リリカルなのはクロスSSその76

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1名無しさん@お腹いっぱい。
ここはリリカルなのはのクロスオーバーSSスレです。
型月作品関連のクロスは同じ板の、ガンダムSEEDシリーズ関係のクロスは新シャア板の専用スレにお願いします。
ガンダム関係のクロスオーバーは新シャア板に専用スレあるので投下はそちらにお願いします。
オリネタ、エロパロはエロパロ板の専用スレの方でお願いします。
このスレはsage進行です。
【メル欄にsageと入れてください】
荒らし、煽り等はスルーしてください。
ゲット・雑談は自重の方向で。
次スレは>>975を踏んだ方、もしくは475kbyteを超えたのを確認した方が立ててください。

前スレ
リリカルなのはクロスSSその75
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1220792806/

*雑談はこちらでお願いします
リリカルなのはウロスSS感想・雑談スレ44(こちらは避難所になります)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1219748821/

まとめサイト
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/

NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/

R&Rの【リリカルなのはStrikerS各種データ部屋】
ttp://asagi-s.sakura.ne.jp/index.html
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 20:19:07 ID:ZtNFDPDE
【書き手の方々ヘ】
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
  http://gikonavi.sourceforge.jp/top.html
・Jane Style(フリーソフト)
  http://janestyle.s11.xrea.com/
・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認してダブルブッキングなどの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
 前の作品投下終了から30分以上が目安です。

【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は応援スレ、もしくはまとめwikiのweb拍手へどうぞ。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。

【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
 議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
 皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
 著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
 いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
 追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 20:19:54 ID:ZtNFDPDE
【警告】
・以下のコテは下記の問題行動のためスレの総意により追放が確定しました。

【作者】スーパーロボット大戦X ◆ByQOpSwBoI
【問題の作品】「スーパーロボット大戦X」「スーパーロボット大戦E」「魔法少女(チェンジ!!)リリカルなのはA'S 次元世界最後の日」
【問題行為】盗作及び誠意の見られない謝罪

【作者】StS+ライダー ◆W2/fRICvcs
【問題の作品】なのはStS+仮面ライダー(第2部) 
【問題行為】Wikipediaからの無断盗用

【作者】リリカルスクライド ◆etxgK549B2
【問題行動】盗作擁護発言
【問題行為】盗作の擁護(と見られる発言)及び、その後の自作削除の願いの乱用

【作者】はぴねす!
【問題の作品】はぴねす!
【問題行為】外部サイトからの盗作

【作者】リリカラー劇場
【問題の作品】魔法少女リリカルなのはFullcolor'S
【問題行為】盗作、該当作品の外部サイト投稿及び誠意のない謝罪
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 21:31:33 ID:QzwTJX1S
>>1
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 21:34:40 ID:aURwsmi6
>>1乙です。
6高天 ◆7wkkytADNk :2008/09/14(日) 23:55:29 ID:4uHrgg6b
では、失礼致します。


魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第10話

・次元世界

二人の騎士の技が激突し砂漠の大地に巨大なクレーターを作って尚、騎士達の剣舞は続いていた。
互いに魔力を大幅に使い切った今、残る攻撃手段は己の剣による剣術のみ。
砂を踏みしめる音、互いの剣がぶつかり合う音、バリアジャケットが切り裂かれる音、
甲冑が火花と共に削れる音、そして
「はぁああああ!!!」
「おぉおおおおおお!!!」
互いの叫び声が響き渡る。

「「っ!!」」
互いに一撃を見舞おうとした斬撃を、互いの剣で防いだ後、二人は後ろへと飛び、
剣を構えなおすと同時に、互いの様子を伺う。
先ほどまで響き渡っていた金属が激しく叩きつけられる音、互いの叫び声は聞こえなくなり、
変わりに吹き荒れる風の音、そして互いの荒い息遣いが聞こえる。

