リリカルなのはクロスSSその76

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1名無しさん@お腹いっぱい。
ここはリリカルなのはのクロスオーバーSSスレです。
型月作品関連のクロスは同じ板の、ガンダムSEEDシリーズ関係のクロスは新シャア板の専用スレにお願いします。
ガンダム関係のクロスオーバーは新シャア板に専用スレあるので投下はそちらにお願いします。
オリネタ、エロパロはエロパロ板の専用スレの方でお願いします。
このスレはsage進行です。
【メル欄にsageと入れてください】
荒らし、煽り等はスルーしてください。
ゲット・雑談は自重の方向で。
次スレは>>975を踏んだ方、もしくは475kbyteを超えたのを確認した方が立ててください。

前スレ
リリカルなのはクロスSSその76
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1221391030/

*雑談はこちらでお願いします
リリカルなのはウロスSS感想・雑談スレ44(こちらは避難所になります)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1219748821/

まとめサイト
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/

NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/

R&Rの【リリカルなのはStrikerS各種データ部屋】
ttp://asagi-s.sakura.ne.jp/index.html
2ワッペン:2008/09/27(土) 18:07:36 ID:5M69E9OT
         _,__       よしオレが>>2ゲットだ
     /:::::::::::::::::::::::::::ヽ     
   /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::.\    オレの懇意にしてた会社がサブプライムで民事再生になった(´`)
  /`.:::::::::::::::/゛`〜、:::::::::::::\   景気は悪化の一途
 / / ^ヽ:::l`    \::::::::::::::ヽ   しかしそんな今だからこそ心を充たすアニメが必要じゃないのか
  . /   ヽl  ヽ   \::::::::::::l   夢のある未来を想像してみろよ、きっと今を乗り切る力になるから
  !  _    _     \:::::::l  
  、 /`  ヽ ./ 。  \    \::l    心をめぐらせ新たなアイデアを演出できるアニメ、まさに良アニメだよな
  ヽ 、 。ン ヽ   ノ   ゙’(6j   逆に落ち込んだ心を救うアニメの形もあると思うんだよな
   ヽ ̄  ’’   ̄    _∪   
   ヽ   0        ノ    今年で23年目になる日航機墜落事故、しかしこれを機に多くの改良があった
    .`、        _/   悲劇を無駄にしない取組みは、失意の心をも救うことになるはずだからな
   .  .`-.    .r°   こういうアニメ=良アニメも作ってくれよ、萌えキャラ投入で社会貢献,売上倍増の1石2鳥
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 16:07:57 ID:/0wqiFp2
再利用?
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 16:15:17 ID:Qmql/62+
まぁ、またわざわざ立てるのもなんだしいいんじゃない?
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 17:56:03 ID:IPgvc2lN
それではこのスレは、実質 "リリカルなのはクロスSSその78"
として再利用しますね。

前スレ
リリカルなのはクロスSSその77
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1222090387/
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 17:57:03 ID:IPgvc2lN
【書き手の方々ヘ】
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
  http://gikonavi.sourceforge.jp/top.html
・Jane Style(フリーソフト)
  http://janestyle.s11.xrea.com/
・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認してダブルブッキングなどの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
 前の作品投下終了から30分以上が目安です。

【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は応援スレ、もしくはまとめwikiのweb拍手へどうぞ。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。

【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
 議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
 皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
 著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
 いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
 追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 17:58:03 ID:IPgvc2lN
【警告】
・以下のコテは下記の問題行動のためスレの総意により追放が確定しました。

【作者】スーパーロボット大戦X ◆ByQOpSwBoI
【問題の作品】「スーパーロボット大戦X」「スーパーロボット大戦E」「魔法少女(チェンジ!!)リリカルなのはA'S 次元世界最後の日」
【問題行為】盗作及び誠意の見られない謝罪

【作者】StS+ライダー ◆W2/fRICvcs
【問題の作品】なのはStS+仮面ライダー(第2部) 
【問題行為】Wikipediaからの無断盗用

【作者】リリカルスクライド ◆etxgK549B2
【問題行動】盗作擁護発言
【問題行為】盗作の擁護(と見られる発言)及び、その後の自作削除の願いの乱用

【作者】はぴねす!
【問題の作品】はぴねす!
【問題行為】外部サイトからの盗作

【作者】リリカラー劇場
【問題の作品】魔法少女リリカルなのはFullcolor'S
【問題行為】盗作、該当作品の外部サイト投稿及び誠意のない謝罪
8超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/04(土) 18:32:13 ID:dD6qFk0F
それでは投下します。

 第13話 嘆きと戒めのロザリオ



 リインが倒れて1日が経つ。リインは一向に目を覚まさない。
 皆がリインを心配しているとルキノがふとあることに気付く。

「ところでヴェロッサさんは?」
「そう言えば皆が帰ってきてから見てないわ」
「どうしたんだろ…?」

 リインを一番心配しているはずのヴェロッサがグランナイツの面々が帰到したのと同時に姿が見えなくなったのだ。

(ヴェロッサ……)

 そのいなくなったヴェロッサの身をクロノが案じる。
 いなくなったヴェロッサはと言うとバイクの雷鋼馬に乗って聖王教会の庭を無尽に走っていた。
 この日は雨。しかも雨脚が強くバイクに乗って走る日にしてはとても向いていない。
 それでもヴェロッサはバイクを駆り出して走り続ける。嫌な気分を何とか紛らわそうとするために……。
 しかしこの強い雨の中、ついにヴェロッサはバイクから落ちて地面へと倒れこむ。それと同時にバイクも横に倒れた。

「………」

 ヴェロッサは仰向けになったまま自分の顔を隠すかのように腕を自分の顔の前にして笑う。

「ふふふふ、はははははははは」

 その笑いはリインが倒れた時となんら変わらない不気味な笑いだった。


 スバル、ティアナ、なのは、フェイトがリインの見舞いをし終えた皆はリインの事を心配していた。

「リイン、よくなるよね」

 重苦しい雰囲気の中、スバルが最初に口を開けた。

「クロノの話によればリインはゼラバイアの記憶が大量に入り込んだことによる一時的なものだって言ってたけど……」
「ヴェロッサさんにクロノさん、何かあたし達に隠してるわよね」

 ティアナの言う事はもっともだ。ヴェロッサやクロノが隠し事をしているのは皆前々から勘付いていたが、今回の件でそれはより明確になった。

「そう言えばドゥーエさんは?」

 スバルがこの場に居ないドゥーエの事を聞こうとしたとき、シグナムが手に何かを持ってスバル達の下に来た。

「シグナムさん、どうしたんですか?」
「今ドゥーエの部屋に行ったらこんなものがあった」

 それはドゥーエの置手紙であった。ドゥーエもまた教会に戻ってすぐに姿をくらましていたのだが、その理由は手紙に書かれていた。

『皆さんお世話になりましたわね。実は私はレジアスやドクター(スカリエッティ)の指示でこの聖王教会に忍び込んだ戦闘機人よ。
目的はグラヴィオンの機密データを盗み出す事。調べ終えた今私がここにいる理由はないわ。短い間だったけど楽しかったわ。多分もう二度と会うことはないだろうから言うわ。さようなら。ドゥーエ

         P.S.  ヴェロッサの事を知りたかったら西館に行ってみるといいわ 後、ギンガをよろしく』

 この置手紙にティアナは怒る。
9超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/04(土) 18:33:15 ID:dD6qFk0F
「あの人、そういう人だったのね!」
「ティア、落ち着いて……」

 スバルは怒るティアナをなだめようとするがティアナは静まらない。

「落ち着けですって! スバル、あの人はあたし達を裏切ったのよ! リインの事なんか気にしないで自分の任務を遂行して任務を終えたら帰る。
さすがスカリエッティの作った戦闘機人だわ。これに怒らないでなんて……」

 ティアナがすべてを言い終わらない内にスバルはティアナの左頬を平手打ちした!

「スバル……」
「確かにドゥーエさんは裏切ったのかもしれない…。でも本当に裏切ったのなら手紙なんて書かないし、最後の言葉なんて書かないよ!」

 確かにそうだ。考えてみたら何でわざわざこんな置手紙を残すのか。それは少し疑問に思うことである。

「あの人はあたしと同じ戦闘機人だよ。戦闘機人だからとかそういうの関係ないって言ったのはティアでしょ!」

 その言葉にティアナはふと思い出す。スバル達が戦闘機人だと言うのを明かした時ティアナは全然気にしないと言った。
 今のティアナの言葉はそれを覆すかの様な言葉なのにスバルは怒ったのだ。

「それともティアがあたしに言ったのは嘘だったの!?」
「違う!」
 ティアナが強く否定した。

「あたしはあんた達が戦闘機人なんて本当に関係ない。今でもその考えは変えてないわ」
「ティア……」
「ごめんなさい、あたし興奮しててどうかしてたわ」
「いいよ、ティア」

 スバルは涙が出掛かっていた目をこすって涙を拭う。
(それにチンクさんは「信じてくれ」って頼んだんだ。きっとドゥーエさんは戻ってくる。あたしは信じてるよ)
「まあこれでよしかな…」
「それはそうと最後に書かれていることが気になるね」

 フェイトがドゥーエの置手紙の最後の部分を見直す。

「知りたかったら西館に行ってみるか……」
「ドゥーエにばれたとなるとお前達には話しておく必要があるようだな」

 今まで黙っていたシグナムが突然口を開く。

「シグナム?」
「そうね」
 今までの話を聞いていたのか、病室のドアを開け、シャマルが部屋から出てくる。

「シャマル先生」
「リインの容態は?」

 シャマルが病室から出てきたのでスバルがリインの状態を聞く。
「大丈夫よ。後は目を覚ますのを待つだけ。それと今シグナムが言った事なんだけど…」

 どうやらシャマルも何か知っているかのような素振りを見せる。

「とりあえず、お前達を西館に案内しよう」

 シグナムがそう言い、シャマルと共にスバル達を禁断の西館へと連れて行く。
 西館の入り口について、シャマルは封じらていた西館のドアを開ける。
 スバル達は目の前に何らかの装置が置いてある事に気付く。この装置はヴェロッサが初めて超重剣を呼び出した装置だが、この装置には他の使い方があるのだ。
「それじゃあ、今から真実を見せるわ」
「覚悟しておけ」
10超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/04(土) 18:34:35 ID:dD6qFk0F
 シャマルが装置のキーボードに何かを入力させ、装置は起動を始め、その装置を中心に光が広がり、その光を部屋全体を包み込む。
 あまりの光のまぶしさにスバル達は思わず目を瞑る。そしてスバル達が次に目を開けた時、スバル達の周りには海中が見えた。

「これって……」
「立体映像よ」

 シャマルが丁寧に教えてくれた。

「でも海にいる感覚がする」
「特殊な立体映像だ。だが息も出来れば話も出来る安心しろ」

 シグナムも冷静にこの映像の説明をした。

「それじゃあ本題に入るわ」

 シャマルがまたキーボードに入力をする。そしていきなり海の映像からまったく違う映像へと切り替わった。
 その映像はどこかの世界または別の星の上空映像だった。その上にはゼラバイアがその下にある町を焼き払う場面だった。

「ひどい……」
 スバルはその映像に哀しみを覚える。
「これってどこ?」
「旧ベルカの領地世界、ランビアスとセリアスのだ」

 シグナムが説明し、すぐに別の映像へと切り替わる。次に出たのはなにやら会議場での会議場面だった。

「もはやランビアスの海域汚染は限界に達した。退避せねば我らは全滅だ!」
「我がセリアスも現状維持で精一杯だ。これ以上移民は受け入れられない…」

 それはそのランビアスとセリアスと呼ばれる世界の代表達が重大な会議の真っ際中のものだった。

「これどういう事ですか?」
「ランビアスはミッドチルダとの戦争後、ベルカが滅ぶ前にミッドチルダ側と協力関係にあった為に現状を維持してたんだけど、技術が進みすぎてその世界全体が汚染していったの」
「そして同じくミッドチルダ側に協力していたセリアスに協力を仰ぎ、ランビアスからの移民を最初は受け入れたのだが、次第にセリアスもランビアスのようになってしまったのだ」

 シャマルとシグナムの告げる言葉に皆黙り込む。そして会議の続きが流れる。

「待ってください!」

 会議場の中心にいた一人の青年が老員達に「待った!」と呼び止める。ヴェロッサである。次にヴェロッサは老員達にある映像を見せた。
『おお!?』
「僕達が現在開発中の創世機、『グランΣ(シグマ)』を使えばセリアスを救うだけでなく、ランビアスの汚染を食い止める!」

 ヴェロッサが熱弁する。しかし老人達はそれを受け入れようとしない。

「ふふ、そんな理想論は結構だよ」
「パイロットもろくに決まってないそうではないか」
「グラシア君、君の義弟は現実が見えていないようだね」

 老人達の頭は固かった。

「ヴェロッサさんがミッドチルダとは違う別の世界の人間だってのはわかったけど…」
「でもそれって普通だよね」

 確かにスバルの言うとおりである。ミッドチルダには様々な世界から来てミッドチルダに住んでいる人間が数多くいる。事実なのはもミッドチルダではなく、地球出身の人間なのだだからなんとも不思議ではない。

「気になるのはリインが何で自分の事を『リインフォースU』って言ったことだけど……」
「僕の姪だよ」
 声の方を振り返るとそこにはいつもの服を着ている今のヴェロッサの姿があった。
『ヴェロッサ(さん)!』
「正確には僕が妹分として可愛がってた女性があるデバイス元に作り出したデバイス。2代目の『リインフォース』だよ」
11超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/04(土) 18:35:28 ID:dD6qFk0F
 映像がまた切り替わり、今度はヴェロッサが「グランΣ」と呼ばれた機体をある男の人と一緒に整備をしている映像だった。

「残念だったな、ロッサ。もう戦争は止められないかもしれないな……」
「僕達の創世機、グランΣの…、世界をも作る力を目にすれば皆の考えも変わるはずだ! そうだろ! クロノ君」

 クロノはヴェロッサの答えに微笑みで返した。

「え? あれクロノ君!?」

 なのはが思わず反応した。反応するのも無理は無い。今のクロノと違い映像に出ているクロノは仮面を被っていないのだから……。
 今のヴェロッサがとりあえずクロノの事は置いといて話を進めた。

「僕達の居た世界は死にかけていた。生きるには殺すしかない。そんな昔と同じ事は嫌だった。だから僕は……」

 また映像が変わり今度はヴェロッサとさっきの会議場でヴェロッサの隣に居た女性との会話場面であった。

「完全な自立行動システムで、目標全てを殺戮するジェノサイドロンシステム。あんなものを使うなんて本気で思ってるんですかカリム義姉さん!!」

 ヴェロッサがカリムに猛反発する。

「ランビアス数億の命が助かるのよ。自然分解して汚染も残らない」
「そのためにセリアスの数万人を犠牲にするなんて…、僕には出来ない!」
「流れる血は少しでも少ない方がいいのよ。そうは思わない? ヴェロッサ」

 その答えにさらにヴェロッサが加熱した。

「自ら手を汚さず、倒した相手を見ることが無い。そんなのは機械の生き方だよ! 前の戦争もそうだったけど、これはそれよりも酷いじゃないか! これは2度と人がやってはいけないことだ!」

 カリムがヴェロッサに背を向けて答える。

「私達は生き延びなきゃいけないのよ。矢は既に放たれたのよ」
「力づくでも止めます」

 カリムが振り向き、告げる。

「一人の命を救えなかったあなたに何が出来るの?」
「!」
「私達が妹のように可愛がってたはやての死期を早めたのはあなたよ。理想だけ言っても結果がともなわきゃ何も意味は無いわ」
「! グランシグマーーーーーーーー!!」

 ヴェロッサは怒りは頂点に達し、グランΣの名を呼び、グランΣはヴェロッサの元へとやって来た。

「創世機! いけない! コントロールが……。ヴェロッサ、あなた何をしたのかわかってるの!?」

 グランΣはヴェロッサとカリムのいた部屋を破壊したが、それは「ゼラバイアジェノサイドロンシステム」の制御装置を破壊したのに等しかった。

「コントロールを失ったジェノサイドロンシステムは暴走するわ! セリアスは愚か、このランビアスにいる人の命も根絶やしにするのよ!」

 その暴走は早かった。上空にいたゼラバイアの大群はすぐにヴェロッサ達のいる場所を攻撃。その他の場所も同様の被害を受けた。

「うおおおおおおおお!!」

 ヴェロッサはグランΣに搭乗し、ゼラバイアの大群と戦う。しかしグランΣはプロトタイプ。その上まだ完成しているわけではないし、ヴェロッサもパイロットとしては未熟。そして多勢に無勢。グランΣは押されていき、ビルの方に叩き付けられる。

「やはり、プロトタイプのグラヴィオンでは……」

 ヴェロッサがグランΣの地面に付いた手を上げようとし、手の方を見ると手の下からは赤い血が流れていた。
 そうグランΣの手が人を潰し、殺してしまったのだ。その生暖かい感触がグランΣのトレースシステムを介してヴェロッサに伝わる。

「あ、ああああ、ああああああ。人が…、人が潰れた……感触が……」
12超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/04(土) 18:37:07 ID:dD6qFk0F
 その嫌な気持ちにヴェロッサはコックピット内で吐く。
 しかしゼラバイアはそんなヴェロッサの行動を待ってはくれず攻撃を再開する。

「痛い、痛いよ。はやて、こんな僕を許して…。こんなはずじゃ……」

 コックピット内で両手を地面につけ、涙を流す。そして何もかも忘れたかのように叫ぶ。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 グランΣが十字架のようなポーズを取り、グランシグマは輝きを見せ、それと同時に世界が消えた。

「僕達と会ってすぐにはやてが死に、僕を憎んでいた義姉のカリム・グラシアは瓦礫に埋もれて死んだ。そしてランビアスやセリアスの人も死んで僕だけがこの世界に生きていた。
『ゼラバイア』と言うのは旧聖王の名前で、ジェノサイドロンシステムに『ゼラバイア』とつけたのはその聖王の名前を込めたものなんだ」
「そうだったんだ……」
「あの質問ですけど…、『はやて』って誰ですか?」

 スバルの質問はもっともだ。ヴェロッサやカリムの会話に何度も出てきた「はやて」と呼ばれる女性の正体がわからないのだ。

「彼女は……」
「我らの主だったお方だ」

 シグナムとシャマルが答えた。

「八神はやて、元々なのはちゃんと同じ地球出身だったんだけど、古代ベルカの遺産、『夜天の魔導書』に選ばれた子」
「そして我らはその『夜天の魔導書』に選ばれた夜天の主を守る守護騎士『ヴォルケンリッター』。プログラムだ。しかし主はやての死に我らは何も出来なかった」
「それどころかはやてちゃんは自分が死んでも私達が残れるように最後の命を振り絞って、夜天の魔導書システム、そして自分とのリンクから私達を完全に切り離したの……」

 シグナムとシャマルが涙を流しながら喋り、その涙はまだ止まらない。それほどまでに八神はやてと言う女性を慕っていたのだ。

「で、リインとはどう言う……」
「それを今から話そう」

 ヴェロッサが話を続ける。ヴェロッサがミッドチルダに来てかなりの時が流れ、ある時に聖王教会の近くにある小さな飛行艇が流れ着いた。

「時を越えた?」
「脱出船の航路は自動追跡してきたようですが……、途中で事故でもあったのか彼女達の時間がまだ数ヶ月くらいしか経っていない」

 その脱出船にいたのがシグナムとシャマルとザフィーラ、そしてはやてが死ぬ少し前に自分のリンカーコアを分け与え、
 かつての戦争で死んだ夜天の魔導書の管制人格初代リインフォースの意志を継ぐ、ユニゾンデバイスの2代目「祝福の風」リインフォースUであった。

「リインフォースU、あの子自身が忘れていた。あの子の本当の名前だ」
「記憶をなくしたのはそのためだったんだね。そんなつらい記憶なんて……」

 スバルが思わず涙ぐむ。

「それでリインは知ってるの?」
「いや、カリム義姉さんは僕の事を教えてないだろう。僕もシグナム達に聞くまで知らなかったからね…」
「主はやてはヴェロッサにリインを姪のように可愛がってくれと最期にそう告げられた」
「リインは一人じゃなかったんだね」
「はやくよくなるといいね」
「ゼラバイアとの接触で記憶が甦ってきている。不安定の状態だから静かに見守って欲しい。これまで全てを話さなかったのは僕の弱さだ。本当にごめん」

 ヴェロッサが皆に向かって頭を下げた。これはとても珍しいことだった。

「今後とも一緒に戦って欲しい。身勝手な願いだがお願いします」

 確かに身勝手と言えば身勝手である。この戦いの発端はヴェロッサ。そしてスバル達のやってる事はヴェロッサの尻拭い。
 本来ならスバル達が一緒に戦う義理はないのだが……。
13名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 18:37:09 ID:+Rizv/pg
支援
14名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 18:39:26 ID:Ptu6nS4Y
支援
15超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/04(土) 18:40:43 ID:dD6qFk0F
「あなたがあたし達に頼み込むなんて、似合わないわ」

 ティアナが思わず鼻で笑う。

「それにもうヴェロッサさんだけの問題じゃないしね。皆で解決しないと……」
「ということで……」
「皆協力するよ」

 スバル、フェイト、なのはも協力の意志を見せる。

「ありがとう」


 外に出ると雨は上がり夜であった。皆それぞれ一人になって様々な事を思っている中、なのはの所に目を覚ましたリインがやって来た。

「リイン、目を覚ましたんだ」
「ごめんなさい。お邪魔でしたか?」

 リインがなのはに気を配るがなのはは気にしてないと笑顔を見せる。

「大丈夫だよ。それより外に出ていいの?」
「部屋にいると怖い夢ばかり見るんです…」
「皆心配してるよ」
「私も早く元に戻りたいです。胸がざわざわして何か思い出しそうで……、思い出せないです」

 リインは自分の手を胸にやり、なのはがリインを気遣おうとする。

「苦しいの?」
「不安なんです。私は過去に何をおいてきたのだろうと…」

 なのははリインの苦しみをとろうと考え、あることを考え付いてしまった。
 そうそれはまだリインには早すぎることだった。


 数十分後、なのはの親切を終えたリインがフラフラ歩く。

「嘘です……」

 何があったのか、それはなのはの親切心が起こしたこと。なのははこともあろうにリインに真実を見せてしまったのだ!

(ヴェロッサさんはリインの伯父さんみたいな人なんだよ。それにシグナムさんやシャマルさんもいる。リインには待ってくれてる人がいる)

 なのはの言ってた事が信じられないリインは叫ぶ。

「嘘ですーーーーー!」

 その声を聞いて近くにスバルが何事かと思い、リインを捜しすぐに発見。リインのところに向かおうとしていたなのはと合流した。

「なのはさん、何かあったのですか?」
「私は喜ぶと思って……」

 スバルはなのはが何をしたのかすぐにはわからなかったが、数秒後すぐにわかった。
 なのはが西館の映像見せ、真実を話したのだと……。

「まさか、あれを見せたんですか!?」

 スバルがなのはの胸倉を掴もうとした時、教会の中に流れる川から何かが落ちた音が聞こえた。
16超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/04(土) 18:41:29 ID:dD6qFk0F
「リイン!? リイン!!」

 スバルがすぐに飛び込み、沈んでいくリインを発見し、リインを抱いてすぐに陸に上がった。

「脈が弱まってる」
「すぐに医療室に!」
「はい!」

 シャマルが先導して、リインをつれて医療室に向かう。
 なのははただその様子を見て立ち尽くすだけだった。

「私は……、私は……」
「あなたには人の気持ちがわからないんですか!? 今のリインがあの映像を見たらどうなるかわからなかったんですか!?」

 スバルの怒りはかつてヴィヴィオを殺しかけた時のなのはを怒った時以上の怒りを見せる。

「私だったら喜ぶと思ったから……」

 それはあくまでなのは個人の考え。他の人間がなのはと同じとは限らない。プログラムであるリインであろうともそれは同じ。

「この悪魔!!」
「!!!」

 なのははスバルの言葉に塞ぎ込みたいと考えた。
 そしてシャマル達に運ばれるリインの目からは涙が流れていた。
17名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 18:42:09 ID:IPgvc2lN
 
18超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/04(土) 18:43:59 ID:dD6qFk0F
投下完了。とりあえず久しぶりの投下で少しですが緊張しました。
次回はその次の話と言うよりこれからは1話ずつ投下していく予定です。
次回の内容は「更なる悲劇がなのはを襲う」です。
19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 19:00:59 ID:ZTJKrxoE
ふっ……
どこのSSでも、なのははクズだなwwww
20名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 19:10:17 ID:g5Ah1lq5
九頭竜閃がどうかした?
21名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 19:25:51 ID:7/wHmBmJ
働きたくないでござるの人か
22名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 19:52:34 ID:8DQAvHVx
おお、これはグラヴィオンで斗牙がやっちゃったアレの再現か!
というわけで超重神の人、乙GJでしたー。
23名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 21:28:41 ID:lKsong5a
どなたもおられないようでしたら、キャロとバクラ氏の代理投稿をさせていただきたく思いますが、
よろしいでしょうか?
24キャロとバクラの人代理:2008/10/04(土) 21:33:20 ID:lKsong5a
大丈夫なようなので、行ってみたいと思いますね。
======

「なのはさんが……」

高町なのはに憧れて管理局魔道師を目指し、今は同じ職場と言う非常に嬉しい状態であるスバル・ナカジマは呆然としていた。
彼女の中でのなのはという存在は空港火災の中から助け出し、夜空を舞いながら優しく微笑む印象に代表される。
『神聖』とまでは行かないが、ソレに近い昇華された憧れを持って見つめていた存在。
それが被弾した? 飛び交う情報ではS級砲撃魔法だとか……

「そんな……」

ここで生まれるのはもう一つの想い。
『憧れのなのはさんだって被弾し、撃墜するのだ。自分なんか……何時死んでも不思議では無い』
その想いが踏み込みを僅かに鈍らせた。フロントアタッカーであるスバルが戦うのは最前線、もっとも敵に近い場所。
退く事を知らない者はもちろん生きていけないが、進むべき時に進めない者を待っているのも間違いなく死だ。

「バカッ!? スバル!」

「…ティア…っ!?」

呆然としたのは一瞬、戸惑った距離は僅かに半歩。それでも戦いの最前線は見逃してはくれない。
普通ならば回避できた攻撃、眼前を通り過ぎるはずだった巨大な節足。
スバルが親友の叫びを聴くのと、巨大なナニカに打ち付けられる衝撃は同時だった。

「グウッ!!」

頑丈な体とデバイスが自動展開した障壁によって致命傷とは成らないが、確かな衝撃がスバルを襲う。
震動で揺れた視界が一瞬で大回転。体が風を切る感覚が僅かに続き、すぐさま硬い地面に叩きつけられた。

「……不味い」

スバルは焦る。衝撃は脳を揺さ振り、気管の中の空気が無理やり搾り出されるような感覚。
ずっと立てないような衝撃では無いけど、すぐさま復帰するのは厳しい一撃。
即座に射撃での援護しながら引き摺ってでも、虫から距離を取ってくれたティアに感謝。
だけど自分がもっと前線から離れると言う事は、それだけ他の人たちに迷惑を掛けると言う事だ。

事実、スバルが抜けた事で足止めされていた巨大な蟲達の進撃が再会。
オーソドックスなミッドチルダ式魔法、つまり射撃という攻撃手段しか持たない者達は撃ちつつ下がるしかない。
それを防ぐための足元近くでの格闘戦、それが生み出す混乱が必要だったのだ。

「くそっ……」

スバルの口から珍しく汚い言葉が零れた。
25キャロとバクラの人代理:2008/10/04(土) 21:34:40 ID:lKsong5a
スバルと同様、もしくはそれ以上に混乱の極みにいる人物が居た。
彼の名前はエリオ・モンディアル。彼は色々と人には言えない生い立ちを抱えている。
もっとも新人フォワード達は多かれ少なかれ、人には話しにくい過去を持っているが……
そんな彼にとってフェイト・T・ハラオウンは特別な人間である。命の恩人であり、自分が居られる場所を作ってくれた人。
他の人間に優しくされる事が無かった分、スバルがなのはに抱いていた感情よりも純度が高い。

エリオの世界はフェイトを中心に回っているといっても過言ではない。
管理局員になろうと考えたのは彼女の役に立ちたかったからだ。断じて管理局のためではない。
ここでも父や姉、亡き母を管理局に所属し、その正義の中で憧れとしてなのはを捉えるスバルとの差。
スバルでは言い過ぎだった「神聖」と言う単語も、エリオでは的確な表現となりうる。
そしてそんな対象が『被弾し撃墜』なんて情報が流れたらどうなるか?

「フェイトさん!!」

その答えは『動きを止める』こと。戦場でもっともやっては成らない行為。
しかもエリオのポジションはガードウィング。戦闘方法はベルカ式デバイス ストラーダを用いた高速近接戦闘。
更に戦友から与えられた部下、死霊騎士団を従える立場にあるのだ。
そんな人物が動きを止めればどうなるかなど、容易く想像できる。

「■■■■■」

呆然と動きを止めた獲物を見つけて、巨大なアリがその顎を振り上げた。
大きさと比例する巨大さと大きな餌を小さくするための鋭さを併せ持つ凶器。
『ハッ!?』と意識を取り戻した時にはもう襲い。振り下ろされた顎脚がエリオの小さな体を……

「何をボーとしてやがる!」

引き裂かなかった。一喝と共に動くのはエリオが従えていた頭部が無い動く板金鎧。
本当の主の言いたい事を瞬時に理解し、命を持たない虚像たちが一斉に動く。
数体がエリオを引き倒し、数体がアリの一撃を受け止めてバラバラに砕け散り、数体がエリオを抱えて上げて放り投げる。
見事な連携。仮の主では実現不可能なチームワークを発揮できるのは、やはり声の主が真の主、盗賊王であるが故に。

「このバカが」

「イタッ!?」

自分になにが起きたかを理解する前、ノッソリと投げ飛ばされた姿勢から上半身を起こしたエリオの頭部を襲うのは痛みだ。
目尻に滲むのは若干の涙。それだけ強烈な打撃を与えたのは小さな拳骨。
振り向けば色濃い怒りと嘲りを湛えた可憐な少女の顔……それは形容し難い違和感を振りまき、エリオの背筋に寒気が走る。

『そう言えば……もう一人?だけ、冷たい世界の中で信じようと思えた人が居た』
26キャロとバクラの人代理:2008/10/04(土) 21:35:50 ID:lKsong5a
「ったく! 戦闘の真っ只中、しかも敵の間近で動きを止めるとは……死ぬ気か?」

その人物はフェイトとは違う。優しさよりも強さ、不の感情すら目に付く。
自分と相棒の為にならどんなモノでも見下ろして、世界だって敵にまわす人。
管理社会の闇の中で揉まれたエリオすら知らない深い闇、そんな中から這い上がってきた堂々とした王者の風格。

「貸した死霊どもまで全部壊しやがって……」

「すみません、バクラさん」

「まぁ、死んだら死霊として永遠にこき使ってやるぜ」

「……」


外見は桃色の髪の少女でしかないのだが、浮かべる表情が決してその見た目どおりの存在では無い事を如実に語る。
胸に光るのは錘をぶら下げ、中心に目玉が刻まれた三角形を抱く金の輪。
古代エジプトで作られし呪われたマジックアイテム 千年リング。そこに封じられし、盗賊の魂にして邪神の欠片。

「もう……駄目だよ、エリオ君。立ち止まっちゃ」

不意にバクラと言う人格が浮かべるには相応しくない表情、それは歳相応の少女が浮かべるに正しい表情。
バクラの宿主、邪神が見つけた光、覇道を笑って歩く伴侶、アルザスの竜召喚士。
キャロ・ル・ルシエが安堵したような怒った顔で『メッ!』と、エリオの額を人差し指でコツンと叩いた。
物理的な強い衝撃を感じたバクラの拳とは違う。同じ体が起こしたアクションとは思えない優しい一撃。
そのぶん揺らされるのは心だろう。どれだけ自分が愚かな事をしたのか?と、理屈抜きで刻み込まれる。


「でも……フェイトさんが……」

倒された数の倍は召喚される新たな異形たち、瞬く間に修復していく防衛線。
ソレと比例するように疲労の色を濃くしていく戦友を見ても、エリオは未だに一つの事が頭から離れない。
そんな彼の様子を見ることもせず、バクラは鼻で笑った。

「アイツと……フェイトと殺しあった事があるか?」

「そんなこと!」

あるはずが無い。殺し合うなんてとてもでは無いが、エリオは想像できなかった。
それがフェイトだからではなく、人と殺し合うと言う事自体が禁忌であることだから。

「オレ様たちはあるぜ? なぁ、相棒?」
『はい……とても、強かったです。負けそうでした』
「そんな最強の敵が……蟲ごときに」
27キャロとバクラの人代理:2008/10/04(土) 21:37:01 ID:lKsong5a
悪辣な盗賊と可憐な相棒の言葉を引き継ぐのは機動六課部隊長 八神はやて。
混乱する指揮系統に入れるのは一喝。解っている、心配など必要ない。彼女たちは『最高の親友』なのだから。

「私の友達が、真のストライカー達が……」

重なる三つの声。

「「『撃墜されるはずが無い!!』」」


広がっていた煙が徐々に薄れていく空の一点を二匹の昆虫人間 ベーシックインセクト達は見つめている。
森の中に身を隠し、レーザーキャノン付きインセクトアーマーによる砲撃で、敵対する最大戦力へ一撃を加えたのだ
着弾により生じた粉塵が晴れて戦果のほどを確認したら、ホテルを包囲している味方の援護に回る。
空を飛ぶ相手を地上から落とすのは難しいが、地べたを這いずる敵を撃つのは簡単だ。
彼らの参戦により、ホテル攻防戦は一気に攻める蟲側に傾くだろう。

ゆっくりと晴れていた煙が一気に掻き消える。その様子に驚きの感情を浮かべる片方のベーシックインセクト。
彼の複眼は確かに捉えていた……己へと飛来する金色の閃光を。

「■■■!」

慌てて放たれた迎撃の砲撃。だが遅すぎる。加速が乗り切った上に、発射地点を割り出された砲撃を当てられる要素は一つも無い。
放たれたレーザー状の魔力光は何も無い宙を貫き、金色の稲妻は一直線に砲撃者へと向かう。

「プラズマ……」

「■■■!?」

慌ててアーマーのファンを回転させ魔力を再チャージした時、彼 一体のベーシックインセクトが見たのは……

「ザンバー!!」

彼が最後に見たのは……自分に光の大剣を振り下ろさんとする金髪の女性
直後、森を揺らす『一つめ』の爆音と土煙が上がる。



「□□□□」

同胞から送られてきた映像から、残されたもう一体のベーシックインセクトは状況を把握する。
ターゲットはどんな手段を用いたのか解らないが無傷、もしくは戦闘可能な状況で生存しており、同胞は倒された。
ならば自分の成すべき事は? 敵がいる地点だろう地点への砲撃? それとも撤退か?
主に確認をしようと精神リンクを開こうと触角を動かして……桃色の濁流に飲み込まれた。
上がるのは『二つめ』の爆音と土煙。
28キャロとバクラの人代理:2008/10/04(土) 21:38:12 ID:lKsong5a
「ふぅ……危なかった。フェイトちゃん!」

二つ目の土煙のはるか頭上、先程まで煙に覆われていた空。
そこに立つのは白のバリアジャケットに身を包み、珍しい杖型カートリッジシステム搭載インテリジェントを握る女性。
桃色の濁流の放ち手にして管理局のエースオブエース 高町なのはは金色の閃光 フェイト・T・ハラオウンに念話を投げる。

「こっちも片付いたよ……はやて?」

『フェイトちゃんは今から送信する座標に急行し敵性召喚士を確保! 
なのはちゃんは防衛戦に参加し、援護砲撃をよろしく!!」

「「了解!!」」


「両分隊長は無事です! 砲撃虫二体を撃破!!」

ワッ!と上がる歓声を聴きながらも、八神はやては完全に予期していた事実に小さく頷くだけ。
彼女も他の六課のメンバーと同じく、両分隊隊長の事を知っているし信頼もしている。
だがそれにより混乱をきたすようなマネはしない。何故なら信頼の質と量が違う。
本当に信じているのならば、本当の親友であるのならば、彼女達が対処できない事態と言う事は自ずと理解できる。
はやてが知るなのはとフェイトにとって「Sランク砲撃で前後から撃ち込まれる『程度』」は問題にも成らない。

「よっしゃ! 陸士部隊の皆さん、機動六課のメンバーも……反撃開始や!!」

はやての号令に各所で「了解!」の大合唱が聞こえる。崩れかけた防衛線は瞬く間に立て直されていく。
砲撃支援としてなのはが加わった事も大きく、形勢は一気に管理局側へと傾いた。



「本当だ……」

召喚師を捕らえんと空を駆け、追い縋る巨大なハチを両断していくフェイトの無事な姿に、エリオは涙さえ浮かべて微笑んだ。
自分が知っている以上の恩人の実力、それを体で知っていたからこそ微笑み、他者を叱咤する余裕を持つ戦友。
バクラとキャロに抱いていたフェイトとは違う尊敬の念がより深くなる。

「バクラさんの言ったとおりでしたね……?」

しかし振り向いたエリオが見たのはどこか納得が行かない表情を浮かべるバクラ。
29キャロとバクラの人代理:2008/10/04(土) 21:39:26 ID:lKsong5a
戦友の視線や勢いづく味方たちにを気にした風もなく、彼は自分の背後へと言葉を投げる。

「落ち着いて辿ってみると……どうもラインが妙じゃねえか? 敵の召喚士」

バクラだけが見る事ができる相棒の精神、今バクラが宿る体の本当の主 キャロも園視線と言葉に頷いた。

『はい……フェイトさん達が被弾した後くらいからだと思うんですけど。ちょっと雑になりましたね? 妙なジャミングも……』

「何を隠してんだ? コレだけ派手に攻城戦を展開する大出力野郎が……」

物理的にも精神的にも他の者の介入を許さない会話。周りを気にする必要が無いほどに信頼しあった関係、ソレを眩しそうに見つめる。

「チビッ子たち! サボるな!!」

「あっ! はい!!」

フォワード陣の中ではリーダー的なポジションに該当するティアナの叱責が飛ぶ。
なのはの参戦により完全な防御から攻撃へとシフトした戦況。一人でも多くの人員を駆使して押し返す必要性。
以上の事からティアナの要求は理にかなっている。故にエリオもストラーダを握りなおし、駆け出した。
後ろには心強い戦友が続くと信じていたから。


「オレ様たちは抜けるぞ」

「「はぁ?」」

しかし次に聴いたのは余りにも予想外の言葉。この状態で戦線から離れる? 意味が解らない。
管理局員として有るまじき事であり、下手をすれば懲罰モノの発言だ。

「妙な事があってな……ちっと確認してくる」

「まちなさい! そんな事が認められるわけ無いでしょ!?」

「許可なんていらねぇ。オレ様たちは…「好き勝手に生きるですよ?」…そういうこった」

「キュックル〜」

もう言う事は無いと小さな背中は赤いコートを翻して走りだした。白き翼の幼竜 フリードもその後ろに続く。
と言う事で……

『キャロとバクラが堂々と敵前逃亡したそうです』
30キャロとバクラの人代理:2008/10/04(土) 21:40:44 ID:lKsong5a
力で静止させようにもそれ自体が無駄な戦力の消費となりかねない。故にティアナは舌打ちを一つ。

「もう! 後でどんな罰があっても知らないんだから!!」

幾ら緩いといわれる六課の規則だろうと、人の命を預かる管理局の一部。
理由も告げずに敵前から逃亡するなどあってはならない。故に罰則の対象足りうる。

「アンタも付いて行きたかった? エリオ」

「……わかりません」

ティアナの指摘どおり、エリオは若干その背中を追いかけそうになった。
何故か?と聞かれたら的確な返事を返す事はできないだろう。けれど追いたくなった。
それは若輩ながらの騎士としての勘とバクラが意味の無い行動をするとは考えられないと言う思いからだろう。
しかしその一歩を踏み出せなかったのは罰則と言う存在が大きい。
エリオは自身がどれだけ責められようと気にはしないだろう。ニセモノとして蔑まれる事に比べれば大したことではない。
問題は自分の責がフェイトに及ぶこと。管理局上部に属しているといっても過言ではない恩人に迷惑をかけるわけにはいかない。
それこそがエリオがバクラたちについていくのを躊躇った最大の理由だった。

「僕は僕の役目を果たそう……」

後ろから響いてきた叱咤の声も祝福の祝詞も聴こえない。
ソレは同時に叱咤や祝福の紡ぎ手を一人ぼっちにしてしまったと言う事。
バクラとキャロは自分なんて必要ないほど強いのに、その輪の中に自分が居ないことが、エリオにとっての不満だった。
そこは暗い空間だった。かまぼこ型の空洞が広がり、水が流れる音が響く。
31キャロとバクラの人代理:2008/10/04(土) 21:42:11 ID:lKsong5a
照明は小さな非常灯だけで、弱々しい明かりがそんな場所を進む一人の少女を僅かに照らしていた。

紫色の長い髪、人形のように動かない表情。手には黒に紫のラインが走るブーストデバイス。
彼女の名はルーテシア・アルピーノ。狂気の科学者 ジェイル・スカリエッティ製作の魔道兵器 レリックウェポン。
そして……ホテル・アグスタへと進軍していた蟲たちの主である。

「へぇ……無傷なんだ」

虫たちから送られてきた映像には元気に飛び回り、此方を追い詰める二人のエースの姿。
魔力換算Sランクの砲撃をどうやって防いだのかは解らないが、実際にこちらが追い詰められているのだから仕方が無い。
戦況は既に大勢が決しつつある。ルーテシアが『囮』として置いて来た制御用魔法陣も直ぐに発見されてしまうだろう。
でも……

「でも……もう遅い」

ルーテシアを先導していた浮遊する漆黒の球体が明滅する。普通の人間には規則的な明滅でしか無いが、彼女にとっては違う。
そこには確かに意味があり、言葉があり、感情があると知っている。故に本人すら気付かないまま微笑を浮かべていた。

「ここ?」

閉ざされた空間を満たしていた靴音が止まる。そこは今まで通ってきた道 下水道の地下トンネルと何ら違いが無いように思えた。
しかし母と呼ばれる人物と二代に渡り使える忠臣の言葉、ルーテシアは何の不満もありはしない。
それに彼女は無表情にかき消されて忘れられがちだが……『かなり大雑把な性格』である。
ちょっと位ズレても別に大丈夫だろう。『開ける穴』の数が増えたり、大きくなるだけだ。

「じゃあ……始める」

片腕を一振り、アスクレピオスの格が紫色に怪しく輝く。
暗闇の中で濃紫の線が連続して走り、地面に形作られる無数の魔法陣。
それは召喚特有の形を描き出し、これから何が起ころうとしているのかを容易く示していた。
そう、召喚だ。そしてこの場所の意味。正確に言えばルーテシアがいる下水道のトンネルとある場所の位置関係。

「条件はすべてクリアー……来て」

鳴動する魔法陣から無数の蟲、戦いは最後の最後で大どんでん返しへ……
32キャロとバクラの人代理:2008/10/04(土) 21:44:04 ID:lKsong5a
以上でした〜
本当に久しぶりで「キャロとバクラってこんなだっけ?」と作者にあるまじき思いを抱きつつ……
あと長いね〜ホテル・アグスタ編(他人事
いえいえ、遂に次回で完結ですよ? 本当だよ? 前回も同じ事を言った気がするけど(ry

あと関係ないけど、モンハンの人気に驚き(ぉぃ


======
と、言う訳で代理投稿させていただきました。

だから条件はすべてクリアは失敗フラグだと(ry
とは言えルーテシアちょっと強すぎない?やばすぎない?
これからどうなるのか不安を隠しきれません。次回が楽しみです!
33名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 21:50:30 ID:+Rizv/pg

なのフェイの二人はやはり凄いぜ……。
しかし、エリオも何か思う所があったようだ。
34名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 21:54:16 ID:musvo6Mu
GJ!
どんな罠か楽しみ。
35名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 22:34:53 ID:COlBpDGz
GJ!!です。
ルー子の目的はなんだろうか?ホテル防衛は成功するのか?
次回が楽しみです。
36ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 22:50:28 ID:NNOEi/0H
 聖王のゆりかご起動に伴い、ミッドチルダ全域において厳戒態勢が引かれて
いる。一般市民は早急に非難し、首都クラナガンへと続く道は陸路であろうと
空路であろうと、全てが閉鎖された。
 超長距離砲撃を行える相手に対し、どこに逃げればいいのか? そんな疑問
は勿論あったし、大体、地下深くのシェルターに潜り込んだところで、敵船は
地上を幾度となく焼き払い、消滅させた伝説のロストロギアだ。逃げることも、
隠れることも、通用するとは思えなかった。
 だが、そうだとしても避難を行わなくていいということにはならず、ここ聖
王病院においても、動かすことが困難な重症患者を除いて避難が開始されてい
る。ある患者は看護士に付き添われ、自力で動ける患者は自力で、背に腹は代
えられない。
「――ッ! まだ少し、痛むか」
 デバイスを杖代わりにして、一人で院内を歩いているのはエリオ・モンディ
アルである。ナンバーズとの死闘を繰り広げ、敗北の代償として病院送りにな
った彼だが、今や自力で歩けるぐらいまでは回復している。
「フェイトさんやキャロたちは、大丈夫かな」
 クラナガンで巻き起こっている戦闘に、六課の仲間たちが参戦していること
は疑いようもなかった。自分の醜態と、総隊長であるはやての負傷、他にも色
々あるようだが、今の六課は戦力的に著しく低下しているはずだ。利点であっ
た機動力も、上手くいかせているかどうか。
「あっ…ザフィーラ、さん」
 階下の出口を目指していたエリオは、廊下で犬の姿となっているザフィーラ
と遭遇した。犬の姿といっても、エリオは最近まで彼が守護獣であることすら
知らず「あれは八神家のペットなんですよ。ただの犬っころです」などという
リインの言葉を信じ切っていた。人の姿になれる事や、それこそ喋れることす
ら知らなかったほどだ。
「今まで通り、呼び捨てで構わない。しかし、辛そうだな」
 杖をつきながら歩いている時点で、エリオは一人歩きをするのにまだ無理の
ある身体なのだということを、ザフィーラはあっさり見抜いた。
「僕なんかに、人の手を煩わせたくないですから……ザフィーラさんは逃げな
いんですか?」
「私は、主はやての側にいなければならない」
 はやては、重傷にして重症患者に分類されている。完全な移動体制が整うま
で、動かすことが出来ないのだ。
 守護獣というだけあって、ザフィーラは驚異の回復力を見せつけた。完治し
たわけではないが、少なくともエリオよりは自由に動き回ることが出来る。
 ザフィーラと、そして様子を見ておきたかったエリオは、共にはやての病室
を訪れた。犬の身であるから扉を開けられないザフィーラに代わって、エリオ
が病室の扉を開いた。
「……はやて、さん?」
 部屋は、窓が開け放たれていた。気持ちのいい爽やかな風が、室内に吹いて
いる。そんな窓辺に、一人の少女が悠然とした姿で立っていた。

「遅かったな、お二人さん。少し、待ちくたびれた」

 少女は室内に入ってきた二人を見て、薄く微笑んだ。



         第20話「愚か者の矜持」

37ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 22:51:18 ID:NNOEi/0H
 レジアス・ゲイズ中将戦死の報は、瞬く間に地上部隊全域へと伝播した。
 ただしこれは地上部隊本部、つまりは大本営からの発表ではない。

『君たちの指揮官、レジアス中将は死んだ! これは厳然たる事実である!』

 中将の副官であったオーリス・ゲイズは、父親の死という受け入れがたい事
実にショックを受け動揺し、即座に情報管制を引くことが出来なかった。
 ご丁寧にも死体の画像付きで行われたスカリエッティの情報操作を前に、後
手に回った地上部隊はなす術もなく、混乱の渦に飲み込まれた。
「レジアス閣下が戦死なされるなど、そんな馬鹿な!?」
 それは高級士官、将官クラスに至っても同じことで、ここにきてレジアスの
組織運営における欠点と弱点が浮き彫りになった。彼は豪快で有無を言わさぬ
強烈なカリスマ性を持ってリーダシップを発揮し、今日まで地上本部を纏め上
げてきた。強力な指導者、力強いリーダーの存在は、他者に多大な安心感を与
える。しかし、それが失われた時はどうすればいいのか?
 性格上、レジアスは自身のナンバー2を作ろうとしなかった。これはゼスト
を失って以来、彼があまり人を信用しなくなったことが原因の一つとしてある。
さらに後継者の育成も、まだその時期ではないと、現に今日まで彼一人の手腕
で全てが行えてきただけに、疎かにしてしまっていた。
 良い意味でいえばリーダシップの強さ、悪い意味でいえば典型的なワンマン。

 そして、この窮地においては主に後者が露呈した。

「今はまだいい。ガジェット部隊との防戦を繰り広げている今なら、現場指揮
官レベルでどうとでも指示は出せる」
 ゆりかご内に映し出される戦場の光景。ガジェット部隊や、ルーテシアの召
喚虫軍団と激闘を繰り広げる地上部隊は、さすがに善戦といえるほどではなく
なってきたが、奮戦はしている。
「無限に近い回復力を持つ敵と戦うことは、ただでさえ神経をすり減らすもの
だ。召喚虫は必ずしも疲れ知らずではないが、人間とは体力に差があり過ぎる」
 つまり、地上部隊の隊員たちは必要以上に強いプレッシャーを受けながら戦
っているのだ。今までは、レジアスの叱咤激励、怒号や激昂が隊員たちを奮い
立たせ、何とか互角の戦いを行うことが出来ていた。

 けれど、そのレジアスはもういない。組織的にも、精神的にも心強い支えだ
った存在を失った以上、倒壊は時間の問題だった。

「地上部隊の指揮系統は乱れている。レジアス・ゲイズを失った今が好機だ。
さらなるガジェットの増援を行い、敵の防衛線を押しつぶせ!」
 スカリエッティの指示が飛び、ゆりかごのガジェット発出口から、また数百
機のがジェットが放出される。ガジェットはゆりかご内でも生産、量産するこ
とが可能なのだ。
「英雄なき軍隊に勝機など、ない」

38ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 22:52:32 ID:NNOEi/0H
 この戦いにおいてもっとも大きな功績を立てているのは、スカリエッティ陣
営のルーテシアとギンガであろう。敵の主力である魔法戦車部隊を壊滅させ、
陣形に楔を打ち込んだルーテシアと、大将首を奪い取り指揮系統の崩壊を誘っ
たギンガ、この二人の存在が地上における戦いを優勢に導いたと断言してもい
いはずだ。
「なんか、つまんない」
 ルーテシアは上空にあって、地上で行われている戦闘を眺めているが、それ
はもはや激闘というにはあまりにも一方的な展開となっていた。ガジェットは
ゼロやフェイトなどの実力者にとっては雑魚も同然なのだが、一般的な能力値
を持つ魔導師には十分驚異的なのだ。
 召喚虫で戦車部隊を壊滅させたまでは良かったが、それきりルーテシアはす
ることが無くなった。地雷王などは未だ戦場にあって、圧倒的な破壊力で敵を
押しつぶしているが、ルーテシアが命令しているわけでもない。戦車砲による
魔力砲撃ですら倒せない地雷王なのだ。武装局員程度にやられるわけがない。
「行動が雑多で乱雑、指揮系統が機能してない」
 どうやら、ギンガが大将首を取った効果が現れているようだ。ルーテシアは
ギンガとスカリエッティの基地で会うまで面識はなかったが、ゼストの話では
母と同僚だった女性の、義理の娘と言うことらしい。奇妙な縁繋がりだが、別
に気にはならない。自分がスカリエッティの側に、近からず遠からずの距離で
いるように、彼女にも色々と事情があるのだろう。
「これなら、アレは使わなくていいかな」
 ルーテシアは優れた召喚術士だが、その実力の全てを披露しているわけでは
ない。スカリエッティから、強力すぎるので召喚するのを控えるようにといわ
れた奥の手が、彼女には残されている。
「でも、使うときが来たら、絶対に使う」
 別に、ルーテシアは戦うことが好きというわけではない。にもかかわらず、
今の彼女は戦闘に没頭している。これは、矛盾だろうか? 以前、スカリエッ
ティに尋ねたことがある。自分は、実のところ戦いが好きで、心の底では戦い
を求めているのではないかと。
 そんな少女の悩みに、スカリエッティはいつもの薄笑いを浮かべながら、こ
のように答えた。

「乙女心とは、複雑な物なんだよ」

 なるほど、そういう物なのかと納得したのかと言われると、実はしていない。
ドクターにしては抽象的で、曖昧な表現だと感じた。もっとも、理論的な解答
を必ずしも受け入れたとは限らないが。
「私に、心なんてない」
 乙女心とやらは良く分からないが、ルーテシアは自分に心など存在しないと
思っている。そもそも、彼女には情念がほとんどない。物を壊すこと、人を殺
す事への抵抗感も、今ではすっかり忘れてしまった。そんな感情を元々持ち合
わせていたのだろうかとさえ、思っているぐらいだ。
39名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 22:53:02 ID:l5d/NbjO
しえる
40ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 22:53:24 ID:NNOEi/0H
 顔も思い出せない父親が消え、唯一の家族だった母親も死んだ。その時、ル
ーテシアの心も死んだのだ。一度死んだ心は、復活しない。新たな心が生まれ、
成長するのを待つしかない。そして、心が生まれる時とは――
「なに!?」
 突如、巨大な火線がルーテシアの眼前を横切った。避けることが出来たのは、
咄嗟にガリューが彼女の身体を後ろに引いたからだ。
「火炎放射……」
 周囲を確認すると、ほどない距離に一匹の竜が羽ばたいている。そして、そ
の背には一人の少女が跨っており、ルーテシアに強い視線を向けている。あれ
は、自分と同じ部類の存在か。
「召喚術士、竜使役?」
 自分の能力についての研究は、ルーテシアもしたことがある。その中で、召
喚術士の中には竜使役と呼ばれる、主に竜召喚を行う強力な術士たちが存在す
ることを知った。
 だが、目の前で竜に跨るのは、自分と同程度の年齢に見える少女だ。
「お前は、誰だ」
 構えを取るガリューを制止しながら、ルーテシアは問いかけた。空中戦を行
うには、あまりに不利だった。地雷王も空は飛べなくはないが、相手は翼はた
めかす竜なのだ。速度が違いすぎる。
 火炎による砲撃、それ以外にも何か技はあるのか……? 次々と思考を繰り
返し、対策を練るルーテシアだが、意外にも少女は素直にこちらの問いに答え
た。
「機動六課ライトニング分隊所属、キャロ・ル・ルシエ。管理局員として、あ
なたに武装解除と投降を要求します!」
 強い口調で言い放たれる言葉に対し、ルーテシアはあからさまに表情を歪ま
せた。
「投降……?」
 キャロを睨み付けると、ルーテシアは一気に搭乗するガジェットを降下させ
た。
「あっ、待って!」
 追いかけるキャロだが、降下速度はガジェットに分があった。ルーテシアの
行動は逃げるようにも見えたが、彼女は逃げることはしないで、最寄りのビル
の屋上へと降り立った。
 ここでキャロがフリードリヒのブラストフレアをビルの屋上に向かって放て
ば、戦闘を行うまでもなく敵を倒せたかも知れない。しかし、キャロはそこま
で思い至らず、思い至ったとしても実行するかは判らなかった。
「私は、負けない。ドクターが夢を叶えるように、私も夢を叶えたいから」
 互いに夢を持つ者同士だから、ルーテシアはスカリエッティと仲良くできる
のかも知れない。スカリエッティの夢が何なのかは判らないし、知りたいとも
特には思わない。ただ、お互い夢があり、それを叶えたいという気持ちは一緒
なのだ。
 それだけ判っていれば、満足だ。
「――――地雷王!!!」
 地上で暴れ回る地雷王の一匹を、屋上に召喚する。敵の召喚虫が現れたこと
で、キャロの表情が引き締まった。
「誰にも邪魔はさせない。私は、ドクターの夢も」

 叶えてあげたいから。

 ルーテシアとキャロの戦闘が開始された。

41名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 22:54:19 ID:COlBpDGz
支援
42ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 22:54:40 ID:NNOEi/0H
「ルーテシアが攻撃を受けてる?」
 戦場にあって、ガジェット部隊を指揮し、自らも敵部隊に猛攻を加えていた
ギンガは、ルーテシアと機動六課の魔導師が戦闘状態に入ったことを知った。
「機動六課か……意外に早い」
 ゆりかごの砲撃で消し飛んだなどと、もちろんギンガは思っていない。一人、
二人ぐらいは死ぬかも知れないとは思ってはいたが、死んだら死んだで、それ
だけの存在だったのだろうと考えていた。
 増援に向かうべきか、それともガジェットの指揮を続けるべきか? ルーテ
シアの実力を過小評価しているわけではないが、キャロが強力な竜使役である
ことも、仲間だったギンガはよく知っている。彼女がもう一匹の竜を召喚すれ
ば、さすがのルーテシアとて……

 その時、ギンガの周囲に幾つもの魔力の帯が発生した。

「ウイングロード!?」
 中空に縦横無尽に発生したそれは、間違いなくウイングロード。しかも、こ
の魔力の色は――
「スバルか!」
 ギンガの叫びに呼応するかのように、ウイングロードを一人の少女が駆けて
いた。スバル・ナカジマ、ギンガの半身、分身とも言える存在にして、たった
一人の妹。

「リボルバァァァァァァァァキャノンッ!!!」

 スバルが、衝撃波を纏ったリボルバーナックルの拳をギンガへと叩き込んだ。
ウイングロードはギンガの頭上にまで伸びており、スバルは降下する勢いも味
方につけていた。
 ディフェンサーを張るギンガであったが、激突した強烈な打撃を前に、敢え
なく崩れ去った。
「そんな、魔力上昇で防御力も上がってるはずなのに!?」
 予想外の威力を誇る攻撃に、ギンガは後方に飛んで距離を取った。今のギン
ガは、空を自在に飛ぶことが出来る。空戦を主体とした戦闘スタイルで行けば、
ウイングロードに頼るしかないスバルなど……
「下からっ!」
 空飛ぶギンガを狙い撃つかのように、魔力弾が放たれてきた。何とか避けた
が、思わずウイングロード展開してそこに着地してしまった。
「ティアナ・ランスター……へぇ、二人がかりって分け」
 見れば、ウイングロードにはスバルだけでなく、ティアナもいた。クロスミ
ラージュを構え、ギンガを見据えている。縦横無尽に展開していたのは、ティ
アナに援護をさせるためだったのか。
43ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 22:56:09 ID:NNOEi/0H
「二人なら私に勝てるとでも思ったの? 浅知恵も良い所ね」
 小馬鹿にするギンガだが、そこには少なからずの動揺があった。レリックの
力を得て、今やなのはやフェイトにも匹敵するはずである自分の力、だがスバ
ルはその力を揺るがすほどのパワーを見せつけてきた。
 ギンガは構えを取りつつ、スバルと向かい合う。
「父親の敵討ち、見上げた根性だと褒めてあげようかしら」
 魔力を解放させながら、ブリッツキャリバーを起動する。パワーで勝負なら、
面白い、こちらも真っ向からぶつかり合って、弾き飛ばしてくれる!
「ギン姉……」
 戦意を剥き出しにする姉に対し、呟いたスバルの声は、とても穏やかなもの
だった。これから戦う、いや、今現在戦っているとは思えないほど穏やかな声
と、表情。
 困惑しながら、ギンガはスバルの、妹の表情を伺う。そんな姉に、妹は優し
い笑みを返してきた。
「私は、もう怒らないよ」
「何ですって?」
 唐突なその言葉、意味もわからなければ、理解も出来ない。
「私はね、ギン姉、怒りに来たわけでも、恨みを良いに来たわけでもないんだ」
「なら、何しに来たのよ。殺しに来たとでも言うの?」
 殺されても仕方のないことをしていると、理解は出来る。
「それも違う、違うんだ。なんて言ったらいいのかな……」
 スバルは悩み、考え、それでも穏やかな雰囲気だけは崩さなかった。一皮も
二皮も剥けたような、一つ言えるのは最後に会ったときよりも、確実に成長し
ているということだ。

「簡単に言えば、ぶん殴りに来た」

 スバルが拳を固めて、ギンガへ向かって突き出した。
「……は?」
 言葉と動作に、ギンガは思いのほか間抜けな声を出した。スバルはそんな姉
がおかしいのか、少しだけ声を出して笑った。
 そして、だからさ、と言葉を続ける。

「全力全開で――殴りに飛ばしに来たって言ってるんだよ!」

 スバルがギンガに向かって、殴りかかった。

44ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 22:56:53 ID:NNOEi/0H
 キャロやスバル、ティアナが戦場に到着していると言うことは、なのはやフ
ェイトといった隊長たちもいるはずである。
 そして、当然ゼロも。
「あれがドクターの言っていたゆりかごなら、並大抵の攻撃は通用しない」
 ゼロが操るライディングボード、彼の腰にしがみつきながらセインが声を上
げる。ゆりかごを見るのは初めてだが、話ぐらいはスカリエッティから聞いた
ことがある。
「侵入方法は?」
「さぁ、普通には入れないと思うけど」
 傍らを飛行するディード、彼女も無言で首を横に振った。あれだけの質量物、
入り口の一つや二つあっても良いとは思うのだが……
「入り口が見つけられないなら、作ればいい」
 ゼロは呟くと、バスターショットを構えた。
「つ、作るって装甲に穴でも開けるつもり?」
 アインへリアルの直撃を食らっても無傷だったような戦船に、バスターショ
ットなど通じるのだろうか? なのはクラスの砲撃魔導師による砲撃ならまだ
しも……そのなのはは、フェイトと共に先行している。ゆりかご内にヴィヴィ
オが、聖王の玉座に彼女が居ることを知り、最大加速で戦場に向かったのだ。
既に着いているはずだが、もう中にいるのだろうか。
「稼働中の砲門を破壊して、そこから入る」
「なぁっ!?」
 確かに、砲が剥き出しとなっている状態の砲門ほど脆い物もないだろう。そ
れなら、破壊できなくはないかも知れない。
「無理だよ、そんなの! 砲門って、砲撃してるんだよ? 近づいたら、撃ち
落とされるよ」
 とはいえ、セインの言うように砲門に近づくのは、それ自体が至難の業だ。
「それしか思い浮かばない。嫌なら降りろ」
「降りろって……」
 覚悟を決めるしか、ないようである。
 ディードを含めた三人は、一番近い砲門まで、放たれる砲火を避けながら接
近した。砲門のほとんどは地上に向けられているが、至近に迫った敵を見逃す
わけもない。
「掴まっていろ」
 ゼロはバスターショットをチャージしながら、ライディングボートを操作す
る。砲撃を行う砲口に迫るという、目を開けていられないほどの恐怖に、セイ
ンはガタガタと震えてしまう。
「これで……!」
 フルチャージバスターが、発射された。砲撃の間隙を縫って撃ち込まれたバ
スターショットは、砲門を壊すことに成功はした。しかし、全壊させるには至
っていない。砲はまだ、生きている。
「ダメか!?」
 珍しく焦るゼロであるが、それは杞憂に終わった。

「ツインブレイズ!」

 双剣を構えたディードが、ほとんど一瞬で砲口を破壊した。ゼロの攻撃で半
壊状態だっただけに、容易に事は済んだ。
「礼を言う」
「そんな物はいらない。私は、私の道を切り開いただけだ」
 ゼロとディードのやり取りを見ながら、セインは自身が何かしたわけでもな
いのに荒い息をしていた。恐怖と緊張で、神経がすり切れそうになった。
「二人とも、神経太すぎ」
 兎にも角にも、ゼロとセインとディードの三人は、ゆりかご内へと突入した。

45ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 22:57:52 ID:NNOEi/0H
「ドクター、お客さんが二組ほどご到着でーす」
 ゆりかご内に侵入した異物を感じ取って、クアットロはスカリエッティへと
回線を繋いだ。
『二組? 詳細を聞こうか』
「えっとですねぇ、まずは先ほど機動六課の魔導師二人、高町なのはとフェイ
ト・テスタロッサさんがガジェット発出口を破壊して侵入してきました」
 ゼロの発想もとんでもなかったが、こちらも相当であったようだ。言いだし
たのはなのはなのだろうが、絶え間なくガジェットが放出される場所、そこを
まずフェイトがザンバーの一閃で破壊する。斬撃で変形した口は開かなくなり、
詰まったガジェットごと、なのはが砲撃で吹き飛ばしたのだ。
『このゆりかごは歴史的にも価値があるというのに、酷いことをするものだ。
修理のほうは?』
「もうはじめてます、というか自動修復機能が勝手に働いてます」
『それは良かった……それで? もう一組は誰かな』
 スカリエッティの表情が、何かを期待しているように変化する。それが面白
くて、クアットロは思わず笑みを浮かべた。
「ドクターお待ちかねの、ゼロですよ。ゼロとセイン、それにディードちゃん
も一緒です」
『……ほぅ、ディードが』
 予期していなかったわけではないが、スカリエッティは一瞬の間を置いてデ
ィードの裏切りを受け入れたようだ。
『まあいい、話を聞く限り、二組はそれぞれ別の場所にいるようだが、行き先
は判るかな?』
「場所的に……そうですねぇ、隊長さん二人は玉座狙いかな。あっ、今二手に
別れたみたいです」
 一人は玉座に、もう一人はスカリエッティか、あるいはクアットロや機関部
狙いか?
「ゆりかご内は迷路みたいな物ですから、辿り着くことが困難だと思いますけ
ど」
『それはどうかな、経験がないので何とも言えないが、母親の愛というのは素
晴らしいと言うではないか』
「母親、ですか?」
 クアットロは、モニターに映るなのはの姿を見た。必死そうな表情で、何か
を探し求めているように飛行している。
『母性愛には感服するが、覚醒前の聖王を玉座から引きずり下ろされては困る
……ディエチはそこにいるかね?』
 スカリエッティは、自身に従順なナンバーズの名を呼んだ。特にすることも
なかった彼女は、クアットロの側で彼女の手腕を眺めているところだった。
「なんですか?」
 思いのほか、素っ気ない声だった。小さな不信感が、ディエチの中でも芽生
えはじめたからだろうか。
『君に任務を与えよう。高町なのはを、管理局のエース・オブ・エースを君の
砲火で吹き飛ばしてくれ』
 ディエチの表情が、僅かに歪んだ。スクリーンに映る、なのはの姿。必死な
その姿は、子供を捜す母親そのものといっていい。それを、砲撃で吹き飛ばせ
というのか。あの子だって、母親の存在を求めてるというのに……
「判りました。敵の、迎撃に向かいます」
 しかしこの時は、黙って命令に従った。少なくとも、スカリエッティやクア
ットロの目には、そう見えた。

46ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 22:58:44 ID:NNOEi/0H
 一方、別ルートから突入したゼロたちは、侵入者の存在を探知して現れたガ
ジェットたちと戦っていた。三人といっても、セインは戦力に入らないので、
戦っているのは実質ゼロとディードだけだ。しかも、ディードはスカリエッテ
ィに反旗こそ翻したが、ゼロと協力し合うつもりはまるでないらしい。
「とりあえず、これからどうするの?」
 壁に隠れてガジェットの攻撃をやり過ごすセインが、ゼロに尋ねた。
「やることは、大きく分けて三つだ」
 ゼットセイバーでガジェットの一機を斬り裂きながら、ゼロは口を開いた。
「一つは、スカリエッティを見つけ出すこと」
 首謀者である彼を、倒すか殺すか、拘束するかは絶対条件だ。彼がギンガを
使ってレジアスという大将首を奪ったように、こちらも司令塔であるスカリエ
ッティを倒す。そうすれば、少なくともナンバーズは指示と命令を出す相手を
失うことになる。
「私たちは、ドクターの言うことしか聞いてこなかったからね。他に何をして
良いのか、あの人がいないと判らなくなっちゃうんだ」
 あるいは、自分たちはそのように作られているのだろうか? 無意識に、ス
カリエッティを求め、彼の命令を利くように、最初からシステムとして組み込
まれていたのか? いや、だとすれば自分やディードが反旗を翻すことなど、
端から出来ないはずだ。
「二つめは、この戦艦の機関部か、もしくは制御室を制圧し、艦のコントロー
ルを奪うことだ」
 スカリエッティを捕らえてやらせるという手もあるが、奴が素直に言うこと
を聞くとは思えない。
「……なるほど、なら、その役目は私が引き受けよう」
 これまで協力姿勢を見せなかったディードが、ポツリと一言だけ呟いて、そ
の役目を買って出た。
「いいのか?」
 オットーの一件から、彼女がスカリエッティと戦いたがっていることは明白
であった。譲る気はなかったが、着いてくるというのならゼロは止める気はな
かった。
「機関部の破壊はともかく、制御室の制圧が出来るの私だけだ。制圧したとこ
ろで、古代ベルカの戦船をお前が動かせるとも思えないが?」
 その通りだった。所詮は異世界の住人であるゼロにとって、車の運転ぐらい
ならまだしも、巨大な戦艦を動かすことなど不可能に近かった。出来たとして
も、時間が掛かることに違いはない。
「判った、任せよう」
 ゼロは短く、ディードに感謝した。
「ね、私は? 後一つ残ってるんでしょ?」
 セインが何故か心を躍らせながら尋ねてくる。確かに、やらなければ行けな
いことは三つあって、ここには丁度三人居る。
47ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 22:59:28 ID:NNOEi/0H
「玉座とやらに向かい、スカリエッティが鍵の聖王と呼んでいるのを回収する
ことだ」
 ヴィヴィオ、あの少女が聖王なのだと言われても、ゼロにはイマイチピンと
来ない。古代王家の末裔なのかもしれないが、それが何だというのだ。ゼロに
とって、ヴィヴィオはヴィヴィオだ。自分を慕い、なのはをママと呼んでいた
幼女でしかない。
「あの女の子か……判った、あの子は私が助け出すよ!」
 戦闘を行うとか、制圧するとかに比べれば、セイン向きと言える内容だった。
ただ、聖王の玉座がどこにあるかわからない以上、探すだけでも一手間も二手
間も掛かるだろう。
「あまり時間はない。地上が壊滅するのが先か、スカリエッティを倒して、こ
の戦艦を止めるのが先か……時間制限、という奴か」

 まるで、ゲームのようではないか。

 ゼロは複雑な表情を浮かべると、それぞれの役目を果たすため、三手に別れ
て行動を開始した。


「彼らも分散して行動を開始したか」
 かつての聖王や、その一族が毎夜の如く晩餐を楽しんだと言われる巨大な大
広間。そこに張り巡らせたモニターで状況をチェックしていたスカリエッティ
は、実に面白そうにゼロたちの行動を見ている。ゼロとセインはともかく、デ
ィードがいたこと、ディードが生きていたことが、少しだけ意外だったのかも
知れない。
「ディードの裏切りもまた、ドクターの予想範囲内でしたか?」
 ウーノが、躊躇いながらも尋ねてきた。彼女はディードが裏切ったこと肯定
しないが、全否定も出来なかった。セインもそうだが、スカリエッティは自分
の部下を、あっさりと切り捨てすぎている。裏切ったのは彼女たちであるが、
彼女たちの方でも、スカリエッティに対して「裏切られた」と思う感情が存在
しているのではないだろうか?
「実を言うとね、ウーノ。私はナンバーズの娘たち、ただ一人を除いて全員が
裏切る可能性はあると、常日頃から思っているんだ」
「えっ?」
 それはなかなかに、衝撃的な告白だった。ウーノだけではない、居合わせた
トーレやセッテ、セッテは無表情であるが、彼女らもまた少なからず驚いたよ
うだ。
「君たちの全員か、それとも幾人かは知らないが、確かに私を信頼してくれて
いるのだろう。だけど、私の方にそれを求められてもね。私は、誰かを信頼す
ることが出来ない……というより、それがどういうものなのか判らないんだよ」
 判らないから、出来ない。偉大な天才であるはずのスカリエッティ、その彼
が持っている意外な欠点だった。
「ただ、信用という意味では少し異なるがね。先ほども言ったとおり、一人だ
けは私を裏切りはしないと、信用はしている」
 12人もいるのに、たった一人なのか。だが、現にナンバーズが分裂しはじめ
ている今の状況から考えると、そう不思議ではないのかも知れない。
48ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 23:00:17 ID:NNOEi/0H
「私以外は全員危険と言うことですか」
 ウーノは深刻そうな顔を、そしてトーレが少しだけ不満げな表情をしていう。
確かに自分はウーノのように公私ともにドクターのサポートが出来るわけでは
ないが、忠誠心で劣っているとは思えないのに、と。
「まあ、そんな話は今はまだどうでも良い。ウーノ、クアットロに言ってゆり
かご内の警戒レベルを上げさせてくれ」
「わかりました」
 了解すると、ウーノは足早にその場を離れた。
 それを確認した後で、スカリエッティはトーレとセッテの二人に向き直る。
「君たち二人は、侵入者の迎撃を。一番近いのから、二人がかりでも構わない」
 ここに来て、一騎打ちに拘る必要もないだろうとスカリエッティは言ってい
るのだろうか? トーレは疑問を憶えたが、自分たちに不利な命令ではないの
だから、別に問題はない。
「了解しました。ただちに迎撃に向かいます」
 トーレは即断即決で、すぐさま大広間を飛び出していった。本来ならすぐに
セッテも付き従うはずが、彼女はスカリエッティに背を向けて、何故か立ち止
まってしまった。
「どうした、セッテ?」
 無感情と言い切っても差し支えがないほど機械的な少女の見せた、意外とい
えば意外な行動に、スカリエッティは思わず声を掛けた。
 声を掛けられたセッテは、ゆっくりとスカリエッティに向き直り、これまた
珍しく何かを言おうとしては、言えないでいるようだった。
「言いたいことがあるなら、ハッキリ言いたまえ」
 例えそれが非難や批判、否定であったとしてもスカリエッティは受け入れる。
傷つく傷つかないは、ともかくとして。
 セッテは、表情だけは変わらず無表情を貫きながら、口を開いた。
「他の姉妹がどうであっても、私はドクターを裏切るつもりはありません。私
は、ドクターに忠誠を誓っています」
 一瞬、虚をつかれたのは言うまでもなかった。無口で無表情な少女が、初め
てに近い形で行った自己主張。セッテは、強い瞳でスカリエッティを見つめて
いた。
「――セッテ、君は私の夢を知っているかい?」
 思わず、スカリエッティはセッテにはまだ行っていなかった問いを、投げか
けた。

「知りません」
 その問いに対し、セッテは即答をした。スカリエッティの表情に張り付いて
いた笑みが、少しだけ歪む。
「ですが……」
 セッテはスカリエッティを見つめながら、言葉を続けた。淀みも何も存在し
ない、明快な答えを出すために。

「判るようになりたいと、思っています」

 今はまだ知らなくても、いつか別れる日が来れば良い。
49ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 23:02:05 ID:NNOEi/0H
 そんなセッテの出した答えに対して、スカリエッティは小さく息を吐いた。
顔を上げ、満足そうな笑みを彼女に向けた。
「悪くない答えだ」
 スカリエッティの言葉を聞き、セッテは一礼するとトーレに追いつくために
駆けだしていった。
 その後ろ姿を見つめながら、スカリエッティは呟いた。
「あるいは君の完成がもう少し早ければ、君も私の夢を、私という出来損ない
の人間を知ることが出来たのかも知れないな」
 時間さえあれば、か。時間その物は無限に存在し、流れ続けていくものだ。
しかし、与えられる時間という物には、永遠はない。生命だろうと、機械だろ
うと、内に秘めた時計の針は、ある日突然止まる物だ。
 昨日まで動いてた時計が、今日も動くとは、限らないのだから。

『ドクター、大変ですぅ』
 クアットロが、スカリエッティに回線を繋いできた。大変という割りに、少
しも焦りの感じられない声だった。
「何か、事件かね?」
『ディエチちゃんが、命令無視してまーす』
「……ディエチが? 彼女も裏切ったのか?」
 そういうわけでもないらしい。クアットロの話では、ディエチはなのは迎撃
を命じられたはずなのに、別の敵の迎撃に向かったというのだ。命令の聞き間
違いや、勘違いではない。端末に地図があるから、道を間違えているわけでも
ないだろう。
「ささやかだな、ディエチは」
 彼女が見せた小さな抵抗に、スカリエッティは思わず笑ってしまった。
『どうします? 今からだとエース・オブ・エースの迎撃には間に合わないと
思いますけど』
「玉座の聖王は、まだ掛かりそうかな?」
『んー、それを最優先にやれ、というならすぐにでも。ただ、相手が相手だか
らガジェット百体送り込んでもあっという間に蹴散らしちゃいそうで』
 なのはなら、それぐらい造作もないだろう。故に同じく圧倒的な砲火を誇る
ディエチを向かわせたのだが……
「なら、最優先にやってくれ。聖王あっての、ゆりかごだ」
 回線を閉じると、スカリエッティは大きく伸びをした。外でも中でも、戦闘
は絶え間なく起こっている。となれば、誰か一人ぐらいは、この大広間にも辿
り着くかも知れない。
「面白くなってきたな。やはり、ゲームはこうでなくてはいけない」
 白い手袋を嵌めた右手を、こちらは何も嵌めていない左手で触りながら、ス
カリエッティは高笑いをはじめた。
 それは、紛れもなく狂気の張り付いた笑みだった。
「そういえば、ディエチは誰の元に向かったんだろうな?」

50ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 23:04:02 ID:NNOEi/0H
 ゼットセイバー片手にゆりかご内を突き進むゼロであるが、スカリエッティ
へと続く道に当てがあるわけでもない。地図など持っていなければ、艦内にそ
れらしい物も見あたらない。情報管制室のような場所ならそれも出来るのだろ
うが、それはどこにあるのだ、という状況なのだ。
「敵が湧き出てくる場所が、行きたい場所というわけでもないらしい」
 ガジェットたちに関していえば、そこかしこから現れては攻撃を仕掛けてく
る。ほとんど一撃で破壊しているが、恐らくそこら中にいるのだろう。ガジェ
ットを辿れば辿り着く、というわけでもない。
 故に、一般的な戦艦の内部構造を思い出しながら、自分で当たりを付けて動
かざるを得ない状況なのだ。ただ、それにしたって異世界の、遥か古代の兵器
だから通用するかどうかも判らない。
「誰か一人でも、目的を果たせれば……」
 もしくは、フェイトやなのはと合流するという手もある。ゼロは魔力を感じ
ることなど出来はしないが、雰囲気というか、空間の流れを読むことは出来る。
フェイトは、必ずゆりかご内にいる。
「非科学的だな、これは」
 少し、あいつに似てきたかも知れない。科学者のくせに、非科学的なことば
かり言っては自分に微笑んできた、彼女に。

「――――ッ!?」

 薄い笑みを浮かべようとしたゼロだが、その表情は一瞬で引き締まった。

 咄嗟に横に倒れ込むように飛んで、受け身を取る。
 すると、ゼロが今まで立っていた場所に何かが着弾し、爆発を起こした。
「砲弾……砲手か!」
 砲撃のあった方を見据えるゼロ、その視線の先には彼の身の丈よりも巨大な
砲身を持ち、砲口をこちらに向ける少女がいた。
「避けたか、さすがにやるね」
 狙撃砲イノーメスカノンを構えた、ディエチだった。スカリエッティの命令
に反し、彼女はなのはではなくゼロの迎撃を優先した。それは、スカリエッテ
ィへの不信感からというよりも、一時の間でも世話をした、ヴィヴィオという
幼女に対する罪悪感がそうさせたのかもしれなかった。
「あの子は、母親に会いたがってる。私は、それを邪魔できない」
 長距離砲撃を警戒して、積極的に動こうとしないゼロに目をやる。ゼロに対
して恨みがないといえば嘘になる。奴がこの世界に現れてから、ドクターがア
イツに興味を持ち始めてから、あたしたちの中で何かが変わってしまった。そ
れまで大切にしていた物が壊れはじめ、姉妹たちは次々に倒れていった。
 奇しくも、それは機動六課の一部局員たちが抱いていた感情と同じ物だった。
だから、ゼロにしたところで否定はしなかっただろう。

「ナンバーズ10番、ディエチ。狙撃する砲手……IS、ヘヴィバレル!」

 先ほど撃った爆発性の実体弾とは違う、エネルギー直射砲が発射された。

51ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 23:06:17 ID:NNOEi/0H
 同じ頃、ディードもまたゆりかご内を飛び回っていた。彼女にしたところで
何かしらの当てがあるわけではないのだが、一つの可能性があるとは感じてい
た。それは、こちらが敵を見つけるのではなく、
「戦闘機人反応、前方500メートル……来たか!」
 その場に制止し、双剣ツインブレイズを抜き放つディード。あの二人相手に
正面からの突撃を敢行するほど、自分は馬鹿ではない。
 距離があったにもかかわらず、二人はほとんど一瞬でディードの前に現れた。
「やはり、あなた方二人ですか」
 双剣を構えながら、目の前に立ち塞がる姉妹に声を掛けた。
 トーレとセッテ、ナンバーズの戦闘機人の中でも、特に戦闘に優れていると
される二人である。
「悲しいぞ、ディード。セインに続き、お前も裏切ったとはな」
 低く静かな声で、しかし、表情だけは悲しく、残念そうにトーレは言った。
「悲しい? トーレ姉様は、ドクターが私に、私やセインに何をしたかご存じ
ないのですか?」
 セインも自分も、それにオットーも、スカリエッティに切り捨てられた。セ
インは反抗的な態度を取っていたから、という理由も付けられなくはないが、
では自分はどうなる? スカリエッティの命令で前線に赴き、命令通りゼロと
死闘を繰り広げていた自分は。
「オットーは言いました。ドクターは、私たちを物としてしか見ることの出来
ない人だと」
 物を持つ人が、それを捨てるのは実に簡単だ。いらないと思えば、その時点
でいつでも捨てられる。
「けど、捨てられる方は堪ったもんじゃないんですよ」
 自分を守るために、オットーは倒れた。ノーヴェは姉妹らに対する想いを利
用され、セインは姉妹の手によって殺されかけた。
「あなた方だって、もう気付いているはずです。それなのに、まだドクターの
ために戦われるのですか?」
 それこそ、次はトーレやセッテが切り捨てられる番かも知れないのだ。スカ
リエッティなら彼女らを切り捨てることにさえ、何の躊躇いも憶えないだろう。
 ディードの問いに対し、トーレは軽く鼻で笑った。
「な、何がおかしい!」
「おかしいさ。トーレ、お前は忠誠の見返りを求めるのか?」
 トーレは、ゆっくりと攻撃の構えを取り、セッテもそれに習う。
「忠義というのはな、何か見返りが欲しいからするんじゃないんだよ。例えそ
の人の本質がどんなに愚劣だったとしても、それはそうと知りながらも忠誠を
誓った、本人の責任なのだ」
 全てを判った上で、トーレはスカリエッティに付き従っているというのか?
 事実に、ディードは言葉を失った。
「相手の全てを受け入れ、その上で忠誠を誓うことが出来る、それが真の忠義
というものだ。ディード、貴様に何か言いたいことがあるのなら、戯言などで
はなく戦闘機人らしく力で示し、私たちを納得させて見せろ!」
 エネルギーの放出に、何とか足を踏みとどまる。ナンバーズ最強の戦闘機人
であるトーレ、これほどの威圧感なのか。
「いいでしょう、全力で戦わせて貰う!」
 それでも、ディードは戦った。双剣を構え、トーレとセッテの二人に、姉で
ある二人対し、斬り掛かった。

52ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 23:07:58 ID:NNOEi/0H
 次々に行われる戦闘を眺めながら、スカリエッティはまだ高笑いを続けてい
た。何がそんなにおかしいのか、それとも嬉しいのか、圧倒し続けている地上
での戦闘に、これから圧倒するであろうゆりかご内での戦闘。
 どちらにしたところで、もう聖王のゆりかごは動いているのだ。今更止める
ことなど出来ないし、誰にも止められはしない。
「後二時間も戦えば、地上部隊は壊滅する。クラナガンを焼き払い、二つの月
の魔力下に入れば、私の勝利は確実だろう」
 野望を完遂しつつあるスカリエッティの姿に、ウーノが暖かい笑みを向けて
いる。彼女は姉妹間での争いには流石に否定的であるが、他のこと、例えば地
上が壊滅するとか、地上部隊が全滅するとか、そういったことに対しては何の
感傷も持っていなかった。クアットロとはまた違うが、今回の一件で軽く数千
人、それこそ数万人死んだところで、ウーノにも関係はないのだ。彼女はただ、
スカリエッティが満足しているのなら、それでいいのだから。
「世界は終わる、私の手によって終焉を迎える。そして、終焉を迎えた世界は、
同じく創造主たる私の手によって、新たなはじまりを迎えるのだ!」
 それは決して、夢物語などではない。聖王のゆりかごには、それを現実に変
えてしまうだけの、力があるのだ。既にスカリエッティは名実共に、破壊者と
創造者として君臨しようとしていた。

 だが、それを阻む者は、まだ存在する。

「いや、終わるのはお前だ、スカリエッティ。そして、その終わりの後に、新
たな始まりは存在しない」

 ゼストが、ゆっくりとした足取りで大広間へと入ってきた。

「ゼスト? 君には帰還命令は出していないが」
 唐突に現れた騎士の姿に、スカリエッティが不思議そうな声を出す。
「何度も言わせるな、俺はお前の部下でも配下でもない」
 傍らに飛ぶアギトが、心配そうにゼストの顔を見つめている。
 その手に持った黒色の槍、その切っ先を、ゼストはスカリエッティへと突き
付けた。
「……何の真似だね、騎士ゼスト」
 行動に焦るウーノを手で制止ながら、スカリエッティは尋ねた。隙のない構
えと、放出されはじめる魔力の波動。
 そこにいるのは、人造魔導師として復活し、スカリエッティの協力者であっ
たゼストではない。管理局の部隊長として、親友と夢を語り合い、誓い合った
騎士がだった。
「俺は、お前を殺す」
「ほぅ、そんなこと出来るかどうかはともかく、訳を聞かせて貰いたいね?」
「俺は死んだ親友の亡骸に誓ってきた。地上を、守ると。だが、俺の残された
命では、それを果たせそうもない」
 人造魔導師として、ゼストは必ずしも成功した作品ではなかった。元々、最
高評議会の命令で復活させることとなった男で、適合率が高かったわけでもな
い。故に、ゼストは人造魔導師として復活した時から、自分の再び得た生が、
長く持つ物ではないと悟っていた。
53ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 23:09:58 ID:NNOEi/0H
「ならば、せめてお前だけでも……巨悪の根源であるお前だけでも殺し、地上
の汚れを取り払うまでだ!」
 限られた、残された命と時間を、ゼストはこのように使うことで、親友の想
いに報いることにしたようだ。
 断言されたその言葉に、スカリエッティは苦笑した。
「君の身体は、無理をしなければまだ十分生きられるはずだ。適切な処置を施
せば、人並み程度の寿命には伸ばせるし、私にはそれが出来る。にもかかわら
ず、残された命を私などに使おうというのかい?」
 呆れたように肩をすくめるスカリエッティだが、その相手をするゼストでは
なかった。彼はアギトに下がるよう命じると、黒色の槍を構え直した。
 生涯最後に殺すのが、武器も持たぬ相手になるとは思わなかった。出来れば
もう一度あの男と、ゼロと戦って、死にたかった。
 だが、これはもう決めたことなのだ。後戻りは、出来ない。

「俺の命と、最後の力……この一撃に込める!」

 ゼストが、飛んだ。

「フルドライブ!!!」

 残された最後の力を振り絞って、黒色の槍を振り上げた。あのゼロをも一撃
で叩き伏せた、フルドライブ。戦闘機人ですらないスカリエッティなら、絶対
に殺すことが出来る!

 激しい音が、大広間に響いた。ウーノと、そしてアギトの悲鳴。ゼストの雄
叫びと、繰り出された斬撃による金属音。 
 全ての戦闘は一瞬であり、そして――

 決着もまた、一瞬で付いた。

「馬鹿、な」
 声すら、出せないかと思った。ゼストが何とか絞り出したその声、その言葉
は、目の前に映し出された光景に対する驚愕。ウーノやアギトでさえ、何が起
きたのか理解できず、愕然としていた。

 スカリエッティが、手袋を嵌めた白い手で、ゼストの槍を掴んでいた。右手
で鋭い刃を掴み、左手で柄の部分を押さえ込む。まさか、受け止めたというの
か、ゼストが全身全霊を込めた、フルドライブの一撃を!?
 絶望を感じ始めるゼストに対し、スカリエッティはこう言い放った。
「愚か者が」
 スカリエッティの右手が、黒色の槍の刃を――砕いた。

                                つづく
54ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/04(土) 23:11:23 ID:NNOEi/0H
第20話です。
残すところ、後6話となりました。
チンクとのバトルで伸びてしまった話数を調整しないといけませんが、
何とか出来そうです。

保管庫のコメント欄を使っていないので、私は基本的に本スレでの感想や、
応援スレ等を覗いて自作への反応をチェックしています。コメント欄に
ついては保管庫にも記載されていますが、本編終了後に再設置の予定です。
なので、今月末ですかね。

あんまり作者が、作品への反応や感想ばかりを気にするのは良くないと
分かっているんですが、凄く嬉しい物を見つけたりすることもあったり
なかったり。二次創作って素晴らしいですね。

それでは、感想等ありましたら、よろしくお願いします。
55名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 23:21:22 ID:musvo6Mu
GJ!
スカさんは実は密かに鍛えたこの体ぁ!かwww
56名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 23:31:28 ID:COlBpDGz
GJ!!です。
実は自分が最強でしたなスカ博士最高w
やっぱり、ボスは一癖も二癖もあるといいなぁ。
57名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 23:36:08 ID:6s0ngZHd
GJ!
こんなこともあろうかと!ってやつかww

ナンバーズの姉弟対決が燃える。援軍なしでは勝ち目なさそうだがw
58リリカルルーニー ◆fhLddwC5FM :2008/10/04(土) 23:38:49 ID:OmyXDiD/
GJ!

ところで、「Lyrical in the Shadow」の新作が出来ましたので、
0:00ごろから投下したいのですが、よろしいですか?
59名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 23:50:10 ID:SqyMJWQc
GJ!
燃える!否!燃えすぎる!
60名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 23:55:08 ID:l5d/NbjO
GJ!
これはおもしろい
61名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 23:58:12 ID:SVuzk2s4
終盤に近づくにつれてどんどん話が濃くなってきてる。
他が霞むような怒涛の展開、このまま最後まで突っ走って欲しいです!
62リリカルルーニー ◆fhLddwC5FM :2008/10/05(日) 00:00:18 ID:X4G0kYKn
時間になりましたので、投下させていただきます。

以下注意事項
1.「SHADOWRUN 4th Edition」とのクロスです。
2.にも拘らず、今回はなのはオンステージです。あしからず。
3.時系列は、Strikersの後です。
4.ゲストとしてですが、オリキャラが出ます。
5.タイトルは「Lyrical in the Shadow」。9レス+1です。

(>)Hoi,chummer!(よぉ、相棒!)
 一夜限りの仕事(ワンナイト・ビズ)の始まりだ。
 きっちりしまって行こうじゃないか。
(>)デンジャー・センセイ

それでは、始まります。
63Lyrical in the Shadow(0/9):2008/10/05(日) 00:01:09 ID:3Yf71Q24
背中に気をつけろ。ためらわず撃て。
弾を切らすな。ドラゴンには絶対、関わるな。
        ――ストリートの警句

Lyrical in the Shadow
 第1話「ウィザーズ・ストライク!」中編
  〜留まるべきか行くべきか〜


64名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 00:01:14 ID:l7tVYqGa
支援
65Lyrical in the Shadow(1/9):2008/10/05(日) 00:01:45 ID:X4G0kYKn
 虚空に向かって何かを報告した後、ゴートさんはソファに倒れこんだ。
 「石に躓いただけで死神の腕の中」……ひどい冗談だと思ったけど、そんな事を言えたのも、実際に傷を見るまでだった。防弾チョッキを無理やり脱がせて、応急手当をしようとしたけど、私の手に負えない事はすぐに解った。
 マシンガンで撃ち抜かれたのであろう右脇腹は、まさにズタズタだった。
 止め処なく流れる血が、そのたびごとに青くなるゴートさんの顔が、私に、いやな言葉を連想させる。「もう、助からないんじゃないか」と……
 その時ほど、治癒魔法を覚えておかなかったことを後悔した事はない。ユーノ君に教えてもらう事は出来たはずなんだ。たとえ適性がなくても、救える命が、打ち砕ける悲しみがもっと増えたはずなんだ。
 だけど、嘆いてばかりもいられない。今目の前に、消えようとしている命があるのだから。持てる技術の全てを使って、この命を永らえさせなくてはいけない。
 幸い、応急処置用のキットがあったから、止血するぐらいなら差支えがなかった。むしろ、キットについていたコンピュータによるナビゲートが、処置をしやすくしてくれた。
 ヴィヴィオに手伝ってもらいながら止血を施すと、彼は、2階に連れて行くように指示した。曰く、そのほうが対処しやすい、と。
 おそらく、次の襲撃の事を考えているのだろう。この家には、階段は1つしかなかったから、そこを守りきれば助かる可能性はある。ただ……篭城戦になった事は否めない。
 彼が助かるかどうかは、時間との勝負だ、と言うのに。
 私の焦燥を知ってか知らずか、報告を終え身体を休めた彼は、心配そうに見つめるヴィヴィオの頭を撫でながら、私に声をかけた。
「確か……高町なのは、だったな」
「……はい」
「……ここまでやってくれたんだ。お前が何処に雇われたのか、という事は、今は聞かないでおこう」
「……ありがとうございます」
 やっぱり、まだ疑ってるみたい。当然と言えば当然かもしれないけど、ちょっと残念だ。
「しかし、変な名前だな。もしかして……」
 私はむっとした。お父さんとお母さんからもらった、大切な名前だ。馬鹿にされてうれしいはずがない。
 でも、彼が続けた言葉が、私を驚愕の淵へと突き落とした。
「同郷か?」
66Lyrical in the Shadow(2/9):2008/10/05(日) 00:02:47 ID:OmyXDiD/
 咎められたときの違和感だけじゃない。応急処置のキットを使っていたときも、なんとなく感じていた。それがこの瞬間、確信へと変わった。
 日本語で話しかけられたことによって。
 ミッドチルダ語に近い言葉だったから、そんなに気に止めていなかった。だけど、私の本来の感覚なら、「ミッドチルダ語が英語に近い言葉」のはずなのだ。その上でかけられた、完全な日本語。
 やっぱりここは、間違いなく「地球」なんだ。私の知らない、でも、私の故郷の「地球」。
「それじゃ、あなたも……日本の方なんですか?」
 恐る恐る尋ねた。私の知らない地球なら、日本と言う名前じゃないかもしれない。だけど……
「まぁな。今はこんなところまで左遷(とば)されたがな」
 そう言って、ゴートさんは自嘲の笑みを浮かべた。
「お前さんも、こんなところにいるのには訳があるんだろうが……娘を巻き込むのは感心せんな」
「いえ、事故にあってしまったみたいで……」
「なのはママのおうちに行くところだったんだよ」
 あまり本当の事は言えない。第一、「異次元から来ました」なんて言っても信じてもらえないだろうし、もし信じてくれたとしても、下手に話が大きくなっては困る。
 あまり好きじゃないけど、ごまかすしかない。
「そいつは災難だったな。
 ……そういえば、旦那さんは?」
 少し聞きにくそうに尋ねてきた。確かに、母娘だけだったら気にはなるだろうけど、もしもの事を考えると、少し勇気がいるかもしれない。
 だけど、私は結婚していない。ヴィヴィオの保護責任者として、言い換えれば、ヴィヴィオを養子として引き取ったんだ。そしてそれを、ヴィヴィオ本人も喜んでくれた。
 視線を動かすと、ヴィヴィオと目があった。ただそれだけだけど、「母親」としての想いがあふれてくる。だからこそ、誇りを持って全てを告げ
「フェイトママの事?」
 時間が止まりました。
67Lyrical in the Shadow(3/9):2008/10/05(日) 00:03:20 ID:3Yf71Q24
 ゴートさんが訝しげにこちらを見てくる。上から下へ、そして再び上へ。それこそ、嘗めるように。
 多分、今の一言ですごい誤解をしたんだろう。うん。断定して良いぐらいに。
「なのは……もしかしてお前……」
「いえっ! 私は女ですよ?!」
「じゃぁ、その『フェイト』ってやつぁ……」
「違いますっ! 幼馴染の女の子で、一緒に住んでるだけなんです!」
「……女同士で『結婚』……?」
「してませんっ! 結婚から離れて下さいっ!
 私はヴィヴィオの保護責任者として引き取っていて、フェイトちゃんはその後見人なんですっ!」
 はぁ〜……はぁ〜……はぁ〜……
 ……なんでこんな事説明するだけで、息を切らさなきゃならないんだろ……
「まぁ、その……なんだ。落ち着け。
 確かに、まだ若いのに、よくこんな子供を持てたなぁ、とか、幾つの時に生んだ子なんだ、とか思っていたが……」
「……もういいです……」
 ……誰のせいだと思ってるんですか……あぁ、でも、きっかけはヴィヴィオか……無邪気だから、余計にたちが悪いな。
「それよりも、反撃の手を考えておく必要があるな」
 ……そうでした。
「でも、ここに逃げ込んだ事は、解らないんじゃないでしょうか?」
 ゴートさんを襲った人たちがどうなったかは知らないけど、私たちを襲った人たちは気絶していた。もし気がついたとしても、その場からいなくなった私たちを追跡するのは、簡単じゃないと思うけど……
「どうかね。足跡やら血痕やらの大盤振る舞いだ。優秀な猟犬なら、すぐに見つけるだろうさ」
 そういえば、そんな事を気にしている余裕もなかった。飛んでいれば問題はなかったかもしれないけど……
 でも、ヴィヴィオはまだ魔法をうまく制御できない(出力調整が苦手らしい)。となると、二人をいっぺんに運ぶか、一人ずつのピストン輸送という二者択一になる。
 となると、「どちらも出来ない」という結論に達してしまう。後者は言わずもがな。前者でも、ゴートさんの傷に障る事は容易に想像できる。
 少々悔やまれるけど、いつまでも悩んでいるわけにはいかない。脅威は目の前に、しかも確実に存在しているのだから。

「そうだとしたら、何で襲ってこないんでしょう?」
 嵐の前の静けさ、とでもいうのか。ここが知られている、と仮定すると、この休息の時間が逆に怖くなる。
「訳の解らん、怪しげな術使いがいるんだ。容易には襲ってこんさ」
 怪しげ……ですか。
「でも、魔法使いなら、他にもいるはずじゃ?」
 襲撃者の言葉から、その事は想像出来ていた。どれくらい居るのかは解らないけど、遠い世界の人間でもない。その程度には居るはずなんだ。
「確かにな。俺だって、何人かは見たことがある。だがな……
 あんな派手な術を使う奴は、それこそトリッド・アニメぐらいでしか見たことない」
 鋭い視線が、私を貫いた。人の本質まで見抜くような、そんな視線だった。
 だけど、その視線が急に和らいだ。
「もっとも、今はお前さんに頼るしかない状況だ。どんな魔法使いだろうと、贅沢は言ってられん。
 それに、お前さんの存在が鬼札(ジョーカー)になっている事も確実だ。足手まといがいても、早々手はだせんだろう」
 そう言いながら脇腹を押さえ、自嘲気味に笑う。
 そうだ。今はヴィヴィオだけじゃなく、ゴートさんも守らなくてはならない。そうなると、早めに手を打ったほうが良いけど……
「……あまり時間を与えると、不利になるんじゃないですか?」
 後手に廻る事の不利益は、JS事件でもいやというほど味わった。あんな思いは、2度としたくない。
 だけどゴートさんは、あきれたように鼻で笑った。
「有利になる拠点を手に入れた以上、下手に動くほうが危険だ。
 それに、相手は早くても夕方までは来ない。援軍も呼んであるし、今はあわてる必要はない」
 ……え?
68Lyrical in the Shadow(4/9):2008/10/05(日) 00:03:52 ID:3Yf71Q24
「……なんでそんな事言い切れるんですか?」
 今はまだお昼を少しまわった程度。「夕方まで」となると、それなりの時間がある。いつ襲われたって、おかしくないはずだ。
「そう難しいことじゃない」
 本当に、大した事じゃない風に、ゴートさんは説明する。
「俺たちを追うことが無駄なら、これ以上の襲撃はない。
 逆に必要なら、襲ってくるだろうが……相手の拠点からここまで、それだけの距離がある、と言うだけだ」
 ……なるほど。
「援軍については? いつごろくるのか、解りますか?」
「さて、な。こちらは早くても夜、と言ったところかな。もっと遅くなる可能性も高いが」
「それじゃ、ここを切り抜けた後はどうするんですか?」
「向こうに、そこまで事を大きくする必要があるかどうか、と言ったところか。
 もっとも、そんな事をしている暇はなくなると思うがね」
 にやり、と笑う。弱々しいけど、いやらしい笑い方だ。
「……1つ訊いても良いですか?」
 どうにも、気になる事がある。
「何で、追われてるんですか?」
 そう。それが解らないと、いつまでも襲われることを警戒しなくてはいけない。
 だけど、そんなこっちの心配を知ってか知らずか、ゴートさんは変わらぬ笑みを浮かべたまま、
「俺がお前の魔法について訊いたか?」
 ……そうだ。それがこちらの負い……あれ?
「……それは、私があなたの手当てをしたのと引き換え、という事で話がついていたはずですけど?」
「……覚えていたか」
 残念そうに呟く。
 ……もしかして、なにも言わなかったら、そのままなし崩しでうやむやにされたのでは? まったく、油断もすきもない、と言うか……
「だが、いい男には、何がしかの秘密があるものだ」
 ……どうやら、教えてもらえそうにないです……
69Lyrical in the Shadow(5/9):2008/10/05(日) 00:04:25 ID:3Yf71Q24
 事態が変わったのは、日が暮れてしばらく経ってからの事だった。
 ゴートさんの元に届いた通信。それは、援軍がもうじき来る、というものだった。
「と言っても、シアトルからこの山中だからな。ピザのデリバリーほど早くはない」
 そんな冗談が出てくるぐらい、気持ちに余裕が出てきた。……って、
「シアトルですか?!」
 あのアメリカの?
 ここが「私の知らない地球」とは言え、またも懐かしい名前が出た事に、驚きを隠しきれなかった。英語で話している事は解ったけど、まさかアメリカだったなんて。
「……それで、どれくらいで来るんですか?」
 動揺したままだから、声が少し硬くなってしまった。だけど、ゴートさんは、それに気付かないように、
「……そうだな……1、2時間、と言ったところか」
 すんなりと教えてくれた。
「だが、同時に悪い知らせもある」
「……え?」
 ……まさか……
「……さっきからどうも、監視カメラに写る人影があるな。どうやら、さっき襲撃して来た奴らみたいだが……
 ……止めを刺さなかったのか?」
 心臓が跳ね上がる。それは、戦闘魔導師として活動してきた私にとっても、あまりにも非現実的な事で……
 実際、あれだけ大事となったJS事件でも、被疑者側の死者は2名――ナンバーズの2番、ドゥーエと騎士ゼストだけで……局員との戦闘によって死亡したのは、ゼストさんだけだった。
 ゼストさんを手にかけた局員――シグナムさんは、その事を気に病んでいた。「介錯をする以外にも、手はあったかもしれない」と。闘えた事を喜び、勝った事を誇りに思いながらも、その重さも感じていた。
 だけど、それをゴートさんは、忘れ物がないか尋ねるのと同じくらいに、あまりにも自然に訊いて来た。あまりに軽く、いっそ酷薄とも言えるくらいに。多少の感覚の違いはあると思っていたけど、まさか、ここまでなんて……
「……私は……そういう闘い方はしません」
「……ずいぶんと甘いものだな」
 呆れたように、ゴートさんは呟いた。だけど、
「だが、それがスタイルなら、貫けばいい。何処までもな」
 にやり、と笑いながらの後押しに、私は目が点になった。殺すことにためらいがないはずなのに、殺さないことも許容する。懐が広い、とでもいうのだろうか?
「だが、俺なら殺す。そのほうが、後腐れないからな。
 それと、殺さないなら、追跡されないようにすることだ。後々面倒になる」
「……解りました」
 つまりは、「自分が対処する前に何とかしろ」と言うこと。それと……「お前に任せる」ということだろう。
 実際、まともに動けるのは私しかいない。だから、私が対処する事自体は、大して問題ない。あるとすれば、何処でどうするのか、という事になる。
「それじゃ、ちょっと準備してきますので。
 ヴィヴィオ、ちょっと待っててね」
「うんっ!」
 絶対の信頼からくる笑顔。その心地よさに、思わず顔がほころぶ。
 だけど、今はこの暖かさに浸っているときじゃない。廊下に出た私は、今後のプランについて考え始めた。
70Lyrical in the Shadow(6/9):2008/10/05(日) 00:04:58 ID:3Yf71Q24
 まずやるべきなのは、相手の確認。それから、迎撃のポイントを設定。相手をこの家に入れないように――最低でも、2階に上げないように対処法を考えなくてはならない。
 だけど、はっきりいって、この家を一人で守るのは不可能だ。さっきみたいに閃光弾での目くらましと、マシンガンでの攻撃となると、身動きがとれなくなる。その隙に、ほかの人に動かれたら……それで終わりだ。
「となると、やっぱり……」
 そのまま階段を下りて、玄関に続く廊下を見渡す。
 初めて見たときには、奇異に感じたこの構造。階段を廊下の一番奥に、しかも、玄関とは反対向きに造るなんて、動線に無駄があるんじゃないか。そう思った。
 でも、防衛側に視点を置くと、実に守りやすい配置だ。階段を下りたところに陣を敷けば、玄関からいくつかの部屋の扉まで、一望の下に出来る。
 最終防衛ラインにするための配置。ここはまさに、そういうにふさわしい場所だ。問題は、壁抜きをやられると全てがひっくり返されることと……この配置故に、これ以上の撤退が出来ないことぐらい。
 でも、それを今考えても仕方がない。後は、相手の姿が確認出来れば……
 部屋の1つに入り、中を確認する。
 大きめの窓があるリビングだけど、あらゆる家具が、窓からの動線を邪魔している。窓にも、ブラインド代わりに蔦を這わせたフェンスが留めてある。ちらっ、と見た感じでは、他の部屋もそうだった。
 とりあえず、外を確認して見る。だけど、当然と言っていいのか、相手の姿は見えない。
「レイジングハート、監視カメラの映像を見れる?」
『I try』
 ……でも、いくらレイジングハートでも、こっちの機器に接続できるのかな?
『Since it's not a registered user, it cannot access. It's necessary to hack more』
 ……出来るんだ。でも、
「……さすがにハッキングは問題だよね」
『I think so』
 今は、いつ襲撃されてもおかしくないような状況だ。そんな神経が張り詰めている状況でハッキングなんてやったら、こちらが襲撃者と勘違いされかねない。
 ゴートさんに頼めばいいのかもしれないけど、「コムリンクがない」という事にしている以上、下手な頼み方をすれば、また疑われる事になる。……相変わらず、コムリンクがなんなのかは知らないけど。
 となると、やはり……
「エリアサーチ、頼める?」
『Area Search』
 レイジングハートの声と共に、私の周りにサーチャーが形成される。だけど、壁を越える事は出来ないから、窓を開けないといけない。
「出来る限り、見つからないようにしないとね」
『All right』
 もし見つかって壊されたとしたら、監視が難しくなる。そうならないように、注意しなくてはならない。
 少し窓を開けてあげると、いつもは勢い良く飛び出して行くサーチャーも、今回ばかりは地面を這うように飛んでいく。後は相手を見つけ出し、監視を続けて襲撃に備えればいい。
 とは言え、サーチャーが見つける前に来られては、元も子もない。隠密性を重視した以上、たとえ近くにいたとしても、時間はそれなりにかかる。
 いつ襲われるか判らない恐怖と緊張。それに支配されたまま、私は階段に腰を下ろした。
71Lyrical in the Shadow(7/9):2008/10/05(日) 00:05:34 ID:X4G0kYKn
『Area Search successful』
 そんな声が響いたのは、数十分が経った後だった。
『Coordinates are specific. Distance calculated』
 派手に動かさなかった分、ずいぶんと時間がかかってしまった。だけど、その間に襲撃がなかったのは幸いだ。これならまだ、いくらでも手が打てる。
『Calculation was completed. They are in north-northwest and 200m』
「200メートルか……」
 近いとはいえないけど、決して遠いともいえない距離。その気になれば、いつでも攻撃に出れる距離だ。
「レイジングハート、映像を出して。
 それと、空いてるサーチャーを家の周りに配置。庇とかの影に隠れるようにね」
『All right.』
 目の前に展開されたディスプレイに映し出されたのは、6人の人影。先ほどの二人に加え、増援の4人。内一人は、車の中で待機中。とは言え……かなり厳しい。
 一瞬、打って出ようかとも思ったけど、即座に打ち消した。あの数だと、私が得意とする足を止めての撃ち合いなんて、出来るとは思えない。こちらが足を止めた瞬間に、他の人が動くだろう。そうなれば……終わりだ。
 ディバインバスターなら、うまくすれば一撃だろうけど、途中には幾つかの障害物(主に樹)がある。それらを撃ち抜けば有利になるだろうけど、おそらく管理外であるこの世界で、そこまで問題を大きくして良いのか。……多分、だめだろう。
 となるとやはり、ここでの迎撃という事に
 不意に、サーチャーからの映像が途切れた。
 ――まずい。気付かれた。
「レイジングハート、映像を他のサーチャーからの物に」
 即座に、家の周囲に配置したサーチャーからの映像に切り替わる。庇の下、蔦の陰、プランターの隙間。それらの映像の中から、彼らの影を探す。
 ――いた。樹に隠れながら、こっちに近づいている。
 でも、この家の周りには隠れられるような物がない。そして構造上、迅速に行える突入地点は限定される。
 襲撃者の一人が、「仕方がない」とでも言うように首を振り、玄関を指差す。そして、扉の脇に2人、離れて3人、いつでも突入できるように構える。
 だけどそれはこちらも同じ。バスターモードのレイジングハートを左手に構え、右手を添える。
「レイジングハート、カードリッジロード」
『All right. Load cartridge』
 ガガンッ、という撃発と共に、体の中で、魔力が爆発しそうなくらいあふれだすのが分かる。その魔力に指向性を与え、形を持つ力として、発動のための呪文を唱える。
「ディバイィィィン……」
 扉の脇の一人が、手榴弾を取り出す。光が収束し、いつでも撃てる様になる。扉に手をかける。そして……
「バスターーーーッ!!」
 轟音と共に、閃光を解き放つ! それは廊下を駆け抜け、周りの壁ごと扉を撃ち抜き、その先にいた襲撃者を飲み込む!
 普通なら、この一撃で終わるだろう。だけど、油断するわけにはいかない。なにが起こるか分からな
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
 ヴィヴィオッ?!
 だけど、そちらに向かう事が出来なかった。目の前に転がってきた手榴弾が、それを許さなかった。
「くっ!」
 とっさにラウンドシールドを張る。そして、
 轟音と焦熱が、辺りを支配した。
72名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 00:21:05 ID:VMOxrsxV
支援
73名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 00:35:20 ID:LpgQb8bf
支援支援
74名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 01:01:20 ID:5oCymMXm
投下間隔は2〜3分空けないとすぐ規制になると、前スレでも書いてあるのに……
テンプレに加えた方が良いのかな。知らない職人が多すぎる。
75Lyrical in the Shadow(8/9):代理投下:2008/10/05(日) 01:04:02 ID:A8mZZZDh
防御力には自信がある。マシンガンの射撃にも、オートガードだけで耐えれた。それを今度は、より強固なラウンドシールドで行ったんだ。絶対に破られるはずがない。そう思っていた。
 事実、ラウンドシールドは健在で、私もダメージはない。少なくとも、肉体的には。
 心が折れそうになった。強大な音に。肌を焼く熱に。腕に伝わった衝撃に。そして……目の前に広がる惨状に。
 それは、ただ破壊だけを齎した。そこにある物を焼き、薙ぎ払い、砕いていく。
 壁も、床も、無事なところなんてなかった。黒く焦げ、打ち砕かれ、それとして機能しなくなっていた。
 もし、ラウンドシールドを使っていなかったら。もし、なにも考えずにヴィヴィオの元に向かっていたら。果たして私は……生きていたのだろうか?
 あまりにも純粋な殺意に、私は恐怖した。それは、この世界で初めて銃撃を受けたときよりも、防御魔法が強固だった分、そして、受けた衝撃が大きかった分、より大きかった。
 私の魔法も、相手には同じように恐怖を与えたのかもしれない。だけど、倒す気で放った魔法と、斃す気で投げられた手榴弾とでは、使い手に差が出たのだろうか? 相手は冷静に動き、私は動揺してしまっている。
 人を殺せるっていうのは、そんなに強い事なの?
 そんな思いが、私の中を駆け巡る。それは鎖となって、身体を縛り付けていく。
 だけど、私の状況など無視して事態は動く。
 マシンガンによる射撃。それが容赦なく、私の足を止める。
 それはあまりにも冷徹で、酷薄で。破られる事はないと分かっていても、一度恐怖に蝕まれた心は、身体を動かすことを拒否して……
(それがスタイルなら、貫けばいい。何処までもな)
 不意に、ゴートさんの言葉が浮かぶ。私を「甘い」と評しながら、それを認めてくれた。
 言われたときは、よく解らなかった。だけど、今はなんとなく解る。
 この世界では通用しないのかもしれない。夢を見すぎているのかもしれない。だけど、誰も殺さずに制圧する。それが私のやり方(スタイル)なんだ。だから……
 それを貫き通すっ!
 だいたい、そんな強さを手に入れて、誰が喜んでくれるのだろう? フェイトちゃんも、はやてちゃんも、ユーノ君も、他のみんなも、悲しむか怒るか、どちらかに決まっている。
 それに、ヴィヴィオ。そんな血塗られた手で抱きしめて、喜んでくれるわけがない。私だって、心が安らぐわけがない。そんなのは……絶対に嫌だっ!
 落ちかけた視線を、前に向ける。そこには、仲間の援護を受けながら、前進してくる襲撃者の姿が。
 同時に、シールドから伝わる違和感。少しずつだけど……弱まってる?!
 ……このぉっ!
「アクセルシューター!」
『Accel Shooter』
 レイジングハートの声と共に、カードリッジを2発ロード。シールドを強化しながら、限界に近い20個の魔力球を浮かべる。それを、
「シュートッ!」
 解き放つ!
 障害を避け、銃弾を躱し、狙い通りに命中
 不意に、魔力が散らされたのが分かった。
 AMF……じゃない。魔力の結合が邪魔させるんじゃなく、形成された魔法そのものが破壊される感じ。むしろ、バリアブレイクのような……
 それを攻撃魔法にも使えるっていうの?!
 私たちからすれば、あまりにも常識はずれだ。でも、相手はそれが出来る。多分、シールドからくる違和感も、それの応用……もしくは、正規の使い方か。
 幸いなのは、一撃で壊れないこと。魔力を注ぎ込み続ければ、シールドを維持する事は出来る。攻撃でも、少しずつダメージを与える事は出来る。実際、相手はダメージが蓄積しているようで、狙いが甘くなってきている。だけど……
 さっきのヴィヴィオの悲鳴。なにがあったのかは解らないけど、こんなところで足止めされてる場合じゃないのに! それなのに、持久戦を強いられるなんて!
 こうなったら……攻撃に全てを注ぎ込む!
 その分、シールドの維持に問題が出る。弱くなっても強化出来ないわけだから、下手をすれば砕かれる可能性もある。だけど、このまま持久戦をやるぐらいなら、捨て身でも早急に終わらせる!
[なのはママ!]
76名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 01:06:26 ID:VMOxrsxV
支援
77Lyrical in the Shadow(9/9):代理投下:2008/10/05(日) 01:06:58 ID:A8mZZZDh
突然、ヴィヴィオからの念話がつながる。
[ヴィヴィオ! 大丈夫?!]
[うん! ……なんかよく解らないけど、大丈夫になったから!]
 ……本当によく解ってないんだろうけど、ヴィヴィオに迫っていた脅威は去った、ということか。
 そのとき、ふと気付いた。襲撃者の一人が、なぜかひどく慌てている事を。
[だからママ、そっちの手伝いに……]
[大丈夫だよ、ヴィヴィオ]
 可能な限り、優しく伝える。だけど……逆転のカードを手に入れてしまったみたいで、むしろ、嬉しささえこもってしまったかもしれない。
[相手が強いから、ちょっと時間がかかるかもしれないけど]
「アクセルシューター」
 カードリッジをロード。今度は……さっきよりも多い24個。
[怪我1つなく戻るから]
「シュートッ!」
 再び、魔力球を解き放つ!しかも、今度はさっきと違い、前進してきた四人には牽制程度。そのほとんどを……さっき慌てた人にぶつける!
 多分、彼がリーダーだ。そして、どうやったかは知らないけど、2階に侵入させた仲間との挟み撃ちをしようとした。だけど、なぜか解らないけど、それが失敗。そのせいで慌ててしまったのだろう。
 作戦が失敗してしまったのは、可哀想に思う。だけど、だからと言って手加減する言われはない。こっちからすれば、これはチャンスなんだ。生かさないわけにはいかない。
 さっきと同じように、威力が弱まっていく。だけど、牽制程度ならともかく、仕留めるために襲い掛かったそれを、完全に殺しきれるとは思えない。いや、出来るはずがない!
 魔力球が相手に襲い掛かる。それが当たった瞬間、呻き声と共に体が傾ぎ……踏み止まる! 倒せなかった?!
 冷や汗が背中を伝う。カードリッジは、装填しただけ使ってしまっている。マガジンを交換しないと、次がない。
 襲撃者も、リーダーはともかく、他の人の行動速度が尋常じゃない。何処にいても全員が狙われると分かったからか、前進していた人も扉を盾にして止まっているし、後ろの人も移動していない。それが唯一の救いともいうべきか。
 カードリッジを装填している間、シールドを維持し続ける事が出来るか……相手の魔法打消し能力との勝負。どの道、装填しないことにはこちらが不利になる。
 相手の能力がシールドを弱め、銃弾がそれを削っていく。衝撃が腕を震わせ、騒音が耳を刺激する。その中を私は、出来る限りの速さで使い切ったマガジンを捨て、新たなマガジンを装填。そして
 一陣の風が、全てを薙ぎ倒した。
78リリカルルーニー ◇fhLddwC5FM :代理投下:2008/10/05(日) 01:09:40 ID:A8mZZZDh
以上です。

ストリートの警句は、実は、富士見版の方が好きです。リズムがよくて。でも、4版とのクロスだから、仕方がないのさ(涙)
しかし、状況説明と心情語りだけで、ここまで長くなってしまうなんて思ってもいませんでした。もっと短い予定だったんですけどね(苦笑)

支援してくださった方、ありがとうございました。
それでは、また。

(>)しかし、何で非殺にこだわるかね?
 原罪(SIN)のない俺たちには、誰を殺ろうが、関係のないことだろ?
(>)アクシズ・ムンディ

(>)スタイルとはそういうものだ。どんな物であれ、貫くことが重要なのだよ。
 とは言え、19にもなって「少女」と言うのは……
 おや? リアルで誰か来たようだ。まったく、面倒な……
(>)イーサノート
79名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 01:11:36 ID:A8mZZZDh
代理投下終了、これより帰還する
80名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 01:20:33 ID:d5p0YEJj
>>54
スカ博士が信用してる一人って本当にウーノなのかな?
なんかクアットロとか別のナンバーズな気もする。誰かは名言してないし。
次回に期待。後ルーテシアとセインがいい感じ。
81名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 05:33:50 ID:Xnox9A49
>>80
ウーノはスカリエッティの命の危険が迫れば作戦の中止をしそうだけど、
クアットロはあくまで作戦の続行を選択すると思う。

スカリエッティとしては、どちらを信頼するかといえばクアットロでしょ。
82名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 09:42:43 ID:dyfUJRzi
セッテの事だろ、流れ的に多分
トーレ、自分に話しかけてどうする。そこはディードだろう
ちまちまミスが見つかるな。誤字脱字も
83名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 10:17:47 ID:d5p0YEJj
時間があったらwiki修正するから箇所の指摘頼む。
84名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 10:32:10 ID:XaLqrJCM
>>78
GJ!
機関銃や手榴弾の洗礼を受けるなのはさんに萌えたww
シャドウラン世界の魔法がお出ましだ!
85一尉:2008/10/05(日) 13:56:59 ID:1OQFwe3W
機関銃的ななのはさん支援。
86THE OPERATION LYRICAL:2008/10/05(日) 15:40:19 ID:8KDJFKHb
<<こちらオメガ11、1615頃に投下をしたい。よろしいか?>>
87名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 15:46:40 ID:bYOEry9W
OK、むしろ今からでも良いくらいだぜ。
88名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 16:08:39 ID:LpgQb8bf
よし、支援!
89THE OPERATION LYRICAL:2008/10/05(日) 16:15:21 ID:8KDJFKHb
<<支援感謝。それでは投下する。イジェークト!>>

ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL


第25話 作戦開始一時間前


ユージア大陸――メビウス1の、元の世界の地名である。
その大陸東部にある大都市ロスカナスに、一人の長身の男が降り立った。名を、ビンセント・ハーリングと呼ぶ。そう、彼こそが世界でも屈指の
大国、オーシア連邦の第四十八代大統領である。
ハーリングが戦争が終結してまだ間もないこの地に降り立ったのは、諸外国に提案していた先進国の首脳たちによる、国際会談への同意を得るため
だ。すでに海の向こう側の大国ユークトバニアには同意を得られているため、ハーリングは次にユージア大陸大陸最大の国家FCUとの会談に臨んで
いた。
「ようこそいらっしゃいました、ハーリング大統領」
ロスカナス市内のホテルにて、ハーリングを出迎えたのはFCUの大統領であるロバート・シンクレア。かつての大陸戦争にて、強大な軍事大国エル
ジアに対抗するため結成されたISAF(独立国家連合軍)の生みの親とも言える人物だ。
「これはシンクレア大統領、ご丁寧に――戦争も終わって間もないでしょうに、もうユージア大陸は復興しつつありますな」
ひとまず握手をしてハーリングは席に着き、このホテルに至るまで自分の眼で直に見てきた街や市民の様子を話す。彼の言うとおり、戦火に巻き込
まれたはずの大陸の各都市では、急ピッチで復興作業が進み、人々の表情は明るい。
もっとも、それは敗戦国であるエルジアから多額の賠償金と領土分割から得られた富によるものが大きいのだが――それを指摘したところで、今更
どうにかなる問題ではない。融和主義で知られるハーリングだが、理想だけで政治はやれないことは承知している。
「ええ。エルジアでもようやく、暫定政権成立の目処が立ちました。ユージア大陸はこれから、平和への道を歩むでしょう。ただ――」
ハーリングの思考を見越してか、シンクレアはエルジアのことも口にした。しかし、どうにも歯切れが悪い。その理由を、ハーリングはすでに知っ
ていた。
「ただ――エルジア残党軍の動きが、最近活発になりつつあると?」
「お見通しのようですな。その通りです」
隠しても無駄なことだとシンクレアは頷き、ハーリングの言葉を肯定する。
敗戦したエルジアであったが、依然として降伏に従わない軍の残存勢力は少なくない。ユージア大陸各地ではISAFによる掃討作戦が続いていた。
「……彼が、メビウス1がいれば、残党軍などあっという間なのですが」
シンクレアが独り言のように呟く。先の戦争の英雄は、すでにもう数ヶ月もの間、姿を消している。ISAF空軍による捜索は、すでに打ち切られてい
た。彼の所属する第一一八戦術戦闘飛行隊では、同僚たちが訓練と称して自発的に捜索を行っているが、それすらも徐々に諦めの声が出ている。
90THE OPERATION LYRICAL:2008/10/05(日) 16:17:22 ID:8KDJFKHb
「心中お察しします、シンクレア大統領――それは、そうと。我が国の偵察衛星が、気になるものを撮影しまして」
ハーリングは傍らにいた秘書官のトミーに命じて、皮製の鞄から一枚の衛星写真を取り出させた。
「旧エルジアの首都ファーバンティ南方、トゥインクル諸島近辺の映像です。すでにお気づきだとは思いますが――」
「あぁ……これですか」
シンクレアは衛星写真を手に取り、困ったような表情を浮かべた。
本来なら、そこにはかつてエルジアが開発した最終兵器"メガリス"がある。すでにメビウス1に撃破された後なので、現在は残骸のみがそこに横た
わっているはずなのだが――衛星写真には、メガリスの姿はなかった。
「もちろん、ユージア各国はすでにこの情報を知っています。国内で無用な混乱を呼ぶとの懸念から、公開はされていませんが――」
「衛星ビジネスが繁盛する現代です。国民に知れ渡るのは、時間の問題でしょう……ですが、それ以上に気になることが」
ハーリングはさらに、数枚の書類を取り出す。それらを受け取ったシンクレアは文面を見て、わずかに驚きの表情を見せた。
「ハーリング大統領、これは……」
「我が国だけではありません。ユークトバニア、ベルカ、そして貴国でも……原因は不明ですが、各地で戦闘機が多数、突然消滅する事件。このメ
ガリスが消えた時期と、ほぼ一致するのです」
「――まるで、SF小説のようですな」
書類をテーブルに手放し、シンクレアは言った。
――SF小説、か。彼らの言っていたことは、案外的を得ているのかもしれないな。
ハーリングはシンクレアの言葉で、自国で先進的な空間理論や時間跳躍などの研究を行っている――はっきり言えば、学会でも異端児扱いされてい
る科学者たちの意見を思い出す。
彼ら曰く、ユージア大陸に小惑星"ユリシーズ"が落ちて、その後メガリスによる隕石の人為的な落着と度重なる巨大な衝撃のせいで、地球の磁場が
乱れてしまったという。各国で消滅した戦闘機は、磁場の乱れによって起きた空間の裂け目に飲み込まれてしまったのだ、とも。
馬鹿馬鹿しい、と一笑して片付けてもよかったが――ハーリングには、それが正解なような気がしてならなかった。

