あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part197
それでははじめさせていただきます
使い魔はじめました―第17話―
翌朝。ルイズとサララは朝もやの中佇んでいた。
ルイズの額には、血管が青白く浮き出ている。
「遅いわね……! 何をしてるのよギーシュは!」
その声に明らかに怒りを含ませながらルイズは呟いた。
きっともうすぐ来ますよ、とサララはとりなしつつ、ため息をついた。
約束の時間は過ぎているのだが、ギーシュは待ち合わせ場所へ来ない。
「ああもう、姫様から承った大事な任務だっていうのに、
何をしているのかしらあいつったら!」
頬を膨らませてブーブーと文句をこぼす。
「彼なら来ないよ」
「何ですって!」
朝もやの中から聞こえた声に、ルイズは不機嫌さを隠さずに返した。
現れたのは一人の長身の貴族だった。羽帽子を被っている。
ルイズの顔がさあっと青ざめ、ついで瞬時にりんごのように赤く染まる。
「わ、ワルドさま……」
「久しぶりだな! ルイズ、僕のルイズ!」
ワルドと呼ばれた彼は、人なつっこい笑みを浮かべるとルイズに駆け寄り抱え上げた。
「相変わらず君は羽のように軽いね!」
「……お恥ずかしいですわ」
普段とは違って、随分としおらしい様子をしている。サララとチョコは目を丸くした。
「あ、えっと、紹介しますから降ろしてくださいな、子爵様」
一人と一匹の視線に気がついて、ルイズは照れくさそうに微笑む。
「ええと……私の使い魔、いえ、パートナーのサララと、そのパートナーのチョコです」
「姫殿下から話は伺っているよ。はじめまして。
僕の名はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
魔法衛士隊、グリフォン隊で、子爵だ」
気さくな感じで、ワルドはサララに近寄った。
「今回の任務に、君たちと同行するよう姫殿下から命じられてね。
君たちだけではやはり心もとないし、かといって、
多くの人員を動かすわけにもいかない。そこで僕が選ばれたのさ」
それは心強いです、ありがとうございます、と答えながらもサララは首を傾げた。
「おや、何か聞きたいようだね。……ああ、ルイズと僕の関係かい?
幼馴染でね、親が決めた婚約者同士なのさ」
ルイズさんはまだこんなに若いのに? と驚いた。
「貴族の女子の結婚は早いのよ。……一部に例外もあるけど」
最後の方はぼそりと呟いた。どうやら心当たりがあるらしい。
「はは、そういうことさ。……え、ミスタ・グラモンが来ない理由かい?
……この任務を遂行するには少しばかり、その……、口が軽そうだと思ってね。
僕の一存で断りを入れたんだ。まずかったかな?」
少し考え込む。……特に問題はないと思うと伝えた。
「そうかい。それならよかった。さて、では出発しようか」
「あ、それじゃあサララに馬を出さないと……」
「大丈夫だよ、一緒に乗って行こう。羽のように軽い女の子二人増えても、
僕のグリフォンは飛んでいけるよ」
口笛を吹くと、朝もやの中から立派なグリフォンが現れた。
鷲の頭と上半身に、獅子の下半身がついた幻獣である。立派な羽も生えている。
ワルドはひらりとグリフォンに跨ると、ルイズに手招きした。
もじもじしながらも、ルイズはワルドに抱きかかえられグリフォンに跨った。
「さて、次は君の番だよ」
サララはそう言われ急いで近寄った。しかし、はた、と足を止めワルドを見上げる。
「……どうかしたのかな?」
人のよさそうな彼の笑顔の横に、うっすらと白いモヤが見えた気がしたのだ。
ダンジョンの中、体か精神に異常をきたしているときに見えるモヤ。
まばたきしたら消えてしまいそうな薄さで、それが存在しているように見えた。
「ちょ、ちょっとサララ! なんでワルド様の顔を見つめてるのよ!」
何を勘違いしたのか、ルイズが顔を真赤にしながら叫ぶ。
少し、顔色が悪そうに見えたので、と慌ててごまかした。
「ふむ? 今朝はちょっと冷え込んだからかもしれないね」
ワルドはそう答えると、ひょいとサララを抱えて座らせる。
「ちょっと、ボクを忘れないでよね!」
チョコがひらりとサララの膝に乗るのを確認すると、手綱を握った。
「では諸君、出発だ!」
グリフォンは助走をつけると、勢いよく空へ飛び立った。
<br>
ルイズ達が出発して数時間後。太陽は高々と真上にあった。
「さて……彼女らは大丈夫かのう」
学院長室でオスマン氏は書類を処理する合間にぽつりと独りごちた。
アンリエッタからルイズ達に与えられた任務を聞き、当初は不安であったものの、
サララの実力を思い返して、大丈夫だろうと納得した。
しかし、魔法の使えぬ少女二人とドットメイジの旅路は、
やはり心配になってしまうのである。
「ミス・ロングビルにでも護衛を頼むべきだったかのう」
そんな風にして悩んでいた時、ドアがけたたましく叩かれた。
「入りなさい」
オスマン氏が答えると、一人の少年が転がるように飛び込んできた。
「失礼いたします、オールド・オスマン!」
少年を見て、オスマン氏は思わず叫んだ。
「ミスタ・グラモン? 君は確か王女殿下の任務に出たはずでは!」
面喰らったのも無理はない。そこにいたのは、ギーシュだったのだから。
「ああ、姫殿下の任務のことをご存知なのですね。実は……」
ギーシュは、自分が何故ここにいるのかを説明した。
任務に出るため荷物をまとめ、いざ部屋を出ようとした時。
王女殿下からの使者を名乗る人物が彼の部屋を訪れたのだ。
何事か、と扉を開いた瞬間、『眠りの雲』と思しき魔法によって
意識を奪われて今まで眠っていたのだという。
「ああ……、まさか姫殿下の任務が、誰かにバレていたなんて……!
裏切り者がいるとは! きっとアルビオン貴族の暗躍です! 」
意気消沈するギーシュを、オスマン氏は慰める。
「ミスタ・グラモン。既に杖は振られたのじゃ。
今さら嘆いてもどうしようもあるまい。
我々に出来ることは、ただ待つことだけじゃて」
そう告げながら、オスマン氏は空の向こうを祈るような気持ちで見つめた。
支援準備よろし。
<br>
オスマン氏の心配は、ラ・ロシェールに着くまでは取り越し苦労だった。
背後でイチャイチャしている二人に、サララとチョコが
うんざりした以外、彼らの旅に特に支障はなかった。
出発した日の夜には、既にラ・ロシェールに到着していた。
彼女らは『女神の杵』亭という街で一番上等な宿をとった。
貴族相手の宿だけあって、テーブルは顔が映りこむほどピカピカだ。
こんな上等な宿に泊まったことのないサララは、そわそわしている。
「んもー、みっともないわね。ちょっと落ち着きなさいよ」
そんなサララを見て呆れたようにルイズは息をついた。
流石に、一日グリフォンに乗りっぱなしだったのでクタクタである。
そこに、『桟橋』へ交渉に行っていたワルドが戻ってきた。
困ったような顔をして席につく。
「アルビオンへ渡る船は、明後日にならないと出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに……」
ルイズは口を尖らせる。サララとチョコはほっとした。
どうやら、明日は早起きせずにすみそうだ。
しかし疑問が湧き上がり、サララはそれについて尋ねた。
「え? 何で明後日まで出ないのかって? 明日はスヴェルの月夜……、
二つの月が重なる日だ。その翌朝がアルビオンが最も、ここに近づくんだよ」
「近づくって、そんな大陸が動いてるわけじゃあるまいし、意味わかんない」
チョコの言葉をもっともだと思いつつも、きっと風とかが関係してるんだろうな、と
サララは動かない頭でぼんやりと考えをめぐらせた。
風の調子がいいと船や竜は早く進める。季節によって風も違う。
明後日はよい風が噴く日なのに違いないんだろうと自己完結した。
「さて、じゃあ今日はもう寝ようか。部屋はとってくれたんだろう?」
「ええ、私とサララが相部屋で、ワルド様がお一人」
ルイズが渡した鍵を、ワルドが微笑みながら受け取る。
「ありがとう。いくら婚約者とは言っても、結婚前に同じ部屋に寝ては、
君の母上に八つ裂きにされてしまいかねないからね」
ははは、と笑って告げた後で、ワルドは真剣な眼差しでルイズを見つめた。
「しかし……二人でしたい、大事な話がある。
寝る前に少し、僕の部屋へ来てくれないか?」
その目の奥に不気味な光があったことに、疲れていたサララも
顔を真赤にしていたルイズも気づくことはなかった。
<br>
「ねえ、サララ。あのワルドって人なーんか妙じゃない?」
チョコがベッドの脇に置かれた籠の中であくびをしながら尋ねた。
猫をベッドに入れないでください、と宿の人に言われたためだ。
「何ていうか……紳士すぎるよね。優しすぎる」
悪いことじゃないのに何故心配するのか、と答える。
「サララったら、そういうとこお人よしなんだから。
うーん、でもボクもどこがおかしいとは言えないんだよなー。
普通、こういうお仕事の時って、何か邪魔が入ったりするじゃない?