「(・・・・強いな・・・・・)」
レヴァンティンを構えなおすと同時に、荒くなった呼吸を整えながら、数メートル先で、
自分と同じ事をしているナイトガンダムを見据える。

あの騎士と剣を交えてから数十分が経過してる。だが、互いに決定打を与える事はできず、
ただ時間と体力と魔力を消費し、ダメージに関しても相手の鎧を傷つけるだけに終っている。
いや、ダメージなら自分の方がが大きい。
主であるはやてが戦う事を拒み、自分達が戦う必要が無いという事で与えてくれた甲冑とは違う戦闘服。
動きに関しては問題ないが、防御に関しては甲冑と比べるとすこぶる悪い。
それを証明するかのように、傷つけられた騎士服からは肌が露出しており、そこからは多少なりとも血が出ている。
正に主の優しさが仇となったと言っても間違いではない。だが、シグナムはその様な考えは微塵も持ち合わせてはいなかった。
むしろ申し訳なく思っている。主が与えてくれた騎士服を傷つけてしまった事に。

「(剣術はほぼ互角・・・・・だが、所々で使ってくる強化魔法が厄介だな・・・・その上向こうには盾があるから
防御に関しても分がある・・・・・どの道時間をかけ過ぎた、早めに決めないと・・・・まずいな)」

「(・・・・強い)」
剣を構えなおすと同時に、荒くなった呼吸を整えながら、数メートル先で、
自分と同じ事をしているシグナムを見据える。

あの騎士と剣を交えてから数十分が経過している。だが、互いに決定打を与える事はできず、
ただ時間と体力と魔力を消費し、ダメージに関しても相手の服を傷つけるだけに終っている。
だが、浅いとは言え、剣の直撃を受けた回数は自分の方が多い。
それに比べてダメージが少ないのは自身の鎧の耐久性と盾のおかげ。
戦闘に関しても、所々で使用している強化魔法でのゴリ押しで誤魔化しているに過ぎない。
7高天 ◆7wkkytADNk :2008/09/14(日) 23:56:30 ID:4uHrgg6b
「(剣の腕は互角・・・・・だが、スピードは多少なりと向こうに部がある・・いや、何よりリーチの差が一番の問題点か。
強化魔法での誤魔化しも魔力的にそろそろ限界・・・・・時間も思った以上にかけ過ぎた、早めに決めないと・・・まずいな)」
一瞬、脳裏に三種の神器が過ぎったが、その考えを直に捨てる。
サタンガンダムとの戦いで身を持って知った。あの武具は今の自分には過ぎた力だったと。
あの時は仲間を守るために、悪を倒すために我武者羅になって使った。
だが結果は有り余る力に自身の体が持たず、奴の最後の魔法を受けるという失態を晒してしまった。
「(修行不足という事か・・・・・まぁ、無いものねだりをしてる暇など無い)」

こちらの世界『地球』に飛ばされた時に、石版も再び二つに砕け、その内の一つが未だに見つからない。
だが、ナイトガンダムは石版の行方に関してはあまり関心は無かった。
確かに石版は強大な力を与えてくれるが、それは石版が選んだ者のみ。仮にその様は人物が現われても、
欠けた石版ではただの石の固まりと同じ、全く意味が無い。
だからこそ、彼は石版の捜索を率先して行わなかった。

