あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part210

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無しさん@お腹いっぱい。
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。

(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part209
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1233161486/

まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/

     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!

     _       
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。

.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 19:01:18 ID:uqQ86rTu
>>1
乙!
3名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 19:01:42 ID:ji5+39JB
>>1
乙ー
4名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 19:21:24 ID:+SXrHgm+
>>1乙!!
5名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 19:25:07 ID:e7eOL5/o
>>1乙!!
6ゼロと損種実験体:2009/02/01(日) 19:30:40 ID:qEVY0eQI
19:40からエルザイジメ話後編を投下したいと思います。9レスくらいになると思います。
前編の話を忘れた人は、まとめ更新してくれた人に感謝しましょう。

推敲しているときに、なんとなく小ネタを思いついて書いてみて投下したい誘惑に駆られましたが我慢しました。
ほめれ。
7名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 19:38:32 ID:35SnBsTB
随分とえらそうだな!

でも支援する!
8名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 19:40:07 ID:CCtg+nBh
ほめてとらそう
支援!
9ゼロと損種実験体:2009/02/01(日) 19:40:16 ID:qEVY0eQI
 ルイズの朝は、アプトムに起こされるところから始まる。
 それが、ここしばらくの習慣だったのだが、その日ルイズを眠りから覚ましたのは黒い髪のメイドだった。

「誰よ、あんた」

 目覚めて最初の挨拶としては不適当なそれに、メイドは嫌な顔もせず、ニコリと笑って、アプトムの代理のシエスタだと答える。
 それにルイズは、ああ、昨日そんな話をしていたわね。といつも通りの寝不足で回らない頭で納得する。
 この状態のルイズは、人を疑うことを知らず、言われたことは深く考えず納得してしまうのだ。
 そんなわけで、いつもアプトムにしてもらってるように着替えをさせてもらおうと、何も言わずボーッと突っ立っていると、シエスタは困
った顔になる。
 彼女はアプトムの代わりを務めると約束はしたが、何をすればいいのかを具体的には教えてもらっていない。アプトムから朝、起こすよう
にと言われたし、着替えを手伝うようにも言われていたが、ルイズがまだ何も言わないのに勝手に服を脱がせて着替えさせていいのかとなる
と判断がつかない。
 しかし、このまま何もせずにルイズを立たせたままにしておくのも問題だろうと、シエスタは恐る恐ると寝間着を脱がせ文句が出ない事に
安堵する。
 文句以前に、立ったまま寝ていたりしたのだが、シエスタがそのことに気づくのは、制服を着せ終わった後である。

 着替えを終えた後、もう一度起こしたものの、やはり寝ぼけ眼のルイズの手を引いて食堂に向かいながら、こちらの言う事に素直に従って
くる小さな貴族の娘にシエスタは笑みをこぼす。
 このハルケギニアの地に暮らす平民にとって、貴族とは絶対的な支配者とも言える存在である。
 そんな貴族の一人であるルイズが平民でしかない自分に、小さな子供が甘えてくるような仕草を見せてくるのは、とても微笑ましく思える。
 そして、この姿は、いつもアプトムに見せているものなんだろうなと、あの使い魔に対して尊敬にも似た想いが湧いてくる。

 元々、シエスタがアプトムに対して抱いていた想いは、自分では考えもしない凄い事を容易くやってのける相手と、一度話をして見たいと
いうミーハーなものでしかなかった。だから、特別な感情は無かったし、代わりにルイズの面倒を見て欲しいと言われたときも、まあ仕事に
差しつかえなければ構わないかなと思った程度で、彼の主人という少女にこれといった思い入れもなかった。
 そもそも、シエスタにとってルイズとは使い魔の召喚で平民を呼び出したらしい。貴族なのに魔法が使えないらしい。という噂を聞いた事
があるだけの、まったく縁のない相手である。そんな相手に特別な思い入れがあるはずもなく、多くの平民がイメージする、無駄に気位の高
い貴族像を想像していたのに、こんなに可愛い女の子では卑怯ではないかとシエスタは思う。
 もっとも、これはルイズが半ば以上寝ぼけているためであり、本来の彼女はシエスタが想像する貴族像に近いのだが、シエスタの中のルイ
ズ像は第一印象の今のこの姿で固定されてしまった。

 ルイズを食堂まで連れて行き、親友がいなくて暇をもてあましているキュルケに預けると、シエスタは厨房に入る。アプトムの代わりを務
めると約束はしたが、一日中一緒にいろと言われたわけではなく、それ以外の時間は普段通りの仕事をすることにしていた。
 そして、朝のルイズを構うことを好んでいるキュルケは、喜んでルイズを預かり何くれと世話を焼く。
 アプトムが出かけていると聞いた今日のキュルケは機嫌がいい。もし、アプトムが朝からいない親友と一緒に出かけていると聞けば、笑っ
てなどいられなかっただろうが、タバサがキュルケに何も言わずに学院を留守にするのはいつものことだし、特に接点も無い二人が一緒にい
るかもしれないなどとは、考えもしない。
 ルイズやシエスタは二人が一緒に出かけたと知っているが、キュルケが知らないなどとは思ってないので、特に教えようとも思わない。
 そんなわけで、何も知らないキュルケは機嫌よくルイズに朝食を取らせるのだった。

 これがアプトムのいない学院の一風景である。



10ゼロと損種実験体:2009/02/01(日) 19:43:48 ID:qEVY0eQI
 日が沈み始める夕方、タバサは誰に起こされるでもなく、パチリと目を覚ました。体内時計絶好調である。
 目を覚ましたタバサは、手早く寝巻きから着替えると、村の娘たちを集めた二階にある客間で見張りをしているアプトムに見回りに行って
くると伝え、屋敷から出て行くが、もちろん、そこには別の意図がある。
 彼女の目的は自身を囮にして吸血鬼を釣ることである。
 メイジだなんだと言っても、タバサはどう見ても頼りにはなりそうにない子供であるし、昼間は役に立たないことを印象付ける行動しかし
ていない。そんな彼女が単独で村をうろうろしているのを吸血鬼が見逃すはずがない。
 いっそ、杖を置いていけば更に確実に吸血鬼をおびき寄せれそうだが、それはさすがにあからさま過ぎるし、杖を持っていない時に襲われ
ては本当に殺されるかもしれない。だから、ニンニクは置いてきたが杖は持って出た。
 そんなわけで、特に意味も無く村を徘徊すること数時間後。村長の屋敷から悲鳴が上がった。

 娘たちを集めた客間で見張りをしていたアプトムは、一階から聞こえてきた悲鳴に顔を上げ、すぐに階段に走った。
 悲鳴を上げたのは、村長の養い娘のエルザである。村中の娘を村長の屋敷に集めたのはいいが、元々屋敷で暮らしている娘の事を忘れてい
たのは迂闊だったなと舌打ちしつつ、アプトムは部屋に飛び込む。
 部屋の中には、頭から毛布をかぶりガタガタ震えながら悲鳴を上げるエルザがいて、他には割られた窓が眼に入った。
 震える少女を慰めてやらなくてはならない。などという発想のないアプトムは、そこから吸血鬼が侵入しようとしたのかと割られた窓から
外を見ようとして、そこから飛び込んできたタバサに激突した。


 ぶつけた頭を撫でながら、台所の鍋に入っていた残り物のスープを温め、エルザに与えてみたところ、小さな少女は怯えながらも何があっ
たのかを語り始めた。

「……お、男の人がいきなり入ってきて嫌がるわたしの体を押さえ込んで無理矢理……」

 なんだか、誤解を招きそうな言い方だなと思いつつ、どんな男だったか尋ねてみると暗くて分からなかった。ただ、開いた口から牙が生え
ていて、だらだら涎を垂らしていたのは見えた。と答えが返ってきた。
 暗くて顔が分からなかったのに、男と分かったり牙は見ていたりと不自然な証言であるが、人とは後からこうだったのではないかと記憶を
改竄する生き物である。多分、この少女は吸血鬼といえば、牙を生やした男であろうと思い込んでおり、よく見えもしなかった侵入者を自分
の想像する吸血鬼像に当てはめてしまったのだろう。
 なんにしろ、その男は、アプトムたちの接近に気づいたのか、エルザに何をする間もなく、入ってきた窓から出て行ったとのこと。
 ちなみに、その窓から飛び込んできたタバサは、男の姿を見ていない。よほど、急いで逃げ出したのだろう。

 とりあえず、今日はもう吸血鬼は出ないだろうと言うと、アプトムはエルザを連れて客間に戻り、タバサはあてがわれた部屋に向かう。
 もちろん、二人は自分たちの言ったことを信じてなどいない。
 アプトムはエルザを含めた村の娘たちを集めた客間を一晩中見張るつもりでいるし、タバサも寝たふりで吸血鬼を待ち構える気だ。
 そうして客間に向かう途中、エルザがアプトムに話しかけてきた。

「お、おじちゃんもメイジなの?」
「いや。俺はメイジじゃない。杖も持ってないだろ?」

 アプトムの答えに、エルザは少し考えて質問を続ける。

「でも、メイジでもないのに、吸血鬼のいる村になんか来て怖くない?」
「怖くはないな。むしろ楽しみではある」
11ゼロと損種実験体:2009/02/01(日) 19:45:32 ID:qEVY0eQI
 どういうことかと問うエルザにアプトムは答える。メイジとは何度か戦ったが、どれも話にもならない程度の力しかなかった。だが、人々
に恐れられる吸血鬼というバケモノであれば、メイジよりもマシかもしれない。
 アプトムは、別に戦闘を好む性格というわけではない。だが、彼は絶対最強の存在を目指す戦闘生物である。その本能が、彼により優れた
遺伝子情報を持つ者を喰らえと訴える。彼は、期待している。吸血鬼が融合捕食の対象としてふさわしい能力を持っていることを。
 ちなみに、メイジを彼は融合捕食の対象とする気はない。メイジが先天的に持つのは魔法を使う才能であり、実際に使うには知識と経験が
必要である。メイジを融合捕食しても彼が魔法を使うには教育と修行を必要とするが、そんな手間をかけてまで身につける価値はない。魔法
には彼が倒すべき敵と定めているガイバーに有効なほどの攻撃力はなく、そんな物を彼は大して必要としていないのだから。
 そんな内心を語ったわけではないが、エルザは眼を大きく開けて「すごいなあ」と呟いた。



 夜が明けて、朝まで起きていたタバサは、そこでようやく眠りにつき、昼を過ぎた頃に目を覚ました。
 目覚めたタバサは、部屋の隅に鞄と一緒に置いてあるニンニクを見て、しばらく考えてそれを持って客間に行く。自分を囮に使うには持ち
歩かないほうがいいが、客間に置いて吸血鬼避けに使うにはいいだろうと考えたのだ。
 その後、客間の娘たちに怪訝な顔をされたが、そんな事を気にするタバサではない。
 睡眠をとっていないはずなのに、疲れを見せないアプトムと合流したタバサは、先日と同じように村を見て回り、昨夜の事が噂になってい
ることを知る。
 昨晩、吸血鬼が現れたのに犠牲者が出なかったということで、村人たちは手のひらを返したように二人を信用したらしく協力的になったが、
それで新しいことが分かるわけでもない。特に新しい情報も得られないまま、日は沈み夜が訪れた。

 タバサが部屋に戻り、アプトムが寝ずの番をしようと客間の扉の前に座り込むと、エルザがスープを持って彼の元にやってきた。
 屋敷に泊まっている娘たちが感謝の気持ちにと作ったものを運んできたのだ。
 それを一目見て、アプトムは渋い顔をする。

「どうかしましたか?」

 そう聞いてくる、こちらはサラダを持った娘に、「なんでもない」と答えつつ、ニンニクの入ったスープを受け取る。
 タバサが何の説明もなく客間に持ち込んだ物なのだから、食材と間違われても仕方がないのだが、吸血鬼避けに持ってきた物が普通に消費
されるのは複雑な気分である。
 まあ、そんな事を言ってみてもしかたがないだろうと、スープとサラダを食べていると、エルザがぽつりと呟いた。

「ねえ、おじちゃん。野菜も生きてるんだよね」

 急に何を言い出すのかと思うアプトムに、エルザは続けて、鳥も牛も豚も生きているのに、死にたくなんかないだろうに、どうして殺して
食べるのだろうと問いかける。
 それは、もちろん生きるためである。そう答えると「吸血鬼も同じじゃないの?」とエルザは言う。
 吸血鬼も生きるために人間の血を吸っているのに、何故それが邪悪だなどと言われて退治されなくてはならないのか。そう問うエルザにア
プトムは答える。弱いからだと。弱いものが強いものに噛み付けば叩き潰されるのだと。

「弱いって吸血鬼が?」
「そうだ」
「吸血鬼は人間より強いでしょ。だから、人間は吸血鬼に殺されてるし、村の人たちだって怖がってるんじゃないの?」

 何故かムキになるエルザに、人を殺すぐらい毒蛇や毒虫にだってできるとアプトムは答える。蛇や虫でもどこに潜んでいるか分からなけれ
ば人は恐れる。ただ、それだけの話。そして、それは自分も似たようなものだとアプトムは内心苦笑する。自分はまだ弱い。クロノスという
巨大組織に隠れずに敵対できるほどの力がない。もっと強くならなくてはと決意を新たにする。
 そんなアプトムの答えに、納得がいかない。納得したくない。そんな眼で睨みつけるエルザの視線をアプトムは感情の読めない表情で受け
止める。
 そんなとき、ガシャンとガラスを割ったような音が、聞こえてきた。
 音を聞いた後のアプトムの行動は早かった。即座に扉を開け部屋に入ると、窓の一つが割られ、その前に一人の男が立っていた。
12ゼロと損種実験体:2009/02/01(日) 19:47:51 ID:qEVY0eQI
「アレキサンドルよ! やっぱり彼が屍人鬼だったのよ!」

 部屋にいる娘の叫びが合図であったように、男は近くにいた娘に人間離れしたスピードで掴みかかり、それ以上に速く動いたアプトムに殴
りつけられ入ってきた窓から外に吹っ飛ばされた。
 男を追って外に出たアプトムは、彼の人間離れした腕力で殴ったにもかかわらず、特にダメージを受けたようにも見えない男を観察する。
 その男は、確かに先日見たアレキサンドルという男の特徴を備えていたが、目は血走り、口の隙間から牙を覗かせた姿は、まさに妖魔と呼
ぶに相応しい。
 この男が吸血鬼なら話は早いのだが、屍人鬼では始末しても事件は解決しないなと考えていると、男が掴みかかってきた。獣のような速度
とパワーのそれは、ただの平民はもとよりメイジでも対応が難しく。しかし、そのどちらでもないアプトムは、簡単にその手を捕らえ取り押
さえた。つもりだった……。
 獣じみた男の動きには理性が感じられず、男以上のパワーとスピードを持つアプトムには容易く関節を決めて取り押さえられるかと思われ
た。だが、男は関節が決められても骨が砕けても頓着せず暴れ回り、拘束を抜け出し、こともあろうに、さきほど出てきた窓にもう一度突っ
込んだ。
 腕を砕かれ、戦闘力が激減しているとはいえ、無力な娘たちが対応できるはずがない。舌打ちして追おうとしたところで、窓枠に足をかけ
た男が後ろ向きに倒れた。
 男の胸には、氷の杭が刺さっていた。騒ぎを聞きつけてやってきたタバサの仕業である。

「ラグーズ・イス・イーサ……」

 そんな声の後に、無数の氷の矢が現れ男を串刺しにして動きが封じられると、男が入ろうとした窓からタバサが出てきて二つの魔法をかけ
た。
 一つは錬金。土を油に。もう一つは発火。火のついた油は男を焼き尽くした。

 これで、この事件が終わったわけではない。そのことは分かっていたが、今夜はこれで終わりだろう。そんな油断があった。だから、二人
は次の凶行を防げなかった。



13名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 19:49:12 ID:CCtg+nBh
支援!
14ゼロと損種実験体:2009/02/01(日) 19:50:06 ID:qEVY0eQI
「燃えちまえ! 吸血鬼!」「なにが占い師だ! 俺たちを騙しやがって!」「汚物は消毒だ〜!!」

 そんな罵りの言葉が叫ばれている現場にアプトムとタバサが到着した時、マゼンダという名の老婆の住む家は業火に包まれていた。
 アレキサンドルが屍人鬼だったという話が、不自然なほどに早く村人の間に伝わり、結果として村人たちは放火という凶行に走っていた。
 駆けつけたタバサは、即座に呪文を唱え杖を中心とした氷の嵐を発生させるとそれを燃える家にぶつけた。
 アイス・ストームと呼ばれるトライアングル・スペルであるその魔法が、家を包むとほどなくして、火事は消し止められた。
 だが、その時にはもうあばら家は全焼していた。

「見ろよ! 吸血鬼は消し炭だ! ざまあみやがれ!」
「こないだ、あんたたちが止めなかったら、もっと早くに解決していたんだ」

 一人の村人が、タバサたちに指を突きつけて弾劾する。
 それに、タバサは証拠がないと返すが、そこに証拠ならあるとやってくる者がいた。前にも、老婆が吸血鬼だと騒いでいたレオンである。
彼は、赤い布の切れ端をタバサの足元に投げ捨てて言う。

「そいつが……、犠牲者の出た家の煙突の中に引っかかってた。婆さんの着物の切れ端さ。あの婆さんは、煙突から家に出入りしてたんだ。
そりゃあ、窓や扉をいくら釘で打ちつけたって無駄だよ」

 小バカにした様子でレオンは続ける。普通の大人なら通れないような細い煙突も、枯れ枝のように細い老婆だから通れた。騎士のあんたら
には気づけなかった盲点に自分は気づいてやったのだと。
 これで、この事件は終わりだと彼は立ち去り、他の村人も解散した。

「使えねえ騎士さまだよ」「やっぱガキじゃな」「前の騎士さまといい、無能なのばかり寄越しやがっておかげで無駄な犠牲がでてるじゃね
えか」「村の娘たちは犠牲になったのだ。やる気のないお城の犠牲にな」

 そんな言葉を残して村人たちは去り、そこにタバサとアプトムだけが残り、そして村長がやってきた。

「ご苦労様でした、騎士さま。村人たちの非礼をお詫びします。でも……、彼らの気持ちも分かってやってください。家族を亡くして気が立
ってるんです。ゆるしてくださいですじゃ。なにはともあれ、解決してよかったですじゃ……」


15ゼロと損種実験体:2009/02/01(日) 19:52:37 ID:qEVY0eQI
 村長の屋敷にある、自分にあてがわれた部屋でタバサはボーッと座り込んでいた。
 事件は解決した。そういうことになってしまった。タバサは、あの老婆が吸血鬼だったとは思っていない。だが、こうなってしまっては事
件が終わっていないからと留まるわけにはいかない。
 どうしようかとアプトムを見ると、こちらは何も気にしていない様子で、タバサの寝巻きなどを畳んで鞄に詰め込んでいる。従者役を頼ん
だのは自分だが、何もそこまでと思ったりしたが、そんなことより自分と同じで吸血鬼は他にいると思っているだろうに、どうしてこんなに
落ち着いているのかとタバサは訝しむ。
 そして、アプトムの方が何を考えているかというと、彼はこのまま帰るつもりなど無い。彼にとって重要なのは吸血鬼の捕獲であって事件
の解決ではない。とはいえ、事件が終わったという事になっている以上、このまま留まるわけにはいかないと考えているのはタバサと同じで
ある。
 だから、彼は帰ったふりをしてコッソリ森に残って吸血鬼を捜す気でいた。面倒見よくタバサの荷物を片付けているのは、ルイズの使い魔
になってからできた習慣のようなものである。
 そうして、荷物を纏め終わった頃、扉をノックする音が聞こえてきた。
 扉を開けたそこには、エルザがいた。

「あの……、おじいちゃんが、おじちゃんに話があるから呼んで欲しいって……」

 話? 用事があるなら直接話しに来たほうが早いのではないか。と思ったが、まあどうでもいいかとアプトムが出て行こうとすると、エル
ザは今度はタバサに話しかける。

「それと、おねえちゃんに見てもらいたいものがあるの。一緒に来てほしいの」
「見てもらいたいもの?」
「うん。大事なものなの」

 そう言われ、少し考えたタバサは杖を持とうとして、怯えるエルザの顔に、そういえばこの子の両親はメイジに殺されたと言っていたなと
思い出し、杖をアプトムに持たせてエルザについて屋敷を出て行く。
 それを見送ったアプトムは、何の用だろうと考えながら村長の部屋へと向かった。
 扉をノックして部屋に入ると、村長は待ちかねたとばかりに詰めより話しかけてきた。

「大変ですじゃ! 大変な事がわかったのですじゃ! って騎士さまはどうなさった?」
「あいつなら、お前が引き取っている娘につれられて出て行ったが?」
「なんと!? それは大変なことになりましたじゃ」

 何が大変なんだと思った瞬間だった。
 アプトムは下腹に衝撃を受け、そこを見ると幅広のナイフが刺さっていて、それを村長の手が握っていた。

「実はですな。あの娘が、エルザが吸血鬼だったんですじゃ」

 そう言って笑った村長は、目が血走り、口からは牙を覗かせていた。


16ゼロと損種実験体:2009/02/01(日) 19:55:05 ID:qEVY0eQI
「こっちなの」

 そう言ってエルザがタバサを連れて行ったのは吸血鬼の最初の犠牲者が現れてからは、だれも立ち寄らなかった森の中。この村の特産品で
あるムラサキヨモギという山草の群生地。
 これは? と問うタバサに、エルザは、この村の名物だからお土産に待って帰ってほしい。と答える。
 特に考えもなくムラサキヨモギを摘むタバサにエルザは問う。

「ねえ、おねえちゃん。その草も生きてるんだよね」

 それは、先日アプトムにしたのと同じ問い。その他の生き物を殺し喰らう行為は、吸血鬼が人間の血を吸うのと同じではないかと問うエル
ザに、タバサがその通りだと頷くとエルザはニコリと笑った。

「じゃあ。わたしが、おねえちゃんの血を吸ってもいいよね」

 そう言ったエルザの口から鋭い牙が生えているのを確認した瞬間、タバサは山草を捨てて走り出した。だが、その行動は遅かった。

「枝よ。伸びし森の枝よ。彼女の腕をつかみたまえ」

 それは先住魔法の呪文。その場の精霊の力を借りる自然の力。
 呪文と共に森の木々がざわめき、その枝がうごめきタバサを捕らえ巻きつく。

「おねえちゃんは優しいね。わたしが恐がるから、杖を置いてきてくれたんでしょう。そして、杖を持ってるおじちゃんは今頃……」

 クスクスと笑う少女の姿に、アプトムの方にも何かを仕掛けたのだなとタバサは眉をしかめる。
 実の所、ここに来る前からタバサはエルザ吸血鬼ではないかと疑っていた。理由は、煙突に引っかかっていたという老婆の寝間着の切れ端、
煙突はすでに調べ終わっており、その時にはそんなものはどこにもなかった。つまり、それは偽装。
 では、何故そんな偽装をしたのかと考えて、二つの可能性を思いつく。
 一つは、自分とアプトムが手ごわいと考え追い出すための作戦。もう一つは、吸血鬼はもう退治されたのだと油断させておいて、こちらの
命を狙ってくる作戦。
 そのどちらかなど、タバサには分からない。だが、もしも油断をつく作戦なら、自分たちが出て行くまでに接触をしてくるはずだ。そう考
えていたときに現れたエルザを疑うのは当然のことだろう。だから、ここに来る前にタバサは杖を置いてくるのではなくアプトムに預けてき
た。
 あれは、ついてきてほしいという合図だったのだから。
 だが、そのアプトムがついてこれない状態なら? それはあまり考えたくない結果が彼女を待っているということである。

「彼に何をしたの?」
「もう分かってるんでしょ?」

 クスクス、クスクス、悪戯が成功した子供の顔でエルザは笑う。

「わたしね、メイジが嫌いなの。大っ嫌い。聞いてるでしょ? わたしの両親がメイジに殺されたって。ひょっとしたら疑ってるかもしれな
いけど、あれは本当の話。三十年くらい前の話だけどね。だから、メイジが現れたときは優先的にいただくことにしてるの。でも、おねえち
ゃんは分かりにくかった。だって、おじちゃんの方が主人みたいんだもの。もしかしたら、入れ替わってるんじゃないかって疑っちゃった」

 だから、近づいたのだとエルザは言う。本当はどちらがメイジなのかと確認するために、屍人鬼に自分を襲わせたりもした。次には二人が
守っている娘たちを襲い魔法を使わせた。そして、どちらがメイジかは分かった。あとは、メイジであるタバサを襲うだけ。本来なら従者で
あるアプトムを殺す理由は無い。だけど……。
17ゼロと損種実験体:2009/02/01(日) 19:57:54 ID:qEVY0eQI
「あの、おじちゃん嫌いなんだもん」

 吸血鬼は人の上位にある捕食者であり強者である。エルザはそう思っている。人は、吸血鬼を恐れ怯え震えながら餌食になるために存在を
許された下等動物なのだ。
 なのに、おの男は吸血鬼を弱いと言った。下等な獣や虫けらも同然の存在と言い切った。エルザにはそれが許せない。
 だから、殺すことにした。占い師の老婆に罪を着せて始末し、事件が解決したと思い込ませたあと、二人を引き離してそれぞれを始末する。
それが、エルザの考え。

「でもね、おねえちゃんは好き。だって綺麗なんだもん。とってもおいしそう」

 そう言って動けないタバサに手を伸ばした時、二人の間を光が走った。
 ボトリッ。そんな音に「あれ?」っと不思議そうに呟いて、エルザは自分の手を見るが、そこには何も無い。タバサの体に伸ばした右手は
肘から先が消失していて、手首から先が足元に落ちている。
 もう一度、「あれ?」っと呟いて、落ちた手と肘を見比べるとどちらも傷口が炭化しているのが分かった。
 どうして? と光が走ってきた方向を見ると、そこに人影が見えた。
 それは、死んでいるはずの男だった。
 アプトムという名のその男は、手の平をこちらに向けており、その手の平には何かレンズのようなものが張り付いているのが見えた。
 あれは何だろうなどと危機感のない事を考えてしまったのは、何が起こったのかを理解できていなかったから。理解したのは、そのレンズ
が光を放ち今度は左手が失われた後である。
 アプトムの手の平にあるレンズが高熱レーザーの発振器官であるなどとエルザには分からない。分かるのは、あれには簡単に彼女の命を奪
う力があるという事実だけ。
 アプトムは更にレーザーを打ち出し、今度はタバサの実を縛る枝を焼く。と言っても、高熱のレーザーで焼かれた枝は一瞬で炭化し火を出
さない。
 この時になって、ようやくエルザは気づいた。あの男は自分など及びもしないバケモノだと。あの魔法ではない不可思議な光を撃ち込んで
くる男に比べれば、確かに自分など虫けらにも等しい弱者だと。
 エルザは悲鳴を上げていた。逃げ出していた。どこに逃げようというのか、逃げ切れるつもりでいるのか、そんなことは分からない。ただ
恐怖して走り出していた。
 反撃しようなどとは思わない。それは死を近づけるだけの行為だと本能が告げていた。
 恐慌状態のエルザは走る先に別の人影を見つけてギクリと足を止め、そして安心した。
 そこにいたのは、村長だった。アレキサンドルが始末された後、アプトムの命を奪うためだけに屍人鬼にされた憐れな老人。
 アプトムを殺すのに失敗したのであろう老人が何故こんなところにいるのかなど、エルザには分からない。
 だけど、この際そんなことはどうでもいい。己の忠実な下僕である老人に、アプトムを倒すように命じ、その脇を走り抜ける。無論そんな
ことが可能とは思わない。彼女が期待するのは、自分が逃げる時間を稼ぐこと。
 だが、走る彼女の首が何者かに掴まれた。
 それは、老人以外にありえなかったのだけれど、そんなことはありえないとその手の主を見てエルザは恐怖した。
 それは、先ほどまでは村長であったはずである。今も村長の服を着ているのだ。なのに、そいつは顔の左に傷痕を残した、アプトムの顔を
持っていた。
 何がなんだか分からないエルザは、抵抗が出来ない。恐怖に怯えていたから、という理由だけではない。そいつが掴んだ手の平から、掴ま
れた首に何かが浸食してきており、それによって彼女の運動機能が停止させられていたのだ。

「一つ聞きたい事がある」

 そういってきたのは、彼女の首を掴んだ男。その男は、間違いなくアプトムの声を持って語っていた。

「お前は、他の天体……、いや異世界でもいいが、そこから来たり帰ったりという話を聞いた事があるか?」

 言っておくが嘘をついても分かるぞ。今、俺とお前は繋がっているからな。と言うアプトムにエルザは首を振る。聞いた事がないどころか、
まったく意味の分からない質問だったから。
 それに対して、アプトムは、そうだろうとは思ったがな。と、ため息を吐き「では、もうお前には用は無いな」と呟く。そして、それがエ
ルザが聞いた最後の言葉だった。
18ゼロと損種実験体:2009/02/01(日) 20:00:37 ID:qEVY0eQI
 不可思議な光でタバサの拘束を解いたアプトムは、「無事か?」と問いかけて、彼女が頷くのを見ると、そのまま、歩きだす。
 歩く先には、村長の服を着たもう一人のアプトム。エルザはいない。もう一人のアプトムに首を掴まれた後、その手に吸い込まれでもした
ように縮んでいき消えていった。

「どうだった?」
「ああ、間違いないようだ」

 そんな会話を交わす二人のアプトムが何を話しているのかなど、タバサには分からない。そもそも、村長の服を着たアプトムは何者なのか?
 そんな疑問を口にするべきか判断をつけかねていると、二人のアプトムは横に並び、重なり一人のアプトムになっていた。
 さすがに眼を剥くタバサだが、アプトムの方には、そのことを説明するつもりが無い。
 この時初めてタバサはアプトムに恐怖した。彼女は、この男を自分など一捻りに出来る強大な力を持つ亜人だと認識していた。
 だが、それでも自身の理解を超えるバケモノだとまでは思っていなかったのだ。
 この自分になんら興味を持っていない男は、敵対しようと考えなければさして危険な相手ではないと考えていたし、それは事実である。
 それを知っていても、恐怖を感じずにいられるような存在ではないと、タバサは今、思い知っていた。



 こうして、サビエラ村の吸血鬼は退治された。しかし、面倒だったのは、その後の処理であった。
 表向き、吸血鬼と屍人鬼は、占い師の老婆とその息子で、それを退治したのは村人たちということになっている。今更、エルザが吸血鬼だ
ったと言っても誰も信じないであろう。
 だが、エルザ一人が消えたのなら親戚を知っているから連れて行ったと誤魔化せば済んだが、村長まで消えていては、そうはいかない。
 そのことで、迷ったタバサは上司に頼ることになってしまった。イザベラと書いて意地悪な従姉と読む上司は、話を聞いてタバサを酷く罵
倒し鞭で打ちすらした。
 けれど、最後にはイザベラは機嫌よく後始末を引き受けた。タバサを酷く憎む彼女は、なんだかんだで仕事を完璧にこなす従妹を疎んじて
おり、失敗することを望んでいたので、いつものような理不尽な理由ではなく、真っ当な理由でタバサを叱りつけ罰を与えることが出来て喜
びを押さえられなかったのである。

 そして、そんなタバサと共に、シルフィードの背で帰路についたアプトムは、彼女の心配も、自分がバケモノと見られ始めたことも気にせ
ずに考えていた。
 この事件で、アプトムはこの世界に来て初めて融合捕食の能力を使っていた。
 その能力で屍人鬼になった村長を分体にした時、彼はおかしなことに気づいた。融合捕食は対象の遺伝子情報を解析する能力でもある。そ
の能力により、彼は屍人鬼になった村長が地球人類と極めて近い遺伝子情報を持っていることに気づいたのだ。
 これは、本来ありえないことである。地球の人類は、降臨者と呼ばれる地球外の天体からやってきた来訪者によってゾアノイドの素体とし
て生み出された生命である。
 自然発生した生命が、それと似通った遺伝子情報を持っているなどありえないのだ。だから、もしやと思い吸血鬼も融合捕食して調べるこ
とにした。自分の考えが正しければ吸血鬼も地球人類と近い遺伝子情報を持っているはずであると考えた。高熱レーザーですぐに倒してしま
わなかった理由の一つには、このはそのためでもある。
 そして、その考えは正しかった。エルザという吸血鬼の少女の遺伝子情報もまた地球人類とほとんど同じものだった。それどころか、調整
された人類のソレに近い遺伝子情報を持っていた。
 つまり、このハルケギニアという世界に住む住人たちは、地球人と同じく降臨者によって生み出された生き物であるということ。
 だが、今のアプトムにはそれ以上の事は分からない。
 だから、彼は思う。面倒なことになっているのかもしれないなと。




19ゼロと損種実験体:2009/02/01(日) 20:02:39 ID:qEVY0eQI
「アプトムのやつ中々帰ってこないわね」

 ピンクブロンドの髪の少女の呟きに、暇そうに自慢の赤毛を弄っていたキュルケは、またかと呆れ、黒髪のメイドは苦笑する。
 アプトムが出かけた後のルイズの生活に、特別な変化は無い。朝はアプトムの代わりにシエスタに起こされ、午前の授業は寝惚けながら受
け、午後にはちゃんと目を覚ましし、授業が終わると図書室に籠もる。
 この時、いつもアプトムにしてもらっていたように必要な本をシエスタに取って来てもらおうとして、ちょっとした出来事があった。
 この図書室はメイジが使用することを前提としたつくりになっていて、フライの魔法も使えない者には手の届かない所にある本が多い。
 アプトムなどは、体重を感じさせない動きでヒョイヒョイ本棚を登り必要な本を取ってきていたのだが、ただのメイドであるシエスタにそ
れを望むのは酷というものだろう。
 なのに、ルイズがそれをシエスタに頼んでしまったのは、単純にそのことを失念していたからであり、シエスタが文句も言わず従おうとし
たのは、アプトムが帰ってくるまでの間、自分がこの可愛らしい小さな貴族の従者を勤め上げようと妙な使命感を持ってしまったからである。
 そして、高い位置にある本を取ろうと本棚をよじ登ろうと考えたシエスタは、足を滑らして盛大な尻餅を打った。
 幸いだったのは、シエスタが足を滑らせたのが最初の一段目であったことであろう。おかげで、シエスタが特に怪我をすることがないうち
に、ルイズは自分の失敗に気づくことが出来た。
 そして、二人は同時に思った。どうしてこのメイドは、そこまでしてくれようとするのだろうと。この貴族の少女は何故たかが平民の自分
を心配してくれるのだろうと。おかしなフラグが立った瞬間である。
 しかし、それはそれとして、高い位置にある本が取れないと勉強に支障が出るのは確かであり、その日はどうしたものかと悩んだものだが、
翌日には、二人の間のおかしな雰囲気を面白がったキュルケがついてきて、その問題はクリアしたのだった。
 そして、色々あって三人は友好的な関係を作っていったのだが、やはり、ルイズとしては早くアプトムに帰ってきて欲しいという想いがあ
り、呆れるキュルケにもタバサに早く帰ってきて欲しいなという似たような想いがあったのである。
20名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:03:22 ID:zS5fnsBh
支援
21ゼロと損種実験体:2009/02/01(日) 20:04:12 ID:qEVY0eQI
投下終了。支援に感謝。ほめてくれた人にもありがとう。
読めば分かるように、この話はアプトムがスルーしたシエスタフラグをルイズに立ててもらうのが目的でした。
そのために犠牲になった村長さんには同情を禁じえません。
22名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:06:50 ID:5MDY8UhK
アプトムの人乙です。
アプトム容赦ナシw
23名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:07:43 ID:ZRPNojeA
投下乙です

シエスタフラグもタバサフラグも立たないということはフーケに期待するしかないという事か…
いやまだアニエスとかエレオノールさんがいる!
24名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:19:35 ID:GC6YGxLw
アプトムの人、乙です!

さすがアプトム、容赦ないぜ!
タバサもアプトムに恐怖を感じちゃいましたか
まぁ、目の前で融合されちゃしょうがないか
でも己の身一つで強大な敵に立ち向かうという境遇がなんとなく似てる
タバサにはフラグは立ってほしいなぁ〜と思っとります

次回も楽しみにしております
そして村長さん南無


25名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:27:55 ID:SFnv3ify
前スレ>>594
>弟子
「髪の毛座」の盟
星矢の兄弟の中では最高クラスの人格者。
師匠のデスマスクに対しても悪行を認識した上で絶対の敬意を払っている。
小説ギガントマキアにおけるアテナとの会話は一見の価値有り。
26名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:29:07 ID:4Li/JCHA
アプトムにフラグとか必要ないさ
ああーやっぱ捕食しちゃったか、まぁさらに分体作るのに必要だろうし・・・エルザと村長南無。
降臨者まで来てたとなるとゾアロードとかもいるんですかねー続き期待してます、乙でした。
27名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:31:03 ID:5NUleVPL

ここだと変にいい人扱いされるイザベラが
原作どおり真っ当に腐った性格で逆に珍しく感じたから困る
28名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:37:49 ID:7zOQ5JW0
確かに色々な書き方されていますね。イザベラは、
凶鳥とかでダークサイドの領域に行ったり、
気さくで腐った性格がそのまま良い方向にひん曲がった?り、
姫と龍では、まさにいい人ですし(笑)
29名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:44:30 ID:q+O99FAI
アクマの人のだとヒーホーくんの虜になってたね
30名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:47:24 ID:ZRPNojeA
しかしエルザの遺伝子が調整された地球人のソレと同じってことは
エルフ等の亜人だけでなくメイジも調整の結果、生み出されたんだろうか?
(最初のガイバーで懲りたんで別の方向からアプローチをした?)
31名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:48:17 ID:IetJ/kKx
>>26
ハルケギニアの住民すべてが、地球から飛ばされて来た人類の子孫とも考えられる。
32名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:50:36 ID:zzN0A7fu
佐々木さんが子孫を遺せているから、少なくとも平民は地球人と遺伝子が近いのだろう
……メイジやエルフはどうだか知らんが
33魔導書が使い魔:2009/02/01(日) 20:51:24 ID:35SnBsTB
こんばんは。
魔導書の作者です。

予告どおりに投下しに着ました。

21:00から投下予定なので、もしおヒマであれば支援をお頼み申し上げる。
34名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 20:57:26 ID:K62VQkpj
村長の扱いが天と地ほどの格差があるなw
35魔導書が使い魔-タバサと怪異-04:2009/02/01(日) 20:59:42 ID:35SnBsTB
寝ていたのは10分程度だろう。
自然とタバサの目は覚ました。
時間は短いが深く眠っていたらしい。大きく息を吸うと冷たい空気が心地よか
った。
いくら寝不足と疲労が重ったとはいえ。短時間といえど敵陣の真っ只中で熟睡
するとは。自分に呆れればいいのか、それとも叱咤すればいいのか判断が付か
ない。
ふと、先ほどから重い腕の中を見る。
そこには寝息を立てている少女がいた。
エルザの寝顔に少しタバサは微笑むと、その頭を撫でる。
くすぐったいのか、むにゃむにゃとエルザは呟いた。
タバサの笑みが深くなる。
だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
この心地よい重みをどう退かせようかタバサが考え始めたとき。
「っ!?」
全身が総毛立った。
ギャアギャアと頭上で異形たちが騒ぎ始める。
即座に起き上がった。
「うきゃあっ!?」
背中が痛み、エルザが転がって変な声を上げるが構う暇はない。
「なに? なにっ?」
驚き戸惑うエルザの手を引っ張り立ち上がらせると、素早く周囲を見回し。

「見ぃつけた」

その声と共に、森の奥から死の香りを引き連れて道化師は現れた。
「ひっ!」
怯えるエルザを庇うように前に出る。
その手は未だ繋がれたまま。
道化師は艶っぽい笑い声を上げながら立ち止まる。
「ずいぶんと逃げたわね。追いかけっこも中々楽しかったわよ。でも……もう
飽きてきたの」
それはいたぶる者の余裕。
意識をそちらへ向けながら、タバサは脱出する術を思考する。
少しでも、時間を稼ぐために。
そしてタバサの考えを読んだかのように。
「言っとくけど――もう逃がさないわよ?」
「――っ」
風に混じるは腐敗臭。
――あ、ぅあぁぁ……
――ぉおぉおお……
呻き声が聞こえた。
恨み、呪い、渇望する断末魔の叫び。
死してなお弄ばれる死者の集団が、2人を大きく囲うように現れた。
そしてその中には、見覚えのある姿もある。
「おじいちゃん……」
エルザが悲しげに呟いた。
繋がれた手が強く握られ、また強く握り返す。
「さて、それじゃ終わりにしましょうか。もう十分楽しんだでしょ?」
ニタリと、仮面をしていても笑みに顔を歪めているのがわかった。
「さようならお嬢ちゃんたち。いいえ、いらっしゃいかしら? ふふ、あはは
はは」
道化師の笑い声が響く。
ゾンビたちが生者を羨み、妬み、引きずり堕とそうと迫る。
暗い森の中。それは、まるで卵子へ群がる精子のごとく、醜悪で不気味な光景
であった。
――あ、ぅあぁぁ……
――ぉおぉおお……
36名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:02:13 ID:TBrzLhfR
支援
37魔導書が使い魔-タバサと怪異-04:2009/02/01(日) 21:04:50 ID:35SnBsTB
異形たちが興奮し、身の毛がよだつ咆哮を上げる。
――クォイhgπクォアg;ツ!
敵は強大で多数、空は封鎖され、逃げ場はなく、体力精神力ともに残りわずか
な上、こちらは子連れ。
ジリジリと緊張感が奔る絶望的な状況下。
「おねえちゃん……」
見上げてくる不安げな瞳。
「さあ、恐怖と絶望で染まった声で鳴いて」
嘲笑する嘲りの仮面。
死者が迫り、異形は騒ぐこの怪異溢れる夜の森で。
「――ふぅ」
彼女は憂鬱そうなため息をついた。
「……どうしたの? せめてもの抵抗?」
道化師が呆れた風に言った。
「…………」
声にはタバサは応えずに、杖先を地面へとつけ、俯いた。
「ど、どうしたのおねえちゃんっ!」
突然の行動に焦るエルザ。
それを見て道化師は笑った。
「あはははははっ! そう! そういうこと? せめて楽に死なせて欲しいっ
てお願いなのかしら? あははは!」
タバサは応えない。
散々笑った道化師は仮面の下の視線を合わせ。
「あはははは……ふふふ……潔いわ。でもねお嬢ちゃん、私――そういうの大
嫌いなの」
凍える声で言った。
「最も惨たらしくて、死にたいけど死ねない苦痛を味あわせてあげる」
ゾンビたちが迫る。
恐怖のあまり身が竦みエルザは、涙を浮かべるが。
「……あ」
繋いでいる手に力が込められた。
手の先を見る。
「――」
そこには――戦士がいた。
危機的状態、絶望的状況、絶体絶命、断崖絶壁。
様々な言い方があるが、救いようの無い必死の状況。
10人いたら10人諦めるだろう、100人いたら100人狂うだろう、1000人いたら1000人
絶望するだろうにも。
たった毛先ほど。
たった一厘ほど。
0.00000001%の奇跡とも呼べる勝機があるのなら。
――その瞳は、決して諦めないと語っている。
それは誇りと魔法を振りかざす貴族ではない。
それは忠義と甲冑を鎧った騎士ではない。
それは生きるために命をかける、戦士であった。
「……ラナ……ソル……」
そこでエルザは気づいた。
俯いた顔の中。細められた瞳はただまっすぐに向けられ、口元は細かく、だが
素早く動いている。
「さあ! 蛆たちの苗床にしてあげる!」
道化師が両手を上げ、ゾンビがいよいよ迫り――
「……デル・ウィンデ」
その魔法は完成した。
渦巻く風。
微風が強風に、強風が剛風に、剛風が暴風へと変わり渦を巻き、空気を/風を
/周囲を撫ぜ回る。
嘲笑とともに、隙だらけな姿を晒す道化師。
「同じものが二度も効くと思っているのかしら?」
圧縮され荒れ狂う暴風は――氷を纏っていない。
38名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:07:30 ID:wnMT1tiO
「実際に成功する確率=100%−作中で語られる成功確率」の法則支援
39魔導書が使い魔-タバサと怪異-04:2009/02/01(日) 21:10:08 ID:35SnBsTB
「…………っ」
先ほどから杖は地から上げられず、かと言って不意を付くわけでもない。
どこかがおかしかった。
だが、そんな疑問さえも、タバサが放つ魔法の前に掻き消えた。
「『暴風(ストーム)』」
暴虐の風は解放され、その風の限りを杖の先――地面へと広がった。
「――!」
拡散した風が地面を――腐葉土を、かき混ぜ吹き上げる。
風の力は広く、ゾンビたちを通り抜け、道化師の足元の吹き木の葉までも吹き
上げた。
それは視界を遮り、カーテンのように周囲を隠す。
「目くらましのつもり!」
そう、道化師は叫んだが。
一面に降り注ぐ木の葉の乱舞の中。
嵐の中心で、唯一木の葉を免れたエルザとタバサ。
タバサは、むき出しになった地面の上。
次の詠唱を終えた。
「イス・イーサ・アース――『錬金』」
その瞬間に舞い降りる木の葉は、降り注ぐ油へと姿を変える。
油は、森一面に、ゾンビたちの尽くに降り濡らし。
「――しまっ」
道化師の言葉も待たずに、タバサは杖を油へと向けた。
「ウル・カーノ」
発火。
紅蓮の炎が森を彩った。
――ぅ゙あ゙ぅあ゙ぁ゙ぁ゙……
――ぉ゙お゙ぉ゙お゙お゙……
燃え盛る炎の中、死体たちが踊る。
切っても潰しても動くなら、そもそも体ごと燃やせば動きようも無い。
油に引火し、火達磨となったゾンビたちを見ながら、タバサは。
「……うっ」
片膝を着いた。
「だいじょうぶおねえちゃんっ!?」
多少寝て回復したとはいえ、元々の残量が少なかった精神力を使っての連続魔法。
朦朧とする意識。虚脱した体。杖を持つ手が冷たく、この炎の前にして体温さ
え体は調節できない。
もう限界だと体は告げる。
だが、目の前に広がる炎。それは木々に燃え移り、勢いを増していく。
ここにいては確実に焼死か窒息死である。
「おねえちゃんおねえちゃんっ!」
タバサは隣を見た。
そこには必死にタバサの身を案じる少女がいる。
左手には、小さな手が未だ握られ。それが、冷たい体に熱を送り込む。
その熱を頼りに、体に残る力を最後まで、振り絞る。
「――ふ……ぅっ!」
片足で地面を踏み締めた。
「……っ」
だがふらつく体はそれを許さず、バランスを崩し。
「おねえちゃん! がんばって!」
エルザがそれを支えた。
「……うん」
タバサはそれに頷くと、エルザに支えられながら立ち上がる。
「――」
広がるは炎に彩られし森。
見上げるは騒ぐ、異形。
「掴まって」
「うん!」
エルザがしっかりとタバサに抱きつき。タバサは、静かに確実に詠唱を唱える。
――ブ……ブブ……ブブブブブブブ――
40魔導書が使い魔-タバサと怪異-04:2009/02/01(日) 21:13:47 ID:35SnBsTB
突如、不快な低重音の羽音が響いた。
燃え盛る森の一部が黒色に塗り潰され――
「舐めるな小娘!」
――吹き飛んだ。
舞い上がる火の粉。引き剥がされた炎。
爛々と目を光らせながら道化師は炎の中から現れる。
その手には独りでに捲られる鉄表紙の本が握られていた。
黒色は炎に巻かれ燃えていく。
それは無数の蝿である。
道化師の足元に□◇を組み合わせた毒々しい紅き八芒星形が浮かび上がり、手
に持つ本が薄暗い輝きを放つ。
「蝿どもよ!」
八芒星形から黒い触手が伸びた。
それは羽音の低重音を放ち。炎に焼かれ、燃えた蝿を落しながらタバサたちに
迫る。
蝿の触手がタバサへ届こうとし――
「――『フライ』!」
それは地面を叩いたに過ぎなかった。
その2人は空へと飛翔する。
だが。
「馬鹿め! 忘れたの!」
道化師は頭上を仰いだ。
そこには赤き瞳を輝かせる異形どもが待ちかまえる。
「無形の落し児たちよ! 彼の者を貪れっ!!」
――アg★qvホ3gッ!
腐汁を、汚濁を、死臭を撒き散らす異形どもは、歓喜の声を上げて眼下の獲物
へと飛びかかろうと構えた。
「いやぁっ!」
それを見て、エルザは堅く目を瞑った。
そしてタバサは、この最悪の状況で――
「デル・イル……」
唱えるは詠唱。
通常のメイジは1つ目の魔法を使っている時に、2つ目の魔法を使うことは“多
くの者は”できない。
それは特殊な訓練と才能が在る者にしかできない高等な技。
だが極限まで集中した意識下で、タバサはその魔法を唱える。
タバサはぼんやりと状況を把握していた。
周囲は炎に撒かれ、上には異形、下には蝿の触手。
自分の力はもう空っぽで、今すぐ泥のように眠りたい。
杖を手放せたらどんなに楽だろうか。
……だが………だが…………だがっ!
「――怖いよ……」
腕の中の熱が、タバサの心を繋ぎとめる。
「……ソル・ラ・ウィンデ」
属性は風の2乗。
『風の槌(エア・ハンマー)』通常、風1つで足りるそれを2つも重ねる。
杖を背中へとまわす。
「――しっかりと、掴まってて」
「――え」
聞き返す声には応えなかった。
――」qアh■■wqウgッ!
異形たちが2人に向かい降り落ちる。
それが迫る瞬間。
「『エア・ハンマー』」
圧縮された空気の塊。破城槌とも言える威力が。
「――ぐっああっ!」
背後で爆発し、タバサは肺にある空気を全て吐き出した。
「――っ!?」
それは声にならない悲鳴と苦痛の声を置いて、2人を強制的に加速させる。
41名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:15:32 ID:hCunyKpW
支援
42名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:16:18 ID:hCunyKpW
御免sage忘れた
43名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:18:42 ID:oHjURj+4
タバサ人間大砲支援
44魔導書が使い魔-タバサと怪異-04:2009/02/01(日) 21:18:48 ID:35SnBsTB
爆発による、急激な加速。
2人は迫っていた異形どもの予想を超える速度ですり抜け。
枝葉の天井を――突き破る。
「きゃあっ!?」
ばきばきと枝を、葉を掻き分け。
突如音が止み、エルザは目を開いた。
「――」
エルザは息を呑む。
そこに広がるのは、どこまでどこまでも暗く続く森。
いつの間に雲が晴れたのだろう。
月が少しでも闇を照らそうと夜空で輝き、その光を森は吸い込む。
先ほどの炎が燃え盛っているのだろう。眼下では茜色の光が煌々と光る。
どこまでも壮大な景色。
吹き付ける風にも注意を払わずに、エルザはそれに見入った。
タバサは一切空気のない肺に無理やり息を吹き込むと、左手を口元に当てる。
――――♪
静寂の夜森に響く澄んだ音。
その音が鳴り終わると。
遠く、なにかがこちらへ高速に接近してくる。
「――お……おぉぉねぇぇえぇぇさぁぁまぁぁぁぁああっ!!」
高速で接近する物体――シルフィードはドップラー効果を引き連れてやってき
た。
シルフィードが近づいてきて、タバサの魔法が切れた。
「きゅい!」
落ち行く2人をシルフィードが背で受け止める。
背に乗ったタバサにシルフィードは猛然と話し始めた。
「もうお姉さま! なにやってたの! シルフィーはとても心配したんだから
ね! 村は変なのがうようよしてたし! お姉さまが村長さんの家に行ったき
り出てこなくなるし! シルフィーはとってもとってもとっても心配したんで
すからね! あ、シルフィーって言うのはシルフィードを少し省略した呼び名
なのね。この方が可愛いでしょう、きゅいきゅい!」
「…………」
タバサは無言。
だが、それに別の者が反応した。
「竜がしゃべってる……」
エルザの呟き。
「きゅ……きゅいーっ!?」
シルフィードは驚いた。それはもう超絶的に。
「喋っちゃったのね! 喋っちゃったのね! 人前で喋っちゃったのね!」
ギャアスカと騒ぐシルフィードに、タバサは短く。
「……いいから」
「喋っちゃったの――きゅい?」
シルフィードが首を傾げた。
いつもならここで、タバサが何かしらの誤魔化しなどをするはずなのだが、そ
れがない。
どこかがおかしい、そういえばタバサが酷く疲れているようにも見える。
なにがあったのか聞こうとしたシルフィードに、タバサは指をとある方向へと
指し。
「まずは、帰る」
そう言った。
「きゅ、きゅい」
どこか納得のいかないシルフィードは首を傾げながらも従い、飛び始める。
エルザは、シルフィードとタバサを見比べ。
「……えーと」
呆然としていた。
タバサはそれを見て、少し冷たい鶏冠にもたれかかる。
少し眠りたかった。
今日という日はあまりにも長く、あまりにも濃密だった。
夜風に吹かれながら、静かにタバサは目を閉じる。
45名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:19:03 ID:hCunyKpW
支援
46名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:19:34 ID:PtJnHkY/
支援
47魔導書が使い魔-タバサと怪異-04:2009/02/01(日) 21:20:15 ID:35SnBsTB
背後では、森から茜色の光が徐々に遠く離れいった。



エルザは目の前で眠り始めたタバサを見ていた。
寝入った顔は青白く、まるで死人のように見える。
それが心配になってそっと口元に耳を寄せる。
――、――、
呼吸音が聞こえ少し安心した。
安心すると、なにもすることが無いことに気がついた。
自分達を乗せて飛ぶ風竜を見る。
さっきは喋っていた風竜は沈黙を守っている。
タバサがメイジなのであるから、この風竜は使い魔なのだろう。
初めの印象ではお喋りに思えたが、疲れて寝ているタバサに配慮しているのか。
とてもいい使い魔だと思う。
エルザは初めの晩を思い出す。
自分のことを話したエルザに、タバサは自身のことも語ってくれた。
病気の母、献身的な使用人、魔法学院、そこで出来た大切な友達。
この使い魔もそうだ。
少し単純だけど、本気で自分を心配してくれる大切な存在だと言っていた。
――ああ、こんなにも彼女は恵まれている。
タバサの暖かさが、エルザの心の闇を突いた。
思い出されるはメイジに殺された両親。
猛然と立ち向かった父親が焼かれる臭い、許しを請う母親から飛ぶ血飛沫。
そう2人は『メイジ』に殺された。
ただ着実に、闇が、エルザの中で肥大化してゆく。
エルザは動けない。
今タバサを見てしまうと、なにをするかわからないからだ。

……
…………
………………
……いつまでジッとしていただろう。
かなりの時間がたった気がする。
ふいに
大きな風がエルザへと吹きつける。
「っ」
髪が顔にかかり、思わず向けた先に――寝入るタバサがいた。
「――」
エルザは息を殺す。
どくり、と心臓が跳ねた。
晒された無防備な姿。
ゆっくりとエルザはタバサへと近づく。
白く陶器のような肌。
近づくに連れて、細かい部分まで鮮明になり。エルザの本能が、黒い欲求を吹
き出してくる。
人形のように整った顔。
エルザは静かに顔を近づける。
微かな息遣い。
エルザが口を開ける。
「――っ……っっ」
するとどうだろう。僅かに尖っていた犬歯がぎちぎちと伸びてゆく。
日に弱く、先住魔法を操り、血を吸った者を1人操れる夜の狩人。
時にはその特徴である尖った歯を隠し、完全に擬態する擬態する人間の天敵。
そこにいるのは、吸血鬼であった。
伸びた歯は犬歯という表現ではなく、剣歯とでも呼ぶ方が相応しい。
風竜は静かな変化に気づく様子はない。
興奮か喜びか、息が荒くなりそうなのを出来るだけ殺す。
48名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:21:17 ID:hCunyKpW
支援
49魔導書が使い魔-タバサと怪異-04:2009/02/01(日) 21:27:21 ID:35SnBsTB
「……ぁ」
鼻先がタバサの首筋へと近づいた。
強風吹き抜ける中、ふわりと血と泥と柑橘系の匂いが香った気がした。
目に入るその首は細く、血管が透きでそうなほど白い。
その下に流れる血液を想像して喉が鳴る。
「……ぅ……ふぅっ」
吸血鬼の本能が叫ぶ。
吸い尽くせと。血潮を、命を、呑み貪れと。
目の前にいるのは“憎きメイジ”なのだから!
「……! ……っ」
そして歯先が首筋へと触れて――
「――ひっく」
涙が零れた。
憎しみに駆られ、本能に囁かれ、首筋に剣歯を突きたてようとしながら、エル
ザは泣いていた。
思い出されるのは、暖かい笑顔。
道化師から逃げた先で迎えられた家。
ただ利用しようとしただけなのに、与えられた優しさは本物だった。
掛けられた言葉、振舞われた料理、絶やさぬ笑み。
その全てに優しさが込められ、冷えた心の底に溜まっていった。
そして――命をかけた背中が、忘れられない。
「う……ああ……ひっく……」
まだ涙は止め処なく溢れる。
目の前で眠る者が、何度自分を助けたことか。
相手の真意を探ろうとしたことで、同じものを心に共有すると気づいた。
だが、怯え縮こまる心をほぐしたのは彼女だった。
託された少女を、傷つきながらも護り通した。
握られていた手の、なんと暖かかく、そして力強かったことか。
そして――
『大丈夫。あなたはわたしが護る』
この言葉がいかに嬉しかったことか。
「ぅあぁ……ぁああぁぁ……」
少女は静かに泣く。
何に対してかは自分にもわからない。
ただ涙が止まらなかった。
それでも2人を運ぶ風竜に気づかれぬように、タバサが起きぬように……静か
に泣く。
鋭かった犬歯は短くなっていた。
「――」
エルザは急に身を起こす。
嫌な予感を感じた。
それは最も嫌いで、最も恐ろしく、最も敵わない存在。
逃げろ、隠れろと血が騒ぐ。
だがここはなんの遮蔽物もない上空。
急激に吐き気を催し、体が震え、血の気が引く。
その様子はある意味、道化師と相対したときよりも酷い。
「っ……ぁ……」
エルザが大きく目を見開いた。
どこまでも夜闇に沈む雄大な森と空の狭間――そこに光が生まれた。
先住魔法を使い、人に完全に擬態し、人狩人とも言われる吸血鬼。
彼らが唯一の天敵――日の光。
吸血鬼は日の光に当たると肌が爛れるとも灰になるとも言われているが、エル
ザはわからない。
生まれてこの方、日の光に当たったこともなく。
日の下に出たいとも思わなかったのだ。
ただ、恐ろしいということだけは死んだ両親から、そして本能から学んでいた。
その日の光が今、地平線から顔を覗かせようとしている。
「――ぅ……ひぅ」
エルザは硬直した。
恐怖が体を支配し。
50名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:28:29 ID:Zzhj/Pkx
支援
51魔導書が使い魔-タバサと怪異-04:2009/02/01(日) 21:31:32 ID:35SnBsTB
「っぁあっ!!??」
太陽が昇る瞬間、エルザは目を瞑った。
――朝日が、全てを照らす。

「――――…………………?」
だが、いつまで経っても想像した痛みや熱さは感じなかった。
恐る恐る目を開ける。
目を開け先にあったのは暗闇。
暗闇はバサバサと音を立て、風になびく。
その暗闇からは布の感触と……薄い柑橘系の香りがする。
そして、自分の体が抱きしめられていることに今更ながらエルザは気がついた。
それは暖かく、そして優しかった。
布越しに声が聞こえた。

「――大丈夫。あなたはわたしが護るから」

「――ぅあ……ひっ……うぁああ……っ!!」
エルザは再び泣いた。
今度は大きく、風竜が驚くほどに。



ぱちぱちと燃え尽きた木々が小さな合唱をする。
薄く立ち上る白い煙が合唱に呼応するように風に揺られて踊る。
大地は黒く染まり、黒以外のものはほとんどない。
――その場を現すなら壮絶であった。
それらは炎の洗礼を、暴虐を受けた跡。
そこに一切の生命はなく、全ては灰か炭と化し転がるのみ。
だが、そんな地面にも白き斑点がぽつぽつと浮かぶ。
白は時に丸く、時に長く、形も様々ある。
それは――様々な骨であった。
さすがに切っても潰されても動くゾンビも、こうなれば動きようもない。
これで死してなお肉体を陵辱されていた彼らも、安心することができるのだろ
うか。

――否。

不意に、地面から染み出すように“黒”が広がった。
それは炭で埋め尽くされた黒を侵蝕し“より黒く”染め上げる。
黒は触れるもの全て染め、腐敗させる。
染み出した黒は、◇□を組み合わせた巨大な八芒星形となった。
それは途轍もなく邪悪な意思を込められた魔方陣。
――ブ……ブブブ……ブブブブブ――
重低音がどこからともなく響く。
そして、
――ブブ、ブブブブブブブブブブッ!
爆発するように魔方陣から、空を染めるがごとく蝿が湧き出した。
「よくもやってくれたわね、小娘ぇ」
その声は黒い本流から聞こえた。
無尽蔵に蝿の涌き出る漆黒の八芒星形の中心。そこから道化師は声を響かせる。
「どこに逃げたか知らないけど……誰に牙を向けたか、今すぐ思い知らせてく
れる」
――ブブブブブブブブブブッッ!!
蝿の勢いが増した。
その中心から、不快な、おぞましい何かが響く。
「――%▼$■……#――」
人の声帯で到底だすことは敵わない音。
それは精神を掻き立てるようなリズムを刻み。
とうとう完成しようとした時。
52名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:32:52 ID:z3KldNVf
支援。
53名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:33:42 ID:GC6YGxLw
なんという展開! 支援!
54魔導書が使い魔-タバサと怪異-04:2009/02/01(日) 21:35:14 ID:35SnBsTB
『ははははは! “子”たちから見ていたぞミューズ。してやれたな!』
楽しげな声が響いた。
「ああ、王よ!」
声を聞いた瞬間、蝿の本流は収まった。
晴れた視界の中、そこにあるのは道化師と赤き光を放つイヤリング。
さきほどまでの怒りが嘘であったかのように、恋する少女のような声を道化師
はだす。
「すみません。お借りしていた“子”たちも、集めた死体たちも失ってしまい
ました」
『なあに、気にすることはない。“子”たちは我が力を試すために遊び。お前
の集めた者たちは“副産物”にすぎんのだ』
道化師の目が光る。
「ですが、今からでもあの小娘を捻ることはできます」
その言葉に、声はあくまで陽気さを失わない。
『かまわんかまわん。それにな』
「それに?」
もったいぶる言葉。
『あれは我が甥なのだ!』
「――っ!」
道化師は息を呑んだ。
「そ、それではとんだ無礼を……」
がたがたと震えだす道化師。
だが、声はやはり楽しげに言う。
『ははは! そこまでかしこまる必要もない。死んでしまったら死んでしまっ
たで別に構わん』
あくまで声は楽しげで、愉快げだった。
「そうですか……」
『それでは我がミューズよ帰還せよ! お前にはまだまだやってもらいことが
あるからな!』
「はいっ」
深く噛み締めるように道化師が応じると、イヤリングは光を失った。
そうして道化師が会話を終えた時。
“まぁた、随分と初心なところ見せるじゃない?”
声なき声が響いた。
道化師は呻くように頭を抱えた。
「……黙れっ」
“それに禁止してるわけじゃないのに、さっさと召喚陣を引っ込めちゃって”
それは深く、道化師の脳内だけに響く。
「黙れと言っているっ」
“邪魔されたとはいえ、あいつらだって見逃しちゃうし”
「お前はっ!」
その声はねっとりと纏わりつくタールのような粘着性と、腐りかけた陽気さを
持つ。
“なぁにぃ? あんた「まだ人間やってるつもり」なの? おほほほほっ、な
にそれ? 報われない恋、悲しき恋の行く末に同情しちゃったのぉ?”
「――っ!」
それは人を嘲るではなく、嘲笑するのではなく。
“忘れないでね。あなたは「まだ生きてる」にすぎないの”
ただただ、いたぶる者が持つ愉悦。
“あなたに実る恋なんて、あなたに与えられる愛なんで――なぁんにぃもない”
「――だまれぇぇええッッ!!」
道化師の体から殺気が吹き出す。
白骨が融解し、周囲の炭が風化した。
“おほほほほ。それじゃあ、精々あがくことね”
その声は頭の奥へと響き……消えていった。
「私は……絶対に呑まれるものか……」
55名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:36:15 ID:wnMT1tiO
え? 甥? 姪じゃなくて? 支援。
56名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:39:41 ID:QsWhWWgh
男の娘…だと……? 許せる! 支援
57名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:39:46 ID:u2fYFp7C
男の娘か
58魔導書が使い魔-タバサと怪異-04:2009/02/01(日) 21:40:19 ID:35SnBsTB
100年は草木1本も生えないだろう死の大地と化した場所で。
「ああ……ジョゼフ様……」
道化師は呟き、そして自らの影へと沈んだ。



ある日。ザビエル村、それを含めた近隣の村から人が消えた。
それは突然のことであり、火事や争いの跡はあったものの死体1つ無い。
また、草木が尽く枯れ、腐ることから。その村へ訪れた者は一様に不気味がり、
長居する者はいない。
そして同時期にザビエル村の近くでは山火事があった。
だが普通では考えられない早さで回る火に対して、その規模は非常に小さいも
のであった。
付近を通りかかった人の証言によれば、まるで山火事を囲うように広範囲に木
々が切られていたという。
どうしてザビエラ村を含む村人が消えたのか、誰が山火事を最小限に抑えたのか。
未だ判っていない。



タバサが学院へと戻ったのは朝食前であった。
あまり人に見られるのは良くないと思い、窓から戻る。
自室の窓にシルフィードを近づけると、エルザを背負って入った。
エルザは泣き疲れて眠っていた。
シルフィードは去り際に。
「なにがあったのか後でちゃんと説明して欲しいのね! きゅい!」
と言っていたが。
果たして、マントを被り眠っている少女が吸血鬼だと知ったらどんなに驚くだ
ろうか。
その慌てふためく様を想像し、軽くタバサは笑う。
想像するのはいいが、いつまでこうしているわけにもいかない。
静かにエルザをベッドへ下ろすと、窓を閉めカーテンで日を遮る。
この学院の寮は貴族の子供が集まるだけあって、有名な建築士が立てたらしい。
つまりは、寮の部屋は日当たりがいい。
この寮は吸血鬼にとって優しくないのだ。
……吸血鬼に優しい学院寮などありはしないだろうが。
タバサが指を振ると明かりがつく。
「ん……むにゃ……」
照らされる室内。息苦しかったのか、エルザは早々に被せていたマントを剥ぎ
寝言を呟いていた。
その姿は微笑ましく、誰も少女が吸血鬼だとは思わないだろう。
エルザを見て、タバサも微笑もうと口元を動かそうとし。
「――こふっ、こふっ!」
咳き込んだ。
とっさに覆った手から血が流れ落ちる。
「ごほっ……ごほっ……」
タバサはくの字に体を折る。
咳き込むたびに血が手から溢れていく。
その顔は青を通りすごし、真っ白であった。
高所からエルザを庇って背中から墜落。加速するために自身への攻撃魔法の使
用。そして碌な休息もない徹夜の強行軍。
必要だったとはいえ、それは確実に彼女の体を痛めつけた。
ふらつきながらタバサは棚へと歩く。
棚を空けると、そこには液体を入れた瓶――水の秘薬がある。
その瓶を取ると、蓋を開けた。
タバサは躊躇なくそれに口をつける。
「んくっ……んくっ……っごほごほごほ!」
こみ上げる血ごと秘薬を飲み、口を離すと再び咳き込んだ。
そして息を整えると、杖を手に持ち。
59名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:42:25 ID:u64eocBP
ミョズさん妖蛆の秘密だけじゃなくてティベリウスまでついてる……
たぶん何時でも体乗っ取れるんだろうな
60魔導書が使い魔-タバサと怪異-04:2009/02/01(日) 21:46:22 ID:35SnBsTB
「イル・ウォータル・デル……」
ぼんやりとした光がタバサを包む。
『癒し(ヒーリング)』である。
水専門のメイジではないタバサの魔法では、全快はしないだろうが無いよりも
ましである。
そして、取り返しのつかないことになっても、タバサは自分から助けを求めよ
うと思わない。
唱えていくと次第に顔に、ほのかに赤みが差す。
光が収まる。
「――」
『ヒーリング』を唱え終えたタバサは別の意味でふらついた。
元々空っぽだった精神力。わずかに回復した分だけ、これで使い切ってしまっ
たのだ。
このまま倒れこみ、眠りにつくことさえも甘美なことと思える。
だが、タバサは少し考えた。
このままエルザをどうするか。
あのゾンビはなんだったのか。
あの道化師はどうなったのか。
そして最後に見た異様な空気を放つ本は。
あれの魔法は一体――
「んみゃん……」
エルザが寝返りをうった。
その拍子にバタリとなにかが落ちる。
それにタバサは目を向けた。
落ちた物の正体は、出かける前に開いたままにしていた『失われし秘蹟』。
その開かれたページには章のタイトルが書き連なれている。

“魔導書と契約した外道の魔術師”

「――」
タバサは無言でその本を拾うと。
コンコン――
扉がノックされた。
『タバサ、あなた帰ってきてるの?』
それは今、一番信頼する友人の声。
『帰ってきてるなら一緒に朝食に行きましょ。今日はなんかあなたの好きな苦
い系のサラダが出るらしいわよ』
無言のままタバサは本を閉じると、そっと本棚へ戻す。
『えーと、なんだっけ。ムラサキだか、アオだかヨモギとか言うらしいけど』
そして扉越しに話す友人へ会うために手を伸ばす。
ガチャリ――
「はあい、2日ぶりね」
そこにはいつも変わらぬキュルケがいた。
「あなた酷い顔してるわよ」
キュルケはタバサを見るなりそう言った。
たぶん寝不足と疲労、そして癒え切らぬ傷によりタバサの顔色はあまりよくな
いだろう。
だがそれでも。
「あなたも似たようなもの」
化粧で隠しているが、キュルケの目の下に薄っすらと隈があった。
「あー……これはね」
なにか言いにくそうにするキュルケに、タバサは質問した。
「彼女は?」
「ルイズのこと? ルイズなら今朝目覚めたわよ」
それにキュルケは不満そうに応えた。
「あの子ったら2日間ずっと寝てたのよ」
ぶつくさと言うキュルケにタバサはポツリと言う。
「それで、なんでさっき目覚めたのを知っているの?」
「――え」
キュルケが固まった。
61名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:46:37 ID:ZRPNojeA
ひょっとしてさるさん?
62名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:47:06 ID:hCunyKpW
支援
63魔導書が使い魔-タバサと怪異-04:2009/02/01(日) 21:49:57 ID:35SnBsTB
「ええっとそれはね……たまたま朝に様子を見入ったら、たまたま起きてて……」
しどろもどろになるキュルケに追い討ちを掛けた。
「2日間、心配で、寝ずに看病?」
「――っな」
図星を突かれたように硬直するキュルケを、タバサは置いて先に行く。
課された課題はまだあり、新しき同居人もいる。
抱える問題と悲しみは増えた。
「ち、違うわよ! なんであんなのを――」
だが、後ろでは自分の使い魔とは別の意味で騒がしい存在がいる。
今それがタバサには心地よく。
キュルケには見えないように、こっそりと笑った。



『はあ……足りない分のムラキヨモギを貰いに来ただけなのに』
それが、ミーシャが聞いた第一声であった。

時間は前日へと巻き戻る。
ゾンビに囲まれ、道化師が迫る中。
絶望した私が見たのは、飛翔する黒い影であった。
それは、視認ができないほどの速度で道化師と2人の間へと割り込むと。一瞬
にして2人を覆った。
驚きを顕にする道化師は、結局なにもせず。
覆ったと思った影に、実は小脇に抱えられたと気が付いた時には。
影は来た時と同じように高速で飛翔し、その場を離れた。
しばらく飛んだだろうか、村から遠く離れ小高い丘へと降ろされる。
黒き影――いや、漆黒の甲冑(?)を着込んだ人は片手で抱えていたアレキサ
ンドルも下ろすと。
『はあ……足りない分のムラキヨモギを貰いに来ただけなのに』
そう言った。
絶体絶命からいきなり正体不明の人に助けられ、しかも助けられてから初めて
聞いた言葉がそれである。私は目を白黒させた。
その時、私は混乱していたのだろう。
「あ、あの」
『ん?』
どこかエコーがかかった声が聞き返す。
「ムラサキヨモギなら。あの赤みがかかった木の傍、野苺が生えている辺りに群生しています」
私は丘から遠くにある森を指差し、そんな間抜けなことを言った。
本来ならお礼を言うなり、名前を聞くなりするべきなのだろう。
だが、とんちんかんなことをいう私に。
『そうか、ありがとう』
エコーがかかった声がお礼を言った。
そこでようやく、自分がお礼を言わなければいけないと気づいたときには。
『ここからなら街も近い。暗くならないうちに行くといい』
背中の羽が開き、黒き光を発してその人は、あっという間に飛び立ってい
った。
「「…………」」
呆然と見送る私とアレキサンドル。
そんな時に、ぽつりとアレキサンドルは言った。
「なあ、ミーシャ。必死に生きるって……これからどうすればいいんだ」
私は精一杯考えた。
村は焼け、人が死に、多分両親も死んだ。
これからどうするか。
そして答えは、簡単に出た。
「まずは、暗くなる前に街に行きましょ。それからよ」
私はそう言い、アレキサンドルはまた呆然とした後、薄く笑った。
64名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:50:25 ID:QsWhWWgh
ザビエルだなんてコルベールが聞いたら血涙流しそうな間違いを……サビエラ村だよー
支援
65魔導書が使い魔:2009/02/01(日) 21:53:04 ID:35SnBsTB
これで外伝は終わりです。

はあ……ここまで長くなる予定ではなかったのに……。

あと甥と姪……素で間違えていました……まあ、男の娘でも……だめだよなぁ……orz

ここまで読んでくれてありがとうございます。
次からは本編のほうをちゃんと進めよう思ってますw
では〜
66名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:56:29 ID:QsWhWWgh
乙でした。
エルザフラグが立ってるっぽいし、このタバ波レイちゃんは男の娘でもいいような気もするw
67名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 21:57:33 ID:wnMT1tiO
なんか色々と日本語的な間違いもあったが乙。
68魔導書が使い魔:2009/02/01(日) 22:00:09 ID:35SnBsTB
……なぜ田舎の村が、宣教師に……
>>64の人ありがとです。
誤字が多くて欝になる……orz

見直しても何度もしてるのに……
69名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:02:36 ID:VTbY26K9
サンダルフォンがハルケギニアに来てるーーーーーーーーーー!!
ってことはテファが召喚したのか?

