あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part199

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1名無しさん@お腹いっぱい。
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。



(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part198
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1229861190/



まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/




     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!




     _       
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。





.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 19:11:45 ID:y/0oLMOI
テンプレ終了
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 19:13:46 ID:7JE9kZ/J
>1-2乙!
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 19:15:09 ID:H2CyGoVE
乙です
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 19:20:27 ID:QKeDFlvy
>>1
スレ立て乙
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 19:28:06 ID:ZgHNuReL
>>1に対し、ヘーベルハウスが乙を申します。

       /|
       |/__
       ヽ| l l│<ハーイ
       ┷┷┷

    _, ,_  パーン
  ( ゜д゜)
   ⊂彡☆====== /|
       __       |/
      ヽ| l l│
      ┷┷┷


.        __
       ヽ| 'A`.| トリニイクノマンドクセ...
       ┷━┷

7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 19:59:03 ID:sq7SoJ8F
>>1乙〜
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 20:01:05 ID:htB4U9D5
>>1

前スレ埋め、ずっとジブリだったのにいきなりキラーマシンで吹いたじゃねぇかw
9名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 20:03:27 ID:ORWRhdDV
>>1
(゚д゚ )乙 これは乙じゃなくてポニーテールなんたらかんたら
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 20:17:01 ID:ZxJHvCJu
>>1

波川流マダーって誰も知らんか(ぁ
11名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 20:28:46 ID:pjEzceYt
魔王伝面白かった。
タバサに糸が巻きつけられてて、それをDが見つけて斬る。
とかいうのがあるかと思ったが、考えすぎだった。
12谷まゼロ:2008/12/24(水) 20:43:07 ID:OxZdSK3e
隣の部屋のカップルが五月蠅いので、
木魚を8ビートで叩きながら、大声で般若心経を唱えてたら、殴りこみあったでござる。
冗談です。
予約がなかったら、20時50分から、最終話投下させて頂きたいとおもいます。
13名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 20:46:01 ID:NQVGpULk
そこは、こんにちは赤ちゃんだろう……
支援
14谷まゼロ十話:2008/12/24(水) 20:49:59 ID:OxZdSK3e
「ほっほっほ、なんとまあ、学院の皆が寝静まってるうちにそんなことがあったとはのう」

オスマン氏は、陽気な声でそう言った。
昨晩、盗賊土くれのフーケが宝物庫に侵入し、
一時、『破壊の杖』を奪われたことが、学院中に知れ渡っていた。
そして、ルイズの使い魔である谷がフーケを撃退し、『破壊の杖』を取り戻した……ということになっている。
ルイズとキュルケ、そして谷は、学院長室に呼び出され、
昨晩起きたことを、学院長であるオスマン氏に報告したのだった。

「この学院に、盗みに入る輩がいたということも、大いに驚かされた事実ではある。
 だが、それよりも増して、生徒たちが自身の力で、このトリステイン王国を騒がしてる盗賊を、
 追い返してしまうとは……惜しくも逃げられてしまったのはあれだが、真に天晴れであると言えよう。
 『破壊の杖』も無事だしのう、宝物庫の扉が壊れたぐらいは、良しとしておくべきであろうて」

ルイズは詳細を報告する時、谷に責任の追及が及ばないように、
宝物庫の扉を壊したのも、フーケの仕業であると、嘘をついたのだ。
少しではあるが、嘘をついたことについての罪悪感があった。
オスマン氏は、ルイズたちに賞賛の言葉を一通り述べた後、
その脇にひっそりと立っている人物に向って、不思議そうに言った。

「ところでミス・ロングビル?その怪我はどうしたのだ?えらくボロボロではないか」

その人物とは、ミス・ロングビルこと、今回の騒動の首謀者、土くれのフーケそのひとであった。
フーケは松葉づえをつき、首には物々しいギプスが嵌められていた。目の下には痣が出来ている。

「え、ええ。あの、その……。昨日土くれのフーケと戦った際に少々……」
「おお!それは大変であったのう!名誉の負傷というわけだな!」

本当に大変だったわよ!とフーケは心の中で盛大にツッコミを入れた。
何故、夜空の星になったフーケがこの場にいるのか。
そのことの仔細を説明するには、昨晩まで時間を遡らなければならない。

15名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 20:51:44 ID:sq7SoJ8F
支援! 支援!
16谷まゼロ十話:2008/12/24(水) 20:52:07 ID:OxZdSK3e
昨夜、谷がフーケを殴り飛ばした後、ルイズにあることを言ったのだ。

「なんですって!?フーケを学院に引き渡さないですって!?」

あれほどのことがあったのにもかかわらず、谷は涼しげな態度であった。
キュルケはというと、友人のタバサを呼び寄せ、そのタバサの使い魔である風竜を、空に飛ばしてもらって、
遥か遠くまで飛ばされていったフーケを回収しに行っていた。
その二人が、丁度ルイズと谷の会話が終わったときに帰って来た。
ルイズと谷の様子がおかしいと感じたキュルケは、ルイズに尋ねた。

「何かあったの?あなた、いかにも自分は不機嫌ですって顔してるじゃない」
「どうもこうもないわよ……タニがね……」

ルイズは谷が自分に言ったことをそのままキュルケに伝えた。

谷は、フーケは学院に引き渡さずに、
自分が元の世界に帰るための方法を探すのに、フーケを手伝わせると言ったのだ。
確かに、谷にとっては、盗賊を捕まえたからといって何も得るものはない。
谷が、名誉や報償など欲しがるはずもない。
それならいっそのこと、弱みを握って、フーケを利用したほうが良いと考えたのだろう。

目を覚ましたフーケは、谷の姿を見るなり慌てて逃げだそうとしたが、
谷に首根っこを掴まれ、逃げ場を失った。
そして、嫌というほど谷に脅され、谷の手伝いをすると承諾した。
谷曰く、『死ぬ気で探さないとぶっ殺す』とのことだ。
フーケの顔に、立てた人差し指を向け、威圧感たっぷりに言ってのけたのだ。
これには、谷に対して絶大な畏怖を抱いているフーケには酷であり、とても逆らうことができなかった。
フーケは、谷のいうことを聞くしかなかった。
そして今現在に至る。

フーケは学院長のオスマン氏に対して、申し訳なさそうに言う。

「あの、療養したいと思いますので、しばらくお暇を頂けませんでしょうか?秘書は休業ということで……」

それは、谷が元の世界に帰るための方法を探す手伝いをするためである。
オスマン氏は、少しがっかりしたような表情をしたが、
仕方がないことだと割り切ったのか、髭を撫でながら、優しげな声で言った。

「よかろう。その怪我で仕事をさせるのは酷であるからの。ゆっくり静養しなさい」

そういうと、オスマン氏は谷が居る方向に向きなおった。
オスマン氏も、谷に対して色々と怪しむところはあったものの、そこはあえて追及しなかった。
それよりも、谷がフーケが盗み出そうとした『破壊の杖』について執拗に聞いて来たことに興味を持った。
17谷まゼロ十話:2008/12/24(水) 20:54:36 ID:OxZdSK3e
「さて、タニ君といったかな?君はこの破壊の杖の出所について気になっているようだから
 それについて答えてしんぜよう。まあ、取り戻してくれた、お礼と思ってくれていい」

オスマン氏は、破壊の杖にまつわる話を続けて言った。

「あれをくれたのは、私の命の恩人じゃ。だが、その恩人はもう三十年前に死んでしもうた。
 彼は見慣れぬ格好をしており、ワイバーンに襲われていた私を、もう一本の破壊の杖で、救ってくれた。
 礼を言おうと思ったが、すでに彼は重傷を負っており、その場で息絶えた。
 私は、彼が使った一本を彼の墓に埋め、もう一本を『破壊の杖』と名づけ、宝物庫にしまいこんだ。……恩人の形見としてな」

オスマン氏は遠い目になった。

「彼は死ぬ間際まで、うわ言のように繰り返しておった。『ここはどこだ。元の世界に帰りたい』と、
 私は彼が何を言ってるかわからなかった。しかし、切な願いであったことはわかる」

ルイズがオスマン氏の言葉にハッとして、口を挟んだ。

「オールド・オスマン!その人は別の世界から来たんですか!?もしそうなら……、
 タニも、……タニも別の世界から来たんです!それで、彼も元の世界に帰る方法さがしているんです!
 なにか手掛かりはないんですか!?」

オスマン氏は、驚き目を見開いた。
だが、柔軟な思考によって、ルイズの言ってることを呑み込み、理解して言った。

「それが事実だとしても、私にはわからん。彼がどんな方法でこっちの世界にきたのか最後までわからんかったのだ」

ルイズはがっくりと、肩を落とした。
だが、一方の谷は、この答えをある程度予想していたのだろう。一見平然としている。
谷がオスマン氏に『破壊の杖』について聞いたのにはわけがある。
その『破壊の杖』というのが、谷の世界、地球に存在する兵器であったからだ。
こちらでは『破壊の杖』と呼ばれていたが、実際は、『M72ロケットランチャー』であった。
もちろん谷は、その兵器の名前も詳細も知らなかったが、それが、自分の世界の物だとは理解できた。
だからこそ、『破壊の杖』の出所を、オスマン氏に聞いたのだ。

そして、わかったことが一つ。
この学院の外にも、自分が地球に帰るための術がどこかにあるのかもしれないいう可能性。
谷にはある決心が胸にあった。
18名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 20:56:03 ID:F3mq51ml
支援
19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 20:56:06 ID:m51bkcYp
支援
再登場でそこまで飛ばされたと思われる
とはならなかったか
20谷まゼロ十話:2008/12/24(水) 20:56:43 ID:OxZdSK3e
女子寮のルイズの部屋に戻ってきた谷は、荷造りをしていた。
といっても、荷造りしないといけないほどの荷物は、持ち合わせてなかった。
シエスタから餞別としてもらった、保存のきく食料などを麻袋に詰め込むという、なんとも粗雑なやりかたであった。

その様子をベットに座り、膝を抱え、どこか憂いに満ちた表情したルイズは見つめていた。
ルイズに元気がないのは当然であった。
谷は学院を出ていくことにしたのだから。
勿論それは、元の世界に帰る方法を探すためである。
谷は、こちらの世界に詳しいフーケを連れ、あちこち回ってみるつもりであった。
それは、谷が学院に居ても、何もできることがないと判断したからでもある。
少なくとも、ここでじっとしているよりは、可能性が上がるだろうと谷は思っていた。

ルイズには、止めることができなかった。止められるはずがなかった。
谷は一刻も早く島さんに会いたいのだ。そのためなら谷は何だってするだろう。
そのことをルイズは、よく理解しているつもりであった。
そして、自分もついて行くとは言わなかった。自分の役割を果たさなければならないからだ。
ルイズは今にも泣きだしそうな声で谷に向って言った。

「わたしは、この学院で、あんたを帰す方法をさがすわ……」
「当たり前だろ」

谷は、そうでなければ困るといった風に、そう答えた。
荷造りを終え、荷物が詰まった麻袋を肩にかけ、谷が立ち上がった。
おそらく、谷は、このままルイズに別れも告げずに出ていってしまうだろう。
唇を一文字に結び、ルイズはベットから飛び降りて、谷の下に駆け寄った。
突然、自分の目の前に来たルイズを見ると、谷は足を止めた。
何か用があるのだろうと思ったのだった。

しかし、待てども待てどもルイズは何も喋らない。
業を煮やした谷は体を反転させ、部屋を出ていこうとした。

慌ててルイズは谷に喋りかけた。
よくよく見てみれば、ルイズの顔は涙に濡れていた。

「……ぇぐ……うぅっ、必ず探し出すからっ!タニがシマサンと会えるように絶対!
 うう……だから、あんたも……えぐっ……あ、あ。……うぅ……あ。
 それと……ゴメンなさい。わたしが呼び出したりしなければ……ヒクっ。
 わたしと、出会ってなければ、こんなことにならなかったはずなのに……うぅ」

最後は言葉にならなかった。絞り出すかのようにルイズは泣きじゃくりながら言ったのだった。
何故泣いているのか。それは谷があまりにもかわいそうであったからだ。

谷は、島さんに会えるその時まで、この何も知らないこの世界を、さまよい続けるだろう。
人生を照らす唯一の光である島さんを取り戻すために。
答えが見つかる保証はどこにもない。もし見つからなかったらならば、この地獄で一生を終えることになる。
切に渇望し、そして夢を見たまま、枯れて朽ち果てるのだ。それはあまりにも残酷過ぎた。
21谷まゼロ十話:2008/12/24(水) 20:59:10 ID:OxZdSK3e
谷は島さんと一緒にいるべきである。

ギーシュとの決闘を経て、ルイズが出した答えである。
どこまでも熱く、そして直情的で、人生でただ一人を愛することができる人間、それが谷だった。
その自分の命よりも大切な島さんを愛する谷を、この世界に留まらせることは大罪のように思えたのだ。
だからこそ、谷と約束したのだ。元の世界に帰してあげると。
それはまさしく本心から出た約束であった。
ルイズは、使い魔とか関係なしに、谷に対して特別な感情を持っていた。
しかしルイズ自身、その感情が何であるかわからなかった。
だが、谷の願いを叶えてあげるための、努力は惜しまないつもりであった。

心の中がない交ぜになり、わけのわからないまま、
ルイズは嗚咽を漏らしながら、涙をこぼし続けた。

さすがの谷も、そんなルイズの様子に困り果てていた。
異性に目の前で泣かれるという慣れない状況に、谷はどうすればいいかわからなかった。
苛立ちを抑えるように、ガリガリと頭を掻いた。

そして谷は自分から、ルイズに喋りかけたのだ。
何故、こんなことをルイズに話したのか。それは本人にもわからない。
何故か話しておかなければならない気がしたのだ。
谷の喋る声は、いつもと違い、どこか静けさを纏っていた。

「オレは……オレが、島さんと離れ離れになってわかったことがある」

突然、自分のことについて喋り始めた谷に、ルイズは泣くことを忘れてしまうほど驚いた。
基本的に、谷は自分のことを話さないからだった。
ルイズは、涙で濡れた顔を上げ、谷を見た。谷の言葉を一言も聞き漏らすまいと神経を集中させる。

「ずっと疑問だった。……オレが、小さい頃からずっと、毎日がクソつまらないのに、
 どうして自分が生まれてきたのかわからなかった」

昔、谷がそのことを幼稚園の保母の人に聞いたことがあった。
しかし、保母は困ったように苦々しげな顔をするだけで答えてくれなかった。
保母にも、正しいと思う答えが、わからなかったのだ。

そして、それからだった。谷が顔を覆い隠す仮面をつけるようになったのは。
……谷は仮面をつけていると、自然と気持ちがおちついたのだ。
つまらない現実と隔てを置き、外部への興味を断ち切り、自分の世界に籠ったのだ。
そんな彼にとって唯一の楽しみは読書だけであった。ただそれだけの人生であったのだ。

ただし……高校生になり一か月が経った時、谷の中で激変が起きた。
22名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:01:04 ID:45eyA5pj
魔王伝の人、乙でした。
さり気に、ルイズの叫びに反応するD……。
今後の展開に期待してます。
23谷まゼロ十話:2008/12/24(水) 21:01:30 ID:OxZdSK3e
谷は、興味を持つ筈のない他人に恋したのだ。

他人への興味を失い、信じられる人さえ誰一人もいない彼が、一人の女性が好きになったのだ。
これは異常なことであった。
他人と交わることを拒絶する壁を一瞬にして突き抜け、
その深く、誰にも触らせたことがない胸の奥まで、島さんという存在が谷の中に入って来たのだ。
そして、生まれて初めて、谷は仮面の外の世界に興味を持ったのだ。

自分を守るための檻から出て、触れてみたいと思ったのだ。
谷が島さんの魅力について語るとしたら、彼はこう言うだろう。

包み込むような“可愛らしくやさしいけど強い”そして“とてもあたたかい”ホワッっとしたものがあると。

谷は一目見たそのときから、自分の世界を一変させてくれる可能性を、島さんに見たのだろう。
否、もう出会った時にはすでに……だがそれを谷が理解していたとは限らない。

「だけど……今オレはわかったんだ。人が何のために生まれてくるのかわかったんだ」

ルイズは谷の話に夢中になっていた。

ルイズも不出来である自分と、いつも優秀な姉たちと比較され、親からも教師からも、怒られてばかりだった。
そして、学院に入ってからも、精一杯努力を重ねていたにもかかわらず、魔法は一向に上達せず、
周囲の人間からは馬鹿にされ続けた。ルイズが、悔し涙を飲んだのは一度や二度ではない。
もう何もかもが嫌になり、自分が何故ここにいるのか、何故生まれてきたのか、疑問に思ったことさえある。
そのどんなに考えてもわからなかった疑問の答えを、今、目の前の谷が、紐解こうとしていた。

なんのために……わたしはなんのために生まれてきたの……?
わたしはヴァリエール家の三女……でもそれ以外はなんなの?わたしはいったい……?

谷の頭の中に走馬灯のように今までのことが蘇ってくる。
ゆっくりと、そして意味深な言葉をルイズに向って、谷は言い放った。

『人は人と出会うために生まれてくるんだ』

「そしてオレは、島さんと会えたんだ」

一度含みを持たせ、ルイズの顔を見据えて谷はルイズに問いかけた。

「……お前は誰だ?」
24名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:03:17 ID:y/0oLMOI
八極とは支援という意味だ
25谷まゼロ十話:2008/12/24(水) 21:03:19 ID:OxZdSK3e
谷の言葉は、まるで電撃のように体中に駆け巡り、ルイズに衝撃を与えた。
世界が揺れているような感覚に襲われる。頭を両手で抱え、よろめき倒れそうになった。
ルイズの頭では様々な想いが交錯していた。

わたしは、わたしは誰と……?誰と出会うっていうの?わたしは誰と出会うために生まれてきたの?
……タニなの?タニと会うために?いえ……違う!!違う!……わたしは!わたしは……!!!

このときルイズの口が何かを呟くように動いていたかは定かではない。
しかし次の瞬間、思いがけない現象が起きた。

向かい合って立つ、ルイズと谷の間を光が駆け抜けたのだ。
光は、二人が気がついたあとも、輝き続けていた。
呆然と立っている二人が、光がやってくる方向に目をやると、
その先には大きな光る鏡のようなものが現れていた。

「……これってまさか!!!」

まさしく、谷がこの世界に訪れるために通ってきた、世界と世界を繋ぐ扉であった。
二人は直感でそうであると理解できた。何故それが今、出てきたかはわからない。
だが、この千載一遇のチャンスを、谷が見逃すはずがなかった。
これを通れば、島さんの世界に帰ることができる。そう信じた。
はやる気持ちを抑えられない谷は、何もかも放り捨て、光る鏡に駆け込もうとする。

「タニっ!!!!」

喉が裂けそうなまでの大声で、谷を呼び止めたのはルイズであった。ピタリと谷は歩を止めた。ルイズに顔を向ける。
ルイズは、何か谷に言わなければならないという衝動に駆られていた。
もう二度と会えないということは、両者ともわかっていた。
本当に最後の言葉なのだ。しかし、言葉を選んでいる暇はない。

なんて言えばいいの!?別れの言葉!?わたしを忘れないでね、とか!?お礼?行かないで!?
それとも、わたしの名前を覚えていて欲しいから、わたしの名前はルイズよ!とか!?
でも、でも……それよりも……わたしは!!わたしはタニに……!!

泣きそうな顔を必死に笑顔に変え、ルイズは握りこぶしを作り、谷向って差し出した。
そして、涙ぐんだ声で高らかに言った。
26谷まゼロ十話:2008/12/24(水) 21:05:02 ID:OxZdSK3e
「シマサンとうまくいかなかったら承知しないんだからねっ!」

「何言ってんだっ!!うまくいくに決まってるだろ!」

谷も握りこぶしを体の前に持ってきて、力強く吠えた。
ルイズは、自分から谷の拳と自分の拳を、打ち合わせた。小気味良い音が部屋に響く。

谷は、次の瞬間、何の未練もなく光の中に消えていった。
ルイズと谷とっては、今生の別れであった。

谷が元の世界に帰ったのにもかかわらず、光る鏡のようなものは存在し続けた。
そして、まるで谷と入れ替わるのように、光の中から何かの塊が転がり出てきた。
その瞬間、役目を終えたかのように、光はすぐさま消えていった。
光る鏡から現れた塊は、ルイズの部屋の床を転がると悪態をつき始めた。

「痛ってぇ!!!なんだ今の!?というか、今すれ違った仮面の奴って、
 前に電車の中で俺を突き飛ばしたやつじゃないのか!?なんだって俺がこんな目に……」

谷と入れ替わりに出てきたのは、青年であった。
青年は、理不尽に対して憤慨を覚えていたが、周りの風景がおかしいことに気が付き、辺りを見回した。
そして、涙を袖口で拭っている綺麗な少女が目に映った。
その光景に、青年は思わず目を奪われてしまった。
涙を拭い終わり、顔を赤々と腫らしているルイズは、青年に向って尋ねた。

「……あんた誰?」

その言葉とは裏腹に、何故かルイズの表情は柔らかかった。
青年は、ルイズの涙の跡が残る顔が、逆にとても美しく思えた。どこか気恥ずかしさを覚えながら、
青年は自分の名前を答えた。

「誰って……俺は平賀 才人」

―――この出会いが、これからのルイズの運命を紡いでいく。
     人は人に会うために生まれてくるのだから。
27名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:05:11 ID:y/0oLMOI
居酒屋支援
28谷まゼロ十話:2008/12/24(水) 21:07:38 ID:OxZdSK3e
谷が意識を取り戻した場所は、つい数日前までは、飽きるほど見慣れた、
舗装された道路や、コンクリートの壁や、軒並み立つ建物の光景が広がるところであった。

じわじわと、胸の奥から実感がわいてくる。思わず涙がこみ上げてくる。
立ち上がり辺りを見回す。そこに広がるのは明らかに地球の、そして日本の、谷の住む町であった。
やっと、やっと帰ってこれたのだと、確信が抱けた。
ボロボロとなった服装のまま、どこへともなく、ふらふらと歩きだす。

島さんは?島さんはどこにいるんだよ!?戻ってきたんだからいるはずだろっ!?

だがすぐに気がついた。都合よく、この場所にいるはずがないと。
ここは諦めて一度家に帰ろう。そして、明日、学校で島さんと……。

顔を俯かせ、肩を落としていた谷。
しかし、その時だった。谷の肌を撫でるように、風が吹いた。
冬だというのに、風の中に何故か暖かいものが感じられた。
何かを感じ取ったのか、谷は思わず振り返った。

谷が振り向いた先には、先ほどの風で乱れた髪を手でかきあげている女性がいた。
制服に身を纏い、優しげな瞳を持っている、とても綺麗な女性であった。
そして、目の前に谷が立ち尽くしているのに、気がついたその女性は、にこやかに谷に向って挨拶した。

「谷君。おはよう」

谷は涙が止まらなかった。滝のように涙が仮面の目の穴からあふれ出る。
谷は運命の存在を確信し、そして運命に感謝した。
自分の全てを捧げても惜しくない、一人の女性が今目の前にいる。

嬉しさを抑えれない。感極まって目の前の光景が涙で歪んでみえる。
しかし、そんなことは関係ない。谷は彼女の言葉に、力の限り答えた。

「っし島さあああああああああああああああああああああああぁぁん!!!!!!!!!!
 うあっあ!ぐあっ!!っっオ、っオハヨぉぉぉぉぉぉぉおおおっぉーーーございまーーーすっ!!!!
 っうぁああああああああああああああああああああああああぁぁあんんん!!!!」

公衆の面前で彼は泣き続けた。喜びの涙は、しばらく止まりそうもない。

時間にして短く、そして谷にとっては長い冒険は、今終わりの時を迎えた。
29名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:08:16 ID:y/0oLMOI
雀荘支援
30谷まゼロ:2008/12/24(水) 21:08:44 ID:OxZdSK3e
投下終了です。ここまで読んでくださった方ありがとうございました。

谷の行動理念は全て島さんに基づくのに、その島さんが居ないので、
さすがに、ここが限界だと考え、終わりにしました。
元々ここで終わる予定で始めた話ですが、思うより長くなってしまいました。
谷が地球に帰ることが出来てしまいましたが、そこは見逃して下さい。
いくらなんでも、谷が島さんと会えないまま終わるのは、かわいそう過ぎたので。
一応、一話の時点で、谷が本来呼び出されるはずの、サイトを突き飛ばしたことを匂わせる文があります。
谷が呼び出されたのは、手違いという設定です。

いつも書いてるのが殺伐とした物語だから、ラブコメ風味の物語を書いて、気分転換と思ったんですが、
変な感じになってしまいました。ここまで読んでくださった方、投下支援して下さった方。
そして、まとめWikiに登録してくださった方、本当に感謝しております。ありがとうございました。
では、またどこかで。今夜は村上ショージを見て寝ます。
31名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:10:05 ID:RtUhPnrf
乙でした〜
良かった…谷、島さんの所に戻れて良かったね!!
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:11:39 ID:y/0oLMOI
乙した
33名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:17:26 ID:45eyA5pj
乙!
なんと見事な幕切れ!
34名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:17:34 ID:Djz59QrP
谷の方、乙です。
なんかこの日の夜にいいとも見ながら一人でいるのが虚しくなってきたぜ。まさに虚無。
35名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:18:03 ID:htB4U9D5
谷の人、GJ&乙でした!
なんというか、ぐッと来るものがあるな…。

で、最後の締めは村上ショージっすか
36名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:35:58 ID:F3mq51ml
なんという感動のグッドエンド…谷の人本当にGJ!
個人的にはこういう終わり方はスキだなー、と思う。

あと遅れたが>>1乙!
もうすぐ年末だけどゆっくりスレを消費していってね!
37名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:45:39 ID:+W38RSpJ
魔王伝の人乙です
ルイズはいつか
「"それを浮かばせたのが自分であることを一生の誇りに出来る”微笑」
をDに浮かばせることができるんでしょうか。

そして殆どの人が忘れがちな事実「(一作目の)Dは外見年齢18歳」

谷の人、GJ&乙でした
そして世界は在るべき姿へ……



クリスマスにちなんで、『ef-a tale of melodies(memories)-』から
雨宮優子を召喚、を考えてみたが。

二つほど想定した召喚タイミングはどっちにしても火村夕涙目だわ。

コッパゲによるルーン確認シーンが、
「手袋を外してみたら、手が傷だらけでどこにルーンが刻まれているか、
判別が困難」
と言う、ギャグなんだか鬱なんだか判らない代物になるわで断念。
38名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:46:01 ID:CJyKQ5hJ
谷の人、乙。
いつも爽快で楽しかったぜ。ありがとう。
39名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:51:11 ID:QO4McFni
谷ま祝完結

全篇通して、谷もルイズも魅力的に思える演出が上手かった
ルイズの成長を絡めて最終話にふさわしい内容でした  乙
40名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 21:53:28 ID:Ji4d9cQ+
谷の人、乙です。
イヴに相応しいラストで、良かったです。
二つの世界のカップルに、幸あらん事を。
41名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:02:51 ID:xF/0u4uF
>>40
イヴ・・・今日イヴなんだよな・・・


思い出させるんじゃねーよw
42名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:04:40 ID:fzvFV2pC
イヴ バーストエラー
43名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:04:58 ID:vbAJs/mH

           ,..-‐ ´ ̄ ''ー-.__
         /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::>⌒ヽ
          /::::::::::::::::::::::::::::::::::!:/ 弋__ノ
       ./::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l
      / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
      ゝ________ノ
       ! ∠.._;'____\   |
      ,!イ く二>,.、 <二>`\.、ヽ.
     /'´レ--‐'ノ. `ー---- 、 |\ ヽ、
    \  `l  (!"      Jfヽ!  `''-;ゝ 外に出なければ
      `‐、jヽ ヾニニ>   ゙イ" }_,,. ‐''´  どうということはない
         `´\  ー   / ,ィ_}
.          |_ `ー ''´ _」

44名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:13:29 ID:htB4U9D5
無理のあるかぶり方だな。
45名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:16:03 ID:KWEsB9AJ
シュールだぜ…
46名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:20:46 ID:F3mq51ml
>>43
あぁ…!外からクリスマスソン(ry
47名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:23:34 ID:vbAJs/mH
耳を塞げばどうということはない
48名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:24:23 ID:Djz59QrP
布団の中に入っていれば、どうということはない。
49名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:25:02 ID:ORWRhdDV
外から聞こえてくるのが火の用心の掛け声な俺はどうすれば(ry
50名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:27:44 ID:vbAJs/mH
急いで行って参加すべき。予期せぬ出会いがあってそのまま勢いでズッコンバッコンの展開があるわけないじゃん。
51名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:29:14 ID:F3mq51ml
>>50
いや、もしかしたらひょっとしてズッコンバッコンな展開が…



※ただしイケメンに限る。
52名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:35:16 ID:KWEsB9AJ
>>51
ところがどっこい、暴走族にでも囲まれてボッコンボッコンな展開もありえるぞ
53名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:37:01 ID:vbAJs/mH
どうでもいいが次スレ200じゃん。こんなことしてる場合じゃねぇ!(AAry
54名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:37:51 ID:fzvFV2pC
どうせ俺以外のやつは相手に咥えさせたりはめたりしながらここに書き込んでいるんだろ?
この裏切り者どもめ
55名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:42:11 ID:NQVGpULk
膝に乗せた愛犬のチワワに肉棒(犬用のおやつ)をしゃぶらせてる俺は勝ち組ですよね
56松下(メシヤ):2008/12/24(水) 22:47:00 ID:KU26Rkqe
やあ諸君、メリークリスマス。……やけに殺伐としてるなあ。
ずいぶん久しぶりな気がするが、10分後から投下して行くよ。
57名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:47:02 ID:Djz59QrP
Climax Jump the Finalを聞きながら、SSを書いてて悪いかぁぁぁああああ!!
58名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:47:57 ID:ccOao4gV
谷まゼロ、感無量の完結に思わずため息が出てしまいました・・・!
本当にオチも見事で、何とも言えない、泣いて泣いて泣きぬいた後のような爽やかさな読後感を感じましたです。
ともあれ超乙でした!
59名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:53:13 ID:NQVGpULk
俺の執筆中のBGMは【U.N.オーエンは彼女なのか?】VocalArrange −Sweets Time−が多いなあ……

>>56
しえn
60名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:56:29 ID:F3mq51ml
おっと支援。

>>59
個人的には戦闘シーンとかの執筆でデビルメイクライのサントラ聞きながら書くとイメージが沸いてくる。
61名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:57:58 ID:htB4U9D5
孤独な軍勢の怨嗟の声が蔓延する中に支援
62名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:58:26 ID:L+2t+QA8
支援

自分は戦闘シーンは水木一郎で
63名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 22:58:31 ID:QKeDFlvy
>>56
やはこれはかみさまの子供の誕生日まえのよるのお祭りの日によくおいでくださいました。
うむ、人は誰もが平等だよ。……投下開始。


《幼な子らを私のところに来るままにしておきなさい、妨げてはならない。
 神の国はこのような者の国である。よく聞いておくがよい。
 だれでも幼な子のように神の国を受けいれる者でなければ、そこに入ることは決してできない》
  (新約聖書『ルカによる福音書』第十八章より)


時は始祖降臨暦6243年、第二月ハガルの月。
三週間ぶりに現世、アルビオン大陸に復活した松下・ルイズ一行。
そこには『胸革命』としか形容しようのない、謎のハーフエルフ……ティファニアがいたのであった。

松下たちは、ひとまず包み隠さず、彼女にこれまでの事情を話す。
いかに親切で善良とはいえ、不信感を抱かせたままでは、積極的な情報提供は望めないのだ。
まぁ異世界から来たとか、ルイズが虚無の担い手だとか、地獄巡りをして来たなんて重大な話は伏せておいたが。

「……あなたたちが、トリステインの殿軍を? ……冗談でしょう?」
「本当だ。仲間はかなりいたのだが、残念ながら殲滅されたようでね。これから改めてアルビオンを征服しに行くところさ」
「せ、征服? あの、でも、クロムウェルって人も処刑されて、今この国はゲルマニア軍に占領されているのよ?
 ……ねぇ、やっぱり冗談でしょう?」

困ったような顔をするティファニア(テファ)。なにせ、メイジと言っても子供と小娘だけで、もう一人はただの平民だ。
メシヤ? 東方の神童? 千年王国? トリステイン軍の大隊指揮官? その上、アルビオンを征服?
あまりにも現実味の薄い話に、どうも余計に彼女の不信感が増したようである。
「ねぇマツシタ、あんたの話はぶっ飛びすぎて、一般人には通じにくいのよ。
彼女、よくわかんないって顔しているじゃない」
「むう、無知な者に説明するのは疲れるな。まぁわかりやすくいえばだね……」

と、窓の外に気配と物音がする。言葉を切った松下は、ぐるりと首を巡らせた。
―――見つめているのは、20人ほどの子供たちの目。
おおかたは10歳以下だ。大小男女取り混ぜて、いろんな顔があった。金髪、赤毛、栗毛、黒髪、ニキビ、メガネ出っ歯……。
どの子も薄汚れた服を着ていたが、目はいきいきと輝いている。

「お、お姉ちゃんたち、お、おはよう」「おはよー」「おはようございます」「さっき変な叫び声がしたけど、大丈夫?」
「生きていたんだ、人間ってすげぇー」「近づいていいの? ヤバくない?」「あのガキ、どう見たってヤバくねーか?」
「俺らと同い年ぐらいだろ、大丈夫だろ」「でもさぁ、メイジっぽいし」「眼つきとか極悪じゃん、危ねーよアレ」

口々に勝手なことをしゃべる子供たち。もちろん、この小さなウエストウッド村の住人であろう。
「ああ、この村の子供たちね。もの珍しがられるのは分かるけど」
「ご、ごめんなさい。……みんな、おはよう! この人たち、生きていたわ! 今朝目を覚ましたの!
 すぐにご飯の準備をするから、待っていなさいね」
「「「はーーーーーーーーい」」」
どうやら、彼女は子供たちの世話をしているらしい。

「あの桃色頭の姉ちゃん、おっぱい全然ないな」「なー、黒髪の方はそれなりにあるのになー」
「マチルダ姉ちゃんぐらいが普通だろ、常識的に」「テファ姉ちゃんがでかすぎるんだよ」

ゼンゼンナイ、と申したか。カチーンとルイズが反応し、殺人的な視線で睨む。
子供たちは蜘蛛の子を散らすように、わーっとはしゃぎながら逃げていった。

「あ、あの、あなたたちも一緒に朝食を食べましょうか。何かお腹に入れたほうがいいわよね」
「じゃあ、私準備を手伝います、慣れていますから。メシアたちはごゆっくり」
パタパタと納屋へ駆けていくテファとシエスタ。その後を数人の年長の女児が追う。
ルイズと松下はひとまず村内を見回って、久しぶりに外界の空気を吸うことにした。

「ああ、やっぱりシャバはいいわねぇ……冬場だからちょっと寒いけど、地獄のことを思えばどうってことないわ。
 ちゃんとお腹も空いてきたし、生きているって素晴らしいわね、ほんと。ほほほほほ」
陽光に目を細め、微笑むルイズ。ちょっとハイになっている。
「しかしまぁ、小さな村だな。まったく森の中に孤立したようなところだぞ」

本当に小さな村、というか集落だ。森を切り開いた空地に、小さな藁葺きの家が十軒ばかり、寄り添うように建っている程度。
周囲には柵が作られ、多少の畑や菜園はあるが、自給自足もできそうにない規模であった。
しかも、家々には子供たちしか住んでいないではないか。彼らに話を聞こうとしたが、警戒されたか逃げられてしまう。
小一時間ほど散策するうち、テファが「ご飯ですよー」と声をかけたので、彼女の家へ戻った。

集会所とも言うべきテファの家は丸太と漆喰造りで、他の家々よりはやや大きく、納屋が一つと部屋が三つある。
松下たちが寝かされていた部屋、彼女の部屋、そして暖炉がついたわりと広い居間(リビング)である。
大きな食卓には、30人近い子供たちが座っていた。テファに招かれ、三人は上座に席をもらう。
メニューは雑穀入りパンと温かいシチュー、素朴なチーズに新鮮なバター、それに茹で卵と少々のサラダ、果物類。
昨夜のうちに下拵えはしていたのだろう。質素ながら一通りのものは揃った、こんなショボくれた集落にしては上等な食卓だ。
ルイズの腹が「くぎゅうううううう」と妙な音で鳴った。

改めて、テファが三人を彼らに紹介する。
「さ、お待たせみんな! この子はマツシタくんで、このお姉ちゃんたちはルイズさんとシエスタさんよ。
 トリステインから来たそうなの。神様と始祖に感謝して、一緒に朝食をいただきましょう!」

 「「「いっただきまーーーす」」」

挨拶も早々に、一同は一斉に食事を始めた。なんともはや、蜂の巣をつついたような騒がしさである。
それにしても、安心してまともな食事ができるなど、地獄巡りも含めて何日ぶりであろう。
ルイズは目じりに感涙を浮かべながら朝食をとる。ああ、この村こそ天国か楽園なのではなかろうか?

食事を終えて人心地ついたところで、テファへの質問を再開する。
「うむ、ご馳走さま。ところでテファ、見たところこの村には、きみの他には子供しかいないようだが……」
「ただの開拓集落なら、大人がいなけりゃ生活が成り立たないわよね。
 こんな森の奥に、あんただけで隠れて暮らすなら分かるけど」
テファは少し俯き、ぽつりぽつりと喋り出す。

「……この村は、孤児院なのよ。ここ何年も、アルビオンは戦争や飢饉や疫病が続いていてね。
 近隣の親を亡くした子供たちを引き取って、数年前からみんなで暮らしているの。
 子供たちは3人で一軒を与えられて生活しているけど、朝晩の食事はこの居間で取っているのよ。
 私は一応年長だし、ご飯や洗濯なんかの世話や、読み書き算盤を教えたりしているわ」

「お金はどうしているの? 食料とか、衣服とか」
「昔の知り合いの方が、ここを維持するのに必要なだけのお金は送ってくださるのよ。
 気心の知れた行商の人が来て、生活必需品は充分に賄っているわ。外界の情報も、それなりにね」
「ふぅむ、昔の知り合いね。貴族か聖職者か商人か知らないが、いい慈善家のようだな」
さっき子供らが言っていた、マチルダとかいう女性だろうか。一応タルブ伯領内にも救貧院や孤児院はあるが。
読み書きの教養があるテファはおそらく貴族の庶子か何かだろうし、これだけの生活を保障できるのは庶民では無理だ。

と、年長の子供たちが話を引き受けて続ける。

「へっ、それというのも世の中が麻のごとく乱れて、やたらと戦争ばかりしてっからだよ」
「しかも大人たちはてめぇらが生きるのにオロオロして、おいらたち不運なベビィには手を差し伸べてくれねぇんだ」
「差し伸べてくれたって、牛馬の代わりにコキ使いやがるのがせいぜいさ」
「今の政治はくさっている。いいえ、世の中が、世界がくさっているのよ、フハイしているのよ」
「そうだ、だからこそおれたちの幸福は、おれたち自らの手で作っていかなきゃならねぇ。
 商品作物となる野菜や果物も少ないながら作っているんだぜ。いずれ仕送りからも自立した経済を構築するさ」
「ここは孤児院なんて威勢の悪い場所じゃねぇ。自由・平等・博愛を建国の主旨とする健全な理想国家、『子供の国』だ!」

ばかに大人びた、ケッタイなほどたくましい子供たちであった。さすがに松下も苦笑する。
「ハハハ、大きく出たな」
「おうとも。おやつの芋の配給だって平等にして、力が強くても弱くても、一人につき一日一個と決めているんだ。
 平等に腹を空かせ平等に食べることで、我々の団結心は強まるのだ」
「弱い者に福祉を与え、物資や生産手段を共有し、共同で働くことによってこの国は成り立っているのだ。
 どうだい、真面目で立派な、素晴らしい政治だろう?」

どこの原始共産制社会だ。ルイズもシエスタも松下も、ぽかんと口をあけた。
「……マツシタ。あんた死ぬ前にこの森のあたりへ、なんかヤバい薬とか散布してないわよね?」
「いや、ぼくも驚いている。例の『白い粉』はまだ散布していないんだが」
「まだ?」
《信者の群れは、心を一つにし、思いを一つにして、だれひとりその持ち物を自分のものだと主張する者がなく、
 一切の物を共有にしていた。使徒たちは主イエスの復活について、非常に力強くあかしをした。
 そして大きな恵みが、彼ら一同に注がれた。彼らの中に乏しい者は、ひとりもいなかった。
 地所や家屋を持っている人たちはそれを売り、売った物の代金を持ってきて、使徒たちの足もとに置いた。
 そしてそれぞれの必要に応じて、誰にでも分け与えられた》
  (『原始教会』:新約聖書『使徒行伝』第四章より)


客人に生意気な口を利く子供たちを、テファが慌てて遮り、説明する。
「ご、ごめんなさいね、私がこういう思想を吹き込んでいるんじゃないのよ。
 何人かの子供たちは、最近『水平派』とか『平等派』とかいう、怪しい人たちと関わっているらしいの。
 まぁ言っていることはそんなに悪くはないけど、ほら、貴族やゲルマニア軍に知れたら危ない思想でしょう?
 ちょっと困っているのよねぇ……」

水平派、平等派か。たしかクロムウェルの共和革命に協力した団体で、兵士・市民・貧農が支持母体の左翼党派だ。
革命成立後は、共和政府の貴族や富裕市民らと対立して弾圧され、セクト化して野に下ったとか。
こういったユートピア的社会主義思想は、地球から持ち込まれずとも自然に発生するものなのであろう。

やがて、松下と年長組との思想論争が始まる。まぁ年少組は特に高尚な思想はなく、騒がしい普通の子供たちのようだが。
冬場はたいした農作業もないし、仕事と言っても屋内で紐や織物を作ったりする程度。
思いがけない外国からの来客は、この小さな村にとっては貴重な情報源かつ娯楽なのであった。
テファは笑いながら一行をもてなし、歌や踊りで歓迎会を開く。穏やかに時間が過ぎていく。

そこに、乞食であろうか……ボロ布を纏い荷物を背負った、不潔で貧相な男がやって来る。

「ふぇっくし! いやはや、見るからに景気の悪そうな村だこと……。
 ……おっ、意外にもナイスバディなお姉ちゃんがいるじゃないの! こんにちは、待ってました!」
時刻は昼下がり。納屋へ行こうとしたテファを見つけ、怪しい男は下品な笑顔を浮かべる。
「な、何の用ですか? あなた、お名前は?」
「ヒヒヒヒ、心配しないで。あたしゃあネ、かの有名なコシマキデザイナーのカルダンっていうものよ。
 ご存知ない? いやぁ、流行に遅れていらっしゃる。ガリアでもゲルマニアでも引っ張りだこなんだから。
 貴族の奥方にデザインしたコシマキがよかったっていうので、皇帝サマから勲章まで授かったのよ、ホラ見てコレ」

カルダンと名乗る男はテファに摺り寄り、背中の荷物からいろいろな布地を取り出した。どうも押し売りのようだ。
「どうこれ、桃色のコシマキよ。今年の新作デザインだぜ、これで下半身のお色気もばっちり! うひひひひ」
「あのぅ、済みませんが、今みんな忙しくって……それどころではありませんから。
 手持ちのお金も少ないし、こんな上等なコシマキは……」
「いやいやいや、今日はね、お代はけっこう。一緒に名刺置いとくから。
 お嬢さんの美貌と胸に免じて、ね、これプレゼント。またご贔屓にしてくれたらね、充分だから充分」
68名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 23:03:55 ID:F3mq51ml
支援
オロオロするテファに、強引に名刺とコシマキを押し付けるカルダン。そのうち子供たちが出てきて、彼に食って掛かる。
「こらーっ、お姉ちゃんから手を離せ!」「見るからに怪しいやつ!」「わるもの、不審者、変質者!」
子供たちは手に棍棒や石礫を握り、歓迎されざる闖入者を追い払おうとする。カルダンはびっくりして後ずさった。

「わあこら、諸君、ちょっとした誤解だよォ! 落ち着いてくれっ。
 おれはちっとも悪意はないんだ、海外の先進文化を伝えに来ただけなんだ。
 このデリケートなコシマキのミリキが分かればね、こんなしけた村も文化が向上してだ、大いに発展して……」
「うるせぇ! 貧乏人にものを欲しがらせるのは、商人の悪い癖だい」
「薄汚い資本主義者め、どうせこの村に害毒を撒き散らして、くさった社会にして私腹を肥やそうって考えだろ。
 うじ虫野郎、制裁を加えて国外に追放しちまえっ」
「な、なんかえらいところに営業に来ちまったみたい……あは、あはは」

武装した子供たちにじりじりと取り囲まれ、焦るカルダンの前に、救世主が現れた。
「おい、何の騒ぎだい……あッ、こいつは!?」
「きゃーーッ、このおぼっちゃまはッ!? あらら、お嬢様まで」
コシマキデザイナーのカルダンとは世を忍ぶ仮の名、その正体は、昔懐かし『ねずみ男』ではないか。
去年トリスタニアで店を構えていた頃、松下に酷い目に遭わされた彼は、冷や汗を流して激しく怯えた。

「なんだ、きみか。久しぶりじゃないか、よく生きていたな」
「え、えへへへへへ、ご機嫌うるわしゅう。意外なところで再会しやしたね。
 ねぇホラ、今はこの通り行商人をやっているんでして、なんにも怪しくなんかありませんから、ネ」
「きみァ、存在自体が怪しげじゃあないか。こないだは商品偽装をしていたし、今だって押し売りに来たのだろ」

テファたちは、珍客同士のつながりに驚く。
「マツシタくん、ルイズさん、この人と知り合いなの?」
「知り合いといえば知り合いだが、ま、ロクなやつじゃないな」
「そうね、さっさと追放した方がいいわ。でも、このまま逃がしたら危険かしら?
 私たちがこの村にいるって、ゲルマニア軍に知られたら……いっそ、埋めちゃう?」
「ヒイイ、あ、あの、命ばかりはッ」
ここはしょうがない、『最臭兵器』の出番か。ねずみ男は覚悟を決め、下腹に力を込めた!

「まぁ、なにも殺さなくてもいいだろう。『窮鼠猫を噛む』という諺もあるし、ぼかぁ無駄な殺生は嫌いだ。
 ついでだから、商品を提供してもらうか。命の代わりに、外界の情報を聞くとするよ」

心優しい松下の提案に、ねずみ男はホーッと安堵する。だがその息は子供たちの鼻を襲い、バタバタとなぎ倒した。
「うあっ」「げーっ」「ううう、おれぁ生まれてこのかた、こんな不快な臭いを嗅いだことがねぇ」
飛ぶ鳥どころか、ハエさえも落とす悪臭だ。包囲が遠巻きになり、殺気が増した。
「ちょっと煙で燻しておいた方がいいんじゃねぇか」「汚物は消毒すべきだよな」「火刑にしちまおうぜ」
「あ、いや、これはその、ちょっとした事故だよ、事故だってば」
70名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 23:05:47 ID:9I/Q1oGt
クリスマスに何やってんの?暇なの?バカなの?アホなの?童貞なの?ニートなの?
ともあれ、捕縛されたねずみ男は松下たちに尋問され、最新の国際情勢を話す。
あれから各地を放浪し、ゲルマニア軍に潜り込んでいたとのことで、かなり情報には通じていた。

アルビオン全土はゲルマニア軍に占領され、クロムウェルら革命政府の要人は宗教裁判ののち処刑。
トリステインはガリア・ゲルマニアに挟撃されるところだったが、ガリアでは反国王分子のクーデターが勃発。
シャルロット姫殿下率いる『オルレアン派』は空軍や地方都市を掌握し、首都リュティスでも異変が起きている様子。
ゲルマニア本国でも新教徒が蜂起して有力諸侯間の紛争が始まり、国外へ攻め入るどころではないらしい。
どうにかこうにか、トリステインは崩壊の危機を免れていたようである。

「―――ふうん、マツシタの予言がいちいち当たっているじゃない。でもシャルロット姫殿下って、生きていたの?」
「ああ、第六使徒のタバサがそうだったんだよ。うまくいったようだな。
 オルレアン派人脈と彼女の繋がりを強化するかわりに、ちょっと利用させてもらったのさ」
テファも目を丸くする。どうもこの客人たちは、本当にトリステイン王国の高級貴族らしい。

「あ、あなたの言っていたこと、本当なのね? マツシタくん」
「うむ、わかってくれたかい。まあ、きみらにはあまり迷惑をかけたくない。
 今夜一晩はベッドを借りるが、明日にはここを立たせてもらうよ。生き延びた仲間がぼくの命令を待っている」
そう言うと、松下はねずみ男の方へ振り返る。
「さて、こいつは逃がすとあとあと面倒だが、半分ネズミならこの『右手のルーン』で操れないかな」

ひらひらと顔の前で右手を振ってやると、ヒゲがピクピク動く。ちょっとは効き目がありそうだ。
商品偽装をされた時も、この『手』を使うべきだったかも知れない。
「え、こいつまで使徒にする気? 私はイヤよ、気持ち悪い」
「眠らせておくだけさ、半月ぐらい。クルクルクルのパーッと、ほら眠れ、ねずみ男」
指先をクルクル回して呪文を呟くと、ねずみ男はフニャッと寝入ってしまう。

……このアルビオンを、征服する。彼は確かにそう言った。
これは運命か、天佑か。テファは意を決し、松下たちに話を切り出した。
「あの、じゃあ今晩、私の話を聞いてくれる?
 私が何者で、なぜここに住んでいるのか、あなたたちに伝えておきたいの」


《三柱の神々をお連れしました。四柱目の方は来ようとなさいません。
 その神様は、自分こそ本当の神で、他の三神に代わって裁量すると仰せられます》
  (ゲーテ作『ファウスト』第二部第二幕より)


(つづく)
72松下:2008/12/24(水) 23:08:18 ID:KU26Rkqe
投下終了、支援感謝。どうも話が進みませんが、まあ気長にやりますよ。
それでは皆様、よいお年を。
73名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 23:10:17 ID:htB4U9D5
乙した。よいお年を。
74名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 23:15:41 ID:NQVGpULk
投下乙
クリスマスイヴに投下だなんて、あの雷影様、黙ってませんね
犠牲になったのだ……。リア充の犠牲にな……。
ちょっとまてよ!
なんです!?
キー!
75名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 23:30:50 ID:PsaPW6+J
めりーくるしみます乙
76名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 23:35:37 ID:MsHiZqJv
森の子供たちが水木顔でイメージされて困るw
77名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 23:51:57 ID:lkiC23By
ttp://nov.2chan.net/y/src/1230123588740.jpg
メリークリスマス!
あの偉大な使い魔も祝福してるぜ!
78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/24(水) 23:55:19 ID:LVqaSubJ
      マラステル・マギ
何というご立派な魔法使いwwww
79名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 00:00:41 ID:Uu89kw9d
454 名前:未来の大魔女候補2人 第12話 後編 ◆kjjFwxYIok[sage] 投稿日:2008/12/24(水) 21:43:26 ID:m19ly.3.
規制解除からたった2日でまた規制発動とかふざけてんのか。全く……
そういうわけで、アクセス規制に巻き込まれましたので、何方か代理投下をお願い致します。

00:05ごろから代理投下します。
もしかしたら自分も引っかかるかもしれないので
そのときは代理の代理をお願いします。
80名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 00:00:48 ID:3bspQU2c
この気持ちをどうやって伝えればよいのだろうか
81名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 00:01:25 ID:3bspQU2c
支援
            未来の大魔女候補2人 〜Judy & Louise〜

            第12話‐後編‐ 『サイトの冒険前夜』




 既に昼休みが終わる予鈴は鳴り響き、授業が始まるまで幾許の猶予もない。
 中庭からは、講義室へと急ぐ生徒達の姿が多くみられる。
 そんな中、本塔へと続く道を歩いていく生徒の姿があった。
 背の高い赤髪の少女と背の低い蒼髪の少女が肩を並べ、3人の中では一番背の高い金髪の少年がその後に続く。
 いわずもがな、その3人とはキュルケとタバサ、そしてギーシュだ。
 周りが急ぐ中、3人は呑気にゆっくりと本塔を目指す。

「……なぜ?」

 唐突にタバサは立ち止まると、前置きもなしに口を開いた。
 キュルケはタバサよりも数歩進んでから立ち止まると、驚いた様子もなくごく自然に振り返ると、肩を竦めて訊ね返す。

「少し強引だったかしら?」
「…………」

 タバサが無言で頷く。
 それを見ると、キュルケは腰に軽く手を当て、分かっていないと言うようにもう人差し指を軽く振る。

「でもね、それくらいが丁度いいのよ。
 あの2人ったら仲が良いように見えて、どこか遠慮してる所があるみたいだからね。
 そりゃあ、ジュディが良い子なのは分かってるけど、まだ子供なんだから小さく纏まってちゃダメね。悪い事を教えてあげなくちゃ」
「……彼については?」

 含み笑いを浮かべるキュルケに一先ず頷くと、タバサはさらに問う。
 すると、キュルケは顎に軽く手を当てて少し考えた後、おもむろに語りだした。

「そうね…… 一言でいうと、興味が湧いたからかしらね。
 あの平気で貴族に意見する度胸。気になるわ。
 何か自信があるのか、それとも……」

 確かに、サイトの貴族に対する態度は普通ではない。
 もしあの場に、血の気の多い者でもいたなら、サイトはタダでは済まなかっただろう。
 しかし、タバサには何か考えがあっての行動とは、とても思えなかった。
 ゆえに、簡潔に結論を述べる。

「向こう見ずなだけ」
「そうかもね。でも、違うかもしれないじゃない?
 それを確かめるためにも、連れていくのよ。 ……荷物持ちもほしいしね」
「……分かった」

 何時もの病気が始まったのでは、何を言っても無駄だ。だが、どうせすぐに、事の正否は出るのだから構わないだろう。
 少し諦めの感情を滲ませてタバサは頷いた。
 質問はそれだけだったので、タバサは正面へと向き直った。本塔を見上げる。
 既に一行は、本塔の入口へと辿り着いていた。後は、長い長い階段を上れば学院長室だ。
 一歩を踏み出そうとしたところで、今まで沈黙を保っていたギーシュが大声をあげた。
「まったまった! 待ちたまえよ!」
「? 何よギーシュ?」
「…………」

 キュルケが面倒臭そうに振り向いた。
 タバサとしては、無視して先を急ぎたかったのだが、1人で行くわけにもいかないので、しょうがなしに立ち止まった。
 そのついでに、眼鏡の奥から非難めいた視線をギーシュへ送る。

「どうして会話が成り立ってるんだよ! 傍から聞いてたら、何が何だか分からないよ!」

 タバサは、どうでも良いような事を大声でまくし立てるギーシュを疎ましく思うが、口には出さない。表情には出しているのだが、傍目には分からない。
 キュルケは意味が分からないというように、キョトンとした表情で髪をかきあげながら問い返す。

「なに言ってるのよ、変な人ね?
 目の動きとか、仕草、さっきまでのやり取りを考えれば、タバサが何を聞きたいのかは分かって当然でしょう?」
「いや、それはない」

 ギーシュは即座に手を振って否定するが、キュルケは聞く耳を持たず、呆れた様な口調で続ける。

「注意力散漫ね。それよりも、どうして宝探しなんてしたいと思ったのよ?」
「い、言っただろう? 宝探しは男のロマンだと」

 ギーシュは薔薇の造花の香りを嗅ぐ仕草をして余裕を表すが、動揺している事はタバサの眼には一目瞭然であった。頬には冷や汗を垂らし、声は少し震えている。
 さらに言うならば、手に持った薔薇の造花が細かく揺らいでいた。
 キュルケもそんな事などお見通しのようで、更に問い詰める。

「嘘ね、正直におっしゃいな。どうして、宝探しに行きたいの?」
「いや、だから……」
「理由はモンモランシー?」
「うっ……」

 ギーシュの言い訳など聞く耳も持たず、キュルケはモンモランシーの名前を出した。
 すると、ギーシュはあからさまに言葉に詰まり、うろたえる。誰に目にも、図星を指されたのは明白であった。

「本当に分かりやすいわね。どうせ、モンモランシーのプレゼントを買うのが理由なんでしょう?」
「うぅ……」

 ギーシュは固い面持ちで俯き、歯の隙間から呻き声を漏らす。それが、今のギーシュに出来る唯一の反抗だ。
 だが、キュルケは一切の手心を加えず、からかう様な声で告げる。
「知ってるんだから。昨日の舞踏会でモンモランシーと喧嘩したのを」
「……本当に底意地の悪い女だな君は。そこまで分かっておきながら、僕に言わせようとするんだからな……
 ああ、そうだよ! 昨日、モンモランシーと喧嘩したよ!
 彼女の機嫌を直すために何かプレゼントしたいけど、お金がないから宝探しなんていう胡散臭い手段に飛びついたのさ!
 さあ、笑うがいいさ、この愚かな僕を! その冷たい眼で嘲笑うがいいさ!」

 とうとう、ギーシュは我慢の限界を超えた。隠すのをやめて、洗い浚いをぶちまける。
 開き直ったその態度は、見苦しいを通り越して、いっそ清々しいようにも思えた。
 流石にやり過ぎたと感じたのか、キュルケは苦笑いを浮かべながらギーシュを宥める。

「まあまあ、落ち着きなさいよ。喧嘩の原因は何なのよ?」

 ギーシュは涙目でキュルケを睨みつけてから、ぽつぽつと話し出した。

「……昨日は『フリッグの舞踏会』だっただろう?
 だから僕は、何か記念になるように、モンモランシーにオパールの指輪を贈ったんだ」
「それで?」
「ところが、彼女はオパールが大嫌いらしくて叩き返されたよ。それ以来、口を利いてくれやしない……」

 ギーシュはガックリと肩を落として項垂れる。
 気の毒だとは思うが所詮は他人事なので、キュルケは素っ気なく相槌を打つ。

「なんとも理不尽な話ね」
「そう思うだろう? でもまさか、彼女があそこまでオパールが嫌いだとは思わなかったよ」
「まあ、元気出しなさいよ。生暖かく見守っててあげるわ」
「うう…… 人の情けが身に沁みるなぁ……」

 同情の様なものをしてくれるキュルケにギーシュは涙する。
 キュルケはそんなギーシュを無視すると、本塔の入口に向き直った。

「さあ、とっとと許可貰って、授業をさぼって明日の準備をするわよ!」
「……反面教師」

 待ちくたびれていたタバサは、一言感想を述べてから一歩前へ踏み出した。
 ◆◇◆



 夜のアルヴィーズの食堂。既に夕食は終わり、食堂には使用人の姿しかない。
 エプロンドレスを身につけたメイド達が掃除用具を手に、隅から隅まで清掃をしている。
 食堂の裏側、多くの料理人が食材と格闘し、日々料理を提供している場所、厨房。
 そこでは、コック長のマルトー以下数名が、明日の下準備をおこなっていた。
 本来ならば、下準備をするのは部下の仕事だ。
 しかし、マルトーは、重要な部分、特にスープの仕込みにはこだわりを持ち、決して他人には任せようとはしなかった。
 マルトーは、水を張ったボウルと玉杓子を手に寸胴の前に陣取り、肉や野菜をふつふつと煮込み、徹底的に灰汁を取り除いている。
 険しい顔でその作業に従事するマルトーに声をかけられるものは少ない。
 なぜならば、この時のマルトーは非常に神経質になり、少しでも機嫌を損ねたならば容赦なしに鉄拳を飛ばすからである。
 それを恐れて、殆どの者は声をかけられないのだ。たとえ、声をかける者があっても、その者は非常に簡潔に会話を終わらせるであろう。
 で、あるからして、サイトが恐る恐る声をかけるのも無理はないのだ。

「あのー… マルトーの親方、少しお時間良いですか?」
「ああんっ!?」

 ギョロリとした目を向けられたサイトは、反射的に頭を下げる。

「ひっ! ごめんなさいごめんなさい!」

 平謝りに謝るサイトを横目で見ると、マルトーはさも不機嫌にそうに舌打ちをした。
 マルトーとしては、怖がらせる意思はないのだが、この時ばかりは気が立ってしょうがない。

「ちっ! 邪魔するんなら話し掛けるんじゃねえよ」
「いや…… 用事ならあるんですけど…… 聞いていただけます?」
「謙るんじゃねえよ。次、そんな態度とったらぶっ飛ばすぞ。
 ……短く済ませな」

 ペコペコと低姿勢に頭を下げるサイトを見て、マルトーは不機嫌に鼻を鳴らす。
 何時もならば、気楽な態度しか見せないサイトがそんな態度を取ると、機嫌を窺っているのがまるわかりで不愉快になる。
 サイトに評価出来る所があるとすれば、それは貴族相手に媚びた態度をとらないことだろう。
 その一点のみで、マルトーはサイトを気に入っていた。口先だけならば何とでも言えるが、サイトの様に態度に表せる者はそう多くない。
 とはいえ、それをサイトに言ったことはない。言ったならば、調子に乗るのは明白だ。マルトーには、その光景がアリアリと目に浮かぶ。
 そんなサイトが、上司であるとはいえ、自分に卑下た態度をとる事は、マルトーには我慢ならないのだ。不機嫌な顔を崩さないまま、ぶっきらぼうに先を促す。

「えっ? あっと……」
「ちっ…… 早くしねぇか!」

 間誤付くサイトだが、マルトーに怒鳴られると背筋を伸ばして声を張る。

「は、はいぃ! 宝探しに行きたいので休みを下さい。以上でっす!」
「……な・ん・だ・と?」

 それまで視線だけを向けていたマルトーは、顔ごとサイトに向き直り用件を聞き返す。
 額には青筋が走り、眉間には深い皺を寄せて鋭い眼光でサイトを睨む。

「もう一度言ってみろ? 何処に行くだと?」
「で、ですから、宝探しに……」
「馬鹿野郎がっ!」
そう言うや否や、マルトーはサイトを殴り飛ばす。サイトは後方にすっ飛び、調理台に叩きつけられた。
 サイトが叩きつけられた拍子に、下拵えした食材が宙を舞うが、料理人たちは慌てず慣れた手つきでキャッチする。
 マルトーはサイトを一瞥した後、再び寸胴へと向き直り、手を止めずに言い放つ。

「宝探しだぁ〜? 馬鹿も休み休み言え! 雑用も満足にこなせないくせに、ナマ言ってんじゃねぇ!」
「げふぉっ…… ずびばぜん」

 鼻血を拭いながらサイトは謝る。もしかしたら、奥歯も折れているかもしれなかったが、マルトーは心配する気も起らなかった。
 何のために休日願いに来たのかと思ったら、宝探しときたもんだ。これでは、誰でも怒って当然だろう。
 今度ばかりはマルトーも愛想が尽き、本気で拳を振るったのであった。
 寸胴へと向き直りながら、怒りをにじませた声でサイトをなじる。

「ふんっ、頭を冷やすんだな!
 大体、何処を如何したらそんな馬鹿な考えが出てくる?
 テメェの頭の中には大鋸屑でも詰まってんのか? ええっ!?」
「い、いや、誘われて……」

 サイトは殴られた部位をおさえてフラフラと立ち上がると、しどろもどろに言い訳をする。
 そんなサイトを胡乱な眼で見つめてから、マルトーは問い返した。

「誘われたぁ? 誰にだ? 使用人連中じゃねぇな。そんな暇がある奴はいねぇ……
 まさか貴族か、貴族なんだな!?」
「そ、そうです」

 マルトーが自問自答で導き出した答えに、サイトは躊躇いがちに頷いた。
 それを見るや否や、マルトーは腕まくりをし、獰猛に歯を剥く。

「どの貴族だ? 俺がナシつけてきてやる。貴族の道楽なんかにゃ付き合う必要はねぇ!」
「え? えっと……」

 マルトーは顔を真っ赤にして怒鳴る。
 味噌っかすとはいえ、サイトは自分の部下である。
 部下を守るのが上司である自分の役目であるし、そしてなによりも、平民がふざけた貴族の玩具にされる事など我慢がならないマルトーであった。
 マルトーは人目を憚らずに憤慨し、まだ見ぬ貴族に敵愾心を剥き出しにする。
 その一方で、サイトの表情には焦りが滲んでいた。

『しまった! そういや、名前覚えてないや…… ジュディの名前を出すと迷惑かけそうだし……
 たしか、チュロス? 違う、シチュー? いや、タバスコでもなくて…… ええと……』

 口を噤むサイトをマルトーは訝み、ドスの利いた声で訊ねる。

「どうした? 言えねぇのか?」
「いや、えっと…… ジュディ……ちゃんです」
「なんだと?」
「マ、マ、マルトーさん。お願いですから、出来るだけ穏便に……」

 貴族と聞いて完全に頭に血がのぼっていたマルトーであったが、サイトが口にした名前を聞いた途端、握っていた拳を解く。
 暫くサイトを睨みつけた後、再び寸胴へと向き直る。そして、灰汁を掬い取りながら、ポツリと呟いた。

「……行ってきな」
「えっ?」
「聞こえなかったのか! テメェみてぇな案山子頭は、何処にでも行ってこいって言ったんだ!」
「えっ、でも、さっきは……」

 サイトの血の巡りの悪さにマルトーは呆れ、苛立った目つきで睨み、怒鳴りつける。

「まだ殴られ足りねぇのか!?」
「い、いえ…… ありがとうございます!」
 
 また殴られては堪らないサイトは、背筋を伸ばして最敬礼をとる。
 暫しその姿勢で固まった後、恐る恐るといった具合で理由を問う。

「……でも、どうしてですか?」
「あの子について行くんなら、ついて行くと早く言いやがれ!」
「はぁ…… どうしてです?」
「あの子の事は、学院長からも宜しく頼まれてる。
 それに、聞けば遠くから来て帰れなくなったとかいう話じゃねぇか。」
「でも、親方って貴族が嫌いじゃありませんでしたか?」

 マルトーの貴族嫌いは周知の事実である。
 それなのに、ジュディを気にかけ、あまつさえ同情めいた事まで口にするのだ。
 サイトはその態度が信じられず、心底不思議な目でマルトーを見つめる。
 だが、マルトーは、その視線が気に食わず、荒々しく鼻を鳴らす。

「ああ、嫌いだね。
 威張り散らして平民を虐める奴は最悪だし、そうじゃなくても好きになることなんてあり得んな」
「じゃあ、なんで?」
「分からねぇか? 俺は貴族は嫌いだが、人格者の老人や素直な子供は嫌いじゃない。
 それに、テメェはあの子に仕事まで手伝ってもらってるじゃねぇか。大方今回の事も、無理矢理ついて行きたいとか言ったんじゃねぇのか?」
「ばれてるし!」
「……やっぱりな」

 鎌をかけると直ぐに馬脚をあらわしたサイトを見て、マルトーは頭を振った。
 この単純さは少年の美徳でもあり、欠点でもある。
 ゆくゆく矯正しなければ、取り返しのつかない事態が起こるのではないかと、マルトーは他人事ながらに心配になる。
 マルトーは内心頭を抱えるが、そんな素振りなど微塵も見せずに、サイトの尻を蹴っ飛ばす。

「ふんっ、とっとと行きな!
 朝の水汲みだけはして行けよ。わかったな!」
「はい、ありがとうございました!」

 バタバタと足音を立てて慌ただしくサイトが出て行くと、漸く厨房は静寂を取り戻した。

「……ふん、やっと行ったか」

 やれやれといった具合に呟いてから、マルトーはスープの仕込みに戻る。
 長い時間をかけて丹念に灰汁を取り除かなくては、黄金のスープは生まれない。
 サイトのお陰で手間取ってしまったが、まだ取り戻せる範囲内だ。マルトーは黙々と灰汁を取り続ける。

『さて、明日からは雑用が居ないとなると、少し面倒だな……
 あんな奴でも、居なくなると予定が狂いやがる。厄介なこった。
 しかし、宝探しに行くとか言ってたな。そんなもんが見つかるとは思えねぇが、もし見つかったとしたら、サイトには何か奢らせねぇとな……』
 手を動かし続けながらマルトーは、取り留めもなく考える。
 そうしていると、マルトーは誰かが静かに近寄ってくる気配を感じ、一瞬手を止めた。
 2人目の来訪者の存在に、マルトーは1人心中で苦笑する。

「あの…… マルトーさん」
「うん?」

 振り向くと、そこにはメイドのシエスタがいた。
 シエスタは俯き加減で佇み、胸元では忙しなく手を動かしている。

「うん? どうしたシエスタ?」

 どちらかというと、大人しい部類に入るシエスタが自ら話しかけてくるなど、珍しい事もあったものだ。
 そう考えながら、マルトーは目配せをして先を促す。

「あ…… えっと……」
「どうした? 何かあったのか?」

 中々言い出そうとしなかったシエスタだが、マルトーが水を向けると、ようやく決心したのか顔を上げる。
 シエスタは澄んだ瞳でマルトーを見据えると、意を決して言葉を紡ぎ出した。

「あの、折り入ってお願いがあるのですが……」



 ・
 ・
 ・



 今回の成長。

  ルイズは、立ち直りL1を破棄して身のこなしL2のスキルパネルを手に入れました。
  ジュディは、適応能力がL2に成長しました。
  魔道板を読み解き、『ライフブースト』を習得しました。


 第12話 -了-


ーーー
89代理:2008/12/25(木) 00:12:52 ID:Uu89kw9d
 3/7と5/7を少しミスってしまいましたが、内容に間違いはありません。
 第12話投下完了。

 ルイズはアルビオンにお使いに、ジュディは宝探しに出かけましたとさ。

 つーわけで、2人が合流することはありません。
 書き方としては前編がルイズ、後編がジュディという具合で同時進行していく予定です。

 今年の投下はこれが最後、次の投下は1月の公判を予定しています。
 それでは、代理投下の方、よろしくお願い致します。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