でも今回は、ぜんぜん、なーんにもないんだもん」
その言い草に、サララは苦笑いをこぼす。
要は、折角意気込んで出てきたのにドキドキ感がなくてつまらない、と言いたいらしい。
妙なところで自分に似てるなあと思いながら、その頭を撫でる。
確かに、普段の仕事であれば盗賊に襲われたり、モンスターに襲われたり、
必要なアイテムが見つからなかったり、と一筋縄ではいかない。
でもまあ、たまにはこんな風にのんびりした仕事があってもいいだろう。
そう答えを返したが、やはりまだ不満そうだった。
「……疲れてるからこんなこと考えちゃうんだろうね。
ふぁ……おやすみ、サララ」
しかし眠気に負けたのか、大きなあくびを一つすると、そのまま寝息を立て始めた。
サララは、ワルドの部屋に出かけたルイズを待とうかと思ったが、
あまりに疲れていたため、早々に寝ることにした。
ここは山の中だが、港町だと聞いている。きっと見たこともない商品が
たくさん売られているに違いない。許可をもらえたら、
街の中を見て回ろう……そう考えながら、サララは眠りに落ちていった。
以上で投下終了です
>>911 えーっと今回は支援してくださる方がいたので投下しましたが、
駄目って言われたら機会を見計らいます
なんかごめんなさい
やっぱブランク空くと物語を進めるのがしんどいです……
でもまあ、頑張って進めたいと思います
さて、今日は冬至なので柚子買ってきます
ギーシュもキュルケもタバサもついてきてないのは珍しいな
というかオスマン、祈ってる暇があったらすぐに手を打てよw
サララの人乙です。
お待ちしておりましたm(__)m
次回にwktk
サララの方 お疲れ様です
こんばんわ 朝の続きを17:00から投下してもいいですか
00が始まったので投下を開始します
ゼロの使い魔様は根腐れしてやがる!!4話目 後編
「こ・・・これが学園の秘宝・・・破壊のヒトって・・・」
ルイズ一行の目の前に鎮座するは学園の秘宝中の秘宝『破壊のヒト』
「・・・ってそのまんま人間じゃないのよぉ!!」
ルイズが大声で叫ぶのも無理は無い
その姿、筋肉隆々とし、徹底的に鍛え上げられたモノだと素人でもわかる
「なかなかいい男じゃない」
彫の深い、丹精に整ったバタ臭い顔立ち そしてよく似合う赤で染め上げられた衣装
「・・・眉毛・・・太い 聞いた特徴と一致している」
伸ばした金髪よりも激しく主張する黒色のふと眉毛
「「「これが『破壊のヒト』なの」」」
破壊のヒトと呼ばれた謎の青年は状況をよく理解してないのかにこやかに手を振っていた
「と、とりあえず回収して一旦体制を・・・」
ルイズが喋り終わらないうちに巨大な地響きが一行を襲う
一行が山小屋から飛び出た瞬間に巨大な土のゴーレムの腕が山小屋をなぎ払った
「あ、危なかったわ」
安心したのも束の間、ゆっくりとゴーレムが狙いを定めて、助手Dに狙いを定めた
「う・・・うわあああ!!」
ゴーレムの巨碗がもの凄い速度で振り下ろされた!! 思わず何かを盾にする助手D!!
シュルルル・・・スッポン・・・
「・・・!?」
助手Dが盾にしたモノ、それはお馴染みゴミバケツじゃなくてタイムマシーン
ゴワン・・・ゴワン・・・ゴワン・・・ゴワン・・・
タイムマシーンに飲み込まれたゴーレムが向かった先は・・・
〜過去(2話参照)〜
ドゴオオオオオ!!
「ぐっはあああああ!?」
粘土を貼ったはずなのだが何故か巨大なゴーレムの腕が小太りの男の子を吹き飛ばす。
暫くの沈黙が教室を支配し・・・
「それでは錬金の実技をミス・ヴァリエールお願いします」
「「「「「無視するんかい!!」」」」」」
〜現在に戻る〜
「皆さん 大丈夫ですか?」
茂みから現れるロングビル そして助手Dに手を置いて・・・
「そのまま動くな!!杖を捨てな!!」
鮮やかな流れで助手Dを人質に取った
「な、ミス・ロングビルなんで?」
その後、聞いてもいない事を延々と喋るフーケこと、ロングビル
「・・・と言う訳で、破壊のヒトの使い方を知る為におびき寄せたのさ さぁ、破壊のヒトをこっちに渡しな」
しぶしぶと言われた通りに破壊のヒトをフーケに引き渡すルイズ一行
そして助手Dの命に変えられぬと破壊のヒトを引き渡した
ボグゥ
「うっ・・・」
バタン・・・
「あ・・・あーっ・・・」
「そうよね・・・普通そうなるわよね」
「・・・迂闊すぎ」
破壊のヒトと呼ばれていた青年にフーケは当身をあてられて気絶してしまった
「そうか・・・ロングビルがフーケだったとは・・・」
学院長室で残念そうに呟く
「それよりも・・・」
ルイズが気になっているのは
「あれ、破壊のヒトって・・・いったい誰なんですか?」
指差す先には金髪で赤い服の黒まゆげが
「うむ、あれはわしの若い頃の事じゃ・・・」
100年ほど前、ある森でワイバーンの群れに襲われたオスマンを助けたのは
白いボロボロの服を纏った男と、赤い服を纏った男の二人組みだった
見事な連携プレイで二人がワイバーンの群れを蹴散らして行く
「フォース離脱ぅ!!」
「ぎゃああ!!リュウてめぇ!!」
主に白い服の男が赤い服の男をぶん投げてぶつけると言う奇怪極まりない方法で・・・
その時、ワイバーンのブレスがオスマン目掛けて飛んできた
「バリアー!!行け ケン!!」
「ぎゃああ!!」
リュウと呼ばれた男がオスマンに目掛けて飛んできたブレスにケンと呼ばれた男をぶつけてブレスをかき消した
「こうしてワイバーンの群れは退治されたのじゃが、リュウと呼ばれた男はいつの間にかいなくなっておっての」
昔を懐かしむオールド・オスマンの視線は遠くを見つめていた
「後には倒れたワイバーンの群れと頭にでかいタンコブ作って血を流して倒れていた彼が残されておった」
話を聞いているルイズたちの口は塞がらない
「だからわしは彼に固定化の呪文を掛けて学院の秘宝として補完したんじゃ」
「「「いや!!おかしいだろ!!その発想!!」」」
三人娘の絶叫が学院中に響いたのだった
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
「ありゃ?」
「どうしたんですか?博士?」
「うーん どうやらまだ番組の尺があるみたいだぞ?」
「え、マズイですよ」
「ええい すぐにルイズ君を呼ぶんだ」
「いや、もう時間でフリッグの舞踏会に出てますって」
「どどど、どうするんだよ」
「ええい、こうなったらあれだ、あれを使うぞ」
「博士、アレって?」
「うむ、私 軸盆の自信作・・・なんだけど時間なんで また今度」
「「「「ええーー」」」」
続く
4話目 後半 投下終了
雑君版だから何が現れても不思議じゃない たとえゲーセンおわらえのリュウとケンが来ても不思議じゃない
ネタを予測した人を裏切るのが楽しくてしょうがない
根腐れの方、乙でしたー!
元ネタ知らん私でも爆笑させていただきました!
てっきりギガスだと思ってたのにw
雑君のゲーメスト漫画はリュウとカイ(ドルアーガの塔のヒロイン)が鬼畜だったなぁwww
なぜか戦闘ヘリと、それに積まれたスピーカーとワルキューレの騎行のレコードを召喚
で?
>>930 ノノノノノ
( ○○)・・・で?