それにしてもこのサンダル兄さん温和だなぁ
70:2009/02/01(日) 22:02:59 ID:a52omkoq
おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
まさか、まさか、彼か!?彼なのか!?
前に支援絵を描いた:です!!!
その絵のコメント欄にも書きましたが、自分は斬魔のライカルート派です!
だから、彼の登場には大興奮です!
本当に彼かどうかはまだ分かりませんが……、
ともかく、気分は狂喜乱舞です!
しかし、彼がもし、本当に彼なら…あの子には、あの子には、
是非、メガネぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
また、支援絵、描かせてもらいます!!!
71名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:05:16 ID:wnMT1tiO
>>68
>見直しても何度もしてるのに……

一応ツッコミはしておこう。
72魔導書が使い魔:2009/02/01(日) 22:12:44 ID:35SnBsTB
……自分には、まず落ち着いて文章を眺めてから送るような冷静さが必要なようだ。
>>68
>>69
黒い天使すげー人気だw

では、さすがにそろそろ名無しに戻りますw
73名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:13:58 ID:35SnBsTB
よし、名無しに戻ったが。さっそく落ち着きが無いことがわかった。
74名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:16:20 ID:wnMT1tiO
>>72
もはや釣りなのではないかとすら思えてきたよ…。
75名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:16:51 ID:QsWhWWgh
おちゅちけ
76名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:24:04 ID:GC6YGxLw
魔道書の人、乙!

タバサが男前すぎる!
エルザが懐くのも無理ないかw
タバサとエルザの今後の関係がどうなるか楽しみ
良くなったらシルフィが嫉妬しそうw

まさかミーシャ達が助かってるとは思わなかった
その上助けたのはサンダルフォン?
誰が召喚したのか気になる
77名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:35:26 ID:ooWyQF2v
それでは他に予約なければ作品を投下します。
なにぶん初めてのことなので不手際がありましたらご指摘をよろしくお願いします。

召喚元作品は2000年発売のPSのアクションRPG「ベアルファレス」
召喚されるのはラスボス戦直後の「西方の賢女」エレアノール。
22:40から投下を開始します。



……さて、一体どれだけの人が、このマイナーゲームの事を知ってるのでしょうかねぇ(しみじみ
7877:2009/02/01(日) 22:37:58 ID:ooWyQF2v
追記

※ネタバレ注意
79名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:38:26 ID:p6DG6ewt
名前は聞いたことあるんだぜ支援
80名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:38:49 ID:vHA4eXsm
支援
81名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:39:55 ID:uB6ELklk
すみません。知りません。
知りませんが支援します。

結構ね、ここのSS読んでやってみようかなと思ったゲーム多いんですよ。
鋼の人のサガフロ2とか、エルクゥの人の痕とかw
82名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:40:31 ID:3JAplah2
まさかのサンダルフォンキター!!!
誰に召喚されたんだ…やっぱ金髪+巨乳でテファか?
83虚無と賢女プロローグ:2009/02/01(日) 22:40:47 ID:ooWyQF2v
その日、物質世界と精神世界を融合させ『新しき世界』を創造しようとした神―――ベアルファレスは倒れ、
その身体の中から眩い『光』が異形の表皮を突き破って溢れ、あっという間に始原の地の最深部たる神界を覆いはじめる。
最強の切れ味を秘めた無銘の長剣で斬りかかった青年と、その傍らで強大な炎の魔法を放ち続けた少女を飲み込んで。

「ウェルドー!! ノエルー!!」

ただ一人、辛うじて『光』から逃れることの出来た女性は、死闘で乱れた長く美しい黒髪を整えもせず、
必死になって脈動しつつ膨張する光の塊―――光球に向かって叫び続けた。

「返事を!! 返事をしてくだ―――ッ!?」

何度目かの呼びかけの最中、光球は突如として脈動を止める。膨れようとする箇所、収縮しようとする箇所、
ねじれた円錐状の突起を生み出す箇所、いびつな箇所、ゆがんだ箇所、ひずんだ箇所、異形の箇所箇所箇所―――。

突然の事態の推移に女性は戸惑う。そして理性が回答を導き出す前に、本能が回答を示した。危険だ…と。
反射的に身を翻し、可能な限り距離を取ろうと駆け出―――すことは出来なかった。
いつの間にか、女性すぐ背後に『鏡』が現れていた。

「これは…?」

女性がその楕円形の『鏡』に気を取られたのは一瞬のことであった。だが…その一瞬が、
迫りくる危険から逃れる時間を奪い去った。

光球…、既に球体からは大きく外れた名状しがたい形状の光の塊がついに破裂した。
視界を全て白に塗りつぶす閃光が辺りを満たし、同時に膨れ上がった爆圧が周囲を蹂躙する。
女性は声にならない悲鳴を上げ、その爆圧に押されて前方に吹き飛ばされた。そのまま『鏡』に押し付けられ、
その衝撃に耐えようと硬く目を閉じ―――女性はそのまま意識を失った。




84虚無と賢女プロローグ:2009/02/01(日) 22:43:03 ID:ooWyQF2v
「―――!」
「―――!」

(う……? 子供?)

周囲から聞こえる声に女性はうっすらと目を開ける。仰向けになった女性の目に最初に映ったのは抜けるような青空。

「―――が平民を召喚したぞ!」
「―――間違っただけよ!」

混濁とした意識のまま女性は、ただ子供たちの言い争いを聞き入る。

「―――させてください!」
「―――ダメだ。ミス・ヴァリエール」

言い争う声に大人の男性の声が混じる。
子供たちの声と男性の声、共に聞き覚えの無い声と女性は夢うつつのまま考え―――そして、
ハっと目を見開く。死闘で負った打ち身の痛みと疲労感を感じつつも身を起こした女性は、
周囲に広がる豊かな草原、黒いマントを身に着けた年端のいかない少年少女たちと、
雑多な種類の動物たちを驚愕の眼差しで見回す。

「おい、ルイズ! 平民が目を覚ましたぞ!」
「ゼロのルイズ! さっさと使い魔にしないと平民に逃げられるぞ!!」
「うるさい! うるさ〜い!」
85虚無と賢女プロローグ:2009/02/01(日) 22:44:37 ID:ooWyQF2v
次々と囃したてる少年少女たち。その様子に一番近くに立っていた桃色がかったブロンドの少女―――ルイズが、
顔を真っ赤にして怒鳴り返すが笑い声でかき消される。体型や言動から十二〜三歳くらいと女性は思った。
見るに見かねたのか少女の傍らにいたローブの男性が制止し、ようやく笑い声は収まる。

「さて、では儀式を続けなさい。春の使い魔召喚の儀式はあらゆるルールに優先される神聖な儀式だ。
望む望まないに関わらず君の使い魔は、召喚された彼女ということになる」
「でも、平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」
(使い魔? 平民?)

事態は全く飲み込めない女性は、近くで言い争うルイズと男性を―――よくよく見ると髪が禿げ上がってるので
自身の倍以上の年代、恐らくはこの場の責任者なのだろうと思い―――交互に見つめる。

(確か赤獅子騎士団は遺跡の外から召喚された…。私は何らかの形で遺跡の外へと弾き出されたのでしょうか?)

ルイズと男性の言い争いはすぐには収まりそうになかった。




86虚無と賢女プロローグ:2009/02/01(日) 22:46:30 ID:ooWyQF2v
数分に及ぶ言い争いが終わり、がっくりと肩を落としたルイズがトボトボと女性に歩み寄る。
その表情には困惑と失望が浮かんでいた。

「あの…ここはどこなのですか? カルス・バスティードでもありませんし、アスロイト王国の何処かでしょうか?」
「かるす・ばすちーど? あすろいと王国? ここはトリステイン魔法学院よ。
それよりも貴女、感謝しなさいよね。 貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」

女性の問いかけに眉をひそめつつもルイズは手に持った小さな杖を軽く振る。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。
この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

身を起こしたままの女性の額に杖を置き、そして開いた手を女性の頬に添えゆっくりと唇を近づけてくる。

「え? 何を?」

女性の戸惑うような問いかけを無視して、ルイズの唇が重ねられる。同時に女性の左手の甲を中心に
激痛と熱が身体を駆け巡りだした。

「うぅ! な、何ですかこれはッ!?」
「使い魔のルーンが刻まれてるだけよ、すぐに終わるから待ってなさい」

右手で左手の甲を抑える女性にルイズはあっさりと言いわたす。その言葉どおり、痛みと熱はすぐに収まったのか
女性はゆっくりと右手を離す。

「ミスタ・コルベール、終わりました」
「『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね。ふむ……珍しいルーンだな」

確認のために近寄ってきたローブの男性―――コルベールは女性の手に浮かんだルーンをスケッチすると、
杖を振って宙に浮かんだ。

「さてと、全員の儀式も完了したし皆戻るぞ。今日は各自思い思いに使い魔と交流したまえ」

その言葉に他の少年少女たちも同じように杖を振って、傍らにいた動物たち共に次々と宙に浮かぶ。

「じゃあな、お前は歩いて行けよ!」
「平民と一緒に、か? ははは、ゼロのルイズは使い魔に優しいな!」

残されたのはルイズと使い魔となった女性のみ。二人っきりなるとルイズは大きくため息をついた。
87虚無と賢女プロローグ:2009/02/01(日) 22:49:07 ID:ooWyQF2v
「それで、貴女の名前は? 無いのなら勝手につけるわよ」
「……エレアノールです」
「エレ……ア、ノール? エレアノールでいいのよね?」

妙に『ア』にアクセントを置いて聞き返す。どことなく苦々しい声色でもあった。

「はい、エレアノールです。それよりも、ここは何処なのです? それに、何故あの方々は空を飛べるのです?」
「そんなことも知らないの? ハァ……、何でこんな世間知らずの平民が私の使い魔になるのよ……」

明らかに年下のルイズのその態度に、女性―――エレアノールはきょとんとして、一瞬後には微笑を浮かべる。

「ええ、世間知らずなもので……出来れば何が起こったのか、状況を詳しく教えていただけませんか?」
「いいわ、どこの田舎から来たか知らないけど、使い魔の心得も含めてしっかり説明してあげるわよ」





魔法の使えないメイジと蔑まされ続けた気高き少女と、
上級貴族でありながら貴族階級の腐敗を正そうとした思量深き女性。

『虚無のルイズ』ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと、
その忠実な使い魔として仕えた『トリステインの賢女』エレアノール。

後世の歴史家にそのように称された二人の英雄は出会いは、激動の時代の幕開けを告げるものとなった……。
88虚無と賢女の人:2009/02/01(日) 22:50:55 ID:ooWyQF2v
では短いながら以上で投下を終了します。
ご支援どうもありがとうございました。
89名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:52:40 ID:3TViWm1n
やり込んだのは良い思い出。
ジェシカで話を考えてた事もあったけど、没にしたなぁ。

乙でした。
90名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:54:53 ID:uB6ELklk
乙でした。

続きを楽しみにしております。
91名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 22:58:38 ID:k3ByF76/
ベアルファレスとか懐かし過ぎるわw
しかも主人公は俺の嫁EDか。
エレアノールも結構好きだったから期待。
92名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 23:31:33 ID:FtOxvy7V
>89
やべぇ、ジェシカおばさんが召喚されたとか思いついた。

市原悦子でも可。
93名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 23:42:01 ID:SW8cOXYL
>>88
どんなゲームか調べようとしたけど、もう会社が解散してるのねorz
投下乙。
94名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 23:44:59 ID:GC6YGxLw
>92
ジェシカおばさんってジェシカ・フレッチャーのことか?
推理モノのキャラはゼロ魔の世界では活躍させづらいだろうな〜
でも読んでみたいw
95名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/01(日) 23:57:19 ID:Zzhj/Pkx
投下乙 女主人公でジェシカに告ったのがいい思い出だ。

なんかギーシュと張り合いそうなバカがいたよなー
96名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 00:00:42 ID:GReN2UXz
>>95
あいつはあいつで、重い設定があったんだぜ?
97名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 00:04:55 ID:gyUqTnfT
0:10まで予約なかったら投下させてください
初投下なんでミスとかは指摘してください

召喚元は「灼眼のシャナ」
キャラは坂井悠二(14巻から派生)です
98大使い魔17:2009/02/02(月) 00:06:15 ID:yj4/wqho
投下予告。

ついでに今回の注意事項
・大切断
・珍客襲来!
・イ・ザ・ベ・ラ!(・∀・)

7分ごろに投下しマー
99名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 00:07:42 ID:gyUqTnfT
また今度にしますね
100大使い魔17:2009/02/02(月) 00:07:59 ID:yj4/wqho
あら、重なっちゃったw
悠二の方、お先にどうぞww
101大使い魔17:2009/02/02(月) 00:11:36 ID:yj4/wqho
ううむ、向こうから先に譲られた。
と言うわけで13分に改めて投下します。
102大使い魔17:2009/02/02(月) 00:13:08 ID:yj4/wqho
貴方のいない研究室に 一人忍び込んだの
夕日が射す机の上に 並んだ肖像画
一枚そっと手にしたの 貴方が一人かかれた肖像画よ

I・bu・n・ba・tu・ta-Su・ka・ra・be・rougue
小さなキスしてから
I・bu・n・ba・tu・ta-Su・ka・ra・be・rougue
裏側にKのイニシャル書いた

I・bu・n・ba・tu・ta-Su・ka・ra・be・rougue
肖像画にキスしてから
I・bu・n・ba・tu・ta-Su・ka・ra・be・rougue
恋する魔法で元気あげるね


アーマーゾォォォォォン!!

タバサに聞け 俺の名は
アマゾンライダーここにあり〜

来るなら来てみろ シェフィルード
やるぞ 今こそ 命がけ

体が変わる緑色
正義の怒りの極彩色

イルククゥよお前のためならば
アマゾンライダーここにあり〜


アンリエッタの戴冠式まで後四日と差し迫ったある日、その男が学院にやって来た。
男は数年前ハルケギニアに迷い込み、適当に移動して風韻竜たちのテリトリーに入り込み、悶着の末に打ち解けた。
そしてある幼生と番(つがい)になるが、ある日幼生はサモン・サーヴァントによってどこかへと連れて行かれてしまう。
驚いた男はジャングラーでハルケギニア中を探し回り、運良く幼生と再会し、彼女の口から吉報を聞かされ喜んだが……。

第15話「決闘のち変身、所により大切断、またはドクロ少佐か鋼鉄参謀でしょう」
103大使い魔17:2009/02/02(月) 00:16:14 ID:yj4/wqho
キュルケの部屋。
鳩尾を強打し、更に地面に叩きつけられたアマゾンは、騒ぎを聞きつけたロボターとガン鉄に、この部屋まで運ばれた。
アマゾンはすぐに意識を取り戻したが、流石にまだ痛むのか、時折鳩尾をさすっている。
人間形態のまま、シルフィードはアマゾンの側に寄り添っていた。
「お姉さまったらひどいのね! いきなりアマゾンを攻撃するなんてどうかしてるのね!」
タバサは自分の使い魔の妊娠を知っただけでなく、当の妊娠させた張本人がいきなりやって来たせいで気が動転し、思わず吹っ飛ばしただけである。
シルフィードも頭では分かっているものの、伴侶を攻撃された怒りの方が強いようである。
そんなシルフィードをなだめるように、キュルケが口を開けた。
「はいはい、落ち着きなさい。怒ってばかりだと胎教に良くないわよ」
「きゅい〜」

タバサの部屋。
思わず攻撃してしまい、パニックになったタバサは、シャルルにこれからどうすればいいかを相談していた。
「とりあえず、謝る。これ以外にないね」
「うん」
その一言の後、タバサはキュルケの部屋へと向かった。
愛娘が部屋を出た直後、シャルルは室内の別方向を向く。
そこには、ガン鉄とヒロシがいた。
「まさか、この世界でお前に会った挙句、正体を知ることになるなんてな」
「それが僕たちの宿命だったんだよ、ヒロシ君。覇悪怒組のみんなは元気かい?」
「みんな元気だ」
「そうか……。君と矢須子ちゃんの結婚式、祝いの品を持ってぜひ参加するよ」
「向こうで盗ってきたのは勘弁な」
直後に苦笑するシャルル。
流石にそこまでふざけた真似はしないよ、とばかりに。
それを見たヒロシは、安心したのかこう提案する。
「とりあえずこの世界では休戦といこう。俺たちとお前の戦いは、向こうでないと意味がないからな」
「それもそうだね。一応言っとくけど、僕は世間では死んだことになっているから、人前で本名を言ったりしないでよ」
「言うもんかよ、そんなドジ踏まないって」

ワンセブン内部サロン。
室内には、ルイズとロボターの他に、ジローとKもいた。
ロボターから、シルフィードの妊娠を聞かされ、ルイズは見る間に青ざめていく。
ロボターが、慰めるように方に手を置いた。
「妊婦を銃片手に追い掛け回したの……私?」
「まあまあ、それに関しては本人も忘れてたから……」
ハーブティーを出し、必死でルイズをなだめるロボターを尻目に、ジローとKは話し込む。
無論、あのアホ竜の妊娠について。
「ジローさん、人と竜の間に子供が出来るなんて、ありえるのでしょうか?」
「……あの場合、父親が父親だからな。例外中の例外としか言いようがないな」
「やはり……」
ジローには、懸念があった。
もしも韻竜である彼女の妊娠がアカデミーに知れ渡れば、極めて珍しい事例として研究材料にされるのは目に見えている。
ワンセブンの一件で頭を冷やしたエレオノールはそのような行動には出ないだろうが、問題はあの時の捕獲作戦に出なかった大多数の職員。
ある意味ロボットより珍しい存在であるきゅいきゅいのことを、捕獲せんと躍起になるのは目に見えていた。
タバサに建前上の後ろ盾が無い以上、本当に捕獲される可能性もあるのだ。
「義母さんかアンリエッタに頼んで釘を刺してもらうか……」
104名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 00:17:30 ID:t5TlxZ3z
大支援17
105大使い魔17:2009/02/02(月) 00:20:21 ID:yj4/wqho
その日の夕方、厨房。
アマゾンとシルフィードは、そこで夕食にありついていた。
もちろん、人間の姿に化けざるをえなかったシルフィードはちゃんと服を着ている。
事情を聞き、マルトーは思わずシルフィードのことを不憫に思う。
「にしても、身重のまま召喚されたとはな……。不憫でなんねえぜ」
それと同時に、身重の彼女を召喚したタバサへの怒りがこみ上げてくるマルトー。
しかし、召喚した際にシルフィード本人も妊娠していたことを忘れていたので、ぶつけようが無かったが。
「まあ、何かあったら言ってくれ。できる限りのことはするから」
「それなら……働かせてくれないか? 子供が生まれるまで、イルククゥは元の姿に戻れない。だから、しばらくの間ここに置いて働かせてくれ」
「それ位なら……学院長殿に頼み込んでみるけどよ……」
その日、食住の確保(アマゾンもシルフィードは『衣』はどうでもいいらしい)のため、アマゾンとシルフィードはしばらくの間、小間使いとして雇ってもらうこととなる。
一方、アカデミーに釘を刺してもらうように義母と義妹に頼み込んだジローは、彼女たちにしばらくの間城にいるように言われたため、代わりにロボコンがルイズとKたちにそのことを報告しに行った。

次の日、昼食時。
一足先に昼食を平らげ、デザートの配給を手伝うアマゾンときゅいきゅい。
マルトーの意向なのか、アマゾンは執事服、シルフィードはメイド服を着ていた。
一通り配り終え、寄り添うように食堂から出ようとするアマゾンとシルフィード。
シルフィードは、膨らんだ自分のお腹を幸せそうにさすっていた。
しかし、アマゾンの耳に、誰かかが呟く様に詠唱しているのが聞こえる。
「エア・ハンマー」
シルフィードのお腹目掛けて放たれたエア・ハンマーを両手で受け止めるアマゾン。
エア・ハンマーを放った犯人、ギトーを睨みアマゾンは吼える。
「何をする!」
一方のギトーは、エア・ハンマーを受け止めきったアマゾンに驚愕するも、すぐに平静を取り戻して平然と言い放つ。
「その韻竜が本当に妊娠しているか、確かめようとしただけだ。もし孕んでいれば、エア・ハンマーを腹に食らえば流産する……」
全部言い終わる前に、アマゾンはお盆をギトーの股間目掛けて全力で投げつけた。
お盆が直撃し、悶絶するギトー。
「き、貴様……、け、決闘だ!」

女子寮の広場。
食堂での騒動とはうって変わって、こちらは大変静かである。
要塞ワンセブンの甲板の上で日向ぼっこしていた茂が、気紛れでヴェストリの広場の方に視線をやり、人だかりが出来ていることに気付いた。
「何だ? 何かやるのか?」
首を傾げる茂。
一方のワンセブンは、ワンエイトヘルで通信してくるルイズの説明を聞いて驚き、それを茂に伝えた。
「そのギトーっての、アホだな。よりによってあいつの女に……」
ヘラヘラとした態度で笑い飛ばす茂、一方のワンセブンはあくまでも淡々と言葉を紡ぐ。
「アマゾンは、自分の仲間や大切な人が傷つくのを極端に嫌う。傷つけた者には苛烈な攻撃を行う」
「何か面白そうだな。見に行くぜ、俺は」
茂は甲板から飛び降り、近くにおいてあったカブトローに乗ってそのままヴェストリの広場へと行ってしまう。
流石に静観する気にはなれなかったのか、ワンセブンは戦闘形態に変形し、ワンエイト共にヴェストリの広場へと歩いていった。
106大使い魔17:2009/02/02(月) 00:24:27 ID:yj4/wqho
ヴェストリの広場、観衆が見守る中、アマゾンとギトーが対峙していた。
「諸君、決闘だ!」
ギトーの声に対して、観衆の反応は小さかった。
それだけ、ギトーが嫌われている、というのが見て取れる。
そんなのをお構い無しに、シルフィードはアマゾンに声援を送った。
「アマゾーン! そんなロクデナシ、さっさと真っ二つにしちゃえばいいのね〜!」
それに答えるかのように、アマゾンは変身の構えを取る。
「アーマーゾォォォォォン!!」
アー、マー、ゾーン!!
咆哮と共に、アマゾンの体が極彩色の異形へと変わる。
鋭い牙と爪、巨大で真っ赤な眼、竜と人を混ぜたようなその姿は本能的にギトーを戦慄させた。
「へ、偏在!」
「ケケー!」
慌てて詠唱を終え、ギトーは「偏在」を発生させる、が、アマゾンは瞬時に偏在の内の一体の喉に噛み付き、そのまま噛み千切る!。
「ガアウウゥゥゥゥゥッ!」
今度は爪をもう一体の顔面目掛けて振り下ろし、顔面を思いっきり抉り取った。
残った偏在たちも、それはそれは凄惨な攻撃でグロい最期を晒しながら減ってゆき……、あっと言う間にギトー本人だけが残る。
半狂乱になりながらもエアカッターを放つギトーであったが、アマゾンは全く無力であった。
「大・切・断!!」
空気の刃を残らず切ってかき消し、その技の軌跡は杖を持つギトーの右腕を通過する。
アマゾンはそれを見届けるのと同時に、そっぽを向いてシルフィードのところへと歩いていく。
隙を見せたと判断したギトーは再び杖を構えようとするも、妙な痛みに気付いた。
手の甲の中指と薬指の間から一直線に肘にまで走る痛みに気付いたギトーが手の甲を見ようとした直後、中指と薬指の間から肘まで、右腕が見事に切り裂かれる。
それと同時に吹き出る血の水鉄砲。
ギトーに出来るのは悲鳴を上げる事しかなかった。
「ぱあああああああああああああああっ!!??」
当然観衆はは大パニックとなるが、アマゾンは我関せずとばかりにシルフィードに呼びかける。
「イルククゥー、勝ったぞー」
「アマゾンは本当に強いのねー☆ るーるるー♪」
大喜びする嫁を見て嬉しくなるアマゾンであったが、直後に真上から放たれている殺気に気付いて咄嗟にその場を飛び退く。
約1秒後、そこに大鎌の刃が地面に深々と突き刺さっていた。
それが突き刺さると同時に着地した振るい手は、深く刺さった大鎌を難なく地面から抜き取り、立ち上がる。
その顔は、肉が完全になくなっており、骨が露出していた。
異形の顔を見て悲鳴を上げる観衆。
それと同時に、もう一人が仁王立ちのまま空から降ってきて、そのまま膝を曲げることなく着地。
こちらは、上半身が鎧で覆われていた。
その二人を見た茂は、パニックになる生徒たちを押しのけ、彼らの前に立ちはだかる。
「ドクロ少佐と鋼鉄参謀!! いつの間に生き返りやがった!?」
「教える理由はないな、城茂」
そう言うのと同時に、ドクロ少佐は茂目掛けて大鎌を振り下ろすが、茂はすんでのところで避けきる。
そこに、二人の少女の咆哮が響いた。
107大使い魔17:2009/02/02(月) 00:27:15 ID:yj4/wqho
「吹けよ、嵐! 嵐! 嵐ぃっ!」
「イブンバツータ・スカラベルージュ!!」
シエスタとキュルケである。
二人はそれぞれドクロ少佐と鋼鉄参謀の前に立ちはだかり、名乗りを上げた。
「クノイチメイド嵐、けんざーん!!」
「美しく戦いたい。空に太陽がある限り。不思議少女、ナイルな、トトメス!!」
一陣の風が吹き、観衆の悲鳴をかき消す。
名乗りを上げた二人に対する挨拶として、ドクロ少佐と鋼鉄参謀も名乗る。
「俺はデルザー軍団のドクロ少佐!」
「同じく、デルザー軍団の鋼鉄参謀! スティール!!」
鋼鉄参謀は手に持った鉄球をトトメス目掛けて投げつける。
対するトトメスは、パピルスを放ち鎖に巻き付け勢いを殺した。
「パピルス!」
さながら綱引きの様相を呈する、トトメス対鋼鉄参謀の力比べ。
トトメスは力を振り絞るが、鋼鉄参謀はビクともしない。
「やるな。だが、力業ばかりと思われるのも癪なのでな!」
その咆哮と共に鋼鉄参謀は鉄球をつなぐ鎖を持つ手の力を少し緩める。
突然のことに、トトメスがバランスを崩し仰向けに倒れそうになったのを見計らい、鋼鉄参謀は再びクサリを持つ手に力を込める。
「スティイイイイイイイッル!!」
さっきよりも力を込めて、鋼鉄参謀はトトメスごと思いっきり鉄球を振り回す。
その勢いにパピルスが振り解かれ、トトメスは宙に舞う。
更にトトメス目掛けて、改めて鋼鉄参謀は鉄球を投げつけ、今度は直撃した。
が、気合でトトメスはフレイム・ボールを放つ。
こちらも直撃したが、鋼鉄参謀には殆ど効いていない。
「その程度の種火ではこの鋼鉄参謀は焼け落ちぬ!」
辛うじて着地したトトメス目掛けて第二撃を放とうと構えた直後、今度はミサイルが直撃する。
それと同時にワンセブンがその場に駆けつけてきた。
「鋼鉄参謀、何するものぞ!」
この決め台詞に対して、黒煙の中から回答として放たれた鉄球がワンセブンに命中する。
「一騎打ちに割ってはいるとは無粋な」
ワンセブンのミサイルを食らってなお、鋼鉄参謀は無傷であった。

その頃、嵐とドクロ少佐は微動だにせず対峙してるだけであった。
理由は簡単。
お互い、下手に動けば、あっと言う間にスキを突かれることを悟っているからだ。
(この小娘、中々やるようだな……!)
(隙が見当たらない。多分、ひいお祖父ちゃんよりも強い!)
二人が動き出したのは、同時かつ一瞬だった……。
互いの首目掛けて振るわれた大鎌と大太刀が鍔迫り合う。
余りにも速過ぎる為に太刀筋は見えず、大鎌と大太刀がぶつかり合う音が連続して聞こえた
互いに距離をとった直後に、ドクロ少佐は得意の暗殺術の一つを発動させる。
「ドクロ分解!」
瞬時にその体をバラバラにし、かく乱しながら嵐を攻撃するドクロ少佐。
一方の嵐は大太刀でその攻撃をしのぐ。
「ドクロ再生!」
この一声で、あっと言う間にドクロ少佐は元通りになるが、嵐はその隙を見逃さなかった。
「正義の光線! ガン、ビィーッム!!」
その咆哮を聞いて、紙一重でドクロ少佐はガンビームを回避。
外れたガンビームが森の一角に当たり、直後に大爆発が起きた。
(ガンビームを、ひいお祖父ちゃん直伝のガンビームをかわされた……!!)
(なんという威力。当たれば命は無い!!)
この場には、城茂もいる。
長期戦はどのみち不利と、ドクロ少佐が判断した直後、ドクロ少佐と鋼鉄参謀の頭に声が響き渡る。
108大使い魔17:2009/02/02(月) 00:31:47 ID:yj4/wqho
“ドクロ少佐、鋼鉄参謀、そろそろ潮時だ。お前たちを撤退させる!”
《イザベラ姫!?》
“あいつらが相手じゃ、長引けば人数の少ないお前たちの方が不利だ。そう焦ることは無いさ、殺し合いの機会はたっぷりある……”
イザベラがそう言い終えた直後、ドクロ少佐と鋼鉄参謀の足元に魔法陣が現れ、二人の体がそこに沈み始める。
「勝負は預けたぞ、くノ一メイド嵐!」
「興が削がれた。いずれまた会おう、ナイルなトトメスよ」
二人の姿が完全に沈みきった直後、魔方陣も消え去った。
その一部始終を見ていたワンセブンとルイズは唖然となる。
「今のは一体……」
「何なの? 今のは……」
その中でただ一人、茂は戦慄していた。
(……かなり手加減してはいたが、それでもあの時より強いのが分かる……!)
ダメージにより変身が解除されたキュルケを、自力で変身を解除したシエスタが介抱する。
「大丈夫ですか? ミス・ツェルプストー」
「口の中で血の味がするけど、今はまだ大丈夫よ……」
一方のアマゾンとシルフィードも不安を拭いきれなかった。
「あの二人、確か茂が倒したはず……」
「アマゾン……」

ガリア王都リュティス、プチ・トロワの中庭。
一体のロボットを横にはべらせ、イザベラ・オルレアンは優雅に茶を飲みつつ、満面の笑みで苺大福に舌鼓を打っていた。
このプチ・トロワで働く者たちのイメージとは違い、最近のイザベラは妙に丸い。
さっきも給仕をしていたメイドたちにも苺大福を勧め、彼女たちを面食らわせていた。
「相変わらずお前の作る菓子は旨いね、デザートマン」
「勿体無いお言葉で御座います」
料理人の服を着たロボットが、恐縮しながらお辞儀する。
「ジョージ」の殺戮構成員が一人、デザートマンだ。
彼の作る菓子を食べるようになってから、イザベラは大人しくなり始めたと人は言う。
そんなイザベラの背後で、魔法陣が二つ現れ、そこからドクロ少佐と鋼鉄参謀が浮き上がってきた。
「戻ってきたかい……。焦ることは無いさ……、もうすぐ戦争が起きる。レコン・キスタが勝手に起こしてくれる! そうなれば、幾らでも奴らと戦う機会が出来るってもんさ!!」
さっきとは違い、ドクロ少佐と鋼鉄参謀ですら引くほどの鬼気迫る顔で哂うイザベラ。
「早く戦争になぁ〜れっ☆ うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」



「クノイチメイド嵐、けんざーん!!」

煌めく稲妻 燃えるハヤブサオー
行くぞ嵐 萌えろ嵐
嵐よ叫べー!

変身、変身、影写し
正義のメイド 空駆け見参!

嵐! 嵐! シエスタは嵐!
くノ一メイド嵐 けんざーん!!
109大使い魔17:2009/02/02(月) 00:34:37 ID:yj4/wqho
投下終了。

デザートマンの元ネタは石ノ森先生の画集にあった『大鉄人17』の没敵、「磁石ロボット」です。
いや、そのまま「磁石ロボット」で出したら「磁石団長」と思いっきり被るじゃん……。
110ゼロの魔王伝:2009/02/02(月) 01:10:56 ID:P4ejsFoD
大使い魔さん、お疲れ様でした。時に、>>99さん、投下はされますでしょうか? ご予定がないようでしたら、20分くらいから私が投下してしまいますが。
なお、内容は期待を裏切るものです。
111ゼロの魔王伝:2009/02/02(月) 01:22:41 ID:P4ejsFoD
えっと、投下しますね。大丈夫、かな?

ゼロの魔王伝――19

 ルイズは自分のベッドの上で夢を見ていた。トリステイン魔法学院から馬で三日の距離にある生まれ故郷のヴァリエールの領地にある屋敷が舞台であった。
 夢を夢と気付かぬ夢の中のルイズは、六歳程度の幼さに変わっていた。
 中庭を駆けまわり迷路のように入り組んだ植え込みの陰に隠れて追手をやり過ごす。自分の名を呼ぶ母親の声が聞こえた。
 物覚えが悪いと叱られ、その途中でルイズは逃げだしたのだった。
 この頃はまだ両親や家庭教師達も、ルイズが普通の魔法が使えないのが、ルイズの努力が足りないからだと諦めてはいなかった。それが何をしても無駄なのかと、章目に変わるのにはもうしばらく時間と失敗と叱責が必要だった。
 隠れた植え込みの下から誰かの靴が見えた。二人分。屋敷で働いている下男のものだった。

「ルイズお嬢様は難儀だねえ」
「まったく。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに……」

 それは魔法学院に行くまでルイズが聞き続ける事になる失望と嘲りの言葉。十年以上にわたってこれからルイズの心に傷を着け、胸に芽吹いた劣等感を育てて行く負の言葉。
 悔しさと悲しさで思わず涙がこぼれそうになったルイズは、下男の二人ががさごそと植え込みを調べ始めたのに気づき、見つかる前に静かに逃げだした。
 ルイズは植え込みの陰から逃げ出して中庭に在る池にもやわれた一艘の小舟の中にいた。あらかじめ用意しておいた毛布に包まり、空飛ぶ小鳥も心配してその肩に止まるような、悲しい嗚咽が、毛布の中から漏れ出していた。
 今はもう誰も見向きもしなくなった舟遊び用の小舟は、まるで自分の様だと幼い心にも思えて、ルイズは一層悲しみを深くした。
 今はまだ自分に期待し、叱責を投げかける両親や姉や教師達が、いつか自分を見はなしてしまうのが怖い。
 もう何をしてもルイズは駄目なのだと、ヴァリエール家に間違って生まれてきてしまったのだと、見捨てられるとしか考えられず、ルイズはいつかやってくる絶望の影に怯えて泣いていた。
 ルイズがそんな風にして悲しみを紛らわしていると、中庭の島に掛かる霧の中から、十代半ば頃と思しい見目麗しい若い貴族が姿を見せた。
 その姿に、幼いルイズは悲しみを忘れて胸を高鳴らせた。

「泣いているのかい? ルイズ」

 とても優しい声だった。ルイズが大好きな二番目の姉と同じように自分を呼んでくれる彼の事が、ルイズは好きだった。
 子爵だ。最近近所の領地を相続した若い貴族。晩餐会を良く共にし、父と子爵の父との間で交わされた約束を思い出し、ルイズはほんのりと、お人形さんみたいなふっくらほっぺを赤く染めた。

「子爵さま、いらしていたの?」

 どこか拙いルイズの言葉に、つば広の帽子の下で若き貴族はにっこりとほほ笑んだ。男らしさと気品とが程良くブレンドされた笑顔だった。ルイズの胸の熱さが増した。

「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あのお話の事でね」
「まあ! いけない人ですわ。子爵さまは……」
「ルイズ。ぼくのちいさなルイズ。君はぼくの事が嫌いかい?」
「いえ、そんなことありませんわ。でも……。わたし、まだ小さいし。よくわかりませんわ」

 十年たっても小さいままなのだが、そんな事を知る筈もない夢の中のルイズははにかみながら言った。
 子爵はそんなルイズの様子に暖かな笑みを無償で与えている。子爵から差しのべられた手を、ルイズははっと見た。

「子爵さま……」
「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、捕まって。もうじき晩餐会が始まるよ」
「でも……」
「また怒られたんだね? 安心しなさい。ぼくからお父上に取りなしてあげよう」

 岸辺から小船と向けて伸ばされた手。憧れた人の手。大きな手。それを掴もうと伸ばしたルイズの手が握り締めたのは、しかし子爵の手ではなかった。
 掴んだ手がまるで夢の結晶の様に見えるのは、この世のものとは思えぬ美しさゆえだ。
 いつのまにか十六歳の姿に戻ったルイズは、小船から岸辺へと自分を導いた手の主を、茫然と見上げて、名前を呼んだ。

「D……」
「君の夢の中か」
「え? あなた、本当にDなの?」
「そのつもりだ。使い魔とのつながりという奴で引き込まれたのかもしれん」
「そう、なのかしら」

 口ぶりからして本当にDらしい。握りしめた手はいつの間にか離されていた。その事に気づかぬまま、ルイズは夢の中のDの言葉に、これが夢である事を悟る。Dが周囲を見回した。
112名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 01:24:26 ID:8ezU5LXN
大丈夫じゃね?w
113名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 01:25:23 ID:0x6C9swy
しえん
114ゼロの魔王伝:2009/02/02(月) 01:25:34 ID:P4ejsFoD
「ここは?」
「えっと、生まれ故郷のヴァリエールのお屋敷の中庭」
「さっきまで随分と小さかったが、昔の事を夢見ていたのか?」

 と、今も夢の中だというのに、夢を見ていたのかと聞くDがどこかおかしくて、ルイズは母の怒りも子爵への憧れも忘れて、くすりと小さく笑った。

「よく失敗していた頃の事をね。そのうちあんまりにも出来が悪すぎるものだから呆れられてしまったけれど。それにしても、夢の中まで貴方と一緒なんて、なんだかすごいわね」
「そうか。そろそろ時間の様だな」
「あ、もう行っちゃうの?」
「君が目を覚ませばおれは近くにいる」
「それもそっか。夢も現実もあんまり変わらないわね」

 苦笑するルイズの目の前で、Dの姿が霧に紛れる様にして消えてゆく。その姿に、ルイズは一時の別れを感じながら小さく手を振った。

「D、またね」

 無垢なその仕草に、Dはかすかに目を細めた様だった。笑い返そうとしたのかもしれない。そうして、夢は終わりを告げたのだった。
 Dの姿が消えるのを見届けてから、ルイズはもう一度十年前の光景を見回した。今もヴァリエールの領地に戻れば同じ光景が見られるだろう。

「相変わらず魔法は失敗ばかりだけれど、私はもう十年前の私ではないわ。きっと、もう小舟でうずくまって泣いたりしないもの」

 光景は変わらずともその光景を見る心は変わり、ルイズは流れた時と共に変わった己の心を誇るような、それでいてどこか寂しげに呟いた。
 そういえばもう随分と会っていない子爵さまは、今は何をしているのだろうか。風の便りに魔法衛士隊に入隊したとは聞いているが、ルイズの中の子爵は十六歳の若々しい少年のままだった。
 今ではもう、きっとあの約束も忘れている事だろう。

「まあ、私もこの夢を見るまで忘れていたんだけど」

 少し後ろめたそうに呟いてからルイズは岸辺に腰をおろして、膝に顔を埋めた。夢の中で眠り、夢を見たらどうなるのかと思いながら、重たくなってきた瞼をゆっくりと閉ざした。
 眼がさめればまたDと会い、夢の中でさらに夢を見るならば、それはそれで楽しいだろう。なんともはや、心躍る二つの選択肢であった。

「でも夢の中でまでDと顔を突き合わせていたら、ちょっと疲れちゃうわよね」

 ルイズは苦笑しながら、すう、と息を吸って夢の中で眠りに着いた。
 で、結局夢の中での眠りで、夢は見なかった。あるいは今こうして目を覚ましている事が夢の中の夢であるかもしれない。
 むっくりと朝日を浴びながら上半身を起こしたルイズが、まだうとうととしている瞼を擦っている。目を覚ましたと思っている日常こそが夢であるという考えを、寝ぼけ頭のルイズは否定できなかった。
 なにしろ夢の中にしか見られないような同居人が居るからである。

「一夢ぶりだな」
「あ〜〜。やっぱりあれ、Dだったんだ」

 淡々と数字でも読み上げる様にして呟くDに、ルイズはやっぱりと答えた。心臓を射抜かれるような美貌への衝撃を、奥歯を噛んで噛み殺し、ルイズは零れ落ちそうになった欠伸を堪えた。
 相手がDでなくとも、殿方の目の前で貴族の子女がするにはあまりにもはしたない。ルイズはんん、とかすかに伸びをして眼を覚ます事にした。

「気持ちのいい朝ね」

 Dは答えず部屋を出た。ちぇ、そうだなの一言も言えないのかしら、とルイズはまったく、あの男は、とまるで甲斐性なし夫を呆れた目で見る妻の様な感想を胸に抱くのだった。なかなかどうして、ルイズもいろいろな意味で大人物であった。
 ルイズが授業に出ている間、大抵Dは隣に腰かけるか壁際に背を預けるか、はたまた廊下で終わるのを待つかのどれかである。とりあえずルイズの傍に居るのは間違いない。
 今日は廊下で待っている。いかんせん、Dが同席していると授業が遅々として進まない事や、ルイズに殺到する物質化寸前の濃密としか言いようのない怨念めいた嫉妬が、爆発的に増すからだ。
 ここ最近のDのルイズへの以外にも優しい態度から、ルイズへ悪意を交えた視線を送る連中を睨んで気を失わせるくらいの事はしてもおかしくはなさそうだったが、無視を決め込んでいる。
 あくまでルイズが自分で決着をつけろと決めているのかもしれない。
 最近ツルむ事の多いキュルケやギーシュなどは、それとなく心配そうな視線をルイズに向けるが、ルイズは教師からも向けられる羨望の眼差しを、凛と胸を張った姿勢で受け止め、まるで意に介する風もなく授業に身を入れている。
 ちょっとキュルケが感心するほど堂々とした姿であった。周囲の生徒達が生の感情をむき出しにして歯を剥いているから、余計にその堂々とした姿が輝いて見える。
115名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 01:25:40 ID:mkfGg2sD
支援
116ゼロの魔王伝:2009/02/02(月) 01:28:43 ID:P4ejsFoD
 本日Dは、廊下で待機する事を選んだ。授業は進み、風のメイジであるギトーが教室の扉を開いて入室した。廊下に居るDは、どのようにしてか教師達と鉢合わせする事はないようで、誰も頬を染めている様子はなかった。
 変に細かい事に気の利く使い魔であった。
 ギトーはフーケの宝物庫襲撃事件の折に、当直当番をさぼっていたシュヴルーズを責め立てた教師である。
 長く伸びた黒髪と陰鬱な雰囲気を滲ませている痩身が傍目に不気味で、生徒達からは人気が無い。
 やや自己顕示欲の強い傾向にあり、授業に私情を持ちこむ事も多い。反面、そうしてしまうのも無理はない程度に優秀で、学院に籍を置く風系統のメイジとしては一、二を争う技量の主だ。
 しん、と静まり返った教室を見回し、教壇に立ったギトーが口を開く。冷たい風が口から吹きつけてきそうな男だ。

「では授業を始める。知っての通り、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」

 最初の授業で自己紹介をするのは至極まっとうな事だろう。口を閉じて聞き入っている生徒達の様子に満足したギトーが言葉を続けた。

「最強の系統は知っているか? ミス・ツェルプストー」
「『虚無』の系統ではないのですか? 六千年を超えるハルケギニアの歴史の中で、偉大なる始祖ブリミルただ一人のみが行使した伝説」
「伝説の話をしているのではないよ。私は現実の話をしているのだ。答えは現実的にしたまえ」

 こちらの言葉のあげ足を取るのが癖なのか、いちいちひっかかる物言いをするギトーに対して、キュルケはかちんときたらしい。
 ぴく、とその目が一度だけ小さくひくついたのを、タバサとルイズだけが気付いた。ちょっぴり頭に熱が昇っている。

「『火』に決まっていますわ。ええ、なにしろ私は全てを燃やし尽すツェルプストーの女。そういう答えがご希望なのでしょう? ミスタ・ギトー?」

 ほほう、とギトーは不敵に笑うキュルケを見返して芝居めいた呟きを洩らした。キュルケが滲ませる闘志の炎をさも面白げに見ている。思い通りの反応をしてくれてありがとう、と言いたい気分なのかもしれない。

「なぜそう思うのかね?」
「すべてを燃やし尽し、灰さえ残さぬのは『火』の系統のみが可能とする所。炎と情熱。そうではありませんこと?」
「残念ながらそうではない」

 頭の中で何度も思い描いていたかのように、ギトーはわざとらしく左右に首を振った。腰に差した杖を抜き放ち、その先をキュルケに向けた。ほぼ同時にキュルケの手も自分の杖に伸びていた。
 メイジの存在理由たる魔法を行使する杖の先を向けられる以上、そうおうに警戒するだけの意識がキュルケにはあった。D辺りだったらデルフリンガーの切っ先を喉に付きつけているだろうか。

「試しに、この私に君の得意な『火』の魔法をぶつけてみたまえ」

 キュルケはぎょっとするよりも、ああやはりと、この教師は自分をダシにして自分の持論を生徒達に見せつけたいのだと悟り、ゴウ、とルイズとは別格の胸の中で怒りの火に薪をくべた。
 このフォン・ツェルプストーを、敵も味方も燃やし尽すと恐れられるこのツェルプストーをナメている。それはこの赤毛の少女の闘志を敵意に変えるのには十分な侮辱であった。
 見惚れるほど妖しい笑みを浮かべてキュルケが胸の谷間にそっと杖の先端を押し込んだ。呆れるほど深い谷間に埋もれる杖の先端を、大多数の男子生徒の目が追う。キュルケは自分の体と行為が生む視覚的効果を、実によく知っていた。

「まあ、まあ、まあ、トリステインの殿方は本当に勇敢です事。ミスタ・ギトー、フォン・ツェルプストーの火を浴びれば火傷では済まなくってよ?」
「かまわん。本気で来たまえ。その、有名なツェルプストーの赤毛が飾りではないのならね」

 キュルケがにっこりと笑みを浮かべた。性の虜にすべく枕元に忍び入ったインキュバスが逆に見入られそうなほど美しく、そして焼き尽くされそうなほど、笑みの仮面の下に滾る炎は苛烈だ。
 キュルケがちらっとタバサを見た。
 キュルケの視線を受けてタバサがこくりと頷く。まさしく以心伝心の二人であった。

『燃やしちゃっていい?』
『問題なし』

 にこ、とキュルケが明るい笑みをタバサに向けてウィンクした。タバサが親指を立てて返事をした。

『巻き添えが出ないように、風でガードしておいてね』
『任せて』

 キュルケが余裕をたっぷりと湛えた様子で胸の谷間に押し込んでいた杖の先端をくるくると回した。まるでキュルケの方こそがギトーへ教育する側の様。
 タバサだけが知っているが、キュルケは怒れば怒るほど声は冷静に、態度は余裕を奏でる様になる。今は、かなりキテいる。
117ゼロの魔王伝:2009/02/02(月) 01:30:49 ID:P4ejsFoD
 くるくるとキュルケの杖は回る。キュルケの口元から小馬鹿にした笑みが消えていた。すでにギトーを敵とみなしたに等しい。
 ギトーの口元から余裕が消えていた。キュルケの豊満な肢体から立ち上る魔法の気配に、目の前の少女がちと生意気な猫ではない事を悟ったのだ。
 招くように右手を差し出し、掌を天井に向けて開いたその先に、ぽっと火の玉が生じた。くるくると杖が回る度に火の玉は大きさを増し、渦を巻きながら直径一メイルほどの火球へと巨大化する。
 たっぷり十秒を賭けて火球を巨大化したのは、生徒達が机の下に隠れるのと、ギトーの詠唱が終わるのを待つ為だ。呪文の詠唱が終わっていなかったという言い訳を聞くつもりはキュルケにはなかった。
 堂々と真正面から、実力を出し切らせた上で叩き潰す。でなくばギトーも納得すまい。キュルケが口を開いた。ざわ、と逆巻いた赤毛が炎そのものと化したかのように赤みを増す。
 キュルケの唇は血を塗りたくったかのように赤く輝いた。ギトーがいささかキュルケの実力を下に見積もっていた事に気づき、油断を捨て去った。

「ミスタ、なにか言い遺される事はありますかしら? わたくし、杖を滑らせて消し炭を一つこしらえてしまいそうですの」
「ふむ。時に味方も燃やし尽すツェルプストーらしい。教師を消し炭にするか。面白い、やってみたまえ」
「そうですか」

 ふっと、キュルケが息を吐くのに合わせ渦を巻く火球が一直線にギトーめがけて走る。火球は陽炎を纏いながら火の粉をまき散らし、教室の中を赤々と照らしながらギトーに襲いかかった。
 一度燃え移れば肉を炭に変え、骨を灰に変える。ギトーの言葉通りキュルケの全力と言ってよい一撃である。ギトーが握っていた杖を鞘走らせた剣の如く横に薙ぎ払う。
 ギトーの二つ名の如く素早く、そして荒々しい烈風が吹き荒れて無色の障壁は火の球をいとも容易く吹き飛ばす。舞散る火の粉がギトーの体を鮮やかな橙色に照らした。しんしんと降りしきる雪の様。
 吹き飛ばされた火の玉の先にキュルケがさらに杖を振ろうとする動作に気づき、ギトーの目が険しい色を帯びた。単なる火球の一撃に留まらぬ二段構えの攻撃。
 キュルケの二撃目に備えて振るった杖を翻し、今一度烈風を吹き荒らすべく魔力を練るギトー。
 振り下ろされる杖の数だけ新たな破壊を生む二人は、しかし、突如教室の扉を開けて入室してきたコルベールによって阻まれた。

「ミスタ?」

 ぎら、と光る瞳でギトーがコルベールを睨んだ。爬虫類を思わせるどこか冷たい光であった。

「あやや、失礼しますぞ、ミスタ・ギトー」
「授業中ですぞ?」

 ギトーのみならずキュルケまで自分を睨みつけ、しかも何やら殺気だっている様子に、コルベールはぎょっと眼を見開いたが、それでもうおっほんと咳払いをした。
 普段は良く言えば温厚、悪く言えば弱腰の同僚が、いやに強く出ている事に気づいたギトーは、眉を寄せて杖を収めた。それにどうにも珍妙な格好をしている。
 どこもかしこも刺繍とフリルで埋め尽くされた豪奢な正装に、頭にはロールした金髪の鬘までかぶっていた。あまり着飾る事をしないこの同僚がそうするだけの何かが起きたのだろうか?
 対峙していたキュルケも、杖を胸の谷間に入れて戦闘の気配を取り去った。ふん、と持て余した微熱のやり場が無く、不満そうに髪をかき上げてどっかと椅子に豊かな尻を下ろした。

「おっほん! 今日の授業はすべて中止ですぞ」

 授業を受けるよりも自分達の時間を過ごす事の方が大好きな生徒達から挙がった盛大な歓声を、コルベールは抑える様に両手を動かしながら言葉を続けた。

「えー、皆さんにお知らせですぞ」

 教師としての威厳を滲ませようと仰け反った拍子にコルベールの被った鬘が、ばさっという音を立てて教室の床に落ちる。キュルケとギトーの対決で異様な緊張感に凝り固まっていた教室の空気が、それで一気に解けほぐれた。
 一番前の席に居たタバサが、無表情のままコルベールの秘めていた輝きを解き放った頭頂部を指さしてこう言った。いっそ見事なほど禿げあがったつるつる頭である。

「滑りやすい」

 その言葉が行き渡ると同時に教室は爆笑に包まれる。キュルケが笑いながらそんな親友の肩を叩いた。

「あなた、たまに口を開くと、言うわね」

 その爆笑を耳にしながら、廊下で、

「楽しそうじゃな」
「…………」
「お前、じつはあの輪の中に入りたいじゃろ?」
「……」

 というやり取りが、廊下の壁に背を預けている壁際のいぶし銀と、その左手の間で行われたのだが、誰も気付く者はいなかった。
118ゼロの魔王伝:2009/02/02(月) 01:33:57 ID:P4ejsFoD
 突然教室中の笑いものにされたコルベールは怒り心頭禿げあがった頭まで真っ赤にして怒鳴る。まあ無理もない。

「黙りなさい!! ええい! 黙りなさい、こわっぱどもが! 大口を開けて下品に笑うなど貴族にあるまじき行い! 貴族はおかしい時は下を向いてこっそり笑うもの出すぞ! これでは王室に成果を疑われる!」

 とりあえずその剣幕に教室は静かになったかと思われたが、そこに静かな笑い声が残っていた。ぎろりとコルベールが瞳を巡らすと、あのギトーがくくくっ、と外見に似合いの笑い声を堪えている。
 ぬぬぬ、とあまり迫力の無い調子でこちらを睨むコルベールに気づき、とりすまして失礼、と言ったが時折頬が痙攣するのは笑うのを堪えているからだろう。よほどツボに嵌ったようだ。

「えー、おほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、良き日であります。始祖ブリミルの降臨際に並ぶめでたい日であります。
 恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」

 教室がざわめく。その言葉で教室中の生徒達とギトーもまた理解した。コルベールの格好の珍妙さに納得した。

「したがって、粗相があってはいけません。急な事ですが、今から全力をあげて、歓迎式典の準備を行います。その為に本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列する事」

 自分達の中世と杖を捧げるべき至上の相手の突然の来訪に、生徒達は留学生であるキュルケやタバサを除いて神妙な顔つきになり、先程までのギトー達のやり取りとは別の緊張感に満ちた。

「諸君が立派な貴族に成長した事を、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい! よろしいですがな!」

 魔法学院の正門をくぐって、王女の一行が現れると整列した生徒達は一斉に杖を掲げてしゃん、と小気味よく杖が鳴る。
 精門をくぐった先に在る正門には最高責任者であるオスマンの姿があった。やがて清らかな乙女のみを背に乗せるという、ユニコーンが引く馬車が止まると、召使たちが駆け寄って緋毛氈の絨毯が敷き詰められる。
 もっとも尊い血を引く方に地面を歩かせるわけには行かぬ。呼び出しの衛士が緊張した声で王女の登場を告げる。

「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーーーりーーーーー!!!」

 しかしがちゃりと扉を開いて姿を見せたのは、枢機卿マザリーニであった。まだ四十代だが強張った骨が浮き上がり、彼を十年も二十年も年老いて見せていた。
 先王亡き時より一手にトリステイン王国の外交・政策を一手に仕切ってきた激務の代償であった。かつてはロマリアの次期法王と見られていた事もある有能かつ誠実な枢機卿は、貴族に受けが悪い。
 生徒達はふん、と鼻を鳴らしてそっぽさえ向いていた。平民の血を引いているという噂は、その平民からも貴族達からもマザリーニを嫌わせていた。
 しかし、そんな尻の青い貴族の糞餓鬼共の明から様な態度などマザリーニは意に介した風もない。それから次に降りてきた王女の手を取った。これにはたちまち生徒達が歓声を挙げる。
 骨の筋が浮いたマザリーニの手にすら折られてしまいそうな細い指であった。アンリエッタ姫は当年とって十七歳。トリステインでもっとも高貴で優雅な温室で育てられた、瑞々しい白百合の化身の如き美少女であった。
 数千年を閲する時の流れが与えた古い血の伝える気品、宮廷画家が才能のすべてと引き換えにしてでも一枚の絵画を残したいと願う様な美貌であった。
 水晶の付いた杖を手に、自分を向かい入れた生徒達とオスマンに華のある笑顔を浮かべた。薔薇の様に華やかな、白百合のように清楚な、なんとも見る者を魅了する笑みであった。

「ふうん、あれがトリステインの王女? 私の方が美人じゃない」

 ひどくつまらなそうなキュルケのつぶやきだ。生徒達の整列に加わらなかったキュルケ、タバサ、ルイズ達だ。少し離れた木陰に集まり、のんびり王女達の到着を見物していた。
 外国人のタバサやキュルケはともかく、生真面目が骨になっているようなルイズがここに居るのはキュルケにとっても不思議だった。
 相変わらず本を読んでいたタバサが、ふと顔を上げてキュルケにこう言った。

「あの時は惜しかった」
「え? ああ、ミスタ・ギトーの事?」
「あと一手で勝てたかもしれなかった」
「あと一手で負けたかもしれなかった、でもあるわ。フーケの時あんな及び腰だから大した事無いって思ったけど、いやねえ、人間相手だとあれよ。言うだけあるわね」
119ゼロの魔王伝:2009/02/02(月) 01:37:21 ID:P4ejsFoD
 とキュルケは襟をめくって自分の首筋を見せた。そこには針の一刺しほどの赤い点が滲んでいた。ギトーが最初に巻き起こした烈風が、わずかに届いていたらしい。
 そしてタバサの言う、勝てたかもしれなかったとは、キュルケが最初の火球を吹き飛ばされた際に、ギトーの周辺にまき散らした火の粉の事だ。
 キュルケがあの時杖を振りきれば、火の粉はたちどころに拳大の火球へと成長し、ギトーの全身を炎が彩った事だろう。
 とはいえ、ギトーもまた詠唱速度最速を誇る風のエキスパートだ。キュルケとギトーが共々相討ちになる公算が大きかったというのが正直な所だ。
 Dはデルフリンガーを左肩に持たせかけて木立に背を預けていた。この中でもっともアンリエッタに興味が無いのはこの青年であろう。必要とあれば今からでもアンリエッタの首を取る男だが、かといって必要の無い殺生をするタイプでもない。
 普段なら常にDに気を回しているルイズが、この時ばかりは王女一行へと注意を向けていた。ひたむきとさえ言えた。
 その鳶色の瞳は最初王女へ、そしていまは王女の周囲を固めるトリステイン最精鋭部隊魔法衛士隊のひとつ、グリフォン隊の隊士に向けられている。
 まっ白な翼飾りのついた鍔の広い帽子を被り、見事な口髭を生やした二十代の青年貴族だ。銀糸でグリフォンの刺繍がされた漆黒のマントをはおり、鍛え上げた肉体の見事さと端正という他ない顔立ちがあいまって見るも見事な貴族ぶりであった。
 鷲の頭に四肢の胴体を持った見事なグリフォンに跨ったその貴族に、ルイズは見覚えがあった。あの凛々しい姿は、十年前よりもさらに立派になっていた。胸にかつての憧れの想いが蘇った。

「ワルド子爵様」

 今になって、どうして、そう胸を焦がすルイズを、Dは知らぬげに見ていた。

「おお、見ろ。ありゃ恋する女の背じゃ。あのちっこい胸板の中に切ない思いを満たしておる様じゃの。なかなかどうして、一人前の女じゃわい」

 と揶揄する左手の声が聞こえたが、Dはそれに答えずルイズの視線の先に居る貴族、ワルドを冷たく見た。Dにとっては石木と変わるまい。関わる必要が無いから、興味も関心も向けずにいるだけだろう。
 この場で最も美しい視線に気づいたのか、ワルドはグリフォンに跨ったまま視線を巡らし、ルイズには暖かな笑みを向けて、それからDの視線の源を看破した。あるいは、してしまったというべきか。
 傍目には分からぬが、Dの眼には分かる。ワルドが身を強張らせたのを。それはDの夢の彼方の国から姿を見せた異世界の住人の様な美貌よりも、木陰で休む姿に何かを感じ取ったからなのか。
 ワルドは呼吸する事さえ忘れた。心臓が確かに動く事を忘れた。グリフォンが騎乗主の異常を察知したのか、気遣わしげに首を巡らすのに気づき、ワルドは優しくその首を撫でた。
 それだけで平静を取り戻したのは、流石にトリステイン屈指の精鋭部隊の長と言える。一度だけDを振り返り、名も分からぬが実力だけは骨の髄まで刻みこまれた思いで、ワルドはかろうじて戦慄を押し殺した。


 それからのルイズは一日中おかしかった。というか明らかに十年ぶりに遭ったワルドの姿に動揺している。ひがなぼうっとして過ごし、Dが傍らに居ても何の反応も見せないし、それから王女の行幸を歓迎する式が続いてもだんまりを決め込んでいたのだ。
 こんなルイズは珍しいを越えて初めての事だから、Dも時折珍しそうに見るほどだった。そんな風に心をどこかに置き忘れたみたいに時間を過ごしてから、ルイズは周囲が夜のカーテンに覆われている事にようやく気付いた。
 それを意識したのも、規則正しく自分の部屋の扉をノックする音に気づいたからだ。
 どこか品良く長く二回、次に短く三回……。その回数にルイズの中の古くも懐かしい記憶が呼び起こされた。はっと顔を上げて、ベッドの上で抱きしめていた枕を放り投げてドアを開いた。まさか、そんなという思いが胸の中にあった。
 果たして、ドアの先で待っていたのは黒い頭巾で顔をすっぽりと隠した女性の姿であった。あたなは、と問うルイズに、しっと口元に指をあててから、女性は杖を取り出して軽く振った。
 同時に短くルーンを呟いて、光の粉が部屋に舞う。その粉が周囲に魔法の有無を確認するディティクトマジックであった。

「ディティクトマジック?」
120ゼロの魔王伝:2009/02/02(月) 01:39:38 ID:P4ejsFoD
「どこに魔法の耳や目が隠れているか分かりませんからね」

 尋ねるルイズに、頭巾を取りながら、女性はそう答えた。魔法学院を訪れたトリステイン王国の可憐な花、アンリエッタ王女の美貌が頭巾から覗いた。
 ルイズもまた古き血筋ゆえに高貴さを纏うが、アンリエッタ王女はさらに虹のように輝く神々しいまでの高貴さであった。
 杖を捧げるべき至上の相手に、ルイズは慌てて膝をついて臣下の礼を取る。骨の髄まで貴族としての教育と矜持を抱くルイズは不意の王女の来訪にも見事な対応を取ってみせた。
 ルイズの姿にアンリエッタは親しい者にのみ向ける暖かな笑みを浮かべて、涼しげな声で言った。

「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」


 双子月の見守る中を、Dは悄然と歩んでいた。実にこの時、ルイズの部屋にDはいなかったのだ。呆としていたルイズは己の使い魔の不在にも気付いていなかったのである。
 たぶん、それはアンリエッタ姫にとってはこの上無い幸運と呼べることだったろう。ルイズの制止があったとしても、鼻の一つくらいは落とされかねない事を言っただろうから。 
 まあ、元にくっつくように手加減してはくれたかもしれなかったが。
 Dは一人ではなかった。どういうわけだか、タバサがその先を歩んでいた。水底まで透き通って見える湖の様な青を湛えた髪と瞳の少女に呼び出され、Dは魔法学院の周囲に広がる夜の草原に影を落としていた。

「……」

 お互い一切の言葉を忘れたがごとく無言。
 草原にはタバサの足が草を踏み、夜風が小さな花の花弁を揺らす音のみがある。人の耳には聞こえぬそれをDは聞きながら、何を思っているのか。
 ただ、その果てしない黒瞳にタバサの体のある一点に結び付けられたチタン鋼の魔糸が映っていた。
 ある日タバサの体に巻きつけられていた一条のそれに気づいてから、Dが放置していた魔糸だ。
 それの主が、今宵ついに行動を起こすことを決めたのを知ったが故に、こうしてタバサの後について来ているのかもしれない。
 やがて、タバサが足を止めた。それよりも先にDの瞳がわずかに細められた。油断ならぬ、いや、勝機を見つけ出すのが厳しい強敵を前にした時のみ見せる癖であった。
 タバサの体が震えた。恐怖と恍惚とが混じり合った震えだった。Dの美貌、Dの恐怖。そして、今目の前に立つ者の美貌と恐怖。
 その両者が出会ってしまった事で、倍どころか二乗となった美貌と恐怖に。
 ああ、見よ、見よ。あるいは、見てはならぬのかもしれない。見れば二度と解放される事無き魂の牢獄に囚われる。二度と忘れられぬ恍惚郷に囚われるのだ。
 今宵、紅と青の双子月は誕生以来最も激しい困惑に襲われた事であろう。そしてこう問われたなら、あまりの悩み深き問いに答えを出せず、自らの体を砕いたかもしれない。
 すなわち問いとはどちらの方が美しいか、である。
 すなわちどちらが、とは草原に立つD、そして月を背に立つ浪蘭幻十であった。
 今対峙する二人を見る者は、悪魔に囁かれれば魂までも容易く売り渡すだろう。いや、その魂を手に入れようとする悪魔さえも陶然と酔いしれた事だろう。
 天上の偉大なる方も、地の底の座す堕ちた者も、共に呆然と見つめてしまうのではあるまいか。
 風が吹いた。
 幻十のインバネスの裾を靡かせた。
 Dのコートの裾をはためかせた。
 風はもはや吹く事を忘れて消え果てた。月よ、雲よ、風よ、大地よ、今宵この二人の邂逅を忘れよ。忘れられずとも忘れよ。
 でなくば大自然の一部たる汝らとても、動く事を、流れる事を忘れるだろう。今宵この光景に魅入られて。
 幻十が笑んだ。Dの美貌と吹きつける鬼気に想像をはるか越えた敵と知ってなお不敵に、傲岸に、不遜に、邪悪に、そしてこの上なく美しく。

「はじめまして、D。ぼくは浪蘭幻十だ」
「糸の主か」

 Dの瞳はタバサの体と幻十の指とを繋ぐ魔糸を見ていた。

「ご慧眼。そこのタバサという少女に頼んで、君を呼び出してもらったのさ」

 幻十はいやに丁寧に告げてDへと歩み始めた。時が止まったかのように足を止めて息を呑むタバサの肩に手を置き、後ろへ追いやってDが前へ出た。タバサが何かを言う暇もない。まるで、その背にタバサを庇うかの様だった。
121ゼロの魔王伝:2009/02/02(月) 01:41:17 ID:P4ejsFoD
「彼女の体に巻いたぼくの糸で知っていたが、君は随分と面白いヒトだ。まるで、別の世界からやってきたかの様に。まるでぼくの様に」
「……」

 Dは無言。しかし、開かれた両手の五指の指先から、鍛え抜く余地の無い鍛え終えた肉体から、無色のまま立ち上る鬼気よ。
 Dよ、お前なら死者にさえ更なる死を与えられるだろう。
 幻十が足を止めた。Dの全細胞が、吸血貴族の持つ闘争本能に従い、機能を十全に発揮しはじめる。
 <新宿>の魔人、『辺境』最強の吸血鬼ハンター。血に濡れた未来の光景を思わずにはおれぬ邂逅。
 それははたして呪いか祝福か。

「最初は、君を仲間に引き込むつもりだった。それが叶わずとも利害の一致によって争わずに済む関係にでもしようかと、ぼくらしからぬ穏便な事を考えていた」

 Dの瞳に影が過ぎった。死の影か。

「だが、気が変わった。君を見て分かった。君はあの街を、<新宿>を生み出した者と同様の意図を持つ者によって生み出された存在だ。
 ぼくも同じだから分かるのだよ、現行人類を超越した次の階段の段を踏む進化した存在とする為に選ばれたぼくと、君は同じだ。
 蟲毒の術というものを知っているかい? 一つの壺の中に無数の毒虫を閉じ込めて殺し合わせ、最後に最強の毒を持った一匹を残す外法の事だ。ぼくの言う進化と選ばれ方はそれに近い。
 人間が成し得ぬ行いをし、常に命を賭けて殺し合い、日常的に死の脅威を感じる事で根源的な生物としてのレベルを引き上げて、“進歩”ではなく“進化”した存在を生み出す。
 幾千、幾万、幾億の犠牲の果てに、星となるほどの屍の果てに、海となるほどの血の流れの果てに、ようやく可能性が芽生える。それほどまでしてようやく、進化は小さな入口を開く。ぼくはその入り口を開く鍵となる者だ。君も似たような者だろう?」
「ならば、どうする?」
「ぼくの目的は選ばれる事だ。新たな人類として」
「ふむ。ならば、こうするだけだろうの」

 これまで戦慄と共に引っ込んでいた左手である。すでに闘争の気配は濃密に立ちこめ、灰の中さえも満たそうとしている。浮かべた表情は常と変わらぬ冷たいもののまま、Dの手がゆるゆると背の柄へと伸びていた。
 幻十の笑みが深くなった。左手の声とDの気配に応じた言葉はこうだった。

「ぼくに似た存在を殺す事はより自分のほうが優れたるを示す何よりの証拠。あの街を作った者ならばたとえ異世界であろうと、それを知るのは容易い事だろう。
 ぼくと等しく美しく、進化の入り口に立った君を斃す事で、ぼくは進化しよう。大人しく死んでくれるか?」

 D――夜に生きる吸血鬼と昼に生きる人間の遺伝子を受け継ぎ、夜のみにあらず、昼のみに在らざる新たな可能性として生み出された、たった一つの成功例。
 浪蘭幻十――魔界都市<新宿>が創造された目的、すなわち新たなる人類のアダムとしてかつて選ばれた者。

「お前より後に、な」
122ゼロの魔王伝:2009/02/02(月) 01:43:12 ID:P4ejsFoD
 答えるDの鋼の声が合図となった。大気を割いて幻十の指先から走る十条の魔糸。上下左右からタイムラグを伴わぬ必殺の同時攻撃。
 厚さ一メートルのコンクリートの壁も容易く切り裂く魔糸に幻十の技が加われれば、対戦車バズーカの直撃に耐える重装甲サイボーグでさえも斬断の運命からは逃れられぬ。
 それらをDの背の鞘から迸った四つの弧月が迎えた。Dの右手が抜き放ち、同時に描いた銀の閃光は迫る十条の死を全て斬り捨てていた。
 幻十の瞳に禍々しいものがよぎった。Dの総身から吹き出す鬼気の濃さが増すのを感じ取った。どちらも相手の命を奪う事を決めたのだ。
 大地にDの足が沈み込む。それにどれだけの力が込められていたものか、Dの足首までが埋まっていた。それが解き放たれるや互いの間に存在した七メイルの距離は、刹那の時で0に変わった。
 死を運ぶ黒い風の如く迫りくるDの周囲を旋回しながら、幻十の魔糸がきゅっとすぼまった。閉じ切ればDの肉体は数十を超す肉塊に分解される。
 降り注ぐ二色の月光を纏いすぼまる魔糸を、デルフリンガーの一閃が跳ね返した。払った一条の魔糸がまた別の魔糸を跳ね返し、Dを包囲していた千分の一ミクロンの死神達の包囲が解ける。
 右手を引き絞り、最速の突きを放つべく構えたDが、それまでの動きから右方への跳躍に転じた。地面の下に潜り込んでいた幻十の魔糸が、Dの足が大地を踏みしめるのと同時に襲いかかったのだ。
 股間から頭頂までを骨ごめに両断する切り上げをかわしたDの左手から、燃えたぎる流星が五つ、幻十の胸と流れた。
 夜空を流れる流れ星の如きそれらは、コートの内側から取り出すと同時に投じた木の針であった。
 秒速一七〇〇メートル――マッハ五を越す速度を与えられた木針は、大気との摩擦で火を噴きながら、幻十の胸を貫くべく小旅行をしたが、その途中で一ミリの隙間がびっしりと編まれた魔糸の網に捕まり、呆気なく両断される。
 幻十の両手が舞台俳優の如く大仰に、しかし優雅に天をさし、鍵盤を叩く鬼才のピアニストの如く一気呵成に振り下ろされる。
 Dが機械の殺気さえ知覚する超直感に従い、天を仰いだ。その瞳が移したのは、月光の代わりとなって降り注ぐ魔糸であった。雨粒の如く縦にDめがけて降り注ぐ魔糸の数は千本を優に超す。
 先んじて仕掛けていたものか、戦闘開始からのわずかな時間の間に投じたものか、夜空に弧を描き、天空の月よりも美しい銀の弧を描いて、魔糸はDとその周囲へと降り注ぐ。
 地に立つ幻十への警戒は微塵も揺るがぬまま、Dの右手に握られたデルフリンガーの切っ先が地上から天へと動くその寸前!

