチール星人よ、こうなったら、あの手でいくぞ」
予想以上に強いエースに、ついにたまりかねたヒマラも動いた。
彼らは、万一エースと戦うことになったときに備えて、とっておきの作戦を用意していたのだが。
「何、しかしテストがまだ」
「そんな暇あるか!」
そう。本物のエースを相手に練習できるわけもないから、この作戦はぶっつけ本番だった。
けれど、どのみちこのままではエースに負けるしかないと悟ったスチール星人は、一か八かヒマラの作戦に
乗ることにした。
「ヘヤッ?」
いきなりスチール星人の後ろにヒマラが立って、その肩を後ろからがっちりと掴んだ。
なんのつもりだ? とエースはいぶかしんだ、あれではただ動きにくいだけではないか。奇妙に思ったが、
見ているだけではハッタリか策略かも分からない。思い切ってスチール星人に向かって殴りかかっていった。
「テャァァッ!!」
「フッフッフッフ……」
だが、パンチが当たる寸前にスチール星人の体はヒマラごと、かき消すように消えてしまったではないか。
これは、テレポートか。
「ハッハハハハ……」
何も無い空間から、ヒマラの笑い声だけが高らかに聞こえてくる。
右か、それとも左か……油断無く周囲を見渡すが、気配はない。
「エース、後ろだ!!」
「!?」
そのとき、飛び込んできた誰かの叫び声に従ってエースはとっさに真横に飛びのいた。
そこへ、その声の通りに真後ろに現れていたスチール星人のスチール光線が殺到して、間一髪エースは助かった。
「セヤッ!!」
さらに、振り向き様に反撃の光線を放つ。
『ハンディショット!!』
矢尻型の光線はエースの指先から放たれると、そのままスチール星人に向かったが、命中直前にまたしても
両者の姿はテレポートして掻き消えてしまった。
「あははは、ウルトラマンA、こんなこともあろうかと思って用意しておいた我々の作戦はどうだね。私の瞬間移動で
どこに現れるか分からないスチール星人の攻撃を、いつまでかわせるかな?」
「クッ!!」
まさかこんな手を用意していたとは、気配もなくいきなり現れる敵にはさすがに手出しできない。
学院の生徒達も、一気に逆転してしまった形勢に焦り始める。
だが、そのときようやく目を覚ました才人がエースに耳打ちした。
(大丈夫だ。あいつらには、致命的な弱点があるんだ……)
それを聞いたエースは、なるほどとうなづくと、いきなり目の前にあったオランダ風の風車に向かって光線を放った。
『ブルーレーザー!!』
光線の直撃を受けた風車は、根元から折れてばらばらになって砕け散る。
「ああっ、私の大事な風車がぁ!!」
コレクションを破壊されたヒマラの悲鳴が響く。
そして、今度は小高い丘に乱立したモアイ像の群れに狙いをつけたとき。
「やっ、やめろー!!」
案の定、エースの目の前にのこのことヒマラはスチール星人ごと姿を現した。もちろん、こんな好機を逃すはずもなく
エースのキックが飛ぶ。
「デヤッ!!」
「ウワァァッ!」
見事スチール星人のどてっぱらに命中、後ろにいるヒマラも合わせて仲良く後ろに吹っ飛んだ。
二人は折り重なってもだえながらも、なんとか起き上がろうとするが、いきなり真正面から一発喰らってしまった
スチール星人はヒマラに食って掛かった。
「何をするんだヒマラ、奴の死角に出ないと意味がないだろうが!」
「いや、コレクションが危なかったから、つい」
「もういい、後は私一人でやる!!」
起き上がったスチール星人は、エースに向けてスチール光線を放とうとした。けれど、エースが寸前で足元に
転がっていたタヌキの置物を盾にしようとすると。
「ああっ!! 大事なタヌキが!!」
と、ヒマラが足元に飛びついて前のめりにこけてしまった。
「何をするんだ!!」
「いや、大事なタヌキが」
「あんなものどうだっていいだろうが!! 今はエースをやっつけるのが先決だろう」
2度もヒマラのせいで痛い目を見て、スチール星人も怒り心頭に達して怒鳴るが、コレクションを馬鹿にされて
ヒマラも黙ってはいない。
「あんなものとはなんだ。私が長年かかって集めた美しいものだぞ」
「ふんっ、前々から思っていたが、お前の趣味はずれている。あんなものはみんなガラクタだ」
「なんだと!! この珍獣マニアが!!」
「なにお!!」
「なんだとお!!」
もはや戦いをそっちのけで二人だけの争いになっている。
学院の生徒達や、ギーシュやキュルケ達も、はじめて見る宇宙人同士のケンカに呆れ果てて、心底馬鹿馬鹿しそうに
眺めていた。
「あいつら、アホか」
それは、この場にいたもの全員の感想だったろう。これまで宇宙人といえば、漠然とバム星人やツルク星人の
ように恐ろしいものを連想していた彼らは、こんな奴らもいるんだなあと、新鮮な感動を覚えていた。
が、そっちはよくてもこっちはよくない。
顔をつき合わせて口論を続ける両者に向かって、エースは遠慮なく体を左にひねって、腕をL字に組んだ。
『メタリウム光線!!』
光の帯は、二人のちょうど真ん中の地面に命中して、爆発で両者をまた仲良く吹き飛ばした。
「どわぁぁっ」
「ひよぉぉっ」
あえなく尻餅をついてしまう両者を、エースは悠然と見下ろした。
もはや、この二人のチームワークが戻ることはないだろう。単独でならば到底エースの敵ではない。
勝負は決まった。
「全部まとめて吹き飛ばされたくなければ、さっさと盗んだものを返して帰れ」
空を指差して警告するエースに、ヒマラはとうとうあきらめた。
「わ、わかった。わかったからもうこれ以上壊すのだけは勘弁してくれ」
これ以上ヒマラワールドが荒らされては敵わないと、慌ててヒマラは降参した。
だけども、スチール星人のほうはまだ少々往生際が悪かった。
「仕方ない、私も今回はあきらめる。では、さらば」
そう言って、すごすごと逃げようとしたが、その後ろからタバサの声が引きとめた。
「待って!! シルフィを、返して」
ギクッと、思わず立ち止まるスチール星人、学院にはキュルケのフレイムやギーシュのヴェルダンデは
いたが、シルフィードだけがどこを探してもいなかった。
「さ、さあ……どこかに紛れてるんじゃないか」
白々しくごまかそうとしているが、そうは問屋がおろさない。ゆっくりとエースはスチール星人に向かって
腕をL字に組んでいく。
「わっ、わわかった。返す、返すからそれはやめてくれ」
メタリウム光線の体勢はいやいやよと、慌ててスチール星人は、自分の異空間に閉じ込めたままだった
シルフィードを解放した。
「シルフィード……」
「きゅーい、きゅーい」
やっと解放されたシルフィードは、すぐさまタバサの元へ飛んで、その顔に口先をこすり付けて喜び、
タバサもシルフィードの頭を優しくなでた。やはり、本当の主人の下にいることが一番の幸せのようだ。
正義の味方がやる事じゃねえよwww支援
そして、がっくりとうなだれているヒマラとスチール星人に、エースはもう一度言い放った。
「さあ、早く元に戻して帰れ」
「とほほ、また夕焼けの街を手に入れることはできなかったか。だが、ダイ……ではなくエース、私は
あきらめたわけではないぞ。いつの日か、必ずもっと美しいものを手に入れるために私は帰ってくる。
楽しみにしていろ。ウワッハッハッハ!!」
「私もだ、次は絶対に負けないぞ。覚悟していろよ。フハハハハ」
開き直って捨てゼリフを吐くこそ泥二人に、エースはもう一度メタリウム光線のポーズをとった。
「そうか、そんなにここで吹き飛ばされたいか」
「「いえ、何でもありません!!」」
やっぱりこいつらでは、メフィラス星人のようには決まらない。
こうして、トリステイン始まって以来の珍騒動は、ようやくと幕を下ろしたのだった。
「あー、なんか悪い夢を見ていたみたいね」
すっかり日も暮れて、元通りの姿になった学院を仰ぎ見てキュルケがしみじみとそう言った。
ヒマラとスチール星人はあれから盗んだ建物と使い魔達を返したら、ほうほうの体で宇宙に逃げて
いった。あのまま元の世界に戻っていくのかまでは分からないが、当分は大人しくしていることだろう。
できれば二度と来て欲しくないが、全てが終わった後は、それこそ夢だったかのように何もかもそのままで、
当事者の生徒達もまぶたをこすりながら、ふらふらと寮に帰っていった。
きっと、明日からはまた以前と変わりない毎日がやってくるのだろう。けれど、あのことは決して夢ではない。
その証拠に、彼女達の使い魔は以前より親しげに主人に懐いていた。
「きゅーい、きゅーい」
「ぐるるる」
「げろげろ」
それぞれ、主人が本気になって取り戻そうとしてくれていたのがわかるのだろう。特にシルフィードなどは
タバサの顔が唾液でべとべとになるくらいまで、うれしそうに舐めていた。
なお、ギーシュのヴェルダンデの場合は喜び余ってギーシュが土中に引き込まれそうになって、ギムリと
レイナールにかろうじて引き上げられて連れて行かれた。
気がついてみればもうけっこうな深夜だ。
「まったく、大変な騒ぎだったわね。ふわぁーあ……今日はもうすぐに休みたいわ」
モンモランシーは、ロビンを頭の上に乗せて、眠そうに帰っていった。
残っているのは、才人とルイズ、キュルケとタバサだけ。
「そうね……ねえ、そういえばルイズ、あのときに使った光の鏡みたいなのを作る魔法、あれいったいなんなの?」
「え? なんのこと」
だが、キュルケの質問にも、ルイズはきょとんとした様子で答えることができなかった。
「なんのことって、あんたがいきなり使ったヒマラの世界に入り込んだ魔法のことよ。すごいじゃない、あんな
呪文も効果も聞いたこともないわよ!!」
「ちょ、ごめん。何のことだかわかんないんだけど、わたし、そんなすごい魔法使ったの!?」
「えっ……まさかあんた、あれだけのことを覚えてないっていうの? タバサ、あなたも見たわよね」
タバサはこくりとうなづいた。
「異空間を移動する魔法……そんなものは四系統のどれにも存在しない。それに、あのときルイズの詠唱していた
ルーンは、わたしの知るあらゆる魔法に存在してない」
「……」
ルイズは唖然とするしかなかった。確かに、あのとき才人が危ないと思った瞬間、胸がかあっと熱くなって、
それから才人の顔が目の前にあって、それからしばらくの記憶がない。けれど、これまでいかなる魔法も使えずに
『ゼロ』の蔑称まで与えられたわたしが、いきなりそんなとんでもない魔法を使った? 到底信じられないが、
この二人がそんな意味の無い嘘をつくとは思えないし、そんな魔法でも使わないと異空間に転移するなど
できるわけもない。
四系統のいずれにも属さない魔法、そんなものがあるとすれば、それは伝説の……
しかし、そこまで考えようとしたとき、突然ルイズを激しい頭痛が襲った。
「うっ、頭が……」
「ルイズ!? 頭が痛いの? 無理しなくてもいいわよ」
考えようとすると、なぜかすごく頭が痛む。まさか、記憶にブロックがかかっているのか。
けれど、その原因はタバサに指差されてすぐにわかった。
「すごいたんこぶ」
「あ、ほんとだ」
そっと触ってみると、ルイズのおでこには見事なまでにまあるいたんこぶができてしまっていた。もちろん、
あのとき才人とぶつかってできたものだ。
「……ああ、もうなんかどうでもよくなってきたわ。そういえばダーリンもすごいたんこぶじゃない、もうあなたたち
早く医務室に行ってきなさいよ」
「ああ、そうするよ。しかし、なんでこんなこぶができたんだろうな。どうも記憶が一部飛んでんだが……まあいいか」
才人はそう言うと、額のこぶを痛そうになでながらルイズといっしょに医務室のほうへと歩いていった。
だが、ルイズ達を見送ってすぐに、キュルケはそれどころではないことになった。
夜陰を縫って飛んできた一羽の梟がタバサの頭上を旋回すると、腹がぱくりと割れて、そこから一通の書簡が
タバサの手に落ちてきた。
「……シルフィード」
彼女はそれを一瞥すると、シルフィードを呼んで、その背にまたがろうとし、キュルケに呼び止められた。
「タバサ待って、わたしも行くわ」
「……今回は大丈夫、心配しないで」
そう言うと、タバサはシルフィードを駆って、止める間もなく空の彼方に飛んでいった。
「あの子ったら。また強がっちゃって、けど、あたしも撒かれてばっかりじゃないわよ。ね、フレイム」
キュルケの足元には、その使い魔のフレイムが喉を鳴らして伏せていた。
使い魔と主人は感覚を共有できる。才人は例外だが、フレイムの見たものは主人であるキュルケも
見ることができる。さっき、タバサが書簡を読んでいるときに、こっそり後ろから覗き見させていたのだ。
詳しい内容までは読み取れなかったが、たった一つの地名だけは確認することができた。
「エギンハイム村、ね」
続く
以上です。ウルトラシリーズには数多くの宇宙人がいますが、こういう奴らがたまにいることで、そのバリエーションが
豊富に飽きないものになりますよね。
なお、余談ですがスチール星人の着ぐるみは初期のエースのスーツを改造したものだそうです。あまり面影は残って
ませんが、ギロン人やヒッポリト星人と違って、極めて動きが素早かったことからかなり動きやすい構造だったんでしょう。
さて、前にも一応予告はしていましたが、次回からは久しぶりにタバサの冒険編に入ります。
果たして、エギンハイム村でタバサを待つものは、怪獣か、超獣か、それとも宇宙人か!?
乙
そういえばまだスペース・Q使ってないな
バトルドッジボールUでは最高の攻撃力だった
同じ攻撃力を持つ奴がボスボロットと騎士ジムカスタムってのがあれだけど
ウルトラの人、乙。
しかし街の構造物を盾にしたり意図的に破壊したりしたからには、この言葉を送らせて貰おう。
「バカヤロー! 何てヘタクソな戦い方だ!
周りを見てみやがれ! それでもウルトラマンかよ! 何も守れてねえじゃねえか!!」
冥王神話のレグルスとユンカースだっけか?
>>213 ウルトラマンメビウス1話のリュウさんね。
ウルトラの人乙。
そして、いつ我夢がアドベンチャー号で来るのかとワクテカしながら
待っているんだぜ。
18:40から、頂上決戦ワルド対ギーシュを投下したいと思います。
8レスを予定しております。
一体なんでそんな展開にwww
港町ラ・ロシェール、で一番上等な宿である『女神の杵』亭に泊まることを決めたのはワルドである。
そのことについて文句のある者は一行の中にいなかった。
ルイズやキュルケにとって、上等な宿に泊まるというのは、ごく当たり前のことであったし、アプトムやタバサは豪華な宿だろうと貧相な
宿だろうとこだわらない。
ただ一人、ギーシュだけが、もの珍しそうにしていただけである。
宿を取ったワルドは、その足でルイズとアプトムと共に桟橋に乗船の交渉に出かけた。
ワルドとしては、ルイズと二人で行きたかったらしいが、そんなことはアプトムの知ったことではない。
この世界のことを何も知らない彼は、少しでもハルケギニアの知識を得る機会があれば積極的に動くつもりでいたし、そのおかげで、ここ
の桟橋が山の上にある巨大な大樹であり、そこにある船が大樹の枝にぶら下がった飛行船のような形状の代物だとも知った。
そして交渉の結果、アルビオンへ向かう船は翌々日にならないと出ないという答えが返ってきたので、理由を聞いてみたところ、明日の夜
は二つの月が重なり、その翌日の朝にアルビオンがラ・ロシェールに一番近くなるとのことで、アルビオンというのは海に浮かんでいて、常
に移動しているのかと思ったものだが、実際には空に浮かんでいて常に移動しているらしい。
そんなわけで、翌日の予定が空いてしまったことなどを、キュルケたちに伝えるワルドを尻目に明日はどうしようかとアプトムは考える。
せっかく学院の外に出たのだから、この町の人間と話していろいろと情報を集めたいところではあるが、町に入る前に賊の襲撃があったこ
とから考えられる、この町の治安状況からしてルイズを放っておくのも考え物だ。いや、ワルドがいれば大丈夫かもしれないが。
そんなことを考えていると、ワルドが鍵束をテーブルに置いて、今日は、もう遅いから寝ようと言ってきた。
「キュルケとタバサ、ギーシュとアプトム、そして僕とルイズが同室だ」
その言葉に、最初に反応したのはギーシュである。
「ちょっと待ってくださいよ! ぼくに、こいつと同じ部屋で寝ろって言うんですか?」
「何か問題でもあるのかい?」
さらりと返されて言葉に詰まる。ギーシュはアプトムに対し強い敵愾心を持っている。キュルケがアプトムに対し抱いているのとは少し違
い、相手に自分を認めさせたいというライバル意識に近い感情ではあるが、それでも嫌っていることに違いはない。そんな相手と同室など冗
談ではないと思うのだが、そんな理由を口にするのも、はばかられる。
「男同士と女同士。そして、僕とルイズは婚約者だからな。当然だろう?」
そう言われては、もう何も言い返せなくなる。女の子と同じ部屋にしてほしいと言うわけにはいかないし、考えてみれば、ワルドと同じ部
屋というのも同じくらいぞっとしない。
だが、今度はルイズが反論した。
「そんな、ダメよ! まだ、わたしたち結婚してるわけじゃないじゃない!」
ルイズの貞操観念は、婚前交渉を許すような軽いものではない。のだが、ワルドに、真剣な顔で大事な話がある。二人きりで話したい。と
言われると何だろう? と思いつつも了承してしまう。
そんな彼女の将来が、心配になるキュルケなんかがいたが、当然ルイズは気づかない。
女神の杵亭の中でも、一番上等な一室を自分とルイズのために取ったワルドは、そこにあるテーブルの前の椅子に腰掛け、ルイズも座らせ
るとワインを杯に注ぐ。
一杯やらないか? と言われたルイズは、一息でワインを飲み干すと「で、大事な話って?」と問いかける。
ワルドとしては雰囲気作りのつもりだったのだが、基本的に二つ以上のことを同時に考えることを苦手としているルイズである。そちらの
興味を満たしてやってからでなければ何を言っても無意味なのだ。
そんなルイズに、しかし挫けることなくワルドは遠い目をして話しかける。
「覚えているかい? あの日の約束……。ほら、きみのお屋敷の中庭で……」
「あの、池に浮かんだ小船?」
唐突に何を言い出すのかと思ったが、覚えているのは確かなので話を合わせると、ワルドは思い出話に花を咲かせ始め、ルイズの興味もそ
ちらに移る。
そうして、ルイズの意識が完全に自分の話に向いたことを確認したワルドは、話の内容を現在に戻す。
「きみはね、ルイズ。特別なメイジだ。僕は、その事を理解しているつもりだ」
「ありえないわ」
「いや、あるんだ。例えば、そう、きみの使い魔……」
「アプトムのこと?」
「そうだ。彼は、ただものじゃない。そもそも、人間の使い魔だなんて普通はない。僕の知る限りでは、伝説にある始祖の使い魔くらいのも
のだ。そして、左手にルーンが刻まれているということは、『ガンダールヴ』だろう」
「ガンダールヴ?」
「誰でも持てる使い魔じゃない。きみはそれだけの力を持ったメイジなんだよ」
「……」
確かにアプトムは凄い力を持っている使い魔だ。亜人で変化の先住魔法も使う。
だけど、凄いのはアプトムであって自分ではない。そもそも、契約したのなら、できて当然の視覚聴覚の共有もできていないし、稀にある
という特殊能力の付加もない。いや、実際には武器を持った場合時限定でルーンによる肉体の戦闘への最適化と身体強化があるのだが、アプ
トムが教えていないのでルイズはその事を知らない。
アプトムが伝説の使い魔だということはありえるのだろうが、自分が特別であるなどということがありえるのだろうか?
だが、ワルドの言うことを否定することはできない。それを否定するということは、伝説に残るようなメイジになってみせろと言ってくれ
たアプトムへの裏切りになる。
「きみは偉大なメイジになるだろう。そう、始祖ブリミルのように、歴史に名を残すような、素晴らしいメイジになるに違いない。僕はそう
予感している」
ワルドが言うそれは、ルイズの目標であるが。それが果たして可能なのだろうか? もちろん諦めるつもりなどないのだが、アプトムに対
しては自分を主人だと認めさせるのだという虚勢もあって言えることが、他の人間の口から出ると、否定的な考えが浮かんでしまう。
そんな彼女にワルドは言う。
「この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」
「え……?」
「ずっとほったらかしだったことは謝るよ。婚約者だなんて、言えた義理じゃないこともわかってる。でもルイズ、僕にはきみが必要なんだ」
急な話に、ルイズは思い悩む。幼い頃から思慕の念を抱いているワルドに結婚を申し込まれて嬉しくない筈がない。だけど、彼女は自分が
不器用な人間だと自覚している。もしも、ここで了承してしまったなら、もう彼女はワルドも言った歴史に残るようなメイジになるという目
標を持ち続けることができなくなるだろう。
だからルイズは答えられない。頷くことも首を振ることもできない彼女にできるのは、俯き黙り込むことだけである。
そんな彼女に何を思ったか、ワルドは優しく笑いかける。
「どうやら、困らせてしまったみたいだね。いいよ。今すぐ、返事をくれとは言わないよ。でも、この旅が終わるまでには、きみの気持ちも
決まるはずさ」
そう言ってワルドは引き下がり、ルイズは答えの見えない悩みを抱きながら眠ることになる。
翌朝、アプトムとギーシュにあてがわれた部屋の扉がノックされ、寝たりなさそうな顔をしたギーシュが出ると、そこにはワルドがいた。
「おはよう。使い魔くんに用があるんだけど。起こしてくれないかな?」
そう言ったワルドに、ギーシュは「いませんよ」と答える。
ギーシュの知る限り、アプトムは荷物を置きに来たときにしか、この部屋に足を踏み入れていない。
では、どこに行ったのかという問いに、ギーシュは答えられない。
アプトムは何も言わずに出て行き、その帰りを待たずに眠り今眼を覚ましたばかりのギーシュは、アプトムがどこにいるのかなど知らない。
それは困ったな。と呟くワルドに、どうしたのかと尋ねてみると、ちょっと手合わせをしたくて来たのだという答えが返ってきた。
「アプトムと手合わせですか?」
「ああ。僕は兵に興味があってね。昨日の賊の襲撃で彼が随分と腕が立つらしいと気づいたので、ちょっと勝負をしたくなったのさ」
気軽に言うワルドに、ギーシュは少しムッとする。
この目の前の貴族は、自分がアプトムに負けるかもしれないなどとは欠片ほども思っていない。
魔法衛士隊の隊長を勤めている者が、多少腕が立つといっても、魔法も使えない平民に負けることなどありえないのだということはギーシ
ュも理解しているが、それでも腹が立つのは、何故だろう。
いや、そうではないのだとギーシュは自分に言い聞かせる。自分が腹を立てているのは、ワルド子爵がアプトムとは手合わせをしたいなど
と言っているのに、ギーシュのことは眼中にないという態度をとっているのが許せないのだ。
だから彼は言う。
「それなら、ぼくと手合わせをしてくれませんか?」
勝てるなどとは思わない。だけど、勝ち目がないからとあきらめる心の弱さを彼は許せない。許してしまえば、アプトムに挑む資格をなく
してしまうと信じるがゆえに。
その朝ルイズは、違和感と共に眼を覚ました。
何がおかしいのだろうと周りを見回して、そこが見慣れた魔法学院の女子寮ではないことに気づく。そして、いつも自分を起こしてくれる
アプトムの姿がないことにも気づいたところで、港町ラ・ロシェールの宿に泊まったんだっけと思い出す。
そんな彼女に対して、同じ部屋に泊まったワルドはある場所に来るようにと言い残して部屋を出て行き、なんの用だろう? と、いつも通
りの寝起きの回らぬ頭で考えた後、行けば分かるかと結論を出すと、手早く着替えて部屋を出たところで、別の部屋に泊まっていたキュルケ
とタバサに出くわした。
「あー、おはよう。キュルケにタバサ」
「おはよう、ルイズ。って、なんて格好してるのよ!」
ギーシュどうなるんだw
なるほどこう来たか
さすがにライトニング喰らって平然としてたらいくらワルドでも逃げるだろうし
挨拶と同時の問いかけに、? とルイズは自分の服装を確認する。
いつもの、学院の制服のブラウスにスカート。マントも忘れてないしうっかり制服の下に寝巻きを着たままということもない。何がおかし
いのかと首を傾げるルイズに、キュルケは頭を抱える。
確かにルイズの考えに間違いはないのだが、別のところが間違っている。
ブラウスはボタンが一段ずつ留め違っているし、スカートはたくし上がってパンツが丸見えになっていて、ついでに髪も寝癖でバサバサで
ある。
ここが学院なら知らないふりをして笑いものにしてやってもいいのだが、ならず者もいるこんな町で、その格好で外を出歩かせれば、その
まま物陰に連れ込まれても文句が言えない。
まったく世話の焼ける。とルイズの身支度を整えてやるキュルケに、ルイズは何を言うでもなくされるがままになる。寝起きの彼女には誰
かに逆らうという発想がない。
それが終わると、三人は一階に下りて行き、そこにある酒場で朝食を摂り。ルイズの眼も覚めた頃、出かけていたらしいアプトムが帰って
きた。ちなみに、この時点でルイズの頭にワルドに呼び出された記憶は薄れ消えかかっている。
「朝からどこに行ってたのよ」
そんなルイズの問いに、アプトムはちょっと情報集めに行っていたと答える。朝からではなく、夜中から出かけていたのだが、その事を教
えるつもりもない。
それで何か分かったのかと問いを重ねるルイズにアプトムは、自分の得た情報を伝える。その情報は、『金の酒樽亭』という酒場にいた、
フードで顔を隠した顔見知りの眼鏡の女性に教えてもらったもの。
彼が、その夜に、酒場に足を踏み入れた時、フードで顔を隠した女が手招きしている事に気がついた。
この地に知り合いのいないはずの彼は、首を傾げて女の隣に座り、それが何者かを知った。
「学院長秘書のミス・ロングビルは休暇を取っていると聞いたが?」
「休暇中さ。休暇を取ってアルバイトに励んでいるってわけだ。」
「ほう。報酬のいいバイトでも見つかったのか」
「そうさ。なんてったって、報酬は私の命だからね」
親指で自分の首をかき斬るような仕草を見せる彼女に、彼はなるほどと納得する。
殺されたくなければ、言うことを聞け。そんな、官憲にでも知らせれば解決してしまう馬鹿げた脅迫も、犯罪者である彼女には有効である。
「大変だな」
「身から出た錆ってヤツだけどね。それでまあ、ここであったのも何かの縁だ。頼みごとを聞いちゃくれないかい? そのうち借りは返すよ」
「頼みごと?」
「ああ、実は私には、この町の傭兵を雇って、あんたらを襲撃しろって命令が出ててね。ま、私には、直接あんたと戦おうなんて自殺願望は
ないし襲撃は傭兵に任せて、後ろで見てるだけのつもりなんだど、なんかの間違いで顔を合わせても私を殺さないでくれるかい?」
ふむ。と考えて、彼はこちらの質問に答えたらな。と、その頼みを受け入れる。
「あんたらを襲撃する命令をしてきた奴が何者かかい?」
「それは、どうでもいい。そちらとしても、話せないことだろう?」
まあね。と答えてくる女に彼が尋ねたのは、アルビオンの状況。ようするに、安全にウェールズ王子に会うための情報であった。
「アルビオンの王党派は追い詰められ、最後の砦である王城ニューカッスルは五万の兵士に包囲されている。ウェールズ王子に会いたければ、
その包囲を突破しなくてはならないらしい」
「それって無理なんじゃないの?」
他人事のように言うキュルケをルイズは睨みつける。ゲルマニアの人間であり、任務の内容を知らないキュルケがそう言うのを責めるのは
筋違いではあるが、ルイズとしては、そんな気楽な態度に腹立ちを覚える。
何とかならないだろうかと頭を働かせるルイズであるが、実は簡単な解決策がある。アプトム単独であれば、五万の包囲を抜けることは不
可能ではないのだ。
しかし、その方法には一つの問題がある。ルイズの動向である。
今アプトムが最優先にしているのはルイズの身を守ることである。そのルイズに、任務は一人でやるからワルドと一緒に帰れと言って、素
直に帰るだろうかというと無理だなと思わざるを得ない。
言って聞くようなら、そもそも剣を届ける為だなどと言って追いかけて来たりはしないだろう。
では、どうするかと考え、ふとここにいない二人のことを思い出す。
「そういえば、ワルド子爵とギーシュはどうした?」
その問いに、キュルケとタバサはそういえば朝から見てないと答え、ルイズは、あっ!! という顔になる。
彼らが宿泊する宿は、かつてはアルビオンからの侵攻に備えて建てられた砦であったのだという。
それゆえに、今では物置き場になってしまっているが、中庭には練兵場がある。
そこに、ギーシュとワルドの二人は向かい合っている。
「昔、かのフィリップ三世の治下には、ここでよく貴族が決闘したものさ」
「はぁ……」
「古きよき時代、王がまだ力を持ち、貴族たちがそれに従った時代……」
「あの……、子爵」
「なにかね?」
「その話、三回目です」
「……」
彼らがこの場にやって来たのは、手合わせのためであるが、最初アプトムと手合わせをするつもりだったワルドは、ルイズが妙に信頼して
いるあの男を倒して自分の頼りになる所を見せつけてやろうと、介添え人という名目でルイズを呼んでいた。
ギーシュが相手では、ルイズに見せつける意味がないのだが、何の説明もなく戦っているところ見られては無用な誤解を抱かせることにな
るだろうと、彼女を待つことにした。
そして、二人は待った。待ち続けた。待ち疲れて、その場にしゃがみこんだりもした。決闘の邪魔になりそうな樽や空箱を片付けたりもし
た。地面に井を描いて○と×をどちらが三つ並べられるかの勝負もした。
ルイズと他三人が、ようやくやってきたのは、二人が地面に、なにやらいかがわしい絵を描いて興奮していた頃である。
「あんたら、なにやってるの?」
ルイズの問いかけに、二人はあわてて立ち上がり、地に描いた絵を足で消す。
「いっ、いや、彼が腕試しをしたいと言うのでね」
「そうそう。ぼくの実力が魔法衛士隊にどれだけ通じるのか試してみたくてね」
「ふーん」
ワルド既にギャグキャラじゃねw
では、それを見せるために自分を呼んだのかと問うルイズに、そうではないとワルドは答える。
ワルドの目的は、アプトムとの決闘である。そこには、『ガンダールヴ』の実力を測りたいとか、ルイズにいいところを見せたいとか、あ
る目的の邪魔になりそうなアプトムの心を折っておきたいとか、いろいろな理由があったが、それは話さない。
ギーシュとの決闘は、その準備運動のようなもので、もちろん本気を出すつもりなどない。
そんなことを、はっきりと口に出して言われて、屈辱にギーシュが怒りに顔を歪めるが、ワルドは気づかない。あるいは気づいているのか
もしれないが、彼に実戦経験もない学生などに気を使ってやる義理はない。
「では、介添え人も来たことだし、始めましょうか」
怒りを押し隠した声で宣言すると、ギーシュは薔薇の造花を掲げる。それこそが彼の杖であると気づいているワルドは杖を抜くものの構え
るだけで、そのギーシュの行動を黙って見守る。
それが、何をやろうとも対応できるという余裕であると悟り、ギーシュは頭に血を上らせながら造花を振る。
振られた造花から七枚の花びらが散り、それは槍を持った七体の女性像になる。ギーシュが特意とする青銅のゴーレム『ワルキューレ』で
ある。
アプトムに幾度となく決闘を挑み、それなりに経験を積んだ彼であるが、それでいきなりメイジとしてのランクが上がるわけもなく、その
限界は今まで同様七体のワルキューレを作ることである。かつてアプトムと戦った時との大きな違いは心構え。
ギーシュは、七体のワルキューレ全てにワルドを攻撃するよう命令する。守りは置かない。一対一の決闘であれば、守りを置く必要はない。
先制攻撃で一気に沈めてしまえばいいのだ。それに、自力に差がありすぎる相手との決闘で、守りなど考えていては勝つどころか一矢報いる
こともできない。
一斉に襲い掛かるワルキューレの槍を、ワルドは細身の杖で軽やかに受け流す。
ワルドに勝つには、魔法を使う暇を与えない攻撃で一気に打ち倒すしかないとギーシュは考えていた。ワルキューレには、スクウェアメイ
ジの魔法に耐えられるだけの耐久力がないのだから。
だが、ワルドは魔法を使えないのではなく使わない。ギーシュなどには魔法を使うまでもないとでもいうように、素早い動きで槍の攻撃を
防ぎ。また、後ろに下がり横に移動してと、囲まれないように移動し、攻撃のための範囲を広げられないワルキューレは互いが邪魔になって
上手くワルドを攻撃できない。
「魔法衛士隊のメイジは、ただ強力な魔法が唱えられるだけじゃないんだよ」
余裕を持って語られる言葉に、ギーシュは唇を噛む。ワルドは、その気になれば今すぐにでも魔法を使うことなく七体のワルキューレを撃
破できるだろうに、それをしない。この男は、本当に準備運動のつもりで自分と向かい合っているのだ。
格が違う。その事をギーシュは理解し、それでも、あきらめることをしない。ここで、心を折ってしまえば、もう二度とアプトムに挑むこ
とができなくなるから。
そんなギーシュの姿に何を思ったのか、ワルドは槍を防ぎながら帽子を被りなおし、言葉を続ける。
「詠唱さえ、戦いに特化されている。杖を構える仕草、突き出す動作……、杖を剣のように扱いながら詠唱を完成させる。それが軍人の基本
中の基本なのさ」
そうして、彼は詠唱を完成させる。それは、『ウィンド・ブレイク』。突風で相手を吹き飛ばす風の魔法。その魔法だけで、七体のワルキ
ューレは弾き飛ばされ、知らずその延長線上にいたギーシュもまた、吹き飛ばされた。
「さて、準備運動も終わったことだし。次は、使い魔くんに手合わせを願いたい」
風に飛ばされ、壁にまで転がったギーシュに眼もくれずワルドは言う。彼にとってギーシュの存在は、まさに炉辺の小石に等しい。そのこ
とに対して、ギーシュから文句の言葉は出ない。何故ならその一撃で気絶しているから。
そして、アプトムはと言うと。
「いたーい。眼にゴミが入ったー。とってー」
「ええい。お前は、どうしてそう手間ばかりかけさせる」
などと、ルイズと話をしててワルドの言葉を聞いてなかった。
ワルドの魔法の風で巻き上げられたゴミがルイズの眼に入ったのだから、彼が文句を言う筋合いはないのだが。
「では、改めて腕試しと行こうか」
そう言って杖を構えるワルドを、アプトムは無言で見返す。
ワルドが本命であるアプトムに決闘を申し込んだ時。ルイズは、それを止めなかった。
学院でアプトムが生徒と幾度も決闘を繰り返したのを見ていた彼女は、いつしか決闘と言うものを軽く見るようになっていた。
アプトムは、常に無傷で決闘に勝利し、相手に怪我を負わせたこともない。そして、先のワルドとギーシュの決闘においても、吹き飛ばさ
れたギーシュは気絶はしたが、怪我はと言うとあちこち擦りむいた程度であり、彼女の思考の中では、決闘で負けたものが大怪我をするかも
しれないという可能性は削除されていたのだ。
「きみは、随分と強いらしいじゃないか。貴族というヤツはやっかいでね。強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるの
さ」
そんなことを言ってくるワルドに、アプトムは何も答えない。ワルドの語る言葉に興味を惹かれないからだ。
今、アプトムの興味が向けられているのは、スクウェアメイジの実力である。この決闘は、トライアングルまでのメイジとしか戦ったこと
のない彼にとって、ちょうどいい機会であると言えるが、同時に困った事態とも言える。
ラインまでのメイジであれば問題なく倒せる彼であるが、一度だけ戦ったことのあるトライアングルメイジである土くれのフーケは、倒す
ために獣化の必要があった相手であった。
それは、トライアングルメイジという存在の実力を測るために、彼女の作るゴーレムのみを攻撃の対象としていたからではあるが、スクウ
ェアメイジの相手がそれよりも簡単だという保障もない。
ルイズとタバサになら、獣化を見られても問題はないだろう。というか、今更だ。だが、キュルケとギーシュとワルドには見られるのは問
題だ。というか、キュルケがまずすぎる。自分を心底嫌っている彼女に知られれば、面倒なことになるだろう。
まったく困ったものだと一人ごちる彼には、適当に負ければいいという発想がない。何気に負けず嫌いだから。
「では、『閃光』のワルド、参る」
宣言と共に、振ってくる杖の打撃を、アプトムは特に注意を払いもせずに、簡単に回避する。体を鍛えていないギーシュなどから見れば、
二つ名の通り閃光のように素早く見えるワルドの動きも、人外の体力を誇るアプトムの目には、さしたる脅威に映らない。そもそも魔法なし
では、どれほど体を鍛えようと、人間では獣化なしのアプトムにも、とうてい届きようがないのだ。
杖を受け止めてへし折ってやろうかとも思ったが、こんな腕試しで旅の仲間の戦力を低下させるのもバカらしいなと、杖をかわすと同時に
蹴りを放つと、避け切れなかったワルドは、その一撃を横腹に喰らい吹き飛ばされる。
「なるほど。さすがは、ガンダールヴ。魔法なしでは、僕の敵う相手ではないか」
立ち上がりながらの言葉に、キュルケとタバサは何の話かと頭上に疑問符を浮かべるが、空気を呼んで何も言わない。
「だけど、僕の本領は魔法にある。その力を、きみに見せてあげよう」
その言葉の後に唱えられた詠唱は、先ほどギーシュを吹き飛ばしたウィンド・ブレイク。それに、吹き飛ばされたアプトムは、クルリと後
転し体勢を整えるが距離を離されたそこに、ワルドは更なる詠唱を唱える。
それは、『エア・ハンマー』。対象を殴りつける空気の槌。眼には見えないそれを、アプトムは跳んで回避する。学院で決闘したことのあ
るメイジの中には風系統の魔法を使う者もいた。見えない攻撃を回避するのにも慣れている。慣れたところで、アプトム以外なら二メイルも
の高さの跳躍をして回避することなど不可能だろうが。
支援
更に連続して唱てくる魔法をアプトムは縦横無尽に走り回り回避する。だけど、反撃に回る隙が見つからず、ワルドの方も決定打を与える
隙を見つけられない。
近づけないでいるアプトムは、途中、落ちている小石を拾い投擲してみるが、それは風の盾で防がれる。
そんな攻防が何度か続いた後、「ここまでか」とワルドは杖を収め、アプトムも足を止める。
このまま戦闘を続けても、ワルドの精神力とアプトムの体力のどちらが先に尽きるかというものにしかならず、それは明日からのアルビオ
ンに向かう任務に差し支えるからだ。
「えーと。つまりどういうこと?」
ワルドが一方的に攻撃を加えていたように見えたのに、何故決着がつかないままに、終わってしまうのかと疑問を覚えるルイズに、タバサ
が「引き分け」と小さな声で答える。
「そうなの?」
「そう」
ふーん。とルイズは納得のいかない顔をする。彼女にとって決闘とは、眼に見える形で、はっきりとした決着がつくものなので、お互いに
攻撃を当てることもなく終わるというのは、なんだか理解できない。
「まいったな。きみに本気を出させることもできなかったよ」
笑顔で言うワルドに、アプトムは「お互いにな」と返す。
獣化を封じたアプトムは、もちろん本気ではなかったが、ワルドが全力でなかったのも顔を見れば分かる。その顔は、自分の優位を信じて
疑わないものだったのだから。
そして、そんな二人を、彼らから離れた場所から見ている二対の眼があった。
「確かに腕は立つようだが、お前の言うほどの者には見えんな」
そんな仮面の男の言葉に、黒いフードを被った女は唇の端を曲げて笑う。
「そりゃ、あいつは全然本気を出してないからね。子爵さまも本気じゃなかったんだろうけど、隠してる実力には大きな差があるよ」
「それほどのものか?」
「そうさ。アイツを何とかしたきゃ、本気を出させないように上手く立ち回るのをお勧めするね。ま、私なら上手く立ち回れる自信があって
も、アイツと敵対するのはゴメンだけどね」
そんな忠告に、男は、ふむ。と呟いて考え込む。そこまで言われても、本気で戦えば、自分なら勝てるだろうという自信は揺らがない。だ
が、わざわざ危険を冒す必要もないかと彼は思う。
それはそれとして、決闘が終わりルイズ、アプトム、ワルド、キュルケ、タバサが立ち去った後。気絶して中庭の端に置かれ、そのまま皆
に忘れられたギーシュを介抱する大モグラの姿があったという。
それにしてもギーシュ哀れすぎる支援
投下終了。支援をありがとう。
やっぱり戦闘は難しいです。
アプトムは獣化しなくても手からビームとか出せるから、ガチな殺り合いになったら偏在使ってもワルドが瞬殺されそうで困る。
ギーシュ頑張れ、その努力が君をきっと強くするはずだ
ビームなんか知ってても回避できるような速度じゃなさそうですしねぇ
>>231 そういえばルイズとキュルケは、アプトムがタバサの任務についていったのをまだ知らないんだろうか?