時空を飛び越えて、ミッドチルダ、次元航行航空母艦"アースラ"のブリーフィングルーム。
いつか見た光景だな、とメビウス1は、モニターに映るメガリスの全体図を見て思った。モニターの傍らでは、空中管制を担当するゴーストアイと
六課の部隊長、はやてが作戦の解説を行っていた。
「さて、メビウス1の情報を元に、メガリスの全体図をここに用意した。偵察機から送られてきた画像データは、電波障害がひどく使い物にならな
かった……八神二佐、作戦の全容を」
「はいはいっとな」
ゴーストアイから端末の操作をもらい、はやては改まって、口を開く。
「――さて、今更多くを語ることはない。スカリエッティが、どういう訳か分からんけど、メビウスさんと13の世界の最終兵器メガリスを起動さ
せよった。先のクラナガンへの攻撃でもあったように、これは弾道ミサイルを打ち上げて、宇宙空間の隕石を落とすもんや。この恐ろしい悪魔の兵
器を破壊するには……」
はやてが端末を操作すると、メガリスを上面から見た全体図に、矢印が加わっていく。矢印は四本、いずれも、メガリスの排気ダクトに侵入するよ
うな形で描かれているのが特徴だ。
91名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 16:20:17 ID:Dxf87i1/
支援
92名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 16:22:45 ID:LpgQb8bf
支援私怨
93THE OPERATION LYRICAL:2008/10/05(日) 16:24:21 ID:8KDJFKHb
「まず、ダクト内部の三つのジュネレーターを破壊する。そうすれば中央の廃熱口が開きメガリス内部にある大型弾道ミサイルへの道が切り開かれ
るやけど……今回、それは無しや」
中央に加えられていた矢印が消える。代わりに姿を現すのは、突入部隊と表記された友軍ヘリのアイコンだ。
「ジュネレーターを全て破壊すれば、停電が起きてサブコントロールルームへの扉が開く。今回は、このサブコントロールルームから直接、メガリ
スのメインコンピュータに接続し、起動を停止させるんや。停止はリインがやる」
「はいです!」
はやての肩に乗っていた、一見小さな妖精に見えるユニゾンデバイス、リインフォースが元気よく手を上げた。以前のリニアレール鉄道の暴走でも
彼女は列車のメインコンピュータにアクセスし、停止命令を出して列車の暴走を止めた実績があった。
「もちろん、リイン一人で突入なんて真似はせえへんよ。護衛にうちの新人たち、それから、地上本部から応援に来てもらった、ベルツ二尉のB部
隊が就く。よろしいかな?」
「了解です……お願いします、ベルツ二尉」
六課の新人たちのまとめ役、ティアナは頷き、同じくブリーフィングを受けていたベルツに向かって声をかけた。ベルツは「こちらこそ」とラフな
敬礼で答えた。
「しかし、メガリス本体にもとんでもない対空火器があるんだろう?」
「たぶん戦闘機も出てくるだろうな……」
「まぁ、俺たちが相手するんだろうけど」
ベルツと同じく、地上本部より応援に来た戦闘機隊、アヴァランチ、ウィンドホバー、スカイキッドの三人が呟く。はやては「当然」と頷き、それ
に対する解説を始めた。
「その通り、メガリス本体にもとんでもない数の対空火器があるはず。戦闘機も迎撃にあがってくるやろうから、地上本部戦闘機隊、それにメビウ
スさんと13には、迎撃機の排除をお願いしたい。対空火器は――戦闘機に比べて小さい、六課の魔導師が潰す。ええな、三人とも?」
はやては視線を六課の空戦魔導師たち、フェイト、シグナム、ヴィータに向けた。彼女たちは揃って頷く。
本来ならはやて自身も加わりたいのだが、隕石迎撃の際に怒りに任せた広域攻撃魔法を行ったため、肉体への負担が予想以上に大きかった。これで
出撃するのは、かえって迷惑だろう。
その他、現地の天候や緊急時の通信など細かい規定を解説し、ゴーストアイが最後に締め括る。
「メガリス停止後、全員の帰還を持って、作戦を終了する。いいか、必ず帰還せよ。それ以外は、許可しない――以上だ」
94THE OPERATION LYRICAL:2008/10/05(日) 16:26:40 ID:8KDJFKHb
「妙なこともあるものだな」
ブリーフィング終了後の、"アースラ"格納庫。整備点検を受けている戦闘機の群れを眺めていた黄色の13が、いきなり呟いた。
「妙って……何がだ」
適当に資材の上に腰を下ろし、黄色の13と同じく戦闘機を眺めていたメビウス1が、彼の呟きに反応した。
黄色の13はわずかに苦笑いを浮かべ、「いや」と首を振り、
「まさか、貴様と編隊を組んで飛ぶ羽目になるとはな」
と言った。確かに、ユージア大陸にいた頃は想像もしなかっただろう。最強のライバルと手を組み、世界の危機を救うために出撃を待っている。
「俺だって思いもしなかったさ。ところで13、その……なんだ、それは」
「これか?」
メビウス1は黄色の13が着ている飛行服、その腹部にいかにも不恰好な形で巻きつけられた、妙な白い布を目をやった。
「千人針ってやつだ。武運長久と無事を祈って、ナンバーズの奴らが作ってくれた」
よく見ると、布には赤い結び目が幾つもあった。その数は確かに、千くらいありそうだ。"アースラ"に乗艦する直前、目の下に隈を作ったチンク
たちが、わざわざ彼の元に届けに来たのだ。
「ははぁ……それはそれは、いい物をもらったな」
納得したようにメビウス1は頷いてみせた。
しばらく二人は無言のまま戦闘機を眺めていたが、突然黄色の13が思い出したように、飛行服の懐を探り始めた。
出てきたのは、封が閉じられたばかりの手紙。黄色の13はそれを、メビウス1に突き出す。
「……なんだこれ」
「お前に頼みがある。サンサルバジオンの酒場にいる少年に、これを渡して欲しい」
黄色の13は至って真剣な表情。これを断れるのは、せいぜい悪魔か鬼神くらいなものだろう。
だが、メビウス1は差し出された手紙を、黄色の13に突き返した。
「13、知ってるか? それは死亡フラグって言うんだ。手紙なら自分で渡せ、もしくはポストにでも入れて来い」
「そう言わずに、頼む」
突き返された手紙を、なおも黄色の13は差し出す。メビウス1は困ったような表情を浮かべ、渋々手紙を受け取った。
「……今回だけだぞ。それから、撃墜されたら承知しないからな」
「恩に着る」
礼を言って、黄色の13は立ち上がり、愛機であるSu-37に向かっていった。そう言えば、パイロットはそろそろコクピットに入ってスタンバイに
入る時間だった。
俺も行くか、と愛機のF-22に向かおうとして、メビウス1はふと、後ろから誰かの視線を感じて振り返る。
「……なのは?」
95THE OPERATION LYRICAL:2008/10/05(日) 16:28:43 ID:8KDJFKHb
いつからだろうか。彼が自分のことを"高町"ではなく、"なのは"と呼ぶようになったのは。
それが彼の自分をどう思っているかの表れだと考えるのは、都合がよすぎだろうか――そんなことを思いながら、なのははメビウス1の元を訪ねて
いた。
「よぅ――身体は、大丈夫なのか?」
「はい、普通に生活する分には」
言ってから、なのはは苦笑いを浮かべた。ミッドチルダどころか、管理世界の未来を賭けた今回の作戦に、彼女は参加できなかった。"ゆりかご"戦以
来、八パーセントほど総合魔力量は低下し、身体も戦闘に出るにはまだ万全ではないからだ。
「……まあ、色々思うことはあるだろうけどな、今回は俺たちに任せてくれ」
彼女の思考を見越してか、メビウス1は言葉を放ち、「安心しろ」と彼女の肩を叩き、F-22に向かおうとする。
その彼の肩を、なのはは掴んでいた。
「……なのは、どうした?」
あぁ、いつもそうだ、となのはは思った。
命懸け、それも激戦を前にしているというのに、このISAF空軍屈指のエースは、いつも普通の表情をしている。今だって、わざわざ出撃前に訪ねてきた、
そして呼び止めたというのに、ごく普通に、怪訝な表情を浮かべるだけだった。
それが、なのはは怖かった。「ビビッた後に何をするかがエースか否かの分かれ道」と彼は以前言ったけど、ひょっとしてメビウス1はビビッてすらい
ないのではないだろうか。
自分と同じ"エース"であるはずの彼が、手の届かない場所に行ってしまう――そんな気がして、ならなかった。
「戻ってきてください、必ず」
かろうじて、口に出せた言葉はただそれだけ。
メビウス1は彼女の言葉に何か深いものを感じたのか、立ち止まり――しかし、いつものように笑みを浮かべた。
「あぁ、必ずな」
それだけ言って、彼はF-22のコクピットに向かっていく。遠くなっていくその背中を、取り残されたなのははずっと眺めていた。
96THE OPERATION LYRICAL:2008/10/05(日) 16:30:45 ID:8KDJFKHb
それよりほんの少し後、戦闘機隊はメビウス1のF-22、黄色の13のSu-37を先頭に"アースラ"より発艦。編隊を組んで、メガリスへと向かっていた。
「――なんて風景なんだ」
F/A-18Fのパイロットであるアヴァランチが、眼下の光景を目にして呻くように言った。
メガリスはクラナガンより北方1500キロ、永久凍土の地にあった。ゆえに、眼下に広がるのは氷に閉じられた無音の世界。生物が存在することを
許さない強烈な寒気が支配する、死の土地である。
「まるで、スカリエッティの心を映す鏡のようだな」
アヴァランチに続いて言葉を漏らすのは、F-16Cを駆るウィンドホバー。"人間は殺し合いをやめられない生き物"と断言したあの狂気の科学者は、おそ
らく人を信じる、という事など考えまい。その心は、目の前の氷の地の如く、寒く冷たいはずだ。
「くそ……通りでアルカンシェルをぶち込めないはずだ。氷が崩れて海面が上がっちまう」
Mir-2000のコクピットで、スカイキッドが言った。
確かに、いくらメガリスと言えど、管理局の誇る最大の威力を持つアルカンシェルなら、一撃で粉砕できるかもしれない。
だが、そんなことをすればこの永久凍土の氷が海に崩れ落ち、海面が一気に上昇してしまう。ミッドチルダの土地の沿岸部は、あっという間に水没して
しまうだろう。
「要するに、私たちがやるしかないってことだね」
その辺りの事情を察して、戦闘機隊と編隊飛行するフェイトが呟いた。
「なのはの分も、働かないとな」
「ここで全て終わらせよう」
同じく編隊飛行をするヴィータ、シグナムが続く。彼女たちは戦闘機より小さいことを生かして、敵の対空砲火の懐に潜り込み、順次鎮圧していくのが
任務だ。
「……見えてきたぞ」
「ああ」
Su-37のコクピットで黄色の13が言って、F-22を駆るメビウス1が頷く。
はるか遠く、氷の土地の向こうに見えた、明らかに周囲と異なる人工物。その大きさはとてつもなく、レーダーに表示される数値を疑ってしまうほどだ。
「あんなものを、エルジアは開発していたのか……」
黄色の13が呟くように言ったが、その言葉には明らかに怒りが混じっていた。
エルジアの首都ファーバンティにてメビウス1に撃墜され、それからこの世界に飛ばされた彼は、メガリスの存在を知る由がない。ゆえに、彼は自分が
信じた祖国が、こんな悪魔の兵器を開発していたことが、はらわたが煮えくり返るほどの怒りを覚えた。
同時に、そんな代物を起動させたスカリエッティに協力していた自分自身にも、強い憤りを覚えた。
「――13、俺たちであれを壊そう。元はといえば、メガリスは俺たちの世界の兵器だ」
「ああ、もちろんだ」
メビウス1の言葉に、黄色の13は力強く頷いた。
隕石を降り注がせるこの悪魔の兵器を、なんとしても止めなくてはならない。メガリスを生み出した世界の住人として、そして隕石によって家族も恋人
も奪われた者として――その思いが、メビウス1の今の原動力だった。
97THE OPERATION LYRICAL:2008/10/05(日) 16:32:49 ID:8KDJFKHb
「こちらゴーストアイ、各機聞け」
その時、突然ゴーストアイから通信が入った。
まだ敵機はレーダーに映っておらず、別に何かが起きた訳ではない。珍しく、本来作戦には不要な思いを伝えるために、彼は通信を入れたのだ。
「作戦前に、全員に伝えたいことが、こちらとロングアーチからある――八神二佐、いいな?」
「オッケー、準備は万全やで」
「主?」
「はやて? いったい何を……」
いきなり通信にはやての声が混じり、シグナムとヴィータが怪訝な表情を浮かべた。そんな二人を無視する形で、ゴーストアイとはやてからの通信は続く。
「一時間後、諸君らは史上最も重要な作戦に参加する」
「スカリエッティを、私らの世界に混沌をもたらした敵を打ち倒す作戦となるで」
「我々は出身世界も、所属も異なるが、我々は共に闘い、今日まで生きてきた」
「信じるものの為に、自由の為に戦い抜いてきたんや」
「今日この日、我々は最後の戦いに結集する」
「私らの世界を解放し、人々に、友人に、そして家族に自由を取り戻すために」
「我々の勝利は、ミッドチルダだけでなく、各管理世界の、新たなる繁栄の時代を告げる先駆けとなるだろう」
そこまで言って、メビウス1はとうとう噴き出してしまった。
ゴーストアイとはやてが交互に放つ言葉が、かつて元の世界でメガリス破壊のために出撃する直前に司令官の行った演説と、ほとんどそっくりだった。
奇妙な偶然だったが、むしろ幸先がいい、とメビウス1は考えた。あの時は、メガリスの破壊に成功した。ならば、同じように今回も――。
「勝利は我々のものである!」
二人の演説に、メビウス1は割って入った。ゴーストアイとはやては一瞬戸惑ったが、すぐにそれぞれの持ち場で不敵な笑みを浮かべ、続く。
「取り戻そうや、人々に平和を」
「勝ち取るぞ、我々の自由と未来を」
「世界は全ての人のもんや」
そこまで言って、二人は呼吸を揃えて、高々と宣言する。

『さあ諸君、砕けた空――ソラノカケラを取り戻そう!』

「――よかろう、来たまえ」
メガリス内部、演説を傍受していたスカリエッティが、相変わらず狂人のような笑みを浮かべていた。

メガリス攻略作戦、開始まで残り一時間。
98THE OPERATION LYRICAL:2008/10/05(日) 16:35:06 ID:8KDJFKHb
投下終了です。・・・短いですね(ぇ
演説はAC04最終ステージ前、機体の選択画面で流れるものを参照にしました。
推奨BGMは「Mobius」で。
それでは、次回より今度こそメガリス攻略戦です。
99名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/05(日) 16:35:24 ID:djv/i9za
支援
100名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/05(日) 16:47:27 ID:djv/i9za
GJ!!
はやてとゴーストアイがカッコイイ!!
最後のソラノカケラは04屈指の名言なので、
出てきて良かった。
後大統領が出てきたのは吹いたぜww
次回はいよいよ最終決戦どんな戦いになるか楽しみにしてます。
101名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 16:50:57 ID:kwiehQv8
何故かシャンデリアを思い出したんだけど・・・
13のシャムロックフラグですね、わかります。
102リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/05(日) 17:26:16 ID:LpgQb8bf
>>98
GJです!
はやてとゴーストアイの演説、格好良すぎだろ……箱○と6買おうかな……
次回のメガリス攻略戦、期待しながら待ってます!


後、私も21:00頃に投下予約をお願いします。
103名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 18:27:23 ID:NxaILTyZ
>>102
ダンボールに入って(ry
104名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 19:22:14 ID:lP1VoZIB
>>98
投下乙でした!!

それにしてもメビウスがなのはさんへのフラグたてまくってますな…
どう転ぶかは最後まで分かりませんが、司書長涙目だなw
105名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 19:34:57 ID:3ffKLFUA
>>98
GJです。
なのはさんの乙女な部分が出ていて良いですねえ……。
それに、かつてのライバルとの共闘のジェットコースターを登っているのも燃えます。

>>102
了解
106名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 20:12:58 ID:YbhSVLOJ
やっぱり04の最後の出撃前の演説はいいよなあ

ニコニコで和訳した字幕を見た時は思わず涙ぐんじゃったよ
107リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/05(日) 21:02:07 ID:LpgQb8bf
それでは第十話をそろそろ投下したいと思います
108リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/05(日) 21:03:40 ID:LpgQb8bf

「ティアナ・ランスターは凡人である」

誰も口には出さないが、それは誰よりもティアナ自身が自覚している事だった。
初出動も特に失敗した訳ではないが、取り分け成功した訳でもない。
日々の過酷な基礎訓練を続けていても、実力を得た実感は持てなかった。
このままでは、周りの優秀な仲間達をぼんやりと眺めながら一人取り残される。
このままでは、兄が叶えられなかった夢を代わりに遂げる事が出来なくなる。
ティアナがそんな劣等感や焦燥を強く感じ始めた頃、その人はやってきた。

高町隊長と八神部隊長の出身世界から迷い込んできた人。
魔力を持たず、素性もよく分からないのに、信用しても良いと思ってしまう不思議な人。
バンダナの下に伺える精悍な目付きが印象的な人。
自分には無い、信じるに値する「何か」を持つ人。
自分と同じ射撃型でありながら、シグナム副隊長に果敢にも接近戦を挑み、その実力を認めさせた人。

その人の名前は、ソリッド・スネーク。

第十話「憧憬」

ティアナはゆっくりと自分に向かってくる拳を、体を捻らせて回避する。
それに合わせ、スバル目がけて確かめるようにゆっくりと腕を振るい、銃口を向ける。
録画映像をスローモーション再生させたようなそれがしばらくの間続いた所で、ティアナが声を上げた。

「よし。……スバル、お願い」

了解、とスバルが威勢の良い返事をして構える。
全く同じような動きで、それでいて先程とは比べ物にならない速さで拳を繰り出すスバル。
空気を切り裂くそれは、正に閃光。
耳の中を、風が生み出す轟音が突き抜ける。
体を思い切り捻らせてなんとか回避するティアナだが、体勢を崩した所為でその後が続かない。
バランスを失って尻餅を付いてしまう。

「ご、ごめんティア!」
「い、つつ…………大丈夫。……あれを避けられなければ実戦じゃ通用しないわね」

今の自分では避けるので精一杯だ。
立ち上がりつつ時計を確認。

「……そろそろ早朝訓練か、この辺にしときましょ」
「うん! 今日も頑張ろーねっ!」

快活な返事と共に、大きく伸びをするスバルを見てティアナはポツリと呟く。

「……悪いわね、付き合わせちゃって」

現状戦力に不安を抱き、それを解消して行動の選択肢を増やす為の特訓。
自分のわがままに付き合ってもらっているのは有り難いがやはり、申し訳ないとも思ってしまう。
輝く朝日と対照的な暗い表情のティアナに、スバルが満面の笑みを振りまく。

「いいの! ティアは戦力アップで、私とのコンビネーションも増える。一石二鳥だよー!」
「……ん、ありがと」
109リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/05(日) 21:05:42 ID:LpgQb8bf

眩しい笑顔のスバルに、本当に良い友人を持ったな、とティアナは悟られぬよう微笑んだ。
思えばルームメイト兼コンビとして初めて会った時も、無愛想な自分と仲良くなろうとスバルは必死に声を掛け続けていた。
あれから、スバルは生まれ持った素質をどんどん伸ばして強くなっている。
それに比べたら自分はどれほど強くなったのだろうか、とティアナは自問した。
そして、芳しくない答えを自答。
急速に暗くなっていく思考を無理矢理中断させる。
今の自分は前進あるのみなのだ。
亡き兄の想いを引き継ぐ為に。

「自主訓練か?」

ふとティアナ達に掛かる、男性特有の低い声。
それは、ソリッド・スネークの声だった。
本当ならもうすぐ元々の世界に帰る筈なのだが、スカリエッティと対峙して何を思ったか六課の活動に協力するらしい。
詳しい素性を知っている隊長陣曰く、地球の傭兵で潜入任務のプロ。
五十頭のハスキー犬を家族にもっているらしい。
ダンディで、正に大人といった雰囲気を持つのに、部隊長は変質者と言っていたのが気になる所。
アグスタ然り、どこにでも現れるその様は神出鬼没の一言に尽きる。
おはよーございまーす、と元気な挨拶を返すスバルにティアナも続いた。

「おはようございます、スネークさん、接近戦の訓練をしていました。……スネークさんは何を?」
ほんのりと汗をかいているスネークは一言、日課だ、と返した。
体をベストコンディションに保つ為なのだろうか、逞しい体付きがその成果を証明していた。

「接近戦? 君の役割は確か……射撃による後方支援と戦術展開じゃなかったか?」
「もっと行動の選択肢を増やそうと思いまして。……今やっている基礎訓練では中距離からの射撃ばかりですから」
「……射撃で行き詰まった時の為に、か?」

射撃と幻術しか出来ないから駄目なんだ。
それが通用しなくなった時、何も出来なくなる。
そんなティアナの思いは、スネークにあっさりと見抜かれた。
スネークが鼻を鳴らす。

「確かに君の所に敵が来ないとは限らない。それどころか、孤立無援の状態で複数に囲まれる事だってあるだろうな」

接近における戦いを視野に入れる事も重要だ、と。

「だが、付け焼き刃の訓練が実戦で通用するとも思えない。だからなのはも基礎訓練を続けているんじゃないのか?」
「それは……」
「焦らずとも、君の『武器』をじっくり磨いていけば良いと思うがね」
「でもっ! ……でも、じっくりなんてしていられないんです。私は凡人、ですので」

ゆっくり傍観していたのでは、本当に皆から取り残される。
凡人がエリート達を追い越すのは無理かもしれない。
しかし死ぬ気で努力すれば、少なくとも肩を並べて歩く事は出来る。
ティアナはそう信じていた。
結局、非才の人間の気持ちなど、天才の人々には分からないのだ。
スネークが間髪入れず、重い表情と共に口を開く。
110リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/05(日) 21:07:59 ID:LpgQb8bf

「戦場に凡人はいない」
「……え……?」
「戦場は自分の考えを貫く為に武器を持つ場所だ。ヒーローもヒロインもいない。エリートも凡人も、存在しない」

スネークの鋭い目付きが容赦無くティアナを射抜く。

「君は劣等感だか自己嫌悪だかを解消する為にここにいるのか? ……下らん考えは捨てろ、甘えるな」
「っ……!!」

目の前が真っ赤に染まり、スネークへの怒りで胸が一杯になる。
ティアナはそれを隠そうともせずに、スネークへ睨み返した。

(あなたに、何が分かる!?)

ティアナは内心で叫び声を上げた。
誰よりも尊敬していた兄が殉職した際に、「犬死にランスター」と嘲笑した連中。
彼らに抱いたのと同じ感情が、ティアナの中で久々に沸いてくる。
この男、ソリッド・スネークも何も知らないのに、偉そうな事を言っている。
様々な言葉がティアナの中を駆け巡り、消化されないまま腹の中にに溜まっていく。
ティアナは荒い息を必死に抑え付け、スネークから顔を背けた。

「……失礼、しますっ……!」
「あ、ティア、待って! スネークさん、あの、その、ごめんなさい!」

我に返ったスバルが慌てた声を上げ、歩き始めたティアナを追う。
ランスターの弾丸に撃ち抜けない敵はいない。
その言葉を、自分の実力を証明してみせる。
ティアナはその決意を新たに、隊長達の待つ集合場所へと歩いていった。



「それでは、ミッションスタート!」

機動六課の訓練場、仮想廃都市。
なのはの威勢の良い掛け声と共に、八機のガジェットT型が活動を開始した。
それらは目の前の敵を即座に認識して戦闘モードに移行すると、青掛かった光線を放つ。
スネークは即座に跳躍して完璧な側転を披露し、瓦礫の陰に飛び込んだ。
スネークの隠れる瓦礫を襲う猛射の嵐。
空気が切り裂かれ、衝撃の強さが瓦礫越しに伝わる。
ここでじっとしていてもやられるだけだろう。
初っ端から容赦が無いな、とスネークは眉をひそめてFAMASと呼ばれるアサルトライフルの弾倉が装填されている事を確認すると、チャフグレネードのピンを抜く。
無数の金属片をばらまいてレーダーを撹乱させるそれをガジェットの群れに投げ付け――数秒の後、爆発。
スネークは別の隠れ場所に向かって飛び出しつつ、混乱してダンスを踊るかのように動き回るガジェット達にFAMASの弾丸を叩き込んだ。
そのアサルトライフルはブルパップ式と呼ばれる仕様を採用している。
通常のアサルトライフルは弾倉をセットする機関部を引き金とグリップの前方に付けているのだが、それを後方に付ける事で銃の全長を縮め、取り回しがより効くようにするのだ。
その機構はスネークの肩に大きな反動を残す短所も抱えているが、同時にFAMASが放つ渇いた音はガジェットを正確に打ち抜いて爆発音を響かせる。
初めて手にした時は反動の大きさに慣れず使い辛さを感じたものだが、「慣れ」に助けられた。
今ではその反動が頼もしく思える程まで使いこなしている。
111リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/05(日) 21:10:01 ID:LpgQb8bf

スネークが廃ビルの中へと駈け込んだと同時に、チャフの効果が切れたのかガジェット達が見失ったスネークを再び探し始めた。
スネークは一息入れながら空になった弾倉を取り替える。
ああ、タバコが吸いたい。
訓練の時は吸ってはいけない、等となのはは一方的な言葉をスネークに浴びせると、そのままライターを奪ってしまったのだ。
迫力があったその姿を思い出し、意外と尻にしかれるのだろうな、とユーノに僅かだが同情する。
緊迫した状況の中、どっしりと構えながら吸うタバコ。
紫煙が肺を満たし、それをゆっくりと吐き出す瞬間。
実に、素晴らしい。
それを思い浮べるとやはり口が淋しくなってしまい、遂にスネークは火の点いていないタバコをくわえてしまう。
もうすっかりニコチン中毒だ。
俺が死ぬ時はタバコの箱を大事に抱えているに違いないな、と自嘲の笑みを漏らす。

『スネークさん、後四機ですよ。頑張って下さい』
『了解』

残り半分か。
スネークはなのはの念話に一言返事を返して、ガジェットの群れを隙間から覗く。
さっさと終わらせてタバコを吸う事にしよう、とスネークは決意した。
空の弾倉を掴むと、スネークがいる廃ビルとは反対の方向へそれを思い切り投げる。
からん、という音にガジェットが一斉に振り向く。
ガジェット達の真上に感嘆符が見えた気がしたが、とにかくスネークに背中を曝け出す形となった。
スネークはニヤッと笑うとすかさず飛び出し、そのチャンスを一秒も無駄にする事無くガジェット達にFAMASの銃弾を叩き込んだ。
辺り一帯に走る爆発の光。
ガジェットの最後の哀れな一機も、仲間がやられながらもスネークに一矢報いようと藻掻くが、数瞬後には鉄クズと化していた。
ガジェットの残骸が煙を上げ、同時に様子を見ていたなのはが降りてくる。

「お疲れ様です、スネークさん」
「ああ。……悪いな、そっちの時間を割かせて」
「いえ、全然大丈夫ですよ。……それより、なかなか良い感じじゃないですか? 全機破壊までもっと時間が掛かると思ってました」
「……いや、はっきり良いとも言えない」

言葉を濁すスネークの様子を感じ取ったのか、なのはもやんわりと口を開く。

「まぁ、空戦が不利なのは否めないですけど……」

その通りである。
そもそもスネークは空を飛べやしないし、スバルやティアナのような面白い移動手段も持ち合わせてはいない。
FAMASの5.56ミリ弾丸も小型のガジェットT型だから打ち抜けるものの、大型のV型には辛いものがあるだろう。
ガジェットのAIがより賢くなっていけば、先程の戦闘のように都合良く事が運ばなくなっていく事態も容易に予想出来る。

「……スティンガーの許可が下りればな」

破壊力がダントツに高い地対空ミサイルのスティンガーに、上層部は顔を渋くさせたのだ。
許可があれば使えるとは言っても、やはり「比較的クリーンで安全な魔法文化」を推奨している世界なら仕方ないのかもしれない。
ちなみに、爆発と同時に直径1.2ミリの鋼鉄球を700個、60度の角度で撒き散らすクレイモア地雷も、余りにえげつない兵器で非人道的だという事で許可は下りなかった。
クレイモアはともかく、スティンガーに関してはなんとかして欲しいものである。
その攻撃力の高さは武装ヘリを落とし、悪魔の兵器メタルギアREXを破壊し、時には気高いカラスをも撃ち落とせる程頼れる兵器なのだ。
ジトリ、と冗談味を混じらせた非難の視線を投げ掛けると、なのはが慌てた様子で手を振ってみせた。
112リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/05(日) 21:12:05 ID:LpgQb8bf

「わ、私にそれを言われましてもっ!? それに、ユーノ君だってまだ頑張って上層部へ掛け合ってくれてるんですから……」

彼女の言っている事も確かである。
義憤に駆られて立ち上がった民間協力者、等と言った所で無限書庫司書長という立場のユーノがいなかったら、スティンガーどころか拳銃でさえ握っていられなかっただろう。

「冗談だ、あいつにも感謝はしている」
「そうですよ。ユーノ君、やる気満々なんだけど、凄く忙しそうですし。……疲れが溜まってないと良いんですけど」

少しばかり表情に影が差すなのはに、スネークはニヤリと不適に笑った。
その瞳は、新しいおもちゃを手に入れた子供のそれで。
――髭を撫で、それはもうわざとらしく嘆きの声を上げる。

「ああ、本当に申し訳無く思うよ。君達の貴重な、いちゃつく時間を割かせているのだからな」

魔法の言葉、とはよく言ったものだ。
凛々しさと強さを兼揃えた不屈のエースが、十九歳の少女へと戻る。
熟れた林檎のように、なのはの顔は真っ赤に染まった。

「な、ななな、何言ってるんですか! からかわないで下さいっ!」
「ハハ、照れる事は無い。甘くとろけるような恋も良いじゃないか?」
「あ、あうぅ……あ、ほ、ほら! 次はスターズの二人との模擬戦ですからっ!」

ほらほら、と赤い顔のままスネークの背中を押すなのは。
誤魔化すのは下手らしい。
なのはは大きく咳払いをすると、頬に赤みを残しつつも隊長の風格を取り戻し、スバルとティアナを呼ぶ。
スネークは意気揚揚と廃ビルから降りてくるティアナと擦れ違い様に目が合った。
それは敵意か憎悪か、強がりか。
ともかく良い感情ではないそれに睨まれ、随分と嫌われたものだな、と残念に思った。
五年待てばなかなかの美人になりそうなのだが。
なのはとの模擬戦で、スネークが否定した接近戦に挑むつもりなのだろうか?
胸をよぎる悪寒を気にしない事にして、スネークは観客席へゆっくりと歩み始めた。


スネークが目の当たりにした模擬戦は余りになおざりな物だった。
本来の役割を放棄したティアナはスバルを囮になのはに接近戦を挑むが、素手で受け止められ。
部下の異常な行動に、年相応の明るく優しい笑顔を持っていたなのはも当惑や悲痛、怒りを入り混ぜた暗い表情を浮かべる。
もう誰も失いたくないから、もう誰も傷つけたくないから――

――強くなりたい。

そう言って感情を爆発させたティアナは、失意に沈むなのはにあっさりと撃ち落とされた。



匍匐体勢。
スネークはゆっくりと息を吐いて、狙撃銃PSG-1のスコープを覗いた。
スコープ内の十字線の中央が、スネークのいる場所から数百メートル程離れた所を捉える。
夕焼けの中でも、スネークがマーキングした黒点ははっきりと見えていた。
スネークは僅かな手ブレすらも許さずに引き金を引くが、弾丸の着弾点は黒点から大きく右に逸れる。
思わずこぼれる溜め息。
やはり管理局に預けられている際に、誰かがスコープを弄ったらしい。
せっかく狙撃の達人が直接調整していた代物なのにだ。
くそったれ、と悪態をつきながら目測での調整・試射を地道に繰り返す。
ようやく黒点に寸分違わず命中し、強張った筋肉をほぐそうと立ち上がったスネークに声が掛かった。
113リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/05(日) 21:14:07 ID:LpgQb8bf

「スネークさん!」

振り返れば、何かが弧を描いて飛来してくる。
反射的にそれを掴むと、手慣れた感触。
声の主、なのはが薄く笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。

「ライター、まだ返してませんでした」
「……そうだったな」

先程の出来事からすっかり失念していた。
ライターの腹を撫でながら懐からタバコを取り出し、火を点ける。

「……狙撃銃の調整、大変そうですね」
「気温や気圧の違いですら誤差が生じるからな」

だからそもそも照準がずれていたら話にならん、と付け加える。
だが、難しい調整でもスネークにとっては重要な武器であることに違いはない。

「こいつは俺にとって、君達で言う長距離砲撃に当たる。……念入りにやらないといけない」

そうですか、と微笑むなのは。

「……それで、俺に何の用だ? ライターだけじゃないだろう?」

切り出すスネークに、俯いて口を閉ざすなのは。
流れる、沈黙。
それはしばらくの間続き、ようやくなのはが口を開いた。

「私の教導は間違っていたんでしょうか……?」
「……ティアナか」

やはり模擬戦での出来事を引っ張っているようだ。
気持ち良く一服した所で携帯灰皿に吸い殻を押し込める。
なのはは普段では見れない沈痛な表情で頷いた。

「……はい。色々と悩んでいたのは知っていたのに、もっとティアナの心に関して気に掛けて上げれば……」
「心・技・体。この中で教える事が出来るのは技術だけだ。精神に関しては自分で習得するしかない」

いつの時代も、どの世界でも、それは変わらない。
なのはの顔が歪んだ。

「じゃあ、私は技術だけを伝えろとっ……!?」

詰め寄るなのはに首を振る。
技術も大切だが、最も大事なのは精神だ。
心と体は密接に繋がっている。
精神を教える事は出来ないが――

「――それでも、きっかけは与える事は出来る」
「きっ、かけ……?」

精神を構築させていく為のきっかけ。
スネークのその言葉に、なのはは口を閉ざす。
114リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/05(日) 21:16:11 ID:LpgQb8bf

「ティアナは自分の事を凡人だと言っていた。……色々と周りには相談出来なかったのだろう」

彼女は卑屈になり、それによって何もかも見失っていた。
スネークの予測になのはが申し訳なさそうに唸る。
そう意識させないように努めていたのだが、と。

「新米兵士にとって上官は……やはり、特別な存在だ。過ちのきっかけを与えないように腹を割って話し合う事だ」
「……そうですよね。……そんな当たり前の事すら今まで私は――」

落ち込むなのはに、スネークは手を突き出して言葉を遮った。
全く以て、世話が焼ける。

「後悔するよりも反省する事だ。後悔し続けた所で、それは何も生み出しはしない」
「……! ……はい、分かりました。ティアナが目を覚ましたら、ちゃんとお話します」

エースオブエースの顔に明るさが甦ってくる。
――まるでカウンセラーだ。
スネークは自身をそう感じた。
勿論今までそんな経験は無いし、むしろ苦手分野だと思っていたのだが何時の間にか、皮肉にもそれまがいの事をしている。
ありがとうございました、と頭を下げて立ち去るなのはを一瞥し、スネークは再びタバコを取り出した。



「……それで君か、ティアナ」

機動六課のロビー。
スネークが携帯灰皿を満腹にさせる位にタバコを楽しんだ頃、ティアナが目の前に現れた。
溜め息と共に目蓋を揉む。
ここの連中はもしかしたら俺の事を相談員か何かと誤解しているんじゃないのか?
そんな切ない疑問をスネークが抱こうとして、物凄い勢いでティアナが頭を下げる。

「申し訳ありませんでしたっ!!」

続いてロビー中に響く謝罪の言葉。
至近距離での突然の爆音に、スネークの耳が悲鳴を上げた。
思わずタバコを取り落としそうになって、なんとかそれを堪える。

「……今まで失礼な態度をとってしまって、本当にすいませんでしたっ!」
「……なのはと話し合ったのか」

顔を上げて頷くティアナ。
赤らんだ瞳、それでいてどこか吹っ切れた様子。
なのはは上手くやれたようだ。

「……スネークさんの、言った通りでした」
「……基礎をじっくりとやる、なのはの教導の意味か?」
「そ、それもあるんですけどっ……その、『劣等感と自己嫌悪を解消するためここにいるのか』って」

スネークは甘えるな、と喝を入れた日を思い出す。
ティアナは俯き加減に話し始めた。
管理局員だったティアナの兄、ティーダ・ランスターの事。
殉職した兄の夢を継ぐ為。
そして、ランスターは負け犬ではないと証明する為に、ティアナも局員になった事。
115リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/05(日) 21:19:00 ID:LpgQb8bf

「思い返せば私、勝手に周りと才能を比べて勝手に落ち込んだりしてムキになって……本当にスネークさんの言っている通りだったと思います」
「……それで? 今はどうなんだ?」

シャドーモセスでオタコン達がそう問いかけてきた時のように穏やかな声で、今度はスネークが問う。

「執務官になるっていうのはやっぱり、私にとって意地とかちょっとした憧れじゃない、ちゃんとした夢です!」

ここ最近見られなかった晴れやかな表情を浮かべて決意表明するティアナ。
そうか、と頷く。
やはり美人には笑顔が良く似合うな、とスネークは感心し、同時に五年後を見たいという欲求も湧いてくる。

「だから……」
「だから?」

少しだけ顔を赤らめ、呟くティアナ。

「私に、射撃型としての経験や戦いのコツ、教えて下さい!」
「……断る。なのはの教導で十分じゃないか」

そんな面倒臭い事はごめんだ、と即座に拒絶する。
そもそもスネークは、物を教えるのは苦手なのだ。
けれども、さすがなのはの教え子というべきか、ティアナからは諦める様子が微塵も感じられない。
正に不屈の精神。

「スネークさんの経験は私にとっても凄く役立つと思うんです!」
「またなのはに無断で勝手な事をしたら――」
「なのはさんも推奨していました。お願いします!」

余計な事を、と内心で盛大に毒付く。
周りから振り回され続ける事の多いこの人生は、スネークを休ませるつもりはこれっぽっちも無いらしい。

「あいつめ…………とにかく、嫌だ!」
「スネークさん!」
「絶対に嫌だ!!」

終わらない押し問答が十分の間続き――スネークは頭を縦に振る事しか出来なかった。

「ありがとうございますスネークさん、快諾してもらえて感激です!」

何をぬけぬけと。
ぱぁっ、と表情に明るさを咲かせるティアナに、げんなりしつつ文句を言おうとするが、警報がそれを阻害する。

「!! しまった!」

警報音と共に、スネークに容赦無く突き刺さる赤い警報灯の光。
そこかしこに現れるALERTの文字によって、緊迫感が満ちてくる。
慌ててSOCOMピストルを取出し、数十秒後にはぞくぞくとロビーに傾れ込んでくるであろう敵兵への準備を整える。
ソファーの陰に身を隠すスネークにティアナが怒鳴った。

「スネークさんっ何してるんですか、出動ですよ!」
「え? あ、あぁ……」
116リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/10/05(日) 21:21:44 ID:LpgQb8bf

今まで、警報音に反応して逃げたり隠れたりが常だったので、自然と体が反応してしまった。
スネークは自身の情けない行動を恥じると共に、今までの事を振り返って嘆息する。

「……大丈夫ですか?」
「何でもない。……それより、君はもう大丈夫なのか?」

誤魔化すように問い返す。
なのはに撃墜され先程目を覚ましたばかりなのか、やはり疲れも滲ませている。
しかしティアナは、問題ないと言わんばかりに力強く胸を叩いてみせた。

「大丈夫です!」

スネークはティアナに瞳を覗いた。
そこからは、意地や気負いはいささかも感じれない。

「……よし、なら行くか」
「はい!」

まだまだ甘い所もあるだろうが、少しばかり頼れるような目付きになっている。
スネークはそんなティアナと共に駆け出した。



ジェイル・スカリエッティのアジト。
モニター上ではガジェットU型が踊るかのように、鮮やかな飛行を続ける。
スカリエッティがそれに視線をやっていると、新たなモニターが表示される。

「やぁ、ルーテシア。君から連絡してくるなんて嬉しいよ」
「……遠くの空にドクターのおもちゃが飛んでるみたいだけど、レリック?」

モニターに映るルーテシアという名の少女の言葉に、スカリエッティはくつくつと笑う。

「だったら、まず君に連絡しているさ……おもちゃが破壊されるまでのデータが欲しくてね」
「……壊されちゃうの?」
「私の作品達がより輝くように、『デコイ』として使うガラクタさ」

少女の顔には表情が感じれない。
声にも抑揚は無く、それが逆にスカリエッティの笑みをより深めさせる。

「レリックじゃないなら私には関係ないけど……頑張ってね、ドクター」
「ああ、ありがとう。優しい、優しいルーテシア」

ごきげんよう、と幼い声が響き、モニターが閉じられる。
スカリエッティは緩む頬を抑えようともせず、機動六課にいるであろう男に思いを馳せる。

「そう。君と同じさ、スネーク君。……多くの物を犠牲に作り出される、最高の作品! クク、待っていてくれたまえ」

ウーノ、と呟くと同時にモニターが現れる。

「フ、フフフ、ウーノ。私は『アレ』の作業に戻るよ、こっちの方を頼む。データが取れ次第送ってくれ」

了解しました、と間を空けずに返ってくる了承の言葉を聞いて、スカリエッティはそこから立ち去った。
117名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 21:26:08 ID:uYXTUUUU
雷電、今すぐパソコンの電源を切れ!
支援
118代理:2008/10/05(日) 21:31:17 ID:bYOEry9W

おまけ

機動六課の休憩所は、今日も賑わっていた。
そこの一角のテーブル、自由待機の新人四人とたまたま同席したスネークも同様だ。
歳の離れたスネークがいても、さして話し辛い、気不味い雰囲気はそこには少しも無い。
最年少のエリオとキャロ曰く、理由は分からないが話しやすい、との事。
そんな中、ふとティアナが疑問の声を上げた。

「そういえばスネークさん、弾薬の補充とかどうしてるんですか?」
「……何?」
「いえ、いつもどこからか持っていますよね? 何故――」

ティアナが言い切る前に、それを遮る。

「――ティアナ。……細かい事を気にしてはいけない」
「!!! りょ、了解しました!!」

ビシィッと敬礼するティアナ。
スネークは、それでいい、とバンダナを撫でながら頷いた。
続いて、そのやり取りを見てしばらくの間笑っていた新人達の中、赤髪の少年エリオが声を上げる。

「あの、僕も気になってた事があるんですけど」
「言ってみろ」
「スネークさん、いつもタバコ吸ってますけど……タバコって、害があると分かっていても吸いたくなる程美味しいんですか?」

よしきた、とスネークがタバコの魅力を精一杯伝えようとすると、フェイトから念話が飛んでくる。

『エリオに変な事吹き込んだら、タダでは済みませんよ?』

少し離れたテーブルでなのはと談笑しているフェイトと視線が合う。
優しい表情、そして穏やかな瞳の先に黒い何かが見えた気がして、鳥肌が立った。

「……まぁ、体に悪い事は確かだな。だが、吸うだけがタバコではない。わかるか?」

スネークの言葉の意味が分からないのか、首を傾げる新人達。

「発想が貧困だぞ。……任務では限られた装備を最大限に活用し、臨機応変に使いこなさなければいけない。 例えば、赤外線センサーを見る時にもタバコの煙は使えたし――」

十年前の事を思い出す。

「――タイムが2000増えたお陰で任務失敗(ゲームオーバー)せずに済んだ」
「たい、む? 2000?」
「ハハ、気にするな」

よく分からない、といった顔のスバルやエリオとキャロ。
勉強になります、と一人感動して聞き入っているティアナ。
スネークも思わず苦笑してしまう。
119代理:2008/10/05(日) 21:32:59 ID:bYOEry9W

「……よくわからないですけど、スネークさんにとって凄く大事な物だって事は分かりました」

そう話すエリオに、キャロも賛同の頷きをする。
スバルが身を乗り出してくる。

「ほんと、タバコの無いスネークさんなんて想像出来ないです! ……後、子供の頃もですね」
「……俺だってガキの頃はあった。普通に駆け回って遊んでたぞ」

その時について色々教えて下さい、と勢い良く興味津々に詰め寄る新人達。
スネークは自分の出自を思い返して少しだけ気分が沈むが、数十年前を思い出して懐かしむ。

「……子供の頃一番好きだった遊びはかくれんぼ。嫌いだった遊びは――やはりかくれんぼだな」

戸惑う新人達に、説明をする。

「隠れても、誰も見付けてくれないんだ」
「……成る程、隠れるの得意だったんですね?」

スバルが楽しそうに笑う。
しかし、スネークにとっては良い思い出とも言えない。

「五時間程ずっと隠れて待っていた事があってな、それで嫌いになった。……名前こそ忘れたが、俺を放って帰ったあいつ。確か……アメリカ人と日本人の子供だったな」

スネークは負けず嫌いな性格の所為で五時間もひたすらに待ち続けた記憶を思い出して、怒りに震える。
もし再会するような事があれば、パンツ一丁になるまで剥ぎ取ってシャドーモセスの寒空に放り込んでやろう。

「……ねぇねぇエリオ君、スネークさんて……」

ちょっと、変だよね。

隣のエリオだけに聞こえるように呟き、エリオが頷く。スバルも苦笑している。
やはりティアナだけが先ほど同様に、忍耐力が素晴らしい等と言ってスネークを賛美していた。

穏やかな時間が機動六課に流れる。



同時刻。

「ぶぇっくしょおおぃ!」
「盛大なくしゃみだなササキ、風邪か?」
「……下痢と風邪のコンボかもしれん……」
120代理:2008/10/05(日) 21:33:51 ID:bYOEry9W
第十話投下完了です。

おまけが少々長くなってしまい申し訳ありませんでした。
ジョニーも最後ちょっとだけ登場。
初代メタルギアの初回プレイでは、私にとってタバコの存在意義がさっぱりだったのですが、ちゃんと使える場面もあるんですよね。
地味な小ネタの多さも、このシリーズの魅力の一つだと思います。

それでは、次回もよろしくお願いします。


代理投下終了。
121名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 21:40:59 ID:kwiehQv8
投下乙。
心技体のくだりってMGS4のセリフだったか
やはり、スネークはかくれんぼが好きなんだなw
メサルギアでも博士と大佐が言ってたのを思い出したよ
122名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 21:44:49 ID:Kr59EMgH
投下乙です。
『気高いカラス』でつい2のカモメさん思い出した。
123名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 21:48:14 ID:cUkikHlP
GJ!
でもやっぱこういう部隊の仲間と一緒に戦闘に出撃するスネークには違和感感じちゃうな。
124名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 21:48:26 ID:lP1VoZIB
>>120
投下乙でした!!

ティアナがアホの子になってる様な…
スネークがあれこれ言う度ティアナが敬礼してる姿を思うとw

質量兵器も使用許可が降りたみたいなので次の戦闘が楽しみです!

あとジョニーには是非とも活躍の場を!
六課のレディの前で糞漏らすとか…
125Strikers May Cry:2008/10/05(日) 21:55:32 ID:bYOEry9W
22:00頃に投下します。

「リリカル・ニコラス」の第四話です。
126名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 21:58:07 ID:3ffKLFUA
GJ!
スネークの年の功ですね。纏まってよかったです。
スネークと六課の戦いも楽しみですが、エリオに悪い遊びを教えようとするのも
結構似合いますね。
127名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 21:58:42 ID:3ffKLFUA
>>125
支援
128リリカル・ニコラス:2008/10/05(日) 22:04:19 ID:bYOEry9W
リリカル・ニコラス 第四話 「Lightning Boy」


聖王教会本部のとある一室、柔らかく温かい木漏れ日が窓から差し込み麗らかな陽気が満ちているその部屋にはカリカリとペンの走る音だけが部屋に響き渡る。
ペンを走らせて書類に必要事項を書き込むのは美しく輝いている金髪を揺らし黒い法衣に身を包んだ美女、聖王教会騎士カリム・グラシア。
カリムはふとペンを動かす手を止めるとそっと顔を上げる、そうすれば目の前にはここ最近自分が後見人となり教会で保護する事となった異世界の男が座っていた。
彼の名はニコラス・D・ウルフウッド、銃と暴力が溢れかえる荒野の星ノーマンズランドからやって来た愉快なテロ牧師である。
ウルフウッドはカリムの執務室の窓辺に備えられたテーブルに腰掛けてブラックコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。
聖王教会本部にやって来て一週間あまり、遭難者として管理局に戸籍の仮登録などを終えた彼は特にやる事もないのでこうしてマッタリと過ごしていた。
そしてカリムはペン立てに手にしていたペンを刺すと、おもむろに口を開く。


「ところでウルフッドさん」
「おう、なんやカリム?」
「あなたみたいな人の事を世間でなんと言うか知っていますか?」
「ん? なんやろな、普通に牧師とかやないんか?」


カリムの突然の質問にウルフウッドは手にしていた新聞を一度畳んで頭を傾げる。
彼女の言わんとする事は単なる言葉どおりの質問ではないと思えた。
その語調や笑みには何か裏というか、何か含みが感じられる。カリムは簡単な質問の中に真意を伏せていると直感というか経験で分かる。
ウルフウッドがしばらく考えていると、カリムの傍で資料整理をしていた彼女の秘書兼教会シスターのシャッハがこちらに振り返った。


「なんでも仕事をせずブラブラしている人の事を世間では“ニート”と呼ぶそうですよ?」
「ニート?」
「働かず怠惰な生活を送る無職の人の事だそうです」
「ぶっ!」


シャッハの言葉にウルフウッドは思わず吹き出した。それくらいに彼女の言葉はショッキングな代物であった。


「ちょ! ワイがそのニートなんか!?」
「毎日毎日なにもせずゴロゴロしてるばかりじゃありませんか」
「ヴェロッサだって少しは働いているんですよ?」


カリムとシャッハ、案外容赦ない事を言う。さしものウルフウッドも二人の言葉にはややショックを受ける。
しかしまあ確かに彼女達の言うとおりだ、ウルフウッドは現在絶賛無職、仕事もなくやる事もない。
ぶっちゃけ、プー太郎も良いところだった。


「まあ、そうやなぁ……確かにこのカリムに世話されっぱなしっちゅう訳にもいかんわ。でもなぁ……」


ウルフウッドは顎先を掻きながら思案する。このまま彼女達の厚意に甘えっぱなしというのではあまりに怠惰、せめて自分の食いぶちくらいは稼ぎたいものだ。
しかしその時“自分に何が出来る?”そんな疑問が彼の脳裏を過ぎる。


「ワイに出来る仕事なんぞあるんかいな? こっちで出来る事はそんな多くないで?」
「大丈夫です、そういう事も考えて実は一つ教会の仕事を用意してあるんです」
「へえ、なんや? ワイに出来る事なんか?」
「はい、きっとウルフウッドさんにあった仕事ですよ」


カリムはそう言うと引き出しを開けて一つの書類を出す、それをシャッハが受け取るとウルフウッドの前まで持って来た。
129名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 22:06:25 ID:3ffKLFUA
支援
130リリカル・ニコラス:2008/10/05(日) 22:08:23 ID:bYOEry9W
彼はそれを受け取ると一枚目の用紙に書かれた文字に目を通す、そこにはこう書いてあった……

「ウルフウッドさんは、確か孤児院で子供の世話をなさっていたんですよね?」


“聖王教会サンクルス孤児院”と。





ウルフウッドがカリムに仕事先を紹介されて数日後、彼は凄まじい戦場にいた。
そう、それは正に戦場と呼ぶに相応しいものだった。
巨大な長方形のテーブルに並ぶたくさんの椅子、そしてそこに座るのは小さい怪物共総勢28人。
彼らは口々に厨房にいるエプロン姿のテロ牧師を囃し立てた。


「ニコ兄〜おなかへった〜」
「ニコ兄〜ごはんまだ〜?」
「ご〜は〜ん! ご〜は〜ん!」
「あ〜! ちょい待て、待てや!! いま作っとるから!!」


まるで小さなモンスターの叫び声のような子供達の催促の声に答えつつ、ウルフウッドはフライパンをせわしなく動かして調理に励む。
凄まじく大きなガス台の上に乗った凄まじく大きなフライパンの上では、これまた凄まじく大量に食材が炒められている。
なにせ食べ盛り育ち盛りの子供が二十数人はいるのだ、作る量は生半可ではない、それはもう気の遠くなるような膨大な量の食事が必要だ。


「ほい、出来たで!!」


ウルフウッドは特大フライパンから特大大皿に料理を盛り付けると、それを即座にテーブルの上に運ぶ。
ドンッ! と置かれたそれに子供達は餓えた獣のように群がった。
恐るべし腹ペコの子供、ウルフウッドが額に汗して作った夕食のおかずは瞬く間に幼い胃の腑へと消えていく。


「ニコ兄おかわり〜」
「ニコ兄まだたりない〜」
「ニコ兄うんちもれる〜」
「ああ、ハイハイ、みんなして叫ぶなや。……っつうか、誰や今“うんち”言うたん!?」
「ケインがうんちもれそうだって」
「ちょ! 待てや!! 今トイレ連れてくさかい!!」
「も、もれる……」
「のわぁっ! 待て!! 男なら我慢せいや!!」


まあそんなこんなで、ウルフウッドはすっかり孤児院に馴染んでいた。

最高に騒がしい食事時を終えてひと段落したウルフウッドは早速憩いの一服をする為に懐を探り出す。
そんな時彼に子供の一人が声をかけた。


「ねえ、ニコ兄〜」
「ん? なんやねん? 一応吸う時は外出るで?」
「違うよ、最近来た“あの子”また来てないみたいだよ?」


“あの子”という言葉にウルフウッドの脳裏には即座に最近孤児院に来た子供の姿が浮かんだ。
131リリカル・ニコラス:2008/10/05(日) 22:09:44 ID:bYOEry9W
それはツンツンと逆立った赤毛の少年、ここへやって来てから数日経つがまったく馴染む気配がない問題児である。


「はぁ、例のチビトンガリか……しゃあない、ちょっとワイが見てくるわ」


ウルフウッドはそう言うと吸おうと思ったタバコをもう一度ジャケットの内ポケットに戻して食堂を後にした。
おそらく朝から大して食べていない少年の為に手には軽い食事を持ち、向かうのは孤児院の敷地の隅っこ。いつも彼が膝を抱えている場所。
足を進めること数分、着いてみればいつも通り少年はそこで膝を抱えて泣いていた。
彼にかける言葉を色々と道すがら捜していたウルフウッドだが、これには少しばかり呆れて言葉を忘れてしまう。
とりあえず彼に視界に入る程度に近づいてみた。


「よう泣くな、来たばかりは大抵みんな泣きよるけど3日ぶっ通しゆうのは記録やで?」


ウルフウッドの声に少年は顔をぬぐって顔を上げた。
随分と泣きはらしたらしく真っ赤になった目に思わず苦笑が浮かぶ。


「ニコラスや、とりあえずこれでも喰え」


とりあえず自己紹介をしつつ手に持っていたパンを差し出した。
だが少年はこれを一度顔を上げてチラリと見ただけで、すぐまた俯いて膝を抱える。
流石にこの反応にはウルフウッドも少しだけ腹が立った。


「またコレや、黙って頭低くしてやりすごすつもりなんか? しょうもない奴っちゃで」


このウルフウッドの言葉に、ツンツンとした少年の髪が少しピクリと動いた気がした。
そして今まで無言を貫いていた少年の口が動き、ポツリと言葉を零す。


「……わかるもんか」
「あ?」
「あなたに僕の気持ちなんか分かるもんか! ……自分が何も価値の無い人間だと思わされた事……あなたにあるんですか!?」


それは少年がこの孤児院に来て初めてした意思、心の中に溜め込んでいる鬱屈とした叫びだった。
彼の過去について、あまり表沙汰にはできない事実“プロジェクトF”等についてはぼかされてはいたが、最低限の過去は孤児院の人間に明かされていた。
少年が親から引き離され、親も彼を見捨てたと。
彼は愛していた両親からの裏切りに、自分というモノの存在を否定されたのだ。
しかし、ウルフウッドから言わせれば、自分自身の出自も含めてここでは珍しい話ではない。
溜息を吐いて一拍の間を置くと、ウルフウッドはあっさりと少年に返答した。


「あるな」
「……え?」


予想外の返事だったのか、少年は思わず素っ頓狂な声を漏らした。
そんな彼に、ウルフウッドはポリポリと頭を掻きながら言葉を続ける。


「親に捨てられたんは同情せんでもないが、ええ加減にしとけや。ここにいるガキ共も多かれ少なかれ同じ様な目にあっとる、たらい回しのお荷物で置き去られた上に流れてきたんばっかりや……」


ウルフウッドの視線と少年のそれがふと空中でぶつかり合う。
132リリカル・ニコラス:2008/10/05(日) 22:10:50 ID:bYOEry9W
少年はこの男の瞳を濁らす色に息を飲む、それは言い様の無い哀しい色だった。
そしてウルフウッドは視線を中庭で遊ぶ子供達の方に向ける、少年も彼に習い顔をそちらに向けた。


「ええなお前は……言葉にして拗ねられるんやから……あいつらには表現できへんどんだけの穴があるか想像もできんわ」


トーンの低くなったウルフウッドの声に少年は何か言い出そうとして、でも言い出せなくて口ごもる。
可哀想なのは自分だけじゃない、ここにいる子供達は皆なにかしら問題を抱え込んでいる。そんな事言われなくても聡明な少年の知性は理解していた。
それでも、胸に巣食う悲しみが耐え切れなくてこうしてふさぎ込んで当り散らしたくなるのだ。
少年はもう一度顔を上げてウルフウッドに何か言おうとした。


「むぐぅ!?」


だがそれはできなかった。
少年の口にウルフウッドが持っていたパンをねじ込んだのだ。


「まあそれはともかくや、今は飯喰え」
「むぐぐ! い、いきなり何するんですか!?」


口に突っ込まれたパンを取り出しながら少年は怒るが、ウルフウッドはニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「何ってお前、最初に言うたやろ? 飯喰えって。おんどれがいつまでもグチグチ言うとるさかいワイが食わしたったんやないかチビトンガリ」
「ぼ、僕の名前はそんなんじゃない! っていうかなんですか“チビトンガリ”って!?」
「背がちっこくて頭がトンガットるからチビトンガリや、文句あるんなら名前教えや。ワイかてさっき名乗ったんやから」


ウルフウッドのその言葉に少年はプイとそっぽを向く。
彼がこの孤児院に務めえているのなら自分の事をある程度知っているのは確かだ。
今さら自分の名前を聞いたところで何になるのか。


「孤児院の子供の名前くらい知ってるでしょ」
「ちゃんと自分の口から言えや、礼儀やで?」


まずは最初に互いの名前を教え合う、自己紹介をする、人間関係の一番最初に行う関係構築。それをウルフウッドは求めていた。
少年は確かに世界に絶望していた憎悪していた、だがそれでも完全に人を拒絶しきっている訳ではない。
かつて生きた世界で、こんな風に心を荒ませながらも最後は自分の声に応えてくれた男をウルフウッドは知っていた。
そうだ、あの“泣き虫”も最初はこんな風に拗ねていた。
そして、ウルフウッドの言葉に少年は幾らかの逡巡を経て口を開く。


「エリオです……エリオ・モンディアル」


少年、エリオの言葉にウルフウッドは嬉しそうにニンマリと笑うと彼の頭を撫でた。
クシャクシャと逆立った髪を大きな手でもみくちゃにされてエリオは恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「なんや、ちゃんと言えるやないかエライで〜」
「ちょ! こ、子供扱いしないでください!」
133名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 22:11:39 ID:3ffKLFUA
支援
134リリカル・ニコラス:2008/10/05(日) 22:12:09 ID:bYOEry9W
「何言うとるねん、子供やろお前は」


そう言うと、ウルフウッドはエリオの頭を軽くポンポンと叩いて踵を返す。
食事も取らせて言いたい事も言った、もう用は済んだのだろう。
立ち去る背中に声をかけようとしたエリオだが、その前にウルフウッドが背中越しに口を開く。


「まあアレや、自分の事グダグダ考えすぎる時間があるなら厨房の一つでも手伝え」


最後にそう言い残し、ウルフウッドは去って行く。
少年はその大きな背中を見つめながら、ただ彼の言葉を胸の内で何度も反芻した。





「ニコ兄ごちそうさま〜」
「ごちそうさまでした〜」
「ごち〜」
「おう、よう喰ったな」


子供達が口々にそう言って食事の終わりを告げて手に食べ終わった食器を持って洗い場に並ぶ。
次々に差し出される食器の数々を受け取ると、ウルフウッドはガシャガシャと音を立てて洗っていく。
流石に子供の数が多いのか、食器洗いだけでもとんだ重労働だ。
ウルフウッドが額に汗を流しながらせっせこ食器を洗っていると、ふと彼の隣に小さな影が現れる。
そして小さな手が伸ばされたかと思えば、彼と一緒に汚れた食器を洗い始めた。


「助かるで、チビトンガリ」


手伝いに来た赤毛の少年にウルフウッドは嬉しそうな笑みを浴びせる。
少年は食器の汚れをスポンジで洗い落としながら、彼の言葉に少しだけ不満そうに頬を膨らませた。


「その呼び方は止めてくださいウルフウッドさん……」
「そうか? なら泣き虫エリオってのはどうや」
「もっと嫌ですよ!」
「ハハ、そう言うなや」


ウルフウッドは無性にエリオの頭を撫でてやりたい衝動に駆られたが、流石に手がスポンジで泡立てた洗剤だらけなので我慢する。


「ならワイの事も他の子らみたいに呼べや」
「分かりました……その……ニコ兄」
「おう、これからよろしく頼むでエリオ」


恥ずかしそうに頬を赤らめたエリオにウルフウッドは心底満足したように笑いかけた。


続く。
135Strikers May Cry:2008/10/05(日) 22:15:23 ID:bYOEry9W
はい投下終了。
なんていうか、ウルフウッドの就職先はこれしかないだろjk。

せっかくカリムにパニッシャー見逃してもらったのに、使い機会まったくありません、良い事です。
まあこれで時間軸はSTS本編よりも前だと分かったという事で。
次回は我らがツインテを出したい所存であります。
136名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 22:26:09 ID:Dxf87i1/
GJ!
ニコ兄すごくいい兄貴分してるよニコ兄
しかしエリオの事チビトンガリとか泣き虫エリオってw まぁその通りなんですけどね
とても心が温かくなる話をありがとうございました!
137名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 22:29:52 ID:3ffKLFUA
GJ!
これは良い話だ……。
138名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 22:59:31 ID:dy0i6aUx
STS本編の数年前の話だったのか……
エリオがまだ施設にいるって事は。
139一尉:2008/10/06(月) 14:43:52 ID:NVMrPdp/
スネーク支援
140名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 20:04:56 ID:x1fzuVWF
>リリカルギア
ところどころにあるゲームの小ネタにはニヤニヤするしかないwアラートww
スネークは見つかってもアラートが知らせてくれるから不意打ちは喰らいませんねw
あと、リリカルギアは全体を通して台詞が非常に魅力的。
もちろん、原作ネタが良いというのもあるんでしょうが、使い回しが上手いですよね。
今回もティアナの件でアドバイスしかしてないのに、なのはさんもティアナもスゲー助けられてるような気がする。
心技体はMGS3のザ・ボスの台詞だったかと。スネークもそうだけど、彼女にも是非ティアナを教導してもらいたい。
っつか、あんな小気味よい助言を大塚ボイスで言われたら無条件で従ってしまいますよ。俺も相談に行きたいわww
ラストの締めでまたスカ山さんが不穏なフラグ立てて行ってくれましたが、個人的に今回はようやく成立したスネークとティアナの師弟関係がどう発展していくか気になります。
飛行能力持たない陸士はスネークにとっても教えやすいと思うな。
さあ、ティアナ。ラストのナンバーズ戦でアームロックを使うんだ(違

>リリカル・ニコラス
ヒャッハァ! 我慢できねえ、ラブ&ピースだぁ!!
宣言通りの平穏な展開。原作のトライガンがハードボイルドだけに、こういう物語でニコラスが静かに暮らしてく様を見るだけで癒されますなw
そして、今回は何よりも予告のみ展開だと思ってたエリオ孤児院暮らしキター!
しかも、両親に捨てられてひねくれてるって一番オイシイ時期じゃないですか(ぉ
ニコラスの厳しさと優しさはミッドチルダに染み渡るでぇ…。リヴィオとの出会いと髣髴とさせて、実に素晴らしい。具体的にはニヤニヤw
っつかフェイトそん涙目wwエリオ普通に暮らすか、このまま教会の騎士目指しそうなんですけどw
エリオとクロスキャラの交流って意外と少ないから新鮮だし、それが兄貴分に相応しいニコラスとなると楽しみは倍ですね。
この二人の孤児院暮らし見るだけでご飯いけるわw
141魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/06(月) 20:55:50 ID:x1fzuVWF
さて、今夜の投下の場を暖める為に21時10分に予約をしたいんですがかまいませんねッ!!
Stylishの十九話。投下予定数13 容量は37KBです。
今回はバージルサイド。
142名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 20:57:02 ID:oyayulTM
「支援するしかないッ!」Byとあるティターンズ兵士
143名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/06(月) 21:10:12 ID:GV+cS1IP
「支援する!!」オメガ大隊の隊員
144魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/06(月) 21:11:12 ID:x1fzuVWF
 ――後悔。

