リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル8

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1名無しさん@お腹いっぱい。
当スレッドは「魔法少女リリカルなのはクロスSSスレ」から派生したバトルロワイアル企画スレです。

注意点として、「登場人物は二次創作作品からの参戦する」という企画の性質上、原作とは異なった設定などが多々含まれています。
また、バトルロワイアルという性質上、登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写や表現を用いた要素が含まれています。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。

企画の性質を鑑み、このスレは基本的にsage進行でよろしくお願いします。
参戦元のクロス作品に関する雑談などは「クロスSSスレ 避難所」でどうぞ。
この企画に関する雑談、運営・その他は「なのはクロスロワ専用したらば掲示板」でどうぞ。

・前スレ
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルスレ7
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1227146307/
・まとめサイト
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルまとめwiki
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/
・クロスSS倉庫
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/
・避難所
なのはクロスロワ専用したらば掲示板(雑談・議論・予約等にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/10906/
リリカルなのはクロスSSスレ 避難所(参戦元クロス作品に関する雑談にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/
・2chパロロワ事典@wiki
ttp://www11.atwiki.jp/row/
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/22(月) 17:48:27 ID:ps0r1YTg
【基本ルール】
 参加者全員で殺し合いをして、最後まで生き残った者のみが元の世界に帰れる。
 参加者の所持品は基本的に全て没収され、その一部は支給品として流用される。
 ただし義肢などの身体と一体化した武器や装置、小さな雑貨品は免除される。
 主催者に敵対行動を取ると殺されるが、参加者同士のやりとりは反則にならない。
 参加者全員が死亡した場合、ゲームオーバーとなる。
 バトロワ開始時、全参加者はマップ各地に転送される。
 マップとなるのは「各クロス作品の建造物が配置されたアルハザード」という設定。
 バトルロワイアルの主催者はプレシア・テスタロッサ。
 バトロワの主催目的は未定です。それはバトロワの今後の発展次第で決定されます。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/22(月) 17:49:59 ID:ps0r1YTg
【支給品】
 参加者はバトロワ開始時、以下の物品を支給される。
 ・デイバック(小さなリュック。どんな質量も収納して持ち運べる素敵な機能有り)
 ・地図(アルハザードの地形が9×9マスで区分されて描かれている)
 ・名簿(参加者の名前のみが掲載されたファイル)
 ・水と食料(1日3食で3日分、都合9人分の水と食品が入っている)
 ・時計(ごく普通のアナログ時計。現在時刻を把握出来る)
 ・ランタン(暗闇を照らし、視界を確保出来る)
 ・筆記用具(ごく普通の鉛筆とノート)
 ・コンパス(ごく普通の方位磁石。東西南北を把握出来る)
 ・ランダム支給品1〜3個(現実・原作・クロス作品に登場する物品限定。参加者の能力を均一化出来る選択が必要)
 尚「地図」〜「ランダム支給品」はデイバックに収められている。

【支給品の制限】
1.デバイス系
 ・デバイス類は、起動だけならどの参加者でも可能
 ・カートリッジがあれば魔力の無い参加キャラでも、簡易なものなら回数制限付きで魔法使用可能
2.ライダーベルト系
 ※全般
  ・仮面ライダー関係の変身アイテムはこれ以上(33話時点)登場させる事を禁止する。登場した場合大方NG、書き直しで済む場合は書き直しで済ませる
  ・変身アイテムによる変身時間は無制限。ただし一度変身を解くと1時間経過するまで変身不可
 ※龍騎系ライダーベルトについて
  ・12時間に1人、契約モンスターに「生きた参加者」を喰わせないと所有者が襲われるようになる
  ・参加者を1人喰わせると猶予が12時間に補充される。猶予は12時間より増えない
  ・変身や契約モンスターの命令を1分継続させる毎に10分の猶予を消費する
  ・猶予を使い切ると変身や命令は解除され、契約モンスターに襲われるようになる
  ・所有者が自らの意識でカードデッキを捨てると契約モンスターに襲われる。無意識、譲渡、強奪は適用外
 ※カブト系ライダーベルトについて
  ・ベルトのみ支給品指定。ゼクターは変身時のみ、どこからともなく飛来する。
  ・ゼクターに認められなければ変身出来ない。各ゼクターの資格条件は、以下のものを精神的に満たしている事。
   ・カブト……自信
   ・ホッパー……絶望
  ・クロックアップはごく短時間のみ。使用後には疲労有り
 ※555系ベルト(デルタ)と剣系ベルト(カリス)のついてはそれぞれの支給品欄参照
3.火竜@FLAME OF SHADOW STS
  ・デバイスの中に“力の塊”として封印され、参加者に触れられるまで一切の行動が不能(虚空は例外)
  ・参加者が触れると火竜が体内に宿り、使用可能となる。その際、腕に火竜の頭文字が刻まれる
  ・宿っている参加者が死亡すると“力の塊”状態となって体外に出る。火龍の記憶は維持される
  ・能力を使うには火竜の頭文字を描く事が必要
  ・能力を使用する度に体力と精神力を消耗する。度合いは発動した能力の規模に比例
4.巫器(アバター)@.hack//Lightning
  ・通常、名称以外の情報や能力を確認・使用する事は出来ません。
  ・所有者が精神的に喪失を抱え、それに伴って強靭な意志を発揮した場合のみ(それ以降は何時でも)使用可能です。
  ・所有者が死亡すると、再び全機能の確認・使用が不能になります。。
  ・デバイスモードの巫器が近くにある時、その存在を「鼓動」によって察知できます。
  ・術式が既存の系統とは異なる為、AMFの影響を受けません。
  ・各巫器はそれぞれ専用スキルを持ちますが、「データドレイン」は全巫器が共通して使用出来ます。
  ・データドレインとは、魔力結合の術式に干渉・改竄することができる魔力弾を放つ能力の事です。
  ・魔法やAIDAを変質・削除させる事が出来ます。
  ・人間に命中した場合、その人物のリンカーコアに干渉・改変させる事が出来ます。
  ・それそのものは攻撃力が無い為、一般人には無意味ですが、 魔導師には一撃必殺の効果を発揮します。
  ・ただし膨大な魔力を消費する為、一度の戦闘では1発撃つのが限界です。
  ・データドレインの名称は、各巫器ごとに異なります。
5.カード系の支給品(遊戯王、アドベントカード@仮面ライダー龍騎、ラウズカード@仮面ライダー剣)
  ・カード単体でも使用可能、ただし使用後に消滅。専用アイテムを使えば威力増大で何度でも使用可。
6.制限が必要そうだが制限が決定していない物品を登場させたい場合は、事前の申請・議論が必要。
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/22(月) 17:50:46 ID:ps0r1YTg
【時間】
 ・深夜:0〜2時
 ・黎明:2〜4時
 ・早朝:4〜6時
 ・朝:6〜8時
 ・午前:8〜10時
 ・昼:10〜12時
 ・日中:12〜14時
 ・午後:14〜16時
 ・夕方:16〜18時
 ・夜:18〜20時
 ・夜中:20〜22時
 ・真夜中:22〜24時

【放送】
 以下の時間に「死亡者」「残り人数」「侵入禁止エリア」を生き残りの参加者に伝える。
 ・深夜になった直後(00:00)
 ・朝になった直後(06:00)
 ・日中になった直後(12:00)
 ・夜になった直後(18:00)

【地図】
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/pages/126.html

【禁止区域】
 侵入し続けると1分後に首輪が爆発するエリア。「放送」の度に3エリアずつ(放送から1時間後、3時間後、5時間後に一つずつ)増える。
 侵入禁止はバトロワ終了まで解除されない。

【首輪】
 参加者全員の首(もしくは絶対に致死する部位)に装着された鉄製の輪の事です。
 これにより参加者各人の「生死の判断」「位置の把握」「盗聴」「爆破」が行われ、「爆破」以外は常に作動しています。
 「爆破」が発動する要因は以下の4通りです。
 ・主催者が起動させた場合
 ・無理に首輪を外そうとした場合
 ・主催者へ一定以上の敵対行動を取った場合
 ・禁止区域に一定時間滞在していた場合(尚、警告メッセージが入る)
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/22(月) 17:51:25 ID:ps0r1YTg
【避難所内でのスレの分け方】
 ・予約専用スレ(作品制作の為、使用したい参加者を申請する為のスレです)
 ・議論専用スレ(バトロワ上の問題、矛盾点、制限などを話し合う為のスレです)
 ・一時投下&修正用スレ(周囲の判断が必要な作品、または問題点を修正した作品を投下する為のスレです)
 ・情報まとめスレ(現時点での参加者やマップの状況、死亡者、予約状況などをまとめる為のスレです)
 ・雑談専用スレ(このバトロワに関わる方々が雑談する為のスレです)
 ・死者追悼スレ(このバトロワで死亡したキャラ達があの世に行った後の話を投下する為のスレです)
 ・要望スレ(新しいスレなど、新要素が必要になった時にそれを申請する為のスレです)
 ・毒吐きスレ(このバトロワ作品において毒と判断出来る意見を書く為のスレです)

【書き手のルール】
 バトロワ作品を作る上で、書き手に求められる規則。
 ・トリップをつける
 ・本スレでも連載中の書き手は、あくまでもこちらが副次的なものである事を念頭において執筆しましょう
 ・残虐描写、性描写は基本的に作者の裁量に任されます。ただし後者を詳細に書く事は厳禁
 ・リレー小説という特性上、関係者全員で協力する事を心掛けましょう
 ・キャラやアイテムの設定において解らない所があったら、積極的に調べ、質問しましょう
 ・完結に向けて諦めない
 ・無理をして身体を壊さない

【予約について】
 他の書き手とのかぶりを防止する為、使用したいキャラを前もって申請する行為。
 希望者は自身のトリップと共に、予約専用スレで明言する事。
 予約期間は1週間(168時間)。それ以内に作品が投下されなかった場合、予約は解除される。
 ただし諸事情により延長を希望する場合は、予約スレにて申請すれば3日間の延長が可能である。
 自己リレー(同一の書き手が連続して同じキャラを予約する事)は2週間全く予約がなかった場合に限り許可する。ただし放送を挟む場合は1週間とする。
 書き手は前作の投下から24時間経過で新しい予約が可能になる。ただし修正版を投下した場合は修正版を投下終了してから24時間後とする。
 作品に登場したキャラはその作品が投下終了してから24時間後に予約可能になる。ただし修正版が投下された場合は修正版を投下終了してから24時間後とする。

【状態表のテンプレ】
 バトロワ作品に登場したキャラの、作品終了時点での状況を明白に記す箇条書きです

【○日目 現時刻(上記の時間参照)】
【現在地 ○ー○(このキャラがいるエリア名) ○○(このキャラがいる場所の詳細)】
【○○○○(キャラ名)@○○○○(参加作品名)】
【状態】○○(このキャラの体調、精神状態などを書いて下さい)
【装備】○○○○(このキャラが現在身に付けているアイテムを書いて下さい)
【道具】○○○(このキャラが現在所持しているアイテムを書いて下さい)
【思考】
 基本 ○○○(このキャラが現在、大前提としている目的を書いて下さい)
 1.○○(このキャラが考えている事を、優先順で書いて下さい)
 2.○○
 3.○○
【備考】
 ○○○(このキャラが把握していない事実や状況など、上記に分類出来ない特記事項を書いて下さい)

 以下は、バトロワ作品の参加キャラ数人以上が、特定の目的を果たすべく徒党を組んだ際に書くテンプレです

【チーム:○○○○○(この集団の名前を書いてください)】
【共通思考】
 基本 ○○○(この集団が共有している最大の目的を書いてください)
 1.○○(この集団に共有している思考を、優先順で書いてください)
 2.○○
 3.○○
【備考】
 ○○○(この集団が把握していない事実や状況など、上記に分類出来ない特記事項を書いてください)
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/22(月) 17:52:06 ID:ps0r1YTg
【参加者名簿】

【主催者】
○プレシア・テスタロッサ

【魔法少女リリカルなのはStrikerS】 9/10
○高町なのは(StS) ○シャマル ○ザフィーラ ○スバル・ナカジマ ○キャロ・ル・ルシエ ○ルーテシア・アルピーノ ○ヴィヴィオ ○クアットロ ○チンク ●ディエチ
【魔法少女リリカルなのはA's】 2/4
●高町なのは(A's) ○フェイト・T・ハラオウン(A's) ●シグナム ○ヴィータ

【リリカル遊戯王GX】 4/5
●ティアナ・ランスター ○遊城十代 ○早乙女レイ ○万丈目準 ○天上院明日香
【NANOSING】 4/4
○アーカード ○アレクサンド・アンデルセン ○インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング ○シェルビー・M・ペンウッド
【コードギアス 反目のスバル】3/4
○ルルーシュ・ランペルージ ○C.C. ●カレン・シュタットフェルト ○シャーリー・フェネット
【魔法少女リリカルなのは マスカレード】4/4
○天道総司 ○相川始 ○キング ○金居
【仮面ライダーリリカル龍騎】 1/3
●八神はやて(A's) ○浅倉威 ●神崎優衣
【デジモン・ザ・リリカルS&F】 0/3
●エリオ・モンディアル ●アグモン ●ギルモン
【リリカルTRIGUNA's】 1/3
●クロノ・ハラオウン ○ヴァッシュ・ザ・スタンピード ●ミリオンズ・ナイブズ
【なの☆すた nanoha☆stars】 3/3
○泉こなた ○柊かがみ ○柊つかさ
【なのは×終わクロ】2/2
○新庄・運切 ○ブレンヒルト・シルト
【リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 2/2
○セフィロス ○アンジール・ヒューレー
【魔法妖怪リリカル殺生丸】 1/2
○ギンガ・ナカジマ ●殺生丸
【L change the world after story】 2/2
○ユーノ・スクライア ○L
【ARMSクロス『シルバー』】 2/2
○アレックス ○キース・レッド
【仮面ライダーカブト】 0/2
●フェイト・T・ハラオウン(StS) ●矢車想
【ゲッターロボ昴】 1/1
○武蔵坊弁慶
【魔法少女リリカルなのは 闇の王女】 1/1
○ゼスト・グランガイツ
【小話メドレー】 1/1
○エネル
【ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】 1/1
○ヒビノ・ミライ
【魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】 1/1
○八神はやて(StS)

現在:45/60
7 ◆Qpd0JbP8YI :2008/12/22(月) 21:24:00 ID:Av8ydrmN
キング、天道、浅倉、ヴィヴィオ、シャーリーを投下します
8仮面ライダーらしく ◆Qpd0JbP8YI :2008/12/22(月) 21:24:51 ID:Av8ydrmN
キングと天道を乗せたカブトエクステンダーは温泉を目指し、川沿いの道を疾走していた。
碌に整備もされていない道だが、カブトエクステンダーの能力のおかげだろうか、
その悪路ともいうべき道のりをキングでも難なく進めていた。
このままならすぐに温泉へと着くだろう。
キングがそう思った矢先、道の向こうから三人の姿がキングの目に入ってきた。
ズサッと驚くほどの制動距離でもってバイクを三人の前で停止させ、
キングは一人一人の顔を検分しようとする。
だが、そんな事をする前にキングの前に歩み寄る人物が一人。

「ちょうどいい。お前、俺と戦え」

カテゴリーキングに属するアンデッドを前の前にしても、
何ら臆することなく獰猛な瞳を向ける浅倉威であった。

「戦う? ちょっと待ってよ。僕はこのゲームになんか乗っていないよ」
「そんな事を関係ない。お前は強いだろ? だったら俺と戦え」

ただの人間の不遜な態度に流石のキングも幾分かの反感を覚えないわけではないが、
生憎と今は背中に大切な玩具を背負っている。
それをこんな事で壊してしまっては堪ったものではない。
それに態々デスゲームとやらを面白くしてくれそうな人間を、
自分の手で殺してしまうのも憚られる。

「いやいや、僕と戦ったってつまらないよ。それに、ほら」

そう言い、キングは背中で気を失っている天道を見せる。

「僕はこれからこの人間を手当てしなくちゃだからさ」
「そいつは……!」
「おや、知り合い?」
「俺の獲物だ。お前がそいつをやったのか?」
「まさか! 僕はそんなことはしないよ。最初に会った時から、こいつはこんなんだったよ」
「そうか……じゃあ、俺と戦え」
「いや、待ってよ。何でそんな話になるのさ。全然話が繋がってないよ」
「関係ない」

にべもない一言。
浅倉は一歩、また一歩とヴィンデルシャフトを構えながら、キングにへと歩み寄っていった。
とは言っても、相手はアンデッド、キング。
そんな事に全く動じもせずに、目の前の男を吟味しつつ、相手がどんな人間か――
いや、『CROSS-NANOHA』を持つキングは相手が誰であるかを考え始めた。

「そう言えばさ、君は天道のことを獲物って言ってたよね? ひょっとして、前からこいつのことを知ってたの?」
「さあな」

ふ〜ん、と喉を鳴らしながら、キングは自らの記憶を探る。
『CROSS-NANOHA』における仮面ライダーの部分は
他の物よりはよく目を通したとはいえ、まだ全てを覚えきったわけでない。
でも、そんな斜め読みでも天道と同様に印象に残った人物が一人いた。
そしてその確認の為にも、キングはあるキーワードを歩み寄る男に告げてみた。
9仮面ライダーらしく ◆Qpd0JbP8YI :2008/12/22(月) 21:27:36 ID:Av8ydrmN
「そういえば、この天道って人、最強の仮面ライダーらしいんだよね」
「なに!?」

その動物のように野生じみた瞳に一瞬、驚愕の色が写ったのをキングは見逃さなかった。

「ねえ、君の名前を聞いてもいいかな?」
「……浅倉だ」
「そっか」

その答えを聞いて、キングは傍から見ても分かるような笑みを隠さず浮かべた。

「じゃあ、やっぱり君も仮面ライダーなんだね?」

その質問を聞いて、浅倉もキングに負けず劣らずの凄絶な笑みを浮かべた。

「なるほど。それなら話は早い。お前も仮面ライダーなら……」

顔に笑みを浮かべたまま、浅倉はヴィンデルシャフトをキングに向けて、振りかぶった。

「俺と戦え!」

狂気と歓喜を孕んだ一撃が、キングの脳天めがけて、勢いを乗せる。
しかし、ヴィンデルシャフトがキングにぶつかると思った瞬間、空中に盾が出現。
再び驚愕の色をその瞳に写し、浅倉はヴィンデルシャフトと共に後方に弾き飛ばされた。

「変な勘違いはしないでよ。僕は仮面ライダーなんかじゃないよ」

そんな言葉を聞いても、浅倉は笑みを絶やさず、再びヴィンデルシャフト構えて、立ち上がった。
そして今度こそは一撃をキングに見舞ってやろうと、踏み込んだところで
キングは突然とバッグからベルトを取り出し、浅倉の前に掲げた。

「何のつもりだ!?」

キングの不可解な行動に浅倉も思わず足を止め、質問をしてしまう。

「仮面ライダーのベルト。本来はこの天道のらしいんだけど、こいつはこんなんだろう?
こんなんじゃベルトも役に立てなくて可哀想だから、これは君に上げるよ♪」

放り投げられたベルトを浅倉は思わず受け取ってしまう。

「……お前……何がしたい?」
「いやだなー。そんなにも睨まないでよ。さっきも言ったでしょ? そのベルトを役に立てるためさ。
仮面ライダーには、やっぱり仮面ライダーらしく振舞ってもらいたいからね♪」
「仮面ライダーらしくか……」
「そうそう♪」
10仮面ライダーらしく ◆Qpd0JbP8YI :2008/12/22(月) 21:29:28 ID:Av8ydrmN
キングの「仮面ライダーらしく」という言葉に浅倉は愉悦を顔一杯に広げた。
そしてその様子を見て、キングも楽しげに頷く。
目の前の仮面ライダーを知る浅倉という名の人間。
キングの記憶が確かなら、連続殺人犯。
そして戦うためだけに仮面ライダーとなった狂人。
そんな人間の手に自分の大切なベルトが渡ったと知ったら、天道の心はどうなるか。
自分のベルトによって多くの人間が命を失うと知ったら、天道の仮面ライダーとしての誇りはどうなるか。

(な〜にが天の道を往き、総てを司るだ? お前のぜ〜んぶを滅茶苦茶にしてやるよ)

キングは背中で眠る天道を我が子のように愛しげに見つめた。

「そうそう、そんなに戦いたいなら、僕より強い奴が向こうにいるよ。
いきなり鎌を持って僕に襲い掛かってきてね〜。魔法も使ってくるしで、逃げるだけで手一杯だったよ」

ベルトをつけた浅倉が自分に歩み寄ろうとするのを目の端に留めたキングは
彼が自分に向かってこないように、美味そうな餌を彼に放った。
とはいえ、それが幾ら極上な料理であろうと、
目の前にある餌を見逃すほど浅倉の飢えは生易しいものではない。
浅倉はベルトに手を宛がい、変身の準備へと取り掛かった。

「それにさ、僕は天道を手当てしなきゃなんだよ。浅倉もさ、この天道とちゃんと戦ってみたいでしょ? こいつ、このままだと、死んじゃうよ?」

そのキングの言葉に浅倉の動きは止まる。
天道は浅倉にとっても是非とも戦ってみたい相手だ。
絶えず鬱屈するイライラを拭ってくれるような予感を
浅倉は天道と会った時に僅かにしろ抱いたのだから。

「どこだ!? そいつはどこにいる!?」

そして野獣はキングの放り投げた餌に齧り付くことになった。

「そんな慌てないでよ。向こうだよ、向こう。まだそんなに時間も経ってないし、まだあそこにいるんじゃないかな。
戦いたいんだったら、急いだほうがいいよ。あ〜、あとゲームにも乗っているみたいだから、気をつけてね♪」

キングの言葉を聞き届けると、浅倉は慣れぬ武器、ヴィンデルシャフトとジェットエッジをゴミのように放り投げ、
キングの指差した方向へと歩みを進めていった。
そしてそんな勝手な浅倉と気絶している天道を、おろおろと交互に見比べる少女が一人。

「あの、その人を助けてくれるんですか?」

やがて意を決したかのように少女、ヴィヴィオはキングに訊ねた。

「……その前に君の名前は何ていうの?」
「えっと、私の名前はヴィヴィオです」
11仮面ライダーらしく ◆Qpd0JbP8YI :2008/12/22(月) 21:32:09 ID:Av8ydrmN
ヴィヴィオと名乗る少女の名前と容姿を頭の中に刻み込み、キングは笑みと共に質問に答えた。

「ふ〜ん、ヴィヴィオね。僕の名前はキング。え〜と、それで何だっけ? あ〜そうそう、うん、勿論、助けるつもりだよ」
「そうですか」

キングの答えにヴィヴィオは笑顔を広げる。

「えーと、それじゃあ、その人の事をよろしくお願いします」

ペコリと頭を下げ、後顧の憂いを無くしたヴィヴィオは浅倉の捨てた「ゴミ」を拾いながら
急いで彼の後を追いかけていった。
その影二つを優しく見送りながら、キングはバイクのエンジンを点け、
再び走り出そうとするが、不意にそれを制止する声が耳に入った。

「待ってください」

キングが目を向けてみると、オレンジ色の鮮やかな髪の色をした女性、シャーリーがいた。

「なに?」
「ゼロのことを、その人のことを、どうするつもりですか?」
「どうするって……そりゃあ、助けるさ。こんな様じゃ、可哀想だろう?」
「その人は、ゼロは、たくさんの人を殺したテロリストなんですよ! それでも助けるというんですか!?」
「そうなの?」
「そうです!」

天道はゼロでありテロリストであるという命題を解くのには、キングの情報が不足していた。
ゼロという単語は確かに目にした記憶はあったが、それが何だったかいまいち思い出せない。
それに天道の部分もまだ完璧に網羅しているわけではない。
もしかしたら、彼女の言うことは本当なのかもしれない。
しかし、仮面ライダーとゼロは別個の話だったような気がしないでもないし
やはり、彼女の言うことは狂言、もしくは単なる思い込みなのだろう。
といっても、だからキングが何をするという話でもない。
彼女の言葉の調子からゼロという者に恨みを抱いているのが見受けられる。
それも相手が死んでも構わないくらいに。
彼女を壊すのは簡単だ。
天道を殺させた後に、彼はゼロではなかった証明してやればいい。
そうすれば、無関係な人を殺したという罪悪感に勝手に押しつぶされて、愉快な姿を曝け出してくれるだろう。
だけど、それだとキングが困る。
何故なら、天道はキングにとって、自分が壊すべき大切な玩具なのだから。
12仮面ライダーらしく ◆Qpd0JbP8YI :2008/12/22(月) 21:34:42 ID:Av8ydrmN
「ん〜、まあ、このままだと死んじゃうかもしれないしね〜。それだと、つまんないから助けるよ」

つまんないから。
そんな予想だにしてなかった理由にシャーリーは思わず口を噤んでしまう。

「で、もう行っていい? 早くしないと、こいつ死んじゃいそうだからさ」
「え? えーと、これからどこに行くつもりなんですか?」
「ん〜、温泉。日本人といったら、やっぱり温泉でしょ?」
「そう……ですか。それはいい考えだと思います」
「でしょ? 最後に君の名前を聞いてもいいかな?」
「……シャーリーです。シャーリー・フェネット」
「シャーリーね。覚えたよ」

最後に子供のような無邪気な笑顔を残し、キングはバイクで走り去っていった。
そしてそれを見送るシャーリーはキングの「つまんないから」という言葉を思い出し、一人頷いた。
確かにキングの言うとおり、ゼロがこのまま簡単に死んでいってはつまらない。
彼はおおよそ悪とはかけ離れた民間人を多数殺したテロリストだ。
その大罪を購う為にも、ゼロは精一杯苦しまなきゃならない。
自分の手で殺していった人間の命の重さを知るためにも、これでもかというほどに。
それを今、ここで簡単に殺してしまっては、死んでいった彼らの痛みなど伝わらない。
それでは父の、ゼロによって死んでいった人々の無念が晴らされることはないだろう。
だから、彼女は天道を殺さなかった。

(ゼロ、私はあなたを決して許さない。だから精一杯苦しんで)

ゼロの容態、そして彼の向かった温泉には治療に使えそうなものなど
何一つ残っていなかったのを思い出し、
彼女はほんの少しの罪悪感を覚えながらも、ほんの少し笑った。



【1日目 朝】
【現在地 C-7】


【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】右脇腹負傷(身体を動かすことはできるレベル)、気絶中
【装備】爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具】支給品一式、ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 0.気絶中
 1.天の道を往く者として、ゲームに反発する参加者達の未来を切り拓く。
 2.カブトゼクターとハイパーゼクターを取り戻してみせる。
 3.俺が望みさえすれば、運命は絶えず俺に味方する。
 4.感謝するぞ、加賀美。
【備考】
 ※参戦時期はACT.10冒頭。クロックアップでフェイト達の前から立ち去った直後。
 ※なのは、フェイト、はやて、クロノは一応信用、矢車は保留、浅倉は警戒しています。
 ※身体がいつものように動かない事を知りました。
13仮面ライダーらしく ◆Qpd0JbP8YI :2008/12/22(月) 21:36:04 ID:Av8ydrmN
【キング@魔法少女リリカルなのはマスカレード】
【状態】変身による疲労(中)、一時間変身不可(コーカサスビートルアンデッド)、非常に上機嫌
【装備】カブトエクステンダー@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ソリッドシールド@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
基本 この戦いを全て滅茶苦茶にする
 1.温泉に向かう
 2.天道で遊ぶ
 3.キャロに期待
 4.はやてとの合流は後ででも良いかな
 5.はやてとヴィータの決着が着いたら、残ったほうに真実を伝えて、その反応を楽しむ
 6.とにかく面白いことを探す
【備考】
 ※制限が掛けられている事に気がつきました
 ※ゴジラにも少し興味を持っています
 ※携帯電話は没収漏れです。写メ・ムービー以外の全ての機能は停止しています。
 ※携帯には相川始がカリスに変身する瞬間の動画等が保存されています。
 ※キングの携帯に外部から連絡出来るのは主催側のみです。
 ※カブトの資格は持っていません
 ※キングの携帯のお気に入りフォルダに『CROSS-NANOHA』へのリンクが存在します。


【シャーリー・フェネット@コードギアス 反目のスバル】
【状態】健康、悲しみ
【装備】浴衣、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ゼロの銃(10/10)@コードギアス 反目のスバル
【道具】支給品一式、デュエルアカデミア売店の鍵@リリカル遊戯王GX、ランダム支給品0〜2(元シャーリー:0〜1(一見して治療に使えそうなものはありません)、元ヴィヴィオ0〜1)
【思考】
 基本:ルルーシュ達と一緒に帰りたい。
 1.ヴィヴィオの為にフェイトを探す
 2.もう1人いるなのはを探し、ヴィヴィオのママかどうかを確かめる
 3.浅倉と行動を共にしヴィヴィオを守る
 4.ルルやスバルや六課の人を捜す
 5.この人(浅倉)って……実は良い人?
 6.デュエルアカデミアって……決闘の学校?
【備考】
 ※天道のことをゼロだと思っています
 ※ゼロを追いかける為に、一時的に二人の仲間になることにしました
 ※六課がブリタニア軍の特殊部隊で、スバルはその一員だと考えています
 ※ザフィーラを大型犬だと思っています
 ※プレシアはブリタニアの偉い人で、この殺し合いを開いたのは六課や日本人及びその関係者を抹殺する為だと考えています
 ※ヴィヴィオの境遇を自分と重ねています
 ※2つあるなのは、フェイト、はやての名前から同姓同名の別人がいると思っており、放送で呼ばれたなのはが別人の可能性があると考えています
 ※デュエルアカデミアを物騒な所だと思っています
 ※ゼロは苦しんで死ぬべきだと思っています
14仮面ライダーらしく ◆Qpd0JbP8YI :2008/12/22(月) 21:38:39 ID:Av8ydrmN

【浅倉威@仮面ライダーリリカル龍騎】
【状態】右手に火傷
【装備】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式
【思考】
 基本 戦いを楽しむ。戦える奴は全員獲物
 1.鎌を持った奴(キャロ)と戦う
 2.1の後は市街地にある施設に向かってみる
 3.回復した天道、キングと戦う
 4.更なる戦いの為、ヴィヴィオとシャーリーを利用する
 5.この二人がウザい。鬱陶しい。
【備考】
 ※自分から二人に危害を加えるつもりはありません
 ※二人の事は使えないと判断した時点でいつでも切り捨てるつもりです
 ※プレシアは殺し合いを監視しており、参加者の動向を暗に放送で伝えていると考えています
 ※ヴィンデルシャフトのカートリッジシステムには気付いていません


【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、深い悲しみ
【装備】ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ヴィンデルシャフト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本 フェイトママや、六課の皆と一緒に脱出する
 1.なのはママ……
 2.フェイトママを探す
 3.浅倉とシャーリーに着いて行く
【備考】
 ※浅倉の事は、襲い掛かって来た矢車から自分を救ってくれたヒーローだと思っています
 ※浅倉を信頼しており、矢車とエネルを危険視しています
 ※キングのことを天道を助けてくれるいい人だと思っています
 ※この場にもう1人なのはがいる事に気付いていません
15 ◆Qpd0JbP8YI :2008/12/22(月) 21:40:08 ID:Av8ydrmN
以上です。投下終了しました。
16名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/22(月) 22:58:51 ID:49mUQBQ+
投下乙です。
これはキングにとっては収穫大だったな。
おいしい獲物が一杯でキングが実に幸せそうだ。
それとシャーリー……罪悪感をありながら少し笑うって――怖ッw
17名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/22(月) 22:59:59 ID:49mUQBQ+
言い忘れていた。

>>1-6
新スレ立て乙でした。
18名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/23(火) 05:07:21 ID:5T21899R
GJです
ってかそろそろ起きろよ天道ww
ロワ始まってからほとんど寝っぱなしwww

指摘というか疑問が
浅倉威はマスカレード世界でもテレビやニュースで有名だと思うのですが、普段からパソコンや携帯を使って情報収集しているキングはそれを知らなかったのでしょうか?
それから、浅倉はカブトの資格を持っているのでしょうか?
19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/23(火) 11:20:24 ID:2jRFcJ7o
投下乙です、
とりあえず浅倉今のキャロは危険だから挑んじゃ駄目ー!
ヴィヴィオもシャーリーもそっちいっちゃ駄目ー早く逃げてー!!

と、こちらも便乗で疑問が……

使い慣れない武器なのでヴィンデルシャフトをゴミの様に捨てたのはわかるのですが、
ジェッドエッジは一応ローラーブレード型のはずなので移動には使えると思うのですが……ひょっとして、移動に使う程度にも慣れていないのでポイした?
20 ◆Qpd0JbP8YI :2008/12/23(火) 13:54:37 ID:5+K6nFsI
感想ありがとうございます。

>>18
wikiの参加者情報にキングが浅倉を知っているようなことが書かれていなかったので、
知らないのかなと思いました。
他にも違和感を多く覚える方がいるようでしたら、修正します。

カブトの資格の有無は、この段階では判明していません。
状態表の方に資格を持っているどうか分からない事を追記しときます。


>>19
冒頭にも書きましたが、浅倉たちのいるところは悪路。
そんな所をエアライナーやウイングロードを持たない浅倉が
ジェットエッジなどで走破するのは無理だと思いました。
またそうであれば、短気の彼が使えないと思ったものに固執するのも変だと思い、捨てさせました。
ここらへんは描写不足だったと今更ながらに自分でも思いますので、後日修正したいと思います。
2119:2008/12/23(火) 14:21:21 ID:dWMw1QA0
回答ありがとうございました。

確かにまだ慣れていない状況で走破というのはちょっと無理がありますね……。

ヴィヴィオ……お願いだから浅倉の危機を救ってくれ……(ぇ)
22 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:43:16 ID:VUcfOe+D
十代、シャマル、クアットロ、つかさ、はやて(StS)を投下します。
23 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:45:57 ID:VUcfOe+D
地上本部。
このデスゲームの会場の中心に建っている建築物。
その前に彼らは居た。
遊城十代、クアットロ、シャマルの三人だ。
十代は仲間との再会を。
クアットロは手駒と使える道具を探そうと。
シャマルはクアットロに若干の違和感を感じながら。
この建築物の前に立っていた。

(さてと、地上本部に着きましたけれど……)

隣にいるシャマルと十代を見ながら、クアットロは今後どうするかを考えていた。

(正直……ここにカードがあるとは思えませんねぇ)

最初、クアットロは地上本部で手駒――人員の確保と同時に、カードとディエルディスクを探そうと思ったのだ。

(ですが……十代君の世界に在ったという建物、ディエルアカデミア……)

そう。
十代との話の時に出てきたディエルアカデミアという建物。
その建物がこの会場にあることがわかった時、クアットロは自分が地上本部でやるべきことを考え直すことにしたのだ。

(ディエルアカデミアにカードとディエルディスクがあると仮定するなら、ここでやるべきことは……情報と手駒ですねぇ)

無論、ここにカードがある確率もゼロではない。
ゼロではないのだが、確実に見つかるであろう場所があるのだからここで探さなくてもいいのではというのがクアットロの考えだった。

(まぁ、見つけたら“何”をするかに変わりはないのですけど……)

クアットロは表面で隠しながら、心の中で静かに笑った。

24 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:46:59 ID:VUcfOe+D

(信用して……いいのよね?)

シャマルもまた考え事としていた。
クアットロの改心……本当に信用していいのだろうか。
別に言動に怪しい部分はない。
それどころか、積極的に脱出する為の努力をしている。
だが……それでも疑心は晴れなかった。
何故だ。
やはり、シャマルの世界のクアットロのしてきたことが頭から離れないせいだろうか。

(このクアットロも、改心する前は同じことをしたのよね……ひょっとしてそれのせい?)

考えてみたら、確かに。
実のところ、改心するかしないかの違いだけでこのクアットロもシャマルの世界のクアットロと同じことをしているのだ。

(それがどうしたっていうの……このクアットロはいいクアットロなんだから、疑ったらだめよシャマル……)

シャマルは再びその疑心を振り払っていた。


(シャマル先生、どうしたんだ?)

十代もまた考え事をしていた。
クアットロのことでも、柊つかさのことでもない。
十代は今、シャマルのことが気になっていた。
別に、シャマルが異性として気になる……というわけではない。

(顔色が悪いな……どうかしたのか?)

十代はシャマルの顔を見た。
シャマルは気分でも悪いのか、なんとも微妙な表情をしていた。
人によっては、それが少し疑心から来る表情だと気づくだろうが……

25 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:47:36 ID:VUcfOe+D
(こんな状況だしな、少し話しでもして元気付けたほうがいいよな)

十代はこれっぽちも気づいていなかった。
だが元気付けようとした心意気は良しとするべきだろう。
ただ……

『さて、皆が待ち望んだ最初の放送の時間が来たわ。』

もう少し早ければの話だが。


     ◇


「そんな……シグナム……それになのはちゃんまで……」
「エリオにティアナもかよ……くそ!!もうこんなに犠牲者が……」
「ディエチちゃん……」

放送が終った後、皆それぞれ苦痛の表情をしていた。

(もしかしたら、違う世界のシグナム達かもしれないけど……。でもみんなはみんなよ。守れなかったことに変わりはない)

(くそ!! アカデミアのみんなは大丈夫だったけど……だからって喜んでいいわけじゃない。もう13人も人が死んでんだ……。)

シャマルは仲間を守れなかった自分の不甲斐なさのため。
十代は殺し合いを止められなかったことに対して。

(ちょっと、なんで死んじゃうのよ!! 貴重な手駒が一人居なくなっちゃったじゃない!!)

ただクアットロだけは違う意味で。
それぞれの表情をしていた。

「……大丈夫ですかシャマル先生、十代君。」
26 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:49:58 ID:VUcfOe+D
「う、うん。ありがとうクアットロ。大丈夫……ではないけど、ここで嘆いてもいられないからね……」
「……あぁ、大丈夫だよクアットロさん。そういうクアットロさんは……?」

二人を慰めていたクアットロに対し、十代は聞いた。

「え、えぇ大丈夫ですわ。ディエチちゃんのことは悲しいけど、何時までもくよくよしてられませんもの。」
(……まぁ、まだルーお嬢様やチンク、そしてアンジール様が居ますしねぇ……)

正直、ディエチの死は少なからず予期していたことだった。
クアットロは最初に自分に支給されたものの中に、レイジングハート・エクセリオンがあったことを思い出していた。
支給品はランダムに支給されている。
だとしたら当然、ディエチの固有武装であるイノーメスカノンもまた例外ではないだろう。
いや、そもそもあの大砲が支給されているのかどうかも怪しいが。
とにかく彼女自身に支給されたということはないだろう。
それはつまり、金属があればISが使えるチンクや、固有武装がなくともISが使えるクアットロよりも死ぬ確率は高かったのではないか。

(まぁ、それを言ったらルーお嬢様も例外ではないですけど)

とクアットロは思っていた。
実は固有武装もある状態でディエチは殺害されたのだが、そのことをクアットロは知らない。
とにかく、これでクアットロの行動ははっきりした。

(絶対に見つけますわよぉ……情報と手駒)

人員確保と情報入手。
それが、クアットロが地上本部ですることになっていた。

「さて、こんなことになってしまいましたけど、この建物調べますか?」
「あぁそうしよう。こうしている間にも犠牲者が出るかもしれないからな」
「……何時までも悲しんでいられないわね。えぇ、調べましょう」
「わかりましたわ。では行きましょう」
27 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:50:42 ID:VUcfOe+D
(精々見つけてくださいねぇ……情報と手駒をねぇ)

そう思いながら、三人は地上本部に入っていった。

この時、クアットロは少し――本人も気づかないくらいだが――焦っていたのかもしれない。
地上本部に入らなければ、いやそもそも放送を聴かなければ焦らなかったかもしれない。
だが、結果的に入ってしまった。
それは、この時話さなかったことにも繋がってしまった。
これからどうなるのか、それは誰にもわからない。


     ◇


「え、別行動?」
「はい。その……全部とは言いませんが、最低限、最上階と地下は調べたほうが良いかと思いまして……」

地上本部に入った時、クアットロはシャマルに対してそう言った。
これには、クアットロなりの理由があった。
まず、単純に人員と情報を確保するために、というのが理由。
固まって探すより、別れて探したほうが効率が良い。
ただでさえ広いので、固まるよりは良いだろうということだ。
そして、もう一つは……

「私、どうしても調べたいことがあるんです。」
「ん? 何を調べるんだ?」
「……御免なさい、今はまだ言えないわ。でも私は、重要なことだと思っているの」
「重要なこと? ……一人で調べるのか?」

クアットロは、はいと言いながら十代の言葉に首を縦に振った。

「シャマル先生、駄目……ですよね」
「え……?な、なんで……」
「でも、私はシャマル先生の役に立ちたいんです!!」
28 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:51:36 ID:VUcfOe+D
「どうして……」
「シグナムさんの名前が呼ばれた時。シャマル先生、とても悲しそうでした」

クアットロはシャマルが動揺しているのがわかった。
後一息と思いながら、クアットロは最後に言った。

「危ないのは分かっています。でも私はシャマル先生のそんな顔は見たくありません。だから……シャマル先生の役に立ちたいんです!!」
「クアットロ……」

それは、シャマルの中に在った少しの疑心を掻き消すのに十分だった。

(……私、どうかしていたのね。こんなに必死になって私のために……。今まで疑ったりして御免なさい。)

そう、心に思った。そして……

「わかったわ。でも危なくなったらすぐに逃げてね」
「シャマル先生……。あ、ありがとうございます!!」

そう言って、クアットロは近くにあったエレベーターに入った。

「一時間したら戻ってきます。だからそれまで……」
「えぇ。クアットロ……気をつけて」
「はい、分かりました」
「クアットロさん、帰ってきてくれよ!」
「はい、十代君も気をつけて……」

そう言い終った時、エレベーターの扉は閉じた。
シャマルと十代の二人だけになったのだ。

「俺達も行きますか」
「……えぇ、そうね」

そう言って二人もエレベーターの中へ入っていったのだった。

29 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:52:26 ID:VUcfOe+D

     ◇


「計画通り、ですねぇ……」

もう一つの理由。
それはシャマルへの恩義……などではない。

(こぉんなに大きな建物ですからねぇ。電子端末の一つや二つ、あるかもしれませんねぇ)

それは、情報が集まるであろうもの。
すなわち、電子端末を探すためであった。
そして一人になった理由。
それは、他の参加者に有利な情報はもみ消すため。

(いくら利用するといっても、あまりシャマル先生達が有利になっても嫌ですしぃ)

それに

(いずれは殺すのですからねぇ。これくらいはいいでしょう)

そう言ってクアットロは電子端末を探そうとして、その歩みを止めた。

「そういえば、さっきのあれ」

ちなみにあれとは、アリサ・バニングスの死者蘇生のことである。
だが、クアットロにとっては……

「……茶番ですわねぇ、あんなの別の世界から同じ“アリサ・バニングス”連れて来ればいいだけの話じゃない」

別に誰に言うわけでもなくそう言った。

「まぁ事情を知らなかったりしたら、あれを見てゲームに参加する人がいるかもしれませんけどねぇ……」
30 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:54:05 ID:VUcfOe+D

と勝手に(まぁ合っているが)決定し、ふと――

「と、もしかしたら他の参加者がいるかも知れませんからねぇ……」

そう言って、自分(元はアンジールのもの)の支給品の一つを手に取った。

それは普通の剣だった。
シグナムの剣であるレヴァンティンのようにカートリッジが積まれているわけでもなく。
殺生丸の剣である爆砕牙のように半永久的に破壊活動を続けられるわけでもなく。
セフィロスの剣である正宗のようにものすごい長さをしているわけでもなく。
そして、この会場で殺生丸に支給された剣である童子斬丸のように生き血が必要なわけでもなく。
……かといってルルーシュ・ランペルージに支給されたどこぞの侍の木刀よりは確実に強く。
本当に普通の剣だった。


ただ、先端が人の頭をかたどったような形状であることを除いてはだが。


(改めて見ますけど……これは本当に剣なのかしら?)

戦闘機人の力もあり、少し重そうなそれも難なく持ち上げつつ、クアットロはそう思った。
一応試し切りはアンジールに渡された時にしている。
なので、クアットロはそれが模造刀ではなく本物なのだということはわかっていた。
けれども、彼女は信じられなかったのだ。
本当にこれが剣(?)なのかどうかを。
付属してあった説明書もあったのだが、そこに書かれていたのは、『とある世界の融合戦士『ボボパッチの助』が使っていた武器』と言う一文だけ。
正直クアットロは、誰だよボボパッチの助というかなんで剣の名前が書かれてないのというかなんで先端こんななの!!? とツッコミをいれたくなったぐらいだ。

この剣(?)の名前は田中ソード。
実際にボボパッチの助が使っていた武器であり、そしてとある異常な世界ではフェイトがバルディッシュの代わりに使用していた武器でもある。
クアットロがもう少し調べれば、特定の人物がこの剣で魔法が使えることもわかったかもしれない。
31 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:54:57 ID:VUcfOe+D
だが、先程も言ったようにクアットロは少し焦っていた。
なので、その事実に気づくことはなかった。

(ま、まぁ、使えることは使えますしねぇ……)

そう思ってクアットロはその剣を手に取り、再び歩き出した。
自身が有利になるために。


思ったより早くそれは見つかった。
と言ってもすぐ近くにあったというわけではない。
地下の、極端に言えばものすごく奥の方にそれはあった。
パーソナルコンピューター。
主にパソコンと呼ばれているものである。
もしも、これを見つけたのが十代などの普通に地球で生きている人間だったなら、喜びの表情の一つはしただろう。
だが……

「……ここにはありませんわねぇ」

あいにく、クアットロは地球に行ったことなどない。
なのでここにあったパソコンも、周りにある機械と同じものと思ってしまったのだ。
クアットロは(不運にも)その場を後にして、他の場所を探しに行ってしまった。

ちなみに、地下にはクアットロの前に八神はやてが調べていた。
本来の冷静な彼女ならミッドチルダにある建物の中に地球のものがあることに違和感を感じてもよかったはずだ。
そう。
キングのことで気が散っていたはやてでなければ、見つけられたはずだったのだ。

そして今クアットロもこのパソコンに目もくれず、他の場所を探し始めてしまった。
クアットロはおそらく何も見つけられないだろう。
八神はやてがそうだったように。
そして、この後彼女は非常に後悔することになるだろう。
それは、パソコンを見れば回避できた不幸。
あるいは地上本部に入らなければ回避できた不幸。
その不幸に、クアットロは気づかない。
そしてその不幸の末に一体どうなるのか。
そんなこと、誰も知らない。
例え……プレシアでも。

32 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:55:30 ID:VUcfOe+D
【1日目 朝】
【現在地 E-5 地上本部地下】
【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】左腕負傷(簡単な処置済み)、眼鏡無し、髪を下ろしている、下着無し、焦り(小)
【装備】高良みゆきの制服@なの☆すた、ウォルターの手袋@NANOSING、田中ソード@ナナナーナ・ナーノハ
【道具】支給品一式、ナンバーズスーツ(クアットロ)、クアットロの眼鏡
【思考】
 基本:この場から脱出する
 1.地上本部地下で情報、手駒を探す
 2.十代とシャマルの信頼を固めて、とことん利用し尽くす
 3.聖王の器の確保
 4.他のナンバーズともコンタクトをとる
 5.フェイト(StS)との接触は避ける
 6.下と胸に違和感が……
7.カードとディエルディスクはとりあえず保留
【備考】
 ※地上本局襲撃以前からの参戦です
 ※参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました
 ※アンジールからアンジール及び彼が知り得る全ての情報を入手しました(ただし役に立ちそうもない情報は気に留めてません)
 ※アンジールの前では『アンジールの世界のクアットロ』のように振る舞う(本質的に変わりなし)
 ※改心した振りをする(だが時と場合によれば本性で対応する気です)
 ※デュエルゾンビの話は信じていますが、可能性の1つ程度にしか考えていません
 ※この殺し合いがデス・デュエルと似たものではないかと考えています
 ※殺し合いの中で起こる戦いを通じ、首輪を介して何かを蒐集していると考えています
 ※デュエルモンスターズのカードとデュエルディスクがあればモンスターが召喚出来ると考えています
 ※地上本部地下にあるパソコンに気づいていません

【田中ソード@ナナナーナ・ナーノハ】
本編中ではフェイトがバルディッシュを置いてまで使っていた長剣。
剣の先端が人の頭をかたどっている。
本来は融合戦士ボボパッチの助が使用していた武器。
作中でフェイトはこの剣で魔法を使っているのでデバイスだと思われる。
付属の説明書には『とある世界の融合戦士『ボボパッチの助』が使っていた武器』としか書かれていない。


33 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:56:12 ID:VUcfOe+D

さて、クアットロが地下で四苦八苦している時シャマルと十代はと言うと……

「……シャマル先生」
「う、うん。何?」
「何回も聞くかも知んないけどさ……これ何だと思う? 「『魔力を込めれば対象者の望んだ場所にワープできます』、て書いてあるけど……」
「え、えぇ……。たぶん、その通りだと思うわ……」

……転移魔法の魔法陣の前に居た。
この魔法陣の前に来てもう数十分している。
が、魔法陣を見つけたのは僅か数分のことだった。
ちなみに、この間に二人はアリサの死者蘇生についての話をしていた。
答えは二人とも何かトリックがあるに違いないと思っていた。
そして、そのことを話そうとしている時に例の魔法陣を見つけたのだ。
まぁ……
エレベーターを出て、二人が一番最初にベンチ付近を調べたというだけの話だ。
ただ見つけたのは良かったのだが、二人がこれを積極的に使おうとは思わなかった。

まず第一に、クアットロを置いて行くわけにはいかないと思ったからである。
確かに二人とも会いたい人物はいる。
だから二人とも、この魔法陣を使いたいという気持ちは強かったはずだ。
だが二人はクアットロを信用していた。
それゆえに、彼女を置いてまでこの魔法陣を使おうとは思わなかったのだ。

そしてもう一つ、この魔法陣を使おうとしなかった理由がある。

「……罠よね……」
「え? 罠?」
「えぇ、たぶん」

そう。
シャマルが考えたように罠の可能性があるからだ。
考えてみればわかることだろう。
『対象の望んだ場所』
34 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:56:56 ID:VUcfOe+D
これはつまり、『対象の望んだ人物がいる場所』という捉え方もできる。
だがそれは、会いたい人物にすぐ会えてしまうことにもなる。
そんなことを、プレシアが望むだろうか?
この魔法陣を設置したのは間違いなくプレシアだ。
こんなゲームを開くような人物が、そんな気前のいいことをするだろうか?
普通に考えたら、そんなことはしないだろう。
だが、これが罠だとしたら?
この魔法陣がグループで動いている参加者をバラバラにさせるための罠だとしたら?
だとしたら、説明がつく。
何故なら、これは殺し合いのゲームだ。
殺し合いの進行を妨げることになるグループは、プレシアから見て面白くないだろう。
だったら、どうするか。

「答えはこれってわけね……」

と、シャマルは一人そう言った。
確かにこれならプレシアが直接手を下さなくとも、簡単にグループを分裂させることが可能だろう。
だが疑念もある。
どうしてこんな場所に仕掛けたのかということだ。
別にここでなくとも、例えば地上本部に入ってすぐの場所に置いてもいいはずだ。
こんな最上階に置いてしまったら、もし仮に参加者が最上階に行かなかった意味を成さないはずだ。
なら、どうして……

「あ、あのさシャマル先生」
「うん? 何かしら」

――と、十代がシャマルに声をかけてきた。
何だろうとシャマルは思った。

「やっぱり……俺使ってみようと思っているんだ。この……魔法陣だっけ、をさ」
「え!!?つ、使うの!?こんなに怪しいのに……」
「だけどさ、仮に罠だとしたら普通こんなとこに置かないと思うんだ」
「だけど……」

35 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:57:45 ID:VUcfOe+D
渋るシャマルに対して十代は言った。

「これってむしろ……怪しませて逆に使わせないようにさせているんじゃないのか?」
「え?」
「だって、そうだろ。普通に罠を張るならこんな場所になんか置かないだろ。入り口とかでもいいはずだ」
「た、確かにね。それは私も思ったけど……」
「それがここにあるってことはさ、逆に怪しませて参加者に使わせないようにしようとしたってことなんじゃねぇか、て思ったんだけど……」

なるほど確かに。
その考え方にも一理あるとシャマルは思った。

「ただ十代君。使うには少し問題があるわよ」
「えっ?なんだ問題って?」

十代が訳が分からないと言った表情でシャマルを見た。
その表情を見て、シャマルは言った。

「これ魔力を込めないといけないんだけど……十代君、魔力ある?」
「あっ……」

そうである。
そもそも、魔力がなければこの魔法陣を発動させることができない。
ならそもそも、魔力を持たない十代が発動させることはできないのである。

「しまった!!!すっかり忘れてたぜ。あーどうしよう……どうすれば……」

すっかり落ち込んでしまった十代を見たシャマルは、ふと、ある考えが浮かんだ。

「なら、私が一緒に入って発動させましょうか」
「え!?で、でもそれだとクアットロさんが一人になっちまうんじゃ……」
「えぇ。だから、なるべくここに近い場所を思い浮かべればいいのよ。例えば図書館とか……」
「け、けどよ……」
「十代君」
36 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 15:58:25 ID:VUcfOe+D

と、シャマルが真面目な顔で十代を見た。
今話してはいけない――そう十代は思った。

「私ね、放送でシグナムの名前が出た時、すっごく後悔したのよ。そのときね……まず何よりも、もう二度と会えないんだって思ったのよね」

シャマルの言葉は続く。

「だからね、十代君には……そんな思いしてほしくないのよ。だから……協力させて」

もう、十代に止める権利はなかった。

「……分かった。だけどシャマル先生すぐに戻ってやってくれよ。後、あんまり無茶はしないでくれ」
「えぇ、分かってるわよ」

そう言って、二人は魔法陣の中に入った。
どんな未来が待っていようが構わない。
今はただ……

「……じゃあ、いくわよ」
「ああ、いつでもいいぜ」

後悔したくないから。



二人は眩い光に包まれた。
そしてその瞬間から、二人の姿は地上本部最上階にはなかった。



37 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 16:01:26 ID:VUcfOe+D
ここまでが前編です。
タイトルは「バイバイ」です。
次から後編を投下します。
38サイカイ  ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 16:02:29 ID:VUcfOe+D
「ここは……」

光が止むと、シャマルはすぐに自分の場所を確認し始めた。
先程の場所とは明らかに違っていた。
目の前には大きな建物があり、すぐ後ろには川が流れていた。

「本当にワープしたのね……」

その証拠に、先程まで一緒に居た少年の姿は今はない。
それに……

「まさか、本当に罠じゃないなんてね……」

目の前にある建物を見てシャマルはそう言った。
図書館――それは先程、十代との会話で例えとして出した場所だった。

「でも、一体どうしてプレシアはあんなものを置いたのかしら……」

そう。
問題になっていた“魔法陣が罠なのかどうか”ということ。
結果的に罠ではなかったものの、尚更訳が分からなくなった。
プレシアは殺し合いを望んでいたはずである。
なら何故、殺し合いを望んでいない人達が合流してしまいそうなものを置いたのか。
場所が場所なだけに、見つかりにくいとは思う。
だが、それは安全策でもなんでもない。
プレシアが安全にデスゲームを執行するには、こんなもの始めから置かなければいい話である。
なのに何故?

「……考えてもしかたがないわね。どうせ彼女の考えなんて分からないもの」

そう言って、シャマルはこれからどうするかを考えていた。
十代のことは問題ないだろう、とは思った。
きっと、仲間と合流できているはずだ。
39サイカイ  ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 16:03:49 ID:VUcfOe+D
なので、今は地上本部にいるクアットロが心配であった。
できればすぐにでも、地上本部に行きたいところだが……

「……図書館に寄ってからでも遅くはないわよね」

もしかしたら、何か重要な情報があるかもしれない。
そんな思いから、シャマルは図書館を調べることにした。

「さってと、じゃあ調べてみますか」

そう言ってシャマルは扉を開けようとした。
その時だった。

「どうしたものかな……」

そんな声が聞えたのは。


えっ……?
今の声って……。
まさか、まさか。
そんな偶然って……。

シャマルは混乱しながらも、少し開いた扉に顔を出し、中を見た。


図書館の中は、静かなものだった。
どんな小さな音一つでも、大きな音に聞こえてしまうような。
そんな幻想的な空間。
そんな空間の中に、一人の女性が居た。
その女性は管理局の服を着ていた。
その女性の髪は短く切り揃えてある茶髪。
その女性は二つの剣を持っていた。
その女性は何かを見ていた。
その女性は……その女性は……。


その女性は…………シャマルの主だった。

「はやてちゃん!!!!!!!!!」

シャマルは扉を開けて走り出す。
自身の主――八神はやてに向かって。
どの世界のはやてかなんてどうでもよかった。
ただ、今は。
この再会に祝福を……。


40サイカイ  ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 16:05:13 ID:VUcfOe+D
【1日目 朝】
【現在地 E-4 図書館】

【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状況】健康、疲労(小)
【装備】血塗れの包丁@L change the world after story
【道具】支給品一式、白衣(若干血で汚れてる)、ガ・ボウ@ARMSクロス『シルバー』
【思考】
 基本:はやてを含めた、全ての仲間を守り抜く
 1.はやてちゃん!!!!!!
 2.はやて(A's)と合流したなら全力で守り抜く
 3.できれば機動六課の仲間達とも合流したい
 4.クアットロ、十代のことが心配。
【備考】
 ※クアットロが別世界から連れて来られた事を知りました
 ※参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました
 ※この場にいる2人のなのは、フェイト、はやての片方が19歳(StS)の彼女達でもう片方は9歳(A's)の彼女達だと思っており、はやて(A's)は歩けないものだと思っています
 ※クアットロを信用するようになりました(若干の不安は消えています)
 ※デュエルゾンビについては可能性がある程度にしか考えていませんが、一応エリオと万丈目がデュエルゾンビになっている可能性はあるとは思っています
 ※この殺し合いがデス・デュエルと似たものではないかと考えています
 ※殺し合いの中で起こる戦いを通じ、首輪を介して何かを蒐集していると考えています


【八神はやて(sts)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】健康
【装備】ツインブレイズ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、ランダム支給品1〜3個(武器では無い) 、主要施設電話番号&アドレスメモ@オリジナル、医務室で手に入れた薬品(消毒薬、鎮痛剤、解熱剤、包帯等)
【思考】
 基本 プレシアの持っている技術を手に入れる
 1.図書館を調べるか、電話をかけるか…… ってシャマル!!?
 2.ある程度時間が経ったらメールの返信を確かめる
 3.もう1人の「八神はやて」を探し、その後他の守護騎士を戦力に加える
 4.キングの危険性を他の参加者に伝え彼を排除する。もし自分が再会したならば確実に殺す
 5.首輪を解除出来る人を探す
 6.プレシア達に対抗する戦力の確保
 7.以上の道のりを邪魔する存在の排除
 【備考】
 ※参戦時期は第一話でなのは、フェイトと口喧嘩した後です
 ※名簿を確認しました
 ※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだという考えに行き着きました
 ※ヴィータ達守護騎士に優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています
 ※キングに対する認識を改めました。プレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています。同時に携帯にも何かあると思っています
 ※ヴィータと戦う事になったのはキングが原因だと断定しました。その事を許すつもりはありません
 ※転移装置を、参加者を分散させる為の罠だと勘違いしています
 ※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています
 ※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました。現状蘇生させる力はないと考えています
 ※プレシアの目的はアリシア復活で、その為には普通の死ではなく殺し合いによる死が必要だと考えています。
 ※プレシアには他にも協力者がいると考えています。具体的には並行世界を含めて闇の書事件やJS事件関係者がいると考えています
 ※施設には何かしらの仕掛けが施されている可能性があると考えています。
 ※キングのデイパックの中身を全て自分のデイパックに移しました。キングのデイパックも折り畳んで自分のデイパックに入れています
 ※図書館のメールアドレスを把握しました

41サイカイ  ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 16:05:58 ID:VUcfOe+D

一方、十代はというと……

「ああ、あああ、ああああ」
「……」

彼は今、柊つかさの前に居た。
いや、正確には彼女の後ろに出現し、そのままよって来たというだけなのだが……。
十代はワープする時、つかさのいる場所に行きたいと思った。
アカデミアのみんなや、クアットロが心配じゃなかったわけではなかった。
しかし十代は、つかさにどうしても言いたいことがあった。
だから、ここまで来たのだ。
だが……。

「……つかささん」
「い、イヤ、イヤ、た、助けて……」

思い出してほしい。
つかさが十代をどう見ていたのかを。
彼女の淡い夢を壊した人物。
そして、自身を殺そうとしていた人物。
それが彼女の、柊つかさから見た遊城十代だ。
その殺人鬼が、今また自分の前に居る。
つかさは、何故急に現れたのかも考えずに、ただ目の前の人物に恐怖した。
それだけ、十代の存在が怖かったのだ。

(イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……)

彼女は目の前の殺人鬼の少年に殺される。
そう思っていた。

(死にたくない死にたくない、助けてお姉ちゃん……。助けてこなちゃん……。助けてフェイトちゃん……)

だから、なのだろうか。
42サイカイ  ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 16:07:36 ID:VUcfOe+D

(助けて助けて助けて助けて助けて助「ごめん!!!!」けて助け……え?)