>>234 そもそも、タバサがよく出かけるのが任務だから、って事すら知らないんじゃないかと。
いやシルフィードの背に二人が乗って帰ってくるところ見られたら、
ちょっとした騒ぎになってたんじゃないかなと思って言ってみたんで深い意味はない
アプトムは獣化すればライトニング・クラウドぐらい耐えられそうだからワルドに勝ち目はないんじゃあ?
一撃で仕留めようにも急所は無いし。
エレゲン食ってる時点で電気無効な気がする
そしてエレゲンの体は熱にも強かった
なんか無敵じゃね
っつーか、アプトムも電撃を使えるしw
しまった!既に書かれているのにKYな書き込みスミマセン
なんかワルドを主人公にして、ハルケギニア中に召喚された
異世界の住人と戦うSSを書きたくなったw
破壊の杖奪還・アンアンの婚約の手紙奪還・アンドバリの指輪奪還
奪還つながりって事で奪還屋を召喚。
持ってる能力がチート過ぎるのが困りモノですな
てかハルケギニア世界の魔法でアプトムを倒すならエクスプロージョンで塵ひとつ残さずに消滅させるしかないんじゃ…
TOVからユーリ召喚
モット伯は確実に闇討ちされるなw
なんの特殊能力もない男子を召喚するくらいなら才人でいい
そう思っていたけど、考えつくキャラがゼロ魔世界じゃチートばかり
そもそもゼロ魔世界を壊さずキャラを生かすなんて無理だわな
だから作者さんたち、やりすぎなければチートなんて気にしなくていいぞ
もし追い詰められたとしても切り札の生体ミサイル乱射をどうにか出来る奴がいねえ
すごいよアプトムさん
>>210 ウルトラの人、乙。今回もGJでした。
エースとの戦いまでコミカルに描写されてたのが何ともw
あと、幾ら作戦でも建物を破壊するのはやり過ぎwww
次回のタバサ&キュルケの冒険も期待してますw
>>231 こちらもGJしたーw
>「いたーい。眼にゴミが入ったー。とってー」
>「ええい。お前は、どうしてそう手間ばかりかけさせる」
この会話にめっさ和んだw
あとギーシュがんがれ、超がんがれw
アプトムの人乙です。
ギーシュ哀れwww
てかこのワルドおもしろすぐるww
>>243 蛮とか赤羽なんかチートそのものだけど
銀は雷帝モードとお気軽充電出来ないだろうし良いんじゃね?
ルイズ・タバサ・エレオノールに巨乳になった姿を邪眼で見せて凹られる蛮を幻視した……
>>244 例え塵ひとつ残さずに消滅させても分体されていたら意味は無い。
しかも偏在と違って全てが本体であると同時に分身。
ここでスーパーワルド大戦勃発だな。
>>246 提督とか特殊能力なしでかなりいい出来だったと思うよ
後半で皇帝が関わってきてからは技術的チートのオンパレードだったけど
ワルドが集まっても戦い以前にママン自慢を集団で初めて
纏めてルイズに爆発で消し飛ばされるところしか想像できん
>>251 そこでワルドさんのライトニングの出番ですョ
必殺の一撃のハズが雷帝覚醒と言う悲劇に・・・!
・・・合唱。
バトルをするものの宿命かもしれんが、巻が進むにつれてワルドが弱く感じられていく。
今なら水精霊騎士隊でも勝てるのでは、…
全員で掛かれば勝てないとは思うが足止めくらいなら出来そうだ
ギーシュがなにか男上げる台詞を言ったら奴が血だるまになる代わりに撃退できるかも
>>251 蛮と聞くと番場蛮が頭に思い浮かんでしょうがないw
260 :
ゼロの騎士団:2009/03/01(日) 21:22:59 ID:9cs5EcUZ
アプトムの方乙です。
3話 「三人と吸血鬼退治」中編の投下予告させていただきます。
21時30分を予定しております。
サル食らうかもしれません、よろしくお願いします。
261 :
ゼロの騎士団:2009/03/01(日) 21:30:43 ID:9cs5EcUZ
ゼロの騎士団 PART2 幻魔皇帝 クロムウェル 3 「三人と吸血鬼退治」中編
荷物を置いた三人は最初の部屋に戻っていた。
その中で、エルザは警戒して村長の隣でしがみついていた。
「では、お話を聞いてもいい?」
真ん中に座った、シルフィードが話を切り出す。
(うまく聞き出さなきゃ、こう言うのは苦手なのね)
自身は言葉をしゃべり、知能も高いがこの様な事は慣れている訳でも無く幼い事もあり、シルフィードは苦手に感じていた。
「はい、最初は村の少女で12歳でした、それでここ2カ月で6人がなくなりました」
それに頷き、これまでの出来事を村長が話し出す。
「そこで私は王国に助けを求めました。しかし、やって来た騎士様は三人ともお亡くなりになりました」
(正規の騎士がやられるなんて、なんて任務をお姉さまにおしつけるのね)
そのような任務を下す、あの王女の憎たらしい顔を思い浮かべる。
表情には出さないが、シルフィードもイザベラの顔を思い出して不機嫌になる。
「検分と供養の為に騎士の亡骸を見たいのですが、どうなさいましたか?」
従者らしい口調で、タバサが確認の為に村長に尋ねる。それを聞いて、村長は複雑な顔をする。
「実は……死体は見つからなかったのです」
「では、なぜ死んだと?」
(恐れて逃亡でもしたのか?)
死体が無いのに死んだと言う村長に、ゼータが疑問に思い問いただす。
「村の中央に、騎士様の両腕が置かれていたのです。豪華な装飾品から直にわかりました」
何かを思い出したように、村長が顔を俯く。
「ひどいのね、何でそんなことするのね」
息をのみ、青い顔でシルフィードが顔を押さえる。
「わかりません、村人の時は町の外で殺されて、ただ首元に血をすわれた跡があるだけでした。」
「もしかしたら、吸血鬼は騎士に恨みがあるのかもしれません」
考え込んだ様子で、タバサが推測する。
吸血鬼にとって人間は食料であり、血を吸ったらその場に捨てて置くのが多いとされる。
わざわざ、見せしめにすると言う事は怨恨と考えるのは間違いでは無い。
「騎士様が殺された事、村人のなかにグールがいるかもしれないと言う事で皆が疑心暗鬼になってしまったのです」
「だから、まずは村人全員をかまれた跡が無いか調べるのね、そうする事で、少しは明るくなるかもしれないのね」
タバサがあらかじめ考えていたプランをシルフィードが述べる。
「後、女子供はどこかに集めた方がいいのね、吸血鬼は女子供が大好きなのね」
「!」
その言葉を聞いて、エルザが体を震わせる。
「ごめんね、驚かないで、大丈夫おねえさんが守ってあげるから」
謝りながら、シルフィードが近寄ろうとするが、村長の反対方向にエルザが避ける。
262 :
ゼロの騎士団:2009/03/01(日) 21:31:28 ID:9cs5EcUZ
(ううっ、私、嫌われてるのね)
自身が好意を持っている少女に嫌悪されて、シルフィードが悲しそうな表情を浮かべる。
「集めるのでしたら、この家をお使い下さい。何室か客間はありますので」
「私が入口で見張りをします。何人かで交代すれば簡単には近づけないでしょう」
ゼータが入口の見張りを申し出る。中にタバサとシルフィードが居ればそう簡単には侵入できないだろうと踏んでの事だった。
「何だったらこいつを入口に磔にして置くといいのね、こいつならグールにもならないから安心なのね」
シルフィードが非人道的な案を嬉しそうに提案する。
それを聞いて、ゼータは呆れながらシルフィードに抗議する。
「シルフィード、私に対して厳しすぎないか?」
「うるさいのね、騎士に対して礼儀を払うのね、この馬鹿ガーゴイル」
桃色の髪の少女の常套句を真似しながら罵倒する。
彼女にしてみればゼータの事を使い潰すつもりでいたので、それでも足りないと感じていた。
「かまれた後なのですが、一部を除いては全員調べたのです」
「え!そうなの、けど、一部って?」
シルフィードはそれを聞いて、疑問に思う。
検査をしてくれたのは有難かったが一部とは何かしらの問題を抱える事では無いか?そんな考えが頭の中をよぎる。
「一部と言うのが、問題なのでして、最近やって来た親子なのですが母親の体調が悪いと言って、
検査を拒否したのです。元から、外部から来たと言う事もあり、それで尚の事不安を持ったのです。」
閉鎖社会では外部から来た新参と言う物は歓迎されにくい、
ましてや、この状況下で検査を受けないとあっては他の住人の不安を煽るのは仕方のない事であった。
「わかりました、私達が話してみます。村長は皆さんにここに集める話をして下さい。」
「はい、わかりましたくれぐれも穏便にお願いいたします。」
村長と話を終えて、聞いていた親子の家の前にたどり着いた。
「ここがそうなのね……」
(普通の家なのね)
比較的新しい空き家に引っ越して来たらしく、その家は汚れ等が目立つ物では無かった。
壁が少し汚かったが、それでもそれほど気になる物でも無い。
「吸血鬼がいかにもな所に住む訳ねぇだろうが」
「うるさいのね、ナマクラ」
シルフィードの考えを見透かしたように、デルフがからかい半分の声を上げる。
「とにかく、話を伺おう……御免ください」
ゼータが家のドアを叩く、すると中から屈強な体つきの男が出てきた。
「何なんだ、アンタ達は?」
鋭い目つきで男が三人をにらむ。寝不足なのか眼にはクマが出来ておりより一層の威圧感が増している。
こほんと咳払いを一つして、シルフィードは前に出て名乗りを上げる。
「私はガリアの騎士シルフィードなのね、あなたがアレキサンドルさん?マゼンダさんに会いたいのね」
「騎士!俺もお袋も吸血鬼でもグールでもねぇ!帰ってくれ!」
シルフィードの身分を聞いて、アレキサンドルが警戒を強くして声を荒げる。
「落ち着いて、それを調べたいのね、私達が調べれば、あなた達の不信感も和らぐのね」
「お袋は風邪で寝込んでいるんだ!いくら、アンタ達が騎士様とは言え」
「アレキサンドル、お客さんかい?」
二人が入口で言い争っている時に、部屋の奥から小柄な老婆がゆっくりと現れる。
263 :
ゼロの騎士団:2009/03/01(日) 21:31:51 ID:9cs5EcUZ
前かがみにして、ゆっくりとした歩調が体調の良くない事を感じさせる。
「その方達は?」
「私はガリアの騎士シルフィードなのね、あなた達の事を調べさせて貰いたいのね」
現れたマゼンダらしき老婆に、身をかがめてシルフィードが尋ねる。
「騎士様ですか、分りました。」
「大丈夫なのね、すぐに終わるのね」
さすがに、騎士と言う言葉の意味を知っているのかマゼンダがすぐに同意する。
「ガーゴイルはアレキサンドルさんを調べるのね」
シルフィードがうって変わって、偉そうな態度でゼータに指示を出す。
それに頷き、ゼータがアレキサンドルの方に向く。
「アレキサンドルさん、調べさせて貰ってもいいですか?」
「……わかった、お袋は弱いんだ、早く済ませてくれ」
親子は同意して、三人を中に招き入れた。外では、そのやり取りを窓からその様子を見ていた。
「こっちの方はオッケーだったのね、ガーゴイル、そっちは?」
「こっちも問題ない……と、言いたいが、アレキサンドルさんこの傷は何です?」
アレキサンドルの手をつかみ、変色した部分を見る。
ゼータが見た限り特に問題はなかったが、手の甲の一部が変色しており、その部分だけが気になった。
「これは火傷の跡だ、家事は俺がやるからできたんだよ、疑っているのか!?」
「……大丈夫、ただの火傷」
タバサが近くで確認して、問題ないとサインを出す。
「これであなた達は大丈夫なのね、私からも皆に言っておくのね」
その言葉を聞いて、二人は少しだけ安堵するがすぐに暗い顔に戻る。
「嬉しいが村の奴らは信用しません、俺達が外部の者だから……」
「ん、何か騒がしいのね」
アレクサンドルの声はそれでも喜びを持たなかった。
窓の外から声が聞こえて、シルフィードが窓を見やる。そこには、先ほどの男達が居た。
「あの人達、まだ懲りてないのね」
まったくと呟きながら、シルフィードが怒りながら出て行こうとする。
「我々も行こう、刺激するのは不味いな、すみません剣を持っていてもらえませんか?」
ゼータがデルフをマゼンダに手渡す。
「俺が代わりに持ちます」
アレキサンドルが代わりに持ち、タバサを除いて二人が出ていく。
窓から見やると、数人が抗議していたが、ゼータを見て渋々去っていく。
「もう、失礼しちゃうのね、もっと信頼してほしいのね」
戻って来て、シルフィードが不満の声を上げる。
シルフィードがあまり騎士らしく見えないせいか、村人も彼女にはあまり敬意を払っては居なかった。
「仕方ないだろう、アレキサンドルさん今日村長の家に子供を集めて、我々が警護します。
貴方にも参加してほしいのですが、よろしいですか?」
「いきなさい、アレキサンドル私は大丈夫だから」
渋るであろうアレキサンドルを察して、マゼンダが先に応える。
「……わかりました、騎士様達には感謝しています。」
家に石を投げつけられたり、前で声を上げたりする事が出来ずに去っていた村人を見て、
アレキサンドルも感謝の気持ちを表し、協力を申し出る。
「ありがとうございます。我々も、行きましょう」
タバサが二人を促し、マゼンダ親子の家を後にした。
264 :
ゼロの騎士団:2009/03/01(日) 21:32:19 ID:9cs5EcUZ
夕方
被害にあった家を調査して、村長の家に戻ると、若い女達と子供達が数十人集まっていた。
「結構いるのね、ちゃんと集まってくれたのね」
「お前の案じゃ、村人も信頼しないかも知れないからな」
子供達を嬉しそうに見るシルフィードをデルフが茶化す。
もしかしたら拒否されるかもしれないと考えたが結局は杞憂であった。
「騎士様のお連れのゼータ様を見て、みんな信頼してくれました」
昼間のゼータの剣を見て、シルフィードの力量をある程度は信用したらしい。
(けど、それじゃあ、あの青トンガリのおかげみたいなのね)
自身では無く、ゼータが主な要因を占める事にシルフィードは嫌悪感を示す。
「もうすぐ、夕食の時間です。そうしたらお呼びいたします」
三人に気を使い、村長は部屋を出ていく。
「お姉さまこれからどうするの?」
(変身して、色々あって今日は疲れたのね)
疲労からベッドにダイブしながら、シルフィードが聞く。
「これでそう簡単には手を出せない、けど待っているだけでは駄目」
タバサが何か考えているように見えた。
「タバサ、どうするのだ」
「こちらからアクションを示す、その為に……」
「そんな事をするのか!?しかし……」
ゼータはタバサの案を聞いて、驚きの声をあげる。
村長が迎えに来るまで、三人は話し合った。
玄関では子供達が食事をする為に集まっていたが、険悪な空気が流れていた。
「この、本当に使えない従者だね、お前は!」
その空気の中心はシルフィードであり、その圧力に周りの人々は心配そうに見ている。
「杖を踏むなんて、お前はメイジをなんだとおもっているのね」
「すみません」
杖でタバサを指しながら、シルフィードが難癖をつける。それに対して、タバサは唯、謝るばかりであった。
(おねえちゃん、怖いよ……)
(やっぱり貴族なのね……)
女子供達はシルフィードが温厚に見えるだけに、その怒りを見て余計に恐怖を抱く。
「アンタは罰として杖を磨いているのね、青トンガリ、アンタも見張っているのね!」
杖をタバサに手渡し、ゼータに監視を命じる。
暗い顔でタバサが出て行き、ゼータが後に続く。
(お姉さま、ごめんなのね)
内心では申し訳なさそうに、シルフィードが答える。
タバサを突き放し、尚且つメイジ役のシルフィードから杖を無くす。
これにより、ターゲットが二つに増えた事になる。
そして、杖を持ったタバサは魔法を使える事が出来、シルフィードは韻竜なので杖は必要ない。
シルフィードが不安な顔をする子供達に振り返る。
「ごめんなさいね、みんなは私が守るから安心してね」
近づきながら、子供達の頭をなでる。シルフィードの笑顔で子供達も笑顔を取り戻す。
「では、こちらに用意させていただきました」
「美味しそうなのね!頂きますなのね!」
タバサの謝罪も程々に、普段ではありつけないような食事にシルフィードは腕を伸ばした。
265 :
ゼロの騎士団:2009/03/01(日) 21:32:49 ID:9cs5EcUZ
「大丈夫かシルフィードは?」
外から聞こえてくる、シルフィードの浮かれた声に、携帯食料を食べながらゼータがタバサに聞く
酒が入っているのか、シルフィードは周りの子供達に抱きついている。
「おそらくはあなたを警戒して、すぐには動かない。あの娘は安全」
タバサが携帯食をかじりながら応える。
「そうか、では私は見張りの指示を出してくる」
「……いってらっしゃい」
(……珍しいな)
自身に、言葉を送るタバサを珍しく思いながら、男達のいる小屋に向けて、ゼータは歩き出した。
食事も終わり、数時間後、子供達も食事の片づけを終えた女たちも眠りにつく事にした。
ここ数ヶ月間の不安から解放されたかのように、皆がほとんど寝静まり返ってしまった。
その中で、タバサとエルザは同じ部屋で寝る事になった。
「お姉ちゃん、眠くないの?」
同じ布団にくるまりながら、エルザが起きているタバサに声をかける。
「大丈夫、眠くないそれに、吸血鬼が来たら騎士様を起こさなきゃいけないから」
「大変なんだね、お姉ちゃんは風のメイジなの?」
タバサが首を横に振る。少し眠気が無くなってきたのか、エルザの目が大きくなる。
「私ね、メイジって嫌いなの」
「どうして?」
タバサが聞くと、エルザが暗い顔で俯く。
「私ね、お父さんとお母さんをメイジに殺されたの、怖かったの」
タバサに抱きつきながら、エルザが服を強く握る。
「あの方は優しいから、きっと守ってくれるわ」
タバサが、やさしく頭を撫でるとエルザが嬉しそうな顔をする。
「うん、ゼータお兄ちゃんもいるからね、
私ゼータお兄ちゃんみたいの初めて見たの、とっても驚いたけど優しかった」
エルザは恐怖を紛らわすかのように、タバサに積極的に話しかける。
「すこし、出かけてくる。すぐ戻るからここにいて」
エルザの話が尽きかけた頃、タバサが立ち上がる。
「ちゃんと帰ってきてね」
不安そうに、エルザがしがみつく。タバサは頭を撫でて部屋を後にした。
266 :
ゼロの騎士団:2009/03/01(日) 21:33:19 ID:9cs5EcUZ
「呑気なもんだねぇ、騎士様は美味いもん食って、俺らに見張りをせて自分はベットの上か」
明かりと気配のない部屋を見ながら、見張りの男が呟く。
(シルフィードの奴、本当に寝ているな)
おそらく寝ているであろうシルフィードに、ゼータは舌打ちする。
「こうして見張っていれば、そう簡単には襲ってこないだろう」
「なんたってグールはここにいるからな」
男は含んだ物言いと視線で、ゼータの隣の方を見やる。
「なんだと!」
ゼータの呼びかけに応じて見張りに来たアレキサンドルがそれに応戦する。
「よさないか、二人の検査は終わったのだ、もうすぐ交代の時間だ、私はアレキサンドルを送る。」
「へいへい、監視をお頼みしますよ」
嫌々に応じる男を無視して、二人はマゼンダの家に向けて歩き出した。
「くそっ!アイツらまったく信用してねぇ」
アレキサンドルが先程の男の態度が気に食わないのか、その辺の草を蹴る。
「この辺りか……」
「ん?どうした!……」
アレキサンドルには何が起こったのか解らなかった。
「芝居は終わりにしてもらおうか」
「ウッ ウグァ……」
デルフで胸を貫かれて、アレキサンドルはそのまま絶命した。
「ふぅ、分かっていても、こう言う真似はしたくはないな」
仕事を終えて一息つきながら、ゼータは愚痴をこぼす。
「下手に騒ぎになるよりかいいだろ」
刀身を布で拭かれたデルフが鞘を鳴らす。
「……これも作戦、それにグールになった人間は倒すしかない」
森の奥から、タバサがやってくる。
ゼータは最初この作戦を反対したが、村人を犠牲にしたくない事そして、穏便に済ませる事を説得され仕方なく同意した。
「しかし、相棒もやるもんだね、グールかどうか俺を使って調べるなんて」
「お前と初めて会った時、私の事に気付いたからな」
ゼータがさっき、マゼンダに剣を手渡したのはデルフを使い二人が吸血鬼かどうか調べる為であった。
デルフは握っただけで、力量などの情報を瞬時に解析する。
だから、違和感があればすぐに気がつくと思いこの作戦を実行したのだ。
「これで、吸血鬼も動かざる負えなくなる」
「だといいがな……しかし、マゼンダさんに真実を言うのは辛いな」
アレキサンドルを魔法で火葬し、地面に埋めて二人は供養した後、村長の家に戻って行った。
267 :
ゼロの騎士団:2009/03/01(日) 21:34:01 ID:9cs5EcUZ
日も明けた翌日
何かしら動きを見せるであろう事態を動かしたのは、吸血鬼では無かった。
「おい!何をやっているんだ!」
朝食を終えて、昨日の調査の続きを行おうとして村を巡回している際に、
三人が見た物は焼けているマゼンダ親子の家であった。
「何をしている!早く消さないか!?」
周りにいる村人に、ゼータが檄を飛ばすがその反応は鈍い物であった。
「ふざけるな!せっかくあの吸血鬼を閉じ込めたんだ、このまま焼き殺すにきまっているだろう!」
「まさかっ!マゼンダさんを!あなた達が火をつけたの!?」
この部屋の主がまだ中にいる事を知り、シルフィードが呆然とする。
「こうしては居れん!」
デルフを手に持ち扉を壊して、ゼータが中に突入する。
「何てことするの!?あの人は吸血鬼じゃないのに」
「嘘をつけ、アレキサンドルはグールだったじゃないか!?」
「な!なんでそんな事知っているのね」
三人しか知らない秘密を知り、シルフィードが驚愕する。
「今朝、村の中央にアレキサンドルの死体があったんだ!?奴はグールだったんだ!胸には剣で貫かれた跡が有った、
昨日あのガーゴイルとアレキサンドルが一緒に行くのを見た奴がいたんだ、アイツが殺したんだろ!」
証拠を見つけて、男が嬉しそうに声を上げる。
「確かに彼はグールだったのね、けどマゼン「シルフィード!」」
シルフィードの言葉を遮り、家の中からゼータが飛び出す。
「どうした、吸血鬼の死体でも見つけたか!」
数人の村人が自身の戦果に嬉しそうに声を上げる。
しかし、ゼータはそれを聞いても顔色が変る事が無かった。
「マゼンダさんがいないんだ!」
「なんだって!?」
ゼータの報告にその場にいた全員が驚愕する。
数時間後、燃え尽きた家からはマゼンダの死体は見つからなかった。
「結局見つかりませんでしたな……」
捜索開始から2日後の夜、村長は何かを望むような口調で呟いた。
家が燃え尽きた後、村人達は捜索チームを組んで、周辺を探索したが結局マゼンダは発見でき無かった。
デルフリンガーで吸血鬼では無い事を知っていたゼータ達は体の弱いマゼンダが遠くに行けない事は解っていたが、
だからこそ彼女の行方が知れない事が逆に不安であった。
「きっと、逃げたのさ!騎士様達に簡単にグールを殺されたんだからな」
村人の一人が希望的観測を述べる。
昨日からの捜査の疲労と村人が襲われなかった事もあり、そう言った空気が村人たちを支配していた。
ゼータ達がアレキサンドルを倒し、マゼンダが居なくなった事で村人たちは精神的な負担から解放されつつあった。
(マゼンダさんが居なくなったが、彼女は吸血鬼では無い。しかし、まだこの中に吸血鬼が居るかも知れない……)
ゼータは集まった村人の様子を見てから、隣にいるタバサを見やる。
タバサは何か考えがあるのか、ゼータにデルフの事を口止めしていた。
(今回の件は何かがおかしい、タバサはそれに気づきつつあるように見える)
結局、疲労もありいったん捜査は打ち切りと決まった。そして、三人は村長の家に着くなり、村長に呼び出された
268 :
ゼロの騎士団:2009/03/01(日) 21:35:21 ID:9cs5EcUZ
「事件は解決ってどういう事なのね!?」
村長から切り出された言葉を聞いて、シルフィードが机を叩く。
三人を呼び出した村長は、三人に対して事件は解決したのでお引き取りを願ったのだ。
(やはり、そう言う事か……)
村長に呼び出された時点で、ゼータは村長の提案にはさほど驚いていなかった。
彼らは吸血鬼云々と言うよりも、マゼンダ親子を内心では疎ましく思っていた。
そして、それが居なくなった事により、安心と願望から逃避を行おうとしているのだ。
「しかし、グールのアレキサンドルがうち取られて、マゼンダ婆さんが行方が分からなくなりました。
村人のなかにはかまれた跡がある物はおりませんし、
村人のなかに吸血鬼が居ればそもそも、我々は全員がグールになってこうしてお呼びする事は出来ません」
村長が申し訳なさそうに、もっともらしい事を言う。
「だからって、まだ吸血鬼が居なくなった訳じゃないのね」
「解っております。しかし、その……言いにくい事なのですが……」
村長は口を濁らせながら、三人を見る。
「村の人たちが、私達を追い出そうとしているのですね……」
何かを察したように、タバサが村長の言葉を代弁する。
(成程、やはりそこに行き着くか)
ここ数日の気配に気づかないほどゼータは鈍感では無かった。
村と言う閉鎖社会では情報の少ない物、得体のしれない者は疎外される。
これまで、マゼンダ親子がその最有力であったがそれがなくなった事により、今度はゼータ達に矛先が変わったのだ。
「我々がお呼びしといて申し訳ないと思っています。
しかし、もう村人たちも限界なのです。一刻も早く元の暮らしに戻りたいのです。」
村長が机に頭がつくくらい頭を下げる。その様子は後ろめたさを本人でも感じているのが見て取れた。
「……解りました。しかし、引き継ぎの為に他の王国の騎士を呼ばねばなりません。
それまでは、村の警護を兼ねて滞在させて頂きます」
タバサが、シルフィードに変わり提案する。
「分りました、それまではここにお泊まり下さい。せめてもの礼を尽くさせていただきます」
心からとまではいかないが、それでもどこか安心したような笑顔でタバサの提案に応じた。
村長が出て行った後も、三人の空気は緊張を保ったままだった。
「お姉さまどうするの?まだ解決したわけじゃないのね」
「そうだな、それに先程から何か考えがあるようだな、タバサ聞かせてくれないか?」
心配そうなシルフィードと、ゼータがタバサの考えを拝聴しようとタバサに詰め寄る。
タバサはディテクトマジックで、周囲を確認した後、二人に顔を近づける。
「この事件は……」
そうして、二人に自身の考えを述べながら夜は更けていった。
269 :
ゼロの騎士団:2009/03/01(日) 21:36:10 ID:9cs5EcUZ
翌朝、村の入り口には三人の人影があった。
「じゃぁ、行ってくるのね、馬車馬のように走るのね、任務が終わったら死んでもいいのね」
「無茶苦茶な事を言わないでくれ、では、行ってくる」
シルフィードの無茶な物言いに、ゼータが呆れながら応じた後、馬を走らせる。
「どうかなされたのですか?」
「王国の連絡の為に、あの青トンガリを行かせたのね、数日で騎士が来るのね」
シルフィードがゼータに命令出来た満足感から、嬉しそうな声で応じる。
「そうですか、朝食が出来ましたのでお越し願いますか?」
「行く!行くのね」
自身の好きな単語を聞いて、シルフィードが村長を置いて駆け出す。
「村長、実は……」
朝食を終えた後、シルフィードは疲れていると言って、家のベッド昼寝を開始した。
「人間の姿でベッドに入るって、とっても気持ちいのね……」
その言葉と共に、彼女はあっさりと意識を旅立たせてしまった。
タバサはそんな彼女の頭をなでる。
「おねえちゃん」
扉を開けて、エルザが入ってくる。
「あのね、森にお花を摘みに行きたいの、一緒に付いてきてくれる」
「……うん」
タバサはシルフィードに毛布をかけて、部屋を後にした。
事件が解決した喜びが、森を歩きながらもタバサの耳に届いていた。
「みんな嬉しそうだね、吸血鬼が居なくなったからかな」
手をつなぎながら、嬉しそうにエルザがはしゃぐ。ここ数日で、エルザはシルフィードでは無くタバサに懐いていた。
そして、その事でシルフィードはゼータに当たり散らしていた。
「お姉ちゃん、口笛上手だね」
タバサが何気なく口ずさんでいる口笛を聞いて、エルザが感想を述べる。
「お父様に習ったの……」
「お姉ちゃんのお父さんはどうしているの」
「……死んだ」
短い一言であったが、その一言はとても力強かった。
…さるさんかな?
271 :
ゼロの騎士団:2009/03/01(日) 22:03:00 ID:9cs5EcUZ
「ごめんなさい、けどもう大丈夫だよ……」
彼女が笑顔を見せる。
「……私がずっと一緒だから!」
彼女の眼が見開く。そして、タバサを植物の枝が絡め捕る。
「吸血鬼………!」
「おねえちゃん、安心してこれからはずっと一緒だよ」
拘束された、タバサの目を見ながら、嬉しそうにエルザが頬を撫でる。
「後、ゼータお兄ちゃんが伝令行ったのはウソでしょ?」
「!?」
タバサの顔に驚きの表情が浮かぶ。
「やっぱり、お兄ちゃんが行ったふりをして、おびき出そうとしたんでしょ、けどね……」
エルザがさらにタバサに顔を近づける。
「お兄ちゃんなら……もう死んでるよ、あの悪魔によってね」
彼女の嬉しそうに笑った顔には、吸血鬼の証しである2本の牙が見えていた。
「27 突然、アレキサンドルが襲いかかって来た!」
グール アレキサンドル
凶暴化して襲い掛かる。
HP 280
「28 お姉ちゃん、ずっと一緒にいてあげる!」
吸血鬼 エルザ
ついに、本性を現す。
MP 580
以上で投下終了です。
3話は次回で終了です、ありがとうございます。
乙です
シルフィひでえw
原作と微妙に違うっぽい謎の部分が楽しみ
騎士団の人乙!!
この謎の部分がガンダム成分なのか?