以上代理投下終了いたしました。
90名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 00:17:10 ID:lAdZQ3iH
作者さんも代理さんも乙
91名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 01:13:54 ID:LhUAMVJm
マーダーライセンス牙から、牙と板垣総理を召喚しません!
92日本一の使い魔 ◆HP5Bl9FFh6 :2008/12/25(木) 01:16:18 ID:vKgjZFHb
作者の皆様、読者の皆様乙です。
予約入っていますか?入っていないようでしたら1:20位に投下したいのですが
93日本一の使い魔 ◆HP5Bl9FFh6 :2008/12/25(木) 01:19:10 ID:vKgjZFHb
早川「今日は何の日か知ってるかい?街じゃ赤い服来た人が人気って言うじゃないか?
    そうさクリスマスってのは ズバットの日 さ」


それでは投下始めます。
94日本一の使い魔 9話 ◆HP5Bl9FFh6 :2008/12/25(木) 01:20:49 ID:vKgjZFHb
「ええ、何ででしょか?自分でも解らないのですが、そうしなくてはって使命感がありました。」
と紙芝居屋のイチーロ・ミーズキ氏は語る。
「彼は何か私に閃きをくれました。彼をもっと知りたいと思います。ゼェェェェット!」

突如現れたヒーローに街が賑わっている頃、二人は買い物をしている。
「ねぇ、ケンは変身しないと戦えないの?普段のケンでも十分のような気もするんだけど」
「俺は、飛鳥と一緒に戦っているんだ。飛鳥の意思、俺の意思、二つの意思で戦うんだ。」
本来、早川は生身で銃弾を鞭で叩き落としたりしているのだが、普段だって飛んでくる矢を箸で
つかんだり出来る位のハイスペックである。
早川は少し考えた後、
「ヒーローというものは格好がいいことが第一条件なんです。ヒーローは傷ついていた方が
かっこいいからな。」
と言うがルイズは
「傷ついてないし!しかも、ヒーロー物と言えばこの人って言われる俳優のようなセリフは!
相手ボコボコだし!ズバッカー登場だけだし!むしろ突っ込みどころ多すぎて
何から突っ込んでいいか解らない位だし!ゼエゼエ……」
と誰しもが思う所を、とうとう言ってしまう。しかし早川は、
「次はどこに行くんだい?ご婦人の買い物は長くて困るよ」
と華麗にスルーを決め込む。

ルイズ達が次の買い物をしようと移動していると、さっきの騒ぎを見ていた子供達だろう、
停まっている馬車の上から飛び降り
「ずばっと!あたーーーーーっく!」
と真似をしている。バランスを崩し転落しようとする子供を早川はサッっと抱きかかえ、こう諭す。
「ズバットは変身しているから無事なんだぞ、だから危ないから真似しちゃダメだ。」
何かを考えるルイズ、そして思いつく。
「変身、変身……そうだ!ケン。あんたに武器を買ってあげるわ!そうと決まれば行くわよ!」
なぜそうなるのかは解らないが武器を買いに行く事になる。
肩をすくめる早川。
「だってあんたは、変身前の武器持って無いでしょ?あんたの変身するまでの流れ疲れるのよ。
そりゃー読者の皆様は喜ぶかもしれないけど、話考える内の8割が登場シーンのアイデアってどう言う事よ!
って私、後半何言ってるんだろ?忘れて頂戴。とにかく武器を買いに行くの!ほら行くわよ!」
95名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 01:21:34 ID:+blJgFg2
アランのお腹のことは忘れてあげて!!支援
96日本一の使い魔 9話 ◆HP5Bl9FFh6 :2008/12/25(木) 01:22:55 ID:vKgjZFHb
 
一方その頃、早川達を追ってきたキュルケ、タバサの二人はというと。
「ケン達こっちに来ているのは間違い無さそうね」
街の人間達が、赤い服の男が札付きのワルを退治したとの話が耳に入る。
子供達がズバットについて話をしているので、二人の特徴を伝え行き先を聞いてみる。
「ねぇ僕たち、ここを桃髪のツルペタお姉さんと、こんな格好のお兄さん見なかった?」
「ああ、武器を買いに行くって行ってたよ」
「そう、ありがと。じゃあね。タバサ行きましょ」


武器屋に到着したルイズと早川はというと
「ねえケン。あんた、どんなのだったら使える?」
早川に対し質問するが、愚問である。なぜなら何でも使えるからである。
「どんなのって言ってもねぇ」
おおもむろに剣を取り華麗な演舞を舞う。おもむろに槍をとると華麗に使いこなす。
早川は武器を握ると体が軽くなる事を感じる。本来は武器の使い方も解るはずなのだが、
元々何でも完璧にこなすので体の変調しか気が付かない。
「(武器を握ると体が軽くなる、力も強くなってるな)」
「何でもござれで」
唖然とする二人。すると店の片隅から声がする
「おうおう、武器ってのは踊りに使うもんじゃねーぞ」
「喋ってたのはあんたかい?」
早川は乱雑に積み上げられた剣の方へ歩み、その中から一振りの薄手の長剣を取り出す。
刀身の表面には錆びが浮き、お世辞にも見栄えが良いとはいい難い。
「おうよ……っておでれーた。おめえ『使い手』か」
「それって、インテリジェンスソード?」
「そうでさ、若奥様。意志を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。
 いったい何処の魔術師が始めたんでしょうかねえ、剣を喋らせるなんて趣味の悪い」
感心する早川。
「俺作られてから長い事経つが、また『使い手』の手に握られるなんて思わなかったぜ」
「その『使い手』ってのはなんだい?」
「まぁ、あれだアレ!あれだよ……って忘れちまった。まぁいい。俺を買え。そのうち思い出すだろ」
「たしかに、お前さんを握ってると力が沸くっていうのかな。ルイズこの剣にするよ」
あきらかに不満そうなルイズ。
「そんなボロっちいののどこがいいのよ?」
「やい、貴族の娘っ子。俺っちは魔剣デルフリンガー様よ。ボロっちいとは何だ。」
「はいはい、ケンが言うから仕方なく買うけど」
早川はデルフリンガーに向かい
「俺は早川健。よろしくな」
「おうよ。相棒」
97日本一の使い魔 9話 ◆HP5Bl9FFh6 :2008/12/25(木) 01:24:38 ID:vKgjZFHb
 
二人とは入れ違いに武器屋に入ってくるキュルケとタバサ。ここにルイズとケンが来ていないかと
尋ねると、投売りの剣を一振り買ったという。
「ふーん。ヴァリエール家はセコイわね。私はもっといい物を……」
「もし、若奥様。もしかして、あのお付きの方に贈るつもりで?」
「そうよ。それがどうしたの?」
「これなんかいかがです?」
店主が薦める剣は見事で、一・五メイル位の大剣だった。柄は長く両手で扱う剣であろう、
立派な拵えで、装飾も見事だった。所々に宝石が散りばめられ、刀身が光っている。
更に店主は
「何せこいつを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの魔術師シュペー卿で、魔法がかかってるから
鉄だって一刀両断でさ。ほら、ここにシュペー卿その名が。こいつはいい品ですぜ」
剣の見た目、しかもその剣がゲルマニア産と言う事で買う事にした。
「まぁ、あの旦那でしたらその剣も難なく扱えるでしょうがね。毎度あり」
「ダーリンは何でもニホンで一番らしいわ」
「へぇー。ニホンってのは良く解りませんが、ウチの商品を全部器用に扱ってましたからね」
今まで黙っていたタバサだが
「そんな人が投売りの剣を買った。気になる……」
「ただヴァリエールがケチなだけよ。さぁこれでダーリンは私にメロメロよ」


98日本一の使い魔 ◆HP5Bl9FFh6 :2008/12/25(木) 01:25:20 ID:vKgjZFHb
以上です。お目汚し失礼しました。
99名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 01:29:26 ID:cAzox08N
>>94
なんというアニキな紙芝居屋w
100名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 01:29:38 ID:p5F4pKj2
日本一乙!!
ルイズが楽屋ネタ披露してたのには笑えたww
後期の探偵物語の工藤ちゃんかよ!!
続きをwktkしながら待ってるぜw
101名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 01:29:51 ID:/PnZO3n/
日本一の人、乙ー
102名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 01:35:56 ID:a9gU4M7I
日本一の人、乙です。
ルイズが語る、「話考える内の8割が登場シーンのアイデア」
には、涙を禁じえません。ううっ。
103ゼロの黒魔道士20 代理:2008/12/25(木) 01:41:35 ID:DliuUu8w
酒場って、色んな情報が聞けたりするから、
旅の基本であり、町に来たらまず行けって聞いたことがあるんだ。
……確かに、色んな情報は聞けるんだけど……
「きゅ、キュルケおねえちゃん、やめてよぉ……」
「いいじゃないのよぉ〜!キュルケおねえちゃん嫌い?ね、ビビちゃんはどんな子が好きなのよぉ〜♪」
……こんな情報を問いただされるとは思わなかったなぁ……


―ゼロの黒魔道士―
〜第二十幕〜  眠らない港町 ラ・ローシェル


ラ・ローシェルは山の中にある港町なんだ。
(飛空挺の港、なのかなぁ?)
岩を削って作ったってルイズおねえちゃんが自慢してたけど、
ここまで大きな町を作るって確かにすごいなぁって思う。

「残念ながら、明後日まで船は出ないそうだ」
お買い物をしながら情報収集をしていると、
(分かったのは、アルビオンの料理はそんなに美味しくないっていうこと、
 アルビオンの王党派はもう虫の息っていうこと、
 あと、武器やアビリティは装備しないと意味が……ってこれは情報収集の内に入るのかなぁ?
 買い物は、携帯用の食料を幾つか買いにいったんだけど、
 ルイズおねえちゃんが甘い物をばっかり選ぼうとしたり、
 タバサおねえちゃんが持ち切れないほど大量に買おうとしたり……結局決まらなかったんだ)
ワルドおじさんが船員さん達から運行情報を聞いてきたんだ。
「そんな!急いでいるのに!」
ルイズおねえちゃんが焦っているのがよく分かった。
王党派が危ないってう情報ばっかりだから、ボクも焦ってくる。
「何故明後日なんですの?」
「スヴェルの夜」
「なかなか鋭いね、タバサ君。そう、アルビオンは月が重なるスヴェルの翌日の朝、に最も接近するのでね。風石の節約のためにも飛ぶ時期は決められてくる、といわけだよ」
……接近する?動くの?アルビオンって?
「そうそう、そういうわけだよ、分かったかい?キュルケ君」
「いやなんであんたが威張ってんのよ、ギーシュ」
「あーもう!こんな所で足止めだなんて!」
「ルイズおねえちゃん……船が出ないなら、しょうがないよ。とりあえず、落ち着こうよ?」
とは言うものの、ボクもすごく心配になってくるんだ……
お姫様の手紙……無事だといいけど……
104ゼロの黒魔道士20 代理:2008/12/25(木) 01:42:40 ID:DliuUu8w
「なんとか、3部屋確保できたよ」
今日は疲れてるし、あと何日かは身動きが取れない。
ということで、女神の杵亭っていう宿屋さんに泊まることになったんだ。
結構高そうなお宿だけど、貴族の人たちって本当にお金持ちなんだなぁと思う。
「キュルケ君とタバサ君、ギーシュ君とビビ君、そして僕とルイズ、このような部屋割りでいいかな?」
ワルドおじさんが鍵束を渡しながらそう言う。
「な!?わ、ワルド!私たちまだ結婚前なのにそんな!?」
? ルイズおねえちゃん、なんでそんなに慌ててるんだろう?
「大事な話があるんだ。二人っきりになりたい」
ルイズおねえちゃん、顔がすっごく真赤になってるけど……大丈夫かなぁ?

「ずばり、告白ね!全く、ルイズったらあんな男をキープしてるなんてねぇ」
夕食の後、ルイズおねえちゃんとワルドおじさんは部屋にすぐ戻っちゃって、
残りのみんなでそのまま酒場で過ごしてたんだ。
告白……?婚約してるけど、やっぱり告白とかあるんだ……
「なんで分かるの、キュルケおねえちゃん?」
「フフフフフ!いい女はね、こういう匂いには敏感なものよ!でもまぁ、あの二人、まだくっつくのには時間がかかるわね〜」
ワイングラスをくるくる回しながらキュルケおねえちゃんが分析する。
「? なんで?」
「自信不足と強引すぎる相手」
「ビンゴ!何よ、タバサ、案外こういうこと、きっちり分かってるんじゃない!」
「ただの勘」
「えっと、結局、どういうことなんだい?僕には話が見えないんだが……」
どうも、状況が分かっていないのはボクとギーシュだけみたいだ。
こういう話って、女の人の方が強いのかなぁ?エーコとか……
「っはぁ〜、そんなんで薔薇を名乗ってるわけ、ギーシュ?」
「う  ま、まぁいいじゃないか!後学のために聞かせておくれよ!」
「う〜ん――ま、いいでしょ、『キュルケおねえさんの恋愛講座』の開講ね!耳をかっぽじってよくお聞きなさい!」
新しいワインボトルの栓を抜きながら、キュルケおねえちゃんの授業がはじまったんだ。

「――つ・ま・り!ルイズは胸も魔法も徹底的に不足していて、自分を過小評価してるってわけよ!磨けばそこそこ光りそうなのにねぇ」
……ワインのボトルが何本か空いたころ、キュルケおねえちゃんの話がやっと本題に入ったんだ。
ちなみに、さっきまでは『いい女とは』とか、
『トリステインの男の見る目はザルだ』とか、
『大体、見合なんて邪道よ、邪道!恋愛とはもっとドラマチックかつロマンチックに――』とか色々言ってたけど、
ボクにはちんぷんかんぷんだったんだ……うーん、恋愛って、難しそうだなぁ……
「で、それと『強引すぎる相手』というのはどう繋がるんだい?」
「ギ〜シュ〜、あんた、ホンットダメダメね〜!ようはね、自分に自信が無い、けどプライドはやたら高い、そんな女の子を無理やり引っ張ろうとしても、相手が困るだけってこと!」
「そういうものかい?ん〜、大体、ワルド子爵はそこまで強引には――」
「いや、今日の態度を見てて分かったけど、あれは何か焦ってるわね!焦りすぎて周りがちっとも見えていないわよ。見た目はいいけど、やっぱり所詮トリステインの男ねぇ――留学、失敗だったかしら」
……キュルケおねえちゃん、色々観察してるんだなぁ……
そんなキュルケおねえちゃんが、さっきルイズおねえちゃんを、『磨けば光る』って言ってくれてるんだし、
ルイズおねえちゃんももっと自信をもっていいと思うんだけどなぁ……
「いやいや、トリステインの男もそう捨てたものでは――」
「あら、私はあんたと寝るぐらいなら――」
突然キュルケおねえちゃんにギュッと抱きしめられたんだ。
「え、ちょ、きゅ、キュルケおねえちゃん?」
「ビビちゃんを抱き枕にして寝た方がいいわ♪ん〜、相変わらずかわい〜♪」
105名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 01:43:11 ID:DliuUu8w
う、ちょっとキュルケおねえちゃんお酒臭い……酔っ払っちゃった?
「きゅ、キュルケおねえちゃん〜……」
「ねぇねぇ、ビビちゃん、好きな子とか、いる?」
「え」
な、何を突然聞いてるの?
「い、いないけど?ど、どうして?」
なんだろう、この変な感じ……タバサおねえちゃんもずっと読んでた本を置いてこっちを見てるし……
「ふ〜ん、女子寮に住んでて、可愛いおねえさん達に囲まれてるのに、ねぇ?」
妙な迫力が、妙な圧力がボクにかかってくる……ど、どうしたらいいんだろう……
「全くだ!僕と代わってほしいぐらいだよ!」
「ギーシュ、あんたはしょっちゅう夜這いしてるじゃない」
「な!?なんでそんなことを!?」
「乙女の耳は地獄耳〜♪なんちゃって♪あはは♪」
キュルケおねえちゃん、本格的に酔っ払ってきてるなぁ……
「じゃぁね、じゃぁね、ビビちゃん♪――好きな子のタイプは?」
「え」
さらなる圧力がボクにかかる……ベヒーモスよりも重そうな圧力が……
抱きしめる力もそれと一緒に強くなる……頭の上に柔らかいものが当たってる気もするけど、何だろう?
「きゅ、キュルケおねえちゃん、やめてよぉ……」
「いいじゃないのよぉ〜!キュルケおねえちゃん嫌い?ね、ビビちゃんはどんな子が好きなのよぉ〜♪」
「ぎ、ギーシュ、助けてぇ……」
「うーん――どうしようかなぁ、結構、おもしろいし――」
「そ、そんなぁ!?」
貴族の人って、ときどき、ひどいなぁって思うんだ……
ニヤニヤしながらギーシュがこっちを見ているだけ……
「夜はまだまだこれからよ〜♪今日はビビちゃんのこと細かに聞きだしちゃうわよっ♪」
「わー、パチパチ」
「た、タバサおねえちゃんまで!?」
な、なんでこんなことになっちゃうの?
ルイズおねえちゃん、誰か……
「誰か助けて〜……」

ラ・ローシェルの眠らない夜は、まだまだ続きそうだったんだ……


ピコン
ATE ―深夜の邂逅―

「今すぐに返事をくれとは言わないさ。とりあえずはこの旅の間に、僕を見ていてくれればいい」
「ワルド様……」

「きゅいきゅい〜」
青い龍は、その芝居を特等席から見物していた。
窓の中では、お髭の男の人と、おねえさまの友達が恋のお話をしている。
しかし、なんというか、男の方の台詞は白々しいというか、強引すぎるというか。
龍とはいえ心は乙女。
彼女がもしいつかこのような告白をされ方をされたとしても、
あまり乗り気がしないな、と思ってしまう。

「それじゃあ、もう寝ようか。疲れただろう」
「え、えぇ……」

どうやら面白いお話はもうおしまいのようだ 。
しかし、彼女はまだ眠る気はしない。
仲良しの精霊さんのお手伝いに、というおねえさまの言葉に従って遠出してきたということもあり、
少々気分が高揚している。疲労感もなんのそのだ。
ちょっとぐらい夜の空中遊泳を楽しんだ方がよく眠れる。
106ゼロの黒魔道士20 代理:2008/12/25(木) 01:43:57 ID:DliuUu8w
そんな考えの下、ラ・ローシェルの空に飛ぼうとした、そのときだ。
「明日の幸せを願って人は眠る……
 昨日の不幸をすべて忘れてしまうために……」
どこからか声がした。変だ。人の声らしいのに、空を飛ぶ自分よりも上から声がする。
「そして喜びに満ちた夢を見ることを願う……
 そう……つらく苦しい現実を忘れてしまいたいから」
宿屋の屋根の上、奇妙な服装の人間が詩を吟じるように独り言をつぶやいている。
しかも大仰な身振り手振りまでつけて、である。
龍である身から見ても、危ない人とか変な人としか思えない行動だが、
不思議とその光景は神秘的で、目が釘付けにされてしまう。
「……至って静かな、いつもの夜だね。深夜の散歩かい?シルフィード君」
「きゅい!?」
何故この人は私の名前を知っている?シルフィードの本能が警戒音を発する。
それと同時に、この人物を探ろうとありとあらゆる感覚が緊張状態に入る。
「フフフ、そんなに警戒しなくていいよ、僕は君と戦うつもりはない。
 何より、今回、僕は表立って手出しをするつもりは無いんだ」
月光に照らされた白銀色の髪の毛をはかきあげながら、その人物が言う。
ご丁寧に「何も持ってませんよ」とでも言いたいのか、両手を自分に見せながらだ。
ふと、この人物の中身を探っていた感覚の1つが奇妙な既知感を覚える。
「それに、君はしゃべれるのだろう?独りで月下の散策にも飽きてたんだ。お話しでもしないかい?」
「きゅ!?」
そうか、ビビちゃんと会ったときに感じたあの感覚だ。
色々な属性が、それぞれが強い力を持ったまま、ごちゃ混ぜになってこの人の中に存在している。
でも、ビビちゃんとは何か違う。もっと、荒々しくて、もっと――悲しい?
「――あ、あなたは、誰なのね?」
慎重に、慎重に口を開く。
「あぁ、自己紹介が遅れたね。クジャだ。よろしく、可愛らしい風の子よ」
「――なぜ、あなたはシルフィのことを?」
あぁ、おしゃべりしているなんてバレたらおねえさまにお仕置きされるだろう。
でも、この人は何か不思議。ビビちゃんや精霊さんに似ているけど、何か違う。
この人をもっと見定めなくてはならない。問いたださなければならない。
理性と本能が合致し、普段はのんびりとした思考しか行わない頭脳が冷静な対処を行わせようとする。
「フフフ、ちょっとした手品とでも言っておこうか?君のご主人様、シャルr――おっと、いけない、いけない、タバサ君、だったかな?の知り合いと知り合いでね」
「!?」
この人は、この人はおねえさまのことまで知っている!
それも、秘密にしているところまで知っている!
どうする、この人は敵か?倒さねばならないか?使い魔としての義務感と、冷静に対処しようとする知性が葛藤をはじめる。
「まぁ、ここに僕が来たのは、何も君たちをどうこうしようという訳じゃないから安心してくれたまえ。
 恋愛劇の自称主役の演技を見にきた、とでも言おうか――とんでもない三文芝居だったがね!」
恋愛劇?さっきのお髭の人とルイズの話だろうか?
三文芝居?確かに、龍である自分から見ても、あの口説き方は無理があるとは思ったが――
何故、何故この人がそのことを気にする必要がある?
「さてと、今日の公演は済んだようだし、この辺で帰るとしようか――あぁ、そうだ。君に伝言を頼むとしようか」
「な、何なのね!?い、言っておくけど、シルフィ達は脅しには屈しないのね!」
重なりつつある双月に背を向けて、立ち去ろうとした人は、先ほどまでの幽かな笑顔をきっとひきしめる。
まさか、姿を見られた自分を殺そうとでもするのか?ならば全力で臨んでやろう。
「――とんがり帽子の男の子がいるだろ?彼に伝えておいてくれるかい?――“お久しぶり、『虹』が見えたときにまた会おう”とね」
とんがり帽子?ビビちゃん?この人、ビビちゃんのことまで知っている?
「あなた、何を言いたいのね!?あなた、結局何者なのね!?」
「フフフ、手品師とはやすやすとタネを見せないものでね――それでは、良い夜を!」
フッとその人が空中に足を踏み出した途端、
まるで幽霊みたいに消えてしまった。
「きゅいっ!?」
屋根から落ちた?いや、そんな様子は全くない。
まさか、本当に幽霊?精霊さんと似ている感じもしたし、そうなのかもしれない。


――おねえさまには黙っておこう。幽霊だとしたら、おねえさまが怖がってしまうから。
青い龍は銀髪の人物が去った場所をじーっと見つめながらそう心に誓った。
107ゼロの黒魔道士20 代理:2008/12/25(木) 01:44:28 ID:DliuUu8w
――
以上です。
修学旅行の定番といえば、肝試しと恋愛談議ですよね?
それでは、皆様、良いクリスマスを。
お目汚し失礼いたしました。
代理投下よろしくお願いいたします。
あ、あと、こちらでの書き込みになりますが、谷まゼロの方、超乙っした!
108名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 02:05:36 ID:L80viQfS
ビビの人、代理の人乙です。
クジャが面白い建ち位置にいて暗躍し、ビビにどの様にちょっかいを出すのかが気になってなりません。

あと代理の人に一言。
代理の場合でも投下前に予告したほうがいいですよ。
支援してくれる人も来るでしょうし。
109名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 03:33:42 ID:d1fy4SLN
最近良いSS投下され無いのお
110名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 04:02:18 ID:a5b1G1zV
黒魔道士の方&代理の方乙です
ビビ可愛いのう。可愛いのう。
クジャも面白いことをしてくれそうで今後が楽しみですな。
111名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 04:35:30 ID:DliuUu8w
あ、予告忘れてた
すまんモンハン片手にやってたから予告したもんだと思ってつい
以後気をつけます
112名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 05:46:06 ID:K6jgdfVq
>>109
どんな映画を観ても面白くないとすれば観る側の感性が鈍っているのだ

by山口貴由
113名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 08:31:44 ID:D6Vneg1f
はひ ぁクリメ し//// ,,//ー、
っ ゃ│リぃぇ //// _r''´  :;:;:;l ̄/ ̄`ー、  _
は││っぃぇ (/// /  ;:;:;:;:∠∠_,     Y´  `ヽ
ぁ.││スぃぇ //// >_. ニ-´/⌒ヽ ヽヽ、 /´ ̄ ̄`ヽ}
│はスマぃ∫ |/  ヘ <_;:Y。y;:;ヽ゚_ソ;:;ゝゝ  i _-ー―-、}
│っ ぅ ぁ ∫ |/ / ', / ン´ `>┐r'/    ゝ-ー- ノ
│は !! ぁ   N /  ',/ /⌒ 7  ヒl | |    │l l│
っっ       \ /   .ハ |   |   _Y    r´ ̄ ̄`ヽ
―――――`⌒/    ハイ|    |  //     i ´ ̄ ̄ ̄`i
/////  /     ハ小    |、//     iー――-、ノ
///// ./_r-,-―'ハノ`丶┐Yレ_,-ー´ >-――←、
//// / ̄     -´ ̄ ̄ ̄ ̄/  ̄ ̄ ̄ヽ
114名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 08:32:51 ID:4G3kULPu
トライアードサンダーブッ込むぞヴァジュリーラ
115名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 08:52:29 ID:euoQv0BY
>>112
若先生の言葉、お美事にござりまする。
116名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 08:58:35 ID:h14lR0vc
>>109
評価という低俗的行為において、一番最下層にあるのは
自分と相性が合わない作品を評価してしまう事である。
優れた評論家は、自分と相性が合わない作品は評価しないのである
117名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 09:55:36 ID:OLYi5nbP
悪食って役得だよな。
118名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 10:07:48 ID:UG4v34t7
アニメ見る時に作画がどうだこの展開はどうだって素直に見れないオタクより
普通に楽しめる一般人の方が幸せ的な
119名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 10:14:06 ID:+2MroCMW
悪食だから悪いって事は無いだろうし
美食家気取って美味しい物でもあれこれとケチをつける人間より余程いいと思う
120名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 10:17:08 ID:uRmKqLXQ
評価するために観るのか楽しむために観るのか
121名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 10:29:31 ID:cAzox08N
>>118
非オタの一般人が普通に楽しめるアニメは絶滅危惧種に指定されています。
122名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 11:24:16 ID:/InzUdvl
「ONE PIECE」や「DORAGON BALL」(現在製作中の実写版は無かった事にしてくれさい)
はカタギ向けアニメたりえませんか?
123名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 11:24:52 ID:/InzUdvl
>>122
ごめんなさい、sage忘れました
124名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 11:30:42 ID:MptxyHwZ
駄目過ぎて逆にネタとして楽しめる作品も有るけどね?
ポリとか


時間の関係上身か皆テンションおかしくて実況がカオスで非常に面白がったさ
125名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 11:42:00 ID:3B/BgeNP
ちょっと古いけどジパングとかよみがえる空は・・・
あれはミリオタ向きかな
126名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 11:48:59 ID:fbVMTEh2
大抵の美食家気取りは実際のところ味音痴だったりするしね
梅○辰夫とか川島○美とか
ホントに解ってる美食家なんてどれだけいることやら
むしろ全然美食とかに興味なさそうな人の方がよほど味が解ってる
世の中そんなもの
127名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 12:02:05 ID:imkfTa2T
むしろ、露骨なやつ以外でオタ向けってどの辺までなんだろうか?

あとベルセルクはどっちに入る?
128名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 12:22:26 ID:/InzUdvl
ベルセルクはいろんな意味でハード過ぎる描写がカタギ向けとは言い難いでしょう
古いけど「オネアミスの翼」はどっちかな?

あとファーストガンダムとヤマトはどちら向けに分類されるべきなのでせう
129名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 12:23:19 ID:7cFCWvL+
>>127
家族で見れる一般アニメなんて幼児用アニメかジャンプ連載のアニメとジブリぐらいかなぁ?
ベルセルクは家族で見ないだろうし、そもそも一般人はOVAなんて知らないんじゃない?
130名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 12:24:23 ID:JPi7p+la
雑談するなとは言わんがスレ違いにも程があるだろ
131名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 13:10:45 ID:/InzUdvl
じゃあ話題を戻してルイズが殺ちゃん召喚


………困ったな
18禁作品キャラなうえ スキル:無敵とか持ってそうだ
132名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 13:14:25 ID:GeAC4tVZ
ルイズが……サンタさんを召還。

以外と面白そうだな。
133名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 13:18:10 ID:Gk1oF/jK
袋の中からサイトが出てくるのですね?




どこの北朝鮮?
134名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 13:32:29 ID:SfaY7ubk
>>133
袋と聞いてサイレントヒル2に出てくるフレッシュ・リップを思い出した。
確かアレは「罵る唇」という意味もあったな…


周りの生徒の野次=ルイズへの罵り
135名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 14:39:51 ID:KpsMiybG
18禁なネタ…

プリティ・トルーパーズTRPGからエイリアン召喚とか…。
うん、妄言が脳裏に走っただけだから。実際にやる気はないから。
136名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 15:00:44 ID:EsTDiDwp
>>135
TITS乙
137名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 15:56:08 ID:uFrf/cNn
クリスマスもいいけど、昨日のこともあるし、誕生日に関連した使い魔っているかな。
誕生パーティーの最中に召喚されるとか
138名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 16:05:37 ID:KpsMiybG
そういえばルイズたちの誕生日って設定されてないんだよなぁ…
まあ、一年の長さが違う時点で割りとややこしいことになるわけだが。
139名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 16:06:46 ID:V+2Sbo/R
>>137
ウルトラマンキング召喚ということだな
140名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 16:33:52 ID:JvLixsTx
>125
よみがえる空は家族で見るには重い話もあるぞ
大学の登山サークルの部長だけ生き残って死んだ部員の家族に責められるシーンはキツい
141名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 16:54:42 ID:+0U5riW4
>>126
露山人は濃い味付けばかりしてたせいで晩年は味覚がイカれてたらしいな
142名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 17:08:17 ID:/InzUdvl
>>126
実際のところ「美食家」って本当にあれほど鋭敏な味覚もっているのだろうか
一口食べただけで材料の産地から調味料の産地から火からあげたタイミングから
判るのだろうか
143名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 17:18:13 ID:+0U5riW4
人間の感覚ってのは鍛え上げるとほとんど魔法の域にまで達するから出来ると思う
144名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 17:32:31 ID:UG4v34t7
つまり巨大化してお城になったり
口から光線出したりしてもおかしくないって事だな
145名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 17:42:41 ID:X9Nv9iKk
遊牧民が超人的な視覚や聴覚を持っているようなもんかな
146名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 17:43:44 ID:OLYi5nbP
>>144
リアクションを魔法の域に達せられるのはジャぱんの人達だけだと思う。
人が貯金箱になったりダムになったりダルシムになったりするんだぜ…
147名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 17:47:48 ID:DOw50uyn
つまり味王を召喚して料理バトルを
148名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 17:51:16 ID:8ISqR8eH
>>146
あれは後半パンの漫画じゃなくてリアクションの漫画になってたからな。
世界を救うリアクションって何だよwww
149名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 18:15:55 ID:MptxyHwZ
ソルティレイからソルティ召喚

テファにロイさん召喚してもらってルイズvsツンデレ親父をやって貰いたかったけどテファに召喚されたら
かなりの理由が無ければ孤児院から動かない事に気付いた

……探し続けた娘があんな形に育ってたからな
最終話アフターだとまた違うんだが....
150名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 18:17:26 ID:cAzox08N
>>147
味"皇"なんだぜ
151名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 18:23:55 ID:YRAWPcMU
>>139
その人の義娘で某緑のおばさんとかどうでしょう?
152鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2008/12/25(木) 18:24:08 ID:seW/mL4Y
予約は無いようなので、六時半から投下しようと思います。
153名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 18:28:10 ID:/InzUdvl
支援を行うのにやぶさかではない
154鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2008/12/25(木) 18:30:22 ID:seW/mL4Y
12話

才人は内心ひどく狼狽していた。なにせ、女の子に目の前で泣かれると言う事自体が始めてなのだ。
だが、対照的にウォレヌスとはプッロは落ち着いている。
「いったいありゃなんだったんでしょうね?」
「見ての通りだろうな……あの娘はそうとうな癇癪持ちだって事だ」
両方とも大して気に留めていないようだ。そんな二人を見ながら、才人は迷った。
果たして彼女を追いかけるべきかどうか。

「どうしましょう?あいつを追いかけた方がいいと思います?」
プッロは肩をすくめて見せる。
「やめといた方がいいぞ?あんな状態の奴に何を言っても逆ギレされるだけだ。放っとけ」
二人の冷たい態度には少し不快感を感じるが、確かに今はそっとしておいた方がいいかも知れない。
「じゃあこれからどうします?あいつはいなくなっちゃったし、このゴミを片付けますか?」
「別にいいだろ、そんな事しなくても。放っておこう」
プッロの言葉に、ウォレヌスが異議を唱えた。
「その気持ちは私も同じだが、した方がいい。命じられた仕事を片付けなければ学院側の印象が悪くなるし、第一あとであの娘のやかましい小言を聞かずにすむ」
「は〜、じゃあ仕方ありませんね。とっとと終わらせましょう」
プッロは余りやる気の無さそうな声で言った。

三人は掃除を始め、黙々と作業を進める。その間、才人はルイズの事を考えていた。
プッロは追いかけない方がいいと言ってたが、もしかしたらそれは間違いだったかもしれない。
(あの時無理やりにでも追いかけて何か励ましの言葉をかけた方が良かったんじゃないか?)
明らかに彼女は追い詰められている。このまま放っておいても良い事があるとは思えない。そう思った時、プッロが口を開いた。

「ところで俺には未だにわからない事があるんですが」
「なんだ?」
「あいつのあだ名の意味ですよ。魔法がいつも失敗するって事と関係あるからついたあだ名ってのは解りますが、ゼロって言う言葉は聞いた事が無い。隊長は知ってますか?」
ウォレヌスは首を振った。
「いや、私も聞いた事が無い」
ゼロを聞いた事が無い?一体どう言う意味なのか、才人には解りかねた。

「いや、単に魔法の成功率がゼロって意味だって思いますけど」
「だからゼロって言葉がどういう意味なのか解らないんだよ」
才人はとまどった。ゼロと言う言葉の意味が解らない?いったいどう言う事だ?まず初めに、才人は翻訳の間違いを疑った。
コルベールによればこの左手のルーンのおかげでハルケギニア語やラテン語が日本語に聞こえるらしいが、もしかしたらそれが何か誤作動の様な物を起こしたのかもしれない。
だが、そのあと少しの間一方通行な会話をしてようやく才人は気づいた。この二人は「ゼロ」と言う概念が存在しないのだ。
そして才人はゼロと言う物について説明しようとしたのだが、どうもうまく解って貰えない。

「……だからゼロってのは要するに何も無いって言う意味の数字なんですよ。無を表してるんです」
もう既に何回か同じような事を言ったのだが、プッロはおろかウォレヌスまでが理解を拒む。
それどころか説明しようとしている内に、自分でも言っている事がよく解らなくなってくる始末だ。
「それが理解できん。存在しない物がいったいどうやって存在できるんだ?」
「え〜と、だからそれは……」
そこにプッロが割り込み、うんざりした様に言った。
「もういい、この話を聞いてたら頭が痛くなってきた。とにかくゼロのルイズってのは魔法が必ず失敗するからついた名前なんだろ?それだけ解りゃ十分だ」
ウォレヌスも同意したのか、この話は打ち切った。
155鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2008/12/25(木) 18:31:13 ID:seW/mL4Y
(助かった……)
元々数学なんて得意じゃない。あれ以上細かく聞かれたら答えられなかっただろう。
ゼロという概念が存在しないと言うのも不思議な話だ。色々と不便そうなのに。
それにしても“ゼロのルイズ”がゼロの概念の無い人間を使い魔にすると言うのも、考えてみれば皮肉な事だな、と才人は思った。


ゼロの次は魔法に話題が移ったようだ。
「あの錬金って奴、ふざけてると思いません?」
「ああ、全くだ。遠くの人間を瞬時に移動させたり、物を宙に浮かばせるだけでなく、物質を一瞬で完全な別物にするだと?我々にそんな力があれば軍事が様変わりするぞ」
軍事が様変わり?いったいどう言う事だろう。錬金がどう軍隊に関係あるのか、才人には解らなかった。

「それってどう言う意味でしょうか?」
「その辺の石ころをどんな物質にでも変えられるなら、いちいち鉄鉱石を採掘しなくても簡単に鉄が手に入る。そうなれば今までより遥かに早く武具を揃える事が出来ると言う事だ」
なるほど、確かに軍隊を簡単に装備できると言うのは重要な事かもしれない。
(じいちゃんも日本は補給を軽視したから負けたって言ってたし)
だが解せない事に、なぜかウォレヌスの顔には不快と苛立ちが浮かんでいる。
だがその事について聞ける前に、プッロが話しを進めてしまった。

「正直言って、かなり罰当たりな気がするんですがねえ、こいつらのやってる事って。あんな神みたいな力を使って、ここの神々はお怒りにならないんでしょうか?」
「連中の様子を見る限りじゃ魔法はここじゃごく普通の事のようだ。つまりここの神々も認めているって事だろう。おまけにあの授業を聞く限りじゃまだまだ我々の知らない魔法が沢山あるようだ」
そう言った後に、ウォレヌスはクソッと吐き捨てた。
「あの娘が魔法を使えないのは良い事かもしれませんねえ。あの性格で魔法も使えるとなっちゃ、おっかなくてしょうがないですよ」
「あの爆発も十分おっかない気もするがな。あんな物を戦列の中央で炸裂させてみろ。どんな事になるやら想像もつかん」

軍人であるせいかもしれないが、さっきの話といいこの人たちはよく軍隊に話を繋げるな、と才人は思った。
「戦列か……もう一日になりますが、俺たちが戦いの途中に突然いなくなった事……軍団の連中はどう考えてるんでしょう?」
少し考えてから、ウォレヌスは言った。
「あれだけの人間がいたんだ、我々があの鏡に吸い込まれるのは誰かが見ている筈だ。少なくとも脱走兵として扱われる事は無いだろう」
「そう願いたいもんですねぇ。でも、それなら俺たちゃいったいどう言う扱いになるんでしょう?戦死ですか?」
「さあな。行方不明か、下手をすれば神々にどこかに連れ去られた、と噂されてるかもしれん」

今まで忘れていたが、思い出した。この二人は戦いの真っ最中に召喚されたんだった。
自分と違って、彼らは戦場で生きるか死ぬかと言う時に突然異世界に連れ去られた。そしてウォレヌスはたしか隊長だと言っていた筈。
戦いの真っ最中に指揮官がいなくなれば、配下の兵士達が大きく混乱するのは素人にも解る事だ。もしそれが原因で部隊が全滅でもしたら……
「あなた達が召喚された後、戦いはどうなったと思います?勝てたと思いますか?」
才人は好奇心にかられてつい聞いてしまったが、その後にしまった、と思った。
こんな事は聞くべきじゃない。もしかしたら一番気にしてる事もしれないのに。
だが予想とは裏腹に、ウォレヌスもプッロも特に気分を害した様子は無かった。

「戦いは長引いたとしても昨日の夜には終わっている。なら我が軍は今頃タプススの包囲を再開している筈だ。まあ、救援が敗れたのだから連中もすぐに降伏するだろう」
「ってことは俺達は戦利品をみすみす見逃した、って事にもなりますねえ。全くもったいない」
そう言ってプッロは悔しそうに舌打をした。どうやら二人はいささかも自分たちの勝利を疑っていないようだ。
その事に再び好奇心を抱いた才人はさき程までの躊躇を忘れ、質問を重ねた。
156鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2008/12/25(木) 18:31:47 ID:seW/mL4Y
「あの、怖くないんですか?例えば自分達がいなくなったら負けるかもしれないとか……」
「大隊長が戦死したり負傷した場合は下位の百人隊長が指揮を引き継ぐ事になっている。多少の混乱はあるだろうが、それだけで壊走する様な事はない。そもそも戦いの大勢は既に決まっていた」
「それにあの程度の戦い、なんでもねえさ。第十三軍団は今までにずっと酷い修羅場を潜って来たんだ」
二人の自信にはいささかの揺らぎも見られない。彼らが第十三軍団と言う物に強い信頼を持っているのは明らかなようだ。
だがこの二人はいったいどう言う立場なんだろう?ウォレヌスは確か大隊長と言っていたから、ただの兵士ではなさそうだ。

「大隊、って言うのはどれ位の人がいるんです?ウォレヌスさんはそれの指揮官なんですか?」
「そうだ。そしてこいつは私の副官をしている。兵の数は、定員は四八〇名だが今は三百名程度だな」
ウォレヌスはあっさりと言ってのけたが、要するに彼は三百人もの人を戦場で指揮しすると言う責任を負っている。
しかも自分がミスを犯せば彼らは死んでしまう。いわば、彼らの命を預かるも同然だ。それがどの様な重圧なのか、才人には全く想像がつかない、いや出来ない。
そしてその様な責任を持っているのに、指揮官である自分達がいなくなってもこの二人は全く心配をしていない。
それと合わせて彼らの表情を見れば、この二人が第十三軍団と言う物に絶大な信頼を持っている事は簡単に解った。

だが才人にはその事がよく理解出来ない。自分が何かにそんなに強い信頼を持った事など、果たして今までに一度でもあっただろうか?
これが兵隊と言う物なのだろうか。よく考えれば、兵隊と話をしたのなんてこれが生まれて初めてだ。
祖父も戦争に行ったが、あれはもう何十年も前の話だし。

昨日も今日も、ずいぶんと“生まれて初めて”が多いな、と才人は思う。
生まれて初めてキスをされ、生まれて始めて喉に剣を突きつけられ、生まれて初めて洗濯をし、生まれて始めて信仰心を持っている人を見て、そして生まれて初めて女の子が泣くのを見た。
しかもこんな世界なのだ、これからも“生まれて初めて”は増えるんだろう。それにしてもルイズは今頃何をしているんだろうか。


やがて掃除が終わった。ウォレヌスが回りを見渡して言う。
「まあ、こんな所で十分だろう」
「これからどうします?もう昼食の時間だと思いますけど」
「では厨房にもう一度行くか。マルトーが昼食は用意してくれると言っていたしな」
二人はそう言って教室から出ようとするが、才人はやはりルイズが心配になっていた。
(あれからしばらく経つけど、あいつ大丈夫なんだろうか)
このまま放っておく事はもう出来ない。何かしなければ。才人はそう思った。

「俺、ちょっと心配なんでルイズを探してきます。お二人は先に行っててください」
「なんでだ?放っときゃいいだろ、あんなの」
「時間の無駄だと思うぞ。どこにいるのかも解らんしな」
やはり二人のルイズに対する態度は冷たい。だが引き下がるつもりなんてない。
「でもこのままじゃかわいそうだと思いませんか?あいつ、泣いてたんですよ?」
「だからどうした。自分の無能さと、私達をこき使えない事に癇癪を起こしただけだ。同情する必要なんてない」
「ま、確かに見ていて痛々しい感じはしたがな、いちいち慰めに行く気にはなぁ」

ある意味、彼らの態度は理解出来る。自分とは違い、戦場で大勢の人間を預かると言う立場と責任がありながら、それを突然に奪われてしまったのだ。
その原因である人間を心配するのは難しい事だろう。だがそれでも才人は二人に苛立ちを覚えてしまう。彼らは少しもルイズが可哀想だとは思わないのだろうか?
彼女は恐らくいじめを受けている。そして非はあちらにもあるとはいえ、自分達の言葉が彼女を泣かしてしまったのも事実。それを捨て置く事は出来ない。
「……解りました。それでも俺は行きます。放っておけませんから」
ウォレヌスもプッロも、呆れたようだった。
「まあ、本当に行きたいんなら別に止めはせん」
「戻ってきたいときは、昼飯の後も厨房のあたりをブラブラしてるだろうからそこに来いよ」
だが彼らが呆れていようと無かろうと、自分を止める気が無いのなら関係無い。
才人は解りましたと言って教室を後にし、ルイズを探し始めた。
157名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 18:32:28 ID:seW/mL4Y
その後、しばらくの間才人は当てもなく学院中を探した。
だが元々迷いやすい構造の上、手がかりも無い。
だから当然と言えば当然だが、ルイズは影も形も見当たらなかった。おまけに腹も減ってきた。
(はぁ〜、一体どこ行ったんだよ、あいつ。だいたいなんなんだよ、この学校は。似た様な場所が多すぎるぜ)
遠くからガヤガヤと話し声が聞こえる。
何事かと思って声の方にいくと、中庭に出た。

多くの生徒達がテーブルに座って、紅茶やらケーキやらを食べている。
昼食後のティータイムといった所だろうか。もしかしたらここにルイズがいるのかもしれない。
才人はそう考え、そっちの方に進んだ。すると奇妙な光景が目に入った。
お菓子が乗ったトレイを運んでるメイドの中に、なぜかシエスタとプッロがいる。
プッロがトレイを運び、シエスタはケーキをはさみでつまんで貴族達に出している。
プッロの様な強面の男がお菓子を運ぶのは場違いに見え、滑稽に感じられた。

シエスタはともかく、なぜプッロがここにいるのか不思議に思った才人は二人に声をかけた。
「シエスタにプッロさん。どうしたんですか?こんな所で」
シエスタは振り返り、笑顔で返した。
「サイトさんこんにちは。プッロさんにはちょっとデザートを運ぶのを手伝ってもらってるんです」
「ああ、タダ飯を食うってのも何だか気分が悪いんでな、マルトーに何か手伝える事が無いかと聞いてみたわけだ」
なるほど、それでシエスタを手伝っているわけか。
「そうなんですか。じゃあウォレヌスさんは?」
「あいつは厨房に残ってるよ。こう言う事は性にあわないそうでな、野菜の皮をむいてる。元々手先は器用な方なんだよ、あいつ」
それは才人にも解った。あの人がトレイを持ってお菓子をテーブルに並べるなんてちょっと想像出来ない。
確か一人でジャガイモの皮でもむいてる方が似合っている。

「おっ、そうだ。ルイズの事だが、ここにいるのは知ってるのか?」
プッロは突然そう言うと、アゴをしゃくった。
その方向を見ると確かにルイズがいた。あの桃色がかった金髪は間違いなく彼女だ。
やっと見つけられた。彼女は一人離れた場所に座っていて何かを食べている。早く行かなければ。
「い、いえ知りませんでした。ちょっと行ってきます。それじゃ」
才人はそう言うと、ルイズに向かって駆け出した。


正直に言えば、最初はあのまま部屋に閉じ篭ろうとも思った。子供の頃、嫌な事があるとすぐにあの小船に逃げ出していたように。
だがそうしたら、どう考えてもみんなは自信満々に挑戦したのに失敗したのが悔しくて逃げたんだと思われるだけ。そして彼らはますます自分を笑うだろう。
ますます泥沼にはまるだけだ。逃げるのはプライドが許さない。そう思って、お茶の時間にも顔を出した。でも彼らの私を嘲る様な視線に耐えられなかった。
「さっさと学院から出て行け」
彼らは明らかにそう言おうとしている。自分が公爵の娘だから面と向かって言うのをためらっているだけだ。
だからこうして一人でクックベリーパイを頬張っている。だが大好物の筈のそのパイも、今は何の味も感じられない。

結局、いつもの様に自分は魔法を失敗させた。私はゼロのままだった。じゃあ昨日のサモン・サーヴァントはなんだったんだろう?
どうせあれも失敗の一種なんだろう。あんなに主人に反抗する使い魔なんて聞いた事も無いし、そもそも人間が召還される事自体がおかしいんだから。
ぬか喜びしたのがバカのようだ。自分はしょせんクズのままだった。魔法が使えないと知った時の、使い魔達の反応は至極当然の物だろう。
貴族なのに魔法が使えないなんて、バカにされて当然なんだ。
158名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 18:32:39 ID:PAC76+3+
支援
159鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2008/12/25(木) 18:33:13 ID:seW/mL4Y
自分はこれからどうすればいいのだろう。
学院を辞めて実家に戻る?そんな事をして何になるのだろう。家のお荷物になるだけだ。
このまま学院で勉学を続ける?あんな野蛮人どもを抱えたまま?それに進級は出来ても、魔法が使えないんじゃ何の意味も無い。単に他の生徒のお荷物になるだけだ。
八方塞だ。もうどうしようもない。そう思うと、また涙が浮き出てきた。

「おい」
突然聞こえた声に振り向く。
それはサイトだった。一体何の用だろう。わざわざ私を笑いにきたのだろうか?
「……何?私を笑いに来たの?」
「ちょっとな、謝りに来たんだ」
「……謝る?」
謝る、だと?これは完全に予想外だった。
あっけに取られたルイズに向けてサイトは語り始めた。

「今朝はちょっとやりすぎた。お前の事情なんて知らなかったんだよ。お前、他のクラスメートからいじめられてるんだろ?授業を見ていてなんとなく解ったよ」
……いきなりこいつは何を言い出すのだろう。それに随分と馴れ馴れしい。
「……それがあんたに何の関係があるのよ。馴れ馴れしいわ」
「俺はお前の使い魔なんだろ?なら主人の抱えてる問題は関係あるんじゃないか?」
グ、とルイズは言葉につまった。確かにその通りとしか言い様がない。
そして才人は懐から杖を取り出した。見まちがえ様も無い、自分の杖だ。

「これが無いと魔法は使えないんだろ?持ってきてやったぞ」
ルイズは杖を見て自分が何も変わっていなかったのを思い出し、胸にチクリと痛みを感じた。
「そんな物、私に何の意味があるのよ……私は元々魔法なんて使えないの。だから意味なんて無いわ。まあ、元々使い魔に杖を奪われる様な体たらくじゃ魔法が使えても無駄かもね」
驚いた事に、こいつは私は慰めているらしい。だがそんな事はどうでもいいのだ。
幾ら慰めを受けようと、自分がゼロのままなのには何の変わりも無い。
だがルイズの思いなど知らない才人は、無責任な励ましを繰り返す。
「なあ、そう落ち込むなよ。魔法が使えないってのは辛い事なのは解るけどよ、頑張ってりゃいつかはなんとかなるって」
ルイズは自分の心に、黒い怒りが沸々とわきあがって来るのを感じた。
頑張る……だと?私の事なんて何も知らない癖に、何とかなるなんていうな。
ふざけるな。私が今までどれ程“頑張って”来たかも知らない癖に。

今朝、プッロに杖を返した貰った時、よっぽど約束を奪って何か魔法をかけてやろうと思った。
でも、幾ら無礼な野蛮人が相手とはいえ一度結んだ約束をその場で破るなんて貴族の風上にも置けない卑怯者のする事だ。
それに自分はもうゼロではないと言う喜びもあった。あいつらの態度には本当に辟易したけど、それでも自分の実力を見せていけば徐々に見直していくだろう、何とかそう思い込んだ。
でも結果があれ。いつも同じ大爆発。自分は何も変わっていなかった。自分はゼロのまま、失敗で呼び出した使い魔は野蛮人が三人。これで何を頑張れって言うのだ?

「……軽々しく言わないで」
「え?」
「軽々しく言わないで。頑張る?私が一体どれだけ努力してきたか知りもしないのに良くそんな事が言えるわね?そもそもこれ以上何を頑張るって言うのよ!?」
ルイズの激しい反応に、才人は明らかに狼狽した。
「た、確かに俺はお前がどんな努力をしたかなんて知らねえよ。でも頑張っていつかあいつらを見返して――」
ルイズは激情のおもむくまま、叫んだ。
「気安く言わないで!だいたい何なの、さっきから偉そうに説教なんかして!私に哀れみでもかけてるつもり?笑わせるわ。平民如きに同情されるなんて願い下げよ!
まったく、なんであんた達みたいなのが召還されちゃったの?あんた達に比べればカエルやヘビの方が億倍マシだったわ!もういいからあっちに行ってて!」
才人は息苦しそうな、なんとも言えない表情になり、「……ああ解ったよ。すまなかったな」と言ってノロノロと去っていく。
160鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2008/12/25(木) 18:33:50 ID:seW/mL4Y
サイトが去るのを見届けると、ルイズはテーブルの上に突っ伏した。
(……何やってんだろう、私)
あいつは確かに私を心配してくれた。例えがそれがガサツで無責任な応援だとしてもだ。
でも私はそれを突っぱね、追い返した。これではますます孤立するだけじゃないか。
(ああ、一体どうしろっていうのよ、もう)


プッロはシエスタがケーキを並べにいなくなったのを確認してから、トレイからケーキを一つ取った。
これだけあるのだから一つ位無くなっても気づかれないだろう。役得と言う奴だ。シエスタの手伝いを買って出たのも半分はこれが目的だ。
(ルキウスの奴も、こっちに来ときゃ良かったのにな。まあ、ここにいたとしてもつまみ食いなんてする奴じゃないんだろうが)
プッロはそんな事を考えながらケーキを口の中に放り込み、咀嚼し始める。
(……!?なんだこの味は?)
甘い。とても甘い。だがとても美味い。今までに一度も味わった事の無い味だ。

それは当然だろう、プッロは今までに砂糖と言う物を口にした事が無いのだから。
ローマ人にとって、甘い物と言えば果物と蜂蜜だった。砂糖がヨーロッパに持ち込まれるのは中世になるまで待たねばならない。
ローマ人、いやヨーロッパ人として初めて砂糖を食した人間になったプッロだったが、当人はその事には全く気づいていない。
気づいたのはこのケーキが単に“甘くて美味い”という事である。
(クソ、もっとこいつを食べたいが今は我慢しとこう。この国、食い物は相当美味いみたいだな。フォルチュナに感謝!)

ケーキを味わっていると、何か叫び声が聞こえてきた。
声が来た方向を見ると、なにやら人垣が出来ている。
気になったプッロは口の中のケーキをゴクンと飲み込み、そこに向かう。
人垣を掻き分け、顔を突き出した。すると、栗色の髪の少女が、フリルのついた服に薔薇を指したふざけた格好の少年をひっぱたいているではないか。
「その香水が何よりの証拠ですわ!さようなら!」
少女はそう言うと、涙を浮かべながら走り去った。
一体なんなんだこれは。そう思って少年の方を見ていると、隣にサイトがいるのに気づく。
ルイズと話をしにいった筈だが、もう終わったのだろうか。

次は金髪の巻き毛が特徴的な、女の子が少年に歩み寄った。怒りの形相をしている。
「ギーシュ、やっぱりあの一年生に手を出していたのね?」
ギーシュと呼ばれた少年はなにやら必死に謝り始めたが、その女の子は彼を完全に無視しワインを頭からぶっ掛ける。
そして彼女は「うそつき!」と怒鳴って茶髪の女の子と同じく走り去っていった。
状況から見て痴話喧嘩か何かかだろうか?
(それにしても見事な振られっぷりだな。喜劇にもそのままだせそうなくらい)
ギーシュはハンカチを取り出し、ワインを拭うと芝居がかった仕草で言った。
「やれやれ、どうもあの二人は薔薇の価値を理解していないようだ」
いったいなんなんだこのバカは。自分を薔薇に例えるのがこの上なく恥ずかしい上に、服装も他の連中に輪をかけてアホ臭い。

サイトも同じ考えだったのだろうか、彼を無視してスタスタと歩き出した。だがギーシュはサイトを呼び止めた。
「君ぃ、どこへ行こうと言うのかね?君が軽率にあの瓶を拾ったおかげで二人のレディの名誉が傷ついたじゃないか。一体どうしてくれるんだ?」
「そんな事知るか!そもそも二股をかけたお前のせいだろ!」
他の貴族達がサイトの声に歓声を上げる。
「そうだぞ、ギーシュ!お前の方が悪い!」
ギーシュは狼狽しつつも、キザったらしく手を額に当てて答えた。
「ふ、二股だと?君は何も解っていない様だね。いいかね、薔薇とはその美しさを皆に平等に与えなければいけないのだよ。断じて二股などではない。とにかくだ、僕は最初あの瓶の事を知らないふりをしたのだから、それを無視する機転くらいは聞かせても良かっただろう?」
「見られて困る物なら、いちいち持ち歩くんじゃねえよ。バカかお前?」
サイトの返答にはトゲがある。どうやら彼は機嫌が悪いようだ。
恐らくはルイズと揉めたのだろう、とプッロは予想した。まあ、揉めない方が驚きだったが。
それにしても状況がいまいち掴めない。あのギーシュとか言うガキが二股をかけたのがバレたのは確実なようだが、なぜサイトが巻き込まれているのだろう。
直接聞いてみよう、とプッロは前に進み出た。
161鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2008/12/25(木) 18:34:26 ID:seW/mL4Y
「おい、一体どうした?なんでこいつと揉めてんだ?」
「……プッロさんか。ちょっとこいつがわけの解らないイチャモンをつけてきましてね」
サイトは苦々しげにはき捨てた。
「い、一体何だね給仕君。関係無いのなら――」
ギーシュはそこで一旦区切り、サイトとプッロをマジマジと見つめる。
「おや、良く見れば君はゼロのルイズが召還した使い魔だったね。よく見ればそっちの方もそうか。なんで給仕の真似事をしているのかは知らないが、同じ使い魔を庇いに来たわけか。泣かせるね」
いや、かばうも何も何が起こっているか解らないからここに来たのだが。
「いやあ、庇うもクソもなんでお前がこいつに絡んでるのかが解らないんだよ。お前さんが物の見事に振られる所は見たんだが、それがなんでこいつと口論になってんだ?」
ギーシュが口を開く前に、サイトが解説を始めた。
「オレにもよく解らないんですけどね、こいつのポケットから香水か何かの瓶が落ちたんですよ。それを拾って返そうとしたらなぜかこいつが二股かけてたって事がバレちゃったようです」
「なーるほど、それで恥ずかしいから誤魔化そうとしてる訳か」
これで話は解った。それにしても女二人を物にする甲斐性も無い上に、その責任を他人に押し付けようとするとはずいぶんと情けない男だ。

「事実を歪曲するのが得意みたいだね、君たちは?まあ、たかが平民、それもゼロのルイズの使い魔に機転なんかを期待した僕が浅はかだったと言うわけか」
そう言ってギーシュは髪をきざったらしく掻きあげた。
「もう良い、さっさと行きたまえ」
だがサイトは立ち去らなかった。
「うるせえんだよ、キザ野郎。一生薔薇でもしゃぶってろ。その格好、かっこいいとでも思ってんのか?はっきり言うがよ、センスゼロだぜ。おまけに自分が二股をかけていたのを棚に上げやがって、腑抜け野郎が」
サイトは吐き捨てるように言った。その言葉には明らかに強い苛立ちが含まれている。
(おうおう、中々言うねえ)
これにはギーシュとやらも黙っていないだろう。ヤバい事になるかもしれないぞ、とプッロは思った。
ギーシュの顔が赤く染まる。どうやら相当カチンと来たらしい。

「平民如きがこの僕を腑抜けだと!」
「腑抜けじゃないなら腰抜けか?大体なんなんだよ、ゼロのルイズって。魔法が使えるのがそんなに偉いのか?アホが」
サイトは怒りを込めて言う。
「薔薇はその美しさを皆に平等に与える、だと?じゃあルイズはどうなんだ?なんであいつは一人で隅っこに座ってるんだ?お前だって今日クラスであいつをバカにしてた奴らの一人なんだろ?笑わせるなよ、エセ紳士が」
ギーシュはバン、とテーブルを拳で叩き付けた。その顔はトマトの様に真っ赤になっている。
(ちょっと言い過ぎたかもしれねえな。完全にキレたぞ、ありゃ)
なぜ才人があんなにルイズに肩入れしているのかは解らないが、どちらにしても、ひとまず止めに入った方がいいかもしれない。
「おい坊主、ちょっとそれ位にした方がいい――」
だがもう遅かったようだ。ギーシュはプッロをさえぎり、ワナワナと震える声で叫んだ。

「た、たかが平民がよくもまあ、こ、この僕を、グラモン元帥の子息であるこの僕にそこまで暴言を吐けた物だ……どうやら君には礼儀を叩き込まなければならんようだな」
「礼儀だ?一体どうしようってんだ?」
ギーシュは指を空に向けた。これほど怒りを覚えてもそのキザな仕草は忘れない事に、プッロは関心した。
「決闘だ!ヴェストリの広場へ来たまえ。そこで君たちにたっぷりと礼儀を教えてやる!」
才人は吼える様に言い返す。
「はっ、面白え。ぶっ飛ばしてやるよ」
「ちょっと待て。君たち、って俺もかよ?」
ガキの喧嘩に何で俺が巻きこまれにゃならんのだ。
「当然だ!なんならもう一人の方も連れてきて構わないぞ?ゼロのルイズの使い魔全員に貴族に対する礼儀と言う物を教えてやる!」
そう言うと、ギーシュは体を翻して去っていった。
野次馬も騒然となりつつその場から散っていく。
162鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2008/12/25(木) 18:34:56 ID:seW/mL4Y
厄介な事になったな、プッロは思った。彼の脳裏には昨日、オスマンに襲い掛かった時に何も出来ずに無力化された光景が浮かんでいる。
今のギーシュとか言う奴だって魔法が使える筈だ。自分でもあの体たらくだったのだから、才人みたいなヒョロそうなガキじゃどうやったってかなう筈が無い。
(さぁて、どうしたもんか)
そう思った時、プッロはシエスタが震えながら自分達の元へ歩いてきているのに気づいた。
人垣の中から一部始終を見ていたらしい。彼女はその体と同じ様にブルブルと震えた声で言った。
「サ、サイトさん……い、一体なにを考えてるんですか!?き、貴族の方にあんなぶ、無礼な口を聞くなんて……ほ、本当に殺されますよ!?」
才人はフンッ、と鼻を鳴らした。
「殺される?俺があんなヒョロすけに?貴族だかなんだか知らねえが、コテンパンにしてやるよ」
「何を言ってるんですか!平民が貴族の方に勝てる筈が無いでしょう!……今すぐ謝りにいって下さい!そうすれば何とか許して貰えるかも……」

プッロはシエスタの言葉が気になった。殺される?いくらなんでも大げさすぎる。ただの子供の喧嘩じゃないか。
頭に血が昇ったギーシュが加減を忘れたとしても、殺されるなんて有り得ないだろう。
「あ〜、シエスタ。幾らなんでもそいつは大げさってもんだろ。わざわざ広場でやるんだから、見物人だって大勢いる。そんな場所で殺しなんてやりゃその場で殺人罪でしょっぴかれるぜ」
シエスタは口をポカンと開けた。プッロの言葉が信じられないと言わんばかりに。
「プッロさんまで何を言ってるんですか!?貴族が平民を殺して捕まると思ってるんですか?無礼討ちですまされるに決まってるでしょう!」
蒼白に染まったシエスタの表情は真剣その物で、とても誇張や冗談で言っている様には見えない。
どうやらこの国とローマの法律はかなり違っているようだ。これは思ったよりヤバイかもしれない、とプッロは思った。
むろん喧嘩を吹っ掛けられた以上、逃げるつもりなんてさらさらないし、謝るなんて問題外だ。元々こっちはとばっちりで巻き込まれた様な物なのだから。
だがこのままでは勝ち目は薄い。おまけに相手はこっちを殺してもお咎めなしと来た。
(ひとまず、ウォレヌスにこの事を話すか。頭を使うのはあいつの役目だからな。何かいい考えがあるかもしれねえ)

「魔法使いだかなんだか知らねえが、俺は殺されたりなんかはしねえよ。見てろよ、シエスタ。勝算はある――」
「坊主、ついてこい」
プッロは才人を遮り、肩を掴んだ。こいつの言う勝算が何かは知らないが、ろくな物とは思えない。
「ちょ、何をするんですか!?」
「厨房に行くんだよ。ウォレヌスの奴にこの事を相談しなきゃならん。ったく、面倒な事になったな。じゃあ、シエスタ。また会おう。あとこいつを持っていってくれ」
そう言ってプッロは震えるシエスタに無理やりトレイを渡すと、才人を無理やり引きずり出す。
その時、物陰に隠れていたルイズが二人をこっそりと付け出したのだが、二人ともそれに気づく事は無かった。
163名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 18:35:46 ID:Ettyxq+u
ローマ帝国好きとして支援せざるを得ない
164鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2008/12/25(木) 18:36:16 ID:mfxeskHh
以上です。何とかクリスマスには間に合いました。
165名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 18:40:37 ID:VprWxK5S
FEの暁の女神でアイクとか召喚してくれたらうれしいと思う。
166名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 18:40:57 ID:Ettyxq+u
投下乙です

こういうふうに文化的な違いから描かれるクロスもいいですねえ
毎回楽しみにしております
167名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 18:46:01 ID:sS7ue8fl
『鷲と虚無』様投下乙です。

そして以前までの召喚キャラ言う流れっぽくなってるみたいだったのを引き継いで参加。

P4主人公召喚。もし原作終了後で全てのステータスマックスだったら完璧超人の出来上がりww
ルイズとのコミュだってすぐにマックスにできるっぽいな。
……ってかルイズのタロット属性ってなんだろ? 猪突猛進的な性格だから戦車になるのかな。
168名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 19:07:09 ID:UG4v34t7
マリコルヌ活躍させる方法考えてて思ったんだけど
ギーシュのワルキューレってかなり使い勝手良かったんだな
攻めも守りも補助もこなせて動かし方次第で大活躍できるし
169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 19:09:14 ID:bfK9OMtz
P4のクロスか。
某サイトでは地雷しか見たことないな。
170名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 19:14:20 ID:sS7ue8fl
>>169
某サイト? どこのことですか? というかP4クロスって余り見ない…
171名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 19:30:12 ID:QLTYMxv2
虚無のペルソナ能力ってワイルドっぽいな
172虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/25(木) 19:52:07 ID:AHn/JTyj
20:00から投下させてください。
173名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 19:52:21 ID:bfK9OMtz
>>170
あ、言い方悪かった。
クロスはクロスでもゼロ魔じゃなくて、とある漫画なんよ。
サイトについてはお察し下さい。
174虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/25(木) 20:00:57 ID:AHn/JTyj
「さっき『トライアングル』がどうとか言ってたけど、どゆこと?」
ふらふらと、疲れた足取りで食堂へ向かうルイズに、アクアが話しかけた。
ルイズがめちゃくちゃにした教室の片付けが終わったのは、昼休みの前だった。
罰として、魔法を使って修理することが禁じられたため、時間がかかってしまったのである。
もっともルイズはほとんど魔法が使えないので、あまり意味はなかったが。
ルイズは文句を言うアクアに教室の片付けを手伝わせた。使い魔として当然のことだからだ。
しかしその小さな体の見た目通り、アクアは非力で、ほとんど役に立たなかったので、結局ルイズがほとんどの後片付けをするはめになった。
「…魔法の系統を足せる数のことよ。それでメイジのレベルが決まるの」
ルイズは憮然とした様子で答えた。
「例えばね、『風』系統の呪文はそれ単体でも使えるけど、『水』系統を足すと、より強力になるの。そんなふうにして、『風』『風』『水』と、三つ足せるのがトライアングルよ」
「同じのふたつ足してどうすんの?」
「その系統がより強力になるわ。ちなみにふたつ足せるのは『ライン』メイジ。もっとも二年生でもラインクラスはあんまりいなくて、ほとんどが一系統だけの『ドット』メイジだけどね。あと、4系統足せるのは、さらに強力な『スクウェア』メイジよ」
「なるほど、そんなふうに魔法使いの技量分けがされてるんだね。ドット、ライン、トライアングル、スクウェア」
指折りながらアクアは復唱する。
「で、ゼロ」
アクアはルイズを指差して、言った。
もしも他の生徒がこの場に居合わせたなら、ビシッ!と、空気が凍る音を聞いたことだろう。
「ゼロのルイズ。いや上手いこと言うもんだね。魔法の系統足せる数ゼロ。成功の可能性ゼロ。あっはっは!」
ぶるぶる震えるルイズに構わず、アクアはけらけら笑う。基本的にアクアはいじめっ子体質なのであった。
「ごめん。ほんとごめん。人の失敗笑うなんて最低だよね」
アクアは笑いを噛み殺しながら、ルイズへのフォローを入れる。
「でもさ、傑作だったんだもん。ファイヤーボール、ボカーン!失敗!失敗であります!自慢のピンクブロンドが黒コゲであります!ぶわっはっは!」
フォローは完全に失敗した。
「こ…」
「こ?」
ふとアクアがルイズの方を振り返る。ルイズの肩は怒りで震えていた。
「こここ…」
「…こここ?」
声も震えていた。やばい、からかいすぎた。アクアはようやくそのことに気付いた。
「こここ、この使い魔ってば。いいい、いい加減にしなさいよね。どどど、どれだけ人のことを馬鹿にしたらきききき、気がすすすすむのかしら」
ルイズは怒りのあまり、言葉を発するのにもひと苦労だった。
「ここ子供だとおもって、わわわたしあんたに優しすぎたわ」
「あー、その。マジでごめ…」
「ダメ!許しません!これからあんたベッドに寝るの禁止!あと当分ご飯抜き!これ決定!絶対!」
175虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/25(木) 20:02:06 ID:AHn/JTyj
メシ抜きの刑は速やかに執行され、アクアは昼食にありつくことができなかった。
「ちぇっ、わかってるよ。ちょっとやりすぎたってさ」
そんなことを呟くアクア。
ルイズのあれは、本気で怒っていた。半分泣きそうになっていた。
今更ながらにアクアに少し罪悪感が芽生える。
そんなわけで、昼からずっと一人のままふらふらしていたのだった。
ぐう。
そろそろ午後の授業も終わる時間である。腹の虫が栄養を要求していた。
実のところ、アクアにとって食事抜きはそれほど深刻ではなかった。メイドのシエスタはアクアを可愛がってくれるので、泣きつけばまかないに簡単にありつけるだろう。
しかしアクアは反省の意味もあって、空きっ腹を抱えたまま学院をさまようことにした。
ぐうぐう。
アクアの足が、ふらりと調理場に向かった。結局のところ、生理的欲求には逆らえないのであった。