「ちい、お前でも捌き切れんぞ!?」

 左手の声もむべなるかな。空中で魔糸は横殴りに叩きつけられた別の糸によって寸断され、直径千分の一ミクロン、長さ一センチの針と変わったのだ。
 斬断の衝撃によって落下の軌道が変わり、さらには数十万、数百万の単位の数となって襲い来るとは!
 銀のきらめきが天のある一点と地上とを結び、魔糸ならぬ魔針の雨に突き刺さられた地面は砂塵の如く崩壊する。
 Dの手が動く。ただし、右手ではなく左手が。見る間に浮かんだ皺まみれの老人の顔に、糸筋の様な唇が浮かび上がるや、大きく開かれたその掌から凄さまじい吸引が発生して、見る間に降り注ぐ銀の死雨は吸い込まれてゆく。
 離れたタバサが、地面に杖を突き刺してかろうじて体を支え、幻十もまた髪の毛が引きちぎられそうな吸引に、追撃の一手を送らずにいた。
 左手の吸引はわずかに一秒きっかりで終わった。Dは天に掲げた左手を下げ、青眼に構えたデルフリンガーの切っ先を、幻十に向ける。
 放たれる鬼気の放射を浴びてなお妖々と笑う幻十。その袖口から数十本に及ぶ魔糸がさらさらと毀れ落ちていく。
 左手の老人が、ひどく楽しげに呟いた。

「いやいや、ようやくわしららしくなってきおった。ウォーミングアップはこれくらいかのぉ?」

 タバサの耳には届かぬこの呟きをどうやってか聞き取り、幻十が答えた。

「さて、楽しい夜になりそうだ」


 投下終了です。とまあ、こういうわけでDとアンリエッタは非接触です。期待を裏切って見せたぜ! いや別に褒められたことではないだろうけど……。ではおやすみなさい。
123名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 01:55:51 ID:IYsFx14E
ヒャッハー!殺し合いダァ!!!
そして投下乙。
124名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 01:58:46 ID:gAdLER3c
これでこそ魔王伝ですよー!
姫さまとはいつか会う場もありましょう。
125支援書き込み:2009/02/02(月) 02:16:39 ID:WGx8gflo
ゼロの使い魔のクロスってストーリーは似たりよったりがおおいのに、
その召喚されたキャラ視点のストーリーの進行に
ルイズ達との絡みなど
いつも新鮮面白いです
更新してる方みんなの作品楽しませて貰ってます
126名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 02:17:04 ID:OKpusazm
乙でありましたー

「ふうん、あれがトリステインの王女? Dの方が美人じゃない」
なんかこの幻聴が耳から離れねえ・・・
127名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 03:42:51 ID:EljTqRyS
乙でした!これでウォーミングアップですかw
そしてワルド子爵登場…なんだか『北海魔行』でDに挑んだ若い剣士を思い出すなあ…
128名無しさん@お腹いっぱい:2009/02/02(月) 06:03:49 ID:bumCQS/g
GJすぎる!!しかし、この二人の化け物度は本当に凄い、敵対するゼロ魔キャラが不憫だ……。
幻十と姫は手を組むだろうな……。
129名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 08:21:44 ID:g+/lqJ/m
聖炎天使ではないのか…
130名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 10:25:58 ID:b4Qo8wQn
アンアンはDと接触せずか
アンアンはDとは絡まずその物語を終えることに
131名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 11:09:59 ID:iBjeRaoG
>>128
幻十・姫VS魔界医師・Dですね、わかります
この場合にせDがどう動くかが問題だ、あと転校生出てくるかな?
132名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 12:21:34 ID:xL6gYXYJ
魔王伝の方乙ですー

>壁際のいぶし銀
解説役&むう、あれは…!のDを想像しようとしたが無理だったw
133名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 14:50:15 ID:5G0/Chqb
小ネタ投下よろしいでしょうか?
134名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 14:52:10 ID:IBQgb4dW
ばっちこーい
135使イ魔ツマラナイ:2009/02/02(月) 14:52:50 ID:5G0/Chqb
では




「え〜と……」

ルイズは自身が召喚した存在に困惑していた。
彼女が召喚したのは象っぽい亜人だった……おそらく亜人だろう……
微妙に被り物っぽい感じもしたが亜人だろう……なんだが色々と脱いで風呂に入っている姿が
なぜか浮かんだが亜人ったら亜人なのだ。問題は……だ……

「ミスタ・コルベール……これ、生きてますよね?」

「ふむ……なかなかよい保存状態で凍らされているようだし……多分……」

亜人は氷漬けで生きているのか非常に怪しい状態だったということだ。
だが、教師が大丈夫そうだと言うのなら多分大丈夫なのだろう……
ならばあとは契約するのみ!とルイズが亜人と契約をしようと近づいた時だった。

「ミス・ヴァリエール!下がりなさい!!」

突如、コルベールが叫び声を上げた。そしてコルベールがルイズを庇うようにしながら
彼女を亜人から遠ざけた。いきなりの事態に状況が飲み込めないルイズ、だが次の瞬間

「グッ……」

「え?」

コルベールのうめき声が聞こえたと思うと彼女の顔には血が付着していた。
だが、彼女に痛みはないコルベールの方を見ると
鋭い何かがコルベールの両肩に刺さっていた。そして気づく……
それが氷漬けだったはずの亜人の牙であると……亜人の牙が伸び、氷を貫き、コルベールの肩を貫いたのだ!
悲鳴が上がる。しかし、

「ミス・ヴァリエール!今のうちに契約を!」

コルベールは痛みに顔を顰めながらもルイズに契約を促した。
促されたルイズは急いで牙が伸びた時に顕わになった亜人の唇へと口付けし契約を結ぶ。
口付けが交わされると亜人の体が揺れた。そして氷にひびが入り砕けてゆく……

「パゴーーーーッ!!」

目覚めの咆哮、そしてまるで伸びでもするかのように牙が回転し…

「って……何!?牙が……回転した……」

呆けるルイズ。だがすぐにその牙がコルベールに突き刺さったままだと気づく……
そしてコルベールの方を振り返るが……

「ウギャー!オールド・オスマーン!!」

遅かった。回転した牙がコルベールの肩を抉っていた。

「さ、流石にまさか牙が回転するのは予想外でした……」
136名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 14:53:32 ID:5G0/Chqb
そういってコルベールは意識を失った。



翌日、ルイズは食堂に来ていた。あの亜人の使い魔……マンモスマンをつれて……
あのあとどうやら寝ぼけていたらしいマンモスマンがようやく目を覚まし
何とか事態は収まった。マンモスマンという名前についてはそのとき聞いた。
コルベールへと行ったことを叱りつつ使い魔についても説明したが特に文句はなさそうだった。
ただ、話の最中時たま周囲に飛び散ったコルベールの血を舐めようとしていたのには退いたが……
コルベールは治療費こそかかったようだがなんとかなった。
今のところマンモスマンは彼女の命令に素直に従っている……

(最初こそ散々だったけど、大丈夫そうね……)

と思っていると……

バキッ

そんな音がマンモスマンの足元で響いた。

「パゴッ?」

マンモスマンが足をどけるとそこにはマンモスマンに踏まれて割れたと思われるビンの欠片と
中身の液体……臭いからして香水の無惨な姿があった。
マンモスマンは足の裏を長い鼻で嗅ぐと臭いのきつさに顔を顰めた。と、

「ル、ルイズ!君の使い魔はなんて事をしてくれたんだ!!」

現れたのは顔を怒りで真っ赤にしたギーシュだった。
とりあえず、謝ろうと思ったルイズだがその前にマンモスマンの巨体が2人の間に割り込んだ。

「………」

「な、なんだね!?」

マンモスマンの巨体に怯みながらもギーシュは怒りをあらわにしてマンモスマンを睨む。
と、マンモスマンが口を開いた。

「こいつはお前が落としたのか?」

「確かに、落としたのは僕だ……だがッ!……なッ!?」

ギーシュの言葉は最後まで続かなかった。マンモスマンの鼻が伸びギーシュの腰に巻きつく。
そしてギーシュの体が持ち上げられる。

「ななななな!?」

「臭くて鼻が捻じ曲がりそうだぞ!どうしてくれるーーーー!パゴーッ!」

そしてマンモスマンはギーシュの背中を勢いよく膝にたたきつけた。

「パワフル・ノーズ・ブリーカー!!」



137名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 14:54:12 ID:5G0/Chqb
マンモスマンは土くれのフーケが作り出したゴーレムと対峙していた。
ゴーレムの巨大な腕がマンモスマンめがけて振り下ろされる。だが、マンモスマンは
それを片腕で止めるとパワフル・ノーズを伸ばしゴーレムの腰にまきつける。
そして、ゴーレムを持ち上げると上下反転して頭から地面に叩きつけた。
ゴーレムの頭はあまりのパワーに地面にめり込んでいる。

「仕上げはこれからだ!」

さらにマンモスマンはゴーレムの足の上で倒立するとゴーレムの体を回していく……
回転により地面が生き物のようにゴーレムの首をねじり上げていく。

「キャンバスが相手の首をねじ切るところから……といってもここにキャンバスはないが……」

「ま、まさか……」

様子を見ていたルイズたちもマンモスマンのやろうとしていることを悟ったのか顔を青くしている。
あれが人間だったらと……
次の瞬間、ゴーレムの首がねじ切れた。

「ゴースト・キャンバスと名づけられている!!パゴーーーーー!!!」



「な、なんてバカ力……クッ……こりゃ勝ち目はないね……せめてお宝だけでも……」

勝ち目がないと判断した土くれのフーケ……ロングビルはゴーレムを引っ込めると
何食わぬ顔でルイズたちの前に姿を現した。が、その間にマンモスマンが立ちはだかる。

「どうしたの、マンモスマン?」

「この俺をただパワーだけの超人と思ってもらっては困る。学院からここまで
それらしい使い魔を持たないアンタじゃどう考えても行って帰るには時間が早すぎる!
あのゴーレムを操っていたのはお前だな!パゴー!」

「チッ!」

ほえるマンモスマン。正体を看破されたロングビルは杖を構え

グオゴゴゴ

「ノーズフェンシング!!」

「ギャー!」

ズン

だが、ロングビルが攻撃に移るよりも早く剣のように鋭くなったパワフル・ノーズがロングビルの胸を貫いた。



ロングビルが盗んだものを確認のため改めるとそこにあったのは
白い仮面、管のようなもの、そして秘薬としても使われることもある大量の蛍石だった。
白い仮面に何かを感じたマンモスマンはふと白い仮面を放り投げる。

「ノーズフェンシング!」

そして先ほどロングビルにお見舞いしたようにノーズフェンシングを仮面へと放った。
秘宝になんて事をとルイズが叫ぶがルイズの手に落ちた仮面には傷一つなかった。
そして4人は辛うじて生きている状態だったロングビルを連れ学院へと戻った。
その途中、マンモスマンは蛍石をおやつでも食べるみたいにたまに食べていた。
138使イ魔ツマラナイ:2009/02/02(月) 14:55:23 ID:5G0/Chqb
えらく気に入ったらしく。オスマンがマンモスマンには公的な褒美は出せないと
いうと、なら、これをくれと蛍石を要求してきた。
オスマンはそれを快諾。ついでに仮面と管のようなものまでマンモスマンに与えた。



ちなみに……これらの秘宝についての話だが……

「30年前にワイバーンに襲われての……その時にヴァリエールの使い魔に引けをとらんほどの体格で
その仮面と同じ仮面をかぶり袋を担いだ金髪の男が現れての……当然逃げるよう叫んだんじゃが……
その男はワイバーンを見るなり笑みを浮かべて『竜か……ちょうどいい!サメごときでは
この俺が身につけた新しい力の実験体には物足りなく思っていたところよー!』とか
叫んでむしろ向かっていきよってな……『ロンリー・クロス・ボンバー!』とか叫んで腕を構えて
ワイバーンにぶつかっていったのじゃ……当然、食われたと思ったんじゃが……
気づいたらワイバーンは腕があたった部分である口から真っ二つになっておった……
呆けてるうちに男は『ガハハーーーー!いい切れ味だ』、『しかし、念のため予備のマスクや
光ファイバーケーブル、蛍石を用意してきたがタイムシップには重量制限があるのをすっかり忘れてたぜ!
仕方がない!予備は諦めるか……蛍石は20世紀で掘り出せばいいだろうしな!』とかいって袋を置いて
去っていきよった……」



ラ・ロシェールにて…
マンモスマンはワルドと決闘することになったのだが……それはもはや決闘と呼べるものではなかった……

「アイス・ロック・ジャイロ!」

マンモスマンはワルドを宙に放り投げると鞭状にしたパワフル・ノーズでワルドを打ち付け
宙を舞わせる。ワルドの体は超スピードで宙を舞うことにより周りの空気が冷やされ汗や水蒸気が氷となり
張り付いていく……そして、完全にワルドが凍ったところでトドメを刺そうと……

「止めなさい!マンモスマン!」

ルイズの爆発がそれを遮った。おかげでワルドは無事だったがマンモスマンはルイズへと
不満の視線を向けていた。



ニューカッスル城にてルイズはウェールズに傷を負わせ本性を現したワルドと対峙していた。

「マンモスマン!ワルドを倒しなさい!」

後方に控えていたマンモスマンに命じるルイズ。

(クッ……流石にこいつの相手は……)

内心焦るワルド。だが…

「………」

マンモスマンからは反応がなかった。ワルドの攻撃で倒れたウェールズをじっと見ている。
どういうことだ?と思うルイズとワルド。
と、マンモスマンが小刻みに震えながら何か呟いてるのに気づく……よく聞いてみるとそれは……

「使イ魔ツマラナイ…血…スキ オレモ…血デ遊ビタイ…」
「オレモ…血ノ海デ遊ビタイ」
「相手ヲグシャグシャニシテヤリタイ〜〜〜ッ」

「「なッ!?」」
139使イ魔ツマラナイ:2009/02/02(月) 14:56:44 ID:5G0/Chqb
なんとも不吉な言葉であった。しかし、ワルドはこうも思った…使える!と

「ウホホ〜、ここにきてレコン・キスタにひと筋の…いや大量の光が差し込んできたようだ〜!
マンモスマンよ!私とともに来る気はないか!?
そんなに血が見たいというなら君のその力、レコン・キスタの
聖地奪還の障害相手に思う存分に振るうがいい〜〜!」

「なッ!?ワルド!?マンモスマン!!」

マンモスマンに呼びかけるルイズだが

「キレイだな…この真っ赤な血をもっと、見たい…パゴォー!」

咆哮。そして

「ルイズ、てめぇにはお楽しみのところを邪魔されるは貴族だのなんだのって偉ぶって
前々からいらついてたんだ…!!俺はこのままアンタの召使で終わりたくねぇ!!」

「マ、マンモスマン……」

「フハハハ!ルイズ、君はマンモスマンの本質を見誤り彼を押さえ込みすぎた!
マンモスマンはただの獣状態からこれまでの戦いを通じて”知性”を身につけ…
堕落したトリステインの王女への忠義などというつまらぬことよりも
我々レコン・キスタの聖地奪還という崇高なる理想と野望に惹かれたのよ!」

と、マンモスマンが口を開く……

「饒舌なところ悪いが、ワルド!てめぇもこの世界じゃそれなりの実力者みたいだが
俺のパートナーとしちゃあ、まだまだ役不足だ…とはいえこんな世界で贅沢も言えねぇ…だから…」

マンモスマンはフーケの一件のとき手に入れた仮面と管のようなものを取り出す。

「こいつをくれてやるぜーーーー!」

そしてそれをワルドに放り投げた。仮面はワルドの顔に張り付き、管のようなものは

「グアアアア〜〜〜〜〜〜〜」

ワルドの腕へと徐々に入り込んでいく。

「パゴアパゴア〜!元々、超人の俺とメイジとかいってもただの人間のお前じゃ話にならないだろうさ。
だが、そいつは喧嘩マンとかいう超人がネプチューンマンに生まれ変わった時につけていた仮面!
少しはご利益みたいなもんがあるだろう!そして、その光ファイバーの力も加えれば…」

「グウーーーッ!は…入ってくるぞ〜〜〜〜ッ!俺の左腕に未知の力の息吹が〜〜ッ!」

ワルドが新たな力が入ってくる快感に酔いしれる一方、マンモスマンも蛍石を取り出し

「ウメーウメー」

今まで以上の速度でバリボリと食い始めた。
と、マンモスマンの牙、ビッグタスクから光が出始める。

「フハハハーーー!!わかる!わかるぞ!使い方が!」

そういいながら腕を構えるワルド。その瞬間、マンモスマンのビッグタスクと同様に腕から光が飛び出す

「な、なんなの!?」

そしてそれは、ルイズを体を貫きマンモスマンのビッグタスクの光と繋がる。
140使イ魔ツマラナイ:2009/02/02(月) 14:57:47 ID:5G0/Chqb
本能的に感じる嫌な予感に光の射線から抜けようとするルイズだがなぜか身動きが取れない!

「喜べ!ルイズ!生まれ変わった私の力の初の犠牲者には婚約者でありマンモスマンの主でもある
君こそ相応しい!」

「い、嫌……」

「さあ、マンモスマン!君も構えろ!」

「ゲプッ」

マンモスマンは蛍石の入っていた袋を放り投げる。蛍石でいっぱいだったはずの袋の中は
既に空っぽだった。そしてマンモスマンを腕を構え!

「謀反のオプティカル・ファイバー・クロス・ボンバーーッ!!」

必殺のツープラトンがルイズめがけて放たれた。


グシャッ


ルイズが目を開けると自身の体はマンモスマンとワルドによる攻撃を受けたにしては
あまりにも痛みが感じられなかった……不思議に思っていると自分が庇われていたのに気づく

「チィーーーーッ!ウェールズ!まだ息があったか〜〜〜〜〜ッ!」

忌々しそうなワルドの声。既に虫の息であったウェールズがルイズの身代わりにツープラトンを受けていた。

「ミス・ヴァリエール………逃げるんだ……」

声も絶え絶えに逃げることを促すウェールズ。

「死に損ないが〜〜〜〜ッ!」

だが、ワルドとマンモスマンが腕に込める力を増す。次の瞬間

ペリリリ…

「グァァァァ〜〜ッ」

ウェールズの美麗な顔…その生皮は彼の顔から残酷なほど綺麗に剥がれ落ちた…
今彼の顔には生々しい血管などがじかに見えている。
あまりの生理的嫌悪感にルイズは理性もとんで逃げ出した。
追うこともできた。が

「まあ、いい……私達の新しい門出がアルビオンの王族というのも悪くない……
しかし、この生皮……コレクションにするにはなかなか趣味が悪くないな……」

そう言ってワルドはウェールズの生皮を満足そうに見つめていた。
だが、ふと偏在が消え去った位置とマンモスマンを流し見た……
"マンモスマンとツープラトンを行った"偏在を……

(それにしても…念のため、偏在とやらせたクロスボンバーだったが…
本体で受けていれば確実に死んでいた……こいつの力は扱い損ねれば即、死に繋がる…か……)

冷や汗を流すワルド。マンモスマンとツープラトンを行った彼の偏在は
マンモスマンのパワーに耐えられず皮を剥いだ直後消滅していたのだ。
141使イ魔ツマラナイ:2009/02/02(月) 14:59:09 ID:5G0/Chqb
その横でマンモスマンは

「パゴアパゴア〜」

と不気味に笑っていた。



このあとハルケギニアがどうなったかはわからない。
ただ一つ言えるのは……ルイズは血に飢えた獣の扱い方を間違えた……それだけだ……






投下終了です。
どうかと思ったが209で冗談で言ってみたら反応あったので500とってないけどつい書いてしまった…
しかし、王位では正々堂々全力で戦いたいとか言ってたのに2世じゃ正々堂々ツマラナイ…
142名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 15:07:38 ID:b4Qo8wQn
ウメーウメー
マンモスマンを喚ぶとはな
レオパルドンで考えるか
143名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 15:14:26 ID:IYsFx14E
ゆでだから仕方ないな乙!
144名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 16:41:56 ID:5vERBD9/
>>142
ノーーーズフェンシングーーー!!!!
145名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 16:45:10 ID:wjiEBO6o
マンモスマンの人乙です。
王位争奪戦のマンモスマンなら…まぁゆでだから仕方ないね乙!
146名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 17:21:42 ID:lHedDwS1
そういや騎士団の人のを読み返していて…SDXのシリーズでアルガスは出るのかなと。
ナイトガンダム、フルアーマーときてるから
147名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 17:49:27 ID:R2reSDIA
予約がないようなら18:00からシーン12の運命の扉を開きます。

大体15kb、6レス+用語集&後書きで終了の予定
148名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 17:53:20 ID:WF+PlBpl
当方に支援の用意あり
149名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 17:58:58 ID:aEBVvtrN
おk、支援だ


所で ラスボスだった使い魔のシュウって声が子安だったのね
150名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 17:59:39 ID:dD6LxWpW
支援しますよ〜
151ゴーストステップ・ゼロ:2009/02/02(月) 18:00:08 ID:R2reSDIA
ぬあ、名前入れ忘れてた…
とりあえず大丈夫なようなので、運命の扉を開きます。

アンリエッタを宿泊所へ送り届けたルイズが部屋に帰ると、ヒューが旅装を整えていた。

「ただいま、ヒュー。準備できた?」
「ああ、俺の方はな。今はルイズお嬢さんの分をやっている。」
「ねぇ、ヒュー。そんなに小さいバッグだとドレスが」
「いらないだろう。」
「そんなわけにはいかないわよ、一国の皇太子に会うのよ?」
「制服で大丈夫さ、今日も姫さんの前ではそれだったしな。
 第一、こんな任務を受けるのなら、荷物は極力減らすべきだよ。ほら、終わりだ。
 一応、3日分の下着と靴下、ブラウスと制服のスカート。保存食代わりのビスケット、それから水筒を入れてある。
 ビスケットは非常用だからな、ティータイムだからって食うんじゃないぞ。」
「わ、判ってるわよ。」

小ぶりなリュックを机の上に置いて、中身の説明をするヒューに着替えながら返事をする。



ゴーストステップ・ゼロ シーン13 “Departure in morning haze / 朝靄の中の門出”

    シーンカード:カブキ(門出/完全なる偶然による状況の進展。善かれ悪しかれ。)


さて、もう寝ようかとルイズがベッドに目を向けると、サイドテーブルに2つの見慣れない物が置いてあった。
一つは、黒板消しからスポンジを外した感じの黒い小箱、片側に金属部品が付いている。しかし、箱に見えるのに開く所はない。
もう一つは、L字型をした何か。短い方を持つ様になっているのか、滑り止めらしいものがついている。長い方の先端には穴
が開いており、L字の内角には引き金らしきものがある。…これはもしかして、銃…だろうか。

「ねぇ、これ貴方のじゃない?」
「ん?ああ、それはルイズお嬢さん用に用意したヤツだ。」
「私用?」
「護身用の武器だよ。」
「何言ってるの、私はメイジよ?平民が使うような…」
「死ぬつもりは無いんだろう?だったら使えるものは何でも使うんだ。」
「ぶぅ…」

ヒューが告げた言葉に、思わず反発するルイズだったが、返ってきた言葉に口を噤まざるをえなくなった。

「こっちの黒い箱は<雷神>っていうスタンガン。要するに小さい雷を起こして相手を失神させたり痺れさせる事ができる。
 もう一つのこれは、ハルケギニアの物とはかなり違うが、<タクシードライバー>っていう銃だ。装弾数は10発、威力
は低いからなるべく近い状態。そうだな、できれば密着状態で不意打ちっぽくやれば、かなりの効果が期待できると思う。」
「どうやって使うの?」

ルイズは余計な質問は止めて、使用方法だけを聞いてくる。
そんな質問にヒューは一つずつ丁寧に教えていく。特に銃の使い方はしっかりと教え込んだ。

「判っているとは思うけど。」
「人に見せるな、人前では使うな、使う時は落ち着いて。でしょう?判っているわよ。」
「そう、知らなければ対応は遅れる、その分攻撃の命中率は上がるはずだ。」
「うん、十分気をつけるわ。じゃあもう寝ましょうか、明日も早いんだし。」
152名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 18:01:33 ID:aEBVvtrN
支援
153名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 18:02:20 ID:R2reSDIA
ヒューは、部屋の灯りを落とそうとするルイズの左手に、見覚えのない指輪を見つけて、思い問いただした。
確か、部屋を出る前には指輪はしていなかったはずである。

「ところでルイズお嬢さん、その指輪は?」
「ああ、これ?
 姫様から旅のお守りにって預かったの、トリステインの王家に代々伝わる“水のルビー”よ。
 言っておくけど、置いていけなんて…」
「いや、できれば持って行ってくれ。」

てっきり反対されると思っていたルイズは、意外な言葉に吃驚した。

「ええっ、反対しないの?」
「しても無駄だろう。出来る事なら紛失防止と隠匿の為にも、鎖を通して首から下げていて欲しいんだが?」
「…そうね、万が一にも無くしてしまったら、姫様に申し開きができないわ。」

ヒューの意見に頷いたルイズは、サイドテーブルの中に保管してあるネックレスから、細いが丈夫そうな鎖を見繕って、それ
に指輪を通して、首から下げた。

「どうかしら?」
「いいんじゃないか、あまり目立たないしな。」
「そう、じゃあヒュー今度こそお休みなさい。」

そういうと、ルイズは部屋の灯りを落として、今度こそ眠りについた。


ルイズが眠りに落ちた頃、ヒューとデルフは小声で話をしていた。

「さて、図らずも指輪が手に入ったな。」
【ああ、いやなんていうか、偶然ってのは恐ろしいね。】
「そうだな、上手い事やってアルビオン王家の分も何とか回収しときたいところだ。
 そういえばデルフ。」
【なんだい、相棒。】
「実際『虚無』っていうのは、どの程度の事が可能なんだ?」
【基本的には溜まっている精神力によるだろうな。『虚無』っていうのは、使う魔法で色々とやれる事が変わるからな、精神
力さえあれば、一番初期の魔法でもかなりの事ができるんだ。】
「となると、最初にお嬢さんが覚える魔法如何で、何とかなるかもしれないということか。」
【そりゃあ、どういう意味だい相棒。】
「ルイズお嬢さんは、生まれてから今まで、俺の召喚と契約以外の魔法行使に悉く失敗しているという話だ。
 だったら、お嬢さんには年単位で蓄積されている精神力が丸々残っているという事だろう?どれ位、溜めておけるのかは
知らないが、かなりある事は間違い無いはずだ。」
【なるほどな、確かにその通りだ。ちっとは希望が見えてきたんじゃないのかい?】
「ほんの少しだけどな、流石に行き先の詳細な情報が無いのは辛い。」
【お嬢ちゃんは土地勘があるとか言ってなかったか?】

ヒューは、デルフの意見に首を振りながらダメ出しをする。

「信用できないな。病気がちな人間を含めた貴族の家族旅行だ。恐らく馬車か何かで移動しているはずだから、裏道や抜け道
なんか知っているはずがないだろう。
 しかも、行ったのは良くて数年前だろうし…。力を借りるか…」
【誰か心当たりでもいるのかい?】
「あんまり、気が乗らないけどな。」

そうデルフに告げると、ヒューはルイズの部屋から音も無く姿を消した。
154名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 18:03:34 ID:aEBVvtrN
支援
155名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 18:04:39 ID:R2reSDIA
学院秘書ミス・ロングビルことマチルダ・オブ・サウスゴータの就寝は遅い。
元々、秘書という業務自体、雇い主の怠け癖のせいで多忙な上。今日に至っては、この国の姫殿下が逗留する事になった為、
余計な雑務が増えたのだ。
結局、仕事を終え一息つけたのは午後11時を回っていた。

「あーもう、いい加減にして欲しいよね。何だってあんなに仕事を溜め込むんだい。」

オスマンに対する愚痴を吐きながら、寝間着に着替えていると、サイドテーブルに置いてある<K−TAI>に着信が入る。
表示画面を見ると、相手はヒューだった。
一つ溜め息をついて<K−TAI>を取り上げる。

「こんな夜中に何の用だい、こっちは明日も早いんだけどね。」
【済まないな、悪いとは思ったんだけど、こっちも時間が無いんだ。】
「いいさ。それで?」
【実はとある事情でアルビオンに行く事になってな】
「ちょっと、本気かい?あそこは今、内戦中だよ?」
【知ってる、俺だってあまり気乗りはしないんだ。】
「なるほど、で?」
【信用できる土地の人間を紹介して欲しいんだが…】

らしくもなく口ごもるヒューに、疑念を抱いたマチルダは確信をもって、目的地を聞いた。

「ところでアルビオンの何処に行くつもりなのさ。」
【……ニューカッスルだ】

2人の間に沈黙が漂う。
やがて、マチルダの方から言葉が出てくる。

「本気かい?それをこのアタシに本気で言っているのかい。」
【…ああ、死にたいとも、死なせたいとも思ってないからな。なんなら貸しにしてもらってもいい。】
「へぇ…太っ腹じゃないか。」
【払えるものが無い以上しょうがないだろう。】

マチルダは何か考えているのか、暫く会話が途切れた。
そうして1分が経った頃だろうか、マチルダから答えが返ってくる。
156ゴーストステップ・ゼロ:2009/02/02(月) 18:06:48 ID:R2reSDIA
翌朝、朝靄が未だ学院を覆っている時刻。
厩舎の前で出立の準備をする、人影があった。

「やあ、ルイズ。」
「おはよう、ギーシュ。」
「おや?ヒューはどうしたんだい?」
「ヒューは用事があるって、すぐに来るとか言ってたけど…、何ジロジロ見てるのよ。」
「いや、中々珍しい出で立ちだと思ってね。」
「ヒューからこっちの方が良いって言われたのよ。」

そう言ったルイズの服装は、魔法学院の制服の上にロングコートを羽織ったものだった。ただし、スカートは乗馬用のズボン
に替えられており、ややもすると中性的な美少年にも見える。
ギーシュは今が早朝だという事を始祖に感謝した、ルイズのこの出で立ちは危険だ。元が凄い美少女なので、こういった格好
もサマになるのである。もしこの姿をモンモランシーが見ていたらと思うと戦慄を禁じえなかった。

「へ、へぇ…そうなのか。しかし、女性にそういった野暮ったい服装をさせるというのはどうだろうね。
 そういえば、マントはどうしたんだい?」
「あら、結構暖かいから、これはこれでいいと思うわよ?動きやすいしね。
 マントはリュックの中、コートの上からっていうのも変だからしまってあるの。まぁ、考えてみれば平民に扮する事で、
ある程度のトラブルは避けられるだろうし。」
「むむぅ、確かに…いや、そうすると貴族としての誇りが…」
「ギーシュ。私達は姫様の、いえトリステインの為にも、生きて帰らなければならないの。そんな時にプライド一つ捨てられ
なくてどうするの。貴方にとって、それがどうしても譲れないというのなら止めはしないけどね。
 とりあえず、今からだと着替えに帰る時間は無いから、どうにかするのならラ・ロシエールに着いてからにしなさい。」
「ああ、道中よく考えて決めておくよ。」


その頃、ヒューは校舎裏でマチルダと会っていた。
当然、というかマチルダは不機嫌な顔を隠そうともしていない。

「悪いな、こんな事をいきなり頼んで。」
「いいさ、どうせあのお嬢ちゃんが絡んでいるんだろう?」

マチルダの言葉にヒューは苦笑で応じる。
その顔を見たマチルダは、溜め息を一つ吐くと懐から二枚の封書を出した。

「こいつを持って、ラ・ロシエールのキンバリーって商店に行きな、そうすれば大体の事には応じてくれるさ。
 片方は仕送りの手形だからね、ちゃんと届けるんだよ?」
「分かった。伝言とか、あるか?」
「何て顔してんのさ、アンタらしくもない。特にないよ、あの連中との事はもう終わった事だしね。せいぜい頑張って誇り
とやらの為に死んで来い、とでも伝えておくれ。
 …ああ、そういえば言うのを忘れてたんで、ここで教えとくよ。レコン・キスタとやらの首魁はクロムウェルって司教なん
だけどね、噂だと『虚無』を使うって話だよ。」
「『虚無』だって?」

与太話を気軽に言ったマチルダの言葉に、ヒューは聞き逃せない単語を聞いた。

「はっ、なんとも胡散臭い話さ。」
「そのクロムウェルっていう男は、どっかの王家の血を引いてるとか?」
「ん?ああ、ないない。ロマリア出身だって話だからね。」
「そうか…ありがとう、参考になったよ。」
「せいぜい、死なないように気をつけるんだね。帰ってきたら一杯奢ってもらうんだからさ。」

マチルダの言葉に後ろ手で手を振りながら、ヒューは朝靄の中へ消えていった。

「さて、もう一眠りするとしようかね。」

そう1人呟くと、マチルダも踵を返していく。
157名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 18:07:13 ID:WF+PlBpl
名前入れ忘れててもシーン12の運命とかあるから、誰だかすぐ分かったぜ支援
158ゴーストステップ・ゼロ:2009/02/02(月) 18:09:03 ID:R2reSDIA
厩舎の前にヒューが到着すると、何やらルイズの怒号が聞こえてきた。
何事かと視線を向けると、人間大の生物に圧し掛かられているルイズがいた。横にはギーシュもいるのだが止める気配が無い
ことから、そこまで危険ではないのだろう。
朝早くから元気な事だと、感心しながら歩いていると。突風が吹き、ルイズに圧し掛かっていた生物が吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた生物は目を回したのか、仰向けにひっくり返っている。

「ヴェルダンデっ!誰だっ!? 僕の使い魔にこの様な!」
「失礼、婚約者がジャイアントモールに襲われているのを、見て見ぬ振りは出来なくてね。」

ギーシュの怒りの声に答えるように、朝もやの中から羽帽子をかぶった伊達男が現れた。
しかし、その男が言った言葉で、ギーシュも怒りを鎮めざるをえなくなる。

「愛しい人を助けたいと思う気持、君も男なら分かると思うんだが。」
「う、確かに、使い魔の狼藉を止められなかったのは、僕の落ち度だ。」
「いや、使い魔を得たばかりの頃の気持は僕にも分かるからね、次から気をつけてくれるとありがたい。」

ギーシュの謝罪を笑顔で受け流した男は、被っていた帽子を取り、丁寧な礼を一行にする。

「魔法衛士隊・グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵だ。
 姫殿下より、君達に同行し護衛することを命じられた。君達だけでは、やはり心もとないらしい。しかし、隠密任務である
ゆえ、一部隊をつけるわけにもいかぬ。そこでルイズの婚約者でもある僕が指名されたのだよ。」

ワルド子爵の自己紹介を聞いたヒューは「派手な男だ」と思いながら、自分の準備を整えていた。

「ワルド様…!」

倒されていたルイズが起き上がり、驚いた様子でワルド子爵を見る。

「久し振りだね! ルイズ! 僕のルイズ!!」
「はい、お久し振りでございます…」

頬を赤らめながら、ワルドに抱きかかえられるルイズ。

「ははっ、君は相変わらず羽の様に軽いな。」
「ワルド様、人がいます、恥ずかしいですわ…。」
「ああ、すまない。なにしろ久しぶりの再会だからね、思わずはしゃいでしまったよ。」

そう言いつつ、ルイズを下ろしたワルドは、ヒューの方を見ながら、ルイズに話しかける。

「ところで、ルイズ。彼等を紹介してくれないのかい?」
「級友のギーシュ・ド・グラモンと使い魔のヒュー・スペンサーです。」

ルイズが紹介を終えると、笑みを浮かべたワルドがヒューの元へ近付いてくる。

「君がルイズの使い魔かい? 噂は聞いてるよ、何でもあの“土くれ”から盗まれた品を取り戻したそうじゃないか。」
「どうだろうな。俺達が隠れ家に行った時にはフーケはいなかった。もしかしたら見逃してもらっただけかもしれない。」
「ふむ、確かにその可能性もあるか。しかし、謙虚というのは美徳だが、過ぎればただのイヤミになると思うんだが?」
「忠告どうも、せいぜい気をつけるさ。
 ところでミスタ・ワルド、貴方の乗騎はどうするんだ?学院の馬を使うのかい。」

ヒューの質問に、不敵な笑みを返したワルドは口笛を吹いて、自らの乗騎…グリフォンを呼んだ。
空から降り立ったグリフォンに颯爽と跨った、ワルドはルイズに手を伸ばす。

「さ、どうぞ。レディ。」
「は、はい…」

数瞬躊躇したルイズだったが、ヒューから特に何も言ってこなかった為、ワルドの手を取りグリフォンに跨る。

「さあ、諸君!出発しようではないか!」
159名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 18:09:11 ID:aEBVvtrN
支援
160ゴーストステップ・ゼロ:2009/02/02(月) 18:11:15 ID:R2reSDIA
そう、号令を上げるとワルドとルイズを乗せたグリフォンは、飛び立って行った。

「やれやれ、派手で元気な子爵様だ。」
「何をしてるんだね、ヒュー早く追いかけないと!」
「別に急ぐ必要は無いだろう?」
「な、何を言っているんだ!早く行かないと子爵やルイズに置いて行かれるじゃないか!」

ルイズとワルドに置いて行かれると、焦るギーシュを横目にヒューは馬具をしっかりと固定する。

「急いだ所で、どうせラ・ロシエールで足止めを食らうんだ、俺たちは明日までに到着するように行けばいいのさ。」
「だから、どうしてそう!」
【落ち着きな坊ちゃん、今日中に着いたってどうせスヴェルの夜じゃ無い以上、フネは出ねえんだ。】
「あ。」
「そういうことだ、子爵殿が何を焦っているのか分からんが。俺達はなるべく体力を消耗せず、時間に遅れないようにラ・
ロシエールに着けばいいんだよ。
 まぁ一番の理由は、俺がまだ乗馬に慣れていないっていう事なんだけどな。」
「そういえば確か、馬に乗り始めてまだ1週間経ってなかったんだっけ。」
「そういうこと。じゃあ、行こうかギーシュ。」

男2人と魔剣1本という、色気も何も無い一行は、颯爽と飛び去った2人を追って学院を発った。


アンリエッタは出発する一行を学院長室の窓から見送り、祈っていた。

「彼女たちに加護をお与えください。始祖ブリミルよ…。」

隣ではオスマンが鼻毛を抜いている。

「見送らなくて宜しいのですか? オールド・オスマン。」
「ぬ、痛…、姫、見ての通り、この老いぼれは鼻毛を抜いておりますでな。おほう…。」

鼻毛を抜きすぎたのか、涙目になったオスマンの仕草に、アンリエッタは溜め息を吐きながら、首を横に振った。

「トリステイン、いいえ、ハルケギニアの未来がかかっているのですよ? 何故そのような態度を…」
「すでに杖は振られたのです、我々にできることは待つことだけ。違いますかな?」
「それは、そうなのですが…」
「なあに。彼ならばやってくれましょう。姫さまも、かの使い魔には会われたでしょう?」
「…ええ。」

ルイズの使い魔、ヒュー・スペンサー。自分達の常識から逸脱した知識を持つ男。
親友であるルイズの言葉によれば、ここハルケギニアよりも進んだ文明を持つ地から来たらしい。

「あの者の力はワシでも計りかねるほど。やれやれ、老骨には堪えますわい。」
「まあ、そのような弱気、オールド・オスマンらしくありませんわ。」

珍しくオスマンの口から零れた弱音に、心の余裕を取り戻したアンリエッタはマザリーニに相談する事柄について考えを巡ら
せていた。

(ルイズ、私も頑張ります。だから、きっと生きてまた会いましょう。)
161名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 18:13:08 ID:gDDa47KJ
支援
162ゴーストステップ・ゼロ:2009/02/02(月) 18:13:28 ID:R2reSDIA
シーン12
性癖
…トーキョーN◎VAでは、様々な性癖に対してかなり寛容になっている。
 大多数はノーマルでストレートな性癖を持つ人々だが、マイノリティだからと差別を受ける事は“あまり”ない。
 こういった事情の背景には、ヴァーチャルリアリティ技術の発展もあるのだろうと作者は思っている。

シーン13
カブキ(St)
…ミュージシャン、芸術家、ギャンブラー、アーティスト。
 “幸運な偶然”によって危機を回避したり、対象の行動を失敗させる。
 幸運なキャラや芸人という位置付けでも使用される。
 シェリル・ノームや如月千早、wikiではプリズムリバー3姉妹や手の目が相当する。

<雷神>(I)
…護身用スタンガン。ダメージを与えた相手にバックファイア(不利な影響)を与える。

<タクシードライバー>(I)
…小型の暗殺用拳銃。袖からポップアップするタイプのホルダーがついており、瞬間的に準備できる。フルオート可能。


あとがき

支援ありがとうございました、以上でシーン12の扉を閉じます。

本当はラ・ロシエールまで行こうかと思っていたんですが、長くなるので途中で切っています。
おマチさんがレコン・キスタの情報を手に入れたのは、社会・アルビオンで情報収集した結果だと思って下さい。
ルイズにズボン穿かせたのは普通そうするだろうという考えからです…、というか隠密任務するのにミニスカとか無いだろう。
後、なぜヒューがスヴェルの夜の事を知っていたかというと、図書館で文字の勉強をしている時に読んだ書物の中に書いてあ
った…という解釈で。(というよりこういった描写をする為に勉強させたとも…)

そういえば前回からシーン名を英語にしていますが、作者は英語が不自由な人間なので、間違っていたら指摘してくれるとありがたいです。
それから、今現在、ワルドに対するヒューの評価としては、有能な風メイジ・ルイズの婚約者・自信家といったところ。
163名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 18:18:53 ID:aEBVvtrN
164ゴーストステップ・ゼロ:2009/02/02(月) 18:48:34 ID:R2reSDIA
投下予告&あとがき内でシーン数間違えた…orz
正しくはシーン13でした。
165名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 19:42:49 ID:QZCtSTnN
乙です。
イキナリ他人に任務バラしてんじゃあねーぞ!
昨日のこと忘れたのか?このスイーツ鳥頭がッ!!
166名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 19:46:39 ID:YxRh+GGI
>>165
まぁ落ち着け
本来の目的は伝えずに護衛を依頼したって可能性もあるじゃないか
適当な理由をつけたりさ
167名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 19:46:58 ID:np4o+X/A
アンアンはCDなマネキンだからな、しょーがない
168名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 19:48:03 ID:QZCtSTnN
>>166
スマン、ついカッとなってしまった。
ちょっとラ・ロシェールの手前まで先回りしてルイズ襲ってくる。
169名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 19:53:02 ID:trflBuQt
国内にもレコンキスタ紛れこんでんじゃね?って言われてるのにな
いるとしたら軍人なんて一番ありそうなポジションだと思うんだが
170名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 19:57:25 ID:9QLa8UK/
アンアンは聡明なお方よ
171名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:02:11 ID:y8LT59Wj
アン「さすがにエリートの魔法衛士隊の隊長は大丈夫でしょう。ルイズの婚約者だし」
172名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:05:24 ID:iBjeRaoG
まあワルドが上手い事聞き出した可能性もあるし、ひょっとしたらワルドがルイズに頼むようにそそのかした可能性もないではない
173名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:07:20 ID:UZnAuK/Z
ルイズとサイトに向けて魔法をぶち込んだアンアンって、あの時は操られてたんだっけ?
ゾンビは一緒に居たようだが、その他には居なかったようだし正気だったように思えるのだが
もし自分の意思でルイズたちを殺そうとしたなら、ビッチとかそんなレベルじゃないよな
174名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:10:43 ID:l9kCFHV+
確かにビッチとはベクトルが違うな。
175名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:11:25 ID:vJxBbZ6l
スイーツ(笑)の方だな、ベクトル的には
176名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:12:46 ID:DPy/Aiou
>>173
おいおい、彼女は親友と国ではなく、男(ゾンビ)との愛を選んだお方だぞ?
それをビッチなんてひどいじゃないか
177名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:17:50 ID:FEzkwiis
そうだぜ、ゾンビ大好きだなんて実にグールじゃないか
178名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:20:16 ID:DHSU9gPZ
この話題はもう秋田
やりたいならノボルスレでやってきな
179名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:23:17 ID:QZCtSTnN
本当はウェールズが死んだ原因のクロムウェルを暗殺に行くのに
ワザと騙された振りをしていたとか?
180名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:27:40 ID:RGZimVWG
>>179
ちょっとカッコイイな。
181CMタイム:2009/02/02(月) 20:27:51 ID:iJKzEoB7
イザベラさま語録

そんな汚い衣装のまま、王女の話を聞こうと言うの?脱ぎなさい!
ほらお前たち!この子に王女の格好をさせてやって!

……ふん、あんた、きちんと食べてるの?
たまにはお前をもてなしてやろうじゃないの。
ほら、一流のコックたちが腕によりをかけて作った料理だよ。

ちょっとやそっと戦いが上手だからって、どうにもならないよ
あんたに勝てるかしら?
せいぜい、無事を祈らせてもらうわ、シャルロット

ツンデレなイザベラ様を堪能したい人は、
 ゼロの使い魔 外伝 タバサの冒険
を買ってね!
182名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:29:22 ID:a63dan4F
NGID
183名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:32:45 ID:rUMx6SDz
>>181
本当にツンデレに見えてくるから困るw
184名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:35:14 ID:KhjYobnn
新刊の情報が出たわけだが
ttp://www.mediafactory.co.jp/bunkoj/books.php?id=21311
185名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:37:50 ID:K2AGVtG8
新刊出るか…
今書いてるSSと内容矛盾したらどうしようと悩む俺。
186名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:46:55 ID:+WZbXdlR
>>185
よっぽど根本的な設定が明かされでもないかぎり
16巻分の内容までSS進むまでに修正効くだろw
187名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:52:36 ID:CCo5ywUQ
>>185
原作設定と食い違っていてもいいのでは?
だって、中には設定自体が違うものもあるし、そんなに気にしなくても
いいのでは?
188名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:54:39 ID:4yUpovQK
そーいやロックマン系は召喚されて無いね
岩本版ロックマンX3のフローズン・バッファリオは素直で優しい性格だから良さそうなんだが、
やっぱりメンテナンスとかそういうのがあるから誰も書かないのかな?
189名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:56:21 ID:l+C/v55j
ロボ系はコッパゲに欲望丸出しの眼で見つめられた挙句身体を色々弄ばれそうだな

いや、非性的な意味でですよ
190名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 20:59:40 ID:p+HWqVmI
ロックマンXと聞いてスーパービックリマンが何故か浮かんだ
191名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:01:16 ID:Lonisps/
少年漫画の主人公とは思えないほどによく泣く大聖フェニックス(おちよしひこ版)召喚ですねわかります。
聖動ヤマトと十字架天使でもいいけど。
192名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:02:56 ID:UxbZedBr
ロックマンXと聞いてウルヴァリンが何故か浮かんだ
嘘だけど
193名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:04:20 ID:58iPGx+Y
>>189
未知の技術を目の当たりにしたコッパゲによってギラギラと鋭く輝く視線で全身くまなく舐めるように観察され、あらゆる機能を調べる為にあます事なく身体中をいじくり回されてしまうロールちゃんを想像した。

直後ルイズに吹っ飛ばされるコッパゲと死滅する毛根も同時に見えた。
194名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:05:01 ID:ODFjT25s
スーパービックリマンと聞いて半熟英雄が何故か浮かんだ
195名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:05:55 ID:jyAVwS9O
ルイズがエッグマンを召喚ですね、わかります。
196名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:08:10 ID:aEBVvtrN
むしろ卵でいいんじゃ・・・・
と言うかそれだと毎回戦う度にホンダラヘンダラトガビダフンダをやるのか
197名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:08:46 ID:4yUpovQK
>193
ロールちゃんはロックマンの妹兼恋人ロボットなんだぜ?
今思えばライト博士なんつーロボットを作るんだよ。
一部では外道ロックマンで有名な池原しげと版ロックマンだと
ケンタウロスマンが女性型ロボットでナイトマンと恋仲だったな…
198名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:10:49 ID:CCo5ywUQ
>>197
あぁ、その漫画、知ってる、知ってる。
ウインドマンは男やったな……。
懐かし。
199名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:15:47 ID:1VeBURge
むしろ別冊でやってた有賀ヒトシ版の方が印象に残っている俺。
200名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:16:25 ID:iJKzEoB7
>>184
タイトルのオルニエールは、お屋敷候補地の名前かな?
それはともかく、こんな外伝が出てくれるとうれしいかも。SSでも構わん。

 神聖アルビオン帝国が崩壊し、ジャン・ジャック・フランシスの聖地を
目指す野望は大きく後退した。
しかし、始祖の恩寵はジャンを見放したりはしない。
パートナーであるフーケが、ガリア王女のアルビオン訪問を察知したのだ。

 ハルケギニアの超大国ガリアは、オルレアン派による内乱の危険を抱えている。
さらには、エルフと繋がっているという黒い噂…
王家の一人娘イザベラの懐刀として取り入れば、聖地が一気に近くなる!

偏在の魔法により、本編には登場できなくなったワルドを描く
 ゼロの使い魔 外伝 暗躍の閃光
 2009年12月25日発売未定!
201名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:16:44 ID:xwLLhAJb
エッグマンと聞いてソニックのエッグマン・ロボトニックが浮かんだ。
202名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:17:51 ID:5vGpPUR2
>>188
ロックマンZEROからゼロが召喚されたのなら有ったぞ
止まってるが
203名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:18:56 ID:Lonisps/
小ネタでエアーマンが召喚されてダンジョンアタックを繰り返すタバサとイザベラの話があったなぁ。
204名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:19:37 ID:K2AGVtG8
>>186>>187
サンキュです。
いや、プロットできちゃってるから修正厳しいんすけどねw
まぁ、開き直ってある程度俺設定でがんばらせていただきます
205名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:20:57 ID:8ezU5LXN
新刊の表紙……。イトーヨーカドーで買う俺の身にもなってみろ!
206名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:21:25 ID:l+C/v55j
もうワルドって誰?な人のほうが多いと思います・・・
207名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:22:06 ID:1VeBURge
>>204
イザとなったら、まとめwikiの見出しの所に
「この作品は原作15巻発売当時に執筆したものなので、16巻以降の設定とは多少の食い違いがあります。ご了承ください」
って書くという手段があるんだぜ。
むしろ食い違いが出たら、俺はそうするつもりなんだぜ。
208名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:34:57 ID:HQdImxoZ
宵闇眩燈草紙で虎蔵が召喚されてるけど、他の登場人物でも面白そうだよな。
209名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:37:03 ID:vJxBbZ6l
ジャック召喚してキュルケ中毒死とかかw
210名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:39:14 ID:brLOPevU
今更設定の食い違いなんて誰も気にしないだろ
211ゼロの騎士団:2009/02/02(月) 21:41:12 ID:F2qJFvjk
10話投下予告させていただきます。
今回で1部はラストです。
21時50分を予定しています。
今回はいろいろなネタが出てきます。
212名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:41:48 ID:wjiEBO6o
>>209

ジャック範馬召喚か…問題は薬とデルフの扱いだな…
213名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:42:32 ID:wjiEBO6o
失礼しました。支援
214名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:45:03 ID:AQ3pTKYZ
>>212
ピクル召喚も面白いんじゃね?
フーケのゴーレムを食べてみたり。

・・・てか良く考えれば召喚された時点で言語による意思疎通が可能になるんじゃね?!?
215名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:46:32 ID:aH0hn9QT
バイオレンスジャック召喚か
ハルマゲドンが起こるな
216名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:48:40 ID:UxbZedBr
ワルドさんもジャックだよね
217ゼロの騎士団:2009/02/02(月) 21:50:23 ID:F2qJFvjk
ゼロの騎士団 PART1 始まりの地 トリステイン10

ニューの口から出てきた名前に、ルイズは昨日聞いた名前を思い出した。
「ナイトガンダムって・・・あなたの仲間の・・・」
そう言いながら、ルイズは凝視する。
「ナイトガンダム殿!ご無事だったのですか!」
ゼータが感極まったように叫ぶ。
「ないとがんだむ?何を言っているんだ?」
だが、目の前の人物はその名に聞き覚えがなかった。
「え!」
それは、三人から同時に発せられた言葉だった。
「俺はないとがんだむでは無い、俺の名は真駆参、天宮の武者、頑駄無真駆参だ!
よく解らんが、お前達はどうやら異国の武者の様だな、影舞乱夢か?それとも赤流火穏か?」
ニュー達の知らない地名の同族は同じく知らない地名を聞いてくる。
良く見ると、その武者はナイトガンダムと顔はそっくりであったが見た目が違っていた。
「マークスリー・・じゃぁ、何故ナイトガンダム殿の剣と楯を持っているのだ!?」
銀色の盾と剣はニュー達がラクロアにある、ナイトガンダムの肖像画に書いてあった物とそっくりであった。
「これは昔から俺が持っていた物だ・・・だが、お前達にとってもこの盾には何かしら意味があるようだな。」
自身の持つ盾が、何か思い当たる節があるのか真駆参は考え込む。
「今度はこちらから聞きたい、お前達は何処から来た?俺達と同じ武者、それも頑駄無の様だな」
真駆参がやはり、自分と同類が居るのが珍しいのか聞いてくる。
「私達はスダ・ドアカワールド、アルガス王国のアルガス騎士団だ!
異国のナイト殿、何故フーケに力を貸す、我々ガンダム族は自らの意思で悪党に手を貸さないはずだ!」
自身の種族の理念に基づき、ニューが真駆参に問う。
「理由は言えん。確かに、盗賊などの手助けをする気はない・・・
だが、俺にはその女が必要なのだ!マチルダ、今助けるぞ!」
そう言って、真駆参が背中から何かを取り出す。
「マークスリー・・・・」
フーケはそれ以上の言葉がなかった。
「どけっ!目牙光銃(メガビームガン)!」
ニューのムビルフィラの様な光弾がフーケとルイズ達の間に着弾する。
ルイズ達はいったん距離を置くが、威嚇という事もありルイズ達に怪我はなかった。
「逃げろ、マチルダ!俺が時間を稼ぐ!」
威嚇射撃を続けながら、真駆参が指示を出す。
「・・・わかった!無茶すんじゃないよ!」
そう言いながら立ち上がり、フーケが森の中へ駆け出す。
「待て、フーケ」
ゼータが逃げたフーケを追おうとする。
「行かせるか!」
その足元に光弾を放つ。
「ファンネル」
ニューが動きを止めるべく、雷撃を真駆参にめがけて放つ。
だが、真駆参は後方に飛びのきながら、盾で雷撃を防ぐ。
「ならば!」
その隙を狙い、ゼータが仕掛ける。
真駆参はそれを冷静に盾で受け止め、槍でデルフを弾き飛ばす。
「爆走四脚体型形態(ブラスターケンタウルスモード)」
目牙光銃を背中に付け、ケンタウロスの様な姿に変わる。
そして、向かってきたダブルゼータの斧を横に避けながら、脇腹に一撃を当て駆け抜ける。
「うそ、三人相手にしても互角なんて・・・」
ルイズが自分達の使い魔の実力を知っているだけに、その武者は圧倒的であった。
そのまま、距離を置いた所で真駆参が振り返る。
「マチルダは無事逃げたか・・・すまない、俺はお前達と戦うつもりはない。
さらばだ、異国の武者達よ!」
そう言いながら、フーケの逃げた森の方に向けて真駆参は走っていた。
後には、呆然としているルイズ達が残された。
「なんのよ、あいつ勝手なこと言って・・・・訳分かんないわ!」
凱旋気分を一気に敗戦の体を成した武者の背中を見ながら、ルイズは心の底から叫んだ。
218ゼロの騎士団:2009/02/02(月) 21:50:54 ID:F2qJFvjk
フーケは背後を見ずに森の中を走っていた。
「マチルダ、乗れ」
後ろから追いついた、真駆参がフーケを自分の背中に乗せる。
「マークスリー!なんだってアンタが来たんだい、アンタにはあの「テファに頼まれたのさ」え!」
(あの娘が・・・)
以外な名前が出て、フーケは動揺する。
「テファはお前が何をやっているか薄々勘付いている。
だけど、あいつはお前の仕事を助けて欲しいとしか言わなかった。」
真駆参が彼女を助けた理由を明かす。
「俺は、盗賊なんか助けたくはないが、テファやガキ共にはお前が必要だ。だから助けに来た・・・」
「そうかい・・・・」
(あの娘は気付いていたのかい・・・)
理由を知った嬉しさと、テファが自分の仕事を知っている事への驚きがそれ以上の言葉を紡げなかった。
しばらくして、森を抜ける、時間は正午で日差しは暖かかった。
「一旦家に帰るぞ、これからの事を話すのはそれからだ・・・」
「そうだね・・・・マークスリー」
「ん、なんだ?」
真駆参が背中で聞いてくる。
「助けに来てくれてありがと・・・」
「俺は町では目立つ、町に着いたらお前にやってもらう事は有る・・・今は寝ていろ」
「・・・うん・・・」
真駆参はその言葉と共にマチルダの熱を背中で感じた。

ルイズ達の帰りの馬車は戦に負けた兵士たちの様であった。
「まぁ、いいじゃねぇか、大事な物は取り返せたんだし」
陽気を装いダブルゼータが声を上げるがその声で場を盛り上げるには無理があった。
「・・それもそうね、けど、あれはいったい何だったのかしら?」
場を白けさせる訳にはいかず、キュルケが続ける。
「俺も長生きしてるけど、お前さん以外のあんな物を見るのは初めてだぜ」
長く生きているらしいデルフも、真駆参が珍しかった。
「分からない、少なくともあの様な騎士知らない。それに、あの様な武器見た事無い。」
自身の足を止めた武器を思い出しながら、ゼータが話に加わる。
「あれは銃」
タバサがゼータの疑問に答える。
「銃?銃って、あの?」
自分達を威嚇した銃は、ルイズが思い浮かべる銃とは全く違う物に見えた。
「可能性があるのはそれ、けど私達の物より性能は何倍も上」
タバサが考えられる推測を提示する。
「秘宝を取り返せたのは幸いだったな・・・
とにかく、あのマークスリーとやらが敵に回らないと言う言葉を信じたいな」
ニューが結果の成功と真駆参の事を頭に浮かべながら話を纏める。
「そうね・・・」
ルイズが力なく答える。
(秘宝を取り戻す事は出来た、けど、アイツには全く歯が立たなかった・・・)
おそらく、皆の胸中にある考えをルイズもまた抱いていた。
夕日が綺麗に映る頃、トリステインの門が見えてきた。
219ゼロの騎士団:2009/02/02(月) 21:51:38 ID:F2qJFvjk
足取りは重いが、6人はオールド・オスマンに報告するために学院長室に向かった。
「そうか、ミス・ロングビルが土くれのフーケとは・・・しかし、ロングビルを助けたのもお前さん達と同じ姿とはのぉ・・・」
秘宝が戻った事よりも、ロングビルを助けに現れたニュー達と同じ存在がオスマンには気になった。
「じいさんよぉ、それよりなんで此処に獅子の斧と「キャラカーン」なんてあるんだよ?」
自身の獲物が何故ここにあるのか、ダブルゼータがオスマンに尋ねる。
「きゃらかーん?それは神の雫の事か?」
「御大層な名前だな、こいつはキャラカーンといって子供の飲むオマケ付きのジュースだよ」
そういって、缶を雑に置く。
「なんと、子供の飲むジュースじゃと?」
「アルガスのどこの街でも買えます、それより、これはどうやって手に入れたんですか?」
自身の世界の物が見つかった事に、ニューも興味がわく。
「それは、数年前ある貴族が召喚した物なんじゃ・・」
「私たち以外にもいたのね、そんな人が」
キュルケが遠くを見るように呟く。
「その貴族はそれを4個召喚したそうじゃ、調べてみると中から液体が出て、
それをその貴族が飲んでみると、とても美味だったそうじゃ、
そして、貴族はそれを亡き国王に献上したらしい、
国王もその味を大層気に入りアンリエッタ王女の嫁入り道具に持たせる事に決め、
固定化をかけてその管理をここの宝物庫に預けた訳じゃ」
オスマンが神の雫の経緯を語り終える。
「そんなに美味しいの?」
ルイズがニューに聞く
「リンゴのジュースを思い浮かべればいい、いたって普通の味だよ」
自身の経験から、味を思い浮かべながら語る。
「じゃあ次に、獅子の斧はどうやって手に入れたんですか?
これはノア地方の秘宝であり、ダブルゼータが最後まで持っていたものです。」
ゼータがより重要なアイテムの出所を聞く。
「獅子の斧というのか・・・・・それは・・・」
オスマンが急に神妙な顔になる。
「それは?」
皆の顔にも緊張が走る。
「それは・・・数年前に、そこの森で拾ったんじゃよ」
オスマンが、窓から近くにある森を指差す。
「なんだよ!思わせ振りな事言いやがって!」
ダブルゼータが真っ先に突っ込む。
「拾った時の事を覚えていますか?」
ニューが気を取り直して、当時の状況を聞く
「あれは、数年前、森の散歩中に落ちているのを見つけたんじゃ、最初は普通の斧かと思ってたが、
気になってディテクトマジックをかけてみたら、急に獅子が目の前に飛び込んでくるような錯覚を見たんじゃ。
これは何かしらのマジックアイテムかと思って研究したが、
分からないので宝物庫にしまったのじゃ、まさか、お前さんの持ち物だったとはのぉ」
オスマンは長年疑問に思っていた物が、ダブルゼータの所有物だと分り安心する。
「他には、龍の形をした盾とか梟の形をした杖とかはありませんでしたか?」
ニューが自身の杖のありかに期待を込めて、オスマンに聞く。
「いや、あるのは獅子の斧だけじゃよ・・・
しかし、モット伯は何故それを欲しがったのかのぉ、価値の分かる筈はないんじゃが・・・・」
モット伯がなぜ、それほどまでに欲しがったのかをオスマンには理解できなかった。
(おそらく、ドライセンだろうな)
ルイズ達は、屋敷で戦ったドライセンの事が頭に浮かんだ。
ドライセンは自分達の事が狙いだと言った。
しかも、それは誰かの命令であると・・・見えない敵の存在に、改めて不安を覚える。
220名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 21:51:44 ID:mkfGg2sD
支援
221ゼロの騎士団:2009/02/02(月) 21:52:13 ID:F2qJFvjk
「なぁ、じいさんキャラカーン開ける時に丸いカードが無かったか?」
何かを思い出したようにダブルゼータがオスマンに聞く。
「カード?知らんのぉ、それがどうしたんじゃ?」
「キャラカーンにはカードがあって、それを集めるのが子供達の流行りなんだよ」
ダブルゼータがそう言いながら、缶の上を開ける。
「アンタ何やってるの!それはアンリエッタ様の嫁入りの際に使うのよ!」
「中は飲まねぇよ、カードが見たいだけだ・・・おっ!入ってる。」
ふたを開けて、カードを確認する。
「ん?闘士メガガンダム?どこかで聞いたような・・・・」
カードを見ながら、ダブルゼータが記憶を辿る。
「ねぇ、これアンタに似ていない?」
横から覗き込んだルイズが指摘する。
「確かに・・・あっ!そうだこいつは遠い親戚のメガガンダムだ!」
思い出したように、ダブルゼータが声を上げる。
「ん?・・・だが、確かメガガンダムはまだ子供だったぞ?」
書かれている、メガガンダムの絵を見てダブルゼータが疑問に浮かぶ。
ダブルゼータが最後に会ったのは3年前の11才であり、時間的にはおそらく14才くらいの筈であった。
「なんで、メガガンダムがあるんだ?俺だってまだモデルになって無いのに?」
「どういう事?」
キュルケがダブルゼータの疑問を理解できない。
「キャラカーンは、ある程度有名にならないとモデルにならないんだよ、
現に俺やゼータ達だってまだモデルになった事は無いからな」
ダブルゼータが自慢げに解説する。
「なんでそんな事知っているの?」
「コイツは自分がモデルになっているかを確認するために、新しいのが出るたびに大量に買っていたからだ」
部屋にあった大量の缶を思い出し、ニューがその理由を言う。
「アンタって、ホント子供ね・・・」
彼が何故、キャラカーンに詳しいのかを知りルイズが呆れる。
「うっ、うるさい、とにかく日付を確認しよう・・・新生ブリティス7年?いつの時代だ?ニュー、分かるか?」
缶に書かれた日付を読み上げて、ダブルゼータがニューに聞く。
「時代は解らんが、ブリティスとは確か遠くの異国だった事を記憶している。」
記憶の中から、その地名が遠くの異国である事を何とか思い出す。
「じゃあ、メガガンダムはそのブリティスで有名になった訳か・・・」
自分にとって、弟分のような存在が騎士として名を残した事に、
ダブルゼータも感慨の気持ちを抱く。
「ん?ちょっと待て」
そこで、ゼータが疑問を抱く。
「どうしたの?」
「ダブルゼータの話ではメガガンダムはまだ14歳だろう、それが騎士として有名になったて事は数年間が過ぎているのではないか?」
ゼータが今までの事から、考えられる可能性を示す。
「いや、オスマン殿は数年前に獅子の斧を拾ったと言う、我々が来たのはつい最近だ」
ニューがオスマンの話していた事実を思い出し、その可能性を否定する。
「どうなっているんだ・・・」
元に帰る方法の手掛りよりも、新たな謎が生まれる。
それを見ていたオスマンは一つ咳をして場の流れを変える。
「まぁ、その事は後で考えるとして、今日はフリッグの舞踏会じゃ、
ミス・ヴァリエール達の支度にも時間が掛る、今日はお前さん達が主役じゃ楽しみなさい。」
暗にオスマンがこの部屋からの退室を促す。
「・・・考えても分からないし、そうしましょう。」
ニュー達も結論をせずに、その案に従う。
(・・・・それって、もしニュー達がスダ・ドアカワールド帰っても、ニュー達の時代じゃ無いかもしれないって事?・・・)
ニュー達の会話から、ルイズはその可能性を考えたがとても口には出せなかった。
222ゼロの騎士団:2009/02/02(月) 21:52:41 ID:F2qJFvjk
陽が暮れて、華やかにフリッグの舞踏会は開催された。
「しかし、なぜスダ・ドアカワールドの物がこの世界にあるのだ」
ワインを飲みながら、ゼータは考え込んでいた。
「そんな事もあるんじゃねぇか、俺達が召喚されるくらいなんだし」
ロースト・ビーフを独占しながら、ダブルゼータが答える。
「たしかに、それにあの騎士やドライセン考えるときりが無い」
カットされたフルーツを皿に持ちながらも、その皿は進んでいない。
「俺は相棒が握ってくれるなら、何も問題ないけどな」
デルフも、会話に交ざりたいのか口を挟む。
「そう言う訳にもいかんだろう。ん、あれはキュルケとタバサじゃないか」
新たに開かれた扉から、見知った二人が現れる。
「あら、三人ともつまらない顔ね、もっと楽しみなさいよ」
胸元の空いたドレスを纏ったキュルケがウィンクを送る。
「答えに近づいたと思ったら、そうでは無かったからな落ち込みもするさ」
ニューが首を竦める。
「タバサ、そのドレスすごく似合っているよ」
上質な黒いドレスに身を包んだタバサを見てゼータがそれを褒める。
「ありがと・・」
表情を変える訳でも無く、そのままテーブルに近づきご馳走を侵略し始める。
「タバサ、その魚は俺のだ!」
狙っていた魚を取られダブルゼータが抗議する。
「早い者勝ち」
そういいながら、タバサは次のサラダに取り掛かる。
「おもしれぇ、その勝負受けて立つぜ!」
タバサの宣戦布告に応じて、ただでさえ速いペースをさらに上げる。
「ある意味いつもどおりね・・・ゼータ、あなたダンスは出来る?」
微笑ましい目で見つめながら、キュルケがゼータに話しかける。
「出来なくはないが、どうしてだ?」
「決まってるじゃない、ダンスのパートナーよ。ダブルゼータに相手が務まる訳ないじゃない」
必死な目で、魚の皿を取りあう二人に目を向ける。
「いいのか?君と踊りたい奴の視線を感じるが」
周りからの悪意ある視線をゼータも感じる。
「彼らとは後で踊ってあげるわ。で、お相手して下さいますミスタ?」
キュルケが妖艶な仕草で手を差し伸べる。
「私でよければ、ミス・ツェルプストー」
その手を取り、ゼータとキュルケがホールの真ん中に消えていく。
「しかし、使い魔と踊る奴なんか初めて見たぜ」
デルフも、それを見てからかいの声を上げる。
「まぁ、いいじゃないか・・・・」
酒も入っているのか、ニューがそれを見ながら場の雰囲気に少し酔いしれる。
「あの・・・一曲お相手して下さいますか?」
ニューが振り返ると、そこには桃色の髪の少女が声をかけて来た。
「すまないが、私はゼータの様には踊れんよ、申し訳ないお嬢さん」
ニューが丁重にそれを断る。
「ぷっ!何がお嬢さんよ、自分の主が分からないの?」
そう言いながら、少女は笑い出した。
「え!もしかして、ルイズ!?」
目の前の少女が、自分の知っているルイズとかけ離れている事にニューも驚く。
「そうよ、主の顔も分からない位酔ったの?」
起こった様子もなく、ルイズはワインを頂く。
「そのようだ、似合っているぞ」
ニューが素直に主の姿を褒める。
「あたりまえよ。それで、貴方はお相手して下さらないの?ミスタ・ニュー?」
初めて会った時の芝居がかった仕草でルイズが相手に誘う。
「私は、こう言った事は下手だぞ?」
「下手でもいいわ、取りあえずこれはご褒美と思ってくれていいわ」
「褒美よりも自由が欲しいがね、分りました、お相手させて戴きます。ミス・ヴァリエール」
そう言って、ニューはルイズの細い手を取った。
自分の使い魔と踊る奇妙な舞踏会はこうして過ぎて行った。
223ゼロの騎士団:2009/02/02(月) 21:53:23 ID:F2qJFvjk
アンリエッタは夢を見ていた。
「アンリエッタよ、異世界の王女よ・・・・」
夢の感覚である事を確認しながら、その声を聞いた。
「あなたは?ここは?」
その声は敵意は無く、恐怖は無かった。
「我は黄金龍より託されし者・・・アンリエッタよこの世界に邪悪なる物が現れようとしている」
厳かに、何かがアンリエッタに警告する。
「邪悪なる物?それはレコンキスタですか?」
アンリエッタは自身にとって敵を思い浮かべる。
「それは一部に過ぎない、そこからさらに邪悪なる物が現れ、この世界を破滅に導くであろう」
「それはいったい何なのですか!?私に如何しろと言うんです、私には闘う力などありません。」
自分が無力である事は知っている。この者は、自分の存在がどれほどのものか知らないのであろうか?
「アンリエッタよ戦うのは一人では無い。
ルイズに、虚無の力を持つあの娘に『始祖の祈祷書』を授けよ、それが汝の力となるであろう。」
そう言い残し、声が遠くなる。
「待って下さい、ルイズが虚無とはどう言う事なのですか?あなたは何者なのですか?」
一方的に告げられて、アンリエッタが必死に情報を得ようとする。
「我は・・・光の化身なり・・・・」
そこで、アンリエッタは現実に帰った。
「光の化身・・・・」
最後に、その言葉だけは何とか聞き取れた。
「ルイズ・・・あなたが何故?」
自身だけでは無く、親友まで過酷な運命が待っている事に、
アンリエッタはただ泣きたくなった。

