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・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
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・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
【警告】
・以下のコテは下記の問題行動のためスレの総意により追放が確定しました。
【作者】スーパーロボット大戦X ◆ByQOpSwBoI
【問題の作品】「スーパーロボット大戦X」「スーパーロボット大戦E」「魔法少女(チェンジ!!)リリカルなのはA'S 次元世界最後の日」
【問題行為】盗作及び誠意の見られない謝罪
【作者】StS+ライダー ◆W2/fRICvcs
【問題の作品】なのはStS+仮面ライダー(第2部)
【問題行為】Wikipediaからの無断盗用
【作者】リリカルスクライド ◆etxgK549B2
【問題行動】盗作擁護発言
【問題行為】盗作の擁護(と見られる発言)及び、その後の自作削除の願いの乱用
【作者】はぴねす!
【問題の作品】はぴねす!
【問題行為】外部サイトからの盗作
【作者】リリカラー劇場=リリカル剣心=リリカルBsts=ビーストなのは
【問題の作品】魔法少女リリカルなのはFullcolor'S
リリカルなのはBeastStrikerS
ビーストなのは
魔法少女リリカルなのはStrikerS−時空剣客浪漫譚−
【問題行為】盗作、該当作品の外部サイト投稿及び誠意のない謝罪(リリカラー劇場)
追放処分後の別名義での投稿(Bsts)(ビーストなのは)
どうもお久しぶりです。
8時50分から多分お待たせしたと思うミッドチルダUCAT 聖王の器 争奪戦の後編を投下したいと思います。
支援をお願いします。
待ってたんだぜ!
ここに宣言しよう、私の姓は支援を任ずると!
支援
∧_∧ ┌────────────
◯( ´∀` )◯ < じゃあ、次はスバゲッチュ!
\ / └────────────
_/ __ \_
(_/ \_)
lll
夢境氏の次に投下したいと思います。22:00くらいからでしょうか。
待ち遠しいぜ支援
投下開始します。
支援をよろしくお願いします。
聖王。
かつて古代ベルカにおいて権威を振るったと言われる古の王。
信仰の対象となったほどの人物。
されど、それが何を行ったのか、どのような人物なのか、それは驚くほど民間には知られていない。
謎がある。
過去は全て覆い隠されていた。
そして、その謎は今ここに明かされるのだろう。
古き王は蘇る。
一つの預言書の一文通りに……
海はいつものように蒼く美しかった。
「あおーい海〜」
その上を疾走するボートが一台。
そして、その先端に佇む人物が二人。
一人は支え、一人は乗り出すポーズを取っていた。
一昔前に流行った大作映画のポーズである。
「しろーい波〜」
しかし、悲しいことはそれを“男同士”でやっていることだろうか。
ダイバースーツにも似たのっぺりとした装甲服を身に纏い、頭には色彩模様のバイザーを被った男たち。
誰が知ろうか、それはミッドチルダが誇る(?)海上防衛部隊である。
「海は美しい〜ひゃっほぉう〜」
らららーと歌声を上げていると、ボートの中から一人の同じような格好に、耳にイヤホンを嵌めた陸士が一人出てきた。
「おーい、おまえたちー」
「あ?」
「なんか出動だっべさー。海上にガジェットの出現、ダース単位だってよ」
連絡係の陸士の言葉に、舌打ちを洩らし、二人の男がポーズを解除。
「ガジェット〜? それって確か陸と空をぶいぶい言わしている機械じゃなかったか?」
「それがえーとレリックとやら狙いで、海上から出てきたってよ。機動六課とやらの人員が二名ほどこっちにも向かっているらしいが、こっちにも出動が来とるわい」
「めんどくせーな」
しかし、仕事は仕事である。
陸士の二人は手袋を嵌めた手を握り締めて、ギリギリと音を立てると、おもむろにバイザーを外した。
「この海を汚すとあらば戦うしかねーな」
キラーンと歯を日光に輝かせて微笑む陸士。
しかし、彼は気付いていない。
ずっとバイザーを付けて直射日光を浴びていたその顔は見事なバイザー焼けをしていたことに。
海上の上で戦いが巻き起こっていた。
「どりゃぁああああ!!!」
紅い衣が翻る。
一人の少女が虚空を駆け抜け、音速を超えた速度でその身に余る鉄槌を叩きつけていた。
破砕。
機械仕掛けの鉄槌を、その身を越える巨大な絡繰兵器を打ち砕く破壊とし、一瞬遅れて発生する爆風をその身に纏う障壁を持って蹴散らしながら、その少女の外見をした戦士は空を舞っていた。
指を鳴らす。
瞬時に生み出されるのは塵埃を核とした疑似物質たる鉄球。
それらを複数生み出し、投げ放つと、同時に手首を返し、スカートを翻し、まさしく踊るようなターンと共に鉄球の尻を打ち弾く。
「シュワルベフリーゲン!!」
術式起動を発声。
亜音速の速度を得た鉄球は銃弾をも超える質量を伴い、次々とガジェットのAMFを貫通し、破砕していく。
「けっ、AMFがあろうがこれなら効くだろ」
生み出したのは純粋魔力ではなく、魔法をもって作り出した疑似物質だ。
時間を掛ければ分解されてしまうだろうが、ガジェットの張るAMF程度では分解すらも出来ずに直撃する。
鉄球の速度は銃弾には劣るが、その鉄球自体が持つ質量差を考えれば大口径マグナムの直撃に匹敵する破壊力を持っていた。
「凄いですー!」
そして、その少女――ヴィータの傍で妖精のように舞い踊るのはリインフォースUだった。
「さっさと潰して、他のフォローに回らねえとな!」
「ユニゾンするですか?」
「いや、まだいいと思うが……」
この程度なら個別で潰したほうが効率がいい。
そう発言しようとした瞬間、不意に通信が入った。
『スターズ02! そちらに援軍が入ります、彼らと協力して対処してください』
「援軍?」
ルキノからの通信に、ヴィータが首を捻った瞬間だった。
『ぱらっぱっぱ〜ぱ〜♪』
「あ?」
変な音が聞こえた。
否、音楽が聞こえた。
しかも、通信から直通である。
「っ、ルキノ! オマエ、なんで音楽なんて流してんだ、馬鹿か!」
『へ? え? 私じゃないですよー!!』
「あ? それなら誰が――」
「俺だぁあああ!!!」
叫び声と同時に上空から被るシルエット。
「え?」
見上げた先には一台のジェットスキーがあった。
……ジェットスキー?
「うぉおいいいい!!!」
「なんですかー!!」
現状を確認しよう。
彼女達の下は海である。
数十メートルは上空だが、海だ。それならば問題は無い。
しかし、彼女達がいるのは空である。
Q.空にジェットスキーは走れるでしょうか?
A.走れるわけないだろ、JK
「フッハハハー!!!! 空を舞い跳び、海を支配する陸士海上防衛隊Cーチーム唯今推参!!」
ぶるおぉおんと音を立てて、ジェットスキーに乗った一人は乗り手、もう一人は後方で縄を括りつけ、車体にしがみ付き奇声を上げるダイバースーツ陸士。
しかも、車体の横には【海人】と達筆で書かれている始末だった。
「陸はどうなってんだー!!」
常識を弁えたものならば誰もが上げるだろう、ヴィータの絶叫だった。
リインにいたってはひきつけを起こし、「ああ、なんだか綺麗なお姉さまが見えるです〜、なんかSLBとか防げるダイナマイツボディです〜」とデバイスが逝けるか分からない彼岸を見ていた。
しかし、そんな隙を見逃すはずも無い感情のないガジェットたちが居た。
レーザーの発射口でもあるアイカメラに光を灯すと、無感情に隙だらけのヴィータたちに目掛けて照準を合わせる。
「ぬっ、あぶなーい!!」
後方に乗っていた陸士が、腰に備え付けていた複数の銛の一つを握り締めるとトゥッと華麗に空を舞った。
近代ベルカ式魔導師である彼は己の技術全てを盛り込んだ身体能力増強を施すと、途端にぴっちぴちのダイバースーツに筋肉が浮かび上がる。
なんという素敵なボディ。
ビフォー:痩せ男 アフター:アンチェインと言わんばかりの体つき。
腹筋は盛り上がる筋肉に負けて湿ったTシャツの如くその素敵さを浮かび上がらせ、四肢はまるで大樹のように太く逞しく、肩はわーいパパーと言って抱きついても一寸も揺らぐことはないだろう逞しさ、そしてその笑顔はとても濃かったです……
まるでボディペイントでダイバースーツを描いたような肉体の浮かび上がり。
なんというマッチョ、なんという超☆兄貴。
兄貴ぃー! サムソンー! という声が虚空から聞こえた。
リインはぶくぶくと泡を吹いていた、刺激が強すぎた。
ヴィータの目が死んでいた、ハイライトが消えていた。
そんな彼女達の悲劇も知らず、陸士はクルクルと一秒前とは別人の肉体を翻しながら、ぬぉおおおおお!! という渋味ボイスを撒き散らして、銛を投げた。
果たしてCランク程度の魔導師である彼が投げた銛はガジェットに突き刺さるのか?
刺さるのだ。刺さる、AMFをも関係ない力技で投げ込んだ銛はガジェットの装甲を貫けるのだ。
ザクリとまるでイミテーションのようにアイカメラに突き刺さった銛、それを見て、陸士は落下しながら素敵な笑みでポチッと腰のボタンを押した。
支援
支援
「逝ってまえぇ!」
ばちぃいとっと銛との間に張られたワイヤーに紫電が迸る、バリバリとガジェットが悲鳴にも似た震えを見せて炎を吹き出した。
内部部品が過剰電流で焼き切れたのだ。
機械に大敵は電気である、それを体現した武装。
さらに、とぅっ! と、足元を不運にも飛んでいたガジェットを水道管工事オヤジのように華麗なジャンプで飛ぶと、日本刀の柄頭の如く太い指でさらに銛を抜き去り、投げる、投げる、投げる。ついでに殴った。
指弾の如き速度で銛が突き刺さり、流れる電流に次々とガジェットが落ちていく。
「ふぅははははー!! 深海に潜っておる鯛を串刺しにするよりは簡単よのぉ」
プラプラと事前に縛っておいた縄に吊り下げられながら、マッチョ陸士は不敵に暑苦しく笑っていた。
ちなみにジェットスキーの運転手である陸士は「貴様に魂があるならば応えてみろ!」と、吼えながらドライビングテクニックを華麗に魅せていた。
「……あたし帰っていいか?」
人生全てどうでもいいや、という顔を浮かべていた。
遠い空に浮かぶ大切な家族をヴィータは見上げていた。
無論、幻覚である。
「あうあう、マッチョ怖いです〜ですーです〜……」
トラウマになり、リインは純真さを失った態度でヴィータにしがみ付き、プルプルと震えていた。
『だ、駄目ですよー!! ヴィータ副隊長、カムバック! マインドカムバック!』
ヴィータの心はボッキリと折れていた。
どうやら他のフォローに回る暇はなさそうだ。
一方その頃、空で激闘を繰り広げている二人の女性がいた。
廃棄都市の上空、地下水路に潜ったフォワード陣を見送り、出現したガジェットたちの迎撃に出た隊長陣が二人。
「くっ、このぉ!!」
術式演算、魔力充填、瞬くような速度で複数思考を同時稼働、それら全てで考え抜いた考えを手に持つ紅き宝玉の戦杖に入力する。
「レイジングハート、行けるね!」
『Yes』
「アクセル・シューター!」
カートリッジロード。
一つの薬莢がレイジングハートから排出され、誘導制御型の魔力弾が32個放出される。
自分自身で制御するのはその内の三分の一程度、他は誘導制御プログラムを仕込んで、制御する魔力弾に追走させる。
如何に彼女、高町なのはの魔法素養が並外れていようとも、32個の弾丸全てを制御するのはマルチタスクを用いても人間の演算能力を凌駕しているし、不可能だ。
人間の能力を補い、さらなる高みへと上り詰めるのには修練以外に人は道具を用いてきた。
長年に渡り磨き抜いてきた制御能力に、カスタマイズを繰り返してきたレイジングハートに記録されたプログラムが彼女の能力を人知を超えたものだと錯覚させ、起こりうる結果をエースオブエースの名に恥じないものに変えているのだ。
「いっけぇえ!!」
そして、未だ成長途上のフォワード陣が作り出す魔力弾とは比べものにならない高圧縮の弾丸が、鳳仙花を描くように舞い散り、次々とガジェットたちに被弾していった。
出力リミッターはかかっているため、一機体に付き4発の弾丸を必要としているが、それでも恐ろしい速度で撃破を繰り返している。
そして、そこから打ち洩らした敵を撃破する閃光が一振り。
「なのは、鈍ってない?」
黒衣のバリアジャケットを翻し、妖艶とさえ言える艶かしい体躯を晒し出しながら、その手に閃光の戦斧を握った金髪の美女。
虚空を滑るように走り、重力制御とベクトル制御の両方でゼロから数百キロにも達する加速度を持つ閃光の如き死神――フェイト・T・ハラオウン。
刃を細く、それと裏腹に肉厚に刀身を形成、斬撃の瞬間のみ供給量の魔力を伸ばし、一刀両断にしていく。
加速、加速、加速。
ソニックムーブと呼ばれる自身の反射性能を叩き上げ、常人には不可視の速度を約束する加速魔法を使いながら、フェイトはなのはから降り注ぐ弾幕の中を恐怖もなく、手馴れた様子で戦っていた。
彼女とはかつて戦い合い、和解してから長いコンビを組んでいる。
互いの呼吸は自身のように理解し、分かり合える。
まるで双子のように息の合ったコンビネーションで次々とガジェットを撃破していった。
「この分なら!」
遠からず殲滅も可能だろう。
そうフェイトが、なのはが考えた瞬間だった。
――不意に視界がかすんだ。
「え?」
瞬くような間に、周囲に敵影が増えていた。
一瞬前まではいなかった場所に、無数のガジェットの姿が見えていた。
『敵増援を確認、十、二十、いえ五十!?』
「シャーリー、どういうこと!?」
「一体どこから、転送魔法!?」
『分かりません! 魔力反応はゼロ、転移魔法ではないはずです!』
「ということは幻影?」
どうすればいい。
なのはとフェイトが焦燥に煽られながら、襲いかかってくるガジェットを迎撃しようと構える――が。
次の瞬間にはそれらが全て掻き消えた。
『え?』
目を丸くする二人。
「あ、あれ?」
「敵は?」
『っ、レーダーからも敵反応が消失! っ、付近で新たな反応が複数! これは!?』
「どうしたの!」
『戦闘機人と陸士部隊がエンゲージです!!』
時間は少々巻き戻る。
なのはたちよりも離れた場所、雲よりも上の上空。
そこに一人の少女が浮かんでいた。
「あらあら、ずいぶんと頑張ってくれてますわねぇ」
メガネを掛け、銀色に輝くコートを羽織った少女――ナンバーズ4 クアットロ。
大きく結わえた髪を風圧で揺らしながら、その顔に浮かぶのは醜い嘲笑の笑み。
彼女はおぞましい。
その心は邪悪に淀んでいるから。
彼女は恐ろしい。
その心に一片たりとも優しさなど存在しないから。
手に浮かぶ空間投影型のモニターで、人知れず頑張り続けるなのはたちの姿を覗き見て、その徒労を嘲笑う。
なんて愚かしいのだろう。
正義を、愛を、人の優しさを信じているような純真な人間達。
吐き気がするほどに馬鹿らしい。
『クアットロ、あまり油断しないほうがいいわよ』
一人の女性がもう一つのモニターに写っている。
紫色の髪、整った美貌、それはナンバーズの長女であるウーノ。
彼女に対し、どこか愛想笑いのような笑みを浮かべてクアットロは答える。
「大丈夫ですわ、少し遊んであげるだけですから」
指を鳴らし、手を虚空へと掲げ上げる。
脳内の演算処理機能が唸りを上げて稼働するのが分かる、瞳の中に内蔵されたカメラがギュルギュルと音を立てて周囲の空間の感度率、明度、湿度、あらゆる自然環境の状態を調べ上げて、それらの情報を処理機能にデータとして入力。
計算せよ、演算せよ、考え抜け、全てを騙すために。
そう、それこそが己の持つ技能にして唯一己を証明する性能。
「ISシルバーカーテン、発動。回れ、回れ、回り続けろ」
カッと目を見開き、空間中の光学率を変動。
目に見えぬ不可視の電磁波をその両手から発した。
幻影を作り出し、同時にセンサーで捉えているだろう情報網全てに迷彩をかける。
するとどうだ。
「アハハハハ、楽しいかしら!」
モニターに浮かび上がる女たちに戸惑いの顔が浮かぶ、自らが作り出した幻影に戸惑っている。
秒単位で計算と迷彩を書き換えながら、クアットロは笑った。
ゲタゲタと苦しむであろう彼女達の苦闘と戸惑いを感じて、笑っていた。
『? クアットロ』
不意にウーノは眉を潜めて、クアットロに訊ねた。
「なんですの?」
気分を害されたのか、不機嫌な顔が浮かぶクアットロ。
しかし、それには気にせずウーノは訊ねた。
『傍にガジェットの反応があるけど、出撃させないの?』
「え?」
ガジェット?
傍にガジェットなど配置などしていない。
シルバーカーテンでの偽装も考えて、己一人で上空に待機している筈だ。
深海に潜ってる鯛ってどんなだ支援
「っ!」
クアットロが下を見る。
そして、分厚い雲の中から飛び出す黒影があった。
ガジェットドローンT型と呼ばれる筒型のそれは何故か真正面にドリルを搭載し、一直線にクアットロ目掛けて飛び込んできた。
「なっ!!?」
重力制御を用いて、咄嗟にクアットロが横に避ける。
天元突破とばかりにロケットのような速度でガジェットがクアットロのいた位置を貫き、展開していた空間モニターが消失、ガジェットはそのまま上へと舞い上がる。
「っ、UCATに拿捕されたガジェット!!」
空を見上げて、その正体を看破する。
単独での戦闘能力に欠けるクアットロはシルバーカーテンの演算は続けたまま、離脱しようとクアットロがコートを翻した時だった。
パカンとガジェットの装甲が弾け飛んだ。
「え?」
内部からバンッと弾け割れると、そのまま内部から何かが飛び出す。
まるで花弁が開き、種が巻かれるような優雅さ。
しかし、そこから飛び出したのは優雅さなどではなく、脅威。
『トゥッ!!』
一斉に声が上がり、両手をY字に決めて、回転しながら落ちてくる人影。
それは逞しい装甲服を身に付けた一団。
それは背に折り畳んだボートを背負った男。
そして、彼らは装甲に包んだ脚部を突き出し、頭には――仮面を被っていた。
『究極☆ライダーキィイイイック!!』
ベクトル操作の真髄、重力落下を超える加速、何故か白熱する靴底、竜巻の如く回転する体。
それらを用いて人影――陸が誇る特車部隊甲部隊がクアットロの顔面に靴底をめり込ませていた。
「ぎゃっ!」
パリィインと割れるメガネ、ついでに停止する演算処理、ギュルっと捻られて飛び上がる足の勢いにさらにダメージを受ける顔。
「トゥッ!」
クルクルと上空を跳ぶと、その人影は背中から取り出したボートを空中で組みなおすと、それに足を乗せて起動させる。
スラスター部分から噴射剤が吹き出し、内部に仕込まれた慣性制御を伴い、空中で浮遊して見せた。
「っ、よくもやりやがりましたね!!」
靴底の残った顔を押さえつけながら、憤怒に歪んだ顔でその陸士を射殺さんとばかりに睨み付けるクアットロ。
「悪いが、メガネ萌えじゃないんでな。俺の給料とボーナスのために貴様を逮捕する!!」
ビシッとポーズを決めながら、最近責任を迫ってくる某小娘から奪ったライディングボード(改造版)を乗りこなし、フルフェイス仮面を被った陸士は叫んだ。
「あら、そう」
ぶちっとこめかみに血管を浮かばせて、クアットロは酷く冷たさを感じさせる笑みを浮かべた。
「ん? 観念したか、メガネ女」
「いえ、そんなんじゃないですわ」
ニッコリと微笑み、その手を振るわせる。
次の瞬間、ジャキンという冷たい音がした。
「あのー、なんかすっこく物騒な代物が見えるんですが」
「そうですわね」
それは薄い鉄板のようにも見えた。
黒光りする黒い筒、硬く冷たそうな金属部分、取っ手が一つ、トリガーが一つ。
あえて言おう。
それは銃器だった。
しかも、サブマシンガンと呼ばれる類の銃火器。
つーとヘルメットの中で冷たい汗が流れるのを陸士は感じていた。
「あのぉ、質量兵器違反なんですが?」
「犯罪者がそんなこと気にするかしら?」
「そうですよね〜」
瞬間、陸士はグリップを捻ったと同時に体重を横にかけた。
そして、その次の瞬間、陸士が元居た位置を貫くように発射音と鉛玉が貫く。
「う、うちやがったぁあああ!!」
全力回避。
スラスターを吹かし、巧みに蛇行しながらライディングボートで全速降下する。
それを追撃するのは怒りを剥き出しにしたクアットロ。
「死ねぇええ!!!」
「死ぬわぁあああ!!」
障壁も張れない低ランク魔導師である。
銃弾なんぞ防げないのだ。当たるととても痛いことは保障済みである。
逃亡する犯罪者に、追撃する捜査官という王道予定が一転して急展開を見せていた。
笑いが止まらない。
ペースを奪うことでは最強クラスだな支援。
走る、走る、走る。
誰にも気付かれないように、灰色の服を上から下まで纏った男たちが走っていた。
物陰から物陰へ、都市迷彩のスーツに、魔力と体温の全てを外部に洩らさない隠密専用スーツを纏った一団はハンドサインのみで意思の疎通を繰り返し、廃棄都市の市外を駆け抜けていた。
音は最小に、露出は最低限に、存在全てを秘匿して移動する。
そして、彼らは上空で行われている戦闘も見上げることすらせずに、一直線にあるビルを目指して移動していた。
『あそこか』
外部に音声を洩らさず、指揮官らしきスーツの人物が独り言のように呟く。
最小限、スーツ内部の空気を揺らしただけだった。
彼らは呼吸すらも外界に洩らさず、嵌め込み式の酸素ボンベをつけて、徹底的な隠密を行っていた。
重量にして数十キロにも及ぶ武装にスーツを身に付けているというに、その足取りはまるで重みを感じさせないものだった。
『はい、反応はあそこからです』
指揮官の首元に手を乗せて、接触回線で部下が言葉を伝えてくる。
同時に手首に付けたモニターには紅い光点が浮かび上がり、その言葉の正しさを伝えていた。
『分かった。ファースト、右から回り込め。セカンドは俺に続け、気付かれるな。気付かれれば、全てが徒労になるぞ』
ハンドサインと共に告げると、続いていた全員が一斉に音も立てずに敬礼を返した。
この世界の歴史には存在しないが、まるでその動きは現代に蘇った忍者のようだった。
右から回り込めといわれた人員は一切の迷い無くその脳内に叩き込んだ地図に従って、大通りになり露出の危険性が高い道路を避けて、付近の建物内部へと侵入し、ターゲットの死角位置から回り込んでいく。
指揮官は付近にあった水路の入り口を開くと、腰に付けていたスコープで内部を確認。
人影や生体反応が無いことを確認すると、迷いも無く飛び込む。
魔法ではなく、ただ鍛え抜いた身体能力と体術を持って体を痛める事無く着地すると、水路の中を見渡す。
すでに十数年近く整備もされていない水路の中は濁った空気で満ちているが、外部からの酸素も温度も隔絶されている彼らには関係ない。
彼らはスーツに備え付けた装置――デバイスそのものであるスーツをキーボードで操作すると、まるで魔法のように彼らのスーツの色が変化する。
水路に相応しい緑色の混じった漆黒。
迷彩色も変化させられるどこまでもスニーキングミッションに適応した装備。
そして、部下の一人が事前に覚えこんでおいた既に使われていない水路のルートに従い、彼らはスムーズな速度と無駄のない動作で移動していく。
まるで闇と一体化しているかのように、それらの存在を気付けるわけもなく、傍を歩くネズミですら視界に彼らが入ってようやく気付けるほどだった。
如何なる修練と思いがそれを可能とするのか、想像すらも難しい。
時間にして五分にも満たぬ僅かな移動。
やがて、彼らは一つの出口を見つけ出す。
指揮官、ハンドサインで一人に開けるように指示。それを受け取り、もっとも身の軽い部下がするすると蛇のように水路からの梯子を登ると、慎重にそのマンホールの蓋を開いた。
音を立てぬように蓋をずらし、部下の一人が目だけ出して周囲の状況を確認。
人影はなし。
上を見る、ターゲットの位置からは死角の位置。
気付かれぬように移動をするべきだと判断、水路の中の全員に分かるようにハンドサインを行い、彼はするりと水路から脱出する。
ぞくぞくと素早く全員が脱出し、ターゲットの真下である建物に侵入。
ガラスを踏まぬように細心の注意。
埃臭いはずの倉庫の中に、複数の男たちが入る、少しせまっ苦しい。
内部に入ると同時にスーツの迷彩を都市迷彩に戻す。
同時に酸素容量が少なく、ターゲットの近くということで自然と増える酸素消費量に備えるためにボンベを変更。
一瞬息を止めて、スーツに嵌め込んだ酸素ボンベを外し、息を止めたまま予備の酸素ボンベを嵌め込む。
吸音物質で出来た接続部により無音、伝わってくる手ごたえのみが嵌ったことを教えてくれる。
息を吸う。
音は聞こえぬはずなのに、ハーハーと荒い息を吐いているような錯覚。
十秒だけ休憩、荒くなる吐息、緊張と高鳴りで上がる体温、心を落ち着ける必要性がある。
そして、その間に倉庫の扉の下からするりと白い紙が出てくる。
それを見て、部隊の一人が警戒しつつも確信した動作で、ドアを開ける
支援
そこにいたのは別れていたファースト班。
ハンドサイン、事前に必要な鍵などを手に入れたというポーズ。
ナイスだとサムズアップ。
休憩終了、弾み心を押さえつけて、全員が移動開始。
ひび割れた建物、老朽化した建造物、その中で慎重に階段を登る、移動する。
扉の度に油を差す、鍵を開ける、音を立てぬように慎重に息を止める、体重移動などの技術の全てを使う。
彼らは何を求めて移動しているのか。
それは全ては一つの目的の為に。
登る、登る、登る。
階段を登り、音すらも出さずに、最上階、屋上の真下の部屋に移動した。
部下の一人、センサーを見ながら慎重の位置を確かめる。
もう一人、荷を降ろし、粘土のような物質を用意する。
指揮官、拳銃型のとある道具を取り出す部下達に、ワイヤーなどを渡し、手はずを打ち合わせる。
位置を確認した。
ここに間違いないと部下の一人、ハンドサイン。
粘土のようなものを持った男、音も立てずに踏み台になった男の上に立ち、天井に粘土を張り付けて、雷管を差す、銅線を引いていく。
他の全員、何故かその位置に合掌のポーズ。
まるで崇めるかのごとく怪しい動作。
二人の男、腕まくりをして、硬い鋼の手甲を握り締める。
準備完了である。
市外を逃走する一人の陸士、悲鳴すらも感じられそうな必死の様子でライディグボードを操り、瓦礫などを吹き飛ばしながら全力離脱中。
それを後方から追うクアットロ、ぶちぎれた顔、銃弾を撒き散らし殺そうとしている、しかし、それを巧みに避けられている。
一秒たりとも同じ軌道にはいない陸士。
弾丸を吐き散らすにも、その軌道を避けて、スラスターを吹かし、障害物などを盾にしながら逃走していた。
あの分だと仕留めるにはまだ時間がかかりそうだし、そんな暇もないのだが。
「うーん、クアットロ完全に目的忘れてるな〜」
つなげたままの通信からはあらゆる罵倒の言葉が洩れ出てきて、聞くに堪えない代物だった。
やれやれとため息を吐くのは廃棄都市にあるビルの一角、その屋上に佇む一人の少女。
布に包んだ大型の物体を背負い、キュルキュルと目に埋め込んだ高精度のカメラを稼働させて、左目をクアットロに、右眼であるヘリを補足している彼女の名はナンバーズ10 ディエチ。
助けに行くにしても彼女の能力はそれには向いていないし、それとは別の役割を彼女は帯びていた。
「そろそろ準備しないといけないんだけどなー、補足は出来てるし〜」
ディエチが肩に担いだ物の布を取り払うと、そこから現れたのは長大な砲身だった。
イノーメスカノン。
彼女のISを伝達するための媒体、全てを薙ぎ払うための兵器。
「クアットロ、マテリアルが逃げちゃうけど、そろそろ砲撃してもいい?」
恐る恐る通信を繋げて訊ねるが。
『ああん!?』
返ってきたのはとてつもなくドスの利いた声だった。
ううう、ブ千切れてるよ〜と内心泣きたいディエチだったが、恐る恐る訊ねる。
本能丸出し支援w
「あのー、マテリアルとケースが逃げちゃうんだけど……」
『ならさっさと撃ち落してやりなさい! くそ、ちょこまかとぉ。落ちろ、カトンボ!!』
「……了解〜」
もう諦めようと思い、ディエチはよいしょとイノーメスカノンを肩に担いだ。
空は晴れており、空気も澄んでいる。
左目の補足を解除し、両目でJF704式ヘリに狙いを定める。
「ISへヴィバレル、起動」
体内で稼働を続ける小型魔力炉が唸りを上げて、イノーメスカノンにエネルギーを充填していく。
灼熱にも似た光が迸り、周囲でジリジリと焦げるような唸るような音が鳴り響く。
照準設定、起動確認、照準誤差をリアルタイムで修正し続ける。
「悪いね」
操縦しているだろう人物に、そして乗せられているだろうマテリアル――“聖王の器”に詫びるように呟いて、それすらも言い訳だと自覚しながらディエチはチャージ完了と共に引き金を引こうと身構えた。
瞬間だった。
バキッという音が足元から響いたのは。
「え?」
一瞬照準から目を外し、足元を見た。
なんか手が生えていた。
「……なに?」
まるで悪夢のように屋上の床から生えた手はガシリと次の瞬間、ディエチの両足首を掴んだ。
片方二本の手、計20本の指が絡みつく。
「なっ!?」
咄嗟に引き剥がすが、足を抜くか動こうとした刹那、さらに奇音。
ボンッという爆発音と共に彼女の周囲の床が破砕する、丸く円を描くかのように。
そして、崩落だ。
「わわわっ!」
飛行機能を持っていない彼女に重力に抗う術はない。
ただ奈落へと引きずり込むかのように掴んでくる手にも逆らうすべもなく、そのまま落下し――
「い、たたた」
もやもやと噴き上がる粉塵の中でディエチは下の床に打ち付けた腰を摩りながら、目を見開く。
何があったんだ。
敵の襲撃、それとも?
「え?」
しかし、想像は現実を上回る。
彼女の周囲、粉塵が晴れた先にいたのは顔を隠し、全身を隠し、まるで彼女を迎え入れるかのようにポーズを取った一団。
気付く、それは罠だったと。
理解、こんなおぞましい奴らは一つしかいない。
軽くトラウマもんだなぁ・・・w支援
支援
「ミッドチルダUCAT!?」
『正解だ』
ギラーンと指揮官らしき人物のマスクの内側で、そして全ての人物が目を輝かせた。
『歓迎しよう、新たな美少女よ!! かかれぇええい!!』
キシャアアァアアアアという奇声すらも感じられるほどにおぞましく、一斉に男たちがディエチに襲い掛かった。
彼女が捕縛されるまで二分と掛からなかった。
『クアットロ、逃げて!! これは罠! って、どこ触ってる!! ああ、返して、あたしのイノーメスカノン!』
「っ、ディエチちゃん!?」
姉妹の悲鳴に、怒り狂っていたクアットロは我に返った。
『い、いやー! なに!? それなに!? なんで、ジャンケンなんかしてるの!? 亀甲とか、座禅とか、菱縄ってなに!?』
絶叫にも似た泣き声の混じった悲鳴。
それを最後にぷつりと通信が途切れた。
「まずいですわね」
靴跡の残った顔でクアットロは苦々しい表情を浮かべると、事態を甘く見ていた自分に気付いた。
屈辱を払すのは後で良い。
ディエチが捕まった以上、任務は失敗だろう。
「命拾いしましたわね!」
距離を保ったまま様子を伺っているライディングボート乗りの陸士を睨み付けると、用意しておいたガジェット全てを撃破したらしい隊長陣二人から逃れるためにシルバーカーテンを起動させようとした刹那。
パリィインと傍のガラス窓が粉砕され、中から飛び出した人影があった。
「っ、二度も!!」
それはライディングボート(コピー品)に跨った同じような装甲服に、少しだけ違うヘルメットを被った影。
飛び込んできたボートを跳躍するように避けたクアットロ、その眼前に紅く燃え滾った拳を振り翳した男が居た。
「必殺! ゴット――」
フィン、そう叫びながらクアットロの顔面を叩き潰そう下瞬間、彼はまるで何かに気付いたかのようにその腕を別方角に叩き込んだ。
ガリィインと金属音が響き合う。
そして、その瞬間現れたのはつい数秒前には居なかったはずの人物。
UCATの敵がどんどん哀れになっていくな……
支援
三女かな?支援
「っ!」
「ISライドインパルス。私の速度を認識したか」
それは凛々しい顔つきを浮かべた女性。
しなやかな刃物を思わせる四肢に、光の翼か刃と呼ぶべきそれを吹き出し、虚空にて紅く燃える手甲と激突しあう脚部があった。
硬直は一瞬にも長い時間のようにも思えたが、互いに縛る重力がそれを許さない。
陸士が吼える、ベクトルを操作し、落ち行く重力を上へ、舞い上がるように足を振り上げるが――遅い。
稲妻のように振り落ちる光の襲撃、直撃する陸士の体がくの字に曲がる、装甲服がめり込む。
陸士は再びビルの中へと吹っ飛んで、女性は空を駆けるように傍のクアットロを抱えて跳ねた。
「トーレ姉さま!」
「やれやれ、監視役のつもりだっただが功を奏したな。ミッドチルダUCAT、これほどとはな」
「あ、あのディエチちゃんは」
「助けたいが、セインも居ない以上救出は無理だ。諦めるしかあるまい」
苦々しい顔を浮かべるトーレ。
彼女は既に撤退を選択していた。
「逃がすと思ってんのかぁ!」
仲間の敵討ちといわんばかりに、先ほどまでは距離を保っていた陸士がライディングボードの速度を極限まで高めて、突撃してくる。
打ち出されてくる砲撃を、トーレはライドインパルスの使用で掻き消えるように躱すと、姿を見失ったトーレを探そうと顔を左右に振る陸士の背後に降り立ち。
「力不足だ」
彼女はその背を蹴り飛ばした。
悲鳴を上げて、転げ落ちる陸士。
そして、ライディングボードは搭乗者を失いながら疾走して。
「テメエがな!!」
その先に飛び出していた一人の陸士。
装甲服をひび割れさせた男が着地していた。
「なにっ!!」
「おぉおおおお!!」
ライディングボートを踏み台に跳躍、出来うる限りの身体強化に、右手のアームドデバイスに仕込んだ術式を起動。
燃え盛る拳がトーレの迎撃に出た手刀と激突し、さらに踊るように踏み出された脚部が、同じように繰り出された蹴りと激突する。
「っ!」
「くぅう!!!」
ガガガという音を弾かせるほどの一瞬の攻防。
繰り出された最後の蹴りに、弾き飛ばされるかのようにトーレが背後に跳ぶ。同時に担がれていたクアットロが速度さに目を回しそうになるが、戦闘機人としての頑強さが救ってくれた。
「クアットロ、シルバーカーテン!」
「は、はいですわ!」
「不可視に、認識外の速度。貴様は追いつけん」
咄嗟にライディングボートを操作し、追おうとしていた陸士が止まる。
「名を聞いておこうか、戦士よ!」
「名などないさ。単なる組織の下っ端でね」
「なるほど。ならばまた機会があれば貴様を打ち倒してやろう、その時に名を尋ねる。ライドインパルス!」
掻き消えるような速度でトーレとクアットロが離脱する。
そして、さらにシルバーカーテンの機能で彼女達は消え去った。
陸士が繋げた通信からもセンサーから消失という言葉が聞こえてくる。
「やれやれ、めんどうくさいな」
「せ、先輩……たすけて〜」
「うるせえ。幸せボケはそこで死ね、豆腐の角に頭をぶつけて死ね!!」
ビル内部の壁にめり込み、瓦礫でもがいている陸士に石を投げつけながら、仮面を被った一人の肉体派陸士はため息を吐き出した。
そんな彼だが。
遅れてやってきた機動六課の隊長陣、二人に手を振りながら。
「あれが第二の尻神様か……」
と渋く心の中で呟いていたことは秘密にしておこう。
戦いは既に終わっていた。
下水道は原型を留めず、破砕の限りを尽くされ、無事な人間は殆どいなかった。
「っ……何故」
ゴホッと血を吐き出し、ギンガはその纏っていたバリアジャケットをボロボロに千切れさせながら、下水道の床で倒れこんでいた。
増援だったはずの陸士たちは殆どが床に沈み、あるいはプカプカと水面に浮かび、或いは壁にめり込み悶絶している。
本来ならば彼女達が勝っているはずだった。
数に勝り、戦力に勝り、負ける道理などなかった。
そう“たった一人の増援が来なければ”。
「何故……貴方が」
ギンガは見上げる。
そこに一人の男が居た。
右手に無骨な槍を携え、左手に覆わんばかりの装甲を纏い、着古したコートを纏った一人の男。
彼の名前をギンガは知っていた。
彼の背をギンガは知っていた。
何故ならば――彼は彼女の母親の――
「ゼスト叔父様! 答えてください!」
「答える道理は無い」
それは冷たい鋼。
それは金属で紡ぎ上げられたヒトガタのように、無骨で、雄雄しく、冷たい鋼。
彼はどこまでも強い。
かつてミッドチルダUCATにおいて最強を誇った人物。
曰く、ミッドチルダUCATの秘密にしておきたかった秘密兵器。
曰く、彼には魔王すらも撲殺される。
曰く、彼の■■には触れてはならない。
最強無双。
強靭無比。
限定的ならばSSすらも凌駕する最強の矛。
「すまない。だが、貴様らが悪いのだ」
冷たく、無骨に、その腕に抱いたルーテシアの頭を撫でて、肩に乗せたアギトにぎこちなく微笑みながら告げる。
「俺の家族に手を出すならば誰であろうが許さん」
曰く、史上最強の家族馬鹿。
ルーテシアとアギトの危機と聞いて、天井を蹴り破り、出現したUCATの誇る変態の一名である男は貫禄ある背中を見せたまま去っていった。
ギンガは思う。
「……絶対に、スカリエッティは潰されるわ」
それはもはや確信だった。
だって。
彼の妻であるメガーヌはクイントと共にスカリエッティに死んだとされているのだから。
え? ゼストも死んだんじゃないのかって?
UCATだと誰も信じていませんでした。
「ガクッ」
そして、ギンガは気絶し、30分後他の部下を蹴り倒して、彼女を搬送したラッドに起こされるまで夢の中に落ちていた。
第一回 聖王争奪戦 成功
第一回 地上本部攻防戦 及び 帰ってきた馬鹿殲滅戦に続く
基本変態の癖に妙にカッコイイ時もあるから困るw支援
今週のナンバーズ(捕獲組)
1.セインとウェンディの日々
「暇ッスね〜」
留置所とは名ばかりの部屋に転がりながら、ウェンディはパタパタと団扇を仰ぎ、漫画を見ながらだらけていた。
太腿むき出しのチャイナドレス姿だが、もはや慣れたので気にしない。
取調べというかセクハラのような日々が過ぎ去り、待っていたのは退屈な待機時間だった。
一畳一間の美少女専用部屋と書かれた部屋に入れられて、だらだらと過ごす日々。
唯一の暇潰しはたまに面会に来る陸士ぐらいだろうか?
そういえば、貸したライディングボードは無事に使ってくれているだろうかと思う。
今度感想を聞こうかなーと思っていると。
「暇なテメエが羨ましいわ」
「ん? セイン、どうしたんッスか?」
通信が入った。
さすがに顔を合わせての部屋は駄目らしく、連絡は通信のみが許されている。
「お前はIS大したことが無いからいいんだろうけどよぉ、こっちは毎日重労働だよ」
「重労働ッスか? ここの人たち、変態という紳士だから酷いことはしないと思ってたんすけど」
「いや、何故か知らんけど、ISディーブダイバーとかで埋蔵金掘りをやらされているんだよ」
「え?」
「埋蔵金―! とか叫んでいる頭のおかしい自称冒険家がたまに来てな。ダウジングとか、古い地図とかで場所を探しては、アタシが潜る羽目に」
およよといわんばかりに顔を両手で隠すセイン。
しかし、ウェンディは気になることがあった。
「で、見つかったんッスか?」
「うん」
コクリとセインが頷く。
ちなみに彼女は寝ていたのだろう、ネコ模様のパジャマ姿だった。
「マジで!?」
「腰が抜けるかと思ったよ。一割くれるっていったから、貯金積み立てにいれてもらった」
「人生勝ち組じゃないッスか!!」
「まあねー!」
彼女達は彼女達なりに人生の喜びを見つけているようだった。
2.ディエチ その護送方法
「うぅうう……」
『えっほ』『えっほ』
彼女は見事に捕獲され、口に出しては言えない方法で縛られて、運ばれていた。
「やめてー」
『わっほい』『わっほい』
ゆさゆさと彼女が上下に揺れる。
ぶらぶらと彼女が左右に揺れる。
「なんで、なんで」
『うほほーい』『うほほーい』
えぐえぐと泣きながら、彼女は青い空に絶叫を上げた。
「豚の丸焼き風に運ぶのー!!」
長い廃材に両手両足を括り付けられ、彼女達はまるでどこぞの人食い族の獲物のように運ばれていったのであった。
おまけ
戦いが終わり、騒乱が去った後の市街地。
そこに降り立つ二つの影があった。
「合同会議を終わらせ、即座に駆けつけてきたぞ! さあ、敵はどこだ!!」
燃えるような髪。
凛々しい美貌を熱い情熱に輝かせ、艶かしい豊かな体躯を惜しげもなく晒した女性。
その手には烈火に燃える魔剣が握られた彼女は剣士であり、機動六課の副隊長シグナム。
「……いませんね」
その横に立つのは両手をむき出しに晒した防護服を纏った女性。
短く切りそろえた髪型、少年を思わせる顔つきだが、その体つきは立派なまでに女を思わせるライン。
その両手にはトンファーにも似た双剣のデバイスを持つ彼女、聖王教会の騎士シャッハだった。
「遅かったか?」
「みたいですね」
勢いごんで現れた二人だったが、既に敵の影はなく、見上げれば他のメンバーも居ない。
「帰ります?」
「……ああ。っ、久しぶりの出陣が」
シグナムはとぼとぼとシャッハは彼女を慰めるように立ち去っていった。
駄目だこりゃ。
投下完了。
やっちゃったZE☆(ソー○マスターヤマトの担当風に)
支援ありがとうございましたー!
壊れが酷くてすみませんw
次回も(あったら)壊れが酷くなると思います。
また電波が降りてきたよろしくお願いします!
GJ!!です。
リリカルなのは界の良心レジアスがイカレてしまったので、歯止めがないw
ゼストも同じように変態だしwwwこりゃ、スカ博士も、三脳も変態に違いないw
GJ
ツッコミ所が多すぎてツッコメません!!!
続きを楽しみにしてます
GJです。
大爆笑しました。続き楽しみにしています。
もちょっと時間を開けて、22:20〜くらいにするです。
〜前回までのあらすじ〜
シャリオ 「らりるれろ! らりるれろ! らりるれろ!」
ティアナ 「らりるれろ! らりるれろ! らりるれろ!」
スネーク 「?」
キャンベル「?」
ティアナも見慣れた桃色の閃光が、圧倒的質量の魔力の砲弾が、悪魔の戦吼と共に戒めから解放
される。集束されたエネルギーが光の奔流となって地面を穿った。直下にいたスネークが呆然とす
るティアナの手を引くことができたのは、単に直感的に危険を察したからに過ぎない。
しかし手を取り回避行動を取れたはいいものの、砲撃の威力はスネークの想像をはるかに上回っ
ていた。地と閃光が触れ合う瞬間、衝撃とともに爆発的な風が巻き起こり石の礫が二人の身体を打
つ。
しかもそれが連続で飛んでくるのだ。
ついさっきまで恐るべきスピードでピポスバルを捕獲してきた二人だが、今度は逆にものすごい
勢いでダメージが蓄積し、体力が消耗していった。
「お……俺は、まだ……夢と憧れの、アカネハウス11号を見るまでは……」
『しっかりしろスネーク! 会社は一緒だがゲームが違うぞ!』
膝をつき肘を落とし、意味不明な発言をするスネーク。
隣のティアナも、同じく息も絶え絶えで、とても先程までイケイケムードで「ゲッチュ!」を繰
り返していたのと同一人物とは考えられない疲れ方だ。
このままでは全滅を免れない。
スネークはそう判断し、禁忌と言うべき手段に出ようとしていた。
「質量兵器を使わざるを得ない」
「局員として逮捕せざるを得ない」
が、真っ向から否定したのはティアナだった。
「やらなきゃやられると言わざるを得ない」
「犯罪者よりマシと割り切らざるを得ない」
「緊急避難を主張せざるを得ない」
「しかしバレたらクビを避けざるを得ない」
だんと地面を踏みつけて、スネークが吼えティアナが唸る。
「そういうことを言っている状況じゃないぞっ!」
「それはこっちも同じですっ! 何をそんな自分だけ今さらっ」
「レイジングハート、カートリッジロードッ!」
「遮蔽物を探さざるを得ない」
「幻影作って逃げざるを得ない」
チームワークどころの話では無く、生存すら危ういと言わざるを得ない。
魔法少女リリカルなのはStrikerS外伝
スバゲッチュ 第五話「ピポスバルの逆襲」 Aパート
『どうにかならんのかシャリオ君! このままだと二人ともただでは済まんぞ!』
シャリオに向かって通信を飛ばし、キャンベル大佐は叫びを上げた。
砲撃の威力、連射、弾速。魔法世界に精通していないキャンベルでも、自分が所属し率いた部隊
の戦力との比較により、今上空に居る魔導師のレベルを推し量ることはできる。
経験豊富な彼の頭脳は即座に、あの白い魔導師は危険であるとの判断を下していた。
はっきり言ってこれほどの敵が現れるとは、予想だにしていなかった。というより敵はピポスバ
ルだけではなかったのか? 仲間を新たに引き入れたというのか?
『…………』
『シャリオ君? ……返事をしろ! どうした!』
そのキャンベルの声をそっちのけで、ただ茫然とモニターを見つめているのがシャリオである。
高町なのはがティアナの前に立ちはだかった。
その現実を見たシャリオの瞳は既に、絶望一色に染め上げられていた。
なのはが今あの場所にいるということは、彼女の「はずかしいしゃしん」とやらを自分が所持し
ていた事実も、既に伝わっているとして九割方間違いはあるまい。
つまりどうあがこうと、シャリオの命運はこの時点で尽きていると結論。
『……ぐ、ぐ』
『グ?』
『グーグル先生に、質問なの……それしか生き残れないの! 『なのはさん 抹殺法』で検索するの!』
『そんな具体的なモノが書いてあるはずあるか!!』
危険思考に染まるシャリオを諌めるキャンベルだった。
『スネーク! ティアナ! 地対空では蹂躙されるだけだ、廃墟を探して避難しろ!』
「もうやってます……でもっ!」
返事を投げてよこしたのは、逃げ惑うティアナ・ランスター。
高町なのは登場の衝撃からはようやく回復したらしく、今はスネークと共にアクセルシューター
の弾幕から逃げるのに必死の形相をしている。
そんな中、スネークが腰のホルダーから緑色の何かを取り出し、空のなのはに向かって勢いよく
投げつけた。
当然、魔力の弾丸で迎撃されるが――。
「閃光弾を投げた! ビル内に飛び込めッ!」
「っ、了解!」
桃色の弾丸が直撃すると、そこを中心に強烈な光が拡散した。
視界を奪われた白い魔導師が目をこすり右往左往している間に、スネークとティアナは廃墟の中
に駆け込んだ。
GJ!
これは海もどうにかなってるとしか・・・!
「〜〜〜〜っ、に、逃がさないのっ! レイジングハート!」
視力を取り戻した直後、上空にいた白き魔導師は探知魔法をかけて追撃を試みるも、
「あれ……あれ!? な、なんで!?」
どういう訳か、近くに魔力反応が全くない。近辺に潜んでいることは間違いないのに、敵影は全く
検出されないのである。
「……段ボールが役に立つとは思いませんでした」
「どうだい、凄いだろう」
それもそのはず、廃ビルに逃げ込んだティアナたちは、シャリオ特製の強化段ボール(ジャミン
グ機能完備の隠密仕様・二人用)を被っていたからである!
(……たかが段ボールに、こんな機能付けるとか)
バカじゃなかろうか。
とは言わない。
今この瞬間生きながらえているのは、間違いなくこの箱のお陰なのだから。
「せまいです」
「我慢だ。とりあえず……少し様子を見よう。あの弾幕で、こちらの体力も減っている」
ひそひそと話して、終わると息をひそめる。周囲の音を警戒してそこから、なのはの現在地を可
能な限り推測する。
「行った……か。それにしても、あれは誰だ? ティアナの知り合いなんだろう」
「……高町なのは教導官。私の……先生です」
「……どうしてそれが敵にまわるんだ……」
「わかりません……本当に、どうして……」
『その点だが。聞け、スネーク。ティアナ』
二人が深刻な表情をしていると、ミニウインドウからキャンベルが顔を出した。
『あれが本物だとは限らないぞ』
「……どういうことです? 魔法で変身しているにしても、あそこまで精巧なモノは……」
バリアジャケットはそっくりだし、使用する魔法も本物と変わらない。
姿形の真似なら確かに出来よう。魔法で変装することは事実可能だし、その気になればティアナ
だってできる。
しかしこのレベルの魔法の複製は、どう考えてもその領域を超越している。だからこそシャリオ
はあそこまで焦っているのだし、自分も戸惑っているのだ。
『確かにな……だが相手はピポどもだ。この城を作るだけの技術は、少なくともある』
「それは、そうですけど」
『加えて言うが、奴らに与する理由はあるか? 君の先生は、個人的な事情で教え子を裏切るのか?』
それだけは絶対にない、と言い切れる。
「しかし。いえ、でも」
「大佐、ティアナ」
そこで、話を黙って聞いていたスネークが口を挟んだ。
「その件に関して、気が付いたことがある。どちらか、映像を……いや、音声を貰えないか」
「音声……ですか? 生憎、記録は」
『なら私のを使うのっ! すぐそっちに転送するの!』
意外と立ち直りの早いシャリオだった。
「まだバレてないかも!」と、希望を見出しただけなのだが。
「……やっぱりそうか。大佐、その推論、当たりの可能性が高いぞ」
スネークが言うと、シャリオの顔が驚愕に染まった。
「なるほど。確かに、そうかも知れません」
ティアナが続くとシャリオはさらに驚き、スネークは感心したように唸った。新兵と聞いていたが、
なかなかどうしていい眼を持っている。
『どっ、どういうことなの!?』
「あるべき音声が聞こえないんです。魔法を使う際、絶対に聞こえる音が」
『音だと?』
ティアナの言葉は、スネークが引き継いだ。
「デバイスの声が無い」
そういうことだった。
レイジングハートがなのはに返すべき、電子音が全く無い。
モニターの向こうの二人が息を飲んだ。確かに、確かにそうだ!
「しかしだ。大佐、シャーリー」
「もう偽物なんか怖くないぜヒャッホーイ」とばかりに浮かれはじめたシャリオと、安心して一
つ息を吐いたキャンベルは、その声に疑問の眼差しを向けた。
「問題はこの先だ。むしろここからの問題は、絶対にひっくり返らない」
「……でしょうね。城全体の制御はあちら側。城と関係なくとも、こっちからじゃ手出しできませんし」
どういうことだ、とキャンベルが言う。
ティアナは諦念染みた声で、こう答えた。
「変装って分かっていても、相手の力は変わらない。対策できないってことです」
「もうッ! 出て来ないなら、辺り一帯薙ぎ払うのっ! ディバイィィィン……」
どうしましょう、これ。
「バスタァァァァァァッ!!!」
どうにもならんな、これ。
どうなってんだ 笑い死にさせるつもりか支援!
本編は以上。
以下はおまけです。
なのはさん 抹殺法 に一致する日本語のページ 約 328,000 件中 1 - 10 件目 (0.32 秒
沢山あるよ 支援!
・そのころのギンガさん6
「あっ……ギンガ! いらっしゃい!」
「なのはさんっ!」
部屋にまず居たのは、高町なのは教導官。
「あたしたちも居るぜ」
そしてはやての守護騎士、ヴォルケンリッターの一団だった。
「皆さん! どうして……」
「……簡単だが、歓迎会をしようと言うことになってな。こうして集まった訳だ」
答えるシグナムの嘘に、ギンガはまるで気付かない。
彼らヴォルケンリッターが今ここにいるのは、単にはやての召集に応じ、これから起こる何事か
を記録するためだけである。
これが歓迎会だと信じきっているのは記録される身のギンガ、そして何も知らないなのはと、偶
々この場に居合わせたフェイトだけだった。
と、ギンガがきょろきょろと辺りを見回す。
「? どうしたの?」
「え? ええと、その。なのな……」
「あ、あ。ギンガ、その件なんやけど」
例の「プロ」は何処にいるのか、と答えようとしたところで、割って入ったはやてがギンガを部
屋の隅へと引きずっていく。
「あの……その、え?」
「こういう時は皆に挨拶や。そうすれば自ずと答えは出る」
「挨拶……ああ!」
内心のワクワクドキドキを押し殺したはやての言葉に納得し、皆の方を振り向いたギンガは満面
の笑みを浮かべた。
そして言う。
「この度はお世話になりますっ、ギンガ・ナカジマなの! これから暫くの間、宜しくお願いしますなのっ!」
「……おかしいな……」
俯いたなのはが、背後に妙なオーラを漂わせながら。
「誰に断って……私の真似してるの? …………なの」
ゆらりと立ち上がった。
なのはさん(本物)は、こっちでギンガと戦闘開始。
でもってこのレス見る前からおまけの展開は決まってたわけですが、
194 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/07/13(日) 00:29:21 ID:YVruQigc
GJ!!です。
この、なのなの口調をマスターしたギンガがなのはと会い、
会話をし、なのはが後輩に舐められてるのって思い、二人のなのなの言葉使いが
戦うんですねッ!!
↑
よくぞ正解したな。
うちに来てピポスバルを餌付けしていいぞ。
ではまた。
うわああ 本家がなのを付けたぞぉおおお! 支援
GJ!!
UCATとスパゲッチュで腹筋を壊されるかと思った
ふ、腹筋が壊れる。
貴方は私を殺す気ですか、GGJ!!(ゴットグッジョブの略)
覇王(ry自重しろww
アカネハウスってイエジャナイヨ! グーグル先生に頼るな!!
死ぬ、死ぬ! 笑い死ぬ! 笑死だよ!!
最高でした!
スネークが危険な領域に、ティアナも遠い彼岸に逝きかけw シャーリーもちつけw
大佐だけか冷静なのはw
ピポスネーク呼んで来てー!!
最高でした、次回も楽しみに(ぷっ)
GJ!!です。
スネークとティアナの会話がナイス過ぎるw得ない多いよwww
あと、今のなのはさんの”なの”は、取って付けた感が否めないぞwww
なのなの神なのは対なのなのマスターギンガの戦いも楽しみです。
そして、やったー!!ピポスバルを餌付けする権利を得たぞw唐辛子食わせるか。
ぶっはwwwwwww
二連続で腹筋崩壊wwwwwwwwww
なにググってんだシャーリーwwww
とか言ってたら↓
>>54 ホントにあるのかよwwwしかもすげー数wwwwwww
さすがはグーグル先生だwwwww
笑いが止まらないコンボ!GJ!
UCATの本局が気になる。絶対にアレなのがいるはず!逆にスカが常識人だったらどうしよう。
そして、我らが尻神様は何処に
両職人さま、そしてグーグル先生に超GJwww
>曰く、史上最強の家族馬鹿。
軍神ですね、、わかります
>>64 アレ、そもそも常識人だったのだろうか?…まぁソレはある意味3期だと敵より味方に当て嵌まる罠w
でもそうじゃない方が面白くなるという……ユーノ君と博士の奇妙な冒険はどこにあったかな…
これはトーレ×先輩隊員フラグ……!?
投下します
最終話 理想と現実、その狭間で…
私たちは、なぜ戦うのか?
それは誰かに頼まれたわけじゃない。誰かを憎むためじゃない。
愛すべき人を守るため、愛すべき仲間を守るため。
そのためには、私は…手段を選べない。
もし、もしも…管理局が私の愛すべきもの…フェイトちゃん、はやてちゃん、ヴィヴィオ…
他のみんなを理不尽に追い詰めるようなことがあるならば、
私は……例え管理局を敵に回しても守りたい人を守るだろう。
それが…私が戦うという覚悟。
ジェットコースターが動き続ける。
その速度はわからないが、レールに火花を散らすところから見ると、
相当の時間を、規定速度以上で走らせている可能性がある。
「ヴィヴィオ!」
「なのは…ママ?」
その声を聞いてなのはを認識するヴィヴィオ。
今まで会いたかった存在に、ようやっとあえる。
ヴィヴィオは伏せていた目をあけ、あたりを見回す。
だが、ジェットコースターに乗っている状態では、なのはを確認することは出来ない。
「…なのは」
フェイトはなのはを見つめる。
時間が迫る中、ヴィヴィオを助けるべきか…一般の人質、人間爆弾にさせられている人を助けるべきか。
そのどちらの答えも私たちは否定した。
私たちは…両方を助ける。
「……ジェットコースターに乗って、ヴィヴィオを下ろすのと同時に、私が席に着く」
なのはは、フェイトに言う。
それは…自分がヴィヴィオの代わりとなるということ。
ジェットコースターに搭乗する事で、その体重がかけられ、起爆しないということは…誰かが座れば問題はないということ。
それをなのはは、自分がやろうと言うのだ。
人間爆弾は爆発しない。ヴィヴィオも死なない。
だけど、なのはは…。
フェイトは首を横に振る。
「…そんなこと、させない」
「フェイトちゃんには…ヴィヴィオを任せる」
「なのはの、願いでもそれは聞けない」
フェイトは真剣な眼差しで、なのはを見つめる。
振り返るなのは…。
フェイトは顔を伏せる。
「ヴィヴィオには、なのはが必要だよ。だから…私に、やらせて」
「…出来ないよ。私には、フェイトちゃんが必要なの。フェイトちゃんがいない…明日は、私には…考えられない」
「なのは…」
空に浮かぶ二人、月明かりの下で…見つめあう。
誰かが犠牲にならなくては助かることは出来ない…。
すべてに奇跡は通じない。すべてに理想は通じない。
もしそれが起こるなら、フェイトがここに今いることもないし、高町なのは自身もここにはいないだろう。
「ヴィヴィオ…の母親として……私がヴィヴィオを、助けないといけない」
フェイトは、なのはの強い気持ちを汲み取る。
なのはが、一度言い出したら聞かない。
いつまでも、それは変わることはない。
私は…そんな、そんな…なのはのことが大好きだ。
「…なのは?」
「…?」
「私だって……私だって、なのはがいない明日なんか……いやだから。
だから、なのは…生きて、生きて…帰って…き…て」
フェイトの涙交じりの声に、なのはは、フェイトを抱きしめる。
「ありがとう」
なのはは、フェイトの耳元でそっと囁く。
フェイトは、涙を止めることができなかった。
なのはの胸に顔を埋め、涙を流し続ける。
なのはは、フェイトを抱きしめたまま…その、ぬくもりを感じていた。
フェイトちゃん……私の、かけがえのない…大切な人。
なのはは、フェイトから身体を離す。
フェイトもまた、なのはから顔を離し、涙を拭いて…ジェットコースターを見る。
すべてに奇跡は通じないかもしれない。すべてに理想は通じないのかもしれない。
だけど、私は信じ続けたい。このわたしの大切な人と……。
「ククククク……ヒャハハハハハハ」
手足を拘束され捕まった状態で、ジョーカーは大きな声で高く笑う。
バットマンがそんなジョーカーを見つめる。
「バカな奴だ。きっと、あの2人は自分の娘を助けるだろう」
「……」
「人間爆弾は爆発する。世の人間はみんな、己のものが可愛いに決まっているのさ。
お前のような偽善者だったら、たった一人の命を見殺しにするだろうが、
あの2人は、良くも悪くも人間だからな、ヒャハハハハハハ」
バットマンはそんなジョーカーに拳を顔面にぶつける。
ジョーカーは、その拳をもろに受けて、地面に叩きつけられて、気を失ってしまう。
「…少し、黙っていろ」
ジョーカーがいかなる工作をしようとも、彼女達に託した。
それだけだ…彼女達が何をしようが、それは私が全て受け止める。
暴走するジェットコースターが、ジェットコースターの進行上にあるトンネルから飛び出す。
瞬時に、なのはとフェイトは…ジェットコースターに取り付く。
時間が迫る中で、なのはは、一番先頭にいるヴィヴィオを見つけ、そこに近づいていく。
速度が増す中で、風に煽られ飛ばされないようしっかりと手すりを握りながら…。
「なのはママ!!」
ようやっと見つけたかけがえのない存在…愛してやまない、ヴィヴィオとの対面。
その顔や服は汚れていて、目は涙のためか…はれぼったい。
「ヴィヴィオ…動かないで?」
ヴィヴィオに優しく語り掛ける、なのは。
ヴィヴィオは、『うん』と頷いてなのはを待つ。
なのはは、ヴィヴィオのシートベルトを外し、彼女の座っているところに自分も腰をつける。
そして、優しくヴィヴィオを抱きしめる。
「……ごめんね。大変だったでしょう?」
「そんなことないよ!なのはママやフェイトママが助けに来てくれるって信じてたもん!」
ヴィヴィオは、涙を浮かべながらも笑顔で答える。
なのはは、そんなヴィヴィオの頭をそっと撫でてあげる。
そして…ヴィヴィオを、フェイトに手渡す。
ジェットコースターの障害物にぶつからないよう、体勢を低くしながら…。
「なのはママ?」
「……ヴィヴィオ、フェイトママといい子にしていてね?」
その言葉の意味がわからない、ヴィヴィオ…。
フェイトは、なのはを見つめる。なのはは、そんなフェイトを見つめ、頷く。
それを合図に、ジェットコースターからヴィヴィオを抱え、飛び降りるフェイト。
「なのはママ!!なのはママ!!」
ヴィヴィオの悲痛な叫びが聞こえる中……ジェットコースターは轟音と供に爆発する。
ヴィヴィオの悲鳴と供にフェイトの脳裏にうつる…大切な人の残像。
「…なのはぁーーーー!!!!!」
私の始めての友達…。
私の…一番、大切な人。
私を受け入れてくれた。
私を…包んでくれた。
なのはは、私を……
私を……
…好きといってくれた。
『ウェイン産業における、拉致事件がジョーカー逮捕という結果で解決しました。
多数の死傷者をだした、この事件ですが、ゴッサムシティにおける犯罪が多数あることで、
日本政府はゴッサムシティにジョーカーを国外追放とすることで決着となりました』
『ジョーカーは既に精神が病によって侵されており、残念ながら現在の日本の法律では、裁くことが出来ないと、
○○大学病院精神外科医の××氏は言い、日本政府としても、これは正しい判断だと言っていますが、
弱腰外交と野党からは批判が相次いでおり、通常国会内において…』
『各国メディアでは、日本政府の対応が遅いという意見が多く、
対テロにおける予防がなっていないと中国の新聞では書かれており、
政府は、日本の警備体制について抜本的な見直しが必要であると声明を発表しました』
『事件解決から一週間。ウェイン産業の代表者であるブルース・ウェイン氏がようやく帰国の途につきました。
ジョーカーの乱入等で、滞在時間の延長と、警察における協力から、警視庁から賞を受け取る予定でしたが、
亡くなった方もいるとしてこれを辞退。
ウェイン産業の代表は、日本において忘れられない傷を負うこととなったようです』
『…ブルース様、長期間、お疲れさまでした』
パソコンにアルフレッドの顔がうつる。
ブルースは、浮かぬ顔でアルフレッドを見つめる。
『さすがに…今回は、効きましたか?』
「…ただ、疲れただけさ。それで?」
ブルースは、アルフレッドに対して、微笑み答える。
アルフレッドは、そんなブルースの気持ちを知っている。
そして知っているからこそ…彼には何も言わない。
『…先日から、土壌汚染等で問題にされている重化学工業の幹部が何者かに殺害されています。
手口は全て一緒で。自然界に有する植物の毒を塗られて殺害されていて、
犯行声明では、自分は自然界の、植物の救世主…ポイズン・アイビーと名乗っております』
「…トランプの次は、草か……わかった」
そう、バットマンに休みはない。
この世の悪が、バットマンという恐怖に怯え、姿を消すまで…バットマンは戦い続ける。
たった1人…いや、違うな。
様々な世界で悪と戦うすべてのものたちと、供に。
「?」
顔をあげる少女
彼女の見上げた青空に小さく飛んでいく飛行機…。
しかし、すぐにその視線は自分の手を繋いでいる両隣の女性にうつる。
嬉しそうに、二人の女性の手を引っ張って歩く少女……。
二人の女性も笑顔でお互いを見ながら、少女に引っ張られていく。
…その先に見える海が見える公園へと向かって…。
ということで完結です。
ここまで読んでいただいた方ありがとうございました。
誤字脱字…ありましたら、申し訳ありません。
高町なのはとバットマン、そしてジョーカーの対比。
そこからさらには、世界がヒーローどうみているか、正義とは何か。
そういったことを考えて、つくったつもりです。
なのはは経験も積み強いですが、その中は、やはり年頃のものであるとおもいます。
そこからでてくる心の弱さというのは、誰にでもあるものかもしれないです。
ということで一言述べさせていただきました。改めてありがとうございました。
こういう短めの話の中に独自の味が出てるの大好きです。
面白うございました。お疲れさまです。
ミッドチルダUCAT
笑 い 殺 す 気 か
>>75 乙。
アメコミファンとしては、こうしてssが書かれてるだけで感動する。
ただもうちょっとジョーカーとバッドマンとなのはたちの対比を
彫り出してほしかったというのが正直な感想。日本のメディアじゃありえない
ほど尋常じゃない狂いっぷりこそがジョーカーですし、
絶対に正義を掲げないダークヒーローがバッドマンですから
アメコミのヒーローは一概に正義と悪で決められる存在じゃないですからなぁ
結構暗い過去や洒落にならないヤバい経歴持ってたりするし
なにはともあれ乙かれです。
なんか甘ったるい
一度手の内見た訳だし、力押しで来られても二重三重の罠で翻弄できるのが「持たざる者」であるジョーカー
転んでもタダで起きないというか、試合に負けて勝負に勝つタチの悪さが見たかった
>>75 GJ!