目の前の少年が、頭を下げて謝っているのを認識するのに時間が掛かったのは。


「つかささん、本当にごめん!!あん時の俺、少し無神経だったよな……。つかささんを怖がらしっちゃって、ホントゴメン!!!」
「え? え? え? わ、私を殺さないの?」

つかさは本当に混乱した。
目の前の殺人鬼だと思っていた少年が、いきなり謝ってきたのだ。
自分を襲いにきたんじゃなかったのか?
自分を殺しにきたんじゃなかったのか?
自分を……

「つかささん」
「え? ……ふぇぇぇええええ!!!!!?」

少年はいきなり自分を抱きしめてきた。
これは、つかさでなくとも混乱するだろう。

「あ、あ、あのあの、えっとあの、えええっと……」

何かを言う前に十代は言った。

「……辛かったよな」
「……ふぇ?」
「こんな殺し合いのゲームに参加されたんだ。辛くないわけないだろ」
「……うん。そうだね……」

しだいにではあったが、つかさから少年に対する恐怖は無くなっていた。
この少年は殺し合いなんてしない。
どこかフェイトに似た、雰囲気がある。
なんとなく、そう思えたのだ。

43サイカイ  ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 16:08:16 ID:VUcfOe+D
「……正直………泣きたい気分だよ……」
「なら、泣けばいいだろ」
「無理だよ……こんなところだよ? それにさっきも泣いたばかりだし……」
「……あのな、つかささん」
「うん?」

もはや、つかさの中に少年への恐怖はなかった。
だからなのだろう。
素直にこの言葉が聞けたのは。

「我慢すんのもいいけど、たまは我慢しなくてもいい時だってあるんだぜ?」

その言葉を、つかさは待っていたのかもしれない。

「…………うん、そうだよね。………遊城、十代君、だったっけ?」
「あぁ。合ってるぜ。なんだ?」
「……少し胸貸してくれるかな?」
「……あぁ、いいぜ」
「ゴメンね。じゃあ少しだけね……」

そう言って、つかさは十代の胸に蹲った。
そして……

「………うっ、うう、うわああああああ……」

泣いた。
フェイトと一緒に居た時も泣いたが、それとは少し違っていた。
この少年は殺人鬼じゃなかった。
自分は死ななくていいんだ。
それに、もう一人じゃないんだ。
寂しかった。
本当は寂しくてしかたがなかった。
そんな思いが涙に込められていた。

それを傍に居た十代はというと……

(……これでよかったんだよな……)

不安は残る。
自分達もいつ死んでしまうのかわからない。
もしかしたら、もうすぐ本当の殺人鬼が来てしまうかもしれない。
でも。
でも今だけは。
この再会に祝福を……。

44サイカイ  ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 16:09:01 ID:VUcfOe+D
【1日目 朝】
【現在地 H-5 デパートサービスカウンタ】

【柊つかさ@なの☆すた】
【状態】不安、 ひざ小僧ヒリヒリ
【装備】シーナのバリアジャケット@SHINING WIND CROSS LYRICAL
【道具】支給品一式、電話帳@オリジナル、
    青眼の白龍@リリカル遊戯王GX番外編 「最強! 華麗! 究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)」
【思考】
 基本:殺し合いを避ける
 1.今はとにかく泣く
 2.施設を調べるかどうかを決めメールを返信する
 3.フェイトちゃんが帰ってくるまでデパートにいる(早く帰ってきて!)
 4.家族や友達に会いたい
【備考】
  ※十代と和解しました
  ※禁止エリアの位置を忘れました。ご褒美の話も忘れています。死者の名前数名分しか覚えていません(なのはが呼ばれた事は覚えている)
  ※電話帳はあまり役に立たない物だと思っています。また、遊戯王カードが武器として使えることに気付いていません
  ※キングを警戒する事にしました
  ※メールの差出人と内容を信用しています


【遊城十代@リリカル遊戯王GX】
【状態】健康
【装備】バヨネット@NANOSING
【道具】支給品一式、んまい棒×4@なの魂、ヴァイスのバイク@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:殺し合いには乗らない。
1.つかさが泣き止むのを待つ
2.フェイト(StS)に会って誤解を解きたい。
3.クアットロさんって良い人だなー。
4. 余裕があればハネクリボーやネオス、E・HERO達を探す
【備考】
 ※参加者は別々の世界・時間から参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました。
 ※フェイト(StS)が自分とは別の世界・時間軸から呼ばれていてデュエルゾンビではないと判断しました。エリオ、万丈目についても断定はしないもののデュエルゾンビではない可能性があると思っています。
 ※この場にいる2人のなのは、フェイト、はやての片方が19歳(StS)の彼女達でもう片方は9歳(A's)の彼女達だと思っています。
 ※クアットロを完全に信用しています。
 ※PT事件の事を大まかに知りましたが、プレシアがフェイトを造った話は聞いていません。
 ※この殺し合いがデス・デュエルに似たものではないかと考えています。
 ※殺し合いの中で起こる戦いを通じ、首輪を介して何かを蒐集していると考えています。


45サイカイ  ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 16:09:48 ID:VUcfOe+D
二人はそれぞれ会いたい人物に再会した。
結果的には良かったのかもしれない。
会えないまま死ぬよりは全然いいのかもしれない。
だが。
同時に。
一人の仲間を置いていってしまったことに変わりない。
一人の仲間が不幸になったことに変わりない。
これから一体どうなるのか。
それは……誰にもわからない。
46 ◆Qz0BXaGMDg :2008/12/23(火) 16:19:05 ID:VUcfOe+D
投下終了です。
問題があれば指摘してください。

ちなみに、タイトルの元ネタですが、
前編はアニメ版シャーマンキングの五十三廻「バイバイ」から。
後編はアニメ版ひぐらしのなく頃に解第1話「サイカイ」からです。
47名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/23(火) 20:39:34 ID:D7H6kl2D
乙です
さて、はやてははやてでも別世界の腹黒はやてなんだよな・・・・・シャマル・・・・イキロ
48名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/23(火) 21:09:20 ID:C8RuYCno
投下乙です。
クアットロがフリーになって更なる暗躍をしそうだなあ。
一方のシャマルと十代はめでたく合流か。
早期の合流が半ば死亡フラグなだけにどうなるやら楽しみだ。
49反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2008/12/28(日) 21:05:44 ID:P71l+5XY
新庄・運切、ヴァッシュ・ザ・スタンピード分を投下します
50Face ◆9L.gxDzakI :2008/12/28(日) 21:06:33 ID:P71l+5XY
「何でこんなことになっちゃってるのかなぁ……」
 ふぅっ、とため息をつく。
 神社の賽銭箱に背を預けながら、新庄・運切が1人呟いた。
 自分の目の前に広がっているのは、間違いなく神社の境内の光景である。
 少し視線を奥まで飛ばせば、立派にそびえ立つ真紅の鳥居も見えた。
 だが、その事実を容認するには、いささか問題があった。
 意識を失う直前まで自分がいたのは、海沿いの基地・機動六課の屋上だ。
 そしてそこで、同行していた1人の少女――フェイト・T・ハラオウンの襲撃を受け、恐らく海へと落下したのである。
 そこの辺りは、正直記憶が曖昧だ。
 だが、全身がずぶ濡れであること、またそこに海水特有のべたつきがあることから、そうだと判断していいだろう。
 要するに、自分はここにいるはずがないのだ。
 自分がいるべき場所があるとすれば、海中か、もしくは海岸であるべきであり、こんな内陸の神社ではない。
 少なくとも、六課隊舎の近場には、こんな場所はなかったはずだ。
 もっとも、既に地図をなくしてしまった新庄には、それを確証に変えることなどできはしないのだが。
 ひゅう、と。
 吹き抜ける風が冷たい。身体が海水で濡れているからか。
 このままじっとしていても薄ら寒いだけなので、手にした認識票へと声をかける。
「ストームレイダーさん、地図の内容ってまだ覚えてる?」
『……六課隊舎の位置を調べた時に、一応バックアップを取っておきました』
 この新庄の妙に腰の引けた物言いは、もうどうしようもないと思った方がいいのかもしれない。
 僅かに呆れたような間を空けた後、認識票――の形を取ったデバイス・ストームレイダーが答えた。
 銃か大砲かという違いこそあれど、使い慣れた「狙撃」という用法のために生まれた、異世界のインテリジェントデバイス。
 なくしたのは地図だけではない。彼の手元に残っているのは、もはやこの機械仕掛けの相棒だけなのだ。
 食料も、土壇場で彼を守った防護賢石も、そもそもデイパックそのものがここにない。
 恐らく海に落ちた時のフェイトの襲撃か、あるいはその後で海に落ちた時かになくしてしまったのだろう。
「あのヘリも、多分壊れちゃってるだろうな……」
 ストームレイダーがデータを呼び出している傍らで、呟いた。
 思い返されるのは、あの六課隊舎の屋上にあったヘリコプターだ。
 この殺し合いから皆で脱出するための手段として確保し、操縦法のレクチャーまで受けた。
 しかしあのヘリはもう存在しない。彼女の攻撃で破壊されたに違いない。
 何故フェイトが急に襲ってきたのかについては、これまでに散々考えてきた。そして、さっぱり理由が分からなかった。
 こればかりは、また会ってみなければどうしようもない。故に、今はヘリのことを考える。
 あれが破壊されたということは、今度は他の代替案を考えなければならないのだ。
 果たしてこのデスゲームの会場に、あれの代わりを務められるようなものがあるだろうか。
『――地図データ、出します』
 と、そこへ響く機械音声。
 すぐさま新庄の眼前に、彼が持っていた物と大体同じ地図の映像が映し出される。ご丁寧に、禁止エリアには印が描かれていた。
「やった! ありがとう、ストームレイダーさん」
 僅かに声を弾ませながら、手元の認識票へと感謝した。
 これで少なくとも、現在地や周囲の状況はカバーできるわけだ。であれば、まだまだできることはある。
 ひとまずは現状確認。自分に何が起こったのかを確かめるためにも、現在地と機動六課の位置を探す。
「機動六課はH-3で、ここはA-4……かぁ」
『南端から北端まで、一気に移動しましたね』
 ストームレイダーの声を聞き、またひとつ、溜め息をついた。
 これは一体どういうことだ。要するに自分は、一瞬にして8マス分もの距離を移動したということか。
 とすると、非常に面倒なことになる。こんなに距離が離れていては、フェイトを追うことが難しくなるのだ。
 当然、殺し合いに乗った彼女を止めなくてはとは思う。
 だがここから彼女を追いかけようとすると、必然的にとんでもない距離を移動することになる。
51Face ◆9L.gxDzakI :2008/12/28(日) 21:07:27 ID:P71l+5XY
 もちろん、向こうも黙って待っているはずがない。他の参加者を探すため、じきに移動を開始するはずだ。
 つまり、このままでは確実に見失ってしまうということ。
 ならば、どうする。どうやって彼女に追いつけばいい。
 解決すべき問題はそれだけではない。ヘリの代わりはどうする。時間が経てば腹も減るだろうが、ではその時はどうする。
 全てを考えるとためにも、まずもう一度、地図データを垣間見た。
「……南端と……北端?」
 そして、ふと、気付く。
 何の気なしに、機械の相棒が放った言葉に。
『どうしました、新庄?』
 何か思い当たることでもあったのか。
 不意に漏れた声を聞き取ったストームレイダーが、新庄へと問いかけた。
「……これ、ここからこういう風に移動すると、このマスに着くよね」
 地図上を指先で示しながら、確認した。
 触れることのできない映像の上で、最初に指したのはH-3のマス。六課隊舎があった場所だ。
 そこからすっと指を下向きに運び、次いで右に運ぶと、I-4へとたどり着く。
「で、これをこうすると……」
 瞬間、細い指先が劇的に移動した。
 視点は世界の限界を超え、次元の境界を突破する。
 地図上の南端から北端へと、「4」の縦列を一気に北上。
「こうなる」
 たどり着いたのは――現在地たる、神社。
「……と、こんな感じに端と端が繋がってた、とか」
『フィールドの境界を跨ぐことで、反対側へと転移する、と?』
「そんな感じじゃないかな。それなら、僕の移動も説明がつくと思うんだけど」
 もちろん、途方もない話ではあった。
 会場の端と端が特殊な転移魔法のような仕掛けで繋がっており、ループする構造になっているだなどとは。
 TVゲームなどにおいてはよくある光景だろう。だが、現実にそれが可能かと言われれば、まず首を縦に振ることはできない。
 強いていえば、たとえば「箱庭の風景は連続する」などといった概念空間。それが最も近いのか。
 だとしても、この効果範囲と大規模すぎる効果は、明らかに異常なものだ。
 敵の技術がいかに強大であるかということを、改めて思い知らされた。
 そして、仮にそれを真実だとすると、1つ問題が発生することになる。
「つまり、最初からヘリでの脱出は無理だった……?」
 脱出方法として考えていた手段が、真っ向から否定されるということだ。
 これまで新庄は、フィールドの端について、もう少し単純な構造を連想していた。
 それこそ、単に巨大な塀がそびえ立っているだとか、あるいは、その境界を越えると首輪が爆発するだとか、といったところ。
 これならまだよかった。首輪の解除さえできれば、飛行手段を使えば脱出できた。
 だが、今回のようなケースとなると事情が変わってくる。
 たとえ塀より高く飛べようと、首元の安全が保証されようと、飛んだそばからワープさせられてはどうにもならないのだ。
 ならば優先すべきは、このフィールドを形成する賢石ないし概念核の破壊か。
 否、まだここが概念空間だと決まったわけではない。
 むしろ内部から破壊可能というデメリットを考えると、概念空間でない可能性の方が高い。
 となるとこの結界の破壊を諦め、また別の脱出方法を考えた方が賢明なのか。
 たとえば、フィールドを通る必要のない、それこそワープのような――
52Face ◆9L.gxDzakI :2008/12/28(日) 21:08:18 ID:P71l+5XY
「……?」
 と。
 その時。
 不意に。
『草を踏む音ですね』
「うん……誰か来たみたい」
 かさり、と。
 音がしたのだ。
 この神社の境内の奥で、誰かが草木を踏み締めた音が。
 自分達ではない、明確な第三者の気配が察せられる。
 内気で気弱な傾向のある新庄だが、これでも立派な全竜交渉部隊の戦闘員だ。人の気配を読み取るくらいは造作もない。
「行ってみよう」
 行動は素早かった。
 賽銭箱に預けていた身体を持ち上げると、ストームレイダーをセットアップ。
 鈍色の金属光を放つ銃身を油断なく構え、ゆっくりと歩を進めていく。
 相手が殺し合いに乗っていようといなかろうと、無視はできない。
 相手のいかなる反応にも対処できるように、最大限の警戒をしながら。
 ごくり、と唾を飲み干しながら。
 木造の社の壁に沿って、一歩一歩と接近していき、遂に先の位置の裏に到達した瞬間。
 彼女は、見た。
 不意にこの地に現れた、未知の来客の正体を。
 1人の青年が、壁にもたれるようにして座り込んでいた。
 彼の容姿を一言で言い表すとするならば、ド派手と形容する他ない。
 とにかく派手な男だった。
 ホウキのように逆立った髪は、目にも鮮やかな黄金色。後頭部に混ざったブラックが、その存在感を主張する。
 身に纏ったロングコートは、燃え盛るような赤一色。何故か左肩の袖だけが破れ、腕が剥き出しになっていた。
 色鮮やか、と呼ぶよりは、もはや極彩色と言うべき姿だ。
 アメリカン・コミックのヒーローを彷彿とさせる容姿からは、現実感がまるで感じられない。
 にもかかわらず。
 それほどまでに派手な格好に身を包んでいながら、しかしその気配の何と儚いことよ。
 目立った外傷もない。身体的に衰弱しているわけでもない。
 だがしかし彼の眼差しは、それこそ不治の病にでも冒されたようだ。
 まるで生気がこもっていない。力など一片も残されていない。
 至って健常な身体を持ちながら、至って派手な服装をしながら、それでもその気配だけが、空虚な雰囲気を醸し出している。
 打ちのめされた目。悲嘆と絶望に暮れた瞳の闇。
 捨てられた子犬のような失意の目が、金髪さえもくすませて、赤コートさえも浮浪者の襤褸に変える。
 汗が伝う。
 男の頬ではなく、新庄のそれを。
 一体どれほどの絶望が、この男を苛んだのか。
 宇宙の深き深淵のごとき瞳からは、その心に刻まれた傷痕の程は、全く伺い知れない。
「……やぁ」
 消え入るような、蚊の鳴くような。
 憔悴しきったか細い声が、一拍の間を置いて、かけられた。
53Face ◆9L.gxDzakI :2008/12/28(日) 21:09:13 ID:P71l+5XY





 レムをなくし 独りになって
 こころの中の彼女が微笑うように あるく

 その生き方が確信になって ゆらいで 喜びの涙と哀しみの涙
 幾千万の銃弾の中 痕はふえて


 そして たどりついた場所は――


 歪みが導く 更なる絶望




 歩く。
 歩く。
 歩き続ける。
 視界の先に大地が続く限り。両の足が動く限り。
 剥き出しになった左腕を押さえながら、ただひたすらに歩を進める。
 記憶の堰が外れ、空白に流れ込んでいく。
 三度の災害(カラミティ)の記憶。
 ロスト・ジュライ。
 ジェネオラ・ロック・クライシス。
 そして未だ名すらもつかぬ、つい先刻の大破壊。
 わすれようとしていたなまえから。
 封じようとしていたあやまちから。
 とりかえしのつかないことから。
 ひたすら逃げ続けるかのように、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは歩いていく。
 過去に滅ぼしてしまった街で生活を営んでいた、優しき人々との顔。
 守ることのできなかった、かけがえのない仲間達との顔。
 この世界でただ1人、同じ血を分けた兄の顔。
 溢れる力を抑えきれないままに、殺してしまった少女の顔。
 1つ、2つと浮かぶ顔が、そのまま五体を貫いて。
 決して戻らぬ全ての顔が、精神さえも削り取って。
(レム……レム……)
 全ての記憶より尚遠い、150年前の母の顔へと。
(僕は……僕達は……生まれてきては……いけなかったのかも、しれない……)
 あの日と同じ言葉を呟いた。
 優しき死神の手に宿された、禁忌の力――エンジェル・アーム。
 プラントが持つ創造の力を、破壊のために発揮する銃口。
 双子の兄・ナイブズによって揺り起こされた力は、数多の命を刈り取っていった。
 そして今やその悪意ごと、彼の身体さえも左腕に取り込み、いよいよその力は災厄と化した。
 右手に銃を、左手に剣を。
 2つとなった大鎌(デスサイズ)は、ひとたび戦いが起ころうものなら、容易にヴァッシュの制御を離れてしまう。
 その暴力的なまでの力を惜し気もなく振りかざし、幾多の命を消し飛ばす。
 虚言でも、過剰なマイナス思考などでもない。事実だ。
 キース・レッドとの戦いに巻き込まれ、命を落としてしまったフェイト・テスタロッサの生首が、何よりの証拠だった。
54Face ◆9L.gxDzakI :2008/12/28(日) 21:10:26 ID:P71l+5XY
 こんな自分に何ができる。
 手にした引き金すらも操れず、死を振り撒くだけのキリング・ウェポンに。
 殺し合いを止めることなどできはしない。
 自分は殺す側の存在に回ってしまったのだから。
 できることがあるならば、ただ、逃げ続けることだけだ。
 もう誰一人として、自分の暴走に巻き込まぬように。
 誰もいないどこかを求め、ただただこの身を隠すだけ。
「――っ」
 気が付くと、神社にいた。
 生い茂る木々をかわしていくうちに、境内の裏手へとたどり着いていた。
 そういえばこの森林にも、一体いつ入ったのだろう。
 街を南に抜け、平野を進み、今こうして気付いた時には森の中。
 だが、そんなことはヴァッシュにとってはどうでもいい。
 考えること、悔やむことが多すぎて、他のことなど考えられない。
 かさり、かさり、と。
 草を踏む音を奏でながら、歩みのスピードを緩めながら。
 木造の立派な社へと背中を預け、腰を下ろす。
 実に静かな神社だった。
 雑音などは何一つない。境内を包む静寂が、荘厳な雰囲気さえも醸し出している。
 神社というのは、確か“シントウ”という宗教の、教会のような場所だったはずだ。
 かの海鳴市にも似たような場所があり、自分が流れ着いた森もまた、あの近くであったという。
 また、顔が浮かんだ。
 初めて異界へと降り立ったあの日、凍えるような寒さの中から、救い出してくれた少女の顔。
 今や未来永劫に喪われ、二度と会うことはできなくなった小さな友達。
 どんな風にして説明すればいいのだろう。
 どんな顔をして、士朗さんや桃子さん、恭也や美由希に謝ればいいのだろう。
(無理だ)
 自分の罪を許せる者などいない。
 たとえ社の神であろうとも、優しい家族であろうとも。
(ありえない)
 奪ってしまった命から。
 救えなかった命から。
 この重圧から解かれることなど。
(僕自身が許しはしない――)
 ――じゃり、と。
 文字通り、砂利を踏み締める音がした。
 人の気配。人の視線。何者かがやって来て、こちらをじっと見つめている。
 今さらみっともなく狼狽することもなかった。ただゆっくりと、顔をそちらの方へと向ける。
 驚いたことに、少年だった。
 特殊な意匠の白い服。
 ナイブズの臣下を名乗る男・レガートのコートの裾のような腰布は、どこかスカートのようにも見えた。
 そしてその印象に関しては、彼の外見的特徴もまた、原因の1つであったに違いない。
 腰まで伸びた長髪に、触れれば折れそうなまでの華奢な身体は、女性のそれらを彷彿とさせる。
 これまで目にしてきた連中の大半が、屈強な戦士達ばかりだけに、意外だった。
 こんな人間もいたのか、と。
 ともすれば、地球で言う学校に通っているような、あどけなさを残した少年が。
 そして何よりも、他の連中あって彼にだけない、決定的なものがある。
55Face ◆9L.gxDzakI :2008/12/28(日) 21:11:35 ID:P71l+5XY
 殺気だ。
 狙撃銃を持ってはいるものの、少年からは、殺意がまるで感じられない。
 これまで相対してきた人間が、例外なく自分にそれを向けてきたのにもかかわらず、だ。
 この少年はゲームに乗っていない。
 かつての自分と同じように、あの魔女の用意した殺し合いに抗っている。
(こんな子も、いてくれたんだな)
 微かな安堵が、胸中に浮かんだ。
「……やぁ」
 故に、精一杯の笑顔を浮かべて応じる。
 駄目だなぁ、と。我ながらそう思わざるを得なかった。
 今口にした一言ときたら、まるで虫の羽音ではないか。
 どうせこの顔にも、あの黒髪の牧師が評したような、「カラッポな笑顔」くらいしか浮かんでいないのだろう。
 少年の反応がその証拠だ。見ろ。随分心配そうな顔色をしているじゃないか。
「えと……大丈夫、ですか?」
 ほら、心配された。
 内心で自嘲気味に笑う。
 優しい子だ。こんな身の上になった今、その気遣いはとても嬉しく思う。
「悪いけど……独りに、しておいてほしいんだ」
 故に、自分の傍に来てほしくはない。
 笑顔と穏やかな口調はそのままに、やんわりと拒絶の声をかけた。
 喪われていい命などあるはずもないが、少なくとも彼は、喪われてほしくない命だ。
 自分と一緒にいて、巻き込まれて、不幸な目に遭ってほしくはない。
「そんな……随分、つらそうじゃないですか」
 それでもなお、少年は引き下がることをしなかった。
 一歩、また一歩と、ヴァッシュの元へと歩み寄ってくる。
 駄目だ。
 それ以上近づいてはいけない。何が起こるか分からないんだぞ。
 自ら動いて離れればいいのに、どうしても身体が動かない。
 ここまで歩き詰めだったが故か、はたまた大砲と巨刃を解放したが故か。
 疲労が鉛のごとき重量を伴い、身体を木造の壁へと縛りつける。
 まずい。
 あつい。
 左腕がまた熱を持ち出した。表皮がざわざわと蠢いて、青白き光を放ち始める。
 いけない。これ以上近づいては駄目だ。
 近寄らないでくれ。
 死なないでくれ。
 僕にこれ以上罪を重ねさせないでくれ。
「一体、何があったんで――」
「――危ないぞッ!」
 絶叫と共に、兄の腕が牙を剥いた。
56Face ◆9L.gxDzakI :2008/12/28(日) 21:12:48 ID:P71l+5XY


「……な? こういうことなんだ」
 じっとりと、嫌な汗で濡れていることが分かる。
 頬や額だけではない。腋にも、背中にも、ストームレイダーを握る手にも。
 全身に鳥肌が立つのを感じた。五体が小刻みに震えるのが分かった。
 大きく見開かれた新庄の目の前には――無数の刃が、壁を成していた。
 白く輝く鋭利な切っ先。数多に枝分かれしたそれは、目の前のヴァッシュの左腕から生えている。
 つい一瞬前のことだ。
 彼に近寄ろうとする自分へと、投げかけられた男の警告。
 これまで痛ましい笑顔を浮かべるだけだったヴァッシュが、突然声を荒げたのだ。それが反射的に、新庄の歩みを止めさせていた。
 そして次の瞬間、彼の目と鼻の先を、剣呑な刃の壁が遮った。
「……っ」
 何と非常識なことか。
 魔力を操る少女など、まだまだかわいいものである。概念の延長としても捉えられるからだ。
 しかし、あり得ない。これはさすがに度を越している。
 生体が質量保存も物理法則も無視し、生身を武器へと変化させるなどということは。
「……その……本当に、大丈夫なんですか……?」
 どうにかこうにか、それだけを問いかけた。目の前に座る、何から何まで規格外な男へと。
 こんな人間がいるはずもない。であればあの時の人狼のように、何が事情があるのではないか。
「大丈夫、と言いたいところだけど……多分、それじゃ君は納得しないよね」
 緊迫していた表情を、元の笑顔へと戻す。
 痩せ我慢もいいところの笑み。思いっきり打ちのめされた者の力ない笑み。
 それでも、できることならば笑っていたかった。相手は自分のことを、心配してくれているのだから。
「僕に宿ったこの力は、恐らく、これまで個人が有してきたどんな力よりも強大だ……とても人1人には制御できない」
 言葉にするのはつらい。紡がれた一文字一文字が、ナイフとなって心身を貫いていく。
 それでも、話さずにはいられなかった。
 そうでもしなければ、この心優しい少年は、決して納得してはくれなかっただろうから。
「今はまだいい。君が僕と戦うつもりがなかったから、こうして君を拒絶するまでに留まった。
 でも、もしも誰かが僕に襲いかかったら……僕が戦う意志を欠片でも示したら……間違いなく、君も巻き添えを食うことになる」
「そんなこと――」
「――分かるんだ。実際に、そうなってしまったから」
 自身の声を遮った言葉。
 思わず、新庄は戦慄した。
 悟ってしまったのだ。そこに込められた意味を。
 一体この人に何があったのか。何故そんなに憔悴しきった顔をしているのか。全ての答えはそこに示されていた。
「……殺しちゃったんですか……?」
 恐る恐る、問いかける。
 最初に返ってきたのは、沈黙だった。
 無理もない。話題が話題だ。いつの間にかヴァッシュの顔からは、さっきの笑顔も消えている。
 無言の重圧が痛い。時間の感覚までもが狂ってくる。
 結論から言えば、沈黙はほんの一瞬だ。だがその事実に、一体どれほどの価値があるだろう。
「……友達、だったよ」
 静かに。
 ぽつり、と。
 呟いた。
57名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/28(日) 21:13:44 ID:P71l+5XY
「僕にも彼女にも、殺意なんてなかった。僕も、きっと彼女も、むしろ殺し合いを止めたいと思っていた」
 穏やかに煌く、絹糸のごときブロンドの色。可愛げに輝く、どこか大人しげな赤色の瞳。
 フェイト・テスタロッサの控えめな笑顔が、また脳裏に浮かんでくる。
 すぐさまその顔が、記憶の中で、あの無惨に打ち捨てられた生首に変わる。
 気を抜けば吐き気を催しそうだった。気が狂いそうでもあった。
 否、いっそそうやって、何もかも忘れて狂ってしまえれば、どれだけ楽だったことだろう。
「でも、駄目だった。僕の力が暴走したおかげで、彼女は死体に変わってしまった。
 ……とても、無理だったんだよ。こんな僕に、誰かを救うことなんて……」
 つらく苦しいのは自分だけではない。そんなことは分かっている。
 四肢の全てを肉塊へと変えられ、見るも無惨なミンチと化した彼女の痛み。
 訳も分からぬまま、味方に裏切られて命を落としたフェイトの苦しみ。
 たとえ自分の心が痛もうと、後悔と自責の闇に落ちようと、ヴァッシュは被害者自身ではない。その痛みを知ることはできない。
 だから、なおのことつらいのだ。
 自分だけがこうして、安穏と生きているからこそ痛いのだ。
 喪われた命の責任を背負い戦うことすら、許されないからこそ苦しいのだ。
「……分かったら、早くここを離れてくれ……君を死なせたくはない」
 それが最後と言わんばかりに、ヴァッシュが締めくくった。
 それでも、新庄は動かない。
 正直な話、咄嗟には動けなかったというのもあった。
 目の前の現実離れした男が話す、あまりに現実離れした言葉の数々。
 それを嘘だと思えた方が、まだ心は楽だったろう。
 しかし、彼の声音が、彼の表情が、それが紛れもない現実であるということを、何より雄弁に物語っている。
 あまりにも壮大なスケール。常人の理解の範疇を超えた話。
 それに圧倒され、足が止まったというのも、彼がここに留まった理由の一部ではある。
「……それでも……」
 だが、それだけではない。
「放っては、おけませんよ」
 それが何より正直な意志だ。
 この男がどれだけ危険なのかは、今の話で理解できた。最悪、一緒にいることで、そのまま命を落とす可能性もあるだろう。
 だが、同時に、彼を独りにしてはいけないとも思った。
 自分に何ができるかは分からない。
 底知れぬ絶望の闇へと沈んだ彼の心を癒す術など、新庄には知る由もない。
 それでも、そこに留まらざるを得なかった。
 見捨てたくないと思ったのだ。
 自分を取り巻く、ありとあらゆる事象から傷つけられ、打ちのめされ、ぼろぼろになったこの男を。
 あんな話を聞かされて、誰がハイそうですかと逃げられるものか。
 付かず離れずの現在地に、男と同じように座り込む。
 静寂。
 静かな神社の境内に、黙って座る男が2人。
 ヴァッシュももう観念したのか、無理に遠ざけようとはしない。
 そんな静けさが、しばらく続いた後。
「……泣いたり、しないんですか」
 新庄が、問いかけた。
 この失意と絶望に満ちながら、淡々と語り続けた男へと。
 痛いはずなのに。悲しいはずなのに。
 一滴の涙も流さぬまま、語り終えた男へと。
「涙なら、もう十分流したよ」
 淡々と。
 ヴァッシュが、答えた。
58Face ◆9L.gxDzakI :2008/12/28(日) 21:16:34 ID:P71l+5XY
【一日目 午前】
【現在地 A-4 神社】

【新庄・運切@なのは×終わクロ】
【状況】全身に軽度の火傷、全身に軽い打撲、全身ずぶぬれ、男性体
【装備】ストームレイダー(15/15)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
 基本:出来るだけ多くの人と共にこの殺し合いから生還する。
 1.どのように接していいかは分からないが、ヴァッシュと一緒にいる。
 2.フェイト、レイが心配。
 3.ヘリコプターに代わる乗り物を探す
 4.弱者、及び殺し合いを望まない参加者と合流する。
 5.殺し合いに乗った参加者は極力足止め、相手次第では気付かれないようにスルー。
 6.自分の体質については、問題が生じない範囲で極力隠す。
【備考】
 ※特異体質により、「朝〜夕方は男性体」「夜〜早朝は女性体」となります。
 ※スマートブレイン本社ビルを中心して、半径2マス分の立地をおおまかに把握しました。
 ※ストームレイダーの弾丸は全て魔力弾です。非殺傷設定の解除も可能です。
  また、ストームレイダーには地図のコピーデータ(禁止エリアチェック済み)が記録されています。
 ※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(大)、精神疲労(大)、悲しみ、融合、黒髪化三割
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish
【道具】なし
【思考】
 基本:どうしたら良いか分からない。
 1.今のところは、誰にも遭わないようにしたい。誰にも迷惑をかけたくない。
 2.この子(=新庄)のことはどうしよう……
【備考】
 ※第八話終了後からの参戦です。
 ※制限に気付いていません。
 ※なのは達が別世界から連れて来られている事を知りません。
 ※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
 ※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
 ※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。

///

投下は以上です。
ヴァッシュの破れた左袖ですが、キース・レッドに腕を落とされた時点で一緒に破れているだろうと思い、こう記述しました。
前話でも、左腕は剥き出しの状態で書かれていたことですし
59名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/29(月) 13:16:57 ID:WCC2z+UY
投下乙ですー
傷心のヴァッシュに同様の不殺を持つ新庄……コンビと言うには程遠い二人だけどこれからどうなるのか、GJでした!
60名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/29(月) 23:26:56 ID:286j/smt
投下乙です。
新庄君優しいよなあー
それにしてもヴァッシュwこのままだと爆弾か爆薬庫みたいだw
61名無しさん@お腹いっぱい。:2008/12/31(水) 02:04:45 ID:ztQF6nGc
投下乙です
ヴァッシュはこの先どうなのか?
新庄君も災厄に巻き込んでしまうのか?
それとも・・・・・何か起きて新庄君死亡でヴァッシュ更に鬱でもいいけどねw
62 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/03(土) 23:33:05 ID:Ae9IH9Lh
だいぶ遅れましたが、L、柊かがみ、ザフィーラ、アレックス、万丈目準で投下します。
63変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/03(土) 23:34:12 ID:Ae9IH9Lh
「ほぅ、なるほど」

F-3南部に停車している黒の騎士団専用トレーラー。
その内部に設けられたレクレーション室の中央に置かれている比較的大きなテーブル。
現在そこには様々なものが置かれている状態だった。
デスゲームの参加者に配られたデイパックが3つ。
内訳はL、ザフィーラ、そして柊かがみが持っていた3つを1つのデイパックに入れて1つ、これで合計3つ。
銀色のアタッシュケースと同じく銀色のベルト、狂気の変身道具デルタギア一式とそのアタッシュケース。
手鏡やサバイバルナイフなどの小道具。
そして大量の角砂糖と、その包み紙のゴミ。
それらが散乱するテーブルの前にはソファーに腰を沈めた世界一の探偵Lの姿があった。
Lはソファーに身体を預けながら手の中にある銀色の輪――シグナムの首輪をじっくりと眺めていた。
しかし、ただ眺めているだけではない。
天井のライトに翳してみたり、上下に振ってみたり、指先で軽く叩いてみたり、テーブル上を転がしてみたり。
首輪の分解こそしていないがLは首輪の解析に努めていた。
最初は首輪を無事に入手できたらすぐに解析できそうな場所に赴くつもりだったが、それはしばらく考えた結果保留にした。
もしこのまま先を急いで進行したとしても、無事に目的地に辿り着ける保障はない。
殺し合いに乗った者に遭遇する可能性や、目的地に望んでいる機材がない可能性もある。
一瞬先に何が起こるか軽々しく予想できない以上出来る事は出来る時にしておいた方が賢明だ。
それがLの辿り着いた結論だった。

(今はこれが限界ですね)

Lは一仕事終えたような様子で手の中にあった首輪をそっとテーブルの上に置いた。
首輪の簡単な構造ぐらいは把握しておきたいというのが偽らざる気持ちだったが、今の手持ちの道具でそれをするには不十分だった。
よって今は外から眺めたりするしかなかったLだが、それでも首輪について僅かながら掴めたものもある。

(恐らく盗聴と監視の機能があるのはまず間違いないですね)

首輪の表側は鈍い銀の光沢が滑らかな触感と共に目を引いている。
だが注意深く90°毎に小さなカメラが内蔵されている場所が合計4つ見つけられた。
4つも付いている理由は恐らくその4つで各々監視範囲を補い合っているからだろう。
それに加えて集音機能を備えた盗聴部と推測される箇所も1つ見つける事ができた。
しかし、これはこのデスゲームが始まって間もない頃ザフィーラの首輪を見た時から分かっていた事だ。
これら一連の機能は今改めて再確認しただけである。

(そして裏の表記は……個々の識別のため、でしょうか)

そして今回初めて拝む事の出来た首輪の裏側には「No.30-シグナム」の文字を見る事ができる。
これであの死体がシグナムだった事が100%確定した。
名前の前に付いている番号は名簿の番号と一致していて、所謂識別番号のようなものである事が窺える。

以上が外見から推測できる事だ。
あと判明した事は殺し合いを目的にしている以上戦闘が起こる事を想定して少々の衝撃では起爆しないという事ぐらいだ。
戦闘による不慮の余波で爆発という結果はプレシアも望む事ではないと思われる。
ただ首輪を無理やり外そうと試みる行為や過度の衝撃は対象外と考えておいた方が無難だ。

(あと内蔵されている機能があるとすれば……)

まずは爆破機能、位置確認や遠隔爆破などの電波送受信機能。
この辺りは確定と言ってもいいものである。
あとは参加者の力を抑制する装置。

(しかし、果たしてこの首輪にそれだけの機能が内蔵できるかどうか)

Lが見る限りこの首輪は緩すぎず窮屈すぎず特に気にならない程度の大きさとなっている。
不思議な事に重さもそれほどなく、銀色の冷たい感触さえなければ違和感は然程ないぐらいだ。
だが、Lの知る限りの知識ではこのサイズの首輪に監視・盗聴、爆弾、電波送受信、力を抑制する装置を全て仕込むのは無理だ。
これらの全ての機能をどう小型化しても容量を大幅に逸脱する事は確実だった。
64変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/03(土) 23:38:51 ID:Ae9IH9Lh

(まあ『魔法』なら可能なのかもしれませんが、ここは私の知る知識で考えてみましょうか)

Lが注目したのは「力を抑制する装置」の存在だった。
実際ザフィーラは『魔力』を、アレックスは『ARMS』を、それぞれいつものようには使えないようだった。
仮に首輪に『魔力を抑制する装置』と『ARMSの力を抑制する装置』が組み込まれているとしよう。
二人の説明を聞く限りでは二つの力(前者は外部の魔力素に作用して使う力、後者は細胞レベルの変化による力)は系統が異なる故に同一の機能では抑制できないと考えられる。
だが、おそらくこれ以外にも未知の力がある事は確実だ。
かがみの持っていたデイパックの中にあった支給品の一つEx-stもその一つだ。
説明書によれば魔法ともARMSとも異なる力『概念』によるところの武器だ。
このような武器があるという事はつまりこの場には概念を使う事の出来る参加者がいるという事に繋がる。
これで制限しなければいけない力がまた1つ増えた。

余談だがEx-stを支給された人物はJS事件後の世界から連れて来られた高町なのはであった。
なのはは最初にデイパックの中を調べたのだが、Ex-stがあるのにデバイスはないと嘆いた。
なのはがEx-stをデバイスだと思わなかった理由は単純にEx-stがあった世界でのデバイスとなのはの世界のデバイスが根本的に違っていたからだ。
なのはの世界ではデバイスとは魔法補助のための道具だが、Ex-stの世界のデバイスとは概念兵器の事を指すのだ。
これによってなのははEx-stをデバイスだと判断できなかったのだ。

(おそらくこれ以外にも未知の力が存在する事は明らかでしょう。このカードデッキの力もその1つ。つまり……)

いくつあるかは分からないが、それらを全て制限するなどこの首輪だけではまず容量不足だろう。
では、力を制限している物は首輪以外に存在するのだろうか。
Lはそれに対して答えはYesだと考えている。
簡単な話、力を制限する装置を外に置けばいいのだ。
この会場内の地上のどこか、もしくは地下、或いは会場外。
既に魔法を制限するAMFという技術が存在する以上プレシアが様々な力に対するAMFのような装置を製作した可能性は否定できない。
少々飛躍している部分もあるが、現状こう考えればLとしては一応の納得は得られた。

(この装置がどこにあるか、今は推測するには情報が少なすぎですね。もっとも元から存在しなければ無駄骨ですけど)

そしてLにはもう一つ首輪についての懸念があった。
実はこの首輪を肉眼で見た限りでは繋ぎ目が見つけられなかった。
しかし、それに対しては繋ぎ目を精巧に隠しているという可能性が提示できる。

(でも、あの転移魔法を使えば――)

最初の広間から参加者を一斉に会場に移動させた転移魔法。
あれを使えば繋ぎ目無しの首輪でも全員の首に付ける事が可能だ。
首輪の中に力を制限する装置があれば難しいかもしれないが、外にあれば実行する事も可能だ。

(ですが、もしこの推測が正しければ少々不味いですね)

当然ながらこの会場内で個人レベルでの転移魔法など使えるはずがない。
それは以前ザフィーラに試してもらった事があったのでLは知っていた。
元より個人での転移魔法が可能なら早々に仲間との合流が可能になるのでプレシアがそれを見過ごすはずないのだ。
つまりLの推測が正しければ首輪を外すためには最初にどこかにある力を制限する装置を破壊、そして転移魔法で首輪を首から転移させて解除する。
こういう手順になる。
もっとも首輪を工学的な側面から解除できる可能性や、元よりLの推測が誤りである可能性もある。

(とりあえず今考えられるのはここまで、続きは機動六課隊舎で二人を待ちながらでもやりますか。私一人でも使える機材が置いてあればいいんですけどね)

そう全ては仮説の上に成り立つ推測にすぎない。
だがそれはLにとって元々いた世界でキラを追い続けてきた時の事と然して変わりはない。
自らの武器である持前の頭脳を駆使してこの状況を打開する。
それが今の自分がするべき事だとLは考えていた。

(とりあえず念のために今の考えを書き残しておきましょう。その方が後々説明するのが楽になりそうですしね)
65変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/03(土) 23:41:26 ID:Ae9IH9Lh
Lは自分のデイパックからメモ帳を取り出すと、今考えていた事を書き始めた。
あまり時間はかけられないので要点のみを的確に素早く書き連ねていく様子は流石に世界一の探偵と言ったものだった。
その内容は以下のようなものになった。
・首輪の外見は銀色のリング、一通り見た限りでは繋ぎ目は発見できず。隠蔽の可能性あり。
・繋ぎ目がないのは転移魔法で首輪を装着した証拠?→情報不足により保留。
・表側には小型カメラが内蔵されている箇所が4か所と、盗聴部と推測される箇所が1か所を確認。
・裏側には「No.○○-□□□」という表記を確認。○○は名簿の該当番号、□□□は本人の名前の可能性が極めて高い。
・首輪は少々の衝撃では起爆する事はない。ただし首輪を無理やり外そうと試みる行為や過度の衝撃は禁物だと判断。
・首輪には他に爆破機能、位置確認や遠隔爆破などの電波送受信機能、参加者の力を抑制する装置がある可能性あり。
・↑について補足。参加者の力を抑制する装置は首輪内に無い可能性もあり。
・参加者の力を抑制する装置の設置場所候補地:会場内(地上or地下)、会場外→情報不足により保留。
5分もしない内にこれらを書き終えると、それをデイパックに入れかけたところでLの目に紫色の四角いケースが映った。

「カードデッキ、ですか」

Lは考える。
カードデッキはこの会場にいくつ支給されているのだろうか。
現在の時間はデスゲーム開始から9時間が経過したところだ。
何もしなくても、あと3時間経てばカードデッキの制約通り所有者が襲われるはずだ。
自分のようにまだ猶予がある者はいい。
だがこの力を戦闘に使い続ければそのタイムリミットはそれだけ短くなっていく。
そのような者がいたとすれば今頃どうしているのだろうか。
そんな妙に感傷的な感想を抱いた事にLは若干驚いていた。

≪00:38≫

『なあ、宿主サマよ。確認したい事があるんだが聞いてくれよ』
「……なんだ」

D-2市街地北部に佇んでいる一人の影。
黒い制服を羽織った少々人相が悪そうな少年の名は万丈目準。
人呼んで「万丈目サンダー」である。
今まさに万丈目は他の参加者に出会うために商店街へ向かおうとした時だったが、その足を誰かが止めた。
万丈目の周囲には声をかけた者がいるはずだが、それらしき人物は影も形もない。
それも当然だ。
今この瞬間万丈目に話しかけてきたのは彼が身に付けている金色の装飾品――千年リングに宿った盗賊王バクラの魂の声である。
千年リングを付けた者にしか聞こえないため傍目からは独り言を喋っているように見える。

『単刀直入に聞くぜ。誰かを生贄にする覚悟はあるのか、ないのか、どっちなんだい?』
「――ッ! 何度も言っているだろ、俺は誰かを生贄にするなんて……したくない」
『はぁ? いつまでそんなこと言っている気だぁ。猶予が切れる時もそう遠くないはずだぜ。その時も宿主サマは同じ事を言うのかよ』

その言葉を聞いて万丈目は一瞬言葉を返せなかった。
確かに猶予の12時間が切れる時までに生贄を差し出さないと死ぬのは自分だ。
万丈目も好き好んで死への道を歩みたいとは思わない。
だが、それでも万丈目には誰かを犠牲にして助かるという方法を選ぶ事を躊躇っていた。

「だが、しかし……」
『それなら他の参加者を守るために自分が喰われる気か。ほんとにお優しい宿主サマだぜ』

実際のところ万丈目にそこまで崇高な自己犠牲の考えは存在しない。
ただ誰かを生贄にすれば、それは殺人と変わりない。
そんな考えが頭にあるから躊躇しているだけだ。
だが万丈目は何とかして自分も他人も死なずにこの問題を解決する方法を考え続けていた。
そして、不意にある考えが浮かんだ。

『おいおい、なんだよ! 正気か!?』

身に付けている者の心が読めるバクラは当然万丈目の考えがすぐに分かったが、同時に驚いた。
その万丈目が出した答えとはミラーモンスターを破壊する事だったのだ。
66変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/03(土) 23:44:40 ID:Ae9IH9Lh

「ああ、もうこれしかない。これがベストな答えだ」
『せっかく手に入れた力をみすみす手放すって言うのかぁ』
「所詮これは参加者にとっては過ぎた力なんだ。こんな強大な力は無くしてしまった方がいい」
『はぁ? 過ぎた力? 強大な力? 大いに結構な事だぜ! 問題はよ〜その力を恐れる宿主サマの心の闇なんじゃねえか?』
「なんとでも言え」

万丈目の意思は固かった。
誰かを犠牲にする力など参加者にとっては災いにしかならない。
恐らくプレシアに狙いはこれによって悲劇を生みだして、殺し合いを進める魂胆なのだろう。
その思惑には乗らずに仲間を集めてミラーモンスターを破壊する。
万丈目一人では無理でも力のある者が一人でもいれば、あるいは何人も集まればきっと実現できるはずだと信じていた。
だが、万丈目の決心とは裏腹にこの時バクラの中にある考えが生まれていた。

『(はぁ〜やってられないぜ。けっ、余計な正義感が邪魔だな)』

それは失望という感情だった。
自分の命が掛かれば他人を犠牲にすると思っていたが、逆にここまでの馬鹿だとは予想外だった。
同時に万丈目と同行する意義もどうでもよくなってきて、次に会った参加者に乗り換える事も視野に入れ始めていた。
当然その時は万丈目には済まないが生贄になってもらう。
バクラの目的は己の知るキャロとの再会、そしてこのデスゲームを大いに楽しむ事だ。
万丈目とはたまたま支給先であっただけで別段ずっと一緒にいる事はない。
もっと利用しやすい参加者がいればそちらにした方が都合はいい。

「ん? あれは!?」
『どうしたんだ、宿主サマよ』
「ああ、後ろの方から何か音が聞こえて……」

そんな事を考えていたバクラの思考を遮ったのは宿主である万丈目が急に上げた疑問の声だった。
万丈目はバクラの考えに気付く事もなく、音の正体を確かめるべく首を回し始めた。

≪00:21≫

(主はやて、いったいどこに……)

F-3市街地廃墟の中を進む影二つ。
影の正体であるザフィーラとアレックスは数時間前に廃墟と化したその一帯を捜索していたが、今は大通り沿いに機動六課隊舎へと向かっていた。
Lと別れてから今までずっと八神はやての捜索を行っていたのだが、結局僅かな手掛かりさえも何一つ見つからなかった。
ここまでして見つからない理由はもうここにはいないというものしか二人には考えられなかった。
とりあえず放送では無事が確認された事や約束の10時に間に合う事も合わせて仕方なく捜索を打ち切ったのだった。
ザフィーラは今までの捜索が無駄だったと思うと情けなかった。
こうしている間に別の場所にいるはやてが危機に晒されているかもしれない、そう不安が募って仕方ない。
だが皮肉にもその予感は的中していた。
この時もう既に二人が探している八神はやては数km離れた場所で身代わりのような形でこの世を去っている。
当然二人がそれを知る由もない。

「そうだ、ひとつ聞きたい事がある」
「なんだ」

既にアレックスは第一回放送の内容をザフィーラから聞いている。
死んだ13人の中に知った者もいたが、今はそれよりも聞いておきたい事があったのだ。

「さっき俺が説明した中に出てきたキース・レッドという奴には会った事ないんだな?」
「ああ、俺がここで見かけたのはLと紫髪の少女とお前だけだ」
「……そうか」

放送で呼ばれていないのでまだ生きている事は確かだが、今この瞬間どこで何をしているのかは分からない。
キース・レッドは自分を狙うとアレックスは半ば確信していた。
自分に劣るとはいえキース・レッドは間違いなく強者の分類に入る。
なるべく犠牲者が出ない内に自らの手で殺したいが、これまで有力な情報は皆無という結果だ。
67変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/03(土) 23:46:17 ID:Ae9IH9Lh

(案外遭遇しにくいのか。俺の他に会ったのが紫髪の少女一人とは……)

そんな取りとめのない事を思いながらもアレックスはザフィーラと共に機動六課隊舎に足を向けるのだった。

≪00:15≫

(なによ! なによ! なによ! なんで、私が、こんな目に、遭わなくちゃ、いけないのよ!!!)

E-2市街地北部を疾走する一人の少女。
Lとザフィーラによって保護された紫髪の少女――柊かがみは必死になって北を目指してただ走っていた。
目的は唯一つ、Lから逃げるためだ。
既にかがみの中ではLは相手を縛りあげて監禁する危険な人物という認識になっていた。
確かにかがみが目覚めた状況からしたらLに対してそんな印象を抱いても無理はない。
だが実際はかがみが罪の意識から逃げたいが為に作った詭弁という側面が大きい。

『自分は悪くない、悪いのは自分以外だ』

そう思わないと自分が壊れてしまいそうな気がして、かがみはそう思い込もうとしていた。
実際今までの事の責任が全てかがみにある訳ではない。
寧ろほとんどの事が不慮の事故、そしてそれに付随して起きた悲劇とも言える。
だが理由はどうあれ『柊かがみが人殺しをした』という事実は変わらない。
この事実が変わらないからこそ、その原因を曲解しようとする。
その考えはまともな思考を通り過ぎ、もはや異常なまでの憎悪の域にまで達しようとしていた。

(私が何をしたって言うのよ! 何も悪い事なんてしていない! それなのに……それなのに――!!)

エリオを殺した――違う! あれは不幸な事故だ! それに私は死を以て償おうとした。
なのはに酷い事をした――違う! 悪いのはなのはだ! 私の償いを遮って挙句に私を助ける事ができたと身勝手な自己満足に浸っていた。
戦いの果てに一人の女性を殺した――違う! あの人達が襲ってきたからだ! 私はただ生きていたい、殺されたくない、ただそれだけだ!

そんな被害妄想に浸るしか今のかがみにはできなかった。
そうでもしないと心の奥にある良心の呵責に押し潰されてしまいそうだから。
それに加えて今のかがみは所謂危機的な状況だった。

『グゥォォォォォオオオオオ!!!!!』
「――ッ! こ、来ないでよ!!」

現在進行形で鋼の犀メタルゲラスに追われているのだ。
おそらく現所有者になったLが口封じのために放ったのだろう。
以前は自分に従っていた怪物が今は牙を向く理由をかがみは必死に逃げながらそう解釈した。
確かにLがメタルゲラスにかがみを捕まえるよう命令して放ったのは事実だ。
だがメタルゲラスはLから参加者には危害を加えるなと厳命されているので仮に捕まっても危険な訳ではない。
またL自身もかがみ一人を放置するのは危険だからという親切心からの行動であり、口封じなど全く考えていない。
だからかがみがここまで必死になって逃げる必要性はないが、その事実を知らない当人からすれば逃げる以外の選択肢など無かった。

あれからこの追いかけっこが始まってだいぶ経つ。
逃げる普通の高校生の柊かがみと追いかけるミラーモンスターのメタルゲラス。
本来なら簡単に終わりそうな逃走劇をここまで長引かせている要因が二つある。

一つはメタルゲラスの状態。
今のメタルゲラスは幾度かの戦闘で全身傷付いている状態だ。
そして食事はおろか満足な休息もない中での命令では本来の力の半分も出せずに動きは大幅に鈍っているのだ。
もう一つはかがみの状態。
今かがみの右手には逃げる途中で拾った白と紺の槍――ストラーダが握られていた。
必死に逃げている途中でかがみが地面に突き刺さっていたストラーダを拾ったのは偶然だった。
セフィロスが使用しているのを見ていたため自分も電撃が放てるので使えるのかと思って引き抜いたのが発端。
咄嗟に接近してきたメタルゲラスに向けてみれば上手い具合に電撃が当てられたのでそのまま持っているのだ。
もっとも電撃が当たったのは電気の通り道ができたからで、別にストラーダの力のおかげでもないのだが。
だが、なんだかんだで逃げるかがみに道々助言を与えていた辺り、ストラーダはかがみに同情しているようだった。
68変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/03(土) 23:48:51 ID:Ae9IH9Lh

「このっ! 来るな、来るな、来るなァァァアアア!!!」

傷ついた身体に加えて折を見て放たれる電撃でメタルゲラスはかがみとの距離を中々縮められないでいた。
途中の廃墟でザフィーラとアレックスに出会えば運命は違ったかもしれないが、結果的にかがみは誰にも出会う事なく走っていた。
このまましばらく一人と一匹の追跡劇が続くのかと思われたが、終焉は呆気なく訪れた。

「えっ!?」

かがみが地面の凹凸に足を引っ掛けて躓いたのだ。
既にかなりの時間を走っていただけあって体力は限界に近く、再び立ち上がろうにも足に力が入りづらかった。
そして当然その間にメタルゲラスは悠々とかがみの元に辿り着いていた。

「え、あ、来ないで……」

かがみはこの世の終わりが来たかのような心持ちになり、覚悟をきめて目を閉じた。
もう逃げる事も出来ない身である事を悟って、既に俎板の上の鯛のような境地に至っていた。
もうかがみはじっとその場で蹲るだけだった。

≪00:03≫

「さて、そろそろ行きますか」

あれからしばらくデルタのベルトについても少し調べていたが、やはり明らかにLのいた世界にはない技術だった。
つまりはここには多種多様な世界の住人がいる事が改めて見せつけられたのだ。
他の参加者とあまり遭遇できない以上今所持している支給品が多かった事は大いに考察の助けになった。
だがあまりゆっくりしていて本題を疎かにしては本末転倒だ。
良い頃合いだと判断してLは運転席に移動するべく、今まで座りっぱなしの体勢を崩した。
その際いつものようにテーブルに置いている角砂糖を手に取ろうとしたが、なぜか手は空を切るばかりだった。

「ああ、なくなってしまいましたか。機動六課隊舎にあればいいんですけど」

Lは心から残念そうな表情を浮かべつつもテーブル上の道具をデイパックに詰め直し、一度トレーラーの外へと出た。
別に深い考えがあった訳ではなく、単純に外の空気を吸っておこうと思っただけだった。

そして結果的にその判断が――

≪00:00≫

――Lの運命を決めた。


     ▼     ▼     ▼


カードデッキに設けられた猶予は初期設定で12時間つまりは720分。
そして王蛇のカードデッキの場合、エリオという参加者がベノスネーカーに喰われたのでそこが起点となる。
その時点から今まで約8時間つまり480分が経過している。
この時点で残り時間は約4時間つまり240分。
だがカードデッキの時間制限にはある特殊条件が存在する。
変身やモンスターの命令にかかる時間1分が本来の10分に相当するのだ。
つまり残り時間が240分なら換算すれば24分になる。
そして王蛇のカードデッキはここまでに様々な命令さらに変身も行われてきている。
しかも現在進行中でメタルゲラスへの命令は継続中であった。
その結果――

――猶予切れという最悪の展開が起こってしまった。


     ▼     ▼     ▼
69変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/03(土) 23:50:26 ID:Ae9IH9Lh


地面に散らばったガラスの破片の中で蠢く毒々しい紫色のメタリックな蛇。
キィィィンというミラーモンスターが出現する時に聞こえる怪奇音を耳にして異変に気付いた探偵。
蛇は所有者に牙を向け下方から容赦なく襲いかかる。
探偵は咄嗟に僅かな牽制になればと考えて懐に入れていたサバイバルナイフを取り出す。
鎧袖一触。
探偵は蛇とトレーラーに挟まれながら身体を甚振られ、胸に入れていた手鏡の破片を舞い散らせながら宙へと舞う。
蛇は探偵の咄嗟の抵抗で狙いとは違う右足を噛み砕く結果となり、口から不気味な息を漂わせながら不満を露わにする。

それはまさしく一瞬の出来事だった。

Lは確かにこのような最悪な展開も予想はしていた。
だが、そもそもLはかがみが電撃を放った事からデルタギアを使っていたと予測していた。
デルタギアの方がカードデッキに比べてリスクが少ないのは説明書を見れば分かる事だ。
だからLはかがみがカードデッキをほとんど使用していないと予測した上で残りの猶予を計算して、ミラーモンスターへ命令を下していた。

だが、さすがのLでもかがみがかなりの時間ミラーモンスターへの命令とライダーへの変身を行った事には外見だけでは予想できていなかった。
ミラーモンスターが傷ついていたのも精々防御用に咄嗟に出したぐらいの認識だった。
世界一の探偵であってもこのような状況でいつも通り頭脳を働かせる事が出来る訳がない。
どこかで小さなミスをして当たり前だ。
それが今回は最悪な展開に結び付いた。
ただそれだけだ。


     ▼     ▼     ▼


「――遅かったか!!」

ザフィーラとアレックスがLに追いついた時、最悪な事態は起こっていた。
二人が見た光景。
それは貧相なLが下から飛び出したベノスネーカーによって上に弾き飛ばされる光景だった。
細いLの身体は赤い血飛沫を周囲に撒き散らせながらまるで木の葉のように空中を舞っていた。

「間に合え!」

間一髪。
地面に激突する間際だったLをザフィーラが滑り込んでキャッチする事に成功した。
ザフィーラは一安心してLの身体を見て、次の瞬間思わず声を失った。
最も酷いのは右足が粉砕している事だが、それを抜いても最初の激突おそらくはトラックと挟まれながら弾き飛ばされたせいで全身ズタボロだった。
誰がどう見てもすぐにでも治療を施さなければ死んでしまうような状態だ。
だが問題がある。
カードデッキの存在だ。
この状況からしてカードデッキの猶予が切れた事は二人も既に分かっていた。
つまりこのままでは目の前のベノスネーカーは現所有者のLを狙い続ける事は確実だ。
そうなれば落ち着いて治療などできるはずがない。
一見してもLの容体は一刻を争う程の重体でベノスネーカーに構っている時間は僅かばかりもなかった。
今はアレックスが牽制のブリューナグの槍を放っているが、このままでは動きが取れない。

「……これしかないか。L、アレックス、後は頼んだぞ」

そう呟いたザフィーラの表情はいつのなく真剣なものだった。
例えるなら覚悟を決めて死地に赴く戦士の顔だった。
そしてザフィーラはいきなりLの懐に手を入れてある物を取り出した。

「アレックス! Lを頼む!」
「ザフィーラッ! お前、まさか――」
70変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/03(土) 23:51:41 ID:Ae9IH9Lh

ザフィーラが手にしたのは王蛇のカードデッキだった。
この強奪によりデッキの現所有者はLからザフィーラへと変更になり、ベノスネーカーもザフィーラを新たな獲物と定めた。
自分が囮となってその隙にアレックスによってLを安全な場所まで運んで治療してもらう。
それがザフィーラの考えた最善の行動だった。
互いに接した時間は少しだったがアレックスは一応信用のできる者だとザフィーラは感じていた。
それにアレックスの方が戦闘力も頭脳も自分より勝っている事をなんとなく肌で分かっていた。
だからこの場はアレックスを信じてベノスネーカーを遠ざける。
ザフィーラはカードデッキと中身を確認してデイパックを一つ持って北へ向かって駆けだして行った。
アレックスはすぐさま異を唱えようとしたが、それは既に遅かった。
獣形態になったザフィーラはベノスネーカーを引き連れて、もう走り去ってしまった後だったからだ。

「……ザフィーラ。生きて帰って来い」

そんな願いが知らず知らずの内にアレックスの口から洩れていた。
ザフィーラが自分に何をしてほしいのかは痛いくらいに分かる。
だからこそ迅速な行動が必要だ。

「機動六課隊舎まで生きろよ」

重体のLをトレーラーの助手席に乗せてアレックスは急いで運転席についた。
エグリゴリで軍隊を指揮する立場にあった者として車の運転はLやザフィーラに比べて慣れていた。
このトレーラーの大きさでは大通りしか走れない故に隊舎までは少々迂回する事になるが、それでも怪我人を運ぶには向いている。
だがアレックスは知らない。
ベノスネーカーとの接触によってトレーラーのエンジンに深刻な被害が出ている事に。
さらに目指している機動六課隊舎が既に焼け落ちている事に。

そして、このまま進めばミラーモンスター以上に危険な人物と遭遇する可能性がある事に。


【1日目 午前】
【現在地 F-3 南部大通り上】
71名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/03(土) 23:53:17 ID:4tR/pwx3
支援
72変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/03(土) 23:54:35 ID:Ae9IH9Lh

【アレックス@ARMSクロス『シルバー』】
【状態】健康、疲労(中)、トレーラー運転中
【装備】黒の騎士団専用トレーラー@コードギアス 反目のスバル
【道具】支給品一式
【思考】
 基本:この殺し合いを管理局の勝利という形で終わらせる。
 1.機動六課隊舎へ向かいLを治療する。
 2.六課メンバーと合流する。
 3.キース・レッドに彼が所属する組織の事を尋問する。その後に首輪を破壊する。
 4.このまま行動していてキース・レッドに出会えるのだろうか。
【備考】
※身体にかかった制限を把握しました。
※セフィロスはデスゲームに乗っていると思っています。
※はやて@仮面ライダー龍騎は管理局員であり、セフィロスに騙されて一緒にいると思っています。
※キース・レッド、管理局員以外の生死にはあまり興味がありません。
※参加者に配られた武器にはARMS殺しに似たプログラムが組み込まれていると思っています。
※殺し合いにキース・レッドやサイボーグのいた組織が関与していると思っています。
※他の参加者が平行世界から集められたという可能性を考慮に入れました。
※ザフィーラから第1放送の内容とカードデッキに関する簡単な説明を聞きました。
※黒の騎士団専用トレーラーはベノスネーカーとの接触でエンジン部に多大なダメージを負いました。このまま走らせるとエンジン部が爆発する可能性が非常に高いです。アレックスはこの事にはまだ気づいていません。


【L@L change the world after story】
【状態】全身打撲、全身裂傷、中程度の出血、右足粉砕、トレーラー(助手席)乗車中、気絶中
【装備】なし
【道具】支給品一式×2、首輪探知機、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ、ランダム支給品(L:0〜1(武器以外)/ザフィーラ:1〜3)
【思考】
 基本:プレシアの野望を阻止し、デスゲームから帰還する。デスゲームに乗った相手は説得が不可能ならば容赦しない。
※以下気絶前の思考。
 1.機動六課隊舎でザフィーラ達を待ちながら、首輪の解析。
 2.メタルゲラスがかがみを連れてきたら、改めて拘束するなり、落ち着かせるなりして、尋問。
 3.10時までにザフィーラ達が来たら、ミラーモンスターを倒しにかかる。来なかったら、鏡のない部屋に引きこもる。
 4.以上のことが終わったら、船を調べに、その後は駅を調べにいく。
 5.通信で誰かと連絡がついたら、その人と情報交換、味方であるなら合流。
【備考】
※参加者の中には、平行世界から呼び出された者がいる事に気付きました。
※クアットロは確実にゲームに乗っていると判断しています。
※ザフィーラ以外の守護騎士、チンク、ディエチ、ルーテシア、ゼストはゲームに乗っている可能性があると判断しています。
※首輪に何かしらの欠陥があると思っています。
※アレックスからセフィロスが殺し合いに乗っているという話を聞きました。


     ▼     ▼     ▼
73変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/04(日) 00:00:36 ID:Ae9IH9Lh


「はぁ……はぁ……はぁ……」

今まで静かだったF-1の浜辺に久方ぶりに波の音以外の不協和音が混じり始める。
F-3からずっと西に疾走してきたザフィーラが行きついた先がそこだった。
途中で川を飛び越える際に持ってきたデイパックの中からデイパックが一つ落ちたが、気にしてはいられなかった。
囮になる覚悟をしたザフィーラだが、だからと言って死ぬつもりなどなかった。
ミラーモンスターはミラーワールドからこちらの世界に出てくる時は反射物からしか姿を現す事は出来ない。
ザフィーラはその性質を利用してここを選んだのだ。
浜辺の周囲にはミラーモンスターが出てくるような反射物は一つだけ。
それは眼前に広がる海だけである。
前もって出てくる場所さえ分かっていれば対処のしようはある。
だからこそザフィーラは有利な場所で待ち受ける事ができるように全力でここを目指したのだ。

「さあ、来るなら来い!」

程なくベノスネーカーの影が海面にチラつき始めた。
餌を欲しているベノスネーカーは襲いかかるタイミングを計っているかのように機会を窺っているようだった。
だがここまで餌を喰わずにただ命令に従い続けてきたベノスネーカーは我慢の限界だった。
浜辺に張り詰めた緊張感が頂点に達した時、ザフィーラの目に映る海面が揺らいだ。

『ッシャァァァァァアアアアア!!!!!』

目の前に迫るのは毒々しい毒牙を光らせるベノスネーカー。
それが鏡の世界からこちらの世界に出てきたのを確認すると、ザフィーラの顔に笑みが浮かんだ。

「食らえ、鋼の軛ィィィ!!!」

ザフィーラの声と共に地面より突き出る光の拘束条。
それが見る間にベノスネーカーを空中に固定していく。
ベノスネーカーは拘束から逃れようともがくが、ザフィーラが渾身の力を込めて展開している魔法をすぐに外すのは無理だった。
その間にザフィーラは持ってきたデイパックからあるものを取り出した。
ストレージデバイス機殻杖Ex-st。
自分の思い通りに出力が調整できる概念兵器を肩に乗せ、ザフィーラは急いで照準を合わせにかかる。
制限下のザフィーラの実力ではベノスネーカーを倒せるかは確信が持てない。
だがこのEx-stで自壊レベルの砲撃を放てば、もしそれで無理でも砲撃で弱ったところなら倒せる可能性が高まる。
鋼の軛はあくまでEx-stを確実に当てるための布石だ。
そして、ザフィーラの指がEx-stの引き金に掛かった。

だが――
74変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/04(日) 00:03:01 ID:LTz+lPPy

グサッ

――聞こえた音は砲撃が放たれる音ではなく、何かが肉を貫く音。

「……が……ぁ……な、ぜ――」

最初衝撃のあまりEx-stを取り落としたザフィーラは腹から突き出る銀色の槍のようなものを目にしても何が起こったか理解できなかった。
だがすぐに腹から伝わる痛覚と背後に見えた銀色の影によって何が起きたか教えられた。

「……メ、タル……ゲ……ラ、ス……!?」

ザフィーラを背後から刺し貫いた下手人。
それは王蛇のカードデッキのもう一体の契約モンスター、メタルゲラスであった。
かがみを連れてくるよう命令されていたメタルゲラスだが、それも当然ながら猶予切れと共に無効となった。
だからメタルゲラスは目の前まで迫っていたかがみを放置して、餌となったデッキの所有者の元へとやって来たのだ。
ザフィーラは当然ながらLがメタルゲラスに命令を出している事は全く知らない。
だから最初にLがベノスネーカーに襲われている場面に出くわした時、王蛇の契約モンスターはベノスネーカー一体だけだと思い込んでいたのだ。
その勘違いがザフィーラの運命を決定づける事になった。

「ベ、ル……カの、しゅ、ご……じゅ、うぅ……を、なっ……めるな――」

それがザフィーラの最期の言葉となった。
腹から流れ出る血はもうとっくに致死量を超える程にまでなっていた。
それでもザフィーラがまだ意識を保てているのは、盾の守護獣としての誇りによるものだった。
死ぬ前にこの2体のモンスターを倒す。
そう自分の身体に喝を入れようとしたが――

『ッシャァァァァァアアアアア!!!!!』
『グゥォォォォォオオオオオ!!!!!』

――傷ついた身体は言う事を利かず、最期まで何もできないままだった。
そしてついに鋼の軛を振り払ったベノスネーカーがザフィーラの頭から上半身に喰らい付き、同時にメタルゲラスもザフィーラの下半身に喰らい付いた。
一瞬にして目の前に広がる何もない虚無。
それがザフィーラの最後に見た光景となった。


     ▼     ▼     ▼
75変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/04(日) 00:05:47 ID:LTz+lPPy


「これで、良かったんだよな」

D-2南部に位置するスーパー。
C-3にある商店街を目指して北へ向かったはずの万丈目準はなぜかそこにいた。
その理由はつい先程出会った紫髪にセーラー服を着た少女、柊かがみがそもそもの発端だった。
全身ボロボロになりつつもこちらへ向かって来たかがみに気付いたのはちょうど商店街に向かおうとした瞬間だった。
万丈目は久しぶりに出会う参加者しかもボロボロの状態だと分かるとすぐさま保護しようと思って急いで駆け寄ったが、結果は散々だった。
万丈目が近寄るや否や今までの緊張と警戒のせいか初対面のかがみは万丈目に気付くなり……

――Lが私を殺そうと! わ、私は、悪くない!!
――や、やっぱり……あ、あんたも私を殺そうと……!!
――いや、来ないで! お願い、私は死にたくないだけなんだから!!

……というような事を言い続けるので名前を聞き出す事さえ一苦労だった。
万丈目の外見は独特な髪形に鋭い目付きに黒い制服というもので、お世辞にも第1印象がいいとは言い難い。
だからと言って初対面の少女にストレートに怯えられる事は万丈目にとってショックな事だった。
だが落ち込んでいては先に進まないと思い直し、改めて話そうとするが怯えるかがみとの会話は一向に進まなかった。
どうすればいいんだと嘆いていた万丈目だったが、助け船は意外なところから現れた。

「やっぱりバクラに任せたのは不味かったか」

助け船を出したのは意外な事にバクラだった。
会話が成立しない状態を万丈目の中で知るとバクラはある提案をしてきたのだ。
それは千年リングを柊かがみに渡せというものだった。
そうすればバクラはかがみと会話する事が可能となり、上手く話を付けると言ってきたのだ。
確かにバクラは長い時を経験しているだけあって口は達者だ。
もしかしたらかがみと上手く会話できるのかもしれない。
そう考える一方で果たして素直にバクラの提案を受け入れる事が正しいのか万丈目には判断できなかった。
結局、ものは試しという事でかがみに千年リングを渡して現在は別室で待機しつつ朝食を取っている万丈目だった。

(まあ、これで上手くいけば万々歳か。それにしてもLか)

万丈目はカレーには一切手を付けずにデイパックの中にあった質素なパンを齧りながら、バクラの首尾を待ちつつ先程少し耳にした単語の意味を考えていた。
Lというのは参加者なのはまず間違いない。
かがみはLの元から逃れてきたらしいので、当然Lはかがみが走って来た方向である南にいる可能性が高い。
そして万丈目はさらに考える。
Lという者がもし本当に危険な存在なら放って置いていいのかと。
だが、万丈目は知らなかった。
Lはこの会場で随一の頭脳を持った仲間になり得る存在である事に。
そして、もう一つ――

――別室で行われているバクラによるかがみへの説得は万丈目にとって思いもよらない内容である事に。
76変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/04(日) 00:08:22 ID:LTz+lPPy

(……えっと、整理するわね。まず、あの万丈目とかいう奴は――)
『ああ、年端もいかない銀髪眼帯少女を甚振る極悪人さ。しかも普段はそんな素振りを微塵も見せないっていう厄介な奴だ』
(正直信じがたいんだけど? あなたがこの千年リングの声とかいうのも。でも、私を心配してくれている点には礼を言うわ)
『な〜に、俺はあんたを見かねて忠告してやっただけさ。俺だって、いつまでもあんな野郎と一緒なのは御免だからな』

別室で行われているバクラとかがみによる心の中での会話。
そこでは万丈目が悪人だとかがみに吹き込むバクラの策略が着々と進行していた。
バクラは既に万丈目に見限る気になっていた。
強い力を持っていながらそれをむざむざ捨てるなどバクラには理解不能な行動だった。
元々バクラの目的はバクラが知るキャロとの合流、そしてこのデスゲームを楽しむ事だ。
つまり他に参加者がどうなろうとバクラにはどうでもいい事であり、万丈目も当然その中に入っている。
それでも今まで一緒にいたのはバクラが自力では行動できないためであった。
だが、それも解決した。
柊かがみ。
バクラが次の宿主に選んだ少女だ。
かがみの記憶を知った時、バクラはこの少女を利用しようと考え付いたのだった。
この生への執着と周囲への恨みは上手く誘導すれば万丈目より扱いやすい。
その判断が付いたからこその行動だった。

『(よし、ここまでは順調だな。もう少し話し合ったら、その後には……悪いな元・宿主サマよ。大人しくカードデッキへの生贄になってもらうぜ)』

そのバクラに目を付けられたかがみは別に完全にバクラを信用した訳ではない。
気づいた時にはメタルゲラスは消えていて代わりに人相の悪そうな少年が近付いてきた時は混乱したが、今は少し落ち着いている。
万丈目が近付いて気付く前にストラーダは逃げる途中で教えてもらった通りに腕時計型の待機状態にしているが、いざとなれば起動させる気でいた。
だが、バクラの言葉巧みな言い回しを聞くうちに徐々にかがみの中にあったバクラへの疑心は小さくなっていた。
それと並行してかがみはバクラを信じ始め、いつしかバクラの言う通りにすればいいような気にさえなっていた。
これらはかがみが現状から逃げたいがための逃避とも言える行為だったが、かがみ自身はそのような自覚は微塵も存在しなかった。

(そうよ、誰だって生きていたいって思うわよ。そう、そうよ。これは仕方のない事、いやむしろ当然の行いよ。
 万丈目って奴なんて死んで当然の奴なんだから! 私は正しいのよ!)