(||||)
地獄の黙示録ネタは古いぞ
朝嗅ぐナパームのにおいは最高だぜ
ヘリとレコード召喚したところでロマリアのホモ以外誰もそれがなんなのか全く理解出来無いだろ
そういう乗り物系はタルブ村に置いておけば良いんじゃないか?
んじゃブンドルに代打をたのもう
936 :
ゼロの魔王伝:2008/12/21(日) 18:53:50 ID:pxRHz3gu
こんにちは、投下予定の方がいらっしゃらなければ19:00頃から投下します。
なにか問題ありましたらお知らせください。
937 :
ゼロの魔王伝:2008/12/21(日) 19:02:35 ID:pxRHz3gu
ゼロの魔王伝――2
眼鏡のレンズ越しに、差し込む陽光に煌めく目に見えぬ何かを見つけ、タバサが熱い泥濘のように溶けかかっていた思考を引き締めた。『雪風』の二つ名に相応しい氷の刃の様に、冷たく鋭利な思考を取り戻した。
ロウランゲントと名乗った顔の見えぬ青年の左手に纏わりつく煌めき。天の河を形作る星達の煌めきさえも色褪せて見えるのは、煌めきそのものよりもそれを纏う幻十の繊指の美しさの故であった。
指の関節に寄る皺も、骨と腱と肉を覆う肌も、かすかに桃色を刷いた爪も、すべて人間の指とおなじ部分によって構成されている。
だというのに思わず目を向けてしまうその美しさはどうした事か。老若男女誰しもに刻まれている指関節の皺もあるというのに、無限の宇宙に渦を巻く星雲の様に自ら輝いてさえいる。
黒闇の衣から覗く肌を見よう。大地の奥深くで長い時と共に輝きを封じ込められた宝石さえも、ただの石ころの様に見劣ってしまうのはなぜだ。
影の奥からタバサを見つめる瞳もまた相応に美しいのか。
タバサはあらぬ妄想に囚われんとしていた自分の心を戒めるべく、瞼を瞬かせて魔法を行使するのに必要とされる精神力を、器に満と満たした水のイメージにして浮かべる。
自分に扱える魔法にそれぞれ個別に消費量を定め、今は目一杯に在る水を、魔法を行使する度に減らして行き、冷静に自分の魔法行使の制限を見極める為のイメージ。
タバサの曇りの無いガラス玉を嵌めこんだ様な瞳に戦意の焔が青く燃えて揺れていた。
幻十の手に杖はない。通常、いやメイジと呼ばれる者達にとって魔法の行使の触媒となる杖は、必ず身に帯びていなければならない必須の道具だ。
タバサが携えている大ぶりのものから服の袖に隠しておけるような小振りなものまで、大小、形状に捕らわれず幾種類もの杖が存在しているが、少なくとも幻十の両手は空であるとタバサは判断した。
自分を殺す為の刺客であるならば、相応の実力者が選ばれる筈。ましてやこの男はガリア王ジョゼフを、呼び捨てにしていた。ジョゼフとの関わりもただの主従や傭兵、暗殺者などといったものとは異なるのだろう。
(メイジ殺し?)
メイジ殺しとは、平民との絶対の壁である魔法を行使するメイジを、魔法を用いずに屠る技量の持ち主達の事だ。
タバサはこれまで相対した経験はないが、風聞では正面から対峙する様な事はなく、暗殺・奇襲、また対峙する様な事があっても、相手の不意を突くような搦め手・奇手・暗器の類を用いて戦闘になる前に殺す者が多い。
ならば目に見えぬ何かを武器とするらしい幻十もまた、メイジ殺しと呼ばれる者達の同類なのかもしれない。
深い闇の底で裁縫されたような漆黒の衣を纏い、陽光の描いた影の中にその美貌を潜めた幻十は、淡く微笑を浮かべたままタバサの挙動を見守っていた。
その瞳には油断と侮蔑と自分の優位を信じて疑わぬ者の傲慢が詰まっている。それも無理からぬことであったろう。今や幻十の指先がほんの一ミリ動くだけ、タバサの華奢な体を八つ裂き、両断、あるいは千以上のパーツにも切断できるのだから。
幻十の瞳には、すでに四肢を両断され、首を落とされて血だまりの中でぼうと自分を見上げているタバサの生首さえ見えていた。
だからだろう。せめて先手を譲ろうなどと言う<新宿>の住人らしからぬ提案をしたのは。
「始める前に言っておこう。ぼくは君を殺すなとは言われていない。この意味がわかるね?」
「……っ」
「では、君から来たまえ。先手はお譲りしよう」
勝機があるならば初手と考え、どうやってそれを成すか苦慮していたタバサにとっては、これ以上ない提案であったろう。幻十の言葉が虚空に消えるよりも早く、タバサの前方の空間に幾本ものきらめきが槍の形になって現れる。
この決闘場――いや、タバサにとっては処刑場――に入る前から悟られぬように口内で詠唱していた呪文を唱え終え、即座に発動した生への希望をつなぐ氷の殺意達。
使い手の途絶えて久しい“虚無”の系統を含め、火・土・水・風の五系統の内、風と水を得意とするタバサが、戦闘においてもっとも多用する氷の槍“ウィンディ・アイシクル”であった。
全て同じサイズで形成された氷の刃は、長さ六十サント(≒センチ)ほど。形状や大小に差が無いのは、それだけタバサの技量が優れている事を表していた。
幻十の瞳にもかすかに感嘆の影が揺れた。彼が過ごした<新宿>ではありふれた光景の一つに過ぎないが、ここが<新宿>ではない事、またこれまで見て来たメイジ達と比較しても優れているタバサの技量を認めた為であろう。
938 :
ゼロの魔王伝:2008/12/21(日) 19:03:42 ID:pxRHz3gu
風切る音さえも冷たく氷の槍は無慈悲に幻十の胸を目掛けて疾走した。これ以上目の前の存在を許せば、自分の命のみならず魂さえ奪われると悟ったタバサの無意識の行為か。
明確な殺意を意識してはいなかったはずなのに、いざ魔法を発動するとかつてないほど濃密な殺意が沸いたタバサの心を反映したのか。
立ち尽くす木偶人形を貫くように容易く、タバサの不可視の殺意を乗せた氷槍は幻十の胸を、黒いシャツごと貫く筈であった。
それが、指で触れればたちまち血の球を浮かべるほど鋭い切っ先を、布地にわずかに食い込ませた所で停止している。
まるで自分が触れた相手の美しさを悟り、自らの存在意義を放棄したように。この人を傷付ける位なら、存在などしたくないと告げる様に氷の槍はぴたりと空中に縫い止められていた。
“どうして”、当たり前の疑惑が胸に湧きおこるよりも早く、氷の槍の一つを手に取った幻十が、手の中の氷塊を弄びながらタバサを見つめる。
「見事、と褒めておこう。わずかな躊躇いもない殺意だ。でも、それではぼくを殺せない。残念だったね」
つっと愛しい女の柔肌を愛撫する様に幻十の指が氷の槍の表面を撫でた。その指の、どこか淫らささえ感じられる動きに、タバサの体が中から疼いた。
それは、決してタバサが認める事はないだろうが、幻十の指に触れられた氷の槍へと抱いた羨望と嫉妬であった。
指と共に瞳を向けていた氷槍から再びタバサへと、見つめる者の魂を吸い込む、果ての無い虚無の様な瞳が、タバサの矮躯を射抜いた。
ずくり、と磨き抜かれた鋼の刃で心臓を抉られる錯覚にタバサがかすかに震えた。そのまま死ねたらどんなに良かっただろう。これ以上の恐怖も絶望も感じずに済むのに。
薄く、血の紅を刷いた幻十の唇の笑みが深くなった。口元を歪め吊り上がる唇の両端。
その美貌で国を傾かせる美女が、凡百の女と映る美貌は、しかし、生まれたばかりの無垢な赤子も、人生を謳歌しきり枯れ果てた老人もはっきりと分かるほどに邪悪であった。
美しいものを天使と呼ぶのならばまさしく天使の微笑。
美しいものを悪魔と呼ぶのならばまさしく悪魔の微笑。
浪蘭幻十――はたして天使か悪魔か。少なくとも、人間の微笑ではなかった。美しすぎるが故に。邪悪であり過ぎるが故に。
ぴし、とかすかな音を立てて幻十の手の中の氷槍が真ん中から輪切りにされ、床に落ちて微塵に砕けた。それに続き、空中で停止していた残る氷槍も同じ運命をたどり、重力に従って床に堕ちるや無残に砕け散る。
タバサは見た。床に落ちる寸前、氷の槍の切断された断面を。