「おう嬢ちゃん!よく来たな」
アクアが厨房にやって来ると、四十過ぎの太ったおっさんが歓迎してくれた。
丸々と太った体に、立派なあつらえの服を着込んだ、コック長のマルトー親父である。
平民であるのだが、魔法学院のコック長ともなれば、収入は身分の低い貴族なんかはお呼びも付かなく、羽振りはいい。
「おっちゃん、おんぶー」
「おう、まかせろ!」
がっはっは、と豪快に笑うと、アクアを背負い、そのまま厨房を切り盛りし始める。
マルトーにおぶわれていると、厨房の臭いがアクアの鼻を突く。晩のメニューはシチューのようだ。立ちこめるシチューの匂いに、アクアは空腹を刺激される。
「軽いな、嬢ちゃんは!もっとたくさん食わんと、大きくなれねえぞ!」
マルトー親父は、アクアのことを特に可愛がってくれていた。孫でもできたような感覚なのだろう。
「あらアクアちゃん、どうしたの?」
配膳の準備をしていたシエスタがこちらに気付き、声を掛けてきた。
「や、シエスタ。お腹すいちゃってさ」
そう言うのと同時に、タイミングよくアクアの腹の虫が主張する。
「ご飯、もらえなかったの?」
「ゼロのルイズってからかったら、食堂からつまみ出されちゃった」
「まあ!貴族の方にそんなこと言ったらいけませんよ」
窘めるシエスタに、マルトーは鼻を鳴らす。
「ふん、かまうもんかい。あいつら魔法が使えるからって、いい気になってんのさ。よく言ったぞ、嬢ちゃん。俺ァますますお前が好きになった」
マルトーはアクアの頭をくしゃくしゃと撫でた。
シエスタは少し呆れた目で、2人を見る。
マルトーは、羽振りのいい平民の例に漏れず、魔法学院のコック長のくせに貴族と魔法を毛嫌いしていた。
「ほれ、食いな。こいつは晩に貴族連中に出すもんだが、なに、構うもんか。じゃんじゃん食ってくれ」
暖かいシチューの入った皿に、アクアは飛びついた。
「ありがと、おっちゃん。おいしいよ、これ」
アクアは夢中になってシチューを食べ、マルトーとシエスタはそんなアクアの様子をニコニコと見つめていた。
176虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/25(木) 20:04:11 ID:AHn/JTyj
夕食の時間になっても、ルイズの怒りはおさまっていなかった。おいしいシチューの味も、どこか上滑りしていく。
アクアはあれっきり姿を見せていなかったけど、ふん!知るもんですか!
「なあ、ギーシュ!白状しろ!今は誰と付き合ってるんだよ!」
教室の一角で、男子生徒が騒いでいた。シャツのポケットに薔薇をさした、金の巻き髪の気障な同級生、ギーシュ・ド・グラモンとその友人たちであった。
「付き合う?僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
ギーシュは芝居がかった口調で、友人たちに答えた。自分を薔薇に例える、救いようのないキザっぷりだった。
すこぶる機嫌の悪いルイズは、頼むから死んでくれとギーシュに呪いを送りつつ、シチューの残りとの格闘に戻った。
イライラしていたせいで食が進まず、ルイズの食事は遅れていた。早くしないと、そろそろデザートが配膳される時間だ。
そんな折り、ギーシュの席の方から
「おい、ポケットからビンが落ちたよ」
と、なんだか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「これは僕のじゃない。君は何を言ってるんだね?」
「はあ?あたしはこの目で見たんです。こいつはあんたが落としたんだよ」
ばっ!とギーシュの席の方を向くと、ギーシュとあの小憎らしいアクアが口論をしていた。
アクアは大きなエプロンを身に付け、ギーシュと睨み合っている。そばに立っている黒髪のメイドがケーキを載せた大皿を持ったまま、おろおろしている。
あいつ、何やってんのよ!ルイズは頭を抱えた。


アクアは、シチューのお礼に、給仕の手伝いをすると言い出した。
えらそうなルイズの命令はあまり聞く気が起きなかったが、受けた親切に返すのは当然のことだと思ったからだ。
そんなわけで、シエスタの手伝いとしてケーキの配膳をしていたのだった。
色とりどりのケーキが食卓を飾り付けていく中、アクアはふと、ギーシュのポケットから綺麗な小瓶が落ちるのを見とめた。
まったくの親切心からアクアはそれを教えたのだが、ギーシュは知らないと言いはった。
こうして、話がややこしくなりはじめたのだった。
「おお!その香水はもしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」
その瓶の所在に気付いたギーシュの友人たちが、大声で騒ぎはじめた。
「そうだ、その鮮やかな紫色!モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモランシーと付き合っている。そうだな?」
「違う。いいかい、彼女の名誉のためにも言っておくが……」
ギーシュがなにか言いかけたとき、一年生のテーブルに座っていた茶色のマントの少女が立ち上がり、ギーシュの席に向かってコツコツと歩いてきた。
マントと同じ栗色の髪をした、可愛い少女だった。
「ギーシュさま……」
そして、涙をボロボロとこぼした。
「やはり、ミス・モンモランシーと……」
「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心に澄んでいるのは、君だけ……」
しかし、ケティと呼ばれた少女は思いっきりギーシュの頬をひっぱたいた。
「その香水があなたのポケットから出てきたのが何よりの証拠ですわ!さようなら!」
ギーシュは頬をさすった。
入れ違いに、見事な巻き毛の女の子、モンモランシーがギーシュにつかつかと歩み寄った。
アクアは彼女に見覚えがあった。召喚の儀式の日、ルイズと口論していた女の子だ。
「モンモランシー、誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールに遠乗りをしただけで……」
ギーシュは冷や汗をかきながら弁明をはじめたが、モンモランシーは聞く耳を持たず、テーブルのティーカップに注がれたお茶を、ギーシュの頭の上からごちそうした。
そして、「うそつき!」と怒鳴って去っていった。
突然の修羅場に、食堂に一時の沈黙が訪れる。
ギーシュはハンカチで顔を拭いながら、芝居がかった仕草で言った。
「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」
ぷっふー!と、吹き出す声が、静かな食堂に響き渡った。
ギーシュはカチンと来て、笑いの起こった方をみる。
「シエスタ!今の聞いた?なかなか言えないよね!『薔薇の存在の意味を理解していないようだ』ひゃあ、かゆいかゆい!」
それは、おせっかいにも香水のビンを拾った女の子だった。薔薇の存在を云々の下りは、身振り手振りを加えての熱演であった。話しかけられたメイドは、蒼白な顔をしてオロオロしている。
それをきっかけに、食堂がどっと笑いに包まれた。
177名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 20:07:20 ID:gaMjsOCF
支援
178虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/25(木) 20:07:32 ID:AHn/JTyj
ギーシュは笑いを努めて無視して、すさっ!と足を組み、アクアの方に体を向けた。
「小さなお嬢さん。君が軽率に、香水の瓶なんかを拾い上げたおかげで、2人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだい?」
少女の保護者であろうか、黒髪のメイドは目を白黒させながら、「も、申し訳ありません!」と平謝りしていた。
しかしアクアはそんなシエスタのことを気にかけるふうもなく、鼻を鳴らした。
「知らないよ。二股かけてるあんたが悪い」
「その通りだギーシュ!お前が悪い!」
生徒たちからヤジが投げかけられる。
とりつくしまなしと見たギーシュは、標的をメイドのシエスタに向ける。
「君ねえ、平民の教育はどうなっているんだね?子供とはいえ、礼を欠くことは許されることではないんだよ」
「申し訳ありません!申し訳ありません!」
ネチネチとシエスタをいびるギーシュ。シエスタはひたすら頭を下げるばかりだった。
そんなギーシュに、アクアはまたも挑発的な言葉をかける。
「ちょいと、坊や。シエスタを責めたってあんたが二股野郎だってのは変わらないよ」
ああ、アクアちゃん、もうやめて。シエスタは卒倒寸前であった。
「さ、シエスタ。駄目だよこんなケダモノに近付いちゃ。汗の匂いでも嗅いでみなさいな、妊娠しちゃうから。おお、怖い!」
ギーシュの友人たちはもう、笑い過ぎて床を転がり回っていた。
そうしてシエスタを引っ張って厨房に戻ろうとするアクアを、ギーシュが呼び止めた。
「待ちたまえ。どうやら、お嬢さんは貴族に対する礼を知らないようだ」
あくまで格好を付けながらそう語るギーシュ。アクアは舌を出してそれに返した。べろべろバーカ。
いくら小さな子供とはいえ、ここまでの無礼を働かれては、さすがのギーシュも黙っていられなかった。
「君に礼儀を教えてあげよう」
そもそも貴族社会とは、下々のものが貴族を恐れ、敬うことで成り立っている。
貴族への敬いのない子供は、いずれ社会を混乱させることになるだろう。
で、あるからして。子供の時分よりきっちりと『教育』して差し上げる必要があるのである。これ貴族としての義務なのであるからして。
そんなギーシュ理論が成立し、かくして彼は、正義の執行者、秩序の番人としてアクアの前に立つことになったのである。
これに比べれば、二股問題など取るに足らない事柄なのであった。
「付いてきたまえ。平民の血で貴族の食卓は汚せない。『ヴェストリの広場』にて」
アクアはフン、と鼻を鳴らし、ギーシュの後を追う。と、そんなアクアの腕に、腰を抜かしたシエスタがすがりついてきた。
「だ、だ、だめよ。あなた、殺されちゃう……!」
蒼白な顔で、シエスタはなんとか声を絞り出した。
ルイズが後ろから駆け寄ってくる。
「あんた!なにしてんの!見てたわよ!」
ものすごい剣幕でアクアに食ってかかる。さっきまでの怒りは、事件のインパクトのせいでどこかへ行ってしまっていた。
「なに貴族に喧嘩吹っかけてんのよ!ていうかね、あんた、普段の物言いからしてまずいのよ!」
アクアの態度に眉をひそめながら、それでも許してこれたのは、ルイズだからであったと言えるだろう。
プライドの高い貴族の中には、アクアの生意気に本気で怒り出す者も珍しくないに違いない。ちょうど、先ほどのギーシュがそれだった。
アクアの不遜な物言いは、普通にしているだけで貴族全員に喧嘩を売っているようなものだった。
「謝んなさい。ギーシュに謝んなさい。今なら許してくれるかもしれないから」
「あたし、アイツ嫌い」
「嫌いとかそんなこと言ってるんじゃないの。メイジに平民は絶対に勝てないのよ!あんたは怪我するわ。それで済めばいいけど」
ルイズは強い調子で言う。しかしアクアは、飄々とした態度を崩さない。
「大丈夫、あたし強いもん」
「あんたねえ!」
「だいたいね、言わなかったっけ?あたしも魔法使いだって」
はっ、とルイズは思い出す。
アクアは一言目から「大魔導士」と自分を呼んでいた。でも、アクアはこんなに小さいし、とてもそんなふうには見えないので、子供の言うことと真面目に取り合わなかったのだった。
「あたしの魔法、見たいんだろ?ちょうどいいから、見せてやるよ」
そう言ってアクアは不敵に笑う。まさか、本当に?
「それにあたし、アイツ嫌い。キザったらしくて、カッコ付けで」
アクアの口の端が、ぎにい、と凶悪につり上がった。
「だから、みんなの前で、恥かかせてやる」
ああ、この子、Sなんだ。いじめっ子なんだ。
ルイズはなんとなく理解した。
179虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/25(木) 20:08:26 ID:AHn/JTyj
今回は以上です。
早いとこ残りの二人も出したいな
180虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/25(木) 20:09:15 ID:AHn/JTyj
書き忘れてた、支援ありがとうございます
181名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 20:45:24 ID:yAX8/rYW
パズルというから
ヘルレイザーのパズルボックスが召喚されたのかと思った
あれが召喚されたらベルセルクの蝕より洒落にならないがw
182名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 20:51:55 ID:F4yeT6HK
最初に手に入れるのはワルドだな、間違いなくw
183名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 21:07:27 ID:+NOvYtIY
鷲の人乙!
数字のゼロを引っかけたのがちょいと小粋だったw

パズルの人も乙!
・・・確かに決闘シーンで出張るのはアクア以外あり得んよな。

決闘前シーンの対比が中々面白かった、つーかアクアのS属性が際だっていたねw
184名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 21:31:51 ID:jVIgU3oY
鷲の人乙です。
ガンダ三人か…ギーシュイ`w
次回にwktk。

アクアの人乙です。
よりによってアクアを敵に回すとは…成仏しろよギーシュww
次回にwktk。
185名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 21:36:11 ID:I43OtyrE
アクアの人乙

いくらアクアでも、流石にギーシュ相手にBBジャベリンズは無いよな……
186名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 21:46:37 ID:gaMjsOCF
ホントだ、偶然にも同じ食堂のシーンが近い時間に投下されてるw
鷲の人のアツい展開とパズルの人のヒドい(誉め言葉)展開のギャップが面白い
187名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 21:52:48 ID:OBt37ko/
アクアの人乙でしたー!
次はギーシュ戦ですか。ワルキューレ相手に『入れ替わる』事はないと思うけど…。
ワルキューレにBBジャベリンズで瞬殺が妥当か?
188Fatal fuly Mark of the Zero:2008/12/25(木) 22:02:47 ID:8EJr3yoK
お疲れ様でした。
十数分後に投下したいと思います。
189名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 22:06:02 ID:+NOvYtIY
>>185
わからんぞ、奴はドSだからな。
そしてFFMZの人を全裸で待機。
190Fatal fuly Mark of the Zero:2008/12/25(木) 22:24:32 ID:8EJr3yoK
では、そろそろ参ります。

「さぁ、ロック。準備はいい?」
「あ、ああ。ちょっとドキドキしてきたな」
「そんなのわたしだってそうよ。絶対にしくじらないでよね」
「それだけは心配しなくていいぜ」
「ほんとかしら……」

 現在品評会の真っ只中である。
 前日から作られていた大仰な舞台の上で、数々の種族の使い魔達が主人の命に従い、王女を含む観客へ向けての芸を披露していた。
 生徒達の熱の入りようといったら、ある意味で召喚の儀の時よりも凄いものがある。
 そんな姿を終始にこやかに、時折拍手を交えつつ見ているのはアンリエッタ姫殿下だ。
 いや、無論他にも姫の護衛兵、教員、また他学年の生徒達も観客として存在しているのだが、誰しもが姫殿下の一挙手一投足から目を離すことができない。
 次の出番を今か今かと待ち構え、舞台袖で互いの意志を確認しあうルイズとロックもそれに該当する。

「けど、最悪の順番よね」
「ありゃあ反則だ」

 やる気はある。それは見世物になるのに抵抗がいまだあるロックにもだ。
 しかし、直前の演目がタバサの呼び出した風竜によるものとは、不運にも程がある。
 人がする芸など、一国の姫からしたらそれこそ飽きるほどに見てきただろう。最初からそんなハンデがあるのに、そこから更に一歩どころか数十歩の間を空けられた気分だ。
 しかし、いや、だがしかし。ルイズはその小さな拳を音が鳴るほどに握りこむ。
 青い炎のような闘志を滾らせるルイズとは裏腹に、ロックは内心困り果てていた。

(こんなんでいいのかな)

 色々な意味を含んだ言葉を呟きながら、胸に手を当ててすぅ、と息を吸い込んだ。
 どうせなるようにしかならないし、折角根回しして協力者を得たのだ。せめて恥にならぬ働きをすればいい。
 舞台ではタバサの駆る風竜が空での舞いを終え、着陸して一礼を送った事で演目の終了となっていた。
 盛大な拍手が上がる中、ロックは後方に控えている男性に指で合図をした。

「やれやれ。特定の生徒への贔屓はよろしくないのだがね」

 合図を受けた男、ギトーは鼻から短く息を吐き、レビテーションの魔法を唱える。
 ふわりと浮かんだのは錬金で作り上げた直径で四メイルはあろうかという巨大な岩や、空になった酒樽。他には食堂などで使われる薪などが、次々と浮き上がり舞台へと運ばれていった。

「まぁ、研究の代価としては安くついている、か。せいぜい、姫殿下にいい所でも見せるがいい」

 皮肉った口調で送り出すギトー。
 それに合わせ、ルイズはロックを伴って熱気冷めやらぬ舞台へと躍り出た。

     ※
191名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 22:24:53 ID:1ozMTEHv
規制に引っかかった?
192Fatal fuly Mark of the Zero:2008/12/25(木) 22:27:15 ID:8EJr3yoK

「はいっ!」

 ルイズが両手に抱えていた薪を一本ずつ空高く放り投げた。
 バラバラに飛び散ったその総数は六。そして、更にルイズは追加で五本の薪を新たに抱え込んだ。

「シッ」

 放り投げられたその一本が十メイル程の高さから、四メイルの高度まで達した時、ロックがその身を跳ね上げて足刀を突き出した。
 ぱかん、と音を立てて薪を割る。まるで刃物を用いたかの如く綺麗な断面に驚くより、ただの平民だと思っていた男がフライも用いずに高く飛翔した事にギャラリーは唸った。
 二本目が降下するロックの目の前に到達する。中空で拳を振れば、またそれが割れて地に落ちた。
 息を吐かせる暇も無い。
 離れた場所に飛んだ三本目は、目を凝らしてさえ見失う程の素早さで駆けたロックのオーバーヘッドキックで砕かれ、四本目は振り返ることすらせずに放たれた連続のオーバーヘッドでまたも、であった。
 五本目六本目は落ちてくるのがほぼ同時。しかし、少し離れた位置にいながらもロックは余裕を持ってその場に佇む。まだ五メイルほどの高さ、ならば十分だ。

「はぁぁぁぁ……」

 腹の底から息を吐き出し、腕に気を充実させる。真空投げで相手を投げ飛ばし、羅刹でそれを狙い打つ体勢と同一だ。
 タイミングを合わせ、

「もらったぁ!」

 射線が重なった二つの薪が、ロックの手より放たれた気の棘で打ち砕かれた。
 一見してあり得ぬ光景に、ざわ、と観客全員から動揺が漏れる。最も、以前あれを見たことのある二年生は別として。
 それを尻目に、ルイズは新たな薪を先ほどとは違い、同一地点に投下場所を定め、断続して投げた。
 これもまた六本。そのポイントにいるロックは、最初の一本が頭上近くに来るまで今度はしゃがんでじっとしていた。困惑するギャラリーの顔に、ルイズはにぃっとほくそ笑んだ。

「ライジングタックル!」

 しゃがみ、身体のバネに溜めていた力を言葉と共に解放する。
 腕を広げ身体を逆さに、そして両腕を開いて錐揉み回転するロックが、空へ向けて上昇しながら六本全ての薪を叩き割っていくではないか。
 流石の離れ業に、誰しもが感嘆の息を漏らし、両手を盛大にたたき合わせる。
 着地したロックは額に浮かんだ汗をジャケットの袖で拭い、ルイズと視線を合わせた。

「おっけい!」

 かつてロックの口から聞いた言葉がルイズから漏れていた。
 それを受けてロックは爽やかに白い歯を見せた笑みを浮かべて親指を立てた。ルイズもそれに倣って返す。
 そして二人、まずは観客席へ一礼。観客席から歓声が湧き、次の芸は何だと騒ぐ。
 そこでルイズが指を差したのは、ギトーによって運ばれた巨大な岩。
 まさかあれまで……? と口々に言い始めるギャラリーへ、ルイズは言葉を放った。

「これもまた、さっきの薪と同じようになりますわ」

 流石に無理だろう? 魔法も使わずに? でかすぎるだろ、いくらなんでも。
 そんな声が次々と溢れてくる中、実際の所ルイズも同様の見解が頭の隅にこびりついていた。
 しかし、出来ると言ったことは必ずこなすロックの姿を見ているし、常識外れを今まで見せてきてくれている。きっとやれるはずだ。ルイズはそうして固唾を呑んで彼を見守る。
 かたや舞台袖で光景を見守るギトーは、つまらなそうな顔でこう呟いた。

「嫌がらせにもっともっとでかくすればよかったかな。あれでは拍子抜けにも見えん事はない」
193Fatal fuly Mark of the Zero:2008/12/25(木) 22:29:01 ID:8EJr3yoK
 ロックの力量をその身体で知っているからこその言葉である。
 丁度その近くにいたロックが、それを聞きとがめて小声で漏らした。

「次絶対に手加減してやらねー」
「こちらの台詞でもある」
「……よく言うぜ」

 やり取りを終え、ぶんぶんと腕を振り回してロックは目前の巨岩へと意識を集中させた。
 十分に身体は温まった。ギアをトップまで上げればあの程度屁でもない。
 岩まで駆け出し、踏み切る。突き出した肘が巨岩全体に亀裂を走らせた。
 だが、それで終わりではない。
 残った片手には溜めた気が解放されるのを今か今かと待ち望んでいる。

「はぁっ!」

 裂帛の気合を込めて突き出された掌は、青白い軌跡を生み出し、ぶつかった岩を内側から四散させた。
 ざわめくギャラリーと同じく、ルイズまでが嬌声を上げる。頭上に舞い降りる埃など気にする事なく、またもロックが親指を突き立てた。勿論ルイズはそれを返す。
 しかし、二人は気付いていながら黙っていた。ざわめきの色合いがどうにも黒くなっていっている事に。

「では、これが最後です」

 厳かに一礼をしたルイズが指差したのは、舞台の端にある空の酒樽。そして、ロックは中央の位置からその反対方向へと歩き出した。
 周りを気にする事無く、掌に宿った気の塊を玩びながら、ロックは地面を撫でるようにその手を掬い上げた。
 烈風拳。
 放たれた目視可能の風が、舞台を奔り樽へと向かう。端から端へ、しかしそれはほぼ一瞬の出来事だ。気による烈風に抗えぬ無機物は、その姿を真っ二つにして舞台を転がった。
 先ほどまでとは違い、今度はしぃん、とした静けさが場を支配した。

「そこを動くな!」

 誰の声か、それが分からぬままに気付けばロックはその場に釘付けにされた。
 周りを囲むのは、姫の元に侍っていた護衛の兵士達。携えた得物を突きつけ、ロックを睨んでいる。
 実際は覚悟していた事である。
 ルイズから聞いたこの世界での常識で、杖を持たぬ者がロックのような技を行使する事など出来ない事を。
 そして、それが出来るのは人間ではなく畏怖や嫌悪の対象であるエルフなどだと。
 無論、それの対策には抜かりがない。ルイズが慌てて舞台袖に合図を出すと、そこからギトーが飛び出る、予定だった。

「まぁまぁ、皆さん落ち着いてくださいな」

 その場の空気を制したのは、他でもないアンリエッタ姫殿下の一言だった。
 朗らかに笑う彼女が壇上へと歩き出し、それに見とれているギャラリーを他所に、ロックの元へと近づいてこう言った。

「御覧なさい? この方の耳は尖ってはいないし、翼も生えていない。口だってほら」

 ごめんなさい、と断りをいれ、アンリエッタはロックの口元へと手をやる。
 もが、と声を上げたロックの口は開かれ、皆の元へ公表された。

「先ほど彼の笑顔を見ましたけど、この通り牙もない。何を心配する事があるのかしら?」

 何とも乱暴な釈明だったが、当初予定していたものよりは余程いい納得材料だ。今更、手品でしたという切り札は必要あるまい。
 袖のギトーはふむ、と頷き、ルイズとロックはその胸を撫で下ろした。
 下がっていく護衛兵達を目に、姫の脇で侍っていながらも、ロックを取り囲まなかった唯一の者がその顔に蓄えられた髭を撫でて呟いた。

「あれが、ロック。ロック・ハワード」
194Fatal fuly Mark of the Zero:2008/12/25(木) 22:31:02 ID:8EJr3yoK
以上です。アンリエッタってやっぱり可愛いですよね。
明日また投下します。あじゃっしたー。
195名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 22:32:40 ID:xPxYGxRO
アンリエッタは害獣
196名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 22:47:37 ID:1ozMTEHv
やることなすこと裏目に出るだけで可愛いひとだよ
なんにせよ>>194
197名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 22:56:10 ID:zYM41Opa
投下乙

アンリエッタは恋する乙女モードで親友を死に追いやりかけても自己憐憫におぼれてる姿がウザ可愛いキャラ
198名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 22:56:42 ID:fth0gG3s

文句言いながら付き合いのいいギトー先生ワロスw
>196
若い、若いなぁ……
199名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 23:03:15 ID:HrwleM45
エルフ=イスラーム
よってエルフの宗教では9歳の少女におっさんがおちんちんそーにゅーしても
合法のはず。
なんでハルキゲニアの下種貴族どもはブリミル教を捨て、真実の宗教に
改宗しないのか!!!!!!!!!
200名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 23:03:46 ID:shXVd2Xf
鷲虚無の人キテター!!
ギーシュのキレ具合の迫力がひしひしと伝わってくる描写が良いですなぁ。
プッロの甘味初感動体験にも思わずニヤニヤしてしまいますw
201名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 23:13:15 ID:UZkLgB9m
投下乙MAX ところでひとつ質問なんだが
聖地=ハイラルでゲーム式リンク召還とハルケギニアが舞台のリンク(一部オリ道具)
許される度合いはどの辺までだろうか
202名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 23:25:29 ID:zYM41Opa
個人的にはとんでも設定でも無い限りどうでもいいかな
聖地はまだ明かされて無いはずだし、その辺は好きに改変していいと思うよ
オリ道具がどんなのかは知らんが、ドラえもんのポッケから出したような便利アイテムじゃなきゃいいとおも
納得させられるだけの理由があればどんなのだっていいし
203名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 23:30:06 ID:M41KnCr6
細かい事を気にすると頭が知性の輝きになってしまうぞ
204ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/25(木) 23:31:20 ID:quCc/JWI
 どうもこんばんは、00の感想サイトを見てて「ルイスが〜」という一文を『えっ、ルイズが!?』と一瞬だけ見間違えて
しまうラスボスです。

 今回もさるさんに引っ掛かるかもしれないので、出来れば準備していただけるとありがたいです。

 他に予約の方がおられなければ、23:40から第17話の投下を始めます。

 ☆注意!!
 今回の話の後半部分において、スーパーロボット大戦の『あるキャラ』のセリフを、各シリーズからこれでもかと引っ
張ってきて垂れ流しまくっております。
 ハッキリ言って後半部分はストーリー上、大して影響もない(予定です)ので、そのようなものが嫌いな方はスルー
を推奨いたします。
205名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 23:34:17 ID:IAQnf1GO
おk 事前支援だ
206名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 23:37:58 ID:3bspQU2c
紫煙
207ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/25(木) 23:40:00 ID:quCc/JWI
 バラバラに散った、他のメンバーとワルドの『偏在』で作られた分身たち。
 上手い具合にバラけて1対1の様相を呈してくれたのだが、ルイズが自分の近くを離れてくれなかったので、結局は2対2と
なった。
 正直、ルイズは戦力としてカウントしていなかったので実質1対2か……と思っていたのだが、ルイズは戦闘開始直後に
いきなりファイヤーボール(の出来損ない)をぶっ放し、分身はアッサリ消滅してしまう。
 この調子でもう1体の方もお願いしたかったのだが、残ったワルドは瞬時にルイズに躍(オド)りかかり、ルイズは杖で
強打されて気絶して戦闘不能に。
 ―――結局、1対1となってしまった。
 『ウィンド・ブレイク』や『エア・ハンマー』から(それがルイズの方に向けられないように)逃れながら、ユーゼスは
思考する。
(このまま持ちこたえて、ミス・タバサやミス・ツェルプストーにこの男を倒してもらおう)
 自分がこの男に勝てないことは、ラ・ロシェールの戦いで証明済みである。
 とにかく防御と回避に徹して、あとはそれなりに勝ち目のある人間に任せる―――というのが、賢い手段というものだ。
 ユーゼスは本気でそう考えていた。
 ……考えていたのだが。
 ガキィインッ!!
「くっ……!」
「フ……」
 接近してきたワルドが振るった杖によって、手に持っていた剣が弾き飛ばされてしまった。
 不味い。これではルーンの効果が発揮出来ない。
 ルーンによる身体能力の向上がなければ、ワルドの攻撃を凌(シノ)ぎ切ることは無理だ。
 拾っている余裕などないし、鞭では上手く防ぐことが出来る自信がないので、背中の鞘(『ライトニング・クラウド』を
受けたせいで壊れていたが、アルビオン軍に新しいものを用意してもらった)からデルフリンガーを抜く。
 まあ、防御に使うだけならば、この錆びた剣でも十分だろう。
 耐久性は色々と(焚き火にくべたり、直後に氷水で冷やしたり、魔法学院の衛兵に頼んで大型のハンマーで叩いてもらっ
たり)実験をして証明済みであるし。
「おっ、いきなり抜かれたと思ったら、またコイツと戦ってんのか?」
 剣は相変わらず煩(ウルサ)く喋っているが、無視。
 とにかく回避と防御に専念である。
「フン、どうしたガンダールヴ? 動きが鈍いではないか。伝説の使い魔なのだから、せいぜい僕を楽しませてくれよ」
 笑いながら敵がそんなことを言ってくるが、これも無視。
 ……どうせ挑発してこちらに攻撃させ、その際に生じた隙を突くとか、そのような狙いだろう。
 と、その時、手に持っているインテリジェンスソードが叫んだ。
「―――思い出した! そうか……ガンダールヴか!!」
 取りあえず、無視。
「俺は昔、ガンダールヴに握られてたんだ! でも忘れてた。何せ、今から六千年も昔の話だからな!!
 いやあ、懐かしいねえ、泣けるねえ。そうかあ、なーんか懐かしい気がしてたが、相棒、あの『ガンダールヴ』か!」
(何を言っているのだ、この剣は)
 それと、勝手に『相棒』呼ばわりするのは止めてもらいたい。いちいち馴れ馴れしい剣である。
「嬉しいねえ! ……おっと、戦ってる最中だったな! 俺もこんなカッコしてる場合じゃあねえ!!」
 カッ!
 剣の柄(ツカ)あたりから叫び声が響き、次の瞬間、デルフリンガーの刀身が輝き始めた。
208ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/25(木) 23:42:05 ID:quCc/JWI
(しまった!)
 驚いた拍子に、迂闊にも動きを止めてしまった。
 その隙をワルドが見逃す筈もなく、『ウィンド・ブレイク』を放ってくる。
 この間抜けめ、と心の中でインテリジェンスソードに向かって毒づくが、毒づいてどうにかなるものでもない。
 ユーゼスは咄嗟に光るデルフリンガーを構えて防御しようとする。
「無駄だ! 剣では避けられないことも理解が出来ないのか!?」
「……!」
 理解しているが、反射的に構えてしまったのである。
 そして風のカタマリは容赦なくユーゼスに襲いかかり、
 デルフリンガーの刀身に、吸い込まれていった。
「「何!?」」
 同時に驚くユーゼスとワルド。
 見るとデルフリンガーは、あの錆びだらけだった姿が嘘のようにスラリと光り輝いている。
「……どういうことだ、デルフリンガー」
「お、初めて俺の名前を呼んだな、相棒!? これがホントの俺の姿さ! いやぁ、てんで忘れて―――」
「お前は、魔法の無効化が出来るのだな?」
 デルフリンガーのセリフを遮って、ユーゼスが質問した。
「え? あ、ああ、チャチな魔法なら、全部俺が吸い込んで」
「……何故、購入した時点でそれを言わなかった」
「いや、だから忘れて―――」
 ユーゼスは舌打ちすると、改めてデルフリンガーを構える。
「あ、あのー、相棒?」
「戦闘中に、いちいち会話をしている余裕などない。……それと『相棒』は止めろ」
「……おう、ユーゼス」
 かなり高かったはずのデルフリンガーのテンションが、大幅にダウンする。
 しかしそんなことには露(ツユ)ほども頓着せず、ユーゼスはワルドとの戦闘を再開した。
 これで戦い方に幅は出たが、しかし、
「魔法を吸収する剣か……ならば、これはどうだ!!」
 ワルドはデルフリンガーへの対抗策として、『エア・ニードル』を杖にまとわりつかせた。
(……『杖自体を魔法の発生源』にしたか)
 先程、ウェールズを殺害した攻撃方法である。
 確かにこれならば、『吸収する先から発生する』ので、消滅することはない。
(どうするか……)
 このままジリジリ攻撃されては、いずれ手詰まりになってやられてしまう。
 仕方がないので、飛び退いて距離を取った。
 追撃としてワルドは『エア・ニードル』を射出するが、これは吸収して掻き消す。
 ……その時、デルフリンガーが驚きの声を上げた。
「……おい! あの貴族の娘っ子、気絶して倒れてるじゃねえか!? どういうことだ!?」
 何を今更、とユーゼスは嘆息した。……このまま喚(ワメ)かれても迷惑なので、一応説明しておく。
「あの男の攻撃を受けたからな」
「はあ!? それで、何でお前はそんな平然としてんだよ!?」
「?」
 ユーゼスは、その質問の意図が理解出来なかった。
「……その質問の意味が分からないのだが」
「い、意味が分からないって……こっちのセリフだ!! 主人がやられて感情を波立たせねえ使い魔なんて、聞いたことが
ねえぞ!!」
 ああ、とユーゼスは納得した。
 そう言えば、『普通の使い魔』はそういうものらしい。
 疑問が氷解したので、今度はこの剣の疑問に答えることにする。
「……何故、私がそんなことで感情を動かさなければならないのだ?」
「―――は?」
「…………何だと?」
 この言葉にはデルフリンガーだけではなく、ワルドすら絶句した。
209ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/25(木) 23:44:10 ID:quCc/JWI
「私が御主人様に従っているのは、別に恩義でも忠義でも義理でも愛情でも同情でも憐憫でもない。
 あの少女から『使い魔とはこういうものだ』と言われたからだ」
「な、な、な……」
 唖然とした声を上げるデルフリンガーだったが、どうにか声を絞り出す。
「ちょ……、ちょっと待て。お前、何て言うか『あの娘っ子を守らなきゃ』とか、そういう気持ちが湧き上がったり
は―――」
「『仕事としての義務感』に近いものならばあるが。やらなければならないから、やっているだけだ。
 強いて言うなら、『手のかかる子供の面倒を見る』程度の思い入れはある」
「…………主人の危機に対して、こう、カッと燃えるものとかは―――」
「死んでいないのならば、それで良いだろう? 重傷とも思えん」
 今度こそデルフリンガーは沈黙した。
 おかしい。
 ガンダールヴに限らず、使い魔には契約のルーンを刻む際に『主人に対する忠誠心』だとか『親愛の情』などが植え付け
られるはずだ。
 まさか、ガンダールヴのルーンに何か不備が……いや、あるいは契約時に何かトラブルがあったか……。
 いずれにせよ、これでは『心の震え』に応じて発揮されるガンダールヴの力が、かなり現象してしまう。
 とんでもねえ使い手に当たっちまった……とデルフリンガーが嘆いていると、
「ハ……ハハハハハッ!! これはいい! そうか、伝説の使い魔はその主人に対して、何の情も感じていなかった
か!!」
 いきなりワルドが大笑いを始めた。
 ユーゼスは、それを感情のこもらない目で見つめる。
「ククク……、いや失礼。だが、それならばユーゼス・ゴッツォ……」
 そしてワルドは、一つの提案を行う。
「……僕と共に来る気はないか?」
「何?」
 驚きと疑問で、ユーゼスの表情が変化した。
「『偏在』で作られた僕の分身は、全て倒された。……トライアングルの彼女たちはともかく、あのドットの坊やが私の
分身を倒すなど、にわかには信じがたい……。彼に入れ知恵をしたのは君なのだろう?」
「そうだ。しかし、スクウェアクラスのメイジを倒せるとは思っていなかったがな……」
「やはりな。……我々『レコン・キスタ』は、君のような優秀な人間を必要としているのだ。
 平民であることなら、気にする必要はない。ハルケギニアを統一しエルフ共を倒すためには、それに代表される悪しき
風習こそを打破なければならないのだから」
「ほう……」
 言っていること自体は、立派である。
「そして、君が持つ『謎の力』……。魔法学院からラ・ロシェールまでごく短時間で移動した、あの力を上手く使え
ば……」
(……本音はそれか)
 途端に、ユーゼスの興味が冷めていった。
 彼らに協力するのも面白いかと思ったが、この様子ではせいぜい実験動物ほどの扱いがいい所だ。
 はあ、と溜息をつく。
 自分もかつて、ウルトラマンを似たような感じで捉えていた。
 この男と接すれば接するほど、自分の汚点と言うか恥部を見せ付けられている気分になってくる。
 ……加えて、人材の勧誘が下手なところまで似ている。
「君の知識と、君の力! それがどれだけ『レコン・キスタ』に―――」
「もういい、黙れ」
 キッパリと言い放つ。
「せっかくの誘いだが、断らせてもらう。私はのんびりと余生を過ごしていたいのでね」
「な……、貴様……!」
 すぐに感情的になる。これも昔の自分と同じだ。もう嫌気が差してきた。
 ならばもう、こうするしかあるまい。
「お前は―――私が倒そう」
210名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 23:45:07 ID:riu3uqyY
支援するのも私だ
211ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/25(木) 23:46:20 ID:quCc/JWI
 言った直後、弾き飛ばされた剣の元へと駆け出し、拾う。
 ワルドはそんなユーゼスの行動を眺めながら、苛立たしげに言葉を放った。
「……お前が、私に勝つだと? その体たらくでか?」
「そうだ。……さすがに『必殺』とはいかんが、少なくとも追い詰める程度は出来るだろうよ」
 両手でそれぞれ剣を振るった後で、何の変哲もない普通の剣を、腰の鞘に仕舞う。
(ぬ……)
 その動作に、ワルドは警戒の念を抱いた。
 左右の手を使った二つの剣の戦法―――そんなものが自分に対する有効な手段とは思えない。
 だが、相手は仮にも伝説にその名を記す『ガンダールヴ』。
 あらゆる武器を使いこなしたと言われるこの目の前の存在は、もしかすると自分の思いもよらない方法で勝利を狙って
来るかも知れない。
(迂闊に接近するのは危険だな……)
 ならば、遠距離からの攻撃で仕留めるしかあるまい。
 ……生半可な魔法では、あのインテリジェンスソードに吸収される。
 自分の手持ちの魔法の中で最大の攻撃力を持つ『ライトニング・クラウド』であれば、突破は可能だろう。
 事実、ラ・ロシェールの襲撃戦ではあの剣も『ライトニング・クラウド』を吸収しきれずに、ユーゼスは重傷を負った。
(……よし)
 詠唱を開始する。
 悠長にやっていては、またどのような手を使われるのか分からないので、高速で。
(む?)
 気付くと、対峙しているユーゼスはいつの間にかインテリジェンスソードを片手に……逆手に持ち替えていた。
 やはり何か自分の知識にない戦法を使うつもりだったようだ。
 接近しなくて正解だったな、などと思いながら詠唱を完了させ、あとは撃つだけという段階になった直後、
「ふっ!」
「げえっ!!?」
「!?」
 ユーゼスが、掛け声と共に―――デルフリンガーを投擲した。
(何だと!?)
 混乱する。剣を投げつけるなど、まともな戦い方ではない。だが打ち払うなり迎撃するなり避けるなりしなければ、
「っ!!」
 バリィイイイイインッ!!
 反射的に『ライトニング・クラウド』で、投げられたデルフリンガーを撃ち落とす。
「しまった……!」
 『敵を殺すための攻撃』を、『敵の武器への対抗手段』として使ってしまったことに後悔する。
 だが、敵の次の動作は予測が出来る。
 手持ちの武器は、腰に下げている剣のみのはずだ。
 ヤツに残された攻撃手段は、接近しての斬撃か刺突しかない。
 ―――その思い込みが、ワルドの敗因であった。
 ユーゼスの手は少々ぎこちないながらも素早く背中へと回り、そこからロープのような物を取り出した。
(……何だ、アレは?)
 見極める暇もなく、ユーゼスはその『ロープのような物』を全身を駆使して振るう。
 シュピィイイッッ!
「ぐっ!?」
 かなりのスピードでこちらに飛んで来た『ロープのような物』によって、右手に持った杖が根元から折られてしまった。
(何なのだ、この男は!?)
 繰り出す攻撃、もたらされる知識や発想のほとんどが、こちらの常識にないものだ。
 混乱しかけるワルドだったが、そうこうしている間に今度こそユーゼスが腰の剣を抜いてこちらに向かって来る。
 速い。
「くっ……おおおっ!!」
 ザンッ!!
 ワルドの左腕が、肘の少し上あたりから、ポーン、と切り離されて飛んでいく。
212ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/25(木) 23:48:25 ID:quCc/JWI
(……躱(カワ)されたか)
 やはり実戦ではそうそう上手くはいかないな、とユーゼスは思った。
 それにしても、『接近しての戦闘』が選択されずにホッとする。
 思わせぶりに二つの剣を両手で振るったことで、ワルドに疑念を抱かせることには成功したようだ。
 ……デルフリンガーが『ライトニング・クラウド』をほぼ完全に食い止められるかどうかも賭けだった。
 また、鞭によって杖を叩き折ることが出来たこと、動揺してワルドの動きが鈍ったことも幸運と言えるだろう。
 ―――かなりの綱渡りだったが、どうにか成功したことに胸を撫で下ろす。
 そしてユーゼスは剣をワルドに突きつけ……ようとしたのだが、
「おのれ……!」
 バッ、と大きく跳びすさるワルド。魔法なし、しかも片腕を失って全身のバランスも悪くなっているであろうに、大した
身体能力である。
「……まあ、目的の1つが果たせただけで良しとしよう。どの道ここには、すぐに我が『レコン・キスタ』の大軍が押し寄せ
る。そら! 馬の蹄(ヒヅメ)と竜の翼の音が聞こえてくるだろう!!」
「待ちたまえ、ワルド子爵!」
「ここまでやっといて、逃げるつもり!?」
 分身を片づけて取りあえずの治療も済み、ユーゼスの元へと集まってくるギーシュたち。
 ワルドはそんな彼らの顔を一通り眺めてから、捨てゼリフを放った。
「フン、愚か者どもめ! ここで灰になるがいい!!」
 そして窓を派手に突き破って、外へと脱出していく。
「待て!!」
「……追うな、ギーシュ・ド・グラモン!」
 反射的にワルドを追いかけようとするギーシュだったが、すかさずユーゼスに止められてしまった。
「ど、どうして止めるんだ!? アイツはウェールズ皇太子を殺して、トリステインを裏切って……!」
「深追いしている余裕はない。……先程ワルドが言っていた通り、すぐそこまで『レコン・キスタ』が迫って来ている」
「う……」
 言われて消沈してしまうギーシュに構わず、ユーゼスは床に転がっているデルフリンガーを拾った。
「ユーゼスよぉ、いくら何でも投げるのはヒデえんじゃ……」
「まともに戦って勝てないのならば、まともではない方法で戦うしかあるまい?」
「いや、それそうだけどよぉ……」
 煩いので鞘に仕舞って、更についでのように質問した。
「御主人様は大丈夫か?」
「……気絶してるだけみたいね。擦り傷や打ち身だらけだけど、そんなに酷くはないわ」
「そうか」
 キュルケの言葉を聞いて、ルイズの無事を確認する。あれで死なれても目覚めが悪い。
 さて、この場からどうやって脱出したものか―――と悩んでいると、
「フゴ!」
「ヴェルダンデ!?」
 ボコ、と礼拝堂の床が盛り上がり、そこからギーシュの使い魔のジャイアントモールであるヴェルダンデが顔を出した。
「無事だったんだね、ヴェルダンデ! 姿が見えないから心配していたんだよ!!」
「フゴフゴ」
 抱き合うギーシュとヴェルダンデ。
 そのヴェルダンデが地面に空けた穴を見て、タバサがポツリと呟く。
「……地面から脱出する」
 おお、と気絶しているルイズ以外の全員が感心した。地中を通って逃げ出すとは、まさか『レコン・キスタ』も思いは
すまい。
213ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/25(木) 23:50:33 ID:quCc/JWI
 彼らは次々にヴェルダンデの作った穴へと入っていくが、ユーゼスだけはウェールズの亡骸の前で佇んでいた。
「……………」
 ウェールズは完全に死亡している。
 死ぬ寸前であれば『迎えに行く』ことも出来たのだが、そんなことをしても意味がないか、と頭(カブリ)を振った。
 第一、『迎えに行く』価値があるのかどうかも分からない。この男とは、そこまで深く関わっていないのだ。
「おーい! 何をしてるんだね! 早くしたまえ!!」
 ギーシュに呼ばれて、早く行かねばと意識を移す。『アンタの主人なんだから、アンタが運びなさい』と言われてしまっ
たので、ルイズを運搬しなければならないのである。
「……形見くらいは貰っておくか」
 ウェールズが指に嵌(ハ)めていた『風のルビー』を取り外し、懐に忍ばせる。
「……まるで強盗だが……」
 まあ、記念のようなものである。アンリエッタ王女に渡す予定でもあるし、ここは大目に見てもらおう。
 そしてユーゼスはルイズを背負い、モグラの掘った穴から脱出したのであった。
 ―――礼拝堂に貴族派の兵士やメイジが飛び込んだのは、その直後である。
 彼らは、最後まで礼拝堂の床に空けられた穴には気付かなかった。


 左腕の切断面を右手で抑えながら、ワルドは『レコン・キスタ』のそれなりに地位のある人間と接触するべく走ってい
た。
 雑兵程度では、潜入員である自分の顔は知らないからだ。
「……クソ、忌々しい……!」
 悪態をつく。あの銀髪の男さえいなければ、自分の計画はもっとスムーズに進んでいたはずであったのに……。
 まさに、八つ裂きにしても飽き足らない相手である。
「だが、軽々しく手を出して良い相手でもない……」
 あの男を打ち破るには、正攻法では駄目だ。もっと別の角度から攻めなくては。
「そうだ、あの酒場で話していた男……」
 ラ・ロシェールで、ガンダールヴが『紫の髪の男』と話していたことを思い出す。
 会話の内容はほとんど理解が出来なかったが、その話し振りからするとどうやら彼らは知り合いらしい。
「よし、まずはあの男の持つ情報を得ることから始めるか……」
 ガンダールヴ攻略の糸口、そしてあわよくば『紫の髪の男』から知識や力を得ることが出来るかもしれない。
 義手を入手次第、真っ先にあの『紫の髪の男』の調査を開始しよう―――と、ワルドは決心した。
 ―――その行動がどのような結果をもたらすのか、全く気付かぬままに。
214ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/25(木) 23:52:40 ID:quCc/JWI
 タバサの使い魔である風竜、シルフィードの背に乗るトリステイン魔法学院の一行。
 あの後、アルビオンの『底』まで掘り進み、その地点からシルフィードを呼んで飛び乗ったのである。
 あとはトリステインに戻るだけなのだが、その中でユーゼスは竜酔いの予感に身を震わせていた。
「……やはり、こうなるのか」
「諦めたまえ、ユーゼス。……と言うか、『アレ』を使えばすぐに帰れるのではないかね?」
 後半部分を小声で囁くギーシュ。
 それにユーゼスもまた小声で返答する。
「定員オーバーだ。『アレ』に入るのは人間3〜4人ほどがせいぜいだからな」
「ふぅむ、万能ではないのか……」
 なら仕方がない、と残念そうなギーシュ。
 ……本当はデビルガンダムを呼び出して併用すれば、3〜4人どころかシルフィード5体分は余裕なのだが、さすがにそこ
まで披露する気にはなれないので黙っておく。
「しかし、今は大丈夫だが、このままでは……」
「ん〜……、別のコトとかに集中してれば、酔いにくいって聞いたことがあるけど……」
 でも別のコトって言っても、空の上じゃねえ……とキュルケがアゴに人差し指の先を当てながら考え込む。
「別のことに集中、か」
 そう言えば、とユーゼスは懐から一枚の紙片を取り出した。
 それには、ある世界の座標が書かれている。
「……そうだな、集中してみるか」
「「「?」」」
 ギーシュとキュルケとタバサが、いきなり変なことを言い出したユーゼスに疑問符を飛ばした。
「……これから少し、思考に没頭する。話しかけたり身体を揺さぶったりはするな」
「え、没頭するって……」
 疑問の声に構わず、ユーゼスは横たわるルイズの隣に移動した。
 特に深い意味はない。ただ静かそうだから、そこに移動しただけである。
「では、到着したら呼んでくれ。それよりも先に『思考』が終わる可能性もあるがな」
「あ、ああ……」
 そしてユーゼスは目を閉じ、自身の脳内に仕込んであるクロスゲート・パラダイム・システムを起動させ、その『世界』
を覗き込んだ。
「……なんだか、こうして見ると兄妹みたいだな、この二人」
「フフッ、そうね」
 傍から見ると、銀髪と桃髪の兄妹が並んで眠っているように見える。
 これを聞いたら、この二人はどんな顔をするのかしら……などとキュルケは考え、
「…………呆れるか、怒るか、嫌がるかじゃない?」
「それもそうか」
 えらく現実的な回答に行き着くのだった。


 ―――――空間座標軸、設定完了。
 軸(アクシス)対象、『シュウ・シラカワ』。
 該当空間における軸を中心とした『過去』の情報の収集を開始。
215ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/25(木) 23:54:45 ID:quCc/JWI
(あ、何だか久し振り、この夢……)
 ルイズは、夢の中にいた。
 とは言っても、いつもの『仮面を被った誰か』の夢ではなく、昔から良く見る夢である。
 ラ・ヴァリエールの領地。中心に小さな島がある、中庭の池。
 自分の『秘密の場所』。
 叱られたり、落ち込んだり、悲しかったりした時に、ひっそりと一人でその痛みを癒すための―――
(でも……)
 小船の上で寝転びながら、ルイズは胸を痛める。
 いつも夢の中で自分を慰めてくれた人は、自分を裏切った。いや、自分だけならまだ良い。あの男は姫さまを、ウェール
ズさまを、トリステインを裏切ったのだ。
 もう自分を慰めてくれる人はいない、とルイズは涙を流す。
 ……と、誰かが小船の上にいることに気がついた。
「誰?」
 顔はよく見えないが、白衣を着ているということは分かった。そして銀髪であるということも。
 その男はルイズに近付き、そっと彼女を抱え上げようとした。
「あ……」
 何するの、と怒鳴ろうとしたが、どうにもそんな声が出て来ない。
 そのままルイズは彼の手に身を委ねようとし、そして近付く男の顔がハッキリしてきたところで、

 ザアッ!!

(え?)
 風景が一変する。
 静かなラ・ヴァリエールの森と池は、見たこともない高い塔と石造りの道に。
 更に、銀髪で白衣の男は消えていた。
(え、え、え?)
 ルイズが混乱していると、彼方から物凄いスピードで『巨大な何か』が接近してくる。
(な、何なの!? ……で、でも……)
 一瞬で自分のいる地点にまで飛行してきた『巨大な何か』の全容を見て、ルイズは溜息をついた。
(きれい……)
 その身を形作るのは、美しい白銀の鋼。羽ばたく鳥を思わせる形をしており、どこか神々しさも漂わせる巨人。
 美しい。それ以外に形容する言葉が思い浮かばない。
 ルイズがぼんやりと『それ』に見とれていると、更に別方向から『新たな何か』が現れた。
(!?)
 身体は闇黒を連想させる、深い藍色。禍々(マガマガ)しさと威圧感を漂わせ、まさに『魔神』という単語が相応しい
巨人。
(こ、怖い……)
 『闇の魔神』には、それ以外の感情を感じない。
 そして、『美しさの化身』と『恐怖の化身』は対峙し……『恐怖の化身』が、『美しさの化身』に向けて話しかけた。

「ほう……これは……サイバスターじゃありませんか。まさか地上で出会えるとは思いませんでしたね」

(い、一体、何なのよ〜〜!!?)
 ―――もはやいちいち感想を抱く暇すらない、怒涛の情報の奔流が、ルイズを翻弄していく。
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/25(木) 23:56:16 ID:SA7PmzVy
虚無のパズル、及びラスボスだった使い魔には・・・改行が足りない!
217ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/25(木) 23:57:01 ID:quCc/JWI
「あなたはマサキ・アンドーですね? それともランドール・ザン・ゼノサキスとお呼びした方が良いですか?」
「俺の質問に答えろ!! 何で貴様はサイバスターを知っている!?」
「私もラングランの人間だからですよ。……私の名はシュウ・シラカワ。もっとも、これは地上での名前ですけどね」


「あれが、サイバスターに選ばれた操者……やはり、私では無理だったわけですか。
 しかし、ラ・ギアスもなかなか楽しくなって来たようですね」


「クリストフ……その名で呼ばれるのは久し振りですね。しかし、今の私は、クリストフ・グラン・マクソードではありま
せん。
 強いて言えば、クリストフ・ゼオ・ヴォルクルスになりますが……」
「ヴォルクルス……だと……まさか、邪神徒になり下がったのか、クリストフ!!」


「あなたは、剣術師範のゼオルート大佐ですね? およしなさい、無駄なことは」
「……あなたの気、邪悪すぎますよ、クリストフ。何があったかは分かりませんが、野放しには出来ませんね」
「……ムダに命を散らすこともないでしょうに」


「まさか……あのゼオルートが……」
「お……お父さんが……お父さんが死んじゃったの? ウソ……だよね? そんなわけないよね?」
「……ウソだろ? あのおっさんが……こんなにあっけなく逝っちまうなんて……」
「フ……人の死など、全てあっけないものなのですよ。そして、死こそがあらゆるものに対して公平なのです」


「あなたが勝てる確率は、万に一つもありません。なのになぜ、そうムキになってかかって来るのです?」
「確かにそうかもしれねえ……けど、それじゃ俺自身が納得出来ねえんだよ!!」
「やれやれ、そんな下らないプライドのために命を落とすつもりですか。愚かな……」


「バカな……あのマサキに、精霊との融合が出来るとは……」
「や、ヤバくありませんか、御主人様?」
「……いえ、本来の能力が引き出されたサイバスター……一度は戦ってみたい相手です」


「くっ……これほどとは……残念ですが、今のサイバスターは無敵……という事ですか……。
 仕方ありません、ここはおとなしく引き下がりましょう……マサキ、見事でしたよ」


「遅かったですね、マサキ……全ては終わりましたよ、たった今ね」
「こ……こんな……。
 シュウ……てめえっ!! てめえがやったのかっ!!」
「私ではない、と言ったところで、あなたは納得しないでしょうね。あなたには事実より真実の方が大切なようですから」
「きっさまぁぁぁぁぁっ!!!」
「あなたの相手をしていては、身がもちませんからね。それに、私はこれから地上で一仕事してこなければなりません。
 あなたのお相手をしているほど、暇ではないのですよ。では、私はこれで失礼します」


 ―――分岐点発生。
 3パターンに分岐している並行世界より、指定された世界へのサーチを開始。
 ………………座標検出、成功。
 引き続き、『シュウ・シラカワ』を軸とした世界の探知を開始。
218ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/26(金) 00:00:07 ID:KYZrymZL
「ようこそ、私のオフィスへ。あなたがクスハ・ミズハ君ですね?」
「そうです」
「私はDC日本支部の責任者……シュウ・シラカワです。そして、こことテスラ研、連邦軍極東支部とで進められているスー
パーロボット開発計画……通称、SRX計画のオブザーバーも務めています」


「なかなか勘の良い子でしたね……ケンゾウ・コバヤシ博士が見込んだだけのことはあります」


「……これからの我々の行動には4つの選択肢があります。
 まず、一つ目は地球を捨て、太陽系から脱出すること……。
 二つ目はロンド・ベル隊やSDFが力と恐怖で地球圏を一つにまとめ、異星人と戦って勝つこと……。
 三つ目はエアロゲイターに降伏すること……。
 そして最後は何もせず滅亡を待つことです」
(もっとも、五つ目の選択としてNervの人類保管計画もありますが…)


「私の目的は……複合するゲートを開く者を、抹殺することですから」
「それは、ヴォルクルス様への不必要な干渉を止めるために……ですね」
(……急がねばならない……何故かは分かりませんが……。しかし、このもどかしさ……何なのでしょう……)


「シュウ! 貴様、こんな所に!!」
「ほう……マサキですか。これは奇遇ですね。一匹狼を気取っていたあなたが、いつから群れをなすようになったので
す?」
「貴様こそ何を考えている!? 何が目的で地上に現れたんだ!?」
「話したところで、私の考えがあなたに理解出来るとは思えませんがね……」


「グランゾンとアストラナガンが全力で戦えば、『この宇宙』を消滅させることになりかねませんからね……。
 私と彼は、そういう愚かな選択をしなかっただけのことです」


「力ある者がラプラスコンピューターを手にすれば……因果律を操作することが容易になるでしょうね。
 つまり、この世の全ての事象の原因と、結果の関係を予測するだけでなく……直接的にも間接的にも操れるということ
です。
 そして……それが可能な者は、神のような存在であると言えるでしょう」
「じゃあ、■■■■は神にでもなるつもりか?」
「……まさか。人は神にはなれませんよ」


「フフフ……事象の地平を超えられたのはあなただけですか、■■■■■■■■■……」
「……この宙域は一連の因果律……そして、時間軸と空間軸もが複雑に絡み合っている……。
 クロスゲート・パラダイム・システムが完成していなくても……因果の鎖をたどり、量子波動跳躍を行えば、事象の地平
の向こう側から抜け出すことは可能だ……」


「この亜空間に入り込んだ時点で、あなたの命運は尽きました。
 今から私があなたの帰るべき世界へ案内してあげましょう……」
「フッ……私には見えるぞ。お前の背後には邪悪な意志が存在している……」
「……何人たりとも私を束縛することは出来ないのです。それが例え……神であっても」
219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 00:00:10 ID:qDvz3fFl
支援!
220ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/26(金) 00:02:10 ID:KYZrymZL
「あなたはイージス計画がどうなってもいいと思っているのか?
 今は僕たちがあの計画を継続させているから何とかなっているものの……下手をすれば、全人類が死滅することになるん
だぞ!」
「……私は今、生けにえを必要としています。あるモノが復活するための生けにえをね……」
「あるモノだと……? まさか……」
「そのためにゲートを開こうとしているのか!?」


「お気づきの方も多いでしょうが、私はあなたたちを利用していたに過ぎません。このグランゾンのテストを行いながら
ね……」
「利用……僕たちを利用して、エアロゲイターの■■■■■■■■■を倒すことが目的だったというわけか……」
「……私の目的はもう一つあります。それは、この世界を本来あるべき姿に少しでも近づけることです」
「世界の……本来あるべき姿!?」
「そうです。既にこの世界は、歴史が大きく変貌してしまっていますからね」
「どういう意味だ、シュウ!?」
「今の我々は、本来とは別の時間の流れへ入っています」
「な、何…!?」
「私とあなたの例を挙げれば、私たちが初めて地上で顔を合わせた前後から、歴史の流れが大きく変わって来ているので
す」
「地上で初めてお前と会った時……? それって……バルマー戦役が始まる前のことか!?」
「そうです。そして、その後の出来事は本来とは違った形、時間で発生しています」
「じゃあ、クリストフ……この世界は間違った形で存在しているとでも言うの!?」
「本来の歴史や世界ってのは……いったい何なんだ!?」


「シュウ! てめえっ!!」
「……その言葉遣い、直りませんか? 下品ですよ」
「うるせえっ!! 何でこんなことをする!? 何の得があるってんだ!」
「損得でなどではありませんよ。私は、私の心の命じるままに、行動しているに過ぎません」


「最後に一つだけ聞いておこう。シュウ・シラカワ……お前の真の狙いは何だ?」
「シンクロンシステムを操るあなた方なら、分かっていただけるかと思っていましたがね」
「……並行宇宙への過度の干渉は危険だ。下手をすると、全てが無に帰してしまうぞ」
「だからこそ、私はあなた方の存在を消去してこの世界に安定をもたらすのです」
「貴様の行為が、世界の破滅の引き金となることを知っての上でか!?」
「ククク……もちろんですよ」
「やれやれ……俺ちゃん、あーゆー風に何考えてるかわからない奴も苦手なのよね」
「アイツがどれだけ偉いか知らないが、他人に犠牲を強いるやり方は認められねえな」
「ああ。そいつぁ悪党のやることだぜ!」
「キッド、ボウィー、お町! あの男の始末、J9が引き受けた!!」
「OK!」
「悪党には情け無用のJ9、お呼びとあらば即参上ってね!」


「サイバスター……俺のプラーナを…いや、俺の命をお前にくれてやる……! 俺はどうなろうと構いやしねえ……だが
な、奴だけは……奴だけは生かしちゃおけねえんだ!!」
「………」
「……俺がもっと早く奴の正体に気付いていれば……今までの悲劇は起きなかった……!
 ……俺は……もう後悔したくねえ。あんな想いは……あんな想いはもうたくさんなんだ!!
 だから、サイバスター……俺は全身全霊をかけてシュウを、ネオ・グランゾンを倒す!!
 俺を操者として認めてくれるのなら、俺に力を貸してくれ、サイバスター!!
 ―――――うおおああああっ!!」


「み……見事です……このネオ・グランゾンをも倒すとは……。
 これで、私も悔いはありません……戦えるだけ戦いました……。
 全ての者はいつかは滅ぶ……今度は私の番であった……それだけのことです……。
 これで、私も……全ての鎖から解き放たれることが……でき……まし……た……」
221ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/26(金) 00:04:15 ID:KYZrymZL
「私は……私の名は……シュウ。シュウ・シラカワ。
 そして、あなたはルオゾール……ルオゾール・ゾラン・ロイエル……。
 ですが……なぜ私はここに? ここはどこです?」
「無理もございませぬ。あなた様は一度、死んでおられるのですからな。我が蘇生術と言えど、完全に元には戻せませぬ」


「私のことまで忘れられてしまうなんて、あんまりですわ。
 あなたと二人で過ごした、あの甘い夜のこともお忘れですの?」
「サフィーネ様っ! いいかげんなこと言わないでくださいっ!」
「あら、チカ、いたの? でも、あなたに人のことが言えて?
 どうせあなたのことだから、貸しもしていないお金を返してくれ、なんて言ったんじゃない?」
「そ、そ、そそそそんなことないですっ!!」


「ああ……!! お会いしたかった!! これでもう、私は思い残すことはありません!」
「さあ、私と一緒にここから脱出しましょう」
「はい、シュウ様とならば、どこまでもついて行きます」
「文法が変ですよ、モニカ」


「生きてやがったとはな……だが、ここで会ったが百年目! 今度こそ逃がさねえ!!」
「……この下品な物言い……思い出せそうなのですが……」
「なにワケの分かんねえこと言ってやがる!! 俺のことを忘れたとは言わせねえぞ!!」
「……残念ながら、本当に覚えていないのですよ」
「なん……なんだと!? ま、まさか……記憶喪失!?」


「い……今……ヴォルクルス様の名を……」
「ああ、呼び捨てにしたことですか?」
「そんな……ヴォルクルス様と契約を結んだ以上、逆らうことなど……」
「……あなたのおかげですよ、ルオゾール。
 あなたの蘇生術が未熟だったおかげで、私のヴォルクルスとの契約の記憶が消されたのです」
「ま……さか……」
「安心なさい、ルオゾール。ヴォルクルスはちゃんと復活させてさしあげますよ。あなたの命でね」
「……ヴォルクルス様を……ふ……復活させ……どう……とい……だ」
「ヴォルクルスは、私を操ろうとしました。
 ……私の性格は知っているでしょう? 自由を愛し、何者も畏(オソ)れない……。それが私の誇りでした。
 それが……あの忌まわしきヴォルクルスとの契約で……私の自由は奪われ……。
 ……この世界で、私に命令出来るのは私だけなのです……!
 ヴォルクルス……許すことは出来ません。この手で復活させ……この手でその存在を……消し去ってあげますよ……!」
「おお……お……れおおい…そ……」
「苦しいですか、ルオゾール? もうロクに話も出来ないようですね。
 ……そう、楽には死ねませんよ。あなたのその感情が、復活のカギなのですからね」


「とうとう出ましたね……ヴォルクルス……長かったですねえ……」
「……ワガ…ネムリヲ……サマタゲ……ヨビオコシタノハ、オマエ……タチカ?
 ホウビヲ、ヤレネバナランナ……オマえたちの、のぞむもの……それは……死だ!!」


「た……たかが人間の分際で……この神である私を……倒すと……いうのか……」
「何が神です? あなたも所詮、太古に滅びた種族の亡霊にすぎません。亡霊らしく、冥府へと帰りなさい」
「私は……わたシハ……シナン……ワタシハ……オマエタチ……ダ……オマエ……タチノ……ミ……ライ……」
「……たとえ本当の神であろうと、私を操ろうなどとする存在は決して許しませんよ」
222名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 00:05:03 ID:IMkABhzg
なんのクロスだっけ
223ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/26(金) 00:06:20 ID:KYZrymZL
「シュウ!? 何でてめえがこんな所に!? このデモンゴーレム、てめえの仕業かっ!?」
「……ふう。やれやれ、久しぶりに会ったというのに、挨拶がそれですか」


「……マサキ、あなたは変わりましたね」
「そ、そうか?」
「ええ、良くも悪くも。昔のあなたは、そこまで考えてはいませんでした」
「昔のって……御主人様、記憶、戻ったんですか?」
「ええ、かなりね。……しかしマサキ、あなたの変化はまだ過渡期でしょう。今のあなたは、大義に縛られすぎています。
 真の魔装機神操者となるのなら、心のおもむくまま、感情の命ずるままに動き、それでいて過(アヤマ)たない……。
 その境地を目指さなくてはなりませんよ」
「ちっ、お説教かよ」
「……まあ、今に分かるようになりますよ。私の言葉の意味が……ね」


「……物事はストレートに表現しすぎると、下品になるということを覚えておいてください、マサキ」
「うっせい。上品ぶったのはキライなんだよ」


「これはこれは……ようこそお越しいただきました。マサキ殿にシュウ殿。歓迎いたしますぞ」
「まったく、まだ生きていやがったとはな……くたばりぞこないが!!」
「あなたが何をたくらんで、何をしようとかまいませんが……私の邪魔をするとなれば、話は別です。
 もう一度、今度は復活さえも出来ないように、原子のチリに還すか、事象の地平に追放して差し上げましょう」


「こ、これは……ヴォルクルスの……」
「左様、ヴォルクルス様の波動です。そしてあなたは、かつてヴォルクルス様と神聖な契約をかわされた。
 消えていた記憶が戻る……つまり……」
「何だとっ!? おい、シュウ!!」
「くうっ……ま、まさか……私を、この私を再び操ろうと……」


「シュウ!! お前が求めていたのは何だったんだ!?
 こんなバケモンに操られて、それでよく俺に偉そうなことが言えるなっ!」
「くっ!! マ、マサキ……私があなたに劣ると……」
「現にてめえは、こんなヤツに操られてるだろうが!! 情けねえぜっ!!」
「ううっ……い、言いたいことを言いますね……」
「そう思うなら、なんとかしろってんだよ!!」


「ククク……マサキ……あなたの言葉、ヴォルクルスの呪縛より効きましたよ……」
「な……なんと!?」
「ルオゾール……たかが死人の分際で、私にこのような屈辱を味合わせるとは……許せませんね……」
「正気に戻ったか、シュウ!!」
「ええ……おかげ様でね。マサキ、感謝しますよ」


「ば……バカな……ひ、人の身で神に逆らおうとは……そのような……そのような事が……うおおおおっ!!」
「ふ……愚かな……」
「神だと……神がどうしたってんだ! 生きてる俺たちの方が、神なんかよりよっぽど大事だぜ!」


「シュウ、お前、これからどうするつもりだ?」
「……それは、あなたにもお聞きしたいですね。あなたはこれからどうするか、考えているのですか?」
「俺か? 俺は……どうするんだろ?」
「私も同じことです。先のこと、全てを見通せるわけではありません。神ならぬ、人の身ですから」
224ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/26(金) 00:08:25 ID:KYZrymZL
「う、う〜ん、う〜ん、ぼるくるすが、ぼるくるすが、ぐぉお〜って……」
「……なんか魘(ウナ)されてるなあ、ルイズ……」
「起こしてあげた方が良いかしら……」
 『こーげきとは、こーするものです』とか『ぶ、ぶらっくほーるくらすたー、はっしゃー』とか意味不明なことを呟き
ながら、ルイズはウンウンと魘されていた。
 見かねたキュルケがルイズを揺さぶろうと近付くが、
「? ……タバサ、何で止めるのよ?」
 タバサに肩を掴まれて、止められてしまう。
 ……キュルケの肩を掴んだまま、タバサは無言で首をゆっくりと横に振った。
「これは、彼女が自分の力で乗り越えるべき」
「そう……ね」
 その言葉に、キュルケは少し痛ましそうにルイズを見る。
「辛いことが沢山あった、この旅だったけど……。あなたには頼もしい使い魔がついてるんだから、安心しなさい」
 ルイズが魘されている原因を完全に誤解していたが、それでもキュルケはルイズに優しく微笑みかけていた。
 しかし主人が魘されていると言うのに、横で黙って沈黙を続けるこの使い魔は本当に大丈夫なのだろうか、と不安にな
る。
 それにワルドと何か話していたようだったが、一体どんなことを話していたのだろうか?
「……あなたにはなすひつよーはないでしょー、まさきー……」
 トリステインに到着するまでは、まだまだ長い時間が必要であった。
225ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2008/12/26(金) 00:10:35 ID:KYZrymZL
 以上です。
 よ、ようやく2巻が終わりました……。駆け足でここまで来ましたが、さて、いつまでこのペースを保っていられるの
か……。
 って言うか、投下してから誤字に気付くし……。

 ちなみに、スパロボで出てくるマサキ・アンドーとシュウ・シラカワの関係を2行ほどで端的に表しますと、

「シュウ! ……てめえ、何を考えてやがる!?」
「あなたに話す必要はないでしょう、マサキ」

 こうなります。
 しかしまとめてて思いましたが、シュウって本当にマサキのことが大好きですねw

 それでは皆様、支援ありがとうございました。

>>216
 アドバイスありがとうございます。
 どのあたりで改行を行えばよろしいでしょうか?
226名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 00:15:52 ID:jWZV5hns
ラスボスの人乙。
このシュウはαルート経由でLOE第二部終了後なのか
227名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 00:18:34 ID:X1rE8JqM
ラスボスの人、乙です。

ユーゼス、クール。体力の無さは知力でカバー。いい感じに頭脳派だ。

>耐久性は色々と(焚き火にくべたり、直後に氷水で冷やしたり、魔法学院の衛兵に頼んで大型のハンマーで叩いてもらっ
たり)実験をして証明済みであるし。

酷ぇ…(汗)ここまで扱いが酷いデルフリンガーは見た事が無い。同情しちゃうぜ…(苦笑)
228名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 00:19:40 ID:oelQGuBa
ひらがなで書けばいいところで変にルビを振っているから文章がきもちわるい
229名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 00:22:09 ID:1MrFDQKh
ラスボスの人乙です

シュウとマサキってクーツンとツンデレだからなあ……
230名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 00:31:49 ID:nIAb3ol6
ワルド…シュウを利用しようなんて…
231名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 00:36:03 ID:ySTVByFj
>>225 「ライトノベル作法研究所」の第2研究室にある「基本的な文章作法」
の「文章の禁則」「改行を活用する」などを参考にされてみてください。 
232名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 00:37:18 ID:I9yCLigF
ユーゼス乙
しかし地の文無し背景描写無しで会話オンリーだと
原作知らないなら完全置いてきぼりだなこれw
233名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 00:51:53 ID:THZeQdBU
ラスボスの人乙
そういやユーゼスはルイズに対して特別な感情が無いんだな
後で変わるのか、このままなのか
234名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 00:56:55 ID:+hTG1WBr
原作知らなくても一応どうにかなりそうな感じで読めるぜ
おぼろげにしか理解できないけどなw
てことで、乙です
235名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 00:58:04 ID:n1tWDwbT
>>232
でも、知ってると懐かしすぎてニヤける
EXとかオレ中学生だよw
なんかいろいろ思い出して楽しかったです。
ラスボスの人、乙!
236名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 01:00:33 ID:iWZr13dN
改行云々よりも一行あたりの最大文字数を少なく見積もりすぎて次の行にはみ出てる印象があるわ。例えば

 上手い具合にバラけて1対1の様相を呈してくれたのだが、ルイズが自分の近くを離れてくれなかったので、結局は2対2と
なった。

 身体は闇黒を連想させる、深い藍色。禍々(マガマガ)しさと威圧感を漂わせ、まさに『魔神』という単語が相応しい
巨人。

こんな感じで。
237名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 03:41:50 ID:rpRn9htC
ラスボスの方、乙です。

そして、自ら地雷どころか核爆弾のスイッチ(その方がまだ温いか)を押しにいくワルド。
無知とは幸福なり……良い言葉ですね
238名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 04:42:55 ID:jvjlRYZ+
ラスボスの人乙です。
ワルド…そっち逝っちゃらめぇぇぇっ!
なんという核地雷ww
次回にwktk。
239名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 04:52:06 ID:C/0N3pxn
ラスボスの人乙。
ワルドの今後が楽しみだw

遅くなったがロックの人も乙。
貴方の作品のおかげでギトーが好きになりました。
そして貴方の作品のおかげでオーバーヘッドキックの存在や、クラカンが当て身技だった事を思い出しました
240ルイズと無重力巫女さん:2008/12/26(金) 05:45:07 ID:aDdIkjO/
ラスボスの人、もういないと思いますが投稿お疲れ様です。

皆さんおはようございます。
第十三話が完成したため、後十分後に投稿を開始したいと思います。
出来るならば支援の方をよろしく御願いします。

※追伸
まとめに置いている5話、6話、7話、9話の内容を一部変えました。
241ルイズと無重力巫女さん:2008/12/26(金) 05:55:30 ID:aDdIkjO/
――何ぼーっとしてるのよ。さっさと逃げてくれない?じゃないとアンタも巻き込むわよ?」

霊夢のその言葉を聞き、逃げようとしたルイズはふと顔を上げ、思わず目を見開いて叫んだ。
「え?…あ…レイム!う、上、上!?」


「だからさっさと逃げろって―――わぁ…。」
一体何事かと思い頭上を見上げた霊夢も思わず唖然とした。
何故ならゴーレムの足裏がゆっくりとした速度でルイズと霊夢を踏みつぶそうと迫っていた。


霊夢は本日二度目になるルイズの腕を掴むと『破壊の杖』をその場に放置し、ゴーレムが足を振り下ろす前に素早く後ろへと下がった。
振り下ろされた足は砂塵を巻き上げながら地面をえぐるだけで終わった。
攻撃を避けた霊夢はコルベールの所まで下がるとルイズを掴んでいた手を離し、コルベールの方へ顔を向けた。

「あんた教師でしょ?自分の生徒にはちゃんと目をやりなさいよ。」
相変わらずの主人を守る者とは思えない冷たい台詞にコルベールは顔を顰める。
が、今はそんな事で言い争っている状況ではないためあえて何も言わないことにした。

「じゃ、そいつのことは任せたわよ。」
霊夢はそう言うと返事を待たず、懐から一枚のカードを取り出し、再度ゴーレムの方へと飛んでいった。
そしてある程度の距離に近づいた時、スペルカードを発動させた。



「神霊「夢想封印 瞬」!」
霊夢がそう宣言した直後、ゴーレムが彼女ごとその空間を薙ぎ払うかのように腕を勢いよく横へ薙いだ。


だが、それよりも速く彼女は素早く飛び、素早くゴーレムの背後へと回った。
がら空きになっている背後にお札の弾幕をばらまいたのを皮切りに、霊夢の攻撃が始まった。
札だけではなく左手に持っている御幣からも四角形の弾幕を大量にばらまきゴーレムを攻撃する。
ゴーレムは霊夢を目で追いかけようとするがそうしている間にも弾幕の嵐に晒され朽ちていく。

遠くから見ていたタバサとキュルケは霊夢の高速移動と突然ゴーレムの目の前に現れた大量の弾幕に驚いていた。
キュルケは先程の光弾より凄い!と興奮しながらもその弾幕に見とれていた。
242ルイズと無重力巫女さん:2008/12/26(金) 05:56:37 ID:aDdIkjO/

「………凄い。」
そして、いつもは無口なタバサも顔こそはいつものままだが心の中では色々と考えていた。
訳あって今までありとあらゆる「敵」と戦ってきたタバサにとって霊夢の様な攻撃を見たのは初めてだった。
あの攻撃も、やはり今までタバサが見たことのないモノだ。一体どうやって出しているのだろうか?
そんな事を考えていると、ふとシルフィードが主人のタバサに呼びかけてきた。

「後にして。」

タバサはシルフィードの顔を見てそう言った。
主人が自分の方へ顔を向けたことを知ったシルフィードはきゅいきゅいと鳴き、鼻先を地面の方へと向けた。
タバサも続いて下の方を見てみた。すると離れたところから戦いを観戦しているルイズとミスタ・コルベールの後ろから誰かがやってきた。

タバサ自身は数回しか顔を見て事はないが、記憶が正しければあの姿は学院長の秘書だ。
その秘書はゆっくりと二人の背中へと近づいていく。その足の動きを、タバサは知っていた。
まるで狩人が自分に背中を見せている獲物に気づかれないような歩き方。正にソレであった。
それは暗殺者が後ろからナイフで突き刺そうと忍び足で近づいているとも解釈が出来る。

どうして普通に歩かない?何かワケでもあるのだろうか?