アルガス編で狡猾そうな奴と言えば、メドューサキュべレイとかだろうか?
‥‥等と妄想が止まらないw
>>212 >>249 んなこと言っても、星人1人倒すために石油コンビナートを壊滅させたり、
武器にするために煙突をへし折ったりする兄弟たちがおるんだがね。
2分44秒しか戦えないから仕方ない
騎士団の人乙です。
原作読んでるのに先が読めない謎っていいですよね
0:30頃から投下させてください。
アクセス規制食らってたんで久しぶりな気がします。
うおおおおおおおおおお!!ずっと待ってたんだぜ!!
それでは投下します。
※※お願い※※
今回から2〜3話ほど『マテリアル・パズル』を読んでいる人にとって、微妙に先の展開を予想させるような表現・セリフがあったりしますが
なるべくネタバレしないでくれると嬉しいです。
あくまで『なるべく』です。強制はしないし、できません。
ついに杉小路の見せ場がきたか
ごめんなさいなんでもないです、すいません
ブルドンネ街は、王都トリスタニアで一番大きな通りである。
真っすぐトリステインの宮殿まで続く白い石造りの通りには、露天や酒場が溢れ、大勢の人が行き交っている。
そんなブルドンネ街から一本入った通り、チクトンネ街の一角に、酒場『魅惑の妖精』亭があった。
一件ただの居酒屋なのだが、可愛い女の子がきわどい格好で飲み物を運んでくれることで人気のお店であった。
酒場の二階は小さな宿になっていて、その一室には、アルビオンから戻ったばかりのキュルケとタバサとギーシュ、そして眠っているルイズとティトォの姿があった。
シルフィードに乗ってアルビオンを脱出した一行は、ラ・ロシェールの町を飛び越して、そのままトリスタニアに飛んできたのだ。
シルフィードは幼生とはいえ立派なウインドドラゴンであるので、一日中飛び続けてもまだまだ元気であった。
しかし背中に乗っているタバサたちはそうもいかず、アルビオンからの長旅にすっかり疲れてしまっていた。
ティトォとルイズも眠ったままなので、一行は王宮へ報告に行く前に、宿をとって休むことにしたのである。
「なに、宿を取る?それならいいところを知ってるよ!」
そう言って『魅惑の妖精』亭を紹介したのはギーシュであった。
「いらっしゃいませ〜〜〜〜!あらあらまあまあ、これは貴族のお嬢さんがた!まあ綺麗!なんてトレビアン!店の女の子が霞んじゃうわ!」
店に入ると、背の高い、筋骨隆々の、ぴったりとした革の胴着を身に付けた男が出迎えた。『魅惑の妖精』亭店長のスカロンである。
やたらと身をくねらせるその姿は、まるでオカマであった。というか、オカマそのものであった。
タバサは無表情ながらも、若干げんなりした顔になっていた。
キュルケはというと、多少は面食らっていたが、世間慣れしているのですぐにそういう人なのだと受け入れたようだった。
「あら、お久しぶりね、貴族のおにいさん!最近来てくださらないから寂しいわ!本日はどうぞ楽しんでいってくださいましね!」
スカロンがギーシュに声をかけた。
「楽しんでいってくださいませ!」
店の女の子たちも、ギーシュに声をかけた。輝くような笑顔の女の子たちは、まるで下着姿のようなきわどいビスチェで身を包んでいる。
キュルケは、ややじとっとした目でギーシュを見る。
「あんた、こんな酒場に入り浸ってるわけ?」
「まあその。……たしなみとしまして」
ギーシュは真顔になって、優雅な仕草で言った。
「たしなみとしまして」
しかしその視線はあさっての方向を向いていた。
ギーシュはスカロンに頼んで、酒場の二階の部屋を宿として借りた。
アルビオンを脱出してからずっと眠ったままの、ルイズとティトォを寝かせる。
ティトォは頭に怪我をしていたので、タバサが『水』の魔法で治療した。
タバサは『水』の系統ではないので、あまりしっかりとした治癒の魔法は使えなかったのだが、ギーシュも宝石の精霊を使って治療を手伝った。
カルサイトとスモーキーウォークの宝石には、傷を治す精霊が宿っているのである。
二人のおかげで、ティトォの傷はすっかり消え去った。
そんなふうにして身体を休めていると、やがてルイズが目を覚ました。
「う……、ここは……」
そうだ、アルビオンから脱出して……
ルイズがむくりと身を起こした。しかし次の瞬間、
「あがごげ」
ルイズはうめいて悶絶した。身体強化の魔法で、普段使わない筋肉を酷使したので、ルイズは全身筋肉痛に襲われていたのである。
床をのたうちながら辺りを見回すと、そこは簡素な作りの部屋だった。小さなベッドが置かれ、その上にはティトォが寝かされていた。
「あら、お目覚め?」
キュルケがルイズに声をかけた。
そちらを見ると、キュルケは椅子に座って爪の手入れをしていた。すぐそばにはタバサもいて、本を読んでいた。ギーシュは机に突っ伏して、うとうといていた。
ルイズはキュルケを睨みつけた。床に寝かされていたせいで節々が痛かった。
「キュルケ!なによこれ!なんでわたしが床で、ティトォがベッドなの!使い魔とかそういう以前に、なんで女が床で男がベッドなの!ありえないでしょ!」
「ティトォは怪我をしてたのよ。あなた、傷一つないじゃない。怪我人がベッドよ」
なるほどルイズの身体には、すり傷ひとつなかった。
しかし、アルビオンでルイズは裏切り者ワルドと激しい戦いを繰り広げたのである。
風の槌で殴られ、風の刃で肌を切られ、一度など心臓まで止まった。
それらの傷は、ティトォが魔法で跡形もなく消してくれたのだ。
で、あるので、ルイズの身体は、筋肉痛を除けば健常そのものであった。
対してティトォは、頭に怪我をしていた。ルイズが逃げる時に階段に頭をぶつけたせいである。
そのことは申し訳ないと思うけど……
「……なにかしら。ものすごく納得いかないわ」
ルイズは憮然としてこぼした。
「ていうかね、なんでこんなベッドがひとつしかないようなボロ部屋取ってんのよ。もっといい宿にしなさいよ」
「しかたないじゃない。あたしたち今手持ちがないの」
「はあ?なんでよ」
ルイズが顔をしかめて尋ねる。
するとギーシュが「うおっほん!」と、わざとらしい咳払いをした。ギーシュはなんだか目をそらしていた。
ルイズは首をかしげたが、やがて痛む身体に鞭打って立ち上がった。
「あら、どこへ行くの?ルイズ」
「姫殿下にご報告にいくのよ」
「あんたって生真面目ねえ。もう少し休んでからにしなさいよ、疲れちゃったわ」
「あんたたちは来ないでいいわよ、これはわたしが請け負った任ですもの。あんたたち勝手に着いてきただけじゃない」
「いったい、どんな任務だったのよ」
ルイズはふいと目を逸らした。キュルケが自分たちを先へ行かせる為に囮になったことを思い出して、話すべきかどうか少し迷ったが、やっぱり極秘の任務のことを教えるわけにはいかないのだった。
キュルケは眉をひそめ、それからギーシュの方を向いた。
「ねえギーシュ、あなたは最初からルイズに着いていってたわよね。アンリエッタ姫殿下が、あたしたちに取り戻せと命じた手紙の内容を知ってるんでしょ?」
ギーシュは薔薇の造花をくわえて、目をつむって言った。
「そこまではぼくも知らないよ。知ってるのはルイズだけだ」
「ゼロのルイズ!なんであたしには教えてくれないの!ねえタバサ、あなたどう思う?なんだかとってもバカにされてる気がするわ!」
キュルケは、本を読んでいるタバサを揺さぶった。タバサはされるがままに、ガクガクと首を振った。
ルイズはそんなふうに騒いでいる一同を残して、ドアの方へ向かっていった。
「じゃあね、行ってくるわ。すぐ戻るから」
隣国アルビオンを制圧した『レコン・キスタ』が、次はトリステインに侵攻してくるという噂を受け、王宮の警備は厳重になっていた。
アンリエッタにも、いつもなら簡単に拝謁できるというのに、王宮の門をくぐるまでに何度も厳重なチェックを受けた。
ディテクト・マジックで『魅了』の魔法などで何者かに操られていないか、魔法で化けていないかなど厳しい検査をいくつも通り抜けて、ようやくルイズはアンリエッタに目通りを許された。
王宮の執務室で、アンリエッタはルイズを出迎えた。
「ごめんなさいね、みんな不安なのよ」
ルイズの疲れた顔を見て、アンリエッタは苦笑する。
それからルイズに駆け寄ると、その身体をひっしと抱きしめた。
「ああ、無事に帰ってきたのね。嬉しいわ、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ……」
「いだだだ!姫さま!ごめんなさい!痛い!離し痛い!」
ルイズは全身筋肉痛の身体を抱きすくめられて、悲鳴を上げた。
「あら!ごめんなさい!まあ、いやだわルイズ。ずいぶんと大変な旅だったようね……」
アンリエッタはルイズを来客用の椅子に座らせると、得意の水魔法でルイズの身体を流れる水を操り、ルイズの疲れを癒した。
姫殿下にそんな真似をさせるなんて!とルイズは恐縮したが、「いいのです。わたしのわがままで危険な目に合わせてしまったんですもの。これくらいはしないと、罰が当たるわ」というアンリエッタの言葉に素直に従った。
治療を受けながら、ルイズはアンリエッタに事の次第を説明した。
道中、キュルケたちが合流したこと。
アルビオンへと向かう道中、空賊に扮したウェールズと会ったこと。
ウェールズ皇太子に亡命をすすめたが、断られたこと。
そして……、ワルドと結婚式を挙げるために、脱出艇に乗らなかったこと。
結婚式の最中、ワルドが豹変し……、ウェールズに襲いかかり、ルイズが預かった手紙を奪い取ろうとしたこと……。
「あの子爵が裏切り者だったなんて……。まさか、魔法衛士隊に裏切り者がいるなんて……」
アンリエッタは青い顔で話を聞いていた。ルイズはポケットから手紙を取り出すと、恭しく差し出した。
「しかし、このように手紙は守り通しました。ワルドを退け、皇太子の御身も守り抜きました。『レコン・キスタ』の野望……、ハルケギニアを統一し、エルフから『聖地』を取り戻すという、大それた野望はつまずいたのです」
無事、トリステインの命綱であるゲルマニアとの同盟は守られたのだ。
しかし、命を救われたウェールズが、最後まで父王に殉じたのだと聞くと、アンリエッタは悲嘆にくれた。
「あの方は、わたしの手紙をきちんと最後まで読んでくれたのかしら。ねえ、ルイズ」
ルイズは頷いて、短く肯定した。
「ならば、ウェールズ様はわたくしを愛してはおられなかったのね」
アンリエッタは、寂しげに首を振った。
「ではやはり……、皇太子に亡命をお勧めになったのですね」
ウェールズは頑に「アンリエッタはわたしに亡命を薦めてなどいない」と否定していたが、やはりあれは嘘だったのだ。
「ええ。死んでほしくなかったんですもの。愛していたのよ、わたくし」
アンリエッタは水の魔法の治療を終えると、呆けた様子で椅子に座り込んだ。
「わたくしより、名誉の方が大事だったのかしら。みっともなく落ち延びるより、誇り高い死を望んだのかしら。ねえ、ルイズ」
「わかりませんわ」
ルイズは別れ際の、ウェールズの言葉を思い出していた。「アンリエッタに伝えてくれないか。ウェールズは勇敢に戦い、勇敢に死んでいったと」そう笑顔で言った王子様のことを、思い出していた。
「わたしには、殿方の理屈はわかりませんわ」
ルイズは目を伏せて言った。
しばらくの間、沈黙が部屋を包んだが、やがてアンリエッタがルイズに声をかけた。
「……ごめんなさいね、困らせてしまって。どうかそんな顔をするのはやめてちょうだい、ルイズ。あなたは立派にお役目通り、手紙を取り戻してきてくれたのです。誇りに思ってほしいわ」
「でも……、わたしがもっと強く、皇太子を説得していれば……」
「わたくしは亡命を薦めてほしいなんて、あなたに言ったわけではないのです。あなたが気にすることなんてないのよ」
それからアンリエッタは、にっこりと笑った。
「わたくしの婚姻を妨げようとする暗躍は未然に防がれたのです。我が国はゲルマニアと無事同盟を結ぶことができるでしょう。そうすれば、簡単にアルビオンも攻めてくるわけにはいきません。危機は去ったのですよ、ルイズ・フランソワーズ」
アンリエッタは努めて明るい声で言った。
ルイズはポケットから、アンリエッタにもらった水のルビーを取り出した。
「姫さま、これ、お返しします」
アンリエッタは首を振った。
「それはあなたが持ってなさいな。せめてものお礼です」
「こんな高価なもの、いただけませんわ」
「いいから取っておきなさいな。今回の任は密命ゆえ、表立って褒章を与えるわけにいきません。そんなものくらいしか授けられるものがないのよ、どうか許してちょうだい」
「そんなもの」とは言っても、売れば立派な庭付きの家が買えるであろう宝石だ。ルイズは恐縮し、受け取った。
それから、ウェールズから預けられた指輪のことを思い出し、反対のポケットからそれを取り出した。
「姫さま。これ、ウェールズ様から預かったものです」
アンリエッタは、その指輪を受け取ると、目を大きく見開いた。
「これは、風のルビーではありませんか」
「はい。別れ際、姫さまに渡してほしいと託されたものです」
「そうですか……」
アンリエッタは愛しそうに、そして少し寂しそうに、その指輪を撫でた。
アンリエッタがルビーを左手に通し、呪文を呟くと、リングの部分がすぼまって、アンリエッタの薬指にぴったりになった。
「ありがとうね、ルイズ。ウェールズ様の形見をわたくしに届けてくれて。これがあれば、わたしもう何も怖くはないわ」
アンリエッタは微笑んで言った。
「あの人は勇敢なる死を選んだけれど……、わたしは生きるわ。困難があっても、きっと勇敢に生きてみせる。わたしは女ですもの、生き急ぐ殿方の理屈はわかりません。でもそうすれば、ウェールズ様の魂に、わたしなりに近付くことができると思うの」
ルイズが『魅惑の妖精』亭に戻ると、ティトォが目を覚ましていた。
疲れていたキュルケたちも、ティトォの魔法ですっかり回復していたので、一行はそのままシルフィードに乗って魔法学院へと飛んだ。
「それにしてもすごいね、きみの魔法は」
ギーシュが肩をぐるぐる回しながら言った。長旅の疲れがすっかり抜けていた。
「ほんとに。こんなに便利だと、なにか副作用があるんじゃないかって疑っちゃうわ」
キュルケも感心したように呟く。
「副作用かあ、そういえば、そんな感じのものもちょっとだけあるなあ」
「ええ!こ、怖がらせないでくれよ!一体どんな副作用があるって言うんだい?」
「あはは。心配しなくても、命に関わるものじゃないよ。ほんのちょっとした……」
「んもう!じらすのがお上手なのね、ダーリンてば!ねえ、いい加減教えてくださらない?あなたたちが取り戻した手紙のこと」
ギーシュとティトォの間に、キュルケが割り込んできた。
手紙の内容に関して、ルイズがだんまりを決め込んでいるので、キュルケは今度はティトォに標的を変えたようだった。
ティトォがなにか言うより先に、ルイズがティトォの襟首を引っ掴んで引き寄せた。
ルイズはキュルケをじろりと見て「ご・く・ひ・に・ん・む・よ!」と一言ずつ区切って言った。
つまんないつまんなーい、と騒ぐキュルケを放って、ルイズはティトォを睨みつけた。
「そんなに睨まないでも、しゃべったりしないってば」
ティトォがルイズに気圧されて言った。
「違うわよ。睨んでないわよ。……睨んでた?」
「うん」
「そんなつもりじゃないのよ、ただね、あんたに言っておきたいことがあって」
そう言ってルイズはティトォを睨みつけた。本人は睨んでるつもりはないのだが、慣れないことを言うつもりなので、ついこんな顔になってしまうのだった。
「……その、ごめんね。あんたの頭のこと」
ルイズはもごもごと謝った。
ティトォは、何のことだろう?ときょとんとしたが、すぐにルイズが自分の頭を階段にさんざんぶつけたことを言っているのだと気が付いた。
「気にしてないよ」
ティトォはにっこり笑って言った。
ルイズはそんなティトォの顔を見て、言葉を続けた。
「ねえ、あんた。どうしてわたしを助けてくれたの?」
ルイズは、結婚式の前の日の夜、ティトォと喧嘩をしたことを思い出していた。
「ワルドに襲われたとき……、どうしてわたしを助けてくれたの?わたし、あんたにひどいこと言ったじゃない。でも助けにきてくれた。どうして?」
「どうしてって、あれはぼくも悪かったし。それに……」
ティトォは頬を掻いて、少し照れくさそうに言った。
「ルイズは友達だと思うから」
ルイズは目をぱちくりさせた。
「友達?」
「うん。アクアもあんな風だけど、結構きみのこと気に入ってるんだよ」
「はいはい、ご主人様」
ティトォは笑って、ルイズの頭をぽんぽんと撫でた。
「そういうのが気安いって言ってんのよお〜〜!」
むきー!とルイズが食ってかかる。
そんな二人の様子を見て、キュルケは「なんだかあの二人、兄妹みたいねえ」と言った。
タバサはいつも通り、興味なさそうに本を読んでいた。
そしてギーシュはというと、言い合っている二人に近付くと、ルイズに声をかけた。
「ルイズ。その、なんだ。聞きたいことがあるんだが……」
「あによ」
ギーシュは薔薇の造花をいじりながらルイズに尋ねた。
「姫殿下は、その、ぼくのことをなにか噂しなかったかね?頼もしいとか、やるではないですかとか、追って恩賞の沙汰があるとか、その、密会の約束をしたためた手紙をきみに預けたとか……」
ルイズはちょっとだけギーシュが気の毒になった。アンリエッタはギーシュの『ギ』の字も話題に上らせなかったからだ。
「その、なにか噂しなかったかね?」
突然突風が吹いて、シルフィードは身体を揺らした。
とと、とギーシュがバランスを崩したのを見逃さず、ルイズはそっとギーシュの身体を押した。
ギーシュは風竜の身体から落っこちて、ぎぃやぁああああああ、と絶叫した。途中でギーシュは杖を振り、『レビテーション』で浮かぶことができたので、危うく命を落とすことは免れた。
「ひどくない?」
ティトォが突っ込んだ。
「いいのよ、ギーシュだし。半日も歩けば学院に付くでしょ」
ニューカッスルの王城は、惨状を呈していた。城壁は度重なる砲撃と魔法攻撃で、瓦礫の山となり、無惨に焼けこげた死体が転がっている。
攻城に要した時間はわずかであったが、反乱軍……、いや、新政府『レコン・キスタ」の損害は想像の範疇を超えていた。
三百の王軍に対して、損害は三千。怪我人を会わせれば五千。
戦死者の数だけ見れば、どっちが勝ったかわからないくらいであった。
浮遊大陸の突端に位置した城は、一方向からしか攻めることができない。密集して押し寄せたレコン・キスタの大軍は、魔法と大砲の斉射を何度もくらい、大損害を受けたのである。
どうしようもない戦力差であるにもかかわらず、王軍の士気は高かった。ウェールズ皇太子が自ら先陣切って、王軍を導いたことが大きい。
対してレコン・キスタの士気は低かった。人間、勝ちの見えている戦となると、死にものぐるいで戦うよりも、生き伸びることを優先して考えてしまうものである。
しかし、所詮は多勢に無勢。一旦城壁の内側に侵入されると、王軍はもろかった。
なにせ王軍のほとんどはメイジであり、詠唱の時間を稼ぐ護衛の兵を持たなかったのである。
王軍のメイジたちは、群がるアリのような名もなき『レコン・キスタ』の兵士たちに一人、また一人と打ち取られ、散っていった。
敵に与えた損害は大きかったが……、その代償として、王軍は全滅した。文字通りの全滅であった。最後の一兵に至るまで、王軍は戦い、斃れた。
かくして、アルビオン革命戦争の最終決戦、ニューカッスルの攻城戦は、百倍以上の敵軍に対して、自軍の十倍以上の損害を与えた戦いとして、伝説となったのであった。
戦が終わった二日後、ニューカッスルの城。死体と瓦礫が散らばる中、死体から金目のものを奪い取る金貨探しの一団に混じって、戦跡を検分する長身の貴族がいた。
それは誰あろう、ワルドであった。水の治癒魔法で、全身に負ったひどい火傷の跡はほとんどが消されていたが、完全に治すことは難しく、今でも肌がちりちりと痛んだ。
「随分と手ひどくやられたみたいだね」
彼の隣に経つ女のメイジが、そういって薄く笑った。ワルドと合流した、土くれのフーケであった。
「言ったろ?あの小僧を甘く見るなってさ。なにしろあいつは、不思議な魔法を使う。攻撃力はないけど、あの魔法にわたしのゴーレムは倒されたんだ」
「ふん……、さすがは『ミョズニトニルン』と言ったところか」
ワルドは感情を抑えた声で嘯いた。
歩いていくと、ワルドの爪先が転がる死体を蹴飛ばした。足下を見ると、それは右半身が焼けこげたウェールズの死体であった。右の腕と足は完全に炭化していて、ワルドが蹴飛ばしたときの衝撃で、ばさりと崩れた。
フーケはその凄惨な死体に、思わず目を背けた。
「どうした?土くれよ。アルビオンの王家は貴様の仇だろうが。王家の名の下に、貴様の家名は辱められたのではなかったか?」
「そうね。そうなんだけどね」
フーケは冷たい声で言った。
「王様……、王子様って言っても、死ぬ時はあっけないもんだね」
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支援
やがて二人は、城の隠し階段を下り、ニューカッスルの秘密の港を発見した。その地面に開けられた大穴を見て、ワルドは思わず舌打ちをした。
戦跡にルイズとその使い魔の少年の死体はなかった。つまり、この穴を掘って、二人は逃げ仰せたのだろう。
ワルドの顔が怒りに歪む。ルイズを手に入れることと、ウェールズの命を奪う……ウェールズをあのとき確実に始末できていれば、レコン・キスタの損害がここまで大きくなることもなかったろう……こと。
この二つの目的を果たせなかった今、せめてルイズの死体からアンリエッタの手紙を奪おうと、戦跡検分に来たと言うのに……。
遠くから、そんなワルドに声がかけられた。
「子爵!ワルド君!件の手紙は見つかったかね?その、なんだ。アンリエッタがウェールズにしたためたと言うラヴレターは……、ゲルマニアとトリステインの婚姻を阻む救世主は見つかったかね?」
そういってやってきた男は、歳のころ三十代の半ば。高い鷲鼻を持ち、丸い球帽を被った、一見聖職者のように見える男。帽子の裾から、カールした金髪が覗いている。
「閣下。どうやら手紙は、穴からすり抜けたようです。私のミスです、申し訳ありません。何なりと罰をお与え下さい」
ワルドは跪き、頭を垂れた。
「なに!そうか……」
閣下と呼ばれた男は、あからさまに失望した表情を浮かべたが、すぐに人なつっこそうな笑みを浮かべて、ワルドの肩をぽんと叩いた。
「顔を上げたまえ、子爵。きみはこれまで、目覚ましい働きをしてくれたのだ。手紙の件は残念ではあるが、なに、きみのような優秀なメイジを、たった一度の失敗で罰することなどできはしないよ」
ワルドはかしこまった態度を見せ、謝罪を繰り返した。
「なに、同盟は結ばれてもかまわん。どのみちトリステインは裸だ。余の計画に変更はない」
ワルドは立ち上がり、会釈した。フーケはそんなワルドに身を寄せ、小声で尋ねた。
「ワルド、この人……、いえ、この方は」
「紹介していなかったな」
ワルドが恭しい態度で、球帽の男を指し示した。
「貴族議会の投票により、『レコン・キスタ』総司令官に着任された、オリヴァー・クロムウェル総司令……、つまりは、アルビオン新皇帝その人だ」
トリスタニアから学院に戻った次の日は、虚無の曜日であった。
ティトォはうきうきと図書館に向かっていった。久々に魔法学院の蔵書を堪能できるのが嬉しいのだろう。その足取りは今にもスキップしそうなくらい、浮かれていた。
ルイズは相変わらず好き勝手な使い魔にため息をついたが、アルビオンへの旅ではずいぶんとティトォに助けられたので、大目に見ることにした。
ルイズはというと、久々に厨房に顔を出すことにした。今度こそおいしいクックベリーパイを作りたかったし、それになんだか、シエスタの顔を見たかったのだ。
ルイズはトリスタニアからの帰り道、ティトォに言われた言葉を思い出していた。
「ルイズは友達だと思うから」
友達。
わたし、シエスタのことを友達だと思ってるのかしら。
シエスタはわたしによくしてくれるし、わたしの趣味のお菓子作りに付き合ってもくれる。おしゃべりの相手にもなってくれるわ。
でもでも、それはシエスタが使用人だから。メイドだから、わたしに従ってるのよね。
平民と貴族の友情なんて、おかしいことよね。
そう、恩義。わたしが感じているのは、わたしによくしてくれる、つまりシエスタの忠誠に対する、恩義なのよ。
忠誠には報いるところが必要だものね。
そんなふうに、誰にともなくルイズは言い訳した。
厨房に行くと、シエスタは快くルイズを迎えた。
それから二人は、パイ作りを始めた。ルイズはパイを作るのはまだ二度目だが、その前にクッキーやスコーンを何度か作っていたので、慣れた手つきだった。
数刻後、見事なクックベリーパイが焼き上がると、二人はお茶会を開いた。
切り分けられたパイを、パイくずが散らからないように、気をつけてかじる。パイ皮の、さっくりとした歯触りが心地良い。
前回は失敗しちゃったけど、今回は大成功ね。ルイズは満足げに、紅茶をすすった。
ふとシエスタを見ると、シエスタは真顔になって、手にした自分の分のクックベリーパイを見つめていた。
「……パイ皮はパリパリとして香ばしく、ふわっと軽い食感……、甘さもバターも控えめ、だからこそクックベリーの自然なおいしさが生きてくる。素朴でいて、なんて奥ゆかしい味わい……!」
シエスタの肩は、小さく震えていた。尋常ではないシエスタの様子に、「どうしたの?」とルイズが声をかけようとすると、シエスタが熱っぽい目でルイズを見つめてきた。
「……素晴らしいです、ミス・ヴァリエール。たったの二回で、ここまで素晴らしいパイを作り上げてしまうとは……」
「そ、そう?ありがと」
「このまま上達を続ければ、料理長のマルトーさんにも匹敵する職人に……、いえ、すでにマルトーさんを超えているやも知れません。ミス・ヴァリエール。あなたは天才、まさに天才です!」
誉められるのは悪い気分ではなかったが、シエスタの態度はいくらなんでも大げさに見えた。
ひょっとしておべっか使われてるのかしら?と疑念が浮かんだが、シエスタの顔は真剣そのものであった。
「ああ、許されるならずっとここに残って、厨房を支えてほしい……、いえ!むしろわたしの故郷にいらして!わたしの嫁になっていただきたいわ!」
「ちょ、ちょっとシエスタ。落ち着きなさい」
シエスタのあまりの剣幕に、ルイズは後じさった。そんなルイズを見て、シエスタは我に返る。
「……すみません、取り乱しました。不敬をお許しになって……」
しゅんとシエスタは肩をすくめた。いいわよ別に、とルイズが言うと、シエスタは嬉しそうにぺこりと頭を下げた。
「しかし、ミス・ヴァリエール」
シエスタは、また真顔になって言った。
「どんなパイの職人でも、越えられない壁があるのをご存知ですか?どんな天才でも、達することのできない域があることを」
シエスタの真剣な様子に、ルイズは思わずごくりと唾を飲んだ。
「越えられない壁?それは一体……」
「それは……」
シエスタは一拍置いて、厳かにその言葉を口にした。
「パイ神様です」
「パイ神様!?」
「そう……、パイ職人に突然降りてくる神のことです。神が降りてきた時に作られたパイは、すべてを超えた究極の芸術品!パイを超えたパイ、『スーパーパイ』です」
「スーパーパイ……」
「かく言うわたしにも、パイ神が降りてきたことがあります。そのとき作ったパイをわたしはまた作ろうとしました。しかし、無理でした」
シエスタは遠い目をして言った。
「気まぐれな神です。いつ降りてくるかもわからない。しかし、心の底からパイを愛し、パイ神に認められた者ならば、その力を手に入れることができるはずです」
す、とシエスタはルイズの手を握った。
「ミス・ヴァリエール。あなたならできるはずです。パイ神の力を自分の物とすることが……!」
どこまでも真剣なシエスタの瞳に見つめられ、ルイズは高揚にどくんと胸が高鳴るのを感じた。
「……わかったわ。できるかどうかわからないけど……、いえ、必ずできるわ!やってやる!」
「そうですか!パイ神を目指しますか!」
きゃあきゃあと嬉しそうにシエスタは跳ねた。
「ええ!もちろんよ!」
「まあ、まあ!それでは……」
シエスタはどこからか、羊皮紙に印字されたパンフレットを取り出した。
「このパイ神教に入会しましょう!」
「ええ!」
「月に一回この会報が発行されます!年に二回はパイの祭壇にて集会も開かれます!」
「ええ!」
「入会金は40エキュー!年会費は200エキューです!」
「ええ!」
「入信者にはもれなくパイ神ピンバッヂが付いてきます!」
「ええ!」
残念ながら、彼女たちを止めてくれるツッコミ役は、この場にはいなかった。
今回は以上です。途中の支援ありがとうございます。
乙!
シエスタ…身内はやっぱあの職人なのか?それにしてはもう一つ思い当たる人物が混じっているような…
マジ乙です
これは……www
乙です
たしかにこれはネタバレ厳禁すぎるwww
会費高いよ!