なのは達とバットマンの組み合わせ方が、自分はとても良かったです。
なんというか軽い師弟関係のように思えました。
81 :
一尉:2008/11/19(水) 12:58:43 ID:isaipuW1
感動的なお話たね。
ミッドチルダUCAT GJ!
最初は、いつか悪役の姓を継いだ変態の子孫でも出るのかと思ってたけどほぼオリキャラだし、いなくても十分地上には濃すぎる連中が跳梁跋扈してるわけだからまあいいやと思ってきました
>75
なのは達はともかくバットマンやジョーカーの描写に物足らなさを感じてしまったのが残念でしたが完結乙でしたー
かなり遅レスだけど一畳一間が文字通りの意味なのか気になるな
乙です
>>75 面白かったです。
でも、どこか展開が甘く感じてしまうのは、やはり映画で感じる等身大の悪党からの
リアルな恐怖感と、アニメや文章から見る・知る悪党とは違うからかなぁ?
以前読んだプレデターも、とても面白かったが、怖さはなかったし。
そりゃあ完全に向こうに合わせて話を展開するとヘイトになりかねないからなぁ。
別にちょっとぐらいヘイトが入っててもいいと思うんだけどな
>>86 どうせ管理局やなのはがボコボコに叩かれるのが見たいだけなんだろ?
中二病には叩きやすい設定だからな
<管理局
いや、なのは自体が……
無意味になのはマンセー、なのは最強になるくらいなら、多少ヘイト入ってても読みやすい方がいい。
不必要に管理局は駄目組織、なのは達を無知にして叩く作品くらいなら、多少そこら辺無視しても読みやすい方がいい。
駄目組織にしたのは原作者の人に言ってくれw
>>92 たまにいるだろ?
原作以上に駄目組織にして叩く作者
>>93 スルーすりゃいいだろ。SSじゃよくあることだ。
どうでもいいからウロスでやれ
>>87下衆の勘ぐり乙w
別にヘイトが見たいわけじゃない、ただ、なのは側に合わせすぎて
作品の質が下がるならヘイトだと思われてもなのは側じゃないほうに軸を
合わせてもいんじゃね?ってこと。
>>88 関係ないけど、頭弱いやつほど厨二病ってよく使うよね
関係ないなら余計な事は言わないほうがいい
>97
ボクの思う展開をしてくれなきゃイヤだ、というよりも自分で書いてはいかがですか
望むものを待つよりも楽しいですよ
皆様方取りあえず落ち着きましょう
なんか荒れてますが、9時半からミッドチルダUCAT 帰ってきた馬鹿殲滅戦その1を投下してもよろしいでしょうか?
支援
投下開始します。
支援をお願いします。激しい壊れ注意!
青い空、透き通るような風、それらを浴びて彼は立っていた。
彼は帰ってきたのだ。
そこはミッドチルダの空港。
様々な荷物を詰め込んだ旅行カバン――その大半がお土産。
ボロボロのジャケットを羽織った青年、よく見ればミッドチルダUCATの武装隊の身に付ける専用ジャケット。
その血走った目を押さえれば女にさえ見える端正な顔立ち、赤毛の青年。
彼は帰ってきたのだ。
そう、この世界に。
六年ぶりの帰還である。
「ミッドチルダよ、俺は帰ってきたぁああああああ!!」
奇声を上げて、喜びを表現する。
周囲に居た人々が怪しそうな目で見てくるが、彼は気にしない。だって慣れているから。
そんな彼の名はティーダ・ランスター。
首都航空隊に所属していた空戦魔導師である。
たったかた〜♪
スキップを踏みながら、陽気に彼はクラナガンの都市を爆走していた。
無駄にベクトル操作と飛行魔法を行い、加速する。
されど人にはぶつからずに、全力疾走。めんどうくさいので車道の横を走り、水媒体駆動のスポーツカーを追い抜いたりなどしてしまったが、些細なことだ。
スピード違反の測定カメラには顔を隠して、ピースなどを取っていたりなどもするが浮かれているのだからしょうがない。
そして、ミッドチルダに降り立って一時間と経たずに彼は一軒の家へと辿り着き。
「ティアナぁあああああ!!! ただいまー!!」
――扉を蹴破った。
そして、ゴロゴロと中に転がり入りながら、クルクルシュピーン!
決めポーズ!
支援
生きてたのかよw支援
「少しばかり寂しい思いをさせたが帰ってきたよ! マイシスター!! さあ胸に飛び込んでおいで!!」
バッと感激に咽び泣くだろう甘えん坊な妹を迎え入れるために、Y字ポーズを決めたティーダ。
だがしかし、数秒、数分経っても返事が無い。
「ん?」
キョロキョロと周りを見てようやく気が付く。
人気が無い。
っていうか、生活の香りがしない。
見ないうちに模様替えでもしたのか、少し家具の配置が変わっており、ソファーなどには埃避けのビニールが被せてあった。
「あるぇー?」
唇を尖らして、疑問符が頭に浮かんだ。
目に入れても痛くないどころか嬉しい可愛い妹はどこへ行ったのだ?
「ティアナ!?!」
絶叫を上げながら、ティーダは全力で家の中を捜索した。
ティアナの部屋の扉を開く、タンスを開ける、なんか見覚えないぐらいに大きな衣服に違和感を覚えるが、誰も居ない。
一応ばれないように掃除し、次へ!
台所に飛び込む、水の出した形跡はなし、放置されてからしばらく経っていることを確認。
浴室に入る、浴槽の蓋を開き、誰も居ないことを確認。
ゴミ箱を開けた、トイレの扉を開いた、ベランダにも出た、自分の部屋のベットの布団をひっくり返そうと思ったら家具がなくなっていた。
「どこだぁあああ!?」
探すところが見つからなくなったティーダは近所のご迷惑になりそうな絶叫を上げながら、頭を抱えた。
考えろ、考えろ、ティーダ・ランスター!
引越し? いや、俺に黙って消えるような子じゃない!
男を作って逃げた? 馬鹿な! お兄ちゃんは許しませんよ!
となれば。
「――誘拐か! くそ、俺の居ない隙にティアナを!!」
壁に拳をめり込ませて、ギリギリと歯軋りと共に憎悪の涙を流す。
許さん、許さんぞ、犯人め。
「幾らこの世のあらゆるものよりも可愛く、お持ち帰りー! とか一日86400(二十四時間辺りの秒単位)回叫びたくなる気持ちは分かるが、俺の妹だ! 許さん! 決して許さんぞ!!」
まかり間違っても妹を泣かしてみろ、貴様の魂を地獄の釜に茹でながら、貴様の■☆を××××(検閲削除)して、×♪××(検閲だってば)に
××□×(放送禁止用語です)な目にあわせて、悲鳴を上げさせながら、フォアグラの鳥よりも醜く×△××(禁則事項です)してやる!!
などと心の中でスラングどころか紳士淑女が聞けば卒倒しそうな罵倒を洩らしながら、ティーダは悲痛に叫ぶ。
「くそ、ティアナ無事で居てくれ!!」
俺のエンジェル。
唯一の生きる理由である妹がかすり傷でも負っていたら、ティーダは生きていることが激しく難しくなるのだ。
胸をわしづかみにし、彼は荒い息を吐き出しながら、ボタボタと壁を貫通した時に傷ついた手から血を流しながら、決意する。
「こうしてはいられない、出撃――いや、捜査だ!」
加速魔法を使い、疾風のような速度で再び玄関の扉を蹴散らしながら、ティーダは疾走した。
目指すのはただ一つ。
己の職場、ミッドチルダUCAT本部である。
支援
ソニックブームすら撒き散らしながら、その人影は飛び込んできた。
「レッツパリィイイイイ!!!」
ミッドチルダUCAT、玄関口。
ガラス張りの入り口を蹴り破り、飛び込んできた影が一つ。
キラキラと天馬流星拳の如く煌めくガラス片を、顔色一つ変えずに受付嬢の二人は受付に備え付けてある番傘をバッと広げて防いだ。
その横で書類を持って運んでいた開発班の老人がぎゃー! と叫び声を上げて、ガラス片に串刺しの槍衾状態になっていたが、受付嬢は気にもしない。
だってよくセクハラをしてくるエロ爺なんだもん。
「え、衛生兵ー! 衛生兵ー!」
「ご用件をどうぞ」
パラパラとガラス片が防いだ傘から滑り落ちて、床が静かな音を立てる。
そして、その降ろした傘の向こう側から、まるで悟りを開いたかのようなアルカイックスマイルを浮かべた受付嬢が完璧極まる接客態度で現れた。
その横で老人を相手に、駆けつけた衛生兵が「傷は浅いぞ、しっかりしろ!」と叫び、白衣の老人が「う、うぅ、こ、この仕事が終わったら孫にゲームをプレゼントするんじゃ……」と呟いて、衛生兵が「馬鹿野郎! 死亡フラグ立てんな!!」と怒鳴りつけていた。
「ふぅ〜、ふぅ〜、首都航空隊所属のティーダ・ランスター一等空尉だ。隊長を呼び出してくれ」
獣の一歩手前でギリギリ留まりながらティーダは荒く息を吐き出しながら、そう告げた。
その後ろで「そう、ワシお手製のエロゲーを孫にやらせるまでは……」と老人が呟き、「死にそうにねえな。おい、薬はいいから救護室にぶちこんでおけ。放置すれば治るだろ」と衛生兵の冷たい診断が下っていた。
「分かりました」
ピポパポッと受付嬢が通信をかけて、しばらく言葉を交わせた受付嬢の眉間に皺が寄った。
「あの、ティーダ・ランスター一等空尉」
「なんだ?」
「貴方M.I.A.(行方不明及び戦死の意味)になってますよ?」
「へ?」
受付嬢の言葉に、目を丸くするティーダ。
その後ろを、「鬼畜ー! 麻酔ぐらい打たんかー! ああ痛たたた! ぬぉおお!! 老人虐待じゃー!」と運ばれる老人と「はいはい、元気エロジジイ乙」運ぶ衛生兵が歩いていったのであった。
支援
たぶん、クイントさんも生きてそうだ、食材探して失踪とかww
馬鹿兄貴支援
「どうなってるんですか、隊長ー!!」
回し蹴りと共に首都航空隊の隊室に飛び込むティーダ。
ボーンと吹っ飛んできた扉をパシッとお茶を啜る手とは逆の手の指で挟みとめ、ずずぅーとその男――ミッドチルダUCAT首都航空隊隊長は音を立てて告げた。
「おう、久しぶりだな。ティーダ、六年ぶりか?」
「はぁ? いや、それよりも高々半年ぐらい居ないだけでMIAとはどういうことですか! 俺の給料! 可愛いマイスィートハートのティアナのために貯めた積み立て貯金がぁあ!!」
どしどしと歩み寄り、バンッと手の平をデスクに叩き付けて、直談判するティーダ。
しかし、そんなティーダに隊長は音を立ててお茶を啜ると、んーと眉を上げて告げた。
「しょうがないだろう。お前行方不明だったし、というかそもそもどこにぶっ飛んでた? 違法魔導師の転送魔法の術式を辿ったが、お前の行方はとんと知れなかったが」
「いや、ちょっとLow_Gとかいう次元世界に飛ばされてましたね。時空移動の魔法もなかったんで、少し現地で概念戦争とやらに参加してました」
「……そうか」
そういえば別れの挨拶もする暇もなかったが、飛場の奴とか八大竜王の連中無事かね〜と遠い目を浮かべるティーダ。
隊長推測。
彼の知識によれば概念戦争は六十年前以上昔に終わった事件である。
じわりと呆れを含んだ汗を流す。
「お前、よく無事だったな?」
「まあ死に掛けましたが、ティアナの笑顔を見るためならば!」
サムズアップをして、キラーンと歯を輝かせるティーダ。
隊長呆れ。
ここまでシスコンの度合いが酷かったかと疑問。
欲求不満による暴走と判断、隊長は静かにため息を吐き出した。
「まあ生きていたならばいいが、お前の軍籍は残ってないぞ?」
「そうだ! なんで俺の軍属がー!!」
「いや、さっきも言っただろうが。ティーダ・ランスター、お前はこちらとしても死亡扱いでな。復帰となると手続きが面倒だ」
……チッ、死んでればよかったのに。
そう呟かれたのは気のせいだということにしておこう。
「そこをなんとか!」
「まあいいがな。シグナムもヴァイスの奴も今はいないし、優秀な魔導師の復帰となれば歓迎しよう」
「え? そういえば、二人の姿が見当たらないと思ったら、どこか転属したんですか?」
キョロキョロと周りを見渡すが、そういえば室内に居るのは見覚えの無い連中ばかりだ。
――その大多数がフィギュア作成と同人誌の原稿を書いているのはいつもどおりの光景だが。
「お前はデロリ○ンにでも乗っていたのか?」
「は?」
「だから、さっき言っただろうが。どうやら類まれなる経験をしたようだが、今は“お前が行方不明になってから六年は経っている”」
「え?」
今更のように事態に気付く。
ティーダの主観は半年ほど、しかし現地の時間は六年後。
そう、彼は時を駆ける青年となっていた。
「と、ということはティアナが立派な淑女になっているのか!!」
「驚くのはそこか!?」
帰ってきた馬鹿殲滅戦 開始
作戦を続行する つ NEXT
支援
今日のUCAT
1.レジアスの一日
「うーむ、ここはこうして……」
カタカタと入力端末を打ち込みながら、レジアス・ゲイズは電子モニターに向かっていた。
指が踊る、瞳が忙しく揺れ動き、瞬く間に無数の文章が画面の中に踊っていく。
まるで音楽を奏でる演奏家のようにその動きは優雅に、華麗で、無駄がなかった。
「――中将、失礼します」
プシュッと空気が抜ける音が響いて、ドアが開く。
そこにいたのは怜悧な美貌を浮かべた女性。
レジアスの娘であるオーリス、彼女はレジアスに提出すべき電子ファイルと何枚かの書類を胸に抱き部屋に入ってきたのだが。
「……」
「中将?」
「……むむむ、ここの表現はこうして」
「中将〜?」
「それはまるで風が踊るように……いや、もっと詩的にすべきか?」
ブチッ。
オーリスのこめかみで何かが切れる音がした。
「父さん!!」
「ん? な、なんだ、オーリスか」
レジアスがようやく顔を上げて、オーリスを見た。
そして、デスクに置いた高価な栄養ドリンクの蓋を指で開けると、ゴクリと飲み干す。
「仕事です。確認をお願いします」
「……うーむ、締め切りが迫っているのだが」
目を逸らし、ぶつぶつと言い訳をするいい年こいた男が居た。
「地上の平和と小説の締め切りどっちが大切なのですか!!」
ビシャーンとこの日、ミッドチルダUCAT本部を揺るわせる稲妻が落ちた。
レジアス・ゲイズ。
ミッドチルダUCATの中将にして、地上治安回復の立役者。
しかし、その実体は人知れず冒険小説と恋愛小説を書くプロの小説家だった(趣味で、妻を基にした官能小説を10Gほど書いてるが非公開)。
「く、私に力があればこんなふざけた組織立て直すのに!!」
その娘、オーリス・ゲイズはマトモな性格のために日々奮闘している模様。
まあイキロ。
もう、最高wwwGJ
支援
2.UCATな日々 開発班の華麗極まる日々
「オォオオオオ!! いいぞ、いいぞ! びゅーてぃほぉおおお!!」
この日も奇声が上がっていた。
幾人もの白衣の科学者が、解体されているガジェットを見ながら激しい討論を交わしている。
今度はドリルを! いやいや、ドリルは既にやった。今度は巨大合体ロボットに改良を! いや、その前に変形機能を付けるべきだ!
三パターンぐらいで、陸海空の全てに対応した傑作を! その前にダンボールの開発はまだか! 注文来てるけど、開発遅れてるよ、なにやってんの!
などなど、熱い討論が繰り広げれている地獄絵図の如き現場。
そして、今宵も生贄がやってくる。
「おおーい、タイプゼロシリーズが検診に来たぞー!」
研究者の一人が、泡を食った態度で扉を叩き開き、前転しながら飛び込んでの一言。
『なんだってー!!?』
驚愕、歓喜、狂乱、恍惚。
四つの感情を顔に浮かべて、ワラワラと移動を開始する白衣の怪物共。
五分と掛からずに十数名近くの科学者が戦闘機人用に調整された検査室へと迫り、そして扉の前で必死に抗う一人の女性に詰め寄っていた。
「な、何度逝(言)ったら分かるんですかー! あ、貴方達の触って良いものじゃないんですよぉ!」
彼女の名はマリエル・アテンザ。
管理局本局の第四技術部に籍を置き、現在は機動六課に出向している才気溢れる技術者の一人。
だがしかし、彼女は現在無数の白衣の男たちに詰め寄られて、涙目だった。
「ああん? 君、本局に所属しているからって調子乗ってるんじゃないの?」
「そもそも戦闘機人タイプゼロファーストっていうか、ギンガ・ナカジマはミッドチルダUCAT所属なんだよ? 何で本局がデータを独占するつもりなんだい?」
「データなら渡しますよー! っていうか、アンタたち正論言いつつも、目的違うことでしょうが!!」
『当たり前じゃないか!』
言葉と心は一つにに、白衣たちはマリエルを包囲。
「良いかね? 彼女はISがない」
「ならば、それを補うための兵装が必要だ」
「ドリルを付けよう」
「目からビームを」
「いやいや、ロケットパンチを」
「とりあえず根性で動ける駆動炉を付けようか」
「人権を護るべきですよー!!」
マリエルのもっともな反論。
しかし、そんな正論が通じる世界か? 否、否である。
既にこの身は科学に魂を売り渡し、楽しさに心を売り渡した修羅たちである。
『馬鹿だな〜。科学者が人道を守ったら終わりだろ JK』
断言だった。
「とりあえずこやつ技術者としてなってないな」
「また少し説教しよう」
「まずはプランAの素晴らしさから教えよう」
「ああ、あとダンボール」
「勇気という名のガッツパワーを教えよう。勇者シリーズ25本ぶっ続けぐらいやればいいだろう」
ガシリとマリエルの両手が掴まれる。
必死に抵抗するもむなしくずるずると引っ張られて、簀巻きにされて、わっほいわっほいと運ばれていく。
「ま、マリエルさーん!!」
後輩の技術者の声が聞こえる。
そんな彼女に残したマリエルの最後の言葉とは。
「か、彼女をお願い! わ、私はまた科学の魔道にー! 嗚呼―!! いやー! また科学式を見てご飯三杯楽勝な性格になるのはいやー!!」
だった。
「マリエルさーん!!!」
そして、彼女はしばし席を外し。
数時間後、帰ってきたときには。
「ギンガ、良い改造案があるんだけど、どうかしら♪」
「正気に戻ってください! ていっ!!」
恍惚の笑みで改造プランの設計図を見せ付けるマリエルを、殴り飛ばすギンガの苦悩が終わる日々は遠い。
今日も地上は平和だった?
支援
支援
紫煙
投下完了〜。
ティーダ帰還話は考えていたのですが、丁度程よく脳が煮えてきましたので投下しました。
次回は感動出来ない兄妹の再会になると思います。
また次回がいつになるか分かりませんが、よろしくお願いします。
支援ありがとうございました!
( ゚д゚ ) ガタッ
.r ヾ
__|_| / ̄ ̄ ̄/_
\/ /
⊂( ゚д゚ )
ヽ ⊂ )
(⌒)| ダッ
三 `J
個人的ツッコミ
>>112 どこのWORKINGなチェーンレストランの支配人妻ですかww
GJでした!
死人が帰ってきましたねw
彼の変態的な活躍に期待です。
あと前回のUCATの更新のときに、
ゼストが家族馬鹿と言われる前、ロリコンだと思いました。
投下乙
あんた逆シンスレの住人かw
あとここの技術者連中にスカ博士混じってたりしないかww
GJ!!
って言うか昨日の今日でまた腹筋を壊すのか!!!
今回もツッコミどころ多すぎてどこツッコメばいいのかわかんない!!
とりあえずマリエルは毎回洗脳されてるのね……
GJ!!
未だかつて最もしょうもない復活劇、というか帰還話だったwww
っていうか、こんな兄貴に憧れてて良いのかティアナ!? 小さい頃死別したって美化しすぎだろwww
夢境氏、UCATも他の連載も待ってますぜ! 次話も期待してます。
GJです!
開発部に逆襲のシンの研究者が混じってるーーー!?
投下乙です
軽っw行方不明者が6年越しに帰ってきたのに軽いよw
あれか、奴があの程度で死ぬ訳ねえだろって思われてたのかww
ちょ、ティーダwwwお前何やってんだよwww
ていうか良く戻ってこれたな…
そして中将、何表現に悩んでるんすかwww
逆シン? 何のコトデスカ!
_ ∩
( ゚∀゚)彡 プラン○ー! ○ランAー!
⊂彡
_ ∩
( ゚∀゚)彡 G○イザー! Gカ○ザー!
⊂彡
とか知っているだけだよ! 混じっているわけではありませんw
かの作家は尊敬しています。
そして、
>>126 残念ながら”まだ”混じってないんだ!
……スレ違いなのであまり騒がれると困りますのでお願いしますw
GJ!
中将、全部長の様になっちゃって・・・。
概念戦争が六十年前ってことは悪役なんかは現役ですか
てか、ティーダ概念戦争参加ってことはUCAT的に重鎮にw
GJ!
>勇者シリーズ25本ぶっ続けぐらいやればいいだろう
続いているなんて羨ましいぞ!
ここの中将、だめすぎる(官能小説をネットに公開しなさい、オーリスよ)。
それと、ここにも研究員が潜んでいたのか!?デスティニ−グーンことプランAとは。
ギンガにプランAは卑猥しぎる、ふた…アレ、ドリルの音が…ッアー!!!
…確かプランAって頭グーンのおにぎりで腕に超高エネルギービーム砲で股間にアロンダイトな機体じゃなかったか…
良いのか股間…
GJです!!相変わらず面白すぎます。
ところでミッドチルダUCATってなんていう作品とのクロスなんですか?
>>137 終わりのクロニクルとのクロス作品です。
あと語りたい気持ちは分かりますが、プランAの話題はほどほどにお願いします。
な、名前が同じだけなんだからー!
生きてんのかよティーダッ!
そしてアンタもそんなんか中将っ!!
なんかもうここまで来ると、スカ博士が実は真人間です、って展開も有りな気がする。
UCATの面々があまりに欲望一直線なもんだから、それを反面教師に人間として正道に戻ったとか。
GJ!!です。
元ネタを雑談で聞いたが……いろいろイカレとるw
というか、ティアナも悪い部分もあった模擬戦の事を聞いたら、
無条件で、なのはを襲撃しそうだ、この兄貴wあとシグナムにもwww
GJです!!
UCATはどこまで行くのか・・・。てかこれレジアス中将本局に対抗する必要ねぇww
素晴らしきダメ人間の巣窟だなUCAT。
本局が引き抜こうとしないわけだ。
うっかり引き抜いたら二次感染して本局側もカオスになりそうだw
本局「やめろくるなバカがうつる」
ティーダの言ってる飛場は竜徹のことか?六年のミッドと六十年のLow-Gとなると後者の方が
一気に浦島太郎状態だな。
飛場というとワイルド7だろうが!と思ったが、飛葉だった。
>>145 リリカルなのはとワイルド7のクロス。うん、すんごいことになりそうだ
147 :
一尉:2008/11/20(木) 13:45:24 ID:edvBO8wD
たからドリルは取れ言った支援。
UCATが面白すぎますっ!!
機動6課が設立したのって、対スカちゃんじゃなくて
対UCATのためなんじゃないかと思えてきたw
UCAT楽しすぎるw
カワカミン中毒の身としては名も無い下っ端が頑張る姿には熱くなるもので
思ったんですがゼスト、アギトとユニゾンすればB-sp再現できるのでは!?
GJwww
毎回楽しませてもらってます。
ところで、今気付いたんだがミッドチルダUCATって終わクロとのクロスなのに
終わクロのキャラが1人たりともいねえwww
試しに投下。
反応が微妙なら打ち切り覚悟で…。
「それでは、実験を開始する」
機動六課解散後、管理局は次なる危機に備えて戦力増強を図るとともに、
新兵器の開発を多くの軍需産業に委託していた。
スカリエッティ事件の二の舞にならぬように、完全な防御体制を備えること、
そして管理局の絶対的な強さを取り戻すためには必要不可欠なことであった。
八神はやてが特別捜査官として組織上層部内からの撤退により、軍部を抑えるものがいなくなったこともあげられる。
管理局から委託された軍需産業のいくつかは、違法と知りながらも、
次元境界線内においての兵器の実験を行うこととなる。
「…実験開始。マイクロブラックホール展開まで、10秒前…9…8…7…6…5…4…3…2…1…収縮開始」
「マイクロブラックホール展開、出力0コンマ2から3まで誤差」
実験船内において、様子を伺っている科学者達は、目の前で黒く大きな球体が姿を現し始めたことに歓喜した。
マイクロブラックホール…それは、軍需産業のひとつが他の競合に負けまいとして作り出した自信作である。
ありとあらゆるものを吸収し、消滅させる…そこには魔力の力など、必要としない。
圧倒的な強さを持つものとなるだろう。
「よし、機動実験は成功。消滅させろ」
科学者達の歓声。
機動実験が成功したことで、嬉しさが声となって漏れ出した。
だが、その成功の余韻は、警告音と供に裏切られる。
「マイクロブラックホール、消滅せず、なおも出力増大」
「なに!?」
「マイクロブラックホール、危険範囲内を超えました!」
ブラックホールの奥…そこに光が見える。
「後退!後退しろ!」
「運転が聞きません!飲み込まれます!!」
警告音が鳴り響くな中、船は時空を捻じ曲げる黒い穴…ブラックホールにと飲み込まれる。
第1話 オトシモノ
博麗神社…ここ幻想郷において、中心となる場所。
それは様々な妖怪が遊びにやってくる場所。
または、事件が起きる場所として、一番多い場所であるからだ。
その日も、まだ陽が出るか出ないかのときに起きた。
まるで何かが爆発したような轟音が響き割ったのだ。
博麗神社の巫女である博麗霊夢は、布団で寝ていたのだが、その音に思わず飛び起きて、襖を開けて外に出る。
その光景を見た霊夢は唖然とした表情を見せる。
「な…なんじゃこりゃー!!」
博麗神社の裏山付近がクレーターのように吹き飛びなくなっていたのである。
すぐに騒ぎを聞きつけかけつけた妖怪などの幻想郷の住人達が集まってくる。
「あたいが第一発見者よ!」
氷の妖精であるチルノが、記者としてかけつけた天狗である射命丸文に話をしている。
「そうそう、急に空が輝いたと思ったらドカーン!ってきて、そしてあたいはバーン!って、吹き飛ばされたの!」
射命丸はそのチルノの話をメモりながらも、メモにはバーンドーンズゴーンといった擬音しか書かれていない。
「…わ、私の…花園が」
わなわなと肩を震わしているのは、博麗神社の裏山を住処とする風見幽香である。
巻き添えは食らわなかったものも、彼女の花園の一部が消失するという被害をこうむった。
普段は冷静である彼女も、このことについては驚きを隠しきれないようだ。
「…誰ですの?こんな野蛮なことをするのは…」
ギラついた目で野次馬に来ている妖怪達を見る。
誰もが幽香の視線から目をそらす。
幻想郷最強の妖怪といわれて、さらにはイジメっ子である彼女に目をつけられたくはない。
「霧島魔理沙…あなたがまた変なものを盗んで、使い方も分からず、こうなったんじゃありません?」
「お、おい!それは誤解だぜ。私はまだ寝てたし、こんな朝早い時間は」
睨まれた霧島魔理沙は、手を振って自分ではないと必死に否定する。
「それを証明できる人は?」
「いないぜ」
魔理沙は、おでこをかきながら、ばつが悪そうに言う。
「ふん、なら、あなたも容疑者ね」
「ちょっと!随分と勝手な言い方なんじゃない?そんなこといったら私だって、他の人だって犯人かもしれないじゃない」
幽香の言葉に、アリス・マーガロイドが怒鳴り反論する。
幽香は、アリスを見下しながら
「それもそうね。魔理沙をかばって、自分も容疑者候補にくわえてほしいってことかしら?」
「べ、別に魔理沙を助けたいとか…そ、そういうことじゃないわよ!あなたの言い方に頭がきただけだわ!」
「ふん。どうだか……。別に私はかまわないのよ。容疑者候補をみんな倒してしまえば、犯人も倒したことになるかもしれないし…」
幽香は鋭い目で、その場に居る妖怪達を見る。
戦慄を覚える妖怪達は後ずさって今にも逃げ出しそうである。
「…随分な物言いですね」
幻想郷の吸血鬼レミリア・スカーレットの館である紅魔館のメイド、十六夜咲夜が、一歩前に出て幽香を見る。
「メイド風情が、歯向かう気?」
「…庭園が吹き飛んだくらいで頭にきている小さい器のものに言われる気はありません」
幽香と咲夜の視線がぶつかり火花が飛び散る。
他の妖怪達が息を呑む中で、その二人の間に突如現れるもの…八雲紫。
「やめなさい。貴方達が戦ったほうが、被害が大きくなるわ」
紫の言葉に、咲夜は殺気をとめるが、幽香は、その気を紫に向ける。
「邪魔をするなら…例え、あなたといえど…容赦はしなくて」
「…私は犯人探しに来たのよ。頭に血が上ってどうしようもないというのなら…」
紫は、幽香を見つめる。
その眼差しは、幽香や咲夜がだした殺気とは違う。
底なしの暗闇を感じる。相手を図ることが出来ない…幽香は、それを踏まえたうえでも、勝負を挑もうとは挑めるが…、
後のことを考えると面倒そうだったので…。
「…仕方ないわね。ここは貴方に免じて引いてあげる。だけど……犯人を捜すという話だからね?
もし犯人が見つからなければ……貴方でも次は容赦なく挑ませてもらうわ」
「…貴方にそういってもらえるなんて、嬉しいわ」
幻想郷の最強の一角に入るだろう二人の会話に周りはついていけていない。
紫は、正面を向いて、クレーターと化している、その場所を見る。
草木、花々に満ちていたその場所は、まったく面影がないほどに消え去っている。
紫は、その場所をゆっくりと日傘を差しながら歩いていく。
その前には、霊夢が立っている。
「…ったく、何、険悪ムードになっているのよ」
どうやら先ほどの一部始終を肌で感じていたようだ。
「自分勝手なものたちを言い聞かすには、あれが一番よ。それで?何かわかった」
「あんたのほうが、わかってるでしょう?」
霊夢は、空を見上げる。
そこには、青い空があるはずなのに、黒き巨大な穴が開いている。
穴の向こうの様子は伺えないが、それでも、何かが渦を巻いている様子、
さらには雷などが鳴り響き、危険な匂いがぷんぷん感じてくる。
紫は、落ちているものに手を伸ばして、クレーターの地面から何かを拾う。
どうやらそれは何かの破片のようだ。
あたりを見回すと、それはあちこちで落ちている。
「なるほど…」
破片に触れながら、読み取るように撫でる紫。
霊夢は、紫を見ながら、相変わらず何を考えているかわからないなと思いながらも、
紫がどこかおぞましい気配を放っていることだけはわかった。
クレーターから戻ってくる紫に、射命丸文が前に立って
「どうでしたか?何かわかりましたか?」
「今はまだノーコメントね。だけど…ひとつだけ言わせてもらうわ」
立ち止まった紫は、そこにいる妖怪たちを見渡しながら
「…雉も鳴かずば撃たれまい。わざわざ、目立つようなことをして…
狩人に見つけられてしまえば、後は撃たれるだけ……以上よ」
紫はそういって空間に隙間つくり、姿を消す。
妖怪達はがやがやと騒ぎながらも、その場から去っていく。
「あいつ、どうする気だ?」
魔理沙は、霊夢のところに駆け寄り、息をつく。
「さぁ〜」
霊夢は、クレーターとかしたその場所を眺めて再び溜息をつく。
「…おそらく、八雲紫。あれが一番怒っているでしょうね」
二人の前に歩いてくる幽香。
「幻想郷を一番気にしているのは彼女。それをこんな形で踏みにじられれば頭にもくるわ。
あの女が怒ってこれまで何が起こったかしら」
幽香の言葉に霊夢と魔理沙は顔を見合わせる。
月面戦争
天界の天子に対する暴行
どれも凄いことばかり、彼女は徹底的にやる人物である。
幻想郷の一大事に関しては尚の事だ。霊夢と魔理沙は不安を感じていた。
「紫、呼び出しってな〜に?」
「楽しいことなんだろう?」
二つの影が紫に問いかける。
「えぇ…思う存分、楽しめることよ」
紫は扇子を開いて口元を押さえ、微笑む。
以上です。
誤字脱字は…
まだなのはたちはでてこないんですけどね。
乙でしたー。
東方クロスで長編ですか。
しかも管理局は紫の逆鱗に触れたというオープニングからとは(汗)・・・。
さしものなのはの「お話聞かせて」も通るかどうか。
次回に期待しまする。
東方クロスは単発モノで何個か倉庫にあったかなー
とりあえず素で人物の名前間違えるのはまずいと思うんだぜ
黒白の苗字は霧雨ね
159 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/21(金) 12:18:29 ID:D1PVu1+v
新作GJです!
持ち前の傲慢さで兵器開発を行い、
幻想郷に迷惑をかけた管理局が、紫達にどう断罪されるのか楽しみです^^
是非、管理局なんて傲慢な組織が無くなるまで叩き潰して欲しいですねwww
はいはい、中二病乙
>>160 どう見ても釣りレスなのに構っちゃうのはわざとなの?
>>159
アンチは消えろ
SLBvsマスパとか面白そう
むしろ東方ファンに叩き潰されないかが不安だ
まあバイドルゲンでも摂取して落ち着けよおまえら
管理局が敗北フラグとか、別に問題ない気がするけど、キャラ名間違えるのはまずいかと。
168 :
一尉:2008/11/21(金) 16:21:05 ID:MfpzZFt2
かえって特攻にされるよ。
169 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/21(金) 16:24:08 ID:D1PVu1+v
>>162 アンチじゃないよ。
ただ、管理局なんて幻想郷に比べれば凡人ばっかりだし、
他の世界に好き勝手やってきた代価を支払う所が見たいだけだよ。
アンチじゃなくてただの東方厨ですね、わかります
厨もアンチも変わらんな
バランスの取れたものになるのか、一方が一方を蹂躙するものになるのか、今後の作者に期待しようぜ
>>173 いや、蹂躙物は止めた方がいいだろ。
どっちを立てたとしても無意味にスレが荒れるだけだし。
別にクロス先のキャラが蹂躙してもいいだろ
あからさまに能力が違い過ぎる
別に蹂躙物でもいいがな
そのあたりは個人の好みだが
とりあえず今後に期待
双方を尊重するべきだろう
打ち切り覚悟などと続き書くかをこっちに押し付けたり
1話目から会話だけとかやる気が感じられんのだが
キャラ名間違えるとかロクに読み直してないか
原作をロクに知らないかのどっちかだし
クロスを書きたいんじゃなくて作家ごっこしたいだけなんじゃ
>>175 能力が違えば蹂躙していいなんて本気で言ってるのか?
ちょwww自演じゃねぇかwww
大事な事なので二回言いました
ごめん、書き込めてないと思ったら出来てた
今気付いたよ
キャラの言動が見苦しくなければ蹂躙でもいいよ
たいていの樹林ものはされる側のキャラが見苦しく貶められるから読んでて不愉快になる
だがちょっと待ってほしい
そもそも蹂躙されてる時点でされる側のキャラが見苦しく貶められるのは絶対不可避ではないだろうか
だって蹂躙されるってそういう事だし
というか蹂躙にならないように書けてこそ技量のある書き手と言うものだ。
空気王「書き手の諸君この流れは何、気にすることはない。存分に投稿したまえ」
ここは議論スレでしたっけ?
ウロスで話そうぜ、みんな
>>185 物理的に蹂躙されつつも屈することなく立ち向かう姿があればいい
R-TYPEなんかミッドチルダ首都壊滅してるもんな
あい、では空いてるようなので投下行ってみますがよろしいですね?
魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者
第13話
「・・・・・・以上だ」
季節は冬のため日が暮れるのも早く、辺りは夜の闇に包まれていた。
フェンスに背を預け、口出しなどをせずに黙ってナイトガンダムの話を聞いたシグナムは、
一度大きく息をはいた後フェンスから背を離し、ゆっくりと体をフェンスの方へと向ける。
ビルの明かりや車のライトにより夜の街が美しく輝く光景を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
「・・・・・・闇の書のことは私達の方がよく知っている。貴様の勝手な予想だといえなくもない。だが・・・・」
闇の書が完成すれば、主は絶大な力を手に入れる事が出来る。その事には疑問を一切感じていなかった・・・・最近までは。
切っ掛けはヴィータの煮え切らない言葉だった。
「闇の書が完成すれば、はやては本当に幸せになれるんだよね?」
最初は自分を含めた全員が即答した『そうだ』と。だがその後、その言葉が妙に心に引っかかっていた。
当然だと確信できる断固たる自信。だが、その自信を不安に変えてしまうモヤモヤした感覚。
だが、先ほどのナイトガンダムの話しがそんな不愉快な気持ちを中和してくれた。
同時に思った。なぜ自分達は今までの主の末路を忘れてしまっていたのか、と。
自分達ヴォルゲンリッターは魔力生命体。そのため、自分達自身が闇の書に吸収されてしまう事もあったが、全てではない。
おぼろげに憶えている記憶では、闇の書の完成に携わった事もある。
だが結末が思いだせない。主は死んだのか?世界の覇者となったのか?自分達はどうしていたのか?
まったく思い出す事が出来ない。まるで記憶がリセットされたかの様に。
ナイトガンダムの話しでは、闇の書は悪意のある改変が原因で恐ろしいデバイスと化しているらしい。
その影響が自分達に出ていても可笑しくはない。今までの主の末路を知らない事が正に言い例だ。
確かにその事は認めようと思う。だが、
『闇の書が完成すれば、主は絶大な力を手に入れる事が出来る』
その事だけは否定する事は出来ない。
実際、力を手に入れる事は確か。それを主の治療に役立てる事も出来るはず。
ナイトガンダムの話しでは完成した闇の書の力は無差別破壊にしか使われていないと言っていたが、
それは制御できなかった主が原因ではないのだろうか?
「騎士ガンダム・・・お前の話は『記録』から出た結論であり、真実ではない。確かに否定できない部分もある、だがすべてを話を鵜呑みにする事など出来ない」
確かにシグナムの言う通りだと思う。今自分が話した事は経験したわけではなく記録から調べた『結論』
闇の書の力に関しても無差別破壊にしか『使われていない』と記録されてはいたが『使う事が出来ない』というわけではない。
それこそ、主を救う様な効力もあるかもしれない。
「侵食に関してもそうだ。元々、今回の主の侵食は特別だ。本来闇の書は前の主が死を迎えた時点で合致する魔力資質の持ち主をランダムに選び転生する。
だが、今回は時を待たず生まれて間もない主の元へと転生、それから今までの10年近くの間、肉体と魔力に負担を与え蝕んできた。
そして闇の書が活性化し、我々守護騎士ヴォルケンリッターが表に現れたことで魔力の消耗が一段と増し、主の病状を悪化させてしまった。
お前の話の様に収集を一定に抑え適度に消費すると言う方法、健康な人間なら出来ただろう。だが、主は違う。
幼き頃から蝕まれた体は侵食を抑える事が出来ない・・・・・・・方法は無いのだ・・・・・」
ナイトガンダムの方へとゆっくりと体を向ける。そして正面から彼を見せた後、深々と頭を下げた。
ラクロア氏久しぶりです!
支援しますよ〜!!
「お前の話を理解し、納得しようとする自分がいる!だが、同時にその事を否定する自分がいる!!
騎士ガンダム!!・・・・時間をくれ・・・・・仲間にも話したい・・・・・」
この頼みが虫のいい話だとは分かっている。だが、シグナムにはそれしか手段が無かった。
仲間と直には連絡が付かず、主の正体がばれている。有利な条件は一つもない。
ナイトガンダムが仲間に念話を入れたら一環の終わり。おそらく自分がレヴァンティンを構えるよりは早いだろう。
正に自分達の命運は彼の意思に左右されている。
「・・・・頭を上げてくれ、シグナム」
言われるがままに頭を上げるシグナム、直に答えを聞こうとするが、その彼女の行動をナイトガンダムは掌を突き出し静する。
「・・・・私は管理局に協力しているだけのただの次元放浪者だ。逮捕などの義務は無いし、気持ちが
整理出来ていない君をどうこうする気は毛頭無い。むしろ私の推論を真面目に聞いてくれた事に感謝する。ありがとう」
今度は反対にナイトガンダムが深々と頭を下げた。その光景にシグナムはあっけに取られると同時にどうしたら良いのか言葉を詰まらせる。
「それに、私達は君達の主を見つけなければならない。先ずはそれを優先する必要がある」
「なっ!?貴様何を言っている!!主はやが(最初は!!」
『自分達の主を見つけなければならない』この発言にはさすがに食いついた、気づいている筈だからだ。
自分達の主が『八神はやて』だという事に。咄嗟にその事を言おうとするが、ナイトガンダムの大声に阻まれてしまう。
「最初は、『八神はやて』だと思っていた。だが、彼女から魔力を感じる事は出来なかった。闇の書の主である以上、魔術師、
もしくは魔力を持つ人間で無ければならない筈。確かに君達と関わりがあることは確認出来たが、わかったのはそれだけだ。
魔法の事を知らない少女に検査や真実を話すわけにもいかない。君たちの関わりに関しても、八神はやての話から君達が魔法を使える
様な事は言っていなかった。君達の事も『遠い親戚』と言っていた。本当に知らないのだろう、君達の正体を」
ナイトガンダムが嘘を言っている事は直に分かった。彼の勘の良さは理解してる。
間違いなく『八神はやて』が闇の書の主だと理解してる筈。
魔力に関しても現状では闇の書に封印されているだけであり、魔法の事を知らないというのは
自分達を『遠い親戚』と周囲に認識させるための嘘。奴が気づかない筈がない。
「(奴はわざと認識しようとしている・・・・・八神はやてが我らの主ではなく、
ただの月村すずかの友達だという事に。私の頼みを聞き入れるためにか・・・・・)」
「それに、私は君から主の名前を一切聞いていない。常に『主』と呼んでいるだけで名前を明かさない。それではわかるわけがない。
主に忠誠を誓う君のことだ、問いだ出しても口を割ることはないだろう」
あの時、大声を出して、自分の発言を阻んだのはこのためだとシグナムは理解した。
もし、あの時自分が主の名を出してしまっていたら、主が『八神はやて』だという事を認めてしまい、この嘘を作る事は出来なかったからだ。
「特徴は聞く事が出来たから其処から探りを入れてみようと思う。良いヒントを手に入れたから、3日で結論が出るだろう」
おそらくこの3日が期限ということだろう。その意思が伝わった事を確認させるため、しっかりと頷く。
「一方的に話してすまなかった。だが、最後に言わせてくれ。先ほど私が話した事、確かに今までの記録から導き出した推論に過ぎない。
だが、その推論を導き出した時に使ったのは過去に起こった『真実』だ。その事を忘れ名でくれ・・・・・失礼するよ。さすがにはやてが心配するだろう」
ナイトガンダムと共に屋上に来てから30分以上経過している。世間話に花を咲かせていたという理由はそろそろ通じなくなる頃
「肝に銘じておく。最後に聞かせてくれ・・なぜ、私に・・・我々にに機会を与えてくれた。その気になれば私達を捕獲し、
今回の騒動を終らせる事も出来た。それを・・・お前は・・・・」
シグナムの問いに、ナイトガンダムは数秒沈黙する。此処からでも聞こえる町の喧騒が、沈黙を打ち消すかのように響き渡る。
「・・・・・確かに、『管理局』としてなら、君の言った様にすればよかっただろう。だが、先ほども言ったが私は『管理局』の
人間ではない。烈火の将シグナム、私は主を思う貴方の忠義に心打たれた。だからこそ一人の騎士として決断した」
シグナムを安心させるように微笑みながら近づき、ゆっくりと右手を差し出す。
「私達は平和的な解決を望んでいる。そして君達が此処から慕う主を救いたいとおもっている。
今まで敵対していた同士だ。直には結論は出ないだろう・・・・だが、もし私達の力が必要なら、その時は力を貸そう」
その申し出を受けいるかの様に、シグナムは普段はあまり見せない笑顔でナイトガンダムの手を取り、握手を交わした。
「・・・・・もし・・・お前との出会いが・・・このような形でなければ・・・・・私はお前と・・・・
どれほどの友になれただろうか・・・・・・」
「・・・・・・まだ遅くは無い・・・・・だが、これだけは憶えていてくれ。
どのような結果であれ、私は、君を友と思っている・・・・・・迷惑ですか?」
言い出した後、不安げは表情をするナイトガンダムに、シグナムは自然と吹き出してしまう。
今までの張り詰めた空気を一層するかの様に笑うシグナムに、ナイトガンダムは呆気にとられながらも、釣られたかのように微笑んだ。
「・・・・・・あ〜あ・・・知っちゃったか・・・・・まぁ、直にアクションを起こさないでくれたのは嬉しい誤算かな」
海鳴大学病院から1キロほど離れたビルの屋上、ナイトガンダムとシグナムを覗いていた人物が独り言をもらす。
「・・・・・三日か・・・・・完成の頃ね。イエスの生誕の日に父様の念願が叶う・・・・・お祝いの準備、ロッテに頑張ってもらわないと」
言葉を弾ませながら転送魔法を発動、誰に見つかる事無く、監視者『リーゼアリア』は地球から姿を消した。
・二日後
:月村家リビング
時刻は午後七時、夕食を済ませた月村家の住人一同はリビングに集まり食後のお茶を楽しんでいた。
ナイトガンダムが旅したラクロアの様々な場所やすずかの学校での出来事、そして忍のノロケ話などを肴に花を咲かせる。
(ノロケ話に関しては真面目に聞いていたのはナイトガンダムのみで、ほかは聞き流したり、
静かにお茶を飲んだり、ワザとらしくトイレに行ったりなど、様々ではあったが自分の世界に入り込んでいた忍は気づく事はなかった)
「あの、一つお伺いしたいのですが」
忍のノロケ話が終った所で、ふと疑問に思ったことをナイトガンダムは口に出してみる。
以前アリサも口にし、皆の話の中にも出てきた『クリスマス』という単語について。
「ああ・・・・ガンダム君の世界には無いわよね。こっちの人間の誕生日だし。クリスマスっていうのはねぇ〜・・・・・・」
顎に人差し指を乗せ、天上を見つめながら考える事約一分。ばつの悪そうな表情で一度ナイトガンダムを見つめた後、
「・・・ノエル、御願い!」
ノエルへと投げた。
回答を投げられたノエルは、一度忍をジト目で見つめた後、正反対の優しい瞳でナイトガンダムを見据え、話し始めた。
「お答えしますガンダム様。クリスマスとは、この世界『地球』の人物イエス・キリストの誕生を祝う記念日です」
「まぁ、前夜祭である24日と本番である25日に祝うって事よ。イエス・キリストの誕生を祝うって言うのはもう建前ね。
ケーキ屋、玩具屋、その他諸々の商売人が気合を入れる日であると同時に、家族や恋人、友人なんかが破目を外して騒ぐ日って事。まぁ、言ってしまえばお祭ね」
ノエルの説明にイレインが独特の補足をいれる。
二人の説明により疑問が解消されたナイトガンダムは、大きく頷いた後、深々と頭を下げ、お礼を言った。
「だから忍殿は嬉しそうなのですね。恭也殿と過ごす明日や明後日が」
「そうなのよ〜。明日は恭也と翠屋で・・・・・深夜まで・・・・・あああああん!!!もぉぉぉおぉぉぉおぉお!!!!」
急に顔を真っ赤にしながら転げまわる忍に、ナイトガンダムを含めた全員が避けるように自然と後ろへと下がった。
「・・・ああ〜・・・ごめんなさい。我を忘れたわ・・・・」
『そんな、お客さんの前で』や『なのはちゃん達に聞こえちゃうわ!』などの謎の言葉を叫びながら転げまわる事約1分、
ようやく回りの空気に気付いた忍は我に帰り、大きく咳払いをした後、椅子に座りなおす。
「まぁ、24日は恭也といちゃ・・・じゃなくて翠屋でアルバイトだけど、25日は月村家の皆でクリスマスパーティーと洒落込みましょうか。
今年は騒ぐわよ〜。なにせ二人も新しい家族が増えたんだからね〜」
ナイトガンダムとイレインを交互に見つめながら嬉しそうに言う忍に、
「・・・・ま・・・まぁ・・・・・とりあえずお礼は言っておくわ・・・・ありが・・とう」
イレインは顔を真っ赤にし、そっぽを向きながら呟くようにお礼を言う。だが
ナイトガンダムは珍しく何かを考え込むように俯き、黙り込んだ。
「・・・ガンダムさん・・・・・どうしたの?」
普段は見せない態度に、すずかは皆を代表して尋ねる。俯いているため、顔を覗き込もうとするが、
それより早くナイトガンダムは顔をあげ、普段通りの笑顔を向ける。
「ああ、ごめん。少し考え事をしていた」
不安そうな表情のすずかに申し訳ない気持ちになりながらも、安心させるために優しく頭を撫でた。
「(・・・・家族・・・か・・・・)」
すずかの頭を撫でながらも、その言葉が心に響く。
記憶喪失である自分には故郷を見つける事もできない。旅をしていた時に色々な場所を目を凝らして見てみたが、
何も感じる事は無く、自分という人物を知る人もいなかった。
だが、そんな根無し草の様な自分を、何の疑いも無く保護してくれ、『家族の暖かさ』を教えてくれたのは月村家の皆だった。
この暖かさに何時までも甘えたいという自分がる。
同時に、異邦人である自分がこのまま甘えて良いのかと考えてしまう。
「(・・・今は考えるのを止めよう。明日や明後日を楽しみにしている皆の気持ちを濁してはいけない。それに、明日は答えが出る)」
病院でのシグナムとの会話から今日で2日、明日で3日になる。彼女がどのような答えを持って現われるか不安になる。
その答えによって、今回の事件の結末が分かるといっても過言ではないからだ。
彼女達が自分達の道を進むか、協力を求め、共に主を救おうとするか。
「(願わくば・・・共に歩む道を選ばん事を・・・・・・)」
・翌日
「はぁ!!」
真冬の早朝、ほのかに霧が立ち込める月村家の庭。冷たくも暖かさを持った眩しい朝日が
顔を出そうとしている時間。
ナイトガンダムは日課である剣の鍛錬を行っていた。
吐く息が白く濁り、嫌でも外の寒さを実感させる。だが、ナイトガンダムはそれを感じさせない動きで剣を振るう。
数にして100回目の素振りが終った時。
「朝から熱心ね〜」
パジャマ姿でガウンを羽織った忍が、両腕にコーヒーを持って近づいてきた。
「まったく・・・・・此処じゃ戦いなんて・・・・あったわね、最近。でも、常にモンスターが出てきたり、
雌雄を決するライバルがいるわけじゃないんだから、たまには朝寝坊でもしなさい」
「申し訳ありません。ラクロアからの日課でして・・・・・・いただきます」
断りを入れた後、忍が持って来たコーヒーを啜る。
この飲み物を初めて飲んだ時はあまりの苦さに咽てしまった事を憶えている。
このような飲み物をおいしそうに飲んでいる忍を不思議に思いながらも、なれるように努力はしたが結果は惨敗。
それ依頼、コーヒーを飲む時は角砂糖×3とミルクというオプションが欠かせなくなっていた。
コーヒーの温かさが心地よく、砂糖の甘さが体を落ち着かせてくれる。
隣に座ってその光景を満足そうに見ていた忍も自分のブラックコーヒーを一口啜る。
「・・・・そういえば、忍殿はどうしてこんな朝早くに?」
「昨日言っていた翠屋でのアルバイト。今日は特別忙しくなるから仕込から手伝うのよ。
でも目的はもう一つ、ガンダム君に聞きたい事があったから」
両手でカップを包み込むように持ちながら、中のコーヒーを揺らし遊ぶ。
そして再び一口飲んだ後ゆっくりと首を動かし、ナイトガンダムを見据えた。
「・・・・ガンダム君さ・・・・・ずっと・・・この家で暮らさない・・・・・私達の家族として・・・・」
その発言に正直驚く、だが、忍の瞳は真剣だった。
「ガンダム君がこの世界の住人じゃない事は分かっている。我侭だとは理解している。だけど私達にとってガンダム君はもう家族なのよ。
だからね、もし帰る様な事があっても此処にいて欲しい。ラクロアに未練があるのなら別だけど・・・・」
不思議とラクロア・・・・・スダ・ドアカワールドには未練が無かった。故郷が分からないのか原因なのか、帰りたいという気持ちを感じた事は無かった。
もし、サタンガンダムが健在の時にこの世界に来たのなら、一刻も早く帰りたいと願っていただろう。
だが、奴を倒した今その心配も無い。ラクロアにも平和が訪れるだろうし、モンスターも大人しくなる筈。
キャノンやタンク、アムロ達もいるから治安の心配も無いだろう。
だからこそ、忍の申し出は魅力的に感じてしまう。忍の申し出を受け入れたいという自分がいる。
「・・・・忍殿・・・・・私は・・・・(騎士ガンダム」
自然と回答を口にしようとした瞬間、頭の中に声が響き渡る。
その声に聞き覚えがあるナイトガンダムは、いつも持参していた携帯電話を忍に見える様に取り出し、
言断りを入れた後、その場から離れた。
忍は誰かから電話が来たのだろうと思い、軽く手を振り見送る。
そして、怪しまれない程度に距離を取った後、ただ電源が入っている電話を耳に押し付け、
さも会話をしてるかの様に念話に答え始めた。
「(シグナムか・・・・・・答えはでたのか?)」
「(その事についてだ・・・・・申し訳ないが今すぐ、海鳴大学病院まで来て欲しい、無論一人出だ)」
突然の呼び出しに不審感を憶えるが、答えが出たかもれないこと、
そして一人の騎士としてシグナムを信用しているため、その申し出に乗る事にした。
通話が終ったかのように電話を切る真似をしたナイトガンダムは忍の所まで戻り、今から出かけることを伝える。
「何?朝からデート?羨ましくなんかないぞ〜!!」
「いえ、そういうわけでは・・・・」
「嘘よ・・・・・・・・出かけるの?」
急に真面目な表情で尋ねる忍に、ナイトガンダムは真実を話してよいのか、迷ってしまう。
こんな時、咄嗟に嘘がつけたらと内心で後悔する。
「いいわよ、何も言わなくて。君がやましい事をする子じゃないって理解してるから、何も聞かない。
だけどこれだけは言わせて、気をつけてね」
その忍の気遣いに、ナイトガンダムは黙って頭を深く下げ答えた。
「ふふっ、いってらっしゃい。気をつけてね」
「はい、いってきます」
忍に背を向け、走り出すナイトガンダム。
この日12月24日、彼にとって、そして闇の書事件に関わる者にとって最も長い一日が始まった。
「シグナム、すまない」
ナイトガンダムが着いた時には、シグナムは既に着いており、病院前のバス停に備え付けられているベンチに腰を下ろしていた。
遅れてきたナイトガンダムを一瞥した後立ち上がり、彼の元へと近づく。
「答えを聞かせる・・・・・だが、場所は私の指定した場所・・・・それが条件だ」
「・・・いいだろう」
了承の言葉を聞いたシグナムは早速転送魔法陣を展開、ナイトガンダムが中に入った事を確認した後、
転送を開始、地球から姿を消した。
・無人世界
到着した次元世界は、砂漠に覆われた何も無い世界だった。
二人が本気で剣を交えた世界に酷似してるが、夜なのか太陽の光りが全く無く、
嫌でも肌寒さを感じさせる。
月と思われる惑星の明かりだけが唯一の光となり、二人の姿をてらしていた。
「ここは・・・・・・他の皆はいないのか?」
軽く周りを見渡しながらシグナムに尋ねる。てっきりヴィータなど、他の守護騎士もいるかと思ったのだが、
目視は無論、気配すら感じる事が出来ない。
さすがに不審に思ったナイトガンダムはシグナムに尋ねようとしたその時、
「・・・・愚かな・・・・」
素早く体を向けたシグナムは、突如ナイトガンダム目掛けて砲撃を放ち、彼を吹き飛ばした。
完璧な不意打ちによる攻撃だったため、ナイトガンダムは防御をする暇も無く喰らい、吹き飛ばされた。
「ぐっ・・・がはっ・・・・・・シグナム・・・・・・なぜ・・・・」
「なぜ・・か・・・・・・これを見ればわかるだろう?」
急に光りに包まれるシグナム、徐々に体の形が女性から男性へと変わってゆく。見覚えのある男の姿に
「貴様は・・・・」
痛む体を起し、シグナム『だった』人物を睨みつける。
その殺気が篭った視線を、シグナムに化けていた『仮面の男』は鼻で笑って受け流す。
「ご苦労な事だ・・・のこのことついてきて・・・・・」
「・・・・・貴様・・・・一体何が目的だ!!!」
あの時はシグナムに協力し収集を行っていた。だが、シグナムの様子から彼女達の仲間だとは思えない。
その問いに答える事無く、仮面の男は足元に転送魔法陣を展開、その場を後にしょうとする。
その光景を見たナイトガンダムは、咄嗟に近づこうとするが、ダメージが残った体は満足には動いてくれなかった。
「・・・我らの目的は闇の書の終焉・・・・・貴様の様な生ぬるいやり方では解決などしないのだよ。
後は我々に任せて、君は此処で遊んでいると良い」
突如地面が盛り上がり、雄たけびと共に巨大なミミズの様な生物『赤竜』が数匹現われた。
目標を弱っているナイトガンダムに定めたのだろう、鉤爪が付いた触手を鳴らしながら様子を伺う様にゆっくりと近づいてくる。
「安心しろ・・・全てが終ったら迎えに来る・・・・・そう、全てが終る。今日という日に・・はは、ははははははははは!!!」
勝利を確信したかのように、笑いながら魔法陣と共に消えてゆく仮面の男。
呼び止めようとナイトガンダムは声を荒げるが、その声は獲物を前にした赤竜の咆哮に打ち消されてしまった。
・数時間後
:海鳴大学病院
出会いは突然だった。すべては『アポ無しで行ってビックリさせてあげましょ?』という提案から始まった。
なのはとフェイトははやてに会うのは初めてだった。自分達は初めてだから連絡した方がいいのではという
フェイトの提案をアリサは
「だからこそいいのよ!事前に連絡なんかしたら面白みにかけるってものよ!」
その意見をバッサリと切り捨てる。
そのアリサの提案に何気なく乗った事で起こったシグナム達との出会い。
突然の出会いになのはとフェイトは戸惑い、シグナムとシャマルは警戒を強くし、
ヴィータは遠慮なく二人をにらみ付ける。
互いにギクシャクしながらも、なるべく普段通りにお見舞いをし、普段通りに別れの挨拶をし、帰宅するが
なのはとフェイトは残った、話をするために。だが、
「おりゃああ!!!」
彼女達を待っていたのは、ヴィータによるアイゼンの洗礼だった。
シグナムがとめる間も無くその打撃はなのはに直撃、爆発を起し辺りを炎で包む。
ヴィータは冷静さを失っていた。もうすぐ闇の書が完成し、はやてが助かる。
それなのに、あいつらは何食わぬ顔でやってきた。
あいつらは管理局の人間、はやてを封印しようとし、はやてを助けようとする自分達の邪魔をしてくる悪魔の様な奴ら。
だからこそ呼んでやった。自分の攻撃を受けて尚、何事も無く炎の中から現われる白い魔道師に向かって
「・・・悪魔め・・・・・」
「・・・・・悪魔で・・いいよ・・・・」
その言葉を悲しげな表情で受け止めたなのははゆっくりと左腕を肩の高さまで上げ、セットアップしたレイジングハートを掴む。そして
「悪魔らしいやり方で・・・話を聞いて貰うから!!!」
ヴィータの純粋な殺気に耐えるかのように唇をかみ締め、足を踏ん張る。
そして臆する事無く決意を込めた瞳でヴィータを見据え、レイジングハートの切っ先をヴィータに向けた。
その光景に、フェイトもデバイスをセットアップしようとする。だが、
「ヴィータ!!よせ!!!」
聞いている側の耳が痛くなる程の声でシグナムが叫ぶ。
その声にフェイトは驚き、なのはとヴィータ、シャマルは自然とシグナムの方へと顔を向ける。
「あぁ!?邪魔すんな!!シグナム!!こいつらが来たって事はガンダムの野朗がチクッたって事だ!!
正体が知られたからにはなぁ、手遅れになる前にさっさと口封じるぞ!!」
シグナムを睨みつけ、一方的に言い放った後、再びなのはに攻撃を行なうため地面を蹴りアイゼンを振るう。
その攻撃をなのははラウンドシールドで防ごうとレイジングハートを構えようとする。だが、
ガキッ!!
