リリカルなのはクロスSSその81

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1名無しさん@お腹いっぱい。
ここはリリカルなのはのクロスオーバーSSスレです。
型月作品関連のクロスは同じ板の、ガンダムSEEDシリーズ関係のクロスは新シャア板の専用スレにお願いします。
オリネタ、エロパロはエロパロ板の専用スレの方でお願いします。
このスレはsage進行です。
【メル欄にsageと入れてください】
荒らし、煽り等はスルーしてください。
ゲット・雑談は自重の方向で。
次スレは>>975を踏んだ方、もしくは475kbyteを超えたのを確認した方が立ててください。

前スレ
リリカルなのはクロスSSその80
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1224494735

規制されていたり、投下途中でさるさんを食らってしまった場合はこちらに
本スレに書き込めない職人のための代理投稿依頼スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1199025483/

投下直後以外や規制されている場合の感想はこちらに
全力全開で職人を応援するスレ(こちらは避難所になります)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1214480514/

*雑談はこちらでお願いします
リリカルなのはウロス雑談スレ46
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1224073741

まとめサイト
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/

NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/

R&Rの【リリカルなのはStrikerS各種データ部屋】
ttp://asagi-s.sakura.ne.jp/index.html
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 19:29:40 ID:nYMgcOyf
【書き手の方々ヘ】
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
  ttp://gikonavi.sourceforge.jp/top.html
・Jane Style(フリーソフト)
  ttp://janestyle.s11.xrea.com/
・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認してダブルブッキングなどの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
 前の作品投下終了から30分以上が目安です。

【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は応援スレ、もしくはまとめwikiのweb拍手へどうぞ。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。

【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
 議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
 皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
 著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
 いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
 追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 19:30:49 ID:nYMgcOyf
【警告】
・以下のコテは下記の問題行動のためスレの総意により追放が確定しました。

【作者】スーパーロボット大戦X ◆ByQOpSwBoI
【問題の作品】「スーパーロボット大戦X」「スーパーロボット大戦E」「魔法少女(チェンジ!!)リリカルなのはA'S 次元世界最後の日」
【問題行為】盗作及び誠意の見られない謝罪

【作者】StS+ライダー ◆W2/fRICvcs
【問題の作品】なのはStS+仮面ライダー(第2部) 
【問題行為】Wikipediaからの無断盗用

【作者】リリカルスクライド ◆etxgK549B2
【問題行動】盗作擁護発言
【問題行為】盗作の擁護(と見られる発言)及び、その後の自作削除の願いの乱用

【作者】はぴねす!
【問題の作品】はぴねす!
【問題行為】外部サイトからの盗作

【作者】リリカラー劇場=リリカル剣心=リリカルBsts=ビーストなのは
【問題の作品】魔法少女リリカルなのはFullcolor'S
         リリカルなのはBeastStrikerS
         ビーストなのは
         魔法少女リリカルなのはStrikerS−時空剣客浪漫譚−
【問題行為】盗作、該当作品の外部サイト投稿及び誠意のない謝罪(リリカラー劇場)
       追放処分後の別名義での投稿(Bsts)(ビーストなのは)
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 19:38:01 ID:RjfZjhfL
>>1
乙です
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 19:41:56 ID:BoFWh5XI
>>1
乙です。
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 21:41:49 ID:usugBMN0
>>1乙です

容量の問題につき新スレ投下を
22時10分に、R-TYPE Λ 第二十話を予約します
今回は

執務官「そこ吸っちゃらめぇ!」

の巻です
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 21:48:34 ID:eTZT7j1X
>>6
東京ゲームショウで配布されたR-TYPETACTICS小説で登場したブラギ級宇宙空母で支援する!
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 21:52:11 ID:XCnEOl/3
>>1
乙です
9R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:12:24 ID:usugBMN0
金属と金属の接触による重々しい衝撃音に、ディエチは反射的にイノーメスカノンの砲撃態勢を取る。
彼女の目前でゆっくりと開かれたハッチが、床面へと接しやや急角度のスロープを形成。
次いでモーター音が鳴り響き、ハッチより1台の軽装甲車両が姿を現す。
即座に砲口を向け、トリガーを引こうとするディエチ。
だが、脳裏へと届いた念話が、その行動を押し止める。

『待て、俺だ!』

その念話にディエチは、トリガーに掛けていた指を離した。
装甲車というよりは大型のバギーに近いそれは、ディエチの目前へと滑り込む様にして停車する。
そしてドアを開けて現れた顔に、彼女は呆れた様に話しかけた。

「何をしに行ったんですか、貴方は」
「生存者の捜索。で、見付けたのはこれだけ」

皮肉の言葉に対し男性、ヴァイスはハンドルを叩きつつ答えを返す。
ディエチは、装甲車が出てきたハッチへと視線を投げ掛け、短く問う。

「全滅?」
「分からん。血痕すら無かったが、どうやら相当慌てて艦を放棄したらしい。一切の作業が途中で放棄されている。だが、それから余り時間は経っていないらしい」
「と、いうと?」
「食堂で見付けたスープがな・・・湯気を立てていた」

その言葉にディエチは、無言で装甲車の外殻へと足を掛けた。
上部に備えられた砲座らしき窪みに乗り込み、イノーメスカノンを据える。
そして、砲座の縁に溶接された金属板、その表面に刻まれた異世界の言語に気付いた。

「これって・・・」
『気付いたか?』

ヴァイスからの念話。
すぐさま、ディエチは問い掛けた。

『この装甲車って、まさか』
『そのまさかだ。何処で回収したのか知らないが、第97管理外世界の車両だよ。取っ払われちまってガレージの中に転がってたが、対空誘導弾の発射機が其処に据え付けてあったらしい』

ヴァイスの言葉に複雑な感情を抱きつつも、ディエチは黙り込む。
此処で管理局法がどうこう言おうと、そんな事には意味が無い。
何より、胸中を満たす濁りを帯びたそれが何であるのか、聡明な彼女は良く理解していた。
それは、僅かな諦観。
クラナガン西部での救助活動以降、周囲が自身に対して向ける奇妙な視線、その意味に気付いた時に生まれたものだった。

彼女のISたるヘヴィバレルとは、固有装備イノーメスカノンへのエネルギー供給を経て放たれる砲撃の事を指す。
エネルギーモードならば幾分長いチャージ時間を経てSランク魔法に相当する砲撃を放ち、実弾モードならば炸裂弾から鉄鋼弾、特殊弾を含む各種砲弾を発射するそれは、半質量兵器とも呼べる代物だ。
外観からして無反動砲と呼ぶに相応しいそれは管理局による回収後、幾分「魔法的」な所のある他の姉妹達の固有装備とは異なり、碌に解析もされぬまま解体・保管されたのだ。
確かに、魔力とは異なるエネルギーを用いていた事を考えれば、あれは正しく質量兵器であると云えるだろう。
だが何故、管理局は他の固有武装とは異なり、イノーメスカノンのみを短期間の内に分解したのか。
ディエチはその理由を、質量兵器に対する拒絶によるものと考えていた。
外観のみならず機能すら質量兵器と酷似したイノーメスカノンは、局員の心理的な理由から碌に解析も為されず、保管という名目での封印を為されたのだと。

そして今、ディエチの手には「2代目」となるイノーメスカノンが握られている。
ヘヴィバレルより供給されるエネルギーを純粋魔力へと変換するそれは、発射される砲撃が直射または集束型魔法と化した以外には「先代」と大した違いは無い。
外観に関しても同様だ。
それ故か否かは判然としないが、イノーメスカノンを携えてのクラナガン西部区画への臨時派遣以降、局員が彼女へと向ける視線は少なからず拒絶と侮蔑を滲ませたものだった。
質量兵器に酷似した外観の固有装備と、その運用に特化したIS。
機動六課ヘリ撃墜未遂、地上本部へのエアゾルシェルによる砲撃、聖王のゆりかご内部での高町 なのはとの砲撃戦など、JS事件当時の記録とも相俟って、大多数の局員は彼女の現場への配属に否定的であったのだ。
他の姉妹達が徐々に受け入れられてゆく中、彼女達を除いてディエチに対し理解を示したのは、ゲンヤ・ナカジマとその娘ギンガ・ナカジマ、そして高町 なのはの3名のみ。
彼女は唯1人、孤独を噛み締めていた。
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:12:35 ID:f/GmLier
>>1


時間だ、支援を開始しよう
11R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:13:53 ID:usugBMN0
だが、転送事故により同一地点に送られた男性、旧機動六課に於いてヘリのパイロットを務めていたヴァイス・グランセニックは違った。
イノーメスカノンと同じく、質量兵器である狙撃銃を模したデバイス、ストームレイダーを操る彼は、他の局員の様な侮蔑の視線など欠片も見せはしなかったのだ。
同じ狙撃手としての共感か、はたまた彼自身もディエチと同じ経験を持つのか。
いずれにせよ、彼と同じ地点へと飛ばされた事実は、ディエチにとっては予期せず訪れた幸運だった。

多くを詮索する訳でもなく、かといって無関心でもない。
煩わしい視線を投げ掛けるでもなく、一切を無視するでもない。
こちらを信頼し、その上で気遣い、狙撃手の先達としての観点からアドバイスを齎す。
襲い掛かる汚染体の脅威を、決して恵まれているとはいえない魔力資質、そしてディエチの想像すら及ばぬ膨大な鍛錬と経験とに裏打ちされた技術によって悉く排除。
状況の変化に対し融通が利くとは言い難いISと武装のディエチを庇いつつ、同じく汎用性に乏しいストームレイダーを用いながら、遭遇する全ての敵性体を殲滅する。
何時しかディエチは、彼に対して畏敬と信頼、そして確かな親近感を抱いていた。

だからこそ彼女は、ヴァイスが何気なく言い放った言葉の裏を勘繰ってしまったのだ。
もしやこの男性も、内心ではこちらを質量兵器そのものであるかの様に捉えているのではないか。
そんな疑い、そして不安が脳裏を掠める。
だが、続く念話は、そんな彼女の懸念を掻き消した。

『運転、できないだろうと思ったんだが・・・余計だったか?』
『・・・いえ』

念話を返し、ディエチは軽く息を吐く。
何の事はない、ただ単に運転に慣れているから、彼女を砲座に着かせただけの話だった。
確かに、知識としての車両操作方法はインプットされているが、実際にハンドルを握った事など皆無である。
ならば経験豊富な者が運転席に着き、そうでない者が砲座に着くのは当然の事。
結局、ディエチの懸念は単なる被害妄想だった。
安堵と自嘲の溜め息を吐く彼女を余所に、装甲車はゆっくりと走り出す。
タイヤと床面の間で響く、油膜の剥がれる異様な音でさえも、今は軽快な環境音として捉えられた。

『いやぁ、こいつは快適だ。歩く度に靴底と床で糸を引く事も、慣れない飛行魔法で墜落死する心配も無い。モービル様々だな』
『良いんですか? 第97管理外世界の物でしょう。管理局法に抵触するのでは?』
『良いんだよ。砲塔部は外されてるんだし、今じゃこいつは唯の車だ。第一、移動の足に使うくらい大目に見てくれても良いじゃないか。こちとら根っからの陸戦タイプなんだぞ』

ヴァイスの愚痴る様な念話。
次いでエンジンが唸りを上げ、輸送路へと突き進む。
あっという間に速度が時速80kmを突破し、2人を乗せた装甲車は小型次元航行艦が鎮座する広大な空間を後にした。

『もう1隻の艦はどうなったのでしょうか』
『さあな・・・だが、碌な事にはなっちゃいないだろうよ』

念話を交わしながらも、ディエチは油断なく索敵を行う。
作戦開始時より未だ1発の砲撃も放ってはいないイノーメスカノンを手に、強化された視覚と聴覚、各種センサーを用いて得られた情報を分析。
敵性体、若しくは要救助者の反応を拾うべく、処理速度を更に上昇させる。
その時、ディエチの聴覚に破壊音が飛び込んだ。

『止まって!』

瞬間、装甲車が急制動を掛ける。
油膜に覆われた床面を数十mに亘って滑走し、車体が横向きとなった頃、漸くその動きが止まった。
すぐさま、ヴァイスからの念話がディエチの意識に響く。

『どうした!』
『待って・・・前方、約1600・・・右の通路から大規模な破壊音です。複数種の魔法発動音を確認。それと・・・』
『何だ?』
12名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:14:34 ID:eTZT7j1X
カロンmada−支援
13R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:15:31 ID:usugBMN0
問い掛けるヴァイスの念話に、ディエチは一瞬ながら返答を躊躇った。
しかし、すぐに思考を落ち着かせると、事実を告げる。
聴覚へと飛び込んだ異音、その正体を。



『照合終了・・・クラナガン西部区画にて記録された聴音データに酷似・・・波動砲集束音2種、確認』

*  *  *

『波動砲、来ます!』
『回避!』

閃光、衝撃と轟音。
異なる2種の光の奔流が解き放たれ、空間の其処彼処を埋め尽くし、蹂躙してゆく。
一辺が5kmを超える、余りにも巨大な空間。
砲撃と雷光に撃ち抜かれた壁面が、一瞬遅れて周囲数百mの構造物ごと跡形もなく吹き飛んだ。
黄金色の砲撃と無数の雷光、爆炎によって照らし出される下方の闇。

其処に浮かび上がるは、有限の存在とは思えぬ程の廃棄物の山、山、山。
汚染され、侵食され、圧縮され、粉砕され。
腐食し、溶解し、圧壊し、断裂した、軍用・民用を問わず無数の機械群の残骸。
更には明らかに有機物と分かる肉塊、機械か生命体かの判別が不可能なまでに入り混じった醜悪な物体など、凡そ人間が想像し得るあらゆる死の具現が其処にあった。
広大な、余りにも広大な集積所に充満する強烈な異臭は、下方に積もるそれらより漏れ出る有害物質だろう。
正常な生命の存在を否定し、人の手により創造されながらその制御を離れ、未だ正常な機能を保つ存在すら死の彼岸へと引き摺り込まんとする、悪意と害意に満ち満ちた機械仕掛けの墓穴。
必死に逃げ惑う生ある者達をその只中へと墜とし込まんとするは、魂なき鋼鉄の異形。
廃棄物を吸い上げては吐き出す、資源回収システムらしき3機の大型機械。
そして、死体が操るR戦闘機。

『大型敵性体、ゴミを吸い上げた!』
『迎撃用意!』

無数の鉄塊が擦れ合う際の、鼓膜を引き裂かんばかりの異音。
同時に異形の1体、その上部より大量の廃棄物が噴火の如く吐き出される。
30m近くも打ち上げられたそれらは空中に放物線を描き、雪崩を打って攻撃隊へと襲い掛かった。

『来るぞ!』

魔導弾と砲撃の嵐が吹き荒れ、襲い来る落下物を粉砕せんとする。
だが、幾ら強力な高速直射弾及び直射砲撃とはいえど、10t近い鉄塊までをも完全に粉砕するのは不可能だ。
何より、直射弾はともかく砲撃となれば、簡易型であれ連射できる者は限られる。
この場に於いては、それは1名しか存在しなかった。

フェイトの戦闘スタイルは接近戦に比重を置いており、砲撃魔法を使用するには少々の時間を必要とする。
オットーは射撃戦主体ではあるが、ISレイストームの威力は鉄塊を破壊するには至らない。
残る4名のうち3名も同様で、2名は砲撃魔法を使用できるものの、発動までに10秒以上の時間を必要とし、とても現状況下で使用できるものではなかった。
結局は簡易砲撃魔法を習得していた1名が迎撃の主体となり、それこそ獅子奮迅ともいうべき奮戦を継続している。
しかし、それも長くは続かないだろう。
彼が無理をしている事は、誰の目にも明らかだった。
何せその脚は、膝下から先が無いのだから。
あの機械とも生命体ともつかぬ、巨大な蟲が生み出す鉄柱に挟み潰されたのだ。

『回避成功! 攻撃を・・・』
『おい、あそこ・・・また吸い上げた! こっちに来るぞ!』
『総員退避! 押し潰される!』
14名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:16:43 ID:eTZT7j1X
このボスは硬い
15名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:17:03 ID:2lF2GP24
ハイパードライブモードにチェンジ
チャージ中…チャージ中…
16名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:17:05 ID:f/GmLier
ヴァイスの兄貴がカッコよすぎて死亡フラグにしか思えないw支援
17R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:17:07 ID:usugBMN0
降り注ぐ鉄塊と有害物質の雨を何とか凌いでも、次なる廃棄物の雪崩が襲い掛かる。
攻撃隊は、この一方的な状況の循環から逃れられない。
膨大な質量が頭上より降りかかるという事態が呼び起こす原始的な恐怖、廃棄物という生理的嫌悪感を呼び起こす存在が脅威となって襲い来るという事実が齎す本能的な恐怖。
それらがフェイトの精神を揺さ振り、その行動を妨げんとする。
他の隊員達も、同様の恐怖を覚えているのだろう。
皆、一様に表情が引き攣り、目には明らかな怯えが浮かんでいた。

何より恐ろしいのが、着地が一切できないという現状である。
スキャンの結果、眼下に拡がる廃棄物の海は大量の有害物質と、よりにもよって放射性廃棄物までをも内包している事が判明した。
各員のデバイスが告げた放射線量計測値に、戦闘中にも拘らずフェイトを含めた全員が絶句したものだ。
幾ら広大であるとはいえ閉鎖空間にも拘らず、確固たる足場が存在しないどころか、地表面に近付けば汚染による死は免れないという事実。
唯でさえ追い詰められた状況である上、更に精神的な面からの圧迫までもが加わり、攻撃隊は既に瓦解寸前だった。

それでも、フェイトと彼等は反撃を試みる。
目標は3機の大型機械。
降り注ぐ廃棄物さえ止める事ができれば、戦況は有利になると考えたのだ。
だがその試みも、今のところ成功しているとは云い難い。
それを妨げる存在が、この空間には存在していた。

『R戦闘機、波動砲再充填開始!』

空間の全てを、強大な魔力が侵食してゆく。
それを感じ取る事のできる魔導師、その誰もが信じ難い重圧に息を詰まらせる中、微かな紫電の光が空間を切り裂いた。
瞬間、フェイトは叫ぶ。

「散ってッ!」

念話を併用し放たれる言葉。
ほぼ同時、鼓膜を劈く轟音と共に無数の落雷が周囲へと降り注ぐ。
下方に積み上がる廃棄物の山が根こそぎ消し飛び、次いで集積所の其処彼処から爆音と共に業火が噴き上がった。
廃棄物より漏れ出ていた可燃性のガスが、引火により連鎖的に爆発したらしい。
眼下に拡がる廃棄物の山が内部から爆発すると同時、フェイトはそれを理解した。
飛来する破片に全身を打ち据えられながらも、瞬間的に背面方向へと飛翔した為に、彼女は致命的な負傷を免れている。
だがそれも、状況を乗り切る決定打とはなり得ない。
彼女の視線の先、燃え上がる廃棄物の山が宙へと浮かび上がり、200mほど上方に位置する異形、大きく口を開けたその下部へと吸い込まれる。

「ッ・・・また・・・!」

そして異形が、ゆっくりと移動を開始した。
低速ながら、着実に攻撃隊との距離を詰めてくる。
すぐさまカラミティを構え直し、先制攻撃の実行に備えるフェイト。
しかし直後、彼女は咄嗟に身を翻して下降する。
頭上、直前まで彼女が身を置いていた空間を突き抜ける、1基のミサイル。
衝撃波がフェイトの身を打ち据え、聴覚を麻痺させる。
微かな呻きを漏らしつつ、視線を動かしミサイルの機動を逆に辿れば、其処には幾分青み掛かったキャノピーを持つR戦闘機の姿。
上下逆転した視界の中、フェイトは閉じゆくミサイルユニットを睨み舌打ちする。

まただ。
また、あのR戦闘機が邪魔をする。
こちらが攻撃態勢を取るや目敏く反応し、もう1機のR戦闘機と交戦中にも拘らず、自身の安全を省みる素振りすら見せずに照準を変更、質量兵器による攻撃を仕掛けてくるのだ。
一度など、敵機のそれと同時に発射された波動砲が雷撃を掻き消した後に進路を変更、攻撃隊から然程に離れてはいない位置を通過した程だった。
幸いにして、弾速の問題から攻撃隊を直撃する軌道までの修正は間に合わなかった様だが、それでも以降の波動砲充填中にこちらの動きを抑制するには十分な成果だ。
このままでは、埒が明かない。

視線の先、漆黒のキャノピーを持つR戦闘機が放った連射型の質量兵器が、ミサイルを放ったR戦闘機の外殻装甲を穿つ。
被弾したR戦闘機は、瞬間的に側面方向へと長距離移動。
しかし、その回避運動を予測していたのか、移動先に散布する様にして放たれた弾幕、その内の1発がキャノピーを捉える。
吹き飛ばされる機首。
だが、その機体は何事も無かったかの様に戦闘機動を継続し、あろう事か再度充填していた波動砲を放つ。
18R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:18:34 ID:usugBMN0
対するもう1機のR戦闘機は、敵機の砲撃と同時に前方への爆発的加速を敢行。
巨大な機体の姿が視界より掻き消える程の加速を以って、弾体誘導限界を超える敵機至近距離へと接近を図る。
無論、波動砲を放った機体も別方向へと加速し距離を置いたが、波動砲の誘導自体には失敗した。
弾体は誘導限界の更に内側へと距離を詰められ、軌道修正を図ったままの歪な放物線を描き、廃棄物の只中へと着弾する。
爆発、引火、更に爆発。
砲撃を回避したR戦闘機が、またも膨大な魔力の集束を開始する。
雷撃が来るか、と身構えるフェイトだったが、バルディッシュからの警告がその予想を打ち砕いた。

『I detect distortion of the space. It is supposed that it is a high rank summon magic』
「召喚魔法?」

フェイトは目を凝らし、R戦闘機の機首を見据える。
そして、気付いた。
機体前方、明らかに空間が揺らいでいる。
どうやらあのR戦闘機は、異なる次元より何かを喚び出すつもりらしい。

そして、警戒するフェイトの視線の先で次の瞬間、紅蓮の光が炸裂した。
全身が打ち砕かれんばかりの衝撃が彼女を襲い、その身体を後方へと弾き飛ばす。
聴覚が麻痺する中で視界ばかりが機能を継続し、目まぐるしく回転する場景を映し出す中、フェイトは必死に姿勢制御を試み続けていた。
だが、その奮闘も空しく、再びの衝撃波が彼女を更に異なる方向へと吹き飛ばす。
爆発、それもかなりの規模だ。
それが何処で発生したのかは判然としないが、恐らくは波動砲の着弾によるものである事は容易に想像できる。
強烈な光が熱となって皮膚を炙り、鋼鉄の壁が衝突したかの様な衝撃が全身を打ち貫いた。
更に数瞬後、三度目の衝撃と共に、その意図せぬ機動は終わりを告げる。
オットーと1名の隊員が、彼女の身体を受け止めたのだ。
ふらつく意識を何とか立ち直らせ、感謝の言葉を紡ごうとするフェイト。
しかしそれより早く、オットーが警告を発した。

「頭上、来る!」

またも響く、鉄塊の擦れ合う壮絶な異音。
咄嗟に上方へと視線を向けるフェイトの左右から、無数の高速直射弾とレイストームの緑の光条が放たれる。
貫かれ、粉砕され、或いは反動によって落下軌道を逸らされる、廃棄物の雨。
しかしそれらの陰から、中型車両に匹敵する巨大な鉄塊が現れた。
レイストームが突き刺さり、直射弾が炸裂するも、鉄塊は砕ける事も軌道を外す事もなく落下してくる。

「せあッ!」

フェイトは即座に上方へと躍り出ると、裂帛の気合いと共にカラミティを振るった。
刃ではなく刀身側面を、鉄塊の側面へと叩き付ける。
轟音が鼓膜を劈き、衝撃がカラミティの柄を掴む手の表皮を引き裂くが、同時に鉄塊は3人へと直撃する軌道を僅かに逸れ、掠める様にして燃え上がる廃棄物の山の中へと落下していった。
それを見届け、フェイトはカラミティを振り抜いたままの体勢で荒い息を吐く。
その腕は衝撃に震え、皮の破れた手は柄との間から血を零し続けていた。

「執務官!」
「大丈夫・・・でも・・・」

隊員の声に答えつつ、フェイトは遥か彼方のR戦闘機を見やる。
目を離していた僅か数秒の間に壁面近辺にまで移動したその機体は、連射型質量兵器による弾幕を形成しつつ、敵機から放たれる同種の兵装による攻撃を回避すべく戦闘機動を継続していた。
流れ弾を警戒し視線を逸らさないまま、フェイトは背後へと問い掛けた。

「さっきの攻撃は?」
「詳しい事は・・・空間歪曲が発生した直後に、炎を纏った何かが飛び出して来て・・・」
「視認できたのは其処までです。我々も、貴女程ではないにしろ衝撃波を浴びたので」
「そう・・・バルディッシュ、解析できた?」

次いでフェイトは、自身のデバイスへと問う。
回答は、すぐに得られた。
19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:19:04 ID:eTZT7j1X
スーパー高難易度2週目だとゴミが弾撃ちます支援
20R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:19:53 ID:usugBMN0
『I confirmed the movement of the heat source of the hyperpyrexia. As a result of collation, it is supposed that the object is a meteorite』
「隕石だって!?」

バルディッシュの言葉を聞いた背後の隊員が、信じられないとばかりに声を上げる。
フェイトもまた、バルディッシュの言葉をすぐには信じる事ができなかった。

通常、召喚魔法とは使役対象となる生命体、または魔力によって構築された物質を喚び出す技術である。
具体的には、キャロの用いる錬鉄召喚や竜騎召喚、ルーテシアのインゼクトや地雷王召喚などがそれに該当する魔法だ。
それ以外の物質を喚び出すとなれば、最適な技術は召喚魔法ではなく転送魔法となる。
無論、両者の中間となる技術も存在はしているが、余り実用的ではない。
術者に転送魔法の適性が皆無である場合、事前に指標済みである対象を召喚魔法の応用で喚び出す事ができる、といった程度のものだ。
大きめの魔力消費量と比して転送可能な質量は余りに少量であり、実戦で用いるにはリスクが大き過ぎるのである。
恐らくは無機物である隕石、しかも高速移動中であるそれを喚び出すとなれば、召喚魔法よりも転送魔法の方が適している事は明らかだ。

だがバルディッシュは、あの隕石は召喚によって喚びだされたものであると告げている。
従来ならば、解析に何らかの落ち度があったのではと考えるだろうが、フェイトは自身の相棒を心底より信頼していた。
バルディッシュの能力を、バルディッシュを組み上げた師、リニスの腕を。
フェイトは、心から信頼しているのだ。
そして事実、バルディッシュは他のデバイスと比して、一線を画す性能を有していた。

バルディッシュが言うのならば間違いは無い。
あのR戦闘機が隕石を召喚する際に用いたのは、紛う事なき召喚魔法だ。
だが何故、より効率に優れた転送魔法ではなく、召喚魔法を用いるのか?

考えられる可能性は2つ。
あの隕石は、魔力によって構築されたものだった。
それならば、錬鉄召喚と同じ原理での説明が付く。
もうひとつは、ただ単に地球軍が完全な魔法技術体系の解析を成し遂げていない、という可能性だ。
この場合、無機物転送に最適な魔法の選択ができなかったとしても不自然ではない。

だが、そのどちらの可能性も問題の本質ではない事は、フェイト自身も気付いていた。
フェイトが、あの攻撃を召喚魔法であると信じ切れない、その最大の理由。
詰まる所それは、魔導師としての常識によるところだった。
有り得ない、有り得る筈の無い魔法。



「宇宙空間」から物質を、況してや「隕石」を召喚する魔法の存在など、聞いた事もない。



地表から宇宙空間への転送ならば、幾度か事例があった。
12年前の闇の書事件に於いても、ユーノ、シャマル、アルフの3名により、闇の書の闇に対する静止軌道上への転送が行われている。
だがそれは飽くまで転送魔法、それもその分野のスペシャリストが3名同時に、発動後の魔力残量を一切考慮せずに転送を実行した事例だ。
他の場合も同様で、中にはリンカーコアの崩壊を招いた事例も存在する。
転送ですらこれであるのに、召喚など以ての外だ。
況してや、宇宙空間を秒速数十kmなどという常軌を逸した速度で翔け続ける隕石、そんなものを転送するなど不可能。
第一にそんな魔法が存在するのであれば、嘗て次元世界に存在したどの古代文明も軍事用のロストロギアなど造り出しはしない。
オーバーSランクの魔導師が1人存在すれば、戦略級の攻撃を実行できるのだから。

尤も、実際に隕石が召喚されてなお、この空間に存在する全員が生き長らえているという事は、召喚できる隕石のサイズには限界があるらしい。
破壊された壁面に視線を投じつつ、フェイトはそう思案する。
彼女の視線は積み上がった廃棄物の上、露出している分の面積だけでも凡そ2,000,000平方m超という途方もなく広大な壁面、そのほぼ中央に開けられた直径500mはあろうかという「穴」に注がれていた。
今なお、活火山の火口と見紛うばかりの業火と黒煙を吐き出し続ける、その「穴」。
破壊は壁面に留まらず、その向こうに拡がる施設構造物にも及んでいるらしい。
「穴」を通して集積所内に響く警報と爆発音が、途切れる事なく鼓膜を打つ。
態々確認するまでもなく、その「穴」を穿ったのは召喚された隕石である事を、フェイトは理解していた。
21名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:21:15 ID:eTZT7j1X
残るは竜巻支援
22R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:21:22 ID:usugBMN0
「・・・冗談じゃない」

無意識の内に零れる言葉。
幾ら隕石のサイズに限度があるとはいえ、これ程までに常軌を逸した破壊を齎す魔法を、フェイトは他に知らない。
純粋魔力による砲撃ではなく、被召喚物による質量攻撃。
非殺傷設定などあろう筈もない、殺意の結晶。
アルカンシェルに代表される大型艦艇搭載型戦略魔導砲ならばともかく、兵器とはいえ艦艇とは比べるべくもない単体のそれが、それこそ戦術級魔導兵器にも匹敵する破壊力を秘めているなどと、管理世界に於いて予測し得る者が存在するだろうか。

気象を操作し、落雷を誘発し、隕石を召喚する漆黒の機体。
正しく異常、悪夢から抜け出し具現化した、御伽話の怪物の如き存在。
遠い存在である質量兵器ではなく、より明確な脅威として感じられる魔導の力を以って迫り来る、信じ難いまでの脅威。

「執務官・・・」
「分かってる」

何時までも思考に沈んではいられない。
フェイトは決断する。
このままでは2機のR戦闘機によって副次的に行動を制限され、頭上より津波の如く襲い掛かる膨大な量の鉄塊に押し潰される事となる。
R戦闘機か、大型機械か。
どちらかを早急に撃破し、状況を打開せねばならない。

何より現状では、確かめるべき事があるというのに、その確認の為の行動が取れないのだ。
あの魔力を操るR戦闘機のパイロット、それが誰であるのか。
フェイトとしては一刻も早くそれを確認したいのだが、迂闊に動けば即座に波動砲が飛来し、更には鉄塊が降り注ぐという状況下では、それが叶う筈もなかった。
そういった点からも、早急な脅威の排除が望ましい。
フェイトは、攻撃隊各員へと念話を飛ばす。

『総員、大型機械の動きに注意して。誘導型波動砲の発射と同時に仕掛けます。砲撃準備。R戦闘機への牽制は・・・』
『任せて下さい。貴女はあの機械どもを』

念話での交信を終えるや否や、フェイトの背後で3つの魔力が集束を始めた。
長距離砲撃の準備だ。
R戦闘機に対する牽制の役目は、彼等が担ってくれる。
残る1名とオットーの役目は、落下してくるであろう廃棄物の迎撃だ。
そしてフェイトの役目は、R戦闘機が攻撃態勢を整えるまでの間にオットー達が切り開いた道を辿っての、大型機械に対する近距離からの直接攻撃。
コアらしき部位を破壊し、脅威の一端を突き崩すのだ。

幸運な事に3機は今、其々のコアを中心に向かい合う様にして編隊を組み、下方より廃棄物を吸い上げつつこちらへと接近している。
3機は其々、側面に小型の近距離迎撃砲を有してはいるが、一方でコアの露出している面に武装が無い事は確認済みだ。
それらの中心に飛び込む事さえできれば、カラミティによる一撃で3機を纏めて撃破できる自信が、フェイトにはあった。

『R戦闘機、両機共に波動砲の充填を開始! 発射まで5秒!』
『敵性機械、頭上まであと僅か!』

そして遂に、その機会は訪れる。
膨大な魔力の爆発と共に隕石と雷撃が同時に放たれ、それらを迎撃すべく誘導型波動砲が放たれた。
紫電と紅蓮、金色の光を視認するや否や、フェイトは頭上の異形を目掛け突撃を開始する。

『今だ!』

誘導型波動砲を射出したR戦闘機が、フェイトの機動に気付いた。
隕石と雷撃とを迎撃した波動砲弾体の消失と同時、側面方向への回避運動を実行しつつ2基のミサイルを放つ。
だがそれらは、隊員の放った同じく2発の集束砲撃魔法により撃墜された。
弾体加速前に狙撃されたそれは、慣性の法則により母機と平行移動していた為、爆発に機体そのものをも巻き込む。
自らが放ったミサイルの爆発による巨大な圧力に押され、R戦闘機は大きくバランスを崩した。
23名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:22:36 ID:eTZT7j1X
バイド汚染
24R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:22:50 ID:usugBMN0
其処へ撃ち込まれる、もう1機のR戦闘機からの連射型質量兵器による弾幕。
主翼、垂尾、左エンジンユニットが吹き飛び、更には残る1名の隊員が放った牽制の為の砲撃が、予期せずキャノピーの中央へと突き立つ。
R戦闘機は、機首右側面及び機体後部左側面のサイドスラスターを作動、瞬間的に機体中心を軸とする駒の様な回転運動を成し遂げ、砲撃を受け流そうと試みた。
結果、砲撃に機体を正面より貫通される事態は避けられたもののキャノピーを根こそぎ吹き飛ばされ、黒煙を噴き上げつつ高度を落とし、音速に達する速度もそのままに燃え上がる廃棄物の山へと突っ込む。
轟音、飛び散る廃棄物。

フェイトは波動砲発射時の衝撃に煽られながらも突撃を継続しつつ、バルディッシュを通し一連の推移を認識していた。
僅かに一瞬の攻防、その結果として得られた想定外の戦果。
驚異の一端が完全に消失した事を確認し、彼女はカラミティを握る手により一層の力を込めると、頭上に点る3つの緋色の光を睨む。
バリアジャケット、真・ソニックフォームへ。
敵性大型機械、エネルギーコア。
目標までの距離、約180m。

『ゴミだ!』

隊員からの警告。
目標、上部より大量の廃棄物を放出。
廃棄物のサイズ、最小は1m前後から、最大で5m弱。
対象数過多により、総数は即時計測不能。
進攻軌道上の対象数、約11。

『左へ!』

隊員からの念話に従い、左側面へと3m移動。
直後、空間を貫く簡易砲撃魔法2発、レイストームの束。
フェイトへと直撃する落下軌道を取る11の廃棄物、内9つへと直撃、粉砕する。
廃棄物、残り2つ。
共に5mサイズ。
カラミティを腰溜めに、刃の先端を後方へと向けて構える。
そしてフェイトは更に加速、2つの廃棄物の落下予測軌道を見極めるや否や、それらの交差する点を目掛け決定的な加速を敢行した。
ソニックムーブ、発動。
歪む視界、迫り来る廃棄物。
それらの間隙を擦り抜ける際、フェイトの背に灼熱の感覚が生じる。

「ッ・・・!」

背面を切り裂く、鉄片の感触。
大型機械によって吸い上げられる直前まで炎を纏っていたそれは、未だ拡散する事のない高熱を以って傷口を焼いた。
肌を切り裂かれ、肉を焼かれる苦痛に、フェイトの咽喉を悲鳴が込み上げる。
しかし彼女はそれを呑み込み、更に速度を上げた。
背後からは、2つの鉄塊が接触した際の衝撃、そして轟音が響く。
一瞬でも加速を躊躇えば2つの鉄塊に挟まれるか、若しくは頭上を塞ぐ様に落下してくる双方の廃棄物によって押し潰されていただろう。
だが、フェイトはその危機を切り抜けた。
不屈の意志と不退転の決意を以って、迫り来る脅威を打ち破ったのだ。

そして今、フェイトの視線の先、約30m。
彼女にとっては正に目と鼻の先である距離には、目標たる3機の大型機械のコアがあった。
フェイトがこの後に為すべき事は、単純にして明確だ。
距離を詰め、カラミティを振り、3つのコアを破壊すれば良い。
フェイトは事前予測に基き、その攻撃行動を取り行おうとした。
25名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:23:39 ID:eTZT7j1X
支援
26R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:24:07 ID:usugBMN0
「ぁあああああッッ!」

自身の速度と合わせ、脅威的な速度で以って振るわれるカラミティ。
掬い上げる様な刃の軌道が、中空に黄金色の残像を生じさせる。
再度のソニックムーブ発動と共に、フェイトとコアの距離は一瞬にしてゼロへと近付き、そして。

「な・・・!?」



コアの傍ら、腐食した外殻へと刃が突き立った。



『執務官!?』

必殺の一撃が目標を外れた事に、隊員達から悲鳴の様な念話が飛び込む。
フェイトは答えない。
唯々、呆然と大型機械の外殻に突き立つカラミティ、自身の血に濡れたその柄を見やる。
彼女の手は、カラミティを握ってはいなかった。
主の手を離れた大剣、それだけが虚しくもコアの2mほど横、化学物質により侵食され爛れた肉壁の如き様相を晒す外殻、その表層へと突き立っている。

何故、自身は攻撃の最中にカラミティを手放した?
自問するフェイト。
その疑問は、彼女の左腕を伝い滴る、熱く、粘性を持った液体の存在により氷解した。
錆びた鉄の臭い。
フェイトは、自身の肩を見やる。

「あ・・・ああ・・・」

其処に「穴」があった。
親指ほどの直径の「穴」が、彼女の肩に開いていたのだ。
微かな白い煙を上げるそれは、詰まりの取れた排水管の如く血の塊を吐き出す。
遅れて意識へと伝わる、想像を絶する激痛。
堪らず悲鳴を上げようとするフェイトだったが、それより早く右大腿部に熱が奔った。

「うあぁッ!?」

その瞬間、フェイトは視認する。
後方より自身の脚を貫く、青い光線。
貫かれ、血を噴き出す脚を気遣う暇も無く、彼女は後方へと振り返る。
其処に、それは居た。

「・・・ガ・・・ジェット?」

フェイトは、その兵器を知っている。
ガジェットV型。
球状のボディを持つ、嘗てジェイル・スカリエッティによって尖兵として生み出された、無人兵器。
それが、無限とも思える廃棄物の山の中から現れ、レーザーの砲口をこちらへと向けていた。
だが、フェイトが驚愕したのは、不意を突かれた事に対してではない。
信じ難いのはガジェット自体、その外観だった。
他の隊員達も同様の念を抱いたのか、念話にて呟きが漏れる。

『何・・・あれ・・・』
27名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:25:04 ID:eTZT7j1X
ここの面はこれが怖い支援
28名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:25:18 ID:f/GmLier
ガジェットV型汚染仕様ですね、解ります支援
29R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:25:31 ID:usugBMN0
そのV型は、機体上部が大きく抉れていた。
巨大な力によって叩き潰され、破壊された部位を跡形もなく削り取られていたのだ。
捩れ剥がれた外殻装甲の下からは内部機構が露わとなり、鈍色の機械系統が表層を覗かせる。
全体は黒ずんだ油膜と汚染物質により覆われ、外殻の其処彼処が蝕まれては腐食し、細かな穴が無数に開いていた。
それらの隙間より細いケーブルが零れ落ち、宛ら内臓の様に機体下部へと垂れ下がっている。
明らかに、機体制御に異常を生じているであろう様相。
致命的な損傷を受け、金属を腐食させる複数種の化学物質の混合液に浸され、そのままかなりの時間が経過していた事を窺わせる、凄絶な姿。

だというのに。
明らかに機能停止レベルの損壊と汚染にも拘らず、眼前のガジェットは機能していた。
僅かに残ったセンサー類に光を点し、レーザー砲に化学触媒を供給し、1本だけ残されたベルトアームを振り翳して攻撃態勢を取る。
垂れ下がった無数のケーブルの先端から汚染物質を滴らせ、本来の機体性能を大幅に下回る速度で接近してくる様は、正に亡霊を思わせた。
そして、呆然とその姿を見やる、フェイトの視界の中。
その砲口に、またも青い光が宿った。

「く・・・!」

レーザーが来る。
そう判断したフェイトは、咄嗟に回避運動を取ろうとした。
だがその直前、突如としてV型のベルトアームが力を失い、垂れ下がる。
何が、と警戒するフェイトの目前で、V型のセンサーが光を失い、機体が重力に引かれ落下を始めた。
呆気に取られてその様子を見守る攻撃隊。
機能停止したV型は廃棄物の山に紛れ、すぐに区別が付かなくなった。
それを見届け、腑に落ちないながらもフェイトは、大型機械へと視線を戻そうとする。
その行動を遮ったのは、オットーからの念話だった。

『ガジェット・・・違う! 敵性機械、更に出現! 20、30・・・数え切れない!』

呆然と、ただ呆然と見やる事しか、フェイトにはできない。
廃棄物の山、その至る箇所から亡者の如く這い出す、無数の機械達。
ガジェット、作業機械、兵器類。
軍用・民用を問わず、あらゆる機械類が廃棄物の中より息を吹き返し、その砲口を、腕を、特殊作業用パーツを攻撃隊へと向けている。
それらの機械群に共通する点は、唯1つ。
本来ならば機能停止状態となっているであろう、重大な損傷・欠損。

内部機構を露わにし、無数の内蔵ユニットとケーブルを零し、汚染物質と合成油を滴らせながら動く、鋼鉄の亡霊達。
中には自らを焼く業炎を纏ったまま、消化する素振りさえ見せずに上昇する機影もある。
それらは徐々に高度を上げるも、しかし中途で力尽き、機能停止しては落下する影も少なからず存在した。
動かずにいれば自己保存の可能性もあるというのに、それを完全に無視して敵対者に対する攻撃態勢に入っているのだ。
保身を一切考慮しないその自殺的な行動に、明瞭し難い恐怖がフェイトの意識を蝕んでゆく。
だが彼女には、自身が恐怖している事実を認識するどころか、肩と大腿部の負傷を確認する暇さえ与えられなかった。
突然の浮遊感が、彼女の全身を襲ったのだ。

「なっ・・・!?」
『執務官?・・・いけない!』
『逃げて下さい! ハラオウン執務官!』
30名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:26:45 ID:2lF2GP24
ケダモノ支援
31R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:27:03 ID:usugBMN0
肉体を統括する意思を無視し、徐々に上昇しゆくフェイトの身体。
咄嗟に飛行魔法を中断するも、身体の上昇は止まらない。
訳の分からない現象に、フェイトの意識は混乱する。
だが続けて放たれた隊員の念話に、フェイトは自身に何が起こっているのかを把握した。



『大型敵生体、機体下部開放! 執務官が吸い込まれる!』



反射的に、頭上へと視線を投じる。
其処に、闇があった。

「・・・嘘」

大型機械の1体、機体側面にコアを備えたそれが、フェイトの遥か頭上、200m程の高度に位置している。
機体下部の外殻が大きく開放され、その中に漆黒の闇が口を開けていた。
それが何の為に存在するものであるのか、フェイトは既に理解している。
廃棄物回収用の吸入口。
彼女の身体は偏向重力場に捉えられ、今まさにその穴へと吸い込まれようとしているのだ。

「く・・・!」

焦燥も露わに、フェイトは改めて飛行魔法により下方へと降下を試みる。
だが、偏向重力による吸引力は、明らかに飛行魔法の推力を上回っていた。
徐々に上方へと引き摺られる、フェイトの身体。

「くぁ・・・ぁ・・・!」
『執務官、横へ! 横へ飛んで下さい!』

意識へと飛び込んだ念話に、フェイトは自身の斜め上方を見やる。
其処には、コアの傍らにカラミティの刀身を突き立てられたまま、廃棄物を吸い上げている大型機械の姿があった。
その高度は、フェイトを吸い上げようとしている機体から、60mほど下方に位置している。

それを理解するや否や、彼女はソニックムーブを発動した。
進行方向は下方ではなく側面、水平方向への移動を意識して加速。
しかしその瞬間、より吸引力を増した偏向重力により、彼女の身体は曲線を描く様にして斜め上方へと向かう。
だがその事態は、彼女にとって予測の範疇だ。
偏向重力により加速しつつ辿り付いた先には、ライオットザンバー・カラミティを突き立てたままの異形が存在していた。
フェイトは、その化学物質に侵された外殻を掠める様にして飛翔し、カラミティの柄へと手を伸ばす。
そしてその指は、確かに届いた。
右手の握力を振り絞り、確りと柄を握り締める。
自らの手に戻った相棒と短い意思の疎通を行い、異常の無い事を確かめると、フェイトの胸中に僅かながらも希望が生じた。

「いけるね? バルディッシュ」
『Of course』
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:27:31 ID:eTZT7j1X
ホラーだよ支援
33R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:28:31 ID:usugBMN0
その頼もしい答えに、フェイトは僅かに笑みを浮かべる。
しかし次の瞬間には、彼女はその瞳に怜悧な光を浮かべ、自身の傍らで光を放つコアを見据えていた。
外殻に着いた足に力を込め、一息にカラミティを引き抜かんとする。
先ずは、此処で1機。
最初の目標を定め、渾身の力を込めて外殻を離れようと試みた、その数瞬後。



フェイトの身体は、上下が入れ替わっていた。



「な・・・ッ!?」
『Sir!?』

一体、何が起こったのか。
それを理解する為には、数秒ほどの時間が必要だった。
異形の外殻に突き立ったカラミティ、その柄を掴む右手を支点に、フェイトの身体は上下が反転していたのだ。
瞬間的に吸引力を増した偏向重力によって、周囲数十m以内の重力作用方向が完全に逆転してしまっている。
それどころか、その吸引力は徐々に増してさえいた。
フェイトは右腕1本で、カラミティの柄を支えに「宙吊り」となっているのだ。

「うぁ・・・ぁ・・・ぁぁ・・・!」

凄まじい重力負荷の中、フェイトの全身から汗が噴き出す。
通常の倍にまで達した重力場の中、全体重を繋ぎ止める右腕の筋肉は今にも千切れんばかりに収縮し、限界を知らせる小刻みな痙攣を起こしていた。
肩部と大腿部より溢れ出す血液は、下方ではなく上方へと筋を描き伝い、大量の空気の流れと偏向重力に攫われて「穴」の中へと消える。

フェイトは、デバイスの柄から手を離す事ができない。
数十、或いは数百トンもの廃棄物を吸入する、漆黒の穴。
其処に吸い込まれた人間が如何なる末路を辿る事になるのか、フェイトは微塵たりとも知りたいとは思わなかった。
それが碌な結果にならない事は容易に察する事ができた上、余りのおぞましさに意識が考える事を放棄したという事もある。

フェイトは全身の神経を右腕へと集中させつつ、しかしある瞬間、ふと足下を見た。
見てしまった。
その結果、唯1つの感情が、彼女の意識を満たす事となる。

「ぁ・・・!」

「穴」は、すぐ其処にあった。
吸入を継続している機体が降下してきたのか、或いは自身がカラミティを突き立てている機体が上昇したのか。
どちらかは分からないが、現実に「穴」は彼女の足下から、僅か30mにも満たない位置にあった。
此処まで接近して漸く、フェイトは敵性機械の正確な大きさを知る。
自らが接触している機体については、距離が近過ぎる事もあり正確なサイズの把握は困難だったのだ。
上方の機体についてもそれは同様なのだが、彼女を吸い込もうとする「穴」のサイズから推測する事ができた。

長方形に近い形状のその「穴」のサイズは、全長20m、全幅40mを優に超えている。
其処から察するに、機体全長は40m、全幅は60m以上あると考えられた。
「穴」の中は漆黒の闇に閉ざされており、凄まじい勢いで流入する大気が立てる轟音、そして耳元の風切り音だけが、亡者の呻きの如くフェイトの鼓膜を震わせる。
「墓穴」より響くその音に、フェイトの精神は完全に支えを失った。

恐怖。
今や、彼女の心中を占めるのは、唯それだけ。

『砲撃を・・・援護して!』

攻撃隊に対し、必死に援護を要請するフェイト。
しかし返された答えは、彼女以上に切羽詰まったものだった。
34名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:28:42 ID:f/GmLier
吸っちゃらめぇ理解w支援
35R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:29:52 ID:usugBMN0
『機械群の猛攻撃を受けている! 支援は不可能! 繰り返す! 支援は不可能!』
『来たぞ!』

約200m下方、フェイトにとっては「頭上」となった其処では、砲撃と直射弾、レイストームの嵐が吹き荒れている。
押し寄せる損壊したガジェットと作業機械の大群を、攻撃隊は必死に形成した弾幕で以って食い止めていた。
しかしそれも、徐々に綻びが生じている。
何しろ彼等の足下を埋め尽くすのは、何時動き出すとも知れぬ廃棄機械の山なのだ。
事実、円陣を組む様にして全方位に対する迎撃戦を展開する彼等の直下より時折、先端の欠損したベルトアームやらマニピュレーターを用いて廃棄機械が表層へと姿を現し、攻撃隊への突撃態勢に入る。
その都度、それを察した隊員が簡易砲撃を叩き込むのだが、それらの出現は止む事がなかった。
そして更に、状況の悪化を知らせる念話が発せられる。

『そんな・・・蟲です! またあの蟲が出た! こっちに来る!』
『迎撃を・・・くそ! 「AC-47」臨界値突破! 強制排出に移る!』
『こっちもです!』

R戦闘機によって破壊された壁面から、大量の蟲が現れた。
隊員の脚を潰した、あの鉄柱を生み出す鋼鉄の蟲である。
40体前後のそれらは、鉄柱の尾を引きつつ攻撃隊へと接近。
彼等を包囲し、物理的に圧殺せんとする。
最早、攻撃隊にフェイトを支援する余裕など無い事は、一目瞭然であった。

あの機体は?
魔力を操る機体、義父が搭乗している可能性がある、あのR戦闘機はどうしたのだ。
バイドと敵対しているであろうあれは、一体何をしているのだ?

無我夢中で視線を廻らせれば、雷光を以って迫り来る機械群を薙ぎ払う、漆黒のR戦闘機の姿がフェイトの視界へと飛び込む。
信じ難い威力を秘めた波動砲を備えるその機体はしかし、無限の廃棄機械群による絶対包囲と蟲どもの突撃によって、徐々に押されつつある様に見受けられた。
雷光が発せられる度に包囲は崩れ、廃棄物の山は消し飛ぶのだが、それこそ1秒と経たぬ内に新たな廃棄機械が動き出し、壁面より現れる蟲の群れが襲い掛かる。
撃ち掛けられる無数のレーザーとミサイル、迫り来る幾条もの鉄柱に、R戦闘機は隕石を召喚する為の満足な充填すら許されず、只管に雷撃とミサイルによる迎撃を繰り返していた。
大型機械の1機がその頭上へと接近しているが、それに対応する余裕すら無いらしい。

以上の情報を統合して得られた、無情な解答。
自己のみによる状況打開手段、皆無。
救援可能戦力、皆無。
心中の恐怖が、絶望が、より一層にその濃さを増す。
知らず、声が漏れた。

「嫌・・・いや!」

逆転した重力の中、首を振り怯えの宿った眼で「穴」を見下ろし、拒絶の言葉を放つフェイト。
膨大な大気の濁流、その只中で彼女は、足下に拡がる闇より逃れようと、その腕に有りっ丈の力を込める。
しかし、辛うじて彼女を生ある世界へと繋ぎ止めているそれ、バルディッシュ・ライオットザンバー・カラミティという名の楔は、己の意思に反してその役目を放棄しつつあった。
大型機械の外殻に突き立つ刃先が、強力な偏向重力によって外れ掛かっているのだ。
バルディッシュは「AC-47β」によって増幅された魔力を用いて刃先を拡大し、何とか外殻からの剥離を防ごうとするも、化学物質によって腐食の進んだ外殻はいとも容易く損傷個所を拡げてしまい、最早これ以上の拡大は不可能だった。

「嫌だ! 嫌ぁ!」

徐々に、徐々に、フェイトの握力が弱まる。
バルディッシュの柄を握り締める手、その小指が解け、僅かに全身が「穴」へと近付いた。
彼女は尚も抵抗するものの、偏向重力が弱まる様子は無い。

「バル・・・ディッシュ・・・ごめんね・・・!」

胸中を占める絶望と滲み出す諦観に、フェイトは自身の道連れとなるであろう相棒に謝罪の言葉を発する。
それに対しバルディッシュが何らかの返答を行ったらしいが、彼女にはそれを聞き取る事ができなかった。
確実に念話であったにも拘らず、彼女の意識は既にバルディッシュから離れていたのだ。
フェイトの意識を打ったのは、絶望的な迎撃戦を展開している攻撃隊、オットーからの念話。
36R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:31:19 ID:usugBMN0
『ゴミが・・・執務官!』

フェイトは足下の「穴」ではなく、頭上の廃棄物の山を見上げる。
その中から無数の廃棄物が浮かび上がり、こちらへと迫り来る様が視界に飛び込んだ。
10m級が複数、明らかに直撃軌道。
もう、術など無かった。

このままでは、廃棄物に押し潰される。
かといって手を離せば、眼下の「穴」に吸い込まれる事となる。
打開策はなし。
もう、何をやっても無駄なのだ。

迫り来る鉄塊。
フェイトは、何処か穏やかですらある思考のままにそれを認識し、終焉の訪れる瞬間を待つ。
せめてもの抵抗として、自身を押し潰すであろう鉄塊を睨む彼女。
そして遂に、鉄塊との距離が20mを切った、その時。



唐突に、偏向重力が消失した。



「・・・え?」

違和感。
突如として正常状態に復帰した重力作用方向に、フェイトは咄嗟の判断を行う事ができなかった。
頭から落下を始め、しかしバルディッシュにより強制的に発動された飛行魔法によって浮遊、逆転していた天地が元に戻る。
呆けた様に自身の相棒を見つめ、次いでふと眼下へと視線を投じれば、その先には落下してゆく鉄塊の影。
此処にきて漸く、フェイトは状況を理解した。
偏向重力が消失した事により、自身は危ういところで生命を繋いだのだ。
しかしそれを理解しても、彼女の胸中に歓喜の念が湧く事はない。
それよりも遥かに、現状に対する疑問の方が大きかった。

何故、重力操作が止んだ?
あと一歩で自身を排除できたというのに、何故ここにきて攻撃を中断するのか。
頭上の敵性機械に、何が起こったのだ?

そんな彼女の疑問は、頭上から響いた衝撃音によって掻き消された。
何らかの機械が停止する際にも似た、鋼鉄の鼓動が途絶える音。
反射的に上へと向く視線。
彼女の視界を覆い尽くす、腐食した灰色の外殻。
それが迫り来る大型機械であると理解した瞬間、彼女は回避行動へと移行した。

「バルディッシュ!」
『Sonic Move!』

バルディッシュの刃先が、大型機械の外殻を抉り離れる。
それを確認するや否や、フェイトは瞬間的に加速、側面方向へと逃れた。
そんな彼女を掠める様にして、大型機械は廃棄物の只中へと落下してゆく。
爆発も、何かしらの破壊音も立てる事もなく、山と積み重なった廃棄物を押し潰す様にして落着する大型機械。
一体、何が起こったというのか。
フェイトには、まるで状況が理解できなかった。
37名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:31:33 ID:eTZT7j1X
ディザスターレポートガンバレ支援
38R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:33:20 ID:usugBMN0
『Behind sir!』

バルディッシュからの警告。
我に返り背後へと振り返れば、先程まで自身が張り付いていた大型機械が此方へと迫りくる様が視界に飛び込んだ。
咄嗟にバルディッシュを構えようとして、左腕と右脚が機能していない事実に思い至るフェイト。
だがそれでも、戦うしか道は残されていない。
覚悟を決め、右腕のみでバルディッシュを振り被る。



瞬間、大型機械のコアに穴が穿たれた。



「・・・え?」

三度、呆けるフェイト。
大型機械は彼女から20mほど離れた位置を通り過ぎ、やがて落下を始める。
先程の機体と同じく、爆発も起こさず、破壊音すら響かせる事なく、瞬間的に機能が停止したかの様に、自由落下へと移行したのだ。
眼前で起こった現象を理解できずに、フェイトはその軌跡を目で追う。
その先、突き当たりの壁面の、遥か上部。
其処に、橙色の光が集束していた。

「あれは・・・?」

次の瞬間、その光が爆発する。
リンカーコアを通じて知覚される、強大な魔力による圧迫感。
先程までの状況もあり、思わず身を竦めるフェイト。
だが発射された光の奔流は、攻撃隊を襲う蟲の群れと廃棄機械群を纏めて貫いた。
明らかに、SSランクに匹敵する集束砲撃魔法。
数百もの廃棄物群を一瞬にして消し去り、着弾地点で起こった炸裂は堆積するそれらを山ごと粉砕する。
その砲撃に救われた攻撃隊ではあったが、自身等を包囲する廃棄機械群の半数近くが一瞬で掻き消えた事により、歓喜よりも驚愕と混乱とに支配されている様子であった。
しかし彼等の、フェイトの混乱は、更に加速する。

「何が・・・!?」
『ガジェットが・・・ガジェットが止まっていく! 機能停止だ!』
『味方の攻撃か? 一体何処から!?』
『攻撃が見えない・・・何をしているんだ!?』

次々と機能を停止し、物言わぬ鋼鉄の躯へと戻る廃棄物群。
それらが一体、何を為された結果として機能を停止しているのか、攻撃隊には理解できない。
だが、フェイトは理解していた。
この攻撃が何であるのか、それを実行している人物が誰であるのか。
39名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:34:13 ID:f/GmLier
リリなの遠距離射撃最強タッグ支援w
40R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:34:30 ID:usugBMN0
眼前で大型機械のコアに穿たれた、自身の拳よりも一回り小さな穴。
微かに見えた、緑の魔力光。
この攻撃、一方的にして絶対的な攻撃の正体とは。

『超高密度魔力集束確認・・・壁面、通路です!』



狙撃だ。



『砲撃、来ます!』

再び、橙色の砲撃が放たれる。
R戦闘機を執拗に狙っていた最後の大型機械はその砲撃により半壊、攻撃行動を中断したところへ撃ち込まれたミサイルがコアを直撃し、機能を停止した。
上空の脅威が消えた事で機動性を確保したR戦闘機は、廃棄物の山より放たれるレーザーを回避、或いは装甲で受けつつ、波動砲の充填を開始する。
その様子を目にしたフェイトは、全方位へと向かって念話を放った。

『退避!』

魔導師達が、中空へと逃れる。
直後、召喚された隕石が集積所の中央、廃棄物の只中へと着弾した。
壮絶な衝撃と熱が轟音と共に攻撃隊を襲い、その身体を上空へと撥ね上げる。
実に5秒以上にも亘って意図せぬ空中機動を強いられたフェイトは、漸く態勢を立て直すと、朦朧とする意識を何とか引き締め、眼下へと視線を投じた。

廃棄物の山は、無い。
否、あるにはあるのだが、それらはもはや別個の存在ではなかった。
衝撃によって粉砕され、高熱によって溶解し、炎を噴き上げる液化金属となっていたのだ。
恐らくその下では、未だに隕石が燻っているのだろう。
時折、連鎖的に小爆発が繰り返され、液化金属が上方へと撥ね上げられる。
集積所の隅は辛うじて溶解を免れてはいるが、衝撃によって吹き飛ばされた廃棄物が積み上がり、今にも崩壊しそうだ。
これが、あの波動砲の最大出力か。
余りの惨状に、フェイトの口から無意識の言葉が零れる。

「狂ってる・・・」
『全くですね』

突然の念話。
フェイトはゆっくりと、その視線を壁面へと移した。
攻撃隊が集積所への侵入に用いたものと酷似した通路が口を開け、その縁に何やら動くものが見える。
それが誰であるのかを念話によって確信したフェイトは、疲労を隠そうともせずに思念を送った。

『危ないところだった・・・もう少し遅れてたら、今頃は挽肉になってた』
『間に合った様で良かった。奴さん、こっちにはまるで気付いてなかった様でしたんでね。存外に装甲が脆くて助かりましたよ。おかげで簡単にブチ抜けた』
『・・・凄い皮肉だね、それ・・・ディエチも其処に居るの?』
『はい、ハラオウン執務官』
『そう・・・助かったよ。貴方達の援護が無かったら、間違いなく全滅してた』
『御冗談を』

交わされる念話に、隊員達も漸く状況を理解したらしい。
2kmほど先の壁面を指差しつつ、信じられないとでも云わんばかりの表情で言葉を捲し立てている。
フェイトにしても、俄には信じ難い事柄だった。
41R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:35:49 ID:usugBMN0
2kmという距離からの狙撃、しかも砲撃でもない単なる直射弾の一撃で、大型機械2機を撃破せしめたヴァイス。
短時間の内にSSランク相当の砲撃を2回も行い、1000に迫ろうかという廃棄機械群を殲滅したディエチ。
いずれにしても、通常の魔導師の常識を大きく逸脱している。
ディエチはフェイトの発言を謙遜として捉えたらしいが、実際には本心からの言葉だった。
其々、常軌を逸した技術と能力を持つ、2人の狙撃手。
彼等が現れなければ今頃は間違いなく、彼女も含めて攻撃隊は全滅していただろう。

『グランセニック陸曹長、ディエチ』

その時、オットーからの念話が発せられる。
すぐさまヴァイスが反応し、言葉を返した。

『ヴァイスで良いぜ。何だ?』
『ディードを・・・ディードを見掛けませんでしたか?』
『双剣使いの? いや、見ていないが・・・』
『オットー、ディードがどうしたの?』

ディエチの問いに、オットーはディードが行方不明となった経緯を説明する。
しかし彼等は、ディードの姿を見た覚えは無いと答えた。
落胆するオットー、そしてフェイト。
この汚染された施設内で単独行動となれば、その危険性は計り知れない。
一刻も早く探し出さねばならないが、その前にやるべき事があった。
フェイトは念話で、ヴァイス等へと指示を与える。

『ヴァイス、ディエチ』
『何です』
『狙って』
『了解』

たったそれだけの言葉に、ヴァイスは何をすべきか悟った様だ。
返答は無かったが、その傍らに居るディエチも同様だろう。
溶鉱炉の如き炎と熱気の上昇気流の中、フェイトは甲高い異音の発生源へと向き直った。
R戦闘機、ホバリング状態。

「お待たせしました」

その言葉に対する反応は無かったが、間違いなく聴こえているとフェイトは確信する。
R戦闘機は逃げるでもなく、かといって攻撃に移るでもなく、ただ其処に浮かび続けていた。
フェイトは次いで言葉を発し掛け、しかし何を言ったものかと思案し口を閉ざす。

クライド・ハラオウンの名を以って呼び掛けを続ける?
駄目だ、反応の無い事は確認済みであるし、何よりも攻撃隊各員が不審を持ち始めている。
投降を促す?
地球軍が、管理局によるそれに従うなど想像できない。
虚を突いて攻撃?
それこそ下策中の下策、10秒と経たずに雷撃と隕石によって全滅させられる事は間違いない。

フェイトが思考する間にも、R戦闘機は微動だにしなかった。
攻撃隊が周囲を包囲し、デバイスを突き付けても同様だ。
それが、フェイトには不気味で堪らない。
何らかの策略による沈黙か、或いはこの程度、瞬時に殲滅できるとの余裕か。
結局、判断は付かなかった。
しかし、フェイトは思う。
42名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:35:53 ID:eTZT7j1X
ヴァイス無双支援
43R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:37:11 ID:usugBMN0
この機体には、間違いなく義父が深く関係しているのだ。
何としても此処で情報を手に入れ、義母と義兄の下へと届けたい。
それ以上に、捕虜となったパイロットの証言が本当ならば、この機体の搭乗者が義父本人であるかもしれないのだ。
何としても拿捕、それが無理ならば艦隊への同行という譲歩を引き出さねばならない。
何せ、ただ単に撃墜するよりも、遥かにメリットが大きいのだ。
R戦闘機が攻撃の意思を見せてはいない以上、たとえ表面的ではあっても意志の交換による交渉を行うならば、今しか機会はない。

その判断に基き、フェイトはバルディッシュの刃先を下ろす。
双眸は油断なくR戦闘機を睨み据えたまま、隊員達にもデバイスを下ろすよう指示。
幾分ながら戸惑いつつも全員がそれに従った事を確認し、フェイトは言葉を紡ごうとして。

「・・・避けてッ!」



その眼前で、R戦闘機は機体後部を抉り取られた。



『な・・・!』

驚愕する攻撃隊の眼前、黄金色の弾体が下方から上方へと突き抜ける。
エンジンノズル1つを残し、機体後部構造物の全てを失ったR戦闘機は、サイドスラスターを駆使しつつ集積所の隅、溶解が及んでいない廃棄物の堆積する地点を目指し落下していった。
無理矢理に視線を機体から引き剥がし直下へと目を向ければ、超高熱液化金属の海より覗く、元はR戦闘機のキャノピーであった部位。
それは、燃え盛る液化金属の波に呑まれつつも、機首へと光の集束を始める。
波動砲、再充填開始。

『まだ・・・動いて・・・!』

オットーが自身の驚愕を伝えるが、フェイトとてそれは同じだ。
嫌悪と、驚愕と、恐怖とが入り混じった、混沌の感情。
それは彼女の眼下、業火の海でのたうつR戦闘機に対するものであり、その存在を創造した地球軍に対するものであり、それをすら汚染せしめるバイドに対するものであった。

溶解した金属の只中へと沈み、なお動き続けるR戦闘機。
恐らくはバイドにより汚染されていたのであろうが、元となる機体を創り出したのは地球軍だ。
この様な常軌を逸した兵器、創り上げた彼等の狂気とは如何程のものか、想像すら付かない。
そして、これ程の力を持つ兵器群を大量に投入し、なお打倒すること叶わぬバイドとはどの様な存在なのか。
R戦闘機をすら汚染せしめ、その力を嘗ての友軍へと向ける事を強要する、悪夢の様な存在。
そんなものが一体、何処から現れたのか?