見つめるタバサの瞳を寸分の狂いもなく映し出したその断面は、磨き抜かれた鏡の様であった。猛獣の膂力を持った剣士が、世に二振りとない名刀を持って斬りつけたように一切の凹凸が見られない断面。
この顔の見えぬ魔青年の武器が、なにか名状しがたいほどに鋭い刃の様なもの、加えて十数本にも及ぶ氷の槍を一度に切断する事も、同時複数攻撃が可能な事、加えて目には映らぬなにかであるという事。
分かった事はそれだけ。そして、タバサの勝機がほぼ潰えたという動かし難い事実であった。ゆるゆると自分の影の中から絶望の手がいくつにも枝分かれして伸び、自分の心に絡み付くのを、タバサは感じていた。
ひゅっと風を切る音が聞こえたのは、ひとえにタバサが風系統を得意とするメイジであったからだろう。
何か、眼前の魔青年が仕掛けてくる。とっさに杖を盾にする位置に構え、身を強張らせるタバサの、その左の二の腕がすっと切り裂かれていた。
「え……?」
切られた感触はなかった。それこそ風が肌を撫でる感触さえもなかった。なのに、今白いシャツをゆっくりと赤に染めながら、鮮血は吹き出している。鋭すぎる切断は痛みをかすかに伝えるのみ。
「余所見をする余裕があるのかい? しなくても同じだがね」
憫笑とも取れる幻十の声がタバサの耳に届いた時、さらに鮮血と共に刻まれる一文字。縦に横に斜めに、一筋一筋、規則正しくタバサのか細い腕に、しなやかな太ももに、ほっそりとした首筋に、血が滲む。
十を数える間もなくタバサの染み一つない、二つ名の様な肌に刻まれる悪意の証。流れ出る血と共に体力を消失しつつも、タバサは邪魔をしてくる痛みを捩じ伏せて魔法の詠唱を終えた。
幻十の心臓めがけて突き出された杖の先に蟠った空気が、巨人の振るう鉄鎚の如く放たれる。
939 :
ゼロの魔王伝:2008/12/21(日) 19:05:25 ID:pxRHz3gu
“エア・ハンマー”。ほぼ視認不可の空気の鎚だ。風系統以外のメイジでは察知困難な魔法の一撃。
乾坤一擲の意を込めた。エア・ハンマーは、しかし虚しく幻十の数メイル手前で縦に両断され、さらに微塵に裁断されてわずかなそよ風になって消えた。
幻十が魔法を行使した気配はない。ならば、なにかのマジックアイテムを持っているのだろうか? いぶかしむタバサに、幻十が答えた。
「糸とりで、といっても君には分かるまい」
それは幻十の周囲に張り巡らせた細さ千分の一ミクロンの魔糸が織りなす、不可視の斬撃結界、触れるもの全てを斬り裂かずにはおかぬ砦の名であった。
かつて幻十の宿敵も、幻十と同じ妖糸を持って用いた防御の技である。もとより一メートルのコンクリートや、戦車の重装甲も薄紙の如く切り裂く魔糸に幻十の技が加わった時、風の塊さえも切り裂く尋常ならざる不可視の刃と変わる。
「ほら、足を斬るよ」
「っ!?」
とたんに、左足の太ももに走る新たな痛み。すでに白いタイツをゆっくりと濡らす鮮血が新たに濡れ、力を失った左足はがくりと折れる。
杖を頼りに体を支え、踏ん張ろうとするタバサを嘲笑う悪意の声が聞こえた。いかなる人間がこのような邪悪を体現した声を出せるというのか、タバサはその声を聞くたびに体の中から力が消えて行くのを感じ取っていた。
「次は右足」
「あ……っ」
「ようやく声を出したか。我慢強い子だ。その分、漏れ出た悲鳴は甘美だがね。次は左腕だよ」
「っ……くぅ」
「右腕、左首筋、右脇腹、背中、額、鼻筋、喉、右足首……」
「あ、あぅ……くっ……」
幻十の声がタバサの体の部位を告げる度に、新たな傷と血飛沫とタバサの苦悶の声が零れ出る。幼い少女を苛む事に快楽を覚える者ならば、すでに幾度も絶頂に達するほどに酸にして鼻なる無残な光景が繰り広げられた。
杖にすがる力さえ失い、タバサが自分の流した血溜まりを落とした。ぱしゃりと水音を立てて床を濡らしていた自分の血に右頬を打たせた。流れ出た血は冷たかった。
まるで自分の心の様だと、心のどこかでぼんやりとタバサは思った。全身からの流血は、傷があまりにも鋭すぎるが故に僅かなものであったが、無数に刻まれた数が少ない出血量を上回っていた。
うつ伏せになるように倒れ込んだせいで、シャツもスカートもタバサの青い髪も処女雪のような肌も赤く濡れてしまった。ひどく冷たい。体も心も。この冷たさに埋もれたまま自分は死ぬのだろうか?
こつり、と碌に機能していない耳に音が聞こえた。こつり、こつり、と黒靴が自分の目の前で止まった。タバサはなんとか意識を繋ぎながら、せめて自分を殺す相手の眼を見ようと足掻いたが、すでに見上げる力さえ無いのか、かすかにみじろぐだけ。
天上世界の住人が地を這う虫けらを蔑むように、幻十の声がタバサの死に瀕した体に降り注いだ。
「ジョゼフから聞いたよ。君は復讐者だと。父を殺され母の心を奪われ家を奪われ、名を偽り、命を死地に晒し、笑う事も忘れ、父母を手に掛けた叔父に傅く屈辱に耐えて復讐の牙を研ぐ知恵ある獣だとね」
「……」
それがどうかしたか、劫火の如く燃え盛る怒りと共にタバサは吐き捨てた。無論、言葉になる事もなく朦朧としたタバサの意識の中で消えてしまう。
「復讐を果たせぬまま死にたくはあるまい? ぼくの靴を舐めるんだ。そうすれば命だけは助けてあげる。どうだい? 命を拾うにはあまりにも安い代償だろう?」
「……」
すっと、タバサの口元に伸ばされる幻十の靴。タバサはかすかな逡巡を見せ、残った力でかすかに唇を開いた。淡い桃色の花の花弁を切り取ったような唇が震えながら開き、ま白い歯の並びの間から、赤い小さな舌が覗いた。
震えながら伸ばされるタバサの首。わずか数センチ先に在る幻十の靴までが、途方もない長旅の様に思えた。
タバサの唇が幻十の靴に触れる寸前、かすかにとがり、そこからぷっと血の混じった唾を吐いた。べちゃりと、靴の黒に赤が混じった。ふっと自分の口元が動くのをタバサは感じた。
940 :
ゼロの魔王伝:2008/12/21(日) 19:07:03 ID:pxRHz3gu
最後の足掻きに満足し笑んだタバサの体が、目に見えない何か――魔糸によって持ち上げられ、人形繰りに操られる壊れた人形のように宙に浮いた。
百八十サント前後の幻十の目線に合わせる様に吊りあげられて、タバサの足がぷらんと三十サント近く浮かぶ。
タバサの爪先やマントの端から赤い血の球がぽつ、ぽつ、と床に落ちて弾ける。両手を広げ、ゴルゴダの丘の上で磔刑に処された聖人の如く、タバサは束縛された。
ひどく重たい瞼をかろうじて開き、タバサは幻十の顔を見ようとした。焦点を結ばぬ瞳は白霧の彼方の人の様に、幻十の姿を朧なものにしていた。
「いい眼だ。憎悪も、絶望も、恐怖も、何もかもが申し分ない。後は復讐を果たす運と実力があるかどうか、だね」
「……」
すっと伸ばされた幻十の両腕が、優しくタバサの頬を挟んだ。傷つけてはならぬものを扱うような手つきであった。慰撫する様にタバサの頬を慈しみながら撫でる幻十の手。
それに恍惚と蕩けるだけの力はすでにタバサになかった。沈めば二度と浮き上がってこれぬ闇に落ちようとするタバサの耳に、幻十の声が鮮明に聞こえた。
「受け取りたまえ。浪蘭幻十の祝福を。<新宿>の王になり損ねた男の祝福を」
やがて、自分に近づいてきた幻十の唇が自分のそれに重ねられ、閉じる事も出来ずにいた歯をこじ開けて小さな蛇の様な肉片が侵入してきた時、タバサは自分の魂が鎖に縛られる音を聞いた。
どっぷりと太陽が地平線の彼方に沈むころ、主人の遅い帰りを待つとある使い魔は、きゅい〜、と大きな体に似合わぬ可愛らしい鳴き声を漏らしていた。
眼にも鮮やかな青い鱗につぶらな瞳。人など比較にならぬ巨体は、しかし彼女の愁族からすればまだまだ子供に過ぎない。風を捕まえて雄々しく天に羽ばたく翼に、巨躯のバランスを保つ長い尻尾。
風竜の幼生体、名をシルフィードと言う。風の妖精の名前を与えられたこの風竜こそがタバサの使い魔であった。トリステイン魔法学院で春に行われた使い魔召喚の儀式でタバサに呼び出された幻獣だ。