「・・・・・シグナム・・・てめぇ・・・・・」
ヴィータのアイゼンを防いだのはなのはの防御魔法ではなく、シグナムのレヴァンティンだった。
シグナムを仲間ではなく、一人の敵として睨みつけ、ヴィータはアイゼンに力を込める。
その純粋に相手を叩きのめそうとする攻撃に、
「いい・・・加減に・・・しろ!!!」
シグナムは鍔せりあい状態のレヴァンティンを切り払い、ヴィータを吹き飛ばした。
「っ!てめぇ!!裏切る気か!!はやてがどうなってもいいんかよ!!!」
「冷静になれといっている!!高町なのは、正直に答えてくれ。お前達は今日なぜ此処へ来た」
突然の質問に、なのはは戸惑いながらもレイジングハートを下ろし、正直に答える。
「えっ、それは・・・・・はやてちゃんのお見舞いにです」
「そうか。テスタロッサ、八神はやてが我らの主だと何時知った?」
今度はフェイトへと質問を投げかける。
なのは同様、突然の問いに戸惑いながらも、しっかりとシグナムの瞳を見据え答える。
「はやてが闇の書の主だと知ったのは、今・・・・・あの病室でです。はやての事は
私もなのはも、すずかから聞きました。写真で顔は見た事はありますが、直接出合ったのは初めてです。本当です」
「嘘つくんじゃねぇ!!ガンダムから聞いたんだ(それはないわ。ヴィータちゃん」
話にならないとばかりに、頭ごなしから否定するヴィータを、今度はシャマルが止める。
大きく舌打ちをし、シャマルを睨みつけるが、その瞳を正面から見つめ返しながら、シャマルはゆっくりと話し出す。
「多分・・いえ、間違いなくなのはちゃんの言う通りよ。今周囲を検索してみたけど、魔力反応が出ない以上、
他に局員がいるとは思えないわ。私達の事を知っていたのなら、それなりの準備をしてくる筈よ。
それに二人が私達を見たときの顔、とても驚いていた。いくら強くても、咄嗟に嘘がつけるような器用な子達じゃないわよ」
「なっ・・・・でも・・・・・」
ようやく頭が冷えてきたのか、殺気が徐々に消え困惑した表情になる。
それでも納得できないのか、自然とアイゼンを下ろしながらも、困惑した表情で食いつく。
そんな困惑するヴィータに、なのはとフェイトは一度顔を見合わせた後、戦闘の意思がない事を示すため
展開していたデバイスを待機モードにし、シャマルの説明に乗る様に話し始める。
「本当だよ、ヴィータちゃん。私達本当にはやてちゃんのお見舞いに来ただけ。ヴィータちゃん達がいるなんて知らなかった」
「なのはの言うとおりです。それよりシグナム、ヴィータが言っていたガンダムの事・・・・聞かせてもらえませんか?」
二人もまた、ヴィータの口からガンダムの名が出たことが気になっていた。
彼女の口ぶりから、ナイトガンダムはシグナム達とはやての関係を知っていた事になるからだ。
「ああ・・・・今日が期限でもあるからな・・・・教えよう」
無論、騎士ガンダムの事を疑っていたわけではない。だがなのはとフェイトの様子に安心感を得たシグナムは、
自然と微笑みながら話し出そうとした・・・その時。
「なっ!?魔力反応が!?突然」
突如強力な魔力反応が現れた事をシャマルはいち早く感じ取る。同時に
「っ!きゃ!?」
「なっ!?バインド!?」
突如出現した蒼い光りの帯がなのはとフェイトの体を拘束した。
よほど強力なバインドなのか、必至に解こうとするが、ただもがくだけに終ってしまう。
「な・・・・なんなんだよいきなり!?」
拘束されたなのは達の姿に、ヴィータは唖然としながらも、グラーフアイゼンを握りるてに力を込め、周囲を警戒する。
シグナムもまたレヴァンティンを取り出し、騎士甲冑を身に着ける。
なのはとフェイトを拘束したとなると、彼女達の味方である管理局である可能性は無い。
ならば自分達の味方。だが、そんな人物など・・・・・・心当たりは奴しかいない。
「出て来い!!貴様だという事は分かっている!!!」
響き渡るシグナムの怒声。すると、それに反応するかのように上空の空間が歪み、
仮面の男がゆっくりとその姿を現した。
「やはり気が付いていたか・・・・・・だが、私の姿を見つけ出す事は出来なかったようだな」
シグナム達を見下ろしながら淡々と話す仮面の男。だが、当のシグナム達は話を聞いてはいなかった。
彼女達はただ見ていた。仮面の男が脇に抱えている『者』を。なのはとフェイトは唖然とし、シグナムとヴィータは怒りのあまり歯を噛み砕かん勢いでかみ締める。
シャマルは両手で顔を覆いながら、へたりこむ。そして自然と大声で叫んだ。その『者』の名前を。
「ザ・・・・・ザフィーラ!!!」
その名でようやく気付いたのか、仮面の男は注目の的にされているザフィーラの襟首を掴み、見せ付けるように前に差し出す。
一切抵抗せず、仮面の男のされるがままにされるザフィーラ。もし死んでいたのなら自分達という存在は死体となって居座る事は出来ない。
だからこそ生きている筈。それでも四肢をだらけさせ、血を屋上の床に滴り落としているその姿に、怒りと隠す事などできない。
「ああ・・・・収集の帰りだったのだろう。此処に来る時に偶然出会ってな・・・・・しつこかったので黙らせた・・・・・ほら」
まるでゴミでも投げるかの様に血だらけのザフィーラをシャマルに向かって放り投げる。
屋上の床に叩きつけられ、一度大きくバウンドした後転がり、シャマルの目の前でようやく止まる。
「ザフィーラ!しっかりして!!」
大声でザフィーラの名前を叫ぶが、返事はおろかピクリとも動かない。
仲間の無残な姿に、シャマルは我を忘れそうになりながらもしゃがみこみ、回復魔法を掛ける為に右手を翳す。
「・・・てめぇ・・・・・・・そこを動くなぁ!!!!」
カートリッジをロードし、アイゼンをラケーテンフォルムへと変形、
ロケットブースターの遠心力を使い、回転しながら仮面の男目掛けて突撃する。
『あいつをぶち殺す』今のヴィータの行動力はそれだけだった。
仲間をあのような姿にしたあいつを許せない・・・・・否、許すという事など誰が出来ようか。
シグナムもまた、レヴァンティンのカートリッジをロード、剣身に炎を纏わせ、ヴィータに続く。
奴の強さは理解している。だが、自分とヴィータの同時攻撃なら十分倒せる相手。それで、仮面の男は防御などせず、腕を組んだまま
自分達を迎え入れるかの様にじっと佇んでいた。
「へっ!?余裕のつもりか!?それともビビッて動く事も出来ねぇか!?なら、じっとしてな!骨ばっきばきにしてやらぁ!!!」
獰猛に笑いながら叫ぶヴィータにも、仮面の男は一切アクションを起こさない。
ヴィータと違い多少冷静さが残っているシグナムは、そんな仮面の男の態度に不審感を感じる。
そもそも、なぜ奴はザフィーラを返したのだろうか?
邪魔なら消すなり、拘束するなりすればいい。もし、何かの理由で殺す事ができないのなら、わざわざ自分達に見せ付けるように返すなど変だ。
まるで自分達に冷静さを失わせるかのような・・・・・・・・
「っ!シャマル!!!離れろ!!!」
「えっ?」
突然のシグナムの叫びに、回復魔法を施していたシャマルは自然と上空にいるシグナムへと顔を向ける。
ザシュ!
ザフィーラの手がシャマルの胸を貫いたのは同時だった。
何かが抜け落ちた感覚がシャマルを襲う。
口をパクパクさせるが、言葉を発する事ができない。それでも力を振り絞り瞳をザフィーラの方へと向けるが、
其処には、ザフィーラはいなかった。
「・・・・・・収集完了・・・・・・もう消えろ」
仮面の男は左腕に闇の書を出現させ、貫いた右腕の掌にあるリンカーコアから魔力収集を開始する。
今までシグナム達がやってきた様な魔力のみの収集ではなく、リンカーコアそのもを収集する行為。
「安心しろ、本物は一足先に収集した・・・・・・安心するがいい・・・・」
「・・・・が・・・ぁ・・あ・あ・・あああああああああああああああああ!!!!!」
ようやく声を出す事ができたが、体を襲う喪失感により、叫ぶ事しか出来ない。
体は足元から徐々に粒子となり消えて行き、数秒後にはシャマルという存在はこの世から完全に消失した。
「シャマ・・・・ル・・・・・・シャマル!!!」
仮面の男が張ったバリアを破壊寸前まで貶めながらも、シャマルの消失にヴィータは攻撃の手を緩めてしまう。
その隙を仮面の男は見逃さなかった。
「・・・馬鹿が・・・・」
見下した様に呟いた後、ヴィータのわき腹目掛けて容赦なく蹴りを放つ。
直撃した瞬間、何かが折れる生々しい音と共にものすごいスピードで地面へと落下する。
「ヴィータ!!」
地面に叩きつけられる瞬間、シグナムが咄嗟にヴィータを抱きとめるが、勢いは殺しきる事が出来ずに、地面へと叩きつけられた。
だが、仮面の男の攻撃は緩まない
「・・・・・スティンガーブレード・・・・・・」
上空にいる仮面の男は、ミッド式の魔法陣を展開。周囲にナイフサイズの魔力刃を多数形勢する。その数100以上。
ザフィーラと違い防御しきれないと感じたシグナムは、気絶しているヴィータを抱え避けようとする。だが、
「ふふふっ・・・・いいのか?この魔法は物理破壊の殺傷設定・・・・・お前が避ければ下の病室・・・・お前達の主もたたではすまないぞ・・・」
シャマルを消したもう一人の仮面の男の声に、シグナムは地面を蹴ろうとした足を止める。
そして、一度射殺さんばかりに上空の仮面の男をにらみつけた後、ヴィータを抱きしめパンツァーガイストを展開。その直後、
「エクスキュージョン・シフト」
一本でも十分な殺傷設定のある魔力刃が、一斉にシグナムへと降り注いだ。
「ヴィータちゃん!!!シグナムさん!!!」
「・・・酷い・・・・」
拘束されているなのはトフェイトはただ見ている事しかできなかった。
全ての魔力刃が、シグナムへと降り注ぎ、爆音と煙が辺りに立ち込める。
そして煙が晴れ、彼女達が見たのは、血にまみれ殆ど原型を留めいていないバリアジャケットを着たシグナムが、
ヴィータを抱きしめ、ただ蹲っている姿だった。
「・・・生きているか・・・・」
「こいつらは無駄に丈夫だ・・・・・・それに餌を殺すわけにはいかないだろう・・・・・」
一度シグナム達の姿を確認した地上にいる仮面の男は、ゆっくりとなのはへと近づく。
先ほどのシグナム達の末路を間近に目撃したため、恐怖に顔を引きつらせながらも、バインドを解こうと必至にもがく。
だが、バインドを解くより早く、なのはの元へとたどり着いた仮面の男はなのはのバリアジャケットの襟をつかみ、
無造作にフェイト目掛けて投げはなった。
バリアジャケットの基本防御性能のためか、痛みを感じる事はなかったが、これからどうなってしまうのかという恐怖が彼女達を襲う。
「安心しろ・・・・・お前達にはまだ仕事が残っている・・・・・」
右手からカードを取り出し、二人に向かって投げはなつ。
すると二人を囲む様に壁が現われ、閉じ込めるように二人を囲んでゆく。
「クリスタルゲージ・・・・・お前達ならバインドを含め10分程度で解けるだろう・・・・・まぁ、無理でも10分で全てが解けるように設定はしてある」
「その後、拘束を解かれたお前達には、時間稼ぎという仕事が待ってる・・・・・」
一方的に話す仮面の男達になのは達は目的を聞こうと叫ぶが、防音性なのか、無視を決め込んでいるのか、
仮面の男達は何も答えることなく、仮面の男の一人が二人が入ったクリスタルゲージを上空へと運んでいく。そして
もう一人の仮面の男は蹲っているシグナムへと近づき、一瞥した後、闇の書を出現させ右腕を突き出す。
「・・・・・お前達も・・・もう狂った運命に振り回されることもない。安心して消えるがいい・・・・・」
「・・・・終ったようだな・・・・・」
シグナムとヴィータが光となって消えて行く姿を確認した仮面の男は、上空にクリスタルゲージを固定した後、
閉じ込められているなのは達の方へと顔を向ける。
「お前達の仲間・・・・・騎士ガンダムは闇の書の主が八神はやてだと偶然とは言えいち早く気付いていた。
だが、奴はこれを公表しようとはしなかった。奴は闇の書が壊れている事をシグナムに話し、奴らが納得する時間を与えた。
あのプログラム達は主のことを本当に慕っていたのだろう。奴らはお前達に協力を申し出るつもりだった。だが、
主を救ったとして何になる?所詮暴走して破壊の限りを尽くし、また転送するだけだ。愚かで甘い考え。
まぁ、奴は今頃赤竜と遊んでいる事だろう・・・・・あの腕なら死ぬ事はあるまい」
腿に付けられているカードホルダから一枚のカードを取り出し、それで顔を隠した後、拭うように右へと動かす。
「だからこそ、我々が行うのだ・・・・・闇の書の永久封印を・・・・・・」
高町なのはへと姿を変えた仮面の男は、話は終わりとばかりに背中を向け、屋上へと向かう。
其処には、フェイトに姿を変えたもう一人の仮面の男、そして、転送魔法陣から出てきた八神はやてが寒そうに体を震わせていた。
こんばんわです。投下終了です。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。
編集、いつもありがとうございます。
職人の皆様GJです。
次は何時になるのやら・・・・orz
======
以上、代理投下終了しました。
ぬこ's原作以上に容赦Neeeeee!?
忍さんなりの心遣いに心が温まる描写とのギャップがえらいことに。
これ、同じ一話の間なんだぜ……?
と、言う訳でGJでした!
GJ!
うん、猫の外道度が3割り増し。(ほめ言葉)
ナイトガンダムの電磁スピアに田楽刺しにされればいいと思うくらいに。
GJ!
いや、本当にナイトガンダム達がリリカルの世界にうまくとけこんでいる。
猫姉妹、まさに外道!!
この調子だとグレアムにもサタンガンダムが
一枚かんで(とりついて)そうな雰囲気ですし、
次回以降で「原作以上の正義の鉄槌」に期待です。
GJ!
さすがは教導隊でアシスタントやってただけのことはある!
GJです!
このSS読んでると、古本屋で星野竜一センセの漫画を探したくなってくるな。
今は亡きボンボンではリアル、騎士、武者のガンダム三拍子がお気に入りだったなぁ。
おっとガンドランダーを忘れてもらっちゃ困るぜ!
霧雨魔理沙の誤表記は最悪でした。
すみませんでした。
投下します。
第2話 接触…剣VS刀
八神はやては、ある事件を追っていた。
機動六課の隊長という立場からある程度の自由と権限を持つこととなった特別捜査官という仕事。
今、行っている捜査は、軍需産業の違法実験の痕跡…その内偵である。
「八神さん、この資料、資料室に、いれてきてくれるかな?」
「はい!」
というわけで、はやては今、まさに情報収集を兼ねての潜入捜査を行っているわけだ。
シグナムたちにも、別の任務を与えており、情報交換を常にし、違法実験の証拠を掴もうとしている。
証拠さえ押さえれば、一気に逮捕状を取って、大規模な捜査が行えるわけだ。
本来、このような役を務めることはないのだが、潜入捜査においてシグナム・ザフィーラは早々に向いていないとして辞退、
ヴィータは容姿から無理と判断。シャマルは料理が下手なため…という理由からはやて自身が、努めることになる。
はやては、軍需産業の社長の秘書として潜入し、ダテ眼鏡をかけ、長髪のカツラを被って変装。
OLのように見せながら資料を持って、物事を行っている。
はやてが部屋から出ようとしたとき、電話がかかってくる。
「なに!?」
その声にはやては思わず振り返る。
すぐに落ち着きを取り戻そうとした社長だが、その焦りは顔からは消えていない。
こちらに聞こえないように小声で、何かを喋っている。
すると、突然の振動…建物が大きく揺れる。
はやては、思わずこけそうになったが、バランスを維持する。
「じ、地震!?」
はやては、窓の外を見ると、建物の下のほうから煙があがっている。
すると、同時に警報が鳴り出す。
今、この状態で、自分の正体がばれるのはまずい。
はやては、秘書であり続けることを優先する。
「部長!下から火が上がっています。ここは逃げましょう」
「わ、わかった。私は資料を持っていく。君は先にいけ」
はやては、その資料を見つめ…何かしらあるなと勘を働かす。
「いえ、私は秘書です。おいてはいけません」
「す、すまん…」
はやては、社長の荷物を持つと、社長とともに、部屋を出ようとした。
突然、扉が開かれる。
そこに立っているのは、白髪のおかっぱ頭の少女。
その少女の隣には人魂のようなものが浮かんでいる。
不気味に感じ、さらには、その少女が両手に握る刀を見て、はやては社長を後ろに下がらす。
「…白玉楼、庭師…魂魄妖夢。そこの男、私達と一緒に来てもらおう」
「何者だ!産業スパイか!」
怯える社長は、はやての背中にかくれて怒鳴っている。
はやてからすれば、なんとも情けない社長である。
「私は、ただお前を連れてこいと言われただけだ」
「なんや、雇われているだけなんか?」
はやては、思わずいつもの言葉で喋ってしまっていたが…この状況では、どうこう言っている暇はない。
「お前は関係ない、どけ!」
刀を向け、怒鳴る妖夢。
「そういうわけにもいかんのや、うちも、こいつに聞きたい事があるんや」
「!?」
社長はようやく、この秘書が、自分にとって危険な存在であることを知る。
だが、それは時、既に遅しという奴だ。
「ならば……切る!」
「え!?ちょ、ちょっと!」
いきなり飛び掛ってくる妖夢。
その勢いは社長ごと真っ二つにしてしまいそうな勢いだ。
はやては、思わず目を伏せる。
しかし、その妖夢の刀は目の前で止められる。
はやてが顔をあげると、そこにはシグナムが炎の魔剣『レヴァンテン』を握り、妖夢の刀を受け止めている。
妖夢は、刀を防がれたことで、後に一回転して、距離をとる。
「私の太刀を受け止めるとは…」
妖夢は、悔しそうな顔を浮かべ、シグナムを見る。
シグナムははやての前に立つと、変身し、騎士としての姿を妖夢に見せ付ける。
「シグナム…ありがと!」
はやては、ナイスタイミングで助けに来てくれたシグナムにお礼を言う。
「主はやて、ここは私が引き受けます。今のうちに脱出を」
「…無理せんといてな」
はやては、そういって社長を連れて、かつら、ダテ眼鏡を取って宙を飛びながら変身し、その場から離れる。
シグナムは目の前の妖夢を見つめ、微笑む。
「…久しいな。この私の心が滾るのは。私の名前はシグナム…貴様は?」
「わ、私は…魂魄妖夢だ!」
妖夢は目の前の女の後に炎を見た。
目の前の女が相当やる気になっているということ…。
このままでは逃げられてしまうが、この目の前の女には隙がない。
「シグナムの奴、相手の武器が刀やからて…本気にならんといてほしいんやけど…」
はやては、溜息をつきながら、社長を背負いながら建物の外にと下りる。
確か、このあたりでヴィータが待機しているはず…はやてはあたりを見渡しながら、仲間たちを探す。
草木から、飛び出してくるヴィータ…。
その姿は、つかれきっているようだ。
怪我も何もしていないというのに…。
「くぅ…はやて…に、逃げろ」
ヴィータはなんとか立ち上がり、こちらに向かってくるものを見る。
草木から姿を現したのは、水色の変わった服装をし、ピンク色の髪をした女。
大きく欠伸をして、笑顔でこちらを見る。
どう見ても悪い人には見えない。
「みーっつけ。妖夢ったら、意外と苦戦しているみたいね」
「ここから先は一歩も…いかせるか!」
ヴィータは怒声をあげ、グラーフアイゼンを地面にあて、それを支えにして立ち上がる。
「頑張るね〜。そんなに、守りたいの?それ?」
ピンクの髪の女…西行寺幽々子は、笑顔で、はやての背中で気を失っている軍需産業の社長を見る。
「うるせぇ!はあぁぁぁ!!」
ヴィータはハンマーの形をしたグラーフアイゼンを握り、幽々子にめがけ振り下ろす。
はやては、無抵抗の相手に強烈過ぎる武器を使用するヴィータをとめようとしたが、ヴィータは、その場で、崩れ落ちる。
はやては、その目の前の幽々子を見る。
相変わらずの笑顔…その笑顔は逆に不気味さを感じさせるまでに至っている。
「なにをしたん?」
「教えて欲しい?」
幽々子はそういうとはやての前で息を吸う。
すると、はやては目の前の視界が霞む。
眠気?意識が保てない…これは魔法なのか?
はやては、気を保とうとするが、すればするほど、頭が言うことを効かない。
そのまま、はやては、草木の地面に倒れる。
「…完了。さてと、あなた…私達と一緒に来てもらうわね。お話をしっかりと聞かせてもらうから…。妖夢?」
シグナムと向き合ったままの状態で互いに隙を狙っていた両者。
しかし、そこでシグナムには聞こえないが、遠くビルの下から聞こえた幽々子の声に、すばやく反応し、
妖夢は、シグナムから離れる。シグナムは、逃げ出す妖夢を追う。
「待て!逃げる気か!」
「この決着は、必ずつける!」
妖夢は、幽々子の元に駆けつけた。
「すみません…」
「いいの、いいの。ここの世界もなかなか面白そうな人が多くて楽しいわ」
倒れているはやて、ヴィータを見て驚くシグナム。
主とヴィータが…たった1人に倒されたというのか…。
シグナムには驚きが隠せないでいた。
この、のほほんとした顔の女に、そんな力があるとは思えない。
「安心して。殺しちゃダメって紫にいわれたから」
「お前達、何が目的だ!」
シグナムは二人に剣を向ける。
「…己の罪は、己の身をもって償うべき」
妖夢と幽々子の後の空間が開かれる。
その黒き空間からは幾つもの目がこちらをぎょろぎょろと見つめている。
シグナムは、その黒い穴の奥から聞こえる声に対して、身動きが取れなかった。
「それじゃ〜ね〜」
幽久子と妖夢は社長を連れて、手を振ってその空間の中に消えていく。
シグナムは後を追おうとしたが、その隙間は閉じられてしまう。
そこにあった入り口は、跡形もなく消える。
まるで狐に包まれてしまったかのようだ。
「これは…一体」
幻想郷…。
博麗神社では、霊夢が竹刀をもって素振りをしている。
そんなことをして驚いている魔理沙。
「なにやってんだ?霊夢」
「みて、わからない?しゅ、ぎょう、よ。」
珍しい、明日はきっと雪だな…魔理沙はそうおもいながら、修行する霊夢を見る。
「なんでまた、そんなことしてんだ?」
「紫の話聞いてなかったの?あの空にある黒い穴はやがて広がってこの幻想郷を飲み込んでしまって」
八雲紫は、事件の翌日に、あの黒き穴はやがて広がり幻想郷を飲み込むといった。
それを阻止するには、この穴をつくりだしたものたちを見つけて対策を考えるだけだという。
そういって紫は、幻想郷の妖怪に協力するよう言ったのである。
妖怪達はその紫の言葉に右往左往している。
チルノのように買収されて協力するもの
レミリア・スカーレットの紅魔館は防衛体制に突入。
永琳たちのように、まったく気にせず、いつもどおり薬を売っているもの。
「私は、なんだか信用できないぜ、紫は」
魔理沙は霊夢をぼんやりと眺めながらつぶやく。
「あんたは能天気だからわからないだけでしょ」
「ま、私は自由気ままにやらせてもらうぜ!」
紫の言うとおり、霊夢は気がついていた。
開いたあの黒い穴は少しずつだが広がっていっているということに。
このままでは、本当に幻想郷は…博麗神社は…お賽銭は、私の生活は…すべて無に帰することになる。
そうは、そうは…させない!!
霊夢の竹刀の素振りは続いていく。
投下終了です。
ありがとうございます。
とりあえず、ゲームなり現在連載中の漫画や小説なりでキャラつかんでから書いてください
前回の幽香なんかは完全に誰てめぇ状態ですし、
今回の霊夢も竹刀で素振りが修行ってなんですか?霊夢が剣を使うんですか?
218 :
217:2008/11/22(土) 02:47:16 ID:52FIBHHe
ああ、特に酷く感じたのがこの二人というだけで、
リリなのキャラにも東方キャラにも全体的に違和感がありました
竹刀はねえよなあ・・・
オリジナル設定で剣道が得意な巫女だったりするんだろうか
マスタースパークとディバインバスターでビーム干渉合戦とか期待してたんだが
うん、糞ですね。
いろんな人に言われますが設定くらい把握してから出直してください。
とりあえずタイトルだけは知ってるぜ!臭がプンプンするのが最悪でした。
まあ色々突っ込みどころはあるけど今後面白くなるよう期待しておく。
でも名前はしっかりしてくれ。幽久子というのは……まあちょっとしたミスだと思うが前回の霧島に引き続いて名前が違うのはどうかと。
今回も騎士ガンダムの物語に見入りました&次が楽しみです支援。
>>205 そういえば横井孝二先生版(4コマ)では黒い三連星が「電磁スピア田楽刺し」になってましたね。懐かしいです。
設定を見直そう。話はそれからだ。
やはり無理というか無知と言うか…
すいませんでした
>>225 無理かどうかはそっちが判断することだし、こちらとしてはこれからに期待って感じなんだが
そもそも無知って自覚するならもう少しクロス元やって来た方が良いんじゃない?
設定やネタとかを理解してないといろいろ大変だからね・・・
分かってないところがあると書くのに詰まるし、違うとか言われたらそれまでだし。
そういや小説の書き方とかは?専用サイト見てきた?
設定や書き方もあまり理解してないのにいきなり
投稿します、な人が最近増えてるからね・・・
もし見てないなら見てからもう一回で直すことをお勧めする。
初心者だからって甘いこと言っててごまかせるようなもんじゃないよ。ここは。
もうちょっと勉強して自信が付いてきたらまたおいで。
228 :
一尉:2008/11/22(土) 15:18:21 ID:+e2+R7r/
ナイトガンダム支援
まだかな
232 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/23(日) 14:26:27 ID:cNyVTdiv
魔法少女リリカルなのはStylish氏 (104040)
ロックマンゼロ氏 (100159)
キャロとバクラの人氏 (82792)
反目のスバル氏 (64976)
Strikers May Cry氏 (60235)
リリカルギア氏 (49556)
なの魂の人氏 (46751)
リリカル! 夢境学園氏 (37045)
×DOD氏 (35803)
その他単発4 (35233)
THE OPERATION LYRICAL氏 (30643)
魔術士オーフェンstrikers氏 (28507)
19氏 (27358)
単発SS (27324)
真祖の人氏 (26101)
ゲッターロボ昴氏 (25228)
R-TYPE Λ氏 (23055)
魔装機神氏 (19997)
リリカルなのはDHS氏 (19850)
なのはStylish18話 (19644)
地獄の四兄弟氏 (17783)
マスカレード氏 (17744)
クロスオーバー元リンク集 (17698)
322氏 (17592)
なのはStylish19話 (17516)
LMS氏 (16806)
メタルサーガsts氏 (16450)
◆e4ZoADcJ/6氏 (16138)
白き異界の魔王氏 (15615)
リリカルセイバーズ (15228)
>>233 荒らし
何かは分かったがそれ言うとめんどくさい事になから言わない
235 :
一尉:2008/11/23(日) 15:18:31 ID:WPHXKKXi
うーん個人的な物たね。
さすがゼロ氏
Stylishをもうすぐ抜く位の勢い
理想郷とかいうとこのタイトルの右にあるやつと解釈してみたが?
ふれるな、かたるな、放置しろ。
239 :
367:2008/11/24(月) 00:20:46 ID:X6AUa+zu
議論スレも落ち着いたようなので投下します。
嘘予告です。
240 :
367:2008/11/24(月) 00:23:10 ID:X6AUa+zu
高町なのはは一人、魔法から離れ故郷の町を歩いている。
数ヶ月前、任務中に重傷を負い、現場から遠ざかっているのだ。
傷が癒え体が動くようになっても、無茶な魔法の使用によって蓄積されたダメージはなかなか消えず、故郷で静養する日々だ。
もう数ヶ月もすれば、いくらか後遺症はあっても前線には出れるようになるという。
だが、彼女は不安だった。たとえ戦いに戻っても、これまでと同じように力を震えるのか、と。
そんな風に考えている内に深みに嵌っている自分に気づいて、少しでも気分を変えようと町へ出た。
管理局の任務で他の世界に行く事が多く、そうでないときは学校か親友たちと一緒に過ごしていたので、故郷の町を歩くのは久しぶりだった。
そうしてふと足を向けたのは小さなゲームセンター。
優れた性能の家庭用ゲームがあり、またゲームセンターに集まる人たちにあまり良い印象を抱いていなかった事もあって
たまに入り口近くに設置してあるクレーンゲームに興じる事はあっても、奥に踏み入る事は無かった。
だが今日は何故か他のゲームをやってみようと思った。
格闘ゲームはどうだろう? どうにも性に合いそうに無いし、座っているプレイヤーたちを見ていると初心者では入りづらそうだった。
では、レースゲームは? 昔、家でやったときはクラッシュばかりでアリサに大笑いされたことを思い出す。それにやる気にはなっても、負けるとわかっているゲームにお金を使う気にはならない。
クイズゲーム? 勉強してないしなぁ。
音楽ゲーム? ここの店はやたらと体を動かすものばかりで、激しい運動は控えなければいけない身では無理だろう。
そうして自分の興味を引くゲームを探して、目を向けたのはシューティングゲームが並ぶ場所。
そこの一つの筐体の前に三人の男が集まっていた。
一人はこの店の初老のマスターだ。クレーンゲームをプレイしたときに幾度か話した事があった。
もう一人はいかにもヤクザといった感じの紫のスーツに身を包んだ強面。最後の一人はジャケット姿の痩躯に眼鏡の青年。
マスターが筐体の傍らに屈みこみ、三人の前の筐体のカバーを開く。
マスターは開いたカバーの中に手を入れ、何か操作していた。なのはは知らなかったが基盤と呼ばれるものだ。
直後、画面がブラックアウトし、CAUTIONという文字が表示され、すぐにいくつかの文が並ぶものに切り替わる。ゲームの設定画面だ。
そして、ジャケットの青年がスティックを握り慣れた手つきが動かし出す。
画面の矢印が難度設定を変化させる。
やや低めに設定されていたものが最高に。VERYHARDに変化する。
241 :
367:2008/11/24(月) 00:25:56 ID:X6AUa+zu
青年が椅子に座り、画面が通常のものへ戻る。
三人は話す何かは、なのはの位置からは聞こえなかった。だが、最後に青年が笑いながら言った言葉は聞き取れた。
青年は言う。「本気ですよ」、と。
……本気って何?
と、なのははむっとした調子で思う。
確かにゲーマーという人種がいる事は知っているし、友人たちとゲームをして白熱した事も一度や二度ではない。
それでも、ゲームは楽しむための遊びだ。そこに、『本気』という言葉があるとは思えなかった。
自分が乗り越えてきた戦いや、父や兄が修めた体術とは違う。
だが、青年は目の前のシューティングゲームを最高難度にし、本気だと言ったその顔は笑顔ではあっても真剣だった。
……まさか、あるの?
ゲームという遊びに対して、本気という言葉が存在するんじゃないか。
そして、いつの間にか周囲の音が気にならなくなっていた。
目は青年の向こう、青年の見つめるモニター画面に集中していた。
「では」
と、青年はポケットから硬貨を取り出し、筐体のコインシュートへ滑り込ませる。
スタートボタンが押され、画面の中では赤い戦闘機が飛び立っていく。
……どうなの?
「軽く口にしたみたいな、そんな本気が―――」
……出来るの?
ゲームセンターに来ることはなくても、一つのゲームをクリアするのは難しいと、なのはは知っている。
おそらくは頻繁にこの店に来る人でもなかなか勝てない、そんなものを更に強化して、それでも勝てるのか?
……出来るのかな?
問いかけの心に応えるように赤い戦闘機の戦いが始まる。
画面が速度と爆発で埋まっていく。
そして、彼女は知る。
青年の本気を―――。
ゲームというものの本質を―――。
「君は、ゲームが好きですか?」
魔法少女リリカルなのは×連射王
『砲撃王』
始められたら色々スゲエ
242 :
367:2008/11/24(月) 00:27:29 ID:X6AUa+zu
投下終了です。
なのはさんは貫通レーザーとか使いそうだと思ってます。
誤字などは確認しましたがあった場合はご指摘ください
投下乙です! ゲームと言う単語でまさかと思ったらそのまさかとはw 数ある川上氏の作品の中でこの作品とのクロスの発想は無かったので、驚きました。しかしゲームとなのはの組み合わせは、原作なのちゃんを連想させて、あながち違和感ないかも
これはwwGJです!
このクロスはかなり見てみたいです。
GJです。これは続きを見てみたい。
リアルシューティングの経験が豊富ななのはさんはゲームでも通用するのかな。
ガンシューといえばデスクリムゾン
おはようございます、三連休の最終日、皆様いかがお過ごしでしょうか?
もしよろしければ、今から最新話を投下させていただきます。
人はいなくても投下に迷う事なし
======
「『活殺裏葛篭』! 転生!!」
プレシアの唱えた、失われし都から名を変え、形を変えて脈々と受け継がれてきた秘術。
その名も活殺裏葛篭(かっさつうらつづら)。
それこそがプレシアが鉄仮面の男との接触によって得た最大の成果であった。
時防流(じぼうりゅう)……武者頑駄無の世界、天宮において、宗教の教えの中で磨き上げられた
様々な不思議の術を使いこなす法師達の使いこなす流派。
命を失ったものに再びその息吹を蘇らせる蘇生の術は、その中でも最高峰に位置するものであり、
この術を使えるかどうかでその法師の力量が測られるほどのものである。
だが、しかし。
高い知性を持った者の魂の場合、ただ単にこの蘇生の術のみで蘇らせる事は……
巻之弐拾七「愛と哀の果てる時なの」
「魔力が……蚕の繭みたいに?」
バインドで身動きの取れないなのはの目の前で、魔方陣の上を渦巻いていた魔力は
プレシアという指揮者の動きに合わせるかのように、まるで生き物のように形を成していく。
やがてそれはアリシアという少女の亡骸を包み込むと、鳥の羽が結晶のように固まったと比喩するのが
相応しいほどの巨大な「繭」を作り上げていった。
「フフ……これで第一段階の準備は完了したわ。あとは……」
どこか達成感のうかがえる、満足げな笑みを浮かべたプレシアは、なのは達を振り仰ぐと
力なくうなだれたまま、同じくバインドにより吊るされているフェイトにその視線を注ぐ。
「フェイト……あなたに貸してあげた『命』を、返してちょうだい?」
プレシアの発した衝撃的な一言に、なのはは思わず目を見開いてその真意を問う。
「命を……『返す』って?」
「その通りの意味よ。活殺裏葛篭は生命エネルギーを受け止めるための『入れ物』を作るための術。
そこに私が作った命を入れる。簡単な事だと思うけれど」
そう、「活殺裏葛篭」という術そのものは蘇生の術ではない。
プレシアの言葉と「葛篭」の意味する通り、あくまで受け皿を作るものである。
では、一体何を受け止めるというのか……?
それに気がついた時、なのはの双眸から自然と熱いものがこぼれ落ち始めた。
「そんな……ひどい、ひどいよ……!」
「ひどい? どういう事かしら?」
それはすなわち、フェイトの命と引き換えにしての蘇生という事ではないか。
「命は……命は物なんかじゃありません!
例えそうだったとしても、それはフェイトちゃんの物以外の何物でもないよ!」
なのはの心からの想いをこめた、悲痛な叫びが空間にこだまする。
しかし、虚数空間に侵食されつつあるこの場と同様、散り散りにちぎれてしまったプレシアの心に、
その声が届く事はなかった。
そうなる事はもうとっくに分かっていた。
それでも、なのはは言葉をかける事を止めなかった。
目の前の女に、娘を愛する心が残っている事を知っているから。
「あなた、本当にいい子ね……けれど、私の考えと少し違うところがあるわ。
フェイトは私が作ったお人形だもの。それをどうするかは私が決める事。」
ゆっくりとフェイトに向かってプレシアは歩み寄る……死が迫る。
だが、フェイトは微動だにしない。
絶望に次ぐ絶望に、すでに正気を保ってはいられなくなったのだろうか。
「さぁ、アリシア……やっと、やっとこの時が来たのよ……!
ずいぶんと遠回りになってしまったけれど、もう一度二人で取り戻しましょう……
こんなはずじゃなかった世界の全てを!」
「駄目だよ……そんなこと、駄目だよ……!
フェイトちゃぁぁぁぁぁん!!」
なのはの涙と、想いの全てが感情の爆発とともに溢れだし、そして。
「世界は……いつだって、こんなはずじゃない事ばっかりだよ!」
轟砲一閃。
青く輝く閃光が、その思い全てを乗せて代弁するかのように軌跡を残して壁を撃ち貫いた。
「ずっと昔から、いつだって……誰だって、そうなんだ!!」
開かれた穴から聞こえてくる、聞き覚えのある強い意志を湛えた声。
その言葉は、まるで自分自身に言い聞かせるように。
されど、刃として向けるは外法の儀を執り行う魔女に。
「こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは個人の自由だ!
だけど……」
ここに至るまでに激戦を潜り抜けてきたであろう、その声の主が姿を見せる。
焼け焦げ、裂かれ、ぼろぼろになった黒いバリアジャケット、姿を保つのがやっとのデバイス。
額を切ったのか、痛々しく流れる血が片目の視界を奪っている。
「自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしない!!」
彼は固い決意を胸に秘め、愛と悲しみが生み出した事件を止めるべく降り立った。
取り返しのつかない過去を背負った者のみが持つ、ある種独特な気を放ちながら。
その少年の名は……
「クロノ君!」
「……僕もいるんだけど?」
クロノの登場に目をきらきらと輝かせ、嬉しそうな顔を見せるなのはを見て顔をひくつかせる
どこか中性的な、優しさとあどけなさの残る顔立ちの男の子。
それはきっと、一番なのはの事を心配していたであろう人物。
「ユーノ君も!」
「ごめん、なのは。遅くなった」
「ううん……遅くなんてないよ、一番来てほしい時に来てくれたもの。
こっちこそ、皆の足手まといになっちゃって……」
「ハイ、そこ! 抜け駆けはしない!」
バインドを解き、ふわりとなのはを地上に降ろしながら言葉を交わすユーノ。
その様子が面白くなかったのか、さっきまで勢いよく啖呵を切っていたはずのクロノは
ずかずかと二人の間に割り込んで来た。
「何言ってんだよクロノ、一番かっこいいところはそっちに譲ってやったじゃないか!」
「譲ってくれと言った覚えはないな」
「ちょっ、人が下手に出てみればそんな事言うの!?」
「やるかい? もっとも、君と僕との実力差は明白だけどね!」
「よく言うよ、とっくにボロボロになっているくせに」
「姿の事を言うなら君だって似たようなものだろう!?」
一時休戦はどこへやら。
視線と視線をぶつけあい、火花を散らす二人の姿を見て楽しそうになのはは呟いた。
「にゃはは……二人とも、いつの間にかすっかり仲良しさんだね」
「冗談じゃない!」
「誰がこんな奴と!」
その呟きに対し、お笑い芸人もかくやという素早さと勢いで二人はなのはに喰ってかかる。
似た者同士は引かれ合い、ぶつかり合うというがこの関係を表すならそれがふさわしいだろう。
ただ、時と場合は選んでほしいものだ……そう、間に挟まれた格好のなのはは思っていた。
「プレシア! フェイトを……フェイトを離せぇっ!!」
果敢にもプレシアに挑みかかるアルフの声が三人を現実に引き戻す。
そう、フェイトはプレシアの手の中。事態は何も解決してなどいないのだから。
「この子は使い魔を作るのが下手ね……余分な感情が多すぎるわ」
「黙れ! フェイトは……アンタの娘は、アンタに笑ってほしくて、優しいアンタに戻ってほしくて
ぼろぼろになるまであちこち駆けずりまわってたってのに……その挙句が命をよこせだって!?
ふざけんじゃ……ふざけんじゃ……!」
思いの丈を全てぶちまけても、路傍の石を見るような無感動な視線を崩さないプレシア。
アルフは口がうまい方では、決してない。
だから、言葉にできない感情という火薬庫に火がつくのは、自然の成り行きだった。
「待て、待つんだアルフ! 君一人では……」
「姐御ぉっ!!」
クロノらの制止の声が聞こえるが、そんなものは構いやしない。
「ないよっ!!」
アルフはありったけの力を込め、動かないフェイトを抱えるプレシアに猛然と突っ込んでいく。
全ては、フェイトを助けるために。
それは、奇しくも全ては母のためというフェイトの行動原理と同じものであった。
「動きにも、魔法行使にも無駄が多い……」
スッと、軽く片方の手を差し出して魔力障壁が張られる。
アルフの使用している魔法……バリアブレイクが術式を分解しながら突破しようとするが、
おびただしい量の魔力を得たプレシアの障壁は、分解されるそばから新たに術式を構築し、
その行動を決して許さない。
そうしている間にもいくつもの魔力の槍がプレシアの周囲を浮かび、アルフに狙いを定めて。
「先に逝っていなさい」
槍は環状の加速魔方陣を纏い、今まさに放たれんとする。
「ちくしょう……ちくしょぉぉぉぉぉっ!!」
支援
何をどうしても破れない分厚い壁を前にして、アルフは自らに迫る死の匂いを敏感にかぎつける。
かといって、今更引き下がる事も、避ける事ももはや不可能。
相手と自分の間にある圧倒的な実力差を前に、目を固く閉じて諦めかけたその時。
「ぬおぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
人間の聴力をはるかに凌駕するアルフの耳には確かに聞こえた。
「突!」
あれはどこかで聞いた声。
突っ込む事しか知らない、悪く言えば大馬鹿者の、良く言えばまっすぐな男の声が。
「貫ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
赤く燃える、火の玉のような武者魂にその身を包み、轟音と瓦礫とともに飛び込んでくる白い影。
武者丸の姿が、そこにはあった。
その瞬間からほんの少しばかり遡った頃、活動を停めた駆動炉の前。
駆動炉の中枢となる魔力結晶体を回収し終えた武者丸、斗機丸、ススムの三人は
焼け焦げた匂いの漂う大気に顔をしかめながら、ただただ立ち尽くしていた。
「駆動炉は停止した……俺達の役目は、これで終わりか」
「馬鹿言ってんじゃねぇ、まだ終わっちゃいねーよ」
自らのシステムチェックを行いながら、斗機丸の漏らした言葉に武者丸は反論する。
武者丸以外の二人はぎょっとした顔でその発言の真意を疑い、その目を見合わせた。
「おいおい、まさか……?」
「あったり前だ! プレシアのオバハンにせめて一発叩きこんでやらねーと、俺の気がすまねぇ!」
幾体もの敵を斬り倒してなお衰えの知らない激しい闘志を燃やしながら、
武者丸ははっきりとそう言い切った。
そんな武者丸に、呆れたような顔で斗機丸は当然の問題点を指摘する。
「お前、本気で言っているのか?
ここは時の庭園の最上階、プレシアがいるのはまるで反対側の最下層なんだぞ?」
「そうだよ、確かにエレベーターとかはあったと思うけど……
それを動かす機械がこんなんじゃあ、ブレーカーが落ちた家電と一緒だよ」
「エレベーターだぁ? んなモンすぐに用意してやるぜ!」
チッチッと人差し指を動かして軽く二人の意見を受け流すと、武者丸は自らの纏う鎧を
気合い一つでばらりと分解し、精神を統一させる。
「武者魂よ……熱く燃えろ! 今日の俺は誰にもどうにも止められない!!」
雄叫びとともに勢いよく放り投げられた刀に、導かれるようにして鎧が集まって行く。
やがてそれらは真っ赤に塗られた、武者丸の魂を象徴するようなブースターが刀を挟み込み、
まるでロケットのような形を成していった。
「斗機丸、ススムの方は任せたぜ! 俺は……俺の道を往く!!
通天閣!! 突貫弾ッ!!」
それだけを言い残し、武者丸は炎の翼となった己の鎧を掴み、勢いよく飛翔する。
そしてある程度の高さにまで至ると、一気に反転し、あらん限りの力を込めて叫んだ。
「ぬおぉぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!! 死ぬも生きるも俺次第!
地獄への片道下りエレベーターでぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」
目指すはプレシアの待つ最下層。
幾重もの床と天井、果ては虚数空間をも貫いて、弾丸となった武者丸は一直線に突っ込んで行く。
誰もがこの姿を見た時、「そんな無茶な」と思うであろう。
だが、無茶を通して道理を蹴っとばし、思いこみの全てを己の力に変える。
どんな逆境にあっても決してあきらめはしない。
そしてそれは彼だけでなく、仲間達にも拡がっていく。
それが、武者丸の持つ本当の強さなのだ。
「見つけたぜ、プレシア=テスタロッサ!!」
辿り着いた空間にプレシアの姿を認めると、細かなバーニアを吹かして姿勢を制御し、
アルフの攻撃によって目視できる障壁にその矛先を向ける。
だが、それさえも障壁を破るには至らない。
力と力のせめぎ合いを通して、武者丸とプレシアの視線が交錯した。
「随分と騒がしいこと……天宮の武者頑駄無ね。つくづくあなた達はおもしろい存在だったわ。
おかげで私の研究も完成に至ることができた。感謝するわ」
「やかましい、てめぇの研究なんてどうでもいい!」
ぶつかりあい、飛散した魔力と金属のかすが反応し、火花となって辺りに舞い散る。
決して相容れない二つの魂は一歩も譲らず、
「あんたの人を人とも思わない態度に、俺は頭にきてんだ!」
「人? 人形とその使い魔が?」
「いい加減にその口を閉じろ! こちとらアンタと問答する気なんてさらさら無ぇ!」
「なら突き通してみなさい、その野蛮な力で!」
「言われなくても、やってやる……男・武者丸様の意地を見やがれぇっ!!」
アルフと武者丸の、それぞれに大事なものをかけた戦い。
それに突き動かされ、なのはの介抱にあたっていたクロノもまた、己の信念のために
デバイスを握るその手に力を込めた。
「彼らだけに任せるわけにはいかない、僕達も援護しよう! なのは、君の方は……」
「ちょ、ちょっとだけなら、まだ! ……っとと」
バインドから解き放たれたとはいえ、未だ本調子ではないなのは。
ふらつく彼女をユーノが横からしっかりと支えて、そして耳打ちする。
「じゃあ、僕が収束をサポートするよ。なのははバスターを撃つ事だけに専念して!」
「ありがとう……ねぇ、ユーノ君、いつもどおりだよね」
「えっ?」
なのはの、驚くほどに安心した声音の言葉を聞いて、思わずユーノは彼女の方を仰ぎ見、
そして撃沈した。
「いつも私の隣でいっしょにいて……守っててくれたよね。
だから、戦えるんだよ? 背中がいつも、あったかいから!」
「なのは……」
互いの心が通じ合っている事を再認識し、二人はレイジングハートに残された魔力全てを束ねる。
一方、この世の春と言った風情を隠せないユーノとは対照的に、
クロノの方はどす黒いオーラを漂わせていた。
「集中だ、集中しろクロノ……この高ぶる邪念をも力に変えて……」
「クロノ君、何をぶつぶつ言ってるの?」
「な、何でもない! そんなことより早くしないと二人が危ない!」
慌てて取り繕うクロノの心を知ってか知らずか、なのははシーリングモードに姿を変えた
レイジングハートをクロノのS2Uに重ね、互いの魔力を共鳴させ、一つの大きな流れへと注ぎ込む。
「うん! じゃあ、行くよ! せーのっ!」
「僕達の残った力の全て! まとめて持っていけぇぇぇぇっ!!」
緑と桜色、そして青い三色の輝きを持つ閃光がプレシアに向け放たれる。
その瞬間、激しいスパークの向こうで障壁は確かに揺らぎを見せた。
ひょっとしたら、いけるかもしれない。
術式の展開のために身動きがとれないプレシアの顔に苛立ちが浮かぶと同時に、
彼女に立ち向かう五人の表情には確かな手ごたえが生まれていた。
「よっしゃあ、じゃあ俺達は!」
そして、完全に蚊帳の外だった元堕悪の抜け忍組はと言えば。
「ここで応援するぜ! 三! 三! 七ビョォォーシッ!」
「おいら達、融合したままじゃ飛び道具は使えないんだな」
「じゃあせめて黙って見ててくれと言うのは僕の勝手な願いだが、聞き入れてくれるとありがたい」
足を引っ張っていた。
「あ、れ……?」
そんな中、アルフはちょっとした異変を感じていた。
今までずっと自分の出せる全力を出していたはずなのに、なぜだろう、
あともうちょっとくらいなら頑張れる気がする、と。
フェイトと二人きりだった時とは、また違う感覚。
同じ目的を持った仲間たちと共に戦うという事……それが勇気をくれる、
自分の可能性に新たな道を示してくれる。
そうだ、今ならもう一歩だけ踏み込める。
「フェ、イ、トを……」
上体を大きく振りかぶり、障壁に叩きつけたままの右手を支点とし、
左手に新しく生まれた力の全てをこめて。
「はなせぇぇぇぇぇぇっ!!」
そのまま、がむしゃらにぶつける。
楔が打ち込まれた大きな岩が、わずかな力で砕けるように、プレシアを守っていた障壁は
その一撃で見る見るその用を果たさなくなり、消え去っていった。
そして。
「フェイトぉーっ!!」
アルフは遮るものもなく、目の前に立つプレシアとその腕の中のフェイトを認識すると、
握っていた拳をほどき、その小さな体をしっかりと抱きとめた。
「フェイト、しっかりしてよ、フェイトぉ!」
力なく倒れ込むプレシアからひったくるようにフェイトを抱きかかえ、
アルフは子供のように泣きじゃくる。
恐らく、一人ではできなかった。
けれどもみんなと一緒だから、どうにかできた。
その手の中に、一番大事な人を取り戻せたという感慨と、日本での日々の中でゆっくりと育っていた
新たな感情とがごちゃまぜになり、それは涙という形で噴出していた。
「げほっ、げほっ……けど、あなた達がどうあがいてももう遅いわ!
活殺裏葛篭は成功した……フェイトの魂は今から捧げられる……」
「そんな事、させるもんか! フェイトはあたしが……あたし達が守ってみせる!」
アルフの言葉に同調するように、武者丸が、なのは達が、そして三人組が彼女の周囲を固め、
プレシアに決して屈しないという意思を示す。
クロノはそんな彼らの心を代弁するかのように、その言葉を告げた。
「……もう、あなたに逃げ道は残されてはいない。
プレシア=テスタロッサ、あなたを逮捕します」
「逮捕? 逃げ場ですって?
フフ……何も分かっていないのはあなた達の方よ。魂という形のないモノの前に、
場所なんて関係ないの……私の下にあろうと、そちら側にあろうと!」
どこからともなく風が吹く。
いや、大気がうねりをあげていると言った方が正しいだろうか。
なのははフェイトの手をしっかりと握り、連れて行かれまいとただ一心に願っていた。
「もう遅いと言ったでしょう!? ここまでくればもう取り返しなど付かない!
時防流の名を借りて、今ここに『天馬の儀』を発令する!
さぁ、その壊れたお人形の魂を、私のアリシアに返してあげて!」
眩しい光が一同の視界を奪って。
魔方陣が輝きを増し、「繭」を照らしだす……が。
「……まさか!? そんなはず、そんなはずがないわ!
もう一度……『天馬の儀』、発令!!」
何も起こらない。
何度も、何度もプレシアはその儀式を終えようとするが、冷たく硬い鉄の繭は、
どんな事をしても全く反応する事はなかった。
「ハ……ハハッ! どうだい、プレシア! アンタみたいな悪い奴に、その術は力を貸してくれないとさ!」
「そんな、まさか私の研究が間違っていたとでも……?
いいえ! そんなはず、そんなはずがないわ!」
溺れる者は藁をもすがるというが、この場合の彼女を例えるならそれが最もふさわしいだろう。
皆一様に言葉もなく、哀れにすら見えるその姿を見つめることしかできないでいた。
「そんな……私の全てを賭けた研究が、どうして……?」
「……『愛』の心があったゆえにだ」
渇いた喉から絞り出されたプレシアの言葉に答える者が、天井に開いた大穴から静かに降りてくる。
自由の利かない右手ではなく、左腕でススムを抱えた斗機丸だ。
「トッキー君、ススム君!」
「調べものがあってな、少し寄り道していたんだ。遅くなってすまない」
「ううん、二人とも無事で良かった……けど、どうして愛の心があるとだめなの?」
駆け寄ってくるなのはとユーノにススムを預けると、斗機丸は誰もが疑問に思うその問いに
答えを出すべく、内蔵されたデータベースをフル回転させる。
「時防流の極意、それは『自己』と『利己』を捨て去った『無』の境地にある。
俗事に流されず、平静と中庸を司るニュートラルな精神……それが『無』だ。
言いかえれば何物にも屈しない強い意志と、真に大事なものを見極める確かな目こそがその神髄」
青ざめた表情で、アリシアの収まった「繭」を見つめるプレシアに目を向けると、
斗機丸は話さないわけにはいかない残酷すぎる真実を語る決意を固めた。
これ以上、誰のためにもならない悲劇を止めるために。
「プレシア=テスタロッサ。
失礼だが少しあなたの研究室を覗かせてもらい、その目的を見せてもらった。
あなたは娘を愛するがあまりにその愛に溺れ、最も大切な精神を置き去りにしてしまった……
何かに囚われただけの心では、例えどんなに犠牲を払っても、ジュエルシードにすがっても
決して願いは叶う事がない」
「じゃ、じゃあ……」
「この女のやってきた事って……」
他の者も次第に気付き始めている。
それでもプレシア本人は決してこの事実を認めはしないだろう。
いや、認めないからこそ言わなければならない。
貧乏くじを引くのは慣れているし、最も辛い立場を他人に譲ることなどできないから。
「そう……全くの、徒労だ」
果たして、その言葉は正しくプレシアに伝わったであろうか。
……いや、どのあたりまで正気を保っていられたのだろうか。
その両手はどうしようもない現実をひた隠すように顔面を掴み、瞳孔は極限まで見開かれ、
口からは絹を裂くような甲高い悲鳴がこぼれ出していた。
「あ、あああああああああああああああああっ!!」
突然のプレシアの豹変に戸惑う年少組と、それを遮るようにクロノはプレシアに歩み寄っていく。
「ク、クロノ君、フェイトちゃんのお母さん、どうしちゃったの……?」
「事実を受け入れられず、壊れてしまったか……なのは、ユーノ。君達は見ない方がいい。
アルフもフェイトを彼女から遠ざけるんだ。仮にも母親のこんな姿を見せるのは忍びない」
「あ、あぁ……」
クロノが手で何か合図をすると、プレシアの両手に簡易なバインドが張られ、
彼女はそのまま力なくその場にへたり込んでしまう。
今まで支えにしていたものがぽっきりと折れたためか、その姿は因果応報に映ると同時に、
哀れさすら漂わせるものであった。
「……ともあれ、これで当初の目的は達したか」
「いや、まだだ。なのは、ジュエルシードはどうした?」
斗機丸は、ジュエルシードを管理していたなのはにその行方を尋ねる。
途中立ち寄った研究室で、プレシアの目論見を知った彼は、
当然彼女がなのはに求める物を知っていたから。
「ジュエルシードだったら、さっきまでその辺に浮いてたけど……って、あれ? あれ!?」
「どうしたの?」
なのはは視線を右に左にきょろきょろさせて、小さくはあるが美しく輝くジュエルシードを探す。
いかに荒れ果てた部屋であっても、虚数空間の侵食が進んでいると言っても
全部が全部そこに落ちたわけではあるまい。
ところが、それを探すなのはの表情は時間の経過とともにみるみる青くなり、焦燥の色が
一目で見てとれるほどに濃くなっていく。
「無い、無いの! どこにもジュエルシードが! 一つも!」
「な、何ィィィィィィっ!?」
ない。
あれだけ大量にあったはずのジュエルシードが一つとして発見できないのだ。
この非常事態に他の者も慌ててジュエルシードを探すが、どこにも見当たらない。
一同に戦慄が走った、まさにその時。
「……探しものはこれかな?」
この場にいる、誰のものでもない声。
けれども、夢者遊撃隊の一同と堕悪抜け忍三人組には、忘れようとしても忘れる事など
決してできないその声。
「どうして……どうしてお前がここにいる!?」
黒光りする禍々しい鎧にその身を包み、手にするは自らの身長をはるかに上回る死神の如き大鎌。
ぎらぎらと輝く瞳は狂気を内包してはいるが、それを御するほどの力を全身から漲らせている。
その姿、まさに魔王の如くに。
「答えろ! 魔刃頑駄無っ!!」
ジュエルシードを手に、不敵にほくそ笑む堕悪闇軍団の首魁。
堕悪魔刃頑駄無が、そこにいた。
――次回を待て!!
======
今回は以上です。
いろいろと、展開に気になる所をお思いの方もおられることでしょうが、
この物語はまだ続きます。
それらの点がどのように結実するかもあわせてお楽しみいただけたら幸いです。
それでは最後に、本日も読んでくださり、本当にありがとうございました!
GJ!!です。
悲劇ですね。
自身が相手を愛する心こそが、蘇生の邪魔になっているなんて。
蘇生に邪魔なその感情をプレシアが制御を元からできていたなら、
死んでしまった娘に悲しみを抱いていながらも蘇生なんてしようと思わないと思うし。
GJ!
さすが魔刃頑駄無。伊達に貧乏生活をしていたわけじゃないぜ!
あいつら原作だと奪った金でウハウハなんだけどなぁ・・・
毎度ながら丁寧な作品の仕上がりに感服するばかりですw
プレシア哀れ。
愛するが故に蘇生が出来ない、だがしかし愛してなければ蘇生など望めない。
結局のところ徒労に終わる。
運命の皮肉さに残酷さを感じるばかりです。
そして、四時半頃からミッドチルダUCATを投下してもよろしいでしょうか!
馬鹿兄貴編終了です。
支援します
そろそろ投下開始します。支援をお願いします。
注意:多分これが最初で最後の終わりのクロニクルクロスらしい内容です。
一部設定はエンドラインのものを流用しています。違うのは変態性だけです。
以上を承知でご覧下さい。
戦いはどこまでも続くかと思った。
空はなく、地上はなく、概念空間が広がっている。
その中を一人の青年が駆け抜けていた。
彼が纏うのは好んで着る彼の故郷である武装隊の制服ではなく、日本UCATが製造した装甲服。
賢石による母体自弦振動の固定。
故に彼はこの概念空間のルールに飲み込まれることなく、存在が可能。
「っ、敵は何機だ!!」
『武神五機、機竜を二匹確認。地上には人狼の部隊がいるようです。どうやら接収、及び亡命した軍勢と判断』
通信機からの通信。
可愛い妹には負けるが、中々に素敵なボイス。
痺れるほどに心地いい内容、闘志が湧き立つ。
「っ、結構な戦力じゃねえか!」
青年が指を鳴らす。
賢石を起動させる、封じ込まれた概念の開封。
概念条文追加
・――名は力を与える
――記入。
「2nd-Gの概念を追加ぁ! さあ、かかってきやがれ!」
右手を閃かせる。
――【Less】と彫り込まれた拳銃が現れる。否、ハンドガン型のデバイス。
左手を添える。
――【B】と彫り込まれた右手のデバイスと瓜二つのデバイスの参上。
続けて読めばB・Less。
すなわちBLESS。
「祝福してやるぜ、ベイビー!!」
祝福の意のままに、光が宿る、力が増す、祝福とはなんだ? 神の奇跡? NON、NON。
それは魔法。
眠り姫に魔女たちが祝福を与えたかのように、それは魔法の力を約束する。
脅威が迫る。
強大なる機械の巨人達が飛翔し、迫ってくる。
概念条文【金属は生きている】による命の付与、軽度の重力軽減。
それは恐ろしい光景。
何たる悪夢、機械の甲冑を纏い、鋼鉄の武具を持ち、冷たい金属に加工された破壊を齎す質量兵器を搭載した鉄巨人共――名を武神。
さらに、さらに、空の上には機械と混じり合うメタルウイングの翼をはばたかせる機竜までいるのだ。
ぞくぞくする、いたって平和で物騒な武装局員、その彼が戦争に参加している。
嗚呼、怖い。
最初は怖気づく、けれども恐怖を乗り越えて、覚悟を決めればにっこり笑えるのさ。
「さあリリカル・マジカルと始めようか!」
大気中の魔力素を吸収、現地の人間の誰もが気付いていない、概念以外の人間の可能性。
リンカーコアが駆動、熱い、熱い、魔力に変換していく。
両手のデバイスが燃え盛る、烈火のごとく、太陽のように。
「魔法に名前を、必殺技の如く力強く!!」
『ClossFire―Shoot』
クロスファイアシュート/十字砲撃の意。
名前が力を持つ、ならば元々名前のついている魔法ならばどれだけ本当になる?
佐山の腐れ悪役がほざいていた、必殺技を信じ込めばそれが現実になると。
信じるのならば問題ない、それが常識だったから。
一々詠唱をしなければいけない、どこの小説だと馬鹿笑いされた、とりあえず殴っておいた。そんな記憶も懐かしい。
彼の能力ならば精々十のスフィアを出現させるのが限界、だがしかし、今の概念化ならばそれは異なる。
名前の意味が分かる、名前の意味を知る、彼は信じ込む。
――この程度では十字砲撃とは呼べないと。
故に、彼の周りに無数のスフィア、鬼火のように燃え盛る、無数の砲台。
一人で弾幕張れますか?
YES! デバイスはパワーアップ、魔法もパワーアップ。
「そして、俺も強くなった!」
迫る、鋼鉄の巨人。
怖くない、叩き潰す。
「祝福を与えてやれ。盛大に! B/LESS!!」
銃声の如く破裂音が鳴り響く。
スフィアから追撃の魔力弾が吐き散らされる。鳳仙花の勢い、派手な花火のように舞い踊る破壊の嵐。
武神、ギョッとしたようにスラスターを吹かせて、横に回避。弾頭軌道からの回避。しかし、甘い。
「さあ撃ち落せぇ!」
デバイスを振るう、プログラムを起動、自動追尾機能ってのが最近の魔法のデフォルト。
直角に、物理法則を無視して、弾丸が武神の肩に直撃、派手に風穴を開いていく。
一度当たれば速度が落ちる、次々と命中して、被弾しまくり。火花が散る、絶叫の如く部品が砕け散って、落下していく。
「いっちょあがりー、っ!?」
爆風の上がった中から、炎を突き破り一体の武神が突撃。
怒り狂った様子、当たれば人などミンチになりそうな剣を振りかざしてくる。やばい、速い。
「っ!」
ベクトルを操作、重力を下へと方向修正。
ガクンと迫る刃から反れるように、“上へと落下していく。”
<<各機、UCATを支援せよ>>
<<天使とダンスだぜぃ!>>
支援
『なっ! 何の概念だ!!?』
ははは、概念条文も概念武装なしに空中機動をする生身の人間にびびったのか、外部スピーカーから声が洩れた。
教えてやろう。
「概念じゃねーよ!!」
魔力弾を吐き散らしながら、彼は告げる。
「魔法っつうんだよ!」
飛行魔法をさらに起動、落下速度に、大気抵抗のカットでさらに速度を上げる。
武神とのダンスゲーム、空への落下しながらの戦い、繰り出される斬撃を回避し、踊るように弾丸を叩き込む。
落ちながら戦ってる。
いや、昇りながら戦っているというべきか。
音速を超えて、衝撃波を撒き散らしながら、撃つ、撃つ、撃つ、弾く。
プロテクション、補助武装の機銃の一斉射撃、それを展開した障壁で弾く、逸らす、凌ぐ。
やばい、敵軍は圧倒的な火力じゃないか、こっちは戦闘機、向こうは爆撃機と呼ぶに相応しい戦力バランス。
しばらく対峙、交戦、プロテクションがきついので回避に専念、調子に乗りやがって!