攻撃隊の眼下、波動砲の充填は滞り無く進行する。
しかしフェイトは思考を優先させ、特に動く事をしなかった。
そんな必要が無い事を、重々に承知していたのだ。

R戦闘機のから僅か1m側面、液化金属の海面に穴が穿たれ、飛沫が飛び散る。
直後に波動砲の充填が止み、R戦闘機は全ての機能を停止したらしく沈降を始めた。
集積所壁面に、微かな緑色の閃光が奔ってから、僅かに数秒。
R戦闘機は完全に液化金属に没し、二度と浮かび上がる事はなかった。

『仕留めましたかね?』
『・・・多分ね』

ヴァイスからの問いに、フェイトは無感情に返す。
そして、集積所の端に墜落したR戦闘機へと視線を移すと、そちらへと移動を始めた。

『2人、私に着いて来て。R戦闘機を調査、パイロットを確保・・・!?』
『何だ!?』
44R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:38:29 ID:usugBMN0
だが直後、集積所内に巨大な金属音が響く。
何事か、と周囲を見渡すが、特にこれといった変化はない。
混乱と警戒とに満ちゆく思考はしかし、ヴァイスからの念話によって状況を把握するに至った。

『上だ! シャッターが開くぞ!』

その言葉に上部構造物を仰ぎ見れば、其処には巨大な半球状のシャッター、直径200mはあろうかというそれが無数に並んでいるではないか。
それらは中心から8つに分かれ、徐々に外側へと開きつつある。
何が始まるのか、と警戒する一同の意識に、隊員の1人が放った念話が届く。



『廃棄ダクトだ・・・』



その見解が正しい事は、直に証明された。
大きく口を開けたそれらの奥、警告灯に照らし出された終わりの見えない深淵の中から、無数の廃棄物が降り注ぎ始めたのだ。
突然の事に反応し切れずに、フェイトを含め攻撃隊の初動は遅れてしまう。
潰される、と何処か冷静に判断する思考。
だが、三度放たれたディエチの砲撃が、鉄塊の雨を跡形もなく消し飛ばす。

『こっちへ、早く!』

ディエチの念話に、攻撃隊は即座に退避行動へと移った。
しかしフェイトは通路へは向かわずに、廃棄物の雨を危ういところで回避しつつ、壁面沿いにR戦闘機を目指す。

『アンタ、何やってる!? こっちへ来い、死ぬぞ!』
『執務官! 戻って下さい!』
『駄目だ! 先にパイロットを確保する!』

隊員達の制止を振り切り、フェイトは遂にR戦闘機の許へと辿り着いた。
バルディッシュが、直下の廃棄物群より放たれる放射能の危険性を知らせるが、彼女はそれすらも無視。
墜落時の衝撃か、罅の入ったキャノピーをカラミティで切り裂き、自らの魔力光を以って内部を照らし出す。
そして、遂に「それ」を目にした彼女の胸中に。



「・・・嘘だ」



闇が、溢れた。

*  *  *

「車を使え! ナビに従って次元航行艦まで戻るんだ!」
「そんな! アンタ達はどうするんだ!?」
「執務官が来るのを待つ! 先に脱出の準備を頼む!」
「待って、1人足りない!」

通路へと退避した隊員達に対し矢継ぎ早に指示を飛ばしていたヴァイスは、その声を受けて背後へと振り返る。
フェイトの事を言っているのかとも思ったのだが、しかしすぐにそうではない事に気付いた。
ディエチが隊員の1人へと、切羽詰まった様子で何事かを尋ねていたのだ。
念話を用い、問題が生じたのかと問う。
45R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:39:51 ID:usugBMN0
『どうした、何があった?』
『陸曹長・・・オットーが・・・』
『確か・・・妹だったか? 彼女がどうしたんだ』
『此処へ来る途中で止まっちまって・・・ゴミに邪魔されて、助ける事もできないんです!』

その言葉にヴァイスは、咄嗟にストームレイダーを構えると、スコープ越しに攻撃隊が退避した軌跡を辿る。
果たしてその途中、凡そ600mの地点に、廃棄物の山の直上へと佇む、一見すると少年にも見受けられる少女の姿があった。
何かを胸元に抱え、俯いたまま動く気配が無い。
ヴァイスはとにかく、その情報をディエチへと伝えた。

『見付けたぞ! データを渡す、そっちで確認してくれ!』
『了解・・・確認しました! オットーです!』

その言葉も終わらぬ内、ヴァイスは狙撃を開始する。
オットーへと直撃する可能性のある落下物を狙撃し、機動を逸らしているのだ。
だがそれにも限界はある上、貫通力に特化した魔導弾では、大型の落下物に対して無力。
傍らのディエチが、砲撃でサポートを行う。
その間にも隊員やディエチが、念話でオットーへと退避を促し続けていた。

『聞こえないのか、こっちへ来るんだ!』
『早く! 早くして!』
『オットー、何をしているの!?』

その念話を意識に挟みつつも、ヴァイスは確実に落下物への狙撃を成功させていた。
スコープへと映り込む対象を次々に変更し、トリガーを引き続ける。
ガジェットの残骸、作業機械のアーム、機動兵器搭載兵装の一部、大型車両のタイヤ、何らかの制御盤と撃ち抜き続け、次の標的へと狙いを変更し。

「ッ・・・!?」
46名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:39:57 ID:eTZT7j1X
支援
47R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/10/26(日) 22:41:38 ID:usugBMN0
視界へと映り込んだ物体に、ヴァイスは凍り付いた。
落下するそれはオットーの傍らへと叩き付けられ、大量の液体を撒き散らしつつ弾ける。
その正体こそ看破は容易であったが、理解する事は困難以上の問題だ。
だが、続いて落下してきた同種の物体、数百体にも及ぶそれが、否が応にも現実を認識させる。
ディエチや隊員達もまた、同様の光景を目にしているらしく、念話を通して複数の悲鳴が届いた。
赤い飛沫を散らしながら、廃棄ダクトより無数に零れ落ちるそれ。
見紛う筈などない、見慣れたその造形は。



「人間」だった。



そして、ヴァイスは気付く。
オットーの足下、廃棄物の只中に転がる、半ばより溶け落ちた真紅の刃。
胸元から零れる、流れる様な栗色の髪。
慈しむ様に、両腕で抱え込まれたそれ。



ディードの「頭部」。



悲哀か、絶望か。
ディエチが絶叫する。
だがそれすらも、オットーの意識には届かない。
必死の銃撃を、砲撃を嘲笑うかの様に、降り注ぐ死体と廃棄物の雨は激しさを増す。
直上にダクトの存在しない壁面沿いの地点に落着したR戦闘機内にて、何かを発見したらしきフェイトが念話を用いて叫んではいるが、少なくともヴァイスにはそれを聞き留める余裕などありはしない。
落下物を撃ち、砕き、貫き、弾き。
まだ続くのかと、まだ終わらないのかと、微かな絶望が脳裏を掠めた、その時。
全長50mを超える次元航行艦の残骸、消息不明となっていたそれが、ダクトより現れる。
知らず、此処には存在しない何者かへの怨嗟が、小さな呟きとなってヴァイスの口を突いて出た。
呪いの言葉が誰へと届く事もなく掻き消え、より一層に悲痛なディエチの悲鳴が響く。
そして、直後。



オットーの姿は、次元航行艦の影に呑み込まれて消えた。



特異な過程によって生まれ、特異な道を歩み、特異な戦いを経て、光の下へと踏み出した姉妹。
自らの生を歩み始めたばかりの双子は、機械仕掛けの墓穴に呑まれて消えた。
それを見届けた者達の悲哀も、憎悪も、絶望も。
その一切が、墓守たる存在へと届く事はない。
未だ閉じる事もなく、鋼鉄の屍を吐き出し続ける無数のダクトだけが、犠牲者達の尊厳を辱め続ける。

1000を超える死者、そして無数の鋼鉄の骸を共に、2人は光の下を去った。
奪われた未来、踏み躙られた尊厳を取り戻す術を、生者は持ち得ない。
無力感と憤怒に打ち震える彼等の声が、死者に届く事はない。

彼等は。
脅威を打倒し、危機を切り抜け、自らの生存を勝ち取ったにも拘らず。



彼等は、紛れもない「敗北者」だった。
48名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:42:36 ID:eTZT7j1X
死んだ!?支援
49名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:44:49 ID:f/GmLier
死者が出た上にフェイトソンは地球軍の深淵に触れたようで
それより災害報道が堕ちたことが驚き。案外使い捨てにされた?
50名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:47:31 ID:eTZT7j1X
うむむナノマシン波動砲の威力でやられるとは支援
51R-TYPE Λ後書き代理:2008/10/26(日) 22:48:48 ID:f/GmLier
投下終了です
支援、有難う御座いました

最近は、仏様のお遣わしになった鉄塊と碁石のぶつけ合いをしたりと浮気を繰り返していましたが、何とか書き上がりました
烏帽子鳥カッコ良いよ烏帽子鳥

3人娘編はこれにて終了です
次回からは、暫く目立たなかった人達が活躍します
フェイトが何を見付けたのかについても、後々明らかになるのでお待ち下さい
でも、もうすぐ銀河連邦まで出張したり、アメリカでキ○ラと遊んだりする予定もあるのでちと不安・・・

そして遂に、名ありキャラに死者が出ました
悩みましたが、やはりこの絶望的な状況下で、モブ以外は死なないというのは余りにも不自然ですし
賛否はあると思いますが、どうかご容赦ください

「集積所」&「廃棄ダクト」
それぞれ「SUPER」ステージ6、「T」ステージ6のボス戦闘領域です
共通するのは下がゴミの山であるという事、頭上からもゴミが降り注ぐという事です
「T」に至っては、実質ゴミがボスの様なもの
此処で落ちたらどうなるのかと考え、子供の頃にマジビビリしていました

「RECYCLER」
「SUPER」ステージ6のボスです
ゴミの山の上で戦う、3機一組の資源回収システム
其々、右、左、下を向いたコアを中心に編隊を組み、時にバラけて襲い掛かってきます
ゴミを吸い上げ、大量にばらまいてはR-9Cを叩き潰そうと試み、不規則な動きで退路を塞ぎ、幾つかの小型砲で事故死を誘発する嫌なボス
2週目では堅い、速い、ウザったいの三拍子そろった、正しくクズ野郎となります
特に何が嫌って、コイツのゴミを吐き出す時の音ときたら・・・黒板を爪で引っ掻くorガラスをフォークで傷付ける並みの、精神的ダメージがあります
真・音波兵器

次回予告

提督「現在(いま)のクラウディアはEV○C社長にだって勝てるッッ!!!」
エリオ「ねえギンガさん。いい友情関係ってのには3つの「U」が必要なんだなあ・・・!」

以上のどちらかをお送りします



お詫び

竜巻は出せませんでしたorz
52名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 22:56:32 ID:f/GmLier
投下GJ!

兄貴カッケーとか言ってたら数の子が……
でもシグナムとかユーノとかはやてとかスバルのことがあるから特にショックって程でもw
むしろ汚染されて再利用されて後半再登場の方が恐ry

個人的には3つのUが知りたいなっ
53名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 23:04:20 ID:2lF2GP24
投下お疲れ様でした。
予想してたとはいえ、とうとう原作キャラからも殉職者が……南無。
モブがガンガン死んでる中で『お約束』のように無傷とはいかないですしね。
集積所と廃棄ダクトにR戦闘機を何百機飲み込まれたのか、悪夢が蘇ってきましたよ。
次回、ヤサグレエリオ君を楽しみにしていますw
54名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 23:06:17 ID:GMgAmazp
今回のガジェットみたいに一部?げた状態でオットーとディード出るんじゃね?
55名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 23:07:23 ID:GMgAmazp
今回のガジェットみたいに一部もげた状態でオットーとディード出るんじゃね?
56名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 23:16:03 ID:eTZT7j1X
GJ!
奇遇ですね、私も銀河連邦への営業が入っています。
全くゴミ処理は地獄です!ついに名有りの死者が2人も出ちゃいましたか、まあSTGじゃよくあることですが…
ここで災害報告が登場早々撃墜されるとは予想外、AI対戦のようには耐えれないか。
しかしあのTEAMR-TYPEのことだ油断ならない、フェイトは何を見たんだろ?
あとフェイトもそろそろバイドのヤバさ加減に気づきだしたようですね。
57LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/26(日) 23:52:24 ID:BoFWh5XI
R-TYPE氏、GJです。ここでついにとは、恐れ入ります。
さて、00:50分から久方振りに投下するつもりなのですが、皆様宜しいでしょうか?
一応返事は待ちます。「もう少し感想の時間を!」という方は遠慮無く御申し出下さい。それ以外の場合は投下に移らせて頂きます。
58名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/26(日) 23:58:17 ID:jRC/s1kf
双子涙目だけどGJ。
一度出てしまった以上もう後に引けませんな。まあ、シグナムもユーノも再起不能ですから、ある意味では『やっと』死者が出た、という感じです。
スレチですが以前ようつべに、スーパーのPROモード(最高難易度)で、道中全く撃たずに鬼避けしていく、なんてのが。(アイテムも全く取らない)
59名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 00:07:26 ID:hwMrbTpG
GJ!!です。
苦戦の末に撃破し、危機を乗り越えたと思った矢先の実は、もう一人殺ってたんだぜw
というバイドのキッツイジョークでオットー撃沈ですか。主人公陣のSランカーもやられてますし、
本当にバイドとの戦は厳しいw一つの体にオットーとディードの首があるキモいモノになって復活しない事を祈りますwww
あと、エリオ君の裏切りの理由が気になりますなぁ。
60名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 00:08:37 ID:PMR0fgAm
FF7のイン・ヤンだっけか?そんな感じのがいたような
61名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/27(月) 00:22:33 ID:k0/GdUe6
GJ!!
フェイトが挽き肉になってしまうかのかと、
戦々恐々してたのですが、そうはならなかったが
オットーとディードは死亡とは予想内というか予想外というか・・・
それにしても、氏の作品は凄まじくきっつい内容ですなww
もう、さすがSTGとしかいえませんな。
次回はエリオの裏切りの理由か次元航行艦隊か
キャロの行方とか不吉すぎるフラグしかありませんが楽しみに待ってます。
62名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 02:43:06 ID:jIXf25bj
GJ!!
ついに死者が出たか。まぁいままで出なかったのが不思議なくらいだからな〜。

ところでやっぱり管理局的には例えどんな敵が相手で作り出されたもんでも質量兵器ってだけで拒否なんですね。
自分たちだってほとんどかなわず敵の危険性理解しているのにそれに対処するために質量兵器使ったら完全拒否とは。
少々頭が固すぎるんじゃ無かろうかと。
自分たちだって戦闘中何でかんでその戦闘力を期待してんのに
63名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 08:36:14 ID:9DLPKbkD
>>62
まあ氏の作った設定だとそうなんだろう。
そうじゃないと全面戦争にならないし。
64名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 09:46:39 ID:4KT81Y2g
GJ!!ついに死者が出ましたね。おそらくこれからも死者が出てくるんでしょうが。
それよりも撃墜されたR戦闘機でフェイトは何を見たのか。予想できそうでできないのが怖い。
エリオ編を楽しみにしてます。
65名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 12:16:16 ID:E+Uja3Mo
>>62
管理局って質量兵器大嫌いな滅ぼしたいくらいの糞潔癖症である意味宗教チックwな軍団ですから。
66名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 12:48:38 ID:ACf3zSOn
>>65はイタイ妄想入ってるけど、多少宗教チックというのは当たってるかな
全面戦争にしようと思ったらこういう設定にしたほうが作りやすいから仕方ないけど

ところで、管理局が質量兵器を忌憚するきっかけってなんだったんだろうか?
67名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 13:03:01 ID:AMTbqfzA
>>66
ベルカ戦争で質量兵器で世界がやばくなりかけたとかじゃなかったっけ?

ぶっちゃけ魔法兵器のがやばいのにな
アルカンシェルとかレリックとかジュエルシードとか次元航空艦とか魔導士とか

魔力使えば質量兵器じゃないんだっけ?


68名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 13:09:55 ID:DCabSesM
質量兵器はスイッチポンで起動するからOutなんだしょ。
69名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 13:13:05 ID:NxPSNWDU
アルカンシェルもスイッチポンで発射OK!
70名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 13:23:05 ID:DCabSesM
と、いうことはアルカンシェルは質量兵器だったんだー。
なので管理が厳しい(?)のかね。
71一尉:2008/10/27(月) 13:53:46 ID:MILsoMoL
自爆でOKたよ。
72名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 14:01:53 ID:K1EveMfk
>>68

質量兵器は誰でも使え、魔法の優位性を脅かす存在
魔導士による専制支配を確立するために、諸悪の根源を押し付けた
まさにナチもびっくりの選民思想
73名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 15:04:29 ID:59AFaVwE
素質があれば、訓練次第で代償はあれど使えるのが魔法。その点においては質量兵器と違いは無い。
多分『非殺傷設定の有無』が質量兵器の使用禁止の建前ではないかと。
74名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 15:19:28 ID:SEDDIFsN
>>73
銃とかは別に管理局でも使ってるけどね。
75名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 15:25:20 ID:PMR0fgAm
非殺傷設定魔法でも人体を傷つけることは在るようだし
ノン・リーサル・ウェポン(非殺戮性兵器)の類の扱いとかね
抹殺を目的としていなくても扱い方や運が悪ければ
怪我をさせるのは魔法技術も質量兵器もどちらも変わらない様な気もするが
76名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 15:27:37 ID:rw+I9huG
そろそろスレ違いになってるぜ
77名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 17:51:53 ID:Q7vMO/km
管理局って基本的に独裁主義?
78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 17:59:14 ID:1nStrRRA
そろそろ静かに投稿を待とうか
79名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 18:06:01 ID:C5q+wbxC
諸君!私は独裁が好きだ!
80名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 18:22:22 ID:rw+I9huG
みんな大好きだろ?民主主義
81名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 18:23:52 ID:HXS8B8I3
雑談やめたら?
82名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 19:17:21 ID:KGcxK7iF
つか、前スレが埋まってないからそっちでやれ。
83名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 19:19:39 ID:s/sXPxTx
そもそも設定議論スレの奴らはでてくるな。
管理局を叩くだけなのは相変わらずみたいだな。
84名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 19:31:47 ID:wacJ9ffl
決め付け乙
85名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 20:19:37 ID:rw+I9huG
ホントに決めつけなんだか
86LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 21:20:57 ID:9VZuWkWz
時間を置いて再登場。夕べ予約しておいて投下しなかった訳は避難所の代理スレにて。
では、21:50分より投下致します。
87LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 21:50:09 ID:9VZuWkWz
それでは投下します。
88LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 21:51:04 ID:9VZuWkWz
 起き上がって、横を向く。
 床に敷かれた布団の上で、規則正しい寝息をたてる少女がいる。

 ……夕べは、どうしたんだろう?

 昨日のことを思い返し、なのはは首を傾げた。

 突如現れた金髪碧眼の少女は、温かく高町家に迎えられた。
 振られる話にどもりながらも何とか返事を返し、自分にだけはどもることもなく小さな笑顔を見せ、食事をすませて一緒にお風呂にも入り、
 いつの間にかその笑顔が消え失せていた。
 世界や魔法の話をしたのは、その後。
 就寝までに少女が幾度か見せた笑顔は、いずれもぎこちないものだった。

 そもそも、風呂上がりの直後から様子がおかしかった。
 例えばその時、「今日は何日ですか?」と聞いてきたり。
 自分には背を向けた形だったので、その時の顔は見えなかった。
 部屋で話をしている時も、「世界地図って、ありませんか?」と聞いてきたり。
 地図を両腕いっぱいに広げて見ていた時の少女の顔は、ちょうど自分と対面する形だったため、地図に隠れてこれまた見えなかった。
 少女の世界に関して聞いても、説明はどこかしどろもどろ。どんな世界から来たのかはだいたい分かったが、結局少女が奇妙な緊張を解くことはなかった。
 一体何があったのか。聞き出したいのは山々だが、無理に聞くのは野暮。
 この場合向こうから心を開かせ、安心させてから話を聞くのが一番無難とは思うのだが……

 ……やっぱり、敬語にした方がいいのかな?

 真っ先に考えたのは、接する態度。
 母が急に「セラちゃん、あなた何歳?」と聞いてきた時は首を傾げたが、少女の返した答えに納得し、同時に驚いてしまった。
 彼女は自分よりも一つ……いや、まだ自分は誕生日を迎えてないから二つ年上の女の子だったのだ。
 これには家族全員からも反応が返ってきた。結局は自分の思い込みが原因なので、何も言い返せずにただ顔を赤くするしかなかった。
 とにかく、年上であることが分かったこの少女とは、どう接するべきか。
 まずは呼び方。「セラちゃんでいいです」と本人には言われたものの……

「やっぱり、セラ『さん』の方がいいんじゃ……」

 試しに呟いた途端、不意に少女がこちらに体を向けた。
 思わず肩が跳ね上がる。起こしてしまっただろうかと一瞬気にかけ、

「……ディー、くん……」
89名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 21:51:37 ID:WKyt1ZMc
支援
90LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 21:52:16 ID:9VZuWkWz
 聞こえてきたのは少女の寝言。単に寝返りを打っただけのようだ。
 脱力して息を吐き、少女の寝顔を覗き込む。
 青い瞳を閉じ、借りた寝間着に身を包み、安らかに眠る金髪の少女。
 出会った時に抱いた印象を、なのはは思い出す。
 振り向いたあの時、ほんの一瞬ではあるが黒衣の少女と見間違えてしまった。暗がりの中なのだから、最初は気のせいだろうと思ってはいたのだが、

 ……やっぱりフェイトちゃんに似てる、ような……

 瞳の色が赤で、髪型がツインテールなら、確かに似ているかもしれない。雰囲気も少しだけ似通っている……気がする。
 名前からして姉妹の筈もないのだから、他人の空似ということになる。それを差し引いても、何故あの少女と重ねてしまうのだろうか。

 ……ま、いっか。

 この少女とは昨日会ったばかり。まだ知らない部分もあるだろうし、あの少女とのようにぶつかり合う関係でもない。
 時間が経てば、いずれわかるだろう。態度の方も、おいおい考えよう。
 思考を心の片隅にしまい、なのはは静かにベッドからはい出ようとして、視界の端の光に目を向ける。
 机の上に置いてある、罅割れた宝玉。未だに明滅を繰り返し、自己修復に励んでいる。
 自分が弱いせいで。足手まといになったせいで。

「ごめんね……レイジングハート」



              第二章:Sera-side 朝は来る
              〜The Breakfast of Smiles〜


 目元に差し込んできた明るい光に、セラは目を開けた。
 両手で目を擦りながら起き上がり、寝ぼけ眼で周囲を見渡す。

「あ……」

 夕べのことを思い出し、体が瞬時に強張る。一気に目が覚めてもう一度周りを見渡し、夕べのことが夢でないこと、フェレットがまだ眠ったままであること、少女がいつの間にかいなくなっていることに気付く。
 落ち着きを取り戻すために深呼吸しようとして、思わず溜め息が漏れた。

 ……夕べは、おかしな子って思われたかもです。
91LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 21:53:28 ID:9VZuWkWz
 自分がいきなり泊まり込んでも大丈夫だろうかと緊張し、何か余計な迷惑をかけていないだろうかと気後れし、
 自分の状況を理解した途端、そんな気遣いすら頭の中から吹き飛んでしまった。
 少女の部屋で肝心の話となり、必死に色々ぼかしたのを覚えている。
 シティの名前や大陸の名前、大戦の正式名称は勿論、自分が魔法士であることも隠しておいた。この家に来るまでに少女の発した質問にも、聞いた限りではわからないぎりぎりの返答だったから、多分大丈夫なはずだ。
 夜道で自分から発した質問の方は「似たようなものを見たことがあるから、もしかして……と思って」とごまかしておき、ではそちらの世界にも魔法はあるのかと聞かれたが、「詳しい事は知らないですけど」で通しておいた。
 ディーに関して伝えたのは通称と外見のみ。ここでは自分も少年も目立つから、これだけで十分探せるだろう。
 あの時はかなり慌てていたため、上手く説明できたかどうか心配だ。今後は周りから怪しまれないようにしよう、と小さく決心しておく。
 次に自分の状況を思い返し、少女とフェレットから受けた説明を反芻する。
 ペットだった筈のフェレットが喋れることにも驚いたが、もっと驚いたのはその後だった。
 それまでタイムスリップしてしまったと思っていたのだが、どうもただのタイムスリップというわけにはいかないようだ。

 ……ここって、ホントにただの過去なんでしょうか……?

 次元世界や魔力を使った魔法……一人と一匹の口から出たのは、聞いたことのない単語ばかり。この情報が本当なら、自分やディーのいた世界の過去であるとはあまり考えにくい。
 しかし、この世界では魔法が秘匿されている。その状態が未来まで続き、存在を知られていないままだとするならなんとなく納得がいく。
 かといって、試しに見せてもらったなのはの魔法から情報制御を感知したぐらいだ。専用の艦に乗れば世界の裏側まで見通せるディーの姉が、それを見逃すだろうか。
 いや、アフリカ海に点在する無数の小さな島々には、ありとあらゆる迷彩が施されている。自分の所属するテロ組織だってそこに居を構えているのだ、流石に千里眼の少女でも把握できないのかも……

 ……難しいです。

 頭の中がぐるぐる回る。いくら考えてもきりがない。きりがないので、手っ取り早く結論を導く。

 ……とにかく、過去なんですよね?
92LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 21:54:45 ID:9VZuWkWz
 一人の魔法士を生贄にして一千万人の人間を生かすマザーシステムがなければ、第三次世界大戦も大気制御衛星も魔法士もシティもありはしない。
 パラレルかどうかはわからないけれど、ここは過去の世界。それだけは確かだ。
 疑問は残るものの、自分にわかるのはここまで。銀髪銀眼の少年なら、もっと色々なことがわかっているかもしれない。

 ……ディーくん……

 今頃何処にいるのだろうと思案しかけて、すぐにやめる。
 フェレットいわく、「同じ時間に同じ場所で転移したなら、同じ世界の……それもすぐ近くにいる可能性は高い」とのこと。
 それを聞いた途端、少しだけ安堵の息が漏れたのを覚えている。
 魔法士もノイズメイカーもないこの世界でディーが怪我をするなど、常にディーの身を案じるセラからしてみても絶対に有り得ない。
 少なくとも少年は無事。今頃は逆にこちらを探している筈だ。
 一つ頷き立ち上がり、光の差し込む窓に歩み寄る。
 視界に入って来るのは、魔法士の世界では限られた者しか見ることのかなわない、本物の空と本物の太陽。山を覆う緑が朝日を反射し、朝日とともにセラの白い顔を照らす。
 少年もこの光景を見ているだろうかと考えつつ、んっ、と大きく伸びを一つ。
 ここが過去の世界であるという実感は、まだ沸いてこない。もといた世界と余りに環境が違いすぎるせいか、「別世界にきた」という表現の方がぴったりくる。

 ……あ、そうです。

 I−ブレインを起動し、周囲の空間を知覚する。
 この部屋に隠した握りこぶし大の宝石の質量を、数箇所で捉える。
 せめて朝までは見つからないよう隠しておいた、自分の武器。少女に出会ってからも展開したままだったので、最後まで鞄へ納める機会を逃してしまった。
 全部で十個のD3は一つも欠けることなく、全て揃ったまま。際どいところもあったが、幸い見つからなかったようだ。
 あとは『絶対に見つからないようにする』だけ。次に寝る前はちゃんと鞄にしまっておこうと思いつつ、

(I−ブレイン、戦闘起動)

 頭の状態を、切り替える。
 視界の端を流れるのは、思考の主体が大脳新皮質上の生体コンピュータ『I−ブレイン』に移行したことを表すシステムメッセージ。十億分の一秒(ナノセカンド)に固定された思考単位で、高速演算を開始する。

(「D3」A―Jとのリンクを確立)




93LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 21:55:50 ID:9VZuWkWz
 魔法士の魔法は、『情報制御』という正式名称を持っている。
 この情報制御を扱う科学を、魔法士の世界では『情報制御理論』と呼ぶ。
 その理を成す大原則は何かと問われれば、魔法士の世界に住まう人々は口を揃えてこう言うだろう。

 ――世界は、『情報』でできている。

 原子、空間、法則、思考、生命……世界の全てが、現実において物理的に存在しているのと全く同時に、世界を構成する情報の集合体『情報の海』の中にある『情報』として存在している。
 二つの世界は常時干渉しあう。片方が動けば必ずもう片方も動き、その連鎖反応によって世界は成り立っている。
 例えば、自分を鏡に映してみよう。
 『自分の意思』で『現実の自分』を動かすことで、『鏡の自分』が動く。誰にでも分かる、これは当然の事象である。
 では、この事象の『順番』を変えることはできないか。
 『自分の意思』で『鏡の自分』を動かすことで、『現実の自分』が動かないか。
 これこそが、情報制御の発想。現実が動くことで『情報』が動くなら、逆もまた然り。
 I−ブレインが生み出す常識外れの高速演算は『情報の海』への直接干渉という非常識を実現し、物理法則を突破する。
 これを成しうる人をこそ、その世界の人々は『魔法士』と呼んでいる。




 I−ブレインで紡いだ命令が情報の海を介してD3へ伝達され、それぞれの結晶体を中心とした時空構造が『書き換わる』。
 隠し場所から飛び出した十個の正八面結晶体がセラの周囲に集まり、弧を描きながら次々と空間の裏側に隠れていく。

 物理法則の改変は、決してたやすいものではない。魔法士能力を本格的な実用へ持って行くため、書き換える物理法則は「魔法士である」という時点で既に決まっている。そうして特化された能力は、変更が一切きかない。
 魔導師の少女には一切伝えていない、セラの力。
 対艦・対集団戦に秀でた遠距離戦闘のスペシャリスト、時空制御特化型魔法士『光使い』。
 それが、セレスティ・E・クラインの『魔法士としての能力』だ。

 全ての結晶体が閉鎖空間へ隠れ、とりあえずこれで一安心、と小さく息を吐き、

「あ……おはよう、セラ」

 不意に、挨拶の声。
 びくりと肩を震わせ、声の主へと振り返る。
 視界に入ったのは、籠の中から頭を上げ、こちらを見ているフェレットの姿。
 たった今起きたばかりらしく、前足で目を擦っている。
94LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 21:57:33 ID:9VZuWkWz
「お、おはようです。ユーノさん」
「……なのはは?」

 固い口調に気付くこともなく、フェレットは部屋を見回す。

「えと、わたしが起きたときには……」
「そっか」

 短く応えて小さな瞳を閉じ、暫くして「あ、いた」と呟く。

「……わかるんですか?」
「魔力探知って言って……今、道場にいるみたい。ちょっと念話で話してみるね」

 それっきり、フェレットは虚空を見たまま押し黙る。
 流石に念話のことも夕べの内に聞いてはいたものの、自分の知る魔法と勝手が違うのはやはりというべきか。
 D3の存在にはまだ気付いていないようだが、他にどんな探知手段をもっているかわからない以上、問題は山積みのままだ。
 今のうちにD3を鞄にしまうべきかと思案していると、急にフェレットがこちらを向いた。

「えっと、着替えはそこの床に置いてあるって」
「え? ……あ、はいです」

 言葉の意味を理解して、視界に入った自分の着替えに手をかけ、セラは手早く着替え始めた。


               *


 体ごと後ろを向くと、綺麗に整頓された本棚が視界一杯に映った。
 ユーノにとって、こういうことはもう慣れっこだ。とはいえ、緊張してしまうのは変わらないが。
 衣擦れの音が耳に入り、顔が赤くなるのを自覚したところで、なのはから念話がかかってくる。

(……ユーノくん?)
(あ、ど、どうしたの、なのは? まだ何か?)
(うん……)

 念話に集中することで気が紛れ、次第に落ち着きを取り戻す。
 先程は、金髪の魔導師の話をしたばかり。となれば、なのはが次に話すことはだいたい決まってくる。

(えっと、セラさ……じゃなくて、セラちゃんは?)
(僕より先に起きて、今着替えてる)
(……そっか)

 それっきり、なのはは何も言わない。
 沈黙の中、再び衣擦れの音が気になり始め、痺れをきらす。

(それで、その……セラがどうかしたの?)
(あ、えと……セラちゃんがいたような世界って、あるの?)
(それって……)

 問い返そうとして、なのはが何を考えているのかを理解し、静かに答える。

(……紛争の続いてる世界や、滅んでしまった世界とかは聞いたことあるけど……)

 たったの九年ではあるが、自分だって色々な世界を回ってきた。滅びた文明は遺跡を通して何度も見てきたし、未だに戦争をしている世界があることも知識としてではあるが知っている。
 しかし。
95LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 21:58:12 ID:9VZuWkWz
(戦争が終わって、そのまま滅びかかってる世界っていうのは、僕でも流石に……)
(そう、なんだ……)

 つまり、自分達では少女を元の世界に戻すことができない。
 だが今のなのはが考えているのは、おそらくそういうことではない。

(セラちゃんは、そんな世界から来たんだよね……)

 なのはは魔法を知って、まだ一月と経っていない。
 それは異世界の住人との接触も同じ月日しか経っていないこと、他の世界がどんな世界なのかを殆ど知らないことを意味する。
 少女から聞いた話は、それなりにショックだったのだろう。

(なのは……)
(あ、ご、ゴメン。話したいことはこういうことじゃなくて……)
(いや、大丈夫だよ。……これからどうするか、だよね)
(うん)

 気を取り直し、話題を変える。なのはもいくらか気を楽にして、夕べの話を反芻する。

(えと……時空管理局ってところに預ければいいんだけど、今のところ連絡手段がない、って言ってたよね?)
(うん)

 セラとなのはの二人には、夕べのうちに管理局のことを説明してある。
 どれくらい先になるかはわからないが、管理局と接触さえできれば少女の身の安全を確保し、ジュエルシード探しに専念することができる。

(問題は、いつ接触できるかなんだけど……)
(要は、それまで匿えばいいんだよね?)
(そういうことになるかな。ここまで大事になっちゃったら、僕たちだけじゃ解決出来そうにもないし)

 ジュエルシード集めに競争相手の魔導師と、既にいっぱいいっぱいの状況。このうえ次元漂流者まで出てきては、いくらなんでも対処しきれない。
 スクライアの部族に預けるという方法も考えたが、あちこち移動する部族との合流は難しい。少女のもといた世界の場所を特定できていない以上、少女の世界が見つかるのもどれだけ先かわからない。
 結局、管理局に任せるしか方法はなくなる。
 出来ることなら自分達だけで解決したいのだが、これは明らかに個人の問題を越え切っている。それゆえの決断だった。

(……ごめんね、なのは)
(え?)
(僕だけで何とかするつもりだったのに、こんなことになるだなんて……)
96LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 21:59:08 ID:9VZuWkWz
 自分が数多の次元世界において、どれだけちっぽけな存在か。知識としては知っていたことを、最近は身に染みて理解しつつある。
 自分一人でも何とか出来る……そう思ってこの世界にやって来たものの、結果はこの有様。丸く収まるどころか、次々と被害がでてきてしまっている。

(……ユーノくん)
(あ、なのはが頑張ってくれてるのは分かってる。僕も頑張ってるし)
(そうだね。もっと、頑張らないとね)

 今はこれ以上被害を増やさない為にもと、現地の人間であるなのはと協力してジュエルシードを集めている。余裕なんて何処にもありはしない。
 敵対している少女だって多分同じ。理由はわからないままだが、必死になってジュエルシードを探している筈だ。
 それでも被害者は出る。どれだけ頑張っても0にはならない。
 いずれにしろ、自分の判断ミスが何の関係もない人達を巻き込んでしまったのは確かだ。
 その事実を噛み締めれば噛み締める程、後ろ向きの考えが頭を過ぎる。
 単独行動をとらなければ、こんな大事にはならなかったのではないか。
 いくら必死に自分のミスを取り戻そうとしても、もう間に合わないのではないか。どうしようもないのか。
 もっと、良い方法があったのだろうか。
 こんな事は考えるべきじゃない。そう思うのに、それでも考えずにはいられない。
 このまま進むしかないのかと、やりきれない思いで一杯になる。
 勿論、誰にも話すつもりはない。しかし或いは、少女に話せばなにもかも解決するのだろうか。
 思えばこの少女と出会ってから、何度も支えてもらっている……そう思ったとき、視界の端に罅割れた赤い宝玉が映りこみ、

 ……あれ?

 不意に感じた違和感を頼りに、宝玉を見つめる。

 ……今、光ってなかったような……?

 レイジングハートは今、全力で自己修復作業に取り組んでいる筈だ。余程のことがない限り、修復を中断することなど有り得ない。

 ……気のせいかな?

 レイジングハートの明滅は、夕べ見たときと全く変わらない。なのはが学校から帰る頃には、修復が完了している筈だ。

(ユーノくん、どうしたの?)
(え? いや、何でもな――)
「ユーノさん、なのはさんとまだお話してるんですか? もう着替え、終わったんですけど……」

 二人の少女による挟みうちを受けたときには、頭に残った僅かな疑問は消え失せていた。
97名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/27(月) 23:40:16 ID:oyanCGsy
さるさん?

とりあえず支援
98LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 23:48:54 ID:9VZuWkWz
               *


 木漏れ日の差し込む窓の外から、鳥の囀りが漏れた。
 水洗いしたばかりの野菜を切る瑞々しい音が、コトコトと煮える鍋の音と調和する。

「あらセラちゃん、お早う」
「おはようです、桃子さん」

 リビングに金髪の少女が入って来たのを見て、高町桃子は台所からにこやかに挨拶を交わした。
 包丁を動かしていた手を止め、セラの様子を伺う。

「昨日はよく眠れた?」
「えっと……実は、なのはさんとお話するのが楽しくて」
「あらあら」

 苦笑いを浮かべる少女に微笑んでいると、更に二人の少女が入って来る。

「あ……セラちゃん、お母さん、おはよう」
「おはよう母さん。セラちゃんも早起きさんだね」
「なのはさん、美由希さん、おはようです」

 夕べと違って余計な緊張が解れているセラを視線から外し、桃子は挨拶を返す。

「二人ともおはよう。士郎さんと恭也は、まだ?」
「うん。けど、そろそろ帰って来ると思うよ」
「それじゃ、一気に仕上げましょうか。美由希、手伝ってくれる?」
「もちろん!」
「わたしも手伝います!」
「あ、わたしも!」
「……って、ええ?」

 続けて言い出したセラに狼狽した美由希は「いやいや」と手を横に振り、

「なのははともかくとして、セラちゃんはお客さんなんだから……」
「せっかく泊めてもらったんですから、このくらいはしないとダメです」

 眦を吊り上げるセラに、台所の主は小さく息を吐き、

「そう言われたら断れないわね」
99LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 23:50:05 ID:9VZuWkWz
 結局手伝ってもらうことになった。
 程なくして残る男二人も帰来し、全員が朝食の席につき、「いただきます」の声が唱和する。

「ところで……」

 口に含んでいたパンを嚥下し、士郎が口を開く。

「夕べはあんなにガチガチだったのに、今日は随分元気だね」
「えっと、夕べはごめんなさいです」
「いやいや、いいんだよ謝らなくても」

 そういえば、となのはがセラに顔を向ける。

「ごめんねセラちゃん。起きた時にわたしがいなかったから……」
「平気です。ユーノさんがいましたし」

 屈託のない小さな笑みを浮かべてセラは答え、

「でも、いいんですか? ホントに毎日泊めてもらっても」
100LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 23:51:12 ID:9VZuWkWz
 正直、泊まり続けることが出来るかどうかは、セラにとって望み薄だった。
 最初にこの家に来るまでに、セラはなのはとともに泊まり込みを続ける事情を考え、何とかごまかしきれるだろうと思える程度の『偽りの家庭環境』を決めておいた。

 父親は八年前に病死、母親は朝から夜遅くまで仕事。兄弟無しの一人っ子。
 世界中を転々としているため、学校には通っておらず、炊事洗濯や買い物等は全て一人で行っている。
 ついこの間越して来たばかりなのだが、またすぐにでも引っ越してしまうかもしれない。
 ……というのが、高町家に説明した大まかなセラの経緯である。

 疑われる可能性は少ないとしても、これで泊まり続けることが可能かどうかは別問題だった、のだが……

「もちろんだとも」
「心配しなくてもいいのよ」
「あたし達高町一家は、みーんなお人よしさんなんだから。ね、恭也?」
「……まあ、否定はしないが」

 それぞれの笑顔で、高町家は答えを返す。
 感謝を述べようとして、「ほら、大丈夫だったでしょ?」と横から入ってきたなのはにどう返せばいいのか困り、

「それで、セラちゃんはこれからどうするの?」

 唐突な美由希の問いに、え? と目を丸くしてから、セラは難しい顔で考え込み、

「えっと……まずは家に帰って、お片付けして、お勉強して、お買い物に行って、晩ご飯作って……あ、お昼を食べにまたここに来ても……」
「いいわよ」
「あ、ありがとうございます!」

 微笑む桃子の隣から、今度は士郎がセラの顔を覗き込む。

「でも、いいのかい? お母さんは一人になってしまうよ?」
「え? あ……」

 流石に即答することができず、セラは俯く。
 それでも何とか答えなければと思い、「おかあさんは……」と、意を決して口を開こうとして、

「いや、いい。今のは、聞かなかったことにしよう」
「え……」

 目を見開いて、セラは士郎を見つめる。

「で、でも……」
「さあみんな、はやく食べないと学校に遅刻するぞ」
「「はーい!」」
101LB ◆iLSEHSvrCw :2008/10/27(月) 23:57:16 ID:9VZuWkWz
 士郎の言葉に、なのはと美由希が元気よく返事を返す。
 食事が再開され、談笑が響き渡る。
 暫く呆然としていたセラは漸く我にかえり、小さく息を吐いて何かを呟き、

「セラちゃん、なにか言った?」
「何でもないです」

 振り向いたなのはに、セラは小さな笑顔で答え、
 ――朝の食卓が、笑顔に包まれた。




///
投下終了。
第二章がやっとのことで終了致しました。
出来れば新刊発売までに……と考えていたのですが、やはり世の中ままならないものでしたorz
内容の方は今後どれだけ長くなっても二十「章」以内(エピローグ含む)に完結する予定なのですが……まあ、マイペースに書いていこうと思ってます。

改行が多過ぎるというERROR(規制ではありません)を受けて避難所の方に投下したのですが、ちょっと考えたら解決策が見つかったのでこの通り投下が完了致しました。
代理を請け負って下さった方、支援して下さった方々には、投下にこれほどの時間をかけてしまった事も含めてご迷惑をおかけしたと思います。

……それでは、この辺りで失礼致します。ご指摘・ご感想お待ちしております。
102一尉:2008/10/28(火) 11:40:40 ID:zIvWzVqT
よろしい支援たよ。
103リリカル! 夢境学園 ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 17:44:06 ID:QtBMsIdl
LB氏、投下ご苦労様です。
投下行数の目安は大体60行以下が目安ですよ。
と、少しだけアドバイスをしつつ、お久しぶりですが18時50分からアンリミデット・エンドラインの続きを投下してもよろしいでしょうか?
少々長いので、支援を尾掩蓋します。
104名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 17:49:31 ID:t1IlLoii
支援
105名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 18:47:08 ID:LL8wT10H
支援致します
106アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 18:49:26 ID:QtBMsIdl
そろそろ時間ですので投下開始します。
支援をお願いします。


 殺せ殺せ殺せ!
 人類全て敵だらけだ!
 ならば全て殺し尽くして、何もかも灰燼に変えちまえ!
 そうすりゃ、世界は平和になるさ!!

                    ――焼き滅ぼされた故郷に絶望する兵士の悲鳴より


 壊れ果てる。
 焼き果てる。
 枯れ果てる。
 果てる、終わる、終焉。
 世界はどこまでも狭くて、何も見えなかった。

 ――怖いよね。

 耳鳴りがする。
 風の音? 故郷から旅立った時、頬を打たれるような風を浴びた、痛かった。
 とてもとても痛かった。
 誰かの声? 寂しくて泣き叫んでも、誰にも届かなかった、空だけが青かった、フリードだけが慰めてくれた、それ以外には誰も応えてくれなかった。
 寂しぃよぉ。
 怖いよぉ。
 いや、いや、いや。
 こんなのはいや。

「ぁあああああ!」

 声を上げる。
 鼻水を啜りながら、キャロは叫び声を上げる。
 どこまでも響かない声を。
 泣き叫ぶ声を、笑い声に変えてひたすらに叫ぶ。

「あ、はははっははっはははは!!!」

 手の平を空に掲げる。
 焼けるような感覚――外界からの刺激。
 けれど、それは内側には響かない、殻の中には届かない。
 虚空が満ちる、体験したことが無いけれど宇宙とはこのようなものなのか。
 骨を、肉を、血を、皮膚から少し出れば世界には熱と命が溢れているというのに、どこまでも断絶した孤独を感じる。
 どこまでも果てが無い正気を保てない真空の世界。
 孤独だった。
 虚無でしかない。
 如何なる刺激であろうとも、キャロ・ル・ルシエという少女には響かない。

 ――誰か助けてよ。

 胸が痛いのだ。
 胸が苦しいのだ。
 魂すらも悲鳴を上げている。からからと笑い声が鳴り響く、気が狂ってしまいそう、いや、もう狂っている。
 竜の咆哮、逆流する力の流れ、怒りに飲み込まれて、全身が火照り立つ。
 喘ぎ声を上げる、いやらしく、淫靡に、情艶に、無様に。
107リリカル! 夢境学園 ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 18:52:08 ID:QtBMsIdl
 
「うるさい、うるさい、うるさい!」

 私が叫んでいる、彼女が笑っている、涙を零しながら、フリードの上に立って踊っている。
 術式を描く、錬鉄の鎖を操作し、支配し、薙ぎ払う。
 紅い世界、その中でキャロは数百枚の鏡が同時に破砕するかのような耳鳴りを聞いた。
 それは幻覚、幻聴、心の崩壊。
 吐き気がする、吐瀉物を吐き散らす自分を妄想する、そんなにも気持ちが悪い。
 魔力を汲み上げる、リンカーコアが悲鳴を上げる、フリードの絶叫が心地よく――悲鳴のように聞こえる。
 いやいやいや。
 やめてやめてやめて。
 彼女が嗤う、私は嘆く。

 ――私は悪くない。

 キャロの絶叫。
 けれども、彼女はそれを否定する。

「わたしはたのしいよ、わたしはたのしいんだ、えりおくん」

 笑っている。
 己の罪を認めて、彼女は全てを肯定して、笑い転げている。
 ゲラゲラゲラゲラ。
 紅蓮の中で嗤っている、悪魔のような自分、キャロ・ル・ルシエの中にあった憎悪の象徴。
 幼い彼女の心。
 残酷すぎる仕打ち――共同体からの追放、咎と呼べるほどでもないなすりつけ、大人の愚行。
 その犠牲者、その破綻する心を保護するために、苦痛を押し付けた、別の自分。
 スケープゴート、私は違う、私は痛くない、私は壊れてなんかいない。
 そう信じ込み、螺旋くれていく少女の心、虚無よりも醜い混沌、狂気の発露。
 投影する、残飯を齧る荒んだ自分。
 投影する、ゴミクズの様に蹴り飛ばされる自分。
 投影する、確かに伝わっていたはずの白竜の心を理解できぬ巫女たる資格を失った自分。
 再生する、その絶望。
 早送りする、泣き叫ぶ自分。
 停止する、力というものを失い、狂気と化した自分。
 再生する、心も通じぬまま、術式を解放し、フリードを解き放った。
 再生する、視界に映るもの燃やし尽くした自分。
 再生、再生、再生――どれもこれもが虐殺に満ちていた、誰かの叫び声で、彼女の笑い声で溢れていた。

 ――嘘だ!!

 もはや絶叫だった。
 絶対零度の冷たさ、極寒の吹雪の中で叫ぶかのように全身を震わせながら、キャロが悲鳴のように泣き叫ぶ。
 届かない。
 だけど、意味は無い。
 だって、嘘。
 嘘というのが嘘。

「うそだよ、うそだよ、ごめんね。えりおくん」

 竜が狂う。
 世界がギチギチと音を立てて、歯車を砕きながら回転し続ける。
 嗚呼、世界とはこんなにも歪つで、醜くて、救えない。
 世界の敵、それは全てを絶望したもの。
 まさしくその体現。
108リリカル! 夢境学園 ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 18:54:02 ID:QtBMsIdl
 
「だってわたしはえりおくんだけじゃなくて、だれもかれもきらいなんだもん」

 愛してなんていない。
 誰も。
 誰も。
 フェイトも、エリオも、仲間も、両親も、一族の全ても、フリードでさえも愛していない。
 私は愛を捨てた。
 彼女は愛を否定する。
 だって、だって、だって。

「こんなせかいだいっきらいなんだから!」

 彼女は、私は、全ての思いをぶちまけた。



【Unlimited・EndLine/SIDE 3−15】



 対峙する、空気が張り詰めて、パチパチと木々が燃える空間の中でエリオは血を流しながら黒き機械仕掛けの槍を握り締めていた。

「キャロ……キャロ・ル・ルシエ」

 少女が痛みを抱えていることは悟っていた。
 年齢には似つかわしくない礼儀正しさ、子供ならではの解放的な雰囲気が一切ない様子に厳しく育てられたのか、それとも内向的に成らざるを得なかった過去があるのか。
 何故か後者だとエリオは判断していた。
 だからこそ、現状を把握し、理解し、その対処方法を考え続ける。

「僕は貴方を知らない」

 視界の端に映る黒い異形、人外たる甲殻の生命体、赤いマフラーを靡かせた存在。
 雄雄しき威圧、幾多の傷を刻まれていてもなお衰えないその威光。
 鋭く爪を生やし、口無き彼は無言でエリオを、狂える白竜を、そして裏返った少女を紅玉のような複眼で見ていた。

「だけど」

 今までの戦いを思い出す。
 一人で突貫し、錬鉄の鎖の壁に、憤怒に塗り潰された白竜の吐息に、薙ぎ払われた自分の無力さをどこまでも冷静に把握。
 一人で攻めきれない。
 一人では勝てない。
 だからこそ。

「目的も知らないけれど、助けてくれるのですか?」

 エリオは静かに告げる。
 陽炎に歪む大気の中に声音を飛ばした。
 そして、その声に――異形が首を縦に振るう。
 意志の光が確かにその複眼から読み取れた。同時に――チリチリと脳内で焦げ付くような音がした。

 ――その子はガリュー。

「っ」

 念話の強制介入?
 エリオが一瞬眉を歪めて、その行き先を辿ろうとした瞬間、ざわりとノイズのように声が激しくなった。
109アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 18:57:33 ID:QtBMsIdl
 
《サポートする。この場の混乱は、悲しみは私たちの目的ではない。ガリューを手助けさせる》

 それは幼い少女の声のように聞こえた。
 感覚からすれば遠い、どこか離れた場所からガリューと呼んだ召喚獣とのリンクを通して監視しているのか?
 強制的な念話介入、どれだけの力量。

《感謝を。けれど、目的とはなんなんですか?》

 エリオが尋ねる。
 空気が強張っていく、しばしの休憩は終わり、笑い転げる少女の笑みが深まっていく。
 嗚呼、まるで泣いているかのようだ。
 嗚呼、あの少女はあのような顔を浮かべることが出来たのか。

《……私たちは不必要な痛みを求めてなんかいない》

 それは嘆き悲しむような声だと、エリオは何故か感じていた。
 馬鹿な、と思う。
 共感なんて感情はもはや擦り切れたと信じているのに。

「こんなせかいだいっきらいなんだから!」

 そうして、誰かの少女の声を聞きながら、もう一人の少女の絶叫をエリオは聞き遂げた。
 感情の整理が付いたのか、それともその真逆か。
 狂乱の竜使い、その蔑称に相応しい雄雄しさでフリードリッヒが翼を広げ、大気を打った。
 その上に立つキャロが笑みを零す、まるで聖女の如く、慈悲に溢れた残酷極まる無垢なる笑み。
 彼女の心は肉体に通じていない。
 それが理解出来る、何故ならば同種類の笑みを常にエリオは浮かべ続けているから。

 ――既に夢はない、自分は無い、ただの代用品。

 そう悟った過去がフラッシュバックのように脳裏を過ぎる。
 無駄なことを、非効率的だ、そんなのをしていたら誰の役にも立てない。

「行きます」

 心の声、漣にも似た幻聴を押し潰し、エリオは足を踏み出した。
 四肢の神経速度を加速、肉体が悲鳴を上げるのにも構わずに増幅させ、思考よりも速く動作速度を上昇させる。
 機械仕掛けの槍を起動させて、バリアジャケットの風圧相殺化機能を全開しながら、音速に迫る速度で跳躍した。

《ガリュー!》

 念話が聞こえた、瞬間、ガリューと呼ばれた異形が地面を蹴り飛ばし、亜音速の速度で掻き消えた。
 二振りの黒い槍が、別々の方角から打ち込まれるようなものだった。
 少女の動体視力では見切れない。
 しかし、生態系の頂点に立つ竜種族であるフリードは大地を疾走するエリオを捉える。そして、キャロは反射的にアルケミックチェーンを動かした。
 片方には炎の粛清を、片方には鉄の贖罪を求める。
 溶鉱炉の紅よりもなおも眩い焔が一閃するように地面を薙ぎ払い、その進行上に居たエリオが速度を落として、無理やりに横へと跳ねた。
 回避、皮膚が焦げるような熱量。
 薙ぎ払われた場所から吹き上がるのは炎の壁、無理やり通れば全てを焼き尽くす、痛みを避けるわけではないが、致命傷になるとエリオは本能的に判断し、迂回することを余儀なくされた。
 一本目の槍は払われた。では、二本目は?
110名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 18:57:58 ID:71EXMz/l
支援
111アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 18:59:03 ID:QtBMsIdl
 
「あははははは!!!」

 銀色の水流、そうと呼ぶに相応しい光景だった。
 木々を蹴り飛ばし、羽根で大気を噛みながら迫る甲殻の異形、瞬く間に少女に迫り、その細首を折れるだろうガリューの俊足。
 しかし、その爪は、その突撃は蜘蛛の巣のように展開され、膨大な水銀のように流れ零れる錬鉄の障壁によって遮られた。
 激しい金属音、けれどそれは鼓膜を掻き毟るかのような鎖の掻き鳴らす音に飲み込まれる。
 撃ち込まれる鋭い爪に何本もの鎖が断ち切られていた、だがそれがどうした。
 自らにあるのは数十、数百にも至る鎖。
 通じはしない。
 自惚れと自負が占める狂喜の笑み。
 幼い彼女、苦痛と罪を背負い、嗤うことと憎むことしか知らぬ彼女が悟るのは困難だったのかもしれない。
 激しく撓んだ鎖の壁、それに拳を叩き込んだガリューが複眼を決意に輝かせて、音速を超える速度で足を打ち出したのを。
 誰も知らない彼の正体を。
 その身に魔力はなく、リンカーコアを内包していない、厳しい生態系が生み出したただの生命、魔獣と呼ばれる強靭極まる甲殻生命体。
 それの踏み込みは亜音速に至り、加速すれば音速に迫り、その一挙一動は遷音速に到達する。
 打ち出される蹴りは音響の壁に到達し、激しい反動を返し、衝撃破を撒き散らす。
 すなわち――“蹴れるのだ”。
 ガリューは大気を蹴り飛ばし、瞬間移動のような速度で上空に舞い上がっていた。
 少女の上を取ったのだ。
 木々よりも上に、狂える竜よりも、壊れた少女よりも、天へと近い場所へと跳躍していた。
 空を飛翔するかのようなその動作、弾丸のように、魔法のように、命の極まりが見せる至極の光景。

「ひっ」

《いけぇ!》

 キャロの悲鳴、鈴を鳴らすかのような少女の指示、そのどれよりも早くガリューは落ちた。
 太陽を蹴りつけるかのように大気を二段、続けざまに蹴り飛ばし、落下する。
 その速度は時数百キロを越えて、千数百キロにも至るヒト型の音速の弾丸にして刺突。
 それを防げたのはまるで事前に配備しておいた鎖の自動防護の恩恵だった。

「くぅ!!」

 音速故の膨大な質量の増大、加えてコンクリート壁すらも砕く異形から放たれる蹴打。
 数百本の錬鉄の鎖、厚みにして数メートルに匹敵する鋼鉄の壁の如き防護に叩き込まれた衝撃はまるで大地が揺るぐかと錯覚しそうなほどだった。
 砂上の砂の如く触れた鎖が砕け散り、バラバラと粉雪のように飛び散っていく。
 貫通される、圧倒的な死の暴力が迫ってくる。
 紅い複眼が鮮血のように輝き、無音の咆哮が響いて、少女は叫び声を上げた。

「こないでぇ!!」

 両手に嵌めたケリュケイオンが光輝を発し、キャロの恐怖心を拭おうと注ぎ込まれる魔力を増幅した。
 皮肉にも彼女を、仲間を護るためにシャリオ・フィニーノの手によって設計されたそれは仲間を傷つけ、己のみを護るための我欲の力と化していた。

『!』

 数本、数十、数百本と鎖を叩き追っていたガリュー、その爪先が一瞬を切り刻み、刹那を凌駕し、六徳にも至る反応速度で爪先から感じる違和感に気付いた。
 そして、何が起こるのか推測するよりも早く人外の獣はもう片方の足で鎖を蹴り飛ばし、離脱していた。
 神速の反応、旋風の如く離脱した彼が食い込んでいた場所からは激流の如くうねる錬鉄の鎖の動作。ガリガリと獣が牙を噛み合わせるかのような金属音と火花散る散る鋼鉄のシュレッダー。
 赤熱化するほど激しい摩擦と鋼鉄のガジェットのフレームさえもめり込ませる鎖の圧力、それらが組み合わさり生まれたのは残虐なる切断の激流。
 轢き潰し、引き裂き、切り刻む。

「きりさけぇえええ!!」

 残虐性のリミッターが恐怖によって壊れたのか、それとも元々存在しなかったのか。
 新たなる使い道を見つけた銀色の処刑鎖が、世界すらも縊り殺さんと吹き荒れた。
 じゃららら、少女の周囲を、竜を守護するかのように鎖が舞い踊り、大気を切り裂きながら、他者を拒絶するかのような勢いで鋼色の激流は全てを薙ぎ払う。
 銀色の風が木々を叩き切り、大地を爆砕する。
 そして、さらに追撃で吐き出されるのは竜の吐息、鋼鉄すらも溶かす灼熱。
112アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 18:59:35 ID:QtBMsIdl
 
「あははははは!!」

 木々は燃え、大地は焼きつき、空は赤い焔によって輝きを失う。
 地獄のような光景。
 その中で足掻くのは二人の黒影。
 切り刻まんと迫る鎖鞭をストラーダの穂先で切り裂き、うねるように迫る数十本の鎖をスラスターを吹かした機械仕掛けの刀身で捌き、薙ぎ払い、叩き潰すのはエリオ。
 焼き尽くさんとばかりに燃え上がる焔を、音速を超えた掌打で吹き散らし、傷だらけの体を烈火に輝かせた業物の刃物が如きガリュー。
 二つの脅威は終わらない。
 二つの刃は少女の命を脅かし続ける。
 だから。

「ふりーど!」

『GYSAAAAAA!!』

 白き翼が、口内から吹き荒れた己の咆哮に震え上がる。
 竜の咆哮、資格無きものの魂すらも凍りつかせると言われた恐怖の象徴。
 だけど、恐怖を忘れた存在意義を放棄した少年は決して怯まず、誓いと誇りの中で恐怖を克服した漆黒の甲殻獣も恐れはしない。
 攻撃の勢いが僅かに止んだ、そう判断して接近してくる二人。
 そんなことは百も承知だった。
 だからこそ、キャロがその小さな手を振り乱し、天を掴み取るかのように伸ばす。

「まいあがれ」

 雄雄しく偉大なる翼が空を登る。
 竜族のリンカーコアが唸りを上げて、魔力を放出し、その遺伝子に刻まれた術式が慣性制御を行い、重力の楔から己と操り手を解放する。
 上昇、決して地を這うものには手の届かぬ高みへ。
 紅蓮に満たされた地獄から脱し、高みから見下ろす支配者の如き高度に。
 エリオでは、ガリューでは、跳躍しても届かぬ場所へと登っていく。

「キャロ!」

 エリオが声を上げて、上を見上げる。
 ガリューが同様に天を見上げる。
 そして、空高く輝く太陽を逆光に、キャロは笑った。
 楽しそうに、残酷に、歌声を上げる。

「もやせ」

 白竜が息を吸う、周囲に満ちる魔力素を吸い上げて、リンカーコアに変換された魔力を溜め込んでいく。
 エリオが、ガリューが、魔法によって造り上げられた高圧の刃を打ち上げ、音速を超えた一撃による衝撃破を射出する。
 だが、無駄だ。
 貴様ら如きの風で竜の翼を邪魔することなど出来ぬ。
 そう嗤うかのように、圧倒的な灼熱が、太陽の如き焔が眼下へと撃ち込まれた。

「っ!」

 まるで燃え盛る隕石が落下してくるかのような光景。
 炎が渦を巻いて、地上へと降り注ぐ。
 火炎のスコール。
 そして、地上に残された鎖たちがキャロの指示に従い、地面を掘り返し始める、まるで喝采を上げるかのように土砂を巻き上げて、焔に熱せられて、火の粉のように周囲を熱で満たし始める。
113アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 19:00:48 ID:QtBMsIdl
 
「まずい!」

 直撃すれば消し炭も残らない、触れれば焼き焦げ、掠るだけでも今のバリアジャケットならば防げずに皮膚の炭化を果たすだろう。
 撒き散らされる赫炎は大地を熱泥に変えるだろう。
 非力な人間の少年を殺すには十分過ぎ、強靭極まる甲殻生命体をも死に至らしめる焦熱の環境に作り変えていく。
 避ける、躱す、逃げる。
 それら全ては当たり前だけどいつまで逃げられる?
 ……無理だ。
 遠からず限界は来る、歯車が回らなくなる、命という名の歯車が止まる。

「ルフト」

 一秒後には焼き尽くされる草木を蹴り飛ばし、魔力を振り絞りながら、ストラーダに内蔵された演算機構が迅速に且つ確実に処理を終えて大気を圧縮していく。
 うずまけ、絡まれ、纏い尽くせ。
 先ほどよりも協力に、前の一撃よりも精密に、前回よりも力強く生み出されろ。
 大気を圧縮し、作り出した高圧縮の暴風の如き刀身。

「メッサー!」

 それが降り注ぐ炎の一つを打ち込まれ――飲み込まれた。
 当たり前だ、風に炎は砕けない。嵐でもない限り、燃やすための糧となる。
 だが、それでいい。
 圧縮された酸素の塊、それを思う存分貪り――果てろ。

「!? ふりーど、とまって!」

 膨れ上がる、醜く肥え太るかのようにフリードリッヒが放つ吐息が燃え上がる。
 キャロが悟るが、遅い。

「散らす」

 魔法を用いて造り上げられた神話の如き焔。
 竜が放つ灼熱、けれどそれは物理法則から全て解き放たれているわけではない。
 所詮幼竜、燃焼という現象の補助に酸素を、物質を頼っている、常識領域内の焔。
 ならば酸素を叩き込んでやればどうだ。
 より燃え盛り、より轟々と己の許容量を超える。
 エリオがストラーダを地面に突き立て、障壁を展開すると同時だった。
 世界は赤く塗り潰された。
 まるで夕日の如く赤光に満たされる。
 目を閉じてもなお眩い景色、皮膚が焦げる、息を止めねば肺が全て焼き尽くされそうなほどの熱風が吹き荒れる。

「    」

 悲鳴のようなものが聞こえた気がするが、爆炎で音は掻き消されたため、気のせいだったのかもしれない。

《目を開いて》

 声がした。
 指示に従い、目を見開く。
 世界は未だに赤光に満たされて、開いた瞬間、眼球が乾いていくかのようだった。

《竜が翻弄されている、今なら――》

 白き竜は己の吐息によってのみダメージを負っていた。
 翼を必死にはためかせようとしていても、爆圧の衝撃で術式が狂ったのか、まるで嵐の海に揺れる小船のように安定しない。
 その上に佇んでいた少女は必死にフリードにしがみつき、声を上げていた。
 落ちれば己の手によって作り出した炎の中で焼け死ぬか、それとも落下の衝撃で砕け散るか。
 どちらにしても死は免れない。
 だからこそ、エリオは限界を超えて、軋みを上げる足を突き出した。
114アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 19:03:24 ID:QtBMsIdl
 
「ぁ」

 涙が零れる、眼球の乾きに反応した肉体の生理機能。
 涙を流しながらエリオが走る、脳内で囁く見知らぬ声よりも早く。
 疾風と化して、ボロクズとなったバリアジャケットを風圧で引き千切らせながら、加速する。

『GYA!』

 迫る圧迫感、それに気付いた竜が、エリオを見た。
 怒り狂っている、狂気に歪められた、あの純真無垢な色はその瞳に浮かんでいない。
 ただ衝動に突き動かされて、本能の一部に支配された、狂竜に過ぎない。
 そして、それは己の衝動のままに顎を開き、火炎を生み出そうとした。
 馬鹿な、主の危機だというのに。

「フリードぉ!!」

 叫び声を上げた。
 そうしないと熱した大気が肺の中に入ってきそうだったから。
 感情はどこまでも湧き上がらない、そう信じている、少年は思い込む。
 そうでないと意味が無いと思い込んでいるのだから。

《だいじょうぶ》

 エリオの心が通じたかのように、透明な言葉が脳裏に響いた。
 白竜が焔を圧縮する、それを解き放った瞬間の反動で主が振り落ちるかもしれぬというのに。
 凶悪な顎が、大きく開かれて――その刹那まで真横に出現した漆黒の閃光に気付かなかった。

《あなたはすくえばいいんだよ》

 ガリュー。
 傷だらけの彼は果たしてどこまで高みに居るのだろうか。
 煌めき輝く輝きは確かにその複眼を焼き、燃え盛る熱は彼の知覚力を潰しただろうに、それでもなお主の指示を、己の経験と感覚を信じて虚空を跳躍し、果たすべき役割を護る気高き騎士と化して、蹴打を白竜の顎に叩き込んでいた。
 白竜の強靭な外皮をも浸透し、並大抵の衝撃では伝わるはずのないフリードの脳へと打ち込まれた衝撃はその脳を上下に揺らして、失神させた。
 鎧袖一触の如き呆気無さ。
 魔力が拡散する、ぐるりと白目を返し、フリードが翼を、全身の力を脱力させた。
 己の肉体を構成していた膨大な魔力体が拡散する、数十、数百年後の己の肉体を再現していた血肉は魔力の輝きと共に霧散し、本来の小さな白竜へと姿を変えた。
 結果、キャロ・ル・ルシエの体は落下する

「あ」

 しがみ付く対象を失い、支える足場を失い、何もかも失った少女は虚空の彼方で、眼下に広がる地獄に絶望の顔を浮かべた。
 焦熱地獄の如く熱せられた大地、原型を留めない草花、火に燃え続ける木々、命の気配などなく、何もかも荒廃するだけの世界。
 重力の鎖が少女を捕らえて、悪魔が地獄へと引きずり込まんと嗤ったかのようだった。

「  」

 少女が声を上げたのかもしれない。
 時間はなかった、叫び声を上げる間に地面へと叩きつけられる、そんな短い時間。
 だけど、声を上げたのだ。
 たすけて と。
 だから――

「助けるよ」

 紅く輝く髪を翻した少年が、炎の壁を突き破り、少女を救って見せていた。
 落下する少女の勢いをも相殺し、安全な場所まで跳躍するだけの速度と勢い、黒い機械仕掛けの槍が持つ推進機構を起動させて、エリオはキャロを救い出す。
 その手に少女の肢体を抱きしめて、遠く離れた位置に着地した。
115アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 19:06:05 ID:QtBMsIdl
 
「……なんで」

 キャロは呆然としていた。
 散々酷いことをしたのに、殺そうとしたのに、自分を助けたエリオの意図がまったく分からなかった。
 誰もが拒絶した。
 一人も助けようなんか思ったことなんてなかったはずだった。
 同情の言葉を漏らすフェイト・T・ハラオウンだって直接自分の暴走を見たことはない、きっと拒絶すると信じ込んでいた。

「なんでたすけたの?」

 こんなにも酷い怪我をしているのに。
 エリオの顔色は死人の如く青白く、着地をした瞬間その体のどこかから折れるような不吉な音が聞こえて、キャロを抱きしめる手は真っ赤に染まっていて、上半身は焼け焦げて、醜い傷跡だらけで、今にも死にそうだった。
 こんなにも小さいのに――エリオはキャロとそれほど背丈が変わらない。
 こんなにも細いのに――エリオの手は少女の手と見間違いほどに細い。
 誰かを救うなんて出来るほど大きいとは思えないほどエリオは子供だった。
 苦しいと思った。
 自分だったら死んでしまいたいと思うほどの重傷だった。
 だけど、エリオは……笑っていた。

「助けて。って、言っていたから」

 誰かの役に立つことだけが己の存在意義だと少年は妄信する。
 己の父は、母は、そう信じていた人たちは少年を、“本当のエリオ・モンディアル”の代用品としてしか彼を見ていなかった。
 そのための肉体、そのために調整された能力、そのために養成されていた人格。
 かつての彼の絶望を知る者はいない。
 かつての彼の絶叫を聞いた者はいない。
 既に彼は壊れていた、自分を放棄していた。
 だからこそ、【代用品】としての役割を全うしようと思った。
 だからこそ、誰かの役に立とうと思った。
 “それが彼の誓い”。
 正義の味方なんていう幻想の如き存在。
 使い勝手のいい道具、それに成り下がろう……いや、その程度の価値しかない故の行動倫理。
 そんな少年の心理を、たった今救われた少女は知らない。
 片鱗しか知らない、その全てを知らない少女はただ思う。