そんな事をタバサが考えていたとき。
杖を持っていないルイズの背後へと近づいたロングビルがもの凄い勢いで彼女の肩に掴み掛かかった。




「どういう事なのかしら…?」
霊夢はそうぼやき、地面の方へと視線を向けた。
そこにはあのゴーレムの姿はなく、ただ大量の土くれがあるだけだった。
つい先程まで丁度良く巡ってきた良い手掛かりをつぶしてくれた巨体と戦っていた最中だった。
しかし突然ゴーレムの右腕がポロポロとただの土くれになったのだ。
それを皮切りにゴーレムの体のあちこちが高く積み上げられた積み木を一気に崩すかの様にボロボロと土になって崩れていった。

霊夢はその事に疑問を感じたが、
あのデカ物が消え、少しスッキリしたので今となってはどうでも良かった。
「さてと、小屋は無くなったけど…どうしようかしら。」
手に持った御幣を肩に担ぎ、そう呟くと地面の方へと視線を向けた。
ゴーレムによって壊された小屋は跡形も残っておらず、周囲には木片しか転がっていない。
ルイズの部屋にいたときキュルケに見せて貰った地図では小屋があった場所に×マークが記されていたのを覚えている。

(あんなんじゃあ探しても意味無さそうね………ん?)
そんな事を考えていると、ふと下からコルベールの声が聞こえてきた。
243ルイズと無重力巫女さん:2008/12/26(金) 05:58:20 ID:aDdIkjO/
ルイズは突然の出来事に何がなんだかわからず自分を羽交い締めにしている学院長の秘書に声を掛けた。


「み…ミス・ロングビル?これはいったい何の真似で…!」
絞り出すように出された彼女の声は酷く小さく、それはロングビルにしか聞こえていなかった。
声を聞いたロングビルは眼光を鋭く光らせ、冷たい口調で言った。
「ミス・ヴァリエール。静かにしていてください…。すれば命までは奪いませんわ。」
ゴーレムと戦っている霊夢を遠くから見ていたルイズは後ろから近づいてきたロングビルに羽交い締めにされてしまった。
それを間近で見ているコルベールはてっきり死んだと思っていた秘書の思いがけない行動に顔が青くなっていた。
「ミス・ロングビル…?一体これは…!」
「どうもこうも…今は私が今から言う質問を聞いてくださればいいんですの。わかる?」
慌てた風に言ったコルベールの言葉にロングビルは嘲笑と共にそう言った。

「じゃあ最初に―――ミスタ・コルベールは『破壊の杖』の使い方をご存じで?
       んぅー…でも、ゴーレムが踏んでしまったから使い物にならなくなってるかも知れないけど。。」

ロングビルの口から発せられた『破壊の杖』という言葉を聞き、コルベールはハッとした顔になる。



「破壊の……?…まさか!まさか君が…『土くれのフーケ』か!?」



コルベールの言葉を聞き、ロングビル――もとい土くれのフーケはフフフ…と笑った。
それを見たコルベールは今まで地面を向いていた杖を上げ、慣れた手つきでフーケの顔へと向けた。
「およしなさいな…まさか自分の生徒まで焼くことは無いでしょう?」
待っていましたと言わんばかりにフーケはルイズを前に出した。
コルベールは何がなんだかわからず未だに困惑した表情を浮かべているルイズの顔を見て動揺しかける。
しかしフーケは動揺させる暇など与えぬかのように再び最初の質問を彼に投げかけた。

「さて、まだ最初の質問ですよミスタ・コルベール。――貴方は『破壊の杖』の使い方をご存じで?」

繰り返し言ったフーケの言葉を聞き、コルベールは置きっぱなしにされていた『破壊の杖』がある場所へと視線を向けた。
黒光りする『破壊の杖』はゴーレムに踏みつぶされているにもかかわらず、何処にもキズは見受けられない。きっと『固定化』の呪文をかけられているのだろう。
しかし、その前に彼は正確な使い方を未だに把握していない。


「もし私が使い方を知っているのなら、それを使って生徒達を守っていただろうな…。」
コルベールがフーケの質問にそう答えたとき、彼女は数瞬だけ目を丸くしたがすぐに目を細くさせ、笑った。
「ハハハハハ!学院の腑抜け達と比べたらあなたの方がよっぽど教師の鏡だわ!」
そう言うとフーケは数秒間笑い続けた後、ルイズの首を絞めている方の腕の力を少し強めた。
ただただその光景を苦しそうに見ているコルベールにはどうすることも出来ない。

「さて、少し笑ったところで次の質問よ?――あの紅白服の少女は一体何者なの?
 あのミスタ・グラモンの決闘の時と同じ、見たこともない魔法で私のゴーレムを壊してくれたわ。お陰で計画はオジ――――


「なるほど、アンタが土くれのフーケなのね?」
244ルイズと無重力巫女さん:2008/12/26(金) 06:00:00 ID:aDdIkjO/
言い終わる前にふと頭上から声が聞こえ、フーケは空を見上げる。
そこには人影どころか小鳥や雲もなく、青い空と清々しい太陽があるだけであった。
「おーい、こっちよ、こっち。」
「えっ?…ってうわぁ!」
ふと横から誰かに肩を叩かれ、そちらの方を向いてみると御幣を肩に担いだ霊夢がすました顔でフーケの隣に立っていた。
何時の間に、とフーケは思ったがすぐに彼女は素早くルイズを掴んだまま距離を空け、霊夢に杖を向ける。
「二人とも武器を下ろしなさい!じゃないとミス・ヴァリエールは死ぬことになるわよ?」
そう叫ぶとフーケはルイズの首を絞めている腕の力をより一層強める。
「うぅ…ぐぅっ!…あぅ…!」
首を絞められているルイズは段々と呼吸がし難くなるのを感じ、苦しそうな呻き声を漏らす。
それを見たコルベールは杖を仕方なく杖を地面にそっと置いた。

しかし、そんな状況になっても武器を下ろさない者が一人だけいた。
「目の前に人質、ねぇ…こんな体験は初めてだわ。」
霊夢は御幣はおろか、何もせずにまるで他人事のように突っ立っていた。
しかし目からは若干の怒りと鋭い光を放っており、まるで「殺れるものなら殺ってみろ!」と言っているようだ。

「くぅ…!早く武器を捨てないとご主人様の命は無くなるよ!?」

そんな霊夢を見てフーケは語尾を荒げながらも叫ぶ。
これを言えばどんな存在であろうとも『使い魔』ならば主人を守るためおとなしくなってしまう。
今までの経験上、フーケはそれを痛いほど知っている。




「ご主人様?…ご主人様って誰の事よ?」

「え?」

「ふぇ?」

「何?」

その言葉に霊夢以外の3人が間抜けな声を上げる。
「まさかルイズの事じゃないでしょうね?冗談じゃないわ。」
霊夢はそう言うと右手で札を取り出しフーケとルイズの方へ向けた。
それ見てフーケは杖を強く握りしめた。あの威力はグラモンとの決闘や、先程のゴーレム戦で充分に知っている。

「ただコイツの部屋に同居させて貰ってるだけよ?洗濯とか掃除とかしてあげてるけど…。
 それよりも、よくもあの小屋を滅茶苦茶にしてくれたわね…お陰で折角の手がかりが台無しだわ。」

それを言い終えたと同時に霊夢から何やらもの凄い気配が漂ってきた。
顔には多少の怒りが混じっており、喋りながらも手に持った札に力を込めている。

「アンタがあの小屋を吹っ飛ばしてくれたせいで折角の手がかりも無くなったし…。」
喋りながらも雰囲気的に次に何をしてくるのかわかった3人は慌て始める。特にルイズが。
「ちょっ…ちょっとレイム!!アンタ私を巻き添えに…!」
「ちょっ!ちょっ!アンタ、まさかこのままこのお嬢ちゃん共々…」
「ま、待てレイム!フーケが狙っている物は…!」


コルベールはそう叫ぶと霊夢に駆け寄ろうとするが、遅かった。

245ルイズと無重力巫女さん:2008/12/26(金) 06:03:16 ID:aDdIkjO/
霊夢の手から放たれた一枚の札は流れるようにルイズとフーケの方へと飛んでいく。

それは風や重力にとらわれず、ある一転を目指していく。

札はルイズの頬を切ることなく横を通り過ぎ――フーケの額へと飛んでいき…。


ポン!

軽い爆発音と共にフーケの額に当たったお札が小さく爆ぜた。
小さな爆発とはいえ――大の大人一人分を気絶させるのには十分な威力だった。
額から煙を上げながら倒れたフーケはルイズを離し、地面へと倒れた。
「はぁっ…はぁっ……!!死ぬかと思ったわ…。」
当たらなかった物の、一瞬走馬燈が頭の中で駆けめぐったルイズの呼吸は荒かった。
それから数秒遅れてコルベールがルイズの傍へと走りよってきた。
「ミス・ヴァリエール、大丈夫ですか!?」
「ハァ…一瞬頭の中で子供の頃の思い出が駆けめぐっていきました。」
コルベールからそんな言葉を貰い、ルイズはそう言った。
一方の霊夢は今まで肩に担いでいた御幣の柄を地面に刺すと目を回して気を失っているフーケへと恨めしい視線を向けていた。
「もっと痛めつけてやりたいけど…まぁすっきりしたし、これでいいか。」
「なにが…まぁこれでいいか。ですか!」

霊夢の言葉を聞いたコルベールがすかさず突っ込んだ。
それを聞いた霊夢は「何か文句あるの?」と言いたいような顔をコルベールに向けた。
「下手したらミス・ヴァリエールが死んでたのですぞ!?」
「大丈夫よ、さっき投げたお札には殺傷力なんて全然無い―――」
「だからそれじゃなくて!!追いつめられたフーケがあの時に…」
霊夢はうんざりした様子でコルベールの言葉を聞き流しながらも大きく欠伸をし、地面に刺していた御幣を引っこ抜いた。

そんなやりとりをボンヤリと見ていたルイズは顔を伏せ、プルプルと体を震わせた。

地面にへたり込んでいたルイズはヨロヨロと立ち上がると背中を向けてコルベールに叱られている霊夢に視線を向ける。
「…聞いてますか!ちゃんと人の話を聞きなさい!!」
「はぁ…少し静かにしなさいよ。」
叱られている霊夢はうんざりとしており、背後のルイズへと一切注意を向けない。
そして獣のように低いうなり声を上げているルイズは思いっきり霊夢の右太ももを蹴ろうとする。

「ん?」

が、霊夢はぎりぎりで右足を横にずらし、ルイズの攻撃をかわすと顔だけを後ろに向ける。
そこには、綺麗なピンクのブロンドヘアーを若干逆立たせ全身から恐ろしい量の魔力を放出しているルイズがいた。
目を鋭く光らせていて、さながら怒りに我を忘れた吸血鬼や妖怪のそれであった。
「…この、この、こっこの…。」
怒りのせいでかキョドりながらもルイズはブツブツと呟き、

「この…バカ巫女ォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

そう叫ぶともの凄い勢いで霊夢に飛びかかった。
霊夢はスッと横に移動して避けたが一息つかせる暇もなくルイズはもう一度飛びかかってくる。
「どうしたのよいきなり。何か不味い毒キノコでも喰った?」
「うっさい!今度という今度は堪忍袋の緒が切れたわ!!おかげで死にかけたじゃないの!?」
そう言いながらもルイズは素早く避ける霊夢を捕まえようとするが一向に捕まらない。

「ミス・ヴァリエール、貴族の子弟がそんな事をしてはいけませんぞ!」
一方のコルベールは野獣のように駆け回っているルイズに叫んだ。

その横で気絶していたフーケは頭を霊夢に踏まれたが気にすることなく気を失っていた。
246ルイズと無重力巫女さん:2008/12/26(金) 06:04:11 ID:aDdIkjO/
「ホラ、案外平気だったじゃないの?」
「…。」
そんな様子を上空からタバサとキュルケ、それにシルフィードが見ていた。
最初羽交い締めにされたルイズを助けに行こうかと思ったがそんな矢先にあの霊夢がフーケを倒してしまったのだ。
フーケが倒れた後、ルイズ達の方へと行こうとしたがあの様子だとどうやら余計な心配だったようだ。

「で、どうするタバサ?このまま戻る?」
「もう戻る。」
キュルケの問いに即答で答えたタバサはシルフィードに命令しようとした時、下の森の中からキラッと何かが光るのが見えた。
それだけなら何もしないが少し気になったタバサは高度を下げろとシルフィードに命令した。
段々と高度を下げていき、やがて光の正体が何なのかハッキリとしてきた。
小屋の破片と一緒に森の中にまで吹き飛ばされたソレは所々に固定化の魔法が施された銀の装飾を施された小箱であった。
シルフィードをとりあえず近くに着地させるとタバサは降り、箱を持って再びシルフィードに跨った。
「あら、いったい何だと思ったら…綺麗な箱ね。」
綺麗物が好きなキュルケはそれを見てうっとりとした目を輝かせている。
一方のタバサは年相応らしくない無表情で手に持ったソレを凝視していたがポツリと、

「これはきっとあの地図に載ってたマジックアイテムが入ってる。」

そう、呟いた。

「…え?」
予想外の言葉にキュルケは思わず間抜けな声を上げ目を丸くする。
タバサの言うことが正しければこの中身は地図に書かれていた『境界繋ぎの縄』という物が入っているというのだ。
実際の所、キュルケはそれをあんまり信じていなかった。所詮はお遊びなのだと思っていた。
しかしまさかただのお遊びがフーケ逮捕、その上宝の地図が本物。彼女が唖然するのは仕方がない。

「勿論、これは推測。開けてみないと分からない。」
呆然としていた微熱を消し飛ばすかのように呟かれた雪風の言葉にキュルケはハッとした顔になる。
「じゃ、じゃあ…今此所で開けてみない!?」
我に返り、急に興奮しだしたキュルケに物怖じ一つさせずタバサは小さく頷き、フタに手を掛ける。

『境界繋ぎの縄』。
地図に書かれているとおりなら自分が願う場所へ行ける夢のようなマジックアイテム。

一体どんな形なのかとキュルケは期待を膨らまし、
それほど期待していないタバサは勢いよくフタを持ち上げた。
247名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 06:06:04 ID:Gn5x9ajf
248ルイズと無重力巫女さん:2008/12/26(金) 06:08:47 ID:aDdIkjO/
これで今回の投稿は終わりです。
ウン、やっぱり霊夢には御幣は必要なんだと思うんだ。

やっぱり朝方だと誰もいなかったな…。
では皆さん、ここらでさようならです。
249名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 09:11:01 ID:2wdwn5/N
250名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 10:08:26 ID:jvjlRYZ+
霊夢の人乙です。
霊夢ヒドスw
次回にwktk
251名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 11:43:55 ID:S+691MYK
ラスボスのシュウは
魔装機神第一部→α→α外伝→Exシュウの章→魔装機神二部
という流れの人物なのかな?
252名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 11:44:07 ID:E5vnyCtM
ラスボスの人と霊夢の人、乙

シュウを利用するって?
死亡フラグを踏みまくってんなw
253名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 13:42:41 ID:cTuRiGVS
ラスボスとワキミコ乙

ラスボスのワルドはまあなんというか……
アルビオンが地図から消えなきゃ運が良いほうだろうなあw
254名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 14:17:34 ID:v7Stlw5a
無重力の人乙
さすが霊夢、避けっぷりが半端ねぇw
255名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 17:11:52 ID:UwJ0kd0t
ラスボスのワルドにはこの言葉を贈るぜ
つ【絶望せよおおぉぉぉ!!!】
256名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 17:37:11 ID:bJQJH4RJ
ラスボスはワルドの所為で
レコンキスタにブラックホールクラスターフラグが立った。
257名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 17:39:35 ID:FzaTn63Q
>>255
たしかJのラスボスだったかな?
258名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 17:40:55 ID:THZeQdBU
シュウを利用しても割と余裕だった奴っていたかな…ああ、ユーゼスだw
259名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 17:56:08 ID:3ASUrRsS
>>204
この書き込みのせいでトランザム状態の00が召喚されてルイズ全裸という妄想が頭から離れない
260名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 18:12:30 ID:jWZV5hns
>>258
それでも最期は因果地平の彼方に消し飛ばされたけどなw
261名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 19:01:40 ID:THZeQdBU
まああれはロンド=ベルの力だし
マ=クベやルオゾールや第4次ネオグラルートのゼゼーナンとは違うよw
262名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 19:32:44 ID:8/Tm9sRj
ラスボスの人、乙

ウルトラマンを勧誘か、ユーゼスさん、似たようなことはヤプールもやってますから気にしなくていいですよ。
何故宇宙人のお前が地球人の味方をするって言った侵略者は色々いたが

マン、笑い飛ばす
ジャック、怒る
タロウ、完全に地球人の味方
メビウス、拒否

侵略者に手を貸したのは、だまされてたとはいえアグルくらいか
263名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 19:38:10 ID:DWPdya25
>>255
完璧父さんと一緒に出たら質悪いよな

完璧父さん達は絶望等の負の感情で強化されるから……
264名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 19:51:12 ID:63AKpne4
MAX PAYNEからペインさん

”バレットタイム!”
”シューティングドッジ!”

265名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 20:11:24 ID:2dRO2Gom
テファが超銀河大グレン団を去って旅立ったばかりのシモンを召喚。
ナカノヒト的なイメージ込み。
266名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 20:12:22 ID:qxnhhgGH
ラスボスの人お疲れさん
ここのワルドはなんか哀れだな
267名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 21:40:09 ID:Ew3LWMjU
>>264
マックスにペインを!
268零姫さまの使い魔:2008/12/26(金) 21:50:01 ID:tBNnyK7r
投下予約が無いようでしたら十時から投下します。
269名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 21:56:21 ID:zLEoFim0
>>268
待ってました支援
270名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 21:58:41 ID:ocouo+VO
ラスボスの人乙
今のシュウの愛機ってネオ・グランゾンだったよな
悪度間違いなくオワタ
271零姫さまの使い魔 第十一話@:2008/12/26(金) 22:00:23 ID:tBNnyK7r
「あっしは手の目だ
 先見や千里眼で酒の席を取り持つ芸人だ

 ……とまぁ こんな風な語りをするのも 今回が最後かも知れないね
 なにせ トリステインは国を挙げての大いくさ アルビオン遠征の真っ只中ってんだからさ

 このいくさに関して あっしから言うべき事は何も無ェ
 人には身の丈に合った役割ってェもんがあるからね
 御国の為に戦場を駆けるも 一命を賭して戦争を止めるも
 全ては誇りと信念を持った 愛国者の仕事だろうよ

 あっしら流れ者にゃァ とてもじゃないが そこまで出来るものが無ェ
 本当にやばい時には それこそ身一つでトンズラするってだけさ
 ……例えそれが 祖国のために捨石になろうとしている友人を見捨てる事でも だ

 いずれにせよ これほど話が大きくなっちゃぁ あっしは完全に役者不足さ
 名残は尽きねど お嬢との別れの時は近づいているようだ……」
 



「何やってるのかしら 私……」

乱痴気騒ぎの始まった酒場の一角で、ルイズが溜息をつく。
天幕の外では、次々と打ち上がる花火の輝きが、舞い散る粉雪を鮮やかに彩っている。
ルイズにとって初めての体験となる、異郷の地での降臨祭。
目に映るのは、とても戦場の一コマとは思えないような、底抜けに陽気で平和な光景ばかりであった。

「何ってそりゃあ『切り札』だろ? お嬢は
 切り札は 使わずに済むならそれに越した事は無ェのさ
 小競り合いは本職の皆々様に任せて デーンッと構えてりゃあいいのさっ……と!」

調子の良い事を言いながら、手の目がグラスを一息に呷る。
複雑な表情のルイズとは対照的に、こちらは偉く上機嫌である。
初めての降臨祭に浮かれているのか、トリステイン・ゲルマニア連合軍の連戦連勝を祝う心があるのかは知らないが、
とにかく彼女は、連合がシティ・オブ・サウスゴータに駐屯を決めた一週間前から、昼夜を問わずこんな調子であった。

「……アンタも少しは自重しなさいよ 私たちがここに来たのは……」

周囲の呼び声に気付いた手の目が、ルイズの説教を遮りながら立ち上がる。

「へへ…… どうやらお呼びがかかたようで」

ふらふらとおぼつかない足取りで、手の目が後方のテーブルへと向かう。
ほろ酔い気分の若者たちが、たちまち歓声を挙げる。

「やあ手の目 相変わらず色気の無い格好してるな」
「芸の前に酌を頼むぜ とびっきりのイイ女に化けてくれよ!」

「ったく 酷ェ事をいう太っちょだね 年増が好みってんなら…… これででどうだ?」

「ひえッ 母さん! やめろバカ 酔いが冷める」

半ば本気で飛びのく若者の有様に、再び どっ、と場が沸き返る。
少年騎士達の馬鹿騒ぎを、ルイズは口を尖らせて見ていたが、やがて空になった手元のグラスに目を移し、再び大きな溜息をついた。



272名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:01:46 ID:aDdIkjO/
支援
273零姫さまの使い魔 第十一話A:2008/12/26(金) 22:02:47 ID:tBNnyK7r
トリステイン・ゲルマニア連合による、アルビオン遠征の発布から三ヶ月。
その間、連合は大陸に上陸し、幾ばくかの局地戦と都市攻略戦を経て、
アルビオンの交易の要所である、シティ・オブ・サウスゴータを陥落するに至っていた。

降臨祭にかこつけた休戦協定の申し出があった事と、兵糧の補給のために、
それを受けねばならなかった事を除けば、驚くほど順調な行軍であった。

尤も、条約違反を侵してまで敢行した、先のトリステイン攻撃の失敗によって
レコン・キスタは拠るべき大義と虎の子の艦隊を失っている。
この上、兵力を総動員した二国の侵攻を受けては、反抗の余力が無いのも当然であった。
兵士達にとっては僥倖のような連戦連勝も、戦略家の目で見れば当然の結果と言えた。

本来ならば喜ばしい事態ではあるのだが、ルイズにはそれが堪らない。
わざわざ女王陛下が抜擢した秘密兵器として戦場に赴きながら、ついぞ今日まで出番が無かったのだから。
当然、軍内で彼女は、非常にどうでも良いような扱いを受けていた。
戦場を知らぬ深窓の令嬢に、ばさらな出で立ちの芸人のコンビとあっては、預けられた司令官の方がいい迷惑であろう。

出世の場を求めて護衛の任についた少年騎士達にも悪いことをした、などと、当初ルイズは殊勝にも考えたものだが。
彼らはいつの間にやら手の目と意気投合して、あの体たらくである。こうなるとルイズは溜息しかでてこない。

(せめて零戦があれば まだ状況も違ったのに)

実際、あのハルケギニア空戦史史上最強最速の機体が使えたならば、
八面六臂の活躍とまでは行かないまでも、偵察任務くらいはこなせた筈である。
だが、機体を預かるコルベールは、やれ弾が無いだの、燃料が無いだの、エンジントラブルだのと言って、
遂に飛行機を飛ばしてはくれなかった。

ルイズはコルベールの言葉を信じていない。
と、言うよりも、タルブの戦闘の際にはあれだけの無茶を押し通した手の目が
今回は実にあっさりと引き下がった、と言う事に疑問を感じていたのだ。



274零姫さまの使い魔 第十一話B:2008/12/26(金) 22:04:50 ID:tBNnyK7r
「ねえ手の目 アンタはやっぱり この出兵は反対だったの?」
「ん〜……」

漸く宴もたけなわに近づいてきたころ、グラスにワインを注ぎ直しながら手の目が答える。

「まぁ 反対っちゃあ反対だが そいつは一個人が言った所てどうこうなるもんじゃねぇだろ?
 幸い今回は勝ち戦だ お嬢が手柄を立てずにすめば それ越した事は無いと思うがね」

「それ どういう意味よ?」

「自分自身が一番分かっているんだろ?
 虚無の力に目覚めたまでは良かったが 今のところ アンタの力は戦場以外に使い道が無ェ」

「! それは……」

手の目の事も無げな一言に、ルイズが思わず凍りつく。
始祖ブリミルが、仇敵エルフを倒し、聖地を奪回するために模索した虚無……。
その力は、戦場以外では役に立たないのでは無いか、という疑念は、少なからずルイズの内にあった。

「こんな所で下手に活躍してみろ アンタ 一生戦場から離れられなくなるぜ
 一個の兵器として見るなら お嬢の魔法は伝説と言っても差し支え無いならね
 そうなっちまったら トリステインの平和は兎に角 アンタの平和はどうなっちまうんだい?」

「でも…… でも そんなのは考えすぎよ
 今回の出兵は あくまでレコン・キスタの脅威を取り除くためであって……
 そう あの聡明な女王陛下が たびたび戦争なんて繰り返す筈が無いわ」

「だが その女王も無欠じゃない
 トリステインは有力貴族の寄り合い所帯だし 
 政治の方は切れ者の大臣に仕切られてるってェ話じゃないか?
 彼らが一団となって出兵を要請したらば お嬢も姫様も無下に出来ない だろ?」

ルイズが絶句する。
政治になんぞ興味が無い、と言った風を装いながらも、手の目は見るべき所は見ていた。

「ただ この戦が無事に終わって 女王陛下の威信を高めることが出来れば 状況は変わる筈さ
 女王は今以上の権限と より強大な重責を負うことになる
 お嬢が本当に働かなきゃならねェのは それからじゃないのかい?
 女王陛下を公私に支える側近としてさ」

手の目の言葉は、確かに一理ある。
ルイズの望みはあくまで魔法を使えるようになる事であり、魔法で身を立てる事では無かった筈だ。
自身の力が平時に無用な乱を呼び込むだけならば、それを隠して生きる方が懸命であろう。
魔法の力が未熟であっても、誇り高く職務を全うしている貴族はいくらでもいるのだから。

だが……
275名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:06:33 ID:zLEoFim0
支援
276零姫さまの使い魔 第十一話C:2008/12/26(金) 22:06:55 ID:tBNnyK7r
「何故 今 このタイミングでそんな話を
 釘を刺して置かないと 私が無茶をしでかすとでも思った?
 それとも……」

ルイズが言葉を淀ませる。
手の目の忠告が、老婆心からくるおせっかいだと言うのならそれで良かった。
或いは、酔った勢いで舌を滑らせただけと言うのなら……。

だが、ルイズの邪推に対し、珍しく目を丸くしている手の目の表情を見れば
何か他に理由があるのは明白であった。

しばし、手元のグラスを傾けた後、やがて手の目が口を開いた。

「なんというかね…… 嫌な予感があったのさ
 この国に足を踏み入れた時から ずっとね あっしもうまくは言えねぇんだが……」

「アルビオンにいる間は 
 私に積極的に行動して欲しくないって そういう事……?」

「……ああ 出来る事なら このままつつがなく終戦を迎えて貰いてぇ
 実際アンタは動かなくても この戦はなんとかなりそうだしね」

「そう……」

「まあ忘れとくれよ 別に何が見えたって訳でも無ェ
 あっしにゃ先日以来 この国自体に苦手意識があったんだ
 今回の嫌な予感ってのは 多分にその程度のものさ」

「…………」

だが、ルイズは意識せずにはいられなった。
彼女もまた、手の目の言う『嫌な予感』を少なからず感じていたのだ。
初陣による緊張のため、或いは、軍内での微妙な立場から来る焦燥感であろうと
思いこもうとしていた、漠然とした不安感。
手の目の言葉は、ルイズの中に沈んでいた、形容しがたい悪寒を引き出すものであった。

「……それって」

その時、天幕が勢い良く押し開かれ、何者かが室内に転げるように飛び込んできた。
安穏とした空気を打ち破る喧騒に座が静まり、周囲の注目が乱入者へと集まる。

乱入者の正体は、トリステインの騎士と思しき男。
纏った外套からある程度の身なりの良さが窺えたが、その顔は貴族の優雅さが感じられない程にやつれ果てていた。
男はしばしの間、大きく肩で息をしていたが、やがて、幽鬼のように青ざめた顔を上げて、ゆっくりと口を開いた。


―― 男の言葉は、二人の少女が感じていた不吉な予感が、現実のものとなった事を告げるものであり、
   同時にそれが、トリステイン・ゲルマニア連合軍にとっての、悪夢の始まりとなった……。



277零姫さまの使い魔 第十一話D:2008/12/26(金) 22:10:13 ID:tBNnyK7r
―― 連合軍四万の反乱

何一つの予兆もなく、突如巻き起こったその異常事態は、瞬く間にアルビオンの情勢を一変させた。
一夜の内に全軍の半数もの兵士の離反し、しかも、司令官は消息不明。
たちどころにして連合軍の前線は崩壊し、壊走を始める段になっても、悪戯に情報が錯綜するばかりであった。
反乱兵を吸収したアルビオン軍七万は、猛烈な追走を始めており、
連合は兎にも角にも、大陸より即時脱出を図らねばならない状況だったのだが、
その結論に到達する頃には、既に貴重な時を浪費し尽くしていた。

軍全体の壊滅を避けるため、首脳部は、一縷の望みにもすがらねばならない状況であった……。



「――で お嬢がその『一縷の望み』って言う訳だ」

「…………」

ルイズにも理解できない指令である。
僅かばかりの手勢を率いて、アルビオン軍七万を足止めしろなど、正気の沙汰ではない。
なにしろルイズは、作戦会議どころか、昨日までまともな指令一つ受けた事が無かったのだから。

唯一つ分かるのは、信じてもいない『伝説』の力を当てにせねばならない程、事態が逼迫している、と言う事である。

「手の目 前に言っていたわね アルビオンに来た時から ずっと嫌な予感があったって……」

「ああ…… こうしている今も はっきりと禍々しい気配を感じているよ
 この戦が終わるまでは 決してそちらの方には近寄ら無いようにと そう振舞ってきた
 今更言ってもしょうが無ェことだが あっしも見通しが甘かったようだ」

「そう……」

「……悪い事ァ言わねェ とっととズラかろうぜ お嬢
 お偉いさん方も 事ここに至って死んでくれたァ それこそ今更ってもんだろ?」

「私は貴族よ 手の目」

ルイズの一言が、二人の間に微妙な緊張感を生み出す。
人気の無い寒村、無人となった寺院の一角で、二人の瞳が交錯する。
四万の寝返りも、常軌を逸した命令も、全てはきっかけに過ぎない。
貴族と芸人、秩序の担い手と漂泊の民。両者のルーツに由来する、決して埋まらない溝。
最も重要な場面で、必ず齟齬をきたすであろう価値観の違い。それこそが、二人が感じていた不安の正体であった。
278零姫さまの使い魔 第十一話E:2008/12/26(金) 22:12:37 ID:tBNnyK7r
「言いたい事は分かるがよ それじゃあ犬死だよ
 ただ望みが無いってだけじゃねぇ アンタ 上層部の尻拭いのために捨て駒にされたんだぜ
 貴族の誇りをそんな風に利用されて 悔しくはなのかい?」

「誰が得するだとか損するだとか そんな事は関係ないわ
 一つだけ確かなのは 私が任務を達成できなければ 皆の命が失われるって事だけよ
 私の力は 戦場以外では使い道が無い…… そうだったわよね 手の目?」

「…………」

「その私が この場面で任務を放棄して それで生きられると思う?
 誇りを捨て 名誉を失った貴族には 惨めな末路が待つだけなのよ」

「そいつは視野狭窄ってもんだ
 失った名誉は 生き延びて挽回すればいいってェだけさ
 こんなところでおっ死んじまったら もう 名誉もクソも無いんだよ」

「……そんな事が言えるのは あなたがその程度の生き方しかしていないから
 命がけで守らねばならないものを持ち合わせていない 流れ者に過ぎないからよ 手の目!」

「!」

二人の人生を分かつであろう一言を、ルイズが放つ。

「去りなさい 手の目!
 あなたの存在は 一命を賭してこの場に残った兵士達の士気に関わるわ
 信念の無い人間が一緒では 始祖ブリミルの加護も届かないわ」

「ハンッ! ご立派なこって」

売り言葉に買い言葉で、手の目が語気を荒げる。

「こちとらハナッから心中する趣味は無ェさ!
 今度ばかりは流石のあっしも愛想が尽きたよ」

言うが早いか、手の目がクルリと身を翻す。ルイズは無言でその背を睨みつける。

「じゃあな! せいぜい七万の大軍相手に名誉とやらを貫いてみるがいいさ」

手の目は振り向きもせずに右手をひらひらさせ、足早にその場を後にした。

入れ違いに、件の少年騎士の一人が、二人の姿を交互に見合せながら近付いてきた。

「あれでいいのかい? これが今生の別れかもしれないんだぜ」
「いいの」

意外にも抑えの利いたルイズの声に、少年が目を見張る。

「アイツは妙に天の邪鬼な所があるから ああでも言わなきゃ素直に出ていかないわ
 私と違って アイツにはここに残る理由なんて無いんだから……」

手の目の去った後を、ルイズはしばし呆然と眺め続けた。

「さようなら…… 楽しかったわ 手の目」




279名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:12:38 ID:zLEoFim0
おおお、先が気になるぞ支援
280名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:13:50 ID:THZeQdBU
盛り上がってきた支援!
281零姫さまの使い魔 第十一話F:2008/12/26(金) 22:13:56 ID:tBNnyK7r
「あばよ ルイズお嬢さん
 アンタも随分と粋な計らいをするようになったもんだが
 それであっしをたばかろうたァ 十年早いね」

手の目が往く。

深く暗い森の中、道とも呼べぬ獣道を、勝手知ったる庭のように、右手を眼前にかざして突き進む。

「そう…… この大陸に渡った時から あっしはずっと 何か邪悪な気配を感じていた
 出来る事なら そいつにだけは近付きたくは無かったが こうなっちまえば話は別だ」

額に浮かぶ大粒の汗を拭う。
彼方から感じる悪意は、既に予感という次元を超えて、手の目の五体を苛むかのようですらあった。

「あっしの勘が正しければ 四万もの兵を一夜にして寝返らせたカラクリは この悪意の中心にある筈だ
 何が待ち受けてるかは分からねぇが うまくすれば 差し迫った危機をひっくり返せるかもしれねぇ
 ……こんな事を口にすれば アンタは意地でもついて来ようとしただろうがね」

手の目が天を仰ぐ。
辺り覆う枝の隙間から、沈みゆく太陽の輝きが彼女を照らす。

「……に しても 今回はちょっとばかし長居が過ぎたかね
 あっしも随分とお人好しになちまったもんだ……」



282零姫さまの使い魔 第十一話G:2008/12/26(金) 22:16:21 ID:tBNnyK7r
――アルビオン軍本隊の野営地より、10リーグほど離れた山中。

生い茂る木々が避けるように、ぽっかりと開いた丘の中央、
そこには、悪意の元凶たる黒装束の女性が腰を下ろしていた。

「……なんだい トリステインの馬鹿どもは 折角の虚無を使い捨てにする気かい?
 物の価値を知らない奴らだねぇ」

何事か頷いた後、女が左手を頭上へと掲げる。
その掌に乗っていた蝙蝠のような奇怪な物体が、キィキィという金属音のような声を上げ、上空へと飛び立った。

ガーゴイル―― 魔力を動力源として動く機械人形。
眼前の黒衣の女が、その場に居ずにして戦況を把握できる理由がそれであった。

「――さて いい加減出てきたらどうだい? 覗き見とは趣味が悪いね」

「……アンタがそれを言うか?」

女の視線の先、枝葉をカサリと鳴らし、大木の影から手の目が姿を見せる。
心なしか、軽口にも緊張が籠る。無理からぬ事である。
手の目の推測が正しければ、彼女は今、連合四万を操り戦略を一変させた、異形の能力者と対面しているだから。

「まったく こっちから出向く手間が省けたと言うものさ
 お嬢ちゃん アンタ 一体何者だい?
 お前は常に トリステインの【虚無】の傍で 使い魔のように振舞っていたが
 その力は【右手】でも無ければ【左手】でも無いようでね?
 或いは まさか……」

「何ワケの分からねぇ事をくっちゃべってやがる
 あっしは手の目 只の…… 只の芸人さ」
 
「芸人……? フン まあ どちらでもいいか」

黒衣の女がゆっくりと左手を差し出す。
薬指には深水色の指輪、その怪しい輝きを見た瞬間、手の目の背に冷たいものが走った。

「折角だから こちらも自己紹介させてもらおう
 私は【ミョズニトニルン】のシェフィールド
 お前とは違う 正真正銘の【虚無】の使い魔さ!」

シェフィールドの言葉に呼応するかのように、指輪が徐々に輝きを増していく。
本能的に、手の目が右手を眼前にかざす。

「芸人と言ったね? 小娘
 お前の芸が 神の頭脳の前でどれほどの事をやれるか お手並み拝見と行こうじゃないか」

指輪の輝きは一層怪しさを増し、奔放に色を変えながら、一つのうねりとなって手の目を襲う。
まともに立っていられぬ程に背景が揺らぎ、本人の意思とは無関係に、動悸が激しさを増していく。
心を萎えさせ、見る者の思考を奪う先住の光。
並の人間であれば、五秒と持たず、その場にひれ伏していた事であろう……が、

「あっしを相手にまやかしたァおこがましい!
 手の目の刺青は伊達じゃ無ェぞ」

283名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:16:21 ID:qxnhhgGH
支援
284零姫さまの使い魔 第十一話H:2008/12/26(金) 22:18:59 ID:tBNnyK7r
手の目の叫びと同時に、右手の刺青が閃光を放つ。
怪しき指輪の力は一瞬にして掻き消され、光の収束とともに、周囲に静寂が戻った。

「ほう……」
「察するに その指輪が今回の騒動のからくりってワケだ」

右手を前方にかざしつつ、手の目が左手で簪を引き抜く。
豊かな黒髪がふぁさと踊り、トレードマークの山高帽が、少女の影の上へと落ちる。

「そいつを こちらに渡してもらおうか……」

指輪の輝きを右手で遮りつつ、手の目がじりじりと間合いを詰める。

「……とっ組み合いなら 私に勝てると思っているようね」

「勝てるだろうさ 素人同士とはいえ場数が違わァ」

「フフン 認めるよ…… 一対一じゃあ 私には勝ち目が無い」

「! ……ッ」

跳びかかろうとした刹那、後頭部に強い衝撃を受け、手の目が昏倒する。
薄れゆく意識の中、状況を確認しようと、必死に身をよじらせる。
手の目の背後にあったのは、棍棒のように太い枝を携えた、一本の幹。

「まさ……か がぁ ご い……」

「ご明察 察しの鋭い芸人さんも こいつらの迷彩までは探れなかったようだね
 人の心を探れる力が 今度ばかりは仇となったようね」

シェフィールドが指を鳴らす。
巨木の枝が手の目の首根っこを掴み、そのままずるずると引きずると、
主人の眼前で、無理やり顔を引き起こした。

「安心なさい 折角のゲストだもの 
 そう簡単に殺したりはしないわよ」

シェフィールドが、胸元から小さな小瓶を取り出す。

「これが何だか分かる?
 アンドバリの指輪の力の一雫 万を超す人間をも意のままに操れる 精霊の力そのものよ
 貴方は随分と催眠に強いようだけれども これを直に口にしたならどうかしら?」

「…………」

「もう聞こえていないようね…… いいわ ゆっくりとお休みなさい
 良い夢を……」

シェフィールドはおもむろに小瓶の蓋を開け、手の目の鼻をつまむと
瓶の底に僅かばかり残っていた液体を、彼女の口中へと流し込んだ。

朦朧としていた手の目の意識は、そこで途絶えた……。




285名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:19:39 ID:qxnhhgGH
紫煙
286零姫さまの使い魔 第十一話I:2008/12/26(金) 22:21:45 ID:tBNnyK7r
「フフ 余興の一つと思っていたアルビオンで とんだ拾い物をしたものさ
 私の見込んだ通り いや この娘の力は 私の予想を遥かに超える

 アンドバリの指輪の力を使えば 小娘の秘めた能力の全てを 余す所無く引き出す事ができる
 そして 神の頭脳に刺青の力が加わった今 もはや陛下の前に敵は無い

 トリステインの聖女だろうと ロマリアの糞坊主共だろうと こいつの刺青の前では隠し事は出来やしない
 彼奴等がどれ程陰険な謀を練ろうとも 私の人形の先見があれば どうとでも先手が取れるからね

 いや そんな生温いもんじゃ済まないよ
 未来の全てが見通せる以上 奴らの生殺与奪は全て私の中にあるってわけだ

 元々ミョズイトニルンの力ってのは 影働きでこそ真価を発揮するもの
 なぁに 邪魔者は片っ端から葬ってしまって構わない
 この世で代えが利かないものなんて 敬愛する陛下と私自身
 それに 私の可愛い人形だけだからねぇ

 謀略の一環で 残りの虚無が全て失われたとて それを惜しむ理由はない
 奴らの代用品は 世界の何処かにいるんだから
 手の目の千里眼に指輪の力が合わされば 全ての虚無を陛下の前に揃える事すら容易い
 フフッ そうなれば 世界を制すも滅ぼすも 全てがあの御方の掌の中って事さ

 フフッ 安心しなよ手の目ちゃん 
 全ての虚無を陛下の前にひっ立てた暁には お前は晴れて用無しだ
 陛下の慈愛を賜るのは 私ひとりの特権だからね
 その時には 貴方も前の主人の元に帰してやろう

 あの世で主従水入らず いつまでも幸せに暮らすがいいよ

 ふっ ふふ ふははは
 あはっ あはは あははははは!

 はははは ははははは! はははははははっ!
 はははははははははははははははははは はははははははははははは ははははははははははははは はははっ
 はははははは はははははははははははははははは ははははははははははははははははははははは
 はははははははははははははははは はははははははははははははははは ははははははははははは ははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは……」




287名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:22:11 ID:Rpq9W00g
支援? 投下終わったかな?
288名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:24:24 ID:JxEwunO9
>>262
マンさんカッケーw
289名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:25:17 ID:JxEwunO9
失礼、支援
290名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:30:56 ID:JkZ0Xd7A
サルさんかな?
支援
291零姫さまの使い魔 第十一話J 代理:2008/12/26(金) 22:34:54 ID:KrRtcuqZ
「……ら 手の目ってば」

「ん……」

耳元の反響に顔をしかめつつ、漸く手の目が瞳を開ける。

「やっとお目覚めのようね」
「お前ら……」

鉛のように重い頭を一つ振い、手の目が辺りを見回す。
彼女の目の前にいたのは、見覚えのある、赤毛と青髪の少女達だった。

「キュルケ…… それにタバサ
 アンタら どうして此処に……?」

「それはこっちの台詞よ
 奇怪な女の笑い声を聞いて飛んで来てみれば 森の中でアンタがぶっ倒れてるんだもの
 あんまり心配を掛けないでよね」

「女の……笑い声?」

手の目の問いに対し、タバサが無言で視線を向ける。
振り向いた先には、既に正気を失ったシェフィールドがいた。
キュルケ達に後ろ手に縛られた窮屈な体勢でも尚、女は潰れ枯れ果てた喉で、ケタケタと笑い声を挙げていた。
  
「アイツ 一体何者なの? あれはアンタがやったの?」
「ああ……」

二日酔いのように痛む頭部を抑えながら、手の目が状況を再確認する。

「その女の名はシェフィールド
 詳しいことは分からねぇが 四万もの兵士を一夜で寝返らせて
 連合を潰走へと追い込んだ黒幕さ」

手の目の言葉に、二人が思わず息を呑む。

「それで…… ルイズを守る為に アンタがアイツをやっつけたってワケ?」

「いや……
 敵は 万を超す大軍を指先一つで操ってみせる怪物さ
 まともに戦えば ハナっから勝ち目の無ェ事は判っていた
 あっしに出来たのは 助っ人が来るまでの時間稼ぎと囮役だけさ」

「助っ人?」

「そう 助っ人さ」
292零姫さまの使い魔 第十一話K 代理:2008/12/26(金) 22:35:49 ID:KrRtcuqZ
手の目が傍らの地面に視線を落とす。
そこには役目を終えた山高帽が、風に吹かれて転がっていた。

「助っ人が来てくれるかどうかってのは 一か八かの賭けだったんだが……
 やっぱりあの人は 存在そのものが反則だ
 本体はあちらの世界にありながら 影を通して全て解決しちまうとはね
 助けてもらったあっしにしてすら どっから先が夢だったのか 未だに分からねぇ
 あっしもどうやら まだまだ修行が足りねぇようだ」

要領を得ない手の目の言葉に、タバサが不信げな表情を浮かべる。
だが、隣で聞いていたキュルケには、何かしら閃くところがあった。
倒れこんだ手の目の姿を発見した時点で、キュルケは【彼】がこの場に居た事を確信していた。

「手の目 その人って……」

「まあ ちょっとしたジョーカーみたいな御方さ
 神の頭脳とやらも とんだババを引いちまったもんだ」

そこで言葉を切ると、手の目はしばしの間
自分の体を包んでいた、真っ黒な男物の外套を、愛おしそうに掻き抱いていた……。
293名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:35:51 ID:JxEwunO9
支援
294零姫さまの使い魔 第十一話K 代理:2008/12/26(金) 22:36:43 ID:KrRtcuqZ
以上で投下終了です。
今のところ、次回で最終話の予定です。
このまま続けると、手の目は巨大な陰謀よりも、主役交代の危機と戦わねばならなそうなので
295名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:39:44 ID:zLEoFim0
GJ!
確かにこれ以上若旦那が出てくるとどっちが主役かわかりませんなw
最終話も期待しています。
296名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:40:38 ID:qxnhhgGH
手の目の人 乙
297名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:44:45 ID:Rpq9W00g
乙でふ
298名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 22:48:37 ID:THZeQdBU
乙でした
ああ、次で最終話か…
299名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 23:24:26 ID:pdxiRhXt
時々、巨大ロボ召喚→でもメンテどうするよ
がネタにされるが、いっそ鏡をくぐった影響で擬人化するとかどうだろう?
マジンガーZ(甲児なし)が鏡をくぐると彼は長身の黒人空手家に…
でも目が見えないのでルイズを肩車して戦うことに
300名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 23:26:46 ID:sb1+SzX7
>>299
それをやると他の3人の使い魔、
特に4人目は件の大男か、手足がない某美形になりかねないのだが。
301名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 23:27:37 ID:LKXDWHPZ
おつかれっした。
原作を見た事無いからピンと来ないけど、若旦那って人はそこまで人外なレベルなのか?w

>>299
何故か擬人化マジンガーはサリーちゃんのパパなヘアスタイルになるんじゃないかと思った。
302名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 23:31:51 ID:S+691MYK
>>301
這い寄る混沌の化身のひとつと言われても驚かないし、
這い寄る混沌が上司の愚痴を吐く相手だと言われても驚かない。
そんな若旦那。
303Fatal fuly Mark of the Zero:2008/12/26(金) 23:32:05 ID:QRikBMo6
お疲れ様です。
よろしければ後十数分後に投下させてください。
もっと、熱くなれよぉーーーー!!
304名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 23:33:52 ID:8jp9QKos
>>299
ジアースならメンテいらずさ
305名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 23:34:32 ID:JxEwunO9
まさかの修造化ですかw
306名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 23:37:38 ID:HF1IioZ4
バンブゥ!(訳:支援する)
307名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 23:44:28 ID:0Bxa00Vb
ゲッターパイロットやMHの騎士みたいにロボ乗らなくても強い奴呼べばいいじゃない
308名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 23:45:09 ID:vfqTiN1F
勝ちダス勝ちダスやったダスー!!(訳:支援する)
309Fatal fuly Mark of the Zero:2008/12/26(金) 23:47:53 ID:QRikBMo6
 がんばれがんばれやれるやれるできるできる投下できるから頑張れ積極的にポジティブに頑張れという言葉が天から降りてきたので、そろそろ行かせて貰います。


「出稼ぎ、かい?」
「そ、アルビオンも大分不景気だしね。
 島を降りて港町あたりで少し食い扶持を稼ごうかと思ってるのさ」

 などと話が持ち出されたのは、世間では勤勉な学生は予習を終えてそろそろベッドに入ろうかという頃合で、酒場の賑わいも少しずつ収まりかける頃合であった。
 テリーとマチルダも寝酒にと春摘みの葡萄酒などを嗜み、レーズンチーズなどを摘んでいたのである。

「しかしテファを放り出していく訳にもいかないだろう」
「ハ、何の為にあたしが帰ってきたと思ってんだい」

 買出しに行かなくてもいいように、貯えてきたんだよ、とマチルダは豪語した。
 実際、大量の食料品や衣服が彼女が帰ってきた際に持ち込まれていた。しかし、先を見据えれば更なるものが必要にはなる。
 どちらかというとテリーは怪しい奴らがこないかどうかが心配だといいたかったのだが、自分が来る前はマチルダが出稼ぎに行っている間、テファが一人だった事を考えれば、ある程度は自衛の策があるということだろうと判断した。
 しかし、出稼ぎとなるとこれは困った事になる。
 自慢ではないが、腕っ節一本で食べてきたテリーにとって、真面目に働くというのはあまり縁の無い事だったのである。
 元いた街にしても、知り合いの店でエキシビジョンマッチなどを行えば食住を保障してくれる程度に実入りはあったし、放浪中でもそこらのジムなどに転がり込めば食い扶持は稼げた。
 だがそれは、あくまで放浪の中で手に入る仕事であって、根を下ろして行う真面目な仕事ではない。
 無論、サウスタウンヒーローとして名を馳せたテリーは、講演や小さな映画出演などもこなしている。
 ドキュメンタリー映画を撮るつもりだった映画はいつの間にかアクション映画になっていたりと、どうにも真っ当な仕事とはいえず、しかしそれで名を上げて少し頼み込めば荷運びやちょっとした肉体労働にありつく事は難しくなかった。
 問題は、それを続けようという意思がない根無し草だったのだからどうしようもない。
 こうして面と向かって出稼ぎをしなくてはならないとなると、少しうなる破目になった。

「あんただって用心棒程度なら出来るだろう?
 ラ・ロシェールの港町は荒くれ者が多いしね、あんたみたいながたいのでかい奴なら雇ってくれるところは少なくないだろうさ」
「おいおい、俺は紳士的な男なんだぜ。何も喧嘩を屋台で売り歩いている訳じゃぁないんだ」
「どうだかね。ずっと大安売りのラッパを吹いてる気がするよ」
「客が来ちまったらしょうがない。たった一つしかない商品を、買っていただくまで、さ」
「やっぱり安いじゃないか」
「そいつを言われると痛いな」

 などと二人がじゃれ合いながら葡萄酒を飲み、出稼ぎの計画を練っていった。
 久方ぶりに帰って来たマチルダに甘えるように、テファはその膝枕で寝入っており、どういうわけか寝ぼけてテリーの手まで引っつかんでいた。
 その光景を見返し、テリーとマチルダは苦笑を漏らす。

「可愛い娘の為にってとこだな」
「あたしにとっては妹だよ。ったく」
「ソーリィ」

 マチルダの反論に、おどけてテリーは言って見せた。がたいに似合わない一礼をして。
 春の陽気に当てられたのかもしれない。マチルダも思わず笑みをこぼすのであった。

     ※
310Fatal fuly Mark of the Zero:2008/12/26(金) 23:50:20 ID:QRikBMo6
 ラ・ロシェールの港町はアルビオンに行く為に必ず……という訳ではないが、トリステインにとっては唯一の港町である。
 巨大な樹木からなる港は、それだけで人々を雄大な気持ちにさせる。
 とはいえ、船乗りに荒くれ者が多いのは古今東西同じ事で、酒場には喧嘩のための張り紙などがあったりもする。

「……何々、喧嘩をするときはせめて椅子をお使いください、か。荒っぽいな」
「刃傷沙汰よりいいってことさね。ここで用心棒でもすればいい稼ぎにはなると思うんだけれども」

 オーケイ、と肩を竦めてテリーが店へと入る。
 するとここでは日常茶飯事なのか、酒に酔った男達が騒ぎ、椅子を持って睨み合っていた。
 初めてそれをみたテリーは呆れたようになったが、マチルダは顔を顰めている。
 どうにもしまらない雰囲気だな、などとテリーが思っていると、睨み合いの決着がついたようで、片方の男がもう一人の頭を椅子で殴り飛ばし、相手が吹き飛んだところで歓声が上がった。
 酒の力もあるのだろうが、観客の声に押されたように男が力瘤を作る。
 そして倒れた男の頭を殴り、蹴り飛ばした。
 歯が折れたのか、倒れた男は口を押さえてのた打ち回る。
 みれば血が滴り落ち、それが更なる熱狂を呼んだ。
 とどめとばかりに男が腰に刺していたサーベルを抜き放ち――

「Hey、そこまでだ。正義のヒーローのお出ましって奴でな!」

 テリーが声をかける。
 熱狂を途中で止められた男と観客は突如として現れたように思えたテリーをにらむが、テリーはどこ吹く風で

「ここじゃぁ、喧嘩にゃせめて椅子を使うんだろう?
 刃物を出しちゃぁおしまいだ。それに、相手はもうギブアップって奴だからな!」
「るっせぇ! こいつぁな、俺達を危うく殺すところだったんだ! それのお返しをして何がわりぃってんだよ!」

 その言葉にテリーが眉をひそめる。

「殺す殺さないってのは、穏やかじゃないな。
 一体何があったんだ?」
「こいつはな、元々アルビオンの軍人だったのよ。だが負け戦に次ぐ負け戦で俺達に払う金がなくなって、戦場に放り込もうとしやがった!
 だったら殺されても文句はいえねぇはずだ!」

 その言葉に何か感じるところがあったのか、倒れた男が呻くが、歯が折られた状態ではまともな言葉にもなりはしない。

「OK、事情はよくわかった。だが、何も殺すなんて事はないだろう?
 殺しちまったら――後でそいつが何を考えてたか知っても、一生本当の答えが得られないんだからな。
 有り余ってるんなら、俺が一丁相手をしてやるよ」

 その言葉に、男達だけでなくマチルダも一瞬の沈黙を得る。
 だが、テリーはゆっくりと指をふって拳を前に突き出す。
 それを合図にしたのか、男が堂に入った構えでサーベルを振り回し、テリーに肉薄するが――

「Burning!」

 ――熊とは違い、完全な戦闘態勢から放った気を纏った拳による突撃は、サーベルがテリーに触れる間もなく、男の腹を殴り飛ばし、うめき声すら上げさせる事なく沈黙させる事に成功した。
 しかしそれで終わらず、男が倒された事をみた周りの観客が次々に立ち上がり、それぞれ得物を携えた。
どうやら周りで熱狂していた男達は、完全にこの傭兵崩れの仲間だったようだ。

「……ヒュゥ! タン先生のところにいた時の百人組み手よりスリリングだ!」
 
 いいながらテリーは口を笑みの形に保つ。
 ――決着は、テリーがマチルダをかばうために一度だけ大きく斬られた二の腕の傷だけを受け、十分と立たずに十五人の沈黙した男達のピラミッドが出来上がるというものであった。

     ※
311Fatal fuly Mark of the Zero:2008/12/26(金) 23:52:17 ID:QRikBMo6
 金の酒樽亭にテリーが用心棒として雇われてから数日、二週間もたてば、金の酒樽亭は半月前とは比べ物にならないほど治安のいい酒場となった。
 何せ元々カフェと名の付く酒場でショーファイトをしていたテリーが用心棒となっているのである。
 気さくな話からちょっとしたファイティングショーまでこなすうちに、用心棒としてではなく、看板娘ならぬ看板男としてテリーは人気を勝ち取っていた。
 マチルダはマチルダで何かしら仕事をしているようで、テリーとマチルダが合流するのは、酒場が店じまいをする深夜になってからである。
 そんな金の酒樽亭で、毎日のようにテリーに話しかけてくる男がいた。
 初日に歯を折られていたアルビオンの軍人である。
 最初は命の恩人であるというテリーに、礼を入れるために正装をして待ち続けたという彼は、数日もしないうちにテリーの親友のようにくだらない話を続ける気さくな男と化した。

「するとテリーはアルビオンから出稼ぎに降りてきたのか?」
「ああ、なんだかうちの財布の精霊様が、アルビオンじゃ不景気だっていうもんでね」
「そいつは当然だな……まだ中心地じゃ安心だろうが、今のアルビオンはそこかしこで戦闘が起こっている」

 ふぅん? と、テリーはエールを喉に流し込みながら続きを促した。
 ここに来てから半月、聞く話といえばトリステインの話題が七に、アルビオンの戦争の話題が三なのだ。

「俺は王党派についていたんだが……多勢に無勢だな。傭兵を雇うには金がかかる。
 金を持った貴族が軒並み叛旗を翻した。革命だよ……。俺を取り立てた貴族も叛旗を翻してな、家族は散り散り、部下として使っていた奴らもこれ以上雇えないと思って、船に乗せて降ろそうとしたら、後はあいつらの言うとおりさ」

 戦闘に巻き込まれ、守ろうとした奴から危うく殺されかけたって訳さ、と、男が一気にウィスキーを飲み干した。
 テリーはなにやらやるせないような気持ちになりながら、段々とアルビオンに残したテファの事が心配になってきた。
 マチルダはこの事を知っているのだろうか?
 そう考えると、ここで用心棒をしながら酒を飲むというのが、どうにも尻の座りが悪くなってくる。

「……はは、家族を残してきたのなら早く帰るか、降ろした方がいいぞ。
 民間人なら奴らもまだ手出しはしないだろうからな」

 王制が崩壊したら知らないが、次のスヴェルの月夜に船が出るだろうから、と男は船の予定表を渡してくれた。
 お前はどうするんだとテリーが聞くと

「…………奴らさ、なんとなく気持ちが悪いんだ。
 何かに操られてるっていっちゃなんだが、虚無の魔法だとかなんだとか、俺の上官もそっちにいっちまった。
 俺は嫌だね。操られたように生きる軍人なんざ。
 それなら、騎士として殺してくれる王様がよっぽど好みさ」

 勿論次の船で戻って、生き延びて戦闘に参加するさ、と呟いてから、男は金貨を置いてカウンターから離れていった。
 ウィスキー三杯の料金にしては多すぎる代金だが、恐らくもう金銭に執着などないのだろう。
 テリーは黙ってその金貨をつまみ上げ、少しの間眺めてから、ゆっくりと立ち上がった。

     ※
312名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/26(金) 23:56:35 ID:0/Vas50O
パワー支援
313Fatal fuly Mark of the Zero:2008/12/26(金) 23:57:53 ID:QRikBMo6
「なぁ、マチルダ」
「んぁ? なんだい、あたしゃ今日も空振り続きでぐったりしてるんだけどね」

 いってマチルダは夕食の鳥の照り焼きを食いちぎる。豪快な食べ方で、マナーも何もあったものではないと思うが、不思議とマチルダに関しては何をしても様になるもんだとテリーは思っている。

「信念、って奴は強いよな」
「藪から棒だね、相変わらず。
 そりゃ強いよ、あたしだってテファを守るためなら何だってするからね」

 マチルダが口の端を吊り上げて笑う。威嚇するような笑い方だが、ふ、と、テリーはその口の端がひくついている事に気づいた。

「例えば、犯罪……盗みとか、か?」

 ガタリと、マチルダが立ち上がりかける。だがそれ以上行動を起こすでもなく、やがてゆっくりと椅子に座りなおしてテリーをにらみつけた。
 ――マチルダの正体、いや、もう一つの顔は、貴族専門の泥棒、土くれのフーケである。
 ここ暫くはフーケとして活動していなかったが、それはテリーという存在を警戒していたからだ。

「…………だったら、なんだってんだい? あたしを衛兵や貴族に突き出そうって?」
「まさか! 盗みは犯罪だが、それをいったら俺だって捕まるぜ。なんせ元ストリートチルドレンだからな。
 弟を食べさせていくために人を殴り倒し、色々かっぱらった経験もある。そうしなきゃ、生きていけなかったのさ……」

 褒められた事じゃないが、テファを食べさせていくためなら、俺がどうこう言えることじゃない、とテリーは小さく笑った。その言葉にマチルダが、しかし疑惑の目をむけ

「奇麗事はやめな。巷を騒がす盗賊だ、捕まえれば懸賞金や報奨金だって貰える。俺だって盗みをした? ハッ、あたしと一緒にしてもらいたくないね」

 エールをぐい、と飲み干す。照り焼きを喰らい、マチルダがその骨を皿へとたたきつけた。

「あたしは貴族が憎い、憎すぎてたまらないさ。追いやられた記憶もそうだし、何もわからない少女一人を追い立てる、アルビオン王家がだいっきらいだね……!」
「……俺は、貴族がどうのこうのだなんてわからない。それで、マチルダ。お前さんは復讐や私怨の為に盗みをしてるのか?」

 テリーが小さく呟く。

「俺は、父親を殺した相手を十年以上追い続けた。復讐の為だけに生きたっていっても過言じゃない。
 ……そしてとうとう俺は復讐を成し遂げたよ。なんせ、二回も相手を殺した。一回目は結局生きていたが――二度目は、ビルの高層から落ちる相手に、差し伸べた手を払いのけられながら――」

 エールのジョッキを手で奥に追いやり、椅子にもたれかけて、天井を仰ぎながらテリーが大きく息を吐く。

「俺はそいつの息子を自分の息子として育ててる。親代わりになれたかどうかは知らないが、贖罪、ってのも、あったんだろう、な。
 ……今でも夢に見る。復讐を成し遂げて、俺は抜け殻になっちまった。夢にそいつが出てくるんだ。どうした、テリー。それが私を殺した男の生き様か、ってね。おまけにあの手の温度まで蘇る」

 ゆっくりとテリーが体を起こし、マチルダをじっと見た。

「だからせめて、俺がいる間は、少し信じてやってくれないか。
 あの子に、知らない内に、貴族の復讐の重荷を背負わせるのは、辛すぎるだろう。
 親の借金は……子に背負わせるもんじゃぁ、ないぜ。俺みたいに不器用なのは、損だ」

その言葉に、マチルダは鋭い目つきのまま――しかし、ふ、と笑って

「……説教臭くなったら親父だって知ってるかい?
 いいさね、ともかく今は休業中なんだ。それに……言わないどくれよ。あたしが盗みに手を染めてた事を知った時のあの子の泣き顔を――あたしが毎夜夢にみないとでも、思ったのかい」
「もう三十を超えた中年さ……ま、今日は互いに酒を飲み明かして、夢を見ないほどに酔っ払っちまおうか」
「そんなだから今ここで用心棒しか仕事がないんだろうに、テリー」

 少しばかり酒と食べ物で膨れたテリーの腹をつまみ、マチルダが言う。実際は鍛え上げられた腹筋にそうそう余剰の肉はないのだが。しかしテリーは手にしていたグラスをテーブルの上に置き、笑いながら返した。

「よしてくれよ。中年の親父の腹なんてこんなもんだろ?」
「だとすれば、比較対象の選定が難しくなるねぇ。でも、テリー。ありがと」
「何の話、かな? ちょっと酔っ払ってて分からないぜ」
「……歳だね」
「かもしれないな」
314Fatal fuly Mark of the Zero:2008/12/27(土) 00:01:41 ID:IZLY8ZAw
 翌日、二日酔いの頭を押さえながらも、迎え酒を駆使して何とかその日の仕事を終え
 帰路につくテリーが、かつてシンボルアイテムだった帽子がない事をこれほど悔やんだ事はなかった。
 一つは、珍しくエールを立て続けに十杯も飲んだ事。
 一つは、別れ際に湿っぽい話をしたとはいえ、ここ暫く陽気に話し続けていた友人が血まみれで倒れている事。
 一つは、その男を囲んでいる傭兵崩れの男達の刃物が血にまみれていた事。
 そして最後は――その男が呟いていた名前と、落ちたロケットから見えた写真に――テリーの家族となった、小さな騎士様の顔が見えた事――

「……参った、な。顔を隠す帽子がないんじゃ、雨が降ったってごまかせないじゃないか」
「てめぇ、あの時の――」

 男達が声をあげるが、テリーはそれをゆっくりと頭をふって止め

「――Go bang」

 ラ・ロシェールの路地裏で、一瞬夜の闇が、大地から吹き出る輝きによって消し去られ――

     ※


「行くのか、あんたが来てくれてから随分と客層がよくなってたんだが……」
「悪いな、マスター。どうやら、帰る家にでっかい忘れ物があったみたいでね」

 苦々しく笑いながら、テリーは上を指差した。
 当面の宿へと帰ったテリーはマチルダと相談し、出稼ぎを切り上げてアルビオンへ戻る事へとした。
 どうやらマチルダがアルビオンから降りた理由は、昔の稼業の仲間達から情報を買う事が主目的だったらしい。
 出稼ぎというのはその口実で、テリーを降ろしたのも、いったん動向を探るためだったという。
 だが、アルビオンの革命が本当だとわかった今はテファを一人にさせておく理由がない。
 テリーが王家に何らかの感情――それも、悪感情ではない――を抱いているのに気づいたマチルダだったが、それに関しては何も言わずに
 スヴェルの月夜に急ぎ帰郷する事に決めたのである。

「ああ、そうだ。マスター。悪いんだが――」

 テリーが金貨をテーブルに置き、マスターがそれを受け取る。
 この後にテリーが金の酒樽亭を訪れる事はなかったが――

     ※

「ねぇワルド、こんな酒場に何の用だというの? ロックとミスタ・ギトーを放っておいて」
「彼らには彼らのやり方があるだろう。ルイズ、情報というものはこういう場所に集うものだ。
 荒くれ者が集うなら、荒事の情報がね……マスター、とりあえずエールを貰えるかな?」

 その夜、金の酒樽亭に三人の男女が入ってきた。
 カウンターに座り、注文をとろうとすると、しかしマスターがそれを制し

「すみません、お客さん。その席は予約が入ってまして……」
「……こんな酒場で予約かい? いや、失礼」
「構わないですよ。いや、しかしね――本来なら、今日も、そこで二人の男が飲んでいたはずなんだと、いわれちゃぁ、仕方ないじゃ、ないですか」
315名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 00:02:38 ID:S/vQusS2
支援
316Fatal fuly Mark of the Zero:2008/12/27(土) 00:03:54 ID:IZLY8ZAw
今回の所は以上です。
マイナス十度の中文章が打てるって頑張ってんだよ、とか言いたいですね。
では、

熱くなれよ!!
317名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 00:04:36 ID:v7Stlw5a
乙です
熱くなってくださいなw
318名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 00:05:09 ID:IV/KmXOV
ウォッカを飲め。
ボリショーイ。
319名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 00:06:52 ID:q68DwLIQ
乙でした。
秋田は今吹雪の真っ最中だぜ、ヒャッハー。
320名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 00:28:00 ID:CfmWy4GZ
>>302
若旦那は確か、話が面白くなる程度の力のはず。超能力者の中ではたいしたことないって、あとがきで言ってたぞ?
蜘蛛の神とかも不意打ちで、物理的に殺していたし。
とまれ作家さん方乙でした。
321名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 00:44:33 ID:WRJC7wF+
そうか、寒いときは修造化すれば良いのか……
これってスゲーecoじゃね?