 アギトは知っていた。
 その男は嘆いている。自らの母の亡骸を抱え、燃え落ちる我が家を睨み、安否も分からぬ血を分けた弟を案じて叫ぶ。

 ――哀惜。

 アギトは見ていた。
 抱えていた亡骸が腐り、溶け、濁った血となって彼の手から滑り落ちていく。彼の叫びはもはや悲鳴のようになった。

 ――絶望。

 アギトは聞いていた。
 どれだけ嘆き、言葉にもならない声を吐き出しても、男の目から涙は零れない。多くのモノを失い、しかし代わりにたった一つの何かが男の内側を満たす。

 ――大きな疑問。

 アギトは感じていた。
 偽りの無い心の底からの負の感情。それが男の中の何かを解き放ち、全身が力で満ち溢れる感覚に彼は初めて気付く。

 ――戸惑い。

 アギトは知っていた。
 その日。運命の日。男は一つの選択をしたのだ。



 ――その全てが快感であること。



 その日、一人の男の中で<悪魔>が目覚めた。
 先ほどまでとは違う、失ったものに対する慟哭ではない。
 怒り? 哀しみ? それとも――歓喜?
 含まれた感情すら察することが出来ない、この世のものとは思えない咆哮が天を突く。
 吹き出す魔力と魂の叫びが噴き出し、男の体を包み込み、そして後に残ったものはもはや人間ではなく――。




『おはよう。気分はどうだい?』
『……最悪。早くここから出せ』

 アギトは眼を覚ました。
 覗き込むスカリエッティの顔に向かって悪態を吐く。自分にはよく分からない謎の液体に満たされたカプセルの中はお世辞にも居心地がいいとは言えない。
 カプセルから飛び出すと、体の調子を確かめるように手足を動かした。
 ユニゾンデバイスであるアギトには定期的な調整が必要になる。悔しいがスカリエッティの技術は一流だった。気分とは裏腹にすこぶる体調が良い。

「リフレッシュ効果もあるはずなんだがね。そんなに居心地は悪いかな?」

 毎度のことながら、この調整の時間を嫌うアギトにスカリエッティは苦笑しながら尋ねた。

「研究所に居た頃を思い出して、あんまりいい気はしないよ」
「それは夢見の悪さにも影響しているのかな? バイタルに僅かだが変化があった。何か、見ていたんだろう?」
「……アイツの夢だよ」

 無遠慮に尋ねてくるスカリエッティに苛つくが、噛み付くのが疲れるだけだと悟るくらいに慣れてもいた。
 アギトはため息と共に答える。

「――バージルと<ユニゾン>した時に見た、彼の記憶だね」
145魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/06(月) 21:14:12 ID:x1fzuVWF
 何が面白いのか、スカリエッティはニヤニヤと笑っていた。
 それを見て、ますます気分は悪くなる。ただし、こちらは純粋な生理的嫌悪感というやつだ。
 アギトはスカリエッティを変態科学者だと決め付けていた。そして、それはその通りだった。

「彼の記憶か……本当に興味深い。映像化出来ないのが残念だ」
「肩代わりしてくれるなら、ぜひやって欲しいよ。アタシはそれを何度も見てるんだ。
 あんなの、ただの悪夢だ。バージルは……アイツは、人間じゃない……」

 苦々しく呟き、アギトは濡れた体以外の原因で来る寒気に自らの肩を抱いた。
 今でも鮮明に思い出せる。脳に刻まれ、眼に焼き付いた。
 あれは一人の修羅の誕生だった。
 あの時、バージルが誓ったものは復讐ではない。
 ただひたすら、飢えるように望んでいた――『もっと力を』

「アイツは、<悪魔>だ」

 おぞましいものを語るように、アギトは吐き捨てた。

「……ふむ、随分と彼を嫌っているらしい」
「怖いんだよ。あんなヤツ、近づきたくない」
「嫌悪し、恐れ、そして忌避する。……なのに、夢にまで見るほど気にしている。なかなか複雑な乙女心だねぇ、アギト」
「……何が言いてーんだ、コラ?」
「いや、特に言いたい事はないさ。見てるだけで楽しいからね」
「燃やすぞ、このヤロー。……旦那達が来てるんだろ? アタシ、もう行くからな!」

 腕を一振りすると、バリアジャケットと同じ原理で服が構成された。
 スカリエッティの意図の掴めない言動は毎度のことだったし、それに付き合う義理などないのも分かっている。
 アギトは不愉快そうに鼻を鳴らして飛び上がった。

「ああ、そうそう。資料室にバージルがいるから呼んできてくれないか?」

 嫌がらせ以外の何物でもないスカリエッティの頼み事に、青筋を立てながら振り返る。

「通信で呼べよ!」
「彼が顎で使われるのを心底嫌うのは知ってるだろう? 直接呼びにでも行かないと、きっと無視し続けるさ」
「なら、アンタが行け!」
「いやぁ、そうしたいんだけど、前回の任務でちょっと彼に隠し事してたのがバレちゃってねぇ。少しでも機嫌を良くしておきたいのさ」
「それがなんでアタシなんだよ!?」
「いいじゃないか、彼と一番古い付き合いなんだし」
「〜〜〜っ!」

 ああ言えばこう言う。話は平行線上を辿っていた。
 そしてそれは、神経を逆なでするような声と口調を相手にこれ以上会話を続ける苦痛の方が勝ったアギトが折れる形で終了する。
 『首刎ねられちまえ!』と最後に悪態を吐き、アギトは文字通り飛ぶように部屋を去って行った。
 薄暗いラボに、本来の静寂が戻る。
 アギトが使用していたメンテナンス用の装置と、そのデータの整理に取り掛かりながら、スカリエッティは一人愉悦の笑みを浮かべた。

「……好意の反対は無関心」

 謳うように独白する。

「彼の中の<悪魔>に魅せられたのか、人としての苦悩に気付いたのか、それとも……いやはや、やはり<魂>とは実に興味深い」



146魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/06(月) 21:15:13 ID:x1fzuVWF
魔法少女リリカルなのはStylish
 第十九話『Dark Side』





「18のダブル」
「楽勝」

 ダンッ、と音がしてナイフが指定された場所へ突き刺さる。
 久方ぶりの来客に、セインが紅茶とお茶請けのケーキを持って休憩室へ行くと、ちっちゃな姉と色黒の美人が奇妙なゲームに興じていた。

「7のトリプル」
「意地が悪いな」

 ダーツボードに向けて、チンクとルシアが交互に投げ合っている。ただし、それはダーツではなくお互いの持つ武器だった。
 その威力を表すように、ボードが悲鳴のような軋む音を立てて揺れる。
 本来のルールではなく、互いに指す場所へ投げ合っているらしく、それぞれまだ狙いを外してはいない。
 二人ともテーブルに腰掛けたまま、距離は部屋の壁から壁ほどまで離れていたが、その程度ならば全くの必中距離と言ってよかった。つまり、ただのお遊びなのだ。

「コラコラ、お姉さん方。良ければ、ダーツのルールを教えましょうか?」

 苦笑しながらセインが二人に紅茶を注ぎ、お茶請けも添えていく。

「ありがとう」
「どういたしまして。ルシアさんまで来るなんて珍しいですね」
「アギトの迎えもあるから。あのメガネ女がいないのは僥倖ね」
「クア姉なら、バージルの使いっ走りしてますよ」
「またか? 気の毒に」

 紅茶に口をつけながら、チンクは憐れむように呟いた。
 ルシアが投げたナイフを回収し、再び席に戻ってくる。

「いい気味だわ。あの女、何かに付けてルーテシアに良くないこと吹き込もうとするのよ」
「確かに、子供の教育には絶対良くない相手ですねぇ」
「言ってやるな。あれで良い所もある」
「「どこが?」」

 ルシアとセインの全くフォローしようがない異口同音の問いに対して、さすがのチンクも気まずげにカップで口元を隠すことしか出来なかった。
 休憩室には他に、当のルーテシアとゼスト、そして彼女を相手にチェスに興じる無謀なウェンディがいた。
 比較的人当たりの良いメンバーだ。積極的に他人と関わろうという気のない他の<姉妹>は、自然とルシア達とは疎遠になっている。
 ルーテシア達の下へお茶を持っていくセインを見送りながら、チンクとルシアは再びボードに視線を戻した。

「6のシングル、内側。……バージルのことだが」

 カップを片手に持ちながら、無造作にナイフを投げるルシアへ視線を向けず、独り言のようにチンクが呟く。
 互いに共通する戦闘スタイルを持つせいか、彼女たちには初対面から奇妙なシンパシーがあった。今はもう友人と言っても過言ではない。

「奴をどう思う?」
「危険だわ」

 ルシアもまた視線を前に向けたまま、即答した。

「<悪魔>の力か」
「私も『同じような力』を持っているけど、アイツのそれは私よりも強大よ。多分、敵わない」
「それほどか……」
「貴女達の方が良く知っていると思うけど? 何度か模擬戦もしてるんでしょう?」
「いや、最初の一回だけだ。クアットロの件以来、奴と戦う危険性は十分理解したからな」
「そうね。あの男にとっての戦いは……殺し合いしかないわ」
147魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/06(月) 21:16:48 ID:x1fzuVWF
 先にバージルと出会ったのは、ルーテシアとゼスト、そしてルシアだった。
 彼女達を介してバージルはスカリエッティと出会い、ルシアも知らない秘密裏の契約を交わして、今は行動を共にしている。
 それはもちろん、協力関係などという生温いものではなかった。
 互いに好都合だから利用し合うだけ――その微妙な境界を図り違えた結果、事件は起こった。
 研究目的を建前に面白半分でチンク達<ナンバーズ>の訓練に加わらせ、シンプルな模擬戦を行い、そしてバージルは三人の重傷者を作り出した。
 戦った三人の内の二人。トーレとチンクは全快に一週間以上を要するダメージを負い、もう一人のクアットロに至っては……正直、ルーテシアが観戦していなかったのは幸運だった。
 クアットロがバージルに得意の幻覚攻撃を行った後、一体何がそこまで彼の逆鱗に触れたのか、過剰とも言える殺意を以って彼はクアットロを斬り刻んだ。
 四肢を切断し、命乞いをする彼女の喉をもう少しで串刺しにする所だった。
 その惨劇以来、スカリエッティもナンバーズも、そしてルシア達さえもバージルへの干渉を最低限に抑えている。
 ルシアは最初、バージルを見た時に『研ぎ澄まされた剣だ』と感じた。だがそれは違った。アレは『その剣を振るう飢えた獣だ』と改めた。

「敵か、それ以外――あの男が見てる世界は、おそらくそれだけしかいないわね」
「ある意味、憐れな男だな」
「その同情すら甘いわよ。アイツの目的は知れない。いつか、貴女達に刃を向けるかもしれない」

 ルシアは<悪魔>に対して抱く感情と同種のものをバージルに感じていた。
 ルーテシアが<悪魔>を使役する度に懸念する思いを抱いていた。
 絶対に相容れない。その力がどれほど強大で、そしてそれを味方に付けることが出来たとしても、いずれはその牙が自分にも向かう。
 そんな不安と恐怖を感じずにはいられないのだ。

「元より馴れ合いなど考えていない。奴は味方などではない。妹達に刃を向けるというのなら――」

 チンクの投げたナイフがボードの中心に寸分のズレ無く突き刺さった。

「この姉が命に代えてでも奴を殺す」

 冷徹な決意を秘め、チンクはそう断言した。
 文字通り『悪魔のような男』――バージルに対する彼女達の評価は、共通してそういうものだった。





 眼前のホログラムウィンドウには文字の羅列が波のように流れていた。
 読書嫌いの人間から見れば、それは一種の模様のように見えたかもしれない。しかもそんな画面が複数眼前に表示されている状況は拷問のようにも思える。
 しかし、バージルはそれらの文字を一語一句逃さず読み解いていた。
 眼の負担を考慮されたウィンドウの放つ光量が、薄暗い資料室を延々と照らす。

「……ちっ、やはりこの程度か」

 どれほどの時間、バージルはその作業を繰り返していただろうか。
 ひたすら情報を得ていく内に、それが徒労に終わる予感がし始めていた。表示されている情報はいずれも彼の期待に応えるものではない。
 そこには<悪魔>に関する情報が書かれていた。

「クアットロ」
「は、はいッ! なんでしょうか……?」

 背後に控えていたクアットロを振り返りもせず無造作に呼び付ける。
 普段の不遜な彼女の態度を知る者なら眉を顰めるような従順さで、クアットロは背筋を伸ばしてそれに応じた。
148名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 21:18:21 ID:Xm6IZ8DX
兄貴のターンダァーイ
149魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/06(月) 21:19:05 ID:x1fzuVWF
「<悪魔>に関する資料は、本当にこれだけか?」
「はい、閲覧許可されている物はそれだけかと……」
「制限が?」
「えぇと、そちらに関してはドクターが独自に収集してきたものなので、関与しておりませぇん」

 引き攣った愛想笑いを浮かべ、媚びるような声色を努力して搾り出すクアットロを、バージルは無言で睨み付けた。
 真剣を背筋に這わせているような寒気を感じ、慌てて弁明する。

「ほ、本当ですぅ! ドクターも研究途中で、まとまった資料なんて大してありませんわ!」
「……」
「それ以外の情報なら、あのぉ、幾らでも……すぐにでも……」
「……ウロボロス社の創立以来の経歴を出せ」
「は、はいぃ!」

 すぐさま作業に取り掛かる。
 スカリエッティからの命令であっても、ここまで実直で素早い行動は起こすまい。その機敏な動きは、バージルに対する恐怖に裏付けされていた。

「おい、バージルいるか?」

 命令されるクアットロにとっては全く気の抜けない針のムシロのような室内へ、不意にアギトが顔を出した。
 クアットロの顔が希望を見つけたように輝く。

「いるなら返事しろー、コノヤロー」

 おおよそバージルに接する者の中では最も気安い態度で、アギトはやる気のなさそうに彼の眼前まで移動した。
 クアットロならば視線を向けることすら腰の引ける氷の眼光を真正面から見返す。
 無視を決め込んでいたバージルは不快そうに顔を背けた。

「……何だ?」
「変態科学者が呼んでっぞ。行って来い」
「ここに呼べ」
「自分で呼べよ」
「……」
「睨むなよ、芸がないな。意地になる程のことでもないだろ?」
「……ラボか?」
「おう、いつもの場所。世間話するほど命知らずじゃねーんだし、何かお前にとっても有意義な話なんじゃないの?」

 死を連想させる程の圧力を滲ませる声と、気の抜けたダルそうな声が奇妙な会話を展開し、バージルが折れる形でそれは終了した。
 最後のフォローが理性的な判断を促したのか、アギトを一睨みするだけで済ませて、そのまま無言で部屋を去って行く。

「……バージル」
「何だ?」
「素直じゃん。何かあったのか?」

 アギトにとっては純粋な質問だったが、肩越しに振り返ったバージルは的外れな馬鹿を見るような蔑んだ視線を一瞬向け、何も応えずにドアを潜った。

「なんだよー、相変わらず愛想ないなー」

 アギトは拗ねたように口を尖らせた。
150名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 21:20:23 ID:Xm6IZ8DX
>「は、はいッ! なんでしょうか……?」

なん・・・だと・・・!?
151魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/06(月) 21:21:07 ID:x1fzuVWF
「けど、本当にアイツ何があったんだ? 随分丸くなってたけど」
「……声をかけただけで斬りかかって来そうな雰囲気が、丸い? どうかしてるんじゃないのぉ?」

 クアットロは信じられないといった眼でアギトを見つめた。

「ちょっと前のバージルだったら、本当にそんな感じだったよ。でも実際、今はそうならなかった。
 なんかさ、人の話を聞く余裕が出来てるっていうか、これまであった焦りみたいなものがなくなってると思う」
「そんな違いなんて、私には欠片も分からないんだけど……。
 そういえば、前回の任務で珍しく協力してくれてたわねぇ。ドクターは『探し物が見つかったから』って言ってたけど」
「探し物かぁ……だから焦ってたのかな」
「……アギトちゃん。駄目よ、あの男は」

 バージルがいなくなり、本来の調子を取り戻したクアットロだったが、おそらく自分でも気付いていないだろう感情の滲み出るアギトの横顔を見て、らしくもない助言が口から出ていた。
 アギトはバージルを良くも悪くも意識している。
 それは、おそらく唯一バージルに対してあれほど気安く接することが出来る彼女の言動を見ていれば容易く推察出来た。
 本人も気付かぬその心情をからかって弄り回したい生来の衝動をクアットロは珍しく抑えている。
 度々こうして助けてくれるアギトに一抹の恩を感じているのもあるが、それ以上に彼女ですら感じるバージルへの懸念が無意識に忠告を紡ぎ出していた。

「あの男は、自ら<悪魔>に近づこうとしている男よ。放っておけば、勝手に自滅するわ」

 何を妙な勘違いしてるんだ? といった訝しげな視線を向けるアギトに、真剣な表情で告げる。

「一度ユニゾンしたから親身に感じるのかもしれないけれど、あまり深く関わらない方がいいわ」
「……少し、言いすぎじゃねーの? それはお前がアイツのこと嫌いだからだろ?」
「ええ、初対面でダルマにされたのよ? あの時ほど恐怖を感じたことは無いわ。
 まるで<悪魔>だった。アレ以来、何度も後ろから刺してやろうと思ったけど、その度に次の瞬間殺される自分が頭に浮かんで足が竦むのよ。
 この理屈では覆せない恐怖が、多分<悪魔>に対して感じる共通の感覚なのね……」

 普段の胡散臭い詐欺師のような喋り方は鳴りを潜め、独白するように語るクアットロの虚ろな表情は、彼女の本心を感じさせた。

「あの模擬戦の時、私のISはまだ当時不完全だったから知覚系に干渉する催眠に似た方法だったの。
 どんな幻影を見たのかは私にも分からないわ。けれど、深層心理に働きかけて、トラウマに関わるものを見たはず。
 普通の人間なら動揺して、混乱して、そして恐怖するわ。なのに、あの男は斬った。一瞬も臆さずに、むしろ怒りや殺意を滾らせて、斬れないはずのモノを斬った――恐ろしい男よ」

 吐き捨てたクアットロの言葉に、アギトは同意した。
 確かに、頑なに人間である部分を切り捨てようとするあの男の意志は不気味を通り越して異常に思えるかもしれない。バージルは自らそれを望んでいるのだ。
 しかし、アギトは気付かぬ内にこうも思った。
 少しだけ――可哀想だな、と。




152魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/06(月) 21:23:25 ID:x1fzuVWF
 スカリエッティは大抵自らのラボに篭っている。
 バージルがそこを訪れれば、中は相変わらず薄暗い闇とそれを照らす機器の灯が満ちていた。
 暗闇が部屋の境を曖昧にし、何処までも床が続き、何処にも壁が無い不気味な空間だと錯覚させる。このような空間をスカリエッティが好むようになったのは何時からか。
 ――闇には<悪魔>が潜む。
 おそらく、それを知った時からだった。

「バージルかい? すまないが、奥まで来てくれ。少し手が離せない」

 別の部屋に繋がるドアから聞こえた声に、バージルは不快感を表しながらも黙って従った。
 ドアを潜ると、その前の部屋とは全く異なる異空間が広がる。
 生々しい標本が浮く水槽が柱のように何本も立ち並び、機器の光がその中身を淡く照らし出していた。
 腹を切り開かれた角のある猿。人間の赤ん坊に似た蛙。体毛と目のない犬。まともな生態系のモノはひとつも無い。
 棚に陳列された様々な骨格標本も、頭蓋に角が生えていたり、異常に骨格が小さかったりしている。
 どれもこれも生物を研究した物ではなかった。全て<悪魔>だ。
 この場所に科学の面影は無く、黒魔術か何かの研究部屋としか思えなかった。
 そんな異界の一角で、スカリエッティはデスクに腰掛けて本を読んでいた。文字通り紙とインクで構成された本である。

「……<悪魔>に関する新しい資料を手に入れてね。しかも、幸運にもコピーではなく原本が手に入ったのだよ」

 呼びつけたバージルを一瞥もせず、文字をなぞりながら頼んでもいない説明をする。
 バージルはそれを無言で流した。スカリエッティの無駄なお喋りに付き合うつもりはない。

「資料室では何を探していたのかな? 君も知らない<悪魔>の情報か?
 例えば、この本はどうだろう――愛に目覚めた<悪魔>が人間の女と交わり、双子の兄弟を産み落とすという話だ」

 その言葉に、無視を貫いていたバージルの意識が始めて揺れた。

「まだ最後まで解読していないが、この結末はどういうものなのだろう? 生まれた双子は、果たして人間なのだろうか? それとも――」
「何が言いたい?」

 バージルの殺気がスカリエッティの全身を貫いた。
 彼がどんな反応を見せるのか、好奇心を抑えられず口にしていた戯言が意思とは関係なく止まる。
 これ以上余計なことを喋れば、彼は自分を殺すだろう。
 確信と恐怖があった。この感覚は覚えがある。そう、丁度あのダンテのような――。

「……やはり、兄弟か。そっくりだよ、その力、その恐怖」
「俺の父は<悪魔> 母は人間だ。――それで?
 貴様の遊びに付き合っている暇は無い。話を進めるのか、俺に殺されるのか。早く選べ」

 僅かな動揺さえ伺えない、無感情で淡々とした口調の中に有無を言わせぬ迫力が秘められている。
 命の危険を感じながら、スカリエッティは恐怖と同じくらい感動を抱いていた。
 バージルと組するようになって長いが、今初めてまともなコミュニケーションを取れた気がした。実に数年を経て、彼は初めて他者に意識を向けたのだ。
 これで、目の前の存在をもっと知ることが出来る。
 <悪魔>と人間のハーフという、奇跡のような存在を。

「話を進めよう。実は、君の弟のダンテ君が<この世界>にいることが分かった」
「話を進めろ、と言ったが?」

 バージルは回りくどい言い方を戒めるように、視線をスカリエッティに突き刺した。

「貴様が意図してダンテの存在を隠していたことは知っている」
「形だけの謝罪は必要なさそうだね。では、彼の現在の所在は分かっているのかな?」
「……何処にいる?」
「ミッドチルダ中央区画湾岸地区。管理局の機動六課という部隊で、対<悪魔>用の協力者として居るようだ」

 聞き終えると同時に、バージルは踵を返した。そのまま外へ向かう。
153魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/06(月) 21:25:25 ID:x1fzuVWF
「待ちたまえ」

 間違いなくダンテの元へ向かおうとしているバージルをスカリエッティが呼び止めた。
 全く以って無視すべき呼びかけではあったが、『この世界の情報』という点に置いて大きなアドバンテージを持つ相手の言葉に思わず足が止まってしまう。

「貴様の命令を聞く利など、俺には無い」

 躊躇する自分に対して、内心で舌打ちしながらバージルは告げる。

「困るのだよ、勝手に死なれては」
「貴様がダンテを使って何を企んでいるかは知らんが……」
「いや、君がだ」

 その言葉に、今度こそバージルは完全に足を止めた。
 振り返り、向き直る。スカリエッティの浮かべる笑みが嘲笑に見えた。
 初めて心が苛立ちでざわめき立つ。

「……俺が奴に負けると?」
「勝てるとでも思っているのかね? 全て<あの時>と同じ焼き回しじゃないか」

 バージルは更なる動揺を苦心して表情に出さないよう押さえ込まねばならなかった。
 胸中には疑問が渦巻いている。
 スカリエッティと出会い、数年。協力関係とも言えない酷薄な立場を互いに維持してきた。奴は自分の過去を何も知らないはずだ。
 だが、奴は今ここで自分の出生を語り、更にそれ以上の事を知る素振りも見せている。
 先ほどはこれ見よがしに本を指して見せたが、それが嘘であることは明白だ。自分は数百年も前に生まれたわけではない。
 唯一心当たりのある、かつての曖昧な記憶の中で、自分の深い部分に触れた感覚を覚えている赤い小さな影を思い出してバージルは苦々しげに舌打ちした。

「おそらく君と君の弟が<この世界>に来る事になった原因だよ、バージル。
 君は<魔界>の扉を開こうとして、失敗した。父親の遺産である<力>を手に入れようとして、奪われた。君の弟、ダンテによって。
 同じ血統を持ちながら、君は君の半身に負けたのだよ。ダンテを選んだのだ、君が乗り越えようとしている<悪魔>は、父は――!」

 ゆっくりと歩み寄るバージルを前にして、死が近づいてくる感覚を味わいながらも喋り続けていたスカリエッティは、抜き放たれた白刃についに言葉を遮られた。
 顔の数センチ先に剣先がピタリと止まっている。

「……君の父上は偉大だ。名前を口にすることすら憚られる」
「黙れ」
「意地悪が過ぎたな、許してくれ。だが、言葉を撤回するつもりは無い」

 バージルが殺気を強めても、スカリエッティはもう臆さなかった。
 突きつけられた刃に手を添え、刃先に親指を這わせる。ぐっと押し込めば、鋭利な刃が皮膚を深く切り裂いて血が流れた。
 その瞬間にも、彼の笑みは揺るぎもしなかった。

「君は負ける」

 一歩、前に進む。それに合わせて指が刃の上を走り、更に傷が深くなるが気にも留めない。

「何度でも言おう。今戦えば、君はダンテに負ける。賭けてもいい」
「貴様は、奴の味方か?」
「そうじゃない。ただ事実を言っている。
 7年前、この世界へ落ちて来た時から君は何も進歩していない。確かに力はより強大になったが、それはダンテも同じだ。
 君は何も変わっていない。考え方も、これからやろうとしていることも――全て同じだ。だから結果も同じになる。以前の勝敗が運によって決定されたなどと考えているのかい?」

 顔を付き合わせる距離で、スカリエッティはようやく止まった。
 バージルの氷のような眼光にも負けない、混沌とした狂気の瞳が真正面に居座り、動かなかった。
 単なる人の身で<悪魔>の力を前にして不退転となる――ただその姿だけを見れば、あまりに気高い姿であった。
 視線を交え、僅かな沈黙の後、バージルはおもむろに血糊を振り落として刀を仕舞った。
154名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 21:25:59 ID:Xm6IZ8DX
実は兄貴はマザコンかつファザコンかつブラコン・・・あれ?幻影剣が・・・
155魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/06(月) 21:28:10 ID:x1fzuVWF
「……何が言いたい?」

 バージルの瞳に篭っていた感情の熱が引くのを察して、スカリエッティは満足そうに頷いた。

「君には足りないものがある。ダンテにあって、君に無いもの――それは<人間の力>だ」
「くだらん精神論は……」
「いや、違う。私は全く科学的な話をしている」

 スカリエッティは促すように部屋を見回した。
 彼の奇怪な研究成果の数々が所狭しと並べられ、その光景だけであらゆるものが呪われそうな雰囲気に満ちていた。

「見たまえ。<悪魔>の存在を知って以来、私はこの未知の存在の研究に明け暮れてきたが、まるで底が見えない。
 その存在を固着させる為に生物に憑依させる段階までは進んだ。だが、どれも失敗だ。大抵は悪魔がその媒体となる肉体を完全に乗っ取る。片方の力が片方を飲み込んでしまう。
 ――だが、君達は違う。一つの肉体に相反する二つの魂が同居している。君達はまさに<魔人>だ。存在そのものが、既に<悪魔>を超越しているんだ!」

 興奮気味に語るスカリエッティは、バージルをここに呼んだ本来の用件も忘れて熱弁していた。
 バージルはただ黙っていた。
 目の前の男が語る内容に、確かに思うところもある。自らの出生を改めて見つめ直す必要もあるかもしれない。
 しかし、それ以上に目の前の男の不気味さに、バージルは初めて人間を相手取って動揺するという経験を僅かながらもしていた。
 <悪魔>に魅せられた人間でありながら、人間の力の素晴らしさも説く。
 恐れながらも興味を抱き、近づき、調べ、感情のままに弄り、そして悦ぶ――ある意味子供のように純粋だった。だからこそ不気味なのだ。

「バージル、君の人間としての半身は決して劣った部分ではない。君はもっと自分に与えられた<力>を有効に使うべきだ。そうすれば、君はダンテに勝てる」

 ――もっとも、その時は既に君とってダンテが敵ではなくなっているかもしれないが。
 自分がバージルからも変人扱いされているなどと露も知らず、スカリエッティは自身の推測に一人にやついていた。

「……さあ、話が長くなってしまったね。
 君を呼んだ用件だが、簡単だ。次から<作戦>に参加して欲しい。ダンテと対峙するお膳立てもするし、必ず君にとってプラスとなる。どうかね?」

 答えが分かっていながら、スカリエッティは尋ねた。
 否ならば、既に自分は斬り殺されている。
 スカリエッティのペースに嵌り、彼の話を聞き入ってしまったバージルが下す判断など決まっていた。

「……いいだろう」

 目の前の癇に障る存在を、真っ二つに切り裂くことは容易い。だが、困難な道こそ得られるものは大きい筈だ。
 再びこの手に父の力を手にする為には、多くの障害が残っている。
 運命のように立ち塞がるダンテ、アリウスという謎の魔導師、そして目の前の狂った科学者も――。
 バージルは自らを納得させると、今度こそ踵を返して部屋を後にした。

「ああ、そうそう。君の過去についてなんだがね、大体察しているとおりアギトを経由して知ったよ」

 その背中に向けて、悪戯っぽく告げる。

「だが、彼女を責めないでくれ。メンテナンスの度に記憶を読まれていることは知らないんだ」

 悪趣味な上にジョークのセンスは欠片も無い。
 無意識に感じた不快感から肩越しに睨みつけ、そんな自分の衝動的な行動に舌打ちするとバージルは部屋を立ち去った。
 残されたスカリエッティは興味深そうにその後ろ姿を見送る。
 不意に、部屋の片隅の暗闇から足音も無くウーノが姿を現した。

「あまり、あの男を挑発するのもどうかと思いますが」

 姿を隠していたわけではないが、二人の会話に割り込む必要性も感じなかった為今まで黙っていた。
 しかし、一連のやりとりでは思わず飛び出しそうになった場面も多々あったのだ。ウーノは内心肝を冷やしていた。
 目の前の主は、理性的な普段から一転して時折信じられないほど愚かなことをする。
156名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 21:30:18 ID:Xm6IZ8DX
人間をなめるなぁあああ!!!…支援
157魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/06(月) 21:30:56 ID:x1fzuVWF
「何、ただ要求を突き付けても彼は協力してくれない。必要な交渉技術だよ」
「半分以上、楽しんでいるだけのようにも見えましたが?」
「ははっ、それもある。本当に、彼ら双子は興味深い。話すだけでも退屈しないさ」

 何百という人間を含めた実験体を退屈そうに切り刻む一面を見せたかと思えば、未知の存在との対話をおっかなびっくり楽しむ。
 ウーノにとって、ジェイル=スカリエッティは創造主ということを差し引いても全く計り知れない存在だった。

「あの男に大分入れ込んでいるようですね。私は、彼をアリウスにぶつけるつもりだと思っていましたが」
「最初はそう考えていた。しかし、ダンテと会って気が変わったよ。
 彼を駒として扱うのは惜しい。彼らの人生は観察すべきだ。一体どんな結末を見せてくれるのか……」

 彼の心境は、映画の予告を見て本編を楽しみにする期待感に似ていた。
 脇に抱えていた本をウーノに差し出す。そこに書かれている内容は、もちろんバージル達の出生に関してではない。

「かの有名な<魔界>と共に封じられた<魔帝>の物語とは違う、もう一つの封印された<覇王>について綴られた本だ。
 まだ完全に読み解けてはいないが……アリウスの狙いが見えてきた。以前襲撃したオークションの出品リストを用意しておいてくれたまえ」
「畏まりました」
「そろそろ反抗の準備を始めるとしよう」

 スカリエッティは闇を睨みつけ、自分達を見下ろす敵の姿を幻視する。

「――<人間の力>を見せてやろう、偉大なる<悪魔>諸君」

 血の滴る拳を突き出し、狂気の科学者は不敵な宣戦布告を闇に発した。



「……」

 それをしばし、黙って見守るウーノ。

「ドクター」
「何かね?」
「そろそろ出血が悪化しますが」
「あ、うん」

 淡々と指摘され、バージルの刀で斬った指を握り込んでいた手を開いた。

「……なんか、痛い」
「それはそうです。傷が広がります」
「この血の勢いは、ちょっと危険じゃないかね?」
「いいから手を出して下さい」
「ジンジンするし」
「思ったよりも深いです。とりあえず止血だけしておきますね」
「すごい、痛いし!」
「痛いのが嫌なら、考えも無しに指を切るとかしないでください」

 今にも泣き喚きそうなスカリエッティの情けない顔に対して、ウーノは淡々と叱り付けた。瞳には呆れたような色が見えなくも無い。

「だって、そうでもしないと雰囲気に呑まれそうだったんだから仕方ないじゃないか! 気が抜けたら急に痛みがぶり返してきたのだよ!」
「逆ギレしないでください。……本当に、普段はてんで意気地がないんだから」

 バージルと対峙していた時の姿など面影すらない。子供のような悪態を聞き流しながら、手早く応急処置を行っていく。
 スカリエッティを医療室へ運びながら、ウーノは小さくため息を吐いた。
 本当に、我が主は計り知れない――。




158名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 21:33:11 ID:Xm6IZ8DX
博士wwwwwwwwwww
159名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 21:35:29 ID:uuASvkdm
スカが可愛いような気がするのは気のせいですかwwwww
160魔法少女リリカルなのはStylish ◇GJQu3lVpNg:2008/10/06(月) 21:36:40 ID:uuASvkdm
「――はい。もう起き上がっても結構ですよー」

 シャマルに促され、スキャン台に寝転がっていたダンテはため息と共に起き上がった。

「やれやれ、美人の女医さんに誘われたから、もっと色気のある検査を期待してたんだがな」
「なんなら、今からお注射でもしましょうか?」
「いいね、そっちの方が夢がある」

 半裸のダンテを相手に大人のジョークを交わしながら微笑むシャマルの仕草は、落ち着いた女の色気を感じさせた。
 得体の知れない機器と白一色に満ちた部屋だが、彼女の存在が彩を与えている。
 身体検査など退屈極まりないものだったが、ダンテは悪くない気分だった。

「それで、俺の体はどうだった?
 ティアは俺の食生活が破綻しきってるって言うんだが、異常でもあったか? 糖が出てたとか、腹が出てたとか……」

 上着を羽織ながら、茶化すように尋ねる。
 もちろん検査をするまでもなく、引き締まった屈強な彼の体つきは不健康などという言葉とは全く疎遠だった。

「健康そのものですよ。同じ年代の成人男性と比較しても、水準を遥かに上回る健康状態です。内臓、血液、骨格まで――」

 そこまで明るく告げ、不意にシャマルは笑みを消した。
 モニターから目を離し、真剣な視線でダンテを見据える。

「何処も異常はありません。アナタの肉体は、多少身体能力が高くても、人間と全く同じです」

 シャマルは当たり前のことを、一語一句確かめるように口にした。

「ダンテさんが、はやてちゃん達に話した色々なことを全て聞き及んではいません。
 ただ一つ、アナタが『人間と悪魔の混血である』という話……。正直、信じられません。本当に体には異常は無いんです。DNAも人間の物です」
「そいつは安心した。血が赤いのは知ってたが、ひょっとしたら心臓が二個あったりするんじゃないかって悩む時もあったからな。これからは胸を張って暮らせるよ」
「茶化さないでください、真面目な話なんですよ!」
「こいつは失礼。それで、何が問題なんだ?
 信じられないっていうならそれでいいさ。別に絶対に信じてもらう必要があるほど重要な内容じゃない」

 ダンテは気楽にそう言った。
 自分が人間ではないという事実を、こうまで軽く扱える彼の神経を疑ってしまうが、同時にダンテらしいとも思う。
 その開き直りにも似た考えに至るまで、一体どういう経緯があったかは分からないが、大きな苦悩があったことは間違いない。
 似たような例を自分の身近でも知っているだけに尚更だ。
 それを経て、今のダンテが在ることこそ彼の精神的な強さを表している。シャマルは目の前の男のそういう部分に魅力を感じていた。
 彼が気にしないというのなら、気にしなくていいのだろう。
 この結果を報告して上司がどう考えるかは知らないが、少なくともシャマルはそういう結論で落ち着いた。

「ダンテさんに関しては、問題はないんです」

 しかし、この検査結果が、また別の問題を浮き彫りにしていた。
 ある意味、こちらが今回ダンテを呼んだ本題だった。

「問題は――ティアナなんです」
「ティアが?」
「以前の模擬戦から、少々疑問を感じてまして、こっそり検査させてもらいました。彼女は異常に成長しています」
「スリーサイズがか?」
「いえ、全体の能力値です」

 今度はシャマルも冗談に付き合わなかった。
 ダンテの表情が普段の気安さから戦闘のような真剣さを帯びてきたのを確認して、話を続ける。
161魔法少女リリカルなのはStylish ◇GJQu3lVpNg:2008/10/06(月) 21:37:49 ID:uuASvkdm
「あの模擬戦、本来なら決して在り得ない結果だったんです。
 幾ら毎日訓練してるとは言っても、ティアナの身体能力はあの年頃の平均から見ても発達速度が遥かに早い。リンカーコアの成長、魔力量の増大に関してはより顕著です。
 間単に言えば――『強くなりすぎている』 明らかに外的要因が携わっているでしょう」
「……危険なのか?」
「それが判断出来ないから問題なんです。
 検査の結果、ティアナの体で異常が見られたのは、その向上した能力値だけでした。他は健康体です。もちろん、人間の範疇で」

 そこまで語り終え、シャマルは大きく息を吐きながら脱力してイスに凭れ掛かった。

「でも、明らかにおかしい」

 シャマルは断言した。
 耳を傾け続けるダンテの目元はまだ力が抜けていない。

「何か心当たりはありませんか?
 これまで他のメンバーと一緒に訓練も任務もこなして来て、ティアナだけがおかしい――多分<悪魔>が関係しているんだと思うんです」
「ああ……」

 ダンテは僅かに迷う素振りを見せ、眼を逸らさず自分を見つめ続けるシャマルの真剣な視線に根負けしたかのように苦笑を浮かべた。

「<悪魔>がくたばった時に残す赤い石を知ってるか?」
「はい、<悪魔>に対して判明している数少ない情報です。<レッドオーブ>と呼ばれてますが」
「<レッドオーブ>か……いいね、俺もそう呼ばせてもらおう。
 その<レッドオーブ>は、<悪魔>の血肉みたいなもんだ。そいつを体に吸収して蓄積すれば、同じように少しずつ力が手に入る」

 あっさりと告げられた新事実に、シャマルは眼を丸くすることしか出来なかった。
 あの謎の石に関しては、発見されてから数年、解析も進まず、全く新しい情報が得られなかったのだ。
 驚愕に固まるシャマルを尻目に、ダンテは何でもない雑学を披露するように話を続けていく。

「理屈は分からない、が。俺自身、<悪魔>と戦い続けて分かったことだ。
 <レッドオーブ>には力を強化する効果があるらしい。あるいは、死んだ<悪魔>の力を吸収する形になるのかも……」
「……それは、安全なものなんですか?」

 <悪魔>の血肉を自らの体に取り込み、力にする――あまり体に良さそうなイメージではない。
 深刻なシャマルの問いに、ダンテは肩を竦めた。

「さあな。こいつは『俺の』経験談だ。今のところ俺は恩恵しか与ってないが……『普通の人間』なら違うのかもしれないぜ?」
「……問題が最初に戻ってしまいましたね」

 <悪魔>の力――その詳細はもはやミッドチルダの技術を以ってしても解析出来ないことが、ダンテを調べることで判明してしまった。
 例えティアナの体に異変が起こっていたとしても、それをデータ化出来ない以上シャマルの懸念の域を出ない。
 確信はあるのに確証はなく、それがより不安を大きくしていた。

「ああ、しかし危険性が高いのは確かだ。<悪魔>の力なんて、人間が持つもんじゃない」

 <悪魔>の血肉を取り込み、力に変えて戦う。それを繰り返す――。
 こんな戦い方を続けたとして、その行き着く果てにはどんな結末がティアナを待っているのだろうか?
 不安を感じずにはいられない。

「ティアナはこの事を?」

 シャマルの問いに、ダンテは頷いた。
162魔法少女リリカルなのはStylish ◇GJQu3lVpNg:2008/10/06(月) 21:38:36 ID:uuASvkdm
「薄々察してるだろうな。アイツは昔から俺に付いて<悪魔>と戦ってきた経験もある」
「分かっていて、それでも力を欲しているんですね」
「あのじゃじゃ馬のことだ、覚悟の上だろうよ。忠告しても無駄だと思うぜ」
「この事は、はやてちゃんと……」
「ああ、ナノハにだけ伝えておいてくれ」

 結局、この情報をむやみに広めないという消極的な結論で落ち着いた。
 ティアナを放置しておくことは出来ないが、止めることも出来ない。確証が無い以上、命令で強制も出来ない。
 何もかも曖昧な状態でダンテに決断出来ることは、あの模擬戦以来頑ななティアナと新しい関係を築いて見せたなのはに何らかの期待を抱くことだけだった。
 まったく、役立たずな自分に腹が立つ。内心の苛立ちを腹に押し込んで、ダンテは天井を仰いだ。
 ティアナにバージル、母、そして父――。

「家族の問題ってのは、いつでも手に余るもんだぜ……」

 それでも立ち向かわなければならない。これまでそうしてきたように。
 視線を元の位置まで降ろせば、ダンテの愚痴に気を悪くした風も無く、シャマルが微笑を浮かべていた。
 文字通り人間離れした雰囲気を感じさせるのに、抱えているものがあまりに人間臭く、それがむしろ好ましい。
 格好悪いところを見られたもんだ、と苦笑を浮かべるダンテの声と合わさって、部屋には二人の笑い声が束の間響いていた。






to be continued…>





<悪魔狩人の武器博物館>

《剣》閻魔刀

 バージルの愛用する剣。父から譲り受けたもの。『ヤマト』と読む。
 日本刀に酷似した形状を持つが、その特性は一線を画している。
 通常の日本刀に比べて幾分幅が広く、長い刀身だが、明らかに質量で勝るリベリオンとの激突にも耐えるほどの頑強さを誇る。
 それでいて切れ味は非常に鋭利。バージル自身の技術も相まって、凄まじい剣速で斬られた対象のダメージが表面化するまで数瞬を要することも。
 また、バージルは刀と鞘を一対として扱い、抜刀術の他にも鞘を用いた打撃技を組み合わせた戦闘を得意とする。
 『人と魔を分ける力』を持ち、自我を宿しているともされているが、それが剣の特性に影響しているかは不明。
 バージル自身の力の特性を完全に発現させ、その斬撃は次元さえも切り裂くことが出来る。
 更に、この刀には武器以外にももう一つの役割が与えられているらしいが、その詳細は完全に不明である。
163魔法少女リリカルなのはStylish ◇GJQu3lVpNg:2008/10/06(月) 21:40:21 ID:uuASvkdm
 投下完了。
 さっさとストーリー進めろよーって思うかもしれませんが、原作基準だとスカ山サイド描くの五話ほど先になりそうだからここに差し入れます。
 バージルはダンテと正反対を意識して書いていきたいですね。
 六課のキャッキャウフフな雰囲気とは違ってギスギスフィーリング。
 次回から本当にようやく話が進みます。
 DMCのストーリー説明とかツーカーの人にはつまんないかもしれないけど、我慢してくださいorz
164名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/06(月) 21:40:25 ID:GV+cS1IP
スカがいい味で出てるww
支援
165名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 21:41:38 ID:Xm6IZ8DX
あいかわらずwktkさせてくれるッ!
166代理の人:2008/10/06(月) 21:42:48 ID:uuASvkdm
代理投下完了。Stylishの人GJでした。
各キャラがイイ味を出してて、読んでいてとても楽しめました。
次回投下も心待ちにしています!
167魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/06(月) 21:42:48 ID:x1fzuVWF
素早い代理投下、感謝感激でございますw長くてサーセンw
なんか黒スカ山の割合が大きい気がしたので、こっちはナッ○ィ・プロフェッサーにしました。
面白い悪人目指してます。
168名無しさん@お腹いっぱい:2008/10/06(月) 21:48:09 ID:GV+cS1IP
GJ!!
氏の作品はいつ見てもあきませんね。
スカとかすごくカッコ?よかった
次回も楽しみに待ってます
169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 21:48:14 ID:oyayulTM
GJ!!です。
うーん、バージルが何かしらで死ぬまたは、死にそうになった時に、
ナンバーズの複数人が嘲笑しているのが見えるw
あと、アリウスさんとスカ博士は協力関係じゃなかったのか。
次回も楽しみにしています。
170名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 22:04:28 ID:U4cbWB6Z
あいかわらず面白すぎるww
バージルの動向、スカ博士のお茶目さwが実にGoodな展開でしたね。
久しぶりにイラッと来ないクワットロが読めたのもまたGood!!
とにかく今後の展開が気になるため、次回も楽しみにしています。
171名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 22:15:15 ID:nXShrCL4
乙です!

やっぱ普通の人間がレッドオーブ吸収しちゃうのはマズイよな…
ティアナがどうなっちゃうのか不安だな…



関係ないけど今度ティアナのフィギュアが出るみたいなので是非購入してダンテフィギュアと並べて飾りたいです
172×DOD ◆murBO5fUVo :2008/10/06(月) 23:08:19 ID:uuASvkdm
お久し振りです。
投下予定の方が無ければ、DODクロスの方を投下させていただきたいと思います。
容量は39kb。14分割です。PCと携帯両方駆使して規制に抗ってみることにします。
時刻は23:45ほどの予定です。
173名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 23:15:00 ID:x1fzuVWF
支援! せずにはいられない!!
174名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 23:17:01 ID:evVsI9ai
それは契約と支援の物語
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 23:25:30 ID:IYMts6zr
>>163
GJ
「人間の力」と「魔人」というフレーズで人修羅を造り出した大魔王の判断は間違ってなかったと
そんな風に認識してしまったおれはどうすればいいのでしょうか。デビルメイクライとのクロスなのに、思い浮かんだのがメガテンだなんて。
176名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 23:37:21 ID:TIS3868U
マニアックスですね、わかります。
23日発売のライドウの新作に附いてくるんだよな限定版は
177×DOD ◆murBO5fUVo :2008/10/06(月) 23:44:42 ID:W3y0hZ1P
ではそろそろ投下を開始します。内容は先述の通り。
途中でID変わると思いますが、気にせずトリップで追ってやってください。
178×DOD 六章五節 1/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/06(月) 23:46:55 ID:W3y0hZ1P
 暗く静かな部屋の中に突如として火炎が燃え上がり、光の束がゼストの眼の奥を灼いた。煌々と
した炎が壁面を明らかにし、失って久しい光の中に粗末だが広さのある空間が照らし出される。
 陽はいつの間にか落ち、辺りに広がっているのは浅い闇であった。眠らない都市に比べてその周
縁、打ち棄てられた廃墟の区画にはより一層の暗がりが染み込んでいる。冷たいコンクリートに囲
まれた建物の中は冷たく、じくじくと肌を刺した。風が絶たれ揺らぎのない空気からは、濃厚な夜
のにおいが湿気とともに立ちこめている。
 人から見捨てられた住居の跡地はただそれだけで寂しい。
 放棄されたそこにはもう既に、人間の気配は皆無だった。こういう場所を好んで根城とする野盗
の類いさえ居なかった。夜を生きる者ですら寄り付かない。土地そのものがそれほどに荒れていた。
壁面のどこもが傷だらけのこの一室があったのは、そのような場所であった。
 廃墟が辛うじて残していた外観と、色覚が定まらぬ目でとらえた部屋の様子から合わせて察する
に、かつては人も住んでいたのかも知れないと思われた。だが長年のあいだ野晒しにされてきた今、
ゼストはそこに生活感というものを見出だすことができなかった。
 とはいえ、そこらの森で野宿するより幾分かましだ。少なくとも森の中ほどは、外敵の心配をし
なくてもよい。程よく崩れた外壁にはいくつか穴があってすきま風が流れ込んでくるものの、火を
焚いても換気ができる。広さも割合とあってゆとりがある。この部屋を今夜の寝床と決めたのには
そういう理由があった。ゼストは今、ルーテシアに、少しでも心安らかに眠っていてほしかった。
 背から降ろしたルーテシアを見るアギトは悲痛な沈黙を保っていた。
 砂埃の付いた壁に背をもたれ、床に投げた朽ち木に火を移すゼスト。そうやって彼が暖をとる準
備をはじめてからも、照らし出されるアギトの横顔は痛ましく悔しそうな表情のままでいた。勢い
を持ちはじめた火炎に照らされる二つの眼球には怒りと悲しみの色彩が窺えた。急襲を仕掛けてき
たあの剣士から逃げ、やっとのことで合流した時から少し落ち着きはしたものの、それは変わって
はいないらしかった。
 走るゼストの腕に抱かれたルーテシアの顔を見て、文字通り烈火の如く怒り狂わんとするアギト
を諌めるのには随分と苦労をした。非道な扱いを受けていたのをゼストとルーテシアに救われたア
ギトは、ゼストのことを「ダンナ」と呼び慕うのと同じくらい、ルーテシアをも心から好いていた
からだ。
 そのルーテシアは今でこそ深い眠りに就いているが、戻ってきたアギトが見た時は顔面蒼白にな
って呼吸も荒く、そして酷く怯えていた。
 無理もない。そもそもルーテシアはあまりにも幼い。魔導師であるより前に、彼女は小さな子供
であった。歴戦のゼストですら怯む巨大な殺意に幼子が耐えられる道理は何処にもなかった。考え
てみれば――いや考えずとも、それは当たり前のはずだった。
 何故直ぐにこの子を逃がさなかったのかと、ゼストは己の愚鈍を呪った。如何なる力を持とうと
ルーテシアはまだ子供だ。そんなことにどうして気が回らなかったか。才能さえあれば年令など無
視して兵とする時空管理局に、過去長い間居たためなのかもしれないと思った。しかしそれだけが
原因ではないとも同時に思う。
 自分は何処かでこのルーテシアのことを、精神的に強いものだと思っていた。恐怖を感じること
もなくあらゆる困難に立ち向かい、己の目的に邁進することができると勝手に思い込んでいた。
 その結果がこれだ。自分の不甲斐なさが腹立たしい。ゼストは奥の歯を割れんばかりに食い締め
た。ぎり、という音すら不快に思えた。

「旦那ぁ」

 その声に、ゼストは我に帰った。向けた目に飛び込んだアギトの表情は、端から見ても痛ましさ
がありありと伝わるものだった。

「話す約束……だったな」
「聞かせてくれよ。何で……どうしてこんなことになったんだよ……」

 眠り続けるルーテシアを見ているうちに、だんだんと気持ちが悲愴になってきたのだろう。絞り
出すような声には旅の仲間を傷付けられた怒りや悔しさよりも、どうしてこの子がこんな目にとい
う、嘆きと悲しみの方がより強くにじみ出ていた。アギトと同じく、ルーテシアを大切に思うゼス
トにも、その気持ちは身に沁みるほどに分かった。

「……全て俺の責任だ。直ぐに逃げるべきだった」

 呻くようにゼストは切り出した。言葉の節々から自責の念がにじみ出ていた。

「データを取ろうとして、その男に逆に殺されかけた。笑えないにも程がある」
179×DOD ◆murBO5fUVo :2008/10/06(月) 23:53:08 ID:W3y0hZ1P
4096バイト規制に引っ掛かった


助けて花京院
180×DOD 六章五節 2/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/06(月) 23:54:22 ID:W3y0hZ1P
 聞くアギトの面持ちは痛切なそれから一転し、驚きのあまりに息を飲む音がした。
 全盛期からその力を大きく削がれたが、ゼストはそこらの魔導師なら軽く蹴散らす実力者だ。
 しかもルーテシアだって、幼いながら身の内に強力な力を秘め、数多くの蟲を使役する召喚士だ。
その二人が逃走を余儀なくさせられたのか? 集団で攻めてきたのならともかく、たったひとりの
男に。

「まるで歯も立たん。いつ近づいてきたのかも分からない……生き延びたのが幸運だった」
「そんな、旦那とルールーが」
「事実だ。恐るべき敵だった。俺も流石に、笑って人を殺そうとする人間と戦ったことはない」

 一瞬、アギトが息を飲んだ。ゼストの声色は確かに戦慄の気配を孕んでいた。彼女がゼストに出
会ってからはじめてのことだ。

「……でも、おかしいってそんなの! いきなり殺しにくるヤツが管理局にいるわけ……」

 アギトの言ったことは、ゼストもずっと思っていた。
 少なくとも、あれがただ単に管理局に従う者ではない。ゼストが見た男の表情は、その手の人間
がする顔とは根本的に異なっていた。過去数多くの犯罪者をその目で見てきたゼストにはわかる。
あれは生かして捕えることを考える人間ではなかったのだ。絶対に生かして帰さない、必ず殺すと
剣が言っていた。
 向けられた眼光を、弓を引いた口のかたちを覚えている。あれの中には確固とした殺害の意志が
あった。
 どう考えても、非殺傷を原則とする真っ当な局員ではありえない。彼にとってそれは大きな疑問
であった。時空管理局はとうとう更正なしに罪人を雇用しはじめたのかと一時疑うほどであった。
あれが犯罪者と言われても全く違和感がなかったからだ。しかしさすがに、それは無いと信じたい。
 あれは何者だったのだろう。
 考えてみれば、あの男が手にしていた真紅の長剣はどうも、魔導師の持つデバイスの類とは違う
もののようにも思われる。
 その銘「月光の闇」も、異世界の魔剣であることもゼストは知らない。しかし一度刃を交え、剣
の異質さをゼストは感じていた。あれは魔法というよりも白兵戦に主眼を置いた得物であったし、
現にあの男は斬りかかってくる際、魔法の類を利用している気配はなかった。魔法のデバイスを何
の強化も無しに武器として用いるとは思えない。それに言うならば、これはゼストの勘に近いが、
あれは非殺傷設定が利く代物ではないように感じられた。
 そしてあの剣は、ルーテシアが呼び出し、強烈な冷気と氷雪を見舞った片刃の剣と、どこか造り
が似通っているように思われた。物理的な構造でなく、魔法を発動する際の感触が、である。
 召喚を受けてからそのままになっている長剣は、今もなお部屋の隅に斜めに立て掛けられている。
ゼストは立ち上がって剣を手に取り、焚火と己の目の前にかざした。
 銀色の剣身の輪郭に沿って淡い光が浮かび、炎にとともに揺らめいている。
 それはあたかも、刃に血が通っているかのようだった。

「旦那、それは?」

 言って後ろから剣を覗き込んできたアギトに、ゼストはこの剣がここにある経緯を伝えた。
 そもそもスカリエッティが自分たちに(半ば強引に)委ねてきたこと。それを覚えていたルーテ
シアが咄嗟の判断で召喚し、凍てつく吹雪を吹き出してゼストの身を救ったこと。
 聞いたアギトは眠りこけるルーテシアを見つめた。その話の中で何かが心の琴線に触れたのか、
目には薄っすらとだが確かに、涙がたまっているのが見えた。本人が聞いたらきっと否定すると思
うが、表情は涙を堪えているように思えた。
 ゼストにはそれが何なのかすぐに分かった。
 恐怖に耐え仲間を救ったルーテシアの行為に、きっと感極まってしまったのだ。
 ルーテシアにとってきっと、今回感じたのは生まれて初めての恐怖の筈だ。可哀そうに、蒼白に
なるほど怖かったのだろう。だのに彼女は逃げもせずそれに耐え、ゼストの危機を救ったのだ。
 情というものに良くも悪くも真っ直ぐなアギトは、この事実を知って心を射抜かれたような気持
ちになっていた。どうしてだか胸の中が一杯になって、目頭が熱くなってしまっていた。生まれて
はじめての気持ちだった――ふと弛めてしまえば、何もかもが溢れ出てしまいそうな。
 何故そのように思うのだろうと考えたが、しかしそれに時間は必要なかった。体を張って守り合
い助け合い、手を取って歩くそれは、人が仲間と呼ぶものだからだ。
 行動の向こう側に、仲間の意識が透けて窺えたからだ。心が希薄な筈の、この幼いルーテシアに。
181名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 23:57:11 ID:qnzlelp2
支援
182名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 23:57:56 ID:GnkDD5iV
支援
183×DOD 六章五節 3/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/06(月) 23:58:06 ID:W3y0hZ1P
 そうして、二人の間に沈黙が流れた。アギトはこみ上げるものを必死にこらえ続け、ゼストは暫
くその小人の横顔をただ見つめていた。燃える薪のおおきな灯火だけが部屋に揺らめいていた。ぱ
ちん、ぱちん、と火の粉が舞っては消えていく。
 いつまでもアギトの顔を見ているわけにもいかず、ややあってゼストは目をそらした。壁にもた
れたまま首を曲げ、側方の空間に視線を投げた。風晒しにされたコンクリートの壁には――以前は
小さな窓か何かが据えられていたのかもしれない――歪な円のかたちの穴があった。
 そこから窺える夜空には既に幾つもの星が瞬いている。その下へ意識を移すと都市の賑やかな明
かりも目に映った。気付かぬ間に空の闇が濃度を増している。夜の気配が急速に深まりつつあった。
 冷え込みを予想して、ゼストは拾っていた木片を火の中にひとつ、ふたつと投げ入れた。何もせ
ずともアギトの灯はそう簡単に消えたり弱まったりしない。だが生者への思いやりか、何とはなし
にそうした方がいいような気がした。枯れてめくれた、死した木皮が炙られて歪む。輪郭から赤熱
して燃えていく様は、本来ゼストが在るべき姿そのものだ。滑稽に思えて、唇がわずかに曲がった。
 その上の炎が吹き込む風に揺らいで、ゼストは向こう側に異色の光を束の間に見た。
 ゼストは瞼を広げ、暫し炎の先を凝視した。だが薪を増やした火は勢いを得はじめていて、より
強く輝きを放っている。壁に身体を預けたままでは、光の中に隠されてしまってよく見えなかった。
 しかし、かといって今さら起き上がるのは億劫だった。疲労がたまっているのはルーテシアだけ
ではない。今再び立つだけの体力は、ゼストにも残されていなかった。
 そこで壁面に視線を移すと、コンクリートの上には確かに影が伸びているのが見える。
 もう落ち着いてきていたらしいアギトに目配せして気付かせると、彼女はそれをちらと見た後で
ひとつ頷いた。表情に思ったほどの変化が無いことからすると、彼女は既に気付いていたらしい。
注意力が落ちていたということか。

「旦那」

 ゼストが改めて己の疲労を自覚していると、それを知るきっかけとなった当のアギトが切り出し
てきた。
 見ると、何か様子がおかしい。先ほどまでの潤んだ目はしていない。しかしどこか、責めるよう
な、なじるような、そんななんとも言えない雰囲気がその面持ちからは漂ってきていた。頬が少し
赤みがかっているのは炎に照らされてのことなのか。

「見てたろ」
「何を」
「あたしの顔だよッ!」
「……ああ」
「へっ……ヘンな顔してただろ、絶対っ」
(気にしていたのか)

 そのことか、と理解した。
 慣れない感覚だったのだ。不意に出そうになった涙を堪える姿など、見せたくなかったのだ。
 やや赤面した今の表情にも納得がいった。先ほどの声にも、よく思い出せば羞恥があった。

「ああ。珍しい表情だったな」
「いっ、言うなっ、忘れろ、忘れろってばっ! 全部記憶から消し」

 アギトの言葉が終わる前にもぞもぞと布が擦れる音がして、ゼストが反射的に手で制した。二人
の視界にある影がちょうど、ころんと半回転するところだった。ルーテシアが寝返りを打ったのだ。
「しまった」といった顔をしながら自分で自分の口を塞ぐアギトだが、少しすると小さな寝息が聞
こえてきてほっと胸を撫で下ろした。目が覚めた訳ではなかったようだ。

「あまり喚くな。起きるぞ」
「……お、覚えてろよっ」

 と言う威勢はよかったが、どうしても負け惜しみにしか聞こえなかった。それでも声は小さく抑
えていて、そんなアギトの健気さにゼストの口元が緩んだ。

「旦那、それで……いい?」

 しかしそれも束の間。ゆっくりとひとつ息を吐いたアギトはもう、そのような微笑ましい雰囲気
を残してはいなかった。合わせてゼストも、表情を引き締めた。
184×DOD 六章五節 4/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/06(月) 23:59:02 ID:W3y0hZ1P
「そいつだけど、何で……殺しにきたのかな」

 そんなことはゼストだって知らない。
 本音を吐けば、知りたくもなかった。そもそも敵とはいえ人間を、喜悦に笑いながら殺そうとす
る者の過去など。

「分からない。少なくとも、真っ当な局員でないのは確かだが」

 しかしアギトは、違う、と首を横に振った。

「ううん、そうじゃなくて。えっと……そう、局員とか関係なしに」
「?」
「だって、こっちは初対面だったはずじゃん。そいつが殺そうとしたのは、どうしてかなって」

 ゼストははっとして、アギトの顔を見返した。真剣な様子で小さく頷いた瞳は、傍に揺れる炎の
光を湛えていた。
 言われてみれば、確かにその通りだ。
 そもそも殺意を向けられる理由がないのだ。ゼストたちは剣士の存在を知らなかったが、逆もま
た然りである。あちら側だってゼストやルーテシアのことを知っているはずがないのだ。
 足止めに交戦するなり、確保しようとするのなら分かる。だがそれが殺害の意志にまで発展する
なら話は別だ。
 もし仮にあの男が殺人に何一つ罪を感じないような悪漢でも、敵かも知れないとはいえ初対面の
者の命をいきなり奪おうとはしないだろう。そんなことをする危険人物なら、そもそも最初から管
理局の指揮になど従うはずがない。本性を明かした途端に粛清されるのが目に見えているからだ。
 人が人を殺そうとする時、そこには確実に、それに値する理由があるはずなのだ。

「旦那、心当たりはないの?」
「いや。あの男は今まで見たこともない」
「じゃあ……それなら、ガジェットに身内を殺されたとか」
「……その線はあり得るな。だがそれなら、そもそも機動六課内に配属されないだろう」

 復讐は戦闘を強力に動機づける。しかし、ガジェットを見たら突出する可能性が高いとわかって
いる人間を、わざわざその処理班に配置することは考えにくいだろう。
 そう説明するとアギトは、そっか、と納得した顔を見せた。

「……」
「旦那?」

 その説明を終えたゼストが思案顔になって視線を伏せ、アギトは怪訝そうな顔をした。

「いや……もしかしたら、だが」
「もしかしたら?」
「ああ。あの魔物たちなら、その可能性もあるかもしれん」

 聞いたアギトは、首を傾げてから問い返した。
 魔物って一体何だ。ルールーが使ってる蟲じゃないのか。

「分からん。ルーテシアが蟲を喚ぶより前に、もう既にそこにいた」

 今回の戦闘行為を依頼してきたそもそもの原因、スカリエッティの名を挙げてゼストは続けた。
 ガジェットとともに戦場に送り込まれていた、甲冑と無機質生命体。
 問題なく前線に配置され、且つ憎悪する敵と出会う――先ほど述べたその可能性があるとしたら、
今回ガジェットと同時に現れたその魔物たちであろう。
 何せゼストですら存在を知らなかったのだから、それらの登場は機動六課からしても予想外だっ
たに違いない。部隊への精神的適正には考慮されていないはずだ。
 問題はあれが一体何者だったのかという、ただその一点だけなのだが。

「何だそれ。そんなの、いつの間に」
「……つい最近、玩具が手に入ったと聞いた。これのことだったのかも知れないな……」
185×DOD 六章五節 5/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/07(火) 00:00:59 ID:9kw5yHCl
 しかし肝心要の、あれが何者だったのかという答えは導くことができない。
 当たり前だ。魔物についても剣士についても、どう考えてたって情報が足りない。そう思って、
ゼストはそこで考えを止めることにした。アギトは傍でうんうん唸っているが、多分そのうち諦め
るだろう。
 ただ一つ確かなのは、あの科学者がロクでもないものを手にいれたということだ。
 今後これらどういった悪事に使われるのかが気がかりなところである。嫌な予感しかしなかった。
あの男がこれからボランティア、ということはあるまい。確信に近い予想である。