ガリア王国 プチ・トロワ
ソファーに一人の少女が小鳥と戯れていた。
「じゃぁ、たのんだよ」
何かをくくりつけて、小鳥を空に放つ。
その様子を、嬉しそうに見つめる。
「これで、あのガーゴイルも・・アイツのビビった顔が目に浮かぶわ」
歪んだ事を空に吐きながら、少女が嬉しそうに声を上げる。
「無表情のアイツでも、この任務を見たらどんな顔をするかねぇ」
その時の表情を思い浮かべながら、彼女は愉悦に浸る。
「何かいい事でもあったのかい、イザベラ」
不意に、後ろから声が掛る。
「アンタかい、もしかしてもう終わったのかい?」
「ああ、終わったから、報告に来たんだよ」
どうやら、彼女に報告に来たらしい
「あの山賊団はうちの騎士達でも手を焼いていたんだよ、
それを如何にかしちまうとは、さすが、私の使い魔だね」
少女が手柄を自分の物の様に喜ぶ。
「アンタは最強の使い魔だよ、アレックス」
自身が手に入れた力に、ただ少女は酔いしれていた。
224ゼロの騎士団:2009/02/02(月) 21:53:50 ID:F2qJFvjk
「21あいつにはお前が必要なんだ」
頑駄無真駆参
ナイトガンダムに似ている。
HP 2800

「アンタは最強だよアレックス」
始まりの地トリステイン完結
その名前の意味は
To Be Continued・・・

ゼロの騎士団 PART1 始まりの地 トリステイン

「おねがい、姉さんを助けてあげて」
少女はそれしか言えなかった。
「姉さんは隠しているけど、危険な事をしている。」
(私には助ける事は出来ない、けど・・・)
自身の願いで、彼が傷つく事を同時に恐れた。
「・・・マチルダを助ければいいんだな」
そう言いながら、ドアに向かい歩く。
「・・・ごめんなさい」
「俺はお前の使い魔だ、気にするな」
その声と共に、ドアを開ける音がする。
「必ず、帰って来てねマークスリー・・・」
225ゼロの騎士団:2009/02/02(月) 21:56:18 ID:F2qJFvjk
以上で投下終了です。
2部の前に番外を挟みたいと思います。
キャラカーンはナイトガンダム物語3に出てきて、
続編の聖騎兵の複線になってたました。
メガガンダムは初代円卓の騎士でダブルゼータの遠縁です
226名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 22:05:42 ID:EUxy5kPz

盾盗んで逃げた頃のナイトガンダムか
227名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 22:07:15 ID:wjiEBO6o
騎士団の人乙です。
まさか真駆参とは…そしてイザベラがアレックス召喚…ヤベェwktkが止まらない。
228名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 22:10:30 ID:1VeBURge
乙。
しかし、今考えると武者の当て字って物凄いな…。
229名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 22:12:09 ID:YxRh+GGI
真駆参
だから
盾盗んで逃げた真悪参とは別人

実際はもっと複雑な事情があるみたいだけどそこらへんは割愛
230名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 22:14:23 ID:xOy+SZVJ
騎士団の人乙
しかし真悪参時代のナイトの子孫がここで来るとは…
231名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 22:21:57 ID:/oM3uIdG
>>225
乙。
初代円卓の騎士という事はその後ブリティスが一度滅亡して、
その後二世の話から聖機兵物語と続くんだよな。
それじゃ聖機兵物語時のアムロの年齢って一体…
232名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 22:47:58 ID:VrLIaBYk
>>225お疲れ様です。
真駆参は漫画版だとスペリオルドラゴンの仮の姿(らしい)って設定だったりするんですよね。
あと一時期大将軍になったときにデザインがスペリオルドラゴンに似てたりとか・・・
233名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 22:59:18 ID:YxRh+GGI
「白銀の盾」を武者の世界に返しに来たらしい
234名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/02(月) 23:35:06 ID:MvPnLH23
アルガス三騎士がなんかに似てると思ってたんだが、鷲の三人に似てるw
235鋼の人 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/03(火) 00:05:47 ID:ho63dHJj
どうもこんばんわ。
試験終わったけど卒業できるのかなぁ、と不安になりつつ投下に来ましたよ。
とりあえず、0:20分から。
236鋼の人 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/03(火) 00:06:35 ID:ho63dHJj
っと、失礼上げてしまった。
237名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 00:15:49 ID:ntWvGKeN
支援する
238名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 00:16:26 ID:pEUZxe5t
>>234
俺は前からずっとドラえもんズに似てると思ってた。
239鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/03(火) 00:20:33 ID:ho63dHJj
「『正拳』!『裏拳』!」
 硬く握り込まれたアニエスの拳が縦横に伸びた。取り巻く敵兵の顎を石榴に砕き、肋骨が小枝のようにへし折れる。
 二つ折りになって斃れようとする敵兵を蹴り飛ばし、押し迫る兵士を前に視界を切り開くと、腕を引いて構えを作る。そして軽く息を吐いた。
「『鬼走り』!」
 口述し技のイメージを明確にする。そして引いた拳を素早く突き出した。空を切った拳の拳圧が大気を貫いて、大砲で薙いだように前方にいた兵士達を打ち散らす。
「ぐっ!」
「げあっ!」
「げおるぐっ!」
 拳圧を受けて兵士の身体は破裂音と共に弾かれる。斃れて吐き出す血は内蔵を潰されて黒々としていた。
 
 
 斯く、アニエス率いる銀狼旅団はトリスタニアの軍人…いや、ブリミル以来の四国に根差した軍人の想像すらしなかった戦法と戦力で、押し迫るアルビオン軍を好く防いだ。
しかし銀狼旅団全員がアニエスと同等の戦闘力を有しているわけではない。アニエス自身も突出しすぎないように味方の位置を把握し、徐々に後退しながら戦っていた。
「擲弾!擲弾!」
 アニエスは号令を飛ばしてから首に提げた竹笛を吹く。笛の音を聞いて戦っていた銀狼旅団員は懐の金属球を敵陣に向かって投げた。
 投げた金属球には火のついた紐がついており、紐の先は球の中に詰められた火薬に繋がっていた。
 数拍後、敵兵集団の内部数箇所で爆発が起きる。爆発の範囲内にいたアルビオン兵は爆風と飛散する破片を受けて悲鳴を上げて斃れた。
 その隙を突いて銀狼旅団が素早く後退すると、今度はアストン伯の部隊が前方に出て素早く練金【アルケミー】を使った。
「あぁっ!」
 擲弾に気をとられていたアルビオン軍は、地面の揺れに前方を見直して驚いた。
 それまであった開けた街道に、草の生えるように地面から石板が持ち上がったかと思うと、一瞬の内に巨石を並べたような『砦』が出来上がっていたのである。
 
 地上のアルビオン軍はその時知らなかったが、この砦はアルビオン軍側に見えるほんの一部だけが砦として機能するようになっている。
 土の工作に長けた専門のメイジではないアストン伯達が、アニエスらと図って創り出した張りぼての砦だった。
 張りぼてとはいえ砦は砦。銀狼旅団の切り込みを受けて体勢の崩れていたアルビオン軍は、あとわずかで村に入れる位置まで進みながら、
その足を止めざるを得なかった。
 
 
240名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 00:21:39 ID:lAXav2Do
支援
241鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/03(火) 00:22:19 ID:ho63dHJj
「ロベルト大爺ちゃーん!」
 村の方々に火の手が上がっている中、ヴィクトリア・ナイツ『シエスタ』はロベルトの宿『北の門』亭へ避難者の中にいなかったロベルト老人を探しに来ていた。
 『北の門』亭は奇跡的に火災を免れていた。――村の火災の多くは避難の時の混乱でおざなりになった火始末が原因のようだった――
宿は中に居た人が大急ぎで出て行ったせいか、普段より幾分か散らかっていた。
「大爺ちゃーん!!」
「そんなに大声を出さなくても、聞こえてるよヴィクトリア」
 シエスタの声に応じ、のっそりと店の奥からロベルトが出てくる。その背格好から怪我をしている様子もなく、シエスタは安堵した。
「大爺ちゃん!無事だったのね。…その弓は?」
 ロベルトの節くれた手には弓矢が握られていた。腰には矢筒も提げている。
「ふふ。賊が来ると聞いて血が騒いでな。一丁この『静弦の弓』で追っ払ってやろうと思ってね。物置から引っ張り出すのに苦労したよ」
 ロベルト老は不敵に笑いながら弦の張り具合を見るように弓を引いては戻しを繰り返している。
「もう、駄目だよ!早く森に避難しないと…」
 シエスタはロベルト老の手を引いて『北の門』亭を後にすると、西の森へを行く道へ足を戻した。
 と、北の方から慌しい足音と共に、手に銃器や剣、槍を持った者達が広場の方へと駆け込んできた。皆、血と泥に濡れた格好の中、
一人煌く銀のコートの者が勇ましく号令を掛けた。
「編成を変えるぞ!バッカス、シェリーは長銃【ハークィバス】、ドロシー、エリーは槍を持て。槍がなければ剣だ」
 銃杖を支えに広場のあちこちで兵士達が武器を準備するのを呆然と見ていると、号令を出していた人物はシエスタたちを発見して声を上げた。
「…そこにいるのは誰だ?」
「!!」
 コートの人物はシエスタたちを見止めると駆け寄って、老人と少女を見比べて聞く。
「…住人は全員避難したと聞いていたのだが」
「あ、あの…その…」
「敵軍再編成して突撃してきます!」
 陣に張り付いていた部下からの報告に、コートの人物は踵を返して再び最前線に舞い戻っていった。
「お、大爺ちゃん。早く逃げるよ!」
 ロベルトの手を引いてシエスタは懸命に走ろうとするが、既に背後から猛ったアルビオン兵の怒号が響いていた。
「おおおおぉ!」
「殺せー!切り倒せー!」
 無形の殺意が漲る声が聞こえ、すくみ上がってしまったシエスタをロベルトは手を引いてその場から退散するのだった。
 
 
 
 『タルブ戦役・四―誘う魔卵ー』
242名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 00:23:20 ID:0yiGMozV
sien
243名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 00:23:25 ID:0yiGMozV
sien
244名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 00:25:01 ID:ntWvGKeN
支援
245鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/03(火) 00:25:25 ID:ho63dHJj
 
 
 
 タルブが王軍を一日千秋で待っている最中、王都トリスタニアのノーブルタウン(貴族邸宅街)の一角に建てられたラ・ヴァリエール公爵家別邸の一室。
 エレオノールとルイズの二人は父ラ・ヴァリエール公に言われた通り、荷物を纏めて別邸に移っていたが、エレオノールが使用人達に事態の始終を調べるように配り、
今エレオノールの手には王宮に残していた使用人から届いた簡素な手紙が握られている。
 ルイズは椅子の上で不安と猜疑に縮み上がっていた。一方エレオノールはそんな妹を思いながらも、事態を理解しようと努めて神経の糸を張らせていた。
「…読むわよ」
 ルイズは首を振らなかった。それを無視してエレオノールは手紙を読み上げる。
 エレオノールは静かに手紙を読んだ。それは伝聞推定の域を出ないものだったが、タルブがアルビオンの軍勢から侵攻を受けているらしいこと。
それに向けて王政府が急いで王軍の準備を始めているらしいことが書かれていた。
 手紙を読み終わった時、エレオノールは憤りと焦りが混ざり合った顔で手紙をテーブルに投げ捨てた。
 ルイズは膝を抱える。上質の皮と綿の打たれた椅子に華奢な体が沈み、顔色がチェリーブロンドの髪に隠れた。
「…アルビオンと戦争になるのかしら」
「…多分ね」
「こんな時の為に姫殿下は輿入れするはずなのに、ね…婚儀前じゃゲルマニアも味方なんてしないわね…」
「そうね…」
 エレオノールはルイズの言葉に相槌を打つのが精一杯だった。
 しかし目の前の妹は、せっかくの晴れの舞台が沙汰止みになって自失状態なのは明白で、できれば傍にいてやりたかったが、かといって傍で
なんて声をかけていいのか分からない。
(ここにギュスターヴ殿がいてくれたら任せられるのだけど…)
 そうエレオノールが思案に耽ろうとした時、静かに使用人が傍にやって来て礼をする。
「お嬢様。アカデミーの方が面会を希望しております」
「今日は休暇を貰ってるのよ。後にして頂戴」
 正直今はアカデミーよりルイズが大事だった。それくらいの甲斐性はエレオノールにも、ある。
「しかし至急エレオノールお嬢様に会わせてほしいと先方が申しております。なんでも、予算の決済がどうとか…」
 それを聞いて一層にエレオノールは不愉快な顔をした。世間がざわつき始めているというのに、研究員の連中は自分の研究に使える予算の取り合いの方が大事らしい。
「…姉さま」
 それまで黙っていたルイズが顔を上げる。
「お仕事の用事が出来たんでしょう?私は大丈夫だから、そっちに行って」
「で、でも貴女…その…」
「いいの。私は大丈夫だから」
 ルイズは笑ってエレオノールに手を振る。
「大丈夫。そりゃあ、せっかく作った祝詞も、賜った巫女役も、全部ご破算になっちゃいそうだけど。…それだけ。それ以外はいつもの私と、なにも変わらないわ」
 
 そう、いつもの…『ゼロのルイズ』に戻るだけ。
 
 「ほら、待たせちゃいけないわ。行ってらして、姉さま」
 そう念を押されると、エレオノールも抗弁してやれなくなってくる。どこか脱力気味に使用人へ「私の部屋に案内しなさい。そこで話を聞くから」とだけ言って、
ルイズの前を辞していく。
 そして部屋にはルイズと、部屋つきの使用人が一人だけになった。
 使用人から話しかけるはずもなく、ルイズは陽光の入り込む窓から遠い椅子に座ってあらぬ彼方を眺めていた。
「……ねぇ、貴方」
 暫くの無言の後に、ルイズは使用人に声をかけた。
「一人になりたいの」
 不気味なほどに無感情な声で、そう言った。
 
246鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/03(火) 00:28:17 ID:ho63dHJj
 使用人が困惑しながらも部屋を出て行くのを確認して、ルイズはテーブルに突っ伏して、啼いた。
 声は出ない。呻きも無い。使用人を下がらせた時と変わりない無表情、無感情のままとろとろと透明なものが溢れて毀れる。
 一方で、そんな涙を流す自分を冷たく見透かす自分がいることも気付いていた。
(何を泣いているの?貴族らしい証が立てられるはずだったのに、それが立ち消えになったから?国難に何も出来ない無力な自分だから?ちゃんちゃら可笑しいわ。
私は『お前は』魔法の使えないオチコボレ。泣くほどの資格も価値もないわ…)
 冷ややかに自分を詰っても、涙は止め処なく流れる。どうしようもないという自覚が、神経をがさがさと引っかいて、小さな胸がギリギリと軋んだ。
「……」
 ふと、ルイズは立ち上がり、部屋の隅にある机に投げ置いた自分の鞄を手に取った。
(ゲルマニアの加勢が無い以上、トリステインは勝てないわ。負けなくても、もうボロボロ。婚儀の為に作った祝詞も、もう要らないわね…)
 塗りこめた黒い洞のような気分が心を覆っていく。何日もかけて作った祝詞が、熱心に心砕いていた過去の自分を思い出させて不快だった。
 ルイズは祝詞を書いた原稿を破り捨てようと鞄を開け、中をまさぐった。すると、手先に不自然な温もりを感じた。日向に置かれていたわけではないのに、
手の触れる箇所は犬の腹を撫でたような暖かさがある。
「……『始祖の祈祷書』」
 それは鞄の中に入っていた始祖の祈祷書だった。古ぼけた装丁の古書を引き抜くと、間違いなくそれはルイズの両腕の中で小動物の体温のような暖かさを
ルイズに感じさせたのである。目を閉じると、本自体が脈を打っているような錯覚さえ与えた。
 ぼんやりとルイズは、特に理由もなく『祈祷書を開いてみたくなった』。手は吸い付くように祈祷書の表紙を掴み、僅かな重みもなく本が開かれる。
「…ッ!」
 開かれた面を視界に収めた瞬間、ルイズは背筋を蟻が這い回るような戦慄と、同時に少し前に食べたパイが身体を逆流するほどの嘔吐感に襲われた。
それでもルイズの視線は開かれた祈祷書に釘付けにされたように動かない。いや…動けなかった。
「字が…浮かび上がっている…?」
 それはかろうじてルイズにも『字』なのだろうと分かった。白紙とされ、現に昨日まで真更だった祈祷書のページを、インクで書いた真新しい文章が
端から端まで埋め尽くしていたのだ。
 だが、それはルイズにとって『字』として認識できても意味が読み取れるものではなかった。祈祷書に浮かんだ文章はルイズの知るハルケギニア文字の、
いかなる文体とも異なる、まったく未知の文字で綴られていたのだ。しかもそれは、肉の如き温度を持つ祈祷書に合せるかのようにうねり、ページの上を這い回り、
刻一刻と文章の構成を変え続けるのだ。
「なに…これ…?!」
 ルイズの視線は揺れ動いた。ルイズの眼球は本人の意思を無視して、ページを覆う蠢く文字列を舐めるように読み続けるのだ。
 しかもルイズは不思議なことに、文章の『意味』が分からないのに『理解』していた。それは文章の読解というより、見えたままが頭の中に焼きついていくような感覚だった。
(『異界に…混ざる…吾らの血…ふたたび……これを…開いて…始まりの…荒野に…赴くべし…』)
 感覚が針のように研がれていく。意識が徐々に遠くなるのに、五感に感じられる全てがどんどん広がっていく。
 祈祷書の文章を読む度に、ルイズの身体は意思を離れて勝手に動く。ページがめくられ、またうねる文章を見せられる。ページを捲る指にあった
『水のルビー』が視界の端で眩しいほど輝いていた。
(『…命…集め…旅立つ…』)
 そこまで読んだ瞬間、ルイズは視界が真っ黒になった、と感じた。視界だけではなく、研いだように鋭くなっていた五感も、何もかもが覆い隠されたように感じなくなる。
その何もない感覚の中で、ルイズの意識は次第に遠く、薄らいでいった……。
 
 
247鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/03(火) 00:30:14 ID:ho63dHJj
「お嬢様…?」
 ルイズに部屋を追い出されていた使用人は暫くして、気晴らしをしてもらおうとお菓子を持って部屋に戻ってきた。
 部屋に入ると、ルイズは窓を向いて立ち尽くし、その左手では大きな古書を広げていた。
「気晴らしにでもと、お菓子をお持ちしま…!?」
 ルイズが使用人の声に振り向く。使用人は『それ』を見た驚きに、菓子を乗せた盆を大きく揺すらせた。ルイズの特徴的な鳶色の瞳が、
妖しく透ける金色に変わっていたのだ。
 ぱくぱくと驚きで声が出ない使用人を、ルイズは小首をかしげて眺めたかと思うと、ニコッと嗤って呟いた。
「『吸収【サクション】』」
「ッ!?」
 ルイズの声を聞いた使用人は落雷に打たれたように身体を痙攣させた。そして口や耳、身体の穴という穴から青白い気体の様なものが漏れ出し始め、
それは目の前のルイズに向かって流れていった。
「ぁ…ぁ…ぅ…」
 気体が漏れ出て行くと同時に使用人は倒れた。顔面を蒼白にし、呼吸がか細くヒューヒューと鳴っている。
「『やはり一人じゃ足りないわね。もっとたくさん要るわ』」
 倒れた使用人を、ルイズは変貌した金の瞳で見下ろしていた。
「『タルブが戦場になるって、姉さまが言っていたわね』」
 手の上では『水のルビー』を填めた指が抱えるほどある『始祖の祈祷書』をくるくると回していた。
「『この者の記憶の中に、何故かあれがあるらしいことが残っているわね。丁度いいわ。持って行きましょう』」
 名案を思いついた、と言わんばかりにぱぁっと明るい表情で、ルイズはさらにくるくると祈祷書を回す。
 いや、ルイズ自身が回しているわけではなかった。祈祷書自体が高速でルイズの指先で回っているのだ。祈祷書は徐々に回転の速度を上げると、
ある速度でぐにゃりと粘土のように潰れた。祈祷書はぐにぐにと内側へ曲がっていく。
 祈祷書は最後、ルイズの片手に収まる大きさの、『卵』に変貌した。
 
 
 『飛翔機』による初飛行を成功させたギュスターヴは、上機嫌で地下厨房にやってくると、普段よろしくマルトーの賄いを食べていた。
「おお、そうだ。ギュス、お前さんにさっき早馬で手紙が届いてたぜ」
「手紙…?」
 パンにペーストを塗っていたギュスターヴの手が止まる。
「商売を始めて手紙を貰う数が増えたみたいだな」
「まぁ、そう頻繁に王都に出られないからな…」
 マルトーの懐から出された封筒を見て、ギュスターヴの眉間が寄った。
「…マルトー。これは本当に俺宛なんだな」
「え?あ、ああ。そう聞いてるが」
 ギュスターヴは神妙な面持ちで封筒を見た。封筒は朱色の紙で作られたものだ。封は切られていないが、蝋止めの部分に三つ葉の印が入っている。
(ジェシカからだな。緊急の知らせか…)
 無造作に封を開いて中身を読む。急いで書いたらしく、誤脱字を訂正する横線が各所にあり、また文体もあまり綺麗ではない。
 しかしギュスターヴの目はそんなことよりも書かれている内容に向けられた。脳裏に電撃が走る。
(アルビオンと開戦だと…!しかも、タルブが戦場になるなど…!!)
 手紙を見た瞬間様子の変わったギュスターヴにマルトーが不安げな声をかける。
「お、おい。一体どうしちまったんだよ…」
「マルトー、悪い。用事が出来た…」
 そう言ってギュスターヴは地下厨房を飛び出した。行き先は、コルベール研究塔…。
 
248鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/03(火) 00:33:14 ID:ho63dHJj
 研究塔前で『飛翔機』の整備をしていたコルベールに、ギュスターヴはトリステインがアルビオンと戦争状態に入ったらしい事を伝えた。
 コルベールは一瞬暗い顔をしたが、すぐに平静を装った。
「おそらく王軍が直ちに編成されてタルブに向かうでしょう。もしくはアルビオン側と交渉の場を用意しようと準備しているかもしれません」
「交渉?占領行動をとろうとしている連中と交渉などできんでしょう」
 椅子に腰掛けてギュスターヴは頭を抱えた。抱えた影の顔で脳裏に思い描く。
(王軍が出立するまでにタルブはかなりの被害を受けるだろう。こちらの軍事は完全に把握できているわけじゃないが、おそらく空軍による地上攻撃はされる。
盆地になっているタルブで、万一避難し損ねたとしたら……)
 一家の世話にはなりたくない、と言っていたロベルト老の言葉がよぎる。
「…そういえば、シエスタと言いましたか。あの子の故郷がタルブでしたな…」
 コルベールも彼なりに見知った少女の身を案じているらしい。
 不安な面持ちでギュスターヴが顔を上げたその時、学院の連なる塔から爆発音が轟いた。
「「!!?」」
 音は間近ではなく、もう少し遠くからのようであった。見上げると、何処からか上がった煙が空に細く垂れていた。
「女子生徒寮からのようですな……っ?!」
 コルベールは我が目を疑った。遠くに見える女子生徒寮の窓から何かが飛び出したのである。
 しかもその飛び出したものは地面に落ちるかに見えたが、落下の途中でフッ、と音もなく消えた。
「『ただいまギュスターヴ』」
「!」
 コルベールとギュスターヴの背後から聞き慣れた、だがどこか雰囲気の変わった声が聞こえる。
 振り向けば、そこにはルイズが居た。その手には卵のような物体と、暴き出された『灼熱に光る』ファイアブランドが、握られていた
「ルイ…ズ…?」
 唐突に現れたルイズの豹変は、ギュスターヴへ無意識の内に警戒感を感じさせるほどだった。
「『ええ、私よ。ちょっと色々あって、これからタルブまで出かけなきゃいけないの』」
 透けるほど綺麗で不気味な金の瞳が二人を見ていた。
「み、ミス・ヴァリエール…その姿は、一体…」
「『コルベール先生、お力をお借りしますわ』」
「は?」
 コルベールの返事を待たず、ルイズは卵を握る手をコルベールに向けて呟いた。
「『吸収【サクション】』」
「っ?!」
 その瞬間、コルベールの身体が磔にされたように固まり、体中を雷撃で打たれたかのような痙攣が襲う。
「がぁっ…ぁぁッ……っ?!」
 痙攣するコルベールの身体から漏れ出した青白い気体が、どんどんとルイズの身体に吸い込まれていく。
「ルイズ……何を…」
 目の前の出来事にギュスターヴも追従できずに唖然としていた。一方ルイズは、どこか満足げに痙攣するコルベールを眺めていた。
「『あぁ、素晴らしいわコルベール先生。貴方のアニマは鍛えられていて充実しているわ』」
「何をやっているんだと聞いているんだルイズ!コルベール師に何をしている!アニマとはどういうことだ!その手のファイアブランドは一体」
「『煩いわよ』」
 ルイズの声と同時にギュスターヴの目の前に炎の壁が押し寄せた。炎の壁はルイズの手にあるファイアブランドが振られたことで発生した『炎の術』の固まりだった。
「ぐっ?!」
 不意打ちを食らったギュスターヴは火達磨になって地面に叩きつけられた。そうしている間にも、コルベールの体から抜け出た青白い気体は
あらかたルイズに吸い込まれてしまう。
「がふっ」
「『ご馳走様でしたコルベール先生。これでタルブまで行けそう…』」
 うっとりと空を見上げるルイズ。手の卵がどくり、と脈打った。
「タルブで…何を……するつもりだ…」
「『あら、生きてたのねギュスターヴ』」
 倒れていたギュスターヴは、身に着けている衣服こそぶすぶすと焼け焦げていたが、身体自体には殆ど傷を受けていなかった。どうにか立ち上がり、
変貌したルイズを睨みつけた。
「『もっと沢山のアニマが要るわ。命を煌かせる場所に行きたいの。そう、例えば戦場にね』」
 冷ややかな金瞳は、ギュスターヴを果たして見ているのだろうか。
「『ギュスターヴ。あんたに用はないわ。あんたって空っぽなのね。コルベール先生にはあんなに満ち足りたアニマが入っていたのに』」
「人を入れ物のように言うんじゃない」
 軽薄に話すルイズに渇して叫ぶギュスターヴ。だが、ルイズは興味を無くしたのか、空を見た。
「『行くわ。さようならギュスターヴ』」
 そう言うと、ルイズの身体は真っ黒な影のようになって消えてしまった。
 
 
 
249名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 00:40:46 ID:0yiGMozV
sien
250名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 00:45:21 ID:Xebptdq9
ついにエッグ登場か支援
251名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 00:50:35 ID:GyetCdLs
なんとワクワクする展開。
252鋼の使い魔 代理:2009/02/03(火) 00:58:19 ID:wjNzyygH
トリスタニア北西5リーグの地点では、急遽編成された王軍総勢3000人の兵士達が整列していた。
 居並ぶ兵士達を前に立つのはアンリエッタだ。拵えたきりで長らく袖を通していなかった戦装束に身を固めている。
「我がトリステイン王国の名を与えられた兵士一同。私達はこれよりタルブに入り、アルビオンの軍勢と戦います。彼の者を吾らの国土から追い落とすのです」
 歓声で兵士達は応え、トリステイン王国軍は一路、タルブに向かって進軍を開始した。


投下終了です。
サガフロ2ですから、忌まわしき卵はやはり、やってきますよ。
ただし、サガフロ2本編と違い、ナイツ一族は探知することは出来ません。
本編のエッグはヘンリー・ナイツ(ウィリアム・ナイツの父、ジニーの曽祖父、『鋼』ではシエスタのひいひいおじいさん)
のアニマを取り込んでいたので、ナイツ一族はエッグの存在を感知できたのです。
…と、この編のくだりは、第二部以降でどうにか押し込みたいです。
では。
253名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 00:59:21 ID:Lsj63mMp
まさかエッグが復活するとは…
GJでした!
254名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 00:59:44 ID:wjNzyygH
避難所用SS投下スレ8冊目の方に続きがあったので代理しておきました
255鋼の人 ◆qtfp0iDgnk :2009/02/03(火) 01:05:43 ID:ho63dHJj
あ、訂正。
ぇー、ひぃひぃおじいさんじゃ足りないや。五親等離れるし…
256名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 01:18:31 ID:+JEeuy33
卵来たのか。スタークエイクはトラウマ
257名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 01:39:34 ID:qVa6tLM6
世界の合言葉は森
258名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 02:03:35 ID:gdJRiDCZ
森長可ですね、わかります
259名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 02:24:12 ID:4ZAH/ltd
ワルドがアルビオンに五体満足で到達出来るだろうか>鬼武蔵召喚
260毒の爪の使い魔:2009/02/03(火) 02:26:59 ID:bHiJXp0g
毒の爪の使い魔の第28話が書き終わりました。
予定その他が無ければ2:30から投下開始します。
261毒の爪の使い魔:2009/02/03(火) 02:30:34 ID:bHiJXp0g
では、投下開始します。

夕日が辺りを紅く染める。
ジャンガは切り立った崖の上の手すりに凭れ掛かり、ボーっとしていた。
消えたルーンやら、決闘の敗北やら、著しい身体能力低下やら、悩む事が多すぎて考えが纏まらない。
ゆえに今はボーっとしていようとそう考え、先程からずーーーっと人気の無いここにいた。

どれだけそうしていたか――突然、後ろから声が掛けられた。

「ジャンガ、こんな所に居たの…」
後ろを振り向くまでも無い。今の声が誰のかなど、考えるのは愚問だ。
ジャンガは特に感情を込めずに返事を返す。
「…ンだ?」
「何だも何も無いわよ。探したじゃない?」
「フン…、今はほっときやがれ…」
ジャンガの言葉にルイズは表情を曇らせる。
「もしかして…泣いてたの?」
「……」
返す言葉が無い。事実、あの敗北の後、大泣きしたのだから。
その様子にルイズは、自分の言った事が的を得ている事を確信した。
「朝の事を気にしてるの? 相手は魔法衛士隊の隊長、陛下を守る守護隊長なのよ?
あんたが相手にしたメイジとは比べ物にならない腕を持ってるんだから。
それに…あんたはまだ怪我が治りきっていないんだから、負けたって…」
「…怪我が治ってたって負けたさ」
「え?」
突然返された言葉にルイズは思わず声を漏らす。
「それってどう言う事?」
「……」
ジャンガは答えない。
ルイズはジャンガに駆け寄り、肩を掴んで揺さぶる。
「ちょっと、今のはどう言う意味よ? ちゃんと答えなさいよ!」
ジャンガは無言で左の袖を捲くり、左手の甲をルイズの眼前に突きつけた。
突然の事に一瞬呆気に取られたが、直ぐにルイズはそこに在るべき物が無い事に気が付いた。
「…ルーンが、無い?」
「…ああ、そうさ」
にべも無く、肯定される。
ルイズは更に問い質す。
「ルーンが無いって…どう言う事よ!? 使い魔の契約は一生の物のはずよ!?
どうして消えてるのよ!? と言うよりも、いつ、どうして、消えたのよ!?」
「消えたのはタバサ嬢ちゃんを助けた帰り道…、どうして消えたかは知らねェ…」
淡々と返すジャンガの言葉にルイズはムッとなる。
「じゃあ何!? あんたはルーンが消えたからあんなに弱くなったって、そう言うの!?」
「…他に理由が在るか?」
言われてルイズは黙ってしまう。
ジャンガは大きなため息を吐いた。
「ったく…嫌な物だな、使い魔ってのはよ。散々主人に逆らったら、勝手に放り出して、
更にそいつを著しく弱体化……最悪過ぎるな。よくこんな残酷極まりない物を考え付いた物だゼ」
「そ、そんな事言われたって……使い魔のルーンが消えるなんて、初めて聞いたわよ」
「フン」
忌々しげに鼻を鳴らすジャンガ。
「まァ…これで俺は晴れて自由の身だ。テメェにあーだこーだ言われる筋合いは、もう無ェんだ。
清々したゼ…キキキキキ」
そう言って笑うジャンガだったが、その笑い声に力が籠もってないようにルイズには感じとれた。
「…悪かったわ」
「…ケッ、何を今更」
ジャンガの言葉が胸に突き刺さる。そう…、確かに今更だ。
元々の原因であり使い魔扱いをしていた自分に、ジャンガの今の境遇に同情する資格は無い。
…だが、それでも悪かったと言いたかったのだ。
262毒の爪の使い魔:2009/02/03(火) 02:33:07 ID:bHiJXp0g
「…今更だってのは解ってるわよ。でも、原因はわたしだし、せめてあんたの体調を戻す手伝い位は…」
「必要無ェ…。テメェにこれ以上借りなんか作らせるか…」
その言葉にルイズは再びムッとなる。
「何よ! 心配してあげてるのに、その態度は!?」
「ウルセェ…、今はほっとけってんだよ…」
そう言ってジャンガは口を閉ざした。
ルイズはジャンガの背に向かって言った。
「ジャンガ…、わたし…ワルドと結婚するわ」
「ああ…そうかよ」
それだけ…、ただそれだけ…、ジャンガは返事を返した。
そう…、とルイズは呟き、ジャンガに背を向ける。
そして歩き出そうとした所に、声が掛けられた。

「まァ、精々裏切られても泣きべそかくなよ」

その言葉にルイズは勢いよく振り返る。
ジャンガはこちらに背を向けたままだ。
「…今の言葉、どう言う意味よ…?」
「どう言うも何も…言ったまでの意味だゼ?」
ルイズは拳を力強く握り締める。

裏切り?

誰が?

ワルドが?

幾らなんでも、今の言葉は聞き捨てなら無い。
「あんた! 幾ら負けたのが悔しいからって、言っていい事と悪い事があるわ!」
「なら別にいいだろうが? 事実だしよ…」
「何を根拠にそんな事が言えるのよ!?」
ジャンガは頭を掻く。
「目がな…」
「目?」
「冷たいんだよ。ありゃ、裏の世界で生きる者に良くある目だ。他者を利益の対象としてしか見ないな。
テメェの事も自分の利益になる物としてしか見て無いゼ、あのヒゲヅラはよ。
まァ、そんな小難しい事は抜きにしても…あの野郎が裏切るってのは解るゼ。
何しろ、俺が裏切り者だからな。嫌でも解るんだよ。どう言う奴が裏切るのかってよ。キキキ」
笑うジャンガに対し、ルイズは怒りで体中の血が沸騰しそうだった。
無理も無い、自分の婚約者を…憧れの人を、裏切り者と貶されているのだから。
「…いいわよ。あんたはそう言っていればいいわよ。でも、わたしはワルドと結婚するわ。
あんたは何も知らないからそう言えるけど、わたしはあの人の事を小さい時から知っている。
とても優しくて、気品があって、あんたなんかとは大違いなんだから!」
「キ、キキキ、キーーッキキキキーーーーッ!」
突然大声で笑い始めたジャンガに、ルイズは一瞬気圧された。
「な、何が可笑しいのよ!?」
ジャンガはルイズを振り返る。
「…いや、テメェがあまりにも”お約束”な台詞を言う物だからよ。
言うんだよな…裏切られた奴は、どいつもこいつも”あいつは違う”とか”自分は良く知ってる”とか。
そう言って信頼を寄せた先にあるのは―――裏切りだけ。
そこで初めて自分の愚かさに気が付くんだよな。馬鹿馬鹿しいゼ…」
手を広げ、やれやれと言った顔付きで首を振る。
「テメェも結局、そいつらと同じさ。俺自身裏切り者だしよ、断言してやる…」
ジャンガはルイズに爪を突き付け、言い放った。

「テメェは、あのヒゲヅラに裏切られる、絶対にな! キーーーッキキキキキキッ!!!」
263毒の爪の使い魔:2009/02/03(火) 02:36:09 ID:bHiJXp0g
その言葉に、ルイズは完全に我慢の限界を超えてしまった。
笑うジャンガに静かに歩み寄る。
「ねぇ…、ジャンガ…」
「あン? 何だ――」

パァァァァァン!

乾いた音が辺りに響いた。

突然の事にジャンガの思考は一瞬麻痺した。
歩み寄ってきたガキの言葉に笑いを止め、顔を覗き込もうとした瞬間、視界が横を向いた。
乾いた音が遅れて聞こえ、左の頬が熱を持ったように熱くなる。
視界を目の前に戻すとガキが右手を大きく振るった格好で身体を震わせている。
そこで、ようやくジャンガは、自分が左の頬を叩かれた事に気が付いた。

ルイズは肩を振るわせ続けている。俯いている為、表情は伺えないが、時折雫のような物が垂れている。
ジャンガが眉を顰めると、ルイズは顔を上げる。
両目は涙が溢れ、顔にはハッキリと怒りの表情が浮かんでいる。
「テメェ…」
「あんた…、あんた…、何様のつもり? 偉そうに口を聞いているけど、そんなに自分の言っている事が正しいの!?
そんなに自分は世界で偉いの!? …そんなに偉いわけないじゃない。あんたは、向こうでも裏切り者だったんだしね。
そんな奴に…わたしの思いを、好きな人を否定されたくない。侮辱されたくない!」
一気に自分の中の思いを捲くし立てるルイズ。
そんなルイズに気圧されたのか、ジャンガは何も答えない。
「最近、少しは柔らかくなったかな? とか思ったけど…そんな事なかったわ。
あんたはやっぱり最低よ! 他人を嘲笑って楽しむ外道だわ! 心配なんかするんじゃなかった!
あんたなんか…、あんたなんか…、死んじゃえばいいんだわ! 死んで、地獄にでも落ちればいいのよ!!!」
そう叫ぶと、ルイズはジャンガに背を向け、その場を走り去った。
後にはジャンガ一人が残された。
ジャンガは夕日に向き直ると、手すりに頬杖を突き、ため息を吐いた。
「地獄か…」
デルフリンガーが鞘から飛び出す。
「相棒…、イライラしてんのは解るがよ。ちぃとばかり言いすぎじゃないのか?」
「…事実を言っただけだ。何が悪い?」
「いや…、普通信じられないと思うぜ? 自分の好きな人が裏切り者だ、なんて言われてもよ?」
「フン」
「…まぁ、それは置いといてだ。相棒に一つ聞きたい事が有るんだけどよ?」
「後にしろ」
「え? ちょっ、まっ――」
有無を言わせず、ジャンガはデルフリンガーを鞘に押し込んだ。



ルイズが去って、どれだけの時間が経っただろうか?
夕日は既に山の向こうに沈んでいる。
空は夜の帳が落ち始め、重なった二つの月が姿を見せている。
しかし、ジャンガは手すりに頬杖を突いたまま、ボーっとしていた。
そこに彼を探しに来たギーシュとキュルケが姿を現した。
「ジャンガ、探したぞ?」
「そろそろ出港の時間よ。急がないと、船に乗り遅れちゃうわ?」
「ああ…、そうかよ」
そんな二人の言葉を聞きながら、ジャンガは返す。
そのジャンガの言葉に二人は呆れた表情を浮かべた。
264名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 02:37:51 ID:sqhQgLMj
鋼の人乙!
やっぱエッグ来ちゃったか……
スタークエイクはトラウマ

鋼の人に感化されて久々にサガフロ2を引っ張り出しました。
以前取り損なったゴールデンアックスとヴァレリアハートを3日かけて入手……
正直辛かった。
265名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 02:38:36 ID:sqhQgLMj
おっと支援だ。
266毒の爪の使い魔:2009/02/03(火) 02:40:33 ID:bHiJXp0g
「そうかよ、って…君」
「まだ落ち込んでいたの? いい加減に立ち直りなさいよ。あなたらしくないわね」
キュルケがそう言った時だ。
突如、地震と間違うばかりの大きな地響きが起こった。
「な、なんだ?」
「地震?」
振り返ったジャンガは、慌てる二人の向こうを見るや叫んだ。
「テメェら、後ろだ!」
「「え!?」」
二人が振り返ると、地面を突き破り、巨大な全身が岩で出来たゴーレムが姿を現した。
突然の事に呆然とする三人の耳に、女の笑い声が聞こえてきた。
「あーはっはっはっはっはっ!」
その声にジャンガとキュルケは聞き覚えがあった。いや、ありすぎた。
「この声は…」
見上げると、ゴーレムの右肩にその姿は在った。
緑色の長い髪を棚引かせた女性だ。
ジャンガはその女性の名を忌々しそうに呟いた。
「フーケ…」

ジャンガの言葉にフーケは満足そうに笑う。
「覚えててくれて感激だわ」
「テメェ、チェルノボーグとかって豚箱に入ってたんじゃなかったのかよ?」
「親切な人がいてね…、私みたいな美人はもっと世の中の為に尽くすべきだって言われてね。
それでこうして出してもらったのさ」
「ほゥ? それがその隣に佇んでる奴か?」
フーケの隣には黒マントを着込んだ貴族が立っている。
顔は白い仮面を付けている為に解らなかったが、どうも男のようだ。
ジャンガは視線をフーケに戻す。
「で? 折角シャバに出られたってのによ…、わざわざテメェはここに何しに来たんだよ?」
それを聞いてフーケの顔に凶悪な笑みが浮かぶ。
「それは勿論、素敵なバカンスをありがとうって、お礼を言いに来たんじゃない!」
叫ぶや、ゴーレムがその豪腕を振りかぶり、突き出してきた。
咄嗟に三人はその場を飛び退く。
ゴーレムの拳が地面にぶつかり、巨大なクレーターを穿つ。
飛び退くや、キュルケは杖を手にし、即座に詠唱を完成させる。
杖の先端から『ファイヤーボール』が飛ぶ。
しかし、フーケに衝突する直前、炎球は突如巻き起こった風に押し止められ霧散する。
風が起こる直前、隣の仮面の男が杖を振るったのが見え、キュルケは苦虫を噛み潰した様な表情になる。
「また風なの……いい加減にして欲しいわね」
以前、授業の時にギトーの風の魔法で、炎球ごと吹き飛ばされた苦い記憶が、キュルケの脳裏を過ぎる。
「…けど、やられてばかりの、あたしでもないけれどね」
杖を突きつけ、再度詠唱を開始する。
隣ではギーシュもワルキューレを出し、臨戦態勢を整えていた。
「『土くれ』のフーケ! このギーシュ・ド・グラモンが貴様を成敗してくれる!」
「面白いじゃない? やれるものならね! けど、その前に…」
フーケはジャンガに向き直り、怒りの籠もった目で睨みつける。
「あんたにまず礼をしなくちゃね!」
ゴーレムの腕が突き出される。
それを間一髪飛び退いてかわす。
「チッ」
「どうしたんだい? ご自慢の分身やカッターは使わないのかい?」
「ケッ、ザコにそこまでしてやる必要が無ェ…。と言うよりも、豚はブーブー豚箱で唸ってろ」
フーケの額に青筋が浮かぶ。
「言ってくれるじゃないさ!!」
再度、ゴーレムの豪腕が振るわれ、地面に三つ目のクレーターが生み出された。
地面を転がるようにしてその場を逃れるジャンガ。
立ち上がり、ゴーレムを睨みつけた。
267毒の爪の使い魔:2009/02/03(火) 02:44:03 ID:bHiJXp0g
「ふん、なんだいあいつ? 前とは比べ物にならない位、弱いじゃないさ?」
「おそらく、身体の怪我が響いているのだろう」
フーケの呟きに隣の仮面の男が答える。
「ふん、まぁいいさ。わたしはあいつにこの間の礼を出来ればいいからね」
男は答えない。耳を澄ますような仕草をすると、フーケに告げる。
「よし、ではここはお前に任せる。俺はラ・ヴァリエールの娘を追う」
「わたしはどうするのよ?」
呆れたように呟くフーケ。
「好きにしろ。…念の為に”これ”を置いていく」
そう言って男は懐に手を入れる。
取り出した手には何も握られていない。――否、指の間に何かが挟まっている。
ビー球位の大きさの、赤と黄色の縞模様のカラフルな色彩の玉だ。数は全部で三つ。
フーケは怪訝な表情でそれを見つめる。
「何だいそれは?」
男は返事をせず、無言で玉を放った。
玉は地面に落ちるや、パンッ、と音を立てて破裂。
途端、破裂した地点を中心として青白いゲートのような物が現れた。
フーケが驚く間も無く、ゲートから何かが迫り出して来た。
どうやらそれは幻獣のようだった。だが、どれも見た事が無い。
一匹は一メイルほどの大きさで、全身銀色の鉄のような肌をしている。
他の二匹は三メイルほどの大きさで、緑色をしており、巨大な盾を手にしている。
「何だい…こいつら?」
「幻獣だ。見れば解るだろう?」
「そりゃ、それ位は。…でも、見た事も無い奴じゃないさ?」
「見た目などどうでもいいだろう? ともかく、そいつ等も自由に使っていい。君の言う事は一応聞く。
では俺は行く、後は任せた」
そう言って、男は『フライ』で浮き上がると、その場を飛び去っていった。
その後姿を見送りながらフーケは鼻を鳴らした。
「まったく、掴み所の無い男だよ。…でも、まぁいいさ」
そうして思考を目の前の三人に戻す。

そう、今は復讐の事だけを考えればいい。あの痛みは万倍返しにしなければ気がすまない。

「覚悟してもらうよ、化け猫!」



目の前に突如として現れた三匹の幻獣。
見た事もないそれにギーシュとキュルケは動揺を隠せないでいた。
「一体あれは何と言う種族なんだ?」
「あたしに聞かないでよ?」
悩む二人。そこへ響く声。
「よろいムゥ・ぎん、ジャイアントたてムゥ」
「「え?」」
同時に声の方へと振り返る。そこにいるのはジャンガ。
ジャンガはため息を吐く。
「また”あいつ”かよ…」
呟き、三匹の幻獣に目を向ける。
268毒の爪の使い魔:2009/02/03(火) 02:46:55 ID:bHiJXp0g
『よろいムゥ・ぎん』――ムゥンズ遺跡の遺産である金属『ムゥハルコン』を加工した鎧を身に纏ったムゥ。
鎧を身に着けただけの”ただのムゥ”であるが、鎧の頑丈さがムゥと決定的な違いを生み出している。
また、どう言う訳か通常のムゥよりも腕力的に優れているようであり、侮れない。
大きさも通常のムゥよりも大きくなっている個体が多いのも特徴。

『ジャイアントたてムゥ』――巨大な盾を持ったジャイアントムゥ。
盾は非常に頑丈な素材で出来ているらしく、並大抵の攻撃では傷一つ付かない。
鋭い爪を利用した攻撃はもとより、盾の頑丈さを生かしたタックル、
盾に乗って地面を滑ったりするなどの攻撃方法を身につけている。
この緑色をした個体は最弱の種だが、それでもその持久力は侮りがたい。

「君が知っていると言う事は……まさか!?」
ギーシュの考えを肯定するようにジャンガは頷く。
キュルケも眉を潜めた。
「また、あのピエロ? 本当にいい加減にしてほしいわ…」
「ぼやくんじゃねェよ…。あいつがいない分、まだマシだと思いやがれ」
そう言って爪を構えるジャンガを見て、キュルケとギーシュも目の前の敵に集中した。
フーケが腕を振り上げた。
「それじゃお前達! やってしまいな!」
「ムゥーーー!!!」
命令に従い、三匹の幻獣が一斉に動き出した。

先陣を切ったのは、よろいムゥ・ぎん。
突進しながらムゥハルコンでコーティングした爪を突き出す。
ギーシュはワルキューレを操作し、それを迎え撃つ。
一体が腕を掴み、二体がよろいムゥ・ぎんの突進を止める。
力と力がせめぎあう。だが、よろいムゥ・ぎんの力はワルキューレを上回った。
身体を振り回し、二体のワルキューレを跳ね除ける。
そして、腕を掴む一体に爪を叩き込む。
何の抵抗も無く、爪は青銅のボディにめり込んだ。
それはまるでゼリーにフォークを突き刺してるようであり、青銅とムゥハルコンの硬度の差を如実に物語っている。
紙を破り捨てるように、よろいムゥ・ぎんはワルキューレを引き裂いた。
その光景に歯噛みするギーシュ。
よろいムゥ・ぎんの背後から、二匹のジャイアントたてムゥが飛び掛ってきた。
盾を構えたのと反対の手の爪を振り翳す。
突き出された爪をワルキューレに受けさせ、ギーシュは何とかその場を離れる。
だが、ワルキューレがまた二体破壊された。
作り出せるワルキューレの総数は十四体…、決して多いとは言えない。
無駄な事は出来ないな、と考えながらギーシュは造花の杖を振り、ワルキューレを出す。
その時、キュルケの『ファイヤーボール』が三匹の幻獣に飛んだ。
しかし、ジャイアントたてムゥは、その巨大な盾で炎球を防ぐ。
よろいムゥ・ぎんはまともに受けたが、その鎧には焦げ後一つ付いていない。
自慢の炎がまるで効いていないのを見て、キュルケは顔を顰める。
「まったく…、盾を持ってる方はともかく、銀色の方は何て頑丈さなの?」
そんなキュルケに向かってジャンガが声を掛ける。
「よろいムゥの鎧は特殊合金『ムゥハルコン』製だ。ちょっとやそっとじゃ傷一つ付かねェゼ?
考えも無しにドカドカ魔法を撃つだけじゃ敵わねェんだよ、バカが!」
「バカは余計よ! 大体、そんな奴をどう相手しろってのよ!?」
「ンなのテメェで考えろ!」
「あなたこそ何も考えて無いじゃない!!?」
怒鳴りあう二人に、見かねたギーシュが口を挟む。
「君達、喧嘩をしている状況では無いぞ!?」
ギーシュの言葉に二人は同時に舌打し、幻獣に向き直る。
三匹の幻獣は三人に一匹ずつで渡り合う事に決めたらしい。
よろいムゥ・ぎんはジャンガに、二匹のジャイアントたてムゥはギーシュとキュルケに、それぞれ襲い掛かる。
269毒の爪の使い魔:2009/02/03(火) 02:50:32 ID:bHiJXp0g
「ムゥムゥムゥムゥ〜〜!」
「クソッ!」
よろいムゥ・ぎんの猛ラッシュに、ジャンガは回避で手一杯だ。
本来ならば軽くいなせる相手であるのだが、今は大層な強敵となっている。
しかも特別製なのか…、動きは素早く、力もある。
とにかく今の身体能力が著しく低下しているジャンガには強敵であった。
そうして攻撃をかわし続けていると、いつの間にかフーケのゴーレムの方へと追いやられていた。
しまった、と思った時にはゴーレムの拳が振り下ろされていた。

「これで終わりだよ!」
凄まじい爆音と聞き間違えそうな巨大な音が響き渡り、地面にクレータがまた一つ出来た。
しかし、そこにジャンガの姿は無い。
「チッ、余計な事を…」
悪態をつくフーケの視線の先、ワルキューレに抱えられ、ゴーレムの拳から逃れたジャンガの姿が在った。

「大丈夫かい!?」
ギーシュの声が聞こえた。
ジャンガはワルキューレに抱えられたまま、首だけを動かしてギーシュを見るやため息を吐いた。
「…まさか、殺そうとしたガキに助けられる羽目になるなんてよ。情けねェ…」
「皮肉を言ってる場合じゃないでしょう!?」
ジャイアントたてムゥをファイヤーボールで牽制しながら、キュルケが声を掛けてくる。
ギーシュもワルキューレで応戦をしている。が、やはり俄然こちらが不利だ。
ジャンガはイライラしながらキュルケに怒鳴る。
「オイッ、雌牛! テメェ、前にジョーカーにぶっ放したあの特大の炎はどうしたんだよ!?」
「あれは今のあたしじゃ一発が限度。どれか一体を倒しても、あたしの精神力が底をついちゃうわよ」
使えねェ、とジャンガは心の中で悪態を吐いた。

唐突に二匹のジャイアントたてムゥが走り出したかと思うや、手にした盾の上に飛び乗った。
盾に乗ったジャイアントたてムゥは、そのままくるくると回転しながら走る。
岩の壁や手すりに当たると跳ね返り、その度に速度を増していく。
複雑な動きに三人は予測が立てられない。
やがて、一匹が死角からキュルケに突撃をかけた。
「え…? きゃあっ!!」
凄まじい勢いの変則的な突進をまともに受け、キュルケは大きく弾き飛ばされる。
地面に身体を強かに打ちつけ、そのままゴロゴロと転がる。
ようやく止まっても痛みに上手く身体が動かない。
ふと、自分の周りに影が差した。
「キュルケ! 危ない!」
ギーシュの声が響く。
見上げるとゴーレムが拳を振り被っているのが見えた。
「あ…」
フーケが笑った。
次いで突き出される巨大な岩の拳。
潰された自分の無残な姿が脳裏に浮かんだ次の瞬間、キュルケの身体は大きく横に突き飛ばされた。
何が起こった? 現状を確認しようと体を起こす前に、悲鳴が耳に届いた。

「ぐぁぁぁぁぁっっっーーーーー!!!?」

岩の手すりに何かが吹き飛ぶのが見えた。――ジャンガだった。
拳を突き出す姿勢をとっているゴーレムと、吹き飛んだジャンガを見比べるキュルケ。
フーケの笑い声が聞こえた。
「はっ、あんなに学院の人間を虐げていたくせに、今更人助けかい?」
嘲りを含めたフーケの表情にキュルケは確信した。
「あいつ……あたしを助けた?」

手すりに叩き付けられたジャンガは荒く息を吐く。
次いで咳き込むと、僅かに血が飛び散った。
270毒の爪の使い魔:2009/02/03(火) 02:53:55 ID:bHiJXp0g
雌牛を突き飛ばした後、ゴーレムの拳を諸に受ける事は承知の事実。
しかし、ガードをしたとはいえ、やはりあの拳を浮け切る事は不可能だった。
明らかにダメージは大きい。しかも、手すりに衝突した際、左腕をやってしまった。
ダランと垂れ下がる左腕を横目で見ながら、ジャンガはため息を吐いた。
あの雌牛がゴーレムに潰される、と気が付いた瞬間、勝手に身体が動いていた。
いや…、実際は彼女の身に大事があるのはよくないと一瞬で考えたからだ。
何しろ…彼女は、あのタバサ嬢ちゃんの親友なのだから。
(甘ェ…、甘過ぎるゼ…)
内心で苦笑いしながら、ジャンガは立ち上がろうとする。
が、上手く立ち上がれない。…想像以上にダメージが大きい。

ボロボロのジャンガを見てフーケは高らかに笑った。
「あーはっはっはっはっ! いいザマだね? わたしに屈辱を味あわせてくれた奴だとは思えない惨めな姿だよ」
「ケッ…、ゴーレムの上から見下ろすしか出来ないくせに…。
テメェよりも小さなガキだってよ…その身を投げ出して命がけの戦いをしてるんだゼ?
恥ずかしくないのかよ……ババァ」
ジャンガの言葉にフーケは笑いを引っ込め、代わりに怒りの表情を浮かべる。
「誰がババァよ!? わたしは二十三よッ!」
ジャンガは一瞬目を丸くし、そして嫌みったらしい笑みを浮かべる。
「キキキキキ! 二十三!? テメェが!? に・じゅ・う・さ・ん!? キーキキキキキッ!!!
老け過ぎだってんだよ、テメェ! どう見ても俺には三十過ぎてるようにしか見えねェゼ!
ああ、そうか……だから『フーケ』か? ”老けてる”から”フーケ”か? キキキキキキキッ!!!」
フーケはギリギリと音がする位、強く歯を噛み締める。
「キーキキキキキッッ!!! だとすりゃテメェ、相当苦労してるんだな?
ま、盗みやってるくらいだから…当然だろうけどよ。ま、俺には関係ないがよ。
この先、男も捕まらないだろうな…、テメェのような不細工には誰も振り向かないだろうさ!
やってる事や性格もあれだからな…、家族やら友人やら、そんな”大切な奴”とかもいないんだろうな。
キキキキキ――キ?」

そこでジャンガは気が付いた。
一瞬、フーケの顔に寂しげな表情が浮かんだ事に。

だが、それは一瞬の事だった。フーケは凶悪な顔付きに戻りジャンガに怒鳴る。
「散々言ってくれたね!? その分、痛い目見てもらうわよ! 銀色、やってしまいな!」
「ムゥーーー!!!」
銀色と呼ばれて理解したのか、よろいムゥ・ぎんがジャンガ目掛けて突撃する。
ムゥハルコンでコーティングされた爪が輝く。
「チッ…」
身体は動かない。
キュルケも動けそうにない。
ギーシュのワルキューレはジャイアントたてムゥ相手で手一杯。
即ち…打つ手無し。

よろいムゥ・ぎんが眼前に迫った瞬間。
ジャンガの目の前の地面が突如盛り上がり、それによろいムゥ・ぎんが足を引っ掛けた。
慣性の法則に従い、よろいムゥ・ぎんの身体は大きく前方に投げ出される。
大きく弧を描き、宙を舞うよろいムゥ・ぎんはそのまま手すりを越え、
「ムゥゥゥゥゥ〜〜〜………」
崖下へと転落していった。
「な、なんだ?」
突然の事に頭が追いつかない。
と、盛り上がった地面を突き破り、地面を掘り返した主が姿を現した。
――それは巨大なモグラだった。
「ヴェルダンデ!?」
ギーシュは己が使い魔の姿を見て、思わず声を上げた。
ジャンガは呆然としてヴェルダンデを見つめた。
「…主に続いて、使い魔に助けられたか」
ここまでくると皮肉を言う気も起きない。
271毒の爪の使い魔:2009/02/03(火) 02:57:07 ID:bHiJXp0g
そんな状況にフーケは歯を噛み締める。
「チィッ、余計な邪魔が入るもんだね。だが、これで終いだよ!」
ジャイアントたてムゥが回転移動を解除し、通常のタックル攻撃へと移行する。
フーケのゴーレムも地響きを上げながら動き出した。


突如、何処からとも無く飛来した二本の氷の槍が、二匹のジャイアントたてムゥを串刺しにした。

フーケが驚く間に、今度は飛来した一抱えほどもある水球が、ゴーレムの左足を直撃した。


それは数秒の間の事だった。
氷の矢に串刺しにされたジャイアントたてムゥは消滅し、左足を水球に直撃されたゴーレムは地面に倒れていた。
突然の事にフーケも動揺を隠せない。
「チィッ、まったく…今度はなんだい!?」
と、フーケの喚き声に混じり、ジャンガ達の耳に聞き覚えのある羽ばたきの音が聞こえた。
巨大な竜が羽ばたく羽音……聞きなれている限り、それの主は一つしか心当たりがない。
三人は一斉に空を見上げる。
そこには一匹の見知った風竜が浮いており、その背には更に見知った人物が二人乗っていた。
キュルケとギーシュはその人物の名をほぼ同時に叫ぶ。
「タバサ!?」
「モンモランシー!?」
シルフィードはゆっくりと地面に降り立ち、その背からタバサとモンモランシーは降りる。
ジャンガはタバサとモンモランシーを見つめる。
「何で…ここにいやがる?」
「…あなたが心配だから来た」
ただそれだけタバサは答えるとジャンガの治療をモンモランシーに頼み、目の前のフーケと対峙する。
フーケはゴーレムから降りるとタバサを睨みつける。
「貴族のお嬢ちゃん、随分と良いタイミングで出てきたじゃないさ?」
「遅かった。だから、あの人はあんなに傷付いた。でも、これ以上は手を出させない」
「ふぅん? 随分とご執心だね…。あんなに酷い目に遭わされたってのに…どういう心変わりだい?」
「あなたには関係無い」
「そうかい。ま、確かに関係ない事だからね!」
言いながら杖を構える。
と、大勢の人の声が聞こえてきた。
階段を駆け上がり、人が押し寄せてくる。
どうやら、騒ぎの原因を確かめに来たようだ。
これは少々面倒になったとフーケは表情を曇らせる。
が、直ぐに笑みを浮かべるとジャンガ達に向き直る。

「まぁいいさ…、足止めは十分に出来たしね」
「?」

フーケの言葉の意味が解らないタバサは思わず呆然となる。
フーケはそのまま『フライ』を唱えて飛び上がり、夜空の彼方に飛び去っていった。

フーケが去り、周囲に敵が居ない事を確認すると、タバサはジャンガの元へと歩み寄る。
ジャンガはモンモランシーの治癒魔法である程度持ち直していた。
ジャンガの視線とタバサの視線が混ざり合った。
「…ったく、母ちゃんと大人しく寝てりゃいいのによ?」
「母さまは大切。でも、あなたに何かあっても、わたしは悲しい」
「チッ…」
ジャンガが舌打ちした、その時だった。
大きな警笛のような音が夜空に鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
ジャンガの言葉に答えたのはギーシュだった。

「あ、出港の合図だ!」
272名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 03:00:55 ID:rcUdjZQi
支援!
273毒の爪の使い魔:2009/02/03(火) 03:04:59 ID:bHiJXp0g
以上で投下終了です。

ルイズのジャンガへの”死んじゃえばいい”という台詞は原作9巻の落下時の物です。
遍在ワルドの出した召喚玉(仮)はオリジナル。
よろいムゥ・ぎんが普通のムゥよりも大きいというのもオリジナルです。

まぁ、これでとりあえずメインメンバー合流。次回はアルビオンでVSワルド。

それでは今回はこれで。アディオ〜ス♪
274名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 03:15:38 ID:rcUdjZQi
毒の爪の人、乙!

ジャンガのピンチ、続いてますね〜
満身創痍のうえ精神的にも参ってきてる感じですし、ここからどうジャンガが復活するのか気になります

ピンチにやっぱり来てくれたタバサGJ!
タバサが来るのはともかく何でモンモンも来たんだろ?