しかも、割と海外でも通じる!はず
322名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 01:07:30 ID:G5JHRf9J
>>316
乙でした
ああ、知らず擦違うってのも王道だよな
名も無き兵士の最期とかマスターの粋な計らいが良過ぎる


あと寒い時は熱い漢や暑苦しいほどの熱血キャラを召還すれば良いんだよ
ダイゴウジガイこと山田次郎とかノリコとか無職とかザンギェフとか
323名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 01:22:25 ID:VCWgZfXD
修造発言を聞いて、ちょっと想像してみた
もしルイズが松岡修造を召喚したら…


駄目だ、修造がルイズに「どうしてそこで諦めんだよ!」
って言ったりしてる所しか想像できねぇ
324名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 01:30:21 ID:WRJC7wF+
ハルケギニアでは、どんなシューゾールールが生まれるんだろうか
325名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 01:43:57 ID:kD8ffP5M
鉄拳の仁を召喚・・・してもルイズじゃ扱えないんだろうなあ
あの一家の連中が誰かの下につくなんて土台無理な話か
326名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 01:51:34 ID:goq+k76Q
仁と聞いて真っ先に浦安鉄筋家族を思い出した自分
327名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 02:04:13 ID:G5JHRf9J
仁だと使い魔扱いでも喜びそうだから困る

春巻だと普通に学内遭難サバイバルはじめる事になりそうだな
328名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 02:07:53 ID:goq+k76Q
ルイズはあかね的な扱いを受ける訳か。うんこの海に埋もれたりうんこにダイブしたり
329日本一の使い魔 ◆HP5Bl9FFh6 :2008/12/27(土) 02:10:33 ID:bU6jcgLo
作者の皆様、読者の皆様乙です。

10話が完成しましたので2:15位に投下しようと思うのですが、
予約など入っていますか?
330日本一の使い魔 10話 ◆HP5Bl9FFh6 :2008/12/27(土) 02:15:43 ID:bU6jcgLo
それでは投下します。


「ダーリーン。」
ルイズにとって忌々しい声が聞こえる。早川に飛びつくキュルケ。キレるルイズ。我関せずで読書のタバサ。
「なによツェルプストー。何してるのアンタ?」
「あらヴァリエール、いたの?私はダーリンに会いたくて来たの」
早川は苦笑いを浮かべキュルケを見ると、背中に見事な見た目の剣を背負っている。
女性が持つにはかなり不釣合いな為、早川は尋ねた。
「この剣はどうしたんだい?」
「これは何処かのケチな貴族が、ケンにみすぼらしい剣を贈ったって言うじゃない?
私はケンにはこの剣がふさわしいって思ったから。この剣は差し上げますわ」
ケンは贈り物を受け取り礼を言うと、これから起こる事を考えそっと移動する。
「だ、誰がケチな貴族でっすって?何で人の使い魔に許可無く渡してるの?」
早川は両手を広げ肩をすくめる。
すると、タバサが早川の隣にやって来て何かを渡す。
「なんだい?くれるってのかい?」
コクリと頷き呟く。
「シルフィードがお世話になった」
二人の様子にルイズとキュルケは言い争う事を忘れる。
「ほぉー、きれいなペンダントだ。ありがとう。」
タバサの手をとり、軽くしゃがみ手の甲にキスをする早川。頬を染めるタバサ。
「「えぇぇぇーっ」」
「そろそろ帰りましょうかツェルプストー」
「そ、そうねヴァリエール」
二組はそれぞれ学院に帰るのだが、キュルケは思った。
「(私にはキスしなかったはね。ケンはタバサみたいなのが好みなのかしら、でも私がダーリンを)」
そしてルイズは考えるのをやめた。
そしてデルフリンガーは鞘に入れられたまま忘れられていた。
 
331日本一の使い魔 10話 ◆HP5Bl9FFh6 :2008/12/27(土) 02:17:29 ID:bU6jcgLo
 
学院についた早川は二本の剣を交互に握り、自分の体の変調を確かめるように振るっている。
「なぁ相棒よ」
「なんだデルフリンガー」
「俺の事はデルフって呼んでくれ、それよりもよ相棒だって気が付いてるんだろ?その剣がナマクラだって」
「まぁな、でも言ったらレディが可哀想だろ?」
「相棒はキザだねー」
遠くから徐々に争う声が聞こえ肩をすくめる。
「お客さんだ」
「大変だな相棒」
 
ルイズとキュルケの二人が杖を相手に向け、叫ぶ。タバサは早川の横で興味無さそうに立っている。
「「決闘よ!」」
なぜこうなったかと言えば、早川には二本も剣は要らない。どちらの剣を使うのが相応しいのか
言い争い、それが拗れて決闘騒ぎになったのだ。
キュルケは『ファイヤーボール』を唱え、
ルイズは火球をかわし、『ファイヤーボール』を唱えるが火球は現れず見当違いの場所に爆発が起こる。
自分のファイヤーボールが避けられた事にムキになったキュルケは、もう一度火球をルイズ目掛け撃つ。
キュルケは後悔していた。このままだと自分がムキになって放ったファイヤーボールがルイズの顔に命中してしまう。
しかし、何かが目にも留まらぬ速さで火球を掻き消した。
 
早川はこのままではと思い、煌びやかな大剣を投げる。左手のルーンが光り、
想像していた勢いを上回る速さで飛んでいく。
投げた大剣が火球を掻き消し勢い衰える事なく学院の壁に亀裂を作り大剣が砕ける。
その様子に四人は
「(やりすぎたか、それにしてもこの力)」
「(ダーリン凄いわ!)」
「(あそこは宝物庫……)」
「(えぇー100%変身いらないじゃん)」
 
その様子を陰から見ていたロングビルは驚愕した。
「なんなんだい、あの使い魔。まぁ、せっかくのチャンスだし、利用させて貰うよ。出ておいでゴーレム!」
ロングビルが杖を振ると巨大な土人形が現れ、宝物庫の壁を殴る。
「な、何なのよアレ?」
「私に聞かれたって知る訳ないでしょ?タバサは何か知ってる?」
「おそらく『土くれのフーケ』のゴーレム。そして狙いは宝物庫」
「止めなくちゃ!」
ルイズが杖を振るうと、壁を殴るゴーレムの右腕に爆発が起きる。それに続けとばかりに、
タバサが『ウィンディ・アイシクル』、キュルケは『フレイム・ボール』を唱える。
しかしゴーレムの一部を吹き飛ばすが、すぐに修復してしまう。
邪魔者に気付いたゴーレムは三人を踏み潰そうと足を上げる。
タバサとキュルケは状況を冷静に判断し、退却という選択をする。
しかし、手柄を立てようと躍起になっていたルイズは判断を誤り退却が遅れた。
「ルイズのバカ!何やってんの!」
無常にもゴーレムは虫けらを踏み潰すかのように踏みつける。
顔をしかめるキュルケとタバサ。しかし、この男が黙って見ているはずが無い!
 
332日本一の使い魔 10話 ◆HP5Bl9FFh6 :2008/12/27(土) 02:18:42 ID:bU6jcgLo
 
「チッチッチ、無茶はいけませんぜ。」
ルイズが目を開けると、ゴーレムが踏み潰した場所から数歩離れた所で早川に抱きかかえられている。
早川がデルフリンガーを片手に構え、テンガロンハットのつばを上げ
「デルフ、デビュー戦だ」
「おうよ!相棒!」
フーケは早川の処分が先決と考え、早川を始末するようゴーレムに命じる。
振り下ろされる巨大な拳、踏みつける足。なぎ払う掌。
その全てを後方宙返り、バックステップ、前方宙返りなどと華麗にかわしながら切りつける。
しかし、剣で切りつけただけでは再生するゴーレムには焼け石に水であった。
その様子を後方で見ていたルイズは、前に出てゴーレムに向かって杖を振る。
丁度、ゴーレムが早川を払おうと振り回した腕がルイズのいる場所に、ルイズの目線に土の塊が迫ってくる。
土の塊が徐々に大きくなり、もうダメだと目をつぶると横から衝撃を感じる。ふと目を開けると早川が放物線を
描き飛んでいく様が見えた、地面に叩きつけられ転がっていく自分の使い魔。
とっさに早川の元へと走る。キュルケもそれに続く。
「「ケーーーーン!」」
邪魔者がいなくなったゴーレムは壁を数発殴り穴を空ける。ぽっかりと空いた穴に黒いフードを被った
人物が入り、何かを抱えてゴーレムの肩に乗る。三人への攻撃を警戒していたタバサは、シルフィードを呼び
ゴーレムを追いかける。しかしゴーレムが学院の壁を越えるとゴーレムはただの土くれに姿を変えた。
ゴーレムの主は森の木々に隠れ姿を消していた。
 
 
 
 
333名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 02:19:10 ID:BgKgtlFz
残念だが俺の支援はハルケギニアじゃ二番目……何、一番目だと!?
334名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 02:19:30 ID:/VnpD6gD
変身がいらない? いいえ、ルーンこそがいらないのです 支援
335日本一の使い魔 10話 ◆HP5Bl9FFh6 :2008/12/27(土) 02:19:50 ID:bU6jcgLo
 
----------ボツネタ----------
ゴーレムに吹き飛ばされ、意識が飛びながらも立ち上がる早川。
敵を正面に保ったまま、両手を右側へ水平にピンと伸ばす。
そして、伸ばした腕を左斜め上までゆっくりと回し、静止させる。
そこから右腕のみを引き拳を握り元の場所へと突き出しなだら左腕を腰に構える。
高らかに叫ぶ



「変ー身!V3ァーーーー!」



ルイズ「絶対ダメーーーー!あんた(作者)!絶対叩かれるわよ!反応良かったら
使って見ようかなとか思ってるんでしょ!ダメだからね!!」
 
 
336日本一の使い魔 10話 ◆HP5Bl9FFh6 :2008/12/27(土) 02:20:42 ID:bU6jcgLo
以上です。お目汚し失礼しました。
また支援ありがとうございます。
337名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 02:26:37 ID:1vbpTLJ1
快傑氏乙。

ぶっちゃけビック1が来ても驚きません。
・・・・過去ログでV3,ビッグ1、青レンジャー、ズバットが喚ばれる
スーパー宮内大戦ネタを思い出しました。
338名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 02:28:32 ID:SymmNjcp
読み方としては

ブイスリャァー、なのか?

339名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 02:30:00 ID:/VnpD6gD
日本一の人、乙です。
ゴーレムにまともに殴られたはずなのに、なぜだろう。
ちっとも心配にならないのはw

あと早川がV3に変身ってことは、おマチさんはタカロイドですね。
「身内? いないね。俺は守れなかった。お前は守ってやれ」と言われるんですね、わかりまry
340名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 02:30:29 ID:rUWEEoAO
怪傑さん乙です。
V3ネタというかライダーネタでおやっさんなスカロン。
「魅惑の妖精ライダー隊」とか考えちまったよ。
341名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 02:38:32 ID:n2ld/kjc
V3が駄目ならビッグワンになればいいじゃない
ビッグワンが駄目ならアオレンジャイに(ry
342名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 03:04:11 ID:/VnpD6gD
きっと最終的には三浦参謀長とか名乗ってトリステイン軍に参加して、変身もしなくなるな。
343名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 03:12:43 ID:7BDLhEYF
日本一乙!!
何というか…ルイズよりも、普段寡黙なタバサがツッコミ入れた方が威力があると思えるのはなぜ?
銃弾を全身に受けても死なない不死身のヒーローだし、全然早川のことは心配してないwww
フーケ戦がとっても楽しみだぜww
344名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 04:21:17 ID:SamUt/bV
どうもV3の人はメタルヒーローシリーズで本部長やってたイメージが強いなぁ。
345蒼い使い魔:2008/12/27(土) 04:43:00 ID:hxPEnvym
白騎士物語思ったよりおもしろいです^q^
Renaado>>himeちゃんやっほ^^
やるべき課題も終わってません^q^
俺、これ投下したら課題始めるんだ…白騎士やりながら…
音楽聞きながら宿題出来ると思ってるの?消しなさい!ってカーチャンによく叱られた気がする。
というわけで、予定がなければ4:50に投下させていただきます。
346蒼い使い魔:2008/12/27(土) 04:50:21 ID:hxPEnvym
「うふふっ! やっと二人っきりなのね!」
ルイズがタバサを呼びに部屋を出てから、テンションが上がる一方のシルフィード。
それとは逆にむすっとした表情で腕を組みながら、バージルが静かに目をつむっている。
執拗に体を摺り寄せてくるシルフィードをいなしつつルイズを待っていると
――コンコンッ、とドアをノックする音が聞こえてきた、
ようやく来たか……、そう思いソファから立ち上がると、首に腕を回し背中にしがみ付くシルフィードをそのまま引きずりながらドアを開ける。
「ちょっとルイズ? 朝から何をやってるの? さっきからすごい音が聞こえてきたけ……」
ドアをあけると、そこにいたのはルイズではなく、隣室のキュルケが立っていた、
どうやら先ほどの爆発音に目がさめ、何事かと様子を見に来たらしい、
見たことがない女性がバージルに抱きついている光景を目の当たりにし目を点にして固まっていた。
「あっ! あばずれ! おにいさまを誑かしに来たのね!?」
「なっ……!」
キュルケを見たシルフィードが指をさしながら声を上げる、初対面(?)の人間に対してこれ以上ないご挨拶である、
その言葉を聞いたキュルケの片眉がピクリと動いた。
「こいつのことは気にするな」
バージルはそう言うやガシリとシルフィードの頭を掴み、体から引きはがし床へと突き飛ばす。
「きゃんっ! おにいさま……人前なのね! でも私は構わないの! さぁ飛び込んでき――ぎゃうん!」
色っぽい格好で座り込む形になったシルフィードの頭に持っていた本を投げつけ黙らせる。
「あらぁー……ちょっとまずいもの見ちゃったかしら?」
「好きでやっているわけではない、こちらも迷惑している」
苦笑するキュルケにバージルはそう吐き捨てる。
「それで、何の用だ?」
「えっ? あぁ、その、なんかさっきからすごい音が聞こえてきたから…何があったのかな? って」
「この際だ、お前にも説明しておくか……入れ」
面倒事の空気を薄々感じ取っていたバージルはキュルケを部屋に招くと、事情を話し始めた。

「タバサ? いる? 私よ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「何?」
ルイズがタバサを部屋まで呼びに行くと、タバサは中で何やら荷物をまとめている。
「あら? 旅行にでもいくの?」
その様子をみたルイズが尋ねると、タバサは短く
「実家へ帰る」
とだけ答えた。
「そう……って、そうじゃなかった! あなたの使い魔が大変なのよ! 悪いけど今すぐ私の部屋に来て!」
ルイズはそう言いながら無遠慮に中に入るとタバサの手を引き自分の部屋へと戻って行った。

「じゃあこの人はシルフィードなの?」
バージルから事情を聞いたキュルケは少し驚いた様子で目を回しているシルフィードを見る。
「そう名乗っている、……今ルイズがタバサを呼びに行っている」
「へぇ〜……ふふっ、シルフィードにまで好かれるなんてダーリンはやっぱりモテるのね」
「茶化すな、迷惑なだけだ」
クスクスと笑うキュルケにバージルは肩をすくめると心底迷惑そうな表情をする、
「茶化してなんかいないわ、事実だもの、でも驚いたわ、まさかシルフィードが風韻竜だなんてね?」
「そんなに珍しいのか?」
先のルイズもシルフィードが風韻竜であることに驚いていた、バージルはキュルケに尋ねる。
「風韻竜……人語を解し操ることもできる非常に高度な知能を持った竜のことね、
もうずいぶん前に絶滅したって伝わってるわ、そんな存在だから、あの子がひた隠しにする理由も頷けるわね」
もしシルフィードが風韻竜であることが周囲にバレてしまった場合、面倒事になるだろう。
下手をするとアカデミーという魔法の研究機関に実験体として提供を要求されることもあり得るという。
そんな危険も顧みずここまで来たということは、思ったよりも深刻な事態のようだ……。
バージルが大きくため息を吐くと、廊下からドタドタと騒がしい音が聞こえてきた。
347蒼い使い魔 第33話:2008/12/27(土) 04:52:57 ID:hxPEnvym
「……来たか」
「バージル! タバサ連れてきたわよ!」
「ハァイ、ルイズ」
息を切らしながらタバサを連れてきたルイズが勢いよくドアをあける、
そんなルイズを出迎えたのはこの状況を最も見られたくない人物、キュルケであった。
「きっ、キュルケ!? な、なんであんたがここにいるのよ!!」
「話は聞いたわよ? やっぱり彼ってモテるわね〜……流石といったところかしら?」
「ちょっとバージル! あんたどんな説明したのよ!」
「起こったことを話しただけだ」
バージルはそう言うとルイズの後ろに立っているタバサへ視線を送ると、床を顎で差す
「あの女に見覚えは?」
だらしない格好で目を回している女性を見てタバサの目が驚愕で開かれる
「……あの子……シルフィード」
「やはりか」
タバサがそう言うのだからやはりこの女性はシルフィードらしい、
どうやら本当に先住の魔法である『変化』を使い人間の姿になっているようだった。
「……何があったの?」
「どうもこうもない……ルイズ、説明してやれ」
視線を向けるタバサにバージルはぎゃんぎゃんとキュルケに向かい吠えたてるルイズに説明するように促す、
今朝起こったことの説明を受けたタバサは持っていた杖で気を失っているシルフィードの頭を小突いた
「うっ……うぅ〜ん……ふぇ?」
間抜けな声を上げながらシルフィードが目を覚ます、そしてタバサを見るや目をぱちくりさせ飛び起きる
「おねえさま? こんなところで何をしているのね? はっ! まさか! シルフィの邪魔をしに来たの!?
ひどいのひどいの! おにいさまは絶対に渡さないのね!」
そう言うやバージルにがしりと抱き付き、あろうことか主であるタバサに対し「う〜」っと唸りながら敵対心むき出しで睨みつけている。
その様子に思わずタバサも目を点にし呆然と立ち尽くしていた。
「あらぁ〜タバサ……どうやらこの子本気みたいよ?」
そんなタバサの肩にポンとキュルケが手を置く、それにつられる様にルイズもタバサの肩を掴みガクガクと揺らす。
「ね、ねぇ、こんなのって絶対おかしいわよ! タバサ! なんとかしてよ、あなたの使い魔でしょ!?」
従順な使い魔であるはずのシルフィードがよりにもよってバージルにベッタリな状況に多少ショックを受けているのか
タバサはしばし放心状態になり、二人のその言葉に反応を示さない。

「離れろ鬱陶しい」
その言葉とともにバージルがシルフィードの頭を掴みアイアンクローをかける
「あいたたたたた! 痛いのね! でも感じちゃうっ! 新世界!」
何やら新しい世界の扉を開こうとしているシルフィードをよそにバージルは再びタバサに顔を向ける。
「何かコイツがこうなったことに心当たりは?」
ギリギリと頭を締めあげながらバージルはタバサに尋ねる、
その一言にはっと我に返ったのかタバサはしばらく考えるように俯き……首を横に振った。
「……わからない、昨日までこの子に変わった様子はなかった」
「どっ、どういうことよ! わからないじゃ困るわよ!」
そんなタバサに必死にルイズがすがりつく、それを無視しタバサは続ける。
「あなたは? 何か心当たりは?」
「あれば話している、……昨日、コイツが俺の前に現れた時、茶だけ飲んで走り去ったということくらいしか記憶にない」
「あなたの前に現れた? あの時言ってた女の人?」
タバサが必死にバージルの腕をタップアウトしているシルフィードを指す、
バージルが短く「そうだ」と返すと、タバサは何やら考えるように手を顎に当てた。
「その時、この子の様子は?」
「昨日言った通りだ、何やら憤慨していた様子だったが…、はしばみのポーションとやらが入った茶を飲んだ途端走り去っていった」
「……はしばみのポーション? タバサ、あなたまさかモンモランシーのポーションを拾ったの?」
はしばみという言葉が出たとき、キュルケがタバサに尋ねる、するとコクリと頷く
「まったく……拾ったものを飲むなんて、みっともないマネはよしなさいって言ったのに……」
キュルケが呆れたようにタバサの頭をペチペチと叩く、
するとアイアンクローから解放されたシルフィードが頭をさすりながらきょとんとした表情で口を開いた。
348蒼い使い魔 第33話:2008/12/27(土) 04:54:22 ID:hxPEnvym
「……はしばみのお茶? なんのことなの?」
「……?」
その言葉にその場にいた全員がシルフィードを見る
「え? だって飲んだんでしょ? はしばみのお茶」
「そんな味全然しなかったのね、おいしかったわ」
「……? では何故逃げた」
「きゅい、それはおにいさまがあまりにも素敵だから…きゃ! 言っちゃったのね!」
そこまで言ったシルフィードは頬に手をあてクネクネと体をくねらせる。
それを冷めた目で見つめながらバージルは首をかしげる。
「どういうことだ? そのポーションとやらは一振りすればはしばみの味になると聞いたが」
「……………」
沈黙がその場を支配する、その中でふとルイズが口を開いた
「ねぇ、もしかして、それってはしばみのポーションじゃなかったんじゃない?」
「どういうこと?」
「えっと、確信はないんだけど……タバサ、それ、味を確認した?」
ルイズのその問いにタバサは静かに首を横に振る、
「じゃあシルフィード……って! バージルから離れなさいよ! このぉ!」
ルイズが再びバージルに絡みついているシルフィードを見て引きはがしにかかる、
「いやいや! 離れたくないのね! おにいさまも離れたくないって言って――」
「離れろ」
必死に頭を振り抵抗するシルフィードをにべもなくバージルが振り払う。
「もうっ! おにいさまったら照れてるのね! ふたりっきりの時はあんなに優しく抱きしめて下さったのに!」
「……っ!?」
その一言に場の空気が一瞬で凍りつく、
ルイズはまるで酸欠の魚のように口をパクパクさせ、タバサに至っては軽く眼尻に涙が溜まっている。
「あらぁ、ダーリンったら罪な人……」
キュルケがほぅっ……とため息をつきながらバージルを見る、
それは咎めるというよりかはどこか愉しんでいるかのような口調だ。
もちろんそんな事実はない、当のバージルにしてみれば非常に迷惑な話である。
「貴様……、斬られたくなかったらこれ以上でたらめを抜かすな…!」
眉間にふっか〜い皺を寄せながら閻魔刀の鯉口を切る、相手がシルフィードでなければ即座に解体しているだろう。
痛む頭を押さえつつ溜息を吐きルイズへと視線を戻す。
「話が逸れたな、コイツになにか聞くことがあるんだろう?」
「え? あっ、そうだったわね……とりあえずあんたへのおしおきは後よっ……!」
「そんなくだらん真似などしないと何度……」
ルイズがうぅ〜っと唸りながらバージルを睨みつけると、シルフィードへと問いかける。
「ねぇシルフィード、本当にそのお茶は苦くなかったのよね?」
「むっ、シルフィは美食家なのね! はしばみみたいな強烈な苦みはすぐにわかるの!」
「ということは……」
ルイズがそう言うと後を引き継ぐかのようにタバサが口を開く。
「中身が違う可能性が高い」
「原因はそのポーションだ、とでも言うのか?」
バージルが腕を組みながらその疑問を口にする。
「一口飲んだだけでここまで性格が豹変するものが存在するとでも?」
するとキュルケが思い出したかのように答えた。
「あー、一応、あることにはあるわよ、ご禁制だから作るのも所持するのも禁じられてるけどね」
「なんだそれは」
「惚れ薬よ」
その単語を聞いた時、ずっしりと頭が重くなるのを感じる。
シルフィードの態度の豹変っぷり、その一言で全て説明がついてしまう。あまりにも大きな説得力がその単語にはあった。
「でもまぁ、まだそうと決まった訳じゃないし、とりあえずモンモランシーに話を聞きに行きましょ? ってあら? ルイズは?」
キュルケが静かになった部屋の中を見回すと、ルイズの姿はすでになく、キィ…とドアが軋んだ音を立てながら半開きになっていた。
349蒼い使い魔 第33話:2008/12/27(土) 04:57:10 ID:hxPEnvym
一方そのころ、モンモランシーは自室で授業に出るための準備をしていた、
心配ごとであったポーションも無事回収し上機嫌で部屋を出ようとする、すると不意にドアがノックされた。
「どなた?」
「僕だ、君への永久の奉仕者! ギーシュだよ!」
朝から何の用だろう? そう思いつつドアを開ける、するとそこには相も変わらずキザったらしく薔薇を持ったギーシュが立っていた
「どうしたの? こんな朝から」
「朝、君の顔を一番に見ておきたくてね! 君は僕にとっての太陽だ! 君を見なくては僕に夜明けは訪れない!!」
朝っぱらから元気な男である、モンモランシーはそんなギーシュに少々呆れつつも不思議と悪い気はしなかった。
ふとモンモランシーはギーシュにポーションが無事見つかったことをまだ伝えていなかったことを思い出す。
「あぁ、そういえばギーシュ、あなたが探してくれていたポーションだけど、ちゃんと見つかったわ。心配掛けてごめんなさいね」
「そうなのかい? いやぁよかった! 君の顔が不安で曇ってしまうことが僕にとっては一番つらいことだからね!」
ギーシュはそう言うとモンモランシーをひしと抱きしめる
恋人同士、二人で過ごす甘く穏やかな時間、だがそれは魔人の乱入によって破られることとなる
「モンモランシィィィィーーーーーーーー!!!!!!!!!」
突如ドアをブチ破る勢いで…実際ブチ破って部屋に飛び込んできたルイズに二人は目を白黒させる。
「なっ…! ルイズ!?」
「うわっ!? なっ、なんの用だね!? いきなり乱入するなんて野暮天だな君は!」
だがルイズはそれに構わずに杖を抜きモンモランシーに突きつけた。
「死にたくなかったら3秒以内に答えなさい、あなたがこないだ落としたって言うポーション、あれの中身は一体何? ハイ、残り3秒」
「なっ…突然飛び込んできて何のことよ! わ、私にはなんのことだか…」
――ドォンッ! 「ギャア!!」
モンモランシーがシラを切った瞬間、隣にいたギーシュが爆発に巻き込まれもんどりうって吹っ飛ばされる
ルイズはピクピクと気を失っているギーシュには目もくれずにまっすぐモンモランシーを睨みつける
「あら、手元が狂ったわ、残り2秒……1秒……Die!!!」
「ほっ! 惚れ薬ですっ!!」
デビルトリガーを引いたルイズに恐怖したモンモランシーはあっさりと自白する、それを聞いたルイズの目が益々つり上がる
「あぁそう……やっぱりね……というわけで死になさい」
「待ちなさいルイズッ!」
あとから部屋に飛び込んできたキュルケに羽交い絞めにされルイズはじたばたと抵抗する
「離しなさいよっ! このぉ!! 消し飛ばしてやるんだから!!」
「なっ、何よ! 何があったのよ!?」
突然乱入してきたルイズにわけも分からず殺されかけたモンモランシーはキュルケに食ってかかる。
「あー、それがね、説明するとちょっと長くなっちゃうんだけど…」
そう言うとキュルケはルイズを抑えつつ事の顛末をモンモランシーに説明した。

「えーーっ!? タバサが使っちゃったの!? あぁ……あの子がはしばみと聞いて使わないなんておかしいと思ったのよね……」
モンモランシーが頭を抱えながら呟く。そしてふと顔を上げるとキュルケに尋ねる
「それで? 飲んだのはタバサ?」
「いいえ、飲んだのはあの子の使い魔のシルフィードよ。それでその子がダーリン…あぁほら、バージルに惚れちゃったのよ。
タバサは今、この子の部屋でシルフィードを監視してるわ」
「シルフィードって…あの風竜の? それが人間に惚れるなんて…まるでどこかのおとぎ話ね…」
350蒼い使い魔 第33話:2008/12/27(土) 04:58:32 ID:hxPEnvym
人間が使ったわけじゃないと聞き安心したのか、どこか他人事のようにモンモランシーが肩をすくめる。
「茶化すんじゃないわよぉぉぉぉ!!!!!」
「あぁもう! 落ち付きなさいな!」
そんなモンモランシーに再び怒りの炎を再燃させたルイズは再び杖を抜こうとするがキュルケに阻止される。
「もう……そんなに怒ることないじゃない、竜でしょ? 人間が飲んだわけじゃないんだからいいじゃない、
動物に好かれて困ることなんてないと思うけど? 竜が人に恋をするなんて、ロマンチックな話だわ」
「それだけだったら私もここまでしないわよぉ!!!」
そんなルイズを見てモンモランシーは呆れたように言う、
だがキュルケは問題はそう単純ではない、とルイズを押さえながら苦笑する。
「……そうだとよかったんだけどねぇ……、まぁいいわ、とりあえずついてきて、詳しい話はそれから。
あぁ、それとその言葉、間違ってもダーリンの前で言っちゃダメよ? 間違いなく殺されるから、ね?」
キュルケはそう言うとモンモランシーと意識を取り戻したギーシュを連れ部屋を後にした。

「こっ、この人がシルフィードだってのかい!?」
「シルフィード!? この人が!? 嘘よ……だって人間じゃ……」
ルイズの部屋に入った二人は驚愕する、
見たことがない美女がバージルにベッタリとくっついているのだ、
ギーシュに至っては人間の姿をしたシルフィードに心を奪われているようだった。
「きゅいきゅい! また邪魔者が増えたのだわ! みんなして私達の邪魔をするの!」
「貴様が一番邪魔だ……」
そんな二人をみてシルフィードは怒ったような口調で頬を膨らませた。
「そう…この子は風韻竜なのよ、今変化の先住魔法で人間に姿を変えているらしいわ…」
キュルケは苦笑しながら呆然と立ち尽くす二人に説明をする。
「いやぁ、すごいなぁ、まさか風韻竜だなんて……すごい美女じゃないか、なんてうらやましい……」
説明を聞いたギーシュが感嘆の声を漏らす、ついでにシルフィードの胸に視線が釘付けになっている。
「ギーシュ……見るとこ間違ってるわよ……。でも本当、すごいじゃない、風韻竜っていったらもう絶滅したって伝えられてるわよ」
「周りに知れたら騒ぎになる、私たちだけの秘密」
「うーん……確かにすごいけど……正直、彼に比べるとちょっとインパクトにかけるよね」
ギーシュがそう言うと、全員がうんうんと頷く、人間だと思っていたら魔人だった、というインパクトを越えるものはそうそうあるものではない。
唯一事情を知らないモンモランシーは「え? なんのこと?」と疑問の表情を浮かべていたが
「知らないほうがいい、知ったらここにいる全員の命の保証がない」との一言に、追及をあきらめることにした。

「それで? 何かわかったのか?」
ようやくシルフィードを引きはがしたバージルが戻ってきたキュルケに尋ねる、
「えぇ、やっぱり惚れ薬だったそうよ、モンモランシーが白状したわ」
「そうか……」
それだけ言うとズンズンとモンモランシーに向かって怒りの歩調で近づく、
そして右手で襟首を掴むとグイと上へと持ち上げた。
「貴様が原因か……」
「うっ……ぐぐっ……」
立つ地面を失ったモンモランシーが苦しそうに足をジタバタと動かす、
――チキッという鯉口が切られる音が響く
351蒼い使い魔 第33話:2008/12/27(土) 04:59:52 ID:hxPEnvym
「ままままままってくれ! 彼女を殺さないでくれ! この通りだよ!」
「バージル! 気持ちはわかるけど殺しちゃダメ! モンモランシーがいないと解除薬は作れないわ!」
さっきまでモンモランシーを殺そうとしていたルイズが必死にバージルを止める。
「そうよ、作ったのが彼女なら解除薬を作れるのも彼女しかいないわ!」
「私にも責任がある」
全員に止められチッっと舌打ちをするとモンモランシーを壁へ投げつけ閻魔刀を抜き放ちつきつける
「解除薬をだせ、今すぐだ!」
「げほっげほっ……むっ……無理よ……作ってないもの……」
「では今すぐ作れ! さもなくば……!」
「無理よ! 調合出来ないわ!」
「出来ないだと?」
部屋の空気が一瞬で変わった、 
――バチッ! バチバチッ! とバージルの体に紫電が走る、
ディティクトマジックを使わずともわかる、それほどまでに凄まじい魔力が彼を中心に渦巻いているのだ
――ビシィッ! と窓ガラスにヒビが入る。これと同じ状況を前に体験したことのあるギーシュ達は戦慄する
魔人化の兆候だ、このままだとこの場にいる全員が殺される。おそらくこの部屋の中には何も残らないだろう、
壁や床、果ては天井にまで至る真っ赤な模様以外は…。
「ざ……材料がないのよ! 材料自体は街に行けばあるだろうけど……! もうお金がないの……!」
モンモランシーが半泣きになりながら説明をする、このままでは本当に首を飛ばされかねない。
バージルはその言葉を聞くとモンモランシーに尋ねる。
「……街で買えるもので作れるのか?」
「え……えぇ、秘薬屋に行けば買えると思うわ、ただ…」
「ただ……何だ」
言い淀むモンモランシーにバージルは続けるように促す
「貴重な秘薬も必要だから結構お金もかかるの、それに入荷してなかったらそれまでよ……」
「金ならある、材料を言え、俺が行ってくる、貴様はその間に解除薬の調合を進めろ」
モンモランシーに金を渡して買いに行かせることも考えたが……、こんな状況だが金を渡すほど彼女を信用していない。
そのため自分で直接、確実に調達しに行く方法をバージルは採用した。
「わ、わかったわ、じゃあ今ある材料をそろえておくから、後で必要な物をメモにして渡すわ。
で、でもさすがに今日中は無理よ! 色々調べなきゃいけないし! だから明日! 明日の朝には必ず調べ終えるから!」
「………………一日この状況でいろというのか…?」
バージルは呻く様に呟くとシルフィードへ視線を送る、当の彼女はバージルの憂鬱などどこ吹く風、
明日、街に出かけるという話を聞き嬉しそうに小躍りしている。
「し、仕方ないじゃない! 調合は慎重に行わないと失敗しちゃうのよ!」
「……わかった、だが明日には調合に取りかかってもらう」
バージルはどこかあきらめたような表情になると、閻魔刀を納刀した。

「お買いもの! 明日はおにいさまとデートなのね! シルフィうれしい! きゅいきゅい!」
「なっ……! バージル! 私も行くわ! デ、デートなんて絶対許さないんだから!」
デートという言葉に反応したのかルイズが慌てて同行を申し出る。
「当然だ、お前にも来てもらう、案内は必要だ」
バージルはそう言いながら、指で眉間を抑えつつ呟く
「しかし、もう少しで俺とタバサが飲む羽目になっていたのか……」
あの時カップのお茶を飲まずに捨てておいて本当に良かった、
もしあの時にメイドが来ず、お互い飲み交わしていたら、間違いなくR指定展開だったろう。
犠牲者がシルフィードのみで済んだのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
そう考えながらタバサを見る、彼女も同じ考えに至っていたのか、少々顔が赤くなっていた。
352蒼い使い魔 第33話:2008/12/27(土) 05:01:09 ID:hxPEnvym
「そういえばタバサ、実家に帰るんだっけ?」
そんな中、ルイズが先ほどタバサが部屋で荷物をまとめていたことを思い出す、
その問いにタバサはコクリと頷いた。
「いつ出発するの?」
「明日」
タバサのその答えにルイズは思わずう〜んと腕を組み考える。
シルフィードがこの状況ではバージルから引きはがすのは困難だ、
かといってバージルをタバサに付き合わせるワケにもいかない、それはなんかこう、嫌だ。
そんな風にルイズが考えていると、
「馬車が迎えに来る」
とタバサが付け加える、なるほど、それならば無理にシルフィードに乗って行く必要はないだろう
だが、シルフィードは彼女の使い魔だ、使い魔は主の身を守らなくてはならない。
万一何かあった時、そばにいなくては何かと彼女も困るだろう。
ルイズがどうしようかと再び頭を悩ませていると、キュルケがタバサに一つ提案をした。
「タバサ? あたしも付いて行っていいかしら? シルフィードがこの調子じゃ何かあったら困るでしょ?」
そんなタバサに何か感じるものがあるのかキュルケが同行を名乗り出る。
タバサはその申し出に少し考えると、コクリと頷いた。
「決まりね、大丈夫よ、学院に戻るころにはシルフィードも元に戻ってるわ」
キュルケがポンとタバサの肩を叩く、するとルイズも前にでてタバサに宣言する。
「タバサ、あなたの使い魔、シルフィードは必ず元に戻すから安心して、必ず! 絶対! この杖に誓うわ!」
「私も出来る限り協力する」
ルイズとタバサが力強く頷く、そして同時にシルフィードをキッと睨みつけた。

「あっと、そろそろ授業ね、……そういえば朝食取り損ねちゃったわね」
妙に張りつめた空気の中、キュルケが思い出したかのように口を開く、気がつけば朝食の時間はとっくに過ぎそろそろ始業時間だ。
「う〜……とりあえず授業には出ないと……バージル! 絶対シルフィードに変なことしちゃダメだからね!?」
「……………」
もはや反論する気も失せたらしい、バージルは倒れこむようにソファに腰かけるとあとは腕を組み目をつむってしまった。
「返事は!?」
「……さっさと行け」
「うぅ〜〜〜………」
ルイズが低く唸りながら渋々とキュルケ達とともに部屋を後にする、もはや止める者は誰もいない、
シルフィードはようやく二人っきりになれた事を確信し彼に襲い掛かる。
「もうっ! みんなして邪魔ばっかりして! でもようやく二人っきりなのね!」
「……………」
シルフィードがソファに座るバージル目がけ飛びかかったとたん、彼はスッと立ち上がる、
目標を失ったシルフィードは、そのまま派手にソファに突っ込んでしまった。
「あたたた…、もぅ…受け止めてくれたっていいのに!」
顔を強打しながらもシルフィードは顔を上げる、すると、部屋の中にはすでに誰もおらず、窓が風に揺られキィ…と音を立てていた。
「あれっ!? おにいさま! どこに行ったの!?」
シルフィードはすぐさま窓に駆け寄り身を乗り出すと外を見まわす、すると蒼い影が本塔の中に消えて行くのがチラリと見えた。
「きゅいきゅい! おいかけっこ! シルフィから逃げられるとお思い? 絶対捕まえるのね!」
そう言うや自身も窓から飛び降り、結構な高さがあるにもかかわらず華麗な着地を決め、すぐさま本塔へと向け走り出していく。
「おでれーた……相棒が逃げて行ったよ……」
その場に取り残されたデルフリンガーは、驚きのあまり呆然と呟いた。
353名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 05:02:15 ID:U/wZ3mvd
こんな夜中に…支援だ!!
354蒼い使い魔 :2008/12/27(土) 05:02:36 ID:hxPEnvym
これにて投下は終わりです、
今回はなんというかギャグパートってことで許してくださいまし
流石の兄貴もギャグパートじゃこうならざるを得ない…ってことでここはひとつ…しばらくこんなのが続く予感…
つか、このふざけたパートがかなり長くなりそうな予感…もっと派手にやっていい?
ちなみに精神力を大きく消費するはずの先住魔法、変化
解ける気配がないのは、恋する乙女のPowerは無限大ってことで。
執筆には今以上に時間がかかるかもですがどうぞよろしくおねがいします。

そうそう、いろいろ心配されてるティファニアですが彼女なら…
「おっと、これ以上は言えねぇな、週休六日と客のプライバシーは守るのが俺の主義なんでね」
…とかなんとか言ってますが、正直登場は未定、お察しください。
ではまた…
355名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 05:09:20 ID:U/wZ3mvd
>>354
乙でした
356名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 07:43:24 ID:9ZzUp/uT
バージルと聞くと、邪魔だからという理不尽な理由で射殺された後
テスタメントとして復活、最後は恋人とフランダース成仏した人しか思い浮かばない
357名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 08:07:56 ID:Get8ScXo
>>356
よう俺、中尉の最期は不覚にも泣いた
358名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 08:09:53 ID:8dxNIFRW
バージルの人乙です。
お待ちしておりましたm(__)m
次回にwktk。
359名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 10:45:40 ID:wkv6Esxc
蒼い人乙です!
やはり兄貴も弟と同じくらいにR指定な方でしたか……やばい、モテすぎww
360名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 11:17:37 ID:TvD9G2BI
閃いた!
タバサとキュルケは比較的よくつるんでるから
ルドラとアグニ分けて持たせようぜ!
361名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 11:35:35 ID:wkv6Esxc
>>360
弟がこっち来ないと無理ですわね
362名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 12:19:16 ID:/y6RIAbS
作家の方々、乙

>>322
マーヴルVSカプコンのジン・サオトメ。ボッツとかキカイオーでは熱血具合が足りない。
ジャス学の一文字バツや風間醍醐も良いんでない?
363名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 13:05:19 ID:lSILNJD2
>>362
何故隼人先生がいないし
364名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 13:10:25 ID:/y6RIAbS
隼人先生は召喚されてなくても勝手に出てきそうだからw
365名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 13:19:25 ID:c1TBtL4s
隼人先生の場合竹刀があるからデルフ涙目状態に…
366名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 13:35:47 ID:jwSx7kXR
麦価だなお前ら
デルフは竹刀なんだよ
初代ガンダの代わりに隼人先生
現ガンダも勿論隼人先生
367名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 13:41:06 ID:aixkkfMV
インテリジェンスバンブーソードかw
368名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 14:05:40 ID:/y6RIAbS
隼人にしごかれ続けて画・島本な濃い顔になるギーシュ
ルイズに解決させる心算でフーケを追跡するが熱中しすぎて捕まえちゃった隼人
ライトニング・クラウドもカッター・トルネードも熱血クロスカウンターで突っ切る隼人

369名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 14:11:32 ID:reSPOvJU
目だ。
耳だ。
鼻!
370名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 14:14:00 ID:aOnbjAP7
スーパーハヤト大戦と申したか。
371名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 14:18:08 ID:UOMeJ1+7
蒼の人、日本一の人乙です

正直もう内容より出現シーンの方への期待度が上な私はおかしいですかそうですか
372死人の使い魔 ◆I9NRoyNg4k :2008/12/27(土) 14:51:31 ID:m0GaeApX
予約がないようなので、5分後より投下させていただきます。
373名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 14:55:11 ID:QxuzAv9F
買え!


「誰もが夢見た、リアルな排莢式ガスガンが遂に完成!」

まずはGlock21(8mm仕様)が12月11日発売。
Glock18C、M1911(6mm)なども発売予定。

ハイパー道楽
ttp://www.hyperdouraku.com/event/omochashow0806/index.html

マルシン公式HP
http://www.marushin-kk.co.jp/
374死人の使い魔 ◆I9NRoyNg4k :2008/12/27(土) 14:57:12 ID:m0GaeApX
第五話

「フーケのゴーレムよ!」
窓より見ていたルイズが叫ぶ。タバサが真っ先に反応し、扉より飛び出していく。
それにキュルケ、ルイズと続く。
 ルイズ達が小屋より出るより早く戦闘は開始された。
グレイヴは左腕を前に伸ばし、右腕をやや前に伸ばす構えから連続で銃弾を放つ。
両手より交互に放たれる銃弾によりゴーレムは体中を削られていく。
その流れ弾により周囲の木も次々と砕けていく。
グレイヴは銃を連射しつつ、体を舞っているかのように動かしている。
グレイヴとゴーレムの戦いを見たキュルケは驚いていた。
「あれは何なのよ? 銃を連射しているの? あんな連射できる銃なんて
ないわよ。それに威力も。というか彼、ただの平民なの?」
矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
「うるさいわ、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ、グレイヴを
援護しなきゃ」
 そんな会話の間にもグレイヴはゴーレムを削っていくが、ゴーレムは一向に
小さくならない。削れた端から回復していくのだ。
タバサが射線上に入らないように後方より呪文を唱える。
巨大な竜巻がグレイヴの横を抜けてゴーレムに当たる。
続いてキュルケも呪文を唱える。杖より巨大な火球が飛び出しゴーレムを炎で包む。
 二人の魔法をまともに喰らったにも関わらずゴーレムにはダメージが見えなかった。
その間にもゴーレムは迫ってくる。
「距離をとらないと!」
キュルケが叫ぶ。
「退却」
タバサもそう言い、二人は逃げ出した。
 銃撃を続けていたグレイヴはついにゴーレムの攻撃射程内に入る。
ゴーレムの巨大な拳が振り下ろされて、後ろで見ていたルイズは息を呑んだ。
グレイヴはその拳を横っ飛びでかわす。その間も銃は撃ち続けている。
しかしこのままではいずれグレイヴはやられてしまう。
そう思いルイズは杖を握り締める。グレイヴを追ってゴーレムは横を向く。
今だわ! 
ゴーレムの側面に向け呪文を唱える。しかしゴーレムの表面が小さく爆発し、
土が少しこぼれただけだった。
その攻撃によりゴーレムの標的がルイズになってしまう。
足で踏み潰すことに決めたようだ。ゴーレムの足がルイズに迫る。
 とてもじゃないが逃げ切れる距離じゃない。助けを求めるようにグレイヴを
見るが、かなり離れたところにいる。意を決してもう一度呪文を唱えたが、結果は
先ほどと一緒だった。覚悟を決めルイズは目を瞑る。
ゴーレムの足と地面との距離がなくなる。
……しかし、予想していた衝撃はなかった。
気が付いたらグレイヴに抱きかかえられていた。
そのままグレイヴは走り出す。そこへタバサのウィンドドラゴンが降りてくる。
「乗って」
グレイヴがルイズを上に乗せる。
「あなたも」
タバサがグレイヴに言が、グレイヴは銃を顔の前に持ち上げ戦意を示す。
そして迫ってくるゴーレムのほうに振り向いた。
375死人の使い魔 ◆I9NRoyNg4k :2008/12/27(土) 14:58:08 ID:m0GaeApX
「グレイヴ、あんた」
ルイズが名を呟く。
その姿を見てタバサは風竜を地面より上昇させる。
「キュルケを見つけるまで流れ弾に気をつけて」
そう言って飛び立つ。
「タバサ、グレイヴを見捨てる気なの!」
「キュルケを探す、思うように銃が撃ててない」
下を見ると攻撃をかわしながら銃を撃っているグレイヴが
見えたが、さっきより連射速度が落ちていた。
「キュルケ、早く出てきなさい! グレイヴが助けられないわ!」
ルイズが大声で叫ぶ。すると木陰より炎が上がる。
「タバサ、あそこよ」
「行って」
タバサが風竜に指示を出し、キュルケを回収した。
「ありがとう、タバサ」
キュルケがお礼を言うがその視線はゴーレムに向いている。
グレイヴとゴーレムの戦いはその間に少しずつ森のほうに移動していった。
「早くグレイヴを!」
ルイズが怒鳴った。しかしゴーレムのせいでグレイヴには近づけない。
とりあえずキュルケのことをグレイヴに伝える。
「キュルケを回収したわ」
そのときには戦場は森に移動していた。森をものともしないゴーレムに対して
グレイヴは動きを制限されていた。次第に追い詰められているように見える。
ついに木を背にしてグレイヴの動きが止まる。
「グレイヴ!」
ルイズが叫ぶ。
 グレイヴは慌てるでもなく棺桶の頭のほうをゴーレムに向け、構え直していた。
棺桶の前を左腕で下から支え、後ろを右腕で抱えるようにして持っている。
右足は横に広げられて腰を深く落としている。
そのまま棺桶より大量の弾丸を連射しながら体を回転させる。
一瞬にして周りの木々は破壊され、辺りが平らになった。
「何よ、あれ……」
信じられないと風竜の上より誰かが言う。
 ゴーレムにもかなりダメージがあったようだ。修復のためか動きが止まる。
その間にもグレイヴは両手の銃で攻撃を加えるが、次第にゴーレムは回復して
いって元に戻ってしまう。
辺りが平らになり動きやすくなったが先ほどの繰り返しだった。
このままではいずれゴーレムの攻撃を喰らってしまう。
 戦いに変化をもたらしたのはグレイヴのほうからだった。銃撃だけでは埒が
明かないと思ったのか、グレイヴが銃の他に再び棺桶を使い始めたのだ。
ただし、先ほどのように棺桶から銃弾を撃つのではない。もっと原始的な
使い方で、奇しくも行きの馬車でルイズの言った方法だった。
すなわち、殴る。
 振り下ろされるゴーレムの拳をぎりぎりで避け、自分の腕を振り回し体を
一回転させる。腕と鎖で繋がっている棺桶も一周する。
グレイヴの目の前にあったゴーレムの腕の先が棺桶によってなくなっていた。
ゴーレムも無限には回復できない。術者の精神力がなくなった時点で終わりだ。
そして削られる量が多いほど精神力を消耗する。もうすでにかなりの土を
削っている。あの攻撃を繰り返せば回復できなくなるかもしれない。
376死人の使い魔 ◆I9NRoyNg4k :2008/12/27(土) 14:58:57 ID:m0GaeApX
 あいだに銃撃を加えつつ、それから二度、同じように腕を削ったが、まだ
ゴーレムの限界はこない。
限界はまだなの? 早くきなさいよ。
ルイズが祈っている。一度でもかわし損ねたら、そう思うだけで恐ろしかった。
ぎりぎりでかわすということは、それだけ危険が増すのだ。
それが分かっているのか、ゴーレムは再び攻撃する。今度は横から地面を
なでるように拳を振り回す。
突然、かわそうとしていたグレイヴの動きが止まる。
「グレイヴ!」
ルイズが悲鳴のような声を発する。
攻撃をまともに喰らいグレイヴが吹き飛ばされる。
「何で」
キュルケが呟く。あまりに不自然に動きが止まった。
「棺桶で削った土の上にいた。恐らくその土を操った」
タバサが指摘する。
削られた土を遠隔で操作し足を止めたのだ。止まったのは一瞬だっただろうが
その一瞬でゴーレムには十分だった。
ルイズは呆然としていた。それから涙があふれてくる。
あれだけの攻撃だ、助かるわけがない。私のせいだ、私が……。
「嘘……」
キュルケが信じられないというように呟いた。
「ルイズ、下を見てみなさい!」
ルイズが下を見るとグレイヴが何事もなかったかのように立っていた。
 彼は“ネクロライズ計画”によって不死身ともいえる体を手に入れた
“死人兵士”である。その体は定期的に体内の血液を入れ替えなければ
ならないが、修復機能があり傷を負っても瞬時に回復する。
 そうよ、あいつはガーゴイルなんだから! あれくらいきっと平気だわ。
ゴーレムも動きを止めていた。フーケも驚いていたのだろう。
しかしそれも長くは続かず、ゴーレムがグレイヴに向かって歩き出す。
吹き飛んで開いた距離を詰めようとしているのだ。
「グレイヴを助けないと。タバサ、その『破壊の杖』を貸して」
ルイズはタバサにそう伝えたが、彼女は渡してくれない。
「何してるのよ、早く貸して!」
「彼はまだ何かするつもり」
はっとグレイヴを見る。そして叫ぶ。
「いいのよ、グレイヴ! 逃げなさい、これは命令よ!」
いくらガーゴイルでも限界はあるはずだ。これ以上、無理させられない。
グレイヴは再び棺桶を構え直していた。ただし先ほどとは棺桶の向きが逆だ。
棺桶の下をゴーレムに向け、右肩の上に乗せている。
腰は落とされ左足を横に伸ばしている。
棺桶より何かが発射され、ゴーレムにぶつかる。
瞬間、凄まじい爆音とともにゴーレムが砕け散る。
これではもう再生できないだろう。
 グレイヴがルイズ達のほうを向いた。
左肩と顔の間あたりで右手の銃を上向きに、右足のつけねあたりで
左手の銃を下向きにしていた。ポーズをとっているらしい。
後ろには煙を上げているゴーレムの残骸が見えた。
……意外とお茶目なのかしら。
377死人の使い魔 ◆I9NRoyNg4k :2008/12/27(土) 14:59:54 ID:m0GaeApX
「凄いわ、グレイヴ!」
そう言いキュルケがグレイヴに抱きついた。
「ちょっと、あんた何してんのよ! 離れなさい」
キュルケを引き剥がしつつ言葉を続ける。
「グレイヴ、体は平気なの?」
グレイヴが抱きつかれたままうなずく。
「そう、丈夫なのねって、ツェルプストーさっさと離れなさいってば」
そんなやり取りの中、タバサが言う。
「フーケは?」
ルイズとキュルケはその言葉を聞き、辺りを見渡す。人影は見当たらない。
しばらくする周囲を観察していると、ロングビルが疲れた顔で帰ってきた。
「ミス・ロングビル! 無事でよかったわ」
ルイズがほっとしたように言う。辺りはグレイヴとゴーレムに破壊しつくされていた。
流れ弾に当たっていなくてよかったわ。本当に。
話を聞いてみると偵察に出かけた後、戦闘が始まってしまったので隠れて
いたそうだ。また、残念ながらフーケも見ていないようだった。
「大変なときに何もできずに申し訳ありませんでした」
ロングビルが謝った。
「いいんですよ、ミス・ロングビル。私達もほとんど何もできませんでしたから」
キュルケが答える。
「これだけ時間が過ぎてしまったら、フーケはもうこの辺りにはいないでしょう」
残念そうにロングビルが言った。
「とりあえず『破壊の杖』は取り返したのだから任務は達成よね、帰りましょうか」
そう言い、帰る準備を始める。そんな様子を見たルイズが声をあげる。
「ちょっと、ツェルプストー、まだフーケを捕まえてないわよ!」
「ヴァリエール、ミス・ロングビルの話を聞いていたでしょう?
もうこの辺りにはいないって。今からこの森を探し回るの?
それに彼の体のこと忘れたの? 平気そうだけど、ゴーレムの攻撃を
喰らっているのよ。これ以上無理はさせられないでしょう?」
「分かってるわよ。でもせっかくグレイヴがゴーレムを倒してくれたのに」
するとグレイヴがルイズの肩に手をやる。
「分かったわよ、グレイヴがそう言うなら」
378死人の使い魔 ◆I9NRoyNg4k :2008/12/27(土) 15:00:37 ID:m0GaeApX
 皆、馬車までは我慢していたらしいが、馬車が走り始めるとグレイヴに
関する質問が始まった。
「ねえ、本当に彼は平民なの? 凄い威力の銃を撃ってるのは、まあ分かるわよ。
それに、あの連射もあり得なくはないかもね。でも、その棺桶は何? 
あの銃よりもすごい勢いで弾を撃って、おまけに変なのまで出してゴーレムを
粉々にしてしまったし。それにあの攻撃を喰らっても全然平気って」
 キュルケがいぶかしげに尋ねる。冷静になってみると次々と疑問が出てきたの
だろう。ルイズは誤魔化そうか、知っている限りを話してしまうかを考えた。
手綱を握っているロングビル、タバサまでもが興味津々という感じだ。
ルイズは口止めをしてある程度、話してしまうことにした。
とてもじゃないが誤魔化しきれない。
「私も詳しくは分からないわよ? グレイヴは喋れないし。それにこのことは
絶対に秘密よ。私の他に彼のこと知っているのは学院長とミスタ・コルベール
しかいないわ」
そう言うと一同うなずく。それを見て話を続ける。
「まずね、彼のことから言うと彼は平民じゃないわ」
「でもメイジじゃないでしょう?」
キュルケが疑問を口にする。
「彼はガーゴイルらしいわ」
「ガーゴイル? でも」
キュルケの言葉にタバサが続ける。
「彼から魔力は感じない」
「ええそうよ、ミスタ・コルベールが言うには東方かエルフの技術で
作られたんじゃないかって」
「嘘!」
キュルケはまじまじとグレイヴを見たあと棺桶を見る。
「じゃあ、この武器も?」
「恐らくね。でも私も驚いたわよ、銃はともかく棺桶があんなものだなんて
さっきまで知らなかったし」
「彼が入っていたあの妙な箱もエルフの技術かもしれないのね」
「もしくは東方」
タバサが律儀に付け加える。
「それにしても凄い銃ですね、少し貸してもらえませんか?」
ロングビルがグレイヴに話しかけていた。
ギロリ、音にするとしたらそんな感じでグレイヴがロングビルを見る。
そのまま動かない、どうやら貸す気はないようだ。
「えーと、すいません。変なこと言ってしまって」
少し声を固くしてロングビルが謝った。
「すいません、ミス・ロングビル。グレイヴはこれ、貸したがらないんです。
グレイヴもよ、駄目だからって何もそんなにじっと見なくても」
そのまましばらく、グレイヴはロングビルを見ていたがやがて視線をはずした。
視線がはずれたことを感じてか、ロングビルは安堵しているようだった。
 それにしてもただ貸してくれって言われただけであんな風に見るかしら?
そんなにあの銃が大事なの? 
などいろいろ疑問が浮かんだルイズだったが、一つ確信したことがあった。
デルフリンガーの出番はこの先もないわね。
379死人の使い魔 ◆I9NRoyNg4k :2008/12/27(土) 15:01:38 ID:m0GaeApX
 学院長に杖の奪還はできたが、フーケは取り逃がしてしまったことを報告した。
「よく全員無事に戻ってきてくれた。何、『破壊の杖』さえ戻ってくれば
御の字じゃ。本当にご苦労じゃった」
 オスマンは皆にねぎらいの言葉をかけたあと、今夜は『フリッグの舞踏会』
だと伝えた。それから、せいぜい着飾るようにと皆を解散させた。
しかし、ルイズとグレイヴはその場に残っている。
「オールド・オスマン、それにミスタ・コルベール、グレイヴのことで
お伝えしたいことが」
オスマンとずっと横に控えていたコルベールに向かって言う。
「あの、グレイヴが箱から持ってきた鞄と棺桶なんですけど」
「おお、あれについて分かりましたか! それであれはどのような
物だったのですか?」
コルベールが嬉々として聞き返す。
「鞄の中身は銃でして、棺桶はですね、その、凄い武器でした」
途中、言いよどむ。棺桶についてどう説明したらいいか迷ったのだ。
「凄い武器ですか。具体的にはどのような?」
「頭のほうからは、凄い勢いでたくさん弾を撃つんです。後ろのほうからは
巨大なゴーレムを破壊する何かが出ます。あと、殴っても強力でした」
「それは、……凄い武器ですね」
いまいち想像ができないようだった。ルイズも自分の目で見なかったら
とても信じられなかったに違いない。さらに続ける。
「それから、彼はフーケのゴーレムに殴られても全然平気でした」
「つまりじゃ、話をまとめると、彼は何だかよく分からないが凄い武器を使い、
それによって、フーケのゴーレムを破壊し、体も並外れて頑丈じゃと?」
オスマンが話を整理する。
「それで、その、体のことはともかく、武器はどうしましょうか?」
ルイズがオスマンに伺う。
「何、彼のものじゃからの無理には取り上げんわい。今までも問題は
無かったしのう。それに彼はミス・ヴァリールの忠実な騎士のようじゃしの」
その言葉を聞いたコルベールは何か言いたそうだったが、結局、何も言わなかった。
「しかし、謎が増えるばかりじゃな。でもまあ、今日は舞踏会を楽しみなさい」
そう言ってルイズとグレイヴを送り出す。

 そんな二人をコルベールが追ってくる。
「舞踏会の前ですが、少しいいですか?」
「ええ?」
やはり、武器について何かあるのだろうか?
「あの、彼の血液のことなのですが、まだ大丈夫ですか? かなり日にちが
たっていますし、今日は怪我をなさったんでしょう?」
思いもよらないことを言われたが、言われてみればそうだった。
昨日からいろいろあって忘れていた。いや、正確にはあまり考えないように
していたのかもしれない。使い魔が人の血で動くということを。
コルベールの言葉を聞くと、そのせいかは分からないが、グレイヴがトレーラーに
歩き始める。
「ちょっと待ちなさい。今日、その……、するの?」
出来れば少しくらい心の準備をさせて欲しかったのだが、グレイヴはうなずいた。
「分かったわ。でも勝手にするんじゃないわよ。こっちにも一応、準備とかが
あるんだから」
 グレイヴは箱の中に入ると何やら操作をする。そんなに複雑ではないようだ。
それからイスに座る。最初にグレイヴが座っていたイスだ。
しばらくすると機械が動き始める。血液が減っていっているのが分かる。
かなり待つとやっと機械が止まる。かなりの量の血液を使ったようだ。
コルベールはその様子を熱心にメモしていた。
「詳しいことは、もっと調べてみないと分かりませんが、あと数回は大丈夫では
ないでしょうか? その間に何か血液を確保する方法を考えましょう」
そうよ! 使い魔は一生のことなんだから、主人である私が何とかしないと。
「それから体も調べてみましたが、怪我はないようですね。
フーケのゴーレムに殴られたそうですが、とてもそうは思えません」
血液の交換が終わり、グレイヴがイスより立ち上がった。
380死人の使い魔 ◆I9NRoyNg4k :2008/12/27(土) 15:02:37 ID:m0GaeApX
 学院長の部屋より退散したロングビルは今日のことを思い返していた。
正確には自分の作ったゴーレムを一人で壊してのけた人物のことを。
平民、いえガーゴイルだったわね、に自慢のゴーレムをまさかあそこまで
破壊されるとは思いもよらなかったわ。
『破壊の杖』の使い方を調べて逃げるつもりが、『破壊の杖』を
使われること無くゴーレムを破壊されてしまった。
 土くれのフーケの正体が自分だとばれなかっただけましかしら。
あのガーゴイル、グレイヴは気づいているかもしれないけど。
もっとも証拠はないし、あいつは喋れないから大丈夫だとは思う。
一抹の不安はあるが、いきなり寝込みを逮捕されるということはないだろう。
 それにしてもこれからどうしたものかしらね。『破壊の杖』はより厳重に
保管されるらしく、もう盗めないだろうし。
そういえば結局『破壊の杖』は何だったのかしらねえ。振っても、魔法を
かけてもうんとも、すんともいわなかったし。
 取り返したと報告をしたときそれとなくオスマンに尋ねたのだが、『らんちゃー』
という名前くらいしか分からなかった。オスマンにも使い方は分からないらしい。
まさか、オスマンまで知らないとは、本当、まったくの無駄骨だったわね。
 それよりもあの銃と棺桶を狙ってみようしら?
それも無理ね、とすぐに否定する。犯人が限定され過ぎている。
あれらが強力な武器であると知っているのは、学院でも極少数だ。盗んだら
すぐに誰か特定されてしまう。
 何より、ガーゴイルのあの目、正直ぞっとしたわ。それにあの戦闘力に耐久力、
化物、いや死神と言ったほうがいいだろう。もう二度と敵には回したくないわね。
潮時かしらね、秘書を辞めて他の場所に行こうかしら?
もともとは盗みの下見のために潜り込んだのだ、それほど未練はない。
どうしようかしらね。

 部屋に帰り先ほどの光景を思い出してみると、グレイヴが血液で動いている
ことを実感し少し不気味に思った。
 だけどフーケとの戦いのとき彼がいなければ、私は死んでたわ。
今日の戦いに志願したのは原因の一端が私にあり、責任を感じたということも
嘘ではない。だが、フーケを私の魔法で捕まえることが出来れば、ゼロの名を
返上できるかもしれないということも、心の何処かに確実にあった。
それなのに現実は私の代わりにグレイヴが戦っていた。そしてあのゴーレムを
見事に破壊してみせたのだ。
 その戦いで私は彼の意志を感じた。使い魔だから主人である私を守るために
戦ってくれたのではなく、彼が私を守るに値する人物だと思ってくれたから
戦ってくれた、そんな風に感じた。
勿論、全て私の思い込みである可能性も否定できないが、私は確かにそう
感じたのだ。
 そのことに報いなければならない。そして彼の主人として相応しいメイジに
ならないと。血液のことといい問題は山積みだけど。
でも、とりあえずは舞踏会よね。
ドレスに着替えればグレイヴはいつもと違う反応をしてくれるかしら?
そんなことを考えながらドレスへ着替え始める。
その横ではグレイヴがいつものイスに座って目を瞑っていた。
381死人の使い魔 ◆I9NRoyNg4k :2008/12/27(土) 15:05:33 ID:m0GaeApX
以上で第五話を終了とさせて頂きます。
感想、批判、などありましたら
よろしくお願いします。
382名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 15:52:26 ID:8dxNIFRW
グレイウ゛の人乙です。
次回にwktk。
383名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 17:45:42 ID:oU/A+LL5
R-TYPE Λ 支援!!
384名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 17:51:52 ID:tm9AuG/a
>>383
なのはスレの誤爆?
385名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 17:52:21 ID:c0TaocpO
死人さん乙

あのトレーラーってミカ用の武器も積んでたろうけど、ロッカー開けたら
破壊の杖が山積みだったりして
386名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 19:48:19 ID:fCPCXORT
死人さんお疲れ様です