柊かがみはただ死にたくないだけだ。
だが、その考えは悪しき盗賊王の魂によって歪められていく。
彼女の運命はどう変わっていくのだろうか。


【1日目 午前】
【現在地 D-2 スーパー】

【万丈目準@リリカル遊戯王GX】
【状態】健康、30分バクラ憑依不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、カードデッキ(ベルデ)@仮面ライダーリリカル龍騎、ルーテシアのカレー@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、考察を書いたノート
【思考】
 基本:殺し合いには乗りたくない。仲間達と合流し、プレシアに報復する。
 1.バクラの首尾を待つ。
 2.このままD-3に注意しながら商店街に向かうか、それともLのいる南に行くか。
 3.カードデッキを破壊してミラーモンスターを倒す程の力を持つ者を捜す。
 4.キャロを捜し出して千年リングをどうにかする。
 5.仲間(理想は明日香)達との合流。
 6.余裕があればおじゃま達を探したい。
【備考】
※チンク(名前は知らない)を警戒しており、彼女には仲間がいると思っています。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※デスベルトが無い事に疑問を感じています。
※パラレルワールドの可能性に気づきました。
※柊かがみはLという危険人物から逃げてきたと思っています。
77変わる運命 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/04(日) 00:10:54 ID:LTz+lPPy


【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】疲労(中)、肋骨数本骨折、強い周りに対する敵意、バクラへの僅かながらの信頼
【装備】ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです
【道具】なし
【思考】
 基本:死にたくない。なにがなんでも生き残りたい。
 1.バクラを信じてしばらくバクラと話す。
 2.悪人である万丈目を殺すのは間違った事ではない。
【備考】
※デルタギアを装着した事により、電気を放つ能力を得ました。
※参加者名簿や地図、デイパッグの中身は一切確認していません。
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています。ただし、何かのきっかけで思い出すかもしれません。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※Lは相手を縛りあげて監禁する危険な人物だと認識しています。
※第一放送を聞き逃しました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しむ。
 1.万丈目には見切りを付けて、かがみをサポート及び誘導する。
 2.頃合いを見計らって万丈目をバイオグリーザーへの生贄に差し出すように仕向ける。
 3.可能ならばキャロを探したいが、自分の知るキャロと同一人物かどうかは若干の疑問。自分の知らないキャロなら……
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました。
※千年リングは『キャロとバクラが勝ち逃げを考えているようです』以降からの参戦です


     ▼     ▼     ▼


全てが終わった浜辺に静寂が訪れる。
後に残ったのは砂浜に打ち付ける波の音と辺りに散乱するいくつかの道具だけだった。
もう既にザフィーラの影も形もどこにも残ってはいなかった。

【ザフィーラ@魔法少女リリカルなのはStrikerS  死亡確認】

【全体備考】
※ザフィーラは首輪諸共ベノスネーカーとメタルゲラスに喰われました。
※【F-3 壊れた橋付近】に柊かがみのデイパック(支給品一式、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード、デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ランダム支給品0〜1)が放置されています。
※【F-1 浜辺】に以下の道具が放置されています。
・支給品一式×2、ランダム支給品(エリオ1〜3)
・Ex-st@なのは×終わクロ
・カードデッキ(王蛇)@仮面ライダーリリカル龍騎、サバイブ“烈火”(王蛇のデッキに収納)@仮面ライダーリリカル龍騎
※王蛇のカードデッキには、未契約カードがあと一枚入っています。
※サバイバルナイフ@オリジナル、手鏡@オリジナルはベノスネーカーとの接触で破壊されました。
※ベノスネーカーとメタルゲラスはザフィーラを喰った事で傷はほぼ癒えました。

【Ex-st@なのは×終わクロ】
新庄・運切の武器。白い砲塔に似た杖型のストレージデバイス(という名の概念兵器)。
砲門を取り換えて多様な砲撃ができる。威力は使用者の意志に比例する設定となっており、望みさえすれば自壊する程の大威力も発揮できる。
78 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/04(日) 00:14:14 ID:LTz+lPPy
投下終了です。
誤字・脱字、疑問点、矛盾などありましたら指摘して下さい。
タイトルの元ネタは仮面ライダー龍騎の第23話「変わる運命」より。
79名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/04(日) 01:48:26 ID:2c8AsUT/
つまんね。
予約延長蹴ってこの程度かよ
80名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/04(日) 02:39:17 ID:0Bes+e9y
>>79
だったらお前が
書いてみろや
81名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/04(日) 02:46:51 ID:sy+0s2mS
投下乙です。
ここへきて大幅な戦力のシャッフル。そしてザフィーラは本編よりは頑張った!
王蛇のデッキは持ち主不在となり、デルタドライバーも放置されている状態に。
誰が拾ってもおかしくない状況ですが……果たしてどうなるのか。
かがみんに憑いたバクラも今後どうなるのか非常に気になります。
そしてサンダー……w
GJでした!

>>80
一々荒らしに反応するレスを書くのなら、感想やGJの一言でも書いた方がよっぽどマシですよ。
82名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/04(日) 23:05:47 ID:0NYenuxJ
投下乙です

えーと、首輪にカメラがあるということですが、
第5話「反逆の探偵」でLが既に首輪を調べ、カメラがないと判断しています。
あと、Lが首輪の解析に努めるというなら、
第23話「アイズ」に書いてあったトレーラー内の解析装置を使うのではないでしょうか。
使わないのであれば、それなりの理由がほしいです。
83 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/04(日) 23:44:02 ID:LTz+lPPy
>>82
すいません。完全にこちらのチェックミスです。
なるべく早く修正版を投下するようにします。
84反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 20:45:59 ID:bP20oYRc
柊つかさ、遊城十代、フェイト・T・ハラオウン(A's)分を投下します
85Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 20:46:47 ID:bP20oYRc
「……もうすぐ11時か」
 1匹の蝶の呟きが、微風の中に溶けて消えた。
 既に天頂へと至った太陽は、燦々と黒き揚羽蝶を照らしている。
 髪を揺らす風が、何故だか冷たい。ツインテールにまとめられた、穏やかな輝きを放つブロンド。
 心優しき真紅の瞳は、しかし今は、空虚な血の光をまとっていた。
 フェイト・テスタロッサ。
 漆黒と紫の仮面を身につけし、殺戮者へと堕ちた魔導師の少女。
 その身に羽織った黒きマントは、かつての冷淡な戦士の姿を彷彿とさせる。
 もうここにはいないのだ。
 数多の人々に支えられ、優しき心に目覚めたフェイト・T・ハラオウンは。
 今ここに立っているのは、かつての魔女の奴隷として、心を殺して戦う人形。
 否、かつてのままならばまだよかった。
 母プレシアの指示の下に戦いながら、次第に元来の人格故に、迷いを生じさせていたかつてならば。
 しかし、今の彼女には、もはや一切の揺らぎはない。
 己が身を殺人の舞台へと走らせる決意は、より強固なものへと変貌していたのだから。
 喪われた大切な仲間達を、自分が優勝することによって取り戻す。
 勇猛果敢な好敵手を。冷静沈着な義理の兄を。
 誰よりも強く、誰よりも優しき、生まれて初めてのともだちを。
 もはやフェイトに迷いはない。
 暗黒のパピヨンマスクによって武装した瞬間から、彼女の意志は決まっていた。
 自ら「弱い」と認めた精神を、繋ぎ止めていた最大の支柱――それを取り戻すための戦いだから。
 最も大切な人間はもういない。それ以上に大切な人間がいるはずもない。
 この場に集った数十人が、たとえ束になって説得しようと、揺らぐことなど有り得ない。
「行こう」
 手にしていた時計をデイパックへと戻し、進む。
 右手にくろがねの銃口を構え、バリアジャケットの具足でアスファルトを叩き。
 眼前に立つデパートに向かって、ゆっくりとフェイトは歩き出した。
 当初の予定よりも若干早いのは、一階に人の気配がなかったからだ。
 手にしたライフル・オーバーフラッグには、先ほどからエリアサーチを実行させている。
 異端の魔女が施した呪縛――身体の制限が原因か、その発動効率は通常よりも悪い。
 ついでに言うならば、範囲も狭い。地上1階を探るのが限界だ。
 そしてその1階には、未だに他人の気配はなかった。
 ということは、もしここに他の参加者がいるとするならば、2階以上の階層に潜伏しているということになる。
 エレベーターやエスカレーターが機能している保障はない。であれば、移動手段は徒歩しかない。
 想定しうるファースト・コンタクトのタイミングまでには、必然的に若干のラグが生じる。
 うぃん、と開く自動ドア。
 こうして予定よりも早く扉をくぐったのは、そのタイムラグを考慮した上でのこと。
 さて、ここにはどんな人間がいるだろうか。
 夜天の主や鉄槌の騎士のような、見知った顔もいるのだろうか。
 もっとも、そうした人間がいた所で、為すべきことは変わらないのだが。
 そう。自分が犯すのは、決して無為な殺戮ではない。
 みんな殺して、自分が生き残る。そしてプレシアの力を借り、みんな復活させて日常に帰る。
 創造のための破壊。破壊による創造。
(救うために、私は殺すんだ)
 己が意志を胸中で呟き、鉄のブーツで足音を立てた。
86Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 20:48:13 ID:bP20oYRc


「ふぅ〜……結構しんどかったなぁ」
 抑えた少年の声と共に、2つの人影が3階へと現われる。
 遊城十代と柊つかさ。
 真紅のジャケットに、赤いラインのセーラー服。
 どちらも、赤色を盛り込んだデザインの学生服に、袖を通した2人組。
 先刻までつかさの心を支え、そして意図せずして十代と刃を交えてしまった女性の仕掛けたバリケード。
 もう1人のフェイトの用意した壁を潜り抜け、また元の形へと戻し、奥の方へと歩いていく。
「でも、色々と手に入ったよね」
「ああ。少なくとも、無駄な努力じゃなかったよな」
 微かに笑みを浮かべるつかさへと、にっと笑いながら十代が返した。
 一方、内心でほっと胸を撫でおろす。
 数時間前まで涙していた彼女だったが、遠慮がちであっても、どうにか笑えるようにまでは落ち着いたようだ。

 十代が転移魔法の仕掛けによって、このデパートへと姿を現してから、既に3時間以上が経過していた。
 つかさが恐怖と悲嘆の涙を流し終えてから、彼らが最初に行ったのは、お互いの持っている情報の交換。
 まずは十代がつかさに、禁止エリアの場所を問われたのが始まりだった。
 放送で高町なのはの名前を聞いたことで、軽くパニックに陥っていた彼女からは、すっかりその記憶が抜け落ちていたらしい。
 そしてそれに合わせるようにして、つかさの世界におけるなのは達のことを聞きだす。
 あのクアットロの推測通り、やはりここに集まった参加者達は、それぞれにパラレルワールドから呼び寄せられたようだ。
 既に20代にさしかかっていたはずのなのはとフェイトが、高校に転入してきたというのが、何よりの証拠だった。
 どうやらその辺りの可能性は、つかさもフェイト自身から聞かされていたらしい。さすがに理解は早かった。
 その一方で、やはり先ほど相対したフェイトは、自分の知るデュエルゾンビではなかったらしいと知る。
 12時に戻ってきたら、誤解したことをちゃんと謝ろう。
 申し訳なく思った十代は、内心で固く誓った。
 そしてその後、つかさから、サービスカウンターに届いたというメールのことを聞かされる。
 記されていた4つの事項はちゃんと頭に叩き込んだが、やはり彼も、「月村すずか」の名に覚えはなかった。

 ――んじゃ、もう一度このデパートを調べてみようぜ。

 情報交換の後、そう提案したのは十代だった。
 謎の人物――どうやら地上本部には先客が来ていたらしい――からのメールでも、施設の調査が指示されている。
 加えて彼はまだここに来たばかりで、何が置かれているのかも知らなかった。
 もちろんこのデパートは、既に最初にいたフェイトによって品物の物色がなされている。
 しかし、魔導師として優れた戦闘能力を持つ彼女と、一般人の十代では、欲しい物は違うのだ。
 フェイトが3階に戻ってくるのは12時。ならば、それまでに探索を終えればいい。
 つかさの了承を得た彼は、共にデパートの調査を実行した。
 各階で二手に分かれては、合流して1つ上の階へ上るという動作を繰り返していく。
 フェイトのスタート地点は屋上だった。
 その彼女が他の参加者を見つけていないのだから、このデパートには自分達2人しかいない。
 2人が一時的とはいえ、分かれて作業をすることができたのは、そうした確信によるところが大きかった。
 そして、それぞれに物資を確保し、今に至る。

「やっぱすぐに食えるのは、野菜かパンくらいだったな」
 デイパックを開きながら、十代が言った。
 同様の作業を行うつかさが頷く。
 取り出されたのは、トマトやキャベツなどの野菜類と、袋に入れられたパンの類。
 そこからジャムパンを拾うと、開封してつかさに渡した。
 おずおずとそれを受け取り、口に含む。
 十代には知る由もなかったが、彼女はこのデスゲームの中で、まだ一度も食事を摂っていなかった。
87Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 20:49:15 ID:bP20oYRc
 自身もロールパンを取ると、それに食らいついた。腹ぺこなのは彼も一緒だ。
 これらのような食料品は、持っておくに越したことはない。空腹は生存率を著しく低下させる。
 異世界へと飛ばされたデュエル・アカデミアで、十代が心底思い知ったことだった。
 もっとも、抜け目がないというか何というか、やはり陳列されていた食品は少ない。
 下手に籠城をされると、殺し合いが円滑に進まなくなる。
 プレシアもその辺りを考慮したのだろう。ここに置かれていたすぐに食べられる食品は、大体これで全部だ。
 刺身類などもあったにはあったが、持ち歩くのには適してない。恐らく、ぼやぼやしていると腐る。
「あと、他にあったのは……これと、これと……」
 ロールパンを口に咥えながら、またも十代がデイパックをあさる。
 取り出されたのは木製のバットにエアガン。どちらも自衛目的の品だ。
 バットはメインウェポン、エアガンはハッタリで脅すためのもの。
 武器としては、支給された銃剣もあるにはあるのだが、あれでは殺傷性能が高すぎる。
 それに比べて、刃のないバットならば、まだ相手の命を気にすることなく戦えるだろう。そのための装備だった。
「それから、最後にこれ、と」
 最後に取り出されたのは、緑色を基調としたカードだった。
 独特な模様の裏面に、表面の中央に配置されたイラスト。
 「死者蘇生」と書かれたそれには、特殊な形をした十字架のようなものが描かれていた。
「それって何?」
「デュエルモンスターズ。一番上の階のおもちゃ屋に、この1枚だけ置いてあったんだ」
 俺達の世界で流行してるカードゲームさ、と十代が言う。
 このデュエルモンスターズ・カードゲームは、インダストリアル・イリュージョン社によって発売されているものだ。
 社長にして発案者のペガサス・J・クロフォードは、古代エジプトでの魔術儀式の碑文を元にこれを発明したという。
 更に歴史をさかのぼれば、その儀式もまた、異世界の力の片鱗が、人の魔力となって発現したものなのだそうだ。
「それがいわゆるカードの精霊っていうやつで、俺達が飛ばされた世界では、そいつらと一緒に戦うことができたんだ。
 こいつが置かれてたってことは、ここでもカードの効果が現実化するってことなんじゃないかな?」
 仮にそうだとするならば、非力な十代達にとって、非常に強力な武器となるはずだ。
「じゃあ、この死者蘇生ってカードなら、死んだ人を生き返らせることができるの?」
「んー……多分、無理だと思う。このカードが復活させられるのは、あくまでモンスターカードだけだろうな」
 カードテキストを指し示しながら、十代が言った。
 あの異世界においても、カードがそこに記された以上の効果を発揮したことはない。
 カードが持ちうる効果は、あくまで実際の決闘(デュエル)に基づいたものだ。
 故に、モンスターカードを墓地より特殊召喚する、と定められた「死者蘇生」には、それ以上の効果は望めない。
 あくまで復活させられるのはモンスターカードであり、人間などは対象外だろう。
 なのはを蘇らせることを期待していたのだろうか。微かに、つかさの顔に落胆の色が浮かんだ。
「……あ、そうだ」
 と、ややあった後に、うなだれるような形になっていた顔が持ち上げられる。
 そしてそのまま、デイパックの中へと手を伸ばし、ごそごそと動かし始めた。
「確か、それと似たようなのが……」
「えっ? カードが支給されてたのか?」
 この展開に、十代は思わず目を丸くする。
 もしもつかさがカードを――特にモンスターカードを持っていたとすれば、この上ない僥倖だ。
 現在手元にある「死者蘇生」は、単独では特に意味を持たないカードである。
 たったこれ1枚だけでは、いかに優れた決闘者(デュエリスト)といえど、戦うことなどできはしない。
 だが、もし他に手があったならば、話は大きく変わってくる。
 複数のカードが手に入れば、コンボを組み立てることも可能だ。
 やがて、せわしなく動いていたつかさの手が止まる。
「あった、これ――」
 どうやら、その手にカードの感触を確認したようだ。
 そのまま、デイパックの中の右腕を持ち上げようとする。
 十代の全神経が、彼女の右手に握られているであろうものに集中された。
 だが、
88Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 20:50:18 ID:bP20oYRc
 
「――止まりなさい」

 かけられた声が、それを許さなかった。
「!?」
 割って入ったのは、十代のものともつかさのものとも違う声。
 突如現れた第三者の方へと、反射的に視線を飛ばす。
 バリケードをぶち破って入って来たのだろう。1人の少女が、冷たい銃口を構えていた。
 黒一色の装束に身を包んだ彼女は、十代達よりも遥かに幼い。恐らく、10歳前後の子供だろう。
 だが、その顔を覆った派手な仮面が、何より黒光りする銃身が、ただならぬ気配を放っていた。
 漆黒の揚羽蝶の翼から覗く瞳には、何の感情も浮かんでいない。おおよそ子供とは思えぬ冷淡な視線。
 いわゆるパピヨンマスクと呼ばれるそれの両端からは、黄金の長髪が伸びていた。
 黒いリボンで結ばれたそれは、いわゆるツインテールというもの。つかさの姉もよくやっていたそうだ。
 そして、その髪型には見覚えがある。その髪色にも、瞳の色にも。
 顔はマスクに覆われている。人相などは分からない。
 だが、2人は知っているのだ。
 黄金のツインテールに、真紅の瞳を持った女性を。
 片や異世界から現れた戦士として、片や隣のクラスへ転入してきた友人として。
 であるならば、彼女の正体に気付くのには、それらの特徴だけで十分すぎる。
「まさか……」
「もう1人のフェイトさんかっ!?」



(もう1人の私、か……)
 どうやら目の前の2人は、あのもう1人の自分に会っていたらしい。
 自分と同じ顔立ちに、同じ金髪をストレートにしていた女性の姿を、ぼんやりと思い出す。
 であれば、ここに来るまでに用意されていた仕掛けも、その人によって用意されたのだろうか。
 飛行魔法で回避した鳴り物を追想。確かに本来の自分ならば、ああして目の前の弱者を守ろうとしてもおかしくない。
 容姿だけでなく、その人格さえも、自分と同じなのだとしたら。
 そう思いながら、見るからに一般人といった様子の2人組を見据えた。
「まさかあんた……この殺し合いに乗ってるのか!?」
 茶髪の少年が、フェイトに問いかけてくる。
 どうみても歳上の男から、まるでこちらが歳上であるかのように扱われるのは、さすがにむずがゆいものがあった。
 だが、そんなことはいちいち気にしてなどいられない。
 これから自分は人殺しをするのだから。
 それも先の新庄の時とは違い、直接死体を目の当たりにするのだから。
「どうしても助けたい人がいるんです。生き返って、一緒に生きてほしい人が」
「そんなの駄目だ! 誰かを殺して幸せになろうなんて、考えちゃいけないだろっ!」
 あぁ、この人は強いんだな。
 そんな印象が浮かんだ。
 肉体はさほど強靭ではない。魔力も欠片も感じられない。戦闘力などありはしないのだろう。
 それでもその瞳には、それを覆すほどの光がある。
 かつて自分に語りかけてきた、なのはの真っすぐな視線が重なる。
 この人は強いのだ。少なくとも、精神力という一点においては、間違いなく強い人間なのだ。
 だからこそこの状況において、そんな目ができるのだろう。そんな言葉が吐けるのだろう。
89Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 20:51:14 ID:bP20oYRc
「貴方達も必ず生き返らせます。だから、今は死んでいてくれませんか」
 だが、自分は違うのだ。
 自分の心は、こんなにも弱い。
 シグナムのいない明日が考えられない。クロノのいない明日を考えたくない。
 なのはのいない明日を生きたくない。
 だから自分は、こんな手段を取ることしかできなかった。それは認めよう。
「……ッ!」
 目の前では、あの少年が固く唇を噛み締めている。
 何せ彼は、もう1人の自分のことを知っているのだ。
 恐らく母の手によって、戦わせるために生み出されたであろう彼女のことを。当然、その強さを。
 抵抗はできないと悟ってくれたのだろう。同時に、自分が動けば、同行者もまた危険に晒されるであろうことも。
 むしろ、その方が都合がいい。
 その方が、スムーズに殺すことができる。
「すみません」
 謝罪の言葉が口を突いた。
 迷いはしないと決めている。今更後戻りする気はないし、この行いを悪だとも思っていない。
 であれば、そこに込められたのは敬意。
 目の前でこちらを睨んでいる、強い信念を持った少年への。
 故に、謝るのだ。
 心弱き自分の力が、心強き彼を飲み込んでしまうのだから。
 本来なら、自分達の立場はあべこべであるべきだったのだろう。
 しかし、現実は残酷だ。
 運命は弱き自分に力だけ与え、強き彼を無力とした。
 ぐ、と。
 引き金にかけた指に力がこもる。銃身へと魔力が注ぎ込まれていく。
 この人には、苦しんで死んでほしくはない。せめて即死で済むように、的確に頭を狙い撃とう。
 そう決めて。
 弾丸を、放った。



 どうして?
 どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの?
 私はただの高校生だよ?
 ただ普通に学校に通って、普通に友達と話をしたりして、休日には普通に遊びに行く。
 それが本当の私の人生のはずだよ?
 なのにどうして? どうして何の力もない私が、こんな殺し合いをしなきゃいけないの?
 私だけじゃない。お姉ちゃんやこなちゃんだってそうだよ。
 私達みんなみんな、ここにいる十代君だって、こんなことする必要はなかったはずだったのに。
 そういうことは、アニメや漫画の世界だけで十分なはずだったのに。
 なのにどうして?
 どうしてそれが現実に起こっちゃうの? どうして選ばれたのが私達なの?
 どうしてこんな所で怖い思いをして、ライフルを向けられて、脅されなくちゃいけないの?

 どうして――こんな所で、殺されなくちゃいけないの?
90Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 20:52:46 ID:bP20oYRc
 まだまだ、やりたいことはいっぱいあったんだよ。
 お姉ちゃんと話したいことがたくさんあったし、こなちゃんやゆきちゃんも連れて、一緒に行きたいところもあった。
 こなちゃんは今度新しいゲームを教えてくれるって言ってたし、ゆきちゃんも宿題を教えてくれるって約束してくれた。
 それを言うなら、なのはさんやフェイトちゃんとだって、もっと仲良くなりたかった。
 見たいものがたくさんある。
 食べたいものがたくさんある。
 知りたいものがたくさんある。
 行きたい場所がたくさんある。
 なのに、もう、全部叶わないの?
 見たいものも、食べたいものも、知りたいものも、行きたい場所も。
 みんなと過ごしたい時間も。
 全部全部、ここでなくなっちゃうの?

 ……いやだよ……

 そんなのいやだよぉ……もっと生きていたいよぉ……

 死にたくないよぉ……っ!

 ……誰か、助けて。
 誰でもいいから助けに来て。
 このままじゃ私も十代君も、あのちっちゃなフェイトちゃんに殺されちゃう。
 助けて、お姉ちゃん。助けて、こなちゃん。助けて、なのはさん。助けて、フェイトちゃん。
 助けて。
 助けて。
 お願いだから誰か助けてぇっ!

 ……、?

 あれ……?
 私、何か手に持ってる……これ、何だったっけ……?
 鞄の中で、よく見えないけど……手触りは、紙か何かみたい……
 ……ああ、そうだ。あのカードだ。
 さっき鞄を調べた時に見つけた、あの変なドラゴンの描かれたカードだ。
 十代君、確かこれのこと、デュエルモンスターズって言ってたよね……武器としても、使えるかもしれないって……
 そういえば、ぼんやりとしか覚えてないけど、こんな感じのドラゴンが戦ってるのを、昔何かで見たような気がする。

 ……じゃあ、これを使えば……ちっちゃなフェイトちゃんから身を守れるの?
 カードに描かれたドラゴンが、私達を守ってくれるの?

 ……生きたい。

 私、まだまだ生きていたい。
 こんな所で死にたくない。

 だから、助けて。
 私のことも、十代君のことも。

 お願い。

 私達を……

「――助けてぇぇぇぇーっ!!!」
91Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 20:53:36 ID:bP20oYRc


 右手が挙がる方が早かった。
 気が付いた時には、オーバーフラッグが魔力弾を放っていて、同時にセーラー服の少女の手が光を放っていた。
 一瞬の刹那を捉える。
 音速にさえも到達する、高速戦闘で培われた動体視力が、光の正体を見極める。
(しまった、あれは……!)
 マスクの下の顔がしかめられた。
 つかさが取り出したそれは、早乙女レイの使ったのと同じカードだ。
 その効果までもが同じならば、そこに描かれたモンスターが具現化する。
 あの時生み出された岩石の戦士は、自分達魔導師にも匹敵する戦闘力を有していた。
 このまま召喚が実行されれば、こんな弾丸の1発くらいは受け止められてしまう。
 せめて相手の所持品を、もっと冷静になって確認しておけば。
 フェイトの思考がそこに至った時には、既に眩い光が2人を包んでいた。
 白き極光。
 カードより迸る閃光は一瞬にして膨れ上がり、フェイトの前に立ちはだかる。
 さながら放たれた魔弾から、十代とつかさを守るかのように。
 ばん、と。
 炸裂音が鳴り響く。光に着弾した弾丸は、一瞬にして四散する。
 そして、フェイトは見た。
 先の召喚の時よりも、遥かに膨大な光の正体を。
 太陽のごとく輝く白の中から、生まれ出るものの姿を。
 それは――龍。
 十人に問えば十人ともがそうだと答える、まごうことなき龍の姿だった。
 レイに襲われた時と同じように、カードのモンスターが実体を持った。それだけならまだ有り得る話だろう。
 しかし、その身体のサイズの何としたこと。
 あくまで人間大だった岩石男に比べれば、もはや圧倒的としか言いようがないではないか。
 人間よりも遥かに巨大な龍の体躯が、翼を盾のように構え、目の前の2人組の元に姿を現していた。
 太古の恐竜を思わせる巨体を、デパートのコンクリートの天地に挟まれ、窮屈そうに折り曲げながら。
 その身を彩るのは白き鱗。
 さながら鎧のごとき純白の龍鱗が、余すことなく身体を覆っている。
 オーバーフラッグの弾丸を阻んだのはこれだ。着弾したであろう翼には、かすり傷ひとつついていない。
 神々しささえも漂わせる白銀の光の中、唯一両の瞳だけが、サファイアの青に染まっていた。
 爛々と輝く龍の目は、射抜くような殺意をこちらに向けてくる。
 半開きになった口からは、生ぬるい息が吐き出され、それがフェイトの顔を撫でた。
 その瞳が。その息が。その爪が。その牙が。その翼が。その尾が。
 龍の全身そのものが、絶大なプレッシャーを放っている。
《ウオオオォォォォォォォ―――――――――ンッッッ!!!》
 遂に龍は絶叫した。
 耳をつんざく大音量が、漂う空気さえも殴りつける。
 暴力的な波動。
 ただの咆哮がガラス窓をびりびりと震わせ、ツインテールをはためかせ、パピヨンマスクさえも吹き飛ばす。
 つ、と。
 剥き出しになった頬を、嫌な汗が流れた。
 一瞬、全身の筋肉が委縮する。全身の皮膚がぞわりと粟立つ。
 五体全てを震わせるのは、この美しくも荒々しき龍へ抱いた恐怖か。
「ブルーアイズ!? こんなものが、つかささんに支給されてたのか!?」
 驚愕も露わに十代が叫んだ。
 だが、真に驚きたいのはフェイトの方だ。
 何せこの絶大な殺気を向けられているのは、十代ではなく、フェイトなのだから。
(ブルー、アイズ……)
 呼ばれた名前を、胸中で反芻する。
 これぞ――青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)。
 攻撃力3000という、桁違いの破壊力を秘めた、強靭にして無敵にして最強の暴君竜。
 今まさに、つかさの決死の呼びかけに応え、誇り高き白銀の龍王が姿を現したのだ。
92Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 20:54:49 ID:bP20oYRc
「くっ……!」
 竦んでなどいられない。怯んでなどいられない。
 一目で分かる。あの神々しくも禍々しい威圧感は、まともに戦えば絶対にヤバい。
 オーバーフラッグを構えなおし、トリガーを高速で4連射。
 どん、どん、どん、どん。
 合計4発の魔力弾が、一挙にドラゴンへと襲いかかる。
 猛烈な速度の弾丸の連続。さながら地上の流星雨。飛来するは黄金の綺羅星。
「!?」
 しかし、これでも駄目。
 傷をつけられるどころか、たじろぐ素振りすらも見せはしない。
 なんという堅牢さ。なんという豪胆さ。
 目の前の青眼の白龍は、なおも悠然と構えている。さしものフェイトも、これには我が目を疑った。
 開かれるは龍の大顎。
 喉に煌くは白熱の光。
 猛烈なまでのエネルギー量が、白き龍の口元へと集束されていく。
 この圧倒的な存在感を誇る化け物が、遂に攻撃へと転じようとしていた。
 これはまずい。
 フェイトにとって、未だ奴の実力を計る要素は、その防御力と気配しかない。
 だが、それだけの鉄壁と威圧感を誇るドラゴンが、そのまま攻撃を行うのならば――

 ――轟。

 思考は爆音に掻き消された。
 もはや理性すらも及ばぬ、本能的な恐怖に従い、全速力で回避する。
 コンマ1秒の後、目と鼻の先を掠めたのは、白き灼熱の奔流だ。
 桁違いの攻撃力。想像の遥か上を行く破壊力。
 攻撃の余波が吹き荒れただけで、華奢な身体が吹き飛ばされそうになった。
 続けて遥か彼方より響く、激音。
 懸命に魔力を張り巡らせ、己が姿勢を保ちながら、その破壊の結末を垣間見る。
 デパートの壁は無惨にも砕け散り、ぽっかりと空いた大穴の周辺から、もうもうと黒煙が立ち込めていた。
 龍のブレス――名を、滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)。
 その名には誇張も虚偽もない。
 青眼の白龍の口より放たれる光は、あらゆる敵が相手であろうと、文字通りの滅びを与えられる力を秘めている。
 冗談じゃない。
 身体中に汗の湿気を感じた。
 こんな室内で、今の攻撃を撃ち続けられてはたまったものではない。
 マントを翻す。金のツインテールが揺れる。
 瞬時に最大戦速へと至ったフェイトが、開いた穴から離脱した。
《グオオォォォォォォッ!》
 咆哮するブルーアイズ。
 逃がすものか、とでも言わんばかりに、巨大な双翼を羽ばたかせる。
 守るべき主を吹き飛ばさんばかりの風圧と共に、純白の体躯が前進した。
「きゃあ!」
「うわぁっ!」
 叫ぶ十代達を尻目に、壁の穴へと突っ込む龍。
 ばりばり、ばりばりと。
 鋭き破砕音を上げながら、ドラゴンの巨躯がめり込んでいく。
 その頭で、その胴で、その爪で、その翼で。
 ブレスも構えすらもない、ただ純粋な突撃の圧力のみで、みるみるうちにコンクリ壁が砕かれていった。
「す……すごい……これなら、フェイトちゃんとも戦えるよね!?」
 驚嘆と安堵の入り混じった声で、興奮気味につかさが口を開いた。
 なるほど確かに、これだけの力ならば、あの魔導師とも戦える。つかさ達の身も守られるだろう。
「いや、駄目だ!」
 だが、しかし。
93Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 20:56:32 ID:bP20oYRc
「俺は、あのフェイトさんがどれだけ強いか、直接は見ていない……
 でも、俺の知ってる方のフェイトがどれだけの実力か、どんな実力のモンスターを倒せるのかは分かる!」
「えっ……え……!?」
 突然真顔になって語り出した十代を前に、つかさはうってかわって狼狽しだした。
 青眼の白龍の飛び去った穴と、すぐ隣に立つ十代を、小動物のように交互に見まわす。
「強すぎるんだ、ブルーアイズの攻撃力じゃ……!」
 攻撃力3000。
 デュエルモンスターズにおけるこの数字は、すなわち最上級モンスターを示す象徴である。
 史上最強と謳われた決闘者・武藤遊戯の最強モンスター、カオスソルジャー――攻撃力3000。
 あまりに凶悪な能力を持つが故に、禁止カードとなった混沌帝龍――攻撃力3000。
 アカデミア教官クロノス・デ・メディチの切り札、古代の機械巨人――攻撃力3000。
 レベルアップモンスターの中でも、象徴的な存在たるホルスの黒炎竜――攻撃力3000。
 そしてこの3000という数値が、一体何を基準として定められているのかは、もはや言うまでもない。
 デュエルモンスターズの黎明期において、まさしく無敵の力を誇った龍。
 あまりに強大な力を持つが故に、僅か4枚しか製造されなかった幻のレアカード。
 始祖にして最強。
 それこそが、青眼の白龍。
 道中でクアットロ達と話したことで、強者にかけられた制限とやらのことは把握している。
 加えてあのフェイトの魔導師ランクとやらが、自分の知るフェイトよりも1ランク下だということも。
 単純計算しても、自分の知る彼女よりも、一回りか二回りは弱いということか。
 そんな状態のフェイトが、あの最上級モンスターと真っ向からやり合えば。
「このままじゃ、フェイトさんは――ブルーアイズに殺されちまう!」
 つかさの表情が凍りつき、顔面が蒼白となった瞬間だった。



《――グオオォォォォォォッ!》
 視線を下方へと向ければ、あの龍が追ってきたのが分かる。
 地上6階の位置まで飛翔したフェイトが、煙をぶち破って現れたモンスターを見降ろしていた。
 お互いに、壁に貼りつくようにして浮いている。
 獰猛な雄たけびを上げる青き視線と、沈黙をもって応じる赤き視線。
 仕込み刀を抜刀。
 ぶんっ、と。
 大気を焦がし顕現するは、真紅の光輝に彩られた魔力刃。
 サーベルのごとき細身の刀身。使い慣れたバルディッシュ・ザンバーに比べれば、圧倒的に頼りない。
 それでも、自らの戦闘技術を発揮するには、必要不可欠な得物には違いなかった。
 あの必殺の砲撃が放たれるよりも速く、敵の懐へと飛び込んで斬りつける。
 自らの最も得意とする戦術で、あのおぞましき白龍を叩き潰す。
「ソニックムーブ」
 呟いた。
 己が力の名を、物言わぬオーバーフラッグに代わって。
 刹那、消失。
 少女の姿は掻き消える。
 常人の動体視力を超越した世界。
 音すらも置き去りとする速さの極限。
 一瞬にして音速へと加速。
 斬、と。
 斬撃音が鳴り響いた時には、既に少女は通り過ぎていた。
 壁沿いに落下するようにして飛行したフェイトが、青眼の白龍の腹をすれ違いざまに斬り裂いたのだ。
94Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 21:00:31 ID:bP20oYRc
 しかし。
「くっ!」
 びゅん、と。
 音と質量が同時に来る。
 されど、そこに込められた破壊力は、細き刃の比ではない。
 ソニックムーブの音速機動はそのままに、迫りくる肉の塊を、回避。
 直撃はさけた。あの極太の龍の尻尾を、その身に食らうことは免れた。
 だが、未だフェイトの顔には苦々しげな色が宿る。
(今のでも駄目か……!)
 鉄壁の鎧には、斬撃痕の1つもついてはいなかったのだ。
 手ごたえなどまるでない。ただただ、鋼すらも凌駕する装甲に、剣が弾き返される感触。
 数多の敵を下してきた、一撃離脱戦法すらも通じない。肝心の一撃の破壊力がまるで足りていない。
 龍の青眼がこちらを睨む。第二撃を打ち込むために。
 ち、と舌打ちをしながら、空中に雷撃の弾丸を展開。優れた魔導師であるが故の慣れた手つき。
「ファイアッ!」
 号令と共に、放つ。
 ばちばち、ばちばちと。電気特有の炸裂音を鳴らし、6発の魔力弾を同時発射。
 返答は突風だった。
 巨大な両翼が持ち上げられる。純白の双翼が力強く羽ばたく。
 ごう、と音を立てて逆巻くは烈風。ただの羽ばたきの圧力が、魔導の力さえも捻じ曲げる。
 強烈な風圧に煽られた魔力弾は、ブルーアイズの巨躯を大きく逸れていく。
 虚空に。彼方に。デパートの壁に。
 あるものは飛び去り、あるものは掻き消え、あるものは炸裂した。
 しかし、この程度でフェイトは怯みはしなかった。
 もとよりこの攻撃はただの牽制。4発で通じなかったものが、今更6発でどうにかなるはずもない。
 本命はこれからだ。
「連続攻撃なら!」
 黒きマントがはためいた。
 赤き軌跡が描かれた。
 今度こそ仕留める。
 一撃一撃が効かぬのならば、何度でも叩き込むまでだ。
 相手の攻撃が来るのならば、何発でも避けきってやる。
 それを実現するだけの速度と手数は、戦いの日々の中で培ってきた。
「はあああぁぁぁぁぁーっ!」
 鋭い叫びと共に、突撃。
 一瞬にして少女と白龍の距離が詰まる。
 ドラゴンの青き双眸がこちらを捉える前に、一閃。
 それだけでは足りない。返す刀で更に一閃。
 三発、四発と攻撃を叩き込んでいくうち、遂にあの尻尾が襲いかかる。
 己が持てる速力の全てを発揮し、回避。虚しく空を切ったところへ追撃の一太刀。
 斬る。斬る。斬る。斬る。回避。
 斬る。斬る。斬る。斬る。回避。
 斬。斬。斬。斬。避。
 斬。斬。斬。斬。避。斬。斬。斬。斬。避。
 斬。斬。斬。斬。避。斬。斬。斬。斬。避。斬。斬。斬。斬。避。
 斬斬斬斬避斬斬斬斬避斬斬斬斬避斬斬斬斬避斬斬斬斬避斬斬斬斬避斬斬斬斬避斬斬斬斬避。
 一発の斬撃が十となり、二十となり。いつしか百へと届くほどに。
 全速力で打ち込む。全速力でかわす。全力で全速力を維持し続ける。
 玉のような汗が舞った。髪が目に入りそうになった。だが、そんなものは気にしていられない。
 一瞬でも集中を途切れさせれば、鉄塊にも匹敵する一撃が脇腹を叩くだろう。
 背骨にヒビどころの騒ぎではない。肉も皮も骨も命も、一撃のもとに持っていかれる。
 まさにフェイトがギリギリの攻防を強いられる最中、それでも青眼の白龍は怯まない。
 凶悪な咆哮を轟かせ、風切り音を掻き鳴らし、なおも無傷の龍鱗を輝かせている。
95Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 21:01:40 ID:bP20oYRc
 ――逃げろ。
 全神経が警告を発する。
 人間の理性などではない、本能的な感覚が、絶え間なくフェイトに撤退を促し続けている。
 この存在には勝てないと。どう足掻いても、こいつを倒すことは不可能だと。
 これほどまでに絶望的な勝負になど、挑んだことは今までなかった。
 闇の書の闇との戦いでさえ、仲間達と共に戦うことで、勝利をこの手に掴むことができた。
 だが、今のこの状況はどうだ。
 こちらが一方的にスタミナを削られているだけで、相手には未だ一撃も通っていないではないか。
 あの手この手を駆使しても、こいつは容易くその上を行く。掛け値なしに強すぎる。
 それこそ前述の闇の書の闇のような、ずば抜けた力を持った存在とは確かに戦ってきた。
 だが少なくとも、魔導師に限定するのであれば、この龍は今まで戦ってきた、どんな相手よりも遥かに強い。
(強い……?)
 と。
 咄嗟に浮かんだ言葉を、思い直す。
 強い。
 そのたった一言が、彼女の記憶を揺さぶった。
 今自分は、こいつを強いと思ったのか。こいつを今まで戦ってきた、どの相手よりも強いと思ったのか。

 ――これが私の全力全開!

 強さ。
 真っ先に浮かんだのは、あの朝焼けに照らされた海と空。
 白きドレスをはためかせ、天使の翼で風を掴み、放つ光は桜の輝き。
 桃色と黄金の杖を携えた、茶髪の少女の姿が、真紅の瞳の中に蘇る。
 星々の煌き――スターライトブレイカーの破壊力は、今でもありありと思い出すことができる。
 フェイト・テスタロッサにとっての最強とは、紛れもなく高町なのはだった。
 だがそれは、単純な砲撃の威力だけでも、ましてやその身に秘めた魔力量だけでもない。
 ジュエルシードを巡る戦いを経て、ひよっ子だったあの少女は、どんどん成長していった。
 ほんのささやかだった想いが、戦いの中で磨かれていく度、より強大な不屈の意志へと姿を変えていった。
 英才教育の果てに優れた力を得た自分が、ただの人形でしかなかったにもかかわらず、だ。
 友達になりたい。
 そう語るなのはの瞳は、常に真剣に自分を見ていた。
 どんな熾烈な戦いにあっても、決して自分から逃げなかった。
 高町なのはの強さとは、すなわち身体と心の強さ。
 絶大なまでの戦闘力と、それに見合った鋼の精神。その2つの融合こそが、すなわち理想的な力の形。
 故に高町なのはとは、フェイト・テスタロッサにとっての最強だった。
 だが、目の前の龍はどうだ。
 いかに圧倒的な攻撃力、圧倒的な防御力を誇ろうと、こいつにはまるで心がない。
 ただ獣のように下品に吠え、ひたすらに暴れまわっているだけだ。
 こいつに真の強さなどない。
 こいつが強いはずがない。
 真に強いのはなのはなんだ。
 お前よりもなのはの方が強いんだ。
 そう。
 この世界の、誰よりも。

(――なのはがいちばんつよいんだっ!!!)
96Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 21:04:20 ID:bP20oYRc
 咆哮と共に、飛翔する。
「アルカス・クルタス・エイギアスッ! 疾風なりし天神ッ、今導きのもと撃ちかかれ!」
 本能が紡ぐ呪文の言葉。
 もはや自分が何事を叫んでいるのかも認識できぬまま、遥か天空へと上昇していく。
 襲い掛かる破滅の熱量。追撃の爆裂疾風弾。
 狂気じみた叫びを上げながら、しかし的確に回避する。
 空振りの熱量は、フェイトの背後のデパートへと命中。
 猛烈な破壊力がコンクリートの壁を舐め回し、深々と縦一文字の傷跡を刻み込んだ。
「バルエル・ザルエル・ブラウゼル!! フォトンランサー・ファランクスシフトォッ!!」
 こんな奴なんかに負けていられない。
 自分はなのはのために戦っている。
 世界で一番強い、高町なのはの想いと共に戦っている。
 なのはに支えられている自分が、こんな奴に負けることは許されない。
 それはなのはの最強を、自ら否定することだ。
「負けないよ……」
 瞬間、停止。
 ぼそり、と呟きながら。
 陽光を受け、眩く輝く金髪を、更なる光が照らしていく。
 ぽぅ、ぽぅ、ぽぅ、と。
 足元に顕現するミッドチルダ式魔法陣を中心に、生み出されていくのは無数のスフィア。
 金色の魔力が形成する球体が、1つ、また1つと浮かんでいく。
 先ほどまでの雄たけびとは、うってかわった静寂の中。
 不気味なまでの静寂と共に、雷撃の弾丸が群れを成す。
「私は負けないよ――なのはぁッ!!!」
 フォトンランサー・ファランクスシフト。
 決意の絶叫と同時に放たれたのは、爆音響かせる轟雷のスコールだ。
 永遠に消えさることなき決戦の記憶。なのはの収束魔法を食らう直前に放った、あの日の自分の全力全開。
 魔法陣上に展開された雷撃砲台フォトンスフィア、計38基。
 それら全ての連射性能、秒間7発。攻撃時間、4秒。
 総合計弾丸数、実に1064発の一斉射撃。
 絶え間なく響く撃発音は、1つに重なり雷鳴となる。雲霞のごとき迅雷は、さながら地上の流星群。
 撃つ。撃つ。撃つ。ただひたすらに撃ち続ける。
 この身に宿ったなのはの想いを、白き暴君龍へと叩き込むかのように。
 光が視界を遮ろうと、煙が巨体を隠そうと、攻撃の手を緩めることはしない。
 全ての弾丸を撃ち尽くすまで、一片の容赦もかけはしない。
 やがて、それも、終わる。
 展開した全フォトンスフィアの全弾が射出され、遂に攻撃の手が止まる。
 消えゆく魔法陣。消えゆく砲台。眼前に広がり続ける黒煙。
 これで終わりか。
 総勢1064発の魔力弾、食らおうものならひとたまりもあるまい。理屈ではそうだ。
 だが、この胸に残る違和感は何だ。
 この煙の奥からちりちりと刺すような、得体の知れぬ嫌な予感は一体何だ。
(――来る!)
《グオオォォォォォォォーンッ!》
 すなわち、殺気。
 この雷撃の雨の中、微塵も衰えることなき獰猛なる敵意。
 百万のナイフにも勝る絶叫が、黒きカーテンの奥より襲いかかる。
 闇の煙を牙で引き裂き、巨大なるドラゴンの大口が迫る。
 開かれた大顎には、白き光輝が未だまとわりついていた。
 なんという暴力的な力か。至近距離で放った滅びの爆裂疾風弾が、全弾を相殺したとでも言うのか。
 それでも、うろたえている暇はない。
 ほぼゼロ距離まで迫ったブルーアイズの両顎が、フェイトの天地より迫り来る。
 上下からの挟み撃ち。すなわち、丸のみの態勢だ。
97Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 21:07:27 ID:bP20oYRc
「くぅっ!」
 オーバーフラッグを支柱とし、口を塞ぐ。
 頭上を見上げれば、眼下を見下ろせば、そこに並ぶのは剣呑なる針山だ。
 だが真に恐るべきは、天より地より襲いかかるその顎の筋力。
 みしみしと軋む鋼鉄の銃身。これが生物の圧力なのか。
 上から下から殺意の刃が、強靭な筋肉と共にじりじりとにじり寄ってくる。
「なめるなぁッ!」
 ぼん、と。
 手を突き出した先で、爆発が起こった。
《ギャアァァァァァァァッ!》
 悲痛な絶叫と共に筋力が緩む。長い首を振り回し、のたうち回る口腔から、一瞬の隙を突いて脱出する。
 いかに堅牢な青眼の白龍と言えど、鱗のない体内に攻撃を食らっては、たまったものではない。
 至近距離からその喉元目がけ、魔力弾を叩き込んだのだ。
 強烈な加速と共に退避。口から煙を上げるドラゴンと距離を取る。
 ここまでの戦いの中で、初めてフェイトの攻撃が直撃した。今のは精神的に相当答えたはずだ。
 本気の一撃が来る。先ほどのような尻尾の攻撃などではない、あの白き大砲が来る。
 怒りの炎を燃やす瞳が何よりそれを雄弁に物語っている。
 蹂躙されるだけの雑魚ごときが、ふざけた真似をしてくれたな。
 この一撃で終わりにしてやる。その血肉の一片までも、我が最大の一撃で消し去ってやる。
 身体をのけぞらせ、大口を開け、白熱の光を迸らせ。
 滅びの爆裂疾風弾を、フェイトに向かって叩き込むだろう。
 そしてこの一撃に対し、フェイトが取った対応は――反撃。
 まっすぐに向けられた銃口は、それも正面からの真っ向勝負の構えだ。
(もう、よけ続けるだけの余力がない……)
 ここに至るまでに、フェイトは大量の魔力を消費していた。
 常に最大戦速を維持し続けた飛行魔法、死に物狂いで振るい続けた魔力刃、そして先のファランクスシフト。
 加えて、プレシアによる制限もある。
 限界まで酷使し続けたリンカーコアには、もうほとんど魔力が残されていないのだ。
 このまま攻撃を回避したところで、遠からず自分は倒れるだろう。
 ならば一か八かの正面衝突で、てっとり早く決着をつける。
 顕現。
 オーバーフラッグの先端に、黄金の魔法陣が展開された。
「はぁぁぁぁ……っ……!」
 収束される魔導の力。発動されるは砲撃魔法、プラズマスマッシャー。
 己が四肢の末端に至るまで、身体中余すことなく、全身から魔力を絞り出す。
 もっとだ、もっと。鋼の砲塔に力を込めろ。
 この身が粉々に砕けようと、砂と消えようと構わない。あの大いなる龍を、この一撃で叩き落とせれば。
 終焉は訪れる。
 やがて、全身を襲う脱力感。五体全てから、生命力がごっそりと抜け落ちる感触。
 魔力を使い果たした。己が持てる力のほぼ全てを、この身から出し尽くしてしまった。
 もはやこの身に残された力は、砂粒ほどにも満たぬだろう。
 この一撃を放った頃には、飛行魔法さえも維持できなくなり、そのまま落下するだろう。
 されど、チャージは完了した。
 必殺のプラズマスマッシャーを形成するには、ぎりぎり十分な量の魔力が確保できた。
 だが。
「もっとだ、もっと……!」
 まだ足りない。
 ただのプラズマスマッシャーでは、殲滅の白光を迎え撃つことはかなわない。
 がしゃん、がしゃん、がしゃん、と。
 オーバーフラッグに装填されたカートリッジをフルロード。圧縮魔力を解放し、更なるエネルギーを注ぎ込む。
98Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 21:10:16 ID:bP20oYRc
 恐怖はある。
 この雷の槍をもってしても、青眼の白龍は仕留められないのではないか。
 あのおぞましき破滅の光をぶつけられ、髪の毛一本残らず消え去ってしまうのではないか。
 自分だけでは、勝てない。
 殺意の青眼をぎらぎらと輝かせ、今まさに白き灼熱を放たんとする、あの白き龍相手には。
 弱い自分だけの力では、奴を倒すことなどできない。
(だから、力を貸して……)
 故に、祈る。
 遥か彼方遠き世界で、自分を待ってくれている人々へと。
 闇の書事件で幾度となく激突し、互いに腕を磨き合った、桜色の髪の好敵手。
 PT事件を経て孤児となった自分へと、帰る場所を与えてくれた、黒衣に身を包みし義兄。
 そして、どんな時でも自分を支えてくれていた、優しく愛しい1人の少女。
 皆との日々を取り戻すために。
 全員で元の世界へと帰るために。
 明日をこの手につかみ取るために。
 最期の瞬間に向けてくれたあの笑顔を、永遠のものにするために。
 放つ閃光の槍が、三つ又の大矛へと変わる。

 力を貸してほしい。

 わたしに最後の力をかして。
 わたしに最後の勇気をかして。

 みんなをまもるためのちからを。
 みんなをころすためのゆうきを。

 ゆうきの、ちからを――



「――トライデントォッ!! スマッシャァァァァァァ――――――!!!」



 砲撃が、割れた。
 解放された魔力の奔流は、発射と同時に三つ又に分かれ、そのままブルーアイズへと襲いかかる。
 金色のトライデントの形を成した雷撃が、爆音と共に白熱と衝突。
 黒き少女と白き龍の中間距離で、黄金と白銀の光が真っ向から激突する。
 迸るエネルギー。瞬くスパーク。吹き荒れる衝撃波。
 空気が焦げ付く臭いを感じた。風景すら歪む力場を感じた。
 極大と極大。
 トライデントスマッシャーと滅びの爆裂疾風弾。
 2つのエネルギーが拮抗し、世界を激しい音と光で満たす。
 負けるものか。
 シグナムの、クロノの、なのはの想いを込めたこの一撃を、お前などに返されてたまるものか。
 このまま押し通す。
 私はこの意志を貫き通す。
 なのはのいてくれたあの優しい日々が、いかに尊いものであったか。
 証明する手だてを、他に知らないから。
 ならばこのたった一撃の砲火に、己が命の全てを賭ける。
 絶対に勝つんだ。
 勝って全てを取り戻すんだ。
「……なのはああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッッッ!!!」
99Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 21:12:35 ID:bP20oYRc
 
 ――この時、フェイト・テスタロッサには1つの誤算があった。
 普段通りの冷静沈着な彼女ならば、絶対に犯すことのないはずの判断ミスが。
 ここにいる十代達の世界とも違う、もう1つのデュエルモンスターズの世界。
 同じ砂の荒野の中で、同じデュエル・アカデミアを背後にして、されど決して同じではない世界で。
 成長した高町なのはとフェイト・T・ハラオウンは、目の前のものと同じ白き龍と、熾烈な激戦を繰り広げていた。
 自身の持てる全力を引きだす、レイジングハートのエクシードモード。
 あの白銀の龍鱗纏いし魔物とも、互角に渡り合えるだけの破壊力。
 だが裏を返せば、そうでなければならなかったのだ。
 フェイトの知るなのはよりも、更に10年以上の研鑽を積み、制限からも解き放たれなければ。
 それでようやく五分五分だ。そうでなければ対抗できなかったのだ。
 フェイトにとっては、彼女の知るなのはこそが最強だった。そう信じていた。
 だが、その認識は誤りだった。
 青眼の白龍は、かつてこの場に生きていた高町なのはよりも、遥かに強力な存在だったのである。
 滅びの爆裂疾風弾は、ディバインバスターの火力をも凌ぐ。
 砲撃・射撃のスペシャリストたる、なのはの砲撃をもってしても、その一撃には及ばないのだ。
 であれば、むしろオールラウンダーであるフェイトが、いくら新技を身につけたところで、到底かなうはずもない。
 爆裂。
 弾け飛ぶ金色の光の向こう、迫りくる銀色の光がある。
 フェイトが認識した瞬間には、既に光は視界の全てを包んでいた。
 平時ならば決して犯すことのない過ちを、何故彼女が犯したのか。
 それは妄執。
 高町なのはという存在に対する、狂的なまでの執着心。
 その盲信が、その狂信こそが、最後の最後の瞬間に、彼女の瞳を曇らせたのだ。
 分かっていたはずの実力差が、記憶の外へと追いやられ、勝てるはずもない勝負へと勇んで乗り出したのだ。
 もはや勇気などではない。明らかに無謀と呼ぶべき判断。
 持てる魔力を全て飛行魔法に注ぎ込み、全力で戦闘空域を離脱すべきだったのだ。
 もしも、彼女にまだ冷静な判断力があったならば。
 いいや、彼女がここまでなのはに固執していなかったならば。
 皮肉にも、高町なのはへの想いこそが。
 誰よりも彼女を想う心こそが。
 フェイトを敗北へと導いたのだ。



「駄目っ! 待って、止まって! 止まってよぉ!」
 灼熱の激流によって穿たれた、デパートの壁の風穴の傍。
 十代の傍らでは、つかさが必至に呼びかけていた。
 遥か上空で暴れ狂う、デュエルモンスターズ最上級モンスターへと。
 だが、こうなった以上はもう無理だ。
 止めることなどできはしない。
 デュエルモンスターズのルールにおいては、一度下した攻撃命令を、中断することなど許されていない。
 フェイトに一撃を叩き込むまで、ブルーアイズは存分に暴れまわるだろう。
 たとえ守るべき主の心が、殺人の事実によって引き裂けたとしても。
 そして、遂に決定的な瞬間が訪れた。
「あ……!」
「あ、あぁ……っ」
 フェイトの放った砲撃と、青眼の白龍の吐き出したブレス。
 空中で激突した2つの波動のうち、滅びの爆裂疾風弾が競り勝ったのだ。
 トライデントスマッシャーを引き裂き、幼女の細い身体を呑みこむ、絶大なまでのエネルギー。
 次いで発生する、爆発。まごうことなき完全なる直撃だ。
 炎と煙の中より落ちる、黒きバリアジャケットの身体。
 マントも衣服もずたぼろに引き裂け、髪をまとめるリボンは蒸発し、重力に従って落下していく。
100Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 21:14:31 ID:bP20oYRc
 死んだ。
 死んでしまった。
 攻撃力3000という莫大な破壊力を受け、生きていられるはずもない。
 飛行魔法も何も使わず、無抵抗なままに落ちているのが何よりの証拠だ。
 万が一生き残っていたとしても、このまま落下すれば確実に死ぬ。
 つかさの召喚したモンスターが、1人の少女を殺してしまったのだ。
 フェイトの落下が、恐ろしくゆっくりに感じられる。
 耳をつんざくブルーアイズの咆哮が、虚しく右から左へと流れる。
 そして――見た。
 黒光りする銃身を。
 眼前で動いたオーバーフラッグを。
 その殺意の銃口が、傍らで愕然とする少女へと向けられるのを。
「――危ないっ!」



 一体、今何が起こったのだろう。
 どうして自分は落ちているのだろう。
 どうしてこんなにも身体が痛いのだろう。
 砲撃を撃ち合っていたはずの自分が、何故このような状態になっているのだろう。
(ああ……)
 燃え散る漆黒のリボンを見た時、ようやくフェイトは思い出した。
 知覚の空白の一歩手前、暴力的なまでの白い光が、自分へと襲いかかってきたことを。
 負けたんだ。
 自分は負けてしまったのだ。
 純白の龍王との撃ち合いに、無様にも敗北してしまったのだ。
 情けない。最低だ。
 己が持てる力の全てを使い、なのはの想いまで借りておいて、それでも勝利が掴めなかった。
 誰よりも大事ななのはを貶めるような、最低の敗北を喫してしまったのだ。
《ウオオオォォォォォォォ―――――――――ンッ!》
 ああ、忌々しい。
 虚ろな視線を動かせば、あのドラゴンが吼えている。
 巨大な翼と逞しき両腕を広げ、勝利の雄たけびとやらを上げていく。
 役目を終えたとでも言わんばかりに、その身が光となって消えていく。
 その咆哮が雄々しくて。その輝きが神々しくて。
 忌々しくて、たまらない。
 ふと、デパートへと視線が向いた。
 そういえば、自分が本来殺すべき相手は、あの純白のドラゴンではない。
 確かここの3階に、あの少年少女の2人組がいたはずだ。
 殺さなければ。
 激痛に苛まれた身体に鞭を打ち、必死にオーバーフラッグを持ち上げる。
 砂粒ほどの魔力をひねり出し、一撃分の弾丸を形成する。
 ターゲット、ロックオン。狙うは紫の髪のセーラー服の少女。
 顔面直撃コースへとセット。このトリガーが引かれれば、まず間違いなく即死だろう。
 意識が急速に遠のいていく。限界が近いのかもしれない。
 だが、止まってたまるものか。自分は殺さなければならないのだ。
 大切な人を蘇らせるために。
 意識が途切れようと、この身が死を迎えようと、引き金だけは引いてみせる。
 ぐ、と。
 指先に力が込められた。
 魔力弾の発射される音がする。
 朦朧とする意識が消え行く中、最後にそれだけを聞き届けた。
 成功だ。すくなくとも、1人殺した。
 視界が暗闇へと染まる中、最後にそれだけを確信した。
 ばしゃん。
 水しぶきの音までは、もう聞こえてはいなかった。
101Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 21:16:18 ID:bP20oYRc


「ぐあ……!」
 唸ったのは十代の方だ。
 黄金の魔力弾をその身に食らい、苦痛の叫びを上げたのは、しかし十代の方だった。
 フェイトが最後の力を振り絞り、凶弾のトリガーを引いた瞬間、彼がその前に立ちはだかったのだ。
 未だ震えるつかさへと覆いかぶさるようにし、オシリスレッドの制服の背中で、魔力の弾丸を受け止める。
 幸いにも、貫通はしていなかった。
 練り上げられた魔力は明らかに少なく、十代の背中に打撲を負わせるにとどまった。
 苦痛に顔を歪めながらも、再びフェイトの方へと向きなおる。
 落下していたはずの彼女の姿は、もうビルに阻まれて見えなかった。
 青眼の白龍の直撃を受け、相当な距離を吹っ飛ばされたフェイトと、このデパートの間には、それなりの距離がある。
 加えてここは市街地だ。視界を遮るビルも多い。
 にもかかわらず、彼女はこの魔力弾を的中させてみせた。
 十代が庇っていなければ、まず間違いなくつかさに命中していた。
 恐るべき精神力。さすがはフェイト・T・ハラオウンといったところか。
「つかささん、大丈夫か?」
 痛む背中をさすりながら、腕の中のつかさへと問いかける。
 しかし、無言。
 言葉が返ってくることはない。
 ぶるぶると小刻みに震えながら、うわ言のような音を口から漏らすのみ。
 そのままどれだけの時が経った頃か。
「殺しちゃった……」
 蚊の鳴くような。
「私が、フェイトちゃんを殺しちゃったんだ……!」
 震える声が、鼓膜を打った。
「つかささん……」
 かけるべき言葉が見つからない。
 フェイトを殺したのは、あくまで青眼の白龍だ。
 あのままアスファルトに落下すれば、確かに彼女の命は奪われるだろう。
 だが、その原因はカードだけではない。あの白き破壊の龍を召喚したのは、あくまでつかさだったのだ。
 ブルーアイズに悪意はない。ただ忠実に、主の命令に従ったまでのこと。
 であればそれは同時に、つかさこそが殺人者であるということではないか。
 自分が助かろうとしたおかげで、1人の少女が死んでしまった。
 気弱な彼女の心では、その重みに耐えられるはずもない。
 目の前で涙を流す少女に、一体どう言葉をかけろというのか。
(……『死者蘇生』……)
 と、不意に、足元に置かれた魔法カードの存在に気づいた。
 何もフェイトを生き返らせようと考えたわけではない。むしろその焦点は、あの白銀の暴君龍だ。
 つかさが手にしていたはずの青眼の白龍のカードは、いつの間にか姿を消していた。
 元々十代が飛ばされていた世界でも、カードの力はデュエルディスクによって発動すべきもの。
 カード単体で発動したことによって、命令を実行したカードが消滅したのだろう。
(このカードって、こういう時のために使うものなのか……)
 そこへ、先ほど発見した「死者蘇生」である。
 恐らくこのカードの効果対象とは、こうして消滅したモンスターなのではないだろうか。
 であれば、今このカードを発動すれば、もう一度青眼の白龍を入手することができるのではないか。
 今十代が持っている武器は、木製バットと銃剣だけだ。これでは先のフェイトのような、魔導師相手には太刀打ちできない。
 ブルーアイズの消滅した今では、正直自分の身を守るだけでもきついだろう。
(だけど……)
 それでも、引っかかることがある。
(本当にいいのか? ブルーアイズを復活させて……)
 今目撃した通り、あのドラゴンの力は強すぎる。
 不用意に使ってしまおうものなら、また新たな死体を生み出してしまうのではないか。
 もしまた死者が出てしまえば、柊つかさの繊細な心は、今度こそ粉々に砕け散ってしまうのではないか。
 今の十代には、ただ十字架のカードイラストを、眺めていることしかできなかった。
102Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 21:19:14 ID:bP20oYRc
【1日目 昼】
【現在地 H-5 デパート3階】

【柊つかさ@なの☆すた】
【状態】健康、精神ダメージ(大)、錯乱、自責、号泣
【装備】シーナのバリアジャケット@SHINING WIND CROSS LYRICAL
【道具】支給品一式、電話帳@オリジナル、パン×3、プチトマトのパック×2、キャベツ
【思考】
 基本:殺し合いを避ける
 1.私がフェイトちゃんを殺しちゃった……!
 2.メールを返信する
 3.フェイトちゃんが帰ってくるまでデパートにいる(早く帰ってきて!)
 4.家族や友達に会いたい
【備考】
 ※十代と和解しました 。
 ※死者の名前は数名分しか覚えていません(なのはが呼ばれた事は覚えている)。ご褒美の話も忘れています。
 ※電話帳はあまり役に立たない物だと思っています。
 ※キングを警戒する事にしました。
 ※メールの差出人と内容を信用しています。
 ※十代から禁止エリアの位置を聞きました。
 ※青眼の白龍@リリカル遊戯王GX番外編 「最強! 華麗! 究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)」 を消費しました。
 ※フェイト(A's)は死んだと思っています。

【遊城十代@リリカル遊戯王GX】
【状態】健康、困惑
【装備】バヨネット@NANOSING
【道具】支給品一式、んまい棒×4@なの魂、ヴァイスのバイク@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    死者蘇生@リリカル遊戯王GX、木製バット、エアガン、パン×3、レタス、じゃがいも×3
【思考】
 基本:殺し合いには乗らない。
 1.つかささん……もう1人のフェイトさんも……
 2.ブルーアイズを蘇生させてもいいのだろうか?
 3.フェイト(StS)を待って事情を説明し、ちゃんと誤解したことを謝る
 4.クアットロさんって良い人だなー。
 5.余裕があればハネクリボーやネオス、E・HERO達を探す
【備考】
 ※参加者は別々の世界・時間から参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました。
 ※フェイト(StS)が自分とは別の世界・時間軸から呼ばれていてデュエルゾンビではないと確認しました。
  エリオ、万丈目についても断定はしないもののデュエルゾンビではない可能性があると思っています。
 ※この場にいる2人のなのは、フェイト、はやての片方が19歳(StS)の彼女達でもう片方は9歳(A's)の彼女達だと思っています。
 ※クアットロを完全に信用しています。
 ※PT事件の事を大まかに知りましたが、プレシアがフェイトを造った話は聞いていません。
 ※この殺し合いがデス・デュエルに似たものではないかと考えています。
 ※殺し合いの中で起こる戦いを通じ、首輪を介して何かを蒐集していると考えています。
 ※月村すずかの友人(=はやて(StS))からのメールの内容を把握しました。
 ※フェイト(A's)は死んだと思っています。
103Paradise Lost ◆9L.gxDzakI :2009/01/05(月) 21:21:31 ID:bP20oYRc
 ――結論から言おう。
 死んだと思われたフェイト・テスタロッサは、奇跡的に生還した。
 彼女の敗因を誤算とするのなら、つかさと十代の認識もまた誤解だったのだ。
 まず、滅びの爆裂疾風弾の命中。
 非殺傷設定などない、高位魔導師の砲撃にも匹敵するブレスを食らえば、まず間違いなく即死は免れないだろう。
 しかし、フェイトが土壇場で編み出したトライデントスマッシャー――これが生存への最初の鍵となった。
 彼女の決死の砲撃と正面衝突したことで、爆裂疾風弾の破壊力は減衰。
 ぎりぎりまで威力が弱められたことで、ブレスによる死亡は回避された。
 無駄かと思われた最後の抵抗も、ちゃんと意味を成していたということだ。
 続いて、落下の瞬間。
 砲撃の撃ち合いを行った段階で、フェイトはH-5の東端ぎりぎりにまで移動していた。
 そしてブルーアイズの攻撃を食らったことで、そのままエリアの枠を越え、H-6へと吹き飛ばされた。
 最後に放った射撃魔法により、十代は彼女を見失ってしまったのだが、この時彼は、そのまま道路に落ちたと思っていた。
 だが、その認識は誤っていたのだ。
 この時フェイトの真下にあったのは、硬いアスファルトではなく――川。
 幼い彼女の小柄な身体にとっては、それなりの深さであった川へと落ちたことで、衝撃が緩和されたのだった。
 これら2つの奇跡が重なり、彼女は一命を取り留めることができた。

 そして肝心のフェイトは今、川の流れに流されて、砂浜にその身を横たえている。

「……ん……」
 金色の睫毛が微かに震える。瞼がゆっくりと開かれていく。
 耳に響く穏やかな音は、海鳴でもよく耳にした波の音だ。
 身体が濡れている。現在も半分水に触れている。目の前には白い砂がある。
 ここがエリアの南西と南東にある、浜辺であるということを認識していた。
 そして同時に、自分がまだ生きていたということを認識し、僅かに驚愕を覚えた。
 未だに痛む身体へと、ぐっと力を入れて立ち上がる。
 これだけの怪我を負ったのに、魔力もほとんど全部使い切ったというのに、よくもまぁ生き延びられたことだ。
(なのはが守ってくれたのかな……)
 やっぱり、なのはは優しいな。
 のろまな身体をやっとのことで直立させると、そんなことを考えた。
 ぱんぱん、と両手で砂を払う。
 と、そこで、自分が身に纏っているものが、いつのまにか普段着であったことに気がついた。
 バリアジャケットではない。そもそも手にオーバーフラッグがない。
 きょろきょろと周囲を見回すと、少し離れた場所に流れ着いていた。
 ゆっくりと歩きながら、回収に向かう。まだまだ走れるようになるには時間がかかりそうだ。
 身体を引きずって目的地へとたどり着き、鋼の銃身を拾い上げる。
 そしてどうやら仕込み刀をなくしてしまったらしいことに気付き、僅かに落胆した。
(ここ、どこなんだろう)
 自分と得物の、一応の無事が確認されたことで、フェイトは改めて周囲を見回す。
 ここは一体どこなのか。果たして自分が、何故海で倒れていたのか。
 現状はまだまだ分からないこと尽くしだ。
 何か目印になるものを探し、視線を右へ左へと走らせる。
「あ……」
 そして、見た。
 広き浜辺のその奥に、鎮座していたその物体を。
 黄金と紫色に輝く、超弩級の巨大艦の姿を。
104名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/05(月) 22:12:44 ID:rtbS+n2e
支援
105名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/05(月) 22:13:19 ID:rtbS+n2e
sien
106代理投下/Paradise Lost ◇9L.gxDzakI:2009/01/05(月) 22:25:32 ID:2J6VEDQP
【1日目 昼】
【現在地 I-5 砂浜】

【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】疲労(大)、魔力消費(ほとんど空)、全身にダメージ(大)、左腕に軽い切傷(治療済み、包帯代わりにシーツが巻かれている)、強い歪んだ決意
【装備】オーバーフラッグ(仕込み刀なし・カートリッジ残量0)@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具】支給品一式、医療品(消毒液、包帯など)、パピヨンスーツ@なのは×錬金
【思考】
 基本:皆で一緒に帰る。
 1.あの戦艦(=聖王のゆりかご)は……?
 2.皆を殺して最後の一人になる。そして皆を生き返らせる。
【備考】
 ※もう一人のフェイトを、自分と同じアリシアのクローン体だと思っています。
 ※なのはとはやても一人はクローンなのではと思っています(激しい感情によって忘却中)。
 ※新庄、つかさは死んだと思っています。
 ※激しい感情から小さな矛盾は考えないようにしています。追及されるとどうなるか不明。
 ※なのはが一番強いと思っています。
 ※トライデントスマッシャーを修得しました。


【全体の備考】
 ※H-5上空で、トライデントスマッシャーと滅びの爆裂疾風弾による発光現象が起こりました。
  周囲1マス以内なら、目撃できるかもしれません。
 ※デパート3階に、パピヨンマスク@なのは×錬金が落ちています。
 ※H-6のどこかに、オーバーフラッグの仕込み刀@魔法妖怪リリカル殺生丸が落ちているかもしれません。


【死者蘇生@リリカル遊戯王GX】
遊戯王カードの一種。デュエルディスクにセットする事で発動できる。
このロワで消費してしまったモンスターカードを、復活させることができる。
ただし、召喚した本人でなければ、復活させることはできない。

/////

投下終了。こういう超人バトルを書きたかった!w
タイトルの元ネタは仮面ライダー……ではなく、「喰霊-零-」主題歌のParadise Lostより。
アニメ自体は全く知らず、曲を年末のアニソン三昧で聴いただけだったのですが、
このロワでのフェイトに歌詞が合ってるのではないかと思いまして。
107名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/05(月) 22:43:08 ID:rtbS+n2e
>>◆HlLdWe.oBM氏
投下乙でした。
好調だった考察と、過信からきたピンチ……。
仲間を救うために戦って散っていったザフィーラがかっこよかったです。
修正後も楽しみにしてます。

>>反目氏
投下乙でした。
ブルーアイズ強いwwwww
それに立ち向かうフェイトとのバトルも良かったです。
ただ、ちょっと気になったのが地の文で力の差を出し過ぎてたのが気になりました。
結構な強者であるフェイトが、完全自立の支給品に、
これほど圧倒されるというのはかなりのバランス崩壊を生むような。
108名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/06(火) 00:15:08 ID:NCt7yh8B
投下乙!
フェイト……おまえどんだけなのは好きなんだw
あと何気にいい感じな十代とつかさ。
戦闘で怖い人たちがやってきちゃうよー!逃げてー!