「きゅい〜。……きゅい!? おねえっ」
そのシルフィードがつぶらな瞳に求めていた主人の姿を認めるや、たちまち狼狽して泣き喚いた。と、タバサが杖を振るや小さな風の塊がシルフィードの顎をしたたかに打って言葉の続きを封じた。
だが、シルフィードの驚きも無理はあるまい。夕日の紅に照らされるタバサの姿のなんたる無残さよ。
シャツの生地にもはや白い個所を見つける事は出来ず、か細い両足を覆うタイツも赤に染まって歩くたびにぐじゅりと濡れた音を立てていそうだ。もとより白かったタバサの頬はより一層青白く変わり、まるで臨終の床に伏した病人の様だ。
だがシルフィードの心配をよそに、しっかりとした足取りで自分の使い魔の所まで歩いてきたタバサは、有無を言わさずシルフィードの背に跨り、飛んで、と小さく命じた。
「きゅ、きゅい〜〜」
「飛びながら話す」
「きゅい……」
あくまでもタバサの身を案じるシルフィードの心に、暖かいものを感じながら、タバサはそれでもこの場から飛び立つ事を己の使い魔に命じた。
ふわり、とシルフィードの大きな体に似合わぬ軽やかな音と共に風竜の体が舞い上がり、宮殿の空へと飛びあがった。
上空数百メイルに飛びあがり、余人の目も耳もない事を確かめるやシルフィードが口を開いた。
「お姉さまどうしたのね、その傷は!? 早く手当てしないと大変なのね!! お姉さまが死んじゃったら、シルフィードは困るのね。さびしくって死んでしまうのね!! きゅいきゅい!」
「血は止まっている。傷ももう塞がっているから大丈夫」
「きゅい!? だってそんなに血塗れなのね! それでどうして平気なんて言えるのね!!!」
941 :
ゼロの魔王伝:2008/12/21(日) 19:08:29 ID:pxRHz3gu
事実、幻十によって刻まれた傷はその一つ一つを幻十の指がなぞるや、何事もなかったようにピタリと塞がったばかりか、流血や痛みさえも消えたのだ。神業、魔技の領域にまで到達した幻十の技量と魔糸なればこその現象であった。
シルフィードの青い背びれに身を預け、ぐったりと脱力したタバサへ向けて首を捻り、シルフィードが振りかえり、それでも納得しない様子でぺちゃくちゃと喋り続ける。
時折、元は人語を解さなかった獣などが使い魔契約の儀式によってある程度の知性などを得て喋りはじめる例はある。だがシルフィードは契約以前から人語を解する高度な知能を持った幻獣であった。
今は絶滅したとされる韻竜と呼ばれる極めて希少な古代種であった。その存在が明らかになれば、国の抱える研究機関にいらぬ介入を受けかねぬ存在であるが故に、タバサは普段、シルフィードに言葉を話すのを禁じている。
ぴーちくぱーちくと喋り続けるシルフィードの声は、いささか今のタバサには耳障りだった。
口うるさい妹の様なこの幼竜が、自分に対する好意から喋っているのは分かるが、多量の出血を強いられ、魂を奪われかねぬ魔性の美を前にした精神的な衝撃が、タバサの心をかつてないほど憔悴させていた。
これほどまでに疲れ切ったのは、父の死を告げられた時、そして自分の代わりに母が毒を飲んで心を壊してしまった時以来だった。
ぼんやりとシルフィードの声を聞き流しながら、タバサは別れ際に幻十の告げた言葉を思い出していた。
――ぼくはジョゼフの召喚した使い魔だ。ジョゼフは虚無の系統。虚無に対抗するには虚無。かつて無能王と呼ばれ、四系統の魔法を扱えなかったジョゼフが伝説の虚無だった。
ブリミルとやらの血族、そして四系統の魔法を扱えぬ無能者。もし、きみに心当たりの人物がいるのなら、そして復讐を望むのなら、その者を利用する事だ――
幻十の言葉を信じるならばジョゼフの使い魔たる彼が、なぜそうの様な事を告げるのかタバサには理解できなかったが、あの言葉が事実であるならば確かに自分の復讐にとって有益な情報であるのは確かだった。
そして、四系統の魔法が使えず、メイジの始祖ブリミルの系譜に連なる者。その心当たりがタバサにはあった。そして、その使い魔も。
本当に幻十の言う事が真実ならば自分は彼女さえも復讐を果たす為に利用するのだろうか?
答えの出ぬ問いを胸の内に抱えたまま、タバサは日が沈み、世界を覆い始めた闇の帳を見つめながら自分の唇をなぞっていた。初めて男に触れられた唇を。何度も、何度も。ゆっくりと、その感触を忘れぬように。
終了。前よりちょっぴり長めです。そしてタバサ好きの方ごめんなさい。とりあえず死亡フラグは回避できました。
魔王の人乙です。
次回にwktk
なんという菊池ワールド
<新宿>の人間に対抗できるのはもう<新宿>のあの二人くらいしかいねえな!
魔王の人乙
せんべい屋か医者か刑事を誰か召喚するんだ!
魔王の人乙
ルイズが誰を召喚したかだな。
普通にサイト召喚してたら、幻十にはとうてい太刀打ちできない……。
皆さんこんばんわ。
では、先週に引き続き、ウルトラ5番目の使い魔の水の精霊編の続きをいってみたいと思います。
投下開始予定時刻は20:00です。よろしくお願いします。
おk、事前支援
第27話
悪魔の忘れ形見
怪獣兵器 スコーピス
宇宙海獣 レイキュバス 登場!
「これがラグドリアン湖か、広いなー」
あの惚れ薬のどさくさから一晩が過ぎ、夜通し馬を駆けさせたルイズ、才人、ギーシュ、モンモランシー、
ギムリ、レイナールの一行は、目的地のラグドリアン湖の東岸にまでやってきていた。
時刻は地球時間で言えばおよそ午前10時過ぎくらい、一旦街に寄って食料を買い込み、馬に揺られながら
朝食をとりつつ来たために、けっこう遅くなってしまった。
陽光を浴びて、湖畔はダイヤの破片をばらまいたように輝き、馬に揺られ続けた疲れもいっぺんに吹き飛ぶ
ようだった。が、一行が景色に見とれる中で、唯一余裕のないギーシュがせわしげに言ってきた。
「のんきなことを言ってないで、ここに水の精霊がいるんだろ」
いつもだったら旅行気分で幼子のようにはしゃぐのだろうが、さすがに今回ばかりは別のようだ。
ただ、それも裏を返せばギーシュの使い魔に対する愛情が本物だということにもなるので、焦るなと忠告は
しても、誰もいらだつようなことはなかった。
だが、湖に着いたというのに、モンモランシーは景色を見るばかりで、水の精霊を呼ぶ儀式とやらを始める
気配はいっこうになく。やがて独り言のようにつぶやいた。
「……やっぱり、ちょっと湖の様子がおかしいわね」
「おかしいって?」
モンモランシーの言葉に才人やギーシュなど、ここに来るのが初めてのものは不思議な顔をした。
「今あなたが言ったとおりの意味、広い、広すぎるのよ。数年前来たときは、湖岸はもっと先だったはず。
見て、あそこから出てる尖塔、きっと教会の屋根よ。ここら一帯水没したってことね」
よく見てみれば、湖の底に家の影らしきものが見え隠れしている。才人は温暖化による水面上昇が
ここにも、とか思ったが、当然ハルケギニアにそんなものはない。冗談である。
彼女は水の様子を探ってみると言って、湖水に手をつけて瞑想しはじめたが、意味のわからない才人は
ルイズに説明を求めた。
「なあ、あれ何してるんだ?」
「水の精霊の意識を感じ取ってるのよ。メイジは自分の持つ系統の物質に対して敏感になれるのよ。
彼女は『水』系統の使い手だからね」
「はーん」
彼女はしばらくしてから立ち上がり、首をかしげた。
「どうやら、水の精霊は怒ってるみたいね」
「怒ってる? なんで」
「そこまではわからないわ。でも、交渉は難しくなりそうね……」
皆の顔が一斉に暗くなった。
それでも、水の精霊の涙がどうしても必要なことには変わりない。ギーシュが学院に居られるかどうかの
瀬戸際の上に、やり直しの効かないワンチャンス、いやがうえでもためらいがくる。
支援だ
「どうする、あきらめるか?」
「……いや! ぼくのヴェルダンデの命がかかってるんだ、主人であるぼくがしっかりしなくてどうする!