乙パイ
いっけね
>>283と
>>284の間に以下の文が抜けてました
ルイズは急に照れくさくなって、頬を染めてそっぽを向いた。
「はん!ととと、友達ですって?貴族相手に気安いったらないわ!そうよね、考えてみれば、あんた使い魔だもの。主人を助けるなんて当たり前なのよ。それを友達だからなんて、もう、ほんとに。ふんとに」
ルイズはぶつぶつと文句を言ったが、本気で嫌がっているようすではなかった。
ティトォに『友達』と言われたとき、ルイズはなんだか胸があったかくなった。
考えてみれば、ルイズは友達が少なかった。『ゼロのルイズ』と馬鹿にされ、そのたびツンケンと周りに噛み付いていたルイズの周りには、あまり人が集まらないのだった。
鋭い洞察力を持つわりに、人の心の機微にはわりと疎かったりするティトォだが、ルイズの態度は非常にわかりやすかったので、その文句が本心でないことは簡単にわかった。
なんか飛んだなと思ったら。改めて乙ネジ子かわいい
こんばんわ。
もう月曜日だというのに失礼します。
もしよろしければ35分ごろに投下したいと思います。
よろしくどうぞ。
聖樹、ハルケギニアへ―2
「・・・む」
ソファーで横になっていたエクスデスは、カーテン越しに伝わってくる明るさに目を覚ました。
むっくりと上半身を起こして左右を見渡す。
「異界に召喚されたのだったな・・・」
立ち上がって窓に近づくと、カーテンを開け光を全身に受ける。
窓を開ければ朝のさわやかな空気が全身を包み込んだ。実に清々しい。
両手両腕を回しながら腰をひねったりして全身を動かしていく、そうしていると体のみならず頭も覚醒してくるからだ。
「ファ〜・・・」
・・・意識せず気の抜けた声が出た。
何だ今のは、体験したことのない感覚に疑問を抱きつつも自分の身体に異常はないので捨て置くことにした。
気を取り直して窓の下を覗いてみると使用人だろうか、先日に見たメイジとやらとは異なる服装の人間が何人かぱたぱたと急ぎ足で行来するのが見える。
まだメイジ、いわゆる貴族は起きていないのかと窓から身を乗り出して左右を確認すると、いくつかは窓が開いていて幾人か人影も見える。
たまたま一人と目が合った。
窓に腰かけていたのだろう。こちらを見たまま後ろに倒れ窓から落ちそうになり、おぶおぶと手をばたつかせながらなんとか部屋に引っ込むとそのまま窓が閉まった。
どうやら全体的に起床時間のようだ。
ならばと下がると、自分を呼び出した少女が眠るベッドに近づいて覗き込む。
そこでは少女ことルイズが安らかな寝息を立てていた。
「主よ、目覚めの時だ。起きるがよい」
しかし返事はなく起きる気配も微塵もない。
「朝だ。そろそろ起きねばならんのではないのか?」
「・・・んぅ」
起きるどころかエクスデスとは反対側にごろりと寝がえりをうってしまった。
このまま放置しても良いのだが、それだとなんで起こさなかったの!などと言われかねない。昨日の様子から見るに十分考えられることだ。
仕方が無いのでルイズの肩をそっと掴んで仰向けにさせる。
そしてルイズの顔に自分の顔を近づけると。少し大きめの声で呼んだ。
「ルイズ。起きるがよい」
「はえ?・・・・・きゃあああああっ!!」
どばき
「ぶふぁっ」
起きたと思った途端、自分の顔面に拳が叩き込まれた。
ダメージにはならないが顔面に予想しない攻撃が入ると流石に怯む。
「だ、だだ、誰よあんた!どこから入ったの!?」
大丈夫か主よ。
「目が覚めたか、そろそろ起床の時だと思ったのでな。
そして私だ、エクスデスだ」
飛んでくる枕を片手で受け止め二個目ももう片方で受け止めながら答える。
「え・・・・あ、そそうだったわね。昨日召喚したんだっけ」
本当に大丈夫か主よ。
ルイズは混乱する頭を落ち着かせるため大きく深呼吸すると、目の前にいる使い魔に命じた。
「服」
しかしエクスデスは動かずその場に立ってルイズを見下ろしている。
・・・もしかすると怒らせただろうか。
ただでさえ大きな体なのに目元は真っ暗で表情も読み取れない、無言でいると強烈な威圧感も感じる。これなら悪態をついてくれたほうがまだましだ。
「・・・服をどうすればいいのだ?断片的に言われても分からん」
ああ、考えていて沈黙していたのね。
つまらない命令を下したことに憤慨して、昨日のような植物の化け物のような姿にでもなるのかとうっすら脂汗を浮かべていたルイズは胸をなでおろした。
「いろいろと初めてだから仕方ないわね、やり方を教えるから次からは覚えて動いてくれると助かるわ」
「うむ、私もそのほうがやりやすい」
「それじゃあ、まずはクローゼットの・・・」
十数分後、身なりを整えたルイズはカゴの中にぱっぱぱっぱと洗濯物を入れていくエクスデスの背中を見ていた。
簡単にお手本を見せると次には見事に仕上げていく様子からすると覚えはかなり良いようだ。
これなら戦闘以外も覚えさせていけばかなりの万能使い魔になるのではないかと感心してうんうんと頷いていた、が。
「さて、洗濯に赴くとするか」
そう言ってカゴをもつ手とは反対の手に剣と杖が合体したようなエクスデス自前の得物を持って行こうとしている。
「ちょっとちょっとちょっと!そんなの持って行くつもり!?」
「む?これは必要ではないのか?」
「洗濯と戦闘は違うの!」
なかなか譲らなかったエクスデスだが、ルイズがそれは止めなさい!と口うるさいのでやむなく従うことにした。
「それと。あんたは東の謎が多い領域、ロバ・アル・カリイエから来た旅芸人でこの格好は芸の一環だってことになってるから、誰かに出身とか身なりについて聞かれたらこう答えておきなさい」
昨日のうちにコルベールもその情報をそれとなく流したとのことだ、誰か教員に話す時にわざと目のつくところで会話し、通りすがりの生徒に聞かせる。
そこからどんどん話が広がっていくのを目論んでのことだ。
ルイズとエクスデスが部屋から出ると隣の部屋のドアが空き、中から見事なスタイルの褐色の女性が出てきた。
それを見たルイズが顔をしかめている。
「話は聞いていたけど、旅の芸人を召喚するなんてさすがはゼロのルイズね」
いざエクスデス=旅芸人ということで話されると本当のことを話したくて口元がむずむずしてくる。
「あなたもこんな子に呼ばれて旅を中断させられるなんて災難ね」
「気にはしておらん。急ぎでもないのでな」
しげしげと物珍しそうにエクスデスを見る褐色の女性ことキュルケ。
「私の名前はキュルケ。あなたのお名前は?」
「エクスデスという」
「よろしくミスタ・エクスデス。今度東の国の芸を見せてもらえるかしら」
「機会があれば披露しよう」
芸・・・・。木になれます!・・・・ますますむずむずしてくるルイズだった。
そのあとキュルケの使い魔のサラマンダー、フレイムの自慢話をさんざん聞かされてルイズはげんなりとしていたが、エクスデスは満更でもなくよく話を聞いていた。
「そういえばあんたのいた世界ってああいう生き物いた?」
「いわゆるドラゴンのような物ならば、色は異なるがミニドラゴンやイステリトスが大きさとしては先程のフレイムに近い。もっとも城にいてよく目にしたのははるかに巨大な体の物ばかりで、あれほど小さいというのはむしろ珍しい」
キュルケと別れて歩いていたルイズはエクスデスから各ドラゴンの説明を聞いて、好事家が聞いたら喜びのあまり気絶しそうだなと考えていた。
それを支配していたというのだから自分はとんでもない存在を召喚してしまったのではないかとも考えたが、まだエクスデスの実力を見ていない以上はまだ完全には信じ切れなかった。木になるのは見たが。
ルイズと別れていざ洗濯と行こうとしたとき、エクスデスは重大な箏に気がついた。
「洗濯の場はどこなのだ・・・」
場所を聞きそびれたエクスデスはカゴを持って周囲をうろうろと歩き回るがどこがどこなのかさっぱり分からない。
やはりルイズに改めて聞くかと元来た道を戻ろうとしたとき、一人の使用人と思われる少女が同じカゴを持って歩いているのが見えた。
分からないことがあればメイドあたりに聞けばいいとルイズも言っていた。
ならばこの機を逃すまいとエクスデスはカゴをわきに抱えると飛びあがり、宙を蹴って約100メイル程を一気にメイドに距離をつめ近辺に着地した。
「すまぬが洗濯の方法を教えてもらいたい」
「あ、は!はい!」
メイドは尻もちをついていた。無理もないだろう、ふと目をやると青い大きな何かがこっちに向かって突っ込んできたのだから。
「ここが・・・」
どんな儀式の場かと祭壇のような物を想像していたエクスデスは口から水を出す獅子の象と対峙した。
隣にメイドが桶を出して長い布を水につけて洗い始める、エクスデスはその様子を見ながらカゴの中の洗い物を出すと同じように洗い始めた。
同じように洗っていざメイドがふと目をやると、エクスデスが渾身の力を込めてネグリジェを絞らんとしているところだった。
凄まじいねじりが加えられていてこのままでは間違いなく引きちぎれる。
「あぁ!待って下さい!」
「なぜ止める!」
「肌着、特に女性物はそんなに乱暴にしては駄目です!」
エクスデスによじ登りながら手に持っているネグリジェをなんとか救出して、安堵すると
下から声が聞こえた。
「・・・事情を聞きたいので、降りてもらいたのだが・・・」
「え、あ!きゃあっ!すいません!」
自分の丁度胸の部分がエクスデスの顔面に当たっている。
いつの間にか当たっていてメイドは恥ずかしそうだったが、エクスデスは視界が塞がれていたのでとりあえず離れてほしかっただけである。
「私の名はエクスデス。東よりの旅の芸人だ」
「改めて、私はシエスタといいます。ミス・ヴァリエールの使い魔の方ですね。よろしくお願いしますね」
「成程、一重に洗濯と言っても万の方法が有るということか」
「そこまであるかどうかは分かりませんが・・・」
簡単な自己紹介の後悪戦苦闘しながらもなんとか洗濯は終わった。勢い余りエクスデスが頭から桶の水を被ったりもしたが。
「こちらはお預かりして後でお届けします。今度は各衣服の洗い方と乾かし方を教えますから一緒にやりましょう」
「頼もう」
「あと・・・さっきの空中移動は・・・魔法なんでしょうか」
「・・・東の国の一般的な芸の一つだ」
無理があると思いつつもなんとかごまかした。
シエスタに衣服を預けたエクスデスは、とりあえずこの後の事を聞こうとルイズが向かったというアルヴィーズの食堂へと向かうことにした。
食堂では祈りの唱和が終わりいざ食事というときだったが、ルイズは周りが騒がしいのに
食事に手をつける寸前で気づいた。
学生達がひそひそざわざわと自分を見てその後入口の方を見てと繰り返してまたひそひそざわざわとしている。嫌な予感がして入口の方を見ると見覚えのある巨体がこっちを見ていた。
特に何をするでもなく立っているだけなのだが、インパクトは強烈だ。
生徒たちだけでなく教師陣までもエクスデスを見てひそひそと話をしている。
そのまま放置するわけにもいかないので手招きをしてこっちに呼ぶ、エクスデスが悠然と歩んでくるとざわめきが止まりその姿を皆黙って見ていた。
(何で黙って立ってるのよ!入ってくればいいのに)
(他の者どもの使い魔が見当たらんのでな。ここは使い魔立ち入り禁止かもしれんと思ったのだ)
(ほんとは外だけど、あんたはわたしが許すわ)
身をかがめてルイズと小声で話すエクスデスはとても目立っていた。
「ところであんたはお腹減らないの?」
洗濯の経緯を報告し終えたエクスデスにルイズはふと疑問を尋ねてみた。
昨日は自分は部屋に届けられたパンを食べたが、エクスデスは特に必要はないと言っていた。
あの時はお腹が一杯だったから食べなかったのかもしれないけど、一日たって朝から何も食べてないのであれば空いているんじゃないかという考えからだ。
「いや、私は特に食事を必要とは・・・・」
きゅるるるるるるるる〜・・・・
エクスデスが答えようとしたその時、食堂にかわいらしい音が響き渡った。
会話が戻っていた食堂が再び静まり返る。
「今の・・・あんたのお腹の音・・・?」
「これは一体どういうこと」
・・・・・きゅるるるるるる〜!
・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・ぶっ
「「「「「「「「「「「あっははははははははははははははは!!!!!!!!」」」」」」」」」」
食堂が大爆笑に包まれた。
あの凶悪な外見の存在から信じられないほどの可愛らしい音。
生徒は笑いすぎて椅子から転げ落ちたり、突っ伏して机をばんばんと叩いている者等がいて、教師ほうでも口元を隠しながらや、くっくっとお腹を押さえながら懸命に笑いを抑えている者もいる。
エクスデスが何事かと思えばルイズまでも机にうつ伏せになってぶるぶると震えている。
必死だった。
「ルイズよ、これは一体何事だ。何故皆笑っているのだ」
肩を叩きながら聞いてくるエクスデスにルイズはひくつく顔を懸命に抑えながら顔を向けた。が、エクスデスの顔を見た途端あの音が再び再生される。
きゅるるるる〜・・・
もう無理
ルイズは腹筋が痛くなるほど笑ってしまった。
皆がなんとか笑いをこらえて落ち着くと今度はまた問題が発生した。
さっきの空腹の音で使い魔に食事を与えていないと冷やかされたルイズが、エクスデスに
パンとスープを与えたのだが、そのエクスデスの食べ方が気になった。
その場に座り込んでパンをむしり一口サイズにしているのだが。兜?を外す気配がない。
あの状態でどう食べるのかと、皆が注視しているのだ。
さあいざ口にと運んでいたエクスデスの手が不意に止まった、横で様子をわざわざ席から離れて見にきたマリコルヌに気づいたのだ。
「ルイズよ。どうやら私がいると落ち着かんようだ。やはり外に出る」
「え・・・。そ、そう」
のしのしと食道を出ていくエクスデスを見送ると。ルイズはマリコルヌを睨みつけた。
ルイズだけでは無く大半の生徒がエクスデスの食事の様子を気になったので、大人しく見てればいいのに余計な動きをしやがってと言わんばかりであった。
外に出たエクスデスは適当な木の根元に腰かけるとスープとパンを口にした。
そして満たされていく腹部の感じをなんと表現すればいいのかと悩んでいた。
(朝の時といい、この身体になにか異常が起きているのだろうか)
流れる雲を見つめながらしばし思案にふけっていた。
授業が行われる教室へと向かい、ルイズは席についてエクスデスは壁際に立つ。
ルイズは先程の食堂の件や旅芸人を召喚した件を適当にあしらいつつ答えていた。
一方エクスデスは様々な使い魔を見たりその主を見ていた。
キュルケと目が合ったときは手を振ってきたので軽く会釈をした。
が、それ以上にここにいるであろう、昨日からの視線の主の気配を探っていた。
シエスタと洗濯をしている時や、庭で食事をしているときにも感じた気配。
いっそのこと叩き潰してくれようかとも思ったが、ルイズとコルベールの手前それは控えた。しかし見られているというのも不快なのでなんとかここで見つけ出そうとしたのだが。
そこで周囲のざわめきに気がついた。
授業が始まって、魔法の事にも耳を傾けていて、何か虚無という単語が引っ掛かったが。
そのあとの実演で主ことルイズが石ころを何か別の金属に変えるというが・・・
短くルーンを唱え杖を振り下ろそうとしたとき、エクスデスは強烈な何かを感じた。
「!」
監視する者の正体探りをやめ一気にルイズの元へと跳んだ。
ルイズが閃光を見てさっと身を守る動作をし、惨状を恐る恐る確認しようとすると。
目の前にはばらばらになった机のみがあった。
その真横ではエクスデスが突き出していた手を下げるのが見える。
シュヴルーズは腰を抜かしていて目をぱちぱちさせていた。生徒達もこれはまた爆発だ失敗だと被害を被るのを覚悟したのだが、予想以下の損害にあれあれとざわついていたが、
「ま、まあ失敗だったな。やっぱりゼロのルイズというだけはあるか」
という誰かの言葉にうんうんと頷いていた。
(様々な魔法を使おうとして爆発を引き起こし失敗するからゼロ・・・・だと?)
エクスデスは納得いかなかった。爆発を中央のみで抑え込もうと防御陣を展開したのだが、それにヒビが入ったのを見たからだ。
(ゼロとはつまりは無・・・あれが無の力なのか・・・・?
ならばルイズは無の力を使えるのか?いや、あれは何物かに御せるような力では・・・)
顔についた埃をハンカチで主をじっと見ていた。
了
しえーん
以上です。
最初ハルケギニアのことをハルキゲニアと書いてしまい
間違えました。すみません。
タイトルは「聖樹、ハルケギニアへ」です。
古代生物になってすみませんでした。
それでは皆様、お休みなさい。
wikiの避難所へのリンクにウィルス入ってるってのはホントなのか
パズルの人GJ
パン神様クソ噴いたwwww
これは確かにネタバレできねぇwwww
色々と投下乙です。
で、自分も毒の爪の使い魔の第31話の中編を書き終わりました。
予定などが無いようであれば2:20から投下します。
パズルの人乙〜
まさかのルイズリュシカ化フラグwwww
では、時間ですので投下開始します。
『あいつと出会ってから、俺の生活はガラリと変わった…』
――ただいま…――
――お帰り〜♪――
くたびれたボロいドアを開けたジャンガをシェリーが出迎える。
二人が――と言うよりはジャンガが――住んでいる所は、スラムの一角に建つ一軒家だ。
スラムに立ち並ぶ建物らしく、中はボロボロだった。
しかし、元々住んでいたジャンガはともかく、同居人であるシェリーもそんな事は全く気にしていない様子。
それはその表情からも見て取れた。
シェリーはジャンガが抱えている紙袋を受け取る。
中には食料やら日用品やらが詰まっていた。
それらを確かめ、シェリーは頷く。
――うんうん。これで、また美味しいご飯が作れるよ――
――ああ、そうかよ。なら、とっとと飯を作れ――
――了〜解♪――
ジャンガの言葉に笑顔で返事を返し、シェリーは台所へと足を向けた。
だが直ぐに立ち止まり、ジャンガを振り返るとその顔をジッと見つめる。
シェリーの視線に気が付き、ジャンガは怪訝な表情を浮かべる。
――なんだよ?――
――まさかとは思うけど……やってないよね?――
ジャンガの眉がピクリと動く。
――何がだよ?――
――泥棒とか――
ジャンガは盛大にため息を吐いた。
――…してねェよ――
――本当に?――
――嘘じゃねェ…――
シェリーはジッとジャンガの目を真っ直ぐに見つめる。
その視線に気圧されたのか、ジャンガは僅かにたじろぐ。
約十秒ほどそうしていた。やがて、シェリーは笑顔で頷く。
――うん、嘘じゃないね。良かった♪ じゃ、待っててね。直ぐにご飯の用意しちゃうから――
そう言いながら、シェリーは今度こそ台所へと消えていく。
その後姿を見送りながらジャンガは再びため息を吐いた。
――ったく、賞金稼ぎなんて面倒だゼ…――
支援だにゃん。
『本当に困ったもんだったゼ。俺が他人の物を分捕って暮らしてるってのを知った途端、
あいつ”もう人に迷惑掛けるのはだめ”とか言いやがってよ…。
”腕が良いんだから、賞金稼ぎでもした方がいい”なんて事を薦めやがった』
別の光景が広がる。
ジャンガにシェリーが諭すような口調で色々と語り掛けていた。
『勿論、俺はそんなの最初はごめんだった。だが、あいつ…しつこい上に疑り深くて、おまけに勘も鋭かった。
昔のような稼ぎ方をすると、俺の目を見ただけでその事を看破しやがった。
そんな風に言う事を聞かないでいると、あいつは俺の事を見張るようになりやがってよ』
また別の光景が広がる。
道行くジャンガの後を、シェリーが五メイルほど距離を開けて追いかけている。
ジャンガが振り向けば物陰に隠れ、歩き出したら再び追いかける……その繰り返し。
すると、スラムに迷い込んだと思しき身形の良い男を見かける。
ニヤリと笑ったジャンガが、男に近づく。
男がジャンガに気付き「な、何だ、君は?」と口開く。
それにジャンガは答えない。不気味な笑みを貼り付けながら男に更に近づく。
男が再度口を開こうとし、ジャンガが爪を振り上げる。
――ジャンガ、止めて!――
突然聞こえた声にジャンガは驚いたのだろう。爪を振り上げた格好で動きが止まる。
ジャンガに制止の声を掛けたのはシェリーだった。
振り向いたジャンガはその姿を確認して更に驚いたのか、大きく目を見開く。
その隙に男は一目散に逃げ出した。
それに気が付いたジャンガは慌てて追いかけようとするが、腕をシェリーに掴まれて動けなかった。
――テメェ…何しやがるんだよ!? 折角の獲物が――
――そう言う事はダメって言ったでしょ!?――
怒りの形相で睨み付けるジャンガ。
それをシェリーも怒っている表情で見つめる。…正直”怒っているのが解る”レベルなので、迫力に欠けるが。
『大した腕っ節でも無いくせに、俺と張り合うんだからよ…、正直呆れたゼ。
こんな事がその後も続いたんでよ……流石に俺も参った。
で、半ば強制的だったが、俺は賞金稼ぎをやる事になった』
そうして広がる光景は次々移り変わる。
ジャンガが両手の爪を振り上げ、悪そうな面構えの亜人やら幻獣やらを相手にしている。
次から次へと切り伏せていくジャンガ。
『結果から言っちまうとだ、意外とこの仕事は俺の性に合っていた。
暴れるのは好きだったし、賞金首は大概”生死問わず”で合法的に殺せたからストレス発散にもなったしよ。
何より、貰える金がそれまでの稼ぎよりもデカかった。
最初からこれをしてれば良かったんじゃないか? …何て自問自答もしたゼ。
まァ…そんなこんなで稼ぎが増えた事で色々とやる事も増えた。
服を新調したり、裏に流れたボルクの技術者に技術提供をさせたり、シェリーの買い物をしたり…』
目の前の光景がジャンガの住居に変わる。
ドアを開けてジャンガが家に入ってきた。
その服装はルイズやタバサが見慣れている紫のコートに帽子になっていた。
――ただいま――
――おっ帰り〜♪――
どこまでも明るい声が聞こえた。だが、いつものような迎えが来ない。
その事を不審に思ったのか、ジャンガは怪訝な表情をする。
そして靴を脱いで上がると真っ直ぐに声が聞こえてきた方に向かう。
広間にシェリーは居た。相変わらずの笑顔だった。
――いつもなら迎えに出てくるくせに…、どうしたんだよ?――
――あれ? 寂しかった?――
――…そんなじゃねェよ――
仏頂面で返すジャンガにシェリーはクスクスと笑う。
そして、後ろ手に持っていた物を差し出す。――それは、何故かリボンが巻いてある紙袋だった。
ジャンガは怪訝な表情でそれを見つめる。
――ンだ、こりゃ?――
――いいから、開けてみて♪――
言われるがままにジャンガは紙袋を開ける。
中に入っていた物を取り出す。
取り出された物を見るや、ルイズとタバサは驚いた。
「「マフラー?」」
そう、取り出されたのはジャンガが首に巻いていたマフラーだった。
――こいつは?――
――プレゼント♪――
――プレゼント〜?――
――そう、誕生日プレゼント♪ 今日ジャンガの誕生日でしょ?――
――最近編み物に没頭してたのは、こいつを編んでたのかよ…――
――その通り♪ それにしても、ジャンガが帰って来た時は焦ったよ…、まだ包装が終わってなかったし…――
その言葉にジャンガは納得した様子。…先程出てこなかったのは包装を急いでいた為だったのだ。
――…直ぐ開けるんだから必要無ェだろうが?――
――こう言うのは形も大事なの!――
僅かにムスッとした表情になりながら、シェリーは言った。
ジャンガはそんな彼女を見ながら、やれやれとため息を吐く。
そして、爪で持ったマフラーを見下ろす。
――ねね、早く巻いてみて? 巻いてみて?――
――解ったよ…――
言いながら首にマフラーを巻く…が、その手が止まる。
ジャンガは顔を上げるとシェリーに声を掛ける。
――オイ、随分長いんじゃネェか…これ?――
――へへへ〜♪ それはね…――
子供っぽい笑みを浮かべながら、シェリーはマフラーの端を手に取る。
そして、そのまま自分の首に巻いた。
そうする事でマフラーは実に丁度良い長さになった。
――こうする為なの♪――
笑いかけるシェリーの顔をジャンガは何とも説明し辛い表情を浮かべながら見つめている。
――どうどう? 二人用のマフラー?――
――動き辛いし暑苦しい――
――もう! なんでそんな事を言うわけ? …本当は嬉しいくせに――
――ハァッ!?――
――ほら〜やっぱり。もう、ジャンガは照れ屋さんなんだから――
――オイ!? もういっぺん言ってみろ!?――
――もう、本当に素直じゃないんだから――
――…ハァ〜〜――
『あんな親だったからな……、誕生日プレゼントなんて貰った事が無かった。
だから、あいつがマフラーをくれた時……正直嬉しかったゼ。…死にそうな位恥ずかしかったがよ』
目の前の光景を見ていたルイズの脳裏にジャンガの言葉が蘇る。
――…このマフラーはな、お気に入りなんだ…。それをテメェはよくも…――
――別に何も無ェ…ただのお気に入りだってだけだ…――
「ただのお気に入りなんかじゃ…ないじゃないの…」
ぽつりと呟く。
始めて貰ったプレゼント……それならば、あれだけ大切にしていてもおかしくは無い。
…いや、本当にそれだけなのだろうか?
『それから俺はそのマフラーを身に着ける事にした。お守り代わりでよ。
二人用のを一人で巻いているからな…最初は邪魔に感じる事も多々あったさ。
だが、慣れりゃそうでもなかった。寧ろ、俺の存在感を高めるのに一役買ってくれた。
そんなこんなで俺とあいつの暮らしは続いた』
支援
目の前の光景が変わる。
屋外らしく、一つの綺麗な白い月が輝いている。
そんな夜空をジャンガとシェリーは建物の屋上に建ち、静かに見上げていた。
――月って綺麗だよね――
――…まァ、そこそこな…――
――気持ちが落ち着いて癒されるよね〜――
――暇な時は見上げたりしてたがよ、特にそんな風には感じなかったゼ…――
――それはジャンガが暇潰しで見てただけだから。次からは絶対癒されるよ――
――そうか?――
――そうなの♪ だからさ、ジャンガも辛い事や悲しい事があったら、月を眺めると良いよ?――
――フン――
その時、何処からか音楽が流れてきた。遠くの…スラムの外の方からだ。
楽しげな笑い声や歌なども聞こえてくる。…祭りでもやっているのだろうか?
暫し、シェリーはその音楽に耳を傾けていたが、やがて頷くとジャンガの爪を掴む。
――なんだ?――
――踊ろ♪――
屈託の無い笑顔でシェリーは言った。
対してジャンガは表情を曇らせた。
――興味無いゼ――
――いいから、踊ろ♪――
――お、おい!?――
笑みを浮かべたままシェリーはステップを踏み出す。
ジャンガは慌てた。当然だ…ダンスなんかした事が無い。
だが、シェリーはダンスの心得が有るらしく、見事なステップを踏む。
更にはジャンガに的確な指導をする。
――そこで、ステップを踏んで――
――おい、俺は別に踊りなんざ――
文句を言うジャンガだが、自然とシェリーの言う事に従っている。
だんだんジャンガの踏むステップも軽やかな物になっていく。
それを見てシェリーは満足げな表情で頷く。
――うん…ジャンガ、やっぱり筋が良いよ。続ければ、プロのダンサーになれるかも…――
――勘弁してくれ…。俺は踊りなんかには興味が無ェんだよ?――
ジャンガは嫌そうな表情を浮かべながら言った。
反対にシェリーは人懐っこい笑みを浮かべる。
――いやだ〜。私が踊っていたいの〜♪――
――ハァ〜…――
『元々俺は身のこなしは軽い方だったからな…、ダンスを身に着けるのは容易な事だった。
正直に言えば興味も無いし嫌だったが……あいつは結構真剣だったし、本当に嬉しそうだったからよ。
…何度も何度も付き合わされたもんだゼ』
ルイズの脳裏にジャンガとダンスを踊った光景が蘇る。
「あいつがあんなに踊れたのは…こういう事だったんだ」
『まァ…そんなそこそこ充実した生活が五年も続いた頃だったか?』
目の前の光景が再びジャンガの住居に変わる。
珍しくジャンガが一人で床に寝そべっていた。
周囲にシェリーの姿は見えない。
と、ドアが開く音が聞こえた。
次いで足音が聞こえ、シェリーが姿を見せた。走ってきたのか息が荒い。
そんな彼女の様子にジャンガは怪訝な表情を向ける。
――どうしたんだ、そんな急いでよ?――
――ねねね! ジャンガ! ジャンガ!――
シェリーはジャンガの両肩を掴むや、激しく揺さぶった。
されるがままに揺さぶられるジャンガはシェリーの腕を掴み、それを止める。
――なんだってんだ、いきなり!?――
――聞いて聞いてジャンガ!? 私…私ね……凄い事になっちゃった――
――あン? 何だってんだよ?――
――今日ね…いつもの様にね…、ジャンガの教えてくれた闇医者に健康診断に行ったの――
――んなこた解ってるってんだよ…見送ったんだからよ――
――それでね、診察を受けたんだよ。そしたら…――
――何だ? 頑丈なテメェが遂に風邪でもひいたか?――
シェリーは顔を赤く染めて俯く。
――風邪どころか…ある意味、どんな病気よりも厄介かも…――
――…何だってんだ?――
ジャンガの言葉にシェリーは身体を振るわせる。
恥ずかしそうに目を閉じ、更に顔を真っ赤にする。
それを見たジャンガは怪訝な表情を浮かべた。
――どうしたんだよ?――
妊娠キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
支援!
――驚かない?――
――何が?――
――私の今の状況――
――だから、何を言われたんだよ?――
シェリーは気を落ち着かせるか為か、大きく深呼吸を繰り返す。
そして、真っ直ぐとジャンガを見つめると口を開いた。
――…おめでた――
――はっ?――
――だから……おめでた――
――はい?――
ジャンガにしては珍しい、心底間抜けな声が口から漏れた。
しかし、当の本人はそんな事はまるで気にも留まらないと言った感じである。
そしてシェリーは叫んだ。
――だから! おめでた! 三ヶ月! 女の子! できちゃったの!――
その言葉を聞いたジャンガは、あんぐりと口を開けた。
それはルイズとタバサも同じだった。
目の前の光景に唖然呆然と立ちつくす。
「……うそ」
ぽつりとルイズが呟く。
タバサは何も言わなかった……が、目尻に涙を浮かべている。
まぁ…密かに好意を寄せていた相手が彼女持ちだけに止まらず、子持ちになっていたと知れば無理も無いだろう。
また光景が移り変わる。
ほんの少しお腹が大きくなったシェリーの姿があった。
ジャンガは床に寝そべり、いとおしげに優しくお腹を撫でる彼女を見つめている。
やがて、シェリーは歌を歌いだした。…子守唄だった。
シェリーの子守唄を聞き、タバサは我に返る。
アーハンブラでの会話が脳裏を過ぎる。
――…知り合いだった女が作った歌だ――
自分に聞かせてくれた子守唄を作った女とは彼女の事だったのか。
「あの人が…」
子守唄を歌い続けるシェリーにジャンガは声を掛ける。
――そんな風に歌ったってよ…、腹の中のガキには聞こえないだろうがよ?――
――いいの。今から練習しておかなくちゃ…、本番でしくじったら大変でしょ?――
支援
――そうかよ…。にしても…ガキか…――
――嫌だった?――
――……親は嫌いだ――
『そうだ……俺は”親”って存在が死ぬほど嫌い…いや、憎い。
俺の奴がどうしようもねェ屑だったから尚更な。
…そんな憎い親って物に自分がなっちまうなんて…皮肉もいいところだ』
黙るジャンガにシェリーはゆっくりと近寄り、その腕を取る。
そして、ゆっくりとその手の甲を自分のお腹に押し当てた。
突然の事にジャンガは驚いた。
――な、何だ?――
――ねぇ…感じる?――
シェリーが優しい声で語りかける。
ジャンガは首を傾げた。
――何がだよ?――
――赤ちゃんの事――
――…さてな――
――そう…。でも、もう少ししたら感じられると思うよ?――
――そんなもんかよ?――
――うん――
そこで、一旦会話が途切れる。
暫く沈黙が続いた。
やがてシェリーが口を開いた。
――ねぇ……ジャンガは親は嫌いって言ったよね?――
――ああ――
――私もね…実はそうなの――
――あン?――
――私の実家ね……可也のお金持ちなの。色んな仕事をしているね。
それでね、規則なんかにも厳しくて、私も色々と学ばされたの。”立派な令嬢になる為だ”ってね――
――ほゥ…――
――でもね…私はそんなのあまり興味が無かった。…と言うか、嫌いだったな。
毎日毎日レッスンレッスン…、それで外には碌に遊びに行かせてもらえなかったの。
”下賎な人達と戯れるなんていけません”ってね。だから、いつも部屋の中に引き篭もっていた――
――そうか…――
――そんな生活が嫌になってね……飛び出してきちゃった――
――…それで、あの時ぶっ倒れていたってか?――
――うん…、朝食の時間を利用して抜け出してきたから……お腹空いちゃって――
そこでシェリーは、てへ、と笑いながら舌を出す。
――いいのかよ…それで?――
――…いいの。結局のところ、私はただお父さんとお母さんの都合で弄られるお人形さんだった訳だし…。
あのままあそこにいても、何も変わらなかっただろうから…。
それにね、やっぱり出てきてよかったと思う。だって私、今凄く充実してる……幸せだから――
そう言ってジャンガを見つめた。
そして、いとおしげにお腹を撫でる。
――だから…ジャンガ、私と一緒にこの子に優しくしよう?――
――優しくって言ってもよ……――
――二人とも親の事では悲しい思い出しかない……だからこそ優しい親になれるはずだよ?――
――…なれるか?――
――そうだよ、なれるよ――
ジャンガは手の甲でシェリーのお腹を優しく撫でた。
シェリーはそんな彼を見て満面の笑顔を浮かべた。
『俺なんかが親になれるのか? と正直不安だった。
だが、あいつの顔を見ているとな…何故かそんな不安が吹き飛ぶんだ。
いや、何となく理由に見当は付いていた。何て言うのかな……”一目惚れ”って奴か?
多分あいつの顔を最初に見た時に、俺はあいつに惹かれてたんだ。
毒の爪が女一人に骨抜きにされるなんてよ…笑い話にもならねェ。
だけどよ、悪い気はしなかった…。本当に……あの頃は幸せだった…』
そこまでジャンガの言葉を聞き、タバサはふと思い出した。
――ああ……そいつが歌えばもっといいゼ。…もう居ないけどな。
それも、一番聞かせたい奴には聞かせられずに終わったしよ…――
一番聞かせたい相手に聞かせられなかった…、確かにそう言っていた。
聞かせたい相手は間違いなく赤ん坊の事だろう。…では”聞かせられなかった”とはどういう事だ?
「まさか…」
タバサは悪い予感がするのを感じた。
――その予感は当たった。
『…幸せってのは長くは続かないって事を、嫌と言うほど思い知らされた…。あの時に…』
また別の光景に変わった。
夜のスラム街をジャンガが歩いている。
片手には相変わらずの紙袋を抱えていた。
何処となく嬉しそうな表情である。空いている方の手で懐を探る。
取り出したのは一つの小さな小箱。
それを見つめたジャンガは、ほんの僅かだが…笑った。
小箱を懐にしまい、歩を進める。…と、何だか騒がしい声が聞こえてきた。
悲鳴のように聞こえる。その声の方向をジャンガは見た。
――明るかった。まるで昼間のような明るさが夜のスラム街の一角から漏れている。
そして…その明かりは危険な物である事が、ジャンガには本能的に解った。
ジャンガは駆けた。とにかく駆けた。息の続く限り駆けた。
そして、明かるい区画が段々と解ってきた。
『嘘であってほしかった…、違ってほしかった…、だってよ…そこは…』
最後の角を曲がった瞬間、ジャンガは目を見開く。
その場に呆然と立ち尽くし、紙袋も地面に落としてしまった。
――ジャンガの住居が、シェリーが居る場所が、燃えていたのだ。
『…何も考えられなかった…。どうして、何がどうなって…こんな事になっているのか解らなかった』
――クソがァァァーーーーー!!!――
叫び、ジャンガは燃え盛る自分の住居へと駆けた。
だが住居は完全に炎に包まれており、中がどうなっているかは一目瞭然だ。
しかしジャンガは止まらない。そのまま中へと踏み込もうとする。
だが、ジャンガが中に踏み込む事はなかった。
住居の前に崩れ落ちた瓦礫の山、その下に見覚えのある顔を見つけたからだ。
そう、間違いなくそれはシェリーだった。
ジャンガは急いでシェリーに駆け寄り声を掛ける。
――オイッ、しっかりしやがれ!?――
――ううん……ジャン…ガ?――
――ああ、そうだ! 何があったってんだ!?――
――解らない……いきなり火が燃え広がって…、私…慌てて逃げ出したんだけど…――
――チッ…、とにかくだ…とっとこいつをどかしてやる――
言うが早いか、ジャンガは瓦礫を取り除きに掛かる。
だが瓦礫は予想以上に重いらしく、また量も半端ではない為、全くはかどらない。
そんなジャンガをシェリーは心配そうに見つめる。
そんな事をしてる間にも住居の火災は更に広がっていく。
メキメキと音がして、火の粉が降り注ぐ。
――ジャンガ……もういいよ…――
――黙ってろ…――
――このままじゃ…ジャンガも…――
――黙ってろ――
支援!
――ジャンガだけでも…――
――黙ってろ!!!――
ジャンガの叫びにシェリーは目に涙を浮かべて押し黙る。
『助けたかった…、どんな事があっても守りたかった…。幸せを…テメェの幸せを守りたかった…』
額に汗を浮かべながらジャンガは撤去を続ける。
だが、やはり思うように進まない。
その時、遂に火に包まれた住居が崩れだした。
燃え盛る瓦礫が次々に降り注ぐ。
それでもジャンガは手を止めようとしない。
シェリーはそんなジャンガをいとおしげに見つめた。
――ジャンガ…――
――黙ってろって言った――
――マフラー…良く似合っているよ――
――こんな時に何を言ってやがる!?――
――それ大事にしてよ…約束だからね――
シェリーはそう言うと、ジャンガを力強く突き飛ばした。
突然の事に対応できなかったのか、ジャンガは成す術も無く吹き飛んだ。
大きく尻餅を付き、しかし痛みを堪えるような表情で顔を上げる。
――何を!?――
そんなジャンガを見ながらシェリーは笑った。
そして、ゆっくりと口を動かす。
――ごめんね――
それだけをジャンガに伝えた。
その直後だった……崩れ落ちた住居が燃え盛る炎の滝となって、彼女に降り注いだのは。
目の前の光景を見ていたルイズとタバサは声を失った。
『…俺は何も考えられなかった』
シェリーを飲み込んだ瓦礫の山を見ながらジャンガは呆然となっていた。
――…何でだよ…――
ぽつりと呟いた。
『どうして…、何故こんな事になったのか…解らなかった』
――…何でなんだよ…――
頬を涙が伝う。
『ただ…それでも一つだけ…嫌でも解っている事があった』
――…一緒に、優しい親になるんじゃ…なかったのかよ?――
肩が震える、身体が震える。
『俺がシェリーを永遠に失ったって事だ…』
――う、うわああああああああああぁぁぁぁぁーーーーー!!!――
直後、喉が裂けるかもしれないと思えるほどの絶叫がジャンガの口から迸った。
以上で投下終了です。
まぁ、何と言うか…いろいろやっちまったって感じはあるんですが、
これ位じゃないとあそこまで性格歪まないと思ったので…(汗)
マフラーが実は二人用というのは原作四巻のシエスタのマフラー話を読んで思ったのです。
いや、なんせナムカプでもそうですが…立った状態で余った部分が地面にふれそうですから。
余りにも長すぎるし……二人用の物を首に巻いているとすれば納得がいきますしね。
シエスタには悪いですが…(笑)
なんだか本当にゼロ魔成分がゼロに近いですが、あともう一回だけ続きます。
次で終わらせます、はい。ので、後一回だけゼロ間成分は薄くなります。
それでは今回はこれで。アデュー!
乙
これは公式設定じゃあないのか?
毒の爪の人、乙でした
うーん、ジャンガの過去が切ない
ジャンガの過去を見たタバサとルイズは何を想うんでしょうかね〜
ジャンガが持ってた小箱って、指輪だったのかな…
それにしてもジャンガが彼女持ち&子持ちだったことに涙を浮かべるタバサは可愛いw
遅くなったけどMPの人乙
このシエスタは他の作品とは別の意味で怪しいオーラ放ってるなw
ジャンガの人乙!
くっそう、分かってたのに……持ち上げてから落とすのなんて常套手段なのに……
切ないわー
エクスデスも乙!
まさかのエクスデス萌えキャラ化w
マテパの人はちょっと前にルイズの趣味をお菓子作りにしたのはこのためだったかw
エクスデスの人乙。
なんか…三頭身ユルキャラエクスデスだなw
むしろエクスデス先生だと思えば萌える
ちゅるやさん化したエクスデスを思い出したw
「でじょーん」
「エクスカリバーはどこだい?」
「でじょーん」
「エクスカリパーはどこだい?」
「レベル10デス」
レベル系なつかしいなぁ。
古代図書館でレベル5デス覚えようとしてうっかりレベル調整をミスって全滅したんだ…。
あの周辺で一人残して死なせてレベル調整するんだよな
さっさと進めばレベル15で取れるんだけど逃すとちょっとめんどくさくなる
いや、一人だけレベル14.あと全員15という状況で図書館に突っ込んでね?