「あ、りがとう」

 尊い人だと思った。
 ただ尊敬すべき少年だと感じて、感謝を発す。
 そして、ボロボロと涙が零れた。
 枯れ果てたと思っていたのに。
 怒りと悲しみ、苦痛のみを押し付けられた人格――そう思い込んでいた己自身の演技。
 彼女であり自身でもある少女はボロボロと目尻から溢れんばかりの涙を零して、嗚咽を漏らした。
 怒りと悔しさが、涙に乗って心から流されていく。
 彼女には悲しみがあった、沢山の怒りもあった、溢れんばかりの苦しみが満ちていた。
 だけど、悲しめなかった。
 泣き叫んで、悲しいと、辛いと、嘆く機会がなかった。
116名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 19:09:45 ID:t1IlLoii
支援
117アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 19:10:06 ID:QtBMsIdl
 
 ――力を持つものは災いを呼ぶ。

 ――神竜を呼び出した主が悪い。

 お前が、君が、貴様が、主が、悪い悪い悪い。
 全て責める言葉、咎など無いのに。
 畏怖と嫉妬が混じった愚か者たちが罵声をぶつけ続けた。
 無垢なる巫女の彼女はそれを受け入れ、無罪なる咎を妄信し、己を責めた。
 悲しんでならない、自分が悪いのだから。
 怒ってはいけない、自分が悪いのだから。
 必要無き毒を呷っていた。
 自責という毒は幼い彼女の血流を巡り、その心の臓腑を痛めつけ、狂わせていった。
 無意識の蓋、巫女としての自信の喪失、それらが白竜との心の繋がりを自ら遮断していた。
 大の大人でも耐えられない痛みは、苦しみは、苦痛は逃避へと結びつく。
 それは自然な防衛本能、誰でもする決して罪のない行為。
 だけど、それすらも己の罪だと考える、優しすぎる少女。
 だからこそ、選ばれたのかもしれない。
 だからこそ、壊れたのかもしれない。
 運命は皮肉に満ちて、こんなはずじゃなかったことばかり引き起こす。
 それを悲しめることは幸いなのかもしれない。
 轟々と燃え盛る森の外れで、キャロは止まらない涙と嗚咽を漏らし続ける。
 毒を抜き取るために、汗を噴き出すように、数年越しの悲しみだった。

「キャロ……大丈夫?」

 激痛に満ちているのに、エリオはキャロの心ばかりを心配する。
 なんて異常者。
 なんて歪んだ人生の結果。
 壊れた少女と歪んだ少年が邂逅している。
 かつて狂った女性の下で保護されている。
 運命はまったくもって奇妙だと誰かが見れば語るだろう光景。
 その時、すたりと静かな足音が響いた。

「……貴方か」

 小さな白竜、その気絶した体躯を抱えた黒い異形が背後に立っていた。
 キャロが一瞬だけ涙を止めて、エリオにしがみ付く。
 それはたまらなく激痛に満ちていたけれど、エリオは笑みを取り繕って優しくキャロの髪を撫でた。

《その子には必要なんでしょう?》

「ええ」

 脳内で響く声、それにエリオは応える。
 ガリューがフリードを差し出す。

「フリード!」

 キャロが必死に手を伸ばす。
 大切な友達、愛してないなんて嘘だった。
 思い込みで信じた真実、偽り、皮一枚捲れば剥がれる薄っぺらい嘘。
 誰も彼も愛していた。
 誰も彼も好きだったからこそ好きじゃないと信じ込まないと傷つけられなかった。

「フリード……ふりーど……ごめんねぇ……」

 小さな体躯、温かい白竜の体温、それらを感じながらボタボタと涙が溢れ出す。
 悲しみではなく、嬉しさにキャロは泣いた。
118アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 19:13:52 ID:QtBMsIdl
 
「それで、貴方はこれからどうするつもりですか?」

 ガリューと念話の相手にエリオは尋ねる。
 その目的は果たしたのか、けれどもエリオが見たのは単なるトラックの破壊のみであり、何をしたかったのかが分かっていない。
 達成の障害になると、エリオと手を組み、キャロを打倒した可能性だってあった。
 戦いになるかもしれない、そう考えると、再びエリオの髪が伸び始めて、ギチギチと爪が伸びていく。
 負っていたはずの傷口が異常な速度で埋まり始める。
 滝のような汗をエリオは流しながら、機械仕掛けの槍を握り締めた。

《だいじょうぶ》

「もう、目的は果たしたから……」

 脳内で響く声、それに続いて遠くから透明な声が聞こえた。

「え?」

 瞬間、ぽーんと何かがエリオの上空を過ぎ去って、燃え盛る木々の中に落下する。
 それはすぐさま火炎の中に飲み込まれていったが、植木鉢のように見えた。
 それが複数燃えていく。

「これでおわり。ロングボトムは動かない、処分完了」

 声がする。
 その方角に目を向けると、風が吹くかのような速度でガリューが現れた人影の傍に立っていた。
 そこには居たのは美しい少女。
 紫水晶を研磨したような瞳、芸術神に祝福でも受けたかのように赫炎の中で揺らめく髪、神なる手が作り上げた至高の人形細工のように整えられた肢体。
 神ではなく、悪魔にでも崇拝するかのような黒い衣服、死者への手向けのようなゴシック調の衣装。
 十代半ば程度にも満たない幼い少女、それが今まで念話をしてきた相手の正体だった。

「君は?」

「だれ?」

 エリオとキャロが静かに訊ねる。
 紫の少女は儚げに微笑むと、静かに告げた。

「ルーテシア……それだけで十分」

 その手に嵌めたブーストデバイス、それを輝かせながら、ルーテシアと名乗った少女はまるで神へと祈りを捧げるかのように歌声を鳴り響かせる。

「燃え尽きた命よ、大地へと還れ――地雷王、召喚」

 虚空より顕現せしは黒い甲殻を纏った召喚蟲。
 巨大な体躯を燃え盛る大地に突き刺すと、警戒するエリオを横目に唸り声を上げるように放電を開始した。

「さようなら」

 ガリューに抱えられて、ルーテシアが空へと舞い上がる。

「まて!」

 エリオが叫んだ、瞬間、全てを掻き消す激動が大地を襲った。
 大地が割れる、大地が吼える、大地が鳴動する。
 燃え盛る木々を優しく飲み込むように、木々が折れて、噴き出した土砂が炎を喰らい尽くしていく。
119アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 19:18:15 ID:QtBMsIdl
 
「エリオくん!」

「っ!」

 そうして、大地の震動が終わり、エリオとキャロが目を開いた時残っていたのは燻り火のように残った木々の残骸と、割れた大地、そして誰もいない焼け野原の光景だった。
 まるで何もかも吹き消されたかのように。

 全て消失していた。




 こうして少年と少女による、一人の少女との邂逅は終わりを告げる。

 因縁の再開はまた後日。

 そして、舞台の狂騒劇はまだ続いている。

 終わりは近い。

 さあ、派手に終わらせよう。


 死神は喜びに浸るほどに。




 ―― To Be Next Scene SIDE 3−16





/////

投下終了です。
さるさんが怖いので、ここにて投下終了宣言。
一応これにてキャロ編がひとまず終了。
長かったSIDE3ですが、そろそろ終わりが見えてきました。
近いうちにUCATや他の連載を停滞させているものでも、更新するかもしれません。
読んでいただいてありがとうございました。
120名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 20:27:12 ID:t1IlLoii
GJ!!です。
エリオが歪んでいなかったら、このキャロは救えなかったろうなぁ。
原作以上にフリードとガリュー、地雷王が強くていいなぁw
やっぱり召喚された人外は人間を超越していないと。
121名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 21:31:45 ID:9qWGDZBj
GJ!!
ガリューがかっこいいw
あとロングボトムではなくロック・ボトムでは?
122リリカル! 夢境学園 ◆CPytksUTvk :2008/10/28(火) 21:37:13 ID:QtBMsIdl
少し時間が立ったのでレス返しです。


>>120
 基本人外のほうが能力的には上ということにしております。
 人間のほうが強かったら、何のための人外やねんと思いまして。
 野生のパワーを舐めるなという気持ちです。

>>121
 やっちまった ORZ
 ロック・ボトムですね。まとめのほうで修正しておきました。
 ご指摘ありがとうございます。
 ガリューは個人的に大好きなキャラなので、エリオのライバル的な存在として本編以上に活躍してもらうつもりです。


 レスありがとうございました!
123名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 23:11:45 ID:8qmnOjBv
いまさらだけれどロックマンゼロのなのはって結局ティアナに謝ってない?
124Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/28(火) 23:12:43 ID:j0+3z7RR
予約がなければ11時20分から投下します。
125名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 23:13:32 ID:twQx8oML
おおGJ!
ガリューが召喚獣っぽくていいなぁ
126Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/28(火) 23:21:43 ID:j0+3z7RR
夕暮れ、馴染みの商店街。
キャロは台に置かれた箱から手を抜いた。人差し指と中指の間には、四方形の小さな紙切れが挟まれている。
端を千切ると、それが袋状になっていることが分かる。途端、キャロの胸が高鳴った。

「キュクルー」

肩のフリードが、早くと催促するように鳴いた。頷き、紙切れを折り目に沿って破っていく。
全て引き千切ってしまわないよう、慎重に、慎重に。やがて、紙切れは端の一部分で繋がっているだけになった。
真剣な面持ちで、キャロは、紙切れの裏に書かれた数字を見た。

3。

ただそれだけだった。ただそれだけで、キャロには十分だった。
突如、ぱちぱちとけたたましい音が鳴り響く。
127Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/28(火) 23:23:29 ID:j0+3z7RR
「三等賞! おめでとうございますっ!」

台の前で、赤いはっぴを着たおじさんが手を叩いていた。周囲の見物人も、おおと声を上げる。
商店街で買い物をするともらえるチケット。それを三枚集めると、クジを一回引くことができるのだ。
もちろん景品も数多く用意してあり、一等は温泉旅行となっている。ちなみに、はずれの場合はお情けとしてポケットテイッシュがもらえるようになっていた。

「やったねフリード! 三等だって!」
「キュルルー!」

フリードと喜びを分かち合うキャロのスカートから、ポケットティッシュが六つ、零れ落ちた。
それを見た通行人が、くすくすと忍び笑いを落としていく。それをそそくさと拾い集めつつ、おじさんに顔を向けた。

「それで、景品はなんですか?」
「ああ、これだよ」

おじさんが背を向ける。心臓の鼓動が、さらに激しさを増す。
元々あわよくばとチケットを集め、くじを引いたキャロだったが、まさか三等が当たるとは思っていなかった。
光太郎が仕事から帰ったら、一緒にこの喜びを分かち合おう。口が大きく笑みの形に開いているのを感じながら、キャロは景品が出てくるのを待った。
128Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/28(火) 23:24:55 ID:j0+3z7RR
日が傾き、クラナガンが朱に染まる頃。
南光太郎は、タチバナ運輸営業所からの帰り道を歩いていた。顔には陰影が貼り付いているが、表情は平和を満喫して柔和だった。
久々に仕事が早く終わり、キャロとフリードにケーキの土産を買っていく余裕があった。
いつも寂しい思いをさせているのだ。保護者の義務として、いや義務ではなかったとしても、それを埋める努力をしなくてはならない。
ただでさえ、あまり遠出はできないのだから。

(少なくとも、キャロの周りに管理局の影はない……もうちょっとだけ、行動範囲を広げても平気だろうか)

時々思い返さなければ忘れそうになるが、キャロは管理局から逃げ出してきた身だ。
今はガジェット騒ぎによって後回しにされているが、事件が終わればそのままにはされないだろう。そうでなくとも、油断して衆人の前で騒ぐことがあれば、それもやはりただではすまない。
しかし、キャロは育ち盛りの少女である。その心と体を収めるには、今まで通りの領域では狭過ぎる。
真に将来を慮るなら――自分にその資格があるかは知らないが――もう少しくらい自由を与えてやるべきではないか。
アパートの部屋や商店街のみが世界というのは、あまりに哀しい。
129Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/28(火) 23:28:04 ID:j0+3z7RR
(これじゃあ、丸っきり父親だな)

光太郎は、忍び笑った。
死んだ実父の想いは知らない。半ば殺した義父は、ゴルゴムと息子に挟まれ、きっと苦悩しただろう。
光太郎がキャロの父親だとして、父親とは得てして苦悩にぶち当たる生き物のようだった。
考えている間に、慣れ親しんだアパートが見えてきた。
夕日を背景に、逆光で黒々とした横に長い建物。
営業所とアパートは、キャロが歩いてやって来られる程度には近い。
何かあってもすぐに駆けつけることができるように、近場を選んだのだ。
幸い、今までその「何か」が起きたことはない。幸いが永遠に続くとも思えないが、今何事も無ければ、とりあえずはそれで良い。

「………ん?」

アパートから約三十メートル離れた位置で、光太郎は足を止めた。
アパートの前に、見慣れない影がある。逆光のため、光太郎の視力を持ってしても全容は判然としない。
光太郎の目が、鋭く細まった。足元の石を蹴り上げ、右手に収める。
ただそこにいるだけの人なら、捨て置いても構わない。
が、万が一「それ以外」だった場合、小拳銃の銃弾に匹敵する投石を受けることになる。
ゆったりとした足取りで、光太郎は影に近づいた。指呼の距離にまで寄る必要はない。
ただ相手の姿が確認できて、投石がその威力を十分発揮できる距離に………
130名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 23:30:15 ID:n4BiKvTG
支援
131名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 23:30:28 ID:1HFBiLU4
支援
132Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/28(火) 23:31:29 ID:j0+3z7RR
「あっコウタロウさん! 助けてくださーい!」
「キュクルー!」

………何に躓いた訳でも無く、光太郎はずっこけた。何故か、そうしなければならない気がした。
影の正体は、キャロとフリードだった。より正確に言えば、自転車に乗ったキャロと、彼女の頭に乗ったフリードの、だ。
小さな手でハンドルを握り、足はペダルについているが、倒れないようにバランスを取るので精一杯らしい。
何故倒れないのかが不思議だった。
あの状態になってからどれ程の時が経っているのかは知らないが、一秒後に限界が来てもおかしくはない。
光太郎は立ち上がると、まず足でスタンドを下ろして転倒を防いだ。
次いで震えていたキャロを抱き上げ、アスファルトの上に降ろす。
フリードもキャロの頭から離れ、光太郎の頭に乗り移った。飛竜であるのが関係しているのか、やたら高い所に行きたがる。

「ふー…すみませんコウタロウさん」
「キュクルー」
「怪我はないようだけど……どうしたんだい、この自転車?」

服や本など、キャロに必要だと思う物は一通り揃えてあるが、自転車を買い与えた記憶はない。
値が張るからという理由もあるが、彼女の背景上、自転車が必要となるような遠出をさせることができなかったからだ。
どうしてもという時は光太郎が手を引き、目立たないよう雑踏に紛れて歩いた。管理局による拘束から逃れるために、こちらが勝手に決めた領域に閉じ込める矛盾。
何をしても零れ落ちる罪は、呪われた体が呼ぶものか。
133名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 23:32:52 ID:1HFBiLU4
改造人間が自転車をこいだらギアがイカレるかな支援
134Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/28(火) 23:33:54 ID:j0+3z7RR
ともかく、自転車については食卓の話題にさえ上げたことはなかった。
定期的に与えている小遣いも、貯めたところでとても手の届かないような微々たるものだ。
キャロは、窃盗を働くような子では無いと断言できる。ならば、自転車はどこから湧いて出たのだろうか。
問いに対し、返ってきたのは満面の笑みだった。

「実はですね……商店街のクジ引きで当たったんですよ!」
「クジ引き?」

そういえば、食卓の上に広げた長方形の紙を眺めて笑っていた気がする。
その時詳細は教えてもらえなかったが、商店街でクジ引き大会を催していることは知っていた。
閉塞的な生活の中での、数少ない楽しみだったのだろう。

「一人でここまで運ぶのは大変だったろう?」
「はい、でもうれしくて……それで、ちょっと乗ってみようかなって思ったんですけど…」
「クキュー」

乗ってみたはいいが、進むどころか倒れないようにするのが精一杯だったというわけだ。キャロの視線が、悲しげに地を這う。
しかし、そう気に病むようなことではない。
誰だって、最初から自転車を乗りこなすのは無理だ。むしろ、一人で挑戦しようとした勇気を讃えるべきだろう。

……………光太郎は悩んだ。

キャロが、自転車を自分の足にしたいと思っているのは明白だった。
光太郎にも、その望みを叶えてやりたい、という気持ちはある。
だがそれと同時に、今すぐ自転車を取り上げてしまうべきだという考えが首をもたげた。
追われる身には無用の長物と、無情な現実を叩きつけるべきだと。
しばらくの沈黙の後、光太郎は口を開いた。
135Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/28(火) 23:36:42 ID:j0+3z7RR
「……明日は休みだし、乗り方を教えてあげるよ」

元々、行動範囲を広げさせようと思っていたところだ。
キャロにも、光太郎の手の届かない遠くまで行く用は無い。
管理局も、これまで以上に注意すれば大丈夫だろう。光太郎は、そう自分に言い聞かせた。

「本当ですか!? やったー!!」
「キュクルー!」

キャロの顔に、再び笑顔の花が咲く。頭に乗ったフリードの顎を撫でながら、光太郎も笑った。
魔王の力など、天使の破顔一笑に敵うものではない。
自転車を階段の下のスペースに運び、後輪に備え付けられた盗難防止用のロックをかける。
これからはここで夜を明かしてもらおう。

「ところでキャロ、晩御飯は?」
「………あ」
「………キュー」
136Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/28(火) 23:38:24 ID:j0+3z7RR
《自転車を漕いだ日》

翌日、雲一つない晴天の下、キャロの自転車の特訓が始まった。
といって、どこに行く訳でもなく、特別なことをする訳でもない。
アパートの前は車道も無く、アスファルトで舗装されているためなだらかで、練習には持ってこい来いの場所だった。
別の景色も見せてやりたいとも思うが、しばらくはここで我慢してもらわなければならない。
服は厚手の物を着させてある。不意の転倒による痛みと怪我を軽くするためだ。
何が楽しいのかフリードが籠の中に入っているが、邪魔にはならないだろう。
体色が白いため、動かないと無造作に突っ込まれたスーパーのビニール袋のようだ。
夕暮れ時の商店街などでよく見られる。

「最初は、ぺダルを外しての練習だ」
「え? ぺダルって漕ぐところですよね? 外しちゃうんですか?」
「慣れない内は、足に当たって痛いからね」

光太郎は自転車の隣に屈むと、バイクの整備用のモンキーレンチでペダルとクランクの間のネジを取り除いた。ペダルを外し、脇に置く。反対側も同様にだ。
子供が自転車の練習を嫌がる理由の一つが、足に空転したペダルが掠り、痛いからだという。
どれほど厳しく教えたところで、受け取る側が拒否をしては意味がない。
ふと見ると、キャロとフリードが面白げにこちらを見下ろしていた。何にでも興味を示すのは、健全な子供の証である。
すぐ済むから、と笑顔を返し、光太郎はサドルを調節した。
シートポストを固定するシートクランプを外し、サドルを下げる。
それ以上は行かないというところで再びシートクランプを固定し、微細なずれが無いかを確かめた。
これで、練習の準備は整った。
137名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 23:39:52 ID:1HFBiLU4
あれ?BLACKってもっと黒くなかったっけ?
何このほのぼの支援
138Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/28(火) 23:40:43 ID:j0+3z7RR
「さあ、跨ってみてくれ」
「は、はい」

昨日の恐怖を思い出してか、キャロは恐る恐る自転車に跨った。
サドルを限界まで下げているため、爪先は完全に地面についている。
重さゆえか多少のふらつきはあるが、いざとなれば光太郎が支えるつもりだった。
転んで乗り方を覚えるのが自転車だが、少女に痛い目を見せたくはない、過保護とも言える甘さである。
良い父親には、きっと慣れなかっただろうなと光太郎は内心で苦笑した。
父親には、厳しさも必要だから。

「そうしたら、ちょっとずつ歩いて進むんだ。倒れないように、ゆっくりとでいい」
「わかりました………っとと」

言った傍から前輪が右に左に揺れ、フリードが不平を叫ぶ。
それでも少しずつ、少しずつ、キャロは前に進んでいった。
時折激しく動く小さな臀部に焦りを見て、光太郎は微笑ましさに口元を緩ませた。ゆっくり、ゆっくりとで良いのだ。
たっぷり一時間以上、同じ動きを繰り返させる。
倒れても光太郎がカバーできる距離を、何十周と歩かせる。
日輪の照射に汗を浮かせながらも、キャロは文句一つ零さず続けた。
自転車も空手も魔法も、反復練習によって体に染み付けなければ使い物にならない。
意識して出来るのは当然である。
そこから飛翔し、無意識の状態であっても体が動くようになって初めて覚えたと言える。
139Black短編@代理:2008/10/28(火) 23:54:20 ID:n4BiKvTG
「キャロ、一度戻っておいで」

頃合いを見て、光太郎はキャロを呼び戻した。
うんしょ、うんしょと重たげに自転車を動かし、キャロが寄ってくる。
そんな主を差し置いて、フリードが籠から頭だけを出して寝こけていた。
暖かな日差しに、睡魔も随分と張り切ったようである。

「次はどうするんですか?」

額に汗を浮かべながら、キャロは光太郎の顔を見上げた。白い頬にはほんのりと朱が昇り、少しだけ太陽に似ているように思えた。
確かにキャロは光太郎にとっての太陽だったが、これが親の欲目というものなのだろうか。
将来、絶対に美人になる、という確信はあったが。
タオルで汗を拭ってやりながら、光太郎は次の指示を与えた。

「次は、両足で踏み切って勢いをつけるんだ。止まる時は、ブレーキを使ってね」
「ブレーキ……」

キャロは顎を引き、自分の手元に視線を落とした。
今までの訓練で、キャロは足を使って自転車を止めていた。
しかし、それが通用するのは低速で進んでいる時だけだ。
速度が出ている自転車を止めるのに下手に足を使うと、逆にバランスを崩す結果となってしまう。
実際に人や車の通る道を走る時のために、今の内にブレーキを使い方を教える必要がある。
それをキャロに伝えると、少女は水を吸い込む砂の素直さで、言われた通りの事を形にした。

強く地を蹴って、先程より長い距離を走り、足ではなくブレーキで止まる。

やはり、初心者であることがよろめきを生むが、それでも確実に前へ進んでいく。
自転車が傾く度にぴくりと動く光太郎の足は、血の繋がらない親心から来るものだろうか。
速度が出た事に気を良くしたのか、フリードが籠からはみ出した尾をぱたぱたと振り動かした。
140Black短編@代理:2008/10/28(火) 23:57:56 ID:n4BiKvTG
「キュクルー!」
「もう、フリードだけ楽してー!」

そう言いながらも、初めは引き攣ってさえいた顔が、今では口辺に笑みらしきものを浮かべていた。
文句を零すだけの余裕が出てきたのだろう。
余裕とは慣れの産物である。
その証拠に、往復が十周を越える頃には、自転車の走りに揺らぎは全く見られなかった。
覚えが速い、というより速過ぎる。
もしかしたら、キャロには乗り物に対する才能があるのかも知れない。
これもまた、親の欲目か。二十代の青年らしからぬことを思いながら、光太郎は竜と少女の主従を見守った。


やがて、太陽が頭上に高く昇り、腕時計が正午を告げる。

「ふぇ〜……疲れましたー…」
「間に休憩を入れるべきだったね。ごめん」

へろへろと自転車を引き摺りながら、キャロが寄ってくる。
光太郎の敏感な嗅覚が、つんと濃い汗の香を捉えた。
朝から間断なく練習をしていれば、体力も底を尽くだろう。
終始籠に収まっていただけのフリードが、もっともっとと強請ってしきりに鳴く。

「ちょっと休ませてよフリード……」
「キュクルー!」
「まったく、フリードが一番気に入ってるな」

光太郎はぱたぱたと羽を動かすフリードを摘み上げると、キャロにミネラルウォーターのペットボトルを渡した。
子供は、油断しているとすぐに脱水症状になってしまう。
自ら苦しいとは言わないキャロなら、なおさらだ。

「それにしても、今朝まで乗れなかったのが嘘のようだね。これならもうペダルを漕いでの練習ができるな」
「コウタロウさんが教えてくれたからですよ」
141Black短編@代理:2008/10/29(水) 00:01:51 ID:n4BiKvTG
水を飲んでいたキャロが、照れ臭そうな笑みを零した。釣られて、光太郎の眼尻も下がる。
どこにでもある、親と子、あるいは兄と妹の構図がそこにはあった。
同時にそれは、光太郎には決して得られる筈のなかった光景でもある。
呪われた体が行きつく筈のない、幸福である。
恋した女性と結ばれ、子を成し、日々を平凡に生きる。
夢と呼ぶのもおこがましい、叶えるのは難しくない夢だった。
しかしそれは、今や遠く彼方に消えて朧にさえ見えない。
伸ばされたのが異形の鉤爪では、夢も捕まるまいと逃げるだろう。
いくら隠そうとしても、秘密とはいずれ暴かれて白日に晒されるものである。
醜い飛蝗男に、さて愛する人は逃げるか石を投げるか。
仮に受け入れられ、子を成すに至ったとしても、人ならぬ身の業をその子に背負わすことになるかも知れない。
例えそれら全てが解消されたとしても、今度は奪った命が重過ぎる。
今でさえ、殺めてきた者達の亡霊が、夢の中に現れて光太郎に叫ぶのだ。
即ち、不幸あれ、と。
夜中絶叫と共に飛び起きて、キャロとフリードを驚かせたのも、一度や二度ではない。

(……俺も自分の子供に、自転車の乗り方を教えたかった。義父さんが教えてくれたように)

今や遠い、遠過ぎる京都の町並みが脳裏に浮かぶ。
一乗寺にある秋月家の庭で、幼い光太郎と信彦は自転車の練習をしていた。傍には、義父総一郎と義妹杏子がいた。
こけつ転びつ、泣き出しそうになる光太郎の手を、義父は優しく握ってくれた。
さあもう一度、と言われるまま自転車に跨り、何時しか手足のように操れるようになった。
小学校高学年になると、今度は光太郎と信彦が教える番になった。
女の子用の、ピンク色の自転車に乗る杏子は、長い間補助輪が外せなかったことを覚えている。
自転車の乗り方とは、脈々と受け継がれていくものなのだろう。
義父から教えられたように、何時か自分の子供に教える日が来るのだろうと、光太郎は漠然と考えていた。
142Black短編@代理:2008/10/29(水) 00:04:09 ID:n4BiKvTG
あの、運命の日を迎えるまでは。

ゴルゴムは、光太郎の現在のみならず、未来さえも黒く染めてしまった。
自分の後に続く者は、きっと無い。自転車の乗り方を教える相手はいないと、光太郎は諦めていた。
それが、そうではなかったのだ。
神は、魔王にほんの少しだけ慈悲を与えた。キャロとフリードである。
自分から、何かを受け継ごうとしている子供がいる。あり得ない筈の幸せが、ここにある。
泣き出してしまいたい程に、嬉しかった。昨日までの心配が、砂粒のように小さく思えた。

「コウタロウさん」

キャロの声が、光太郎を思考の海から釣り上げた。はっとして、声の主を見遣る。
キャロの白い頬はぷくりと膨れ、形の良い眉が釣り上がっていた。怒っていることは明確である。
気付けば、胸に抱いていた筈のフリードが、彼女の肩に停まっていた。
どうやら、いつも通りの二対一のようだ。

「ど、どうしたんだいキャロ?」
「また一人で考え事してました! そういうの、ダメって決めたでしょ!?」
「キュクルー!」

以前の騒動を反省し、お互いに隠し事は無しにしようと決めたのである。
光太郎がキャロの行動を不審に思ったように、キャロも光太郎の長考に何事かを嗅ぎつけたのだ。
少女ながらに、女の勘が働いたと見える。今でこれなら、将来が恐ろしい。

「何を考えてたんですか! 私にも教えてください!」
「キュー!」
「そ、それは……」
143Black短編@代理:2008/10/29(水) 00:07:09 ID:56vzKJgc
キャロとフリードが、二人して詰め寄って来る。光太郎は言葉に詰まった。
隠し事、という程のものではない。
わざわざ口に出さずとも、自身の胸内で完結する話である。
しかし、それではキャロは納得しないだろう。といって、納得させられるような文句も思い浮かばない。
南光太郎は、決して器用な男ではないのだ。進退窮まった、その時だった。

「あれ? ミナミさん?」

聞き覚えのある、というかつい最近聞いた声。反射的に動いた光太郎の腕が、キャロとフリードを天高く放り投げた。
きゃー、とかキュクーといった悲鳴が、上から微かに落ちてくる。
人の体感にして、約一秒間の出来事だった。声を発した人物が、光太郎の前に立つ。

「やっぱり、ミナミさんだ。どうもこんにちは」
「こここれはハラオウンさん。こんにちは」

細い逆卵型の顔に、腰まで届く金髪。フェイト・T・ハラオウンだった。
以前、ホテルアグスタで予期せぬ対面をした時とは違い、地味な白いワンピースを着ている。
それでも、彼女ほどの有名さならば、外を出歩けば煩わしさが付いて回るのかも知れない。

「ところで、今何か飛んでいきませんでしたか?」
「気のせいでしょう」

言葉こそ短いが、光太郎は断固とした口調で言った。
フェイトが悪人でないことは知っている。いや、悪人でないからこそ、キャロの存在を知られてはならない。
彼女は管理局の執務官、つまり法を背に立つ者なのである。
対して、キャロは悪く言ってしまえば、管理局から逃げたお尋ね者。
手の届く距離にいるのなら、捕らえぬ道理がなかった。
隠し通さなければならない、全身全霊を以て。
144名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 00:09:13 ID:cgOxfjqO
投げんなw
支援
145Black短編@代理:2008/10/29(水) 00:10:35 ID:56vzKJgc
「ところで、ハラオウンさんはどうしてここへ?」
「どうして、と聞かれると……恥ずかしながら、せっかくの休暇なのにしたいことがなくて」

そこで、道を気紛れに任せた散歩を、といったところだろうか。
フェイトは恥ずかしげに笑った。歳はそれほど離れていない筈だったが、光太郎はキャロに似た幼さを感じた。
精神の未熟と取るか、心の美しさの現れと取るか。
光太郎の胸襟には気付かず、フェイトは言葉を連ねた。

「新人の子たちも、今ではすっかり仲良くなって……あっ、ごめんなさい。つい自分のことばかり」

さすがに、会って間もない他人に長々聞かせるような話では無いことに気づいたのだろう。フェイトの謝罪を、光太郎は穏やかな声で受け止めた。

「いえ、気にしないでください。ところで、お昼がまだならクラナガンにいい洋食屋があります。寄ってみたらどうでしょうか」
「ええ。では、失礼します」

腰を折りつつ、フェイトが立ち去るのを、光太郎は軽く手を振って見送った。
背中が見えなくなっても、近くに潜んでいないか、五感全てを使って探った。
怪しい気配、フェイトが戻ってくる気配がないことを確かめると、光太郎はほっと息をついた。どうやら、本当に偶然立ち寄っただけのようである。
とはいえ、キャロが見つかりそうになったのは事実。
自転車について今さらどうこうしようとは思わないが、以前に倍する注意が必要となるだろう。
光太郎の心身に、改めて覚悟が回った。

「……キャロ、フリード、大丈夫かい?」
「うー…ひどいですよコウタロウさーん!」
「キュクルー!」

光太郎が背後のアパートを振り返ると、屋根からキャロとフリードが顔を出した。こちらは偶然ではなく、そうと狙って投げたのだ。
先程と同じく怒っているようだったが、怒りの種類は別のものにすり替わっている。
その意味では、フェイトの来訪は神の助けと言えた。
世の中の複雑さを感じながら、光太郎はアパートの階段を上った。
146Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/29(水) 00:15:21 ID:+P0uCtBw
キャロとフリードを屋根から下ろし、昼食を摂った後、光太郎達は自転車の練習を再開した。
今度は、ペダルを付けての練習である。通常なら、二日三日と時間を掛けて至る所だったが、キャロはたった一日で辿り付いてしまった。
重ね重ね、恐るべき成長性だ。
正午を過ぎ、東に沈む道をゆっくりと歩み始めた日輪が、まだまだ強い光を照射する。
完全に沈む前に、キャロは自転車を手足のように扱えるようなっているかも知れない。その光景を瞼の裏に幻視しながら、光太郎は自転車にペダルを取り付けた。

「これでいい。キャロ」
「はい!」
「キュクルー!」

キャロは朝とは正反対に威勢良く自転車に跨り、フリードが、そこを巣と定めたように籠に飛び込んだ。
明日からは、これが日常となるのだろうか。
キャロは爪先を地面から離し、早速ペダルを漕ぎ出した。
心配するようなことは、何もなかった。
ペダルからチェーンを伝い、動力を得たホイールが回転する。
アスファルトの摩擦作用で、キャロとフリードを乗せた自転車が前へと進んだ。

「わあ……すごいです! はやーい!」

感極まって、キャロが快哉を叫んだ。
駆動部分の倍力効果により、自転車は地を蹴るよりも遥かに速く動く。
とはいえ初めからそれではバランスが取れず、翻弄されて倒れて無様を晒す。
地味、くだらないと思う練習も、いずれ羽ばたくための重要な下地なのだ。
満腔に喜びを現しながら、キャロはぺダルを漕いだ。ピンク色の髪が、風を受けて踊る。
籠の中で、フリードが楽しげに首を振っていた。

(ああ、やっぱり教えてよかった)

光太郎は、この光景を見るために生きているようなものだった。
他の一切が、他愛の無い些事に思えてくる。

………少し、速度を出し過ぎではないか。

キャロを乗せた自転車が、人としての光太郎が一跳びで寄れる距離を過ぎつつある。
147Black短編@代理:2008/10/29(水) 00:15:34 ID:56vzKJgc
キャロとフリードを屋根から下ろし、昼食を摂った後、光太郎達は自転車の練習を再開した。
今度は、ペダルを付けての練習である。通常なら、二日三日と時間を掛けて至る所だったが、キャロはたった一日で辿り付いてしまった。
重ね重ね、恐るべき成長性だ。
正午を過ぎ、東に沈む道をゆっくりと歩み始めた日輪が、まだまだ強い光を照射する。
完全に沈む前に、キャロは自転車を手足のように扱えるようなっているかも知れない。その光景を瞼の裏に幻視しながら、光太郎は自転車にペダルを取り付けた。

「これでいい。キャロ」
「はい!」
「キュクルー!」

キャロは朝とは正反対に威勢良く自転車に跨り、フリードが、そこを巣と定めたように籠に飛び込んだ。
明日からは、これが日常となるのだろうか。
キャロは爪先を地面から離し、早速ペダルを漕ぎ出した。
心配するようなことは、何もなかった。
ペダルからチェーンを伝い、動力を得たホイールが回転する。
アスファルトの摩擦作用で、キャロとフリードを乗せた自転車が前へと進んだ。

「わあ……すごいです! はやーい!」

感極まって、キャロが快哉を叫んだ。
駆動部分の倍力効果により、自転車は地を蹴るよりも遥かに速く動く。
とはいえ初めからそれではバランスが取れず、翻弄されて倒れて無様を晒す。
地味、くだらないと思う練習も、いずれ羽ばたくための重要な下地なのだ。
満腔に喜びを現しながら、キャロはぺダルを漕いだ。ピンク色の髪が、風を受けて踊る。
籠の中で、フリードが楽しげに首を振っていた。

(ああ、やっぱり教えてよかった)

光太郎は、この光景を見るために生きているようなものだった。
他の一切が、他愛の無い些事に思えてくる。

………少し、速度を出し過ぎではないか。

キャロを乗せた自転車が、人としての光太郎が一跳びで寄れる距離を過ぎつつある。
148Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/29(水) 00:20:18 ID:+P0uCtBw
「キャロ。一度戻っておいで」
「大丈夫ですよー!」
「キュクルー!」

転んで覚えるのは、上手く自転車を操る方法だけではない。
転ぶ痛みへの恐怖によって、子供は自己の能力を超えた無茶無理を抑えることを覚える。
が、キャロはその機会に恵まれなかった。才能が、返って仇となる事もある。
その分を、光太郎が厳しくして埋めるべきだったが、彼はあまりに甘く過保護だった。

キャロは、調子に乗っている。
今までにない爽快に、心が浮ついているのだろう。
気付けば、少女の背中が遠い。
前半の練習では動きそうで動かなかった光太郎の足が、ついに地を蹴った。
キャロは失念しているようだが―――今向かおうとしている方には、下りの急な坂がある。
あの速度のまま坂を下るのは、いくら慣れていても危険だ。
しかも、キャロにはまだ経験の積み重ねがない。

「きゃっ!」

自転車が前に傾き、上擦った悲鳴が上がる。
乗り手の意の外で、前輪が坂を下ろうとしているのだろう。
案の定、そしてそれと分かっていて止められなかった自身を、光太郎は蔑んだ。
魔王の強さなど、所詮無意味なものだ。
すぐにキャロの背中が消え、後輪がそれに続いた
149名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 00:22:00 ID:u50CUeGY
支援
150Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/29(水) 00:23:01 ID:+P0uCtBw
「キャロ!」
「きゃああ〜!!」

光太郎は坂の頂上に立った。
最前で十分速度に乗っていた自転車は、下り坂に来て更に速い。キャロの背中は、より小さかった。
休日でありながら人通りは無く、止めてくれる者はいなかった。
いや、一つある。者ではなく物だが、坂の下にブロック塀がある。
激突すれば、止まることは止まるだろう。フリードと、キャロを犠牲にして。
…………こんなことで、失ってたまるか。

「キャロ! ブレーキだ!」

光太郎は坂を下りながら叫んだ。急なブレーキは危険だが、少しでも速度を落とさなければならない。
しかし。

「っ…ダメです! ブレーキ…効きません!」
「何だって!?」

事態の悪化は、まるで怒涛のようである。
先程の練習では、ブレーキは通常に働いた。目視による点検でも、異常なところは特に見当たらなかった。
なら、そもそもあの自転車そのものが欠陥か。冗談が過ぎて笑いも出ない。
壁は、キャロのすぐ目の前だった。
フリードの鳴き声が聞こえないのは、怯えて震えているのだろうか。

「くっ……」

光太郎の両眼尻から、幾重にも枝分かれした青筋が伸びる。瞳に赤が煌めいた。
何処に衆人の眼があるか分からない。もし見られれば、身の破滅。
が、キャロに万が一があれば、それは心の破滅。
それでも、その覚悟を決めても、間に合うかは微妙である。
汗ばむ時期でもないのに、頬を冷たい汗が流れた。
151Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/29(水) 00:23:57 ID:+P0uCtBw
「きゃああああっ!」
「キュクルー!」

時間がない。突如自転車が止まる奇跡も無い。
光太郎は跳躍しようとした―――その時だった。

キャロを中心に置き、光が爆発した。

まるで太陽が降りてきたかのような光輝は、赤でも白でもなく、鮮烈なピンク色をしていた。

「これは……!」

光太郎は腕を上げ、見覚えのある光を遮った。転びそうになるのを、足に力を入れて防ぐ。
胸内から、最前とは別種の焦りが滲み出る。
光はキャロの魔力だ。
今までの経験から言えば、光の爆発は、フリードの暴走を意味する。
この街中で巨大化したフリードと戦えば、勝つにせよ負けるにせよただでは済まない。
光太郎の心配は、自身では無くキャロに向いていた。
もし管理局に身を寄せる日が来た時、前科は食う冷や飯の多さに繋がる。
自分に何があっても、キャロの笑顔が曇ることがあってはならない。
やがて、潮が引くように光が止む。光太郎は、恐る恐る腕を下ろした。

「………キャロ? フリード?」

坂に、二人の姿は無かった。ただ、無残に拉げた自転車が坂の下で躯を晒している。
何処に消えたのだろうか、とは考える必要もなかった。鳥の羽ばたきよりもずっと大きい羽音が、上方から降って鼓膜を叩く。

光太郎は、空を仰いだ。

そこには、フリードの巨体が浮かんでいた。鱗が陽を撥ねて白銀に輝く。
無事であったことに、とりあえず安心をする。だが、真の緊張はここからである。
今まで通り暴走していれば、拳を飛ばさなければならない。
光太郎は、身を固くして構えた。

構えて、待った。

待った。

待った。

…………そして。
152名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 00:24:16 ID:56vzKJgc
支援
153Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/29(水) 00:24:52 ID:+P0uCtBw
「キュクルー!」

いつもと同じ、しかしいつもより遥かに大きな鳴き声が光太郎の緊張を解く。
いやそれを超えて、光太郎は喜びをさえ覚えた。
フリードが暴走していない。それが指し示す所とは、つまり。

「うう〜……」
「キャロ!」

フリードの背中から、キャロが顔を出した。
意識がある。力に翻弄された時、キャロは必ず気絶していた。
少女は首を二度振り三度振り、四度に差し掛かろうとした所で光太郎に気付いた。
キャロが見下ろし、光太郎が見上げる、常とは逆の構図。

「ごめんなさい、私……」

キャロが悲しげに目尻を下げる。指示を聞かなかったことが、胸内に引っ掛かっているようだった。
しかし、危険に陥ったのはキャロ自身である。
それが無事で済み、彼女が心より反省しているのなら、光太郎から言わねばならないことなど何もない。
それよりも。

「すごいじゃないか、キャロ。フリードを、ちゃんと制御できてる」
「さっきは無我夢中で……どうやったのかわかんないです…」
「それでいいんだ。また、一緒に練習しよう」

フリードが降りてくる。羽ばたきが風を生み、光太郎の前髪を舞い狂わせた。
154Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/29(水) 00:25:53 ID:+P0uCtBw
キャロは、光太郎に背負われていた。
フリードの制御に成功したものの、体力が尽きてしまったのである。
坂を上る力すら無く、光太郎の好意に甘えることになった。

広い背中。暖かい背中。

忍び寄ってきた眠気を、光太郎の声が払う。

「この自転車、きっと欠陥品だったんだな。でなきゃ、いきなりブレーキが効かなくなる訳がない」

キャロは首を左に傾けた。光太郎の左手が、原型の分からない鉄屑を引き摺っている。
巨大化したフリードが踏み潰してしまったのだ。欠陥品でなかったとしても、これではもう乗れない。
そのフリードは既に元の大きさに戻っており、光太郎の頭の上で機嫌良く尻尾を振っていた。
気に入って、乗りこなしていただけに、心残りは強かった。
それを察してか、顔を坂の頂上に向けたまま、光太郎が言った。

「もっと頑張って、ピカピカの新品、買ってあげるよ」

疲れ切った体に、優しさが骨の髄にまで染み渡る。しかし、キャロは横に首を振った。

「……もうしばらくは、これでいいです」

青年の首に回した腕に、残った力を込める。苦しくないか、と思ったが、歩みに乱れはなかった。
暖かい、光太郎の背中。それに比べると、自転車は少しばかり冷たい。
アパートに着くまでの、ほんの数分。
それまでは、この世界で、ただ一人キャロだけが味わえる乗り心地を楽しむことにした。
155Black短編 ◆DZeBKLWqME :2008/10/29(水) 00:27:23 ID:+P0uCtBw
以上、投下終了です。バトル無しなので、ちょっと退屈かも。
代理の人お世話になりました。
156名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 00:38:38 ID:56vzKJgc
GJ
短編と言わず連載にして欲しいものです……
代理してた者ですが、反応が遅れて一部被ってしまい申し訳ありませんでした
157名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 00:43:34 ID:r6tryt3O
>>123
書かれてないだけで、謝ったかも知れないじゃないか。
158名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 00:51:32 ID:/1FXiA42
GJです、このクオリティの高さ――流石。
こういうお話も何というか、登場人物の絆が伝わってきていいですね。
面白かったです−。
159名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 07:31:51 ID:z+fUYhqq
GJ!相変わらずのクオリティー
楽しみにしてた俺歓喜
次も楽しみに待ってます
160名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 10:37:10 ID:61OSL/hr
初めて読みましたが、GJ!次回も楽しみになってきました。
161名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 11:06:22 ID:DV9zBbPI
昔観ていたBlackに吸い寄せられて、読ませていただきました。
なのはStSに不足がちだった穏やかな日常パートを、こういうクロス作品の形で窺うことにとても新鮮さを感じます。
微笑ましく思い、楽しんで読ませていただきました。「力」のこういう目覚め方も、可能性の一つなのかなと思います。
そして人間砲弾には不覚にも笑ってしまったw

ただ、フリードリヒ制御が折角成功したのに、その直後の人物の描写がやや少なめだったのが、少しだけ気になりました。
喜びとか感嘆とか驚きとか、そういう心情があの場面にもっと凝縮されていれば、より良いものに仕上がったかも、と個人的には思います。ご参考になれば。

しかしそれにしても、全体的にさらさらと自然に読め、かといって簡略過ぎることもなく、心情描写もくどすぎず――と、文章の随所に好感を抱きました。
これからも頑張ってください。続きを楽しみに待っています。
162一尉:2008/10/29(水) 13:45:57 ID:OGaDoKvl
うれしいよこのお話は感動しました。
163超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/29(水) 20:04:58 ID:ILqabgJC
こんばんは、9時頃にグラヴィオンStrikerSの新作を投下しようと思います。少し長めなので支援もお願いしたいと思っています。
164超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/29(水) 21:02:51 ID:ILqabgJC
時間になりましたので投下します。支援も出来たらお願いします。

 聖王教会の形をした戦艦「グラヴィゴラス」は次元航行をし、次元空間を移動する。全てはゼラバイア、そしてカリムとの決着を付けるため。
 そんな中ヴェロッサはグラヴィゴラスの動力源となっているグランΣを見つめながら、もの思いに耽っていた。

(全てはあの暴走から始まった…。グランカイザーの製作に250年、ゴッドグラヴィオンが倒れた時の為に全てを砕くソルグランディーヴァに製造にさらに200年、
そして、プレシアと出会いアリシアにプロトグランディーヴァの力をつけたまま眠らせ、完全プロトグランディーヴァのフェイトを誕生させるのにさらに50年かかったな……。プレシアには申し訳ない事をしたな…)

 ヴェロッサは心の中で今は亡きプレシア・テスタロッサに謝った。
 プレシア・テスタロッサはヴェロッサがミッドチルダに来て450年ほど経ってしばらくした後に出会った女性。時空管理局の第3研究所の研究長を務めていた。
 プレシアはヴェロッサと出会い、ヴェロッサからゼラバイアの事を聞きそれを真実だと考え、ヴェロッサと共にプロトグランディーヴァの作製をしようとした際、
 プレシアの実娘のアリシア・テスタロッサが実験台になると言い出し、アリシアにプロトグランディーヴァの力をつけ、実験は成功した。
 しかしプレシアはどうしてもアリシアを戦いに巻き込みたくないと言い、ヴェロッサはやむなくアリシアをコールドスリープでグランΣと合神させたソルグラヴィオン(ソルΣグラヴィオン)の中に眠らせ、
 アリシアの代わりと言う形になってしまい、アリシアのクローンであるフェイト・テスタロッサを誕生させた。フェイトの誕生にはかなりの年月が経ち、プレシアはフェイトが生まれて間もない頃に病気で亡くなった。
 そしてフェイトは自分がプロトグランディーヴァとして生まれたのを自覚しながらも礼儀正しい少女として育ち、綺麗な女性へとなっていったのだ。

「長かったね……」


 第17話 創世機


「諸君、決戦の時が来た!」

 ミッドチルダの地上本部の会議場ではレジアスが熱心な演説をメディアを通して世界に流していた。

「グラヴィオンは敵の本拠地であるゴーマへと飛び立った! そして我々も遅れを取ってはならない! 命無き機械に屈してはならない!
我らの勇者が戦う場所に希望の勇気を届けるのだ!」
『おおおおおおおお!!!』

 レジアスの言葉に皆が咆哮を上げた。皆わかっているこれで勝てなければミッドチルダはおしまいであると…。そのためにも少しでも自分達の思いをグラヴィオンに伝えたいと皆が考える。
 その演説の様子を隠し倉庫でGNフラッグの操縦訓練をしていたヴァイス達は見ていた。

「ふふ、言ってくれるね、中将殿は……」
「でもさすがに今回はあのおっさんの言うとおりだぜ」
「そうですね、ここで負けたらドクターも研究が出来ません」
「そのためにも頼むよ、ヴァイス陸曹」
「わかってますよ」

 調子のいいヴァイスはさらに熱を入れてGNフラッグの特訓に入った。


 グラヴィゴラス司令室では自分達の遥か先にあるゴーマが映し出されていた。

「何か、怖そうですね……」
「ルキノ、ゴーマの進路予測をやって」
「マリーさん、整備班、各グランディーヴァの整備は終わりましたか?」

 アルトが通信で格納庫にいるマリーに聞く。

「バッチリだよ。システムはもうバッチリにしてあるよ。まあ、今アリシアちゃんも手伝ってもらってるけど……」

 そのアリシアは下の方で整備班の人にソルグランディーヴァのシステムチェックに注意を呼びかけていた。

「1時間事に必ずチェックしてデータを取ってね。それからね……」
(この人5歳くらいにしか見えないけど……)
(私達よりも年上なんですよね……)

 実際のところアリシアはコールドスリープの時間を入れれば50歳以上であるが、コールドスリープで年を取っていないが為に体は5歳のままである。
 しかしフェイトの記憶も持っているので実際は19歳くらいである。しかし19歳だとしても見た目は5歳児。その事に抵抗を感じる整備班の人達だった。
165超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/29(水) 21:03:57 ID:ILqabgJC
 グラヴィゴラスの窓の特殊フィルターで次元空間から宇宙空間に繋がる場所からミッドチルダの様子を見ていたなのはとリインが話していた。

「まさかこの教会が飛ぶなんて思わなかったですよ」
「私もだよ。それにヴェロッサさんはこれを最後の戦いにするつもりだよ」
「すごい人ですね、ヴェロッサさん。さすがは私のマイスターのお兄さん分だけはあります」
「あの時はごめんね、リイン…」

 なのはが少し悲しそうな顔でリインに謝る。

「いいんですよ、なのはさん。私は一人じゃないってわかったんですから…」
「昔ヴェロッサさんと約束したことがあるの。強くなって世界を守って、戦えない人達の代わりに戦う牙になるって…。それをスバルや他の皆に思い出せた」
「そうですか……。それにしても綺麗な所ですね。ヴェロッサさんがこの世界を選んだのもわかる気がします」

 なのはとリインは穏やかな心でミッドチルダを見る。


 その頃グラヴィゴラス内のエレベーターの中でたまたまドゥーエとクロノが二人きっりになっていた。

「あなた達は私が帰ってくるのをお見通しだったかしら、ギンガ……」

 ドゥーエの言葉にクロノは少し驚いたがすぐに観念したかのように仮面を外す。

「いつわかったの?」

 ギンガがドゥーエに尋ねた。

「正直に言うとあなたがいなくなった時から疑っていたわ。まあピクニックの時クロノからあなたの匂いがした気がして、確信になったのは夜、あなたの部屋の前でね…」
(ああ、あの時か……)

 ギンガはあの時の事を思い出した。あの時は酒のせいで頭が痛くなり思わず仮面を外してぼやいていた時だ。
 ギンガはうかつだった思い、自分の髪をかきむしる。

「あの時たまたまあなたの部屋に通りかがって聞いたの。私も戦闘機人、耳はよくてね」
「まいたわね……」
「ところでなんでスバルには言わなかったの?」
「それは……」

 ギンガはその事を聞かれると黙りこくってしまった。

「まあいいわ、それは戦いが終わったら聞く事にするわ。でもその時は答えてもらうわよ」
「ははは…」

 その時、エレベーターがギンガの目標階に着いた。

「それじゃあね」
「ええ、また」

 ギンガは急いでクロノの仮面をつけて、クロノに戻りエレベーターから降りた。
 エレベーターのドアが閉まりゆく中、ドゥーエを独り言をつぶやく。

「あいからわず、不器用ね」


 ミッドチルダ地上本部ではグラントルーパー部隊が待機しており、ヴィータは外で空を眺める。

「あいつ、何であたしの事を見捨てたんだ…。あたしもはやてやシグナム達と一緒にいたのに……。何で…」
「それには少し訳がある」

 ヴィータがヴェロッサの文句を言っているとヴィータのそばに喋る犬、いやザフィーラがヴィータのそばにいた。
166超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/29(水) 21:04:51 ID:ILqabgJC
「ザフィーラ」
「捜したぞ、ヴィータ。ヴェロッサやシグナム達も心配しているぞ」
「へ、どうだかな」

 ヴィータはそっけない態度をとる。

「本当にあたしの事を心配してたんならなんであの時なのはと一緒にあたしを連れて行かなかったんだ?」
「……」
「あたしの事、どうでもいいって思ってたんだろ? あいつのいい加減なところは昔と……」
「違うぞ!」

 ヴィータがヴェロッサの悪口を言い終える前にザフィーラが強く否定した。

「奴は断じてそう思っていたわけではない!」
「じゃあ何でなんだよ!? 何であたしも連れていかなかんだ!?」

 気付くとヴィータの目には涙が溜まっていた。そしてザフィーラはヴィータの質問に答えた。

「それはお前が変わっていたからだ」
「え?」

 ヴィータは思いもよらない答えに一瞬戸惑った。

「ヴェロッサが言っていた。お前はランビアスに居た時と海鳴市でなのは達と遊んでいた時と全然違っていた。だからすぐにヴィータだと気付けなかったと……」
「…」
「ランビアスにいた時のお前はヴェロッサは愚か我々守護騎士にも心を開こうとしなかった。主が死んでからはなおさらだ。記憶をなくしていたとは言え、なのは達と一緒にいたことでお前の心は開いていき、明るく元気な少女になっていた。
ヴェロッサはそう言うお前を見たことがなかった」

 ヴィータはザフィーラにその事を指摘されてその時の事を思い出す。
 確かにランビアスにいた時は戦争や色々嫌な事が多かったために心を開こうとしなかった。はやてが自分達の主になった時は心を開いていたが、そのはやてが死んだ事でヴィータは再び心を閉ざした。前以上に。
 しかしなのはと会った事によってその凍りついた哀しい心は溶かされ、心を開くようになった。

「それに見た目や雰囲気も随分変わっていたそうだな」
「う、うるせい」

 ヴィータは思わず頬を赤らめた。

「さてと行くか…」
「健闘を祈ろう」
「ああ」

 ヴィータは地上本部ビルへと戻る。ザフィーラはそのヴィータの後ろ姿を眺める。

「ふ、大きくなったな……うん?」

 ふと空が暗くなったと思い上を見上げると空がいや空間がわずかにねじれているように見えた。
 それは時空航行空間にも影響があった。

「大規模な重力異常を感知」
「ゴーマが活動を始めたようです」

 グラヴィゴラス指令室でその様子が観測されていた。

「外郭部が現在の速度で展開を続けると、20時間後にはミッドチルダを完全に覆いつくすと思われます!」
「ミッドチルダを飲み込むの?」
 ヴェロッサがゴーマに展開されるシステムを説明する。

「再世機、重力子による時空間歪曲で取り込んだ次元世界を原始の世界に作り変えるシステム。つまり世界をリメイクする装置。現存するミッドチルダにいる生命は絶滅する。
例えグラヴィゴラスが落ちても、ミッドチルダを守らなきゃいけない!」
「重力子バリア、最大出力で展開!」
167超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/29(水) 21:05:51 ID:ILqabgJC
 クロノの指示でグラヴィゴラスの周りに広範囲の重力子バリアが展開され、ゴーマの斜線上つまりミッドチルダへの直線ルートで留まる。

「グラヴィゴラスはゴーマの衝撃からミッドチルダを守るためにここから離れられない。グランナイツの諸君はソルグラヴィオンでゴーマ内部に入ってこれを撃破してくれ」
『了解!』

 グランナイツの皆が自分達の機体に乗り込み、グラヴィゴラスから発進し次元航行空間に飛び出す。
 そしてそのゴーマの前には数時間前にミッドチルダでカリムのホラグラムと一緒に出てきた三体のゼラバイアの本体が現れ攻撃を仕掛ける。

「グランナイツの諸君、炎皇合神せよ!」
「エルゴ、フォーーーーーム!!」

 ヴェロッサの承認となのはの叫びによりGeoミラージュからエルゴフィールドが展開され、グランカイザーを中心に集まる。

「炎皇合神!」

 スバルの掛け声によりグランカイザーの両手にGeoジャベリン、足にはGeoスティンガーとGeoキャリバー、胸にGeoミラージュが合神し、グランカイザーの口にマスクが展開される。

『炎皇合神! ソルグラヴィオン!!』

 ソルグラヴィオンはゴーマへと向かう。しかしその前には三体のゼラバイアが阻む。

「いちいち相手をしてられない」
「こいつらどう見ても時間稼ぎですよね」
「だったら一気に決めて行く! ティア、アリシアいい!?」
「「いいわ(よ)」」

 ティアナとアリシアがスバルと息を合わせる。

「まずは私が行くね。ソルグラヴィトンプレッシャーパーーーンチ!」

 アリシアのいる右手が一体のゼラバイア目掛けて飛んで行き、そのわずかな時間も惜しみなく次の攻撃に入る。

「そしてあたし、ソルグラヴィトンブリンガーーーーー、フレイムアップ!」

 ソルグラヴィオンの左手のドリルが回転をはじめそのドリルには炎が展開される。そしてその回転はソルグラヴィオン自身にもかかりソルグラヴィオンも回転し始める。

「いっくぞーーーーーーーーーー!!」

 炎を纏って回転するソルグラヴィオンはアリシアの後を追うかのように回転してゼラバイア目掛けて飛んでいく。
 ゼラバイアは攻撃を防ごうとするが、ソルグラヴィトンプレッシャーパンチを防ぎきれず穴が開きその穴はソルグラヴィオンによりさらに大きくなり爆発した。
 ソルグラヴィオンが回転を終え、アリシアを回収した途端残ったゼラバイアの一体がソルグラヴィオンの正面から攻撃しソルグラヴィオンはそれをガードするが、動きを止められる。

「時間が無いのに……」

 その時突然他の方向から攻撃が入り、ソルグラヴィオンの前にいたゼラバイアは思わず退く。
 攻撃された方向を見るとそこには4機のグラントルーパーが飛んできていた。

「ここはあたし達に任せて早く行け! ソルグラヴィオン」
「頼んだよ! ヴィータちゃん」

 ソルグラヴィオンは急いでゴーマに向かう。

「くそ、ヴァイスの奴何してんだ?」

 グラントルーパーは5機が揃わないと「ライトニングデトネイター」が使えない。ヴィータはヴァイスがいないことに腹が立ったが今はそんな場合ではない。
 自分達は後方支援だろうがミッドチルダを守るために戦う今はそれだけだ。

「アタックフォーメーションZでいく。いいな!」
「「「了解」」」
168超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/29(水) 21:07:04 ID:ILqabgJC
 ヴィータ達の足止めのおかげでソルグラヴィオンは何とかゴーマ内部に侵入する事ができた。
 しかし入ってみたらただ広い通路がまっすぐにあるだけで敵も何もない。

「盛大な歓迎があると思ったけど……」
「何も無いですね…」

 ドゥーエとリインは怪しむ。戦いにおいては本拠地に敵の侵入を許してしまったのなら全力で敵で殲滅するはず。それなのに何もしてこないのだ。

「ずっと前に高エネルギー反応があるよ。多分動力炉かな?」

 アリシアが分析していたものを言う。

「それを止めればジェノサイドロンもゴーマも止まるのよね」
「それじゃあ派手にいこうか!」

 スバルが意気込みを入れる。そしてソルグラヴィオンは動力炉のあると思われる場所にたどり着く。そこはただっ広い広間であった。
 そして部屋の上を見てみるとそこには青い炎がたちこまっていた。

「あれだね!」
「ようこそ、我が城ゴーマへ…」

 突然声が聞こえる。その声の主はカリム。青い炎の前にカリムのホログラムが現れた。

「滅びの太陽ソルグラヴィオン、そして私の義弟ヴェロッサ」

 カリムのホログラムと声はグラヴィゴラスの方でも伝わっていた。

「ここまで来なさいヴェロッサ。そんなところにいないで…。決着をつけたいのでしょ? だったら来なさい。ぐずぐずしてたらあなたが愛したその世界を飲み込んでしまうわよ。
汚らしい人類も壊れた自然も全部浄化される。あなたのそんな正義よりも効率がいいわ」

 その言葉にリインが違和感を覚える。

「カリムさん…」
「リイン大丈夫?」

 なのはがリインを気遣う。

「大丈夫です。あれが本当に騎士カリムならリインは止めます!」

 リインは改めてカリムと戦う決意を固める。

「早くしなさいヴェロッサ…」

 カリムのホログラムが消えるとソルグラヴィオンが通ってきた通路の扉が閉ざされた。

「閉じ込められた」

 ティアナがわずかな焦りを見せる。しかしドゥーエはそれを論し、スバルは意気込む。

「どうせここで倒さないといけないなら同じことよ」
「そして絶対勝つ!」


 グラヴィゴラス内部でコアとなっているグランΣがある格納庫ではヴェロッサが立っていた。そうヴェロッサはグランΣで乗り込もうというのだ。そこにクロノとシャッハもやって来た。

「ロッサ、これは罠だ!」
「あの人に乗せられてますよ」
「わかってるよ」

 クロノとシャッハはヴェロッサの目を見る。ヴェロッサの目は覚悟を決めた目だった。
169超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/29(水) 21:08:21 ID:ILqabgJC
「あなたが持っていたG因子は永久新陳代謝機能に変換されて、今の不死の体を作っているのよ。それに乗るってことは……」
「G因子を復活させて不死の力をなくすことだろ…。わかってるよ」
「それでも行くんだね」
「行かなきゃいけなんだよ。これは僕の戦いだからね」

 ヴェロッサの覚悟をもはや誰にも止める事は出来ない。ヴェロッサはそのままグランΣに乗り込み、起動させる。

「だったら約束しなさい」

 クロノが仮面を外しギンガが喋る。

「必ず戻ってきなさい! でないとシャッハさんが許しませんよ」
「な、何で私なんですか!?」

 ギンガの言葉に隣にいるシャッハは思わず顔を赤くした。

「それはわからない……。グランΣ発進するよ!」

 そしてグランΣはグラヴィゴラスから発進した。グランΣに付いていくかのようにゴッドグラヴィオンのグランディーヴァも一緒に飛んで行く。

「エルゴ、フォーーーーーム!」

 ヴェロッサの掛け声と共にグランΣからエルゴフィールドが展開される。 

「超重合神!」

 ヴェロッサがグランΣのコックピットのパネルを押し、グランディーヴァはグランΣと合神する。

「超重合神、ゴッドΣグラヴィオン!!」

 そこにはグランディーヴァと合神したゴッドΣグラヴィオンの姿があり、その色はゴッドグラヴィオンの青基調とは違いグランΣの黒に合わせての黒基調の姿だった。
 ゴッドΣグラヴィオンはゴーマへと向かう。

 ゴーマ付近の空域ではグラントルーパー隊が戦っていたがヴァイス機がおらず苦戦を強いられており、それぞれの機体の損傷は少し問題があるくらいのものであった。

「グラヴィティ、ラーーーーング!」
 ヴィータの機体がグラヴィティラングを放つが、それは簡単に砕かれゼラバイアの一体がヴィータを襲うとしたがその攻撃は通らない。
 何故ならその攻撃をゴッドΣグラヴィオンが防いだのだから…。ゴッドΣグラヴィオンは攻撃を防ぎきった。

「グラヴィトン、ランサーーーーー!」

 ヴェロッサの声に反応してゴッドΣグラヴィオンの両足の横脛から二つの槍が飛び、ゴッドΣグラヴィオンはそれを掴み一つの槍にした。
 ゼラバイアは小さなエネルギー弾でゴッドΣグラヴィオンを攻撃するが、ゴッドΣグラヴィオンはグラヴィトンランサーを回して盾のようにして攻撃を防ぐ。
 攻撃が止んだ隙を見て一気にゴッドΣグラヴィオンはゼラバイアに斬りかかった。
「グラヴィトン、ブレイク!」

 斬られたゼラバイアにはΣの文字が切り刻まれ、爆散した。

「後一体」

 残りの一体に斬りかかろうとしたその時、突然横から赤いエネルギー弾が飛んで行き、ゼラバイアに命中する。
 全員がその方向を見る。そこにはゴッドΣグラヴィオン以上に黒く、背中から赤い粒子を散布している機体であった。

「会いたかった、会いたかったぞ! グラヴィオン!」
 それはGNフラッグ。乗っているのはヴァイスだ。

『何だあれは!?』
 オットー、ディード、グリフィスやヴィータだけではない。モニターで見ていたレジアスも驚き隣にいるスカリエッティに尋ねた。

「あれはGNフラッグ。ま、極秘開発していた機体ですね。ふふふ」
170超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/29(水) 21:09:57 ID:ILqabgJC
 ヴァイスはゴッドΣグラヴィオンに向けて通信を入れる。

「会いたかったぞグラヴィオン。だがその前にあれを片付けねばな……」

 GNフラッグは手に持つライフル腰に付け、代わりに腰についていたサーベルを一本取り出す。そのサーベルの色も背中の粒子と同じ真っ赤な色で、GNフラッグはゼラバイアに斬りかかる。
 ゼラバイアは振り下ろされるサーベルを防ごうと腕を前にクロスしてガードがしかし!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 ヴァイスのものすごい叫び、そしてそのサーベルの威力は思いもよらないものでいとも簡単にゼラバイアを一刀両断した。
「す、すごい……」
「何て威力だ……」
 グラントルーパー以上の攻撃力に思わずオットーとディードは驚きの声を洩らした。

「さてとこうやってきちんと会うのは始めてだな」
「ああ、そうだね」
 ヴァイスの興奮状態を受け流すかのようにヴェロッサは普通に答える。

「本当ならこのGNフラッグとどちらが強いかやりたいところだが今はその余裕はない。だから行くがいいさ。だが全てが終わったら一度手合わせ願いたい」
「出来たらね……」

 ヴェロッサはゴーマに行こうとする前にヴィータに声をかける。

「ヴィータ、強く、そして美しくなったね。それじゃあ」

 ゴッドΣグラヴィオンはゴーマへと飛んでいった。その飛んでいく姿をヴィータはただ見守るだけだった。

「ヴェロッサ、死ぬなよ」

 ゴーマ内部では青い炎が床に落ちていき、そこから炎が周りの柱と合体していき、一つの姿へと変わる。
 そこにはグラヴィオンよく似た炎。その名はゼラヴィオン。ゴーマの動力炉してゴーマ最大の守護神である。
「あれは……」
「グラヴィオン!?」

 ゼラヴィオンの姿はグラヴィゴラス司令室でも確認されている。

「な、何あれ!?」
「敵は超高密度のエネルギー集合体の模様」
「そのエネルギー数は次元世界二つ分に相当します」
「セリアスとランビアス、二つの世界の壊滅エネルギーを封じ込めたというのか……」

 クロノが冷静に分析する。 ゴーマ内部にカリムの声が響き渡る。

「愚かな人達よ。私達の故郷の嘆きの炎。魂の慟哭をその身に受けるがいいわ」

 そしてカリムのいる部屋ではヴェロッサがゴッドΣグラヴィオンで強行突入し、ゴーマ内部に侵入した。
 ヴェロッサはゴッドΣグラヴィオンから降りる。目の前には何と死んだはずの八神はやての姿があった。

「はやて!」

 ヴェロッサはかけだし、はやてを抱きしめようとした瞬間そのはやてにナイフで腹を刺された。

「う……、はやて。すまない……」
「!」

 ナイフで腹を刺されながらもはやてに抱きつく。はやての後ろにはカリムの姿があった。
 しかし自分の知っているカリムとは少し違っていた。左目には機械的な部分が見え、優しそうな顔ではなくその顔は憎しみに満ちた顔をしていた。