モンモランシー、頼む! 水の精霊を呼んでくれ」
覚悟を確かめるつもりでギーシュに鎌をかけてみた才人は、こいつにもこんな面があるんだなあと、
正直感心していた。
また、モンモランシーもそんなギーシュの一面に唖然としていたが、惚れた男のピンチなら女が助けなくて
どうすると覚悟を決め、とにかく水の精霊を呼び出すことにした。
その方法は、彼女の使い魔のカエルのロビンを使い、湖底の奥底に眠っている水の精霊にまずは
来訪者のことを報告することから始まる。
「いいことロビン、あなた達の古い親友と連絡がとりたいの、盟約の一人がやってきたと伝えてちょうだい」
彼女は、自分の血を盟約の印として一滴ロビンに垂らすと、湖の中へと放った。
「これで……向こうが覚えていれば来てくれるはずよ……あれ? ルイズ、あんたなに青ざめた顔してんのよ」
まるで幽霊でも見たかのように真っ青な顔をしているルイズに、モンモランシーは具合でも悪いのかと、
額に手を当てようとしたが、ルイズはびくっと飛び上がって、瞬時に20歩分ほど後退して言った。
「カ、カカ、カエル触った手を、ちちち、近づけないでちょうだい!」
「はぁ? ……ん、もしかしてルイズあなた、カエルが怖いの?」
「そそそ、そんなこと、ななな、ないこともないけど……いいじゃない! 誰だって苦手なものの一つや二つあるでしょう!!」
今度は顔を真っ赤にして怒鳴るルイズに、全員の爆笑がラグドリアンの湖畔に響き渡った。
人は見かけによらないというか、バルタン星人にスペシウム、キングジョーにライトンR30、ベムスターに
エネルギー爆弾、サーペント星人に塩、そしてルイズにカエル。意外なところに弱点があるものだ。
「あんたたち笑いすぎよ!!」
キレたルイズの渾身の大爆発が、一行ごと湖畔と森を揺さぶった。
一方そのころ、西岸ではキュルケとタバサを乗せたシルフィードが、任務の目的地であるラグドリアン湖の北西へ
向けて風のように飛んでいた。
旧オルレアン公領から北東へ、トリステイン国境と接するラグドリアン湖の西岸を、命令に記された場所に
向かってシルフィードは飛んだ。鳥を追い越し、水面にはねる魚を見下ろし、その穏やかな旅路は自然と眠気を
誘うものでもあった、この平和な光景の先に、王軍でも解決できない難題が待ち構えているとは信じがたいものがある。
あくびをかみ殺しながら、キュルケはこんなときでもしゃがんで本を読みふけっているタバサに、今回の任務の
内容を確認してみた。
「ふわ……ねえタバサ、今回の任務ってやつなんだけどさ、もう一度聞いておいていい?」
「……『ラグドリアン湖北西にて、原因不明の森林の立ち枯れと急激な砂漠化が始まっている。その原因を究明し、
原因を排除せよ』もうすぐ着くはず」
振り返りもせずに、事務的にタバサは答えた。
「砂漠化っていったって、気候はこのとおり穏やか、森林も青々と生命力に溢れて平和そのものじゃない。
そのイザベラって姫さん、寝ぼけてるんじゃないの? この先だってほら…………うっそ!?」
シルフィードの進む先を見て、キュルケは思わず息を呑んだ。
ラグドリアン湖の西岸に渡って延々と続いていた森林地帯や、青々とした作物を生らせていた畑が、ある一線を
境にまるでまったく違う風景画を切り取ってつなげたように、黄色い砂ばかりの砂漠に変わっているではないか。
これは……と、イザベラの書簡が正しかったことをキュルケも納得せずにはいられなかった。
砂漠は現在半径3リーグほどに渡って落ち着いているが、こんなものがあったのでは付近に住む猟師も農民も漁民も
とても落ち着いて仕事などできないだろう。しかも書簡に追加されていた情報によれば、この砂漠は一週間前に
突然現れており、それからほんの1日で半径2リーグにまで拡大し日を追うごとに広がっているという、
これにより近辺の農業は大打撃を受けて、国境際という地理的条件もあり、早急な解決が望まれるということだった。
しかもそれだけではない。最初に調査に赴いた学者やメイジの調査団が、流砂にでも飲まれたのか、いくつも
行方不明となっているという。これは確かにタバサに回ってきそうな仕事だった。
「こいつは……確かに砂漠だわね。タバサ、ここに来るまで半信半疑だったけど、あなた一人でこれを
どうにかできると思う?」
「……やれ、と言われれば内容を問わずにやり遂げるのが、わたしの使命……」
タバサは、以前火竜山脈で怪獣を倒したせいで、それなら今度は砂漠くらいどうにかできるだろうと思ったなと、
イザベラの心の中を読んだ。シルフィードも同じことを感じ取っているらしく、きゅい、きゅいと不愉快そうに
鳴いている。
ただし、馬鹿姫の目論見はどうあれ、今回の任務は一筋縄ではいかない仕事だ。
砂漠化を防ぐなら水を撒くのが一番手っ取り早いだろうが、下手に大掛かりな魔法を使って周囲の畑や人家を
破壊してはまずい、言うなら簡単だが、かつてトリステイン城の火災を消し止める際にタバサとアンリエッタが使った
疑似トライアングルスペルでも、その威力は城を覆いつくすまでで、効力は一時的なものだった。
それに砂漠には保水力がほとんどないし、本気で半径3リーグの広さを潤そうとするならスクウェアクラスが
何百人もいるだろう、現実的に考えて不可能だ。
「で、どうしようか? このままぐるぐる回っててもらちが開かないわよ」
「とりあえず、下りて調べてみる」
「まあ、妥当な線だわね」
とにかく、最初にやることはそれしかないだろう。調査隊が消息を絶ったのは砂漠の中だったというし、
もしかしたらここを砂漠にしたなにかが潜んでいるのかもしれない。調べ事は得意ではないが、ぜいたくは言って
いられない。こういう時土系統のメイジがいてくれたならと一瞬思ってみたが、土系統の使い手の知り合いの
間抜け面が浮かんでそれを取り消した。
しかし、着陸しようと高度を落としたシルフィードの目の前で砂漠が地響きを立てて揺れ動き始めた。
「タバサ!!」
「上昇、急いで!」
きゅいと一声鳴いてシルフィードは翼を大きく羽ばたかせて急上昇に入った。
その一瞬後、彼女達が着陸しようとしていた砂漠の砂丘が、まるで風船が割れるかのように内側から
はじけとび、砂煙の中に巨大な影がせりあがってきた。
「あれは!? 怪獣!!」
それは全身土色をした、とてつもない大きさの甲虫だった。
しかもただでかいだけの虫ではない。つりあがった目は赤く爛々と光り、口には鋭い牙が無数に生えている。
さらに、背中からはサソリのような長く、先端に巨大なとげのついた尾が生えている。
「こりゃ、どう見ても菜食主義者には見えないわね」
「調査隊をやったのも、多分こいつ……」
「ええ、ペルスランの言っていた。1週間前に降ってきた星っていうのは奴のことね……見て、体の半分と羽根が
焼け焦げてる」
その怪獣は、体の左半分にひどいダメージを受けていた。本来は飛べるのだろうが、これではまともに動くことも
かなわないだろう。
だが、動けないまでも、その怪獣は自分の周りを飛び回るシルフィードを認めるや、凶悪な顎を開いて、口から
赤黒く光る毒々しい光線を撃ち出して来た!!