275名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 03:18:07 ID:7wB+ArEV
真駆参とはまた…!
三烈神と縁深く、大将軍になったこともあり、スダドアカに呼び出されてスペドラになったりもした、色々とてんこもりで美味しい武者だよな。

実は最愛の武者なので内心お祭りです。
276名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 04:55:18 ID:Ljx/y4Ro
>>274
なんやんかんやで来たんだよ
277名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 08:43:19 ID:uKzL9E4L
いいツンデレですな

ジャンガが。
278名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 10:22:39 ID:+GX5JiiK
SUMOUより名も無きRIKISI召喚……

「問おう。汝が我のMASUTAAか?」
279名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 10:31:27 ID:7S6s07eK
「キミの勇者」のワンダ(最終決戦からエピローグの間の7年間)。星鍵と天然プチ毒舌が炸裂。

ああっ、向こうの色黒お姉さんがショタに覚醒して大変なことに!
280ジル:2009/02/03(火) 10:43:17 ID:+GX5JiiK
1045に投下
281名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 10:44:35 ID:lAXav2Do
支援だ
282ジル:2009/02/03(火) 10:45:11 ID:+GX5JiiK
 貴族派の兵士は困惑していた。あれほど堅く閉ざされていた城門が開かれた。完全包囲のこの状況、降伏以外のなにを想像しろというのか。
 門から現れたのは、見慣れぬ格好の女。貴族の特徴はなく、余計貴族達を混乱させた。
 と。
 その手に握られた金属の筒が、回転を始めた。
「よく見なさい、ハルケギニア人。これが戦争よ」
 筒が兵士に向けられ、火を──文字通り火を吹いた。そのまま横に素早く薙ぎ、悠然と門に消えた。誰もが、何があったか理解できなかった。死んだ者は痛みを感じず、怪我をした者は消えた手足を押さえて泣き叫び状況
どころの話ではない。無傷の者はそれが何を示すのか理解できない。
 やがて、恐慌が蔓延し、混乱が起きる。たった百数十人が死傷しただけで、『得体の知れないモノ』は五万に恐怖を植え付けた。



「総員、戦闘配置! 作戦を開始する!」
 ウェールズが兵を率い、地下への隠し扉をくぐる。
「ジル、後は頼んだ!」
「師匠! どうかご無事で!」
 遠くから砲声と、爆音。その度にパラパラと降る砂や小石。そんな中でこういったやり取りをすると、まるで戦争映画の様だ、などと思ってしまう。
「貴方は私の部下よ。勝手に死ぬことは許さないわ」
「Sir!!」
 もう声だけしか聞こえないが、ギーシュは恐らく地下通路で敬礼をしているのだろう。
「さて」
 全員を見送り、仕掛けを作動させる。これで、もうここはただの壁だ。
「厄介事を制圧しないと」



『ドラケン、エンゲージ!』
『オライオン、交戦!』
『ジュラーヴリク、後退!』
『ハリアー、起爆!』
 次々に入ってくる情報に神経を尖らせ、城の見取り図に乗せた駒を、何人かの貴族が動かす。
 ジルはその様子を見ながら、改めて通信機と司令室の素晴らしさを感じていた。記憶の片隅にあった画像をもとに、一時間で構築した急拵えの司令室だが、あちこちの倉庫にあったボロボロの通信機と正確な見取り図のお
かげで状況把握と的確な指示が出せた。
「ウォートホッグ、焼夷手榴弾と煙幕を使い、来賓室前まで後退、スターファイターと合流するまで待機。途中、クレイモアを設置」
『了解!』
「スターファイター、7メイル後退、曲がり角に身を隠し、敵の足止めを最大12分行え。12分経って連絡が無ければウォートホッグがいる場所まで後退」
『わかった!』
 身を隠し、足止め程度の攻撃で精神力を温存し、じわじわと後退、合流と分散を繰り返し、必要な場所に必要な兵力を送る。
「スカイレイダー、本隊は十字路まで後退、数名を厨房に派遣せよ。大量の油を熱しろ」
『へ!? 了解……』
「油の質は問わない。錬金してもいい。敵が来る前に階段を上がり、灼熱のシャワーをプレゼントしてやれ。ついでに火もつけろ」
 その言葉に過剰反応する男がいた。
「使い魔君、それはいささかやりすぎではないか?」
 ワルドがジルの命令に苦い顔をするが、
「戦争に手段は無いわ。生きるか死ぬか、殺すか殺されるか。勝てば正義だけど、敗けたら悪を押し付けられるのよ。あ、アードバーグ、クレイモアを起爆して次の角まで後退」
 と、さも当たり前と言わんばかりにジルは平然と別の命令を出す。
「兎に角、数が多いから減らさないと」
「減らすなら、使い魔君が自慢していた、あの赤い爆弾を使えばいいのではないかな?」
「デイビークロケットのことかしら? 弾頭だけで発射器が無いのよ。それに、貴方は一瞬で20万人を殺せる兵器を……いえ、アルビオンを未来永劫人の住めない土地にする気かしら?」
「は?」
 ワルドはジルの言っている意味が判らなかった。
283名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 10:46:33 ID:i/JNq0T5
支援です
284ジル:2009/02/03(火) 10:47:04 ID:+GX5JiiK
 たった一発、あんなにも小さな爆弾で20万人。そして人の住めない土地になる。全く、理解の範疇に無い。
「そんなまさか、冗談にも……」
「じゃあ、使ってみる? 炸裂したらアルビオンは致命的に汚染され、世界中に汚染が広がるわ。あれの恐ろしさは単純な威力だけじゃないの。世界を汚染する、見えない毒が最も恐ろしいの」
「…………」
 ワルドは完全に沈黙した。
『ヴァルキリー、敵が……』
「どうしたヴァルキリー。何があった」
 一番端の小隊との連絡が取れない。
「……ワルド、指揮を任せるわ」
「どこに行くつもりだ?」
「ヴァルキリーが消息を絶った場所。危険な要素が侵入したみたいね」
「危険な要素? なんだそれは」
 ジルはそれには答えず、ワルドに微笑むと、
「貴方は、ウェスカーと同じ臭いがするのよ」
 と、風の様に去っていった。去り際に貴族の一人に何かを渡し、一言告げていった。
「……ウェスカー?」
 ワルドは気付かず、誰も指摘しないが、その背中には少量のC4が張り付けてあった。



 廊下を漂う、嗅ぎ慣れた臭い。人間を焼いた、あの臭いだ。
 このエリアで焼夷弾は使ってないから、恐らくは敵の攻撃だ。ヴァルキリー小隊は全滅しただろう。
 それにしては、敵が見えない。
「…………」
 しかしこう、あからさまに殺気を振り撒いてくれれば、場所の特定はできる。敵は一人、他に仲間はいない。
 殺気の方向へ進むと、炭化した何かが転がっていた。杖だ。そこから先に、焼死体が幾つか転がっていた。その中に一つ、一際派手にバラバラになった死体がある。手榴弾でも誘爆したのだろうか。
「来たな……」
 最初から、ベレッタは声の方向を向いていた。
「おい女。お前、かなり強いな? 焼いたらいい匂いがしそうだ」
「裏切者の次は変態? まったく、今日は厄日だわ」
 無造作に銃爪を引く。狙った頭は吹き飛ばず、かすりすらしない。
「面白い玩具だな。初めてだ、こんな火薬の匂いは」
「ああそう」
 次はM2に持ちかえる。
「こんなのはどうかしら」
「は────」
 かすっただけで腕が持っていかれる凶悪な弾がバカスカ飛んでくる。男は長年の勘から逃げることを選択した。
「くそ!」
 さっきまでの余裕は何だったのか。
「残念だけど、焼け死ぬのはごめんよ。そういうのは、ウェスカーもどきにやってくれないかしら? 壁くらいは走ってくれるわよ、たぶん」
 ジルは遊んでいる。殺す気なら、最初からガトリングでミンチにしている。相手が盲目で、何か別の感覚で物を『視て』いるのは既に理解した。そして、戦闘狂でかなりの強者の域に入ることも。敢えて『戦闘』を長引か
せる事で、この世界の兵士のレベルがどのくらいかを見ている。
「何だあれは……? 面白い」
 廊下の角に隠れ、呪文を詠唱する。その声はジルにも聞こえ、しかしジルはそれを放置する。
「ファイアボール!」
 炎の塊がジルに向かう。そして爆発した。
「やったか!?」
 彼は感覚を研ぎ澄ます。人の焼ける臭いはする。しかし……
「あら、この程度?」
 ロケットランチャーを抱えるジルは、平気な顔で突っ立っていた。流石に髪が少し焦げたが、大したダメージは無い。
「じゃあ」
 ピン、と、小気味のいい不吉な音。
 カン、と、不気味な金属音。
 慌てて走り出すがもう遅い。
「ガッ……」
 一瞬の轟音が耳を貫く。顎をぶん殴られた様な衝撃。しかし、大切な感覚は潰されていない。潰されようがない。
「おのれ……」
 まだ頭がくらくらする。どうにか立ち上がり、相手の動きを見る。
285ジル:2009/02/03(火) 10:49:45 ID:+GX5JiiK
「あら、まだ動けるのね。耳を潰されたら動けないかと思ったけど」
 リッカーの類かとスタングレネードを使ったが、見当が外れた。
「クソ……」
 声は聞こえていないだろうが、男は既に持ち直している。
「そう。ならトドメといこうかしら」
ジルはデルフに持ち替えた。



 それは純粋な恐怖だった。いつもの、戦闘の高揚感なんて無い。一瞬で現れた剣────その速度は彼の理解を越えている。
 非常識な程の細腕で、非常識な速度で振るわれる、非常識な長さの剣。避けるのが精一杯で、こちらから攻めることができない。
 いや────もしかしたら、『まだ遅い』。鼻先を掠めた剣先は、直ぐに斬り返し、己を襲う。冷たい温度と鉄の匂い、そして風を斬る音が、それを教えてくれる。片手で扱っているとは、どうしても信じられないが、あ
らゆる感覚がそれが現実だと彼に教える。
「私を焼くんじゃ無かったの?」
 ちくしょうめ、此方には喋る余裕すら無いのに。心の中で愚痴るがしかし、ほんのわずかな集中の乱れが頬に一筋の切り傷を走らせる。詠唱など論外だ、口を開けば首が飛ぶ。
「そういえば、眼が見えない敵とは久し振りに戦うわね。リッカーは触ったり音を立てなかったら気付かれないけど────」
 背筋が凍りつく。反射的に足は地面を蹴っていた。直後に破裂音。
「あ、ハンターβ……とは回避の意味が違うわね。あれは発射してからでも避けるけど、人間は撃つ前にしか避けられない。でも、一番怖いのは生きてる人間よね。第六感、とでも言うのかしら?」
 距離が離れた。女は意味の判らないことを言っているが、それを気にする余裕は、メンヌヴィルには無い。追撃が無いのを幸いに、息を整える。
「人を焼き殺すのが好きみたいね? だったら……こんなのはどうかしら?」
「うわ……相棒、えげつねー」
 相手が何かを取り出したのは判った。しかし、それが一体なんなのか、メンヌヴィルには判らない。
 ピン、と小気味のいい音がして、何かが放り投げられる。それを避け、なるべくそれから逃げる。先ほどみたいに耳をやられたら、今度こそ殺られる。
 それは床に落ち、何度か跳ね、転がった後、何かを撒き散らし、未だかつて経験した覚えの無い温度で燃え上がった。
「な……」
「テルミット焼夷手榴弾。たいていの金属が簡単に熔ける温度よ。まったく、とんでもないものがあるわよね、宝物庫には」
「相棒のえげつなさよりはとんでもなくねーと思うがな」
「テルミット、体験してみる?」
「ごめんなさいもう言いませんSir」
 理不尽だ。こいつらは世界の理から外れている。化物? 奴はそんなに生温くはない。悪魔? 目前のこれよりは無慈悲ではない。
「? 成程、熱で見ていたのね。それと嗅覚。なら……」
 女は何か缶を手にする。
「鼻を潰してあげる」
 男の周りに、それがばら撒かれる。男はそれから逃れようとするが。
 缶の数と同じ破裂音、そして液体が缶から漏れる。デフォルトで膨らんでいる缶の内圧は高く、更に銃弾の衝撃波とベルヌーイの定理に従って内蔵物をぶちまけ、固形物混じりのそれはメンヌヴィルに向け襲い掛かり、そ
の本質を余すことなく発揮した。
「────!!」
 最早声にならない。兵器転用すらできる、ヨーロッパはスウェーデンから、世界最臭の缶詰、シュールストレミング。悪臭はこれでもかとあらゆるものに染みつき、航空機持ち込みが禁じられ、人を失神させることも可能
。『人体には』無害だが、精神には黒板で爪を研ぐような傷を与える。
「あ、相棒……」
「敵に情けは無用よ」
286ジル:2009/02/03(火) 10:52:30 ID:+GX5JiiK
 ジルは臭いを避けて既に遠くに逃れて、敵の様子を見ていた。
 殺虫剤をかけられた害虫の様に動きが鈍くなり、やがて動かなくなる。
「今は……」



「ルイズはどこだ……」
 ワルドは焦っていた。ルイズが昨日のパーティーが終わってから行方不明なのだ。司令室で見取り図にかじりついてもどこにも隠れられる場所などない。目ぼしい場所は探し尽くした。
「どこに……」
「既にトリステインよ」
「なん……」
「ふん!」
 それを目撃していた男が全員、股間を押さえる。
「お……おお……」
「貴方がレコン・キスタのスパイだなんて、最初からバレてるのよ。姫が流した偽情報でね」
 偏在にダメージを与えても本体は痛くも痒くもない。ならばとジルが考えたのは、精神的ダメージである。この攻撃は本人だけでなく周囲の『なにもされていない男』までにも多大なダメージを与える。
「レコン・キスタにハヴィランド襲撃を伝えたわね?」
「ああ……そうだ。ふ……ふはは……貴様の策略も無駄に……」
 絞り出すような声で、ジルを精一杯嘲笑う。が。
「馬鹿ね。『最初から』私達は知っていたのよ? 貴方がスパイだとか、今のレコン・キスタの頭、クロムウェルがスキルニルだなんてね。レコン・キスタだけが諜報活動しているんじゃないのよ」
 その首にデルフを突き付け鼻で笑う。
「な……」
「ルイズの居場所、最初は別室に隠していたわ。この城の隠し部屋にね。だけど、あの子を戦場に置くなんて危険なことはできないの。私を喚び出した責任を取ってもらうまで、死なれる訳にはいかないから」
「だからか……もうここにいないのは……」
「私達が乗ってきた貨物船、マリー・ガラントだったかしら? それで先に行ったわ。皇太子はハヴィランドを制圧して、この戦争は終わり」
 話はこれまでとばかりに、ジルはワルドの首をはねた。
「総員、撤退用意。爆破ライン以降まで下がりなさい」
 偏在は消え、それに眼もくれずにジルは叫ぶ。
『ジュラーヴリク了解!』
『ドラケン了解!』
『ジーク後退!』
 次々に入ってくる通信。その中にブラックバードの声はない。
「ジル、ヴァルキリーは……?」
 周りで報告を聞いていた一人が訊いてくる。
「10名の死亡を確認したわ。敵は駆逐」
287ジル:2009/02/03(火) 10:54:11 ID:+GX5JiiK
「そうか……」
「22小隊の後退を確認!」
 哀しみにひたる時間もなく、通信士から報告が入る。今は時間との勝負だ。
「爆破」
「了解! 爆破!」
 大きな爆音が聞こえる。地下のドックに至る通路、その全てが崩れ落ちたのだ。
「最後の命令を伝える。総員、イーグル号に乗り込め。繰り返す。総員、イーグル号に乗り込め。以上」
『ナイトホーク、了解……』
『くそ……サンダーボルト、撤退する』
『こちらラースタチュカ、我々はまだ戦える!』
「ラースタチュカ、こちらにスパイがいたの。作戦は失敗。これ以上は無駄死によ。殿下の命令に叛く気?」
『畜生……了解だ!』
 通信の中には泣き声も聞こえた。しかし誰一人、命令に叛く者はいなかった。
「ラプター、聞こえる?」
 ジルは自分の通信機に問う。
『師匠!? 聞こえます!』
 雑音だらけのギーシュの声が返ってきた。
「こちらは撤退を始めたわ。そっちは?」
『殿下の説得に手間取って……』
「判ったわ。私が何とかするわ、絶対に乗せなさい」
『了解!』
「スピリット、応答して」
 次はハヴィランドで諜報活動しているエルザへ繋ぐ。
『…………ふう。はーい』
 少し間を置いて返事がくる。
288ジル:2009/02/03(火) 10:55:45 ID:+GX5JiiK
「予定通り作戦は失敗。侵入の手引きはもういいわ。引き続き情報を送って。ワルドって名前の貴族には気をつけてね。次に帰ってきたら、直に吸っていいわ」
「本当!? やたっ! わっかりましたぁ!!」
 そしてジルが動き出す。
「予定通りここを放棄してドックに行きなさい。通信機は全て回収して、ギーシュに渡しなさい。私は殿下が来るまで敵の足止めをするわ」
 全ては皇太子を亡命させる為の茶番。HQにいる人間は、全員ジルが説得していた。ギーシュもウェールズもゲリラ小隊もワルドも、全てはジルの掌の上で踊っていたに過ぎない。今頃ワルドは永遠に来ないハヴィランド襲
撃部隊に無駄に神経を尖らせ、そしてトリステイン離脱に必死だろう。後はルイズ達に任せ、この大陸からオサラバするだけ。
「は!」
「ご武運を!」
 貴族達に見送られ、ジルは階段を上がる。HQだった隠し部屋を出ると、すぐに走り出した。



 やがて、ウェールズ達ハヴィランド攻略部隊がドックに現れた。逃走経路も兼ねていた地下通路は、ここに直結していた。
「殿下! 早くお乗り下さい!」
「ああ……」
 一同は一列に並び、迅速に乗り込んだ。
「お疲れ様です」
「ありがとう……ジルは?」
 ウェールズは、消沈した表情で問う。希望の後の絶望は、これ程までに痛いのか。そんなことを考えながら。
「それが、まだ……敵の足止めをすると言って、まだ地上に」
「な、何だって!?」
 その報告に食い付いたのはギーシュだった。
「し、師匠! 早く来てください! 残りは師匠だけです!」
 無線機に向かって叫ぶ。
『船を出しなさい。そっちの通路はふさいだから、もう行けないわ』
 対してこちらの声は冷静だ。背後の爆音や銃声さえ無ければ、優雅にアフタヌーンティーでもやっていておかしくない穏やかさだ。
「そんな……爆破できるじゃないですか!」
『敵もそっちに行っちゃうじゃない。私は囮よ』
「死ぬ気ですか!?」
 ギーシュの眼は既に潤んでいた。
『私が? 人間に殺されるなんて、素晴らしいわね。でも、私が人間相手に死ぬと思うの?』
 抜けるような音と、それに続いて爆音。ギーシュの耳にこびりついた、あの『初めての音』。
「でも……」
『逃げ道もあるのよ。じゃあ、また後でね』
 通信が切られた。
「師匠!? ししょおおおおぉぉぉォ────!!」



「次から次に……ゾンビと変わらないわね」
 仲間の屍を踏み越え、爆発にも怯まず、敵は追ってくる。ジルの行く先は、倉庫の一つ。暴君の名を持つ人型兵器の眠る場所。
「しばらく黙ってなさい」
 走りながら、スタングレネードとスメルボム、更に催涙手榴弾をばらまく。おまけにスモークを焚く。視覚聴覚嗅覚を一気に駄目にされた敵兵士達は、文字通り煙に巻かれた。
 ついでにクレイモアを設置するのを忘れない。
「Ok……」
 要はタイラント覚醒までの時間が稼げればいい。
「T-103……まさかこんな形で会うとは思わなかったわ」
 インキュベータに繋がった端末の設定を変え、タイラントにインストールする。ジルの命令を聞くように。
「『こっちじゃない』だけは勘弁よ」
 サングラスの裏切者の間抜けな姿が瞼に浮かぶ。インキュベータが解放され、培養液が辺りに流れ出た。そしてタイラントはロケットランチャーを持つジルを見て、一歩踏み出す。
「この城から敵を叩き出しなさい。トラップに警戒」
 その命令は受け入れられ、タイラントはジルを避け、倉庫を出た。敵の概念が曖昧でも、味方は既にここにはいない。
「後はタバサが命綱ね」
289名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 10:56:10 ID:i/JNq0T5
支援しつつ、ワルド……何となく同情するw
290ジル:2009/02/03(火) 10:56:39 ID:+GX5JiiK
 城の外、浮遊大陸の端の端、崖っぷちを目指す。Y2Kに乗っていた時から尾行には気付いていたが、敢えて放置していた。この時のために。
 敵はトラップとタイラントで足止めされているだろうから、運が良ければ合流できる。運が悪ければ────カーテンを幾つか縫って作ったパラシュートで降下するしかない。
 城のあちこちを爆破して、壁に抜け道を作り、通路を崩落させ、アルビオンの果てに向けて走る。
 城が遠くなり、小さくなる。そして、端の崖にたどり着く。
「天空の城から帰還する方が遥かに楽ね。あ、ここも天空の城だったわね」
 いつか観たアニメ映画、そのラストシーンが頭を過る。あれはグライダーみたいなもので滑空していたか。
『これが、世界初のHALO降下になる』
「?」
 幻聴を聞いた。まるで歴戦の兵士の様な、渋い声だった。
「夜明けね。流石に疲れてるのよ」
 腰にロープを結び付け、降下用意を始める。
「いたぞ!」
「全く、朝焼けすらゆっくり見せてくれないのね。まるであの時みたい」
 街が消えた、あの事件。未だにジルの記憶に焼き付いている。
「デイビークロケットでも叩き込んでやろうかしら」
 ジルがウェールズに使用をもちかけた、文字通りの禁断兵器。もっとも、ウェールズが使うと言ったら彼を見限って自分達だけで逃げただろうし、無論、ジルが使うはずもない。発射器たる無反動砲もなし、使うには死を
覚悟する必要がある。ただの愚痴であり、独り言で、冗談だ。
「囲め! 囲め!」
「あれだけ罠に掛かって、反省してないみたいね。タクシーはこないし、仕方ないわ」
 布の塊を抱えて、ジルは崖を飛び降りる。手には、遠隔起爆信管のリモコン。
「I'll give you stars!」
291ジル:2009/02/03(火) 11:02:27 ID:+GX5JiiK
以上です。

まず間違いの修正をば。
投稿して気づく間抜けです。

>>286
誤 次々に入ってくる通信。その中にブラックバードの声はない。
正 次々に入ってくる通信。その中にヴァルキリーの声はない。

でした。



実際は核だけじゃなく、フォレスト・スパイヤーの持ってたグレネードもあるのですよ。
前回のことですが。
OUTBREAK File2はやったことないのですが、タイラントが護衛してくれるとか。まじかい。
次回もワルドが痛い目にあいます。ジルの野望が明かされるかもしれません。
292名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 11:04:55 ID:/8kp0Tjo
支援
293名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 11:07:47 ID:lAXav2Do
gj
294名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 11:51:18 ID:F3k30a95
FFVのエクスデスで今書いてるんだけど。
あの服の中身はなんて表現すればいいのか。
邪心の集合体みたいだから黒いモヤみたいなのが入ってる感じでいいんだろうか・・・


それにしてもジルさんはほんま男顔負けやで。
295名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 12:04:45 ID:Tltqyvhr
ジルの人GJでしたー。
あいも変わらず情け容赦ないというか、大惨事でしたね。

シュールストレミングはさすがに同情しますね、メンヌヴィル南無。
296名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 12:07:08 ID:sqhQgLMj
>>294
wikiでは
ムーアの大森林に存在した1本の樹に、邪悪な心が集まり、意思を持ってエクスデスとなり、かつて存在した無の力を求めて活動を始めた。

となってる。
ホントは設定資料とかがあれば正確な描写が出来るんだろうけど……

とにかく期待しとく。
297名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 12:08:53 ID:sqhQgLMj
ジルの人乙!
いやはや魔王っぷりが清々しい。
やってることはド外道なんですがね
298名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 12:11:46 ID:sqhQgLMj
二回も下げ忘れてるし……
すみません
299名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 14:11:17 ID:vHhQR6xt
超力ガーヂアン が 超力カーヂャン に見えてしまう
300名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 14:27:57 ID:lOz7gzkd
超力カーチャン?
そりゃ恐ろしいな
301名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 15:14:19 ID:tdzsbVNx
バイオやったことないがジルってこんな奴なのか?

名前は結構有名で知ってたけど
302名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 15:24:54 ID:sFoZwwbo
タイラントを相手にしなきゃならんレコンキスタ兵に合掌。
てかワルドへの急所蹴りは読者までダメージ食らうだろwww
303名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 15:29:40 ID:40g99TqK
>>301
小説版、読んだことありますけど戦闘力に関してはスルーしますが、
性格に関しては結構、こんな感じでしたよ。
304名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 15:32:41 ID:rq+owGKe
調理器カーチャンとか凄そうだな
305名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 15:34:26 ID:9e2b6crg
ジルさん相変わらず容赦なーい。
メンヌヴィル、缶詰に負けるとは……まだ吹っ飛ばされたほうが幸せだったかも、けどこれなら死んでないのかな。

>>300
ジャイアンのかーちゃん?
306名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 15:35:53 ID:Sv58qXdS
超力ガーヂアン

   ↓

超力カーヂャン

   ↓

超力カーチャン

   ↓

強力ワカモト

俺の脳内は馬鹿か!
307名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 15:42:16 ID:pTFCn9r5
余談ですが朝鮮にはシュールストレミングに匹敵する臭い食い物があるそうで
「ホンオフェ」というそれは「もやしもん」主人公いわく
「キャンプ場にあるような古い汚い男子便所の小便専用ゾーンに落ちている
 散々小便をかけられたトイレットペーパーを夏の日に口に含んだ気分」になれるのだそうな
妙なリアルさが怖・・・・・・
308名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 15:55:42 ID:93DbNvPd
いや、シュールの方が臭いぞ。
309名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 16:05:34 ID:rt1Ma0v4
ホンタクか?アレはにおいを嗅いだだけで嘔吐すると言われるが、シュールは気絶するだの壁紙天井床材を張り替えても臭いが取れないといわれるわで……
シュールは缶の中で発酵したガスと汁が鬼のように臭い、ホンタクは獣糞人糞を発酵させたモノで臭い、だから「缶を開ける」という爆発力の分シュールの勝ちだろうね


試さないぞ!
310名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 16:11:32 ID:dEAsQGl4
「匹敵する」なんだからシュール以上である必要は無いだろ
どっちも死ぬほど臭いなら十分匹敵してると思うしな
311名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 16:19:46 ID:X2NCwoF/
ジルの人乙。

てかジル、タイラントそのままほっとくなよ!
下手したらテファ殺されるぞ!
312名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 16:26:07 ID:sCzeavjk
合体怪獣のほうじゃあるまいし、5万もいりゃタイラントの撃破も不可能じゃないとは思うが。
そういやギーシュやジュリオはふつーにクサい奴だよな。
ギップリャ!!
313名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 16:43:32 ID:koOTzBJs
一応ナマモノだし魔法あるから倒せるとは思うけど
かなり頑張って指導しないと恐怖で士気崩壊しそうな気もするな
314名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 16:45:35 ID:sFoZwwbo
キム=カッファンを召喚したらハルケギニアにテコンドー教室を開きそうで困る。
KOFばりの強引な勧誘(?)で生徒達を指導し始める姿が目に浮かぶわ。
315名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 16:48:56 ID:RmjihXHq
>>311-313
というか追跡者の方は普通にウイルスばら撒いてたから別の意味でヤバい気がするんだが

あとタイラントって余程強い攻撃加えんと後で復活するのがなぁ……
(その後発狂モードになったらまず手に負えない)
316名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 16:49:46 ID:v3LkIltG
臭い食べ物の代表例

シュールストレミング…8070Au
ホンオフェ…6230Au
エピキュアーチーズ(缶詰チーズ)…1870Au
キビヤック…1370Au
くさや 焼きたて…1267Au、焼く前…447Au
臭豆腐…420Au


wikiより一部抜粋。
ちなみに納豆が352AUって辺りで強烈さは察して下さい。
317名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 17:12:35 ID:hh5s4Dnq
>>316
納豆は別に臭くはないけどな。
焼いたくさやの6倍か……
318名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 17:29:33 ID:phxad+8r
>>314
弟子卒業のために必死に戦うおマチさんとワルド
319名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:06:41 ID:AE+D0Nbv
以前は食らったら即死だったロケランにも耐えるようになったり
自分で使ったりするようになったからなタイラント
320名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:12:04 ID:32PZEzVx
>>317
納豆つっても、コンビニで売ってるパック入りのと、藁の中で醗酵させたものとでは
匂いは結構違いそうだけどね。後者は食ったことないわ。

まあ、宝物庫の中でシュールが限界迎えなくてよかった。
321名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:14:24 ID:gu+BWNBR
18:25に小ネタ投下してよろしいでしょうか?
322名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:15:25 ID:s4XuuMxn
期限を越えてほっとくと自爆するらしいもんなシュールの缶
323名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:16:04 ID:royTMytG
お断りします
324名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:16:26 ID:CeVFGQp9
>>306
狂犬若本をご所望ですね?
325名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:23:38 ID:s4XuuMxn
>>321
題材は秘密ですか?秘密ならそのように言ってください、何も無しだとお断りしないといけなくなります
326名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:25:33 ID:LVx+JTkn
お断り待機中
327名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:26:35 ID:mG/IhN+p
このスレの住人って結構ツンデレだよね
328いらない王女:2009/02/03(火) 18:26:46 ID:gu+BWNBR
初めてなので、よく分からないのですが?
元ネタは最初に書いておかないといけないのですか?
329名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:27:01 ID:ewkTPs7U
召喚シーンだけで最後に名前を出して終わる小ネタならイラネ
330いらない王女:2009/02/03(火) 18:29:34 ID:gu+BWNBR
ありがとうごさいました。では、改めて18:35頃に小ネタ投下します。
331名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:31:22 ID:0wWmgYkc
今までスレをざっと読んでれば
ある程度のマナーくらいは分かりそうなものなんだが
理解する気がないのか?
332名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:34:28 ID:3pOsJ1kV
何で皆そんなに怒ってんの?
333名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:34:31 ID:ewkTPs7U
さて、鬼が出るか蛇が出るか…
334いらない王女:2009/02/03(火) 18:35:34 ID:gu+BWNBR
では、予告通り投下します。




こんにちは。
今日、お話するお話は「いらない王女」というお話です。

昔、昔、ハルケギニアという魔法の世界にガリアという国がありました。
そのガリアにはいっつも、怒ってばかりの王女様がいました。
王女様の名前はイザベラ。魔法が苦手なのでみんなからバカにされていました。
しかも、従姉妹のシャルロットが魔法が得意だったこともあり、イザベラはますます怒りぽっくなっていったのでした。

そんなある日、暇だったのでイザベラは使い魔を召還することにしました。
使い魔を召還することを「コンラクト・サーヴァント」と言い、それはとても神聖な儀式で一度、コントラクト・サーヴァントを交わしたメイジと使い魔は、死によってしか離れられぬ、と言われている程なのです。
しかし、イザベラが召還したのはなんと仮面を被った道化師だったのです。
これに怒ったイザベラは召還した道化師に散々、怒鳴り散らすと、コンラクト・サーヴァントもせずに部屋に戻って不貞寝してしまいました。

イザベラはふっと、聞こえる優しい歌に目を覚ましました。
かなり眠っていたのかもう真夜中で一体、誰が歌っているのだろうと部屋を見回してみると、なんと今日、召還した道化師が歌っていたのでした。
イザベラは驚きながら聞きました。
「…なにしてるんだい?」
すると道化師は、
「イザベラ様がぐっすり眠れるように歌っておりました」
と言いました。
イザベラはお前のせいで起きてしまったじゃないかと怒って道化師を部屋から追い出しました。
でも、道化師が歌っていた優しい歌を思い出すと、なぜか胸が暖かくなるのでした。

それからというもの道化師はイザベラの傍で優しい歌と踊りを毎日、披露するのでした。
最初の頃は道化師に怒鳴り散らしてばかりだったイザベラも徐々に道化師の歌と踊りを楽しむ様になっていたのでした。
そのためかイザベラは段々と丸くなっていたのです。
いっつも、怒鳴り散らされていた侍従たちもイザベラが丸くなってくれて喜びました。
ところが……、
335いらない王女:2009/02/03(火) 18:37:53 ID:gu+BWNBR
イザベラの父であるジョセフが暴走し、ガリアは戦火に晒さてしまったのです。
これ幸いにと、日頃からクーデターを考えていたオルレアン派が蜂起し、激しい時代のうねりとともにジョセフは討ち取られ、シャルロットが新しいガリアの女王となったのです。
そして、イザベラは「イザベラなんていらないやー」と国民達に言われ、追放されてしまったのでした。

国を追われることになったイザベラはまた怒りぽっくなってしまいました。
そんな彼女についてきたのは、あの道化師一人だけでした。
道化師はどこまでもどこまでもイザベラについていきました。
そんな、道化師にイザベラはこう言いました。
「ガリアに戻りな」
でも、道化師は、
「いいえ。イザベラ様。私の仕事はイザベラ様を笑わすことです。だから、イザベラ様、笑ってください」
と言って、イザベラのためだけに歌い続けたのです。
でも、意固地になっているイザベラはなんとか道化師を追い払おうといじわるすることにしました。

「いいかい。私はこれからこの森に潜んでいる盗賊共を退治してくるから、お前は私が戻ってくるまで踊ってるんだよ」
「はい。イザベラ様」

道化師が踊りを始めたのを見て、イザベラは、ほくそ笑みながら森に入っていきました。
元より盗賊退治なんてする気がなかったイザベラはこのまま、森を抜けようとしました。
でも、それでは自分はあの道化師に嘘をついたことになってしまう。
イザベラはなぜかそれが、ひどく嫌でした。
そして、イザベラは決心して、森の盗賊を退治することにしました。
でも、魔法が苦手な自分が盗賊退治なんてできるのだろうか、と悩みました。
そして、三日三晩、考えに考え、遂に盗賊を退治する方法を思いついたのです。

その夜、盗賊たちがアジトに戻ってきたのを確認して、アジトに火を放ったのです。
散り散りに逃げていく盗賊たちの中から頭を見つけ、イザベラは魔法でその頭を倒し、しかも、盗賊達全員を自分の手下にしてしまったのでした。

イザベラは意気揚々と手下になった盗賊達を引き連れ、道化師と約束した場所に戻りました。
イザベラは道化師はもういないだろう、と思いました。でも、そう思うと、なぜかイザベラは寂しくなるのでした。
336名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:39:51 ID:i9Yp4UuO
イザベラ様は愛されてるなぁ支援
337いらない王女:2009/02/03(火) 18:40:13 ID:gu+BWNBR
でも、驚いたことに道化師はいたのです。
ふらふらになりながら、ちゃんと踊っていたのです。
道化師はイザベラを見つけると、
「お帰りなさい」
と微笑んだのでした。イザベラはとても嬉しくなりました。でも、素直になれずに、つい、こんなことを言ってしまったのでした。
「どうしたら、お前は私の元から去ってくれるんだい?」
道化師は少し悲しそうにこう言いました。
「私の仕事はイザベラ様を喜ばせる事。
 もしも、新しい国を作って、また王女様にいえ、女王様になればイザベラ様はお幸せでしょうから私は要らないですね。
 ですから、その時、私は貴方の元から去りましょう」
そう、イザベラと約束したのでした。

そして、イザベラは盗賊達を使って、新しい町を作りました。
商売をして、家を建てました。するとどんどん町に人が集まり、町もどんどん大きくなりまし
た。
イザベラが仕事を一つ成功するたびに道化師は新しい歌をつくり、イザベラのために歌い踊る
のでした。イザベラは道化師の歌を聞くたびに、踊りを見るたびに嬉しくなり、優しくなってい
きました。

そんなある日、元家臣達がイザベラに謝りにきました。
なんでもシャルロットが他国の使い魔に現を抜かし国を蔑ろにしたため、国が乱れたというの
でした。
「そのため、国民達は、ぜんぜん働きません。
パン屋はパンを焼かないし、牛飼いはミルクを絞りません。
私達は、もう一切れのパンも、一滴のミルクも飲めないのです。
だからイザベラ様、帰ってきてください」
新しい国でイザベラが成功したことを知った元家臣達は怒鳴られる覚悟で、謝りにきたのでし
た。でも、イザベラは怒鳴らずに優しく、こう尋ねました。
「お前達の王は本当に私でいいのかい?」
と。
338名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:40:27 ID:TrXyG5W4
支援
なんだろう元ネタが気になる
339名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:40:33 ID:QaLoC4Dc
元ネタは何だろう?支援
340名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:40:37 ID:LVx+JTkn
俺はへたくそな道化…支援
341名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:42:32 ID:ewkTPs7U
流れが昔話みたいだ
342いらない王女:2009/02/03(火) 18:42:36 ID:gu+BWNBR
そして、イザベラはシャルロットから王位を取り戻し、ガリアの王女に戻って、いや、ガリアの女王になったのです。
イザベラはシャルロットを処刑しようとせず、自分が作った新しい町を治めるように言いました。国民達は驚きました。てっきり、イザベラはシャルロットを処刑すると思っていたからです。でもなにより、国民達が驚いたのはイザベラが優しくなっていたことでした。
そして、イザベラが女王になってから、ガリアは元通りになりました。
国民達は、ちゃんと働くようになり、
パン屋はパンを焼き、牛飼いはミルクを絞りました。
国民達は、一切れのパンどころか口いっぱいのパンを、一滴どころかコップ一杯のミルクを飲
めるようになったのです。
国民達は大喜びしました。
そして、イザベラもそんな国民達を見て幸せな気持ちになったのでした。
でも、それは、道化師との別れを意味していたのです。

道化師は幸せなイザベラを見て、約束どおりイザベラの元から去ろうとしました。
するとイザベラは道化師の手を握りながら、
「行かないでおくれ。私の傍に…その……ずっと、ずっといて欲しい!」
と言いました。
道化師は困りました。それでは、イザベラとの約束が果たせないからです。

そう、イザベラに言うと、イザベラは優しく微笑みながら道化師の仮面をすっと外しました。仮面の下から出てきたのは、青い目をした可愛らしい女の子でした。
「我が名は、イザベラ・ド・ガリア。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」
そう呪文を唱えるとイザベラは道化師の女の子の頬に手を当て、口付けしました。すると女の子の手に使い魔のルーンが刻まれたのです。
そう、イザベラは道化師の女の子にコンラクト・サーヴァントをしたのです。
使い魔のルーンを見て、イザベラは優しく、こう言いました。

「これで、道化師は消えて使い魔であるお前が残る」
343いらない王女:2009/02/03(火) 18:45:20 ID:gu+BWNBR
その後、イザベラ女王様と使い魔の女の子がどうなったか…。
あっ、ところでシャルロットが治めるようになった新しい町ですけど、なんでもおいしいものがたくさん食べられる食い倒れの町と呼ばれるようになったそうです。
えっ、それより二人のその後は?
あぁ、実は私も知らないんですよ。でも、きっとイザベラの傍には、いつまでもいつまでも優しい歌と踊りをしてくれる一人の使い魔がいたことでしょう。



投下終了です。
元ネタはおはなしのくに「いらない王様」の道化師です。
支援して下さってありがとうございました。では、
344名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:46:53 ID:LVx+JTkn
心温まるストーリーでしたな。今夜は心地よく眠れそうだ
345名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:47:08 ID:QaLoC4Dc
>なんでもおいしいものがたくさん食べられる食い倒れの町と呼ばれるようになったそうです。

でも必ずハシバミ草のサラダがつくんですね、わかります。
たまにはこういう話もいいね。乙
346名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:48:36 ID:TrXyG5W4
道化師とか食い倒れで食い倒れ人形が浮かんでしまったが乙
347名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 18:56:04 ID:ewkTPs7U
イザベラ様が罵ってくれなくなるなんてあんまりな話だ
348名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 19:05:45 ID:AE+D0Nbv


>>347
マルコメがイザベラの使い魔として呼ばれれば万事解決じゃないか
349名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 19:17:27 ID:sCzeavjk
いい話だなあ。GJ
タバサが悪者扱いな話は珍しいけど、これなら違和感なく納得できる。
350名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 19:20:08 ID:SmeakHKX
イザベラ様は本当にみんなから愛されてるなw
351名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 19:23:31 ID:ru361Gca
 ノノノノノ
( ○○) 取っれ取っれ、ピッチピッチ、蟹料理〜♪
  (||||)

352名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 19:28:03 ID:txoiZbHf
道化師でB壱の道化師を連想したのは多分俺だけ
353名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 19:31:09 ID:SqDoeps5
> なんでもシャルロットが他国の使い魔に現を抜かし国を蔑ろにしたため、国が乱れたというの
> でした。
ここワロタ。16巻じゃ、一体どうなるんだろう。
しかし、ほんわかしたいいお話でした。GJ!!
354名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 19:37:56 ID:9h5xptUG
GJ癒されたぜ
355名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 19:44:48 ID:MNFn0Yk5
思いもよらぬ良作GJ
356名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 19:47:00 ID:P0A22t7U
イイハナシダナーGJ
357名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 19:50:45 ID:AE+D0Nbv
まあ、実際女王なんてむいてないだろうしな
もっと向いてないというか権力を絶対持たせてはいけないタイプの奴が
二人ほどいるから目だってないけど

ジョゼフが趣味に没頭してたから女王が妙な事しなければ
官僚が国の運営自体は問題なくこなしそうだなガリア
358名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 20:02:14 ID:n9w9OREJ
トリステインも実務はマザリンが仕切ってるしな。
問題はジョゼフが宮殿潰した際にかなりの数の
官僚や大臣も犠牲になったことだ。
359虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/02/03(火) 20:04:04 ID:1tGaEYAB
こんな心温まるお話の後に
特に心温まらないお話を投下させてください。
20:10頃からで。
360名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 20:07:06 ID:9qvhTsPH
ヒャッホーイ
支援
361名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 20:07:39 ID:iEACTRas
支援支援…てか登場してるハルケギニアの王族で統治能力が高いのってゲルマニアじゃねぇかと思えてくる。
362名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 20:10:01 ID:AE+D0Nbv
かといって統治に全く問題がなさ過ぎるとネタにならないからな
363虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/02/03(火) 20:10:13 ID:1tGaEYAB
ギーシュやキュルケが騒いでいる頃、ティトォたちは『桟橋』へと続く、長い長い階段を上っていた。
そうして丘の上に出ると、そこには山ほどもある巨大な樹があった。夜空に隠れて、てっぺんが見えないほどである。
四方八方に枝を伸ばしていて、枝のそれぞれに、まるで木の実のように、大きな船がぶら下がっている。
「これが『桟橋』?あれが『船』?空を飛ぶ『船』なの?」
ティトォが驚いた声で言うと、ルイズは怪訝な顔で聞き返した。
「そうよ。海に浮かぶ船もあるけどね。あんたたちの世界じゃ違うの?」
「ぼくらのとこじゃ、空を飛ぶのは『飛行機』って言うんだ」
もっとも乗ったことはないんだけどね、とティトォは付け加える。
ティトォたちの世界の『飛行機』とは、高度に発達したメモリアの技術で作られた乗り物で、
巨大な丸い機体に、たくさんの小さなプロペラが付いている。
バーロゲンと呼ばれる新物質が反重力場を6000倍の収縮率で起こし、ジェットで自由に向きを変えられるのだ。
もっともこれは飛行機を売り込みたい旅客会社の触れ込みで、真っ赤なウソであるので、本当かどうなのかは誰も知らないのだった。
話を戻そう。
樹の根元には、各枝に繋がる階段があって、鉄のプレートが行き先を示していた。
ワルドが目当ての階段を見つけ、駆け上がった。
階段を登る三人を、大きな木の影に隠れて見つめる者がいた。
白い仮面と、黒いマント。フーケを脱獄させた、あのレコン・キスタの貴族であった。
貴族はティトォを見つめながら、黒塗りの杖を懐から取り出したが……
しかしなにを思ったか、杖をおさめると、きびすを返した。その姿が、風のように夜の闇に消えた。

階段を上がった先には、一本の枝が伸びていた。その枝に添って、一艘の船が停泊している。
帆船に似た形状で、空に浮かぶためだろうか、舷側にも羽が突き出ている。
船はロープで枝にぶら下がっていて、枝の端からタラップが甲板に伸びていた。
ワルドは船上に降りると、甲板で酒瓶を抱えて眠っている船員を怒鳴りつけた。
「船長はいるか!」
「な、なんでえ、おめえら!」
酔っぱらって濁った目をした船員は、あわを食って跳ね起きた。
ワルドは答えず、杖を引き抜いてみせた。
「緊急の用件である。船長を呼んでもらおうか」
「き、貴族!」
杖を見た船員は、あわてて船長室へすっ飛んで行った。
しばらくして、寝ぼけ顔の初老の男がやって来た。彼が船長らしかった。
「女王陛下の魔法衛士隊体調、ワルド子爵だ」
ワルドが名乗ると、船長の目が丸くなる。相手が身分の高い貴族と知って、急に愛想のいい笑顔になった。
「これはこれは。して、当船にどういったご用向きで……」
「アルビオンへ、今すぐ出航してもらいたい。これは王室の勅命だ」
「無茶を言いなさる!今宵は『スヴェル』の月夜!アルビオンはまだ遠い、今から出航などしては、とても風石が足りませんや!」
「風石って?」
ティトォは小声で、横のルイズに尋ねる。
「『風』の魔法力を蓄えた石のことよ。それでフネを空へ浮かばせるの」
「子爵様、当船が積んだ『風石』は、アルビオンへの最短距離分しかありません。それ以上積んだら、足が出ちまいますゆえ。したがって、アルビオンがもっとラ・ロシェールに近付くまで待たないと出航できません。途中で地面に落っこちてしまいまさあ」
「足りぬ『風石』の分は、ぼくが補う。ぼくは『風』のスクウェアだ」
船長と船員は、顔を見合わせた。それから船長がワルドの方を向いて頷く。
「ならば結構で。運賃は弾んでもらいますよ」
商談が成立し、船長は矢継ぎ早に命令を下した。
「出航だ!もやいを放て!帆を打て!」
もやい縄を解かれ、『風石』の力で宙に浮かんだ船は、帆にぶわっと風を受け、ぐんぐんと上昇した。
ラ・ロシェールの町がみるみるうちに小さくなって行く。
364虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/02/03(火) 20:11:39 ID:1tGaEYAB
「アルビオンには、いつ着くんですか?」
ティトォが尋ねると、
「明日の昼過ぎには着きまさあ」
と、船長が答えた。
「明日の昼……」
ルイズが緊張した顔つきになる。
「どうやって王党派と連絡を取ったらいいのかしら。王党派が陣を置くニューカッスルは、貴族派に攻囲されてるって話じゃない」
「陣中突破しかあるまいな。フネが着くスカボローの港から、ニューカッスルまで馬で一日だ」
「貴族派の反乱軍のあいだをすり抜けて?」
ティトォが尋ねる。
「それしかないだろう。まあ、反乱軍もトリステインの貴族にはそうそう手出しできまい。包囲の目を盗んで、ニューカッスルの陣へ向かう」
ルイズは緊張した顔で頷く。
「とりあえず、今日は休んだ方がいい。明日に備え、体力を残しておくんだ」
そう言うと、ワルドは二人を船室に送り、自分は後甲板へ向かった。『風石』の魔力の補助をするためである。
ティトォは船室に座り込むと、うつらうつらと眠りに落ちた。
ルイズも眠ろうとしたが、緊張して、なかなか寝付くことができなかった。
ふと、船室の丸窓から外を見ると、ワルドのグリフォンがフネと並んで飛んでいるのが見えた。
その背中に、白い仮面を付けた人影が見えたような気がして、ルイズは目をぱちくりとさせた。
しかしもう一度見ると、人影らしきものは消えてなくなっていた。
見間違いだったのかしら、と、ルイズはふたたびベッドに横になった。


「アルビオンが見えたぞー!」
船員の大声で、ルイズとティトォは目を覚ました。
窓から差し込む光が眩しい。
二人が寝ぼけ眼をこすりながら、甲板へ出ると……、船の進路の先に、巨大な雲が浮かんでいた。
いや、雲だけではない。雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。
地表には山がそびえ、川が流れている。大河から溢れた水が、空に落ち込んでいる。その際、落ちた水は霧となり、霧は雲となり、すっぽりと大陸の下半分を覆っていた。
「これが浮遊大陸アルビオン。太洋の上をさまよう『白の国』よ」
ルイズがそう言うと、ティトォは息を呑んだ。
巨大な雲に包まれたその大陸の姿は、なるほど『白の国』と呼ぶにふさわしい、圧倒的な光景だった。
「驚いた?」
ルイズはぽかんと口を開けているティトォの顔を見て、少し嬉しそうに言った。
ティトォやアクアには驚かされてばかりだったので、ティトォの驚く顔を見ると、なんだか無性に愉快な気分になるのだった。
「うん。こんなの、見たことないよ」
甲板の上にはワルドのグリフォンもいて、羽をつくろっていた。どうやら飛ぶのに疲れて、フネの上で羽を休めていたようだ。
海の上に浮かんでいるアルビオンが、ハルケギニアに近付く周期などをルイズが得意げに説明していると、鐘楼に登った見張りの船員が、大声を上げた。
「右舷上方の雲中より、フネが接近してきます!」
ティトォは言われた方を向いた。なるほど、ティトォたちの乗ったフネより一回り大きいフネが一隻、こちらに近付いてくる。
フネの舷側に開いた穴からは、大砲が突き出ていた。
「大砲なんか積んでるよ。軍艦かな」
ティトォがとぼけた顔で呟くと、ルイズは眉をひそめた。
「いやだわ、反乱軍……、貴族派の軍艦かしら」
後甲板で、ワルドと並んで操船の指揮を取っていた船長は、見張りが指差した方角を見上げた。
黒くタールが塗られたフネは、まさに戦うフネを思わせた。距離を取って併走すると、舷側に並んだ二十数個もの大砲の口が、こちらを向く形になった。
「アルビオンの貴族派か?お前たちのための荷を運んでいるフネだと、教えてやれ」
船員は指示通りに手旗を振ったが、返ってきた返事は砲弾であった。
ボゴン!と鈍い音がして、フネの鼻先を砲弾が通り過ぎた。
突然の威嚇に船長が泡を喰っていると、見張りの船員が青ざめた顔で駆け寄ってきた。
「あのフネは旗を掲げておりません!」
船長の顔も、みるみる青ざめる。
「してみると、く、空賊か?」
365虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/02/03(火) 20:13:19 ID:1tGaEYAB
黒船のマストに、四色の旗流信号がするすると登る。停船信号である。
船長は歯がみした。このフネにも武装がないわけではないが、空賊の戦闘艇とやり合えるとはとても思えない。
船長はすがるようにワルドに視線をやったが、ワルドは首を振るだけだった。
「魔法は、このフネを浮かべるために打ち止めだよ。あのフネに従うんだな」
船長は天を仰ぎ、「これで破産だ」と呟くと、停船命令を出した。

フネが止まると、黒船もこちらの舷側に停船した。
黒船の舷側には、フリントロック銃を持った男たちが並び、こちらに狙いを定めている。
ただならぬ様子に、ルイズは怯え、後じさった。
後甲板にいたはずのワルドは、いつの間にやらルイズのそばに来ていて、震えるルイズの肩を抱いてやっていた。
「空賊だ!抵抗するな!」
黒船から、メガホンを持った男が大声で叫んだ。
鉤の付いたロープが放たれ、ルイズたちの乗ったフネに引っかかる。
手に斧や極東などを持った屈強な男たちが、フネの間に張られたロープを伝ってやってくる。その数およそ数十人。
ワルドのグリフォンが、こちらに乗り移ろうとする空賊たちに驚きギャンギャンと喚いたが、その瞬間、グリフォンの頭が青白い雲で覆われた。
グリフォンは甲板に倒れ、寝息を立てはじめた。
「あれは確か、本で読んだ……、そうだ、『眠りの雲』風系統の呪文だったかな。向こうには魔法使いもいるのか」
ティトォは緊張した面持ちで、空賊たちを見ていた。
どすんと音を立て、甲板に空賊たちが降り立った。
その中から、派手な格好の一人の空賊が、一歩前に出た。
グリース油で汚れて真っ黒になったシャツをはだけ、そこから赤銅色に日焼けしたたくましい胸板が覗いている。
ぼさぼさの長い黒髪は、赤い布で乱暴にまとめられ、無精髭が顔中に生えている。
腰布に曲刀と小型のフリントロック銃を差し、左目に眼帯を巻いていた。
しつらえたかのような空賊姿であった。どうやらこの男が、空賊の頭であるらしかった。
「船長はどこでえ」
荒っぽい仕草と言葉遣いで、辺りを見渡す。
「わたしだが」
震えながら、それでも勢一杯の威厳を保とうとしながら、船長が名乗りを上げた。
「フネの名前は」
「トリステインの『マリー・ガラント』号」
「いい名だ」
空賊の頭はにやっと笑うと、船長から帽子を取り上げ、頭に乗せた。
「よろしい。今からおれが船長だ。乗組員を全員、甲板に集めな。おかしな真似したら、心苦しいがここでフネを降りてもらうことになるぜ」
ほどなくして乗組員たちと、ルイズたちが甲板にひとかたまりに集められた。曲刀や拳銃を持った空賊たちが、周りを油断なく取り囲んでいる。
「頭!積荷は硫黄ですぜ!」
フネを探り回っていた空賊の一人が、大声で駆け寄って頭に報告した。
「そうか、硫黄か!こりゃ結構!『新しい秩序』とやらを建設するには、火薬と火の秘薬が大量に要るだろうからな。黄金並の値がつくだろうよ!」
頭が興奮して叫んだ。空賊たちからも、ほうと溜息が漏れた。
「貴族派に売りつけるつもり?」
突然声が上がり、空賊たちはいっせいにそちらに顔を向けた。
マリー・ガラント号の乗組員たちも、驚いた顔で声の主を見つめていた。
声を上げたのはルイズであった。空賊たちが貴族派に与する者と知って、思わず口が出てしまったのだった。
366名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 20:14:37 ID:n9w9OREJ
支援
367虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/02/03(火) 20:15:02 ID:1tGaEYAB
「おや、貴族の客まで乗せてるのか」
頭は、船員たちに混じったルイズとワルドの姿を見て言った。
ルイズに近付き、顎を手で持ち上げた。
「こりゃ別嬪だ。お前、おれのフネで皿洗いをやらねえか?」
男たちは下卑た笑い声を上げた。ルイズはその手をぴしゃりとはねつけた。
「薄汚い貴族派の反乱軍が、わたしに触れるんじゃありません」
燃えるような怒りを込めて、男を睨みつける。
空賊たちは、おお、怖い怖い!などとおどけて笑い出した。
ルイズは怖くて、小さく震えていたが、気丈にも空賊たちを睨み続けた。
マリー・ガラント号の船員たちは、びくびくしながらルイズを見つめている。
ワルドは冷静を装っていたが、その顔はには隠しきれない緊張の色が浮かんでいる。
ティトォは、空賊の頭の顔をじっと見つめていた。そして、無意識にこめかみを指でトントンと叩きはじめると、
「カツラ……」
と、呟いた。
ぴくり、と頭の眉が吊り上がった。
この緊張した雰囲気にそぐわないティトォの発言に、船員たちはティトォのことを見つめた。
ティトォは注目を受けていることにも気付かないようで、どうにも空賊の頭のことが気になってしかたないようすであった。
「若ハゲ……、違うな……、もしかして……、いやでも、なんでまた……、ううん……」
なにごとかぶつぶつ呟き続けるティトォに、船員たちは哀れみの目を向けた。
かわいそうに、恐怖でおかしくなっちまったのか。
ルイズは呆れた目を向けた。
こいつ、何に気を取られてるのか知らないけど、今の状況分かってんのかしら。
空族の頭が、ルイズとティトォとワルドを指差した。
「てめえら。こいつらもフネに運びな。……ご立派な貴族様だ、たんまりと身代金がもらえるだろうぜ」


空賊に捕らえられたルイズたちは、空賊のフネの船倉に押し込められていた。
『マリー・ガラント』号の乗組員たちは、自分たちのものだったフネの曳航を手伝わされているらしい。
ルイズとワルドは杖を取り上げられ、ティトォはライターを取り上げられた。
したがって、鍵をかけられただけでもう、手足が出なくなってしまった。
杖のないメイジは、ただの人である。ルイズは余り関係なかったが。また火の気のないところにいるティトォも、魔法は使えなかった。
やがて、扉が開き、太った男がスープの入った皿を持って現れた。
「飯だ」
扉の近くにいたティトォが、受け取ろうとしたとき、男はその皿をひょいと持ち上げた。
「質問に答えてからだ。お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」
「旅行よ」
ルイズは立ち上がり、腰に手を当てて、毅然とした声で言い放った。
「トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンに旅行?いったい、何を見物するつもりだい?」
「そんなこと、あなたに言う必要はないわ」
ルイズは顔を背けた。
「威勢のいいこった。トリステインの貴族は、気ばっかり強くてどうしようもねえな」
男はせせら笑うと、皿と水の入ったコップを寄越した。ティトォはそれを受け取ると、ルイズの元へ持っていった。
「ほら」
「あんな連中の寄越したスープなんか飲めないわ」
ルイズはそっぽを向いた。
「食べないと、身体が持たないぞ」
ワルドがそう言うと、ルイズは渋々といった顔で、スープの皿を受け取った。
三人は一つの皿から、同じスープを飲んだ。
飲んでしまうと、やることがなくなった。
368虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/02/03(火) 20:16:48 ID:1tGaEYAB
ルイズは気丈に振る舞っていたが、よく見ると肩が小さく震えている。本当は怖くてたまらないのだ。
ティトォはそんなルイズを少しでも安心させようと、声をかけた。
「ルイズ」
ティトォは、服の襟に手をやって、隠していたものをルイズに見せた。
「いざとなったら、これ、使うから」
ルイズとワルドは、ティトォの手に乗ったものを覗き込んだ。
「剃刀?こんなものを隠し持っていたのか。でもこれじゃ、とても武器にはならんよ」
ワルドはかぶりを振った。
しかしルイズは、ティトォが『いざとなったら』何をするつもりなのかを悟って、息を呑んだ。
小さな剃刀は、武器としては役に立たない。
しかし、首筋や脇の下などに走っている、重要な血管を傷付けるのには十分であった。
死ぬか、心臓が止まるか、心に死ぬほどの衝撃を受けるかすれば、ティトォたち不死の三人は『入れ替わる』。
ティトォは自ら命を絶つことで『存在変換』を引き起こし、身体の中に眠っている攻撃特化型の魔法使い・アクアの力を借りるつもりなのだ。
「……やめてよ」
ルイズは顔をそむけて言った。
ルイズは、アクアが死んでしまったときのことを思い出していた。
悲しくて、苦しくて、目の前が真っ暗になった。
死んでも『入れ替わる』だけだというのは、頭では分かっているけど。でも、もうあんな思いはしたくない。
「わたし、いやだわ。そんなの」
ルイズが目を伏せるのを見て、ティトォは言った。
「いいんだよ。ぼくらは普通の人間とは違うんだ。常識も、倫理もね」
ティトォは少しだけ笑った。ルイズがそんなふうに考えてくれるのが、嬉しかったのだ。
「でも『換わる』必要はないかも。ちょっと気になることがあるんだ」
「何よ?」
「あの空賊の頭、変装してる」
ティトォの言葉に、ルイズは怪訝な顔をした。
「変装?」
「うん。あのぼさぼさの黒髪、カツラだよ。もみあげのあたりに、ちらっと金髪が覗いてた。それに、あごに糊の跡があった。多分、付けヒゲ」
ルイズは目をぱちくりさせて、ティトォの話を聞いていた。あの空賊の頭に顎を掴まれたとき、かなり近くで顔を見たというのに、ルイズはぜんぜんそんなことには気付かなかったのだ。
反対にティトォは、空賊の頭からはわりと離れた場所にいたはずであった。
「きみは、あの距離からそこまで観察したのか」
ワルドは感心したような、呆れたような声を上げる。
「でもなんで、空賊が変装なんかするのよ」
「うーん。もしかしたら……」
ティトォがなにか言いかけたとき、扉が開き、痩せぎすの空賊が現れた。
「頭がお呼びだ」


三人が通されたのは、立派な作りの部屋だった。後甲板にしつらえられたそこは、空賊船の船長室らしい。
豪華なディナーテーブルの向こうに、先ほど話題にしていた空賊の頭が座っていた。
大きな水晶の付いた杖をいじっている。こんな格好なのに、メイジらしかった。
369虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/02/03(火) 20:19:47 ID:1tGaEYAB
頭の周りには、柄の悪い空賊たちがニヤニヤ笑いを浮かべて、こちらを見守っている。
先ほどの痩せぎすの男が、ルイズを後ろからつついた。
「頭の前だ、挨拶しろ」
しかしルイズはきっと頭を睨むばかり。頭はにやりと笑いを浮かべる。
「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。それに威勢もいい。なんだっけな、『薄汚い貴族派の反乱軍が、わたしに触れるんじゃありません』」
ぎしっと椅子を揺らすと、頭はテーブルに身を乗り出した。
「お前たち、王党派のものか」
「ええそうよ。わたしたちはアルビオンの王室への使い。トリステインの貴族の代表としてやってきたわ。つまりは大使ね。大使としての扱いを要求するわ」
「ほう?なにしに行くんだ。王党派なぞ、明日にでも消えちまうよ」
「あんたらに言うことじゃないわ」
「貴族派に付く気はないかね?あいつらは、メイジを欲しがっている。たんまり礼金を弾んでくれるだろうさ」
「死んでもごめんよ」
ルイズは毅然と言い放った。頭は、くっくっと忍び笑いを漏らす。
「忠義深いのは美徳だがね、お前たち無事ではすまねえぞ。王党派が陣を張るニューカッスルは、貴族派に完全に包囲されている。さてはて、どうやってニューカッスルへ向かうってんだ?」
口を開こうとしたルイズより先に、ティトォが答えた。
「ぼくも心配だったんですけど。どうも、思ったよりかんたんに王党派と接触できそうです」
ティトォは、そう言ってかまをかけた。
「なんだてめえは」
頭はわずかに眉根を寄せて、胡散臭そうにティトォを睨んだ。人を射すくめるのに慣れた眼光だった。しかしティトォは物怖じした風もなく、頭に恭しく一礼した。
「失礼、閣下。ぼくは彼女の使い魔です」
「使い魔?」
「はい」
ティトォは、まるで貴族を相手にしているかのような丁寧な態度だった。
ルイズはそんなティトォをじろりと見る。
なにその態度。
こんな奴らに、そんな礼儀正しくすることないでしょ。
おまけに、閣下ってなに。なんなのそれ。
空賊に媚を売るなんて、トリステイン貴族の使い魔のすることじゃないわ!
不機嫌を顔全体を使って表現したルイズは、ティトォを陰険な目で睨みつけた。
頭はテーブルに肘を乗せて、ティトォを見ていたが……、やがて、わっはっは!と豪快に笑うと、立ち上がった。
突然の頭の変貌ぶりに、ルイズは戸惑い、頭の方を向いた。
「いやはや、きみの目を見ていると、なんだか自分がひどい間抜けを演じてるみたいに思えるよ。まるで、何もかも見透かされているようだ」
そう言うと、頭はルイズとワルドの方に目をやった。
「失礼した。貴族に名乗らせるのであれば、こちらから名乗らなくてはな」
その言葉に、周りに控えた空賊たちが、一斉に直立した。
頭は縮れた黒髪をはいだ。ルイズはあっと息を呑んだ。
それは、ティトォが言ったように、カツラであった。
眼帯を取り外し、付けひげをびりっとはがすと……、現れたのは、金髪の凛々しい若者の姿であった。
「わたしはアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令官……、艦隊とは言っても、既に本艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。まあ、その肩書き寄りはこちらの方が通りがいいだろう」
若者は居住まいを正し、威風堂々、名乗った。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
ルイズは口をあんぐりと開けた。ワルドも驚いたようで、呆けたように立ち尽くしていた。
ウェールズは、にっこりと魅力的な笑みを浮かべると、ルイズたちに席を勧めた。
「ようこそ、アルビオン王国へ。いや、大使どのには、誠に失礼いたした。甲板でのやり取りで王党派への御用向きと当たりを付けたのだが、外国から我々へ使者が送られるなど、なかなか信じられなくてね。きみたちを試すような真似をしてすまない」
そこまでウェールズが言っても、ルイズは口をぽかんと開くばかり。いきなり目的の王子に出会ってしまったので、心の準備ができていないのだった。
370名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 20:22:08 ID:hh/ED4D2
支援
371虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/02/03(火) 20:22:56 ID:1tGaEYAB
「その顔は、どうして空賊風情に身をやつしたのか、といった顔だね。いや、金持ちの反乱軍には続々と補給物資が送り込まれる。敵の補給路を絶つのは戦の基本。
 しかしながら、堂々と王軍の軍艦旗を掲げていたのでは、あっという間に反乱軍のフネに囲まれてしまう。まあ、空賊を装うのも、いたしかたなしだ」
ウェールズは、イタズラっぽい顔で笑った。
「もっとも、きみには見透かされていたようだったけどね」
ウェールズの言葉に、ルイズはティトォのほうへ振り返った。ティトォは、まったくいつも通りのとぼけた顔をしていた。
「……知ってたの?」
ルイズが尋ねる。
「うん、まあ。確証はなかったけど、カツラの隙間から金髪がちらっと見えたし、ウェールズ皇太子は金髪碧眼って聞いたから」
「金髪碧眼なんて、珍しくないだろ?」
ウェールズが言う。
「でも、変装する空賊なんて、身分を隠したい人以外いませんよ。例えば、王党派の生き残りとか。
 有力な王党派貴族は既にほとんどが倒れたと聞きました。その中でこれくらいの年格好の若者と言えば、皇太子くらいのものです。
 あと、このフネに乗り移る時に、側舷に銃弾がめり込んでいる裂け目を見ました。黒い塗膜の下に、白い塗膜がありました。この黒船の黒い塗装は、ここ一年ほどに施された真新しいものです。
 だから、軍艦を空賊船に偽装したんじゃないかと。敗残兵が空賊に身をやつしたのかとも思ったんですけど、だったら軍の装備じゃなくて、わざわざ揃いの曲刀だの斧だのに持ち替えてるのはおかしいし……」
あれやこれやと疑問点を並べ立てるティトォに、ウェールズが感嘆の声を漏らした。
「いやはや!驚いたね、まったく」
「ええ、ほんとに……」
突然、ルイズがティトォの向こう脛を蹴飛ばした。
あう、とティトォは痛みに姿勢を崩す。
「ルイズ?」
よろめいたティトォがルイズの方を見ると、ルイズと目が合った。
ルイズは無表情であったが、鳶色の瞳の奥に、怒りの色が浮かんでいた。
「ねえティトォ、あなたのその、なんて言うのかしら。観察眼?驚かされるばかりだわ」
がすがすとティトォのすねに蹴りを入れながら、淡々とルイズは言った。
「な、なんで蹴るのさ」
わけが分からず、ティトォが尋ねる。完全に及び腰だ。
「あなたって、なんでもお見通しなのね。恐れ入っちゃう。で、何も知らないわたしが怯えてるのを横目で見てたってわけ?へえ。はあ。ふうん」
ぴたりとティトォを蹴る足が止まった。
ぶるぶるぶる、とルイズの身体が小刻みに震えだした。
あ、まずい。とティトォは思った。
これはルイズが爆発する予兆なのだ。
「いいいいいいい言いなさいよねええエエエエッッ!!わかってたんなら!わたしに!早く!教えなさいッ!」
ものすごい剣幕で、ルイズはティトォを蹴りまわした。
「いやだって!確証があったわけじゃないし!あう。あうあう」
ティトォは身体を小さくして、ルイズの攻撃に耐えた。
「使い魔と!主人は!一心同体なのッ!なにか気付いたら、その都度報告しなさい!なんなのもう!わたし一人怖がって、ばかみたいじゃないッ!この!くの!」
「ごめん。痛い。やめて。あう」
ウェールズは、この騒ぎを唖然と見ていた。空賊……、王立空軍のものたちも、ワルドも、ぽかんとした顔をしている。
そんな視線に気付くと、ルイズは顔を赤らめて、やたらめったらに踊っていた足を止めた。
ルイズはコホン、と一つ咳払いをする。
「……失礼いたしました、殿下。アンリエッタ姫殿下より大使の任をおおせつかりました、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールです。
 こちらは、わたくしの使い魔にございます。そしてこちらが、トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵にございます。」
居住まいをただすと、ルイズは努めて優雅に一礼し、ティトォとワルドを紹介した。
しかし、空軍のものたちがルイズを見る目は気抜けしたものだった。
正直、誤魔化せてなかった。
しかしウェールズは気を取り直すと、
「ふむ、姫殿下とな。して、どのようなご用向きで?」
と、ルイズに尋ねた。見なかったことにするつもりのようだ。
372虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/02/03(火) 20:23:46 ID:1tGaEYAB
「あ、はい。その。姫殿下より密書を言付かって参りまして……」
ルイズは慌ててアンリエッタの手紙を取り出し、ウェールズに差し出そうとしたが……、
ふと躊躇うようにして、おずおずと口を開いた。
「あ、あの……、その、失礼ですが。ほんとに皇太子様?」
ウェールズは笑った。
「まあ、さっきまでの顔を見れば無理もない。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」
ウェールズは、ルイズに右手を差し出した。その薬指には、指輪が光っている。
「この指輪は、アルビオン王家に伝わる『風のルビー』だ。きみが嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた『水のルビー』だろう?」
ウェールズは、ルイズの指に光る『水のルビー』を見つめながら、言った。
ルイズは頷いた。
「水と風は共鳴しあって、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」
ウェールズはルイズの手を取ると、『風のルビー』と『水のルビー』を近付けた。
ふたつの宝石は、共鳴しあい、石と石の間に虹の橋をかけるはずであった。
しかし……
「……む?」
キィン、キィン、と甲高い音が響く。
宝石が共鳴している音だ。
しかし、ふたつの宝石の間に、虹の橋は架からなかった。
現れたのは、巨大な円の虹だった。
円の虹が、ルイズ、ウェールズ、そしてティトォの三人の真ん中に現れたのだ。
ルイズとウェールズは、それぞれの指に嵌まった『ルビー』が、共鳴して震えているのがわかった。
「おかしいな。石が、こんなに強く震えるなんて……」
ウェールズは困惑して呟いた。
ルイズもわけが分からず、ティトォを見る。
ティトォは、心臓の辺りを抑えていた。その顔には驚きの色が浮かんでいる。
ティトォは、誰にともなく呟いた。
「まさか……」
共鳴してる。
『星のたまご』が。
373虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/02/03(火) 20:25:02 ID:1tGaEYAB
以上です。
途中の支援ありがとうございます。
374名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 20:29:19 ID:hxxo1xzj
ティトォの人乙です。
共鳴の理由が気になる。
wktkが止まらない。
375名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 20:33:47 ID:hh/ED4D2
乙。
ルイズの怒りが理不尽すぎるw
そしていつか触れられると思ってたが、ここで星のたまご来たか
376異世界に灯る聖なる焔 ◆VneD5ej16w :2009/02/03(火) 20:51:33 ID:ZZmy2lNH
キャキゃきゃキャキゃきゃ、スレの貴様らこんばんは
王家の指輪は『星のたまご』と何の関係がありやがるんでしょうか
くたびれるほど首を長くして待ちやがりましょう Byアダラパタ

似てるかな?