「謝罪のつもりかしら?」
「カリム義姉さん…」
「今こそ罪を償う時よ。ロッサ……」
171超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/29(水) 21:12:29 ID:ILqabgJC
投下完了です。
本当はもう少しヴァイスに声優ネタをやらせようと思いましたが、コメントで「声優ネタ多すぎ」と言われたので減らしました。

そして次回いよいよ最終回です。
172名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 21:13:01 ID:NY9yGH3U
支援
173名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 21:31:52 ID:VhoP0Pk7
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174名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 21:32:43 ID:NY9yGH3U
>>77

管理局自体はソ連の共産組織
ミッドチルダとかは合衆主義の経済・軍事(ニューヨークやロス)

管理局と日本は一緒になれないな
一緒になったら日本の考え方(天皇や独立権、専守(先取)防衛、日本技術、軍紀作品)が崩壊する
政府としてはどうなんだろ国交がないからって
勝っ手に都市上空で未確認粒子を使った戦闘
軽く拉致殺人未遂(はやて一家)
明らかに武器及び軍艦と見える物で少女を恐喝及び武装勢力に入会(なのはとクロノの出逢い)

やっぱアレか、日本が管理局に加盟したら
兵器やロストロギア(天皇家にある宝や全国遺産や各人のアイテムや魔力)を押収されベルカみたいになるのか?
まぁ〜このスレの日本なら管理局を108回位征服しそうだ
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 21:38:36 ID:u50CUeGY
>>155
GJです
自転車の練習嫌いだったなあ・・・
というか投げるなよてつをw
176名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 21:47:10 ID:DV9zBbPI
>>50

> うむむナノマシン波動砲の威力でやられるとは支援
177名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 21:56:03 ID:DV9zBbPI
操作ミスって書き込んでしまったスマン。
178名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 22:26:52 ID:gfnJTse1
予約がなければ10時40分から投下を行いたいと思います。
179りりかるな黒い太陽_05:2008/10/29(水) 22:43:03 ID:gfnJTse1
男は逃げていた。
一仕事終えて、いつも通り管理局も撒いた。
構成員の殆どがB未満に過ぎない陸士相手なら、準備さえ怠らなければこの男にとっては対処できない相手ではない。
その日もせいぜい空の連中が出てこない程度に稼ぐだけの予定だった。
準備は万端。彼が根城とする廃棄都市の一角まで予定通り逃げ込み、このまま廃ビルの間に出来た狭い道を抜ければ…だが、路地に入った彼の背後に何か降り立った。

「目の前で罪もない人々を襲い、強盗を働いた貴様を放ってはおけない」

男は何も言わずに振り向き、魔法を放つ。
だが、直撃するはずだった青い魔力の光は暗闇の中で微かな光を反射する艶っぽい真っ黒なボディスーツの上を流れ、空中で弾けて四散していった。
四散する魔力の光に照らされて表情のない、昆虫めいた不気味な仮面が廃墟の影に浮かび上がる。
大きな、血のように赤い眼が爛々と光っていた。

「自首しろ」と得体の知れぬ怪人は言った。

「まさか…う、海の連中か!?」 

自分の魔法を受けても平然としている怪人に恐れをなした男が叫んだ。
焦り始めた男の頭に思い浮かぶ魔法を苦もなく弾くバリアジャケット、あるいはそんな皮膚をした化け物が所属する組織はそこしか浮かばなかったからだった。

「才能がありゃ犯罪者でも子供でも構わず引き入れてこき使うゲス野郎共に言われたくねぇな!」
「犯罪者でも…?」

だがそう思い込んだ男が得体の知れぬ存在に対する恐怖を、怒りで塗りつぶし歯をむき出すと、怪人は訝しむようにそう呟いた。
怪人の言葉を白々しく感じた男は逃げる機会を窺いながら舌打ちした。

「……知らねーとは言わせないぜ」
「……おい、今の話し。詳しく聞かせてくれないか?」
「…!。まさか。あんたも騙された口か?」

男は嫌悪も露に怪人を睨みつける。
沈黙する怪人も被害者なのかと勝手に思い込んだ男は、警戒を若干和らげて廃ビルのひび割れた壁にもたれかかった。
遠くを見るような眼で語り始めた。

「数年前、闇の書事件ってのがあった。で、俺の兄貴は巻き込まれ魔導師を廃業する羽目になっちまった」

腹の中に溜まりきっていたのか男は饒舌だった。誰かに聞かせたかったのかもしれない。
内側で淀んでいた思いを口にする男の顔には苦い笑みが広がっていた。

「管理局が保護するとか言われて俺達は管理局の保護下に入った。で、数年して恩義もあったし若干憧れもあってな、俺は管理局に入った。
そしたら…それをやった犯罪者共がエリートコースに乗っかって上官になりやがった。それとなく聞いてみりゃまだあんな昔の話をする奴がいるんだって顔だったぜ」
話を聞かされた怪人はうんともすんとも言わずに佇んでいた。だが何か思い悩んでいるのか、微かに頭は俯いている。

「そんなわけさ。なぁ、事情はわかっただろ? 見逃してくれよ」
「事情はわかった。だが、罪もない人を傷つけるのは許せん」
「そうかよ!」

男は話す間に準備しておいた魔法を壁に放とうとする。
だが、魔法が放たれる直前に、距離を詰めた怪人の甲冑のような皮膚に包まれた拳が腹に打ち込まれた。

「今回だけは突き出しはしない。真っ当に働いて、傷つけた人々に償っていけ」

鳩尾に拳がめり込み、くの字に折れた男の体から力が抜けてから怪人は男がその日仕事で奪い去った金品を抜き取っていく。
その後犯人は捕まらないまま奪われた金品は返されるということが続き、同時に一時的に首都近郊の犯罪件数に変化が訪れた。

だがそれは所詮短期的なモノに過ぎず誰かの目に留まることはなかった。

金品を人目につかない距離から人間を超えた筋力で遠投すると言う強引な手段で返品した後、怪人、光太郎は首都クラナガンを離れ七つある廃棄都市区画の一つへ移動していった。
180りりかるな黒い太陽_05:2008/10/29(水) 22:45:04 ID:gfnJTse1
大きな魔力の動きや自然災害の把握のためにと、一定区画ごとへのセンサー配置が義務付けられているミッドチルダだが、廃棄都市区画は既にセンサーが機能していない区画も多数存在している。

人目を避けて仮の住まいとした廃ビルの一つもそんな区画にあった。
割れたまま放置されている窓から飛び込み、(無意味だが)正体が分からないよう変身する為に脱いでおいた服を拾い上げ、片手に持って光太郎は奥へと歩いていく。

奥からは滝壺のような大量の水が流れ落ちる音が響いてくる…進むに連れて、光太郎の足先をひび割れ歪んだ床に溜まっていた水が濡らした。
そのまま進むと光太郎の手でまだ生きていた上水道の一部を破壊して作り出した滝が見えてくる。
廃棄された区画だが、水質は光太郎が満足できる水準を保っており、光太郎はシャワー代わりにその滝に打たれた。

汚れを落とした光太郎は太陽の光を浴びて食事を済ませる…スカリエッティの元を離れてから既に一月以上が過ぎていた。

ロボライダーの接近を知ったスカリエッティは研究施設をあっさりと放棄し、姿を消した。
光太郎はロボライダーの能力の一つ、ハイパーリンクと呼んでいるハッキングと廃棄された施設の後からスカリエッティが何を行っていたのかある程度察したのでとりあえず研究所は破壊しておいたが、スカリエッティの真意はわからないまま、ここへと流れ着いた。

まともな食事にもありつけずにいるが太陽の恵みで至って健康、お肌もツヤツヤの光太郎は、肌が乾くのを待って日雇いの仕事で得た金銭で購入した量販店のシャツに袖を通していく。

下着は履かないままパンツを履く光太郎の表情は少し苦かった。
時々首都や廃棄都市の貧民街でIDが存在しない光太郎を雇ってくれる日雇いやアルバイトもあったのだが、事件が起きる頻度が思っていたよりも高く、光太郎が給与を受け取る機会はあまりなかった。

この世界に来て初めて会ったクロノに会いに行くことも考えた。
スカリエッティに光太郎を引き渡したのが彼が所属する管理局でなければ、会いに行っていただろう。

バイト先で電話を借りることは出来るので、一度電話越しにでも話してみようと考えたこともあった。
だが、管理外世界には繋がりませんだのオフィスでは長期航海中ですから伝言をだのと散々だった。

アクロバッターを隠す為に用意してくれたらしい倉庫はこの世界にあったが、アクロバッター達が抜け出したことが騒がれているらしく、二機も戻せていない。

食事を終え、服も身に着けた光太郎は今日捕らえた犯罪者のことを考えていた。ずっと頭から離れずにいる。

光太郎が介入した事件は管理局地上本部の有能さもあり全体のほんの一握りに過ぎない。

その少ないケースの中で今日のような犯罪者は稀だった…既に何人か同じような犯罪者と光太郎は出会っていた。
ミッドチルダの土地柄なのかは光太郎にもわからない。

ただ、管理局が実はゴルゴムや先輩ライダー達が戦っていた組織と本質的に差がないのではないかと言う思いが光太郎の中に浮かんでいた。

瓦礫を積み上げて作った即席の椅子に腰掛け、光太郎は眼を閉じる。
だが直ぐに眼を開き、天井を見上げた。ひび割れたコンクリートに非常に良く似た材質の天井の中を泳ぐものを、光太郎の超感覚は捕らえていた。
「セイン。奇襲する気なら無駄だ」
「あちゃー、ばれちゃいました?」

光太郎に指摘され五メートルほど離れた所から、戦闘機人のナンバーズ6番セインが顔を出す。
空中で回転し、器用に着地する。
笑顔で近づいてくるセインを見つめる光太郎の表情は硬かった。

「何のようだ?」
「ドクターのお使いです。光太郎さん、ウチらの所に戻って来ません?」「ふざけるな!」

怒鳴り声を上げて立ち上がる光太郎にセインは足を止める。
今は人間の姿だが、一瞬で本性を現すことを知っているセインは怖気づき、頬を引きつらせた。

「く、空港でのことなら不幸なすれ違いなんですよ」

光太郎の眉間に眉が寄った。
怒りを露にしたままセインに向かって歩き出した光太郎は硬い声で尋ねた。

「どういうことだ」
181りりかるな黒い太陽_05:2008/10/29(水) 22:45:49 ID:gfnJTse1
「そ、それについてはドクターが説明しますって」

初めて見る剣幕に怯えたセインが大げさな身振りで手を横に振りながら、下がっていく。
床の割れ目に引っかかり、可愛い悲鳴を上げてセインが倒れると同時に二人の間に通信画面が開いた。

『やあ、久しぶりだね』
スカリエッティは一月前と変わらない親愛の情の篭った笑顔を浮かべ、恐らくは新しい研究所らしき場所に立っていた。
自然と光太郎はウーノを探したが、ウーノの姿は見えない。代わりにチンクがウーノが立っていた位置で複雑な顔をしていた。

『一月前は姿を消してすまなかったね。あれが君だとは思わなくて、クライシス帝国の怪人が現れたのかと思ったのだよ』
「あの時のことでお前に聞きたいことがある」
『そうだね。まずは誤解を解くとしよう』
「誤解だと!? あの事件でどれだけの人が犠牲になったと思っている!!」

怒声を上げる光太郎に、スカリエッティはへらへらと軽薄な笑みを絶やさず頷いた。
身の潔白を訴えようとしているのか、胸に手を当てて、『だが事実だ。光太郎、アレは私が仕組んだことじゃない。私は知らなかったんだよ』

「なら、何故アレは爆発したんだ!? 何故、あの場所からクアットロは姿を消した!」
『…そこだけはウーノの企みだったからさ』

光太郎とセイン。スカリエッティの横に控えたチンクは息を呑んだ。
スカリエッティは申し訳なさそうな表情を浮かべて首を横に振る。
しかし、他人事としか考えていないのか誠意の感じらず、ため息ををつきながらスカリエッティは説明を続けた。

『管理局からレリックを受け取るだけの話だったのだが、途中で新たな事実がわかった』
もったいぶるように一度言葉を切り、『反管理局を掲げるテロ集団があのトランクに細工していたのだよ』

「テロ集団…あれが、テロ」

呆然と呟いた光太郎に、理解を求めてでもいるのか悲しげに眼を細めて言う。

『そう!、君達が受け取った直後だ。正にクアットロが君と離れた時…私の耳にはその情報が届いた。タイミング的に災害を未然に防ぐことはできない、
私はそう判断し君達だけでも逃がそうとして、ウーノに連絡するように伝えた』

そこで白衣を翻し、芝居がかった態度で手が振り上げられた。

『だがそこで! ウーノは一計を講じた。君には伝えずに、クアットロだけに帰還するように命令したのさ!!』
「俺に伝えればよかっただろう! そうすれば俺はあれを抱えて、全力で人のいない場所に向かった!!」
『君を確実に消す方を選んだというわけさ。最も、君が外へ運ぼうとした時点でレリックは暴走していたかもしれないがね』

その言葉に、怒りが限度を超え、光太郎の姿を変えようとする。
スカリエッティの金色の目が大きく見開かれた。
歓喜に笑みが広がり、狂ったように笑い出す。

『だがそこまでしても倒せなかった。君は無傷だ!! ク、クク。実に馬鹿馬鹿しい、無駄遣いだと思わないかね? ロストロギア一つ失って、アレだけの惨状を引き起こしながら、 ……素晴らしい性能だよ!!』

そう言って笑い声をあげる。
身を捩り、腹を抱えて笑うスカリエッティと対照的に更に怒りを募らせて「そんなことはどうでもいい!」と、光太郎は握った拳を震えさせた。
「ど、ドクター。それくらいにした方がいいですよ」

いつのまにか立ち上がり、尻についた埃を払いながらセインが言うと、スカリエッティの笑いは止まった。

『ああすまない。まぁそういうわけだ』

画面の向こうで、怒りに震える光太郎に向けてスカリエッティは手を差し出した。

『だからまた仲良くやろうじゃないか………』

だが手を差し出された光太郎の顔には、嫌悪感が浮かんでいた。
182りりかるな黒い太陽_05:2008/10/29(水) 22:50:26 ID:gfnJTse1
「断る…! 貴様の研究を俺は認めることはできん!」
『あぁ、なんだ。知ってしまったのか』

一度手を引っ込めて、スカリエッティはそっぽを向いた。
廃棄された研究所の中で見たもの、そこには人体実験を行い廃棄されたとしか思えないものも残っていた。
何が残っていたかスカリエッティも全ては把握していない。
だが恐らくはそうした部分のことだろうと予想をつけてスカリエッティは反論した。

『だがね、光太郎。私の研究は全て、管理局が欲したものさ』

光太郎の耳には言い訳がましい言葉にしか聞こえない軽薄な声でスカリエッティは言う。

『実験材料も必要だと言った私に彼らから提供されたに過ぎない。幾ら私が天才とはいえ、動物実験をして見なければ実際の所はわからないからね。むしろ、どのくらい必要か検討もつく私の方が、フフ、他の科学者達よりは遥かに少ない犠牲で事を成してきたくらいさ』
「俺がそれを認めると思うのか!?」
『思わないな。だが、私が悪いわけでもない。と言うことも君は理解してくれたのではないかね? 君の倒した組織には、無理やり協力させられた科学者もいたはずだが?』
「彼らはお前とは違う。お前は、楽しんでいる!」

叫ぶ光太郎の脳裏にロードセクターを生み出した科学者や、先輩の一人ライダーマンの姿が浮かんだ。
彼らを踏みにじられたように感じた光太郎の体が、怒りによって姿を変えようとしていた。
指摘を受け、スカリエッティは頷き返した。
だが、あくまで仕方なくと青に染まっていく皮膚を眺めながらスカリエッティは言った。

『仕方ないじゃないか。私はそう生み出された存在で、逆らえるはずもない。クク、逃れられない以上、精神を保つにはこうした性格になるか、潰れるかしか道はないのだからね』

嘘は言っていない。半分ほど内容を伏せ、同情の余地が欠片でもありそうな話をしている創造主にセイン達は複雑な表情をしていた。

その拘束から逃れる為の計画を、スカリエッティは長い時をかけて進めている。
最も逃れた後は更に自由に研究をさせてもらうつもりだが…このまま話していても時間の無駄だと思ったのか、スカリエッティは強引に話を戻そうと用意していたプレゼントを疲労する。

『私は君のことが気に入っている。その為にあの惨状を引き起こしたテロ集団についての情報も、集めてある。首謀者の居場所もだ』

衝動的に決裂の言葉を叫ぼうとした光太郎は、寸での所で奥歯をかみ締めた。
誤って内側を噛み千切ったのか、光太郎の口内に血の味が広がっていく。
セインはこのまま帰る訳にもいかないが、出来るだけ鬼のような形相を浮かべる光太郎から離れようと更に後ろへと下がり、ISを使うのも忘れて壁に頭をつけた。
『私の顔が中々広いことはわかってもらえていると思う。信憑性は高いよ? ウーノも自首させるか、なんだったら君の手で殺してくれても構わない』
「ウーノは…貴様の助手だろうが!」
『その通りだ。私のとっても手痛い損失だね。できれば自首で許してやって欲しいものだが…君の怒りが収まらないと言うのでは』

今度もあっさりと光太郎の言を認めて、肩を竦めるスカリエッティ。

『RXキックでもパンチでも気の済むようにしてもらおうというわけさ』

軽薄な笑みを浮かべる通信相手を睨む光太郎の目が視線だけで殺そうとでも言うような、鋭い眼光を放つ。
ウーノの身を心配して光太郎に視線を向けるナンバーズ二人は息を呑んで見つめていた。

「俺は……、俺に裁く権利はない。自首するというなら、そうするがいい! そうして、どうやって罪を償うかを考えろ!」

苦しげに吐き棄てた光太郎を満足げに見やって、スカリエッティは頷いた。
『ありがとう、勿論さ光太郎。いますぐに、とは言えないようだから今回は情報を渡して、また出直すことにするよ。次に連絡を取る時までによく考えてくれ』

姉のことと、自分の身の危険は過ぎ去ったと判断しセインが安堵の息を吐く。
だがスカリエッティはそんなセインを嘲笑うかのように余計な事を口にする。

『あぁ、もしよければ君が置いていった服を持たせようか? 特に下着なんて必要だと思うんだが…」
「必要ない…!」
「………いや、光太郎さん。それは、いりますよ?」

セインは首謀者の情報と、無理やり「ここにちょっと入ってますから」とお金の入ったカードを押し付けて去っていった。
ドクターだけでなく、私たちもいい返事を期待している。
そう言ってセインが去った後、光太郎は膝を突き、拳を床に叩き付けた。
183りりかるな黒い太陽_05:2008/10/29(水) 22:51:16 ID:gfnJTse1
床はその威力に耐え切れず粉々に砕け散り、破片となって光太郎と一緒に落下していく。
一階下の階が、衝撃を受けて揺れ、ひび割れながらも光太郎と瓦礫を受け止めた。
着地する気力が沸かず、無様に一階下に落下した光太郎は頭を掻き毟る。
上の階に溜まっていた水が光太郎があけた穴から零れ落ち、下へと、流れていく。
心配したアクロバッターとライドロンが駆けつけても、光太郎は蹲り、暫く動こうとはしなかった。

この状況で先輩ライダー達ならどうするのだろう?

自分で決めるしかないとわかっていても、光太郎の弱った心にはそんな疑問が浮かんだ。
ゆっくりと自分に近づいてくる二機の相棒が気遣わしげに声を発した。

光太郎はそれに励まされて静かに立ち上がる。
セインが残していった情報が記載された書類を瓦礫の中から拾い上げ、一飛びで上の階に戻る。

瓦礫に寝そべって、書類に目を通していく。
事件との関連性を裏付ける情報、その組織と首謀者の情報。
光太郎を信じさせる為に労を惜しまなかったのか、特に空港で起きた事件の顛末と組織と事件との関連を裏づける部分については何十ページにも渡って書かれている。

深く息を吸い込み、ゆっくりと吐く。
体に襲い掛かった痛み、周囲に齎された被害がどれ程のものだったかは光太郎の脳裏に焼き付けられている。
火災程度の熱さはロボライダーの装甲に全て遮られてしまったが、中身まではそうはいかなかった。

ゆっくりとその日は日が暮れるまで何度も情報に眼を通して、光太郎は眠りに着いた。
瓦礫の上で眠りについた光太郎の代わりに、アクロバッターが周囲を警戒し傍に居続けた。

「光太郎、起きてください」

翌朝、女性の声で光太郎は目を覚ます。
聞き覚えのある声だった。だが、この場にいるはずのない女性の声。
光太郎は目を見開き、素早く体を起こすと声の主を睨みつけた。

その態度に呆気に取られたような顔を一瞬だけ見せて、ウーノは自嘲気味の笑みを浮かべた。
紫のロングヘアー、スカリエッティと同じ色の瞳。本人に違いはなかったが、光太郎には何故ここにいるのかがわからなかった。
疑問は表情に表れていたのか、ウーノは理由を告げた。

「ドクターの命令で貴方に今後のことをお聞きにしきました」
「…どういう、ことだ?」

寝起きに、この場にいないはずのウーノが現れ戸惑う光太郎。
ウーノは皮肉げな笑みを浮かべた。

「お約束したとおり、昨日貴方とドクターの通信の後直ぐに私は自首しました」

その言葉に光太郎の困惑は深まった。
疑問を口にする前に、ウーノが言葉を補う。

「そして管理局の上層部…ドクターのスポンサーが私から自分の情報が漏れるのを恐れ、その日の内に釈放となりましたわ」

私をどうされますか?と微笑を浮かべながら尋ねてくるウーノに、光太郎は直ぐに言葉が出なかった。
ただ今の時点では、光太郎にはもうウーノを殺すことはできそうにないということだけは実感としてあった。
警戒する気持ちはあっても、光太郎の胸に渦巻く感情に任せて殴り殺すことなど光太郎には…
184りりかるな黒い太陽_05:2008/10/29(水) 22:54:05 ID:gfnJTse1
「……ドクターの怒りも買ってしまって他に行くところもないの。目処が立つまで、貴方のお手伝いをさせていただこうと思いますが、よろしいですか?」
「消えろ!」

大音声で叫ぶ光太郎に、ウーノは首を振る。

「恐らく俺は、何れスカリエッティを倒す」
「わかっていますわ。だから、あの時なんとしても貴方を殺しておきたかった」

切なげに目を伏せたウーノに光太郎の頭に血が昇り、衝動的に身勝手な事を言うウーノの胸倉を掴み上げる。
なんら反応することも出来ず胸倉を掴みあげられたウーノの足が地面から離れていく。
だが首が絞まり、苦しげに喘ぎながらもウーノは抵抗をしなかった…光太郎の手から力が抜ける。

開放されたウーノは、膝を突きながら素早く光太郎が受け取ったのと同じ内容が表示された画面を空中に表示させる。

「げほっ…げほ、この上は、お許しいただけるように貴方を、手助けしますわ…」

咳き込みながら、画面を操作して見上げてくるウーノの眼差しに隠れたものを光太郎は感じ取り、眉間に眉を寄せた。
光太郎の性能を見れた事自体は喜んだのだろうが、不興を買ったのもまた事実なのだろう。
不安や、恐れ…身勝手な思いに光太郎は歯軋りした。
光太郎はしかし同時に、恐らくは生み出されてよりずっとスカリエッティの手助けをして生きてきた戦闘機人という存在に対して哀れさも感じていた。
「はぁ…はぁ、この、組織に関する新しい情報が入っています。首謀者はいつ姿を隠すとも限りません。私なら最適な情報を…」
「…ッ消えろ! 貴様は罪のない人々を巻き込み、今も遺族に涙を流させている。そんな貴様の手など入らん」

怒りのままに青白いバッタ男へと姿を変えつつある光太郎は静かにそう言って、寝そべっていた瓦礫に腰掛ける。
感情を押さえ込もうと目を閉じた光太郎に、ウーノは一瞬涼やかな微笑を浮かべた。
光太郎が感じ取ったものは嘘ではなかったかもしれないが、冷静に勝算の有無を感じ取っていた。

必死さをまた表に出した彼女は背を向けて、太陽の光を浴びる光太郎に言う。

「後悔しています。償う方法は貴方に協力することしか思いつかなかったわ。お願い光太郎。私にチャンスを頂戴」

ウーノの言葉を完全に信じることは光太郎にはできなかった。
スカリエッティやウーノらに対する信頼が落ちに落ちていた…それでも。

チャンスをと言うウーノを割り切って手を出すことができずにいるのは。
過去にある組織の兵士として、何人もの人々を殺した罪を抱えながら戦い続ける男を一人、光太郎は知っていたからだ。
自分もまた、皇帝を滅ぼし五十億のクライシス人を見殺しにしてしまったことも、光太郎を躊躇わせていた。

「勝手にしろ」

そうして、ウーノの協力を得た光太郎は、複数の次元世界に跨った組織の中心人物を一夜にして消し、幹部達をバイトや日雇いの仕事をする間に名前を聞いた二人の男に引き渡した。

地上を長年守護し、辣腕を振るい続ける男と、人柄の良さで通称海と呼ばれ地上と折り合いの悪い時空管理局本局にも広い人脈を持つ男。
時空管理局地上本部のレジアス・ゲイズと陸士108部隊長ゲンヤ・ナカジマは、突如指名手配犯を簀巻きにして現れた怪人に驚くと共に感謝と危惧を抱いたという。


以上。投下しました。
185名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 23:08:33 ID:3ESkHbcG
終わり?

GJです
これから管理局、六課とスカ勢とどう関わるのか楽しみですね
ゲンヤは危惧してる怪人が娘の恩人だと知ったらどう思うのかなぁ
186名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 23:14:43 ID:z0SucZdC
爆薬満載の倉庫で火遊びしすぎだろドクターw
RXは常に想像の上を行ってしまう化け物だというのに。

黒い太陽GJでした。
187名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 23:15:30 ID:+DZTSQ/K
す、すげー!! こっちまで葛藤して喉の奥が痛くなってきた!!
光太郎ガンバ!!
りりかるな黒い太陽氏GJ!
188名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 23:18:00 ID:M83DXDfI
GJ!!です。
単純に、力技で解決できない事を光太郎は知ってしまいましたね。
今後の彼のスタンスが気になるところ。
189名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 23:51:59 ID:WgQ/q4v4
乙です。
光太郎とウーノとは珍しい組み合わせですね。
後、理由があるのならすみませんが、闇の書事件では重傷者はでなかったと
漫画版に書いてありました。
190名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:05:34 ID:MZJ7ssVX
あれ?漫画版でシグナムにボコられた召喚師の人が…
191名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:07:47 ID:TSW5Ww3J
当時、怪我の度合いで重傷では無かったとしても、その後に精神的な何かで魔導師を辞める事になった可能性までは否定できませんね。
192名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:08:41 ID:Z8dCU3Fy
管理局の体質からして、公式には無し、と言う事でも別に不思議では無いと思うが
193名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:09:10 ID:niULFvN0
スカさんすげえ!
チート満載のRXをここまで手玉に取るとは。
パワーバランスの妙に惚れた。
194名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:10:45 ID:bme2p4Zw
>>184
すいません、気になったもので……。

>>190
重い怪我ではなかったのでは。
195名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:12:51 ID:qAWqEFtr
どこかの名もなきファラオが言いました
「所詮力など真のデュエリストの前ではまやかしに過ぎない」

RXは心がまだ人間なんだなーと実感する回でしたw
196名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:13:41 ID:JERxPd/2
リンカーコア抜き取られて、運悪く・・・って事だと思ってた。
197名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:20:19 ID:bme2p4Zw
>>191
重いケガとあったので、それも含まれるのかもしれませんね。
手加減も上手くやったと言及されていましたし。

>>192
そうなるとSSを書く上でなんでもありになってしまうような……。
198名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:27:29 ID:cxb3Kz+1
思えばBLACK(Black)二本立てか。
なんか感慨深いな
199名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:33:09 ID:TDjC3E2R
管理局がショッカーやゴルゴムとやってることは大差ないんですよね。どちらも「表向き」は社会と経済に貢献してるわけですから。

バイオライダーの登場はまだ先か、ぶっちゃけワンピースの自然系能力者(物理攻撃一切無効)を相手取る様なモンだ。体内に入られたらグランザイラスの二の舞ですぜ
200名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:54:32 ID:hC/IinMM
バイオライダー…アジト3を思い出すな〜
RX…高速
ロボ…鈍足
ここまではわかった。
バイオ…超光速
なぜに光?と思ったもんだ。
バイオでみんな皆殺しにできてしまう。
201名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 01:00:17 ID:OD2ObiZL
このスカさん、力押しじゃあ絶対勝てねえww
小説版仮面ライダーの《大使》と同じ、凶悪なにおいを感じるぜ
202名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 01:52:44 ID:sVY6tUti
しかし、情報源がクロノ以外は犯罪者だったりするので、
何処まで正確に状況と情報を把握してあるかがいまいちわからないからなあ
精神的にも十全とは言えなさそうだし
203名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 08:05:15 ID:bme2p4Zw
>>199
そうかねえ……ちょっと言いすぎじゃ
204名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 12:11:04 ID:85Mvmec1
クロスSSを読めば読むほど、リリカル世界が狂ってる事を嫌でも認識する
205名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 12:27:23 ID:sY0ddWEJ
ぶっちゃけクロスだと故意に歪ませてないか。
黒い部分があっても大半は真面目に働いてるし。
206名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 13:00:02 ID:masS0bJH
いや、個々人は誠実だろう。
社会の仕組みが我々と違うだけで。

ぶっちゃけ、世界の警察(正義でも可)を名乗るアメリカに対する
弱小国の気持ちというか。
207名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 13:39:29 ID:YbUSJeEc
ウロスか設定議論に行こうぜw
208名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 13:59:31 ID:mfiekzsm
>>204 本編と二次創作を混同するなよ。
209一尉:2008/10/30(木) 14:16:07 ID:Jo4qFOhK
そんな事なったら国連が介入してしまうよ。
210名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 14:36:45 ID:THHWeOTo
>>208
ああ、本編の方が狂ってるからなw
211名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 14:56:35 ID:Z0R61AbR
>>210
作者が適当に調節している二次創作を基に原作の方を語ってどうするだよってことなんだけど
似ているようでいて違う世界なんだから
ああ、話のすり替え乙
212名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 17:10:44 ID:JUN+rtoz
どうやってもー かてーない あくまが〜♪(ジュ
213名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 18:10:57 ID:NPTlsFh+
まぁ現実なり架空なり完璧な組織はそうないよ
なんらかしらの汚職はあるさ

なにはともあれりりかるな黒い太陽_氏GJ!
214名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 18:32:38 ID:5hSVmzSP
黒GJ


実際引き抜かれた犯罪者がエリートコースを爆走してるのってどうなんだろ?

普通なら絶対いざこざがあるはずだが、原作にはほとんどない。
上がもみ消してるのは当たり前として、下だと逆に指導されて納得させられるとかかな。

215名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 19:06:45 ID:4BKEblTy
しかし、はやてもフェイトも裁判では保護観察で済んでいることを考えると
犯罪者という括りに入れるのはどうかって気もするしな
出自と能力を考えての観察っぽいし
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 19:08:01 ID:UePyTRd5
>>200

RXは最前線で光速変身及び長時間戦闘軍で言うに自衛隊や米英独軍、リリカルで言うになのはやスバル

ロボは超堅なる体と冷静な心と絶対命中
「大和」と「みらい」と「ジョージ・ワシントン」を合体したもの
リリカルで言うにリはやてやヴアィスと聖杯

バイオは「ドラえもん」


ついでにRXには続編があって内容は響鬼と電王と555のような話だったらしい訳すとstsな話

ついでにblackは二人の19才の大学生が地球を賭けたガチバトル
555と電王は18才だ
上手く編集すれば日曜0830に放送できるよ初期なのはとエリキャロは
ライダーより年上で少女はダメだ
217名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 19:55:06 ID:2FuZTaX3
>>1も読めない馬鹿が沢山いるねここは
218名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 19:56:53 ID:LYbWmi+Z
えと…日本語でおk
やっぱり句読点は要ると思うよ。
219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 20:04:36 ID:YbUSJeEc
雑談はウロスでねってことさ、下らん事を突っ込む必要はないですよ。
220名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 21:31:51 ID:1X0JPwf/
現在運営議論スレで、三次創作、多重投稿についてのルールをどうするかを議論中です
本スレでの運営に関わることですので、積極的な参加をお待ちしております

クロスSS運営議論スレ2
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1224647260/
221一尉:2008/10/31(金) 01:30:30 ID:A9KswUJ9
時空連合艦隊すれは良い。
222名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 02:04:20 ID:Xj2PBRyN
銀河殴り込み艦隊ですね わかります
223名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 02:39:06 ID:FNMA9mv4
車改造大作戦のXとGASのSSを見てみたいです
224名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 12:24:38 ID:KJznhGJA
荒らしすら見分けられない>>222は半年くらいROMった方がいい
225一尉:2008/10/31(金) 13:50:37 ID:oXRMmUXT
時空勇者大戦でやれはいいじゃん。
226名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 18:32:13 ID:w5dnQ+PD
>>225
死ねや、生きてて良いなんて大それた事考えてんじゃねぇぞ、てめぇ
社会の癌はとっとと死ね
227名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 18:59:19 ID:/K8n98ed
>>226
前にも同じようなものがいたような…
228名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 19:55:26 ID:gppoUoVS
テスト
229リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 20:40:36 ID:UNRgHxpd
誰も投下予告していないようなので、8時55分頃に投下予告させていただきます。
思ったよりも長くなってしまい急遽前後編に分けた為、前回予告した所まで行けなかった事を
先に謝罪します。
230名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 20:40:46 ID:PJ91ffbx
>>228
繋ぎ替えの実験ご苦労さま
231リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 20:55:16 ID:UNRgHxpd
エリオが振るった槍が風を切り、一瞬遅れて木の枝から落ちた葉が切り裂かれる。
二枚となった葉が地面へと舞い落ちるのを見届けた後、流れる汗をタオルで拭い、ストラーダを構え直す。

「はぁっ!」

気合いと共に叫び、素振りの続きを始める。
すでに早朝訓練の時間は過ぎ、訓練用のシュミレーターは使えない為、エリオは隊舎敷地内の林で一人自主訓練を行っていた。
ヴィータやシグナムにはやりすぎは毒だと言われたが、それでも体を動かさずにはいられなかった。

(もっと強くならきゃ……強く!)

昨日の出撃、貨物列車での戦闘で新型のガジェットに敗北し気絶……目を覚ました時はすでに病室のベットの上だった。
シャマルの口から、列車から落とされた自分とガジェットに襲われていたキャロをフェイトが助けたと聞いたのは昨日の夜。
その事を聞いた時、フェイトに対する感謝の気持ちと共に自分に対する情けなさと悔しさが沸き上がって来るのを感じた。
あの時、自分が守るべきだったキャロを守れなかった。同じ部隊の、同い年の女の子一人守れなかった……それが悔しくてたまらない。

「だああぁっ!」

自らの内に募る悔しさと苛立ちを吐き出すように、エリオはストラーダを振るい続ける。
こんな事では騎士を名乗れない。女の子一人守れない情けない奴が騎士になれる訳がない。
憧れの女性に助けられるような男が、騎士を名乗る資格など無い。

「でぇやぁっ!」

ただ、がむしゃらに槍を振るう。
自分の中の悔しさと情けなさを、次こそこの槍で貫く為に。


隊舎屋上、林が見下ろせる位置でキャロはフリードを連れて立っていた。
視線の先には一人訓練を行うエリオの姿。聞けば早朝訓練が終わってからずっとやっていると言う。
こうして訓練を眺めているだけでも、エリオは強くなりたいのだと願っている事が伝わってくる。

(どうしてそんなに、強くなりたいのかな……)

強くなりたい、力を欲する理由が理解できない。
そこまでして力を手に入れ、強くなってどうしたいのだろう。
強すぎる力は他者を傷つけ、遠ざけてしまうだけ、持っているだけで自分を孤独にしていく。
エリオはそれを知らない。知らないから力を求めて強くなろうとする。

(エリオ君……そんな事してたら、独りぼっちになっちゃうよ)

彼もかつての自分と同じように独りぼっちになりたいのだろうか。
六課という居場所があり、フェイトという優しい保護者がいるのにも関わらず。
自分は嫌だ。せっかく手に入れた居場所を、自分を暖かく迎えてくれた人から見捨てられるのは絶対に。
だから力を使わない、使えない。使えばきっと、六課の皆は怖がって自分を追い出すだろうから。

(……まだ、フェイトさんの事も信用できてないのかな……私……)

独りぼっちだった自分を救ってくれた女性の事すら信用しきれていない。
キャロはそんな自己嫌悪に陥りながら、屋上を後にした。
232名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 20:56:30 ID:LoLLfZuK
支援
233リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 20:57:58 ID:UNRgHxpd
フリード覚醒 湾岸の決戦  前編
 

機動六課部隊長室。
八神はやては頭痛に表情を歪ませ、ぶつけようの無い苛立ちと戦っていた。
昨日の機動六課初任務、出来る事なら無事成功で終わらせたかったそれは、成功はしたが手痛い被害を被る結果を残した。

「フォワード二人負傷の上……なのはちゃんまで重症なんてなぁ」

フォワードの負傷はある程度覚悟していたが、エース・オブ・エースと名高い親友であるなのはの負傷の報告には耳を疑った。
左肩をアンノウンに貫かれ、応急措置もそこそこにティアナの救援に回るという無茶をしでかし、気絶して今は病院。
上層部にも当然その報は伝わっており、「八神はやてにはまだ一部隊は荷が重すぎたのではないか?」という声も少なからずあると小耳に挟んでいる。
設立準備中から色々と……特に地上本部寄りの人間に裏で言われてはいたが、今回の事は六課の立場も危うくしていた。

『なのはが負傷するとは流石にな……あれから八年も経って、彼女もそれなりに成長したから早々無いと思っていたが……』

通信モニター越しに、クロノ・ハラオウンが沈痛な表情を見せる。
六課後継人の一人として名を連ね、十年来の親友としてもはやて達と交流がある彼もなのは負傷の報告を受け驚きを隠せなかった。
そうして、彼はもう一つの気掛かり……義理の妹であるフェイトの事もあった。
六課へ帰還した後、フェイトは皆への労いやエリオの見舞いもそこそこに自室に引きこもってしまったのだ。

『フェイトはまだ……?」
「うん。まだ部屋に引きこもってる」
『敵の命を奪ったのは、初めてだろうからな……彼女は悩みやすい所があるから仕方ないかもしれないが』
「なのはちゃんもおらんし、そうは言ってられへんのが上官の辛い所やな……もうちょい長引くようなら、私から言っとく」
『あぁ、よろしく頼む』

モニターの向こうで頭を下げるクロノにはやては苦笑する。
全くもって妹思いの良い兄だ。一人っ子として生まれたはやてには時折、こんな兄を持つフェイトが羨ましく感じる。

「そんなかしこまらんでも、私とクロノ君の仲やないの」
『それもそうか……っと、そうだ。君にも一応知らせておいた方がいいか』

クロノは何かを思いだしたかのように呟き、軽く咳払いする。

「ん? どないしたの?」
『いや……僕もヴェロッサから聞いただけなんで、詳しくは知らないが……六課がアンノウンに襲われた時と同時刻、地上本部にもアンノウンが出現したそうだ』
「へっ!?」

思わず間抜けな声をあげた。
自分達、機動六課がアンノウンに襲われていたのと同時刻に地上本部にもアンノウンが出現したと聞いて驚くなというのが無理だろう。

「それ……偶然や無いよね?」
『同時刻にアンノウンが二カ所出現なんて偶然がそうそうある訳が無いだろう……だが、僕としてはもう一つ気になる情報がな』
「……まだなんかあんの?」
『そのアンノウンは本部の武装局員が撃退したが……保護中の次元漂流者がそれに協力したそうだ』

保護中の次元漂流者が協力……と聞いて、はやての脳裏に二日前、なのはとヴィータが対応した次元漂流者の事が浮かんだ。
炎の翼を持った竜人と共にクラナガン上空に出現し、地上本部に引き渡された青年。

「なぁ、その漂流者って……何か連れとったとか聞いてない?」
『トカゲのような使い魔を連れていたそうだ……やはり君もそう思うか?』
「うん。なのはちゃんとヴィータが対応した漂流者……だと思う」

確証はないが可能性は高いと、はやてもクロノも推測していた。
連れていたのが竜人ではなくトカゲのような使い魔というのは気になるが、力を押さえた状態だとすれば可笑しくはない。
そうして、青年とアンノウンの間には何らかの関係性があるのではという推測に至るまでに時間はかからなかった。
234リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 20:59:07 ID:UNRgHxpd
「その漂流者と、どうにかして会えへんかな?」
『どうだろうな。レジアス中将が直に担当しているという話だ……そっちが遭遇したアンノウンの事は報告してあるんだろ?』
「うん。昨日の内にな……その件でちょっとアポでも取ってみよか」
『こっちからも何とか出来るように話は通そう。じゃあ、これで』
「よろしくな、クロノ君」

クロノとの通信を終え、はやては椅子に背を預け軽くため息をつく。
ただのアンノウン出現で終わるとは思っていなかったが、どうにも自分の予想よりも今回の一件は根が深そうだと感じる。
頭痛の種が、また一つ増えた。

「まぁ、悩んでてもしゃぁないか。今やれる事から一つ一つやってこか」

まずはレジアス中将が担当しているという次元漂流者との面会を駄目もとで頼んでみよう。
それこそ自分が頼れる上層部の人間全員に協力して貰うという無茶だってするつもりで。

「リイン、悪いけどコーヒー作ってくれへん?」
「了解です」

パートナーたるリインフォースUの元気良い返事を聞きながら、はやては仕事に取りかかった。


電気も付けず暗い自室のベットの上で、フェイトは仰向けになり焦点の定まらない目で天井を見上げていた。
スーツの上着やブーツは床に脱ぎ捨てられ、大切なパートナーであるバルディッシュすらも床の上に捨て置かれている
帰還後そのまま部屋に戻ってから、ずっとこうしている。本当ならエリオやなのはの見舞いに行かねばならないし、仕事もあるのだがする気が起きない。
とてもじゃないが、仕事に手が着く精神状況ではない。

「私……」

思い返すのは昨日の出撃、なのはに重傷を負わせたアンノウンをこの手で殺した瞬間。
なのはの左肩を貫いたアンノウンを見た瞬間、憎悪と殺意に全てを支配され気が付けばその首を切り落とし、殺した。
その時は何とも思わなかったが任務が終了し隊舎へと帰還した後、自分がやった事……相手の命を奪った事を自覚し、怖くなった。
本来ならアンノウンを拘束し、話を聞くなりなんなりするべきだったと言うのに、怒り任せに、躊躇いもなく命を奪った自分が怖い。

「……この手で、殺しちゃったんだな」

今回は状況が状況故、アンノウンの殺害に関してフェイト個人に対する責任追及の類は行われない事となった。
それでも六課責任者であるはやてには、初出撃での失態に対するお咎めがあった筈であり、後継人である義母や義兄にも迷惑を掛けた。
更に昨日の夜から部屋に引きこもっている自分の事を、六課の仲間は少なからず心配しているだろう。

「迷惑かけっぱなし……か……」

そんな自分が、心底嫌になる。
せめて部屋に引きこもるのを止めるかと思い、ベットから上半身を起こした所で部屋のドアをノックする音とシグナムの声が聞こえてきた。

「シグナムだ、入るぞ」

返事を言うよりも早くシグナムはドアを開け入室し、暗い上に乱暴に脱ぎ捨てられた服を見やりため息をつく。
この部屋の状況を見れば、今の彼女の精神状況は聞かなくても分かる。

「やれやれ……隊長がそれでは、エリオとキャロが心配するぞ?」
「すいません。その……二人は?」
「エリオはともかく、キャロは重傷だな。訓練を休んだ」
「そう……ですか」
235リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 21:01:03 ID:UNRgHxpd
シグナムが自分を叱咤するなり慰めに来た訳では無い事は分かっていたが、それでも心の何処かで彼女の言葉を期待していた自分がいる。
誰かに背中を押して貰えれば、少しは気が楽になると思ったが……世の中そんなに甘くはないらしい。
なのはやはやてなら何か言って貰えたかもしれない等と考えてしまう辺り、自分はシグナムの事をそれ程信用していないのでは無いかとさえ思ってしまう。

「……どうかしたか?」
「いえ、なんでも……ゴメンね、バルディッシュ」
『お気になさらないでください』

ボタンを留め終え、床に捨て置いていたバルディッシュを拾い上げ、床に捨て置いた事を謝罪。
待機状態、ブローチ型のバルディッシュを身につけフェイトはシグナムの脇を通って部屋を後にする。
その背中の姿を見ながら、シグナムはどこか不安げな表情を浮かべる。
とりあえず引きこもるのを止めてくれたのは嬉しいが、彼女の中で昨日の件の割り切りが出来ない限りは不安が残る。
だからといって自分がどうこう口を出せるような問題でもない。あくまでも、彼女が自分で決着を付けるしかないのだから。


「こいつらもデジモンとやらで間違い無いのだな?」
「あぁ、間違いねぇ。クリサリモンの他にも出てきてやがったのか……」

モニターに映しだされた映像を見ながら大はレジアスの問いに頷く。
彼とアグモンが見ているのは六課からの報告と共に提出されたアンノウンとの戦闘記録映像。
クリサリモン出現と同時刻での出現と言う事もあり、念の為にと大に映像を見せたのだが……嫌な予感が当たってしまった。

「デジモンとは、そう簡単に次元を越える事が出来るのですか?」
「ゲートでも通らない限り無理だと思うけどなぁ……5年前は次元の壁が歪んでたからだし……」

オーリスの問いに答えながらアグモンも頭を捻る。
やはり、誰かが意図的にこの世界とデジタルワールドを繋ぐゲートを開いているとしか思えない。
頭を使う事、物事を考える事を最も苦手としている大とアグモンも流石に疑問を感じる。

「つまり、ミッドとデジタルワールドを繋ぐゲートがどこかに開いていると言う可能性が高いと言う事か?」
「……だと思うぜ。難しい事はさっぱりわかんねぇけど」

小さく舌打ちをし、レジアスは忌々しげに映像を睨み付ける。
報告によればレリックを狙っており、六課も痛手を受けたと言う……裏に何者かがいる可能性はあるかもしれない。
更にゲートが開いているとすれば、今後もデジモンが出現する上にクラナガンで暴れる事も考えられる。

(冗談ではない。こんな得体の知れない化け者共に地上の平和を乱される等……っ)

地上の、ミッドの平和を守る事を重んじるレジアスにとってデジモンの存在は迷惑以外の何者でもない。
今後も出現し続け、万が一にでも首都のど真ん中に現れよう物なら、人的被害も馬鹿にはならないのは想像するまでもない。
平和を守る為ならばどんな事であろうとやる覚悟はある……その為に今の地位にいる。その為の力を手に入れる準備も進めている。

「そう言えば、昨日回収したアンノウンが遺したと報告のあるタマゴですが……解析の報告が届きました」
「ふむ。で、どうだったのだ?」
「解析不能だったそうです」
「……そうか」

アンノウンが遺したタマゴを調べれば何か対策のヒントが得られるかと思ったが、徒労に終わってしまったようだ。

「タマゴ……って、デジタマがあんのか?」
「デジタマ? アンノウンの遺したタマゴの事ですか?」
「うん。デジモンのタマゴだから、デジタマ。わかりやすいだろ?」

あまりにもストレートなネーミングに思わず転けそうになるのを堪える。
何故か自信満々なアグモンに突っ込みを入れたくなるが、とりあえず無視して話を進める。

「とりあえず……デジタマの扱いはどうすればいいのかしら?」
「「……へ?」」
「お前達はデジモンと戦っていたのだろう? ならばデジタマとやらの扱いなども心得ている筈だが?」
236リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 21:03:33 ID:UNRgHxpd
レジアスの言葉は最もな意見だろう。
大自身に自覚はないが、レジアスとオーリスは大達の事をデジモンの専門家としても見ている。
デジモンとの戦闘経験も豊富で、最も知識があるのだから当然である。

「いや……そのなぁ……俺等の時は、デジタマに戻してすぐにデジタルワールドに送り返してたからさぁ……」
「デジタマの扱いって言われてもなぁ……兄貴」
「だよなぁ……トーマか湯島のおっちゃん辺りに連絡つけばどうにかなるかもしんねぇけど」

しかし現実は非情である。
大とアグモンは二人の淡い期待に答えられる知識を持ち合わせていなかった。

「……そうか」

なんだか一気に疲れた気がする。
レジアスが軽くため息をつくと同時に、デスクの上の通信端末が呼び出し音を鳴らす。
また揉め事かと、端末の回線を開きデスクの上にモニターを表示する。

「何事だ?」
『中将、それが……』

モニターの向こうにいる局員の報告。
それはレジアスの表情を変えるには十分すぎる物だった。


「全治一ヶ月か……重傷って聞いてたけど、それぐらいで治るなら対した事はねぇな」
「にゃはは……ゴメンね、心配かけて」

病室のベットの上で上半身を起こしたなのはは苦笑し、見舞いにきた三人へ申し訳なさそうな顔を向ける。
なのはの怪我は診断の結果、治癒魔法での定期的な治療と完治するまで左肩を酷使しないという絶対条件が付く物の全治一ヶ月とされた。
当然ながら訓練や戦闘などは完治するまで禁止。教導官が訓練を行えないなど本末転倒だが、今回は仕方がなかった。

「なのはさん、今日もこのまま入院なんですか?」
「うん。相手が相手だったし、何か異常が起きるかも知れないからって検査するんだって。何もなければ明日の夕方には退院できるよ」
「そうですか……良かったぁ」

その言葉にスバルとティアナはホッと胸を撫で下ろす。
なのはが倒れた後の二人、特にスバルは酷く取り乱し、通信越しでヴィータが怒鳴りつけてようやく落ち着いた程だった。

「ま、良かったついでに……ほら、出せ」
「……へ?」

唐突に突き出されたヴィータの手を見て、なのはは間の抜けた声をあげる。
掌を上にして、まるで何かを渡せと言わんばかりのポーズを見せているが、一体何なのか分からない。

「出せって……何を?」
「レイジングハート」
「いや、別に預かって貰わなくても……荷物になるわけじゃないし」
「お前からデバイス取り上げとかないと一ヶ月も戦闘行動自粛なんてする筈ねぇ」
「そんなぁ……私の事少しは」
「信用出来ねぇ。こればっかりは」
「……結構、酷いね」
237リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 21:05:30 ID:UNRgHxpd
容赦のないヴィータの言葉に、なのはの眉が僅かに吊り上がる。
しかし、なのはは思いも寄らぬ存在からの言葉でトドメを刺される事となった。

『そうですね。マスターの怪我が完治するまでの間、ヴィータ副隊長に預かって貰います』
「えっ……ちょっと!? レイジングハート!?」
『マスターの元に私がいる場合、まず間違いなく無茶して出撃しますから』
「自分のデバイスにまで信用されてないの……私って……」
『この件ばかりは信用できません。全てはマスターの為です』

レイジングハートの裏切りにより、なのはは渋々ヴィータにデバイスを預ける。
どんな事があっても絶対に裏切らないと思っていた相棒に裏切られた挙げ句、信用されていなかったというコンボは彼女の精神に多大なダメージを与えた。

「ふっ……ふふふ……まさか10年も付きあってるデバイスにまで信用されてないなんて……あはは……」

自分の体を省みない無茶をし続けた事が原因なのは分かるが、はっきり信用できないなんて言わなくてもいいじゃないか、酷すぎる。
もう少しオブラートに包んでくれたっていいだろう。それ以前にマスターを裏切らないで欲しい……ブルー○ス、お前もか。
ベットの上で顔を俯き、ブツブツと何かを呟くなのはは普段の凛々しい彼女とは正反対であり、憧れを抱いていたスバルはショックを受けたように固まっている。

「んじゃ、仕事もあるしそろそろ帰っから……いい機会だしゆっくり休めよな」
「あの、明日の夕方迎えに来ますね。それじゃ」
「失礼します」

3人は病室を後にし、そのまま足早に病院を出る。
鬱になったなのはの出す重い空気に耐えかね、仕事に託けてさっさと出ていきたかったのが本音。
あれ以上同じ部屋にいたらこっちまで鬱になりそうだった……流石にそれは御免である。

「っと、そろそろ昼か……いっそどっかで食って帰るか? たまには奢ってやるぞ」
「ホントですか!?」
「スバル、涎が出てる涎が。でも、いいんですか? 本当に」
「うっせー、上官が奢ってやるって言ってんだから遠慮すんな」

そう言いながら笑みを浮かべるヴィータにスバルは「遠慮しません!」と元気良く答える。
隣にいるティアナは頭を抑え、スバルの場合は少し遠慮をした方が良いだろうと喉まで出てきた言葉を飲み込む。
ここで突っ込んでも疲れるだけだと、彼女と長い付き合いであるティアナは理解していた。

「さて、何食うかな……ん?」

昼食を何にするかとの思考を巡らせている所へ、3人のデバイスへと緊急通信が入る。
緩んでいた表情を引き締め、ヴィータはデバイスの通信機能を起動させる。

「私だ。何かあったのか?」
『緊急事態です。 ……クラナガン沖数キロの地点に、アンノウンとガジェットが出現しました』


クラナガン沖数キロ地点の海上。
海面から長い首を晒している頭部を甲羅に覆われ、刃となった角を持つ赤い巨大蛇、メガシードラモンの頭上にスカルサタモンの姿があった。
目こそ潰れてはいないが顔の左半分に亀裂が走り、その表情を怒りと焦りに染めている。

「クソッ! この俺様が人間如きに……」

昨日、スバルの不意打ちで傷を負った挙げ句にレリックを手に入れるという目的を果たせず終いだった。
このまま人間相手に負けたままで終わる事は許されない。自分に傷を負わせたスバルへの復讐……せめてレリックを手に入れなければ気が収まらない。
それ以前にレリックを手に入れなければ自分の命がない……別にスカリエッティや倉田、ナンバーズとかいう小娘共は怖い相手ではない。
奴らではない自分をこの世界へと招き入れた存在がこれ以上の失敗を許さない。今回の出撃とてお情けで許されただけなのだ。

「んで……なんでテメェ等まで一緒に来てんだよ!?」
「命令で来ただけです。一切手出しはしませんので気になさらず」
238リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 21:07:59 ID:UNRgHxpd
スカルサタモンの隣を飛行する少女、セッテは彼の文句を軽く聞き流す。
彼女自身、スカルサタモンと共に出撃する気など全くなかったのだが……トーレの指示でこうして着いて来きている。

(敵を知る事も必要とトーレは言っていたけれど……)

自分やトーレ、戦闘機人として生み出された他の姉妹達は互いに活動データを共有し、自らにフィードバック出来る。
故に実戦経験皆無の自分も一般的な武装局員なら軽く倒せる程度の実力はすでに得ている。しかし、トーレ曰く自分の目で実際に確かめる事も必要だそうだ。
生きたデータを共有して経験値を溜めていけるとしても所詮はデータ。実際に目で見、肌で感じる経験には遙かに劣ると言う事らしい。
目覚めたばかりの自分にはよく分からないが、教育担当者でもあるトーレの指示ならば従おうという機械的な判断が彼女を動かした。

「私達は戦闘する気ないから、そっちはそっちで勝手にやって。ガジェットもそっちの指示に動くようにしてあるから」

セッテの後方、全翼機型のガジェットの上に立った少女……ディエチがそっけなく呟く。
彼女はセッテのように戦闘の見学としての出撃ではなく、目覚めて日が浅いセッテのお目付役としての出撃。
姉であるトーレや、生みの親たるスカリエッティの指示が無ければスカルサタモンなどと共にいたくないというのが本音である。

「チッ……勝手にしやがれ! 行くぞ!」

忌々しげに吐き捨て、スカルサタモンはメガシードラモンと共に連れてきた配下のデジモンやガジェットへ指示を出し海上を進む。
クラナガン湾岸地域までの距離はあと数キロと行った所。これ以上進めば戦闘に巻き込まれると判断し、ディエチは自らが乗るガジェットの動きを止めその場で浮遊させる。

「セッテ、私達はここから見学……見えてる?」
「問題ありません」

セッテもその場で浮遊し、進軍していくスカルサタモン達を眺める。
出撃したが戦闘には参加出来ないという想像外の初陣だが、だからといって不満に感じる事はない。
彼女の機械的な思考が疑問に思うとすればただ一つ。わざわざ戦闘を見学してこいと言ったトーレの心中のみである。


アンノウン……デジモン出現の報告を受けたレジアスは表情を怒りに染め、すぐに動かせる部隊に出撃を命じた。
デジモンは真っ直ぐにクラナガンへと向かっており、あと十数分で湾岸地域へと上陸する計算である。
湾岸の監視カメラからの映像で確認する限り空にはガジェット、海上に巨大な蛇のようなデジモンが四体確認できる。
そして海上のデジモンの中で一際巨大なデジモンの頭上にスカルサタモンの姿もある。

「動かせる部隊を湾岸地帯に回せ! 殺傷設定で攻撃してもかまわん、何があってもアンノウンを上陸させるな! 周辺住民の避難も忘れるな!」

オフィスから離れ、本部司令室へと足を運んだレジアスは怒声混じりに指示を出す。
デジモンとガジェットの同時出現。両者に明確な繋がりがある事が判明すると同時に、レジアスは更に怒りを募らせる。

(スカリエッティめ……一体どういうつもりだ!?)

ガジェットの事はともかく、デジモンまであの男の手元にいるなど聞いていない。
最高評議会が自分に黙って手引きした可能性も無くはないが、それにしてもこれはやりすぎだ。
海上での牽制程度ならまだしも、明らかに攻め込もうとしているこの状況……自分を挑発しているつもりか。
ならば、それ相応の態度で対処に望むのがレジアス・ゲイズのやり方。それを思い知らせてやろう。

「オーリス。ヘリは出せるか?」
「ヘリ、ですか? 陸士108部隊のヘリがすぐ近くを現場に向かって飛行中ですが」
「それをこちらに回すよう伝えろ。小僧とアグモンとやらを現場に連れて行かせる!」
「なっ……中将!?」
「局員達はアンノウンとの戦闘経験が皆無だ。無駄な犠牲を払うよりマシだろう……責任はワシが持つ!」
239リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 21:10:10 ID:UNRgHxpd
六課司令室。はやては忌々しげな視線をモニターに向け、そこに映る簡略化されたクラナガン湾岸地域のマップを睨み付けていた。
赤い光点で表されているアンノウンとガジェットの連合は湾岸地域を目指し、青い光点で表された地上本部の戦力も続々と集結を始めている。
数だけならば本部の戦力が上だが、魔導士ランクの低い本部の武装局員だけでアンノウンに対抗しきれるとは正直思えない。

「グリフィス君。スターズはもう向かってるんよね?」
「はい……ヴィータ副隊長以下二名、現地へ向かっているとの報告です」
「ライトニングは?」
「すでに準備は整っています」

本部からの、レジアスからの出撃命令は本局所属の部隊である六課には来ていない。
地上と本局の確執は以前から耳にしてはいたが、こういう時でもそれが影響するとは流石に思わなかった。
はやては少し考える素振りを見せた後、おもむろに席を立つ。

「グリフィス君、リィン、すまんけど後頼むわ。私も出る」

敵の上陸阻止が目的ならば遠距離砲撃による援護は必須。
なのはが出撃できない以上、その穴は広域・遠隔魔法による後方支援特化の自分が埋めるしかない。
はやてはポケットに入れていた待機状態のデバイスを手に司令室を後にし、足早にヘリポートへと向かう。
ヘリポートへと到着した時、すでにライトニング小隊の四人がヘリに乗り込もうとしていた所だった。

「はやて……出るの?」
「うん。今回は大事になりそうやしな……それと、フェイトちゃん」

ヘリに乗り込み、フェイトの隣にたったはやては真剣な表情で彼女を見やる。

「今回は状況が状況や、多分アンノウンを倒す……殺す事になるけど……戦える?」
「えっ?」
「昨日の事をまだ引きずって戦えへんってのなら無理に出んでえぇ……どうなん?」

六課部隊長としてのはやての問いに、フェイトは一瞬言葉を詰まらせる。
柔らかい表現を使っているが、要するに戦えないなら邪魔だから降りろと言っている……それは出来ない。
エリオやキャロも出撃するというのに、自分だけ降りるなど出来るはずもない。

「大丈夫……戦えるよ」
「……そっか。ヴァイス君、ヘリ出して!」
「了解、全速で行きますよ!」

ヘリのハッチを閉め、パイロットのヴァイスが機体を上昇させる。
離れた位置に座ったフェイトを横目で見やりながら、はやては小さくため息をつく。

(無理してんのバレバレやって……)

無理をしているのが見ただけで分かる。エリオとキャロ、彼女が保護責任者である二人が出撃するのに自分だけ出ないのが耐えられないのだろう。
あのまま無理に降ろそうとしても互いに譲らず、無駄な時間を浪費するだけと考えあえて何も言わなかったが……無理にでも降ろした方が良かったかもしれない。

(……シグナム。エリオとキャロで手一杯かもしれんけど……フェイト隊長のフォローも頼める?)
(分かりました。八神部隊長は後方支援に集中してください)

念話でシグナムに指示を送り、はやてはもう一度ため息をつく。
部隊長という立場上、部下に対しては時に厳しく当たらなければならない事は理解しているが未だに出来ていない自分が情けない。
十年来の親友でもある事がフェイトに対しての情けになってしまっているのか、本当に自分が情けなくて仕方がない。


アンノウン……デジモンが上陸すると予測された湾岸地域、貨物を保管する為の倉庫街には数十人体制で武装局員が待機し、防衛戦を敷いていた。
殺傷設定での攻撃が許可される程の相手で昨日出現したアンノウンは高町なのはを病院送りにしたとの噂を聞き、局員達には緊張が走る。
空戦S+ランクのなのはが撃墜されたのだ。この場にいる局員のランクは高い者でAAA……数ではこちらが勝るとはいえ不安を覚えずにはいられない。
240名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 21:11:36 ID:T/RkChgI
支援!
241リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 21:12:43 ID:UNRgHxpd
「……来たぞ!」

空中で待機していた局員が声を張り上げ、敵の接近を告げる。
海上を進む巨大なアンノウン、メガシードラモンと空中を進む十数体のガジェットとデビドラモンの編隊が水平線に浮かび上がる。

「いいか、絶対に上陸を許すな! 攻撃を開始しろ!」

指揮を任された局員が叫び、一斉に攻撃が開始される。
まるで嵐のような勢いと数で襲いかかる魔力弾により、何体かのガジェットが直撃を受け撃破され、デビドラモンも負傷していく。
スカルサタモンは舌打ちし、メガシードラモンの頭上から飛び上がって杖を持って魔力弾を弾き返していく。

「人間共がうじゃうじゃとぉ! かまわねぇ、叩き潰せぇ!」

怒声と共に吐き出された指揮に従い、ガジェットと配下のデジモンが反撃を開始。
互いの攻撃が飛び交い、湾岸地域は一瞬にして戦場と化した。
スカルサタモンは自らを狙う何人かの武装局員をなぎ倒しながらその内の一人に狙いを定め、必殺の一撃を構える。

「ネイルボーン!」

スカルサタモンの杖、その先端に取り付けられた宝玉から光が放たれる。
それに狙われた局員は咄嗟にデバイスを盾代わりし、当然ながらデバイスへと直撃。
衝撃で後ろへ吹き飛ばされた局員は目を回しながらもデバイスを向け、反撃をしようとするがデバイスは反応しない。

「また壊れた!? 今朝新調したばっかだってのに!?」
「邪魔だ、どきやがれ!」
「ぐえっ!」

杖で局員の側頭部を殴り、ダウンさせたスカルサタモンはレリックが保管されているであろう場所……地上本部施設を見上げる。
距離は大分離れているがここからでも十分に見える程の巨大な建造物。
スカリエッティの話だと、レリックは地上本部研究室に送られている……つまりは、あの建物の中にレリックがある。

「人間共と何時までも遊べるかってんだ……あぁ?」

地上本部へ飛び立とうと翼を広げた直後、眼下の道路を走ってくる二人の人影が目にとまる。
どこかで見たことがあるなと思えば、昨日の貨物列車で戦った人間の少女達だ。

「あいつ等かぁ……っ」

顔の左半分に走った傷が疼く。
片方の茶髪の方はどうでもいいが、青髪の方は是非とも会ってこの傷の借りを返したかった。
スカルサタモンの口に笑みが浮かぶ。レリックを手に入れる前にあの青髪の小娘を叩き潰す。

「見つけたぜ、小娘ぇ!」

杖を構え、スカルサタモンは視線の先にいる青髪の小娘……スバルへと襲いかかる。
その気配に気付いたスバルが顔をあげると同時に杖が突き出され、少女の腹部へと吸い込まれるように直撃。
スバルの体はそのまま吹き飛ばされ、背後の倉庫の壁に叩き付けられる。

「がはっ!」
「スバル!?」
「雑魚は引っ込んでろ!」
242リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 21:14:55 ID:UNRgHxpd
振り向き様に杖を振るい、ティアナを弾き飛ばす。

「あうっ!」
「ティア!」
「他人の心配する暇なんざねぇぞ!」

倉庫の壁に背中を預けたままのスバルへとスカルサタモンは飛び掛かり、杖を振るう。
頭目掛けて振り下ろされた杖を避け、スバルは右腕のリボルバーナックルに魔力を込めカウンターの拳を突き出す。
拳はスカルサタモンの腹部を捉え、一瞬怯ませるがすぐさま反撃の膝蹴りを叩き込まれる。

「ぐはっ!」
「まだ寝んなよ!」

膝蹴りを受け、口から酸素を吐き出したスバルを杖で突き飛ばし倉庫の壁に再び叩き付ける。
短く悲鳴をあげるスバルの首を左腕で掴み、片腕でその体を持ち上げる。

「あっ……がっ……ぅぁ……っ」
「テメェにゃ顔の傷の借りがあるんだ。簡単には終わらせねぇ!」
「スバル! このっ……スバルを離しなさいよ化け物!」

地面に倒れ伏していたティアナが上半身だけ起こし、クロスミラージュから魔力弾を放つ。
数発連射した魔力弾は全てスカルサタモンに命中。その内一発が左腕へと当たり、その衝撃でスバルを掴んでいた指が解ける。
スカルサタモンが怒りの形相でティアナを睨み付け、杖から必殺たる一撃を放とうとするが右側頭部に叩き込まれたスバルの拳により中断。
更にティアナが魔力弾を連射し、まともに喰らったスカルサタモンはそのまま悲鳴をあげ倉庫の壁に立て掛けられていた廃材をなぎ倒しながら、地面に倒れる。

「ゲホッゲホッ……ティア、ありがと」
「スバル、大丈夫って……あんな一撃かましたんなら問題ないか」
「あはは……こんな事ならヴィータ副隊長と一緒に行くんだった……かな」

ヴィータと共に二人が現場へ到着したのは数分前。
飛行可能なヴィータは先行、二人は陸路で湾岸の防衛に加わろうとしていた所でスカルサタモンと出会してしまった。
今の内に振り切って逃げる事も考えたが、昨日の事を根に持って自分達に……というよりも、スバルに狙いを定めている。
恐らく何処まで逃げてもしつこく追ってくるだろう。

「……ティア」
「分かってる。私達でアイツを足止めでしょ?」
「いや……ここで倒そう」
「はぁ!?」

いきなりとんでもない事を言いだしたスバルに、ティアナは思わず間抜けな声をあげる。
二人がかりで倒せるどころか、戦いになるかどうかも分からないアンノウン相手に足止めでは無く倒すと言い切った。
確かにここで倒せれるならそれに越したことはないが、だからといって自分達二人だけで倒そうと言うのは無茶にも程がある。
243リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 21:17:11 ID:UNRgHxpd
「スバル、正気!?」
「勿論。ここで倒さないと次は他の人達が狙われるんだし……私達だけ狙ってくれるなら丁度良いじゃない」
「そりゃそうだろうけど……」
「それに、二人でやれば絶対勝てるって」