「危ない!」
間一髪、ぎりぎりのところでこれをかわしたが、外れた光線はそのまま飛んでその先の森に着弾し、すると
どうだ、青々と茂っていた森が瞬く間に枯れて砂に変わっていく!
「あいつが、森を砂漠にした犯人ね。こりゃ、今は動けなくても、ほっておいたらそのうちトリステイン、いえハルケギニア中
が砂漠に変えられちゃうわよ!」
その光線の信じられないような凶悪さを見てキュルケは思わず叫んだ。
これまでベロクロンをはじめとして、数々の怪獣、超獣、凶悪宇宙人を見てきたが、こいつはそいつらとは根本から
違う。内に秘めた邪悪さは超獣の持っていた『侵略』という概念すら外れた、ただ破壊と荒廃のみをもたらす悪魔の
使いのようにすら感じられる。
「さて、どうしようかタバサ……やる?」
「……攻撃する」
「あ、やっぱりそういうことになるわけね」
なんのことはなしに言ってのけたタバサに、キュルケはやっぱりといった表情を見せたが、止めはしなかった。
どのみちこのままぼんやりと眺めていただけでは事態は変わらないし、タバサの立場上「だめでした」とは絶対に言えない。
第一止めたところでタバサが聞き入れるとは思えない。
「でも、あの光線を浴びたらひとたまりもないわよ、いくらあなたの風竜でも大丈夫?」
「なんとかする」
タバサにしては抽象的な答えだった。けれど、それもやむを得ない場合があろう。風竜は確かにハルケギニアで
最速を誇る生き物だが、かつてトリステインの竜騎士隊がベロクロンの前に全滅したように当たるときは当たる、
かといってそれが彼女の意思を揺らすものではないが。
キュルケは杖を取り出すと楽しそうに笑った。
上戸www
「じゃ……久々に二人でやろうか」
「……うん」
タバサは自分も杖を構えシルフィードを降下させていった。
『フレイム・ボール!!』
『ジャベリン!!』
戦いが、始まった!
また、時を同じくして、同じ湖の一角で大変なことが起きていると知るよしも無く、ルイズ達はようやく水の精霊を
呼び出すことに成功していた。
それは、水が意思を持っているかのように湖面から盛り上がって、スライムのように不定形に変形し、
モンモランシーが呼びかけると、彼女の姿を模した氷の彫刻のような姿に変わって落ちついた。
「これが水の精霊……液状生命体ってやつか」
才人は水の精霊の姿を見て、そう判断した。
全身を液体で構成した生命体は、液体大怪獣コスモリキッドやアメーバ怪獣アメーザのように地球でも
いくつか例がある。言えば怒らせるだろうから、才人はそこのところは伏せておいたが、この水の精霊という
やつは、それとは対照的に陽光を透明な体に輝かせて、美しくきらめいていた。
「水の精霊よ、お願いがあるの、あなたの体の一部を、ほんの少しだけわけてもらいたいの」
だが、やはり水の精霊の答えは冷たかった。
「断る、単なる者よ」
やはり、とモンモランシー達は肩を落とした。
だが、水の精霊が湖面に戻ろうとしたとき、ギーシュが意を決したように水辺にまで出て、湖水に頭を
浸るくらいまで下げて頼み込んだ。
「待ってくれ水の精霊! ぼくの友達が助かるためにはどうしてもあなたの一部が必要なんだ。そのためなら、
ぼくはどんなことだってする。だから、お願いだ!」
精霊は、しばらく湖面にとどまったままじっとギーシュの姿を見守っていたが、やがて再び元の姿に戻ると言った。
「わかった。単なる者よ、お前の体内を流れる液体の流れは嘘を言っていない。我は湖の水を通してそれを
知った。願いを聞いてやろう」
「本当か! ありがとう!」
「ただし、お前はどんなことでもすると言ったな。ならばひとつ条件がある。我は今、いくつかの悩みを抱えている。
そのひとつを解決してもらおう。ここより北の湖岸の地底に、最近不法な侵入者が居座って大地を荒らし、
それが湖にも影響を及ぼしている。そいつを退治してくるがいい。されば、我は我の一部を礼に進呈することを約束する」
それを聞いて、ギーシュは喜んだが、才人はその侵入者とは何者かと精霊に聞いてみた。
「我を悩ますのものは、太陽が7回巡る前に空のかなたよりここに降りてきて、森を枯らし、生き物を殺し、
大地を死なせる、巨大な悪意の塊のような怪物だ」
「て、ことは宇宙怪獣か……?」
「なんでもいい! とにかくそいつを倒せばいいんだな。だったらやってやろうじゃないか!」
こうして、一行は水の精霊の涙を手に入れるための交換条件として、謎の敵を倒すことになった。
が、そのとき水の精霊の体がぶるりと震え、一行は何事かと身構えた。
「どうやら、北西岸でそやつと何者かが戦い始めたようだ……」
「ええっ、もしかしてガリア軍か!?」
「違う……湖面に映った様子をここに映し出そう。見るがいい」
水の精霊が手を一振りすると、湖面が揺らめき、そこにまるでテレビ画面のようにはるか北西の岸での戦いの
様子が映し出され、暴れまわる巨大な怪獣と、それと戦っている者達を見て皆は仰天した。
「あれは……まさかシルフィード!? てことは乗ってるのは」
「あの赤い髪はキュルケだろ!」
「タバサもいるぞ、なんであの二人が怪獣と!?」
才人、レイナール、ギムリはそれぞれ見慣れたシルエットを見て、なんで!? と思ったが、二人が炎と氷の魔法を
駆使して戦っているのを見て、ただ偶然居合わせただけではないということだけは悟った。
「まずいわね。あの怪獣相当な強さよ、このままじゃ遠からずやられちゃうわ」
モンモランシーの言うとおり、シルフィードは高速で飛んで怪獣の吐き出してくる光線や光弾を避け続けているが、
怪獣のほうも半身に傷を負っているにもかかわらずにほとんど二人からはダメージを受けていない。
するとそのときギーシュが高らかに宣言した。
「助けに行こう! 友を見捨てては騎士の恥、どうせ戦いに行くはずだったんだ。二人を見殺しにはできない!」
「ギーシュ……」
きりっと構えて、凛々しく言ったギーシュの姿に、正直才人達はさっきまでとの変わりように度肝を抜かれていた。
特に、モンモランシーなどは顔を紅く染めてギーシュの顔を見つめている。
しかし、たった一人冷めた視線で成り行きを見守っていたルイズが言った。
「でも、ここからタバサ達が戦っている場所までは相当な距離があるわよ。湖岸を回りこんでいたら、馬でも
とても間に合わないわ」
「うっ!」
それは盲点だった。いくら気合を入れたところで、タバサ達のいるところはこの東岸からは影も見えないかなた、
いくら急いだところで何時間もかかってしまう。
だが、それを聞いた水の精霊が手を湖にかざすと、湖面の上をまるで動く歩道のように北西へと続く水流の道が現れた。
「戦いに急ぐというのならこれに乗るがいい。沈まぬように凝結させた水を高速で北西に流している。この上をさらに
馬で駆ければ片時もせぬうちに着けるだろう」
それはまさに、ハルケギニアの人々が恐れる水の精霊の先住魔法の人知を超えた力のなせる技であった。
「よし、急ごう! 才人、ギムリ、レイナール、WEKC出動だ!」
「おう!」
一行は馬に乗り込み、タバサ達の待つ北西岸へと湖面の上の道に乗り出していった。
そしてそのころ、次空を超えた世界、地球でも勇者達が戦いを繰り広げていた。
今日も、ガンウィンガーでパトロール中のリュウとミライの元に怪獣出現の報が届いてくる。
〔リュウ隊長、東京N地区に空間のゆがみが発生しています。同時に強い生命反応を検知、怪獣が出てくるようです!〕
「なんだと! ヤプールの攻撃か」
〔いえ、ヤプールの異次元ゲートとは違うようです。どこか別の宇宙につながるワームホールのような……〕
「わかった、後はこっちで確かめる。いくぞミライ!」
「GIG!」
ミライがGUYSの復唱を力強く答え、ガンウィンガーは進路を変えて東京N地区へ向かった。
そうするとガンウィンガーは速い速い、あっという間に東京N地区に到着、街の上空に浮かんでいるブラックホールの
ようなワームホールを発見した。
〔ワームホール拡大、怪獣が出てきます!〕
一瞬、ワームホールが大きく口を開け、そこから吐き出されるように巨大な生物が飛び出してきて、街中に墜落した。