ところでグレイヴ以外の死人は召喚されるのだろうか?
387名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 20:30:33 ID:9ZzUp/uT
棺桶武器繋がりでウルフウッド召喚でいいじゃん
奴も死人だし
388名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 20:46:38 ID:y0kRd1W8
何かビリーは居そうだよね、
デルフと同じような形で…
389名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 20:58:25 ID:16tOhJ5a
>>386
ボブコプターの出番か
390名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 21:28:12 ID:VxX3sRQx
マリコルム「これなんだろ。飲み薬かな?」
391名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 21:37:23 ID:fCPCXORT
九頭文次兄さんを召喚して欲しいもんだ
任侠の強い男の一人だろう・・・
392名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 21:45:06 ID:16tOhJ5a
>>391
18歳だから学院にいても違和感ないしな
393名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 21:49:46 ID:j6SFbW2Z
空気読まない、流れも読まない発言で申し訳ないが、
ネット小説からのクロスはありだろうか?
もちろん元作品の作者さんから許可を得られたとして、だが。
394名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 21:51:27 ID:j9jtjjff
うーん、フリーソフトから召喚しているのもあるけど……
395名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 21:52:36 ID:rGClVXN5
>>392
え…?あのグレイヴの弟子でぶっちゃけ1のボスの中ではラスボスよりも凶悪なあの人が…え?
396名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 21:52:48 ID:utCfk5kR
テンプレを一見した限りダメな理由はないようだがどうなんだろう。
397名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 21:54:37 ID:hPsMgkhi
>>371
安心しろ、俺もそうだww
398名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 21:58:24 ID:w2Twx67+
他のスレの考え方を参考にすると「ネット媒体のものは避けたほうが無難」
難有りでもかまわないってんならそれもまた良し
399名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 22:01:56 ID:wR3LXc9C
実際に問題有る無しに関係無く脊髄反射で噛み付く奴が出てきて議論→荒れるってなると思うからその辺良く考えて決めた方がいい
400名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 22:02:51 ID:12PUBNwP
おそらく避難所にするべきかと
401名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 22:03:33 ID:yIR3+9vk
困ったときの避難所頼み
402名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 22:05:41 ID:j9jtjjff
毒くらいでは叩かれるかもしれないけど、テンプレ違反でもないし多分大丈夫じゃね?
ただ読んでもらえるかは他のクロスより頑張らないといけないかもね
403名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 22:13:21 ID:24Ab4IBs
>>393
止めといた方がいいと思う。
こっちで色々言われやすいって事もあるけど、それ以上にそう言うのが
先方のサイトにも飛び火しかねないし。
404名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 22:15:08 ID:utCfk5kR
まぁ個人サイトでやるのが吉かもね。
405名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 22:16:08 ID:w2Twx67+
まあそういう感じでそんな感じ
406名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 22:17:13 ID:UhBzXeWA
何かと問題は起きそうだな。
やるとしても避難所だろう
407名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 22:22:36 ID:j6SFbW2Z
皆さん、ありがとうございました。
自分でサイト開設することも視野に入れて考えて見ます。
408名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 22:28:57 ID:m+PfF/Jg
日替わりの使い魔の人来ないかなぁ……。
409名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 22:40:07 ID:UhBzXeWA
俺・・・戦乙女の人が来るのをずっと心待ちにしているんだ・・・
410名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 22:53:46 ID:SymmNjcp
こねーよwゲーム的設定丸出しで読めたもんじゃなかったし。
411名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:20:38 ID:j6SFbW2Z
さざなみ寮生さんを、私は待っている。

あります、ありません、それはなんですか?
412ジル:2008/12/27(土) 23:23:37 ID:19yuDxEj
0000時に投下予定
413名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:23:47 ID:q68DwLIQ
投下のない、2008年最後の土曜日か……。
414名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:24:40 ID:q68DwLIQ
おっと支援。
……って、予告から投下までちょっと長くね?
415名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:38:34 ID:6WU2huK1
人修羅の人を待ってます・・・。

しえ〜ん
416名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:41:59 ID:9fZYjGRA
執筆用ノートが壊れたせいで、年内に次の話が出来そうにない私惨状
買って一年経ってないのに、ごらんの有様だよ!
417虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/27(土) 23:42:31 ID:8aeopmBg
投下終了15分後くらいに予約させてください。
第一話その4です
418名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:43:58 ID:12PUBNwP
何度かSS書こうと挑戦するものの3、4行作って断念してきた今年
投下できる段階まで持ち込めてる時点で皆凄いんだなと
419名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:46:51 ID:q68DwLIQ
>>418
自分の好きな作品とゼロ魔のクロスを構想&妄想せずにはいられない
 ↓
書かずにはいられない
 ↓
投下せずにはいられない

みたいな流れで書いてしまったがなぁ、俺は。
420名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:49:43 ID:12PUBNwP
自分の好きな作品とゼロ魔のクロスを構想&妄想せずにはいられない
 ↓
書かずにはいられない
 ↓
3、4行で何か文章に違和感を感じ、色々問題点ばかり出てきて頓挫


我ながら情けない話だ。来年こそは…
421名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:50:02 ID:SymmNjcp
一段階目の期間が約10か月で今二段階目だわw
422名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:50:02 ID:wXoeLLvI
>>419
その流れで書き始めてしまった俺ガイル
しかし召喚対象がほとんどただの人間だからやりにくいったら(ry
423名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:52:28 ID:WRJC7wF+
>>412
40分近くもあるじゃないですか、書きあがってないとか?
424名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/27(土) 23:53:22 ID:5OGVLl2b
自分の好きな作品とゼロ魔のクロスを構想&妄想せずにはいられない
 ↓
書かずにはいられない
 ↓
みんなの反応が怖くなって投下できずにいる

そんな感じです
425ジル:2008/12/28(日) 00:00:22 ID:19yuDxEj
ロングビルの同行が決まり、ジルと二人で準備に出てから数十分。
ルイズは、非常に嫌な予感に耐え忍んでいた。
まさか、いや、確率としては有り得るが、まさかそんな、ねえ?
誰に訊くでもなく、悶々と思考をする。
そう、確率は『有り得る』。
しかし、戦いに行く前に消耗させる訳にはいかないだろうから、それは有り得ない。
――――甘かった。
「嫌っ! 私行かない! 絶対!」
今更そんなの無理だと判っていても、言わざるを得ない。
見えなくても判る。
キィン、キィンと甲高い音で嘶く鋼の馬、Y2K。
馬車じゃなかったの!?と叫びたいが、それは一応、馬車だった。この世界の定義で言うのなら。屋根の無い荷車が、Y2Kにくくりつけられ牽引されている。
「今更何を言ってるの? 貴族の誇りはどこにいったのかしら」
その速度は狂気であると知らないキュルケはルイズをからかうが、
「あら? どうしたのタバサ」
「乗りたくない」
ルイズみたく取り乱しては無いにしても、蒼い顔をしてそれを見つめている彼女は、静かに言った。
「なによ、タバサまで」
「知らないのは幸せね……」
落ち着いて、遠い眼をしたルイズがキュルケをみて、感想を述べる。その一言は苦労人のそれの様に重かった。
「さて、いこうかしら」
「これで、ですか?」
貴族より堂々としたジルに、ロングビルが問う。Y2Kが動いているのを見たことがない彼女は、それが馬よりも遥かに速いと知らない。
「百聞は一見に如かず。乗って」
半信半疑で馬車に乗る。しかし、生徒三人がごねる。
「いや! まだ死にたくない!」
「じゃあ今死ぬ?」
最もごねたルイズを、ジルが一言で沈黙させ、不安を乗せて一行は学院を発った。



結局、ルイズとタバサが心配していたことは起こらなかった。アクセル全開を体験した彼女らにとって、100km/hや200km/hは徒歩のようなものだ。ジルも流石に自重したようで、あまり激しい機動はしなかった。
426名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 00:02:00 ID:rTGNjD0Q
支援
427ジル:2008/12/28(日) 00:02:10 ID:e7fmVP9z
不幸なのは、未経験の二人だった。
「……なに、あれ」
「…………」
憔悴しきったキュルケと、降りてしばらくたって未だ呆然としているロングビル。
「あんたたちが怯えるのがよくわかったわ……」
「ロングビル? 大丈夫?」
ジルが話しかけると、思い出したように
「あ、あれ……?」
と、戻ってきた。
「情けないわね、あの程度で。案内できる?」
「すみません……こっちです」
ロングビル先導で、ジルが殿を務める。だが、ジルは全く警戒していなかった。
「見えました。あれです」
ロングビルが指し示す先に、小さな廃屋があった。
「あの中にいると思われます」
「で、どうする?」
「奇襲」
キュルケの疑問に、タバサが正解に近い提案を言う。
「最良の手だけど。罠を張っている可能性が高いわ」
しかし、ジルに反論される。
「じゃあ、どうするの?」
「こうするの」
抜けるような音が、キュルケの疑問に答えた。
「ちょっ――――」
ガラスの無い窓から入ったロケット弾は壁に衝突し、着発信管が作動。高性能爆薬に爆轟を伝え、その体積を文字通り爆発的に増し、その圧力は閉鎖された弾殻をあっさり破り、外――――小屋の中に遺憾なく燃焼ガスを撒き散らし、しかし弾殻
から解き放たれた圧力はその程度で威力を減らすわけも無く、廃屋の壁と屋根を破砕しながら吹き飛ばした。
閃光も爆音も衝撃波も爆風も、ほぼ全て同時に五人のもとへ届いた。あわてて全員が振り向くが、既にそこに廃屋は無かった。ただ、燃え盛る小屋の破片がそこにあった存在を語っていた。
「な……」
最初に口を開いたのはルイズだった。
「何てことするのよ! フーケはともかく、破壊の杖まで粉砕しちゃって!」
428名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 00:03:03 ID:UhqJFXuc
支援
429ジル:2008/12/28(日) 00:03:35 ID:e7fmVP9z
「いないわよ。ほら、人の焼ける匂いはしないわ。それに、そんな大切なもの、それこそ貴方たちの得意な魔法で厳重に護られてるんじゃないの?」
確かに、宝物庫にあるようなものは大抵が『固定化』で護られている。フーケの安否に関しては、焼死特有の嫌な匂いはしないから、いなかったのだろう。運のいい奴だ。
最も重要なのは、『破壊の杖奪還』であり、『フーケ捕縛』の優先順位はそれより低い。だからといって、なるべく逃がしたくは無い。生け捕りなら最高だ。
「でもフーケ、今の爆発で逃げたんじゃないの!?」
「どうかしら。ほら、あれ」
キュルケが指した方に、箱があった。小屋だった場所に一つだけ無事な、廃屋に似つかわしくない、豪奢な装飾のされた箱が。
「あれね」
「ほらね」
どんなもんだ、といわんばかりに誇らしげな声に、ルイズは怒りを必死に押さえ込んで箱に向かおうとする。
「あ、待った」
「ぐぇ!」
襟を掴まれ、蛙が潰された様な声をあげてしまう。
「ごほっ……なにすんのよ!」
ちょっとね、とジルが取り出すはガトリングガン。
「念のため、よ。耳、ふさいで」
今度はできた。眼もしっかり閉じ、無様に嘆かないようにする。
銃口が、本当に火を吐いている様に見える。銃声は途切れない。そして着弾した場所は耕される。
どれだけ耳を閉じていただろうか、手のひら越しにもうるさい爆音は消え、ゆっくり眼を開ける。ちょっとした広場ほどあった開けた場所は、一面開墾されていた。いい野菜が育ちそうなほどに。
「OK。罠は無いわ」
その威力を誇ることも無く、一人箱に向かい、開ける。
「は?」
某勇者のごとく、軽く蹴って開けた中には、
「なにこれ」
「フィフティーキャル……ブローニングM2? しかもスコープ付……」
ルイズたちの見たことのない、箱と、それから突き出た筒で構成された金属塊。しかしジルには馴染みのあるものだった。
「ジル、知ってるの?」
「ええ。とっても強力な銃よ。弾は無いけど……」
430ジル:2008/12/28(日) 00:05:33 ID:e7fmVP9z
「――――え?」
持ち上がらない。ジルがやたらと軽々と振り回していたから失念していたが、盗み出すときにレビテーションを使うくらい重たかった。当然だ、38kgもある鉄の塊を振り回せるのは、目の前の魔王か、どこぞ
のジャーナリストくらいだ。いくら名を馳せた盗賊であろうと、それを持ち上げたとしても.50BMG弾の反動に耐えられるはずも無い。
「ルイズ、走れ!」
「な!?」
M2に気を取られた一瞬、その隙を突かれた。首筋からナイフが離れた一瞬。その一瞬でルイズはナイフの届かない場所に逃げてしまう。
「くそっ」
「ふふっ」
追おうとしたが、動けなかった。ルイズの代わりのように、ジルが傍らにいた。ゴリ、とデザートイーグルを脳天に突きつけ。
「くそ……何故私がフーケだと……」
「フーケの襲撃からロングビルの帰還まで、ほぼ8時間。さて、ここまで馬で何時間だったかしら?」
フーケは己の迂闊さを呪った。往復8時間、どんなに早く調査したとしても、10時間以上かかるのは確実。学院長達はロングビルの有能さを理由に無条件で信じていたが、先入観の無いジルは報告の時点で気付いていたというわけだ。
屈辱に震えるフーケに、しかしジルはにこやかに
「どう? 私に協力するなら、生かしといてあげるけど」
と、問うた。



「という訳で、フーケはその……ジルが」
学院長室での報告で、ルイズが気まずそうに報告する。
「爆殺したわ。小屋ごと。バラバラにね」
そうか……と、オスマンは呟いた。ゴーレムを粉砕したあの威力ゆえの説得力だった。
「証拠にならないけど、これ」
四次元サイドパックからにゅるんとM2と、『何かの肉塊』を出し、べしゃっと執務机に置く。
あまりに軽い扱いにルイズは眩暈を覚えたが、オスマンは気にしていなかった。正しくは、問えなかった。
「うぇ……ご苦労じゃった。よくぞ破壊の杖を取り戻し、フーケを退治してくれた。諸君にはシュヴァリエの爵位と……ミス・タバサには精霊勲章の授与を申請しておいた。まあ、フーケが死んでおらなければ剥奪されるのじゃが……ま、追って沙汰があろう」
431ジル:2008/12/28(日) 00:08:06 ID:e7fmVP9z
「本当ですか!?」
キュルケが驚く。終始空気でいられるほど暇で爵位が貰えるのだ。少し釈然としないが、嬉しいものは嬉しいのだ。
「……オールド・オスマン、ジルには、その……」
ルイズがおずおずと提言する。自分はただ人質になっただけで何もしていない、そういう後ろめたさからの言葉だった。
「うむ、彼女は貴族ではないからの。仕方ないのじゃ。」
「要らないわ。この世界での称号なんて何の役にも立たないし」
学院に馴染んでルイズは忘れかけていたが、彼女は自称『異世界人』なのだ。ただでさえ名誉や地位に価値観を感じていない風なのに、爵位や勲章など貰っても鉄屑くらいにしか思わないだろう。
「う、うむ、そうかね。ともかく、今日のフリッグの舞踏会は予定通りに行うからの。主役は君達じゃ。存分に着飾るがよいぞ」
三人は礼をすると部屋を出た。
しかしジルはその場から動かない。
妙な空気を察して、ロングビルも退室する。
「さて、訊きたいことがあったのだけど……そちらからも効きたいことがあるみたいね。お先にどうぞ」
「この世界、と言ったかな。どういう意味じゃな?」
「聡明な貴方なら判るはずだけど。こことは全く別の世界、と言えば判るかしら」
「ふむ、そうか」
オスマンは顎に手をやり、その回答を吟味していた。
「解決したかしら?じゃあこっちの番ね。これを、どこで手に入れたの?」
「……ふむ?これに興味があるのかね?」
机の上のM2に眼を落とす。
「ブラウニングM2。.50BMG弾を使うことから、フィフティーキャル、キャリバー50とか呼ばれているわ。第一次世界大戦末期にジョン・モーゼス・ブラウニングに開発され、70年以上たった今でも未だあらゆる軍で使われ続けて
いるほど優秀な重機関銃。そして、M82アンチマテリアルライフル開発の礎になった、前世紀の傑作よ」
「むう。よくわからんが、凄いものだというのは判った。とにかく、これは君の世界の物なんじゃな?」
「そうよ」
「少し長くなるがの」
「構わないわ」
遠い眼をして、オスマンは語りだす。
432名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 00:08:49 ID:gZ0tQZNI
うぇw支援
433ジル:2008/12/28(日) 00:10:11 ID:e7fmVP9z
「三十年前、わしがワイバーンに襲われていたところをな、それを抱えた男が助けてくれたのじゃ。その男はその……『ぶらうにんぐえむつー』だったかの、それをワイバーンに向けてドカドカ撃って蜂の巣にして
しまった。その後、弾切れとか言ってそれを放り出し、死神の様な鎌を以てワイバーンの首を刈り、トドメを刺したのじゃ」
「それで、その人は?」
「うむ。礼をしようと思ったのじゃが、なにか真剣に妙な箱をのぞきこんでワイバーンを照らしておった。邪魔するのもなんじゃと思って、しばらく待っておったよ。すると、妙な板に乗ってあっという間に去って
いったのじゃ」
まさか、とジルは思った。合衆国の陰謀を暴いたあのジャーナリストがこの世界に迷い込んできたのか、と。しかし、三十年前の話だ。別人の可能性もある――――と、ここで根本的な間違いにジルは気付く。要は
元の世界の人間がこの世界に迷い込んで、しかし結局手がかりにはならず振り出しに戻ってしまったということ。彼が知っている人間であろうと、関係ない。
「それだけ?」
「それだけじゃ。しかたなく、わしは恩人の残していった唯一のものを『破壊の杖』と名付け、固定化の魔法をかけ、宝物庫に厳重にしまっておいたのじゃ。何せワイバーンを数秒で動けなくするものだからのう」
だからか、とジルは納得する。錆や歪みが無かった理由がこれではっきりした。
「何か、心当たりがあるのかね?」
「私の世界の人ってだけよ。戻れる手がかりになりそうだったけど、振り出しよ」
「ふむ、そうかね。ああ、最後に伝えなければならんことがあっての」
オスマンは自分の左手の甲を指し、
「おぬしのルーンじゃがな、ガンダールヴのルーンじゃった」
「ガンダールヴ?」
「そうじゃ。始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴ。あらゆる武器を使いこなしたと謳われるが……」
「別に、いつもと変わらないわね。少し躯が軽くなる程度よ」
触れるだけで武器の情報が流れ込んでくる、その現象は『いつものこと』だ。武器を使いこなせなければ生物災害地域を渡り歩くことなど不可能だし、軍人として鍛え、バイオハザードで磨き上げられた絶対零度の
平常心を持つ彼女は『一般的な戦闘』においてルーンによるブーストは微々たる物になってしまう。
「そうか……」
「それで、一ついいかしら」
「なんじゃ」
「これを貰えないかしら」
「おお、そんなことか。ただし条件がある」
――――数秒後、低い連続した銃声が学院長室から響いたそうな。
434ジル:2008/12/28(日) 00:13:25 ID:e7fmVP9z
ルイズは大忙しだった。ドレスを引っ張り出して、アクセサリーを並べ、ああでもないこうでもないと鏡の前で悶々としていた。対してジルは暇なものだ。まず舞踏会に出る気が無い。それよりも、気になることがあったのだ。
「ねえ、ジル?これどう?」
ルイズが訊いてくる。バレッタで後ろ髪を上げ、白の胸の開いたパーティードレスを纏い、肘までの絹の手袋をつけていた。男が群がるような魅力を放っていたが、あいにくジルはノーマルな女だった。
「いいんじゃない?もう少しアクセサリーがあるといいかもね」
そう応え、ルイズに細い白い鎖を渡す。貴金属でも、装飾されているわけでもない、しかしそれはこのハルケギニア中どこを探しても存在しないものだった。
「何、これ?やけに軽い……金属?」
「アルミニウムの鎖と、『破壊の杖』の弾頭よ。これ以上の価値は無いと思うけど」
「あるみ?それに破壊の杖の?」
この世界では、未だアルミニウムの精製は成功どころか、その存在は知られてすらいない。技術提供の一環で精製できるかコルベールに試させたものだ。精神力が尽きるくらいまで踏ん張って完成したインゴットはルイズに渡し
た鎖よりわずかに多いくらいだった。言い換えれば、それだけ希少金属であるということだ。はるか昔、アルミニウムが金より遥かに高価だった時代もあるのだ。
そして弾頭は問答無用で価値が高い。カートリッジであれば尚更だ。薬莢は卑金属である真鍮の加工品だが、この世界に無い高精度加工という付加価値で一気に値が跳ね上がる。中身の火薬や雷汞は、分析できれば戦争がひっく
り返る。この世界の人間にはその正しい価値は判らないだろうが、最悪でも『あの』オスマンが大事にしていた『破壊の杖』の一部なのだ、売ればどこの世界でも変わらずいるマニアという存在が、大枚をはたいて買いに走るだ
ろう。
「この世界じゃ超稀少金属よ。その鎖だけでコルベールとシュヴルーズの精神力が尽きたわ。たぶん、同量の金より遥かに高いわ」
実はこの鎖、精製はコルベール、加工はシュヴルーズと分担されていた。シュヴルーズはルイズの失敗魔法と、フーケ事件のときの恩を返さんと快く協力してくれた。
「金より!?」
「この世界に存在しないからね」
まじまじとその白い鎖と円錐状のペンダントを見つめ、半信半疑の眼差しをジルに向けるが、そのジルは廊下に出ようとしているところだった。
435ジル:2008/12/28(日) 00:14:50 ID:e7fmVP9z
「どこいくの?」
「少し外に。色々調べることがあるから。今日は戻ってこれないかもしれないけど、気にせずに楽しんでらっしゃい」
と、扉を閉めた。
「待っ――――」
ルイズが呼び止める暇も無かった。



そして、宝物庫。ジルがオスマンに頼んで、ここにあるものの検分を申し出たらあっさり許可が出た。というより、帰還に関する物事にほぼ全面協力してくれ
ることになった。ただ、ここで行うことは検分だけではない。それを知っているのは、ここに彼女を呼び出した張本人だけ。
夜も昼も変わらず暗いその中で、宝物庫と言うよりガラクタ置き場といった方が正しいように緑の髪の美女は感じた。
「それで、ここで何をするんだい?」
何のお咎めも無く、むしろ何故か理不尽なほど昇給して秘書に復帰したロングビルが訊く。そこには金髪の美少女と栗色の髪の美女がいた。
「これからの話、よ。あ、この娘はエルザ、吸血鬼よ」
反射的に杖を抜こうとするロングビルの右腕を掴み、それを制したジルは、
「この娘は大丈夫。私の支配下だから、私が許可しない限り人に危害は加えないわ」
「――――そう」
ロングビルの腕から力が抜ける。それを確認したジルはそっと手を離す。
「さて、これからだけど、貴女達には情報収集を頼もうと思うの」
「情報?」
エルザが聞き返す。
「そう、情報。例えば、正確な世界情勢。どこかで戦争がある、どこかの国で怪しい動きがある、そんなこと。そして……」
M2を取り出す。それを見て、ロングビルが僅かに驚きの表情を浮かべる。何故これをジルが持っているのか。
「これみたいなオーパーツ、解読できない文献、その他この世界の物ではないと思われるものの情報を教えてくれればいいわ。それをもたらした人物がいれば、その行方も」
ジルはM2をなおし、ガラクタの一つ、ジルの世界でグロック18Cと呼ばれた機関拳銃の残骸を掲げ、ぽいと捨てる。恐らく暴発したのであろうそれは、バレル
とスライドに亀裂が走っており、元あった場所に落ちるとフレームとスライドが泣き別れになった。
「ちょ、ちょっと!それ……」
436ジル:2008/12/28(日) 00:15:57 ID:e7fmVP9z
「ゴミよ。見ての通り壊れてるし、使えない。修理しようにも、この世界の技術じゃね」
化石燃料に1gの価値の存在しないこの世界では、ポリマーフレームなど夢のまた夢。
「ここの中には、使えるものが殆ど無いわ。この近辺で拾われているみたいだけど」
砲身の錆びたデグチャロヴァ・シュパーギナ・クルピノカラヴェルニ。
マガジンの無いガバメント。
硝子の割れた電子レンジ。
弾頭の入っていないリエントリーヴィークル。
何故か武器兵器が多いが、これはこういうものなのだろう。
「後で銃を選んであげる。護身用にもっておくといいわ。魔法なんかより早くて強いのは知ってるでしょう?」
ぽいぽいと使えるものを投げていく。手にした武器を一瞬で解析し判別し、選り分けていく。何故か手にしたものの情報が流れ込んでくるが、もう既に何度か経験していること。このこ
とは誰にも教えてはいない。唯一の例外はデルフだ。やたらとおしゃべりなのでサイドパックに封じているが、時々隠れて話をしてやると出てくる出てくる。ルーンやガンダールヴのこ
とを断片的ながら知っているらしく、ゆえに下手に口を滑らせて貰ってはかなわない。だから秘密裏に会話し、下手に人前に出さない。
「後は……人が使えるものじゃないわね」
分別が終わり、残ったのは車載兵器や航空兵器の類だった。これは流石に人間が運んだり運用したりするには無理がある。ジルでも不可能だ。重すぎる。
「なんて軽い扱い……」
「いいのよ。使えるものはくれるらしいから」
ロングビルは眩暈がした。あれだけ苦心して侵入した宝物庫で、異世界の強力な兵器がぽんぽん飛んでがしゃがしゃ山になる。破壊の杖はマジックアイテムですらなかったが、ここにあ
るものは殆どが『ものすごく強力で使い易く稀少なレアアイテム』だったのだ。それがこんなに簡単に手に入る。結果的にはよかった、そうは思うのだが、何かこう、釈然としない何か
が頭の上に浮かぶ。
「ふーん。なかなか貴重なものからジャンクまで、よく揃ってるわね。ねえエルザ?」
「なに?」
「力に自信はある?」
「普通の人間よりは強いよ」
「なら大丈夫ね……これとかがいいかしら」
ベレッタM9。サプレッサー付、ブローバックが切られ、麻酔弾が撃てるように滑腔銃になっている。実包でも、ハンマーが落ちる音しかしない、それくらい静粛性に優れた銃だ。
「あと、これね。エルザは隠密行動に向いてるから、これがいいと思うわ」
サプレッスドP90。50発の火力、貫通力、扱いやすさで特殊部隊によく使われるSMGだ。
437ジル:2008/12/28(日) 00:16:56 ID:e7fmVP9z
「マスターがそういうのなら」
特に文句もなく、エルザはM9とP90を受け取る。
「で、あなたには……」
少し迷った末、MAC11/9とMk23を手に取る。イングラムのヴァリエーションモデルで、9mmパラベラム弾を一気にばら撒けるじゃじゃ馬のような銃と、特殊部隊向けに開発された高火力ピストル。
「使い方は明日にでも教えるわ。暇があったら練習しておいて」
残りはごっそり、錆の浮いた鉄らしき箱に投げ込む。見た目の容量とは裏腹に、山になった重火器をどんどん飲み込む。
「ねえ、それは?」
「アイテムBOXよ。まさかこの世界にまで繋がってるとは思わなかったけど」
軋む音をたてて、重そうな蓋が閉じられる。中身がいったいどうなっているのか、二人には見えなかった。



ルイズはバルコニーでぼーっと、ワインを飲んでいた。主役とはいえ、フーケを殺したのは嘘だし、そもそも確保したのはジルだ。自分はフーケに捕まって、足手纏いだっただけ。情けなくて泣きそ
うになるが、パーティーのど真ん中で泣くのはプライドが許さなかった。それに、功績をあげ着飾っただけでほいほい誘ってくる『馬鹿共』の相手も疲れる。掌を返したようなその態度が、ルイズの
心を一気に氷点下まで下げていった。
自棄になって、グラスになみなみと注いだワインを一気に呷る。酔えば少しでも楽になるかと思ったが、あまり効果はない。再び注ぐが、もうボトルには殆ど残ってなかった。
「自棄酒?」
「そうよ。悪い?」
「飲みすぎは躯に悪いわ。そうね……少し酔いを醒ましたら、踊らない?」
「今更? それにあなた、ドレスを――――」
振り向いた先には、男装の麗人が。
「ドレスはなくても、タキシードは殆ど変わらないからね。借りてきたのよ。似合う?」
「――――は」
「は?」
「ははっ! あはははははははは!」
突如笑いだすルイズに、ジルは呆気にとられるが、
「何よ。笑わなくてもいいじゃない?」
「い、いや。とってもよく似合ってる。その発想はなかったわよ。笑ったのは別の理由」
「へえ。どんな?」
ルイズは席を立ち、ジルに近寄る。
「内緒、よ。ふふっ、酔いも醒めちゃったし、踊りましょう」
「私でよければ、リトル・レディ?」
ジルが手を差し出す。
「子供扱いしないでよね」
ルイズがその手を取る。
「これは失礼。では、いきましょ」
最後の曲が流れる、会場へと戻る二人。
ラストダンスは、主役二人がその場の全ての人間の眼を奪っていた。
438名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 00:27:35 ID:GbRvJ6SM
支援
439避難所よりコピペ:2008/12/28(日) 00:33:12 ID:HGORGjv6
472 名前:ジル 投稿日: 2008/12/28(日) 00:20:46 ID:NW/q8e36
さるさんで規制くらいました誰か代理で終了コメントをお願いします。



以上です。

時計をみまちがえるという愚をおかしまして、
予告から投下まで非常に長い時間をお待たせしたことをお詫びします。

フラグを少しずつたててます。
全部消化できるのやら。
440名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 00:33:53 ID:HGORGjv6
ということで投下乙です。

>>424
避難所に投下するんじゃダメなの?
441名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 00:34:23 ID:UhqJFXuc
乙です
なぜか警察署のあちこちにあるアイテムボックスすげー
442名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 00:45:31 ID:qvgNth7j
ジルの方、代理の方、乙でしたー。

ところで、>>429>>430の間、一つ抜けているような気がするんですけど?
私の気のせいでしょうか??
443ジル:2008/12/28(日) 00:50:23 ID:e7fmVP9z
抜けてました、すみません。



そう言いながら、いじりだす。
「ちょっと待って。すぐ撃てるようになるから……」
全武器無限化アイテムの恩恵で弾がなくても撃てるのだが、ろくに整備できるはずもないこの世界では暴発の危険性がある。
カチャカチャと一分ぐらいで分解し、同じくらいの時間で組み立てるのを、一行は興味深く見つめていた。
「……OK。これで」
くるりと回り、腕でぶら下げるように構え、適当な樹を狙ってトリガーを押す。
低い銃声と、遅い連射。しかし一発一発の威力は絶大で、直径2メイルほどありそうな樹は瞬く間にえぐられ、やがて倒れた。花瓶のような薬莢が吐き出され、山になっていた。
「凄いわ……」
「…………」
「何よ、ただの銃じゃない」
その威力を目の当たりにし、三人は戦慄する。ルイズは軽口を叩くが、それが実際に使われたら――――どうなるのだろうか、そんな想像をして背筋が寒くなった。
「さて、あとはフーケね」
「これだけ派手なことして戻ってくると思ってんの?」
「どうかしら。そこにいるじゃない」
その場にいた全員の顔が、一斉にジルの言うそこ――――ロングビルの方に向く。
「ッチ」
ロングビル、いや、フーケの対応は早かった。恐らくはこの一行で最も非力で役立たずの無駄飯喰らい、ルイズを拘束する。
「え!? え!?」
「杖を捨てな! この娘がどうなってもいいのかい?」
うろたえるルイズに右手でナイフを突きつけ、左手に杖を握る。
「――――っ」
タバサとキュルケは杖を捨てる。しかしジルはM2を捨てる気配は無い。
「おい、そこ! 杖を……」
「これ、杖じゃないわよ。聞いてなかった? 重機関銃だって言ったはずだけれど。まあいいわ、こんな重い物、いつまでも吊ってたら肩がこるわ」
ぽいと地面に落とす。
「よし、さがりな。変なまねするんじゃないよ」
今度は大人しく引く。その顔に笑みを浮かべて。
「ふふ……」
フーケに聞こえない、小さな声で、嗤う。
フーケはルイズを引きずりながら、M2に近づき、それを拾い上げようとした。
444名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 00:52:39 ID:QIe9HHW/
445虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/28(日) 00:53:21 ID:UhqJFXuc
そろそろ投下します。
前回のあらすじ:ギーシュが因縁付けてきた
446虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/28(日) 00:54:05 ID:UhqJFXuc
「ごめん。やめて。もうしない、ほんとに」
学院長室では、白く威厳のある髭を蓄えた老賢人オスマン氏が、情けなくも床に這いつくばり、秘書のミス・ロングビルに無言で蹴り回されていた。
お尻を撫でる、使い魔のネズミ、モートソグニルを使って下着を覗き見るなど、オスマン氏の度重なるセクハラにキレたミス・ロングビルが実力行使に出たのであった。
ちなみにこのような光景は珍しいものではなく、学院長室の日常風景と言っていい。
「オールド・オスマン!たたた、大変です!」
学院長室のドアを乱暴に開け放って、コルベールが転がり込んできた。
「なんじゃね」
ミス・ロングビルは何事もなかったかのように机に座っていた。
オスマン氏は腕を後ろに組んで、重々しく闖入者を迎え入れた。早業であった。
「ここ、これを見てください!」
コルベールは、オスマン氏に先ほど呼んでいた書物を手渡した。
「これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。まーたこのような古くさい文献など漁りおって」
「そんなことよりも、オールド・オスマン!これを見てください!」
コルベールはアクアの右手に宿ったルーンのスケッチを手渡した。
それを見た瞬間、オスマン氏の表情が厳しいものに変わる。
「ミス・ロングビル。席を外しなさい」
ミス・ロングビルが部屋を出て行くと、それを見届けたオスマン氏は口を開いた。
「さて、ミスタ・コルベール。詳しく聞かせてくれたまえ」
コルベールは、堰を切ったようにしゃべりはじめた。
春の使い魔召喚の際に、ルイズが平民の女の子を召喚してしまったこと。
その子の右手に刻まれた、契約の証であるルーン文字が気になったこと。
そして、それを調べるうちに……
「始祖ブリミルの使い魔『ヴィンダールヴ』に行き着いた、というわけじゃね?」
「そうです!あの少女の手に刻まれたルーンは、まさしく伝説の使い魔『ヴィンダールヴ』と同じもの!あの少女は『ヴィンダールヴ』です!これは一大事ですぞ、オールド・オスマン!」
「ふむ…」
オスマン氏は長いひげをなで付けながら、コルベールの推論を考慮する。
ドアがノックされた。先ほど退出を命じた、ミス・ロングビルであった。
「ヴェストリの広場で、決闘まがいの騒ぎが起こっているようです。大騒ぎになっています。」
オスマン氏は、やれやれとかぶりを振る。
「まったく、暇をもてあました貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れておるんだね?」
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」
「あの、グラモンとこのバカ息子か。おおかたまた女の子に絡んだ騒ぎじゃろう。相手は誰じゃ?」
「……それが、ミス・ヴァリエールの使い魔の女の子のようです」
オスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。
447虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/28(日) 00:55:14 ID:UhqJFXuc
魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にあるヴェストリの広場は、噂を聞きつけた生徒たちで溢れ帰っていた。
人の生垣に囲まれて、金髪の美男子ギーシュと、生意気そうなアクアが向かい合っていた。
「諸君!これは決闘ではない!」
ギーシュが薔薇の造花を振り上げ、観衆に宣言する。
「貴族社会への反逆の芽を摘む!これは粛正であり、教育なのである」
ざわざわと、喧噪が広がる。
「おい、あれはルイズの平民だ!」
「ほんの子供じゃないか!ミスタ・グラモンは何を考えてるんだ?」
「いや、あれは主人のヴァリエールに似て、ひどいはねっ返りだよ!ギーシュを怒らせるのも無理はないさ!」
戸惑いと好奇の目で、広場は異様な熱気に包まれていた。
ドットクラスとは言えメイジのギーシュと、年端も行かない女の子。これはもはや公開処刑である。
人をナメきったアクアの言動の数々を知らないものの中には、ギーシュへの軽蔑を隠そうともしないものもいるが、しかし平時の世の中、退屈した貴族に取ってこれ以上のショウはない。
アクアは幼いとは言え、整った顔立ちをしており、美少女であると言えた。
ああ、その吊り気味の、気の強そうな目が、苦痛と恐怖に歪むさまはどんなものだろうか?そんな凶暴な期待に身を震わせるものも少なくない。
熱気に当てられ、不安になったルイズは小さく震える肩を抱く。
「さてと、では始めるか」
観衆に向けパフォーマンスを繰り広げていたギーシュは、アクアの方に向き直り、そう言った。
ギーシュが手にした薔薇の造花を振ると、花びらが一枚、宙に舞った。
するとそれはみるみるうちに、甲冑を着た女戦士の形をしたゴーレムになった。
それを見て、わー、とアクアが感嘆の声を上げる。
「僕の二つ名は『青銅』、青銅のギーシュだ。青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手つかまつる」
ギーシュは格好を付けて、右手の薔薇をアクアに突きつける。
「ふうん、それがあんたの『魔法のステッキ』ってわけだ」
アクアはローブのポケットをごそごそとやって、取り出したものを同じようにギーシュに向けて突きつけた。
棒付きのアメ玉であった。
ギーシュが何事かと見守っていると、アクアは棒付きアメをふりふり振りながら、言った。
「あたしのは、これ。あたしの『魔法のステッキ』だよ」
アクアの言葉に、一瞬広場は静かになる。
それから、どっと笑いが巻き起こった。
「はっは!そ、そ、それが『杖』だって?」
「ず、ず、ずいぶんかわいらしいメイジだなあ、おい!」
「おいギーシュ!あんまり子供をいじめるんじゃないぞ!」
大笑いする観客から野次が飛ぶ。
ルイズは頭を抱えていた。
448名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 00:56:01 ID:5CDyFTF4
ギーシュフルボッコタイム?支援
449名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 00:56:10 ID:N6qGT2pV
魔王ジル乙です。
これ、429と430の間で、抜けがありませんか?
ルイズがフーケに捕まっているシーンがあると思うのですが。
450虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/28(日) 00:56:33 ID:UhqJFXuc
ギーシュは、ため息をついてかぶりを振る。どうやら僕は、子供相手にムキになりすぎていたようだ。
しかし一度口に出した言葉は、簡単には曲げられない。ギーシュはアクアをさんざんに脅しつけて、早々と降参させるつもりであった。
ギーシュが薔薇を振ると、ワルキューレがアクアに向かって突進した。芝生をえぐりながら、アクアの目の前で急停止する。
ワルキューレはアクアを見下ろすように立っており、2メートルを超す青銅の女騎士は、小さなアクアに大変なプレッシャーを与えていることだろう。
さあ、恐怖に震えながら、許しを請いたまえ。ワルキューレの槍をアクアの喉元に突きつける。
しかしアクアは落ち着いた様子で、棒付きアメを振って、ワルキューレの槍に当てた。かいん、と子気味よい音があたりに響く。
次の瞬間、強烈な破裂音とともに、槍の先端が爆発した。
「え?」
長さが半分ほどになった槍を見て、ギーシュは思わず声を上げた。一体、何が起こったと言うのか?
アクアは返す手で、ワルキューレの腹に棒付きアメを当てる。
「マテリアル・パズル……」
またも強烈な破裂音とともに、ワルキューレは粉々に吹っ飛んだ。破片が、パラパラと広場に降り注ぐ。
観客もギーシュも呆然となっていると、アクアはローブのポケットからアメ玉を取り出し、口に放り込んで、コロコロと舐めた。
そして観客の中のルイズに向けて、ちょいちょいと棒付きアメを振る。
「ルイズう、見てた?これがあたしの魔法だよ。『壊す』のが、あたしの魔法」
そしてギーシュに向き直り、ギロリと睨むと、ずんずんとギーシュの元へ歩き出した。
ひ、とギーシュの喉から空気が漏れた。
やばい。よく分からないけど、とにかくやばい。
子供だなんて、とんでもない!いま僕の目の前にいるものは、恐るべき力を持っている!
ギーシュは、あわてて薔薇を振る。たちまち花びらが舞い、6体の青銅のゴーレムが現れた。ギーシュがいま扱える全ての兵力である。
6体のワルキューレの出現にもアクアは動じず、ギーシュに詰め寄る。舐めていたアメ玉を手のひらにぺっと吐き出す。
カチャカチャと、何かを組み立てるような音をさせながら、アメ玉が強く光り出した。
怯えたギーシュは、ワルキューレを三体ずつ二列に並べ、自分の身を守らせるよう配置した。
錬金の魔法で作り上げた、鈍く輝く盾を構え、まさに鉄壁の防御である。しかし。
「薄い!」
破壊のエネルギーが込められたアメ玉が、ワルキューレに叩き込まれた。
大爆発が起こり、6体のワルキューレは消し飛んだ。
ギーシュははるか後方の『火の塔』までぶっ飛び、壁にしたたか打ち付けられ、気絶した。
薔薇の杖は彼の手を離れ、遠くに吹き飛ばされていた。これでは、目を覚ましても魔法を使うことはできないだろう。
アクアは、自分の勝利を確認すると、ふふん、と得意げになり、アメ玉を噛んだ。
「我が勝利、魂と共に……」
そんなアクアを、ルイズはぽかんとした顔で見つめていた。
観客たちも、皆同じようにぽかんとしていた。
名家の子息たるギーシュの敗北。相手は子供のメイジ。しかも貴族ではなく、ルイズ・ヴァリエールの使い魔である。
あまりの出来事に、ヴェストリの広場は静まり返ったが、やがて、誰かがぽつりとこぼした。
「『その者にもっともふさわしい使い魔が呼び出される』って、あれ、ほんとだったんだな」
「魔法を爆発させてばかりいる『ゼロのルイズ』!爆発の魔法を使うメイジを呼び出しやがった!」
451449:2008/12/28(日) 00:57:06 ID:N6qGT2pV
更新せずに投稿失礼。

支援。
452虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/28(日) 00:57:58 ID:UhqJFXuc
オスマン氏とコルベールは、一部始終を『遠見の鏡』で見届けると、また顔を見合わせた。
「オールド・オスマン」
「うむ」
「あの子供、勝ってしまいましたな」
「うむ」
「『ヴィンダールヴ』はあらゆる幻獣を乗りこなし、主をあらゆることろへ運んだとありますが……」
コルベールは頭を振る。
「魔法の撃ち合いで、勝ってしまいましたな」
「ううむ。ミスタ・コルベール。これではあの子が『ヴィンダールヴ』であると言う確証は得られんの」
オスマン氏が、コルベールの言葉を引き取った。
コルベールは落胆したが、気を取り直し『教師』としての意見を申し出た。
「しかしオールド・オスマン。まさか彼女がこれほど強力なメイジだったとは思いませんでしたな。あの破壊力はトライアングル、いえ、下手をすればスクウェアスペルほどかもしれません。
春の使い魔召喚では「平民を呼び出してしまった」などと腐っておりましたが、ミス・ヴァリエールも誇らしく思うことでしょう」
嬉しそうに言うコルベール。しかしオスマン氏は難しい顔を崩さない。
「コルベール君、きみ、あの子の使った魔法が分かるかね?」
「いえ。しかしあれほどの爆発を起こしたのです。彼女は間違いなく『火』系統のメイジでしょう」
オスマン氏は首を振る。
「それではおかしいんじゃよ。見たまえ、あのゴーレムの破片を。まんべんなくバラバラじゃ。おまけに焦げ付きや煤がまったくない。普通の爆発ではありえんことじゃ」
コルベールは困惑した。
「オールド・オスマン。一体どういうことなのでしょうか?」
「これは推測でしかないのじゃがの。あの子が伝説の『ヴィンダールヴ』であると言うのなら、その彼女が使う魔法もまた、われわれの系統魔法とはまったく違うものなのかもしれん」
「オールド・オスマン。それは」
コルベールは興奮し、ゴクリと音を立てて唾を飲み込む。
「『虚無』と。そういうことなのでしょうか」
453虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2008/12/28(日) 00:59:38 ID:UhqJFXuc
ちょっと短いけど以上です
別にアクアの魔法は『虚無』でもなんでもないですが
その辺の説明はキリがいいので次回分に回しました。
支援ありがとうございます。
454名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 01:05:55 ID:npIUmJIA
ジルの人乙
455ゼロの魔王伝:2008/12/28(日) 01:11:51 ID:k1lXN49W
>>453
乙でした! 

予約なければ1:30くらいから投下します。
456名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 01:16:59 ID:wQrjPzUc
>>435
ジルの人は関西人?
「なおす」は「元に戻す」と解釈していいのでしょうか?
457名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 01:20:50 ID:cUT+nSXC
>>419
あれ?俺いつ書きこんだんだっけ?
458ジル:2008/12/28(日) 01:22:51 ID:e7fmVP9z
>>456
Yes,山口の人間です。
すみません、常用しているのでつい。
その通りです。修正しときます。
459名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 01:24:31 ID:JsGgNGD4
T級こねーな
460ゼロの魔王伝:2008/12/28(日) 01:30:26 ID:k1lXN49W
そろそろ投下します。
ゼロの魔王伝――5

 ガリア王国辺境、サビエラ村。
 僻村に出現した、最悪の妖魔の一つに数えられる吸血鬼討伐の為に、使い魔である風韻竜シルフィードと共にサビエラ村を訪れる事となったタバサであったが、サビエラ村近郊まで辿り着いた時、上空二百メイルを飛ぶシルフィードが、不意にその異常に気づいた。
 任務伝達の手間や資料を調査する手間の関係で、タバサ達がサビエラ村近郊まで辿り着いたのは月の明るい夜の事であった。本来なら、まだ吸血鬼の天敵たる太陽の輝く内に到着し、村長達に新たな騎士の到着を伝える筈だった。
 吸血鬼が活動を始める時刻に村に到着する事は、低確率ではあったが吸血鬼との偶発的な遭遇及び戦闘も考慮しなければならなかったが、そうなったらなったで人間に紛れた吸血鬼を探す手間は省ける。
 人間の用いる系統魔法は、妖魔や亜人、エルフの用いる先住魔法に対して不利な面が多いが、タバサの側にも幼いとはいえ強力な幻獣であるシルフィードがいる。二対一での戦闘ならば、勝利が望めずとも追い払う程度の事は出来る。
 もっともガリア王国としては、貴重な騎士をこのようなたいして価値もない村に常駐させるわけにもゆかぬから、追い払うだけでは吸血鬼の報復によって、村に多大な被害が及ぶ恐れもあり、やはり一度の遭遇で討伐する事が望ましい。
 とりあえず、今宵一晩は村長の所に顔を出して明日改めて吸血鬼の捜索を行おうと、タバサが決めていた。
 だが、広げた翼に悠々と風を捕まえ、タバサを危険な任務の待つ場所に運ぶ事を嫌がっていたシルフィードが、不意にきゅい、と戸惑うように鳴いた。
 それまでシルフィードの青い鱗に包まれた背びれにもたれかかり、眼を閉じていたタバサが薄く、青空を透かしたガラス片の様な色合いの瞳を開いて問いかけた。

「どうかした?」
「おかしいのね。精霊達が怯えて、震えて、怖がっているのね、きゅいきゅい。でも変なの。精霊達がみんなふわふわと気持ちよさそうに浮かれているのね! どこかで見覚えがあるような気がするのね」
「……とりあえず着地して。徒歩で近づいてから変化」
「了解、でも変化はいやなのね。人間の服は窮屈なのね、きゅい」
「はやく。いやな予感がする」
「きゅい〜」

 タバサの計画では、シルフィードに外見を変化させる先住魔法の“変化”を使わせて、派遣された騎士に仕立て、自分はその従者としてふるまい、シルフィードを半ば囮にする形で吸血鬼を釣り上げる計画を建てていた。
 いかんせん、タバサの外見は幼い。百四十二サントしかない小柄な体は相応に平坦で、わずかに膨らんだ胸と、小振りな尻ではそれぞれをつなぐ腰のラインがくびれを描くのも難しい。十五才と言う年齢を加味しても、やはり騎士と言うには幼すぎた。
 その点、シルフィードが変化を用いれば、精神年齢は人間でおよそ十歳程度ながら外見は二十歳前後になるし、多少言動は奇天烈大百科だが、ま、そこはそれ、せっかく派遣された騎士を村人が追い払うわけもない。
 細かい段取りは実際に村で調査を始めてからと決めていたタバサだったが、シルフィードの疑惑の声に、唐突に胸の奥で黒い不安が人食いの大蛇の様に鎌首を持ちあげるのを感じていた。
 地に降り立ったシルフィードの背から降りて、シルフィードに変化の魔法を使わせようとしていたタバサの耳に、唸りながら何かを思い出そうとしていたシルフィードの声が聞こえた。

「思い出したのね、アレは黒づくめの剣士さんがいる時の精霊の反応なのね! みんなうっとりとろけて幸せそう! でも、変、剣士さんは魔法学院に居る筈なのね。それにあの方が居る時はこんな風に怖がったりしないのね」
「あの人と同じような反応?」
「そうなのね、ちょっとだけ違うけど」
「……」

 タバサが脳裏に思い描こうとし、慌てて打ち消したのは、魔法学院二年生への進級に当たり催された使い魔召喚の儀式で、同級生のルイズが呼び出した使い魔の姿であった。
 脳裏にぼんやりと輪郭が描かれつつあったその姿を消したのは、思いだしたら最後、数時間はその場で恍惚と立ち尽くしてしまう事を自覚していたからだ。
461ゼロの魔王伝:2008/12/28(日) 01:31:16 ID:k1lXN49W
 始祖ブリミルに連なり、トリステイン王の庶子を祖に持つ由緒正しき大貴族たるヴァリエール家の三女として、入学当初誰もが一目置いたルイズ。
 けれど魔法が使えず、それ以外の成績がどんなに優秀でも、貴族を貴族たらしめる最大の要因たる魔法が使えず学院の誰よりも見下され、馬鹿にされていたルイズ。
 どんなに簡単な魔法も成功する事が出来ず、どんなに努力しても、どんなに貴族らしく優雅に振る舞って見せても、卑しい嘲笑ばかりを向けられていたルイズ。
 その彼女が、最後の最後、縋るように希望を込めて唱えた召喚に応え姿を見せたのはサラマンダーやバジリスク、スキュラといった幻獣でも、狼や狐、猪や猫と言った動物たちでもなかった。
 見慣れぬ格好の人間だったのだ。鍔の広い旅人帽を被り、胸元には人の手の届かぬ深海の蒼を湛えた神秘的な色合いのペンダント。万年雪の最も古く純粋な部分のみを敷き詰めた様な肌の白とその蒼だけが、黒づくめの衣服の中で一際輝いていた。
 その青年が光と途方もない熱と共に姿を見せた時、目の前に立っていたルイズのみならず遠巻きにして見守っていた他の生徒達も監督役を務めていた、教師のコルベールも、いや使い魔たちでさえ呆然と立ち尽くし、精巧なオブジェと化してその青年を見つめた。
 美しすぎたのだ。あまりにも。変わらず燦々と照りつけている太陽の光がすうっと色と輝きを失ったように見えてしまうほど、その青年がいるだけで世界は見知らぬ異界と化していた。
 背に負った身の丈ほどもある、ゆるやかな弧を描いた鞘に収められた長剣からおそらくは平民の剣士か、流れの傭兵と判断された青年は、体中から白煙を吹き上げ、足元に冷えて固まった溶岩を蟠らせていた。
 魂までも吸い込みそうな、いや、誰もが望んで魂を捧げてしまうほどに深い瞳がルイズに向けられ、その目の動きだけで周囲の生徒の半数があまりの美しさに精神が許容限界を越えて気絶した。
 隣の生徒が倒れても誰も開放しようとはしなかった。自分達の意識を保つだけで精いっぱいだったからだ。かくいうタバサもまた、凍りついた筈の心が激しく刻む脈動に呼吸さえ苦しくなり、なんとか意識を保つので精一杯だった。
 真の美とは性別や年齢、種族の壁さえも超越するのか、魔法学院の生徒達によって召喚された使い魔たちでさえその剣士に視線を集め凝然と固まっていた。
 タバサの隣に居たシルフィードも、あんぐりと大口を開けて、優れた石工に彫琢された竜の彫像の如く固まっていたのである。
 その美と言う言葉を超越した領域の存在たる剣士が、なにか口を開こうとし――

――だめ、これ以上思い出してはいけない。

 召喚儀式の日、まるまる半日自分の部屋のベッドの上でぼんやりと過ごした事を思い出し、かろうじてタバサは脳裏に焼き付いていた黒衣の剣士“D”の残影を追い払う事に成功した。
 夢の世界の入り口で彷徨っていた時間を取り返す為にか、タバサは素早くシルフィードに再度命じた。

「早く変化して」
「え〜〜〜」
「早く、急がないと取り返しのつかない事になるかもしれない」
「きゅい、お姉さま、とっても怖い顔をしているのね」
「……」

 タバサは思い出したのだ。Dの美貌と共に、彼に匹敵する美しさと、これまで出会った事が無い程の邪悪さを持った魔人――浪蘭幻十の存在を。
 よもやかような僻村で出会う事になるとは露ほども思っていないが、もし万が一と言う事もある。あの時は幻十の側に多分に遊びの要素が強かったからこうして生きて帰れたが、今度出会ったらどうなるかは分からない。
 良くも悪くも、いや十分以上に悪いが、出会ったら最悪死も考慮の内に入れざるをえまい。

「……」
「なあに、お姉さま。シルフィの顔に何かついているのね?」

 外見は恐ろしい竜の姿をしているが、つぶらな瞳に浮かぶ天真爛漫で無邪気な光や、幼い言動が可愛らしいシルフィード。
 もし、自分がここで死ぬような事があっても、この娘だけは絶対に生きて帰す。それが、この幼い竜を使い魔にした自分の責任だと、タバサは覚悟を決めた。
462名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 01:32:01 ID:ZivAwvtB
ジルの人乙!

まさかのジャーナリスト登場に笑ったwww
ヤツの行動が的確すぐる。

そして支援
463ゼロの魔王伝:2008/12/28(日) 01:32:50 ID:k1lXN49W
 変化したシルフィードに用意しておいた衣服を着せ、村に一歩を踏み入れたタバサとシルフィードは早々に鼻をしかめた。

「きゅい〜〜、シルフィのお鼻が曲がってしまいそうなのね。お姉様、この匂いって」
「血」
「……吸血鬼の仕業かしら?」
「分からない。でも一晩で村を全滅させる事が出来るとも思えない」

 粗末な獣除けの柵を越え、村の中に足を踏み入れたタバサは、夜の静寂の中に農耕に立ち込める死の気配と血の匂いに辟易しながら、村長の家に辿り着いた。近くの森から時折風に乗って虫の鳴き声や歯のすれる音が聞こえる以外は、なんの音もしなかった。
 まるで自分達が、異世界に紛れ込んでしまった様な、あるいは世界で自分達しかいないような、そんな途方もない孤独感と疎外感に襲われる。
 タバサよりも頭一つ大きく、競り出た胸も丸みを帯びた尻も豊満な美女と化したシルフィードは、おっかなびっくり、タバサの肩にかじりつくようにしながら村の中を歩いていた。

「う〜、誰もいないみたいなのね。こんな時間でもお夕飯を食べていたり、寝る前のおしゃべりがシルフィには聞こえるのに、なんの音もしないのね」
「誰もいないのか、誰もいなくなったのか、それとも誰も生きていないのか」
「きゅい!? そそそ、そんな怖いこと言わないでほしいのね。それにいくらこんな小さな村だって、村の人たち皆を殺してしまうなんて、オーク鬼でも何十匹もいなければ一晩では出来ないのね。それに、全然荒らされた様子もないのね!」
「じゃあ、吸血鬼?」
「きゅい、分からないからこうやって調べに来たんでしょうに」

 やがて、窓から明かりの零れる村長の家に辿り着いたタバサは、無言で絞められた扉を開いた。鍵は掛かっていない。扉をたたき、家人を呼ぶ事もしないタバサの行動が、ある種の推理を確信している事を告げていた。
 はたして、その推理の正しさは開いた扉のすぐ向こうの物体が証明していた。
 きゅい!? と悲鳴代わりに無くシルフィード。タバサの眉間に刻まれた皺が一層深くなった。
 タバサの目の前には床に広がった血だまりの上に倒れ伏した人間のパーツが転がっていた。首、両手、両足、腰から上下に立たれた胴体、とおおまかに七つに分断された体が、自分の体から零れた血に染まって赤い化粧をしていた。
 右半顔を自分の血で赤く濡らした老人の顔は、不思議と苦悶の様子はなく、これからちょうど寝室に戻って床に入る所だったのだろうか。その平穏を打ち破ったモノは、音もなく老人おそらくは村長の体に絡み付き、痛みを感じる暇もなく切り分けたのだろう。

「きゅい〜〜〜、どどど、どうなっているのね!? 人が死んでいるのね!! バラバラなのね!! 真っ赤っかなのね!」
「生き残りを探す。いないかもしれないけれど」
「え? え? え? じゃじゃ、じゃあ、お姉様は村の人達がみんなこう言う風に殺されているって言うのね!?」
「十中八九」
「こ、こんな事、どんな種族が出来るって言うのね! この切り口なんてあんまり鋭すぎて血が滲んでさえいないのね、少なくともシルフィは知らない! うぅ、血の匂いに酔って来たのね……」
「……」

 そのまま冷たい夜気を朱に染めてしまいそうなほど濃く、まだ新しい血の匂いに酔い始めたシルフィードを押して、タバサは背後の村長の家を振り返るや、小さくウィンド・ブレイクを唱えた。
 唐突なタバサの行動に、シルフィードも気分の悪さを忘れてえ、と驚きに目を見張る。幼子の握りこぶしほどの風の塊が、村長の家の壁に当たるや、ぴしり、ぴしり、と風を打つような音と黒い線がそこら中に走り、瞬く間に家は崩れ落ちた。

「あの老人だけじゃない。犯人は家毎切り裂いた」

 そう告げるタバサの問いが正解であると告げる様に、周囲の村の家々が一斉に音を立てて崩れ落ちる。
 夜の静寂を裂いて乱れ交う崩落の音。その中に理不尽な死に怨嗟の声を挙げる村人の声が混じってはいないか。
 噴き上げる噴煙の中に、床を一杯に濡らし、戸口を越えて家の外の地面も赤く濡らし始めた湯気を立てる血の赤が、飛沫となって混じってはいないか。
 タバサの推理は最悪の形で的中した。今宵、この村に生ある者はなし。ただ一人の美貌の魔人の意思によって、すべての村人の生命が斬殺されたのだ。無慈悲に、理不尽に、一方的に。
 タバサが月夜の明かりに照らされた地面のある一点に目を落とした。変化した体を恐怖に震わせるシルフィードが、逃げようと告げるよりも早く、タバサの瞳に小さな炎が揺れていた。
 点々と続く染みは、体から流れたばかりの血の滴であった。一人だけ、この惨劇から逃れられた者がいるのだ。タバサがシルフィードを振り返り、とある提案をした。
464ゼロの魔王伝:2008/12/28(日) 01:34:43 ID:k1lXN49W
 ざざ、と月と星の明かりだけでは到底判別の付かない夜の森の中を、小柄な影が信じられぬ速度で走っていた。地面に落されたシルエットは小さく、まだ五つか六つ頃の幼い子供と見える。
 天空に座す月も思わず心配してしまいそうな小さな影は、しかし夜に生きる獣の様な俊敏さで木々の合間を走り抜け、小川を踏破し、片時も休む事無くかけ続けていた。自分のすぐ後ろに立つ死神の息が、今も首筋を撫でているのだろうか。
 風に乱れた髪が月光に絢爛と輝く中、その少女はようやく足を止めて肺いっぱいに夜の森の空気を吸い込んだ。
草いきれや、獣の匂い、花の香り、木々の匂い、水の香り、大地の匂い。到底人間には理解出来ぬ匂いがたっぷりと体の中に流れ込み、乱れた心肺を整える。

「ここまで来れば……」

 信じた事もない神に縋る様にして呟いた言葉を、背を預けた大樹の枝葉を揺らしながら落下してきた物体が遮った。どっ、と重い音を立てて地面に転がるのは、少女の右腕が抑えている左腕にかつてあったモノ。
 肘から先を見るも鮮やかに切断された幼子の左腕だった。ひ、と少女の喉から零れる音。

「忘れものだよ。もう二度とくっつく事はないが、自分の体だ。大事にしたまえ。そうそう、それから“ここまで来れば”……。その続きは何だい? “もう大丈夫”かな」

 かちかちと歯を打ち鳴らしながら、少女は絶望と恐怖の実が支配する瞳を、声が降ってきた方向へと向けた。何の支えもなく、魔法を使うでもなく、白みを帯びた黄金の月を背に、夜空に立つ一人の青年の姿を、見た。
 にこりと、黒い三日月が青年の口元に浮かぶ。笑みであった。向けられたもの全てが涙を流しながら、おのれの運命の終結が、この世ならぬ無残なものである事を理解する笑み。
 地に伸びた影さえも美しい青年は、浪蘭幻十と言った。


 夜の森に分け入り、ライトの魔法で杖の先端に明かりを灯したタバサは一心不乱に血の跡を追い、何分かけたか分からぬほど走り続け、そこに辿り着いた。苔むした岩と巨木の根が絡み合う開けた場所であった。
 ちょうど木々の枝の中央が円形上に空隙を造り、そこから星と月の光が惜しげもなく降り注いでいる。ちょうどその中央に月光を照明に、夜の森を背景に、かつて責め苛み、弄んだ麗しい魔人の姿があった。
 その姿の美しさに恍惚と蕩けるよりもタバサの心は冷徹に凍える事を選んだ。目に映らぬ幻十の魔糸によるものだろう、幻十の傍らに宙づりにされた少女の姿があった。
 だが、最初タバサはそれが少女であるとは認識できなかった。何か巨大な、芋虫の様なものと、そう思ったのだ。
 タバサに背を向ける格好で居た幻十が、なにをもってかタバサの接近に気づいたらしく、どんな歌姫の歌もしわがれた蛮声に聞こえる声が、タバサの耳にするりと忍び入ってきた。

「君か。たしか、タバサと言ったな。ここに来たのは偶然かい?」
「この村へは任務で来た。ここに来たのは、生き残りを探す為」
「ああ、そういえばあの村の住人はみんな死んだはずからね、生き残りを探そうとするのも不思議じゃない」
「貴方が殺した。どうして?」
 
 かすかに吊り上げる幻十の微笑を、タバサは背中越しにも見た気がした。背筋を駆けのぼる悪寒。死の気配よりも冷たく、おぞましく。それはタバサの心臓をゆっくりと握りしめた。

「よく、ぼくの仕業と分かるね? 証拠でも?」
「村の人達と家屋の切り口。私は貴方以外にあれを出来る人を知らない」
「そうか。故郷にはもう一人同じ芸当ができる者がいるが、まあ瑣末な事だ。確かに村の人間はぼくが手に掛けた」
「どうして?」

 再び重ねられるタバサの問いに、幻十は答えた。聞かない方がいいと、タバサの心の中で、自分の声が言う。

「ぼくにとってこのハルケギニアと言う世界は未知のものでね。面白くはあるがここに骨を埋めるつもりはない。いずれは元の世界に戻るつもりさ。ただ手ぶらで帰るのも詰まらないだろう? 役に立つモノを探す為にいろいろな所を見て回っていてね。
 そんな時だ、ぼくの世界にも居た妖魔の吸血鬼がこの村に居ると風の噂に聞いたよ。さて、どれほどのものかと思ってこの村に来たんだが、いちいち探し出すのも面倒だ。だから、吸血鬼の活動する夜にぼくの武器を風に乗せて流したんだ。
 君を切り刻んだぼくの武器をね。それで死ぬようなら利用する価値もない。ぼくの武器に気付いて逃げられるようなら、少しは見込みがある。村人達には元から期待していなかったが」
「……吸血鬼を見つけ出す為に、村人を皆殺しにした?」
「その通り。そしてその甲斐もあってこうして、吸血鬼を捕える事に成功したのだよ」
465ゼロの魔王伝:2008/12/28(日) 01:36:22 ID:k1lXN49W
 ゆっくりと幻十が振り替える。幻十に遮られて見えなかった芋虫の様な影の姿が、月明かりに暴かれてタバサの瞳に映った。見開かれたタバサの瞳。
思わず取り落としそうになる杖を持ち直し、それを見る。幻十が捕えたという吸血鬼を。まだ幼い少女の、無残極まりない凄惨な姿を。
粗末な衣服は流れ出た血にしとどと濡れ、その両手両足は付け根から切り落とされて地面に転がっていた。もはや口を開く力もないのか、吸血鬼の少女はピクリと蠢く事もなく魔糸に囚われたままだ。

「どうした? この吸血鬼に同情でもしたのかい。瞳に怒りが籠っている。君も任務ならばこの娘を容赦なく殺しただろう? 過程は違うが、結果は同じはずだがね」
「私は楽しみの為に殺しはしない。貴方は自分の楽しみの為ならいくらでも殺す。村の人達を殺す必要もなかった」
「必要なら君も殺すだろうに。しかし、会って間もないというのにぼくをよく知っているかのような口を聞く。もっともその通りだ。ぼくはぼくの為に殺す。千人でも、万人でも、ぼく以外のすべての人間を殺せば目的が叶うなら、ぼくは喜んでそうするよ」

 その言葉が嘘偽りの無いものであると分かる。浪蘭幻十とはそういう存在だということが、初めて出会う者にも分かる声であった。
自然と、タバサの杖を握る手に力が籠る。目の前の存在を決して許してはならないという決意が、熱く燃え盛っていた。今目の前に居るこの青年の存在を許せば、ハルケギニアの大地はありとあらゆる生物の死骸で埋め尽くされると、根拠もなしに確信していた。
そしてそれは、おそらく、事実であったろう。

「闘う気か、このぼくと。だが、まだ無理だ。君は見所がある。二度までは許す。しかし三度目はない。今日は吸血鬼が手に入って気分がいい。君の使い魔も見逃してあげよう」

 幻十が右手をかすかに持ち上げて手首をこねるや、上空で幻十を挟撃すべく滞空していたシルフィードが、目に見えない魔糸でがんじがらめにされた姿で落下し、地面に激突する寸前で、何か網に捕まった様に減速し、ふわりと木の葉のように柔らかく落ちた。

「きゅい〜〜」

 と申し訳なさげに鳴くシルフィード。その鱗を千分の一ミクロンの糸が、何重にも巻き付き、幻十の指加減でシルフィードは数百単位の肉片となるだろう。タバサは戦う前から自分達の敗北が決まっていた事を悟った。

「ではさようなら、タバサ。夜ふかしは美容の敵だ。早く帰って眠りの世界へ行くがいい。ぼくの事は忘れる事だね」

 シルフィードの姿に気を取られた一瞬の内に、幻十の姿は夜の闇の中に消え去り、タバサを嘲笑う声だけが木霊していた。
 同時にシルフィードの束縛も解けたようで、慌ててシルフィードが体を起して今にも泣き出しそうな顔をしてタバサに駆け寄った。

「こわかったのね〜〜、お姉様、あの人、剣士さんと同じくらいきれいだけど、ずっとずっと怖い! お姉様、あの人にもう関わってはいけないのね!!」
「そうもいかない」

 あの男は自分の復讐の相手であるジョゼフの使い魔だ。ジョゼフの首を狙う以上いずれは敵として相まみえる事になるだろう。そしてなにより

「あの男はこの世界に居てはいけない」

 
 数日前の夜の、血の海に沈んだような凄惨な出来事の回想から、タバサは現実に帰還した。ルイズが召喚した件の使い魔“D”は、手に持ったデルフリンガーをだらりと下げ、戦闘の気配を薄いものに変えていた。
 タバサに現実への帰還を促したのは、唐突にただの土へと変わったゴーレムの崩壊の音であった。Dとの戦闘により、右腕と左手の五指、さらに無数の斬痕を刻んだゴーレムはその肩に乗っていた術者らしい影が退散すると同時に目晦ましとして崩壊したのだ。
 すでに周囲の気配の捜査を終えたのか、Dは四肢に行き廻らした力を解き、全身から立ち上っていた鬼気を消した。
 デルフリンガーが鍔の辺りをかちゃかちゃ鳴らしながらDに声をかけた。

「追いかけないのかい? 相棒。まだ見失っちゃいないだろうに」
「近いうちにまた会う事になる」
「へえ、犯人が誰だか変わっているような口ぶりだあね」
「さて、な」
「D!」
「うるさいのが来たぞい」

 背中にぶつかってきた少女の声を左手が揶揄し、Dはシルフィードの背から降りたって小走りに駆け寄ってくる桃色ブロンドの少女を見た。
 目下、Dの主であるルイズだ。もっとも契約の際にはお互いの意思の疎通が全くなされずに行われたという、とある事情があるのだが、それを語るのはまたべつの機会にしておこう。
466ゼロの魔王伝:2008/12/28(日) 01:38:16 ID:k1lXN49W
「大丈夫、怪我はしていない? あんな大きなゴーレム相手によく戦えたわね! 本当に大丈夫? 私、びっくりしたわよ。Dが怪我するんじゃないかって心配で堪らなかったんだから」
「見ての通りだ」
「それだけ喋れるんなら、娘っ子に怪我はないやね」
「けけけ、“私心配だったんだからぁ”だそうじゃ。もう少し嬉しそうにしたらどうじゃ?」
「……」

 息継ぎなしで一息にまくし立てたルイズに、見ての通り怪我はないと答えるD。それをからかうようにデフルリンガーとDの腰の辺りに垂らされた左手から、声が零れる。それを聞き咎めたルイズは、む、と整った眉を顰めてデルフリンガーと左手を睨む。

「D、私の買った剣を使ってくれたのは嬉しいけど、その左手とボロ剣のコンビの口を黙らせられないかしら」
「そうだな」

 錆びた鉄を思わせる男らしい声の後に、ぐえええ、と絞め殺されるニワトリの様な声が左手から漏れ出た。思い切りよく握りしめられた左手は、はたしてどれほどの力が込められているのか、皺くちゃの老人の声はそれっきり黙った。
 一方デルフリンガーはおれまで!? とDからの仕置きに戦々恐々と震えたが、こちらは鞘に収められておしゃべりを封じられただけで済んだ。
 地面に落ちていた鞘に収めたデルフリンガーを左手に持ち直したDが、巨大なゴーレムが殴りつけていた魔法学院の塔の壁を見上げてルイズに聞いた。

「あそこには何がある?」
「あそこは、確か魔法学院の宝物庫よ。塔には固定化の魔法が掛けてあってスクウェアクラスのメイジでも壊せないはずなのに」
「騒がしくなり始めたな」

 ようやくゴーレムのしでかした事に気づいたのか、衛兵や宿直の教師達の騒ぐ声が届きはじめる。その最中、Dは自分に視線を寄せるタバサに気づいたが、これを振り返るような事はなかった。
 どのような意図があって自分を値踏みするように見ているのか、欠片ほども気にとめていないのだろう。この青年の他人に対する対応は九割近く無関心で済まされる。どうでもよい相手にはどう見られようと構わないと言った所だろうか。
 ゴーレムの宝物庫破壊および窃盗の目撃者として、そのままルイズ達が学院長室に呼ばれたのは翌朝の事だった。


 同刻、アルビオン浮遊大陸ウェストウッド村、メフィスト病院院長室。
 突如アルビオン王国の辺境に舞い降りた天の使いの様な医師が開いた病院には、すでにいくつかの不思議が患者達の間でささやかれていたが、その内の一つが、在るが無い院長室の存在だ。
 好奇心の誘惑に負けた患者達が案内板に従って院長室を探し求めても決してたどり着けず、何十階分も階段を上り、下り、角を曲がりまっすぐ進み続けても見つけられぬ院長室。
 しかし確かに存在するというのは、院長室と札の掛けられた一室を目撃したという情報と、そこから姿を見せる悪魔の名を持った美貌の院長の目撃談が存在するからだ。
 その存在するが存在しない院長室は、この世にただ一人の主を向かい入れていた。蒼い光に蒼茫と濡れた様な一室だった。水晶を磨き抜いた様な床はそこかしこに原初の闇を色濃く蟠らせ、万巻の書籍で埋め尽くされた書棚はその端を薄闇の彼方に埋もれさせている。
 窓一つ、また照明一つないというのに月の光の様に儚い青が、水底から水面を見上げた時のように揺らめきながら院長室を照らしていた。
 青く濡れる部屋の中でただ一人、純白のまま青に濡れぬ人影があった。ウェストウッド村に住むハーフエルフの少女によって召喚された使い魔、ドクター・メフィストである。しかし、その胸に使い魔のルーンはない。
467ゼロの魔王伝:2008/12/28(日) 01:39:10 ID:k1lXN49W
浪蘭幻十、Dと並びこの世のものではあり得ぬ美貌と、それに相応しい魔性を備えた医師は、どこから取り寄せたのか書棚を埋め尽くす古めかしい書籍の一つを手にとって調べ物をしていたようだが、不意に、何かに気づくようにしてその場を離れた。
明確な目的があるのか、迷いなく歩き、院長室にある無数の戸棚の内の一つの前で足を止める。黄金の枠に水晶をガラス代わりに嵌め込み、翡翠の鎖で封じられた戸棚であった。
メフィストが白いケープの合わせ目から真鍮らしい鍵を取り出し、カチリ、とこればかりは尋常な音を立てて鍵を外して鎖を解く。
触れるだけであらゆる腫れ物が溶け消えると絶賛された美指が、一つの小瓶を取り出した。小さな蓋を開け、その中から立ち上る香は血であった。
 本来ならば、その中に在るのは吸血鬼化を抑制する薬の筈だった。かつて<新宿>を襲った美しく邪悪な女吸血鬼を斃す一助を果たした薬は、しかし、玉の肌から零れたばかりの血潮と変わり、赤に染まっている。
 メフィストの顔に、言葉では言い表せぬ感情の波がかすかに揺れた。そして、どこか感慨深げに言葉を紡ぐ。この医師の顔にどんなものでも感情の波を起こせるのなら命を失っても悔いはない、という者達は掃いて捨てるほどいる。
 そして、その万人が命を捧げても悔いのない感情が過ぎ去ったあと、メフィストはこう言ったのだった。

「やはり、世に善き神は存在せんな。女などと言う愚かな生き物を作った事がその証明、そして、あの女が蘇る事が二つ目の証明だ。もう蘇ったか? それともこれから蘇るのか? …………“姫”よ」

 それは、かつて妖姫とも、美姫とも、夜叉姫とも、メフィストの想い人に“お前”とも呼ばれた女吸血鬼の存在を指していた。
468ゼロの魔王伝:2008/12/28(日) 01:40:15 ID:k1lXN49W
今回はここまでです。最後に爆弾発言。あとで後悔する羽目にならないとよいのですが。
では御休みなさいなのです。
469名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 01:48:07 ID:rTGNjD0Q
乙っしたっ!
な、なんちゅう御方を召喚しはりますかー!?
470名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 02:47:34 ID:OCG9rcSW
ちょwwwせつらとメフィストが2人がかりでも勝てんようなお姫様来たwwww
471名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 03:09:35 ID:GFNn090r
D,幻十、メフィスト先生……この人たち一人でもハルケ終了フラグなのに、姫様までくるのかよ!
472名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 03:11:18 ID:Q0r1vxCw
ついには姫まで・・・
よんだのは坊さんか?なんにせよ終わったな
信仰やらなんやら含めて全部が
473名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 03:19:33 ID:OW61bpZg
姫ならDの相手として不足ないな。
てか、ロマリア滅んでるんじゃ……。
474名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 03:21:59 ID:a+spsYxR
特別好きな作者さんの新作が来なくても、別の人がおもしろい作品を書いてくれるから楽しく待てるぜ
ここは本当にいいスレだぜ
475名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 04:14:35 ID:HGORGjv6
      ./       ;ヽ
いいぞ ベイべー!
支援する奴は住人だ!!
感想を書く奴はよく訓練された住人だ!!