>>107
むしろフェイトが生きていることの方が不思議。
ブルーアイズの強さを元SSの方から考えてもブルーアイズの方が弱いくらいだと思う。
109名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/06(火) 02:28:23 ID:hp+s14Qz
投下乙です。

フェイト……なのは好きで暴走気味な感じだが、ブルーアイズ相手によく頑張った……マーダーじゃなければ素直に喜んだのにな……
つかさは殺しちゃったと思いこんで絶望状態だし、この戦闘見て誰か来る可能性あるし……受難は終わらない……。

2点ほど気になった点が、
1つは十代の背中の打撲が状態表にありませんでしたが……書く程のダメージではないということでしょうか?
2つめはちょっとクロスSS確認したんですが『死者蘇生』のカードが見あたらなかったんですよね……どの辺に登場していましたっけ?
110反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2009/01/06(火) 13:32:45 ID:pOBy8mor
>>109
十代の打撲の表記の件は、すっかり忘れていました。修正します。
で、死者蘇生の件。確かに調べなおしてみると、SS中で使われてない……orz
とりあえず、「リビングデッドの呼び声」が登場していたので、それで代用することにします。
その辺りの修正を、したらばのスレの方に書き込んできます
111名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/06(火) 16:28:45 ID:kH3QocKv
投下乙です。
ブルーアイズTUEEE!
なんだこの強さ、凄まじすぎるぜ
ああ、でも無事だったとはいえつかさと十代の方も精神的にヤバそうだな
112名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/06(火) 21:38:32 ID:eqwDinr4
投下乙です
よくフェイトはなのはの嫁とか言われてるけどマジでもう結婚しろよw
後、残りの二人の今後が不安でワクテカしますw
113 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 10:54:45 ID:8tmember
泉こなた、ルルーシュ・ランペルージ、早乙女レイ、スバル・ナカジマ投下します。

なお容量が約78KB、レス数は(計算通りなら)27ですので長時間になると思いますがよろしければ支援お願いします。
114王の財宝 〜天地鳴動の力〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 10:55:58 ID:8tmember



Chapter.01 天地鳴動の力

デュエルアカデミア売店に爆音が轟いた。

売店のシャッターが爆破された、その様子をデュエルアカデミアの生徒である早乙女レイは唖然と見ていた。
何故こんな事になっていたのか?順を追って振り返ってみよう。

そもそもレイは想い人である遊城十代を守る為に武器として使えるデュエルモンスターズのカード及びデュエルディスクを確保する為にデュエルアカデミアに来ていた。
だが、目的の物は見つからずあると思われる売店もシャッターが施錠されていた。その後、玄関に血痕を発見し負傷者がいると思われる保健室を見張っていた。
その際にスバルに発見され手持ちの銃は没収されてしまい、更に負傷者であるルルーシュ・ランペルージはレイに対して警戒をしていた。
だが、レイはルルーシュの様子を見て彼がスバル達を守る為ならば殺人を厭わない事に気が付いたのだ……ルルーシュは自身と近い思考をしていると。
故にルルーシュを信用させる為、ルルーシュという人間をもう少し知る為、売店内部を確かめる為にカードと売店の情報を持ち出したのだ。
そしてレイ達は売店へ向かったわけだが……

ルルーシュはシャッターが施錠されている事を確認すると……

「スバル、ちょっと手伝ってくれないか?」
「ルルーシュ、何をするつもり?」

と、スバルと共になにやら準備をし始めた。2人は火炎瓶をシャッターに取り付けシャッターから距離を取り……シャッターを爆破した。

「ちょ……どうして爆破したんですか!?」

レイとしては売店のシャッターを破る事自体は別に良い、だが幾らなんでも爆破は無いだろうと思っていた。
実際問題、デュエルアカデミアはレイの学校だ。出来うるならばあまり破壊はしたくは無いに決まっている。その為思わず口に出してしまったのだ。

「んー……でも、折角爆弾あったんだし、てっとり早く済んだんだから別にいいんじゃないのかな?」
「安心しろ、威力はちゃんと調整した」
「うん、あたしもずっと見ていたし」

だがこなた、ルルーシュ、スバルは別段気にしてはいなかった。

(あれ……何で私がツッコんでいるんだろう……?)

そんな3人の反応にレイは1人唖然としていた。

なお、ルルーシュがシャッターを爆破したのは別に爆破したかったからというわけではない。銃があったことからそれを使って鍵を破壊する事も出来るだろうということはわかっていた。
だが、ルルーシュは罠の可能性を想定したのだ。そう、内部に誰かが潜んでいる可能性や、内部に入った事で作動する仕掛け、もしくは正式な方法で開けなければ作動する罠等……
故に、爆破という手段を使い売店から距離を取る事でそれ等に備えたのである。
ちなみに売店内部の物を極力荒らさない為、使ったのは支給品の小タル爆弾ではなく、ルルーシュ自身が作り威力調整の利く火炎瓶である。
作業の方は片腕を失っていたという事もありスバルに手伝ってもらった。

さて、爆発後しばし中の様子を探った4人であったが罠らしき物はなかった。なお、火炎瓶の威力調節に問題は無かった為、中は殆ど荒れていない。
4人は恐る恐る売店に入る。勿論、罠への警戒は怠らない。
115王の財宝 〜天地鳴動の力〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 10:58:39 ID:8tmember

そして売店の内部を探るが日用品以外の物は何もない。レイ達が異世界にいた時点で食料問題があった事もあり、食料が無い事については不思議は無かったし、レイもその事は3人に説明をしていた。

「ねえレイ、本当にカードも売られていたの?」
「はい、確かに売られていたはずなんですが……」
「カードが売られていたのは間違いないね、だってこの棚カードが入りそうだし。」

そう、よく見ると売店にはカードが入っていたと思われる棚がある。つまり、本来であればここにカードが入っていたという事になる。

「プレシアが意図的に抜いたという事だろう。だが、これでデュエルモンスターズのカードが武器として使えるのは間違いないな」
「あ、そっか、もし殺し合いに乗っていない人が大量のカードを手に入れたら……」
「それをプレシアが望むはず無いだろう」

もし仮に売店内部のカードがそのままになっていたらどうなるだろうか?カードの使い方を知る十代達がデュエルアガデミアに来た時点ですぐに大量のカードを確保されてしまう。
勿論売店は施錠されているし、この場でもカードが使えるかどうかはわからないので、必ずしもそれが起こるとは限らない。
しかしレイの様にカードの使い方に気付いて、シャッターを破るという考えに至る可能性は十分にある。
その為必要以上の戦力を与えない様にプレシアがカードを回収しておくというのは十分にあり得るだろう。

「だが、鍵がかかっていた以上、全く無駄足とは限らないな。もう少し中を調べてみるか」

「ん?これは……?」

こなたが1枚の白いカードを見つけ、それを手に取る。

「ねえねえ、これの事?」

と、他の3人を呼びそのカードを見せる。

「『レッド・デーモンズ・ドラゴン』……確かにレイの言っていたカードに間違いないな」

その白いカードには赤き龍が描かれていた。

「ATK3000、DEF2000、ドラゴン族、シンクロ、チューナー……強いカードだとは思うがこれだけではよくわからないな」

ルルーシュ、スバルもレッド・デーモンズ・ドラゴンのカードを見る。
龍は雄々しく描かれ見る者を圧倒するオーラを放っている様であった。デュエルモンスターズを知らないルルーシュやスバルにもそれが強いということは直感的に理解出来る。
だが、デュエルモンスターズを知らない2人に詳しい事はわからない。

「あの、私にも見せてもらえます?」
「そうだな」

と、ルルーシュはそのカードをレイに渡す。

「攻撃力3000……こんな強いカードが……」
「それってそんなに強いの?」
「ええ、デュエルモンスターズの世界では最強の部類です」

レイの話は事実である。
デュエルモンスターズの黎明期より登場したカードの中で最強モンスターといえるのが青眼の白龍、あまりの強大さにたったの4枚しか製造されなかったそのカードの攻撃力は3000
勿論、後にそれに匹敵するもしくは凌駕するモンスターは登場していたが、その数は多いものではなく、青眼の白龍の攻撃力でもある3000が高いものだというのは揺るぎ様の無い真実であろう。
その青眼の白龍と同じ攻撃力を持つレッド・デーモンズ・ドラゴン……それがどれだけの強さなのかは言うまでもない。

「このカード、私が持っていても良いですか?」
「いいんじゃないのかな、レイの世界の物なんだしさ」
「そうだね」
「ああ、そのカードはレイが持ってろ」

レッド・デーモンズ・ドラゴンをレイが持つ事については他の3人も同意した。そして再び4人は売店の探索を始めた。
116王の財宝 〜天地鳴動の力〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 10:59:51 ID:8tmember

さて、4人には知る由もないがレッド・デーモンズ・ドラゴンは只のモンスターカードではない。
そもそもデュエルモンスターズのカードの中には古の神や精霊等が宿っているカードが幾つか存在している。
先程の青眼の白龍もまた三千年前の古代エジプトにおける白い肌と青い瞳の女性キサラが身に宿す精霊であったし、
デュエルアカデミアのクラス名にもなっているオベリスクの巨神兵、ラーの翼神竜、オシリスの天空竜も古代エジプトのファラオの墓の石版より再現された神のカードであった。
そう、レッド・デーモンズ・ドラゴンもまたその類のカードであるのだ。
五千年前、星の民は赤き竜の下、その僕たる5体の龍の力を借りて邪神をナスカの地に封印し冥界の扉を閉じたといわれている。
その5体の龍の内の1体こそがレッド・デーモンズ・ドラゴンなのだ。

そしてそのレッド・デーモンズ・ドラゴンは十代達がいた時代よりも数十年後の未来の世界のデュエリストジャック・アトラスが持つカードだ。
その世界においてデュエルは進歩しておりDホイールと呼ばれるバイクに乗ってデュエルを行うライディングデュエルが行われている。
ジャックは自らのDホイールであるホイール・オブ・フォーチュンを駆りデュエルキングとして君臨していた。そう……

『王者の鼓動、今ここに列を成す! 天地鳴動の力を見るがいい!』

その言葉と共にデュエルキングジャック・アトラスは自らを象徴する龍レッド・デーモンズ・ドラゴンを召喚し数多の敵を打ち破って来たのである。

さて、ジャック・アトラスという人物が参加者の中に存在しない。では、何故カードだけが存在していたのであろうか?
ここデュエルアカデミアのシャッターは施錠されていた。本来なら開ける為に鍵が必要なのは言うまでもない。
では、その鍵は誰に支給されていたのだろう?その人物はヴィヴィオだ、鍵はヴィヴィオに支給されていた。
つまり、売店の中にあったレッド・デーモンズ・ドラゴンは本来ならヴィヴィオに渡るべきカードであった可能性が高い。

何故、今よりも未来で活躍するはずのレッド・デーモンズ・ドラゴンがこの時代に存在するのか、
何故、ヴィヴィオにレッド・デーモンズ・ドラゴンが支給されようとしたのか、
何故、ジャック・アトラスに関係するレッド・デーモンズ・ドラゴンがこの場所にあるのか、

それは恐らく主催者以外には知り得ない話である。
117名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 11:00:34 ID:ZSlLcvfx
sien
118王の財宝 〜天地鳴動の力〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 11:05:23 ID:8tmember



Chapter.02 恋する乙女

各々が売店を調べる中、レイはレッド・デーモンズ・ドラゴンの事について考えていた。
攻撃力3000という最強クラスのカードが見つかった時、レイ自身は内心で喜びが隠せなかった。同時にそのカードを手に入れる事が出来た事にも安堵していた。
ルルーシュから警戒されている以上、下手な言動を見せれば大きな力となるカードを手に入れる事が出来ない可能性があったからだ。

だが、実の所あの時は困惑していたというのも事実であった。だが、下手に困惑の表情を見せればルルーシュから疑われる可能性がある為、何とかそれを見せない様にしたのだ。
何故動揺していたのか?それは、レッド・デーモンズ・ドラゴンには知らない言葉が幾つか書かれていたからなのだ。
勿論、デュエルモンスターズのカードの種類は今や数千種類以上と数多く存在しており、レイ自身も全て把握しているわけではない。
それでも基本的にテキストに出てくるデュエルモンスターズの用語の殆どは把握している。しかし、レッド・デーモンズ・ドラゴンのテキストにはこうあった。

『シンクロ・効果モンスター』
『チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上』

そう、レイは『シンクロ』と『チューナー』という単語について全く知らなかったのだ。
それもそのはず、前述の通りレッド・デーモンズ・ドラゴンは本来であれば十代達の時代より数十年後に存在するカードだ。
デュエルモンスターズは日々進歩している、根本的な部分は変わらないとしても数十年も経てば色々と変化する要素はある。
用語も変化しており、生け贄召喚をアドバンス召喚と呼んだり、生け贄をリリースと呼ぶ様になっていたりしている。もっとも、呼称が変わっただけで内容が変わっているわけではない。
更に新たなカテゴリーとしてチューナーやシンクロモンスターという物が登場しており、シンクロ召喚という新たな召喚も登場している。そして、レッド・デーモンズ・ドラゴンはそのシンクロモンスターである。

ここでシンクロ召喚についてのルールを簡単に説明しよう。
シンクロモンスターに指定された素材を墓地に送る事で召喚可能というもので、その時素材のレベルの合計とシンクロモンスターのレベルが一致しなければならないものだ。
ここで本来の持ち主であるジャックがビック・ピース・ゴーレムとダーク・リゾネイターを使ってレッド・デーモンズ・ドラゴンをシンクロ召喚した時を例に出そう。

レッド・デーモンズ・ドラゴンはレベル8で召喚にはチューナーとチューナー以外のモンスターが1体以上必要だ。
ダーク・リゾネイターはレベル3のチューナー、ビック・ピース・ゴーレムはレベル5のチューナー以外のモンスター、レベルの合計は8となりレッド・デーモンズ・ドラゴンのシンクロ召喚を行う事が出来る。
勿論、これは一例でレベル合計が8になるならばレベル1のチューナーにレベル3とレベル4のチューナー以外のモンスター2体でもレッド・デーモンズ・ドラゴンのシンクロ召喚を行う事は可能である。
つまり、従来の召喚以上にレベルの数値が鍵を握る召喚と言えるのだ。

さて、先程書いた通りレイの知らない用語があったもののレイは少し考え、

(ひょっとして……ルールでも変わったのかな……)

ルールが変わったのではという仮説に行き着く。同時にそこから思案し1つの仮説が浮かぶ

(もしかしてこのカード……私達の時代より未来のカードなんじゃ……)

それは、レッド・デーモンズ・ドラゴンがレイ達の未来から持ってこられたという仮説である。
確かに未来ならばルールも改定されこれまでにないカードやモンスターが出てきてもおかしくはないし、これまでにない召喚方法が出てきても全く不思議はない。
その仮説ならば、現在のレイがレッド・デーモンズ・ドラゴンに書かれている用語を知らなくても無理はない。
119名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 11:06:05 ID:ZSlLcvfx
支援
120王の財宝 〜天地鳴動の力〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 11:08:00 ID:8tmember

一見この仮説は現実離れしすぎている。だが、レイはその可能性を信じるだけの経験をしている。そう、レイがこの場において最初に出会った人物フェイトの存在がそれを裏付けているのだ。
元々、レイ達が元いた異世界に来たフェイトは約20歳だったはずだ。だが、この場に来てから出会ったフェイトは約10歳であった。
レイはこの場で出会った方のフェイトを過去の時代のフェイトだと判断していた。つまり、そのフェイトは過去の時代から連れて来られてきたのだ。
そう、それと逆の事が起こっているという事なのだ。つまり、レッド・デーモンズ・ドラゴンは未来の時代から持ってこられたという事である。

そう結論付けたレイは続いてこれからの事を考える。
周囲を簡単に見回した限り売店の中には他にカードやデュエルディスクは見当たらない。つまり、レイの求める物はなかったという事である。
とはいえ先程ルルーシュ達と話した通りその可能性は考えられた事だし、レイ自身も外れに終わる可能性は予想していたので問題は全くない。
もっとも、売店には確かにレッド・デーモンズ・ドラゴンという強力なカードがあったので全くの無駄足ではなかったが。

さて、考えるべきはこの後の事である。レイはルルーシュの動向をずっと気にしていたが、レイの目から見てもルルーシュは相当に頭の切れる人物だというのは見て取れたし、
何より売店のシャッターを何の迷いもなく爆破するという行動を見ても相当な行動力とある種危険な思考を持っている事はわかった。
どういう人物かの見極めはもう少し必要だろうがどちらに転んだとしても今後の鍵を握っているという事に変わりはない。
そう、利用出来ればこの上ない味方ではあるが、敵に回せば何処までも厄介な相手といえるだろう。

先程も触れた通り、ルルーシュという人物がどういう人物かまでは未だわからない事が多いが、わかっている事が2点ある。
1つはルルーシュは十代や万丈目達と同じ年ぐらいのはずだが、その割には明らかに彼等よりも多くの苦難を切り抜けているらしいのが見て取れた。
レイ個人は詳しくは知らないものの十代達もセブンスターズや光の結社との戦いといった多くの苦難を切り抜けていたらしい事は聞いている。だが、十代達の場合は基本的にその素振りを見せた事はない。
しかし、ルルーシュの場合は少し見ただけでもわかるのだ、明らかに相当な修羅場を潜って……いや、常にその修羅場に身を置いている可能性もあると……。
だが、それにしてはルルーシュの態度にはある違和感を覚える。
まず、自分を警戒する事自体は全く問題はない、この場に置いて他の参加者を警戒する事はむしろ自然だからだ。
青い髪の少女をある程度信頼しているのも不思議は無いだろう、その少女は一般人だろうし、自分とスバルが話している間に2人で話をしていた可能性は高いのだから信頼していても不思議はない。
だが、スバルに対する態度はどうだろうか?まず、ルルーシュのいた世界ではルルーシュがスバルと知り合いであったらしいのはわかる。
もっとも、この場にいるスバルはそのスバルとは別人らしいがルルーシュにしてみればそれは全く問題ではないだろう。
そもそもルルーシュはいきなりスバルを抱きしめていたのだ、きっとルルーシュの中ではこのスバルも同じスバルと見ているのだろう。
121名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 11:09:07 ID:ZSlLcvfx
作業しながらなんで片手間になってしまうが支援。
122王の財宝 〜天地鳴動の力〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 11:10:29 ID:8tmember

(間違いない……ルルーシュって人……スバルさんの事が……)

それこそがもう1つのわかった点である。それはルルーシュはスバルに強い恋愛感情を持っている事だ。
もし、ルルーシュとスバルが単純な知り合いであるならばルルーシュはスバルの力を有効利用するはずである。スバルの力や性格を考えるならそれ程彼女を気遣う必要も無いだろう。
しかし、ルルーシュは明らかにスバルを気遣っていた。それはつまり、ルルーシュにとってスバルは単純な知り合いではなく、何よりも大切な存在なのだろう。
それが演技という可能性は?それは絶対に無いとレイは確信していた。理由?それは恋する乙女の勘、それで十分である。
そう、ルルーシュのスバルに対する態度はレイの十代に対する態度と似ているのだ。
十代を守る為ならば人殺しも厭わないレイ、スバルを守る為ならば人殺しも厭わないルルーシュ、
それが恋する乙女であるレイにはよく理解出来たのだ。

単純な冷徹な性格ならば利用するには難しい存在だった。だが、ルルーシュがスバルの為に戦うのであれば、そこを突けばきっと利用出来るだろう。
しかし、それは容易な事ではない。ルルーシュは自分に対する警戒を全く解いていない。敵ではないと思わせる事は出来ただろうが所詮はその程度。
恐らくこの後、詳しく話を聞かれるだろう。ここに来るまでに誰と出会い何をしていたかを……そこが勝負所になるはずだ。
そう、自分の知り合いや、デュエルゾンビの話、10歳ぐらいのフェイトに出会った話……その情報をどう話すか……
そして、何故自分がデイパックを2つ持っているのか?そう、フェイトからデイパックを奪ってしまった事だ。
それをそのまま語ればルルーシュだけではなくスバルからも殺し合いに乗っていると判断される可能性は非常に高い、そうなれば身動きが取れなくなる。
その点は上手く誤魔化さなければならない……ルルーシュに対してそれが出来るかどうかは難しいだろう。
だが、なんとしてもやり遂げなければならない、十代を守る為にも……。

(十代様……待ってて……)

そして再びレッド・デーモンズ・ドラゴンのカードを見る。レイとしては非常に強力な武器が手に入ったことになるがここで幾つか問題がある。

1つはレッド・デーモンズ・ドラゴンがあまりにも強力すぎる事だろう。

レイはその時重傷を負っていた為その場には居合わせてなかったが青眼の白龍となのは達は1度戦った事がある。
青眼の白龍の力は凄まじくスバルでも全く歯が立たず、なのはやフェイトがエクシードモードやソニックフォーム使う事でようやく戦える程の強さなのだ。
それと同じだけの攻撃力……そう、なのは達が全力を出さなければならない程の力をレッド・デーモンズ・ドラゴンは持っているのだ。
先程も述べた通り、それがどれ位の強さなのかはレイ自身は見ていないので良くは知らない。
だが、レイはフェイトに風化戦士を召喚した事があったのでどのぐらいの強さかはある程度予想出来る。
あの時、フェイトはレイの支給品だったオーバーフラッグを使う事で攻撃を何とか防ぐ事が出来たが、攻撃によりアパートの壁には穴が空いた。無論、オーバーフラッグが無ければフェイトが死んでいた可能性は高い。
さて、風化戦士の攻撃力は2000である。当然、レッド・デーモンズ・ドラゴンや青眼の白龍の攻撃力である3000には遠く及ばない。
そう、レッド・デーモンズ・ドラゴンを召喚した場合周囲への被害がどれぐらいになるのか全く予想出来ないのだ。
123名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 11:13:03 ID:yBBrhD5q
 
124王の財宝 〜天地鳴動の力〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 11:13:11 ID:8tmember

レイの目的はあくまでも十代を守る為、殺し合いに乗った参加者だけを殺す事である。殺し合いを止めるつもりのスバルや、一般人のこなたまで殺すつもりは全くない。
だが、下手にレッド・デーモンズ・ドラゴンを使ってしまえばその巻き添えでスバル達を死なせてしまう可能性は大いにあり得るのだ。

しかし、なのはが死ぬ程の殺し合いだ。リスクはあってもなのは以上の参加者と戦うのにレッド・デーモンズ・ドラゴンは非常に大きな力となる事に変わりはない。
だが、ここで2つめの問題が出てくる。これは恐らくデュエルモンスターズをよく知る物だからこそ感じる問題である。

(問題は召喚出来るかどうかだけど……)

そう、デュエルモンスターズの召喚には幾つかルールが存在する。例えば、レベル5やレベル6のモンスターを召喚する為には生け贄が1体必要で、レベル7以上のモンスターを召喚する為には生け贄は2体必要だ。
これを無視して召喚する事が出来るのかがレイにはわからなかったのだ。更に、

(テキストに書かれている通りだったらチューナーというのが必要だけど……そもそもチューナーって何?)

レイはシンクロ召喚に関するルールを全く知らない。チューナーという言葉すら知らないし、シンクロ召喚にはレベルが関係している事すら知らないのだ。
厳密なルールに従うならチューナーが無ければ召喚は不可能だし、仮にあってもチューナーと他の素材モンスターのレベル合計が丁度8にならなければ召喚は不可能となる。

仮に運良くチューナーを手に入れた所でレベルの合計が8にならなければ無駄撃ちに終わる可能性がある。
とはいえ、シンクロ召喚を知らないレイでもチューナーと他にモンスターが必要とわかっているだけでも簡単に召喚出来ない事がわかる為、現状はルール的に使えないと判断出来る事に変わりは無い。

だが、本当に使えないだろうか?この場に置いても本当にそのルールに則らなければならないのだろうか?

レイが使った風化戦士のレベルは4……生け贄を必要としないモンスターだったのでルール通りで何の問題も無い。

さて、今より数時間後ある場所で青眼の白龍が召喚された。青眼の白龍のレベルは8、本来なら2体の生け贄が必要である。しかし、その場では生け贄を使わず、召喚を可能とする特殊なカードを使うことなく召喚を行う事が出来た。
となれば、この場に置いてはその辺のルールがある程度改変されている可能性はあるかもしれない。だが、カード自体にある召喚条件が改変されているかまではわからない。
この場でレッド・デーモンズ・ドラゴンが召喚出来るかどうかは誰にもわからないのだ。

もちろん、これがデュエルモンスターズを知らない参加者ならもしかしたらと考え使う可能性はある。だがレイはデュエリスト、そのルールを破って使うという発想には至らない。
故にレイは現状レッド・デーモンズ・ドラゴンは使えない可能性が高いと判断したのだ。少なくともチューナーともう1体のカードが手に入るまでは……。

(銃は取られちゃったし……他に使える道具があれば良かったのに……)

レイが持っているのは共通の道具を除くとフェイトに支給されていた光の護封剣とフリーズベントといった2枚のカード、自身に支給されている最後の支給品だけである。
光の護封剣とフリーズベントは使えるがこれだけでは心許ないのも確かだ。そしてレイは最後の支給品をこの場では全く使えない道具だと判断していた。

なお、スバルが一度レイの持ち物を検査しているものの、レイ自身が銃とカード以外に使える道具は無かったと説明していたし、スバルも簡単にしかやっていなかった為レイを信じ詳しくは調べていなかった。

そう、レイもスバルも気付いていないのだ。その最後の支給品は現状のこの場で非常に助けとなる事に……。
125名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 11:13:50 ID:yBBrhD5q
 
126名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 11:18:22 ID:yBBrhD5q
 
127王の財宝 〜カテゴリーK〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 11:19:07 ID:8tmember



Chapter.03 カテゴリーK

ルルーシュはカードを探す傍ら他に使えそうな物を探していた。しかしめぼしい物は何も見つかっていない。だが、その事についてはさして気にしていなかった。
何故ならデュエルアカデミアの売店はカードが売られているという点を除けば学校の売店と大差はない。カードや食料が無ければそこで手に入る物などたかが知れているのは明白だ。
更に、ルルーシュは既に病院で大量の物資を確保している。さしあたりここで物資を新たに確保する必要性は少ない。

(あまり長居をする必要は無さそうだな)

と、早々に売店内の探索を切り上げようと考えるルルーシュだった。と、横にいるこなたが自分のデイパックを探っているのを見る。

「何をしているんだ?」
「いや、確かレイが持っているカードあたしも持っていた様な気がしたんだよね……どこだったかな……」
「ちゃんと確認ぐらいしろよ」
「いや、確認はしたんだけどさ、その途中でいきなり赤いコートの人に襲われてさ」
「赤いコートの男?」

ルルーシュはこなたを襲ったという赤いコートの男の事が気になった。

「うん、『ヒューマン』とか『闘争だ!』とか言った危ない人」
「そいつは間違いなく殺し合いに乗っているな……待て、そいつは人間じゃないのか?」
「多分ね、頭にナイフが刺さってもすぐに治ったし」
(C.C.の様な奴がいるということか……)

ルルーシュは赤いコートの男に対して警戒をする事にした。

「でさ、そこにスバルが助けに来てくれたんだ。スバルがいなかったらきっとあの場で殺されていたと思うよ」
「そうか、スバルが……」

ルルーシュはその答えを聞いて納得した。スバルの性格上、襲われている人がいれば助けに行くのは当然だからだ。
同時に、スバルの性格上まず赤いコートを殺したというのもまず無いとだろうというのも推測出来た。
何はともあれ2人、特にスバルが無事であった事にルルーシュは安堵した。

「それで、そいつの名前は?」
「ごめん聞いてないや」

聞いていない事は痛かったが、ルルーシュも病院で遭遇した金髪の男の名前を知らなかった事もあり、そこについては深く気にしない事にした。
何はともあれ後でスバル達と情報交換すればいいだろうとルルーシュは思った。

「後でもう少し詳しい話を聞かせてくれ」
「うん……ん?」

と、こなたが1枚のカードを出した。だが、それはデュエルモンスターズのカードでもレイの持っていたフリーズベントの類とも違う種類のカードだった。ルルーシュもそのカードを見る。

「レイの持っていたカードとは違う様だな」
「そうだね」

カードにはクラブのマークが入った蜘蛛が描かれており、角にはクラブのマークと『K』が描かれ横には『EVOLUTION』と書かれていた。
128名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 11:19:51 ID:ZSlLcvfx
支援。
129名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 11:21:56 ID:yBBrhD5q
 
130王の財宝 〜カテゴリーK〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 11:27:06 ID:8tmember

「私も知らないカードゲームがここにもあったとは……」
「待てこなた、お前は今これを初めて見たのか?」
「うん」
「いや、確かお前が赤いコートの男に襲われたのはここに来てすぐだよな、今までずっと確認していなかったのか?俺の手当てする時とか他にも確かめる機会はあっただろう」
「その時はルルーシュの手当てに使える道具を探すのに夢中だったからそこまで気が付かなかった」
「言っている事はわかるがもう少しちゃんと確認しろよ……」

ルルーシュは今頃支給品を再確認するこなたに若干呆れ気味だった。しかし、こなたが戦争や戦いとは無縁の一般人だという事を考えるとそれも仕方がないとも思っていた。
ルルーシュの手当をする時にしても、スバルはともかくこなたが冷静に支給品を確認して対処するのは難しいのは明白だ。普通の怪我ならともかく右腕喪失する程の重傷、パニックに陥ったっておかしくはない。。
そう考えたルルーシュの脳裏にはこなた同様一般人なのにこの殺し合いに巻き込まれている友人だった人物が浮かんだのだ。

(シャーリー……)

ルルーシュはシャーリーの身を案じた。シャーリーの視点から考えれば知り合いはカレン、スバル、ルルーシュしかいない。
いや、自分にいたっては単純に知っているだけだろう。何故なら自分の記憶はルルーシュ自身が消したのだから。
そしてカレンが死んだとなると仲間はスバルだけだが、そのスバルは今現在ルルーシュの近くにいる。そう、シャーリーは孤立無援という事になるのだ。
その状況で普通の学生でしかないシャーリーに生き残る為に冷静な行動を取れというのは無茶というものだろう。
放送で呼ばれなかった事から今現在は無事だろうが、どうなっているかはわからない。今現在パニックに陥っている可能性だってある。

(考えたくはないが、シャーリーが誰かを殺したという可能性もあり得なくはないな……だが、そうなると……)

シャーリーがパニックに陥り他の参加者を殺したという可能性は十分にある。
かつてシャーリーは自身の父の敵であるゼロを殺そうとした事がある。だが、その時にシャーリーはゼロがルルーシュである事を知ったのだ。
そしてシャーリーは引き金を引いた……だが、その相手はルルーシュではない。実はもう1人いたのだ、その時にゼロ=ルルーシュである事を知った人物が、シャーリーはその人物を撃ったのだ。
父の死、ゼロ=ルルーシュを知った事、自分自身が人を殺した(シャーリーもルルーシュも知らないがその人物は生存していたが)という現実等がシャーリーの精神を追いつめていった。
その彼女に対しルルーシュが取った行動こそがルルーシュの記憶を全て消した事だったのだ。
この場に置いても同じ事が起こる可能性は十分にある。しかし、

(シャーリーにはもうギアスは使えない……いや)

ここで、ルルーシュは別の可能性を考える。それはシャーリーが別の並行世界から連れて来られているというものだ。確かにそれならばルルーシュの知るシャーリーと状況は変わる可能性はある。だが、

(そこまで都合良くはいかないか……)

その可能性は頭に置くものの根本的に変わらない以上、ルルーシュにとって都合の良い状況にはならないと考え、ギアスが使える可能性がある程度に留める事にした。

(現状では無事を願う事しかできないか……考えねばならない問題は他にもあるのだからな……)

そう、金髪の男への対処である。

(奴はディエチを殺した後、俺を追う可能性は高いだろうな……いや、それで無くてもここを襲撃する可能性は十分にあるだろう)

ルルーシュは金髪の男がデュエルアカデミアを襲撃する可能性を考えていた。

(恐らく、スバルでも勝てないだろう……)

金髪の男の脅威はルルーシュ自身が実感している、爆弾も通じず、ギアスも通じず、右腕を切り落としたその人物は参加者の中でもトップクラスの戦闘力を持っているのだろう。
その男を相手にスバルが向かっていっても結果は見えている、返り討ちに遭うだけだ。無論、そんな無謀な事をさせるつもりなどない。
だが、この4人の中で1番戦闘力が高いのがスバルであるのも事実だ。つまり、今その男に襲われればなすすべ無く全滅という可能性が非情に高いという事だ。
もっとも、ルルーシュの脳内では幾つか金髪の男に対する対策は浮かんではいる。だが……
131名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 11:29:06 ID:yBBrhD5q
 
132王の財宝 〜カテゴリーK〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 11:40:26 ID:8tmember

(間違いなく俺が死ぬ事になるだろうな……)

そう、現在手持ちの道具……カード、爆弾等を駆使し、デュエルアカデミアの地形を利用するならば金髪の男を仕留められる可能性があった。
但し、金髪の男に直接のとどめを刺す人物はほぼ確実に死ぬ事となる……そして、その人物は確実にルルーシュだろう。
ギアスをかけたレイかこなたを仕掛けさせるという手も無くは無い(レイはともかくこなたにその役を負わせたくはないが、)が、金髪の男の動きを読み切れない以上2人よりはルルーシュ自身が仕掛けた方が確実なのだ。
勿論、ルルーシュ自身で決着を付けたいという想いもあったので、それ自体は別に構わない。だが……

(その後はどうする?)

問題はその後なのだ、こなたの話では赤いコートの男といった警戒すべき人間が他にもいるのだ。支給品を使い切った状況でそういう危険人物に襲われてしまったらどうなる?生き残れない可能性は高いだろう。

(全く、難しいものだな……)
「ルルーシュ、聞いてる?」

と、思案を巡らせるルルーシュにこなたが声をかけた。

「ああ、どうした?」
「いや、カード見つかったんだけど……それから……」
「ん?」
「ルルーシュの上に何か飛んでいるんだけど」

と、上を見上げると銀色のカブトムシが飛び回っていた。

「何だ……?」

ルルーシュはそのカブトムシを手に取る。それが何なのかはルルーシュは知らない。だが、カブトムシの尻には説明書の様な紙が糸で繋がれていた。それを手に取り読もうとする。

「これは……!」

ルルーシュが驚いたのは説明書の中身ではない、その上には血で文字が書かれていたのだ。

『――負けないで』

それはルルーシュに対してのメッセージであった。そのメッセージを誰が書いたかは書かれていない。しかし、ルルーシュには誰が送ったメッセージかすぐにわかった。

「ディエチ……!」

ルルーシュがこの場において最初に出会い手を組んだ参加者で、病院にてルルーシュを逃がす為金髪の男に立ち塞がり、そして殺されたであろうディエチ……彼女からのものだとすぐにわかったのだ。
ルルーシュはあの時の事を思い出す。確かディエチは金髪の男からデイパックを奪いそこからディエチ自身が使い慣れているであろう武器を出していた。恐らく銀色のカブトムシもそのデイパックに入っていたのだろう。
ディエチは金髪の男によって致命傷を負わされた。だが、まだ息のあったディエチは銀色のカブトムシハイパーゼクターを使ってルルーシュにメッセージを残したのだろう。
そう、全ての策を破られ右腕を失い絶望しているであろうルルーシュに対しての……

「馬鹿な奴だ……最後の最後まで……!」

思わずそう口にしたルルーシュだったがディエチの行動を非難しているわけではない。

「家族にメッセージを送る事だってできたはずだろうが……なのに俺なんかの為に……!」

ディエチは姉達クアットロやチンクを救う為に戦っていた。そう、メッセージを送る相手ならばクアットロやチンクだっていたはずなのだ。彼女達に金髪の男の情報を伝える等、他にも出来た事はあるはずなのだ。
だが、ディエチはほんの数時間前に出会ったばかりのルルーシュを元気づける為にハイパーゼクターを飛ばした……そう、ルルーシュの為に。
ルルーシュはディエチの言葉をもう一度思い出す。
133名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 11:43:43 ID:yBBrhD5q
 
134王の財宝 〜カテゴリーK〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 11:49:42 ID:8tmember

『ルルーシュは凄いよ。アンタの作戦は間違ってなかった。単にこいつが強すぎただけ……仕方がなかったんだ。
 あたしはそんなに頭はよくない。ただ、引き金を引くことしかできない。
 アンタの頭とあたしの腕……天秤にかけてみて、あたしはルルーシュに賭けてみることにした』
『ルルーシュだって好きなんでしょ、タイプゼロのこと』
『だからルルーシュは行って。タイプゼロを――スバル・ナカジマを守ってやって。
 ついでに、チンク姉やクアットロを守ってくれれば……あたしの家族を守ってくれれば、あたしはそれでいいから』

ディエチはクアットロとチンクをルルーシュに託したのだ……そしてルルーシュは思い直す。

(どうやら俺は間違いを犯す所だったな……切り捨てる発想だけでは勝てないというのにな……全く、戦い続けると誓ったばかりのはずなのにな……)

ルルーシュは知らず知らずの内に金髪の男に恐怖し、それが自身を犠牲にするという発想に行き着いたと考えた。
勿論、いざという時はそういう手段を取らざるを得ない時が来るだろう。だが、それはあくまでも最後の手段だ。

(そうだよなディエチ……ならば俺は……)

そう、ここで安易にルルーシュ自身が死ぬということはディエチに対する裏切りを意味するのだ。それは決して許される事ではない。
ルルーシュはディエチの為にもクアットロやチンクとも合流し彼女達も守らなければならない、勿論スバルを守った上でだ。それこそがディエチの願いなのだから……。

「こなた、そのカードか?」

ルルーシュはこなたの持つデュエルモンスターズのカードバスター・ブレイダーを確認する。そして、

「ひとまずそれはお前が持っていてくれ」
「え?いいの?」
「ああ、レイの話が事実なら護身用に使えるだろうからな。何、必要な時が来たらその時に貸してくれれば良い。それから、こっちのカードは俺に預けてくれないか?」
「うん、あたしもそれどう使うかちょっとわかんないし」

ルルーシュはこなたから蜘蛛のカードを受け取り、バスター・ブレイダーの方はそのままこなたに持たせる事にした。と、こなたがルルーシュに聞いてくる。

「そういえばさ、ここってデュエルアカデミアっていうらしいんだけどさ、ここって最初何の学校だと思った?」
「ん?デュエルアカデミアか……名前通りなら決闘の学園という事になるが……まさかカードの使い手の養成する学校だとは思わなかったが……」
「やっぱりそう思うよね。あ、別に気にしないで良いよ、ちょっと聞いてみただけだからさ」

こなたの態度に疑問を感じたもののそれについては気にしない事にして、ルルーシュは改めて今後の事を考える。

(問題は金髪の男だが……)

真っ先に考えるのは金髪の男への対策である。ここでルルーシュはハイパーゼクターの説明書を読む。
ハイパーゼクターは時間や空間を飛び越える能力を持っているというのがわかるが、真の力を発揮する為にはライダーベルトが必要と書かれている。
ライダーベルトを使って変身した仮面ライダーがハイパーゼクターを使う事でハイパーフォームに変身するという風に書かれていた。

(仮面ライダー……まさかそんなのが実在……いや、今更言う様な話でもないか)

ルルーシュにとって今更仮面ライダーの存在は今更疑問にする事ではない。とはいえ、ライダーベルトが無い現状では使い道は無い。

(ベルトを持つ参加者を味方に付けるか、俺自身がベルトを手に入れるか、まあそれについては今考える事もないだろう)
135名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 11:50:34 ID:h6Ne4pEB
こっちのルルーシュは熱血混じってるな
136王の財宝 〜カテゴリーK〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 11:56:22 ID:8tmember

続いて考えるのは自身の能力とも言うべきギアスである。金髪の男にはギアスが全く通用しなかった。

(まさかギアスが通じない奴がC.C.やスバルの他にもいるとはな。恐らく他にも……こなたが言った赤いコートの男にも通じないだろうな)

金髪の男にギアスが通用しないという現実は、ルルーシュに他にもギアスの通じない相手がいる事を知らせる事となった。
同時にこなた達が遭遇した赤いコートの男にはギアスが通じない可能性があると判断した。結論付けるにはまだ早いが、ルルーシュにはむやみにギアスを使えない理由があった。

(問題はギアスに対する制限だ……)

ルルーシュは金髪の男にギアスをかけた時、全身に苦痛や疲労が襲って来たのを思い出した。ルルーシュがこの場に来てからギアスを使用したのはこの時が初めてでそれを知った時はルルーシュ自身も大きく驚いた。
それが今までわからなかったのはこの時までにルルーシュが遭遇した参加者はギアスの通じないディエチだけだった以上それは仕方のない事だ。
とはいえ、何かしらの制限がある事自体は予想出来ていた話だ。それ自体は大した問題ではない。問題は『不発に終わったにもかかわらず』疲労に襲われたという点だろう。

(成功失敗に関わらずあの疲労となると厄介だな……)

仮に何者かの襲撃を受けたとする。ここでルルーシュが『動くな!』とギアスをかけたとしよう。ここでギアスが成功したのであれば何ら問題はない。
だが、不発に終わったらどうなるだろうか?襲撃者はそのままルルーシュ達を襲撃するが、こちらにしてみればルルーシュは制限による疲労で足手まといとなる。
そうなればスバル達が危険に晒される事となる。それは避けなければならない。

(それに……疲労の度合いも気になる所だな……)

命令に対しての疲労具合も気になる所だ。少し考えればわかる事だがどの命令であっても同じだけ疲労するという事はまずあり得ないだろう。
『死ね!』と『踊れ!』という2つの命令で、どちらも同じ疲労で済むのであればルルーシュは遠慮無くギアスを使うが、それでは制限としては弱過ぎるはずだ。

(命令の度合いで疲労量は変化すると考えた方が良いだろうな……恐らく『死ね!』と命じた場合は俺も死ぬだろうな……)

ルルーシュは命令の強さで疲労が変化すると推測しそこから考え『死ね!』という様な命令はまず不可能だと考えた。
単純に無効であるだけならば良いが、発動した場合は仮説から考えルルーシュ本人も致命的なダメージを負うと考えた。もし命令が無効ならば完全な無駄撃ちになってしまう。

(それにしても厄介な制限だな……あの時の命令は大した命令ではなかったはずなのにな……)

ルルーシュが金髪の男にかけようとしたギアスは『お前は一体何なんだ』、つまり『お前の正体を言え』である。ギアス自体は不発とはいえ金髪の男は平然と自分が人間ではないと言い切った。
故にルルーシュの命令はさして重要な命令ではない事がわかる。にも関わらずルルーシュの全身に疲労が襲いかかった。つまりそれだけ制限が強いという事を意味している。

(何にせよ、何処かで試しがけしておきたい所ではあるな……)

今後の為にも試しがけを行い制限を再確認する事を考える。試しがけの候補にはこなたとレイがいる。この2人は普通の人間だろうからまず間違いなくギアスは成功するだろう。
こなたにはルルーシュの事情を話した際にギアスの事も話してあるので頼めば協力してくれる可能性は高い。だが、自分を助け話を聞いてくれたこなたにギアスをかけるのは少々気が引ける。
一方のレイに対してはギアスをかけても構わない。だが、戦闘になった時にレイを利用する必要が出る時にギアスが使えないというのは痛い。

(焦る必要は無い……)

ひとまずギアスの事は保留にし、今一度金髪の男にどう対処するかを考える。

(仲間との合流を優先した方が良さそうだな)

ルルーシュの出した結論は仲間との合流である。現状のルルーシュ達で金髪の男を倒すのは難しい。だが、他に仲間がいたならばどうだろうか?倒せる可能性は十分に高まる。仲間の当ても何人かいる。
137名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 11:58:08 ID:yBBrhD5q
 
138王の財宝 〜カテゴリーK〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 12:04:45 ID:8tmember

ルルーシュにギアスを与えたC.C.……共犯者である彼女はルルーシュにとってある意味最も信頼の置ける仲間とも言えよう。
スバルの上官である高町なのは……既に放送で名前が呼ばれたらしいが、ルルーシュは名簿に2つ名前があったのを覚えていた。
その時は特に気を留めていなかったが、並行世界からもう1人参加させられたのであれば何の不思議もない。恐らくもう1人のなのはは未だ健在であり、きっと大きな力となるはずだ。
スバルの姉であるギンガ・ナカジマ……スバルの話からはスバルのつらい時にはいつでも力になってくれたと聞く、実際に会った事はないがスバルの力になるのはほぼ間違いないだろう。
そしてディエチがルルーシュに託した姉達クアットロとチンク……ディエチ同様戦闘機人である2人が一般人よりも強い事はわかっている。ディエチに託された事もあるので彼女達とも合流したい所だ。

この殺し合いはたった1人で生き残れる程甘いものではない。恐らく、彼女達もグループを組んで行動している可能性は高い。
さらに、シャーリーやこなたの友人達も彼女達に保護されている可能性だってある。ひとまずは先ほど上げた人物との合流を優先した方が良いだろう。

(あの男は強い。だが、倒せない相手ではない……)

ルルーシュは金髪の男の姿を思い出す。奴は右腕を潰されていた。それは既に何者かと交戦し右腕を負傷していたという事を意味している。つまり金髪の男も無敵では無いという事なのだ。
そもそもルルーシュは元の世界にいた頃も何度と無く圧倒的な力を持つ敵……スザクの駆るKMFランスロット等に煮え湯を飲まされていた。
だが、ルルーシュは集まった戦力及び知略を駆使してそれに対抗してきた。つまり、ルルーシュの知略と仲間達の力を合わせればどのような強敵も打倒する事が可能なのだ。
ルルーシュは知らないが、それはディエチが死に際に金髪の男に対し言った事と同じ事……ディエチはそれに賭けていたのだ。

考えをまとめたルルーシュは金髪の男に心の中で告げる……

(金髪の男……戦局を左右するのは戦術ではなく戦略だという事を俺が教えてやるぞ……)

と、宣戦布告をした。だが、ルルーシュは知らない、既にその金髪の男が死亡しているという事実を……。

何にせよ、金髪の男や赤いコートの男の様に暴力的な力で他者を殺し回っている奴については戦力が整えば対応が利くのでそれについては考えを切り上げる。だが、本当の意味で厄介なのは別にいる。

(問題は……頭の切れるタイプだな)

考えるべきはルルーシュの様に知略に富んだタイプの参加者である。ルルーシュ自身もこの場にスバルやシャーリーがいなければ最後の1人となって優勝する事を考えていたのでそういう人物がいないとは言い切れない。
ルルーシュ以上に頭の切れる参加者がいる可能性はある。真の障害となるべきはそういった参加者だろう。では、彼等はこの場に置いてどう行動するだろうか?ルルーシュは思案する。

殺し合いに乗っていない参加者を殺し合いに乗せ、他の参加者を殺す様にし向ける事、
ある大集団にいる参加者同士を仲違いを起こさせ集団の分裂を引き起こす事、
集団に入り込みひっそりと他の参加者を殺す事、
他の参加者を手駒にする事等である。

これらの行動をする参加者はある意味、圧倒的な力で攻める参加者以上に面倒だと言えよう。
そしてそれが面倒だと言える真の理由、それはそういう参加者はまず自分がそういう人物だと語らない事だ。表面上は殺し合いに乗っていないと装うはずだ。

(スバル達では気付かない可能性が高い、恐らく俺でなければ対処できないだろうな)

人の良い参加者や、並の参加者ではまずそういう参加者に騙されるだろう。恐らく、対処出来るのは同じ様に知略に富み、ある程度の警戒を持てるルルーシュぐらいだ。

と、ルルーシュの脳裏に2人の人物が浮かぶ。
1人は神聖ブリタニア帝国第2皇子でルルーシュの兄でもあるシュナイゼル・エル・ブリタニア。
シュナイゼルは紳士的な人物ではありその知略と決断力はルルーシュ以上だ。ちなみにルルーシュ自身シュナイゼルに対してだけはチェスで一度も勝った事が無い。
この殺し合いに呼ばれる前にもシュナイゼルが展開した部隊と交戦し追いつめられた事があった。幸いスバルが来てくれたお陰で危機は脱したものの実質的な敗北である事に変わりはない。
勿論この場にシュナイゼルはいないがシュナイゼルの様な参加者がいて、その人物と敵対する可能性は十分にある。その可能性は考えておくべきだろう。
139名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 12:06:25 ID:ZSlLcvfx
しえn
140王の財宝 〜カテゴリーK〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 12:15:46 ID:/eEtQwEf

もう1人はマオ、ルルーシュ同様C.C.からギアスを与えられた男である。
マオのギアスは『人の思考を読む』ギアスを持ち、そのギアスと巧みな話術を駆使しルルーシュとC.C.に立ち塞がってきた。
マオは人を殺したと思ったシャーリーを利用してゼロであるルルーシュを撃たせようとしむけ、実際にシャーリーはルルーシュに銃を向けた。
幸いルルーシュが撃たれる事はなかったが、これまでの事でシャーリーの精神はボロボロとなった……そしてルルーシュはシャーリーに自分を忘れるギアスをかけたのだ。
その後もナナリーを誘拐しルルーシュを追いつめ様とした事もあったし、追いつめられた際にスザクの心の傷を抉ったこともあった。
マオはある意味ではルルーシュの天敵とも言える人物であった。マオがC.C.に執着さえしていなければ最大の敵になり得た可能性は十分にあり得ただろう。
無論、この場にマオはいない。だが、心を読む能力者とまではいかないものの、人の心を抉る様な参加者がいる可能性はあり得る。その警戒もすべきだろう。

恐らく彼等の様な人物が立ち塞がって来た場合はルルーシュ以外に対処する事は難しいだろう。

(だが、やらねばならないだろう。そう、スバルを守る為にもな……)

続いて、最終的な目標について改めて考える。今更考えるまでもないがスバルやシャーリー達といった複数の人間を助けなければならない以上、優勝という選択肢は現状あり得ない。
つまり、どうしても別の方法を模索する必要が出てくる。だが、これについては最初に考えた時と同様明確な手段は見つかっていない。
だが、糸口が全く見つかっていないわけではない。

そもそもルルーシュがプレシアを倒す事を無理だと判断したのはプレシアが魔法を使う以上、彼女の元へ普通の方法で行けるかどうかわからなかったからだ。
だが、それについての問題はある程度クリアされている。そう、この場にはスバル達の様な魔法を使う機動六課の関係者が数多くいるのだ。
更に、今頃になって思い出した事だが最初に殺し合いの説明をした時に『プレシア……!?』や『母さん!?』と言った声が聞こえていた。
つまり、あの場には確実にプレシアを知る人物、更に言えば娘がいた事になるのだ。
そして今、ルルーシュの手元には時間と空間を越える事ができるらしいハイパーゼクターもある。
つまり、そういった人物との接触、及びハイパーゼクター等といった道具を駆使すればプレシアの元へたどり着く可能性は十分にあるという事だ。

しかし、クリアしなければならない問題がもう1つある。それが首輪だ。いかにプレシアを倒そうと考えても、プレシアがそれを察知して首輪を爆破されれば元の黙阿弥だ。故に脱出の為には首輪の解除が必須条件である。
首輪の構造がどうなっているかは現状不明、単純な機械的なものならルルーシュでも解除できるだろうが、魔法的なものならば機動六課の仲間の力を借りる必要が出てくる。
だが、その為には首輪を調べる必要がある。そう、何処かから首輪を入手する必要があるのだ……。
首輪を入手するには参加者から奪う……そう、殺して手に入れるしか無いのだ。ルルーシュは必要とあれば他の参加者を殺す事も辞さないのでそれ自体は問題ない。
だが、実を言えば他に手段が無いわけではない。そう、死体となった参加者から手に入れるのだ。そしてルルーシュはそれに都合の良い人物がいるのを知っている。
141王の財宝 〜カテゴリーK〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 12:18:39 ID:/eEtQwEf

(ディエチ……)

その人物はディエチである。
再び金髪の男の話に戻るが、金髪の男の性格を考えれば、金髪の男は最終的にプレシアも殺すつもりで戦っていたのは確実だろう。だが、やはりその為には首輪の解除が必須条件だ。
その為に金髪の男も首輪を欲していたのは想像に難くないだろう。
では、金髪の男はディエチから首輪を奪っただろうか?答えはNoだ。勿論既に誰か殺して手に入れた可能性はあったが、複数あっても問題は無いのでそれは理由にはならない。
それでもディエチから首輪を奪った可能性は低いと言える。思い出して欲しい、ディエチは死に際にルルーシュにメッセージを残した上でそれを飛ばしたのだ。常識的に考えて金髪の男がその場から去らなければそれは不可能だ。
つまり、金髪の男はディエチにとどめを刺さずに病院から離れたという事である。故に、ディエチの首輪は奪われていないということになる。

ということは、病院に戻ればディエチから首輪を手に入れる事が出来るかも知れないということである。

(ディエチ……出来れば安らかに眠っていて欲しかったが……)

ルルーシュとしてはこれ以上ディエチを傷つけたくはなかった。しかし、ディエチの願いを叶える為にはそれも止むを得ないと考えていた。
とはいえ、ディエチが死んだと思われる時間から既に2時間以上が経過しているはずだ。既に同じ事を考えた参加者がディエチから首輪を回収した可能性はある。
その懸念はあるものの、何らかの方法で首輪を手に入れる必要がある事には変わりはないので、その事については考えておくべきだろう。

さて、首輪の事でもう1つ考えるべきことがある。それは制限の存在だ。いかに圧倒的な力を持っていても全力を出せない限りプレシアの優位に変わりは無い。

(制限に関係しているのはこの首輪の働きの可能性が高いな)

ルルーシュは制限を発生させているのは首輪によるものだと考えていた。つまり、首輪させ外す事が出来ればギアス等を問題なく使う事ができるという事だ。
だが、もう1つ気になる点がある。それは別の所に制限をかけている可能性だ。例えば、この空間そのものに制限をかけるというものだ。
空間自体に制限をかける事ができるのかという疑問はあるだろうが、ルルーシュの世界でもゲフィオンディスターバーというサクラダイトの活動を阻害し周辺のレーダーやKMFの機能を止める装置がある。
つまり、技術的に広範囲に何かしらの制限をかけるのは可能ということである。そもそも相手は魔法を使うプレシア、それぐらい問題なく出来ると考えてもおかしくはない。

(今の所は情報不足だな)

考えた所で明確な答えは出ない以上ひとまず制限についての考察は保留にした。
142王の財宝 〜カテゴリーK〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 12:24:47 ID:/eEtQwEf

さて、ルルーシュはレイの方に視線を向ける。ルルーシュは今もレイを完全に信用してはいない。こうやって思案を巡らせている間もずっとレイの動向には気を払っていたのだ。
外見上は一般人にしか見えないが、外見では読めなかった事が数多くある以上それで判断するのは危険だ。

実はバスター・ブレイダーをそのままこなたに持たせたのは護身用という為だけではない。レイに必要以上にカードを持たせたくなかったという理由もあったのだ。
では、何故ルルーシュはレッド・デーモンズ・ドラゴンのカードは素直にレイに渡したのだろうか?幾らデュエルモンスターズの知識がないルルーシュでもそれが強いというのはわかっていたはずだ。

理由は2つある。1つは下手に渡さないでレイに早まった行動をさせるのを避ける為だ。
もしここでレイが無理にでもレッド・デーモンズ・ドラゴンを手に入れようとするなら手持ちのカードである光の護封剣とフリーズベントを使うしかない。
カードを使い慣れているレイの行動はスバルの動きよりも早い可能性がある。ルルーシュのギアスと比較しても互角の可能性が高いだろう。
ここでの結果がどうなるかは読み切れないものの、貴重な戦力を浪費する事だけは確実だ。強敵が備えている以上、不必要な消耗は避けるべきだろう。
2つめはそのカードがそう簡単に使える物ではない事にルルーシュも気付いていたのだ。確かにルルーシュはデュエルモンスターズの知識は無い。
だがカードに書かれているテキストを見ただけでそれがどのようなカードかは大体理解出来る。
そう、ルルーシュも確認していたのだ『チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上』のテキストを。そこから召喚の為にはチューナーとチューナー以外のモンスターが必要だという事は容易に想像が付く。
だが、レイの手元にモンスターカードはない。つまり現状でレッド・デーモンズ・ドラゴンを召喚する事は不可能である可能性が高い。
勿論、デュエルモンスターズに詳しくない以上、ルルーシュでも読み切れない部分はあるだろう。それでも、現状ではレイに持たせるのが最善だと判断したのだ。

話を戻そう、ルルーシュから見てレイは信用の置ける存在なのだろうか……結論を言えば完全に信用して良い相手ではないとルルーシュは判断した。
理由は幾つかある、まずレイがスバルの知り合いらしいという話ではあるが、レイはスバルとの合流を求めていた様には見えなかったことだ。
ある程度スバルの素性を知っているならば少なくてもスバルとの合流は喜ばしいことのはずだ。そう、ルルーシュやこなたがそうである様に。
そうではないと言う事はスバルと敵対していた、もしくはこの場に置いてはスバルと一緒であれば都合が悪いという事だろうが、見たところ敵対していたという可能性は低いだろう。
つまり、スバルと一緒だったらレイとしては都合が悪い……そう、レイの行動方針はスバルのそれとは合わないという事だ。
スバルの行動方針は考えるまでもなく、殺し合いを止める、殺し合いに乗った相手も極力殺さないといったもののはずだ。
それに合わないということはレイは殺し合いに乗っている、もしくは殺し合いに乗った相手を殺すつもりである、ということになる。
だからこそ、この状況においても他の参加者と組まずに単独行動というリスクを犯しているのだろう。それを裏付ける証拠もある、レイはデイパックを2つ持っていた事だ。
この状況でデイパックを複数持つとするならば、他の参加者から譲り受けるか何処かに置いていたのを回収するか他の参加者から奪うかのどれかだろう。
可能性が無いとは言わないが置き去りにされたのを回収したというのは現実的ではない。貴重な道具をみすみす置き去りにする愚を犯す参加者がそうそういるとは思えない。特異な状況であるといえるだろう。
では譲り受けたというのはどうだろうか?だが、その相手はどうなったのかという問題がある。譲り受けたという事は相手はデイパックを持っていない可能性が高い。
それでは生き残れる可能性が低くなるはずなので普通の参加者はまずやらない。だが、必要が無くなったとしたら?そう、参加者が死んだとしたらデイパックは必要なくなる。
だが、そうなるとレイは死にかけの参加者に会ったはずだ、その時の話を詳しく聞く必要はある。
しかし、何より一番現実的なのが他の参加者から奪う事だ。レイは拳銃を持っていた事もあり、それを駆使すればデイパックを奪う事はそう難しい事ではない。
但し、これらのことはあくまでも推測でしかない、後程情報交換する際に詳しく話を聞くべきだろう。
143王の財宝 〜カテゴリーK〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 12:31:16 ID:/eEtQwEf

本当に危険人物ではない可能性もあるが、仮にそうだとしても過度に信頼するつもりはない。この殺し合いにおいて全ての参加者を守れる程甘い物ではないからだ。いざとなれば切り捨てる事も辞さないつもりだ。
では、危険人物であればどうだろうか?恐らくその場合は情報交換の時も真実を話さないでこちらを信用させるつもりだろう。
だが、ルルーシュとしてはそれならそれで構わないと考えている。そう考えるという事はレイはこちらを利用する考えなのだからだ。
そうするつもりならばルルーシュとしても遠慮無く利用させてもらう、いざという時にはギアスを使う事も辞さないつもりだ。

(目的は知らんが……もしお前がそのつもりならば利用させてもらうぞ……早乙女レイ……)

ルルーシュは今一度鋭い視線をレイに向けた。だが、ルルーシュは気付いていない。ルルーシュが大切な者であるスバルを守る為に戦っている様に、レイもまた大切な者である十代を守る為に戦っている事に……

ルルーシュは再びこなたから受け取った蜘蛛のカードを見る。そのカードがどういうものかはわからない。『EVOLUTION』と書かれているのはわかるが、何を進化させるものかわからない以上使い様が無い。
しかし『K』とクラブのマークからトランプを連想する事が出来る。仮にトランプであるとするならばこのカードはクラブのK(キング)ということになる。

(蜘蛛が何かは気になるが、他にも同じ様なカードがある事は考えた方が良いだろうな。そういえば参加者にキングという奴がいたが……ふっ、考え過ぎか)

だが、ルルーシュは知らない。そのキングもまたクラブのKのカードと関係のある存在である事を。
そのカードの正体はラウズカードと呼ばれる己の種の繁栄を賭けて戦う存在アンデッドを封印したカードで、その種類は53種ありトランプを模したものとなっている。
そしてクラブのKのラウズカードに封印されているアンデッドはクラブのカテゴリーK(キング)とも呼ばれている。だが、このアンデッドが何者かはここでは問題にはしない。
さて、キングの正体はスペードのカテゴリーKのアンデッドなのだ。アンデッドの名の通り不死の存在である彼等が人間と比較しても強敵であるのは言うまでもない。
だが、それだけならば赤いコートの男や金髪の男以上の脅威とは言えないだろう。しかし断言しても良い、キングは恐らくルルーシュから見て最大の敵になる事を。

キングの真の恐ろしさはその残酷な性格だろう、キングの目的は戦いの結末など関係なしに全て滅茶苦茶にし何もかもを破滅に導く事、全ては自分が楽しむ為に行っているのだ。
そして既にキングの策略により幾つか悲劇が訪れている。

はやてがヴィータと敵対する事になり、同時にはやてが自分以外を全て利用するつもりになった原因にもキングは関わっているし、
キャロが殺し合いにのる結果になった原因にもキングが関係している、

そう、スバルの仲間が既にキングによって壊されているのだ。だが、ルルーシュにとって重要な問題はここからだ。
今の時刻と前後してキングがシャーリーと接触をしているのだ。そしてキングはシャーリーを壊そうと目論んでいるのだ。
更にキングの手元には大半の参加者の足跡が物語という形で綴られている『CROSS-NANOHA』が納められた携帯電話がある。
勿論、そこにはルルーシュの正体がゼロである事も、ルルーシュがシャーリーの記憶を消した事も記されている。
キングがそれを利用しシャーリーの心を壊してしまう可能性は非常に高いのだ。

そう、キングはルルーシュが警戒しているタイプ以上に危険な存在なのだ。あくまでも先述の連中は優勝狙いでしかない。だが、キングは優勝にすら興味なく全てに破滅をもたらそうとしているのだ。

ルルーシュは未だ知らない……シャーリーに迫る危機を……ルルーシュは只、シャーリーの無事を祈りながらスバル達を守る為に思案を巡らせていた……。
144名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 12:36:07 ID:ZSlLcvfx
sien
145王の財宝 〜祝福の風〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 12:36:47 ID:/eEtQwEf



Chapter.04 ゼロ セカンド

一方、スバルもこの後どうするかを考えていた。
殺し合いに乗ったであろう参加者が居る病院に向かいたいという考えはあった。だが、そんな危険な場所に一般人であるこなたやレイ、そして負傷したルルーシュを連れて行くわけにはいかない。
同様にその間に他に殺し合いに乗った参加者が襲撃してくる可能性がある以上彼女達を置いて行くなど言語道断だ。
それにルルーシュが襲われたと思われる時間から既に2時間以上が経過している。病院にいた参加者も既に病院を離れている可能性はある。病院に向かったところで無駄足に終わる可能性は高い。
幸い当初病院で手に入れるつもりだった医療品はルルーシュが確保していたし、毛布やシーツはデュエルアカデミアで確保出来るからそれについての問題は無い。
ルルーシュに輸血をする為に血液パックが欲しい所だがその為に病院に向かうにはリスクが大きい。現状で向かうわけにはいかないだろう。