笑みを浮かべ、自信たっぷりに断言するスバル。
どこからその自信が出てくるのが問いつめたい所だが、そう言われると不思議と勝てそうな気がしてくる。
何だかんだと長い付き合い故の信頼感がそう感じさせるのかもしれない。

「はぁ……分かったわよ。私達二人で、アイツを倒しましょうか」
「うん!」
「誰を倒すって言ってんだ、小娘がぁ!」

廃材を吹き飛ばし、スカルサタモンが怒声をあげる。
どうやらさっきまでの話を全部聞いていたらしく、怒りの形相を浮かべ二人を睨み付けている。
睨むだけで人を殺せそうというのは、こういう形相なのかもしれないと何となく二人は思う。

「もう一度言ったげようか? 私達が」

ティアナの周囲に数発の魔力弾が展開される。

「お前を倒すって言ったんだ!」

リボルバーナックルのタービンが唸りをあげ、スバルの魔力が拳に込められる。
スカルサタモンの逆鱗に触れ、レリック奪還の目的を喪失させるだけの怒りを覚えさせるにはるには十分すぎる行為。

「いいぜぇ……そんなに死にてぇなら、二人仲良く殺してやらぁ!」

スカルサタモンの怒声と共に、ティアナの魔力弾が放たれスバルが大地を蹴る。
クラナガン湾岸地域の決戦が、開始された。
244名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 21:18:32 ID:NFlgfiWE
支援
245リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI :2008/10/31(金) 21:21:10 ID:UNRgHxpd
投下完了。
ホントはこの話の中でフリード覚醒とか大と六課共闘したかったんですが、書いてる内に
どんどん長くなって50KB行きそうな勢いになった故、前後編と分けさせていただきました。
次回の後編こそ、予告通りにフリード覚醒と共闘をやりますのでお楽しみにしていただければ幸いです。
なお、今回は登場デジモン解説省かせていただきました。
246リリカル・コア ◆QX1.NIIFiE :2008/10/31(金) 21:40:14 ID:gppoUoVS
リリカルセイバーズ氏、お疲れ様でした。
やはり来てない間に他の職人諸氏のお話が進んでますね。

規定時間経過後に投下してもいいですか?
247名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 21:58:05 ID:gTUq033T
GJ!!です。
以前は撃退できましたが、今度もちゃんとできるのかな?
次回を楽しみにしています。
>>246
支援
248リリカル・コア ◆QX1.NIIFiE :2008/10/31(金) 22:01:27 ID:gppoUoVS
では、ちょっとお邪魔します。
題目は捏造依頼集その2、一部攻略本風味です。
249名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 22:04:10 ID:izLOHQAN
リリカルセイバーズ氏GJ
今回はそれぞゼの状況とかのようでしたね。
次回はフリード覚醒と共闘ですか。
その話が掲載されるのを楽しみに待っています。
250リリカル・コア ◆QX1.NIIFiE :2008/10/31(金) 22:05:22 ID:gppoUoVS
依頼:大型陸上兵器撃破
依頼主:時空管理局本局
作戦領域:第7管理世界“オルセア”
作戦目標:大型地上兵器

依頼内容
オルセアに展開する反管理局勢力の保有する大型陸上兵器を撃破してほしい。
大型地上兵器は“アームズフォート”と呼ばれる兵器の一種でこちらの識別では“ランド・クラブ”と思われる。
目標の周囲には多数の護衛部隊が確認されているが目標はあくまでも“ランド・クラブ”のみだ。

正面からでは単機といえど苦戦は免れないだろう。
そこで“ランド・クラブ”が集結し、補給と整備を行っているタイミングで奇襲をかけてもらいたい。
此方のつかんだ情報では“ランド・クラブ”が四体集結し補給と整備、および次の作戦に備えた準備を行うとのことだ。
おそらく、司令官クラスも多数集まり会議等を行うものと思われる。
このタイミングで奇襲が出来れば動けない“ランド・クラブ”を複数撃破出来るはずだ。
例え討ち漏らしたとしても手負いの“蟹”に苦労はしないだろう。

オルセアは管理局の関与を拒否し、泥沼の内戦を続けており、現在勢力バランスは反管理局勢力に傾いている。
今回の作戦の目的は勢力バランスを親管理局勢力に傾け、双方の勢力を交渉のテーブルに着かせることにある。
だが、表立って我々が介入すればそれは好ましい結果を生み出さないだろう。

君たちに頼らざる得ない此方の苦悩も察してくれ。
ではよろしく頼む。

概要
依頼では奇襲となっているが実際には情報漏れにより相手は待ち構えており、“ランド・クラブ”が三体だけなのは救いか?
しかも作戦中の通信を聞くと漏らしたのは依頼主の管理局自身と思われる。
管理局は事前に奇襲を予告し、反管理局勢力に対し警告を行ったのだろう。
管理局が介入の姿勢を強めると言うメッセージを送るために。
なおハードモードでは先頭の“ランド・クラブ”が“ソルディオス・オービット”へ変更されている。


依頼:主力移動要塞撃破
依頼主:オルセア解放戦線
作戦領域:第7管理世界“オルセア”
作戦目標:大型地上兵器

依頼内容
作戦を説明する。
依頼主はオルセア解放戦線。
目標は礫砂漠地帯を遊弋する親管理局派の主力移動要塞、AF“スピリッツ・オブ・マザーウィル”の撃破だ。
SoMは艦載機搭載能力を備え六門の大口径砲、対空機関砲、VLSを備え死角は無いと言っていい。
些かくたびれた老女だが、現在でも現役を張れるような代物だ。

依頼主なんだがハッキリとは言わなかったがお前に大きな借りがあるみたいだな。
直々にお前を指名している。
まあ、そんな事は関係ない、詮索してもやる事同じだからな。
受けた依頼は遂行する。それだけだ。

こんなところか。
きな臭い任務だが成功すれば報酬は大きいぞ。

連絡を待っている。

概要
『大型陸上兵器撃破』の後、今度はやられた側が反撃する番。
反管理局勢力は管理局に雇われた複数のレイブンによって主力部隊に甚大な損害を受けたようで大規模な反撃には出れない模様。
そこで管理局に対する意趣返しに、というつもりなのか損害を与えたレイブンを雇い元の雇い主を襲わせる事にしたようだ。
ノーマルでは接近するまでに十字砲火を浴びるので回避に徹するか、それとも正面から突破するか、どちらかのアセンを自分に合
うほうを選ぶと良い。
251リリカル・コア ◆QX1.NIIFiE :2008/10/31(金) 22:08:28 ID:gppoUoVS
依頼:所属不明飛行要塞撃破
依頼主:クロノ・ハラオウン
作戦領域:管理世界“オルセア”
作戦目標:AF“アンサラー”

管理世界“オルセア”で確認された所属不明AF“アンサラー”を破壊してほしい。
おそらくどこかの企業が過去の資料から現在に復活させたんだろう。

本来なら僕自身が赴き、差し押さえたいのだが危険な過去の遺物を管理局が表立って破壊すれば技術は簡単に注目を浴び、拡散、
制御が効かなくなる。さらにそれが過去の技術を復活させたのモノであれば尚更だ。

企業連によって“オルセア”自体が巨大な兵器の試験場となりつつある。
いくら管理局の関与を拒否しているとはいえ、この状態が続けばいつか必ず技術は管理世界へと流出し、平和を脅かすものとなる
だろう。それは阻止しなければならない。

目標は大型兵器の例に漏れず、懐に潜り込めば一方的且つ簡単に破壊できる。
なお、兵装等の情報は現在調べさせている。新情報があれば伝えよう。

よろしく頼む。

概要
簡単に破壊できると依頼では言っているがとんでもない話である。
“アンサラー”の周囲は近づくだけで装甲が削られていく。さらに近距離によらなければシールドで攻撃を防がれてしまう。
近距離に近づくと今度は一定時間を置いて“アサルト・アーマー”を展開するので注意。
作戦中にユーノ・スクライアから通信が入り、その時にやっと警告を受け詳細な兵装と撃破方法を教えてくれる。
ノーマル・ハードともに“アンサラー”を単体で相手とするが違いは弾幕の厚さとAAの展開の時間の長短程度なので同じアセン
でいける。


依頼:管理局部隊阻止
依頼主:USE(中小企業連合)
作戦領域:管理局FOB

我々が共同で運営している秘密工場の存在が嗅ぎつけられた。
秘密工場ではある種の違法なパーツを製作していたのだが、これが管理局に押えられれば我々の立場は窮地へと追い込まれる。
それを避けるためにも、秘密工場からの資器材の撤収と爆破まで管理局部隊を足止めしてくれ。

我々のような中小企業は大企業達の狭間に在って必死に生き残ろうとしている。
知っての通り、管理局は大企業寄りの姿勢を採り、今回もおそらく大企業のどこかが管理局に密告をしたのだろう。

報酬は未だ市販されていない最新のパーツを用意した。レイブン、中小企業の為に戦ってくれ。
252リリカル・コア ◆QX1.NIIFiE :2008/10/31(金) 22:12:34 ID:gppoUoVS
依頼:管理局部隊襲撃
依頼主:インテリオル・ユニオン
作戦領域:第61管理世界“スプールス”

ミッションの概要を説明します。
ミッションターゲットは現在“スプールス”において演習中の管理局部隊です。
現在、ターゲットの管理局部隊はきわめて大規模な演習を行っており、明らかに同世界にユニオンが保有する権益に対
する示威的行動と見てよいでしょう。

演習中の部隊に対する補給に向かう部隊を追跡、集結地を確認後、これを排除する事がミッションプラントとなります。

なお、航空戦技教導隊の“エース・オブ・エース”高町なのはの存在が確認されています。
彼女の砲撃は大変な脅威となるでしょう。十分お気を付けください。
なおユニオンは彼女の撃墜に関して追加報酬を設定しています。

ユニオンはあなたを高く評価しています。
よい返事を期待していますね。

概要
なのはの砲撃の精度はそこまで高くは無い。だが爆風が広範囲に広がるので注意。
ハードではナンバーズNO.]・ディエチがターゲットに追加される。
こちらの砲撃は精度が高いので注意。
基本的に接近戦に持ち込めば撃破し易いのだが、なのはの防御力は別格と言ってよいほど。
削りきる前に距離をとられたりエクセリオン・バスターなどを打ち込まれないように。
ディエチのほうは砲撃にさえ警戒していれば接近と攻撃、撃破は装甲の薄さと装備の貧弱さからたやすい。


依頼:フェイト・T・ハラオウン撃破
依頼主:オーメル・サイエンス社
作戦領域:第四管理世界“カルナログ”

ミッションを説明しましょう。
依頼主はオーメル・サイエンス社。
目的は管理局の執務官の中でも実力者の一人であるフェイト・T・ハラオウンの排除となります。
現在彼女は担当する案件を解決するため地上に降りています。
しかしこれにただ接近するだけでは彼女に簡単に気付かれてしまうでしょう。

そこで依頼主からはVOBの使用をご提案していただいています。
確かに、VOBの超スピードがあれば彼女に離脱の機会を与えずに接近する事ができるでしょう。
すばらしいアイディアです。

さらに依頼主は支援機との協同をご希望です。
最終的にはそちらの判断ですが無理はなさらないほうがよろしいのでは?

彼女のスピードは脅威となるでしょうが所詮は速度だけ、打撃力に欠けるきらいのある歪な戦力でしかありません。
しかし彼女もそれは理解している筈で、それを活かしきれる彼女は侮れない一騎当千の戦力でしょう。

説明は以上です。

オーメル・サイエンス社とのつながりを強くする絶好の機会です。
そちらにとっても悪い話ではないと思いますが?

概要
フェイト一人ではなくティアナも併せて相手をするため2対1。
撃ち合いならば全体的に火力不足の二人、だがフェイトの近接攻撃には注意。
ハードではルートによってナンバーズのNO.3・トーレとNO.7・セッテが加入し4対1となる。
高速強襲型のトーレは一撃の威力が思いの外少ない、だが駆逐型のセッテのスローターアームズは威力が高いので注意。
全般的に火力不足なので撃ち合いが有効。
253リリカル・コア ◆QX1.NIIFiE :2008/10/31(金) 22:15:42 ID:gppoUoVS
依頼:エリオ・モンディアル襲撃
依頼主:リリウム・ウォルコット
作戦領域:第61管理世界“スプールス”
作戦目標:エリオ・モンディアル

管理局自然保護隊に所属するエリオ少年を襲撃してください。
襲撃に関してはこちらでミッションプランを用意いたしました。
これがBFFらしさ、という事です。

こちらの調査ではエリオ少年は一人で行動する時間帯があるようです。
その時間帯を狙いVOBで高速接近、その後“アルテリア・ウルナ”へと拉致……、もとい招待してください。
もちろんエリオ少年の予定や考えなどは考慮しなくてかまいません。

なお、支援機をこちらで用意いたしました。ご自由にお使いください。
“あの”ORCA旅団でただ一人の女性である貴方には期待しています。
それではよろしくお願いします。


「舐められたものね、私も、アステリズムも」
「細かいのは性に合わないの。正面から行かせてもらうわ」
「殊勝な羊ね……。わざわざ狼達の餌場に入ってくるのだから」
「さあ、坊や、ゆっくりかわいがってあげる……」
「え?ちょ、ちょっと待って……!!アッーーー!!!」

「フフフ……、さすがはBFFの女王……、いいセンスよ。……でも果たして本当にそれだけで良いのかしら?」
湖の騎士はクラール・ヴィント越しに見た一部始終を反芻しながら一人呟く……。
「次のイベントは貴方と私、どちらが正しかったのかが分かるわ……、フフフフフ……」
湖の騎士の哄笑を聞くものは誰も居ない……。

「や、やめて……、もう許し……」
「なにそれ、ふざけてるの?」
「役に立たない男ね」
「これでは成就など叶うはずも無い」
「……アーーーー!!!!」

「エリオ様、大丈夫ですか?」
「リリウム?あの……」
「大丈夫、あの人達は撃破しましたから……」
「……そうなの?って、ここはどこ?」
「アルテリア・ウルナです。エリオ様の家までお送りしましょうか?……でも家が遠いなら私の部屋にでも。……きっと王大人も
歓迎してくれるでしょう」
「じゃあそうした方がいいかな……?」
254リリカル・コア ◆QX1.NIIFiE :2008/10/31(金) 22:18:57 ID:gppoUoVS
そんな二人を狙う影……。
≪策を弄するとはな……。言葉は不要か……≫
「まさか……」
≪おい、私の尻の中に(検閲済)≫
「何故貴方が……そんな!!」

……エリオとリリウムの前に立ち塞がる“YRCA旅団”。
≪新参が……、私を粗製と侮るなよ≫
≪いいファルスだ……≫
≪刺激的にやろうぜ≫
≪噂は聞いておるよ。期待させてもらおう≫
≪尻を貸そう≫
≪大胆にしすぎたな、体に聞く事もある≫
≪いいヒップだな。正面からイカせてもらう≫
≪ミサイルカーニバルです≫
≪プランD、いわゆるピンチです≫

そして現れる“YRCA旅団長”……。
≪ハメさせてくれ≫

「リリウム、あの人達の目的は僕だけだ。だから君だけでも……」
「まさかこんな、リリウムの計画が読まれていた……?あの有閑マダム、湖の騎士に!?」
「……リリウム、シャマルさんがどうかした?」
「いいえ!!何でもありません。早くこの重包囲網を何とか突破しましょう!!」

エリオとリリウム、二人の逃避行が今、始まる……。

「エリオのエーレンベルグに大規模コジマ反応?……まさか!?」
≪伝説も伊達ではなかったか……≫

≪みんな、特にフェイトちゃんとリリウムちゃんは……、頭冷やそうか……≫


依頼:エリオ・モンディアル襲撃
依頼主:湖の騎士
作戦領域:第61管理世界“スプールス”
作戦目標:エリオ・モンディアル

ミッションを説明します。
エリオ君を襲撃する、いつも通り、ただそれだけです。
勿論結界と記憶操作は私が提供します。
いつも通りの任務です。詳細な説明は不要でしょう。

ただ今回はカラードのランク2、リリウム・ウォルコットがエリオ君をエスコートしている筈です。
まあ、あのような生娘、貴方達にとっては赤子の手をひねるような物……。
彼女はまだ経験が浅く、本物のエーレンベルグの前にはひれ伏すしかないでしょう。
貴方達のエーレンベルグでもって撃破してください。

では、貴方達“YRCA旅団”の活躍に期待します。
255リリカル・コア ◆QX1.NIIFiE :2008/10/31(金) 22:21:45 ID:gppoUoVS
以上です。
時々投下しますので今後ともよろしくお願いします。
一部改行がおかしいですがすみませんです、はい……。

リリカルセイバーズ氏の投下からちょっと投下のタイミングが早すぎたかもしれません。
氏に対し謝罪いたします。申し訳ありません。
256名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 22:24:07 ID:gTUq033T
GJ!!です。
実にそれらしい依頼ですねw
最初はシリアスなのに、後半はショタっ子を奪い合う醜い争いw
しかも、とんでもねぇのまで出てきたwww
257名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 22:38:50 ID:a+YIWtny
GJです!
しかし、なんていうか後半の醜すぎる争いに印象が全部ぶっ飛んだww
弱王とかテメエ勘弁しろやwww
ロリよりもショタのほうに需要がある世界に絶望した!

次回も楽しみにしてますよー!
258名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/31(金) 23:33:33 ID:iL0nmmpz
GJ!!
最初のシリアスなんのその
最後のショタの奪い合いに、ある意味有名な
YARCA旅団まででるとは予想外だった。
259名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/31(金) 23:48:44 ID:7DsVEs5f
GJ!!
あと変態数学者が合わされば完璧だなww
260名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 00:38:11 ID:iRFteHY0
YRCA旅団が全部持っていきやがったw
もう最初のシリアスなんか印象に無ぇwwwww
261名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 06:31:34 ID:5tGud1T9
>>251
適当な事いってんじゃねーよクロノwww
262一尉:2008/11/01(土) 13:45:11 ID:w/X8cfUg
なぜ依頼主が居るのか。
263名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 22:29:55 ID:XD9vmu6v
TODのリオン書ける奴いないかなぁ。
死んだ時の状況を使えばできると思うんだけど。
264リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/01(土) 22:48:23 ID:P4TuUuaf
23:15頃に投下予約をお願いします。
265リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/01(土) 23:14:37 ID:P4TuUuaf
それでは、そろそろ投下開始します。
266リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/01(土) 23:15:56 ID:P4TuUuaf

薄暗い、小部屋。
天井の隅に存在を主張している機械が、一定のリズムで首を振っている。
――監視カメラだ。
何度か往復するカメラがそっぽを向いた瞬間、スネークはSOCOMピストルでカメラを正確に撃ち抜いた。
専用の減音器の効果で、発砲した途端に音に気付いた敵が傾れ込んでくるという事も無い。
火花を散らし、力なくうなだれていく監視カメラ。

(……よし、ここで一休みしよう)

息を吐く。
スネークがここ、スカリエッティのアジトに潜入してから既に三時間程経っている。
少々埃っぽい小部屋の物陰に座り込むと、ブロック状の携帯食糧を口に放り込んで水筒を取り出す。
思ったよりも体は疲れていたようだ。
スネークは乾いた喉に潤いを与え、おおよそ五時間前、ここに来る事となった原因の記憶を掘り起こした。

第十三話「MGS」

「つい先程、スカリエッティのアジトを発見しました。……貴方に単独潜入任務を頼みたい」

目の前の男、ヴェロッサ・アコースが淡々と切り出した。
……単独潜入任務だって?
スネークは心のどこかで半ば予想していたのかもしれないその言葉を聞いて、大きく溜め息を吐いた。
勿論相手に聞こえるよう溜め息をついたのだが、反応は無い。

「……奴は、データとしては多く残っているが逮捕歴は無い男……だったか、よくもまぁ見付ける事が出来たな?」

ヴェロッサは頷く。
それに合わせて緑の長髪が緩やかに揺れた。

「よくご存知で。ナカジマ三佐やフェイト執務官の、地道で丁寧な捜査のお陰ですよ。……色々と情報もありましたしね」
「……情報?」
「ああいえ、まだ確証の無い情報です、お気になさらず。時間がありません、本題に入りましょう」
「フン、知る必要のある者にだけに伝える『ニーズ・トゥ・ノウ』か。……引き受けるとはまだ言っていないぞ」

状況を確認してからでも良いでしょう、と言われて言い返せなくなる。
スネークは鼻を鳴らすとおもむろにタバコを取出し、口にくわえた。
が、ライターが見付からない。
くそ。

「発見は今から一時間前。アジトの場所はミッド東部森林地帯です」
「……俺に頼まんでも、他の優秀な局員様を掻き集めれば良いと思うがね」
「そういう訳にもいかないんですよ、これが」

スネークはクロノとカリムの話を思い出して、地上と本局の対立か、と問い掛ける。
ミッドチルダ地上本部と本局の対立。
本局が協力を申請しても強制介入という言葉に言い換えられて、いざこざのきっかけなっている。
それが枷となり表立った戦力投入は出来ない、と。
ヴェロッサは座り直して手を組み、一層真剣な表情でスネークを見据える。

「はい。本局は地上で表立った行動を起こせませんし、六課前線メンバーも陳述会の警備で一杯一杯。おまけに奴のアジトは高濃度のAMFで満たされています」
「……AMF。アンチ・マジリンク・フィールド、か」

魔力結合を阻害させるというのは、魔導士の天敵とも言える。
だが、そもそも魔力の無いスネークとは縁の無い話だ。
……成る程、大体読めてきた。
267名無しさん@お腹いっぱい:2008/11/01(土) 23:16:58 ID:ISUVvrwR
TODのリオンだと続編のTOD2でジューダスを演じるまでの間の話になるのでは。
でも、ソーディアンのシャルティエがロストロギア扱いされそう。
268リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/01(土) 23:18:32 ID:P4TuUuaf

「対AMF戦に慣れてない教会騎士団。戦力的にも未だ不安なこの状況で真っ先に思い付いたのが――」
「――俺という事か、成る程。……それで? 俺を単独潜入させて何をさせたいんだ」

スカリエッティの戦力を壊滅させられる力はスネークには無い。
そもそも陳述会の終了を待ち、六課を含めた総力で総攻撃を仕掛ければ良い話だ。
それは即ちスネークにしか出来ない特別な任務を課す、という事。

「……私は義姉の、騎士カリムの預言を信じ、同時に憂慮しています。陳述会は局の『鍵』。ここを何とか切り抜けたい気持ちで一杯です」
「あんた等は地上の預言無視を非難してるが、預言を信じすぎでもあるな」

スネークが皮肉るが、表情に変化は見られない。
だからこそ、とヴェロッサは力強く呟いた。

「貴方に頼みたい任務は二つ。……まずはアジトの極秘調査。貴方にはリアルタイムで映像を自動で録画・送信する端末を持って潜入して欲しい」

――つまり、敵戦力とアジトの構造の斥候。
敵を知る事が勝利への近道なのは言うまでも無いだろう。

「そして可能ならば、陳述会を襲うであろう敵戦力ガジェットドローンを統制する管制機能の無力化。……既にはやてからも許可は取れている」

後は貴方の判断だけだ、と付け加えるヴェロッサをスネークは軽く一睨みして黙り込む。
未来へ向けた二重、三重の手。
よく考えているじゃないか、とスネークが冗談混じりに褒めると微妙な笑いが返ってくる。
しかし、随分と難しい事を頼んでくれた。
恐らく警備も厳重だろう。
――だが、俺に打ってつけの任務じゃないか。
スネークのそんな考えが顔にも出ていたようで、ヴェロッサが体を乗り出させた。

「……貴方程の適任者はいない。アジトに張り巡らされている蜘蛛の巣のような魔力探知にも掛かる事も無いし、相当の戦闘力・精神力を兼ね備えている」
「お褒め頂いて恐縮だ」
「……それに恐らく私の能力では、奴のアジトで先程言った任務をこなすのは難しいですからね」
「……潜入方法は?」

ニヤリ、とヴェロッサが不適な笑みを浮かべ、緊迫した空気が霧散していく。
整った顔立ちだが、真剣な表情よりはよく似合っていた。

「ズバリ――段ボールです。スネークさんが重宝しているとユーノ先生から聞きました」
「……ほぅ、段ボールを選んだ理由を聞こうか」

ヴェロッサは肩を竦めてみせ、スネークに笑い掛けた。

「敵の不意を突いて潜入、という事を考えればこれは、一見古典的に見えても極めて有効な手段だ。……違いますか?」

この男、よく分かっているな。
スネークは勢い良く同意の頷きを返した。
ヴェロッサが机の上のスティンガーに手を置き、表面を何度か撫でる。

「管制室に向かうまでに何かしらで必要になるでしょう。その為に何とか許可を取りました」
「……ユーノが走り回って取れなかった許可か。奴も泣いて喜ぶだろうな」

私も苦労したんですよ、とヴェロッサは軽く微笑むと、再び顔を引き締めた。
他に質問はありますか、と問うヴェロッサに、スネークは顎髭に手をやって何度か撫でる。

「無線サポートは?」
「シャリオ・フィニーノ一等陸士が。彼女は貴方の様子をモニタリングしながら、送られてくる情報を元にアジトのデータを順次作成していきます」
269リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/01(土) 23:20:51 ID:P4TuUuaf

シャーリーか、と呟く。
ムサい男の声を聞いているよりはずっとマシだろう。

「……陳述会が無事に終了すれば、貴方からの情報を元に全戦力で総攻撃を仕掛けます。失敗すれば自力で脱出して頂くか、長い間救援を待って頂く事になりますね」
「ぞっとしないな」

陳述会の防衛に失敗するという事は、相当数の戦力が機能出来なくなる事を示すのだから。
そうならない事を祈るばかりだ。
ヴェロッサが大きく息を吐く。

「さて、話すべき情報は以上です。ソリッド・スネークさん、改めて。……この任務、引き受けて頂けますか?」

ヴェロッサは胸ポケットからライターを取出し、火を点けてスネークに差し出した。
ヴェロッサの瞳をじっと見据え、目の前の男から返ってくる真摯な眼差しと向き合う。
数秒の沈黙。
スネークはゆっくり頭を動かしてタバコに火を与え、何かの儀式のようにヴェロッサに見つめられたまま一服し――

「良いだろう。……引き受けた」

――戦いを決断した。
為すべき事を為すために、立ち上がる。


『こちらスネーク、待たせたな。地下三階に到着した』

順調ですね、と女性特有の柔かく高い声が脳内に響いた。
シャーリーだ。
単身潜入しているスネークの寂しさを紛らわせる、数少ない癒しの一つ。

『地下一階と地下二階はさすが、警備が厳重だったな。そっちの状況は?』
『お疲れ様です。こちらも問題無し、ですね。陳述会も異常無く進行しています』
「油断は禁物だな。……早く済むに越したことはない、急ごう」

地下に展開されているスカリエッティのアジトがどこまで続いているかは分からない。
エレベーターには四階まで表示されていたが、そこが必ず終着駅とは限らないのだ。
違うエレベーターから地下九十九階まである、なんて事は無いだろうな。
そんな不吉な考えに身震いして、即座に振り払う。
そんな恐ろしい事はアウターヘブンだけで十分だ。
地獄の梯子登りを思い出し、眉が寄ってしまう。

『地下一階のT型、地下二階のU型格納庫は見ていていて気分が良いものでは無かった。V型も恐らくこの階辺りに収納されているんだろうな』
『やはりそこで大量生産されているんでしょう。尚更管制システムを止めておきたい所ですね』
『そうだな。……よし、じゃあまた寂しくなったら連絡する。君の作業の邪魔にならないようにね』
『フフ、いつでも大歓迎ですよー。お互い頑張りましょうね』

スネークは通信を切ると立ち上がり、行動を開始した。
潜入任務の大前提は、敵に気付かれぬ用に気を付け、可能な限り接触しない事だ。
敵の隙が針の穴程の大きさであっても見逃す事の無いように、丁寧に索敵。
――まるでモグラだな。
苦笑を漏らしつつ慎重に進んでいく。
とは言え、今のスネークの相手はガジェット達が大半だ。
一分一秒を完全にコントロールする事の出来ない人間。
対して、体内に記されたプログラム通りにしか動けない機械達。
どちらが厄介なのかは言うまでもないだろう。
270リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/01(土) 23:23:12 ID:P4TuUuaf

「……地下三階は居住区か?」

ポツリと呟く。
リフレッシュルームに、ベッドルーム。
綺麗なキッチンルームまである。
恐らく廃都市区画の戦闘で出会った少女達――戦闘機人の生活スペースだろう。
彼女等が見当たらないという事は、やはり陳述会が危ないという事か。
――そして今、スネークの前方にはトイレがある。
入るか、入らずにこのまま調査を進めるか。
躊躇無く入る事を選び、自動扉の前に立とうとしたその時。
突然、扉が開いた。
勿論、スネークが開けたのではない。
トイレの中から男が現れ、互いに視線を合わせる。
――数瞬の沈黙。
男の頭上に、真っ赤な感嘆符が浮かび上がった。

「!! で、でで、出たぶほおおぉっ!」

男の顎に、スネークの拳が綺麗に埋まる。
強烈な一撃によってノックアウトされた男は、ゆっくりと倒れ込む。
このまま放置は不味いだろう。

「こいつは……」

頭の上で星を回すこの男は、廃都市区画で戦闘機人と共にいた男だった。
トイレの中へと引きずって、体をまさぐる。
なかなか鍛えているな。
感心しながら目当ての硬い手触りに気付いて、それを取り出した。
――拳銃だ。

『シャーリー、聞こえるか』
『聞こえてますよ、危なかったですね』
『――この男、やはり地球人だ』

えええっ、と戸惑いに満ちた声が返ってくる。
拳銃をじっくりと観察して、間違いない、とスネークは呟く。
廃都市区画で発砲する場面があって気になっていたが、まさか本当に地球人だとは。
根拠を尋ねてくるシャーリーに解説を始めた。

『こいつはGSR、地球製のガバメントだ。……特徴的なデザインのスライド、やはり間違いない』
『はぁー、そうなんですか……』
『何故この世界に……よりによってスカリエッティに協力を?』
『……わかりません。でも、悩んでいても仕方がないですよ。気にせずに進みましょう』

そうだな、と呟いて男の体を再び引きずり、個室の便器に掛けさせる。
勿論GSRは没収。
しばらくはそのまま眠っていて貰いたいものだ。

トイレから出てその横、色の違う扉をくぐる。
――巨大通路。
ガジェットT型が巡回している。
それまでの階と同じ構造だが、大きく異なるものがあった。
壁に格納されたガジェットV型と――

「――人体実験の、素体……」
『これは……酷い』
271名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 23:23:23 ID:mNaUzXMm
テイルズクロス良いな誰か書いて欲しいわ
272リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/01(土) 23:25:41 ID:P4TuUuaf

数えきれない人間達が、培養液の中にいた。
死んだように眠っている、という言葉が良く似合う。
スネークと同じ、利用させられる為だけに造られた――

「――っ……!!」

自分が目の前の培養液に浸かり、それを白衣の男達が眺めている。
そんな情景をスネークは想像して、大いに後悔した。
胃の中の物が逆流して、激しい吐き気に襲われる。
やめろ、落ち着け、違う。
自分にそう言い聞かせ、吐き気を必死に押さえ付ける。

『スネークさんっ……スネークさんっ! 大丈夫ですか!?』
『……問題無い』

スネークも、試験官の中で産まれたわけではないだろう。
下らない妄想を振り払うかのように、頭を振る。

『……助けてあげなきゃ、ですね』
『ああ。……そうだな。必ず、助ける。その為にも今は前へ進もう』


身を翻してエレベーターに向かい、地下四階へ。
しばらく順調に進んで行ったスネークは、ふと物音に気付くとすぐに段ボールを被って静止する。
段ボールの穴から様子を伺った。
ガジェットV型、蜘蛛のような脚を付けた多脚型だ。
わしゃわしゃと動く様は、気持ちが悪いの一言に尽きる。
通り過ぎるのを待ってからそのまま走り出す。
ガジェットT型が三体程巡回飛行している中に、チャフグレネードを放り込んで――爆発。
青い機体が披露する三流のダンスを横目に通路に飛び出し、ふむ、と頷いた。
このアジトの構造が大体把握出来た。
円を描くように巨大通路が走り、その円の中に様々な部屋が存在している。
とすると、地下四階の中央部分に管制室があるのかもしれない。
そこまで思考した所で、スネークはある事に気付いた。
それまでの階の巨大通路には無かった、円の外側へと続く扉がある。
いよいよ地下四階が特別な階だという確証が深まってきた。
スネークは警戒しながら扉をくぐり進む。
待っていたのはガジェットの群れと、空間モニター。

『やぁっスネーク君、よくここまで来れたねっ! さすがだ、素晴らしい!!』

まるでサンタクロースを待ちわびる子供のような、歓喜の声。
――ジェイル・スカリエッティ。
やはりスネークの潜入に気付いていたようだ。

「だが、ここから先へは進ませないよ」
「……スカリエッティ!!」
「ここで死んでもらう! 私がそれをじっくりと見ていてあげよう……フフフ、ハハハハハハッ!!」

スカリエッティの口元が狂気に歪む。
スカリエッティから合図を受け取ったガジェット達がスネークへの攻撃を開始した。
気の早いV型が一体飛び出し、スネークのFAMASにセンサーを撃ち抜かれて爆発する。
スネークはそのまま薙ぎ払うようにミサイルランチャーを装備したT型の群れを葬ると、周りをざっと見渡してV型残骸の陰に隠れた。
――T型八機と、V型三機。
273リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/01(土) 23:28:37 ID:P4TuUuaf

息を吐いてリモコンミサイルのニキータを構える。
この遠隔操作可能な偵察ミサイルのスピードは非常に速く、正確な操作が難しい。
だがフォックスハウンドの元教官で、徹底的な厳しさから鬼教官と呼ばれた男を思い出してスネークは胸に自信を湧かせる。
自分はあのマクドネル・ベネディクト・ミラーから、三ヶ月ものニキータ訓練の末合格を貰ったのだ、と。
ミサイルがスネークの肩、発射管から飛び出してV型残骸を迂回し、ガジェット達から放たれる光線を潜り抜けて、見事命中した。
マスターが見ていたら、誇りに思ってくれるだろうか。
その場を震わせる爆発は恐らく、ニキータのミサイルだけではなく巻き込まれたガジェットのもあるだろう。
覗き込んで、敵の数が随分と減っている事を確認。
よし、と力強く頷く。
スネークは続いてSOCOMピストルを手にしゃがんで覗き込み、そのまま飛び出し撃ちに派生させる。
伝説の傭兵の手元から乾いた音が三度鳴り、爆発音が同じ数だけ響く。
――後はV型二体だけだ。
スティンガーを構えて飛び出し、成型炸薬弾を撃ち出す。
アームを取り付けられた二体の内一体は防御するようにアームを交差させ、もう一体はスネークへとそれを伸ばしている。
無駄だ、とスネークは呟いて、成型炸薬弾がガジェットを破壊する様を眺める。
大きな爆発をきっかけに、騒がしかった空間が一転して静まり返った。
土煙が晴れ、スネークはモニターを睨み付けた。

『……素晴らしい、凄いよスネーク君! 思った以上だ!!』
「この程度か、スカリエッティ?」
『……ククッ、クククッ!!』

不気味な笑いを残して、モニターが消え去る。
フン、と不満気に鼻を鳴らせて、ガジェットの残骸を跨ぎながら歩く。

『シャーリー、それらしい所へ来たぞ』

目の前には一際大きな自動扉。
最もこれがスカリエッティの寝室への扉等と言ったら話にならないのだが。
二秒、そして三秒経っても返事が返ってこないことに気付く。

『……シャーリー、こちらスネーク。聞こえてるか』

――雑音と共に、返答が返ってきた。

『スネ……さ……! ……課……敵襲……!』
『っ!? ……どうしたっおいっ! シャーリー!』

敵襲だって?
奴らが襲うのは、陳述会ではなかったのか?
シャーリーからの通信が、遂に沈黙した。

「ぐっ……」

言い様の無い不安と戸惑いに駆られるが、引き返す訳にもいかない。
身を焦がす焦燥にスネークはそれまでの疲労を無視して、銃口でポインティングさせたままゆっくりと扉の横に立つ。
一番緊張する瞬間だ。
特別な場所へ続くであろう自動扉がその大きな口を開いた瞬間、スネークが待ち伏せていたガジェット達によって蜂の巣にされる、という可能性も十分に有り得る。
いくら常人離れだの非常識だの言われていても、体を容赦無く蹂躙されては生きていられない。
余りに身近な『死』に脈打つ鼓動を激しくさせながら体を最大限隠して扉を開け、最大限の警戒を払いながら中を確認する。

――誰もいない。
274リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/01(土) 23:31:48 ID:P4TuUuaf

どうやら通路のようで、先に何かあるのだろう。
緊張感を保ちつつそのまま通路を抜けて巨大な空間に出るが、やはり誰もいない。
ガジェットさえも、そこを悠々巡回している事は無かった。
反対側に扉が確認でき、その先にまだ道がある事を示している。
時間が無い状況の中一刻も早く管制室へ急がねばならないのに、スネークの足が動く事は無かった。
――その空間の中央にある物に目を奪われていたからだ。

「『コイツ』は……」

スネークは半ば呆然と呟く。
周りの音は消え去り、『それ』が放つ威圧感によって生じた鳥肌が全身に伝わる。
目の前のロボットは静かに、それでいて圧倒的な存在感と共にスネークを見下ろしていた。
アニメに見るような、より人間の形に近い巨大ロボットだ。

灰色掛かった細身の機体はおおよそ十数メートル。
腕に当たる場所にそれぞれ装着されている翼。
無骨な戦車、そして名前の通り恐竜という印象だったメタルギアREXに対して、こちらはまるで有翼人をイメージさせる。
視認できる武装は股に光る自由電子レーザーに、両肩の付け根の上にそれぞれ装着された魔力砲。
そして、REXには存在していなかった頭部に視線を移し――

「――レール、ガン?」

頭の上に、まるで角のように生えている。
メタルギアREXの右肩に装着されていた物より小型化されているが、やはり間違いない。

通常のロケットとは違って推進燃料を燃やさず、磁場を使って大砲のように核弾頭を超高速で射出する事が出来るレールガン。
既存の弾道ミサイル検知システムからの追跡を回避できるそれは、政治的な面でも米政府のとっておきだっただろう。
こいつも核弾頭を発射する為のレールガンなのだろうか?
予期せぬ機体の登場で当惑するスネークの目の前に、突如空間モニターが現れる。
見間違える事はない、あの男。

『スネーク君、これは素晴らしい風格だろうっ?』
「スカリエッティ! こいつはっ……こいつは一体っ!?」

スネークはモニターの中、狂気を孕ませた笑みに怒鳴り掛ける。
怒鳴られたスカリエッティの表情には変化が見られない。
それどころか目を細ませ、余計に口の端を吊り上げさせていく。
――狂喜。

『フフフ……メタルギアさ』

やはり、と唇を噛む。
スカリエッティはリキッドやビッグボス、そしてスネークの出自を知っていたのだ。
メタルギアの事を知らない筈もないのだろう。
だが、スネークの脳内には止まらぬ疑問が埋め尽くす。

「どうやって……REXの設計情報を手に入れた?」

当然、メタルギアREXを意識しての設計、そしてレールガンの改良タイプなのだろう、明らかにREXを彷彿させる部分が多い。
シャドーモセスでスネークを苦しめたREXの自由電子レーザー、作った本人曰くオタコン式ライトセーバーを始め、何かしらの手段でそれらの情報を手に入れた事は明白だ。
地球に行ったとでも言うのだろうか?
モニター上のスカリエッティはスネークの言葉に反応を示さず、恍惚な表情を浮かべる。
275名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 23:32:27 ID:7Dg/C3qB
生身で戦車やメタルギアを破壊する男!それがスネーク
支援
276リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/01(土) 23:34:32 ID:P4TuUuaf

『スネーク君。君はメタルギアとよく似ている』
「……何?」

革靴の小気味良い足音と共に、スカリエッティがロボットの股を抜け、スネークの前に現れる。
陶酔しきっているその顔に、スネークはSOCOMピストルを躊躇無く向けた。

「君はメタルギアのコンセプトが『核搭載二足歩行戦車』だけだとでも思っているのかい?」
「……地球上のどこからでも核を撃てる、という目的を目指して作られたのが事実だろう」

メタルギアは強靱な足によって誰にも頼らずどこへでも赴き、自由気まま、どこからでも好きな場所へ核攻撃を行える性能を持つ。
どんな悪立地でも構わずに、だ。
『特定不能な地点からの核攻撃』という圧倒的な戦略的優位性を持ち、軍事バランスを簡単に引っ繰り返す事が出来る悪魔の兵器。
ビッグボスがそれを用いて世界に宣戦布告した程の物。

「ハハハ、違う。そんな物は副産物に過ぎない。君もメタルギアも、数々の代償を経て作り出された怪物。不可能を可能にする象徴っ……!」

それを、スカリエッティは狂ったような笑みと共に、即座に否定してみせた。

「メタルギアの本来の趣旨は、革新的な変化を遂げる時代と時代を繋ぎ、そして突き動かしていく事だよ」
「っ!? これはっ……!」

不意に地面から生えた赤い糸に足を取られる。
立ち上がる間もなく、何本もの赤い糸は縦横無尽に飛び回ってスネークの周囲を囲い、小さな檻を形成してしまう。
――しくじった。
スネークは悪態をついた。
鼻で笑うスカリエッティ。

「そう、偉大なる『金属の歯車』さ! ……なぁスネーク君、私は君を尊敬している! 敬愛している!!」
「お断わりだ、嬉しくも無い」
「フ、フフ、フハハハハッ! ……だからこそっ! 私はメタルギアのコードネームをこう名付ける事にしたっ……!」

上昇し続ける抑揚を抑えきれないのか、スカリエッティはバッと腕を広げると、メタルギアを仰ぐ。
自分が作り出したそれを楽しそうに、そして何よりも愛しげに見つめ、言い放った。

「このメタルギアのコードネームは『SOLID』。……そう。――メタルギアソリッドさっ!!」
「メタルギア……ソリッド」

スネークは呆然と呟いた。
こんな物が自分をモチーフに作られた、等と聞かされれば嫌悪感もそれ相応に募っていくだろう。
更に、メタルギアの機体に小さく光っている『MG-SOLID』の文字に気付いて、舌打ち。
スネークは身動きが取れない状況の中、戦意を枯らす事無くひたすらに睨み続ける。

「貴様の狙いは何だ。レールガンで……メタルギアで核攻撃を仕掛けてどうするつもりだっ!?」
「フフ、良いだろう」

教えてあげよう、とスカリエッティは手元のモニターを操作し、スネークの目の前へモニターを表示させる。

「これ、はっ……!!」

炎に包まれた機動六課。
別画面では戦闘機人達の一人が幼い少女――ヴィヴィオを抱いて夜の闇の中を飛行している。
それは、どんな言葉・表現よりも分かりやすく、的確に管理局の敗退を示す図。
――くそっ、間に合わなかった。
スネークはたまらず歯軋りした。
ロングアーチスタッフ達の安否が気になる。
277名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 23:34:37 ID:mNaUzXMm
TOPクロスも良いかも試練
エターナルソードでクレス達がミッドに飛ばされてみたいな
278リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/01(土) 23:37:05 ID:P4TuUuaf

「少女に手を出す程の変態野郎に付ける薬は無いなっ……!!」
「フフ、首尾良くいったみたいだ。……ゆりかごの起動ももうすぐか、楽しみだなぁ」
「……ゆり、かご?」

スカリエッティがまた新たなモニターを作り出し、そこに戦艦が表示される。

「旧ベルカの巨大戦艦、質量兵器さ。あの少女が『聖王のゆりかご』起動の鍵となるんだよ」
「……貴様の切り札か」
「ゆりかごが二つの月の魔力を受ける事が出来る位置まで上昇出来たら、その実力を遺憾無く発揮する事が可能になり――このゲームは私の勝ちさっ」
「それがすんなり成功すると確信しているのか?」

管理局も体勢を立て直し、全力でそれを阻止しようとするのは自明だ。
ヴェロッサの顔を脳内にフラッシュバックさせる。
愚かな、と鼻で笑うスネークだが、スカリエッティには気にした様子は全く無い。

「当然、ゆりかご上昇への邪魔が入るだろうね。地上をガジェットや戦闘機人で攻撃したとしても、君の優秀な仲間達がそれを食い止める可能性の方が大きい。だが――」

――その為のSOLIDさ。
そう言ってスネークに笑い掛けるスカリエッティ。
悪寒が体を震わせる。

「まさか……」
「ミッド地上本部に核攻撃を行う。レールガンが放つ超高速の不意打ちによって自らの巣を失い、動揺と絶望に喘ぐ哀れな局員達……」

うっとりとした表情のスカリエッティ。

「……クク、そこから崩していき――ゆりかごは無事、軌道上に到着さ!」
「ミッドを核で消滅させるつもりかっ……!?」

さもどうでもいい、と言わんばかりに首を振ってみせるスカリエッティ。

「……ゆりかごは防衛面で戦艦後部・下部に死角があるから、SOLIDをそこに配置出来れば正に完全無欠っ……!!」
「……あの化け物は飛ぶのか」

勿論さ、と陽気に笑ってみせるスカリエッティ。
その為の翼なのだろう。
――気に入らない。

「君の世界はなかなか優秀だ。機械工学、特にロケット工学に関しては参考になる部分が多かったなぁ」

やはり、地球に行ったという事か。
嫌悪感が噴き出してくる。
スカリエッティは指を軽やかに踊らせモニターを全て閉じると、白衣を揺らしながらスネークに近づいてくる。
目と鼻の距離。
赤い檻越しに、スカリエッティの吊り上げられた口元がゆっくりと下がっていく。
――初めて見る、奴の無表情。
その奥に、僅かだが憎しみが伺えた。

「……なぁ、スネーク君。『SCENE(時代)』によってあらゆるものの価値観は変異する。昨日の悪は今日の正義に成り得るんだ」
「……何を言っている」
「私も君も、今は世界から忌まれる、『倫理』という壁に押しやられた存在。『GENE(遺伝子)』も、『MEME(文化的遺伝子)』さえも未来へ伝える事を許されない存在だ」

未来に伝えられる事。
伝えるべき想い。
例え造り出された存在でも、自然に老いて、自然に死んでいく事が許されなくても、明日が無いとしても――!

(――俺にも未来を夢見る事は出来る!)
279名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 23:40:04 ID:7Dg/C3qB
MG世界の技術力は異常。
支援
280名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 23:48:59 ID:YRPfSNTh
支援
281名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/01(土) 23:59:53 ID:lyYnDkhp
支援
猿ったのかな?
282リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/02(日) 00:00:46 ID:ZIDM8RD7

スカリエッティの言葉等には惑わされない。
つい先日なのはと話した事を思い出して、スネークの精神が自然と否定の声を上げた。

「何を信じるか、何を未来へ伝えるかは自分で決める。……お前の被害妄想に耳を傾けるつもりは無い」
「いいや、これは事実だ。今の我々には過去も、未来も無い。そして私はそれを黙って見ている程呑気では無い! ……SOLID、そしてゆりかごで時代を突き動かす!!」

拳を握り、何かを振り払うかのように腕を振るうスカリエッティ。
スカリエッティの憎しみの対象は彼を造り出した存在か、それとも自分という存在が認められる事の無い世界に対するものなのか。
完全に興奮しきっているスカリエッティの言葉は止まらない。

「そして生まれる新たな時代、世界ぃっ! ……君や私のような『外側』の者達へと与えられる『天国』――アウターヘブンの完成だ!!」

アウターヘブンだと?
ふざけるな、とスネークは内心で盛大に毒付いた。
過去の亡霊が頭をもたげさせ、不快感は顔をしかめさせていく。
メタルギアだの、アウターヘブンだの、いくら何でも程というものがある。
ビッグボスもスカリエッティも、狂気に取り憑かれているのだろう。

「……とにかく、その為にも今はこれ以上君に動いて貰いたくないんだ」

だから、とスカリエッティをしなやかに指を踊らせる。
直後、高速で飛来する光弾。
頭部への重い衝撃に、堅固だったスネークの意識はあっさりと刈り取られた。

カリムが恐れていた予言が、実現しようとしている。
283リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/11/02(日) 00:02:41 ID:ZIDM8RD7
第十三話投下完了です、支援ありがとうございました。
途中猿さんを喰らってしまいまして、0時に解除されると以前聞いたので20分程間が空いてしまいました、申し訳ありません。
何とも微妙な時間だったのですが、「書き込めない〜」スレで一応連絡した方が良かったでしょうかね?

えー、今回の副題はMGSでした。
MGSと言えば単独潜入。
MGSと言えばメタルギア。
MGSと言えばそれぞれの文字を頭文字とした三大テーマ。
メタルギアソリッドとリリカルなのはのクロスであるこのリリカルギアの中で、最も『らしい』回だったかなぁ、なんて思います。

それでは、次回もよろしくお願いします。
284名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 01:01:49 ID:RI0ngskk
乙。
正直、ビッグボスの真意を知ってるとスカが小物にしか見えない
285名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 01:04:40 ID:dSZHdGDZ
GJ!!です。
ゆりかごが凄い重火力チューンだwスネークは捕縛されてしまうしどうなるか楽しみです。
あと、小物が大物と同じことができないなんて誰も決めてないぜw
286名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 09:22:43 ID:fyQxkrD4
スカはただの顔芸人ですから。
287一尉:2008/11/02(日) 13:23:44 ID:4WvZ5O0r
核搭載戦車まであるどは。
288THE OPERATION LYRICAL:2008/11/02(日) 13:33:40 ID:GQBjcyIo
<<よう相棒たち、みんな生きてるか?>>
まずはリリカルギア氏GJ! なるほど、メタルギア"ソリッド"とは上手いです。
台詞の要所要所も相変わらずMGSっぽいし、ファンとしては読んでてwktkが止まらないw
だがジョニーよ、相手がスネークとはいえ一撃で昏倒ってのはどうなんだw
空を飛ぶメタルギア(ある意味史上最強?RAYもジャンプは出来るけど飛ぶのは無理だし)に
相手にスネークと六課はどう立ち向かうのか、次回楽しみにしてます。

<<んで、オメガ11は1450に投下予約をしたいらしい。出来れば支援してやってくれ。
今回の推奨BGMはACE COMBAT ZEROより「ZERO」だそうだ>>
289名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 13:47:21 ID:WJCJqL3E
<<了解した、パソコンの前で正座して待っている。>>
290リリカル! 夢境学園 ◆CPytksUTvk :2008/11/02(日) 14:23:58 ID:z2miJz7e
《っ、出撃が遅れたか。
 オメガ11、その次に久方振りだが「赫炎のクラナガン」の投下予約をしても構わないか?
 出撃スケジュールの関係上、そちらの迷惑ならない16時50頃を予定している!

 支援体勢に入る!》

291THE OPERATION LYRICAL:2008/11/02(日) 14:50:16 ID:GQBjcyIo
<<時間だ、投下する。あぁ夢境氏、投下が終わったら支援するぜ。それじゃ投下
開始、天使とダンスだぜ!>>


――誰かが言っていた。エースとは、三つの種類があると。
強さを求める奴。
プライドに生きる奴。
戦況を読める奴。
方向性は様々だが、どれもエースであることには違いない。
だから――全てのエースに言えることだ。

エースとはすなわち、戦闘と言う分野において高い能力を発揮する者である。
エースとはすなわち、破壊と殺戮に特化した者である。
エースとはすなわち、人殺しである。


ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL


第28話 Mobius1


――そこには終わりもなく、始まりもなく、無限は円環へと昇華される。


停止されたはずのメガリス、そのメインコンピューターが再起動へのカウントダウンを始めた。
「何故だ!? 曹長、停止命令は――」
「確実に送りました。でも……別の、もっと優先権の高い回路から命令が来てるんです!」
疑う訳ではなかったが、ベルツはメガリスを停止させた張本人であるリインフォースを問い詰めた。もちろん、彼女がミスをするはずはない。メガリスの停止は確かに一度、上
空のゴーストアイまでもが確認している。
となれば、彼女の言うとおり、リインフォースが停止命令を送った回線とは別のものから、再起動への命令が送られていることになる。
サブコントロールルームのディスプレイに、メガリス再起動へのカウントダウンが表示された。残り時間は五分。どうにかして止めなくては、また隕石が降り注ぐ。
しかしどうやって? 試しにベルツは拳銃を引き抜き、サブコントロールルームのメインサーバーと思しき器材にマガジン一個分の銃弾を叩き込んでみた。もちろんカウントダ
ウンが止まる様子はなかった。
「あ……っ」
くそ、とベルツが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていると、先ほどからコンソールを叩いていたティアナが何かに気付き、声を上げた。
「何か分かったか、ランスター?」
「再起動の命令を送ってる回線を辿ってみました……発信源は、上空!?」
彼女の言葉で、サブコントロールルームにいる全員が首を上げ、天井の向こうに存在するであろう発信源を思い浮かべる。
上で何が起こっているかは分からない。通信回線を開いてもかろうじて味方の混乱した様子の声が雑音混じりに聞こえるだけだ。
とりあえず、ゴーストアイにメガリスが再起動へのカウントダウンを開始したとの報告を入れたが、受信したかどうかはこれも分からない。
ただ一度だけ、何を言っているのかはさっぱりだったが、落ち着き払った、しかしどこか強い怒りを持った声が聞こえた。ティアナだけは、その声の主が誰なのか理解出来た。
何が起きているのかはさっぱり分からない。もはや今の自分たちに出来るのは祈ることくらい。
だから彼女は、上空にいるであろう一人のエースに向かって呟く。
「頼みます、リボン付き――幸運を、メビウス1」
292名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 14:51:07 ID:z2miJz7e
フォックス1 支援!
293名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 14:53:14 ID:QZw5NV30
タリホー 支援する!!
294THE OPERATION LYRICAL:2008/11/02(日) 14:53:17 ID:GQBjcyIo
「ダメだ、メガリスが再起動へのカウントダウンを開始! メビウス1、交戦続行!」
ティアナたちの送ったメガリス再起動の報告は、幸いにもゴーストアイに届いていた。
だが、ゴーストアイの言葉が彼――メビウス1の耳に入ったかどうか。
仲間が、皆が、なのはが落とされた。その事実が、彼の胸のうちに圧し掛かり、そして理性を吹き飛ばす。
愛機F-22のキャノピーの向こうでは、真っ赤に彩られた見たこともない新型機を駆る無限の欲望――スカリエッティが、さも楽しそうに笑っていた。
「素晴らしい、この威力――あれだけ恐れられた管理局の白い悪魔を、いとも簡単に落とすとは。これさえあれば世界制覇も夢ではない、そう思わないかリボン付き?」
黙れ、黙れ、黙れ。狂人が何を言う、この大量虐殺者め。
湧き上がる黒い感情は、怒り。それが、今のメビウス1の原動力だった。
「メビウス1、聞こえているか!? 状況分析を開始する、それまで持ちこたえろ!」
持ちこたえろ? 冗談を言うな――力任せにエンジン・スロットルレバーを叩き込み、アフターバーナー点火。彼の精神に同調するかのように、F-22のF119エンジンは咆哮を上げて
どっと機体を加速させる。
「奴が持ちこたえられるかどうか……メビウス1、交戦!」
奴を、スカリエッティを撃墜する。それが最後の任務だ。
急加速するメビウス1のF-22はスカリエッティの機体に正面から立ち向かう。弾薬は残り少ないが問題ない、最速で撃墜する。
ウエポン・システムに手を伸ばし、指を素早く踊らせて使用する兵装、短距離空対空ミサイルのAIM-9サイドワインダーを選択。AIM-9の弾頭はただちにスカリエッティ機を捉える。
躊躇せずミサイルの発射スイッチを押そうとして、メビウス1はスカリエッティの機体に何か動きがあるのを目にした。
まずい。根拠がはっきりあった訳ではないが、エースとしての"カン"がメビウス1に危険を知らせる。
ラダーペダルを蹴飛ばし、機体を横滑りさせる。直後、F-22の右主翼をかすめ飛ぶのは、赤い閃光。なのはを撃墜した、おそらくはレーザーだろう。閃光が見えてからでは回避は
間に合うまい。となれば、常に動き回って照準をかわし続けるか、単純に後ろを取るか。
ぎりぎりのところでレーザーを回避したF-22はスカリエッティ機と交差する。迷うことなく、メビウス1は振り返ってスカリエッティ機を眼で捉えると、操縦桿を引いて思い切り
急旋回。たちまち強いGが彼の身体を押し潰さんとばかりに圧し掛かってきたが、胸のうちの怒りはそれすら耐え抜く。高速で旋回したF-22は、再びスカリエッティ機を正面、今度
は後ろを取る形で捉えた。
「おや、降ってきたね」
後ろを取られたと言うのに、通信機に入ってくるスカリエッティの声はまだまだ余裕だった。日常生活でありふれた光景を見たかのように、降り始めた雪のことを口にしている。
すぐに黙らせてやる、とメビウス1はF-22を加速させ、スカリエッティ機に急接近。AIM-9の弾頭が再び奴の機体のエンジンから発せられる赤外線を捉えようとして――突如、赤い
翼が翻り、スカリエッティ機は左に急激なロール。ミサイルのロックオン可能範囲から逃れようとする。
逃がすかよ――メビウス1はスカリエッティよりも速く、ラダーペダルを蹴ってF-22の機首を強引に左に向けた。スカリエッティ機はメビウス1のF-22の前に、自ら躍り出る形に
なってしまう。
見たこともない新型機になのはすら一撃で落とすレーザー、確かに脅威だが操縦するパイロットは所詮素人同然。メビウス1にとっては押しやすい相手のはずだった。
295名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 14:53:54 ID:z2miJz7e
《支援する いけぇ、メビウス1!》
296THE OPERATION LYRICAL:2008/11/02(日) 14:56:18 ID:GQBjcyIo
「不死身のエースとは、長く戦場にいた者の過信だ――君のことだよ、リボン付き」
だが、現実は違った。スカリエッティ機はF-22の前に躍り出た直後、機首を上げて急減速、赤い機体がF-22に飛び掛る。
「!」
たまらず、メビウス1は操縦桿を右に倒し、ラダーペダルを踏み込む。F-22は主翼を翻して右へと回避機動。キャノピーのすぐ外で、赤い機体が後ろに飛び去っていくのが見えた。
空中衝突は避けられた――だが、結果としてメビウス1はスカリエッティに後ろを取られてしまった。とても素人の機動とは思えない。
胸のうちで呪詛の言葉を吐き捨て、メビウス1はラダーペダルを交互に、そしてランダムに踏む。F-22の機首を左右に不定期に振って、少しでも狙われにくくするのだ。
がくがくと身体を左右に揺らされながら、メビウス1は後ろを振り返る――赤い閃光が、スカリエッティ機の機首で瞬いていた。
息を呑み、彼は衝撃に備える。レーザーの赤い光がF-22の右主翼の真下を飛び抜けていったのは、その数瞬後のことだ。
「くそ……」
自惚れるつもりはないが、数々の激戦を戦い抜いてきた自分が、こうも好き放題にされるとは、メビウス1にとってまったく予想外のことだった。機体の性能差を差し引いても、何
故戦闘機に乗るのは今回が初めてであろうスカリエッティに、後れを取るのか理解できない。
「君の世界の技術には、ときどき驚かされるよ」
悔しさともどかしさを噛み締めながら回避機動を続けるメビウス1の耳に、スカリエッティの声が入ってきた。
「無人機のZ.O.Eシステム、隕石を落とすメガリス、そしてこのファルケン。まったく人と言うのは、人殺しの道具が大好きらしい。ゼネラル・リソースとか言ったかな――戦闘機と
人間の脳神経を接続するこの技術など、実に斬新で画期的だ。素人同然の私さえもが君と互角に戦える」
要するに、彼は操縦桿を握って操縦しているのではない。神経と戦闘機のセンサーを直接接続し、自分の身体を動かすのと同じ感覚で操縦しているのだ。だからここまで動けるのだ。
ええい――メビウス1はスカリエッティの機体、ファルケンを睨み付けて、操縦桿を思い切り捻る。
機体性能にあぐらをかくような奴に、負ける訳には行かない。F-22は左主翼を下げると、強引な形でファルケンの真下に潜り込み、後ろを奪い返す。
この距離なら、とメビウス1はファルケンをロックオン。今度こそミサイルの発射スイッチを押し込む。
「フォックス2!」
主翼下ウエポン・ベイが開き、中からAIM-9が飛び出す。ロケットモーターを点火したAIM-9は魔力推進の証である白い光を描きながら、ファルケンに突撃する。
行け、とメビウス1は叫んでいた。この距離なら回避機動もフレアも間に合うまい。AIM-9はファルケンに直撃し、破片と爆風でその赤い胴体を引き裂くはずだった。
――否。どういう訳か、放たれたAIM-9は目標を目の前にして突然、進路をまったく別の方向へと変えた。そのまま迷子になったAIM-9は訳も分からず信管が作動し、爆発する。
無論、距離が離れすぎてファルケンには何の損害も与えられなかった。
「な……どういうことだ!?」
目の前の信じられない光景に驚くメビウス1をよそに、ファルケンはアフターバーナー点火。狂気に犯された赤い怪鳥は天へと昇り、ある程度F-22と離れたところで失速反転、機首を
メビウス1に向けてきた。
撃たれる――咄嗟にメビウス1は操縦桿を左に倒してラダーペダルを踏み込む。右主翼を垂直に立てて降下するF-22、その翼を掠めるのは赤い閃光。上空からレーザーで狙い撃ちされて
いるに違いなかった。
当たれば致命傷は免れない。逃げ出したい恐怖が腹の底から湧いてきて、しかしメビウス1は操縦桿を手放さない。
297THE OPERATION LYRICAL:2008/11/02(日) 14:59:19 ID:GQBjcyIo
上空からは何度も何度も赤い閃光が降り注ぐ。それらが着弾する寸前、メビウス1のF-22は右へ左へと機首を振り、主翼を翻し、必死に回避を続ける。
低空へと下りたため、キャノピーのすぐ外には氷山があった。回避したレーザーがそれらに当たり、氷を砕き、海面に大きな水しぶきを上げさせる。
「こちらゴーストアイ、第一分析が終了した!」
そんな時、ゴーストアイからの通信が入り込んできた。しかし"第一"と言うことは、全てが終わった訳ではない様子だ。あのミサイルが突然捻じ曲げられたことも、分かっていない。
「敵機から地上への信号を確認、奴がメガリス再起動の鍵を握っている!」
なるほど、通りで奴が現れてから――と言うことは、奴を落とせばメガリスの再起動も止まるのではないか? いや、きっとそうだろう。
ならばここで回避を続ける訳にはいかない。メビウス1は思い切って操縦桿を引き、F-22を上昇、反転させてファルケンへと立ち向かう。
「む、レーザーのエネルギーが尽きてしまった……さすがだね、リボン付き」
そりゃどうも、とメビウス1は投げやりに胸のうちでスカリエッティに言葉を返す。ひとまず、厄介なレーザーが無くなったのは好都合だ。
急上昇、F-22はファルケンと同高度へ。もう一度仕切り直しだ。
先ほどミサイルを捻じ曲げられたのは気にかかるが、だからと言って攻撃の手を緩める訳には行かない。メビウス1は使用する兵装を機関砲に切り替えて、ファルケンに再び立ち向かう。
レーザーが無いなら、真正面から近付ける。そう考えたメビウス1はあえてファルケンの正面に回りこみ、アフターバーナー点火。ファルケンも加速し、双方の距離は一気に縮まっていく。
その瞬間、コクピット内に鳴り響くのはロックオン警報。やはり正面から近付くのはリスクが大きい。
だが、それ相応の成果も得られるはずだ――。
耳障りなロックオン警報は、正面に捉えたファルケンの主翼下から白煙が吹き出すのと同時に死神の笑い声――ミサイル警報へと切り替わる。それこそが、メビウス1の狙いだった。
正面から突っ込んできたミサイルをぎりぎりまで引きつけ、メビウス1はここぞと言うタイミングでフレアの放出ボタンを叩く。そして操縦桿を捻り、F-22をぐるりと一回転させた。
放たれたフレアはF-22のエンジンのそれより強烈な赤外線を放ち、ミサイルを誘い込む。回避成功、スカリエッティの放ったミサイルはF-22を素通りし、フレアへと突き進む。
そしてミサイルが飛んできた方向の向こうにいるのは、発射直後で無防備な状態のファルケン。メビウス1の狙いはこれだった。あとは逃げられる前に急接近し、機関砲を叩き込む。
「もらった……!」
照準が、ファルケンの鋭角的な機体に重なる。メビウス1が引き金に指をかけた――その瞬間、フレアに食いついたミサイルが爆発した。
ただの爆発なら、何の意味も無かっただろう。だが、生み出された爆風と衝撃は、通常のミサイルとは桁違いだった。
コクピット正面上位に設置していたバックミラーに巨大な白い閃光が映った時は、もう遅かった。背中を思い切り蹴飛ばされたような感覚がして、機首の向きを斜めにされてF-22は数十メートル
上へと跳ね飛ばされてしまった。
訳も分からずメビウス1は操縦桿を抑え、機体の制御に全力を尽くす。機体の電子制御も必死に安定を保とうとして、かろうじてF-22は失速することなく水平飛行へと移った。
「――くそ、なんだいったい!?」
「散弾ミサイル、とでも言うべきかな。大した威力だ、並みの機動では避けられんよ」
マスクから送られてくる酸素を貪るように吸うメビウス1の疑問に、スカリエッティが答えた。彼のファルケンはメビウス1が必死に安定性を取り戻そうともがいている間に悠々と旋回、再びF-22
の上空後方に位置して、その牙を向けようとしていた。
298THE OPERATION LYRICAL:2008/11/02(日) 15:02:20 ID:GQBjcyIo
「ここからはメガリスがよく見えるね。なぁリボン付き」
しかし、スカリエッティはすぐには撃たなかった。何をするかと思えば突然、メビウス1に対して言葉を投げかけだした。
「あれこそ争い好き人そのものじゃあないか。君の世界の人々は散々隕石で苦しめられたのに、ただ敵に勝つためにこの隕石を落とす要塞を作った。愚かとしか言いようが無い」
「――御託並べる余裕があるのかよ」
眼下のメガリスにちらっと視線を送りながらも、メビウス1は操縦桿を引いてF-22を上昇させる。一刻も早く、ファルケンの射程から逃れなければ。
だが、ファルケンはF-22を追おうとしなかった。空戦の真っ最中だと言うのに、スカリエッティは言葉を発し続ける。
「この世界もそうさ。戦闘機人、戦闘機、ゆりかご、戦争の道具がいっぱいだ。デバイスひとつ取ったって、目的は戦いのため――」
「……お喋りが過ぎる!」
スカリエッティの言葉を無視する形で、メビウス1のF-22は上昇から旋回、緩やかに降下しながらファルケンの真上に到達し、機関砲を放つ。
赤い二〇ミリの曳光弾はしかし、ファルケンの赤い胴体を叩くことなく、その軌道を見えない何かによって捻じ曲げられていく。
くそ、とメビウス1は酸素マスクの中で言葉を吐き捨てた。原理はさっぱり分からないが、あの機体には普通の攻撃は通用しないらしい。
どうすればいいか彼が悩む最中、やはりスカリエッティは黙らなかった。そして、彼の次の言葉が、メビウス1の心に深く響いた。
「君だってそうだ、リボン付き。元の世界で散々人を殺して、しかし周りは君を"エース"と褒め称える……人を殺して褒められるとは世も末だねぇ」
「……っ違う、俺は」
「何が違う、どう違う!? 戦争だから? 任務だから? 理由は様々だろうけどね、君が人を殺したと言う事実は決して消えないのだよ。君の両手はもう血で真っ赤だ」
スカリエッティに言われて、メビウス1は思わず自身の手を見た。飛行手袋で覆われた手、しかしこの手はユージア大陸でいくつものエルジア軍兵士の命を奪っている。
別に、ISAFと言う組織のために戦っていた訳ではない。ただ、そうすることでより多くの味方が生き残れるから、戦ってきた。そして、エースと呼ばれるほどになった。
だが、スカリエッティの言うとおりだ。いかなる理由があろうと、人を殺したと言う事実がこの手から消えることは無い。
そう思うと、急に自分が今何のために戦っているのか分からなくなってきた。戦争と言う狂気ゆえに許された殺戮行為。敵機を撃墜してガッツポーズを取る過去の自分。敵機からパイロットの脱出
が確認できていないことなど、知る由も無い。
「君こそまさに、メガリスと並ぶ争いが大好きな人間そのものだ。エースと聞こえはいいが、その実態は――」
「――やめろ。違う、俺は」
そこから先は、聞きたくない。封印していた罪の意識が、開かれてしまう。見なかった、否、見たくなかったものを、見てしまう。
だが、スカリエッティは言葉を続けた。
「その実態は、ただの大量虐殺者だ。私は君も含めて、争いが大好きな人間に、自分たちがいかに愚かか教え、救おうと言うのだよ。認めたまえ、"人殺し"!」
いつの間にか後ろへと回り込んでいたスカリエッティのファルケンから、ミサイルが放たれる。先ほどと同じ、散弾ミサイルだ。
白煙を噴きながら迫るそれが、メビウス1には今まで自分が殺めてきたエルジア軍兵士の怨念のように見えた。
「っく……」
ミサイル警報までもが、怨念のように思えてきた。
生きたかったのに。家族に会いたかったのに。どうしてくれる。何故殺した。
幻聴のはずだ。ミサイル警報は甲高い高音、恨みの言葉など発しない。だと言うのに、メビウス1は身体中を誰かに掴まれ、よく動けないような気がした。
メビウス1は振り返る――散弾ミサイルは、もうすぐそこまでやって来ていた。
どうしようもない恐怖が、彼の思考を支配する。ただ逃げたくて、メビウス1はアフターバーナーを点火させた。F-22は急加速、散弾ミサイルの魔の手から逃れようとする。
次の瞬間巻き起こったのは爆発、衝撃。散弾ミサイルが起爆した。
299名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 15:02:28 ID:z2miJz7e
《まだだ! 空の欠片を手にするまで! 支援》
300THE OPERATION LYRICAL:2008/11/02(日) 15:05:30 ID:GQBjcyIo
爆風と衝撃が容赦なくメビウス1のF-22に叩きつけられる。衝撃はコクピット内にまで達し、メビウス1は頭を計器に強く打ってしまった。
視界が闇に閉ざされていく感覚。必死にもがいてみたが、誰かに両手両足を掴まれて、彼の意識は深い奈落へと落ちていった。