「「(あの騎士、シグナム(ガンダム)も勝負を仕掛けてくるはず」」

「(ソーラ・レイ・・・・・時間が稼げれば・・・・・)」

「(シュツルムファルケン・・・・・・当てられるか・・・・・)」

互いに決め手を考えながらも、構えを変えずに互いを見据える。そして
二人の騎士は時間を稼ぐため、隙を作るため、再び剣舞を再開させる。だが、

                 
                  「そこまでにしてもらおう」


互いが地面を蹴った直後に響き渡る声、二人は直に反応し、踏み込みを中断する。
「っ!誰だ!!」
直に辺りを見回したが、姿が見つからないため、シグナムは大声で声の主に向かって叫ぶ。
その声には剣舞を中断された事への怒りが含まれており、並みの相手ならそれだけで戦意が喪失するほど、だが
「ふっ・・・・・・そう大声を出すな・・・・・」
声の主は、微動だにせずに上空から、二人の間に降りたった。
8高天 ◆7wkkytADNk :2008/09/14(日) 23:57:46 ID:4uHrgg6b
「(・・・何者だ?)」
体系からして男、だが、仮面を被っているため正体は全く分からない。
一瞬シグナムの仲間かと思ったが、彼女の態度からして違う事は直に分かった。
無論自分も、このような男は知らない。
管理局の武装局員かと思ったが、仮にそうなら自分に何か言って来る筈。その可能背は低い。
「何者ですが・・・・・貴方は・・・・・」
正体が分からない以上、警戒をするに越した事は無い。
再び剣を構えなおしたナイトガンダムは、多少強い口調で目の前の男に尋ねる。
すると男は、ゆっくりとナイトガンダムの方へと体を向け、
「はじめまして・・・・・・異世界の騎士」
胸に手を当て、恭しく頭を垂れる。そして
「さっそくだが・・・・・・剣を収めてもらおう」
ナイトガンダムのみに、剣を収めるように言い放った。
「(っ!彼女達の仲間か?)・・・・・すまないが、それは出来ない・・・」

静かに否定の言葉を呟きながらも、内心では湧き出る焦りを隠すので精一杯だった。
仲間ではないにしろ、この男に見覚えがあるのだろうか、先ほどからシグナムは黙って行方を見守っている。
それだけなら、自分と同じく様子見をしているだけと考えられるが、仮面の男は自分にのみ剣を収めるように言った。
シグナムの様子から彼女の仲間ではない事は予測できた。だが、自分に敵意があることは予測ではなく確定と言っても言い。
そうなると、この疲弊している状態で二人の手誰と戦わなければならないことになる。
正に絶体絶命、だが剣を収め、投降する気など微塵もない。


「・・・成程。だが、これを見ても同じ事が言えるか?」
そんなナイトガンダムの様子を予期していたのか、仮面の男は不意に右腕を開け、指を鳴らす。
すると男の真上に転送魔法陣が出現する。そして

               「フェイト!(テスタロッサ!!)」

転送魔法陣からゆっくりと出現したのは、ガラスのような透明な正四角錐、『クリスタルゲージ』に閉じ込められたフェイトだった。
気絶しているのか、目を閉じグッタリとしており、こちらの呼びかけには全く反応も無い。
「っ、人質か!!」
「見ての通りだ・・・・もし断るのなら・・・・・こうだ」
仮面の男の言葉に反応したかのように、クリスタルゲージはゆっくりと縮まり、中にいるフェイトを押しつぶさんとする。
その光景に、ナイトガンダムは無論、様子をうかがっていたシグナムも、顔を険しくし、仮面の男に切りかかろうとする。だが、
「やめといたほうが良い・・・・・今の疲弊してるお前達では、私に刃を振り下ろす頃には、あの少女はただの潰れた肉片になっているのがオチだ」
かわらない静かな口調。だが二人には明らかな自信が現れている事がありありと理解できた。
「卑怯者が!!」
シグナムは大声で仮面の男を罵った後、隠す事無く顔を顰め剣を下ろす。
ナイトガンダムは一度仮面の男をにらみつけた後、剣を盾にしまい、砂の大地に放り投げた。
「・・・良い判断だ・・・・では」
今度は誰にでも分かるほどに満足げに呟いた仮面の男は、手品の様に高々と上げた右腕からナイトガンダムに見えるようにカードを出現させ、
直にまた消す。その直後、ナイトガンダムの回りに光りの輪が出現し、彼を縛り付けた。
9高天 ◆7wkkytADNk :2008/09/14(日) 23:59:35 ID:4uHrgg6b
「・・・・・・さて、次はお前だ」
ナイトガンダムが拘束されたのを確信した仮面の男は、ゆっくりと体をシグナムの方に向ける。
あの時はシャマルを助け、今は外道な手段ではあるが、宿敵である騎士ガンダムを取り押さえた相手。
無論、このような男など知らないが、行動からするに自分達に利を与えてくれている。だが、やり方が気に食わない。
「・・・貴様の目的は知らんが・・・・・やり方が気に食わんな・・・・・・」
「やり方が気に食わんか・・・・・滑稽だな。そんな事を気に出来るほど余裕があるのか?お前達には?」
何もかも知っているような口ぶりに、シグナムは歯を食いしばり仮面の男をにらみつける。
確かに、今の自分の台詞は事態を知っている者から見れば滑稽という言葉がお似合いだろう。
自分達は一刻も早く闇の書を完成させなければならない。それこそ手段を選んではいられないほど。
だからこそ『卑怯』『汚い』そう言われる行為も率先してやらなければならない。
だが、自分の中の騎士としての誇りが、それらの行動を自然と制限していた。