(警戒した方がいいな)

 壁に開いた小さな空洞から、ひゅう、と風が音を立てるのが聞こえる。
 ゼストの頬に当たったそれは、先ほどよりもひんやりと冷たく肌の熱を奪った。あれこれと考え
続けるアギトから目を外す。穴から覗く空は、紺を通り越して黒かった。いつの間にか夜はさらに
深まってきていた。
 そう思いはじめると、ゼストの身体じゅうに猛烈な勢いで疲労感がわき起こっていった。日付も
変わっていないというのに眠気さえ感じる。管理局内でばりばりと働いた時期でさえ、ここまで疲
れたことは無い。今日という日はそういう一日だった。
 思考に集中していた意識を感覚に向けると、背のあたりには肌寒ささえ感じられた。暖を取って
いたため気付かなかったが、気温が少し下がってきたのかも知れない。風を受けた灰色の石の壁は
とても冷たかった。その壁から背を離し、ゼストは薪をもう一本放り込む。ゼストの手を離れて炎
に向かっていく時には既に、思考がてらアギトが撃った火炎魔法で赤い火が点いていた。
 その時炎を挟んだ向かい側に影が残っているのを見て、ゼストの脳裡を何かが掠めた。
 はっとして横を見る。床には片刃の剣が、槍と共に置かれていた。それに目を向けつつ、そうい
えば、と思い返す。この剣を見たときの剣士の反応は妙ではなかったか。
 剣士と魔物との関係について自力で結論を出すのを諦めかけていたアギトが、そんなゼストの様
子を見て、どうしたのかと顔を覗きこんだ。次いで視線の先を見て、その剣にまだ何かあるのかと
問いかけた。ゼストは視線で示しながら答えた。

「思い出したんだ。あの剣士、それを見て驚いていた」
「それって……その剣?」

 疑問に首を傾げてアギトは言ったが、ゼストにはこの事実は割とすんなり受け止められた。
 魔力を通じたこの剣が吐き出した氷雪の魔法は、剣士が森を焼いた火炎魔法と同じく、ミッドチ
ルダに存在する魔法のどれとも重なるものではなかったからだ。たった一度魔法を発動しただけだ
が、ゼストにはその詳細がある程度理解できていた。この剣とはやはり相性がいいのかと思いつつ
見る。剣は変わらずその刃の中に、揺れる火影をたたえ続けている。

「ああ。それと」

 頭を過ったのはもうひとつ。
 ゼストは向かいの壁面を見て、間を置いてから続けた。

「そこのふたりにも、だ」

 アギトはゆっくりと壁に目を向けた。そこには炎に照らされて、二つの影が長く伸びていた。
 影をたどった先には、やはりふたつの光があった。青色と赤色の、透き通るような光だった。
 ルーテシアが見つけた旅の連れだった。
 精霊たちがそこにいた。
186×DOD 六章五節 6/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/07(火) 00:04:46 ID:GDlxeixk



「今回の一件で、ルーテシアにも嫌われてしまったかも知れないね」

 暗い部屋、闇の底。
 仄かな明かりに照らされたホールの中で、白衣の男――スカリエッティが、大画面モニターの前
で口を開いた。パネル上にはホテルアグスタ上空、また地上・ホテル正面の、襲撃時の様子が鮮明
に映しだされている。
 普段の彼らしくもなく、言葉からは若干だが残念そうな調子が窺えた。
 背後の椅子に腰かけてパネルを操作していたクアットロが、作業を中断して顔を上げる。そうし
てやや間延びした声で、あらぁ、とつぶやいた。

「その時の映像が無いので詳しくは分からないが、何でもあと一歩まで追い詰められたらしいんだ」
「それは大変ー、通信入れておきましょうか」
「ルーテシアは今お休みのようだし、騎士ゼストには回線ごと切られたよ……どうしたものか」
「ああ、ついにドクターが人類の永遠の課題、「女心」という究極の謎を解明する時が……!」
「止めておこう。心理学が専門ではないのでね」

 茶目っけのある表情をつくってぺろっと舌を出し、冗談です、とクアットロは言う。

「優しいルーテシアのことだ。許してくれるとは思うが」
「大丈夫ですよぉ。明日すぐ連絡をすれば」
「ありがとう。君にそう言われると安心するよ、クアットロ」

 クアットロは聞いてから、笑みを見せて下を向き、たたん、と再びキーを叩きはじめた。

「それにしても」

 何だい、とスカリエッティが言った。

「驚きましたわ。あの綺麗な球体に、そんな機能があったなんて」
「生命のソースが貯蓄されているところから、想像はついていたがね。これで実証された訳だ」

 スカリエッティがパネルに近づき、とん、と隅を指でたたく。すると、そこを基点に新たなウイ
ンドウが展開した。中には人の背をゆうに超える白い球体が、ただ静かにその異様を晒している。
 新たなる好奇心の対象を獲得し、恐るべき速度でその解析を進めていたスカリエッティは、確証
が得られぬ段階で既に、そのものの持つ目的を正しく割り出していた。
 外殻の情報は、ありとあらゆる生命の設計図。
 それらが内部へと方向性を持ち、核たる部分へと干渉しうる機構を持っている。
 これはある意味、ひとつの「細胞」と言い切ることもできた。生命体の情報を持つ核と、それを
取り巻き維持する組織とが揃っている。内外の位置は逆だが、確かに似ていた。
 核は情報を吐き出し、細胞の組織そのもののかたちを決め支配する。
 すなわちこの「卵」の目的は、全ての生命体の力を内包した、究極の生命をつくること――。

「ならば話は容易い。情報の向かう先を変え、その位置に材料さえ組み込めば……ということさ」
「素晴らしいですわ、ドクター」
「もっとも、それはコピーに過ぎない。これから私のオリジナルに活かせればいいのだが」


 この辺りの詳しい話は、クアットロには分からない。彼女が知っているのはこの「卵」の存在と、
それが備えた不思議な機能。
 そしてそれを元にして、敬愛する創造主が、また新たなる生命を作り出した……その手法を見出
した、ということだけであった。
 にもかかわらず、クアットロは胸が高鳴るのを感じた。彼女は嗜好として加虐を好むのと同時に、
未知との出会いが好きだった。その未知に対して遊び心を交えつつ、様々に手を加えてみるのが好
きだった。
 これからこの先、ドクター・スカリエッティはこの物体を用いて、何を創り出すのだろう。そう
考えると、楽しみでならないのだ。
187×DOD 六章五節 7/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/07(火) 00:06:35 ID:GDlxeixk

「ところで、クアットロ。機動六課諸君、あと剣士と竜のデータはまとまったかい?」
「はいっ。マスターのメモリ内に全て保存済みですわ」
「ありがとう。調査対象が増えてしまって、嬉しい悲鳴だよ……ただ、ひとつだけ」

 いつの間にか背後に立っていたクアットロを振り向いて、男が小さくつぶやく。

「どうなさいましたの?」
「ひとつだけ欲を言うならば――『無限の欲望』が一つだけの願いとは、言っていて少々笑えるが」

 微笑するスカリエッティに対し、ふふっ、とクアットロも笑みを浮かべた。

「もう少し親切に中身を見せてくれればいいものを、といったところだね」

 伊達眼鏡の向こう側、男を見るクアットロの瞳が、好奇心の光を帯び始めていた。

「『中身』?」
「ああ。中身だよ。あるいは単なる空洞かもしれないが……『核』は堅く閉ざされていたんだ」
「……?」
「外から何かを入れるものなら、簡単に覗けて然るべきなんだ。それが無理、ということは」

 着実に、確実に。
 男は何かを、理解しつつあった。

「何らかの封が為されている。中に在るものを守るために――そうであって何ら不思議はあるまい?」
188×DOD 六章五節 8/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/07(火) 00:07:36 ID:GDlxeixk



 暑い。
 と、そう口に出すのも億劫なくらいに暑苦しい。
 部屋の中でゼストは思う。今もぽたりと落ちた汗の雫は、もうこれで何滴になるだろう。眠り続
けるルーテシアを穴の空いた壁際、涼風の吹き入る位置に移動したのは正解だった。これではきっ
と起き出してしまうこと間違いなしだ。
 雰囲気がどうとかいう問題ではなく、室内が物理的に暑い。
 熱源、炎が猛っていた。暖を取る他に役割のない灯火が、熱く激しく燃えてゼストの体力をじわ
じわと削り取っていた。
 ぱちぱちと散る火の粉も光の密度を増し、白く輝いてさえ見えるのは気のせいでないのかもしれ
ない。これではまるでサウナ・ルームだ。猛烈な渇きをゼストは覚えていた。
 何故に焚火が燃え狂っているか。
 結論から言えば答えは簡単、アギトの感情に呼応して、である。

「……アギト」

 呼んだゼストの声に返ってきたのは、ぜはー、ぜはー、と切れた吐息のみだった。
 肩を大きく上下させ荒い呼吸を繰り返しているのは勿論、赤髪の小さな旅の連れである。

「その辺でやめておけ。これだけ聞いても語らないんだ」

 というよりも頼むから止めてくれ、といった本音を隠して言う。

「こいつらっ……口っ…………割らせっ…………」

 しかしどうやら、呼びかけはあまり聞こえていないらしい。集中しているのか疲れのあまりか。
 威勢だけはまだまだ、と言わんばかりのものが少し残っている。しかしそれにしても、吐き出す
声は聞いているゼストが更に疲労するほど掠れきっていた。ふたりの精霊を見たあの男の異様な反
応を知ったアギトが、彼らに対して問いかけをはじめてから、もう既に十分ほどが経過している。
 問いを受けるウンディーネとサラマンダーは完全黙秘を貫いたまま、ただ燃え上がる焚火の前に
姿を晒しているばかりである。
 彼らがこうして近くにいるという状況は、旅をしている間は全く無かったものだ。しかも今回は
いつものように、接近しても消え失せたりすることは、ない。
 しかし、それだけだ。先ほどからゼストは観察を続けていたが、彼らはそれ以上に何も行動をし
てこなかった。
 そいつについて、何か知ってんのか――ルーテシアを恐怖させ、ゼストを敗走させた例の男につ
いてアギトが問いかけても、その態度が変わることはない。同様の質問を何度繰り返しても、返っ
てくるのは沈黙ただそれだけである。残りは目の前で立ち上がる火の唸り。
 アギトの表情に苛立ちが見えはじめるまで何分だったか。
 声を荒げ掴みかからんばかりになるまではもっと早かった。
 時が経つにつれてアギトの表情は険しいそれとなり、そして比例するかのように火の勢いも増し
ていった。本当に掴みかかろう蹴りかかろうとしても、ふわりふわりと避けられるだけで更に激憤
は強まった。そのたびに室温が上昇するというどうしようもない環境である。それまでの体力低下
に加えてさらなる疲労が蓄積し、眠気も増してくるのをゼストは感じていた。

(身が持たん)

 ルーテシアの為……という気持ちは分かるし自分だってそう思うが、ぶっ倒れて行動不能となっ
ては元も子もない。そろそろ終わりにしてもらわなければ、明日からの行動にも支障が出よう。
 そう思って、どうどう、と赤い髪の房を引っ張る。すると漸くゼストの方を体ごとぐるんと振り
返り、アギトはそのままの勢いでがなった。

「んだよ、旦那っ! こいつら絶対何か知ってんだぞっ! ルールーだってあんな目に遭っ……」
「そうとも限らん。本当に何も知らない可能性だってある。それに」
「それに、何だよ」
「喋りたくないなら無理には聞けない。あと、そもそも言葉が通じるのか分からん」
189×DOD 六章五節 9/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/07(火) 00:08:23 ID:GDlxeixk
 はっとしたアギトは思わず、あーっ、と大声で叫んだ。
 ゆっくりと首を曲げ、自分が今の今まで問い詰めていた彼らを見る。
 相変わらずの貫徹無言。恐るべしと言わざるを得ないほどに徹底した度合いの沈黙である。
 しかしよくよく考えてみれば、そういう理由もあるのかもしれない。流石にムキになって
言いすぎたとアギトは悟った。

「……わ、わりぃ…………ごめん」

 沈黙のふたりに向かって言うのとほぼ同時に、炎の大きさと勢いとが失われはじめた。
 室温が下がるまでは今しばらくかかりそうである。しかし火は元の穏やかな姿を取り戻し、吐き
出す熱気が激減するのがわかる。

「危うく二度目のお迎えが来るところだった」
「……っ! ごっ、ごめん旦那っ、ああああのあたし、ぜっぜぜ全然みみ見てなくて」

 冗談めかして言うと、それでようやく気がついたらしい。ゼストの頬をだらりと伝う大粒の汗を
見て、青くなったり白くなったりしながらわたわたと大層慌てた。
 宙に浮きながら右往左往する姿は見ていて少し楽しいものがある。

「あっ、あ、あ、あたしっ、水買ってくるっ!」

 と言うと、アギトはゼストの外套の中から小銭を脇に抱えて(彼女の身体のサイズではそれが精
一杯の楽な持ち方である)道の上に見かけた自販機目がけて一目散にすっ飛んで行った。あまりの
慌てようが面白くて、ゼストは悪いと思いながらも、くつくつと溢れる笑いを止められなかった。
 快活な小人が外へ出て行ったことで、それまでの騒がしさが嘘のようにぷっつりと立ち消えた。
少しもすると徐々に気温も下がりはじめ、不快なまでの部屋の熱が次第に薄れていく。
 ようやく元通りの、静かな夜が帰ってきた。

「済まなかったな」

 深く息を吐いてから横を見て言う。
 しかし待てど答えは無く動きも見られず、ゼストは諦めて再び壁に背を預けて、言った。

「……その子が心配だったんだ。許してやってくれ」

 このふたりが実は人語を理解できていて、あの男について何らかの情報を引き出せるのなら、そ
れに越したことはない。
 だが彼らがあの男と関わりがあろうとなかろうと、今すぐ結論を聞き出す必要はないとも思う。
 あの剣士が一瞬見せた驚きの表情は、居る筈のない場所に知り合いや顔見知りを見た時の、そう
いう顔だったのではないかと考えられた。ならば、スパイ関係の線は薄かろう。そのことが分かっ
ていれば十分ではないか。
 逆に無理強いした結果、居なくなってしまわれては元も子もない。干渉しなければいつか話して
くれるかも知れない、という考えがあった。力に訴えだす前にアギトを止めたのはそういう理由だ。
汗で小さな水溜まりが出来ているのを見ると、少し遅かった気もしないではないが。
 彼らが何者であれ、結局今明らかな事実は、彼らの存在があの男に一瞬の隙を生んだことだけだ。
 そしてそれがあったからこそ、ゼストとルーテシアはこうして生きながらえている。

「……礼を言っていなかったな」

 赤と青の小人はふるりとも動かなかったが、ゼストは構わずに続けることにした。

「済まない。お前たちがあの場にいなければ、多分この子も、俺も死んでいた」

 その後暫し沈黙が場を支配したが、全速全開で飛んで行ったアギトが数分とせぬ内に戻ってきた。
 ただし先程までのゼストと同じくらい汗まみれになってである。
 どれだけ急いでくれたのかが分かる。それに元々怒ってはいなかったのに加え、しゅんと萎れて
申し訳無さそうな顔をしているのを見ると、先ほど冗談で遊んだのがだんだん気の毒になってきた。
 礼を言ってボトル入りの水を受け取り、一口飲んでから怒っていないと伝えてやる。そうすると
アギトは心の底から安堵したような顔になった。ゼストもそれを見て微笑してから、ボトルの半分
を一気に喉に流した。
190×DOD 六章五節 10/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/07(火) 00:09:33 ID:GDlxeixk
「いつまでも無理強いしていたって仕方ない。それよりも、あの男だ」

 そう言ってゼストは例の剣士、カイムの姿を、記憶している限り細やかに話しはじめた。年齢は
恐らく二十代、こめかみに力を込めた表情、首の後ろで髪は左右に跳ね、長剣の鞘を腰に佩き――。
 そのように話をしていくと、どうしてそんなことを今、とアギトは言った。
 対してゼストは答える。いずれまた会うことになる。機動六課の援軍であるなら尚更だ。それも
そうか、とアギトは答えた。ゼストとルーテシアがレリックを追っている以上、それを同じく調査
し確保する者との接触は避けられない。

「……元局員としては、あれが正規の職員でないことを祈るばかりだがな」
「んな危険人物、分かってて見過ごすほど管理局も甘くないって」

 その言葉には本当に救われたような気持ちになりながら、ゼストは話を続けていった。魔法の系
統は不明だが少なくとも火を扱う。見えた鞘の数から察するに複数の武器を所持しており、少なく
ともそのうちのひとつは刃が全て紅色という妙な長剣だった。
 視線が隠れるか隠れないかの位置に前髪伸び。そこから見える瞳は両眼とも青。
 その辺りで、情報が尽きた。たった一度姿を見ただけ、しかも逃げ出してきた身分では、言葉に
して伝えられることがらはあまりに少ない。

「お前はまだ誰にも知られていない筈だ……頼りにしてるぞ。ルーテシアを守ってやってくれ」

 話の末尾に、ゼストはそう言った。
 実際そう思っていた。自分とルーテシアはもう顔を見られてしまっている。それに今回のように、
予想外の存在により精神的な動揺を見せることは二度とないだろう。
 そんな中で唯一、あの男の不意を突くことができるのがアギトである。今この部屋にいる者の中
で、あの男はおろか機動六課にも存在を知られていない仲間は、もう彼女しか残っていなかった。
 ルーテシアが召喚した長剣の魔法があったから何とか難を逃れたものの、ゼストの力では剣士に
歯が立たない。次に何かあったらどうしても彼女の力が必要だ。しかしルーテシアのように危険な
目に遭わせてしまうかもしれない、という懸念は残っている。そんな二重苦があって、ゼストが吐
き出した声色にはやりきれない思いが見え隠れしていた。

「おうよ! 任せときな!」

 ゼストのそんな思いを汲み取ったアギトは、しかしそれを吹っ飛ばすような快活さで答えた。
 彼が自分の身を気遣ってくれているのが分かるが、そんな必要はないとアギトは思う。そもそも
悪夢のような痛みや苦しみなら、実験動物として扱われていた頃にもう何年も経験済みだ。
 その悪夢から救ってくれたゼストやルーテシアのことを、今度は自分が守る番が来たのだ。その
事実がアギトの心の、どこか深いところに沁みていった。彼らを守りたい。ルーテシアをとゼスト
は言ったが、彼女はもちろん、ゼストのことも。

「相手が誰だろうと、このアギト様が黒焦げにして蹴散らしてみせるって!」

 頼もしい言葉だ。簡単にどうこうできる相手ではなかろうが、それにしても頼もしい。気休め程
度だが、ゼストは安堵を覚えた。そうして、ゆっくりと目を閉じた。

「無駄だ」

 暗く閉じた視界。その横合いから、二つに重なる声が響いた。
 ゼストは閉じたばかりの目を、ぱかっ、とおおきく開いた。

「あんだとっ! いくら旦那でも言っていいことと――」

 アギトはゼストの言葉だと勘違いして食ってかかってきたが、ゼストの表情を見てすぐに勘違い
に気がついた。声が小さくなり、続かなくなる。

「悪い……ことが」

 そうして、ゼストと同じ方向へと視線を向けた。向けて、同じく目を見開いた。
 ……近づいてくる。
 あのふたりが。
191×DOD 六章五節 11/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/07(火) 00:10:41 ID:GDlxeixk
 二で一の個体を為す精霊たちが、ゼストとアギトの目の前へと向かってゆっくりと浮動する。そ
れぞれが放つ二色の光が、ふたりを追いかけているのが眼に焼き付いた。蒼い残光が水泡の如く、
緋の光芒が灯火のように、各々の軌跡から立ち上っていた。淡い尾が靡いているようだった。
 騎士と剣精とは、半ばぎょっとしつつ、唖然とした表情でその挙動を見つめた。いかなる事柄に
も反応を示さず、接近をことごとく避け続け、石が如く緘黙を貫いてきた者たちである。一体何が
起きた、と疑問が沸き起こるのと時を同じくして、どうして今この時、という思いが彼らの頭を支
配した。ふたりの連れが眼前に至ってもそれは続き、ゼストもアギトも暫しは全く行動を起こすこ
とができなかった。

「今のは……お前たちか」
「そうだ」

 ややあって、のことである。驚きを未だに顔の上から取り除けないままでいるゼストが、ふたり
に向かって確認するように問いを投げた。今までの寡黙さが嘘のように、今回の返答までには僅か
にしか間は開かなかった。
 青い方は高く女性的な、赤い方からは低く男性的な声であった。感情の薄い平坦な印象のそれが、
寸分の時間差も無く部屋の空気を震わせた。左右に分かれた立ち位置と相まって、二種の声が鼓膜
の内側で混ざり合って聞こえた。まるでステレオ音声のようだとゼストは思った。

「お前らッ、どういうことだっ! 何で今の今まで――」

 言葉を無駄と切って捨てた言い草にカチンと来たし、例の男を知っているのを黙っていたことへ
の憤りも重なった。アギトは驚き一色の心理状態から復帰し、今にも飛びかからんばかりの勢いで
叫んだ。
 その言葉が途中で止まったのは、ゼストがそっと掌で制したからだ。
 焦れるような憮然としたような表情のアギトを横目に窺いつつ、ゼストは再び切り出した。

「知っていることを教えてくれないか。あの男に関してなら……何でもいい」

 やはり返答は早かった。

「あれは竜の『契約者』」

 蒼い片割れの高い声が、聞きなれない単語を紡ぎ出した。
 ミッドチルダが管理する世界に現存する魔法には確かに、契約とか誓約、加護や守護というよう
な用語もある。しかしゼストはそのどれとも異なる響きを、言葉の中に感じ取っていた。
 そもそもこのふたりの連れ自体が得体の知れない存在なのだ。自分が既に持つの知識には一致し
ないと考えた方がよかろう。

「……その『契約者』サマが、どうしてルールーと旦那を殺そうとすんだよ」

 ではその「契約者」とは何か――と問い返すより早く、今度はアギトが口を開く。
 不機嫌が声色からありありと窺われるが、ゼストは静観することにした。取り敢えず手が出る様
子はないからだ。

「あの者は血肉に焦がれて人を斬る。己が奪った命に癒される」
「彼の者の微笑みを、そなたらは見なかったのですか?」
「……成る程。滅多打ちにされる訳だな」

 アギトなどはまだ分からないようで、何のことだよとゼストに尋ねてくる。しかし、ゼストには
わかっていた。あの男と直接に会い、刃を向けられた者にはわかる。
 ここにきてようやく、ゼストの中であの男の人物像が、ひとつのはっきりした形をなして浮かび
上がりつつあった。
 像の形は一人の戦士として輪郭を結んだ。しかしそのかたちは、真っ当な戦士のそれではない。
 かつてゼストの同僚にも、前線での過酷な任務で精神を病んだ者はいた。男のシルエットはそれ
と妙に重なる。直観的な印象だが、きっと間違った感覚ではなかろう。
 なるほど勝てるわけがない。
 負けて当然ではないか。
 こちらはあの男に見つかって、仕方なしに刃を向けただけである。
 なのにあの男は、戦いたくて殺したくてたまらなかったのだ。
192×DOD 六章五節 12/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/07(火) 00:12:16 ID:GDlxeixk
 その事実を記憶の反芻とともに噛み締めるにつれて、ゼストは目眩がするような錯覚を覚えてい
った。管理局は一体何をしているのだ?
 少年少女を兵士として使うのは人手不足だから仕方ない、と百歩譲ろう。
 更生の余地ある犯罪者に恩赦を与えるのもまだいい。
 外患ばかりに目を向けて内憂を一切顧みぬ姿勢も、この際だから目を瞑ることにする。

(現役の殺人狂を使っているというのか?)

 状況全てがそれを示していた。そしてそのことには絶望感すら感じられる。
 答えが出たわけでは無い、とゼストは自分に言い聞かせた。
 そうではないと思いたい。あるいはあの男が、管理局の目をかいくぐり本性を知られぬまま与し
ていたのだと信じたかった。ルーテシアの生命とゼストの果たすべき目的――そして何よりも、管
理局そのもののために。 

「旦那」

 言われて、鬱屈としはじめた思考を切り上げる。
 見るとアギトが、心配そうな顔を向けていた。
 精神は肉体に影響するというが、気分がどうやら顔色に出ていたらしい。

「今日はもう休もうぜ。明日があるんだしさ……疲れてるよ、旦那……」
「……ああ。ありがとう。だが最後に、あと少し」

 心から気遣ってくれるアギトに礼を告げてから、ゼストは再び向きなおった。恐らくは多くの真
実を知っているだろう、ふたりの精霊たちの正面に。

「一つ目だ。お前たちは何故、まだこの子や俺たちと共にいるんだ? あの男を知るのなら、その
 許に戻る選択もあった筈だが」

 知人ならその傍に行く、ということだってできたはずだ。
 自分ならそんなイカレた男の許には戻らないが、という個人的な考えはさておいて。
 見たところこの精霊たちは、感情の揺り幅がそれほど大きくはないようだ。自分たち人間の正常
な感覚とは(人間とは言い難い生を歩んでいる身ではあるが、少なくともその感性だけは保ってい
ると信じたい)、ものの感じ方が違うことだって十分あり得る。

「あれは『時』を止める者――」

 それに対して、精霊たちの言葉は曖昧模糊な表現に端を発した。

「黒の鍵は解き放たれていた。あの者は人の身にて、此れより異端の『秒針』を刻むのみ」
「あの気配は『終わりを告げるもの』と通じる。異なってはいようが、我々の好む所ではない」
「……?」

 そして意味不明の単語の羅列が続き、抽象的ととれる表現に終始した。ゼストはまるで理解が至
らずアギトを見た。しかし彼女もお手上げのようで、首を横に振るばかりである。
 とりあえず「あれ」というのは例の剣士で間違いなかろう。
 だが、「時」、「鍵」、「終わり」と、その後に続く語の意味が取れない。
 中でも「時を止める」という言い回しが、その中では抜きんでて難解であった。時間を止めると
文字通りに意味を取るのなら恐ろしい異能であるが、そんな能力を持っているのなら自分たちは確
実に今冥府の門をくぐっているはずだ。
 それに彼らは、それが好まぬ種のものであると言った。何か、避けることを選択させる「気配」
とやらがあると言った。おそらく彼の男の精神性ではあるまい。もっと根源的な何かなはずだ。し
かし、ならば、それは何なのだろう。
 いずれにせよひどく言葉が曖昧で、ゼストたちにその真意を看破することはかなわなかった。

「だが……それでは何故、俺たちを追いかける。それこそ理由はないはずだ」
「…………」
「…………」

 返答はついに無かった。どうやら答えたくないらしい。 
193×DOD 六章五節 13/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/07(火) 00:13:17 ID:GDlxeixk
 ゼストはこれ以上追及するのを止めることにした。
 もともと、今の今まで何一つ語ろうとしなかった者たちなのだ。これだけの情報を提供してくれ
ただけで、十分にも十二分にも有難い。
 確かに、彼らが何を思って自分たちと道を共にするのかは、未だよく分からないままだ。しかし
少なくとも悪心邪心の類があってのことではあるまい。
 もし仮にそうであるなら、とっくのとうに何らかの行動を起こしているはずだ。それに結果的に
とはいえ、あの男の魔手からルーテシアと自分を守ったりはしないだろう。
 アギトは――と目を向けたが、彼女は再び首を左右に振った。今度の意味合いは理解不能を伝え
るそれではなく、もう聞くことは今のところはない、という意思表示だろう。
 あるいはそれは、ゼストの身体に対しての気遣いなのかもしれなかった。先ほどだって暗に、早
く休息するよう訴えかける仕草を見せていた。これ以上の質問はゼストの睡眠時間を削る、という
配慮も少なからずあろう。申し訳ない気分になる。考えてみれば今日は心配をかけてばかりだ。

(死者が生者に気苦労をかけるなど)

 そう思って、右腕を彼女の前に差し出した。
 アギトはその内心を掴みかねたが、意図は読み取れた。少し不思議そうな表情をしながらも、ひ
ゅるりと飛んでその二の腕に降り立つ。それをぴょんと軽いステップで蹴って、彼のおおきな半肩
にふわりと腰を下ろした。
 外套をのせたままの肩の上は、布越しに体温が伝わってあたたかい。アギトのお気に入りの場所
のひとつだった。ルーテシアの小さな肩の上もそうだ。
 自分をひとつの個として対等に扱ってくれる、この恩人たちの体温がアギトは好きだった。
 ゼストがどう思っているかは彼女には分らない。だがアギトにとっては彼らの生命がどのような
状態にあろうと関係なかった。
 ただ今この時ここにある、己の肌に感じるぬくもりこそが全てであった。

「矢継ぎ早に訊いてしまって済まなかった……最後だ。あの男の名を、知っているか?」
「カイム。『契約者』カイム・カールレオン」

 思った通りの、知らぬ名だ。あれが旧知の局員の変貌した姿でないことだけはわかり、ゼストは
ここにきてようやく、ひとつだけ救われたような気がした。
 その時、もぞり、と何かが動いた。
 続いて、反復する幼い声が部屋に響いた。

「カイム――」

 ぐわっ、と電光石火の動きで ゼストとアギトの首が回転した。紫色の髪がかがり火の光を反射
して、鮮やかな暖色に彩られているのがまず目に飛び込んだ。
 同じくその下にある少女、ルーテシアの瞳は開いていた。上半身を起こして熱い炎の揺らぎに目
を向けている。視線に気づくと、それがゼストたちをとらえた。表面上はいつもと変わることのな
い、感情的な要素が窺えない目をしていた。
 止まり木にしていたゼストの肩を飛び出して、アギトは一直線にルーテシアの目の前に飛んだ。

「ルールー! 大丈夫か?」
「大丈夫……ちょっと、疲れてただけ」

 ルーテシアの声も、相変わらずの静かなそれであった。
 平坦な印象の普段よりも、さらに僅かにトーンが下がっているようにゼストは感じる。恐らくは
彼女の言うとおり、疲労によるものだろうと思った。蟲たちと長剣を召喚し、未知の剣士との戦闘
を終えたのは幼い彼女である。肉体的にも精神的にも、ゼスト以上に摩耗しているに違いなかった。
 しかしそれはあの時の、恐怖に錯綜していた心理の名残と解釈できなくもない。
 幼い心にあの威圧感は重すぎる。完全に逃れた今も、心の中に多分に影を落としているであろう。
 そう思ってゼストは、一言だけ口を開いた。

「……大丈夫か?」
「…………うん」

 様々な意味と思いを乗せた言葉は、彼女にも全てが届いていたらしい。返答するまでの沈黙の間
には思考するような素振りが見られた。その上での肯定の返事である。乱れた心は、今はもう残っ
ていないと窺えた。
194名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/07(火) 00:13:59 ID:Fp6MM7up
支援
195×DOD 六章五節 14/14 ◆murBO5fUVo :2008/10/07(火) 00:14:23 ID:GDlxeixk
「今日はもう遅い。そのまま寝るといい」
「……でも」
「話なら明日でもできる。そうだろう?」

 折角初めて声を聞けたのに、と少し渋る様子を見せる。対してゼストは諌めるように言って、己
の羽織っていた古びた外套を少女の体にかけてやった。
 最後に呼びかけられた精霊たちから、返答はなかった。
 この場合はきっと肯定であろう、と、都合良く解釈すればそう捉えられた。彼らが姿を未だに消
さないという点が、一応の根拠にもなっていよう。
 ルーテシアもそれを聞き入れて、今度は静かに身体を横にした。
 ゼストもその様を見て、やや安堵した表情で目を閉じた。アギトはまだ心配そうな顔をしていた
が、しばらくすると二人の仲間たちの間に降り、膝を抱えて壁に体を預けた。熱くなりすぎぬよう
炎を少しめに抑えて、やがて静かに目を閉じた。

(カイム)

 音を無くした部屋の中で、ルーテシアは心の中に反芻する。
 カイム・カールレオン。
 カイム。それがあの男の名前。
 己の本能を震わせ、感情の片鱗を揺り起こした者の名だ。
 この世に生を享けて初めての、恐怖という名の感情を。
 恐怖だとか。
 感情だとか。
 そういうものとは無縁のまま生きてきたから、実感は今でもないのだけれど。
 少なくともこれだけはわかる。
 あれは敵だ。
 しかも最強にして最大の壁だ。
 感情の希薄な心にさえ、恐怖を引き起こすくらいには。

「……」

 ブランケット代わりにしている外套を小さな手のひらにぎゅっと握りしめて、ルーテシアは燃え
散る火の粉の輝きを暫し見つめる。眼球にあかあかとした光彩が照り返されていて、まるで彼女の
心の炎がうつし出されているようだった。
 自分の目の前に再び立ち塞がり、あの者が行く手を阻む時がくる。そんな、確信に近い予感があ
った。いずれ、あれはまた襲ってくる。
 今のままでは、あの者を打ち払えない。
 ルーテシアは思った。今のままでは、決して勝てない。

 精霊たちが静かに見つめる中、ルーテシアは強く心に思った。
 母の声を聞くという、ルーテシアのただ一つの願い。このままではそれは叶わない。

 このままではいられない。
196×DOD ◆murBO5fUVo :2008/10/07(火) 00:16:35 ID:GDlxeixk
一応規制には勝利しましたが、4096バイト規制など少々甘かったかと猛省する次第であります。
長々とスレを占領してしまい、本当に済みませんでした。

かなりの間が空いてしまいました。続きを心待ちにして下さった方には本当に申し訳ないです。

次回はスバゲッチュの更新となります。ではまた。
197名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/07(火) 00:32:59 ID:1qYmVP4s
久しぶりのDODクロスだぁ。久しぶりすぎてDOD購入してプレイしてたよ。
長いマップのラストでしくってやられたので、寝る前に本スレのぞいたら投下されてた
というわけでGJです
198名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/07(火) 00:42:00 ID:3R1q1v2b
乙!
その時の映像が無いので・・・・て素敵笑顔未見かよ!この先大丈夫かスカ一味ww
199名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/07(火) 00:49:58 ID:KWy8MRyD
うおぉおお・・・
まった待ってたよDODのクロス
次回更新も楽しみにしています
200名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/07(火) 07:24:03 ID:AELe90YL
スカさんが死亡フラグを積みまくって無いかwww
GJです
しかし一点。
カイムの剣は月光『と』闇 です
201名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/07(火) 08:32:28 ID:+oErflqe
乙!
アギト陣営、カイムからラスボス臭を嗅ぎ取ってますね。 ルー、その思考はDOD的に死亡フラグだ
そしてスカさんもう駄目だ。起こす直前までやっちゃってるじゃないかw
この分だと他のDODの敵も出そうですね。……どいつが出てきても地上オワタっぽい。
202×DOD ◆murBO5fUVo :2008/10/07(火) 09:13:17 ID:9kw5yHCl
>>200
wikiにて訂正します。ご指摘ありがとうございます。
203名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/07(火) 12:43:35 ID:iuwXTW1d
DOD氏GJ!
ルーテシアパワーアップフラグ! ……ものっそリスクでかい気がしますがw
とりあえずスカはあれだ、(狂人の)妹が(卵の中から)あなたを見ている
204一尉:2008/10/07(火) 13:15:24 ID:JHoyJq88
卵中から支援
205地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 17:40:34 ID:jfOHQJl0
皆様、お久しぶりです
18時15分から地獄の四兄弟最新話を投下します。
容量は29kb、間を空けて規制に抵抗していくつもりです。
206地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 17:43:14 ID:jfOHQJl0
追加失礼
トリップが変わってますが一応本物です。
207地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 18:16:22 ID:jfOHQJl0
時間ですので第5話、始まります。



05 気まぐれな風



キャロが目覚めたのはミッドチルダ首都、クラナガンの時空管理局本部だった。
フリードと共に意識を取り戻した彼女を見てフェイトは安堵の表情を浮かべる。
頭を強打したとはいえ大事には至らず、傷が残ることもなかった。

「キャロ、本当に大丈夫? やっぱりもう少し様子を見た方が……」
「私ならもう大丈夫です」

ベッドから起きあがろうとするキャロをフェイトは不安な眼差しで見つめる。
本人はこう言ってるが、フェイトはまだ少しだけ心配だった。
そんな二人の周りをフリードはパタパタと飛び回っている。

「フェイトさん、エリオ君はまだ見つからないんですか……?」
「……ごめんなさい」

質問に対してフェイトは俯かせながら答える。
エリオはキャロと喧嘩した日を境に時空管理局から姿を消した。
かつての機動六課隊員が行方不明になるという事件に管理局は喧騒に包まれる。
恩師のフェイトや同僚である辺境自然保護隊員のミラとタントには行き先に心当たりなどなかった。
無論、エリオの行方を追っているが情報は大して得られず無意味に時間が過ぎるだけだ。
行方を追っている捜査官のギンガ、ティアナやフェイトも任務の合間を縫って彼を探しているがいまだに発見されない。
彼は自分の我が儘に愛想を尽かして管理局から姿を消してしまったに違いない。
事実を知ったキャロは数週間経った今でも頭の中には後悔の気持ちしか無く、保護隊の仕事にも身が入らなくなった。

「キャロ、エリオは絶対に見つけてみせるから元気を出して」

フェイトはキャロの両手を握りながら微笑んで諭すが、彼女の表情が晴れることはなかった。
エリオが行方不明となっているに加え、キャロが落ち込んでいるという事実は二人の保護責任者であるフェイトにとってあまりにも辛かった。
それでも彼女は落ち込むようなことはしなかった。もし自分がしっかりしていなかったらキャロはもっと悲しむかもしれないし、エリオを見つけることなど出来るはずがない。

(エリオ……何処にいるの?)

エリオの安否を気遣うようにフェイトは夕日で輝く空を窓から見つめる。
こんな事が起こってしまったのは二人のことを無視して仕事を優先させてしまった自分の責任だ。
そう思いながら、彼女はキャロの両手を握り続けた。

208名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/07(火) 18:17:33 ID:HwSyMyZE
支援
209地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 18:17:52 ID:jfOHQJl0

その晩、ミッドチルダ首都 クラナガンには満月の光に照らされていた。
空には一切の雲が無く、星が輝いている。
そんな中、人気のない路地裏で無防備の女性は恐怖の表情を浮かべながら後ずさっていた。
理由は単純、目の前からは悪質な笑顔を浮かべながら一人の男が長髪を揺らし、緑色の怪物を率いて詰め寄ってくるからだ。

「チューリッヒヒヒヒ!」

女性に迫る男の名は糸矢僚。
黒いスーツを身に纏い、その手にはアヒルと鼠のハンドパペットを持つ。彼は三匹のサリスワームを率いて、奇声を発しながらじりじりと迫ってくる。
その様子は誰がどう見ても女性が変質者に襲われているとしか見えない。
やがて糸矢の肉体は表面がボコボコと形を変えていき、人間のそれではなくなった。
見るもの全てに生理的嫌悪感を与えるような醜悪な顔面、全身の筋肉にはステンドグラスを連想させる模様がつき、背中には蜘蛛の足が生えている。
スパイダーファンガイアへと姿を変えた糸矢を見た女性はあまりの恐怖に尻餅をついてしまう。
異形の生物、ファンガイアの手が女性の顔に触れるまであと一歩のことだった。

「待て!」

突然力強い声が響き、スパイダーファンガイアの手が止まる。
振り向くとそこには、街灯の光を逆光にシルエットが見えた。
それは段々こちらに近づいてきて、その姿を現していく。
スパイダーファンガイアはその姿を確認するとほんの一瞬だが、天敵でも見たかのように怯む。
暗闇を切り裂くように現れたのは人ではなく、異形に分類されるアーマーだった。
ただ一つファンガイアと違うところは見る者に嫌悪感を与えるような与える異形ではないことだ。
蜂を連想させる仮面を持ち、黄色の装甲に全身を包む戦士――仮面ライダーザビー ライダーフォームが立ちはだかっていた。
ザビーが怪物達と対峙するのを見た女性はあまりの出来事に頭が混乱しながらも、這うようにしてその場から逃げ出す。
しかしスパイダーファンガイア率いるサリスワームはそれを追おうとはしなかった。

「お前達、何で人を襲うんだ!」

ザビーの仮面の下で資格者の少年――エリオ・モンディアルは怒りの表情を浮かべながら言う。
彼は許せなかった。何の罪もない人が怪物達に狙われ、理不尽に命を落としているという事実を。
それに対してスパイダーファンガイアはザビーを嘲笑うかのように不気味な鳴き声を発する。
210地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 18:19:43 ID:jfOHQJl0

「何がおかしい!」
「お前に良いことを教えてやる。近いうちにこの世界は俺達の物になる」
「どういう意味だ」
「ガーリッククク!」

ザビーの疑問を無視するかのようにファンガイアは両足に力を込め、天に向かって高く跳躍する。
やがてビルの屋上に着地し、そのまま闇の中へ姿を消していく。
ザビーは後を追う為に強化された両足に力を込めて跳ぼうとするが、サリスワーム達の爪が襲いかかる。
それに気付いたザビーは反射的に体を半歩ずらし、軽々と三つの爪を避けながら強化された拳による反撃のパンチを一匹ずつ確実に浴びせる。
その打撃が強烈だったのかワーム達はふらつく。ザビーはその隙を見逃すことはなかった。

「ライダースティング!」
『Rider Sting』

左手に装着されたザビーゼクターのフルスロットルを押しながら拳を握る。
全身の力とゼクターから噴出されるタキオン粒子を左手に込め、ザビーニードルをワームの皮膚に狙いを定めながら必殺の一撃を決める為に駆け出す。
突き刺したニードルはワームの皮膚を掠めていくだけだが、サリス相手にはそれだけで充分だった。
ザビーニードルのエネルギーはワームの全身を駆け巡りあらゆる細胞を破壊していく。
やがて断末魔の叫びを上げるかの如くワームの体は爆発四散し、緑色の炎へと消えていった。
ザビーは逃げたスパイダーファンガイアを追う為に両足に力を込め、ビルの屋上目掛けて高く跳ぼうとしたその時、乾いた靴の音が辺りに響く。
そして暗闇から街灯の光の下に、その男が現れる。

「お前、もしかして自分は良いことをしたって喜んでるんじゃないだろうな?」

靴の音と共に暗闇から現れたのは矢車想だ。
薄汚れた黒のコートと独特の装飾品で身を包む彼は、両腕を組みながら仏頂面でザビーを見つめる。
211地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 18:21:33 ID:jfOHQJl0

「矢車さん……」
「正義感に溢れ、人々の為に戦う立派なヒーローか……良いよなぁ」
「僕はそんなつもりじゃ……」

矢車は反論を無視するかのようにザビーの耳元で囁く。

「俺達みたいなロクでなしが光を求めようなんて考えるな、でないと痛い目を見るぞ……兄弟」

その言葉が何を意味しているのかはザビーには理解出来なかった。
やがてライダーブレスに装填されているザビーゼクターは自らの意思で離れ、空の彼方へと飛び去っていく。
同時にアーマーを構成しているヒヒイロノカネがパラパラと分解消滅し、中から黒いスーツで全身を包んでいる赤毛の少年が姿を現した。

「うっ!?」

その途端、エリオの全身に灼熱の痛みが襲いかかる。
全身から汗が滝のように流れ、あまりの激痛に彼は呻き声を上げながら両手で胸を押さえ込み、その場に蹲ってしまう。
しかし唐突に始まったそれはあっさりと終わり、苦痛もすぐに収まっていく。
やがて彼は胸部に違和感を感じ、スーツのボタンを外して自らの肌を確認する。
見るとそこには蜂を連想させるような紋章がタトゥーのように浮かび上がっていた。

「これは一体……?」
「ザビーはお前を認めたみたいだな」

胸に刻まれた紋章が意味するのはザビー資格者の証だった。
過去に矢車と影山もザビーとなって精鋭部隊シャドウを率いて戦っていた時代、資格者として認められる際にザビーゼクターによってこの紋章が刻まれた。
しかし彼らの紋章はザビーの座を剥奪される際に消滅してしまった。

「もう一度言うぞ。前を見ようとするな、未来なんて考えるな、闇に身を任せることだけを考えろ……それだけだ」

矢車は冷たい瞳でエリオを見つめながら言い放つと、そのまま闇の中へと消えていくように背を向けていく。
エリオには矢車がまるでフェイトに出会う前、研究施設に閉じこめられて荒れていた自分を見ているようだった。
信じたものからあっさりと裏切られることの悲しみを知っているような気がして、エリオは矢車達の事を嫌いになることは出来なかった。
やがてエリオも矢車の後を追うように闇の中へと一歩踏み出していった。
212地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 18:24:11 ID:jfOHQJl0


薄暗い空間を照らすように、コンピューターの光がチカチカと明滅している。
大小の機械が不規則に並ぶその部屋で、黒の喪服に身を包んだ二人の女性が複数存在する目の前の画面を眺めながらキーボードを叩いていた。
一人はウーノ。
紫色の波がかった長髪を持つその女はスカリエッティの秘書の役割を担当し、組織の中でも高い地位についている。
最近、時空震動の影響でミッドチルダに出現したマスクドライダー。スカリエッティによると計画の障害に成り得る可能性が高いらしい。
その対抗策として圧倒的な戦闘力を持つ生命体、自分やクアットロを含めた組織に協力的なナンバーズ――ドゥーエ、トーレ、セッテの強化改造が急遽必要となった。
ウーノ達はセッテを除くNo.5以降のナンバーズをもはや『妹』として見ておらず、『自らの保身の為に親を売った裏切り者』という認識しかなかった。

「それにしてもトーレ姉様やセッテは羨ましいですわ〜 あの究極のドゥーエ姉様と共に任務を行えるなんて」

ウーノの隣で開発を進めている茶髪と眼鏡が特徴的な女――クアットロは溜め息混じりに愚痴をこぼす。
彼女はかつて情報操作と作戦指揮を行う後方指揮官を担当していたが、組織に介入してからはウーノと共に手駒の開発を進めている。

「あら、私と一緒じゃ不満かしら」
「そういう意味ではありませんわ、ウーノ姉様とこうして開発に担当出来るなんて光栄に思ってます」

そばに立つウーノに対し、手を止めたクアットロは笑みを浮かべながら答える。
しかし内心では生まれ変わった自分もドゥーエと同じ任務を担当したいというのが本音だった。
かつてのJS事件では尊敬の眼差しで見ていた姉――ドゥーエは10年間管理局の潜入諜報活動を行っていた末、レジアス・ゲイズの暗殺に成功する。
しかしスカリエッティにより復活させられた人造魔導師――ゼスト・グランガイツの手によりドゥーエは殺害されてしまい、遺体も管理局に収容されてしまった。
その後、組織の用意した『管理局のスパイ』がドゥーエの細胞を入手し、そこからスカリエッティと組織の共同作業により蘇る。
全ては創造主たる父スカリエッティ、そして新たなる力を授けてくれた組織の名によりこの任務を担当し、計画の進行を急いでいた。

「そういえばウーノ姉様、カブトの方は今どうなってるんですかぁ?」

クアットロはモニター画面に目を向けたままウーノに声をかける。
213地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 18:26:53 ID:jfOHQJl0

「あちらの世界でゼロセカンドと手を組んでるという報告が入りましたが……」
「向こうには完成したレジェンドルガを送り込み、様子を見る予定だよクアットロ」

クアットロの言葉を遮るかのように背後から声が聞こえる。
二人が振り向くとそこにはスカリエッティが立っていた。

「ドクター、お体の方は大丈夫なのですか」
「ああ、むしろ快感だ。実に素晴らしい力だ……」

ウーノの心配に対して、スカリエッティは狂気と快楽に満ちた笑顔で喜悦に満ちた声をあげる。
その瞳からはこの世にあるもの全てを凌駕するような圧倒的な存在感、この世界に生きるあらゆる生命体を貪らんとするような欲望を放っていた。

「これまで積み重ねてきた研究の最高傑作が私自身になるとは、運命とは実に不思議なものだ……頭領には感謝をしなければいけないようだ」

喉を鳴らしながら不気味に笑うスカリエッティは語る。
目の前に立つ自分たちの創造主は究極の生命体として進化を遂げた――
今の彼を見てそう確信した二人は感情が高まっていき、思わず笑みがこぼれていく。

「ではドクター、明日にでも計画は……!」
「そうしたいのは山々だが、まずは管理局へのデモンストレーションからだ。準備は整っていないだろう?」

期待が胸の中を包んでいくクアットロはそれを聞いてほんの少しだけ落胆する。
もっとも、それは心の中に留めるだけで顔に出すようなことはしなかった。




その日、ミッドチルダのある市街地では大騒動が起こっていた。
出勤や通学で多くの人が通る時間帯、コンクリートの道に金色の魔法陣が描かれ、そこから異形の怪物が次々と飛び出していた。
その数は五十体に達する。
転送魔法によって現れたワームとファンガイアは無差別に人々を襲い、周囲の建造物を破壊しようとする。
214地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 18:28:53 ID:jfOHQJl0
この騒ぎを聞きつけた時空管理局は多数の魔導師を派遣し、沈静化を図るが喧騒は輪をかけて大きくなるだけだった。
救急車のサイレンが鳴り響く中、管理局員達は事態の収拾に追われている。
一般市民を避難誘導する者、怪我人と負傷兵を救助する者、魔法を用いて怪物と戦う者。
しかしどういう事か大半の魔法では敵の致命傷にならず、やっとの事で数体撃破しても突然魔法陣が発生し、そこから増援と思われる敵が出現していく。
逃げまどう人々の悲鳴と管理局員の怒号が街に溢れる中、黒のギターケースを片手に持つ一人の青年が冷ややかな視線でその自体を眺めていた。

「……おいおい、こんな所にまでワームがいるのかよ。勘弁してくれ」

青年の名は風間大介。
我流のメイクアップアーティストを職にしている彼は、常に大量のメイク道具が入っている黒のギターケースを持ち歩いている。
散歩でここを通りかかった彼は、自らの置かれている状況を夢でなく現実であると受け入れていた。
ここは元々自分のいた世界ではなく、ミッドチルダという名の異世界であることを。
何故このような場所に来てしまったのか。
きっかけは相棒の少女――高山百合子。またの名をゴンが母親の元に帰宅し、大介が一人で自由気ままに過ごしていたときのことの出来事だった。
突如彼の体は謎の光に包まれ、気がつくとミッドチルダに降り立っていた。
そして出会ったティアナ・ランスターと名乗る女性により、この世界の仕組み、時空管理局という組織、自分の置かれている状況について一通りの説明を受けた。
彼女が言うには管理局は大介が元の世界に戻れるように全力を尽くすらしい。
しかしそんなことは今の彼にとって大して問題ではなく、二つの疑問が頭の中を駆け巡っていた。
一つは目の前にいる怪物、ワームが何故ここにいるのか。
元々自分のいた世界で暴れ回っていたあれはとっくに絶滅したはずだった。
しかも今度は見覚えのない醜悪な怪物も混ざっている。
そしてもう一つ、これが最も不可解な疑問だ。
彼の持つギターケースに入っているのは仕事で使うメイク道具だけのはずだった。しかしこの世界に来てから確認すると、その中にはかつて彼の命を守り続けた道具――ドレイクグリップが入っていた。
これは戦いを終え、平和な時代になってから大介自ら機密組織ZECTに返したはずだ。
それが何故自分の手の中にあるのかは分からないが、再びこれを使うなど真っ平御免だった。
215地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 18:32:32 ID:jfOHQJl0

「まあ、俺にはもう関係ないか……」

大介は軽く溜息をつくと、面倒なことに巻き込まれる前に人混みに紛れてこの場を退散しようとした。
しかし彼は足を止める。
ワームとファンガイアの群れを食い止めている管理局員の中に見覚えのある顔があった。
それを見た大介は道の脇にギターケースを置き、ドレイクグリップを片手に怪物達の元へ向かっていった。



市街地で暴れ回る謎の怪物を率いていると思われるそれは、大蛇を連想させる仮面を被り、全身は黒と青を基調にした装甲に包まれている。
仮面の下からは異常なまでの見る者全てを震え上がらせるような殺気を放ち、向かってくる武装局員達を次々と返り討ちにしていった。
事態の収束に当たっているティアナ・ランスター、ギンガ・ナカジマ、フェイト・T・ハラウオンは協力してその異形――コブラが率いる怪物の軍団と抗戦している。
最初は投降を呼びかけたが、向こうはそれを嘲笑うかのように武装局員への攻撃を続ける。
このまま投降を呼びかけても負傷兵が更に増えるだけで、自体が悪化する可能性が高い。管理局は怪物達の撃破を決定した。
ギンガがコブラと戦い、フェイトが次々と発生する魔法陣から出現するサリスワームの撃破をしている中、ティアナは一体の異形と対峙していた。
馬の風貌をしつつ、右手には真っ赤な鮮血が滴り落ちる剣を持っている。
その怪物――ホースファンガイアの足下にはボロボロになった管理局員のバリアジャケットとストレージデバイスが三組ずつ、無惨に転がっていた。

「あなた達、一体何でこんな事を!?」
『お前には関係ない、大人しく死ね』

ホースファンガイアが言い放つと、突如空中に四本の牙が出現する。
それはティアナの首元に降り注ぐが、突き刺さる寸前に彼女は体を反らしたので空振りに終わる。
そこから徐々に距離を空けながら両手に持ったクロスミラージュの引き金を引き、オレンジ色の魔力弾をファンガイアの胴体に放つ。
216地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 18:34:22 ID:jfOHQJl0
しかしホースファンガイアには効き目がないのか数発当ててもびくともせず、ティアナに迫ってくる。
ティアナはクロスミラージュをダガーモードに切り替えようとするが間に合わず、ファンガイアの蹴りを受けてしまう。
異常なまでの脚力による蹴りで彼女の体は吹き飛ばされ、コンクリートの床に叩き付けられる。
そのままティアナはクロスミラージュを落としてしまう。
それに気がついたフェイトとギンガは彼女の元に駆け寄ろうとするが、次々と襲いかかってくる二十体のサリスワームが進路を阻む。
じりじりとホースファンガイアがティアナに迫る中、彼らの間に割って入るように一人の男がファンガイアの前に立ちはだかった。
その背中を見たティアナは驚愕の表情を浮かべ、同時にギンガとフェイト、コブラとサリスワームの群れは現れた青年に視線を移す。

「か、風間さん……!?」




大介の中で怒りが沸き上がっている。
目の前に立つ化け物――ホースファンガイアを初めとする怪物軍団は多くの管理局員に攻撃を加え、破壊活動を行うという事実に。
それ自体は別にどうでもいいことだが、その中にティアナ、ギンガ、フェイトが含まれていることが問題だった。
大介にとって女とは尊く美しい花、全ての女性を守ることを信念にしている彼にとってこれは許せない出来事だ。

『何だお前は?』
「気まぐれな風だ」

大介がホースファンガイアを睨みながら言う。
そして表情を軟らかくし、背後で倒れているティアナに手を差し伸べ、立ち上がらせた。

「あ、ありがとうございます……」
「もう大丈夫、ここは俺に任せて早く逃げて下さい」

宝石のように輝かしい微笑みを浮かべる大介をほんの一瞬だけ、ティアナは見とれてしまう。
しかし今は怪物の破壊活動を止め、人々の安全を守ることが最優先だ。
217地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 18:38:17 ID:jfOHQJl0

「……って、何であなたがここにいるんですか!? 風間さんこそ早く逃げて!」
「俺なら問題ありません、それより……」

大介がホースファンガイアを初めとする怪物の集団に顔を向けると、怒りの込められた表情を再び浮かべる。

「汚らわしい奴等め、花を傷つけた報いを向けて貰うぞ」

吐き捨てるように言うと、大介はその手に握るドレイクグリップを高く掲げる。
すると空の彼方からソナー音を響かせながら、彼の元に機械質の蜻蛉――ドレイクゼクターがゼクターウイングを羽ばたかせ、舞い降りる。
現れたドレイクゼクターはグリップに止まると上面の蓋が閉じていく。

「変身!」
『Hensin』

大介のかけ声と共にエコーの低い機械音声が発せられる。
するとドレイクゼクターからヒヒイロノカネが噴出され、彼の体を包み込んでいく。
やがてそれはアーマーとなり、そこに立つのは風間大介であり風間大介ではなかった。
全身を包み込む水色のマスクドアーマー。
通常人の四倍以上の聴力を得られる額のソナーシグナル。
上下左右160度の視野をカバーするニンフフォーカス。
頭部、口腔部、右腕、胸部下に伸びるオキシジェンバルブ。
あらゆる温度から資格者の体を守る下半身のサインスーツ。
かつて自由気ままに我が道を行きながら、あらゆる女性の為にワームと戦った戦士――仮面ライダードレイク マスクドフォームへと風間大介は姿を変えた。
アーマーに包まれた大介の姿を見たティアナ、ギンガ、フェイトの三人は驚愕の表情を浮かべ、怪物の軍団は一斉にドレイクへと視線を移す。

『まさか貴様……仮面ライダードレイクか』
「よく解ったな、まあどうでもいいが」

ドレイクは武器となったゼクターをホースファンガイアに突きつけ、引き金を引く。
すると光の弾丸が放たれ、ファンガイアの肉体に傷を付ける。
そのままドレイクは怯んだファンガイアの脇を通り抜けて、コブラ率いるサリスワームの群れに飛び込んでいく。
次々と襲いかかるワームの爪をひらり、と避けながら引き金を引き、弾丸を放つ。
雨のように降り注ぐ弾丸に襲われた三体のサリスワームはあっけなく爆発四散し、緑色の炎と消えていく。
しかしそれに対応するかのようにワームは床に描かれている金色の魔法陣から次々と姿を現す。
これではキリがない。
そう確信したドレイクはドレイクゼクター尾部のヒッチスロットルを引き出す。
すると上半身を守るマスクドアーマーが浮かび上がっていく。

「キャストオフ!」
『Cast Off』

ドレイクがその言葉を叫ぶとアーマーが飛び散り、かなりの速度でワームに激突する。
そしてそれは姿を現した。
218地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 19:18:27 ID:jfOHQJl0

『Change Dragonfly』

水色の両眼、フォースアイが光り出す。
ドレイクのモチーフ、蜻蛉を連想させる形をしたボーンシェルメット。
右腕を守る為に胸部から肩甲骨まで伸びたドレイクバーン。
利き腕を補佐するライダーパーム。
マスクドライダーの本領を発揮する為の形態――ライダーフォームへと、仮面ライダードレイクは変化していった。
その途端、背後からホースファンガイアの剣が襲いかかる。
しかしその程度、数多の戦場を乗り越えた戦士――ドレイクにとっては何て事無かった。
ドレイクは迫り来る一撃を軽々と避け、ファンガイアの左側にすっと回り込んだ。その勢いのままファンガイアの脇腹に強化された右足で蹴りを叩き込む。
キックの衝撃で倒れたその隙を見逃すことはなく、ドレイクはゼクターウイングを折り畳み、ヒッチスロットルを引く。
するとドレイクゼクターに内蔵されているタキオン粒子は波動化し、銃口へと集中していき光弾へと変化していく。

「ライダーシューティング」
『Rider Shooting』

両手で支えるドレイクゼクターをホースファンガイアに突きつけ、引き金を引く。
すると衝撃波と共に必殺の光弾が放たれ、それをファンガイアは浴びる。
胴体に当たり、皮膚を燃やし、骨と肉を粉砕していく。
やがてホースファンガイアは爆発し、跡形もなく消滅した。
その様子を見たコブラは仮面の下で驚愕の表情を浮かべ、サリスワームは怯む。
そして一部のワームは逃亡を図るが、その道はティアナとギンガとフェイトの三人によって塞がれる。




一方で、建物の影から矢車、影山、剣、エリオの四人が管理局と怪物軍団の戦いを静観していた。

「あのライダーは一体……?」
「風間大介、仮面ライダードレイクか……」

ドレイクを見つめるエリオが疑問を放つ中、矢車はぽつりと呟く。

「あいつはかつて俺達の世界でワームと戦ってたライダーだ、まあ強さは兄貴のが断然上だけど」

影山が誇らしげに言うとふふんと鼻を鳴らす。
その理論から察するにあのドレイクというライダーもこの三人と同じく次元遭難者だろう。ただ一つ違うのは管理局員に保護され、協力していることか。
だがそんなことよりも、このまま見ているだけでいるわけにはいかない。ワームと戦っている武装局員の中にフェイトとティアナとギンガの三人がいる。
彼女たちはドレイクと共にワームを撃破しているが、転送魔法と思われる魔法陣から次々と増援が現れるのでキリがない。
その一方で、矢車は溜息をつきながら戦場を鋭い視線で眺めていた。
まるで肉親の仇でも見ている復讐者の目つきのようだ。
そして矢車は自らの手元に跳んでくるホッパーゼクターを掴み取った。
219地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 19:19:17 ID:jfOHQJl0

「変身……」
『Hensin』

ホッパーゼクターをベルトに装填し、エコーの強い電子音が鳴り響く。
矢車の体はヒヒイロノカネに包まれ、それはキックホッパーのアーマーを構成していく。

『Change Kick Hopper』

それに続くように他の三人も自らの手元に現れたそれぞれのゼクターを手中に収め、変身ツールに装填する。

「変身……!」
『Hensin』

「変身!」
『Hensin』

「変身…」
『Hensin』

電子音が発せられるのと同時に三人の体は人ではなく金属のアーマーへと姿を変えた。
三人の体に強大な力が流れ込んでいく。

『Change Punch Hopper』

ライダー達の両眼が輝くと、先頭に立つキックホッパーが両肩をだらりと下げながら三人の弟を率いて戦場に歩を進める。

「行くぜ、お前ら」
「兄貴となら、何処までも……」
「全てのワームは俺の獲物、奴等の出る幕はない」

その時、キックホッパーの仮面の下で矢車は世界の全てに対する憎悪の表情を浮かべていた。
その時、パンチホッパーの仮面の下で影山から不気味な笑みが生まれていた。
その時、サソードの仮面の下で剣はワームに対して憤怒の視線を浴びせながら進んでいた。

「…………」

そんな中、たった一人ザビーの仮面の下でエリオだけが俯いていた。
戦場で戦っている三人は自分がキャロにした仕打ちを知り、失望しているのかもしれない。
それが彼にとって酷く不安だった。
しかしだからといってワームを逃して良い理由にはならない。
三人のライダーに続くように、ザビーもまた戦場へ身を投じていった。



「ナックルバンカー!」

ギンガは左腕のリボルバーナックルに魔力を込め、強烈な鉄拳を繰り出す。
その一撃を浴びたサリスワームは体内のあらゆる細胞と組織が破壊され、無惨に爆発していく。
220地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 19:20:33 ID:jfOHQJl0
それでもコブラ率いる怪物の集団は一向に数が減らない。武装局員達が次々と負傷し、死者も出ている。
現在期待出来る戦力はギンガとティアナとフェイト、そして乱入してきたドレイクの四人しかいなかった。
このままでは防衛ラインが破られ、一般市民に危害が及ぶ危険性がある。増援が来るにはまだ数分必要だった。
周囲の怪物はまるで市民を守ってる自分たちを嘲笑うかのように吐き気を促すような鳴き声を発し、その爪を振るってくる。
ギンガの中で焦りが生じそうになるその時、それは起こった。

『Cast Off』
『Cast Off』

背後から突如、電子音が発せられると思ったら何かが高速でギンガの脇を通り過ぎていった。
その飛んできた何かは前方のサリスワーム達に激突し、ダメージを与える。

『Change Scorpion』
『Change Wasp』

再び背後から電子音が聞こえたのでギンガは振り向く。
見るとそこには四つの異形が横一列に並んでいた。
左から順番に飛蝗を連想させる緑と黄緑の異形、刃を持ち蠍を連想させる紫の異形、蜂を連想させる黄色の異形。
それらはこちらに向けて歩を進めている。

「今度は何なの!?」

ギンガが驚愕の表情を浮かべる。
しかしそんな彼女のことなどお構いなしにその異形達はサリスワーム達の元に向かい、攻撃を加える。
それを見たギンガの中で僅かながら安堵が生まれた。あの四つの異形が何者かは分からない、でも管理局員に攻撃を加えていないのでもしかしたら味方かもしれない。
彼女は再び左腕に魔力を込めて、異形の怪物から人々を守る為にその鉄拳を振るった――