――結局、俺は人殺しに過ぎないと言うことか。エースと呼ばれたところで、奴の言うとおり人を殺した事実は消えない。
深い闇の中で、メビウス1はため息をひとつ吐いた。
――本来なら許される行為じゃない。俺は、とっくの昔に死刑になってもおかしくないはずなんだ。それだけの数を殺した。それだけの命を奪った。
もはや、今の自分は戦えない。スカリエッティを止める資格など無い。自分も奴と同じ、大量虐殺者。そんな人間に世界の行く末をどうして任せられようか。
ふと視線を下に下げてみると、何本もの血塗れた腕や焼け焦げた腕が、こちらに向かって伸びてきていた。おそらくは、過去に自分がユージア大陸で殺めたエルジア軍兵士のものだろう。
いいだろう、と彼は眼を閉じ、腕がこちらに迫ってくるのを待つことにした。こちらが呪われることで奴らの気が少しでも晴れるなら、遠慮はいらない。
しかし、誰かに突然肩を掴まれ、上へと引っ張り上げられた。視線を今度は上に上げると、眩い青空が見えた。誰かが、自分をあそこに連れて行こうとしているのだ。
「らしくないな、メビウス1。君が弱気になるなんて」
自分を引っ張っている誰かだろうか、いきなり聞き覚えのある声が耳に入った。
――中将、そりゃ弱気にもなります。俺が今までやってきた行為は人殺しだったんだ。
「確かに、君は元の世界でいくつもの命を奪った。その事実は変わらん。私が地上を守るためとは言え、奴に協力していたように」
引っ張る誰かの腕が変わる。同時に、声も変わった。これももちろん、聞き覚えはあった。
「だがな、リボン付き。そうしてお前に守られた命だって、大量にある」
――13。だが、俺はお前の部下や仲間を……。
「上がってからのことは恨みっこ無しだ。飛ぶ前にやられるのは腹が立つがな」
声の主は笑って、そう答えた。根っからの戦闘機乗りらしい意見だった。
声はまた変わる。今度は男のものではなかった。
「殺すために戦ってきた訳じゃないですよね? 仲間を守るために戦ってきたなら、責められることは本来無いはずですよ」
――なのは、か。確かにその通り、その通りなんだが……。
「なら、いいじゃないですか」
「君がここで諦めたら、私が死ぬ気で守った地上はどうなるのだ」
「俺の教え子たちも巻き込まれる。今の奴なら、我が子同然の相手であっても躊躇しないだろうな」
「皆さんこう言ってますし――だから、諦めないで。諦めないことが、エースか否かの分かれ道。そうでしょ?」

「そう、だな……」
ぼやけているが、視界が徐々に元に戻ってきた。
首を振ってぼんやりする思考を叩き直し、メビウス1は愛機の状況を確認する。
散弾ミサイルによってダメージはあったが、撃墜されるほどではなかったらしい。パイロットが気を失っている間、電子制御が必死に機体の安定性を保持してくれていた。
「そうか――お前も、まだ諦めるつもりは無いんだな」
F-22の計器を優しく叩き、彼は操縦桿とエンジン・スロットルレバーを握り直す。
機体の状況は決してよくない。ミサイルが格納されているウエポン・ベイは散弾ミサイルのおかげで開かなくなっている。せっかく残り一発だが存在するAIM-9が使えないのだ。残っているのは
機関砲弾一一〇発、使えるのはこれだけだ。
やれるか? とメビウス1は自分自身に問いかける。相手はファルケン、得体の知れない新装備を装備し、パイロットであるスカリエッティは機体と神経を直接接続することでベテランパイロット
と同等の動きを見せる。
だが、メビウス1は胸のうちで断言する。やれる、と。それが何だと言うのだ。戦闘機の性能とは、パイロットの技量も含めて言うものだ。
レーダー画面に眼をやると、ファルケンが正面、はるかに高い高度にいることが分かった。完全に勝ったつもりでいるらしい。
――いいだろう、教育してやる。
エンジン・スロットルレバーを叩き込み、アフターバーナー点火。F119エンジンから赤いジェットの炎が上がり、F-22は猛然と天へ向かって加速していく。
301名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 15:07:26 ID:z2miJz7e
《支援しろ! 銃弾が尽きるまで!》
302THE OPERATION LYRICAL:2008/11/02(日) 15:08:21 ID:GQBjcyIo
「……ほう、上がってくるとは。まだやるかね?」
通信に入ってきたスカリエッティの声は、少しだけ意外そうだった。
メビウス1は酸素マスクを付け直し、不敵な笑みを浮かべて答える。
「何度だってやってやるさ……」
例え死神と呼ばれようと、悪魔と罵られようと、鬼神と恐れられようと、凶星と蔑まれても。人殺しと言われても。
はるか後ろには、何千何万もの命がある。それを守るためなら、なんと呼ばれても構うものか。
人殺しだろうがなんだろうが、命をかけて守り抜いたものに、偽りなど何一つ無い。
「こちらゴーストアイ、聞け、メビウス1!」
そんな時、まるで彼の背中を後押しするように、ゴーストアイと後方の"アースラ"にいるはやてからの通信が入り込んできた。どうやら、敵機の分析が終わったらしい。
「ロングアーチとの敵機合同解析が終了した、通信を中継する!」
「――こちらロングアーチ、はやて。メビウスさん、聞こえます!?」
「おう、なんだ」
緊迫した様子のゴーストアイとはやてに対し、メビウス1は気楽な返事。任務中にどうかと思うが、余裕があるのは大事なことだ。
「あの機体……スカリエッティの乗ってる戦闘機は、ADF-01ファルケンって言うようです。この機体は、ECM防御システムが搭載されてます。機体の周囲に強力な電磁波を纏って、ミサイルも機関砲
も捻じ曲げてしまうんや。もちろん魔力弾さえも……」
「通りでミサイルも機関砲もダメな訳だ。対抗策は?」
「唯一の弱点は前方のエアインテークのみです。そこを狙えば……」
はやてに言われて、メビウス1はファルケンの機体構造を注視する。エアインテークはその名の通り空気の取り入れ口だ。おそらく、ここにまで電磁波を展開するとエンジンの機能に支障が出るの
だろう。ゆえに、エアインテークだけは無防備だ。
しかし現実問題として、エアインテークのみを狙うことなど可能なのだろうか。しかも攻撃は正面からになる。敵の火力が最も集中する場所に、自ら突っ込んで敵弾を回避しつつ、針の穴を通す
ような射撃でインテークを狙う――いいや、出来る。なんと言っても、彼はエースパイロットなのだ。
「今そこで奴を撃てるのはあなただけや」
「正面角度から攻撃を行い、ファルケンを撃墜せよ」
「頼みます、ラーズグリーズ……」
「リボン付き……いや、メビウス1」
『幸運を祈る!』
声を揃えて、はやてとゴーストアイが言った。彼女と彼に出来るのは、ここまでだ。
いいだろう、やってやるさ――操縦桿を握りなおし、メビウス1はファルケンを睨む。
「貴様を撃墜する。それが俺の……"メビウス1"の任務だ!」
「よかろう――やってみたまえ!」
響き渡るのは轟音。F-22もファルケンも、ほぼ同時にアフターバーナーを点火したのだ。
狂気に満ちた赤い怪鳥に跨るのは無限の欲望。
迎え撃つのは、鋼鉄の猛禽類を駆るリボン付きの死神。
正真正銘のラストダンスが、今始まった。
303名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 15:09:07 ID:z2miJz7e
支援し続ける!
304THE OPERATION LYRICAL:2008/11/02(日) 15:11:34 ID:GQBjcyIo
不思議な高揚感があった。真正面からの一騎打ち、まるで中世の騎馬に乗った槍騎士のような戦い。
ファルケンは旋回し、真正面からメビウス1のF-22に立ち向かってくる。スカリエッティはここに来て、逃げ回ってメガリス再起動まで時間を稼ぐつもりは無いらしい。
「私は軍人ではないからね――いいじゃないか、正面からの一騎打ち」
通信機に入ってきた彼の声は、状況を存分に楽しんでいるかのようだ。例えその果てにあるのが世界の終わりだったとしても構わない。それこそが彼の望みであり、彼の言う人間への"救い"なのだ
から。
もちろん、メビウス1はそんなものは許さない。突っ込んでくるファルケンに向かって、彼はアフターバーナーを点火させた。
機関砲弾は一一〇発、毎分六〇〇〇発の連射力を誇るF-22のM61A2機関砲では、わずか一秒引き金を引くだけで弾切れになる。要するに、チャンスはほぼ一度だけだ。失敗すれば後は無い。
どちらも速度を上げながらのため、F-22とファルケンは急接近。ファルケンの方はレーザーも散弾ミサイルも撃ち尽くしたが、まだ通常の短距離空対空ミサイル、そして機関砲がある。注意しなければ
なるまい。
キャノピーの向こうに映るファルケンは最初は点のような大きさだったが、数秒後にはミサイルと機関砲を撃ち散らしながら迫ってきた。
メビウス1はフレアの放出ボタンを叩き、操縦桿を捻る。ありったけのフレアを放出しながら、彼のF-22はミサイルを、機関砲弾の雨を掻い潜って行く。
――くそ、ダメだ!
照準が合わず、メビウス1は引き金に指をかけたまま、ファルケンとすれ違う。もう一度、旋回して正面から挑まなければ。
また、あの敵弾の中に飛び込むのか――心のどこかで、恐怖に震える自分がもう嫌だと言わんばかりに嘆いていた。
だが、ここで引く訳には行かない。諦める訳には行かない。
自分自身を奮い立たせて、メビウス1は操縦桿を引いて旋回、ファルケンと再び正面から対峙する。
――さっきは回避機動が大きすぎた。最小限の機動で敵弾を回避し、その上で機関砲を叩き込もう。
フレアの放出ボタンに手を伸ばし、メビウス1はアフターバーナーを点火したまま、F-22をファルケンに向かって突っ込ませる。
ロックオン警報が鳴り響くのと、ファルケンが視界に映ったのはほぼ同時だった。そして、続くのはミサイル警報。真正面、スカリエッティがミサイルを放ったに違いない。
こちらのエンジンから広がる赤外線を捉えたミサイルは、まっすぐ突っ込んでくる。フレア放出ボタンにかけた手に力を入れようとして、いや、とメビウス1は首を振る。
まだ早い、もっと引きつけろ――今!
放出ボタンを叩く。F-22から赤い炎の塊が放出され、ミサイルはF-22ではなくフレアに誘惑され、進路を逸らす。
喜ぶのはまだ早い。次は機関砲の雨が待っている。
ミサイルを避けて数瞬後、F-22の主翼を掠めるのは赤い曳光弾。何発かは主翼を叩き、機体全体に金属ハンマーで叩かれたような衝撃が走る。
「このくらい……!」
まだ大丈夫だ、飛べなくなる程じゃない。メビウス1は被弾の影響で不安定になった機体を必死にコントロールしながら、あくまでも正面を睨む。
敵機、真正面。ファルケンの赤い胴体がはっきりと見えるほどの距離。
ここに来て、メビウス1は空中衝突の恐怖を覚えた。ぶつかる、と右腕が操縦桿を引きそうになった。
「――撃てよ、臆病者!」
叫ぶ。それは、自分自身に向けられた言葉。
操縦桿をほんのわずかに左に倒し、照準をファルケン唯一の弱点、エアインテークに合わせる。そこに至るまでの時間が、メビウス1にはひどく長いように感じた。
来い、と彼は自身も知らないうちに叫んでいた。同時に、引き金も引く。
わずか一秒、F-22の機関砲が火を吹き、二〇ミリの赤い曳光弾一一〇発が、ファルケンのエアインテークに殺到する。
そして、交差。F-22とファルケンはすれ違う。
「――見事だ、リボン付き」
戦果を確認するべくメビウス1は振り返る。一瞬遅れて、スカリエッティの声が通信機に入ってきた。
キャノピーの向こうで、ファルケンが黒煙を吹きながら地面へと向かっていき――最後に、小さな爆発が、空中に起きた。
305THE OPERATION LYRICAL:2008/11/02(日) 15:14:35 ID:GQBjcyIo
「カウントダウンが……」
「止まった――?」
メガリス内部。サブコントロールルームでディスプレイを食い入るように見つめていたベルツとティアナたちは、停止したカウントダウンの前に、しばし呆然としていた。
カウントダウンの停止。それはすなわち――メガリスの再起動停止。
「やったんですよね……?」
「そのはずだよ?」
「ええと、つまり」
エリオ、スバル、キャロがようやく口を開くが、現実が認識できないのか、周囲に確認を取っていた。
そんな時、いち早く現実を認識できたのは、ベルツの部下のソープだった。
「そうだよ――やったんだよ! メガリス、今度こそ停止だ!」
ひゃっほーい、と歓声を上げるソープ。彼の言葉でようやくメガリスの停止と言う現実を認識した皆は、ソープに続いて歓声を上げた。

「……任務完了だ、メビウス1」
ゴーストアイからの通信。そこでようやく、メビウス1は酸素マスクを外して、安堵のため息を吐けた。
終わった。何もかも、これで。もうメガリスが地表に隕石を降らすことは無い。ミッドチルダの人々は、ようやく明日から安心して夜に眠ることが出来るはずだ。
しかし、とメビウス1は思う。彼の視線は、眼下のメガリスの排気ダクトに向けられていた。
これで、勝ったと言えるのだろうか? 出撃前のブリーフィングでは、全員の帰還が要望されていた。それなのに、黄色の13は散り、なのはは落とされた。彼らだけではない、この
戦いで多くのものが犠牲になった。
「犠牲が、大きすぎる……」
「……どんな夜にも、必ず朝は来る」
そんなメビウス1の心境を察してか、突然ゴーストアイが口を開いた。
「生き残ったものが、残された未来を精一杯生きる――彼らに送る、精一杯の、手向けだと思う」
「ゴーストアイ……」
「それに、勝手に殺さないで欲しい人がいっぱいおるんやけどなぁ」
ゴーストアイとの通信に、突然はやてが割り込んできた。なんとなく安心したような嬉しそうな表情なので、メビウス1はもしや、と思い通信回線を完全にオープンにしてみた。
「――ゲホ。こちらスターズ2、どうにか生きてるぞ」
「ライトニング1、同じく無事です……出来れば救助を」
「ライトニング2、申し訳ない。誰か助けて欲しい」
「ヴィータ、ハラオウン、シグナム、無事だったか!」
六課の魔導師たちは、吹き飛ばされながらも無事だった。とりあえず今は救助待ちの様子である。
「こちらスカイキッド、もう燃料がすっからかんだ。早く下ろしてくれ」
「アヴァランチより各機、ここはどこだー? 海の上を漂流してる、早く助けてくれ。寒くてたまらん……ふぇっくしょい!」
「ウィンドホバー、ダメだ燃料切れだ。ベイルアウトするから、救助をよろしく頼む」
「あぁ、お前らも無事か……ゴーストアイ、救助を早く回してやれよ」
「心得た」
戦闘機隊の方も、とりあえず死んではいない様だ。燃料切れで海に落ちた者がいるようだが、すでに救助のヘリが"アースラ"から飛び立っているので大丈夫だろう。
ところが、いつまでたっても――彼女の声は聞こえてこなかった。
わずかにため息を吐いてメビウス1は眼下に視線をやり――突然、はやてから通信が入る。
306THE OPERATION LYRICAL:2008/11/02(日) 15:17:35 ID:GQBjcyIo
「メビウスさ〜ん?」
「――なんだ、気色の悪い声出して」
「つれへんねぇ。せっかくうちのエースの無事を伝えようと思ったのに」
「……何?」
「通信、中継するで」
メビウス1が怪訝な表情をしていると、通信相手が切り替わった。少しばかり、通信機の向こうで咳き込む様子が聞こえて――ようやく、なのはの声が彼の耳に入った。
「……こちらスターズ1」
「――なのは!? 無事だったのか!?」
「何とか――ッケホ。本当に死ぬかと思いましたけど」
彼女の声を聞いて、メビウス1はずるずるとコクピット内のシートにだらしなく持たれかかった。それだけ安心した、と言うことだろう。
とりあえず姿勢を直して、メビウス1は彼女との通信を再開する。
「……そうか。無事でよかった、本当に」
「メビウスさんも――大丈夫でした?」
「お前のおかげでな。ありがとう、なのは」
「――どういたしまして」
てへへ、と照れ隠しに笑いながら、なのははひとまず通信を切ったようだ。とりあえず救助が来るまで辛抱してもらうしかない。
ちらっとメビウス1は燃料計に視線をやると、もう残りが少ないことに気付く。早めに帰らないと季節外れの海水浴を強いられる羽目になる。
さぁ、帰ろう。故郷へ。帰りを待ってくれている奴らが、大勢いる。
メビウス1のF-22は主翼を翻し、帰路へと着く。
それまで上空を覆っていた雲が晴れ出し、帰り道を行く彼の進路を、ようやく顔を出した太陽が暖かく照らしていた。
307名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 15:20:41 ID:z2miJz7e
《これが最後だ! 支援!!》
308THE OPERATION LYRICAL:2008/11/02(日) 15:21:30 ID:GQBjcyIo
投下終了です。
はい、もちろん今回はACE COMBAT ZEROの最終ミッション「ZERO」を意識しました。
次回で最終回となります、ここまで読んでくださった方、大変ありがとうございました。

追伸、コメントの感想より。
>非常にどうでもいいことですが途中からギャズが行方不明に
>・・・そういえば、ゼストの旦那はどうしたっけ???
………あ。
――えーっとですね、ギャズはザカエフに撃たれてKIAになりました。
ゼストの旦那は原作同様シグナムに斬られました。
け、決して忘れてたとかそんなんじゃないんだからね!

そして夢境氏、支援します。
309名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 15:26:31 ID:72RhO/ms
乙!

どうでもいいけど、最後までユーノの出番は無かったなw
310名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 15:32:42 ID:z2miJz7e
>>308
俺は猛烈に感動しているぅ!(うるせえ、黙れ)
GJでした!!
なんていうか熱い、熱いというよりも感動する、ラストバトルに相応しい戦いでした。
スカさんがらしく、なおかつ本編よりもいい気になってメビウス1のトラウマを抉り。
さらに、それを死者の念(一名生きているが)が否定し、彼の存在を肯定するという、燃える展開!
やべえ、レジアスがここまで愛されるSSって中々無いだろうと思えますw
空中機動戦のドックファイト、性能ならば圧倒的に相手が上、けれど性能は期待だけじゃない、パイロットの腕も含めてなんだ!
まさにエースとして、世界を救った。
英雄と呼ぶに相応しい熱さでした。
なんていうか魔法少女? とか、途中で忘れたりしつつも、陸と海とか、世界を超えても生死があって、人殺しもそれを肯定する意味もあるんだなぁとなんとなく哲学的に考えてみたり。
もう超GJとしか言いようが無いです。
スカさんの最後の敗れる様とか、いい悪役でした。
最後まで矜持を保つのが悪としての礼儀でしょう!
今すぐ外に飛び出して、青空が見たくなったのは自分だけじゃないはず!

次回最終回待ってます!
頑張ってください、ありがとうございました!


……ゼスト、台詞もなく、黄色の13とか頑張って合わせようとしていたのに(涙)
311赫炎のクラナガン ◆CPytksUTvk :2008/11/02(日) 16:50:25 ID:z2miJz7e
そろそろ投下開始します。
支援をよろしくお願いします。


 踊る、踏み出す、回りだす。
 くるりくるりと手を取って。
 回る世界に、廻る視界に、酔いしれて。
 共に踊りましょう。
 からからと廻り続ける運命を。

 悲劇の舞台を踊りましょう。




 赫炎のクラナガン
  第一章 狂気は蔦のように根を伸ばし



 ……151回の相対を終えていた。
 そして、討ち滅ぼした。
 もはや存在しないはずなのだ。
 今は無き“背後の彼”の手によって、この右手で切り裂いたのだから。
 あの本体を。
 ブラッド・ツリー。
 ミラン・ガガール。
 その二者をこの手で切り裂いた。

「黒い植物に赤黒い蔦で間違いないのかい?」

 ギーは改造外套をなびかせながら、少年の足に合わせて走っていた。
 肉体は軋みを上げていた、栄養不足によりふらつく手足、おぞましい嫌悪感に襲われながらも彼の鉄壁の表情は歪まない。

「うん! あんな気色悪い植物みたことない」

 利発そうな少年がギーの質問に答える。
 ギーは彼と共に廃棄都市の中を走っていた。
 ギーに事態を知らせるためにやってきたもう一人の少年は手早く現象数式で止血し、ギーの元居た場所に残している。
 幾ら現象数式での肉体置換で傷を修復したとはいえ、即座に動かすのは危険だと判断したからだ。

「それで、彼女の状態はどのような感じなんだ?」

 軽度であれば、四肢を切断すれば僅かだが助かる可能性がある。
 ――ギーは考える。
 彼らを看たのは数日前、その時に樹化病の症状は見られなかった。
 隠している様子もなかったはず、罹患したのはまだ短期間。
 それならばよほど精神力が衰えていなければ初期症状で進行が止まっているはず。
 そう、考えて……

「“全身! 全身から黒っぽい蔦を生やしてた!”」

「なっ」

 ギーは驚愕に声を上げて、一瞬足を止めかける。
312赫炎のクラナガン ◆CPytksUTvk :2008/11/02(日) 16:54:57 ID:z2miJz7e
 
「ギー先生!?」

「いや、なんでもない」

 動揺を凍てついた表情の下に押し隠し、ギーは再び走り出した。
 少年に動揺を与えるわけには行かない。
 黒い蔦を生やした状態、それはすなわち全身にまで侵食が回っている、重度の症状。
 助からない命だと、無限の悲しみに満ちた都市で、149の命を目の前で失った彼は知っていた。
 しかし、おかしい。
 彼の知っている樹化病はそこまで浸食が早かっただろうか?
 “たった数日で黒ずむほどに”。

「……」

 彼は考える。
 いずれにしても彼女の症状は手遅れだった。
 それを告げるべきか、それとも隠し続けるべきか。
 走り続け、軋む足の音の中で、絶望感がカリカリとギーの心を苛む。
 嗚呼、なんでこんなにも運命は残酷なのだろう。
 もはやあの異形都市ではないというのに。
 空にはあんなにも青い空が広がる世界だというのに。
 たった一人の少女すらも少年達から奪おうというのか。
 それももはや砕け散ったはずの幻想の手によって。

「っ」

 僅かにギーの口元が歪む、苛立ちに。
 かつて。
 彼は助けられなかった命が無数にあった。
 数百だろうか、千にも至るかもしれない。
 彼が無能だったわけじゃない、ただ伸ばしても、伸ばしても、手が届かなかった命が多かっただけ。
 虫に変異し、己の変わり行く肉体に適応できずに壊死したもの。
 或いは変わり行く人外への変貌に絶望し、護るべき子を残して自殺したもの。
 大脳を侵食されて、言語を失い、己の妻を殺して荒事屋の手によって殺されたもの。
 沢山の、大勢の命がギーの手から零れ落ちた。
 あの世界で命を救おうとする行為は愚か者だと嘲笑の対象だった。
 無限の悲しみはまるで雨のように降り注ぎ、ギーはそれを大地に落とさずに受け止めようとしていた。
 けれど、命という水は手から滑り落ちて、滴のように零れ落ちていく。
 諦観するには十分過ぎる。
 絶望に堕ちるのには十分過ぎる。
 だけれども、彼は諦め切れなかった。
 十年前、彼自身は忘れていた記憶。
313赫炎のクラナガン ◆CPytksUTvk :2008/11/02(日) 16:55:39 ID:z2miJz7e
 
 ――お空を見せてくれる?

 一人の少女が居た。
 ある異形都市で彼と共にいた少女がいた。

 ――いつも心配になるの、朝になったらギーが死んでるんじゃないかって。

 一人の女性がいた。
 ある異形都市の阿片窟で出会い、タスケテと告げて、凍りつくギーを救ってくれた女性。

 けれど、もう誰も彼の傍にはいない。
 少女は姿を消した。
 黒き道化師と共に消え去って、異形都市の終焉と共に姿を消した。
 女性を失った。
 永遠に、永遠に、この手で失わせてしまった。
 彼女達がいればどう思っただろうか?
 彼女達がいればどう彼に言うだろうか。

 ――ギー、助けてあげましょう!

 その白い頬を膨らませて、一生懸命にギーに訴えるのだろうか?

 ――ギー、貴方の好きにしたらいいと思う。だって、そうじゃないと納得出来ないんでしょ?

 黒猫の彼女はいつものように手を動かして、どこか心配さを隠したつもりの顔で告げるのだろうか。
 嗚呼。
 幻聴のように聞こえる、幻覚のようにその様が想像できる。
 いつからだろう。
 ギーが孤独であることを忘れていたのは。
 凍りつくギーの心を暖めてくれた黒猫との出会いからだろうか。
 止まっていたギーの時間を進めてくれた少女との出会いからだろうか。
 それとも。

(君がいた頃からだろうか?)

 背後の彼。
 鋼の君。
 今は感じない、どこかに消えた、どこかに居なくなった、どこかに見失った。
 常にギーと共に居た君の存在を感じない。

(ポルシオン)

 それが彼の“奇械”の名前だった。

「先生?」

 その時だった。
 見上げるような姿勢で、少年がギーの横を走って、声を上げた。

「リーナの奴、そんなに危ないの?」

 ギーの浮かべるかすかな表情に気付いたのか、少年が恐怖の色を湛えた瞳でギーを見る。
 大切な少女を失う恐怖を瞳に浮かべて、声は震えていた。
314赫炎のクラナガン ◆CPytksUTvk :2008/11/02(日) 16:56:33 ID:z2miJz7e
 
「いや、わからない」

 ギーは正直に告げる。

「直接診ないと判断は出来ない」

 早計な結論は避けるべきだと、ギーは正直に首を横に振った。

「そう、ですか」

 少年は落胆を顔に浮かべて、安堵と不安の入り混じった吐息を漏らす。
 そして、少年は廃墟の角を曲がり。

「こっちです。そこにリーナを待たせて――」

 その時、少年の顔がえ? という顔に歪んだ。

「どうした?」

 ギーが同じように角を曲がり、その先を見る。
 そこには広がる廃墟、ひび割れたアスファルト、そして瓦礫の積み重なった広い空間に“誰も居ない”
 誰もいなかった。

「リーナ!? どこにいったんだ!」

 少年の悲鳴が響き渡る。
 まるでオペラでスポットライトが当たった悲劇の主人公のように、大きく悲哀の篭った叫び声が響いた。


 ズルリズルリと廃墟の影でのたうつ影には気付かぬまま。

315赫炎のクラナガン ◆CPytksUTvk :2008/11/02(日) 16:57:22 ID:z2miJz7e
 
 誰も気付かない。
 誰にも気付かれてはならない。
 無数の車両が唸りを立てて、街中を疾走していた。
 その内部で重武装に身を固めた無数の魔導師が存在していた。
 顔にはマスク、化学兵器に対するための防毒服。
 バリアジャケットによるガス排除機能だけでは不安、其れゆえの鉄仮面にも似たマスクを嵌めている。
 まるで騎士の如く、まるで鋼鉄の死神の如くそれらは死を齎すための鋼の杖を握り締め、魔なる力を操る武具に身を固め、己のみを護りつくす錬鉄の甲冑を身に纏う。
 彼らの瞳に悪意はない。
 けれど、彼らの瞳に慈悲もない。

「任務を説明する」

 一際冷たい声が響いた。
 殺意に満ち満ちた言葉、感情を排除した透き通るような声。

「目的はクラナガン、そしてミッドチルダの救済にある」

 救うことが目的である。
 なのに、何故彼らはこれほどまでに渇いた瞳を、言葉を紡ぎ出すのか。

「躊躇いは他への侮辱である」

 躊躇い。
 何を躊躇するのか。
 他者を助けることを躊躇する? 否、人はよほどひねくれていない限り善行への躊躇いなど生まれない。
 生まれるとしたらそれの相反。
 そう。

「……着いたか」

 声を上げる人物の車両が止まる。
 それは一つの一軒家、何の変哲も無い家屋。
 そこに彼らは降り立つ。
 規則正しく、どこまでも作業的に次々と十数人の人間が降り立って、周囲を封鎖。
 一人が反応を計測、二人目が周囲を警戒、三人目が言葉もなくドアを解除、四人目が開いたドアを蹴破る。
 時間にして数分にも満たない早業。
 瞬く間に家屋に侵入する甲冑の魔導師たち。
 騎士の踵裏に付ける黄金拍車が奏でる音の如く、金属のブーツを履いたままの魔導師たちの足音がギシギシと家の中の沈黙を蹂躙していく。
 まるで冷風。
 風の如く押し入り、冷徹なる金属が内部の体温を根こそぎ奪っていく。

「だ、誰ですか!」

 声が上がった。
 物音に気付いて、老婆が現れる。
 どこか弱々しく、足を引きずっている。
 魔導師の一人が計測――ピーと悲鳴のような計測音、重い機器を背負っていた甲冑の人物がパチンと音を鳴らしてスイッチを入れる。
 僅かに世界が変化する。
 するとどうだ。
 老婆の体に纏わりつく黒ずんだ蔦が見えた。

「え? な、ひっ!!」

 悲鳴が上がる。
 されど、それよりも早く無数の魔導師がその口を塞ぐ、腕を押さえる、足を掴む。
 瞬く間に制圧、貼り付けの如く押さえ込まれる。
316赫炎のクラナガン ◆CPytksUTvk :2008/11/02(日) 16:58:30 ID:z2miJz7e
 
「もう一人いるはずだ 寝室を調べろ」

「ラジャー」

 もごもごと口を押さえられた老婆が涙を流しながら、声にならない絶叫を上げた。
 寝室のドアが蹴り破られる。
 その奥に、ベットに、痛々しい老人が眠っていた。
 異形と化した蔦の海、殺してくれと嘆き続ける歌声の如き命への呪詛。
 感情を殺した男たちでさえも一瞬恐怖に怯える、それほどの光景。
 なんとおぞましい幻想だろう。
 まるで童話の中の物語、けれども世界は現実であり続ける。

「体力が弱っているせいか、罹患しているな」

「対応は?」

「躊躇いは現実を殺す。処理しろ」

「ラジャー」

 バインドを施した老婆を、寝室に投げ込む。
 蔦の中に、己の夫の横に叩きつけられて、老婆が痛々しく悲痛な声を上げた。
 けれど、それは単なる音。
 理解してはならない、同情してはならない、故に雑音だと聞き流す。

「準備しろ」

「――起動しろ、ムング」

 名も無き物語。
 その中で現れる眠りと死の神の名前。
 眠るように死ねる、それが慈悲か、それとも永劫の悪夢という名の意味なのか。
 無数のストレージデバイスが、祝詞の如き駆動音を紡ぎ上げ、世界が変わる。
 空間にひずみが生じる、老婆が周囲を見渡す、音が消えていく、光が消えていく、何もかも無くなるかのように。

「   」

 戸惑いながら、老婆が絶叫を上げる。
 それをシャットアウト、任意操作した外部音声の拒絶機能を起動。
 世界が歪む、悲鳴を上げて世界が切り裂かれる。

 そして、産まれたのは虹色の祝福。

 一瞬だろうか、それとも一瞬を切り刻んだかのごとく短い刹那か、それとも短い六徳か、感じる暇も無い虚空の歩みか。
 消えた。
 部屋ごと、全てが虚数となって、消失していた。
 何もかもいなかったかのように。
 何もなかったと決めてつけて、白紙となる。
 デバイスを停止、神へと祈る習慣の無い彼らは祈りすら捧げずに部屋を出る。
317赫炎のクラナガン ◆CPytksUTvk :2008/11/02(日) 16:59:30 ID:z2miJz7e
 
 老人などいなかった。
 老婆などいなかった。
 都合のよく現実を書き換えて去っていく。
 遥かなる世界、西亨と呼ばれる世界に語られる戯曲【魔王】
 それが現れたかのように、怯える息子が信じぬ父親の手の平から消え去ったかのように不可思議めいた、されど残酷なる現実を描き続ける。
 幻想に対抗するのもまた幻想。
 悪夢が生まれるのならばより強い悪夢で消し去るかのごとく、彼らは出現し、異形を消し去っていく。
 そして、そして。
 立ち寄る様々な場所で人々だったものを白紙に変えながら、彼らが向かう先はどこか。
 それは悪意によって汚染された場所。
 見捨てられた人々が住まう場所。

 廃棄都市。

 悪意を悪夢で埋め尽くさんと、迫っていた。





「っ!」

 はやては走っていた。
 動作は歩み、けれども焦燥を隠せぬ顔で足早に歩ければそれは走るといっても過言ではない。
 告げられた事実はどこまでも絶望的で。
 悲しみと冷徹さに彩られた童話を物語られた子供のように青白い顔。

「どうするです? はやてちゃん」

 リインフォースU、妖精の如く少女は焦燥に彩られたはやてを怯えるような目で、けれどもどこか悲観的な瞳を浮かべて呟いていた。

「止めるで。なんとしてでも止めるしかあらへん」

「けれど」

「どんなに絶望的でも許せるわけないやろ」

 止める方法。
 その中でもっとも確実な方法。

「――“廃棄都市の消毒”なんて」

 消毒。
 オブラートな包み方、だけどその実質は悪夢でしかない。
 殺戮だ。
 徹底的に殺し尽くす、存在も場所も何もかも白紙にする。
 感染していない人間でさえも危険性を考えて、消し去るのだ。
318赫炎のクラナガン ◆CPytksUTvk :2008/11/02(日) 17:00:56 ID:z2miJz7e
 
「けど、廃棄都市の人たちには人権なんて許されてないです……」

 住民登録などされていない。
 書類上は無人の場所。
 罪など生じるわけが無い。
 ニュースには何も報道されて無いだろう。
 けれど、けれど。

「だからといって、許されるわけがないやろ!」

 そんなことを許せば自分はなんだったのか。
 仕方ないで、殺されるはずだった自分。
 永久に凍結されるはずだった自分。
 それを救ってくれた希望に、夢に、今掴んでいる過去と今日、輝かしい明日を手に取るために、退けないのだ。
 悪夢を払うために、愚かと言われても前を信じ続けなければいけない。

「最後に希望はある」

 あの研究者は告げていた。
 絶望的な方法だが、かすかな希望がある。

「幻でも、幻想でも、希望はあるんや」

 ならば、それを現実に変えるのが魔法。
 自分が信じ続けたもの。
 それを掴み取れ。


 はやては諦めない。


 どこかで笑い続ける、囁き続ける道化師の嘲笑を知らぬままに。
 それがより喜劇性を深めることを知らぬままに、見えない希望を妄信する。




 さあ、舞台は整った。

 世界でもっとも救われない、笑い続けるための喜劇を歌おうか。

 足掻き続ける愚者を嘲笑おう。

 諦めよ。

 あの時のように。

 貴様は手を伸ばすことなど許されないのだから。
319赫炎のクラナガン ◆CPytksUTvk :2008/11/02(日) 17:02:12 ID:z2miJz7e
投下終了です。
赫炎のクラナガンも残り三話程度で完結予定です。
ありがとうございました。
320名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 17:40:06 ID:BilYpucr
>>308
乙です!
激闘も終わり、帰還がまた晴れ晴れしいです。
気がつけばもうかなりの長期連載、少し名残惜しいですが
最後も楽しみにしています。
321名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 18:20:09 ID:u6tERFpk
某スレから此処のテンプレをぶちこんだ人を探しにきつつSSを堪能しに来ました
322名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 19:55:01 ID:LeF+Wlun
GJずっと待ってたんだぜ!!
彼が居ない状態で果たして、彼に何が出来るだろうか
今後の展開が全く読めませんぜ
323高天 ◆7wkkytADNk :2008/11/02(日) 20:30:47 ID:g3sLxiBP
こんばんわです。9時30分頃ラクロアを投下したいと思います。
よろしくお願いします。
324高天 ◆7wkkytADNk :2008/11/02(日) 21:29:41 ID:g3sLxiBP
魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第12話


「スバルとギンガ・・・あの子達を私にちょうだい」

まるで物をねだる様にスバルとギンガを寄越せという忍の物言いに、クイントは怒りで頭が真っ白になった。
おそらく自分の今の表情も、スバル達を見つけたあの研究所を見たときの様に怒りに満ち溢れているだろう。
今すぐ飛び掛ってぶん殴りたい。だが、後ろで自分を監視しているノエルがその行動を無理矢理自主させている。
だからこそ、自身の歯を噛み砕かん勢いでかみ締め、怒りを内に押し込める。そして遠慮なく殺気を放ちながら忍を睨みつけた。
「・・・・どうする気なの・・・・・・あの子達を貰って・・・・・」
聞くまでも無いと思う。どうぜ実験などのモルモット的な扱いに決まっている。
戦闘機人は機械部品を埋め込まれているといっても立派な人間。そんなことが許される筈がない。
だが、そんな考えを微塵も持たない人間がいる事も確か。スバル達を生み出した連中が良い例だ。
「どうすると言ってもねぇ〜・・・・・別に良いじゃない?貴方の子供じゃないんでしょ?あの二人は?」
確かにそうだ。スバルとギンガは私がお腹を痛めて産んだ子達ではない。違法研究所から引き取った子達。
最初は同情心、そして子供が産めないから欲しいという身勝手な我侭だった。
だが、今は違う。この子達は正真正銘自分の子。その気持ちをナイトガンダムが分からせてくれた。
だからこそ守る。自分がどうなろうと構わない。この子達が笑って過ごせるのなら。
「・・・・・ええ・・・・確かに、スバルとギンガは私達の子供じゃないわ・・・・・・」

ああそうだ、スバルとギンガは自分達の子供ではない。だからどうした?何が悪い。
誰がなんと言おうと、この子達は私と夫であるゲンヤの子供だ。その思いをぶちまけてやる。

「だけどね・・・・あの子達は、私達の子供よ・・・誰がなんと言おうとね。だからこそ守るわ、私の命に代えても。あの子達の笑顔を・・・幸せを!!!!」
言い切った。後はどう動くか瞬時に考える。
とにかく後ろのノエルを振り切った後、二人を抱えてこの場を脱出。同時に連絡を入れて、この場所を知らせる。
あとは可能な限り時間を稼げば良い。スバル達は人ごみの中に紛れ込ませれば簡単には見つからない筈。
早速実行に移すために、体に魔力を張り巡らせようとするが、

                              「よし!!合格!!!!」

先ほどの表情が嘘の様に微笑む忍の表情、そして『合格』という言葉に、クイントは魔力を張り巡らせる事も忘れ、呆気にとられてしまった。
「・・・・・忍お嬢様、いくらなんでもやりすぎです・・・・・もう少し、やり方という物が・・・・」
一度溜息を吐いた後、ノエルはクイントの肩から手を話し、無礼を詫びるかの様に頭を下げる。
そして普段は見せない呆れた表情で主である忍を見据えた。
「へへ〜、でも、鬼気迫ってたでしょ?」
「ええ、それはもう。正に悪党・・・いえ、外道を極めた悪党・・いえ、鬼畜外道を極限まで極めた悪党でした」
「・・・・・・褒めてる?貶してる?見下してる?3秒以内に答えろ〜!!!!」
自分を無視して漫才を始める忍達に、先ほどまでクイントを縛り付けていた緊張感と絶望感は何処かへと消え去ってしまった。
おそらく自分の頭の上にはカラスが『アホー』と鳴きながら中黒(・)をつけているだろう。
それ位、今の自分は気が抜けてしまっている事が痛いほど実感できた。
「って、ああごめんごめん!!ナチュラルに無視して。全くノエルったら、主を外道呼ばわりして、酷いと思わない?」
「えっ・・・・いえ、それより、どういう事ですか?これは?合格って?」

とにかく状況がわからない。自分を挑発した後『合格』と言い、メイドと漫才をする。わけが分からない。
そんなクイントの表情に満足したのか、一度笑顔で頷いた後、ゆっくりと話し始めた。

「先ずは色々と失礼な事いってごめんなさいね。知りたかったのよ、貴方があの子達の事をどう思っているか。
だけどクイントさん、貴方の気持ちよく分かったわ・・・・・安心した」
ようやく理解した。彼女は自分がスバル達をどのように思っているか知りたかったのだろう。
おそらく彼女も自分と同じ気持ちを持っている。だからこそ、気持ちを打ち明けた自分に安心感を抱いている。
だが、まだ疑問が残る。
325高天 ◆7wkkytADNk :2008/11/02(日) 21:30:28 ID:g3sLxiBP
「・・・・・・一つ知りたいのですが・・・・どうやってスバル達を戦闘機人だと?」
ナイトガンダムには彼女達のことは伏せてある、知る事は出来ない。
それなのに忍やスバル達の正体を知っていた。だからこそ気になる、どうやって彼女が知ったのかを。
「ああ・・・・その事ね。まぁ、理由は見てもらったほうが早いわ。ノエル」
「はい、忍お嬢様」
忍の横に立っていたノエルは、不意に左腕で自身の右手首を掴む。
その行動を不審に思ったクイント、だが、直に驚きに変わった。
当然だった。彼女が左腕を回すと、『カチッ』という音と友に、ノエルの手首が取れたのだから。
「・・・・・・貴方・・・・戦闘機人・・・・・・」
ようやく理解した。なぜスバル達が戦闘機人だと分かったのかが。
同じ戦闘機人なら、目の作りも違う。センサーなどで感知出来るはずだからだ。
「そう、ノエルはスバルちゃん達と同じよ。あと、ファリンとイレインもそう。
だけど『戦闘機人』なんて物騒な呼び名ね。自動人形って呼ばないの?」

『自動人形』という言葉には聞き覚えがあった。あれは戦闘機人の資料を探していた時、偶然見つけた資料の中に載っていた。
旧暦時代、唯一完全な形として戦闘機人を生み出した種族『夜の一族』が呼んでいた『戦闘機人』とは別の名称。
だが、その所属は大規模次元震により滅んだと書いてあった。
「(そうなると・・・・・彼女は大規模次元震から生き残った者達の祖先ということね・・・・
それなら納得が行くわ)」
寿命が長い『夜の一族』は自分の付き人として『自動人形』を作ったと書いてあった。それならノエルを含めた彼女達の存在も納得がいく。
自分の中で捻じれていた疑問の意図がほぐれていく事に、徐々にすっきりした気持ちになる。

「納得がいった?だけど本当にごめんなさいね。自動人形と一緒にいる以上、貴方を疑う事は必要だった・・・・イレインの様な子を野放しにしないためにも」
ゆっくりと首を動かし、イレインがいる方へと顔を向ける。
クイントも釣られて忍と同じ方を見る。、其処にはノエル達と同じメイド服を着た少女が木に凭れ掛かり、ナイトガンダムを何かを話していた。
「ふふっ、ガンダム君と話しているとあんな顔をするのね、あの子はね、此処に来る前はある男の欲を満たすためだけに使われていたのよ。
当然そんなことは許されない。確かに彼女達は普通には生まれてこなかった。だけどそんな事は関係ないわ」
「分かります。だから忍さんはあの子を引き取ったのですね?」
素晴しい考えだと思う。そして同時にこの人に会えてよかったと思う。だが
「・・・・ううん、私はあの子を殺そうとしたわ」
迷い無く言い張る忍に、クイントは笑顔のままで固まってしまう。
一瞬、また自分を騙そうとしているのかと思ったが、先ほどの様な危機感に襲われているわけではないからこそ、
冷静に彼女を観察する事が出来る。だからこそ分かった、彼女が嘘をついていないと。
「『自由になりたい』それがイレインの望みだった。だけどね、それを叶えようとした彼女は私達に牙を向けたわ。
イレインにも色々な事情があった。だけどね、彼女はノエルを傷つけ、ファリン達を危ない目に合わせた。
私はね、家族を傷つける奴はどんな奴でも許せない・・・・・イレインが機能不全で朽ちようとした時も正直『イイ気味』と思ったわ」

       あの時は本当にそう思った。自分でも怖いほどに・・・・まったく罪悪感を感じなかった。

「だけどね・・・・そんな考えをガンダム君が否定した。彼はイレインを助けようとした。『彼女の優しさを知ったから』
それを聞いた時は自分を恥じたわ。あの時の自分はイレインの一部しか見ていなかったと気付いたから。
誰にでも色んな一面がある。狂気・怒り・悲しみ・そして優しさ。勿論、彼女にもある。その全てが私達と同じ様に・・・・・だからね、クイントさん」
再びクイントノ方へと体を向け、彼女を見据える。その真剣な瞳につい緊張し、生唾を飲み込んでしまう。

「貴方は理解しているだろうけど、改めて言わせて、スバルちゃんとギンガちゃんは人間よ。
だからね、守ってあげなさい。一人の母親として、自分の子供達を」
忍の言葉を心から受け止めたクインとは、彼女と出会えた事に再び感謝した。
だからこそ、感謝の気持ちを込め、答える事にした。

                        「はい」

とても短い返事。だが、その中に込められた思いはとても大きな物だった。
326高天 ◆7wkkytADNk :2008/11/02(日) 21:32:55 ID:g3sLxiBP
その後、軽い世間話に花を咲かせた後、ノエルが淹れるお茶を飲みながらスバル達を微笑ましく見る3人。

「その・・・・・聞かないんですか・・・・・私たちのこと」
ナイトガンダムがどちらのチームに入るかで揉めている光景をニヤニヤしながら見つめている忍に、
クイントは言うべきか迷った疑問を打ち明けた。
忍も自分達の事を疑問に思っている筈である。夜の一族でない自分がスバル達を連れていることに。
最悪、次元世界や管理局の事を話さなければならない。本当なら管理外世界の住人に管理局などの存在を話す事は
禁止されている。考えればわかる事だが、いらぬ混乱を起こさないためだ。
だが、彼女になら話しても問題ないと思う。そもそも彼女の祖先は此処とは違う次元世界の住人、
知る権利はあると思うし、知ってほしいと思う。おそらく笑って受け入れてくれる筈。だが
「ん?別に。興味ないし」
ノエルが淹れ直したお茶を飲みながら興味なさそうに答える忍に、クイントは言葉を詰まらせるも、
納得いかないため、つい身を乗り出してしまう
「興味がないって!?気になりませんか?私達のことが・・・・私は此処とは違うじげ(はいシャラ〜ップ!」
忍の手がクイントの口を押さえる。ぴったりと隙間無く抑えられているため、クイントは『モゴモゴ』と言う事しか出来なかった。
「だから、興味はないわ。クイントさん、貴方が何処から来たかなんて。私はね、貴方の気持ちを知る事が出来ただけで、十分満足。
まぁ、仮に異星人だろうがなんだろうが、驚きはしないし不思議にも思わないわ・・・・・ガンダム君がいるしね」

クイントの口から手を話し、にんまりと微笑む忍に何もいえなくなる。
正直釈然としないが、向こうが興味がないと言う以上、無理に言う事は無いと結論付けたクイントは、一度溜息を突いた後、腰を下ろした。
「でも、暇が出来たら何時でも家に来てね。貴方となら良い友達になれそうだし、
スバルちゃん達に関しても、一技術者として色々と出来るかもしれないから」
その申し出は心からありがたかった。歳が近く、話が合う忍と友達になれるという事の他に、あまり認知されていない戦闘機人に関しても
色々と聞くことが出来、スバル達に何かあっても頼る事が出来る。大きな安心感を手に入れたようなものだ。
「分かりました。ノエルさんが淹れてくれる紅茶を目当てに、ちょくちょく訪れようと思います」
安心感と満足感に満たされた笑みで、クイントは答えた。


その後、日も暮れてきたため、ナカジマ一家は帰ることとなった。
遊びつかれ眠ってしまったスバルを背負うクイントと眠そうに目を擦りながら手を振るギンガを見送った後、
丁度夕食の時間となったため、残ったアリサを誘い、夕食を取る事となった。


「八神はやて殿ですか?」

夕食が終わり、今はテレビのワイドショーを見ながらゆったりとした時間を過ごす2人。
忍はイレインの検診をするために自室の篭り、ノエルはその手伝い、ファリンは洗い物などの雑務に追われており、
この広いリビングにはナイトガンダムとアリサとすずか、そして飼われている猫しかおらず、
それぞれが暖かい紅茶を飲みながらゴールデンタイムに放送されているお笑い番組を時より笑いながら見ていた。
本当ならナイトガンダムも愛剣の手入れなどをしたかったのだが
「な〜に〜?こんな美少女二人を置いて行く気〜?」
『一緒にいなきゃ唯じゃ置かない』と言いたげに軽く睨みを利かせるアリサに負け、こうしてお茶に付き合っている。
ちなみに、すずかは先ほど自分の携帯電話が成った為、今は席を外しており、今はアリサとナイトガンダム、そして
ナイトガンダムに妙に懐いている数匹の猫という構成になっていた。
暫らくアリサの習い事について他愛も無い話をする二人。そして、今度アリサの演奏を聴く約束をした直後、
すずかがリビングに戻って来た・・・・・暗い表情をして。
327高天 ◆7wkkytADNk :2008/11/02(日) 21:35:01 ID:g3sLxiBP
「「すずか!?」」
当然何事かと慌てた二人は席を立ち、駆け寄る。
心配そうに自分を見つめる二人に、すずかは俯き、持っていた携帯電話をぎゅっと握り締めなら聞いた内容を話し始めた。
そこで出て来た名前が『八神はやて』であった。
ナイトガンダムは初めて聞いた名前であったが、アリサは心当たりがあったのか『ああ・・あの子ね』と内心でつぶやきながら相づちを打つ。
すずかの話しでは、その『八神はやて』とう少女が急に倒れ、入院する事になった事、
病状はそれ程悪くは無いが、検査などで色々と時間がかかり、暫くかかる事、
耳を澄まさなければ聞けないほどの小さな声で話すすずかにアリサは溜息を一回、そして

                     ビシッ!

彼女のオデコに強力なデコピンを喰らわせた。
「ひぁ!!?」
突然の打撃に、すずかは声をあげて驚き、涙目になりながら直撃したオデコを抑える。
「ア・・・アリサちゃん・・・何を(シャラップ!!」
恨めしげにアリサを見据えようとするが、腕を組み、仁王立ちしながら自分を睨みつけるその迫力に、言葉を詰まらせる。
咄嗟に助けを求めるようにナイトガンダムを見つめるが、彼にしては珍しく、助け舟を出す事無く成り行きを見守っていた。
「あ〜も〜!すずかの悪いくせよ!!なんでも必要以上に悲観的に考えるのは!!
今のすずか、まるではやてが死んで明日御通夜が行われるって感じだったわよ。まったく、私とガンダムをビックリさせないでよね」
顔を近づけ、すずかの瞳を覗き込む。そして、今度は優しく微笑みながら、軽くデコピンをした。
「確かに倒れて入院はするけれど、病状はそれ程悪くは無いんでしょ?だったら『その程度で済んだ』ってポジティブに考えなさい」
「だけどその純粋に相手を労われる優しさも、すずかの長所だよ。その優しさが、アリサやなのは達を引き付けているんだ」
ナイトガンダムのフォローにアリサは「その通り!」と叫びながら力強く頷く。

確かに、自分は物事を悲観的に考える癖があることは、姉である忍からも言われた事がある。
治そうとは思いながらも、自然に身についたため、中々治す事ができない。
時にはその性格から来る必要以上の不安に押しつぶされそうになった事もあり、一人苦しんだ事もあった。だが、
「(アリサちゃんやなのはちゃんと出会ってから・・・・苦しむ事は無くなった)」
いつも明るさを振りまいてくれるアリサは自分に明るさと勇気を与えてくれた。不安に押しつぶされそうになる気持ちを吹き飛ばしてくれた。
なのはは必要以上の不安に押しつぶされそうになる自分の気持ちを逸早く感じ取ってくれた。
改めて思う、この二人と友達になれたことを心から良かったと。最初は大喧嘩から始まった付き合いも、今となってはかけがえの無い物となっている。
フェイトやはやては出会ってからまだ日が浅い。だけど、アリサやなのは達の様に心から接し合える事が出来ると信じている。

「うん・・・ありがとう、ほんと、アリサちゃんの明るさには・・・・いつも助けられてばかりだよ・・・・」
自然と流れる涙を拭きながら笑顔でお礼を言うすずかに、アリサは照れを隠すようにそっぽを向く。
そんなアリサの姿につい笑みを溢したナイトガンダムは、すずかに近づき、そっとハンカチを差し出した。

「じゃあ、湿っぽい空気も吹き飛んだ所で、明日の放課後、皆でお見舞いにいこうか?」
アリサとしては当然二人とも承諾してくれるだろうと信じての提案
「えっ・・・いいの?」
その提案にすずかは嬉しそうに乗ってきたが、ナイトガンダムは少し難色を示した。
「・・・・・突然で大丈夫でしょうか?それに大勢で押しかけるというのも・・・・」
彼女達の気持ちも分からないでもないが明日、しかも突然大勢で押しかけるのはどうかと発言してみる。だが
「大丈夫よ!すずかの友達なんだし、紹介してくれるっていってたから。それにお見舞いも、
どうせなら賑やかな方が良いじゃない。勿論、回りの迷惑も考慮してよ」
ナイトガンダムの意見をアリサは自信満々にあっさりと斬り捨てた。
彼女の言い分も分からないでもない。アリサ達位の年頃の少女なら、落ち着いた感じよりは大勢で騒いだ方が楽しいのだろう。
おそらく火付け役はアリサとなるだろうが彼女の事だ、周りの迷惑なども考えて騒ぐ筈。
328高天 ◆7wkkytADNk :2008/11/02(日) 21:36:21 ID:g3sLxiBP
「・・・・そうだね。すずか達のリーダーであるアリサが言うんだ。私が心配する必要もないだろう。
明日、楽しんでくると良いよ」
「は?何言ってるの?ガンダム、貴方も行くのよ」
飲みかけた紅茶を吐き出しそうになるが、騎士としてのプライドがその行為をどうにか抑えた。
だが、その代償として豪快に咽てしまう。
「ゲホッ!ゲホッ!!・・・わ・・私もかい!?」
「当然じゃない。私達が行くんだから当然ガンダムも一緒よ。拒否権は無いわ!」
何を言ってるの?と言いたげは表情でアリサは強制同行を要求する。
「私も・・・ガンダムさんには一緒に来て欲しいな。実はね、ガンダムさんの事、はやてちゃんに少し話したの。
といってもね、『優しいお兄さんが来た』位しか話してないから・・・・紹介したいの」
すずかもまた、遠慮がちにだがナイトガンダムに一緒に来て欲しいとお願いをする。
考えようとしたが結論は直に出た。二人の頼みをを断る理由などないからだ。
「わかった。私も同行させてもらうよ」
「よし!決まり!!もう今日は遅いからなのは達には明日学校で話しましょ。学校が終ったら
一度すずかの家に寄るから、ガンダムはそこで合流、寝てるんじゃないわよ!」
おそらくすずかから聞いていた『八神はやて』という少女に出会えるのが今から楽しみで仕方が無いのだろう。
声を弾ませながらテキパキと指示するアリサを、すずかとナイトガンダムは微笑みながら見つめていた。

・翌日

「あ〜も〜!!なんでなのはもフェイトも学校休むかな〜!!!」
アリサの父が娘の『通学用』のみに購入したリムジンの車内、
その高級車の持ち主と言っても間違いではないアリサ・バ二ングスは、不満を隠す事無くさらけ出し、
その原因となった二人の友の名前を恨めしげに叫ぶ。
「し・・・・しょうがないよ・・・・・なのはちゃんもフェイトちゃんも家の都合なんだし」
アリサの大声の洗礼をモロに受けたすずかは耳を押さえながらも、宥めるように説明する。
そんな二人を、事情を知っているナイトガンダムはただ心の中で詫びるのみだった。


はやての事を話そうと、意気揚々と学校へ来たアリサ。だが、

    「本日、高町さんとテスタロッサさんは、ご家庭の事情でおやすみです」

担任の先生のその言葉に、アリサは無意識に席を立つと同時に机を叩き
「なんでよぉ〜!!!!」
隣の、そのまた隣の教室まで響き渡る声で叫んだ。


「・・・まぁ、家の事情じゃしょうがないし・・・・以前みたいに長期休学ってわけでもないから・・・・・・でもタイミング悪すぎ」
癇癪を起こしても何も解決しないとは分かってはいるものの、どうにも納得できない。
「アリサ、別に今回きりというわけではないんだ。なのは達とはまた日を改めて行けば良いじゃないか」
ナイトガンダムのフォーローに、アリサは釈然としない症状をしながらも納得したのか、『フン!』と鼻を一階鳴らした後、
腕を組み、シートに深く腰をかけた。

「(すまない、二人とも。本当の事情を話すわけにはいかないんだ)」
なのはとフェイトは、家の都合で休んだのではなく、リンカーコアの検診があったため、今日は本局に行っている。
二人とも体が未成熟な状態でリンカーコアを抜かれたため、完治といわれていても
一ヶ月は定期的な診断を受けたほうが言いというリンディの進めがあったからだ。
なのはは既に完治しているので特に問題なかったのだが、フェイトにいたっては、今日の診断で完治か否か結果が出る為、休む事は確定だった。
そんなフェイトの事が心配だったなのはは、本当なら休みの日に受けるはずの定期診断を今日受けることにし、
診断を受けると同時に、フェイトに付き添う事にした。
ちなみにこのことは早朝ナイトガンダムにも知らされたため、アリサの態度も大体は予想できていた。
329高天 ◆7wkkytADNk :2008/11/02(日) 21:37:31 ID:g3sLxiBP
「ガンダムさんの言う通りだよアリサちゃん。今度また来よ・・・・そうだ、クリスマスが近いから、
今度はプレゼントを持って皆で行こうよ。きっと喜ぶよ!」
「むっ、すずかの癖に生意気にもナイスアイデアを・・・・これは極刑よ!!」
言葉とは裏腹にニヤニヤと不気味に微笑んだアリサは、すずかの頬を掴み、容赦なくこね回した。
手をバタつかせながら助けを求めるすずか
そんなすずかの態度に昔の虐め心が復活したのか、楽しそうに頬を抓ね、こね回すアリサ。
一度は助けようと考えたが、子供らしいスキンシップだと思い、微笑ましく見守る事に下したナイトガンダム。
運転手の鮫島も笑いを漏らす中、リムジンは海鳴大学病院に着こうとしていた。


・八神はやて病室

「・・・暇やな〜・・・・」
完全な個室のため、自分以外は誰もいない病室。
TVもない上、持って来た漫画や小説も読みつくしてしまったため、この病室唯一の患者
『八神はやて』はとても暇をもてあましていた。
首を窓の方へと向けるが、見えるのは全く同じ景色、もし此処山道を走る電車の個室なら
どんなに良い景色が見られたかと思うが、そんな都合のよい事が出来るはずが無いので直に考えるのをやめる。
「・・・・・はぁ、皆、今どないしてるんやろ・・・・・」
ふと、今は離れ離れになっている家族の事を思ってみる。すると
元気にやっているか、ちゃんとご飯を食べたか、ヴィータはアイスの食べすぎでお腹を壊していないだろうか、
不安だけが頭の中に押し寄せてきた。
「・・・だめや。不安になって、いてもたってもいられなくなってきた・・・・・・・まぁ、
みんなは元気の筈やし、ご飯も・・・・・これは皆顔色がええからシャマルが頑張ってくれてるとして、
シグナムが注意してくれるからヴィータも程ほどにしとるやろ・・・・・うん。大丈夫大丈夫!!」
ここであれこれ考えてもどうにもならない。皆を信じて自分は3食昼寝つきの休暇に勤しもう。
だが、せめて携帯電話が使えればと思う。それならすずかや図書館で出会ったアリサと話す事が出来るから。
「まぁ、此処は病院、無理な願いやな。せめて尋ねてきてくれれば・・・・っそんなミラクル起こるわけ(こんこん」
ふと聞こえるノック音。此処の病室に来るのは大体決まっている。先ほど検診で石田先生が来たばかりだから
おそらくはシグナム達だろう
「はーい!どうぞ〜!」
ふと考えてみる。扉を開けて入ってくるのは誰だろうと。
先ずヴィータではない事は間違いない。あの子はノックなどせずにいきなり扉を開けるのだから。
常に家で留守番をしてるザフィーラも可能性は低い。
そうなるとシグナムがシャマル・・・・・・・二者択一となる。
「(う〜ん・・・昨日はシャマルが着たから・・・・・シグナムや!)」
結論が出た直後、扉が開きノックをした人物が入ってくる。
結果的にはやての予測は大はずれだった。だが、ミラクルは起こった。
「アリサちゃんに・・・・・すずかちゃん!?」
話をしたいと思っていた人物二人が、尋ねてきたのだから。


「こんにちわ〜って、意外そうな顔をしてるわね?」
自分達を歓迎するわけでもなく、また、非難するわけでもなく、ただ純粋に驚いているはやてに
アリサとすずかもどうして良いのか戸惑ってしまう。
「えっ・・・ああ・・・ごめん。来るなんて聞いとらんかったから・・・・・それに二人って友達やったんか」
まるでアリサを知っているかの口ぶりに、すずかは『えっ』とつぶやきながらアリサを見据える。
その視線と表情に満足したのか、『くっくっく〜』と笑いながら、はやてと図書館でであった事を短く話した。
「まぁ、私も二人が知り合いだった事は最近知ったけどね。でも今日来ることはすずかが連絡した筈よ。ねぇ?」
「うん。それは間違いないよ・・・・・・もしかして」
「うん、100%うちに知らせる事をを忘れたんや・・・・・・でも、いらっしゃい!座って座って!!」
正直嬉しかった。話をしたいと思っていた二人が訪れた事に。
はやては早速来客用の椅子に座るように進めるが、なぜか二人とも笑ったまま動こうとはしなかった。
「実はね〜、もう一人いるのよ、はやてに紹介したい人が。さあ、入って!」
アリサの声にあわせて、すずかが扉を再び開けた。すると
330高天 ◆7wkkytADNk :2008/11/02(日) 21:38:56 ID:g3sLxiBP
「・・・・・ロボット?」
誰もが彼を見たとき感じる第一印象。はやても同じくそう思った。
彼はゆっくりと近づき、はやてのベッドの前まで近づくと、跪き、頭を垂れた。
「お初にお目に掛かります。八神はやて殿、私、すずかの姉、忍殿によって作られたロボット、ガンダムと申します」
まるで主君に忠誠を誓う騎士の様に自己紹介をするガンダムに、はやては何とも恥ずかしい気持ちになる。
「はぇ〜・・・・まるで騎士やな〜、うち八神はやてといいます。よろしゅう。
やはり興味があるのか、ナイトガンダムをじろじろと物珍しそうに見つめる。
「すずかちゃんが言っていた『優しいお兄さんが来た』って、ガンダムさんのことやったんか〜。
う〜ん・・・・・忍さん、スゴイ人やな〜、来ないなロボットを作れるなんて〜、どれどれ?」
依然ジロジロと見つめながら感心するはやては、自然と両手をナイトガンダムの頬へと伸ばし、
「ムニュ」
しっかりと掴み              
「ムニュ〜」
それなりの力で引っ張った。
「あ・・あにお〜!(な・・なにを〜!)」
「はぇ〜、人肌みたいに温かいし柔らかいな〜。まるで生物みたいや〜」
何気なく呟いたはやての言葉に、此処にいるはやて以外の3人は固まる。
だが、ご機嫌なはやてはそれに気付く事無く手を離し、再び椅子に座るように勧めた」

「せやけど、なんかガンダム君は似とるな〜」
アリサは紅茶を淹れるためにカップを取り出し、すずかはなのはの家で買って来た
シュークリームをお皿に分ける。
ナイトガンダムは持って来た花を花瓶に活けるために、踏み台を使って花瓶を取ろうとする。
「私に似ているとは?」
花瓶に顔を向けながら、ふと気になったので聞き返してみる。ただ単に何気ない行為。だが、
「いやな、私の家族なんやけど、性格がな・・・こう・・・騎士っぽい所とかが特にな」


                 その何気ない質問が

「まるで・・シグナムみたいや」


             物語を急速に進展させる事となる。

「!!」
花瓶を落とさなかったのは偶然と言って良いだろう。
『シグナム』その名前を聞いた瞬間、鼓動が激しくなる。
おそらく今の自分は驚きの表情をしているだろう。花瓶の方に顔を向けているため、
3人には気づかれていない事に安心する。
誰にも聞こえないように深呼吸を一度したあと、自然とはやてに尋ねてみた。
「『シグナム』とは・・・名前からして、外国の方ですか?」
「そうよ、はやての親戚の女の人。ピンクの髪のすっごい美人よ」
人数分の紅茶を用意しながら、アリサがはやての代わりに答える。
「あとヴィータちゃんにシャマルさん、あとザフィーラって大きな犬もいるんだよ」
「へぇ〜、犬もいるんだ。それは知らなかったわ。はやて、今度触られてよ」
「アリサちゃん犬が好きやったからな〜、ええよ。大きいけど、とても大人しい子やから」
すずかの補足に乗る様に、3人の会話は弾む。
ナイトガンダムも笑顔でその光景を見つめていた・・・・・・表面だけは。
内心では事態が急展開した事に驚きながらも、どうにか心を落ち着かせ、状況を整理する。

まずはやての言う『シグナム』という女性は、間違いなく『烈火の将・シグナム』だろう。
ピンクの髪で『シグナム』という女性がこの海鳴市で2人といるとは思えない。
そして続けて出て来た『ヴィータ』と『シャマル』と『ザフィーラ』、もう疑いようが無い。
彼女達を『家族』と言った『八神はやて』彼女が闇の書の主だということが。だが、疑問に思う事もある。
「(・・・・彼女から・・魔力が全く感じられない・・・・・何故だ?)」
闇の書の主であるならば魔道師の筈。だが、彼女からは魔力を微塵も感じ取る事が出来ない。
331高天 ◆7wkkytADNk :2008/11/02(日) 21:41:09 ID:g3sLxiBP
もしかしたらはやての家族の誰かという可能性も考え、彼女の家族構成などを聞ければいいのだが、
はやてが言った『家族』とアリサが言った『親戚』という言葉、この価値観の違いがどうにも引っかかる。
もし家庭の事情で何かあるのなら、その事を彼女に聞くのは酷なことだ。
なら、本人に会ってみるしかない。

「はやて殿、その・・・シグナムという女性の写真などはありますか?」
「な〜に〜?ガンダムったらやっぱり気になる〜?それとも早速お近づきになる気〜?」
アリサがニヤニヤしながらからかう様に尋ねてくるが、
「いえ、似ていると聞くとどうにも気になってしまいまして・・・・まぁ、美人という事も興味の一つですが」
それを笑顔で軽く流す。言い返されたアリサはムスっとするが、ナイトガンダムは今回ばかりは無視し、
再びはやての方へと顔を向ける。
「あ〜・・・写真ならあるんやけど・・・・・アルバムは家や・・・・・ごめんな。
でも、シグナムなら今日来るんよ。昨日来たヴィータがいっとった。確か6時位やったかな・・・・」
ふと、備え付けの時計に目をやる。時刻は午後3時40分。まだ時間はある。だが、
「・・・シグナムさんにも挨拶したいんだけど・・・・私達、5時がら習い事が・・・・・・」
今日は午後五時からアリサと一緒にバイオリンのお稽古がある。はやてともっと話しもしたいし、
最近会っていないシグナムに挨拶もしたいが、年末に発表会を控えているため、休むわけには行かない。
「そうよね〜・・・・・私も図書館で会って以来だし・・・・・・よし!ガンダム!!」
何かをひらめいた顔つきでナイトガンダムを見据え、左手を腰に置き、右手の人差し指で彼を指差す。
何か特別な効果音でも聞こえるかの迫力に、はやては自然と『おお〜!!』と声をあげてしまう。
「貴方は私達が帰っても此処にいなさい!!シグナムさんが来るまで、どうせはやては暇を持て余すんだから、
女性を退屈させないのも、騎士の勤めよ」
このアリサの気遣いに、ナイトガンダムは素直に感謝した。
当初は写真などで人相を確認するのみに留めようとしたが、これなら本人に会える。
「わかりました、アリサ。このナイトガンダム、貴方から受けた使命、見事、達成させてごらんにいれましょう」
跪き、頭を垂れるナイトガンダムに、命令したアリサは満足げに微笑み、
すずかとはやては互いを見つめた後、嬉しそうに微笑んだ。

・午後六時三十分

「遅くなってしまったな・・・・」
今日の収集活動を終えたシグナムは、多少だるさが残る体を引きずりながら
海鳴大学病院内のはやての病室へと向かっていた。
収集活動を優先してから、主であるはやてと顔を合わせることが少なくなっていた。
それでも、常に毎日誰かが訪問する様にはしているが、主に寂しい思いをさせいるのには変わりは無い。
むしろ、自分達の行動を何一つ追求しない所か、寂しさを感じさせない笑顔で迎えてくれるはやての優しさに胸が痛む。
だが、それは仕方のない事。主であるはやての命を救うには闇の書を一刻も早く完成させなければならない。
『主の命を救うための仕方の無い行為』そう自分に言い聞かせ、シグナム達は行動していた。
途中で会った石田医師に挨拶をした後、はやての病室へ到着。
一応、主を驚かせないようにノックをしようとするが、中から聞こえてくる声にノックを止める。
「(ん?誰か着ているのか?・・・いや、何処かで聞き覚えが・・・・)シグナムです。入ります」
中から聞こえる声に引っ掛かりを覚えながらも、主の楽しそうな声に気分を良くしたシグナムは
数回ノックをした後扉を開ける。そして
「あっ、ガンダムさん、シグナムが来たで」
備え付けの椅子に腰を下ろしているナイトガンダムの姿を見て固まった
332高天 ◆7wkkytADNk :2008/11/02(日) 21:43:18 ID:g3sLxiBP
・屋上

「・・・まさかな・・・・・お前がいるとは思わなかった・・・・・」

海鳴大学病院の屋上、本来は立ち入りを禁止されている場所だが、聞かれたくない話を
するにはもってこいの場所だった。
病室に入ってきたシグナムの姿に確信を得たナイトガンダムは、はやてに自分はもう帰ると伝える。
同時にシグナムに念話を送り
「(自分を送っていく様に伝えて欲しい・・・・話しがしたい)」
二人で話しが出来るように口実を作ってもらうように頼んだ。

当然シグナムは彼の願いを聞き入れた・・・否、聞き入れるしかなかった。
この状況、勘の良いナイトガンダムの事だ、既に主はやてが闇の書の主だと気づいている筈。
ならば逃がすわけには行かない。もし、奴が管理局にこの事を話したら主に危険が及ぶ。
他の皆を呼ぼうとしたが、3人とも遠くの次元世界で収集活動を行っている。シャマルならまだしも、
自分の思念通話では伝える事はできない。
反対にナイトガンダムがテスタロッサ達を呼んでしまったら、事態は最悪の状況になる。
「(・・・・・・喋らせないためには・・・・・・)」
待機レヴァンティンを強く握り締めながら、シグナムは屋上へと向かった。

「・・・ガンダム、お前はどうする気だ・・・いや、私達は敵対している・・・・・聞くまでも無いな」
レヴァンティンを待機状態からシュベルトフォルムへと変形させ、切っ先を突きつける。
そのシグナムの態度に対し、ナイトガンダムは警戒をするどころか、武器も取らず、真っ直ぐに彼女を見据えた。
「・・・今回の事は誰にも言わない・・・・私の騎士の誇りに誓って約束をしよう・・・ただし条件がある」
おそらく嘘は言っていないと思う。一度とは言え真剣に剣を交えた相手、あの真剣な瞳で邪な考えや嘘をつけるとは思えない。
だが、それでも今回は状況が違う。必要以上に疑う必要がある。
「すまないな・・・・・・好敵手とはいえ、貴様との出会いは浅い。信じる事は出来ない。
だが、条件というのが気になる、それを聞いてからだ」
とりあえず、武器も持たない相手に剣を突きつけるのは良い気分では無いので、シグナムはレヴァンティンをゆっくりと下ろした。
「それで・・・・条件とは何だ?」
「簡単な事だ。私の話を真面目に聞いて欲しい。ただし、質問は受け付けるが、途中で投げ出す事はやめて欲しい」
ナイトガンダムが出した条件に、シグナムは沈黙で答える。
冬の風が二人を容赦なく襲い、町の喧騒だけが響き渡る。
時間にして10秒足らずの沈黙を破ったのはシグナムだった。
レヴァンティンを待機状態へと戻し、戦闘の意思が無い事を表す。
その態度で了承したと感じ取ったガンダムは、リンディやクロノに話した自分の予測を、ゆっくりと話し始めた。


こんばんわです。投下終了です。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。
職人の皆様GJです。
次は何時になるのやら・・・・orz
333名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/02(日) 22:24:26 ID:BilYpucr
GJ!!
いや〜忍さんの悪者の演技が最高ですわ〜
こちらもクイントさんに感情移入してしまいました。
アリサに礼を尽くすナイトガンダムにもしびれました。
続きが楽しみです。
334名無し@お腹いっぱい:2008/11/02(日) 22:54:46 ID:tEw7uSZg
遅ればせながらエスコンの人GJ!