てなわけで、21:00頃から第四話を投下します
作品:テイルズオブジアビス
召喚者:アッシュ(作中はルーク・フォン・ファブレ)
↑の表記は毎回載せます
混乱を避けるための措置と考えてください
377名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 20:57:04 ID:K+00Oppq
>>376
惜しい、「ケキャキャキャ」だ
それはそうと支援
378異世界に灯る聖なる焔 ◆VneD5ej16w :2009/02/03(火) 21:00:00 ID:ZZmy2lNH
第四話 憎しみの風

授業も終わり、昼食へ向かいながら談笑している生徒達が日中の穏やかさを際立たせる。
眠気を催しそうなほのかに暖かい春の日差しは、学び屋を貴族の憩いの場へと衣装替えする役割を果たすのだ。
誰もが背伸びして神が世に与えた恵みに感謝したくなる中、その恩恵を押しのけながら走る一人の男がいる。
アッシュに使い魔の契約を快諾させた中年の魔法学院教師、コルベールだ。
日の元に出るよりも薄暗い部屋の中で読書か研究に勤しむ姿を尊ぶ彼が、何故、真昼間から一人で気持ちのいいさざ波を逆走せねばならないのだろうか。
その答は、彼の脇に抱えられた一冊の古書にある。彼は、それに記された驚愕すべき事実に探究心を奮い立たされたのだ。
コルベールの、久しく流れていない大粒の汗が事の重大さを雄弁に語っている。

コルベールが目的地たる学院長室の前に到着すると、ノックもせずに走って来た勢いのまま扉を跳ね飛ばした。
「オールド・オスマン!」
「何じゃね?騒々しい」
扉を開けた先には、無駄に顔を引き締めたオールド・オスマンが立っていた。
オスマンは逆光を背に浴び、威厳と神秘性を引き立たせる黒の装いを肌に縫い付けている。
さすがは、幾人もの貴族の子息を預かる魔法学院の長と賞賛すべき貫禄だ。
「たた、大変です」
貫禄といっても、別の事柄に頭を支配されているコルベールには意味がなかった。
コルベールは、むさ苦しい中年の汗だくな顔でオールド・オスマンの眼前へと迫る。
親父臭さと熱気を嫌がり、オスマンは2、3歩後ずさる。コルベールが距離を詰める。
オスマンはさらに逃げる。コルベールは逃さない。
オスマンは両手をコルベールへと伸ばして静止を促す。コルベールが萎れたつっかえ棒を両肩で掻き分ける。
棒を機能させるために、オスマンはさらに下がる。棒を回避するため、コルベールがオスマンの懐に潜り込む。
オスマンはこれ以上足を運べなかった。終点、部屋の隅に到着してしまったのだ。
追い詰められた獲物ができることは、許しを請うか、狩人の望みに従うしかない。
「な、何が大変なんじゃ」
脱出路を失ったオスマンは、くたびれた、歳相応の老人に戻ってしまった。先ほどの威厳は欠片も残っていない。
「これ、これを見てください」
コルベールが持ち出したのは『始祖ブリミルの使い魔たち』という、表紙の枠が直線ではない年季の入った本だ。
コルベールは古書を開き、目的の資料が掲載されているページで手を止めた。そして、それをオスマンに見せる。
それを眼に焼き付けたオスマンは、数刻前の威厳が復活した。ただの老人にここまで活力を与えた内容とは、何なのだろうか。
オールド・オスマンは秘書のミス・ロングビルに退室を促す。
秘密を共有できる空間になったことを確認して、オールド・オスマンは重く口を開く。
「詳しく説明するんじゃ。ミスタ……、……」
「コルベールです」
「……では、話したまえ。ミスタ・コルベール」
鋭い眼光にはまがい物もあるらしい。
379異世界に灯る聖なる焔 ◆VneD5ej16w :2009/02/03(火) 21:00:37 ID:ZZmy2lNH
俺は、教室を元通りに直したので、昼食を取るために食堂へ向かっている。
瓦礫をかき集めて学院の備品を運ぶのはいい運動になった。おかげで、朝食ったものは全てエネルギーとして消費された。
ただ、積めば大型の魔物並みの高さとなる瓦礫の山や机の束は衰えた俺の腕には堪えた。
体の調子が良ければ、これほどの重労働にはならかっただろう。
筋力もだいぶ低下している。そもそも、エルドラントで死ぬ寸前だったのは昨日の話だ。
こうして、普通に歩ける自体が奇跡と言える。よほど優秀な治療術士を招き入れたのだろう。
手厚い介抱は結構なことだ。だが、全てが無に変える人間には迷惑でしかない。
なので、俺に関心を向ける人間は消えて欲しいんだが、片付けが終わってから片時も俺を視界から外さない女には困りものだ。

行きの時と違い、敷き詰められた石の色彩に被さる影が少ない廊下を俺達は歩いている。
町に繰り出すと、民が往来激しく通りを占拠し、活気と喧騒に満ちた商人達が客を呼び込んでいる時間帯だ。
任務がない時は俺も少しは羽を伸ばして英気を養っていた。今はそいつを妨害する因子に並ばれている。
体は前に向かって進んでいるのに顔だけ進行方向から右に90度曲がって、俺に無言のプレッシャーを放っている。
俺の足元に沈んでいる影にルイズは鼻先を侵入させ、絶対に放さんとばかりに微動だにしない。
何が何でも超振動の正体を知りたがってる女が終始無言でいるのは俺の警告が効いているからだ。

超振動は門外不出で、他人に知られたら大きな危険を生む魔法だから不特定多数の目がある場所では絶対に口にするなと念を押した。
それだけでは不安なので、超振動の事を俺以外に話したら、可能性が限りなく低いと前打って、教えてやろうと気が変わる機会を永遠に失うと脅しておいた。
人を威圧するルイズの双眸はどうにかして俺の気を変えようとする努力の証だ。
そいつを空しいと言うのは心の中だけにしておこう。少しでも吐露したら最後、こいつは確実にわめき散らす。
それに、こいつの行動に対してアクションを起こすのは癪に障るのだ。
結局、人目もはばからない機械仕掛けの珍道中は食堂に到着するまで続いた。
380異世界に灯る聖なる焔 ◆VneD5ej16w :2009/02/03(火) 21:01:36 ID:ZZmy2lNH
「ル、ルイズ。君は使い魔と大変仲がよろしいみたいだね。鏡を見ているように動きが瓜二つだったよ」
「違う」
「違うわ」
イニスタ湿原が妙なことを口走りやがった。俺とこいつが親しいだと。目が腐ってんのか。
「い、いや……、今だって……」
「「何が」」
縄張りを荒らさた猛獣のごとくおぞましいオーラを男にぶつける。喧しく囀るキザ野郎は口を塞がれた。逃げるように薔薇を撫でて手慰みにしている。
止めた呼吸を再開して、俺は体を背もたれに預けた。脱力して両腕を腿の上に降ろす。
椅子にかかって、通路にはみ出した焔の証を束ねようと手を伸ばした時、後頭部が先の細い鈍器で殴られた。
「これはこれは、ミスタ・ファブレ。失礼いたしました」
俺の後頭部を襲ったのは人間の肘だ。腕の主は教室でコケにされた土の髪の男、ド・ロレーヌ。
ロレーヌは侮蔑の色を隠しもせず、蓄えた恨みそのままに、醜い面貌で俺を見下している。
「大層な挨拶だな。ハルケギニアの風習か?」
「今のは不注意ゆえの事故だよ。私も配慮が足りなかった。申し訳ない」
口とはでまかせを吐く装置。こいつを見ていると、そう思えてしまう。今度はごとくじゃない。猛獣させ恐れる、六神将のそれを纏い始める。
「いやはや、通路を狭める邪魔者に気付かないとは。ぼくは間抜けだね」
そう捨て台詞を吐いて、挑発にしかならない細く湿った笑いを届けながら、ロレーヌは去っていった。
いい根性をしている。ここが食堂でなければ、あの野郎の顔面は人前に出せないほど腫れ上がっていただろう。
民の命を託された俺達貴族が私怨で他人に手を振りかざすなど言語道断だ。あの屑は下衆の中の下衆。権力で災いをもたらす権化だ。
次にあの野郎が俺にちょっかいを出した時、俺は自分を理性で抑える気など消え失せるだろう。
喧嘩を売った相手が誰か。てめえがどれだけ愚か者か思い知らせてやるよ。
祈りを告げる鐘が鳴る。絡める指の力が怒りの程を伝えている。
気分を最悪にしてくれて、飯の味を損ねてくれた屑が燃え上がらせた業火は俺の胸で猛る怪鳥となっている。
381異世界に灯る聖なる焔 ◆VneD5ej16w :2009/02/03(火) 21:02:30 ID:ZZmy2lNH
「ド・ロレーヌは相変わらずガキだわ。ルークも大変ね。あんなのに絡まれて」
人をたらし込む貴様はどうなんだ、という疑問が頭の中を巡っている。しつこく人に絡む女の方こそ身を引くべきだ。
「まったくだ。歳を一回り偽っている女に同情される筋合いはないがな」
「大人の魅力と言って頂戴。あなたには分からなくて、ルーク。後ほど、直々にご教授してあげましょうかしら」
機嫌が悪い時に大人を着飾った女と聞く口は反吐が出るほどまずい調味料だ。フォークを往復させる間隔がどんどん短くなって、味を感じる暇がないほどにな。

「人の使い魔に手を出さないでよ、キュルケ」
次の困ったスパイスは俺の真横からだ。俺の体に隠れたルイズを視界に入れるため、キュルケが身を乗り出した。
「彼があなたの物って誰が決めたのかしら。彼の意思を尊重すべきだと思うわ」
俺の意思の尊重は是非ともして欲しいものだ。だが、キュルケの腹積もりに沿うのは御免だ。
「こいつは使い魔として仕える事を承諾したのよ。だったら、私に従うのが筋よ」
「どうかしら。あなたの『ゼロ』は、彼の怒りの導火線に火を点けたみたいよ。教室をめちゃくちゃにした後、ルークに随分叱られてたわよね」
キュルケの言葉は、俺の胸を締め付けた。反射的に舌打ちをしかけてたほど、重大な過ちを犯した事実が俺の意識を暗がりに落とそうとする。
ルイズの口を硬く閉ざして喉の奥に押し込んだ超振動を最初に口にしたのは俺だ。それも大声で。
阿鼻叫喚の大混乱に陥ったとはいえ、誰の耳にも入らなかったという保証はない。特に、最前列に座っていたキュルケは最も危険なポジションだ。
額から一筋の汗が垂れる。後悔が俺を責め立てる。人に物言う資格なしという後ろめたさと共に。
「何話してたかは、五月蝿くて全然わかんなかったけど、あれで愛想尽かされたんじゃない」
顎から落ちた雫は俺の不安も吸収していた。どうやら、キュルケには知られてはいないらしい。
よくよく考えれば、あの状況で他人の言葉に耳を傾ける余裕はない。誰も彼も、自分の身を守るだけで精一杯だった。
それでも、油断は禁物だ。ルイズが超振動に手を突っ込まないために監視を強めとく必要はある。たとえ、できることに限りがあろうとも。

「ち、違うわよ。あれは……」
俺は誰にも悟られないように、肘でルイズを小突いた。当然、警告の意である。他人の動向を気にするより、こいつのボロを隠す作業のほうが大変だ。
「あれって何なの。私に教えて下さいな」
「人に被害を与えるような爆発を起こしたことを咎めただけだ。何か問題があるのか」
「本当かしらね。それが嘘じゃないと証明できて」
人が秘密にしたい境界線を越えたがる、真にうざい女だ。どうして、ここまで根掘り葉掘り聞きたがる。
「こいつに聞いてみろ。同じ答えが返ってくるぞ」
「へ〜、そうなの。ルイズ〜、彼に何て言われたの」
興味津々であると唇を曲げたキュルケは、右肘をテーブルの上に立てて頬杖をしている。
俺はもう一度ルイズの腕に服を押し込んで、話を合わせるように促した。
「こいつったら、あんな危険な魔法を使うなら杖を置けって言ったのよ。失礼でしょ」
ルイズは俺やキュルケから目を背けて、海老が反ってるように胸を張る。
「あら、そう。じゃあ、そういうことにしといてあげるわ」
キュルケはこの場で追求をやめただけだろう。気分次第で、再び俺たちを襲う槍は握られたままだ。
382異世界に灯る聖なる焔 ◆VneD5ej16w :2009/02/03(火) 21:03:57 ID:ZZmy2lNH
「いちいち注意しなくても、あんたの言いつけはちゃんと守るわよ。馬鹿にしないで」
俺の耳がかろうじて認識できるほどの艶の欠けたひそひそ声が隣から伝わった。今の出来事で、ルイズはまた気を悪くしたようだ。
食器の扱い方が乱雑になって、スプーンが皿を叩いているので少々喧しい。
「だったら何を聞かれても言いよどまないことだな。隠し事があると感付かれるぞ」
「わ、私にだって、それくらいはできるわよ。今のはいきなりだから、ちょっと驚いただけ」
食事が原因でない膨らんだ頬を蓄えながら、ルイズはそっぽを向いた。
そのちょっとのスキで災難を招くことがあるんだよ。見苦しい言い訳は信用を地に落とす行為だ。
俺がこの世に介入できなくなるまで、これのお守りをするのは心身への負担が大きそうだ。

最後に残った、焙ったチキンのソースかけをほお張る。皿は空になっても、俺の嘆きを飲み込んで消化することはできない。
皿にこびり付いたソースのように、しつこい汚れが張り付いている。そいつを流せる洗剤はない。
あのレプリカもそうだったが、何で超振動の使い手は面倒な人種が多いんだ。ローレライの見る目のなさを嘆きたくなる。
そう思った時、体のどこかに亀裂が入った気がした。違う。今割れたわけではない。
こいつはルイズの超振動の爆発の衝撃が原因だ。あの時ルイズは何をした。俺やレプリカの専売特許である、単独での超振動を発生させたではないか。
特異な存在が俺の脇で不機嫌な食事を送っている。

本来の威力からすれば失敗なのだ。それでもルイズは単独での超振動を成功させた。
超振動の原理は同位体の共鳴現象だ。
同位体同士がお互いの発する音素振動に干渉することで、音素同士の結合を解放する効果、つまり、あらゆる物質を消滅させることが可能となる。
その中でも、単独で超振動を成功できるのは、俺やレプリカのように、第七音素の意識集合体であるローレライと同じ音素振動数を持つ人間のみだ。
こいつをハルケギニアに適用するなら、ルイズはローレライの完全同位体という理論が成り立つ。
聖なる焔が俺以外に存在するだけでも信じられない事だ。更に、ハルケギニアは第七音素を有していない。
ルイズがローレライの同位体など妄想と同義だ。しかし、超振動は起こった。不完全だとしても。
この髪の色が頭の中まで侵食してそうな能天気で傲慢な女に、何故それほどの真似ができたのか。
ルイズは魔法の失敗による爆発で周囲に迷惑がられていたらしい。別の譜術が超振動に変わるなど考えられない現象だ。
ルイズに眠る指揮者不在の第七音素の演奏は、俺にとってもここの貴族にとっても異質な音色を奏でている。

そもそも、この世界の魔法は、オールドラントの常識が通用すると期待させて、別の論理を持ち上げる。
並んで歩いているようで、そいつを否定するがごとくお互いには距離がある。
俺はようやく、ここが時空という人間の作りし単位では計れない境界線を越えさせられたと実感した。
テーブルに置かれる見慣れたショートケーキと、かつては当たり前の隣人だったメイドが親近感と疎遠が混じる奇妙で複雑な感情を胸に抱かせる。
383名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 21:04:58 ID:K+00Oppq
SHIEN
384異世界に灯る聖なる焔 ◆VneD5ej16w :2009/02/03(火) 21:05:09 ID:ZZmy2lNH
ケーキの味は星を渡り歩いた最中に食べたものと変わらないはずなのだが、初めて口にした料理と勘違いしそうになる。
顔を上げて周囲に目を配ってみれば、俺の様子を伺う何人かの挙動に気付く。
奴らの地図に載らない大地の貴族はさぞ珍しいだろう。特に、意識を時空の彼方に置き忘れた男はな。
そいつらを視界から放り出して、俺はフォークで掬ったケーキを口へと運ぶ。口を開こうとしたら、皿が割れるけたたましい音が耳に飛び込んだ。
俺の顔がケーキから遠ざかる。その時、俺の髪が風に吹かれて浮いた。
「ひゃっ、は……」
次に届いたのは誰かの悲鳴。椅子から身を乗り出して、事の確認に努める。
馴染みのある、肩まで伸びた黒髪を持つメイド、シエスタが通路に座り込んでいた。何故か、髪の毛を纏めるカチューシャがクリームの塊に持ち上げられていた。
目の前にはケーキが散乱していて、床や椅子、そして机に至るまで撒き散らされている。
被害は人間にも及んでいた。マントがクリームでべっとり汚れているのは、俺に喧嘩を売ってきたド・ロレーヌだ。

ド・ロレーヌは目を細めて、下卑た笑みを浮かべながら己の地位を誇示すように悠然と立ち上がる。
「メイドよ。お前が何をしたか、その足らぬ頭でも理解できよう」
ロレーヌの発する言葉は、シエスタの肩を震わせる。それが、シエスタの身に何が起きたかを語り掛けてくれる。
「我らが女王陛下より受け賜りし糧を台無しにしたことを咎めはしない。だが……」
ロレーヌはそこで一呼吸置いた。そして、杖を引き抜き、俯いたシエスタの脳天に突き出す。
罪人を断罪する司法官の冷徹な瞳がシエスタの全身を凍てつかせている。
「貴族の象徴たるマントを汚した罪、何を持ってしても償えぬ大罪であるぞ!」
雷撃の譜術が炸裂したように、シエスタの全身が弛緩し始めた。
ヒエラルキーが固定化された社会構造で、下の層の人間が最も恐れる悪夢、それが貴族の逆鱗に触れることだ。
詳しい状況は不明だが、シエスタはそれを犯してしまったらしい。
恐怖に捕らえられたシエスタの両腕は体を支えることすら叶わなかった。崩れ落ちたシエスタはクリームの沼に頭を擦り付ける。
「ちょっと、あのメイドは何やってんのよ」
ルイズも尋常ではない光景に気付いた。こいつだけではない。食堂中の目がロレーヌとシエスタに釘付けとなっている。
385異世界に灯る聖なる焔 ◆VneD5ej16w :2009/02/03(火) 21:06:05 ID:ZZmy2lNH
野次馬連中が集まり出しても、シエスタは顔を地に伏せたままだ。動くのは戦慄に支配された心のみ。自らの意思で四肢を制御できていない。
「抗弁どころか謝罪もなしとは。君はぼくを誰だか知らないのかね」
ロレーヌが杖で髪を梳いても、シエスタは口を開けず微動だにしない。
「それとも、己の失態の責に押し潰されてしまったかね。ならば、贖罪の証として君の首を捧げてもらおうか」
ロレーヌからの宣告は最悪のものだった。両腕が俺を勝手に立ち上がらせるほどに。
テーブルを揺らした衝撃で騒ぐ皿に驚いた何人かの視線を集める。
「てめぇ、ふざけた事をほざくな!」
壁が遮れないほどの大音響はロレーヌ俺の存在を告げるのに十分すぎるほどだ。奴は俺に気付き、杖を顔が二つに割れる位置に掲げる。
「どうしたのかね、ミスタ・ファブレ。ぼくは彼女の罪の重さを説いてるだけだよ。メイジの名誉を傷つける者の末路、君も貴族なら分かるだろう」
ロレーヌは冷静かつ淡々と言葉を繋ぐ。人の命の重さを感じさせない冷酷さが、俺をさらに逆上させる。
「何が罪の重さだ!マントを汚しただけで死刑になる法律がどこにある!」
「そうよ、ド・ロレーヌ。彼女は私のメイド。貴族の従者の不手際は主が裁くものよ」
俺の後の続いたのは、意外なことにルイズだった。こいつが横暴を許せない神経を持ち合わせているとは思わなかった。
気になるのは、こいつもシエスタが罪を裁く気があるところなのだか。
ロレーヌは激高しかかる俺達を諌めようと、腰の前で掌を下にして上下に揺らしている。
「落ち着きたまえ。さすがに、貴族の食卓を平民の血では汚さないよ。彼女に少々の教育を施すだけに済ましてあげるさ」
「教育だと。貴様の言う指導など信用におけるか。シエスタをいたぶる算段なら承知しないぞ!」
「そんな手荒な真似をするわけないじゃないか」
ロレーヌは腰に手を当て、杖で床を指す。絵画の貴族像のようなポーズを取り、シエスタを見下ろした。
その体勢から屈んだロレーヌは、シエスタの、クリームでほのかに白くなった髪の毛を掻き分ける。
「貴族への正しい仕え方を教えるのさ。ぼくの部屋で、ゆっくりとね」
獲物に舌なめずりをする下品な野獣がそこにいた。こいつが何をするためにシエスタを部屋に招き入れるかなど、考える必要もなく想像できる。
全身の血が沸きあがるようだ。段々と、理性で体を制御できる限界に近づいている。
椅子を弾いて野次馬を強引に押しのけ、俺はロレーヌの眼前へと繰り出す。
「熱病で浮かされた屑が。その減らねえ口はいらないようだな」
「それは君のことだよ。赤い髪は年中夏真っ盛りの頭にしか生えないからね」
「よく言った。貴様の低俗さを思い知らせてやろう」
ド・ロレーヌは腕を振り上げ、俺の眉間を標的とばかりに指し示す。
吊り上げた目尻、憎しみの文字が見え隠れする口元、棚引く奴のマントが同意の意思を表している。後は、今まさに開こうとする言葉での合意のみ。

「待ちたまえ!」
決め台詞の機会を奪う、すっとんきょな声が俺の真後ろから流れた。
最も格好が付くシーンに冷や水を掛けられた形になったロレーヌは、変わらぬ冷たさを保ったまま、口を半開きにするという間抜けな姿で立ちすくんでいる。
所有者の感情が薄れた杖を視界から消して、妙な横槍を入れた人物の人相を探す。
そいつはすぐに見つかった。俺の真後ろに、薔薇の香りを楽しんでいる口がイニスタ湿原の金髪がいるのである。
「争いを招く不届き者よ。この場はこのギーシュ・ド・グラモンが調停しよう」
薔薇を天高く掲げ、空間を掌握せんとする男に俺が抱いた印象はこれだけだ。

頭に虫が湧いている。
386異世界に灯る聖なる焔 ◆VneD5ej16w :2009/02/03(火) 21:07:27 ID:ZZmy2lNH
「諸君。貴族同士でいがみ合うなど、女王陛下の御前を汚す恥ずべき行為であるぞ」
ギーシュは薔薇を口に咥える。マントの裾を掴み、腕を伸ばして広げてみせる。
「愚かな諍いは陛下の敬虔なるしもべに相応しい僕が治めてあげよう」
空気を読まない闖入者のせいで、充満していた熱気が減衰している。喧騒のほとぼりは、奴の言うとおり、治まりつつある。
だが、こいつに場を仕切られるのは不服以外の何ものでもない。誰だって、部外者が入れる茶々は望まないはずだ。
「何が場を治めるだ。貴様、何を考えている」
「まずは、ルーク君。君はそこのメイドを慰めようか」
俺の言葉を払いのけるように、ギーシュは俺の眼前に薔薇を止める。人の話を聞き入れる耳は付いてないらしい。
気に入らないことに、言ってる内容は適切だった。なので、突っぱねることもできそうにない。

刻々と状況が熱気を増しながら荒れているのに、ロレーヌにより氷漬けとなったシエスタの心を溶かす役目は果たされなかった。
クリームを接着剤に、床と張り付いたシエスタの額に左手を滑り込ませて上半身を起こす。
背中を右手で支えられたシエスタの姿は見るも無残なものだ。
白く染まった髪の毛。鼻や頬を歪に膨らませるクリームの化粧。そして、虚空を彷徨う、映るものが伺えない漆黒の瞳。
メイドの服は、所々、鋭利な刃物を連想させる裂け目があるのだ。
長い時間眺めたらこちらも暗い奈落の底に落ち込みかねない、深い闇がシエスタを取り込んでいる。
「ちょっと、これ……、だ、大丈夫なの」
いつの間にか、ルイズが傍によっていた。従者の身への心配は高慢な性格を体の奥底へと沈ませたらしい。
「分からん。呼びかけに応じれば、何とかなると思うんだが」
「じゃ、じゃあ、早くしなさい」
高慢が消えても、主人の風は止まらなかった。しかし、今は下らないことを考える場合ではない。
シエスタを貫いた、正体不明の心の傷を一刻も早く癒さなければならないのだ。背中の右手を滑らせ、シエスタの右肩を抱く格好となる。

「シエスタ、俺だ。分かるか。ア……、ルークだ。」
シエスタの左肩が胸に当たるほど強く揺らす。しかし、シエスタは何の反応も示さない。
「ルーク、あんた力入れすぎじゃない」
「そんな悠長なことを言ってる状況じゃないだろうが。このままじゃ、最悪医者に預けなきゃまずい位だ」
「そ、そうなの」
ルイズの顔が青ざめる。尋常でない事態を飲み込んだか、いても立ってもいられなくなり、身を乗り出してシエスタの顔を両手で挟み込む。
「あんた。えっと、シエスタ。寝転がってんじゃないわよ。お、起きなさい」
鼻先が触れ合いそうなほど近づいたルイズは、シエスタの頭を振っている。
さすがにやりすぎを感じてルイズの腕に手を伸ばそうとする。
ルイズによるものではない、シエスタの瞳の動きが目に入ったのはその時だった。
387異世界に灯る聖なる焔 ◆VneD5ej16w :2009/02/03(火) 21:08:49 ID:ZZmy2lNH
「シエスタ!」
ルイズの手からシエスタを強引に引き離す。
奥行きを感じないほど薄っぺらで、澱んだ黒い泉に一筋の光が差したのだ。
この機を逃さず、一気に覚醒へと昇らせようとシエスタの頬を小刻みに叩く。
「う、あ……、あ……」
「シエスタ!目を覚ませ!戻って来るんだ!」
シエスタの耳元に大声で怒鳴る。聴覚を刺す剣の如き音は、奥底に埋められた自我を掘り起こした。シエスタの瞳に本来の色を浮かび上がらせたのだ。
「は、はい!ななななん、何でしょう!すすすすす、すみません!は、はい!」
曲がったバネを弾いたようだった。
シエスタは下半身の力のみで起き上がり、その勢いを上半身に伝えて、顔が膝にぶつかる寸前まで腰を折ってお辞儀を始めたのだ。
あまりの変わり様に、俺もルイズも、調停役を名乗り出たギーシュさえも呆気に取られている。
一触即発の二つの波紋から広がった荒波は、突如として空から降ってきた、のどかに航行する一隻の船に打ち消されたのだ。

「……ぷっ」
非日常から日常に戻された感覚。そのギャップは言いようもない可笑しさとなって、俺達をくすぐる。
「はは」
「は、ははは……」
「ひ、ひぃ、ひ〜、きゃははははは!お、おお、面白い!面白いわ、あんた!」
最初に我慢ができなくなったのはルイズだ。シエスタを指差しながら、腹を抱えている。
「あはははははは!こ、こんな時に……こんな時にあ、謝るなんて!ゆ、愉快じゃないか」
続いてギーシュ。穏やか故にこそばゆい波紋を遮るものはない。笑いは食堂中に伝染している。
挙動が怪しいシエスタがまるで追いつけない速度で、爆笑の渦がシエスタを取り囲んだのだ。
「え、え、な、何ですか。わ、私変なことしました?ど、どうしたんですか皆さん」
「はは……」
心を誘う楽しげな雰囲気に乗せられたか、本当に珍しく、そして久しぶりの笑みがこぼれた。
「る、あ、いえ。ミスタ・ファブレも何が可笑しいんですか!」
「いや、あ、それは……」
普段は絶対にありえない反応を見られて小っ恥ずかしくなり、顔を背ける以外にやりようがなくなってしまった。
「そ、その、そりゃ、私は田舎者ですけど……」
急に、シエスタの言葉が止まる。気になって見上げてみたら、息を潜めた恐怖が舞い戻ったかのごとく、怯えに支配されていたのだ。
シエスタの視線の先に、それほどの感情を呼び起こさせるのは一人しかいない。
シエスタを極限まで追い詰めた糞野郎、ド・ロレーヌが時から切り離された間抜けな姿を保って立っているのだ。
388異世界に灯る聖なる焔 ◆VneD5ej16w :2009/02/03(火) 21:10:50 ID:ZZmy2lNH
脚が機能を失って、へたり込んだシエスタを介抱する。呼吸は荒く、額からは汗の雨が流れている。
「大丈夫か」
「は、はい。多分……へ、平気です」
唇の震えが喋りを困難にしている。こんな状態では、下手に相手を配慮した心遣いが痛々しい。
「あの野郎に、何かされたのか」
「エ……、ええ。あ、あの……、その……」
駄目だ。まともに話せなくなり始めた。あの屑はシエスタにどんな悪行を働いたんだ。

「惨いものだ。ド・ロレーヌはやりすぎだよ」
妙に眩しい金髪が覗き込んできた。ある意味、場を仕切ることに成功していたギーシュだ。
先ほどのお茶らけた印象は何処へやら、気持ち悪いほどに真面目な面持ちだ。
「奴が何をしたか見たのか」
「そうだよ。聞きたいかね」
「断る理由がない」
「いいだろう」
ギーシュはシエスタの服を指差した。そこには、鋭利な刃物で切られたとした考えられない痕がある。
「事の始まりはメイドがケーキのトレイを落としたことに始まる。ド・ロレーヌのマントを巻き込んでね」
そこまでは分かっている。問題なのはその後のロレーヌの行動だ。無言を相槌とし、話を進めるように促す。
「マンとはメイジの象徴だ。当然、ド・ロレーヌは怒る。そこで彼は何をしたと思う」
顔の造形に不釣合いなほど、眉間にしわを寄せた苛立ちの混じった顔が迫ってくる。
歯を食いしばる音が聞こえるほど強く締めこまれた口を開く。
「あいつは『風』の魔法をメイドに放ったんだ。躊躇することもなくね」
焔が点いた。いや、そんな生易しいもんじゃない。これは爆発だ。
力を与えられた者が一番犯してはならない一線を越えた、正真正銘の屑を灰燼に変える、破裂しそうな鼓動だ。
「どうだい。酷い奴だろう」
ギーシュの締めの台詞は背で受けた。体全体が発火したと錯覚しそうだ。大気が揺らいで見える。
視界が狭まっている。あの野郎に全てを集中させるために。
昇る焔に導かれ、激情を血肉とした腕が伸びる。凍りついたド・ロレーヌの何もかもを溶かすために。
「てめぇ、そこまで堕ちてるとは思わなかったぜ。貴様が無事に太陽を拝めるのは今日で最後だ!」
389名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 21:11:47 ID:zBZITDhf
支援
390異世界に灯る聖なる焔 ◆VneD5ej16w :2009/02/03(火) 21:12:05 ID:ZZmy2lNH
服を破るほどの握力でロレーヌの襟元を握り締める。首の骨を折る気で頭上へと捻り上げる。
この期に及んで、ロレーヌは何の反応も示さなかった。頭に昇る熱がそのまま腕に伝わる。
首を絞めかねないほど襟を捲くると、圧迫感に参ったか、ロレーヌの面が苦悶に変わった。
「ぐ、な、苦し……」
「ようやくお目覚めか。怠けすぎだぜ。お調子者のお遊戯は終わりの時間だ」
片目も満足に開けないロレーヌは、必死にもがきながら自分の身に起きたかを把握しようとしている。
「お、お前は……ミスタ・ファブレ……。き、貴様ぁ、ぶ、無礼だ、かはぁ」
「無礼?貴様のやったことに比べれば、たっぷり釣りが貰えるだろうよ」
あまりにも手前勝手なロレーヌの物言いに、左手に込める力が更に強まる
「ぐ……、く、苦しい……、は、放せぇ」
「苦しいだと?てめえがその言葉を口にする資格があると思っているのか」
今でも結構な高さに吊り下げられているロレーヌを、もう一段階上へと担ぎ上げる。
クリームが染み付いたマントが鼻をかすめる。そいつを暇な右手で掴み、ロレーヌに見せ付ける。
「この程度の汚れで人に心底苦痛を与えたのは誰だ。答えやがれ!」
ロレーヌからの返答はない。絞まる首が喉の震えを邪魔しているらしい。口の端から唾液が垂れているのが良い証拠だ。
「おい、貴様。もう止めろ。神聖なる『アルヴィーズの食堂』を汚したいのか」
俺に静止を呼び掛けたのは、ロレーヌの隣に座っていた奴だ。へっぴり腰になりながら、大慌てで静止を求めている。
「ふん、いいだろう」
手だけ放してロレーヌを落としてやった。ろくな着地もできず、奴は思いっきり尻餅をつく。
全身に滾る焔を腕に凝縮させたせいか、今の頭の中は氷塊のように冷え切っている。人間の一挙手一投足がスローモーションとなるほどに。
目尻に涙を溜めながら睨んでいるロレーヌは滑稽以外の何者でもなく映った。

「貴様……、良くぞここまで貴族を愚弄してくれたな……」
「愚弄だと。権力に胡坐を掻くしかできない能無しが。貴族の地位を愚弄してるのはお前だろう、この屑が!」
ロレーヌが立ち上がる。その表情は、ギーシュの横槍が入る直前よりも陰湿さを増していた。怨念が溢れ出る杖を俺に向ける。
「貴様は教育が足らんようだ。貴族の礼儀を知らん未開の人間は調教が必要だ」
「この期に及んで人の非難か。おめでたいほど腐った野郎だ」
「君の口もおめでたいよ……。今すぐ黙らせてやろう。決闘だ!」
ロレーヌは憎しみを束ねた杖を天空へと突き出し、高らかと挑戦状を叩き付けた。
これを断る理由など皆無だ。俺もこいつは気に入らない。増長し切って会話さえ無意味な存在を許すわけにはいかない。
「いいだろう。泣き言をほざかないよう、せいぜい頑張るんだな」
ようやく取り交わされた合意により、食堂の至る所から大歓声が沸いた。
391異世界に灯る聖なる焔 ◇VneD5ej16w(代理):2009/02/03(火) 21:20:51 ID:zBZITDhf
野次馬がやたらと盛り上がっているのは、かなり待ち惚けていた反動からだろう。
己の目的を果たせたロレーヌは性質の悪い狐が獲物を射程に捉えた様だ。
「勝負はヴェストリ広場で行う。今の内に無事を神へと祈るがいい」
「それはこっちの台詞だ。それで、勝敗はどちらかが降参するまでか」
「そうだ。更にもう一つ。ぼくはここにいる二人と一緒に戦うよ。ちなみに、君に拒否権はない」
ロレーヌが杖で指したのは、両隣に座っている男だった。
正直、この世でこいつより醜い貴族はいないだろうと思え始めた。弱者を蔑み、いざ自分に火の粉が飛ぶと他人を盾にしやがるとは。
「勝手な野郎だ。素直に応じる気にはなれないな」
「もちろん、君の助っ人を使っていいよ。ただし、ぼくと同じく二人までならね」
俺はこの世界に召喚されて一日も経過していない。助っ人になってくれるほど親交を深めた人間がいないことを分かり切って言っていないか。
本当に卑怯な野郎だ。

「あんた達。主人の許可なく決闘できると思ってるの?」
盛り上がる聴衆に水を振り撒いたのはルイズだ。血気盛んな貴族らがルイズに不平を述べる声が漏れている。
小さい背を少しでも高く見せようと、胸を張って体を限界まで伸ばしている。
主人の体裁を誇示しようとするあまり、逆に矮小さが滲み出ているようで逆効果となっていた。
「それに、ド・ロレーヌの行為は開き直って済ませられる類のものではないと思うよ」
薔薇の花を擦っているギーシュが続いた。この場に現れてから、この男はずっと役者気分で人に接している。
ロレーヌの口腔から舌が僅かにはみ出る。仇敵を前にした悪しき騎士がそこにいた。
「振り下ろされた杖は止められないよ。誰もね」
「御免ね。断る気なんて全然ないの。人の従者を傷物にして無罪放免になると思ってるの。ルーク、この馬鹿をとっちめなさい」
主人からの決闘の承諾。一度冷めかけたボルテージが、マイナス分さえも上乗せして、歓声の嵐を生み出す。
「主人の了承がもらえたようだね。嬉しいかい」
「こいつが何を言おうと、断る気はない。無事に家へ帰れるチャンスがなくなってまずいのは貴様の方じゃないか」
ロレーヌから余裕の色が褪せてゆく。しかし、顔を振り上げ、陰を吐き捨てるように平静を取り戻そうとする。
「君のパートナーを決めてあげよう。ギーシュ・ド・グラモン、お前も戦いに加わってもらうよ」
納得がいかない人選とはこういうことを指すのだろう。気取りが心情の男など足手まといにしかならない。
「こいつと組むくらいなら、一人で戦うほうがましだ。悪いが他を当たってくれ」
「そうかな。彼はやる気満々のようだけど」
ロレーヌが翻し体を覆わせているマントに、俺の意見が受け流される。
背中に走る、いやな予感を確かめるべく、後ろに立つ別の意味で調子に乗った貴族を視界に入れる。
果たし状が吊り下げられてそうな薔薇がある。挑戦を受けて立つ場違いな眼が光を浴びて輝いていた。
「いいだろう。このギーシュ・ド・グラモン、お相手仕る!」
空気を読めない参戦者は、俺の頭痛の種になることは間違いないだろう。
392異世界に灯る聖なる焔 ◇VneD5ej16w(代理):2009/02/03(火) 21:21:21 ID:zBZITDhf
食堂も、そこへ繋がる廊下も大騒ぎになっている。退屈な日々が崩れる期待が皆の心を躍らせているのだ。
「決闘だ。ド・ロレーヌとギーシュ、そしてルイズの使い魔である貴族が決闘するぞ!」
「場所はヴェストリ広場!早く行かないと貴族の頭を眺めることになるぜ」
普段ではありえないイベントだからこそ、そこには最上の果実をも凌駕する魅力を醸し出す。
最もうまい実を食すため、我先にと貴族たちが廊下を駆け巡っているのだ。
学院の貴族が年より少し幼くなり、暴風に近い流れを作り出す中、その中心は台風の目のように穏やかだ。

「それでは、ぼくらは先に広場に向かうよ。決戦の場で会おう」
ド・ロレーヌは仲間となる二人を子分のように引き連れ、アッシュの眼前に近づく。
事の顛末が望むままに進みすぎて、愉快さまで感じている男が赤い髪の貴族の使い魔に面と向かう。
「好き勝手ができるのはここまでだ。勝敗まで思い通りはさせねえよ」
アッシュは、かつて覚えがないほどの怒りが全身に迸っている。
力の使い方を知らぬ貴族。己の非を認めようとしない貴族。そして、何もかもを掌に乗せようとする貴族。
常に国家の現状を憂い、民の生活を護る正しき貴族の像を信望してきたアッシュにとって、その風上にも置けない人間をのさばらせるなど許容できるはずもない。
アッシュは心に決めている。必ずやこの者達を倒し、貴族の本分とは何たるかを知らしめることを。
ロレーヌがアッシュの脇を通り過ぎる。すれ違いざまに、彼は一つの言葉をアッシュに残した。
「トリステインの貴族でもない君が偉そうな口を叩けるのは今日までだ。ここは部外者を手厚く迎える習慣はないからね」
ロレーヌの言葉はただの挑発だ。それは、アッシュも同様に解釈した。
しかし、アッシュの胸には、子供のわめきに近い文句が弾かれることなく潜り込み、水面に浮かんで小さな波紋を作り出すのであった。

「ルイズ。シエスタを頼む」
「う、うん。あれだけ偉そうにしてたんだから、当然勝つわよね」
「そのつもりだ」
アッシュは踵を返し、決戦場へと向かう。足を踏み出す前に、シエスタの様子を確かめる。
怯えが濃く表れているものの、ある程度は安心して凭れかかれる人間がいるおかげで自我を失うほどの深刻さはなくなっている。
アッシュは、多少の不安を感じつつ、問題はないと判断して歩みを速めた。

一方、アッシュの相方となったギーシュは歓喜に震えていた。
実は、事がうまく進行しているのはド・ロレーヌだけではないのだ。ギーシュも、とある計画を実行するために、わざわざ火の中に足を踏み入れたのだ。
彼が最後に越えるべき関門は、自分が活躍した上で勝利者となることのみ。
ギーシュはド・ロレーヌの魔法のレベルの高さを知っている。にもかかわらず、喧嘩を売った理由はルイズの使い魔が強そうだからである。
召喚時に傷だらけだったとはいえ、直前まで戦いに身を投じていた騎士なのは確実なのだ。
ギーシュの心は、アッシュが学院で大人しく勉学に励む者に負ける要素などありえない、と根拠のない自信で溢れかえっている。
絶対に近づきたくない、深い森の中でおぞっけをもたらす笑いを漏らしたギーシュに、一人の女が寄って来た。
アッシュと同じ、焔の髪を靡かせるキュルケだ。
「ギーシュ、ちょっといい」
「う、は、はい」
間抜けな面をしたギーシュに、キュルケはある真実を伝えた。それは、妄想で膨らんだギーシュの身を即座に引き締めたのだ。
393異世界に灯る聖なる焔 ◇VneD5ej16w(代理):2009/02/03(火) 21:21:45 ID:zBZITDhf
投下終了です
支援を下さった方、ありがとうございます

基本はアッシュの一人称ですが、たまに視点が変わります。区切りがいい場面限定で
その時は、ルークではなくアッシュの名を書くことにしました
アッシュがヴァンから授かった名前ですからね。使わず仕舞いじゃ勿体無い

決闘まで書く予定だったんですが……長くなりすぎました
おまけに、当初の内容からどんどんかけ離れていくし

次回こそ決闘本番
ギーシュの真骨頂をとくと見よ!
394シャイニング・マジック:2009/02/03(火) 21:24:53 ID:zBZITDhf
以上、代理終了です。
アッシュの方、パズルの方、いらない女王の方お疲れ様でした。


…で、私も投下しようと思ってたんですが、今度は自分が規制にかかりそうだ…
…1時間くらいしてから、タイミングを計って改めて投下予告を出しますw
395名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 21:49:05 ID:9qvhTsPH
そういえばマテパの人のルイズはホワイトホワイトフレアを既に3回受けてるな
そろそろアレが来るかな?
396ゼロの黒魔道士:2009/02/03(火) 21:56:04 ID:fuZZUDMX
うぇ〜い、今日も投下ラッシュですな、乙っす!

場つなぎに、駄文はいかがでしょうか?
22:05ぐらいから少しだけ投下したいと思います。
よろしくお願いいたします。
397名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:04:12 ID:txoiZbHf
>>395
アレ…?

ああ、肉体が強化されて車に跳ねられたり屋上から落とされたりしても
改行の度に全快する体質に変化してるんですね
398ゼロの黒魔道士:2009/02/03(火) 22:04:53 ID:fuZZUDMX
投下開始です
―――
「ルイズおねえちゃん、洗濯してきたよ〜……」
誰かに、何かがあっても、また朝が来る。
世界はボクたちが小さく見えるくらい、そのまんまなんだなぁって思うんだ。
「ん、御苦労さま。ちょっと待ってね。今日の予習終わらせちゃうから」
変わるのは、人の方なんだと思う。
少なくとも、帰ってきてからのルイズおねえちゃんは、
自分で起きるようになったんだ。
「ダハハ!娘っ子も成長したわな!おれっちもうれしいぜ!
 もう『サンダー』だの『ブリザド』だの目覚まし代わりにやられちゃたまんねぇしな!
 ――まぁ、ちっとさみしい気もすっけど」
「あら?じゃぁもうちょっと寝てようかしら?」
「いや、それはマジ勘弁、ごめんなさい」
お城でお姫様に報告したときに、何があったかは知らないけど、
『無理せず頑張る』っていうことを心がけるようになったみたい。
早寝早起きはその一環らしい。
とっても健康的で、いいことだと思うんだ。
「――えーと、火魔法の定義式がこうだから、発火プロセスは――
 ――んー、よしっ!それじゃ、朝ごはんに行きましょうか」
「うんっ!」
目覚めた朝はいつも喜びを願うんだ。
今日もいい日でありますようにって。
だから、今日もいいことがあるといいなぁって願いながら、ドアを開けたんだ。

―ゼロの黒魔道士―
〜第三十幕〜 来訪者


「ハハハ、成長もしなくては、と思うさ、そりゃね!」
「……そうなの?」
お昼休みのヴェストリの広場。
太陽が真上に来るようになってきたなって思う。
ルイズおねえちゃんは、ちょっと調べ物ということで今は図書室だ。
「そうさ!――まぁ、僕の場合は、大して役に立てなかったという自覚があるからね、どうしても」
腕立て伏せをしながら、ギーシュが言う。
昨日よりも長く続いてる。
「え……『大活躍』って、みんな言ってるけど?」
ルイズおねえちゃんも、自分の役目はしっかり果たしたと思うし、
ギーシュは学院中の噂になっていた。
「千人の傭兵を退けた策士」とか「炎の中立ち上がる青銅の騎士」とか――
なんか、とっても大袈裟な噂だなぁとは思ったけど……
「実際のところね、僕は後ろで怯えてただけだよ。
 二人のレディのフォローをするので精一杯、とてもじゃないけど活躍とは言えなかった。
 ――挙句、途中で精神力も体力も尽きてしまったしね。まだまだタダのドットメイジさ」
ギーシュは、そう言って謙遜する。
んー、でも、キュルケおねえちゃんやタバサおねえちゃんに聞いた話では、
「悪くなかった」とか「意外とやる」って言ってたし、
活躍してなかったわけじゃないと思うんだけど……
399ゼロの黒魔道士:2009/02/03(火) 22:05:43 ID:fuZZUDMX
「――さてと!本番と行こうか!
 まだまだ、強くならなくてはね!薔薇として、世界中の女性を守るために!」
「……うん!」
でも、やっぱりギーシュはギーシュだなと思いながら、デルフを構える。
ボクとギーシュは、昼休みはこうして実戦形式で訓練するようになったんだ。
ボクは、攻めるときも冷静に対処できるようになるため。
ギーシュは、ワルキューレと傭兵が戦ってるときに違和感があったっていうことで、
戦闘時の動きをもう一度自分の体にたたきなおすためって言っていた。
あと、体力をつけるためとも言っていたなぁ。
「へっ今日も返り討ちにしてやらぁ!」
「デルフ、今日こそは君をへし折ってやるぞ!」
「……あ、あのさ、二人とも、あくまでも訓練、だからね?」
訓練だし、木刀の方がいいとも思ったんだけど、結局こうしてしっかりとした剣を構えている。
ギーシュは『真剣を振るだけでも筋力トレーニングになるしね』って言っていた。

『いいでありますか、ビビ殿!そもそも木刀を実戦で使うものですかな!?
 訓練は訓練、それは認めましょうぞ!しかぁし!しかしでありますぞ!
 怪我を恐れる実戦がどこにありましょうか!
 武器に慣れずしていかんとするのでありましょうか!
 訓練だからこそ、真剣!これは鉄則であります!
 真剣だからこそ、文字どおり真剣に取り組めるのでありますぞ!』
『おっさん、ダジャレかよ……』
『ぬぬ、ジタンは黙っているのである!!
 ともかく!己の武器に親しみ、筋力を鍛えるためにも!
 子供のチャンバラの木刀などではなく!
 断じて訓練は真剣なのであります!!』
ってスタイナーおじちゃんが言っていたのを思い出す。
確かに、最初から完全な状態で訓練した方が、動きがいいもんね、と思うんだ。

「てやぁっ!」
「そこっ!」
「甘ぇぞギーシュ!」
「なんのっ!」
キンキンキンッと金属が触れ合う音が響く。
ちなみに、ギーシュの持っている剣は自作のもの。
訓練用だから、刃は潰してあるけど、重さはしっかりある。
ギーシュにしてはシンプルな形だけど……
やっぱり、宝石を埋めこんだりしてる。
ちょっとだけ豪華な感じがするなと思う。
デルフも、自分をサビサビにした能力を使ってもらって、刃を少し鈍くしてある。
……水メイジの人に何回も頼っちゃ、怒られそうだしね。
ギーシュの恋人、モンモランシーおねえちゃんに何度も睨まれちゃった。
擦り傷程度だったんだけどなぁ……
400ゼロの黒魔道士:2009/02/03(火) 22:06:19 ID:fuZZUDMX
「えぇいっ!」
フェイント攻撃を避けて、下から振り上げるようにデルフを掲げる。
「今だ!新必殺!ギーシュ・ロォォォォォール!!」
それを自分の体ごと回転させて振り払いつつ攻撃しようとするギーシュ。
「そこぉっ!違うっ!!」
「え?」
「な!?」
突然、ヴェストリの広場に広がる大声。
それは、どこかで聞いたものだったんだ。
「――回転受けなど、見場が良いだけの大道芸技だ!
 第一、今の流れで敵から視線を逸らすなど、格好の的になるだけだぞ!」
声の主が、ツカツカと近づいてくる。
「おおぅ、こないだの怖ぇ姉ちゃんじゃねぇの!」
「アニエス先生!?」
それは、トリスタニアで会ったアニエス先生だったんだ。
「――奇妙なところで会うな、ビビ」
相変わらず、ちょっとキツそうな感じがする人だなって思う。
「――おいおいおい、ビビ君!このような美人とどこで知り合ったんだい!?」
ギーシュがちょんちょんって持ってる剣でつついてくる。
「む?なんだ、この優男は?」
「いたた……あ、えーと、ギーシュって言って……」
「お初にお目にかかります!ギーシュ・ド・グラモンと申します、是非貴女のお名前を――」
「グラモン?グラモン元帥の縁者か?」
「えぇ、不出来な四男坊ではありますが!」
……ギーシュが急にイキイキとしてくる。
女の人の前で元気が出るって、なんかそこはジタンっぽいなぁって思うんだ。
「なるほど、かの有名な軍門のな――それで、ビビと共に訓練をしていた、というわけか。メイジのクセに」
「ハッハッハッ!今の僕はまだ教わることばかりですよ!
 えーと、先ほどビビ君は『アニエス先生』と呼んでいたようですが――?」
「――名乗らんのは失礼か。うむ、アニエスと言う。『先生』、はまぁ少々剣の指導を行うこともあってな」
「え!?こんなに美しい人が剣を!?これは意外だなぁ〜!花束をお持ちになるのがお似合いの可憐な方なのに!」
ギーシュって、女の人としゃべるときと、ヴェルダンデを自慢するときはすっごく口が動くなって思う。
とてもじゃないけど真似できそうにないや……

「そんで?なんで姉ちゃんが魔法学院に来てやがるんでぃ?」
「うむ、少々、正職にありつけてな、それで――」
「――アニエス君!勝手に行かないでおくれよ!まったく!」
アニエス先生が来た方向からゆったりとした足取りで、男の人がやってくるのが見えた。
「ん?おや、グラモン伯爵のご子息、ギーシュ君と一緒だったか!もうアニエス君に目をつけたのか?
 流石はグラモン家の一員だね!だがこの女性は私が誘っても剣であしらう難物だぞ?」
ニヤリと笑いながら、そのおじさんは言う。
「――まだこれからお誘いするつもりでしたよ、モット伯!すると、この方はモット伯の預かりですか?」
このおじさんはモット伯って言うらしい。
何となく、油っぽい人だなぁって思う。
「そうであってくれたら色々できるんだがねぇ。あんなこととか――」
顎をなでながら、モットおじさんは言う。
「セクハラ発言は、上官に報告いたしますが?」
それを冷たい目でにらみつけるアニエス先生。
401ゼロの黒魔道士:2009/02/03(火) 22:06:59 ID:fuZZUDMX
「おぉ、怖い怖い――というわけで、彼女は残念ながら、王宮からつけられた、警護という名の見張りだよ。
 キナ臭くなってきたからね、王宮の行き帰りにはなるべく護衛をつけろとのお達しさ」
キナ臭くなってきたって……
「ということは、やはりレコン・キスタが?」
「……え……トリステインに、攻めてくるって、こと?」
ウェールズ王子が止めたのが、無駄ってことじゃないって思いたかった。
そうじゃないと……悲しすぎるから。
「そう、そのように見ている者もいるわけだ。
 レコン・キスタは、その成立ちからいって攻め続けねばならない。
 ――だが、私のように、楽観視している者が多数派だがね」
「……え?え?えーと……どういうこと???」
なんか、頭がこんがらがりそうなややこしい話だった。
攻め続けなければならないとか、楽観視できるとか……どういうことだろ?
「ハハハ、小さい子には難しいかね?――よかろう、ギーシュ・ド・グラモン君!
 ちょっとした思考訓練だ、この少年に理由を説明してあげなさい!
 軍門の家に生まれたならば、それぐらい分かるだろ?」
モットおじさんは、そのカールした髭をピンッと伸ばしながらギーシュに聞いた。
「え!?えーと――レコン・キスタは――
 えーと――その成立理由が、『聖地奪還』だから――
 そのための『ハルケギニア統一』を旗印にする限り、攻め続けなければならない?」
つっかえながらも、しっかり答えるギーシュ。
こういうところは、やっぱりしっかりと貴族の家の子なんだなぁと感心する。
「そう、それがいずれレコン・キスタがトリステインに攻め入る理由。
 では、私をはじめ、多くのトリステイン貴族が楽観視している理由は?」
「むむむ?むぅ――か、簡単な答えなんですか?」
ギーシュはこめかみをおさえて真剣に考えている。
「非常に、ね。多くの兵を動かすことと、強大な軍を動かすこと、それぞれに必要なことを考えればいい」
ボクもこめかみをおさえて考えてみたんだ。
いっぱいの兵と、強い軍を動かす……頭の中で、スタイナーおじちゃんの大群が歩いているのが浮かんだ。
……なんか、カシャンカシャンうるさいや……

「――あ、そうか!大義名分、ですか!?」
少し間があって、ギーシュが大声をあげる。
「そう!半分正解だね!君の言うとおり強大な軍を動かすためには理由がいる。
 アルビオンには――いくらか醜聞もあり、それが追い風となった。
 だが、我らがトリステインには――かの反逆者共が攻め入る明確な理由が無いというわけだ」
理由かぁ……うん、スタイナーおじちゃんの大群が理由も無く暴れたりしないもんね。

「えーと――もう半分は――すいません、お手上げです」
ギーシュが諦めた声を出す。
「ふむ、まだ若いからかな?もう一つはもっと単純なんだが――
 ズバリ、もう半分は『金』さ」
モットおじさんは右手で輪っかをつくってニヤリと笑った。
「……お金?」
「そう、金さ。結局、戦争も金次第。これが偽らざる本音でね。
 レコン・キスタには連戦に耐えうるだけの資金力は無い、と見られている」
お金で、戦争?……なんか、嫌だな、そういうのって思った。
402ゼロの黒魔道士:2009/02/03(火) 22:07:35 ID:fuZZUDMX
「しかし、所詮内乱だったわけですし、王宮の財宝もそれなりにあったのでは?」
ギーシュが反論する。
「トリステインの諜報部によると、反乱側は武器商人に多額の資金を支払ったそうだ。
 異例とも言える王軍打破はその武器商人おかげという噂だよ。
 ――なんでも、ガリアからゲルマニア辺りで暗躍する武器商人らしい。
 なんとも恥知らずなことだよ」
モットおじさんはふんっと鼻息を吐いた。
「まぁ、それはさておき――兵糧という問題もある。
 兵とて人だから、食わねばならない。アルビオンは農業的には貧しい国だからね、
 兵糧を外から買わねばなるまい。その金もまた問題となる。
 ――売る恥知らずがいるかどうか、だが」
お腹が減ってたら、やっぱり戦えないよね、とここだけはすごくよく分かったんだ。
「よって、レコン・キスタが来るとして、自力での兵糧確保、すなわち秋小麦収穫後――
 これが多数の見方というわけだ。ギーシュ君、もっと勉強したまえよ!」
「は、はい――面目ないです」
ギーシュが恥ずかしそうに頬をかく。
でも、ボクから見たら、それでもすっごいと思うんだ。
ボクは、何にも思いつかなかったから。

「――モット伯、オールド・オスマンがお待ちでは?」
「おぉ、そうだった!それでは、若人諸君、勉学にはげみたまえ!」
アニエス先生にうながされて、モットおじさんはその場を立ち去ろうとしていたんだ。
「モット伯――わたしが同行する必要は?」
「ん?いや、無いが?」
アニエス先生の言葉に、モットおじさんがきょとんとする。
「――では、わたしは、彼らといたいのですが――
 彼らの剣の稽古、なかなか興味深かったですので――」
小さく、ほんのちょっと小さくアニエス先生が笑ったのが見えた。
「ほほぅ?これはこれは、流石はグラモン家のご子息!もう女性を引き付けるとは!
 ――いいだろう!では、また後でな」
モット伯は豪快に笑いながらその場を去っていったんだ。

「――さて、そこの青瓢箪、ギーシュと言ったか?」
モット伯が立ち去った後、アニエス先生がまとった空気が急に険しく、
まるでベヒーモスぐらい重々しいものになっちゃったんだ。
「――え?えぇ、ギーシュと言いますが、ど、どうなさいました?」
アニエス先生が、腰元の剣をシュラリと抜く。
「――よくも、よくも先ほどはわたしを女人と侮ってくれたな?」
ギロリ、とギーシュを睨むアニエス先生。
「え?え!?えぇぇ!?い、いつ貴女をたばかりましたか!?」
「たわけ!!何が『花束をお持ちになるのがお似合いの可憐な方』だ!!
 そこへなおれ!わたし自身が貴様を鍛えてくれようっ!!」
ボムが自爆寸前の空気、そんな修羅場って感じの空気が、あたりを覆ったんだ。

「――あぁ、これ、ギーシュの野郎、死んだな」
「……モンモランシーおねえちゃん呼んだ方がいいかなぁ……」
その後、午後の最初の授業が終わるまで、
ギーシュはアニエス先生にこってり絞られたんだ……


―――
ピコン

ATE 〜策士、策に〜

常に、歴史を動かしてきたのは女だと言われるそうだ。
女には、策を練る力があり、さらにそれを実行に移す度胸もある。
彼女、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ、
二つ名を『香水』という彼女も、そうした女の一人だった。
403ゼロの黒魔道士:2009/02/03(火) 22:08:08 ID:fuZZUDMX
まず、彼女には能力があった。
それは特に、秘薬に関するもので、
小遣い稼ぎと己の知的好奇心を満足させるため、
コツコツかせいだ金で禁制の秘薬を作るなど、
彼女には朝飯前だった。

次に、彼女には動機があった。
それは、彼氏、ギーシュ・ド・グラモンに関するものだ。
ある事件の後、彼の浮気癖は治ったものと思っており、
安心していたのだが、それがそもそもの間違いだった。
つい先日の休学と帰還、それが姫殿下直々の依頼によるものと、
噂は荒れ野の火事よりも速く広まった。
彼の活躍の噂と、それに対する謙虚な姿勢は、
彼女としても評価を高くし、惚れ直させるには充分なものであったが、
それは同時に、彼の新たな人気を産むこととなった。
ファンクラブが新たに設けられ、
後輩・先輩問わず、多くの女子が参加していると聞く。
そのような状況にあり、彼女は眠れぬ夜を過ごしていた。
今の彼は彼女を大切にしてくれている。
一番だと言ってくれている。
だが、いつ彼の浮気癖が戻るとも限らない。
現に、今日の昼、鎧甲冑を身にまとった女に、
鼻をだらしなく伸ばしていたではないか。
彼女は、行動を決意した。

最後に、彼女にはチャンスがあった。
放課後の一時、夕食前の気だるい時間。
ワインを片手に、彼女は彼と語り合っていた。
話題は他愛のない愛の語らい。
いつもと同じ「君が好きだよ」「私もよ」の繰り返し。
その幸せいつ崩れるかもしれないという恐怖と、
持ち歩いていた秘薬の効果の確認をしたいという欲求。
そして、今目の前に彼がいるという頃合い。
日頃練っていた策を実行することに必要な要素は、
全て出揃っていた。

「あぁ、モンモランシー!傷ついた僕には君が必要なんだ!」
「えぇ、そうね、ギーシュ――」
静かに、静かに機会を伺うモンモランシー。
左手に隠し持った瓶の中、液体が揺れる。
「あぁ、しかし、今日は参ったよ!まさか女性にあそこまでやられるとは――
 しかし、美人なのに剣の強い人だったなぁ――」
その言葉に、腹をくくる彼女。
機会は待つのではに、作るものだ。

カシャン
静かな音を立て、割れるグラス。
「わ!?モンモランシー、大丈夫かい!?」
「――だ、大丈夫よ。ちょっとひっかけちゃったみたい――」
さりげなく、ギーシュのグラスを割る。
それが、機会を産み出す。
「グラス、割れちゃったわね。新しいのをもらってくるわ」
普段ならば、メイドの一人でも呼び付ければ済む用事。
それを、わざわざ自分でやる。
策は、八割方なっていた。
404ゼロの黒魔道士:2009/02/03(火) 22:08:57 ID:fuZZUDMX
「ごめんなさいね、中座して――」
新たなグラスに既に入っている別の液体が見えぬよう、
ワインを素早く注ぎ入れる。
「いやいや、君に怪我さえなければそれでいいよ――」
そのグラスを受け取り、掲げるギーシュ。
策が上手くいくことに、不安と期待が入り混じった歪んだ笑顔が浮かぶ。

「……あ、いたいた、ギーシュ!」
「おや?ビビ君――それにアニエス先生も!?」
障害は、ふいに訪れるものである。
今まさにグラスに口をつけんとしたところで、
最近ギーシュと仲の良い使い魔の少年と、
今日、策を決行させる決意を起こさせた女剣士がやってきた。
「うむ――思いのほかモット伯とオールド・オスマンの話が弾んでおるようでな――
 あれはセクハラ談議にも程があるぞ、まったく――」
ブツブツとつぶやく女剣士の苦渋の表情から鑑みるに、
オールド・オスマンが、ミス・ロングビルを失ってからの鬱憤を、
猥談で晴らしている様子がありありと想像できた。
モット伯もそうした話題を好むとモンモランシーは聞いていた。
だが、今の彼女にそんなことはどうでもいい。
今すぐ、邪魔者には立ち去ってもらいたかった。

「ハハハ、それは災難ですね――
 気晴らしに、ワインはいかがです?まだ口はつけておりませんが――」
もし運命を司る精霊がいるのならば、とんでもなく意地悪だ。
モンモランシーはそう痛感していた。
よりにもよって、策を弄したそのグラスを、目の前の、邪魔な女に飲まれる。
止めなければ――

「あ、え、ちょっと!ギーシュ――」
「ふむ、言葉に甘えるとしようか。暑くなってきて喉がすぐ乾いていかんな――」
「それでね、ギーシュ、放課後の特訓もアニエス先生来てくれるって言うんだけど……」
「あぁ、それはいいね――今度は、お手柔らかに――」
遮られる、静止の叫び。
あけられていく、赤い液体。
まずい。
今、この邪魔女がが異性と、ギーシュと目合わせたら、全てが終わる。
策を練ってきた女の頭が、急スピードで回転する。
そして弾きだした答えは、あとになって考えると実にばかばかしいものだった。

「あ、裸のお姫様が空飛んでる!」
実に、突拍子もない叫び。
何故こんなセリフが飛びだすのか。
しかし、それが思いもよらぬ効果を産む。
「え、どこどこっ!?」
彼氏が、ギーシュが少々頭の足りない人で良かったと安堵する。
少なくとも、この瞬間はギーシュの目を、邪魔女から逸らすことに成功したわけだ。
後は、この邪魔女を遠ざける方法を――

「――そんなもの、見えたか?ビビ?」
「……???ううん、ボクには何にも……」
目を合わせる、邪魔女と使い魔の少年。
運命を司る精霊がいるのならば、とんでもなく意地悪だ。
モンモランシーはそう痛感していた。
―――
以上、投下完了です。
次回いつになるか分かりませんが、キャラ崩壊予定です。ホント申し訳ないです。
お目汚し失礼いたしました。
405ゼロの黒魔道士:2009/02/03(火) 22:14:43 ID:fuZZUDMX
って…投下してから誤字に気づく俺バカすぎ……
後で訂正しておきます……
406名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:26:19 ID:hfEVVGPF
ビビの人乙!
アニエスで惚れ薬イベントとは…wktkが止まらん
407ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:30:34 ID:pCJwFDqE
 黒魔道師の方、乙でした。
 ……何だかよく分かりませんが、お互い、たびたび話の位置がかぶりますなぁ。