四人のライダーが戦闘に加わって、すでに十分以上経過していた。
管理局からの増援も現れ、無限に溢れ出てくる敵は既に八体にまで減っている。
対ワーム戦に開発され、圧倒的な戦闘力を誇るマスクドライダー五人と、統率された魔道士達に対して数に任せただけの集団などまるで相手にはならなかった。
221地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 19:23:11 ID:jfOHQJl0
キックホッパーは荒々しいながらも調和の取れた蹴り、パンチホッパーはボクシングスタイルでの打撃、サソードはヤイバーを用いた剣術で敵を撃破していく。
そんな中、ライダーフォームのザビーは怪物の群れを率いていると思われる異形、コブラと対峙していた。
大蛇を連想させる仮面の下からは突き刺さるような殺気を放っているが、彼はそれに臆することなくラッシュを繰り出す。
対するコブラはその一撃を受けてしまうが全く動じず、逆にザビーの仮面を標準に定めた鋭いパンチを放ち、その体を吹き飛ばす。
しかしザビーはその痛みに耐えながら立ち上がり、左拳を握りながらザビーゼクターのフルスロットルを強く押す。

「ライダースティング……!」
『Rider Sting』

フェイトを初めとする管理局員達に自らの正体を悟られないようぽつりと呟く。
そして彼は全身の力を左手に集中させながら必殺のストレートをコブラの胸部に突き刺した。
ザビーニードルから流れ込んでいくタキオン粒子はコブラの体内を縦横無尽に暴走し、あらゆる体組織を爆発させていく。
やがてその体は自らの最後を告げるかのように粉砕し、最後は爆風と共に緑色の炎と変化していった。
跡には鉄屑が散らばっていたが、ザビーはそれに気を止めることはなかった。
当たりを見渡すと、金色の魔法陣は既に消えていてワームも全滅している。
戦いを終えたザビー、キックホッパー、パンチホッパー、サソードはフェイト達の方に振り向き、視線を合わせた。




戦場となった市街地を見下ろすことの出来る位置にある、七階建てビルの屋上。
そこに丸眼鏡を掛けた一人の男が戦いの様子を眺めていた。
神父を連想させる黒い修道服を羽織り、長身痩躯で年齢を特定することは出来ない。
左手の甲にはチェスのビショップにバラを飾られた紋章が刻まれている。
ビショップと呼ばれるその男は人間ではなく、ファンガイアの中でもトップクラスの実力を誇る者達――チェックメイト・フォーの一人である。
彼はこの異世界ミッドチルダである人物を待ち、そのついでに偵察をしていた。
この地にはファンガイアにとって脅威になると思われる時空管理局、元いた世界から現れたマスクドライダーが存在する。
そしてこの世界で暗躍している乃木怜治、ジェイル・スカリエッティという男達の作り上げた組織が本当に信頼出来るのか。
多少の協定は結び、情報交換や戦力提供はしているがまだ不確定要素が多い。
次の瞬間、ビショップの敏感な感覚が徐々に接近してくる来訪者の存在を感知する。
やがてその異形は現れた。
海老を連想させる風貌をしつつ、右腕が鉤状の巨大ハンマーとなっているワーム――キャマラスワームだった。

「……お待ちしておりましたよ、NO.2」

来訪に気がついたビショップが振り向くのと同時に、キャマラスワームの体が妖しく光り、その肉体はボコボコと変化していく。
やがて人型へと変わっていった。
222地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 19:24:59 ID:jfOHQJl0
霞んだ金髪が特徴的で、その見る者全てを魅了させてしまうような容姿からは大いなる残酷さ、慈悲深さを同時に感じさせた。
その名はドゥーエ。
知能と話術に長けている彼女は数年前、JS事件の為に単独で時空管理局へ潜入諜報活動を行っていた。
現在はトーレ、セッテと共同の任務を行っている。

「今日は何のご用件で?」
「チェックメイト・フォーのあなた達も協力して貰いたいのですが」
「しつこいですね、我々ファンガイアがするのはあくまで兵力の提供のみ……そちらの問題に私達が出るほどの義理はありません」

淡々と言い放つビショップに苛立ちを覚えたのか、ドゥーエは眉を歪ませる。

「まあ、最近キバと共に多くの同胞を葬っているカブトとやらを排除するのなら私からキングに取り入ってもよろしいですが」
「組織の技術力を持ってすればキバを始末するなど容易ですが?」
「それは確かな物でしょう……ですが我々ファンガイアはまだドクターを完全には信用していません」

二人は譲り合う気はなく、意見は平行線を辿るままだ。

「それよりもあそこをご覧下さい、面白い物が見れそうですよ」

話を変えるかのようにビショップは眼下に広がる市街地を指す。
そこにはZECT製のマスクドライダー五体と時空管理局の魔導師達が目を合わせている。
ビショップはその様子を怪しげな笑みを浮かべながら眺めながら、喉の奥から笑い声を漏らす。
下界にいる者達がここにいる二人に気付いていることは無さそうだ。
眺めている内に彼の頭の中である提案が思い浮かんでいった。

「時空管理局とライダーの接触……この手も良さそうだ」
「どうかしましたか?」
「いえ、こちらの話です。こちらのね……」







ザビーのマスクでそれは隠されているが、エリオは困惑した表情を浮かべていた。
目の前には恩師であるフェイト、かつて共に戦った同僚であるティアナ、先輩のギンガを初めとする管理局員達がいる。
正直な話、今すぐこの場から消えてしまいたかった。
223地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 19:28:44 ID:jfOHQJl0

「あなたはこの間の……」

フェイトはザビーに声をかけてくる。
それを聞いたエリオの中で心が温まるような安心感が生まれてくるのと同時に、罪悪感が沸き上がってくる。
彼女は身も心も荒れていた自分に生きる道を示し、数多くのことを教えてくれた。
そんな恩師を自分はパートナーを傷つけるという最悪の裏切りを犯してしまった。

「私達は時空管理局の魔導師です、話を聞かせて貰えないでしょうか」

ザビーが自己嫌悪に陥っていると、再びフェイトが口を開く。
今度は他のライダー達にも質問を投げかけているようだ。
そんな中、ただ一人キックホッパーが仮面の下から管理局員達を睨み付けながら拳を握りしめている。

「エリートって奴か……」
「え?」

鼻を鳴らしながら呟くキックホッパーに対して、フェイトはぽかんとした表情を浮かべる。
そして、彼女はそれを感じ取った。

「お前も俺のこと馬鹿にしてるんだろ……笑えよ、あ?」

恐ろしいくらいにまでの冷たい声に例えようのない恐怖をフェイトは覚え、一瞬だけ全身が金縛りにでもあったかのように固まってしまう。
血のように赤い両眼から放たれる殺気は、まるで地獄の底に潜む悪魔を連想させる。
キックホッパーが抱く敵意をザビーも察知し、無意識のうちに頬に汗が伝っていき、背筋が凍り付く。
やがてキックホッパーはフェイトの元に駆け寄り、全ての憎悪を左足に込めながら回し蹴りを放った――


05 終わり



天の道を行き、総てを司る
224地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2008/10/07(火) 19:34:16 ID:jfOHQJl0
これにて第5話終了。
この話からキバのファンガイアにチェックメイト・フォー、THE FIRSTの怪人、ワームとなりパワーアップした留置所組のナンバーズ
そしてドレイクが登場します。
次回はカブトレボリューション 序章を更新する予定です。


代理投下スレを再び無駄にしてしまって申し訳ありません……
225名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/07(火) 19:38:01 ID:Sv2NKH8+
クアットロを肉○ルマ(笑)!さずがだぜバージル兄さんは!過激すぎて子供はトラウマに
なっちゃうぜ。
226超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/07(火) 19:41:36 ID:R0JEmc52
乙です。
8時頃にグラヴィオンStrikerSの新作を投下しようと思いますがよろしいでしょうか。
227超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/07(火) 20:06:09 ID:R0JEmc52
30分経って時間になりましたので投下します。

 第14話 砕かれる友



 リインが再び倒れて2日が経った。命に別状は無いがリインは目を覚まさない。ヴェロッサは目を覚まさないリインに付っきりになって、ろくに食事も取っていなかった。
 そんなヴェロッサにヴィヴィオ達は心配して色々世話をしようとするもヴェロッサは「後でいい」などと言って、他の事をしようとしなかった。

「身体的には問題はないわ。意識が戻らないのは精神的ショックが原因ね。現実を恐れてるのね」

 シャマルが廊下でクロノと二人で話し合う。

「しかし、このままの状態が続くとリインや他の子達の状態も……」

 クロノの言う通り。クロノが窓から外を見てみると、外ではスバルとティアナが少し思い雰囲気で座り込んでいた。

「なのはさんのせいなの?」
「そうは言ってないよ。でもなのはさんはよくわかってないんだよ。何気なくやったことがどれだけ相手に影響を与えるか…」
「なのはさんはなのはさんなりにやったんじゃ…」
「だから余計に許さない。自分のものさしで考えてたから……」

 スバルの顔に怒りが少しにじみ出る。

「ニコニコしてて、いい事してるつもりでも、ズレてるの。なのはさんは痛いってことがわからないのかな?」


 スバルがそう思っていた頃、なのはは庭でユーノと話していた。

「ねえ、ユーノ君」
「何?」
「私間違ってのかな?」

 なのはもなのはなりに落ち込んでいた。

「小学1年生の頃、アリサちゃんがすずかちゃんとからかってたのを見て、私思わず手を出した事があるんだ」

 なのははふと過去の事を思い出す。なのはが魔法と出会う何年も前、1年生の頃同級生であったアリサ・バニングスが同じクラスの月村すずかのリボンを取ってからかっていた時、
 なのははそれを見てみぬ振りが出来ず、なのはは思わずアリサに平手を打ちをかました。
 なのははその時、アリサにこう言った。

(痛い? 私だって痛いよ。でもそれ以上にあの子が痛いんだよ!)

 その言葉でなのはとアリサがケンカしかけたが、それをとめたのがいじめられていたすずかであった。
 それ以降3人は仲良くなり、なのはが魔法と出会ってしばらく経つまでは3人はよき友達として仲良く過ごしていた。

「今の私を見たら、アリサちゃんなんて言うんだろう……」
「僕にはよくわからないけど、なのはが間違ってるとは思ってないよ」
「ユーノ君」

 なのはが改まってユーノの方を見る。

「ただ少しやり方が違っただけ。僕はそう思うよ。だってなのはは本当は優しい子だって僕は知ってる」

 なのはが魔法と出会うきっかけを作ったのはユーノである。魔法と出会って以降なのははユーノをよきパートナーでよき友達として接していた。
 そしてもう一人なのはを支えてくれた人がいる。

「なのはーーーーー、なのはーーーーーーー」

 フェイトが走ってなのはの下に駆け寄る。そうもう一人とはフェイト・テスタロッサである
228名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/07(火) 20:06:20 ID:k2lia0YH
>>196
GJ!
しかし犯罪者やってる分際のゼスト達が何言ってんだ?という気もww
229超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/07(火) 20:07:31 ID:R0JEmc52
「フェイトちゃん」
「なのはここにいたの」
「フェイトちゃん……私……」
「私はなのはを責めるつもりは無いよ」
「フェイトちゃん」
「なのはは少し不器用なだけだよ。私にはわかる。だってなのはは私の大事な友達だもん」

 なのはは泣きかけていた涙を拭いて笑顔で礼を言う。

「……ありがとう、ユーノ君、フェイトちゃん」

 そんな時ゼラバイア急襲の警報が鳴り響く!

「行かなきゃ…」
「なのは、無理しないでね」
「うん」

 司令室に向かうシャーリー達の前に既にヴェロッサが司令室にいた。

「ヴェロッサさん、いいんですか?」
「リインのそばにいなくても…」
「確かにリインの事は気になるけど今はゼラバイアの方が優先しないと…」
「……、わかりました」

 シャーリー達はヴェロッサの事を心配しつつもオペレートに入る。

「ゼラバイアは廃棄されたダムの上に着陸した模様」
「ジャミングが展開されて、これ以上は状況がわかりません」
「ヴェロッサさん、GシャドウとGストライカーにファントムシステムの搭載が完了したそうです」
「ロッサ、グランナイツの動揺があるようだが本当に戦えるのか?」

 クロノが心配そうにヴェロッサに尋ねた。

「だがこれしか道は無い」

 グランナイツの方も皆集合して、それぞれ自分の機体に乗り込もうとすると……。

「スバル」
「はい?」
「今日はグランカイザー、私が乗りたいけどいいかな?」
「なのはさん」

 なのはは少しでも罪滅ぼしがしたいのか、スバルは少し考えた末答えを出す。

「わかりました。今日はなのはさんが乗ってください。あたしはGアタッカーにします」
「スバル……、ありがとう」

 なのははスバルに礼を言ってグランカイザーに乗り込み、スバルもGアタッカーに乗ってそれぞれ発進した。

「現場の状況は不明。ゼラバイアの分析が終わるまで無理な行動はしないでくれ」
『了解』

 皆が現場に着く。現場に着いた途端ゼラバイアはグランディーヴァを攻撃する。

「いきなりか…、早く合神しましょう」
「確か2機は無人よね」
「このまま合神したらグラヴィオンの出力61%、かなりのリスクになる」
「合神はもう少し様子を見てからの方がいいかも……」

 フェイトの忠告を受けたのか、なのはは合神を控えようとする。
230超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/07(火) 20:08:51 ID:R0JEmc52
「各員で攻撃」

 なのはがそう言うとグランカイザーは敵に突っ込んでいく。
 グランカイザーのパンチでは相手の固い装甲を壊す事は出来ない。しかし相手はその固い装甲をパージさせ、いくつもの小さなゼラバイアへと分離させた。

「増えた!」
「きゃああああ!」
「スバル!」

 なのははゼラバイアの攻撃を受けているGアタッカーをすぐに救援した。

「なのはさん!」
「合神します!」
「…わかった」

 なのはがヴェロッサに承認を求め、ヴェロッサも承認する。しかしなのはとヴェロッサはどこか焦っているようでもあった。

「グランナイツの諸君、合神せよ!」
「エルゴ、フォーーーーーム!!」

 ヴェロッサの承認を受け、なのはが叫びグランカイザーからエルゴフィールドが発せられいつものように合神使用としたその時、
 突然モニターにゆがみが生じる。それは分離したゼラバイアがエルゴフィールドに侵入。グランカイザーと強制合体したのだ。

「うううう、ああああああああ!」

 なのはは苦しむ。そして合体を邪魔されたため、各グランディーヴァは吹き飛ばされた。
 その様子はジャミングが無くなった司令室でも確認されていた。

「こんなやり方、卑怯よ!」
「合神の瞬間を狙って、グランカイザーを封じるとは……!」
「……、まさか!?」

 ヴェロッサには嫌な予感がした。その影にカリムの存在を見た。

「ゼラバイア、グランカイザーに侵食していきます」

 グランカイザーに取り付いたゼラバイアはなのはの意思に関係なくグランカイザーを操る。

「きゃあああああああああああ!!」
「「なのはさん!」」
「なのは!」

 スバル、ティアナ、フェイトがなのはの身を案じる。

「ゼラバイア、グランカイザーの重力子エネルギーを吸収しています」
「このままだとパイロットが付加に耐え切れません」
「なのはさーーーーーーん!」
「グランカイザーを食いつくそうって言うのね。だったら左右から攻撃してなのはさんから離すけどいい?」
「「わかった」」

 フェイトとティアナが了解して、合神の為分離していたGドリラーを合体させて空からGアタッカーと共同で攻撃しようとする。
 しかしグランカイザーからグラヴィトンアークに似た技がゼラバイアの部分から放たれ、Gアタッカーをかすめる。

「うわああああああ!」
「スバル! 動いてよ! 私の言うとおりに動いてよ! グランカイザーーーーーーーー!!」

 なのはは叫ぶがその叫びは届かず、グランカイザーはゼラバイアの思い通りに動く。

「ダメです、これ以上近づけません!」
「でもこのままだとなのはが……」
231超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/07(火) 20:12:31 ID:R0JEmc52
 Gドリラーが近づこうとするもグランカイザーからエネルギー波が連射されてうかつに近づけない。
 そのうちの一つがGドリラーの前に放たれ、Gドリラーは吹き飛ばされる。

「ティアナ、フェイトちゃん!」

 グランカイザーは暴れ続ける。

「お願い! もうやめて! もうやめてよ! グランカイザー!」

 なのははその時、前に見たグランΣが世界を壊した時の映像を思い出し、皆に告げる。

「私を殺して」
『え!?』
「このままじゃ、グランカイザーが完全暴走して、この世界がランビアスみたいに…、パイロットがいなくなればグランカイザーは止まるはず、
もう嫌! 私のせいで誰かが傷つくのはもう嫌!」
「なのは……」
「何言ってるんですか!? あなたは!」

 スバルは怒る。

「そんな事したらヴィヴィオや他の人が悲しむだけです! 絶対あたし達で助けます、なのはさん!!」
「私には人を守るなんて出来ないんだ。もういいの、お願い早く殺して……」
「なのは、今僕が行く!」

 ヴェロッサが指令室を出ようとするとなのはが呼び止める。

「ヴェロッサ、私約束を守れなかった…」
「なのは!!」

 その時、フェイトが覚悟を決めた顔でGドリラーを分離させようとした。

「フェイトさん! 何を!?」
「ゼラバイアはグランカイザーから重力子エネルギーを吸収している。
その真上に接触して、引き出されたエネルギーをGドリラーの重力子巡回システムに介して増幅させれば、グランカイザーを…、なのはを救い出せるかもしれない」
「そんな事出来るんですか?」

 ティアナが不安そうに聞くとフェイトは手を胸の前にして手と手の間に何か光るものを出す。

「私ならできる。私は母さんに作られた『プロトグランディーヴァ』だから……」
「え!?」
「『プロトグランディーヴァ』? どう言う事ですか?」
「フェイトちゃん」
「ヴェロッサがミッドチルダに来て少し経った頃にプレシア母さんと会って、ヴェロッサの技術と母さんの科学者としての力で生み出されたのが私、フェイト・テスタロッサ」

 フェイトが光りだすのは司令室でもわかっていた。

「フェイトさんがプロトグランディーヴァ……」
「フェイトさんがプロトグランディーヴァモードに移行します!」
「遮断して!」
「ダメです! 全グランディーヴァ制御不能。機能を全部フェイトさんに抑えられてます」

 全グランディーヴァがフェイトの支配下に置かれ、フェイトは単身グランカイザーに突っ込んでいく。

「ダメ、フェイトちゃーーーーーーーーーーん!!!」

 フェイトの乗るGドリラーに向かってエネルギー波が放たれ、Gドリラーに直撃する。

「きゃあ!」
「フェイトちゃん!!」
「はああああああああ!!」
232超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/07(火) 20:13:21 ID:R0JEmc52
 それでもフェイトは負けじとGドリラーを突っ込ませた! 

「フェイトさん!」
「フェイトさん! 戻って! エリオやキャロやルーテシアが悲しみます!」

 エリオとキャロもまた元々は浮浪児だったのをフェイトが拾い、聖王教会に住まわせたのだ。
 ルーテシアはいなくなった母の代わりをフェイトが務めていたのだ。

(私が死んでも……、代わりが……)

 フェイトの強気、想いがGドリラーに届いたのかGドリラーの先端がゼラバイアの部分を貫こうとし、ゼラバイアにひびが入る。

「生きてね………、なのは………」

 しかしGドリラーはエネルギー波をまともに受けていたが為に、ゼラバイアがバラバラになったのと同時にGドリラーは砕けちり大爆発した。

「ああああああああ、フェイトちゃゃゃーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 現場からはものすごい爆音が鳴り響く。エリオ、キャロ、ルーテシア、ヴィヴィオも司令室に入ってくる。
 エリオはあまりの出来事にひざをつき、キャロは顔を手で覆い隠す。

「そんな……」
「フェイトさん……」

 ルーテシアもヴィヴィオもその様子をただ見ているだけだった。

『フェイトさん……』

 皆がフェイトの死を悼む。その大爆発の中、金色の光が空に向かって飛んでいった事を誰も気付かないほどに…。

「嘘ですよね……」

 スバルやなのはも信じられないという顔をし続ける。
 しかしまだ戦いは終わっていなかった。バラバラになったゼラバイアは再度合体し、今度はグランカイザーに似た形態へと変化していた。

「まだ……!」
「なのはさん、逃げてください!」

 ティアナの忠告よりも先にゼラバイアの攻撃の方が早かった。ゼラバイアの伸びる腕がグランカイザーを襲うが、その前にティアナの乗るGドリラーがそれを阻む。
 しかし分離しているGドリラーでは明らかにパワー不足。Gドリラーの後ろからわずかに火の手が上がる。

「ああ、ああああああああ!!」
「ティアアアアアアアアアア!!」

 ティアナはGドリラーの中で気絶したままGドリラーはダムの中に入っていった。

「Gドリラーレフトコックピット反応消失。パイロット……応答ありません」
「そんな……」
「もう嫌だよ」

 皆が現実から背を向けたかったがゼラバイアはそんな事お構いなしに攻撃する。

「あああああああああああ!!!」

 ゼラバイアの足がグランカイザーの胸部分に刺さり、トドメを刺そうと腕を斧に変化させ、その斧を振り下ろそうとしたその時!
 突然ゼラバイアの腕が吹き飛んだのだ!

「な、何!?」
233超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/07(火) 20:15:38 ID:R0JEmc52
 スバルは突然の事で驚く。それはゼラバイアも同じだった。
 ゼラバイアは何者かと思い、後ろを振り向く。そこには先ほど自分の腕を吹き飛ばしたブーメランがその持ち主の下へと帰って行き、その持ち主は山の上に立つ謎のロボットだった。

「グラヴィオン、いや違う……」

 その謎のロボットグラントルーパーにはヴィータが乗っていた。

「行くぜ、野郎共!」

 その隣には他にも4機ものグラントルーパーがあった。

「アタックフォーメーションV」
『了解!』

 5機の機体はヴィータの機体を先頭にして、後ろに並び3機は横に並ぶ。
 そしてヴィータの機体の胸が展開される。

「ライトニング、デトネイターーーーーーーーー!!」

 その叫びとともに胸に集まった魔力砲がゼラバイアに直撃し、ゼラバイアは爆散した。
 この様子を見ていたクロノはつぶやく。

「地上本部は量産型グラヴィオンを完成さえたのか」
「ドゥーエ……、これが君の求めたものか」

 ヴェロッサの言う通り、これはドゥーエのもたらしたものだが、それがドゥーエの求めたものかはわからない。

「グランカイザー……、何と言う事だ」

 グランカイザーのボロボロの姿を別のグラントルーパーに乗っているヴァイスは悲しんだ。

「帰還するぞ」

 ヴィータの指示通り、グラントルーパー全機がその場を離れた。
 なのははボロボロのグランカイザーのコックピットで涙を流しながらこうつぶやいた。

「空っぽだね」







投下完了です。
次回の内容はついに謎の満ちたあの人登場、そして中の人ネタが少しありです。
でも次回の話より先に最近考えてるグラヴィオンの次の新作の予告(?)みたいなものを投下するかも…。
234Strikers May Cry:2008/10/07(火) 23:33:46 ID:hsja66yV
ちょっくら投下します。

リリカル・グレイヴの幕間劇、第十四,五話です。
メインはミッドバレイです。
235リリカル・グレイヴ:2008/10/07(火) 23:34:48 ID:hsja66yV
魔道戦屍リリカル・グレイヴ 第十四,五話 幕間 「音界の覇者と金の閃光」


小さな頃から“音”がただ好きだった……それだけだ。

だというのに、いつの間にか殺しの技を身に付けて夜の世界に生きていた。
人を楽しませる筈の音色は目標の脳髄を揺さぶり死に至らしめる魔音と成り果て、賞賛の拍手の代わりに阿鼻叫喚と鮮血が返ってくるようになった。
挙句の果てにはとんでもない化け物に目を付けられ、殺しの手札にされてしまう始末。
ナイブズそしてレガート、今思い出してもゾッとする。
だが不幸は一度じゃ終わらない。
一度死に、やっと馬鹿げた死のゲームから解放されたかと思えば、今度は無理矢理生き返らせられて魔法世界の住人にクーデターの道具として使われる。
イカレ野郎に足元をすくわれるのはご免だというのに……

まったくどうして俺はこうも運がない? 幸運の女神はよほど俺が嫌いらしい。


『いぎぃっ! ああぁぁぁぁあああぁっ!! っつあぁぁあああっ!!!』


そのうえコレだ。
俺の良すぎる耳は聞きたくもない女の絶叫を嫌でも拾い上げて脳髄に情報を送る。
まったく、いつまでああしているんだ? さらって早々、レジアスはあのメガネをかけていた戦闘機人にもう数時間も拷問を続けていた。
どんなに澄んだ良い声も単調な絶叫だけを発していては不快でしかない、正直頭が痛くなる。
俺が金切り声に頭痛を感じていると、俺と同じくこの世界に来たGUNG−HOのロクデナシが現れた。


「お前か……そういえば聞いたか? チャペルが連絡を絶ったそうだ、おそらく潰えたのだろう。E・G・マインに続き奴もいなくなった、これで残るGUNG−HOは俺とお前だけだな」


俺はふとチャペルの事を話題に出した。だがこいつは何も言わず沈黙を守ったまま。
特に興味は無し……か殺人(キリング)マニアめ。恐らく自分の行う殺しにしか興味がないのだろう。
まったくとんだご同輩だ、俺は一つ溜息を吐いてその場を後にした。今はただ、静かな場所で酒でも飲みたい気分だった。
ウイスキーの瓶とグラスを持って立ち去る。
そろそろ本気で“あの話”に乗る算段をした方が良いらしい、俺はふとそんな事を考えた。

“ここ”は随分と広い、とても大昔に作られた戦艦とは思えないものだ。
その広大な内部構造の内、俺はできるだけ静かな方へ、心地良い音がある方へと足を進める。
そうして歩いて辿り着いたのは、捉えた捕虜を拘置する為の区画だった。
閉ざされたドアの向こうには、あるいは数人に、あるいは一人に部屋が割り当てられている。
最低限の食事はオーグマンやあの中将の部下が与えていた。
ここには大して見張りなどいない、何故ならいても意味が無いからだ。
魔法を阻害するらしい装置AMF、それが展開されている上に魔法を使うための道具であるデバイスとやらも現地で没収済み。
捕虜には抵抗したくても抵抗する術などありはしなかった。
捕虜になった連中の事を思い出しながらそこを眺めて歩いていると、ふと一つのドアの前で足が止まる。
金属製のドアの向こうから、ひどく耳に響く心地良い音色が俺の心を捉えた。
それは声だ、耳から伝わり脳を甘く焦がすような喘ぎ声。
確かここのドアロックには俺に与えられたカードキーの権限でも解除が可能なはずだ。俺は僅かな逡巡の後にドアロックにキーをかざした。
無論、心地良い音に対する興味も大きかったが、それ以上に“あの話”を実行に移す際の下見も兼ねていた。

ドアがスライドして開けば、中には簡易ベッドの上で身をよじる女が一人。確かティーダとかいう奴が捕らえた女だ。
恐らく酷い衝撃で気を失い、今まで眠っていたのだろう。
長く艶やかな金髪、黒い制服に覆われた起伏に富んだ男心をくすぐる肢体、そして麗しいと言うべき美貌。これは美女と言う他ないだろう。
236リリカル・グレイヴ:2008/10/07(火) 23:35:41 ID:hsja66yV
まあ、俺から言わせればまだ少し子供臭さが抜けないが。


「んぅぅ……あれ? ここは……」


少し艶めいた声で喘ぎながら女は目を覚ました。
目覚めたばかりで思考が覚醒しきらないのか、しきりに目をこすって辺りを見回す。
俺は近くにあった椅子に手を伸ばし、座りながら声をかけた。


「ようやくお目覚めか? 眠り姫」


俺の声に反応して女は即座に振り返り鋭い視線を浴びせかけた。良い反応だ、単に艶めかしい美女という訳ではないらしい。
俺はそれよりもその瞳の美しさに少し驚いた、こんな綺麗な紅色の眼は初めて見る。
濃い警戒を込めた瞳で俺を見つめながら周囲を見渡した女は、自分の置かれた状況を理解したらしく目から僅かに覇気をなくした。


「そうか、私は倒されて……捕まったんですね……」
「ああ、らしいな」
「あなた方は何者ですか? あの時地上本部を襲撃したのはあなた達なんですか?」


起きたばかりだというのに女はよく喋った。だが正直言葉の内容よりもその澄んだ声質の方が俺の心を揺さぶる。
やはり俺は根っからの音好きらしい。しかし言葉の内容もしっかりと理解したので軽く返事をしてやった。


「さてな、俺も首魁はレジアスとかいう軍人である事しか知らない」
「レジアス中将が!? まさか……そんな事が……」


俺の言葉に女は面白いくらい動揺した、あのイカレた中将とやらはここでは随分有名人らしい。
だが俺はそれよりもさっきから気になっていた事を教えてやる。


「ああ、それよりも」
「はい」
「スカート、めくれてるぞ?」
「へ?」


女のスカートは寝相の悪さのせいか、ひどく乱れてくしゃくしゃにめくれ上がり、その下に隠された下着を曝け出していた。
ちなみに下着は、その豊満な肢体に良く似合う扇情的な黒のレースだった。
うむ、実に良いセンスだ。


「ひゃっ!」


可愛らしい声を上げて彼女は大慌てでスカートを正す。
容姿はスタイルは完成された女であるが、どうも雰囲気というか内面部分が抜けているらしい。
俺は久しぶりに愉快な感情を覚えて口元に苦笑を浮かべた。
だがそれがどうも含みを込めたいやらしいものに映ったのか、彼女は俺にまるで痴漢でも見るような目を向ける。


「ま、まさかあなた……私に変な事しに来たんじゃ……」


その紅く美しい瞳に怯えが混じり、艶めかしい肢体が震え始め、心臓の鼓動が早まっていく。
237リリカル・グレイヴ:2008/10/07(火) 23:36:54 ID:hsja66yV
その様は嗜虐的性嗜好の人間が見れば思わず唾を飲むような淫蕩さがあった。どうもこの女はひどく人の嗜虐心をくすぐる体質のようだ。
それに武器を奪われた無力な女に悪の手先がする事なんて、容易く想像できるだろう。
だが無理矢理女をどうこうするのは趣味じゃない、俺はひとまず誤解を解くことにする。


「さて、変な事とはなにかな?」
「そ、それは……その……エ、エッチな事とか……」


自分で言って真っ赤になっていたら世話無いな。
心音や声の調子からすると初見からの予想通り処女なんだろう。
しかし“この世界の男は見る目が無いのか?”と疑問に思う、これだけの上玉を手付かずで残しておくのはもはや失礼の領域だ。


「残念ながら俺は君の言う“エッチな事”には興味がないんでね、まあ女日照りなのは確かだが、無理矢理というのは俺の趣味じゃない」
「……ほ、本当ですか?」
「今ここで俺が嘘を付くメリットはないだろう?」


俺はそう言うと手にしたグラスとウイスキーの瓶を目の前にかざす。
やや薄暗い独房の光に照らされたグラスが反射し、ウイスキーの美しい琥珀色が妖しく輝く。


「俺はこいつを飲(や)りに来ただけだ」


俺のこの言葉に、女は首を傾げて不思議そうな顔をする。
その仕草がまた随分幼さを漂わせて妙な愛らしさを覚えた、どうも彼女は天然の男殺しらしい。


「……意味が分かりませんが……ここでお酒を飲む理由がどこにあるんですか?」


その質問に俺はグラスに注いだ酒を飲みながら答える、やはりこの声を聞きながらだと普段の何倍も美味い。
舌の上に広がるアルコールに幾らでも芳醇さが増す気がした。


「理由は3つある、一つはここの連中に一緒に酒を楽しめるような奴がいない事。もう一つはお前の声だ」
「声?」
「ああ、実に良い声だ、きっと歌手になれば大成するぞ? これは賭けても良い」
「じょ、冗談はやめてください……」


お世辞半分の言葉でも恥じらいを見せる、なんとも純だな。
思わず“いつか悪い男にコロリと騙されるんじゃないか?”と少しだけらしくもない心配してしまう。
だが半分は本当だ、この声質ならば最低限の事を教えれば確実にモノになる。
おまけに容姿にも華もあるので申し分ない。
そんな感慨に耽っていると、その澄んだ声がまた俺に投げかけられた。


「それで3番目の理由ってなんですか?」
「ああ、それなんだが……まあ一杯やりながら話そうじゃないか」


そう言うと俺は空になった自分のグラスにまた酒を注いで手渡した。
238リリカル・グレイヴ:2008/10/07(火) 23:38:09 ID:hsja66yV
少しばかりの警戒を込めた目で俺をジッと見つめると、女はそれを受け取る。


「じゃあまずは自己紹介といこうか、俺はミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。バレイとでも呼んでくれ」
「フェイト……フェイト・T・ハラオウンです」


軽く自己紹介をした俺は事の本題に入った。話すのは無論“あの話”に関する事。
これはいわばカード(手札)の補充だ、いつでも切れる有効な札はあるに越した事はない。
もし状況がどちらに転んでも上手く立ち回れるように手を打っておく。

俺は美酒と美声に酔いながら、この状況を上手く手玉にとる算段をもう一度胸中で反芻した。


続く。
239名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/07(火) 23:40:03 ID:uC0T3PND
支援
240Strikers May Cry:2008/10/07(火) 23:41:06 ID:hsja66yV
はい、投下終了です。

とりあえず、現状で敵側を一度書いておきたかったのでこんな話に。
まあバレイの兄貴は相変わらず、冷徹なリアリストで、色々考えてます。
241名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/08(水) 00:01:50 ID:jFR8oI0j
GJ!!
キリングマニアというと雷泥かパペットマスターか
242一尉:2008/10/08(水) 11:53:27 ID:Kgds8FC+
天然バーマスターたよ。
243代理 キャロとバクラの人 ◇2kYxpqWJ8k:2008/10/08(水) 17:19:17 ID:UWhhofq1
氏は規制されているので、20分から代理投下します
244名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/08(水) 17:20:53 ID:UWhhofq1
「これは……?」

ホテル・アグスタにおける攻防戦。
それを守る側 管理局サイドの勝利で納める為、敵召喚師の確保に赴いたフェイト・T・ハラオウンは首を傾げた。
必至に行かせまいと追い縋る巨大蜂 キラービーを撃墜し、魔力のラインを辿った先。
そこには召喚魔法と召喚虫の制御を行う召喚師の姿があるはずだった。だが其処には人影が無かった。

「魔法陣?」

しかし魔力供給はこの場所から行われているのは間違いない。送られてきた座標、そしてフェイト自身もソレを強く感じる。
眼前に在るのは魔法陣だ。見た事が無い複雑な構造、自転する小さな魔法陣が歯車のように合わさり、中央の魔法陣が魔力で明滅している。
やはり其処には人影は無く、召喚士も居ない。つまりはやてが割り出し、フェイトが捉えようとしていた存在は……

「召喚士は居ない……何処に?」

呟きと共に放たれた射撃魔法は、防御を考えた構築になっていない魔法陣に突き刺さり、その構造を尽く分解する。
魔法陣が破壊されればホテル・アグスタを包囲している召喚虫は消えるはずだ。

『召喚虫の消滅を確認……お疲れ様や、フェイトちゃん』

直ぐに全体の指揮を執る機動六課部隊長 八神はやてからの通信を受け取るが、それにも訝しげな表情でフェイトは言う。

「はやて、実は召喚士は居なかったんだ。あったのは召喚魔法を制御する魔法陣だけ」



「なんやて?」

通信のウィンドウ越しに友が告げた言葉に、はやてとそれを囲む管制スタッフは首を傾げた。
自分達が召喚士として認識していた存在は、間違いなくその魔法陣だろう。
そしてそれが破壊された事により召喚虫達は消滅し、戦闘は終わりを告げた。
現に通信越しの外の陸士部隊や六課メンバーの安堵と疲労の声が聴こえている。

『ふぅ〜何とかなったみたいだ』
『虫の相手でボーナス出んのかな?』
『はやて〜大事なバリアジャケットが白濁液まみれになっちまったよ〜』
『まったく……フォワードのリーダーとしてあの二人と一匹は叱ってやらないと!』
『ティア〜そんなこと言って〜本当は心配……イタッ』
『バクラさんにキャロ……ついでにフリード』

そう、問題は無い。彼らとアグスタが直面していた危機が一つ去ったのは間違いない。
けどはやてはどこか引っ掛かった感覚を覚えていた。この感覚は……『嫌な予感』と呼ばれるものだろう。

「負傷者は下がって貰って、無事な面子で周りの見回りしましょか?」

「それが妥当だろうな」

同じく管制を行っていた陸士部隊の隊長と頷きあい、はやてが指示を告げようとした時……ソレは来た。
245代理 キャロとバクラの人 ◇2kYxpqWJ8k:2008/10/08(水) 17:21:40 ID:UWhhofq1
背筋を駆け上がる寒気、脳内を満たす嫌悪感。親しんでいるのに、何時だって危険な雰囲気を失わないコレは……

「魔力反応!?」

「近い!」

「しかもデカイ……シャマル!!」

はやてが呼び出すのは屋上で現場管制を務める、魔力探査などに長けた部下にして家族の名前。
実は優秀な騎士に確認を取る必要など無かったのだ。はやてを含めた誰もが解っていた。
例え魔法の才能に恵まれていないものですら、ソレがどんな『位置』でどんな『規模』か解ってしまう程なのだ。
しかし戦場は事態の正確な把握こそが重要。そして帰ってくるのは感じるままの答え、最悪の結論。

『召喚魔法です! 魔力規模Sランク! 場所は……ホテル・アグスタの直下!?』

一瞬、仮設司令部が沈黙に包まれて……会話と意思の波が爆発する。

「内部構造の地図を!! 下には何がある!?」

「下水道が通ってます! ここの汚水を全部処理するのでかなり巨大な規模で」

「召喚魔法を代理処理する魔法陣はこの為の囮か!?」

大規模施設には盗難などの防止用に転送阻害魔法が仕込まれている。
これは遠隔召喚も阻害するだろうが、術者である召喚士が近くまで来れば、影響は少ないはずだ。
召喚士が居るように偽装する魔法陣を囮にして、はやて達の目が釘付けにする。
防衛部隊も過剰なまでのデコイ 包囲戦を展開する虫の大軍で脚と目を奪う。
そのスキに本物は下水路を使って一気に距離を詰めて……

「けど下水道から大軍を地上に出すのは時間が掛かるはずです!」

敵召喚虫の大きさを考えればもし下水道の中で召喚した場合、人間用の通路しか存在しない以上、外に出るのは面倒だ。
その予想は相手の召喚士が『正常ならば』有効である。だが今回は……

「よっしゃ! 戦える者は下水道の入り口を包囲して…『■□■□』…今度はなんや!?」

今回の敵は異常だ。鈍い音と共にホテル・アグスタ全体を揺らすような震動。

「まさか……嘘……正気じゃない」

振動は一度だけでは終わらず、連続して建物を揺らす。

「敵勢力は……掘ってます」

「は?」

「掘ってるんです! 下水道の召喚した場所から……大ホールに向かって一直線に」

しかも……かなり無茶な方法で……
246代理 キャロとバクラの人 ◇2kYxpqWJ8k:2008/10/08(水) 17:22:51 ID:UWhhofq1
「早くして……」

自分のシモベである昆虫達に無茶苦茶な掘削を指示しながら、ルーテシアが見ているのはフェイトが行う高速戦闘の記録。
同様になのはの映像も見たが、室内戦に持ち込んだときに厄介なのは間違いなく、高速近接戦闘を行える方だろう。
幸いな事に彼女はもっとも離れた場所、ルーテシアが居るはずの場所へと急行したから、戻るには時間が掛かるはず。
それでも油断は出来ない。故に急いでもらわなければ……

「「「「□□□!」」」」

同意を示す蟲たちの囁き。そのメンバー構成が地上に居たものとはだいぶ異なる。
カブトムシなどは存在せず、代わりにアリとレーザーキャノンよりも若干威力が劣る火器付きインセクトアーマーを装備した昆虫人間が多数。
これが無茶な掘削を行うための面子。
まずはベーシックインセクトが装備した火器を撃ち込んで壁を「壊す」のだ。
そしてアリたちが発生した瓦礫を除去して、再び砲撃を撃ち込み……コレをかなりの速度で繰り返す事数回。
かなりホテルの基底部に負担をかける方法であり、構造など無視して『砲撃で破壊』するわけだから、倒壊の危険も伴う。
もっとも建造物の今後を心配する理由などルーテシアや蟲たちにも無いのだが……

「まだ?」

「■■!」

近くに居たベーシックインセクトの体をコツコツ叩きながら、ルーテシアが呟いた時……暗い地下道に光が指した。



「■■■■■!!」

最初に大ホールの床を食い破り、巨大なアリが姿を現した時、起こった反応は非常にわかりやすいものだった。

「キャァア!!」
「化け物だぁ!」
「落ち着いて! 落ち着いてください!!」

つまり混乱とそれを抑えようとする努力。
残念な事に無茶なトンネル工事の震動は感じられていたのだが、下手に動かすのは危険という判断から確認が取れるまではと非難させていなかった。
外界の攻防などホテルと管理局の品位を下げる危険が在る情報は伝えられている筈もない。
つまりオークションの観客たちにとっては平和な娯楽が突然の地獄絵図になったのと同義。
しかも巨大なアリが一体では止まらず、ゾロゾロと出てくるのだから『落ち着け!』と言う方が無理というもの。

「くそ! 数が違いすぎ……ギャア」

「しっかりしろ! 恋人が待ってる!!」

もちろん管理局員やボディガードなど戦闘をこなせる魔道師はホール内にも居る。
しかしその数は厳つい魔道師が目立つ事を嫌い、同時に外での大攻防戦に回されており、多いとは言えない。
数と大きさ、自然的な暴力を行使するアリの群れに一を倒す間に二がやられる厳しい戦いを強いられる事に。
247代理 キャロとバクラの人 ◇2kYxpqWJ8k:2008/10/08(水) 17:23:37 ID:UWhhofq1
「まったく……無茶するなぁ」

壇上で品物の解説をするという立ち位置の関係上、オークション出品物の近くに居た青年の名前はユーノ・スクライア。
攻撃魔法はからっきしだが、防御や補助魔法は天才の域に達する考古学者にして、エースオブエースの魔法の師匠。
無限書庫のトップに座ってから実戦とは程遠い生活を過ごしているが、その魔法の腕は万人が認めるところだろう。
本来ならば品物を守る魔道師も居たのだが、ユーノが防御に特化した魔道師だと知るとアリの駆除へ増援に向かった。
故に全てを合わせたら幾らになるのか? 考えるのも恐ろしい品物の数々はユーノが一人で守る事になる。

「実戦から離れてだいぶ経つけど……頑張らないと!」

ユーノは某古いベルカの騎士などのように戦うのが得意な訳でも好きな訳でもない。
どちらかと言えばデスクワークや遺跡発掘をしているほうが幸せを感じる時間。
それでもロストロギアと見紛う程の不可思議な品の数々、守りたいと思うのが好きな者の性質。
気合を入れて数秒後……

「とんとん」

「ん?」

不意に背中に感じる柔らかい衝撃。ユーノが振り返ればそこには少女が居た。
紫色の長い髪に黒いフリフリの服を着て、両手を後ろで組んだ少女が彼の目に入る。
オークション参加者の連れてきた子だろう。この混乱で親からはぐれてしまったに違いない。
ユーノがそう判断するのは決して間違った判断では無いだろう。

「大丈夫? はぐれちゃったのかな?」

しかし彼は二つだけ見逃している事がある。
一つはこの阿鼻叫喚の騒乱内で誰よりも落ち着き動かない無表情。そして一般人には高すぎる魔力。
更に言えば……これは見えなかったのだから仕方ないのだが……彼女の両手を覆うブーストデバイスを。

「……邪魔」

少女が後ろ手に組んでいた掌がゆっくりとユーノに突き出される。
ゴボリと源泉から熱湯が噴出すように掌を満たすのは莫大な紫色の魔力。

「ドン」

放たれるは射撃魔法とも砲撃魔法とも言い難い純粋な魔力の固まり。
荒削りにも程があるが少女 ルーテシアが持つ余り在る魔力によりその威力は絶大。
何が起こったのかユーノは理解できなかった。しかし戦士としての僅かな勘が突発的にシールドを展開する。

「グハッ!?」

魔力を殺しても衝撃は殺せない。盛大に床へと打ちつけられるユーノ。
気合を入れて数秒後……彼は盛大に意識を手放した。
248代理 キャロとバクラの人 ◇2kYxpqWJ8k:2008/10/08(水) 17:24:57 ID:UWhhofq1
ユーノ・スクライアが不甲斐ない最後?を遂げて直ぐのこと……

「そこまでや、蟲ヤロウ!!」

従業員用の非常口を蹴破り、大ホールに飛び込んできたのはベルカ式バリアジャケット 騎士甲冑に身を包んだ八神はやてその人。
後ろには何とか引き連れてきた陸士部隊と直属の部下ヴォルケンリッター 湖の騎士シャマル。
外の面子は何故か下りていた防火・防魔シャッターで足止めされ、到着が遅れてしまったので、いま可能な最高のメンバーだろう。
本来ならば指揮に専念するはずの部隊長自ら、甲冑を纏い剣を握っている時点で最高かつギリギリな構成とも言えた。

「避難誘導を最優先! 召喚虫を撃退し、可能ならば出品物を確保せよ!!」

「「「「「了解!!」」」」」

的確であり簡単な命令に一斉に帰ってくる了解の合唱。しかしそれに答えるのは蟲たちの的確かつ無慈悲な行動。

オークションの品を手に持ち、自身達の開けた穴へと消えていく昆虫人間 ベーシックインセクトの群れ。
ぞろぞろとアリが獲物を巣に運びこむような行進。圧倒的な人手は無数の高価な品を容易く持ち出していく。
ソレを庇うように布陣してながらも、発砲はしていなかった火器付きアーマー装備のベーシックインセクトが一斉に狙いを付けた。

「この虫どもが! 民間人を!?」

ターゲットは未だに非難が終わらずに右往左往しているオークション参加者。
自分達が狙われれば回避や防御を行い、反撃までするプロセスを確立している管理局魔道師も、他人を守りながらでは手順が違う。
どうしても守りに重点を置き、反撃には手が回らない。つまりソレを行う方としては実に効率の良い足止めの方法なのだ。

「卑怯なマネしてくれるやん!」

そう口に出しながらも、はやてが呪うのは蟲たちではない。敵の罠にまんまと嵌ってしまった自分自身。
ホテル内へ大型の召喚虫の侵入を許した時点で、管理局サイドの不利は決定されているのだ。
そこにはやてのミスがあるかと言えば在りはしない。
多量の大型召喚虫と自立駆動魔法陣を囮にして、ホテルの下から同じ召喚虫を用いて穴を掘って進入する……なんて誰も思いつかない。
それでも彼女は自分を責めるだろうし、後にお偉いさんも彼女を責めるのだろう。
責任者と言うのは責任を負うために存在するのだから。

「大ダヌキを見返すどころの騒ぎやないなぁ〜もう!!」

それでも諦める事などできはしない。
傷つければ管理局に地上本部、レジアスの何泥を塗る事になるだろうVIPたちを守りながらも、はやては反撃。
今は亡き最愛の家族、世界最高の魔道書 夜天の魔道書より伝えられ、彼女の成長で磨いた魔法資質は恐るべきもの。
陸士部隊では防御一辺倒しか戦えないと言うのに、はやてはシールドを展開しつつの正確な射撃で虫達を撃破していた。
しかしそれでも前進し、敵を征圧しているわけではない。防戦に僅かな反撃が叶ったに過ぎない。
249代理 キャロとバクラの人 ◇2kYxpqWJ8k:2008/10/08(水) 17:25:47 ID:UWhhofq1
品物を抱えたベーシックインセクトの列が途切れ、全てが穴の中へと姿を消す。
ここで砲火が標準を変えた。狙う先は……天井。もうここに用は無いと、盛大に撒き散らされる破壊の怒涛。
当然対処に注意を割かれる管理局側。そのスキに火器付きベーシックインセクトの全てが穴の中へ消える。
砲火が止めば此方のモノ!と一気に距離を詰めようとするが、再びホテル・アグスタが上げるのは振動と言う名の悲鳴。

「人のモンやと思ってぇ!!」

追いかけて飛び込もうとした穴が瞬く間に閉じていく。説明するまでも無いが穴を開けた時と同じ力に任せた方法。
そう、砲撃により周囲を崩す事で完全に穴を塞いでしまったのだ。
当然のように放置された巨大なアリを駆除し、塞がれた穴を再び開けるなり、他のルートへと迂回するなりしても、時間が無い。
これだけ大規模な召喚魔法を使う相手のことだ。ホテルからある程度離れれば長距離転移などで姿を晦ましてしまうだろう。

「まだや! シャマル!! 転移の追跡準備を……『助けて、はやてちゃ〜ん』……チェックメイトか」

はやては今度こそ諦めたように力を抜く。視線の先にはアリに集られるシャマルの姿があった。





暗い下水道を行進するのは異形の集団。武装した昆虫人間たちは当りを警戒し、未武装の固体は手に様々な品物を持っている。
その群れの中心を歩くのは彼らの主 ルーテシア・アルピーノ。
管理局を相手にした鮮やかな勝利にもその表情に笑みは無い。もちろん無数の被害を出したという負い目も無い。
彼女にとって管理局の歴史に残るような大規模な召喚犯罪も、『動作テスト』に過ぎないのだから。
新しく調整された自分と言う名のレリックウェポンの性能を試すための動作テスト。
本来ならばスカリエッティに頼まれた品物だけを手に入れれば良かったのだが、近くにあった品を全部強奪したのは……気紛れ。

「小熊のチーズケーキ……」

過ぎ去った事柄にはやっぱり興味がなく、いまルーテシアの心を占めるのは報酬で得られる美味なケーキのこと。
そんな彼女が大きく影響を受け、変わっていく原因となるその人物。
運命の出会いをするには少々臭い場所だったがソレは来た。
ルーテシアにとって終わった事柄、勝利した作戦、美味しい夢想の邪魔をする存在。

「ん?」

集団による足音。早すぎる追っ手に首を傾げつつ、ルーテシアは火器付きベーシックインセクトに命令を出す。
数個の砲が闇の向こう、敵が近づいて来ている敵に向かい揃えられた。
例え敵が多かろうと早かろうと、道を満たすように放たれる砲撃を避ける術などありはしない。
250代理 キャロとバクラの人 ◇2kYxpqWJ8k:2008/10/08(水) 17:26:51 ID:UWhhofq1
「っ!?」

だが不意にベーシックインセクトの一体が砲身の向きを変えた。近くにいる味方へ。蟲たちも驚きの声を上げる。
慌てて送り返したルーテシアはその理由を理解した。おかしくなった個体の肩を掴んでいた幽霊のような透明の手。
『死霊の誘い』
攻撃対象を変更する特殊な魔法。
更に統制が乱れて砲撃が遅れた瞬間、足音たちが信じられない加速を見せる。
しかし足音がルーテシア達の下に辿り着くよりも、砲撃を放つ方が早いだろう。

「フリード! ブラストフレア!!」

命令の声、暗闇を飛翔する白い翼より放たれたのは焔の吐息。
決して大きくは無い火は着弾と同時に地面を嘗め尽くすように広がる。
大きな威力にはなりえない牽制。だが生物は炎を本能的に恐れ、突発的な行動の乱れを生む。
二重に生まれた隙、一気に近寄る足音は頭部が無い空っぽの板金鎧や亜人の死体のモノ。

「召喚士?」

腕の一振りで炎を消し飛ばし、召喚虫たちに落ち着くように命令を出しながら、ルーテシアは敵の正体を認識した。
確かに途中で何度かアスクレピオスが共振していた事にも頷ける敵の正体。
しかも自分と同じ規格外の存在のようだ。同時に……非常に厄介な存在だと言う事も解る。
無表情な視線に僅かな苛立ちに載せて、接近してくる集団の奥に見えないその姿を睨みつける。


「ヒャッハ〜! 盗賊から盗もうなんざ、いい度胸じゃねえか!!」

自ら掛けた呪いにより速度を増した集団を見送って、悪辣な盗賊王 バクラは宿主たる可憐な少女 キャロの顔を歪めて笑う。
その笑みは良いように出し抜かれそうになった怒りを、リベンジの喜びへと昇華させたもの。

『本当に派手で緻密な事をする人ですよね』

同業者から見ても驚きを覚える大出力にモノを言わせて、大型召喚虫の大量召喚。
しかもその大部分を陽動に使い、同じ召喚士でも気付くのが難しそうな自動処理魔法陣による偽装。
本体はターゲットの直下まで移動し、砲撃による掘削と言う余りにも非常識な方法で目的の品を強奪する。
盗賊と言う同業者からしても恐ろしい事この上ない相手だ。

「だが! ここまで詰めちまえばオレ様たちの間合いだ」

砲撃虫は確かの恐ろしい威力があるが、その反面乱戦に持ち込めば使い難くなる。
敵はブーストを使ってこなかったから、速度を行かせば新たに大型虫を召喚されても対処可能。

「おら! さっさと増援をよこしやがれ」
『よっしゃ! ボーナスも出したる!!』

連絡を入れた部隊長殿から力強いお言葉をいただく。
作戦の最低ラインは足止め。増援による挟撃が叶えばこの大出力の化け物でも取り押さえられるはず。
バクラはもう一度笑う。
251代理 キャロとバクラの人 ◇2kYxpqWJ8k:2008/10/08(水) 17:28:11 ID:UWhhofq1
「ガリュー……お願いしていい?」

片やルーテシアは非常に苛立っていた。本人はその感情の意味を理解できずとも、確かにムカムカしていた。
今までのどんな奴らとも違う。非常に不愉快な存在たち。
眼前で呼び出したばかりのヘラクレスビートルが死霊に袋叩きに合う姿を見ながら、傍らに浮く漆黒の球体へと言葉を投げる。

「□■□■」

明滅で答えるのは球体。ルーテシア以外には解らない言語で『任せろ』と返す。
本来ならば新たに調整された体のテスト、出力や操作系に寄らない強さを見せる騎士に頼る予定は無かった。
だが状況が変わった。もう少しで長距離転移が可能な場所まで辿り着く。一個だって品を返してはやらない。
そんな妥協はイライラを増すだけだ。だから見せてやる。お前らは持ってないだろう……最愛の騎士の姿を。

「■■!!」

黒き閃光が放たれる。



「なんだ!?」
『早いです!』

最初は一体の死霊が破壊されただけだった。それ自体は珍しくないこと。
やられる事も計算に入れた良くも悪くも使い捨ての駒に過ぎないのだから。
だが余りにも速すぎるペースで、連続して倒されていくのだ。
そのうえ他の召喚虫を足止めし、倒すのに必要な個体が正確に撃破している。
フリーになったベーシックインセクトが放った砲撃の余波で、フリードが飛ばされてしまった。

「くそっ! 虫の早さじゃねぇ」

自身も爆風の余波で顔を覆いながら、バクラが呻く。
大型の召喚虫では速度がでない筈であり、昆虫人間はインセクトアーマーが無ければ戦闘能力は皆無。
つまり死霊を撃破しながら一直線に向かってくる『ナニカ』はこちらが知らない召喚虫と言う事になる。


『バクラさん……見えてますか?』

「あぁ……なんとかな」

迎撃のために数体の死霊騎士を呼び出しながら、キャロとバクラがするのはそんな会話。
早さの上に背景に同化する事で姿を見え難くしているらしい。大部分の死霊達は撃破されてしまい、一直線に駆け寄ってくる敵。

「逝け!!」

掛け声一つ、何時も以上に無理な速度と威力のブーストをかけた首なし騎士たちが、不自然に歪む空間に殺到する。
252代理 キャロとバクラの人 ◇2kYxpqWJ8k:2008/10/08(水) 17:35:35 ID:UWhhofq1
既に見破られたと判断したのか? ナニカが迷彩を解除してその姿を現した。
一言で表現するのならば『虫の騎士』。
引き締まった戦士のプロポーション、長いマフラーだけを纏ったその体は虫のような甲殻で覆われている。
人間には無い尻尾が生え、頭部には四つの輝く瞳。足と手には鋭い爪。

「「「「……」」」」

「■□■!!」

死霊の騎士と虫の騎士、交差は一瞬。バラバラと崩れたのは取り囲むように斬撃を放ったはずの首なし騎士たちだった。

「ちいっ! エリオ並の速度であのパワーか!?」

ブーストをかけたエリオに匹敵するスピード、人間とは構造が違う体が生み出すパワー、自然体が生み出す抜群の格闘センス。
正しく戦士として、騎士としての完成系。並みの死霊たちでは相手にならず、その速度故に切り札を呼ぶのは遅すぎるだろう。
先程はバクラ達の優位に働いていたこの空間だが、今では隠れ場所が無い故に正面での相対を余儀なくされている。

『エリオ君も引っ張ってくれば良かったですね!?』

本来ならば、特に最近の訓練上では死霊の騎士団は二段構えの陣形を取っていた。
どちらが先行しても構わないが、エリオと死霊たちが僅かな時間差をもって行動する。
それが上手く機能すればこの強敵 ルーテシア曰くガリューが相手でもここまで一方的な……


遅かった、二度目の召喚。ブーストを掛け終えて、送り出す前にキャロとバクラは……四つの複眼と目が合った。

「参ったぜ……」

「□□□」

見下す事はしないし、嘲る事もしない。虫の騎士は拳を振りぬく。凄まじい衝撃。
ディアディアンクとケリュケイオン、二つのデバイスがバリアジャケットの赤いコート部分をパージし、衝撃を殺す事に成功。
それだけならばバクラ達は意識を保っていられただろう。だがやはり野生は敏感であり、大胆であり、目的遂行に忠実だった。
虫のような冷たい手が、桃色の髪に覆われた頭部を押さえつけられ…「ズドン」…壁に叩きつけられた。

と言う事で……『キャロとバクラが任務中に名誉の負傷をしたそうです』
253代理二号 キャロとバクラの人 ◇2kYxpqWJ8k :2008/10/08(水) 17:38:59 ID:ubA5Gfj7
増援が到着した時、下水道の中には虫の一匹も居なかった。更に言えば敵召喚師の姿も、奪われた品物も無かった。
居たのは管理局の制服姿で倒れている一人の少女とそれに寄り添う白銀の飛竜だけ。

「キャロ!」

その姿を視認した時、エリオ・モンディアルを襲ったのはどうしようもない後悔。
自分達の仕事場 戦場は何が起こるか解らない場所。それはフェイトが被弾したという事柄で充分にわかっていた。
解っていたのに……自分はこの少女を一人で行かせた。きっと意味があると思っていたのに、保身を優先してしまった。
その結果がコレだ。

「しっかりして、キャロ!!」

周囲の確認も疎かにして駆け寄り、おっかなびっくり触れる首筋。
そこには確かに脈があったが、ツウッと額を鮮血が一筋走る。エリオが自分の意識まで手放しかけて、キャロがゆっくりと目を開いた。

「もう……エリオ君……肝心な時に居ないんだもん」

「うんっ! ゴメン、ゴメンなさい!!」

酷く単純にエリオの口から漏れた謝罪の言葉、同時に自分の事のように傷む心が瞳から涙を零させた。
そこで何時もより若干弱々しい声でバクラが呟く。

「次はあのヤロウに十倍返しだ……エリオ、お前も付き合え」

「はいっ!……絶対に!!」

たとえ弱々しくても、あの覇王の雰囲気は変わらない。「付いて来い!」と言われれば、喜んでお供してしまうだろう王の声。
254代理二号 キャロとバクラの人 ◇2kYxpqWJ8k :2008/10/08(水) 17:42:17 ID:ubA5Gfj7
以上でした〜いや〜早い執筆だった! ワタシ頑張った!!
書いていて解った事はシャマルとはやてがスキだと言う事。
シグナムとの出番の差が素晴らしい……と言う事でアグスタ編は終了!


======
以上、代理投下させていただきました。二人がかりで。

そんなことよりルーテシアのターンですよルーテシアのターン。
ユーノを始め次々とレギュラーキャラがしてやられる事態になるとは。
これから一体どうなっていくのか、とても楽しみです!
255名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/08(水) 17:56:42 ID:IHPCqaNk
>>254
GJでした!
にしてもルーの手持ちってまんま羽蛾が使ってたモンスターばっかですな。
ヘラクレスビートルまで出てきたってことは期待していいのですかな!?
昆虫女王と完全究極体グレートモスの登場を。
まあ次は怒らせてしまった盗賊王&キャロのターンかもですが。
次回の更新お待ちしてます!
256名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/08(水) 21:02:09 ID:oKdAHxGE
GJ!!

残念!今回はルーテシアの勝利でした
酷なようですが、やっぱり今回は、はやての読みが浅かったのが敗因でしょう
作中では誰も思いつかないといわれていますが、似たような戦術なら掃いて捨てるほど
現実でも使われている代物ですし、ラノベやゲームでも探せば見つかる程度のものです
まあ、力任せの猪突猛進ばっかりで何とかなってきたような人に戦術指揮させる
組織そのものに問題があるのですが

あと、一体何しに出てきたんだ淫獣
257名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/08(水) 21:29:26 ID:Hd53ikZ3
>>256
感想に見せかけたアンチ行為やめろ
258名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/08(水) 21:35:30 ID:SmP38PEh
>>254
GJ!
やってくれたぜ!ルーテシア!
259名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/08(水) 23:18:53 ID:SiZLCkuK
GJユーノ残念w油断しなければ良い格好できたのにw
ホテル大丈夫かな
260名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 07:50:17 ID:/0W1xm/F
>>256
ねーよwww
地下から掘り進むんだぞ?
上に向かって。

人間にできるとは思えないのだが。
261名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 07:57:59 ID:cna3hj1f
>260
確かに人間に出来る技じゃない。有名どころだとゲッター2とかグレンラガンとかモグラタンクとか。
しかしセインやシャッハのように、リリカルキャラには遮蔽物を越える技能者が存在していることを忘れてはいけない。第一、はやてはシャッハのことを知っているはずだ。
262名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 08:28:54 ID:LLhxVwg9
本音スレ行け
263名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 08:32:34 ID:E5M0EueP
地下から掘り進むのは多くないかも知れないが、戦術そのものは「大規模陽動による精鋭の浸透突破」
戦史でもフィクションでも凡庸な指揮官に多くの戦果を挙げ、優秀な相手には同じくらい破られてきたしろもの
初見ならともかく、召喚士の厄介な所はキャロで解っているのだから、一々確保させるのでなく全力全壊で吹き飛ばさせて
VIP達を迅速に避難させればよかった
264名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 08:34:34 ID:pk/CsfpJ
ウロスいこうよ。
265名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 10:34:12 ID:Sd2Er5h3
荒んでるなぁ……本音だってこんな流れはお断りだが
266名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 11:51:25 ID:9fkqDNxr
今日は一部の馬鹿のせいで投下には期待できないか。楽しみだったのに
267一尉:2008/10/09(木) 12:35:58 ID:JGM50h+R
さずかユーノ坊主がんばれよ。
268超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/09(木) 18:16:34 ID:nIYRxPhL
6時半頃にちょっとした1発ネタのものを投下しようと思います。短い予告(?)です。
269超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/09(木) 18:31:03 ID:nIYRxPhL
時間ですので投下します。

 予告!