・・・って何時の間にザカエフ蘇ったんですかい!
つまりスピンオフでソープVSザカエフのリターンマッチをを書いてくれるんですね、分かります(コラ)
335一尉:2008/11/03(月) 16:04:38 ID:+HkuqE1m
ナイトガンダム支援。
336ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/11/03(月) 20:39:25 ID:wOfdDcjr
22時頃に投下予約を。今回は投下後にちょっとした発表がありま〜す。
337名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 20:56:26 ID:4tpAcrRf
wktkwktk
338名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 21:17:55 ID:Qdpss7jN
>>336
予定前倒しですか!?まってま〜す。
339名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 21:42:29 ID:AvITvsTb
いやいやいや、確か以前、また来年とか言ってたし
今回の投下はきっと番外編謂わばサウンドステージなんだよ




悔しい…でも期待しちゃう……!
340ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/11/03(月) 22:01:53 ID:wOfdDcjr
今回は、来年投下予定の続編の予告編第二弾です。
投下後に、ちょっとした発表があります。

では投下します。
341名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 22:02:15 ID:rquqwXwO
支援
342ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆1gwURfmbQU :2008/11/03(月) 22:07:06 ID:wOfdDcjr
「そういえば、あの人、右腕が……」

 ここは、平和の訪れた世界。

 人とレプリロイドが手を取り合い、共存への道を歩み始めた、平和な世界。

「右腕が、なかったの」




 帰還した英雄、再会した仲間たち。

「これから、ずっと……ずっと一緒にいてね?」

 訪れたのは、安定と安寧の日々。

 戦士が必要となくなった世界で、英雄は何を思うのか――

「お願い、私の側を、離れないで!」

 少女の想いに、英雄は、ゼロは答えることが出来るのか。


「アイツが本当に復活したのなら、オレはもう一度、剣を取り……戦う」


 世界は、戦士に休息を許さない。

「君の力を持ってしても、復活した彼には勝てないかも知れない。それでも行くの?」

 突き付けられる現実と、目を反らすことの出来ない真実。

「あまり、あの娘を泣かせるな。お前さんだって、あの娘の気持ちには気付いているはずだ」

 再び剣を取る戦士に、英雄に、世界は如何様に応え、

「アルエット、私たちがもし戻らなかったときは……みんなをお願いね?」

 受け止めてくれるのか。


「オレは自分の過去に、決着を付けたい。だからオレは、オメガと戦う!」


 ゼロとオメガ、過去と未来、そして『今』を賭けた英雄と救世主の戦いが、はじまろう
としている。


「ゼロ、行きましょう。魔法の国、ミッドチルダへ――!」




           ロックマンゼロ-逆襲の救世主-

            2009年1月、投下開始予定
343名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 22:09:51 ID:AvITvsTb
うわぁぁぁ来年が待ち遠しい修羅場的な意味でも!
344ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆1gwURfmbQU :2008/11/03(月) 22:11:23 ID:wOfdDcjr
以上、本当に短いですが「ロックマンゼロ-逆襲の救世主-」予告編第二弾、
ゼロ-サイド-となります。ここから、イレギュラー-サイド-へと続きます。

さて……ここからは前作「ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄-」についての発表なのですが、


完結記念と言うことで同人誌にします!!!

今年の冬コミで売ります!!!


というわけで、同人誌化の発表を。
時間はあまりありませんが、今後も本スレ・保管庫・避難所等で詳細を告知していきます。
コミケに来られる予定があるかと、コミケには行かないけど興味のある方、どうぞよろしく
お願いします! 具体的な詳細は近日中に保管庫の方で!
345名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 22:16:38 ID:pzQgZnF6
>>344
な、なんだってー!
サプライズがすごすぎるがな、てゆーかまじ買いてー!
346名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 22:17:01 ID:V3+7m4Tb
委託か通販…頼むぜ…?
347名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 22:18:23 ID:GmyPGkdr
なんと!? メロンブックスでも売ってください。買いますから。
348超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/11/03(月) 22:24:09 ID:37ra6rEF
ゼロの同人誌化ですか…。驚きです。
10時半頃にですがグラヴィオンStrikerSの最終回を投下しようと思います。支援もお願いしたいと思います。
349超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/11/03(月) 22:25:31 ID:37ra6rEF
失礼、やはり10時半ではなく10時45分頃にします。
よく見たら前回の投下からギリギリ30分経ってませんでした。ごめんなさい。
350名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 22:27:17 ID:GfBEe0qe
最終回支援
351名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 22:32:47 ID:rquqwXwO
ゼロの人乙。ますます続きが気になる。
まさかのコミケ参加w
がんばってください
352名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 22:40:00 ID:8CqhBgom
ちょっと待てェェェ!!ゼロ氏!同人誌化は兎に角そうなった経緯を言えェェェ!!
353超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/11/03(月) 22:46:25 ID:37ra6rEF
それでは投下します。

 最終話 遥かなる時の魂への凱歌

 ソルグラヴィオンはゼラヴィオンと対峙する。ソルグラヴィオンの手には超重剣が握られていた。

「のんびりしてられない、一気に決めよう。スバル!」
「はい! 皆行こう!」
『了解! うおおおおおおおおお!!』

 ソルグラヴィオンは背中のブースターのロケットを動かしゼラヴィオンに斬りかかる。
 しかしゼラヴィオンは自分の胴体をいくつものパーツに分離し、超重剣の攻撃を避ける。

「なら、なのはさん!」
「わかった、ソルグラヴィトンノヴァーーーーーーー!!」

 ソルグラヴィオンの前に見えないレンズを展開させ、肩のキャノンから重力子エネルギー波を発射させ、レンズで拡大させそのエネルギー波はゼラヴィオン全体を覆いつくす。
 そのエネルギーの爆発で光が広がり皆思わず目が眩む。

「やった?」

 スバルが確認しようとすると、前には無傷のゼラヴィオンが存在していた。

「まだ頑張らないとね」
「全然効いてないんだね」

 なのはとアリシアがゼラヴィオンの無傷を見て気を引き締める。

「ここからが本番ですね」
「でも急がないとヴェロッサさんが……」

 ヴェロッサがカリムのいる部屋に突入した事は既にグランナイツの皆は知っている。ここでゼラヴィオンに時間を食われてはヴェロッサの援護に行けない。
 なら早く倒させねばならないのだがゼラヴィオンは強い。何とかしないといけない。

 その頃ヴェロッサは何とかはやてに刺された傷口を塞ぎ、慣れない剣でカリムと生身で剣での決闘をしていた。しかしヴェロッサとカリムはあまりそう言った武器を持って戦うのをした事が無い。
 しかしその割にはカリムの剣捌きはなかなかのものであった。ヴェロッサは何とかつば競り合いに持ち込んでいた。

「人類は穢れた存在よ。欲望と争いにまみれた歴史に今こそ終止符を打つのよ」
「あなたはジェノサイドロンシステムに心を汚染されている。人間はあなたが思っているほど醜い存在じゃない!
はやての姿を模したアンドロイドをそばに置いているのは、カリム! あなたも人の魂を失っていない証拠だ!」
 ヴェロッサはつば競り合いでカリムを後ろに退け自分も一旦後ろに下がる。

「ロッサ!」

 カリムは走りながらヴェロッサに斬りかかり、ヴェロッサは一歩手前で避ける。しかし剣は避けたもののその次にカリムは左手でヴェロッサの顔を殴り、片足をヴェロッサの腹にめり込ませる。
 ヴェロッサはその勢いで思わず伏せこんでしまう。

「はやての名前を口にしないで。あなたがもっとはやてを気遣っていればはやての病に気付いていたはずよ。はやてを死なせたのはあなたよロッサ!」

 ソルグラヴィオンはゼラヴィオンの強さに苦戦を強いられてしまう。

「こうなったら、ティアナいくよ!」
「はい、アリシアさん!」
 ソルグラヴィオンは両手を合わせる。そして両手が高速回転を始める。

「「ソルグラヴィトン、スパイラルクラッシャーーーーーーナッーーーーーーーーークル!!」」
 大回転した拳がゼラヴィオン目掛けて飛んでいく! ゼラヴィオンは何とその攻撃を片手で受け止め、攻撃を完全に防ぎきる。
 飛んでいった両手はきちんとソルグラヴィオンの元の位置に帰っていった。
「効かないなんて…」
「何かないかな、一気にあいつをバァーって倒すすごい方法が……」
354超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/11/03(月) 22:47:34 ID:37ra6rEF
 スバルのその言葉でリインは思い出す。いつか遊園地の島でゼラバイアがゴッドグラヴィオンを侵食した際、自分の認識して崩れ落ちた事を…。

「私が行きます」
「え?」
「ジェノサイドロンはリインを感知すれば停止します。騎士カリムが私を守るためにそうプログラムしてるです。
私が姿を見せればあのジェノサイドロンの動きも止まるかもしれないです」

 しかしそれはある意味無謀である。武器を持たない自分の姿を敵にさらすというのは自殺行為に等しい。

「でもそんな事させられないよ」
「プログラムが書き換えらていたらどうするの?」

 スバルとティアナが心配する。

「騎士カリムにリインを思う気持ちが残っていたらプログラムはそのままのはず…、リインはカリムさんを信じたいです。
どんな姿になっても騎士カリムには人の心が残ってるって……」

 リインはそう言うと、Geoキャリバーのコックピットから外に出て、ゼラヴィオンの前に姿をさらし出す。
 しかしゼラヴィオンはリインの姿を見ても攻撃を止めず、ソルグラヴィオンに攻撃を仕掛ける。
 その攻撃は幸いにも直接当たらなかったため、リインも怪我はしなかった。それでもゼラヴィオンは次の攻撃を仕掛けようと手に剣を形成する。
 流石にまずいと判断したなのはがGeoミラージュから出てきてリインを連れ戻そうとする。

「リイン! 中に入って!」

 なのはが走るもゼラヴィオンは剣を振り下ろす。その時リインは叫んだ!

「カリムさーーーーーーん! やめてください!」

 その叫びがカリムかゼラヴィオンに届いたのか、ゼラヴィオンの剣はリインの目の前で止まった。そして剣はたちまち消滅した。
 リインは剣が自分の目の前までにあったせいかその場で意識を失い倒れそうになるも、なのはが何とか受け止める。

「スバル、今だよ!」

 なのはがスバルにゼラヴィオンに攻撃を指示する。

「わかりました! 超重剣!!」

 ソルグラヴィオンは地面に刺さっていた超重剣を持ち、ゼラヴィオンの胸に突き刺した! スバルは叫ぶ!

「エルゴ、ストーーーーーーーーーーーーーーーム!!」

 超重剣の先端から現れる重力の渦がゼラヴィオンを巻き込み、ゼラヴィオンは跡形も無く完全に消滅した。
 その際ゴーマから光が飛んでいくように見え、その光からグラヴィオゴラス司令室の方でもゼラヴィオンの消滅を確認した。

「ゴーマ内部に爆発確認!」
「敵のエネルギー波が消えていく!」

 その様子は映像を通じてグラヴィゴラスの中にいる人達だけでなくミッドチルダにいる人達にも届く。そして皆が歓喜の声を上げた。


 カリムのいる部屋では未だにヴェロッサとカリムが戦っていた。

「カリム……」
「まさかリインを助けるためのプログラムが命取りになるなんてね……」

 カリムはあざ笑うかのように言うがその言葉でヴェロッサは確信した。

「やはりあなたには人の心が残っていた。どれだけ否定してもあなたも人間だ」
「くだらないわ。こうなったらこのゴーマあの世界に完全に送り込んで消滅させてあげるわ。それだけも十分おつりが来るわ」
「そうはさせない!」
355超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/11/03(月) 22:48:36 ID:37ra6rEF
 ヴェロッサがカリムを斬ろうとするもヴェロッサの剣はカリムの剣に弾かれてしまい、ヴェロッサは剣を手放してしまった。

「くっ!」

 ヴェロッサは思わず地面に手を付いて伏せてしまう。

「私達の因縁に決着を着けるときが来たようね。はやての元で罪を償いなさい、ロッサ!!」

 カリムが剣を振り下ろそうとしたその時!
「カリム、やめてな」
「「?!」」
 突然のはやての声に二人は驚きはやての名を口にした。

「「はやて」」
「カリム、その人をこれ以上傷つけるのはやめてえな」

 そのはやての顔は哀しそうな顔であった。

「まさか、コピーしたはやての人格が…意識を持ったの!?」
 ヴェロッサはカリムが動揺している隙を見て、何とか剣のところまで戻り剣を握る。

「永い時をあなたと過ごしているうちにあのはやては人の魂を宿したんだよ」
「……そうね………」

 二人は剣を構える! そして勝負は一瞬で決まった!
 カリムが振り下ろす剣をヴェロッサはカウンターのように受け止めながら想いを込めた剣がカリムの剣を叩き折った!

「流石ね、ロッサ……」
 剣が折れたのと同時にカリムは倒れてしまい、ヴェロッサは倒れるカリムを支える。
 そしてヴェロッサはカリムを寝かせようとするとカリムの左目部分にあった機械的なものを消えていき、憎しみに満ちた顔がヴェロッサの知っている優しい顔に戻っていった。

「カリム」
「ロッサ、ごめんなさい。ジェノサイドロンシステムが停止して、思考コントロールから解放されたわ」
「カリム義姉さん」

 ヴェロッサの目には涙が溜まっていた。
「こうやって人の心を取り戻す時が来るのを私は待っていたのかもしれない…。ありがとう……ロッサ…………」

 そしてカリムは目を閉じ息を引き取った。

「義姉さん! カリム義姉さん!!」
 カリムが息を引き取るのと同時にアンドロイドのはやての体も青い炎に包まれた。はやては炎に包まれながら倒れているカリムのそばに立つ。

「はやて……」
「ロッサ、カリムの魂は私が連れてく。その方が幸せやと思う。だから……さよならや、ロッサ………」

 はやてはカリムを抱く。その時のはやての顔は哀しみもあったがどこか嬉しそうな顔していた。そのはやても心のどこかでこうなる事を望んでいたのかもしれない。そしてカリムとはやては一緒に消滅した。

「終わった……」

 ソルグラヴィオンはゼラヴィオンを倒してヴェロッサの捜索にあたっていた。

「ヴェロッサさんどこですか? もう脱出したんですか?」

 スバルが呼びかけるとヴェロッサから通信映像が入った。

「リイン…」
「ヴェロッサさん」
「すまない、リインお別れだ」
『え!?』
356超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/11/03(月) 22:49:31 ID:37ra6rEF
 全員が驚愕した。ヴェロッサはゴッドΣグラヴィオンのコックピットの中でこう続けた。

「全ては終わった。僕に残されているのは自分の罪を償う事だ」
「何を言ってるんですか!? ヴェロッサさんはもう充分罪を償ってるです!」
「あたし達や教会の人達を放り出す気ですか!?」
「ヴェロッサがいなくなったら教会のシスターは失業しちゃうよ!」
「そう言う事言ってる場合じゃないでしょ!」

 アリシアのちょっとした冗談をティアナが突っ込む。

「ヴェロッサ、教会の人達だけじゃない。シグナムさんやシャマルさん、それにヴィータちゃんも君の帰りを待ってるんだよ!」
「僕は何千年もの時からこの時を待ち続けていた。一人の人間に戻れるときを…。安らぎに包まれる時を…。タナトスが呼んでいるもう眠らせてくれ……」
「そう言うわけにいかんな!!」

 突然ヴァイスが通信に割り込む。どうやらGNフラッグがゴーマに向かっているようであった。

「え? ヴァイス陸曹?」
「お前は本当に罪を償ったのか? いやそうじゃない! お前はまだ罪を償っていない!
グラヴィオンの圧倒的な性能に俺は心奪われた。この気持ちまさしく愛だ!」
『愛!?』

 ヴァイスのとんでもない発言に皆唖然とした。

「だが愛を超越すればそれは憎しみとなる。そして俺はお前いやグラヴィオンとの対戦を望んでいる! お前は俺が抱く愛の憎しみの抹殺と対戦の約束を放棄して罪を償ったとは言えんぞ! ヴェロッサ・アコース!!」
「すまない……、それでも僕は……」
「ヴェロッサさん……、ふざけないで下さい!」

 スバルがぶちきれた。

「スバル……」
「一人だけバックれて虫が良すぎです! グラヴィオンに無理矢理乗せられたのは別にいいですけど、あたしはまだギン姉の居場所を聞いてないんですよ!
一人だけ中途半端に逃げるなんてそうはいきませんよ!」
(仕方ないな…)

 ドゥーエは最後の切り札と思う事を考え口にした。

「ギンガ、ギンガ聞いてる!?」
「え? ギン姉?」

 ドゥーエが突然ギンガの名を口にしたのでスバルは戸惑った。

「とりあえずシスターシャッハを連れて行きなさい! ヴェロッサを止められるのはあなた達だけよ」
「ギン姉、どこに?」
「うおおおおおおおおおおお!!」

 それと同時にグラヴィゴラスの先端部分がゴーマに突撃をかけ、GNフラッグも少し遅れて突撃した。
 GNフラッグからヴァイスが降りようとする前にグラヴィゴラスの先端部分が展開され、そこにはクロノとシャッハの姿があった。
 そしてクロノは自分の服を脱ぎ捨てる。そしてその衣服が脱げた瞬間バリアジャケットを着たギンガが姿を現し、シャッハと共にヴェロッサの方に跳んでいく。

「「(ヴェ)ロッサ!」」
『えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?』

 ドゥーエ以外の皆が驚きを隠せなかった。それはGNフラッグにいたヴァイスも同じだった。

「おいおい、あいつがギンガだったのか…」
「ギンガ、シャッハ!」

 ヴェロッサが二人を受け止めようとしたら、二人からもろに鉄拳制裁をくらった。

『あれ?』
357超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/11/03(月) 22:50:43 ID:37ra6rEF
 てっきり普通に受け止められると思ったのにその予想とは大きく違ったので皆リアクションに困った。

「ロッサ、勝手に逃げる事なんて許しません! あなたと会ってから私の人生観は変わったんですよ。あなたがここに残るのなら私は無理矢理でも連れて帰ります!」
「ヴェロッサさん、私はね、そう言う所を認めて一緒に居たんじゃないわよ。あなたのミッドチルダを思う気持ちに感応して居たの。これ以上そんな事言うのなら……」

 シャッハとギンガは指を鳴らして、また殴る体勢に入ろうとしていた。

「ごめん、今ので目が覚めた。僕にはまだやることがあるようだね…」
「「そうそう」」
「え? クロノさんがギン姉って何で?」

 その経緯はソルグラヴィオンとゴッドΣグラヴィオンとGNフラッグが合流してゴーマ脱出の際にゴッドΣグラヴィオンにいるギンガが教えてくれた。

「あの仮面には最初のクロノさんから繋がる今までのクロノさん記憶が受け継がれるの。仮面をつけてる間は私もクロノさんの一人だったの」
「でも何で声や性別まで?」
「あの仮面は昔聖王が性別を偽るために使っていたものをアレンジして作られたもので女性が男性、男性が女性になる事もできるもの。そしてあの仮面はクロノさんをベースにしてたの。
それとあの仮面はティア、あなたのお兄さんから受け継いでたの…」
「兄さんが……」

 ティアナはその時の兄の姿を思い浮かべてみる。きっとミッドチルダの為に懸命に戦ったのだろうと…。

「じゃあ、あたしはずっとギン姉と一緒にいたって事に……」
「黙っててごめん。でもあの仮面をつけてる間はクロノさんにならないといけなかったの。許してくれる?」

 スバルは笑顔で答えた。

「うん!」
「俺は許したくないけどな」
「あなたに言ってないわよ、ヴァイス陸曹」

 ヴァイスの言葉にギンガが突っ込む。

「あの思ったんだけどギン姉ってヴァイス陸曹と知り合いなの?」
「まあ、知り合いと言えば知り合いね」
「ためしに一度付き合ったことがある仲だよ」
「え!?」
「でも付き合ってすぐに陸曹は違う子を口説いてたでしょ」
「あの時のパンチは痛かったぜ。まさか妹に同じパンチをくらうなんてな……」

 ソルグラヴィオン、ゴッドΣグラヴィオン、GNフラッグのコックピットからしばらく笑い声が絶えなかった。

「ところでヴァイス陸曹、さっきグラヴィオンに愛だとか言ってましたけど…」
「あれ本気ですか?」
「いや、本気と言うかなんと言うかな…。憎しみってのは嘘だよ。ああでも言わないと死にに行きそうだったからな…」
「それはすまなかったね」
「でも圧倒的な性能に心を奪われたってのは本当だな。そんでももって戦ってみたいってのも本音だ」
「ならいつか戦ってあげるよ…都合がいい時にね…」

 ヴェロッサは笑いながらヴァイスに答えた。そしてようやく出口が見えた。

「……皆帰ろうか」
『うん(はい)!』

 全員がゴーマから脱出し終えた直後突如とアラート鳴り響く! アラートが示す方向ではゴーマに異変が起こる。
 ゴーマが星状の形をしていたのがバケモノのような姿へと変化していったのだ!

「ゴーマが超巨大ジェノサイドロンに変形してる!?」
「嘘! まだ終わってなかったの!?」
「システムが完全暴走してるんだわ」
358名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 22:51:13 ID:GfBEe0qe
支援
359超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/11/03(月) 22:51:50 ID:37ra6rEF
 アルト、ルキノ、シャーリーも驚きを隠せない。ゴーマは腹部周辺にゴーマ内全てのエネルギーを溜め込む。

「ゴーマはありったけのエネルギーをグラヴィゴラスにぶつけた後転移させてミッドチルダにぶつける気だわ!」
「回避は……間に合わない!」
「どうすれば……」

 スバル達にも緊張が走る! ヴェロッサは少し黙り込み最終手段を取る事を決意した。

「グランナイツの皆、最終合神をする!」
「最終合神?」
「そんなものまであるの……?」

 ティアナやドゥーエは突然の発表で少し困惑した。

「ソルグラヴィオンとゴッドΣグラヴィオンでの合神、グラヴィオンの最終形態…、スバル、エルゴフォームだ!」
「わかりました! エルゴ、フォーーーーーーーーーーーム!!」

 スバルの掛け声と共にソルグラヴィオンの胸から赤いエルゴフィールドが展開され、ソルグランディーヴァが一時グランカイザーと分離し、
 ゴッドΣグラヴィオンの方も一部が分離してグランΣが変形を行う。そして分離した部分とグランΣの変形した部分がグランカイザーと合神し、ここに真の最強のグラヴィオンが誕生した。

『最強合神!! アルティメーーーーーーーーーーーット、グラヴィオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!」
「おいおいおい、マジかよ……」

 隣に居たヴァイスはグラヴィオンの合神を真直に見ていたためにその無茶ッぷりのある合神で戸惑いを隠せないでいた。

「グラヴィゴラス、中央のボタンを押してくれ。シールドに使っていたエネルギーを全て放出する。グラヴィゴラスの最後の手だ!」
『了解しました! 重力子エネルギー照射!!』

 グラヴィゴラスの先端のドリルの中心から重力子エネルギーがアルティメットグラヴィオンの背中目掛けて照射され、アルティメットグラヴィオンのエネルギーは限界を越える!

「重力子エネルギー限界突破!」
「行くぞ! 皆!」
『おお!!!!』

 ゴーマからエネルギーが放たれると同時にアルティメットグラヴィオンも炎を纏い、炎はまるで大きな鳥のような姿を形取りゴーマのエネルギーに正面から立ち向かった!
 そしてぶつかる二つの力はアルティメットグラヴィオンが勝ちアルティメットグラヴィオンはゴーマの中心に向かって手に持つ剣を振り下ろした!

『超重炎皇斬!!!!!!!!』

 そのすさまじい力はゴーマの中心を突き破っただけでなくゴーマそのものを完全に斬った!

「エルゴ」
「エンド」

 スバルとなのはの言葉と同時にゴーマは斬られた中心部分に体が収束されるかのように崩壊していき、そして完全消滅した!
 ここにゼラバイアもといジェノサイドロンシステムはこの世から完全に姿を消した。

『やったーーーーーーーーーーー!!!』

 ゴーマの完全消滅はモニターされており、グラヴィゴラスにいるシスター達だけでなくミッドチルダに住む皆も歓喜の声を上げた。

「チンク姉、あいつら本当にやりやがったぜ!」
「ああよくやったな、スバル」
「もうすごかった!」
「グラヴィオン、最高ーーーーーーーーーッス!!」

 ノーヴェ、チンク、セイン、ウェンディも喜んだ。
360超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/11/03(月) 22:53:27 ID:37ra6rEF
 次元航行空間で近くに見ていたグラントルーパー部隊の皆もただ喜んでいた。

「やったね、オットー」
「彼らのおかげだよ」
「ありがとう、グラヴィオン」
「ヴェロッサ、やったな……」

 ヴィータも笑顔で喜んだ。

「あそこまで合体されたら勝てるかな……」

 先ほど戦おうと言ったヴァイスだがあそこまですさまじい力を見せ付けられると少々困惑してしまう。

「中将、やりましたな」
「最後まであいつらに頼ってしまうとはな……」
「しかしこれは皆の勝利であると思います」

 秘書でありレジアスの娘のオーリスが喜びながらもいつもの態度でレジアスに進言した。

「ふ、そうだな」(ありがとう、友よ……)


(この世界にあらゆる存在、そしてあらゆる人の心、すべては美しく輝いている。皆健やかにそしてどこまでも美しくあれ)

 ヴェロッサは帰還する中、世界中の皆に向かってそう思った。


 そして機動六課は、ゼラバイア消滅を気に解散。皆それぞれ別々の新しい生活に入ることになった。
 シグナムとシャマル、ザフィーラはヴェロッサの元には帰ってきたりするものの自分達の力を生かすためにシグナムは正式に地上部隊、シャマルは医療隊、ザフィーラは監査官をする事になった。
 エリオ、キャロはルーテシアの母が見つかり、ルーテシアと共に自然保護官としてやっていく事にした。
 シャーリー、アルト、ルキノはそれぞれ自分達の能力を生かすために様々な役職を転々とした。
 ドゥーエはスカリエッティの元に帰り、管理世界にある黒の組織に潜入捜査官として活動、ギンガもそれに付き合うことにした。
 ティアナは前々から志望していた執務官への道を歩むために執務官研修から始めた。
 アリシアは世界を見て回りたいとの事で小さいながらも旅に出た。
 なのはは正式にヴィヴィオを引き取り、戦技教導官への道を歩む事し、その間にヴィータと仲直りし、ヴィータと共に歩む事になった。
 そしてスバルは古巣に戻った途端、スバルが最初っから希望していた特別救助隊への転属が叶い、一部隊の隊長として活躍する。

 機動六課のメンバーがいなくなった聖王教会では静かな時が長く続いた。

「静かだね」
「そうですね…」

 ヴェロッサとシャッハはコーヒーを飲みながらその静かなひと時を過ごしていた。

(この静かで美しい日々が続くように……)









 超魔法重神グラヴィオンStrikerS           Fin
361超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/11/03(月) 22:56:25 ID:37ra6rEF
投下完了です。長かったです。4月から始まって半年以上もかかりましたがようやく終わりました。
ご愛読ありがとうございます。
ちょっとした流れを変えたりしてます。特に結末は全然違いますが原作よりもこっちの方がなのはらしいかなと思いこうしました。


そして次回作なのです、前に投下した1発ネタのやつではなく別の作品にしようと思っています。
それではまた…。
362名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 23:13:24 ID:GfBEe0qe
>>361
完結お疲れ様。
次も頑張って下さい
363名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/03(月) 23:17:24 ID:NYt8Qt02
>>361
完結おめでとうございます。

>>344
連れていってくれよ…あなたの作る…新しい世界へ…

364名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 00:35:10 ID:gA9g6Ze0
>>344
GJ!シエルを連れて再びミッドチルダへという事は修羅場ですね!?
おまけに投稿作品を商品化ですと!?  あなたって人わァァァ!!
どこまで予想を裏切ってくれるんだ、大いに期待してしまうじゃないか!
挿絵は絵版に投稿してた御方が協力してくれるですね、わかります。
ところで最初の隻腕の方はまさか・・・・・・?
365名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 02:07:27 ID:DFM10k4X
>>344
冬コミ行けないから委託販売してくれ
そしたら買う
366名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 10:48:59 ID:APxDnpWk
>>344
スレ発で遂にここまで……! 続編が来年からなのにはそういう理由があったからか。
冬コミは日にちにもよるけど応援するんで頑張ってください。
まさか、スレ発で同人誌とか嬉しい限りだな。
367一尉:2008/11/04(火) 16:07:01 ID:5qes/b9A
これから新しい世界へ行く。
368名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 20:23:08 ID:IoCtK5lO
彼は自らの作品を鑑賞し誉め讃えたスレ住人に感謝を延べると次にこう言った「新たな世界へ行く」涙を流しながらスレ住人は訪ねた「またお会いする事は出来ますか?」彼はリリカルなのはクロスSSに冬コミ参戦のレスを書き込み、そのまま光の中に姿を消した。
369名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 21:16:36 ID:XNQSb+4Z
同人の話ウゼエ
ここ宣伝サイトじゃねーんだぞ
370名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 22:06:29 ID:ualfxn13
予約がないようでしたら、キャロとバクラ氏の代理投下をさせていただきたく思いますが、よろしいでしょうか?
371名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 22:10:42 ID:ualfxn13
大丈夫そうなので、代理投下させていただきます
======

「んっふっふ〜♪」

職場から久しぶりに自宅に帰るスバル・ナカジマの顔は盛大に綻んでいた。
明日が休みと言う事も勿論ある。だがそれ以上にその休みが姉であるギンガ・ナカジマと重なっている事が重要なのだ。
人命救助を任務とするスバルの仕事は、一定の休みがある種義務付けられているが、ギンガはそうでは無い。
捜査官としても、地上のトップに出世した父のサポートにも、ギンガは奔走していた。
故に休日数は少なくなるし、それがスバルと重なると言う事も滅多に起きない事態。

「明日は如何しよっかな〜ただいま〜」

スバルが楽しい予定、夢想を巡らせていると眼前には何時帰ってきても嬉しい我が家。
既に明かりが灯っている事から、ギンガは帰ってきている事が彼女には直ぐ解った。
本当ならここに父親であるゲンヤ・ナカジマも居る事が望ましいのだろうが、スバルはゲンヤが休みを取ったという話を耳にしない。

「あれ?」

確かに大きな声で言ったわけでは無いが、何せ他人様よりも鋭い姉妹の内でのこと。
直ぐに姉の返事があると思っていたスバルは首を傾げ……何かを思いついたようにニマッ!と笑った。

「驚かせちゃおう〜」

実に少女らしくてスバルらしい思考なのだが、彼女にも増して鋭い姉のギンガには感づかれてしまうのは明白。
それも計算の内としてしまいのスキンシップを楽しむと言うのならば、特に問題は無いのだが……スバルは真剣である。

「そ〜と……そ〜と……」

静かにしたい気持ちが口から漏れる矛盾。ギンガの居る場所をリビングだと定め、ヒッソリと歩く。
近づくにつれて聴こえてきた声にスバルは首を傾げる。話し声だが、玄関には見た事が無い靴は無かった。
ギンガの声は聴こえるが、他の声がしない事から電話をしているものと推測できる。
特に深い意味も無いのだがスバルは足を止め、漏れ聞こえる声に耳を凝らしてみた。

「うん……お父さんとは話をしたの……そうね、簡単に分かり合えることじゃないけど……」

スバルは首を傾げた。『姉と父の間で何かあったのだろうか?』
どちらとも、特にゲンヤとはサッパリ会えていない彼女には解らない。
しかしそれでも二人は今までどんな諍いもない親子であり、その間で何かがあったこと自体が大きな衝撃。

「納得はできなくても理解はしてるつもりよ……なに? 『馴れない事はするな』って……」

更に言えばその電話の相手には、妹である自分にも伝えられていない事を、相談しているという事実がスバルの胸に炎を宿す。
そう、浅ましくも消える事が無い嫉妬の炎。誰なのかも解らない電話の先に誰かに。

「だいたい貴方だって!……え? いや……その……あぁ〜切らないで!! おかしいでしょ?
 『僕も女の人と電話で話すのは馴れてないから切る』ってどういう事よ!?
372魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/11/04(火) 22:11:22 ID:ualfxn13
嫉妬が勢いを増したのを確実。慌てたり、怒ったり……そんなギンガを見たのはスバルとて久しぶりだった。
ナカジマ家の全員集合率は昨今恐ろしく低下している。それでも中の良い家族、中の良い姉妹だと思っていた。
そんな関係を無力と感じさせるほどギンガが楽しそうに話す相手とは……

「まっ……まさか!?」

辿り着いた恐ろしい想像にスバルは若干声まで出してしまった。
『ありえない……あの姉に限ってそんなこと……』
必至に嫌な予感を振り払おうと、静かに頭を抱えて振り回す妹には気付きもせず、ギンガは遂にその言葉を口にした。

「ところで明日はヒマでしょ?……解ってるんだから! お父さんに確認したもの。
 職権乱用? 情報筋の有効活用よ。明日は……その……」

その言葉が放たれる前、空気が変わった。少なくともスバルにはそう感じられた。
春風のような花の香り。顔を赤らめるギンガの顔が容易く想像できる。その顔はきっと『恋する乙女』のソレ。


『デートしましょう』


スバルの脳内で明日の予定が瞬時に組み変わる。楽しみにしていた姉との食べ歩きは延期するしかない。
何せ彼女にはギンガのお相手を確認し、デートの内容を観察する必要があるからだ……妹として。





そこは寂れた工場地帯の一角。周りには目的とされた年数を超えて稼動するオンボロ達の群れ。
その群れの中にありながら……コッソリと大きく脈動している工場があった。
作っているのは違法な品。魔道師の地位を危うくする誰でも扱える強力な殺傷兵器。
質量弾丸発射式銃器、魔道師殺しと知られるAMB 対魔力弾丸。

「さて、最終確認といこか?」

そしてソレを狙う狩人の群れ。

「作戦開始時間は予定通り」

狩人の名は時空管理局本局 上層部直属 特務監査部。
監査部と名乗ってこそいるが、内外共に強権を振るう独立部隊。
向かいの廃工場内に響くのは微妙なイントネーションを示す女性の声。
それに聞き入る20人近い人影。手元には情報が羅列するポータブルウィンドウ。

「A班、B班は正面から突入。掃討しつつ、反対側の搬出口に追い込みます。
 私、トリエラは搬出口から侵入し挟撃するっちゅう方向で……」

「敵の戦力については?」

「魔道師は皆無や。けど……AMB装填可能な銃器で武装している」
373魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/11/04(火) 22:12:38 ID:ualfxn13
その言葉で人影たちにざわめきが走った。
『アンチ・マギリング・バレット』
対魔法鉱石で作られ、バリアジャケットや簡易障壁を貫通する実体弾が、火薬の反動で容易く高速を獲得して襲い掛かってくる。
公表こそされていないが、既にいくつかの管理世界では犯罪組織や反管理局団体に出回り始め、死者も出ていた。

「静かにせえ!」

そこで響くのは一括。説明していた少女 八神はやての声が空間を揺らす。
彼女の倍近く生きている者も居る屈強な人影 魔道師達からざわめきが消えた。

「私たちはなんや? そう、特務監査部や。
多くの予算、多くの権限、優秀な人材によって構成された本局の懐刀。
 貴方達はそこら辺に転がっている才能も装備も無い可哀想な陸士やない。
本局、地上本部、正規、非正規を問わない管理局の栄え抜きや……ピーピー喚くな」

沈黙が降り、はやては頷く。言葉は無いが理解されていると確信した。
自分に集まる視線には既に覚悟がある。魔道師ランクSSのエリートであるはやても、戦歴では周りの面子には勝てない。
だからこそ相応の答えが返ってくることは確信していた。

「ほな……逝って来いや」

「「「「「了解!!」」」」



「はやてさん、背後から突入するのは私たち二人だけですか?」

多くの人気を失った廃工場の中、残されたはやてに話しかけるのは浅黒い肌に金髪の少女。
はやて以上にこんな場所にいるのが似つかわしくない人物だ。

「なんや? 不安なん?」

「いえ、与えられた仕事はします。しかしはやてさんを守りながらだと少々……」

トリエラがしているのは自分の心配では無い。彼女は義体、戦うために弄られたお人形。
本来のメンテを受けられなくなって時間が経つが、今のところ心身共に不備は無い。
故にしているのは暫定的な主であるはやての心配。

「私だってそれなりの魔道師なんよ? それに……」

グリグリ〜とトリエラの金色の髪に覆われた頭を撫でながら快活に笑った。
何時もの濁った瞳は細められ、皮肉で飾られる事が多い口元には本物の笑顔。

「それに『兄妹 フラテッロ』は信頼しあうモノやろ?」

フラテッロとはトリエラの生まれた国で言う兄弟、如いては義体とその担当官をセットでいう言い方。
はやては最近飲酒に続いて手を出したタバコを懐から取り出し魔法で火をつけた。

「兄妹だからって仲睦まじいとは限らない……です」

トリエラのツンとした返答に、肺の中を満たした甘い香りを吐き出し、はやては苦笑する。

「私らも逝こか」

点けたばかりのタバコが宙を舞った。
374魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/11/04(火) 22:13:57 ID:ualfxn13
スバル・ナカジマは隠れていた……植え込みに。
誰がやっても変な人決定なのだが、管理局の局員が行っている事に大きな問題を感じずに居られない。
ガサゴソと動く植え込みとその隅から覗く好奇心で爛々と輝く双眸。どう見ても不自然です、本当にありがとうございました。

「さて……ギン姉のお相手はと」

通り過ぎる人が自分へと降り注いでいく奇異の視線に気付く事も無く、スバルは辺りを見回す。
場所はクラナガンの中心地であり、多くの商業施設に囲まれた広場。
待ち合わせの名所として知られるこの場所の名前が、ギンガの口から漏れたのをスバルはしっかり聞いていた。
『せっかくだから二人でどこか行く?』
そんな風に聞いてきた姉を誤魔化すのは難事だったとスバルは回想。
微妙な表情で(妹と恋人どちらを優先するべきか?という)葛藤を滲ませながらでは、嬉しさ半減。
何とか元の予定を優先させる事ができたが、嬉しいやら悲しいやら……

「って……男の人多すぎ!!」

そして眼前に横たわる問題にスバルは憤慨の表情。
待ち合わせの名所となれば人は多い。そして人間の半分は男である。
更にその中からあんまり小さな子供と老人と呼ばれる人々、そして女性と一緒に居る人を除外。
しかし『お父さん位の年齢はギン姉的にはストライクなんじゃまいか?』と言う妹的名推理により、中年男性は含まれたまま。


「だけどアイツだけは無いな……」

多すぎる候補の中で独りだけ、スバルはすぐさま除外した者が居た。
ベンチに浅く腰掛けた金髪の青年。仕立ての良い服を着て、口にはタバコを咥えている。
しかしもっとも問題なのはやる気の無い表情。まるで世界がどうなっても構わないと言いたげな気だるげな顔。
咥えているタバコも随分前に燃え尽きているのに、未だに咥えたまま。何処を見ているのか解らない視線がフラフラしている。

「やっぱりギン姉が選ぶくらいだからね〜歳がちょっとくらい上でも驚かないけど、あぁ言う人は無いよ。
 やっぱり仕事がバリバリ出来る人さ、うんうん!」

勝手に姉の恋人像を組み立てていたスバルの視界にギンガの姿が入った。
その姿に妹である彼女も息を呑む。良い服を着ているし、化粧も当然の如く。
だけどそれ以上に……表情が違う。喜びや期待でキラキラと輝いている。
正しく恋する乙女。よく知っているはずの姉がまるで違う人のようだと、スバルは感慨に浸る。
スキップし出しそうな足取りで向かう先にギンガの恋人が……

「待った?」

「いや……大した事ないさ」

……向かったのはスバルが唯一「アリエナイ!」と断言した男の元。
やる気が感じられず火の消えたタバコを咥え続けていた金髪の青年。
周りの視線やら姉にばれるやらの危険性を無視して、スバルは盛大に叫んでしまった。

「NoOoO!!」
375魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/11/04(火) 22:15:56 ID:ualfxn13
AMB アンチ・マギリング・バレットとその発射銃器を密造している者たちにとって、魔道師とはある程度余裕を持って戦える存在だった。
こちらの攻撃を阻害する最大の要素である障壁とバリアジャケットは無力であり、速度と数では此方が圧倒的に勝るからだ。
そして管理局の魔道師と言うのは、そう言った敵と相対する事に圧倒的に馴れていない。
戦っているのに傷つく可能性に対して自覚が無いのだ。だが……

「なんだ! この連中は!?」

オンボロ工場内に響き渡る発砲音。機械やダンボールを盾にして、応戦しながら彼らは叫んだ。
いま相手にしている魔道師の集団、確率論から言えば管理局所属である線は濃厚。なのにこの集団は慣れているし、覚悟しているのだ。

「本当に管理局なのか!?」

知識ある人が見れば襲撃者たちが持っているデバイス、着用しているBJが次元航行艦付きの武装連隊の同じデザインだと解る。
だがそこには差異が存在した。BJは光沢の無い真っ黒な仕様であり、顔を覆うゴーグルや頭部にはヘルメット。
そして本来同様のデバイスには内蔵されている筈の無いカートリッジシステム。

「第二階層、クリア」

「B2が負傷、後方へ下がる。C4が前進」

「ラジャ」

彼らが使うデバイスは従来品に無数の改造・改良を加えられている。
対物理衝撃特化のBJや障壁の生成、カートリッジシステムによる強力な射撃、解析や通信をこなす多目的ゴーグルなどだ。
管理局が従来型以外の凶悪犯罪に対処すべく、特殊部隊に配備を非公式で推し進めているカスタムデバイス ブラック・クロウ。
そしてソレが支給されていると言う事は彼らがエリートであり、同時に情け容赦の無い集団である事を示す。
何せ彼らは『血の特務監査部』なのだから。

「ドン」

応戦していた密造者一人が倒れる。『どうせ管理局の攻撃は非殺傷設定だろう』
そう思っていた仲間が彼を助けようとして気がついた。倒れた仲間の胸部から流れる『赤い血』に。

「ヒィ! 非殺傷設定じゃない!?」

自分達は殺すことしか出来ない武器を振り回しておきながら、管理局員らしき集団に致死性の攻撃を浴びただけで恐怖が走る。
それは所詮彼らが戦う集団では無い事を示していた。

「我らは特別な殺害権限を与えられている」

「武装を解除し、降伏せよ。歯向かわなければ命までは執らない」

「警告は一度だけだ。後は泣こうが叫ぼうが知らねえぞ、ゴミども?」

既に管理局という組織の印象とは相容れない警告、特に最後は既にチンピラである。
だが優位に奢ることも無く、戦闘態勢を崩さない特務監査部実働部隊を前にしては、戦う者ではない密造人達のやれる事は限られている。
つまり『僅かな抵抗』か『速やかな降伏』。
376魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/11/04(火) 22:16:58 ID:ualfxn13
スバル・ナカジマはイライラしていた。それはもう怒り狂っているといっても過言ではない。
ストレスの原因は僅かに離れた場所を歩く二人の男女。一人はギンガ・ナカジマ、つまり彼女の姉。
もう一人は名前も知らないその……ギンガの恋人?

「どうしてあんな二人が……」

イライラする理由は二人それぞれ別に存在し、ソレは全く別のベクトルと言って良い。
まずギンガに対して……それは一言で言えば『喜び過ぎ』である。
妹であるスバルすら久しぶりに見た笑顔。見るものを暖かくするような微笑。
嬉しさが全身から染み出しているし、今にもスキップしたり踊り出したりしそうだ。

「なのになんでお前は……」

ギンガは実に楽しそうだ。それはこの際認めてやっても良いとスバルは広い心で思う。
何せその……デートをしているんだ。楽しくないよりも楽しそうにしている方が良い。
問題はそのデートの相方である男の反応。なんで……どうして……

「なんでそんなに退屈そうなの!?」

待っている時に宙を見ていたのと代わらないヒマそうな瞳。
そこには喜びは勿論、どんな感情も見つける事が出来なかった。
それはまるで人形のようで、少なくとも彼女?であるはずのギンガと歩くには適さない。
本人 ピノッキオからすれば『まんざらでもない』表情を浮かべているつもりである。
ギンガもそれを理解しているからこそ笑顔を浮かべているのだが、それをスバルが理解する事は不可能だ。

「私の大事なギン姉とデートをしているのにどういうこと!?」

抑え切れなかった怒りが遂にスバルの口から炸裂。しかし声だけで抑えきるのは難しい。
隠れ切っていなかったが身を隠していた街灯を掴む手に力が篭る。
ビキビキと鉄製のソレが変な音を立てた。

「あのおねーちゃん、力持ちだよ〜!」

「しっ! 見るんじゃありません!」

痛いモノを見るような周りの視線もスバルの苛立ちを抑えるには足りない。
これで彼女が管理局の局員であり、日々災害の最前線で人命救助をしていると信じてもらえるだろうか?


「映画館か……デートの王道だね〜」

とても楽しそうに、同時にとても退屈そうにそのカップルが辿り着いたのは映画館だった。
クラナガンでも最新鋭の設備と規模を持つその場所を前にして、スバルは何故か感慨深げに頷いた。
あのテンションで突入した二人が楽しめるのかは別として、デートの王道ともいえる場所に入っていった事が何となく楽しい。
色んな理由を上げる彼女だが、結局のところ『デート』と言う女の子の憧れに対する興味がもっとも大きい。
残念な事にソレが自分のモノではなくて、大事な姉がつまらなそうな男と入って行ったことだけが悔やまれる。

「さて私も……ってお金がない!?」
377魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/11/04(火) 22:18:57 ID:ualfxn13
何だか自分のデートのようにワクワクドキドキハラハラして、中々寝付けずに寝坊したのが痛かった。
姉の先回りをするべく慌てて飛び出したものだから、そういう大事なものを忘れるのだ。

「あ〜どうしよう〜」

スバルは頭を抱えて考える。任務中でもここまでは考えないだろうという程に考える。
二人が一定時間、一定の場所に留まる事が確約されるのが映画というイベントだ。
それを逆手にとって一旦家に帰って財布を取ってくる……若しくは出てくるまで待つか?
いや……ダメだ! この先のイベントが解らない以上、軍資金がゼロなのは行動の制限。
それに暗闇で良いムードになるのが映画というもの。二人がもう口に出すのも憚れることをするのではないだろうか?
そんなシーンを見逃すのは惜しい。しかし入る事が出来ない以上……

「カップル割引か〜」

なんでも今日は恋人デーだとかで、男女でカップルならば割安で入る事が出来るらしい。
恋人チックな事を証拠に見せなければならないらしく、係員の前でギンガが男の手に抱きつく様子をスバルは指を咥えて見ている。
あの様子ならば中でもギンガのアタックが苛烈なのは予測するに容易く、自分はソレを見る事が出来ない。

「あら?」

そんなスバルに差し込む希望の光。

「なにやってんの? スバル」

振り返ればアイスを片手に訓練学校から親友、あの機動六課までの同僚 ティアナ・ランスターが私服で立っていた。
私服でアイスまで持っているのだから、仕事と言う事は無かろう!? スバルはマンガンの願いをこめて叫ぶ。

「ティア!」

「なっ何よ?」

先にお断りしておくが、この時のスバルはパニックになっていた。
本当は『親友だよね!?』と聞くはずだったのだ。

「私たち……恋人だよね!?」

でも心の中を占めるのはギンガの『恋人』の事で、それがゴチャマゼになった結果が上の惨事である。

「……」

結局ティアナがした事は数瞬の沈黙。そして手を祈りの形で組み合わせ、輝く瞳を自分に向ける親友に強烈な左フックを叩き込む事だった。
378魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/11/04(火) 22:20:53 ID:ualfxn13
以上です〜
次はデート決着! 
姉と妹の死闘 
フラテッロはクマの縫い包みの夢を見るか?
……の三本でお送りします(概ね嘘です、ゴメンなさい。

======
以上でした。

スバルがアホの子すぎるwww
ちょっとどころではないスレ方をしているはやても気になりますが、
アホらしいスニーキングミッションとの対比が良いスパイスになっていると思います。
次回も楽しみにしていますね!
379名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 23:00:17 ID:pibPh4PI
GJ!!です。
AMBですか、管理局の未来は暗いぜw
魔法の圧倒的な優位性が少しずつ削られてますね。
犯罪者で、高ランク魔導師でありながら、AMBを装填したデバイスを装備している奴とか出そうだ。
魔法で足止めや防御体勢にさせ、決めにAMBの掃射か、AMBを掃射して詠唱時間を稼ぎ広範囲破壊魔法や必殺の一撃を放つとかw
380名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 23:32:28 ID:EIB62A8I
GJ!!
ってかスバル可愛いwww
お姉ちゃんっ子なドジっ子で、実に良いスバルでした〜。
381名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/04(火) 23:42:23 ID:1xGNj5Ft

ギン姉がまた可愛いですねぇ……
ダメな風体のピノッキオとのギャップがこれまたグッド。
382名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 00:05:33 ID:rU+ZOMMg
バリアジャケットの上から防弾装備着込めば
あっさり解決しそうな気がしないでもないが乙です
383名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 02:22:38 ID:sIE8ykGz
リリカル・シュピーゲル
384名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 05:52:25 ID:IMN8XdHt

そういや、ティアナはピノッキオの正体を知ってるのか。
次回は、スバギンの方も修羅場か。
385名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 09:47:33 ID:GEuMu87N
>>383
シュピーゲル!?・・・ハーッハッハ!!甘い!!甘いぞドモn!!
シュトルゥム・ウント・ドラ(ry
どうしたドウシタどうしたぁぁ!!のひと?
386一尉:2008/11/05(水) 12:02:18 ID:ZWqzGuJb
ほうこれは面白いお話たよね。
387名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 19:23:51 ID:UI1sl0sn
>>379
管理局アンチうぜえ
感想じゃなくて妄想書くんなら設定議論かウロス行けよ
388名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 19:34:57 ID:XLSevNnt
聖闘士星矢とのクロスってないのかな…
黄金聖闘士でも聖衣ナシならなんとかなる…かな
バインド力技でブチ切りそうだがw
389名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 19:35:03 ID:ccvqbQ4u
>>387
そんな事言っちゃって下はもう準備オッケーなんだろ?
390名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 20:02:21 ID:cqib6pjS
>>388-389
雑談したいなら避難所へどうぞ
391322 ◆tRpcQgyEvU :2008/11/05(水) 22:04:30 ID:+DFrtOsE
今のところ予約は無いみたいなので投下してもよろしいでしょうか?
反応が無い場合は十時十分から投下します。
392名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 22:10:27 ID:sNY/h8xS
支援支援
393322 ◆tRpcQgyEvU :2008/11/05(水) 22:12:16 ID:+DFrtOsE
雲一つない蒼天に雷鳴が轟く。
金色の閃光が大気を裂き、弾幕を擦り抜け、群がる敵機を薙ぎ払う。
だが、どれだけ敵を堕とそうとも、そのたびに黒い靄が現われ新たな敵機が襲ってくる。
フェイトは倒せど倒せど沸いてくる戦闘艇に苛立ちを募らせる。

「いったい何機出てくるの、これじゃキリがない」
 十時砲火を避わし、すれ違いざまにまた一機を切り捨てる。
すぐさまカートリッジをロードし魔力を補充、バルデッシュの刀身に魔力刃が形成された。
鋼鉄をも両断する魔力刃が、黄金色の軌跡と共に突進。射線にいた戦闘艇を次々と切り裂く。
真っ二つに裂かれた戦闘艇が、虚空に炎と金属を撒き散らす。
特徴的な主翼――もしくはアンテナか?――をもぎ取られ、きりもみ状態となって堕ちていく。
直も飛ぼうとしている機にフェイトは止めの一撃を食らわせた。
「堕ちろ堕ちろ堕ちろ! 堕ちて! 滅びろ! このおおおぉぉッ!」
 フェイトに挑んだ戦闘艇はことごとく撃墜され、一機も彼女を抜くことが出来ない。
大軍相手に刃を振るうその様は、まさに金色の夜叉と称すべき強さだった。

 しかし、戦いは決して有利に進んでいるわけではない。
堕としても堕としても減らない敵機。終わらない戦いはフェイトを次第に疲かれさせていた。
溜まった疲労は錘となり、動きを鈍らせ、技の威力を落とし、思考力を低下させる。
事実、フェイトの息はすでに上がり、敵機の火箭がかすめる度合いも増えていた。
だからと言って休むことなど出来はしない。
敵の銃火がフェイトを捉えようとそこら中から迫っているのだ。
一瞬でも立ち止まれば、あっというまに防御ごと削られ八つ裂きにされるだろう。
『リミッター』のせいで大規模魔法も使えず、身体能力も制限されている以上、倒せる数にも限りがある。
戦の勝敗を決めるのはやはり数。
一騎当千の猛将も、手かせを付けた状態で、数多の敵に襲われては勝ち目なんてあるわけが無いのだ。

 疲労が溜まった体に鞭打ち、フェイトはバルデッシュを振りかぶる。
一機撃墜。その爆風を浴びながら、新たな敵機がフェイトに向かって突進する。
彼女が気付いた時には、戦闘艇はもう目の前に迫っていた。
フェイトはとっさに体を捻ってレーザーを避す。まさに紙一重のタイミング。
急降下して離脱しようとした敵機目掛けて、フェイトは渾身の力を込めて金の刀身を振り下ろした。

「なっ!」
 が、戦闘艇は機体を急回転させ斬撃を回避。そのまま彼女の後ろをとったのだ。
普段の彼女だったら、これくらいの機動は簡単に対処出来たはずだった。
しかし、溜まっていた疲労と『リミッター』による能力制限が、彼女の動きと判断力を少しだけ鈍らせてしまったのだ。
394322 ◆tRpcQgyEvU :2008/11/05(水) 22:14:25 ID:+DFrtOsE
 そのとき、フェイトに熱戦を浴びせるかと思われた戦闘艇は、急に攻撃を中断して上昇を開始。
桃色の光球が追いすがる。戦闘艇は無数の穴を穿たれ、爆音と共に四散した。
「大丈夫、フェイトちゃん!」
 救いの主はスターズ分隊隊長であり、彼女の十年来の親友でもある高町なのはだった。
彼女も激戦を潜り抜けてきたのだろう、ツインテールの片方は解け、BJも所々が焼け焦げ、裂けている。

「平気だよ。なのは、そっちは何機堕とした?」
「五機くらいまでは数えてたんだけど、今はわからないかな」
「こっちもそんな感じかな、本当にどれだけ……」
「危ないッ!」
 なのはに気をとられ、動きを止めたフェイトに敵の砲火が襲いかかる。
『Protection』
 なのははフェイトを庇って全方位フィールドを展開。
かなりの強度があるとはいえ、リミッター付きでは敵の一斉射撃には耐えられず、シールドはガラスのように砕けちった。
だが、レーザーの威力はかなり軽減されたらしく、BJを貫き体を焼くことはなかった。

「今のままじゃ、ちょっとキツイかな?」
 なのはが冷や汗を流しながら苦笑する。
「キツイなんてもんじゃないよ、これは……」
 フェイトはギリリと歯を噛み締めた。 
もはや疲労は限界にまで達し、今の二人は精神力とカートリッジによる魔力補充で体を支えている状態だ。
このままでは、自分達はいずれ、敵の数に押しつぶされてしまうだろう。
だけど、ここで力尽きたら無数の敵機がエリオやキャロの元に押し寄せることになる。
実戦慣れしていないあの二人が容赦の無い戦闘艇に敵うとは思えない。
守ってあげると言った。幸せにすると誓った。
なのに自分は、年端もいかないあの子達を戦場に出した挙句に、無残に死なせてしまうのか。
それだけは出来ない。それだけは何としても阻止しないといけない。そのためには、もうこれしかない。
フェイトは一縷の望みをかけ、本部との回線を開いた。

「こちらライトニング1、敵機の猛攻を受けて制空権奪取は極めて困難。至急リミッター解除を申請する」
 この手しか残されていない。限定解除をすれば能力も上がる、広域殲滅魔法でまとめて倒せる。
使える能力を出し惜しみして、後で後悔はしたくない。
回数制限など知ったことか。全力も出せずに大事なものを失うことよりはるかにマシだ。
しかし、本部の回答は――

「本部から現地部隊へ、通信状態が悪くて良く聞こえません。もう一度お願いします」
 通信状態が悪い? 本部は何を言っているのだ、こんなに良く聞こえてるではないか。
こんな時に冗談は止めて欲しい。フェイトはもう一度本部との通信を試みる。
「こちらライトニング1、大至急リミッター解除を申請する」
「こちら本部、もう一度繰り返してください」
「本部、今すぐリミッター解除を! 早く!」
「ライトニング1……ですか? よく、聞こえません、もう一度」
「ほんとは聞こえてるんでしょう! ふざけないでシャーリー!」
「ああもう妨害酷すぎ! もう一度お願いします!」
 何度通信を送っても、何度怒鳴って見ても、返ってくるのは『聞こえない』の一言のみ。
フェイトは本部からの無責任な返答の数々に眩暈を感じた。
はやて達は何を考えているのだ。もしかして、向こうは自分達を見殺しにするつもりなのか?
それとも、自分やなのはがいるから大抵のことは何とかなると思っているのか?
バカを言うな、今の状況を見たらそれが不可能であるとすぐにわかるだろうに。
それに、はやてが六課を見捨てるなんて考えられない。だとしたらなぜ?