探索中に15に上がったことに気づかずに64ページと遭遇して…あとはわかるな?
レベル1デス
今連載中のクロス作品から別キャラを召喚するのは有りだろうか
ネタが被ったりしたら先に書いてる人に悪い気がするんだよな…
万事オーケーな人。
むしろ、自分の書いているキャラを別の人に召喚して欲しいとも思った。
……いや、ね、好きだから召喚させるけど、よく考えたら召喚された姿を見たかった。
まとめ見たら同キャラけっこう見かけるしな。
>>345 当たり前ですけど、その同じネタの作品とある程度は比較されますよ。
と言っても、ここに投下している以上は他の全ての作品と比較されますが。
それとネタ被りについてですが、そんなことを気にしてたら誰も何も書けなくなってしまいますので、そんなに気にする必要はないと思います。
……と言うか、自分も最初に投下する前に同じような質問をしましたねぇ……。
>>349やっぱり悩むものなのかな
同じ経験をした人がいると聞いて気が楽になったサンクス
クロス元のタイトルだけでも教えて欲しいと思ったり
筆者さんが居れば、出来れば辞めて欲しいとか構わないとか言ってもらえるだろうしね
>>351 先に投下してただけで他人に辞めてくれとか言ったら何様だよって話になると思うんだが
文句言ってる人もいたけどな
同作品だとデモンベインが一番多いのかな?
長編で七つあるようだけど。
クロス先やキャラが一緒とか気にしてたらSS全盛期を生き残れないだろ
どっちの原作にも存在しない先発作品独自展開を後発作品がやっちゃったらどうしようも無いけどな
ガイバーの作者は影響を受けるとまずいからとバオー来訪者を読まないようにしていたと聞く。
同じ題材のを書くときは、先発の人のを読まないほうがいいのかもしれない。
マクガイバーも読まなかったのだろうか
ヤマテックは読まなかったと思うぜ
>>354 今は魔導書と九朔の人が動いてるくらいじゃない?
九朔の人は最近別の宇宙でも見かけてなくて久しいが
デモンベインは多いわりに未完結ばっかだから印象悪いな
新作が来ても、どうせ途中でやめるんだろ?って思ってしまう
>>363 ゆっくりでも動いてるだけ魔導書と九朔の人はまだマシだがね・・・
つか、そんなこと言い出したら動いてない長編どれだけあるんだという話になるんで
これ以上は言わないけど
エクスデスはカリスマ溢れる魔王キャラだったんだっ…
まさか萌えキャラだとっ……ふざけるなっ……
ガラフに謝れっ………命をとして戦った相手が萌えキャラ化したら…
俺なら泣くぞっ……
ギーシュ編までは大体行く。
フーケ編を済ませられれば先が期待できる。
アルビオン編を終わらせられれば立派。
このあたりからオリジナル展開が強くなる。
これ以上出来れば尊敬もの。
アニメ1期目がタルブ戦までだからここで一区切りできるんだよなあ
デモベは完結作品が0/7ってのがおかしいと思う
SSを書くとSAN値が下がって続けられなくなる呪いでもあるんじゃまいか
>>368 ゴルゴm・・・・・いや、ナイアルラトホテップの仕業だ!!
ニャル様なら仕方ない
1巻分書ければ十分だと思う
ギーシュをボコッて満足した
おマチさんブッ殺して満足した
が多いんだろうなぁ
奇をてらい過ぎて決闘にすら進めず断念も追加
登場シーンだけで満足しちゃった作者も居るよ
モー・ショボーの方乙!
いよいよアルビオン編ですねえ、楽しみ…え、オワタ?
タ、タルブ戦とかは?
シエスタが何故にMAGの事知ってたのかとか…
この流れなら言える!
デモンパラサイトの人、待ってます…。
>>376 御免なさい、体調回復し次第、執筆再開します
うをっと、直接返信が来た!?
ああ、ゆっくりでいいのでお気になさらず〜。
六話目書いてきました。
40から投下します。
支援
zeropon!
第六話
once apom a harukigenia
「街へ行くわよ」
日も高くなった頃、ルイズはパタポンたちが学院の一角に建てた生徒から『パタポン砦』と呼ばれる場所に来ていた。
「・・・というかあんた達・・・えらいもん作ったわね」
「そうですか?」
傍らにいるメデンにルイズが言う。そのパタポン砦、元々は彼らが乗ってきた船を元に作っている。
なのでその高さはゆうに馬小屋やら、使い魔たちの小屋を超える大きさになっている。まさに砦。
その砦には風車やら、何か良く分からない機械、巨大な植物、大きな金床などなどその様相は混沌としていた。
「なにもいわれなかったの?」
「はあ。ミスタ・コルベールが来られたのですが・・・」
「ミスタ・コルベールが?それで?」
「『なんと素晴らしい!!』と言われながらひとしきり見学されて帰られました」
・・・許可した、ということでいいのだろうか?ルイズは首をひねる。
「それでルイズ様。街に行かれるのですか?」
メデンに言われ肝心な用を思い出す。
「そうだったわ。それでとも回りを誰か連れてきたいんだけど、馬とか乗れるの?」
「それならばお任せを、キバポン達をお供させましょう」
「キバポン?」
メデンが呼ぶと小さな馬に乗ったパタポンたちが現れた。彼らの乗る馬はロバよりも小さいが、しかしその動きには力強さが伺える。
「『騎馬』ポンって訳ね・・・ねえ?」
パタポンたちが乗っている馬、それを見ながらルイズがメデンに話しかけた。
「はい?」
「これ、私も乗れないかしら?」
正門にメデンが用意した馬は先ほどのキバポンたちが乗っていたものと違い、黄色い模様が入っており、なにより角が生えていた。
「これ、ひょっとしてユニコーン?」
ユニコーン、一角を持った馬であるそれは、気高い生き物と知られ、王族の乗り物としても使われ、ハルキゲニアでも珍しい生き物であるのだが、
「ユニコーンと、言う生き物がどんなものかは知りませんが、この馬は我がパタポン族最高の馬を用意させていただきました。その名も神馬『ルイズ』です!」
「・・・もっかい言ってくれる?」
「神馬『ルイズ』です!」
ぐっと、胸?の辺りで拳を握るメデン。
「・・・なんで私の名前?」
「神の馬ですから」
至極当然といった感じで言い放つメデン。
「もう・・・いいわ。あんた達も準備はいい?」
後ろを振り返りついてきていた他のキバポンたちを見ると・・・ウサ耳が生えていた。もはや慣れてしまったルイズに驚きは沸かなかった。
「なんでウサ耳なの?決闘の時から思ってたんだけどなんなの?猫耳とかウサ耳とか」
「はあ、それはですね・・・」
メデンの説明によると、このウサ耳やら猫耳やらは、パタポン達の能力を上げるものらしい。猫耳ならば猫のごとき素早い攻撃を、ウサ耳ならウサギの如く早く走れるとのことだ。
「へえ、そんな効果があるんだ」
ルイズは感心した。目の前のキバポンが揺らすウサ耳。そんな力が・・・と思ってたいらルイズは思わず耳をガっ、と掴んでしまった。
「あああ!ル、ルイズ様!おやめください・・・!」
「へえ?なんだか本当にウサギの耳みたいな感触が・・・」
ルイズがウサ耳に力をくわえると・・・すポンっといった感じでウサ耳が取れた。
「あーとっちゃいましたか」
メデンがまるで『仕方ない人ですねえ』みたいな感じで言う。
「え?!え?!これ取れても大丈夫なの?」
「かえしてーかえしてー!」
情けない声をだしてルイズに懇願する普通のパタポンに戻ってしまったパタポン。ルイズはちょっとかわいそうになったので耳を返してやる。
受け取ったパタポンはいそいそとそれを頭につけると安堵の息を漏らす。
「御見苦しい所をお見せいたしました」
いきなり先ほどとは違う、紳士的な態度になるパタポン。どうやら耳には理性を促す何かがあるらしい。もうなんかどうでもよくなってきたルイズは神馬『ルイズ』に跨った。
「行くわよ!」
ルイズがルイズに鞭を入れた。
「タ・バ・サアアアアアアア!!」
大音響で目的のドアを開くキュルケ。彼女の目的はこの部屋に住む少女。目的の青い髪と大きな眼鏡の少女は、その小柄な体を椅子に置き本を読んでいた。
「タバサタバサタバサタバサタバサってば!」
しかし、キュルケの呼びかけにタバサと呼ばれる少女は一切反応しない。それもそのはず彼女は、キュルケの気配を既に察知していた彼女は、
風の系統である『サイレント』を周囲にかけていたのだ。だからタバサから見れば顔の横でパクパクしているようにしか見えない。
そのまま無視していたのだが、キュルケは強引にタバサの肩を掴みがくがくと前後に揺さぶりだす。さすがに無視し続けられなくてタバサはサイレントをといた。
「なに?」
不機嫌まっしぐらといった顔でキュルケに問うタバサ。
「ちょっとサイレントかけるなんて酷いじゃない」
「今日は虚無の曜日」
虚無の曜日は学院は休みである。自室で静かに本を読もうと思っていた彼女には迷惑極まりない存在だ。
「いいじゃないちょっとぐらい。街にいきましょ、街に」
「なにをしに?」
「買い物でもなんでもいいわ、とにかく行くの!」
「目的も無いのにいく必要が無い」
「ルイズがパタポンたちと一緒に街にいったみたいなのよ」
その言葉にピクリと反応するタバサ。
「さっき校門のところにルイズがロバみたいなのに乗っててね、それでウサ耳つけたパタポンたちが、」
ガタンっ!キュルケの言葉が終わらぬ内にタバサはその椅子から勢い良く立ち上がる。それに驚いたのは話していたキュルケだ。
「きゃっ!タ、タバサ!?どうしたの?!」
驚くキュルケを一瞥もせずにタバサはとてとてと窓に近づくと開け放った。そして指をくわえて高らかに指笛を吹く。
しばらくすると窓の外からきゅるるという鳴き声と何かが羽ばたく音が聞こえる。見れば窓の外にタバサの髪と同じぐらい蒼い小型の竜が現れた。
「あら?この子、貴方が呼び出した使い魔?」
「そう、名前はシルフィード。じゃあ乗って」tタバサは行き先を告げる。
「全速力」
と、タバサが言うとシルフィードがそれに対してきゅいきゅい!と抗議の声を上げる。しかし自分の上にのった主人が振り上げた杖、いつも叩かれている杖がぎちぎちぎちぎちと、
いつもと違う異音を握りの部分から出していることに気づくと、慌ててその羽を羽ばたかせた。
「まってて・・・ウサ耳」
タバサはいまだ見ぬそのウサ耳に思いを馳せた。
「はああ〜大きな都ですねえ」
メデンがルイズの傍らをついてきながら感嘆の声を上げた。
「そりゃそうよ、ここはトリステインの王都だしね。王都がしょぼくれててもダメじゃない」
ルイズは鼻高々といった感じで説明する。彼女たちが訪れたのは王都であるトリステニア。その大通りには人があふれ、道の脇には露店が並んでいる。
「それで、ルイズ様。今回は何をされにここに?」
「武器屋に行くわ」
「武器ですか?ルイズ様がお使いに?」
「何言ってるのよ、あんた達の武器よ」
「私たちのですか?何でまた?」
メデン達が武器を既に持っているのはルイズも知っているのだが・・・
「ご褒美よ」
「は?」
「この前の決闘のご褒美よ!黙ってついてきなさい!」
おそらくルイズはこういったことをするのは慣れてないのだろう。こころなしか顔が赤い。
「・・・ふふふ。お待ちをルイズ様!」
照れ隠しなのかずんずんと早足で進むルイズの後を追いながら、なんと可愛げのある神だろうとメデンは思った。
「貴族様、あっしはちゃあんと、お天道様に顔向けできるような商売を・・・」
「客よ」
おそらく憲兵か何かと勘違いした店主の勘違いを一言で切り捨てるルイズ
「へっ?貴族様がお使いになるんで?」
「違うわよ、使い魔に使わせるの」
後ろからはメデンと、騎馬を降りたキバポン、もはや普通のパタポンがついてきていた。
「っははあん。例の盗賊対策って訳ですかい。」
ぽんっと手を打つ武器屋。
「なによ、盗賊って」
「あれ?違うんですかい?こりゃ失礼。いやね、最近ここらを賑わす『土くれ』って盗賊がいやしてね。対策に傭兵やら、武器やらを集める貴族様が増えたんで」
「へえ。二つ名があるってことはメイジなの?」
「そうでさあ。なんでも30メイルを超えるほどでけえゴーレムを使って盗みっていうよりほとんど強盗みてえな真似してる野郎でして」
「30メイル!そんなの作るなんてトライアングルクラスじゃない!」
この前、パタポンと決闘をしたギーシュはドットクラス、しかし魔法の使えないものにとっては十分な脅威である。
その上のラインですら遠く及ばないトライアングル。しかも貴族を相手にして生き残れるほどの腕だ。並大抵のトライアングルではあるまい
「と、いうわけでして、半端な武器ならきっと通用いたしあせん。のであっしがお勧めするのはこちら。はいドン!」
先ほどと違ういやに甲高い商売用の声と共に、店主が奥から出したのは、宝石やら彫刻やらが施された大剣であった。
「はいこちら!こちらはかの有名なゲルマニアの錬金師シュペー伯が作られた大剣でございます!みてくださいこの輝き、この出で立ち!もはや並みの剣とは大違いです!」
身振り手振りを交えて商品を説明するいやに甲高い声の主人。
「なんかすごそうね。」
「すごいなんてもんじゃあございません!いいですか!シュぺー伯ですよ、シュぺー伯!もうすんごい人が作ったものですよ!世に二つと御座いません!」
「そ、そうなの?でもきっと値も張るんでしょ?そんな業物だったら」
ほほに手を当て首を傾げるルイズ。
「もちろんそれなりの値は御座います・・・しーかーし!しかしです!この月ごとの分割払いにしていただければ月々100エキューの36ヶ月払い!これだったら懐に負担がかかりません!」
ルイズの目を見ながら、いやなぜか凝視している店主。ルイズが店主を見る目が心なしかとろーん、としてきた。
「たしかに負担がかからないわね・・・でも」
「待ってください!まだです!まだあるんですよ貴族様!いまキャンペーン中につきこの剣をお買い上げになられた方にはもれなく!この同シュぺー伯が作られたという槍をセットにして提供させて頂きます!」
「な、なんですって〜」
店主の口車にルイズは乗っているわけではない。すでにルイズの目は逝っていた。焦点がよく合っていない。今まで聞いた事のない口車のあまりの勢いに催眠状態に陥っている。
「おっと、まだ驚かれるのははやーい!!」
「ま、まさか〜」
もはやルイズは驚き役の観衆である。
「いまならなんと!このシュペー伯の大剣をもう一本お付けして!」
といいながら、世に二つもないはずの大剣が奥からもうう一本出てきた。そしてそれをみていたルイズは驚きであわわわ、といっている。いい観客だ。
「こんなに・・・でも値段は・・・」
「変わりません」
「なん・・・ですって?」
もはや驚きのあまり体がプルプルしているルイズ。
「これだけやってもお値段そのまま!さあもう、今しか御座いません!明日はないですよ、貴族様」
「そうね、そうよね、あしたになっちゃたらこんないいもの売れちゃうわよね」
「そうです、そうです!ささ、こちらの契約書にサインを・・・」
完全に催眠状態にあるルイズ。その手に握らされた羽ペンによってその、月賦払いの契約書にサインしようとしたとき、
「お待ちをルイズ様」
「ほへ?メデン?」
ふっとルイズが気づけばメデンがいた。どうやら店主の話に聞き入っていて自分を見失っていたようだ。
「どうしたの?」
「その業物。お貸しください」
「?なんで?」
言われたとおりにメデンに渡すルイズ。それを恭しく受け取ったメデン。そしてその剣を高々と上げると、
「ドッセーイ!!」
といいながらひざの上で叩き割った。
「ぎゃあああああ!商品になんてことを!!」
「ちょっとメデン!」
驚くルイズ、絶叫する店主にメデンが告げる。
「さて、我が秘拳スカイ・ニーによって砕けたこれが業物だと?」
「うっ」
図星を指され詰まる店主。
「はーはっは!ざまあみやがれ!あこぎな商売ばっかしてるからだよ!」
「黙れ!デル公!もう少しだったんだよ!」
ルイズとメデンしかいないはずの店内に響き渡る大声。それに当然のように返す店主。
「ルイズ様〜!メデンさま〜!剣がしゃべってますよ?!」
お供パタポン三匹が物珍しそうにひとやまなんぼのセール品の中から、錆付いた剣を取り出した。
「これ・・・インテリジェントソード?」
「そうなんでさあ。デルフリンガーって言いまして、まったく誰が作ったんだかこんなうるさい剣を・・・」
「はああ、こちらにはしゃべる剣があるのですか?」
メデンが珍しそうに見ながらルイズに聞く。
「一般的じゃあないけど割かしあるわね。」
「おでれーた!」
突然うるさい剣こと、デルフリンガーが大声を上げる。
「おでれーた!お前『使い手』、」
「かしてかして〜」
「次〜次〜」
三匹のパタポンによって取り合いされるデルフリンガー。しかし驚きの声はやまない。
「ちょ、ちょっと、うなっ!こいつら全部『使い手』だと?!どうなっってやがんだ?!」
ぶんぶんと振り回せながら『使い手』という言葉を繰り返すデルフリンガー。
「ルイズ様、あれを頂けませんか?」
「あれ?あんな錆びたぼろっちいのでいいの?」
「ぼろっちくてわるかったなああ!っていうかこいつらとめろおおお!」
パタポンズに翻弄されるデルフリンガー。
「まあいいけど・・・店主、あれもらうわ」
「はああ、まあデル公なら厄介払いになるんで100エキュー・・・」
「何言ってんの?私はもらうわよ、って言ってるのよ」
黒い、まるでメデンのような笑みを浮かべるルイズ。
「そ、そんなあ!そんなことできま・・・」
「憲兵」
「どうぞお持ち帰りください」
ルイズが魔法の言葉をつぶやくと店主は快く応じた。
外に出るとキュルケ達に遭遇した。
「あらルイズ、奇遇ね」
「こんな奇遇に用はないから行くわよ、メデン」
「ちょっとひどいわね。・・・なに?剣を買ったの?そんなぼろっちいのを?」
「ぼろっちくてわるかったわね」
「ふふん。貧乏なルイズにはそれくらいしか買えなっかたのね!いいわ、私がプレゼントしてあげるわ!」
高笑いをしながら武器屋に入っていくキュルケ。それをきーっといいながら見送ったルイズはふと気づく。キュルケが連れていた青い髪の少女はそこにまだいたからだ。
「・・・ええと、タバサ、だったかしら?」
キュルケと仲がいい子だったと記憶していた同級生、そのタバサはじいっとパタポンたちを見つめている。
「どうかしたの?」
「うさみみ・・・ない」
「へ?」
なぜか肩を落とすタバサを不思議そうに見るルイズ。
「なんでもない」
ポツリとつぶやいて肩を落としながらとぼとぼとタバサも中へと入っていった。
「なんだったのかしら・・・?」
しばらく待ったがキュルケ達は出てこなかったので、変に思いながらもルイズたちは帰ることにした。
その日、学院へ帰った後、キュルケが逝っちゃった目と、槍と、二本の剣を持ってルイズの部屋を意気揚々と訪ね、泣きながら部屋を出て行った。
投下終わり
ごめんなさい。ちょっと荒い作りです。
乙
しかし、インテリジェントじゃなくてインテリジェンスな。たしか
メデンの人乙です。
なんかキャラ壊れててワロスwww
絶対に逃さない、絶対に
乙
>かえしてー(ry ちよ助吹いたwwww
パタポンが子供すぎて和む
突然のテレビショッピングとかこういうノリ大好きw
そういや日本一の人もまだー?
新しい登場シーン考えてんだよきっと>日本一の人
登場シーンと言えb「待ていッ!」だ、誰だッ!?
ゼロポンの人乙
パタポンが可愛すぎてたまらん
一家に1匹(?)欲しい感じ…そのうち増えてそうだけどw
>>397 パタポンは生命の木がないと増えないので安心w
実はラ・ロシェールの大樹が…
「コンビニDMZ」から川口店長を召喚。目指せハルケギニアの流通革命!
無能王よ、エルフよハルケギニアの民よ、刮目せよ。
これがじゃぱにーず・コンビニエンスストアの凄さだ……!
「いらっしゃいませファッキンガーイズ」
昼にも質問したけど、作品って書き貯めしてから投下すべきなんだろうか
投下の間隔が空くと飽きたとか思われそうで嫌なんだよな
>>401 最初はある程度書きためといて一気に投下した方がいいよ。
それで大体評価が決まるし。
その辺は自分で判断すればいいじゃない。
自分なんかは、フーケ戦書き終わってやっと投下し始めたけど。
そこから推敲して、いろいろ書き直したり書き足したりもした。
パタポン和むなぁ……。
次回も楽しみにしてます。
予約等無ければ外伝後編を40分から投下しようと思います。
このタイミングなら言えそうだ。虚無の闇の人GJ!
次はどんなグロシーンがくるのかな〜
「終わったようだな」
イザベラが呼吸を整えていると、肩に男を抱えたキリークがまるで待っていたかのようなタイミングで現れた。
いや。実際に待っていたのだろう。間が良すぎる。
人形の戦いぶりを高みの見物するつもりが、逆にされているとは。全く予定通りにはいかないものだ。
「そっちの首尾は?」
地下水と杖を回収しながらイザベラは問いかけた。
「知っていることは粗方喋らせた。こいつが知らないことはリーダーが知っているだろう。それよりも」
キリークは肩に抱えていた男を捨て、暗闇の奥で様子を伺っていた者に向かって呼びかけた。
「出て来たらどうだ?」
「あん?」
イザベラは怪訝そうな顔を浮かべたが、すぐにキリークの行動の理由が解った。
茂みを揺らして、それが現れる。二メイル五十サントほどの背丈を持つ異形であった。
馬鹿げたほど発達した筋肉に、捩れた角の生えた雄牛の頭が乗っている。手にはキリークの大鎌と並べても引けを取らないほど巨大な斧が握られていた。
「ミノタウロス……。ほんとにいたのかよ……」
イザベラは呆然とそれを見上げた。
さっきの被り物とはまるで違う。見る者を圧倒する凶悪な面構えに、腹の底から震えが来る。
生まれて初めて見る妖魔の姿に、イザベラは恐怖した。
「物足りないと思っていたところだ」
キリークは楽しそうに笑って大鎌を構えるが、ミノタウロスは慌てて顔の前で手を振った。
「いやいや。待ってくれないか。わたしには、君達と戦う気は無いんだ」
「……は?」
目を丸くするイザベラ。
ミノタウロスから飛び出したのは人間味溢れる行動と、理知的な言動だった。
ミノタウロスはラルカスと名乗った。
ドミニクやジジの両親が語った話の中に出てきた、十年前にエズレ村を救った騎士の名前である。
ラルカスはさっきまでイザベラを縛っていたロープでリーダーを縛り上げると、森の洞窟に案内してくれた。
入り口に松明が用意してあって、それを使うように渡される。
炎で照らされた洞窟内部は、予想外に広かった。
染み出る水が岩盤を溶かして作った鍾乳洞だと、ラルカスは説明してくれた。
「足元には気をつけてくれ。特にあの辺りは土が剥き出しになっていて滑りやすい。石英も飛び出していて肌を切るから近付かないのがよかろう」
ラルカスが指し示すその辺りは、確かに新しく掘り返したような土が見えていた。きらきらと輝いているのは石英の結晶だろう。
「言われなくても、こんな薄気味の悪い洞窟なんざ、無闇に歩き回るのは御免だね」
「そうかね? 住めば都という奴なのだがな」
イザベラにはとてもそうは思えない。ひんやりと湿った暗黒の世界は、ただいるだけで気が滅入ってきそうだ。
更に奥に進むと、そこは開けた場所になっていた。
椅子と机、寝台が置いてある所を見ると、ここで寝泊りしているのだろう。
しかもかまどや鍋、ガラス瓶にマンドラゴラの苗床など、様々な実験機材まで置いてある。メイジの研究室そのものだった。
イザベラが呆気に取られていると、ラルカスは自分がどうしてミノタウロスの姿をしているかの経緯まで説明してくれた。
「十年前、わたしは不治の病に侵されていてね。倒したミノタウロスを見ている内に、思ったのだよ。この肉体が欲しい、と」
「肉体が……、ってまさか!?」
ドットとはいえ、水メイジであるイザベラには、心当たりがあった。
暇に飽かせて読んだ書物の中に、そんな夢物語が書いてあったのを思い出したのだ。だが、それは夢は夢でも悪夢の類だ。
その記述を読んだ時、おぞましいと感じたのを覚えている。こうして実例を目の当たりにしても、感想は変わらない。
「そう。禁忌とされる秘術、脳移植だ」
ラルカスは頷いた。
「しかし、この肉体は素晴らしいぞ。体力も腕力も人間とは比較にもならないし、呪文を使うにも問題がないどころか、以前よりも精神力が増して魔法の強化さえされている。
以来わたしは、ここで研究に明け暮れているというわけだ」
「魔法まで使えるのか」
ミノタウロスの能力を持つメイジ、か。これが敵でなくて本当に良かったと思う。
イザベラが呆れていると、ラルカスが不意に、短い呻き声を上げて頭を抱えた。
「どうしたのよ?」
イザベラがラルカスの顔を覗き込むと、ぎろりとした獣の目が彼女を捉えた。
他者の視線や、内に秘めた感情を常日頃から気にしながら育ったイザベラは、それを読み取ることにも人一倍敏感だった。
ラルカスの目を見た途端、言い様のない怖気が走っていくのを感じる。
何だ? 今の目は何だ?
答えは出ない。あんな目で人から見られたことなんて、今まで無かった。
しかしそれも一瞬だ。すぐに理知の宿る瞳に戻ったラルカスが口を開く。
「いや、済まぬ。たまに頭痛が激しくなるのだ。ちょっとした副作用さ。わかったら、もう良いだろう」
研究を邪魔されたくないので他言無用だと言って、ラルカスはイザベラとキリークを洞窟の入り口まで送っていった。
縛り上げたリーダーのメイジと共に、まだ息のあった男をキリークに担がせて村へ戻ると、待っていたのは村人の笑顔と歓声だった。
無条件の尊敬と賞賛。そういったものにイザベラは慣れていない。とことん慣れていない。
頬を赤くしてそっぽを向いているが、決して彼女が不機嫌なわけではないのを、地下水は感じ取っていた。
人売りどもは村人から散々に罵りの言葉を受けている。
ペラペラと話をされるわけにはいかないので、表向きには明日、このままキリークが役人の所へ連行するということで、話が纏まった。
その夜、村を上げての祝宴が催されることになった。
酒も料理も大したものは出なかったから、イザベラは少々不満を言ったが、口に入れてみれば味はなかなかなのものだった。苦味の強いサラダだけは一口で止めてしまったが。
酒は美味い。格別だ。多分、勝利の美酒と言う奴だからだろう。
「おい。向こうの村や街の近くでも子供の誘拐が流行ってるが、それもおめえらの仕業だな?」
村人の一人が隅に転がされている人売り達に近付いて、そう尋ねた。
「いや、知らない。俺じゃない。俺達はつい一週間ほど前、この辺りに流れてきたんだ」
「嘘をつけ! まあいいさ。お上に散々絞ってもらうことになるんだからな」
「ほんとだ! 十年前のミノタウロスの話を聞いて、今回の計画を立てたんだ! 嘘じゃない!」
往生際の悪い男だ。
イザベラは意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「ここいらじゃなく、北の方では色々やってたんだったな?」
「う……、そ、それは」
メイジは色を失った。
何故この娘はそれを知っているのだろう。
最初から、自分達を探していたということか。
「それ見たことか!」
村人の罵倒の言葉が飛んだ。哀れなほど男達は縮こまっていた。
「他の男も、森で同じことを言っていた」
キリークがメイジを見やる。
表情も何もあったものではないので、見た目からはキリークが何を考えているのか、全く解らない。
「前もって、捕まった時のことを打ち合わせしてたんだろ」
「かもな」
イザベラはキリークの尋問を見ていない。もし見ていたら、キリークの言葉を信用していただろう。
しかし、言いようの無い不安が心に澱のように溜まっていくのを感じていた。
自分が何に対して不安を感じているのか解らない。
人売りは捕まって話は全て……、終わったはずだ。
翌朝。
村を出発しようとしたイザベラだったが、そういえばあのアルマという少女と、戻ってから顔を合わせていないことに気付いた。
「どうした?」
スキルニルを引き連れて村の奥へ足を運ぶイザベラを、キリークが呼び止める。
「少し、村人に用事があるのよ」
あんな子供、どうでもいい。どうでもいいのだが、約束を守ったことは伝えておきたかったのだ。
アルマとつまらない約束をしたばっかりに、わざわざメイジと一戦交える羽目になったとも言えるのだから。
村人にアルマの家を聞いて、訪れて見ると、少女は不在だった。
「いないって、こんな朝早くから?」
「は、はい。わたしらが目を覚ました時には姿が見えませんでした」
アルマの母親は、突然の訪問に恐縮しながら答える。
「どこにいったかわかる?」
わからないが父親が探しに行った、とアルマの母親は苦笑して答えた。
昨日までならミノタウロスにさらわれたのではないかと大騒ぎしていただろうに、事件が解決してしまえば気楽なものだとイザベラは鼻を鳴らした。
もし、誘拐されていたらどうする気なのだ。全く、なっていない。
誘拐――されていたら。
嫌な想像が、イザベラの心を掠める。
もし、人買いどもが嘘を言っていないとしたら? 子供を誘拐する犯人が、他にもいるとしたら?
だとしたら、まだ村からそう遠くへは行っていないはずだ。
報告にあった最後の誘拐は、四日程前。その前は二週間前。いずれもエズレ村の近くの村や街で、遊んでいた小さな男の子が――。
「地下水!」
“どうなされました?”
地下水がいることを確認するや否や、スキルニルと共にイザベラは駆け出していた。
間違いであってくれれば、それで良いのだ。確認するだけ。確認するだけだから。
あの男は冷静で、理知的だった。本物のミノタウロスとは違う、はずだ。だから、そんなことをする理由が、あるはずがない。
だけど、わたしに一瞬だけ向けてきたあの目は一体何? あの新しく掘り返したような土は?
地下水にフライを使わせて、森の洞窟まで一直線にイザベラは飛んだ。
ひんやりとした空気が満ちている。洞窟の中は、外とは断絶された常闇の世界だった。
昨晩は入り口に置いてあったはずの松明がない。きっとラルカスが奥にいるからだろう。
スキルニルの杖に明かりを灯させて、イザベラは洞窟の中を歩いていく。
“姫殿下。何故このような場所に?”
地下水の声もイザベラの耳に入らない。
目的の場所は、すぐに見付かった。ラルカスが滑りやすいと言った、その場所。
呼吸が荒い。鼓動が早鐘を打っている。生唾を飲み込む音が、やけに大きく響いた。
スキルニルに土を掘り返させる。柔らかい土だった。
ただ剥き出しになっているのではない。何度も掘ったり埋め戻したりしなければ、こう、柔らかくはならない。
少し掘り進めると硬い物にぶつかった。
ああ、やはり、とイザベラは己の直感が正しかったことを悟った。
小さな頭蓋骨がいくつも出てくる。いずれも人間の物だ。
「そこで何をしているのかな?」
イザベラの身体が竦み上がる。洞窟の暗闇の奥底から、野太い声が聞こえてきたのである。
“姫殿下”
地下水の声色は、何時に無く鋭い。
「こ、この骨は?」
問いかけるその声は震えていた。しばらくの沈黙の後、ラルカスの返答が返ってくる。
「この辺りに住む、サルの骨だよ」
“何故、あの男も連れてこなかったのです!?”
イザベラの直感は冴えていたかもしれないが、冷静ではなかった。
アルマの顔を思い出したら、居ても立ってもいられなくなったのだ。
ただ、確認するだけのつもりで自分はここへ来て。そうだ。アルマのことを聞かなければ。
「もっ、もう一つだけ聞きたい。ここに、子供は来なかったか?」
「……この洞窟には、わたしときみ達だけだ。今は、な」
今は、という部分をやけに強調するラルカス。
「っ……」
激しい怒りと恐怖が混ざり合った激情が、イザベラの胸中に渦巻いていた。
しかし「絶対に勝てない」とイザベラの中の冷静な部分が言う。メイジの知と技を持つミノタウロスに、どうやって勝てと言うのだ。
“失礼ながら暫くの間、その身体を操らさせていただきます!”