 それでは、22:40から第27話の投下を行いたいと思いますが……シャイニング・マジックの方、お先に投下されますか?
408名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:38:12 ID:LVx+JTkn
カマァ〜ン
409ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:39:32 ID:pCJwFDqE
それでは返信がありませんので、見切り発車ですが投下させていただきます。
410ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:40:40 ID:pCJwFDqE
 トリステイン魔法学院の中庭に、テーブルと椅子を並べて作られた即席のラウンジの一席にて。
「モンモランシー、君の前では水の精霊も裸足で逃げ出すんじゃないかな。ほら、この髪……まるで金色の草原だ。キラキラ光って星の海だ。ああ、僕は君以外の女性がもう、目に入らないよ」
 ギーシュは、持っているボキャブラリーを総動員してモンモランシーを口説いていた。
 最初は『バラのようだ』『野バラのようだ』『白バラのようだ』『瞳なんか青いバラだ』『恥らう姿はつぼみのバラだ』と自分の得意分野であるバラを全面に押し出していたのだが、ネタが尽きてきたのでモンモランシーの分野である水の精霊を引き合いに出し始めている。
「……………」
 そんな風に立ったり座ったり身振り手振りを交えたりしながら熱心に口説かれると、モンモランシーとしても悪い気はしなかった。
 だが、相手は女グセが悪いことで有名なグラモン家の子息、ギーシュ・ド・グラモンだ。
 そう簡単に心を許すわけにはいかない。
(よし……)
 取りあえず、不満げな表情をしながらもギーシュに向かって左手を差し出す。
 それを見たギーシュは、ああ、と感嘆の声を出してその手に口付け、そのままモンモランシーの顔へと……。
「待って。……その前に、ワインで乾杯しましょう」
 唇を近付けようとした所で、彼女に指で制された。
「そ、そうだね!」
 慌てた様子でグラスにワインを注ぐギーシュ。
 そのワインが注ぎ終わった時を見計らって、すかさずモンモランシーは声を上げた。
「あら? 裸のお姫様が空を飛んでる!」
「えっ? どこ? どこどこ!?」
 口から出任せのモンモランシーの言葉に過敏に反応して、ギーシュはキョロキョロと周辺を見回した。
(ったく、コレだから信用出来ないのよ……)
 モンモランシーは呆れと苛立ちを感じつつ、その隙にソデの中から小瓶を取り出す。
 そしてその小瓶の中に入っている『透明な液体』を、並べられているグラスの片方に垂らした。
(これでよし)
 うむ、と頷くモンモランシー。
 ……彼女がワインの中に混入させた『透明な液体』の正体とは、惚れ薬である。
 先日、ユーゼスとの話し合いの中で出た『強力な精神操作系のポーション』の研究成果がこれであった。
 最初はモンモランシーも、これを作成するだけで実際に使うつもりはそれほど無かったのだが、いざ完成させてしまったからには使ってみたくなるのが人間という生き物だ。
 しかし、こんなモノを気軽に使うわけにもいかない。
 でもやっぱり使ってみたい、いやいやバレたらタダじゃ済まない……と自室で軽く悩んでいたところに、ギーシュが『話がしたい』とやって来たのである。
 これ幸いと『実験対象』を見つけたモンモランシーは、ついに一時的に良心をかなぐり捨てることにした。
(ヨリを戻すにしても、他の女の子に目移りされるのはガマン出来ないし……)
 まさに趣味と実益を兼ねた、完璧な使用動機である。
 大体、自分が作ったモノを自分が好きなように使って、何が悪いと言うのだろうか。いや、悪い場合も多々あるが。
 ともあれ、その惚れ薬はギーシュの目の前にあるワインの中だ。
「嘘よ。じゃあ、乾杯しましょ」
「や、やだなあ、ビックリさせないでくれ……」
 ニッコリと微笑んでグラスを手に取るモンモランシーと、息を吐いてグラスを手に取るギーシュ。
(……あれ?)
 と、ここでモンモランシーは重要なことに気が付いた。
(…………どっちに入れたんだっけ…………?)
 右のグラスだったか、左のグラスだったか。
 いや、そもそも自分が手に取っているのは、どっちのグラスだっただろうか。
(マ、マズイわ……)
 このまま行けば、2分の1の確率で自分が惚れ薬を飲んでしまうハメになる。
 ……こうなったら、最後の手段を使うしかない。
「あっ、白昼堂々こんな場所で服を脱ぎ始めてる女の子がいるわ!」
「な、なんだってぇー!?」
 モンモランシーの叫びに過敏に反応し、再び周囲を見回すギーシュ。なんと単純な男であろうか。
 もはや呆れを通り越して諦めすら感じてきたが、今はそれよりも惚れ薬だ。
 モンモランシーはササッと手早くギーシュのグラスに惚れ薬を混入させる。これで、少なくともギーシュは確実に惚れ薬を飲むことになった。問題は自分のグラスだが……。
(わたしのこのグラスは……まあ、適当な理由でもつけて捨てればいいか)
 フッ、こんな突発的なトラブルにも対応が出来るなんて、わたしも成長したわね……と心の中でほくそ笑むモンモランシーだった。
411ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:42:15 ID:pCJwFDqE
「はあ……」
 ルイズは悩んでいた。
 自分の手に入れた、伝説の『虚無』の魔法。
 伝説と言うだけあって、恐ろしいほどの力である。自分には荷が重い。いや重すぎる。潰れてしまいそうだ。
(姫さまにも『わたしの力を捧げます』って言えなかったし……)
 もちろん、アンリエッタのために力を尽くしたい、トリステインのために身命を賭したいという気持ちはある。確かにあるのだ。
 だが……。
 ―――「私や銀河連邦警察の宇宙刑事たちに不可能なことを、お前たちはアッサリと成し遂げ、無力な人々に奇跡を見せる」―――
 あの夢の内容がフラッシュバックして、アンリエッタの前でその誓いを口にすることが出来なかった。
 本当なら……あの夢を見る前の自分なら、あの場所で『虚無』を捧げることを誓って、そしてアンリエッタの命令に従って『虚無』を使って……。
 ―――「その結果、人々に与える印象は何だ?」―――
 夢の中の『仮面の男』は、救世主の存在を否定した。
 ……では、自分はどうなのだろう?
 ―――「……お前たちは、自分たちより弱い立場にいる者を甘やかしているだけだ。偽善者面で神を気取っているだけなのだ」―――
 たかが夢、と一笑に付すには、あまりにも今の自分の状況と合致していた。
(わたしは……)
 そもそも自分は魔法が使えるようになったら、どうするつもりだったのだろうか?
 立派なメイジになる。
 今まで自分を馬鹿にしていた連中に、わたしの存在を認めさせる。
 父さまや母さま、エレオノール姉さま……そして誰よりも、ちいねえさまに褒めてもらう。
 ユーゼスに自分の存在を認めさせて屈服させる、その手始めにする。
 じゃあ、その後は?
(どう、するんだろう……)
 普通に考えれば、それこそ普通の貴族の子女のように勉強して、教養を身につけ、しかるべき時期になったら結婚して……と、そんな感じである。
(……わたし、そんなことのために魔法が使えるようになりたかったんだっけ?)
 うまく言えないが、何か違う気がする。
 チラリと横を見てみれば、相変わらず何を考えているのかよく分からない銀髪の使い魔が、自分と並んで歩いている。
 確かに、自分の今の悩みをこの使い魔に打ち明ければ『それなりの答え』は出してくれるだろう。
 それはもしかしたら、自分で悩んで生み出す答えよりも良い物かもしれない。
 あるいは、自分で出した答えとほぼ同じ可能性もある。
 だが……『他人の出した答え』で、果たして自分は納得が出来るのだろうか?
 『他人が出した答え』を飲み込んで、自分の一部にして、それを元に自分の人生を歩いていくのだろうか?
(それのどこに『わたし』があるの?)
 よって、この問題は自分で答えを出さなくてはならないのだ。
 たとえ出した答えがどれだけ陳腐でも、ありふれていても、道を外れたものだとしても。
 それは、『自分自身が出した答え』なのだから。
「はあ……」
 しかし、その答えが分からない。
 まあ、そんなに簡単に答えが出るのならば、こんなに悩みはしないのだが。
「……御主人様、どこまで歩いていくつもりだ?」
「え?」
 ユーゼスに言われて周りを見回してみると、いつの間にか中庭のラウンジにまで歩いてきていた。
 やはり考えごとをしながら歩くのは良くないわね、などと思っていると、自分の喉が渇いていることに気付く。
 喉が渇いていては、思考も上手く回らない。
(どこか手頃な所に飲み物はないかしら)
 そう思って足を止め、視線をさまよわせると……手を伸ばせば届く場所に、ワインが注がれたグラスがあるではないか。まるで自分のために用意されたかのようだ。
 なんか近くにギーシュとモンモランシーが見えるが、この際それはどうでもいい。
 自分は今、喉が渇いているのである。
 なので、ルイズはギーシュが手を伸ばそうとしていたグラスを横から奪い取り、それをグイッと飲み干すのであった。
412名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:42:38 ID:/8kp0Tjo
支援だ
413名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:43:21 ID:fuZZUDMX
支援するのも私だ
414ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:43:55 ID:pCJwFDqE
 時間は多少前後する。
 ミス・ロングビルは、イライラしながら中庭を歩いていた。
 理由は、自分の隣を涼しい顔で歩いているこの男……シュウ・シラカワである。
 『ジェットビートルの調整作業がありましたので』とかいう理由で再び魔法学院にやって来たらしく、また律儀にも自分に挨拶をしに来たのだそうだ。
 まあ、それはいい。
 それ自体は別にいいのだが、こうも頻繁にウェストウッド村を空けていてはティファニアたちが危険に晒されることになってしまうではないか。
 ただでさえ最近は、アルビオンに変な怪物(シュウは『アインスト』と呼んでいた)が出没して見境なく暴れているというのに、こんなタイミングであの村を無防備にするとは。
 そのことをキツい口調で指摘したら、『そこまで心配することもないでしょう』とか言うし。
 ……もっとも、『調整』とやらが終わったらとっとと帰るらしいので、確かに心配しすぎることもないような気がしないでもないと思うのだが……。
(って言うか、若い男とほぼ二人きりな状況で『心配するな』ってのも、かなり無理が……)
 ティファニアに限って『自分から迫る』みたいなことはまず無いと思うのだが、一時の気の迷いとかがあるかも知れない。いや、血迷ったシュウがティファニアに手を出す可能性だってゼロじゃない。
(う〜〜ん……)
 これをシュウに尋ねても、どうせやんわりと否定されるだけだろう。
 なので、シュウの使い魔のチカに聞いてみることにしたのだが……。
「え!? ……い、いや、そんなコトは、ないですヨ? む、むしろティファニア様は御主人様とマチルダ様の関係を疑ってたりしてますし……」
 何だかやたらと挙動不審な態度で否定される。
 ……その誤解に関しては今度ウェストウッド村に行った時にでも解いておくとして、ミス・ロングビルはチカと話をしていて妙な違和感に気付いた。
 口調がおかしいこと、ではない。
 チカの外見が微妙に薄汚れているのである。
 羽の端々が黒ずんでいたり、足の先に妙な白い物―――よくよく観察してみると、ロウであることが判明した―――がこびり付いていたり。
(飛んでたらロウソクにでも突っ込んだのかね?)
 ―――実際には、ティファニアが『チカ製作・御主人様とマチルダ様のやりとり報告書vol.1』を読んだ際に、その真偽を製作者に念押しする際に行った『ちょっと強めの確認』の結果だったりするのだが、さすがにそこまで思考が回ったりはしなかった。
(ま、いっか)
 ともあれミス・ロングビルにとっては、この鳥が火に突っ込もうが、焦げようが、ロウまみれになろうが、何をされようが、あまり重要でもない。
 今の自分の仕事は、シュウが行う『調整』の監視である。
 オールド・オスマンも、この出自も素性も正体も目的も不明な男に対しては一応の警戒心を抱いているようで、その監視を自分に命じてきた。
 『君らは知り合いみたいじゃし』という理由だけでそんなことを命じないで欲しいが……確かに、学院内の教員や職員の中では自分が適任だろう。
 ともかく、サッサと終わらせてもらって、とっとと帰らせよう。
 そう考えながら、ミス・ロングビルはシュウと共に中庭を突っ切っていく。本塔から学院の外に出るには、変に回り道をするよりもこうして中庭を通る方が早いのだ。
 ……と、その中庭に設置された簡単なラウンジに差し掛かったあたりで、
「ああっ!!?」
 いきなり素っ頓狂な声が聞こえてきた。
「? ……ちょっと寄り道していくけど、いいかい?」
「構いませんよ」
 シュウの了承を取ると、ミス・ロングビルはその声がした方に歩いていく。
 今の自分はこの魔法学院の職員なのだから、そこで何かトラブルが起こったとなればそれに対応しなくてはならないのだ。
「おや、アレは……」
「たしかグラモン家の息子と、モンモランシ家の娘と……ミス・ヴァリエールに、銀髪の使い魔?」
 正直、状況がよく分からないが……とにかく行ってみるべきだろう。
415名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:44:40 ID:/8kp0Tjo
支援
416ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:45:31 ID:pCJwFDqE
「ああっ!!?」
 惚れ薬入りのワインを一気飲みしたルイズを見て、素っ頓狂な声を上げるモンモランシー。
 一体何だ、と“ルイズを含めた”一同の視線が彼女へと集中するが、その視線の集中攻撃に対してモンモランシーは顔を思いっきり伏せることで切り抜ける。
「いきなりどうしたのよ、モンモランシー?」
「……な、何でもないのよ、ルイズ」
 モンモランシーはテーブルに額をこすり付けながら返事をした。
「うーむ、いくら僕たちの乾杯をジャマされたからとは言え、その反応は酷いんじゃ……。なあ、ユー」
「そっちを見るなぁっ!!」
 彼女のそんな様子を見たギーシュは“ルイズの隣にいる”ユーゼスに話しかけるが、それを察知したモンモランシーは即座に(ルイズの方を見ないままで)ギーシュの首根っこを掴み、その顔をテーブルに叩き付けた。
「ぶべぇっ!!?」
「?」「……?」
 当然ながら、いきなり目の前でそんなことをやられたルイズとユーゼスは、モンモランシーの行動の意味が分からない。
 一体何なのだろう、と主人と使い魔は顔を見合わせた。
 見合わせてしまった。
「ぅ、あ……?」
「む?」
 次の瞬間、ユーゼスを見ているルイズの様子が、目に見えて変化し始めた。
「……ユー……ゼス……」
「御主人様?」
 瞳は潤み、顔は紅潮し、呼吸は荒くなり、挙動はソワソワし始め、ジリジリとユーゼスに近付いていく。
 そんな主人に何か不穏な物を感じたユーゼスは思わず身構えるが、次の瞬間。
「ユーゼスぅっ!!」
「!?」
 ルイズは、いきなりガバッとユーゼスに抱きついて、大泣きし始めた。
「……どうした、御主人様?」
「うっ、ひっくっ、どうして、どうしてエレオノール姉さまばっかりなのよ!!」
「???」
 突然抱きつかれて唐突にそんなことを言われても、ユーゼスはワケが分からない。
「わたしのことは、ひっく、いっつもほったらかして、姉さまとばっかり! どうしてわたしを見てくれないのよ! ひどいじゃない! うえ〜〜〜ん!!」
「……取りあえず落ち着け、御主人様」
 何とかしてルイズをなだめようとするユーゼス。
「…………うぅむ、何だかルイズがいきなり錯乱し始めたようだが……。とにかく乾杯の続きと行こうじゃないか、モンモランシー」
「えっ!? あ、ああ、うん、そう……ね」
 ギーシュは即座に復活するとルイズの様子を『どうせいつものプチ修羅場だろう』と判断して、額にアザを作ったまま黒髪のメイドに命じて替えのグラスを用意させた。
 メイドはたまたま使っていないグラスをトレイに乗せていたので、グラスの交換は非常に手早く、スムーズに完了する。
「何はともあれ、かんぱ……」
「あっ! わ、わたしのグラスの中に、虫が入ってしまったわ!!」
 それではいざ乾杯、という段階になって、再びモンモランシーが声を上げた。
 ……何せ、彼女のグラスには2分の1の確率で惚れ薬が入っている。
 それを知っているのは他でもない彼女自身のみなのだが、それを知っているからこそ、そんなバクチを打つわけにはいかない。
「何と……無粋な虫だね」
「そ、そうね! 取りあえず、このワインは捨てましょうか!!」
 そしてモンモランシーが自分のグラスに入っているワインを地面に向かってバシャッと捨てようとしたその時。
「……ミス・モンモランシ。ワインをこぼしてしまうのならともかく、地面に向かって自分から放ろうとするのはどうかと思いますが」
「ミ、ミス・ロングビル!?」
 後ろから現れたミス・ロングビルが、モンモランシーの行動を止めたのだった。
417名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:45:32 ID:/8kp0Tjo
支援
418名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:46:18 ID:/8kp0Tjo
支援
419ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:47:05 ID:pCJwFDqE
 慌ててモンモランシーは『即席の理由』を説明する。
「あ、いえ、違うんです、ミス・ロングビル。実はこのグラスの中に虫が入ってしまいまして、さすがにそれを飲むのはちょっと……」
「虫ですか?」
 モンモランシーが持っているグラスを、その手から取るミス・ロングビル。
 ……モンモランシーとしても、残念なことに『虫が入っているはずのグラスに固執する理由』が思い浮かばなかったため、大して抵抗も出来ず渡すことになってしまった。
「……? 虫なんて入っていませんよ?」
「そ、そ、そうですか? 見間違いだったのかなー?」
 陽光に透かしてグラスの中を検分するミス・ロングビルだったが、その中には虫どころかホコリ一つも全く見当たらない。
 しかしこの態度を見るに、どうやらモンモランシーはこのワインが飲みたくないようだ。
 かと言って、捨てるのも……もったいない。
「では、私がいただきます」
「ええっ!!?」
「?」
 ミス・ロングビルはいきなり仰天したモンモランシーを訝しげに見るが、彼女は口をパクパクさせるだけでイマイチ要領を得ない。
(潔癖症か何かなのかねぇ……)
 実際に見るのは初めてだが、このような人間はいる所にはいるのだなぁ……などと変な感心をしながら、ミス・ロングビルは2分の1の確率で惚れ薬が入っているワインを、そうとは知らずに飲む。
「んく」
 別に上物というわけではないが、それなりに良いワインであった。特に異物感などはない。
 ……ふと見れば、モンモランシーは全力で自分から目を背けている。
「ミス・ロングビ」
「見るなって言ってんでしょうがぁっ!!」
 飲んでから最初に認識したモノに対して全力で愛情を注ぐ薬を『飲んだかもしれない』ロングビルに対して話しかけようとしたギーシュを、モンモランシーはその顔を地面に叩き付けることで阻止した。
「ごびゅおっ!!? ……は、ははは、嫉妬かい、モンモランシー?」
 顔面が地面にめり込んだ状態で、そんなことを言うギーシュ。意外とタフなのかもしれない。
「い・い・か・ら! 下手に視線を動かしたりするんじゃないわよっ!!」
「ああ、君の愛が痛い……、そして、苦しい……よ、モン……モラン……シ……ィ……」
「?」
「……ふむ?」
 そんな若い金髪同士のカップル未満のやりとりを見て、ミス・ロングビルとシュウは首を傾げる。
 まあ男と女の間には、当人同士でしか分からない『何か』があるものだが……。
(……どうでもいいか)
 少し離れた場所では、ヴァリエールの桃髪の娘と銀髪の使い魔が何やらやっているようだが、それも自分にとってはどうでもいい。
「それより早く……」
 チラリとシュウを見ると、彼は桃髪の少女と銀髪の男のやりとりを薄く笑みを浮かべながら見ていた。
「…………ん……」
 そんなシュウを見ていたら、ミス・ロングビル……いやマチルダ・オブ・サウスゴータの心の中で劇的な変化が発生し始める。
「……え?」
 ハッキリ言って、マチルダはこのシュウ・シラカワという男があまり好きではなかった。
 そりゃあ確かに優秀らしいし、ネオ・グランゾンなんて巨大なゴーレムともガーゴイルとも付かない物を操ったりするし、一応美形ではあるし、一見すれば『いい男』に見えなくもない。
 だが、どうにも色々と謎が多すぎるし、うさん臭いし、イマイチ信用出来ないし、何よりいけ好かない。
 この男に対する『好意』がゼロという訳ではないが、それよりも圧倒的に『疑念』や『警戒心』の割合の方が勝っていた。
 ……そのはず、だったのだが。
「ぁぅ……」
 どうしたことか、たった今シュウを視界に入れた瞬間、彼への好意が爆発的に増大した。
 理由は分からないが、溢れる感情は留まることを知らず、いても立ってもいられない。
「っ、シュウ……!」
「む?」
 思わずシュウの名を叫びながら、マチルダはシュウの元に駆けて行き、そしてピトッと張り付いた。
420名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:47:42 ID:0yiGMozV
sien
421名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:47:52 ID:/8kp0Tjo
支援 うほっ色々と修羅場始まる
422ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:48:40 ID:pCJwFDqE
 当然、いきなり張り付かれたシュウは意味が分からない。
「ミス・ロングビル?」
「ああん、マチルダって呼んでぇ……」
「…………何をされました?」
「はぅぅう〜〜……」
 シュウは瞬時にマチルダの身に『異変』が起きたことを看破し、確認しようとする。
 だがマチルダは酩酊と言うか、理性が著しく欠如していると言うか、平たく言うとメロメロ状態なので、マトモな返答は返って来なかった。
「ふぇええ〜〜〜ん! ユーゼス、ユーゼスぅ〜〜!!」
「だから落ち着けと言っているだろう」
 見れば、ユーゼスの主人であるルイズも明らかに様子がおかしい。
(何が起こったのかは分かりませんが……)
 とにかく、一度状況を整理する必要があるだろう。
 そして……。
「ミス・モンモランシ……でしたか?」
「は、はいいっ!!?」
 コソコソと逃げようとしていた金髪巻き毛の少女を呼び止めるシュウ。
 ここ数分ほどの間ではあるが、この少女の様子は明らかにおかしい。
「少しお話を伺ってもよろしいでしょうか? 私とミス・ロングビルと、ユーゼス・ゴッツォとミス・ルイズも交えて。……『何の話』かの説明は、必要ありませんね?」
「は、は、はははははい……」
 その眼光に底知れぬ圧力をにじませながら、シュウはモンモランシーに詰め寄ったのであった。
 彼の『詰問』を受けたモンモランシーは、後に語る。
 『シュウ・シラカワとその周辺の人間に対しては、迂闊に手出しをするな』、と……。
423名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:49:10 ID:/8kp0Tjo
支援
424ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:50:16 ID:pCJwFDqE
 その日の夜。
「惚れ薬ぃ!?」
「ちょ、ちょっと、大声を出さないでください、ミス・ヴァリエール! 禁制の品なんですから……!!」
 ユーゼスの研究室の中で、コメカミと表情とその他の部分をヒクつかせながら、エレオノールはことの顛末を聞いていた。
 まずこの金髪巻き毛の馬鹿が、こともあろうに禁制の『惚れ薬』を作り。
 それを隣にいる金髪のボンボンに飲ませようとして。
 間違って自分の妹と、学院長の秘書がそれを飲み。
 今はそれぞれユーゼスとシュウに対して、その効果を十分に発揮している真っ最中。
 見れば、椅子に座っているユーゼスの膝の上にはルイズが腰掛けて、ユーゼスの両腕を自分の身体に絡ませている。
 更に、同じく椅子に座っているシュウの横には学院長秘書のミス・ロングビルが……いるにはいるのだが、床の上に寝そべって『シュウぅ〜……』などと寝言を呟きながら眠っていた。
「このような相手の場合は、眠らせるのが一番です」
 ……どうやら『このような相手』に対して、慣れているようだ。
 『それをルイズにもやってくれ』、とエレオノールは頼んだのだが、『私の問題を私が対処するのはともかく、あなた方の問題を私が対処する理由はありませんね』と返されてしまった。
 なおも食い下がろうとすると、ユーゼスに『諦めろ』と止められた。どうやらこの男には何を言っても無駄らしい。
 まあ、それはともかく、今後のことである。
「……………」
 エレオノールはしばし瞑目して考えた後で、一つの結論を出した。
「まずはこの馬鹿な子供の所業を、余す所なく王宮に報告しましょう。
 ……罰金で済めば良いわねぇ? 何せ公爵家であるヴァリエール家の三女、しかも女王陛下とも個人的に親交のある人物ををこんなにしてしまったんだから。下手をすれば禁固、縛り首、お家断絶……なんてことにならなければ良いけど」
「そ、そんな……!」
 顔面蒼白になるモンモランシー。
 冷ややかな瞳をそんな少女に向けながら、エレオノールは冷徹に言い放った。
「それが嫌なら、早く解除薬を作りなさい。今日を含めて2日だけ待ってあげるわ」
「で、でも、それを作るための材料である秘薬は、とっても高くて……」
「借金でもすればいいじゃない」
「う、うう……」
 モンモランシーは涙目になりながら、ガックリと肩を落とす。
 ギーシュは気落ちするモンモランシーを慰めようとしたが、そのモンモランシーに『お金貸して、500エキューほど』と言われたので思わず2、3歩ほど後ずさってしまう。
「……で、解除薬については待つしかないとして……」
 エレオノールの性格ならば『今すぐ作りなさい。は? 無理? じゃあ潔く王宮からの罰を受けるのね』とでも言いそうなものだが、そこは彼女も魔法の研究者である。
 強力なポーションが一朝一夕で作れるものではないことくらい、知り尽くしているのだ。
 なので、当面の問題は。
「ね、ユーゼス。もっとぎゅーってして?」
「……やった後で『苦しい』とか言われても困るのだが」
「ううん、いいの。ちょっとくらい苦しくても、ガマンするから……して?」
 現在進行形で惚れ薬の影響を受けまくっている、この愚妹である。
 エレオノールは元々つり上がり気味の目を更につり上がらせて、ルイズにピシッと言い放った。
「ちょっとルイズ! いつまでもユーゼスにベタベタしてるんじゃないわよっ!!」
 言われたルイズはチラッとエレオノールを見ると、面倒そうにボソッと呟く。
「……やだ」
「な、何ですって……!?」
 ワナワナと震えるエレオノールだったが、そんな姉の様子などどこ吹く風、とばかりにルイズはユーゼスにしがみつく。
「ユーゼスはわたしの使い魔で、わたしのモノなんですから、姉さまは引っ込んでてください」
「こ、この……! いいから離れなさいっ!!」
「いやぁ!!」
 頭に血が上ったエレオノールはルイズを強引にユーゼスから引き剥がそうとするが、そうするとルイズはますます強くユーゼスにしがみ付く。
「助けてユーゼス、エレオノール姉さまが苛めるの!」
「いや、別に苛めてはいないと思うのだが……」
 ユーゼスも、どうやら今の状態のルイズを扱いかねているようである。
425名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:50:27 ID:CZJXr6m4
シュウまで巻き込んだか、ティファの暗黒面が更に深化してしまうでないかww
支援
426名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:51:54 ID:/8kp0Tjo
支援
427ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:52:01 ID:pCJwFDqE
「ともあれ、この状態が長く続くのは好ましくはないな。ミス・モンモランシの手腕に期待するしかないだろう」
「……ああもう、次から次へと問題が出て来るんだから……!」
「既に起こってしまったことに対して、文句を言っても始まるまい」
「文句の一つや二つも言いたくなるわよっ!!」
 実を言うと、ユーゼスやシュウの手にかかればこの程度の事象など一瞬あれば解決は出来る。
 しかし、『そんな下らないことに自分の力を使いたくない』、『人格に何らかの影響が残る可能性がゼロではない』、『“解決手段”の説明が面倒』、『これはこれで興味深い』、『イザとなったらいつでも元に戻せる』などの理由から、それをしていなかった。
(とは言え……可能な限り、早く戻さなくてはならないな……)
 ユーゼスとしては『研究がやりにくい』というのもあるが、それよりも大きな問題があった。
 ……普通の人間に比べてかなり薄くはあるが、一応ユーゼスにも性欲はある。
 ルイズのような少女に対して欲情する……というのは考えにくいのだが、しかしこうも身体を密着させられてはいつ自制が利かなくなるか分かったものではない。
 1週間程度ならそれなりに耐えられる自信はある。しかしこれが1ヶ月や1年となると、取り返しのつかない事態になっても不思議ではないのだ。
(クロスゲート・パラダイム・システムを使って……いや、性欲だけを抑制するとバランスが悪くなるな。食欲と睡眠欲、排泄欲や生存欲求も抑える必要があるか?)
 そこまですると、もはや『人間』以前に『動物』としてどうかというレベルである。
「何にせよ2日で終わるのならば、その間は耐えるしかあるまい」
「『耐える』、ねえ……」
 ジロッとユーゼスを見るエレオノール。『ナニを耐えるって言うのよ』とその目が語っていたが、あえてユーゼスは無視する。
 と、そんなユーゼスにルイズが声をかける。
「ユーゼス、エレオノール姉さまだけじゃなくって、わたしも見て? ううん、他の女の人なんてどうでも良いから、わたしだけを見て?」
「……………」
「っ…………!!」
 ユーゼスはそろそろ辟易し始め、エレオノールはそろそろ我慢の限界に近付きつつあった。
「……ミス・ヴァリエールとの話が終わったら考えよう」
 取りあえず、なるべくソフトに問題を先送りしようとするユーゼス。
 しかし。
「今すぐじゃなきゃヤダぁ!」
 ルイズは駄々っ子のように声を上げ、即時実行を要求してきた。
 仕方がないので、一応肯定しておくことにする。
「…………分かった」
「ホント? ちゃんとわたしを見てくれる? エレオノール姉さまなんて放って、わたしだけを見てくれる?」
 ミシリ、とエレオノールの立っている位置から、床板が軋んだ音がした。
 ……何故か分からないが、エレオノールに対して後ろめたさを感じる。それとエレオノールの方を見るのが怖い。
 だがここでルイズを拒絶するとまたギャーギャーとうるさくなるので、ひとまず肯定せざるを得ないのだ。
「『相手をする』という意味であれば、そうするが」
 何とも当たり障りのない表現である。
 しかし、言われたルイズはその言葉を最大限好意的に解釈した。
「じゃあ、キスして」
「何?」
 ベキ、と床板が割れる音が響く。
「……あらやだ。ちょっと力を入れただけで割れちゃうなんて、もろい床板ね」
 金髪眼鏡の女性に対しては色々と言いたいことはあるのだが、迂闊な発言が出来る雰囲気ではなかった。
「……………」
「ん〜〜……」
 目を閉じて唇を突き出してくるルイズ。
(むう……)
 別にユーゼスとしては唇を付けるくらいはどうだって構わないのだが……ここは一応、肉親の許可を取っておいた方が良いだろう。
「ミス・ヴァリエール、構わないか?」
 少なくとも表面上は平静な口調でそんなことを問いかけてくるユーゼスに、エレオノールも『努めて平静な口調で』答える。
「…………………………す れ ば ? 」
「ぬ……、分かった」
 今まで感じたことのないタイプの恐怖がユーゼスの身体を駆け巡るが、いつまでもエレオノールに構っているわけにもいかない。
 それでも何となく気まずさのような物を感じたので、ユーゼスは手早く無表情かつ事務的に、軽くルイズの頬に唇を付けるのだった。
428名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:52:38 ID:0yiGMozV
sien
429名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:52:43 ID:0yiGMozV
sien
430名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:52:47 ID:0yiGMozV
sien
431名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:53:28 ID:Xebptdq9
ルイズだけではなくおマチさんまで・・・支援
432名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:53:36 ID:zBZITDhf
支援です
433名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:53:45 ID:/8kp0Tjo
・・・・支援
>428-430 時間間隔おかしくね?
434名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:54:34 ID:/8kp0Tjo
支援
435ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:55:00 ID:pCJwFDqE
「これで良いのか?」
 ユーゼスとしては『これで主人もひとまずは大人しくなるだろう』と目論んでいたのだが……。
「む〜……、ほっぺじゃイヤぁ〜!」
 あまり効果はない、どころか逆効果だったらしい。
「……ならば、どうしろと?」
 ルイズは小首をかしげて、ユーゼスに可愛く懇願する。
「ちゃんと、お口にして?」
「……………」
 ユーゼスは『可愛い』という概念がよく分かっていないので、その仕草に大した効果はなかったのだが、それでも『唇にしなければいけないのだろうな』という程度の判断は出来た。
「使い魔の契約とか、プラーナの補給とかじゃなくって……ちゃんとしたキス、して?」
 なおも懇願を緩めないルイズ。
 念のため、再びエレオノールに対して確認を取ろうと視線を向けたら、
「……………………………………………………あ゛?」
 物凄い目で睨まれた。怖かった。
 ……このままではどうにもならないので、ユーゼスはやむを得ずルイズの唇に自分の唇を触れさせる。
「ん。……ん!?」
「んん〜〜〜……!」
 と、唇と唇が触れた瞬間、ガシッとユーゼスの頭がルイズの両手に掴まれた。
「むぐぅ!?」
「んむんむぅぅぅううう〜〜〜……!!」
 更にルイズは唇と舌の力を駆使して、ユーゼスの口内へと侵入を試みる。
「……む、ん、ぐ……!」
 いきなり不意を突かれる形になってしまったユーゼスは、その『口撃』への対処が出来ない。
「ん、ふぅ、んん……、んぅ、あむっ……」
「くっ……ん、ぐ、む……っ」
 うわあ、と赤面するギーシュとモンモランシー。シュウは苦笑しており、そしてエレオノールはギーシュたちとは違った意味で赤面している。
 そしてルイズがユーゼスの口内から『ちゅぅぅうううううううう〜〜〜っ』と色々と吸い始めた時点で、エレオノールが全力でルイズの頭を引っぱたき、二人のディープキスは終わったのであった。
 それに満足したのか、『にへらー』と笑うルイズを見ながら、エレオノールはワナワナと震えている。
「ああ、もう!! ヴァ、ヴァリエール家末代までの恥だわ……!!」
 妹に対して、未だかつてないほどに怒りが湧き上がってくる。
 ……なお、これはあくまで『ユーゼスに堂々とベタベタイチャイチャする、もはや貴族としての恥も外聞もかなぐり捨てているルイズに対しての怒り』であって。
 決して『大して抵抗もせず、されるがままになっているユーゼスに対しての怒り』だとか、『あんなにベッタリ出来るルイズが少し、ほんの少しだけ羨ましい』などというイライラでは、断じてない。
 …………ないったら、ないのである。
「とにかく、ミス・モンモランシ! 1秒でも早く解除薬を作りなさい!! いいわね!!?」
「はっ、はいぃぃぃいい!!」
「ああっ、モンモランシー!」
 エレオノールに怒鳴られてモンモランシーは半泣きで応じながらも自分の部屋に走っていき、ギーシュはその後を追っていった。
「では、私は部屋に戻るとします。何かありましたら、呼んでください」
 それを見届けたシュウもまた、『これ以上ここに留まっていても意味がない』と判断して退室しようとする。
「……良いのか? ミス・ロングビルも御主人様と同じ状態なのだろう?」
「構いません。……サフィーネやモニカに比べれば、むしろ扱いやすい方と言えるでしょう」
「そうか」
 この男の女性関係はどうなっているのだろう、とも思ったが、そこに探りを入れてもあまり意味がないので黙っておく。
「では、また明日に」
 そうしてシュウは、眠ったままのミス・ロングビルを抱えてユーゼスの研究室から出て行く。
436名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:56:03 ID:/8kp0Tjo
支援
437ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:57:02 ID:pCJwFDqE
 チカは恐怖していた。
「ああ、シュウ、シュウ〜!」
 戻って来た主人がマチルダを抱えていて、彼女が眠りから覚醒するや否や、半裸で自分の主人に迫り出したから……ではない。
「下品ですよ、ミス・マチルダ」
 それに対して、相変わらず極めてクールに対処している自分の主人に……でもない。
「やん、そんな『ミス』なんて他人行儀な呼び方はしないで、『マチルダ』って呼び捨てにしておくれよぉ……」
「では今後はマチルダと。
 ……マチルダ。あなたも一応は私と同じ年齢なのですから、いくら惚れ薬で我を見失っているとは言え、もう少し慎みや品性という物を持つべきです」
 『今のシュウとマチルダのやりとりを、ティファニアに報告しなくてはならない』という事実に対する恐怖である。
 取りあえず、いくつかの報告のパターンをざっと脳内でシミュレーションしてみる。


・ケース1、前回のように『ありのまま起こったことのみ』を報告した場合
「ほう……へえ……ふぅん……マチルダ姉さんが……そうなんだぁ……。
 ……それでチカちゃんは、どうしてそれをただ黙って見てた『だけ』だったの? ウェストウッド村の風紀を守るために、シュウさんの健全な人生のために、命をかけてマチルダ姉さんを阻止するべきだったんじゃないかしら?
 …………仕方ないなあ。今後はこんなことがないように、しっかりチカちゃんの身体に教え込んでおかないと…………」


(い、言えねぇえええええええ〜〜!!)
 チカの脳裏に、先日行われた『ちょっと強めの確認』の記憶がフラッシュバックする。
 詳しい描写は避けるが、アレ以来、チカはロウソクに対して軽いトラウマを抱くようになってしまったのだ。
 やはり、もっと別の方法で報告するべきだろう。


・ケース2、嘘を並べ立てた場合
「チカちゃん、今の話は嘘でしょう? え、全部本当ですって? ……それも嘘ね。だってチカちゃん、嘘をつくときはやたらと口が回るんだもの。視線も泳いでるし。
 ―――それで? 本当のところはどうなの?
 ……まあ、マチルダ姉さんが? シュウさんに?
 …………どうしてチカちゃんは、そんな大事なことを嘘をついてまで隠そうとしたのかしら?
 困ったなあ。それじゃチカちゃんがこれから嘘なんてつかないように、ちゃんと躾けておかなきゃ…………」


(駄目だぁあああああああ〜〜!!)
 ああ見えてティファニアは、なかなか人間に対しての観察眼が鋭いのである。
 ハーフエルフという身の上である以上、周囲を警戒しながら生きていかなくてはならなかったため、ある意味では仕方がないとも言えるのだが……。
 ならば、もう開き直って正直に話すしかないのだろうか。
438名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:57:26 ID:CZJXr6m4
ユーゼスとシュウの格の差が確実に出るな、女性関係じゃww
支援
439名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 22:59:11 ID:/8kp0Tjo
支援

あー デスペル効くかね? 覚醒してないから無理か
そしたら子安ちゃんが解除するかな?
440ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 22:59:20 ID:pCJwFDqE
・ケース3、『惚れ薬を飲んでしまった』という事実を交えて話した場合
「えっ、姉さんが惚れ薬を!? そ、それで、姉さんは……そう、ちゃんと元に戻ったのね。よかった……。
 ……でも、半裸で? シュウさんに? 迫った? あのマチルダ姉さんが? ……そう言えば『惚れ薬』って、一説によると自分の秘めてる愛情をあらわにする効果があるって話よね……。
 …………それじゃチカちゃん、今後も『監視』をよろしくね♪」


(う、うーむ、これが最も無難と言えば、無難かなぁ……)
 実際にはこのシミュレーション通りに会話が進む保障などは何も無いのであるが、やはり『詳細な背景を交えて話す』のが一番だろう。余計な誤解も生みにくいだろうし。
(まあ、しっかし……)
「……なら、慎みとか品性を持ったら、優しくしてくれるのかい?」
「少なくとも『一人の女性』として扱うことは、お約束しましょう」
(……御主人様は、こういう風に『後で振り返ってみればどうとも取れる表現』ばっかりしてるから、色々と問題を起こすんだろうなぁ……)
 ざっと思い返してみても、そういうやり取りに心当たりが多すぎる。

「何を復活させる気か知らねえが、生けにえが必要なんだったら、まずてめえがそれになれってんだ!!」
「フフフ……それは言い得て妙ですね。その言葉、覚えておきましょう……」

 とか。

「シュウ! ようやく本性を現しやがったな!」
「本性……? いったいあなたは私の何を知っているというのです?」
「何……!?」
「本当の私は、あなたが知っている私ではないかも知れませんよ」

 とか。

「ゼロは俺に貴様の死を見せてくれている……」
「フッ……、未来というものは自らの手で変えるために存在しているのですよ」

 とか、ダカールでロンド・ベル隊と戦った時だけでもこれだけあるのだ。
 ……もっとも、あの時はバリバリにヴォルクルスの支配下にあった頃なのだから、意図的にそういう傾向の発言をしていた節があるのだが……。
「じゃあシュウ様ぁ、私と一緒に寝てくださいぃ。何でしたらそのまま朝までぇ……」
「……言葉遣いだけを丁寧にすれば良いという物ではないのですが……。それと、最低でもそのはだけた服は直すようにしてください」
「うふふ、やだ、シュウ様ったら脱がせるのがお好みなんですねぇ? 分かりましたぁ〜」
「…………怒りますよ、マチルダ?」
「あうっ……、その射抜くような眼光もステキですぅ……」
(ま、今のマチルダ様とか、サフィーネ様やモニカ様みたいな相手には、そういうのも通じないか)
 やっぱりこういう回りくどいミステリアスなキャラには、ストレートな単純キャラや天然キャラの方が攻略には向いてるのかもなぁ……などと思うチカであった。
441名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:01:00 ID:im71VK7t
修羅場支援
442名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:01:20 ID:/8kp0Tjo
支援

これで終わりかな?
443ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 23:01:36 ID:pCJwFDqE
「……じゃあ、私たちもルイズを寝かせましょうか」
「そうだな」
 エレオノールとユーゼスも、ユーゼスの背中に張り付かせたままで隣のルイズの部屋に移動してルイズを寝かせようとしたのだが、やはりそこでも悶着が起きた。
 まず魔法学院の制服を脱がせて寝具のネグリジェに着替える時点で、
「ユーゼスぅ、着替えさせてぇ〜♪」
 と、猫なで声でルイズが言ってきたのである。
 ユーゼスはその要請を特に躊躇も疑問もなく行おうとしたら、いきなりエレオノールに頬をつねられた。
「いきなり何をしようとしてるの、あなたは!」
「……ここ最近はしていなかったが、召喚されてからしばらくの間は御主人様の着替えは私が行っていたぞ」
「…………金輪際、絶対に、二度とやらないでちょうだい」
 かくして、ルイズの着替えはエレオノールが強引に行うことで何とかなった。
 そして次に就寝時。
「一緒に寝て♪」
 少し眠そうな瞳で、ルイズはユーゼスに『お願い』する。
「……それは断る、と前々から言っていたはずだが」
「イヤぁ! ユーゼスが一緒に寝てくれなきゃ、わたし、絶対寝ないんだからぁ〜!」
 さすがにゲンナリし始めるユーゼスだったが、やはりここでもエレオノールがルイズを叱りつけた。
「ああもう、ルイズ! 仮にも結婚もしていないレディが、男と一緒のベッドで寝て良いわけがないでしょうっ!!」
「……わたし、ユーゼスと結婚するからいいんだもん」
「なっ……!!」
 いきなり妹の口から爆弾発言が飛び出したので、絶句するエレオノール。
 だが『これは惚れ薬のせい、惚れ薬のせい、ルイズはそれほど悪くないわ』と自分にムリヤリ言い聞かせて冷静さを保とうとする。
「何にせよ、ユーゼスと一緒に寝るなんて駄目よ、駄目! 絶対!!」
「ふんだ。いいもん、姉さまが何と言おうと、わたしはユーゼスと一緒に寝るんだもん」
 ルイズはグイッとユーゼスの右腕を引き、エレオノールは負けじとグイッとユーゼスの左腕を引いた。
「……人の腕を、両側から引き合わないで欲しいのだが……」
 ユーゼスが漏らした呟きは、ヴァリエール姉妹には届かない。
 そのままグイグイとユーゼスの腕を引っ張り合うこと、しばし。
 ラチが明かないと判断したエレオノールは、パッとユーゼスの腕を離す。
「うふふ、エレオノール姉さまがユーゼスの腕を離したわ。そしてわたしは掴んだまま。……じゃあユーゼスはもう、わたしだけのモノってことで良いんですよね?」
「……勝手にそんなことを決めないでちょうだい」
 そう言うと、エレオノールは目を閉じて黙考し、逡巡し始めた。
「……うぅ、でも……この場合は、仕方なく……」
 やがて意を決したのか、カッと目を見開き、顔を真っ赤にして言葉を震わせながら宣言する。
「わ、わわ、わわわわわ私も一緒に寝るわ!!」
「ええっ!?」
「何?」
 これにはルイズだけでなく、ユーゼスも驚いた。
444名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:02:50 ID:/8kp0Tjo
ラスト1か2ってトコだな 支援
445名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:03:19 ID:eH03OEhh
支援が止まらない
446名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:03:23 ID:rOZQCEXA
修羅場に期待支援
447ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 23:03:31 ID:pCJwFDqE
「一応、『何故』と聞いておこう」
 当然の質問を放つユーゼス。それにエレオノールはぎこちない口調で答える。
「ど、どうせ、ルイズをムリヤリ寝かせて、あなたを隣の研究室で寝かせても、夜中に忍び込む可能性が高いだろうし、だ、だったら……始めから私が、あ、間に入って、監視しておけば、安心でしょう!」
「むう……」
 まあ確かに、今のルイズと二人きりになるのは身の危険を感じる。
 ここはエレオノールに防波堤になってもらうのがベターな方法だろう。
「むぅ〜、邪魔しないでください、姉さま!」
「……私はあなたのためにやってるのよ、このちびルイズ!」
 ぎゅううぅ〜、とルイズの頬をつねり上げるエレオノール。
 その後もルイズは盛大に不満をアピールしていたが、モンモランシーが作った睡眠導入用ポーションを大量に使用して強引に眠らせることで対処した。
 なお、このポーションはあくまで『睡眠導入用』であり、バッチリ覚醒している人間に対して使っても『少し眠くなる』程度の効果しか望めない。
 だが、今のルイズのように『既にある程度眠くなっている』人間に対して一定以上の量を使用すれば、ほとんど即効性の睡眠薬と変わらない効果が見込めるのである。
「では、眠るか」
「そ、そうね。……着替えてくるから、少し待っていてくれるかしら」
「分かった。その間に御主人様はベッドに寝かせておこう」
「……変なことしてたら、殺すわよ?」
「するつもりなど無いよ」
 ユーゼスの言葉に納得したのか、エレオノールは素早く自分の部屋に戻っていく。
 そしてルイズを部屋のベッドに横たえさせて、待つこと30分。
(……この部屋からミス・ヴァリエールが間借りしている部屋までは、往復しても10分もかからないはずなのだが……。いくら何でも遅すぎるな……)
 彼女は一体、20分以上も何をしているのだろうか。
 やることが無いのでルイズが何かしでかさないよう、予備のシーツでグルグル巻きにしてもまだエレオノールが来ず、いい加減にユーゼスが待ちくたびれた頃……。
 薄いピンク色のネグリジェを着込み、枕を持参したエレオノールはやって来た。
「ま、ま、待たせたわね……」
「ああ、待たされたな」
 エレオノールはギクシャクとぎこちない動作でルイズの隣に横になり、更にぎこちない口調でユーゼスを自分の隣に促す。
「さっさささ、さあ、とととっとっととっとっ……とっとと、横になりなさいっ」
「……緊張しすぎではないか?」
「んなっ、そんなっ、ききき緊張なんて、してるワケ、ないでしょうっ!!」
「……まあ、睡眠さえ取れれば私は別に構わないが……」
 ガチガチのエレオノールを横目に、ユーゼスは割とスムーズにルイズのベッドに入る。
「そ、それじゃ……お、おお、お休みなさい」
「慌ただしい一日だったからな。……睡眠は十分に取れ、ミス・ヴァリエール」
 かくして、この夜はルイズ:エレオノール:ユーゼスという並びで眠りについた。
 ……なお、あらためて『ユーゼスと同じベッドで一緒に寝ている』という現在のシチュエーションを意識しまくったエレオノールは、緊張やら興奮やらで、睡眠導入剤を使ってもほとんど効果がなく、この夜を眠れずに過ごすことになる。
 ちなみに、密かにユーゼスも少しだけ寝つきが悪かったりしたのだが……。
 ……それが久し振りにベッドで睡眠を取ったからなのか、隣にエレオノールがいたからなのかは、定かではない。
448名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:03:31 ID:VCf5qbsW
>>いらない王女
元ネタの「いらない王様」って調べたら
偉い萌え要素満載やね。
これだからNHKは侮れない。
449ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/02/03(火) 23:04:20 ID:pCJwFDqE
 以上です。

 あっれぇー、この話は基本シリアスなはずだったのに、気が付けば『男と一緒に“普通に寝る”だけでドキバクする27歳女性』とか、『男に迫る23歳女性』とか……私は一体、どこで道を間違ってしまったのでしょう……。
 しかし、自分で考えた文章を文字に起こすだけだというのに、まさか身もだえする羽目になるとは思いませんでしたよ、フフフ……。
 書いてる途中で、何度「だ、誰か俺の代わりに書いてくれぇぇえ」と思ったことか……。
 ……あ、そっか、だから皆さん惚れ薬イベントで苦労してるんですな。

 ちなみにシュウの年齢に関してですが……。
 魔装機神LOEの1章の時点で21歳(OGシリーズでは22歳ですが、今回は旧シリーズの設定を採用しています)となっており、更にウェンディ・ラスム・イクナートの年齢が1章時点で27歳、2章時点で29歳であることから、『1章時点+2歳』としております。

 それでは皆様、支援ありがとうございました。
450名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:05:16 ID:/8kp0Tjo
451名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:05:27 ID:Kfkk3bdo
おいおい投下ラッシュ激しすぎるだろ…
乙が追いつかんw
452名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:06:54 ID:CZJXr6m4
やべえ、こんなにも身悶えながら支援を行ったのは久しぶりだぜww
とにかく、ラスボスの人にGood Job!!
453シャイニング・マジック:2009/02/03(火) 23:08:12 ID:zBZITDhf
ビビの方、ユーゼスの方お疲れ様でした。
ちょっと長風呂してましたので、レスできず申し訳ありません。


それでは、感想タイムの後23:25より第6話を投下します。
454名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:09:19 ID:BmcY2HKr
作者を道に迷わすのも私だ。
ラスボスの人乙カレー
455名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:11:41 ID:/8kp0Tjo
◆nFvNZMla0g氏
編集内容は56376バイトあります。50000バイト以下に収めるか複数ページに分割してください。

登録しようとしたら容量overで弾かれたので どこで分ければいいですかね?
456名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:11:47 ID:fuZZUDMX
乙!あぁ、すげぇなぁ、こんなベッタベタのラブコメ書けるなんて!!
そして支援だ!
457名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:16:52 ID:49qgxXIG
ヒャッハー!支援するっきゃねぇ!!!
458名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:17:21 ID:TO1nuNty
まさかラスボスの人の展開がこんな展開になるとは。
459名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:17:24 ID:uKzL9E4L
乙ー
ルイズが眠っただからラスボスがバカ正直に一緒に寝る必要なくね?
460名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:22:03 ID:bHwlBckM
>>459
そりゃ、エレちゃんも一緒に寝ていたからでしょ?
意外と脈ありそうなかだよね〜エレユゼってさ(萌)
461名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:23:59 ID:gTE776TY
ユーゼスに性欲があったとか言われると驚愕を隠し切れん
そしてシャイニング支援
462シャイニング・マジック 第6話(1/5):2009/02/03(火) 23:25:08 ID:zBZITDhf
「それでね。ヒカル先生の魔法って、系統魔法と根本から違うのよ」
トリステイン魔法学院の寮塔では、ふたりの貴族が話をしていた。
いや、微熱のキュルケがもうひとりに一方的に話しかけていたと言った方がいいだろう。
話しかけられている相手、雪風のタバサは話を聞いているのかいないのか、本を読みふけっている。
「彼の魔法の源は精神力じゃなくて『エレメント』って、世界のどこにでもある力なんですって、
 おとぎ話に出てくる、エルフの先住魔法みたいな話ね」
つい1週間ほど前に、キュルケはヒカルの生徒になった。
半分は興味で、もう半分はラ・ヴァリエールの困った顔を見るためである。
とはいえ、実際にヒカルの授業を受けてみると、自分の知っている魔法とは根本的に違う。
それを自分が使いこなせるかもしれないという高揚感もあり、彼女はいつの間にかヒカルの授業そのものに興味を引かれていた。

「ヒカル先生の話じゃ、マジトピアの魔法は本当に色々なことが出来るらしいわ。
 魔法で自分だけの部屋を作り出したり、龍や巨人みたいな生き物、いえ生き物ですらないものにも変身できたり、
 100倍の速度で動ける薬を調合したり、時間を止めたりする魔法もあるのよ」
キュルケの話が熱を帯び、彼女は夢中で話し続けている。
タバサは持っている本から視線をそらさず、じっとだまったままページをめくる。
「そう、マジトピアには『時間を巻き戻す魔法』もあるんですって!」
ページをめくるタバサの手がぴたりと止まった。
「なんでも、時間の流れを操作して過去に戻る魔法もあるらしいわ。
 『禁断の呪文』だから、私たちには教えてくれないんだけど、そんな魔法まであるなんてビックリよ!
 いったい、どこまで本当でどこまでがおとぎ話か疑いたくなる事ばっかり。
 でもね、ラ・ヴァリエールはそこそこマジトピアの魔法を使えるようになってるのよ!
 あいつ、系統魔法は『ゼロ』なのに妙なところだけ才能あるわ」
タバサが読んでいた本をパタリと閉じた。
そして、キュルケの方を向き、口を開く。
「次の授業は、私もいく」
「え?」
キュルケは一瞬だけビックリした表情をしたが、すぐに元に戻ってタバサに視線を投げた。
「あなたがそんなことを言うなんて、マジトピアの魔法に興味でてきた?
 わかった。わたしからヒカル先生に頼んであげる。」

463シャイニング・マジック 第6話(2/5):2009/02/03(火) 23:25:50 ID:zBZITDhf
「な、なな、なんで、また『生徒』が増えてるわけっ!?」
魔法部屋の中で、ルイズが顔を引きつらせながら喚いた。
「タバサがマジトピアの魔法に興味があるから連れてきたの。ヒカル先生もOKだって」
「ギーシュとモンモランシーだけかと思ってたのに、ツェルプストーにタバサまで……
 わたしの部屋って、わたしのプライバシーって、一体どうなってんのよっ!」
呆然とするルイズを尻目にヒカルは指輪を取り出した。
「生徒の証の『お守りの指輪』だよ。これが最後の1個だ。つけておいてくれ」
ヒカルが渡した指輪は、ルイズやキュルケたちと同じデザインだが宝石の色が違う。
「さて、それじゃ授業を始めようか。タバサは最初だから『魔法文字』の読み方からだね」

タバサの上達速度は他の生徒とは全く違っていた。
3日でほぼすべての魔法文字を読みこなし、魔法力の基本を理解した。
授業が終わった後も、魔法部屋から何冊か本を持ち帰り、次の朝には読み終えている。
1週間もする頃には、基本的な呪文を使いこなすようになっていた。
彼女はときどき学院から姿を消していることもあったが、学院にいるときは必ずマジトピアの本を読んでいる。
1ヶ月も経つ頃にはタバサはヒカルも舌を巻くほどにマジトピアの魔法を理解していた。


……そして、タバサはヒカルの魔法で閉じられた書庫の鍵を開ける。
……書庫から『禁断』の魔法書を取り出すと、1ページだけを切り取った。


魔法学院から少し離れた丘の上にタバサはいた。
人っ子一人いない丘の上で、黒いドレスを着て薄く化粧までしている。
さらに上、天空では青い鱗の風竜が7メイルはある大きな羽根を広げ旋回している。
タバサが口笛を吹くと、その風竜『シルフィード』はタバサの隣へと舞い降りた。
小柄なタバサは風にあおられながらも、少しも姿勢を崩さず手に持った魔法書のページを眺めている。
「お姉さま、周囲1リーグに人間はいないのね」
普通、竜はしゃべらない。
竜の知能は幻獣の中でも優秀な部類に入るが、人の言葉を操るほどではない。
それなのに、シルフィードはのどを震わせて、タバサに話しかけた。
シルフィードは、古代に絶滅したといわれる風韻竜の生き残りなのである。
人語を話し、精霊の力を使って『先住の魔法』を使うこともできるのだ。
韻竜は絶滅したとされている。もし、シルフィードの正体がばれたら、トリステインのアカデミーやガリアの王室が『実験に使うからよこせ』などと言ってくるかもしれない。
だから、タバサはシルフィードに、その姿のまま人前で話すことを禁じている。
でも、今は周囲に人はいない。
いや、タバサが周囲に人がいないことを確認させたのだ。
シルフィードの言葉に小さくうなづくと、タバサはもう一度魔法書のページに目を落とした。

「お姉さま、なにがあったの?この間からずっと変なのね」
シルフィードの問いかけにもタバサは答えない。
心ここに在らずといった面持ちで、ただ、じっと魔法書のページを見ている。
「あの桃色の髪の子の部屋に行くようになってから、お姉さまおかしくなったのね!
 こんな、誰もいないところで、おめかししてドレスを着てるなんて変なのね!
 このシルフィードには何でもお見通し!なにか悪いことをしようとしてるのね!!」
その言葉に、タバサは小さく頷いた。
「そう。とても、悪いこと」

464シャイニング・マジック 第6話(3/5):2009/02/03(火) 23:26:31 ID:zBZITDhf
……マジトピアに伝わる禁断の呪文、『リバース』……
時の賢者クロノジェルが、その一生を賭けあみだしたといわれる呪文である。
時間を操作し、唱えた者を過去の時間に送り届ける呪文だ。
だが、『リバース』を使い、過去を変えようとするものは後を絶たなかった。
時間そのものを歪めるほどに……

そのため、時の賢者クロノジェルは自らを封印し、時間の崩壊を防ぐと共に、『リバース』の魔法に呪いをかけた。
『リバース』の呪文を使った者は、その存在が消滅する。
……そして『リバース』は、禁断の呪文として封印された……


その『リバース』の呪文が記されたページがタバサの手の中にある。
タバサがもう少し冷静なら、時間を変えることの危険性と、その結果に思い至ったかもしれない。
親友のキュルケと、マジトピアの魔法を教えてくれたヒカル先生を裏切ると思いとどまったかもしれない。
……けれど、彼女は知ってしまった。彼女の運命を狂わせた『5年前』を変える方法を。
……そして、彼女は望んでしまった。もう一度だけ母の笑顔を見たいと。


タバサの本名は『シャルロット・エレーヌ・オルレアン』。現ガリア王国の国王ジョセフ1世の姪に当たる。
彼女の父親、オルレアン公シャルルは5年前に死亡した。
狩りの最中の事故と発表されたが、実際はジョセフ1世に暗殺されたのだ。
母親は、彼女の代わりに毒の入った菓子を食べて心を失った。
心を失った母親は、今でもオルレアン家の屋敷に住んでいる。いや、軟禁されているといった方がいいのかもしれない。
母親は、彼女が大切にしていた人形を肌身離さず持ち、その人形を『シャルロット』と呼んでいる……。
彼女が近づこうとすると、『国王の刺客』と恐れ、抱いた人形を彼女の名前で呼び続ける……。
だから、彼女は人形の名前『タバサ』と名乗って魔法学院に通っているのだ。


……『リバース』の呪文で5年前のあの日に戻れば……
……母さまが、あの菓子を食べなければ……
タバサは、手に持った魔法書のページをぎゅっと握り締めた。

465名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:26:37 ID:hxxo1xzj
ラスボスの人GJ!
なんという修羅場&ヤンデレテファwww
えぇ悶えて転がりましたともwww
次回に超wktkせざるを得ない。

そしてヒカル先生支援
466シャイニング・マジック 第6話(4/5):2009/02/03(火) 23:27:10 ID:zBZITDhf
「マジーネ・マジ……」
タバサが呪文を唱えると、周囲の時間が止まった!
シルフィードは口をあけたまま動かない。草も風にあおられた形のまま石の様に止まっている。
音も匂いも、風の揺らぎすらない世界でタバサは呪文を続ける。
「ロージ・マネージ・マジ・ママルジ!」
呪文が完成した瞬間、タバサの周囲の景色がものすごい勢いで変わり始めた!
タバサは心に強く思い浮かべる。5年前の『あの日』を……。

再び、時間が停止した時、タバサは『あの日』にいた。
ガリア王国の王都リュティスにあるヴェルサルテイル宮殿、その晩餐会の中に彼女は立っていた。
贅沢な料理が並び、数々の貴族が談笑する部屋の片隅に、黒いドレスを着たタバサはポツリとたっていた。
いつも持っている大きな『杖』は、今は彼女の手にはない。
王宮の晩餐会に『杖』を持って参加したりすれば、たちまちに捕えられてしまうだろう。
いや、たとえ『杖』があったとしても『リバース』の維持で手一杯の今のタバサにはルーンを唱えることもできないに違いない。
そもそも、今のタバサに呪文は必要ない。
もうすぐ氷菓子を運んでくる『給仕』、さりげなく彼に近づき、その盆を払い落とすだけで事は済む。
喧騒の中にもどこかピンと張り詰めた晩餐会の中、タバサは、目立たぬように気配を殺してその瞬間を待ち続ける。

幼いタバサ……いや、シャルロットと言った方がいいだろう。
彼女と母親の席に青い髪の男が近づいてゆく。ガリア王ジョセフ1世だ。
「おお、シャルロットよ……。宴は楽しんでおるか?
 此度の宴は、その方らのために用意したものだ。遠慮なく、楽しんでくれ。」
ジョセフはそういいながら、シャルロットの頭を撫でた。そして、思い出したかのように指を鳴らした。
「そうだ、シャルロット。お前のために珍しい異国の『氷菓子』を作らせたのだ。」
ジョセフが指を鳴らしたのを合図に、部屋の奥から黒服の『給仕』が現れた。
手には盆を持ち、その上にあるグラスには、色とりどりの丸いシャーベットが飾られている。
『給仕』を見たタバサの顔が険しさをました。


……あのとき、『給仕』を見たシャルロットは、その目に怯えた。
……鋭く光る、『給仕』と目が会った瞬間、底知れぬものを感じた。
……怯える娘の前で、母親は「これは私がいただきます」とグラスを取った。
……そして、


タバサは、首を振ると『給仕』を止めるために、足を踏み出す。
その瞬間、彼女の世界は暗転した……。

467シャイニング・マジック 第6話(5/5):2009/02/03(火) 23:27:44 ID:zBZITDhf
シルフィードにとっては一瞬の出来事だった。
文句を言う彼女の前で、タバサが短く呪文を唱えた。
その、次の瞬間には、タバサの全身から生気が抜けた。
更に、次の瞬間には、タバサは胸を押さえて崩れ落ちた。

「母さま……、母…さま……うぅ」
タバサは苦悶の表情を浮かべ、胸をかきむしる。
「お姉さま!なにが!?なにをしたの!!」
今まで、シルフィードはタバサがこんな表情を浮かべるのを見たことはない。
どんな任務でも、顔色ひとつ変えずこなしてきたタバサ。
たとえ傷を負うことがあっても、シルフィードには苦しむ顔など見せたことはない。
そのタバサが、幼い顔を苦痛に歪めて、全身を震わせている。
「お姉さま!しっかりするのね!!」
シルフィードは叫ぶが、竜の体では助け起こそうにも大きすぎる。もどかしげに短くルーンを唱えると、青い竜の体が人間へと変化した。青い髪の女性は、裸のままタバサに駆け寄り、抱き起こす。
だが、タバサはもはや声を出す力もない。ただ、胸の辺りををかきむしるだけ。
人間と化したシルフィードは、タバサの黒いドレスに手をかけると、胸の辺りを力任せに裂いた。
おそらくは、1着で平民が10年は暮らせるであろう価値のあるドレスだが、シルフィードにはそんなことは考えもつかない。
ドレスを裂いた瞬間にシルフィードが戦慄したのは、タバサの体を見たからだ。


……透き通るように白いタバサの肌……
……彼女の胸の中心部にぽっかりと『穴』が開いている……
……『穴』からは、『闇』が渦を巻き彼女を飲み込もうとしている……
……『闇』の渦に触れた彼女の体は、ジワジワと消滅していく……


「なんなの?お姉さまになにがあったのね!?」


【おまけ】


タバサ :「今日の…呪文は、マジーネ・マジ…ロージ・マネージ・マジ・ママ……」
シルフィ:「お、お姉さまっ、それ以上は言っちゃダメなのね!!
      それより、お姉さまを直す方法を早くシルフィに教えるのねっ!!」

468シャイニング・マジック:2009/02/03(火) 23:28:44 ID:zBZITDhf
今回の話はここまでです。


タバサの母親が毒を盛られたのは『料理』と4巻で明言されていますが、それ以上の描写は原作ではありません。
自分の頭の中では、こんなイメージでした(汗

本来ならキュルケで『京都でデート』になる予定でしたが、予定を早めてタバサの話になりました。
(さすがに、あれは無理ですので彼女には別のエピソードを用意するつもりです。)
リバースの後編(第7話)は可及的速やかに…書ければいいなぁw

469名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:30:49 ID:Kfkk3bdo
ヒカル先生乙
あー、あったなそんなエピソード…
そりゃタバサは禁呪使っちゃうよなあ
470名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:32:07 ID:pCJwFDqE
ヒカル先生の方、乙でした。
タバサはヒカル先生にビンタされても文句が言えませんなぁ……。
471虚無と賢女の人:2009/02/03(火) 23:35:35 ID:F+75XGYY
ああ、ちょっと席外してる間に投下ラッシュが。
良作の投下後なので恥ずかしい限りなのですが
予約なければ23:40から1話を投下します。
472虚無と賢女01:2009/02/03(火) 23:40:45 ID:F+75XGYY
使い魔となったエレアノールを連れて部屋に戻ったルイズは、改めて彼女の格好を見直す。
身に着けてるのは青い衣服に鈍く銀色に光る鎧、ただしどちらも何があったのか妙にボロボロになってる。
自分より頭二つ分くらいは高い身長、すらりと伸びる両足、鎧の上からも分かる豊かな両む―――は関係ないことにして、
世間知らずの平民にしては整った理知的な顔立ち。さらに、どことなく気品を感じさせる物腰。

(本当は幻獣が欲しかったけど……、従者としては及第点以上……ね)

心の中で勝手に評価する。評価されてるエレアノールも、ルイズの心の中を知ってか知らずか、
室内の家具を見回している。家具の質と細工に関心を持っているようにも見える。

「ヘタに触って欠けさせたりしないようにしなさいよね。どれも平民が一生働いても弁償できないくらいの価値なんだから」

注意を言いつけつつ、自分の座る椅子を引く。エレアノールにも座るように言い、二人はテーブルを挟んで腰掛けた。

「じゃあ繰り返すけど、ここはトリステイン魔法学院。さっきまで使い魔を召喚する魔法『サモン・サーヴァント』の
儀式をしていたの」
「そして、私が召喚されたのですね?」

そういうことね、とルイズは頷く。

「次は私から質問してもいいでしょうか? まず最初に……カルス・バスティードやアスロイトという言葉に
聞き覚えはないのでしょうか?」
「ああ、さっきも言ってたわね。そんな国、聞いたこともないわ」
「……そうですか……。では魔物のことは?」

魔物と聞いてルイズは眉をひそめる。

「魔物って……オーク鬼とかのこと? 昔っから、そこらにいるじゃない」

今度はエレアノールが眉をひそめる。ルイズの言葉を一つ一つ吟味して考え込む。
ルイズは小さくため息をついた。

(聞いたこともないような田舎から召喚されて、しかもオーク鬼も知らないのね)

先ほどの評価にややマイナス点を加味する。
473名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:41:32 ID:hxxo1xzj
おぉなんという投下コンボ支援
474名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:42:44 ID:zBZITDhf
支援しますー
475虚無と賢女01:2009/02/03(火) 23:43:23 ID:F+75XGYY
「ちょっといいかしら? さっき、遺跡がどうとか言ってたみたいだけど、貴女って学者か何かなの?
もっとも、その格好はせいぜい学者の護衛の冒険者ってところでしょ?」
「似たようなものですね……。友人に遺跡の事を勉強して―――」

エレアノールの表情が一瞬にして曇る。

「あの……私の他に誰か召喚されてませんでしたか? 私と同じような黒髪の青年と、茶色の髪のショートカットの
少女なのですが?」
「召喚されたのは貴女だけよ。それがどうかしたの?」
「そう……ですか」

目に見えて落ち込むエレアノールに、ルイズの良心に痛みが走る。恐らくは自分の行った『サモン・サーヴァント』で、
今言った二人と離れ離れになったのだろう、と。使い魔に迎合するわけには行かないが、主人として何かしなくてはと
考える。
しかし、エレアノールはルイズの想像とやや異なった見解を導き出しつつあった。

(話が全くかみ合わない……。『新しき世界』の結果? それとも大陸の辺境の果てで
交流もないほど離れてるからアスロイト王国も知られてなくて、魔物たちも出現しなかった?
いえ、そもそも全く違う……『物語』の世界?)