では、これからどうするべきか?まずはレイとルルーシュとの情報交換だろう。2人の知り合いを把握しておきたかったということもあるが気になる事が幾つかあるのだ。

スバルも気付いていたのだ、レイがデイパックを2つ持っている事実に……つまり、他の参加者からデイパックを譲り受けたか奪ったかのどちらかの可能性があったのだ。
奪ったとしたらレイは殺し合いに乗っている可能性がある、そうであるならばレイを止めなければならない。
出来れば他の参加者から譲り受けたという可能性を信じたかったが……それならば、その参加者はどうなったのかという疑問もある。どちらにしても詳しく話を聞かなければならないのは明白だ。
だが、何よりも問題なのは……レイがスバル達に対して距離を取ろうとしていたのが見てとれたのだ。勿論、殺し合いの場にいる以上ある程度の警戒を持つのは仕方がない。
しかし、レイは(並行世界とはいえ)知り合いであるはずのスバルに会っても何やら不穏な動きを見せている。ルルーシュの場合は(並行世界とはいえ)知り合いらしいスバルに出会ってあれだけ喜んでいたというのにだ、
更に、こなたは知り合いで無いと判断していたがスバルの事を信用している事に対して考えてもレイのとった反応は妙だと言えるだろう。
つまり、レイの目的はスバルのそれとは相反するものである可能性が高いという事だ。この仮説が杞憂であれば良い、だが仮説通りならばレイを止めなければならないだろう。

一方のルルーシュについては病院で襲った参加者の事を聞かなければならない以上、情報交換は必須だ。
こなたがルルーシュから話を聞いているとはいえ、こなたは一般人、本来であればスバルが詳しい話を聞かなければいけなかったはずだ。
とはいえ、やはりルルーシュから話を聞く事については少々気が引ける。
並行世界のスバルと単純な知り合いであるならば別に問題は無い、だがルルーシュの態度を見ればわかる様に明らかにスバルと親しい関係だったのは明白だ。
にもかかわらずここにいるスバルはルルーシュの事は知らない。幾らルルーシュが知っていなくても問題ではないと言ってくれたとはいえ、素直に受け入れられるわけではないのだ。
それでも、情報交換はやらなければならないとスバルは考えていた。

では、情報交換を終えた後はどうすれば良いだろうか?やはりスバル1人ではどう考えても限界が来る。
そもそもなのはやシグナム程の人物が既に殺されているという事態、彼女達よりも弱いスバル1人だけでは厳しいのは当然の話だ。
スバルもそうだがスバルもそうだが参加者は自分のデバイスを没収されている。当然なのはやシグナムも例外ではない。
幾ら彼女達が強いとはいえその状態で赤いコートの男の様な危険人物と戦えるだろうか?シグナム達の力を信用していないわけではないが厳しいのは確実だ。
彼女達でも厳しい以上、彼女達の力になる為にも六課の仲間達との合流は優先した方が良いだろう。そうすれば今後の行動に幅が出るのは明白だ。
並行世界から連れて来られている以上、彼女達が自分を知らないという可能性はある。だが、どのような彼女達であってもきっと彼女達はスバル達の力になってくれるはずだ。

(とりあえずなのはさんやフェイトさん、それにキャロやヴィータ副隊長と……ちょっと待って……確か……)
146名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 12:40:18 ID:ZSlLcvfx
sie
147王の財宝 〜祝福の風〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 12:42:24 ID:/eEtQwEf

スバルはご褒美の話の話を思い出し改めてその事について考えてみる。ご褒美は言うまでもなくその餌に釣られてこれまで殺し合いに乗っていなかった参加者を殺し合いに乗せる為のものである。
スバルがそれに乗る気が無いのはいうまでもない。だが、他の参加者が乗らないという保証はない。そう、スバルの仲間とも言うべき機動六課の仲間がその言葉に乗る可能性はあるのだ。
勿論、スバルだってまさかフェイトやはやてといった隊長達がその言葉に乗るとは信じたくはない。そんな事はあり得ないとすら思っている。
だが、断言出来るのかと言えば自信が無いというのが本音だ。

フェイトの視点から見てみよう。放送の時点で親友であるなのは、10年来の仲間であるシグナム、義兄であるクロノ、フェイトが保護したエリオと六課の仲間以上に親しい人物を一度に亡くしているのだ。
そのフェイトが彼女達を生き返らせる為に殺し合いに乗る可能性はあると言えるのではないだろうか?フェイトですらそうなのだ、他の仲間が乗る可能性が無いとは言えないだろう。
何よりフェイト以上に殺し合いに乗る様な人物だっている。そう、スバルと同じフォワードであるキャロだ。
幾ら機動六課の仲間だとは言えまだ10歳だ。エリオが死亡している事を知ればその悲しみに耐えられず、エリオを生き返らせる為に殺し合いに乗る可能性は十分にある。

問題なのは機動六課の仲間だけではない。ナンバーズであるチンクだってその可能性はあるだろう。
チンクはJS事件で更正する事になったナンバーズの中でも一番の姉であり、何より彼女は妹達のまとめ役だったはずだ。
だが、ディエチが死んだ事をチンクが知ったら彼女を生き返らせる為に他の参加者を殺しに回る可能性はある。
勿論、クアットロを殺せるかという疑問はあるものの可能性が無いとは言えないだろう。

名簿には知らない参加者も数多いが既に死者は13人、知り合いが死んだ人は数多くいるはずだ。彼等だって新たに殺し合いにのる可能性はある。

勿論、誰かを助ける為に誰かを犠牲に出来るのかという疑問はあるだろう。しかし、ある危険な考えに行き着いたならば容赦なく殺し合いに乗るはずだ。
この殺し合いで死んだ人を全て生き返らせるという願いだ。確かにそれが叶うならば誰1人犠牲を出す必要は無くなる。
無論、スバルはそんな都合の良すぎる話はあり得ないと思っている。大体、そんな事するならば殺し合いを行う意味がない。
しかし、その事に誰しもが気付くと言えるのだろうか?難しいだろう、誰かが死んだり人を殺したりすれば冷静な判断力は失われる。例え可能性が低くともそれにすがったっておかしくはない。

そして、今現在は殺し合いに乗っていなかったとしても、次の放送では新たな死者が呼ばれる可能性は高い。そうなった場合参加者が新たに殺し合いに乗る可能性は十分にあるだろう。

(大丈夫だよね、みんな……)

これから出会うであろう仲間が殺し合いに乗っているかもしれない。スバルとしてはそれを信じたくはなかったが、一度よぎった不安を消し去る事はできなかった。
もし、これから出会う仲間が殺し合いに乗っていたとしたらスバルはどうしたらいいだろうか?止められるのだろうか、フェイトやキャロを……

同時にこれは身近でも起こりうる話だろう。流石にかがみやつかさが死んだとしてもこなたが殺し合いに乗るとは思えないのでこなたについては心配は無いだろう。
だが、問題はレイだ。詳しい話はまだ聞いていないがレイの仲間もこの場にいる可能性が非常に高い。その内の誰かが死んだとしたらレイだって優勝を目指す可能性がある。
もしかしたら既に誰か死んでいる可能性はあるが今の所は殺し合いに乗る様子は見られない。だが、何が引き金になるかはわからない。そうなったとしたら止めなければならないのは言うまでもない。

これらの事は確かに不安要素ではあるものの、スバルの中ではそんな事はないと心の何処かでは信じている。
だが、次の事こそが今現在のスバルに置ける最大の不安要素なのだ。

(ルルーシュ……)

そう、ルルーシュの事だ。

先程も述べたとおりルルーシュにとってスバルは何よりも大切な存在であり、誰よりも会いたい存在だったのだろう。
保健室で抱きしめてくれた事や売店に向かう途中自分を守り抜くと誓ってくれた事からもそれは明らかだ。
スバルにはそういう経験が全くないし、六課の仲間の中でもそういう経験をしたという話は聞かないのでどういう反応をしたらいいのかは全くわからない。
とは言え、その行為自体は嬉しいとは思っているのは確かだ。
148名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 12:44:24 ID:ZSlLcvfx
支援
149王の財宝 〜祝福の風〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 12:57:45 ID:/eEtQwEf

だが、それ故に辛いのだ。そもそもここにいるスバルはルルーシュのいた世界にいたスバルとは別人だ。ルルーシュにしてみれば守りたいと願っていたスバルである事に変わりはないとしても、
スバルにしてみればルルーシュの知るスバルとは別人である。どんなにルルーシュが求めて願ったとしてもルルーシュのスバルになることなど出来はしない。
ここにいるスバルではルルーシュの支えになる事が出来ないのだ。

しかし、それでもルルーシュはここにいるスバルの為に戦うだろう。そしてルルーシュの言葉を信じるならば、恐らくルルーシュはスバルを守る為にならば殺し合いにのった参加者を殺す事も辞さないはずだ。
幾ら自分を守る為とはいえその為に人を殺してしまうのはスバルの望む事ではない。しかし、スバルだって自覚していないわけではない。
スバルとこなたが遭遇した赤いコートの男は普通の人が相手ならば確実に死ぬぐらいのつもりで戦わなければ間違いなく自分達が殺されていた。
そして既に傷は再生して他の参加者を殺しに回っている可能性は非常に高い。恐らくあの男は殺さなければ止められないだろう。
赤いコートの男だけではない。他にもルルーシュが遭遇したらしい殺戮者やその他にも殺し合いに乗っている参加者がいるのは間違いない。スバルに彼等を止められるかどうかの自信があるわけなどなかった。
勿論スバルも殺さずに止めるのを諦めるつもりはない。だが、返り討ちに遭う可能性が高い事に変わりはない。
一応、いざというときにはアサルトライフルの用意はある。しかし、質量兵器それも銃の扱いの経験なんてほとんど無く、
何より殺人を恐れるスバルが撃つには確実に数手遅れが出るはずだ。その遅れが命取りになるのは言うまでもない。
そうならない為にルルーシュはスバルを守る為に立ち塞がる敵を殺していくのだろう。スバルに出来ない事をルルーシュが行うのだ。
そして、スバルを守る為ならばルルーシュは命を捨てる……死ぬ覚悟もあるだろう。
150王の財宝 〜祝福の風〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 13:07:55 ID:/eEtQwEf

スバルは自分を守る為といえどルルーシュに人を殺して欲しくはない。だが、それ以上にスバルは自分の為にこれ以上ルルーシュが精神的にも肉体的にも苦しみ傷つき死んでしまうのを見たくはないのだ。
しかし、スバルはルルーシュを止める事は出来ないと考えていた。

ルルーシュはここでスバルに出会う前からずっと傷つき苦しんできたのだ。右腕を失い、恐らくは仲間も失ったかもしれない。
そしてようやく会えた自分がルルーシュの知る自分と別人だと知ってショックを受けないはずはない。どんなに変わりはないと言っても、スバルはスバルだと思っても完全に割り切れる話では無い。
そこまで追いつめられたルルーシュの行動をスバルが拒絶したらどうなるか?それこそルルーシュは完全に壊れてしまうだろう。
そんなルルーシュに対しルルーシュの知るスバルがどうするのかはここにいるスバルにはわからない。だが、ここにいるスバルもルルーシュが苦しむのを望むわけがない。
だからこそ、スバルはルルーシュがこれ以上傷つかない様に戦うのだ。こればかりはなのはやフェイト、キャロ等六課の仲間や姉であるギンガを頼る訳にはいかない、スバルがやらなければならない事だ。

そう、いざとなれば自分の手で殺し合いに乗った参加者を……

無論、ルルーシュ達を守る為にスバル自身が戦うつもりはある。だが、その為に自分が死ぬわけにはいかなくなった事も感じていた。
スバル自身自分が死ぬ前提で戦うつもりはないが、こなた達といった他の参加者を守る為ならば自分の命を捨てる可能性も考えていた。
だが、ここで自分が死ねばどうなるだろうか?それがルルーシュ達を守る為であろうがなかろうが関係は全くない。

スバルの死によりルルーシュの精神が崩壊する可能性は高いだろう。そうなれば恐らく他の参加者を平気で殺す様になってしまう。
仮に崩壊しなくても、願い事を叶えるという言葉に乗りスバルを生き返らせる為に他の参加者を殺す様になる可能性は高い。
勿論放送を聞いていないルルーシュは現時点ではその事を知らないだろう。だが、何れは知られるのはほぼ確実だ、何しろ次の放送でも同じ事を言う可能性が無いとは言えないのだから。
無論、ルルーシュが壊れ殺戮者になるのをスバルが望むはずがない。だが、スバルが死んでしまえば最早どんな言葉もルルーシュには届かないはずだ。
そうさせない為にできる事はスバル自身生き残る事しかないだろう。スバルの為にも、仲間達の為にも、何よりルルーシュの為にも。

こなた達を守り、ルルーシュも守り、何よりスバル自身も守りつつ同時に他の参加者を極力殺さない様にするという恐らくは最も過酷な戦い。不安は決して消えない。だが……

(やるしかないよね……)

スバルはそう考えていた。
151王の財宝 〜祝福の風〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 13:13:15 ID:/eEtQwEf



Chapter.05 泉こなたの憂鬱

最初に違和感を覚えたのは何時だっただろうか?こなたはその時の事を思い出していた。
そう、それはこの場に来てから最初にデイパックを確認した時の事だった。取り出したのはバスター・ブレイダーというカードゲームのカード。
こなたはゲームやアニメの事については非常に詳しく、ここ近年は多種多様のトレーディングカードが出回っている事もありそれについての知識も旺盛である。
だがしかし、こなたはそのカードゲームを知らなかった。

本当に知らなかったのだろうか?ほんの一瞬、こなたの脳裏にこのカードを使って戦う人達の姿が浮かんだのだ。
冷静に考えれば現実的にはあり得ない光景だったと思う。だが、こなたはその光景には全く違和感を覚えなかったのだ。
考えてもみればこれと似た様なカードについてかがみやつかさ、みゆきと話した事があった様な気もしたが良く思い出せない。

結局、その後はいきなり赤いコートの男に襲われたり、スバルに助けられて何とか逃げたり、病院へ移動するのに夢中でその事については深く考えたりはしなかった。
そして、病院に向かう途中で腕を怪我した少年を助け、少年を助ける為に近くの施設であるデュエルアカデミアに向かったこなた達だったがそこで再び幾つか気になった事があった。

1つはこのデュエルアカデミアがアニメやマンガに出てきそうな所だと思った事。しかし、この時のこなたはその事について深くは考えなかった。
もう1つは怪我をした少年の服装……こなたは彼を見てアニメ等で出てくるヒーロー、もしくはライバルなのかなと思ったのだ。更に言えば仮面が似合うとすら考えていたのだ。

その後は、スバルと一緒に並行世界についての話をし、参加者が異なる並行世界から連れて来られている事を知ったこなた達であった。
ちなみにこの時、こなたは自分の友人であるかがみやつかさ、そして転校してきたばかりのなのはやフェイトが自分の事を知らないかもと思い若干の不安を感じていた。
だが、今のこなたはそれについての不安は大分薄れている。そう、負傷した少年ルルーシュの姿を目の当たりにしたからだ。

こなたはルルーシュから彼自身についての詳しい話を聞いた。戦争とは無縁の平和な世界しか知らないこなたから見ればルルーシュが過ごした過酷な世界はアニメ等でしか見る事の出来ない世界であった。
それ故、こなたにはそれがどれだけ過酷かを完全に理解する事は出来ないし、戦争をしてきたルルーシュ達の気持ちをわかってあげる事など出来はしない。それでもルルーシュが沢山苦しみ傷ついて来た事は理解する事が出来た。
そんなルルーシュが会いたがっていたのがスバルではあるが、ここにいるスバルはルルーシュの世界にいたスバルとは別人、ルルーシュの事を知らないスバルなのだ。
それを知ればルルーシュが絶望する事はこなたもスバルも予想していた事だ。
しかし、ルルーシュは別の世界のスバルだと知っても、ルルーシュの事を知らないスバルだと知ったとしても、同じスバルと認めて彼女を守ると誓ったのだ。

それを見たこなたは考えていた。例え違う世界から連れて来られてこなたの事を知らないかがみやつかさ、なのはやフェイトであったとしても、

(友達だよ)

友達である事に変わりは無いと思ったのだ。仮に自分の事を知らなくても関係ない。こなたにとっては会いたい人物である事に変わりはないのだから。
だからこそ何とかしてかがみ達と再会して一緒に元の世界に帰りたいと思ったのだ。
152名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 13:16:02 ID:ZSlLcvfx
sienn
153王の財宝 〜祝福の風〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 13:18:55 ID:/eEtQwEf

さて、こなたにとっての問題はこの後である。この後レイとも合流し彼女の話にあったデュエルモンスターズのカードを確保する為に売店に向かった。
ここで起こった一連やりとりこそがこなたに再び違和感を覚えさせたのだ。

売店で見つけたレッド・デーモンズ・ドラゴン、デュエルモンスターズのカードではあるが、レイはそのカードを知らなかった……勿論、3人の前ではその素振りを見せない様にしていたが。
当然、スバルやルルーシュも知らないはずだし、こなただってそれを知るはずがない。

だが、こなたがレッド・デーモンズ・ドラゴンを手に取った時一瞬、バイクに乗って走りこのカードを使ってカードに描かれている龍を召喚する男性の姿が目に浮かんだのだ。
その人物がどういう人物なのかはよくわからない。だが『キング』という言葉だけは頭から離れなかった。何故かは良く思い出せないがそんな気がしたのだ。

さらに、レイの持っていた光の護封剣のカード、これについても何故か知らないが何処かで見た気がしたのだ。それこそこなたの持つバスター・ブレイダーのカード以上に頻繁に……

(もしかして……あたし、本当はデュエルモンスターズの事について詳しい?)

そういう考えに至ったのだ。だが、気になった事はこれだけではない。
こなたはバスター・ブレイダーを探す際、これまではさっと確認する程度でまともに触れたことは1度も無かった最後の支給品クラブのカードを初めて取り出した。
当然、それが何なのかはこなたが知るわけがない。だが、またしてもこなたの脳裏に一瞬だけ浮かんだのだ。

蜘蛛の怪人が1人の少年と戦う姿が……

それがどういう場面かはよくわからない。ただ、何か重要な意味があった様な気がするがやはり思い出せない。

(あたし……これを見た事がある……?どこだったかな……?)

疑問の種は尽きる事がない。そして、こなたはある事が気になりルルーシュに聞いた。

「そういえばさ、ここってデュエルアカデミアっていうらしいんだけどさ、ここって最初何の学校だと思った?」
「ん?デュエルアカデミアか……名前通りなら決闘の学園という事になるが……まさかカードの使い手の養成する学校だとは思わなかったが……」
「やっぱりそう思うよね。あ、別に気にしないで良いよ、ちょっと聞いてみただけだからさ」

デュエルアカデミアがどういう学校だと思ったか?デュエルアカデミアはデュエルモンスターズのカードの使い手を養成する学校である。
だが、デュエルアカデミアという名前だけを聞いてそれがわかる人間はどれだけいるだろうか?
この場にはデュエルモンスターズを知らない参加者の方が圧倒的に多いのだ。デュエルモンスターズの学校だと考える人間はまずいないだろう。
ルルーシュやスバルが感じた様に名前通り決闘の学校と考えるのが普通だろう。

しかし、こなたはそう感じなかった。レイと合流する前、こなたはスバルに対しデュエルアカデミアについてこう言ったのだ。

『なんかマンガかアニメに出てきそうな学校だよね。デュエルが全て決めるみたいな感じでさ』
154名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 13:20:33 ID:ZSlLcvfx
支援
155王の財宝 〜祝福の風〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 13:25:14 ID:/eEtQwEf

その時は本当にそう思ったのだ。だが、よく考えてみるといきなりこういう考えにはまずいかないはずだ。
確かにこなたはアニメやゲームにハマリ過ぎていたからこんな言葉になったという可能性はある。
しかしそれにしたって『デュエル』という言葉を言葉通りの『決闘』という意味では考えずに口走るというのは普通は無いだろう。
それはつまり、ここでいう『デュエル』が世間一般に言う『決闘』とは若干違う意味を持っているのだと知っていたと言えるのでは無いだろうか?

(もしかして……本当にそんなアニメとかマンガとかを見ていたとか?)

と、こなたは自身が見てきたアニメやマンガ等にそういうのがあったかを思い出そうとする。すると、

(あれ?おかしいな、ぼんやりとしか思い出せないや)

思い出そうとしたが、大まかな事しか思い出せなかった。そして、こなたはそれが明らかに異常な事だと気が付いた。

こなたはアニメやマンガ、そしてゲームが大好きな少女だ。
ゴールデンタイムに放送されているアニメが見られなくなるという理由で部活をやらないし、深夜アニメ等の放送時間に影響がでるからスポーツ中継も嫌っている。
毎年夏や年末のコミケには必ずと言って良い程参加しているし、ポケ○ンの名前も全て言える特技も持っている。

そのこなたがアニメやマンガ、ゲームの内容を思い出せないという事があるだろうか?
ごく一部のマニアぐらいしか知らないアニメを思い出せないというレベルの話ではない。
本当に有名なアニメすらハッキリと思い出せないのだ。それこそ誰でも知っている様なアニメすら……。

(あのおばさん、間違いなくあたしの記憶弄ったね)

こなたは確信する、自身の持つアニメやマンガ等の知識がプレシアによって消されている事に……。

(まさか、あのキャラの気持ちを味わう事になるとはね……)

こなたはあるアニメを思い出していた。
ある超常現象による事件に巻き込まれる一般人、主人公の特殊な能力でその事件は解決する。
だが、巻き込まれた一般人は超常現象の事も解決した主人公の事もそれらに関する記憶を全て消されてしまう。
そして一般人は基本的には何事も無かったかの様に普通の暮らしに戻ったが、僅かな違和感だけが残されていたというものだ。
そういうアニメの存在を知っていた為、記憶が操作されている事については言う程ショックではない。

(ということはさ、ここって色んなアニメとかマンガとかがごちゃ混ぜになった所なのかな……)

そして、この空間が様々なアニメやマンガに出てくる様な世界が集まった場所だと考えたのだ。
本当であればこなたにとってその空間は夢の様な空間で喜ばしいものだっただろう。
だが、今のこなたはそれを喜ぶ事は出来やしない。

1つ目は殺し合いをさせられているという事実。既に死者や負傷者の存在を知っている以上楽しめるわけがない。
2つ目はこなたにとってはアニメの世界でもその世界の人物にとっては現実だという事実。ルルーシュの境遇がいかに辛いものだったかはこなたも知っているし、それが現実というのも認識している。それを楽しむ程こなたは悪趣味ではない。
そして3つ目は、こなた自身の中にあるそれらの記憶が操作されているという事実。プレシアに記憶を弄られていると知って良い気持ちがするわけがない。

こなたはふと名簿や地図を見る。
やはり詳しくかは思い出せない物の何処かのアニメやマンガ等で見た事がある様な名前が数多くある事に気が付く。
但し、やはり漠然としていてどれがどれかまでは全くわからないが……。

(というかさ、あのおばさん何考えているんだろうね。かがみん達にも殺し合いさせようとしたり、記憶を弄ったりしてさ……)

こなたはどことなく憂鬱な気持ちになっていた。
だが、この事をスバル達に話す気にはなれなかった。あまりにも漠然としすぎていてまともに思い出せないのだ、話そうにも話し様の無い話だからだ。
そして、スバル達もこなたがこう考えていた事には気付かないだろう。スバルから見ても、ルルーシュから見ても、レイから見てもこなたは何の力もない一般人でしかないのだから……。
156名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 13:29:25 ID:ZSlLcvfx
sien
157王の財宝 〜祝福の風〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 13:40:42 ID:/eEtQwEf



Chapter.06 祝福の風

時間にしてみればほんの十数分だった。4人は売店内を探しながらそれぞれ思案を巡らせていたが、それぞれがそれぞれ真意を察する事は出来ないだろう。
さて、めぼしい物の見つからない売店に何時までも居るわけにはいかない。

「とりあえず情報交換だな」
「そうだね、ルルーシュやレイからも詳しく話聞かなきゃいけないし」
「ねえレイ、パソコンのある所ってわかる?」
「え?」

こなたがレイにパソコンについて聞こうとする。

「ほら、ネットとか使って情報集められないかなって思ってさ」
「こなた……幾ら何でも……」

外部との連絡を取れるとは思えなかったのでスバルは否定的だったが、

「いや、もしかしたら何か情報が手に入るかも知れないな。そこで情報交換もすればいいだろう」

ルルーシュはそれに肯定的だった。ルルーシュも外部との連絡が取れるとは考えていないが、デュエルアカデミアのパソコンならばデュエルアカデミアに関係する情報が手に入る可能性がある為、意義があると判断したのだ。

「じゃあ、そこに行こうよ。」
「わかりました、確か……」

そして4人は売店から移動を始めようとする……

こうしてデュエルアカデミアの売店は1つの大きな役目を終えた。そう、デュエルキングジャック・アトラスのレッド・デーモンズ・ドラゴンを守るという役目を……

さて、奇しくもデュエルアカデミアの売店には王に共通する物や人物が集う、もしくは集う様になっていた。

デュエル『キング』ジャック・アトラスのエースカードレッド・デーモンズ・ドラゴン、
トランプのクラブの『K』を模したカテゴリー『キング』のラウズカード、
更にルルーシュ達は知らないがここ売店の鍵が支給されたのは聖『王』の器ヴィヴィオ、
そして売店を開けたのが『王』の力ギアスを持つ元神聖ブリタニア帝国第17『皇』子ルルーシュ、

そしてもう1つ……実は『王』に関係する物が集っていたのだ。
そう、レイの最後の支給品がそれだったのだ。勿論、今現在も彼女のデイパックに眠っている……。

レイはこの場に来てすぐ自身のデイパックの中身を確認していた。そう、自身の支給品も確認済みだったのだ。
1つが銃であるSIG P220……今はスバルによって没収されている。
もう1つがデバイスであるオーバーフラッグ……今現在はフェイトが所持している。

そして最後の1つ……レイはこれを一目見ただけで外れ支給品と判断しすぐさまデイパックにしまい以後は全く開けていない。
その支給品はバッグ……その中は小さな寝室の様になっており中には眠っている人形があった。
レイとしてはいち早く十代を守らなければならない以上銃の様な武器が必要だった、その為その人形は使えないと思っていた。

だが違うのだ。それは支給品とはいえ人形でもなければ道具ではない。そう、なのはやスバル達の仲間なのだ。
レイが知らないのも無理はない。レイのいた異世界にははやても彼女の守護騎士も来ていなかったのだから……

それは夜天の『王』八神はやてが創った人格型ユニゾンデバイス、蒼天をゆく祝福の風リインフォースU……

彼女は今も主の身を案じて眠り続けている……
158名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 13:45:48 ID:ZSlLcvfx
支援
159王の財宝 〜祝福の風〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 13:48:17 ID:/eEtQwEf

【1日目 朝】
【現在地 G-7 デュエルアカデミア(売店前)】
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康、若干の憂鬱
【装備】レヴァンティン
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX
【思考】
 基本 かがみん、つかさ、フェイトに会いたい
 1.パソコンで何か調べられるかな?
 2.アーカード(名前は知らない)を警戒
 3.かがみん達は……友達だよ
 4.あのおばさん(プレシア)何考えてるんだろう……
【備考】
 ・参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
  なお、オタク知識については思い出してはいないものの消されているという事実には気が付きました。しかしそれをスバル達に話すつもりはありません。
 ・パラレルワールドの可能性に行き当たり、かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
 ・参加者達が異なる時間軸から呼び出されている可能性に気付いていません。
 ・ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
 ・この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。

【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反目のスバル】
【状況】左腕に裂傷、右腕欠損、疲労(大)、強い決意
【装備】洞爺湖@なの魂、ブリタニア軍特派のインカム@コードギアス 反目のスバル、スバルのはちまき
【道具】支給品一式、小タル爆弾×2@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、インテグラのライター@NANOSING、
    救急箱、医薬品一式、メス×3、医療用鋏、ガムテープ、紐、おにぎり×3、ペットボトルの水、火炎瓶×4、ラウズカード(クラブのK)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:守りたい者、守るべき者を全力で守り抜く
 1.パソコンのある場所に向かいスバル達と情報交換をする。
 2.スバルを守るために、たとえ汚れ役を買って出てでも、スバルにとって最善と判断した行動を取る
 3.ディエチやカレンの犠牲は、絶対に無駄してはならない
 4.皆は反対するだろうが、もしもの時は相手を殺すことも辞さない。それだけは譲れない
 5.ギアスの制限を確かめたい
 6.戦力の確保及びプレシアの関係者を探す
 7.何処かで首輪を手に入れておきたい。
 8.シャーリー、C.C.、クアットロ、チンクと合流したい
 9.ゲーム終了時にはプレシアに報復する
 10.レイ、左腕が刃の男(=ナイブズ)、赤いコートの男(=アーカード)、殺し合いに乗った頭の切れる参加者を警戒
【備考】
 ・ギアスに何らかの制限がかかっている可能性に気付きました。また、ギアスのオンオフは可能になっています。
 ・ギアスの発動には、左目の強烈な痛みと脱力感が伴います。
 ・プラント自立種にはギアスが効かないことが確認されました。
 ・ギアスを使った際の疲労は命令の強さに比例すると考えています、同時にギアスが効かない参加者が他にも考えています。
 ・シャーリーが父の死を聞いた直後から来ていることに気付いていません。しかし、並行世界から呼び出されている可能性があるとは考えています。
 ・ブリタニア軍特派のインカムはディエチからもらった物です。
 ・こなたの世界に関する情報を知りました。もっとも、この殺し合いにおいて有益と思われる情報はありません。
 ・「左腕が刃の男」が、既に死亡したナイブズであることに気付いていません。
 ・ここにいるスバルを、“本物のスバル・ナカジマ”であると認めました。
 ・放送を聞き逃しています。死亡者はこなたから聞き把握していますが禁止エリア及びご褒美の話は聞いていません。
 ・レッド・デーモンズ・ドラゴンは現状では使えない可能性が高いと考えています。
160王の財宝 〜祝福の風〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 13:54:36 ID:/eEtQwEf

【早乙女レイ@リリカル遊戯王GX】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式×2、『フリーズベント』@リリカル龍騎、『光の護封剣』@リリカル遊戯王GX、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、リインフォースU@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【思考】
 基本:十代を守る。
 1.パソコンのある所に案内して情報交換。ルルーシュ達に自分の事情をどう話すか……
 2.各施設を回りカードとデュエルディスクを手に入れる。できればチューナーを手に入れたい。
 3.ルルーシュは使えるかもしれない。今後の動向を伺う。
 4.殺し合いに乗っている者を殺害する。
 5.レッド・デーモンズ・ドラゴン……使えるかな?
 6.スバル達と方針が合わなかった場合は離脱。ただし、逃げられるかどうか……?
 7.フェイト(StS)、万丈目を強く警戒。
【備考】
 ・リリカル遊戯王GX10話から参戦です。
 ・フェイト(A's)が過去から来たフェイトだと思っています。
 ・フェイト(StS)、万丈目がデュエルゾンビになっていると思っています。また、そのことをスバル達にはまだ話していません。
 ・ここではカードはデュエルディスクなしで効果が発動すると知りました。
 ・デュエルデュスクを使えばカードの効果をより引き出せると思っています。
 ・カードとデュエルディスクは支給品以外にも各施設に置かれていて、それを巡って殺し合いが起こると考えています。
 ・デュエルアカデミアの3分の2を調べました、どの場所を調べたかについては次の書き手さんにお任せします。
 ・レッド・デーモンズ・ドラゴンが未来の世界のカードだと考えています。
 ・シンクロ召喚の方法がわかっていません、チューナーとチューナー以外のモンスターが必要という事は把握済みですがレベルの事はわかっていません。
 ・正しい召喚手順を踏まなければレッド・デーモンズ・ドラゴンを召喚出来ないかどうかは不明です。
 ・リインフォースUを只の人形だと思っています。
 ・リインフォースUの参戦時期及び制限は次の書き手にお任せします。
161名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 13:57:16 ID:ZSlLcvfx
sien
162王の財宝 〜祝福の風〜 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 14:03:23 ID:/eEtQwEf

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、若干の不安
【装備】レギオンのアサルトライフル(100/100)@アンリミテッド・エンドライン、バリアジャケット(はちまきなし)
【道具】支給品一式、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、SIG P220(9/9)@リリカル・パニック
【思考】
 基本 殺し合いを止める、できる限り相手を殺さない、ルルーシュを守る
 1.パソコンのある所に移動しルルーシュ、レイから話を聞く。
 2.ルルーシュに無茶はさせない、その為ならば……
 3.こなたを守る。こなたには絶対に戦闘をさせない
 4.アーカード(名前は知らない)を警戒、レイにも注意を払う
 5.六課のメンバーとの合流、かがみとつかさの保護、しかし自分やこなたの知る彼女達かどうかについては若干の疑問。
 6.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……
【備考】
 ・こなたが高校生である事を知りました。
 ・質量兵器を使うことに不安を抱いています。
 ・パラレルワールドの可能性に行き当たり、自分は知らない自分を知る者達がいる事に気が付き、
  同時に自分が知る自分の知らない者達がいる可能性に気が付きました。
 ・参加者達が異なる時間軸から呼び出されている可能性に気付いていません。
 ・この場にいる2人のなのは、フェイト、はやての内片方、もしくは両方は並行世界の19歳(sts)のなのは達だと思っています。
  9歳(A's)のなのは達がいる可能性には気付いていません。
 ・仲間(特にキャロやフェイト)がご褒美に乗って殺し合いにのる可能性に気が付きました。
 ・自分の存在が、ルルーシュを心を傷付けているのではないかと思っています。
 ・ルルーシュが自分を守る為に人殺しも辞さない、及び命を捨てるつもりである事に気付いていますが、それを止める事は出来ないと考えています。
  また、自分が死ねばルルーシュは殺し合いに乗ると思っています。
 
【チーム:黒の騎士団】
【共通思考】
 基本:このゲームから脱出する。
 1.ゲームから脱出するための手がかりを探す。
 2.それぞれの仲間と合流する。
【備考】
※それぞれが違う世界の出身であると気付きました。
※デュエルモンスターズのカードが武器として扱えることに気付きました。
163名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 14:05:46 ID:ZSlLcvfx
投下完了かな?
164名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 14:15:12 ID:ZSlLcvfx
こなたの記憶か…本人が思っているより重要なものに感じはするが。
投下乙でした。
165 ◆7pf62HiyTE :2009/01/07(水) 14:18:45 ID:/eEtQwEf
以上で投下完了致しました。3時間以上に渡る投下へのご支援本当にありがとうございました。
なお、分量計算の間違いがあった為レス数が1つ増えてしまいました。

さて最初に述べたとおり今回の容量は約78KBなので恐らくwiki収録の際には3分割する必要が出てくると思います。
その為、今回はこちらで前中後編を指定しておきます。

>>114>>124(つまりChapter.01〜02)が前編『王の財宝 〜天地鳴動の力〜』(約19KB)
>>127>>143(つまりChapter.03)が中編『王の財宝 〜カテゴリーK〜』(約30KB)
>>145>>162(つまりChapter.04〜06、状態表)が後編『王の財宝 〜祝福の風〜』(約29KB)

この区切りであれば上手く収まると思いますが……。

最後に今回のサブタイトルの元ネタです。

王の財宝→『Fate/stay night』のギルガメッシュの宝具王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)
天地鳴動の力→『遊戯王5D's』にてジャック・アトラスがレッド・デーモンズ・ドラゴンをシンクロ召喚する時の前口上『王者の鼓動、今ここに列を成す! 天地鳴動の力を見るがいい!』
カテゴリーK→『仮面ライダー剣』第34話『カテゴリーK』
祝福の風→蒼天をゆく祝福の風リインフォースU

おまけ……Chapterタイトルの元ネタ(01、03、06はサブタイの元ネタ参照)

恋する乙女→遊戯王DMGXTURN-20『恋する乙女は強いのよデッキ!』(早乙女レイの初登場回)
ゼロ セカンド→ギアスのサブタイトル風に
泉こなたの憂鬱→涼宮ハルヒの憂鬱
166名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/07(水) 21:46:09 ID:yBBrhD5q
投下乙です。
とりあえずリインwww早く起きるんだ!
四者四様の悩み具合がなんとも。
って、考えている事は全員別々なんだなあ。
視点の置きどころが個々によって異なるから当たり前って言えば当たり前か。
167 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/13(火) 23:37:26 ID:+wb9ninR
アンジール・ヒューレー投下します
幾多の苦難を乗り越えてアンジールはとうとう主催者のすぐそばまで辿り着く事ができた。
ここまで多くの勝利と犠牲を噛みしめながら必死に進んで来た。
それも全てはプレシアを倒すため、そして愛する妹達のためにもアンジールは今最終決戦に赴いた。

「チクショオオオオ! くらえナイブズ! 憤怒貪欲嫉妬傲慢の解放突進雷翼!」
「さあ来いアンジイイイル! 実は俺は一回斬られただけで死ぬぞオオ!」

最初の相手はマーダー四天王の一人プラント自立種のミリオンズ・ナイブズ。
ナイブズはその金髪を風に靡かせつつ左手のエンジェル・アームを発動させた。
その光はまさに破滅の光。

――ザン!

「グアアアア! こ、この『あの方』と呼ばれる四天王のナイブズが……こんな小僧に……バ……バカなアアアアアア」

――ドドドドド……

「グアアアア」

だがアンジールはその更に上をいき、ナイブズの末期の叫びが虚しく響く結果となった。
エンジェル・アームが発動するまでの僅かな間隙を縫ってナイブズの懐に接近すると同時に勝負は終わっていた。
幾度もの戦いを共に潜り抜けてきたバスターソードに斬れないものなど無かった。

一方その頃、この様子を見ていた残りの四天王『神』エネル、『不死王』アーカード、『英雄』セフィロスは――

「ヤハハハ、ナイブズがやられたようだな……」
「フフフ……奴は四天王の中でも最弱……」
「人間ごときに負けるとはマーダーの面汚しよ……」

――談笑していた。
そして、3人とも一様に思っていた――次は自分が戦う番だと。

「くらええええ!」

――ズサ!

「グアアアアアアア」

だがアンジールの追撃は予想を遥かに上回る早さで残りの四天王に襲いかかっていた。
アンジールがエネル、アーカード、セフィロスとすれ違って行くごとに死体が一つ増えていった。

「やった……ついに四天王を倒したぞ……これでプレシアのいる時の庭園の扉が開かれる!!」

そしてその様子をプレシアは抜け目なく把握していた。

「よく来たわねソードマスターアンジール……待っていたわよ……」

――ギイイイイイイ……

そして四天王を倒したアンジールの前にあった鉄製の扉が独りでにゆっくりと開き始めた。
少しの時間をかけてその扉が開き切った時、アンジールは驚愕した。
なぜなら目の前の玉座には探し求めていた人物、デスゲームの主催者であるプレシア・テスタロッサが坐していたのだから。
そう、ここがプレシアの本拠地だったのだ。

「こ……ここが時の庭園だったのか……! 感じる……プレシアの魔力を……」
「アンジールよ……戦う前に一つ言っておく事がある。あなたは私を倒すのに『ジュエルシード』が必要だと思っているようだが……別になくても倒せる」
「な、なんだって!?」
「そして他の参加者達はどうでもよくなってきたので元の世界へ解放しておいた。あとは私を倒すだけね、クックック……」

明かされた驚天動地の事実にアンジールは束の間言葉を失った。
だがすぐにその目に不敵な笑みを浮かべている事にプレシアは気付かされた。
もうアンジールに後顧の憂いは存在しなかった。

――ゴゴゴゴ……

「フ……上等だ……俺も一つ言っておく事がある。この俺に約束を交わした元ストライカーの騎士がいるような気がしていたが別にそんな事はなかったぜ!」
「そうか」
「ウオオオいくぞオオオ!」
「さあ来なさいアンジール!」

アンジールはバスターソードを構え、一足飛びでプレシアとの距離を詰めた。
この剣に込めた皆の夢と誇りの重みを卑劣な魔導師プレシアに知らしめるために。
いままさに決着の時――

アンジールの夢と誇りが世界を救うと信じて……!


     ▼     ▼     ▼


いくつものビルが密集して立ち並ぶデスゲームの会場、その中心に位置するFのラインと5のラインが交差する区域。
鋼鉄の森のようなビル街の中に聳え立つ一つのビル、その地上5階程度の高さに位置する最上階。
閑散とした最上階に設けられた一室、その部屋の中に一人の人物がいた。
黒髪のオールバックに青い光を放つ瞳を併せ持った厳つい顔立ち、筋骨隆々とした体格をした戦士。
元ソルジャー・クラス1stアンジール・ヒューレー。

「……少し寝ていたのか」

実のところアンジールはほんの少し前までは重傷を負っていた。
それが短時間でここまで回復した理由はひとえに仙豆のおかげである。
高い回復効果のある仙豆を食する事でアンジールの疲労と負傷はたちまち完治したのだった。
ただし仙豆を手にした時には身体が限界まできていたので、そのまま気が緩んだのか眠りに就く結果となったが。
幸い眠っている間に襲われる事はなかったが、危ない状況だったと自分の行動を振り返りつつ立ち上がる。
夢の内容はほとんど覚えていないが、それでも最後にプレシアが出てきたような気がする。

「それにしても、プレシアか」

アンジールは朧気になりつつある夢を気にしながらふと思った――このままでいいのかと。

確かに残りの妹クアットロとチンクを守り抜くために他の参加者を皆殺しにする事、それはそれで一つの結論である。
だが目的を達成して首尾よくここから脱出できたとして、果たしてそれで終わりになるのだろうか。
突き詰めて考えてみればプレシアがいなくならない限り、またこのようなデスゲームに参加させられる可能性は0ではない。
つまりはプレシアが死なない限り真に妹達を守り抜いた事にならないのではないか。

ではプレシアのいる所へ辿り着くにはどうすればいいか。
おそらくそれを成し遂げるには自分や妹達、最大限譲歩してゼストとルーテシアを加えても難しいだろう。
相手はプレシア、最初に全員を拘束するだけのバインドをかける程の魔導師だ。
5人だけで立ち向かっても勝てる可能性は限りなく低い。

(だからと言って他の参加者の力を借りるのか……!?)

確かにそうすれば成功する可能率は上がるだろう。
だがそれは同時に裏切られて全滅という可能性も多分に含んでいる。
それでは本末転倒だ。

(……今は考えないでおこう)

アンジールはそこでこの問題について考える事を止めた。
今は先の分からない事で悩むよりも妹達を守り抜く事が先決だとしたからだ。
対策を考える事は探しながらでもできる、それに支給品を上手く使えば勝機はあるとも言える。
一人で考え込んで悲観的になるよりも今は早く行動するべきだ。

「ん? あれは……」

ここを出ようと思って一応念のため部屋を見渡していたアンジールの目にある物が映った。
それはアンジールが殺した八神はやてのデイパックだった。
セフィロスははやての死体を抱えて出て行ったが、その時に力が抜けたはやての手からデイパックが落ちた事には気付かなかった。
それほどまでに心を乱していたという表れだが、その事をアンジールが知るはずがない。
だが理由は不明でも目の前のデイパックを見過ごす気はなかった。
この中に入っている物を使えばチンクやクアットロを守る役に立つかもしれないという考えから中身を調べたが、結果は空振りだった。
そこに入っていたのは自分にも支給されていたもので特別なものは何一つなかった。

「だが投擲ぐらいに使えるか」

一応役に立つ物がなくてもデイパック自体は投げれば牽制程度には使える。
どういう訳かデイパックの容量は外見と釣り合っていない。
理由は考えても仕方ないので気にせずはやてのデイパックを自分のデイパックの中に収納した。
そしてもう一度部屋の中を確認して何もないと分かると、アンジールは急ぎ足で階段を降りていった。

「まずはチンク、次にクアットロと合流したいが……どこにいるんだ」

1階に降り立って支給された時計を見てみればデスゲーム開始から早8時間以上は経過している。
運良くここに至るまでにクアットロとは再会できたが、それでも襲われている最中だった。
そしてチンクとは未だに再開すら出来ていない。
放送で名前を呼ばれていない事から無事である事は分かったが、今どこでどんな事になっているのかは全く分からなかった。
せめて僅かな手掛かりでも見つけられないのか。
そうと思って一度周囲の様子を窺うために自動ドアの方に目を向けた時だった。

目の前の道路上に青い物体がふわふわと浮いていた。
そして、その物体にアンジールは見覚えがあった。

「あれは、ガジェットドローン!?」

正面に黄色いセンサーを持つ青い楕円形のカプセルタイプの機械兵器――それは紛れもなくガジェットドローン。
狂気の科学者ジェイル・スカリエッティが『無限の欲望』の赴くままに開発した作品の一つ、そのT型と呼ばれる機体だった。
そして数時間前にチンクがスカリエッティのアジトから伝言を運ぶ役割を与えて放った2機の内の1機であった。
チンクがガジェットに与えた命令は「1.市街地に向かい、通路状を周回する/2.戦闘機人を見つけた場合、接近して目前で一時停止、後に1に戻る/3.生命体を見つけた場合、接近して体当たりして自爆(ランブルデトネイター)する」であった。
アンジールは厳密にいえば戦闘機人ではないが、その身体に戦闘機人の技術が使われている。
ガジェットは戦闘機人の技術が確認できるアンジールを戦闘機人として認めたからこそ接近したのだ。

アンジールもスカリエッティ一味に身を置く者としてガジェットの存在は知っている。
なぜガジェットがここにいるという疑問を抱いていると、件のガジェットはゆっくりとビルの中へと入って来た。
ガジェットは自動ドアを通過してアンジールとの距離を徐々に縮めていき、そしてアンジールの目の前の空中で停止した。
そこでアンジールはそのガジェットに通常とは違う部分がある事に気付いた。
装甲の表面に何か文字が書き連ねているのだ。
そこに書かれていた文字は多少薄れていたが判別する事は可能だった。

――『朝までに病院へ集合。生きて会おう姉と妹よ by 5姉』

そこにはアンジールが探しているナンバーズの一人、5番目の妹チンクのメッセージが託されていた。

「これは――!? 今は……これならまだ朝の範疇か、間に合え!」

アンジールはその言葉の意味を理解すると同時にビルを飛び出していた。
探し求めていたチンクの手がかりが思わぬ場所で手に入ったからだ。
しかも文面通りなら朝の時点で病院にはチンクがいる事になり、今から行けばまだ会える可能性は高い。
近くに見える巨大なビルからアンジールは今いる場所が地上本部かスマートブレイン本社ビルの付近と予測は付けていた。
どちらであろうと病院との位置関係にさほど違いはない。
アンジールは行き先を決めると急いで南の方角へと向かった。
その際、一瞬悩んだがガジェットも一緒に連れていく事にした。
これを見てチンクのいる病院に危険人物が向かう事を恐れたからだ。

(それにしても「姉と妹」の文字はあって俺を指す「兄」の文字がなかったのは――そうか、チンクもクアットロと同様の状態か)

アンジールはチンクが自分の事に触れなかった理由をクアットロが説明してくれたプレシアによる記憶操作だと結論付けた。
だがアンジールはその事について心配はなかった。
クアットロの記憶を戻したという前例が自信となっているからだ。

アンジールは知らない。
クアットロの説明が嘘だという事も、チンクがアンジールとは別の世界から来た事も。
だがアンジールは信じていた。
自分の行動が妹達を救うと。


【1日目 午前】
【現在地 F-5】
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】健康、セフィロスへの殺意
【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、アイボリー(6/10)@Devil never strikers
【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:妹達(クアットロ、チンク)を守る。
 1.妹達以外の全てを殺す(特にセフィロスは最優先)。
 2.チンクを保護するためにも、病院を目指す。
 3.ヴァッシュ、アンデルセンには必ず借りを返す。
 4.いざという時は協力するしかないのか……?
【備考】
 ※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
 ※制限に気が付きました。
 ※ヴァッシュ達に騙されたと思っています。
173 ◆HlLdWe.oBM :2009/01/13(火) 23:46:41 ID:+wb9ninR
投下終了しました。
誤字・脱字、疑問や矛盾がありましたら指摘して下さい。
174名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/15(木) 18:51:21 ID:xLFFppP3
投下乙です。
初っ端まさかのソードマスターネタに吹いたwww
病院に向かったが、果たして……



某企画用メモ
11/16-1/15までの投下数24話/生存者44/60(前期比:-3)/生存率73.3(前期比:-5)
間違っていたらすまん
175 ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 12:38:50 ID:kpf/LqMN
クアットロ、キャロ・ル・ルシエ分投下します。
176エリオ君がみてる ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 12:40:30 ID:kpf/LqMN



『6000万ボルト、雷龍《ジャムブウル》』

参加者の1人である神・エネルが放った龍の形をした雷によりビルは崩壊し、その余波によりE-6が火の海と化した。
幸か不幸かその時点でE-6にいた参加者はエネル以外には彼と戦っていた相川始だけだった為、犠牲者は誰もいなかった。
さて、エリア1つを崩壊させる程の雷そして火事である。当然、周辺エリアにも確認する事が出来る可能性は高い。

事実として、F-7にて殺生丸とミリオンズ・ナイブズの激闘の跡地に向かったギンガ・ナカジマがそれを確認している。
さらにギンガは一度エネルと遭遇していた事もありその雷がエネルによるものだとすぐにわかった。
その後彼女は問題のE-6に向かい戦闘は終了しているものの未だ火の海だったそこで生存者を捜索した。そして負傷して気絶している始を救出した。

さて、この時のギンガは知らなかったが実は始とギンガは一度出会っている。
それはギンガ、インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲート・ヘルシング、キャロ・ル・ルシエの3人がエネルからの襲撃から逃げる時のことだ、始は彼女達を襲ったのだ。
それによりギンガとインテグラはキャロとはぐれるという結果となったのだ。
幸運な事にギンガとインテグラは無事に目的地だったHELLSING本部にたどり着き、キャロも何とか死なずには済んだ。

何はともあれギンガは始を背負いインテグラの待つHELLSING本部へと戻っていったわけだが、その後の彼女達の話はここでは語らない。

話を戻そう。先程も述べた通りE-6の雷と火災は相当なものだ。もう一度言うが周囲エリアにいる者ならば確認出来る可能性が高い。
そう、このE-6の火災を確認している参加者が少なくても後2人はいたのだ。
177エリオ君がみてる ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 12:42:10 ID:kpf/LqMN







「あの雷……」

D-7にいたキャロは南西方向に落ちる雷を見ていた。キャロはギンガとインテグラと共に駅の詰所に居た時に襲った男が同じ様な技を使っていたのを覚えていた為、彼によるものだとすぐにわかった。
キャロはその時混乱していた為気付いていなかったが矢車想が命を懸けたお陰で3人はエネルから逃げる事には何とか成功したが、その直後に漆黒の鎧を付けた人物……キャロは知らないが始の襲撃に遭いギンガ達とはぐれてしまったのだ。
しかし、キャロは気づいていないもののある理由により何とか始によって命を奪われずに済んだ。

さて、その雷がエネルによるものだとわかったならばどうするだろうか?
雷が落ちた場所E-6が危険地帯であるのは言うまでもないし、キャロはエネルの脅威を知っているのだ。普通に考えればその方向には向かわないだろう。

だが、キャロはE-6へと足を向けていた。

「大丈夫……あの人も私が……」

そう、キャロはエネルを殺すつもりでE-6へ向かうのだ。勿論、エネルと遭遇する可能性は高いだろうが、その反面行き違いになる可能性もあるだろう。
だが、キャロとしてはそれでも構わないと考えていた、何故か?

エネルの攻撃があったという事はその場には他に参加者がいる可能性が非常に高い。エネルと戦っていた相手もしくはエネルから逃げまどう参加者といった人物だ。
つまりキャロの目的はそういった人達を殺す事でもあったのだ。

「エリオ君……」

本来キャロは心優しい少女で殺し合いに乗る様な性格ではない。だが、今の彼女はある理由の為に参加者を全て殺そうとしているのだ。
何が彼女をそうさせてしまったのだろうか?結論から言えば種々様々な理由が重なったからである。

1つ目の理由としては始の襲撃から逃げる際にギンガから捨て石にされたという状況があったからだ。
勿論キャロ自身は心の何処かでそんな事はないと信じてはいたし、実際ギンガとしても捨て石にするつもりは全く無くあれは不幸な偶然でしかなかった。
だが、結果としては捨て石という状況になってしまった事に変わりはない。そしてそれがキャロの精神に幾らかの影響を及ぼした可能性は高い。
事実としてキングに自身の仲間を話す時に最後までギンガの名前が出なかった事からもそれは明らかだろう。
もし、その状況が無ければもう少し違う結果になっていた可能性はあったかもしれない……。
だが、この理由は些細なものであろう。むしろ決定的な理由は次以降だ。

2つ目の理由はキャロにとって大切なパートナーと言うべきエリオ・モンディアルの死である。
キャロにとってエリオは単純な機動六課の仲間というだけではない。
キャロと同様にフェイトに保護された同年代の少年で多くの戦いを共に潜り抜け今ではフェイトと同じぐらいの大切な存在となった彼の死がキャロの心に大きな空洞を空けてしまったのだ。

3つ目の理由は放送で伝えられた優勝者には願いを叶えるという話だ。最初に殺されたアリサ・バニングスの復活実演を行う事で人を生き返らせる願いでも良いと説明した上でだ。
例えば既に死亡しているエリオを生き返らせる事でも……。
178エリオ君がみてる ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 12:43:36 ID:kpf/LqMN

4つ目の理由はキングがエリオの死と優勝者へのご褒美の話を利用してキャロを追いつめた事だ。
キングの目的は殺し合いで優勝する事でも、主催者を打ち倒す事でもない。
この殺し合いを含めた全てを滅茶苦茶に破壊する事なのだ。既に家族とも言うべき強い絆に結ばれた八神はやてとヴィータを戦わせる様に仕向け、はやてに自分以外の全てを利用させる様にし向けさせている。
そして、キャロと別れた後も遭遇したシャーリー・フェネットやヴィヴィオの心を壊そうと目論んでいる。
キングの手元には『CROSS-NANOHA』と呼ばれる参加者の足跡が物語という形で綴られたサイトへのリンクがある携帯電話がある。キングはそれを使いシャーリー達の精神を破壊するだろう。
だが、キングは気づいていない。それこそが主催者の目論みである事も……そう、キングは結果として殺し合いを壊すどころかむしろ殺し合いを促進させてしまっているのだ。完全に道化である。
閑話休題、この時のキャロはエリオの死やご褒美の話があってもまだ殺し合いには乗ってはいなかった。
しかしキングは自らの真の姿とも言うべきコーカサスビートルアンデッドとも呼ばれる怪物アンデッドの姿を晒し剣を向けた。
そしてキャロを死の恐怖に晒す事でその精神を壊そうと迫ったのだ。

5つ目の理由……それはキャロに支給されていた巫器(アバター)憑神鎌(スケィス)だろう。
巫器は通常のデバイスとは違いロストロギアによって構成されたデバイスである。通常は強固なプログラムにより一切使用する事が出来ない。
しかし、持ち主が心に大きな欠損を抱え、それによる強い意志を発揮する事でプログラムは解除され強力な力を発揮する。
巫器の力がどれだけ強大なのか……この場に置いて、八神はやて(キングが遭遇したはやてとは別人)がシグナムの死によって巫器憑神刀(マハ)を起動させた際にF-3のエリアを崩壊させた。
はやての魔力が強大だった事も理由に挙げられるが、巫器の力が強大でなければそこまでの力は発揮出来ない事は確かで、巫器の力を裏付けるものである事に変わりはない。
事実としてギンガに捨て石にされたキャロの心の空虚が憑神鎌を起動しかけた事があった。空虚が足りなかった故、起動とはいかなかったもののその力の危険性に気が付いた始に撤退を選択させた事からもそれは明らかだろう。
だが、ここで重要なのは巫器が持つ強大な力そのものではない。心に欠損を抱えた者が強い意志を発揮する事が重要なのだ。
キングに追いつめられた際、ついにキャロは憑神鎌を起動させた。勿論、キャロが抱えた心の欠損はエリオなのは言うまでもない。
しかし、最も重要な話はここからだ。巫器の発動には強い意志を発揮する事が必要である。はやてが憑神刀を発動させた時は戦いを止める事を願った。その意志に応え憑神刀はその強大な力を発揮し確かにその場での戦いは止まった。
では、キャロはどのような意志で憑神鎌を発動させたのだろう?無論エリオを生き返らせる為に全ての参加者を皆殺しにするというものである。
キングとしてはキャロの精神を壊し殺し合いに乗せる事が目的だったのでそれについては狙い通りであった。
だが、キングが追いつめた程度では発動しなかった可能性がある。例え自身に死が迫ろうともエリオを生き返らせる為に他の人を殺す事については迷いがあったからだ。それでは憑神鎌を完全に起動させる事は出来ない。
そう、その迷いを断ち切りキャロの後押しをした人物がいたのだ。その人物こそがエリオである。
キングに追いつめられた際、キャロはエリオの姿を見たのだ。そしてエリオはキャロに言ったのだ。

『……キャロのやりたいようにすればいい。大切なのは自分の意志だし、それを無理やり抑え込むのはよくない。
 フェイトさんだってそう言うだろうし……僕も……そう、思う』
『僕と違って、キャロにはまだ時間があるんだ。そうやって後悔するくらいなら、最初から自分の意志を貫き通してみなよ』
『行きなよ、キャロの行きたい方へ』
『僕はここにいるから』
179エリオ君がみてる ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 12:45:00 ID:kpf/LqMN

エリオの言葉によりキャロの心は決まったのだ。エリオを生き返らせる為に参加者を皆殺しにすると……それに応え憑神鎌は起動した。

ところで、少し考えてみて欲しいが幾ら大切なのはキャロの意志だとはいえキャロに人殺しをさせる事をエリオが望むだろうか?
既に死亡したエリオだって参加者を守る為に戦っていたはずだ、殺し合いで人が死ぬのを望むはずがない。
では何故、エリオはキャロの前に姿を現しエリオを生き返らせる為に皆殺しにするのを後押ししたのだろうか?
勿論、キャロ自身にとって都合の良い妄想のエリオが現れただけという可能性はあるだろう。だが、キャロ自身もあの時のエリオには若干の違和感を覚えていた。
つまり、別の可能性も考えられるのだ。そう、キャロの妄想以外の所からエリオが現れる要素があるという可能性が……

推測でしか無い話だが仮にキャロの手元に憑神鎌が無ければエリオが後押しをしなかった可能性は高いだろう。憑神鎌ではなく憑神刀がキャロの手元にあったとしても……。

そもそも憑神鎌は何処から持ってこられ、同時に本来は誰が持っていたものなのだろうか?キャロ達がいた世界に巫器というものは存在していなかった。つまりキャロは気づいていないが別の世界のものといえる。
巫器が存在する世界はキャロ達のいる世界から見て並行世界ともいうべき世界だ。巫器の有無等幾つかの違いはあるものの根本的な部分は変わらない。
その世界にもキャロは存在するしスバル・ナカジマやティアナ・ランスターもいるし、勿論エリオやフェイトだっている。
だが、先程も述べた通り幾つかの状況が異なっている。特にエリオとフェイトを中心としてだ。
キャロと同じ世界にいるエリオは元々研究施設にいたのをフェイトが保護していた。
対しその世界のエリオは別の人物によって助け出されている。フェイトとははエリオが自分の意志で管理局に入った時からの関係である。
更にその世界のエリオは他の世界のエリオよりも若干人間不信の度合いが強かった、何しろエリオを助け出した人物もエリオの元から去っていったことがあったのだから……。
とはいえ、紆余曲折はあったもののフェイトとは他の世界同様良好な関係を築いてはいた。
そんなある日、その世界のフェイトが何者かに襲われ意識不明となった。
そしてエリオはフェイトを助け出す為に機動六課へと入りフェイトを襲った相手との戦いに身を投じたのである。フェイトを助け出す為に、全てを取り戻す為に……。
その目的に対するエリオの意志は非常に強いものだった。それは他の世界のエリオの比ではない……
キャロのいる世界を含めた他の並行世界において模擬戦で無茶をしたのはティアナだったが、その世界において模擬戦で無茶をしたのはエリオだったことからもそれは明らかだろう。
ちなみにその模擬戦がきっかけであまり他人に心を開かなかったその世界のエリオはキャロ達との絆を深めていった。

さて、ここまでくれば最早おわかりだろう。その世界において憑神鎌を持っていたのはエリオだ。
エリオはフェイトを失った心の空虚からフェイトを助け全てを取り戻すという強靱な意志を持って憑神鎌を起動させたのだ。
そして、その強大な力をいち早く使いこなす為エリオは模擬戦でも無茶をしたのだ。

つまり、憑神鎌の本来の持ち主であったエリオならばキャロの意志……エリオを取り戻す事を肯定する事も何ら不思議は無いということだ。
同時に憑神鎌にその世界のエリオの意志が宿っていたのもあり得ない話では無いだろう。もっとも、手にしたのがキャロ以外の人間だった場合はエリオは現れなかっただろうが。
そして憑神鎌ではなければ駄目だというのも当然であろう。憑神鎌以外の物にその世界のエリオの意志が宿っているわけがないのだから……。

1つ1つの理由だけではキャロに殺し合いをさせるだけの決定的な理由にはなり得ない。だが、それらの要因が重なる事でキャロは殺し合いに乗る事を決意したのだ。
今のキャロを止める事は誰にも出来ないだろう。今現在唯一生き残っているフォワードのスバルであっても、他の仲間達であってもだ。生半可な説得ではキャロの持つ強大な意志を変える事はまず無理だからだ。
恐らくキャロを止める事が出来るのはキャロを保護したフェイトだけだろう。だがそれも最早不可能である。何故なら既にフェイトも死亡しているからだ。
なお、この場にはもう1人フェイトはいるが、彼女は10歳の少女であり当然キャロの事など知る筈がないし、キャロもそのフェイトをフェイトと思うわけがない、当然説得など無理であろう。
180エリオ君がみてる ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 12:46:36 ID:kpf/LqMN

かくしてキャロは戦いの跡地とも言うべきE-6に辿り着く。
戦いは終わり雷も止んでいるというのにその場所は今も炎に包まれていた。キャロはその中を歩き周り参加者を探す。

「誰もいないね……」

1時間程参加者を捜したが誰1人見つける事は出来なかった。
エネルとは丁度行き違いになった為遭遇することはなかったし、負傷して気絶している始はギンガによって助け出され、ギンガは始を助け出した後早々にE-6を離れHELLSING本部に戻った為キャロと遭遇する事は無かったのだ。
ひとえに遭遇する事が無かったのは偶然というのもあるだろうが、キャロの方がギンガに比べて消耗が激しかったというのもあるだろう。
何はともあれ、キャロは誰とも遭遇する事は無かった。残酷な事だがこれがギンガにとっては幸運であった事は言うまでもない。
恐らくあの場でキャロとギンガが遭遇したなら確実に戦いとなり3人の誰かが犠牲になった可能性は高いからだ。

だが、キャロにとっては不幸である。エリオを生き返らせる為には他の参加者を殺さなければならないのだから……。
嘆いていても何かが変わるわけではない。キャロは気を取り直し次の目的地を定める。

「地上本部……あそこだったら……」

キャロが目的地に定めたのは西のE-5にある地上本部だ。殺し合いを止める目的を持った機動六課の仲間達が集まっている可能性が高いと考えたからだ。
そこにいる参加者達を皆殺しにしようとキャロは考えたのだ。
戦う事については全く不安も恐れもない、何故なら……

「エリオ君、見守っていてね」

キャロにはエリオがいるからだ。
キャロは憑神鎌を一舐めし地上本部へと向かっていった。そこにいる参加者を殺す為に……

【1日目 午前】
【現在地 E-6】

【キャロ・ル・ルシエ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(中)、脇腹に切り傷・左太腿に貫通傷(応急処置済み)、歪んだ決意
【装備】憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning
【道具】支給品一式×2、『かいふく』のマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、葉巻のケース
【思考】
 基本:エリオを蘇らせるため、この殺し合いに優勝する。
 1.地上本部へと向かい、敵を探す。
 2.相手が機動六課の仲間であろうとも容赦はしない(ただし、フェイトが相手の場合は微妙なところ)
 3.次にキングと会った時は、絶対に逃がさない。
[備考]
 ※別の世界からきている仲間がいる事に気付いていません。
 ※憑神鎌(スケィス)のプロテクトは外れました。
 ※自分の決断が正しいと信じて疑っていません。
181クアットロデラックス! ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 12:48:23 ID:kpf/LqMN







「酷い有様ですわねぇ」

E-5にある地上本部から数メートル上方にてクアットロが東方向のE-6の惨状を見ていた。
クアットロはシャマル、遊城十代と共に地上本部に到着し、最上階の方をシャマルと十代、地下の方をクアットロとに分かれて内部の探索をしていた。
なお、別行動を取ったのには単独で調べる事によりそこで手に入る情報を独占するという理由があった。
だが、地下を調べていたはずのクアットロが何故外に出てE-6の方を見ていたのだろうか?ここで話は少し遡る。







「見つかりませんわねぇ……こんなに広いんですから何かあってもいいはずですのに……」

クアットロは地下を調べていたが使えそうな道具や情報は何一つ見つからなかった。

「もしかしたらもう誰かが調べちゃったのかも知れませんわねぇ……考えてもみたら同じ事考える人がいたっておかしくないですし……」

確かに殺し合いが始まってから既に6時間以上、それも舞台の中心に位置する地上本部。既に誰かがこの場所を調べていても不思議はないし、内部の物を誰かが独占している可能性は多分にあった。
そしてクアットロの推測は一応当たっている。地下は(キングの言葉もあって)はやてが既に探索済みであった。もっとも、はやて自身もキングの事を気にしていたが為に見落としてしまったものがここにはあった。

「あんまり時間も無駄にはできませんし……見切りでもつけた方が良さそうですわねぇ……」

そしてクアットロもそれを見つける事は出来なかった。それは地球製のパソコンである。無論、パソコンの中には何かしらの情報が眠っている可能性が高いはずであった。
それでなくてもこの時間と前後してある人物からのメールが受信されるはずだったので、見つける事が出来れば確かに情報を手に入れる事は出来ただろう。
だが、クアットロは気づかない。何故ならクアットロは地球製のパソコンを知らないからだ、シャマルか十代がこの場にいれば見つけられる可能性が高かっただろうが2人はこの場にはいない。

その最中、今も雷が鳴り響いていた。

「さっきからずっと鳴っていますわねぇ……雷……」

実の所、3人が別行動を取る前辺りから雷は鳴り響いていた。もっとも、その時はさして大きな音では無かったし放送等の事があった為さして気にしてはいなかったが。

「雨でも降るのかしらねぇ……でも雨が降ったら参加者は引き籠もってしまって殺し合いが止まってしまいますわねぇ……」

と、雨が降る事で殺し合いが止まる事を心配したクアットロではあったが、

「ちょっと待ってもらえます?雨?雲?……そんなものありましたっけ?」

クアットロはある事に気が付き記憶の糸をたぐり寄せる。少なくとも地上本部に来る前の時点では空には雲は何一つなかった筈である。

「妙ですわねぇ……」

その事に気が付いたクアットロは何も見つからないであろう地下の探索を早々に切り上げ外の様子を見に行ったのである。
そして、東方向で煙が上がっているのを確認したクアットロは飛行能力を使い地上本部より数メートル上まで上ってE-6の様子を確かめたのである。
なお、他の参加者に発見されないようにする為、ISであるシルバーカーテンを使って自分の身を隠している。
その為、今現在クアットロは制服姿で下着を付けていないが仮に下から見られても中を見られるという心配は全く無い(クアットロはその事を全く考えていないが)。
ちなみにこの現場をシャマルと十代に見つかったとしても外の雷が気になったと言えば済む話なので問題はない(そもそも嘘では無い。)。
182クアットロデラックス! ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 12:50:04 ID:kpf/LqMN







話は現在に戻る。クアットロが確認する頃には雷は収まりE-6の方は火事となっていた。そして相も変わらず空には雲は無い。

「間違いありませんわねぇ……あの雷は参加者の誰かによるもの……でもそうなると厄介ですわねぇ」

クアットロは雷が他の参加者によるものだと考えた。だが、それが事実だとしたらエリア1つを壊滅させる程の力を持った参加者がいる事を意味している。

「手駒に出来ればこの上ない程心強いはずですけれども……あまりにもリスクが大きすぎますわねぇ……」

そう、手駒に出来るならばクアットロの目的にとって非常に使える。だが、もし失敗した場合はほぼ確実に死が訪れる。

「あんな事が出来る人には心当たりはありませんから……その人も別の並行世界から連れて来られたんでしょうねぇ……まぁ今は下手に接触しない方が良さそうですわね」

ひとまず、雷の主(エネル)との接触は避けるつもりでクアットロは考えていた。

「とりあえず他に妙な様子はなさそうで……ん?」

と、北方向から何かが地上本部に近づいてくるのが見えた。

「あれは……ドクターの玩具?」

それはクアットロにとって見覚えのある物、ジェイル・スカリエッティが開発したガジェットドローンT型であった。

「誰かに支給されたのかしら?」

クアットロは地上に降りて接近するガジェットに接触を試みる。勿論、何者かが攻撃を仕掛ける可能性があった為、シルバーカーテンは解除せず田中ソードを構えたままである。
そして、ガジェットに対して身構えるクアットロだったが……ガジェットはクアットロの眼前に来ると動きを止めた。

(隠れているのに察知された?)