地下水の声と共にスキルニルが杖を構え、イザベラが地面を蹴る。
洞窟の奥から氷の矢が無数に飛来する。スキルニルに魔法の障壁を作って遮ぎらせ、イザベラは……、いや、イザベラの肉体を掌握した地下水は、一目散に洞窟の出入り口に向かって走り出していた。
目視できなければスキルニルをどう動かして良いか分からない。ほんの時間稼ぎにしかなるまい。
地下水は焦っていた。まともにやっても勝ち目は低い。少なくとも、洞窟から出て戦わなければ話にならない。
明かりを灯して洞窟を駆ける地下水の体術は驚くべきものだが、それでも土地勘のない洞窟を走り回るのは難しいらしく、時折躓いて転びそうになる。
その度に明かりの呪文を解除して、レビテーションやフライを用い、岩肌にまともにぶつかることだけは避けていたが。
やっと、洞窟の出口が見えた。フライを唱えて、一気に加速する。
これで、助かったとイザベラが安堵したその時。
ぐい、と足を掴まれる。
「ひっ!」
イザベラは悲鳴だけ残して闇の奥に引き摺りこまれた。
すぐには殺されなかった。身体を鷲掴みにされて、洞窟の奥へと運ばれていく。
地下水も取り上げられてはいないが、両腕も抑えられていて自由は利かない。どちらにせよ、呪文は唱えられなかった。
この状況で下手な抵抗でもしようものなら、握りつぶされるか引き裂かれるか。いずれにせよ、面白くない結果が待っているだけだ。
今は機を待つしか――
「その短剣は、触れるとまずいのだったな」
イザベラの心中を見透かすかのようにラルカスが言う。
見てやがった、とイザベラは唇を噛んだ。既に切り札を把握されている。勝ち目は無かった。
怖い。ここで殺されるのだろうか。こんな所で、誰にも知られず。獣に食い散らかされて、自分は終わるのか。
嫌だ。そんなのは嫌だ。気がついたら、イザベラは喚いていた。何か言わないと、気がおかしくなりそうだ。
「どうしてよ……、貴族だろ? 人間なんだろ!? 何で子供を食うのよ!!」
イザベラの言葉に、ラルカスは牛の頭を振った。
「……発作的にな。人間が食いたくなる。空腹の時など、特にそうだ。
三年程、前だったかな? 子供を襲う夢を見た。獣のように、わたしは子供に食らいついていた。何度もそんな夢を見るようになって……、
ある日、目覚めたら子供の死体が隣に転がっていた。それを見ても、わたしは夢の続きだとばかり思っていたよ。
抑えが効かなくなる間隔も短くなっている。わたしの精神は、ミノタウロスに近付いているのだな。
それを防ごうと魔法薬の研究を続けているが、なかなか上手くはいかないものだ」
「よりにもよってそんな身体を手に入れるからだ! 捨てておけば良かったのに!」
吐き捨てるイザベラ。
しかしラルカスは感嘆の声を洩らしていた。
「なるほどなるほど。捨てる、か。その手は思いつかなかった。もう一度脳移植を行う。確かにシンプルで有効な答えだ」
ラルカスの目が怪しく輝いて、イザベラの顔を覗き込んでくる。
その二度目の脳移植とやらは……、誰の身体が使われることになるのだろう。
イザベラの身体を怖気が走った。
「そんなこと言ってない! そういう意味じゃない!」
イザベラは手足をジタバタさせるが、どうにも振りほどくことはできそうになかった。
「何。食われるのとは違って、然程痛くは無いはずだ」
「どっちも嫌だっ!!」
泣き喚くイザベラ。
もうダメだ。脳移植されるか、その前に発作が来て食われるか。
どっちにしても口封じはするつもりでいるのだ。助からない。
イザベラが諦めかけた、その時だ。暗黒の世界に、黄色い光が見えた。
なんだっけ、あれ。
その光に、見覚えがある気がした。
考えている暇はイザベラには無かった。不意にイザベラの身体が解放され、重力に従って落下していった。
「ぐあああああっ!」
「きゃあああっ!?」
イザベラの悲鳴と、ラルカスの苦悶の声が重なった。
岩肌に叩きつけられる前に、ふわりと身体が浮く。何者かの腕で、身体が支えられている。
目を開けて見上げると、そこにキリークの顔があった。
「お、お前……」
「飛んでいくのが見えた」
短く答えると、イザベラを下ろす。
イザベラが明かりの魔法を使って周囲を照らすと、ようやく先程何があったのかを理解することができた。
さっきまでイザベラを鷲掴みにしていたラルカスの、左手首から先が切り落とされている。キリークが飛び込みざまに叩き斬ったのだろう。
硬いとは言え、それを打ち破る速度と切れ味を以ってすれば、斬ることはできるのだ。
斬り難いことと、斬っても死なないことは違う。だから、硬いだけではキリークにとって苦ではない。
地面にはバラバラになった人形の残骸も散乱していた。先程足止めに使ったスキルニルの末路だ。
これがもし人間だったら、イザベラは卒倒していただろう。
「この身体を刃物で傷つけるとは……」
ラルカスが無造作に左手首を拾う。何をするつもりなのかとイザベラが見ていると、切断面をくっつけて、呪文を唱え始めた。
「まさか……」
ラルカスが唱えているのは治癒の呪文だ。あっという間に左手の指が動きを取り戻していく。
やがて拳を握ったり開いたり……、どうやら完全に繋がったらしい。
「無茶苦茶だ」
水のスクウェアが用いる治癒だって、腕をくっ付けることぐらいは可能だが、あんなにすぐに動かせるはずが無い。
キリークはそれを見ながら、笑っていた。
そう。そうこなくては面白くない。
支援
待ってたぜ支援
「命令を」
「え?」
キリークの言葉は何のことか、イザベラには解らなかった。
「オレには命令を下す主が必要だ」
“道具の本分ですな”
ああ。そういうことか。
イザベラは頷く。
「北花壇騎士団団長イザベラとして命じる。キリーク・ザ・ブラックハウンド。ラルカスを……、あのミノタウロスを殺しなさい」
「ククク……、了解した」
キリークとラルカスが対峙する。
イザベラには勝敗の予想は付かなかった。どちらも化物じみていて、予想の範疇を超えている。
打ち合いにいくかと思われたが、キリークの持つ大鎌の切れ味を警戒したのか、ラルカスは後ろに飛んだ。飛びながら、ライトニング・クラウドを放ってくる。
恐らくは、あの大斧こそがラルカスの杖なのだろう。
電撃をその身に受けながら、キリークは怯まなかった。一瞬の澱みも迷いも見せずに、ラルカスを追う。
踏み込んできた猟犬を迎え撃つのは、大斧の一撃。
鍾乳洞の石筍を砕きながら猛烈な勢いで飛来したそれを、キリークは鎌の柄で受ける。
鈍い音が響き渡り、斧が止まった。
と思った時には、キリークの鎌が絡め取るような動きを見せて斧の柄に纏わりつき、イザベラが瞬きをした一瞬の内にラルカスの後頭部に鎌の刃がかかっていた。
そのまま勢いに任せて引き切ろうとする。だが、キリークの腕が止まる。流石に腕力だけではラルカスの身体を断ち切ることはできないらしい。
「な……!?」
だがお構い無しだ。キリークの上腕の筋肉が盛り上がり、そのまま無理やり引き千切ろうとする。ラルカスの首から、血がしぶいた。
そんな強引なとイザベラが呆れた瞬間、ラルカスの左手がキリークの足首を掴んで、鍾乳洞の岩肌に力任せに放り投げる。
キリークの体は何本もの石筍を叩き折り、もうもうと埃を巻き上げる。そこに向けて無数の氷の矢が叩き込まれた。
それでもキリークは何事も無かったかのように立ち上がってきた。無傷というわけではなく、装甲の隙間から体液らしきものが流れ出ていた。
しかし、痛みを感じているようには見えない。
どっちも化物だ。全く馬鹿げていた。
「姫殿下。逃げた方がよろしいのでは?」
「あ、ああ。そうなんだけど……」
地下水の言うことは最もだったが、目が離せなかった。
「きみは人間ではないらしいな。風の魔法もわたし同様、効果が薄いと見える」
「アンドロイドだ」
ガーゴイルのようなものだ、とキリークは言う。
驚いたことに金属の身体だ。分厚い装甲まで持っている。
あの洞窟を明かりもつけずに飛び込んできたのを見ると、暗黒をも苦にしていないらしい。
動きも早い。恐怖も痛みも感じていなさそうだ。それが無いから、余計に早く感じる。
だがラルカスはそうではない。首の後ろがじくじくと痛む。化物の身体になって初めて、未知の敵というものに恐怖を感じた。
なるほど。人の作ったものだからか。人も野獣も、およそ生き物であれば、あんな戦い方はしない。人の作ったものが悪鬼じみているというのは、何とも業が深い。
いや、業が深いのは自分も同じか。死を逃れる為に人の身体を捨て、そしてまたどうせ殺してしまうならと、少女の肉体を奪おうなどと考えていた。
大鎌を大きく後ろに振りかぶり、横に薙ぎ払うような構えを見せるキリーク。
ラルカスもそれを受けようと斧を腰溜めに構えた。
大技は使えない。悠長に呪文を唱え終わるのを待っていてはくれまい。動きは向こうの方が早く、接近戦の技巧も上だ。
しかし魔法抜きでは、対等に戦えまい。どうしても打ち合いをしながら魔法を完成させる必要があった。
キリークの一撃を受け止め、至近からエア・ハンマーを叩き込む算段だ。
一応ダメージは与えているのだ。吹っ飛ばしてから魔法をありったけ叩き込んで、決める。
正面からキリークが突っ込んでくる。
大鎌を受けようと、それが振り抜かれるタイミングを伺う。
が、その時は来なかった。キリークの狙いは大鎌の一振りではない。見誤ったラルカスが斧を振るが、迷った分だけ一瞬遅れる。
キリークはそのまま、お互いの得物が役に立たない間合いまで踏み込んできた。
「なっ!?」
鎌の刃の逆端――。槍の穂先のように尖った石突の先端が跳ね上がる。それは正確に、ラルカスの右目を捉えていた。
「がっ!! あああああああ!」
右目を奪われて激昂したラルカスが、無茶苦茶に斧を振り回す。だが、そこにキリークはいない。
右目を貫いた次の瞬間には死角となった方向へと離脱し、ラルカスを中心に反時計周りの軌道で走った。
両手で大鎌をしかと握り、両足で地面を踏みしめて大きくスタンスを開く。今度こそ。影すら留めない速度で、大鎌が振り抜かれた。
ラルカスの胸板から、刃が生えていた。ミノタウロスの巨体が浮いて振り回される。
「ぐっ、ふっ」
胸を引き裂かれて吹っ飛んだラルカスが転がって、口から鮮血を吐いた。
「ぐ、ふふぅぷぶ……」
ラルカスは血の泡を吐きながら、口の端を歪ませる。笑っているらしかった。
「お前……」
イザベラが恐る恐る近くにやってくる。
「わたしは……、笑い方さえ、忘れていた。恐怖も、痛みも、忘れていた。そんなものが、人間で、あるはずがない。
わたしが、わたしでなくなっていくのは、当たり前のことだったのかもしれない。だから、これで良かったのだ。礼を、言う」
「今更死ぬのを受け入れるぐらいなら、最初の一人目で何で……!」
イザベラは搾り出すように言った。死ななかったんだ、とは言えなかった。
わたしだったら、どうしていただろう。諦めるのか? やっぱり最後までもがくんじゃないのか?
死ねば良かったなんて言えないけれど、そうしていたら沢山の子供達だって、死ななくて済んだだろうに。
どうにも、やり切れない気分だった。
「そうだな。勇気が、無かったのだ。全く、生き汚い。言う通りだ。民を守るはずの貴族が、この有様では……」
ラルカスが咳き込む。大量の血が混じっていた。
「最後に……、どうか名前を、教えてはくれないか」
「イザベラ」
「キリークだ」
二人が名乗ると、ラルカスは静かに目を閉じた。
「良い名だ」
上下していた胸板が痙攣して、その動きが不規則に、しかし小さくなっていく。
「ああ、自分が自分でなくなるというのは、イヤなものだな。実にイヤなものだ」
血の塊を吐き出して、ラルカスの呼吸が止まる。
それきり、彼が口を開くことは無かった。
支援
イザベラとキリークは、ラルカスの遺体ごと、彼の研究室を焼き払って村へと戻った。
憂鬱だった。足取りが重い。
アルマはついに洞窟から見付からず。もしあの犠牲者の中にいるなら何と村人に説明すればいいのか解らなかった。
最悪の予感が当たっていたら……、彼らは自分の無能を責めるだろうか。それは仕方ない。人間なんてそんなものだ。
暗鬱な気持ちのまま、見送りに出てきていた村人の所へ歩いていく。
「今度こそお帰りですかな」
村長が笑顔で出迎えてくれた。その笑顔をイザベラはまともに見れない。
「……いや、実は」
イザベラが沈黙の後に意を決して切り出そうとしたその時だ。
「おねえちゃーん!」
「は? え?」
村の奥から、アルマが何事も無かったかのように駆け寄ってきた。
「はいこれ」
そのアルマが無邪気に笑いながら、何かをイザベラに手渡してきた。
「お前……、これ作ってたのか?」
「うん!」
イザベラにこれを手渡したくて、朝から姿を消していたということか。
そんな、だったらわたしは、何の為にあんな怖い思いしてまで?
全身からヘナヘナと力が抜けていく。
それは花で作られた王冠だった。イザベラも子供の頃、従妹に作ってやったことがある。
確かに勘違いしたのはわたしだけど。無駄骨じゃないか。
いや、しかし。あいつがいたら、この子もやっぱり危なかったしな。でもなあ。
この子が村にいるって分かってたら、最初からキリークに行かせたって。助かるかどうかの瀬戸際かもって思ったから急いで洞窟に……、ああ、もういいや。
みんな無事だったんだからさ。全く、これだから子供は嫌いなんだよ。くっそ。冠ならもっと上等な奴を持ってるっての。
イザベラは心の中で悪態をつきながら、自分の頭にそれを乗せた。
「にあってるよ」
「ありがとな」
イザベラは少しはにかんだように笑う。
「ううん! ジジおねえちゃんをたすけてくれて、ありがとね!」
別れは、あっさりとしていた。
何度か振り返って手を振って、アルマや見送りに来た村人達と別れた。
「……何笑ってんだよ、地下水」
“いえ。姫殿下にお仕えしていて良かったな、と”
「ああ、そうかよ」
イザベラは不貞腐れた。
しばらく馬車の座席に揺られていたイザベラだったが、ふと気になって地下水に問う。
「なんで、あいつは化物になっちまったんだろうね」
化物の身体を手に入れたから、心もそうなってしまうなんて。
洞穴で、ずっと一人でいたからか? だとしても人間らしい感情も忘れていってしまうなんて。どうしてそんなことになってしまうのだろう。
「わたしが思うに、領分や役割って物があると思うんですよ。わたしが道具なのと同じように。
わたしは人間を操れますが、ずっと人間のふりをしていたいとは思いません。できっこないって解ってるからです」
ラルカスはそれを踏み越えたから、化物との境界が曖昧になっていってしまったのかも知れない。そして彼は、実にミノタウロスらしい役割を果たしてしまったというわけだ。
分かったような、分からないような、地下水流の人生哲学であった。
領分と役割、か。
キリークはどうなんだろう。命令を受けて人を殺すのを目的としているから……、あいつは人斬りを目的に作られたんだろうな。
少し、地下水やキリークの見方をイザベラは改めていた。
多分こいつらは「絶対裏切らない便利な道具」ではない。
人と違うロジックで動いているから、人の嫌らしさを持たないのは当然だ。自分はそこに魅かれたのだろう。
だけれど、彼らは彼らの目的を達成する為にしか動かない。その辺を履き違えると痛い目を見るかもしれない。肝に銘じておこう。
ではシャルロットは……、父親を殺されて、王族の権利を剥奪された娘は……、どこに向かっているのだろう。
イザベラは窓の外を流れる景色を眺めながら溜息をついた。
自分は彼女の目的も役割も、良く知っているはずなのに。今更彼女の心の内を考えて、どうするというのか。
決してもう、昔のように交差することはない。馴れ合う日も来やしないさ。
帰ろう、プチ・トロワへ。
地下水は黙って、イザベラを見ていた。
イザベラは自覚していないが、彼女は今日、自分の役割をしかと果たしたのだ。
今でこそ色んなややこしいことになってはいるが、元々の貴族や王族の役割なんてシンプルなものだ。決まりきっている。
彼女の青い髪に乗せられた花の冠は、イザベラが何人かの民草を救った、確かな証だった。
以上で投下を終了します。
超乙
ここでイザベラが変わってくるってことはガリア全体も変わってくる可能性があるな
今からwktkなんだぜ
ミノタウロスはpそ的にはジゴブーマくらい?
外伝完結乙
元ネタしらなくても楽しめるのは良作の証だッ!
ぼくもイザベラ様のドロップキックをくらいたいれす(^q^)
ドロップキックされた奴は、スカートの下に隠されたイザベラ様の純白なおパンパンを見れたに違いない。
それがショーツか、あるいはドロワにしてもおいしいです(^q^)
フロウの人のイザベラ様は可愛いな。幸せになって欲しい。
乙。ここでの変化がどう本編と絡んでくるか楽しみですな。
本編の続きはどうなってるのでしょうか?気になってしょうがない。
乙。
パタポンも乙。
425 :
虚無の遊び:2009/03/03(火) 00:09:52 ID:4U54mlKi
1レスネタを投下してもいいでしょうか?
426 :
虚無の遊び:2009/03/03(火) 00:22:07 ID:4U54mlKi
反応がないようなので投下します
春の召喚の儀式が行われていた。今後、一生を共にする使い魔を召喚する重要な儀式である。
最後の番となった我らがルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、数え切れない程の失敗魔法による爆発を経てようやく召喚に成功した。
確かに成功したのだが、ボロボロの布を纏った男のようであった。
砂漠で遭難でもしていたのだろうかしきりに「水を・・・」と立つ事さえままならず、ボロ布から死んだ魚のような目を覗かせうめいていた。
(魔法が成功出来たと思ったら・・・ 始祖ブリミルよ、まだ彼女を苦しめようと言うのですか・・・)
コルベールは同級生から嘲笑と嫌味を受けながら小刻みに震える自分の生徒に心から同情するのだった。
そして、苦渋の決断をし自分の生徒へこの男とコントラクト・サーヴァントをさせるために一歩足を踏み出そうとした・・・
その時であった。見知らぬ男が生徒とコルベールの前を通り抜けたった今召喚された男へと向かっていった。
「私は神だ。お前に水を与えよう・・・」
コルベールは警戒していた。自分は元軍人であり少々鈍っているとは言え、人の気配に全く気がつかないというのはありえなかった。
上半身裸で非常にタイトな服を下半身に身につけている一見ギリギリの様なこの人物、しかも自身を神だと名乗った。ルイズも呆然として言葉も出ないようだ。
「すべての神よ、すべての生命よ。彼に水を・・・」
ギリギリな人物がこのように独り言を言い始めた途端、ボロ布を纏った男の側に泉が現れたのだった。
ボロ布を纏った男は歓喜して、泉の水を飲み始めるのだった。
(水のラインかそれ以上、それよりも何より杖を使わず詠唱に使った言葉もも聞いたことが無い。生徒を至急避難させ・・・)
コルベールがそのような事を考えているその時であった。
「私だ。」
「おまえだったのか。」
ボロ布を纏っていた男が突然ギリギリな人物と同じような服装になって立ち上がったのだった。この出来事はコルベールの理解を範疇を超えつつあった。
「また騙されたな。」
「まったく気づかなかった。」
「暇を持て余した」
「神々の」
「「遊び」」
我に返ったコルベールは「暇を持て余してるのだったら」との理由で、ルイズにキメポーズをしている二人とコントラクト・サーヴァントをさせ、ルーンを書き写した後、夕食について考えながら学院へと戻るのだった。
投下前に元ネタと召喚キャラを宣言してください。
428 :
虚無の遊び:2009/03/03(火) 00:22:41 ID:4U54mlKi
モンスターエンジンのコント「神々の遊び」より
メンフィスとメンフェンティスを召喚でした。
それより鮫の話しよーぜ!
ジョーズ召喚
バイオのなんかあの水中だと無敵に近いサメ召喚
呼ばれたとたんに陸の上、のたうち回ってあげくに窒息死か
可哀想だなサメ
スレチだが、ジョーズが支給品と言うネタがあってな、
海の中だと、即刻、立場が逆転するw
トリステイン魔法学院に伝わる伝説、鮫島召喚事件……
>>428 これは姉妹スレ向けだろう。
クロス元の元ネタ的に考えて。
>>432 地中を泳ぐ鮫もいれば、宇宙を泳ぐ鮫もいる。
ゲオザークとかキャプテンシャークとか。 どっちもロボだけどな!
勇者王召喚。ついでにゾンダーの生き残りも。
マイナス思念つながりでルイズやジョゼフと馬が合いそうだww
そしてぶちかます勇者節。
「最後に勝つのは……勇気ある者だあああああああああああああああ!!!!!」
>>435 >宇宙を泳ぐ鮫
ダライアスですね、わかります。
438 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/03(火) 01:16:06 ID:RB1gOmrY
ふと電波が過ぎった…
FFから「ブロント様」を召喚…
zeropon を最初に zeroppon と読み間違えて、頭に ポッポポポポポ… が響く
ゼロッポン
宇宙を飛ぶエビは戦艦だって沈める。
ブラックタイガー…
やはりメイジよりナイトの方が頼りにされていたゴーれムとの戦いで
おれは集合時間に遅れてしまったんだがちょうどわきはじめたみたいでなんとか耐えているみたいだった
おれは馬車にいたので急いだところがアワレにもルイズがくずれそうになっているっぽいのがキュルケが叫んでいた
どうやら魔法がたよりないらしく「はやくきて〜はやくきて〜」と泣き叫んでいるキュルケたちのために俺はとんずらを使って普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦すると
「もうついたのか!」「はやい!」「きた!盾きた!」「メイン盾きた!」「これで勝つる!」と大歓迎状態だったルイズはアワレにもメイシ゛の役目を果たせず立ちすくんでた近くですばやくフラッシュを使い盾をした
ルイス゛から小声で「か、勝ったと思わないでよ!」ときたがギャラリーがどっちの見方だかは一瞬でわからないみたいだった
「もう勝負ついてるから」というと黙ったのでシルフィイドの後ろに回り不意だまスフィストを打つと何回かしてたらゴんれムは倒された
「ナイトのおかげだ」「助かった、終わったと思ったよ」とるいうzを起きあがらせるのも忘れてメンバーがおれのまわりに集まってきた忘れられてるルイス゛がかわいそうだった
普通なら裏テルのことで燃える人がぜいいんだろうがおれはそれほどでもなかったみんなとよrこびほめられたかったのでケアルを唱えてやったらそうとう自分の裏テルが恥ずかしかったのか学院に帰って行った
>432
チョウチンアンコウのマミヤ君というのがいてだな
>>442 黒髪のメイドさん大活躍で美味しい使い魔でしたね、
定期的にブロントさん召喚ネタ出るなw
ブロントさんは複数ジョブ75だからだいぶ強い
ワルドくらいなら勝てるだろう
IDOLAの人乙です。
今回は読んでてハラハラさせられる展開でした。
締めも凄い良い感じ。
良い外伝でした!
寄生獣の幼体大量召還マダー?
ディケイドでアビスの契約モンスター二体が丁度鮫だったな
質問
召喚された男キャラにおマチさんが入れ込んじゃうのって割とあるけど、
ワルドが召喚された女性キャラに惚れちゃうのってあったかな?
ゼロポンの人はおもしろいんだが……やっぱ太鼓要素がでてこないといまいち燃えないよなぁ……
まあギーシュは神の太鼓で支援するまでもなかっただけかもしれないけど。
フーケやワルド……いや、むしろ7万のところで真価を発揮するんだろうか?
伏線通りルイズの爆発音だと思ったけどパタとチャカなんて可愛い音はどうだすのか
秘密結社でいこうから 竜太郎を召還。どうしてこうなるんだ、とか言いながらも頑張ってくれそう。
もっとも組織のみんなもお約束の力で追ってきて、連れ戻されそうだが
>>441 ニコニコ動画の幻想入りみたいな奴想像してたわ
まぁこのスレのカラーじゃない
サメと聞くとなぜかTFのゲルシャークが真っ先に浮かぶ。
アディリシアさんの空飛ぶ鮫やジェネシックガオガイガーの両肩も忘れないであげてください。
て、アレはオルカか…
ワルタ−が乗ってたのも鮫だったかな?
良いキャラだったが召喚されないかな−
>>288 亀レスなうえ野暮なツッコミで申し訳ないが
これシエスタ異端審問かけられるんじゃ?w
>>455 キャプテンシャークか。あいつは役割上(地球の勇者の抑止力)グレートゴルドラン並の強さだぜ。
良いキャラだがパワーバランスが…
>449
そこで始祖のオルゴール改め始祖の太鼓ですよ
流れをぶった切るようでスマンが、ルイズがそこはかとなくダーク化(言うなればダース・ベイダーみたいな)してるのって虚無の闇やGIFT以外にあったっけ?
メタルマックス2にスナザメという砂漠を泳ぐ素敵なサメがいますぞ
メタルサーガのレッドフォックスとかどうだろ。
セント・マッスルでもいいけど。
他に鮫つながりっつーと・・・・・・・
「シャークナックル」「シャークアッパー」を使うワールドヒーローズのキャプテンキッド
山田さんを呼ぶ「ギルティギア」のメイ・・・・・あれはクジラか
あとは・・・・・「俺の事ならシャークって呼んでくれ」なアイツくらいかな
マリオRPGのジョナサンとか・・・
>>462 五所川原さんって言うシャチだか鮫っぽいの召喚できるよ!
フカヒレ「俺が主人公のファンタジーが幕を開けるぜ…」
>>453 いいよねゲルシャーク。サイバーシャークとかヘルスクリームとかのリデコ鮫連中も格好良いんだよなぁ。
鮫の話題なのにシャーク隊長が出ないなんて……
そーいやセイザーゴルド召還とか考えた事も合ったな
>>456 ちょっと変わった労働組合みたいなものさ
…多分
今回の話で、ギーシュがシルフィから落ちた時、
地面から勢いよく飛び上がってルイズを安井みたくアッパーすると期待したのは俺だけ
469 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/03(火) 13:08:32 ID:snHDRBaw
>447
アビスは正規の龍騎には存在しないんです。
キバから紅音也召喚。
そもそもどんな作品でも劇場版アニメ漫画ゲームオリジナルキャラは正規にいないけどね
>>470 劇場版やアニメオリジナルで登場して原作でも登場するパターンもあると思う件
>>469 でも正規の龍騎自体パラレルワールドの集合体だしなあ
アビスハンマーやアビスラッシャーが存在してるからな
リュウガの代わりにアビスの方がしっくり来るぐらい
>>469 それは知ってるが何か問題あったかな?
ミラーモンスターを使い魔にすると鏡と餌が必要になるんだよな
鏡じゃなくても姿の写るものがあればなんとかなるが(浅倉がこぼれた水からミラーワールド突入したし)
餌がなあ
人間をほいほい喰わせるルイズと言うのも想像しにくい
そこで闇ルイズですよ
召喚した平民を問答無用情け無用で奴隷同然の扱いをするんだから平民を喰わせるぐらいのこと
野良モンスターとちょくちょく戦って倒して食わせればいい
「人を食う」という言葉に何故か「美少女いんぱら」の友谷蒼召喚というのを思いついた
逃げてェ!ギーシュとワルド逃げてェ!
どーせ死なないからオスマンは逃げなくてもいいや。
しかし何故こんな言葉で彼女を思いついた?
新宿鮫Y 「零の少女」
鮫といわれて思いついたのはワンピースのアーロンとジンベイだけどアーロンに使い魔なれなんて言ったらルイズのクラスが全滅しそう。
>>468 ギーシュは清村ポジションとは少し違うだろw
>>480 ジンベエはクラスを全滅させることはなさそうだが使い魔になることは断固拒否するだろうな
経歴的に考えて
鮫といえば和田慎二の少女鮫かヘルスクリームかアーロンさん
そんな鮫談義の中使い魔はじめました第18話投下よろしいでしょうか?
しえん
返事はないですが始めさせていただきます
使い魔はじめました―第18話―
「おはよう、サララ。よく眠れた? 今日は気持ちのいい天気だよ!」
チョコに声をかけられて、サララは瞼をこすりながら起き上がった。
あまりに質のいい布団なので起き上がりたくなかったが、
ルイズを起こさないわけにはいかない。
そう思って隣のベッドに寝ているルイズに声をかけた。
「ん……今日は、もうちょっと寝てたいの。今日一日自由でいいわよ」
ぼーっとした様子で、布団を被ったままルイズは答えた。
昨日の夜何かあったのだろうか、とサララは考えたが、
あまり追求して欲しくなさそうなので、はい、と答えておいた。
着替えて階下に下りる。酒場と食堂を兼ねたそこでワルド子爵を探すが見つからない。
「あれ? 子爵様いないね。出かけたのかな。どうするサララ?」
チョコが問うた瞬間。くぅ、と小さくサララの腹の虫が鳴いた。
「……まずはゴハンだね」
顔を少し赤く染めて、照れ隠しにチョコのわき腹を軽くつま先で突っつく。
大理石から掘り出された椅子に座ると、店員を呼び、メニューを見せてもらう。
港町というから魚料理があるのかと思ったが、肉料理が大半だ。
まあ、山の中だから肉が多いんだろうなあと思う。
鶏肉のソテーを頼むと宿の中を見ながら料理を待つ。
テーブルも椅子も、大抵のものは一枚岩から掘り出された大理石で出来ているようだ。
なるほど。これなら頑丈で、壊れることも少ない。
コストは少しかかっているのかもしれないが、貴族相手の宿だというなら
高級感をかもし出すことができてむしろ好都合だろう。
数名の貴族がカウンターで飲んでいる。ワインは高級そうなものばかりだ。
どうもトリステインでは酒の類はワインが好まれているらしい。
となると、自らの売り物である小人族秘伝の酒はちょっと好まれないかもしれない。
片や魔力を回復する代わりに凄まじい二日酔いを引き起こし、
げっそりしてしまうような強い酒。片や甘くて楽に飲める果実酒である。
そんなことを考えている間に、厨房から美味しそうな鳥の焼ける匂いがしてきた。
「ねー、ボクにもちょうだいね、鶏肉」
テーブルの下でチョコが足に擦り寄ってくる。
「お待たせしましたー」
若い女店員が運んできたよく焼けた鶏肉を前に舌なめずりしたいのをこらえた。
いただきます、と言おうとした所で店員がじっと見ているのに気づいた。
首を傾げると、彼女も笑顔のまま首を傾げる。
ああ、と考えついて、財布を取り出すと金貨を一枚差し出した。
「ありがとうございまーす」
スキップしそうな勢いで彼女は厨房の奥へ消えた。
腹を満たした所で、サララはチョコを連れてラ・ロシェールの町へ出た。
その背には身の丈程もある大きな袋をかついでいる。
「うわぁ……見て、サララ。凄く大きな樹があるよ!」
チョコと一緒になって、丘の上にある巨大な樹を見て目を丸くした。
「はは、お嬢さん『世界樹』を見るのは初めてかい?」
露店にいた壮年の商人が声をかけてきた。
セカイジュ? と鸚鵡返しに問いかける。
「そうさ。別名をイグドラシル。枝を見てごらん。それぞれの先に
船がぶら下がっているだろう?」
指で示された先を見て、サララとチョコはあっと声を上げる。
「アルビオン行きの船さ。あれは巨大な桟橋なんだよ」
人のよさそうな笑顔で商人は説明してくれた。
「へぇ……空飛ぶ船かぁ、凄いねぇ……」
チョコが驚いた様子でじっと見つめていた。
「で、どうだい? うちの店の銘菓世界樹クッキー。今なら安くしておくけど?」
後ろから聞こえてきた言葉に、サララは思わずこけそうになった。
流通の中心地だけあって、商人はしたたかだ。
先程食事をしたばかりとはいえ、甘い香りは食欲を誘う。
一袋ください、と言ったサララは、ついでにこの辺りで人の集いそうな場所を尋ねた。
「人の集まりそうな場所? そうだなあ……まあ、基本は桟橋だが、
今はアルビオンで内戦をやってるだろ? そのせいか物好きくらいしかいやしねえ。
後はそうだなあ……『金の酒樽亭』って居酒屋がある。
この間まで王党派についてた傭兵どもが、今はごろごろしてるぜ。
まあ、お嬢さんみたいな人が行く場所じゃねえよ」
型に種を流し込み、手際よく焼き菓子を作りながら店主は答える。
「まあ、腕っぷしに自信があるっていうんなら別だがな……」
苦笑する店主に、満面の笑みを返す。
「ほほう、随分と自信ありげな顔だな。ほら、じゃあ一個おまけで入れておくよ。
お嬢さん方に幸運が訪れますように」
紙袋にそれをつめると、ほい、と店主はそれを差し出した。
情報量も含めて少し多目の代金を払うと、一人と一匹は金の酒樽亭へ向け歩き出した。
おまけの一個が少し生焼けだったことは、この際気にしない。
下をくぐれそうな扉を、背伸びして必死に開くとサララは金の酒樽亭に入った。
中で酒を飲んでいるのは、一目で分かる傭兵やならず者達ばかりだ。
「おいおい、ここはあんたの来るとこじゃないぜ?」
「ガキは母ちゃんの胸でおねんねしてな!」
下品な笑いが飛び交うのも気にせず、サララはカウンターに座る。
とりあえずワインを頼むと、金貨を店主に渡した。
「……なんかわけありかい?」
店主は金貨を受け取りつつ、訝しげな表情を見せる。
サララは、自分は遠くから来た商売人で、この辺りの事情にはあまり詳しくない。
そんな折、アルビオンやゲルマニアのきな臭い噂を聞いた。
それが本当かどうか、ちょっと確かめたいのだ、と言った。
「あんた、ゲルマニアには行かない方がいいぜ!
何しろ、あの国は今カエルの呪いにかかってるらしいからな!」
げらげらと笑いながらすっかり出来上がった傭兵が一人叫んだ。
「アルビオンだってひでえ! レコン・キスタには悪魔が参謀してついてるらしいぜ!」
酔っ払いというのは得てして話すのが好きなものである。
『カエルの呪い』と悪魔について詳しく聞こうと思った。
しかし、その声を遮るように扉の開く音がした。
「おー? いつからここは託児所になったんだい」
げらげらと笑い声を上げて、一人の男が入ってきた。
「そこをどきなガキんちょ。てめえの来るような店じゃねえよ」
「うわー、なんかたちのわるそうなのがきたよ」
チョコがうんざりしたような顔をする。
「おらどけよ!」
男は脅しをかけるように、サララの荷物を手に取り床に放る。
サララは慌てて床に降り、袋の中身を確認した。
「喧嘩なら表でやるか椅子を使ってくれよ?」
いざこざに慣れた様子で、店主はため息をついた。
「おわっ、何だ何だ。喧嘩かい相棒?」
荷物が床に落とされた拍子に、デルフリンガーが転がり出る。
「ほお、インテリジェンスソードとは珍しいもの持ってるじゃねえか」
デルフリンガーに伸ばした男の手を、サララが弾く。
キツく結ばれた口元と怒りをこめた眼差しで男を見上げる。
「あ? 何か文句でもあんのかよ?」
サララはデルフリンガーを片手に担ぎ、もう片手で袋を持ちながら告げる。
商売道具をないがしろにされて、怒らない商人がいると思うのか、と。
「ぎゃははは、てめえ、この『熱風』のアーカイブ様に勝てるつもりでいんのか!」
その問いにこくりと首を縦に振る。顔には怒りを露にしたままだ。
「何だと! ふざけやがって! 表出ろ!」
汚い路地裏の一角。杖を構えた男とデルフリンガーを構えたサララが対峙する。
「決闘ってわけじゃあねえが、一応名乗って置こうか。
俺の名はアーカイブ。二つ名は熱風だ。この界隈じゃあ、
多少は名の知られた傭兵部隊の隊長だよ」
脅しをかけるように笑いながら、男は杖を構える。
名乗るのが礼儀かな、と思いながらサララが名乗りを考えていた時。
「痛めつけさせてもらうぜ! ファイヤー・ボール!」
相手は既に詠唱を始めており、火の弾がサララ目掛けて飛んでくる。
一瞬慌てたサララだが、ふと思い出してデルフリンガーを盾にするように構える。
火の弾は刀身に触れた途端、すっと跡形も無く消え去った。
「はぁっ? てめえ、何しやがった!」
自分が見たものが信じられず、男は声を荒げる。
「あー……魔法吸収できるの思い出しててよかった」
デルフリンガーが思わず安堵した声を出す。
「魔法を吸収するだあ? ふざけやがって!」
激昂した男は再び呪文の詠唱を始める。それを見逃すサララではなかった。
足元には異国の神の名を冠したブーツ。鍛えた戦士以上の素早さを与えるそれの力で、
サララは一気に相手との間合いを詰める。
男が詠唱を終わらせる前に、その懐に入り込んだ。
斬撃音と打撃音がほぼ同時に路地裏に響く。
「相棒、今のは一体……?」
奇妙な感覚にデルフリンガーが疑問の声を上げるが、それには答えず鞘にしまう。
男は、上半身の服を切り裂かれ、頭に大きなコブを作って倒れていた。
「……サララを怒らせるなんて、馬鹿だねえ」
チョコが呆れたように男の顔に砂を掛ける。
「で、商品は無事だったの?」
うちの商品はこれくらいで壊れたりしない、と口元に笑みを浮かべる。
騒ぎを起こしたせいで、ここでの情報収集は無理そうだなあ、と
独りごちながら、サララは路地裏から表通りへ向けて歩いていった。
「……魔法を吸収するのか」
彼女の姿が見えなくなった後。物陰から、白い仮面を被った男が姿を現した。
マントを着けていることから、おそらく貴族、少なくともメイジであろう。
「さてと、お姫様はずいぶんと厄介な手駒を手に入れてらっしゃるようだ。
だがまあ……手の内が分かっただけ、こちらが有利、だな。
くくく、と不気味な笑い声を上げながら、男の姿は風に溶けていった。
以上で投下終了です。支援ありがとうございました!
新刊が怖くて買ってません買えません読めません。
伝説の剣つながりでこの作品を書き始めた身としてはですね。
ええそりゃあもうちょっと、今からヤマグチ氏をこれからヤマグチ氏を殴りにいこうか。
という気分になったりもしました。
原作お気に入りキャラはデルフとワルドとカリン様です。
それはともかくウチのサララは武闘派です。
破壊の杖を買ってすませるとか出来なくってサーセンw
秘密の店はハルケギニアにも普通にありそうですもんなあ。
乙
今年はアニメの4期無いみたいね
そろそろ完結させるのかな
491 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/03(火) 18:15:54 ID:T8eECvag
え…毒の爪終わっちゃうの…?
遅くなりましたが支援!
この作品、読んで「だんじょん商店会〜伝説の剣はじめました〜」を
やりたくて探しているんだけど全然、見つからないです。
では、
お久しぶりです。6時35分から投下よろしいでしょうか?