混乱してる、と思う。だが、精神世界アスラ・ファエルは人々の思い、恐怖、欲望、信仰が現実化する世界。
ならば誰かが創作した物語の世界もまたアスラ・ファエルの中で現実化して、自身もそれに飲み込まれたのだろうか。
額に手を当てて考えをまとめようとするエレアノール。それを友人と離れ離れになって辛く思ってると
勘違いしたルイズは慌てる。

「わ、私も別に二度と会うななんて言わないわよ! 休暇くらいならたまにあげるし、遠くなら旅費だって出してあげるから、
会いに行ってもいいのだからね!」

突然の言葉にエレアノールはしばし呆気に取られて見つめなおすが、ルイズの心配と善意と罪悪感の入り混じった視線を受けて、
フっと微笑みを返す。

「ええ、ありがとうございます。その時はお世話になりますね」
「その代わり、使い魔としての役目はしっかりと果たしてもらうんだから!」
476名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:43:58 ID:pCJwFDqE
>>455
wikiへの登録ありがとうございます。それでは、

>「では、また明日に」
> そうしてシュウは、眠ったままのミス・ロングビルを抱えてユーゼスの研究室から出て行く。

この後で区切ってくださるよう、お願いします。

そして賢女の方、支援です。
477名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:44:05 ID:/8kp0Tjo
支援
478虚無と賢女01:2009/02/03(火) 23:45:42 ID:F+75XGYY
ホっと胸をなでおろしそうになるのを我慢して―――少なくともルイズは我慢できたと思って、
本題だったメイジと使い魔の関係と役目を説き始める。

曰く、使い魔の見聞きしたものは主人にも見聞きできる。
曰く、使い魔は秘薬など主人の望むものを見つけてくる。
曰く、使い魔は主人を守る存在である。

「でも、貴女の見聞きしたものは私には見えないし聞こえもしないから、人間だとダメみたいね」
「申し訳ありません……。それに秘薬も種類やある場所がハッキリと分からなければ、
見つけるのは難しいかもしれません」

ルイズの評価にマイナス点がさらに追加される。もっとも、見た目の良さと礼節を弁えてるあたりは評価できるし、
そもそも秘薬を本当に見つけてきてもらっても、今のルイズには大して必要でも何でもないのでマイナス点を相殺する。

「それじゃあ、貴女には3番目の護衛の役目を期待するわね。冒険者なんだし、それなりに腕は立つのでしょ?」
「レイピアなら多少は心得がありますが……使っていたのは無くしてしまったみたいです」

マイナス点をやっぱり追加。

「そう。じゃあ次の虚無の曜日に王都で手頃な武器を買ってあげるわ。
その代わり洗濯や部屋の掃除、それに私が命じた雑用をしてもらうわよ」

使い魔には最初の躾が肝心、以前聞いた心得を実践する。そして次の瞬間には少し後悔する。

(考えてみれば反抗的もでないし従順そうだし必要なかったかも。あまり変なことを言ったらダメだったかしら?)
「はい、分かりました……それで、何とお呼びすればよろしいですか?」

あっさりと承諾する。多少、拍子抜けするがルイズは少し考えて答える。

「そうね……ご主人様って呼びなさい、いいわね?」
「心得ました、ご主人様」

立ち上がって礼をするエレアノールに、ルイズは満足そうに頷いた。




479名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:47:16 ID:/8kp0Tjo
>>476
修正完了

&支援
480虚無と賢女01:2009/02/03(火) 23:47:47 ID:F+75XGYY
話し込んでる間に日が暮れて、ルイズはエレアノールを引き連れて食堂へ入った。
豪華な飾りつけが施されてるテーブルが並び、豪勢な食事の数々とその間に明かりのローソクが立てられている。

「ここがトリステイン魔法学院の食堂、『アルヴィーズの食堂』よ。本当だったら貴女みたいな平民は一生入ることは
ないのよ」
「……とても豪華ですね」
「この魔法学院で魔法だけでなく、貴族に相応しい教養も身につけるための場所でもあるの。
だからトリステインの貴族はこの食堂でもそれを学べるようになってるのよ」
「……」

エレアノールの声には感動ではなく、もっと暗い感情が混じっていたが、得意気に説明するルイズは
それに気づかずに食堂を進む。

「―――あの壁際の並んでるのが小人のアルヴィーズ。夜中になると踊るのよ」

空いてる席の前に立ち止まると一度説明を区切り、振り返ってエレアノールをジっと見つめる。

「……? あ、失礼しました」

椅子を引くと、すぐにルイズは優雅さを備えた精練された動作で腰掛ける。
エレアノールは周囲を見回し、手近な席が空いてないことを確認する。

「ご主人様、私の食事はどうすればよろしいのでしょうか?」
「そうね……」

一瞬、床に用意させて食べさせようと考えたものの、さすがに見目麗しい年上の女性にそれは酷すぎる。

「ちょっとそこのメイド」

あっさりと考え直し、近くを通りがかった黒髪のメイドを呼び止める。

「はい、何かございましたか?」
「私の使い魔に何か食事を用意してくれないかしら? あと……、身の回りの世話をさせるのに動きやすい服があれば
都合つけてもらいたいわね」

エレアノールは鎧を脱いでおり今は下に着ていた服だけになっていたが、あちこちが解れたり破れ目が入ってたりして
ボロボロになっていた。メイドはエレアノールに戸惑いと好奇心の入り混じった視線をに向ける。

「わ、分かりました。ではミス、こちらへ……」
「それではご主人様、行ってまいります」

メイドに連れられて食堂を後にするエレアノールを見送ると、食事の前の祈りを唱和するためにルイズは両手を組み目を閉じた。




481虚無と賢女01:2009/02/03(火) 23:49:35 ID:F+75XGYY
「あの……ミス・ヴァリエールが平民を使い魔として召喚したって噂になってましたけど、本当だったのですね」
「ええ、私がその噂の平民の使い魔で間違いないです」
「そうですか……、私はシエスタ。この学院でご奉仕をしています」
「エレアノールと申します、今後何かとお世話になるかもしれませんがよろしくお願いします」

使用人たちが寝泊りする宿舎の衣装部屋で、あれこれ木箱や洋服掛けを探りながら自己紹介を交わす。

「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「そんなにかしこまらなくてもよろしいですよ、私も皆さんと同じ立場みたいなものですから」
「そうですか? では、そうしますね。……えーと、このあたりに古着を片付けた箱が……あ、ありました」

ホコリのかぶった木箱をあけて、中からやや古いメイド服を取り出す。シエスタの着てるものと若干デザインが異なっていた。

「他のみんなと見分けがつきやすいように前の服になりますけど、大丈夫です?」
「無理をお願いしてますし、大丈夫ですよ。……しっかりとした生地を使っているのですね?」

手に取り、メイド服の状態を確かめる。古いが縫い目も服の縁もしっかりしていた。

「貴族に奉仕するもの身なりを整えるべし、と私たちにも相応の給金と身の回りの品を頂いていますし。
それでは外で待っているので、着替えが終わったら声をかけてくださいね」

ペコリと礼をしてシエスタは部屋から出て行く。扉が閉まったことを確認すると、エレアノールは深くため息をついた。

「……『貴族』、『平民』、『ご奉仕』。ここも同じような世界なのでしょうか……?」

自分たちの『世界』と同じように腐敗と退廃が蔓延し、享楽と欲望が渦巻く貴族社会。そのしわ寄せを受けて、
困窮と搾取に苦しむ農民と民衆。かつて自分が変えようとして果たせず、父殺しの大罪を犯すこととなった世界……。
先ほどルイズに案内されたアルヴィーズの食堂の光景がそれと重なる。豪勢な食事の数々は言い換えれば、
それだけの搾取によって成り立っているということを。
もう一度、深くため息をつくと、着ている服の裾に手をかけた。




482名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:50:39 ID:pCJwFDqE
支援
483名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:51:07 ID:/8kp0Tjo
支援
484虚無と賢女01:2009/02/03(火) 23:51:32 ID:F+75XGYY
着替えの終わったエレアノールは、そのままアルヴィーズの食堂の隣にある厨房へと通された。
中ではデザートの配膳も終えて、片付けまでのわずかな間を利用して料理人たちが賄い食を食べ始めていたことであった。

「おうシエスタじゃないか。ん? そっちの娘さんはどちらさんで?」
「マルトーさん、こちらはミス・ヴァリエールの……」

一際恰幅のいい四十過ぎの男性は、ああ、とすぐに察して頷いた。

「噂の平民の使い魔の娘さんか。か〜、メイジってヤツはこんな綺麗な娘さんを使い魔にしやがって。
俺がこの厨房のコック長してるマルトーだ、何か困ったことがあったらいつでも相談しな」
「エレアノールと申します。厨房の皆さんも、これからもお世話になると思いますのでよろしくお願いします」

厨房のあちこちでコックや、ちょうど空いた食器を下げに来ていたメイドたちから好感を持った反応が返ってくる。

エレアノール本人はあまり意識してないものの、その整った美貌と上級貴族の令嬢として躾けられた気品は人目を引き、
丁寧な物腰は概ね好印象を与えやすい。よって、エレアノールがトリステイン魔法学院の使用人たちから
好感を得るのにさほど時間はかからなかった。





厨房の外でずっと待ちぼうけを喰らっていたルイズは、出てきたエレアノールを見るや否や駆け寄ってくる。

「遅かったじゃない! 主人を待たせるなんて使い魔失格よ!」
「あ……、申し訳ございません」
「ふ、ふん……今回は特別に許してあげるわ! でも、次に同じことしたらご飯抜きだからね!!」

あくまで主人であることを前面に出して威厳を演出している―――つもりのルイズに、エレアノールはもう一度
頭を下げて礼を言う。それに満足したのか、ルイズは部屋に戻るわよと歩きだした。その一歩後に続いて
エレアノールも歩きだす。

―――なお、厨房の中から聞こえてくる歓談に、不安と羨望交じりの表情でこっそりドアの影から覗き込んでいた
ルイズの姿はたまたま外に出ていたメイドたちと、厨房の中の一部のコックたち、そしてシエスタに気づかれており、
普段と違う寂しそうで儚げなルイズの姿に、彼らの間での評価に好印象で修正が入ったのであった―――




485虚無と賢女01:2009/02/03(火) 23:53:38 ID:F+75XGYY
ベッドですやすやと眠るルイズの姿にエレアノールは、クスっと微笑みながらテーブルに並べた持ち物を並べなおす。
召喚されるときに武器を無くしてしまったが、鎧の内側に収まっていた道具袋とトラップカプセルは無事であった。
カーテンの隙間から差し込む月明かり―――二つの月の存在こそ、ここが遺跡の外の世界以外の『世界』の証拠と思う―――
に照らされてキラキラと輝く。

道具袋の中身は、モンスターの核である緑色の水晶や古代太陽帝国の通過である金貨がそれぞれ数個ずつ、
そして身に着けた者の精神力を向上させる太陽の首飾り―――価値のあるものは以上。
あとは衝撃で砕けたポーションの瓶などで、大したものはほとんど残っていなかった。

(それでも換金すればそれなりの金額になるでしょうね)

一通り確認を終え結論付けると、続いて手のひらに収まる程度の青い球―――トラップカプセルを手に取る。
遺跡に潜る者にとって、剣や魔法と並ぶ三番目の『武器』。内部に人の背丈ほどの大きさのトラップも内臓できる、
現在技術と太陽帝国の魔法技術の結晶。

「え? ルーンが……?」

トラップカプセルを持つと同時に左手の甲のルーンが淡い光を放ち出した。同時に使い慣れたトラップカプセルの使用方法が、
脳裏に浮かび上がる。設置場所の選択と設置数によるタイムラグ、起動のためのアクション、それらを最も効率よく行う手順が
頭に流れ込んでくる。

「……トラップカプセルは遺跡―――精神世界から離れると効果が落ちるのでしたね」

大切な友人―――ノエルの説明を思い出し、手近な床にトラップを頭に流れ込んできた方法で込めて設置してみる。
それと同時に左手から何かが抜ける感覚を覚え、左手に目を向けるとルーンが一瞬明度を増したように見えた。
小さな閃光と共にトラップ―――起動させると周囲を氷付けにする『アイス』が、部屋の出入り口手前の床に設置された。
一度に設置できる最大数の八個をほぼ同時に。

「……!!」

続いてトラップを一つずつ起動させる。キィンというかん高い音と共に次々と氷塊と化して、周囲にあった家具を巻き込み
凍結させる。

「効果は変化なし、ですが……設置の方は一体?」

自分の足元へならともかく、離れた場所に同時に複数トラップを設置するのは不可能に近い。せいぜい一個ずつ設置するのが
関の山である。同時に複数設置できるタイプのトラップもあるにはあるが、それも任意の場所に自在に設置することは出来ない。
486名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:54:08 ID:MUMD2dDZ
支援
487名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/03(火) 23:54:45 ID:/8kp0Tjo
支援
488虚無と賢女01:2009/02/03(火) 23:55:52 ID:F+75XGYY
「このルーンが輝いたことと関係あるのでしょうか?」

ルーンの謎とトラップの同時複数展開の可能性―――瞬時に離れたところに設置できることの戦闘アドバンテージ。
それらをしばらく考え込むが、彼女の推理はすぐに中断させられることとなった。

「……くちんッ!」

小さな可愛らしいクシャミが静かな室内に響き、そのクシャミの主のルイズは肌寒そうに布団に包まっていた。
エレアノールも室内の肌寒さに気づき、同時にその原因も瞬時に察した。
数分と経たずに雲散する文字通り足止め程度の氷塊だが、その際に周囲の熱を奪い去っていた。しかも八個のトラップを
同時に使用したため、室内の温度は凍えそうな寒さに冷え込んでいる。

「これは、軽率でしたね……」

その呟きは思量深い彼女のものとは思えないほどに、途方にくれた声色であった……。





カーテンの端から差し込む陽の光を感じエレアノールは目覚めた。最初に天上を、そして首を横に向けて
まだ夢の中で安住してるルイズの姿を確認する。結局、昨夜は寒さをしのぐためと震えるルイズを暖めるため、
添い寝する形でベッドに潜り込むことにした。

(……こんなにグッスリと眠れたのは久しぶりですね)

カルス・バスティードの居た頃―――『父殺し』の大罪により多額の賞金をかけられていたエレアノールは、
常に周囲を警戒する癖がついていたため誰かが近づいただけで目覚めてしまうこともあったし、
ベッドで横になって眠ることもほとんど無かった。
もっとも、魔物の徘徊する遺跡の中で仮眠するときには、魔物の接近を察知できるこの癖を
重宝することになったのだが……。

安眠できたもこのベッド―――国を出奔する前に自身が使ってたのと遜色ない高級品だ―――のおかげと考え、
スヤスヤと寝息を立てるルイズを起こさないように静かにベッドから抜け出る。
部屋の温度もすっかり元通りになっていることを確認し、椅子にかけていたメイド服を手に取る。
ついで、昨夜渡された洗濯物を思い出す。

(今のうちに洗っておきましょうか)
489虚無と賢女01:2009/02/03(火) 23:57:56 ID:F+75XGYY
洗濯籠を手に取ると音を立てないように廊下へと出る。寮の外では既に使用人たちが働き始めているのか、
何人かの物音を立てぬように動く気配もある。どこで洗濯すればいいのか誰かに聞けばいいわね、と考えを決めて
エレアノールも足音を立てぬように廊下を歩き出した。





洗濯は水汲み場、と薪を運んでいた使用人に教えられ、場所はすぐに分かったもののたどり着いてからしばし呆然とする。

「洗濯は……どうすればいいのでしょう」

上級貴族の令嬢として、蝶よ花よと育てられたエレアノールには洗濯の経験は全く無い。逃亡中も着の身着のまま、
カルス・バスティードにたどり着いてみれば、同時に入城した一人の少女が掃除や洗濯を気軽に請け負ってくれるので、
やはり自分で洗濯する機会は無かった。

「あれ? エレアノールさん、おはようございます」

途方にくれて困り果てていたエレアノールに救いの天使―――ならぬ、救いのメイド。

「おはようございます」

後ろから声をかけられて振り返ると、そこには十個近い洗濯籠を重ねて抱えているシエスタの姿があった。
器用にバランスを取りながら洗濯籠を地面に置いたシエスタは、エレアノールの手にある洗濯籠に気付く。

「エレアノールさんも洗濯ですか?」
「ええ、でも勝手が分からなくて少々……」

少々どころではなく完全無欠に分からないのだが、気恥ずかしいので言葉を濁す。

「じゃあ一緒に洗いましょうか? 貴族の着ている服って、慣れた人じゃないとうっかり破ったりしますよ」

洗濯籠の中身―――ルイズのキャミソールとパンティを覗き見て、多少苦笑混じりに微笑む。毎年、それで給金を減らされる
新人が居ますから、と。

「それではお言葉に甘えることにします」
「じゃあ、夕方に受け取りに来てくださいね。それと―――」

シエスタは受け取りながら、朝食の時間を伝える。
490名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 00:05:28 ID:+ZpzDGnF
支援
491名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 00:14:28 ID:RtP0kA+M
さるさん?
492名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 00:22:49 ID:8Pqh8jgh
624 名前:虚無と賢女01[] 投稿日:2009/02/04(水) 00:05:00 ID:UvnFCdeE
どなたか代理投稿お願いします。

さるさんみたいなので、代理行きます。
493虚無と賢女01代理:2009/02/04(水) 00:23:49 ID:8Pqh8jgh
「ミス・ヴァリエールは……その、寝過ごされることもあるみたいですから」

あはは、と乾いた笑いに、エレアノールはルイズが朝に弱いと察する。かなりの頻度で朝食に遅れているのだと。
ペコリっと頭を下げて寮へ戻る。恐らく、まだ夢の世界の住人であるルイズを起こすために。





「―――ください、ご主人様」
「んん……」

ゆさゆさと身体を揺らされて、うっすらと目を開ける。ぼやけた視界に人影が飛び込む。

「ふぁ……ぁ〜、ん〜……」

背伸びをしながら上半身を起こし、目を擦ってぼやけた視界を直す。ベッドの脇には黒髪のメイドが立っていた。
見覚えの無い顔だったが、寝起きでボーとする頭が辛うじて誰であったかを思い出す。

「ああ、……昨日召喚したのよね。おはよう、エレアノール」
「おはようございます」

ベッドから降りると、クローゼットと衣装棚から服と下着を持ってくるように指示を出してネグリジェを脱ぎ始める。

「着せて」
「え? あ、はい」

エレアノールは少し慌てつつも、知識はあるけど経験がないような手付きで着替えを手伝う。
着替えが終わった後、ルイズは服の裾をつついたり点検をして満足そうに頷く。

「ちょっと要領悪かったけど、まぁまぁね」

冒険者にしては―――ルイズはそう思い込んでる―――、上手よねと考える。もし、召喚できたのが犬や猫だったら
着替えを手伝わせたりするのもできないだろう。

「そろそろ朝食の時間ね、食堂に行くわよ」

杖を手に取ると部屋を出て一歩踏み出し、途端に不機嫌そうに立ち止まる。エレアノールが廊下を覗くと、
そこには褐色の肌のスタイルの良い赤い髪の少女が立っていた。向こうもルイズに気付いたのか、
にやっとした笑顔を浮かべる。
494虚無と賢女01代理:2009/02/04(水) 00:24:38 ID:8Pqh8jgh
「おはよう、ルイズ。珍しく今日は寝坊してないのね?」
「おはよう、キュルケ……って珍しくって何よ、珍しくって!?」
「何って……言葉どおりじゃない」

色気と挑発を混ぜた声の調子に、ルイズはあっという間に顔を怒りに染める。何か言い返そうと口を開くが―――、

「ところで、その後ろの方が噂の貴女の使い魔なのかしら?」
「―――ええ、そうよ」

タイミングを外されて言い返し損ねる。

「へぇ〜……」

ジロジロと不躾な視線を向けられ、エレアノールは居心地の悪さを覚える。カルス・バスティードに
同じように気まぐれな色気を振りまく女性が居たが、まるで彼女みたいと感じる。

(キュルケさんでしたね。ルイズとは仲が悪そう……いえ、一方的にルイズが苦手としてるのでしょうね)

「なかなかの美人じゃない。良かったわねルイズ、貴女の魅力が引き立つ使い魔で」
「え? な、何よ?」

突然の褒め言葉に目に見えて混乱するルイズ。

「そうよね、貴女の身長とか貴女の胸とか貴女の感情的なところとか、並んで立ってるだけで効果倍増よ♪」
「ななななな、なんですってぇ〜〜〜!!」

噛み付かんばかりの絶叫。しかし、キュルケは笑いながら軽く受け流す。

「ところで、そろそろお名前をお聞きしたいのだけど?」
「……エレアノールと申します」
「エレ『ア』ノール? ……いい名前ね」

ルイズと同じようにアクセントを『ア』に合わせて聞きなおしてくる。隣では教えなくてもいいじゃない、と呟くルイズ。

「あたしはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケって呼んでもいいわよ。
それにしても、本当に人間なのね……。でもね、使い魔ならこういうのがいいわよね? フレイム!」

キュルケの呼びかけに、熱気とともに巨大な真紅のトカゲ―――サラマンダーが廊下に出てくる。エレアノールは
一瞬身構えるが、自然体のままのルイズを見て構えを解く。
495虚無と賢女01代理:2009/02/04(水) 00:26:16 ID:8Pqh8jgh
「……そのサラマンダーがあんたの使い魔?」
「ええそうよ。特にほら、この尻尾! ここまで鮮やかで大きな炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダー。
幻獣好きの好事家に見せたら値段なんかつかないほどのブランドものよ! まさに微熱のキュルケにぴったりよね」

ルイズの声に悔しさを感じたのか、ここぞとばかりに勝ち誇る。

「それに誰かさんと違って、フレイムは一発で召喚に応じてくれたのよ! 誰かさんとは違って、ね……、ねぇゼロのルイズ」
「……!!」

再び顔を怒りで真っ赤にする。言い返そうとするが、上手く言葉にならないのか口をパクパクとさせる。

「じゃあ、お先に失礼。また教室でね」

颯爽と立ち去るキュルケ。その後をサラマンダーがちょこちょこと付いていく。
その姿を見送り、ふとルイズに視線を向けると未だに怒りで震えていた、まるで噴火直前の火山。

「ご、ご主人様……?」
「く……」
「く?」
「くやし〜〜〜! 何なのあの女! 自分がサラマンダーを召喚できたからって! ああもうッ!!」

地団駄を踏んで怒声を張り上げる。今のルイズは燃え上がる炎のようなものだが、エレアノールは意を決して
宥めようと火中に踏み入る。

「確かにすごい使い魔だとは思いますが、あまり気にされても……」
「気にするわよ!! メイジの実力を知りたければ使い魔を見よって言われてるくらいなのよ!! サラマンダーと
平民じゃいくらなんでも格が違いすぎるわよ!!」

一気に言い切り、ようやく怒気が落ち着く。それと同時に……言い過ぎた、失敗したと思う。

(でも……、そんなのエレアノールの責任じゃないわよね、どうしよう……)
496虚無と賢女01代理:2009/02/04(水) 00:27:04 ID:8Pqh8jgh
ルイズがおずおずと顔を見上げてみると、特に気にしてないような表情を向けていた。ホっと胸をなでおろす。

「落ち着かれましたか?」
「……うん」
「では、ご主人様も早く食堂へ参りましょう」

促されて歩き出すルイズ。その後ろについて歩きながら、エレアノールは先ほどのサラマンダーを思い返した。

(遺跡の中では見たことがありませんでしたね……、もっとも知らないだけなのかもしれませんが)

遺跡の中に広がる広大な灼熱の溶岩地帯、煉獄に存在する炎の魔物の話をいくつか思い返すが
先ほどのサラマンダーに該当する魔物は聞いたことがない。
もっとも皆が煉獄を探索してた頃、彼女は生死の境を彷徨っていたため、実際に訪れたこともなく知識も伝聞程度である。
本当は普通に生息しているのかもしれない。
ひょっとすると、他の使い魔というのも未知の魔物―――幻獣がこの『世界』にはたくさん居るのかもしれない。

(そういえば……『微熱』とか『ゼロ』とはどういう意味なのでしょう?)

目の前を歩くルイズに聞いてみようと思うが、先ほどの会話を聞く限り『ゼロ』はいい意味ではないらしいと考え直す。

(いずれ、知ることもあるでしょうね)

すぐに知る必要もないし、知らなくても当面は問題はないと結論付ける。





皮肉なことに、エレアノールが『ゼロ』の意味を知る機会がすぐそこにまで迫ってたのであった。


投下完了です、支援ありがとうございました。
前回のプロローグの後、同士の方が多くおられるの見て、
ほんのり嬉しく思いました。

ガンダが及ぼすトラップカプセル補正は最後まで悩みましたが、
知り合い曰く「ミョズだったら威力向上だろうな」という意見で
使い勝手の向上という形で設定しました。



追記、聖炎天使の方が今だと知名度高そうですよね……エレアノールの名前だとorz
497代理:2009/02/04(水) 00:34:15 ID:8Pqh8jgh
代理終了。投下乙でした。

細剣+逆剣の組み合わせはゲーム中ではほぼ最強。まあ、俺は槍使ってたけどね。
498名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 00:36:24 ID:8Pqh8jgh
投下する時は1/5みたいに投下するレス数を名前の所に書いておけば、何かと便利ですよ。
あと、1レスは60行までOKなので、もう少し詰め込んでも大丈夫です。
専ブラ使えば、そこら辺楽ですよ。
499ゼロの花嫁15話:2009/02/04(水) 00:51:10 ID:tc+hgaM1
0:55よりゼロの花嫁15話投下します
500ゼロの花嫁15話1/10:2009/02/04(水) 00:56:09 ID:tc+hgaM1
ゼロの花嫁15話「老兵参戦」



彼方へと飛び去って行くシルフィードを見送り、キュルケはつまらなそうにしながら学園へ戻ろうとする。
その視界に黒い点が映った。
空中に浮かぶそれはぐんぐんと大きくなって来て、その姿がわかるぐらいになると、キュルケは後ろを向いて逃げ出したい衝動に駆られる。
「このバカ者があああああああああ!!」
オールドオスマンの怒声が聞こえてくる。
どうやら貧乏くじを引くハメになったようだ。
滑り込むように着地すると、木の陰からネズミが一匹飛び出して来て、オールドオスマンの肩にすすいっとよじ昇る。
冷汗の止まらないキュルケ。
オールドオスマンの使い魔、モートソグニルがこんな側に居たという事は、つまり今までの話全部聞かれていたという事であって、誤魔化せと言われていたミッションは初っ端から大ピンチなわけで。
「ご、御機嫌よう、オールドオスマン」
目一杯可愛げを出してそんな事を言ってみたが、効果は無かった。
「御機嫌ようではないわっ! 仮にも王家の人間を拉致しようという連中が! 策も何も立てずに突っ込むとかどうかしとるぞ貴様等!」
やはり完膚なきまでにバレていた。
「それは、つまり、あれです。若さ故の過ちという事で一つ」
「自分で言うなあああああああああああ!!」
最近はほとんど見せていなかった地が全開で飛び出してしまっている辺り、オールドオスマンの焦りようが伝わろうというものだ。

前回の件で、トリステイン魔法学院狂気のバカルテット(ロングビル命名)の面倒を見るのにコルベールでは役不足と痛感したオールドオスマンは、
バカ騒ぎの主軸を担うと思われるルイズの側に密かに使い魔のネズミを走らせ様子を探らせていたのだ。
なので、ルイズが様子のおかしいタバサの後をつけ、シルフィードが飛び去った先から潜伏先の街がトリスタニアであると睨み、
聞き込みをしつつ例の鍛冶屋を見つける所から、部屋に戻って燦と共に推理し、
タバサの目的を知って先回りした所まで、更には今までのやりとり全てを聞き知っていた。
一度部屋に戻って策を練り、しかる後突入であろう。
そう考え、その時にバカ共の前に顔を出してやるつもりだったオールドオスマンの思惑は、出た所勝負で生きてきた四人組の行動力に敢え無く粉砕されてしまった。
オールドオスマンは周囲をきょろきょろと見回した後、木陰に移動し、ちょいちょいとキュルケに手招きする。
『こ、これは所謂由緒正しき女の武器で黙らせてサインでは!? 枯れきった出涸らしのような体で無茶をしてくれるわオールドオスマン! 心臓止まったらこれ誰が責任取るのよ!?』
しかしキュルケは考え直す。そう、相手はトリステイン魔法学院にその人アリと謳われたオールドオスマンだ。
『ま……まさか相手はリトルジョーではなくビッグバイパーだというの!? 長年培った技術に若々しきウェポン装着の無敵状態!? あ、ありうるわ……なればこその学園長!? オールドと呼ばれているのは伊達じゃない!?』
だがキュルケも又只者ではない。
流した浮名は数知れず。魔法学院夜の帝王の座はそうそう譲り渡せない。いや、今はもうからっきしだが。
そんなキュルケの匠の思考が導き出した答え。
『遊んでいる風に見えるけど実はウブというフェイク要素! 少し強がりつつ、ここぞでドン引く事で敵の更なる踏み込みを招き、最後の最後で全てを引っくり返す! この作戦よ!』
策は纏まった。後はこの枯れ木ジジイ相手にその気になれるかどうか、最早自己暗示の世界である。
ルイズにもタバサにも燦にも、この分野だけは任せられない。チームの中で頼れるのは己が身一つのみ。
おずおずと、木陰に向かうキュルケ。
オールドオスマンは、そこでようやく口を開いた。
「流石に学院から見える場所では……な。ともかくだ、今更早馬を飛ばした所で間に合うまい。となれば事後処理を完璧に備えるしかあるまいて」
「は、はい」
オールドオスマンは苦々しく眉間に皺を寄せる。
「全てはバレておるのだ、こうなったからにはお主にも手間をかけてもらうぞ。ツェルプストー家ならば爵位の一つぐらい手に入れられるであろう? 大至急手配するのじゃ」
少し話がズレてきた。
「あ、あれ? いや、それ結構難しいですけど……あ、いや出来ない事は無いと思いますが、それでどうするんです?」
「連中が作戦を成功してガリアの王族かっ攫って来たら、それがトリステインに居るとバレたら、国際問題所か戦争になりかねんぞい」
奴等がその正体を見つかる事無く、ガリアから拉致って来れたのなら手はある。
501ゼロの花嫁15話1/10:2009/02/04(水) 00:57:04 ID:tc+hgaM1
しかし、もしバレた上で攫ってきていた場合、連中、特にルイズの身分をトリステイン籍にしておく事は出来ない。
拉致に動く前からルイズはトリステイン貴族ではなかった、そう言い張るしかない。
幸い恩赦により許されたとはいえ、王の裁可で一度は貴族位剥奪の判決を受けているので、これをゴリ押す事になろう。
もちろんそのような犯罪者をトリステインは許さず、ガリアに協力してルイズを追捕する事になる。
そうなった場合、ルイズ達はトリステインから逃げるしか無くなるが、母君の身柄を置いてある国はイコールガリアにケンカを売っているとなるわけで。
そんな真似してくれそうなのはアルビオンの反乱軍ぐらいであるが、王族死ねとか言ってる連中に王族の保護など頼めるはずもなく。
まさかそんな所に頼む訳にもいかず、何処かに隠れ住むしかない。
ならば仮の身分は非常に有効なカードとなろう。
そんな説明をつらつらとしたオールドオスマンは、キュルケが聞いているんだかいないんだかボケた顔をしているので、問いただす。
「あ、いえ、いえいえいえいえいえ。聞いてますけど……いやてっきり私、屋外でご無体あーれーを強要されるとばかり……」
「……自分の生徒に手を出す程落ちぶれてはおらんわ。どっからそういう発想が出て来たんじゃ……」
流石に赤面しながらキュルケは手をぶんぶん振る。
「いえいえ、そうですわね。貴族の範たるオールドオスマンですし。何で私、木によりかかって後ろからーとか、ちょっと腰落とすぐらいでちょうどかなーとか考えてたんだろ……」
オールドオスマンの目が物凄い細くなる。
「……妙に詳しいのう。お主まさか……」
「いえいえいえいえいえ! き、聞きかじった話ですわ! 最近の本は進んでおりますのよ! おほほほほほほ!」
ツッコんでも不毛と思ったか、矛を収めるオールドオスマン。
「ふん、まあ良い。大体外でなぞと、周囲の音が気になりすぎて、まともに出来るものか」
「あら、そこは女の側が引き寄せる努力を怠らなければいいだけの話ですわ」
再度、もんのすごい細目になるオールドオスマン。
「……きゅーるーけー・あうぐすたー・ふれでりかー・ふぉんー・あんはるつー・つぇるぷすとー」
「本! 本を読んだのですわ! ぶっくぶっく! 知識豊富ネ!」
流石に学長に夜遊びがバレるのは大層よろしくないのか、キュルケも必死である。
派手に嘆息してみせるオールドオスマン。
「頼むから子供こさえたとか言いださんでくれよ。これ以上もうほんの一欠けらも不祥事は勘弁なんじゃから……」
「……最近はみんな恐がって近寄って来ませんから、ご心配には及びませんわ……」
物悲し気に語るも、オールドオスマンの同情は買えなかった模様。
「当たり前じゃ。ともかく、爵位の件はお主が何とかするのじゃ。
 後は……連中が戻って来て状況を確認してからじゃな。他の手配はワシがやっておく。
 くれぐれも言っておくが、この件口外なぞするでないぞ。気配を悟られる事すら許さぬ。出来るな?」
アホな話に乗ったり、文句を言ったりしつつ、オールドオスマンは連中が戻って来れない可能性に関しては口にしなかった。
その可能性に怯えた所で最早何も出来ない。
ならば今は前を向いて成すべき事を成すしか無いだろう。
『ワシも生徒には甘いのう……』
生徒達を守るのは教師の役目だ。
もちろん貴族の子弟を預かる際の責任範囲に関しては明確に文章化してあり、見捨てても契約だけ見るのなら何とでも言い逃れできよう。
しかし教師とは、理屈だけでは決して無い信頼関係あってこそ成り立つ仕事だと、オールドオスマンは良く知っていたのだ。
『そうは言っても出来る限りしかする気は無いがの。それでダメならワシも知らんっ』
ドライな部分もきっちり持ち合わせているようだが。



医師の治療が終わり、天井に穴の空いた寝室ではなく、客間のベッドに横たわるオルレアン大公夫人は、はらはらと涙を溢す。
驚いた医師が何処か痛い所でも、と問うも、夫人は答えようともせず、弱り果てた医師が常から寄り添っている執事を頼ると、執事ベルスランが夫人の耳元で涙の理由を訊ねる。
医師と同じく困った顔でベルスランは言う。
「……大変申し訳ありません。奥様はどうも、お医者さまが恐ろしいそうで……」
わざわざ治療に来てやった相手にそれは無いだろう。とは医師は思わなかった。
貴族様のやる事に一々文句をつけてたらキリが無いのだ。
見た限りにおいてはこれ以上治療の必要は無いと判断した医師は、一礼して屋敷を辞する。
502ゼロの花嫁15話3/10:2009/02/04(水) 00:58:05 ID:tc+hgaM1
夫人は心配そうにしているベルスランも遠ざけ、ただ一人寝室に残った。

大貴族の令嬢に相応しい儚げな所もある夫人に、現実は余りに非情すぎる。
それでも娘を守れたのは、一重に母の力だ。
それが今、再び試されようとしている。
オルレアン大公夫人としては、無理であったろう。
頼もしい夫に庇護されたままの彼女であったのなら。
だが、夫人は同時に母でもあったのだ。
それでも尚、決断には時間を要する。
医師とベルスランを追い出し、ゆっくりと考える時間だけは取れた。
何度も何度も考え直し、しかし、か弱い自身にはそれ以外の方法を選び取る事も出来ず、我が身の儚さに一人涙を溢す。

正常に戻ったとはいえ、全ての記憶をその内に収めるには、夫人の心は余りにも弱すぎた。

愛する娘を苦しめ、地獄の業火に突き落としながら、唯一それのみが自らが生き延びる手段であった。
娘は文句の一つも言わず、黙々とその役割を果たし、無情な暴君と成り果てた母を守り抜いた。
他の誰でもない、最愛の娘を最も傷つけていたのは母である自身なのだ。
こんな事に耐えられるものか。
心優しいシャルロット、あどけない様で良く笑うシャルロット、この世の幸福全てをその手にするはずだったシャルロット。
どうか、この愚かな母を、許して下さい。
貴女は自由です。
全ての楔から解き放たれ、大空を舞う鳥のように、あの頃の笑顔で飛びまわる貴女を夢に見られるというのなら、母は思い残す事はありません。
夫人はベッドから起き出し、窓を開き、外を眺める。
抜けるような青い空が、少し悲しかった。

不意にドアの外からベルスランの驚いた声が聞こえてきました。
彼があんな大声を出す所など、ついぞ記憶にありません。
気にかかって後ろを振り返ると、そこに、夢がありました。

シャルロット……

そう呟くと、あの子は叱られた子供のようにびくっと体を震わせます。
神よ、始祖ブリミルよ、貴方はどうしてこんなにも残酷なのでしょう。

私にそんな資格は無いのに。

赦されるはずもないのに。

夢の続きを望んでしまいます。

もう少しだけ、あの子を見ていたい。

もう少しだけ、あの子に触れていたい。

もう少しだけ、あの子を……抱き締めてあげたい。


シャルロット……


二度目の呟きが、私の限界でした。



何年ぶりかの親子の抱擁。
執事を名乗った彼は、感極まって床に崩れ落ちている。
503ゼロの花嫁15話4/10:2009/02/04(水) 00:58:37 ID:tc+hgaM1
私はお邪魔よね。
もらい泣きしてるサンを引っ張って部屋の外に出ると、サンは涙を拭いながら私を見た。
流石サンね。もう切り替えてるわ。
「そこの貴方。場を弁える程度の配慮は出来るみたいだけど、その殺気は何かしら?」
廊下の奥に向かって声をかけるも返事は無い。
「部屋の中は取り込み中よ。話は私が聞いてあげるから、表に出なさい」
言うだけ言ってサンを伴い屋敷の外に出る。
うん、付いてきてる。
しかし……何よコイツ。こんな気味の悪い雰囲気初めてよ。
一体何者?



屋敷の正門をくぐり外に出ると、見渡す限りの野原が広がっている。
空から屋敷に入ってきた時確認してある。
周囲は全てオルレアン大公夫人の屋敷の敷地内である。
わざわざ侵入してくるような無礼な平民も居ないだろう。
「……いい加減姿を現したらどう?」
ルイズの声に応えたのか、目深にフードを被った男がルイズ達の前に姿を現す。
正面に見据えると強烈だ。
今までのがまるで別人であったかのように、強大な存在感を放っている。
それも全てを圧する覇気ではなく、夜道をひっそりと、しかし確実に迫ってくる闇のような圧迫感。
男はゆっくりとフードを上げる。
その両耳が尖っている事が、彼がエルフであると何より饒舌に物語っていた。
さしもの豪胆なルイズも息を呑む。
それ程にハルケギニアに住む人間にとって、エルフとは触れざる存在であったのだ。
エルフは、それすら驚きの対象であるが、ルイズにもわかる言葉で静かに告げる。
「蛮人、何処の手の者か言え。そうすればタダで殺してやる」
言葉は偉大だ。
その一言で、いや、たった一つの単語でルイズの金縛りが解ける。
「ばん……じん? 今、貴方、私を指して蛮人と言ったのかしら? この私を見て、そう言ったというの?」
「他に貴様等を形容する言葉を知らぬ」
恐怖はある。
しかし、それ以上の怒りと、必要であると悟ったが故に、ルイズは燦に告げる。
「手加減抜きよ。しょっぱなから全力で行くわ」
エルフの恐怖を知らぬ燦とて、彼の異質さには気付いている。
故に不用意に踏み込む事もしなかったが、怖気ずくなどと無縁であった燦は即座に了承する。
「人魚古代歌詞(エンシェントリリック)! 英雄の詩!!」
先と同じ、全身に漲るを通り抜け迸ってしまう程の力が沸いてくる。
エルフはそこで初めて警戒の色を見せる。
「魔法? いや、違う……それは一体……」
そこまでで言葉を止めたのは、エルフ自身の意思ではない。
真正面に捉えていたはずのルイズが、彼の反射神経を遙かに凌駕した速度で、すぐ目の前に迫っていたせいだ。
大きく真後ろにまで振りかぶった右拳。
背中がエルフに見える程捻りきった体。
敢えて言うのであれば、この一瞬のみがエルフにとって唯一の攻撃チャンスであっただろう。
それもまた、この速度と唐突さに反応出来れば、の話であるが。
「ああああああああああっ!!」
ルイズは雄叫びと共に拳を叩きつける。
大地を踏みしめる足、がっしりと地面を捕えた足裏の力により、凄まじい回転の捻りにも足元は微動だにしない。
504ゼロの花嫁15話5/10:2009/02/04(水) 00:59:09 ID:tc+hgaM1
足から伝わる腰の回転、この勢いだけでエルフの耳には轟音が聞こえてくる。
しかしそれ以上の音は拳とそれを繋ぐ腕から発せられる。
目に見えぬ大気をも切り裂く速度と、触れる物全てを消滅させる破壊力。
この二つをあわせ持った拳に、エルフは僅かにだが恐怖を覚えた。

極限まで凝縮した肉に、鋼鉄の塊を巨人の腕力で打ち付ける音。

鈍くくぐもった重苦しい衝撃音を形容するならばそんな所であろうか。
ルイズの拳は、鉄程に強化されたゴーレムすら破砕しうるその豪腕は、エルフの眼前数サントの位置で不自然に止められていた。
ルイズの腕に信じられぬ圧力がかかる。
今も全力を込めているというのに、腕ごと引き千切らん勢いでエルフから『力』が放たれている。
これこそがエルフ、ビダーシャルを無敵の超人とする秘技、反射である。
それがいかなる力であろうと、ビダーシャルに辿り着く前に中和され、同じだけの力を逆方向に放つ事が出来るのだ。
自らが放った、ハルケギニアに自然に存在する事象を遙かに超越した衝撃を、まともにその腕に受けるルイズ。

それすらも、ルイズと燦の絆は凌駕する。

「こんのおおおおおおおお!! 私を! 見くびるんじゃ無いわよおおおおおおおお!!」
一度完全に静止してしまった腕が、少しづつ、少しづつエルフへと進み出す。
驚愕に歪むエルフに、拳は迫りよって行き、

『アンタ何かに負けるもんですか! 私達が一番強いのよっ!』

遂に中和しうる限界値を越え、ルイズの拳が振りぬかれた。



濁流を流れる木切れのように跳ね飛び、転がり回るエルフ。
ようやく運動エネルギーが消失してくれた頃には、最初の位置から数十メイルも離れた場所までふっ飛んでいた。
跳ね飛ばされ、地面に何度も叩き付けられた衝撃は『反射』の能力で無効化出来たが、最初の一撃、ルイズの拳のみそれが適わなかった。
生まれてこの方味わった事の無い激しい振動と衝撃に、脳は思考を拒否し、視界は呆として落ち着かない。
だから、天の光を遮る影にも気付けない。
転がりまわるエルフを追い、止まるのとほぼ同時に追いついたルイズは、とても家族には見せられぬ顔で言った。
「悪いけど、私達がここに居た事を知られると後々厄介なのよ。だから……」
右腕に有らん限りの力を込める。
「貴方はここで死になさい!」
振り下ろした鉄拳。
それでもエルフの反射は生きていたようだが、先程の反射能力は望めず。
更に、真上から振り下ろす拳に衝撃を中空に逃がす事も出来ず。
その圧力は、大地に直径数メイルの巨大なへこみ、クレーターを作り出す程であった。
反射を破られた事によるものか、エルフは全身に圧力を受け、手足がひしゃげ、胴体は醜く押し潰れている。
その苦痛に歪む顔を見たルイズは、そうしてしまった自らの拳を堅く握り締める。
「何よ……エルフって言ったって私達と大して変わらないじゃない」
勝鬨ではなく悲しさから、ルイズはそう呟いた。
意識して殺した始めての相手。
その顔をルイズは当分の間忘れられそうに無い。
505ゼロの花嫁15話6/10:2009/02/04(水) 00:59:45 ID:tc+hgaM1
そう思ったが、是非も無し、と踵を返し燦の元へと戻って行った。



オルレアン大公夫人は、タバサが連れて逃げるつもりである事を聞くと表情を曇らせる。
自らとシャルロットの価値を知っている夫人は、それによる様々な影響を恐れたのだ。
しかしタバサは決して譲らなかった。
ガリアに居ては、何時また同じ事をされるかわからない。
何時の間にか母より余程強情になっていた娘の言葉に、夫人は抗しきれなかった。
執事ベルスランも、当然のごとくこの逃避行に参加を表明する。
地獄の果てまでもお供しますと言った彼の静かな迫力には、貴族にすら滅多に見られぬ全てを受け入れる覚悟があった。
結局ルイズ、タバサ、燦にオルレアン大公夫人とベルスランを加えた五人は、全員がシルフィードに乗ってトリステインへと向かう事となった。
ルイズはエルフの一件を「王の見張りは人知れず黙らせておいたわ」の一言だけで済ませていた。
落ち着くまでは無駄な心配をかけぬようにとの配慮であった。

シルフィードが過剰重量に音を上げる寸前、どうにかこうにかトリステイン魔法学院へと戻った一行。
彼女達を迎えたキュルケは、学院から少し離れた場所にある屋敷へと案内する。
キュルケが屋敷の持ち主の名を告げ、入り口の扉を開くと、ルイズ、タバサ、燦の表情が固まる。
「ごめんっ! バレてた!」
両手を合わせて謝るキュルケ。
屋敷の主は、にこやかな表情で大公夫人を出迎えた。
「遠路遥々ようこそおこし下さいました。ワシの名はオスマン。トリステイン魔法学院学長オールドオスマンで通っておりますじゃ」



コルベールは学長室に入ると、何時もの様に暢気な様子で椅子に腰掛けているオールドオスマンに必要事項を報告する。
生徒達の成績やら素行の定期調査に関する書類をテーブルに置くと、コルベールはちらと部屋を見渡す。
「ミス・ロングビルはどうされました? 最近姿を見ないようですが……」
オールドオスマンは鼻の中に指をつっこんで、中の毛を引っ張りながら答える。
「ああ、ミス・ロングビルなら辞めたぞ」
「は?」
寝耳に水である。驚きに問い返す事すらできずに居ると、オールドオスマンは冗談を言って和ませに来た。
「今はワシの愛人をやっとる。人間楽に生きられるならそれが一番じゃて」
「…………」
趣味の悪い冗談に、コルベールは眉をひそめる。
「で、ミス・ロングビルはどうなさったんで?」
「だからワシの愛人しとると言うてるじゃろうが。屋敷も与えてやったし、使用人も揃えた。ふふふん、いやぁやはり女子は良いのぉ」
じーっとオールドオスマンを見つめるコルベール。
「……冗談では無いのですか?」
「何でそんなつまらん冗談を言わねばならん。お主もそんな頭しといて、男の価値は見た目だなどと抜かすつもりはなかろうな」
頭皮の事は言うなボケが、というのはさておき、俄かには信じがたい話だ。
だが、確かに地位も名誉もそれ以外も唸る程持っているオールドオスマンだ。女性を一人囲う事ぐらい訳無いであろう。
セクハラ三昧の頃はミス・ロングビルから露骨に嫌がってるオーラが出ていたが、それが収まってきた最近は、仲が良くなったとは思っていた。
しかしそれが男女の仲であるとは想像もしなかった。
「事実は小説より奇なりじゃよ」
それが無茶苦茶奇妙な事だって自分でわかってるではないか、と言いたかったが、妙に上機嫌なオールドオスマンの気分を損ねるのも何なのでコルベールは黙っておいた。

一人が消え、一人が現れた。
オールドオスマンは単に当てはめただけである。
ミス・ロングビルが居た場所にオルレアン大公夫人を置き、周囲との接点を無くしてしまえば、そこに不自然さは無くなる。
正体が明かされた土くれのフーケであったが、その一件は無かった事になっている。
である以上、土くれのフーケであったミス・ロングビルが居ないのは不自然であった。
幾つか適当な解決策を考えてあったのだが、今回はこれ幸いとオルレアン大公夫人をそこに組み込んだのだ。
これで、双方の事件に於いて減ったり増えたりした人数はゼロ。
506ゼロの花嫁15話7/10:2009/02/04(水) 01:00:32 ID:tc+hgaM1
日々はつつがなく続いて行くのである。
ワルド子爵は本気で悔しがっていたが、愛人として屋敷を与え囲っている相手に直接会っては間男扱いされるだけだ。
いずれ間を計って忍び込むぐらいしか会う方法が残されていないので、今は、手を引く事にした。
こうして、対外的にも全く不自然さを持たぬまま、オルレアン大公夫人は隠れ家を手に入れる事が出来たのだ。
又、没落貴族との触れ込みであったミス・ロングビルに、オールドオスマンは旧来の家を復権させるべく尽力もしている。
その為の手段が、ゲルマニアのツェルプストー家であり、キュルケである。
本来ゲルマニアの貴族であったミス・ロングビルが手放した爵位を買い戻してやるという話で、綺麗に全ては纏まってくれる。
貴族であれば尚の事、オールドオスマンのお相手として相応しく、これだけの待遇も誰しもが納得するであろうから。
懸案だった身近に居るであろうガリアの諜報員だが、これはタバサからもたらされた情報をワルド子爵に適度に漏らす事で、うまく彼が立ち回ってくれた。
ちょうど彼は非合法ガリア諜報機関への攻撃を開始していた時でもあり、渡りに船はお互い様であった。

一つだけあった問題としては、トリステインエロ愛好家達が「一人の女に執着するなぞ何たる堕落! エロ師匠は死んだ!」と大いに嘆いたという事だが、まあどうでもいいのでオールドオスマンはさらっと無視した。



ガリア王は、テーブルの上に置いたチェス板を見つめながら、事態の推移を推理する。
オルレアン大公夫人誘拐事件の犯人は不明。そしてこれは王がうまい事揉み消したが、その場にはエルフの遺体が一つ。
敵の多い王の事、それを為す心当たりは山ほどあったが、やはりこの場合一番に挙がるのは彼女、シャルロットである。
すぐに周辺の調査を行いたいと思っていたのだが、現在トリステインでガリアの密偵は派手に動けぬ事情があった。
麻薬密輸事件。
アルビオンでの作戦中、トリステインが手を出して来ては厄介だ。
ならば国内で社会問題となるような大きなトラブルを起こしてやれと仕掛けた作戦だ。
手を出すのを止められなかったにしても、又その後アルビオン反乱軍がトリステインにちょっかいを出すにしても、平民レベルで麻薬が行きかっているというのは都合が良い。
恐怖を無くす効果もある為、軍所属の平民達に使ってしまう者も出てくるだろう。そうなれば、軍組織は相当ヒドイ事になってくれる。
どう転んでも悪くはない策だったのだが、やはりトリステインは一筋縄ではいかぬ。
万全の体勢で望んだ布陣をいともあっさり突き破り、黒幕のガリアにまで手をかけてきた。
非公式ではあるが、抗議の文面がとても強い口調で送られてきている。
幾分かはこちらから妥協せねば、今後外交を成立する事も難しかろう。
そしてトリステインの平民達に流行していた麻薬の大元が、公にされておらぬとはいえ、ガリアが関わっているかもしれぬ、とされたのだ。
これを明らかにしたグリフォン隊隊長ワルド子爵指揮の下、国内のガリア勢力に対する大掃除が行われていた。
女王の信頼をも得ている彼は、その巨大な権限を余す事無く駆使し、ガリア王が手配していた非合法系の拠点や人員を次々削り取って行く。
ガリア王にとってワルド子爵は、既に息のかかった手の内の駒の一つであった。
しかしそれはあくまでアルビオン反乱軍経由での事。
ワルド子爵自身もガリアがその黒幕である事を知らされていない。
そこまで深く踏み込ませるつもりもあったのだが、どうもワルド子爵の動きが鈍く、関係はそこまで進んではいなかったのだ。
右の手が左の手を殴っているような事態に、ガリア王は目を覆わんばかりだ。
オルレアン大公夫人誘拐事件の犯人は、エルフすら凌駕しうる能力を持っている。
今のギリギリの状況で強引に話を進めても、良い結果に結びつくとも思えない。
当然、虚無の力を真っ先に思い出したガリア王であったが、王の知る虚無ならばエルフを倒すにあのような戦い方はしない。
報告を受けた限りでは、巨大な砲弾か何かを至近距離から打ち込んだ様だと聞いている。
あのエルフ、ビダーシャルの反射の能力を貫くには、確かに戦艦の大砲でも使わねば適わぬであろう。
しかし、周囲に火薬や弾欠や砲台を移動した形跡は見つからない。
まともな魔法では話にならぬ反射能力である。やはり虚無の力と考えるのが妥当だが、ガリア王は断定はしない。
仮にこの件にロマリア連合皇国が絡んでいるとなれば、不可能ではないかもしれないからだ。

そこまで考えて少し頭を冷やすべく飲料を口にする。
まずはオルレアン大公夫人誘拐の件からだと決め、他の様々な思考を頭から追いやる。
507ゼロの花嫁15話8/10:2009/02/04(水) 01:01:27 ID:tc+hgaM1
公的にトリステインでの存在が認められている、ガリアの人間からの報告を元に考えてみる。
当然のごとく、シャルロット周辺での動きは無し。
王都での舞台があっただの、使い魔品評会で一位をとっただの、取るに足りない話ばかりだ。
しかし学院自体は妙に動きが活発だ。
ヴァリエール家の娘とゲルマニアのツェルプストー家の娘がトリステインの伯爵相手に問題を起こした。
派手な決闘騒ぎを起こした二人、彼女達とシャルロットは同学年で決闘騒ぎの際に関わりがあるという。
更にガリア王が気にかけていたのは、麻薬密輸事件発覚の時の人員に学院の秘書が加わっていたという話だ。
その秘書はどうやら学長子飼いらしく、家まで与えられている。
しかし学院という、そこだけでほとんどの事が完結してしまう特殊な閉鎖空間は、それ以上の調査を許さなかった。
工作員を放り込むにも、年齢制限がネックとなっており(学園は年齢に関して大らかだが、幾らなんでも二十代、三十代のメイジを送り込む事も出来ない為)優秀な工作員を向かわせる事も出来ない。
そう考えるとシャルロットは学院対策として実に優秀な駒であったのだが、今回に限っては彼女の言葉は信用出来ない。
人質が人質として効果を発揮しつつ、シャルロット以外でも情報収集の手段がある、そういう状況でなくば彼女を利用する事は出来ないのだ。

幾らなんでも不可解すぎる。そして様々な事の間が悪すぎる。
直感に近いが、やはりガリアの事情を深く知るシャルロットと誘拐事件には関連があると考えるべきだろう。
オルレアン大公夫人の居場所を公的な形で特定出来れば、外交筋でどうとでも好きに出来るのだが、シャルロット絡みというのは勘にすぎず証拠も何も無い。
現時点で色々と手を出す方法も無くはないが、一連の流れが統一された意思の元行われていたとすると、対策も用意されていよう。
ならばここは現状維持のまま、敵の動きを待つ。
もちろんシャルロットへの調査も、トリステイン内の新たな諜報組織の確立も平行して行う。
連中がもし現状維持に無理をしているというのなら、何処かに歪みが現れるはず。
狂気に冒された夫人をいつまでも隠しておくなぞ、そう簡単に出来る事ではないのだから。
それを、ゆっくりと待ち構えるとしよう。
関係者が特定出来ているというのであれば、何も焦る事はない。
人質不在である以上不要となった駒、シャルロットを呼び出して謀殺するのは後でも良い。
相手が油断し、隙を見せるまで大きくは動かぬ。
むしろ、もし本当にトリステインに大公夫人が居るというのなら、先々の展開はガリア王に有利に働く。
アルビオン反乱軍、これがアルビオンを征した後はトリステインだ。
こいつらが強硬に侵入し、トリステイン国内で夫人を確保してしまえば最早言い逃れも出来まい。
そうなれば大手を振ってガリアはトリステインへと侵攻出来る。
戦力に関しては、麻薬以外にもトリステインを圧倒しうる腹案はある。
ガリアとアルビオン反乱軍との関係は、誰にも見抜きようが無いのだから、この手だけは絶対に読めまい。

その時こそ、シャルロットを抱え込み、エルフをも倒しうる力を持ち、数多の予防線を張り巡らせた何者かに、思い知らせる時だ。



タバサはオールドオスマンから幾つかの注意を受けていた。
最も細心の注意を払うべきは、国許からの手紙である。
予想される指示は二種類。国許への帰還命令か、オールドオスマンの愛人誘拐。
前者は言わずもがな、人質を失った事により有用な存在から有害な存在へと変わったタバサの謀殺を目論んでの事。
後者は少々複雑で、こう指示してくるという事は、ミス・ロングビル=オルレアン大公夫人であると疑いを持っているという事だ。
これを指示しうる程、こちらの情報に精通しているとなると、やや問題なのである。
オールドオスマンに授けられたそれらへの対応策を確認し、さあいつでもかかって来いと待ち構えているのだが、一向に国許から連絡が来ない。
不安になってオールドオスマンに訊ねると、彼はかんらかんらと笑って言った。
「油断すべきではないが、下手すると連中ワシらの事まるで気付いとらん可能性もあるのう。ハッハッハ」
オールドオスマンも幾つか手持ちのソースを当たり情報を集めているが、目立った動きは無かったのだ。

という訳で。タバサは週に数回の母との逢瀬を存分に楽しんでいた。
「はい、シャルロット。あーん」
ケーキを一口サイズに切り分け、フォークですくってタバサの口元へと運ぶ大公夫人。
「あーん」
目尻が全開で垂れ下がり、普段の凛々しい姿など見る影もなくなっているタバサ。
「おいしい?」
「うん」
508ゼロの花嫁15話9/10:2009/02/04(水) 01:01:59 ID:tc+hgaM1
かれこれ七回もこのやりとりを繰り返しているのに、まるで飽きる様子が無い。
一度ルイズ達もひょこっと遊びに行ったのだが、あんまりにあんまりすぎるタバサの有様に、二度と近づくまいと心に決めたのである。
屋敷に出向いている時以外は、むしろ自分の手で母を守るんだという気概に満ち溢れ、油断や隙の欠片も見られないだけに、このギャップが耐えられなかった模様。
屋敷に行く時も、それこそオールドオスマンのモートソグニルですら気付かれる程の警戒能力を発揮する為、その辺は皆安心しているのだが。



何時もの四人は、漸く何時もどおりの昼食の時間を取り戻す。
あまり頻繁に会いに行くのも怪しまれる。
そう言い出したのは他ならぬタバサであるが、やはり何時でも会っていたいのだろう。
ふと気が付くと母の住んでいる屋敷の方に視線を向けている。
そんなタバサの様子を微笑ましげに見守りながら、キュルケはしかし真剣な口調で口を開く。
「幾つか、聞き逃せない話あるわよね。エルフがどうしてタバサの実家に居たのか、とか」
ルイズもその点は気になっていた。
「タバサ、ガリアがエルフと組んでいるなんて話あるの? いや、そもそもそんな事出来るの? 偶然あそこに居たなんて話、誰も信じないわよ」
「わからない。そのエルフを倒したっていうルイズの事も含めて」
言いたい事はわかる。ルイズは苦笑した。
「英雄の詩って、そんな警戒するほど無敵でもないわよ」
キュルケが即座に答える。
「サンよね。普段のサンなら何が起ころうと自力で突破出来そうだけど、歌を歌ってちゃ……ねえ」
エルフとやりあった時、実はルイズはかなり追い詰められていたのである。
後ろに居る燦を狙うような真似された場合、それが魔法による攻撃であったならルイズには自らの体を盾にする以外防ぐ手段が無い。
だからこそ相手がそれに気づく前に、速攻で倒しきる必要があったのだ。
嘆息するルイズ。
「そうなのよねぇ。状況によっては二人で戦ってた方が有利な事もあるし」
本来のサンは魔法があってさえ、到底倒しうるような相手ではない。
特に体力が充分な時の燦は、タバサやキュルケの魔法ですら捉える事が出来ない程だ。
「サンはムラがある、物凄く」
タバサがぼそっとツッコムと、燦もわかっているのか首を傾げる。
「よくわからんけど、大抵最初の内は絶好調でびっくりするぐらい動けるんじゃけど、ずーーーーーーっと剣振り回してると、体力まだあるのに、動きががくーって鈍くなったりするんよ」
何度もルイズと剣を合わせて実感した事だ。
実は、最初の内は燦の持つガンダールブの力が発揮されており、それが時間制限で切れているという話なのだが、当然ガンダールブにも虚無にも気付いていない四人はそんな事に思い至れない。
ガンダールブの力には手に持った武器の使い方がわかるといった能力もあるのだが、燦は剣しか持っておらず、剣の使い方は元々知っていたので、それがわかっても不思議に思わなかったのだ。
さりげなくデルフリンガーが使い手だの何だのと言っていたが、それすら、ふーん、で済ませてしまっている。
伝承に謳われたガンダールブの力すら、調子が良いの一言で片付けてしまう。正に天然恐るべしである。
ルイズはばしーっと結論を出す。
「つまりよ! サンが歌を歌いながら剣を振るえれば万事解決! そうよねサン!?」
「あー、それちょっと難しいー」
「何言ってるの! 人間努力さえすればどんな事だって出来ない事はないのよ! 今日から早速特訓よ!」
体育会系のノリが全身に染み付いたルイズ。
それをルイズに教え込んだのは他ならぬ燦である。
「そうじゃな……うん! 私頑張るでルイズちゃん!」
「その意気よ! 私もあの歌で顔が変形するのどーにかして見せるわ!」
キュルケとタバサは、妙に盛り上がる二人に聞こえないよう、ぼそぼそと話す。
「……これ以上強くなってどーするってのよ。それに歌いながら剣て、ハタから見たら可哀想な人にしか見えないんじゃ……」
「……あの顔、自分の意思でやってたんじゃないんだ……」
タバサ母より、とても凛々しいご友人ね、との評価を賜った英雄の詩後のルイズの劇画顔は、やはり当人には不評の様で。
509名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 01:03:11 ID:yT2BuXd5
支援
510ゼロの花嫁15話10/10:2009/02/04(水) 01:03:55 ID:tc+hgaM1
ルイズにもまだ女性としての自覚があったのか、などと尤もらしく頷くタバサであった。



事も無く日々は流れて行くが、ある日キュルケが実家に戻ると言い出した。
例の爵位の件で、より適切な条件の爵位を見つける為には、どうしても自身がゲルマニアに出向く必要があったのだ。
オールドオスマンに相談すると、ならばルイズも燦を連れて実家に戻れと言い出した。
領地が隣同士なので、これなら途中まで三人で移動出来るという安全面での話ももちろんあったが、それ以外の理由が大きい。
ガリアがまるでちょっかいをかけて来ないのは、恐らく学院メンバーが大公夫人誘拐に関わっているという確証が持てないからだ。
ならば、こちらに大公夫人が居るのならとてもやらないような事をやって、より混乱させてやろうという話だ。
いずれ先々で戦力全てを出しつくすような戦いになる。その時、今外を出歩いているメンバーが主力であるなどと連中は考え得ないだろうという事でもある。
強硬手段は、ワルド子爵の大暴れで打つだけの戦力を用意出来ないだろうという読みもあった。
もちろん数日の内に戻るのが大前提ではあったが。


一人タバサを残す事に不安もあったが、オールドオスマンが、いざという時はワルド子爵に泣き付くわい、と言った事であっさりと納得する。
謁見の間で口添えをしてくれた事もあり、子爵の頼もしさ、誠実さを、ルイズ達は欠片も疑っていなかったのだから。



以上です。次回はちょっと長くなりそうですが、また一週間で何とかやってみます
511名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 01:08:37 ID:Jt0jmEfg
皆さん乙です
しかしこの投下ラッシュ、感想をカキコする暇がねぇ!
512名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 01:22:48 ID:Mc9EUldW
何時の間にやらもう480kbいってるっていうw
513名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 02:06:13 ID:ejrvMEc1
なんだこのラッシュはw

姉妹サバの丈太郎のラッシュにも匹敵するな!
514名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 02:17:27 ID:Elns7g/L
とにかく全員乙だ!
アビスの人は序盤からギーシュかっこいいw
マテパの人は遍在が攻撃ためらってるのなんでだ?と思ったけど
ティトォの前に遍在出したりしたら、プルえもんの時みたく一秒でバレるかw
515名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 03:18:40 ID:mIjqJGJ8
鬼哭街の続き楽しみなんだが、三ヵ月くらい更新なくて残念だぜ
516名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 03:55:31 ID:8x92gh0B
次スレ建ててくるよ
517名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 03:59:27 ID:8x92gh0B
次スレ

あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part211
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1233687479/
518名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 04:11:50 ID:ys3Vbqd+
>>517
乙なんよ
519名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 05:32:56 ID:skKufF6y
         r--、_
        r´<ヽ、)
        `「 '  /
        `!  ヘ
.           l   !          いくぞー!
          l   l
            l   ヽ、.._
           l   ヽ ヽ、
             lヽ、_   !  l`i         ,..---、
            `!. `ヽ....ソ´ !        _,ィ´`ー、 `ヽ
.             l          l       /ツ ......  ゝ.  !
             l       l    /` - '``  .!   .!
           l       l-‐、 ,!⌒ヽ l   ./   ,!
             l      /_ ノY `ー‐' '   '⌒) ノ
             l    ,../ ./´ ,ゝ、_    _,.=ニ´ l´
             l   r'-、ヾ,/  l_,..ニ=‐'´.    ̄!
              l r´`   li,r'"´       _,...-‐┤
               ! ヽ.   ,!     _,.-‐''´     ヽ、
                 l.l/ヽ  ,!、__,.r '´           ヽ
               i´,∧ /  `ー、              l
               ll l. ∨      `'´          l
               l'´  /                     l
                 /l ,ィ´                  l
            (/ l'´                     /
             `! l                    /
                 l l                   /
            ,r'´.ト、_________           /
               /   l _     ̄`ー-、__,、  /´
            l!    ll ``ー-、___     `ーノ
           /l   ./l       ̄``ー‐―l
             l .ト、,r'´ l            l
            l ,!   l               l
            l,!     l              /
           l!    l             l
520名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 06:41:57 ID:WW5JisyJ
あまりに気が早いと
521名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 07:13:10 ID:CBBPpkNl
現在483kb、そろそろ立てるべきでしょ
522名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 07:46:19 ID:NHDpJimt
もうたっとるがな
523名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 07:51:41 ID:NHDpJimt
あぁ、上のはaaで埋めるのは早いってことか
524名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 08:01:48 ID:T/5tY3Un
500kbなら、今日中に投下する。
ルイズとその使い魔のサイトは、アルビオンで生き別れとなってしまった

後に彼がガリア王に囚われていることを知ったルイズは、奪還を決意する
ルイズが用心棒に雇ったのは、兵服に身を包んだ逞しい体の男、一人の船乗りだった

ガリアに乗り込んで捕まったルイズを助けるため、船乗りはシェフィールドと戦うが
彼は殴られて頭がグルングルン回ったり、ヨルムン何とかに殴りかかって逆に体がブルブルしたり
その時、ルイズは苦戦する船乗りにタバサから貰った缶詰めを投げた
缶を握りつぶし、中から飛び出したハシバミ草を食べた船乗りはパワーアップ!
シェフィールドやジョゼフにパンチ一発!彼らをコテンパンにしてしまった

ルイズは船乗りの活躍で、無事ガリアから助け出されるが
その後も懲りもせずロマリアやエルフの悪党共に何度もひどい目に遭う

ルイズはまたしても叫んだ

「たすけて〜!ポパイ〜〜!!」

ルイズの使い魔の少年ってのが居た気がするが、忘れた



                     ルイズがポパイを召喚
526名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 10:38:24 ID:NHDpJimt
ポパイなら普通に読んでみたい
527名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 10:55:50 ID:K1lCXCTY
>>526
ワキ役がいつの間にかメインになってしまった所まで再現とは
GJ
528名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 11:10:59 ID:pgYOrsmH
ルイズがカニアーマーを召喚、脱げなくなる。

なんと言う悲劇的出来事!
529名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 12:15:53 ID:lkkuCKH3
老けなくなるからずっと真っ平ら
530名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 12:50:49 ID:UC+MmMM6
カニアーマーは防御力が激烈に高い上、蟹光線という(演出次第では)7万だって吹き飛ばせる破壊光線を撃てるからなぁ。
さらには体調を完璧に整えて不老不死の効果さえある。
まあ、脱げないのと重くて動きが鈍くなるのと見た目が可哀相な事になるのを除けばあたりだと思うぜー?

…いかん、夏休みにルイズが実家に帰ったら蟹を背負ってお出迎えしてくれるちいねえさまという絵面が浮かんだ…w
531名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 12:51:48 ID:/d2fBUfm
帰ってみれば怖い蟹
532名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 12:54:35 ID:HMPleuXi
木曜洋画劇場「トータル・コマンドーの使い魔」

◇木曜洋画劇場「トータル・コマンドーの使い魔」◇異世界に呼び出された建設労働者が不思議な力の

ある刻印を付けられたことから、危険な任務に駆り出される。ヤーマ・G・ノーボル監督。
平凡な建設労働者・ダグ=クェイドはある日突然、ひょんな出来事から異世界ハルケギニアに召喚され

てしまう。彼をこの世界に召喚したのは、今日は厄日だと思っていた「ゼロのルイズ」こと、ルイズ・

フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだった。

失敗とはいえ、召喚の儀式によって呼び出されたダグは、「使い魔」としてルイズと契約のキスを交わ

す。すると、ダグの左手には使い魔の証である契約のルーンが浮かび上がった。こうして、ルイズと「

キツいジョーク」扱いされるダグとの奇妙な同居生活とドンパチにぎやかな冒険が始まった。
533名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 13:08:34 ID:8rFKy1ct
組合員がこんな所にいるとは……
ゲリラの仕業だ。
534名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 14:19:19 ID:7Lf7eueU
去年は蟹光線が流行ったね
535名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 14:43:38 ID:XdlQbhbW
ピングー召喚したらどうなんだろ。
536名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 15:19:10 ID:cZLcWZ/M
500kbならゼロの使い魔実写化
もちろんルイズ役はくぎみー本人
537名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 15:34:21 ID:KY7o3NN9
500kbなら武林クロスロードから誰かを召喚
538名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 15:47:09 ID:1lpyOdY8
500kbならアニメ化記念で電波的な彼女から柔沢ジュウ召喚
539名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 15:48:17 ID:dDcq67/A
1行くらいで500KBいくわけないってわかってるくせに…!
540名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 15:56:26 ID:WDG1nmoG
カニレーザー、ねこビーム、そこそこ強力なんだけど手に入るころには敵も確実に電磁防御してくるから、
コレクターアイテム以上の価値はほとんどないんだよな。
541名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 15:57:46 ID:oLJbLV16
>>530
ワダアキコアーマー着てるよりマシだけど……

ルイズがゲシュペンスト召喚
果たして当たりか否か
542名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 15:59:48 ID:Wu7D980c
500ならカニレーザー(ドクトルG)召喚
543名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 16:02:37 ID:7bEc72fN
Drスランプから則巻ターボを召喚。
超能力と高い知能で大活躍。
空中浮遊・テレポート・時間停止とかどうよ。
544名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 16:07:00 ID:GRJmphfH
500kbならイデオン召喚
もちろんイデオン・ソード発動中で
545名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 16:39:21 ID:G63MOrLY
>>541
ゲシュペンストか。パイロットが誰かによって当たり外れ大きいな。

・・・え、PTちゃうって?
546名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 16:49:03 ID:oyo1wWb8
>>545
EFバージョンだと、デフォルトで転移装置搭載してたから、すぐに派遣の所に帰っちゃうんじゃない?
547名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 17:13:37 ID:AWtJkFO6
そう、ルイズと才人の対面こそ、イデが与えた最後のチャンスだったのだ。
それを人々はお互いにツンデレした。そのためにイデはその無限力を解放していったのだ。
そして人間もエルフの人々も、因果地平……すなわち、宇宙の果てへ四散したのかも知れなかった。
548名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 17:18:36 ID:rVn+04mK
何つー傍迷惑なw
まあ本編の方もイデが余計な事したせいで話がややこしくなったんだが
549名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 17:28:43 ID:TTHHVo6l
イデ隊員がどうしたって?
550名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 17:30:24 ID:Wu7D980c
イデ隊員がバルタンとの交渉中に空気読めてなかったのは確か
551名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 17:30:53 ID:fYWWmmGz
∀&ロラン召喚とか考えてしまった

なぜか魔法を使ってまで変装して立場を交換してしまうルイズとアンリエッタ、
そして第21話『アンリエッタ奮闘』で洗濯出動するロラン。
ラストはエルフの砂漠のロストマウンテンから発掘された機械人形と戦い相討ちに…
552名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 17:37:00 ID:GRJmphfH
それを旧シャアの関連スレでやってくれたら俺歓喜
553名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 17:52:30 ID:UC+MmMM6
>>545
当然カチーナ・タラスク中尉とラッセル・バーグマン少尉だろうjk
554名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 17:54:40 ID:HMPleuXi
19時からトータル・コマンドーの使い魔を投下します

◇木曜洋画劇場「トータル・コマンドーの使い魔」
◇異世界に呼び出された建設労働者が不思議な力のある刻印を付けられた
ことから、危険な任務に駆り出される。ヤーマ・G・ノーボル監督。
平凡な建設労働者・ダグ=クェイドはある日突然、
ひょんな出来事から異世界ハルケギニアに召喚されてしまう。
彼をこの世界に召喚したのは、今日は厄日だと思っていた「ゼロのルイズ」こと、
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだった。

失敗とはいえ、召喚の儀式によって呼び出されたダグは、
「使い魔」としてルイズと契約のキスを交わす。
すると、ダグの左手には使い魔の証である契約のルーンが浮かび上がった。
こうして、ルイズと「キツいジョーク」扱いされるダグとの奇妙な同居生活と
ドンパチにぎやかな冒険が始まった。

クロス元はトータルリコール。シュワちゃんの目玉が飛び出ることで有名な映画。
555名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 17:59:12 ID:iZSIZS3J
>>554
ネタかい?そうじゃないなら回線切って首吊って死んで下さいね♪
556名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 19:17:41 ID:YFAlcfeL
>>546
ヒロ戦のパワードスーツだろ
で、ルイズが着て戦うんだよ
557名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 20:38:19 ID:RtP0kA+M
558名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 20:40:16 ID:gen+L0U0
500kbなら15話以上投下されてる作品がすべて完結する
559名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 21:48:21 ID:G2SE7s6D
500kbならば!
560名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 21:56:38 ID:ySsEJV/S
561名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 21:56:44 ID:ySsEJV/S
562名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 21:57:05 ID:QOctzEJG
SSを書くのって難しいね
しかも複数人だと……or2i
563名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 22:03:41 ID:G2SE7s6D
>>562
ロウソク立てて、尻毛に着火してんの?
564名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 22:07:28 ID:QOctzEJG
>>562
おっと、失敗してしまった……
565名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 22:23:36 ID:aBlFazMl
ワンピースのエネルを召喚したらどうなるだろう?
566名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 22:25:21 ID:KY7o3NN9
誰も止めようが無いし征服すべき大地もいくらでもあるからエネルの一人勝ちというつまんない結果になる
567名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 22:45:37 ID:QOctzEJG
>>566
ゼロ魔版海楼石と言えるアンドバリの指輪があれば大丈夫さ
568名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 22:47:45 ID:H6t7H7rC
そもそも契約しようとした時点で、ルイズが感電死するんじゃね?
569名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 22:56:13 ID:3+fwEUpV
水責めにするか海の水ぶっかければ勝てんじゃない?あいつたぶん自分がカナズチなの知らないし。

あー、けどあいつ心も読めんだっけ、やっぱむりぽ
570名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 23:00:48 ID:QOctzEJG
>>568
それじゃあ
クロコダイル⇒干からびて死
エース⇒焼死
クザン⇒凍死
ハンコック⇒恋煩いで死
バギー⇒鼻が邪魔でキッスができない
ってことになるじゃん
571名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 23:12:54 ID:oLJbLV16
>>569
「海雲」があるからカナヅチなのは理解しているだろ?
572名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 23:13:51 ID:KY7o3NN9
>海の水ぶっかければ勝てんじゃない?
ハルケギニアの海がワンピース世界の海と同じ可能性があまりにも低い
573名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 23:15:28 ID:G2SE7s6D
容姿から邪推して「どこの原住民族だよ」←死亡
574名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 23:17:41 ID:QOctzEJG
>>572
「海」とはこの場合、水が大量に溜まっている所を指します。
だからハルケの海とワンピの海の成分が多少違っていても大丈夫です。
海の水をぶっかければ良いってもんじゃあないです。
575名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 23:20:51 ID:v/LRU1EC
ワンピといえば以前500KBとってキュルケがエースを召喚すると言った人はどうしたんだろ
ちゃんと書いてるかな
576名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 23:26:06 ID:3+fwEUpV
>>571
すっかり忘れてました、、、反省します
>>572
海は海だくらいにしか考えてませんでした、、、もうROMります
577名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 23:48:02 ID:aqw+DgL2
今、連載の方で死にかけているエースが召喚されたら……ワンピース世界が大変なことになりそうだな。
しかしゼロ魔でエースをどうにかできる力の持ち主が浮かばないのが問題かも。
578名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/05(木) 00:03:49 ID:oMdEuqk8
            /\(´^??^?)/\
                 /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                 /\(´^??^?)/\
                /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
             /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
                /\(´^??^?)/\
                 /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                 /\(´^??^?)/\
                /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
             /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
            /\(´^??^?)/\
                 /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                 /\(´^??^?)/\
                /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
             /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
                /\(´^??^?)/\
                 /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                 /\(´^??^?)/\
                /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
             /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
            /\(´^??^?)/\
                 /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                  /\(´^??^?)/\
                 /\(´^??^?)/\
                /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
             /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
              /\(´^??^?)/\
579名無しさん@お腹いっぱい。
              /.:.:.:. /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:..',, :.:.:.ヽ:.ヽ
              ,'.:.:.:. /:.:.:.:.:.:〃.:.:.:.: {:.:.:.:.:.:.:.:.:.}:.:.:.:.}}.:.:.:.:.:.:, .:ヘ
                ':.:.:.j/.:.:.:.:.:.〃.:{:.:.:.:.∧.:.:.:.:.:.:.:.':.:.:.:.ハ:.:.:.:.:.: ':.:.:.',
             {:.:.:.:{:.:.:.:.:.:.:jl:.:r‐十卜ハ:.:.:.:.: リ:}.-/ミ:.:.:.:.:.:.:}:.:.:.:.
             {:.:.:.:{:.:.:. :.:.: |:.:| _」L,_ {い:.:.:./从/__ j/ }:.:.:.:':.:.:.:.}
                 ':.:.:.:i:.:.:. !:.: jンシ'´(,_ト、 {ハ//ノ .ィう7メ、:.:/.:.:.:.:.;
             ':.|:.:!:.:.:.:i:.:ハ/{ 。:::゚リ   ´   {゚:::`リ.)〉〃.:.:.,′
              リ:.:i:.:.:.:.!::{ 弋;;::_ノ       ゙、::;;ノ 从:.:.:.'
             八:.:.:.:.:.:.:ト、              ノ:.:.:.:.:;′
                /  ヽ:. {:.:.:リ、         '       八:.: リ
                Vハ:.:.:.:丶.     ` ー     .イ:.::jハ: |
                 从:.jト、|` ._      , イ:.:.八/ j/
                  / 丿  ` ‐- <从ノレ′′
              r<⌒′_\____|__`丶、______
              /    |「” ̄” ̄” ̄” ̄” ̄” ̄” ̄” ̄” ̄”|
             /\   `||          冫白〈       │_
           / : : : \ /  ̄ ヽ          木       / . }
         / : : : : : : / '⌒ヽ.ゝ        l       ‘ー 'レ^ヽ
            { : : : : : : } -ー 、\          し'       / . ヘ }
           } : : : : : : イ  r‐ 、\_ヽ      _」..、、      く//, {
            ; : : : : : : ∧ 、\ ` J       /丿 `       し{_/  }
         j : : : : ,rく : :\iヽ.)           つ        | イ
          厶 : : / : : : : : : ||          -/-‐           |彡}
         〃 : : :/ : : : : : : : ||          / こ           | : 勹
        !! : :≠ : : : : :`ヽ: ||                         | : : }ト、
       ノ:/ : : : : : : : : : : : ̄} ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄} ̄ ̄ ̄ : : jj人