ホント ここはいいスレだぜ! フゥハハハーハァー
476狼と虚無のメイジ:2008/12/28(日) 04:38:06 ID:Q7EJZHjn
深夜と言うか、明け方にこっそり失礼します。
第八幕は併せて前中後編となってしまいましたが、宜しければお付き合い下さい。
477狼と虚無のメイジ八幕 前編 (1/8):2008/12/28(日) 04:39:49 ID:Q7EJZHjn
「失礼します」

全校生徒には遥かに満たない人数の前とは言え、食堂であれだけ派手にやった訳であるから当事者の五人が説明の為に学院長室に呼ばれるのは必然だった。
実際に傷ついたのはギーシュ一人だが、周りから見れば彼女達が被害者である。

ところが、入ってきたのは悲痛な面持ちなど欠片も無い、むしろ意気揚々とした五人の顔だった。
気丈に振舞っているのかとも思ったが、どうにも違う様である。学院長であるオールド・オスマン氏は大いに困惑した。

「芝居……とな?」

ルイズの話を聞けば、使い魔が世話になったメイドを助ける為、咄嗟に小芝居を打ったとのことだ。
遠見の魔法で一部始終を見ていたオスマンであるが、仔細までは解らなかったのも無理は無い。

まあ、グラモン家の三男の所業を見ていれば、いつかしっぺ返しが来るのは目に見えていたことである。
本人には可愛そうなことかもしれないが、ある程度の範囲内でならいい気味と言ったところ。
ところが今回の事態は飄々としたオスマンをして、いや、男であれば誰しも(拡大した噂を事実と認識した上でも)同情せさせる得ない惨状であった。

「そ、そうか……しかし、自分達に不名誉な嫌疑がかかる事も考えられたと思うのだが、何故そこまで?」

その質問は皆最初から知っていたと言わんばかりに、皆、口々に答えた。

「不名誉?何のことでしょう。彼に慰められることが無かったとは言えないでしょう?一言、二言でも」
「同じくじゃ。傷心の雌に声をかける雄がいても不思議ではありんせん。一言二言でも」
「まあ、あれに私の体をちょっとでも見られるのは屈辱かもしれませんわね。それだけです」
「彼から頂いたハシバミ草の味……決して忘れません。」
「愛してたかもしれませんね。今は路傍の石程にも何も感じませんが。もしかすると錯覚だったのかも。いえ、きっとそうです」

オスマンはあんぐりと口を空けた。
同席していた生徒の中で信用出来る証言を集めると、確かにどうとでも取れる発言ばかりであった。
唯一事件の真相においての被害者のシエスタのみ「恋愛感情」を述べているが、この噂が真実として認知されている以上、嘘でも本当でも彼女自身に実害は無い。どちらにせよその態度からして現状では無いのは明白だが。

しかしそれよりもオスマンが驚愕したのはその後のルイズの発言である。

「ところで校長先生……思ったんですけど、この真相は発表しない方が良いと思うんです」
「何故じゃね?発表しなければ周囲がどう思うかは君達が一番解っているじゃろう」
「噂はあくまで噂ですもの。第一、平民であるシエスタの事を考えれば、このまま嘘を突き通した方が良いと思います。そこで学院長にお願いがあるんですが……」
「む、何じゃ?」

元よりこの件に関してはそれなりの対処をせねばならない。増して関係ある生徒からの要望であるならばとオスマンは身を乗り出した。
478狼と虚無のメイジ八幕 前編 (2/8):2008/12/28(日) 04:41:04 ID:Q7EJZHjn
「この噂を広めて欲しいんです」
「は!?いや、今真相を発表するなと……いや、いやいや待て、まさか……」
「はい、本当の真相ではなく、低俗な三文小説みたいな表向きの噂の方を。もちろんこちらも、実名とかは控えて頂きたいのですが……」

ルイズの進言に目を剥くオスマン。

つまり、噂を完全に覆い隠すことなど、人が人である以上不可能。
ならば、ある程度意図的に広めてしまおうと言うのだ。

噂を知る人間も、こう言った事件の場合「本人達の為」とでも責任者のオスマンが言えば、七、八割は自発的な口は閉ざす。
残りの内の九割は、ある程度ぼかして話し、見たことをそのままべらべら喋るお喋りは数人である。

そしてそんな数人の対策の為に、虚偽の情報を意図的に流す。
この時、関係の無い話に混ぜて、事の真相と似た話を幾つか混ぜておくのがポイントだ。
詳細のはっきりした話が幾つかあり、その大筋が似通っていると「大体こんな事があった」と言うのは解っても、人物を完全に特定することは難しくなる。
そうなればしめた物。学園においては噂など履いて捨てる程存在し、有象無象の数ある噂に紛れていく。

そして時が経つ内に話の概要だけが一人歩きし、火元は闇へと葬られるのである。
勿論、本当の真相など虚無の彼方だ。

これに比べれば緘口令など児戯に等しい。もっと高度な情報戦の領域ではないか。

「まあ確かに、ご家族にも混乱は招かぬし、一人を除いて丸く収まる方法じゃが……うーむ」

その一人は勿論ギーシュである。誰に非があるかと言えば確実に彼にもあるのだから仕方ないと言えば仕方ない。
だが果たして、教育者として真相を捻じ曲げることがこの場合正しい事なのだろうか。
これは流石のオスマンとて即決できない問題であった。

「……オスマン様」

そんな空気に割って入ったのは、一歩引いた位置に立っていたシエスタだった。

「む、何じゃね?」
「わたくし……メイドと言う役職上、皆様方の部屋を掃除することはよくあることでございますが……」

仮にも学院長の思考を遮った上に、関係の無い話を始めるシエスタの真意を図りかねるオスマン。
だが次の一言を聞き、彼の額に何やら額に珠の様なものが浮かぶ。
479狼と虚無のメイジ八幕 前編 (3/8):2008/12/28(日) 04:42:44 ID:Q7EJZHjn
「三日前の晩のことでございます。ロングビル様の部屋を掃除しておりました折、何やら気配を感じまして」

シエスタの笑顔の輝きに反比例する様に、オスマンの顔面は蒼白になっていく。

「何事かと思い振り向きますと、まあ、なんのことはなく、ネズミでございました、ネズミ。まあ、メイドをしていればよくあることなのですが、面白いのはここからでして」

クスクスと微笑みながらシエスタは続けた。明らかその笑顔の薄皮一枚隔てた向こうに、空恐ろしいものが渦巻いている。

「そのネズミと来たら、何と下着をくわえていたんです。女性物の下着ですよ。なんとも変わったネズミもいるものですよね」

その様子を思い出したのか、シエスタはますます笑顔を強くする。
対してオスマンの顔色は青白いを通り越して土気色だ。

「すぐにロングビル様のものだと解りましたので、何とか取り返さなくては思いまして。でもネズミと言えどもせっかく獲った物を無理やり取り上げるのも可愛そうでございましょう?ですから代わりの物を上げたんです」
「なっ!?」

オスマンの瞳が猫科の猛獣の様に拡大した。息も荒く、脂汗がダラリダラリと滲み出る。

「丁度その直ぐ前……ええとギトー様の部屋を掃除しておりまして……屑篭に、着古した下着が洗濯もせずに捨ててありましたのでそれを」
「ソートモグニィィィィィル!!!!!!!!!!!!」

シエスタが言い終わらぬ内に、オールド・オスマンは顔面を引き攣らせながら自らの使い魔の名を叫んだ。
駆けつけたネズミの使い魔は「どうした?」と言った風に小首を傾げる。

「どうしたの?じゃないじゃろうソードモグニル!よりにもよって野郎の」
「オスマン、様」

自分の使い魔を掴み上げ、喧々諤々まくしたてるオスマンに対し、笑顔を崩さないままシエスタは宣告する。

「考えが纏まらない様でしたら、五日前と八日前と十日前、それと十六日前に見ましたネズミのこともお話致しましょうか?」

愕然とするオスマンの手から、ソードモグニルがちょろりと逃げ出す。

暫しの静寂。

その後、オスマンはその枯れ木の様な体のどこから出るのか、たらりたらりと流れ出る冷や汗を拭う。
そして自らの杖を掲げると、溌剌と答えを出した。

「うむ、グラモンの子倅にも良い薬じゃ。その様に取り計らおう。解散じゃ!」

それはそれは、清々しいまでの笑顔であった。
480名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 04:45:33 ID:m3SOCnj8
支援
481名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 04:45:44 ID:G+5aiksR
支援
482狼と虚無のメイジ八幕 前編 (4/8):2008/12/28(日) 04:46:16 ID:Q7EJZHjn
◆       ◆       ◆       ◆       ◆


「しかし良く思いついたものよ。あれはどちらかと言えば戦で用いる……ふむ、戦術、ではないかや?」

部屋から退室すると、ホロはまずルイズを褒めた。
この作戦、意見はあったものの、大本はルイズが考えたものだった。

「そりゃ、私だって貴族だもの。戦争になれば女子だって加わることはあるし、戦術や戦略、人間心理だって学んでいて当然でしょ?」
「まあ、魔法が使えないんだから当然よね〜」
「……それにしては、意見を出していた」
「こ、こらタバサ」

前ならキュルケの言動には不快感を示していただろうルイズだが、既に二人の様子を見て生暖かい視線を送る余裕が出来ている。自覚は無いのだろうが、目元がとっても優しげだ。

「……でも、シエスタのアレが無かったら即決にはならかったわ」

と、ルイズは後から着いて来るシエスタに言った。

「いえ、ルイズ様。私はネズミの話をしただけですよ?オスマン様は何か勘違いなされたのかもしれませんが……ね?」

あくまで自分は事の仔細は何も知らない平民だと言うことか。本当に色々と『心得て』いる。

「……それよりも」

その時、シエスタの笑顔が、一転して凛としたものを宿す。

「御自らの名声に泥を被ることも厭わず、平民如きを庇って頂いた事、真に感謝の言葉もございません。火急の時はこの身に変えましても皆様方のお役に立てる様尽力する次第にございます」

実に柳眉な一礼だった。三文貴族の形ばかりの礼ではない。
自らの感謝をただ形にした、見惚れる程の礼だった。

「まあ、堅苦しいのは兎も角、何かありましたらお気軽にお申し付け下さい。それこそ『色々と』お役に立つ自身は御座いますので」

一転、眩いばかりのスマイルを浮かべるシエスタ。色々を強調した辺りに、ルイスは何とも言えない底の深さを感じた。
明らかにただの平民とは一線を画している。かと言って貴族ではない。

困惑するルイズを他所に、何時の間に移動したのやら、ホロがキュルケの背中をツンツンと突付いていた。

「さて……言い出した者がよもや忘れておらんよな?」

その問いかけに、キュルケはふふんと鼻を鳴らし、胸を反らす……と言うより、踏ん反り返らせて答えた。

「あったり前よ!こちとら生まれも育ちもちゃっきちゃきのゲルマニアよ!売られた喧嘩は元より、売った喧嘩を取り下げるなんて野暮なことはしないわ!」
483名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 04:48:09 ID:G+5aiksR
支援
484狼と虚無のメイジ八幕 前編 (5/8):2008/12/28(日) 04:48:30 ID:Q7EJZHjn
限界かと思われた胸を更に反らす。流石に無理だったらしく、タバサが杖でちょいと支えた。
絶にして妙なチームワークだ。

「と、とと……それで!?勝負の方式は心当たりがあるって言ったわよね!何!?スリーサイズで勝てるとは思わない事ね!」
「……」

その発言を聞いた途端、タバサが支えの杖を外してしまう。
当然キュルケは倒れこむが、ギーシュと違ってバッチリと受身を取って起き上がる。

ああ、こういう娘だったんだなあ。
そう心から思うルイズの視線がより一層生暖かい。
タバサは手持ち無沙汰になったのか、懐から本を取り出して読み始めた。実にグタグタである。

「……ふむ。ぬしの二つ名は微熱と言ったかや。中々に浮名を鳴らしている様子じゃな?」
「それはもう、北はペリッソンから東はギムリまで。五・六人は常にお付き合いしてるわよ」
「ふむ、色恋については中々の手前と見えるのう。そこで、どうじゃ」

そう言うと、ホロはキュルケに不敵な笑みを浮かべる。

「『女を競う』と言うのはどうじゃ?」
「!」

つまりそれは『どちらがより雌として勝っている』かを決めると言うこと。
女同士の決闘に、これほど相応しい勝負があろうか。

「ふふ……ふふふふ!随分と粋な勝負を考えてくれるじゃない!」

キュルケの瞳にメラメラと炎が燃え上がる。正に今、彼女の情熱一途なゲルマニア魂に火が点いた証拠であった。

「あ!何だか興奮してきたわ!これぞ情熱の律動ね!私の二つ名は『微熱』だもの!松明みたいに燃え上がり易いの!でも良いの?私の勝ちは決まった様なものよ!?」
「くふ、さてどうかのう……」

既にキュルケにとっては勝負の方が目的になっている様だ。勝った際の履行条件を覚えているかも怪しい。

「えーと、盛り上がってるところ悪いんだけど……」

弥が上にもも盛り上がる空気に割り入ったのは、二人(一人と一匹?)の動向を見守っていたルイズである。

「女の魅力って言ってもさ、どうやって白黒つけるの?部屋に男を呼び込んだ数とかだったら絶対協力しないわよ」
「むぅ……駄目かや?」

そう言って媚びる様な上目遣いになるホロ。若干潤んだその目を見れば、大抵の男はイチコロであろう。
485狼と虚無のメイジ八幕 前編 (6/8):2008/12/28(日) 04:50:46 ID:Q7EJZHjn
「……流石に空気が伴ってない色仕掛けは、同性にはそろそろ通じないわよ?」
「ふむ、流石に使い過ぎは良くない。しかしぬしの反応は可愛らしいから、ついついのお」
「あう」

カウンターを入れたつもりが、クロスで返される。いきなり素に戻って笑顔で弄るとか反則だ。
だが今回の件は流石に許容出来ないのか、一拍置いてルイズは説明に戻る。

「……あー、私情も無いと言えば嘘になるわ。でも、そんな逢引みたいな事がバレたら、今度こそ何か処分受けると思うわよ?女子寮に男子が居るってだけで問題になるんだから」
「あら、私はいっつもやってるわよ?」
「……そう言えばそうだったわね。だからって勝負ごとになったら人数だって増えるでしょう。サイレントの魔法を使ったとしても、隠し覆せるとは思えないわ」

キュルケの言葉に、呆れた様にルイズが返す。
たまに隣から聞こえてくる愛の囁きには辟易していたが、実はかなりの考え無しだったとは。ツェルプストー家とは因縁深いが、ここまで奔放だと流石に心配になってくる。
客観的なルイズの意見には二人とも同意した様なので、まず一安心だが。

「まあ、ここまで来て止めろとは言わないけど、勝負内容はもう少し考えた方が……」
「でしたらー」

突然シエスタが後ろから顔を出した。

「私に良い考えがありますよ」

例によって感情の読めない微笑み。自然と円陣を組むように、一同がシエスタの話に耳を傾ける。
最初は何事かと言う顔をしていた一同だったが、次第に「へぇ」とか「ほぉ」とか言った呟きが漏れ始めた。
最終的にルイズの「まあ、これなら……」と言う言質も取れ、勝負方法が決定する。

「それでは私は準備がありますのでこれにて。開始前の数分で宜しいので、その時はタバサ様、お願いします」
「ん」

どうやらタバサも手伝う様だ。顔には出さないが、読書を中断しても準備を手伝う価値を見出せる内容だったのだろう。
パタパタと走っていくシエスタに、小さく頷く。

「くふ、これは随分と愉快なことになりそうじゃのう?」
「あら、余裕ね。でもツェルプストー家を敵に回してタダで済むとは思わないことね」

当事者のホロとキュルケはやる気満々だ。
死人どころかケガ人も出ない内容だったので、二人を宥めつつもルイズの顔は穏やかだが。

「それじゃ、今日から六日間、放課後のヴェストリ広場に集合と言うことで」

ルイズの一声にその場は解散となった。
486狼と虚無のメイジ八幕 前編 (7/8):2008/12/28(日) 04:52:49 ID:Q7EJZHjn
◆       ◆       ◆       ◆       ◆


放課後。
生徒への一連の事件の説明も終え、学院長の椅子に腰を降ろすオスマン。
早朝に訪れた五人の少女を思い起こし、オスマンは軽く溜息を吐いた。

「わしはのう、院内の風紀がそれほど乱れていなかったことに喜ぶべきなだと思う。それは実に、心からの素直な気持ちじゃ……」

深く皺の刻まれた顔。そして虹彩の薄くなったその瞳は何を思うのか。
脇に控えるコルベールに事の次第を説明していると言うより、自らに言い聞かせているかの様だ。

「じゃが、それ以上にのう……この齢となっても未だ計り知れぬ、女子の深淵の一端を垣間見た様で、なんとも、こう……」
「背筋が寒くなりますか」
「そう、それじゃよ。ミスタ・コルベール」
「私はむしろ学院長が犯罪に走ると言う事態に寒気を覚えます」
「いや、犯罪者ではない。せめて性職者と」
「この部屋、空気の湿り気がほど良いですね、学院長……」
「用件を聞こうか、ミスタ・コルベール?」

途端にキリっとした表情は、仮にオスマン氏が変態でも、変態と言う名の紳士であることを伺わせる。
コルベールはこめかみにうっすら青筋を浮かべ、にこやかに抱えていた本を開いた。

「ミス・ヴァリエールが召喚した、あのホロと言う少女ですが、文献によると現在目撃例の稀有な獣人の類ではないかと」
「ふむ、しかしここ暫くはは人とのハーフしか目撃例が無かった様じゃが?ウェザリーだったかのう」
「ですが、他に該当する種族が見当たらないのも確かです。古い御伽噺であれば『大きな獣が人の姿をとった』と言った物も多くありますが、幻獣でもない獣が人の形をとるのは眉唾ですしね」

突然、オスマンの目が鋭くなる。

「ミスタ・コルベール。『化生』という存在については知っておるかね?」
「……いえ、何でしょう、それは?」
「何じゃ、知らんのか。今君が言った御伽噺……辺境の口伝に残る、巨大な、そして知恵を持った獣じゃ。トリステインの創世記にもあったじゃろう」
「……待って下さい、オールド・オスマン。身の丈が雲を突き抜ける大海蛇は無理があるでしょう」
「それが真実だとは思っておらんよ。先住魔法を用いる韻獣という線はあるかもしれん。その辺りの文献にもアタリをつけて貰えんかのう」

コルベールは露骨に顔を歪めた。ドラゴンやグリフォンと言った幻獣ならばともかく、実在も怪しい御伽噺まで調べれば相当な範囲になる。
がくりと肩を落としたものの、それくらいで凹んでいては教師はやっていられない。直ぐに気を取り直して別の話題に移る。

「ああ、それと彼女についてもう一つ。ルーンが珍しいものだったので調べていたのですが……」

言いつつ、コルベールは懐から別に紙を取り出した。
487名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 04:54:42 ID:m3SOCnj8
支援
488狼と虚無のメイジ八幕 前編 (8/8):2008/12/28(日) 04:55:07 ID:Q7EJZHjn
「彼女のルーンですが、似た物の中でも興味深い物がありまして。写しではありますが、これです」
「これは……ふむ。始祖ブリミルの四人の使い魔か……随分と骨董品じゃな」
「はい、こちらの文献では擦れて判別がつきかねますが、彼女のルーンが刻まれているのは右手ですから、二番目に紹介されている『ヴィンダールヴ』が妥当でしょう。もう少し鮮明な資料を探しているんですが、取り急ぎですね」
「ふむ……もしそれが本当ならば……事じゃな」

髭をさすりながらも唸るオスマン。伝説の虚無の使い魔が現在に蘇ったとなれば、王立の研究所の格好の的である。

「当面は秘密裏に頼むぞ。ミスタ・コルベール」
「心得ています。願わくば杞憂であって欲しいとも思いますが……」

そう囁きあう二人に、後ろからコンコンとノック音。

「ロングビルです。オールド・オスマン」
「む、入りたまえ」
「失礼します」

緑髪をかき上げ入室したのは、妙齢の魅力も鮮やかな学院長つきの秘書、ミス・ロングビルだった。

「御指示の通り、一部改竄した噂と、まったくのデタラメな噂を生徒や使用人に広めておきました」
「ご苦労、ミス・ロングビル。その有能さであれば、時期に良き相手も見つかるじゃろうて」
「ほほほまあー学院長。肩に埃が!」

オスマンの一言に見事な青筋を立てると、ロングビルは枯れ木の様なオスマンの足を尖ったヒールで踏み潰す。

「ちょっ!そっち!?」

踏まれた部分を手で押さえ、ぴょんぴょんと跳ね回るオスマン。腰の曲がり具合からして、ホロが見れば「ノミのようじゃ」と漏らしたに違いない。

「フェイントとか勘弁じゃわ……」
「先にセクハラを勘弁して下さい……あ、それと先程ヴェストリ広場で面白い物を見ましたよ」
「む、何じゃね?」
「ミス・タバサの実験だそうです。人間心理の研究だとかなんとか」
「……ふむ?」
「放課後に、今日を含めて六日行うそうです。危険なものでないのは私も確認しましたので、ひとまず物見の鏡でご覧になっては?」

言われてとりあえず杖を振り、物見の鏡を覗き込むオスマン。
ます目に飛び込んできたのはいつもどおり生徒達が集う広場だった。

「……何じゃ。これ」

尤も。
広場の片隅に設置された、ある物を覗けばの話だったが。
489名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 04:55:48 ID:IqAnkpCK
キュルケの台詞でヘェーラロロオールノォーノナーァオオォーを思い出した支援
490名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 05:00:44 ID:m3SOCnj8
これで終わりかな支援
491狼と虚無のメイジ:2008/12/28(日) 05:03:15 ID:Q7EJZHjn
前編、以上になります。
中、後編も推敲段階ですので、本日隙を見つつ投下して行きます。
今回も結構悪ノリしてるので、スルーの魔法はお早めに。
492名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 06:07:27 ID:A8FyAAaW
>「まあ、堅苦しいのは兎も角、何かありましたらお気軽にお申し付け下さい。それこそ『色々と』お役に立つ自身は御座いますので」
自身×
自信○
>広場の片隅に設置された、ある物を覗けばの話だったが。
覗けば×
除けば○
493名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 08:25:18 ID:sn9WwSsS
あ、ありのままに(ry
投稿された皆様に乙&GJ!
次回に超wktk。
494名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 08:55:09 ID:b3ZmtaLo
>>狼の人
乙&GJ
ただ、オスマンの使い魔はモードソグニルですよ
495名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 09:28:06 ID:Hvlg/JVt
でかい釣り針だぜ・・・喰いつきたくてたまんねー!
496名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 09:46:07 ID:oMrw+aSZ
ところで昔のSDガンダム祭りに出てくる
初代Gフォースことナイトガンダム、コマンドガンダム、武者ガンダムを
ルイズが召喚するとかありなのだろうか?
497ゼロの氷竜 ◆Mzy8Osstcc :2008/12/28(日) 10:20:11 ID:AWAoZvK8
誰もいない……?

投下するなら今の内……

10:25ぐらいから……
498名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 10:22:27 ID:5CDyFTF4
支援?
499名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 10:23:42 ID:8VuqH37Q
ktkr支援
500ゼロの氷竜 ◆Mzy8Osstcc :2008/12/28(日) 10:25:47 ID:AWAoZvK8
ゼロの氷竜 十四話

トリステイン魔法学院の中心にある本塔、その西側に位置するヴェストリの広場は昼間で
もあまり日が差さない。
必然的に植物の生育などは遅れがちになり、草地の合間を縫うように土が見えている。
そのヴェストリの広場で、決闘が行われていた。
暇をもてあまし、物見高いはずの魔法学院の生徒たちの姿はほとんどない。
その場にいるのは決闘をしている二人。
立会人たる年かさのいった男が二人と少女が三人。
そして裁定人たる銀髪の女だけ。
そのブラムドの視線の先で、決闘者の一人、ギーシュ・ド・グラモンが呆然と立ちつくし
ていた。
ギーシュは驚愕していた。
目の前の惨状に。
広場の土に掘り返された跡はない。
学院を構成する本塔も支塔も、何一つ変わりなくそびえ立っている。
さらにギーシュ自身も、決闘の相手も、ブラムドにも立会人にも傷一つない。
今この場で行われているのが決闘だと理解していても、当事者以外はその最中だと思わな
いだろう。
だがたとえそれがギーシュの主観でしかないとしても、彼の目の前に広がる光景は紛れも
なく惨状だった。
その何も起こっておらず、誰一人傷ついていないという惨状を見ながら、ギーシュは心の
中で誰へともなく問いかけた。
……なぜ、こんなことになったのだろう……?
と。

人間に限らず、ある程度高等な頭脳を持つ生物は、思考と反射を繰り返している。
だが想像もつかない状況に陥ったとき、思考も反射も瞬間的に止まってしまう。
恐怖によって体を縛り付けられるのではなく、怒りや喜びや悲しみに心の全てを支配され
るのでもなく、思考と反射の間に隙間が生じてしまう。
似たような状況に置かれることで学ぶことは出来るが、それが初めての体験であれば経験
など存在しない。
自室の扉を開いた瞬間、慣れ親しんだ部屋の中に猛り狂うマンティコアやワイバーンがい
たとしたら。
朝目覚めた瞬間、カッタートルネードやファイヤーボールの餌食になりかけていたら。
第三者が安全な場所で見ていたとすれば、喜劇となりえるかもしれない。
当事者に生命の危険がなければ、その可能性はより高まるだろう。
しかし、そんな不条理さに直面した人間にとってはどうか。
ギーシュにとって目の前の状況は、正にそんな理不尽さに満ち溢れていた。
十数年間生きていれば、様々な状況は体験している。
関わり合うのが両親だけであれば、理不尽さは成長する一時期に限られるだろう。
自身の成長に従い、両親の正しさが理解できるようになる。
だが兄弟姉妹がいれば、大きく話は変わってくる。
幼きものが組み上げた独自の規則は、往々にして余人が理解できるものではない。
とはいえ幼き日に受けた苦痛など、今ギーシュが直面している事態とは比較の対象として
すら不足している。
太陽とランプの明かりを比べる人間がいないように。
メイジにとってはその存在の全てともいえる魔法の力が、初めからなかったかのように消
えてなくなる。
それを理不尽や不条理以外の何といえばよいだろう。
傍らに立つ数人のメイジも、驚愕の表情を顔に貼り付ける以外にできることはない。
ギーシュを教導する立場のコルベールや、その上に立つオスマンも含めても、対処を思い
つくものは存在しなかった。
そんな、あまりにも超越した事態に呆然と立ち尽くすギーシュの前に、決闘の相手である
一人の少女が立っていた。
長い棒を持った、髪の短い少女が。
501ゼロの氷竜 ◆Mzy8Osstcc :2008/12/28(日) 10:26:26 ID:AWAoZvK8
怒声を発したキュルケの前で、シエスタとギーシュを取り囲む人垣の一部が割れる。
必然的に、ルイズを抱きかかえるキュルケへ視線が集中していた。
普段華やかな表情や態度を崩すことがないキュルケが、こうまで怒気をあらわにする理由
がなんなのか、気付くものは非常に少ない。
それはつまりギーシュの本質を見抜いているものが、その程度しかいない証でもある。
「やぁ、ミス・ツェルプストー」
ギーシュが声をかけ、挨拶を口にしようとした瞬間、キュルケのゆるんだ手から解放され
たルイズが膝をつく。
「ヴァリエール様!?」
ギーシュの口と喉の境目まで、その声が出かかっていた。
口を半開きにしたギーシュは不機嫌さを隠そうともせず、ルイズの元へ駆け寄るシエスタ
の背中をにらみつける。
……どうしたというのだろう。
と、キュルケは疑問を浮かべた。
普段のギーシュであれば、そういった表情は極力隠そうとする。
おそらく教育のたまものだろうが、女性に嫌われる要素は廃すように行動していたはずだ。
「大丈夫よ、ちょっと疲れただけだから」
ルイズの言葉に、シエスタは胸をなで下ろす。
会話の隙間を確かめながら、ギーシュはキュルケへの挨拶を続けようとする。
「そんなに不機嫌な顔をするなんて……」
「シエスタ!! その膝はどうしたの!?」
再びギーシュの言葉を遮ったのは、ルイズの言葉だった。
高い声の方がよく通ることは自明だが、ギーシュとしては面白いはずもない。
キュルケと視線を合わせていたため、辛うじて表情に出すのは抑えていたが、口の端が引
きつるのは止められなかった。
当然、キュルケがそれを見逃すはずもない。
「少し打っただけで大したことはありません」
遠慮がちなシエスタの言葉に、ルイズは心配そうな表情を浮かべるが、自身ではどうする
こともできない。
ふとした沈黙が落ちたことを見やりながら、ギーシュは三たび話し始める。
「ミス・ツェルプストー、君らしくも……」
「タバサ!?」
表情が変化しようとしている最中というものは、基本的に間抜けなものだ。
無表情から笑みを浮かべようとし、しかも話しながらであったために口を半開きにした
ギーシュの表情は、お世辞にも麗しいとはいえなかっただろう。
ただし、それだけで笑い声を上げるのは貴族としての気品にかけると言っていい。
我慢できずに口元を抑えた人間が人垣の中に何人かいたとしても、愛嬌というものだ。
だが笑顔を向けられるのではなく笑われかけている状況に、ギーシュの機嫌が良くなる道
理はない。
ルイズの顔の横から長い杖を差し出し、タバサがシエスタの膝へ治癒の魔法をかける。
その様子を見ながら、表情を殺したギーシュのこめかみがわずかに痙攣していた。
そんなギーシュの様子に気付かないまま、礼の言葉や紹介の言葉を交わす三人の少女に、
キュルケは心の中で呆れる。
……人がせっかく適当に納めようとしてるっていうのに……。
三人の少女が、その中の一人の無表情さを除いて和気藹々としている。
ギーシュは自分をないがしろにする少女たちを眺め、制裁を加える方法を考えていた。
不意に、天啓がギーシュへと舞い降りる。
事実は悪魔のささやきに過ぎないが、今のギーシュに気付くことはできない。
気付かぬ故に、踏みとどまることもできなかった。
「メイド君」
つぶやくようなギーシュの言葉に、シエスタがはっと振り向く。
「あ、も、申し訳ありません」
「君が僕の言葉を取り下げるチャンスを与えよう」
ギーシュの顔に、歪んだ笑みが浮かんでいた。
「どうすれば、よろしいのでしょう?」
表情の裏側にある悪意を透かし見ていながら、シエスタは友のために問いかける。
かつて友が流した涙を、自らの手で受け止めるために。
502ゼロの氷竜 ◆Mzy8Osstcc :2008/12/28(日) 10:27:56 ID:AWAoZvK8
「僕と決闘してもらおう」
貴族と平民との決闘。
二者の能力が決定的に違う以上、貴族にとっては一時の暇つぶしに過ぎない。
だが平民にとっては無理や無茶といった度合いではなく、死刑宣告にも等しい。
一瞬の沈黙が場を支配した直後、声を上げたのはルイズだった。
「ば、馬鹿なことをいうのはよしなさい!!」
「何が馬鹿なことなのかな? ミス・ヴァリエール」
慌てるルイズと、それを嘲笑うかのようなギーシュの温度差は対称的だ。
「学院内での決闘は禁止されているはずよ!!」
「確かに、貴族同士の決闘であればね。しかし、彼女は貴族ではない」
貴族同士の決闘は、殺し合いになりかねない。
近隣諸国に名の知れたトリステイン魔法学院は、他国からの留学生も多数抱えている。
メイジとしての能力故に、殺し合いにもなりかねない貴族同士の決闘が禁止されるのは、
至極当然だろう。
一方でギーシュのいうように、明確に禁止されているのは貴族同士の決闘でしかない。
ルイズの心情はともかく、貴族と平民の決闘が禁止されていない以上、彼女にはそれが間
違っているとはいえなかった。
「そして僕のためにモンモランシーが作ってくれた香水を、その足で踏み砕いてくれた彼
女には、それなりの罰が必要じゃないかな?」
香水の調合には、手間と技術が必要となる。
多くの貴族にとっても、決して安いものではない。
さらに個人用に調合されたものとなれば、値段だけの問題ではなくなるだろう。
だが、それでもルイズに友を見捨てることなど出来はしない。
ギーシュを翻意させるためになんといえばいいのか、ルイズは必死で頭を巡らせる。
「平民の失敗を許すのは、貴族の度量を示すことではないかしら?」
ルイズは非常に真面目な人間だ。
だからこそ、それを知っている人間は予想しやすい。
その言葉は、ギーシュの予想の範囲内でしかなかった。
「あの粉々に踏み砕かれた香水瓶と、僕のこの有様を見て、なおも罰は必要ないと?」
言葉通り、頭から大量のケーキをかぶったギーシュの姿は、酷いとしかいいようがない。
見かねたキュルケが声をかける。
「その服を洗うのもメイドの役目じゃない? 今すぐ彼女にやらせればいいでしょう」
この一時、ギーシュの普段のそこはかとない頭の悪さはなりをひそめていた。
神がかっている、もしくは悪魔が乗り移ったかのように。
「ゲルマニアではそうかもしれないが、ここはトリステインなんだよ」
国を盾にされ、キュルケは思考の転換を図るのにわずかな時間を必要とした。
その間隙を、ギーシュが突く。
「それともミス・ヴァリエール。トリステインの名だたる名家であるヴァリエール家の息
女が、グラモン家の僕に命じるかな?」
家名でもって言葉を封じる。
仮にその魔力が弱かったとしても、ルイズがまともなメイジであればそうすることが出来
たかもしれない。
しかし少なくとも今、ルイズはメイジの名に値する力を持っていなかった。
その自身が、どうして貴族として、メイジとして名高い自身の家名を使うことが出来よう。
ルイズの足には楔が打ち込まれ、踏み出すことなど望めない。
シエスタはルイズの青ざめた表情を見やり、自らの本心を知る。
自分で思っていた以上に、ルイズを大切な友と考えていたことを。
殺されないまでも、手足が不自由になれば仕事を失うことになる。
実家への仕送りが途絶えてしまえば、家族を飢えさせる結果にもなりかねない。
そしてもちろん、シエスタ自身が死ぬ可能性もある。
一歩を踏み出してしまえば、後戻りは出来ない。
「決闘を、お受けします」
若さが、そうさせた。
愚かさが、そうさせた。
その両方が、シエスタの口を動かした。
友への気持ちが、シエスタの心を動かした。
嘲笑うものもいるだろう。
だがその行動に感じ入るものも、少なからず存在した。
「その決闘、我が預かる!!」
503ゼロの氷竜 ◆Mzy8Osstcc :2008/12/28(日) 10:28:28 ID:AWAoZvK8
声の持ち主を、無数の視線がさがす。
やがて一つの視線が定まり、他の視線もそれに追随する。
次の瞬間、再びコルベールに杖を借りたブラムドの姿が、その視線の先から掻き消える。
『転移』によって目前に現れた使い魔の姿に、ルイズがつぶやく。
「ブラムド?」
その言葉に、幾多の目線が再び移動させられる。
不安げな主の頭をなぜながら、背後のオスマンに声をかける。
「構わぬかな? オスマン」
視線が、オスマンへと突き刺さる。
「よろしいでしょう。ただし、わしも見届けさせてもらいます」
厳格そうなその声と違い、オスマンの瞳には面白がるような光が浮かんでいた。
「当然だな。コルベール、お前はどうする?」
「は? や、む、無論私もいかせていただきます!」
是とも非ともいわず、ブラムドは自らの主へと顔を向ける。
「ルイズ、キュルケ、タバサ、お前たちは?」
「いくわ」
ルイズは、一瞬の躊躇すら見せない。
「こんな面白そうなこと、見逃せるわけがありませんわ」
キュルケが、彼女らしい返事をする。
「いく」
タバサも、彼女らしく短く答えた。
「グラモン、立会人の当てはおるのか?」
ブラムドの言葉に、ギーシュが眉根に筋を刻む。
ギーシュはブラムドがことさらに聞くことで、自分に恥をかかせたいのだと邪推する。
ギーシュに心を寄せていたケティとモンモランシーがこの場から立ち去った今、それを期
待できる相手はほとんどいないからだ。
それを裏付けるように、ギーシュが周囲を見渡してみても、顔を背けるか下卑た笑いを浮
かべるような輩しか存在しない。
失望が、ギーシュをいらだたせる。
「無用です!」
不機嫌さを隠そうともせず、ギーシュが答えを返した。
無論、ギーシュの邪推は的外れなものに過ぎない。
ブラムドは単に釣り合いを考えただけだ。
シエスタ側だけ立会人がおり、ギーシュ側にいないのでは決闘の公平さが保てなくなる。
「ではオスマンとコルベールはグラモンの立会人としてもらおう」
ブラムドの視線の先で、二人の教師が頷いた。
上位者である二人の様子を見て、ギーシュは拒絶を断念する。
うなだれるように頷いた少年を見やり、ブラムドは周囲に向かって宣言した。
「では双方の立会人は決まった。他のものの立会いは許さぬ」
小さな、さざ波のような不平の声を、ブラムドに耳がとらえる。
よく言えば好奇心、悪くいえば野次馬根性といわれるそれを、完全に抑えられる自制心を
持つ貴族は数少ない。
まして精気に溢れた若者たちが集まっていれば、稀少というにふさわしいだろう。
とはいえブラムドの思惑通りに事を運ぶためには、人払いをする必要がある。
……幼子を脅かすのは性に合わんな。
困ったようなブラムドの様子に、一人だけ気付いたオスマンが助け船を出す。
「諸君、客人の言われたことへの返事をせぬのか?」
声に滲む威圧感を背中に受けた生徒の一人が、慌てて杖を掲げる。
決闘者と立会人、そして裁定者となったブラムド以外の貴族が持つ杖が、天井へ向けて掲
げられた。
「杖にかけて!!」
唱和する声が凪いだあと、ブラムドがギーシュに声をかけた。
「その姿で決闘もあるまい。身を清めるが良かろう」
ブラムドの言葉に、ギーシュは改めてその有様を自覚する。
「では、申し訳ありませんがしばし失礼いたします」
そういいながら、ギーシュは食堂に背を向けた。
504名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 10:28:44 ID:XFFS8GD1
支援!
505ゼロの氷竜 ◆Mzy8Osstcc :2008/12/28(日) 10:29:23 ID:AWAoZvK8
食堂を出たギーシュは、ひとまず自室へと向かう。
道すがら、その有様に顔をゆるめかける人間もいたが、ギーシュの怒りに歪む表情を見て
あわててその顔を引き締めた。
恥をさらされていることに、ギーシュの怒りはさらに増すこととなる。
自室に入ったギーシュはひとまず鏡で確認し、はり付いていたフルーツを落とし、クリー
ムをタオルで拭う。
油で撫でつけられたように潰れた髪を見て、着替えを掴んで大浴場へと足を向ける。
脱衣所に着いたギーシュはマントを外し、服を脱ぎ、それらを腹立ち紛れに籠へと力一杯
投げ込む。
怒気を吐き出すようなため息を一つして、浴場の扉を開いた。
昼を少々過ぎた程度のこの時間、当然大浴場の火は落とされている。
昨晩湯を沸かすのに使われた火石の残滓はあるが、暖かいとはとてもいえない。
ギーシュはぬるま湯というにも足りないそれを、頭からかぶる。
拭うだけでは取り切れなかったクリームを、石鹸を使って丁寧に落とす。
泡を流すために、再び冷たくはない水をかぶる。
体から熱が奪われると同時に、茹だっていた頭も冷まされていく。
怒りによって短絡化していた思考が、にわかに覚醒し始める。
再び香水瓶を踏み砕かれたことに怒りを覚え、ケティとモンモランシーの態度に困惑し、
決闘のことを思い出したギーシュは、ため息をつくようにつぶやく。
「……僕は何をしてるんだ?」
一度覚めてしまった頭は、先刻ほどの怒りを再現することは出来ない。
元々ギーシュに、平民に対しての差別意識はほとんどなかった。
それがなぜ露骨に見下すようなことをいったのか、本人にとっても疑問になる。
ケティやモンモランシーと親しく、友人たちと楽しく過ごしていたはずの自分に、これほ
ど鬱屈した感情が眠っていたとは。
そのことを、ギーシュ自身が強く驚いていた。
後悔という名の長いため息が、大浴場に響く。
しかし貴族が一度口にしたことを、しかも大勢の前でいったことを覆すのは簡単ではない。
平民を下に見ることはなくとも、貴族としての誇りはギーシュの身に宿っている。
唯一の救いは、決闘を見届ける人間が少ないことだろう。
その考えがブラムドの思惑通りであることに、ギーシュは気付けなかった。
気付く必要のないことでもあったが。
とはいえ、見届け人が少ないことを突破口にするにもどうしたらよいのか。
先刻までルイズやキュルケを翻弄した頭の冴えが、泡沫のように消え去っていた。
無論怒りに身を任せるような人間が、それほど犀利なはずもない。
怒りに赤く染まっていたはずのその顔が、今度は見る間に青ざめていく。
当然、ぬるま湯に体を冷やされたことが原因ではない。
急転直下というに相応しく、ギーシュの頭は混乱を極める。
決闘となれば、魔法を使わないわけにはいかない。
だがギーシュが得意とするゴーレムで、怪我を負わせずにどうやって納めればよいのか。
戦いのために技術を磨いてきたギーシュには、残念ながら数をもって穏便に取り押さえる
という発想がない。
頭を抱えながら大浴場を歩き回るギーシュに、光り輝く救世主が現れる。
「ミスタ・グラモン」
決闘の場所を伝えるため、大浴場の扉を開いたコルベールだ。
教師である彼は、大浴場の中で青ざめ、頭を抱えるギーシュの姿を目の当たりにする。
「や、ど、どうしたのですか?」
心配そうなコルベールに、ギーシュは青ざめた顔で助けを求める。
「ぼ、僕はどうやって彼女を傷つけずに決闘を収めれば良いでしょう?」
今にも泣き出しそうなギーシュの言葉に、コルベールは教師としての喜びを噛みしめる。
同僚の教師のみならず、生徒からも研究馬鹿と見られているコルベールは、生徒から質問
をされたり助言を求められることがほとんどない。
それがこうまで面と向かって助けを求められれば、その喜びもひとしおだろう。
ゆるみそうになる口元を無理矢理引き締め、対応策を講じ始める。
「そうですね……」
と考えるコルベールは、ギーシュにとっての救世主に相応しい輝きを見せる。
「これで、どうでしょう……」
506ゼロの氷竜 ◆Mzy8Osstcc :2008/12/28(日) 10:30:10 ID:AWAoZvK8
以上です。


ずっとギーシュのターン!!!!(ある意味で)


あとついでに、投下済みの話に細かい修正をしてたりします。
ブラムドがオスマンに借りた杖とか細かくない部分もあったりしますが、
違和感があったら質問したり読み直したり願います。
お手数かけてすいませんです。

さらについで。
修正のために読み直してて気付いたんです。
十四話まできてるのにうちの使い魔さんいっぺんも闘ってない……w
闘いになる相手がおらんつーのはそうなんですけども、
このままでええんじゃろかとちょと不安がよぎったですよ。
ま、不安を感じてるだけでも意味ないのでとっとと続き書きますがw


で、申し訳ありませんが、次回は無論来年です。
出来るだけ早くはしたいと思っていますが。

感想をくれる方々、応援スレで応援してくれる方々、
投下時に支援してくれる方々に多大な感謝を。

来年もがんばるよ。

では、皆様良いお年を。
507名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 10:40:17 ID:u8CvfKTP
ブラムドの人、乙
ギーシュにはコルベールの頭が反射する光が後光に見えるのだろうなw
508内緒:2008/12/28(日) 10:45:39 ID:HXXJN18I
氷竜さま、投下乙です!

さて、10時50分くらいに投下宜しいでしょうか?
本来なら200スレ記念に投下したかったのですが、29日〜30日はコミケに行くので…

後、トリップって「題名##○○」で良かったでしょうか?
509内緒 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 10:52:43 ID:HXXJN18I
むぅ…反応が無いのは寂しいですが…。
時間なので投下します。
俺の、全てを、ここで出し切るつもりで書きましたので、お楽しみを
スレ違い…では無いよなぁ。たぶん、きっと


「宇宙のっ!!」
ドッカーーン!!!
毎度お馴染み、春の使い魔召還の儀。テンプレ通り、ルイズは爆発を起こし続けていた。
「ルイズ、プゲラ。」
周囲の生徒達もまともな台詞で馬鹿にするのも飽きたのかぞんざいな事を言う。
だが、ルイズは決して諦めない。
なぜならファーストキスから始まる二人の恋のヒストリーが来る事を体内に刻まれた虚無の力が教えているからだ。
これが長編や恋愛重視の短編ならいいのだが、如何せんここは滑稽無糖なギャグ短編。
ルイズの期待は最悪な形で裏切られるのである。
ドッカーーン!!!
爆発と共に凄まじい存在感が周囲に発生する。
思わず杖を構えてしまったタバサは首を傾げる。
感じたのは存在感である。威圧感ではなく、殺気でもなく、ただの存在感。
(存在感にしては、大きすぎる気もするけど)
爆煙はいまだに残っており、何が召還されたかわからないがルイズ自身も魔法成功を実感したのか、監督役の教師であるコルベール(コイツも杖を構えていた)と笑顔で頷きあっている。
「あらあら、どうやら成功したみたいね。がっかりだわ。」
そう言ったのは隣にいるキュルケ。発言の内容に対して笑顔である。
「心配だったの?」
「な、何言っているのよタバサ!私がルイズの心配なんてする訳無いじゃない!」
顔を真っ赤にして言うキュルケに対してタバサはいつもの無表情で告げる。
「分かり易いツンデレ、乙。」
「あんたって偶に口を開くとほんと、きついわよね。…と、煙が晴れて来たわね。」
キュルケの言うように煙がはれて来て、ルイズが召還した存在が判明しようとしていた。
ルイズは高鳴る胸を押さえながらどんなものが現れてもいいように身構える。
そして、召還されたそれは、朗らかに、清々しく、右手を上げて、挨拶をした。







「Fix(フィックス)!!」






「いっやーーーーーーっ!!!!!!!!!」

召還されたそれを見て、ルイズはあらん限りに叫び、気絶した。
後にタバサはこうコメントする。
全身全霊の悲鳴と言うものがこれほど響くとは知らなかったと。

リファインな使い魔
510名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:02:54 ID:sn9WwSsS
ブラムドの人乙です。
さてギーシュの運命やいかにww
次回にwktk。
511リファインな使い魔 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 11:03:28 ID:HXXJN18I
ルイズが目を覚ましすのに掛かった時間はさほど長くなかった。
視界内にいたコルベールに安堵しながら言う。
「すみません、ミスタ・コルベール。私ったら、自分の爆発に巻き込まれて気絶しちゃうなんて、すぐにでも試験を再開しますわね。」
朗らかに言うルイズに対して、コルベールは心底同情しながら事実を告げる。
「あー、ミス・ヴァリエール。残念ですが…」
コルベールが視線で指した方向には、“アレ”がいた。
「…夢で無いでやんの。」
心の底から吐き出した台詞にいたたましくなりながらも、コルベールは最後通告を述べた。
「あー、ミス・ヴァリエール。コントラクト・サーヴァントを…」
「嫌です。」
ルイズは速攻で拒否した。0.1秒にも満たないのでは無かろうか。
「いや、気持ちは本当によくわかるが…」
「嫌だと言ったら嫌なんです!!」
そして、ついに直視したくもない“アレ”を指さして叫んだ。
「だって、どう見ても変人…。いいえ、変質者じゃ無いですか!?」
そう、ルイズが召還した存在はどう控えめに表現しても変質者だった。
裸に変な形をした ――よりにもよって股関の部分が大きく箱型で膨らんでいる―― パンツらしきものを履き、頭は角が二本付いていてフルフェイスで表情が伺えない兜を被っている。
全身全霊で“自分は変態です!!”と叫んでいるようにしか見えない。
ちなみに、洗濯物を取り込もうとしていた黒髪のメイドが
「ガ、ガンダムたわ。しかもRX-78-2。伝説のファーストガンダム…。」
とおののきながら呟いたのだが、彼女が平民である事、それ以上に何を言っているかわからない事もあって無視された。
512名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:09:40 ID:AHgOFwXq
携帯で投下は止めた方がいいぞ。
513リファインな使い魔 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 11:11:38 ID:HXXJN18I
召還された対象を無視して契約する、しないを言い争うルイズとコルベール。
「しかし、ミス・ヴァリエール。既にか……彼?は召還されてしまったのです。また、新たに召還しようとするならば…」
暗に召還対象を殺すしか無いと仄めかす。
如何に貴族にとって平民は家畜と同然に思われているとは言え、目の前で(変態だが)人が殺されかねない事実にルイズは息を呑む。
更に小声でルイズに告げる。
「また失敗を繰り返しますか?しかも……彼?と似た存在を召還する可能性もあるのですよ。」
これって、ある種の脅迫じゃないかしら?とも思いながらルイズは本当に、心底嫌そうな顔をしながら頷く。
「わかりました。理解はしました。納得は出来ませんが。」
そこに今まで周囲…特に召還された動物や幻獣を珍しそうに見ていた“アレ”がコルベールに話し掛ける。
「つかぬ事をお伺いしますが、ここはどこでしょうか?」
思いの他紳士的な態度に少なからず驚きながらコルベールは言う。
「ここはトリステイン魔法学園ですよ、…ミスタ?」
「あ、カトキです。カトキ氏とお呼び下さい。それで…トリステイン?どこの大陸で、どんな国の、なんと言う都市にある学園なんですか?」
その言葉にコルベールは更に感心する。目の前にいる“カトキ”なる存在は確かに変質者だが愚かでは無い、むしろ聡明と言っていいだろう。変質者だが。
「ハルケギニア大陸にある神聖トリステイン王国のトリステイン魔法学園ですよ。」
コルベールの言葉に体を少し前に動かしてカトキ氏は再び尋ねた。
「ハルケギニアのトリステイン?ラクロアでもなく、ナの国でもなく?」
「はい、そうですよ。」
聞いた事も無い国の名前にコルベールは目の前にいる存在(名前で認識するのにはまだ抵抗感がある)はやはり東方の変質者なのだなと思った。
それに対しカトキ氏は頭を抱えながら呟く。
「なんと言う事だ。スダドアカは勿論、バイストンウェルですら無いとは…。」
二人が話している間に自分自身に『納得』と言うマインドセットを終えたルイズがカトキ氏に対し、胸を張って言う。
「あ、あんた感謝しなさいよ。貴族がこんなことをしてあげる事なんて無いんだからね。だから…その気味の悪い仮面外しなさいよ。」
「仮面?私はそんなものは付けていないぞ。あらゆる意味で三倍早い赤い人じゃあるまいし。」
真顔(と言えるのか甚だ疑問だが)で言うカトキ氏に対し、生理的嫌悪感から少し後ずさりして言う。
「な、何言っているのよ。その白い兜よ。早く取りなさいよ。」
「いや、これが私の顔なのだが…。」
困った様子で言うカトキ氏に対しルイズは首を傾げる。
そこに二人の話を聞いていたコルベールが割って入る。
「あの、ミスタ・カトキ…」
「カトキ氏だ。」
確固たる信念を込めた台詞に息が詰まる思いをしてから訂正する。
「失礼、カトキ氏。申し訳無いが、上を向いてもらえませんか?」
「うむ、わかった。」
さっきは大きく否定をしたくせにあっさり頷くカトキ氏。心が大きいのか小さいのかわからない。
そして上を向いて見せるカトキ氏。
514名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:15:24 ID:f7LTtzfi
>>496
懐かしいなあ
緊急出撃をよく覚えてる
コマンドの声が渋くて好きだった
氷漬けにされた街の人見て興奮してたあの頃…
515リファインな使い魔 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 11:17:48 ID:HXXJN18I
「か、仮面と首が一体化している…。」
喉から絞り出されたようなコルベールの声に周囲の視線が集まる。
「じゃ、何?カトキ、あんた人間の変態じゃなくて、亜人の変態だったの!?」
「カトキ氏と呼べと言っただろう!このナ(女)ロー!」
ルイズの叫びに顔を真っ赤にして怒るカトキ氏。
またメイドが「キャスバル専用になったわ…。」とおののいているがやっぱり無視される。
顔の色を本当に変えて怒るカトキ氏に気色悪さを感じ、一歩後退りしてから言う。
「わ、わかったわ。カトキ氏。座って目を閉じてくれないかしら?」
「わかった。これで良いのか?」
確かにルイズの前で座るのだが…
「目、本当に閉じているの?」
そう、カトキ氏は目を閉じているように見えなかった。
「うむ。女性の願いを断る程私は狭量ではないからな。」
「さっき私の事をナロー呼ばわりしたくせに…。」
カトキ氏に聞こえないように小声で呟いてから気を取り直して呪文を唱える。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ。」
言ってカトキ氏の顔を掴み、口らしき部分に口付けをする。
(嗚呼。私、汚れちゃったわ…)
と心の中で涙を流してからカトキ氏を見る。
「いきなりキスとは随分積極的なのだね、お嬢さんは。私が魅力的なのは自他共に認める所だが…。」
「その自信、どこから出るのかしら?」
「彼は亜人。美的感覚が私達と異なっていても不思議じゃない。」
後ろでこそこそ話しているタバサとキュルケに心の中で同意していると…
「ガルスジェイ!」
カトキ氏が左手を抑えながら意味の分からない悲鳴をあげる。
「心配しないで、使い魔のルーンが刻まれているだけよ。」
「だけ、と言われてもねぇ…。」
顔を青くして(BDー2)恨みがましそうに呻く。
すると、カトキ氏の左手が光り、奇妙な文字が現れる。
「ふむ、『サモン・サーヴァント』は何度も失敗したが『コントラクト・サーヴァント』は成功したようだね。」
「今回ほど魔法が失敗して欲しいと思った事はありませんけど…。」
ルイズの心の底から出した言葉を完璧にスルーしてコルベールは生徒達に解散を命じる。
それぞれの生徒が使い魔を伴って部屋に戻って行く。
使い魔を抱いて『浮遊』の魔法で飛ぶ者、使い魔自身に乗る者などそれぞれである。
残っているのはルイズとカトキ氏。
「さすがファンタジー世界。人が平然と空を飛ぶ。」
感心した様子のカトキ氏に全く消えない不信感を持ちながら、言う。
「色々説明しなきゃいけ無い気がするから……(本当は嫌だけど)ついて来て。カトキ…氏。」
「うむ、了解した。」
516リファインな使い魔 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 11:22:41 ID:HXXJN18I
ハルケギニアの一般常識(ルイズの主観が多分に含まれている)を真摯に感心しながら聞くカトキ氏。
「…と言う事よ。分かった?カトキ氏。」
「うむ、なかなか興味深い世界観だ。アニメ化の際は私がメカニックデザインをしてやらん事も無い。」
「全く意味わかんないし。」
心底うんざりしながら言うルイズ。
だが、問題はハルケギニアの説明などと言う簡単なものでは無かった。
(もしかして、いいえ。もしかしなくても私これからコイツと同じ部屋で就寝を共にしなくちゃならない訳?)
亜人とは言え貞操の問題がある、以前に精神的に嫌すぎる。
それを察したのかどうかは分からないが、カトキ氏が夜食用のパンなどを載せたトレイを持って立ち上がる。
「どうしたの?カトキ氏。」
かなり期待を込めて尋ねるルイズに対し、すませて返す。
「使い魔と言う立場は理解出来るが、出会って間もない年頃の女性と一つ屋根の下と言うのはまずかろう。テントでも構わないから用意してくれないかね?私はそこで就寝をするから。」
「そうね!その通りね!カ、カトキ氏がそこまで言うなら私が準備してあげるわよ!」
喜び勇んでカトキ氏を追い出す…もとい、案内するべくベッドから飛び降りるルイズ。
結局、カトキ氏は打ち捨てられていたボロテントで構わないと言った。
ルイズは最初こそ不思議な顔をしたが、カトキ氏とこれ以上関わりたく無い為、放置しておく事にした。
だからルイズは聞かなかった。ボロテントを前にしたカトキ氏の『さて、リファインするか』と言う呟きを…。

チュンチュン
小鳥たちのさえずりでルイズは目を覚ます。
カーテンの隙間から陽光が漏れている。
今日は良い天気のようだ。まるで昨日の出来事が悪い夢に感じられる。
カッシャー
勢いよくカーテンを開ける。陽光を浴びて体の底から目を覚まそう。


そこには、寝そべったカトキ氏がいた。


「Fix!!」
出会った時と同じく朗らかに挨拶をしてくる。
ルイズは腰を抜かしながら絶叫をあげた。
517名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:24:22 ID:dobD4I/w
こんなネタやって大丈夫なんだろうかw支援
518名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:27:05 ID:8VuqH37Q
カトキってまさか……
519リファインな使い魔 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 11:27:37 ID:HXXJN18I
  ズドン!
勢いよくルイズの部屋のドアが開く。中に入って来たのは隣の部屋にいるキュルケだ。
「朝っぱらから何騒いでいるのよ、ヴァリエール!少しは周りの迷惑を考えなさい!」
怒り心頭と言った様子のキュルケが見たのは涙目で床に腰つけながら窓をさすルイズであった。
「キュ、キュルケ〜。」
「ど、どうしたのよルイズ。そんな(保護欲そそりそうな可愛い)格好して…。」
言いながらキュルケは気づいた。窓の奥からカトキ氏が見える事に。
「Fix!」
キュルケに対しても礼儀正しく挨拶するカトキ氏に呆然としながら部屋に入って行く。
「お、おはよう、カトキ氏。…窓の外にあなたの使い魔が見えるんだけど…。」
「そ、外を見ればわかるわ…。」
半ベソかきながら言うルイズを可愛いと思いながら窓からカトキ氏がいる外を見てみる…。

「な、何よ。何なのよ。これは…。」
キュルケの視界に入ったのは巨大な白い何かだった。
ここにあのメイドがいれば『デ…、GP‐03デンドロビウム。実際にお目にかかれる日が来るなんて…』とおののくだろうがいないので二人としてはワケのわからないものとしか認識のしようがなかった。
ちなみに中にいるカトキ氏の頭部も普段のRX‐78ガンダムからGP‐03スティメンに変わっているのだが二人に見分けがつくはずもなく、違和感をもちながらもスルーしている。
キュルケは少しびびりながら尋ねる。
「ねぇ、カトキ氏?その建物は…何かしら?」
「GM所だ。」
カトキ氏がきっぱりと言った言葉に首を傾けてからもう一度尋ねる。
「事務所?」
「違う!GM所だっ!」

意味が分からなかった。

ルイズが小声でキュルケに言う。
「気にしにしたら負けよ。気をしっかりもってただ相槌を打つのよ。」
ルイズの言葉の内容に矛盾を感じながらも頷いてからカトキ氏に言う。
「す…素晴らしい事…GM所ですわね。」
「うむ、メガビーム砲にIフィールド付きは絶対に外せん。」
理解出来ない台詞なのは相変わらずだが、とりあえず相槌を打ってから本題を告げる。
「朝の食事の時間まで間もないから行きましょう、二人とも。」
「わ、わかったわ。」
「理解した。」
言って3人は共に食堂に向かう事になるのだが…。
「ルイズ、あなた。本当にとんでもないのを召還したわね。」
「ぜんっぜん嬉しく無いわよ。」
520名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:30:28 ID:vyBctIVW
支援Fix!!
なんて原作(?)に忠実な使い魔w
521名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:30:40 ID:clH80l3A
ちょっと楽しんでる自分が居る支援w
522名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:30:46 ID:dobD4I/w
つーか今思い出したが実在の人物ネタはヤバイだろw
523リファインな使い魔 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 11:33:03 ID:HXXJN18I
食堂に着いた三人はそれぞれ席に座る。
と言うかキュルケは先に来ていたタバサの右隣、ルイズはキュルケの右隣、カトキ氏はルイズの右隣、カトキ氏の右隣と前には誰も座ろうとしない。
カトキ氏は本来メイジである貴族しか座ってはならない席にどうどうと座っているのだが誰も注意しない。みんなカトキ氏が怖いから。
メイド達が朝食を次々と配っていく。ルイズ達がいるテーブルの一角を担当するのはあのメイド。どうやらメイド達にとってもカトキ氏は恐怖の対象なのだろう。
「はい、ガンダム頭のお方。」
「カトキと言う。カトキ氏と呼びたまえ。しかしガンダムがわかるのかね。今度暇な時にでもお話をしたいのだが、よろしいかな。」
「構いませんよ、カトキ氏。私はシエスタと言います。」

会話が成立してやがる

いや、カトキ氏と会話をするのは難しい……外見さえ気にしなければ(それが最難関)……ものでは無い。
カトキ氏が偶に発する理解不能な専門用語。
これが更にカトキ氏との隔絶感を出すのだ。
キュルケが感心した様子で小声でシエスタに話かける。
「あなた、シエスタって言ったっけ。よくカトキ氏に話が出来るわね。」
「はい。故郷の伝承に外見がカトキ氏の頭そっくりなのがあるんです。だから懐かしくて。」
シエスタの言葉に納得すると同時に意外とカトキ氏の故郷とトリステインは近いのでは無いのかと思うルイズ。
行ってみたいとは1ミクロンも思わないが。
だが、問題はそんな事では無かった。
パンを取るとカトキ氏の顔がまた変わったのだ。
「ク、クロスボーン!こんなマニアックなものまで…。」
シエスタが感激しながら言う言葉にある意味納得する。
確かにカトキ氏の額に骸骨と交差した骨、まさしくクロスボーンが描かれている。
いや、それすらも本質的な問題では無かった。

カトキ氏の、口の部分が、上下に、割れたのだ。

クオオオ

食べ物をフォークで刺し、中に入れていく。
「うええ…。」
誰かが口に手を当てて呻く。
別にテーブルマナーが悪い訳では無い。
むしろかなり礼儀正しく食べている。
しかし、気色が悪い事この上ない。
「どえしたのかい?ルイズ君、朝食をしっかり食べないと1日が保たないぞ。」
本気で心配しているカトキ氏に突っ込む気力もなく、ルイズとキュルケは出されたものの大半を残す羽目になった。
ちなみに、中休みに我慢出来ず食堂に行くと料理長のマルトーが同情しながらサンドイッチをくれた。

その後も授業でルイズが失敗して大爆発を起こしたがカトキ氏が巻き起こす事件に比べれば些細な失敗談でしか無かった。
524名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:36:09 ID:vJnDRbb7
カトキって誰だよゼロカスタム
525リファインな使い魔 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 11:38:54 ID:HXXJN18I
次の事件は夕食時に起こった。
ギーシュと言うルイズと同学年の少年が同級生と下級生の女生徒二人に対し二股をかけている事が判明してしまったのだ。
その間接的原因がシエスタにあった。
あくまで間接的であって、悪いのは二股をしていたギーシュである。
だがギーシュはシエスタが貴族には逆らえない平民である事をいい事に責任をなすりつけているのだ。
これに義憤を持ったのがカトキ氏。結果、貴族と亜人(?)な使い魔による決闘が行われる事になった。
「ふっ、よく逃げずに来たな!使い魔君!…しかし、何だい?その痛んだ馬車は?」
そう、決闘の場にカトキ氏はおんぼろの馬車(馬抜き)を持って来たのだ。
ちなみに引っ張るのにルイズ達が有無を言わさず手伝わされた。
「直ぐにわかる。」
自信たっぷりに言うカトキ氏にから薄ら寒いものを感じながらもギーシュは続ける。
「僕はメイジだ。魔法で戦わせて貰うよ、構わないね。」
「うむ。私も私の技術を使うつもりなのだから何ら問題ない。」
カトキ氏の台詞は無視する事にしてギーシュは杖である薔薇を振るう。
すると一枚、花びらが落ち、それが大人ほどの大きさがある金属製の人形になった。
自信満々と言った表情でギーシュが言う。
「そう言えば自己紹介がまだたったね。僕は『青銅』のギーシュ。君の相手はこのワルキューレがお相手しよう。」
「ふむ、なかなかのデザインセンス。今度私がリファインしてやらん事もない。」
「意味は分からないが断固として拒否させてもらう。」
一瞬で返したギーシュに少し恨めしそうな顔するカトキ氏だが、気を取り直して言う。
「今度は私の番かね。私はカトキ・ハジメ。カトキ氏と呼びたまえ。」
言って背中を見せるカトキ氏。正確には馬車と向き合っている。
「な、何をするつもりなんだい?敵に背中を見せるなんて、決闘を馬鹿にして…」


「リファイ〜〜ン!」


カトキ氏は自らの魂と引き換えに機体(?)をリファインするのだ!
526リファインな使い魔 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 11:42:59 ID:HXXJN18I
馬車が形を変えていく。そして、出来上がったのは…。
「鳥もどき?」
ルイズが言ったように鳥のような形になっていた。
しかし、それにしてはあまりにも翼が短い。
空が飛べるとは全く思えない。
背中に大砲らしきものを二門背負っているが、ハルケギニアの技術力では有り得ない為、何か全く分からなかった。

それはぶっちゃけGファイターだった。

カトキ氏は自信満々に鳥もどきに手を置いてギーシュに対して言う。
「私はこのG家用車でお相手しよう。」
「自家用車?」
ギーシュが思わず聞き返す。
ルイズとキュルケが同時に『余計な事を』と言った顔をする。
「違う!G家用車だ!」
「G家用車ですね!」
感激した様子でシエスタが叫ぶ。
「そう!G家用車だ。シエスタ君、やはり話がわかるねぇ。Fix!」
「Fix!嗚呼、身も心は勿論、母国語さえもガンダムに捧げているなんて…私には、とても真似できないわ。」


されても困る。


周囲の貴族の共通の想いだった。
ちなみに、決闘の結果は考えるまでもなくカトキ氏の勝利だった。
いくら人間サイズにスケールダウンしているとは言え、ビーム砲とミサイルを積んだカトキG家用車に青銅製のワルキューレがかなう筈が無かった。
「ははははははは。」
ギーシュは両膝を地面について放心しながら笑っている。周囲の視線は2つ。
ギーシュに対する同情と異世界の生物(正解)を見るかのようにカトキ氏を見るもの。
そんな中、キュルケがどこか感激した様子で呟く。
「情熱だわ…。」
何事かとルイズとタバサが視線を向ける。
「情熱なのよ!私の中の炎が燃え盛っているわ!素敵よ、カトキ氏!」
二人の目がその台詞にぎょっとした。
「キュルケ、本気?いいえ、正気?」
あんまりと言えばあんまりなルイズの質問にキュルケはしっかり頷く。
「ええ、そうよ!情熱だわ!構わないわよね、ルイズ。」
本来なら宿敵関係にあるヴァリエール家がツェルプストー家に何かを渡す、奪われる事などあってはならない事なのだが…。
(カトキ氏なら見せた瞬間に許可されそうな気がするわ…。)
そう思いながら返す。
「あ、アンタがいいなら別に良いけど…。」
「なら、早速気を引く方法を考えないと!夜が楽しみだわ!」
スキップしながらその場を去っていくキュルケを見ながらタバサが呟く。
「人間は、どうにもならない存在と出会うと思考から除外するか、取り入ろうとするらしい。キュルケの場合は後者だったみたい。」
言葉に納得しながら尋ねる。
「でもいいの?キュルケは、友達なんでしょ?」
「巻き込まれるのは勘弁。」
「…本当に友達なの?アンタ達。」
ルイズのごもっとも極まりない質問にタバサは沈黙で返すのであった。
527名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:44:50 ID:GFrbSLTD
支援FIX!
528リファインな使い魔 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 11:47:23 ID:HXXJN18I
その日の夜。
ひとっ風呂浴びた(止められなかった&入ろうとしたらその場にいた全員が一目散に逃げ出した)カトキ氏は満足気にG務所へ戻ろうとしたら、見知ったサラマンダーが震えながらすり寄って来た。
「ふむ、君は確かキュルケ君の使い魔であるフレイム。私に何か用かな?」
カトキ氏の言葉に頷いてカトキ氏の足元を引っ張るフレイム。
「付いて来て欲しいのか。ハハハ実にせっかちだなぁ、君は。」
カトキ氏の台詞から来る恐怖に全身を振るわせるもしがない使い魔、主人の命令に逆らえる筈もなくカトキ氏を連れて行くのであった。

部屋にカトキ氏が入ると自然とドアが閉まる。魔法の力なのだろう。
「こちらに来て頂けませんか?カトキ氏」
言ったキュルケはベビードール姿と分かり易い程欲情的な姿をしている。
カトキ氏もその姿に当てられたのか思わず息を飲む。
「アナタは私の事をはしたない女だと思うでしょうね。」
「いいや、君の想いはフレイム君越しからも十分届いたさ。」
カトキ氏の真剣な台詞にキュルケは感激した様子で手を合わせる。
「嬉しい!これほど情熱に焦がれた事はいままでなかったのよ!」
「そうかい。今すぐにでも君を生まれ変わらせてあげよう。」
いってカトキ氏はキュルケの隣に座る。
キュルケは顔をほんのり赤く染め、目を瞑り呟く。
「優しく、してくださいね。」
「安心したまえ、テクニックには人並みならぬ自信がある。」
言ってカトキ氏は両手を上げる。そして…



「リファイ〜〜〜〜ン!!!!」



カトキ氏の言葉の後に聞こえて来たキュルケの人間のものとは思えぬ歓喜の叫びにルイズは思わず枕を頭に被り、音を遮断する。
これほどまで自分が魔法を使えない事に嫌悪感を持ったのは久しぶりである。
「キュルケ、ごめんなさい。使い魔を御しきれない私を許して。で、でもあなただって悪いのよ。カトキ氏を気に入ったりするから…。」
ルイズは悪く無いと自分に言い聞かせながらベッドの中で震えるのであった。
529名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:47:47 ID:RvmmNpPU
Fixってどういう意味なのかよく分からんが支援
530名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:48:19 ID:sn9WwSsS
タバサwww
FIX!!(支援!!)
531名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:49:19 ID:dobD4I/w
ああ、ついにキュルケが……
532リファインな使い魔 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 11:51:54 ID:HXXJN18I
翌日。
キュルケは変わっていた。
具体的にどこが?と言われると困るのだが、確実に変化は起こっていた。
あえて言うなら…輪郭、だろうか。
ルイズは感激した面でウンウン頷くカトキ氏に尋ねた。
「ねぇ、キュルケはどうなったの?」
「彼女は生まれ変わった。もう今までのキュルケでは無い!言うならば…」
自分でも何でだろうかと思いながらもルイズは聞き返す。
「言うなれば?」
カトキ氏の目がカッ!と光る。

「キュルケVer.Ka!!!」

自信たっぷりに言うカトキ氏と生まれ変わったキュルケ…カトキ氏の言葉を借りるならキュルケVer.Kaだったか…を見ながらルイズは決心する。
なんとしても使い魔との解約と帰郷の手段を見つけ出す事を。

少なくとも、自分の精神が砕け散る前にっ!!