「ふっ、プログラム風情が騎士道精神に忠実とはな・・・・・・・・まぁいい。先ずは受取れ」
仮面の男は此処に現れてから握られたままの左腕をシグナムに向けて突き出す。
身構えるシグナムを無視し、ゆっくりと掌を開く。そこには黄金色に輝く魔力の光、フェイトから抜き取ったリンカーコアが光り輝いていた。
「さぁ・・・・・奪え・・・・・」

目の前には高魔力のリンカーコアがある。もし収集すれば20ページ以上は稼げるだろう。
まさに絶好のチャンス。だが、シグナムは迷った。これで良いのかと。このような手段で手に入れてもいいのかと

      『やり方が気に食わんか・・・・・滑稽だな。そんな事を気に出来るほど余裕があるのか?お前達には?』

否、今という時にその様な考えはあの男の言う通り滑稽だ。
自分達は主であるはやての願いを踏みにじり行動している。そんな自分達が己の誇りや騎士道精神にすがり付いているなど、自分勝手にも程がある。
俯き、拳を力の限り握り締める。あまりの強さに血が滴り落ちるが、今は痛みを感じる事など出来なかった。
そしてゆっくりと顔を上げ、仮面の男ではなく、拘束されているナイトガンダムを正面から見据える。迷いの無い瞳で。
「言い訳をする気は無い・・・・軽蔑をしても良い・・・・罵ってくれても言い・・・・すまない。闇の書」
シグナムの声に反応し、彼女の右肩の付近に闇の書が突如出現する。そして仮面の男が握っているフェイトのリンカーコアから、魔力を吸収し始めた。
瞬く間にページに文字が刻まれ、中身を埋めてゆく。そして23ページ目の途中で文字の刻みは終了し、闇の書も再び何処かへと消えていった。
「・・・・・なぜ、全て奪わない・・・・以前の貴様達なら顔色一つ買えずに実行していただろう?」
「確かに、貴様の言う通り、我々には時間が無い・・・・・迷う私を滑稽と罵ったのも間違いではない。
だが、これ以上主の願いを踏みにじる事は出来ん・・・・・・・」

今までは人に限ってはリンカーコアを丸ごと奪うのではなく、蓄積されている魔力を奪う事で闇の書のページを埋めていた。
それならば、ページも埋まり、リンカーコア消失によるショック死で相手も死ぬ事はない。
主であるはやての未来を人殺しという汚名で汚さずに済む。彼女の未来を血で汚さずに済む。