 機動六課解散から2年、ある日の夜、フェイト・T・ハラオウンは準ロストロギア認定博物館から割れた銅鏡を盗んだ犯人を追っていた。
 その犯人はメガネをかけた男性で容姿も悪くないが何か気味の悪い雰囲気をかもし出していた。

「もう逃がしません!」

 フェイトは自身のデバイス「バルディッシュ」を前に犯人を捕らえようとする。

「やれやれ、どうしたものやら……」

 その時男が持っていた銅鏡が突然光りだした。

「な、何?」
「どうやら、あちらの方で何かあったようですね。折角なのであなたをちょっとした外史に招待しましょう!」

 すると銅鏡の光が増し、光が治まるとその場にフェイトと犯人の姿がどこにも無かった。


 フェイトは目を開ける。その時は朝だったが何かが違っていた。

「ここは……?」

 フェイトの周りは先ほどのビルだらけの町ではなく何も無い広い草原が広がっている。
 フェイトはバルディッシュに尋ねるも答えはわからないであった。フェイトが辺りを歩くと青年が一人盗賊と思われる3人組の男達に殺されそうになっていた。

「危ない!」
270超魔法重神 ◆ghfhuMYiO. :2008/10/09(木) 18:33:36 ID:nIYRxPhL
 フェイトがソニックムーブで急ぐ。そしてフェイトは間に合った。しかし間に合ったはフェイトだけではなかった。一人の女性もその盗賊に突っ込んだのだ。
 フェイトはその割って入った女性と協力し、盗賊を追っ払った。

「あの助けてくれてありがとう、ございます……」

 青年はフェイトともう一人の女性に頭を下げて感謝する。

「いいんですよ、それよりここはどこですか?」
「いや、実は俺もわからないんです」

 フェイトだけでなく青年もここがどこだがわからない。そしてフェイト達のそばにいた女性が自身の紹介した。

「私は関羽、字は雲長と申します」
「「関羽!?」」


 そこは三国志の世界とは似て非なるもの。武将が皆女性の世界だった。
 武将達の武器は自分の周辺にあるものを利用し再構築し、自身の武器「デバイス」としてそれを駆使しながら戦う戦乱の世界。
 その世界に迷い込んだフェイト、青年本郷一刀。本郷一刀は関羽とその義妹張飛に天の御使いとしてあがめられ彼女達の主君となった。
 フェイトも元の世界に戻るために一刀と協力することに…。そしてもう一人この世界に迷い込んだ青年カズマ。

「へ、やっぱケンカはこうじゃなくっちゃな!!」

 カズマは右手を武器にし、方天画戟を使う呂布と呼ばれる少女と死闘を繰り広げる。

「この世界、何者かの力で作られた世界なのかも知れない」

 フェイトが推測する事実。
 そしてフェイト達の前に広がる白装束の大軍が攻めてくる。

「私はあなた達を止めます!」
「意地があんだよ! 男のにはな!」
「俺は愛紗や鈴々や朱里、それに皆がいるこの世界を守りたい!」

 異世界の人間同士による世界防衛の戦いが始まる!



 恋姫s.TRI.ed         未定!



投下完了です。クロスオーバーは恋姫無双とスクライドです。(スクライドはカズマのみ)
一応グラヴィオンが終わったら次に作ろうかと思っている作品です。
ですが最後にあるとおりまだきちんとしておらず未定の状態です。本格的に考えるのは今書いてるのが終わってからですね。
271名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 19:59:23 ID:iFdCslxn
>>270
お前の作品本気でつまらないからもう投下しなくていいよ
272名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 20:22:22 ID:oOqdfU2s
正直なのは入れない方が良いんじゃない?
恋姫とスクライドだけでやった方が動かし易いと思うけど
まあその場合余所で連載することになるが
273ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 21:05:46 ID:lEMKVNCE
22時50分頃投下予約を。
274名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 21:15:12 ID:MwC712fu
よっしゃー! 期待待ち
275名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 21:20:34 ID:4brEwatS
クロス元別インデックスの
「女神異聞録リリカルなのは」のリンクが繋がってなかったから繋げといた
276名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 21:33:14 ID:GKlAr29K
>>275

wikiの更新報告スレは避難所にあるからそっちに書いた方がいいかも。
でもGJなんだぜ
277名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 21:39:21 ID:Wmczdho5
>>275
結構楽しみにしている作品なのでありがとう。
278名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 22:30:37 ID:EB0YR/Dj
ちきしょー 寝ようと思ってたのに〜!
明日は遅刻だーい!!
正座して待ってます。
279ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 22:51:08 ID:lEMKVNCE
 ガジェットの残骸が、そこかしこに転がっている。聖王のゆりかごは、王族
の住居だったにしては内部に飾りらしい飾りが何もなく、豪奢や華美とは言い
難い質素さがあった。
 そんなゆりかごの廊下が、ガジェットの残骸で舗装されている。
「ヴィヴィオ……どこにいるの」
 自ら築き上げた鉄屑の山を蹴飛ばしながら、高町なのはが歩いていた。ゆり
かごに突入して、何時間過ぎたのか。それとも、まだ三十分も過ぎていないの
か。フェイトと別れ、現れるガジェットを倒しては進み、蹴散らしては走り、
ひたすらにヴィヴィオのいる玉座を捜した。
 誰かのために戦うこと、思い返せば、そんなことをしたのは魔導師になりた
ての頃だけだったかも知れない。
 自分は、親友や友人とは違う。彼女たちはそれぞれが明確で明快な戦う意味
と理由を持っている。家族の存在だ。前者は義理で、後者は主従に過ぎないが
その絆の強さ、本当の家族にも劣らぬだろう。
 かつて、親友は言った、「守りたいものがある」と。友人は言った、「失い
たくないものがある」と。では、自分は? 高町なのはという人間に、それは
あるのか。なのはにだって、親兄姉はいる。だが、末娘であったなのははどち
らかといえば守られる側の存在で、兄や姉、父が武道の心得がある武道家とも
なれば尚更だった。

 なら、私は一体なんのために戦っているんだろう?

 行き着いたのは、そんな疑問だった。仲間のためか、しかし、親友や友人を
含めた仲間は自分に勝るとも劣らぬ実力者揃い、どちらかといえば共に戦う戦
友という表現が相応しい。
 答えは容易に出せなかった。けれど、様々な考えが浮かんできた。
 戦闘に快感を覚え、破壊に躊躇わず、勝利に高揚し、殺戮に慣れた。十歳に
なる前から歩んできた、戦士としての人生。感覚、感情、感性、感傷といった
ものは麻痺して久しく、二十歳を過ぎる前の女としては異常も良いところだろ
う。
「私はただ、戦いたいだけなんじゃないかって、ずっと思ってた」
 フェイトは義理の家族に加え、エリオとキャロを保護した。はやてもまた、
リインという新たな家族を作った。彼女たちはそれを守り、失わないために今
日まで戦っている。
「笑っちゃうよね、私には何も……何もなかったんだから」
 なのはは、卑屈だった。自分が戦う意味や、戦い続ける理由などを考えた彼
女は、遂にその答えを自力で見出すことが出来なかったのだ。戦いが好きだか
ら戦士をやっていると、言い切ってしまえるほどに。
 情けない事実に行き着いて以来、なのははあらゆる物への興味を低下させた。
無感情ではないが無関心となり、戦うことしか能のない戦士としての自分を、
鎮めようとした。まあ、これは無駄に終わったが。
「あの子に依存しかけてるのはわかってる。だけど、私は」
 ヴィヴィオは、なのはのことをママと呼び、本当の母親のように慕ってくれ
た。特に子供好きではなかったのに、いつしかヴィヴィオの存在はなのはの中
で大切な存在へと変化していた。
「はじめて守るものが、失いたくないものが、助けたい人が出来た」
280ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 22:51:58 ID:lEMKVNCE
 絶対に、この手で救い出す。
 なのはは、残骸で舗装された道の先にある、扉に手を掛けた。その扉もまた
大した装飾が施されていたわけではないが、見栄えは良かった。
「ヴィヴィオ……!」
 扉を開いた先は、余り広くなかった。ホールのような広大な空間が広がって
いるというよりは、長大な縦長の空間が伸びている感じだった。

 その一番奥に、ヴィヴィオはいた。

 玉座というには余りにも質素な長椅子に腰掛け、目を閉じている。
「ヴィヴィオ、ママだよ。なのはママだよ」
 呟き、語りかけながら、なのははヴィヴィオに近づいていった。その声が聞
こえたのか、ヴィヴィオもまたうっすらと目を空ける。
「――ママ?」
 消え入りそうなほど、小さな声だった。でも、その声はなのはに届いた。
「そうだよ、ヴィヴィオ。さっ、一緒に帰ろう?」



         第21話「無限の欲望」


 イノーメスカノンから発射されるエネルギー直射砲は、12人いるナンバーズ
たちの中で、もっとも高い威力を持っているとされる。単純な攻撃力なら、そ
れこそ次元航行艦を一発で撃沈させるほどだ。
 しかし、この大砲は破壊力の割りに使い勝手が悪かった。大砲というだけあ
って砲身は巨大で、身の丈ほどもある。さらにエネルギー直射砲の場合、威力
を調整したところで与える被害は常に甚大。細々した任務には向かない。徹底
的な局地戦装備なのだ。
 故にディエチは、ナンバーズの姉妹たちの中で、もっとも一対一の戦闘に向
かないとされていた。多数との戦闘であれば、これを砲火で吹き飛ばしてしま
えばいいのであるが、一対一となれば話は違う。羽虫を殺すのに銃を使うよう
なもので、強すぎるが故に使いにくい。
「けど、物は使いよう」
 爆裂式実体弾で敵の動きと視界を封じ、そこにエネルギー直射砲を叩き込む。
大廊下という左右に避けにくい場所が戦場なら、上下左右ギリギリまで砲火を
広げれば、敵は避けることも出来ずに消し飛ばされるはずだ。
 ディエチは自分がゼロと戦って勝つには、それしか方法がないと思っていた。
接近戦を得意とする剣士相手には、砲手である自分は不利すぎた。
「これが通用すれば、あたしの勝ちだった」
 自嘲めいた口調でディエチは呟き、そして……

「だから、あたしの負けなんだ」

 天を仰いだ。
281ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 22:52:55 ID:lEMKVNCE
 中空に、ゼロがいた。リコイルロッドを両手に構えたその姿をディエチが確
認できたのは、僅か一瞬。
「ツインブレイズッ!!」
 次の瞬間には、ディエチの死角に回り込んだゼロの一撃が、彼女の身体に叩
き込まれていた。抵抗する間も、防ぐ間もなかった。仮にその間があっても、
その手段すらディエチは持ち合わせていなかった。
 リコイルロッドによる双撃を受けたディエチは、衝撃で壁に叩き付けられた。
激痛に意識を失いそうになるが、何とか堪えた。ディードのツインブレイズを
コピーしていたとは、予想外だった。
「これまで……か」
 蹲るディエチの耳に、足音が響いてきた。顔を上げると、目の前にゼロが立
っていた。
「トドメでも、刺すの?」
 イノーメスカノン以外にこれといった武装を持っていないディエチは、ゼロ
に対して抵抗することなど出来ない。
 ここで自分は終わるのか? 別に、それならそれで構わない。スカリエッテ
ィの命令を聞き続けるだけの毎日にも、そろそろ疲れてきたところだ。クアッ
トロのことが少し心配だが、彼女なら自分など居なくとも平気でやっていける
だろう。自分が死んだところで、泣くような姉にも見えない。
「……スカリエッティの場所を教えて貰おう」
 ゼロは短く、しかし有無をいわせぬ口調で問いただした。ディエチは複雑な
表情でそれを見つめたが、彼女にはもう断る理由もなかった。
「端末をあげる。ドクターの位置も、あの子の位置も地図で表示されるから」
 あの子とは、ヴィヴィオのことである。そういえば、あの子は母親と会えた
のだろうか? 会えていればいいな。
 なんだかおかしかった、戦闘機人である自分が、あんな小さな子供に情を移
すだなんて。そんな人間らしい感情が、あたしにはあったのか。
「…………」
 ゼロは無言で、ディエチの差し出した端末を受け取ると、その場を去ろうと
した。
「殺さないの? あたしを」
 特別それを望んではいないが、確認せずにはいられなかった。
「お前の攻撃には戦意があっても敵意がなかった」
 あるいは負けるために戦いを挑んだという本心を、見透かしたのか。ゼロは
一言だけいうと駆け去っていった。

「――クアットロ、あれはダメだよ。敵いっこない」

 あれは少し、格好良すぎる。

282ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 22:53:44 ID:lEMKVNCE
「やあ、君がルーテシアだね?」
 その男に対して、ルーテシアが最初に抱いた感情は恐怖。だが、それは彼自
身に対してというより、見慣れぬ場所に連れてこられ、見慣れぬ人間に引き合
わされたことによるものだった。
 震える少女に対し、男は笑顔を見せていた。これから自分はどうなるのか、
何をされるのか、想像も出来ない。母が死に、悲しみに暮れる間もなくルーテ
シアはその身柄を移された。保護施設に移すという嘘偽りに騙され、気付けば
こんなところにいる。
「あなた、誰……?」
 それでもルーテシアが口を開いたのは、その場に男以外の人間がいなかった
からだろう。男はそれほど若くもなく、恐らく彼女の死んだ母親より年上であ
ろうが、年老いているというわけでもない。少女にとって、彼は「大人」に分
類されるべき存在だった。
「こんなに震えてしまって、さぞ怖い思いをしたんだろうねぇ」
 白々しい言い方であり、後にルーテシアが思い出したときも、やはり演技が
過ぎていたと思う。だが、彼は別に少女を騙すための演技をしていたわけでは
ない。あくまで、怯える少女をどうにかしようとしていただけに過ぎない。
「君は母親似だね、ルーテシア」
「お母さんを、知ってるの?」
「あぁ、知ってるさ。私は何でも知っている」
 男はルーテシアの前にかがみ込むと、そっと手を差し出した。おずおずと、
ルーテシアはその手を取ってみる。
「私は、君とお母さんを会わせることが出来る」
「嘘、そんなこと出来るわけない。だってお母さんは――」
 死んだのだから。
 事実を再認識して、幼い少女の瞳に涙が溢れてきた。
「悲しいのかい?」
 不思議そうな声を出しながら、男はふいにルーテシアの身体を抱きしめた。
「――やっ!」
 突然のことに嫌がるルーテシアだが、男は意外と強い力で彼女を抱きしめ、
頭を撫でた。
 その優しい感触に、ルーテシアの抵抗が止まる。
「泣きたいなら泣けばいい、涙は流せるに時に流すべきだ」
 言葉の意味は半分もわからなかったが、ルーテシアは言われたとおりに泣い
た、泣き叫んだ。母親を失ったのだ。たった一人の母親を。辛くないわけがな
い、悲しくないはずがない。縋り付き、泣きじゃくるルーテシアを、男は心底
不思議そうに見ていた。

 彼は、涙を流したことがなかったから。

「ルーテシア、私は君のためにお母さんを復活させてもいい」
 抱きかかえる少女の暖かさを感じながら、男は耳元で囁いた。
「本当に? 本当に、お母さんと会わせてくれるの?」
 男が見せる意外な優しさに惹かれつつも、ルーテシアは上目遣いに尋ねた。
「あぁ、ただし幾つか条件はあるけどね」
「なんでもする! だから……お願い!」
 即答する少女に薄い笑みを向けながら、男は言った。
「ルーテシアは素直だね。何、そんな難しいことじゃないさ。ただ少しの間、
君の身体を私の自由にさせてくれれば、それでいい」
 幼い少女には、それが何を意味するのか――まるで判らなかった。

283ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 22:55:05 ID:lEMKVNCE
「ドクターは、母さん以外ではじめて私に優しくしてくれた人だった」
 元々母子家庭で、感情表現がそれほど豊かではなかったルーテシアの幼少期
は、それほど恵まれてもいなかった。母親がいればいいと思ってはいたが、母
親は彼女を残して死んでしまった。
「寂しくて死にそうだった私を、あの人は抱きしめてくれた」
 ルーテシアの周囲に強い魔力の波が発生するのを、キャロは感じ取っていた。
自分とは比較にならないほど強い、これがこの子の本当の力なのか。
「だけど、スカリエッティは犯罪者で――」
 常識的な反論を試みるキャロであるが、そんな物が通用する相手ではなかっ
た。
「どうだっていい。私にはドクターしかいないし、ドクター以外はいらない!
 母さんが生き返らなくても、あの人だけいれば……」
 遠からず死んでしまうゼストと、その彼に忠誠を誓っているアギト。両者は
やがて、ルーテシアの前から姿を消すだろう。そうすれば、自分には何も残っ
ていない。残らないのだ。
 スカリエッティが次元犯罪者だと言うことは判っている。自分がその方棒を
担いでいること、それを母親が快く思うわけがないことも、理解はしている。
「けど、ドクターがいないと、私は一人になる。一人は、一人はもう嫌だ」
 知らず知らずの間に、ルーテシアはスカリエッティに依存してしまっていた
のだろうか。
 それとも、やはり彼女は彼のことを……
「私はドクターのお願いを叶えるだけ。そうすれば、あの人は私と一緒にいて
くれる。私のことを褒めてくれる。私のことを抱きしめてくれる!」
 地雷王が、地雷震と呼ばれる振動波を発射する。本来は振動を利用して岩山
や岩盤などを崩す技だが、空間その物に振動を伝達させることも可能なのだ。
「そんなの、そんなの間違ってるよ!」
 振動範囲から脱出しながら、キャロは叫んだ。
「あなたはスカリエッティのことが好きなんでしょ? なら、どうして止めて
あげないの!?」
 赤の他人、それこそ初めて会った人間に指摘された、確信。ルーテシアは、
思わず動揺して数歩後ろに下がってしまう。
「違う、そんなんじゃない。私は、私とドクターは」
 認めたくなかった。認めれば、何かが壊れてしまうような気がした。
 ルーテシアはキャロを睨み付け、叫んだ。
「全力で倒す。倒して、私はドクターの所へ帰る!」


 一方、ギンガとスバルの戦闘も激しいぶつかり合いとなっていた。ウイング
ロードが激しく交差し、身体と身体による激突が何度も繰り返されている。共
に使うのは格闘技法シューティングアーツ。使う武器はリボルバーナックル。
唯一の違いは、姉が左腕に、妹が右腕に装備していることぐらいか。
「ウォォォォォォォォォォオッ!」
 獣のような雄叫びのような声と共に、スバルが真正面から突っ込んでくる。
「馬鹿の一つ覚えが!」
 ギンガはシェルバリアを張り巡らすが、スバルはこれに迷わず突撃した。硬
い防御が揺るがされ、ギンガは軽く舌打ちをする。
284ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 22:55:58 ID:lEMKVNCE
 途方もないパワーだ。ひたすら正面から殴りかかってくる、単調で単純すぎ
る攻撃。だが、それだけに繰り出される一撃全てが全力全開。
 まさに、殴り飛ばしに来たというわけである。
「操られてようが、正気だろうが、そんなのあたしには関係ない! 殴り飛ば
して、目を覚まさせるだけだ!」
 明快なまでの、スバルの発想。分からず屋をぶん殴って、無理矢理にも分か
らせる。下手な説得や感情論など一切が不要、必要ない。
「馬鹿馬鹿しい、私はあなたにだけは負けない。負けるわけがない!」
 叫び声には、一種の憎悪めいた物が混じっていた。放出される魔力が、いっ
そう強くなっていく。
「そうよ、負けるはずがないわ。私があの地獄で汚らわしいことをされ続けて
いたときに、のうのうと生きていた奴なんかに」
 震えながら顔を覆う姉の姿に、スバルは困惑した。
「ギン姉、やっぱりスカリエッティに何か――」
「違う! あなたは何も知らない、知らなすぎるの!」
 かつて、ギンガとスバルが戦闘機人としての生を受けた頃の話である。タイ
プゼロ・ファーストと、タイプゼロ・セカンド。ファーストと言うだけあって、
ギンガが生まれたのはスバルよりも早い時期だった。
 やっと完成した戦闘機人に対し、研究者たちは常に非人道的だった。体中を
弄くり廻し、嫌がる少女を殴り、いたぶり、研究と称しては弄び続けた。ギン
ガの記憶の奥底に眠る、一番古い記憶。消せたくても消せない、地獄の日々。
「汚らわしい幾本もの手に撫で回されても、抵抗も出来なきゃ、死ぬことも出
来なかった。私は私の意思で動くことを、何一つ許されてなかった……」
 ギンガは以前、スカリエッティの部下であるナンバーズを『幸せそうだ』と
言ったことがある。戦闘機人でありながら、笑い合うことの出来る彼女らと、
そうした環境を作り出すことの出来たスカリエッティに、ギンガは過去の境遇
と重ね合わせ、羨望と嫉妬、僅かな憧れを覚えてしまったのだ。
 崩壊しかけたギンガの心、悔しさと怨念、憎悪のみで自我を保っていた彼女
の下に、ある日一人の少女が現れた。スバルである。
 二体目の戦闘機人、紹介された少女に対して、ギンガは心底同情した。これ
から彼女も、この地獄よりも酷い日々を味わうことになるのだから。

「それがなに? 対照反応実験? 私とは真逆に何もしないで育成を見守る?
 ふざけんじゃないわよっ!!」

 研究者たちは、スバルをまるで普通の子供のように育てた。ギンガを徹底的
に貪る一方で、正反対に自然的な育て方をスバルには試みたのだ。
 ギンガの地獄は、助け出されるその日まで続いた。スバルはギンガを慕って
いたが、ギンガはスバルを、妹のことを本当は――
「私はね、あなたのことが嫌いなのよ。昔から、初めて会ったときから大嫌い
だったのよっ!」
 衝撃的な告白と共に魔力光を撃ち出すギンガに対し、スバルはそれを全力で
受け止めた。
「スバル!」
 ティアナが叫ぶも、スバルは倒れなかった。ここで倒れれば、自分は姉を救
うことが、もう一生できなくなる。
「例え、ギン姉が私のことを大嫌いで、死ぬほど憎いんだとしても……」
 痛みを堪えながら、スバルは叫ぶ。
「あたしはそれを、全部受け止めてみせる!!!」

285ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 22:56:43 ID:lEMKVNCE
 地上での戦闘が、想いと想いのぶつかり合いに変わりつつある頃、ゼロはゆ
りかご内を駆けていた。
「そうだ、地図が手に入った。転送はロックされているから、直接渡す」
 ディエチの持っていた端末を利用し、ゼロはセインに連絡を取っていた。端
末にはゆりかご内の詳細な地図がインプットされており、スカリエッティの位
置からヴィヴィオのいる場所まで、全ての情報があった。
『判った、すぐそっちに行くから!』
 セインとの通信を終えると、ゼロは続けてディードとの回線を開こうとした。
だが、おかしい、端末の反応はあるのに、繋がらない。
 まさか、ディードの身に何かが――
「ッ!?」
 前方から、煌めく何かが飛び込んできた。ゼットセイバーを引き抜き、その
回転する物体を弾き返す。
 硬い感触を憶えながら、ゼロは自分の弾き返した物を見た。
「ブーメラン、か?」
 鋭い刃を持つ二本のブーメラン。誰かが、あれを投擲してきたのか。
 この状況で、このような武器を使う相手は一人しか居ない。
「出てこい!」
 ゼットセイバーを構えながら、ゼロは前方に向かって叫んだ。すると、何か
を引きずるような音とともに人影が現れる。
「いい反応だ」
 低いが、少女の物と判る声。淡い桃色の髪をした少女が、ゼロの正面に姿を
見せる。
「――?」
 ゼロは、少女が左手に何かを掴み引きずっていることに気付いた。乱雑、乱
暴に扱っているが、それは紛れもなく物などではない、人だ。
「これは愚かにもドクタースカリエッティに逆らい、我々に刃を向けてきた裏
切り者だ」
 視線に気付いたのか、少女はわざわざ引きずっていた物体を解説する。彼女
にとって、これは壊れて何の価値もなくなった物に過ぎない。
「くれてやる」
 言って、少女はディードを放り投げた。ゼロは抱えるように受け止めるが、
ディードは見るも無惨なほどに損傷しており、瞳からは光りが消え失せている。
よほど壮絶な闘いをしたのか、機能停止状態にあるようだった。
「姉妹を、倒したのか」
 セインの例から、ナンバーズの姉妹はそれ相応の繋がりや交流があるものだ
と思っていた。12人もいれば個別に不仲などはあるだろうが、それだって一般
的な姉妹と大差はないはずだと考えていたが……
「姉妹だろうと、ドクターに歯向かう者は敵だ」
 およそ感情の乏しい表情だった。今までのナンバーズで一番機械的で、淡々
とした声は、響きが良い。
「名前を聞いておこうか」
 ゼットセイバーを収納し、新たにリコイルロッドを構えるゼロ。戦う以外の
選択を、彼は持ち合わせていない。
 そして、それは相手も同じ事だった。
「ナンバーズ7番、セッテ」
 片手が自由となり、両手を広げてブーメランブレードを持つ。
「空の殲滅者――!」

286ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 22:57:38 ID:lEMKVNCE
 セッテは、ナンバーズの姉妹の中でもっとも感情に乏しい。
 機械的、人形的、様々な称され方をする彼女だが、感情表現が苦手なわけで
はない。表現の仕方を、知らないのだ。
「お前は少し、機械的すぎる。笑ってみたらどうだ?」
 敬愛する姉であるトーレがこのように言おうと、知らないものは知らない。
自分はそのように作られてはいないのだから。
 これを不便と感じたことは一度もない。セインやウェンディのように笑いた
いとも思わないし、戦士としては常に冷静でいられる自分の性格のほうが望ま
しいものだとさえ考えていた。
「IS、スローターアームズ」
 ブーメランブレードを構え、セッテが飛び込んでくる。空の殲滅者というだ
けあって、彼女は高い空戦能力と中規模な空間戦闘を行うことができる。先天
固有技能によって遠隔操作される無数の刃で敵の動きを封じ込め、自ら振り下
ろす斬撃で敵を仕留める。
 これがセッテの戦闘スタイルである。彼女は、ナンバーズ最強の戦闘機人で
あるトーレが教育係だったということもあって、後期完成型としては無類の戦
闘巧者だ。
「ツインブレイズ!」
 セッテの高速戦闘に対し、ゼロは再びディードのISを使った。彼自身の動き
は決して遅くはないし、素早さと機敏さを持っていたが、セッテの空戦に対応
するにはこれしかなかった。

 リコイルロッドとブーメランブレードが激突し、激しい打ち合いが繰り広げ
られる。
 ゼロとセッテは戦うのが初めてなら、会うのも初めてだ。にもかかわらず、
セッテは繰り出される攻撃の一つ一つを見切り、鋭い反撃を行ってくる。
 ツインブレイズによる瞬間加速にも、セッテは確実に対応しているのだ。
「データ蓄積、という奴か」
 セインの話によると、ナンバーズは姉妹間におけるデータ共有システムを持
っているという。姉妹の一人が行った戦闘データなどを蓄積、解析し、姉妹全
員で共有する。これによって実際に自分が相対したわけではない敵とも、計算
された最適な戦闘動作を持って戦うことができる。
「その通りだ」
 投げ放ったブーメランブレードを回収しながら、セッテは口を開く。
「私はお前がこれまで倒してきた6人のナンバーズ、そのデータを継承してい
る」
 セッテは何故スカリエッティが単機による一対一の戦闘に拘っていたか、そ
の理由を推測によって把握していた。
「一人お前と戦うごとに、我々は強くなっていく」
 相性が極端に悪かったディエチや、戦闘力が皆無だったセインはともかく、
ゼロの倒してきたナンバーズはいずれも次に現れる機体の方が強かった。それ
は彼女らが敗れた姉妹からデータを入手していたからであり、ゼロは常に研究
され続けていたのだ。
287ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 22:58:21 ID:lEMKVNCE
「幾人のナンバーズを倒そうと、最終的にお前は負ける」
 それが今なのだと言いたげに、セッテは鋭い眼光を向けてくる。極端な言い
方をすれば今のセッテにはナンバーズ6人分のデータがある。システムによって
再編され、最適化されたデータ。極端な話をすれば、データの数だけならセッ
テはゼロが最初に戦ったオットーの6倍は有しているのだ。
「そんなことのために、わざわざ単機での戦闘を行ってきたのか」
 戦略的には正しいように思えるが、ゼロは複雑な表情を浮かべていた。スカ
リエッティとしては自分が作った戦闘機人の能力をフルに活用しようとしたの
だろうが、これは大半のナンバーズが負けることを前提にしているのではない
か。
「そんなことではない、お前を倒すために必要だとドクターは判断された」
 必要だから実行する。切り捨てるどころか、はじめから勝ち目のない戦いを
スカリエッティは行わせていたのだ。まるでランナーへとバトンを渡し続ける
リレーのように。
「馬鹿げている。奴がそこまで忠誠に値する男とは、とても思えんが」
「お前にドクターの何が分かる。何も知らない異世界人の分際で」
「確かに、知りたくもないのは事実だ」
 静かに睨みあう二人。セッテはゼロと互角の戦闘を繰り広げており、スカリ
エッティの戦略は成功したかに見える。
「さぁ、お喋りは終わりだ……死ね」
 自分にしては口数が多かったと、さして喋ったわけでもないのにセッテは自
己を戒めた。
 投げ放たれるブーメランブレード、二刀の刃がゼロに迫るも、彼はリコイル
ロッドでこれを防ぐ。打撃、斬撃に対する防御は堅い。しかし、セッテはさら
に二刀のブーメランブレードを手に持つと、これもまたゼロに向かって投げ放
つ。
「スローターアームズ!」
 計四本のブーメランブレード、舞い踊る剣のように刃を煌めかせ、ゼロに襲
いかかる。
「チッ!」
 さすがに4本の武器を全て捌くのは困難だった。次々に迫る刃を弾いては避
け、弾いては避け、ツインブレイズを使おうにも、ゼロの周囲の空間は制圧さ
れた等しかった。不用意に瞬間加速を行えば、そこを叩き潰されるかもしれな
い。
「ならば、前に出る」
 ゼロは刃を弾き飛ばすと、一気にセッテとの距離を詰めにかかった。背後か
ら追いかけるようにブーメランブレードも軌道を変えるが、そんなものに構っ
てはいられない。
「正面突破……何の問題もない」
 ブーメランブレードを持たぬセッテは丸腰も同然であったが、彼女はまるで
動じなかった。そして、右手をゼロに突き出す。
「消えろ」
 エネルギー砲が発射された。セッテは遠距離攻撃も行えたのだ。
 正面に砲火、後背に4本のブーメランブレード、ゼロは前後を挟撃される形と
なった。

 避けることは、出来ない。
288ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 22:59:48 ID:lEMKVNCE
 砲火と刃が、直撃した。
 追撃と迎撃を同時に行う、セッテの編み出した技だった。
「まだ死んでいない」
 爆発によって生じた煙から、ブーメランブレードが飛び出してくる。ゼロは
恐らく、ギリギリまで刃を引きつけ、セッテにぶつけるつもりだったのだろう。
「――甘い」
 だが、ブーメランブレードはセッテに当たる直前で動きを止めた。これが単
純に敵を追尾するだけの武器なら当たっていたかもしれないが、これはセッテ
が直接動かしているのだ。常に冷静な彼女は、眼前に刃が現れようと動作を誤
ることなどなかった。
「敵の位置を予測、敵は上にいる!」
 二刀のブーメランブレードを、中空へと投げ放った。あの状況下でゼロにで
きるのは、ツインブレイズで瞬間移動するぐらいである。そこを捉えれば、自
分の勝ちだ。勝ちの、はずだ。
「上に、いない?」
 計算が、狂った。データから導き出される正確な戦闘パターンに、間違いが
生じた。ゼロの姿は中空になど、ありはしなかった。
 上にいないのだとすれば、まさか――!

「そこだ!」

 ゼロが『床の下』から飛び出してきた。咄嗟に手元に残った二刀のブーメラ
ンブレードを構えるセッテだが、全ての動作が間に合ったわけではない。ゼッ
トセイバーが斬り上げられ、セッテの胸元を軽く薙いだ。
「……ディープダイバー」
 傷を抑えながら、セッテは呟いた。セインの持つ先天固有技能だが、彼女の
は完全なる突然変異、つまりは偶然から発生した能力であり、コピーは出来な
いと判断していた。その判断を、誤ったというわけか。
「浅かったか」
 今の一撃で確実に仕留めるつもりだったが、ゼロは敵の動きが良いと感じて
いた。冷静に判断し、対処する。戦士としては理想的な姿だろう。データだけ
の強さというわけでもないようだ。
「もう、油断はしない」
 セッテはブーメランブレードを構え直し、ゼロと距離を取る。ディープダイ
バーが使えるのなら、それもデータとして記憶すれば良いだけの話だ。
 対するゼロはゼットセイバーを片手に全身に光を纏い始める。
「オレは先に進む。それを邪魔するなら、叩き斬る!」
 チャージ斬りの激烈なる一撃がセッテに打ち込まれた。セッテは二刀の刃で
これを受け止めるが、あまりの威力に武器が持たなかった。
「指針距離――それなら」
 迷いがないというのも、場合によっては考えようだ。追い詰められたセッテ
は、超近距離からの砲撃でゼロを吹き飛ばそうとした。他に方法がなかったと
はいえ、これではセッテ自身もダメージを受けることになる。
 自滅もいとわぬ砲火に対し、ゼロはシールドブーメランを展開することでダ
メージを最小限に抑えた。むしろ、防がれた分だけセッテの受けた衝撃の方が
強かった。
 生まれた隙を、ゼロは見逃さなかった。片手に持ったセイバーの斬撃を、セ
ッテに叩き込む。
「――ッ」
 ほとんど反射的に、セッテは中空へと飛んだ。そして、先ほど投げ放ち、浮
遊したままだったブレードブーメランを、スローターアームズで引き寄せる。
「これで、切り裂く!」
 セッテは二刀の刃を、重ね合わせた。ギンガの左腕を両断した一撃を、ゼロ
にも使おうというのか。
289ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 23:01:21 ID:lEMKVNCE
 ゼロの身体が、再び輝き始める。必殺のチャージ斬りか、だが、必殺技で弾
き飛ばそうなど、無駄な考えだ。激突の瞬間にスローターアームズで軌道を変
えてしまえば、ゼロに迎撃は出来なくなる。

「ブレードブーメラン!」

 セッテが重ね合わさったブレードブーメランを、ゼロに向かって投げ放った。

 それに対し、ゼロはゼットセイバーではなく何故か円盤状の盾を構えた。ま
さか、防御するつもりなのか? 無駄だ、スローターアームズを使って込めた
エネルギーは先ほどの砲撃以上、今のブレードブーメランなら盾ごとゼロを切
り裂ける。

「シールドブーメラン!」

 ゼロが、光り輝くシールドシールドを、セッテに向かって投げ放った。

「な、に!?」
 驚愕に、目を見開いた。常に冷静であるはずのセッテが、僅かながらにも動
揺してしまったのだ。
 円盤状の盾と思っていたゼロの装備、まさか、攻撃にも使えるというのか。

 セッテのブレードブーメランと、ゼロのシールドブーメランが激突した。

 激突音が、辺りに鳴り響く。威力は互角、双方の技量もまた。唯一違うのは、
「武器の、破壊力」
 ブレードブーメランは、シールドブーメランとのぶつかり合いに打ち勝てな
かった。砕け散った二刀の刃、その破片を弾き飛ばしながら、シールドブーメ
ランはセッテに直撃した。
「ぐがっ――!?」
 腹が抉り、削られるような感触が体中を支配した。激痛が全身に回り、セッ
テは浮遊を維持することが出来なくなった。
 セッテは地面へと落下した。しかし、衝突したわけではない。痛みにかき消
されそうな自我を何とか保ち、さしたる衝撃もなく着地することが出来た。
「私が、負ける?」
 傷口を押さえるセッテだが、血が止まらない。かなり深く抉られたようだ。
「ダメだ、私は負けない。負けられない」
 そんな状況にかかわらず、セッテはブーメランブレードを取り出すと、それ
を支えに起ち上がろうとした。執念と言うべきその姿に、ゼロが彼には珍しく
唖然としていた。
「死ぬ気か?」
 かつてチンクにも言ったような台詞を、セッテにも投げかける。チンクは自
ら望んでの自爆攻撃だったが、セッテのこれは明らかに自滅である。
「私は、ここで終わる。けれど、まだトーレがいる」
 敬愛する姉、ナンバーズ最強の戦士である女性の名を、セッテは呟いた。
「あの人のために私は、一つでも多くのデータを収集しなくてはいけない」
 動けるはずがない、動けるはずがないのに、ブーメランブレードを振り上げ
る。痛ましい、痛々しい姿だった。
290ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 23:02:25 ID:lEMKVNCE
「お前は、はじめからそのつもりで……」
 セッテは、割り切っていたというのか? ゼロを倒すための駒として、自分
が潰えるということを。
 だとすれば、こいつは本当の戦士だ。
「呆れるほどの武骨だな」
 褒めているのか、それと単に呆れているのか、ゼロはゼットセイバーを真っ
直ぐと構えた。殺す気で掛からなければ、こいつは倒れない。
 ゼロの決断に、いつも無表情であるはずのセッテが、少しだけ満足そうな表
情をした。

「それでいい……私は、最後までお前と」

 言いかけて、セッテの意識はそのまま暗い闇へと沈んだ。


 ゼロは、戦闘機人という存在に物悲しさを感じ始めていた。彼女たちはレプ
リロイドよりも、人間に近い存在だ。それなのに、あるいはレプリロイドより
も自由がないのではないか?
 しかし、こんな考えは目の前に倒れるセッテに対して侮辱も良いところだろ
う。彼女は戦士として、矜恃を持ってゼロと戦ったのだから。
「ゼロー!」
 見計らったわけではないのだろうが、ゼロとセッテの戦いが終わった直後、
セインが現れた。よほど急いできたのか、息を切らしてる。
「早かったな」
「そりゃすっ飛んで、というか飛び込んできたから」
 ディープダイバーを駆使してきたということだろうか。確かに障害物を潜っ
て通り抜ければ、すぐにでも到着できるのだろうが。
「……セッテを倒したの?」
 ゼロの目の前に出来た血溜まりを見ながら、セッテの表情にあった笑みが薄
れていく。
「あぁ、倒した」
 セッテも、そして隅に倒れるディードもまだ生きていたが、放置しておくと
死ぬだろう。
 だが、ゼロには助ける術はない。彼は、進まなくてはいけないのだから。
「何でだよ、どうして、姉妹同士で戦わなきゃいけないんだ」
 ディードが誰にやられたのか、セインは容易に想像が付いた。彼女は目に涙
を溜めながら、悔しそうに呟いた。セッテは、機械的なんじゃなくて馬鹿正直
なんだ。ドクターがいくら生みの親だからって、ここまでする必要なんてある
もんか。

「良くやったぞ、セッテ。後は私に任せろ」

 声は、ゼロとセインの前方から響き渡ってきた。力強いその声は、セインの
よく知る長姉のもの。
291ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 23:03:58 ID:lEMKVNCE
「トーレ姉……」
 非難めいた口調と目で、セインは現れたトーレを見た。この人は、セッテが
負けるのを黙ってみていたというのか。
「セインか、裏切り者が良く戻って来れたな」
「その話は、多分トーレ姉としても意味ないよ。ドクターに絶対の忠誠を誓っ
てる、あなたとは」
 ナンバーズ最強、戦闘機人の最高傑作、それがトーレだ。確かな実力と、他
者を圧倒する威圧感。自他共に認める最強戦士である彼女は、その強さを忠誠
の証としてスカリエッティに捧げている。
「気をつけて、ゼロ。あの人は私たちの中で一番強い」
 恐らく、他の姉妹が束になっても、あしらうとはいかないまでも、トーレな
ら倒すことが出来るだろう。
 それほどの強さが、実際にあるのだから。
「……お前の能力は、他の人間も運べるのか?」
 ゼロが突然、奇妙な質問をセッテにしてきた。
「え? いきなりなにさ」
「いいから答えてくれ、どうなんだ」
「2,3人ぐらいまでなら、運べなくもないけど」
 さすがにそれ以上は無理だろう。抱えたり背負ったりしても、それぐらいが
限界だ。
「なら、ギリギリ大丈夫だな」
「だから、一体なんの話を――」
「そこに倒れている奴と、隅にいる奴。それから下の階層にも一人、そいつら
を連れて、お前は脱出しろ」
 衝撃的な一言を、ゼロは言ってのけた。
「に、逃げろって、そんな!」
「時間がない。放置してると、そいつらは死ぬぞ」
 ゼロの言うとおりである。階下のディエチはともかく、セッテとディードは
非常に危険な状態だった。
 それに、トーレが現れた状況下で、セインが何の役にも立たないのは、本人
が一番良く分かっていることだった。
「でも、あの子は良いの?」
 ヴィヴィオのことだ。
「ここに乗り込んだのは、オレたちだけじゃない。何とかなるだろう」
 希望的観測に過ぎないが、確率は高い。
 迷ってる暇は、ない。
「……わかった、私は逃げるよ」
 素早く跳んで、セッテとディードを両脇に抱え込んだ。トーレは邪魔する気
はないらしく、黙って見つめている。
 この二人と、後は下にいるディエチを連れて行けばいい。
 ディープダイバーで潜ろうとするセインだが、ふとその動きを止め、ゼロへ
と向き直った。
「ゼロ、死なないでね。絶対また会おうね。何か、私、アンタのことが結構気
に入ったからさ」
 笑いかけると、セインはそのまま潜って階下へと降りていった。

292ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 23:05:22 ID:lEMKVNCE
「意外と、甘い奴だな。ディードはまだしも、セッテやディエチまで助けると
は」
 トーレが静かに、口を開いた。
「あそこで助けなければ、あいつは後悔した。それだけだ」
 セイバーを煌めかせながら、ゼロが呟く。
「フッ、素直じゃない奴だ。しかし、戦士に必要なのは実力だからな」
 溢れ出るエネルギーの波、ナンバーズ最強を自負するだけあって、トーレの
波動めいた力がゼロの身体にも伝わってくる。
「お前と戦っている時間は、あまりない。すぐに終わらせる」
「出来るかな? ナンバーズ7体分のデータを持つ私に」
 身体にエネルギーブレードが、翼のように発生していく。構えを取り、視線
が真っ直ぐゼロへと向く。
「ナンバーズ3番、トーレ――いざ、参る!」
 ゼロとトーレは、真正面からぶつかり合った。ゼットセイバーとインパルス
ブレードが火花を散らし、視界を焦がす。
 斬撃と打撃の応酬は、やはり手数の多い方が上か。ゼロはセイバーでは不利
だと悟り、すぐに武装をリコイルロッドと交換した。
「ツインブレイズ!」
 そして、瞬間移動を使い、トーレの死角からの攻撃を試みる。

「遅いなぁっ!」

 しかし、トーレは繰り出された打撃を左腕で受け止めた。ツインブレイズに
よる攻撃が、完全に見切られている。
「これが、リーダーの実力か」
 距離を取りながら、すかさずゼロはバスターをチャージする。
「だが、オレは前に進むだけだ!」
 チャージショットが放たれた。狙いは正確、弾速も素早い。
 これなら、当たる――
「ぬるい!!!」
 突き出された拳の一撃が、バスターショットを打ち消した。思わず目を見開
くゼロに対し、トーレは一気に距離を詰めた。
「隙だらけだぞっ」
 鞭のようにしなやかで、剣のように硬い蹴りが飛んできた。避けられなかっ
たゼロは、ゼットセイバーの刀身でこれを受けきった。
「お前がドクターの元へいくことはない。お前は、ここで敗れるのだから!」
 体勢を立て直す間を与えないトーレの連撃に、不覚にもゼロは圧倒された。
ゼロの動きが、完全に読まれている。セッテが命がけで集めたデータが、決め
手となったようだ。
「これで、トドメだ!」
 右手のインパルスブレードが輝き、ゼロへと叩き込まれた。強烈な一撃、当
たればゼロとて倒れただろう。
 そう、当たりさえすれば……

「させないっ!」

 ゼロとトーレの間を、光りが遮った。雷光のような光りが、瞬時に現れ、輝
く大剣がトーレの一撃を受け止めた。
293ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 23:06:48 ID:lEMKVNCE
「フェイト・テスタロッサ!?」
 思わぬ敵の登場に、トーレが慌てて後退した。フェイトはゼロを守るように
立ちながら、ザンバーを構える。
「遅くなってごめん、ゼロ」
「やはり、来ていたのか」
「私だけじゃなくて、なのはも一緒だよ。もっとも、なのははヴィヴィオの所
へ向かったけど」
 ゼロが体勢を立て直すのを見ると、フェイトが魔力を解放させた。彼女もま
た魔力制御を解除されており、フルの実力を出せる。以前戦ったときよりも強
い魔力に、ゼロは密かに感嘆を憶えた。
「ゼロ、先に行って。ここは私が戦う」
 トーレを見据えながら、フェイトが言った。
「だが、しかし」
「スカリエッティとは、あなたが会うべきだと思う。だってこれはもう」
 あなたの戦いなのだから。
 強い瞳で、フェイトはゼロを見つめた。
「わかった、そうさせて貰う」
 フェイトだって、スカリエッティとは因縁がある。しかし、それを放棄して
も尚、彼女はゼロを行かせたかった。
 ゼロはフェイトに背を向け、駆け出そうとする。そして、まさに駆け出す直
前だった。

「フェイト、ありがとう」

 ゼロが初めて、フェイトの名を呼んだ。

「えっ――」
 そうえいば、自分はゼロに名前を呼ばれたことがなかった。フェイトという、
名前を。

「行かせはしない……ライドインパルス!」
 スカリエッティの元へ向かおうとする、ゼロに、トーレが仕掛けた。
「させないっ、ソニックブーム!」
 高速移動を行う両者が、中空で激しく衝突する。突貫力ならトーレに分があ
るが、フェイトにも強力な一撃がある。フェイトはとりあえず、全力で敵の突
破を阻止すればいいのであって、トーレよりも有利だった。
「プロジェクトFが、いいだろう、過去の遺産などここで潰えろ!」
 トーレのエネルギーの波動と、
「どんな生まれ方だろうと、私は私だ。否定はしないし、誰にもさせない!」
 フェイトの魔力の波動が、空間を揺らした。フェイトはザンバーを構え、一
気に斬り掛かった!

294ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 23:08:08 ID:lEMKVNCE
 ひたすら、前に向かって走った。
 ここまで来れば、道は一直線に続くのみだ。ガジェットによる妨害もなく、
真っ直ぐスカリエッティの元に辿り着ける。
「オレは勝つ、そして、この馬鹿げた戦いを終わらせる」
 扉が見えてきた。やけに大きい扉だが、この先にある広めの空間にスカリエ
ッティと、部下のナンバーズがいる。もう戦闘用のナンバーズは残っていない
はずで、驚異として考える必要はない。
 敵は、スカリエッティただ一人。

「テァッ――!」

 ゼットセイバーの斬撃が、大広間へと続く扉を斬り裂いた。

「おや? 遅かったね、ゼロ」
 紛れもなく、スカリエッティの声だった。表情に張り付いている笑みも、何
もかもが以前見たときのそれと違わない。間違いなく、本人だ。
 だが、唯一の違いがあった。

「ウォーミングアップは、とっくに終わったよ」
 スカリエッティの右手が、男の首を掴み上げていた。黒衣を纏った男の姿は、
ゼロにも覚えがある。

「ほら、こんな風に」    
 ゼストの身体を、スカリエッティが乱暴に放り投げた。アギトが悲鳴を上げ
て飛んでいく。ゼロも勿論、駆け寄った。
 仰向けに叩き付けられた身体は、ボロボロだった。砕かれ、へし折られた槍
と大差なく、ゼストの身体は傷ついている。
「しっかりしろ、大丈夫か?」
 戦歴の長さからか、ゼロはゼストの傷に嫌なものを感じていた。致命傷が、
余りにも多すぎる。
「旦那! 旦那! 目を開けてくれよ!」
 アギトの必死の叫びが届いたのか、ゼストは薄れる意識を、半ば無理矢理覚
醒させた。
「ゼロが、来たのか」
 もう、眼は見えていないのだろう。光りなき瞳が、ゼロとアギトの姿を探し
ている。
「いるよ、今、ここに来たよ!」
 叫び声も、どれほど聞こえているのか。ゼストは雨後買うスコとの出来ない
身体に顔を顰めながら、声を絞り出す。
「スカリエッティは、強い。奴を殺すつもりが、返り討ちにされた」
 全身全霊を込めた一撃を破られたとき、勝負は付いていた。ゼストはスカリ
エッティにいいように嬲られ、死に絶えようとしていた。
「俺の頼めた義理ではないが……」
 まさか、親友と同じように死ぬことになるとは思っても見なかった。だが、
頼める相手は他におらず、頼まないわけにもいかなかった。
「アギトと、ルーテシアを」
 言葉に、アギトが顔色を変えた。
「ダメだよ旦那! 死んじゃ嫌だ!」
 ダメだろうと嫌だろうと、ゼストは死ぬ。アギトが認められないだけで、ゼ
ストには前から分かり切っていたことだった。
 ゼロが、ゼストの前にしゃがみ込んだ。
「他に、言い残すことはないか?」
 冷酷だったかも知れない。しかし、一人の騎士が、戦士が息絶えようとして
いるのだ。同じ戦士として、聞いておくべきだろう。
「……そうだな、出来れば最後に俺は、俺はお前ともう一度」
 そのお前が誰だったのか、ゼロにはわからなかった。答えを言う前に、ゼス
トの口の動きが止まった。閉じられた瞼は、二度と開くことがなかった。
295ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 23:11:21 ID:lEMKVNCE
 ゼスト・グランガイツ、かつて管理局の騎士として勇名を轟かせ、人造魔導
師として復活し、ゼロとも戦ったことのある戦士が、死んだ。

「どうして、どうしてだよ旦那! なんでアタシを残して死んじまうんだよ!」
 縋り付き、泣くじゃくるアギト。しかし、泣こうが叫こうが、ゼストは復活
しないのだ。二度の生に、三度目はないのだから。
「実に愚かな男だったよ。残り僅かな命と、絞りかすの魔力を総動員して、私
に傷一つ付けられないのだから」
 耳障りな声が、ゼロに向かって響いてきた。
 ゼロは起ち上がると、その声を発する主に向き直る。
「最初の一撃、あれは確かにフルドライブだった。君を一度は敗北させた技だ
が、それを持ってしても勝てないのだから、騎士というのも落ちぶれてしまえ
ば存外大したことは」
「――黙れ」
 怒りに満ちた声だった。ゼロが明確な怒気を、スカリエッティに見せた。
「スカリエッティ、お前はオレが倒す」
 ゼットセイバーを構える姿には、強烈な圧倒感があった。事実、ゼストの死
に錯乱していたアギトが、衝撃波とも言うべき威圧感に正気を取り戻したほど
だ。
「私を、倒す?」
 スカリエッティが、突然高笑いをはじめた。耳障りな、下卑た笑いである。
彼は口で右手の手袋を加えると、一気に抜きはなった。
「それはちょっと、無理だと思うがねぇ!?」
 高笑いと共に、スカリエッティの身体が光りに包まれる。眩い光りに、目が
眩みそうになるほどだ。

 そして、光りが消えたその先には、

「スカリエッティの腕が……!」
 震えた声で、アギトが呟いた。スカリエッティの右腕が、先ほどまで人間の
腕をしていたはずなのに、光りと共に別のものとなってしまった。
 肩口から生えているそれは、怪物の腕というのがまさに相応しい表現だった。
これが、ゼストの一撃を打ち破ったスカリエッティの真の力なのか。

「我が名はジェイル・スカリエッティ、無限の欲望――アンリミデッドザイア!」

                                つづく
296ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/10/09(木) 23:13:37 ID:lEMKVNCE
第21話です。
メチャクチャ嬉しいことがあったにもかかわらず、筆が遅れて
申し訳ありませんでした。
土曜までに間に合わせるべく、早速次に取りかかります。

セインの話を何故かしますが、重苦しい話だとああいう明るい娘は
輝いて見えるからいいですね。

それでは、感想等ありましたら、よろしくお願いします。
297名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 23:21:04 ID:kG+WLdH8
>>296
GJでした! 
いつの間にかセインがサブヒロイン昇格?・・・冗談はさて置き。
ついにゼロにとってのラスボス、スカリエッティの登場。
フェイトは原作より格段に強くなったトーレ、なのははヴィヴィオ。
特に性格が原作に比べ大幅に改変されてる分なのはの戦いがある意味一番楽しみです。

つか真面目にゼロはデータ蓄積程度で勝てる相手じゃない話。
何十年もイレギュラーと闘ってきた彼の経験値は半端ではないし。
エックスの方なんざ前世(?)のロックマンの時代も含めて何百体のロボットを相手にしてきたか。
ワイリーの長年に渡り作リ続けた多種多様なボス達も全員敗北しついぞ勝てなかったというのに
生まれて2,30年のスカじゃ相手になるまいて。
・・・・・・ウロス失礼。では次回の激闘、お待ちしてます!
298名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 23:27:32 ID:eDr5Sq0W
GJです!
ついにラスボスとの戦闘、アギトとのユニゾンや第二形態はあるのか?
楽しみにしています
299名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 23:34:56 ID:EB0YR/Dj
スカリエッティ・・・
それはゼロ相手には死亡フラグだぜ。
300名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 23:47:44 ID:UJ6vpwKO
いよいよ終盤!
話の濃さが尋常じゃねー。
こればっかり読んでるけど、規制が酷くて感想もなかなか書きづらい。
301名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 23:53:44 ID:JvBevtkc
GJ、このペースで筆が遅れてると言えるのは流石としか言いようがない

>>297
いや、原作準拠でいうとゼロはそんなとんでもなく強くはない
覚醒してない旧ボディじゃライドアーマー相手には勝てなかったし
中ボス相手に動力炉破損させられたりでやられる時はやられる
機能的な面で戦えば戦うほど強くなるのはオリジナルボディの能力だし
302代理:2008/10/10(金) 00:54:12 ID:YZlrlSmp
これからレイジングレン氏の代理投下を始めます。
303天元突破レイジングレン 代理:2008/10/10(金) 00:59:24 ID:YZlrlSmp
 
 
   天元突破レイジングレン  第二話 「夜を裂く」



 夜が蹴散らされた。
 圧倒的なまでに膨大な光が迸る。街灯の明かりを呑み、街を染め上げるのは桃色の輝き。
 それは暗雲を一掃し、空を穿ち、更なる高みへと昇り、地上と天を繋ぐ柱と化す。
 神々しくもある威容の直下。柱がこぼすきらめきの粒を受け高町なのはが立っていた。
 際限なく溢れ、翔け上がった激流の中、強い意思を持ったままの彼女の頭上から感情の起伏に乏しい声が呼びかける

『……この魔力量、どちらもとてつもない資質ですね』

 なのはに語りかける赤い石の名をレイジングハートといった。
 そこには彼女――声から女性と判断――の平坦でありながらも、計測されて弾き出された数値の凄まじさへの感嘆がこもっている。
 つぶやきに我を取り戻したなのはは、天を衝く柱と掲げた赤い石に交互に視線を向ける。
 いかに優れた資質を持っていようと知識に欠ける以上、レイジングハートに頼る他ない。

「ここここれっ、なんか出ちゃったけどっ!?」
『まず落ち着いてください。落ち着いたならイメージするのです。あなたの意志を象徴する魔法の杖と、あなたを守る衣服の姿を』
「ぇえ!? 魔法って言われても……うぅ、えーとぉ」

 瞳を閉じ、魔法とやらを手にした姿を、そしてそうなるに至った思いの源泉を汲み取る。
 幼い心に芽吹いた願いは少女の思いを補強し、より強固で確固としたイメージへ昇華させる。
 カミナ・スクライアは言った。逃げない、退かない、隠れない、と。なのはだって同じだ。目を逸らしたり耳を塞いだり捨て去ったりで

きないことが、意地があるのだ。
 レイジングハートは言った。カミナを助けたいのかと。それはあなた次第だと。
 ――それなら、やるしかないよ!
 心の中の守るという意思を純白の衣装へ。
 その意思を貫き通せる力を白と金の杖へ。
 天地を衝く柱の内部、衣服が桃色の欠片となって散り、舞い踊る裸身。
 健康的な肌の上で光の糸が編まれ、思い浮かべたイメージに忠実に構築していく。
 手首までを覆うジャケットをインナーの上にまとい、腰を包むスカートがはためく。
 白を基調とした衣装が翻る。浮かび上がったレイジングハートのコアが空間に現れた金色のパーツと桃色のフレームとを接続し、スライ

ドした長柄が手に収まり、魔法の杖を形成した。
 場を支配していた光輝が闇夜に溶け、高町なのはが舞い降りた。
 わずかな時間に一変した装いを確認して彼女は、

「ふぇ、え? な、何これぇ」 

 杖を脇に挟んでスカートの裾を摘まみ、あたふたと顔色を次々に切り替え出した。
 だがそれも新たなる力、魔力を明確に感知するようになると冷静に変化を見定められるようになる。
 裂け目や埃が目立った衣服は防護術式を組み込まれた白きバリアジャケット――なのはが通う学校の制服を意識した――に一新。
 デバイス起動に応じて覚醒したリンカーコアは大気に含まれる魔力を吸収して蓄積、体中に魔力を供給し漲らせる。
 これらが魔導師なる存在への変身を如実に語っている。
304天元突破レイジングレン 代理:2008/10/10(金) 01:00:46 ID:YZlrlSmp
 ふと、落ち着いた彼女が持つレイジングハートのコアが点滅した。

『カミナ・スクライアの反応を確認。まだ間に合うはずです』

 静かに息づく魔力の鼓動に勇んでいた体が強張る。
 心に根付いた恐怖が先へ行かせまいとなのはをその場に縫いつけ、ールタールに浸ったような抵抗感を強いる。
 怪物との遭遇は忘れがたく、おぞましい記憶を深く、濃く刻み込んでいた――が、

「そっか。じゃあ手伝ってくれるかな、レイジングハート?」
『あなたに意思があるのならばいくらでも』

 抑揚はないけれども頼もしい返答が勇気をくれる。
 ならば迷いも恐れるはずがなかった。
 ならば迷いも恐れるはずがなかった。

「行こう! 待っててカミナさん!」

 高町なのはは駆け出した。
 その胸に覚悟を持って、願いを叶えて彼を助けに行くために。



 海鳴市には海を臨める道路が通っている。朝と夕、登校と放課後の時間帯には付近の学校に通う生徒をちらほらと見かけるここも、月が

昇る深夜では人の姿は見当たらない。
 道路を出た先ではどこか見る者を誘う魔性を持つ海が広がっていた。
 恐怖の対象となる海も、月と波打つ水面の潮騒、潮の香りが揃えば風情もできる。
 折角成り立った風情も今宵に限っては静寂を引き裂く騒乱のせいで台無しだった。
 闇と隣り合わせの人の領域に蹂躙の化身は唐突に現れた。
 本来は車が通行するはずの道路を端から端を占領して騒音を撒き散らす異形の怪物。
 黒の巨躯から生やした幾多の触手を展開する様は、野生生物の威嚇の仕草に似ている。
 通り過ぎるだけで潮騒が、潮の香りが、夜風が、場に存在したものが蹴散らし踏み躙られていく。

「――――――――!」

 咆哮が轟く。有り余る害意が形を持って、無数の武器として具現した。
 触手だ。ひたすら鋭く、刺し貫くための形状に進化したそれは、槍と呼ぶに相応しい。

「――――――――!」

 さらなる咆哮を合図に一斉に触手が放たれた。
 鋭角を軌跡に織り交ぜた触手群が狙うのは、怪物に尻を向けて先を走るフェレット。
 上、左、右、後の四方より包囲する四撃は前方へのさらなる加速によって取り逃す。
 先日のある一幕の再現。
 姿形こそ変われど魔力は同質。これはあの相手との再戦だ。故に怪物はすでに次の手を打っている。
 フェレットの両脇と頭上から先回りした触手が、逃れ出た先から穂先で指して待ち構えていた。

「甘ぇんだよ!」

 獰猛な表情が怪物が記憶領域の、ある男の笑みと重なった時、怪物の策が悟られていたかのようにあっさりと跳躍で躱された。
 触手が殺到する後方へと、だ。
 黒の槍衾へのダイブ。人間が抜けるには狭すぎる間隙もフェレットの体躯ならば賭けるに足る価値を秘めた活路だ。
 瞬く紅蓮が集結、クリーム色の毛皮を照らし、円錐形の障壁を生み出す。
 突貫。触手の間を抉じ開け、常駐されていた瞬間加速術式の魔法陣が展開、起動――そして突き抜ける。
 鑢をかけられるように削られ、蝕まれる盾をフェレットは無視。すでに互いを隔てるものはない。
 想定外の事態。
 怪物の未熟な思考回路が連続してエラーを叩き出し、次の手を遅らせる、コンマ秒未満の思考停止。
 エラーを半ばに処理し、見失った獣を探す指令を下された真紅の瞳に、突如として出現した何かが被さった
 風圧に押し付けられた異物が纏わりつき、視覚情報が遮断される。
 それに伴い黒い巨躯が左右に揺れ、みるみる速度を落とし、重なる邪魔の処理の末に怪物は彼の接近を許していた。
305天元突破レイジングレン 代理:2008/10/10(金) 01:02:48 ID:YZlrlSmp
 その瞬間、下方よりきらめく一刃が怪物に迫っていた。



 貫通。
 虚空より出でた刀が怪物を穿った。
 魔法術式を構築、水に沈んだかのごとく埋まった刃に魔力を流し込む。
 魔力伝導・貯蓄性に長ける合金製の刀身に注がれた魔力を糧に表面、怪物の体内にて奇跡が現出した。
 閃光が怪物を内部より食い散らし、魔法で怪物の体内を探る。
 内臓、筋肉、神経、おおよそ生物が備える重要器官を持たない、エネルギー体の怪物に刺し貫いた程度の物理的干渉は効果が薄い。
 たとえ幾千もの欠片に弾けようと結集し復元してみせる。
 狙うは核。構成エネルギーを無尽蔵に放出する永久機関。
 接触を経て得た感覚を頼りに魔導知覚を走らせて気配を捉え、核の術式に割り込んで封印に移行。
 ……いけるかっ!?
 確かな手応えを得た時、突如として術式が弾かれた。
 ついでに触手がカミナを目掛けて振るわれ、かき乱された気流が跳び退いた鼻先を撫でる。
 引き抜いた刀と怪物に被せたマントを消し、無作為な打撃にくぐりながら思案する。
 知性のないエネルギー体がダミーを用意して欺いたとは考えにくい。

「っ!? ―――ちぃっ!」

 いまだ癒えぬ傷の疼きが回避運動を阻害する。
 だが止まれない。一撃でもいいのを貰えばカミナの命は刈り取られる。

「俺の体のくせに、俺の邪魔してんじゃあねえよ!」

 脳を直撃する訴えの悉くを黙殺し、研ぎ澄ました直感が、触手の死角を瞬時に嗅ぎ取った。
 全身の筋肉をバネにした跳躍。姿勢を低く沈めた突撃は彼我の隔たりを埋め、接近を果たす。
 すぐ傍まで来ているにも関わらず、まだ迎撃をしない辺り、この乱撃はカミナに気づいての攻性行動ではなく反射的な防衛反応によるも

のといったところか。
 接敵させた愚鈍さは助かるが二度目の機会も逃しては笑えない。
 たとえいくつもの機会に恵まれても、それに甘えるのは主義に反する。
 だから、

「これで、どうだあ!」

 干渉術式を再構築。魔力を伝達、発動し、叩き込む。
 先の接触で捉えた核を目指す干渉の糸が怪物の核に触れ――危機を報せるシグナルが鳴り響き、防衛本能を揺さぶる。
 このまま押し切れ、と思う。
 そして、危険だ、とも思う。
 迷いを断じて選んだのは前者。歯を剥いて闘志を顔に刻み、術式を介した仮想感覚が一つの抵抗を捉えた。
 鼓動だ。不規則に鳴り、繰り返すごとに押し寄せる奔流が波紋を立てる。
 一つ、術式を引き千切られ、魔法が構造を維持できずに霧散。
 二つ、行き場を失った紅蓮が飲み込まれ、障壁を形成する魔力ごと消し飛んだ。
 三つ、巨大なうねりが物理的な荒々しい風へと変換され、矛も盾も剥ぎ取られて丸裸も同然のカミナを打ち据える。
 四つ、鼻先から尻を凄まじいショックが一直線に突き抜け、ぐるりと視界が回る。
 煽られ、浮かされ、舞い上がり、目に映る景色が高速で流れていく。
 受身に失敗。硬い地べたに叩きつけられ、弾んでゴミ屑のように無様に転がり、道路脇の標識に腹からぶつかった。
 肺、喉、口と通過した息が出る。

「くそったれが……」

 具合は思わしくない。
 傷は開かなくとも、頭蓋をシェイクされるような不快感や吐き気が止まらなくて、立つのが精一杯。
 現況は悪化の一途を辿る。決着は急ぐべきだ。
 なのに魔力は底を尽きかけ、怪物の核を封印するには不十分。
 比して怪物は、カミナの魔法を粉砕しても余るエネルギーをまとい、余剰分のエネルギーで所々を隆起させて肥え太っている。
 二回にわたる機会を無駄にさせた、純然たる出力の違い。
 力任せに魔法干渉を無効化したパワーは底なし。ベストコンディションであっても打倒は至難の技だ。
306天元突破レイジングレン 代理:2008/10/10(金) 01:05:02 ID:YZlrlSmp
 悪態をつきつつ顔を上げる。随分と離されたはずが倍以上の質量に成長した風采の重圧がここまで届いてのしかかってくる。
 とうに勝ち目はカミナのもとを去った。
 だったら尻尾を巻くか? 