ヴァリエール領に向かう一台の馬車。
揺れる馬車の中、ルイズとエレオノールはずっと無言だった。
例の男が逃げ出した翌日、エレオノールはルイズを半ば無理矢理に帰郷に同行させた。
本来ならばアカデミーの研究員であり、今回の悪魔騒動の関係者であり、非公式とはいえ学院から例の男の調査を依頼された身であるエレオノールは、アカデミーに戻るべきなのだ。
だが、エレオノールにとって、出来の悪い妹の事の方が大切だったのだ。
このまま学院にいても再召喚も出来ないルイズは進級など出来る筈も無く、それ以前に、最悪の場合何処からか脱走したあの男との関係に気づかれる若しくはでっち上げられ、そこからル
イズに追求と怨嗟の矛先が向かう可能性もあった。
そこで、ルイズの身を懸念したコルベールの提案で、学院の現状を理由に、ルイズには一時的に自領に帰ってもらう事となった。
ちなみに、ここにきて、貴族のたしなみだと従者を侍らせようとしたエレオノールであったが、それも諦めるしか無かった。
エレオノールが異様な怯えぶりを見せる学院の使用人のうち一人を無理に引き抜こうとする様を、シュヴルーズが見かねてオスマンまで引き出して止めたのだ。
公爵家のゆかりの者の作法として、従者も連れていないのは大きな問題であったが、それ以上に今回の事件における異常と問題が大きいという事であり、学院側としては余計な問題が生ま
れる可能性を見過ごすわけにはいかなかったのだ。
ちなみに今馬車を動かしているのは若い男は、その形をした魔法人形であり、これにおいてはエレオノールが学院に訪れた際にも使用していたものである。。
エレオノールは向かいで俯くルイズの表情を読み取ろうと目を細める。
彼女の視線に気づき、少し顔を上げてルイズは、エレオノールの細められた目を恐れるかのようにさっきよりも深く頭を下げてしまった。
(睨まれていると思われたのかしらね)
思えば、いつもルイズに対しては優しく接した試しが無い事を思い出しながらも、エレオノールはこれだけ自分が心配しているというのにかなり失礼な態度では無いかと憤りを抱く。
だが、それでも今のルイズに対し、エレオノールは怒鳴る事はしなかった。
それだけ、目の前の少女の今の姿は儚い。
いつも、姉である自分を苦手にしていながらも、どれだけ母や自分から叱咤されながらも、常に向上心を見せ、努力を怠らなかった彼女が、今はふとした拍子に崩れてしまいそうだった。
実の所、ルイズを自領に戻る馬車に乗せようとした所、行きたくないと駄々を捏ねたので一度怒鳴ったのだが、その時の言葉を振り返れば酷い言葉をぶつけたものだ。
「“ゼロ”のあなたがこれ以上この場にいても何の意味も無いわ!」
その一言は、間違いなくルイズの心を大きく抉った。
自分だって誇り高きヴァリエールの一員だから判らない筈は無い。実質、留年であり、停学ないし退学同然のこの判断は、傍から見れば逃げであり恥である。
だが、一年の間、結局は魔法を成功させる事が無かったルイズがこれ以上学院にいても得るものなど何も無いであろう。
それはつまり、ルイズに無能の恥晒しだという事をハッキリと告げた事に他ならないのだ。
四日前、悪魔の襲撃があったその日。
「――ズ! ルイズ! おちびのルイズッ! 起きなさい!」
「エレオノール姉さま……」
エレオノールの必死の呼びかけに、意識を取り戻したルイズは、霞掛かった意識で姉の見せる珍しい表情に少々驚きの感情を抱いていたが、少しして周囲の有様に気づき、先程何があった
のかを思い出す。
「あ、あの悪魔は!」
緊迫した事態であった事を思い出し、ルイズは眠気を吹き飛ばすように跳ね起きる。
「片方は倒して、もう一匹はミスタ・コルベールが追いかけているわ」
そんなルイズの様子に驚きながらもそれに応えるエレオノールの言葉と、視界の隅で建物の影に姿を消すコルベールを認識するのはほぼ同時だった。
「追いかけないと!」
「あ、コラ! 待ちなさい!」
見失ってはいけないと、咄嗟に立ち上がり駆け出すルイズに、突然の行動に一瞬あっけにとられたものの、気を取り戻したエレオノールが後を追いかけた。
ルイズ達の先を駆けるコルベールが蒼い悪魔を追った先は、例の男を閉じ込めている地下牢がある塔であった。
確かあそこには自分が召還した平民がいた筈であり、もしや悪魔はそこで平民を襲っているのかもと、怖い想像をしたルイズは、後先も考えずに塔の中に入る。
中に入ると、地下牢へと続く通路がある方から微かな声が聞こえてくる。
「――――――――がある」
薄暗い通路に響く声はルイズの不安を煽るが、それでも彼女は声のする方向に進む。
「あの悪魔、いや、俺の持つ伝染病について、知ってもらわなければならない」
そして、あの男の声がはっきりと聞こえる中、男のいる牢の前にさしかかった時、ルイズの目の前には奇妙にねじくれた鉄格子『だった』モノが石畳に転がっている事に気づく。
「まさかっ!?」
この状況から、悪魔に襲われた男の末路を想像したルイズは慌てて牢の中を確認する。
が、そこには、石で覆われた牢部屋の奥で何事も無かったかのように、床に座り壁に背を預ける男とその彼に杖を向けるコルベールの姿があった。
「こ、これは一体……」
破壊された鉄格子と、その場に佇んだままの男、そして杖を向けるコルベールという、理解し難い組み合わせに思考がおいつかないルイズであったが、不意にかけられた声で思考を中断さ
れた。
「危険だ! 下がりなさい!」
声の主はコルベール。足音で誰かが来たことを悟り、視線をこちらに向けることなく杖を男に向け続けながら叫んでいる。
だが、ルイズには理解出来なかった。
なにせ、杖を向けられているのは何も持たず座ったままの“只の平民”の男であり、トライアングルメイジのコルベールにとって脅威になるなどという発想が無いのだから。
「何を言っているのですか? その男は只の平民――」
「このまま放置したら、取り返しのつかない事になる」
コルベールの“奇行”を非難するルイズであったが、それを遮ったのは男の言葉。
「ルイズ! 待ちなさいルイ――――えっ!?」
そして、男は自分の右掌をコルベールとルイズ、今かけついたエレオノールら三人に見えるように掲げ――
「人間が、悪魔になる。俺の様に」
――男の掌に刻まれた円形の紋章が淡い光を漏らすと共に右手が変化した。
「あ、蒼い悪魔……」
そう、先程戦っていた蒼い悪魔の右手に。
何故文末の空白が多いんだろ?支援
魔法学院を出発してから二日。
やっとヴァリエール領に入り、日が沈みかける頃、二人は一度馬車を降りて旅籠で休止する。
そこに集まった領民達に早駆けの馬を伝令に出すよう指示をして、彼らによる持成しを受けながら、テーブルに座るルイズとエレオノールは無言であった。
最初は何かと声をかけてきた領民達も、その雰囲気に押し黙る事になった。
あまりに重い空気に、エレオノールは何とかしたいと思いながらも何も出来ずにいた。
彼女には、気遣いの声のかけ方でさえ判らないからだ。
空気の読めないというか読もうともしないとの定評であるヴァリエール家のエレオノールであるが、今のルイズの姿は、そんな彼女でさえ追い詰められている事が、自分が更に追い詰めてしまった事が一目で判る。
だが、自分の感情を上手くコントロール出来ないエレオノールは、自分の不用意な言葉がどれだけルイズを追い詰めてしまうか怖くなっていた。
「そういえば、カトレアに会うのも久しぶりね」
だから、自分のもう一人の妹であり、ルイズが慕う姉であるカトレアの名を口にした時、内心で彼女に縋ったエレオノールはそれっきり再び無言になる。
あの心優しいカトレアならばなんとかしてくれるのではないかと淡い期待を持ちながら、同時に、自分の不甲斐無さに苛立ちを覚えながら。
そのエレオノールの内心は、眉を顰める形で表に出てくる。
だから、そのエレオノールの怖い表情に、ますます場の空気は沈み、ルイズも更に気を重くする。
結局、エレオノールもルイズも、無言のまま再び馬車に乗り、夜が更けた頃に屋敷に着くまで一度も言葉を発する事は無かった。
しえん
「すぐに対処しなければいけない。怪我をした者、悪魔の血を浴びた者は危険だ」
男の口から語られる事実は、とても信じがたいものであった。
だが、目前で、人の姿から悪魔になる事を見せられた以上、全くの虚言と断じる事など既に出来なかった。
「ルイズ、部屋に戻っていなさい」
「……」
その話を杖を向けたまま、黙って聞くコルベールの後ろに立っていたエレオノールは、男の話を耳に入れながら、隣にいるルイズに命令する。
「その者達も悪魔になり、人を襲う可能性があるからだ」
男はそんな二人の遣り取りを全く気にしていないように語り続け、コルベールも動かず話を聞いている。
そして、エレオノールに帰るように言われたルイズであったが、彼女も微動だにしない。
「言う事が聞けないの? おチビ」
「……これは、これは私が呼び出した使い魔です! 私には、ここにいる責任があります!」
そんな二人に、とてつもなく鋭い視線が刺さる。
男と向き合い、ルイズとエレオノールに背を向けていたコルベールが、背中から肩越しに二人を睨んだのだ。
「静かにしてください」
そんなコルベールの公爵家の者に対する態度では無い振る舞いに、エレオノールが激興して眉を顰める。
だが、それもお構いなしに、男は言葉を続ける。
「あと、原型を留めた死体も悪魔となって目覚めるかもしれない」
今は非常事態なのだ。
優先されるのは状況への対処であり、その対処への指針となる男の言葉に耳を傾け、迅速に行動しなければいけない。
「……」
だから、エレオノールは、言う事を聞かずにここに居続けるルイズと、無礼なコルベールにも怒鳴る事無く口を閉じたままであった。
「となれば、すぐさま怪我人や血を浴びた者達の隔離と、遺体の処理をしなければ!」
すぐさま行動しようと牢部屋から出て行こうとするコルベールであったが、男の言葉は更に続く。
「只、悪魔になってしまった者の中には人の心を保てる者もいる」
「……なんと」
その言葉に、コルベールは思わず足を止める。
「だが、常に悪魔の力がその者達をも殺戮に駆り立てさせる」
振り返れるコルベールが見たのは、相も変らぬ、男の静かな瞳。
「憎しみ、殺意、破壊衝動、そういった負の感情を増幅させる。先程俺が倒したあの男も『貴族』を強く憎んでいた」
その言葉は、貴族という存在を悪と指摘するかのように受け取られても仕方ないものであった。
「貴族を憎んでいたですと? それではあの悪魔は!」
「そうだ。彼も元は人間だ」
重い話だ支援
コルベールの予測を淡々と肯定する男の言葉に、大きな反発の声が上がる。
「平民の分際で貴族に不満を持つですって!?」
端整な目を憤怒の表情に歪ませヒステリックな叫びを上げるエレオノールにとって、それはあってはならない不遜であり忌まわしき『悪』であった。
そのエレオノールの激情ぶりは、隣で彼女と同じように男の言葉に反発を覚えていたルイズが恐怖で竦むほどであった。
実際、彼女を知る他の者や、平民達がその顔を見たならば、間違いなく恐怖に捕らわれるであろう。
力の有るメイジを怒らせるとは、このハルケギニアの民にとってはそれだけの意味があるのだ。
「俺は、この地での貴族と平民の関係は詳しくは知らない。だが、少なくともその男は貴族に対して不満を持っていた事だけは確かだ」
しかし、恐怖の象徴と化したエレオノールに対する男の表情は、まるで意に介さないかのように変化を見せる事無く言葉を紡ぎ続ける。
「それなら教えてあげるわ。魔法の使えない平民は魔法を使える貴族に服従するものなの。それがここでの常識よ!」
傍から聞けば貴族という存在の傲慢さを顕著に表すエレオノールの言葉ではあるが、少なくともトリステインではそれが大体での一般常識であり、共通認識であった。
「だから平民は貴族がどのように振舞おうとも不満を抱く事でさえ許されない。そう言う事なのか?」
だが、更に男は淡々とした口調を崩さずにエレオノールという火に油を注ぐ。
「それは違う!」
憤怒に駆られ、思わず手に持った杖を振るおうとするエレオノールを静止したのはコルベールの反論であった。
「貴族には、始祖より承った魔法の力を以ってこの国の繁栄に尽くす責務がある! そして、国を、民を護る事は貴族たる者の務めですぞ!」
本来、貴族の条件は一つだけ。
国を、民を、命がけで守る、それだけであった。
かつての王は命がけで守る者の功績を称え、領地を分け与え、民もその誇り高き姿に敬意を示し敬った。
だが、そんな単純な話ですら、六千年という時間はハルケギニアの、特にトリステインの大半の人間に忘れ去られていたものであった。
「そうか。ならば……」
口から出る言葉は、瞳の奥の色は、込められた想いは、あまりに“優し過ぎる”ものであった。
「もしも、心を保っていられる者がいるなら、どうか彼らを支えてやってくれないか?」
それが人の心を保つ方法であると、男の話はそこで止まる。
「約束は出来兼ねます」
少し、目を閉じて思案するコルベールが、ゆっくりと目を開けて漏らしたのは否定的な言葉。
男の目が初めて微かに細められる、表情の変化を見せる。
対するコルベールは静かに理由を述べる。
「もし、仮に心を失わずに悪魔になった者が、彼の言う殺戮衝動に負け、その牙を周囲に向ければ、被害が広がり、それこそ取り返しのつかない事になりかねません」
彼の言う事は正しい。エレオノールも、男も静かに彼の言葉に耳を傾ける。
「善処はしてみます。ですが、私にはまず、貴族として、この学院の教師として、皆の安全を守る責務があります」
コルベールの返答を受けた男の表情は相も変らぬ無愛想ぶりであったが、それでも真っ直ぐに彼を見据えていた。
「……ありがとう」
その男から洩れたのは飾り無い短い感謝の言葉。
故にこの場に居た貴族達にとって不可解に過ぎる言葉であった。
「話は伝書で受けています。ルイズ、使い魔に逃げられたそうですね」
食堂でルイズとエレオノールを出迎えた母、カリーヌが口にしたのは、短いながらもルイズへの非難の篭った言葉であった。
使い魔に逃げられるメイジなど、無能以外の何物でも無い、と。
その厳しい視線に射竦められるルイズは、黙って俯く事しか出来ない。
「母さま! 相手は学院中のメイジが束になっても敵わない悪魔なのですよ! ルイズにはどうしようもなかったのです!」
だが、そのルイズを擁護したのはエレオノールであった。
珍しい事もあると、微かに眉を寄せる
「口答えは許しません、エレオノール」
「ですがっ!」
厳格な母を苦手とするのはルイズだけでなくエレオノールも含まれる。
いくら激しやすいとはいえ、そんな彼女がこうも反発する事は本当に珍しい事であり、その剣幕にカリーヌは更に眉を顰める。
「とにかく、結局は魔法学院にいた一年の間でもやはり魔法も使えず、それどころか使い魔までいないとなると、学院に居る意味など無いでしょう」
「……」
その言葉に、エレオノールは押し黙る。結局は、彼女も同じ事を思っているからだ。
「明日、お父さまが戻ります。それからこの話の続きをしましょう」
そこで話は打ち切りと言わんばかりに、誰も声を出すことなく、少しの間少し冷めた料理を口に運ぶカリーヌとエレオノール。
そして、この重苦しい空気に耐え切れなくなったルイズは、フォークを手にする事すら無く、無言のまま席を立つと早足でその場を逃げ出した。
「ルイズ!」
「放っておきなさい」
そんなルイズの態度に流石に憤慨したエレオノールが思わず叫ぶが、それを今度はカリーヌが止める。
それはカリーヌなりのルイズへの気遣い方であったが、エレオノールはそれに気づいているのか気づいていないのか、声を荒げたままカリーヌに言う。
「母様、今回の事はルイズにとってあまりにも辛い事だったという事は、事前に伝書で説明している筈です!」
「判っています」
「では何故!」
「……私達は貴族です。常に己を厳しく律しなければなりません」
不器用なのは、ルイズにエレオノールだけではない。
子も子なら親も親、カリーヌもまた旧い貴族の価値観に捕らわれるあまり、それ以外の事が出来ない人種であった。
互いを睨むようにして顔を向きあっていたエレオノールとカリーヌだったが、先に口を開いたのはエレオノールであった。
「ところで母さま、カトレアは?」
そう、ルイズが懐く、もう一人の妹の姿がここにいない事を今更に尋ねる。
エレオノールがバツの悪い表情をするのは、ルイズの事を癒せるであろう人物を常に念頭に置きながらも、聞き出すタイミングを逃していたからだ。
「少し遠出をしています。ですが、もうそろそろ戻って来る筈です」
そう返答するカリーヌもエレオノールと似た表情をしていた。
だが、それも少しだけで、カリーヌは珍しく柔らかい表情を浮かべてこう言った。
「カトレアの事を聞けば、ルイズもさぞ喜ぶでしょう」
「え?」
「カトレアの体が治ったのですよ」
うわー
支援
事件から三日後、ようやく隔離状態が解除された事で部屋の外に出る事が出来たルイズは、何を思ったのか、地下牢に足を運んでいた。
「――ルイズか」
特別に強固な固定化の魔法をかけられた新しい鉄格子の向こうでいつもの様に壁に背もたれて座っている男は、静かに顔を上げて面会者の名を口にする。
「ご主人様と呼びなさい。いくら契約を済ませていないとはいえ、私が呼び出した以上は私の使い魔なんだから!」
先日のコルベールの言葉は、彼女が慕うもう一人の姉のカトレアがかつて魔法の使えないルイズを勇気付けるために諭した事であり、その言葉をいつしか忘れてしまっていたルイズ。
魔法も使えず、貴族として最も大切な心構えをも失っていたルイズが最後に縋ったのは、“使い魔”というメイジとしての証明であった。
自分の今の態度も既に『最も大切な心構え』から程遠いものだと、気付かずに。
「君の事はコルベールからいくらか聞いた。……済まない」
だが、男の返答は、謝罪。
しかし、その謝罪が何を指しているのかはルイズには判らず、ましてやルイズの要望にまるで沿うものではない。
「そう思うのなら、少しは私の為に――」
だからルイズはこの男に主人として命令しようとして、ふと考えた。
自分はこの悪魔に何を命じようとしていたのか?
忠誠? 力? 守護?
それとも契約をするにはあまりに問題のある彼の死?
ルイズ自身解らなかったが、実の所何でも良かった。
只、目の前の“人の姿をした悪魔”が自分の使い魔である事を証明して欲しいだけだった。
「……俺はここで死ぬわけにも、ここに居続けるわけにもいかない」
だが、男はルイズが何かの命令を口に出すか出さないかのうちに立ち上がり、ルイズの方へと歩み寄ってくる。
「ヒッ!?」
固定化の魔法で強化した筈の鉄格子を、思わず後ずさったルイズの目の前で掴み、以前と同じように役に立たない捻れた鉄の棒へと変えて石畳に転がした。
そして、牢の意味を成さなくなった部屋から踏み出した男に、ルイズは震える声で叫ぶ。
「わ、私は逃げたりはしない! 悪魔に屈したりはしないわ!」
その震えは悪魔に向けられたルイズのタクト状の杖にまで伝わり、とても照準など定まらない有様だ。
それでも、ルイズは健気なまでに、男を睨みつけ、仁王立ちする。
自分がメイジであり貴族である証明を、逃がしてなるものかと。
逃がしてしまえば、もう何も残らないと、目の前の悪魔への恐怖以上に、自身の価値を失う事に怯えながら。
この場において、“爆発する失敗魔法”を使う選択肢などルイズの脳裏には無かった。
ルイズの価値観の中、ひいてはハルケギニアの一般的な価値観の上ではあくまで“魔法の失敗で爆発する”という概念でしかなく、それは魔法が使えない事と同義であり、自身の無能の象徴でしか無かったからだ。
だからこそ、あの時、“爆発する失敗魔法”で二体の悪魔を攻撃したにもかかわらず浮かない顔をしたのは、結局自分がこの期に及んでも“魔法を失敗する”という認識しかなかったからだ。
それに拍車をかけたのが、結局あれだけ爆発を受けたのに、まるで効いていないかのように戦闘を続けた二体の悪魔の存在も大きいの。
だが、それでもあの状況を変化させるだけの力を持っていた事も揺るがない事実である筈なのだが、物事が見えないルイズにはそれを認識する事も理解する事も出来る事は無かった。
男が一歩、一歩近づくにつれ、ルイズは緊張で鼓動が大きくなる。
今は人の姿だが、目の前の男は、数多くのメイジを殺戮した悪魔をも倒す悪魔であり、魔法の使えないメイジのなりそこないのルイズなど、簡単に殺せるのだ。
――殺される。
自分の前にまで歩み寄る男の姿に、いや、男の紅い瞳に、自身の姿を死として映したルイズは思わず目を瞑る。
だが、自ら視界を闇に静めたルイズの耳に届くのは、自分の横を通り過ぎ、背中ごしで遠のく足音だけであった。
ルイズが目を開けて振り向くと、既に男は通路の端にまで進んでいた。
「済まない」
男は背中ごしに振り向きもせずにそれだけを言うと、右手から淡い光が洩らし、蒼い悪魔の姿へと一瞬で変貌する。
それも一瞬、蒼い悪魔は文字通り目にも留まらぬ速さでその場から姿を消した。
それが、ルイズが最後に聞いた男の言葉であり、最期に見た姿だった。
二つの月に照らされた中庭の池に浮かぶ小船の上、そこにルイズは毛布にくるまって一人泣いていた。
ルイズは幼い頃から、嫌な事あると決まってこの『秘密の場所』に逃げ込んで時を過ごしていた。
皆から忘れ去られた寂しい場所は、かつては彼女の心を癒す場所だった。
だが、今は、つきつけられた多くの過酷な現実が、夜の静寂のと寒空の中、鋭利な刃物の如く、彼女の心に突き刺さる。
(もう嫌……)
民を守り国に尽くす『貴族』のあるべき姿などそこには欠片ほども無く、そこにいるのは只の哀れな少女であった。
(結局、私は魔法を成功させえる事も出来ない)
悪魔と対峙した時も、結局はまともに魔法を使えないばかりか、唯一起こる爆発という現象も何の役にも立たなかった。
(自分の意地に固執していただけで誰かの為にだなんて考えなかった)
あの時のコルベールの叫びは、それだけルイズのあり方の根底を揺らしていた。
(それだけじゃなく、悪魔を呼び出して、国を混乱に陥れ)
そればかりか、国に民に、悪魔という混乱と危機を自分は齎したのだ。
(最後には使い魔にも逃げられて……)
それどころか、その悪魔を使い魔として認め、また悪魔から主と認められる事で、己が貴族である事をメイジである事を証明しようとして、結局はそれも適わなかった。
あの時にあの男の元を訪れたのは、己が貴族であるとの証明が欲した、最後の足掻きでしか無い事を思い知らされた。
最後に残った筈のそれさえも、結局は、只の驕りと我侭を突きつけられる結果だけがルイズに残されたのだ。
(私は、何なの? やっぱり、私はゼロなの?)
貴族の象徴である魔法も無く、常にそうであろうとした誇りも、最後には使い魔でさえも、自分が貴族だと胸を張れるものなど何処にも無かった。
己に有ったのは大貴族の娘という看板と、誇りとは名ばかりの傲慢だけ。
「もう、嫌だ……」
目から溢れた涙が頬を伝う。
ルイズの嗚咽は、夜風にかき消される程にあまりに小さい。
ともすれば、このままルイズの身体まで夜風に掻き消えそうな程に儚い世界。
「泣いているのかい? ルイズ」
だが、夜風を切り裂くように優しい男の声がルイズに届いた。
その声に気付いたルイズは顔を上げて、声のした方を向く。
羽帽子の下、鷹の様に鋭い瞳が、ルイズを見つめていた。
「……誰?」
精悍な顔立ちに形のよい口髭の男が、ルイズに親しく微笑みかける。
その男は、湖面の上すれすれを浮いており、まるで湖面の上に立っているかの様だった。
メイジにとってこの程度の芸当は誰でも出来るが、彼のそぶりは、何処となく優雅さを漂わせていた。
「もしかして……ワルドさま?」
「そうだよ、久しぶりだね、ルイズ。僕のルイズ」
男は、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。魔法衛士隊グリフォン隊隊長にしてルイズの婚約者の男であった。
その彼は、湖面を軽く跳ねるように跳躍したかと思うと、軽やかにルイズの乗る小船の隅に立った。
「また怒られたんだね? 安心しなさい。ぼくから家族にとりなしてあげよう」
憧れの子爵は、幼い頃の記憶と寸分違わず、優しい声で語りかけルイズに手を差し伸べる。
「さぁミ・レィディ。手を貸してあげよう」
今でも見るあの優しい夢の続きに、ルイズは縋るような目で手を伸ばした。
絵本の中のお姫様と王子の様に、ルイズの細くしなやかな手が、ワルドの力強いに触れようとして――
「子爵。ルイズから離れて下さい」
――それはありえない声。
「これは、これは、ミス・フォンティーヌ」
ワルドはルイズに差し向けていた手を引き、芝居がかったしぐさで声の方を向く。
「ちぃ姉さま!?」
ルイズは只々驚いていた。
聞き間違えるはずが無い。
この声はカトレア、自分のもう一人の姉、そして自分の味方でいてくれる優しい人。
だが、カトレアは、こんなに力強い、いや、ここまで重く威圧的な声を出すような人物であっただろうか?
そもそも、何故そんな声をワルドに対して向けたのだ?
「まさか、貴方も“聖別”されていたとは」
「……ワルド様?」
ワルドの視線は、池の外の向こうの闇夜、ルイズには人影らしきモノが全く見えない場所を向いており、その顔は忌々しげに眉が寄っているにも関わらず、何処か愉快げに口元がつりあがっていた。
口元を笑みで歪めるワルドの表情は、ルイズがこれまで見たことも無い、想像だにした事も無い獰猛さを醸し出していた。
「“聖別”!? “聖別”ですって? これは、こんな力は……」
「……ちぃ姉さま?」
対するカトレアの声は、ワルドが睨む闇の向こう、それこそ距離があるというのにはっきりとその声が響く。
病弱な筈のカトレアが、こんな大声を出せるなど、いや、魔法で声を少しは遠くに飛ばす事も出来るのだろうが、それでもカトレアの身体を蝕む筈だ。
だが、今この瞬間もカトレアの声にその危うさは一片たりとも含まれて居ない。
病が治ったのだろうか? だとしたら喜ばしい事だ。
「ちぃ姉さま? どうしたのですか!?」
しかし、ルイズは何か嫌な予感に捕らわれ、それを内心で拒むためにもう一度姉に、不安を隠せず上ずった声で呼びかける。
「……これは悪魔の力だわ」
だが、カトレアはルイズの言葉に乗せるように、信じられない程に呪わしく絶望的な言葉を口にした。
やっぱりこうなったか支援
以上、今回の投下でした。
投下時の不備申し訳ありません。
というか、なんで今回も投下終了宣言時に規制が入るんだよ……
ところで、今日鼻水が止まらんので医者行ってカプセルもらってきて飲んでいるんだけど、良くなるどころか熱が出てきて咳も頻繁に出てくるんだが……
乙でしたー。
カトレアさんは自分を保っているようですが、ワルドはやはり力に溺れたみたいですね。しかも選民思想が激しくなってるようですし。
これは次回が楽しみです。
乙
カトレア対ワルド
この発想はなかったわ。
でも、今回は推敲が足りないんじゃないかと思える所が多いような。
乙でした。
カトレアが…。
さて、身内に甘いイメージがあるヴァリエール家はカトレアをどうするのだろう。
なんか、性格的には自ら死を選びそうなんだが。orz。
乙。
自分の力なら止められるというなら死なんだろう。
しかし、ルイズ自身は感染せず、身内が感染者ならアマンダポジションか。
足りねぇ・・・乳が・・・
ブラスレイターの人、投稿お疲れさまです!
やっぱりワルドはやられキャラでも、こういうどす黒いキャラも似合ってる
ワルド格好いいよワルド。
さてさて、こちらも次の話の投稿を50分頃にしたいと思います。
出来るならば支援の方、よろしくおねがいします。
昼頃から始まったアンリエッタ王女によるトリステイン魔法学院の視察は予定通りというか、順調に進んだ。
宝物庫や中庭、食堂や生徒達が暮らす寮塔等を見回っている内に、すっかり日も沈んでしまった。
今回アンリエッタ王女は一晩泊まってから翌日王宮に帰るので、今夜は魔法学院で夜を明かすことになったのである。
その為、警備もかなり強化されている。前に土くれのフーケに忍びは居られたので尚更だ。
今夜の衛士達の警備はいつにも増してかなり厳しいがそれは本塔や生徒達が暮らす寮塔――そして城壁部分だけである。
逆に給士やコックとして働いている平民達の宿舎の警備はほぼゼロである。
金で雇われている学院の衛士達はこんな事を言っていた。
「平民をさらう者が居るとすれば、それは単なる人さらいか、ただの変わり者さ。」
その為今日の仕事を全て終え、明日の仕込みも済ませた彼らは酒を飲み交わしたり外にあるサウナ風呂に行ったりと、割と自由にしていた。
そんな場所から少し離れた草むらの中に、「五右衛門風呂の様な物」が置かれていた。
以前霊夢がマルトーから貰った大釜を使ってこしらえた物である。
その辺りには誰もいなかったがふと上空から霊夢が数枚のタオルと水が入った小さな桶、それと火種と洗濯道具を持ってやってきた。
勿論これらの道具は全てルイズの部屋から拝借してきた物である。
いつもは何か文句を言ってくるのだが、何故か今日のルイズはベッドに座ってボッーとしていた。
まぁその分取るのが楽だったので良しとしよう。
霊夢は着地すると鍋の下に敷いてあるレンガで作ったかまどに最初から入っていた枯れ木に火を付けた。
枯れ木が丁度良い位に乾いていたのか、どんどんと火が勢いを増していく。
やがて火が大きくなるのを見て霊夢は辺りをキョロキョロと見回し、誰もいないのを確認した。
「さてと…。」
確認をし終えると霊夢は首に巻いている黄色いリボンを解き、ソレを足下に置いた。
次ぎに上着に手をかけると思いっきり上へ捲り、真っ白な下着が―――
― ― 少女脱衣中だぜ。覗き見なんかするなよ? ― ―
覗き見支援
チャポ…
「ふぅ、気持ち良いわねぇ〜♪」
服を全て脱ぎ終え、タオルを体に巻いた霊夢は丁度良い湯加減になった自作のお風呂に入っていた。
脱いだ衣類は一度洗濯した後、かまどの近くで乾かしている。
―洗濯している最中は素肌にタオル一枚といういけない姿であったが…まぁそれは置いておこう ―
「〜♪、〜♪。」
霊夢はお湯で体を清めながらも段々と気分が良くなっていき、鼻歌も口ずさみ始めた。
片手でお湯をすくうとそれを肩にかけ、そこを軽く擦る。
次に顔、次に背中、と体のあちこちにお湯掛けているとふと左手の甲が視界に入った。
その瞬間、霊夢の脳裏に何日か前に言っていたオスマンという老人の言葉を思い出す。
「ガンダールヴ、伝説の使い魔ねぇ…。」
そうポツリと呟くと目を細め、左手の甲をじっと見つめた。そこにあるのは白い素肌だけだ。
オスマンが言っていた様なルーンなど何処にもない、というよりあったら不愉快だ。
今は幻想郷に帰れる証拠を掴むまでルイズの部屋に居るがあれはあくまでも利害の一致のうえである。
使い魔のルーンがないものの、召喚の儀式で霊夢が現れた限り、余程のことがなければルイズは再召喚が出来ない。
だが霊夢が無事に幻想郷へ帰ればルイズは使い魔を再召喚ができる。
今の扱いも使い魔というより客人に近い扱いであろう。霊夢自身もそれに甘んじている。
満足な食事とちゃんとした寝床。だけど一緒のベッドで寝るというのは癪だが。
……だけど、もしもルーンなんかがあれば今頃は使い魔扱いにされていたに違いない。
霊夢はそれを考え、お湯につかっているというのに体に寒気が走った。
ルイズはこんな魔法の世界だけではなく幻想郷でもやっていける様な性格の持ち主である。
一体どんな環境で育ってきたのか気になるところだがそこはまぁ別に良いだろう。
素直じゃないうえにかなりのサディスト、しかし以前喧嘩をふっかけてきたギーシュや気軽な性格のキュルケよりかは清楚ではあるが同時にプライドも高い。
もしも使い魔扱いされていたら、今頃霊夢はぶち切れるどころかルイズを懲らしめていただろう。
そして何よりも恐ろしいのが…彼女の放つ魔法 ―つまりは何もない空間を爆発させるモノ― である。
霊夢は一度だけしか喰らっていないがあの爆発は自分が作り出した結界を打ち破ったのだ。
多少の自負はあり、即席ではあったがそれでも博麗の結界は他よりも強力である。
ルーミアやチルノといったクラスの相手の弾幕や攻撃なら十分に耐えうる性能を持っていた…それが一発の爆発で粉砕した。
一体あの力が何なのか良くわからないが…とりあえずは幻想郷へと変える方法を探し出さなければいけない。
このハルケギニアとかいう世界は貴族やら平民やら色々とゴチャゴチャしたモノが多くて住みにくい。
―それが幻想郷からこの魔法の世界へ連れてこられた霊夢の第一感想である。
……最も、そんな事を考えている霊夢本人はお風呂にのんびりと浸かっているのだが。
支援
「早いとこ幻想郷に戻りたいわね…。」
ふと霊夢は一人そう呟いた。
気づけばこのハルケギニアに来てから既に一ヶ月くらいは経過していた。
今頃魔理沙辺りが異変だとか何やら騒いで幻想郷中を飛び回っているに違いない。
そしてまず第一に疑われるのはあのスキマ妖怪―八雲 紫―だと思うがまあそれは仕方のないことだろう。
まぁでも、紫ならば今回のことを説明しつつも結界を維持しながら自分を探しに来てくれるかも知れない…
そんな楽観的な考えも持っていた霊夢ではあるが同時にその後も事も考えていた―
(だが紫の助けで幻想郷に戻ってきた後、きっと色々と持って行かれそうね。主に食料やお酒なんかを……って、ん?)