『死ねぇ!』
虚空を蹴り飛ばす、方向転換用スラスターが青白い吐息を景気良く吐き出し、重圧な人型機体が恐ろしい速度で旋転。
回る、刃が閃く、剣速は既に遷音速クラス、音響の壁を突き破る超弩級斬撃。
やべえ、回避出来るか!?
「っ、無理ぃ!!」
肉厚の刀身が一直線に閃き、俺を切り裂いた――と見えただろうな。
『なっ!?』
刃が通り過ぎる、そこにいた俺の姿、まるで水を零したカンパスのように滲んで消失。
幻影、フェイクシルエット。
「オプティックハイド、解除」
本物はここ、武神の後ろ。
シューティングシルエットとフェイクシルエットの同時並行。
気づけ、撃たれているのに損傷していないことを。
武神の頭部に乗る。こつんと足音、銃口を突きつける。
『っ!?』
「おせえ!」
ゼロ距離、砲撃ぶちかます!
「ファントム・ブレイザー!!」
昔見たアニメ、燃える展開、装甲をぶち抜くにはゼロ距離射撃。
燃え滾る紅蓮の吐息、頭部から股間まで二つの魔力砲撃が貫通し、飛び上がった俺の足元で爆砕、撃沈、さようなら。
「二丁目上がりぃ!」
ベクトル変更、空へと舞い上がる。
良い調子だ。
「このまま今日の撃墜王でも目指すかぁ!」
『馬鹿いってんじゃねえよ、女顔!!』
独り言に反応して、叫び声。
轟音、振り返る。
そこには俺の背後から襲いかかろうとしていた機竜――その頭部をアチョーと蹴り飛ばしている武神【荒人・改】
「っ、飛場ぁ! 遅いじゃねえか!」
『真打は遅れてくるもんだって母親から教わらなかったのか、魔法青年!!』
飛場竜徹。
護国課に所属する武神の乗り手、八大竜王の一人、血気盛んな糞男。
荒人・改が唸り声を上げる。
中身の乗り手を体現するかのようにその動きは荒々しく、無駄がなく、修羅のよう。
襲い掛かる武神共、その斬撃を紙一重で躱し、流れるような動きで次々と両断、現代に蘇った武士と誉れ高い戦士。
『サンダーソンの奴もはりきってやがるぜ、さあ気合入れろ!』
「はっ、だろうなぁ!」
空を見上げる。
其処には誰よりも速い男が空を支配している。
恐れることは無い、さあ戦おう。
「いくぜ、高々十二世界、数百の次元世界を護る時空管理局を舐めるなぁああ!!」
彼は叫ぶ。
彼は駆ける。
どこまでも走り抜ける。
そう、それが時空管理局地上部隊にして、ミッドチルダUCATの首都航空隊ティーダ・ランスターの使命なのだから。
ミッドチルダUCAT 概念戦争編
「――ということわけなんだよ!」
『ダウト』
誰も信じてくれませんでした。
あるぇー?
……始まるわけが無いですよねー!!
<<始まらないそうだ>>
<<むぅ。だが支援は継続するぞ>>
まず一番最初に行われたのは事情聴取だった。
ティーダ帰還の速報で集まった昔なじみの陸士の連中に今までの武勇譚を聞かせていたのだが、返ってきた返事が嘘だ! だった。
「お前がそんなにかっこいいわけないだろう、常識的に考えて」「っていうか、調子のんな」「テメエは脇役が十分だ、主人公面してんじゃねえよ」
即答三連発だった。しかも理不尽でした。
そして、何故か武器を持ち出されて、襲われました。
「な、なにをする、きさまらー!」
「その立場ぁ!」
「ころしてでもうばいとる」
いつも通りの乱闘だった。
ドッたんばったんぎこしゃはむはむばきゃぁいや〜ん、などという悲鳴と罵声と嬌声と破壊音の撒き散らされる室内。
そして、そこで一人静かに事情を聞き終えた隊長は思った。
(ミッドチルダUCAT成立の始まりはLow-GのUCATとの接触が発端だ。現地組織には他Gとの異世界存在の認識以外にも、他次元世界の存在と魔法技術の存在を知っていたせいで調査管理局員が発見されたのが理由だったのだが……まさかティーダが原因か?)
六十年前のLow-Gへのティーダ転移。
それがなければおそらくかの世界は管理局の組織とこれほどの技術提携を結んではいなかっただろう。
そうなるとミッドチルダUCAT自体が彼の存在によって成立したことになるのだが……
(まあ本人も気付いていないし、どうでもいいか)
隊長は深く考えるのをやめた。
ミッドチルダUCATに所属するティーダが飛ばされたのが始まりだったのか、それともその前の元の地上本部に所属していた別の可能性が始まりだったのか、タイムパラドックスなどが色々と複雑になるのだが、考えると面倒なので放棄。
「い゛えあ゛あ゛あ゛あ゛ー!!!」
こうして、ティーダは本家UCAT的には重鎮存在になるはずだったのが、スルーされました。
ティーダ・ランスター奇跡的生還。
そのニュースは流し素麺の流れるような速度でミッドチルダUCAT内に行き渡った。
それを聞いた一人はこう語る。
「いや、奴が死んだとは思ってませんでしたよ。だって変態だし」
そして、他の面子はこう告げている。
「むしろ普通に帰ってきたことに驚いた」
「イベント的には魔王でも倒してくるのかと賭けていたんですが、大穴かよ!」
賭けチケットを投げ捨てながら、ペッと唾を吐き捨てる始末だった。
ちなみに大穴当てた奴は嬉し喜びに踊っていたが、数分後に他の陸士に襲われて、尻の毛まで毟られたことを記述しておく。
そして、その張本人であるティーダはというと。
「ティアナー!!!」
全力で妹の名前を叫びながら、地上本部の廊下を疾走していた。
事情説明を終えた後、我に返った(狂ったともいう)ティーダが妹であるティアナがどうしているのか調べたところ、他のラグナたん可愛いよはぁはぁと怪しい言葉を発している陸士が、現在ティアナが機動六課という部隊に所属していることを教えてくれたのだ。
ついでに他の連中が持っていたティアナのブロマイドを蹴り倒して奪い取った後に、現在のティアナの姿を見た彼が鼻血を吹き出して大量出血で詰め所の床を真っ赤に染め上げたことは語るまでも無い。
ガリゴリと増血剤の錠剤をかじり、はむはむっ! とほうれん草をポ○イよろしく食べながら、ティーダは機動六課本部隊舎へと向かう。
本部隊舎のある湾岸地区までかなりの距離があるが、彼にはそんなことは関係なかった。
直進距離で直進し、途中で松葉杖を突いていた老人を蹴り飛ばし、扉を開いてきゃーと悲鳴を上げる男子更衣室を潜り抜け、窓を開けると、そこは外だった。
窓枠に足をかけて、飛び上がる。
飛行許可? なにそれおいしいの?
都市上空を奇声を上げながら滑走する一人の青年の姿に、都市住民はああまたUCATかと諦めた。
一方、機動六課のほうで一人の男が稲妻を浴びたかのような衝撃に襲われていた。
「な、なに? ティーダが帰ってきたぁ!? しかも、悪化? マジでか」
『マジマジ、超マジ。今そっちに向かっているようだ』
「っ、やべえな。ありがとよ、今度なんか奢るわ」
『んじゃー、今度ラグナちゃんとの合コンをセット――』
ガチャンと地上本部直通黒電話を叩き切ると、その男――ヴァイスは珍しく焦ったような顔を浮かべていた。
「やばいな。早く避難させないと!」
彼は悲壮な決意を浮かべると、踵を返して全力疾走で走り出した。
数分後、彼はとある部屋の前に辿り着くと、ローリングソバットで扉を蹴破った。
「なのは隊長ー!! たいへんで――あ?」
飛び込み前転からくるりと見事な動きで起き上がり、ヴァイスは叫ぼうとして。
――目の前の光景にすっと目を背けた。
「……失礼しました」
ヴァイスは何も見なかったことにして、立ち去ろうとした。
「ま、まって! 何で逃げようとするの!」
がしっとその肩を掴んだのは慌てた様子のなのは。
彼女は何を慌てているのか、ヴァイスは知らないふりを続けることにした。
「いや俺何も見なかったですから。まさか高町隊長がロリスキーで自分の養女を押し倒そうとする特殊性癖者なんて俺知らないですから安心してください。
昔フェイト隊長に欲情していたけど今は育ったから興味ないという噂は本当だったのかーなんて俺納得してないですから(棒読み)」
「違うのー! 違うNOー! ヴィヴィオが、着替えるのを嫌がるから着せ替えていただけなのー!」
号泣しながら首をぶんぶん横に振るうなのは。
「なのはママ乱暴だった……」
そして、火を注ぐ純粋無垢なるょぅじょ。
「ああ。ベットでも戦場でも全力全壊なんですね、わかります」
「いやー! これ以上変な噂を立てられるのはいやー!!」
そんな押し問答中に、マッハを越えた速度で飛び立っていた一人の男が地上に着地していた。
「華麗に着陸!」
ガリガリとアスファルトの地面を砕き、螺旋を描くように回転しながら襲来した男――ティーダは両手を頭上に上げた。
「俺、参上!!!」
Yポーズで地面にめり込んだ足をずぼっと引き抜くと、ぐるりとそこらへんにいる一般事務員らしき女性(メガネ、ストレートヘアの女性)が怯えた目で見ていたので尋ねた。
「あ、すみませんが。ここにティアナ・ランスターっています?」
「え? はい。ティアナならもう訓練が終わって戻ってきていると思うけど……」
ピクリ。
一瞬ティーダの肩が揺れると、ひっと女性が引きつった顔を浮かべた。
「あ、そうですか。兄のティーダと申します。いつも妹がお世話になっているようで」
ペコりと一礼すると、何故か拍子抜けたように女性が安堵の息を吐いた。
何故だろうとティーダは内心首を捻ると、とりあえずティアナを探しに行くことにした。
「あ、一応会いに来たことはそちらの部隊長に連絡が来ているはずですので。ちょっと入らせていただきますね」
正確には「俺帰る、ティアナ嫁にする、すぐいこう、さあ逝こう」と叫んで、詰め所から飛び出したのだが、あの気配りのいい隊長のことだから事前に連絡は回しているだろうという予測発言だった。
事実その通りなのだが、確信犯な分性質が悪い。
「え? そ、そうなんですか? それならいいですけど……」
「では」
さっさかさーと立ち去るティーダ。
その背後で女性にかけよる男性が、「シャーリー無事か!」と声をかけて「う、うん。あれってどうみてもUCATの……」「あの制服はUCATのだ。油断しないほうがいい、彼らのことだから何かする可能性が高いぞ」
とぼそぼそと警戒されているような気がしたが、ティーダは気にしなかった。
その身に備わるシスターセンスを活用して、素早くティアナの位置を探る。
そして、数秒と掛からずに進路を決めると、ティーダは一直線に歩き出した。
妹はそちらにいる、それは確信だった。
それに間違いなどあるはずがない。
この身に宿る肉親への愛が、情愛が、執念が、妄執が、妄想が、全てを告げるのだ。
想像を妄想に、妄想を願望に、願望を現実に置換する。
彼女と会ってからどうするか、そのシチュエーションを脳内で数千パターン構築し、最終的には肉親の絆を軽くコサックダンスで踏み越えて、結婚ENDまで余裕で妄想していた時だった。
「え?」
声がした。
思わず競歩速度だった足を止める。
「嘘……」
声紋照合、脳内記憶照合、脳内予測ティアナボイスに六年の年月を追加修正し、照合。
――全てオールグリーン。
ドスッ! 全力で振り返ろうとする己をレバーブローしつつ、ティーダはゆっくりと声の方角に振り返った。
「久しぶりだな、ティアナ」
激痛に顔を歪ませつつもニッコリと微笑んで、振り返った先には目を潤ませた愛しい妹の姿があった。
六年前の子供の頃とはすっかり変わり、美しくなったティアナがそこにいた。
<<変態的なブラコンだな>>
<<いや、変態でブラコンなんだ。支援しよう>>
「に、兄さん……?」
声が震えていた。
体も震えていた。
傍にいるおそらく同僚だろう、それ以上だったらぶち殺す少女二名とあとでヤキいれること決定な少年一名が困惑した目で見ている。
「ティア? あの人ってもしかして」
青い髪の少女が、ティアナに尋ねるが、彼女はフルフルと必死に首を横にふりたくった。
「嘘。兄さんなわけがない、だって兄さんは死んだ……はずなのに」
は?
一瞬呆気に取られる、いや高々行方不明になっていただけなのだが。
いや、違うな。ティアナのことだ、悲しさのあまりにそう信じてしまったに違いない。MAIだったし。
「馬鹿だな、ティアナ。俺はお前の兄だぞ? そう簡単にくたばらないさ」
ニッコリと笑み。
飛び掛ろうとする己を必死に自制しながら、ティーダはゆっくりとティアナに歩み寄ると、ぽんっとその頭を撫でた。
一瞬ビクリと彼女は肩を震わせたが、その手の感触に目を開いた。
温かい。
幻覚じゃなく、夢じゃなく、現実の感触だと実感できる大きな手。
「本当に……にいさんなのぉ?」
涙声だった。
見上げる目は潤んで、ぐしゃぐしゃだった。
今すぐにでも抱き付きたそうな彼女の体は懸命に作り上げた自制心で堪えていたけれど、それがティーダには痩せ我慢だと気付いていた。
「本物に決まっているだろ?」
安心させるようにティアナの髪を撫でる。
昔と変わらない髪形のままだった。
「だって……だっていきなりすぎるよ……」
「おいおい、俺が生きたって信じてなかったのか?」
少し意地悪するように笑いかけながら、ティーダはティアナの涙の雫を親指の腹で拭った。
「だって六年……兄さんが行方不明だって……どこに消えたのかも分からないって六年も……」
この瞬間に至ってティーダはティアナとの時間差を実感する。
自分は半年、彼女は六年。
十二倍もの時間の差、濃密な死を感じさせる戦争を潜り抜けてきたけれど、妹はそれ以上の悲しい時間を経験していたのだ。
理解、実感、残酷な運命の悪戯に怒りすら覚える。
もしも神――別世界の神族とか、そういうのは嫌ってほどぶちのめしてきたが、運命を操る存在がいれば今すぐにでも八つ裂きにしたいほどだった。
六年前ティーダを異世界の彼方にぶっ飛ばしてくれた違法魔導師は、既に他の陸士が逮捕し、生きるのもアッー!
という目にあわせたらしく、新たな領域の扉をオープンドア状態で刑務所に入ったらしいので、ぶちのめす機会がないのが残念だった。
「悪い。待たせたみたいだな」
ごめんよ、とティーダは妹に謝る。
ううん、とティアナは一生懸命首を横に振るうと泣きじゃくる子供のような笑みを浮かべて。
「兄さんっ!」
すたっと足を早めて、飛び込んでくる。
キターッ!! と高鳴る動悸、笑みを浮かべて、ティーダは両手を広げた瞬間。
<<間違えたブラコンじゃなくてシスコンだ…支援>>
「あぶなーいっ!!」
――バァンッと横から走ってきたバイクに撥ねられた。
「え?」
錐揉みしながら空中旋回、キラキラと光る唾液と吐血を撒き散らしながら哀れなティーダの体は重力に引かれてぐしゃりと地面に叩きつけられる。
そして、彼を撥ねた張本人であるバイクの乗り手はふぅーと息を吐きながら、華麗に額の汗を拭った。
「危ないところだった……」
「に、兄さん!? ヴァイス陸曹何するんですかぁ!!」
うわーんと両手を振り上げて、ヴァイスの胸板をぽかぽかと叩くティアナ。
しかし、彼は至って真面目な顔でティアナの肩を握り締め、告げた。
「大丈夫か、ティアナ!(性的な意味で)」
「え?」
ちょびっと気になっている男性に肩を掴まれて、普段は済ませた顔でツンツンしているけど内心初心なティアナは頬を赤らめたのだが、言われた言葉に意味が分からず唖然とした。
「無事か? 襲われていないな!?(性的な意味で)」
「え? あ、あの? どういうことですか?」
「今のティーダはひじょ〜に危ない。言うなればスバルの前にスパゲティー、シグナム姐さんの前に強敵、なのはさんの前に新型レイジングハートだ!」
「どういう意味だ、ごるあ゛あ゛あ゛!!」
驚異的な生命力でティーダ復活。
ボタボタと血を流し、バイクのタイヤ跡を顔に残しながらも立ち上がる。
そんな彼の復活にヴァイスは舌打ちをすると、ティアナを後ろに庇い、構えた。
「ちっ! 再生が早いな、せめてリッターバイクにメタルホイールで轢くべきだったか!?」
「さすがにそれは死ぬ……と思うぞ!」
「嘘付け!」
対峙する二人の男。
護るは多分ヒロインのティアナ、呆気に取られて付いていけない子供三名を観客にミッドチルダUCATの誇れない変態二名が睨み合う。
「ヴァイス。久しぶりの再会でいきなり人を撥ねるとはいい度胸だな、年下の癖に」
「ティーダ。お前が行方不明になっている間に、俺はすっかりお前の年を越えたよ」
「やーい、オッサン」
「言うな!」
ちょっとだけ気にしていることを言われて、ヴァイスはこめかみに血管を浮かばせた。
一種即発、今にも互いのデバイスを抜き放ちかける――というか待機状態のデバイスが魔法のように抜き放たれていた。
支援
「ヴァ、ヴァイスさん!?」
「お、落ち着いて、ティアのお兄さん〜!」
「喧嘩は駄目ですー!」
「二人共落ち着いてよ!!」
羽交い絞め開始。
ティーダにはスバルとエリオのベルカ組が抱きつき、ヴァイスはキャロとティアナのミッド組二人が押さえ込む。
その光景にティーダが戦闘機人を越える腕力を発揮したのだが、スバルが全力全開の魔力強化で押さえ込んだ。
「ヴァイスぅうう!!! てめえ、誰の許可を得てうちの妹に粉かけてるんだぁ!?」
「ああ!? そんなわけあるか! 俺は365日ラグナ一筋だ!」
シスコン二人の醜い罵倒開始だった。
ちなみにティアナが密かにショックを受けているが、二人共気付いていない。
両手をふさがれつつも、蹴りが激突しあう。クロスを描くような華麗な蹴りの交差だった。
そんな争いが数分ほど続いただろうか、押さえ込むほうも暴れるほうも息絶え絶えになった頃
「もうやめてよ!」
と、泣きが入ったヒロインの叫びがあり、二人共戦闘中止だった。
「そうだな。争いはやめよう」
「そうだな。何気に俺接近戦弱いし」
ティーダとヴァイスの二人共が大人しくなり、ようやくここでフォワード陣が手を離した。
そして、流れるような展開の速さに付いていないフォワード陣が訓練の帰りだったことを思い出し、ヴァイスはとりあえずシャワーを浴びて来いと指示。
涙を流していたことによりティアナの顔は赤かったし、事情説明するにも外でするには長すぎると判断だった。
しかし、休憩時間はあまり残ってないとエリオが告げると、事情が事情だからなのは隊長には既に話は通しておいたとヴァイスが説明。
常識的な三人は納得いかない顔をしつつもシャワーを浴びに行き、ティアナは名残惜しそうに何度も振り返ったが、慌ててシャワー室へと向かっていった。
残る二人は彼女達の姿はいなくなると同時に一秒も躊躇わずに拳を繰り出し、クロスカウンターがめきょりとめり込む。
「ぐっ!」
「い、いいパンチだ……げふ」
ばたりと倒れる二人。
空に見える太陽が夕日のように眩く見えた。
慌てつつも、しっかりと身支度を整えたフォワード陣が、待ち合わせ場所の食堂にやってきた。
「……ふ、二人共どうしたんですか? その痣」
「気にしないでくれ」
「久しぶりの友情を深めていただけさ」
痛ててと医務室から貰った氷で顔の痣を冷やす二人がそこにいた。
「あれ? シグナム副隊長も……なぜ?」
そして、そんなヴァイスの横には皺一つ無い制服を身に纏い、凛々しい佇まいで座るシグナムが座っていた。
「なに。ティーダが戻ったと聞いてな。一応私もティーダとは同じ部隊に所属していた身だ」
「そうだったんですか!?」
今更のように事実を知るティアナ。
「ああ」
ズズーとお茶を啜るシグナム。
ヴァイスはコーヒー、ティーダは紅茶と嗜好がバラバラに分かれていた。
「んじゃー、事情説明するんだが。嘘くさいかもしれないが、信じてくれ」
ティーダが今までどうしていたのかを説明。
この世界では六年前に違法魔導師を追いかけている最中にティーダは転送魔法を応用したトラップにかかり、別世界に飛ばされたこと。
そして、自身の体感時間ではそれは精々半年程度前だということを説明すると、ティアナは驚いた。
飛ばされた世界Low-G(フォワード陣は名前こそ知っているものの実情は知らない世界)でミッドチルダに戻るために努力しつつも、自分を拾ってくれた組織の力となって概念戦争に参加した。
詳しい説明は機密になるので話せないがそこで我々こそオリジナルだー! とほざいている悪い連中を、知るかボケなす!
とぶちのめしたのだが、その世界を滅ぼした時に避難が遅れて自分はさらに異世界に飛ばされたのだが、それが付近の管理世界だったということ。
そこで現地の武装組織をついでにぶちのめし、金を巻き上げて旅費を稼ぎ、次元航行艦を乗り継いでミッドチルダに帰還した。
「ほへー、凄いんですね」
「凄いです」
と、そこまで説明した時点でスバルとキャロは感嘆の息を吐いた。
エリオはどこか憧れの混じった目で「UCATの隊員ってやっぱり凄いんですね」と間違った方向へとフラグを進めていた。
「いや、しかし。まさか六年も経っているとは知らなくてな。家にすっ飛んで帰ったんだが、ティアナがいなくて心配したぞ」
「ごめんね、兄さん」
素直に謝るティアナ。ツンデレのツンを通り越して、デレ状態だった。
どうやら長年のトラウマだった兄の死が、帰還してきた兄を見て粉々に砕けたらしい。
しかし、彼女はさすがに予想していない。
すっ飛んでという言葉が事実であり、さらには家の扉をぶち破ったままこちらに来ていたということを。
「まあさっきUCATにも顔を出して復隊手続きもしてきたし、俺もまた管理局の一員だな」
長かったなぁとため息を吐きながら、紅茶を啜るティーダの一言。
その言葉に、ティアナは少しだけ沈んだ顔を浮かべた。
「兄さん、UCATに復帰するの?」
「ん? ああ」
てっきり喜んでくれると思っていたティアナが、沈んだ顔を浮かべるのにティーダは首を捻った。
「あの人たち……兄さんのこと馬鹿にしてたんだよ? 葬儀の時だって散々馬鹿にしていて……」
その顔には怒りが満ちていた。
憎悪という火がその瞳の奥で燃え盛っていた。轟々と暗く、冥く、へばりつくような痛みを堪えた憎悪。
彼女は怨んでいた。
彼女は憎んでいた。
かつて兄の死――行方不明となり、M.I.A.判定を受けて、上げられた死体のない葬儀。
思い出す。
――馬鹿だな。
――必要ないだろ、葬儀なんて。アイツには。
――死んでくれたほうが助かるしな。
その時に浴びせられた言葉が彼女の耳にいつまでも残っていた。
それこそが彼女を打ち震わせ、彼女の怒りの原動力だったのだが。
『は?』
その時、ヴァイスとシグナムが同時に首を捻った。
「してたっけ?」
「いいや、記憶に無いが」
葬儀に参加した二名。
首を傾げていた。
「お前ら、ちょっと純真無垢なティアナが傷ついているから詳しく説明しろ」
「えっと確か……」
記憶は六年前に遡る。
それはティーダ・ランスターが行方不明になり、死亡判定を受けた時だった。
一応儀礼的に神父を呼び、死体の無い棺が土に埋められていく。
そして、葬儀にはヴァイスもシグナムも参加していたのだが。
「葬儀なんて必要ないよなぁ(死んでないだろうし)」
「というか、馬鹿だしなぁ(変態的な意味で)」
という会話が陸士の間であったような気がするし。
「むしろ死んでいるといると助かるなぁ(野望的な意味で)。そうすれば俺が晴れて、あの子の保護者に!」
「馬鹿野郎! それは俺に決まっているだろう、常識的に考えなくても」
「うるさい、黙れ! あの少女は私がめくるめく百合の世界に連れ去るに決まっているでしょうが!」
「馬鹿共がぁ! 光源氏計画は男の浪漫だー!!」
という会話の後に、仲裁に入った神父も巻き込んで乱闘があったような記憶しかない。
確か途中で腐った大人共の世界に穢れないようにティアナに目隠しして、保護した記憶があったようなないような。
「……という葬儀だったような。ん? どうした、ティアナ」
ORZ というポーズでティアナが床に沈みこんでいた。
ニュアンス的なものも説明を交えていたのだが、何故か見る見るうちに雰囲気が落ち込んでいったのは何故だろう?
こうして、ティアナとティーダの再会は無事(?)に終わったのだった。
その後「ティアナを苛めたのは貴様かー!!」「きょ、教導だったのー!!」 と叫ぶ一応AAのはずのティーダとエクシードモードのなのはの間で、三日間にも渡る個人戦争が幕を開くのは別の話である。
帰ってきた馬鹿殲滅戦 完了
第一回 地上本部攻防戦に移行する
もう一回支援
今日もUCAT
1.ラッド・カルタスとギンガさんの甘い日々(片方の主張より)
カタカタ。
彼は何時ものように詰め所で事務処理を行っていた。
電子ディスプレイの上を、鍵盤でも弾き鳴らすかのように無駄なく指を動かし、次々と処理を行っていく。
「ふむ。調子が乗らんな」
彼は不意にデスクの引き出しを開き、その中にあったテープレコーダーを取り出した。
そして、それと接続していたイヤホンを耳に嵌めると、再生ボタンを押し込む。
そして、耳元に流れるある女性の声を聞きながら、気分が乗ってきたので指をパチパチと走らせていると。
「カルタス主任。お疲れ様です」
「ん? ギンガかい」
存在を気付いてはいたものの、気付かないふりを続けたラッドは静かに振り返る。
すると、そこにはコーヒーカップを持ったギンガがいた。
「どうぞ。少し濃い目ですが」
「いや、その方が嬉しいね。なによりも君が入れてくれたことが嬉しい。そろそろ私と籍を入れないかね?」
「お世辞が相変わらず上手いですね」
引きつった笑みで答えるギンガ。
彼女は知らないふりをしている、彼の言葉は全て本気だということを。
そして、ラッドはギンガに貰ったコーヒーを味わうように飲んでいたが、不意に席に戻ったギンガのデスクのあることに気が付いた。
「ギンガ」
「? なんですか」
「君はコーヒーを飲まないのかね?」
「え? あ、そういえばうっかり忘れてました」
ドジですね、と苦笑するギンガの微笑を視姦しながら、ラッドは立ち上がる。
「それなら私が入れてこよう」
「え? いいですよ、私が」
ガタリと立ち上がろうとするギンガの肩をぽんっと叩いて、「たまには部下を労わせてくれ」とラッドは告げた。
申し訳ないという顔を浮かべるギンガの横を通り過ぎて、廊下に備え付けてあるインスタントカップの自販機にデバイスでのIC支払いで購入を済ませる。
「ミルクはいるかい?」
「あ、お願いします」
部屋内のギンガに訪ねて、注文通りにコーヒーを設定。
出てきたカップにぽいっとポケットから取り出した粉末を入れて、コーヒーとミルクが注がれるのを待ち、音が鳴った後に取り出した。
<<おかしい・・・UCATのはずなのに、砂糖のように甘い味がする>>
<<支援に集中しろ>>
「ギンガ、注文どおりだがこれでいいかね?」
「あ、ありがとうございます」
何一つ変わらない笑みに、ギンガはまったく警戒する事無くコーヒーカップを手に取った。
そのまま何事もなかったかのように、ラッドは席に着くと仕事を再開する。
仕事をしたふりをしながら、ラッドはギンガがコーヒーに口を付けるのを観察していた。
ゴクリ。
彼女の細い喉が確かに音を奏でた。
時間を計測。
一分、二分、三分……五分。
コーヒーを飲み終えたギンガが、ばたっとデスクの上に前のめりに倒れた。
「ぐー」
コーヒーに盛った睡眠薬が効いたようである。
「典型的な寝息だな」
ラッドは時計を確認。
入手先曰く30分は寝ているはずなので、時間には余裕がある。
先ほどから聞いているテープレコーダーのスイッチを止めて、新しいカセットを中に挿入。
さらにデスクの中からこの時のために用意した【ギンガの寝顔アルバム その37】と書かれたディスクと小型ビデオカメラを取り出し、かつかつとギンガのデスクに歩み寄ると、その寝息と寝顔を録音+録画するためにセットした。
ビデオカメラのピントを調整し、そのあどけない顔がしっかりと映っていることを確認し、調整完了。
そして、ラッドはそのまま場所を離れると、詰め所に備え付けのロッカーから仮眠時に使われる毛布を取り出し、ギンガの肩に優しくかけた。
「幾ら戦闘機人とはいえ、君は無茶をしすぎなのだよ」
ラッドの声音は優しい。
ラッドの確認する限り、今日で二日は貫徹している彼女を休ませるにはこれぐらいしか手段はなかった。
そして、警邏任務から戻ってきた他の部下達が詰め所に戻ってきた時に、音を立てないように彼は唇に指を当ててしーと告げた。
彼女は愛されていた。彼女自身が自覚するよりもずっと深く。
二十分後、カフェイン効果と戦闘機人故の薬物耐性があることを気付かずに、寝顔をはぁはぁと視姦していた同僚達が涙目の彼女にぶちのめされることになる。
2.とある潜入工作員の日記
これはある潜入工作員の脳内データベースに記録された日記である。
――ミッドチルダUCAT 潜入1日目
ドクターからの任務により、本日からミッドチルダUCATにもぐりこむことになった。
時空管理局地上部隊の本拠地であり、管理局本部からの警戒も厳しい地上部隊の組織への侵入。
変装時代はISライアーマスクにより心配はないが、かの組織は高ランク魔導師を潤沢に保有する本局をも脅かすほどの力を蓄えているらしい。
警戒は必須だ。油断してはならない。
いつかの聖遺物を入手するための聖王教会にもぐりこんだ時よりも過酷な任務になりそうだ。
しかし、挫けることは許されない。
まだ開発途中の姉妹たちと無事に再会するために、この任務をやり遂げてみせる!
――ミッドチルダUCAT 潜入2日目
……ありえない。
なに、この組織? 本当に時空管理局の部隊なのか?
どこの連中も仕事中にも掛からずフィギュアとか、漫画とか弄ってるし、もぐりこんだ秘書課により接触した最重要人物と思しきレジアス・ゲイズは……小説なんか書いてましたよ?
副官にして、娘であるオーリス・ゲイズに叱られていたし、私は本当に上手くやっていけるのだろうか?
追記:陸士部隊の戦力を調べるために、主戦力と思しき首都航空隊と情報収集の会話をしたのだが、中々にイケている男がいた。
もう少し渋くて、過去を背負った男になるといいのだが――シスコンだったため、微妙。
――ミッドチルダUCAT 潜入3日目
ドクターに「実家に帰ってもいいですか?」 という懇願メールを送ったのですが、拒否られた。
大変欝だ。
クアットロ、ごめんね。
私途中で自殺するかもしれない。
こ こ は 変 態 し か い な い の か。
――ミッドチルダUCAT 潜入18日目
何か色々諦めてきた。
今日も定時報告。
「異常しかなくて異常無しです」
そんな報告したら、ドクターに怒られた。
だって、その通りなんだもん。
たまに本局にもぐりこんで、脳味噌ガラス共の世話をしているほうが癒しになっているというのはどういうことだろう?
不愉快な会話をしている干物共だが、常識人なために心が激しく癒される。
追記:副官のオーリス・ゲイズと屋台でばったり遭遇する、UCATの愚痴を言いながら一晩酒を飲み明かした。
彼女は常識人だ。きっといい友達になれる、明日も頑張ろう。
――ミッドチルダUCAT 潜入78日目
テロ事件勃発。
次元世界の一つを範疇に納めるマフィアが、地上本部に飛行機テロを仕掛けてきた。
危うく私も死ぬところだったが――アリエナーイ。
特攻してきた旅客機が「てめえ、アニメの放送中に仕掛けてくんじゃねー!」と叫んで、ブちぎれた陸士たちが数百人がかりでバインドした挙句に、空中で停止させ、中にワラワラとドリルを持った装甲服の連中が飛び込んでいった。
中を占領していたテロリストはアッー! という悲鳴と共に窓から放り投げられて、高度数百メートルの位置から地面すれすれでキャッチされていた。
その三日後、本局に逮捕状を申請した後、陸士三師団が出撃し、現地の地上部隊と協力してマフィアを壊滅させたらしい。
……なんであいつらの魔導師ランクがB以下なのか、理解しかねる。
――ミッドチルダUCAT 潜入128日目
かゆ……うま……
――ミッドチルダUCAT 潜入???日目
今日もUCATな日々が始まる、頑張ろう。
そして、思う。
ドクター、多分ここに入ったら……五分で適応しそうだ。
投下完了。
これにてティーダ編終了、次回は本編通りに地上本部襲撃になりそうです。
色々とティーダがぶっ壊れてますが、これからも現れてくれそうです。
しかしメインはあくまでもモブ、名前ありキャラなどおつまみの刺身に過ぎないということを上の上司は知らないんですよ!
支援ありがとうございましたー。
あと、ちょっとしたおまけというか嘘予告を一時間後の六時半より投下します。
UCAT関連ですので、お楽しみに!
GJ
だからもなにからツッコメばいいのかわからない!!
ドゥーエとオーリスが不憫すぎる。
とりあえずドゥーエはビスケットの過去を背負った渋めの男に癒してもらってください
>>290 これだけ言わせてもらおう。
もうなんだこれwwwwwww
GJ!!
最初からフルスロットルでクライマックスにして何やってんですかあんたって人はー!!
変態オブ変態のオンパレードで胸焼けしそうです、本当にありがとうございました。
そりゃあなぁ、モブに名前の付いた程度のティーダならUCAT補正でここまでなってもおかしくないですよねー。
二番目っぽい彼女も本当に南無阿弥陀仏でした。
<<こちらゴーストアイ、投下ご苦労……む、貴官に通信が入っているな。
中継しよう>>
まずはGJでした! どうしてUCATのあの変態かつハイテンションなノリが
再現できるのか分からない。分からないけど面白いw
ドゥーエ、悪いことは言わんから戻ってきなさい。お前ゾンビ(変態と言う意味で)化
してるじゃないかw
そして…
>「違うのー! 違うNOー! ヴィヴィオが、着替えるのを嫌がるから着せ替えていただけなのー!」
私はそんなあなたでも大好きですよなのはさん。
<<…変態からの通信だったな。中継を終了する>>
GJ!!!! もう、クソワロタ!!!!
ドゥーエさん、オーリスさん、あと常識人側の人たち、ガンバレ、超ガンバレっ!!
って、ドゥーエさん曰く、やっぱりドクターもあっち側な変態さんか。
変態達の頂上決戦、今から楽しみっす。
GJ!
まさかこのドクターは終わクロ風の敵キャラなのか?w
ドクターは変態か……脳みそのほうがマシなUCATはどんだけー。
ティーダの奇天烈な経歴とシスコン馬鹿ぶりに吹いた。
葬式の言葉……確かに実態知っていればそういうわな。
ティアナの頑張りは空回りっぽいのに泣けた。
そろそろオマケ編投下しますねー。
支援はそんなに必要ないです。
死と破滅と炎が渦巻いていた。
踊る、踊る、泣き喚くように。
喚く、喚く、悲しみに歌いだす。
「なんだ、なんなんだお前はぁ!」
絶叫が響いていた。
それは醜い男の悲鳴、燃え滾るビルの中で腰を抜かし、熱い大気の中でぐちゃぐちゃに鼻水を流しながら、叫び声を上げている。
何に怯えているのだろう?
何に恐怖しているのか?
『答えてください』
その前に舞い降りるのは美しい女。
『貴方にそれ以外の選択肢はありません』
それはバイザーに顔を隠した人影。
その手には刃を、研ぎ澄まされた刀身を握り締めた怜悧な人形の如き冷たい気配。
彼女は繰り返す、質問を。
『イクスはどこですか?』
「だから、何のことか分からんぞ!」
絶叫にも似た返答。
男には何度繰り返されようともその質問の意味を理解することは出来なかった。
そして、そんな男の態度に。
――疾風のような速度で、靴底が男の胸板に突き刺さる。
「がっ!」
『私たちはイクスの在り処を知りたいだけなのです』
メキメキと男の体が爆炎で歪んだ床にめり込んでいく。
『貴方はそれを知っている』
「知らない! お、おでぇは本当にじらないんだ!」
『ならば、イクスの在り処を知る者は?』
ビチビチと肉が砕け、骨がひび割れて、まるで万力の如くその靴底が男の肉体を柘榴のように砕かんと力を増していき――
ジー。
不意に女は背後で気配を感じた。
支援
『?』
くるり。
そして、背後に目を向けると――何故か這いつくばった姿勢で見上げている見知らぬ男が一人。
「あ。続けていいですよ?」
パシャパシャと下のアングルから撮影し、いいケツだが尻神様には劣るなぁと独り言。
殺意も敵意もない男――防護服を身に纏った目の前の人物に、バイザーを付けた女は少しだけ戸惑ったように。
『貴方は?』
「あ、ミッドチルダUCATのものです。とりあえずSMプレイなら……」
ゴソゴソとミッドチルダUCATのものだと名乗った陸士は懐から紅いヒール靴を取り出すと、すっと差し出した。
「これでどうぞ!! あ、ついでにこれも!」
続いて差し出されたのは鞭と蝋燭だった。
ちなみに、蝋燭は付近で燃えている家具の火から付けたもので、ジリジリと良い感じに燃えていた。
『……貴方は敵ですか?』
返答に困った感じで、バイザーを見に付けた女は尋ねる。
しかし、陸士はぶんぶんと首を横に振って。
「んなわけがない! わたくしゃぁ、美女の味方ですよ!」
「か、管理局なら、お、俺を助け……」
「うるせえ! 男は後回しだ!!」
ゲシリと女に踏み殺されかけていた男を勢いよく蹴り飛ばす陸士。
男は悲鳴を上げながらグルグルと竹とんぼのように吹っ飛んで、あべしひでぶぅとエスカレーターから転げ落ちていった。
それを上昇点から着地点まで見送った女はゴロゴロと転がっていく男の最後を見送ると、クルリと無感情に振り返り。
『貴方はイクスを知っているのですか?』
「え? 誰? 君の名前? やべー、フラグ成立かよ!」
あ、俺こういうものなんだけどー。
そう呟いて、陸士が名刺を差し出そうとした瞬間、女の手が閃いた。
一閃。
常人を越えた速度、無駄な動作一つ無い抜き打ち、それが陸士の首を刎ね飛ばしかけて――マト○ックスポーズで回避!
「なんとぉ!」
ゴンと後頭部を床に打ちつけながら、斬撃を回避する陸士。
さらに振り落とされる刃を、後頭部の痛みに悶絶しながら陸士は横に転がり避けて、翻りながら追撃してくる斬光を抜き出したストレージデバイスで受け止める。
金属音。
燃え盛る世界に音が一つ。
『やはり戦士か……しかし、この時代の戦士はずいぶんと変わり果てたようだ』
「ぬぅおお! いきなり修羅場ー!! まさか、出会って数分で鮮血ENDだとぉ!? お、俺はどこでフラグを間違えたんだ!!」
『……精神病患者を送り込むとは、世界は荒廃したのだな』
どこか見下したような同情されたような視線。
これはひどい。(褒めてるぜベイビー的なイミで)
「や、やめろよ! 少し興奮しちまうだろうが!」
何故かときめいた。
思わず本音を吐き出すと、瞬間バイザーの女が手首を返して、刀を構えた。
本気になったのだろうか、そのバイザー下の凛々しい顔がみたいや。ついでに、その下のヒラヒラした部分とかどうやって捲ろうかと陸士は考えながらデバイスを構える。
脳内に処理演算を開始、一にバインド、二にバインド、三四がなくて、五にチェーンバインドをセット。
『消えろ』
「きゃもーん!」
食い違う会話をこなしながら、バイザー美女が陸士を切り捨てようと足を踏み出した瞬間だった。
「させるかー!!」
「へい、おマチ!」
窓を叩き破り、さらにはデパートのカートに乗って飛び込んでくる男たちがいた。
タキシード服で。
『なにっ!?』
「ふぁいやー!」
持ち込んでいた火薬が爆破。
「さんだー!」
スタンガンを無駄にバチバチ。
『美女とあらば即参上、ミッドチルダUCA〜Tッ!!』
全員一斉にポーズ、チリチリパーマに、手にはちょっと火がついた花束を差し出した。
『お嬢さん、私と結婚しませんか!』
返答は――斬撃だった。
『アッー!!』
JS事件から三年後、この日もミッドチルダは変態が多かった。
ミッドチルダUCAT SSX編
マリアージュに恋をした大作戦
……始まったら逮捕されそうです。
投下完了。
SSXを聞いて、もしもUCATでやったらどうなるかなと妄想して書いてみた。
――何も変わらない彼らに絶望した!
注意:これはあくまでも嘘予告です。
本編の内容とは今のところ関係ありません。
UCAT本編終了後にSSX編をやるかどうかも未定ですが、すこぶる変態がはこびる世界になっていると思います。
支援ありがとうございました〜。
GJ
JS事件ではUCATをどうにかすることはできなかったのですね
というかスカの参加によりUCATの変体度はアップする……?
やべっ!!スカとUCATの研究員によるナンバーズの魔改造とか新型ナンバーズの製造とか見たい!!
このスカリエッティ別に管理局と敵対する必要なくね?
おもしろかったです。続き楽しみにしてます!!
GJすぎます支援
UCAT・・・その危険度はレッドショルダーも真っ青なほど底なしですねw
まずい、エリオが着々とUCAT入りフラグを立ててゆく……
純粋なだけにあっという間に汚染されそうで怖いです。相手を丸めこむ屁理屈とか、ラッドさん上手そうだし。
キャローっ! 何とかして止めるんだーっ!
308 :
一尉:2008/11/24(月) 21:06:56 ID:jQjupx2e
GJずきるよ支援。
310 :
367:2008/11/24(月) 23:01:46 ID:X6AUa+zu
もうGJすぎるw
ティーダ八大竜王クラスでしたかwwww
あとドゥーエさん、彼らの力の本質は魔法ではなく煩悩です
重箱の隅ですが護国課ってTop-Gと戦ってましたっけ?
>>武者氏
なんていうか、氏のSSは丁寧ですねぇ……その執筆力羨ましい限り。
妬んでやる妬んでやる、GJでした!
>>夢境氏
あなたの書くUCATは毎回毎回、人の腹筋を破壊する為にあるのかと思えて仕方がないwww
GJですぜい。
そして久しぶりになりましたが、リリカル・ニコラスの投下行きます。
支援
支援
リリカル・ニコラス 第五話 「金の閃光とやさぐれ牧師」
ある晴れた日の午後、眩く輝く太陽の下、聖王教会の敷地の一角で洗濯物を干している最中だったウルフウッドとエリオは顔をつき合わせていた。
エリオの顔はやや朱に染まり、恥じらいの色を滲ませている。対するウルフウッドはニヤニヤと面白そうに笑みを浮かべていた。
「ところでエリオ“こいつ”を見てみぃ、どう思う?」
「凄く……大きいです」
「せやろ、でも“コレ”でかいだけやないんねんで?」
ウルフウッドは手にしたモノをエリオの顔に近づける、少年は気恥ずかしさの為にさらに顔を赤くした。
年のわりに早熟な少年は、その知性で“そういう物”をみだりに見る事が恥ずかしい事だと認識しているのだ。
だが対するウルフウッドはその反応を面白がって余計に少年にソレを見せ付ける。
「ふふ、見てみぃこの色」
「ちょ……ニコ兄恥ずかしいよ」
「何言うとんねん、お前かて男ならこういう“モノ”に興味くらいあるやろ」
「で、でも……」
頬を赤らめるエリオに手にした“モノ”を近づけるウルフウッド、その光景はどこかいやらしい。
いや、断っておくが別に二人はウホな事をしている訳ではない。
ウルフウッドが手にしたモノ、それは……
パンツである。
そう、それはパンツ、いわゆる人が股間に装着する下着類の通称、そして女性が用いる物は別名パンティーとも言う。
ウルフウッドが手にしたそれは実に大きく、そこに納まる尻肉が実に豊かである事を如実に語っている。
そして色ときたら、それこそ汚れを知らぬ乙女の柔肌の如き純白だった。
「いやぁ、このでかさ、こりゃ穿いとるのは相当なデカ尻やな。しかも色が白や! 色気ないにも程があるで〜」
「ニコ兄……そんな、人のパ、パンツで遊ぶの良くないって」
「ああ、気にするな気にするな。どうせ孤児院のオバハンとかのや」
ウルフウッドはそう言いながら手にしたパンツに指を引っ掛けてクルクル回した。
彼のそんな様子を、エリオは恥ずかしそうな呆れたような顔で眺めている。
そんな時だった、何か生暖かい風が吹いたのは。
ウルフウッドは一瞬で背に冷や汗をかく。
まるで、かつての世界で出合った異形の怪物ナイブズの気迫や殺気を浴びたような悪寒を感じたのだ。
さながら修羅か羅刹か、少なくとも人に在らざる魔性の気配である。
支援でごわす!
背中に感じる気迫に、恐る恐る振り向けばそこには笑顔のカリム・グラシアが立っていた。
「ウルフウッドさん、誰が“色気のないデカ尻のオバハン”ですって?」
「へ? いや、その……」
カリムは満面の笑みだった、それこそ世の男が見れば誰しも魅了されるような女神の微笑み。
だがこめかみに浮かんだヒクヒクしている血管、背後から滲み出ている怒りのどす黒いオーラ、プルプル震える握り締められた拳。その全てが彼女が怒りの絶頂にいる事を示していた。
この尋常ならざるカリムの姿にウルフウッドの思考はすぐさま正解を導き出す。
「ああ……もしかして、コレお前のなんか?」
「ええ♪」
顔に貼り付けた満面の笑み崩さず、カリムは一歩ずつウルフウッドへと近づいていく。
無論その拳は硬く握り締められ、ゴキゴキと美女にはあるまじき豪快な音を鳴らしていた。
「ちょ! ま、待てや、落ち着いて話を……へぶあっ!」
弁明の暇もなく、素晴らしい角度と速度で入るカリムの左ストレート。
ウルフウッドの顔に女の細腕で繰り出されたパンチとは思えぬ程深く拳がめり込み、哀れにも醜く歪む。
もし彼女が男に生まれていたら、拳闘の世界に革新をもたらしたことは確実である。
そして、その強力な拳打の威力にウルフウッドの長身が吹っ飛ぶ。
だが事はそれだけに終わらず、カリムはさながら戦い慣れた格闘家の如く彼の身体の上にその豊満な美尻を乗せて跨った。
「問答無用、あなたが泣くまで殴るの止めません!」
「あべしぃっ!」
メメタァ! と拳がめり込む音と共にマウントポジションのカリムの拳が無慈悲にもウルフウッドへと降り注ぐ。
無論、彼に抵抗の術などなくただひたすら美女の拳を顔面で味わうより他は無い。
後はもうお決まりのコンボ地獄だった。
数分後……
「やるやないけ、くれたるわ合格点……でもまだまだやで……泣き虫リヴィオ……駆け上れ……これからも」
「ニコ兄〜! 逝っちゃダメだよ、そっち逝ったら帰ってこれないって!」
散々喰らったカリムの鉄拳で、ウルフウッドはどこか懐かしい世界に逝って弟分に言い残していた。
そんな彼を必至にエリオがこっち側に引き止めようと身体を揺すっている。
流石にやりすぎたかと、カリムは少し申し訳無さそうな顔でそれを見ていた。
「えっと……ちょっとやりすぎちゃったかしら?」
「そうですね、せめて30発目くらいで止めておけば良かったかもしれません」
近接戦闘に特化した近代ベルカ式魔法の使い手であるシャッハは、その鍛え抜かれた動体視力でカリムのパンチを指折りながらカウントした。
「うう……だ、だってしょうがないじゃない……ウルフウッドさんが私のパ、パンツを……」
「ええ、まさかあの方が騎士カリムの下着をいやらしく淫蕩な目で視姦した上にその魔手で弄び、まるで極上の料理にするが如く咀嚼し味を堪能するなんて」
シャッハはわざとらしくかぶりを振って、ある事ない事ありえない話を、さも真実であるかの如く語る。
彼女のこの言葉に今まで死人のように倒れていたウルフウッドが蘇生を果たした。
「んな事してへんがな!」
「あら、もう起きられたんですか?」
「おかげさんで……あやうく、どっか懐かしい場所に逝きかけたで……」
ウルフウッドは殴られた顔をさすりながら、先ほどまで見ていた懐かしい涅槃の光景や弟分の顔に複雑な表情をする。
これにカリムはすまなそうに俯いて頭を下げた。
「あ、えっと……すいません……」
「いや、まあええねんけどな。ってか、なんやねん、お前らなんか用があって来たんか? まさかワイをボコりにきた訳とちゃうやろ」
「ああ! そうでした、実はお願いがあって来たんです」
ウルフウッドの言葉に、カリムは何か思い出したのかポムと手を叩いて声を上げた。
「お願い?」
「ええ、実はロッサがもうすぐこちらに来るのですが、なんでも今日は荷物が多いらしいので迎えに行って欲しいんです。私とシャッハはこれから少し仕事があるので、ウルフウッドさんがお暇ならお願いしたいんですが」
カリムはそう言うと、手にしたメモ用紙をウルフウッドに手渡す。
そこには待ち合わせ場所と思わしき場所の地図が記されていた。
「ん、別にええで。車とかあったら借りてええか?」
「あれ? ウルフウッドさん運転できるんですか?」
「これでも自信はあるねんで〜、任しとき」
ウルフウッドは自信満々といった様子でそう言うと、胸板をトンと小さく叩く。
そしてシャッハから車のキーを受け取るとエリオに残りの洗濯物を頼んで歩いていった。
エリオは彼にいってらっしゃいと笑顔で見送る。しかし、彼の背中が消えたところで少年はふと、ある事実に気付いた。
「あれ? そういえば……」
「ん? どうしたんですかエリオ君」
「騎士カリム、ニコ兄って車の免許持ってたんですか?」
「ええっと……あれ?」
十分後、交通法規とか社会常識を超越した運転技術と速度でミッドチルダの道路を暴走祭りする一台の乗用車がテレビ速報で流れた。
そしてその乗用車は見事に警察の追跡を振り切って失踪し、同時にウルフウッドがヘトヘトになったヴェロッサを連れて帰ってきた。
彼の“なんか知らんけどポリに追いかけられたで、まあ全力で振り切ったったけどな♪”という言葉にカリムの鉄拳が再び唸りを上げたのは言うまでも無い。
△
「ああ、しっかし車運転するのに免許とか必要なんやなぁ」
ウルフウッドは思わずそう漏らした。
彼が以前に住んでいた世界、乾いた荒野の惑星ノーマンズランドでは未だに車両運転に対する免許所持義務というものが浸透してはいない。
そもそも、交通法規が必要になるような道路なんて結構な大都市でもなければないのだから無理も無い事だ。
何より、幼少時より暗殺結社で訓練していたウルフウッドが教習所などと言う場所に通う暇などある訳もなく、彼の運転技術はミカエルの眼で師に叩き込まれたものだ。
しかしいくら運転できるからと言っても、無免許のままでは運転など許可されない。ましてや交通法規を無視して爆走するならなおさらだ。
故に今ウルフウッドはここへ通わなければならない……
「でも……だからってこれはちと辛いで……」
そんな事を漏らすウルフウッドの周囲には彼より遥かに若い(少なくとも外見年齢が)な少年少女の姿がちらほら。
ここは何を隠そうミッドの交通法規を学び運転技術を修得する為の場所、自動車免許教習所である。
しかし正直な話、平均年齢16〜20歳くらいの少年少女の中に外見年齢30代は超えているオッサンが混じっているのはかなり辛いものがあった。
ニコラス・D・ウルフウッド、周囲から浮きまくりである。
回りとのギャップに少しばかり驚きつつ、ちらりと隣りを見ればそこには金髪の美少女の姿があった。
年の頃は十代半ばだろう、きっと大きくなったら多くの男を魅了して止まない美女になるのは確実だ。
(綺麗なもんやなぁ、こりゃ将来有望やで)
しばし少女を横目に眺めていると、同時に時計が目に入る。もうじき講義の始まる時間だった。
するとウルフウッドの隣りに座った少女は何故かソワソワと慌て始める。
なにやらカバンを引っくり返したり、ペンケースの中を引っ掻き回していた。
どうやらペンか何かをなくした様だ。
(なんやそそっかしい子やな……ってか、足元に落ちてんのがソレとちゃうんか?)
ウルフウッドが視線を下に移せば、そこには少女の物らしきボールペンが一つ落ちていた。
きっと彼女はこれを探して慌てふためいているのだろう。
正直もう少し少女がアタフタする所を眺めていたかったが、流石にいつまでも放置しているのは可哀想と思い、ウルフウッドは床の上に落ちたペンを拾い上げた。
「ホレ、落としたのコレとちゃうか?」
「はにゃ!?」
少女の白く柔らかそうな頬を、横合いからプニっとペンの尻で突っつく。
思わず素っ頓狂な声を上げて驚く少女はまるで小猫のようで大変可愛らしいものだった。
振り返った少女はウルフウッドの持ったソレを見るなり、その赤い眼を丸くする。
「あ! コレ私の……」
「下に落ちとったで」
「あ、ありがとうございます」
「いやいや、まあ気にせんでええって」
頭を下げて礼を言う少女にウルフウッドが軽く返すと、そこで教室に講師の先生が訪れた。
講義が始まり、自然とそこで会話は中断されてしまう。
少女との関係はそこで終わると思ったが、講義が終わった時に今度は彼女の方から彼に声をかけてきた。
「あ、あの……」
「ん? なんや?」
「その……さっきはありがとうございました」
「ああ、んな事やったら気にせんでええって」
本当に小さな事だったというのに礼儀正しく感謝の言葉を述べる少女に感心しつつ、ウルフウッドは間近で見るその容姿の美しさと若さに改めて感服した。
彼のその眼差しに、少女は不思議そうに首を傾げる。
「あの何か?」
「いやぁ、それにしても若いなぁっと思ってな。そないな年で車とか乗るんか?」
「はい、仕事の時にも役に立ちますし」
「仕事!? その年で仕事しとるんか?」
少女の言葉にウルフウッドは驚きを隠せずに思わず大きな声で驚愕を露にした。
就業年齢がかつて自分のいた世界とはかなり差があるとは聞いていたが、実際に目にすればやはり驚きを感じずにはいられない。
「ええ、一応管理局の執務官なんですよ」
「はぁ〜、大したもんやなぁ」
管理局といえば、カリムも席を置いているというこの世界の警察のようなモノらしい。
そして執務官という名前から察するに事件の捜査などをする仕事だろう。
少女の温和そうな外見からは想像もできない役職に、ウルフウッドは心底驚嘆した。
彼がそんな顔をしていると、ふと少女がなにか思い出したかのように口を開く。
「あ! そういえば自己紹介がまだでしたね、私はフェイト・T・ハラオウンって言います」
「おお、こりゃ語丁寧に。ワイはニコラス・D・ウルフウッドっちゅうもんや、よろしゅうな」
軽く握手を交わし、こうして二人は互いの自己紹介を終えた。
△
「ほんじゃまぁ、ちゃっちゃと洗うか」
「うん」
「はぁ〜い」
「りょうかいで〜す」
時刻は昼時、孤児院の子供達が胃袋を満杯にして昼食を終えて後に残った大量の食器類をエリオを含む数人の子供とウルフウッドは流し台で洗い始めた。
子供の人数が多い分食器の量も半端ではないが、こうして何人かで協力すれば実にスムーズに運ぶものだ。
山のように積まれていた食器も、瞬く間に汚れを洗い落とされて綺麗になっていく。
子供達と彼らの兄貴分との共同作業、自然とその最中には他愛ない会話が生まれる。
最初に口を開いたのは孤児院の子供の中でも特にウルフウッドに懐いているエリオだった。
「ねえニコ兄、免許の方はどう? 順調?」
「ああ、もう実技はばっちりや。元々運転はしとったしな」
「そうなんだ、じゃあもうすぐ買い物も楽になるね」
「おお、教習所で知り合った子ももうすぐ取るみたいやしなぁ」
「へぇ、どんな人?」
「ああ、金髪の綺麗な子で……」
ウルフウッドがそう言葉を繋ごうとした時だった。
彼の後ろに誰かの気配が近づいてくる感覚がすると同時に、人の足音がする。
ウルフウッドはドアノブを回す音と、床を軋ませる間隔、そして気配で相手を特定すると背中越しに声をかけた。
「おう、シャッハかいな」
「よく分かりましたね、後ろに目でもついてるんですか?」
「勘や勘、それでなんぞ用でもあるんか?」
ウルフウッドは手にした食器を片しながら、首だけくるりと振り返る。
支援
そこには案の定彼が予測した通りの人物、シャッハ・ヌエラの姿があった。
だがそこにいたのは彼女だけではない。そこにはつい最近ウルフウッドと良く顔を合わせるようになった一人の少女がいた。
管理局執務官の黒い制服に身を包み、その漆黒に似合う輝く艶やかな金髪とルビーのような赤い瞳の美少女。
その美しい紅色の眼とウルフウッドの視線が中空で交錯し、二人はキョトンとした顔になる。
ウルフウッドの隣にいたエリオは少女の顔を見るや、驚きと共に彼女の名を自然と漏らした。
「あ! フェイトさん」
「ええ、実はこちらのテスタロッサ執務官という方がエリオ君の面会にいらっしゃったので、ここまで案内したんですが……って、お二人ともどうなさったんですか?」
意味深に視線を交わして何ともいえないと言った表情になっていた二人の様子に、シャッハは首を傾げて尋ねる。
「いや、まあなんちゅうか……なあ?」
「はは……奇遇ですね」
ウルフウッドとフェイトは、互いに顔を見合わせて苦笑する。
二人の浮かべた表情の意味を図りかね、シャッハとエリオは不思議そうに首をかしげていた。
本来ある筈であった運命とある筈の無かった運命が交錯し、さながら神の悪戯か、ここにまたこうして奇妙な出会いを紡ぎだした。
続く。
オマケのカリムさん。
聖王教会本部の広大な敷地の中、にカリム・グラシアが日々を過ごす彼女の家は存在する。
そして時刻は深夜、普段は明かりの消えている筈の彼女の私室にはまだ煌々と蛍光灯の光が灯っていた。
部屋の主であるカリムが夜分遅くまでナニをしているかと思えば、彼女はパソコンの画面を食い入るように眺めていた。
「ヤダ……こ、こんな破廉恥な……」
頬を羞恥で染め上げて、顔を手で隠しながら金髪の美女はパソコンの画面をおっかなびっくり見つめている。
いや! 別にいやらしい画像を見ていたとかそんな理由ではない、念のために。
彼女が見ているのはとある女性もの衣服のショップホームページである。
ちなみに項目は下着。
それも“アダルト”や“色気”や“男を刺激”などと謳い文句の書かれた、とても聖職者の見るモノとは思えない感じだった。
「こ、これならもう“オバハン”だの“色気がない”だの言われないわよ……ね?」
恥ずかしそうに頬を染めながら、カリムは誰にでもなく一人そう呟いた。
その後、彼女が“購入ボタン”をクリックしたかどうかは神のみぞ知るところである。
投下終了。
いやぁ、随分間を空けてしまってすいません。
そして前回、「今度はツインテを出す」って言いましたが、今考えたらフェイトはもうこの時ツインテじゃないという罠www
ちゃんと確認しないと駄目ですね、どうもこの子はツインテの印象が強い。
そしてまぁ、今回も例にもれず戦闘皆無だった。
平和が一番だ、うん。
そして、次回あたりは八神家とか出るかもと言ってみたり。
GJ
別段ニコラスは戦う必要なしなので戦闘皆無で問題ないです
リヴィオへの言葉がここでの臨死体験かよ!!
そしてカリムが購入したのかどうかが凄く気になる
それと下着の説明に随分力が入ってましたね
GJ(裏声)
GJでしたー!
ウルフウッド……ムチャシヤガッテ。
そんなシュチエーションのアドバイスを受けても微妙に過ぎるわww これで勝ったとリヴィオが知ったら凹むぞww
そして、カリムは聖職者あるまじきやらしさですね。け、ケシカラン!
もうこのまま平和人生を歩んでください、カモーン ピース!
次回も楽しみにしてますねー!
328 :
一尉:2008/11/25(火) 16:55:22 ID:eUvQRzKL
OKたよ支援
ニコラスの方、乙です。
エリオのこれからも気になりますね。
ラヴアンドピース。
数日後、そこには刺激的な下着を目の当たりにし鼻血を押さえるエリオの姿が!
ニコ兄が「ここにはガキどもがおるんやで。そいつらに洗濯物とはいえ『そんなん』見せていいと思っとるんか?」とか言いそうですね。
GJ!!です。
カリムwいいぞ、もっとやるんだwww
>>331 子供の特権、スカートめくりをされた時に黒Tバック発覚とかw
その長いスカートの下で、そんな下着を着けて興奮してたのか?あぁ!?とか聞きたいぜw
これはまさかのカリムフラグ!?
いいぞ、どんどんいけカリムさん!
あと、ウルフウッドが戦闘始めると、一気にハードボイルド一直線になりそうなんで、このままほのぼの路線でもいいと思います。
334 :
一尉:2008/11/26(水) 15:40:40 ID:G05jBp+o
カリム支援
この例を出すのが適当かは分からないが、禁書目録で白井黒子が穿いているという下着なのかレースなのか分からないシロモノを穿いているカリムさん。
……スカートめくりに挑戦した悪ガキが成功後、その肌色っぷりに『あれ、カリムねえちゃん、はいてない?』と疑問に思うに違いない。
初めまして、一つ投下してみようと思います。
クロス元はヴァルキリープロファイルです。
ではよろしくお願いします。
歪みのユグドラシルの頂上、そこに一人の魔導士が存在した…
魔導士は神の力を得て、自分の欲望の儘にその力を振るった…
しかし、どんなに強大な力でも“愛しき者”を手にすることは出来なかった…
「神とは…思い描いてたほど万能ではなかった…」
魔導士は“愛しき者”への思いと共に光の粒子となって消滅した……
リリカルプロファイル
第一話 接触
とある次元世界の森の中、二人の女性が計器を頼りに何かを詮索していた。
ひとりは霞かがった金髪の女性、もう一人は紫のショートヘアの女性である。
「反応だとこの辺りなんだが」
「あれではないのか?」
紫の髪の女性が森の中を指す、その方向には青を基調とした服に黒いマントを羽織った眼鏡の青年が倒れていた。
金髪の女性は倒れている青年を見るや否や、誰かと連絡を取り始めた。
「ドクターはなんと言っている、ドゥーエ?」
ドゥーエと呼ばれた女性によると、ドクターと呼ばれる者は倒れている青年に興味があるらしく
自分達のアジトに連れてきて欲しいとの事だった。
「それじゃあ頼んだわよトーレ」
「えっ私がか!?」
「当たり前でしょう、アナタは戦闘型なのだから」
ドゥーエに指を刺された紫の髪の女性トーレは、渋々青年を担ぎ上げ、二人はその場を後にした。
暗い闇…青年は考えていた…
何故“愛しき者”は振り向いてくれないのか…
“愛しき者”に釣り合うほどの力も得たのに…
青年は考えた…“愛しき者”が自分の物にならないのなら…
自分を愛す“愛しき者”を創ればいいと…
「むぅ…此処は一体……」
青年は目を覚まし起き上がる、そこは白いカーテンがかかった部屋だった。
カーテンを開けると周りには同じようなベッドが並んでおり、青年は此処が医療室だと理解した。
自分は確か魂を消滅されたはず、青年はそう考え始めていたその時、不意に扉が開く音がした。
青年は思わず音の方向へ目を向ける。
「やっと起きたか」
青年が目を向けた先には紫の髪の女性トーレが部屋に入って来た。
トーレは青年が目を覚ました事を確認すると、誰かに連絡を取る様子を見せた。
「ドクターがお前に会いたいと仰っている。付いて来い」
そう青年に告げるとトーレは部屋を出て行く、青年はこのまま此処にいても仕方がないと考えトーレの後を追う事にした。
暗い通路を進んだ先、広い部屋に通される。どうやら此処は研究室のようで、至る所に標本が並んでいる。
その部屋の中心部に二人の人物が立ち並んでいた。一人は白衣を着た紫の髪の男性。
もう一人は紫のロングヘアーの女性で、男性の影のように立っていた。
「ドクター、例の人物を連れて参りました」
「あぁ、ありがとうトーレ、下がっていいよ」
トーレは一礼をすると、そのまま来た道を帰って行く。
そして白衣の男性は振り向くと青年に声をかけた。
「やぁ、目覚めはどうだい?」
「…ベッドが悪質なおかげで良い目覚めでしたよ」
青年は皮肉が混じった返事を交わす、しかし白衣の男は「それは良かった」と皮肉で返す。
そんなやりとりの中、青年は白衣の男に質問をかける。
「いくつか質問をしてもよろしいですか?」
「構わないよ」
「此処はどこです?」
「私のラボだよ」
「どうして此処に?」
「君が森の中で倒れていたからだよ、三日も前の事だが」
森の中?私は確かユグドラシルの頂上にいたはず…まさか魂が消滅される際に、ここに転移したのか?