「……ねえ、ぞ」

 否、断じて否である。そのような無様が認められるものか。
 一端退いて再戦も却下だ。テメエで始めたケンカでこれ以上、無関係の者を巻き込んでは世話がない。
 あの幼い少女の決意を前にして、見苦しい真似をしていていいのか。
 ビビッていたくせに助けるなんて言ってのけた少女に向かって、胸を張れる所見せてみろカミナ・スクライア。
 テメエのケツも拭えねえで何が男だ。おまえ、俺を誰だと思ってやがる。
 臍の下に踏ん張りを入れて標識に体重を預けながら立ち上がった。

「――気合が足りねえぞ、カミナァ!」

 リンカーコアが魔力素を吸収する。
 カミナが生成した魔力を察知し、怪物の瞳に不気味な灯りがついた。
 上等だ。血と唾の混合物を吐き捨て、上体を反らして前脚を組んだ。
 数百倍以上に質量が激増した相手と対等であるような口振りで宣戦する。

「やいやいやい! 耳ぃかっぽじってよく聞けやがれ、そこのぶくぶくとみっともねぇナリのてめえ!」

 残存魔力の一切をつぎ込んで魔法を用意していく。

「一度喧嘩をおっ始めたからにゃあ、またも待ても無粋の極み!
 次はねえ前もねえ考えねえ、一回こっきり全力大勝負!
 どっちが勝つかぁいい加減白黒はっきりつけようじゃねえか!」

 カミナの戦意と怪物の害意が混濁し、隔絶した決闘場を敷いた。
 張り詰めた空気は絶好の機が訪れるまで続き――はしなかった。
 カミナが駆ける。
 待った先にチャンスがあったとしても、長引いて不利益を被るのは彼一人。
 第一、機を窺っているだけで得た好機に如何な意味がある。
 壁があったら殴って壊し、道がなければこの手で作る――それこそが、

「グレン団のやり方だぁぁぁ!!」

 怪物が輪郭を崩して一点に束ねて瘤を作り、カミナの突撃を迎え撃つ準備をとる。
 奴がやるのはおそらく絶対的質量を利用した潰殺。カミナを絶殺するにはオーバーキルな手段。
 しくじれば即死。凌いだだけではいずれ詰む。
 面白い。喧嘩のケリをつけるにはこれ以上にない勝負だ。
 魔力と魔法術式を待機させ、疾走が最高速に迫っていく半途、怪物の瘤が爆ぜた。
 解放された黒色が正面から頭上を塞いていき、触激しようとする寸前、待機していた魔法にスイッチが入った。

「それで、俺をやれると思ってんのかよっっっ!」

 一喝と共に現れた抜き身の刀が物体加速魔法で投擲され、黒波に食い込んだ。
 一刺しでは治まらない驀進をカミナは不敵な態度で迎え入れる。
 投げ放った得物を目で追う彼の足元で展開し続ける魔法陣が次弾、術者本人を載せる。
 直後、波濤が魔法陣と一帯を一呑みにし、触れるものを例外なく打ち砕いた。
 その裏側の一部分、穏やかな面に不自然な起伏が生じ、頂点から一気に裂けた。
 飛沫を割って銀閃が切り開いた道をカミナが通過。
 先陣を切った刀に追いつき、四肢で掴んで重みを得て軌跡を下方、怪物が佇む位置に修正する。
 滑空する刀に跨り、カミナは蓄えた魔力を吸い上げ、己の全力全開を怪物にぶちかます。
 単純明快な彼の思考に怪物の、生物でいう眉間に相当する箇所に瘤が割り込んだ。
 波濤を起こしたものよりかはこぶりな外見は弾ける時を待ち構えているふうに見える。
 この速度と距離では回避は不可能。
 いくら働かせようと解決策を出しなどしない理性を放り捨て、手繰り寄せたのは本能。
307天元突破レイジングレン 代理:2008/10/10(金) 01:05:41 ID:YZlrlSmp
 前へ、と。

「おぉ――!」

 雄たけびを伴った突きの一撃が核に向かってぶち込まれ、周りに立った漣がカミナへ伸びる。
 完全包囲の状況にカミナはもう目もくれず、“三度目の正直”を引き寄せるべく魔法を始動した。
 絡めとろうとした黒の動きが重力によって落ち、道路を蹂躙した波が末端から蒸発し、怪物の輪郭が歪んで空気と混ざった。
 本体から離れるほどその異変は大きいものとなる。
 あるだけで干渉を防ぐ量のエネルギーは、不安定な制御下での拡大拡散で外部からの影響に脆い。
 分解していく体を再構成しようとする怪物の意に反し、制御が乱れて崩されたエネルギーは容易には治まらない。
 そもそも怪物は“アレ”の使い方を間違えている。
 その一点のみを記憶にとどめていたカミナにとって、怪物が広範囲攻撃に及び支配が緩んだこの時こそが最大最後の好機だった。
 霞んでいく黒が集束、七つの蛇に似た形状が並ぶ。
 鎌首をもたげるそれと悶える怪物を見て、無駄だ、とカミナは思った。
 保有するエネルギーにいくら開きがあろうと、埋められないもう一つの要素があるのだと。
 ――――テメエには、気合いが足りねえ!
 魔法陣が妨害を阻み、踊りかかる蛇達を砕き、怪物という核の外殻が剥がれ、熱板に置いた氷塊のごとく溶けていった。
 核を保護していた抵抗感がしなだれ、巨大だった威容が縮んだ怪物から目を離して左ににある瘤に移した。
 縮む本体とは反対に緩やかに成長し、破裂するか否かの均衡を危うく保っている。
 手応えから測り、爆発のリミットまでに封印が済むのを確認。
 一気にいく。
 鎧をめくられていく核を見下ろす位置で顔を上げ、ふとカミナは世界が傾くのを感じた。
 唐突に覚えた、重力から解放されたかのような浮遊感。
 スローモーションで再生される世界。
 封印をされるはずの怪物が、徐々に元の輪郭が安定しない姿を取り戻しつつあった。
 何が起こった? 滅びに対抗する余力はなかった怪物が……。
 得物は怪物に刺さったまま、帯びた魔力を術式に注いで持続させているが長くはもつまい。
 注視していると刀の位置が大分低くなっており、地面に対する角度の狭まりにも気づく。
 合点がいった。
 体勢を保てなくなった怪物が転び、傾く刀にしがみついていられなかったカミナはあっけなく投げ出されたのだ。
 つまりは、“三度目の正直”を、カミナの手は取りこぼした。
 認識の焦点が罅割れた瘤に移る。
 緩慢な変化の中で膜が裂け、それを皮切りに亀裂が走り泥と見紛う力の一端が箍がはずれて暴発し広がった。
 障壁を張ろうにも魔力の巡りが悪く、体はどこも言うことを聞きやしない。
 掴める機会は余さず取り損ね、ついに気合や根性で通せる範囲を超えたらしい。

「まったくうまくいかねえもんだな」

 だというのにカミナは笑っていた。自暴自棄でも、狂ったのでも、現実逃避でもなく、ちょっとした不満を含めて。
308天元突破レイジングレン 代理:2008/10/10(金) 01:06:21 ID:YZlrlSmp
 恐怖も萎縮も諦観も抱いていない。むしろ、逆の境地に着いたと言っていい振る舞いだった。
 なぜならば――

『Protection』

 障壁が目の前で展開。カミナを喰らうはずだった檻が弾かれる。
 柔らかな暖かみに包まれてカミナは束の間、怪物を忘れて彼女を見上げた。
 勝利の女神とやらには、まだ見捨てられてはいなかったようだ。



「はぁ、……は、ギリギリセーフ、だったかな?」

 上下する肩を落ち着かせ、なのははカミナ・スクライアを手にし、ほっと一安心した。
 弱々しく儚げに脈打つ鼓動は、初めて彼を抱いた時みたいに、確かにここにある生命に触れられる。
 初めての出会いと同様にとても無事とは言えない有様でも、こうして生きてくれている。
 なのはの安堵を嗅ぎ取ったのか、鼻先をひくつかせてカミナがこちらを仰向いた。

「ったく、誰がケンカに割り込んできたかと思えば、またおまえかよ」

 こちらの助けを快く思っていないような口振りに、言い返してやろうとして詰まった。
 声が喉元に粘りついてつかえる。張り切っておいて、いざ対面したら頭の中が真っ白になり、「あー」とか「うー」だのばかりが出てく

る。
 まごつくなのはの顔を、彼はもの問いたげに覗き込んできた。
 口調に似合わぬ愛らしさを彼の仕草に見つけ、くすりと思わず頬が緩んだ。
 勇ましい文句を切っていた様は鮮明に記憶しているが、このカミナでは小動物的な可愛さの方が印象強い。
 張りっぱなしの気がほどけた弾みに吐息を追加。それに横手からの火花が合わさった。
 火花の元、なのは達を包む球状半透明の壁に押し付けられた怪物がいた。

「ひゃっ」

 いきなり視界に入り込んだおぞましい醜状に怯えを引きずり出される。
 心の隅に置かれていた怪物の存在が、萎んでいた警戒心を呼び起こした。
 赤い双眸でなのはを熱線めいた視線で舐め、怪物が障壁の上で跳ねて大きく距離をとった。
 闇を泳ぐ異形は無数に生えた脚で地を噛み、長い助走を足して疾走。
 なのはの数十倍はあろうかという質量が高速で迫り、
 
「びびるこたぁねえよ」
『恐れる必要はありません』

 男性と女性――カミナとレイジングハートの声が被った。
 その発言を体現するかのように障壁が輝きを増し、外敵を受け止めた。
 ベクトルの全てを叩き込んだ怪物は防御を突破できずにたわみ、ベクトルを曲げられ球面を滑るようにすっ飛ぶ。
 黒の欠片が火花に混じって散り、続いて遠くで物が砕ける音が届く。
 車が空を舞ったかのような場面は衝撃的すぎて筆舌に尽くしがたい。
 ましてやそれらを起こした要因に絡んでいたとなれば呆けるのも当然。
 一瞬の出来事を見届けたなのはは自分に向けられた目と合った。
 カミナだ。彼を持ち上げ、そして無意識にあんぐりと開いていた口に気づく。
 ……私、恥ずかしい顔してた!?
 赤面。
 幼くともなのはは乙女だ。みっともない部分を見られるのは遠慮したい。

「だから言ったろうが、そんだけ魔力あるんだから平気だってよ。にして派手に行きやがったなあの野郎――あん?」

 なのはの脇から怪物の行方を眺めていたらしいカミナ。
 さっきまで危なかったというのにもう呑気な態度をとれる切り替えの早さは感心するべきか見習うべきか、などと思考が関係ない方に迷

走し空回りする。
 ともかく隠したいのに、カミナとレイジングハートで埋まって使えない両手。
309天元突破レイジングレン 代理:2008/10/10(金) 01:08:01 ID:YZlrlSmp
 我慢できなくて顔を逸らすも、不審人物さながらななのはへの直視は強まっていく。

「や、そんなとこ……じろじろ見ないで」
「ねぼてんじゃねえって――の!」

 強調された一音と、額に刺さる痛み。
 そしてカミナの華麗なムーンサルトと、チカチカと点滅する赤い石。
 やや涙目で額を押さえるなのはにレイジングハートは淡々と告げた。

『まずは落ち着きましょう。一応緊急事態なので迅速に』
「う、うん。わかった」

 ひとまずアドバイスに服して深呼吸。
 これで一日の酸素摂取量を更新したかもと益体もないことを考えてクールダウン。
 無駄な時間の消費を悔いつつカミナを持ち上げて目の高さを合わせた。

「いよう、また会ったな」
「うん。また怪我してるんだね」
「まぁな。――やめさせるつもりならやめとけ」

 不退転の意地がこもった語気。なのはがいくら説得したところで心変わりは期待できない。
 無理矢理連れ帰ったとしても彼はきっと強引に振り切って戦いにいく。
 傷つくとわかりきった行為を、高町なのはは傍観し許容するなどできない。

「私は……止めないよ」

 カミナを助けるために考えて思いついたのは、結局“高町なのは”の意思を伝えるくらい。
 ちゃんと自分の気持ちをぶつければいい。アリサとすずかの時だってうまくいった。

「あなたを追いかけてきてからそういうこと全然思ってなかった。私は……“高町なのはのケンカ”をしにきたんだ」

 一端口にしたそれは胸に抱えた不安や悩みごと滑るように吐き出される。
 余計な重しがこぼれる都度心が、難しく悩む必要がなくなっていく。
 
「カミナさんを助けるって決めちゃったの」

 怪物とカミナの因縁に検討がつかなくても、覆せない意地がなのはにもある。
 誰かが手の届かない場所で傷つくのが嫌だから、一人じゃ辛くて傷ついて倒れそうなことも、二人なら支え合っていけるから、なのはは

この“ケンカ”に挑む。

「だから私も付き合わせてくれないかな? このケンカに勝ちたいんだ、私」

 真摯な願いの丈を滲ませて発せられる想い。これだけを打ち明けるのに体中の力を使い果たした気がする。
 脱力する体で構え、どんな返事でも来いと気を引き締めて待った。
 なのはの気負う気持ちと裏腹に、カミナは怪我をしているとは思えない軽快なステップでなのはの肩を踏み、後ろに跳んでいった。
 それを追って振り返った先、正面からやや左で仁王立ちする彼の隣が、誘うように空いている。
 用意されたスペースの意味を読んで隣に並び、前を向くカミナに倣った。

「チビッコ、ビビってんのはもうしまいかい?」

 からかい混じりの口調を聞き、汗ばんだ手を硬く握り締める。
 こめかみをつたう滴を拭い、喉から空気を取り入れる。

「まだちょっと怖いかも。でも大丈夫、行けるよ。あとチビッコじゃなくて、なのは。高町なのはだよカミナさん」
310天元突破レイジングレン 代理:2008/10/10(金) 01:09:38 ID:YZlrlSmp
「なのは、か。いい度胸だ……気に入ったぜ、おまえにグレン団メンバーの称号をやろう」
「グレン、団?」

 首を傾げるなのはにカミナは頷き、

「決まってんだろ。――――漢の魂の在り処だよ」
「……私、女の子なんですけど?」
「んなこたぁ関係ねえ。でかくて硬ぇ立派なモンつけてんだから細けえコト気にすんな」

 抗議を一蹴され、カミナが指差すレイジングハートを正眼に似た型で構えた。
 曰く、大きくて硬くて立派な存在を改めて確認。

「えっとね、これ私が想像してたのとちょっと違うみ」
『デフォルトです』

 淡々としたノリの即答が割り込んできた。
 赤いコアを点滅させるレイジングハートにわかってると適当に相槌を打つ。
 レイジングハートの先端は金のフレームで構成されている。それはコアとの接続箇所を挟む二方向に分かたれ、コアを囲うように捩れ、

交わった部分に取り付いたパーツ。

「なんでドリルなの!? それに、こっちにもなんかついてるしっ!」

 開いた上下に振る彼女の左手には、イメージになかった装着物、指貫の手甲がはまっている。手と下腕の半分を護る構造。金属板に覆わ

れていない手の甲の部分には、螺旋が巻く円盤が付いており、見た目とは逆に羽のように軽い。
 おいそれと納得できる変更点ではないのに、レイジングハートの返答は一様。

『ですからデフォルトです』
「おいおい、せっかくの大層なドリルだぜ。そー邪険にすんなよ。ていうかよ」

 やや俯くなのはを構わず、レイジングハートを半目で睨みつけ、カミナは拳を作り、応じるように点滅する赤玉に向かって突き出した。

「俺らがやっても、うんともすんともしなかったくせに起動してるたぁ、一体どんな了見だってんだ」
『起動するも何も、あなた方では私を使いこなせないでしょう』
「あぁん? ピカピカする玉っころの分際で生意――」

 前方、夜闇すら塗り潰し汚辱する黒霞が爆音と共に現れ、風を連れて伝播する。
 暗黒に染まる空間に漂う一対の赤に、なのは達の注目が集まった。

「ご登場ってか。空気の読めねえ野郎だな」
「余裕そうにしてる場合じゃないと思うんだけどな」
『まったくですね』

 三者三様の反応を余所に、拡散する霞がまとまり鏃のように前部を研ぎ澄ました。
 なのはの強固な障壁を穿つ一点突破の特攻形態。

「き、来ちゃうよ、カミナさん」
「慌てんななのは! 先手なんざとらせてやれ。その一発凌いで野郎にぶちかますっ、簡単だろ? なぁに、おまえならできるさ」

 こみいった部分を端折った説明は単純でわかりやすぎ、かえってなのはを混乱させて二の足を踏ませた。
 しかし、後のなのはを信頼し期待するような発言は困惑を毟り取ってくれた。

「最初の一発はこっちに任せとけ。おまえはありったけの気合を魔力をこめりゃいい」
311天元突破レイジングレン 代理:2008/10/10(金) 01:10:16 ID:YZlrlSmp
 傷つきながらも勇ましい彼の背から感じるのはなのはへの信頼。なぜこんなにも信じてくれてるのか、不思議でならなかったが、もうな

んだってよかった。
 カミナの期待に報いるために今は、全力全開の限りを尽くそう!
 そして空気の質が変わり、黒の鏃が飛ぶ。
 初速でなのはの反応を凌駕する亜音速の矢は弧の軌跡を駆け、彼女を粉々に打ち砕くが必定。
 されど彼女に付き添う杖、レイジングハートの自動防御がその定めを覆す。

『Protection』

 尻から衝撃波を引く砲弾が盾に直撃する。
 爆ぜる黒と桃の粒子、攻める怪物と守るレイジングハート。
 危ういバランスの上に成った攻守の拮抗を、崩しにかかったのは怪物。弾体から霧を噴き出し、先端から後方へと巻きつけるようにくる

まって回る。
 ――それは螺旋、それはドリル。
 唸りをあげて怪物が食らいつく。
 障壁を削っていく螺旋が間近に迫りながらもなのはは微動だにしない。
 自分を信じ、凌ぐと言ったカミナを、自分も信じないで何を信じる。
 ついに怪物が障壁の防御を上回り、境界を超える。
 お、という彼の叫びに合わせて腰を落とした彼女の足元で紅蓮の紋様が輝き、天に向けて打ち上げられた。
 直後、真下の空間が穿たれかき回され、地がシャーベットのように削り取られ、塵煙が巻き上がる。
 その破壊力に肝を冷やしたなのはを待っていたのは上昇の停止と、次に続く落下に対する萎縮。
 空を飛ぶよう設計されていない人間にとって空中とは未知の領域だ。本能から来る反応を自制するなどできやしない。
 硬直した肉と骨は重力に誘われて地に叩きつけられ、惨状を生む。

「――さあ、その不定形野郎に刻んでやりな、おまえのドリルでよっっっ!」

 その凄惨な未来をカミナの檄が打ち崩す。
 成功すると疑わぬ断言が芯まで染み渡り、萎縮から復帰した十指がレイジングハートを掴む。

「もうっ、こっちも気も知らないで気楽に言わないでよ」

 不満げな語気の割りに引き攣っていた表情は柔らかい。
312天元突破レイジングレン 代理:2008/10/10(金) 01:11:23 ID:YZlrlSmp
 口元に笑みを浮かべ、逆手に持ち直したレイジングハートを下げた。

「いくよレイジングハート、お願いっ!」
《Sealing Mode. Set up. stand by ready.》

 モード移行。桃色の三枚翼が広がりはばたいた。
 重力に誘われる中、撒き上がる塵煙の隙間に怪物を発見、眼下でのそいつにドリルを突きつける。
 落ちる。
 怪物の瞳がこちらを見つけて触手を放つが、恐れるに足らず。
 腹の底より湧く気合が喉を震わせ、胸を、心を、魂に火をつける。燃え上がった焔は芯から端々に飛び火し、杖に添えた左手に移った時

、現実の事象――緑光にシフトした。
 それは手甲についた円盤の内から外へ螺旋状に満たしていき、同調してレイジングハートのドリルが回転する。
 このおかしな現象を、なのは不思議と落ち着いて受け入れていた。
 ただ体の深層に繋がるどこかから漲る、熱いうねりに身を任せて、加速を繰り返し、

「たああああああああああああああああああああああああ!!!」

 突き刺した。
 着地と同時にレイジングハートから無数の魔力の帯が伸び周囲を流れ、ドリルに巻き取られるように怪物を締め上げる。
 回転が高速化。怪物を貪るように唸りをあげる。
 鋼をも穿つ進撃が外殻をもぎとり、心奥に潜む核を暴いた。
 だが、弱点に迫られて尚怪物は悠然としていた。真一文字に口を閉めて杖を刺し込むなのはの意気を浴び、潰れた体躯をあげて口のよう

な器官を開く。

「――――――」

 咆哮。
 再三にわたる生還を所以とした、楽観すら感じる響きをもって螺旋の侵略に抗う。
 青い宝石から放たれる波動が咆哮に乗り、痛みを彫りつけ、苦しみを根付かせていく。
 耐え難い苦痛にのけぞり、レイジングハートのシャフトを握る手が滑る。
 不可視の圧がドリルを押し留め、怪物を踏みしめるブーツが外殻を擦り、膝が折れた。
 それでも挫けぬと張った肩に、温かい重みが加わった。

「血も涙も流さねえ奴に気迫で負けてんじゃねぇよ」

 耳元をくすぐるような激励。彼が後に言うことは聞かずとも理解した。
 首肯し、思いっきり息を吸って肺を満たし、

「叫び返せえぇぇえっっっ!」

 雄叫び。なのはとカミナの気合を織り込んだ紅桃の二重螺旋が現出し、円盤の輝きが最高潮に達する。
 溢れ出した緑の流体をまとい、より巨大に、より鋭利に変形するドリル。回転速度は緩む気配もなく上がり続け、怪物の体内に小規模な

竜巻を発生させる。
 迸り極光に蹴散らされるのは怪物だけに収まらず、天と地と海上の闇をも暴き出した。
 咆哮にあったはずの楽観はいつしか焦燥に変わっていた。
 抵抗も紙切れのごとく引き裂き、過速するドリルがその奥の核を捉える。

《sealing.》

 怪物に浮かび上がるナンバーは終息の刻印。
313天元突破レイジングレン 代理二号:2008/10/10(金) 01:14:04 ID:iTXizAT9
 魂すら燃焼しつくす勢いでさらにレイジングハートを捻じ込む。暴れる怪物を押さえつけ、根こそぎ剥がれる外殻がドリルの螺旋運動に

導かれ先端に集束、逆流する。
 宝石を束縛し封じ込める帯が収縮、内部で膨張する光が臨界を超えて闇を染めていき、

「封ッ――――!」
「――――印ッ!」

 黒が、桃が、緑が弾けた。
 きらめきの残滓が無数の粒子として周囲に散り、幻想的な風景を広げた。
 次第に薄まっていくそれに言葉もなく見蕩れていると、光と一緒に足場も消え、怪物がいた空白に落ちてたたらを踏む。
 まだ余韻に浸っているのか中空を眺めるなのはの足元に青い宝石が転がった。
 街灯の明かりを反射するだけとなったその石を、肩から飛び降りたカミナが拾う。

「よーやく一つか。手間かけさせやがて」

 ぼやき、それをレイジングハートに向かって投げつけた。
 わ、と驚くなのはの目の前で、宝石がコアに吸い込まれていく。

《receipt number XXI.》

 静寂が戻った世界に響くレイジングハートの報告を聞いてようやくこの騒動の終わりを実感する。
 気負ってきたものから解放され、どっと寄ってくる疲れに腰が落ち、バリアジャケットがほどけて元の衣服に置換された。
 破けていた部分が補修されていたのは如何なる原理だろうか。家に帰ってからの言い訳を考えてなかっただけにありがたかったので、魔

法だからと納得しておいた。
 ふと膝、胸、肩と移ってきたカミナが、ぽん、と労うようになのはの頭を撫でる。
 微笑みかけ、指を寄せてハイタッチ。
 石の状態――待機モードに移行したレイジングハートをポケットに入れ、カミナと揃って星空を見上げた。
 あんなにどたばたしたのに変わらず空では星々が瞬いている。
 思えば今日は慌しい一日でもうくたくただった。けどその甲斐もあってやり遂げたという充足感が心地よい。騒動はこうして治まり、怪

物が去って、カミナも自分も無事でいる。
 百点満点とまではいかなくてもうまくいった方ではないか。彼も満足してくれただろうか。
 溜まった疲労が招く眠気を堪えながら、なのははカミナに訊ねた。
 ……カミナさん。私、ちゃんとできたかな?
314天元突破レイジングレン 代理二号:2008/10/10(金) 01:17:06 ID:iTXizAT9
以上です。
一ヶ月以上かかった自分の遅筆ぶりに絶望。
そしてそれだけかかってまだ原作の二話も終わってないと言う現実。
……先が長いぜ。

======
代理投下終了しました。
ヴァァァの黒い奴しぶとかったですね。
その分濃密な戦闘描写を味わわせていただき、大変おいしゅうございました!
アニキの言う事がいちいちかっこよくていいですね、話としても新鮮です。
これから先にもますます期待させていただきます!
315名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 10:03:59 ID:593WCcq7
>>296
後5話で終わってしまうなんて……
ゼロ以外、六課のほとんどは原作と同じ相手と戦ってるのに
こんなにも熱くなるのは何故だ

にしてもルーテシア可愛いよ、ルーテシア
316名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 11:05:38 ID:5WciRP/I
>>315
熱いか?
ゼロを入れる以外ほとんど原作と変わらんし、だからって何か大きな変化を感じさせるわけでもないし。
駄作とまでは言わない、微妙すぎる作品。
317名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 11:23:47 ID:/yl/aTp4
>>316
冷やかしならよそでやれ厨房
318名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 11:44:38 ID:qd2r72o/
>>316

なのは戦闘狂化、エリオ脱落、原作以外での死者、ゼスト離反、ナンバーズの一部がゆりかご戦前に味方側へつく、これのどこが原作と大きく変わらないんだ?


原作を見ていない俺が言うのも難だが…Wikipediaでも何でも良い、もう一度見て内容を把握してから出直してこい。
319一尉:2008/10/10(金) 11:58:58 ID:4d+YjDxD
カミナ支援。
320名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 12:16:33 ID:f86MRnCa
ぶっちゃけ、ここは作品を投下するスレであって
評価とか批評をするスレでは無かった気がするのは俺だけ?
321名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 12:20:01 ID:An38PV2/
原作と違うとか違わないとか、そんなレベルじゃないように思える………。
だから熱いと言うか、ついて行けないんで、むしろ冷めた目で見てます。
どうやら、自分は、上記の方達とはまた違った感想のようですね。
322名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 12:27:30 ID:2Y91XP3P
内容が全然違うだろ。
ギンガのこととか、いろいろと。
同じ展開、同じ結末になるのが分かっている宮本武蔵、徳川家康だのの時代小説が
何故いろいろあるのかを考えてみれば、どう違うのか理解るぞ
323名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 12:49:41 ID:LiTb+5XN
クロスSSスレに来ているのに、何野暮なことを……
原作と同じ展開が好みなら、原作見てりゃいいんだよ。
クロスの影響で本来の流れがねじ曲がるのは醍醐味の一つなんだから。
324名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 13:11:11 ID:An38PV2/
>>323
微妙に論点が違う気がしますが…。何にしても(>>316)の意見は的外れに思えますよね。
これ以上は、雑談スレでやるべきでしょうな。
325名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 13:20:04 ID:smJweDDu
ごく普通の感想にレス付けて、作品否定する時点で>>316はおかしいだろ
>>321もそうだけど本音スレで言えよ、そういうのは
326名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 13:21:59 ID:YZlrlSmp
レイジングレン氏GJ!
ついに話が動きだしますね、次も期待して待っております。
327名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 13:24:03 ID:An38PV2/
>>325
ちょっと、別スレに書き込んできます
328名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 13:25:05 ID:HDZ2vKQ1
否定してるわけじゃないと思うんだけどな
329名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 14:18:35 ID:iimLqaia
そろそろウロス行け
330名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 15:29:59 ID:fQ4KjLXx
>>314
GJ!
いやー熱い展開ですね。
元々熱い魂を秘めているなのはさんが、カミナの影響を受けたら
一体どうなってしまうのでしょうか。
331名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 21:21:54 ID:XShvYX3g
>ロックマンゼロ
本当にね、少しカッコよすぎるw
本当に実際の投下速度もストーリーの進行速度もテンポいいっすねぇ!
それでいて、キャラが活きてるのが素晴らしい。原作の設定の美味しいところを十分に使ってて無駄が無い。
ナンバーズの設定とか、キャラを優先してどうしても疎かになるものですが、ボスのパワーアップにその伏線を上手く利用してる点には脱帽しました。
でも、伏線もいいけどキャラもね! セインちょっと可愛すぎじゃね?w
最終決戦らしく、至るところでバトルが同時展開されてて燃えます。
ルーテシアは幼女決戦ってだけで見所だし、いろんな意味でパワーアップしてるスカ山とゼロの正統派対決。スバギンの熱血姉妹対決。そして、原作通りなんだけどなのはさんの伏線がどうにも不安を掻き立てるヴィヴィオ戦。
これまでのハードボイルド展開が下地になって、緊迫感が満ちております。
いい意味で安心感が無い。あー、この中の何人が生き残れるのか?
ギン姉はバリバリだけど、なのはさんとヴィヴィオにも死亡フラグ感じるよー。胃がいたいよー。でもやめられないとまらないw

>天元突破レイジングレン
これはなんという頼もしいマスコット。
無印の序盤からすでに『魔法少女』という文字が薄くなっていくような展開でした。いや、素敵ですけどねw
扱ってる魔法こそ凶悪だったけど、ビジュアル面ではまだ可愛らしかったレイジングハートがドリル装備の漢仕様になってた時は吹きました。
いや、ある意味予想してしかるべき展開だったんですけどねw
この浪漫デバイスでなのはがどのようにジュエルシード事件を乗り越えていくのか、期待大です。
今からフェイトとの邂逅が楽しみですなw
332魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/10(金) 21:37:11 ID:XShvYX3g
以前投下したジョジョ五部クロスの中編を21時45分に投下予約したいんですが構いませんねッ!
333魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/10(金) 21:46:10 ID:XShvYX3g
 ある日、ノーヴェは偶然にもスカリエッティとブチャラティが何やら話し合っている所を通り過ぎた。
 何故かエリオも交え、しかもその会話の中で発せられるブチャラティの声の調子は荒々しい。口論しているようだ。
 ノーヴェはその時、その光景を特に不思議には思わなかった。
 自分の常識と照らし合わせても悪人であるドクターと、正義に向かう心を持つブチャラティの言動がぶつかり合うことなど珍しいものではなかったからだ。
 それを深刻に受け止める事態を経験していなかったことが、ノーヴェを楽観させていた。
 それまでブチャラティは確かに悪行とも言える『任務』をこなしていたが、それらは全て同じ犯罪者を相手にしたものだったからだ。堅気に手を出す『任務』は一つとしてなかった。
 だから、きっと今回の諍いもその中の些細なものだろうと――ノーヴェはその場を歩き去った。
 ここに一つの相違がある。
 ブチャラティにとって堅気に手を出さないことは一つの仁義であったが、スカリエッティにとってはただ単に『表立った犯罪を起こしたくない』という打算にすぎなかったということである。




<リリカルなのは×ジョジョ第五部>

―眠れる運命の奴隷達―(中編)




 そして、数時間後――集められたナンバーズの前で、ドクターを伴って真剣な表情のブチャラティが告げた内容は彼女達を完全に動揺させた。

「な……なんだって?」
「……」
「よ……よく分からないな。い……今言った事……今なんて言ったんだ?」
「『離反する』……と、言ったのよ……ドクターから!」

 普段陽気なウェンディは顔を強張らせ、年長のトーレさえ動揺を隠せない。ノーヴェが受け入れられない現実を、クアットロがはっきりと言葉に変えた。
 今この場に居る――トーレから始まり、まだ眠ったままのディードを除いた全てのナンバーズが、大小なりとも驚愕を覚えていた。
 あまりに唐突な日常の崩壊に、思考が追いつかない。
 そんな彼女達の顔を、ブチャラティとエリオが真剣に見つめている。

「な……何故ですか?」

 最も冷静だったクアットロが尋ねる。
 スカリエッティ以外の人間には酷薄な彼女であったが、今は隠せぬ動揺が見え隠れてしていた。
 普段どれだけブチャラティに対して素っ気無い態度を取っても、それこそが彼女の本心だった。

「これ以上は……聞かない方がいいだろう。お前たちは、無関係なんだからな……」
「ボクは説明すべきだと思います。あなたに『ついてくる者』がいるかもしれない」

 エリオの力強い声に、ブチャラティが視線を合わせる。
 この緊迫した場において動揺を見せない一つの決心をした時の少年の強さは、ブチャラティと出会い、これまでの月日で培ったものだった。
 エリオもまたブチャラティの離反に付いて行く決意を表明している。
 その全ての事情を知った上で決断したエリオの姿を見て、苦悩していたトーレは苛立ちを覚えた。

「何を一人で納得しているんだ、エリオ? 何か知っているなら答えろ」
「……ボクは、ブチャラティに賛同しただけです」
「随分と、偉そうな口を利くようになったじゃあないか……」

 殺気すら滲ませてユラリと動き出すトーレを、意外にもニヤニヤと状況を見守っているだけだったスカリエッティが止めた。

「まあ、待ちたまえ。
 ブチャラティ、彼女達を巻き込みたくない気持ちは分かるが……話すべきではないかな? 君にとって未踏の『世界』だ。仲間は、必要だと思うよ?」

 何か楽しむような笑みを浮かべるスカリエッティを鋭く睨みつけ、しかしそれが一抹の事実であることを悟ると、ブチャラティは語り始めた。
334名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 21:46:47 ID:0fdjvIR8
支援
335魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/10(金) 21:47:30 ID:XShvYX3g
「スカリエッティから、最終的な目的を教えられた。参謀のウーノ、諜報員のドゥーエまでしか知らない内容だ」

 心を決めたブチャラティは淀み無く答える。

「『聖王』とやらの血を継ぐ子供を人工的に生成して、はるか古代に残された『聖王』の遺産を手に入れる――それがオレ達の最終任務だった。
 それを知ってオレは……」

 簡潔にそこまで聞き、ノーヴェはブチャラティの出した答えが分かってしまった。絶望と共に。

「――許す事が出来なかった。
 『聖王』の力とやらが世界を支配出来るほどのものだとか言われたが……そこまでは、途方も無くてよく分からない。オレはオレなりの信義で戦っているが、世界平和なんて正直手に余るシロモノだ。
 だが、一つだけ言えることは……何よりもオレが怒りを覚えたのは、子供を利用しようとする事だ。何も知らぬ無知なる者を、てめーの都合で生み出し、てめーの都合の為だけに動かそうとすることだッ!」

 ブチャラティは怒りと共にスカリエッティを睨みつけ、自らの感情を吐き出した。

「そんな事を見ぬふりして、このままコイツの下で働くことは出来ない。だから『裏切っ』た!」

 誰も、何も言うことが出来なかった。
 これまでの付き合いで、ブチャラティがそういう結論に至ったことは納得できる。今の言葉が真実なら、スカリエッティの為すことは悪だと判断も出来る。
 だが、そうであっても実際にこのような『決断』を下すことは、彼女達にとって愚か以外の何者でもなかった。

「正気っすか……ブチャラティ?」

 冗談などではないと、悟ったウェンディの声には悲壮しかなかった。
 こんな決断はブチャラティにしか出来ない。
 自分達には出来ない――創造主を裏切ることなど。

「ドクターから『離反した者』が、その後どうなるか……分からないわけでもないでしょう?
 ここに居る者はアナタも含めて、皆真っ当な世界で生きていけない者達ばかり。外の世界に飛び出して、一体どうしようと言うんです?」

 クアットロが冷静に告げた。
 しかし、冷静であっても冷酷ではない。ドクターと敵対することを決めた者に対して、クアットロのこの対応は意外と言えるものだった。
 彼女はブチャラティを説得しようとしている。

「『助け』が、必要だ……」

 だが、彼は頑なだった。

「ともに来る者がいるのなら……オレの下へ来てくれ」

 数歩分下がり、ブチャラティはスカリエッティから別離する意思を明らかにした。
 見えないラインが引かれた空間で、当然のようにエリオはブチャラティの下へ歩み寄る。スカリエッティはただ笑いながら状況を見守るだけだった。

「ただしオレはお前達について来いと『命令』はしない。一緒に来てくれと『願う』事もしない。
 オレが勝手にやった事だからな……だからオレに義理なんぞを感じる必要もない。
 だが、一つだけ偉そうな事を言わせてもらう――」

 ブチャラティは自分を見るナンバーズの顔一つ一つを見据え、迷い無くハッキリと告げた。

「オレは『正しい』と思ったからやったんだ。
 後悔はない……世界が違うとはいえ、オレは自分の『信じられる道』を歩いていたい!」
336魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/10(金) 21:49:08 ID:XShvYX3g
 そこには確かな決意が在った。
 瞳には迷いの無い『黄金の精神』が宿っていた。
 その輝きに、誰もが一瞬魅せられる。
 ブチャラティは、もう何も言うことは無いと、黙り込んだ。
 沈黙が場を支配する。
 誰もが少なからず動揺していた。彼と関わりの深い者ほど、彼を助けたい衝動に駆られていた。
 しかし、それでも――現実の非情さを認識するしかない。

「言ってる事は……よく分かりましたし、正しいですよ。ブチャラティ」

 苦々しい口調で、クアットロが口を開いた。

「ですけど……ハッキリ言わせてもらうわ。
 残念だけど、アナタに付いて行く者はいないわ……。
 『情』に流され、血迷ったことをするなんて…………アナタには興味があったけどついて行く事とは別よ……。
 アナタは現実を見ていない……理想だけでこの世界を生き抜いていける者はいない。ドクターの加護なくして、私達は……『戦闘機人』は生きられないのよ……」

 そう言って、それまで身を乗り出していたクアットロは自らの決断を示すように一歩退いた。
 心の中に残っている迷いと共に、ブチャラティを見限る。
 それが彼女の答えだった。
 他のナンバーズも、クアットロの言葉には揺れ動く心を傾けずには居られない。全て、彼女の言う通りなのだ。
 自分達とブチャラティは違う。『人間』と『戦闘機人』は、生き方が違う――。

「ああ……クアットロの言うとおりだ。ブチャラティ」

 何も言わないブチャラティとエリオに追い討ちをかけるように、何かを決断した表情でトーレが更に告げた。

「お前のやった事は自殺に等しい事だ。
 次元世界の何処にも、お前が居られる場所はない。そして、ドクターとの敵対はナンバーズとの敵対だ。
 何処に逃げようと、もう、お前には『安息』の場所はない――」

 トーレはブチャラティを睨み付けた。

「そして、私を生み出し、命を与えてくれたのはドクターなんだ。恩も縁もある。だがお前とは、血の繋がりも何もない他人同士でしかない!」

 トーレの突きつける言葉に、ブチャラティも苦しげに眼を伏せるしかなかった。
 覚悟していたことだが、こうしてハッキリと絶縁状を叩きつけられれば動揺は隠せない。
 彼女達がどう思っていたかは知らない。だが、少なくともブチャラティにとって彼女達との生活は第二の人生だった。
 そんな彼の内心を他所に、トーレは更に言葉を続ける。

「しかしだ……」

 トーレは一瞬だけ傍らのセッテと視線を合わせた。
 セッテが頷く。彼女は自分の姉であり指導者であるトーレがどのような選択を下すのか、十分に理解していた。
 彼女は、すでにトーレの考えを『受け継いで』いたのだ。
 一歩、トーレの足が動く。
 その行き先は――。

「私も元々は、行く所や居場所なんて何処にもなかった存在だ……この与えられた命を戦いで消耗するだけの存在だったッ!
 人間に似せられながらも、人間としての生き方からはじき出されたなァ――! そんな私の落ちつける所は……ブチャラティ!!」

 トーレは迷いなく歩みだした――ブチャラティの下へ。
 クアットロを含むナンバーズと、スカリエッティさえ驚愕の表情を浮かべる中、トーレはブチャラティと肩を並べる。

「――お前と共に居る時だけだ」

 クアットロとは全く正反対の決断を示すように、トーレは響き渡る声で断言した。
337名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 21:49:48 ID:iML3bhBe
支援私怨
338魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/10(金) 21:50:30 ID:XShvYX3g
「トーレさん……」
「いい気になるなよ、エリオ。フン!」

 ある意味意外な人物の参戦に破顔するエリオを、毎度のやりとりのように諌めて、トーレは鼻を鳴らした。照れているようにも見えなくない。

「バ……バカなッ! トーレ姉様ッ!」

 信じられないといった表情でクアットロがトーレを見つめる。
 そして、予想外とも言える彼女の決断は他のナンバーズにも切欠を与えた。

「ドクターの『組織』から抜けるっていうなら――」

 また一人、ブチャラティの下へ足を踏み出す。

「実力から言って……ブチャラティがリーダーになる新しい『組織』の幹部ってあたしっすよねェ〜。年功序列は嫌いっすよ?」

 自分の人生を決定付ける決断を、いつものように軽い調子で決めたウェンディがエリオの傍へ歩み寄る。
 二人目の離反者に言葉もない姉妹達を尻目に、ウェンディはエリオの肩を抱き寄せた。

「あたしはブチャラティの性格を良く知ってるっすよ。彼は頭がいい、あんな事を言ってるけど後先考えず行動はしない男っす。
 どっか別の世界で一山当てる気なんっすよ。そうっすよね? エリオ! ブチャラティに気に入られて、出世しようって狙いっすね? 一人だけ楽しもうなんてずるいっすよ。ヒヒ」
「……」

 何やら自己完結した妄想を展開するウェンディにエリオは冷や汗を垂らしながら沈黙するしかなかった。
 ナンバーズの中で最も予想のつかないのが彼女だ。ドクターへの隷属意識が薄く、俗世的で、今のように外の世界への憧れを常に抱いている。好奇心ともいえるだろう。
 しかし、理由はどうあれ、これで力強い味方が加わった。

「ウェンディッ!」

 クアットロは二人の正気を疑いたい気分だった。
 真理とも言える先ほどの自分の言葉を、姉妹の二人もが無視している。しかもその内の一人は敬愛すべき姉なのだ。

「アナタ達! ど……どうかしてるんじゃあないのッ! 完全に孤立するのよッ!
 何処に行く気なのッ!? い……いや、そもそも本当にナンバーズ同士で敵対するつもりなのッ!」

 悲痛とも言える叫びに、トーレもウェンディも応えなかった。彼女達は既に心を決めている。
 代わりに、エリオが口を開いた。その視線は、ブチャラティの言葉から始まってずっと――動揺を隠せず震えているノーヴェに向けられていた。

「ノーヴェさん……貴女は、どうするんです?」
「あ……あたし……」

 ノーヴェは親からはぐれた迷子のように、何かに怯える表情を浮かべていた。

「ど……どうしよう? あたし?
 ねえ……ブチャラティ、あたし……どうすればいい? 行った方がいいと思う?」

 縋るような視線でブチャラティに尋ねる。
 完全に足が竦んでいた。
 これから踏み出す一歩が自分の人生を決める。しかし、どちらを選んでも自分は大切な人と別れなければならないのだ。
 姉妹は二つに裂け、ブチャラティを選べばチンクを、チンクを選べばブチャラティを失うことになる。
 それは、ノーヴェにとってあまりに重すぎる選択だった。
339魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/10(金) 21:51:33 ID:XShvYX3g
「怖いか?」

 ブチャラティは甘えを許さぬ視線で尋ねた。

「うん……す……すごく怖いよ。で……でも、『命令』してくれよ……。
 『一緒に来い!』って、命令してくれるのなら。そうすれば勇気がわいてくる。あんたの命令なら何も怖くないんだ……」
「だめだ……こればかりは『命令』できない! お前が決めるんだ。自分の『歩く道』は……自分が決めるんだ」

 突き放すようなブチャラティの言葉に、ノーヴェは頭を抱えて力無く首を振ることしか出来なかった。まるで無力な子供だった。
 今度は傍らのチンクに視線を向ける。

「なあ、チンク姉……なんでブチャラティと一緒に行かないんだよ? 気も合ってたし、仲良かったじゃねえか!
 ブチャラティの言ってることは正しいよ。チンク姉が行くなら他にも何人か付いてくヤツがいるよ、あたしも一緒に行くよッ!!」
「……ダメだ。姉が行ってしまっては、残された妹達が道を見失う。これから目覚めるディードや、まだ自分の生き方を決めるには幼い者もいるんだ。
 それを導かねばならない。私は、ブチャラティとは共に行けない……」

 チンクは沈痛な表情で、しかし別離の決意を明白にした。
 その決断にブチャラティは小さく頷く。彼女が自ら考え、選んだ答えだ。それは尊重されるべきだと思っていた。
 しかし、兄であり姉であった二人の指導者の導きを失ったノーヴェは完全に迷っていた。

「そんな……」
「だが、ノーヴェ。お前はもう選ぶことが出来る。ブチャラティの言うとおりだ。自分の信じた道を行くんだ」
「わ……わかんねーよォ〜。あたし……わかんねえ……」

 目の前の厳しすぎる現実に、頭を抱えて蹲りそうになるノーヴェの姿を見ていたブチャラティは、厳しさとも取れる優しさで最後の言葉を継げた。

「――だが忠告はしよう。
 『来るな』ノーヴェ……おまえには向いてない」

 誘う言葉ではなく、突き放す言葉。
 この点で、ブチャラティは平等ではなかったのかもしれない。願うことをしないと言って置きながら、彼は願ってしまったのだ。
 まだ心幼いノーヴェが、チンクという庇護者の下でゆっくりと健やかに育つことを。
 自分と共に来る事は、あまりに性急で、厳しい生き方なのだ……。
 ブチャラティは背を向け、歩き出した。ノーヴェはそれを眺めることしか出来なかった。

「では、これから君たちを転送ポートで別の次元世界へ送る。逆探知できないように、転送情報は消させてもらうから誰も後を追えない」
「離反の意思を持つ者を、そうあっさりと野放しにしていいのか?」
「ならば、この場でナンバーズ同士の骨肉の争いを始めると? 答えが分かってるのに、今更愚かな質問はしないでくれたまえ」
「……」

 真意の読めないスカリエッティの嘲笑を睨みつけながらも、ブチャラティは彼の指示に従った。
 エリオも、トーレも、ウェンディも、それに続いてく。それが、姉妹との別れとなる。
 歩き去っていく彼らを、残されたナンバーズはそれぞれ複雑な心境で見つめていた。
 感慨の薄い者もいれば、セインのように再会を気楽に待とうと考える者も、クアットロのように理解出来ないと首を振る者もいる。
 そしてノーヴェは、未だ苦悩を続けていた。

「何故……正気じゃあないわッ! どういう物の考え方をしているの!?」

 その横でクアットロが苛立ちに任せて悪態を吐く。
 自分は『理屈』を言っているはずだった。正しい理屈だ。それに逆らう余地などあるはずがないというのに。
 彼女にはトーレ達の考えが理解できなかった。
340魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/10(金) 21:53:04 ID:XShvYX3g
「まだ生まれてもいないかもしれない子供のなんかのために! 無関係なガキなのよッ!」
「子供……生まれても、いない……」

 苦悩するノーヴェの耳にクアットロの言葉が飛び込んできた。
 ブチャラティは、名も知らない子供の人生が他人の都合で決定されることを許せず、ドクターから離反した。
 思えば、彼は昔からそういうことを嫌う男だったのだ。
 無知なる者を利用しようとする者を悪と受け取った。安易な諦めを捨て、『運命』を信じながらも最後まで足掻き続ける意志があった。
 だから、自分も選んだのだ。戦闘機人として、自分なりに決めた生き方を――。

「生まれた時から、生き方が決まっている。その子は、聖王としてしか生きられない……。
 同じだ……その子と『あたし』は、なんか……『似てる』……」

 自分の信じられる道を、歩いていたい――。
 そんなブチャラティの生き方に憧れたからこそ、慕ってきた。彼を信じてきた。
 だから、これからも――きっとそうだ。

「……チンク姉ッ!!」

 ノーヴェはもう一人の尊敬する姉を見つめた。
 その瞳に、悲しみは滲んでいても、もはや迷いは存在しない。ノーヴェは心を決めていた。
 悩み、苦しみ、涙すら流して考え抜いた愛しい妹の決断を、チンクは満足そうに受け入れた。

「他人を想える子は、優しい子だ……。ノーヴェ、お前を『誇り』に思う」

 皆まで言わせず、チンクは自らの本心を伝えた。





「転移先はミッドチルダで構わないのかね?」
「ああ、発展した街は都合がいい。社会の裏に潜るのは慣れている」

 出発準備が終了し、ブチャラティ達は転送ポートの中へと足を踏み入れた。
 最後に入るブチャラティの前にエリオが乗り込み、ふと視線を背後に向けると、思わず顔を綻ばせた。

「――ブチャラティ、振り返って見てください」
「?」

 促されるまま、ブチャラティは振り返る。
 そして、見た。自分達の後を追い、駆け寄ってくる赤毛の少女を。



「ブチャラティィィィィィ!! 行くよッ! あたしも行くッ! 行くんだよォ――ッ!!」



 ノーヴェは全力で走っていた。
 まだ涙は止まらない。これで自分の愛する姉からは離れ、他の姉妹を置き去りにし、住み慣れた場所から去らなければならないのだ。
 悔いが無いと言えば嘘になる。これからは傍らを見下ろしても、もうそこに頼れる姉がいないことを想うと悲しくて不安で苦しい。
 ――だが、迷いはしなかった。

「あたしに『来るな』と命令しないでくれ――ッ!」
341魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/10(金) 21:54:09 ID:XShvYX3g
 声を荒げ、がむしゃらに走った。滲んだ視界には、付いて行くと決めた一人の男だけを見ていた。
 その必死な姿を見て、ブチャラティ達の顔に笑みが浮かぶ。
 エリオの尊いものを見るような、トーレのどこか満足そうな、ウェンディの愉快そうな――そして、ブチャラティの嬉しそうな微笑だった。


 ノーヴェを加え、この日三人の戦闘機人と二人のはぐれ者がミッドチルダに静かに降り立った。
 それから数年、彼らはこの街の暗部で密やかに活躍することとなる――『ギャング』として。






「――本当によろしかったのですか、ドクター?」
「その質問の答えは既に済ませてある。彼を、ブチャラティを招き入れた時にね」
「あの男が、ここまで深刻な影響を与えるとは思いませんでした」
「まったくだ。
 離反したメンバー……ノーヴェとウェンディはある程度予想していたが、トーレは意外だったなぁ。古参な分、それなりに忠誠心も擦り込めたはずなんだが」
「あの男の影響力は脅威です。このままでは、他のナンバーズも彼と敵対した時に寝返る危険性も……」
「まったくだ、本当に危険だよ。だが、同時にそれが我々に追い風を吹かせる可能性もある」
「何か計画が?」
「と、いうほど確実性のあるものじゃない。彼をナンバーズと引き合わせた時点で既に失策だった。
 だが、ならば……それを上手く使う必要がある。ブチャラティの真の強さとは単純な戦闘力ではない、あのある種のカリスマだ」
「彼らを第三の勢力として――」
「そうだ。本来在るべき『我々』と『管理局』の勢力図を三つ巴に変えよう。
 彼らが、これから始まる混沌とした戦場でどのように動くのか、どのように戦況を変え得るのか……?
 一体、どちらに吹く勝利の追い風――人を導く『黄金の旋風』となるのか。実に楽しみだ」





To Be Continued……→


342魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/10/10(金) 21:57:31 ID:XShvYX3g
以上です。投下『した』なら使っていいッ!
この作品で誰が一番楽しんでるって、多分自分だと思う(ぉ
あとは後編でお終いです、本格連載じゃないので。あと一回、お眼汚ししますw
343名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 22:10:40 ID:K8Jmuwau
クロス先のキャラ置き換えに近いというのに・・・この胸の奥から湧き上がる熱いものは何なんだ!?
ちくしょう、GJって言うしかないじゃないか―!!
344名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 22:45:59 ID:aVwfpihA
GJ!!です。
ヤヴァイ!!wナンバーズが本編より精神的にパワーアップしているw
あと、ジョジョ特有の負傷耐性も付いてそうですしwww
トーレなんか、手足が?げようが相手を殺すまで襲い続けそうだし、
ウェンディは、相手(なのはとか)が固いシールドを張っても、至近距離で兆弾を恐れず、
ひたすら撃ち込みそうだw
345名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 23:53:17 ID:q588vQ+1
GJでした!

そろそろ容量注意ですね。
346名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:11:09 ID:ljPjnN13
GJでした!
トーレがブチャ側にいくのは予想外でした

…あれ、この立ち位置だとクワットロが強すぎて作者すらさじを投げるキャラに…
347名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:15:39 ID:q3ZsT9ug
嘘予告を投下します。
3レス程度の小ネタですので、支援は不要です。

18分から開始します。
348名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:19:15 ID:2/722fs2
支援
349名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:20:18 ID:q3ZsT9ug
※酷く捏造が激しいです、ご注意ください。
捏造レベル=朝鮮妖術ノッカラノウムくらい。
史上最も綺麗なレジィかもしれ・・・ない?


「〜白金騎士〜因果の章」

轟――ごう――業!
炎の瞬く音、焼け落ちる瓦礫の山の崩落音、砕け散る人体の音、人々の悲鳴――!!
男はその中を走り抜ける――大地を、壁を、天井を足場に駆け抜け、一人でも多くの民を救うために。
地上本部の中央タワー、その高層建築は炎に呑まれ、崩れ落ちる寸前であった。
その場所にいる男の命運は尽きたかに見えたが――。
だん。
健脚――ガラス窓を突き破り、男は眼下の地上まで落下する。
常人であればミンチになって死ぬことは確実。
であれば、男――騎士は高層建築の壁の凹み、それを利用して減速していく。
とんでもない速度で繰り出される指先は、確実に加速を弱めていき――着地。
同時に白銀色のロングコートが翻った、と見えた刹那。
凄まじい剣速――僅かに身体を捻った騎士は、左腰に佩いた直剣を抜き放ち、一刀の下に三匹の悪魔を斬り捨てた。
ぎょええええええ、と悲鳴を上げて霧散するは、闇の魔獣“ホラー”。
遥か古より、光あるところに影あるように存在した人類の天敵であり、ゲートの彼方“魔界”より飛来する人を喰らう異形。
宗教書に散見される
醜悪な悪魔そのものの奴らは、突如としてクラナガン上空に開いた“門”から現れ、人々を喰らい始め――、
“門”の発生から僅か二時間で地上本部は崩壊の危機に瀕し、燃え盛る紅蓮の炎、それらが全てを舐めとらんとした刻。


ホラーを狩る戦士“魔戒騎士”は舞い降りた。


純粋魔力砲撃で漸く仕留められる魔獣を一刀で斬り捨てた男を見て、機動六課隊長『高町なのは』は驚いていた。
愛用のデバイスを握り締め、驚愕に目を見開いて呻いた。白いバリアジャケットに熱風が吹き荒び熱いが、
そんなことは些細なことに思えるくらいに、その人物の登場は意外だった。
白銀色の厚手のロングコート、その真ん中から垣間見える黒のボディスーツは、その人物の肥えた身体を引き締めて見せていて、
脂肪の下に頑強な筋肉があることを知らせてくれている。腰には朱塗りの鞘が佩かれ、抜き身の刃がその右手に握られている。
首から提げられた、白銀の髑髏が彫刻された懐中時計がカタカタと鳴り、幼い少女の声がした。

『ねえ、レジィー。とても強い闇の波動を感じるよ――多分、あいつ』

その声にはっとして、なのははその人物に声をかけた。

「レジアス……中将? その格好は――」

「高町教導官か――ここは危険だ、逃げろ」

白銀色のコートを纏った肥満体型の壮年男は、やはりレジアス・ゲイズであり、地上本部のトップである男だった。
鈍く輝く魔戒剣の輝きを目に焼き付けつつ、なのはは反論しようとした。
それはそうだ、ここは部隊長八神はやてから死守することを命ぜられた場所なのだから。
既にほとんどの魔導師は現場放棄し、異形の怪物達から逃げ惑っていたが――責任感の強い彼女にしてみれば、逃げることなど出来なかった。
他の場所では、親友や教え子達が必死に戦っているのだ。
彼女一人だけが逃げるなど、出来るわけがなかった。
そういったことを言おうとした瞬間、髑髏の懐中時計が可愛らしい声でさらりと恐ろしいことを言った。
残酷な口調である。

『レジィ、あいつが来る――もう、逃げられない』

「巻き込みたくは無かったのだが……わしの後ろに隠れていろ」
350名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:21:33 ID:q3ZsT9ug
哄笑が響いた。
地獄の底から響くような音。
遥か上空から急降下、こちらへ向けて接近する悪意。
ボロボロの茶のコートを羽織った騎士が、槍を右手に、幼い赤き少女を左手に現れ、笑っていた。
茶色の髪の毛、白銀色のガントレット、長く螺旋くれた矛先――邪悪の象徴のような武具。
皺の刻まれた顔は奇妙な生気に満ち溢れ、男が現世のモノでないと知らせていた。

「久しいな、レジアス。お前の正義とやらを聴きに来た」

赤き少女を見たなのはが悲鳴を上げた。

「ヴィータちゃん! 貴方が――」

「そうだ、俺が殺った――まだ生きているがな」

ゴミのようにヴィータを投げ捨てると、愉しそうに男は笑みを浮かべた。
獅子が獲物を八つ裂きにする寸前に浮かべる狂笑であり、戦闘準備と云う行為。
“ソウルメタル”――魔界の悪魔を練りこんだ超金属――が、暗黒に落ちた騎士によって変異した黒い“デスメタル”。
それで造られた槍が構えられ、どす黒い闘気が放たれる――エースオブエースと讃えられたなのはが震撼するほどの邪気。
レジアス・ゲイズは、変質した友の姿を見て目を細めると、刃渡り九十センチほどのソウルメタル製“魔戒剣”を構えた。
本来、闇の魔獣ホラーを狩る為だけに用いられるそれを、人に向けるということは――相手を魔獣以上に闇に染まったモノと認識したからに他ならぬ。
片手で構えられた剣先は、あくまでその男の首筋目掛けて繰り出されんと溜めこまれ、力の解放を待ち望む。
どちらからともなく口が開かれるのを、恐怖で動けないなのはは黙って聞いていた。

「何故、闇に魂を売った! ゼスト・グランガイツ!!」

「――力を望んだからだ。今の俺は、伝説の『黄金騎士“牙狼”』すら超える力を持った!
数百のホラーを喰らった俺は、もはや人間を超越したも同然っっ!!」

「ぬぉおおおお!」

やり切れぬ、と歯を剥き出しにしてレジアスは吼える。
精神感応金属であるソウルメタルが、キィィィイイイン、と鳴った。
同時にレジアスが右脚を繰り出し、一歩踏み込んだ。
たかが、一歩。
されど、現実には十五メートルもの距離を瞬間的に詰めている。

「その為に何百人を犠牲にした、『暗黒騎士』!!」

剣閃――恐るべき速さの切っ先は、レジアスの意思に応じて切れ味を最大にしながら振り下ろされる。
大きく傾いだゼストの槍が跳ね上がり、漆黒の刃が血を吸おうと啼いた。
激突/刺突/斬撃――コンマ一秒の間に繰り広げられた攻防は、間合いと膂力に勝る槍騎士の勝利。
浅く剣士の脇腹が抉られ、白銀のコートが血に染まっていく。
飛び退ったレジアスを追わずに、ゼストは勝ち誇った笑顔で告げた。

「犠牲! 生贄――甘美な言葉だ――我が力はレジアス、貴様を超えた!」

「抜かせ! 高町一尉、今のうちに逃げろ――上官命令だ!」

「でも、中将は!」
351名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:22:44 ID:q3ZsT9ug
己の非力を、人外の決闘に自覚せずにいれらなかったが――。
それでも、“高町”なのはとして引くわけにはいかなかった。
それを、レジアス・ゲイズは一言で切り捨てる。

「――足手纏いだと言っている!」

『レジィ、鎧の召喚を!』

魔人と化した友を見据えると、魔戒剣をすらり、と頭上で廻す。
光の尾が引かれていき、黄金色に光り輝く円状召喚陣が展開され――宵闇が灼熱に犯された。
白金色の甲冑が異界から呼び出されて、眩い輝きが壮年男の肥満体型を覆い隠していく。

「――召喚――」

脂肪を押さえつけるように装着されたソウルメタルの胴鎧によって、
スリムな戦士のものへ変わっていくのを、高町なのはは呆然と見つめた。
レジアスの四角い異相は、狼を模した獣の牙が並ぶ仮面と兜によってすっぽりと飲み込まれる。
いや、それどころかレジアス・ゲイズと云う男全体が、異界の戦士と置換されたように鎧によって護られていた。
ゼストが――暗黒に堕ちた邪悪が嗤った。

「来るか――『白金騎士』!!」

鎧召喚――闇に蠢く悪鬼の装束が、ゼスト・グランガイツを闇に祝福されし異形に変え――




――激突必至!!!




次元世界ミッドチルダ――彼の地にて、人々を闇から護り、邪悪を狩る者達がいた。



その者達の名を“魔戒騎士”という。



魔戒騎士列伝〜異界の章〜 始まり……ますよ?(疑問系
352名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:26:05 ID:q3ZsT9ug
投稿完了。

だいたいスカと比較した場合、
苦悩の人であるゼストをはっちゃけた悪役にしたかったのでこんな話に。
ゼストは8年前に部下を捧げて闇に堕ちた魔戒騎士だったんだよ!
という無茶なネタです、ご了承ください。

中年オヤジが実はすごい身体能力とか燃えます。
353名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:36:05 ID:q3ZsT9ug
追記 クロス元は「GARO 牙狼」です。
354名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:39:05 ID:Gf9Ojomd
う〜ん、レジアスが牙狼ってすっごく見たくない
355名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:40:28 ID:OV0NXHgu
レジアス主役かよwww しかも牙狼クロスとかwww
彼も魔戒騎士姿が想像できねえぜ。

GJでした!
356名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:49:26 ID:2/722fs2
GJ!!
レジアスが装着した魔戒騎士の鎧は主人公が暴走したときのマッシブ魔戒騎士状態がデフォっぽいなw
357名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:55:04 ID:uD/Iz3PB
かっけえww
かっこいいよ、レジアス!
お前ドゥーエなんて相手にならないんじゃね!? そして、ゼストが悪ですが、めっさかっこいいです。
このまま連載しちまえw

あの髭面のままですと想像しにくいですが、仮面とかで隠して戦う様を考えると凄いかっこいいです。
スピード感とか最高でしたw
GJ!
358名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 01:01:06 ID:/2DNoVxM
GJ!
間違いなくこのレジアスはGARO名物落ちながら戦闘ができるw
359名無しさん@お腹いっぱい。
嘘予告と言わず、連載して欲しいぜ!

レジアスが魔戒騎士ってことは、オーリスが後継者だったりするのかね。