「だからだ、残ったリンカーコアはテスタロッサに返してくれ・・・・・・頼む」
「・・・・彼女なら仮にリンカーコアを抜かれても死ぬ事は無い。邪魔な芽は機会がある内に積んでおく方が得策だと(返せといった!!」
射殺さん勢いで睨みつけながら言い放つシグナムに、仮面の男は一度わざとらしく溜息を吐いた後、
小さくなったリンカーコアを上空で囚われているフェイト目掛けて放り投げる。
ボールの様に放り投げられたリンカーコアは、フェイトを閉じ込めているクリスタルゲージをすり抜け、彼女の体に収まった。
「・・・・さて、次はあの騎士だ。彼女ほどではないが、高い魔力を秘めている・・・・・ああ、そうだったな」
何かを思い出したかのように頷いた仮面の男は再び体を拘束されているナイトガンダムの方へと体を向ける。そして
既に下ろしていた右腕を再び肩の高さまであげ、掌を向けると同時に足元にミッド式の魔法陣を展開、魔力を収束させ、
「弱らせた方が・・・・収集はしやすいのだったな・・・・」
拘束されているナイトガンダム目掛けて収束砲を放った。
10高天 ◆7wkkytADNk :2008/09/15(月) 00:01:12 ID:4uHrgg6b
ナイトガンダムは仮面の男によって体を拘束されている。だが、体を縛られているだけであって地面に縛り付けられているわけではない。
そして体系からか、拘束されているのは腕のみであり、両足の自由は利く。だからこそ避ける事も出来る、だが

    『やめといたほうが良い・・・・・今の疲弊してるお前達では、私に刃を振り下ろす頃には、あの少女はただの潰れた肉片になっているのがオチだ』

今はフェイトが人質に取られている。もし、自分がおかしな行動をしたら、あの仮面の男はフェイトに何をするか分からない。
ならばやる事は一つ。奴が望んでいる事を行えば良い。

仮面の男が放った砲撃は何の抵抗もせず、ただじっと立ち尽くしていたナイトガンダムに直撃した。
着弾による爆発の後、立ち込める爆煙から吐き出されるようにナイトガンダムは吹き飛び、砂の大地に叩きつけられる。
「利口だな・・・人質の事をちゃんと理解している。これで十分だろう・・・・・さぁ、奪え・・・・・・」

あの砲撃を正面から受けて尚、あの騎士はゆっくりとではあるが立ち上がり、自分を睨みつけてる。
だが、そんな威嚇など問題ではない。奴のリンカーコアを奪えば闇の書のページは更に埋まり完成に近づく。
本当なら自分があの小さな魔道師の様にリンカーコアを抜き取っても良かったのだが、あの守護騎士の態度がどうにも気に入らない。
プログラム風情が騎士道精神や誇りなど、馬鹿馬鹿しいとしか思えない。
だからこそ奴にやらせる。武器も持たず拘束され、傷つき、人質まで取られている相手を攻撃するなど、
騎士道精神や誇りなどに酔いしれている奴には耐え難い屈辱だろう。
「(だが、そんな屈辱も・・・・・直に感じなくなる・・・・・・永遠にな)」
今は闇の書を完成させるために強力してやろう。だが、時期が来ればお前達も餌となる。そして貴様が慕っている主も・・・・・

                     「(そう、全ては父様のために)」


今仮面の男はナイトガンダムの方に体を向けている。だからこそ気が付かなかった、シグナムの表情が怒りを通り越して冷めている事に。
「・・・レヴァンティン・・・・」『Schlangeform 』
レヴァンティンに残ったカートリッジをロードし、レヴァンティンをシュランゲフォルムへと変形させ、拘束されたナイトガンダム目掛けて振るった。
鞭状連結刃となった刃は凄まじいスピードでナイトガンダムに迫る。
二人の間にいる仮面の男を通りすぎたレヴァンティンは、目を閉じ、立ち尽くしているナイトガンダムに容赦なく直撃した。
刃と鎧がぶつかり、激しい金属音が響き渡る。