395名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 22:14:33 ID:1deEl1oV
支援ザマス
396322 ◆tRpcQgyEvU :2008/11/05(水) 22:15:23 ID:+DFrtOsE
「いけない、三機逃がした!」
 ふと気が付くと、三機の戦闘艇がなのはの迎撃を擦りぬけ列車に向かっている。
なのはは新たな戦闘艇に取りつかれていて追撃できない。
「まかせて、あれは私が」
 すぐさまフェイトは傷だらけの体にカートリッジという劇薬を投与する。
尽きかけていた魔力が急速に補充され、一時だけ疲労から解放された彼女は爆発的なスピードで三機を追撃した。
敵機を新人達の元へ行かせるわけにはいかない。さらに加速度を上げ、徐々に敵との距離を詰めていく。
戦闘艇を射程に捉えた。残った魔力を振り絞り、フェイトは周りに十数個もの光球を生成する。

「いっけええええええええええええええっ!」
 敵に向かって流星群のごとき閃光が一気に噴出した。
撃墜できたのは二機。一機は穴だらけになり、黒煙を噴きつつもまだ飛んでいた。
もう一度魔法弾を生成しようとした矢先、フェイトに向かって赤く長い熱線が突き延びる。
敵の護衛に追いつかれた。右から左から、銃撃に気をとられている隙に、敵機との距離はどんどん開いていく。
「邪魔をするなぁ!」
 苛立ちに満ちた叫びを上げ、フェイトは邪魔な護衛を堕とそうと向き直る。
刹那、目の前が白銀に染まり、自動車に跳ねられたような容赦の無い衝撃が彼女の体を弾き飛ばした。
護衛機はレーザーを撃たずに体当たりをしかけたのだ。
体勢を立て直したときには、もう敵機の姿は遥か彼方。撃ち落とすには距離が離れすぎた。

(一機逃がしたか……)
 本部が進言を訊いてくれていたら、限定解除が出来ていたらここを抜かせることはなかったのに。
これ以上敵機を一機も後ろに行かせてはならない。
唯一の幸運は、あの敵はもう墜落寸前であること。あの子達にとって大した脅威にはならないことを祈るだけだ。
この気を逃すまいと、敵機はレーザー光を閃かせつつ、突撃する。
フェイトも向かってくる銀の悪魔をしっかりと見据え、真正面から受けて立った。

「来なよ、いくらでも堕としてあげるから!」

――

 戦闘艇は瀕死の状態だった。
魔法弾による損傷が激しい。機体の中央に開いた三つの大穴。止まらない黒煙。時には炎も見え隠れする。
ふらふらと不規則な起動を描きながら、それでも速度を落とさず飛翔する。
彼に撤退の意思は無い。ただ、『彼女』から与えられた命令だけが、
『「魔導師」の戦闘データ収集と収集対象の殲滅、及び機動歩兵の奪還、もしくは完全破壊』
という命令だけが彼の全てであり、『母』から存在を許される唯一の理由だったからだ。

 切り離された車両を通りすぎたそのとき、ついに戦闘艇はボッと軽い爆音を立てて炎に包まれた。
機首がガクリと落ちる。そのまま墜落すると思いきや、戦闘艇は体勢を立て直して火達磨になったまま、さらに加速し飛行を続ける。
列車が見えた。だが、戦闘艇のレーザー口はすでに焼け落ち、攻撃の手段はもはや一つしか無い。
森に火の粉と赤く熱した金属片をばら撒きながら、なおもスピードを上げて急降下を開始する。
機体そのものをミサイルとし、戦闘艇は重要貨物室ヘ一直線に突っ込んだ。
397322 ◆tRpcQgyEvU :2008/11/05(水) 22:16:53 ID:+DFrtOsE
――

「う、うう……」
 頭が重い。全身が痛み、目の前が真っ暗だ。
目蓋を開けようにも、まるで縫いあわされているかのように固く、執拗に目覚めを拒んでいる。
それでもなんとか開いてみると、彼女は床に倒れていて、隣には、さっきまで戦っていたハチマキの女が意識を失い倒れ込んでいた。
いったい何が起こったのだろうか?
たしか、ハチマキと戦っている最中、重要貨物室で物凄い爆発音がして、すぐ後に列車がすさまじく揺さぶられたのだ。
それで、そこら中に体をぶつけて、何が起こったのかもわからなくて、そのまま気が遠くなって……。

 ノーヴェは寝転がっていた壁に手をつき、上半身を少しだけ起こしてみた。
痛みはおさまらないが、耐えられないほどではない。
そのままなんとか起き上がると、待機状態に戻っていたハチマキのデバイスを拾い上げ、車両の隅に投げ捨てた。
落ちていたコードを何本か拾い、ハチマキの手足をきつく縛り上げる。
もし目が覚めたとしても、これでこいつは自分を襲えない。身の安全を確保したノーヴェは、痛む足を引き摺るように出口へと向かった。
壁際の扉は衝撃で歪んでしまったのか、押しても引いても扉は素直に開かない。
募る苛立ちそのままに、ノーヴェは思いきり扉を殴り飛ばした。
重苦しい衝撃音と共に、扉に人一人は通れるくらいの大穴が開いた。

 外に這い出てみると、周りは鬱蒼と生い茂った一面の森。頭上には、先程まで列車が走っていたリニアレールがあった。
そこから脱線した列車は途中で千切れた車両を除いて全てが落下し、木々を薙ぎ倒し、ひしゃげた鉄箱と化していた。
正直、これが地上本部の車両で良かったと思う。
民間車両のレールは管理局のとは違い、深い崖のすぐ側を通っている。
そこで脱線しようものなら、列車は完全に潰れ、自分はスクラップの仲間入りをしていただろう。

 列車に沿って進んでいたノーヴェは、ある車両の様子がおかしいことに気付いた。
重要貨物室がある車両だ。それだけがまるでミサイルの直撃を受けたかのように大きくたわみ、ほとんど原型を留めていないのだ。
それだけではなく、中から微かに音が聞こえてくる。
ヘルメットを取って、でこぼこだらけの表面に耳を押しつけた。
ギリリッギリッ、と、まるで金属同士が擦れあうような奇妙な音がはっきりと聞こえる。
「なんだ、この音……?」
 呟いたその時、視界に入った人影にノーヴェは反射的に銃口を向けた。
いたのは二人の子供だった。
一人は赤毛の少年。十歳くらいであろう少年魔導師が、槍型のデバイスを構え、ノーヴェを睨みつけている。
その後ろでは子龍を抱えた桃色の髪の少女が、少年の背中に隠れてこちらの様子をうかがっていた。
おそらく、二人はハチマキとオレンジ頭と同じ、機動六課のメンバーなのだろう。

「動かないで。大人しく武装を解除し、投降してください。抵抗しなければこちらから危害は加えません」
 デバイスを突きつける少年の手は少し震えている。声もうわずっているように思える。
怖いのだろうか。恐ろしいのだろうか。
無理も無い、死の危険はさほどないと言っても、戦場の空気は子供には毒気が強すぎる。

398322 ◆tRpcQgyEvU :2008/11/05(水) 22:17:56 ID:+DFrtOsE
「カッコつけんなよ、ほんとはビビってるくせに。逃げたきゃ逃げていいんだぞ?」
「僕だって機動六課の一員だ! 絶対に逃げたりするもんか!」
 なるほど、威勢は良い。が、挑発されたらムキになるなど、やはり子供だ。
その隙を見逃さず、ノーヴェは素早く槍を掴むと、懐に引きいれた。
姿勢を崩した少年。彼女は顎をすかさず蹴り上げ、間髪いれずに殴り倒す。
数メートルは吹っ飛ばされて倒れ込んでいる少年に銃口を向け、ノーヴェは余裕を見せつけるように微笑んだ。
「エリオ君!」
 少女が少年の名前を叫び、駆け寄ろうとするが、ノーヴェの「動くな!」という一喝が少女の足を止めた。
「ちょっとでもそこから動いてみろ、そんときゃ、こいつの頭吹っ飛ばすからな」
 もちろんウソだ。ノーヴェは二人を殺す気などない。死人を出したらドクターに怒られるからだ。

「これ以上手ぇ焼かせんなよ。もっと痛い目見ないとわからないのか? 降参しろ、そしたら殺さないで見逃してやるよ」
「嫌だ!」
 少年――エリオはきっぱりと拒絶し、憤激した。
「殺さない? 信じられるか! そんなこと言って降参したら僕達を後ろから撃つつもりなんだろう。
 それともまたあの銀色使って僕達を殺すつもりか? ヴァイス陸曹を堕としたときみたいに!」
「だから殺しゃしねーって、こっちだって死人出したら後々めんどー……」
 そこまで言って、ノーヴェはあることに気がついた。
「ちょっとまて、銀色ってなんのことだ? ガジェットじゃないのか?」
「しらばっくれるな! あの象みたいな機械のことに決まってるだろう!
 あれのせいでキャロがどんな怖い思いをしたか、ヴァイス陸曹が、ヴァイス陸曹が……くそおおおおお!」
 絶叫と共に振り降ろされた槍をかわし、エリオの横っ面を張り飛ばした。
ノーヴェはもうエリオのことなど眼中にはなかった。彼女の頭には疑問が渦巻いていた。

 象みたいな銀色の機械? ガジェットU型は一見すればエイのような形状をしている。
どれだけ目の悪い者が見ても象と見間違えることは絶対にない。機体カラーも銀色一色ではない。
オレンジのときには、六課を襲ったのはガジェットだと思っていた。だからあんな挑発じみたことを言ったのだ。
しかし、エリオの話を吟味してみると、どうやらガジェットではなかったようだ。
今思えば、ちょっと考えたらわかることだ。
他のT型やV型が機能を停止している中、U型だけが無事であるなどありえないことだったのに。
だったらこいつらを襲ったのはいったいなんだ。
自分達でも六課でもない第三者が、この事態に介入している? ひょっとして、そいつらもこの積荷を狙っているのだろうか……
399322 ◆tRpcQgyEvU :2008/11/05(水) 22:19:40 ID:+DFrtOsE
突然、耳をつんざく轟音が周りの空気を振るわせた。
キャロは見を竦め、エリオとノーヴェは貨物室に互いの獲物を向ける。
列車の天井が大きく盛りあがっている。衝撃音が再び轟き、天井がさらに隆起した。
「なに、何が起こってるの?」
「んなもんわかるわけねーだろ、アタシにも」
「何かがいる……キャロは下がってて」
 三人は三度目の轟音の後も、地面に縫い付けられたかのように動かなかった。
轟音が止んだ。四度目は中々こない。森が、水を打ったように静まり返る。
木々のざわめきも、鳥のさえずりも、一切の音が止んでいた。
嵐の前の静けさ、三人の頭に同じ言葉が浮かび上がった。
キャロが近くの木陰に身を隠す。ノーヴェとエリオは脂汗を流しながらじりじりと後ずさる。
そよ風が、ふわりとノーヴェの髪を揺らした刹那――爆音と共に、巨人がその姿を現した。

 それは、銀色のロボットだった。丸っこい胴体からひょろりと伸びた細長い腕。
拘束具引き千切って現われた手首は、それぞれ左はライフル型、右は突起状、おそらくこっちはビーム砲かなにかだろう。
ガジェットはおろか、ミッドチルダのどの機械とも似つかない、痩身の不気味なロボットだ。
だが、それでもこれが何のロボットなのかを三人はすぐに理解できた。
これは戦闘ロボット、戦うための兵器だ。

「な……これも貴女が……」
「違う、アタシじゃない、アタシはこんなの知らない!」
 ノーヴェとエリオが狼狽する中、ロボットは全ての拘束から解放され、立ちあがった。
大きい。十数メートルはあるだろうか。これだけのロボットをよく列車につみ込めたものだ。
ロボットは何かを探しているように、ゆっくりと胴体をめぐらせている。
胴体をぐるりと回し、ロボットは中央にある緋色のカメラアイで三人を凝視した。
そして、ライフル型の腕を徐々に持ち上げ、三人に向けた。

――

「どうだ? なんとかなりそうか?」
 ノーヴェ達から離れた森の中、ストーム1は焦る気持ちを抑えながら、U型を診ているセインに訊いた。
「あーもうだめだねこれ。完全に壊れてる」
 諦めがちな溜息を漏らし、セインはU型の機首を蹴った。
「機体自体は問題無いんだけど、センサーとかCPUが逝っちゃってて、わたしじゃ直せないよ。悪いけど。
 でも、どうしようか。これじゃノーヴェ助けに行けないよ……」
 始まりは、午後の座学をノーヴェが欠席したことだった。
彼女がサボったことなど今まで一度もなかったが、ノーヴェはナンバーズの中で一番ストーム1を嫌っている。
こんなこともたまにはあるだろう。そう、ストーム1は軽く考えていた。
しかし、座学の途中でウーノから保管庫からノーヴェの装備が無くなっていたことと、通路の監視カメラにガジェットを連れたノーヴェの姿が写っていたことを報告され、
そのとき初めてノーヴェが自分に黙って出撃したことを知ったのだ。
多分、自分とスカリエッティの会話をどこかで盗み聞きしていたのだろう。
呼び戻そうにも通信はなぜか繋がらず、転送を使えるルーテシアは外出中。
なので、仕方なくストーム1はメディック装備のセインを連れて直接迎えに行くことにしたのだ。
あいにくウェンディのボードは点検中で使えず、代わりに残りのU型で出撃したのだが、
途中でU型が制御不能となり、森へ墜落してしまったのだ。
400322 ◆tRpcQgyEvU :2008/11/05(水) 22:20:31 ID:+DFrtOsE
「で、見ての通りわたしらの足が無くなっちゃったわけだけど、どうするの隊長さん。まさか、帰るなんて言わないよね?」
「言うわけが無いだろう。ほら、さっさと付いて来い」
「へっ? えーっと、まさか、ここから歩いて行くとか?」
 ストーム1は返事せず、ライサンダ―Zを肩に担いで歩き始める。
セインは「やっぱり?」とがっくり肩を落としてたが、やがて赤十時が三つ描かれた救急キットを二つ持ち、とぼとぼと付いて行った。
ノーヴェの居場所はヘルメットのレーダーが教えてくれる。
チームメンバーが青、敵が赤、その他が白で示される。
レーダーの端っこには青い点が一粒、中心には、無数の赤と、そこに見え隠れする二粒の白。
ライサンダ―Zのスコープごしに空を覗くと、二人の女性が群がるガンシップ相手に空中戦を展開していた。
多分、あれが話に聞いた魔導師というやつだろう。

 最悪の予想が現実になってしまった。
今のところ、敵として登録されているのは『異邦人』だけ。
奴等もミッドチルダに来ていたのだ。しかもあの数は『星舟』から出撃したとしか思えない。
しかも、スカリエッティが言っていた積荷が本当に『ヘクトル』なら、ノーヴェの装備では勝ち目は無いだろう。
『ヘクトル』の強さは自分が一番わかっている。
あの二人に加勢はしない。している暇は無い。
非情かもしれないが、どの道あれだけの数をなんとか出来ないようでは、これからの戦いを生きぬくことなど不可能だ。
だけど彼女等は魔導師、並の人類を超越した力を持っているはずだ。
あのくらいの敵、雑作も無く殲滅できるだろう。

(すまない、そいつらのことは頼んだぞ)
 心の中で彼女達に詫びながら、ストーム1は森を掻き分けレーダーを頼りに進み続ける。
急がないといけない。ガンシップに気付かれる前に辿りつかないと。
早くしなければ、手遅れになる前に。

To be Continued. "mission11『光と嵐と異邦人(後編)』"

401322 ◆tRpcQgyEvU :2008/11/05(水) 22:21:06 ID:+DFrtOsE
投下終了です。続きはまた後日。
402名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 22:36:00 ID:16UMtlPa
個人的に一番楽しみにしてるやつキター!
ようやく登場人物がクロスしだしたようで、これからどうなることやら……
貴方様が織り成す絶望と希望の物語、期待しています
403名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 23:14:57 ID:DVohzFH1
本部が最終面まで無能なのは仕様ですね、わかりますw

ガンシップとヘクトルか……蟻や蜘蛛よりマシ?
ルールーが召喚するヤツのより数倍タチが悪いし
404名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/05(水) 23:25:57 ID:9dc9gJZC
GJ!!です。
うわ、妨害で片方はクリアに聞こえるがもう片方は聞こえないというのは意図しているのかいないのか別として、
戦闘を生き残った奴は、帰ってきたら、ロングアーチに切れるだろうな。仲たがいをさせてしまうw
そして、巨人が起きましたか、きつすぎるよなw圧倒的な質量差なので、歩いているのに巻き込まれただけで死んでしまうし。
ルー子のインゼクト?で奴らの機体は制御までは行かなくても動作不良とかはできるのかな?
405名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/06(木) 00:55:20 ID:zf0M6Rz3
>>385
オイレンとスプライトの方だ。沖方丁の
406名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/06(木) 02:23:47 ID:hTRgbatZ
GJついに始まった戦争。ストーム1も彼らが更に厄介になった事をまだ知らないだろうな。
力及ばない ついていけない場合は戦場で見捨てるしかない 残酷だがそれが現実。
ヘクトル覚醒 小ですらかなり厄介なのに大か
しかしロングアーチの本部化 双方必死なんだろうが爆笑する。
407名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/06(木) 04:24:40 ID:xjz2GjUy
本部の罠発動w
まあ、3仕様だから2よりはまだマシか……
少数の敵機動部隊が〜、上陸する敵を〜、小型の超巨大生物が〜
…泣けてきた……
あ〜でも、3にも『砲火』のアレとかマザーシップのジェノサイド砲関連とか『要塞攻略作戦』のアレがあったか……

そして、至近距離でのヘクトルとの交戦を余儀なくされたエリオキャロ、ノーヴェ
ストーム1が速攻でスナイポしてくれないと死んだな(笑)
相手と位置取りと武装が悪すぎるし、装甲の薄い小型ならまだしも大型じゃあ、致命打が入らないだろうしなぁ


何はともあれ、GJ!
408一尉:2008/11/06(木) 11:42:37 ID:gqa/xEkt
まさかこれはおもしろくなりそう。
409名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/06(木) 12:49:59 ID:Dzej9fNi
ヘクトルって足撃ってもダメはいるんだよな…
乙なら肩間接ぶち抜きで武装排除しそう

ところで赤い頭はストーム1の標的ということを知っててノーヴェは嫌いなのか?
410名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/06(木) 13:46:35 ID:K+hBLlmm
フォーリナー来たーー! 管理局本部露骨に酷い! フェイト切れ気味!
322氏お疲れ様!
411ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/11/06(木) 19:50:47 ID:n63RGaoE
予約もないようですので、クラシュピことシュピーゲルクロスの続きを
20:00より開始します。今回はひたすらバイオレンスです。
412クラナガン・シュピーゲル ◆yZGDumU3WM :2008/11/06(木) 20:02:49 ID:n63RGaoE
クラナガン・シュピーゲル「嵐吹き荒れるとき 序章」


ある日のミッドチルダ首都クラナガン――次元世界群の中心地たるここは、摩天楼立ち並ぶ巨大都市。
スカリエッティによる全てのテロリズムへの支援表明が為されてから数週間、混乱の最中にあったミッドチルダには、厳戒態勢が布かれていた。
街の各所にはオリーブグリーンや都市迷彩の灰色に塗られた装甲車、軽量の装甲パトカーが検問を開き、通りかかる人間や車のチェックを行う。
これを行う陸士達の目つきは険しく、手に杖を持つ彼らはグリーンのジャケットに身を包んで警戒を怠らない。
雨が降りしきる悪天候の中、数台の装甲車とレインコートを着た陸士が検問を作っている。
装甲車両の内部、通信機が置かれた臨時の指揮所にて、煙草を手にした陸士部隊の隊長が、どうしようもなく戦禍に喘ぐ街並みを窓から見据えて呟いた。
その目つきは鋭く、煙草を支える指は怒りに震えている。

「なぁ、副長……俺達の戦いは何時まで続くと思う? このクソッタレなテロ屋どもとの闘争は」

答える男はまだ若い、二十歳そこそこの陸士。椅子に座り各部隊からの情報を纏めつつ、隊長の言葉を聞いた。
しかし、目つきだけは歳不相応に鋭い。疲れたような声を放つ副長に、笑みは無い。

「どうでしょうね。紛争地帯を中立地域に変えた<特甲>の力を信じるしかありませんよ、私達は」

隊長が皺の刻まれた顔に皮肉そうな笑みを浮かべて小声で笑った。
グリーンのジャケットについた通信機をオフにし、副長以外に聞かれないように言う。
ぴくぴくとこめかみが動いている――笑い声を抑えようとしているのだ。

「くくっ、副長……特甲猟兵はそんな生易しいものじゃねえぞ? あれは、全てを壊し尽くす化け物だよ。
それこそ、テロリストだけじゃなく――俺達の都市も含めて、な」

不吉な言葉は虚空に吸い込まれ……爆音が陸士部隊の耳を突いた。
はるか彼方、廃棄都市区画で爆音が起こり、続いて銃声が断続的に響き渡った。
通信がもたらされた――破壊を告げる音声が。

《こちら特甲運用チーム<キメラ>。特甲猟兵の投下と交戦を開始――敵拠点を殲滅する。廃棄都市7番及び8番区画への陸士部隊の立ち入りを禁ずる。
繰り返す、廃棄都市7番と8番への侵入を禁止する。以上だ、アルファリーダー》

「こちらアルファリーダー。了解した……廃棄都市7番と8番への立ち入り禁止を全部隊へ伝える」

《了解。<キメラ>は以後通信を切る》

交信終了。
通信を切られたことに戸惑う副長に笑みを零しつつ、隊長は言った。
指の骨を鳴らしつつ、ストレージデバイスの杖を握り締めた。

「さあて、始まりやがったな、戦争が。とびっきり糞ろくでもない戦いがよ」
413クラナガン・シュピーゲル ◆yZGDumU3WM :2008/11/06(木) 20:05:15 ID:n63RGaoE
ちゅうん、と小鳥の鳴き声のような甲高い音とともに、超伝導ライフルと一体化したチェーンソーがその刃でテロリストの
首を、胴を、脚を薙ぎ払い、血飛沫と肉の欠片が宙を舞った。一度に数人のテロリストを斬り、血に塗れた刃が唸りをあげて掲げられる――猛烈な銃撃。
リビングの壁越しにライフル弾が数人の胴体を撃ちぬき、げぼげぼと口から血を吐かせ薙ぎ倒す。
炎と粉塵が蔓延する屋内での戦闘――黒鉄(くろがね)色の鎧を身に纏った人影は、右腕と一体化した巨大チェーンソーを振り回して障害物を両断、
己に向けられる銃火を嘲笑い、左腕と一体化した抗磁圧発生装置である盾で障壁を張り、銃弾をそらす。
訛りのひどい言葉が溢れ、通信機で味方に伝えられた。

《なんじゃこいつらァ、玩具みたいな銃しかもっとらんのォ! 秋水、もう一発ぶちかませェ!!》

坊主頭を装甲ヘルメットで覆った体格のいい少年――陸王は、アップルグリーンの瞳で周囲を見据え、
探査装置で得られた弾着予想地点を認識、脚部のエンジンが唸りをあげ足のローラーが回転数を上げる。
胴体を前屈みに突き出したスピードスケートの選手のような姿勢で、敵陣のキッチンめがけて突撃――目を剥いたテロリストが自動小銃をこちらに向けるが、遅い。
肩のスパイク――抗磁圧の釘を作り出す装置が発動し、前面へ集中した抗磁圧によって男の上半身が消し飛んだ。
よたよたと男の下半身の断面から腸が零れ、床一面を濡らすも、陸王の爆発的機動によって踏み躙られ、すぐに原形を留めぬ肉塊となった。
黒い甲冑を着込んだ歪な人型たる特甲猟兵は、自動車並みの速度で室内を疾駆する。
通信――弟の秋水のものだ。上空から砲撃を廃棄都市に向け降らせている赤銅色のガンバイク型<特甲>の使い手。

《兄ちゃん、今からどでかいの一発いくからのォ、気をつけェェ!!》

《はよ撃てェ!》

にわかに、建物全体が崩壊するほどの衝撃――上空から撃ち込まれた迫撃砲の炸裂が、建物の二階部分を吹き飛ばし、
特甲猟兵の二階への突入を待ち伏せ、罠を敷いていたテロリスト5人を跡形もなく吹き飛ばした。
熱風が陸王のいる一階の廊下にまで吹き荒れ、刺々しいフルフェイスのヘルメットと黒鉄の機甲を纏った陸王はリビングの窓へ向けてローラーで加速、
恐怖に耐え切れずに外に飛び出してきていた覆面男十五名が、その姿に向けて一斉に自動小銃の引き金を引く。
銃声と陸王の<特甲>の放つ騒音が混ざり合いけたたましい爆音となって響き渡るも、銃弾は不可視の壁に遮られ、決して陸王の身体には届かない。
尤も、届いたところで硬質な装甲は、銃弾を致命打になり得ないものにしてしまうだろうが。
<特甲>は、陸王という狂戦士に稲妻のような速度と、冥府の神々の如き業火をばらまく術を与えていた。

「ちくしょう、なんだあれは!」

「抗磁圧だ! もっと貫通力の高い武器をっ!」

「そんなもんねぇよ!」

恐慌状態になった男達は悲鳴を上げて銃の引き金を引き続けるが――。
陸王がげたげたと笑いながらチェーンソーを振りかぶる。頭部全体を覆うヘルメット越しでもわかるほどの笑い声は、悪意と殺意に満ちていた。
狂喜し、歪に捩れたような笑顔――この世の邪悪の体現のような有様。
振り下ろす――銃身が、腕が、肩口から脇腹までが切り落とされ、続いて疾走しながら陸王は回転する。
刃が乱舞し、十数人分の首が宙を舞った。倒れていく首無し死体、溢れ出る血飛沫を浴びながらおぞましい声をあげる怪物――陸王。

《が〜はっはっはっはっはっは! どっんどんバッラバラにしたらァ〜! 秋水、探査情報をもっとよこさんかいっ!!》

《んなこと言ってものォ、雨粒のせいで感度は最悪じゃァ。見つけた先から殺してくのが一番じゃけェ》
414クラナガン・シュピーゲル ◆yZGDumU3WM :2008/11/06(木) 20:07:36 ID:n63RGaoE
と、首無し死体の生首を眺めていた陸王が、凶悪な笑みを浮かべた。
男の死体――脳が無い、つるりと剃られた後頭部――大脳を消失し、傷口を人工皮膚で縫い合せた異形の頭部。
不気味な脳味噌を失くした死体を見て、げらげら嗤い始める。

「はーっはっはっはっは! 犠脳体じゃと? 馬鹿の一つ覚えじゃのぉ」

ヘルメットの装甲を開放し、降り注ぐ雨水を口に溜めてごくごくと飲みながら陸王は坊主頭に付いた水滴を拭った。
幾ら飲んでも、決して癒されない呪いの様な渇き。それが、彼の暴力的な衝動を加速させていく。

(ああ、糞、よぉ雨が降るけぇ、ますます喉が渇きよる。もっと、もっとじゃ――)

きゅらきゅらきゅらきゅら、という無限軌道の走行音。
それを感知した陸王は、音の聞こえた方向に向けて動輪式脚部を爆走させた。
エンジンと一体化した脚の特甲が唸りを上げ、弾丸のように黒鉄の機甲を加速させる。
ちょうど曲がり角から砲塔を突き出した戦車が、その大口径の質量兵器を吐き出す砲口を黒い特甲猟兵に向けた。
陸王――左腕の盾を掲げ、構わずに真っ直ぐ突っ込む。黒い装甲ヘルメットを遮蔽し、怒鳴り散らした。

《秋水ぃ、こいつはワシの獲物じゃァ! お前は犠脳体の阿呆をぶっ殺さんかァ!》

砲火――抗磁圧の壁が砲弾を反らし、陸王の背後に着弾した砲撃が炸裂――散弾の雨。
抗磁圧に守られていない背後から散弾が特甲に襲い掛かる――しかし、当たらない。
堅さだけなら彼に匹敵する者はいるだろう、速さだけなら彼を上回る者はいるだろう。
だが、全てを兼ね備えた異形こそが特甲猟兵なのだ。化け物――戦略的規模を支配する戦術的悪夢。
散弾はひび割れたアスファルトに亀裂を広げるに止まり、エンジンの唸りが轟き彼の体を戦車と交差させる。
右腕の巨大チェーンソーが火花を散らしながら複合装甲を引き裂き、中の人間の胴体を真っ二つに切断しながらぐるりと一回転。
血飛沫と炎を吹きながら、両断された砲塔、胴体、内臓、腕、首がゴトリとアスファルトに落下した。
エンジン部へ行きがけの駄賃と言わんばかりに超伝導ライフルを叩き込み、炎を吹き上げて業火に包まれる車体を通り過ぎる。
空であがる爆炎の色――犠脳体兵器と特甲猟兵の戦い――を眺めると、陸王は超伝導ライフルの弾倉を再転送し、満タンになった銃を掲げて笑う、嗤う。
戦禍の色を、どうしようもない地獄だった『あの場所』と同じ血の匂いを嗅ぎ取り、満足そうな溜息を彼は吐いた。
そのぎらついた目は――深い虚無を湛えていた。
415クラナガン・シュピーゲル ◆yZGDumU3WM :2008/11/06(木) 20:11:19 ID:n63RGaoE
同日、クラナガン市内ナカジマ宅。
仕事に明け暮れる壮年男性――ゲンヤ・ナカジマは疲れ果て、先日の地上本部防衛戦で、その疲れはピークに達した。
だから、終日家で寝ていられる休暇はとても貴重なのだが、今のナカジマ家の空気はえらく沈んでいる。
外は雨――外出する気分に成れる日ではないが、かといって家にいるのも憚られる空気であった。
原因は次女スバルの暗い顔にあった。普段は明るくムードメーカーである彼女が繊細な心の持ち主であることを、家族であり父のゲンヤはよく知っていた。
ゲンヤ拘りのブレンド――美味い珈琲を淹れながら、リビングのソファーに顔を伏せている娘に声をかけた。

「おい、スバル……飯だぞ、遅いと俺が食っちまうぞー」

時刻は朝。朝食時であり、何時もなら元気に朝食を貪るのがナカジマ家の流儀なのだが――スバルからは返事が無い。
せっかく焼いた目玉焼きも冷めちまうな、と思いながらゲンヤはブラックの珈琲を飲んだ。
たまたま非番の日がスバルと重なり、こうして運よく親子水入らずになっているというのに、なんとも釈然としない。
かつての教え子、八神はやてからの報告で事のあらましは聞いていた。
鳴り物入りで導入された特甲児童、そして都市の電子的制圧と転送システムの構築の為のマスターサーバー<轟>。
特甲猟兵の一人であり、最強の特甲の使い手白露・ルドルフ・ハースと、戦闘機人であるスバルの恋愛。
戦禍の中で明らかになっていくもの――戦闘機人タイプゼロシリーズの設計コンセプト――<特甲>との一体化による人体の拡張と戦闘能力の強化。
自分の娘達が――クイントの遺伝子を使って作られた命の、生み出された意味は、機械の体を持つ生命と<特甲>の一体化のテスト。
吐き気がする、人間を人間とも思わぬ邪悪だった。
スバルの暴走を高町なのはが抑えた後に待ち受けていた、一組の男女の破局――空港火災の際に、二人が出会っていたという事実。
スバルへの異常な衝動を露にした白露の暴走と、機動六課の前線メンバー数人を圧倒した<特甲>の暴威。
白露の写真を目にしたゲンヤは、息を呑んだものだ。
それは、数年前の空港火災時、失血したスバルに血を分けてくれた名も知らぬ少年と同じ顔だったから。

(白露とスバルは、二年前に会ってたってのか? 糞っ、なんだってそれが命の取り合いになる?)

今はまだ、その理由をゲンヤが知る術はなかった。
だが、深い病巣が中将の掲げる<特甲>システムの中に含まれていることはわかりきっていた。
ゲンヤ・ナカジマは決して本局よりの人間ではない。
何とも飼いならし難く、食えない男と云うのがこの男の本質であり、彼は自分の仕事に誇りを持つタイプだった。
ゆえに、妻クイントの殉職の際、彼は誓った。

『俺は、絶対にギンガとスバルが泣いたりするような地上にしたりはしない』と。

今その誓いを壊そうとしているのは、スバルの想い人だ。
どうしたのものかな、と思う。何時ものゲンヤなら、娘を泣かした男を連れ出してぶん殴るくらいはする。
だが、相手は<陸>のトップの子飼い――さらに強力な武装を持った人間だ。直接喧嘩をする相手としては分が悪すぎた。
ゲンヤは大人だ、そのくらいの分別はあった……が。

(こればっかりは、引くわけにはいかねえよなあ)

幸い貯えはあるし、娘二人も自活している。
自分が今回の事件を嗅ぎ回って辞職に追い込まれても、あいつ等は食っていけるということだ。
いや……最悪の場合は。

(消されるかもしれねえな)

それだけは避けたかった。死にたくない、と言うのもあるが、何よりも――。

(これ以上娘を泣かせたら、あの世でクイントにどやされるからなぁ)

まあ、要するに今までのように上手く立ち回れば良いということだ。
難しいことはない……。
そう思い直すと、ゲンヤはジャケットを羽織って外に出る準備をした。
長女ギンガは、先の戦闘で負傷して管理局の治療施設に入院しているのだ。
次女のスバルがこの状況では、見舞いなど無理だろう。ならば、父である自分が行くしかない。
最後に一声かけ、家を出た。
416クラナガン・シュピーゲル ◆yZGDumU3WM :2008/11/06(木) 20:13:54 ID:n63RGaoE
「……お前が自分をどう思っても、お前はスバル・ナカジマだ。そいつだけは、忘れるなよ」

届いたのかは、ついぞわからなかった。


独り、家に残されたスバルの脳裏。
黒と赤が混ざり合っていた。
囁く。人格改変プログラムの虚無ではなく、生身の自分の中に生まれた黒い獣が。
変通抑制――だが、そうではない。云わば、暴力への衝動が――作られた命に埋め込まれたものが芽吹く時。
戦闘機人――戦う為の命――それゆえの戦闘思考回路。

(楽しかっただろう? もう一度、もう一度だけでいい。あの力を使うんだ――)

怖気が走った。
吐き気がする、身体が自分のものでない気がする、皮膚を蚯蚓が這いずり回るような不快感、トマトのように臓器を粉砕したい――。
意味不明、尋常な思考を超えた正気と狂気の境目。それが、ワタシ。
人工筋肉、強化骨格、循環系の機械化――普通より重い強化組織で構成された人体が疼いた。

(――もっと壊せ、もっと殺せ、もっと、もっと、もっとだ)

脳神経を侵す思考の奔流――破壊への飢餓と云う狂気。これが……禁断の力の代償?
こんなものが、自分? ティアを、なのはさんを、みんなを殺しそうになった――?

(否定できるのか? お前……いや、『私』は所詮呪われた運命。誰にも、存在の成立を望まれていない)

脳裏に響く声に反論すら出来ずに――。
声を押し殺して、スバル・ナカジマは泣いた。
最愛の、遠くに行ってしまった人を想いながら。

「白露……さん」



「転送を開封」

謳うように少年は微笑み、演奏者の如く身構えた。
陶磁のようにひんやりと冷たそうな肌が、白熱する輝きに包まれていき、白銀色の機甲が顕現する。
まるで刃で出来た甲冑に置換された手足――決して歩くことが出来ない形状の脚部、ギザギザの手。
その手に握られた武具――抗磁圧の刃を放つ手斧、障壁を発生させる盾。
神話に登場する神々の甲冑の如き白銀は、空中に浮動、破壊を伴う嵐を巻き起こした。
千切れ飛ぶ人間の手足、破砕されたデバイスの残骸、コクピットを叩き潰された戦闘ヘリの鉄屑が廃棄都市へ落下していく。
少年は歌うように、愛しい少女の名を呟いた。

《君が食べたい……スバルさん》

都市は啼いていた。
どしゃぶりの雨が、都市の機能を麻痺させながら降り注いでいた。
そうして、戦いの狼煙は上がる―――
417ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/11/06(木) 20:16:49 ID:n63RGaoE
以上で投下完了です。
だいぶ間が開きましたが、第二部らしきモノが漸く書けてきたので投下させていただきました。
ナンバーズVS特甲猟兵再戦が次回のクラシュピ・・・かもです。

次回の投下は「闇の王女」か「鵺」になりそうです、では。
418名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/06(木) 21:47:35 ID:mY36Uh2e
>>417
おおおおお!ゲッター氏久しぶりです!
ずっと待ってましたよ!!続編も楽しみにしています
419魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 01:10:03 ID:afBWeOv0
投下します

魔法少女リリカルなのは×ソウルイーターでクロスです。
420魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 01:10:59 ID:afBWeOv0

鬼神
 それは狂気が形となったといってもおかしくない存在。
 死神が支配するデスシティにおいて封印されていたが、魔女メドゥーサにより解放。
 膨大な狂気を撒き散らしながら、その姿はいまだに発見されない。
 だが、その狂気だけは世界を覆いつくしていく。
 さらにいえば…それは、世界にとどまらない。

 歴史の彼方に封じられたものの存在もまた、それに触れようとしていた。

「……お母さん」





健全なる『魂』は

健全なる精神と

健全なる肉体に宿る

421魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 01:12:23 ID:afBWeOv0
魔法少女リリカルなのは〜鎮魂歌〜

プロローグ

《フェイト・T・ハラオウン》

 時空管理局…
 ミッドチルダにおいて、警察・裁判などをつかさどる巨大な組織であり幾多に存在する次元の管理、維持するための機関である。
 様々な事件に対処するため、軍隊に匹敵するような強力な軍事力がある。
 さらにいえば、ジェイル・スカリエッティによる事件以後、
 軍事力増強が行われており、管理局上層部に武闘派が存在するようになっていた。
 かつてスカリエッティをとめた機動六課も解体…
 今ではそれぞれがそれぞれの仕事に従事し、平和を守ろうと奮闘している。

ティアナ「…ここ最近の次元における嵐が多すぎですね」
フェイト「それで明日の朝、調査船が出る予定なんだけど、その艦長の補佐としてティアナ…あなたにやらせてみようと思うんだけど…」
ティアナ「え!?いいんですか?」
フェイト「…いつまでも書類や私の補佐じゃ、あれだし…ただし、しっかりやってね」
ティアナ「ティアナ・ランスター、その任務、承ります」
フェイト「…任せたね」
ティアナ「それじゃー、私早速、準備に」
フェイト「うん」

 ティアナは良くがんばっている。
 いまでは私の片腕として立派に成長している。
 機動六課もそれぞれが立派に成長し、頑張っている。
 私も負けずに頑張らないと…。
 ポケトに手をいれて、そこから写真を見る。
 それは機動六課の解体に当たってみんなで撮った写真だ。
 今では私の大切な宝物となっている。

フェイト「さてと…今日は、早めに仕事が終わりそうだから……なのはやヴィヴィオと一緒に食事、とれるかな」

 私は大きく背伸びをして、愛すべき二人のことを思い浮かべ、足早に家路に急いだ。
422魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 01:14:01 ID:afBWeOv0
《ティアナ・ランスター》

翌日明朝…次元調査船『ラーディッシュ』他護衛艦1隻

ティアナは、億劫な気持ちで艦橋にいた。それもそうだろう。
艦長補佐として配属されたわけだが、この船に乗っているのは、管理局特殊部隊候補生達も乗っているのだ。
スカリエッティ事件後に創設された特殊部隊エリート候補生たちは、プライドが高い割には、技量がなく、威張り散らしていると管理局内でも言われている。

艦長「ティアナ・ランスター補佐官…候補生には、くれぐれも無礼のないよう計らうように…」
ティアナ「はい」

 艦長でさえこれでは、どっちがえらいのかわかったものではない。
 調査船は、そんな私の気持ちとは関係なく進んでいく。
 やがて船がグラグラと揺れ始める。どうやら近づいてきたようだ。
 しかし、やはり嵐といわれるだけある。なかなかのゆれ…しかも普通の嵐の揺れとは思えないほど大きい。
 候補生のほうに目をやると既に酔っているようだ…先が思いやられる。

ティアナ「…艦長。このゆれ、嵐にしては…大きすぎるように感じます」
艦長 「うむ…。一体何が起きているというんだ」

 私は、前方の画面を眺めながら…渦巻く嵐の中で、それを見た。

ティアナ「あれは!」

 巨大な岩の塊…廃墟ともいえるようなものが浮かんでいた。
 どうやら、あれが…この嵐の中枢にあるようだ。
 次元の中に浮かぶ島など聞いたことがない。まるで天空の○ラピュ○だ。

艦長「接近を試みる」
ティアナ「待ってください!艦長!ここは一度引き返し、上層部の指示を仰ぐべきです」
艦長「我々の船にも多少の武装はついている。なにかあっても問題はない」
ティアナ「ですが!」

 私の意見はうけつけられないまま…船はその巨大な岩壁に辿り着く。
 艦長と私は、そこに重力が存在しており、まるで何かの空間のような場所であることが判明した。
 それあるならば、ますます、この物体の存在がわからない。
 一体これは…。
 元々はもっと大きな建築物だったのか。巨大な岩壁には機械的なものもつけられている。
 私はなにか嫌な予感がしてならなかった。
 これは一体なんなのか…。なんのためにココに存在しているのか。

艦長「…なるほど、この島全体になにかの強力なバリアが貼られ、崩壊しないということか。だとすると、ここには誰かがいるということになるが…」
ティアナ「…艦長、やはりここは一度引き返して報告をしましょう。何か嫌な予感がします」
艦長「それは機動六課でいたときの勘か?」
ティアナ「…そう思ってもらっても結構です」
423魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 01:15:10 ID:afBWeOv0
すると調査に向かっていたものからの通信が入る。

艦長「どうした?」
隊員「襲撃を受けています!あ、相手は1人!あ、あぁああぁぁ!!」
艦長「おい!どうした!しっかりしろ!」
ティアナ「…私が行きます!」

 やはり…誰かいた。
 こんなところで攻撃をしてくるものがいる。
 スカリエッティの残党?いや、まったく未知の敵?
 私が現場に辿り着くと、そこには隊員が気を失い、倒れている。

ティアナ「しっかりして!」

???「……安心して。殺すつもりはないから」

ティアナ「!?」
 
 振り返った私の前、そこには見知った人の姿があった。
 でも、まさか…どうして!?

ティアナ「ふ…フェイトさん?」

 瞬間、私の意識はとんだ。
 見えなかった…一瞬で距離を縮め、たった一撃で…
 その圧倒的な力は、フェイトさんそのもの…だけど、なんでこんなところに…フェイトさんが……


アリシア「…私は、フェイトじゃない…」


 それは、どこか哀しげに、そして…はっきりと否定する強い口調で、そうつぶやいた。

424魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 01:15:48 ID:afBWeOv0
投下完了。
不定期にこれから投下できたらします。
425名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 01:30:03 ID:DhlCpVBt
台本形式はやめれ、話はそれからだ。
426名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 03:07:48 ID:QLCSUZy7
つまらない駄文垂れ流す奴は死ねばいいと思うよ。
427 ◆.k7TdiLwT2 :2008/11/07(金) 03:24:15 ID:w7RvRAHB
少し手慰みに書いたものがあるので、投下したいと思います
428リリカルアエロマンサー ◆.k7TdiLwT2 :2008/11/07(金) 03:25:06 ID:w7RvRAHB
 世界が回る。世界が周る。世界が廻る。
 超常の力を受けて、世界が曲がる。悪魔の力で世の理が凶げられる。

「っア、アアアアアア!!」

 いずこからともなく呼び込まれた風が渦を巻き、颶風となってビルの中で吹き荒れる。熱すら孕んで、鉄筋の
柱ごとコンクリートを砕いてく。吹き荒れる嵐ですらその一角には降り込めない。
 ここは破滅の具現そのものだ。水も、風も、生あるものだ。それではこの死地では存在できない。
 その中心で、カルノは叫ぶ。
 命を否定して、死を否定して、何もかもを否定して、最後に、訪れる最愛の人の死を否定して。だが、いくら
否定しようと現実は変わらない。否定するだけでは変わらない。
 変わらないのだから、カルノにとってこの世などもはや意味がない。彼の姉が、最上の女が、ローゼリットが
死んでしまうなら、この世は地獄以上に何の価値もない。
 だから否定する。壊れてしまえ、壊れてしまえ、壊れてしまえ。ローゼリットの生を否定したこの世界など、
跡形も鳴く消えてしまえ。
 それが叶わないなら――いっそ消えてしまいたい。

 破滅的な願望に後押しされ、カルノから吹く風がひときわ勢いを増す。もはや人の力では止められまい。仮に
止められる力を持つものがいるとしたら、人以上の存在か、人でありながら人を止めた人外だけだろう。
 遠くから様子を伺っている騎士団(ナイツ)ですら、もはやカルノの暴走は止められない。

 だが、それでも。力ではなく心なら――

 カルノの眼前には、ローゼリットがいた。生身ではない。力を暴走させ、ようやくその才能の一端が花開いた
からこそ開いた霊視(グラム・アイ)。その第二の視界に、時を止められていたローゼリットの、その成長した
姿が幻燈のように映し出されていた。
 叫び続けていたカルノの喉が、震えるのを止める。

 ローゼリットは笑っていた。今まさに真に死を迎えようとしているのに、確かに彼女は笑っていた。カルノが
いつも好きだった、あの笑顔を浮かべて。

「覚えていてね。悔いがないのは、嘘じゃない」

 憎たらしいほど強い女。その明るさに憧れて慰められて、カルノは生きてきたのだ。慰撫するようにカルノの
頬を、幻のローゼリットの小さな手が撫でる。

「こんな姿はね、最後の女の見栄よ。
 こーんな美人になったかどうか、わかんないのにね」

 その指先ですら、いつの間にか降り注いでいた雨に解けるように儚く消えていく。ローゼリットは笑いながら
消えていく。それを、先程まで荒れ狂っていた とは思えないほど穏やかな表情のまま、カルノは眺めていた。
 その力が、彼女にはある。彼の中の彼女は何時だって傲慢で、力強くて――何より誇り 高かった。
 ローゼリットは笑っている。消えながら笑っている。最後まで、カッコイイ女のままで。

「ちょっとぐらい弱くたって逃げたって夢見たっていい。ただ最後には負けないでね。
 これだけを伝えたかったの。
 ――ちゃんと言ったでしょう、私はあんたに人殺しをさせるために呼んだんじゃない……。あんまりへっぽこ
だから呼んだのよ」

 そうして仮初の姿すら見えなくなって――

「あとはただ――――会いたかったの」

 声だけを残して、風の少女は消えてなくなった。
429リリカルアエロマンサー ◆.k7TdiLwT2 :2008/11/07(金) 03:25:52 ID:w7RvRAHB
 本来であれば、ここでカルノを討伐しようとしていた騎士団、特にカルノを最初に保護したハイマンによって、
彼は虜囚の憂き目にあっていただろう。
 だが、そうはならなかった。
 なぜなら、カルノが発した魔力はビルを溶かすだけでなく、遠く次元の狭間すら震わせていたのだから。さも
ありなん。第六元素(エーテル)は本来物理的に作用するようなものではない。だからこそ、世界の彼方にすら
届く力となったのだ。
 元よりカルノの発した力は可視化するほどもの。世界は歪んでいたのだ。なればこそ、もはやそれを桁外れの
魔力によって、異次元までゆがめていたとあっても不思議はない。

 本来であれば、わずか数分にも満たない出来事だ。ましていくら次元を震わせたとしても、それはあくまでも
人一人の力。観測がされたとしても、およそ誤差の範囲でしかないだろう。
 だが幸運なことに、あるいは不幸なことに、何の因果か、第九十七管理世界の間近を航行している次元航行艦
が一隻あった。もはや異動も直前控えていることもあって、引継ぎを主目的とした定期航行の最中だったことも
大きく影響した。
 次元震を確認と同時に即座に自体を重大と判断した艦長は、彼の義妹である執務官に出動を命令。捨て置けば、
万が一にもこの世界が滅ぶ可能性があるのだから、彼女もまた迅速に行動。
 実際に現地に転移するまでに、およそ一分とかからぬ早業であった。

 そうして、新たに現れた漆黒に身を包んだ金の女性を、カルノは呆然と見上げていた。ローゼリットの死が、
カルノにとってあまりにも大きな衝撃を与えていた。自失に陥るほどに。
 でなければ、ローゼリットを失った直後に、まるでそれを嘲笑するかのように空を飛ぶ金髪の女が現れては、
カルノの細い忍耐は限界を迎えていただろう。
 崩れ落ちた天井から舞い込んだ台風の風と雨が、焼け溶けたコンクリートに触れると同時に耳障りなノイズを
奏でた。廃墟となったこのビルに、それ以外の音はない。
 先ほどまでの喧騒が嘘のよう。ローゼリットも目なしクソ野郎も、誰もいない。
 カルノの目の前には、移し実ですらないローゼリットのできそこない(デッドコピー)。
 脳が現実に追いつかず、カルノは皮肉めいた笑みを浮かべながら意識を手放した。



「すまないな、大事な時期を控えた前だというのに」

 医務室を出てきたフェイトを、低い男の声が出迎えた。そちらのほうを見やれば、相も変わらず艦内だという
のにバリアジャケットに袖を通している義兄の姿があった。本来ならば艦橋にいてしかるべき人物なのだが……。
 クロノは公私混同をしないし、フェイトもそれに倣っている。つまり、一言目がフェイトを案じる言葉だった
からといって、そのままそれが全てではないということになる。
 念話ではなく口頭で、しかも艦長自ら足を向けるに足る理由。流石にそこまではわからない。フェイトは今は
意識を失っている赤毛の少年を速やかに確保し、そのままクラウディアに召還してもらっただけだ。情報も何も
あったものではない。
 ただ、フェイトの私見であれば。あの破壊の爪痕はあまりにひどすぎた。デバイスに何一つ頼ることなく人が
巻き起こしたにしては、フェイトが知る限り最悪の部類に近い。純粋な破壊力であれば、比類どころか、上回る
ものは数多くあるだろう。
 だが、破壊の質そのものが違う。魔法による破壊とは、あくまで副次的な効果だ。炎や雷を生み出すといった
具体的な物理運動を魔力をガソリンにして引き起こす。魔力に別の性質を持たせることは、体質以外では非常に
難易度の高いものになるが、不可能ではないし、それ以外にも純粋な衝撃に変えることも可能だ。
 だが、あの破壊されたビルは違う。焼け溶け、捻じ曲がり、砕け。それぞれ一つずつであれば、ハイランクの
魔導師にとっては可能だろう。フェイトやクロノであれば間違いない。
 だが、それら全てを同時に引き起こす。
 まるで魔力が意志を持って自ら破壊を引き起こしたかのようだ。
 未だその旨をクロノには報告していないが、状況を正しく把握していたのなら、クロノが同じ危惧を抱いたと
しても不思議はない。
 黙って、フェイトは続くクロノの言葉を待った。
 しばらく言いよどんではいたクロノだが、結局は上手い言葉が見つからなかったらしい。空咳を一つすると、
いつものような厳しい顔つきに戻っていた。
430リリカルアエロマンサー ◆.k7TdiLwT2 :2008/11/07(金) 03:26:40 ID:w7RvRAHB
「現地の情報を一通り洗ってもらったんだが……。どうにもきな臭い。翻訳の精度もいまいちなこともあって、
現段階では確定した情報ではないんだが、現地では連続殺人が起こっていたらしい。警察の調べでは……赤毛の
少年とも青年とも言えない位の年の男性という目撃証言もある」

 その言葉に、フェイトの顔が強張った。当初のフェイトの予想はどうやら間違っていたようだ。クロノが自ら
来たのは、どちらかといえばフェイトの身を案じたほうがメインだったらしい。
 上官がわざわざ護衛するなど本末転倒ではあるが、それだけフェイトを心配したということか。いくら公私の
区別をつけているとはいえ、家族を見捨てられるほどクロノは冷徹ではない。
 恐らくは、きっとクロノはそれとはなしに言い訳をいくつか考えているに違いない。やれ執務官が倒れれば、
艦全体の安全が損なわれる、だとか、あえて口頭で報告するのは裏の取れていない情報が漏れるのを恐れるため、
だとか。
 恐らくは次元震の原因であり、極めて特異な破壊能力者であり、なおかつ殺人犯の恐れがある。執務官として
この事件の実務を担当することになるフェイトにとっては、確かに流言が飛び交うのは勘弁して欲しいところで
あり、死ぬのは元より怪我をするのもご免こうむりたい。
 何しろ、この後は機動六課への出向が決まっている。自分勝手な理屈ではあるが、重要な案件をここで新たに
抱える余裕はないに等しい。
 とはいえ、捨て置ける案件でもないのは確かだ。場合によっては、課開設に間に合わないことも覚悟しておく
べきだろう。

「まずは裏づけを取って、現地の司法関係を調べて、もし彼が犯人であれば管理局法と照らし合わせて、適切な
司法や刑罰を課す。場合によっては封印処理の後に現地に戻さないといけないし。ああ、次元震の方もどうにか
しないといけないし……」

 今抱えている捜査や、解決はしても未だアフターフォローの段階を抜け出していない案件なども山ほどある。
いくつかは地上に持っていけるが、そうでないものは引継ぎをしないといけない。あまりの業務の多さに眩暈を
起こしてしまいそうだ。
 これが尊敬する上官であり、兄でもあるクロノの前でなければ、フェイトをして嘆息の一つも出ていただろう。
 代わりに辺りに響いたのは、生木を斧で断ち割ったかのような轟音だった。音源はフェイトとクロノの背後、
医務室からだ。即座に二人は身を翻し、どこからともなく待機状態にあったデバイスをそれぞれの手に構える。
 温度変換や雷といった副次的な効果を持つ魔力には、普通の障壁やバリアジャケットでは効果が薄い。二人の
警戒はあのビルの複雑な壊れ様を考えれば、当然ですらある。
 扉の向こうの気配を探りながら、一秒、二秒と数える。あの轟音からこっち、医務室からは物音一つしない。
動く気配もだ。
 待ち受けているのか、それとも何らかの特異な事象が起きたのか。どちらにせよ、クロノとフェイトの二人は
この艦の中では最高の戦力だ。人的被害を避けるには、二人が虎穴に入らざるをえない。
 どちらからともなく頷き合うと、音もなくドアに擦り寄る。センサーに反応して自動的に開くドアの隙間に、
まずは体が小さく、近接戦に優れるフェイトが滑り込む。一拍遅れ、彼女の戦闘技術のおよそ全てを知っている
クロノがサポートするように飛び込んだ。
 そうして二人して、飛び込んできた光景に目を丸くした。
 何しろ件の赤毛の少年は、両手を天井に突き出したまま、真っ二つに割れたベッドに挟まれるような形で――
このような場合、寝転んでいるというのだろうか――天井を見上げていたのだから。

431 ◆.k7TdiLwT2 :2008/11/07(金) 03:31:22 ID:w7RvRAHB
元ネタはなるしまゆりの「少年魔法士」
原作未読者置いてけぼりなのは仕様です

本連載の手慰みですので、あまり長いものにはならないですし、そもそも更新もまれになると思います
一応のプロットは作ってあり、仮に全部書いても100kbを超えたりとかはないかなー、と予想はしていますが、そこまでいけるかどうか割りと不安ですが
期待しないでくれると助かります。原作の知名度もあってまずいないでしょうけれど
432名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 09:27:22 ID:qWZ8PVmP
>>417
待っていた、待っていたぞぉおお! クラナガン・シュピーゲル!
来年には最終章とマルドゥックの新作が出ることも相まって燃料入りまくりです。
というか、陸士部隊が渋いw 渋すぎるwww 素敵だ!
そして、犠脳体兵器と戦う特甲猟兵ってかなり新鮮な気がしますね。
原作だと向こうの戦力でしたから、意外な可能性を見た。
そして、作者の陸王への愛が深く理解できましたw
あーまったくクラナガンがロケットの町の如くテロに見舞われていますねぇ、本編だとレジアスが統治する前には治安が荒れていたらしいしある意味逆戻りになってしまったのでしょうか?
スバルはレベル3の人格改変の誘惑に必死に耐えてますね。
そして、白露……病んでるよ、ええ。
この二人が幸せな未来へとつながる天国への階段を登り切れるか、それとも限界点を凌駕して虚無へと失墜してしまうのか。
不安と期待が入り混じりつつ、次回をお待ちしています。

闇の王女、鵺、共に期待!
433一尉:2008/11/07(金) 12:42:48 ID:EOixkfho
ついにおもしろくなってきたねこのお話たね。
434魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 17:57:20 ID:afBWeOv0
ご迷惑をおかけしました。
改めて、投下させていただきたいとおもいます。
435魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 18:00:14 ID:afBWeOv0
プロローグ『狂気』


健全なる『魂』は

健全なる精神と

健全なる肉体に宿る



 鬼神の復活

 かつてあまりの狂気の力に封じられた存在であるそれの解放は、死神が支配し鬼神を封じていた、平和の街デスシティーにおいて『狂気』を蔓延させていた。
 『狂気』とは、その言葉の通り、人の正常なる精神を犯すもの…ただ死神界では、その意味合いは変わってくる。
 『狂気』に取り付かれたものは、破壊衝動に駆られたり、殺戮を楽しんだりと、ありとあらゆる欲求を解放することになる。
 そして、それは伝染する。鬼神の復活により、『狂気』は世界中に広がり、蔓延し、そして『狂気』に駆られたものたちが少しずつ目覚め始めていた。
 死神と敵対する魔女の組織アラクノフォビア、そして鬼神を復活させた後、敗北したメドゥーサも、その『狂気』によって復活…
 それらのことが狂気の力にあたる。
 だが、『狂気』の力は…世界だけにとどまりを見せない。

 『狂気』は…伝染する。

436魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 18:02:43 ID:afBWeOv0
【マカ=アルバーン】

 デスシティー、死神武器職人専門学校…略して、『死武専』
死神の下で武器と職人を養成する教育機関であり、世界に散らばる職人や、武器を統率している場所でもある。
この『武器』『職人』というのは、簡単に言えば、変身し『武器』になる人を、操るのが『職人』である。
このペアの魂の共鳴により、より強い攻撃が可能となるのである。

「そういうことで…俺たちは、この魂の共鳴で、きたるべき狂気のもったものたちを相手にしなくてはいけない」
 死武専の教師であり、死神様の力となるべくデスサイズであるフランケン=シュタイン先生が黒板にかきながら説明を続けている。
 最近は、鬼神復活において、こういった話が増えている。
 シュタイン博士は一見、頭にネジ刺さってるし、顔には傷跡という怖い顔をしているけど、とても優しく、私にとっては頼りになる先生だ。

「…狂気は、どういう風な動きをするかわかるか?マカ?」
「は、はい?」

 私は突然の質問に驚く。

「狂気というのは、常に上に向かう。無論、そのまま上に行ってしまっては出て行ってしまう。
 だが…ある程度の高度まであがると、今度はそのまま落ちてくる。
 水蒸気のようなものだ。狂気は上に上がり、そして雲のようなものをつくり、蓄積され下に落ちていく」

「ひゅーん…ドン!って感じですね」
「意味がわかんねぇーよ…」

 私の『武器』でありパートナーである白髪が目印のソウル=イーターがぼやく。

「そうです。ひゅーん・どんです。では、ブラック☆スター、真横から殴られるのと、上から殴られるの、どっちが痛い?」
「え!?えー……そうだな、真上から殴られたほうが痛いかも」
 
 ブラック☆スター…小柄で体力バカだけど、良い奴。
 喧嘩最強だ。今も連勝街道爆進中。

「そうだ。ようするに、この地上では…重力が働いている。
 ですから、蓄積されたものが真下に落ちてくるほうが狂気の伝染は高いし、強力だ。
 こうやって狂気は、強い伝染力を持ち、ありとあらゆるところに侵入する」

「では、なぜ外を歩いている俺たちは平気なんですか?」

 死神様の息子である、デス・ザ・キッドが聞く。
 あの死神様の息子で、なんでも左右対称にしなきゃ気が落ち着かないかわった奴だけど…細かいことに気がつくし、優しい。

「それは…お前たちには狂気が通じないからだ。狂気は、人間の心の負の部分に染み込む。お前たちのような人生経験があまりないものたちには、効果はあまりない」
 
 キッドの質問に対してはっきりと告げるシュタイン先生。

「そうなのかー」
「酷い言われよう」
 
 キッドの『武器』であるリズ=トンプソン、パティ=トンプソンの姉妹が交互に告げる。
437魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 18:05:52 ID:afBWeOv0
「…お前たちは狂気の流れだけを知っていれば良い。そして、魂の波長において狂気に身体を乗っ取られるな。
 一度足を踏み入れ、戻ってくればいいが…戻れなければ……」

 一瞬、シュタイン博士の表情が暗くなる。なぜだろう?
 私はその髪の毛の奥…その向こうに、とても恐ろしいものを私は感じ取った。
 そこでチャイムが鳴る。

「…今日は以上」

 そのまま立ち去るシュタイン先生。

「…今の話だと、狂気というのは、上に行けばいくほど、溜まっているらしいな」

 キッドは教科書を片付けながら聞いてくる。

「そうみたい。だけど、誰も空高くになんかいけないし、あんまり関係ないんじゃないかな?」
「俺たちにはあんまり関係ない話だろ?」

 ソウルは欠伸をしながら、立ち上がる。

「よぉしぃぃ!!これからバスケしようぜ!!」
「ブッラク☆スター…ノートもなにもとってないんですけど…」

 もうすっかり遊びモードのブラック☆スターを心配そうに見るブラック☆スターの武器、忍の姿をしている中務椿。
 そんなことを知ってか知らずかブラック☆スターは目を輝かせている。
 私は、こいつは本当に大丈夫なのだろうかと、ときたま思うものだ。

 私はふと窓から空を見上げる。
 この青い青い空の上…そこに狂気が溜まっているとはとても思えないものだけど…。

「ほら、マカ!置いていくぞ!」

 あ、言い忘れた。
 私は…マカ=アルバーン、ソウルと組んでいる『職人』だよ。


 窓から見える空は…青い。
 青く青く、どこまでも………。
 光輝く太陽の日差しの中…うっすらと黒いものが浮かんでいる。
 それが『狂気』禍々しいものを放ちながら、それはあるところに吸い込まれていた。
 空の何もないところに穴があいている。
 その大きさはネズミの巣の穴程度…だけど、そこに飲み込まれるように黒いものが流れこんでいく…。
 ピキピキと…ひび割れたその場所は、ゆっくりと穴を広げていく。


 穴に入っていく、『狂気』は…稲妻が鳴り響くその異次元の中を超えていく。
 波のように渦巻くその中を『狂気』は進んでいく。
 そこにあるであろう『狂気』を司る者を求めて。
 そして、そこにあるものを見つけ出す。

「……」

 それは、ゆっくりと身体を起こす。
438魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 18:08:44 ID:afBWeOv0

【フェイト・T・ハラオウン】

 時空管理局
 ミッドチルダにおいて、警察・裁判などをつかさどる巨大な組織であり幾多に存在する次元の管理、維持するための機関である。
 様々な事件に対処するため、軍隊に匹敵するような強力な軍事力がある。
 さらにいえば、ジェイル・スカリエッティによる事件以後、
 軍事力増強が行われており、管理局上層部に武闘派が存在するようになっていた。
 かつてスカリエッティをとめた機動六課も解体…今ではそれぞれがそれぞれの仕事に従事し、明日の平和を守ろうと奮闘している。

「フェイトさん!」
 
 ティアナ・ランスター…機動六課解体後、執務官を目指し奮闘している彼女。
 こうして会うのは、他のメンバーと比べると多いほうではあるが、やはり一時期と比べると減っている。
 久しぶりに見る彼女は、相変わらず、元気そう。

「ティアナ、久しぶりだね?どう?勉強のほうは」
「中々大変ですけど。でも、やりがいがあります」
「そっか…。あんまり無茶しすぎちゃダメだよ?」
 
 それは、自分自身の経験からである。
 仕事をおえた後、勉強をして、気がつけば夜が開けて、翌日の仕事は大変だったときがあるからだ。
 あんなことは自分らしくなく、誰も話していない。
 どうにも集中しすぎると他が見えなくなる。

「あ、スバルとは連絡とってるの?」
 
 スバル・ナカジマ…機動六課では、ティアナのパートナーとして公私ともに仲良くしてきた大切なティアナにとっての人間だ。

「スバルは、メールはしているんですけど…出動が多くてなかなかきちんと話とはできてないです」
「確か、スバルがいるのは…」
「特別救助隊です」
 
 スバル自身が空港火災で被災したとき、なのはに助けられたこともあり、誰かを助けたいという気持ちが強いことから、かねてから希望していたのだ。
 あそこでは、出動回数が多いのは仕方が無いだろう。

「私、そろそろいかないと。これから探査船に乗るんです」

 ティアナは時計を見てそういった。

「何かあったの?」
「次元の歪みが生じている場所があって、そこの探査です。おそらくは次元の嵐だとおもうんですけど…」
「気をつけてね」
「はい」

 ティアナは敬礼をすると、そのまま私を追い抜かしていく。
 私はティアナの背中を見つめながら、ちょっと前までなのはにしごかれていた人とは思えない、成長したな。
 とおもわずにはいられなかった。
 彼女達がこれからの管理局を支えていくのなら、管理局も安泰かもしれない。

「さてと…今日は、早めに仕事が終わりそうだから……なのはやヴィヴィオと一緒に食事、とれるかな」
 
 私は大きく背伸びをして、愛すべき二人のことを思い浮かべ、足早に家路に急いだ。
439魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 18:10:48 ID:afBWeOv0
【ティアナ・ランスター】

次元調査船『ラーディッシュ』他護衛艦1隻は、次元の中を航行中。

私は、億劫な気持ちで艦橋にいた。
今回、艦長補佐として配属され、役職ある仕事として気分高揚で乗り込んだわけだけど、船に乗ってみれば、管理局特殊部隊候補生達が乗っているのだ。
スカリエッティ事件後に創設された特殊部隊エリート候補生たちは、プライドが高い割には、技量がなく、
威張り散らしているだけだと管理局内で言われている。

「ティアナ・ランスター補佐官…候補生には、くれぐれも無礼のないよう計らうように…」

 艦長でさえこれでは、どっちがえらいのかわかったものではない。
 探査船は、そんな私の気持ちとは関係なく進んでいく。
 やがて船がグラグラと揺れ始めてくる。どうやら近づいてきたようだ。
 しかし、やはり嵐といわれるだけある。なかなかのゆれ。
 候補生のほうに目をやると既に酔っているようだ…バタバタとたおれ…。
「戻す前に、トイレいってくださいね」
 そんなやり取りの中、私は探査船の前面スクリーンに浮かぶものを見た。
 渦巻く嵐の中心に浮かぶ巨大な岩石の塊を。

「あれは…」

 巨大な岩石の形状はジャガイモのような歪な形をしており、あちらこちらにクレーターのようなものがある。
 そして、よくみると…岩だけではなく、機械のパイプが埋め込まれていたり、人工物を数多く見かけることが出来た。
「接近を試みる」
 艦長の指示の中で、探査船は、その岩石に近づいていく。不思議なことにこの岩石周辺は、無風…嵐が静まり返っている。
 この嵐は…この岩石が起こしているということなのだろうか?
 船は、安定できる場所を見つけられず、繋ぎとめることにした。
 ワイヤーをだして、巻きつけることで、岩石に固定させる。
 不思議なことに岩石には重力が働いている。
 普通なら次元の狭間に浮かぶこんなものに重力などありえないはずなのに…。
 岩石の中心に対して重力が働き、空気も存在している。
 この物体の存在は一体…。ただ、これが普通のものではないということはわかる。

「…」
 その場所に降り立つ私と何人かのクルー。
 あたりは静まり返っており、ここが次元の嵐の中心とはとても思えないような穏やかな場所。
 私は、そこを歩いてみた。元々は大きな構造物だったのか…ところどころパイプが途中で遮断されているのを見る。

「バリアのようなものを発見した。おそらく、ここにいる誰かが操作しているのだろう」
「ここに人がいるというんですか?」
 
 私はにわかに信じられない。
 この嵐が起きたのは、一週間ほど前からだ。それまで何の音沙汰もなく、ここにいたということは考えるのは難しい。
 何かしら管理局の網に引っかかるはずである。
 私は言いようのない不安を感じていた。
 すると調査に向かっていたものからの通信が入る。
440魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 18:12:15 ID:afBWeOv0
「て、敵襲です!襲撃を受けています!あ、相手は1人!あ、あぁああぁぁ!!」
「お、おい!」
 艦長は慌てた表情で呼びかけ続ける。
 
 何かがおこっていると察知した私は変身して、拳銃型のインテリジェントデバイスであるクロスミラージュを手にし、その通信が途絶した場所にへと向かう。
 そこで私は見つける。誰かが、兵士を倒し、そこにたっているということに。
 こんなところで攻撃をしてくるものがいる。スカリエッティの残党?
 いや、まったく未知の敵?私はそのものに気づかれないように、息を潜め身を岩肌に隠す。
 だが、そのものの顔を見て私は声を出してしまった。

「フェイトさん?」

 こちらのほうを向くフェイトさん…いや、違う!フェイトさんがここにいるはずがない。
 だったら…あれは!?私は距離をとろうと、後ろに下がる。
 前にいる、そのフェイトさんそっくりのものが地を蹴る。
 瞬間、その姿が見えなくなる。

「ロンギヌス…」

 強い衝撃とともに、私は地面に倒れる。
 その瞬間的な速度の上がり方…声、どれをとってもフェイトさんなのに…どうして…。

「フェイト…さん…」

「私は、フェイトじゃない…」

 その声はどこか哀しげでありながら、強い口調で私の耳に入った。

441魔法少女リリカルSOUL ◆hN02YkuTxM :2008/11/07(金) 18:13:44 ID:afBWeOv0
以上です。
台本形式から書き換えました。

次スレ立て挑戦してきます。
442名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 18:34:40 ID:afBWeOv0
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1226049822/

新スレ報告だけしておきます。
443名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 18:50:57 ID:3Pd3lG9O
>>442
乙です
444名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 20:26:07 ID:IYpzMvMs
                                _
                                〃⌒ヾ
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               \::..::.:`ヽ、  /::.:.j/ / /^     l \   ヽ
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                  `>=ヘ:::マ__j l|]l 斗‐/ハ│ヽlヽ! |
                  /::.:/: {!-'⌒| l| │Wx=、  ィ=、Yヽ| 埋めるでありますよ
                 〃;ノヽ-}!::.::.:ヘ! l| │{! ′ r ┐⊂⊃
                  {厂ヽ、_::{i::.::.::│ハ  ト、\ __, .イ ∨_____
                /::/    7¨ ̄ ::| │ l >、_Vヽ_{`ト'-、| xー -、/ト、
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445名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 20:27:00 ID:IYpzMvMs
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                    v|八:代り ソ辷リ }/: :i /  
                Y:ヘ  _     } : /   
                 Yヽ. ヽノ   /: /ヘ   
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446名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 20:27:59 ID:IYpzMvMs
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447名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 20:28:39 ID:IYpzMvMs
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448名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 20:29:39 ID:IYpzMvMs
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449名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 20:30:34 ID:IYpzMvMs
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450名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/07(金) 20:31:47 ID:IYpzMvMs
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