と、そんな事を考えていると鼻の辺りをむずむずとした感覚が襲ってきた。
何かと思い鼻の下を軽く指で擦ると、指にベットリと赤い血が付いている。
「あ…鼻血でてる…。」
霊夢はまるで他人事のように、ポツリと呟いた。
「はぁ…。」
さて、そんなルイズは自室のベッドに腰掛けため息をついていた。
先程霊夢が幾つかの道具を持って部屋を出て行ったがそれすら彼女は気にしていない。
今ルイズの心の中には羽帽子を被った男―ワルド子爵―の姿が映し出されていた。
すらりと伸びた体、顔には立派な髭、鷹のように鋭い目、マントにはグリフォンの刺繍が施されている。
かつてルイズが子供の頃に知り合い、それからしばらくは会う暇がなかったが今日は久しぶりに会えた。
あの時よりも大分年を取ったかのように見えたがそれでもワルド子爵は美しかった。
同時に、もう一つその子爵に関してのある記憶をルイズは思い出した。
「そうだ…昔私とワルド子爵の父親が…。」
昔、ルイズの父とワルドの父がもっと大きくなったら結婚させようと約束をしていたのだ。
当時のルイズには、結婚というモノは考える暇がなかった。
厳しい母親や長女に追いかけられる日々…それが何時解放されるのかいつも考えていた。
自分の家の筈なのにあの頃の自分は何故か体の良い牢獄のように見えた。
それを今にも時々夢に見てしまい、起きたときには体中が汗まみれだった事もあった。
――しかし、時には良い夢も見る。
忌まわしい牢獄から、自分を助け出してくれるナイトが現れるのだ。
その夢で自分を牢獄から救い出してくれるのは…当時、十六歳だったワルド子爵である。
ルイズはその時の夢を思い出すかのように、ゆっくりとベッドに倒れ込むと目を閉じた。
―――イズ!ルイズ!お説教はまだ終わっていませんよ!!」
屋内だというのに、声を荒げて自分の名を叫ぶのはルイズの母。だれよりも規律を重んじる人。
ルイズでも頭が上がらない長女ですらも縮こまってしまう程である。
そんな厳しい母親は廊下を歩きながらルイズの姿を捜していた。
「はぁっ…!はぁっ…!」
そして夢の中では六歳であるルイズは今にも泣きそうな表情でとある場所へと向かっていた。
其所は中庭にある池であった。ほとりには小さなボートがあり、それを使って池の真ん中の島にある東屋へ行くのだ。
昔は良く家族でその東屋へ行ったのだが、今となってはそこへ赴く者は居ない。
軍を退役した父は近隣との付き合いと狩猟に夢中で、母は娘達の教育に必死である。
自然とその池には誰も近づかなくなり、ほぼ風景と化していた。
だからこそ隠れるのには最適で、夢の中の彼女は何かから逃げたいときにはいつも此所へ来ていた、
ルイズはあらかじめ小舟の中にしまいこんでいた毛布を頭から被り、そんな風にしていると…
「泣いているのかい?ルイズ。」
毛布越しから誰かが声を掛けてきた。
ルイズは被っていた毛布をどけると、自分の目の前には十六歳ぐらいのワルドがいた。
今と比べるとこの頃はまだまだ未熟だったがそれでも幼いルイズにとってはナイトも同然であった。
そう、自分をいつかこの牢獄のような家から救い出してくれる騎士。
「子爵さま、いらしていたのですね。」
幼いルイズは慌てて顔を隠した。みっともない姿をあこがれの人に見せるわけにはいかない。
ワルドはそんな彼女を見て天使のような微笑みを顔を隠したままのルイズに向けた。
「ああ、今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。君との婚約に関することでね…。」
ルイズはあこがれの人の口から「婚約」という言葉を聞いて顔を赤くした。
「い…いけない人ですわね、子爵さまは…。」
「ルイズ、ぼくの小さなルイズ。君は、僕の事が嫌いかい?」
ワルドが、おどけた調子でそう言った。ルイズはそれに対し首を振る。
「ち、ちがいますわ。ただ単に良くわからないだけです。」
ルイズは顔を上げ、ワルドに笑顔を見せてそう言った。
ワルドはにっこりと笑みを浮かべると、そっと手をルイズの目の前に差し伸べた。
「ミ・レディ。手を貸してあげるよ。ほら、つかまって。もうじき晩餐会だ。」
だがしかし…差し伸べられた手を、ルイズは掴むことを躊躇った。
その様子に気づき、ワルドはルイズに優しく呟く。
「また怒られたのかい?大丈夫、僕からお父上に取り直してあげよう。」
ワルドの言葉を聞き、ルイズはコクリと小さく頷き、その手を取ろうとした。
その時、突如強い風が吹き、ルイズは思わず目を瞑ってしまった。
やがて数秒して風は止み、ルイズは再び目を開け―――
「……ここ、何処?」
――驚愕した。
目を開けた先には子爵の姿は無く、それどころか自分の家ですらなかった。
白いタイルに白い壁、おざなり程度に観葉植物を隅っこに置いている何処かの部屋。
ルイズはそんな所にいつの間にかそんな所にいた、我が家にはこんな部屋はない。
天井を見上げると明かりを灯すような物はないのに天井から光が差し込んでいた。
そして気づいたら、ルイズの体も六歳から十六歳―つまりは現在の姿――になっていた。
「一体何処なの?ここは…」
ルイズは今までワルド子爵の夢は時折見たりすることはあった。
そして色々なパターンがあった――晩餐会でワルド子爵とダンスしたり等々―がこんなのは全くの初体験であった。
ルイズは全くの初めての展開に目を白黒させていると、ふと誰かに声を掛けられた。
「あら?ちゃんと此所へ来てくれたのね。」
声を掛けられたルイズはそちらの方へと目を向けた。
そこには ――不条理なことがいくらでも通る夢の中だからか―― 白いイスに腰掛け、こちらを見つめている金髪の女性がいた。
作り物の様な綺麗な顔には笑みが浮かんでいて、それは先程ワルドが見せたものよりも更に優しいものに見える。
頭には変な形の白い帽子を被っており、白い導師服を身に纏っていた。
とりあえず声を掛けられたからにはちゃんと応えなければと思い、ルイズは口を開いた。
「ねぇ、そこの貴方。少し聞きたいんだけどここが何処だか―――」
しかし、ルイズの言葉は目の前に出された女性の手に制止され、言い切ることが出来なかった。
何も言わなくなったことを確認した女性はスッと手を下ろすと口を開いた。
「その前に、いくつか聞きたいことがあるのだけれど…よろしくて?」
女性のその透き通るような声にルイズは思わず頷いた。
まぁ夢の中なので…という考えも働き、ルイズは無意識の内にしていたのだ。
「じゃあまず一つめ…貴方は自分が特別な存在だと思ってる?」
その質問に、ルイズは首を横に振り、口を開いた。
「特別どころか蔑まれているわ…だって私は魔法が使えないし…。」
ルイズの卑屈な言葉に女性は肩をすくめた。
「ふ〜ん…じゃあ二つめ、貴方は『虚無』という伝説の系統を信じてる?」
ルイズはその質問に言葉を詰まらせ、悩んだ後、半信半疑な様子で応えた。
「…私自身よくわからないわ。」
「そう…。まぁいいわ、信じなくても信じていても事実は一つだけだから。じゃあ最後の質問ね?」
妙に意味ありげに聞こえる風に女性は言うとルイズの方に少しだけ近寄ると中腰になった。
そして、不意にルイズの肩を掴むと口を開いた。
「あなた…使い魔を召喚した際、人間の少女を呼び出したでしょう。」
その直後、女性の目が優しそうな物から一気に鋭い物へと変貌し、ルイズを睨んだ。
それに伴い先程まで体中から発せられていた雰囲気もあっという間に緊迫した空気へと早変わりする。
自分を射抜かんばかりの鋭い視線に思わずルイズはビクッと体を大きく震わせる。
肩を掴まれたルイズは内心自分の夢のあまりの不条理と理不尽さに憤っていた。
なんだって夢の中だというのに痛い思いをしなければならないのだ!
折角の子爵様との甘い甘い夢を見ていたのにこれじゃあ台無しじゃない…!
と、ルイズがそんな事を思っていると、もの凄い激痛が肩から脳髄へと伝わって来た。
どうやら段々と掴む力が強くなっていくのが肩から伝わる痛みでルイズはそれを知った。
このままだとその内腕をもぎ取られるのでは?というありもしない事を思い浮かべ、ルイズはゾッとした。
しかしそのとき、急に女性がルイズの肩を掴んでいた手を離すと立ち上がり、後ろを振り向いた。
「ちょっ…いきなりどうしたのよ?」
解放されたルイズは息を少しだけ荒くして立ち上がると女性の後ろにもう一人誰か居ることに気づいた。
その姿は光り輝いていて明確な正体がハッキリと掴めない。
ただ分かることは、ルイズと比べれば大分身長が高い。ただされだけである。
手には大きくて長い太刀を持っており、熟練の戦士特有の鋭い殺気を目と思われる二つの赤い光点から放っている。
ただ、その視線の先にいるのはルイズではなく、そのルイズの前に佇む女性であるが。
「あらあら、もう感づかれたみたい。残念、『夢の中』なら大丈夫だと思ってたのに。」
そんな視線で睨み付けられている女性はと言うとそれに対し小馬鹿にする様な態度で人影に話しかけた。
それが合図となったのか―――突如人影が太刀の切っ先を女性に向け、素早い突きを繰り出した。
女性はそれに対し、身構えもせっず突っ立ているとフッ…と半透明の壁が女性の前に現れた。
人影の突きはその壁によってあっさりと防がれたが、すぐに体勢を立て直し後ろへと下がる。
突然の戦闘にルイズは棒立ち状態になっていたがそれに気づいた女性が声を掛ける。
「あぁ、今回はもうこれくらいでお開きね。貴方はもう目を覚ましても構わなくてよ。」
その声にハッとした顔になったルイズは人影の方を指さし、声を荒げて叫んだ。
「何よあれ!?というかなんで闘う羽目になってるのよ!?というかこれ私の夢よね!」
「静かにしなさい――これは夢。そう思えば何も気にすることはないわ。」
先程肩を掴んでいた時とは打って変わって捲し立てるルイズを子供をあやすかのような感じで女性はそう言った。
ルイズはそんな態度に更にイラッと来てしまったがそれよりも先にふと給に眠気が襲ってきた。
「それじゃ、また会いましょうね?今度は二人だけでね…。」
プ ツ ッ !
まるでピンと張った糸を切った時に出る様な音を立ててルイズが意識を手放す直前、それを見た。
人影がダーツの要領で投げた太刀が女性の胸部を刺し貫いた瞬間を…。
だがしかし――女性はその攻撃に対して、顔に笑みを浮かべていた。
見る者を凍り付かせるような笑みを。
――その直後、人影は頭上に現れた『裂け目』から出てきた『何か』に潰され、一瞬にして即席ミンチと化した。
◇
―――… ア ァ ア ァ ア ッ ! ! ! 」
夢から現実へと戻ってきたルイズはみっともない叫び声を上げると上半身を勢いよく起こした。
だが勢い余ってか、そのままベッドから吹っ飛ぶような体勢になってしまい、見事床とキスする羽目になった。
ルイズはスクッと立ち上がるとジンジンと痛む鼻を押さえ、涙目になりながらも先程の夢の中の出来事を思い出そうとした。
「イタタタ…何なのよあの女…は…おんなは…あれぇ〜?」
なんとか思い出そうとするが――何故か肝心の部分―あの金髪の女性が刺された直後の事―だけは何故か思い出せなかった。
おかしいなぁ…と思いつつルイズは先程の事を思い返していたが、一向に夢の思い出すことが出来ない。
ただ、その女性と会ったことだけしかルイズは覚えていなかった。
された筈の質問や、最後に現れた太刀を持った謎の人影の事は一向に思い出せない。
(一体なんなのよこれ?でももしかすると…疲れてるのかしら、私?
…きっと日頃の苦労や過労なんかが祟ってあんな夢を見たのね。)
だからといって…あんな衝撃的な最後 ― 人影がミンチになる瞬間 ―― すら忘れてしまうのはどうかと思うが。
まぁそれを忘れていれば、当分肉料理が食えなくなるという事にはならないだろう。
(レイムの奴が帰ってきたら、とりあえずこの事を愚痴として話してやるわ。うん、そうしよう…!)
最も、そんな時霊夢は聞いている振りをしている事を幸か不幸かルイズは知らなかった。
ノックの音に気が付いたルイズはドアの方へと目を向ける。
(レイム…?いや、アイツならそのまま入ってくるだろうし…。)
こんな時間帯に誰かと思い、怪訝な表情をしているとそのノックが規則正しいことに気づく。
初めに長く『二回』、今度は短く『三回』とリズムを奏でるかのように聞こえてくる。
ルイズは規則正しいそのノックに、何か思い出したような…ハッとした表情になる。
「……あれ?これって確か…。」
数十秒置いてから再び初めに長く二回、次に短く三回とノックの音が聞こえた。
ルイズはそれで何かを思い出したのか、目に堪っていた涙を拭き取ると急いでドアを開けた。
そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をスッポリと被った、少女であった。
辺りをうかがうように首を回すと、そさくさと部屋に入り、勝手に扉を閉めた。
「あ、あなたは…?」
突然の訪問者にルイズは少し驚いたが、少女はシッと言わんばかりに口元に指を立てた。
それから。漆黒のマントの隙間から水晶の飾りが付いた杖を取り出すと軽くルーンを唱えて杖を振った。
光の粉が部屋を舞うのを見て、ルイズは一人呟いた。
「ディティクトマジック…。」
ポツリと呪文の名を呟いたルイズを見て、頭巾の少女は口を開いた。
「何処に目や耳があるかわからないものですからね。」
光の粉は静かに消え、部屋を覗く者がいないのを確認した後、少女は頭巾を取った。
そこから現れたのは、ルイズが良く知る相手で、幼い頃には遊び相手として付き合った存在。
いまではこの国のトップに近い少女として、民衆から支持されている。
ルイズは昔より美しくなったその顔を見て、急いで膝をつく。
「あ…アンリエッタ姫殿下…!?姫殿下じゃありませんか!」
無二の親友に名前を呼ばれ、若き麗しい王女は優しく微笑んだ。
「……お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ。」
ルイズの目の前に突如として現れたのは―――アンリエッタ王女であった。
巫女支援
ブラスレの人乙でした
良かった、カトレアさんは己を保ってる……
現在思想的に共闘出来そうなのはカトレアさんとジョセフ位か……
次回も期待してます
あと薬飲んで熱増えるってゲルト可フラグですかい
>>522 イルカとシャチだっけ?
シャチがブロークンガオーでイルカがプロテクトガオーだったかな
サメといえばガオキング(ガオシャーク的な意味で
あるいはガオゴッド(ガオソーシャーク的な意味で
はい、これにて16話の投稿は終了です。
ルイズの夢ネタは出そうか出すまいか悩んだ結果、出しました。
そろそろ幻想郷サイドも書いた方が良いかなぁ…と思った今日の夜。
前回の投稿の後、マイペース過ぎるのは良くないなーと思いました。ハイ
これからは少しずつですが投稿のペースを上げていこうかと思います。
それでは、また何処かでお会いしましょう。
乙でした
そろそろ480Kだな
本当はこのスレは Part217 で、次スレは Part218 だからよろしく
>>480KBのヒト
>>525 ガオシルバーが見てる(ガオハンターのソーシャーク的な意味で)
あと戦隊だったら太陽戦隊と激獣戦隊にも鮫が居る
……しまったガオハンターのはガオハンマーヘッドだった
>>528 あいつはガオハンマーヘッドじゃなかったっけ?
21時15分から投下させてください
>531
今回投下分の容量を確認したいのだが・・・・
先に次スレ立てておいたほうが良いかな?
鮫といえば、ハリケンジャーのシャアもといサンダールも鮫だよな。
「見せて貰おうか、ハルキゲニアの魔術師の実力とやらを」
残り25KBもあれば十分投下可能です
おk、投下が終わった後次スレ立てるわ
218だったな
>>527 投下中に480行きそうなので先に立ててきます。
>>536 先にスレ立て宣言があったのでお任せします。よろしくお願いします。
危険に対する感覚は人間よりも動物のほうがはるかに鋭敏なものを持つ。
それは他の動物よりも強靱な肉体を持つ竜でも例外ではない。むしろより優れているかも知れない。
騎手からの操縦が突如失われた風竜はすぐさまシルフィードの追跡をやめ、この危険を感じる空域から離れるべく進路を変えた。
そんな追跡者の事情など知る由もなかったが、飛び去っていく風竜の姿にキュルケはほっと胸をなで下ろした。
「やったわ!うわくいったわよ」
竜騎士は完全に自分達を見失ない、ふらふらと全く見当外れの方向に飛んでいる。
レコン・キスタに捕らえられる危機からは脱したのだ。
そう考えたキュルケはまだ前を見続けている親友を抱きしめた。
「ねえ、でしょ?タバサ」
こんな事をしても、この青い髪の下の表情を滅多に変えない親友が自分と同じように感情をあらわにするとは思っていない。
だからタバサが頭を胸にぽんと落としてきたのには驚いてしまった。
「ちょっと、タバサ」
思いがけない仕草に顔を赤らめながらも慌ててしまったが、様子がおかしい事に気付いた。
タバサの体は力を失っているる上に白い制服が透けるくらいに汗でぬれてしまっている。
「どうしたの?どうしたのよタバサ!」
頬を軽く叩いて体をさすってもタバサは答えない。
目をぎゅっとつぶり、荒く呼吸をしている様子は病にかかったかのようにも見える。
「タバサはどうしたんだい?このままでは!」
「静かにしなさい!」
ギーシュが騒ぐのもわかる。
タバサが倒れてしまったなら誰もシルフィードを操れない。
シルフィードの主人でもなく竜騎士でもないキュルケやギーシュにはそんなことできっこない。
「ねえ、お願い。シルフィード。私の言うことを聞いて」
もう、やれることをやるしかない。
ダメ元でキュルケはシルフィードに向かって悲鳴の混じりの声で叫んだ。
「きゅう」
シルフィードが頷いたように見えたのは気のせいだろうか。
使い魔となった動物は次第に知能が得て、言葉を理解するようになるが、主人以外の言葉を理解するには時間がかかる。
だが今のシルフィードはまるで次の言葉を待っているように見えた。
「お願いよ。ゆっくり降りて。ゆっくり」
2人が落ちないようにタバサとユーノを抱く手に力を入れて待った。
「きゅっ」
するとキュルケの言葉に従って、シルフィードがゆっくり地面に近づいていく。
シルフィードは言葉が理解できたのだ。
これなら無事に下に降りられるかも知れない。
「キュルケ、あそこだ。あそこを見てくれ」
シルフィードの背びれにしがみつきながら首を伸ばしているギーシュの視線をキュルケは追ってみた。
すぐにはわかった。
森を切り開いて作った空き地の中に数件の藁葺きの小屋が建っている。
「ねえ、シルフィード。わかる?あそこの小屋の前よ。あそこに降りて」
この少し複雑な指示をシルフィードは理解してくれるだろうか。
その不安にシルフィードは
「きゅい」
と小さく鳴いて翼をばさりと動かす。
風の音が大きくなると、雲が高く上っていく。
キュルケの腕に抱かれるタバサはいつにも増して小さく見えた。
小屋の前に降りたシルフィードは地面に足を着く寸前に羽いっぱいに空気を掴んで大きく羽ばたいた。
キュルケは砂埃を心配したが、森の湿り気を含んだ地面はそれを巻き起こすことなく空からの侵入者を迎え入れてくれた。
シルフィードの背中かから下りるキュルケには無数の視線が向けられる。
その一つ一つに笑顔で返しているうちに眉をぴくりと動かした。
怯えている者、好奇心が勝っている者、いろいろあるがその視線は全て子供の目から出ているのだ。
「ねえ、誰か大人の人はいないの?お父さんやお母さんは?」
その声に驚いたのか子供達は一斉に隠れて姿を隠してしまう。
もっとも、やっぱり好奇心の勝っている子供もいるらしく、建物の影や木の後ろからそっと出した顔が見えてはいた。
いつもならそれをからかって遊んでやりたくもなったのだが、今は続いて降りてきたギーシュが背負っているタバサのほうが心配だ。
荒い息に交じってうめき声まで聞こえてくる。
「ねえ、誰かいないの?ねえ」
それに応えるように開かれた扉はちょうど真正面にあった。
そこから出てきたのはキュルケ達を見ていた子供達よりはずっと年上ではあるものの、まだ大人にはなりきれていない少女だった。
ただの少女ではない。誰の目でも引いてしまうような少女だ。
輝いているような金色の長髪に、美しいという言葉が陳腐に感じるような顔立ち。
宮廷の婦人達もうらやむようなきめの細かい肌。
身につけている粗末な草色のワンピースと白いサンダルも彼女が身につければ美しさを引き立てるアクセサリーとなる。
耳まで隠せそうな大きな帽子はそれらより上等であったが、それもアンバランスではなくミスマッチとなっていた。
だが、実のところそんなものはどうでもいい。
いや、ほんとにどうでもいい。
ギーシュの目を釘付けにしているのも、キュルケを絶句させてしまっているのもそんなものではないからだ。
それは何か……胸だ。
その少女の胸だ。
いや、胸と言っていいのかどうか。
とにかく反則的に大きい胸をその少女は備えていたのだ。
キュルケも男を惹きつける要素の一つとして自分の胸には自信を持っていたが、さすがにこれほどではない。
「そこのあなた」
といっても、その驚きに浸っている場合ではない。
「は、はい」
恥ずかしがり屋なのか、その少女は一番人の目を引く胸ではなく、顔を帽子で隠して答えた。
「私の連れが倒れてしまったの。休ませてもらえないかしら?」
「あ、はい。どうぞ」
首を伸ばすようにキュルケの後ろを見た少女はギーシュに背負われてぐったりしているタバサに気づき、扉を大きく開けてキュルケ達を招く。
シルフィードも入ろうとしたが、扉をくぐれるはずもなく窓の外で悲しげにきゅいきゅいなくばかりだった。
たった一通の手紙。
それがこの危険な旅の始まりであり目的だった。
偶然に助けられ、その手紙はアルビオンのニューカッスル城にてウェールズ・テューダーより渡され、今ルイズの手の中にあった。
求めていたものを手に入れたのだ。
それなのにルイズは喜びを感じることができずにいた。
この手の中にある手紙にはアンリエッタの思いが込められている。
もし、それが重さを持つとしたらルイズの手には余るほどの重さになるに違いない。
なのに、それ程のものを持ってしてもアルビオン王家最後の王子として圧倒的な兵力を持つ叛徒レコン・キスタと戦い、それによる死を持ってしてトリステイン侵攻を遅らせようとするウェールズの気持ちを変えることができなかった。
しかしウェールズの命こそアンリエッタが本当に望んでいたもののはず。
「だったら、私がここに来た意味はあったの?」
──ユーノが命をかけたことに意味はあったの?
それに答える者はいない。
ルイズは溜息ととも立ち上がり、傍らに置いていたドレスを手に取った。
今夜、この城で行われるパーティにはこのドレスを着て出るつもりだ。
それは華やかなものになるだろう。
だが、そのこともルイズの心を晴らすようなものではなかった。
じわっと広がるスープの味を口の中で転がす。
高価な香草や肉を使っている学院で食べるスープとはまた違う素朴な美味しさをキュルケは味わっていた。。
さして自覚はしていなかったがお腹の中はもう空っぽだったようで、キュルケはスプーンをいつもより早く動かしている。
ギーシュに至ってはうまいうまいと皿に口をつけて直接かき込んでいるような有様だ。
皿を空にして一休みしていると、帽子をかぶったティファニアが部屋に入って来た。
「あの、おかわりはいかがですか?」
室内でも帽子を取らないティファニアにおかしさを感じはしたものの、もう少し物足りなかったキュルケはその言葉に甘えてもう一杯食べることにした。
「タバサのこと、ありがとうね」
「あ、いえ。そんな」
貴族にお礼を言われたせいかティファニアは大げさなほどにどぎまぎして帽子の鍔で耳を押さえた。
「で、タバサはどうだった?」
キュルケはトライアングルのメイジではあるが怪我や病気の治療に使える水の魔法を苦手としている。
ギーシュに至ってはドットで土以外には不案内。
借りたベッドに寝かせたものの突然倒れたタバサをどうしたらいいか分からないでいると、キュルケ達を出迎えたティファニアが看病をかってでてくれていた。
「何か酷く疲れているようです。お薬を飲んでいただきました。」
「薬?水の秘薬があるのかい?」
いち早くもらったおかわりを口の中に入れたまま驚くギーシュにティファニアは頭を振って答えた。
「いえ、そんなものじゃないんです。この辺りで採れる薬草です」
孤児院をしているというこの村の子供達が病気や怪我をした時のためにおいていた薬をわけてくれたのだろう。
「今は?」
「寝てしまわれました」
薬がよほどよく効いたのか、ここに来た時は息も荒くうなされていたタバサが、もう寝てしまうくらいに良くなったのだ。
安心したキュルケはおかわりのスープを落ち着いて口に運んだ。
私は1回の投下量が少ないので今回はここまでです
そろそろ後の大きい敵を相手にするためにキャラの改造を始めました
乙です
じゃ次スレ立ててくる
新スレお疲れさまです。
ということでそろそろスレの埋めたてかな?
雑談で埋めりゃいいだろ…
荒らしが始めたAA埋めなんぞを慣習にする必要はない
雑談というか…
感想や応援で埋めたほうが有意義じゃね?
というわけで、ジルの人、ラスボスの人、ビビの人、楽しみに待ってます。
ID:nSFB6JXS
名前:ルイズと無重力巫女さん
NGName設定完了
ONEから『永遠の世界』の案内人召喚・・・・
忘れ去られていく・・・・
>>544 スレ立て乙
>>508 GJ!!
マルトーは南無ったがせめてカトレアは
マレク同様何とか生き残ることを祈っていますOTZ
>>526 乙!
もうすぐワルドさん登場か
次も楽しみにしてます
>>548 皆同意してくれるはずだというオナニーですね
わかります
リリカルな人GJ! 確かに短かめだが、更新が早くて嬉しいぜ。
ワルドにリリカル魔法が炸裂する日を楽しみにしてるw
555なら何が何でも明日中には最新話を投下する。
今更だが、マテパの人乙
パイ神教てマルチの臭いがプンプンしてしかたないんだがw
>ルイズは全身筋肉痛に襲われていたのである
寿命が縮まないだけマシだな
リリカル乙
ここでテファ来たか、予想外だ
次回楽しみ
>>555 そういや何かの作品で「寿命が縮む回復魔法」ってあったような気が
ティトォの魔法は違うけど
寿命が縮む回復魔法
ハーメルンのバイオリン弾きかな?
>>557 回復魔法は詳しく覚えてないがハーメルのマリオネットが
翌日地獄の全身筋肉痛&寿命3年だったな
>>557 スフォルツェンドの王族の女性だけが使える回復魔法か。
使うと寿命が縮むけど、元々の寿命がひとより長いという。
500ならそろそろ執筆に取りかかる
みんなもやる気無いんだね
500なら行方不明中の某党首がハルケギニア入り
皆さん、乙です!
しかし、ブラスコンシートでのルイズはああなりましたか。
確かに平民の言葉が彼女の心を揺らすことは難しいですが、コルベールには確かに重みがありますね。
自分の矜持を全て失い、どん底まで墜ちたヒロイン……なんというか見事なまでのブラス、というか鋼屋節ですなw
主人公なのにジョセフが脇役ポジションだったり、主人公に関係ないところで脇役同士が戦ったり、ブラスの特徴をうまく出していると思います。
というか、カトレアが感染するとは・・・・・・どこまで墜とすつもりですか!!
あまりに素敵すぎる展開にトキメキが止まりませんww
いいぞ〜もっと(不幸を)やれ〜ww
色々失礼しました。
執筆ガンバってください!
ルイズ本人もキュルケもタバサもギーシュも
モンモランシーもマリコルヌもみんな1人1ルイズを召喚して
トリステイン魔法学院に溢れ返るルイズ・(略)・ヴァリエール
GIFT
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゛''‐″ .| : : :,' ./__l ├ー '' )'' - ..,,,__,,... へ\,.c'",.,, ヽ .
. . l : ;.',' ノ.. l .ト、: : : :::::::::::::::;ハ丶::ヽ >....ゞ゛/ ,. ヽ
. |. ;',/ : : : .l.| :.\ ::::::/:::::::l .l::l::゛>゛.,,l".| ,/ ,. .l
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l / ,' | : :,,,- ..,,, : : .'; ; : : . .丶,,_ ./ ./ | :./ .,,,..| .|-----l.l゛. : . . ゛.|
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/ y'^^^´ ̄`^^^ヾユ/ヽト、_ r‐イ个フ下f┐ ゚ っ
〈フ ,ィl il / 、yヘ≦ミヽ、 _厂レ亠'´ ̄ ̄`マュ_
/ハj /__/ |ハ ll、_ `ー个<´\、ヽ ヽ r‐、_,rく」/ 人 `ヽ人、
/ //イl´/l l{ ヘ l|ヘl`トi {_、イ ヽハ { 7ト'⌒Y __,_,z/ __、、 Yヘヽ
|/{ {Niレ'/__ ヽ \l|、V| l | l | 7 仆、_ノ ,ィ´// `ト l、l |
jユ_ ハ /7ハ 'テz、ト1ノ /l l l //ll |i | 斗"´´ l | 〉リ ,,、
,≦ニニ≧lハ ト::ノ {::::;i)| ト、 '/ ,jノ / ハ」i |_」 ' | ,ィ;ニ ,ニ.ヾ| 「 ,(::::)、〃
<^ーヘ: |l l::: . `:::´ l |ソ リ V V |'{i::;;)-、 {.::ノ‐ト、j /',:、 :V/
\ノ.: |l ト 、 、__, ィj ハ { WwwVト(:::: )‐;(´::::j_ノl {;〈::ノ (::))
___j.: ___リノ ヽミ_ーr‐ フ´^仏____ハ、 ヽ.:.:.:.:.iハ. ` ー フ:;j;ノ、,ヾ ̄ ̄了__
| l |: l `「 ̄│,∠K´ /ハノ┴k、\ `ヘ;/V_> 、 __°rくi(´゛)__)_| :゚ * ;| __、|
___」 i |: |i〃: | i〃K ,仆、`Y」´ : :、: : : :\ ヽ、_ノ,ノ /´ ̄N不入_ 〈ュ、`V〈⌒〉ノ八 : : ゚ ノ大ナ|
ヽ ‐┴ー┴─‐┴─┴ ‐┴'川 トイ」 : : : : : : : : : :\ー' r‐レ‐-、 i l | >‐/介ヽ__`)___(´____]ニ[_L_⊥
 ̄`ヽニ ̄⌒`ヽ. ̄ ̄ ̄{'l0| l:八: : :_: ‐-\: : : : :> 、 ン'^ヽィハ,レl |く__/∧ト、_〉──;−==ァヵ──‐┘
` ー -、 \,、 //-| 「 V´: :/: :トハY´:: : : ::〉 / 人ノ l | // 0l! |' / _彡′
\ / `7」{ |│ \: : : :,ハjソ:: : : : :/ , ' ,. イ^´ | |/,/ │|、/{7 /
/ノ /了| V \: : 入┐ : :/ 〈 〈 |丶 | lV Lレ{ oヽ、厶
\_∠_ソ: :l ∨ ヾーvム ヘ 、_/ヽ、 | | ヽ 0ノl レヘ、/ /
└'ヘ、:: :} 、 、人  ̄/、 , -ヘ マニニ ‐┴ー−┴イ >ー'′
 ̄ヽ ヽ/ >┬'^ く. : .:∧ /ヽ−-. : . : . : . : :i._/
} ニ=-‐ {. 爪\.:ヽ \ {ー'′ ,ハ、_. : . : . : . :_/
/ _,イ\ヾミヽ): :\_r仁\__,/ 〉土干〒〒刊
∧_x┬く丶 ヽj^ーヽソ ,.一'7. :_⊂-'_/ ハl土土土土7lハ
〈 / ハ ヽ ヽ厂、: : ::/:/:/. : ヽ三t.ィ仕抃土土坏仕lハ
jヽ/___レ'⌒´i: : :丶: :\. :/. : . ; :/ (ンi l土土汪壬升土lハ
/: :/: :l:/: : : : :l: :l: : :ヽ:/`. : : /:/. : (ンi l土土土土土土lハ
/: : : : ::l : : : : : :l: :l : : / . : . : . : /. : . :(ンi l土土土土土土lハ
/ : : : : : :l : : : : : :l: :ト.:/. : . : . : .:/. : . : .:(ンi l土土土土土土lハ
∧.: : : : : ::l : : : : : :l: :lく_\. : . : .'. : . : . : . くハl土土土土土ナ'ソ
Y \ : : : ::l : : : : : :l: :l.:く ト、 : . : . : . : . : . : (メヽ土土土イ_ノヘ
7__ ーr-┤: : : : : :l: l:/V ヽ: . : . : . : . : . : . :`ー'ー'ー'´. :、人
 ̄`ー辷立二工ト‐个‐イ T > ┬、 . : . : . : . : . : . :_r‐イ/
| | l `¬─j 丁^┬-、__r‐<レ亠'´
l l |  ̄「¬┴ート-‐┘|
. -- 、 { だ }
/ \ /⌒ /
/ や お そ '. i だ _,/
./ る 父 う '. ___ __ | ノ
f も. さ い .!___x≦--、:.:.:.:.:\:.:.:.:.:\〉 ⌒ヽ
| の ん う .|:.:.:.:.´ ̄`\:\:.:.:.:.:\:.:.:./ '.
| で. と の |:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\:\:.:.:.:.:.:.:.! だ i
| : お は |:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\:ヽ:.:.:.:.:| め |
| : 母 !:.:.:.:.:.:.:i:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ:.:.:.:.:| だ |
| : さ !:.:.:.:.:.:.:i:.:.:.:\:.:.:.:.:.:.:.:':.:.:.:.! よ |
| ん ∧l:.:.:.:.:.:|:.:.:|:--ヽ-:.:.:.:.:.':.:.:.:.、 /
、 が /:.:iム:.:.:.:.:|ヽ:|\:.:{ \:.:.:.:.!:.:.:.:.:\. /
ヽ //| \:N ヾ \:.!:.:.:.!:.:.:.:.`ー.;/.:.|
\,___ /:.:.:.N r≠寸¬|:.:.:.iヽ:\:.\:.:.:.:|
ヽハ:.:.:.|:.| ,xr= {ィハ} '|:.:.:.|.ノ:.:.:.:\:.\:|
. ':.:.:N!《 {ィハ Vソ |:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.:.:\:.ヽ
v:.:ヘ Vソ///////|:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\〉
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\:.:.:|>x‐、n‘` r'⌒ ヽ:.:lrく´: :\:.:.:.〈_
Nハに ̄ヾ|厂ノ V⌒ヽく´:.:/⌒
f -、_,ハ {__ぅ、 ト、: : ! ∨
| Zノ ,ノー--‐ヘ. ∨ヽ| '
〉 イ⌒ト〜1'⌒ヽ ヽ. i
/ :|: : :|:|: : | : : : ハ \ !
/ |: : : :!:|: | : : : : ハ ヽ|
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,.イ 、 \⌒ ー 、 /: : : : : : : : : :
\ / | { \ \ \ \ /: : : : : : : : : : :
: : :\ _/ \ 、 ヽ ヽ ヽ ヽ /: : : : : : : : : : : :
: : : : : ヽ /./ |! ‐!―ヽ、 '. ハ | ハ /: : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : \ |/ |/|ヘ \ |\ | \i i i /: : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : :\ f ! イヽN \Nヾ,r≠ミx、| l i |、 | | /⌒\ : : : : : : : : : /
: : : : : : : : : : : :`: 、 i || N,x≠、 |うィ} lリ |/ |ハlハ :! ! ./ ヽ : : : : : : /
: : : : : : : : : : : : : : `: .、|八 l〃うィ} 弋:り | | リ } || | ,| ド .だ ! : : : : :/
、 : : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ \从弋り ' | | 厶イ ! | | ./:l ピ か ! : : : :/
. \: : : : :,.―― 、: : : : : :\{ ∧r:、_ r 、 | // l__|_,r:t | l ,.―‐! ュ ら |: : :/
ヽ:/ \--- 、: :V´ `\ ,:|/´ `\-、/ | ド : .| : :/
/  ̄ ̄ ̄`\ \‐'´/ ,.一 ´ /⌒ヾ ピ. : :l/
./ 、___ \ __/ ̄〉_ / ,.ィ ./ ュ こ !
'. ` 、 `\ \ ´ / / `ン'_,/ / / 赤 し こ. |.
ヽ 、 \ ` ー'/ <.__ _ ./ f .ち て に ! '.
/ \ / ̄`\ \ i ̄ノー- 、>(_O_) / | ゃ : j '.
/ \ ,、 '. \ \.| {===┐「 ̄ ./ /:! ん. : / '.
./ | i '. 、 ヽ. | `ア{ ̄o_ノ ̄ ./ / :! 作 / '.
、_,′ :| | \ \ ` L../ /7___ 〈/ | .ろ !、_/ '.
.′ { {. \ ヽ r'ニ f二二.._ ! : j :
i ヽ ヽ ` ー' /´ハ マ ノ〉 } '. : / i
| \_〉 {_ヾ_〉f__ノ \__/ !
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