顎に手を当て考え込む青年に白衣の男が質問をし返す。
「此方も質問をしても良いかい?」
「……どうぞ」
「率直に聞こう、君は一体何者なのだね?」
「……質問の意味が分かりかねますが」
「失礼ながら君が眠っている間君の体を調べさせてもらったよ。安心したまえ何もしてないよ
いや…“何も出来なかった”と言った方が正しいかな」
白衣の男によると、自分の体の中にあるリンカーコアの魔力が圧倒的に高いと告げる。
リンカーコアと言うのは魔法を使うために必要な魔力の源らしい。
「だがそれだけではない!君の体には更に圧倒的な力が眠っている。
私はその力を調べようとしたが、君の体は見たことのない術式で封印されている、
いや…むしろその術式でその力を制御していると言った方がいいだろう」
青年は少し驚いた、白衣の男にとって自分の力は未知の力の筈なのに
此処まで分析されるとは思っても見なかったからだ。
そして、それと同時に彼の能力を高く評価した。
「一体その力は何なのだね?」
「まぁ…愚神の力とでも言っておきましょう」
愚神?それは何かと訪ねてみたが、青年にうまくはぐらかされてしまった。
白衣の男は気を取り直し本来の目的である、青年との交渉を始める。
交渉の内容とは自分が立てている計画に青年の力を貸して欲しいという事
そして、力を借りる代わりに青年の要求をなんでものむという事だった。
少し考えさせて欲しいと青年は背を向け考え始める。
交渉の内容は青年に有利と感じたが、青年は利用するのは好きだが、利用されるのは好きではなかった。
だが、此処で意固地になったところで状況が変わる訳ではない
むしろ青年は男とその計画に興味を抱いていた。
「まぁいいでしょう、せっかくのお誘いです。協力しましょう」
「では交渉成立と言うことだね、私の名はジェイル・スカリエッティ……君の名前は?」
白衣の男は名を名乗り、右手を差し出す。
「……私の名はレザード、レザード・ヴァレスです」
レザードは不敵な笑みを浮かべながらスカリエッティの手を取った。
以上です。改行忘れ、誤字、脱字などあったらスミマセン。
>>340 乙&GJです!
ヴァルキリークロス来ましたね、次回が楽しみです。
何この超弩級の変態コンビ、乙。
GJ!
自分も投下をしてもよろしいでしょうか?
本当はもう少し後になる予定だったのですが、色々あって投下を前倒しすることになった、遊戯王5D'sクロス第1話です
では、投下します
//////////////////////////
ミッドチルダ。
広大な次元世界の海の中、一際目立った発展を遂げた世界である。
時空管理局を運営する世界連合の中心に位置する、いわば超大国とでも言うべき世界だ。
現在多くの魔導師が愛用している術式――いわゆるミッドチルダ式も、その名の通りこの世界の発祥である。
優れた文明水準と魔法技術のもとに、繁栄を極めた世界。それがミッドチルダ。
だが、いかに発達した文明であろうとも、社会の暗部というものは確実に存在する。
光と影は表裏一体。否、光が強ければ強いほど、影もその暗闇をより深きものとするのである。
高い市民生活水準を誇る首都クラナガンにも、そうした影というものは存在していた。
――廃棄都市区画。
そう呼ばれる場所が、この地にはあった。
要するに、既に都市としての機能を失った場所である。
たとえば災害による被害であったり、非合法組織によるテロリズムであったりと、その原因は様々だ。
建造物は朽ち、道路はひび割れ、人が住むには心もとない。
とはいえ、そう簡単に撤去できるほどの予算も時間も割く余裕はない。
そうした場所は廃棄都市区画の烙印を押され、非居住区として隔絶されるのだ。
もちろん、捨てられた土地に値段はつかない。元いた住民も、別の区画へと移動させられている。
勝手に誰かが住んだところで、文句を言う人間など誰も居ない。
だからこそこの廃棄都市は、そんな人間達の寄りべとなり、いつしか一種の貧困街としての側面を持ち合わせていた。
理由は様々だ。金がない。仕事がない。親がいない。
そんなないない尽くしの人間達が、都会の高い土地代や税金から逃れるため、この廃棄都市に住み着くようになった。
人が集まれば、そこには自然とコミュニティが出来上がる。そうしてスラムが完成する、というわけだ。
故に廃棄都市区画は、犯罪やテロの温床としても知られている。
貧しい者、社会に不満を持つ者が徒党を組めば、自然と過激なグループが成立していく。
そうした連中によって巻き起こされる破壊活動に、時空管理局地上本部は、常々頭を痛めていた。
ところがある時、異変が起こったのだ。
「やはり、そうか」
熊の唸りのような男の呟きが、部屋の中で響いて消えた。
地上本部長官室。さながら断崖絶壁のごとく、巨大な本棚に挟まれた部屋。
時空管理局地上部隊の、あらゆる資料が納められたデータバンクのデスクに座るのは、防衛長官レジアス・ゲイズ中将だ。
地上本部の多くの実権を握っており、この恐竜のごとく肥大化した、地上本部の実質的なトップである。
その男が今、厳ついひげ面を気難しそうに歪め、提示された資料をじっと見つめていた。
「はい。緩やかにではありますが、数ヶ月前から、大規模な犯罪活動の発生件数が明らかに減少しています」
事務的な声で報告するのは、傍らに立つ金髪の美女。
スマートな印象を受けるその容姿は、“肉親でありながら”レジアスの肥満体とは似ても似つかない。
オーリス・ゲイズ。レジアス専属の秘書官にして、実の娘だった。
髪の色にしてもそうだ。父親の髪は、それこそ熊のような茶色である。恐らく彼女は母親似だったのだろう。
そのレジアスの手元に置かれた書類には、いくつかのグラフや細かな活字が書かれている。
このクラナガンにおける、テロや強盗等の重犯罪に関する統計資料だ。
普通に見てみれば、それこそ何のこともない資料だろう。せいぜい、この平和な街の犯罪件数が、意外と多いのかと思うくらいだ。
だが、オーリスによって分析されたそれを見ると、ある事実が浮かび上がってくる。
3ヶ月ほど前から、徐々にその件数が減少の一途をたどっているのだ。
無論、普通に見ただけでは、目立った変化とは思えない。
だがその3ヶ月前の段階と、数日前の件数報告とを照らし合わせると、その犯罪件数は2割近く減少している。
「犯罪抑止のための警戒強化は、怠ったつもりなどないが……それでも、この傾向は異常だ」
咥えていた煙草を口から離し、レジアスの太い指が灰皿へと運ぶ。
炭化した先端を押し当てると、そのままぐりぐりとすり潰した。
「何度叩きのめしても、ネズミのように湧いてくる犯罪者共が、そう簡単に大人しくなるはずがない」
忌々しげに呟くと、両の肘をテーブルへと突き、顔面の前で両手を組む。
「と、いうと?」
「恐らく廃棄都市区画で、何らかの異変が起こっておる。奴らの頭を一発で冷やすほどの、何かがな」
オーリスの問いに、レジアスが答えた。
恐らく、とは言ったが、これはほぼ確定事項と捉えていいだろう。少なくとも、レジアス自身はそう思っている。
これまで管理局がどれだけその芽を摘んできても、後から後から湧いてきた連中だ。
そんな奴らが、高々警戒の強化くらいで引っ込むはずがない。実際、今までそうしてきても駄目だったのだから。
だからこそ、今まで海の連中に白い目で見られようとも、軍備強化を訴えてきたわけだし、
そんなことで大人しく黙られでもすれば、今までの自分の努力は何だったのだ、とでも思いたくなる。
複雑な心境でもあるが、この現象の原因は管理局ではない。奴らはそんな腰抜けではない。
恐らくは廃棄都市区画に、その管理局以上に恐ろしい存在が姿を現したのだ。少なくとも、スラムの住人達にとっては。
「すぐに人員を手配しろ」
であれば、探りを入れる必要がある。
レジアスは短くオーリスに命じた。
何者があの死にぞこないの街に現れたかは知らないが、放っておくわけにもいかない。
正体が分からない以上、そいつが管理局の味方であるという確証はどこにもないのだから。
下手をすればこの犯罪鎮静化も、あの区画の連中を手なずけているが故のことである可能性もある。
何のためにかは言うまでもない。廃棄都市の人間全員を統率し、管理局と抗争を行うためだ。
要するにその何者かは、今のところはテロリスト達と同じ、不穏分子なのである。
「小賢しい奴め……」
ぎり、と。
強面の口の中で生え揃った奥歯が、軋む音が微かに鳴った。
一礼し、その場を立ち去るオーリスは、肩越しに父の姿をちらと見やる。
果たしてその苦々しげな表情に浮かぶのは、正体不明の不穏分子への懸念のみなのだろうか。
(プライドというやつね……男の人の)
いや、それだけなどではないはずだ。
要するに、レジアスは腹を立てている。
今まで40年にも渡り、この地上のために尽力してきた自分。
この名前も顔も素性も知れぬ存在は、そうした自分の努力の足跡の先を、あっさり進んでいるのだから。
管理局員としての公の立場だけではない、1人の男としての劣等感。
それが今まさに、背後のレジアスを苛立たせている。言葉にせずとも分かる。伊達に長いこと親子をやってはいない。
とかく男というものは、プライドに囚われやすい生き物だ。
自らの矜持が強いが故に、すぐに傷つき、心の平静を崩してしまう。捨ててしまえば楽なのに、それを捨てることもできはしない。
微かに哀れみを浮かべた瞳で父を見やると、オーリスは部屋を後にした。
戦闘機人ナンバーU・ドゥーエが、廃棄都市区画の調査を命じられたのは、ほんの偶然による結果である。
レジアスの影の協力者にして、異端の科学者ジェイル・スカリエッティ。
その隠密として、本局の最高評議会に潜入し、管理局側に対し、情報面でのアドバンテージを得る。
それを実現するために送りこまれたのが、変身能力に特化したドゥーエだった。
無論、ただ最高評議会でうろうろとしているわけにもいかない。あくまで主戦場は地上なのだから、そちらに探りを入れる必要もある。
そんなわけで、この時はたまたま、地上本部の方に顔を出していたのだが。
「……なんでそこで、こんな仕事を押し付けられることになるのかしらね」
ふぅっ、とため息をつきながら、気だるげに呟いた。
本来の姿の金髪とは異なり、鮮やかな桜色を宿した長髪が、荒涼とした風に舞う。これが彼女の地上本部勤務時の「顔」だ。
そしてそのドゥーエだが、今いる場所は地上本部ではない。
クラナガンの郊外に位置する、廃棄都市。まさしく現在の案件の舞台である。
着ている服も管理局の制服ではなく、グレーのスーツ姿だった。管理局員の服装は、このスラムでは目立ちすぎる。
要するに、こうして廃棄都市で聞き込みに回っているわけだ。
得られた情報はそう多くはなく、抽象的なものばかり。
確かにこの廃棄都市に、何者かが現れたというのは事実のようだが、この辺りにはあまり顔を出してはいないようだ。
曰く、白いバイクに乗っているらしい、とのこと。曰く、金色の冠を被っている、とのこと。
曰く、魔法とも質量兵器ともつかぬ、未知の力を操る男である、とのこと。
耳にする情報は全てばらばらで、要領を得ないものばかり。
こうした都会然とした容姿が、相手に警戒心を抱かせているのかもしれない。
とはいえ、自分も上官に、管理局員その1として任務を受けて来たのだから、それらしく振舞わなければ、そちら側に不審がられる。
しかし、得られたものが1つあった。
こちらを警戒し、ろくな情報も出さず、得られたものも全てちぐはぐ。だが、全ての人間が、ある共通のキーワードを口にしていた。
「“キング”、ね」
それが、その男を指す共通の呼び名だった。
誰もがその言葉だけは、いの一番に発していた。
キング。すなわち、王の称号。
そこに込められた畏敬の念は、ごまかしようのない事実。
この貧困街だ。バイクに乗るのも、王冠を持つのも、それこそ王と呼ばれるに相応しい財力の証明だった。
だが、それだけではない。ただ金を持っているだけでは、ここの貧民達をああも束ねられるはずもない。
(ここに住む連中の視線……)
この廃棄都市に足を踏み入れてきてから、ずっと感じていたものだ。
ビルの残骸から。物陰から。あるいはそこらに座っている人間が直接。
ぎらぎらとした眼光が、舐め回すようにしてこちらを眺めている。
スパイという仕事柄、いわゆる枕仕事というものもそれなりにこなしてはきた。
言うなれば、その時の下衆な男共の視線の感触が近いのか。
ありとあらゆる人間達が、欲望を孕んだ視線でこちらを見ている。都会暮らしの人間を。
そこには妬みだとか、苛立ちだとか、そうした感情もまた込められているのだが、その欲望だけは隠しきれない。
もしも自分が非力な女ならば、即座に暴漢に襲われていただろう。身包みを残らず剥がされ、自身は下品な雄共の餌食だ。
こうして油断なく、隙を見せない“形”を装っていなければ、そんな末路を遂げていたはずだ。
もっとも、機械部品によって身体を強化された戦闘機人である彼女ならば、こんなゴロツキ連中に遅れを取ることはないのだが。
ただの金持ちでは、彼らをまとめることはできない。力のない者はトップに立てないし、立ったとしても即座に取って代わられる。
法という後ろ盾がないこのスラムでは、それこそが唯一普遍の真実。
そう――自分の身が守られている理由は、そこだ。
(力)
力を見せているからこそ、自分は襲われずに済んでいる。
力を示しているからこそ、彼らを屈服させることができる。
自分ではこの者には勝てないと。そう相手に思わせることができるほどの力。
それこそが、キングと呼ばれる男の影響力の、最大の要因であるはずだ。
もちろん、それは中途半端な力ではない。たとえば、自分が彼らを止めることはできても、従わせることはできないように。
圧倒的な力が要る。ブラフなどではない、絶対的な力。
魔法とも質量兵器ともつかぬ未知の力、という言葉があった。
確かにそんなものがあるのならば、それだけのものを持っていてもおかしくはないとは思う。
後は、その正体を探ること。
キングを知る必要がある。直接会うとまではいかずとも、彼を知る人間を捜さなければならない。
(私達の――ドクターのためにも、ねぇ)
にやり、と。
ドゥーエの口元が、微かに歪んだ。
それだけの力があるのならば、国家の転覆を狙う自分たちとしては、見逃すわけにはいかない。
廃棄都市の統率なきゴロツキ達を恐怖させ、間接的に支配させるだけの力。しかも管理局には所属していないときた。
可能ならば、味方に引き入れておくに越したことはない。
なに、相手は廃棄都市に住むような貧乏人だ。交渉の手段など、いくらでも思いつく。
(さて……噂のキング様というのは、どんな人なのかしらね?)
そしてドゥーエの笑みは、次の瞬間、どこか楽しげなものへと変わっていた。
個人的に興味が湧いたのだ。廃棄都市をたった1人で影響下に置いた、キングという名の謎の男に。
果たしてその男は、一体どんな奴なのか。このひび割れたコンクリートの猿山の大将は、どんな人間なのだろうか。
どんな力を使い、どんな顔をし、どんな性格をしているのか。
今まで接してきた男達の延長に過ぎないのか。はたまた、それらとはまた異質な存在なのか。
男という生き物に対し、これほどに興味を覚えたのは久しぶりかもしれない。
わくわくと胸が躍るのを感じながら、桃色の髪を揺らしながら。
かつり、かつり、と。ひびの入ったアスファルトを鳴らし。
ドゥーエは一歩一歩と、その足を進めていた。
どれだけの時間が経っただろうか。
数十分歩き詰めであろうとも、戦闘機人は疲れたりしない。故に、何事も起こらないと、時間の感覚も曖昧になる。
携帯端末に示された地図データを見れば、自分が今、廃棄都市区画のおおよそ中心部にいることが見て取れた。
この辺りをうろついていれば、キングを知る者にも会えるかもしれない。
大体領土を開拓しようとする時、人間は中央を目指すものだ。そうすれば、周囲への影響力も大きくなる。
ドゥーエがキングの立場に立って考えてみた結果、やはり彼の影響の大きい場所となると、この一帯という結論が出た。
きょろきょろと周囲を探る。相変わらず貧乏人共の視線は変わらない。とりあえず、適度に凄みを効かせておく。
情報収集というものは、闇雲にやっていても意味がない。何より、ここはアウェーなのだから。
だからこそ、聞き込みをするのならば、頭のよさそうな人間を選りすぐる必要がある。それが彼女の持論だ。
さて、都合のいい人間はいないものか。
この先には壊れた噴水広場跡があるはずだが、そうした開けた場所になら、手頃な人間もいるかもしれない。
「――きゃあっ!」
と、その時。
声がした。
不意に、右の方から。
そちらの方へと視線を飛ばす。建物の合間に出来た小道は、隣の通りへと繋がっていた。
突然そこから聞こえてきた少女の声。ほとんど直感的に、ドゥーエは身体を動かしていた。
この声のする方には、何かあるのかもしれない。根拠などはなかったが、今はそのひらめきに従う。
戦闘機人ドゥーエの持論、その二。磨き抜かれた女の勘には、従っておいて損はない。
小道に入り、そのまま通りに出ない程度に身を潜める。
そこにはアスファルトのひびに足を取られ、転んだ1人の少女の姿があった。
「へへへ……」
「もう逃げらんねぇよなあ?」
怯えた視線の先には、3人の男達の姿がある。いわゆる、チンピラという言葉が似合いそうな連中。
少女の手には、大きなパンが握られていた。大方男達は、彼女が何らかの手段で手に入れたそれを、頂戴しようとしているのだろう。
こうしたスラム街ではよくある話だ。獣と同じ、弱肉強食。油断を見せればすぐ奪われる。
そんなありきたりな光景を、何故かドゥーエはずっと息を潜めて見つめていた。
いいや、既に勘の答えなら出ていた。何故このいざこざに、自分が注目していたのか。
「た……助け、て……」
恐怖に震える少女の声が、蚊の鳴くような音量で吐き出された。
考えてもみればすぐ分かる。ここはキングと呼ばれた男の、恐らく勢力圏のど真ん中だ。
そんな縄張りの真っ只中で、この騒ぎである。
もっとも、ここにキングがいないのでは、という可能性もあった。
それならば少女はこのまま、タコ殴りにされてパンを奪われるだけだ。そして自分も何食わぬ顔で退散するだけである。
だがもしも、本当にここにキングがいるとしたら。
自分が支配下に置いた土地で、無粋な騒ぎを起こす連中がいたとしたら。
「――このクズ共がッ!」
ハラワタが煮えくり返るほどに、鬱陶しいことこの上ないに違いない。
「なっ!?」
低い男の声。威圧感を放ちながら、よく響き渡る鋭い一喝。
さながら、王者の号令のごとく。
突然背後から浴びせられた罵声に、男達は一様に振り返った。
ドゥーエもまた、それにつられるようにして、声のした方へと視線を向ける。
1人の男が、そこに立っていた。
しかし、その風貌の何としたこと。
身に纏うのは純白のロングコート。眩い輝きすら放つようなそれは、この貧民街には自分以上に似合わない。
両の耳につけたピアスは、これまたド派手な「A」の文字。その頭を彩るのは、それらに負けぬ風格を持ったブロンド。
ところどころが鋭角的に逆立ったそれは、まさに王者のクラウンを連想させた。
誰に説明されずとも分かる。この時彼はバイクなど持っていなかったが、そんなものは必要ない。
射抜くような紫の視線。プライドの色を双眸に宿した、精気たぎる野獣の長の眼光。
この男だ。間違いない。そもそもこの男でなければ、一体他に誰がいると言うのだ。
今まさに目の前に、あの男がいる。
わざわざ汚らわしい廃棄都市を歩いてまで、探し求めたあの男がいる。
この金髪の青年こそが。
「キ、キング……!」
「ジャック・アトラス!」
彗星のごとく、廃棄都市に現れた王の正体だ。
「帰って、きてたのか……」
3人の男のうちの1人が、弱々しい声音と共に口を開いた。
先ほどまでの下品な笑みも、指をぽきぽきと鳴らしていた余裕も既にない。この男の存在に、完全に萎縮した様子だった。
それは他の2人も同じ。膝はがたがたと笑い、顔はひくひくと引きつり、脂汗がだらだらと流れる。
ジャック・アトラスと呼ばれた青年は、先ほどまでの男達の勢いを、完全に叩き壊していた。
アトラスとは確か、神話に謳われた巨神の名だったか。一説には、天地をその手で支えたとも。
この王者と呼ばれし男には、まさにこれ以上ないほど相応しい名前だろう。
ジャック自身、その背丈はかなり高い。
だがその身より放たれるプレッシャーが、相手を見下ろす威圧的な眼光が、彼のスケールを更に大きく見せ付けている。
それこそ、まさに巨人のような。それほどまでに、この男の存在感は群を抜いていた。
「この俺のテリトリーで、好き放題暴れまわるとは……余程身の程が分かっていないらしいな」
己が領土に不要ないざこざを持ち込んだことへの、静かな怒りを語気に込め、ジャックの左腕が持ち上げられる。
そこにあったのは、何やら奇妙な機械だった。
全身にばかり気を取られ、細かいところへと目が行き届いていなかったらしい。ドゥーエは今になって、それの存在に気付いたのだ。
全く見覚えのない形状。円盤のような物が腕に取り付けられ、そこから金属のプレートが伸びている。
一瞬デバイスかとも思ったが、どうやら違うようだ。そもそもキングは、魔法の力を使わない。
であればあれこそが、聞き込みの中で聞いた、魔法とも質量兵器ともつかぬ武器の正体か。
「ならば今一度刻み込んでやる! キングがいかなるものであるかということを!」
刹那、雄たけびと共に、ジャックの右腕が伸びた。
さながら騎士の抜刀のごとく。
左腕の機械から、何かが勢いよく抜き放たれる。
否、それは剣ではない。もっと薄く、小さな何か。そしてあの形状は、とても剣とは形容できない。
(カード……?)
どこからどう見ても、それはカードだった。
管理局員の局員証。車に乗るための運転免許。ちょっと洒落たものではカードキー。
そんな風に、この日常にはあまりにもありふれたもの。ジャックが取り出したのは、まさにそれだったのだ。
そして円盤から引き抜いたそれを、勢いよくプレートへと叩きつける。
「ビッグ・ピース・ゴーレム!」
叫んだのは、その名前だったのか。
刹那、カードが発光した。
一瞬目を覆いたくなるような、眩い光。プレートにセットされたそれが、強烈な光度を周囲へとばら撒く。
「っ!?」
そして、息を呑んだ。
光の中より、突如姿を現したものがあったのだ。
それを一言でたとえるのならば――まさしく、怪物。
円柱型の巨大な岩に、大きな手と足の生えた、異様な風体のオブジェがあった。
中央の岩に掘り込まれた目が光り、口が吼え、まさに顔として機能する。当然、無骨な四肢も生物のように動く。
否、それはオブジェなどではない。生物のようなものではない。岩の身体を持った生物そのものだった。
一体何が起こったのか。召喚魔法が行使された形跡など、どこにも見られない。
そもそもそれ以前に、戦闘機人のセンサーは、召喚獣が持つべきリンカーコアを感知していない。
唸りと共に、正体不明の岩の化け物は、その巨大な張り手を叩き落とす。
ずぅん、と音が鳴った。めりめり、と大地が軋んだ。
ひび割れた道路は更なる亀裂を描き、そのまやかしではない破壊力を存分に物語る。
「その矮小な脳に刻むがいい! これが! この絶対的な力こそがキングだッ!」
大地を揺るがす一撃にすらも、霞むことなき咆哮が。
岩石の巨人の威容にも勝るとも劣らぬ、圧倒的な存在感が。
ジャック・アトラスの口を突き、廃棄都市区画の中で轟き渡った。
「ひ、ひいぃぃぃぃっ!」
男達は情けない悲鳴を上げ、一目散に逃げていく。
無理もない。何もない場所から化け物が現れ、あれほどの力を見せ付けたのだ。
さながら悪夢が現実化したような。もしもドゥーエが戦闘機人でなければ、信じることはできなかっただろう。
予想以上の存在。まさしく規格外の男。
随分と久しぶりに、頬に冷や汗の湿り気を感じ、彼女は二度目の驚愕を覚えた。
「あ……ありがとう、ジャック……」
目の前では襲われていた少女が、立ち上がりながらジャックに礼を述べる。
「フン……」
当の金髪の男はというと、興味なさげに鼻を鳴らした。
そしてそのまま、見事な白コートを翻し、無言でその場を去っていく。
圧倒された。その物言わぬ背中にすらも。そのまま追うべきだったところを、何も出来ぬままに見送ってしまった。
そのまま1秒が過ぎる。5秒。10秒。
「……ふぅぅ〜っ……」
たっぷり20秒の間を空けたところで、ようやくドゥーエは息をつき、そのままその場にへたり込んだ。
(あれがジャック・アトラス……廃棄都市のキング、か)
内心で呟く。
成る程確かに、あれほどまでの存在感があれば、このスラム全土にその名を轟かすのには十分だろう。
下手な魔導師すら凌駕する力。それを具象化する未知なる装置。魔道生命体ですらない謎の化け物。
まさかただの情報収集で、あんな万国ビックリショーを見せられることになるとは、思いもよらなかった。
そして何より、他者に有無を言わさぬあの風格。さすがに自らキングを名乗るだけはある。
さて、どうするか。ドゥーエは次なる手を模索した。
ここにジャックがいるということは分かった。であればこのまま、直接会うべきか。
否、まだ情報が足りない。あの気難しそうな男を転がす方法が、まだ頭の中で定まっていない。
ならば今まで通り、情報収集をすることから始めるべきだ。
幸いにもここは当初の推測通り、あのジャックの勢力圏である。これまでよりも、より多くの情報を知ることができるはずだ。
《――やぁドゥーエ、聞こえるかい?》
と、その時、不意に脳裏に声が響く。
周囲には聞こえていない。ドゥーエのみが、その声を耳にすることができる。
魔導師の念話を元に考案された、戦闘機人の内蔵式無線通信だ。
聞こえてきたのは男の声。自分以外の戦闘機人は皆女性。であれば、通信を行ってきた相手はただ1人。
《これはドクター。一体どうされました?》
自らもまた、無音の声を電波に変えて対応する。
ドクター――すなわち、ジェイル・スカリエッティ。他ならぬ、彼女を生み出した創造主だ。
彼が自分からコンタクトを取ってくることは、滅多にない。
命令した張本人であるスカリエッティは、ドゥーエが隠密行動中であることを知っている。
急に連絡をすれば、彼女にとって不利な状況を生んでしまう可能性もゼロではないのだ。
故に、彼女とスカリエッティの連絡は、毎晩の定時連絡のみに限定されていた。すなわち、これは予想外のアクセス。
《私としては、君こそ何故そんな所にいるかが不思議なんだけどね……まぁいいさ。
ちょうど今、その廃棄都市へガジェットが向かっている》
《ガジェットドローンがですか?》
これまた予想外の返答に、ドゥーエは微かに目を丸くする。
ガジェットドローンというのは、スカリエッティの扱う無人兵器の総称だ。
もっとも、命名したのは管理局であり、彼自身ではない。特に名前を決めてすらいなかったらしい。
彼にとってはあくまで本命は戦闘機人であり、ガジェットはただの玩具なのだ。故に、彼はその鉄の人形に執着を持っていなかった。
《その辺りでレリックの反応があったんだ。無理に回収に回れとは言わないけれど、一応知らせておこうと思ってね》
スカリエッティが答えた。
レリックの回収――それこそが、ガジェットが運用されている、最大の理由でもある。
真紅の煌きを放つ、高エネルギー結晶体型ロストロギア・レリック。スカリエッティにとっては、大きな意味を持ったアイテムだ。
どうやらこのスラム街のど真ん中で、レリックの回収を行うつもりのようだ。
何故そのようなものが、この廃棄都市に存在しているのかは気になったが、手に入れてしまえば同じだろう。
それよりも、ここにガジェットが来るというのならば、少々面白いものが見られそうだ。
《ドクター、ひょっとするとその回収……失敗するかもしれませんよ?》
くすり、と。
口元に笑みを浮かべながら、悪戯っぽい声の通信を送った。
《どういうことだい?》
すぐさま、怪訝そうな問いかけが返ってくる。
《いえ……先ほどそこで、面白いものを見つけまして》
もしもこの廃棄都市に、ガジェットという異物が侵入したら。
もしもそれが、あのキングを名乗る男と鉢合わせるという事態が起こったら。
果たしてジャックは、一体どのような行動を取るだろうか。どんな力を見せてくれるだろうか。
《大丈夫です。回収は後から私が、責任もってやっておきますよ》
言いながら、ドゥーエは立ち上がりその場を離れた。
路地から通りへと出て、ジャックが通った道を進む。
これから起こりうるであろう見世物を、最高の特等席で見物するために。
ジャック・アトラスが“それ”を見つけたのは、ドゥーエが思ったよりも早くのことだった。
白銀のロングコートをはためかせ、シルバーのアクセサリーを風に揺らす。
悠然と歩くジャックの内心は、その威容に反し、僅かな苛立ちを抱いていた。
ほんの数日の間、西の方へと行っていただけでこの様だ。ちょっと目を離しただけで、ああも簡単につけ上がる。
どうにもこの手の愚者というものは、いつの時代も変わらないらしい。
かつて自分のいた場所を思い出し、苦々しげに眉をひそめた。
朽ち果てた衛星都市。大都会に搾取されるだけの街。この廃棄都市区画と、何一つ変わらない場所。
思い出したくもない過去を掘り返され、ジャックの眉間の皺は深くなっていく。
ちょうどその時だ。不意に眼前に現れた、“それ”を目の当たりにしたのは。
「うん……?」
その端整な顔を歪めていた苛立ちも忘れ、ジャックは眼前に集中する。
角を曲がり、視界に飛び込んできたのは、何やら見覚えのない機械だった。
灰色を基調としたカラーリングの、さながら卵のような楕円形。5つの目玉のような球体を持ったそれが、ふわふわと宙に浮いている。
左手の機械に納められたカードと同種の存在かとも思ったが、どうやらあれはただの機械のようだ。
合計6台の卵が、亀裂の刻まれた道路の上に浮遊し、何かを探るように方向を変える。
そして、目が合った。
黄金のレンズと、紫の瞳が。
物言わぬ機械兵器――ガジェットドローンが、ジャックの姿を発見した。
「!」
浴びせられたのは光の矢だ。
球体から放たれる細い光が、レーザーとなって襲い掛かる。
反射的に飛び退り、回避。なおも灼熱の雨は続く。人体など即座に貫く必殺の熱量が、ジャック目掛けて一斉に放たれる。
ガジェットは戦闘をも視野に置いた兵器だ。レリック入手の障害となる可能性のある者は、何人であろうとも抹殺する。
不運にもジャックは、ロストロギアのことなど何も知らぬというのに、ガジェットの活動に巻き込まれてしまったのだ。
「面白い……この俺をキングと知って戦いを挑むか!」
全速力で道路を駆け抜けながら、機械人形へ向けて叫ぶ。
既にこの一帯は、自分の実質的な支配下にあると言っていい。先ほどの男達がそうしたように、自分に刃向かう者などいなくなった。
1人の王者の威光に怯え、戦うことをしようともしない。弱者はこぞって叩くというのに。
腑抜け共の溜まり場とでも言うべきこの街は、常にジャックを苛立たせていた。
だが、こいつらは違う。自分の姿を見ても怖れるどころか、逆に戦いを挑んできたのだ。
こんな感触は耐えて久しい。闘争本能が煮えたぎるのを感じる。戦いを求める本能が騒ぐ。
カード持つ者――決闘者(デュエリスト)の本能が。
「いいだろう! キングの決闘(デュエル)を見せてやる!」
先ほどそうしたように、左腕の機械からカードを引く。今度の枚数は3枚だ。
ビッグ・ピース・ゴーレムで決着がつけられるのならばそれでもいいが、あれはのろまなモンスターである。
一定の戦闘能力を持ったあの機械を、一度に6体も相手にするのは面倒だ。
ならばどうするか。決まっている。より速く、より強く、より雄々しきモンスターでの一撃決着。
「今日の俺はいささか機嫌が悪くてな! この胸に燃え盛る灼熱の炎、とくとその身で味わわせてやろう!」
手数はかけない。こいつらごときにはもったいないかもしれないが、一瞬のうちに消し去ってやる。
3枚のカードのうち1枚を、左手に持ち替えて控えると、残る2枚をプレートにセット。
並んで置かれる形となったカードが、再び眩い光を放った。
「ビッグ・ピース・ゴーレム! ダーク・リゾネーター!」
名を叫ぶのは召喚の証。
カードより解き放たれし魔物達が、鋼鉄の兵士達へと叫びを上げる。
一方は先ほどと同じ、岩石巨人のビッグ・ピース・ゴーレム。だがもう一方は、ドゥーエの知らぬ新たなモンスターだ。
ダーク・リゾネーター。小悪魔のような姿をしたそれは、傍らのゴーレムよりも遥かに小さい。
一回りも二回りも小柄な丸い体躯には、大きな音叉のようなものが握られていた。
おおよそ戦闘を行うには、心もとなさを伴う姿。これではまだ、ビッグ・ピース・ゴーレムの方がましに見える。
「行くぞ! ダーク・リゾネーターに、ビッグ・ピース・ゴーレムをチューニング!」
それもそのはずだ。ジャックの狙いは、この2体のモンスターによる袋叩きなどではない。
そんな頭の悪い戦術を取るはずがない。キングの戦いは、更にその先を行く。
きぃん、と。
音叉の音が鳴り響いた。
ダーク・リゾネーターの携えし音叉が、戦場と化した道路に響き渡る。
きぃん、きぃん。
音と共に、生まれる光。小悪魔の身体が光と変わり、3つの星へと分解される。
天空に現れるは列。緑色の光を放つ、星とリングが織り成す列。
「王者の鼓動、今ここに列を成す! 天地鳴動の力を見るがいい!」
ビッグ・ピース・ゴーレムの巨体が、その列の中へと飛び込んだ。
リングの道は、巨大なる岩の巨人さえも光に変え、眩い極光を巻き起こす。
「シンクロ召喚!! 我が魂――」
光の中に、蠢く影があった。
「――レッド・デーモンズ・ドラゴンッ!!!」
影が、光より姿を現す。
それは翼。深淵の闇より現れたかのような、黒き光沢を放つ巨大な両翼。
それは鎧。漆黒と真紅の鱗が生み出す、鋼のごとき肢体を覆う屈強な鎧。
それは爪。丸太のごとき太さの腕の、その先端で輝く鋭利な刃のごとき爪。
それは角。鋼鉄の肉体からせり出した、地獄の悪魔を連想させる禍々しき角。
その翼も。その鎧も。その爪も。その角も。
それは全てを兼ね揃えていた。
全身是武器とでも言うべき、圧倒的な威容を誇る肉体。爛々と輝く眼光は、終末を謳う魔王のごとく。
灼熱と暗黒にその身を煌かせる、強靭なる竜の姿。
《グオオオオオォォォォォォォォォ―――ッ!!!》
レッド・デーモンズ・ドラゴン。
ジャックの操る魔物達の中でも、最強を誇るエースモンスター。
王者の力と誇りを受け継ぎし竜王が、荒廃した大地を、その咆哮をもって揺るがせた。
びりびりと振動する大気。ビルを、道路を、ガジェットさえも振るわせる雄たけび。
それが姿を現しただけで、場の空気ががらりと変わった。ただの戦場の気配が、地獄のごとき様相へと姿を変えた。
ジャック・アトラスが切り札とするに相応しき、まさしく王者のための従者。
「食らえ、灼熱のォ……!」
キングの号令。
それに呼応し、持ち上げられるは竜の右腕。
レッド・デーモンズ・ドラゴンの豪腕がふりかぶられ、その先端には炎が宿る。
真紅の炎熱纏いし鉄拳が、陽炎を放ち大気を歪ませた。
「クリムゾン・ヘルフレアァァァァァァァ―――ッ!!」
まさしく、それが合図だった。
瞬間、世界は激変する。
朽ちゆくだけの街並みが、灼熱の大洋へと姿を変えた。
轟然と振り下ろされた鉄拳が、ガジェット達へと叩きつけられる。
強烈な炎の右ストレート。地獄の業火は爆裂し、全ての機体を飲み込んでいく。
逃れることなど不可能。生き残る者など皆無。
全てが等しく、赤き必殺の津波に飲まれ、焼かれ、砕かれ、塵芥へと還っていく。
まさに一瞬の出来事だった。僅か一瞬で、ただの一撃で。全てのガジェットが跡形もなく消滅したのだ。
「ッククククク……あっはははははははははははぁぁぁーッ!」
後に残されたのは、勝ち誇った高笑いを上げる王者のみ。
灼熱の炎の輝きに、純白のコートを煌々と染め。
さながらそれが、物言わぬ機械兵士達の返り血であるかのように。
その両腕を盛大に広げ、ジャック・アトラスが勝利の凱歌を歌い上げた。
ひっそりとたたずむ、旧い劇場。
かつてはそれなりに豪奢な建造物だったであろうその場所も、今は埃にまみれている。
屋根は破れ、壁はひび割れ、扉は常に半開き。
それでも、周囲のビルに比べれば、昔が昔なだけにまだましに見える場所。それがジャックの寝床だった。
ガジェット達を一掃し、若干の爽快感を得たジャックが、その錆付いた金色のドアノブを握る。
蝶番の壊れかけた扉が、ぎぃ、と軋む音と共に開かれた。
誰もいない。
ここにはいつだって誰もいない。
かつては役者達が豪華絢爛の催しを見せた舞台も、観客達で賑わった無数の客席も。
廃墟と化したこの街には、そのどちらも現れない。今は家主であるジャック1人。
ここは孤高の玉座の間だった。
その、はずだった。
「……ん?」
その視界に何かを認め、ジャックの瞳が見開かれる。
誰もいないはずの舞台の上に、小さな影があったのだ。
人影がある。何者かがいる。自分しかいないはずのこの場所に、来客がいる。
「チッ」
舌打ちしながら、ジャックは客席の脇を進んでいった。
今日はどうにも、妙な連中にばかり出くわすものだ。すすけた赤じゅうたんの上のあの人影、これまた自分には見覚えがない。
近づいてみると、それが1人の少女であることが分かった。
まだ十代にも満たないような、幼い娘。それが襤褸を纏い、鉄のケースを持ち、舞台の上に立っている。
やがて幼女もまた、彼の存在に気付いたのか、金色の髪を揺らしながら、ジャックの方へと向き直った。
その大きな瞳は、左右対象。
一方は新緑のごとき穏やかな緑。一方は血液のごとき鮮やかな赤。
緑と赤のオッドアイ。対照的な色でありながら、そのどちらもが、紛れもなき命の象徴たる色彩。
「ひっ」
声が上がった。
見れば少女の身体は、小刻みにびくりと震えている。どうやら彼女は、突然現れたジャックの存在に怯えているらしい。
どうにも調子の狂う奴だ。ここは自分の住まいで、むしろお前が侵入者だろうに。
若干の苛立ちを胸に抱えたジャックだったが、それを表面に出して、なおも娘を刺激するのも面倒だ。
何より、このままでは泣き出すかもしれない。泣きじゃくる子供はガジェットよりも手ごわい。
故に、ジャックは何も言うことなく、その無表情を保ったまま、幼女のもとへと近づいていった。
「……だれ……?」
敵対的な意志がないと判断したのか、おずおずと娘が問いかける。
「そういうお前は何なんだ」
ジャックは問いかけを問いかけで返した。
男の低い声に驚いたのだろう。一瞬、ぴくり、と娘は身体を震わせる。
そのまましばらくの間が空いた。少女が再び、その口を開くまでには、さらに数秒を必要とした。
「……ヴィヴィオ」
幕は開いた。カーテンコールはなされた。
この時こそが、異界の決闘者ジャック・アトラスの、魔法の世界での物語の、始まりの瞬間だったのだ。
遊戯王5D's ―LYRICAL KING―
第1話「廃棄都市のキング」
投下終了。
そんなわけで、のっけからから飛ばしまくりなキングです(ぉ
何故ジャックがここにいるのか、というのについては、また次回。
キングキングとうるさい辺りから分かる通り、まだ彼がデュエルキングだった頃の話さー
乙。
聖王が「キングはこの私だ!」とか言い出しそうで怖いw
元キング!
サティスファクション!
投下乙です。
他の予約がなければ23:10から投下しても構いませんか?
GJ!!です。
キングか、ヴィヴィオやドゥーエとどう絡むのか楽しみです。
時間になったので投下させていただきます。
常に頭を悩ませる諸問題のせいで深く皺が刻まれた顔。
長い年月に頑なになった目に赤い光が映っていた。
非常灯だけが点灯する廊下に幽鬼のように現れたマスクド・ライダー…
最も早くその怪人の存在に気付き、取り上げた雑誌の記者がつけた呼び名で少しずつ民衆の間で親しまれるようになった怪人の足元に、また犯罪者が転がされていた。
帰宅間際、人気の失せた地上本部で日課の筋肉トレーニングを済ませたレジアスの口元に微かに笑みが浮かんだ。
日が没しても中々下がらない暑さのせいで額に浮かぶ汗をハンカチで拭き、レジアスは怪人に言う。
「良くやった。後のことはワシに任せてもらおう」
凶悪な犯罪者を逮捕できたことを素直に喜びながら、怪人の甲冑の如き皮膚下にある無駄のない肉付きやちょっとした動きを冷静に観察する。
怪人は何も言わずに佇んでいる。仮面に遮られ、怪人が何を思っているのかを窺い知ることは何人にも出来ぬように思われた。
薄く笑みを浮かべたレジアスがゆっくりと歩み寄り、二人の距離は狭まっていく。
地上本部の数多くの実権を握り、多大な影響力を行使できる事実上の地上本部総司令であるレジアスと怪人との関係は突然生まれた。
今日と同じく、怪人は突然現れ自分で捕らえた犯罪者をレジアスに引き渡して去っていった。
何故かと引き渡された犯罪者を牢にぶち込みながらレジアスは頭を捻った。
今のように犯罪者を引き渡してくるのだが、その理由は皆目検討が付かない。
その上素性もわからない。
目的も。名前もだ。どんな音楽を聞くのか。筋肉についてどう考えるかも知らない。
昆虫を模した姿は恐ろしく、怪人が犯罪者を捕らえた場所は壊滅させられていることを考えれば、レジアスが体一つで対面するのは危険な存在だ。
相手のことは全くわからず、今もこうして地上本部の警備を潜り抜けて姿を現した。
入局以来30年近くに渡って盟友と一位を争い続けたナチュラルビルダーだったが、最近は贅肉がついてしまった上に魔力を全く持たないレジアスなど瞬きをする間に殺してしまえるのだ。
警戒して当然の存在だった。
だが、レジアスはこの怪人に対していつのまにか好意を持つようになっていた。
地上本部の戦力増強の為にレジアスが裏では犯罪者に兵器開発を依頼しているからではない。
何度目だったか、怪人が犯罪者を連れてきた夜…その日に限ってゆっくりと去ろうとする怪人のしぐさに、何の感情も見せない飛蝗の仮面が切なげに見えた。
冷静に考えればそれは恐らく偶然合わさった角度や、灯りの加減のせいであろうとは思うのだが、レジアスの中にあった怪人に対する疑念は不思議と消え去っていた。
普段のレジアスを知る者達が聞けば耳を疑うような話。
レジアス自身でさえそれには同意するのだが、腹には一物もない。
己の過失から失ってしまった部下であり友人だった男に向けていた感情に似た気持ちが沸いていた。
「だがマスクド・ライダー。貴様のやっていることは犯罪だ」
レジアスは鼻息荒く言い放つ。
例え怪人に襲われるのが犯罪者だけだったとしても、好感を持っていようとも地上本部は怪人を捨て置くわけにはいかなかった。
「地上の治安を守るのは、ワシら管理局の責務だ。貴様のようなならず者の仕事ではないわ!」
怪人がやっていることは法に照らし合わせれば犯罪となる部分が多数存在する。
その上、犯罪者達は、この怪人を警戒して有能な魔導師や武器を集めていくことだろう。
もしその影響で犯罪者達が武力を増したとしたら、地上本部の戦力で対抗できるのかは甚だ疑問だ。
レジアスは手を打つであろうし、何より今建設中の「アインヘリアル」と呼ばれる地上防衛兵器があればどうとでもなるかもしれない。
しかし怪人の力に更に頼るしかなくなるやもしれない…
怪人が心変わりをして犯罪を起こさないことを祈り、いや…この怪人はいい奴だから心変わりして犯罪者となるはずがない、などと楽観的な考えを持つわけにはいかないのだ。
怪人は何も答えなかった。
視線を避けるようにレジアスよりも遥かに上にある顔を伏せて犯罪者を置き去りに背中を向けようとする。
「マスクド・ライダー…! ワシの部下になれ」
怪人は足を止めた。触覚を揺らしながら肩越しに振り返り、レジアスに爛々と光る複眼を向ける。
「犯罪者が司法取引を行った後管理局で働いている例は少なくない。そうして自らの派閥を強めるというのもよくある話だ」
返答はないがレジアスはそれを気にする風もなく、拳を握りしめてより自信に満ちた力強い口調で語りかけた。
「ミッドチルダ地上の平和を守るには、陸には…! お前の力が必要なのだ。破格の待遇で地上本部に迎え入れると約束する」
予め用意しておいたカードを出しながらレジアスは言った。
カードの使用場所から怪人の生活圏を割り出す目的で用意されたそのカードには、これまで怪人が捕まえた犯罪者達に見合う報酬が振り込まれている。
金額には一切嘘はない、むしろレジアスの要望で色が付けられている。
目的は目的として、レジアスにしてみれば怪人が受け取るべき正当な報酬だったからだ。
「…断る。俺は管理局が信用できない」
怪人は受け取ろうともせずに乾いた金属質の声で返事をした。傷ついたような表情を一瞬だけ見せてレジアスは尚も熱心に言い募った。
地上本部から魔導師・人材の引き抜きが日常茶飯事に行われ、地上の戦力が揃わない現状を強く訴えた。
「確かに管理局にも黒い噂は事欠かん…ワシ自身の手も汚れておらんとは言わぬ。だが、」
「すまない。言いたいことはわかるが、それでもまだ俺は…」
首を振り、口を濁す怪人は何かに迷っているようにも見える。
静まっていく彼らの間に、レジアスが強く噛み締めた歯がギシリ、と鳴る音がやけに大きく響いた。
「断れば…ワシはいずれ貴様を指名手配する。しなければならん! そう言ってもか!」
「わかっている。それでもだ」
レジアスは険しい表情の中に、苦いものを含ませた。
微かな変化に気付いたのか怪人はそそくさとレジアスの前から立ち去っていく。
「強情な奴め。そこを、曲げてはくれんのか………」
背を向けた怪人にレジアスは苦みきった声でそう言った。
今の状態。怪人が自由意思で犯罪者を捕らえている状態ならば、本局から引き抜かれる心配はない。
盟友であったゼスト・グランガイツとその部下達のような有能かつ本局からの誘惑に耐え切れる者などそうはいないのだ。
そういう意味では、怪人に断られたことは許せないことではないという気持ちも沸いているが、そう考える以上に…レジアスにとっては残念だった。鍛え抜かれた大胸筋が咽び泣いている。
*
レジアスに勧誘されても光太郎はそんなことがあったなどとは全く感じられない、至って普段どおりの生活を営うとしていた。
少なくとも同居しているウーノの目にはそう映っていた。
ドレスシャツと夏向けの薄い生地のジーンズを着たウーノの姿に少し困ったような顔をし、外出の用意をする光太郎の姿を見ていたウーノは初夏を迎え、眩しすぎる程の日差しに目を細めながら外へ出る。
困り顔をしているのはスカリエッティの所にいた頃に作ったウーノの体にフィットするドレスシャツに気付いたのかとも思われたが、視線の先を見るにどうも違うらしい。
どうやら光太郎は屈みこむとお尻や種類によっては下着が見えてしまうローライズのジーンズがお気に召さないようだった。
暑い日差しに目を細める彼女に続き、光太郎も家から出てくる。
ウーノの服装を見る光太郎の視線と同じように、ウーノも光太郎の服装を見てもの言いた気な眼差しを向けた。
光太郎もウーノと同じ色のジーンズを履いている。こちらにはオレンジ色の糸を使ったステッチが入っていた。
スタイル等が良く丈も合っており良く似合っているが、何故わざわざそんな安物を着たがるのかウーノには理解しづらかった。
低家賃のアパートに住んでいるとは思えない安くない生地と職人の技術で作られたスーツを何着も持っていたのだが、光太郎のたっての願いで何着かは売却してわざわざ購入したという経緯も心象を悪くしていた。
歩き出した二人は今日の予定やレジアスの勧誘があったという大きなニュースに紛れて話そびれた他愛ない出来事を報告しあいながら細い道から、多少大きな道路に面した道へと出た。
二人はそこで別れ、ウーノは一人街の中央へと向かっていった。
同居人が暑さに少し参っているのに気付いた光太郎の申し出もあって、彼女は今日一日は休むことになっていた。
働く人々を尻目に一日暇になったウーノは一軒のカフェへと立ち寄った。
古い建物を改修した店内に客は少なく天井近くの壁に付けられたテレビに流れるニュース番組で凶悪な事件を読み上げる声だけが響いていた。
奥のテーブルに着いた女性がウーノに手を振る。
それに気付き、微かに相好を崩したウーノが手を振った女と可愛らしいワンピースを着た少女のいるテーブルに寄っていく。
ウーノは店員に熱いコーヒーとミルクが半々のカフェ・オ・レを、砂糖大目で注文すると、普段のボディスーツの変わりに可愛らしい服を着てきた妹を褒めた。
負傷した片目を無骨な眼帯で覆った妹は今はウーノの代わりにスカリエッティの世話の大半をしているはずだった。
「ウーノと比べられて困っているよ」
久しぶりに再会した妹、チンクは彼女らしからぬ微かな疲れを見せてそう零した。
聞く所によるとウーノが突然いなくなり仕舞っていた必要な道具や研究材料、未整理のデータから調味料の位置までわからなくなり大変らしい。
その上料理の味が違ったりスカリエッティの言外の要望まで汲み取れずにしかめっ面をされることもよくあると語り、沈痛な表情でケーキを口に運ぶチンクに二人は苦笑いをした。
そこへ店員が注文したカフェ・オ・レを運んでくる。
置かれた持ち手のないカップを手に取りウーノが口をつける間に、入店した際に手を振った女性がうなだれるチンクにしみじみとした口調で同情して見せた。
姿形は二人と全く似ていないが彼女も二人の姉妹でスカリエッティのことはよく知っていた。
ウーノ、トーレに並んで古い稼動暦を持ち彼女は固有技能「偽りの仮面」と名づけられた変身能力で潜入諜報活動をしている彼女はその任務上気苦労を強いられているのかいやに説得力のある優しい声だった。
一しきりチンクを慰めた彼女は、今度はウーノに目を向けた。
「ドゥーエ、気持ちは嬉しいけど私に慰めは必要ないわ」
「フフ、旦那が仕事をしなくて困ってるんじゃなかったかしら」
彼女が教育を担当しクアットロにも引き継がせたスカリエッティそっくりの軽薄な笑みを浮かべるドゥーエ。
先日までは同じ笑みを浮かべることも多かったはずだが苛立った声でウーノは返事を返した。
「ドクターの邪魔になりそうな相手は片付けてくれるし、私の分で暮らしていくには十分よ」
「ウーノ、それってなんだか駄目亭主に聞こえるんだけど…ドクターに利用されてるとも知らないで」
「分かっているから性質が悪いわ」
微かに沈んだ声を出すウーノをドゥーエは興味深そうに見る。
研究所にいた頃は世話役だったチンクも気遣わしげな視線を姉に向けている。
今のウーノと光太郎の状況はほぼ完全にスカリエッティの耳に届いている。
そのため他の姉妹と一緒にウーノがいなくなってできた穴を埋めているチンクも凡その事情は掴んでいた。
気を取り直すようにウーノはまたカップに口をつけた。
「それと、彼は夫じゃないわ」
「え? 嘘でしょ」
ドゥーエは酷く驚いたように目を見開いた。
その反応にウーノは気分を害して自然とカップを持つ手に力が篭っていった。
ドゥーエは機嫌を損ねたことが分かってもなお信じられないといった風にチンクの顔とウーノの顔を交互に見つめる。
「そのコウタローってゲイ? 健全な男性って聞いてたからてっきり妹達にはとても言えないような…」
「ドゥーエ! い、幾らなんでも二人に失礼だぞ!」
若干顔を赤くしたチンクがテーブルを叩く。
そうしてやっとウーノの言葉を信じたのか、困ったように眉を寄せて腰掛けた椅子を軋ませながら、背もたれに倒れこんだ。
「ん………」
微かに吐息を零して頬を片手で撫でるドゥーエは、スカリエッティそっくりの笑みを浮かべるとウーノに軽く流し目を送った。
「困ったわね。ドクターは期待してるみたいだったけど」
「ドクターが?」
「貴方とコウタローが信頼関係を築けるのか。そっちの機能はどうなのか。子供が出来るのか。どんな子供が生まれるのか」
クククでもフフフでも構わないが、満面の笑みを浮かべたスカリエッティがそう言っている姿を幻視したウーノとチンクの表情が引きつった。
全身改造を受けた改造人間である光太郎がそんな機能まで備えているかどうか。
人間の姿、RX、ロボライダー…彼女らの想像を超える変身を遂げる光太郎をどちらと断言することは彼女らには出来なかった。
ナンバーズにそんな機能まで備わっているということ自体初耳ということもあったが…何よりスカリエッティならば、その為に自分達が知らぬ間に何らかの改造を行っていても何らおかしくはなかった。
スカリエッティの計画の中には、スカリエッティが万が一捕らえられた場合の措置として極小サイズのカプセルに収められたスカリエッティのクローンとなる「種」を簡易な外科的処置で埋め込む事も含まれている。
これによりある技術を応用して体内に仕込まれているスカリエッティのクローンが約一ヶ月で記憶を受け継ぎ新たなスカリエッティとして産まれてくる。
遠い昔、旧暦時代の権力者の間では常識とされた準備だが、期間的にそれは全く別の手段だと考えていた。
これについてはスカリエッティや危機に陥る度に『不思議なことが起きる』光太郎自身も本当の所は分からないのかもしれない。
スカリエッティがどんな結果が出るにせよそれを実験する為のリスクを負う決定をしたのは間違いないようだが。
「ドゥーエ、私はそんな話初耳だぞ」
「? クアットロから聞いた話ですもの。ほら、彼の基本的な能力も計りきれてなかったでしょう? だからその辺りは全く分かってないんですって」
厳しい表情で言うチンクに、何を怒っているのか分からないとでも言うようにドゥーエは笑ったまま返事をした。
ウーノは目を細めて何も言わなかった。
他の誰かがクアットロから…と言ったなら信憑性は薄まるが、クアットロは教育役を務めたドゥーエを半ば心酔している。
ドゥーエの口から出たクアットロから…という言葉はほぼ確実と言ってもよかった。
「貴方が無理なら私でもいいけれど…もう切欠は作ってあるし」
「……というと?」
掠れた声で尋ねるウーノにドゥーエは悪戯を成功させた子供のように得意げに言う。
「マスクド・ライダーって何度か強姦魔から女性を助けてるんだけど、フフ。その一人が私だし…彼のバイト先のお得意様でもあるわ。首にしないよう彼に分かるように手を回してあげたしね」
とても感謝されたわよと言うドゥーエをウーノとチンクは敵に向けるような目を向ける。
でも、とドゥーエは二人の視線など気にせずにどこか芝居がかった、媚るような動きで自分を抱きしめた。
「余り興奮させると砕かれてしまいそうだし、もっと肉体増強された妹達に任せた方がいいかしら。二人はどう思う?」
彼女の肉体増強レベルは姉妹の中ではそう高い方ではなかった。
常人よりは遥かに強靭だったが、トーレや今後増えていく姉妹達に比べれば劣っている。
何時変身するとも分からない光太郎の相手をするにはリスクが高すぎるとドゥーエは考えていた。
「駄目に決まってるでしょう。仮にうまくいっても、貴方の体にどんな影響があるかわかったものじゃないわ」
ウーノとしては光太郎の耳に入っていないことを祈るばかりだ。
この話を聞いて激怒する光太郎の顔を思い浮かべウーノはげんなりした。
不愉快気にそう言われ、ドゥーエは居住いを正して二人に別の話題を振る。
それぞれに不満を零したり興味のある話題について話し合った彼女らが分かれたのはそれから数時間後のことだった。
*
ナンバーズ達の間で交わされる会話に一時自分が上がった事など知る由もない光太郎はバイトを早々に終えて廃棄都市区画をアクロバッターに駆って移動していた。
相変わらず決まった仕事がなく、真っ当な人々より犯罪者の方が言葉を交わした人数が多くなった光太郎は時折複数ある廃棄都市の様子を少しでも感じ取ろうとしていた。
首都とその近郊にある7つの廃棄都市はどれも酷い有様だが、それでも少なからず人の気配があることを光太郎の超感覚は察知していた。
わざと大きな音を立てて走らせアクロバッターが撒き散らす騒音に怯える犯罪者達も現れだしていた。
強盗するために入った店から慌てて出て行く強盗犯。
金品を巻き上げようとしていた手から杖を落として逃げ出す魔導師。
怪しげな取引現場で息を潜め、過ぎ去ったと思った瞬間に降り注ぐ瓦礫の飛礫に大怪我を負って仲間か管理局の救援を待つ悪党共。
都市の状況はどこもさほど違いはなかった。違うのは廃棄都市に限っては、一見静かな地区ほど内に秘めた闇は危険だということだ。
平穏に見える区画は耳を澄ますと悲鳴が聞こえてくる時があった。
その日もまた、RXへと変身した光太郎は不意にアクロバッターを停止させた。
誰かが呼ぶ声がした。
空気を振るわせた音ではない。
進化を続ける肉体の新しい力に光太郎は気付こうとしていた。
生命の気配を感じ、聞こえないはずの叫びに気付こうとしていた。
黒い太陽氏だ!支援!!