警戒を強めるクアットロだったが、クアットロの予想とは反する行動をガジェットは行った。

「これは……ああ、そういうこと」
183クアットロデラックス! ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 12:51:39 ID:kpf/LqMN







クアットロは地上本部に戻る。シャマルと十代との待ち合わせにはまだ時間があった。とはいえ、地下の探索をするつもりはもうない。クアットロは医務室の方へ向かう。

「気休めかもしれませんけど、医薬品を確保した方が良いかも知れませんわねぇ」

クアットロの目的は医務室にあるであろう医薬品である。それを手に入れれば治療には使えるわけだが戦闘機人であるクアットロにはそれは必要ない。
だからといって十代等といった他の参加者を助ける為という理由でもない。

「ここで医薬品を確保しておけば、他の参加者が薬不足で困る事になりますし、同時に私がこれを使って他の参加者に恩を売ることだって出来ますわねぇ」

そう、クアットロの目的は他の参加者の治療を封じる事である。さらに治療が必要な参加者と遭遇した時には自分がそれを使って行う事で信頼関係を築くという狙いもある。

ディエチとルルーシュ・ランペルージが医薬品確保とそれを目的とした参加者を一掃する為に病院に向かう際、ディエチは同士討ちを狙う事を優先するだろうからクアットロは同じ事を考えないだろうと考えていた。
勿論、クアットロもそこまでは考えないし、そもそも医薬品を確保するという発想も当初は無かった。
だが、過酷な殺し合いの現実、情報や道具の乏しさを考えるとそうも言っていられないと考えたクアットロは知恵を絞り医薬品を確保するという考えに至ったのである。

さて、医務室に辿り着いたクアットロは医薬品を探すが、

「既に誰かが持ち出した様ですわねぇ……」

医薬品ははやてが治療するついでに持ち出した為に無かった。

「まぁ予想は出来た事ですけど。となるともうここには何も無いと考えた方が良さそうですわね」

クアットロは既に地上本部は他の参加者が探索済みで、使える物は持ち出されていると考え、これ以上地上本部を調べる事に意味は無いと結論付けた。

「少し早いですけど待ち合わせの場所にでも戻った方が良さそうですわね」







エレベーター前にクアットロがいる。現在、クアットロは外していた眼鏡を再び付けている。
さて、今現在クアットロが着ている服はいつものナンバーズスーツではなくシャマルの支給品にあった高良みゆきの制服である。
クアットロはその人物が誰かは知らないが、みゆきは参加者である泉こなた、柊かがみ、柊つかさの友人で眼鏡をかけておりスタイルも良く物知りな少女である。
偶然ではあるが今現在制服を着ているクアットロも眼鏡をかけており、スタイルも良く、頭も良い。もっともその性格は全く違うわけではあるが。

閑話休題、クアットロが眼鏡を外し服を変えていたのは自身の正体を即座に悟らせるのを避ける為である。では今何故眼鏡を再び付けているのか?それは落ち着いて考え事をする為である。
クアットロは地上本部での情報や道具の収集を切り上げ、これまでの情報をまとめようと考えたのである。今ある情報を洗い直すだけでも何かしら新しい何かが見える可能性も出てくるからだ。
更に新たに何か情報を掴めたならば、今後の方針にも何かしらの影響が出てくるというのもある。

「まずは……制限ですわねぇ……」

最初に考えるのは制限である。この場において参加者に制限がかけられている事は前々からある程度は感じていたし、それについてはシャマルや十代とも既に話していた。
だが、実際に飛行やシルバーカーテンを使った事は先程外を調べる時までは無かった為、制限の度合いまでは把握していなかった。
しかし、いざという時に制限があった為に十分に使う事が出来ないでは困る。そこで先程外の様子を見る時に実験として使ったのである。そう、外を調べたのにはその目的もあったのだ。
184クアットロデラックス! ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 13:06:06 ID:kpf/LqMN

「とりあえず使う分には全く問題は無さそうですけどねぇ……」

使用する事が可能なのは先程の事でわかってはいる。だが、同時に何時もよりも調子が悪い事も感じたのだ。勿論、気のせいではないわけだが決定的な事があった。
それは先程のガジェットがシルバーカーテンで見えないはずのクアットロを確認出来た事である。
シルバーカーテンは人の視覚だけを惑わすものではない。レーダーや電子機器までも惑わす事が出来る能力を持っている。
勿論、その気になれば見破る事が出来る可能性はあるだろうがそれが容易な事ではないのは間違いない。
つまり、本来であればガジェットがクアットロを確認する可能性は低いはずだったのだ。
にも関わらず確認出来たとということは……

「シルバーカーテンも弱体化しているみたいですわねぇ……」

飛行とシルバーカーテンといった能力に制限がかけられている事を意味している。なお、後ほど鏡に写した上でもう一度シルバーカーテンを使い、姿を消す事が出来る事は再確認している。

「まあ、制限をかけるのもわからないではありませんけど」

もし、シルバーカーテンに何の制限もかけられていなければどうなるだろうか?姿を消して無力な参加者を人知れず殺し放題となる。
勿論、人が苦しむ姿を見て楽しむクアットロがそういう事をするつもりは全くないが、そういった能力を持った参加者が他にいないとも限らない。
その手の能力を制限する事は全く不思議な事ではないのだ。

「制限をかけたり、デバイスとかを没収した理由は……誰でも殺し合いに勝てる様にする為でしょうけど……」

制限の理由は考えるまでもなく、プレシアが最初に言った通り、誰にでも勝つチャンスを与える為であろう。だが、E-6の惨状を思い出し、

「制限になっていませんわよねぇ……制限がかかっていてあの有様って……」

その制限が本当に機能しているのか疑問に感じたクアットロであった。だが、事実として惨状を起こした主であるエネルにもちゃんと制限はかかっている。

「それにしても……ああいう力を持った参加者が素直にプレシアに従うかしらねぇ……」

ふとクアットロはE-6を壊滅させた主が素直にプレシアに従って殺し合いをするのか疑問に感じた。
クアットロだって参加者を殺すのが楽しいからプレシアの言葉に乗っても良いとは思うが従わなければいけないとは思っていない。
むしろ、あれだけが力を持つ参加者ならばプレシアすらも殺そうと目論んでいたっておかしくはない。

「あの手の人は大抵自信家ばかりですしねぇ」

その時、クアットロにある考えが浮かぶ。

「ああ、そういう事ですのね……逆らうのを防ぐ為って事も考えられますわねぇ」

制限をかけた理由にプレシアに逆らうのを防ぐ為というのもあると考えた。となれば、E-6の主の本来の力はあれだけではなくもしかしたらプレシアすら凌駕する力を持っている可能性があるという事である。
それこそこの殺し合いを壊しかねないぐらい強力な力を……。

「制限をかけているのは……首輪、もしくはこの舞台の何処かに制限をかけている装置があるのかしらねぇ」

そして制限の発生源を首輪だと考え、同時に殺し合いの舞台の何処かにその手の装置がある可能性を考えた。
首輪は参加者の全員に付けられている為、制限の装置としては都合の良い場所だ。
その一方で広範囲にAMFを展開出来る装置がこの場所の何処かに存在する可能性も考えた。
勿論、AMFだけでは抑制出来ないものもあるが、プレシアがそれらも抑制する技術を手にしている可能性もある為、その可能性を完全に否定する事は出来ないだろう。

「まあ、どちらにしても問題は首輪ですわねぇ……」
185クアットロデラックス! ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 13:08:07 ID:kpf/LqMN

続いて首輪について考えてみる。制限がどうあれ、首輪の事を考えた方が良い事には変わりはない。
殺し合いを止めるならば首輪の解除が必須だろうし、プレシアを殺した上で参加者を皆殺しにする事を考えている参加者にとっても首輪の解除は必要となる。
クアットロ自身も殺し合いする分には一向に構わないが、聖王の器であるヴィヴィオを確保する事を考えている以上、首輪の解除が必要である事には変わらない。
つまり、脱出するにせよ、取引材料にするにせよ、首輪の存在は何かと便利という事である。

「何処かに都合良い死体があればいいんですけどねぇ」

ひとまず死体を見つけたら首輪を確保しようと考え、他の事を考える。

「それにしても……色々な人がいますわねぇ……」

クアットロは名簿と地図を見る。五十音に並んでいる名簿にはクアットロが知る姉妹達や管理局の連中等で約3分の1が占められている。逆を言えば約3分の2は知らない人物ではあるが……

「でも、アンジール様や十代君、そして最初に出会った神父は私や六課の連中と出会っていた……そして」

地図には自分達になじみ深い施設もあるがその一方でHELLSING本部やスマートブレイン本社ビル、そして十代達がいたデュエルアガデミアというクアットロにとって未知の施設が存在している。

「私の知らない施設が数多く存在する……」

勿論、その理由については既にわかっている。

「無論、これは様々な並行世界から持って来たってことでしょうけど……ただ適当に運んできたわけではないですわねぇ……」

そう、種々様々な並行世界からもたらされたものだ。だが、クアットロはさらにその先に考えを進める。

「機動六課やドクター達と関係のある人ばかりを連れてきた事になりますわねぇ」

アンジール・ヒューレーの話ではセフィロスは機動六課に力を貸していた。
十代の話では万丈目準、天上院明日香、早乙女レイ等の仲間と共に異世界にいたのを機動六課が助けに来ていた。

恐らく他の未知の参加者も何かしらの形でスカリエッティや機動六課の人達と関係を持っている可能性が高いだろう。

「そうなると……十代君が出会ったという柊つかさという人やこの制服の持ち主である高良みゆきって人も機動六課と何か関係があるかも知れませんわねぇ……どんな関係かは知りませんけど」

ここまで考えてクアットロにある疑問が浮かぶ。

「プレシアが1人で集めたにしては妙な人選ですわねぇ……」

この殺し合いの主催者はプレシア・テスタロッサである。プレシアと言えば言うまでもなく10年前に起こったPT事件の首謀者だ。
プレシアは娘であるアリシア・テスタロッサを生き返らせる為にジュエルシードを集めてアルハザードへ向かおうとした。
だが、最終的には次元震を起こして虚数空間に消えた……はずであった。

そのまま死んだかと思われたが、何とかアルハザードに到達してその超越した技術を使ってこの殺し合いを開いたというのかプレシアを知る者が感じている共通認識である。

恐らく、プレシアを知る者の殆どは『アルハザードの技術を手に入れたプレシアに不可能はない』という先入観を持ち、それ以上の思考を止めてしまっているだろう。
勿論、クアットロもそれを完全に否定するつもりはない。だが、何かが引っかかるのである。

「どうして私達ドクターの関係者まで殺し合いに巻き込まれているのかしらねぇ?」

考えても見て欲しい、参加者が機動六課にいる高町なのはやフェイト・T・ハラオウンを中心としているのはほぼ間違いないだろう。
この両名はPT事件での中心人物であったわけだからプレシアが復讐か何かしらの目的で彼女達を選ぶのについては全く疑問はない。
PT事件とは無関係だがそれより1年以内に彼女達と親しくなったはやてやシャマル達がえらばれるのもまだわかる。
だが、機動六課のメンバーであるスバルやキャロはどうだろうか?なのは達と親しい人物というには少々離れすぎてはいないだろうか?そもそもPT事件から何年経ってからの関係者だ?
彼女達を選ぶぐらいならむしろなのはの家族や友人、PT事件関係者で後にフェイトの義母となったリンディ・ハラオウンを選ぶべきでは無かろうか?
クアットロ達に至ってはあまりにも関係が薄すぎると言えるだろう、プレシアが選んだにしてはあまりにも不自然だ。
186クアットロデラックス! ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 13:11:47 ID:kpf/LqMN

「もしかして……ドクター?貴方もこの殺し合いに関わっていますわね?」

クアットロは主催者の中にスカリエッティがいると考えた。確かにスカリエッティが関わっているのならば自分達の仲間が選ばれている事にも説明が付く。
同時にスカリエッティの技術力を使えば殺し合いの舞台を整えるのにも大きく役立つ事は間違いない。
正直な所、クアットロはプレシアがアルハザードの技術を全て物にしている事については若干の疑心を持っていた。
クアットロにしてみればそのアルハザードの技術により『無限の欲望』というコードネームを持って生み出されたスカリエッティをそうそう凌駕出来るとは思えなかったのだ。
少なくとも精密機械操作や生命操作技術に関してならば一朝一夕でスカリエッティを越える事などあり得ない。クアットロはそう考えていた……それはある意味スカリエッティに対する信頼とも言えよう。

だが、スカリエッティが自らが作り出したクアットロ達を殺し合いに参加させる真似をするだろうか?クアットロはそれについては全く疑問に感じていなかった。
何故なら、並行世界のスカリエッティであるならば別の世界のクアットロ達がどうなろうが全く問題ないからだ。
クアットロ自身ももしこの場にいるチンクやヴィヴィオが違う並行世界の人物であるならば下手に執着する気は無かったのでそれに付いては全く構わない。

「まあ、私は別にドクターが関わっていても構いませんけどぉ……どの道やる事には変わりはありませんし……」

さて、スカリエッティが主催者にいると考えたクアットロは主催に他に仲間がいる可能性を考える。

「他にもいるかも知れませんわねぇ……」

とはいえ、それ以外の人物に心当たりなど見当たらない。

「となると、何処かの並行世界にいる人物……でも、アンジール様はドクターが蘇らせたって話でしたから参考にはなりませんわねぇ……となると」

と、ここでようやく十代の話を思い出す。

十代の話では十代達デュエルアカデミアの生徒の大半がデュエルアカデミアごと何処かの異世界に飛ばされていた。
そしてそれを助けに機動六課の面々が助けに来たという話である。ここまでは何処かの世界で並行行われていても全く不思議はないので問題はない。
重要なのはその世界では転移魔法が使えず助けに来たはずのなのは達も元の世界に戻る事が出来なくなったという事である。

「似ていますわね、今の状況に……」

そう、この場所に置いても転移を行う事は不可能である。その意味ではこの状況は似ていると言えるだろう。だが、気になるのはそれだけではない。

十代達は異世界に飛ばされる前プロフェッサーコブラによってデス・デュエルを強要されていた。
デス・デュエルはデュエルを行う事で腕に装着されたデスベルトを介して闘気や体力を奪っていくものだった。
それによりアガデミアの皆が倒れていった事から十代達はコブラを止める為にコブラの所に向かっていったのだ。

コブラの所に辿り着いた十代達はコブラからデス・デュエルを行った理由がデスベルトを使い闘気を集める事でコブラの腕に付いている邪悪な精霊の力を借りる事で亡くした子供を生き返らせる為だという話を聞いた。

「カードゲームでどうして闘気が集まるのかについては疑問ですけど……この殺し合いと酷似していますわねぇ……」

断定こそまだ出来ないがプレシアの目的はPT事件の件から考えてもアリシアの復活の可能性が高い。
そう仮定するならば確かにデス・デュエルとこの殺し合いは似ていると言えよう。この殺し合いに置いてデスベルトが首輪に、殺し合いがデュエルに合致する。
仮説通りであるのならばデスデュエル同様殺し合いで人が死ぬ事により首輪を介して何かが収集されている可能性が高い。
勿論、デス・デュエルとの類似性については仮説の域を出ていないので断定するにはまだ早いだろう。だが、可能性も低いとは言えないだろう。
187クアットロデラックス! ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 13:13:43 ID:kpf/LqMN

そもそも単純に人が死ぬだけで済むならさっさと首輪を爆破すれば済む話だ。にも関わらずそうしないという事は、殺し合いで無ければならないという事だ。
更に異世界に飛ばされていても腕に付けられたままだったデスベルトがこの場に来た時には無くなっていた。クアットロ達は十代からしか確認していないが万丈目達も同様と考えて良いだろう。
つまり、デスベルトと首輪には類似する要素がある可能性が高い事を意味している。

「プレシアはそのデス・デュエルを参考に……ん、ちょっと待ってもらえます……」

ここでクアットロはある事実を思い出す。コブラは邪悪な精霊の力を借りる為にデス・デュエルを行っていた。つまり、本当の黒幕はその精霊ということになる。
さて、十代とコブラがデュエルを終えた後、問題の精霊がその力を発揮し十代達を異世界に飛ばしたのだ。

「もしかしたら……プレシアがその精霊の力を借りている可能性は高そうですわねぇ……」

精霊がこの殺し合いに関わっている……その可能性は十分に考えられた。あの異世界では転移魔法が使えなかったという事実と、今この場でも転移魔法が使えないという事実が合致しているからだ。
プレシアがそれすらも超越した力を持っているという可能性もあったが、それよりもむしろ精霊の力を借りた方が可能性が高いと言えよう。

「でも……この仮説の場合その精霊が人を生き返らせるという事は無いと思うんですけどねぇ……」

協力者としては適任と言えようがこの仮説には1つの問題がある。十代とコブラのデュエルの後、精霊は姿を現したがその際にコブラに何かをしたらしいのだ。なお、子供を生き返らせたというわけではない。
その後、コブラの様子がおかしくなりそのまま行方不明になった。つまり、精霊に人を生き返らせる力があるとは言い切れないのだ。

「まぁ、どっちにしても協力者としては適任という事には変わりありませんけどねぇ。そういえばどうしてその精霊はわざわざ十代君達を異世界まで飛ばしたのかしらねぇ。
 もしかして十代君達を苦しめて楽しんでいるのかしらねぇ。」

何にせよ、その力が殺し合いの運営に役立つという事には変わらない為、協力者の可能性自体は否定しないクアットロであった。そして、

「それにしてもこれだけ色々な世界から人や物を集めているということはそれだけ詳しく調べているってことでしょうけど……プレシアやドクターだけではどう考えても限界が来ますわよねぇ……
 蛇の道は蛇って言葉もありますし他にも何処かの世界からの協力者がいると考えた方が良さそうですわねぇ」

様々な並行世界から様々な参加者や道具が持って来られているという事実から、それらについて正確に把握する為、他にもそれに通じた協力者がいると考えた。
実際問題、把握し切れていない参加者や道具の力を甘く見たらこの殺し合い自体を壊されかねない為、それらの知識は必要不可欠であるからだ。
とはいえ、現状ではこれ以上の協力者の当てが見当たらない為、ひとまず主催者に関する考察は終わらせる。それについてはまた新たに情報が集まってから考えれば良いと考えた。

「さてと……」

クアットロは改めて放送の事を考える。クアットロは既にアリア復活の件が並行世界によるトリックだと結論付けているし、優勝者への復活を含めたご褒美により殺し合いにのる人物がいるだろうという事もわかっている。

「本当に効果的に殺し合いを盛り上げてくれますわねぇ……私の仕事がなくなっちゃうじゃないですか……」

そもそもクアットロの目的は他の参加者を扇動して殺し合いを促進させる事だった。しかしその役割はプレシアが果たしてしまっていた。

「それにしても、ほんの少し冷静に考えられればそれが嘘だってわかりそうなはずなのにねぇ……本当におバカさん達です事」

と、プレシアの言葉をそのまま鵜呑みしして参加者を生き返らせようとしている参加者を馬鹿にするクアットロであった。
だが、仮に無事に優勝者が決まったとしたらどうだろうか?仮にプレシアの目的がアリシアの復活だとするならば蘇生の力を得る事になる。
つまり、放送のアリサ復活は嘘だが、優勝者への御褒美が嘘とは言い切れないのではなかろうか?

「まずあり得ませんわねぇ」
188クアットロデラックス! ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 13:17:04 ID:kpf/LqMN

だが、クアットロは可能性は低いと考えている。理由は2つだ。
1つはアリシアを生き返らせる為に60人もの人を集めて殺し合いをさせるのだ、アリシアを復活させた上でさらにもう1人という余力などあるだろうか?無論、死んだ人全員を生き返らせるなどまず不可能だ。
そしてもう1つは……

「私だったら仮に出来るとしても生き返らせたりなんてさせませんしねぇ、きっとプレシアだって……」

そう、プレシアがわざわざそんな願いを叶えてやるとは思えなかったのだ。考えても見てほしい、プレシアにしてみればなのは達管理局の連中が苦しむのは望むべき事のはずだ。
幾らアリシアを生き返らせた後とは言え彼女達をわざわざ喜ばせてやる義理など全くない。
むしろ、アリシア復活させた後は最早用は無いとさっさと帰らせて絶望させるなり、首輪を爆破するなりすれば済む話だ。その方がプレシアとしては美味しい話であろう。

「まぁ、そんなおバカさん達はせいぜい踊ってくれればいいですわ」

だが、ここで冷静に考えてみる。御褒美の件を含めた上で、放送により殺し合いにのる人物はどれぐらいいるだろうか?

「ルーお嬢様は御褒美に釣られそうですわねぇ……そういえばディエチちゃんが呼ばれたとしたらチンクちゃんやアンジール様が動いてもおかしくはないですわねぇ……で、管理局の連中も何人かは……」

ルーテシア・アルピーノはそもそも母であるメガーヌ・アルピーノを復活させる為にスカリエッティに協力していた。
その彼女が御褒美の話を信じたならば十分に殺し合いに乗る可能性はある。
ディエチの死を知ったとしたら妹想いのチンクやアンジールが激情してクアットロ以外の参加者を全て殺しに行く可能性はある。
そして、管理局の連中や他の参加者も御褒美の話に釣られるなどで殺し合いに乗る可能性は十分に考えられる。

ここまで考えて、クアットロに焦りの表情が出る。

「不味いですわね……殺し合いが盛り上がるのは一向に構いませんけど……私が狙われるという可能性は十分にあり得ますわねぇ……」

確かにクアットロは人が死ぬのを見るのは好きだ。故に仲間だった人同士で殺し合いをする事はむしろ望む所である。だが、自分が死ぬつもりは全くない。
そもそもクアットロはその能力上、戦場の真っ直中で戦う事など殆ど無く、遠方から支援したり、様子を眺めてばかりである。
しかしだ、今回は状況が違っている。クアットロは戦場の真っ直中にいる。
何度も書くようだがクアットロの能力は戦闘向けではない。幾ら戦闘機人が普通の人間より強靱とは言え、この場にはそれを凌駕する参加者が数多くいる事はこれまでの事で承知済みだ。
そもそもなのはやシグナムと言った強者、さらに戦闘機人であるディエチが死亡している以上、クアットロは大丈夫という道理は全く無い。
この状況でクアットロが生き残る為にはどうしても手駒となる参加者が必要となる。だが、殺し合いに乗る参加者が増えるならばそれは減る可能性が高い。何故なら優勝狙いならクアットロを生かす道理は無いからだ。

「さてどうしましょうか……」

以上の事を踏まえ、クアットロは今後の方針を考える。
実は先程遭遇したガジェットがクアットロの前で停止した際にあるメッセージが出たのだ。

『朝までに病院へ集合。生きて会おう姉と妹よ by 5姉』

これはチンクからクアットロとディエチに対してのメッセージである事を意味している。
クアットロはそれを見て、ガジェットの主がチンクだと判断した。チンクに支給されたものか、スカリエッティのアジトで確保したのを利用したのかと考えたのだ。
その後、クアットロはそのままガジェットを先に行かせた。
クアットロはもし自分とディエチ以外の人間に遭遇したならば攻撃を仕掛けるよう命令していると考えたのだ。
ならば、ディエチが死んだ今となってはメッセンジャーとしての役割は既に終わった事になる。故に他の参加者を襲わせる為ガジェットを行かせたのである。
189クアットロデラックス! ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 13:21:34 ID:kpf/LqMN

クアットロは気付いていないものの、チンクがスカリエッティのアジトで見つけたガジェットには確かに制限の都合上熱線射出機能と機械操作機能は封じられており3体しか使う事が出来なかった。
だが、その内2体にはチンクのISランブルデトネイターが仕掛けられており、戦闘機人を見つけた場合は先程のメッセージを出す様、生命体を見つけた場合は体当たりしてランブルデトネイターによる自爆を仕掛ける様命令したのである。

なお、この後クアットロが遭遇したガジェットかもう1体のガジェットかは不明ではあるが、アンジールがガジェットと接触している。
アンジールは戦闘機人ではないもののその技術が使われている為ガジェットは戦闘機人と認識しメッセージを出した。そしてアンジールはチンク達と合流する為ガジェットを回収したまま病院へと向かっていった。

ところで、この事実から見てもチンクの出した命令には1つの欠陥がある事がわかる。
チンクの狙いとしてはクアットロとディエチ以外の参加者を殺すつもりで命令を出したはずだった。
だが、厳密には戦闘機人とは言えないはずのアンジールにすらメッセージを出している。
となるとだ、戦闘機人もしくはその技術が使われているならばメッセージを出す可能性は高いと言えよう。
つまり、少なくてもチンクから見て敵とも言うべきスバルやギンガに対しては体当たりではなくメッセージを出す可能性があるという事なのだ。
故に病院にてチンクが予期しない争いが起こる可能性があるのだ。少なくとも1体のガジェットはアンジールが回収したが、もう1体は今も市街地を飛び回っている。
果たして、ガジェットはどの様な動きを見せるだろうか?

閑話休題、メッセージを信じるならば病院に向かえばチンクと合流出来る可能性は高い。
奇しくもディエチは死亡した場所が病院である(偶然ではあったが死に際にメッセージを受け取ってはいた。)。つまり、病院に行けば生死はともかく姉妹が集まる事が出来るということだ。

方針としては南下しながらスマートブレイン本社ビル、デュエルアカデミアの施設を周りながら病院に向かうという事を考えていた。但し、この場合は到着が確実に遅くなる為現実的ではない。
とはいえ、施設巡りを行わずそのまま病院に向かうには地上本部からH-6にある病院までには途中の川を飛行して越えるとしても少々距離が遠い。戦闘に遭遇する可能性も十分にある。
そもそも、エリア1つを壊滅させる参加者がいる中で下手に動くのが有効とは言えないだろう。

その為、チンクのメッセージに従わないというのも1つの手だとクアットロは考えていた。

「チンクちゃんには悪いですけど、こっちにも都合がありますしねぇ」

もう1つ方針はある。戦いを避ける為北方向の施設へ向かうという考えである。現状では他の参加者との接触を避け、北の施設で大人しくしているというものだ。
勿論、その間にも情報収集とかを怠るつもりはない。その上で参加者が減ってから動くという考えだ。だが、この場合は南方の施設を調べられないというデメリットはある。

「でも、スマートブレインとかデュエルアカデミアを調べたいというのも本音なんですけどねぇ……それに何処行っても危険って事には変わりなさそうですし……」

結局、どちらでもさして違いは無いとクアットロは考えていた。

「まあ、シャマル先生や十代君が戻ってきてから相談すれば良い事ですわよね」

と、気が付くと既に8時を過ぎていた。

「随分と考え込んでしまったみたいですわねぇ」

クアットロは先程まで付けていた眼鏡を再びデイパックにしまう。クアットロだと即座にわかるのを避ける為だ。
190クアットロデラックス! ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 13:25:48 ID:kpf/LqMN

「それにしてももう1時間以上過ぎているはずですのに……シャマル先生達遅いですわねぇ……」

クアットロは気づいていない、シャマルと十代が調べている地上本部最上階には望んだ場所に転移する事が出来る魔法陣があった事に。
2人はそれを使う事で各々が会いたい人物の元へ転移したが為に既に地上本部にはいないという事に。つまり、今現在地上本部にいるのはクアットロだけなのだ。

そしてクアットロは気づいていない。今まさに1人の少女が壊滅したE-6を経由して参加者を殺す為に地上本部に向かっているという事に。そう、クアットロに危機が迫っているという事だ。
先程述べた通りシャマルと十代は既にいない。アンジールも病院に向かったが為に地上本部へは向かわないだろう。
使える手駒を持たないクアットロは1人で立ち向かわなければならないのだ……だが、

「やっぱり下がスースーしますわねぇ……それに胸も……もう一度何か探した方がいいかしら……」

クアットロは迫りくる危機に気づいていなかった。

【1日目 午前】
【現在地 E-5 地上本部エレベーター前】
【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】左腕負傷(簡単な処置済み)、眼鏡無し、髪を下ろしている、下着無し、焦り(小)
【装備】高良みゆきの制服@なの☆すた、ウォルターの手袋@NANOSING、田中ソード@ナナナーナ・ナーノハ
【道具】支給品一式、ナンバーズスーツ(クアットロ)、クアットロの眼鏡
【思考】
 基本:この場から脱出する
 1.シャマルと十代を待つ。
 2.北方向で大人しくするか、南方の施設や病院に向かうか
 3.十代とシャマルの信頼を固めて、とことん利用し尽くす
 4.聖王の器の確保
 5.チンクともコンタクトをとりたいが……
 6.首輪の回収
 7.フェイト(StS)との接触は避ける
 8.下と胸に違和感が……やっぱり何か探した方が良い?
 9.カードとディエルディスクはとりあえず保留
【備考】
 ※地上本局襲撃以前からの参戦です
 ※参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました
 ※アンジールからアンジール及び彼が知り得る全ての情報を入手しました(ただし役に立ちそうもない情報は気に留めてません)
 ※アンジールの前では『アンジールの世界のクアットロ』のように振る舞う(本質的に変わりなし)
 ※改心した振りをする(だが時と場合によれば本性で対応する気です)
 ※デュエルゾンビの話は信じていますが、可能性の1つ程度にしか考えていません
 ※この殺し合いがデス・デュエルと似たものではないかと考えています
 ※殺し合いの中で起こる戦いを通じ、首輪を介して何かを蒐集していると考えています
 ※デュエルモンスターズのカードとデュエルディスクがあればモンスターが召喚出来ると考えています
 ※地上本部地下にあるパソコンに気づいていません
 ※制限を大体把握しました、制限を発生させている装置は首輪か舞台内の何処かにあると考えています。
 ※主催者の中にスカリエッティがいると考えています。また主催者の中に邪悪な精霊(=ユベル)もいると考えており、他にも誰かいる可能性があると考えています
 ※優勝者への御褒美についての話は嘘、もしくは可能性は非常に低いと考えています。
191クアットロデラックス! ◆7pf62HiyTE :2009/01/19(月) 13:34:54 ID:kpf/LqMN
投下完了致しました。

なお、今回の容量は約42KBと恐らく分割が必要になると思います。
その為今回もこちらで分割点を指定します。

>>176>>180が前編『エリオ君がみてる』(約13KB…サブタイトルの元ネタは『マリア様がみてる』)
>>181>>190が後編『クアットロデラックス!』(約29KB…サブタイトルの元ネタは『ケメコデラックス!』)

前編と後編で容量が大幅に違うのはキャロパートとクアットロパートで分割している事情によるものです。

何か問題点があれば指摘お願いします。
192名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/19(月) 22:11:28 ID:rI+U7hby
投下乙です。
おおキャロの背景がこんなにきっちりと、だが、
>キャロは憑神鎌を一舐めし地上本部へと向かっていった。そこにいる参加者を殺す為に……
この一文に持ってかれたwヤバい、なんか妖しい感じがヤバいw
あと考察の合間に眼鏡を付け外しする所が印象的だったクア姉さん
次にキャロとクアットロが会うのかどうかも楽しみなところだ
193名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/19(月) 22:14:43 ID:vDo28AGW
投下乙です
ここまでキャロが変わるなんて
ここでクアットロ殺したらもう戻れなくなるのか?
でも長い目でみたらクアットロはここで死んだ方が丸く収まるかも
て言うか呑気杉
194反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2009/01/27(火) 15:14:26 ID:9A4ex2tF
クアットロ、シャマル、はやて、キャロ分を投下します
195脅剣〜キャロ・ル・ルシエ〜 ◆9L.gxDzakI :2009/01/27(火) 15:15:52 ID:9A4ex2tF
 からから、からから。
 不思議な音が鳴っていた。
 奇妙な音が鳴っていた。
 何か硬いものの擦れる音が、無人の街で鳴り響いていた。
 からからからと鳴る音は、地獄の使者の奏でる音楽。
 漆黒と黄金に彩られた、禍々しき大鎌のもたらす音。
 さながら死神の足音のごとく、キャロの手に握られた憑神鎌(スケィス)が、からからと音を立てていた。
 両手に装着された黒き鋭利な小手のおかげで、その重量は所有者の筋力に合わせて軽減される。
 故に重すぎず、しかし軽すぎもしない、最適なウェイトを保ち、理想的な使い勝手を実現する。
 そのおかげで、身の丈に倍するようなこの巨刃も、決して重くはないのだが、いかんせんキャロが扱うには長すぎた。
 故にいつしか、移動中にはこうやって、引きずるような形になっていたのだ。
 本来の持ち主たるエリオが見たら嘆くだろうが、そこは天然の入った彼女のこと、さほど気にしてはいないらしい。
 幼子が引きずり回すぬいぐるみのように、しかしただの玩具よりは遥かに凶悪な。
 死の恐怖の名を冠する刃鎌を携え、キャロは1人道路を進む。
「あった」
 ほんの微かな喜びと共に、呟いた。
 淡い桃色の髪を持った少女の顔からは、何の感情も読み取ることができない。
 大切な仲間を救うため、愛すべき友を蘇らせるため。
 殺人者たることを受け入れ、殺すべき人間を求めるが故に、押し殺された表情か。
 いつものキャロに比べれば、まるで蝋人形のような冷たい顔つき。
 そして、ガラスのように空虚な瞳は、眼前の施設を捉えていた。
 時空管理局地上本部。
 かつて公開意見陳述会の折、警護任務に就いたこともある、巨大な法の塔の正門。
 雲をも突き破るその圧倒的高さは、さながら肥大化した恐竜のようだ。
 ここならば、人も集まるに違いない。
 少なくとも、誰か1人くらいは見つけられるに違いない。
 その目論見を叶えるため、無言で敷地へと足を踏み入れる。
 1歩、また1歩。
 一言も言葉を発することなく、ただからからと憑神鎌を鳴らせ、ガラス張りの自動ドアへと歩いていく。
(見つけた)
 ほら、やっぱり。
 思わず内心で歓喜の声を上げた。
 透明なガラス扉の向こうに、蠢く人の影がある。
 あれは確か、戦闘機人ナンバーW――クアットロ。
 髪型が微妙に変わり、見たことのない服を身に纏っているが、それでもまだ彼女だと認識できる。
 ナンバーズの12姉妹の中でも、最も危険な存在とされた、残忍かつ狡猾な策略家だ。
 スカリエッティ一味との最終決戦でも、嗜虐的な笑みすら浮かべ、ルーテシアやヴィヴィオを洗脳している。
 優れた頭脳と冷徹さを持ち、幻影を操るクアットロは、決して一筋縄ではいかない相手だろう。
 だが、しかし。
(あの人なら……死んでも仕方ないよね? エリオ君)
 ふ、と。
 微笑みすらも浮かべながら、キャロはこの出会いに歓喜する。
 キングという男もかなりの性悪だったが、彼女も相当な外道だった。
 無駄に優しい人間や、それこそ機動六課の仲間達よりは、よほど遠慮なく殺すことができる。
 あいつは死んでも仕方ない。殺したって罰は当たらない。
 いたいけな少女達を狂わせ、多くの人を苦しめて、それでへらへらと笑うような奴に、今日を生きる資格はない。
 だから、私が殺してあげる。
 この殺戮の道を歩む上での、試金石にはちょうどいい。
 冷たい笑顔を浮かべながら、キャロはまた歩を進めた。
196名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/27(火) 15:15:59 ID:43VreGhW
支援
197脅剣〜キャロ・ル・ルシエ〜 ◆9L.gxDzakI :2009/01/27(火) 15:17:19 ID:9A4ex2tF


「遅すぎますわ」
 苛立ちのこもった呟きが、地上本部に響き渡った。
 セーラー服の胸元で、不機嫌そうに腕を組みながら、かつかつかつと片足を鳴らし。
 憮然とした表情のクアットロが、エレベーターの前に1人立っていた。
 下着も身に付けていない生の乳房が、くっきりとした丸みをもって、白い布地を押し上げている。
 彼女がここまで苛立ちを露わにすることは、実は少ない。
 たとえシャマルと遊城十代に、何時間も待ちぼうけを食らおうと、表に出さずぐっと堪えるだろう。
 では何故今、こうも不快感を剥き出しにしているのか。
 ナンバー]・ディエチの欠損に、徒労に終わった地上本部調査――これらが最大の要因だ。
 使える手札が1枚減ったというこの状況で、何の成果も得ることができなかった。
 ナンバーX・チンクからのメッセージも、今は承諾することはできない。
 これまであらゆる状況下でも、自身の思惑を実現してきた策士が、初めて経験する逆境。
 全くもって思い通りに行かぬ現状に、我知らずクアットロは腹を立てていたのだ。
 もっとも、スカートの下の裸の下半身に感じる違和感もまた、その一助となってはいるだろうが。
「このままさっきの神父みたいな強い人に見つかると、色々面倒なのだけど……」
 言いながら、正面自動扉の方へと視線を飛ばす。
 そして、その時。
「……あら?」
 黒いものが見えた。
 誰かが黒い何かを掴み、こちらへ向かって歩み寄ってくる。
 距離が遠いこともあり、まだその何かしか視認できない。どうやら来訪者はかなり小柄なようだ。
 同時に、それほどの距離でも形が見て取れる、黒い物体のスケールを実感する。
 やがてようやく、その持ち主が見えてきた。
 ピンク色の短い髪を、さらさらと微風に揺らすのは――
(竜召喚士のキャロ・ル・ルシエ、か)
 にやり、と。
 クアットロの口元が邪悪に歪む。
 奇しくも、キャロがクアットロを視認した瞬間、彼女もまた、同じ喜色を顔に浮かべ、相手を目撃していたのだ。
 勝てる。
 後方支援型であるが故に、直接戦闘の苦手な自分でも、アイツになら問題なく勝つことができる。
 ライトニング4のコードを持つ彼女は、機動六課の連中の中でも明らかに最弱だ。
 肉体的強度のみならず、精神も見るからに脆弱な小娘。得物は相当ごついようだが、殺し合いなど到底できる性格ではあるまい。
 頼みの綱の召喚術も、こんな場所では使用できるはずもないだろう。
 遠隔召喚による脱出の可能性を考慮すれば、当然だ。召喚対象たるチビ飛竜がいないことも、それを裏付けている。
 このまま適当に脅して怯えさせ、恐怖と苦痛の中で殺してやる。
 力も意志もない者など、いても役に立つことはあるまい。なんなら、せいぜいその武器だけでも利用させてもらおうか。
 かつり、かつりと音を立て、クアットロが入り口へと歩いていく。
 この時の行動もまた、彼女らしからぬ軽率なものだったかもしれない。
 シルバーカーテンも展開せず、無用心に生身を晒しながら、武装した敵へと接近したのだから。
 愛情こそなかったとはいえ、便利な手駒としては認知していたディエチの死。
 これまでに経験したことのない、思い通りに行かぬ探索。
 ようやく現れてくれた、自分の思惑のままに動いてくれそうな存在。
 それらがもたらす焦燥が、クアットロの冷静な頭脳に、致命的な読みの浅さを生じさせていた。
 開く自動扉。
 クアットロとキャロの2人が、ちょうどそこで対面する。
「こんにちはぁ、おちびちゃん♪」
 道化のような、おどけた笑み。
 されど、そこに宿る感情は嗜虐。
「早速で悪いけど、これ、何だか分かるかしらぁ?」
 デイパックから取り出した田中ソードを右手で握り、これ見よがしに刃をちらつかせる。
 先端の人面さえなければ、もっと格好がついたのだが。
 そんな風にすら思っていた。
198脅剣〜キャロ・ル・ルシエ〜 ◆9L.gxDzakI :2009/01/27(火) 15:18:25 ID:9A4ex2tF
 対するキャロの反応は、無言。
 もはや悲鳴すらも出ないか。声を出すことすらもできず、がたがたと震えているということか。
(いや……違う?)
 は、と。
 ようやくクアットロが違和感に気付いたのは、この瞬間だった。
 表情がない。
 沈黙するキャロの顔には、恐怖におののく表情が全くない。
 これは一体どういうことだ。まるで自分の剣など、見えていないかのようではないか。
 刹那。

 ――ばりん、と。

「!?」
 鳴り響いたのは悲鳴ではなく、音。
 キャロの顔に感情は宿らず、反対にクアットロの表情が、驚愕の一色に染め上げられた。
 さながらガラスの割れる音。
 砕かれたのはガラスではない。
 いとも容易く、頑強な鋼の田中ソードが、一撃のもとに叩き壊されたのだ。
 クアットロの誤算は2つ。
 1つ、キャロはその手の巨大な武器を、使いこなせないと踏んだこと。
 そしてもう1つは――キャロが殺し合いに乗るはずがないと、決めつけてかかってしまったこと。
「っ!」
 第二撃が来た。
 びゅん、と縦一文字に振るわれた漆黒が、クアットロの身体へと襲いかかる。
 反射的に後方へ飛びすさり、回避。
 しかし、そのリーチは半端なものではない。
 小柄な少女の身長の、二倍はあろうかという大業物は、その程度ではかわしきれない。
 身を掠める。セーラー服に触れる。白い布地が両断される。
 衣服の左胸部分が切り裂かれ、外気に晒された豊かな乳房が、ぷるんと大きく躍動した。
 無論、そんなことを気に留めている場合ではない。
「驚いた……まさか、貴方が人殺しの外道に堕ちるだなんてねぇ」
 精一杯の強がりの笑顔。しかし、頬を伝うのは一筋の冷や汗。
 よもやこの矮小な餓鬼が、自分に牙を剥いてくるとは。
 武器は既に破壊されている。あの禍々しき暗黒の大鎌によって。
「何と言われても構いません。私は、エリオ君を取り戻せたら、それでいいですから」
 踏み込んでくる。
 更なる一撃が来る。
 猛然と迫り来る死神の刃。
 ――斬。
 円形を描くように、横薙ぎに一閃。
 子供のそれとは思えぬ豪快な斬撃が、クアットロの喉笛目掛け、次から次へと襲いかかってくる。
 周知の通り、彼女ら戦闘機人の身体能力は、人間のそれに比べて遥かに高い。
 加えて、キャロに接近戦の経験はない。いかに強力な武器を持とうと、上手く扱う術を知らない。
 故に、大鎌の――憑神鎌の破壊力に任せた、大味で単調な攻撃は、戦闘機人の身のこなしをもってすれば、回避も容易いはずだった。
 あの黄金に輝くコーカサスオオカブトの魔人が、まんまと彼女から逃げおおせたように。
 だが、しかし。
(接近戦なんて……こっちだって苦手なのよっ!)
 同じく後方支援型のクアットロもまた、近距離から迫る攻撃へ対処するノウハウが、全くと言っていいほどなかったのだ。
 強靭な肉体を持ちながら、しかしその能力を活かしきれず、苦悶の顔色が濃くなっていく。
 当たることはない。しかし、その全てがギリギリ紙一重の回避。
199名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/27(火) 15:19:50 ID:43VreGhW
SHIEN
200脅剣〜キャロ・ル・ルシエ〜 ◆9L.gxDzakI :2009/01/27(火) 15:20:24 ID:9A4ex2tF
 まずい。
 このままではやられてしまう。
 好機と捉えたキャロの来訪は、一転ピンチへとすりかわった。
 シャマルと十代は当てにできない。これまで全く来る気配のなかった連中が、そう都合よく戻ってくるはずがない。
 つまりクアットロは武器もなしに、この敵にたった1人で挑まなければならないのだ。
「ふ……ふーんっ。あのチビ騎士くんを助ける? そういえば、あの子も死んだんですってねぇ?」
 攻撃を必死で回避しながら、言葉を紡いでいく。
 こちらのコンディションが最悪だ。まともに戦って勝てる相手じゃない。
 であれば、己の得意とする話術を用いて、この餓鬼を上手いこと丸め込む。
 平時なら全くもって役立たずなキャロだったが、今は強力な武器と殺意がある。
 戦うことができるなら、手駒として使うこともできるだろう。そのための説得だ。
「でもっ……どうせこっち側に堕ちたんだったら、悪者同士、ここは協力しませんこと?
 クアットロのアタマは、きっと役に立つと思うけどぉ?」
「――興味ありません」
 びゅん、と。
 返事は鼻先を掠めた風切り音。
「どうせいつかは殺すんですから、貴方もここで殺します」
 淡々と響き渡る声。
 ち、と舌打ちする。
 こいつは馬鹿だ。決して頭のよくない馬鹿。
 自分の策略が味方につけば、より効率よく他者を殺せるというのに、それを全く理解できていない。
 自分1人で何でもできる。己が身1つで誰だって倒せる。そうやって思い上がっている。
 そう――馬鹿な敵を説得することはできない。
 どんな条件を突きつけても、その利点が分からないのだから。
 説得は不可能。どうせ奴は、自分を殺すこと以外眼中にない。
 であれば、最後に取るべき手段は1つ――逃走。
「IS発動、シルバーカーテン」
 消失。
 魔法の言葉が響くと共に、一瞬にしてかき消える。
 創造主の作り出したインヒューレント・スキル。魔導師の奇跡に対抗しうる科学の力。
 幻術機能の行使により、クアットロの身体は、瞬時に不可視のものとなった。
 突如姿を消した敵に、キャロの攻め手が一瞬止まる。
 これで逃げ切れたも同然。このまま地上本部を脱出する。
 シャマル達には悪いが、このまま生け贄になってもらおう。自分を散々待たせた報いにもなる。
 何はともあれ命が大事。そのまま自動ドアをくぐり抜け、この場を離脱しようとした瞬間、

「――っ」

 一閃。
 ひらり、と。
 不可視のセーラー服の断片が、剣風に煽られ虚空に舞う。
 当てられた。
 少なくとも、掠められた。
 我知らず、解除される幻惑のカーテン。
 じわり。
 脇腹へと沸き上がる微かな痛み。表皮が切り裂かれたのが分かる。
 “姿を消していたのに”、当てられた。
 効かないのか。
 こいつには、己が幻術すらも通用しないのか――!

「見つけました」

 光なき瞳で、殺戮者が笑う。

「……うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァ―――――ッ!!!」
201脅剣〜キャロ・ル・ルシエ〜 ◆9L.gxDzakI :2009/01/27(火) 15:22:44 ID:9A4ex2tF
 絶叫した。
 シルバーカーテンを再度発動。
 みっともなく大声を上げ、一目散に逃げ出した。
 ちっぽけなプライドは粉々に砕け散る。
 殺される。
 このままでは間違いなく殺される。
 この殺し合いで最初に味わった、死の恐怖が蘇る。
 自分は狩る側の人間ではなく、狩られる側の人間だった。
 嫌だ。死にたくない。
 恐怖がその色を増していく。
 ばりん、ばりん、がしゃん。背後で絶え間なく続く破壊の音。
 恥も外聞もかなぐり捨て、皮肉にもキャロに上げさせるべき悲鳴と共に。
 ほとんど泣き出しそうな形相で、クアットロは逃走した。



 それからどれほど経っただろうか。
「……やっぱり慣れてないことをすると、最初は上手くいかないな」
 キャロがため息と共に漏らした時には、周囲に深々と破壊の傷痕が刻み込まれていた。
 壁を抉り、床を切り裂き、自動ドアを粉砕した惨状。
 実を言うとキャロには、幻術を行使したクアットロの姿など、まるで見えてはいなかった。
 いくら何でも、それほどに便利なレーダーは憑神鎌には搭載されていない。
 ただ単に、そのでたらめな射程で振り回した刃が、偶然彼女の脇腹を掠めただけのこと。
 それをクアットロは見破られたと誤解し、ああも無様に逃げ出したのだ。
 さて、どうする。このまま追いかけるか。
「少し、休もうかな」
 やめておこう。
 今は疲労の色が濃い。このまま追いかけたとしても、そこから先が続かない。
 疲れた身体を休めるべく、キャロは奥へと歩いていった。
 きっと彼女の性格からして、しばらくすればここへ戻ってくるだろう。
 自分を確実に殺すために、仲間達を引き連れて、再び襲ってくるだろう。
 そうだ。殺すのならその時でいい。
 だから今はここで待とう。その間に作戦を考えよう。
 身体強化で速く走れるようにしようか。それとも一撃を重くしようか。
 なに、ゆっくり考えればいい。
 時間の余裕はまだまだある。


【1日目 午前】
【現在地 E-5 地上本部1階】

【キャロ・ル・ルシエ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(大)、魔力消費(小)、脇腹に切り傷・左太腿に貫通傷(応急処置済み)、歪んだ決意
【装備】憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning
【道具】支給品一式×2、『かいふく』のマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、葉巻のケース
【思考】
 基本:エリオを蘇らせるため、この殺し合いに優勝する。
 1.クアットロが戻ってくるのを待ちながら、身体を休める
 2.相手が機動六課の仲間であろうとも容赦はしない(ただし、フェイトが相手の場合は微妙なところ)
 3.次にキング、クアットロと会った時は、絶対に逃がさない。
【備考】
 ※別の世界からきている仲間がいる事に気付いていません。
 ※憑神鎌(スケィス)のプロテクトは外れました。
 ※自分の決断が正しいと信じて疑っていません。

【支給品情報】
 ※地上本部入り口付近に、破壊された田中ソード@ナナナーナ・ナーノハが放置されています
202脅剣〜キャロ・ル・ルシエ〜 ◆9L.gxDzakI :2009/01/27(火) 15:24:02 ID:9A4ex2tF
「こっちです、はやてちゃん」
 特定遺失物管理部機動六課課長・八神はやては、1人の女性と共に街を歩いていた。
 先導するのは湖の騎士。かつて彼女を守護していた、ヴォルケンリッターの参謀シャマル。
 かつて、というのはすなわち、今は存在しているはずがないということだ。
 大怪獣ゴジラを封印するため、彼女の騎士達は全て、その身をプログラムに組み込んでいる。
 つまり、ここにいるシャマルは、自分の世界のシャマルではない。パラレルワールドから来たもう1人のシャマル。
 もっとも彼女自身もまた、その可能性に気付いていたのには、少々驚いた。
 そしてそのシャマルは今、仲間が待つという地上本部へと、はやてを道案内している。
(それにしても……クアットロ、か)
 どうしてもそこが引っ掛かる。
 地上本部で待つ仲間とは、また別の世界からやって来たクアットロだと言うのだ。
 シャマルが言うには、別世界の彼女は改心し、更生プログラムを受講しているのだという。
 はやて自身は、このまましばらく図書館を調べていたかったが、そこそこの危険人物である彼女の名前を出されては無視もできない。
 そこでクアットロと合流するために、情報交換もそこそこに、一旦地上本部へ向かうことにしたのである。
(せやけど、どこまで信用できるか……)
 だがはやてには、あの策士がそう易々と、管理局に下るとは思えなかった。
 奴の思考も機会さえあれば、自分と同じように、並行世界の概念に至るだろう。
 であればそれを利用し、ありもしないバックボーンを装って、お人好しのシャマルを利用している可能性もある。
 否、むしろそちらの方が濃厚だ。
 奴は善人のふりをして、彼女らを利用しようとしているに違いない。
(私には通用せぇへんけどな)
 だが、自分はそんな彼女を信じ込むような間抜けじゃない。
 並行世界の可能性なら、こちらだって気付いているのだ。
 条件は対等。不意を突かれて丸め込まれることは絶対にない。
 最大限の警戒を払い、逆に奴を利用してやる。
 クアットロの性格からして、彼女は表向きには主催に抗い、殺し合いを止めようとする“ふり”をするはずだ。
 そこに付け入る隙がある。
 奴はある程度は知恵が働く。薬にはならないが、上手く使えば毒にもならずに済む。
 その演技(ロール)をとことん利用し、不穏な動きを抑え込み、自分達に都合のよい考察だけをさせてやる。
(六課課長とナンバーズの参謀、その読み合い騙し合いや……お前のような餓鬼が、すんなり勝てる思たら大間違いやで)
 伊達に世界の未来を背負った、オペレーションFINAL WARSの総大将をやってはいない。
 高々稼働10年前後の餓鬼に、おいそれと負けてたまるものか。
 シャマルに決して気付かれないよう、内心でにやりとほくそ笑んだ。
 と、そこへ。
「――シャマル先生っ!」
 前方から響く声がした。



(全くもう、一体何なのよっ!?)
 街道を駆けるクアットロの表情には、平時の余裕など微塵も残されていない。
 顔には汗が滲み出し、毛髪がそこにへばりつき、狼狽そのものといった表情をしていた。
 一体ぜんたいどうなっているのだ。
 最初に会った人間には、問答無用で襲われた。
 身内は合流する前に、勝手にどこかで死んでしまった。
 ようやく見つけた便利な駒も、どこかへ消えたっきり戻ってこない。
 明らかな格下を相手に、こうしてみっともない逃避行を演じる羽目になる。
 どうなっている。
 何故こうも自分に都合の悪いことばかり起こる。何故自分の思い通りにいかない。
 理不尽な現実への焦りや憤りの中、クアットロはひたすらに走り続けた。
 あの存在から逃げるために。
 対抗する手段を探すために。
 そして、角を曲がったその瞬間。
 見知った人影が、そこにはあった。
203名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/27(火) 15:24:13 ID:43VreGhW
しえん
204脅剣〜キャロ・ル・ルシエ〜 ◆9L.gxDzakI :2009/01/27(火) 15:25:15 ID:9A4ex2tF
「シャマル先生っ!」
 反射的に、視界に飛び込んできた者の名を呼ぶ。
「クアットロ!? どうしてこんな所に……」
 それはこっちの台詞だ。
 地上本部にいたはずのお前が、どうしてこんな所でふらふらしているのだ。内心で悪態をつく。
 だがその背後に立つ人影を認めると、思考は急速に冷静さを取り戻していった。
(八神はやて部隊長……歩くロストロギア、か)
 しめた、と思った。
 こいつはキャロと違って利用できる。
 自分から見たらまだまだだが、その地位に就けるだけの理性はある。問答無用で敵対する、なんてことはないはずだ。
 あとはその良心につけ込み、その絶大な魔力を利用し、キャロを撃退させてしまえばいい。
 そうと分かれば、まずは仕込みからだ。
 残虐な殺人鬼に襲われた、可哀想な少女を演出。嘘の涙を流して駆け寄る。
 何てことのない嘘泣きのはずが、いつもよりも早く涙が出たのは気のせいだろうか。
「シャマル先生、シャマル先生ぇっ!」
「きゃっ! とと……」
 そのまま全速力で飛び付き、押し倒すようにしがみつく。
 シャマルの胸に自分の顔をうずめると、そのままわんわんと泣いたふり。
 少々パフォーマンスが過ぎたかもしれないが、事情を知らぬはやてを騙すためにも、これくらいはやっておいた方がいいだろう。
 今の自分は反逆者の策士ではない。殺意に当てられ逃げ惑う、1人のか弱い女の子なのだ、と。
「クアットロ……」
 そうだ、それでいい。
 戸惑いながらも、その涙に浮かぶ恐怖を感じ取り、そっと頭を撫でる感触。
 シャマルは実に期待通りの反応をしてくれる。今にも笑い出したい心地だった。
「あー……その……」
 と、そこへ、訛りの入った声が割って入った。
 頭上から響くはやての、何故か気まずそうな声。
 何かまずいことでもあっただろうか。きょとんとした顔で上体を持ち上げ、彼女の方を向く。
「とりあえず、色々あったんやろうけど……まず、隠そうや。そことかこことかあそことか」
 そこでようやく気付いた。今の自分の容姿に。
 左胸部分を切り裂かれたセーラー服から、覗く豊満な肌色が1つ。
 張りもあり、柔らかさもあり、瑞々しささえも思わせる、見事なサイズの果実の片割れ。
 続いて下半身。飛び付いた時の衝撃で、赤いスカートがめくれ上がっている。
 惜しげもなく披露されるのは、これまた程よい肉付きのヒップ。
 そして視線を前方へと向ければ、グラマラスな肢体とはアンバランスな幼さを残した、
 肌色一色の穢れない、乙女の聖域とでも言うべき――
「………」
 ――ともかく、色々と丸出しだった。
205脅剣〜キャロ・ル・ルシエ〜 ◆9L.gxDzakI :2009/01/27(火) 15:26:09 ID:9A4ex2tF
【1日目 午前】
【現在地 D-5 橋付近(東側)】

【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】左腕負傷(簡単な処置済み)、脇腹に裂傷(掠り傷程度)、眼鏡無し、髪を下ろしている、下着無し、キャロへの恐怖と屈辱
【装備】高良みゆきの制服(左胸が裂けている)@なの☆すた、ウォルターの手袋@NANOSING
【道具】支給品一式、ナンバーズスーツ(クアットロ)、クアットロの眼鏡
【思考】
 基本:この場から脱出する
 1.……またすっごい格好になってますわね、私……
 2.仕方がないのでナンバーズスーツに着替える
 3.はやて達に事情を話し、キャロを殺しに行く
 4.その後は北方向で大人しくするか、南方の施設や病院に向かうか
 5.十代、シャマル、はやての信頼を固めて、とことん利用し尽くす
 6.聖王の器の確保
 7.チンクともコンタクトをとりたいが……
 8.首輪の回収
 9.フェイト(StS)との接触は避ける
 10.カードとディエルディスクはとりあえず保留
【備考】
 ※地上本局襲撃以前からの参戦です
 ※参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました
 ※アンジールからアンジール及び彼が知り得る全ての情報を入手しました(ただし役に立ちそうもない情報は気に留めてません)
 ※アンジールの前では『アンジールの世界のクアットロ』のように振る舞う(本質的に変わりなし)
 ※改心した振りをする(だが時と場合によれば本性で対応する気です)
 ※デュエルゾンビの話は信じていますが、可能性の1つ程度にしか考えていません
 ※この殺し合いがデス・デュエルと似たものではないかと考えています
 ※殺し合いの中で起こる戦いを通じ、首輪を介して何かを蒐集していると考えています
 ※デュエルモンスターズのカードとデュエルディスクがあればモンスターが召喚出来ると考えています
 ※地上本部地下にあるパソコンに気づいていません
 ※制限を大体把握しました、制限を発生させている装置は首輪か舞台内の何処かにあると考えています。
 ※主催者の中にスカリエッティがいると考えています。
  また主催者の中に邪悪な精霊(=ユベル)もいると考えており、他にも誰かいる可能性があると考えています
 ※優勝者への御褒美についての話は嘘、もしくは可能性は非常に低いと考えています。
 ※キャロは味方に引き込めないと思っています。

【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状況】健康、困惑
【装備】血塗れの包丁@L change the world after story
【道具】支給品一式、白衣(若干血で汚れてる)、ガ・ボウ@ARMSクロス『シルバー』
【思考】
 基本:はやてを含めた、全ての仲間を守り抜く
 1.あー……えっと……
 2.クアットロがまともな格好に着替えたら、何があったのか事情を聞く
 2.はやて(A's)と合流したなら全力で守り抜く
 3.できれば機動六課の仲間達とも合流したい
 4.十代のことが心配。
【備考】
 ※クアットロが別世界から連れて来られた事を知りました
 ※参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました
 ※この場にいる2人のなのは、フェイト、はやての片方が19歳(StS)の彼女達でもう片方は9歳(A's)の彼女達だと思っており、
  はやて(A's)は歩けないものだと思っています
 ※クアットロを信用するようになりました(若干の不安は消えています)
 ※デュエルゾンビについては可能性がある程度にしか考えていませんが、
  一応エリオと万丈目がデュエルゾンビになっている可能性はあるとは思っています
 ※この殺し合いがデス・デュエルと似たものではないかと考えています
 ※殺し合いの中で起こる戦いを通じ、首輪を介して何かを蒐集していると考えています
 ※はやてと簡単な情報交換を行いました
206脅剣〜キャロ・ル・ルシエ〜 ◆9L.gxDzakI :2009/01/27(火) 15:27:36 ID:9A4ex2tF
【八神はやて(sts)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】健康、呆れ
【装備】ツインブレイズ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、ランダム支給品1〜3個(武器では無い) 、
    主要施設電話番号&アドレスメモ@オリジナル、医務室で手に入れた薬品(消毒薬、鎮痛剤、解熱剤、包帯等)
【思考】
 基本 プレシアの持っている技術を手に入れる
 1.……はぁ……
 2.クアットロがまともな格好に着替えたら、何があったのか事情を聞く
 3.戻って図書館を調べるか、電話をかけるか
 4.ある程度時間が経ったらメールの返信を確かめる
 5.もう1人の「八神はやて」を探し、その後他の守護騎士を戦力に加える
 6.クアットロを利用する。おかしな行動は絶対にさせない
 7.キングの危険性を他の参加者に伝え彼を排除する。もし自分が再会したならば確実に殺す
 8.首輪を解除出来る人を探す
 9.プレシア達に対抗する戦力の確保
 10.以上の道のりを邪魔する存在の排除
 【備考】
 ※参戦時期は第一話でなのは、フェイトと口喧嘩した後です
 ※名簿を確認しました
 ※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだという考えに行き着きました
 ※ヴィータ達守護騎士に優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています
 ※キングに対する認識を改めました。プレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています。
  同時に携帯にも何かあると思っています
 ※ヴィータと戦う事になったのはキングが原因だと断定しました。その事を許すつもりはありません
 ※転移装置を、参加者を分散させる為の罠だと勘違いしています
 ※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています
 ※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました。現状蘇生させる力はないと考えています
 ※プレシアの目的はアリシア復活で、その為には普通の死ではなく殺し合いによる死が必要だと考えています。
 ※プレシアには他にも協力者がいると考えています。具体的には並行世界を含めて闇の書事件やJS事件関係者がいると考えています
 ※施設には何かしらの仕掛けが施されている可能性があると考えています。
 ※キングのデイパックの中身を全て自分のデイパックに移しました。キングのデイパックも折り畳んで自分のデイパックに入れています
 ※図書館のメールアドレスを把握しました
 ※シャマルと簡単な情報交換を行いました。
  クアットロはどの世界から来ているにせよ、善人のふりをしてシャマルを騙していると思っています。
207名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/27(火) 15:30:30 ID:43VreGhW
シエン
投下終了。
最後のがやりたかっただけだったりー! だったりー!
……まぁ、色々とすいません。

タイトルの元ネタは、漫画「エレメンタル・ジェレイド」47話「脅剣(グラディアス)〜再突〜」より
209名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/27(火) 15:38:56 ID:43VreGhW
投下乙でございます。

何とかクアットロは無事に済みましたか……

『最後のがやりたかっただけだったりー!』
って、キャロの襲撃は全てクアットロを丸出しにする為だけのものだったのか!!