「出てきたぞ! まるででっかいカニみたいなやつだ」
「リュウさん、あれは尻尾があるからエビじゃありませんか?」
「いや、ハサミもあるぞ、ならザリガニだ!」
「そうか、あれがザリガニなんですか!」
現れた怪獣は、まさに全身土色をした巨大なザリガニだった。
右のハサミは自分の身の丈ほどもある巨大さで、飛び出た目は真っ赤な色をしている。
怪獣は、現れてしばらく「ここはどこだ?」とでもいうふうに、周辺をキョロキョロと見回していたが、やがて狂ったように
巨大なハサミを振り回してビルを破壊し始めた。
「やろう! 好きにさせるか! 食らえ、ウィングレットブラスター!」
ガンウィンガーから発射された強力なビームが怪獣を直撃する。しかし怪獣の強固な殻に防がれてあまり効いていない。
「ちっ! フェニックスネスト。ガンローダー、ガンブースターただちに出撃。こいつは一筋縄じゃいきそうもねえぞ」
〔GIG〕
怪獣の強さを見て、リュウは迷わず総力戦を決断した。
「リュウさん。僕がいきます!」
ミライはメビウスに変身して戦おうとした。だが、リュウはそれを押しとどめた。
「ミライ、それにはおよばねえ。あんな奴くらい、GUYSの力だけで倒してやる。新生GUYSの強さ、お前に見せてやる」
『地球は、人類自らの手で守り抜いてこそ価値がある』、まだそれをやりとげるには人類の力は弱いが、いつかは
本当にそれをなしとげる。それがリュウの信念だ。
そして同時にそれは、ウルトラマンに頼るのではなく、同じ場所に立って、いっしょに平和のために戦うということになる。
ミライはそれをくみとって変身するのをやめた。今はウルトラマンメビウスとしてではなく、GUYS隊員、ヒビノ・ミライとして
戦うのが、リュウの気持ちに報いるただひとつの方法だ。
「ミライ、後ろから回り込むぞ!」
「GIG!」
怪獣は、口から火炎弾をガンウィンガーに向けて連発してくる。
リュウはそれをかわすと、ウィングレットブラスターを怪獣の顔面に叩き込む。
その光景を、GUYS総監サコミズ・シンゴはフェニックスネストのモニターごしに頼もしそうに見ていた。
そう、すべてはあのときから……
ガイガレードとの戦いの後、地球に降り立ったメビウスとヒカリは、再び地球人ヒビノ・ミライとセリザワ・カズヤの姿に
なって、リュウやサコミズら懐かしい人たちと再会を果たしていた。
だが、フェニックスネストの作戦室で、二人から語られた話は彼らを驚かせるのに充分だった。
「ウルトラマンAが行方不明!? それに異次元人ヤプールが復活するだと!!」
その話を聞かされたリュウは怒りに震えた。ようやくエンペラ星人の脅威もやみ、怪獣の出現も少なくなって
きているというのに、また平和を乱そうというのかと。
そして、二人がやってきた目的が、その現場が太陽系近海であることと、ヤプールとの交戦数が多く、
もっとも異次元研究の進んだ地球の力を借りるためだということを聞かされて、今度はどんと胸を叩いて
力強く言った。
「まかせておけ! ウルトラマンAには月で助けられた借りがある。喜んで、お前の兄さんの捜索に協力
させてもらうぜ」
「リュウさん! ありがとうございます」
リュウの頼もしい言葉に、ミライは満面の笑みを表して喜びを表現した。
エースだけではない、地球人はこれまでウルトラの兄弟達に返しきれないほどの恩を受けてきている。
今回は、地球人がウルトラマンを助けられるまたとない機会だ。第一、恩返しをするのに遠慮をする必要など
どこにもない。
だが、事は隊長一人の独断で決められることではない、リュウはそれまで黙って話を聞いていたサコミズに
許可を得るために、姿勢を正して話しかけた。
「総監、GUYS JAPANはこれよりウルトラマンAの救助と、対ヤプール殲滅のための対策活動に入りたい
と思います。許可をいただけますか?」
するとサコミズは、自らいれたコーヒーのカップをテーブルに置くと、自然体の表情ながらどこかしら
暖かみを感じられる顔をリュウに向けて言った。
「今のGUYSの隊長は、リュウ、君だ。君の好きなようにやればいいさ。ミライ、セリザワさん、君達はGUYSの
復帰隊員として身分を確定しておこう。ただし、君達がウルトラマンだということはすでに知られたことだから、
一般に不安を招くといけないから、このことはフェニックスネスト内だけの秘密ということで、しばらくは通したい
と思う」
それだけ言うと、サコミズは再びカップをとり、コーヒーを口に運んだ。
「ようしミライ、そうと決まれば善は急げだ。カナタの奴もお前がまた来たと聞けばよろこぶぜ!」
「はい、またよろしくお願いしますリュウさん」
リュウとミライはまたいっしょに戦えることを喜び合うと、一礼して作戦室を出て行った。多分、これから
フェニックスネストをまわって、新人隊員のハルザキ・カナタや、整備班長のアライソに挨拶しにいくのだろう。
残されたサコミズとセリザワは、テーブルを向かい合わせて、静かに語り合った。
「リュウも、また見ないあいだにたくましくなってきたな」
「君にとってはアーマードダークネスの事件以来か、当然だよ、彼もまた夢のために毎日を戦い続けている。
他のGUYSの仲間達といっしょに、離れていても、みんなの心は常に一つだ」
「そうだな……しかし、今度の事件は今までとは違った感じがする」
「どういうことだい?」
「ヤプールが復活を狙っているのは、我々が地球に来る直前の怪獣の襲撃からも、確証はないが確信に近い。
しかし、奴が真っ先に復讐の標的にするとしたら、この地球であるはずなのに、地球は平和そのものだ。
静か過ぎるのが逆に不気味だ」
セリザワの言葉にサコミズは眉をしかめたが、コーヒーに注いだミルクをスプーンでゆっくりとかき混ぜながら
自分なりの仮説を披露してみせた。
「ヤプールもばかではない。以前奴は不完全なまま復活し、中途半端なまま異次元ゲートを封鎖されてしまっている。
もし完全な状態で超獣軍団を送り込まれていたらどうなっていたか、そのときの教訓を取り入れたんじゃないかな?」
「嵐の前の静けさ、というわけだな」
「ああ、だが、嵐に備えて対策を打つことは出来る。それに、表立って動かなくても何か痕跡を残すことはあるだろう。
ヤプールの仕業としぼればそれも見つけやすくなる。どのみち、彼らならどんな障害でも必ず乗り越えていけるさ。
コーヒー、おかわりはどうかな?」
「いただこう」
GUYSの元隊長二人は、自分達の時代が移りつつあるのを感じながら、部屋に満ちる芳醇な香りを楽しんでいた。
「総監、横浜で謎の反応をキャッチしました。ただちに調査に出動します!」
さっそく事件の気配をかぎつけたリュウは、ミライを横浜に向けて出動させた。
だが、その一方で、ヤプールはハルケギニアのどこかで今日も超獣を作り続けている。
そのことを、この世界で知る者は、いまだいない。
続く
今週は以上です。支援どうもありがとうございました。
それから、23話から同時進行で続いた地球側でのストーリーも、とりあえずここでしばらくは休憩に入ります。
本当は、地球側でも次々と起こる事件にGUYSの面々やメビウスやヒカリ、さらに光の国ではウルトラ兄弟達も
立ち上がっていくのですが、さすがにそこまではスレ違いで脱線しすぎになるので自重します。
さて、来週はおそらく今年最後の投稿になると思います。
ラグドリアン湖に出現したスコーピスに、果たしてルイズ達は勝てるのか、ヴェルダンデは元の姿に戻れるのか。
そして水の精霊から語られる衝撃の事実とは?
乙でしたー
肉の塊に刻まれるか
肉と皮を剥がされて最小限の臓器と筋肉だけが残った人形にされるか
もっと酷い目にあわされるか
歯が立たないだろサイトじゃ
というか<新宿>の連中はその辺の雑魚でもスクウェア並の奴がゴロゴロいるぞ
Aの人乙
スコーピオって聞き慣れない名前だったんで調べたらコスモスの怪獣なのね
それはそうと水の精霊編が終わると次はアルビオン編に行くのかな?
タルブのアレとルイズが虚無に目覚めたらどうなるか楽しみだ