爛々と赤い光を宿す二つの複眼を。
その間にある第三の目とも言うべきセンサーを。
RXは廃ビルや崩れた建材が転がる道へと向ける。
始めは気のせいだと思っていた。
だが先日、スカリエッティの所にいたウーノ達のような少女らが生み出されようとしているのに光太郎は気付き…不完全な命を消し去っていた。
それを思い出して、不必要に強く握り締めた黒い拳が地面へと振り下ろされた。
RXパンチが廃棄都市に微かな振動を起こす。
舗装された道路や地下道をぶち抜き、光太郎は地下に築かれた空間へと降りていった。
一見真っ黒なブーツにも見える極小の鉤爪を備えた足先が研究施設の床を音もなく踏みしめる。
瓦礫を床にばら撒き、施設に損傷を与えながら現れた怪人に驚き、白衣を着た男達が様々な反応を見せている。
白衣を着た者達の奥に光太郎は巨大なガラスケースが複数確認できた。そこに浮かぶ小さな女児も、見つけた。
恐らくは一歳前後の赤子の瞼が薄く開く。
左右で目の色が違う女児が意志の見えない目でRXを見た。
光太郎が聞いた声はその子や周りに並ぶケースから聞こえていた。
夜闇のような男達も、研究施設も一切合財を飲み込んでしまいそうな黒に染まる怪人が握りしめた拳が音を立てる。
複眼に写る彼らの引きつった表情。冷静に助けを、警備員を呼ぶ姿やそれに安堵して研究を再開しようとする姿。
誰かの意思によって非合法な研究を行う為に作られた施設。ケースの中に浮かぶ女児や、失敗作と見なされた者達。
女児の隣のケースに浮かぶ見覚えのある宝石。ロストロギア『レリック』…全てが昆虫の物を模した真っ赤な複眼に映っていた。
映りこんだそれらが、四肢を動かす熱量を生み出す燃料として蓄えられ(記憶され)ていく。
静かに光太郎は告げた。
「例え貴様等が誰かを救うために研究を行っていたとしても、その子達を苦しめる貴様等を俺は許さん…!」
散発的な魔法や防衛施設が動き出していた。
背中に魔法の砲撃が当たっているが、光太郎は歯牙にもかけなかった。
以前より更に進化していた体の表面を魔法が流れていく。水滴が弾かれるようにRXの体表に弾かれた魔法が施設を傷つけ、流れた光の一滴が研究者を巻き添えにする。
一瞬毎に恐慌に陥っていく彼らを光太郎は一人残らず制圧していった。
「生きられるのは、この子だけなのか…」
科学者達、警備員を悉く倒し、飛蝗怪人の姿をトラウマとして残しながら意識を刈り取られた彼らを入ってきた穴から放り出した光太郎はロボライダーへと姿を変えて呟いた。
ロボライダーのハイパーリンクを用いて研究内容を吸収した光太郎は女児をケースから出し、レリックとを抱える。
初めて水槽から出され、自分を見つめる女児を抱き上げた光太郎も自分が開けた穴から出ようと上を見上げる。
大穴から降り注ぐ日の光がスポットライトのように光太郎を照らし黒光る怪人の姿に、女児は瞬きをした。
光太郎は逸れに気付いて微かに笑う。だがその脳裏に、突如稲妻が走った。
一度そのレリックの爆発に巻き込まれた光太郎はレリックについてウーノに尋ねていた。
レリックは高エネルギーを帯びる『超高エネルギー結晶体』でその為外部から大きな魔力を受けると爆発する恐れがあると…
『超高エネルギー結晶体』…自分の腹部に埋め込まれたキングストーンが思い浮かんだ。
手に掴んだ『レリック』、詳しくは残されていなかったが何かの計画の為にレリックに合わせて生み出された子供…
「信彦…」
愚かな考えだと光太郎は頭を振った。
重ねてしまうのは信彦を犠牲にしたことに負い目を持つ自分の悪い癖なのだと。
ボルテックシューターを二、三度放ち、RXの姿へと戻った光太郎は高く飛んだ。
ロボライダーからRXに姿が戻っていくのを少女は不思議そうに見ていた。もう助からない不完全な生命を飲み込み、施設が破壊されていく。
光太郎の呟きが聞こえたのか、赤子が小さく声をあげた。
「俺は仮面ライダーBlackRX…安心してくれ」
「…?」
言葉が通じないことは分かっていたが、上昇が止まり一瞬だけ浮遊感に包まれながら光太郎は女児を見つめて言った。
「俺は味方だ」
いや…信彦の、自分の為に光太郎は何も分からない赤子に向かってそう言わずにはおれなかった。
自分で開けた穴から飛び出した光太郎は縫いでおいたシャツで女児を包んだ。
本当ならもっとちゃんとした、柔らかい布で包んでやりたかったがそんな用意はなかった。
そして意識を失い死屍累々と転がる科学者達の向こう側に眼を向け、庇うように、体をずらした。
「セインか。今度は何の用だ?」
「む。またばれちゃいました?」
光太郎に指摘され五メートルほど離れた地面から、戦闘機人の少女が顔を出す。
どこから嗅ぎ付けているのか、光太郎の動きは未だにスカリエッティに筒抜けであるらしい。
それが光太郎を少し苛立たせる。
水色の髪をセミロングにした戦闘機人の少女は愛想笑いを浮かべながら転がる科学者達に同情するような視線を向けた。
死んでるわけではないが、彼らの体験を思うと同情せずにはいられなかった。
「何のようだ?」
「ドクターのお使いです。光太郎さん、その子私達に預けてもらえません?」
セインは、光太郎が抱える少女をチラッと見る。
「その子の面倒私らならちゃんと見れますからね。私達と同じようなもんですから」
「…君達はいいところもあるな」
光太郎は抱えた子供とレリックを見る。
「普通ですよ。で、返事を聞かせて貰えます?」
光太郎から言われたのが意外だったのか、少し照れたように言うセインには任せても大丈夫かもしれない。
だが、スカリエッティがこの赤子をまっとうに育てるとは全く思えなかった。
「断る。お前達こそ抜け出さないか?」
「せめて自分の身分証くらい持ってから言わないと説得力ないですよ?」
軽く苦笑して言うセインは指摘を受けて乾いた笑い声をあげる光太郎から視線を逸らし、まだ気絶している白衣の男達を見てげんなりした顔で視線を戻した。
「あれでも私達にとっては創造主ですし、姉妹達のこともあります。軽々しく裏切れないですよ」
「そんなつもりじゃないんだが。すまない…!?」
光太郎は何かに気づいて顔をあげた。
きょとんとするセインに低い声で言う。
「セイン、今日はもう引くんだ。誰かこっちに飛んでくる。今まで会った魔導師では一番早い」
どう受け取ったかはわからないが、セインは地面に沈んでいく。
セインの身を案じての発言ではなかった。
既に地上本部の長であるレジアスに犯罪者として追うと告げられている自分だ。
抱えている赤子のことを考えれば、話をこじらせる可能性のあるセインは邪魔だった。
光太郎はセインが去ったことを確認しようともせず、接近してくる金色の頭を見上げていた。
腕の中の赤子よりはずっと年上だが、まだ若い。
いいとこ高校生か中学生位の可愛らしい少女だった。
堅い表情をしている。目や、無骨な杖を構える姿は勇ましい。
可愛らしいというよりは美人という言葉が似合いそうな容姿をしていたが、金色を見て光太郎の脳裏に浮かぶのはクライシス帝国の最強怪人ジャークミドラ。
あれに比べれば、光太郎と光太郎が開けた穴の周りに転がる白衣の男達を見て警戒した少女に金色の刃を出し巨大な鎌になった杖を向けられてもなお、光太郎の目には微笑ましく映った。
「時空管理局執務官フェイト・T ・ハラオウンです。マスクド・ライダー、貴方に幾つか質問があります。ゆっくり、その女の子を下ろして武装を解除して手を挙げてください」
「…わかったよ。だけど、変身は解除できない」
変身という単語を聞き、フェイトの目が細まる。
「何らかの魔法…?」
恐らくは光太郎に聞こえないつもりで囁かれた呟きを耳にしながら、光太郎はシャツに包んだ赤ちゃんを地面に置いた。
固く砂利の散らばった地面を見て一瞬躊躇う光太郎の頭上にフェイトの声がかかる。
「何故ですか?」
警戒心と共に魔法を行使しようとしているのか黄色の恐らくは魔力が彼女の体の中で動くのが光太郎にもわかった。
だが中学生の少女相手に変身を解きながら、『これを見てどう思う?』『凄く…セクハラです』などと言う会話をしようと思うほど光太郎は変態ではなかった。
優しげで一見、善人そうな少女に(と言ってもこの世界に着てから自分の眼力の無さに足を掬われっぱなしだが)言いにくそうに口ごもりながら光太郎は言う。
「それを言うのもちょっと…」
「答えてください。でないと」
「へ、変身を解除すると…裸なんだ。せめてズボンは…」
フェイトの顔に少し赤みが差した。
恥かしげな表情を見せた彼女の気を落ち着かせるように、フェイトの構えた杖が声を発する。
「わ、わかりました。そのままで結構です」
「ありがとう。それと先にこの子を安全な所に預けたい。話はその後にしてくれないか?」
「…その子は?」
「この科学者達にここの地下で生み出され実験体にされていたらしい…」
周囲に横たわる白衣の男達や地面に開いた穴から一つの可能性として頭に浮かんでいたらしく、フェイトに動揺した様子はなかった。
微かに険を増した目で地面に転がった者達を一瞥し、フェイトは首を振る。
断られたことにこちらも大した動揺も見せず、光太郎は両足に力を込めていた。
それに気付いたフェイトは慌てて今にも飛び退きそうな光太郎を呼び止めた。
「待ってください! マスクド・ライダー。勘違いしないで、貴方を捕まえたりその子に危害を加える気はありません。念のためにその子の体を調べさせて欲しいだけなんです」
「…調べるだと?」
スカリエッティと出会う羽目になった経験から光太郎は訝し気な声を出す。
「まだまだ問題の多い技術ですから。管理局にはとても腕のいいドクターが何人もいますし、その後の事も。必要ならちゃんとした専門の施設に預けます」
「…信用できないな。検査すると言われて俺はスカリエッティのところに連れて行かれたぞ」
アクロバッターに援護をさせようと呼びかけながら、光太郎は時間稼ぎに自分の経験を言おうとする。
その為に挙げた名前は、思いも寄らぬ劇的な効果をあげた。
フェイトの雰囲気が変貌していた。
「スカリエッティ…? 次元犯罪者のスカリエッティのこと!?」
怒り、嫌悪。複数の感情が入り混じる赤茶の瞳。微かな焦燥に険しさを増した表情は幼さの残る顔立ちのせいで光太郎を不安にさせた、
「答えてくだ…!」
知っているのか?
そう尋ねようとした光太郎に先んじた怒鳴りつけるような言葉は、子供の泣き声にかき消された。
光太郎の腕の中で静かにしていた赤子は、フェイトの様変わりに驚き、今の声で泣き出してしまったようだ。
杖を光太郎に向けたまま目に見えておろおろし始めるフェイトに嘆息して光太郎は一つ条件をつけることにした。
「…俺は管理局を信用できない」
「そ、そんなことはありません。私が責任を持ってその子の預かります」
少しムッとした顔で言うフェイトの可愛らしい瞳は危うく信用し頷いてしまいそうな真摯な光を湛えている。
だが光太郎はゆっくり首を振った。
「すまないが君だけじゃ不安が残る。時空管理局本局のクロノ・ハラオウン提督に連絡を取れないか? 君と同じ執務官でもあると言っていたんだが」
「お知り合いですか?」
「以前世話になった」
アクロバッターが光太郎の呼びかけに答え、威圧するような騒音など一切起こさずに瓦礫を乗り越えてやってくる。
光太郎に寄り添うようにして止まったバイクに、赤子とフェイトの視線が集まりフェイトは警戒を解いた。
「クロノ・ハラオウンは私の義兄です。兄が預かったバイクの持ち主は貴方なんですね?」
一瞬間を置いて、光太郎は頷いた。
そうでしたかと納得した様子で白衣の男達全員にバインドをかけて拘束していくフェイトに光太郎はついていけずに首を傾げる。
バインドを掛け終えたフェイトは「彼らを引き渡すまで少しまってください」と笑顔で言うと、まだ泣いている赤子をあやし始めた。
その赤子はこの後紆余曲折を経てハラオウン家に引き取られることになる。
警戒する光太郎と再会し、光太郎が次元犯罪者のもとにいたことを聞かされたクロノが、内通者の存在を疑ったことと、その赤子と共に光太郎から渡されたロストロギア『レリック』を管理局に渡す条件として(最も後者は建て前に過ぎなかったが)
赤子の名前はヴィヴィオ。ヴィヴィオ・ハラオウンとなった。
ヴィヴィオはリンディと共に地球へ移り住み、翠屋という店を営むご近所さんにも可愛がられすくすくと育っていく。
光太郎はそれを暫く見守り、ヴィヴィオの前から姿を消した。
南光太郎は失われた世界、怪魔界から…正確には怪魔界に侵略された地球から迷い込んだ改造人間である。
そんな自分に関わらぬよう距離を置いたのかも知れない、と新しい義妹にも甘過ぎるクロノはヴィヴィオに言った。
管理局にいるとも他の仕事に就いたともどちらともつかない言い方をして肝心なところははぐらかした。
だが光太郎が姿を消しても、暗い研究施設のケースから助け出された記憶は強くヴィヴィオの中に残った。
ヴィヴィオの心にはいつまでも黒い太陽が輝いていた。
火種が絶えない次元世界で、才能と人手不足を盾に就労年齢は低下の傾向にある。
そして有能であれば犯罪者をも積極的に登用し、重要なポストを与える管理局で…
地球で暮らそうとも、そこで新たな一大派閥となろうとするハラオウン家で、ヴィヴィオの気持ちを止められる者はいなかった…!
ヴィヴィオは、地球の芸能人や華々しい活躍をする管理局のエースオブエースに憧れるより先に、マスクド・ライダーに憧れるようになったのだ!
数年後、小学校に上がる年頃となったヴィヴィオに、緑屋の看板娘が尋ねた時それは判明することになる。
「将来の夢かー。ヴィヴィオは何て書くの?」
作文を書いていたヴィヴィオは、不敵な笑みと子供らしからぬジョジョ立ちに若干引き気味の隣のお姉さんの問いに胸を張って答えた。
「このヴィヴィオ・ハラオウンには叶えたいと思う夢があるの!」
だがそうなることなど露とも知らぬ光太郎は、同居人のウーノに今夜は遅くなる旨を伝えフェイトに赤子を渡した。
以上です。
投下に時間がかかり申し訳ありませんOTL
今年4期があったファンタジーを見ていたらレジアスがマッチョになっていたけれど気にしない・・・
>>355 GJ!
廃棄都市にキング降臨!!
>>370 GJ!
ここでヴィヴィオが来るとは!ここからクロノによる管理局の裏へのメスが入るのか!?
乙です
レジアス、何故筋肉を強調する……
というか、ウーノが普通に奥様化していて深くにも萌えてしまったよ……
>>372 深くじゃないくて不覚だよ、間違えてしまった……
GJ!!です。
未来改変www
ヴィヴィオはなのはたち以上のチートだもんなぁ。
鎧で無効化し、相手から能力を学習、自分に合うように改変だもの。
GJ!
仮面ライダー聖王ですね、わかりますw
相変わらず最高だ!!早く主要キャラと絡んでほしいわGJ!!
GJ!ヴィヴィオが仮面ライダーにww
ウーノに萌えちまう
あれだな、ヴィヴィオがフィーバーして金色の鎧を纏い、研磨皇帝剣(陰茎研磨剣にあらず)でクアットロをぶった切るんですね。
レジアスと光太郎は敵対しそうだけど互いに友情を感じそう(レジアスをすくってくれ、RX).
ヴィヴィオに手を出したら最後、リボルゲインで田楽刺し(平和のために親友すら手をかける男は容赦はしないだろうし)。
というか、ヴィヴィオはジョルジョかよwwww
黒い太陽の方、乙です。
ヴィヴィオがジョルノ化してしまった。
とんでもない仮面ライダーになりそうだ。
380 :
367:2008/11/27(木) 00:39:44 ID:xNmbhmh0
GJです!
ウーノが見事に奥様化してるw
あと中将の筋肉のこだわりがw
予告がないようなので1:00から投下します
381 :
367:2008/11/27(木) 01:00:41 ID:xNmbhmh0
時間になったので投下開始
◆◆◆
男は、目を覚ました。
起き上がって周囲を見回せば、清潔なベッドに横たわる自分と医務室らしき設備の整った部屋。
―――どういうことであるか?
記憶を思い起こす。
手のかかる上官の少女と狩人の少年を逃がす時間を稼ぐために、自分は"昇華"した。
そこからの記憶はおぼろげだが、たしか群がる"屍の兵"を片っ端から切り捨てているうちに大規模な鍾乳洞の崩落が起き、自分は降り注ぐ岩盤に飲み込まれたのだと思う。
その後どうなったかは自分には分からないが、こうしてベッドに寝かされていたという事は、救助されたという事なのだろうか?
それでは納得できない違和感があった。その正体は簡単な事だ。
この医務室―――設備がとても優れているのだ。ラトロアの施療院では―――否、自分が身を置いていた世界では考えられないほどに進んだ医療機器が置かれている。
むしろ自分が生まれ育った世界に近いものだ。
いつの間にかソリダーテ大陸から元の世界に帰ったわけでもないはずだ。それを為そうした男を止めるために自分は戦ったのだから。
では、この状況は何だ?
「……ここは何処であるか?」
リリカルパンプキン 一話『仮面がないのである』
とりあえずベッドから降りようとするが、節々に痛みが走る。
体を見れば全身が包帯に包まれていた。肉体を改造された男でもこれで動くのは少々厳しい。
そして、今更のように自分にとって最も重要な変化が気づく。
そう。『仮面』が、いつどのような時でも被り続けていた『カボチャの被り物』が頭に無かったのである。
落盤の衝撃で外れるか、壊れるかしてしまったのだろうか?
「なんという事だ……。我は見知らぬ場所にいる上に、カボチャまでも失ってしまったのであるか……」
いや、諦めるのは早い。もしかしたら治療を施される際に誰かに外されただけかも知れない。
カボチャを捜索するために、痛みに耐え立ち上がった瞬間、医務室の扉が開き一人の女性が入ってきた。
「あぁ、良かった目が覚めたんですね。意識の混濁などはありませんか?」
医者と思しき女性の問いに男は首を振る。
「問題は無いのである。
ところで、かカボチャの被り物をご存知ないかね? 我が被っていたはずのものなのである。
それともう一つ。ここは何処であるか? 見たところラトロアなどでは無いようであるが」
「カボチャ……? いえ、心当たりは無いですね。あなたをここへ運び込んだ時には、そんな物は被っていませんでした。
それと、ラトロアという場所も知りませんね。服装などを見た限りでは多分、あなたは次元漂流者じゃないかって話でしたけど……」
次元漂流者という単語は気にはなったが、彼にとって重要だったのはそこでは無かった。
己の顔も同然だった『カボチャ』が無いという事実は男を痛烈に打ちのめした。
別の人生を歩む時こそ外すと覚悟はしていたが、不慮の事態でそれを失うなど……。
―――否。むしろ頃合だったのかもしれぬな……
と、彼が諦め混じりに事実を受け止めているうちに女医が呼んだのか、医務室に新たに金髪の女性がやって来た。
かぼちゃ支援
383 :
367:2008/11/27(木) 01:06:09 ID:xNmbhmh0
「初めまして、フェイト・T・ハラオウンといいます。
重傷で倒れていたあなたをここに連れてきたので、一応…保護責任者という事になるので、あなたの身元などを確認させてもらいます」
そうして尋ねられたのは、まず名前。
「我の名は……」
そこで一瞬考え込む。これまで名乗ってきた『パンプキン』という名は、被り物が無い以上名乗るわけにはいかない。魂の名であるそれは、被り物と共にあるからこそだ。
生まれ持った名も無理だ。その名を名乗るのは被り物を外す事ができてから、と考えていたのだ。今はまだ名乗る覚悟ができていない。
折衷案として、昔呼ばれることが多かった愛称を言うことにする。
「我は、故あって名乗るわけにはいかないのである。故に愛称として、パンタと呼んで頂きたい」
「……そう、ですか。ではパンタさん、あなたが何故路上に倒れていたのか分かりますか? 服装などが中世的だったこともあわせて」
「うむ、それについては我にもわからぬ。元はラトロアという場所に居たのだが、目が覚めたらここにいたのである。我の方こそ説明して欲しい」
やはり、男性―――パンタは次元漂流者らしい。
彼はフェイトが自分の車で六課に戻る途中の路上で、重傷で倒れていたのを発見された。
その傷はかなり深く、早急に処置しないと危ないと判断し、近づいていた六課に運び込んだのだ。
幸い命には別状はなかったものの、男の体を調べた結果、少なからず肉体の改造の痕跡があり詳しく調べるために聖王協会の病院へ搬送された。
そして、三日ほど眠っていた男は先ほど目を覚まし、今フェイトの事情聴取を受けているのだが、
―――変な人だなぁ
最初の感想はそれだった。見た目は温和そうな中年の男だったのだが、口を開いてみれば奇妙に芝居がかった口調だ。普通なら引くのだろうが、男の声や身振りのせいか何故か様になっていた。
突然別の世界に迷い込んだ割に混乱は薄いようだが、次元世界や管理局について順序立てて丁寧に説明する。
改造を受けた体を事についてなども聴きたかったが、とりあえず彼に事態を受け止めさせる時間が必要だと考え、フェイトは部屋を辞し必要な手続きのために六課のオフィスへ戻った。
パンタは説明された自分の状況について考える。
まず、自分は『また』異世界に迷い込んだようだ。どうにも奇妙な悪運には苦笑するしかない。
とはいえ、その体験のお陰で、次元世界については簡単に受け入れられた。
管理局という組織がそこを自由に行動している事についても同様だ。自分たちの世界でも異世界の遺物"魔術師の軸"を研究していたし、
シャジールの民が"御柱"を制御していたから、どこかの世界で異世界を渡り歩くことを可能にしてもおかしくはあるまい、と。
逆に驚いたのは"魔法"。自分の世界では御伽噺と同義の言葉は、この世界では確固とした理論のもとにある技術らしい。
―――教授が知ったら、興味を示しそうであるな。
屈強な外見に似合わぬ理知的な雰囲気の仲間を思い出し、ふと微笑む。
フェイトの話では、自分のような迷い人は元の世界が分かりさえすれば、幾つかの処置を施した上で帰ることもできるらしい。
その辺りは、この後も行う事情聴取の際に聞かせて欲しいという事だったが、
―――どうしたものであるかな……。
生まれた世界ではなく、自分たちが迷い込んだ世界に心残りが無いではなかった。
世界の危機については問題ないだろう。かの若き王子であれば必ず成し遂げると、パンタは考える。それより、仲間たちの事が気になった。
―――教授は大丈夫なはずであるが、イリスとエンジュやシア、カトルはうまく逃げおおせたのであろうか?
なにかと気掛かりだった上官は、エンジュがいれば大丈夫だろうか? カトルは最期に為すべきを成せたのか?
自分がいなくとも、彼らはやっていけると確信しているが、存外気になるものだった。
―――いずれにせよ、フェイト執務官にはもう少し詳しく話を聞かなくていかんのである
まだ体は癒えきっていない。もう少し休ませるべきだろうと、もう一度ベッドに横になる。
そして、まどろみ、ぼやけ始めた意識で彼は思う。
―――カボチャが無いのでは、子供らに『王様』の芸は見せられぬなぁ……
384 :
367:2008/11/27(木) 01:09:47 ID:xNmbhmh0
投下終了
というわけで「空ノ鐘の響く惑星で」クロスです。
時間的には最終巻の後、SSから派生した感じです
誤字などについてはご指摘下さい。投下後に既に一箇所確認しましたが・・・
これはまた珍しいものですね
しかし、パンプキンからカボチャ取り上げるとはあなた鬼ですか
負けないで!パンタ!
続きを待ってます
ヴァルプロクロスktkr
変態ロリコン魔術師の活躍期待してます。
RXは変身解いても裸にはならないはずだが。
光太郎「こいちゅを見てくれこいちゅをどう思う?」
フェイト「すごく・・・変態です。」
シャドー「不様だな!ブラックサン!」
赤ちゃんヴィヴィオ「バブー。」
この小説を読んでこんな場面を思いついてしまった俺はコジマ汚染とオルフェノク化が
激しいようだ。
390 :
一尉:2008/11/27(木) 13:02:44 ID:7NqIuxv4
キング・ダイアトラス総司令官支援。
黒い太陽氏、GJ!毎回楽しませてもらっている。これからもがんばってください。
しかし、気になる点がひとつ。
387も言っているが、RXは変身しても裸にはならないんじゃないか?
>>391 服ぬいで変身してるんじゃね
ヴィヴィオをくるんだシャツはぬいでたし
パンプキンの方、乙です。
逆に考えるんだ、服がないから変身したと。
原作と若干ミックスされてるのかな?>光太郎の服
ともあれ黒い太陽氏乙!
パンプキンの方も乙!
遅れましたが投下された職人の皆様GJでした。
最後に、本日の11時ごろに投下したいと思います。
そろそろと浮かしたいと思います。
(こ、こんなところで、私は……)
戦闘機人ナンバー2、ドゥーエは地面に転げ、信じられないといった驚愕の目で天を見る。
そこに移るのは、ただの天井。
先ほどまで腹部に激痛が走っていたが、その感覚すらも今はほとんど感じない。
それが、自分はもうすぐこの世のものではないことを鮮明に伝える。
(じょ、冗談じゃないわ……私は……)
しかし、彼女はまだ「それ」を認めていない。
まだだ、自分は絶対に生きる。
生き延びて、自分を作ったドクターを始め、潜入任務ために長い間会っていない姉妹たち。
そして、未だに写真でしか見ていない妹達。
全てが終わり、みんなと再会する。
ずっと、ずっとその時を楽しみにしていた。
今、彼女が思い浮かぶのは、送られてきたみんなの集合写真。
みんなの笑っている姿が、このような状況でも鮮明に見える。
(なのに、こんな……こんなところで)
しかし、自分の意思とは裏腹にだんだんと意識が遠ざかっていくのが解る。
体も全く動こうとはしない。
考えるということも彼女には出来なくなっている。
それは完全なる「機能停止」……すなわち、「死」がもうすぐそこまで来ている証拠だった。
自然と彼女の瞳から涙があふれる。
いやだ、まだ死にたくない。
こんな所でまだ終われない、終わりたくない。
こんな最後なんて、絶対に認めない。
認めてたまるものか。
「ド、ドク……ター……み……ん……」
時というのは、残酷なものである。
言い終える前に、ドゥーエの顔から完全に生気が消え、意識も闇に堕ちた。
全てはほとんど一瞬のこと。
そんな、あまりにもあっけなさすぎる結末が、彼女の最後であるはずだった……
「ん〜〜〜、今日の授業も終わった〜〜」
時間は午後4時ごろだろうか。
場所はどこにでもありそうな学校の校門前。
そこで、少年は大きな背伸びをする。
彼はこの自由となり、ゆる〜くできる時間がたまらなくすきだ。
「そうだね〜って、葉君はずっと寝てたじゃない」
その横で苦笑を浮かべているのは、身長が1mもない小さな少年は小山田まんた。
まあな、と笑みをこぼしている少年の名前は朝倉葉。
二人とも、森羅学園中東部に通っている学生で、今は授業も終わってまっすぐと家に帰っている最中である。
「今日は、アンナが用事があるって学校休んでるからなあ。今のうちに睡眠とっとかねえと体がもたねえんよ」
「そういえば、なんでアンナさんは学校休んだんだろうね?」
「さあなあ……まあ、あんまりいいことにはならないだろうなあ」
「そうだね」
はぁ、とため息を着く葉と同情するような笑みを浮かべるまん太。
なんてこともない、ごく普通の帰り道。
いつもどおり、これから夕飯の買い物に立ち寄ってから帰路につく予定だった。
「ん?」
先に異変に気付いたのは葉だった。
彼の目に飛び込んだのは、いかにも不思議な光景だった。
ここは日本で、住宅街が立ち並ぶ町並み。
こんなところでも、確かに外人はいる。
「葉くん、これって……」
しかし、足がなく浮いたまま倒れている外人というのは、いかがなものかと思う。
これは間違いなく……
「ああ、間違いない。こいつは外人の霊だ。阿弥陀丸」
『は!』
突如、彼の後ろからでろんっと現れた、この進んだ世界には絶対に存在するはずもない、俗にいうサムライと呼ばれる男が一人。
葉はその侍に命じた。あくまでゆるく。
「オイラはこれから晩飯の買い物に行くから、阿弥陀丸はこいつを家まで運んでやってくれ」
『御意』
少年の言葉に阿弥陀丸と呼ばれた男は一礼すると、その外人女性を持ち上げ、ふよふよと飛んでいった。
「ド、ドクター……」
その中、その女性がつぶやいた言葉を、阿弥陀丸は軽く聞き流すだけだった。
シャーマンキングクロス〜家族を求めて幾千里〜 1
『ん……』
女性は、ふと目がさめると条件反射で起き上がる。
しばらく気を失っていたせいか、まだ頭が完全に機能していない。
『こ、ここは?』
周囲は見たこともないような光景だった。
おそらく木材を使用した部屋に、同じく木材で作られた家具等が並んでいる。
一体ここは……とまだ脳が完全に機能していないままと考えると、彼女はようやくこれまでの事を思い出す。
『そうだ、私は……』
自分は、あの時に死んだはずだ。
嫌なことだが、それは鮮明に覚えている。
自分はあの時殺されたはず。
なのに、なぜこのようなところにいるのか。
彼女は既に頭は半ばパニックに陥りかけている。
しかし、伊達に長い間起動してはいない。
何とかこの状況を考えるため、何とか落ち着こうとして思案する。
丁度その時だった。体に異変を感じたのは。
『私って飛べたっけ?』
自分は飛行できるように開発されてはいない。
では、このふわふわとした浮遊感はなんだ?
(全く、わかんない事だらけね……ん?)
彼女は、ふと自分の足を見てその身を凍りつかせる。
その視線の先には、自分の足があるはずだった。
普通の人には足があるはずだし、いくら自分が戦闘用に開発されたものだとしても、人型であるゆえ足があるのは常識だった。
『あ…足が無い……』
そこにあるのは、ふよふよと浮いている自分と、まるで雲や煙のようになった自分の下半身。
彼女は、半ば呆気にとられてそれを見ること数分。
『きゃあああぁぁーーーーーーーーーー!!!』
彼女の頭は完全に爆発した。
ただでさえ、訳のわからないことばかりで混乱しているのに、とどめに自分の下半身が妙なことになっている。
普通なら、驚くなというのが無理な話である。
『あdkjshdhkhくfz――――!!!』
彼女は発狂し、もう何を言ってるのかさっぱり解らない。
そこまで混乱様態に陥っている。
このままでは、誰かが止めない限りはずっと狂乱していることだろう。
「ああもう五月蝿いわね!!静かにしなさい!!」
そこに聞こえたのは、彼女の声をも上回る少女らしい声。
そのこれを発した少女は、ぴたっと何かを彼女に貼りつける。
突如、声にならない激痛が、彼女の体全体に走り抜ける。
あまりの痛さに、(また死ぬのね……)と心の中で覚悟する女性。
もしかしたら、今度こそ楽になれるかも……とまで考え始めた。
「お、おい!何なんだよこの騒ぎは!?」
突如、少年が余りの騒ぎにドタドタと慌しく降りてきた。
少年が降りてきたと同時に、もういいわね、と先ほどの騒ぎを作り出した少女は、さっきから声にならない叫びを上げている女性に貼られている何かをはがす。
それと同時に、女性は力なく倒れこんだ。
『はぁ、はぁ、はぁ……い、一体何なの?』
もう考えるのも面倒臭く感じるが、さっきから人の気配がするので、そのほうをちらりと見る。
そこには、一組の少年少女がいた。
「おお、目を覚ましたんか。オイラは朝倉葉。お前を拾った奴だ。で、こいつは一緒に住んでる恐山アンナだ。よろしくな」
少年、朝倉葉はニカっと笑って自己紹介をする。
彼のほうけているようにしか見えない笑みに、女性もふっと笑みをこぼす。
もう、半分どうでもよくなっていた。
『私はドゥーエよ。よろしく』
その後、ようやく落ち着いたドゥーエは二人からあらかたの事情を聞いた。
最初聞いたときは、さっぱりわけが解らない。
なにせ、まず聞かされたのは「あなたは死んで幽霊になった」だ。
確かに自分が死んでいるのは十二分にわかっている。
だが、いきなり幽霊になりましたといわれても、正直な話よく解らないし実感もない。
そういうドゥーエに対して、アンナはゴムボールを手に取り、彼女に向かって放り投げる。
彼女は困惑しながらも、それを受け取ろうとする。
本来ならつかめるはずのボールは、なんと彼女の手をするりと通り抜けていった。
「これで解ったでしょ?あなたは肉体を失って、霊だけになったの。それよりも、その足を見てさっさと気がつきなさい」
なんでも、精神体になると現実にある物質を触ることができなくなるらしい。
アンナの説明に、ドゥーエははぁ、と頷くしかできなくなってきた。
もう、自分には何のことかさっぱりわからない。
とりあえず、自分は死んだんだというのがわかり後は適当に聞き流そうとした。
「で、本来なら精神体は肉体が滅ぶと同時に精神体も消えるんだけど、時たま精神体だけがさ迷う時がある。今のあなたみたいにね」
しかし、次の話から、アンナの顔が真剣になる。
どうやら、話はここかららしい。
「時々、死んでも強い意思に縛られたり、未練が残ったりしてこの世にとどまってるやつがいるんだが、
おまえ、何か心残りでもあるんか?話しなら聞いてやってもいいぞ」
先ほどまで話を聞くだけだった、葉という少年が口を開いた。
もう少し話を聞くと、彼等はシャーマン、いわば霊能力者と呼ばれるものらしい。
その仕事に、霊を成仏……つまりはその無念を晴らす仕事というのがあるらしいのだ。
一応死んだとはいえ、さ迷っていた自分を助けてくれたのだから、彼等には感謝している。
しかし、自体の事を話してもいいのか、と思案する。
そこで、ふとあることに思いついた。
『その前に聞きたいんだけど、この星の名前って何?』
「…は?」
突然のドゥーエの質問に、二人は呆然と彼女を見る。
その目は、だんだんと変なものを見る目へと変わっている。
彼女がそんな事を聞いた理由、それはもしかしたらここがミッドチルダではなのかもしれないと感じた。
時々、別世界の人間が時空漂流者として飛ばされるのはよく聞く話しである。
なら霊体が飛ばされるというのも、別にありえない話ではないとドゥーエは推測する。
しかし、何か納得したような表情の葉の言葉は、そんなドゥーエの予想を軽く裏切った。
「もしかして、お前もミッドチルダっつう世界からきたんか?」
『……え?』
今度は、ドゥーエがぽかんとなる番だった。
ここはミッドチルダではない。
それは彼の言葉でよく解った。
じゃあ、何故彼はミッドチルダのことを知っているのか?
ここはミッドチルダと交流がある世界ということなのか?
「なあアンナ、クイントはどこだ?」
「今は竜と一緒に厨房よ。そろそろ出来上がるんじゃ「旦那!女将!食事の時間ですぜ !!」どうやら、丁度いいみたいね」
そういうと、アンナは立ち上がって外を見る。
日は既に暮れていて、丁度夕飯時といったところだ。
「ついてきなさい、あなたと同じ世界の出身者の霊がいるから」
ドゥーエの方を振り向きもせずに言うと、そそくさとこの部屋を後にするアンナ。
そんなアンナを、ドゥーエはぽかんと、葉は苦笑してそれを見送る。
「まあ、そういうことだから、オイラ達もいこうか」
葉の言葉に、ドゥーエも苦笑を浮かべて「そうね」と彼についていくようにこの部屋を後にする。
その循環、どっと疲れたような気がする。
取りあえず、その同じ世界の出身者というものに会い、話をきかなければいけないというのは、考えなくても解ったのだ。
何となく、ドゥーエは家族のことが気になった。
「みんな、どうしてるのかしら」
みんなは作戦を成功させ、元気でしているのだろうか、と思案する。
自分がこの世に残った理由。
それは、もうこれしかなかった。
(やっぱり会いたいのよね、家族に……)
結局、会えずじまいになってしまったドクターや姉妹たち。
死ぬ間際、みんなに会いたいと強く願った。
その未練が強く残り、自分は亡霊として残ってしまった。
なおかつ偶然が重なってこの世界に飛ばされてしまったのだろう。
(全く……)
少々ため息交じりにドゥーエはつぶやくと、ゆっくりと葉の後についていく。
これから自分はどうなるかなんて、考える気にもならなかった。
「くはぁ!うんめえぇーーーー!!」
自宅の居間で、朝倉葉は先ほどから目の前のおかず次々と平らげていった。
ドゥーエはその光景を、ただ呆然と見るだけ。
(あんななりの小さい体に、どうやったらあれだけ入るのかしら?)
と、やせの大食いを地で行く少年を見る。
彼の食事っぷりは見ていても気持ちがとく、とてもほほえましい光景だった。
しかし、と彼女はこの部屋の住人らしき人物達を見る。
「けど、今日の散らし寿司、いつもと味違うことないか?」
「これは私が作ったのよ、文句ある?」
「な!お前が作ったんか?……まさか、今日学校休んでたんは」
「クイントがうるさいのよ。女なら料理くらい作ってみせろって」
『あのアンナ殿を動かすとは……恐るべじ、クイント殿』
この家の主である朝倉葉と恐山アンナ。
葉の後ろにいる侍とかいう戦士の霊、阿弥陀丸。
「……」
葉とアンナが隣り合って食事をしているのを、羨ましそうに見ている少女、玉村たまお。
「女将の腕のなかなかですぜ。こりゃあ俺もうかうかしてらんねえ」
おそらくこの料理を作ったであろう、しゃもじをもつ男。
彼の名前は梅宮竜之介、通称木刀の竜。
本人自慢のリーゼントが決まっている、見ての通りの不良である。
その背後にいるのがまるで蜥蜴みたいな男、蜥蜴朗とやさしい笑みを浮かべている、例のクイントと呼ばれている女性の霊。
(何なの、この家庭構成?)
「しかし竜、お前また腕を上げたな」
「なあに、これも姐御の指導のおかげですぜ。あっしなんて姐御に比べればまだまだ赤子同然です」
この竜という男、葉とアンナを主と仰いでいるようで、ずっと頭を下げたまま。
以前、彼はこの二人に恩があるようで、それからはここでいろいろこき使われているらしい。
『そんなことないわよ。竜君も葉君も、男の子でこんなに料理ができるだけで十分。私の旦那なんて、全く料理をしなかったんだから』
どうやら、姐御というのは彼の後ろにいるクイントのことらしい
クイントはどこか家族の事を懐かしんでいるように彼等をみている。
そんなクイントを見て、ドゥーエは首をかしげる。
(彼女、どこかで見たことあるのよね)
う〜〜ん、とドゥーエは必死で思い出そうとする。
一度死んでしまったせいなのか思い出せないでいるのだろうか。
少なくとも、彼女は自分を知っているような態度ではなさそうということである。
『それじゃあ、私は用事があるから席をはずすわね』
みんなが夕飯にありついたところを見ると、クイントはドゥーエの方を見る。
彼女もある程度の話は葉達から聞いている。
クイントは無言で合図すると、ドゥーエも無言で頷き先ほどまで自分が気を失っていた部屋へと向かう。
この部屋にはこの二人しかいない。
『あなたもミッドチルダ出身の人なのね。私はクイント・ナカジマ。かつては管理局地上部隊に所属してたんだけど、今はこの通りこの朝倉家の家事専門のアドバイザーって所。
あとは葉君の格闘戦の師匠としてみっちりしごいてる最中』
彼女はにっこりと自己紹介をし、その顔は自愛に満ち溢れているようだった。
その笑顔は、どこかほっとしているようにも見える。
自分以外にも同じ世界の出身者がいるからだろうか。
しかし、そんな彼女の笑顔とは対照的に、ドゥーエは驚いて彼女を見る。
管理局、そしてナカジマ。
ようやく、彼女は何者なのかを思い出した。
(なるほどね、そういうこと)
不意に笑みが浮かぶほど、彼女は自分達とは深い関わりがある。
なにせ、彼女は妹の一人の……
『ん?どうかしましたか?』
突然、驚いたり笑ったりするドゥーエを不思議に思うクイントだったが、ちょっとね、とドゥーエはまだ笑っていた。
彼女は、今まで何で気付かなかったのだろうと、自分がおかしくて仕方が無い。
なるほど、言われてみれば確かに容姿が「アレ」に似ている。
『そう、あなたがあのクイント・ナカジマなのね』
『え、私を知ってるんですか?』
自分の事を知っていることに、クイントは少なからず驚いているようだ。
自分を知るもの。
彼女はご近所さん、はたまた局員だったのか。
とりあえずご近所にはこんな女性は見たことが無いため、おそらくは後者だろうと心の中にとどめる。
『ええ、あなたのDNA資料を基にして作られた、未だに誰が作ったかわからない戦闘機人、タイプゼロシリーズを引き取った、あのクイントでしょ?』
『!?』
しかし、彼女の言葉にクイントは驚愕の表情を浮かべる。
戦闘機人、タイプゼロシリーズ。
何故彼女がその事を知っている?
彼女は一体……
『紹介が遅れたわね、私はドゥーエ。ジェイル・スカリエッティによって作られた戦闘機人、ナンバーズの2番目』
ドゥーエは、よろしくと血の気が引いているように顔面蒼白(幽霊だけど)なクイントを微笑を浮かべた。
やはり、彼女はあの女だった。
以前、まだ自分が管理局にスパイとしてもぐりこむ前のことである。
こそこそとガジェットや姉妹たちを作る研究所をかぎまわっていた管理局員の一人。
さらにタイプゼロシリーズを自分の養子にした女。
それが、このクイント・ナカジマだ。
『せ、戦闘機人……』
これが、因縁ある彼女達の出会いだった。
これで投下終了。
今回は、シャーマンキングとのクロスです。
フルメタルマジカルのような軽い感覚で読んでくれたらなと思います。
長さもそれくらいにしようと思っています。
乙。ってか懐かし!
自分バリッバリの葉アン派でした。WJ初の学生夫婦&10代で子持ちは色々と衝撃で悶えた・・・(笑)
シャーマンファイト前なのか後なのかが気になります
乙
懐かしいなあ、シャーマンキング
>>403 シャーマンキングktkr!
最近、完全版出てるよね懐かしいな〜
クイントとドゥーエは今にも一触即発な状態ですね。
葉たちも2人にどう係わっていくんでしょうね。楽しみです。
>>403 GJ!!
ここでドゥーエ姉さんとクイントさんですか、これは一本取られました。
シャーマンキングは主題歌等も良かったですねえ。
続き、楽しみにしています。
きみーにとどーけノーザン乙!
GJです
なかなか予想外のメンバーでw
あと朝倉じゃなく麻倉です
GJっす!マンキンですか!!
懐かしい!!!(ただあの最終回はいかがなものかと……)
これから他のキャラ出てくるかと期待大ですね!!!
GJでした!
次々と新作が溢れて嬉しい限りです。
ところで話の流れは原作ですか?それともアニメ?
アニメは一応区切りがついたけど原作が「俺たちの闘いはこれからだ!」というのも微妙な終わり方だったから……
まあオリジナルの展開なら問題ないんですけどね。
412 :
一尉:2008/11/28(金) 17:16:07 ID:AGhEQoZb
オリジナルなら問題ないOKたね。
ぃぃいやっっほおおおお!!!!!
マンキンとのクロスが読めるなんて、懐かし嬉しくて最高っすよ!続きも期待しております!!
単発作品が完成したので投下したいのですが、現状、予約がないようなので
22:15頃から投下しても大丈夫でしょうか?
打ってこいオラァ!
416 :
414:2008/11/28(金) 22:16:06 ID:JI0Yx6V7
大丈夫そうなので、まいります。マイナーSTGとのクロスです。
・
突如として幽閉を解かれたスカリエッティだったが、その身柄には厳重に、高ランク魔導士による監視と護衛の手が届く範囲内に置かれていた。
彼が連れ込まれた一室は、殺風景な内装に、デスクとコンソルが置かれた事務室のような一角であった。
窓はなく、照明は薄暗い。
「一体どういう風の吹き回しかね」
両脇を固める魔導士に問いかけても、答えは返ってこなかった。
部屋には数人の、所属部署や階級を示すものがつかない黒服をまとった男たちがおり、スカリエッティにデスクへ座るよう促した。
「このコンソルはこの部屋の内部で完結するデータバンクだ」
挨拶もなしに、一番背の低い、しかし目つきが最も鋭い男が語りだす。
「なるほど、外と通信しようとしても無駄、監獄のシステムをハイジャックするなどという真似もできない、そういうことか」
鼻で笑いながらスカリエッティは返答する。自分に端末が与えられるならば、それくらい当然だと考えていたからだ。
今更、何を言うのだといわんばかりである。
「生憎、今回の事件に関して最適の人材が君らしくてね。まぁ、この生物について少しばかり調べてくれればいいのだよ」
男がコンソルに触れると、二重らせん構造のホログラフと共に、それを構成する配列のデータが次々と示され、それがなにがしかの生物の遺伝子情報であることを即座に理解させた。
「そんなに厄介なのかい?」
スカリエッティは問う。
「ああ、厄介さ。君の自慢の娘たちが4人も犠牲になるほどな」
狂った科学者の顔から笑みが消える。殺気を持った眼が、黒服に向けられた。
だがその両脇は、とっさに護衛の高ランク魔導士に捕まれ、動きを封じられる。
黒服の表情は、スカリエッティと逆で、最初から今まで眉一つ動いていなかった。
「貴様……いいだろう、わかった。そこで指を咥えて見ているがいい。凡人め」
・
「デバイスが次から次に暴走した、と」
査察官と向かい合った席に座るヴィータは、両腕で頭を抱えて突っ伏し、今にも消えそうな、それでいて震える声で、ようやくそれと解る頷きを共に肯定した。
「単なる精神錯乱や魔力的洗脳、幻惑の類ではなかったということかね」
それに対しても、ヴィータは頷いた。
いつもの快活な彼女の姿はここにはない。肉食獣に狙われた小動物のごとく怯え、青ざめた顔には生気らしいものが見受けられなかった。
彼女は本局の内部にいるにも関わらず、バリアジャケットのままだった。
大破した次元航行艦で第220管理世界から本局へ戻る間も、ずっとそうだった。
それを解除するよう、本局のスタッフが薦めたところ、半狂乱で拒否したのだ。
ヴィータは明らかに何かに怯えていた。しまいには、泣きながらバリアジャケットを解除させないでくれと懇願するほど、それは顕著であった。
よく見れば、彼女はどこにも、グラーフアイゼンを持ち合わせていなかった。
ハンマーの状態でも、アクセサリの状態でも、それは存在しなかった。
査察官は、憐れむような声でヴィータに問いかけた。
「君のデバイスも、やはり主人に牙をむいたのかね」
瞬間、ヴィータは身体を大きく震わせた。同時に発せられる悲鳴。
守護騎士のものとは思えない、何かケモノの断末魔のような悲鳴。
耳をつんざいたそれがようやく消え、耳を塞いでいた査察官がおそるおそる耳から手を離すと、ヴィータはひどい声で鳴いていた。
吼えるような号泣だった。顔は醜く歪み、口から発せられる言葉にはおよそ人間の解する意味が見出せないほど。
「大丈夫か、二等空尉。落ち着きたまえ……私だ、メディカルスタッフを寄越してくれ。
鎮静剤が必要だ。二等空尉の精神状態は聞き取りができる状態にない」
その間中、堰を切ったように、否、ダムが決壊したかのように泣き続けるヴィータは、ただひたすら、デバイスと部下に対する謝罪の言葉を、狂ったように吐き出し続けた。
ヴィータがメディカルスタッフに注射を打たれ、ぐったりして運び出されてから、査察官は頭をかきむしって、あの、ナリは小さくとも自分より数段上の魔導士に何があったのか想像した。
それは無駄だった。何があったのか知っているものは、もう彼女しかいないのだから。
ヴィータは、第220管理世界で発生した緊急事態鎮圧に当たった部隊の、唯一の生存者であった。
417 :
414:2008/11/28(金) 22:18:27 ID:JI0Yx6V7
メディカルスタッフの作業はシャマルが引き継いでいた。
ヴィータは、今はベッドで寝息を立てている。それ以外に処方箋がなかった。
シャマルの言葉にすら、ヴィータはまともに反応できなかった。
怖い、助けて、嫌だ死にたくない、みんな置いていかないで、あいつらが来る、なんで私を攻撃するんだ、アイゼンやめて、私だよアイゼン、どうしちゃったんだよ。
物凄い形相でそんな言葉の羅列をひたすら吐き続けるヴィータ。
守護騎士であるシャマルには、同時にヴィータの感情が流れ込んでくる。
それに対し、シャマルは心配よりむしろ恐怖を覚えた。
このヴィータは自分が知っているヴィータではなかった。元々彼女は子供っぽい、いや、大雑把で感情的なところがあったが、ここまで取り乱し、錯乱するような、神経のやわな守護騎士ではなかったはずだ。
それが今はどうだ、ヴィータの心は壊れて変質してしまっている。
自分に向けられる何もかもが信用できず、自分の殻の中に閉じこもって、やってくるもの全てを脅威と認識するようになってしまった。
一体どれだけの恐怖が彼女の心を蹂躙したというのか。シャマルはそれを思うと、得体の知れぬ恐ろしさを感じずにはいられなかった。
同時に、守護騎士プログラムが以前より劣化していているのが不幸中の幸いだと感じる自分に対する嫌悪も。
もし以前のようだったら、ヴィータが本局に戻ったとたん、自分もヴィータの恐怖を共有して、発狂していたかもしれない。
ホログラフでTVを見れば、どこの局も、ヴィータが交戦したという第220管理世界の異変と、それに伴う各管理世界間の移動制限を大ニュースとして朝からずっと放送し続けていた。
「あら?」
シャマルは手の甲に冷たいものが触れた感触を覚えた。
何かと思って目を凝らせば、水滴が付着している。次いで、目を凝らしている、自分の異常さに気づいた。手の甲を見るのに、目を凝らす必要などあろうか。
しかし、現実に視界は滲んでおり、よく見えないのだ。
そこでようやくシャマルは理解した。自分は泣いていた。
「あれ?え……」
涙が止まらない。一度出始めた涙が止まらない。
それはヴィータにだけ向けられたものではなかった。
ここにいない、ニュースでずっと伝えられているあの第220管理世界にいまだ居る、生きているのか死んでいるのかも判然としない、烈火の将にして剣の騎士。
そう、シグナムが帰っていないのだ。
また、彼女とユニゾンしていたアギトも同様だった。
・
「……これは、狂っているね」
スカリエッティは、採取された遺伝子情報の仮想コピーを解析するうちに、胸の内から、ふつふつと、生理的な嫌悪が湧き出してくるのを感じた。
そこに、マッドサイエンティストとしての彼は微塵も存在しなかった。
「君が狂っているなどと評する存在がこの世にあろうとはな」
より大きな狂気と対峙していたからである。
スカリエッティにはもはや、背の低い黒服の言葉も耳に入らない。興奮した様子の彼は、同時に憤慨しているようだった。
その感情をコンソルに拳で叩きつけ、唸る。
「この遺伝子は、他の全ての生命の宿敵だ」
生命を散々冒涜してきたスカリエッティの口から、そんな言葉が飛び出したことに、黒服は口元を釣り上げ、皮肉まじりに言った。
「一体、それはどんな存在なのだね。君と、どっちが狂っている」
「私など足元にも及ばないさ」
即答。スカリエッティは続ける。
「この生命体は、知的存在に寄生し、それを利用して増殖する化け物だ。肉体を食うのではない、知能を欲する。知性体なら、動物だろうとデバイスだろうと、おそらくコンピュータでさえも分け隔てない」
真偽をはかりかねるように、黒服は問いかけた。
「知能を、食うのか?そんなものが食えるというのか」
「その通りさ……まったく、狂っている。自分の周囲に惑星外殻を形成し、魅力的な資源を生み出して知的生命を呼び寄せ、繁殖に必要な一定数が集まったところで、働き蜂のような巨大生物を一挙に放出して捕まえるんだ」
418 :
414:2008/11/28(金) 22:19:14 ID:JI0Yx6V7
グロテスクな解説に、黒服の顔が一瞬引きつる。しかし、やはり一瞬は一瞬で、元の調子に戻った彼はすぐにスカリエッティから次の情報を求めた。
「それが第220管理世界での異変の正体か」
「それだけではない」
スカリエッティは一呼吸おいて、ここが肝心だ、と念を押して、続けた。
「知的生命が持ち込んだあらゆる知性を持つ存在、おそらくデバイスもガジェットも、質量兵器でさえも、この遺伝子を注入されれば、こいつらの仲間、生態系の一部に変質してしまうんだ。そして主人に牙を剥く」
「デバイスが一斉に暴走したというのも、それが原因ということか」
「多分そうだろう。そして、捕まった人間は――」
・
ヴィータを見舞いにきたはやては、ただ眠り続けるヴィータの手を握ることしかできず、見舞いというにはあまりに寂しいことしかできなかった陰鬱な気分を、本部の窓から外宇宙を眺めることで晴らしていた。
「シグナムは帰ってこない、第220管理世界は厳重閉鎖、どうしたらええんやろな」
晴れない分は、さらに言葉となって、同行してくれた友人たちへの弱音となった。
隣にいるのは、高町なのはだ。彼女もまた、"自分がついていれば"と、無力感、そして喪失感を隠せずにいた。
何より、現地の状況が何もわからないのが、高度に情報を共有できる管理世界で日常的に過ごしてきた彼女らを苦しめる。
だが
「二人とも、あれを!」
その感傷は、はやてに付き添ったもう一人、ザフィーラの声で唐突に打ち切られた。
ザフィーラが指差す方向には、大破した――ヴィータたちを乗せて帰ってきた――次元航行艦が、
「……え?」
「……なんや、あれ」
目に見えるかたちで変質していた。
外部装甲に開いた穴、その中に見えるのはジェル状の赤黒い、波打つ物体。
あちこちにできた破孔からは、例外なくそれが見え、そして外部装甲は
簡易桟橋に係留されているだけにも関わらず、次々と剥離しはじめていた。おそらくは、内側から赤黒いジェルに押されているのだろう。
「ひっ……!?」
そして、その次元航行艦の周囲で船外活動を行っていたクルーたちは、赤黒いジェルが、まるで生きているかのようにぬらりと伸びるたび、次から次に
「いかん、やつは人を食う!主、指揮所に連絡を……」
「やっとる、でも念話が繋がらん……なんや、なんやの!」
「落ち着いて、はやてちゃん!……ッ、レイジングハート!」
「It's me,my master?」
彼女の相棒がいつもの声で返事を返す。
バリアジャケットを一瞬で起動、白装束となったなのはが通路を駆け出すのと、警報音が通路に鳴り響いたのは同時であった。
はやて、ザフィーラがなのはに続く。しかし、何処へ?
答えはなのはが出した。
「間に合わない、そこのエアロックから出て直接攻撃する」
とんでもない答えを。はやては目を丸くする。
「なのは、本気で言っとるんか!?」
「はやくしないと、本局まで乗っ取られるよ!」
なのはの言葉に、はやてはエアロックの観測窓から次元航行艦を見やった。
本当だ。既に桟橋までもが食われはじめている。
全体が斑点のように赤く染まった次元航行艦は、ジェル状の何かを一挙に突出させ、それは奇怪な怪物を象った何本もの首へと変貌した。
驚く間も無く、首から一斉に青白い光線が放たれる。狙いは――
419 :
414:2008/11/28(金) 22:20:52 ID:JI0Yx6V7
・
鎮静剤を打ったはずのヴィータが、何か喋っているのを目にしたシャマルはぎょっとしてヴィータに駆け寄った。
目が開いている。しかし光はなく、どこに焦点が合っているのかもはっきりしない。
胡乱な目をしたヴィータ、その口は、およそヴィータのものと思えない言葉を、奇怪なアクセントで放出していた。
「ふぃロソマ キどウ ターゲっと コンタクト げのム 放出 ゲノム げノム げnom……」
「ヴ……ィータ、ちゃ、ん?」
シャマルはたじろいだ。彼女は自分の足がヴィータから離れつつあることに気づいた。
無意識にシャマルはヴィータに恐怖していたのだ。
そういえば、ヴィータは起きて喋っているにも関わらず、その思念がちっとも自分に伝わってこない。
鎮静剤を打たれて運び込まれてきた矢先、うなされていたヴィータの感情は、確かに自分に流れ込んできていたし、さっき見舞いにきたザフィーラや主とも、確実に繋がっていというのに。
一体何が起きている?シャマルは理解不能を和らげるために、医療用コンソルに駆け寄って、ヴィータの脳波から現在の状態をチェックしようとした。
コンソルの画面は一種類の英単語でびっしり埋め尽くされていた。
「いやぁぁああああぁぁぁあああ!!??!」
飛びのいたシャマルはそのまま尻餅をついた。
一瞬送れて、まるで眠りから目覚めたかのようにそいつはホログラフ画面を、部屋中に投影した。そこに写っている文字が、何を意味しているのか、シャマルにはまったく見当がつかない。
PHILOSOMA
念話がどこにも通じないことに気づいたシャマルが、這いつくばって内線の受話器に手を伸ばしたのと、部屋のホログラフ画面を覆いつくすアラート表示と共に警報が響き渡ったのが、ほぼ同時だった。
・
「そうか、わかった。博士は非常に協力的だ……間に合うかわからんが、ああ、後で」
黒服は、スカリエッティとの話の途中で外線に出て、なにやら狼狽した様子で二分ほども話し込んだ後、戻ってきて、言った。
「捕まった、やつは、どうなるんだ」
彼は、もはや動揺を隠していなかった。スカリエッティの説明がすべて真実だと思い知らされたのだ。管理局本部は今、説明されたのと同じ状況下にあった。
「捕まった人間は――」
スカリエッティも、何が起きたのかだいたい察していた。次元世界は、この狂った生態系の攻撃に曝されている。
「……最低限の臓器と、脳を取り出され、袋詰めにされた状態で、生かされ続ける。いや、これは生きているとはとてもいえない。仮死状態と言っていいだろう、意識など保てるわけがない。
そんな状態にされた住人たちは、地下深く、惑星中心核付近の空洞に運び込まれ、そこに貯蔵されるんだ。『それ』が誕生するまで」
黒服たち、それにスカリエッティを監視していた魔導士までもが、絶句していた。
説明が本当なら、文明の保護と永続を目的とする時空管理局にとって、最大限の、最悪の敵にほかならない。
スカリエッティは、なおも続ける。
「『それ』は、あまりに防衛機能が発達しすぎたために、自身では受精することすらできないんだ。
惑星中心核が受精卵、そしてそれを受精させるための精嚢生物、全長数キロメートルにもおよぶ巨大生物は、精嚢を『割ってくれる』誰かを求める。だから、一見無意味なようだが、捕獲した人間を生かしておくんだ」
室内がどよめいた。スカリエッティと対面していた黒服が、まさか、と問いかける。
「第220管理世界からの要救助者反応は……」
「そうだ」
スカリエッティは、青ざめた黒服に、冷静に答えた。
「『それ』が、自らを増やすために、我らを呼び寄せるための、罠だったのだよ」
420 :
414:2008/11/28(金) 22:21:56 ID:JI0Yx6V7
・
彼女たちのデバイスは、メディカルセンターのヴィータ同様に、意味不明な単語を並べながら、主人の言う事をまったく聞かなくなっていた。
「Genom hack Genom hack Genom hack Genom hack」
「レイジングハート、レイジングハート!はやてちゃん、レイジングハートがぁっ!!」
「くそぉ、魔力がうまく制御……あかん、ザフィーラ!」
「うぉぉおおおっ!!」
そう。ガメトサイト遺伝子に汚染されたのだ。
知的オブジェクトを利用し、惑星規模の生命体を受精させる生態系『フィロソマ』
憎悪と恐怖の永遠の象徴。空間を駆け巡り、宇宙のあちこちに遺伝子を飛ばして
知性体を求め続けるそれは、次元航行艦のメインコンピュータと、ヴィータという媒体に
自らの遺伝子を運ばせて、管理局の中枢である本局までやってきた。
魔法で真空に耐えつつ戦っていた三人だが、デバイスが暴走したことに加え、施設内のシステムが侵食されダウンしたことにより、状況がつかめず、後退せざるを得なかった。
フィロソマ化した、次元航行艦だったバケモノから発射されるハイパワーレーザーを
ザフィーラが受け止め、弾くことでどうにか逃走に成功したものの、デバイスは役に立たず、そしてそれらは汚染されている。
だが、汚染されているという情報は、彼女たちについに伝わらなかった。
シャマルはヴィータすら連れて逃げ、途中でアコース査察官やフェイトとティアナ、最終的に果敢にも挑んだなのはたちと合流し、脱出を図った。
寧艦されていたアースラに集まった面子が本局を脱出したとき、第9無人世界の軌道拘置所と本局の交信は、既に断絶状態だったのである。
スカリエッティの仕事を知っているものは脱出できず、動かない通信システムと共に、本局の奥深くに閉じ込められ、光り輝くカゲロウを見ることになる。
スカリエッティの仕事を知らないものは、汚染された知性体と共に脱出し、管理世界のあちこちにガメトサイト遺伝子を持ち込むことになった。
・
「そう、フィロソマ生態系。本局……はなくなったから、時空管理局は、か。本日づけで同生態系を……いや、正確には、同生態系を構築するガメトサイト遺伝子そのものを、暫定的にロストロギアに指定した」
誰に話しかけているのか、クロノは焦燥した顔をこわばらせる。
まるで、自分のことで精一杯であるとでもいうかのように。
「これまで次元世界では多くのロストロギアが発見されてきたけど、まさか生態系や遺伝子そのものが指定されるだなんてね」
リクライニングシートを最大限に傾けて、クロノは天を仰いだ。
そこにあるのは天井でしかないのだが。
「管理世界のどこまで汚染が広がるのか、見当もつかない。どれだけの汚染で、どれだけの被害が出るのかも、まったくわからない……そして、誰が汚染されているかも、わからないんだ」
そう呟き、しばらく無気力な表情を見せたクロノは、はたと自分のデスクにある家族の写真を見やる。
そこにあるのは、平和だった頃、幸せだった頃の残渣があった。
つい先週まであったはずの、平和。
こんなことなら、自分も一緒に汚染されてしまえばよかったんだ。
クロノはあのとき、別件で遥か彼方、時空の向こうにいた。
おかげでフィロソマについての情報を事前に入手でき、管理局がまだ接触したことのない次元空間に艦を置くことで、どうにか安全を保っている。
もし管理局から指令が下れば、すぐ行動できる状態で。
おかげで、妻も、妹も、友人たち、部下に至るまで、仲間たちを助けることができないでいた。
相変わらず不明な他の次元世界の状況、仲間の安否、そういったものが、時間がたつごとにクロノや他のクルーたちの精神をすり減らしてゆく。
そしていつしか、彼らは受信するのだ。
「こちらミッドチルダ、管理局地上本部!誰か応答してくれ!」
「こちら時空管理局、次元航行艦『クラウディア』、受信した。状況を知らせよ」
「緊急事態だ、救援を頼む、惑星が……」
終わることのない戦いの始まりを告げる、それを。
421 :
414:2008/11/28(金) 22:25:26 ID:JI0Yx6V7
・
ファイナルリポート
フィロソマ 受精 成功
ミッション コンプリート
次元世界 人類・デバイス 共ニ
受精拡大ニ 最適ノ存在
ニューフェイズ 移行段階
オーバー エンド
---
フィロソマはSCEIが1995年に発表した超かっこいいクソゲーです。
以上で投下はおわりです。お目汚し失礼いたしました。
GJ!
ゲゲー!あの鬱シューティングかよwww
GッッッッッJッッッッッした!!
まさかフィロソマで書いてくれる猛者が存在しようとは!
初めてあれをプレイした時の衝撃は今でも忘れられません。
やたら綺麗な映像とイカした演出に惚れ惚れしていたら、ステージが進むごとに雲行きが怪しくなってきて、最終的には完全ホラーに……
最後の『袋』とミショーの絶叫はゲーム史上に残る鬱シーンorz
というか、第220管理世界ってLV220かよ!
つまりこの後、地球人が反物質採掘プラントを第220管理世界に築く訳ですね、分かります。
そしてギャラントとストレガが派遣されて、管理局と同じ地獄を質量兵器版で見る訳ですね。
まさか元凶のひとつが、地球から飛ばされた探査衛星のAIとは夢にも思わないだろうなぁ……
しかしまさか「アリスが、アリスがぁぁぁぁ!!」をなのはさんとレイジングハートでやるとはww
なのはが高速飛行中に制御が効かなくなって、壁に激突死すると申したかw
フィロソマの脅威が実に上手く表現されている作品でした。
次回作も期待しています!
GJだけどなんつー全力全快なバッドエンドw
さぁ、『フェイズパラドックス』編を急いで書く作業に戻るんだ。
知られてないと思うけどフィロソマの続編。
GJ!!です。
こんな作品を待っていましたw
こう、どうしようもない脅威に足掻くってのが堪らなく好きです。
GJでした
しかしSTGって本当に絶望から始まり鬱に終わるのが多いよねw
なんつーマイナーSTGをwww
当時店頭で美麗なグラを飽きずに見ていたのを思いだした。
フィロソマはホント怖かった
超GJです
wikiを見てきたけど、そんな恐ろしいSTGがあったのか。
そういえば、しばらくR-TYPE氏を見てないな(コラコラ)
おツン!
今フィロソマ詳細見てきた
泣いた
R-TYPEの壮絶具合は面白い。
STGは報われない終わり方が多い
人類滅亡の危機から始まる作品がザラにあるし
火の鳥みたいな終わり方だなw
そういえば、R-TYPEの原案者?って鬱病って診断されたらしいな
STGの話したいなら他所行ってやってねー
436 :
一尉:2008/11/29(土) 13:08:39 ID:xYZ2i4+A
恐ろしい作品たよ。
その…野暮だとは思うんだが、ぐぐっても今ひとつよくわからないんで
ぶっちゃけ、ココで汚染されてる人間のキャラってどうなるの?
ファージ期のフィロソマに寄生されて怪物化した後、フィロソマがプラヌラ期になると、どこかの惑星の中心核まで潜って、着床?したりするのか?
>>437 原作を例にして解説すると
フィロソマは自分自身で精嚢を割って精子を受精卵に着床させる事ができない為、精嚢を割ってくれる外的因子が必要
で、その外的因子(原作では空母ギャラントと20機のストレガ)を呼び寄せる為に、生かせず死なせずの状態にして生命反応を確保しておく
惑星救難信号を発し、生存者コールを救出部隊に拾わせ、知性体が真の目的に気付かないように適度に妨害しつつ、惑星中心核(受精卵)へと誘導
そこで『袋』に詰まった要救助者たちを見て生存者コールの真偽に気付き、脱出しようとする救助隊の一部を精嚢の中へと捕らえる
ガメトサイト遺伝子に侵されたコンピュータは強制的に惑星中心核へダイブ、パイロットに仲間を救助させる為を装って精嚢を割らせる
精子放出 → 受精完了 → ついでに脱出した救助隊にゲノムくっつけて母艦に戻らせる → メインコンピューター乗っ取り
→ 以下繰り返し&人類が勝手に活動域広げて繁殖拡大 → (゚д゚)ウマー
早い話が、知的生命体を利用して(゚∀゚)ラヴィ!!する生命体
利用する知的生命体をおびき寄せる為の餌を資源として生み出して釣る
地球人の場合、イプシロン1ってコードネームの『採掘できる反物質』を餌にしてた
おまけに、好奇心の赴くままにフィロソマに協力、人類の情報を与え続けていたローランド・クラークって数学者が居る
そいつの所為で、惑星220に移住した企業の人間達と、救助に『向かわされた』ギャラントとストレガ20機が受精と繁殖の引き金を引かされた
つまり一般人はヴィータ達をおびき寄せる為の餌にされ、ヴィータと次元航行艦はストレガとギャラントみたいに繁殖拡大に利用された
シグナムとかは多分、ファージストレガみたく汚染されて敵になり、今頃は蛹から孵ったフィロソマ生命体になってると思う
こんなもんでいいでしょーか
439 :
437:2008/11/29(土) 17:33:31 ID:Ow9ofwLa
>>438 先ずは、書き込み感謝します!