……本当にここの書き手はクアットロに何を求めているんだろう……。

何はともあれ、クアットロとはやての腹のさぐり合いという最強にも最凶にもなりうるタッグ形成に今後が楽しみです。
210名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/27(火) 22:28:04 ID:70JUNQ7v
思考の.……またすっごい格好になってますわね、私…… にGJ(え)
211名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/28(水) 00:20:52 ID:faUy3WN0
投下乙です。
氏はクアットロに何を求めているんだwww
ああ、キャロが徐々に恐ろしい感じに…あの容姿で大鎌振り回すとか…
212名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/28(水) 12:28:28 ID:oMy/+J9o
投下乙です
クアットロが脱いだだと?
むごたらしく死亡フラグが立ってるクアットロだったがこれはしぶとく生き残るフラグか?
213 ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 10:23:34 ID:5LkdCJWa
これよりユーノ・スクライア、ルーテシア・アルピーノ、チンク、天上院明日香、ブレンヒルト・シルト、キース・レッドで投下します。
おそらく途中でサル規制になると思いますが、回復次第復帰するつもりです。
214Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 10:25:42 ID:5LkdCJWa
その駅には人の気配というものがなかった。
駅という建物は古今東西交通の要所であり、また移動の発着点である。
だから人が移動の手段を求めて駅に集まるのは当たり前の光景のはず。
だがデスゲームの会場内に唯一設置されたE-7の駅、そこに人の気配はまるでなかった。
人の気配がないどころか隣接している駅員の詰所は落雷に見舞われたかのように無様な半壊した姿を晒している。
しかも黒焦げになった死体が一つオプションとして置かれている始末。
見るに堪えない有様だが会場内を見渡すと、まだ他の破壊痕に比べればマシな方だ。
だがマシな方とは言うものの見る人が見れば早く立ち去りたいという考えが真っ先に浮かびそうな場所に成り果てている。

実際少し前にここを訪れた人物は駅の惨状を目の当たりにするや手早く用事を済ませて去って行った。

現在その訪問者は駅から少し離れた場所にある建物の周りを歩いていた。
その建物は一般的な大型の倉庫のような外観をしていて、灰色の金属製の壁が周囲の閑散とした雰囲気と合っていた。
またその閑散とした雰囲気は訪問者の外見と相まって一種ミステリアスな雰囲気を感じさせていた。
件の訪問者――首元の赤いリボンと左胸の校章が印象的な尊秋多学院の制服を着こなす少女――ブレンヒルト・シルトはゆっくりと歩いていた。

ホテル・アグスタを後にして参加者との接触を期待してF-7の地にブレンヒルトが着いたのは今から2時間ほど前の事だった。
到着して早々にF-7一帯の荒廃ぶりに驚きつつも誰かいないかと探してみたが、結局誰とも会う事はなかった。
そして捜索も一段落した時にブレンヒルトは北の方角から煌めく光と轟く音という二つの異変を感じ取った。
それはエネルが駅員詰所に放ったエール・トールの雷光と雷音だったが、そうとは知らずにブレンヒルトは異変の正体を探るべくそこに向かって行った。

だが駅に着いた時にはもう全てが終わった後でエネルもどこかへ移動した後であった。
唯一残っていたのはエネルに黒焦げにされた矢車の無惨な死体だけという状態だった。
ブレンヒルトの目的はここからの脱出であるから本来は矢車の死体になど用はない。
だがここを脱出するためには首輪を外すという関門を無視するわけにはいかない。
ブレンヒルト自身に首輪を解析して解除するスキルがない以上誰かに外してもらう必要があり、その助けとして首輪のサンプルは必要になってくる。
だからこそブレンヒルトは矢車の惨殺死体に吐き気を覚えつつも、それを抑えて死体から首輪を頂戴したのだった。
そして用が済んで駅から移動しようとした時にふと線路の先に何か建物がある事に気付いて今に至る。

最初に全体を眺めた後は四角い建物に沿って歩きながら、時には壁を叩いてみたり、時には距離を取って眺めてみたり、時には蹴ってみたりしていた。
軽くツインテールで結ばれた灰色に近いプラチナブロンドの髪を風で揺らしながらブレンヒルトはその作業を続けていた。
風に靡くのは紺を基調としたブレザーとそれとは逆に薄い紫色のスカートも同様である。
因みにバリアジャケットを解除しているのは魔力もとい賢石の消費を抑えるためである。
もちろん何かあれば即座に展開する気でいるが、無限ではない賢石を節約できる時にはしておくに限る。
時折壁を叩いたり蹴ったりする音以外に聞こえるのは足元の砂利を踏みしめる音だけ。
いつまでも続くと思われる程に単調なリズムで刻まれる音、音、音、音、音――そしてそれは唐突に止んだ。
音の発生源であるブレンヒルトが足を止めたからだ。

「……ねえ、バルディッシュ。一つ意見を聞きたいんだけど」
『…………』

建物の周囲を一周したブレンヒルトは足を止めると右手に乗せたバルディッシュに問いかけた。
問いかけられた三角形の宝石型をした待機状態の身であるインテリジェントデバイスは相も変わらず寡黙だった。
バルディッシュの沈黙を肯定と取ったブレンヒルトは次の言葉を発した。

「この私の目の前に建っている倉庫みたいな物体は何かしら?」
『…………車庫ですね』

幾らかの沈黙の後に得られた返答をブレンヒルトは無表情で受け取った。
その表情から感情を窺い知るのは難しく、彼女が何を思っているのかは一見して判別し難かった。
ブレンヒルトは口を閉ざして沈黙のままでいたが、しばらくすると再び手元のバルディッシュに問いかけた。
215名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 10:27:27 ID:zyUfzvbE
支援
216Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 10:27:30 ID:5LkdCJWa

「もう一度聞くけど……この私の目の前に建っている倉庫みたいな物体は何かしら?」
『……車庫だと思われます』
「バルディッシュ、あなたがデバイスじゃなかったら今頃酷い目に遭っていたわよ」
『どういう意味でしょうか』
「もしあなたが私の使い魔である黒猫だったら即行で蹴って蹴って蹴って踏んで蹴って蹴って蹴って最期に尻を――」
『……そこまでする理由は?』
「ん、理由? なんでわざわざ言わないといけないのかしら」

ブレンヒルトはバルディッシュからの問いかけを勢いではぐらかしておいた。
だが一度目の問いかけから場所を移動していないのでは最初の答えと今の答えが変わる訳はない。
ブレンヒルトもその事は重々承知していた。
ではなぜこのような質問をした挙句にこの場にはいない黒猫へのお仕置きを画策しているのか。
それは別の返答を期待していたが当たり前の事しか答えなかったデバイスに少しイラついたというものだった。
当然そのような些細な事を敢えて公言する気などなく若干の鬱憤を溜めるだけに収めていた。
これが気兼ねなく接する事ができる黒猫ならいつものように本気でお仕置きを加えていたところだ。

「でもこれが車庫だというのは間違いなさそうだけど、何なのかしらこの注意書きは?」

目の前にある建物が電車を保管する車庫である事はブレンヒルトも一目見た時から分かっていた。
問題はその車庫の唯一の出入り口である頑丈そうな金属製の扉の傍に一つの注意書きを記した立札。
そこには『残り15人になるまでこの扉は決して開かない。もし無理に開けようとすればそれ相応の罰を与えようではないか』と書かれていた。
念のために車庫の周囲を一周してみたが、車庫の中へ入るにはその立札付近の扉しか見当たらなかった。
壁を叩いてみたり蹴ってみたりしても何も分かる事はなかった。

「普通に考えたら電車だろうけど……本当にそうなのかは分からないわね」

ブレンヒルトは眼下に伸びる線路を一目見てから視線を上に移動させて引き戸型の車庫の扉を眺めた。
目の前の車庫は近くの駅の大きさに比例してそれほど大きくないが、それでも電車の1両や2両は楽に入るぐらいのものだった。
だが車庫の中に電車があるとは限らないとブレンヒルトは思っている。
まず「15人」という指定をしている以上その時までここを封印する理由があるはずだ。
しかも「もし無理に開けようとすればそれ相応の罰を与えようではないか」とまで書かれている。

(罰というのは……最悪首輪の爆破、と考えておきましょうか。問題は車庫の中身ね。
 私の予想通りなら中身は恐らく強力な兵器、それも単体で状況を変えてしまう程の代物かしら)

ブレンヒルトがそう考えるのには当然理由がある。
残り15人とはつまりは全体が4分の1にまで減った状態だ。
そこまで生き残った者達はおそらく誰もが一定の強さに達している者が大半だろう。
だが中には逃げ回って生き延びている者もいるはず。
恐らくこの車庫の中身はそういう者に向けて設置された物だろう。
車庫は駅の一部とはいえ少し離れた場所に建てられているから目に付きにくい。
逃げ回っている者は自然と色々な所を巡る事になるので車庫の存在に気付く可能性は高い。

「とりあえず残り人数が15人になったらまた来る事にして、そろそろ他の参加者と会いたいところ……ん、あれって?」

次の行く先を考えていたブレンヒルトはそこでふと何かに気付いたのか車庫の影に素早く身を隠した。
自分の身が隠れた事を確認して急いでデイパックから双眼鏡を取り出し市街地の方へ向ける。
目的の方角へ双眼鏡を向けた時、彼女の目が捉えたのは青い金属製の浮遊物体だった。


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217名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 10:27:52 ID:zyUfzvbE
しえん
218Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 10:30:55 ID:5LkdCJWa


その病院には人の気配というものがなかった。
病院という建物は古今東西治療の場として必要不可欠な建物である。
だから人が治療の手段を求めて病院に集まるのは当たり前の光景のはず。
だがデスゲームの会場内に唯一設置されたH-6の病院、そこには人の気配がまるでなかった。
人の気配がないどころか病院は北側を中心に爆撃を喰らったかと錯覚するほど無様な半壊した姿を晒している。
しかも内部には死体が4つもあり、生者の希望となるはずの場所は皮肉にも墓場のようになっていた。
駅よりも見るに堪えない有様であるが、会場内を見渡すと更に酷い破壊痕を見せる場所もある。
だがさすがにこのような廃墟状態の病院では正直近づきたくないというのが一般人の反応だろう。

だが今ここに到着した人物は一般人ではなく、そんな病院の惨状に恐れを抱かずに寧ろ焦りを感じていた。

「……姉は、取り返しのつかない事をしてしまったのか」

そう嘆いているのは戦闘機人ナンバーズのXであり右目を眼帯で覆い隠した銀髪の小柄な少女、チンクである。
明日香、ユーノ、ルーテシアと共に行動していたチンクが現在一人でいるのには訳がある。

もともとチンク達が病院を目指していたのは2つの目的があったからだ。
その目的とはレリックの捜索、それにチンクの姉妹であるクアットロとディエチとの合流である。
だがチンクが二人に病院に集まるように指示した時間帯が『朝まで』だった事が少し問題になった。
約束の時間に間に合うようにそれなりに急いで移動し続けていたが、H-7まで来たところでそれは断念せざるを得なくなった。
明日香とルーテシアの体力が限界に近づいたからであった。
さすがに戦闘機人のチンクや自ら一切歩いていないユーノは別として体力が一般人程度の明日香とルーテシアにはこれ以上の強行軍は無理があった。
そこで相談した結果、まだ余裕のあるチンクだけが病院に先行して他の3人は後から遅れて病院へ向かう事にしたのだった。

その際に各自の持っていた荷物を少し整理する事になった。
その結果、シェルコートとラオウの兜をチンクに渡す代わりに、ガジェットは三人の元へ置いていく事になった。
シェルコートはチンクの元々の持ち物だから、ラオウの兜は一応ランブルデトネイターに使用できるからという理由からだった。
ガジェットを置いておく事にしたのは万が一レリックを持った人物を発見したら確認しておくためだ。
この時点でレリックの反応は病院に戻っているとはいえチンクと行き違いになる可能性はある。
そうなった時のためにせめて残った3人で交渉、そこまでいかなくても持ち主の姿を確認しておけるようにという措置だ。
さらにルーテシアの本来の服装が近くに運良く乾いた状態で放置したままだったので、この機会に回収して余ったバニースーツはチンクが着る事になった。
もちろんこれは以前よりいつまでも下着なしで下がスースー丸見えのままは女性として不味いと思っていた明日香の進言だった。

これでチンクの心配は大分減り、しかも二人にはユーノが付いている。
時空管理局無限書庫司書長ユーノ・スクライア。
チンクがその名前を思い出したのはユーノに会ってからしばらくしての事だった。
どこかで聞いた事のある名前だと思っていたが、まさか司書長がフェレットに変身しているとは思いもしなかった。
長らく放置されていた無限書庫を使える状態にまで整備して、若くして司書長の座に収まった青年の名はそれなりに有名なものだった。
しかもユーノ本人も魔導師としての腕はそれなりに確からしい。
それだけの実力があれば自分が離れても間違いは起きにくいはずだ。
チンクはそう判断した。

そして戦闘機人ならではの運動性能で一人先行して無事に放送前に病院に着いたのがついさっきの事である。
だがチンクはそこで目の当たりにする事になった――集合場所に指定した病院のあまりに無残な姿を。

「まさか、あのメッセージをクアットロやディエチ以外の誰かに読まれた? とにかく考えるのは後だ。今は――」

半ば廃墟と化した病院に人の気配は全く無かった。
それでも僅かな希望を胸に抱いてチンクは先に到着している、もしくはこれから到着するかもしれない二人を探し始めた。
病院内に入ると視界には外観以上の惨状が否応なしに飛び込んでくる。
崩れたコンクリート製の壁、剥がれて散らばる床のタイル板、使い物にならなくなった診察台や長椅子。
それらが散乱する床に気を付けながらチンクは唯一残っている左目の解析システムをフルに稼働させて捜索を続行する。
219Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 10:32:14 ID:5LkdCJWa

探し始めて数分もしない内に男の死体と女の死体の計2つも見つけた事からもここが如何に危険な場所か思い知らされる。
どちらも野晒しの状態で男の方は傷痕があまりに激しすぎて生々しく、女の方は首と胴が別かれて首輪がなかった。
それはミリオンズ・ナイブズと神崎優衣の骸だったが、二人と面識のないチンクとっては名も無き死体でしかなかった。
もしかしてディエチとクアットロもこんな状態なのではという不安が溢れ、チンクの足は無意識の内にかなりの速足になっていた。
そして、とうとう見つけた。

「……ディ、エチ……ぁ……ぁあ……」

正面階段の階下、そこにチンクの妹であるナンバーズの]である寡黙な砲撃手ディエチはいた。
普通なら真っ先に気付けそうな場所だが、裏口から入ったチンクにはすぐ分からなかった。
だがようやく見つける事ができた妹に対してチンクに喜びなどなかった。
チンクの目の前に現れたディエチは既に物言わぬ骸と化していたからだ。
束ねられていた綺麗な茶髪はさんばらに振り乱れていて、さらに全身は鋭い刃物で切り裂かれたように幾筋もの傷が走っていた。
右手には身体同様にズタズタに引き裂かれた専用武器のイノーメンスキャノン、そしていつも髪を結ぶのに使っていた黄色いリボン。
お世辞にも死体の状態は良好とは言えないが、それなのにチンクはある一点に目を引きつけられていた。

それはディエチの死に顔。
ディエチの死に顔はこんな状態にもかかわらず、すごく満ち足りた顔をしていた。
まるで何かをやり遂げた達成感に溢れるような表情をしたままディエチは静かに眠っていた。

「……ゆっくり、眠ってくれ」

チンクはそう言い残してディエチの死体に別れを告げた。
あの満足げな顔を見たら他に言う言葉など見つけられなくなったからだ。
そしてチンクはそのまま何かを振り切るように階段を上がり始めた。

『さて、皆が待ち望んだ最初の放送の時間が来たわ』

そしてタイミングがいいのか悪いのか最初の放送が始まった。
放送の内容は禁止エリアと死者の発表、そしてアリサ・バニングスの蘇生劇。
当然ながら「ディエチ」の名前も呼ばれた。
どこかで男の声が聞こえたような気がしたが、今のチンクにはどうでもよかった。
ふと何気なしに前を見るとドアが破壊されていた病室があったので覗いてみると、そこにも見知った死体があった。
それはこの地で出会った「もう一人の高町なのは」のものだった。

「やはりクローンでは生き延びる事は無理だったか」

これでさっきの放送で「高町なのは」の名前が呼ばれた事も納得がいった。
時空管理局でも指折りのエースとして名を馳せる「高町なのは」ならともかく、クローンの「高町なのは」なら死んでもおかしくない。
そんな事を考えながらもチンクはどこか上の空だった。

だからチンクはすぐに気付く事が出来なかった――自らの身に迫る全てを飲み込む光に。


     ▼     ▼     ▼
220名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 10:32:16 ID:zyUfzvbE
シエン
221名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 10:36:28 ID:zyUfzvbE
SHIEN
222Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 10:37:38 ID:5LkdCJWa


H-8の平野を西に向かって二人と一匹が移動している。
二人というのは金髪に端正な顔立ちの天上院明日香と紫髪に幼い顔立ちのルーテシア・アルピーノ。
一匹というのは栗色の艶やかな毛並みをした可愛らしいフェレット……に変身中のユーノ・スクライア。
二人と一匹もとい三人は先行するチンクと別れてから少しの休憩を経た後に病院への移動を再開していた。
だが移動中の三人は終始無言を貫いていた。

(なんと言うか、気まずいわね)

明日香はチンクと別れてからずっとそんな事を思っていた。
ただでさえ隣にいるのが無口なルーテシアとフェレットだから会話が弾まないのは仕方ない。
記憶に残るまともな会話と言えば、ここに来てから今まで何をしていたかぐらいだ。
それでも何とか会話の機会を探っていた明日香だが、努力に反して放送後は三人の雰囲気が重くなる一方だった。
確かに死者の名前が呼ばれて気が落ち込むのは十分に分かる心情だ。

(でも……どこか現実味がないのよね)

明日香もここが殺し合いの場という事は分かっているつもりだが、放送で死者の名前を発表されてもどこか他人事のように聞いていた。
それはテレビを通して戦争の現場を見ているような、映像を見て何かしら思う事はあるが何処か遠い所での出来事だと割り切ってしまうような、そんな感じだった。
それはある意味ごく普通の平和な世界で暮らす一般人の思考そのものだった。

そして明日香がここに至っても未だに実感が持てないのもある意味仕方のない事であった。
ここまで明日香は直接殺し合いに巻き込まれる事はおろか他者の戦闘や死体さえも目にする事なく生き延びている。
唯一ボロボロになったチンクに会った事ぐらいがこの場の凄惨さを実感できる機会だった。
だがそのチンクも今では完全に回復したので今一つ殺し合いという実感が湧かなかった。
元々いた世界でも命の危険はあった事はあったが、そんな頻繁に起こる事はなく大部分は平和なアカデミア生活の日々。
寧ろ実体験だけで言うと今の状況の方が食料の心配がないだけ異世界に飛ばされた時よりもマシだとも思えてくる。

また放送で明日香の親しい知り合いが誰も呼ばれなかった事もその一因になっている。
所詮なのはやエリオやティアナといった面々は出会ってからそれほど時間も経っていない間柄である。
これが十代やレイや万丈目なら話が別だが、幸か不幸か全員放送の時点では無事だ。
これらの要因が明日香の心中に安心という惰性を生んでいるのだ。
その事に明日香自身はまだ気づいていない。
だからこそ放送の内容にそれほど衝撃を受けずにいた。

(それにあのアリサって人を生き返らせたのだって、ソリッド・ビジョンで説明が付くのよね)

ソリッド・ビジョン、所謂立体映像という技術。
デュエリストにとっては常識であるその技術を使えばさっきのアリサの復活も簡単に説明が付いてしまう。
最新の技術で画面越しならあれくらいのものを見せる事も十分可能だろう。

(やっぱり気にかかるのは、ルーテシアとユーノよね)

目下明日香が気にかけている対象は二つ。
ルーテシアという少女とユーノというフェレットだ。
ルーテシアの方は相変わらず無言のままだが、放送前に比べて雰囲気が微妙に変わっているような気がしてならない。
明日香自身もそれが何なのか上手く言葉にはできないでいた。
だからこそルーテシアが少し怖かった。
特にさらさらと風に流れる髪よりも濃くて深い紫の瞳。
あの何を考えているのか見当もつかない瞳が無意識の内に明日香の中で恐怖の対象になりかけていた。
ユーノの方は一目瞭然。
放送を聞いた直後から見て分かる程に元気がなくなっていた。
こちらから話しかけても碌に反応すらしない重症ぶりだった。

(……病院で会う予定のチンクの知り合いはどうなのかしら。でも、チンクの知り合いだから油断は禁物ね。)
223Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 10:38:40 ID:5LkdCJWa

不審感が拭えない以上、未だにチンクへの疑念は晴れないままだ。
さらに病院で待ち合わせをしていたディエチが死んでしまうという事態まで発生している。
知人の名が呼ばれたチンクがどういう行動に出るか明日香には予想できないでいた。
考えなければいけない事は山のようにあり、明日香は歩きながら頭を悩まし続ける羽目に陥っていた。

「――え?」

だから明日香は気付けなかった――自分達に迫る光と風の暴流の存在に。


     ▼     ▼     ▼


ユーノ・スクライア。
彼にとって「高町なのは」とは特別な存在だった。
9歳の時に知り合ったその少女は時が経つにつれて、いつしかユーノにとってなくてはならない存在にまでなっていた。

「高町なのは」という存在に何度もユーノは救われてきた。

そう言っても過言ではない程にユーノはなのはの事を大切に思っていた。
なのははいつも自分の身を顧みないで多くの人を救ってきた。
だから今度は自分がそんな放っておけばいつまた無茶をするか分からないなのはを支える。
それがユーノの心の内に秘めた想いだった。
もしかしたらそれは恋なのかもしれないが、ユーノはまだそうとはっきりと言えないでいた。
だからしばらくは今までの関係でいいのかなとも思っていた。

(……なのはが、死んだ……そんな――)

別れは唐突だった。

先程行われた放送で「高町なのは」の名前が死者の名前として呼ばれた。
他にも知った名は呼ばれたが「高町なのは」の名は何にも増してユーノに衝撃を与えていた。
ここに来てからユーノはなのはを支える事を改めて決意して、そう行動しようとしていた。
だが実際はフェレットに変身して不可抗力で破廉恥な事ばかりしているだけ。
このデスゲームを打開するために役立つ行動など何一つしていない。
チンクや明日香と合流した時も結局は自分の体裁を気にして何も話さないままだった。

(僕はここに来てからなのはや皆のために何かしたか? 何も、何もしていないじゃないか!)

なのはのために我武者羅に行動するべきだった。
皆のために自分の体裁など気にせず正体を明かすべきだった
そうするべきだったのに結局何もしないままに最悪の結末を迎えてしまった。

(いや、でもまだ僕の知っているなのはだと決まった訳じゃ……もしかしたらもう一人の方のなのはかも……)

確かに名簿には「高町なのは」という名は2つ存在していた。
そして放送で呼ばれたのは一つだけ。
もしかしたらそれはユーノの知るなのはではなく、もう一人のなのはのものかもしれない。
そんな希望をユーノは抱いていた。

(だけど、もしも僕の知っているなのはだったら……僕は、僕は……)

放送で呼ばれたなのはがユーノの知っているなのはかどうかは確率50%だ。
そしてそれを知る術は今のユーノにはない。
真実はどうなのかとユーノは放送が終わってからずっと悩んでいた。

だからすぐそこまで迫っていた危機にすぐに気付けなかった。
224Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 10:43:25 ID:5LkdCJWa

「――え!?」

それに一番初めに気付いて声を上げたのは明日香だった。
前方より迫りくる光と風の暴流。
三人は知る由もないがそれはプラント自立種であるヴァッシュ・ザ・スタンピードの天使の右腕――エンジェル・アーム、その余波だ。
同胞であるナイブズとの融合によって覚醒したヴァッシュのエンジェル・アームの威力は凄まじいものだった。
それは砲口が向けられた北西の方向は言うまでもなく発射地点である病院の周囲一帯に例外なく被害を及ぼした。
ヴァッシュ自身がいた病院はもちろん崩壊の憂き目に遭い、その余波は瓦礫を巻き込んだ突風となって周囲を蹂躙した。
その影響は病院の近くまで来ていた三人にも例外なく襲いかかった。

(あれは、不味い! このままじゃルーテシアと明日香が――)

正体不明のエネルギー波と瓦礫混じりの突風――間違いなく並の人間が耐えられるものではない。
今この状況を回避するにはユーノが人間の姿に戻って防御結界を張るしかない。
だが、そうなると同時に二人に今まで隠してきた自分の正体がばれる事になる。

(それがなんだ。なのはなら、きっと助けられる命は助けるはずだ!)

ユーノに迷いはなかった。
今までの彼は自分のしてきた事に対する疚しさからずっと何も話さないでいた。
それは要らない誤解を避けたいというところもあったが、それでは結局何も進まない。
話し合わなければ前には進まない。
それはユーノがなのはに見せつけられた事でもあった。

「二人とも下がって!」

緑の光に包まれてフェレット形態から人間の姿に戻ったユーノは間髪入れずに三人を守れるだけの防御魔法を一瞬で構築した。
元々防御魔法などの補助魔法に長けているユーノだからこそできる事だった。

「え、ユ、ユーノ?」
「二人ともそこから動かないでね」

案の定明日香が驚きの声を上げてくるが、ユーノは目前の危機への対処で手一杯だった。
いくら防御・補助魔法に長けているとはいえ、この制限が掛けられた状況で耐えきれるかどうかユーノに自信はなかった。
だが今は全力全開で防御魔法を展開させ続けるのみ。
ユーノは全魔力を防御魔法に注ぎ込み、緑の盾はその輝きをますます増していった。
そして、ついに――

「……はぁ、はぁ、耐えた……何とか、耐えきった」

――ユーノは耐えきった。
魔力の大部分を消費したが、三人は無事だった。
流石にガジェットまではカバーする事ができず、少し離れた場所で壊れて転がっていた。

ユーノはルーテシアに出会った時の事を思い出していた。
あの時自分はこのどこか危なげな少女を守ろうと思ったはずだ。
自分の我儘でルーテシアを放置してなのはを探す事をなのは自身が望まないと分かっていたはずだ。
だから今自分はここにいる。
ユーノは疲れた頭でそんな事を考えていた。

(放送で呼ばれたなのはが僕の知っているなのはかどうかは分からないけど、なのはならきっと生きている。今はそう信じよう)

今自分にできる事が信じる事だけならなのはは無事であると信じ続けよう。
自分の気持ちに整理を付けてユーノが心に改めて誓いを立てると、後ろの二人の様子を見ようと振り返った。
225名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 10:43:36 ID:zyUfzvbE
し♪え♪ん♪
226Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 10:44:48 ID:5LkdCJWa

「二人とも怪我はない、か――」

そこでユーノは自分の身体が地面に向かって倒れている事に気付いた。
身体に力が入らない事から魔力を使い過ぎた反動かと思ったが、腹の辺りに違和感がある。
地面に倒れこんだ痛みを無視して腹に手を当ててみればその手は真っ赤になっていた。

「――血?」

ユーノの意識があったのはそこまでだった。
大幅な魔力消費、二人を救えた事への安心感、なのはが死んでいるかもしれないという不安感。
それらが合わさってユーノの精神を疲労させて眠りに誘ったのだ。

倒れこんだユーノの前に立っていたのは血に塗れたウィルナイフを手にした紫髪紫眼の少女――ルーテシアだった。


     ▼     ▼     ▼


腹を刺されたユーノがゆっくりと地面に倒れていく様子をルーテシアは黙って見ていた。
その右手には今しがたユーノを刺した凶器――本来なら勇者が扱うはずの正義の武器ウィルナイフが握られていた。
ウィルナイフは一目で分かる程に刃を血に染めた状態にあったが、ルーテシアの表情に変化はない。
あまりにも無表情。
あまりにも静かすぎる。
そして、それがどこか不気味だった。

「ルーテシア、あなた、何をしているの?」

ルーテシアの凶行を目の当たりにした明日香は目の前の光景が信じられないような表情を浮かべていた。
それでも半ば呆然となりながら辛うじて質問を口に出すだけの思考はまだあった。
だがそれも傍から見れば脆いものに見える。

「見ての通り、殺し合い」
「――へ?」

そんな明日香を見ながら一切表情を変えずにルーテシアは答えを返した。
だがそこからはなぜ当然の事を聞くのかとでも言いたげな印象が感じられた。
明日香はルーテシアの答えに混乱するばかりだった。

「こ、殺し合いって、冗談でしょ。だって今まであなたは――」
「私には叶えたい願いがある」
「え、願い?」
「だから……皆を殺す」

ルーテシアは話し続けているが、その表情を変える事はない。
そこからルーテシアが何を考えているのか理解するのは難しい。
一方の明日香の表情は見る見るうちに歪んでいった。
その顔からははっきりと強い感情が読み取れる――恐怖という感情を。

「…………」
「ヒッ――」

そんな事は関係ないとばかりに無言でルーテシアはゆっくりと明日香の方に歩を進め始めた。
右手に握ったウィルナイフから血を滴らせながら。
ユーノを刺した時と同じ無表情のままで。
明日香はその姿を見て反射的に息を飲んでいた。
そしてルーテシアが進んだ分だけ無意識の内に後退りしている事に明日香は気付いていなかった。
227Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 10:46:15 ID:5LkdCJWa

「だから――」

叶えたい願いがある。だから……

「――死んで」

この場にいる皆の死を望む。
それはあるいは狂気とも言えるかもしれないが、本質は違うだろう。
ルーテシアはただ願いを叶えたいだけ。
だが先程からルーテシアに恐怖を感じ始めていた明日香はその一言で耐えられなくなった。

「――ッ」

恐怖は冷静な判断力を失わせ、人として本能の赴くままに明日香はこの場からの逃亡を選択した。
明日香は無我夢中でその場にあった3つ全てのデイパックを持って走り出していた。
必死に走る明日香は見る間にルーテシアとの距離を離していったが、当のルーテシアは既に明日香の方には目を向けていなかった。
今ルーテシアが見ているのはコンクリートの地面に倒れこんで赤い血の華を咲かしているユーノだ。

「……まだ死んでない」

実はユーノはまだ死んではいなかった。
ウィルナイフで刺されたとはいえ刺した本人が非力なルーテシアでは致命傷まで一歩及ばなかったのだ。
だが幾つかの要因が重なってユーノが気を失っているのは事実だ。
今のユーノはルーテシアにとって俎板の上の鯛も同然である。
その好機をルーテシアは逃す気はなかった。
確実にユーノ・スクライアを殺す。
それが逃げる明日香を放置した最大の理由だった。

「……ユーノ」

未だに意識の戻らないユーノの目前まで迫ったルーテシアは一言その名前を呟いた。
だがそれでルーテシアの表情や方針が変わる事はない。
これは一種の自分へのケジメ、それを確認する儀式のようなもの。
だからルーテシアに迷いはなかった。
高々と振り上げられた両手には本来なら勇者が手にするべき刃がしっかりと握られている。
刹那、頂点で止まった刃ウィルナイフはその動きを止めて、赤く染まった刃を一瞬だけ太陽に光らせる。
そしてウィルナイフは振り下ろされる力と重力に従って一目散にユーノの喉元へと落ちていった。
二つの力が合わさったウィルナイフは落下速度を一瞬で増加させ――

――コンクリートに激突した。

「――ッ!!」

ルーテシアはその予想外の衝撃で思わずウィルナイフから手を離してしまった。
幸いウィルナイフは傷一つ付かないままルーテシアの傍にカラコロと音を立てて転がるだけだった。
ルーテシアはそれを急いで拾い上げると視線を前方へと素早く移した。
ウィルナイフを振り下ろした瞬間、後方から不自然な突風が傍らを通り過ぎるのを感じていたからだ。
そしてその風はどことなく金色に光っていたような気さえした。
それはまるで雷光が横を走ったかのようだった。

「あなた、誰?」

視線の先には埃が舞い上がって薄く線を作っている様子が映った。
そしてさらにその先にこの現象を起こした張本人である三角帽子で顔を隠して黒装束を身に纏った女性がいた。
よく見ると傍にはいなくなったはずのユーノが寝かされていた。
それでルーテシアは何が起こったのか大体理解した――魔女が高速移動でユーノを掻っ攫ったのだと。
228Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 11:18:35 ID:5LkdCJWa

「誰……ん、そうね。魔女でどうかしら」

そこにいたのはまさしく魔女。
右手に漆黒のデバイスを構えた1st-Gの魔女、ブレンヒルト・シルトだった。


     ▼     ▼     ▼


(さて、とりあえずここまでは予定どおりね。あとは機を見て撤退するだけ)

ブレンヒルトは元々ユーノを助ける気でここに来たのではない。
元々のきっかけは駅の車庫付近で見かけた青い浮遊機械。
バルディッシュに問いかければガジェットドローンT型という答えが返ってきた。
そこでガジェットに見つからないように観察を終えたブレンヒルトは車庫から離れる事にした。
そしてバルディッシュからガジェットの詳しい説明を聞きながら、なぜここにガジェットがあるのか考え始めた。

最初に思い付いたのはプレシアによる監視用機械というものだったが、すぐにその線は薄いと結論付けた。
第一にガジェットは遠目から見て目立つために秘密裏の監視には向いていない。
しかも今まで会場を移動してきて見つけたのはこれが初めて、つまり稼働していてもそれほど数は多くないという事だ。
それでは会場中を隅々まで監視するには数が少なすぎる。

(そうなると、参加者の誰かに与えられた支給品? 誰だか知らないけど良い物を引いているじゃない)

念のためにバルディッシュに周囲のサーチを頼んだところ誰も引っ掛からなかった。
つまりこれの持ち主はガジェットを手放して行動している事になる。
一見するとその人物による偵察かとも思えたが、ガジェットの表面に書かれた文字を双眼鏡越しに確認して全てに合点がいった。
そこには『朝までに病院へ集合。生きて会おう姉と妹よ by 5姉』と文字が書かれていた。
つまりこのガジェットにはメッセンジャーという役割が与えられているのだ。

ブレンヒルトはそのメッセージを知ると、次の行き先を病院へと定めた。
病院へ行けば確実に人に会える可能性がある上にバルディッシュの話によると5姉ことチンクはそれほど悪い人ではないとの事だ。
スカリエッティという犯罪者の傘下だったが、今では更生している最中らしい。
バルディッシュの話を100%信じるつもりはなかったが、いい加減誰か他の参加者と接触したかったのも事実。
とりあえず様子見だけでもしておこうと思い病院へ向かった結果、このように少々ややこしい状態になってしまった。

川を飛行魔法で無事に飛び越えたところまでは予定通りだった。
このまま何も問題がなければ病院へ向かってチンクと会う手筈だったが、それは断念せざるを得なかった。
病院から放たれた暴力的な白い光――エンジェル・アームによって周囲一帯を瓦礫混じりの突風が蹂躙したのだ。
咄嗟にカートリッジを一つロードして半球形の防御魔法ディフェンサープラスを発動できた事が生存に繋がった。
あれは余波に過ぎなかったが、おそらく純魔力に劣る賢石変換の魔力だけでは耐えきれなかっただろう。
それほどエンジェル・アームの威力は凄まじいものだった。

そしてエンジェル・アームの余波を防ぎきったブレンヒルトが双眼鏡を片手に目にした光景。
それはルーテシアがユーノを刺す場面だった。

「バルディッシュ、あの3人の内で信用できそうな人いる?」

その問いにバルディッシュは少し間を置いてから答えを返してきた。
曰く、ハニーブラウンの髪の如何にも文化系みたいな青年がユーノ・スクライア。
目下三人の中で最も信頼できる人物らしい――腹を刺されて危険な状態というところが問題だが。
そして紫の髪の幼い少女がルーテシア・アルピーノ。
以前はスカリエッティという次元犯罪者の協力者だったが今は更生中らしい――どう見てもあの中で一番危険な存在だが。
最後の三人目は誰か知らないがどうやら一般人らしい。
目の前で起きた凶行に思考が追い付いていないようで呆然としている様子がここから見て取れる。

「出来ればユーノって人とは話したい事があるけど、まず出ていったら間違いなく小競り合いになりそうね」
229名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 11:25:13 ID:rW8rmYGH
支援
230Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 11:28:24 ID:5LkdCJWa

この時ブレンヒルトは病院でチンクと会うという目的を既に放棄していた。
先程の光が病院から放たれた以上あそこは既に待ち合わせに適した場所になり得ない。
しかも病院が倒壊した事はここから確認できた。
そうなると病院でチンクと無事に出会える可能性は低い。
病院へ向かうよりも今は目の前のユーノを助け出す方がまだ賢明な方に思えた。
しかもユーノは無限書庫の司書長、つまりは巨大なデータベースの管理責任者の地位にある人物。
それ程の人物なら何か有力な情報を持っている可能性は十分ある。
脱出するにしても何をするにしてもまずは情報が必要なのは変わらない。

有能なユーノをあの場から無事に攫う――それがブレンヒルトの新たな目的になった。

(それに……司書長か、少し気になる仕事ね)

ブレンヒルトが思い起こすのは自身が通う学院内にある衣笠書庫の司書ギル・グレアムの事だ。
一見すると温厚な英国紳士風の老人だが、その実は元護国課顧問の術式使いでその実力はかなりのものだ。
そしてブレンヒルトにとってはまた別の意味で特別な人――1st-Gを滅ぼした張本人、最大の仇である人物だ。
それ以外にも個人的に複雑な感情はあるが、ブレンヒルトはそれを無視して今は関係のない事だと胸の奥に押し込めた。

「はぁ、面倒くさくて、けしかけるだけで疲れるだけなのに」
『ですが、こうして助けようとして下さっています』
「……悪いけど、しばらく黙ってくれる。慣れない魔法使うから集中したいの」

こうしている間にも3人の様子は刻一刻と変化している。
現に名前の知らない金髪の少女は場の空気に耐えられなくなったのか明後日の方角へ逃走を開始していた。
一方ルーテシアはそれに見向きもしないで倒れたままのユーノに近づき始めた。
トドメを刺す気ならば一刻の猶予もない。
ブレンヒルトは頬を伝う汗を微かに感じながら呼吸を整え、そして行動を開始した。

「――ソニックムーブ」
『Sonic Move』

ミッドチルダ式の高速移動魔法によるダッシュ。
ウィルナイフが振り下ろされる前にユーノの元へ到達。
左手を滑り込ませるようにしてユーノを抱えてそのまま離脱。
数メートル先でソニックムーブの効果が切れて地面を擦りながら停止。
背後には未だ状況を理解できていないルーテシア。

「ここまでは何とか上手くいったわ」

本当は最初のスピードを維持したまま安全な場所まで離脱できたら良かったが、慣れない魔法ゆえにブレンヒルトにはこれが精一杯だった。
だが結果的にこれで十分だった。
とりあえずユーノを無事に拾う事に成功して、ルーテシアとの距離もすぐに詰められるものではない。
あとはここから無事に離脱すれば目的は達成される。

「あなた、誰?」

ようやく何が起こったのか理解した様子のルーテシアが名を尋ねた。
今はまだ土煙が微かに掛かっている状態なので迂闊に近づかないのだろう。
それならばこれはチャンスである。
今の間にここを離れる準備を整えて、答えを返すと同時に再びソニックムーブを発動させて離脱すれば全ては終わる。
ブレンヒルトは土煙が晴れたのを確認すると、涼しげに答えを返した。

「誰……ん、そうね。魔女でどうかしら」

ルーテシアへの返答と魔法の発動はほぼ同時。
逃げられると悟ったルーテシアが追い縋ろうと足を動かし始めたが、もう遅い。
ブレンヒルトはこの場から立ち去るべく逃亡のための一歩を――
231Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 11:30:59 ID:5LkdCJWa

「……フン……微かに誰かいる気配を頼りに来てみれば……シルバーではなくルーテシアと魔女だったか」

――踏み出す事が出来なかった。
それは予想外の方向から突然投げかけられた言葉と一発の轟音に値する銃声。
そして現れたのは緑の軍服に身を包んだ金髪碧眼の精悍そうな男だった。
唐突な男の登場はブレンヒルトとルーテシアに動く隙を与えなかった。

「まあ、いい……奴がいないのなら他の探し物と一緒に居場所をおまえらから聞き出すまでだ。死にたくなければ教える事だな」

突然現れた金髪碧眼の男――キース・レッドは有無を言わさぬ空気で以てそう告げた。


     ▼     ▼     ▼


キース・レッドがそれに気付いたのは怒りに震えて空を見上げた時だった。

エンジェル・アームの被害が及ばない場所H-7に降り立ったキース・レッドはその場で吼えた。
主催者と病院で無数の白刃を展開して自分を撤退に追い込んだ人物――恐らく状況的に金髪トンガリ頭に赤コートの男に向けて。
ふと思い返せばその男はナイブズの死体の前でひどく取り乱していた。
つまりはナイブズと親しい間柄であると容易に推測できる。
そしてナイブズは自分を見た時に「ヴァッシュ」という人物と見間違えていた。
キース・レッドの姿は金髪碧眼、そしてナイブズ襲撃時には赤いコートを纏っていた。
これらの要因からあの無数の白刃を展開した人物はヴァッシュ・ザ・スタンピードの可能性が高いとキース・レッドは結論付けた。

「まあ、いい。次に会った時に叩き切ってくれるわ」

キース・レッドは昂ぶった気持ちを落ち着かせ、怒りの遣り所に決着を付けた。
ではこれからどこに向かうべきかと考えを巡らせて背後の病院に視線を向けた時、それが目に入った。
北の方から低空ではあるが黒い人影が空を飛んでこちら側に渡る姿が見えたのだ。
そして、それから程なくして病院から白い光が放たれる様子も目にした。
流石に距離があるためにここまでは直接的な影響はないが、それでもあの光の威力はここからでも感じる事ができた。

「……戻ってみるか」

どんな状況にしても今あそこにまともに動ける人間がいるとは思えない。
あれほどの力を行使すれば元の世界では知らないが、ここでは確実に制限が加わるはずだ。
自分のARMSのように何らかの反動を受けている可能性が高い。

そしてキース・レッドは病院の方への道を戻り始めた。

「ほう、これは」

結果、キース・レッドは先の場面に遭遇する事になった。
それはちょうどブレンヒルトがユーノを連れてルーテシアの元から逃れようとした、まさにその時だった。
キース・レッドは素早く状況を把握すると、即座にジャッカルで牽制の銃弾を放つと共に注意をこちらに向けるために声を発した。

「……フン……微かに誰かいる気配を頼りに来てみれば……シルバーではなくルーテシアと魔女だったか」

都合よく二人も参加者に出会えたのだ。
キース・シルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』の行方を聞くのは当然だ。
いきなり襲撃しても良かったが、話し合いで解決するなら無駄な労力を費やさずに済むのでそちらの方がありがたかった。
キース・レッドは根っからの戦闘狂や快楽殺人者というわけではない。
神崎優衣を殺したのは首輪のサンプルを手に入れるため。
カレンとナイブズに襲撃をかけたのは人減らしと彼らの荷物が目的だったため。
ナイブズに再度襲撃をかけたのは排除するべき障害だと強く判断したため、そして武装の効力の確認のため。
ヴァッシュを襲撃したのは武装の再確認と荷物の奪取のため。
一応それなりの理由は持ち合わせている。
232Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 11:38:07 ID:5LkdCJWa

「まあ、いい……奴がいないのなら他の探し物と一緒に居場所をおまえらから聞き出すまでだ。死にたくなければ教える事だな」

ここでは仕組みは不明だがARMSの力が制限されている。
話し合いで行方を知る事ができれば無駄な力を使う事はない。
もう十分武装の確認はしているため相手を無闇に襲う必要はない。
ただしキース・シルバーとの決着の障害となるのなら別問題だ。
目障りな障害ならば一切の容赦をなくして葬り去る。

(こいつらにも一応使い道はあるが、どうするか。まあ、まずは聞いてみるか)

用事が終わった後の事はその時に考えればいいとキース・レッドは密かに考えをまとめていた。
とにかく今は二人から知っている事を聞き出す事が先決だ。

「時空管理局の茶色の制服を着た金髪碧眼の男について知っている事を話せ」
「その人の名前は?」
「聞いているのは私の方だ。さっさと答えろ」
「……悪いけど何も知らないわ」
「私も、知らない」

ブレンヒルトとルーテシアの答えを聞いてキース・レッドは微かに落胆した。
何か手掛かりぐらいはあるのではと期待したのだが、知らないものは仕方ない。
二人を観察しても嘘を言っているようにも見えないのでおそらく本当の事だろう。

「では、次だ。紅い刀身の短剣と紅い長鞘、名前は『ベガルタ』と『ガ・ボウ』だ。これについて知っている事は?」
「残念だけど、そんな武器は初めて知ったわ」
「私も、そう」

結局わざわざ足を運んだ結果は有力な収穫は皆無というものに終わった。
そうなるとキース・レッドにとって目の前の二人の価値はなくなったが、その処遇をどうするか少々迷うところだ。
用済みなので殺してしまってもいいのだが、ルーテシアを殺すのは色々と事情もあるのでそこは避けたい。
そうなると殺害対象は黒魔女のみになる。

「ねぇ、あなたの名前を教えてくれる?」
「ん、名前か。まあ、いいだろう。私の名はキース・レッドだ、もしかして何か思い出した事でもあったのか」
「いえ、そうじゃないわ。私はブレンヒルト・シルト、以後よろしく」
「なにが、以後よろしく、だ。おまえらの命など今すぐにでも私の手で消す事はできるぞ」
「そうね、確かにあなたが本気で殺しに来たら今の私なんてあっという間に殺されるでしょうね」
「ほぅ、よく分かっているな」

キース・レッドはブレンヒルトが何を言いたいのか見当がつかなかった。
命乞いかと思っていたが、どうも様子は違うように感じる。
そしてブレンヒルトは三角帽子の唾をすっと上げて、今まで隠していた顔を見せて言葉を発した。

「だから、あなたに一つ提案があるの」
「提案だと?」
「ええ、私と手を組むのはどう?」
「……話にならんな。おまえと組む利点などない」

ブレンヒルトからの申し出とは即ち同盟の締結。
もちろんキース・レッドはそれを即座に却下した。
それは普段のキース・レッドとしては当然の反応であり、制限があるとはいえ誰かと組むなどという行為をキース・レッドは受け入れられなかった。

「別に一緒に行動しようと言っているんじゃないわ。言い換えれば……取引かしら」
「取引だと」
「ええ、あなたが探しているものを私も探すわ。人手は多い方がいいと思うけど」
「つまり私の部下になるという事か」
「少し違うわ。あなたの探しものを探す代わり、この青年を連れて移動する事を許してほしいの」
(つまり捜索の手伝いをするのでこの場は見逃してくれというところか。なるほど)
233Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 11:46:05 ID:5LkdCJWa

実はキース・レッドもその方法を考えてはいた。
ここに来てから6時間以上も経過しているというのに一向にキース・シルバーに関する情報は手に入らない。
キース・シルバーの強さは自分がよく知っている。
まさか無残にどこかで殺されるなどとは思えないが、ここまで見つからないとなると流石に独りで探す限界を感じ始めていた。
そこで考えていたのが誰かを捜索者にして探す手を増やす方法だった。
だがいくら独りで探す限界を感じ始めたとはいえ、そのような事を自ら言い出す事をキース・レッドのプライドが僅かに許さなかった。
そんな時に差し出されたのがブレンヒルトからの申し出だった。
しかも見返りが死にかけの青年でいいとなると、こちらには損な点はない。

「よし、いいだろう。その青年は好きにしろ」
「感謝するわ。可能な限り早く探し出して――」
「ちょっと待て。おい、ルーテシア」
「ん、なに?」

ブレンヒルトは申し出が受け入れられた事から帽子の下に微かな笑みを浮かべた。
しかしキース・レッドの次の一言で再び緊張した面持ちになった。
キース・レッドはそんな事には構いもせず、終始沈黙を保ったまま様子を窺っていたルーテシアに声を掛けた。
ルーテシアはいきなりの呼びかけに一瞬驚いた様子だったが、表情が乏しいせいか見た目にはよく分からなかった。
そんな愛想のないルーテシアの返事を聞いたキース・レッドはデイパックを一つ投げ渡した。

「なに、これは」
「おまえに死なれたから困るからな。それで自分の身ぐらい守れ。あと、これもやる。銃は3丁もいらん」

続いてエボニーとその予備弾も渡しておく。
ジャッカルとカスールが手元にある以上エボニーを使う機会はないと判断したからだ。

「おまえにも私の探しものを探す手伝いをしてもらう。異論はあるか」
「……別に、ない」
「そうか、それは良かった」

キース・レッドは案外すんなり事が運んで拍子抜けてしまった。
もちろん捜索者が増える事は望ましい事だが、ルーテシアにデイパックを渡した理由は他にある。
ルーテシアはスカリエッティの協力者であり、もしここで殺してしまえば後々ばれた時に自分の立場が危うくなる。
それはここで無責任にルーテシアを放置しても同じ事だ。
最悪クアットロに首輪解除の協力が得られなくなる可能性も考えられる。
自分に首輪を解析して解除するまでの技能がない以上そこはクアットロに頼るしかない。
解析ぐらいなら可能かもしれないが、さすがにどこまでできるか不確定だ。
だからここでルーテシアを殺害または放置する事は得策ではない。
ブレンヒルトの申し出を受けた現状で『序でに』という形で荷物を対価にルーテシアに捜索の強要をしても不自然ではない。
ルーテシアとの交流がほとんどなかったので素直に受け入れるか不安だったが、結果的に上手くいった。

「その中にある道具は私よりおまえの方が上手く使えるはずだ。それで死なないようにするんだな」
「ん、ありがとう」
「フン、おまえに死なれると後々困る事になるかもしれんのでな」

結果だけ見れば三人は利害の一致からそれぞれ得をした。
キース・レッドは厄介なルーテシアへの処遇を曖昧にして捜索の手を広げる事ができた。
ブレンヒルトはユーノという何かしら情報を持っていると思われる人物を拾う事ができた。
ルーテシアは身を守り敵を屠る武器を手に入れる事ができた。
三人ともお互いの事はよく知らないが、この状況を崩さないように敢えて余計な詮索はしなかった。
それからキース・レッドはキース・シルバーの容姿と『ベガルタ』『ガ・ボウ』の情報を改めて二人に教えておいた。
あとは三人の今まで出会った参加者と今後の行き先を軽く話しただけだ。

「そうだ、最後におまえ達に言っておく。期限は3回目の放送がある18時まで、その時までにこの会場の中央E-5にある地上本部まで来い。
 もしもその時に何も情報を持って来られなければ――オレが貴様らを殺す」
「――ッ!! 待って、せめてもう少し時間をくれないかしら」
「あと11時間ぐらいあれば何か見つけられるだろ。死にたくなければ必死になる事だな」
234名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 11:46:57 ID:rW8rmYGH
支援
235Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 11:52:01 ID:5LkdCJWa

18時までがキース・レッドが見積もった最大の時間だ。
さすがに次の放送までにすると残り5時間程度になるので、捜索の時間としては不安が残る。
11時間もあれば何か見つけて当然であり、もし出来なければ無能という事で殺せばいい。
ルーテシアに関してはその時に考え直せばいい。

「フン、これ以上時間を無駄にしないよう……それでは!!」


     ▼     ▼     ▼


明日香にとって先程の光景は理解しがたいものばかりだった。
突然光と突風と共に瓦礫が飛んで来て死ぬかと思ったら、フェレットのユーノが人間に変身した。
そしてユーノが目の前に緑の盾を出して、それを何とか凌ぎきった。
ここまではまだ一応明日香にも何とか理解できる範疇だった。
フェレットのユーノが人間に変身して魔法の盾で自分達を守ってくれたのだろうと思っていた。
だが次に起こった事は明日香にとって最も衝撃な事だった。

ルーテシアがユーノを刺したのだ。

「なによ、いったい!?」

明日香は必死に走りながら誰もいない森の中に疑問を投げかけていた。
ルーテシアが持っていたウィルナイフは明日香が身に付けているガオーブレスに内蔵されていたものだ。
先程の騒動の隙に引き抜かれていたのだろうが、そんな事はもうどうでも良かった。
何より明日香には分からない事があった。

それはルーテシアがユーノを刺した動機だ。

病院への道中で何とか聞き出した内容によればユーノとルーテシアは自分達に会うまでずっと二人きりで、その間は特に言うべき事はなかったらしい。
実際明日香達と出会った時のルーテシアとユーノは一緒で、それは先程までも変わらない事だった。
しかも直前にユーノは自分達の命を救ってくれたばかりだ。
そんなルーテシアにとって同行者であり恩人であるユーノを刺す理由が全く明日香には理解できなかった。
もしかしてユーノが人間になれる事を隠していたからかとも一瞬思ったが、その程度では大した理由ではないとすぐに否定した。
結局はルーテシアが答えてくれない事には何も分からないが、ルーテシアが返してきた答えは単純だった。

――願いを叶えるためにこの地にいる全員を皆殺しにするからだ、と。

それで明日香にもルーテシアの行動の意味は一応理解できた。
最後まで生き残れば願いを叶えるとプレシアは先程の放送で宣言した。
だから魔が差してルーテシアがあんな行動を取る可能性は十分にある。
だがそれでも明日香には未だに分からない事があった。

それはルーテシアの眼だ。

(なんで、なんであんな事をしておいて、そんな目をしていられるのよ!)

ルーテシアの眼はユーノを刺したにもかかわらず大して変化がなかった。
寧ろ眼というよりは表情といった方が適切かもしれない。
人を殺すと決めた顔にしては今まで明日香が見てきた顔とどこも違わない。
それが逆に恐れを生んでいた。
ルーテシアが感情を露わにして殺そうとすれば、それはどこにでもいる殺人者の姿だ。
だが無表情で何の感傷も抱いていないように淡々と行動するルーテシアは普通とは違う恐怖があった。
いつのまにか頭の中で腹を刺されたユーノが。
首を吹き飛ばされたアリサが。

天上院明日香の姿と重なっていた。

(殺される! 私も、ユーノみたいに――殺される!?)
236名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 11:56:42 ID:rW8rmYGH
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237Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 11:58:34 ID:5LkdCJWa

ルーテシアの凶行を見せつけられて明日香は徐々に冷静さを失っていた。

かつてエグリゴリのエージェントに対して某赤帽子の傭兵は人間の心理について次のように述べた。

『人間の冷静な判断力を失わせるには、恐怖と怒り……たった二つの感情を操作してやればいいのだよ!』

元グリーンベレーで都市における心理戦の専門家でもある彼の言う事はもっともだ。
人間とは許容範囲を超えた感情をコントロールする事を不得手とする傾向がある。
もちろん平時ではそのような事態に陥る事はほとんどないだろうが、ここでは違う。
通常なら殺し合いという異常事態の中で特別な経験を積んでいない者は混乱して当たり前だ。
平時と同様の精神でいる事など土台無理なのだ。
天上院明日香は普通の一般人とは違ってデュエリストとして死闘を潜り抜けてきた経験はある。
だがそんな経験はこの状況下では脆かった。
しかも明日香は直前まで殺し合いの場にも関わらず、そのような危険な目には一切遭わずにここまで来た。
それはつまり殺し合いという場において殺し合いとは無関係な安全な場所にいたという事だ。
それがいきなりこのような急転直下の事態に陥れば冷静な判断などできるはずなかった。

だからあの場から逃げた。
それは人間の本能に従った結果だった。
そこに冷静な判断も一人だけ逃げるという罪悪感もない。
明日香の中にあったのはルーテシアという恐怖から一刻も早く逃れたいという欲求だけだった。
それはまるで恐怖という化け物に矜持を奪われたかのようだった。

どれくらい逃げただろうか。
瓦礫が散らばる市街地を抜け、土埃が舞う平野を抜け、閑散とした林を抜け、鬱蒼と茂る森を抜け――
I-7の南端からA-7の北端にループした事にも気づかぬまま走り続けて――

「はぁ……あぁ……はぁ……ぅ……うぁ……」

――ようやく明日香の足が止まった。
どれくらい走り続けたのか分からなかった。
辛うじて分かった事は近くにルーテシアはいないという事だけだ。
前方に湯気が立ち上る建物が見えるが、今はどうでも良かった。
同時に今まで張り詰めていた緊張が解けて身体の力が一気に抜けた。
その影響で手からデイパックを取り落として、ようやくデイパックが3つある事に気付いた。
手数が増えればそれだけ取れる選択肢は多くなり有利になるというデュエルで言う手札的感覚で取って来たのだ。
それは無意識の内に働いた思考の結果だった。

「ん、これって……」

ふと落ちたデイパックに目を遣ると中から青い宝石が零れている事に気付いた。
明日香はそれが何なのか知っていた。
それは放送の前に皆の支給品を確認し合っていた時にユーノが説明してくれたものだった。

「ジュエルシード、でもこれを使えば……」

ロストロギア指定を受けた次元干渉型エネルギー結晶体であるジュエルシード。
持ち主の願いを叶えるが危険な代物で間違っても使ってはいけないらしい。
明日香はそれを拾い、次いでデイパックの中から取り出した夜天の書と交互に眺め始めた。
その眼には暗い影が宿っていた。
夜天の書もジュエルシードと共にユーノから説明を受けた代物であった。

「このジュエルシードの力で夜天の書を使えば、私もなのはさん達みたいに魔法を使う事が……」

明日香はふとなのは達が魔法を使っている様子を思い出していた。
あの力が自分にもあれば皆を助けられる、ルーテシアのような危険な人物にも正面から立ち向かえる。
今のままの何の力もない状態ではそのうち仲間諸共殺されるしか想像できなかった。

だから、明日香はジュエルシードを――
238Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 12:04:13 ID:5LkdCJWa

【1日目 朝】
【現在地 B-7 温泉付近】
【天上院明日香@リリカル遊戯王GX】
【状態】健康、疲労(大)、チンクへの疑念、ルーテシアへの恐怖心
【装備】ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!
【道具】支給品一式×3、ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    バリアのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、トバルカインのトランプ@NANOSING、ゾナハカプセル@なのは×錬金
【思考】
 基本:殺し合いには乗らない。仲間達と合流してプレシアを打倒する。
 1.ジュエルシードを――
 2.ルーテシアから離れる。
 3.ゾナハ……って何?
【備考】
※転移魔法が制限されている可能性に気付きました。
※万丈目にバクラが取り憑いている事を知りません。
※チンクの「万丈目に襲われた」という情報は、嘘か誤りだと思っています。
※トバルカインのトランプが武器として使える事に気付いていません。
※ユーノの本当の姿はフェレットであり、ルーテシアに殺されたと思っています。
※明日香がジュエルシードをどうするかは後続の書き手にお任せします。


     ▼     ▼     ▼


人を癒すはずの病院の姿は既にそこにはなかった。
二度のエンジェル・アームの発動によって完膚なきまでに崩壊したそこにあるのは、少し前までは病院だった瓦礫の山だ。
既に病院を崩壊させた張本人であるヴァッシュは絶望の中で幽鬼のように当てもなく去って行った。
だからここにはもう生きている者など一人もいないはずだ。
しかし、そんな瓦礫の山が突如として蠢き始めた。
瓦礫の山の麓に散乱する大小様々な形の瓦礫で出来た小さな山々。
そのうちの一つが鳴動している。
微かだった振動は徐々に大きくなっていき、やがてその瓦礫の小山は崩れ去った。
その中から出てきたのは灰色のコートに身を包み右目に眼帯を付けた銀髪の少女チンクだった。

「く、は! 危ない所だった、ハードシェルが間に合って助かった」

あの時、間一髪で身に迫る危険を察知して病院の窓から飛び出した時、エンジェル・アームは放たれた。
運が良かった事にチンクが飛び出した窓は南側でエンジェル・アームが放たれた北西とは逆に位置する場所だった。
そのために直接エンジェル・アームの光に巻き込まれずに済んだ。
だが被害を回避するためにランブルデトネイターでラオウの兜と残っていた工具全てを消費してしまった。
最初に兜の大爆発で距離を作り、続けて工具の小爆発で瓦礫を破砕して、あとはシェルコートを使用してのハードシェルで耐えきった。
もともと施設の大爆発にも耐える程の高硬度を誇るものだが、ここでは制限のために耐えきる自信はなかった。
だが現実にチンクは耐えきり、こうして再び地面の上に立つ事ができる。

「これは、なんという有様だ」

病院があった場所には成れの果てである瓦礫の山ができていた。
もちろん病院内にあった死体はどれも無事な状態で残っているとは思えない。
ディエチも例外ではなく、それらの死体はもう弔う事は永久に出来ない状態になってしまった。

「……ディエチ」

チンクは在りし日のディエチの姿を思い返していた。
だが思い返せば思い返す程に懐旧の想いは募るばかりであった。
そして同時に自分の不甲斐なさも痛感するのだった。
自分がガジェットを使って不用心にあのようなメッセージを出したせいでディエチは死んでしまったと悔恨の念が絶えない。
出来る事ならプレシアが放送で言っていた褒美でディエチを生き返らせて、もう一度会いたいと思う。
クアットロやルーテシアが死んでも生き返らせればいいとさえ思える。
だが、それが正しいのかチンクには判断が付かなかった。
239Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 12:05:16 ID:5LkdCJWa

「なぜだろうな、ディエチ。姉は、お前がそんな事を望まないような気がしてならない」

なぜそう思うのかチンク自身にも分からない。
ただあの死に顔を見ているとなんとなくディエチは満足して死んでいったような気がしてくるのだ。
だからあのまま静かに眠らせてやった方がディエチのためにもいいのではと思える。

「姉はどうすればいいんだろうな」

そんな答えが返ってくるはずもない問い掛けを風の中にする。
幼い身体に比べて長めの銀髪を風の流れるままに任せながらチンクは静かに考えに耽っていた。
あの病院が目の前にある瓦礫の山に化したのかと感慨深げに眺めていると、瓦礫の中に何か埋もれているのを見つけた。
興味を抱いて近づいて見ると、それはボロボロになって所々罅が入った紫と黒を基調とした大剣・大百足だった。
そして近くにはその持ち主だと思われる人物、正確にはその人物の首があった。
金髪の髪の下にある顔はチンクにとって見覚えのある顔だった。

「……フェイト・T・ハラオウン。貴様も死んだのか」

これで見知った死体を見るのは三度目という事もあってか、もう特に思う事はない。
そしてしばらくしてチンクは何を思ったのか大百足を拾い上げると、その場に刺した。
まるでフェイトの墓標のように見えるが、チンクはそんなつもりで刺したのではなかった。
チンクは刺した大百足に背を向けると、ゆっくりと歩き出した。
一歩、一歩、一歩、一歩、少しずつ大百足との距離は広がっていった。
そして一度立ち止まって振り返ると、その場で回れ右の要領で大百足の方に顔を向けた。

「距離はギリギリだな」

チンクはデイパックからナイフを一つ取り出すと、いつものように構えた。
新品同様のナイフとは対照的に大百足は少しの衝撃で壊れそうな程にボロボロだった。

「もしナイフを投げて剣が壊れれば殺し合いに乗ろう。壊れなければ殺し合いには乗らない。ディエチ、お前が選べ」

チンクはそのナイフに、亡きディエチに、己の道筋を決めさせるつもりだった。
剣が壊れるか否かは……ディエチに決めてもらいたかった。
そんな事は非科学的だと分かっていてもこうするのが一番気持ちの面ですっきりすると思ったのだ。

「では、いくぞ!」

裂帛の気合と共にナイフはチンクの手を離れて大百足へと吸い寄せられるように飛んでいった。
そして勢いを落とさぬままナイフは――


【1日目 朝】
【現在地 H-6 病院跡地】
【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、疲労(中)、ディエチの死に対する悔恨
【装備】バニースーツ@魔法少女リリカルなのはStrikers−砂塵の鎖−、シェルコート@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、料理セット@オリジナル、翠屋のシュークリーム@魔法少女リリカルなのはA's、被験者服@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:姉妹と一緒に元の世界に帰る。
 1.剣が壊れたら殺し合いになる、壊れなければ殺し合いに乗らない。
 2.姉妹と合流した後に、レリックを持っている人間を追う。
 3.姉妹に危険が及ぶ存在の排除、及び聖王の器と“聖王のゆりかご”の確保。
 4.クアットロと合流し、制限の確認、出来れば首輪の解除。
 5.Fの遺産とタイプ・ゼロの捕獲。
 6.天上院を手駒とする。
【備考】
※制限に気付きました。
※高町なのは(A’s)がクローンであり、この会場にフェイトと八神はやてのクローンがいると認識しました。
※ベルデに変身した万丈目(バクラ)を危険と認識しました。
240Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 12:06:11 ID:5LkdCJWa


     ▼     ▼     ▼


ルーテシアが今まで無関心だったデスゲームに乗るきっかけとなったのは明日香の話だった。
病院へ向かう途中で明日香はこちらの関心を引こうと今までどこにいたかを話していた。
その中にスカリエッティのアジトが出てきたので、一つ質問をしてみた。

――生体ポッドの中に何かあったか、と。

明日香はその質問に「何もなかった」という答えを返してきた。
その瞬間、ルーテシアの気持ちは決まった。
最初ルーテシアはアジトが自分の知っているアジトだと思っていた。
だが明日香の話に出てきたアジトにはあるはずのものがなかった。
生体ポッドの中で眠っているはずのメガーヌ・アルピーノ、ルーテシアの母親だ。
それがいないという事はつまり――

(――プレシアの言っている事は正しかった?)

ルーテシアはここへ転送される前の事を思い出していた。

皆が転送された部屋に何故か一人取り残された自分。
壇上から降りて来て自分に近づいてくるプレシア。
普通に話せる所まで近づいてきたプレシアはある事実を話し始めた。
曰く、ここへ集められた人々や建物はそれぞれ別々の世界から集めたので本物はルーテシアのいた世界で元気でいると。
それからプレシアは殺し合いを円滑に進めるために皆を殺して回ってほしいと言ってきた。
ここにいるのは全て別の世界の人なので殺しても元の世界に戻れば問題ないとも付け加えていた。
それを聞いても別に何も思わなかった。
たぶん急な展開に頭が追い付いていなかったのだろう。
そのうち反応が乏しい事に気付いたプレシアが唐突に不思議な事を言った。

――私は死んだ人でも生き返らせる事が出来るのよ、と。

そしてこちらの首にある首輪を指差すと、なぜか首輪が甲高い電子音を鳴らし始めた。
その音が耳障りになって鬱陶しいと思っていると、

――ボン

首輪が爆発した。
自分の首が宙を舞って視界が回る様子はなぜか鮮明に映った。
そしてルーテシア・アルピーノは死んだ。

だがすぐにルーテシア・アルピーノは生き返った。
それは目の前にいたプレシアの力のおかげだと当の本人は言っていた。
そしてプレシアが続けて言った言葉は強く心に深く刻まれた。

――最後の一人になれば母親を復活させてあげる、と。

それは青天の霹靂のような言葉だった。
思わず理由を、なぜ自分にそんな事を言うのか尋ねてみた。
プレシアは少し悲しそうな表情を顔に浮かべて呟いた。

――似ているのよ。母親を失ったルーテシアが自分と似ている、と。

そして、その言葉を最後に私はついに会場へと転送された。

「プレシアの言っていた事は本当だった、だからあの言葉も正しい」
241Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 12:07:08 ID:5LkdCJWa

先程出会ったキース・レッドという男はなぜか自分を知っていた。
おそらくプレシアが言っていた別世界の自分と知り合いなのだろう。
ルーテシアはそう判断した。
あの時は無闇に相手を刺激しないように最低限の受け答えのみだったから確信はないが、あの話振りだとそうとしか考えられない。
それなら名簿に名前が二つ載っている機動六課の3人にも説明がつく。
つまり別々の世界から連れて来られているのだ。
だからゼストやナンバーズも自分の知る彼らとは違う事になる。

「だから、大丈夫」

皆殺しを目指す事にしたが、今の状態でキース・レッドに敵うと思えず、あの場は手を出さずに状況を静観する事にした。
そして状況は思わぬ方向に転がったが、それはルーテシアにとって悪くないものだった。
だから別れる時にキース・レッドとブレンヒルトに自分が転送される直前の出来事を教えておいた。
いろいろ上手い具合に生かして支給品を貰ったのでそのお返しのつもりだった。
それを聞いた二人はひどく驚いていた。
特にキース・レッドは何やら深刻そうな表情を浮かべたが、すぐに不敵な笑みを浮かべていた。

最初はプレシアの言う事が半信半疑だったのでレリックを手に入れようとしたが、もうそれに拘る事はない。
自分だけでできそうなら迷わず殺しに行くが、自分の力で敵わない相手に向かって行こうとは思わない。
自分では敵わない相手は他の人に任せればいい。
そうやってここにいる全員を殺して本当の皆のいる世界へ帰る。
それがルーテシアの新しい目的になった。
もちろんプレシアが約束を守るなら最後の一人になって母の目を覚ます事ができる。
そうすれば自分にも「心」が生まれる。

「待っていてね、母さん」

母への誓いを胸にルーテシアは先の取り決め通り北へ向かって行った。
元々スカリエッティのアジトを目指していた事もあり、一度自分の目で確かめたいと思った事が理由だった。
キース・レッドから渡された物はイフリートというモンスターの召喚マテリアだった。
元々は既に死んだ高町なのはに支給されたものだったが、もちろんキース・レッドもルーテシアもそんな事は知らない。
この道具は召喚士である自分に適しているように思われる。
差し当たっての問題は上手く扱えるかどうかだが、それはこれから考えたらいい。
一応ナイフと銃も持っているので心配はそれほどない。

「……それとキャロ・ル・ルシエ」

キャロ・ル・ルシエとエリオ・モンディアル。
自分と同じ召喚士とそのパートナー。
この二人はルーテシアの中ではある意味特別な存在になっている。
自分と同じ召喚士でありながら仲間や家族に恵まれているキャロと、その隣にいるエリオ。

(負けない、ガリューや白天王がいなくても負けない!)