リファインな使い魔、完
533名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:52:01 ID:RDn2XVp1
>実在の人物ネタはヤバイだろw
こんなのが実在してたまるかッ
534名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:54:55 ID:AHgOFwXq
>>533
そういう意味じゃなくて、
実在の人物をあからまな侮辱したりするような事をすると不味いから
やらないようにって事だと思うぞ。
535リファインな使い魔 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 11:56:19 ID:HXXJN18I
おまけ

ガリア王ジョセフは自らの使い魔を見て失った筈の感情の震えを感じていた。
全く嬉しくもなんともなかったが。
「私、そんなジョセフ王の外道っぷりに惚れ込んでいるのです。例えホモと呼ばれたって構わない!」
「コイツ、打ち首。」
ジョセフの命令に娘のイザベラが疲れた様子で言う。
「父上、これで三度目ですよ。何事もなかったかのようにまたコイツが召還されますよ。」
ギリィッ!
思い切り歯を噛み締める音が聞こえる。
イザベラはそんな父を哀れに思いながらも、乾いた目で召還されたキクチンなる亜人が見るのであった。

教皇ジュリオは自らが召還した使い魔に頭を抱えていた。
別に能力に不満がある訳ではない。むしろ、使える。しかし…
「さぁ、我が配下の動物達よ、各国の情報を集めるのジャ!」
「有能だから我慢。有能だから我慢。有能だから我慢!」
黒光りする艶やかな肉体を誇る亜人、カワグチ氏を茫然と見ながら副官は思った。
宗教指導者って大変だなぁ、絶対になりたくないけど、と。

ティファニアは上機嫌であった。
孤児院と言って良いこの村に大人の男の人手が出来たのだ。
何しろ保護者である姉は生活費を稼ぐ為に外に出ており、年長者は自分しかいないのだから。しかも自分と同じ亜人だから差別するような事はしない。
笑顔でキノコが満載された大きなカゴを持つ自分の使い魔−タカギ−に話し掛ける。
「でも、本当にすみません。勝手に呼び出したのに生活の手伝いは勿論、使い魔にまでなってもらって…」
「ゲヘゲヘ。構いませんよ、テファちゃん。私に出来る事なら何なりとご命令を。それに…」
タカギさんは心の中で嫌らしい笑みを浮かべながら呟く。
(こんな爆乳美少女エルフの姉ちゃんと疑似新婚関係。大金詰まれたって辞めるものかよ!)

後にあるエルフの青年はこう語る。
「四の四揃う時、世界は滅びる。うん、そうだね。確かに、そうだね。」
と。

ハルケギニア崩壊の日は意外と近いのかも知れない。

リファインな使い魔。おまけ、完
536名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:58:38 ID:IxS5AIdl
聖エイジス三十二世カワイソス
537名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 11:59:15 ID:G0PTNTyt
実在の人物はNGな上に、長時間スレを占拠してんじゃねえよボケが
あーあ、早く冬休み終わんないかなー
538名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 12:00:02 ID:RvmmNpPU
乙。
なんだろう、面白いんだけど色々と言いたいことがありすぎて胸がモヤモヤするよ。
539リファインな使い魔 ◆dUJtrzbFjA :2008/12/28(日) 12:00:25 ID:HXXJN18I
以上で投下、完了
「ケロロ軍曹のガンプラレポウト」より、カトキ氏を召喚。

反省はしてます。しかし、達成感で胸いっぱいだぁ(爆)

長丁場にお付き合いして頂き、本当に有難う御座いました。
思いつきの「キュルケvar.Ka」がここまで長くなろうとは…

最後に…

なんかもう、全面的にご了承下さい
540名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 12:03:18 ID:XFFS8GD1

この最強の使い魔を倒すには『00リージョン』という呪文を唱えるしかないな
541名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 12:03:28 ID:dobD4I/w
>「ケロロ軍曹のガンプラレポウト」より、カトキ氏を召喚。
ああ、てっきり某氏を茶化しているのかと思ったが元ネタあったんならあまり問題ない……かな?
というかその作品の中でのカトキ氏を忠実に再現しているなら、元ネタの方が遥かにヤバイわwww
542名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 12:11:53 ID:CrfEJCQV
ここまでガンプラレポウトを忠実に再現されるともう何も言えんw
『怪作』という単語がふさわしいよなこれはw
543名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 12:15:46 ID:sn9WwSsS
FIX!(乙!)
ワロスwww
544狼と虚無のメイジ:2008/12/28(日) 12:20:12 ID:Q7EJZHjn
こんにちは、隙を見つけて中篇の投下に移ります。

でもその前に>>492さん。誤字指摘ありがとうございます。
そして>>494さん。同じく指摘ありがとうございます。何だってこんな間違いを……何度も読み返してこれはお粗末すぎる。ごめなさいモートソグニル……orz
545名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 12:21:03 ID:8VuqH37Q
人間だもの
546狼と虚無のメイジ八幕 中編 (1/8):2008/12/28(日) 12:21:58 ID:Q7EJZHjn
思い思いに生徒が集うヴェストリ広場。
その片隅に存在する、昨日までは無かった木組みのそれは、恐らく寮の部屋程度の面積だろうか。
割と小奇麗な布で囲われており、その中身は見えない。所謂簡易のテントで、組み立ても解体も簡単そうだ。
上から見ると正方形の作りで、便宜上の底辺の左右に出入り口がある。
そこには片手で数えられる程の生徒が椅子に座って並んでおり、右側から入って左側から出ていく構造になっている。
出てきた生徒は何処か嬉しそうに、しかし思案しながら、その横に設置された台で何かを記入していた。

「うぅむ。これは一体?」
「実験と言うのは解るのですが……」

物見の鏡からでは結局何をしているのか解らない。
ロングビルの「実際行って見るのが一番解り易いかと」と言う言葉に促され、オスマンとコルベールはヴェストリ広場までやって来た。

はてこれは何事かと意見している内、忙しなく動いているメイドを見とめたので声をかける。

「あらあら、これはオスマン様にコルベール様。如何致しました?」
「おや、君は今朝の……シエスタじゃったかのう?」
「一介の女中ごときの名前を覚えて下さっているなんて光栄ですわ」

間違えるって言う選択肢は用意してくれてなさそうじゃもん、と喉まで出掛かった言葉を飲み込むオスマン。
目線が泳いでいるオスマンに代わり、コルベールが質問を続ける。

「ところで一体何をしているんだね?ミス・タバサが始めたものと言うのは聞いたんだが」
「はい、とある実験をやっております。浅学故、私は詳しい事は存じませんが、人間の心理についての研究だとか」

そう言ってシエスタが示した方向には、木陰で黙々と本を読む青い髪の生徒がいた。隣に座る桃色の髪の少女はルイズだろう。

「少々お時間を頂く事になってしまいますが、もし宜しければお二人もご参加願えますでしょうか?」

顔を見合わせるオスマンとコルベール。
向こうから出てきた生徒の反応からして危険なものでは無さそうだし、そもそも教師が近くにいるのに挨拶程度のアクションしか起こさないのは、さしてやましい所も無いと言うこと。
それ程考えず、二人は了解の返事をした。

「ありがとうございます。実験の内容ですが、あちらに設営されたテント。そこで二人の女性と会話をして頂きます。中は二つに仕切られていますので、時間が来たら隣に移動して下さい。各々20分前後で終わる内容です」

そう言いながらも、シエスタは二人に一枚ずつ紙を渡す。何も書かれていない、記帳用の安い紙だ。

「終わりましたらお二人の内、より『好意を抱いた女性』を記入して下さい。理由もあれば併せてお願いします」

実験の内容を聞いて、ようやく飲み込めてくる。
タイプの違う二人の女性を並べ、その反応から何らかの統計を取ろうと言うのだろう。

「ふむ、生徒の向学の為とあらば仕方あるまい。のお、ミスタ・カマンベール」
「そういう台詞は伸びた鼻の下を直してから抜かして下さい。あとコルベールです」

水面下でギスギスとしつつも、二人はとりあえず並べられた椅子に座る。
前に並んだ生徒が列を空けようとしたが、教員の権力を振りかざしていると誤解されてもなんなのでやんわりと断った。

その後数人並んだ後、シエスタが「本日終了」の立て札を最後尾に置く。
ぼちぼち日も傾いているし、ペース的に最後尾の番が終わる頃には夕食も近い。妥当な選択と言えよう。

緊張している隣の生徒をオスマンがからかって遊んでいたりすると、意外と早く順番が回ってくる。

「それでは次の方、御入室下さい」

シエスタの声と共に、オスマンはテントの中に踏み込んだ。
547狼と虚無のメイジ八幕 中編 (2/8):2008/12/28(日) 12:25:36 ID:Q7EJZHjn
◆       ◆       ◆       ◆       ◆


「ところで貴女の名前借りちゃったけど良かったの?」
「興味深いし、問題ない」
「決闘としても実験としても、ね」

テントから少し離れた所に並んで座る、ルイズとタバサ。黙々と本を読みながらも、ルイズの質問にはそつ無く答える。

「……貴女、結構良い性格してるわね。本ばっかり読んでるから、相応に静かな娘だと思ってたけど」
「貴女の性格が解り易いだけ」
「うぐ、別に悪い意味で言った訳じゃないわよ」
「……こちらも、そう」
「何時に無く喋るわね?」
「別に……」

そのまままた視線を下に落とすタバサ。しかしルイズにはその表情が、先程までに比べて妙に憂いを帯びた物に見えた。

「……私だって好きで頑張ってる訳じゃないわよ」
「……?」
「毛ほどの努力もしないでも、それなりに魔法が使える奴等から『ゼロ』呼ばわりされて何も思わなかったらおかしいでしょ?むしろ異常だと思うわ」
「……」
「貴族としての品性の欠片も無い奴でも、魔法さえ使えれば貴族として認められ、使えなければどれだけ高潔な志を持っていたとしても一笑に附されて『無能』扱い。全く持って妬ましいわよ」

『無能』というところに、タバサがぴくりと反応したが、それを顔に出すことは無かった。
しかし、滞ることの無かった本を捲る指が止まっている以上、ルイズの話に何かを感じているのは確かだろう。

「……中には本当に殺してやりたいと思った『人』もいたわ」

「奴」ではなく「人」と言ったか?そのニュアンスの意味する所は、つまり親しい人間。恋人……或いは肉親。
そしてタバサはゆっくりとルイズの顔を見る。その顔はびっくりする程に酷薄な微笑を湛えていて。
それはまるで、叔父の――――――――

「駄目」

本がばさりと地に落ちる。
無意識の内、タバサはルイズの両肩を掴んでいた。

「……殺すのは、駄目」
「……そんな顔もするのね」

狼狽するタバサを知ってか知らずか、ルイズはきょとんとした顔をタバサに向ける。

「『いた』って言ったでしょう。結局の所、何も出来なかった。想像の中で稚拙な計画を立てて、そんな事を考える自分に自己嫌悪の連続よ。全くもって小さいわ」
548狼と虚無のメイジ八幕 中編 (3/8):2008/12/28(日) 12:28:45 ID:Q7EJZHjn
自嘲気味に笑うルイズを見て、タバサほっと肩の力を抜く。

「だから、私は大した人間じゃないわ。魔法がまともに使えないから、他のところも人一倍頑張っているだけ。それも止めたら本当に自分が『ゼロ』だって認める様な物だから」
「……その考えを押ししたのが、ホロと言うこと?」
「想像に任せるわ。けど……色んな事を別の視点から見れる様になったってところは、あいつに感謝しなきゃならないかもね。冷静に考えると家の家系って視野狭窄な人間が多いのよ」

そう言うルイズ微笑みに、自虐の色は少ない。タバサも一瞬見惚れる程に、綺麗な顔をしていた。

「私の顔、何かついてる?」
「……別に」
「ふぅん……?」

慌てて本を拾い上げるタバサを訝しむルイズだったが、何か思いついた様な表情になり、タバサの顔を覗き込んだ。

「もう一つ感謝しなきゃならないことがあるの。あいつと居ると、今まで見たことも無い周囲の反応が見られるのよね」
「……?」
「さっきの慌てた顔、可愛かったわよ?」
「!?」

まるで慈母の様に優しい笑顔を、正面から向けるルイズ。台詞と相まって、タバサは思わず顔を紅潮させる。

「まあ、こんな具合にね?」

一転、にやりと小悪魔の様な笑みを浮かべるルイズ。その表情と来たら、タバサも何度か見た、ホロが浮かべる笑みにそっくりだ。
図られた事に気づき、タバサは思わず本に顔を埋めた。

「……卑怯」
「そういう卑怯の塊を使い魔にしちゃったんだからしょうがないわ」

くったく無く笑うルイズに釣られたのかもしれない。
本に埋めたタバサの口元は、うっすらとだが確かに笑みを作っていた。

「ところで何読んでるの?」
「……見る?」
「良いの?」

こくりと頷いたタバサの視線は、シエスタの方を向いている。彼女に借りたと言うことだろうか。

「第二章がすごいらしい」
「ふぅん」

この少し後、仲良く赤面する二人の少女を、風韻竜が目撃したらしい。
ついでに物陰からそれを見つめるメイドを目撃したが、その笑顔を見て慌てて逃げ去ったとか。
549名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 12:31:33 ID:CrfEJCQV
シエスタがカッコイイなぁw支援
550狼と虚無のメイジ八幕 中編 (4/8):2008/12/28(日) 12:31:56 ID:Q7EJZHjn
◆       ◆       ◆       ◆       ◆


「あら、オールド・オスマン。今朝方ぶりですわね」
「おや、君かね」

一室目で待っていたのは、やや暗いテントの内部でも鮮やかに映える赤毛の女性。誰あろうキュルケである。

部屋の真ん中で遮る様にテーブルが設置され、それを挟んで対称になる様に椅子が配置されている。
他に気づいた点として、真ん中で区切られているこのテント内では、外の喧騒も隣で行われている会話も全く聞こえないと言うことだろう。
どうやらテントの周りと、隣接する部屋との間にサイレントの魔法がかかっているらしい。簡素な作りに反して機密性は高い様だ。
恐らくタバサの仕事だろう。

とりあえずオスマンは椅子に腰掛けた。

「はい、例の件では迅速な対処を有難うございます」
「学院を預かる者としては、当然の義務じゃ。感謝される程の事ではないよ」
「謙遜なされるところが、また学院長の器と言えるんじゃないでしょうか?」
「ふぉっふぉっ。褒めても何も出ぬよ。ところで何か会話をしなければならぬそうじゃが、良いのかのう?」

髭を弄りながらからからと笑うオスマンは、はたと思い出したかの様に尋ねる。
それ程時間も無いのだ。生徒と世間話に興じるのも良いが、向学の為の実験とあらばそれを無碍にする訳にもいかない。

「ああ、構いませんよ?会話の内容については一存されていますので。その上で選んで頂ければ」

ほう、とオスマンは声を漏らした。となると質問自体には特に意味は無い事になる。では一体何を調べるというのか。
逡巡しているオスマンを見かねたのか、キュルケが声をかけた。

「学院長?深く考えないで下さいな」

ちょっと下から目線。下品にならない程度に胸元を強調する。
オスマンの視線はついついそちらに釘付けになった。

「リラックスして、適当に併せて下されば結構ですわ。この短い一時、楽しまないのは損でしょう?」

そう言いながら、オスマンの枯れ木の様な手を優しく包み、胸元に引き寄せる。
柔らかい感触を指先に確認したオスマンは、伸びきった靴下の様にだらしない顔を見せる。
551名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 12:34:57 ID:2xAkV2KU
リファイン乙

カトキ氏はガンダムヘッドにブリーフ一丁…
カワグチ氏はドムヘッドにビキニパンツ一丁…

あとの二人ってどんな格好だったっけ?w
552狼と虚無のメイジ八幕 中編 (5/8):2008/12/28(日) 12:35:02 ID:Q7EJZHjn
「私、学院長の功績について耳にしてから、随分と調べましたのよ?就任に至るまでの数々の英雄譚には本当に痺れましたわ」
「ふぉ、ふぉふぉふぉふぉ!そうかの?そうかの?」

うっとりと陶酔する様なキュルケの表情に、威厳もへったくれも無くなるオールド・オスマン。真面目な生徒が見たら自主退学する者も出そうだ。

「えぇ。特に40年前の……」

結局時間までベタ褒めしまくったあげく、胸元に触らせ続けると言うダブルサービスは凄まじく、オスマンは鼻血を抑えながらも名残惜しそうに次の部屋に移動していった。
それを笑顔で見送りながら、次の対象が来るまでのほんの少しの間。

キュルケは勝ち誇った笑みを浮かべていた。

(イレギュラーって言うのは今の学院長の様ね。意外だったけど、情報が多い分扱い易かったわねー)

有象無象の一般生徒の場合、まず本人の人となりを把握しなければならない。
プライドだけは妙に肥大した輩も多いので、その辺りも配慮すると時間の配分にも気をつけるべきだろう。
全く持って頭を使う。しかしそれもまた面白いのだが。

シエスタの提案した決闘。
それは「限られた時間の中、如何に相手の好意を得るか」と言う内容であった。
主要なルールは以下の通り。

・20分前後の限られた時間の中で気持ちよく会話し、相手に好意を抱かせる。
・可能であれば惚れさせても構わない。
・縛りとして、表向きは公な実験と言う名目の為、肉体への接触はソフトな物に留めることにする。
・但し、中で起こった事を漏らさないならばその限りではない。
・印象を公平にする為、先攻と後攻は一日ごとに交代する。
・会話対象にはイレギュラーあり。

単純かつ、社交の素人には容易に実行出来ぬ難易度も併せ持つ。
本当に面白い事を考え付くものだ。

(それにしても、あのホロとやら……よくこの条件で承諾したわね)

そもそも、会話を主体とした駆け引きにおいて、相手の背景を知っているかどうかは重要になってくる。
対象についての情報は希薄でも、知っている国の人間であれば、そこから会話を発展させる事も出来る。
地盤が同じ、或いは共有する部分があると言うのは、コミュニケーションにおいて非常に重要だ。
そう言った意味で言えば、貴族社会に詳しいキュルケは、ホロに対して圧倒的なアドバンテージを持っている事になる。

ふふんと鼻で笑い、誰も見ていないのに胸を反らすキュルケ。

(まあ、少しはやる様だけど、私に言わせればまだまだツメが甘いわよね〜)
553狼と虚無のメイジ八幕 中編 (6/8):2008/12/28(日) 12:38:52 ID:Q7EJZHjn
◆       ◆       ◆       ◆       ◆


(と、まあ。そんなことを考えておるのじゃろう)

くふ、と小さく笑いを漏らし、実に底意地の悪い笑みを浮かべているホロ。
彼女に言わせれば勝負ごとの有利不利など、勝負が始まる前でほとんど見えていて当然である。

愚者はそれを解らないから勝負に挑む。
凡者はそれが解っているから勝負をしない。
賢者はそれが解った上で勝負を不利から有利に運ぶ。

ではヨイツの賢狼ならば?
もちろん決まっている。意味すら解らぬ羊の素振りをして、相手の喉笛を噛み千切るのだ。

勿論そんなことはおくびにも出さず、ホロは新たに入ってきた人物に声をかける。

「くふ、お戯れが至極お気に召された様じゃ」
「ぬ、む。もう一人は君かね」

まだ前の部屋に未練があるのだろう。後ろ髪とついでに前の髭が引っ張られながら、オスマンが入って来る。
その点を指摘され、動作は実に挙動不審だ。

「如何にも。しかしぬし様も罪なお人でありんす。わっちの鼻は常よりも利く。他の女の残り香が、わっちの心を苛んでいることにお気づきかや?」
「いや、いやいやいや。これはそもそも実験と聞いておる。そんな深い意味があるとは……」

よよよとしなを作るホロを見て、慌てて弁解に走るオスマン。学院長の威厳は欠片も見えない慌てっぷりだ。

「くふ、冗談じゃ。キュルケの色香にあてられたかや?恩義は感ずれども、雄としては見ておらぬ。心配せずとも良い」

ぺろりと舌を出したホロに、呆気にとられたオスマン。
そしてポンと額を叩くと、毒気を抜かれた様にからからと笑い始めた。

「いや、やられた。まさかわしが一本取られるとはのぉ」
「くふ、ぬし程も生きれば騙されることも少なかろうよ。人の身なれど、まともな生き物の範疇から外れた匂いじゃ」
「……全く。本当に何者かね、君は」

オスマンの目の色が変わる。
自らが300年も生きているという経歴は、この学院においては割と有名だ。来て日の浅い彼女が知っていても不自然ではい。

しかし、それを素直に信じる者が果たしてどれ程いようか。
554狼と虚無のメイジ八幕 中編 (7/8):2008/12/28(日) 12:42:03 ID:Q7EJZHjn
「なに、少々長く生きているだけの狼に過ぎぬ。火も吐かぬし空も飛べぬ、の」
「……俄かには信じられんのぉ。そもそも何故そんな話を今ここで?」
「信じるかは別にしても、話して問題の無い人間か否かは解っておるつもりじゃ」

にやりと口の端を吊り上げるホロ。ちらりと覗いた犬歯の鋭さは、確かにその話の信憑性を増していた。

「……全く。ヴァリエール嬢もほとほと面白い者を使い魔とした様じゃのう」
「……ふむ?」
「『化生』の類とは、わしも長い人生でたったの二度目じゃよ」

ぴくりと、ホロの耳が反応する。この食えぬ爺は、今「化生」と言ったか?
その老練な瞳からは、流石のホロも多くを読み取ることは出来ない。

「どうやらお互い、色々と『駒』はある様じゃの?」
「ふぉっふぉっ。か弱い爺にそんな目を向けんでもよかろうよ」
「くふ。老木程にその幹は固い物。ぬしはそれを研磨し組んだ、砦の如き代物じゃ。か弱い爺も無かろうよ」

まるで水を得た魚の如く、ホロとの言葉の応酬に目を輝かせるオスマン。
飄々とした普段の様相からは考えられない程に、その表情は緊張感と精力に満ちていた。

「……トリステインの創世記にこんな伝承が残っておる。始祖ブリミルの前に、途轍もなく巨大な海蛇が現れた。その身は何故か深く傷ついており、その体を癒す代わりに、自らの体を国の礎にして眠りについたとか。かの蛇の上に、今のトリステインがあるそうじゃ」
「御伽噺とはの。わっちがその様な子供に見えるかや?」
「中身は兎も角、のう。しかしこの話、荒唐無稽とも言い切れぬ部分があってのう」
「ほう。その真意、是が非にも知りたいところじゃ」

この老人、侮れない。尻尾の隠し方が実に巧みだ。
ホロ自身と似通った存在を餌にする事で興味を引かせ、色々と情報を引き出そうと言うのだろう。
勿論簡単に乗っかる程、ホロも単純ではない。古狸と話すのは、何も初めてではないのだ。

「……ふむ、しかし残念。お互い大した手駒も見せずに終了かや」
「ぬ、もう時間かの?」

興が乗れば、一日だろうとあっと言う間だ。増して20分など一瞬にも満たない。
この場はお互いに利のある事象があることを確認出来ただけで十分だ。決闘の最中とは言え思わぬ収穫だった。

「何、わっちも明日、明後日にルイズの元を絶つと言うのではないしの。ぬしと話すのは楽しいし、お互い知りたいこともある様じゃ」
555狼と虚無のメイジ八幕 中編 (8/8):2008/12/28(日) 12:45:06 ID:Q7EJZHjn
先程までの不敵さを湛えた笑みとは異なる、実に晴れやかな笑み。
久しぶりに緊張感のある会話を楽しんだ後の、心地よい脱力した状態を狙われては、流石の老体と言えども何か来る物があった。

「これとは関係無く、話の相手になってくれると、わっちは嬉しい」
「いや、何。その程度はお安い御用じゃよ。わしもこれ、結構暇を持て余しておる身でな」
「くふ、それは重畳。日々の楽しみが増えるのは良きことでありんす」

どちらにとっても。そこまで言うのはこの二者の間においては無粋である。
言葉と言葉に挟まった真意を探ることも、また会話の妙の一つだ。

名残惜しげにオスマンが出口に出る瞬間、に聞こえるか聞こえないか声でホロは呟く。

「さっきの話の最中の顔は……ふむ。どうして、まだまだ雄であったようじゃな?」

去り際のオスマンの心にだけ、「ズキュウン」と言う音が響き渡ったのは想像に難くない。

微かに震えるオスマンを尻目に、ホロはにこにこと思索にふける。
世界と種族が違えども、雄の頭の中身はそうそう変わるものではない。
例外もいるにはいるが、ホロをしてそんな例外は片手で余る程しか知らない。化けの皮が剥がれれば、雄と言うのは皆一様に「たわけ」である。
用は、たわけの程度に併せた応対をしてやれば良い。そしてその時は、殊更女を強調する必要は無い。

第一、20分と言う時間において、誘惑という行為は下の下だ。下半身を伴った好意は得られても、それを恋慕に発展させるにはそれなりに回数を踏む必要がある。
そもそも初心な相手の場合、過度の誘惑は萎縮や嫌悪に繋がる。そう言った点を心得ぬ、後退のネジの外れたキュルケのアプローチはまだまだ青い。
一期一会のこの状況、褒めるだけで良いと言うものではないのだ。

相手の経験に併せて、その自尊心を弄びつつも持ち上げる。
過去の褪せた記憶ではなく、現在の自分が衰えていない事を再確認出来る場を与えてやる。
オスマンにとってそれこそが、ホロとの緊張に溢れた会話だったのだ。

老獪なるオスマンをしてこの有様である。
その十分の一にも満たない時しか生きぬ小僧共を相手どったのであれば、その結果は推して図るべきだろう。
愛情を得ると言うのは生半可なことではないが、ヨイツの賢狼にとっては血沸き肉踊る、楽しい狩場も同然であった。

(さて、次なる獲物は如何な味かや?)

次の対象が来るまでの僅かな時間、ホロは実に楽しげに舌なめずりをするのだった。
556狼と虚無のメイジ八幕:2008/12/28(日) 12:47:08 ID:Q7EJZHjn
投下完了です。後編は夜辺りに……

何回チェックしても誤字脱字の恐怖が拭えませんorz
557名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 13:56:37 ID:sn9WwSsS
ホロの人乙です。
ホロSUGEEEEEE
次回にwktk。
558名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 15:50:40 ID:/GjJqJ7x
ノノノノノ
( ○○)/ FIX!
  (||||)

559名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 16:09:52 ID:qUIuPyAL
>>558
釣り神様はどうぞお帰りください。
560名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 16:10:27 ID:sffu56Jn
>461
開放→介抱 じゃないかな
561狼と虚無のメイジ:2008/12/28(日) 17:04:13 ID:Q7EJZHjn
時間的に空いてる内に八幕後編、投下できそうです。
次スレなるかと思いましたが、間に合った様ですね。
何も無ければ五分頃から投下します。
562狼と虚無のメイジ八幕 後編 (1/9):2008/12/28(日) 17:06:18 ID:Q7EJZHjn
「聞いてないわよ……」

キュルケは頭を抱えていた。
その目の前にふよふよと浮かぶ巨大な目玉。
紛う事なきバグベアーである。

変な予感はしていたのだ。
現在付き合っている男性陣にも声をかけ、三日目までは滞りなく進んでいた実験。布陣は完璧の筈であった。
ところが四日目になって目の前に現れたのは、以前振った事のある男子生徒だった。

過去の柵がここになって響いてこようとは。常であれば、未練がましいと追い返すところであるが、この場は決闘の場。取り繕ってでもポイントを稼がねばならない。
男女関係には定評があると自負する以上、ここで引いては女が廃る。
口八丁でどうにか丸め込めたとは思うが、終始ボーっとしていたのは何だったのだろうか。いや、自分の手合いに陶酔していたのだろう。改めて罪な女だと思う。

しかし問題はその後だ。滑らかに入って来たのは学院長つきの秘書、ミス・ロングビルであった。
何の手違いだと慌てて飛び出しシエスタに声をかけるととても気持ちの良い笑顔で返される。

「対象を男性に限定すると言う説明は、確か無かったと思うのですが?」

イレギュラーを嘗めていた。キュルケは奔放とは言え、性癖に関しては極めて健康的且つノーマルである。
年上の女性相手へのアプローチなど研鑽していない。

「お幾つなんですか?」だの「へぇ、割には綺麗ですよね」だの、地雷をバスバスと踏んづけたまま時間終了となってしまった。
出る時にロングビルが浮かべた、壮絶な笑みと青筋は忘れられない。
その日は後攻。入ってきた時は普通の笑顔だった為、あの場は確実にとられたと見るべきだ。

しかしそれも五日目に比べればまだ優しい。

同性が来るのは昨日の件で予想できた。
しかし、入って来たのは事もあろうに、以前彼氏を寝取った事のある女生徒であった。

「……」
「……」

ビリビリとした空気が流れる。
敵愾心しか無い二者。しかも女同士である。本能傾向が強いが故に、会話も成り立たない。
口を開けばそのままの勢いで、バイオレンスな意味での肉体接触に突入しかねない。

故に無言。終始無言。

張り詰めた空気を維持したまま、永遠にも近い沈黙の20分間がようやく終わる。
次の部屋に移動したのを見ると、キュルケは思い切り脱力した。

まだ嘗めていた。これは最早好意を得るだけの場に非ず。女としての総合的な人間力も試されるチャンピオンロードだ。
気を引き締めてかからねばならないと、気持ちを新たにした所に入場してきたのは……
563狼と虚無のメイジ八幕 後編 (2/9):2008/12/28(日) 17:09:28 ID:Q7EJZHjn
「……」
「……」

寝取られ女生徒。おかわり。
再び走る不穏な空気、勿論キュルケは引かない。
メラメラと燃え盛る嫉妬の炎を真っ向から受け止めて胸を反らす。
今度の娘は去り際にちょっと泣いていたので、キュルケ的には勝ちである。試合には負けるが勝負には勝った。
何とも言えない達成感に陶酔しつつも、次を待つ。

「……」
「……」

三杯目、ごっつぁんです。あれ、何この針ムシロ。
如何にキュルケが恋愛に練磨を重ねた強者と言えど、こうも五月雨式に敵意を向けられては戦意も鈍る。
最後の方でちょっと視線を反らしてしまった為か、今度の娘はちょっと優越感を持って退室した。
そして四人目になるとキュルケは肩身も狭く、五人目でとうとう萎縮して、その娘の退室と共にちょっとだけ泣いた。

おかげで次に入ってきた平民の料理長に何の疑問も抱くことなく、喜んで応対した為、ディナーが随分豪勢だつた覚えがあるが。

そして今日。最終日である。

流石に打ち止めだろうと思った私が馬鹿でした。どうよこの非人間。
亜人ですら無い上、自分の使い魔でもないのに意思の疎通が出来るものか。と言うか投票できるのかととメイドに問い詰めた所、眩しい笑顔で返される。

「どうせ今日結果は出ますし、発表時に寄って来た数をカウントすると言う事で」

何この、妬ましい程鮮やかな段取り。と言うか、これ本当に女の勝負?

一瞬過った考えを戒め、最後の気合を入れる。
ここまで来て妥協は許されまい。敵愾心剥き出しの恋敵よりかは、きっとマシな筈だ。
よく見ればこの大きな目もつぶらで可愛らしいし、うねうね蠢く触手もチャームポイントと思えないこともない。いや思え。

「ウン、カワイイカワイイ」

もの凄く棒読みで、キュルケはバグベアーの頭を撫でにかかる。言葉が通じぬ以上、スキンシップこそ最良の手段だ。

ペしっ

触れるか触れないかと言うところを、露骨に触手で払われる。

「ちょ、何するのよ!」

べしっべしっべしっ

無理矢理撫でようとすると、絶妙な痛さ加減で払われる。そんなシュールな格闘を数分も続けた後、結局何も出来ないままバクベアーはふよふよと退室していった。

「あう〜」

ひりひり痛む、キュルケの利き手を残して。
564狼と虚無のメイジ八幕 後編 (3/9):2008/12/28(日) 17:12:27 ID:Q7EJZHjn
◆       ◆       ◆       ◆       ◆


(……しかし一昨日から、随分と妙な連中がやって来るのう)

四日目に来た男子生徒。
世界の全てが信じられないと言った顔で部屋に入って来たので、理由を聞いてみればフられた上にコケにされ、自分で納得しようとしたものの、男として意気消沈している様だった。
初対面の海のものとも山のものとも知れないホロ相手にそんな事を話すなど相当参っていたのだろう。
ホロも流石に可愛そうに思ったのか、やる気を出させる為に「ぬし様が落ち込んでおられると、わっちも悲しいでありんす」などとあの手この手で煽てると、あっと言う間に回復した様だ。この年頃の小僧の何と扱い易い事か。
去り際に自分の方を熱の篭った目で見た時は、流石に少しやり過ぎた気もしたが。

しかし驚いたのはその次である。入って来たのは紛う事なき女性であったのだから。
だがルールを思い出せば、性別に関して何か言及していた訳でも無い。
なるほど。
シエスタも随分と冗談が上手い。文句を言うのは簡単だが、それに乗って見事条件を達成してこそ勝者と言うことか。

(ふむ……?)

ロングビルを名乗る、その女性は人の尺度で言えば妙齢と言った所。女としてはむしろ最も華やいだ時期と言えよう。しかし、それよりホロには気になった点があった。

微かに漂う、血臭。

(この者も教師と名乗ったが……はて)

濃くはない。雑多な、数多くの臭いに混じっており、あくまで彼女の使う一手段と言うことだろう。
しかし、少なくともこの平和な学院に似つかわしくない臭いであることは確かだ。

「えぇと、ホロ、で良いのよね?」
「間違いなく。ルイズの使い魔とやらをやっておる」

どの様なことを感じたとしても、それを顔に出すのは賢明ではない。ホロは勿論それに漏れず、鮮やかに応対した。

「……ご主人に対して、随分軽い口で話すのね?」
「うふ。物事には相応しい収まり方と言う物がありんす。わっちとルイズならば、これが適当であると思うのじゃが……如何かや?」
「ふふ、ミス・ヴァリエールも厄介なのを使い魔にしたみたいね」

ホロの言葉に、ロングビルはクスリと微笑んだ。
匂いの質から、媚の類よりもストレートな話の方が好みと見たホロの予測は当たりだった様である。
詳しいところまでは聞けなかったが、どうやらこちらで言う貴族ではないらしい。澄ました表の顔からは見えない気さくさは、その辺りにも原因があるのだろう。
適当な談笑で時間が来たが、今回はそれで良い。
あのタイプとキュルケがぶつかれば、マイナス印象しか残らないとホロは踏んだのだ。


そして翌日の五日目は更に妙な連中がやってきた。
五連続で女生徒が入室してきたのだ。

最初の一人対しては愚痴を聞き、次は慰め、残りの三人には褒める形で対応する。
ついでに先日までに話した男子生徒の中で、気質の合いそうな者を紹介すると、晴れやかな顔で退室して行った。

この年頃の小娘の姦しさには流石のホロも疲れたが、親身になってやると小僧連中よりも面白い考をしている者が多い。
耳と尻尾に触らせてと言われた時は流石に断ったが。
565狼と虚無のメイジ八幕 後編 (4/9):2008/12/28(日) 17:15:33 ID:Q7EJZHjn
そして最終日、六日目。つまり今日である。

「きゅいきゅい!」
「ほう、ぬしも人の姿をとることが出来るのかや?」
「きゅい!きゅい!」
「なに、機会があればで構わぬ。ぬしの主人も、ぬしを思うてこそ、それを架したのじゃろう」
「きゅい……」

タバサの風竜、シルフィードの頭を撫でながら、ホロは慈しむ様に語りかける。
人間相手の様にさして気を遣う必要も無く、実に伸び伸びと使い魔達の相手をしていた。

「……ぬし等の様な者が、あの頃もっと居ればの……」

優しくシルフィードを撫でるホロの瞳が、ふと憂いを帯びた。その瞳はとてもとても遠い所を見つめている様で。

「ホロねえさま。どうしたの?何だか寂しそうなのね、きゅいきゅい」
「……むう?顔に出ておったかや」
「きゅい。お耳と尻尾がぺたってなってるのね」
「ふむ、やれやれ。自慢ではあるがこう言う時だけは難儀な物よ」

自分の尾から生える麦藁尻尾をぴょんと起こすと、ホロは苦笑気味に呟いた。

「なまじ老獪な者よりも、ぬしの方がよほど手強い」
「???」
「くふ。裏が無いと言うのは、本来在り得ぬ。それだけに実際会うと難儀じゃ」

ホロの言葉の意味が掴めず、小首を傾げるシルフィード。

「それよりも、人の言葉を喋べるのは関心せぬ。隣の者は解らぬ故、気をつけるがよかろ」
「きゅい!しまったのね!ホロねえさまとだと、どっちでも通じるから訳が解らなくなるのね!」

慌てるシルフィードをくつくつと笑いながらも、落ち着かせる為にまた撫でてやる。

「そうそう、ぬしは大丈夫だとは思うが、次の部屋の者には手加減してやってくりゃれ?」
「きゅい。お姉さまのお友達なのね。勿論なのね」

撫でられたシルフィードはとても気持ちよさそうに目を細め、キュルケのいるであろう部屋に移動していった。

ホロ自身、大抵の動物との意思疎通は可能だったが、まるで作りの違うこちら側の獣達と話せるかは不明だった。
今日それが解ったは嬉しい収穫だったと言える。

しかし、それ以上に神妙な面持ちで、ホロは自分の右手に視線を移した。
淡く発光する複雑な文様。他の使い魔と接触した時にのみ明滅するこのルーンに気づいたのも、今日になってからだ。

ここ数日でルイズにも聞いたが、使い魔は必ずしも主以外に友好的とは限らないらしい。
そして意思が通じるからと言って、必ずしも友好関係が築ける訳でもないのだ。ホロ自身、かつての故郷で全ての仲間と馬が合ったかと言えば、答えはNO。

だが今日入室してきた使い魔の連中は、見た目が実に攻撃的でも、ホロには随分と懐いてきた。概ね「姉さん」とか「姉御」とか言ったニュアンスで寄ってくるのには苦笑せざる得なかったが。
シエスタのことだから、ある程度配慮して使い魔を入れているのだろうが、それにした所で懐く頻度が十割と言うのも妙な話だ。
一応配慮して、キュルケに余り酷い振る舞いはしない様に言っておいたが、結果いかんで何らかの答は出るかもしれない。

「……ふうむ」

考えていも仕方ないのは解るのだが、だんだんと発光のおさまってく右手の文様をホロが眺めるのも仕方の無いことだった。

そして直ぐに次の誰かが来る合図。気を取り直して入り口を見つめる。時間的にあと、一人、二人と言った所だろう。
女をかけた決闘である。最後の一人、一匹、一頭まで気は抜けない。

狼の狩りに手加減など在り得ない。自然に出た表情は、勇ましくも美しい雌の顔であった。
566狼と虚無のメイジ八幕 後編 (5/9):2008/12/28(日) 17:19:00 ID:Q7EJZHjn
◆       ◆       ◆       ◆       ◆


ぼんやりと双月も輝きだした夕暮れ時、ついに六日に渡る実験(決闘)が終了した。
集うのは五人の少女と、本日メインの使い魔多数。そして結果に興味を持った酔狂な生徒が両手で数える程。

「やれやれ、座り続けると言うのも骨は折れるものよ」
「待ちっ放しって言うのもそれはそれで疲れるわよ。期間中にブ厚い教書が五冊は読めたわ」

首をぐりんと回すルイズ。
外で待つ間、無駄に時間を過ごすのも何なので、タバサに習って黙々と本を読破してのだが、言葉とは裏腹にやけに達成感に溢れた顔をしている。

「くふ、お互い学ぶことは多い様じゃの?」
「あんたにこれ以上学ばれても困るわね。主に私が」
「ならばその、緩んだ頬を隠しんす。喜びが蜜の様に溢れておる」
「……そうかもね。でもあんたの耳と尻尾程じゃないわよ」

ぱたぱた揺れるとホロの耳と尻尾。
ここ一週間でルイズが見つけたホロの弱点である。どうもこの二つだけは、気を抜いていると感情が諸に出てしまうらしい。そしてこの動きは明らかに喜びを表したものだった。
「どうよ?」と言った表情を返すルイズは、実に誇らしげだ。

「うふ。学ぶ喜びも然り。じゃが友人を得た喜びすらも現わす、ぬしの頬には敵うものでは無い。そうは思わぬかや?」
「んなっ!?」

慌ててタバサの方向を見てしまうルイズ。

「ふむ、やはりタバサかや。内容は解らんが、表の装飾はタバサが読んでいたもの。それをぬしが読んでいたとなればそれ、答はおのずと解ろうと言うものじゃ」
「――――――っ!」

初日の会話をきっかけに、ここ数日で二人は親睦を深めていた。実践は兎も角として、知識への造詣に関しては深い二人である。
打ち解けた……と言う訳ではないが、読んだ本の内容に関して議論できる程の相手と解ると、タバサも結構多弁になった。勿論常より一つ、二つ言葉が多い程度ではあるが。
ただしその事はホロには言っていない。つまりルイズの態度の端々から予想し、カマをかけ、見事的中したと言う訳である。

「くふ。わっちが幾度この尾と耳を、人に晒したと思っておるのかや?」

そして魅せる、飛び切りに意地の悪い笑顔。
甘すぎた。一つや二つの弱点など、この賢狼にとっては擬似餌程度に過ぎないのだ。

「気を落とすでない。まだまだ青いが、会ったばかりの時よりは幾分マシと言うものじゃ」
「褒め言葉……なんだろうけど、今の私にはとてつもなく重いわよ」

ルイズがっくりと肩を落としていると、キュルケが寄って来る。

「おっほっほ!そのやりとりも今日ここまでよ!最後の晩餐になるでしょうから、しっかり話しておくことね!」

左手を腰に、右手の甲を自分の顔に向け、高飛車ここに極まれりと言ったポーズで高笑いするキュルケ。
……なのだが。
567狼と虚無のメイジ八幕 後編 (6/9):2008/12/28(日) 17:22:18 ID:Q7EJZHjn
「キュルケ、あんた何かあったの?大丈夫?」

ルイズをして心配する程に、どうにもその格好は無残極まっていた。
顔には何かぺとぺとしたものが付着しているし、髪も実に美しくない具合に乱れている。
制服のブラウスはよれよれで、これまた妙な液体が付着している。ついでに、あちこち破れた服が、その無残具合を助長していた。
そして重要な点が、どれをとっても色気の無い感じになっていると言う事だ。
どの要因も色気を演出するのにもってこいなのだが、残らず喜劇の演出に出て来そうな有様になっているのはむしろ凄い。

「ほ、ほほほ!何言ってるのよ!これは今日の勝利を約束する証よ!粘液はスキュラに巻きつかれた時についた物だし、ヒポグリフなんか元気が良すぎるくらいに抱きついて、服を破るほどの喜び様よ!コカトリスの円らな瞳には体が硬直するかと思ったわ!」

最後のはよく無事だったなあ、とルイズは何とも言えない視線を送るが、それを意に介するキュルケではない。少なくともハイになっている今は。

一方ホロは、その言葉に何か思案していた様だが、シエスタの言葉に思考を中断して振り向いた。

「集計が出ましたよ」

並べられた投票用紙を前に、シエスタが計算を完了させていた。
二者択一とは言え、六日の間に参加した生徒数は結構なものであるし、よく見れば一緒に書かれた理由などに関してもしっかり記帳している。
平民出で字が書ける事には最早ルイズも驚かないが、製本しても良いほどに綺麗な書体は、一筋縄に会得した技術とは思えない。
本当に何者だろうとルイズが考えていると、シエスタは隣にいたタバサに耳打ちした。

「それでは結果は主催者のタバサ様に発表をお願いします」
「……ん」

一応段取りの通りである。名目上はタバサが主催者である為、雑事は自分で、重要な部分は委ねる。貴族の顔を伺う平民の素振りも板についたものだ。

「……」

タバサはゆっくりと、ホロとキュルケの前に歩み出る。
二人の目前に止まり、暫しの静寂が訪れた。

ごくり。

誰とも無く、唾を飲み込む。少ないギャラリーとは言え、やけに音が響くのが印象深い。

「……」

意を決した様に、タバサは顔を上げる。
ゆっくりと向き直った相手は、キュルケ。

ぱっと輝くキュルケの顔。べとべとの粘液も霞む眩い輝きであった。

「……ごめん」
「はえ?」

間の抜けた声を発するキュルケから視線を反らし、高々とホロの腕を掲げるタバサ。

「……集計の結果、圧倒的多数で、ホロ」
568狼と虚無のメイジ八幕 後編 (7/9):2008/12/28(日) 17:25:23 ID:Q7EJZHjn
音自体は小さいものの、良く通る声がヴェストリ広場に響き渡った。
一瞬何があったのか理解出来なかったキュルケだが、数秒のブランクの後に困惑の叫びを上げる。

「う……嘘よ!何かの間違いよ!」
「はい、もちろん納得いかないと言うご意見も御座いましょう。そこでこの投票用紙が生きてきます」

喚くキュルケに間髪も入れず、一山程の投票用紙を抱え、シエスタが進み出た。

「まず一年生、匿名希望さん『キュルケ嬢はスキンシップが過剰なのが気になった。ホロ嬢はとはとてもリラックスして20分を過ごせた』」

キュルケがぐらりと傾く。しかし耐えた。まだ、まだ大丈夫だ。

「続いてPN『風上ダンディ』さん。『キュルケ嬢とは時折沈黙が発生して困った。一方ホロ嬢は、口下手な僕も上手く誘導してくれた。P.S.主従共々惚れてます』」

再びよろめきながらもキュルケは心中で叫ぶ。何やってんだ風邪っぴき。ダンディとか何だよ、その腹か。中年染みたその腹をダンディと抜かすか。追伸とか何だよもう。

「PN『妹LOVE』さん。『ホロ嬢は多分個人との間の取り方が上手いんだと思いました。ところでキュルケ嬢ですが、月の無い夜には気をつけた方が良いですね』……後半の筆跡が乱れてますが、何かあったんでしょうか」

小首を傾げて微笑むシエスタと裏腹に、今度は背筋に悪寒が走るキュルケ。
あれ、そういえばさっきから誰かに見られている様な。塔の上の辺り?いや気のせい、きっと気のせいよ。

「他にもPN『寝取られシスターズ』さん達のジェラシー溢れる五通。『まだまだ秘書募集中☆』さんの用紙十数枚に渡る女性観、及びホロさんの素晴らしさとキュルケ様の落とし穴に関した小論文とかもありますが……読みます?」

こんな時でも笑顔を崩さぬシエスタを前に、キュルケはどさりと膝をつく。

「ちょ、待ちなさいよ!私に入れた分は!?」
「ええと、一票だけですね」
「一票!?嘘を吐きなさい!少なくとも五票は……」

ふとキュルケの視界の端に、移る五人の男性。所在無さ気な五名は、キュルケも良く知る男子生徒達であった。

「ちょ……ペリッソン!」
「キュルケ……ごめん!四時間後に!」
「話が違うわ!」

逃げ出すペリッソンに罵声を浴びせたものの、それ以上構っている余裕はキュルケには無い。

「スティックス!誰に入れたのよ!」
「え……えと、八時間後に!」
「誰なのよ!」

二人しか居ないのだから、誰に入れたかなど聞くまでも無いのだが、それでもキュルケは聞かざる得なかった。
脱兎の如く駆け出すスティックスを諦め、残る三人を睨み付ける。

「マニカン!エイジャックス!ギムリ!」
「「「ええと、十二時間後に!」」」
「朝よ!」
569狼と虚無のメイジ八幕 後編 (8/9):2008/12/28(日) 17:29:00 ID:Q7EJZHjn
見事に唱和した三人は、統制の取れた動きでフライの呪文を詠唱。文字通り飛んで逃げた。
呆然とそれを見送るキュルケの前に、シエスタが進み出て一言。

「えっと、まだお認めになられません?」

その言葉を前にして、ギリと唇を噛むキュルケ。微熱の浮名を流した以上、ここで引くのは女が廃る。

「まだよ!まだ今日の使い魔達の結果が出てないわ!最終日だからポイントだって10倍くらい貰える筈よ!」

訳の解らない事を叫ぶキュルケ。多分本人も解っていないのだろう。

「との事ですが、如何致しますか、ホロさん」
「わっちは構わぬが……」
「おっほっほっ!微熱のキュルケの大逆転劇をご覧なさい!」

それを聞き、矢文の如く飛び起きるキュルケ。見てるこっちが痛々しい。
最もその勢いも、ホロに視線を向けるまでだったが。

「これ、これ。慌てるでない。順番じゃ」

今日訪れた使い魔達が、ホロの周りを囲んで我先にと頭を向けている。
獰猛な種類の使い魔も、まるで借りてきた猫の様に大人しく支持に従っている。とても、幸せそうだ。

「どう、致しますか?」

極上スマイルで聞いてくるシエスタ。最早キュルケはこの一言を返さざる得ない。

「……負け……たわ」

そう言うと全身から力が抜けたかの様に、キュルケはがくりと倒れた。見かねたタバサが支えてやる。

「このあたしが……キュルケが……色恋で負けるなんて……微熱の二つ名も返上ね」
「……大丈夫。色恋ではなく、器で負けたと言うのが正しい」

タバサなりの気遣いであったが、如何せん言葉が足りなかった。追い討ちをかけられたキュルケはよよよと崩れ落ちる。

「うう、もう信じられるのはフレイム、あなただけよ……」

そう自分の使い魔を呼ぼうとするが、返事が無い。

「なんじゃ、ぬしもかや?」

最後の希望の親愛なるサラマンダーは、それそれは幸せそうに、ホロに頭を預けていた。
キュルケを支えていた最後の何かが、音を立てて崩れ、微熱のキュルケは真っ白な灰になった。
570名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 17:31:43 ID:QJdLgpwg
しえん
571狼と虚無のメイジ八幕 後編 (9/9):2008/12/28(日) 17:32:11 ID:Q7EJZHjn
「ふ……ふ……燃えたわ……燃え尽きたわ……」
「大変、水系統のメイジを」
「いや、あんたも使えるでしょ、確か」

冷静な口調とは裏腹に、かなり慌てていたタバサに突っ込みを入れたのは、事の成り行きを眺めていたルイズだった。
今まで事あるごとにゼロと言ってきたキュルケに思うところが無いでも無いが、流石に可哀想になった様である。

「えっと、キュルケ。私が言うと何かおかしいとも思うけど、あんたにも良い所はあるわよ。今回はそれが活かせなかっただけ」

そう言って取り出したのは一枚の投票用紙。
記された内容を、ルイズは静かに読み、聞かせた。

----------------------------------------
どちらも甲乙を付け難い女性だが、選ぶとなるとキュルケ嬢を推したい。
奔放に振舞っている様に見えても、その内に秘める情の深さは恐らく誰よりも深い。
そして男女に及ばず、その親愛を向けられる女性であることも想像に難くない。
だからこそ、不特定多数の人物と関係を深めている様にも見える。
もし彼女の溢れるその情熱が一人に向けられるとすれば、その男は恐らく、ハルキゲニア一の果報者であろう。
そして、彼女の友情を得られた者もまた、真の友情と言う物を知ることの出来る幸運な人間だ。
----------------------------------------

「……褒めすぎな気もするけど、見てる人は見てるのよね。あんたも有象無象に愛想振り撒くより、こういう人を大事にしたら?」

読んだルイズ自身も照れながら、投票用紙をキュルケに渡す。
キュルケは暫くその用紙を握り締め、何度も何度も読み返していた。
そして不意に、ぎゅっと胸に抱きしめる。

「う……うえぇぇぇえん!」

泣いた。人目も憚らず泣いた。正確にはもうホロの周りの使い魔くらいしか残っていなかったが、とにかくキュルケは泣いた。
胸の中が暖かいもので一杯になって、止め処なく溢れる感情を、涙を御する事が出来ない。

タバサがよしよしと頭を撫でてやる。

くしゃくしゃではあったが、その顔は恐らく、大事な何かを見つけた顔。
その顔を見たルイズは、悔しいけどやっぱ綺麗ねと、心の中で呟く。

そしてそんな三人を遠巻きに眺めるホロの顔はとても優しく、気づかれない程度にくふ、と鼻を鳴らした。



一通りキュルケが落ち着いたのは見計らい、タバサはキュルケに尋ねた。

「ちなみに、なんて人?」
「うん……イニシャル『J.C』って言う方」

同刻、学院長室で物見の鏡を覗きこむ禿頭の教師が、盛大にくしゃみをしていたそうである。
572名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 17:42:36 ID:w29Fv6ZX
ヴィンダールヴはさすがにチートwww
まあなくても大差ない結果だろうけどなー
573狼と虚無のメイジ:2008/12/28(日) 18:03:53 ID:Q7EJZHjn
これにて八幕、前中後編全ての投下が完了です。
支援や感想、誤字指摘ありがとうございました。
次でようやく城下に行く場面に辿り着きます。
狼分を濃い目にしたいところですが、はてさて。

帰省前に投下出来て何とか一息つけました。皆さん、良いお年を。そして始祖ブリミルの祝福を。
574名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 18:05:34 ID:wQrjPzUc
ホロ乙、原作知らないけど読みたくなった

次スレ立ててきます
575名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 18:12:58 ID:wQrjPzUc
576名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 18:22:36 ID:O3+XSw0u
                                          ○________
                               うめたてろー     |:|\\:::::||.:.||::::://|    /イ
                                              |:l\\\||.:.|l///|  .///
                         __ ィ   ,. -――- 、     |:|:二二二二二二二 !// /
                        /    /          \.   |:l///||.:.|l\\\|/  /
                / ̄ ̄ ̄ ̄ 7 / / ./  / /   l l l lハ  |:|//:::::||.:.||:::::\\l    /
  ト、     ,.    ̄ ̄Τ 弋tァ―   `ー /  l从 |メ|_l  l_.l斗l |ヽ V |:| ̄ ̄ ̄ ̄ フ  ̄ ̄    |                  イ
  ヽ \__∠ -――く  __       .Z¨¨\   N ヒj ∨ ヒソj .l ヽ\|       / /     |                / !
   ヽ  ∠____vvV____ヽ   <   ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐  . \   / /         \           /   l
.    \\_____ivvvvvvvv|   V.    (  (  /Tえハフ{  V   ‐一 '´ /     __. -―=-`      /  / l  l
       \!      |   / 入_.V/|      >-ヘ  \:::∨::∧  ∨ ∠二 -‐ .二二 -‐ ' ´ /        /   / l.  l
 __  |\       l/V  _{_____/x|    (_|::::__ノ   }ィ介ーヘ  /  ,.-‐ ' ´           /       ____  ̄ ̄フ ∧  l
  )-ヘ j ̄} /|        /___/xx|       _Σ___/| | |V::::ノ/ ∠___           {     /      `<  /  \|
  {  V  /`7.         /___./xXハ    ( |:::::::::::::::::ハ   >' ____ 二二二二二二>   /   __    〈
.  \_   |/        /___l XX∧     __≧__::::::::/:∧/   `丶、           /     {   {____ハ    }
    |   ヽ        /____|]]∧  __|__L.∠ ム'  <`丶 、 `丶、       /       \_____/    /
    |     ',         {     |]]]>'  __      ∧ l\ \   丶、 ` 、   ∠ -――-  ..____ノ   /
   ノ     }       l ̄ ̄ ̄.|] >' ,. '  ̄ / .// :/  V'  \ ヽ    `丶\/                 /
  / ∧   { \      |      .|>' /      // :/ :/ :   ', l   \ ヽ  ,.-――┬      \         /
 入ノ. ヽ  く  ヽ______7 ー―∠__    〃  l :/    :l l     \V       ヽ       \    ,.  '´
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        \  `' ┴ヘ     {    .レ__r‐|ィ‐┬、lレ' |    /  ノ`y‐一'  >、_/   / ̄ 7丶、_   丶
         \    ヽ   /`ー「と_し^´ |  |    }  ム-‐'  /     /    \_/  /  /  ヘ    \
           ヽ   _>-ヶ--∧_}   ノ  j   /` 7 ̄ ̄ ̄{      (         ̄ ̄`ー‐^ーく_〉  .ト、_>
            ', /     人__/   .ィ  {__ノ`ー'    ヽ    人     \__              {  }  |
            V     人__/  / | /           ̄{ ̄  >‐ ァ-、    \             〉ー}  j
                {  / ./  ∨      __      ̄ ̄ >-</  / ̄ ̄         廴ノ  '
      <ヽ__      /し /        < )__ \   _r‐く___/  /    < ) \     {__ノ /
        Y__>一'    /         ___r―、_\ >'   `ー' ,.  ´       >.、 \__ノ    {
     ∠二)―、       `ー‐┐    ∠ ∠_r‐--―      <__       ∠ )__          \_
       ∠)__ノ ̄`‐⌒ヽ__|>      ∠)__r―――-― ..__{>        ∠_廴,. ⌒ー'  ̄ \__{>
577名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 18:25:20 ID:O3+XSw0u
                      __
                 _, '"´      `丶、
                /            \
                  / ,' /  / /  ヽ   `ヽヽ
               l l j __ // ,イ   、ハヽ   }! ハ
               l l 「 j_从7ヽハ  !七大 ` } リ }/
                | l Vf゙i圷/ jl ノィアト、ヘ// /  初詣は神社もいいけど、お坊さんが二人いるお寺にも行くといいわ
                  j l  l  V_:ソ  ´  V:リ /jイノ  和尚が2というわけね
               ,' ハ ヘ.       '  ` ,'  l !
                / / l  ヽ   ー ‐  .厶 |ハ
                //' ∧  弋ト 、 __ , r<7  l ヽ
          / / / ∧   Vー、 Kヽ{   ヽ  ヽ
         /  /./  /¨}   ',__∧_j_l::::ハ   \ }/
         ,′  l {  /:::/   /::::ヾ ☆Y:::ハ    X
         {   V r'::::::/   /::::::::::\__j:::::入xぅ/  \
         ヽ  l  { :::/   /::::::::::::::::::V://∠     ',
          }  ! j/  /:!::::::::::::::::::∧V _二}:ヽ   /
          /  /  {   〈:::::::l:::::::::::::::/:| j/ -ーソ:::ノ   /
         / /  |ヽ  \:::l:::::::::::/∠/j  rテ':〃  ( ヽ   ,
.      / /  、__jノ   ∧{::::::/ ,/ {  _/:::ハ   `ー彡
      /  〃  、__ >   /::;>'´   /! ∨ヘ::::ヾ::\   < _
      ヽ {{    =ァ 彡<::/     { >く{ ヽ:::::ヽ:::::ユ=―'´
578名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 18:26:29 ID:O3+XSw0u
             __, -ー- 、
           / /    ヽ` 、
.          /. l l从、 从、| | l
           \!」>ヽ'< '7 |!
            ノ|  __   / ∧ヽ
          // >、 _`イ  l  \\
.         〈 人  トr十一) ヾヽ 〉 〉
          ヽl/ノ  〉夲/  /_::Ll. /
          r/ /ヾ〈   〈:::::::::\\
         _/   ./:::/::||、\  \::::::::!  \
       / イ  〈:::/::/||::ヽ::)   ヽ::::ト、   ヽ
      / / ヽ トゝ::/::||:::/  l  ):l \  〉
      l |   f´ヾ`:::/::::∧彡__ノ/!/::::|   l /
      \  |::::::::::/::::::| !\:::::\::::\:l //
        lヽ|::::::::/::::::::| |::::::\:::::\::::Y /
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        ̄/::::::/::::::::::::|人!:::::::::::::::::::::::::| \
.       /::::::/::::::::::::::|::|::|::::::::::::::::::::::::::!`l ̄
579名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 18:27:24 ID:O3+XSw0u
                          _
                      _ /o\_
                       ,'「o 二-─-、_|
                    /.:j/:.:.:.,.:.:.:.:.:.:.\ 
                   ノ:〈.:.:.:.:X_\.:ムィ :.:〉
                  〃.:.:.\/〇´ ○|:ノ′   __________________
                  {{八.:.{ハ┌─┐ }:ハ   /このスレッドは、私ことヘンリエッテ・フォン・トリシュターライヒと
                   /i⌒ヘ、.:} |___」イj:ノ < ゴランノス・ポンサー卿の提供でお送りしました。
                  /: : ` ̄了`二二 ハ┘   \次スレで引き続き「あのゼロ」をお楽しみください。
               /: : : : : : : :゚|: ◎゚ : : |: }       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
             _rノ: : :./: : / ̄ `ト、 :∨
             / : : : : : : ;イー ' /イ∧: :〉   あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part200
                / : : : : _ イ|ノ    / |  ∨   ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1230455459/
            / : : : : /l   |   〈  |   ||
              /: : : : :./、|   l     >、|.  !:|
          /: : : : :./  |  |、_/  |  |:.|                      ,..rァ
            /: : : : :./.  |  | 川    |  |: |                   ,r'"`^´¨ヽ
        /: : : : :./.    |   |´     |  |:│       ,土ヽ ┤r┐ L  |   { ∴   ∴}
          /: : : : :./    |   |     |  l∨     (__! ) イ _|    _!   ヽ ∴_,,,.ノ
580名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 18:27:34 ID:K5XTgZmh
       /: : : : : : : : /   ヽ!: : : /ヽ: :l: : : : : : : : : : ヽ
       /: : : : : : :/|_/    ,.、ァ≠メ、  | ト、: : : : : l: : : : : :
     /: : : : : : / /l´~`     /:/  `ヾ、  \!: : :|: : : : :
   __ノ: : : : : l: :l/       ´  _   ヽ  |: : l: : : : : :
__ ノ : : : : : : : |: | / ,.`ヽ     イ ,r;.、`ヽ    !: /!: : : : :
丶、: : : : : : : : :l:.| i ヾツ !        ゞ゙ン  |   ノイ: : : : : :
   ` ーァ: : : :..l   --ノ´       ヽ ._ 、      |: : : : : :
    ∠:_: : : : |    ヽ  、            └f'´ ̄ヽ
    ー=ニ、: : : l   _ ノ_                トヽ j |  >>575乙〜
         ̄`|   { 、_,、丶              ソ ノ  l
           ',  冫ー 'ヽ、 __           (__ ノ ノ
          '、 ` ー__‐            r-─‐ '´: :
          ヘア ̄´   ̄  ̄`ヽ、    /|: : : : : : ト、
                      ヾー<._│: : ト、: :\
                           `ヽ、{  
581名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 18:30:08 ID:sn9WwSsS
500kbならタバサは俺の嫁
582名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 18:30:50 ID:IxS5AIdl
500kbならはとわを間違える奴が居なくなる
583名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 18:31:20 ID:K5XTgZmh
        *'``・* 。
              `*。
        ,。   /⌒\人/⌒ヽ  *    500ゲッツ
       +  ノ  \(○)/  ヽ *。+゚
       `*。 Lノ⌒  ( ( ⌒\_」 *゚*
        `・+。*・'  く \ +゚
          ☆       ~ 。*゚
             `・+。*・ ゚
584名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 18:32:55 ID:sn9WwSsS
500kbなら止まっているSSが再開する。
585名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 18:34:43 ID:dobD4I/w
500kbなら『Mark of the Zero』のラスボスはナイトメアギース
586名無しさん@お腹いっぱい。
                    ,ィ'"~          ` 丶 、
                  /                  ヽ.、
                  /.           _____       `ヽ、
.                 i         ,ィil||||彡"'ミi;;,、     \
.                   |        ,イ;;i||jシ"   `ミミミ;;,、...     \
.                 'l,      .:::iシム"二、  -_:ニミ州》、;:::::..........:::::\
.                  'i,   ..::::::::::'巡v"(ノ )  'て)ゞ>三: \;::::::::::::::::::ヽ
                    ヽ:::::::::::::::::::::::`゙li.  〈、    /,.-、   ``ヽ;:::::::::::)
.                     \;;;;::-−tt、;:i、 、- .,  レ'ノ〈`ヽ、___,、 .i;:::::::丿
                /"~ ̄~ ̄ ';,....::::::::ヤ\.`~  ,/ヤ;::::ヘ;;;;;/″ ト;:く
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                  l       \;;::::)::::ト ̄|\、__ノノζゞ::y′ .:/'~::::::ノ
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