「ふっ、所詮プログラム風情の誇りなど、目の前の餌には勝てぬほど薄っぺらいもの」
ナイトガンダムがレヴァンティンの餌食になる光景を仮面の男は満足げに見ていた。心の中でシグナムを貶しながら。
これであの騎士は完全に戦闘不能、奴から魔力を収集すれば今回の任務は完了する。
だが今回は、臨時ボーナスとしてあの騎士のプライドをズタズタにしてやることが出来た。対した実りではないが、満足感なら断然こちらの方が大きい。
後はこの少女を此処へ放置し撤退すればいいだけ。全ては上手くいった・・・・・・かに見えた。

仮面の男が異変に気が付いたのは、ナイトガンダムを攻撃した鞭状連結刃が、シグナムの元には戻らず、上空へと上がった事だった。
だが直に理解できた。おそらくあの守護騎士は上空で囚われているフェイト・テスタロッサを助けるつもりなのだろう。
「(まぁ、いいさ・・・・・好きにするが良い・・・)」
この少女の人質としての価値は無い。今更手元にいなくなろうがどうという事はない。もう作戦は成功したからだ。

ふと、仮面の男は後ろでレヴァンティンを振るっているシグナムの表情が見たくなった。
おそらく・・・いや、ほぼ確実に屈辱に打ちひしがれた顔をしているに違いない。自分自身で誇りを踏みにじったのだ、
悔し涙を流しているかもしれない。それを考えると愉快で仕方が無い。
早速確かめるために、仮面の男はシグナムの方へと顔を向ける。
だが、これらの作戦を計画通りに遂行していた仮面の男の推測は、此処に来てはじめて外れた。
11高天 ◆7wkkytADNk :2008/09/15(月) 00:02:35 ID:eGqd+Kl6
シグナムの表情は、予想していたものとは違った。屈辱に打ちひしがれているわけでもなく、獰猛に微笑んでいたからだ。
同時に背中から突如発生した魔力反応。仮面の男は咄嗟に後ろを向く、そこには
「騎士・・・・・ガンダムだと!!?」
奴は確かにレヴァンティンの直撃を受け行動不能になった筈、だが、実際は行動不能にはなっておらずに
自分目掛けて突撃している。
「・・・・・奴め、バインドのみを斬り裂いたのか」
良く考えれば不審な点は幾つもあった。

なぜ、あの守護騎士は普通に斬りかからずに鞭状連結刃という面倒な武器を使ったのか。
ナイトガンダムは拘束され、ダメージも負っている。
そんな相手にカートリッジを無駄使いするほど、奴らは備蓄しているとは思えない。
普通に近づき、剣を叩きつける・・・・いや、ダメージを負っている以上ただ収集すれば良い。

そして鞭状連結刃が直撃した時に聞こえたのは金属音のみ、音からして奴の鎧に当たっただけにすぎない。
もし普段の自分だったらそんな事など気付いていただろう。だが、自分は少なからず作戦の成功に酔いしれていた。
完璧に事が運んだと信じきっていた。その油断が、今の状況を作り出してしまった。