それは幼い時には誰もが持つ対抗心と言われるものだが、ルーテシアにはそこまで理解できていない。
だからその対抗心が某戦闘機人のせいで暗い嫉妬に変貌しつつある事にも気づいていない。
エリオ亡き今その負の感情はキャロに向いていた。
242Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 12:08:07 ID:5LkdCJWa


【1日目 朝】
【現在地 G-7】
【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、疲労(小)、キャロへの嫉妬
【装備】マッハキャリバー(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ウィルナイフ@フェレットゾンダー出現!
【道具】支給品一式、召喚マテリア(イフリート)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、
    エボニー(10/10)@Devil never strikers、エボニー&アイズリー用の予備マガジン
【思考】
 基本:最後の一人になって元の世界へ帰る(プレシアに母を復活させてもらう)。
 1.どんな手を使っても最後の一人になる(自分では殺せない相手なら手は出さずに他の人に任せる)。
 2.北へ向かい、スカリエッティのアジトへ一度行って生体ポッドの様子を確かめる。
 3.一応キース・シルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』を探してみる(半分どうでもいい)。
 4.一応18時に地上本部へ行ってみる?
 5.もしもレリック(刻印ナンバー?)を見つけたら確保する。
【備考】
※ここにいる参加者は全員自分とは違う世界から来ていると思っています。
※プレシアの死者蘇生の力は本物だと確信しています。
※ユーノが人間であると知りました。


     ▼     ▼     ▼


「ふふふ、なかなか便利だな。だが、使用は控えておくか」

キース・レッドはサンライトハート改の推力で山吹色のアーチを宙に描きながら川を越える事に成功していた。
最初は役に立たないと思っていた金属板は意外にも攻撃・防御・移動・回復と便利な物である事を改めて感じていた。
だが過度の使用は禁物だ。
ARMSのように何か制限が掛かっているかもしれない。
それにあまり使い過ぎるとそれだけ誰かに目撃される可能性が出てくるので、そうなれば肝心な時に対処される可能性がある。
しかも本来はキース・レッドのものではないので、本来の持ち主と出会えば最悪返り討ちになる事もある。
そのような事態を避けるためにもサンライトハート改を使うのは控えたほうが賢明だ。
普段は待機状態で回復の促進に回して、ここぞという時つまり戦況を変える時にこそ使うべきだろう。
キース・レッドは待機状態に戻した核鉄を眺めながらそんな事を考えていた。

「気掛かりはルーテシアが言っていたプレシアとの会話だ。ここにいるシルバーが私の知っているシルバーではない、か」

もしそれが本当ならここにいる必要はない。
今すぐにでも参加者を皆殺しにしてプレシアの力で元の世界へ返してもらえばいい。
もしそれが嘘なら今のまま行動しておけばいい。
先の取り決め通り中央付近でキース・シルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』を探しながら18時に地上本部へ行けばいい。
つまりはどちらにせよ、これからの行動に然して変更はない。

敢えて言うならこれから新しく出会う参加者への対応だ。
開口一番にキース・シルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』について知っている事を聞き出すとして、その後どうするのか。
殺すか、捜索者にするか。
役に立つなら捜索者に仕立て上げ、役に立たないなら殺す。
キース・レッドはこれを基本にしようと考えていた。
もちろんその場で臨機応変に対応した結果、最も良さそうな手を講じるが。

「シルバーよ、今度こそ貴様の身に刻んでやる。我が最強のARMS、グリフォンをな」
243Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 12:18:42 ID:5LkdCJWa


【1日目 朝】
【現在地 H-6 川の畔(北側)】
【キース・レッド@ARMSクロス『シルバー』】
【状態】健康
【装備】対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(3/6)@NANOSING、.454カスール カスタムオートマチック(6/6)@NANOSING、
    核鉄「サンライトハート改」(待機状態)@なのは×錬金
【道具】支給品一式×5、ジャッカルの予備弾(18発)@NANOSING、レリック(刻印ナンバーZ)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    首輪×2(神崎優衣、高町なのは(A’s))、ヴァッシュのコート@リリカルTRIGUNA's、S2U@リリカルTRIGUNA's、
    ランダム支給品0〜2(元カレン、『ベガルタ』『ガ・ボウ』ではない)
【思考】
 基本:キース・シルバー(アレックス)と戦い、自分の方が高みにある事を証明する。
 1.中央に向かいシルバー(アレックス)及び『ベガルタ』『ガ・ボウ』の捜索。
 2-1.出会った者にシルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』について知っている事を聞き出す。
 2-2.聞き出した後、役に立ちそうならシルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』を探すようにさせ、役に立たないなら殺す。
 3.1及び2を邪魔するものは容赦なく殲滅する。
 4.できるだけ早く首輪を外したい。
【備考】
※キース・シルバーとは「アレックス@ARMSクロス『シルバー』」の事だが、シルバーがアレックスという名前だとは知りません。
※神崎優衣の出身世界(仮面ライダーリリカル龍騎)について大まかな説明を聞きました。
※自身に掛けられた制限について把握しました。
※白刃の主をヴァッシュだと思っています。
※サンライトハート改は余程の事がない限り使う気はありません。
※ルーテシアの話の真偽(別世界の事)についてはどうでもいいみたいです。


     ▼     ▼     ▼


市街地から少し離れた林の中に作られた畑。
今は一面雑草だらけの場所は本来なら季節によってさまざまな食物を提供してくれる場所だ。
そんな畑の隅に寂しく建っている小屋の中に魔女と魔導師がいた。
1st-Gの魔女ブレンヒルト・シルトとミッドチルダの魔導師ユーノ・スクライアだ。
だが、どうやら現在進行形で風向きが怪しい様子だ。

「やっぱりここへ向かう途中から意識があったのね。で、気絶した振りをして年頃の女性に背負われた気分はどうなの?
 ふふふ、さぞかしいい気分だったでしょう……いい度胸ね」
「あ、その事に関しては、その、ごめん。だから、笑顔で拳を振り上げるのは如何なものかと」
「……怪我していなかったら腹に一発ストレート入れていたところなのよ、あの娘に感謝するのね」
「今のって笑うところなのかな」

先の取り決めでルーテシアは北へ、キース・レッドは中央へ、ブレンヒルトは南へつまりこの付近で捜索をする事になった。
あの場を凌ぐための苦肉の策だったが、余計なタイムリミットが課せられたのは失敗だった。
本来ならその場だけの嘘方便で後は適当にやり過ごすつもりだったが、これでそうもいかなくなった。
それでもユーノを連れる事は出来たので一段落付いたとブレンヒルトは自分を納得させていた。

「それより傷の具合はどうなの。見たところ、すぐに動けそうにないみたいだったけど」
「うん、今はヒーリングを掛けているから刺された直後よりはマシだよ。でも、やっぱり動くにはもう少し時間が……」
「別に良いわ。その間に聞きたい事もあるから。あなたのいた世界や魔法の事、このデスゲームの事。分からない事が多すぎるのよ。」
「それは、僕に分かる範囲なら……」
「それでいいわ。よろしくね、スクライア」
「こちらこそ、よろしく、ブレンヒルト」

ブレンヒルト・シルトとユーノ・スクライア。
この二人の邂逅は果たしてデスゲームにどのような影響を及ぼすのだろうか。
今はまだ誰にも分からない。
244Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 12:20:03 ID:5LkdCJWa

「そうだ、しばらくフェレットの姿になるね」
「ん、フェレットが本当の姿なの?」
「いや断じて違うから! 人間の姿が本当の僕だから! フェレットの姿の方が怪我の治りが早いんだ」
「ふーん、そうなの」
「うん、じゃあ――」
「へぇ、凄いものね。あっという間にフェレットの姿に、あ、落ち――ッ!?」
「――ッイタ!! ベ、ベッドの位置を考えていなかったなあ。ブレンヒルト、悪いけど僕をベッドの上まで上げて……あ」

今の状態を説明するとこうなる。
板張りの床にはフェレット状態のユーノが落ちていて、そこからベッドに戻してくれと上を見ながらブレンヒルトに頼んでいる。
一方のブレンヒルトは賢石の消費を抑えるためにバリアジャケットを解いて、今は制服姿でベッドの近くに立っていた。
幸か不幸か視線を上げたユーノの目に飛び込んできたのは――

「ええ、いいわよ。
 今度は落ちないようにしっかり私が持つから安心して大丈夫よ……もしかしたら力加減を間違えちゃうかもしれないけど!
 下着を見られた怒りでどうにかなるとかないと思うから安心して!!」
「え、ちょ、ま、傷、傷が、あ、あ、あ、アッー!!!!!」


【1日目 朝】
【現在地 H-8 畑の隅にある小屋】

【ブレンヒルト・シルト@なのは×終わクロ】
【状態】健康、ユーノへのお仕置き中
【装備】1st-Gの賢石@なのは×終わクロ、バルディッシュ・アサルト(カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、首輪(矢車)、ランダム支給品0?1
【思考】
 基本:ここからの脱出。
 1.スクライア、乙女の恐ろしさを知りなさい!
 2.スクライアが動けるようになるのを待ちながら今後について話し合う。
 3.残り15人になったら車庫の中身を確認してみる(信用できる人以外に話す気はない)。
 4.キース・レッドとの約束は一応守るつもり。
 5.戦闘には極力関わらない。
 6.フェイトの生い立ちに若干の興味。
【備考】
※自分とバルディッシュに共通する知人に矛盾がある事を知りました(とりあえず保留、別世界の可能性を考慮)。
※キャロ、金髪の青年(ナイブズ、危険人物と認識)、銀髪の青年(殺生丸)の姿を遠くから確認しました。
※車庫を無理に開けようとすれば首輪が爆発すると思っています。中身は単体で状況を変え得る強力な兵器だと思っています。
※ルーテシアの話の真偽は保留。


【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】腹に刺し傷(ヒーリング中)、ブレンヒルトによるお仕置きタイム、フェレットに変身中
【装備】なし
【道具】なし
【思考】
 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。
 1. アッー!!!!!
 2.怪我の治療をしながらブレンヒルトと今後について話し合う。
 3.なんでルーテシアは僕を刺したんだろう。
 4.Lや仲間との合流。
 5.首輪の解除。
【備考】
※JS事件に関連した事は何も知りません。
※プレシアの存在に少し疑問を持っています。
※ルーテシアがマフィアや極道の娘だと思っています。


     ▼     ▼     ▼
245Reconquista ◆HlLdWe.oBM :2009/02/04(水) 12:22:43 ID:5LkdCJWa


「ようやく動き出したのね」

薄暗い部屋の中で一人プレシアは呟いた。
空間モニターが発する仄かな光に照らされた顔には微かに笑みが浮かんでいた。
そこにはプレシアとの一件を話すルーテシアの姿が映っていた。
あの時プレシアがルーテシアに言った事は嘘ではない。
ルーテシアの母を復活させるためにレリックを捜す様子が在りし日の自分と重なったのは事実だ。
だが、そんな事はほんの些細な事でしかない。

プレシアがルーテシアを一度殺した真の理由――それはルーテシアが使役している召喚虫に他ならなかった。

ルーテシアを殺す事で一度それらの召喚虫との繋がりを断ち切って、使役主をプレシアにする事が本来の目的だ。
もしも万が一首輪と制限が解除された時のための保険、不測の事態の際の戦力にするつもりだ。
他の召喚士にキャロという少女もいたが、ルーテシアの方が持ち数の面で勝っていた。
それが決め手となった。

「さて、これからどうなるのかしらね」

プレシアは嬉しそうに画面の向こうで繰り広げられるデスゲームを観察するのだった。
その手にはルーテシアを生き返らせた道具である時間を巻き戻すカード――『タイムベント』のカードが握られていた。


     ▼     ▼     ▼


全てを失った場所でもう一度掴むものは唯一つ。
守りたかったものはもう二度と離さない。
見失わずに、振り返らずに、必ず取り戻すから。


【全体備考】
※駅の付近(線路の先)に中身不明の車庫があります。『残り15人になるまでこの扉は決して開かない。もし無理に開けようとすればそれ相応の罰を与えようではないか』という注意書きを書いた立札が入口前に立っている。
※H-6病院から離れた場所に壊れたガジェットドローンT型が転がっています。
※工具セットとラオウの兜はランブルデトネイターで消費されました。

【召喚マテリア(イフリート)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
炎の魔人であるイフリートを召喚する事が出来るマテリア。
詳しい制限は後続の書き手にお任せします。



投下終了です。支援ありがとうございました。
誤字・脱字、矛盾、疑問などありましたら指摘して下さい。
246名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/04(水) 19:58:19 ID:cKJezZ7n
投下乙です
すごい長作だ。今後の情勢が大きく変わりそうw
明日香はどうなる? チンクはどちらに転ぶ?
レッドは相変わらず 淫獣も相変わらず
ルーテシアは乗ちゃったか
ブレンヒルトは何気に重要な位置だ
先に期待してます
247名無しさん@お腹いっぱい。:2009/02/05(木) 02:06:58 ID:Q6JQ3EHX
GJ!
ついに出た、ジョーカー!
明日香とチンクも上手い幕引き。続きが楽しみです
そしてタイムベントが出たということは、オーディンのデッキもプレシアの手の中に…
プレシアがどこまでクロス世界の技術を持ってるのか想像が膨らむなぁ
248 ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 17:41:54 ID:BSPXZBQk
万丈目準、柊かがみ投下します。
249渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 17:43:21 ID:BSPXZBQk



唐突な話ではあるがこの場所は殺し合いを行う為の場所である。
そして、参加者の中には嬉々として殺し合いに乗る参加者は確かにいる。
もしくは己の目的を達成する為に、殺し合いに乗る人物もいる。

だが、その様な参加者などこの場においてはむしろ少数派だろう。
むしろ、殺し合いに乗るのを良しとしない参加者の方が圧倒的に多いだろう。

何故か?それは彼等にとっては殺人行為など一般的ではない話だからだ。
そう、参加者の大半は殺伐とした殺し合いを否定する世界から連れて来られているのだ。
むしろ殺し合いとは全く無縁な世界から連れて来られた参加者だっている。

つまり彼等にとっては殺し合いを行う事など全くあり得ないのだ。
だが、この環境は彼等にとってはあまりにも非情過ぎた。
あまりにも過酷な環境下によって、彼等の精神は疲弊し多くの悲劇を産んだ。

ある参加者は自分を守る為に仲間達が傷ついていった事に自己嫌悪し最後には仲間を守る為に死んでいった。
ある参加者は友達達の死に絶望し死者を全て生き返らせる為に全ての参加者を殺そうと決めた。
ある参加者は大切な者の死とその者の声の後押しを受けた事によりその者を生き返らせる為に殺し合いに乗った。
ある参加者は只生きていたいと願っただけだったが強大すぎる力により相手を殺したと思い重圧に押し潰されそうになった。

これらの参加者が誰なのかはここでは語らない。だが、1つだけ確実に言えるのは彼等とて本来はそういう状況には陥らないはずだということだ。
この状況こそが彼等をそうさせてしまったのだろう。そう……

闇がもう一人のつくる――



   ★   ★   ★



D-2南部にあるスーパーの一室に参加者の1人である柊かがみがいた。
彼女の手には黄緑色のケースが握られている。

(これを使って万丈目って奴をね……)

と、頭の中から声が響く、

『宿主サマよぉ、もしかして迷ってんのか? さっきも言ったがあの万丈目って奴は……』
(わかってるわよ、極悪人だって話でしょ。いちいち人の考えを読まないでくれる)

響いた声は今現在かがみが首に掛けている千年リングに宿る盗賊王の魂バクラのものだった。

『もしかしてまだ迷ってんのかよ?』
(そんなわけないわよ!極悪人の万丈目なんて死んで当然よ!それにアイツをやらないと私が……)
『ああ、間違いなく殺されるぜ』
(だからわかってるから少し黙っていてくれる!)

と、周囲には誰も聞こえない言い争いを行っていた。
250渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 17:45:21 ID:BSPXZBQk

参加者の1人であるLの下から逃げてきたかがみは先程参加者の1人である万丈目準と出会った。
かがみは先程までの状況から混乱状態にありまともに会話出来る状況ではなかった。
だが、万丈目に支給されていた千年リングに宿っているバクラが会話役を買って出て、リングをかがみに渡す事でバクラはかがみと話を行っていたのである。

しかし、バクラにはある思惑があった。

それは今現在かがみの手元にある黄緑色のケースに起因するものだ。
黄緑色のケースはカードデッキと呼ばれるもので持つ者はミラーモンスターの力を借り仮面ライダーへと変身する事が出来る様になる。
だが、その力を得る為にはモンスターへの対価が必要であり、それにはルールが定められていた。

それは12時間に1人『生きた参加者』を食べさせなければならないというものだ。
そのルールを破った場合……つまり猶予時間を使い切ればモンスターは所有者を食べる為に襲う様になるというものだ。
厄介な事に自らの意志でカードデッキを捨てた場合でもモンスターに襲われる様になる為カードデッキを捨てるわけにもいかない。

つまり、カードデッキを持っている限りはモンスターに参加者を喰わせなければならないという事なのだ。
このカードデッキが支給された万丈目はその事で頭を悩ませた。万丈目には他の参加者を犠牲にする意志などないのだから。
だからこそ、誰も犠牲にしない方法をずっと模索していたのである。

対しバクラは参加者を犠牲にする事については全く問題がない。バクラとしてはこの殺し合い……デスゲームが楽しめればそれでいいからだ。
その為、バクラにしてみれば万丈目の存在は邪魔でしかなかったのだ。
だが、不幸な事に万丈目がこの場で出会ったのは万丈目を襲撃してきたチンクだけしかなく、撃退はしたものの彼女を逃がしてしまいそれ以降他の参加者には出会っていない。
更に本来のバクラであれば万丈目の身体を乗っ取るという行動も可能だったが、制限によるものか乗っ取りは可能ではあるものの自由自在にはいかない。
故に、バクラにとってこの状況は非常に歯痒いものであった。思う様に動けず、下手を打てば自身が捨てられる可能性があり、放っておいたら万丈目ごと喰われてしまう可能性もあったのだ。

だが、かがみと出会った事で状況は一変した。かがみを新しい宿主とする事で餌の問題、デスゲームを楽しむという問題を同時にクリア出来る様になったからだ。
つまり、かがみを自分にとって都合の良い風に誘導して万丈目を餌として喰わせその後のデスゲームも楽しむという事だ。
これにより、目下の問題であったカードデッキの制限時間もクリアでき、その後も悠々と戦いに興じる事が出来るのだ。

その思惑を持ってバクラはかがみに万丈目が悪人だと吹き込み、万丈目を問題なく喰わせる準備を進めていたのである。

更にバクラにとって幸運な事に、かがみにも紫色のカードデッキが支給されていた事もありカードデッキに関する説明も容易に済んだ。
もっとも、かがみ自身は詳しい説明書には目を通していなかった為、参加者を喰わせなければならない制限を聞かされた時はショックを受けていたが。
何しろ、かがみは意図していなかったにもかかわらず、カードデッキの契約モンスターに参加者の1人であったエリオ・モンディアルを喰わせ殺してしまっていたのだから。
そして、それ以降も友人となったばかりのはずの高町なのはには裏切られ、わけのわからない内に他の参加者に襲われ参加者の1人の女性シグナムを殺す羽目となり、
気が付いたらLに拘束されており、逃げ出したと思ったら犀のモンスターに追いかけ回され、しまいには目つきの悪い万丈目に遭遇したという始末だ。
かがみにしてみれば、何故自分がこんな目に遭わなければならないのかと周囲や状況を恨んでいた。
251渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 17:47:00 ID:BSPXZBQk

但し、バクラにしてみればかがみの状況も自身にとっては幸運な事だった。
何しろ、これだけの状況に遭遇した事で周囲に憎悪を向けているのであれば、少し誘導さえすれば自分にとって都合の良い状況を作り出せるからだ。
かがみ自身の身を守る為、極悪人の参加者を殺す様にし向ければいいのだからだ。都合が良い事に既にかがみは殺人を行っている。誘導自体は難しい事ではない。

だが、難しい事ではないとはいえ決して簡単な話ではない。
かがみにしてみればいくら極悪人といえど、自分自身の手でその相手を殺す事には戸惑いがあるからだ。
かがみがこれまでに殺した参加者はエリオとシグナムの2人。
しかし、先程も述べたとおり、エリオの死については限りなく事故に近い。エリオが喰われる前にかがみは一度エリオを撃ってはいるがそれは錯乱状態に置かれていた時だった。
シグナムを殺した時についてはなのはに支給されていたデルタギアの影響で闘争本能が高められ戦闘狂になっていた為まともな精神状態ではなかった。
そう、確固たる自分の意志で殺人を行った事は1度も無かったのだ。

だが、今回はそうはいかない。完全にかがみ自身の意志で万丈目をモンスターに喰わせなければならないのだ。
バクラがかがみを一時的に乗っ取るという方法が無いわけでは無いが、それを行った場合は折角築いたかがみとの信頼関係が壊れ、今後の行動に支障が出るのは明白。安易にそれを行うわけにはいかない。
そして下手に急かしても同じ結果になる。故にバクラはかがみの決意が固まるまで待っていたのである。

とはいえ、それに関しては恐らく問題はないだろう。かがみはバクラを信頼し始めているしカードデッキのタイムリミットへの猶予は多くは無いものの若干は残っている。
むしろギリギリまで楽しむというのも一興だとバクラは内心では思っていた。カードデッキは既にかがみの手元にある、下手に焦る事はないとバクラは思っていた。
ところで、今現在かがみは何をしているのだろう?最初にかがみとバクラが話している時にはカードデッキは万丈目の手にあったはずである。
では、何故今かがみの手にカードデッキがあるのか?ここで少し時間を戻してみる。



   ★   ★   ★



(じゃあ、何とかして万丈目からカードデッキを奪えばいいのね)
『ああ、そうしないと宿主サマが喰われるからな』

バクラはかがみにカードデッキについての説明を終えた後、出てきた時に何かしらの方法で万丈目の手にあるカードデッキを奪う様に話した。
何しろ、幾ら万丈目を喰わせるという話である以上、かがみの手元にカードデッキがなければそれは叶わないからだ。万丈目の手元に置いたままであれば万丈目がどう動くかはわからない。
バクラにしてみれば万丈目がかがみを喰わせるとは考えていなかったわけではあるが、制限時間が迫ればどうなるかは不明、一歩間違えればかがみごと千年リング……つまり自分自身も喰われる恐れもある。
故に、カードデッキの奪取だけは最優先事項であったのだ。

(それはわかるけど……万丈目だってカードデッキを渡したら自分が喰われるって考えないかしら?)
『なあに、俺様が宿主サマと信頼を取り付けたって聞きゃあ、そんな事なんて考えないだろうさ。
 それに元・宿主サマはカードデッキに詳しい奴を探していたからな。宿主サマの所にもカードデッキ支給されたんだろ?だったらその事について話せばきっと渡してくれるはずだぜ』

万丈目はカードデッキへの対処法としてカードデッキの本来の持ち主にカードデッキを渡す事を考えていた。本来の持ち主であれば何かしらの対処法を考えているからだ。
持ち主ではなくてもカードデッキが支給されており使い方を把握している人物であれば、対策を練っている可能性は高いのでそういった人物でも良い。
かがみにカードデッキが支給されていた事はバクラにとって都合が良かった。その事を話せば万丈目はかがみにカードデッキを渡す可能性が高いからだ。

(とはいってもね……極悪人の万丈目が渡すとは思えないんだけど……)

しかし、かがみには万丈目が極悪人としか聞かされていない。極悪人の万丈目がわざわざ武器とも言うべきカードデッキを手放すとはどうしても思えなかったのだ。

『さっきも言っただろう、普段は極悪人の素振りを見せない奴ってな……つまり、普段は善良そうな人のフリをするってこった。信用させる為カードデッキを渡すぐらいな事はやるぜ。
 それに万が一の事があったら俺様が何とかしてやる。』
(何とかってどうするのよ?)
『それはその時に説明してやるぜ』
252渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 17:48:31 ID:BSPXZBQk

しかし、バクラから見ればその性格上万丈目がいきなりモンスターにかがみを喰わせるとは考えていなかった。勿論、制限時間が迫ればどう動くかは読み切れないが、バクラから見てその時間までは若干の猶予があった。
故に、少なくともいきなり喰われるという事は考えていなかった。
だが、万が一の事態を想定していないわけではない。いざという時にはかがみの身体を乗っ取り万丈目に対処するつもりでいた。幸いかがみの手元にはストラーダという槍型のデバイスがある為戦闘には困らない。
万丈目の実力から考えれば対処出来ない相手ではないとバクラは考えていた。
もっとも、前述の通り身体を乗っ取ってしまえば折角築きあげたかがみとの信頼関係が壊れてしまう可能性がある為、それはあくまでも最終手段として考えていた。故に詳しい説明もここではしなかった。
それに、バクラには乗っ取りの制限についての懸念があった。恐らくは可能だとは考えてはいるものの確証がなかったのだ。実際にやってみたが駄目でしたでは洒落にはならない。
何にせよ、あくまでも乗っ取りは切り札だと考えていた。

そして、かがみが万丈目のいる部屋に入る。

「おっ、どうやら話は済んだ様だな。バクラから聞いていると思うが俺の名は……」
「聞いているわよ、万丈目だったわよね」
「万丈目さんだ」
「何で自分で『さん』付けしているのよ……」
「それで君の名前は柊かがみ君でいいんだったな」
「ええ、そうよ」

そして2人は互いの情報交換を始める。しかしかがみは一切万丈目に対しての警戒を怠ってはいない。うっかり隙を見せてモンスターに喰われるわけにはいかないからだ。
ところで、ここで1つの問題が発生する。互いの知り合いについて話そうとした時にわかった事だが、かがみは今までに名簿や地図等支給品を一切確認していなかったのだ。
その為、万丈目がかがみに名簿を貸す。そして、かがみは妹である柊つかさ、友人である泉こなた、そして自分のクラスに転校してきたフェイト・T・ハラオウンの名前があるのを確認した。だが、

「で、誰か知り合いは居たのか?」
「ううん、誰もいないわ」

かがみは知り合いは誰もいないと答え名簿を万丈目に返した。だが、

「そうか……って、この柊つかさっていうのは弟か妹じゃないのか?」
「いるでしょ同じ名字でも血縁関係に無い人って。それと同じよ」
「むぅ……」

かがみの言い方について引っかかる所はあるものの、万丈目はそれ以上口にはしなかった。その可能性があり得ないとは言えないからだ。
だが、真実は違う。確かにつかさはかがみの妹である。しかし、

(つかさやこなただって私の事なんて知らないなんて言い出すに決まっているわよ……なのはみたいに……)

かがみはなのはに裏切られた時の事を思い出していた。かがみにとって友人であったはずのなのははエリオを殺してしまった事で絶望していたかがみを抱きとめてくれた。
だが、なのははかがみの事を知らない他人だと斬り捨てたのだ。むしろ自分を助けた事で勝手に自己満足していたのだろう。
恐らく、名簿に載っているフェイト、こなた、そしてつかさも同じ様に自分を裏切るだろうとかがみは考えていた。
フェイトやこなたはともかく双子の妹ともいうべきつかさでさえも自分を裏切ると考えるのはいつものかがみからは考えられない。
だが、これまでにかがみは多くの災難に遭ってきた。自分は全く悪い事をしていないにも拘わらずだ……それが、周囲に対し不審を抱かせる理由となっていたのだ、実の妹すらも信用出来ない程に……
それ故、万丈目の知り合いの話をされてもあまり深くは考えなかった。
万丈目は自身の知り合いの中にはなのはやフェイトがいたことを話したが、万丈目を信用していないかがみはその事について考えを巡らせる事もなく、
かがみの方もなのはとフェイトの事を話さなかった事もあり、万丈目もここに至るまでにまとめていた並行世界についての話もここではしなかった。

知り合いに付いて話した後、次は支給品についての話だ。ここでかがみが、

「そういえばバクラから聞いたんだけど、万丈目にもカードデッキが支給されんだっけ?」
「『さん』だ。ああ……ということはかがみ君もか?」
「ええ、これもバクラから聞いたんだけどカードデッキの対処法を考えているのよね?私だったら何とか出来ると思うんだけど」
「本当か?かがみ君」
「ええ、だからそのカードデッキを私に渡してもらえないかしら?」
「ああ……」
253渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 17:50:00 ID:BSPXZBQk

万丈目は自身のカードデッキをかがみに渡した。その時かがみの手はどういう理由か震えていた。

『思ったよりも上手くいきそうだな。で、早速喰うか?』
(いちいち話しかけないでよ!悟られたらマズイでしょ)
「かがみ君……で、その対処法についてだが……」
「あ、慌てないでよ!あ、後で説明してあげるから!」
「あ……ああ……」

そして、他の支給品について話し合ったものの使える物が殆ど無い事が判明する。万丈目が持っているのはマトモに喰えないカレーだけ、かがみが持っているのはストラーダと万丈目から渡された千年リングだけだったからだ。

「正直辛い所だな……ん」

と、万丈目がかがみの方をしげしげと見る。

「な……何よ……?」
「かがみ君……その服着替えた方が良くないか?」

万丈目に指摘されかがみはようやく自身の姿がどうなっているかに気が付いた。
度重なる戦いなどで身体中が傷だらけになっていた事もそうだったが、それ以前に自身が着ている制服が既にボロボロになっていたのだ。所々が破れており素肌や下着も見えてしまう程に……

「ちょ……!何見てるのよ!!」

かがみは赤面し怒鳴り声を上げた。

『別に俺はそのままでも構わないけどな』
「うっさいわね!いちいち話かけないでよ!!」

端から見れば1人で叫んでいる危ない人だが、バクラの存在を知る万丈目はその事については全く気にしていない。

「なあ、折角スーパーに来たんだからここで着替えたらどうだ?」
「着替えたらって何によ?」
「ここはスーパーだぞ、制服ぐらいあるに決まっているだろ」
「それは良いけど……」
『だから別にこのままでもいいだろ宿主サマ』
「アンタは喋るな!……で、その間万丈目は何するつもりよ……」
「サンダー。俺はかがみ君が着替えている間に使えそうな物を探しておくつもりだ」
『なあ……宿主サマ……別に着替える必要なんて……』
「わかったわ、絶対に覗いたりなんかしちゃ駄目よ」
「わかっている、この万丈目サンダーがそんな事するわけないだろう」
「何で『サンダー』なのよ……」

2人はバクラの言葉を無視して話を進めたのであった。



   ★   ★   ★



以上のいきさつがあり、かがみは奥で見つけたスーパーの制服に着替えていたのである。
なお、着替えの時にもバクラに見られているということでまたも一悶着あったが、それについては一時的にリングを外す事で問題を解決したのである。無論、着替えが完了したらリングはかがみの首に掛け直っている。
で、すぐにでも万丈目の所に……は戻らなかった。
先程も述べた通り、かがみ自身の手でモンスターに万丈目を喰わせなければならないわけだがどうしても躊躇してしまうのだ。
いくら万丈目が極悪人であっても、自身の身を守る為であっても、人を直接殺す事には戸惑いがある。先程手が震えていたのもそれが理由だ。
パニックに陥っているわけでも戦闘狂になっているわけでもない正常な状態でそれが安易に行えるわけがない。
254渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 17:51:30 ID:BSPXZBQk

『(全く……面倒な話だぜ……さっさと喰わせれば迷う事なんて無いのによ……)』

煮え切らないかがみの態度がバクラには少々面倒に思えた。
とはいえ焦りは禁物だ。何度も書くがバクラが乗り移ればすぐにでも万丈目を喰わせる事は出来る。しかし、それをやってしまえばかがみが千年リングを捨てる可能性は非常に高い。
これまでかがみは幾度と無く自分の意志とは関係ないところで様々な災難に遭っている。ここでまたしてもかがみの意志を奪ってしまえば、ここまで築き上げた信頼関係を失うのは明白だからだ。
故にそれはタイムリミットを迎えた時の最終手段だ。それならばかがみも納得してくれるはずだ。

『(まあいいさ、カードデッキさえ手に入ればこっちのもんだ、元・宿主サマを生贄にするなんて簡単だ。それに……時間はまだあるしな)』

カードデッキのタイムリミットには十分時間がある。その間に万丈目の隙を付く事は容易い事だ。

『(それに……こういうスリルも悪くねぇしな……)』

と、ひとまず万丈目を喰わせる事についての考えをやめ、別の事を考える。
それはかがみの記憶についての話だ。バクラはかがみが宿主になった時点でかがみの記憶については把握していた。
その為、かがみの知り合いがどういう人物なのかも当然把握済みだ。

かがみの知り合いはつかさ、こなた、なのは、フェイトの4名だ。だが……

『(このなのはとフェイトは俺や元・宿主サマの知る2人じゃねえな)』

バクラには2人が自分や万丈目の知る2人とは違う並行世界の2人だとわかっていた。当然の話だ、なのはとフェイトが普通に転校生として現れた話など聞いた事がない。
もしかしたら、そんな事実があるかも知れないが、万丈目とバクラの知るキャロやフェイトの状況が違った事から並行世界の2人だと考えた方が自然だろう。
そして、少なくともこの場にいるなのはがかがみのいた世界にいたなのはとは違う並行世界の人間である事もわかっていた。
そう、なのはがかがみを知らなかったのは、なのはがかがみとは違う世界から連れて来られているからに過ぎないのだ。だからこそ、なのははかがみの事を知らなかったのだ。

とは言え、この事実をわざわざかがみに話すつもりはない。下手にそれを話せばかがみの周囲に対する恨みが薄まる可能性があるからだ。
なのはが自分を知らない世界から連れて来られた事がわかれば、かがみのなのはに対する恨みは的外れとなる。
そうなれば、折角良い具合に友人であるこなたや実の妹であるつかさすら信用していないというデスゲームをやるに相応しい状態では無くなってしまう。
だからこそ、この事実は伏せておくのだ。

『(しかし元・宿主サマも何で話さなかったんだろうねえ、話しておけばもしかしたら宿主サマを止められたかも知れねえのによ)』

万丈目が並行世界の事を話さなかった事がバクラには少々気にかかったが、あまり気にする事は無いだろうと思った。
それに、仮に並行世界の話を万丈目が持ち出したとしても、万丈目がかがみを騙す為の方便だと言えば何ら問題は無いのだ。
かがみはバクラを信用しているのでそれは容易だ。そして、並行世界の事が書かれた万丈目のノートに関しては万丈目を喰った後でかがみに見られる前に処分すれば良いだけの話である。

『(それよりも引っかかるな……)』

さて、バクラには引っかかる事があった。それはかがみが名簿を見た時の事だ。かがみは先程の知り合い以外で何処かで見た事のある名前が幾つかあった『らしい』のだ。
『らしい』というのはかがみ自身もはっきりと覚えていないからだ。なお、かがみ自身もそれについては気になったものの深くは考えないことにしているし、バクラにとってもそれ自体はどうでもよかった。
だが、気になるのは他にもあった。

それは、かがみがデルタギアを使って変身した時の事だ。その時、かがみと対峙していたクワガタ怪人がかがみに対しこう言ったのだ。

『馬鹿な……あの女が、仮面ライダー……だと?』

と……。

『(カードデッキを使って変身する仮面ライダーと全然違うじゃねえかよ……まさか違う並行世界にも違う種類の仮面ライダーがいるっていうのか?だが……それよりも……)』
255渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 17:53:03 ID:BSPXZBQk

カードデッキを使って変身知る仮面ライダーとは別の仮面ライダーがいる事については並行世界等の理由で簡単に説明が付けられるので、それについては問題はない。
バクラにしてみれば重要なのはその時かがみが変身する際に使ったデルタギアがどういう物なのかをある程度知っていたという事実だ。

『(何で宿主サマはあの仮面ライダーの事を知っていたんだ?いや……全部を知っているわけじゃねえな……)』

そう、かがみは確かにデルタギアの事を知っている様だった。だが、デルタギアには適合しない者の精神を侵すデモンズスレートというシステムが搭載されていたが、その事を知らなかったのだ。

『(そうなると妙だな……何で宿主サマは中途半端にしか知らなかったんだ?)』

バクラが気にしたのは何故かがみはデルタギアの事は知っていたのに精神を侵すシステムがある事を知らなかったかだ。
普通に考えればデルタギアの事を知っているならば、それについての詳しい事を知らなければおかしい。当然、強い力を得る為のリスクの有無についてもだ。
全く知らないのであれば使おうとはしなかっただろうし、リスクを知っているならばやはり使わないはずだ。
だが、かがみはデルタギアの事は知っていたがデモンズスレートの事は知らない……あまりにも中途半端だ。

『(それも気になるのは、宿主サマの世界で何で仮面ライダーが出てくるんだ?)』

それ以上に気になったのはかがみのいた世界だ。かがみのいた世界は平和そのものの世界で、争い事とは全く無縁の世界だ。当然、仮面ライダーが存在する筈がない。

『(むしろあの世界は似ていやがるな……俺様がかつて居た世界に……)』

バクラがキャロと出会う前、バクラとそれを宿していた千年リングはある世界にあった。
そもそも千年リング自体がその世界の三千年前の古代エジプトの物で、バクラはその時代で暴れていた盗賊の魂だったのだ。
さて、バクラが暴れていた時代から三千年後、千年リングは獏良了という少年が所持し、バクラは彼の身体を借り大邪神ゾーク・ネクロファデス復活を目論んでいた。
もっとも、その目論み自体は失敗に終わりバクラは消滅した……はずだったが、何の因果かリングと共にキャロのいた世界に流れ着きキャロが新たな宿主となったわけである。
ここで重要なのはバクラがかつていた世界の話だ。その世界はある一点を除いては恐らく殆どの一般人にとっては平和そのものの世界であった。そう、かがみのいた世界と似ていると……
もっとも、その数年後、数十年後その世界はその当時からは考えられないぐらい大きく様変わりするが、バクラがその事を知る事はないだろうしその事はここでは重要ではないのでここでは触れない。

バクラがいた世界とかがみのいた世界の相違点、それはデュエルモンスターズと呼ばれるカードゲームの存在だろう。
バクラがいた世界においてはデュエルモンスターズは普通のカードゲームに留まらない重要な物であり、それを巡って世界の危機すら起こった程だ。
なお、数年後、数十年後でもそれは変わらない(いや、むしろエスカレートしていると言っても良いだろう)が、ここではあまり重要ではないのでやはり触れない。

対して、かがみの世界ではどうだろうか?

『なあ、宿主サマ。1つ聞きたいんだが、デュエルモンスターズって知っているか?』
「はぁ?何よそれ……知らないけ……ちょっと待って、なんかこなたやつかさ達とそれについて話した事があったような無かった様な……」
『何だよ、ハッキリしねぇなあ……』
「あんまり良く覚えてないのよ。で、それがどうかした?」
『いや、知らないんだったら別に良いんだ』
「何なのよ……」

バクラはかがみにデュエルモンスターズを知っているか確認した。その返答自体ははっきりとはしていなかったが……

『(やはり間違いねぇな……宿主サマの世界でもデュエルモンスターズは存在しているか……)』

バクラはかがみの記憶から、かがみの世界でもデュエルモンスターズは存在していると確信した。だが、

『(しかし……俺様のいた世界と違ってあんまり盛り上がってねえなぁ……どういう事なんだ?)』

勿論、並行世界で片づければいいだけの話ではある。だが、デュエルモンスターズが重要である世界から来たバクラにしてみれば、デュエルモンスターズが存在するにも拘わらずそれが盛り上がっていない事が異質に見えたのだ。
256渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 17:54:57 ID:BSPXZBQk

『(それ自体は別に良いが……何で宿主サマはハッキリと覚えていなかったんだ?)』

バクラが気になったのはデュエルモンスターズの事をかがみがハッキリと覚えていなかった事だ。
知らないという事は無いだろう。かがみの証言を信じるならばこなた達と話していた事は間違いないのだから。

と、ここまで考えてバクラにある可能性が浮かぶ。

『(知らないんじゃなく……知っているが、それについての記憶を消されている……?)』

それは、デュエルモンスターズについての記憶を消されているという事だ。それが出来るかどうかに付いてはバクラは全く疑問を持ってはいない。だが、それにしては妙な話である。

『(だが、元・宿主サマはデュエルモンスターズの事を普通に知っていたぜ……なんで宿主サマと元・宿主サマで何が違うんだ……?待てよ)』

ここで、バクラはある事実に気が付く。それは先程の仮面ライダーの話だ。かがみは中途半端にしか仮面ライダーについて知らなかった。

『(宿主サマは仮面ライダーの事も中途半端にしか知らなかった……まさか!)』

バクラはかがみの記憶からある仮説に行き着いた。かがみの知識そのものがプレシアによって制限されているという仮説だ。
正直な所、バクラ自身も何故プレシアが記憶制限なんて事をするんだと疑問には感じてはいる。
だが、かがみの記憶を探る内にその理由もある程度推測出来た。そしてその仮説が正しければ、確かに制限をかけなければマズイ代物である。

『(もしかしたら……宿主サマの世界は、俺達参加者に関する物が溢れているのかも知れねえな……)』

つまり、かがみの世界ではデュエルモンスターズも仮面ライダーも何かしらの形で存在しており、他の参加者の世界に存在する物についても同様に存在しているという説だ。
但し、ここで重要なのは存在しているであって、それが大きな事件に発展する事など決してない平穏な世界という事である。

正直な話、バクラ自身もそんな世界が存在するのかは半信半疑である。だが、仮にそれが事実だとしたら、かがみはデュエルモンスターズ、仮面ライダー、その他色々の情報を握っているという事になる。
勿論、この殺し合いにおいては圧倒的に優位になってしまうのは言うまでもない。それに関する記憶に制限をかけるのは当然の話だ。

『(ったく……そんな世界があるのかよ……)』

この事実に気付いた時、バクラは驚きを通り越して内心呆れていた。とはいえ、折角の記憶も消されている以上、そこまで優位に立てる代物ではないとバクラは結論付けていた。
だが、その中で気になる人物を1人見つけた。

『(それにしても……こなたか……)』

バクラはこなたに大きな興味を持った。記憶の大半は消されてはいたが、その知識の大半はこなたと話した時のものが圧倒的に多かったからだ。
つまり、こなたが参加者についての知識を一番所有しているという事だ。当然、この場においてはかがみ同様記憶を消されているだろうが、完全ではない以上何かしら利用出来る事に変わりはない。
勿論、並行世界のこなたである可能性もあるが、キャロやフェイト達が並行世界の人物であっても根本的には違いがなかったから、並行世界のこなたであってもそれは変わらないだろう。
無論、全く違っており、なんの知識も持たない可能性もあるが、別にそれでも構いはしない。バクラにしてみればデスゲームを楽しめればそれで良いのだから。

『(それにしても宿主サマ……本当に災難だったなぁ……)』

バクラはかがみのこの殺し合いに連れて来られてからの動向について考えていた。

錯乱状態でエリオを撃ち、何とか落ち着いたと思ったらモンスターにエリオを喰われ、
その事で死のうとした際友人であるなのはに助けられたが、そのなのはは他人扱いし、
その後現れたクワガタ怪人に対してデルタギアで変身しようとしたがシステムにより凶暴化し、
その状態のまま数人の参加者を襲撃して乱戦の末に1人仕留めたが少女の攻撃で吹っ飛ばされ、
気が付いたらLという参加者に支給品を奪われ拘束され、
何とか逃げたと思ったらモンスターに追いかけ回されるという始末。

『(良くもまあ、同じ時間でこれだけの事をやったなぁ……何で俺様の支給先は宿主サマにしなかったんだ……プレシア……)』
257渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 18:06:09 ID:tjPBVENK

と、支給先の選定を誤ったであろうプレシアに軽く愚痴るバクラであった。
さて、これらの状況についてかがみは自分は全く悪くないと考えていた。全部周囲の状況が原因で、それらについて憎悪を向けていた。しかし、

『(そりゃ、全部が全部宿主サマが悪いとは言わねえが……どう考えたって大部分は宿主サマのせいだろうが……)』

考えても見て欲しい、錯乱状態とはいえエリオを撃ったのは他でもないかがみだ。
同時にエリオが喰われる原因になったのはエリオが流した血からモンスターが現れたからだ。つまり、エリオの死はかがみが原因だ。
さらに、デルタギアで暴走し参加者を1人殺し、エリア崩壊のきっかけを作り散々痛い目にあったのもかがみが原因だ。
デルタギアの説明書も読まずにむやみやたらと変身したのは誰か?勿論かがみだ。
そしてLという参加者に拘束されたのもそうだろう。エリア崩壊する程の戦いをやれば当然危険視されてもおかしくはないからだ。
かがみはLという人物を人を縛り上げて監禁する危険人物だと判断していたが、バクラは全く逆、殺し合いを止めようとする人物だと考えていた。
そして、かがみはモンスターに追いかけ回されたと考えていたが、それもかがみの勘違いだろうとバクラは考えた。
恐らくLはかがみを保護する為にモンスターを向かわせたのだろうと……

『(まあ、途中で追跡が止んだのは……タイムリミットが来たってところだろうな)』

そしてモンスターの追跡が止んだのは制限時間が来たからだと考えた。
エリオを喰った後、他の参加者は食べていない。そしてその後の幾度かの戦闘とLによる追跡で時間を大幅に消費してタイムリミットを迎えたと……

『(ツメが甘かったってところだな)』

閑話休題、以上の通りバクラはかがみの惨状の原因の大半はかがみ自身が招いたものだと結論付けていた。
錯乱状態でエリオを撃った事や半衝動的にデルタに変身し暴走した事についてはかがみは悪くないと言う考えもあるだろうがそれは違う。
少なくとも、三千年前に盗賊をやっていたバクラから見ればそんな考えは甘えでしかない。錯乱状態であろうが半衝動的であろうがそれらは全て他でもないかがみの責任だ。
同時に、それらを全て周囲や他人が原因だと言うのは許される事ではないだろう。

正直な所、そんなかがみの考え方は気に入らないとバクラは内心では思いつつ、現状に関しては都合が良いだろうと考えた。

『(おかげでようやくデスゲームを楽しめるわけだからな……後は元・宿主サマを宿主サマ自身の手で喰わせれば……完成だ)』

バクラがデスゲームを楽しむ為に必要なのは殺し合いに乗った宿主である。制限により本来の力が出せないバクラがデスゲームを楽しむには宿主を時にサポートし、時に身体を使うしかない。
だが、万丈目は殺し合いを良しとせず、あろうことか折角の力とも言うべきカードデッキを壊すと言いだしたのだ。バクラにとっては受け入れられない考えである。
そこに周囲に憎悪を向けているかがみが現れた。友人や妹すら信用出来ない状態にまでなったならば、バクラの望む宿主としては都合がよい。
後は完全なかがみ自身の意志で殺しをさせる事で完成すると……人を殺したならば最早後戻りは出来ず後は只堕ちるだけだからだ。
無論、事故や暴走では駄目である。それを逃げ道にしてしまうからだ。だからこそ逃げ道を塞ぐ為にバクラはかがみ自身の手で人を殺させるのだ。
そして、その目的の達成はもう間近に迫っていた。万丈目の正義感の強さ、実力、現在の状況。それら全てから考えそれは揺るぎないだろうとバクラは考えていた。

『(それにしても皮肉なものだな……)』

バクラはかがみの腕に付けられたストラーダを見た。バクラは万丈目の記憶からストラーダの本来の持ち主がエリオである事を知っている。
そう、今ストラーダを持っているのは本来の持ち主であるエリオを殺したかがみなのだ。勿論、かがみはその事を知らないし、ストラーダもそれには気付かないだろう。
バクラはかがみとストラーダが気付かないその事実に気付いていた……。

「それじゃ戻るわよ」
『もういいのか?』
「ええ、隙を突いて万丈目を喰わせるってことでしょ……で、鏡とかは?」
『千年リングを使えばいいだろ』
「はいはい……」

かがみもようやく意を決して万丈目がいるであろう店内に戻っていった。
258渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 18:10:23 ID:tjPBVENK



   ★   ★   ★



「万丈目、戻ったわよ」

と、かがみが店内に戻ったが中の様子がおかしい。明らかに静かすぎるのだ。人がいる様な気配はない。

『どういうことだ……?』
「もしかして……万丈目の奴、私が殺そうって事に気付いたんじゃないの?」
『何だと……』

バクラは万丈目がその事に気付くかどうかについては正直信じられなかった。万丈目の性格等を考えるならばここでかがみが万丈目を襲うという考えには至らないはずだからだ。だが……

『だが、元・宿主サマがどうやって宿主サマと戦うって言うんだ?カードデッキもリングも武器も全部宿主サマが持っているんだぜ?』
「わからないわよ、店の中に何か武器があるかも知れないし」

かがみは何処かに万丈目が潜んでいると考えスーパー内の捜索を始める。見た所店内は既に誰かが調べた痕跡がある。そして中にはレトルト食品の類や工具類は無かった。恐らく他の参加者が先に持ち出したのだろう。
だが、今重要なのは万丈目である。何処かに潜んでいるであろう万丈目を探さなければならない。

「どこ行ったのよ万丈目の奴!」

かがみは今も虎視眈々と自分を狙う万丈目に対して苛立ちを感じていた。その一方、

『(おかしい……元・宿主サマの奴は何を考えている……?)』

バクラには万丈目が何を考えているのかがわからなかった。バクラが見たところ万丈目がかがみの命を狙う可能性は無い。
人殺しを促進させるカードデッキを手放そうと考えていた事からもそれは明らかであったし、そもそも命を狙うつもりであればカードデッキをかがみに渡すというのはあり得ないからだ。
更に万丈目が他に武器を持っていないのはわかっている、店内もいたって普通で何か武器が隠されているとは思えない。

『(何だ……何が目的だ……?)』
「そうよ!防犯カメラ!!」

バクラが万丈目の狙いを考えていると、かがみが声をあげる。

『カメラ?どういうことだ?』
「ここってお店でしょ、お店には大抵防犯カメラってものがあるのよ!」

スーパーやデパート等のお店には普通防犯カメラというものが存在している。この場に存在するスーパーやデパート等も例外ではなく、防犯カメラは備えられている。
かがみはそれに万丈目の姿が映っているとと考え、奥にあるカメラの映像が収められているであろう部屋に向かう。だが……

「何で映っていないのよ!」
『プレシアが使えない様に細工したんだろうな……』

結論から言えば、カメラはあったものの機能はしていなかった。当然、映像が収められている筈もない。

『ここを根城にされるのを避ける為って所だろうな……』
「もう、一体何処に行ったのよ万丈目の奴!」
『焦るなって宿主サマ、カードデッキも武器も俺様達が持っているんだぜ。俺達の優位には……』
「何言ってんのよ!早く万丈目を喰わせないと私達が喰われるのよ!」
『おいおい時間はまだ残って……ちょっと待て……そうか、そういうことかよ……』

かがみの言葉でバクラは万丈目の狙いに気が付いた。
259渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 18:13:59 ID:tjPBVENK

「どういうことよ?」
『外だ……』

かがみはその言葉に従いスーパーの外へ出る。しかし、外には誰もいない。

「何よ……いないじゃないの……」
『当たり前だ……もう奴はこの近くにはいない……』
「どういうことよ?」
『つまりだな……奴は宿主サマにカードデッキを押しつけてそのまま逃げ出したってこったよ』
「それってつまり……」
『自分が助かりたい為に宿主サマを捨て石にしたってこった』
「うっ……」

バクラの言葉にショックを受けるかがみ。かがみの中に後悔の念がよぎる。カードデッキを受け取った後、すぐにでも万丈目を喰わせていれば何の問題も無かった。
だが、万丈目を喰わせる事に失敗した今、危機的状況に陥っているのはかがみだ。何故なら既にカードデッキの所有権は万丈目ではなくかがみが有しているのだから。
制限時間を迎えればモンスターがかがみを狙う事は明白だ。そして、その時は目前に迫っている。

「急いで追いかけないと!」
『無駄だ……宿主サマが着替えに向かったすぐ後にここを抜け出したとしたらもう奴は遠くまで行っている筈だ。宿主サマじゃ追いつけねえよ、方向だってわからねぇしな』
「そんな……どうして私ばっかり……」

かがみはまたしても自分を窮地に追い込んだ周囲をそして万丈目を恨んだ。つい先程まで自分が万丈目を殺そうと考えていた事など既に忘れている。

「バクラの言うとおりすぐに万丈目を殺せばよかったのよね……くっ……」

正直な所、精神的にある程度落ち着きを取り戻していたかがみにはまだ周囲を他人を信じたい気持ちはあったのかも知れない。だからこそ、バクラの言葉があってもすぐに万丈目を殺せなかったのだろう……。
だが、万丈目の行動はかがみの心を完全に奈落へと落とした。

「もう誰も信じない……みんな殺してやる……」

かがみは周囲全てを恨み、その全てを殺す事に決めたのだ……自分の意志で。今のかがみは自分を助けてくれたバクラ以外は誰も信用出来ない状態に陥っていた。その最中、

『(やってくれたな……元・宿主サマ……いや、万丈目!)』

バクラは万丈目の事を考えていた。

『(少なくとも俺様が宿主サマと話す前まではそんな事は考えていなかったはずだ……つまり、俺様が宿主様と話を付けている間にこの策を考えたってこった……
  迂闊だったぜ……まさかこんな手段に出るなんてな……)』
260渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 18:15:57 ID:tjPBVENK

いつものバクラならば万丈目の浅知恵などすぐに見抜けていただろう。だが、バクラがそれに今まで気づけなかったのにはちゃんと理由がある。
まず、バクラは万丈目が絶対にかがみを犠牲にするとは考えつかないと思い込んでいた事だ。
何しろ、人を殺したくないという理由で強力な力を持つカードデッキを手放す人間が善良な一般人を犠牲にするとは考えないだろう。仮にそれを行うとしてもそれはタイムリミットを迎えた時だ。
次に、バクラは万丈目の実力を過小評価していたという事だ。
チンクとの戦いではバクラが乗っ取らなければあっさり死んでいただろうし、放送後の考察についてもバクラが主導で行っていた事から万丈目の実力は大したこと無いと考えたのだろう。
そして、万丈目がバクラを信用しているから、自分が万丈目を餌にしようと目論んでいる事に気付かないと判断した事だ。
これまで何度と無くバクラは万丈目を助けていたのだから、今回も大丈夫だと考えていたのだ。

つまり、早々に万丈目の人間性を決めつけてしまった事こそがバクラの最大の失敗だったのだ。勿論、バクラの見立てが間違っているわけではない。だが、バクラは見落としていたのだ。
確かに今でこそ万丈目の正義感は非常に強い。だが、昔からこういう人間だったというわけではない。かつては他者を見下す様な事をする悪人ともいえる人間だったのだ。勿論、バクラには遠く及ばないが。

2年ぐらい前、万丈目は自身がいたデュエルアカデミアの最上級クラスであるオベリスク・ブルーからラー・イエローに降格させられそうになった事がある。
降格をかけて当時のラー・イエローの優秀生徒(これが誰かは今は万丈目自身覚えていない為ここでは触れない)と決闘をする事になった。
その当時の万丈目は優秀な兄達からの期待による重圧もあり追いつめられていた。その万丈目が取った手段は……対戦相手の寮に忍び込みデッキを盗み出し海に捨てるというものだ。
勿論、その行為は決して許されない行為だ。だが、万丈目はその事について全く悪びれはしなかったのだ。
なお、決闘の方は万丈目の敗北、その後万丈目はデュエルアカデミアから逃げだし(本人的にはそんな風にやってはいなかったが)、
その後ノース校に渡り実力を付けデュエルアカデミアとの対校戦を経てデュエルアカデミアに戻ってきたのだった(但し、出席日数の関係上最下級のオシリス・レッドになってしまったが)。
ノース校での経験があった事もあり、万丈目は当時とは見違えるぐらいデュエリスト的にも人間的にも成長したのだ。

閑話休題、結局の所万丈目が他の参加者を犠牲にしてでも自身を守ろうとする可能性は十分に考えられる事であり、バクラはそれを読み切る事が出来なかったのだ。
更に実力に関しても同じ事が言える。確かに実際にバクラと万丈目が決闘したら高い確率でバクラが勝つだろう。
それでも万丈目はプロデュエリストも多数ひしめくジェネックス大会で優勝する程の実力の持ち主だ。決して軽く見て良い相手ではない。

つまり、万丈目の見極めを誤ってしまったという事だ。本当ならばカードデッキを受け取ったらすぐにでも喰わせなければならなかったはずだった。
だが、万丈目などすぐに喰わせられるという思いこみと油断と余裕が、かがみの決心を待つという誤った判断を取らせ今回の失敗を引き起こしたのだ。

『(認めてやるぜ……俺様の負けをな……だが、万丈目……気付いているかどうかは知らねえが……お前が決め手になったんだぜ……)』

そこには周囲全てに殺意をむける少女、柊かがみの姿があった。

『(お前のお陰で宿主サマは殺し合いに乗った……これで俺様はようやくデスゲームを楽しめる様になったわけだ……だが、礼は言わねぇぜ……)』

モンスターへの猶予時間は間近に迫っている……次の放送前には確実にタイムリミットを迎えるだろう。だが、その状況にも拘わらずバクラは笑っていた。予定とは違ったがこれでデスゲームを楽しむ事が出来るのだから……

『(ヒャーッハハハハハハ!!)』
261渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 18:18:18 ID:tjPBVENK

【1日目 午前】
【現在地 D-2 スーパー入口】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】疲労(中)、肋骨数本骨折、強い周りに対する敵意、万丈目に対する強い憎悪、バクラを少し信頼
【装備】ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうで、カードデッキ(ベルデ)@仮面ライダーリリカル龍騎、スーパーの制服
【道具】柊かがみの制服(ボロボロ)
【思考】
 基本:死にたくない。なにがなんでも生き残りたい。
 1.もう誰も信じない。バクラだけは少し信用。
 2.参加者を皆殺しにする。
 3.万丈目を見つけたら絶対に殺す。
【備考】
※デルタギアを装着した事により、電気を放つ能力を得ました。
※地図、デイパッグの中身は一切確認していません。名簿は確認しましたがこなたやつかさであっても信じられる相手とは思っていません。
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています。ただし、何かのきっかけで思い出すかもしれません。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※Lは相手を縛りあげて監禁する危険な人物だと認識しています。
※第一放送を聞き逃しました。
※万丈目の知り合いについて聞いてはいますが、どれぐらい頭に入っているかは不明です。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しむ。
 1.かがみをサポート及び誘導する。
 2.大至急バイオグリーザーへの生贄を探し出して喰わせる。
 3.万丈目に対して……?(恨んではいない)
 4.こなたに興味。
 5.可能ならばキャロを探したいが、自分の知るキャロと同一人物かどうかは若干の疑問。自分の知らないキャロなら……
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました。
※千年リングは『キャロとバクラが勝ち逃げを考えているようです』以降からの参戦です
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※並行世界の話を今の所かがみにするつもりはありません。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません。



   ★   ★   ★



ここで少し時間を戻そう。それはバクラがかがみに万丈目が悪人だと吹き込んでいる時の事である。朝食を終えた万丈目は今後の事について考えていた。
なお、この時の万丈目はバクラが自分をモンスターへの餌にしようと目論んでいる事にはまだ気が付いていない。

「南に行けばLがいるか……」

かがみの証言ではLは危険人物という話である。具体的な事はまだわかっていないものの危険人物ならば止めなければならない。
かがみと情報交換をした後で南に向かわなければならないだろうと考えていた。

だが、万丈目には考えなければならない問題がある。それはカードデッキのタイムリミットである。タイムリミットを迎えれば万丈目が喰われる事になるのは言うまでもない。
当然の事だが万丈目は他の参加者を喰わせるつもりは全くない。
262渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 18:20:06 ID:tjPBVENK

それに対して万丈目が最初に考えた対策はカードデッキの持ち主もしくは詳しく知る者を探す事である。
確かに関係者であればカードデッキについての対策を考えている可能性は高いのでこの策自体は間違ってはいない。
だが、万丈目は気付いていないものの結論から言えばこの策は間違いなく失敗する。
カードデッキが存在する世界から連れて来られた参加者は八神はやて、浅倉威、神崎優衣の3名。だが、既にはやてと優衣は死亡済み。
そして生き残った浅倉は殺し合いに乗っている。カードデッキを渡した所で喰われてしまうのは明白だ。
さらに悪い事に万丈目が所持するベルデのカードデッキを元々所持していたのは並行世界のプレシア・テスタロッサである。つまり、持ち主に返すという策はまず不可能である。

閑話休題、策を考えたものの不幸な事に万丈目はチンク以外の参加者とは誰にも出会わなかった。
そしていたずらに時間が過ぎていき万丈目は追いつめられていった。その最中で万丈目が次に考えた対策はミラーモンスターを破壊する事である。
確かにそれならば、カードデッキの力は失うものの他の参加者を犠牲にする事は無くなる。
問題はその為には強力な力を持った仲間が必要という事だ。

「どうすればいい……南に行ってLと接触するか……それとも商店街で他の参加者を探すか……」

既にD-3は禁止エリアになっている。商店街に向かうには北上する必要がある。Lと接触する為には南下する必要がある為真逆な方向となる。

「まあいい、彼女……確か柊かがみ君だったか、彼女と話し合って決めれば良いだろう」

と、万丈目はかがみにカードデッキの説明をする事も考え改めてカードデッキの説明書を見る。もしかしたら何か見落としがある可能性も考えたというのもある。
とは言え、当然の事だが最初に見た時と同様目新しい事は全く書かれていない。

「『12時間に1人、契約モンスターに「生きた参加者」を喰わせないと所有者が襲われるようになる』……
 『参加者を1人喰わせると猶予が12時間に補充される。猶予は12時間より増えない』……
 全く、何てアイテムを支給させたんだ……」

毒付く万丈目だった。

「『変身や契約モンスターの命令を1分継続させる毎に10分の猶予を消費する』……
 『猶予を使い切ると変身や命令は解除され、契約モンスターに襲われるようになる』……
 『所有者が自らの意識でカードデッキを捨てると契約モンスターに襲われる。無意識、譲渡、強奪は適用外』……
 ……そんな事はわかっている、他に何か無いの……ちょっと待て!」

万丈目は説明書に書かれているある項目に目を引かれた。

「今何時だ?」

万丈目は時計を確認する。9時半より数分ほど前である。

「おい……もし、書かれている通りならば……」

万丈目が気にした項目は『変身や契約モンスターの命令を1分継続させる毎に10分の猶予を消費する』である。
通常、猶予時間は12時間となっている。但し、変身などモンスターの力を使えば1分で10分消費してしまう。
つまり、6分変身していれば1時間消費した事になり、12分モンスターを出していれば2時間消費してしまうということだ。
勿論、変身していた時間さえ把握していれば自ずとタイムリミットも把握出来るのは言うまでもない。だが、

「俺は……何分ぐらい変身していた?」

万丈目がチンクに対処する際に変身した時、バクラが万丈目の身体を乗っ取り、その間万丈目は気絶していた。つまり、万丈目は変身時間を把握していないのである。
勿論、バクラの話ではそう長い時間ではないらしいが正確な時間までは聞いていない。1分変われば10分も変わる以上それを把握していないのは致命的である。
さらに、万丈目には別の問題にも気が付いた。それは、最後に喰わせたのがいつなのかわかっていないのだ。
勿論、殺し合いの場に放り込まれる直前に喰わせたのならば何の問題も無いが、仮にそれよりも数時間前ならば当然タイムリミットが早まるのも明白だ。
現在までモンスターは動きを見せていない為、喰わせたのは殺し合いが始まる直前の可能性が高いだろう。だが、こちらも数分のずれが命取りになるのは言うまでもない。
263渇いた叫び ◆7pf62HiyTE :2009/02/06(金) 18:24:59 ID:tjPBVENK

まとめよう、既にタイムリミットまで時間が無い事を意味していたのだ。この状況下では他の参加者に出会える可能性は0では無いにしろ低いのは間違いない。

「落ち着け!かがみ君とバクラで何か手を考えれば……3人で力を合わせれば破壊……」

だが、万丈目は気付いてしまったのだ。バクラがこの状況でどう動くのかに……
バクラはデスゲームを楽しむ事を目的としていた。万丈目とは全く正反対の考えを持っており、極端な話参加者を殺す事には全く躊躇が無い。
実際、万丈目がカードデッキを破壊する案を出した時バクラはその考えに難色を示していた事は万丈目自身もわかっている。
それでも、その時の万丈目はバクラが自分を裏切る事は無いと考えていた。何故なら、万丈目が襲われるという事はそのままバクラの危機にも直結するからだ。

しかし、かがみと出会った事で状況は変わってしまった。バクラは混乱状態に陥っていたかがみを説得出来ると千年リングをかがみに渡す様万丈目に提案した。
その時の万丈目は正直半信半疑だったが、試してみるしかないとその提案を受け入れた。

だが、ここでバクラの視点で考えてみよう。バクラはデスゲームさえ楽しめればそれで良いと考えている。
しかしその為には人殺しを良しとしない万丈目が邪魔である。さらに放っておけばカードデッキの制限時間を迎えリングごと自分が喰われかねない。
とはいえ、下手に万丈目に刃向かえばリングそのものを捨てられかねないので万丈目に従うしかない。

さて、ここで新たにかがみが現れた。バクラはこの状況に対しどう動くだろうか?
考えるまでもない。かがみを新たな宿主とすればもやは万丈目に存在意義はない。餌にしてしまえば制限時間の問題もクリアされる。
適当な理由を付けて万丈目を殺す様し向ければ何の問題もない。かがみがバクラの口車に乗るかどうかは微妙だったが、乗らなくても最悪乗っ取りさえすれば何の問題もない。

「バクラ……」

この後、バクラはどう動くだろうか?
選択肢としてはかがみにカードデッキを渡させる様にし向けさせる可能性は高い。渡した後は隙を突いて喰わせればいいだけの話だ。
勿論、それを拒否する事も出来るし、もしかしたらし向けない可能性はある。だが、仮にそう来たとしてもバクラ側から見て何ら問題はない。
今現在、カードデッキの所有権は万丈目が所持している。このまま放置した場合はモンスターは万丈目を喰らうだろう。それを待つだけでいいのだ。

「どうすればいいんだ……かがみ君を餌にするしかないのか……いや、無理だ……」

万丈目自身も自分が死ぬつもりは全くない。その手段だけは選びたくなかったがかがみを餌にする事も考えた。だが、それもすぐに難しい事に気が付く。
簡単な話だ、実際に戦闘になった場合ほぼ確実に万丈目が負けるからだ。
一見すると簡単にかがみを餌にする事が出来る様だがそれは違う。今現在かがみは千年リングを所持している。つまり、かがみにはバクラが付いているという事だ。
バクラはカードデッキも仮面ライダーも把握している。そうそう簡単に喰う事の出来る相手ではない。
他にも問題はある。万丈目は気付いていたのだ、かがみの腕にエリオのデバイスであるストラーダがある事に。つまり、かがみは武器を持っているということだ。
勿論、見た目にもボロボロのかがみが万丈目と戦えるとは思えない。だが忘れてはならない、かがみにはバクラがいる。バクラが乗っ取りさえすればその状態でも戦闘は可能だ。
戦闘になった場合、万丈目は変身しなければ確実に負けるだろう。しかし変身するわけにはいかない。何故なら、変身すれば一気に残り時間を使い切ってしまうからだ。
現在の時刻から考えて変身可能時間はせいぜい数分、カードデッキを把握しているバクラがその時間逃げ切る事は難しい事ではない。
そう、戦闘になった時点で万丈目は終わりなのだ。

「八方塞がりか……俺がこいつを持っている限り喰われてしまうか……待てよ……」

万丈目は何かに気が付き、再度説明書を確認する。そして、この状況を打開出来る方法を考えついた。だが、万丈目の表情は重い。

「これしか無いというのか……」

万丈目はかがみが戻ってくる直前まで悩んだ……その方法が上手くいくならば助かる可能性はあるし今後の問題もクリア出来る。しかし、失敗する可能性は高い。
いや、それ以前に万丈目から見た場合その方法は普通にかがみを餌にするという方法よりもずっと残酷な方法だろう。


だが……
264渇いた叫び ◆7pf62HiyTE


万丈目が立てた作戦は至極単純なものだ。
カードデッキを上手くかがみに渡し適当な理由を付けて別行動を行いその隙に全力でスーパーから離れるというものだ。
カードデッキをかがみに渡した時点でカードデッキの所有権はかがみに移る。
バクラ側から見ればカードデッキを手に入れる事が出来れば遠慮無く万丈目を喰うと考えるので譲渡として認められるはずだ。
そして、かがみが行動を起こす前に何かしらの理由で別行動を取り、その隙にスーパーから離れれば自身の身を守る事が出来、同時にカードデッキからも解放されるのである。

カードデッキを渡す事に関してはバクラが使いたがっていた事を考えるなら上手くいく可能性は高いと万丈目は判断していた。
そして幾らバクラでも、渡した直後に万丈目を喰わせるとは考えないと読んだのだ。万丈目だってその危険性はわかっているのだから。
別行動を取る理由に関してはかがみの服装がボロボロだった事を思い出した万丈目はそれを理由に着替えに向かわせればいいと考えた。
かがみが現れた時点で着替えている可能性もあったが、その場合は店内を調べるとでも提案して別行動をすれば何とかなるだろう。
そして別行動を取ったらすぐにスーパーを出て逃げると……ボロボロなかがみが万丈目を追う事は困難だ。
カードデッキの力を使おうにも逆にタイムリミットの危険性が出てくるのでそれは有効ではない。
つまり、この方法が上手くいけば万丈目は自身の身を守る事が出来るのだ。

しかし、先程も述べたがこの作戦は失敗する可能性が非常に高い。
そもそもカードデッキを渡した直後にバクラが万丈目を喰わないという可能性自体が微妙なのだ。
いくら警戒していても実際にモンスターを繰り出せば万丈目が不利なのは明白だ。とはいえ、これはバクラがそこに考えが至らない事を願うしか無かった。
仮にそれが上手くいったとしても万丈目の作戦が途中で見破られれば全てがご破算だ。バクラに見破られない様に何とかかがみを誘導しなければならない非常に難しい作戦だった。

結論から言えばそれは上手くいった。
幸運な事にかがみにもカードデッキが支給されていた為、カードデッキを渡す事については容易に上手くいった。
さらにかがみの様子を見る限りバクラが乗り移ってはおらず、いきなりモンスターに襲わせる事は無かった。
そして服もそのままだった為、着替えさせるという理由で一時的に別行動させる事についても上手くいった。
正直、バクラが作戦を見破るのではないかと内心では不安だったもののそれは杞憂に終わった。
そして、かがみが奥の部屋へ向かったすぐ後、万丈目は気付かれない様にスーパーを出たのである。



   ★   ★   ★



さて、ここで語る事は恐らく参加者の中ではカードデッキが存在する世界から連れて来られたはやて、浅倉、優衣以外は気づけない事だろう。それは、カードデッキに関する制限の話だ。
結論から言おうか、本来であればカードデッキの譲渡というのは認められないはずなのだ。
そもそも、その世界では仮面ライダーが願いを叶える為に最後の1人になるまで戦っていた。
ところで、仮にその仮面ライダーの願いが最後の1人になる前に叶ったとしたらどうなるだろうか?
既に戦う必要がないからカードデッキを返す……それは許されない話である。それを行えば自分がモンスターに喰われるという話である。

何が言いたいのか?つまり本来ならば譲渡は認められないので万丈目の作戦はそもそも上手くいかないはずなのである。
だが、ちょっと待って欲しい。説明書にはちゃんと『所有者が自らの意識でカードデッキを捨てると契約モンスターに襲われる。無意識、譲渡、強奪は適用外』とある。
つまり、説明書を信じるならば譲渡は許されるはずである。これは一体どういう事なのか?

ここでもう1つ思い出して欲しい事がある。説明書には『12時間に1人、契約モンスターに「生きた参加者」を喰わせないと所有者が襲われるようになる』とあった。
これを見て疑問を感じないだろうか?何故「生きた参加者」でなければならないのか?
どう考えてもおかしいだろう、モンスターに餌を与えるのであれば死体であっても構わないはずだ。何故「生きた参加者」なのだろうか?
そもそも元々の世界でもそういう制限だったのだろうか?