【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.13

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619月と星と柊と ◆6H85fs.r4o

 柊はアンゼロットを優しく抱き寄せ、その頭を自らの胸に押し付けた。
 女性となった、その柔らかい感触を頬に受けたアンゼロットは・・・・・・不快げに、眉を顰めた。

「・・・・・・何ですか、この胸は。わたくしに対する嫌味ですか・・・」
「え」

 アンゼロットは紅葉のような小さな手で、柊の胸を掴み、握り潰すかのように力を込めて引っ張った。

「痛てて、痛いって! やめろ、潰れる、もげるだろ、おい!」
「もげてしまえばいいんですわ、こんなもの!」
「だから、やめろって!」

 少女の小さな手を掴み、胸から?ぎ放すと、アンゼロットは悔しげに俯き、肩を震わせながら呟いた。

「・・・・・柊さんはいつも、わたくしがどんなに望んでも得られないものを、いとも簡単に手に入れるのですね」
「アンゼロット?」

 只ならぬ気配を感じ、柊は悪い予感を覚えた。

「柊さん。貴方は、わたくしが何故、毎晩寝ないでネトゲをしていると思いますか?」
「い、いや、わからねぇけど・・・・」

   何だ? 何が起きようとしている? 何か、とてつもなく悪い事が起ころうとしている・・・・。

 アンゼロットは顔を上げ、金と蒼の瞳で柊を睨みつけ、叫んだ。

「怖いからですよ! 眠るのが! 魘されるんです! 夢に出てくるんですよ!
 今まで死なせて、いえ! 殺してきた部下が! 魔王の転生体の子供達が! ユウが! 晶さんが!
 恨み事を言いに来るんです! 自分達が犠牲になる必要はなかったって!!
 わたくしは今まで、世界を守るために大勢の人々を犠牲にしてきましたが、そんな必要はなかったって!
 柊さんは犠牲を出さずに世界を救ったじゃないかって!
 こんな事は・・・・・こんな事は、貴方に会うまでなかったのに!」
「・・・・・・・・・アンゼロット」

   コイツは、こんなにも苦しんでいたのか?
   優雅にティーカップを傾けながら、意地悪そうに俺を弄りながら。
   笑顔の下に、こんな苦しみを隠してしたのか?

 アンゼロットの右目の奥に、どす黒い瘴気が蟠り始める。

「わたくしが、何故、貴方にばかり任務を押し付けていたのか分かりますか?」

 瘴気に濁った瞳に、戸惑う柊の顔が映る。

「貴方が憎いからですよ! 幸運の女神に溺愛されてる癖に、不幸そうな顔をしている貴方が!」
「俺は自分を不幸だと思った事は一度もねぇ!」
「嘘おっしゃい! 顔に書いてありますよ! 自分は不幸だって! わたくしは貴方が憎い!
 わたくしが少しでも犠牲を減らそうとしているのに邪魔をしておいて、英雄面している貴方が!」
「ま、待てよ。お前、俺の事、気に入ってたんじゃないのか?」

 自分でも、らしくないっていうか、みっともない事言ってるな、と思いつつ抗議する。

「自惚れないでください!
 世界の守護者たるわたくしが、世界総てに等しく愛を注ぐ事を勤めとするわたくしが、一個人に心奪われるなどありえぬ事です!
 ですが、わたくしは貴方への憎しみを無視出来ませんでした。だから、せめてこの執着を恋だと思い込もうとしていたのですよ!
 その過ちなら、前科がありますからね。ですが! もう・・・・・・遠慮はしません!」

 アンゼロットの金色になった右目から、冥界の瘴気が零れ出す。