「ホバー!!」
仮面の男がシグナムの方へと体を向けた瞬間、ナイトガンダムは体を起こすと同時に強化魔法で自身のスピードを上げ、
投げ捨てた盾の所へと向かう。
彼には確信があった。シグナムが自分を攻撃しないという確信が。確かに自分の魔力が目的だろう。そして自分が拘束されている今は正に絶好の機会。
だが、主に忠誠を誓っているとは言え彼女も騎士、拘束され、人質を取られ、ダメージを負っている自分を堂々と攻撃できるとは思えない。
フェイトの魔力を奪った時の彼女の表情から感じ取れた。彼女は苦しんでいる。自身の騎士道精神や誇りと主への忠誠心に。
ならば答えようと思う。フェイトを助けた後、再び一対一で剣を交える事で。
無論負けるつもりは無い、だが堂々と自分を打ちのめし手に入れた魔力なら彼女も満足はする筈。だからこそ
「だからこそ、先ずは貴様を倒す!!」
仮面の男はようやくナイトガンダムの存在に気付き、咄嗟に右腕を翳し直に撃てる魔力弾を連射、弾幕を張る。
だが、その魔力弾をナイトガンダムは高速移動しながらも全て避けきり、砂の大地に置かれている盾の元へと到着、収まっている剣の柄を掴み、
「はぁあああああ!!!」
力の限り横薙ぎに振るった。力の限り振るったたため、盾が遠心力により剣から離れ吹き飛ぶ。
剣から離れた盾は、振るったときの遠心力も加わり、一つの回転する鉄の固まりとなって仮面の男に迫る。
「ふっ、何かと思えば?」
ナイトガンダムが接近して来た時はさすがに焦ったが、その後の攻撃方法は正に幼稚、
自分にそんなあてずっぽうな攻撃が聞くと思っているのだろうか?
それを証明するかのように空いている左腕で、迫り来る盾を難無く払い落とす。その直後

              魔力刃が仮面の男に直撃し、豪快に吹き飛ばした。

ナイトガンダムは、盾が防がれる事は承知していた。いや、そもそも盾は攻撃手段ではなかった。
本当の攻撃手段は剣を振るうことで発生させる魔力刃『ムービーサーベ』、振り投げた盾はただの囮に過ぎない。
咄嗟に考えた戦法だが、見事に通用した。
12高天 ◆7wkkytADNk :2008/09/15(月) 00:04:00 ID:eGqd+Kl6
「・・・・・貴様・・・・・」
仮面の男は怒りで声を震わせながらゆっくりと起き上がる。直にでもあの騎士に報いを与えてやりたい。
だが、不意打ちで受けた攻撃が思った以上のダメージを自分に与えている。
それが原因なのか、自身に施した強化魔法と変身魔法も維持するのが難しくなってきている。
あの騎士はクロノ達と顔見知りなのは調査で把握している。この一件が進むにつれ、否が応でも本来の姿である自分と顔を合わせる可能性が高い。
だからこそ、此処で自分の素顔を知られるのはマズイ。
「まぁ・・いいさ・・・・目的は・・・・・・達成された」
仮面の中でほくそ笑んだ男は、足元に転送魔法陣を展開、ナイトガンダムが斬りかかるより早く、その場から撤退した。


「撤退したか・・・・・」
周囲を念入りに確信はしたが、気配も魔力反応も自分を含め3つしか確認されない。
一度息を大きく吐いた後、正面にいるシグナムを見据える。
「安心しろ・・・・テスタロッサは気絶しているだけだ」
彼女は既に助け出したフェイトの症状を見ており、ナイトガンダムに命に別状が無い事を告げた後、彼女体を優しく砂漠の大地に横たえた。
「・・・・・・一つ聞かせて欲しい・・・・・」
フェイトの容態に心から安心した後、戦う事を放棄したかの様に剣を下ろしたナイトガンダムは、正面からシグナムを見据え尋ねる。
彼の話を聞くことにしたのだろう、黙ってはいるが、シグナムもまた、剣を構えるような事はしなかった。
「・・・・・君達が闇の書を完成させようとしている理由だ。君からは悪意が感じられない。
だが、己の誇りを汚してまで完成させようとする・・・・・何故だ?良かったら話して欲しい、協力できるかもしれない」
一時は傲慢な主に言いように使われているのではないかと思った。だが、資料で見せてもらった前回の事件とは違い、
人を殺さないで収集してる事が、その考えを否定している。そしてあの仮面の男の言葉