ただ、申し訳なくも、
>>437の”ココで汚染されてる人間のキャラ”と言うのは
>>420の記述にでてくる
”シャマルはヴィータすら連れて逃げ、途中でアコース査察官やフェイトとティアナ、最終的に果敢にも挑んだなのはたち”
の面々のその後だったので…
まぁ、まちがいなくおぞましい事になってそうですな…
一応PS2の続編では汚染された空母乗組員が出てくr
知りません。STGの続編がバイオもどきAVGになってたゲームなんて僕知りません。
失礼します、誰もいなそうなので第二話投下させてもらいます。
「ドクターよろしいですか?」
とある遺跡の地下にある研究所、スカリエッティは今までの研究の成果を纏めている時、後ろから呼ぶ声がした。
「どうしたんだい?ウーノ」
「あの男の話、本当に信じているのですか?」
あぁ、あの話か…と思い返しながらもドクターは纏め続けていた。
確かにウーノが言う通り、彼レザードが話した話はまるで、おとぎ話のような信じられない内容だった。
リリカルプロファイル
第二話 魂
レザードが居た世界は世界樹ユグドラシルを中心に形成された三重世界で
人間の世界ミッドガルド、死者の世界ニブルヘイム、そして神の世界アスガルドとある。
そして神の世界の王、オーディンは、やがてくる神々の黄昏“ラグナロク”に備え神をミッドガルドに派遣、
派遣された神は“魂を選定する者”と人々に呼ばれ魂を選定し、
選定された魂は神の先兵エインフェリアとして神の世界に送られる。
そして“ラグナロク”が訪れた日、神の王オーディンは裏切りの神の手によって倒れ、
世界は海に沈み滅んだかに見えたが、“魂を選定する者”が新たな創造神として世界を再生させたと言う。
一方レザードは“ラグナロク”を乗り切るため、賢者の石と呼ばれる石の力を使い乗り切るが、
“ラグナロク”後の世界はレザードにとって望まぬ世界だった。
そこでレザードは過去へ飛び、とある王女の旅に同行、そして神の力を得て自らが望む世界を創ったのだと言う。
「ウーノの気持ちはわかるが、彼は嘘をついて無いよ」
レザードの中に封じられている力、見たことのない術式など、レザード自体が証明だとスカリエッティが言う。
だが、神の住む世界、過去へ飛ぶ術式、魂の存在など今まで比喩的表現でしかなかったものが証明されている世界。
…スカリエッティは思わずつぶやく。
「もしかすると、彼が住んでいた世界こそ我々がアルハザードと呼んでいる世界なのかもしれないな……」
アルハザード…かつて魔法を究めたとされる古代世界…
今まで休むことなく動いていた手が止まり、考えにふけるスカリエッティ。
「……ドクター?」
「…………うん、ウーノ残りのデータ纏めておいてくれたまえ」
「分かりました……ドクターはどちらへ?」
「ちょっとレザードと話をしてくるよ」
ウーノにそう告げると足早に部屋を後にするスカリエッティであった。
スカリエッティによって割与えられた部屋、レザードはここでこの世界の魔法及び技術を調べていた。
この世界の魔法はデバイスと呼ばれる技術によって使用する事が一般であること。
さらに魔法をプログラム化させることで詠唱を短縮できること、魔力を属性に変換させるのは珍しく、
むしろ魔力そのものを放出、形状を変えて攻撃する方が主流だということ
そしてデバイスには非殺傷設定が存在すること。
非殺傷設定とはどれだけ強力な攻撃でも、たとえその攻撃が死に値する攻撃でも、気絶もしくは昏睡にとどめるのだという。
「非殺傷設定…まるで生粋のマゾヒストかサディストが考えたような設定ですね」
そんなことを考えて苦笑いる時、後ろでレザードを呼ぶ声がする。
振り返るとスカリエッティが部屋に入って来ていた。
「ドクター何か用で?」
「君に聞きたいことがあってね、率直に聞きたい……造られたモノにも魂が“宿る”事はあるのかい?」
「やれやれ…いきなり来て何を言い出すのかと思えば……」
両の手の平を広げ肩をすくめ、小馬鹿にした表情を見せるが、スカリエッティは真剣な目レザードを見つめていた。
レザードはため息を一つ吐き、眼鏡に手を当て問いに答える。
「造られたモノに魂が“宿る”という事は………あり得ません」
レザードがかつて造ったホムンクルスしかり、神の器もしかり、そして戦闘機人も同様だろうと、
しかし造られたモノに魂を“宿す”事は出来ると言う。
レザードによると彼が得た力の一つに輸魂の呪と呼ばれる呪法が存在し、
それを応用すれば、モノにも魂を宿す事が出来るだろうという。
「なるほど……」
「しかし、なぜその様なことを?」
「…レザード私はね、魂を得たいのだよ」
するとスカリエッティは自分の出生を話し始める。
自分はアルハザードと呼ばれる超技術によって造られた“無限の欲望”と呼ばれる存在であると、
そしてその名の通り欲望のまま、様々なモノを造り上げ、生命をも研究して来たと。
そして次にターゲットにしたものは魂だった。
そして魂を知る為にあらゆる生物を解剖してきたが、魂の存在を確認する事が出来なかった。
魂など存在しないただの偶像と考えて始めた矢先にレザードと出会い、話を聞き胸が高鳴ったという。
「私はね君の話を聞いてから、魂が欲しくてたまらない!何故ならそれこそが人とモノを分かつ絶対条件だと考えたからだ!」
クローン技術、人造魔導士、遺伝子改造、記憶のコピーなど生命操作を手掛けていくと、
人とモノの境界線が曖昧になっていく、
人とモノの境界線をハッキリさせる、それに必要なモノが魂だとドクターは熱く語っていた。
「どうだろうレザード、人とモノの分ける為にも、私に魂を与えてはくれないだろうか?…私は人になりたいのだ」
「……特に問題はないですが、一つ条件があります」
そう話すとレザードは左胸の裏ポケットからあるケースを取り出す。中には銀色の髪が数本入っていた。
「この髪の毛を元に戦闘機人を造ってもらいたいのですが」
「ふむ、それは別に構わないが、一体誰の毛なんだい?」
「まぁ、“神の毛”とでも言っておきましょう」
両の手の平を開きながら肩をすくめるレザード、ひょっとしてギャグなのか?と考え込むもドクターはレザードの依頼を受けた。
レザードにとって無垢の魂を造り出す事は造作もなく、スカリエッティの記憶、情報を魂に刻み、
輸魂の呪を使ってスカリエッティの体に魂を結び付ける。
「………あまり代わり映えがしないんだが」
「まぁ、そんなものですよ、それより約束忘れないで下さい」
あぁ解っていると返事をし、渡された髪の毛を持ってスカリエッティは自分の部屋へ帰って行った。
しばらくするとウーノ達が、レザードの部屋に押し掛けてきた。
どうやら、ドクターの話を聞き自分達も魂が欲しいのだという。
仕方なくレザードは一人ずつ魂の処置を施す。
「ありがとう“博士”」
「トーレ、その“博士”と言うのは?」
「ドクターが言っていた、レザードは“博士”だと」
「“博士”ですか……」
レザードは眼鏡を抑え笑みを浮かべる、どうやら満更でもない様子だった。
以上です。第二級神のフレイが無から魂を造れるんだったら第一級神を取り込んだレザードなら出来るんじゃね?ってな話です。
レザードが綺麗に見えるのは仕様です、誤字、脱字等あったらスミマセン。
ではまた。
GJです!
うおお、展開になるかwktkですw
次回もお待ちしています。
乙。このレザードは猫かぶりのレザード。
GJです
しかしレザード貴様、また作るつもりかいっ
そんなことすると女神様が嗅ぎ付けて来――たら万々歳か、変態的にw
投下乙。
そういやメタルサーガstsでも「サディスト設定」って言ってたなw
450 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/29(土) 23:20:13 ID:87snxbC7
魔法少女リリカルなのはStylish氏 )
ロックマンゼロ氏 ()
キャロとバクラの人氏)
反目のスバル氏 )
Strikers May Cry氏 )
リリカルギア氏 )
なの魂の人氏 )
リリカル! 夢境学園氏 ()
×DOD氏 )
その他単発4 290)
THE OPERATION LYRICAL氏 )
魔術士オーフェンstrikers氏 )
単発SS )
19氏 )
真祖の人氏 )
ゲッターロボ昴氏 )
R-TYPE Λ氏 )
魔装機神氏 )
リリカルなのはDHS氏 )
なのはStylish18話 )
クロスオーバー元リンク集 293)
マスカレード氏05)
りりかるな黒い太陽氏 )
322氏 )
地獄の四兄弟氏 )
なのはStylish19話 )
LMS氏 )
メタルサーガsts氏)
◆e4ZoADcJ/6氏
白き異界の魔王氏
やべぇ、わけがわからねぇwww
453 :
367:2008/11/30(日) 01:23:40 ID:bACVuCXc
予約無い様なので投下します
454 :
367:2008/11/30(日) 01:25:05 ID:bACVuCXc
港湾地区の入り口に一台の車が止まった。
車から降りたのは、ひょろりとした中年の男。その温和そうな顔は、長めの金髪で少し見えづらものとなっている。
男は走り去っていく自分を乗せてくれた車に、ひらひらと手を振って歩き出す。
傷も癒え病院を退院したパンタは、フェイトに呼び出されたのだ。
―――何事であろうか?
管理局にとって違法であるらしい肉体の改造や、別世界に迷い込んだ状況については既に説明した。
科学が発達した結果星の命を食い潰し、少ない資源を巡って戦争の絶えなかった生まれ故郷の事。
より優秀な兵士を、という要求の果てに生み出された肉体改造技術。
兵士であった自分はそれによって、人間本来の性能を遥かに超えた身体能力を与えられたという事。
上官を殺害した少女を追って、古代の遺物である"魔術師の軸"の向こうの別世界―――ミッドチルダに迷い込む前に居た世界に辿り着き、そこでそれなりに長い間生活していた事。
世界の危機をもたらし、恐らくは自分が『また』世界を超える原因だと思える"死の神霊"については、あえて説明しなかった。
"魔術師の軸"、それにシャジールの民が制御していた"御柱"について、かなり詳しく尋ねられた。どうやらロストロギアと呼ばれる物と関係あるらしい。
その説明を聞く限り、"死の神霊"についてまで話せば、自分のいた世界にまで管理局は乗り出す―――そう考えたからだ。
自分からすれば、嘘は無いくともかなり穴の多い話だったのだが、フェイトが不審に思った様子は無かった。
―――おお、そういえば、まだ元の世界に帰るか否かの返事がまだであったな
その事で呼ばれたのだろう。そう考え、パンタは教えられた道に従って機動六課へ向かう。
だがフェイトは、現在別の仕事で手が離せないそうで、一時間ほど待って欲しいという事だった。
もともと約束の時間より早く着いてしまい、待つつもりだったので問題は無い。詳しい事は知らないが、やはり執務官という仕事は忙しいものだそうだ。
暇を潰すつもりでパンタは、六課の周囲のちょっとした庭を散歩している。海に近いわりには随分と緑が生い茂っていた。
そうして周囲を見渡しながら歩いていると、疲労しきった三人の少女と一人の少年に出会う。
「あれ? あなた、どちらさまですか?」
「うむ。我はパンタという者である。汝らはここの局員であるか?」
はい、と答える彼らは、それなりに高いらしい地位の割に、随分と若いフェイトに輪を掛けて若かったが、
―――イリスやシアと似たようなものであるな
と、納得する。
まとめ役らしい橙の髪を二つに纏めた少女が、代表して尋ねてきた。
「あ、あなた、もしかして、この間フェイトさんが運び込んできた怪我人ですか?」
「その時の記憶は無いのであるが、そう聞いておるな。汝らにも世話を掛けたやも知れぬ」
「あ、いえ。私たちは何もしてませんよ、処置したのはシャマル先生ですから。凄い怪我でしたけど、大丈夫だったみたいですね」
「お陰様で、健康そのものであるな。今日は色々と話さねばならぬ事があるらしく、フェイト執務官に呼び出されたのである」
「そうなんですか。それじゃ、私たちは失礼します」
「うむ。さらばである」
随分変な喋り方の人だねー、などと自分の事を話している彼らと別れ、パンタは散歩を続けた。
455 :
367:2008/11/30(日) 01:28:11 ID:bACVuCXc
リリカルパンプキン二話 『働かざる者、食うべからずである』
次元漂流者は管理局によって保護され、本人の希望で元の世界に帰される。
それが発見されている世界ならば話はそれだけで済む。
だが、パンタのように未発見と思われる世界からの迷い人の場合、少々話が違ってくる。
いつまで保護していればいいのか分からないのだ。本局の調査部隊が次々に新たな世界を発見しているとはいえ、それが目当ての世界とは限らない。
そうして長期間、人間の面倒を見るというのは意外と金がかかる。
故に管理局は、保護した未発見世界からの次元漂流者に、労働を斡旋する場合がある。
要は、食っていく金は自分で稼げ、というわけだ。
パンタは成人の男性であり、更には肉体の改造によって人並みはずれた身体能力を有しているから、充分に、職を世話する条件に当てはまるのだ。
既にフェイトの手元には幾つかの業種の書類があり、彼の適正や希望でそれらを紹介するつもりだ。
―――けど、雇う所あるかな?
少々失礼な話だが、何せあの言動だ。大仰で芝居がかった口調の上に、何回か話して分かった事だが、どうにも人をからかう癖があるらしい。
素なのかとも思ったのだが、ある程度意図的にやっているようで、慣れないと苦労しそうだ。
職を世話する、と言っても雇う側の意向は当然尊重されるべきだし、彼が元の世界に帰る事を希望するなら、突然辞める事もあるわけで、必然的に選択肢は絞られる。
頭を悩ませていると、
「失礼するのである」
と、パンタがオフィスにやって来た。
「パンタさん、すみません。こっちから呼びつけておいて約束の時間を過ぎちゃって……」
「忙しいのであれば仕方あるまい。我は暇であるし、全く問題ないのである。
して、今日は何用であるか?」
「今まで聞いていませんでしたが、まず元の世界、あなたの場合は二つの内のどちらかという事になりますが……戻りたいですか?」
「ふむ……戻れるのであれば、当然戻る事を希望するのである。生まれ故郷の方ではなく、我が迷い込んだ方の世界に、である。少々、気掛かりな者たちがおるのでな」
「そうですか、分かりました。パンタさんの居た世界はまだ、管理局にも発見されていないので、すぐに戻れるわけじゃないですけどね」
既に充分考えていたのであろう、彼の答えは淀みなかった。
フェイトは続けて、職についての話を出す。
「管理局では長期間保護される事になる次元漂流者には、仕事を勧める事があるんですけど……」
「自分で食べてゆけ、というわけであるな。『働かざる者、食うべからず』当然の事であろう。
我としても汝に服まで世話されるのは、些か心苦しいものである」
彼の着ていた服は、血まみれだったので処分された。そうでなくとも中世風のあの服では、問題があったのだろうが。そうして彼には、服を一着も無い事になった。
病院に居る間は病院の入院着で良かったのだが、退院するのに着替えが必要という事で、フェイトが彼の服を買ったのだ。
別に経費で済む話だったのだが、彼は気にしていたらしい。
「職業はいくつか選択できるんですけど、パンタさんの希望とか、得意な事はどうですか?」
「ふむ。……戦い以外に得手としていた事は、子供の扱いであろうか。
本職の手品師などから見れば、大した芸ではないであろうが、ラトロアでは子供らを相手に大道芸人の真似事をして、なかなか人気を博したものである」
456 :
367:2008/11/30(日) 01:29:47 ID:bACVuCXc
子供の扱い―――そういった業種は書類の中には無かった。
だが、彼女には心当たりがあった。
機動六課の部隊長たる十年来の親友との世間話で、教会の経営する学校の職員が足りないとか、そんな話を聞いた記憶。
念話を繋げる。
『はやて? 今、大丈夫?』
『なんやー、フェイトちゃん? 私今書類の山脈と格闘中なんやけどー。まぁ、ちょーっとぐらいなら大丈夫かなー。どないしたん?』
『この間、聖王教会の方で職員が足りないって話、してたでしょ? 多分、一人紹介できるんだけど』
『パンタっていう、次元漂流者さんか? 別にカリムに話通すぐらいかまわんけど、まず私にその人会わせてな。信用できへん人紹介したら、カリムに叱られてまうわ』
『わかった。今そっち行くね』
『待っとるでー』という言葉を脳裏に、フェイトはパンタに笑顔を向けた。
「まだ分かりませんけど、仕事見つかったかも知れませんよ?」
機動六課・部隊長室―――
はやてとリインフォースは、やってきた二人を迎えた。
「あんたがパンタさんかー。今ちょっと書類が散らかっとるけど、堪忍な?」
「初めましてである、はやて部隊長」
そこでリインに気づいたのか、パンタは首を傾げた。
「はて? 妖精が見えるとは、我はおかしくなったのであるか?」
「リインは妖精じゃありませんっ! ユニゾンデバイスです!」
「ユニゾンデバイス、というのが何かは分からぬが、随分可愛らしい妖精であるな」
むきになるリインを見かねて、はやては横から声を掛ける。
「別にその子は幻覚でもなんでもあらへんよ。ちゃんとした現実や」
「おぉ、おぉ、流石は魔法の世界。妖精が実在するとは驚きである」
「だからリインは妖精じゃ―――!」
まぁまぁ、となだめて本題に移る。
書類の山をさっさと片付けたいのだ。
「私の知り合いに、聖王教会の人間がおるんやけど、そこで学校とか孤児院の管理とか警備とか、まぁ色々する人間がおらんっちゅう話があってな」
管理だけならともかく、警備となるとそれなりに腕の立つ人間が必要になるのだが、魔導士などは別の部署の人間だ。
警備員を雇った事もあるのだが、そういった業種の人間は概ね強面で、子供と互いに慣れないのでうまくいかないらしい。
「ま、当然いきなり採用っちゅうわけにはいかんし、一応私の知り合いに顔見せするけどな」
「うむ、我のような余所者でなくとも、当たり前の対応であろう。いつ会えるのであるか?」
「まずはこの忌々しい書類を片付けなあかんなぁ。少し待ってくれへんか?」
「我は暇ゆえ、いつでも構わぬ。汝の好きにするがよい」
そう言い残して、パンタは隊長室から退出した。
457 :
367:2008/11/30(日) 01:31:19 ID:bACVuCXc
投下終了ー
カボチャさんは教会に就職です。
誤字脱字などは確認し(ry 確認した場合ご指摘ください
これで退屈の虫が疼き出さなきゃ天職の予感GJ
>450
作家人気ランキングみたいなもんだろ
上は神 下はゴミ屑
自演乙
自演乙
最後までとは言わず、半分程度までなんとか耐えて読めた1つが上3つに入ってるな
459は何か勘違いしてるようだが、路傍の石なんてゴミですらないぜ?
462 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/30(日) 16:09:47 ID:h0/LETVy
自演支援
これだけやってもスルー出来ないってバカなの?死ぬの?
なにやら荒れているようですが、六時半頃からミッドチルダUCAT 地上本部攻防戦その1を投下してもよろしいでしょうか?
それなりに長いので、その際には支援をお願いします。
支援する、今回も(笑)かしてください
どうも、お久しぶりです。
モンハンシリーズを書き上げたので、夢境氏の後 八時くらいから投下したいと思われる。
>>467 新作ktkr
ガンダム見終わった後で無駄にテンション高い
俺が支援
時間ですので投下開始します。
支援をお願いします。
あと壊れがヒドイですが、ご了承ください。次回よりはマシです(まて)
世界は常に揺れ動いている。
刻一刻と運命の振り子は振り幅を大きくし、世界を震撼させる運命を紡ぎ出す。
嗚呼、嗚呼。
世界は変わり果てる時を待っている。
祈りたまえ。
嘆きたまえ。
運命は迫り来る。
牙を磨いて。
爪を尖らせ。
駆け来たるのだ。
――9月14日 後の世にJS事件と称される運命が市井に姿を見せる日付。
その発端たる、地上本部襲撃事件。
それが今目の前まで迫ろうとしていた。
……のだが。
その運命を防ぐべく設立された機動六課の宿舎、そこで一人の少女がペンを走らせていた。
「ふんふふ〜ん」
手に持つのはGペン。
使い慣れた仕草でスラスラと線を描く、文字を描く、絵を描き出す。
彼女が描くのは絵であり、文字であり、人物であり、背景であり、建物であり、命そのものだった。
原稿用紙にさらさらと描き出すそれは覗き込む同僚の視線を釘付けにするほど刺激的。
「う、うわ〜……こ、こんなとこまで描いちゃうんですか?」
さらさらと凄まじい速度でインクを飛ばし、手裏剣のようにベタを塗りながら、描き出す少女は高らかに告げる。
「もちろんよ。この私、アルト・クラエッタの辞書には自重という言葉は存在しないわ!」
メラメラと燃える瞳、ボキリト握っていたGペンがへし折れて、きしゃーと声を上げる。
「そう、時代は私の才能を求めているの! 尊敬する作家は言ったわ。
【僕は読んでもらうために漫画を描いている! 読んでもらう、ただそれだけのためだ! 単純なただ一つだけの理由だが、それ以外はどうでもいい】と!
だから、私は見てもらうために自重はしない、躊躇うことなんてしないの!」
時代はヴァイス×ティーダなのよぉおお! と叫びながら、同人誌を描き出すアルト。
彼女の描き出す原稿の中では鬼畜顔のヴァイスが、女顔のティーダをねっとりねちょねちょと押し倒していた。
それを横目ですごーいと憧れた目で見るルキノ。
休憩時間とは言え、いいのだろうか?
アルト・クラリッタ。
元ミッドチルダUCAT首都航空隊 運輸部第2班にして、その前身はティーダ、ヴァイス、シグナムと同じ航空武装隊第1039部隊所属。
すなわち彼女も立派なUCAT隊員としてしっかり腐っていた(腐女子的な意味で)
<<支援開始。ようUCAT,生き残るぞ!>>
支援
露伴ファン自重ww 支援。
そんなことが機動六課の隊舎で行われているとも知らず、機動六課のスターズ&ライトニング分隊(一名除く)はミッドチルダUCAT本部まで足を運んでいた。
ミッドチルダUCAT意見陳述会。
警備としての収拾が海からの命令として彼女達に下っていた。
「うわー、凄いですねぇ」
改めてミッドチルダUCAT本部を見上げたスバルが凄いと声を上げた。
それはまさしく鋼の城だった。
UCATの隊服を着込んだ陸士たちがせわしくなく周囲を歩きまわり、何らかの防衛網でも引いているのか、屋上からロープを引いて壁で補修作業らしいものをしている陸士もいた。
――その横でアーッ! という叫び声を上げてバンジージャンプをしている人がいたような気がしたが、おそらく気のせいだろう。多分。
落ちろ、落ちろ、貴様らー! うひゃひゃひゃひゃ! ティアナー、愛してるぞー! などと叫んでいる見覚えのある人物が、積極的に蹴り落としているような気もしたが、ティアナも見なかったことにしていた。ロープもついていなかったような気がするのも気のせいだ。
「……本当にこれで敵の襲撃があるんでしょうか?」
フォワード陣は幻覚から目を背けて、傍らに立っていたなのはに話しかけた。
彼女達はつい数日前に予言の話を聞いていた。
古い結晶と無限の欲望が集い交わる地。
死せる王の元、聖地より彼の翼が甦る。
道化達が踊り、中つ大地の法の心は空しく焼け落ち、
それを先駈けに数多の海を守る法の秩序は砕け落ちる。
聖王教会の騎士にして時空管理局少将であるカリム・グラシアのレアスキル【預言者の著書】
それが全ての発端だった。
その予言の解釈によれば幾多のガジェット・ドローン。
それを裏で操るスカリエッティによって、時空管理局が崩壊するという未来を推測されている。
機動六課はその予言を覆すために設立された部隊。
多大なプレッシャーにフォワード陣は驚いたし、緊張もしたけれど、自分達の肩に掛かる重みに決意を新たにしていた。
「あると思う。ミッドチルダUCAT、意見陳述会。テロがあるとしたらこの日。時空管理局の本局幹部も来るし、聖王教会の人たちも来る。
この日にミッドチルダUCATを潰せば、管理局の面子も潰されるだけじゃない、他時空世界に対する管理局の信頼も壊れてしまうだろうね」
なのははひどく冷たく、そして冷静な目つきで告げた。
「スバル、皆。気を抜かないでね」
『はい!』
フォワード陣が声を上げる、スバルの目に、ティアナの目に、エリオの目に、キャロの瞳には力が宿っていた。
その瞳を見て、なのはが微笑む。
自分達の選択は間違いではなかったと。
未来をたくせる仲間達だと微笑む。
フェイトも微笑み、傍に立っていたシグナムも薄く微笑んだ。はやては恥ずかしそうに頭を掻くが、嬉しそうだった。
「しかし、ヴィータの奴も来れればよかったのだがな……」
シグナムが少し表情を渋くして告げた。
今ここにいないヴィータ、彼女は体調を崩し、機動六課の隊舎にて寝込んでいたのだ。
「……しょうがないよ。なんか凄い状態だったし」
この間の少女保護の時から、帰還したヴィータは無言で部屋に戻ると、部屋の隅でぶつぶつとうずくまり、「怖い怖い、あたし帰る。おうち帰る」とどこか遠い世界で幼児化していた。
先日まで必死にはやてが慰め、シャマルがあやし、ザフィーラがもふもふされることによってようやく精神がカムバックしたのだが、何故彼女があのような状態になったのか誰も分からなかった。
通信していたルキノにも詳細は分からず、ガジェットからの負傷があったわけでもなく、現場で援軍として出ていたUCAT陸士にも聞いたのだが。
「はて? 俺は特になにもやってないのだが、ガジェットを倒しただけだしなぁ」「だな。俺は運転してただけだし」と原因不明。
同じく何故かひきつけを起こしていたリインは「ふははは! チャージなどさせるものか! 私こそが闇の書の意思だー!」 と喚き散らした後、翌日には何も覚えていなかった。
シャマル曰く「何か憶えていたくない嫌なことでもあったみたい。自我を護るために記憶を封じ込めたのね」 という判断が下されていた。
「……ヴィータ副隊長がいないと、戦力的にちょっと不安ですね」
実技訓練としてフォワード陣をしっかりと鍛えてくれているヴィータの強さを、フォワード陣の誰もが骨身に染みて理解していた。
彼女がいないことが少しだけ不安だった。
けれど、なのはは気丈に笑顔を浮かべてみせる。
「大丈夫だよ。私たちもいるし、それに私だけじゃなく、UCATの人たちも警備しているよ」
そういって、ばっとしっかりとした警備網を引いているそこらへんのUCAT陸士を指差したのだが――
「――うほ、いいモンキー! 剥ぎ取れー!」「ちょ、おま! 俺今、襲われてるんだけど! ゴットモンキーつええ! いやー。爆裂樽、樽寄越せ! 剥いでないで助けろよ!」
……携帯ゲーム機でカチカチと遊んでいたし。
その横では。
「いっけぇ、俺のビガージュ!」「させるが、メラトカゲ!」「ちょ、おマ、進化させずにLV100かよ!? どれだけ愛してるんだよ!」
「お前こそ、さっさとサンダーストーン使ってでぶっちょにすればいいじゃないか!」「うるせえ! あれは進化じゃない、メタボですぅ!」
と、有線式のどでかいゲーム端末にケーブルを繋いで、ピコピコしながら叫び声を上げていた。
ちなみに携帯しているストレージデバイスは地面に放置である。
というか、何故かケンケンしながら縄跳びで三重飛びに挑んでいる奴やベーゴマをやっている奴もいた。
「……」
「……な、なのはさん?」
「とりあえず頑張ろう。私たちが」
強い決意を手に、ガシリとスバルの肩に手を置くなのはだった。
そして、シグナムを除く全員が思った。
……ミッドチルダの平和は大丈夫なのだろうか? と。
しかし、彼女達は四時間後に始まる悲劇をまだ知らない。
カツ、カツ、カツ。
「中将、そろそろ意見陳述会の時間です」
冷静な声。
感情を押し殺した声音が響き、ぷしゅーと空気が抜ける音と共に一人の女性がドアを開いた。
オーリス・ゲイズ。
このミッドチルダUCAT本部を統率する実質的司令官であるレジアス・ゲイズの娘にして副官に当たる人物。
皺一つ無いぴっちりとしたスーツに身を包み、切れ長の瞳を顔にかけたメガネで隠した才女。
一切の乱れない歩法で彼女は室内に踏み込むと、胸に抱いた書類を手に取り、伏せていた顔を上げた。
「中将――ん?」
しかし、顔を上げた先。
本来ならばレジアスが座っているはずの席にはレジアスはいなかった。
いや、そこには違う人物がいた。
「おや、私はまだ客分なのだがね。オーリス君、いつの間に中将になったのかな?」
足を組み、不適な笑み。
白髪を交えたオールバックの髪型に、どこまでも冷たく冷静沈着な顔を浮かべた少年。
「佐山 御言。何故貴方がそこの席に?」
かつて全竜交渉部隊の指揮官として活躍した英雄。
悪役の姓を持ちし少年。
ミッドチルダUCATの設立に関係した佐山 薫の孫。
そして、現在ミッドチルダUCATに戦術・技術関連の交流監査役として居座る客分。
「ふむ。そこの質問は的確だ。故に回答は的確に行おう――そこの男が座ってもいいよといったのでね」
「は?」
ピシッと向けられた指先を見ると、そこに「あ〜」という声を上げている男と少女がいた。
具体的に言えば二つの按摩器に座る連中がいるともいう。
「気持ちいいね〜、佐山くん」
そう告げるのは佐山と同じく派遣されてきた新庄 運切。
「うむ。実に私も心地いい」
「ほえ? そんなにその椅子座り心地いいの?」
と首を捻る新庄。
その黒く滑らかに伸びた髪、男性とは思えない滑らかな体のライン、そして按摩器でぶぶぶと小刻みに振動するまロい尻を震わせて、静かに佐山の盗撮用カメラで撮影されていることを新庄は知らない。
そして、その横で極楽極楽と呟いているヒゲ面に、厳つい顔つきの男がいた。
レジアス・ゲイズである。
「中将ー! なにやってるんですかぁ!」
「む? 見ての通りだ」
「ふむ、オーリス君はどうやら按摩器の存在を知らない文明人だったらしいね! まさか魔法で肩こりが治るのかね?」
「ふ。魔法で肩こりが治れば鍼灸も按摩もサロン○スも要らぬわ!」
「肩こりはどこでも強敵のようだね」
同時にニヤリと笑う佐山とレジアス。
しかし、次の瞬間、唸りを上げたオーリスのハリセンに頭部をひっぱたかれた。
「ほら、さっさと行きますよ! 父さん!」
「ぬぉおお! 耳をを引っ張るなぁ、ちぎれ、千切れる! 遅かりし反抗期か!?」
ズルズルとオーリスに引きずられるレジアスだった。
それを眺めながら、佐山が一言。
「ハハハ、いつ見てもここは変態の巣窟だね。悲しい限りだと思わないかい、新庄君?」
「同じUCATだから大差ないよ。色んな意味で」
そう告げて二人も立ち上がった。
意見陳述会に、彼ら二人も出席することが決まっているのだから――
巡る、巡る、世界の螺旋。
運命は常に辿り寄せて、歴史の変革は間近である。
「ウーノ、準備はどうかね?」
一人の男がいた。
一人の狂人がいた。
嗤う、嗤う、玉座に腰掛けながら厳かに、王者のように、或いは発狂した狂い人のように振舞うヒトガタ。
「イエス、ドクター。準備は万端です」
主の命に従うは冷徹なる人形。
美しい造形、神に寵愛されたかのような美貌、その細腕の周りには螺旋を描くような鍵盤がある。
奏でる、歌う、音の調律を行うようにウーノと呼ばれた人形は操作を開始する。
<<支援を続けるぞ!>>
支援
「クアットロ、奏でる準備は出来た?」
「はい、お姉さま。我が銀色の衣は既にかの組織を蝕み始めていますわ」
嗤う。
モニターに映し出されるは邪悪を秘めた人形。
残酷なまでに清々しい笑顔を浮かべながら、その双眸の奥に秘めたるのは吐き気が込み上げるほどの闇。
彼女の闇を姉たる彼女は知り尽くし、それでもなお己が主の目的のために放置する。
「トーレ、出撃準備は?」
「問題ない。いつでも行ける、姉妹たちを取り戻すチャンスだ。逃がさん」
新たに出現したモニター。
そこに映し出されるのは翼の如き光刃を噴出した人形。
彼女は凛々しい、彼女は気高い、刀身を削り上げ少女の形を取ったかのように鋭い存在。
その四肢からは強化手術を受けて、ありあまる出力を手に入れた光の翼にして、輝ける刃たるインパルスブレードを持ち合わせている。
彼女の機動はまさしく音速を超過。
人間には太刀打ち出来ない、最強無比の一刀。
「ルーテシアお嬢様、準備はよろしいですか?」
「問題ない……父さんも大丈夫だって」
三つ目のモニター。
そこには両手のアスクレピオスに光輝を抱いた少女がいた。
少女は美しい、まるで美の女神に祝福されたかのよう、紫水晶を溶かしたかのような髪を風になびかせ、夕日の輝きに輝ける姿は黒衣と相まって死神のように背筋立つ。
「では、全ての姉妹たちよ。祈りなさい」
神に祈るではなく、己の創造主のみが信奉の対象たる人形は歌う、奏でる、紡ぎ出す。
破壊の旋律を。
歴史を書き換える一音を。
「さあ開始しようか。歴史の境界線を越える刻を!!」
狂人は告げる。
ダンと床を踏み鳴らし、人形がその意のままに手を這わせた。
淫猥に、絢爛に、偉大に、ポォーンという運命が戸を鳴らす音を奏でる。
今ここに、ミッドチルダUCAT(ついでに機動六課)とスカリッティとの戦いが始まる。
追記:三年後のスカリエッティはこの時のことをこう述べている。
「認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものは」
と。
支援
481 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/30(日) 18:45:41 ID:/hEck2DS
思わずTesと返したくなる支援
今日だってUCAT
1.スカリエッティの大いなる野望
スカリエッティ、ラボ。
今日もその主にして狂科学者、スカリエッティは研究に明け暮れていた。
「ふむふむ、ここはこういう風に改造したのか」
(ドクター……今日もUCATの兵器解析をしているわ)
UCATに拿捕されたガジェット。
ドリルを付けられ、何故か追加バーニアに、内部に搭載していたミサイル全てがドリルミサイルに改造されていたそれを回収したのだが、スカリエッティはここ近日その解析に夢中だった。
「ドリル。うむ実にドリル。螺旋の輝きを秘めている、ぬ? こ、これはまさか鉄の城モデルか!?」
などと、不眠不休で内部をばらし、稼働した時の画像を見てうーむと感嘆の声を上げているのである。
それを影ながら見ているウーノはスカリエッティの体調を心配しつつも、彼の興味をそれだけ引きつけるUCATに嫉妬の炎を燃やしていた。
(ドクターの技術のほうが素晴らしいのに、何故あんなにも調べるのかしら)
彼女はしばし悩んだものの、彼女の電子処理機能つきの頭脳でも計算は不可能だった。
しょうがないとため息を吐き、彼女はそのまま日課の掃除のためにスカリエッティの私室に入った。
手にはスカリエッティ自作の掃除機を持ち、腰にはホコリ取りを掃き、エプロンを身に付けた完全装備! とは、この間妻と夫の関係を熱く語っていたゼストの談である。
そして、そのメガーヌの後姿はあまりにも綺麗だったのでついムラムラと襲い掛かってしまった――とまで説明したところで、ルーテシアの情操教育に悪いと判断されたガリューにぶっとばされていたのは思い出したくも無い記憶である。
「さて、どこから掃除しようかしら」
相変わらずスカリエッティの私室は荒れ放題だった。
研究資料のレポート用紙は床に散乱し、分厚い科学書などは机に山済み、この間お忍びで出かけてきた時に買ってきたナンバーズのフィギュアはケースの中に納められている。
最初こそ呆れたものの、もはや慣れたウーノはテキパキと書類を集めてファイルに入れて、さらにパタパタと上の方から埃を落とし、掃除機をかけていった。
ガーガーと溜まった埃を吸い込みながら、「ドクターと結婚したら毎日こうするのかしら?」 と少しだけ頬を染めて、ウーノが腰をくねらせた。
きゃードクターとバタバタと身もだえして、顔を隠すウーノ。
他の姉妹が見たら幻滅確定の痴態を繰り広げると……ようやく立ち直ったのか、息を吐いた。
「こ、こんな場合じゃないわね。掃除をしないと」
掃除機による床の吸い取りはほぼ終えている。
後は雑巾で空拭きでもすればいいだろう。
一端雑巾などを取ってくるかと踵と返した時、ウーノは不意に気付いた。
「あら? これは何かしら?」
スカリエッティの机の上に、なにやら沢山の線が描かれた紙切れが一つ。
手紙などではなく、ただの紙切れのようでウーノはそれを掴み取り、見てみた。
沢山の縦線に、その途中に幾つもの横線が走っている。
そして、最後にこの二つの言葉が書いてあった。
【UCATに入って、わはーする】
【頑張って世界を変える】
ぶっちゃけあみだくじだった。
どうやらスカリエッティはあみだくじで、選択を選んだらしい。紅いボールペンで線を引き、【頑張って世界を変える】のところに丸が描かれていた。
「……見なかったことにしましょ」
ビリビリと紙を破ると、ウーノはゴミ箱に入れて部屋から出て行った。
スカリエッティ一味はギリギリのところで存続させていた。
支援
<<さらに支援>>
支援
2.ガンバレ エリオくん(の保護者達)
踊る、躍る、疾る。
手には槍を、脚には速度を、全ての心技体を戦いに傾けろ。
「おぉおおお!!」
疾る、吼える、貫く。
音速に触れるか触れないか、それほどの速度で彼は駆け抜ける。
待ち構えるは歴戦の剣士。
燃え盛る焔の使い手。
「いい速度だ」
来たる飛翔の矛先。
鋼鉄すらも貫くそれ、だがしかし、烈火の将は笑いながらその刃に体を差し出す。
「え!?」
驚愕に歪む、防御をしない、回避もしない彼女。
それに驚愕をし――瞬間、大地から空へと舞い上がる一閃があった。
「躊躇うな」
それは逆手に刃を構えた彼女の一閃。
何たる神技、迫る細い針の如き矛先を見事に捕らえて上へと弾き上げた。
剣聖の如き刃の一閃。
それに幼い槍は逆らう術を知らず、噴き出すスラスターによる補正すらも忘れて手から槍がすっぽ抜ける。
「あ」
「これで終わりか」
パシンと首元にレーヴァテインの刀身が触れた。
少年、エリオの敗北だった。
「……負けですか」
がっくりと頭を落とす。
クルクルと落ちてくるストラーダ、それに遠隔操作、手元に戻ってくる槍をエリオは見もせずに捕らえた。
確かに彼は成長している。ストラーダの扱い方に精通し、サードフォームすらも解禁させていた。
だがしかし、届かない。
目の前の烈火の将に、他の閃光の戦斧の使い手に、不屈の魂の持ち手に、鉄槌の騎士に、まだ届かない。
「まだ弱いな」
刃を振るい、もはや体に染み付いた血払いの動作をしながら、シグナムは肩にレーヴァテインの刀身を乗せた。
投下終了。
支援ありがとうございました!
次回から本格的にUCATがブイブイ戦うと思います。
今までのは準備運動、これからが本格的な壊れになると思いますが、どうぞ許容してもらえるようお願いします!
読んでくださってありがとうございました!
次回は近日中に更新予定です!
<<まさかウーノに萌える日が来るとはな・・・支援>>
新妻ktkr
あれ? 一つ抜けてました 投下します!
「とはいえ、本来ならもう及第点はやれるな」
「え?」
「今の年齢から言えば魔力の放出量も、制御技術も、身体能力も十二分なほどに上がっている。後はゆっくりと肉体の成長を待つしかないほどにな」
「……ですが」
まだ自分は弱いと思う。
同僚の誰よりも弱い思える。シューティングアーツの使い手には技巧で劣り、若きフォワードリーダーほどにも強かではなく、彼にもっとも近い召喚術士の少女ほどの切り札もない。
その悩みに気付いたのだろう、シグナムは静かに口元に手を当てて。
「後は、そうだな。その槍術を鍛えるしかない」
「え?」
「見ているのだが、お前は槍を武器としては使っているが、技としては使っていない。エリオ、本局の短期予科訓練校で槍技は学んだか?」
「い、いえ。最低限の持ち方と、使い方を教えられたぐらいで後は魔法を」
「だろうな。私は剣技なら教えられるが、槍は専門外だ」
やれやれと肩を竦めると、シグナムはしばし考えて。
「そうだな。もしもこれ以上、エリオが強くなるとしたら方法がないわけではない」
「な、なんですか?」
「どうせ死んでないだろうし、いずれ帰ってくるだろう人物が一人いる。そう私よりもおそらくは強い達人が、そいつに師事すれば――」
「だ、誰ですか?」
「ミッドチルダUCAT最強の武人、ゼスト・グランガイツだ」
こうして、エリオは彼の名前を知ることになる。
しかし、今の彼は知るはずも無い。
三年後、彼が師匠にしてエリオの命を狙う最強のラスボスとなることに。
この時の彼はまだ知らなかったのだ。
「はう!」
「どうしたの、キャロ?」
「い、いえ。何故か今すぐにでもヴォルテールを呼び出して、抹殺しないといけない人が出てくるような予感が」
「はぁ?」
これで本当に終わりです(大汗)
本当にすみませんでした(土下座)
GJ!!
とりあえずファザコンルーテシアが父親に似てしまったエリオに惚れゼストがエリオを狙うのですね?
GJ
年下の後輩がいつの間にか立派な大人に成長してたってのは
確かにおいしいシチュエーションですね
でも個人的にはティーダ×ヴァイスの方がおいしい気が…
とまあ腐った話はさておき
UCAT仕事しろwww
モン○ンとかポケ○ンっぽいの仕事中にすんなwww
GJ
それにしても三年後の12才で命を狙われるような仲になるのかエリオとルーテシアはwww
ちょっと早いですが、そろそろ投下します。
今回は何時もと違う感じを目指してみました〜
「フリード〜」
そこは森である。秘境や樹海と呼ぶには迫力が無く、僅かに動けば人の生活の香りがしてくるだろう森だ。
「フリードったら〜何処に居るのぉ?」
そんな森を人影が一つ歩いている。珍しい柄のフード付きローブから桃色の髪を僅かに覗かせた小柄な少女。
フリードと言う名の誰かを探しているらしく、その名を連呼しながら森を散策中。
その手には何故か盛大に焦げ付いたフライパンが握り締められている。
「もう角でフライパンを暖めたりしないから〜」
『はぁ……』とタメ息を一つ、少女は自分の行いに反省を覚える。
いくらお腹が減っていたとはいえ、猛烈に目玉焼きが食べたかったとはいえ、普段は可愛らしい子猫サイズとはいえ……
「村を丸ごと燃やした事をすっかり失念してたよね」
自分の相棒が古き竜種であり、非常に気分屋で、怒ると見境が無い事を忘れていた。
『テヘッ♪』と可愛らしく舌を出してみたところで、問題の改善は見られない。
自分が歩いてきた道すがらには、数本の木々が焦げ臭い匂いを放っている。
「仲直りしよう、フリード! 今日のお昼はポポノタンの燻製だよ〜」
雪深いとある管理外世界で手に入れた珍味の名前、フリードが気に入っていた食べ物の名前を叫んでみる。
返事が無い……
「わかった! フリードは二枚食べて良いよ!!」
それは毛むくじゃらの温厚な草食動物から取れる巨大な舌を燻製にしたモノ。
ポポを狩るのは難しくない。問題は同じ獲物を狙う斑模様の轟竜に追いかけられることだ。
あの時は「寒いと調子が出ない」とか言って、フリードがサボったから私が必至に逃げるハメに……それにしても返事が無い。
「も〜欲張りさんだね? よ〜し、三枚! 三枚食べていいから!!」
三枚でもダメだと!? 『王』と称される事すらある私の使い竜、何て強欲な……
更に枚数を増やしたり、おまけをつけたりして少女はフリードの機嫌を直そうと試みる。
だが…『声の届く場所に居ない』…と言う可能性に気がついて、少女は盛大なタメ息と共に腰を下ろした。
「早く見つけないと……」
もし保健所……違った、管理局などに相棒が見つかったら大変だ。
見る人が見ればその魔力反応から、危険性を認識するのは難しくない。
そして管理局と言う組織は危険と判断すると、更に手を出したくなる『病気』なのである。
「私はこれ以上……『罪状』を増やしたくないもん」
『管理局公務妨害』 『特定危険生物使役』 『建造物破壊』 『広域放火』などなど。
小さな肩に重く圧し掛かる懲役にしたら何年分になるか解らない罪状の数々。
「フリードってばぁ〜出てきてよぉ〜」
少女は捜索を再開した。その捜索には未来が掛かっているといっても過言ではない。
何処のどんな学校でも『歴史』を学ぶ時間は存在する。
そこで学ぶ歴史と言うのは自分達の世界・国の事であり、聖王教会系の学校ならばベルカの歴史が多くを占めるだろう。
「あう……」
高町ヴィヴィオはこの時間が苦手だ。別に勉強が苦手とか、歴史のテストでは点数が悪いとかそういう事ではない。
話す内容とて子供が解り難かったり、ましてやテストを前提としたモノではない。ある種の行事なのである。
何時でも『聖王のクローン』だと言う秘密は在って無いような物であり、クラスメイトも教師も彼女を見る目が違う。
それは何時の時間でも変わらないのだが、歴史の時間はそれを強く認識させる。
『偉大なる祖国』 『ベルカ騎士団』 そして『聖王』。
教えられる内容は事実であり、ベルカの民が歩んできた苦難の歴史。
住む世界を失い、別々に世界に別れて生きなければ成らない現状。
それでも聖王教会を中心とした信仰の絆、一騎当千と語られるベルカ騎士による武。
この二つにより数多の世界に連なるベルカ自治領は存続する事が出来ている。そして……
「と言うように……ベルカの血を継ぐ者にとって再統一は悲願であり……」
初老を迎えた教師の口から語られる言葉を理解する事が出来る者とは、つまり古くからベルカの血を継ぐ者である。
彼らやその親が辛い時期を体験した訳ではない。しかし世代を超えて教え込まれた教育により、体験した様な感覚を持っている
故に子供ながら教師の言葉にも頷くなどの反応を示す訳だが、これは聖王教会系に通う生徒であろうと、全てに該当するわけではないのだ。
躾や箔を付ける為に通わされる子供も存在するからであり、反応は一歩引いた視点で壮大な歴史絵巻を見ているのと変わらない。
「……解らないよ」
しかしそんな『大きく共感を示す者』にも『静かに傍観する者』にも成れない少女が居た。それこそが高町ヴィヴィオである。
彼女には本当の親は居ない。キレイな言葉で飾ろうとソレは本当の事実。高町なのはとは心はあろうと血の繋がりは無い。
勿論なのはがベルカの歴史を話して聞かせて来た訳も無く、まだ始まったばかりの親子関係。
故にヴィヴィオは教師が語るベルカに大きな共感を覚える事もない。これだけならば後者『静かに傍観する者』と代わりは無い。
しかし彼女にはそれが認められない。何故なら彼女は『聖王だから』である。
本人に覚えが無かろうと、そんな事は関係ない。他人には伝わらない。
聖なるオッドアイ、王のみが纏う事を許される七色の魔力光、そしてゆりかごは動いた。
ヴィヴィオが聖王たる証はそれだけで充分なのだ。故に彼女も理解しようとする。
『他人が自分を聖王と思うのなら、それもきっと正しい』
子供心に僅かでもそんな心情があったのならば、それはきっと不幸な事だ。
付け焼刃の優しさで、盲嫉とも言うべきベルカの歴史感と心情を、真に理解する事は不可能だから。
『完全に理解する事は難しい。心にしっかり留めておく事が僅かながらでも理解に繋がると思うんや』
それは最後の夜天の主が同じ問題に直面した時に呟いた言葉。そう、大人は折り合いをつける事ができる。
問題を抱えている方も周りもその方法を知っている。しかし子供はソレを知らない。
支援支援支援!!
投下キタ! 支援
「どうして?」
ヴィヴィオが教師の話を必至に理解しようとしていると、教室のどこかで誰かが呟いた。
ハッとなれば周りから幾つもの視線が降り注いでいる。その視線はどれも同じ色をしていた。
即ち……『疑念と侮蔑』。
「どうして貴方はそんな顔をしているの?」
「貴方は聖王なんじゃないの?」
「なぜベルカの歴史と悲願に同意しないの?」
「■■■■」
「□□□□」
実際問題、クラスメイト達がそこまで考えていたのかは解らない。
視線はただ聖王であるクラスメイトがどんなリアクションを示すのか? そんな子供染みた好奇心で満たされていただけなのかも知れない。
しかしそれでも確証が持てないのならば、それは『考えてない』と言う証としては足らず、ヴィヴィオを安心させられない。
考えている『かも』知れない。みんな私を聖王として見ている。ニセモノと罵っている『かも』しれない。
「貴方はどう思いますか? ヴィヴィオさん」
その教師にも悪気があった訳ではない。ただ大人な信仰と子供の遊び心が溶け合って、僅かに魔が差したのだ。
クローンだろうとコピーだろうと聖王はベルカの象徴であり、希望。そんな人物にベルカの歴史と将来を問う。
教師と言う役職ならば興奮の一つも覚える。しかしタイミングが悪かった。
ヴィヴィオが周りからの視線と呟きで追い込まれている事など解らなかったのだ。
「……」
無言だった。しかし確かに涙を零しながら、高町ヴィヴィオは教室を飛び出していた。
『全くけしからん奴だ!』
森の中を若干早足で歩きながら、同族にしか解らない言語で『彼』は呟いた。
本当なら気にする必要も無い下草が鬱陶しくも顔に当たり、彼の苛立ちを倍化させる。
『どうして人間とはこうも腹立たしい種属なのだろうか?』
昔からそうだった。ベルカだとかミッドだの、自分達を区分する単語を製造する前からあのサル共は変わっていない。
我らの縄張りに勝手に巣を作り、追い出せば群れをなして反撃してくる。神として崇めたと思えば、角や尻尾が欲しいと挑んできた。
最近では管理がどうだの、ろすとろぎあ?がどうしたと、挑みかかってくる事もあった。
『だいたいこの小さな姿にされた事とて……規格外なアルザスの遺児めが』
噂には聴いていたのだ。
『我らの下位種 飛竜や鳥竜を呼び出し、使役する呪法を構築したサルの群れがある』と。
だがまさか自分が呼び出され、使役される立場に身を落とそうとは誰が予想できようか?
怒り狂って一晩で巣を焼き払い、怒りもだいぶ収まったところを狙って契約の術を……
『どうして我が小娘の子守をしながら、世界を旅しなければならんのだぁ……』
支援
『きゃろ』と名乗った自称契約者が必至に説明していたが、この小さな体も契約とやらのせいらしい。
そんな戯言を無視して飛び去るにはこの体は余りにも小さくひ弱。
真の力を解放する事は主?である小娘の許可が要るそうだ。全く持ってふざけている。
まぁ、人間の寿命など我の時間からすれば瞬き一つのような物。しばらく付き合ってやっても良いとも思えた。
『しかし守ってやっているのに文句ばかり言うのはどういう事だ?』
絡んできた不良個体を燃やしたら『ショウガイザイ』が……とか。
我を攫おうとしたカンリキョクを踏み潰したら『コウムシッコウ』でなんとか。
そのついでに森が焼けたり、人の作った巣が壊れると更に五月蝿い。
『しかも私の角の上で加熱調理など……言語道断!!』
何たる屈辱…「フリードなら出来るよ!」…なんだ、あの自信と輝かしい笑みは。
とりあえず最大火力でフライパンごと炭にしてやったが……怒りが収まらん!!
今度と言う今度こそ、簡単に許してなどやるものか。そうだな、具体的に言えば空腹を覚えるくらいまでは許してやらないぞ?
……とまぁ、彼 フリードは色々思うところあって森の中を歩いているわけだが、普通の人間から見れば……
『ギャウギャウ吼えながらトテトテと歩くネコっぽい生物』でしかない。
よく見れば赤いたてがみや角、翼が普通のネコでは無いと主張しているが、それに気がつくのも中々難しい。
実際に数分後に彼が出会う事になる少女も、彼が『炎王龍』などと呼ばれる怪物である事など、これっぽっちも解らなかった。
つまり大きさと言うのは大事であると言うこと……
ヴィヴィオがこの森の中に至るまで、教師達に補足されなかったのは偶然に過ぎない。
しかし彼女がこの場所に辿り着いたのは必然と言って然るべきであろう。
涙を拭いながらではあったが傷心の少女もその光景を見て呟いた。
「…キレイな場所…」
もう少し整えられ、解説などが在ったのならばここは遺跡と呼ばれるのだろう。
白亜で形作られた壁や柱、頭部が欠損した石像などから神殿などの宗教施設だろうか?
もっとも今ではその壮大な全景を把握する事は出来ない。既に多くは崩れ傾き、草に被われ始めている。
それでも奥まった場所に座すもっとも大きな石像はその威厳を損なっていなかった。
傾いた柱に腰をかけて、ヴィヴィオはボーと空や周囲、そしてその象を見つめ続けた。
「疲れた……」
何も考えたくない。ずっと一人で居たい。十歳にも満たない少女の思考ではなかった。
しかしそれがヴィヴィオの本音であり、そこまで強く周りとの軋轢を理解してしまうのは彼女の境遇による所が大きい。
本当の父や母を知らず、初めての家族は無条件で優しかった。
しかしそんな家族を危険に晒し、新しい母を傷つけた聖王の名前と力。覚えの無い力と名前はそれからずっと纏わりついて来る。
子供は異なる物を見つけるのが上手い。そして見つけたモノを徹底的に弄り回したくなるものだ。
そんな子供、特にベルカを知る者にとって聖王の名は大きすぎる。しかもソレが犯罪者の作ったクローンで、大規模騒乱の源だったと成れば……
支援
「■■■」
「? だれっ!?」
教師達だろうか? ヴィヴィオが慌てて向けた視線の先には……不思議な獣がいる。
大きさは子犬か子猫ほど、四本の足で歩いてきた。捻れた二本の角が伸び、背中には飾りのような羽根が生えている。
長い毛は鬣のように垂れ下がり、口元には牙が覗く。
大人が見れば普通の生物では無いと直ぐに解るのだろうが……ヴィヴィオの口からは率直な印象が漏れる。
「ワンちゃん?」
「ギャン!」
ヴィヴィオの問いに謎の動物は一吼え。苛立ちが篭っていることから、どうやら犬では無いらしい。
ヴィヴィオの中では犬の他にこう言った生物は……
「ネコ! ネコちゃんだ!?」
「キャウン?」
さっきよりも若干弱めの吼え、疑問を宿したような声。
それにより、ヴィヴィオはこの生物がネコであると確信した……勝手に。
片や突然現れた少女が自分をどう見ているのか? そんなこと気にするはずも無いネコ(決定)。
「……」
ヴィヴィオはウズウズし始めた。
『触りたい』 『ナデナデしたい』 『ギュっと抱き締めたい』
実に子供らしい、女の子らしい欲求。しかし野生の動物と言うのは簡単に人間へと心を許さない。
しかしヴィヴィオには解るはずも無く、中腰で抜き足差し足……ゆっくり静かに……でも手はワキワキと動かしながら……
大人がやれば完全にヘンタイだが、子供がやれば可愛らしい。そんな風に大人と子供は平等では無いのである。
「えっと……撫でて良い?」
思ったよりも簡単に近寄れたヴィヴィオはそんな事を聞いてみる。
もちろん返事は無い。しかし逃げる様子も無い。ゆっくりと伸ばした小さな手がネコ?の頭部に触れる。
「わぁ〜」
フワフワの鬣による暖かさではない。ヒーターやストーブのように、生み出された熱が周囲に放出されることにより生じる暖かさ。
どうやら普通のネコではない……凄いネコだ!
「暖かいね、君」
逃げなかった事、そして不思議な暖かさを放っていることから、ヴィヴィオがソレを抱き締めたのは自然な動き。
抱き締めたままゴロンと仰向けになる。抱えたままの体勢、空を見上げる。
「キレイだね……空」
その人間に興味を抱いたのは一体何故だろうか? 森が開けた場所で見つけた若い雌個体。
辛気臭い鳴き声が煩わしかった筈なのに、いつの間にか近寄られて撫でられ、抱き締められてしまった。
そんな事を許すのは「きゃろ」だけだった筈なのだが……
「キレイだね……空」
言われて上目遣いで見ていた雌個体 ヴィヴィオの顔から視線を移す。そこには確かに美しい青空が在った。
極寒の雪山で見るダイヤモンドダストに飾られた夕焼け、砂漠の透明すぎる星空などにはインパクトで劣る。
それでもただ青い平穏な空も悪くは無い。ふと脳内を過ぎる誰かの声。
『ただ平穏な生こそ、もっとも守るべきモノだと私は思うの』
我にそんな事を偉そうに語って聞かせたのは誰だったか?
『それを守る事こそが人の■である私の役目よ? 獣の王は気楽で羨ましいわ』
……昔の事で思い出すことは出来ないが、どうやらかなり腹立たしい人間だったのだろう。
しかし匂いが似ている、いま我を抱き締めている小娘に。陰気な表情と涙で薄められては居るが、間違いない。
『どうかこれ以上の破壊を止めて欲しい』
『……そうか、収まりが付かないと言うことね?』
『ならば獣の貴方にも解り易い方法で話し合いましょう……拳で!!』
我を相手に拳で語るなどとホザいたのは、アレが最初で最後だったのを思い出す。そうだ、ソイツは『■』だった。
ベルカと言われる世界を纏める■であり、その世界に含まれる人間を我が撃退した故に拳を交える事になったのだ。
ん? たしかベルカは既に国でも世界でもなく、宗教が纏める小さな自治領郡の総称ではなかっただろうか?
「私はね……この時代の人じゃないんだ」
「?」
「お母さんもお父さんもずっと昔の人間で」
なるほどそういう事ならば、納得は出来よう。つまりコイツはアレの……
「私も『聖王』って言う人らしいんだけど、全然実感ないの」
我を唯の獣と思って喋りかけているのか?と首を傾げるが、「子供とはそういうモノか」と一人で頷く。
そんな我の動きに何故か笑い出す小娘。人とは本当に解らない生物だ。
「……ッ!」
「? どうしたの、ネコちゃん」
不意に鼻に付いた鉄の匂い。火山などで煮え滾っている香りではなく、固まり形を成した冷たい匂い。
この体は感覚まで鈍くなるのを失念していた。木々の間から覗く複数のガラスの単眼、それが宿す無機質な敵意。
そして今一緒に居るのが腹立たしいが、大事なパートナーではなく、誇りも力も無いアレの娘……熱を帯びたタメ息を一つ。
楕円の形状、中央に一つ目状のカメラアイを持つ機械。ガジェット・ドローンT型。
それがヴィヴィオとフリードを取り囲む機械兵器たちの通称である。
JS事件の首謀者にして、人体改造などを筆頭とする違法研究を数多手掛けたジェイル・スカリエッティの手駒。
そして彼が捕まり、多く鹵獲されるようになると、『使い捨て出来て、足が付かない手駒』として運用されるようになった。
故に現在、二人を取り囲んでいるガジェットたちがどんな勢力に属するモノか? 今は解らないし、先にも解らないかも知れない。
しかしその目的は推し量るに容易い。それらの任務は『聖王の器の誘拐・不可能なら殺害』と言ったところだろう。
表向きは保護対象となっているヴィヴィオだが、管理局・聖王教会のどちらも、完璧な意思の統一が成されている訳ではない。
管理局には忌むべき大戦の遺産 ゆりかごを起動するキーとなった彼女を危険視し、厳重な監視下に置くか処分すべきだと言う強硬派が居る。
聖王教会も一枚岩ではなくヴィヴィオを聖王として即位させようとする擁立派、贋作として処断するべきとする排除派が対立していた。
「あう……」
もっともそんなガジェットたちが語る内情までヴィヴィオの知るところではない。
それが彼女にとって、忌むべき過去の恐怖が具現化したような存在であると言う事が重要。
口からはか弱い呻き声が漏れるし、ガタガタと震える足では逃げる事もできないだろう。
「だっ大丈夫だからね?」
しかしそんな状態とは対照的に、ヴィヴィオはフリードを優しく抱き締めて呟く。
「わっ私が守ってあげるから……聖王も何も解らないけど……」
それは一体何処から得られた意識であり、言葉なのだろうか?
自分を助けてくれたなのは達の影響だろうか? それとも……
『守るんだ』
それはきっと……『遥か昔の自分自身』が言った台詞。
足は震えたままだし、涙の泉も臨界を迎えている。それでも抱き締めた腕を離さない。
動かない足も崩れ落ちる事は無い。戦う姿勢、挑む姿勢。
『それだ……』
「え?」
不意に聴こえた声。ヴィヴィオはキョロキョロと辺りを見回す。
周りには森と自分を取り囲むガジェット・ドローン。人語を発する存在は……
『それこそが人の王が持つべき志し』
「まさか……ネコちゃん? あっ!」
驚きに継ぐ驚きの声。驚愕により緩んだヴィヴィオの手から、猫っぽい小さな体が跳び出した。
それでも逃げ出すような事はせず、ゆっくりとした足取りで距離を取り……吼えた。
「ダメ!!」
鋼の兵器複数とネコっぽい何か。ヴィヴィオにでも真っ当な戦いにならない事が解る。
解るのだが……ネコの小さな背中には……覚えても居ない父の背中 偉大な王のソレを感じた。
テオかっこよすぐるぞ支援
「はぁ!?」
不意に脳内に響いた相棒の言葉、キャロ・ル・ルシエは悲鳴にも似た疑問の音。
竜召喚士にとって竜とは真の半身であり、念話に似た直通ラインを有する。
故に相棒 フリードがどんな状態であり、何を欲しているのかも解った……解ったのだが……
「ダメ! ぜぇ〜ったい、竜魂召喚はしないから!」
フリードが彼女に告げた内容を要約すると『よく解らん連中に囲まれてピンチである。撃退するので全力を出させろ』と言う事だ。
フリードは契約により本来の力をパートナーであるキャロに預けている。
これこそが体が縮み扱い易くなり、力を人質のような形で凶暴なドラゴンとの関係を築くアルザスの秘術。
竜魂召喚とは召喚士が預かっていた魔力的構成要素を一時的に返還し、竜が本来の力を振るう方法である。
「前の時だって謝れば許してくれたかも知れないのに、フリードが暴れたから大変な事になったんだからね!!」
しかし抑えつけられて尚、衰える事の無い古龍の悪知恵。
それだけが力を取り戻せる手段だと知ったフリードは度々、ピンチや危機に託けて竜魂召喚を要求。
それが叶ったら昨今の憂さを晴らすべくキャロの静止など聴くはずも無い大暴れ。
つまり何が言いたいかと言うと、『ピンチになるたびにキャロの罪状と件数と増える』ということである。
フリード側の言い分からすれば、『僅かな危険性でも存在するのであれば、全力で排除する。ご主人様の身を案じて何が悪い』と言う事らしい。
いわば一人と一匹の価値観と友愛表現の食い違いが生んだ悲劇か喜劇か?
「え?……知らない女の子と一緒に居るの!?」
頑固一徹、断じて竜魂召喚はしません! 逃げてくれば良いんです、フフーンだ!!
そんな態度が音を立てて崩れるのをキャロ自身も容易く感じ取れた。フリード一匹ならば鉄のオモチャを撒いて逃げ切る事も難しくはない。
しかし近くに戦いも知らない唯の少女が居たら……逃げ切れない。選択肢は戦い、撃退するしかないのである。
「……もう! 知らないんだから……」
強く握り締めたキャロの手の内に一つのデバイス。ルシエの里に伝わる伝説、キャロと同じく炎を操る竜を従えた者のお話。
その人物が相棒の毛や爪から手作りしたらしい骨董品を通り越して化石ともいうべきデバイス。
召喚師の基本としてブーストデバイスの体裁を持つソレの名前はテオ=アーティレリ。
『セット・アップ!』の言葉で体を覆うのは神聖な巫女服。手には赤い宝玉を抱いた手袋。
袖や裾がフワリと広がり、真白のキャンパスにはデフォルメされた炎が燃えている。
「フリード、幾ら騒いでも良いけどその子を絶対守るんだよ?」
未だに引き摺っていたらしい焦げ付いたフライパンを放り捨て、駆け出しながらキャロは言う。
一人ぼっちの子供と言うのはイヤでも自分と重ねてしまう。本人は口に出そうとしないが、そんな子供を助けようと事件になった事が無いわけでもない。
「でも……できれば静かに! 目立たないように切り抜けてぇ〜」
どうやら苦労人の少女は案外往生際が悪いらしい。
フリードリッヒは心地よい躍動を感じている。離れていても相棒がしていることは容易く理解できた。
力を奪い縛り付ける魔法とは異なる開放感と充足感。呪いと鎖が解かれていく感覚。
耳にはキャロの声で祝詞が響く。力強くもあり、華やかでもある唄だ。身に纏う熱気が僅かに勢いを増してくる。
「■■■■!!」
小さな身では出るはずが無い爆音のような咆哮。既に力は戻りつつある。祝詞は最終段階、開放の名を残すのみ。
『天地を燃やす赤き業火、我が矛となりて全てを焦がせ!
古代の名を神の肉 テオナナカトル。ベルカの民呼んで、牙を持つ太陽 テオ・テスカトル!
我が名付けし呼ぶは勇ましき英雄の名、我が竜フリードリッヒ! 竜魂……召喚!!』
力は解き放たれ……燃え上がる。
フリードを中心にして組み上がる巨大な魔法陣。ミッドでもベルカでもない図形は、世界がそんな色に塗り固められる前のモノ。
赤い魔法陣を構成する真紅のラインが燃え上がり、中央のフリードを中心に炎の柱を形成。
柱が弾けた時、中から現れるのは不思議なネコっぽい生物ではない。
人を見下ろす巨体、バサリと広げられた頑丈な翼。赤を基調とした体色、頭部の周りには獅子のような真紅の鬣が燃える。
地面を捉える四本の四肢は強く太く、頭部には捻れた二本角が後ろに伸びており、口元には下から伸びる鋭い犬歯。
獣のように喜びで振られる尻尾も長くしなやかな剛毛に覆われている。
それは神代の遺産であり、自然災害であり、古なる竜であり……炎の王である。
「ネコ……ちゃん?」
もはや猫どころか、唯の哺乳類と言う枠に捉える事すら難しいだろう怪物を前にしても、ヴィヴィオの評価は変わらない。
だが驚きの色が徐々に喜びと感激に変化していく理由は正に子供の夢と憧れ。そして……父の背中。
「えっと……離れろって?」
既にガジェットの最優先目標はフリードへと移行した。
包囲の陣形は赤の巨体を中心に構成されており、ヴィヴィオが離れるスキは充分。
シッシ!と振られる尻尾に頷き、小さな体は大きな体からさらに距離を取る。
これにより……フリードは『炎王龍』と呼ばれる本来の力を使う事が出来るということだ。
「■□」
「□■□■……■■」
最初に力の発現を認識したのは精密機械の固まりであるガジェットだった。
何かがオカシイ……ボディの大部分が異常を訴えている。特にセンサー系の異常ガガガガガ
「熱いんだ」
ヴィヴィオはガジェットを襲った異常の原因を見て取る事が出来た。
小さな時に抱きしめて感じた暖かさ、まるでヒーターのような温かみ。体が大きくなった事でそれが勢いを増したのだ。
温度差によって生じる大気の歪み 陽炎でその熱の凄まじさは目視確認できる。
『炎鎧』と証されるテオ・テスカトルの特殊能力。その熱は体力ではなく命を削るのだ。
屈強な狩人すらその領域内では、ジリジリと燃え尽きるのを待つ短くか細い蝋燭。
当然精密な機械であるガジェットたちの回路はすぐさま異常を起こすだろう。
熱でセンサーのレンズが変形すれば与えられる視覚情報が完全に役に立たなくなる。
「■■■!!」
故にフリードの攻撃に対して、まともな回避や攻撃を取る事が出来ないのである。
あとは虐殺だ。強靭な四肢で踏み潰し、鋭い爪で引き裂く。巨体は翼とよく解らない力場で俊敏に動き回り、メクラ撃ちなど当たらない。
口からは人間の魔道師では再現不可能であろう純粋な炎が迸り、鉄の兵器を飴のように溶かしていく。
「凄い……」
離れているが感じる事ができる熱風に髪を揺らし、ヴィヴィオは呆然と呟く。
今まで自分が抱き締めていた生物と同じモノとはとても思えない大暴れ。
『王とは……自己以外に憂いを覚え、守る事が出来る者』
「?」
不意に先程と同じく声が聴こえる。空気を伝わる音ではなく、フリードがキャロと行う念話の応用。
荒々しい戦いの中で響く優しい声。ヴィヴィオは思い出す。無い記憶の中から拾い上げる。
こんな存在を私は知っている。戦えば一騎当千、敵国に恐れられる最強のベルカ騎士。
だが家では私に甘くて、お母さんの尻に敷かれていた。それでも……民には慕われていて……
『そう私に説いて聴かせた愚か者が居た。人間からすれば余りにも遠い次代。
聖なるかなと歌われ続け、民の期待で唯人にも戻れぬと苦笑していた』
そう、私はお父さんに教わったんだ。王とは……無数の信頼と忠誠を背負って生きていく。
普通の王はそれが重くて、耐えられなくて、意図的な選別を始めてしまうけど……■王はそれをしない。
故にベルカという多くの世界に跨る国を治める事が許され、全ての側面 宗教などでさえ民の支えとなる事が出来る。
だから私も……
『奴はベルカの聖王。オマエと同じ匂いをしていた』
「!」
ヴィヴィオの心中に驚きは無い。私はやはり聖王なのだ。
父も母もそういう人で……昔の自分はこの炎の王に説教をする程の人だった。
だけど今の私は?
『小さな我を抱えながらお前は玩具共と対峙した。他者の為に危険に挑んだ。
今はソレだけで良い。そして選別に見るがいい……炎を統べる王の力を』
相棒のバカという言葉が似合う力の発現により、場所を特定するのは大幅に早まった。
それは良いのだが、全力過ぎはしないか?とキャロは不安を募らせている。
その場に居るのが自分ならば良い。契約で与えられたフリードの構成因子は強力な火除けの加護を齎しているからだ。
だが偶然巻き込まれたという少女には勿論そんな物は無い。古代の龍が生理的に発する炎鎧だって一般人からすれば恐ろしい苦痛だろう。
「何が大丈夫なんだろう……」
それを念話で問い質しながらその場所へ辿り着こうと駆けている訳である。
しかし帰ってくる答えは『大丈夫だ』とか『■■■!!』とか、要領を得ないものばかり。
どうやら久しぶりの戦闘で熱しすぎているのやも知れない。そんなキャロの心配は森を抜けて、実際の戦いを目撃する段階で確信へと変わる。
「っ!? ソレはダメェ!!」
元より高性能とは言えず、炎鎧によりダメージを負っているとは言え数が多いガジェット。
そんなガジェットを一網打尽にするには最適な攻撃手段。体を揺する様な動作、巨体の周囲を火の粉がチラチラと舞い始める。
『粉塵爆破』と名付けられた炎龍特有の攻撃方法。炎や熱を操る関係で精製され、鬣などに溜まる可燃性の物質。
体を揺する事でそれを周囲に放出、無意味に長い牙を使って火花を起こす。
火花に僅かでも塵粉に反応して燃え上がれば連鎖的に反応が連続し、ソレに満たされた空間全てが爆発する。
多くの敵を一網打尽にするには効果的な方法だが、当然対象を選ぶ事が出来ない。
かなり重い比重を持つソレも風に影響され、何時も同じ広がり方をするわけではないのだ。
撒き散らした本人すら、何処が爆発するか解らない。そんな技なのだから、ヴィヴィオを巻き込まない保証など無い。
『全く大丈夫じゃない! 側に居るのが私だと勘違いしてるんじゃないだろうか? このニャン子は!!』
そんな失敬な事を考えながら、呆然としている名も知らぬ幼女に駆け寄ろうとしたキャロの耳に届くのは絶望的な音。
『カチン』
硬質な物同士が打ち付け合う乾いた鋭い音。それで生じる僅かな火花だけで粉塵爆破は完成する。
無数に空間に飛び散る粉塵、その一つにでも火が灯れば良いのだ。瞬く間に周りの空気を貪って炎となし、近くの粉塵へと燃え移る。
「ドン」
燃える音など立てる暇も無い。瞬く間に広がる燃焼は周りとの温度差により衝撃を発する。
一瞬の内で空間に及ぶ事で爆発は完成するのだ。その場に居た誰もが動く事もできずに、炎と衝撃に飲み込まれた。
「やっちゃった……」
最初に何事も無かったかのように、破壊の残滓である煙の中から立ち上がったのはキャロだ。
炎王龍の半身を預かる竜召喚士として与えられた加護により、焦げ目一つ付いて無い。
勿論爆発の主であるフリードも無傷。戦闘の終了に大きな遠吠えを一つ。
周囲には黒コゲになり、原形を留めていないガジェットの残骸が散乱。そしてヴィヴィオは……
「嘘だ……なんで無傷なの?」
確かに確実な効果範囲からは離れていた。それでも熱風に襲われ、衝撃に打ちのめされているはずの小さな体はシッカリと立っている。
キャロはその様子に呆然としつつ、ヴィヴィオの体を包む虹色の魔力光に気がつく。
「まさか、聖王の鎧?」
ベルカ文化圏に滞在した事がある者ならば、伝説として語られる力、古代ベルカの王族だけが持つ事を許された聖なる鎧。
それに守られている少女と自分の相棒が見つめあう様、キャロは盛大に置いてけぼりを食らっていた。
未だに辺りには熱気が充満し煙が耐えないが、古きベルカの流れを汲むこの場所で見詰め合う聖なる王と炎の王。
事情を知る者ならば神秘的と表現し、後世に語られるべき伝説の一場面なのだが、キャロがそこまで理解しているはずが無い。
『王の座にて待つ』
「……うん!」
そんなご主人様を無視して、フリードはそれだけ告げる。それだけで十分。
既に語られ、見せられている。ヴィヴィオは大きく頷いた。
「なんのこと?」
本来の姿から小さな仮初めの姿へと変じた相棒にそっと聞いてみるキャロ。しかしフリードから告げられるのは残酷な現実だった。
『さて、お前の嫌いな厄介事を起こしてしまった訳だが……どうする?』
自分で許可した事とはいえ、キャロは自分達を中心にして発生している焦げ跡。罪状が一つ増えた事は間違いない。
「あっ……じゃ! 失礼しま〜す!!」
小さない相棒を抱え上げてキャロは走りだす。
その背中を見送るヴィヴィオの目には今まではなかった何かが輝いていた。
『この日にあった事が後々の私を決定付けた。名も知らない竜とその相棒には感謝しても仕切れない。
是非この本を呼んだなら、ぜひ私を尋ね欲しいと思う。最高級のベルカ宮廷料理で歓迎するから。
―――聖王教会出版社発行 多次元世界で大ヒットを記録した「新たな聖王の手記」より抜粋』
513 :
モンハン代理:2008/11/30(日) 20:34:15 ID:L785j7Cb
「いらっしゃいませ〜」
そこは何処とも知れない辺境世界。
砂漠と岩山で構成されたこの場所からは貴重な鉱石が採掘される事から、労働者が集まり世界は似合わない盛り上がりを享受していた。
「キャロちゃん、ビール四つ! 急いでね〜」
鉱山労働者が集まる酒場には高い酒も上手い料理もない。建物もボロボロのバラックだ。しかし酒も食べ物も量だけは豊富であり、そこに集まる人間達からは笑顔が零れている。
屈強な男たちの中でイヤでも目立つのはピンク色の髪をしたウェイトレス。
村を追い出されたり、トラブルに首を突っ込んで罪状を増やしたり、幼いながらも金髪の執務官に追われたりしていたころから十年。
すっかり大人びて人生を楽しむ余裕が生まれたキャロ・ル・ルシエである。
「お待ちど〜です! ところで今日は何かあるんですか? 皆さん何時も以上にハイテンションですけど……」
ドン!とグラスの束を汚い机に叩きつけ、キャロは顔馴染みの客に聞いた。
地獄という言葉が言い過ぎでは無い鉱山労働者にとって、お酒は一日の自分に対する最高のご褒美だ。
故に何時も子供には解らないテンションで暴れまわる常連客たちだが、今日は飲む前からテンションが高い。
まるで遠足前の子供のようで微笑ましくすらある。
「知らないのかぁ!? この辺りの労働者は大体がベルカの血を継ぐ移民なんだがよ?」
「はぁ?」
「それでよ! 今日は数百年ぶりに聖王様が誕生するのさ!!」
そして戴冠式と就任の言葉がベルカの民が多い世界に放送されると言う事らしい。
不意にノイズ交じりで使い古された番組が流れていた酒場に一つしかないテレビがブラックアウト。
数秒の沈黙の後、映し出されるのはベルカ自治領の中でもっとも栄えているとされる聖王教会総本山の映像。
厳かな教会音楽の調べの中、神父の前に跪く古代ベルカの礼服に身を包んだ金髪の少女が映った。
「あれ? この子……」
何時もの馬鹿騒ぎがピタリと止み、誰もがテレビの画面に集中する中で、キャロは首を傾げる。
どうして聖王なんてエライ人を私は見たことが在るのだろう? 厳かな儀式は終了し、画面は教会のヴァルコニーへと移る。
下の広場には無数のベルカの民が詰めかけ、聖王の初めての言葉を聞き漏らすまいとしていた。
背後には聖王協会の重鎮たちを従え、口元に設置されたマイクを弄ってその少女は静かに始めた。
「私はヴィヴィオ……ヴィヴィオ・T・ベルカです」
それだけで起きる大歓声を手で制し、続ける。
「私の出生は皆さんが知るところだと思います。故にここで明言する事はしません。
『自分は聖王に相応しいのだろうか?』そもそも『私は何者なのだろうか?』と悩んだ人生でした。
しかし私はとある炎の龍王にこう言われたのです」
514 :
モンハン代理:2008/11/30(日) 20:35:19 ID:L785j7Cb
『王とは自己以外に憂いを覚え、守る事が出来る者』
「フリード、この子ってあの時の……」
いつの間にか足元で客から強奪したウィンナーを齧っていたフリードに気がつく。
あの子だった。フリードとよく解らない意思疎通をし、粉塵爆破をものともしなかった幼子。
「私はまだまだ未熟です。故に多くの威光を示す事、直ぐに皆さんの生活を良くする事も出来ないでしょう……ごめんなさい」
就任の席でいきなりの謝罪。後ろの幹部達からも、眼下の民衆達からも、酒場の労働者達からもざわめきが漏れる。
「けどこれだけは言えます……」
瞳を浅く閉じて僅かに上を向き、バッ!と腕を広げ全てを受け止める体勢。
まだまだ幼い少女は直ぐに功績を示す事は出来ないだろう。故にただ己の想いをありったけの熱い言葉で告げるのみ。
育ての親、二人目の母は彼女に言った。教導官いわく『全力全開なの!』と……
「聖王は帰還せり……悲しみの過去から現在に至るまで血を受け継ぐ者、志を伝える者……政や武を……それぞれ司ってきた者たち。
どんな恩恵に預かれずとも、ベルカの事を覚えて居てくれた者たち……」
広げられた腕は閉じられ、見えない何か 愛おしい何かを抱き締めるようなアクション。
「全てのベルカに繋がる者達、その流れを断ち切るまいと奮闘した英霊達が無駄ではなかった証の為に……」
そこから左腕を握り拳で突き上げて力強く言い放った。
「そしてこれからの輝かしくも平穏な世界と未来の為に!……ベルカよ、聖王は帰ってきたぁ!!」
その言葉を持ってカメラが揺れる。酒場が揺れる。それぞれが歓喜の雄たけびと熱狂をもって震動する。
そこからは酒場だけを見れば宴会である。何時も以上の熱狂、今まではありえなかった未来を語る言葉。
そんな感動の主、聖王の誕生にどうやら自分たちは貢献したらしい。
そう理解してくると、キャロも自身のテンションが上がってくるのを感じる。もはやウェイトレスなどしている場合ではない。
「私も飲みます!!」
「おっ! キャロちゃんもノリってモンが解ってきたんじゃねえのか!?」
「今日は客も店員も無しだぁ! 好きに騒げぇ!!」
既にマスターも出来上がっているので、文句は出るはずも無く……初めてのお酒であるキャロを巻き込んで祝宴は朝まで続いた。
もちろん次の日、キャロ・ル・ルシエは恐ろしい二日酔い襲われたし、鉱山中が休業状態になったのは言うまでもない。
『さて……祝詞を上げに行かねばならんか?』
壊れそうな屋根の上でネコっぽい炎の王が呟いた。
支援
516 :
モンハン代理:2008/11/30(日) 20:35:57 ID:L785j7Cb
以上です、最後の二レスは本当に蛇足です。ただ書きたかったんですw
ヴィヴィオはうん、ほぼ捏造で構成されています。
違ったモンハンシリーズを堪能していただければ幸いです……
――以上代理でした。
支援
GJですよ!テオかっこよすぎだぜぃ!
今までと違ってライトな方向だな、キャロとテオはあいにいったのかな?
次回作まってま〜す
GJです
個人的にテオはモンハン中最強のボスだと想うのは何故だろう…
このヴィヴィオのデバイスはおそらく『ノイエ・ジール』
ヴィ「素晴らしい…まるでベルカの精神が形になったようだ……」
おお、今回はダーク方向ではない。
というか、メインは明らかにヴィヴィオでしたな。
なのはさんは白い悪魔でエースオブエースで、しかも王の母親になったわけだ。
キャロも苦労しつつも平和な未来を掴んだようでなによりです。
ところで、ちょっと分らなかったのですが、過去の聖王というのは男と女どっちなのでしょう?
テオにガチンコを挑んでいるのは女性っぽかったけど、ヴィヴィオの回想では父親が聖王って言ってたし。
ヴィヴィオ、最後にはガトーさんになってるよww
乙です!
お久しぶりです
30分頃からR-TYPE Λ 第二十一話を投下させて頂きます
うむっ、緊急支援だ!
7ループチャージ支援
それでは投下します
今回もそれなりに長いので、可能ならば支援をお願い致します
「結局のところ、管理世界と第97管理外世界が抱く互いへの危機感は、同じ要因に端を発するのだろうね」
唐突に発せられたその言葉に、シャリオ・フィノーニ執務官補佐はウィンドウへと落としていた視線を上げる。
此処は本局の一画、研究区画。
時空管理局が誇る最精鋭技術達の居城。
其処で彼女は、久方振りに技術者としての才能を発揮していた。
彼女が補佐すべきフェイト・T・ハラオウン執務官は、対バイド攻勢作戦「ウイング・オブ・リード」へと参加・任務遂行中であり、もう1人の補佐官であるティアナ・ランスターも同様。
非戦闘員である彼女は独り取り残され、法務も特に存在しない事から技術部へと出向したのだ。
技術部は優秀な技術者である彼女の出向を歓迎、本局上層部もロウラン提督の根回しにより問題なくそれを認めた。
それは喜ばしかったが、同時に幾つか彼女にとって予想外の事が起こる。
ひとつは、幼馴染であり嘗ての同僚でもある、グリフィス・ロウランが技術部に出向していた事。
事務官として搭乗していた次元航行艦を地球軍による本局襲撃時に失い、以降はバイド及び地球軍の戦力解析に尽力していた筈の彼が何故ここに居るのか。
シャリオは混乱し、しかし答えは当のグリフィスよりあっさりと齎された。
要するに彼は母親であるロウラン提督より、とある人物の監視任務を言い渡されたのだ。
何故、事務官である彼がそんな事を、と疑問を抱きはしたが、少々考えれば納得もできた。
旧機動六課に於いては部隊長補佐として活躍し、はやてをして非凡と言わしめる指揮能力、そして洞察力を兼ね備える彼だ。
ほぼ全ての方面に於いて人手不足となっている現状にて、優秀な人材である彼を遊ばせておく余裕など管理局には無い。
ロウラン提督がグリフィスの洞察力を活かせる最適の任務を宛がった事は、長い付き合いもあり容易に想像できた。
だがシャリオにとって真に予想外であったのは、その監視対象たる人物そのものだったのだ。
少なくとも、この本局に居る筈のない人物。
濃紺青の長髪、白衣を纏ったその男性。
嘗てミッドチルダを騒乱の只中へと落とし込み、本局をも震撼せしめた広域次元犯罪者「ジェイル・スカリエッティ」。
彼が第14支局跡より回収された「フォース」の解析に携わっていた事、魔力増幅機構「AC-47β」及び「AC-51Η」の設計主任である事などは、既にシャリオも知り得ていた。
JS事件収束から約半年後に本局との司法取引に応じ、ナンバーズの長女であるウーノを助手に第5支局ラボ主任として活動していた事も、技術部への出向から間もない頃に説明されている。
しかしその言葉が正しいならば、彼等は第5支局に事実上の幽閉状態である筈だ。
何故、此処に居るのか?
その答えもまた、グリフィスより齎された。
要するに彼等を含む第5支局ラボ所属研究員は、状況によっては戦闘艦として運用される可能性のある支局艦艇より本局に移され、バイド体に対するより詳細な解析と応用技術の開発に充てられたという訳である。
確かに本局の設備ならば、支局よりも更に詳細に、更に早急にバイド体の解析作業を行える筈だ。
未だブラックボックスの塊であるとはいえ、既に魔力増幅触媒として常軌を逸した成果を齎しているバイド体である。
上層部が彼等に向ける期待は並々ならぬものだろう。
そしてスカリエッティもまた、自身の知識欲を満たす為にそれを望んだであろう事は、容易に想像できた。
しかし彼は異動に際して、条件を1つ持ち掛けたらしい。
それが、各地の軌道拘置所に収監されているナンバーズ、計3名の本局への移送だった。
スカリエッティ曰く、何処に居ようとバイド、または地球軍の脅威から逃れる事はできないであろうが、しかし本局以上に安全な場所はあるまいとの事。
彼女等の安全確保が為されなければ、これ以上の解析及び開発には一切協力しない、との要求を上層部へと突き付けたというのだ。
本来ならば一蹴されて然るべき要求。
しかし上層部は、交渉に費やす時間すらも惜しいと云わんばかりの速断で、3名の本局移送を了承した。
3名は各々が別区画に隔離されている上、固有武装すら持ち得てはいない。
ISの解析も終了している事から、重大な脅威にはなり得ないと判断したのだ。
スカリエッティとしても、この結果は予測済みだったのだろう。
彼は3名の本局移送完了を待たずして、ウーノと共に解析作業を開始したという。
支援する
これまでの経緯を聞かされたシャリオは、個人としては複雑な感情を抱きながらも、スカリエッティがこの場に居る事を納得した。
だからと言って親しくなろうという意思がある訳でもなく、時折データの遣り取りがある以外は特に接触もない。
しかしこの時、偶然にも彼の言葉を聞き止めた彼女は、何の気なしにそちらへと視線を投じた。
スカリエッティはウィンドウの1つへと目を落としたまま、流れる様にキーウィンドウ上の指を走らせている。
ウーノは言葉を返す訳でもなく、自身の作業に没頭している様だ。
そして、其処から然程に離れてはいないコンソールでは、グリフィスが感情の窺えない瞳で以って彼を視界へと捉えていた。
彼の傍らには、2名の武装局員が控えている。
誰も、言葉を返す気配はない。
独り言だったのだろうか、と首を傾げるシャリオを余所に、スカリエッティは再び声を発した。
「こちらにしてみれば、魔法では到底及びも付かない破壊を齎す質量兵器を無尽蔵に生産し、しかも実際にそれを運用している勢力だ。第97管理外世界は我々にとって、理解などできない正しく異端そのものと云える」
またも呟かれる言葉。
どうやら特定の人物に向かって放たれたものではなく、半ば独り言の様なものらしい。
周囲からの反応があるか否かは問題ではなく、単に自己の内での確認とでもいうべきものだろうか。
しかし、その内容を理解したシャリオは数秒ほど思考に沈み、暫しの後に納得した。
彼の言っている事は正しい。
管理局、延いては管理世界が第97管理外世界を危険視、或いは敵視する最大の理由。
戦略級質量兵器の大量保有と使用、当該世界の歴史上に於ける実際の使用事例の存在。
暴走とも云える軍事技術の異常発達、際限の無い軍拡競争の歴史と各国家間に於ける一触即発の現状。
そして何より、あの事件だ。
22世紀地球軍とバイドによる、クラナガン及び本局襲撃。
クラナガンに於いては31万、本局では1300名もの生命を奪ったあの事件は、純粋科学技術体系を基盤として発達を続ける第97管理外世界、その発展が秘める危険性を浮き彫りにした。
それだけではない。
管理世界に於いては、唯でさえ反感を以って捉えられる質量兵器。
その恐ろしさと危険性・非人道性を身を以って体験した局員、そしてクラナガン市民を中心とするミッドチルダ住民。
直接的に被害を受ける形となった彼等がそれらを運用する第97管理外世界に対し抱く感情は、もはや反感と呼べる様な生易しいものではなく、敵愾心とも呼ぶべきものと化していた。
公然と質量兵器を運用する、危険極まりない次元世界文明。
その存在を野放しにした結果が、時間さえ超越しての他次元文明に対する無差別攻撃。
そもそも魔法技術体系及び次元間航行技術を持たないからといって、2世紀にも満たない短期間で異常な科学技術の発達を成し遂げる様な文明が管理体制下に置かれる事もなく存続している、それ自体があってはならない事なのだ。
彼等が将来、極めて侵略性の高い巨大軍事勢力となる事は明らかになった。
ならば、摂り得る選択は1つしかない。
現時点での当該世界、21世紀地球に於いては次元間航行技術は確立されておらず、現状では決定的に管理局が優勢だ。
となれば、すぐにでも艦隊を送り込み、第97管理外世界を武力統治すべきである。
彼等が質量兵器廃絶の要求に応じる可能性は無に等しく、平和的な交渉など徒労に終わるのは明らかだ。
彼等の主権を奪ってでも統治下に置き、質量兵器技術をその根幹より廃絶する事が望ましい。
否、それでは足りない。
より確実を期すならば、軌道上より戦略魔導砲の一斉射により、当該文明そのものを消去する方法が最も安全且つ堅実だ。
縦しんば第97管理外世界を統治下に置いたとしても、同時に複数の反管理局勢力の発生は避けられない。
そうなれば危険に曝されるのは、第97管理外世界製の強力な質量兵器と相対する事となる、前線の局員達だ。
更にテロリズムともなれば、各管理世界の一般人までもがその脅威に曝される事となる。
管理世界の平和を最重要視するならば、人道を無視してでも危険要因たる当該世界を完全に排除すべきだ。
無論の事ながらこの様な過激な思想は、管理局内部に於いては極一部の強硬派が提唱しているものに過ぎない。
大多数の局員は、第97管理外世界の隔離・相互不干渉状態の維持で十分であると考えているし、先制攻撃によって文明自体を破壊する等という非人道的な措置を望んではいない。
質量兵器に関しても、第97管理外世界の置かれた状況とその性質からして、仕方のない事であると頷ける事もある。
何より、地上の治安回復に尽力した故レジアス・ゲイズ中将が、スカリエッティとの取引をせざるを得ない状況へと至るまでの過程に関する負い目も相俟って、本局の中ですら強制執行には反対する意見が多い。
魔力資質因子保有者の存在しない世界から唯一の自己防衛手段である質量兵器を奪う事が、どれだけの流血を伴うものか。
彼等はそれを、正確に理解しているのだ。
強いて言えば、関わり合いにはなりたくない、というのが本音だろうか。
どちらにせよ各管理世界を含め、大多数は武力衝突を望んではいない。
しかし事は、そう単純なものでは終わらなかった。
問題は多数の穏健派ではなく少数の強硬派、前線の局員及び高ランク魔導師達だ。
管理世界の中心地であるミッドチルダの住民、そして管理局上層部の一部が強制執行を支持する事は予測された事態だった。
厄介なのは、管理局の行動方針について強い発言権を持つ高ランク魔導師、その殆どが強硬論を支持している現状だ。
彼等は過去、最前線へと投入され其処で文字通りの命懸けで任務を遂行してきた、筋金入りの現場主義者達だ。
自らのみならず、数多くの戦友達の血と遺族の涙を以って、現体制の維持に尽力してきた。
そんな彼等が、自身等が血を流して守ってきた体制とは相容れない文明、管理局とそれの妥協とも取れる穏健派の思想に賛同できる筈もない。
元来、組織が掲げる思想の実現に於いて、根幹から魔導資質を持つ人材に依存しているのが時空管理局の実状である。
魔導資質因子を持たない者と比して、魔導師の発言権が増大する事は避けられない事態だった。
結果として上層部の殆どは魔導師に占有される事となり、非魔導師の意見は通り難くなる。
幾度となく改革が行われてはいるものの、それらの試みが実を結んでいるとは云い難い。
そんな状況の中で、魔導資質因子を持たないレジアスが地上本部のトップに就任した事実は、ある意味では奇跡の様な出来事だった。
だがレジアスが築き上げた体制も結局は本局と地上、魔導師と非魔導師との軋轢の中で瓦解し、現在は再び本局より派遣された高ランク魔導師が地上本部の総司令として君臨している。
そして、JS事件の真相を知った陸士の殆どは新しい総司令を毛嫌いしている上、レジアスの遺した体制より新たな方針へと転換後、犯罪検挙率は減少の一途を辿っていた。
その事実こそ故レジアス中将が築いた体制の優秀さを証明するものだったが、実際にそれを評価しているのはミッドチルダを含む各管理世界主要都市の住民と陸士達だけだった。
この現状だけを見れば、陸士が本局上層部と高ランク魔導師の唱える強硬論に賛同する要素など、何1つ存在しない様に思える。
だが多くの陸士部隊は、地球軍及びバイドによるクラナガン襲撃時に於いて多大なる犠牲者を出していた。
現在の彼等は、本局との軋轢を気にしている余裕など無い。
如何にしてバイド及び地球軍へと報復するか、以後に発生の予測される悲劇の芽を摘み取るか、それだけが思考を支配していると云っても差し支え無いだろう。
更にそれを後押しするのが、31万もの生命を奪われたミッドチルダ住民の存在だ。
家族を、知人を奪われた彼等は、口々に地球軍と第97管理外世界への報復を叫んでいる。
現在のところ穏健派が主流であるのは、単にミッドチルダと隔離空間内へと取り込まれた41の世界を除く各管理世界が、第97管理外世界との相互不干渉を望んでいる為に過ぎない。
冷静さを保っている上層部の大多数も、その方針を挙げている。
信管に火の入った爆弾に近付こうとする者は居ない。
だが、いずれ強硬派の不満が爆発するのは、誰の目にも明らかだった。
どんどん支援
シャリオ個人としては、なのはやはやての出身世界である第97管理外世界に対する武力行使については賛同しかねている。
しかし当の2人は、然程に現状を憂いている気配はない。
大して気に掛けてもいないのか、或いは強硬派の動向について情報操作が為されているのか。
少なくとも、戦略魔導砲による無差別攻撃案の存在については、情報部が全力を挙げて隠蔽しているのだろう。
本局内のシステムを利用すれば、彼女達に気付かれずに周囲の音声、情報媒体を統制する事も可能だ。
強硬派の動向を、彼女達の耳に入れる訳にはいかない。
何せ第97管理外世界には彼女らの肉親、友人、知人が多数存在するのだ。
アルカンシェルによる文明の破壊などという手段は到底、受け入れられるものではないだろう。
たとえ彼女達が、管理局による第97管理外世界の全面統治に肯定的であるとしても。
シャリオがそんな事を思考していると、現在の作業に一区切り付いたらしきスカリエッティがキーウィンドウより手を離し、回転式の椅子に座したままウィンドウへと背を向ける様が目に入る。
彼は脚の上で手を組み、何処か楽しそうに周囲へと視線を遣っていた。
「そして、地球軍にとっての管理局もまた同様だ」
その言葉に、幾人かの作業の手が止まる。
シャリオもスカリエッティの言葉を訝しみ、知らず視線を彼へと固定していた。
奇妙な静寂の中、聴き慣れた声が鼓膜を叩く。
「リンカーコアを持たない彼等にとって、質量兵器を使用する事もなく、個人単位で戦術兵器に匹敵する攻撃を実行可能である魔導師という存在は、決して受け入れる事のできない異端であり、排除すべき危険因子と認識される可能性が高い」
それは、グリフィスの声だった。
その内容にシャリオは愕然とし、母親に良く似た容姿の幼馴染を視界へと捉える。
冷然と構えるその姿は、何処か生気を感じさせないものだ。
そして、相も変わらず楽しげなスカリエッティの声が響く。
「その通り。彼等にしてみれば魔導師という存在は、核弾頭が自由意志を持ち、自らの価値観に基づいて行動しているに等しい。何時、何処で爆発するかは弾頭自身の気分次第。これ程に恐ろしいものはない」
違う、と否定する感情的な声は、区画の何処からも上がる事はなかった。
知っているのだ。
グリフィスの、スカリエッティの言葉は正しいと。
シャリオを含め、この場に存在する者の殆どは技術野の出身だ。
魔導資質因子を持つ者も居るが、総じて実戦に出られる程の魔力保有量は有していない。
だからこそ、魔法技術体系からなる自身の組織とその主張を、客観的に評する事ができた。
そう、確かに彼等にとっての魔導師とは、暴走した戦術兵器そのものだ。
彼等の存在そのものだけでなく、その在り方を許容する管理局の体制すらも警戒の対象となるだろう。
出力リミッターという形での制限機構も存在はするが、それは魔導師の暴走を抑える為というよりは、組織内の公平さを保つ為の手段だ。
リミッターを使用するに至らない低ランク魔導師については、一切の制限手段が無いに等しい。
無論、低ランク魔導師が犯罪行為に至ったとして、大した脅威とはなるまい。
しかしそれは、鎮圧する側もが魔導師であればの話。
魔導資質因子非保有者にとっては、何にも勝る脅威に違いない。
Cランク、Dランクの魔導師であっても、拳銃弾に匹敵する魔導弾を放つ事は可能だ。
つまりそれは、生身の人間が質量兵器を用いずに、暗殺を初めとする各種破壊工作が可能である事を意味する。
第97管理外世界の住民にしてみれば、正しく制御されない脅威そのものだろう。
自らの隣に居る人物が、突如として魔導弾を乱射するかもしれない。
人混みの中から、あらゆる物を巻き込んで砲撃が放たれるかもしれない。
都市の一画が、たった1人の生身の人間によって灰燼に帰すかもしれない。
実際にそれらの行動が成される必要はない。
その可能性があるというだけで、魔導師を危険視するには十分に過ぎる。
魔法技術体系を持たない次元世界に於いて魔導師の価値は、正しく核弾頭と同じく、抑止力としての威力さえ発揮する程のものなのだ。
そんな異端の存在を、第97管理外世界が容認する事などある筈が無い。
「管理局が質量兵器の廃絶を望むのと同じく、彼等は魔導師の根絶を望むだろう。それこそ、ありとあらゆる手段を用いて、だ」
「彼等が管理世界に対し、強硬派が提唱する以上の非人道的手段を用いて攻撃を行うと?」
更に発せられたスカリエッティの言葉に、グリフィスが声を返す。
この狂気に侵された科学者との遣り取りの中から、少しでも有用な情報を拾い上げようとしているのか、グリフィスの目は猛禽の様に鋭い。
「そうだ。私に言えた義理ではないかもしれないが、これまでに観測された行動と得られた情報を見る限り、如何にも彼等は生命倫理というものに対しての関心が薄い様だからね」
「魔導資質の封印のみならず、管理世界全域に対する無差別攻撃を実行する可能性が高い。少なくとも、貴方はそう考えている」
「態々、千数百億もの管理世界住民を検査する程、彼等は時間も人員も持て余してはいないだろう。そんな事をするよりも、次元世界そのものを消し去ってしまう方がよほど効率的だ。
あのパイロット達の証言が真実ならば、少なくとも22世紀の第97管理外世界はより上位の空間構造を把握し、活動範囲へと加えている事になる。私達の知る次元世界そのものを消滅せしめる事も、或いは可能だろう」
「もし、その推測が的を射ているのならば、強硬派の主張は全く以って正当なものとなる。貴方はそれを望んでいる様にも見えますが」
「勿論」
その瞬間、幾つもの緊張を孕んだ視線がスカリエッティへと注がれた事が、シャリオにも感じ取れた。
彼女自身も例に漏れず、殺気にも似たものを含んだ視線を彼へと向けている。
当のスカリエッティは、先程までの楽しげな雰囲気を消し去り、真剣な様相でグリフィスを睨んでいた。
「勿論だとも、ロウラン事務官。私の娘達の安全は、管理局の対応に懸かっている。誤った対応を採られれば、彼女達はその巻き添えとなるしかない」
「彼女達の生命を守りたいと?」
「尊厳を、だ。戦闘機人である彼女達が地球軍に捕らえられれば、その先に待つのは一切の倫理を無視した、私にさえ想像も付かない凄惨な実験・研究だろう。彼等はそうやって、R戦闘機やフォースを開発した。
バイドとの戦いが続く限り、彼等は技術の革新に対し異様なまでに貪欲であり続ける。これは疑い様の無い事実だ」
其処まで言い切ると、スカリエッティは僅かに息を吐き、目に見えて肩の力を抜く。
そして、何処か諦めた様な声で続けた。
「彼等がバイドとの間に繰り広げているのは、戦争じゃない。生存競争だ。勝てば相手を喰い殺して力を得るが、負ければ喰い殺される。互いに進化し、相手を出し抜き、出し抜かれぬ様に手段を講じ続けている。私達は、其処に取り込まれた・・・取り込まれてしまった」
「取り込まれた?」
堪らず、シャリオが割り込んだ。
スカリエッティは驚いた様子も無く、彼女へと視線を移し言葉を続ける。
「そうとも。これは、単なる質量兵器と魔法の戦いでも、思想の衝突でも、況してやロストロギア・バイドを巡る事件でもない。紛れもない生存競争であり、管理世界は新たな捕食者にして被食者として、舞台に上がる事を余儀なくされたのだ」
「喰い殺さなければ、喰い殺される。そう言いたいのですか?」
「そうだ」
そう答えると、スカリエッティはキーウィンドウの一角を指先で叩いた。
瞬間、ハッキングツールの発動を、シャリオはウィンドウ上に情報として捉える。
咄嗟に警告の声を上げようとするが、それより早く1つの受像システムが中空に現れた。
スカリエッティ、違法アクセスによるプログラム干渉により、室内の魔力式光学迷彩解除。
受像システムの映像受信先を逆探知し、それを表示しているであろう空間ウィンドウの前に存在する人物の姿を、リアルタイムで室内のウィンドウ上へと表示する。
その容姿に、シャリオは息を呑んだ。
幼馴染と同じ、濃紫色の髪。
その少し後方に、若緑色の髪も見える。
共に若々しく、しかし確かな威厳を感じさせる、女性上級将校2人。
スカリエッティは臆する事もなく、彼女達へと語り掛けた。
「よって・・・ロウラン提督、ハラオウン総務統括官」
こちらを監視していたのであろう、無言の儘にスカリエッティを見据えるリンディとレティに対し、彼は言葉を投げ掛ける。
彼女達の、管理局の意識を揺さ振る、言霊とも云える声。
「貴女方が良心の呵責に囚われる必要はない。穏健派と強硬派との折衷に腐心している事は予想できるが、それよりも如何にしてバイドと地球軍の脅威から生き延びるかを考えた方が良いだろう。
管理世界の置かれている状況には最早、第97管理外世界の住民の尊厳に気を配っていられる程の余裕などありはしない。躊躇う必要はない。強制執行を実行すると良い・・・尤も」
警報。
咄嗟に周囲を見回すシャリオの意識に、うろたえる局員達の声と大音量の警告音が飛び込む。
怒号と混乱の叫び。
そんな中にあって、スカリエッティの言葉は奇妙に澄んで聞こえた。
「それまで此処が保てばの話だが」
続く中央センターからの警告が、シャリオの意識を揺さ振る。
それは、本局内に存在する12万の人間を戦場へと誘う、悪夢の始まりを告げていた。
『隔離空間、領域拡大! 空間歪曲面、高速接近! 接触まで15秒!』
* * *
「ルクレツィア、戦術級光学兵器被弾! 艦体左舷部爆発、轟沈します!」
「シャーロット、敵機動兵器撃破! ファインモーション、残存数7!」
「第16支局艦艇、敵機動兵器による体当たりを受けました! Dブロック崩壊!」
「敵機動兵器、自爆! 第9、第13支局艦艇ほか7隻が爆発に・・・いえ、各艦健在です! 敵機動兵器、残存数5!」
「第8、10、15支局艦艇よりMC305砲撃、総数60! 来ます!」
「ユージェーヌ及びローロンス、アルカンシェル発射! 弾体炸裂まで4秒!」
「総員、衝撃に備えろ!」
3隻の支局艦艇より放たれた総数60発もの大出力魔導砲撃、そして複数のXV級からの砲撃が彼方より飛来し、5機の大型無人機動兵器へと殺到する。
外殻装甲を閉じ、重力偏向フィールドによる防御幕を展開していた3機が砲撃に耐え抜いたものの、次いで炸裂した2発のアルカンシェル弾体による高密度次元震に巻き込まれ、閃光と共に全ての機動兵器が跡形も無く消え去った。
異層次元巡回警備型無人機動兵器「ファインモーション」40機、殲滅。
しかしクロノは気を緩める事なく、矢継ぎ早に指示を下す。
「被害報告」
「システムに異常ありません。機関部にて負傷者2名、いずれも軽傷です」
「艦隊の損害は?」
「第12支局艦艇及びXV級11隻を喪失、いずれもクルーの生存は絶望的です」
「第8支局艦艇より入電。攻撃隊デバイス追跡信号、約半数を発見。いずれも人工天体内部に存在、バイタル異常はなしとの事です」
「了解した。周囲警戒、大質量物体転移に注意せよ」
他の艦艇との連絡を取りつつ、クロノは新たな敵襲に備えるべく艦の態勢を整えた。
攻撃隊の安否が気に掛かるものの、第8支局が追跡信号を捉えたとの報告に幾分ながら安堵する。
残る半数の安否は未だ不明だが、全滅という最悪の事態だけは避ける事ができたのだ。
寧ろ、この規模の転送事故にあって半数が生存という結果は、最悪どころか最良とも云える。
そう時間を掛けずとも、攻撃隊の現状については情報が入ってくる事だろう。
この時クロノは、そう考えていた。
少なくとも、続くクルーの報告を聞くまでは。
「第8支局艦艇へ報告。これより本艦はシャーロット、ローロンス両艦と連携し、人工天体への・・・」
「警告! 後方、空間歪曲境界面、相対距離増大! 隔離空間全体が拡大しています!」
「バイド係数増大! 16.52・・・17.80・・・19・・・22・・・27・・・!」
「大規模空間歪曲発生、総数300以上!」
波動砲で支援。
瞬間、クロノはブリッジドーム内部へと表示された外部映像上に、信じられない光景を見出した。
隔離空間内の至る箇所で可視化された空間歪曲が乱発生し、数秒後に1つの天体が出現したのだ。
何が起こったのか、理解などできる筈もなかった。
つい数秒前まで何も存在しなかった空間に、恒星の光を鮮やかに照り返す巨大な球体が浮かんでいる。
それが管理世界の1つだと気付いた時には、更に数十もの天体が出現していた。
秒を追う毎に増えゆくそれらを、クロノは呆然と見詰める。
しかし、警告音と共に表示された情報、そしてクルーの報告が、彼の意識を強制的に覚醒させた。
「各天体付近に艦隊の展開を確認! 照合結果・・・第88管理世界、フォンタナ政権正規艦隊、及び反政府軍艦隊!」
「第179観測指定世界、エムデン連邦軍ルフトヴァッフェ所属、第1から第9次元巡航艦隊までの72隻、全次元航行艦艇を捕捉。管理局監視指定質量兵器、シュヴァルツガイスト2機の配備を確認」
「第66観測指定世界バルバートル合衆国艦隊、及び第71管理世界メイフィールド王朝王家近衛艦隊、確認! 両惑星間にて交戦中・・・いえ、戦闘中断!」
「第148管理世界、成層圏に不明艦隊を捕捉。管理局のデータベースには登録されていませんが、当該世界の艦艇と同一の設計です。これは・・・未登録戦力の保有、違法艦隊です!」
「小型次元航行機、総数544機、交戦中・・・第133管理外世界、ツェルネンコ政権正規軍、ダニロフ解放戦線です」
次々に飛び込む報告は、各世界の固有戦力が、本星もろとも隔離空間内へと取り込まれている事を告げる。
更には他の艦艇との情報共有により、読み上げる暇さえ無い膨大な各世界及び固有戦力の情報が、多重展開されたウィンドウ上を埋め尽くす様に表示されていた。
本作戦が立案された際、管理局は各管理世界に戦力の提供を求めていたが、それらの要求は全て撥ね退けられている。
どの世界も管理局に事態の解決を委ね、固有戦力を自世界の防衛に充てていた。
汚染艦隊の脅威、クラナガンの惨状を鑑みれば当然の事かも知れないが、それら以外にも狙いがあるのは明らかだ。
この機会に体制の転覆を狙う者、敵対する他世界との拮抗状態により動くに動けない者、管理局の疲弊を狙い実質的な侵略行為を開始する者、停戦監督者の不在を狙い一気に紛争の終結を狙う者。
其々の思惑を内包し、彼等は戦力抽出要請を蹴ったのだ。
管理局としても、バイド制圧後の各世界に於ける軍事的拮抗の崩壊については頭を悩ませていたが、かといって隔離空間内部の各世界を放置する訳にもいかず、局内に於ける多数の反対意見に曝されながらも次元航行部隊の半数を本作戦へと投じる事となる。
各次元世界は自らの世界を離れ、バイド制圧作戦へと赴く管理局艦隊を、内心では諸手を挙げて歓喜しつつ見送った事だろう。
ところが今、それらの世界は固有戦力もろとも隔離空間に取り込まれてしまった。
単に本星の防衛に当たっていた勢力、内紛による戦闘中の勢力、他世界との全面戦争中の勢力。
中には管理局でさえ把握していない、つまりは違法に保有する次元航行戦力までをも取り込まれた世界すらある始末だ。
それどころか、どの次元世界に属するものかは窺い知れないが、次元世界を航行中の艦隊、或いは独航艦までもが出現している。
それに加え、数千隻もの非武装民間船舶までもが、数百もの世界と艦隊の合間を縫う様にして浮かんでいるのだ。
「管理局艦艇、捕捉! XV級76隻・・・78・・・84・・・増え続けています! 第2、第7支局艦艇、捕捉!」
そして遂に、管理局艦艇の存在までもが捕捉される。
残る7隻の支局艦艇と共に本局、及びミッドチルダ周辺世界の防衛に就いていた筈の次元航行部隊が、次々に隔離空間内部へと転移を始めたのだ。
加速度的に数を増しゆくXV級の艦体を見詰めつつ、クロノは唐突に理解する。
同時に、全身が氷漬けになったかの様な悪寒を感じた。
気付いたのだ。
この状況の意味する事を、何が始まったのかを。
「空間歪曲境界面、ロスト! 相対距離、計測不能です!」
「天体数、更に増大・・・管理局が捕捉する世界の総数を超えました!」
「前方、人工天体付近に大規模空間歪曲・・・あれは・・・あれは・・・!」
拡大した隔離空間。
各世界の転移。
際限なく増えゆく天体数。
詰まるところ、この状況が意味する事は。
「本局です! 時空管理局、本局艦艇、捕捉! 人工天体より距離86000!」
「ミッドチルダ、転移確認! 繰り返す、ミッドチルダの転移を確認!」
バイドは、次元世界そのものを「侵食」した。
全ての管理世界・管理外世界、そして観測指定世界までもが、否応なくバイドとの戦争の場へと引き摺り出されたのだ。
「第97管理外世界、捕捉!」
その報告が艦内に、延いては時空管理局艦艇の全てに行き渡った時、それまでとは別種の緊張がクロノに走る。
咄嗟にブリッジクルーへと目をやれば、彼女達は後ろ姿からでもそうと判る程、憎々しげに1つの管理外世界、その表示画像を見据えていた。
彼女達の心境を慮り、クロノはそれを理解すると同時に、遣り切れないものが込み上げるのを感じる。
妻であるエイミィ、そして息子カレルと娘リエラの3人は、一連の事件発生直前にミッドチルダへと帰省していた。
東部のテーマパークを訪れ1泊した後に本局を中継し、地球へと戻ろうとした矢先に地球軍の襲撃に遭ったのだ。
子供達、そして実戦を離れて久しい妻にとっては、余りに恐ろしい体験だったのだろう。
子供達を安心させ、彼等と離れた後に止まらない自身の震えを吐露した妻を慰める為に、クロノは少ない猶予の中で最大限の時間を割いた。
彼女達は今、聖王教会の守護するミッドチルダ北部で、リンディが手配したホテルのスイートに宿泊している。
地球へと戻れない以上、仕方のない事だった。
よって今、クロノの家族は地球には居ない。
しかしあの世界にはなのはの家族を始めとして、彼女やフェイト、はやての友人達が存在している。
彼女達は勿論の事、あの世界の住民は次元世界で何が起こっているのか、何1つ知らない。
少なくとも、21世紀に於いては。
しかし次元世界に於いては、第97管理外世界はこの事態の元凶の一端として捉えられている。
その事実が、クロノには歯痒いものとして感じられるのだ。
あの世界は今、自身を襲っている幻想をどう理解しているのか。
次元世界に対する観測手段を確立してはいない以上、通常通りの宇宙空間を観測しているのだろうか。
バイドによって取り込まれ、そして管理世界にすら敵視される世界。
何も知らないのは、彼等自身だけ。
しかし百数十年後、彼等は異常極まる戦力を以って次元世界へと介入するのだ。
次元世界の存在を知る誰もが出現を予想だにせず、今この瞬間でさえ解明されてはいない超高度科学技術を以って次元の壁を乗り越え、バイドと共に管理世界を、延いては次元世界全体を危機へと陥れる、正に災厄の申し子とすら呼べる世界。
しかしバイドは、何を考えてこんな事を?
如何に汚染艦隊が圧倒的な戦力を有しているとはいえ、各世界を合わせれば軍用次元航行艦の総数は1500を超えるのだ。
未確認の世界が有する艦艇数を考慮に含めればその倍以上、3000を超える事さえあり得る。
何せ、隔離空間は今も拡大を続けているのだ。
艦艇の数は、際限なく増え続けるだろう。
管理局としても危険な事ではあるが、何よりもバイドにとっては不利になる事さえあっても、決して有利とはなり得ない。
一体、何の為に?
「第9支局艦艇より警告! 空間歪曲反応、多数観測! 総数・・・」
「どうした?」
クロノが抱いた疑問。
それに答えるかの様に、報告が飛び込む。
同時に、隔離空間内を映し出すブリッジドーム内面に、空間歪曲の発生を意味する赤い波紋が表示された。
その数、数十か、数百か。
クルーより齎された報告は。
「総数・・・4000以上! 繰り返す! 総数4000以上! 大質量物体転移まで5秒!」
壁が、出現した。
少なくとも、その感想を抱いたのはクロノだけではなかったろう。
先程の機動兵器群など比較にもならない、大型次元航行艦に匹敵する敵影が、赤く光るイメージとしてドーム内部を埋め尽くしている。
それらの約半数は、次元世界の艦船だ。
古代ベルカ艦艇、及び古代ミッドチルダ艦艇などの歴史的遺物にも該当する艦から、退役した筈の管理局旧型次元航行艦、明らかに新造艦と判る所属不明艦まで、世界も時代も問わず、無数の艦艇が等距離を保って壁を形成し、艦首をこちらへと向けている。
「何だ、これは・・・」
「不明艦隊よりバイド係数検出! 13.86で変動停止、汚染艦隊です!」
「約500隻、こちらへ向かってきます! 距離25000、残る汚染艦艇は各方面へ!」
「聖王のゆりかご、捕捉しました! 総数・・・40! 40隻です!」
『第8支局より全艦隊へ! 異常係数検出個体を確認! 総数20、接近中! 画像を確認せよ!』
「目標、拡大映像を出せ!」
攻撃艦隊へと向かって接近を開始する汚染艦隊。
その中に、幾つかの異形が紛れ込んでいる。
支局艦艇より齎されたデータに基き、それらを拡大表示するようクルーに命じるクロノ。
そうして表示された映像、浮かび上がった異形の全貌に、クロノを含め誰もが言葉を失う。
「・・・これが、戦艦だと?」
それは「艦」と呼称するには、余りにも歪な存在だった。
通常の艦艇の様に前後に伸長する形ではなく、上下に伸びたメインユニットを挟む様にして、左右に張り出した巨大なエンジンユニットらしき部位が付属している。
メインユニット下方には、騎士甲冑の腰部装甲を思わせるサブエンジンユニットらしき左右一対の部位が存在し、上部エンジンユニットとの間には左右二対、計4門の砲撃兵装らしきユニットが見て取れた。
全体からは複数の槍状構造物が突出し、本来ならば無機質とも取れるであろう外観を、防衛本能を剥き出しにした生物、即ち有機的生命体にも似たそれへと変貌させている。
メインユニット最下方には、三方に延びる巨大な槍状構造物。
外殻装甲は血とも赤錆とも取れる、黒ずんだ闇色の赤に彩られている。
少なくとも、塗装による色彩ではない。
前方から捉えたその全貌はまるで、肩部装甲を残し四肢と頭部をもぎ取られた、巨大な騎士甲冑の様にも見える。
計測結果、全高817m、全長790m、最大全幅635m。
「第10支局より入電。敵性体、詳細判明。地球軍識別コード、B-BS-Cnb。コードネーム「コンバイラ」。艦船の残骸を中心として無数の推進機構及び兵装が融合した後、汚染により機械生命体として活動を開始した複合武装体。
小型及び中型汚染体の母艦としての機能を持ち、陽電子砲を始めとする複数種の武装を内包。メイン・サブ含め6基の独立可動式エンジンユニットに計18基の核融合パルス、バサード・ラムジェット複合サイクル推進機構を持ち、空間跳躍及び浅異層次元潜航機能を搭載。
過去に確認された事例では多数の核弾頭を搭載し、上部発射機を用いての戦略攻撃により、単体にて大規模人工居住空間1基を破壊、地球軍艦艇2隻を大破させているとの事。
第一次バイドミッションに於いて武装体形成途上の個体を確認、R-9A単機により撃破した記録あり」
第10支局艦艇にて監視下にあるR戦闘機パイロットより齎された情報、その余りに出鱈目な敵性体の性能に、クロノは小さく悪態を吐いた。
陽電子砲などという常軌を逸した兵装だけに飽き足らず、核弾頭で武装した巨大な機械生命体。
それが今、明確な攻撃の意思を以ってこちらへと接近している。
しかもその数は20体、更には1体につき2隻のゆりかご、恐らくはコピーであろうそれらの護衛付きという有様だ。
余りに絶望的な戦力差に、眩暈さえ起こしそうである。
「・・・アルカンシェル、バレル再展開。攻撃管制システムを各艦とリンク、距離15000で発射と通達せよ」
「バレル再展開、距離15000で発射、了解」
「システム、リンク要請・・・要請通過、リンク完了」
亜空間カウンター支援
支援
まだまだ支援
容量やばくない?
次スレ立てたほうがいいのでは? 支援
無理でしたorz
他の方お願いいたします
>>542様
スレ立て、有難う御座いました
それでは埋めがてら、投下を再開します
しかし、此処で絶望している訳にもいかない。
クロノは提督だ。
多くのクルーを抱え、艦と共にその生命を背負っている。
責任を放棄して蹂躙を受け入れる事などあってはならないし、元より受け入れるつもりなど無い。
『ローロンスよりクラウディア、第13支局艦艇よりリンク要請があった。発射は距離20000にて行う。支局艦艇とリンクし、タイミングを修正しろ』
「クラウディアよりローロンス、了解。リンクを許可する」
「リンク完了。全艦艇、バレル展開」
白光を放つ環状魔法陣がクラウディア艦首へと幾重にも展開され、その中央に閃光が集束を開始する。
形成された弾体はクロノが火器管制機構の鍵を捻り、自身を束縛する膨大な魔力が霧散する瞬間を待ち侘びていた。
炸裂と同時、広域に亘り高密度次元震を引き起こすそれは、目前の「壁」を食い破らんと白光の牙を剥き出しにする。
その牙はクラウディアのみならず、185隻のXV級、その全ての艦首へと現出していた。
「目標、距離196000!」
「速度、進路、共に変わりなし」
「第102管理世界艦隊、汚染艦隊との交戦を開始! 次元航行機による近接攻撃です!」
「第18観測指定世界、地表部からの迎撃を開始・・・第33管理世界艦隊を巻き込んでいます! 艦隊、地表部への反撃を開始! 魔導砲撃です!」
汚染艦隊の射程内到達を待つ間、各方面で汚染艦隊と各世界の保有する戦力との戦闘が開始される。
恐らくは、汚染艦隊による攻撃を受けたのだろう。
状況を理解し切れていなかったであろう世界も、既に他世界との戦闘状態にあった世界も、例外なく全てが汚染艦隊との戦闘を余儀なくされてゆく。
「194000!」
「空間歪曲、観測! バルバートル艦隊及びメイフィールド近衛艦隊による戦略攻撃です! 汚染艦隊、約40隻が消失!」
「汚染艦隊、約300! 第97管理外世界に向け進攻中!」
「汚染艦隊、加速! 距離188000!」
「アルカンシェル、発射まで60秒」
報告の中にあった第97管理外世界の名称に、クロノは思い入れの深いその惑星へと視線を投じた。
恐らくは戦闘が発生している事すら気付いてはいないであろう、その青く美しい惑星の住人達。
十二分に戦闘を行える兵器を保有しつつも、次元世界を観測する手段を持たないが故に未だ宇宙を見ているであろう彼等は、惑星へと接近しつつある300隻の汚染艦隊の存在すら捕捉してはいないのだろう。
付近にはXV級次元航行艦が20隻ほど存在してはいるものの、自らの安全を優先したか、はたまたこの機会に第97管理外世界を消し去ろうというのか、惑星へと向け進攻する汚染艦隊を迎撃する素振りは全く無い。
思わず、クロノは通信を繋ごうと手を動かし、しかし寸でのところで思い止まる。
これで第97管理外世界が滅んだとして、それはバイドの攻撃によるものだ。
手を出さずに見ているだけで、将来的に管理世界の、延いては次元世界の安寧を脅かす勢力となる、危険な世界が1つ潰える。
それは己が手を汚さずに望んだ結果を得る事のできる、最良の手段ではないか?
「184000!」
「第97管理外世界へと向かう汚染艦隊、質量兵器を発射! 核弾頭と思われます!」
「発射まで50秒」
事実、管理局艦隊を含め、第97管理外世界に程近い空間に位置する複数の世界の艦隊も、汚染艦隊の通過を許容している。
この時点で交戦を開始すれば、確実に優位を確保できるであろう位置に存在するにも拘らず、一切の攻撃行動を見せない。
狙いは明らかに、汚染艦隊による第97管理外世界の抹消だ。
そして彼等の望み通り、汚染艦隊は核弾頭らしき質量兵器を発射した。
後は、見ていれば良い。
フェイトやなのは、はやてには悪いが、これが次元世界にとって最良の選択かもしれない。
「質量兵器群、第97管理外世界、大気圏突入まで30秒!」
「180000!」
「40秒前」
此処で、ふとクロノは気付いた。
決定的な違和感、奇妙な感覚。
何かが足りない。
何か、この場にあるべきものが無い。
本来ならば存在して然るべき筈のものが、決して欠ける事など無い筈のそれが、切り取られたかの様にこの戦場から抜け落ちている。
一体、何が?
「30秒前」
そうだ。
「彼等」が存在しない。
本来ならば、自身等が隔離空間内部に突入した際、既に存在しなければならなかった筈の「彼等」。
この作戦が始動してからというもの、唯の1度もその姿を現す事が無かった「彼等」。
「彼等」がこの戦場に存在しないなどという事は、ある筈がない。
未知の隠匿機能か、浅異層次元潜航か。
「彼等」は間違いなく、この空間内に存在する。
「172000!」
「20秒前」
「警告! ゆりかご全艦艇より高密度魔力反応! 次元跳躍攻撃の可能性大!」
「カウント中断! 即時発射態勢を取れ!」
「敵複合武装体より高エネルギー反応! 陽電子砲、発射態勢!」
「汚染艦隊より人型機動兵器、多数出現! ゲインズです! 凝縮波動砲タイプ及び陽電子砲タイプ、確認! 敵影多数の為、詳細な数はカウントできません!」
「未確認の人型機動兵器及び多脚型機動兵器群の出撃を・・・第10支局より入電。人型機動兵器、Bh-Tb02「タブロック2」及びB-Urc-Mis「Uロッチ・ミサイルタイプ」と判明。共に誘導兵器群による長距離攻撃を主体とする機動兵器との事」
汚染艦隊、アルカンシェル射程外からの超長距離砲撃態勢に移行。
クロノは迎撃の為、アルカンシェル発射制御を攻撃管制から迎撃管制へと切り替える。
空間歪曲と高密度次元震による極広域破壊を齎すアルカンシェルは、時空管理局艦艇にとって最も強大な矛であると同時に、最も強固な盾でもあった。
如何なる攻撃をも呑み込み、虚数空間の彼方へと葬り去る戦略魔導砲撃。
しかし、不安要素はある。
陽電子砲や波動砲の迎撃など、管理局の歴史上にも前例が無いのだ。
理論上は問題なく迎撃できる筈なのだが、しかし地球軍による本局襲撃時に、無視する事のできない現象が観測されていた。
襲撃の結果、管理局は14隻のXV級を喪失。
それらの約半数が、長距離支援用と思われる波動砲の砲撃によって撃破されていた。
発射点の特定にすら至る事の出来なかったそれは、アルカンシェル弾体の炸裂範囲、即ち空間歪曲発生領域を貫いて飛来していたのだ。
襲撃当時のアルカンシェルは機能的欠陥を抱えていたとはいえ、俄には信じ難い事実である。
つまり、地球軍の兵器が空間歪曲回避、或いは時空間異常遮断能力を備えているのならば、バイドもまたそれらを備えていたとしても、何ら不自然ではないのだ。
R戦闘機を始めとする第97管理外世界の兵器群は、彼等の言う異層次元全域での作戦行動を想定して建造されているという。
ならば、それらが相対する事となる汚染体群もまた、同様の機能を有しているのではないか?
凝縮波動砲は、陽電子砲は空間歪曲によって無効化できるのだろうか?
「質量兵器群、大気圏突入まで10秒!」
「聖王のゆりかご群、艦首より凝縮魔力拡散を確認! 次元跳躍砲撃、来ます!」
「アルカンシェル、自動発射!」
瞬間、艦内に魔力素の力場が立てる高音、それが解放される轟音が連続して響き渡り、振動が艦体を揺らす。
ドーム内面を埋め尽くす、白く眩い閃光。
XV級185隻、アルカンシェル同時斉射。
光り輝く185発の弾体が、通常魔導砲と比して僅かに劣る速度で飛翔する。
数秒後、それらが不可視の空間歪曲を捉えるや否や、弾体群は凝縮された魔力を解放、極広域空間歪曲を引き起こした。
40隻のゆりかごより放たれた次元跳躍砲撃は、連鎖発生する高密度次元震の壁へと接触し反応消滅を誘発され、次々に炸裂しては空間を閃光に染め上げる。
十数秒にも亘って継続する空間破壊は、続けて連射される砲撃までをも完全に無効化。
ゆりかご群から飛来する、一切の砲撃を消滅させる。
続きは次スレで投下します
それでは!
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二二ニ} ('_)ェ=ニ='' ,-'"_二==、 `)) `==
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二二ニ} 久{_.}{_.}{_.ト'' ('_)ェ、___ `-'、_j,,=''}'゙゙ヽ`ヽ、_ノ二ニ=、,,=''
ll ̄`! _______________二``==='' `‐'、___j廴_,r'
荅荅 ̄ BEAM (ニニニニニニニニニ) ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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