         『やり方が気に食わんか・・・・・滑稽だな。そんな事を気に出来るほど余裕があるのか?お前達には?』

これは完成を急いでいると考えてよい。だが、人から収集した場合はリンカーコアその物を残しておくという手間を取っている。
そう、まるで人殺しを避けているかのように・・・・否、
「・・・・・・主に・・・・殺人という汚名を着せたくないのか・・・・・・」
図星だったのだろう、シグナムの表情に明らかな驚きが現われた。
そして一度息を吐くと、観念したかの様に自嘲気味に笑いながら話しだす。
「ああ・・・・その通りだ。我々は主の未来を殺人という汚名で汚したくは無い。だが一つだけ言わせてくれ。
今回の収集は我々が勝手に行っている。主は全く関係ない・・・いや、主は私達が収集を行っていることすら知らない」
「なっ・・・・それは・・・・・・・、いや、ならば・・・・・」

シグナムの言葉をヒントとし、ナイトガンダムは咄嗟に考える。資料で見た限りでは闇の書は強大な力を主に与える。
それには他者から魔力を奪う必要があり、それらの行動をするために守護騎士達が存在する。
だが、シグナムは『主が収集のことを知らない』と確かに言った。
守護騎士である以上、彼女達が闇の書の効力を主に言わない筈がない。だからこそ主は知っている筈、強大な力が手に入ると。
それなのに、シグナム達は主に命令された所か、主に内密で収集を行っている。
これは主が闇の書の力を必要としてないと考えて良いだろう。そうすると彼女達は主の思いを無視して収集を行っていることになる。
彼女ほどの騎士だ、主の命に背いてまで行動するなど、耐え難い屈辱だろう。その屈辱を自分の意思で受け止めて尚行動するからには、
それ相応の理由がある筈・・・・・いや、考えられる可能性は殆ど無い。

「・・・・・・主に必要不可欠なのか・・・・・・闇の書の力が・・・・・・・」

それなら、今までの考えに辻褄が合う。
13高天 ◆7wkkytADNk :2008/09/15(月) 00:05:27 ID:eGqd+Kl6
おそらく今回の闇の書の主は心優しい人物なのだろう。それならば、他者を犠牲にする事で手に入れる事が出来る強大な力を否定する筈、
彼女達守護騎士も戦う事などせずに、平穏に暮らしてれば良い。おそらく主もそれを望んでいた筈。
だが、その主の願いを破ってまで闇の書を完成させようとする理由、主にその力が必要不可欠だと言う事しか考えられない。
主に内密にしているのは、もし知られたら止められるから。もしそんな事になったら彼女達は本当に今度こそ行動する事が出来ないだろう。
だからこそ主に知られずに内密に行動している。

「・・・・ふっ、心を見透かされている様で・・・いい気分ではないな・・・・」
溜息を吐いた後、観念したかのようにシグナムは呟く。だが、構えを崩そうとはしなかった。
正直驚いている。僅かなヒントであの騎士は我々の目的を、思いを当てたのだから。
だが、戦う事を辞めるつもりは無い。仮に管理局に真実を話したところで、主が助かるとは思えない。
むしろ、『闇の書の主』という事でどんな扱いをされるのか、想像するだけで恐ろしくなる。
だからこそ我々は、守護騎士ヴォルケンリッターは、誰にも頼らずに収集を行う、誰にも頼らずに主を助ける。
『汚い』と罵られても、自身の誇りを踏みにじってでも。

「(・・・・・話は・・・聞いてくれそうには見えないな・・・・)」
今の彼女の瞳は、正に己の決意を再確認し、確固たる物とした力強い瞳。
己に覚悟が無い限り、このような瞳は決して出来ないだろう。
ならば、自分も受けて立つのみ、それが彼女への礼儀でもあり、思いを伝える唯一の方法。
ナイトガンダムもゆっくりと剣を構える。再び砂漠の大地に剣舞が開始されようとしたその時、
「(ガンダム!ガンダム!!)」
ナイトガンダムの頭の中に聞き覚えのある声が響き渡る。その声がアルフだということ気が付くにはそう時間は掛からなかった。
構えを崩さず、シグナムからを話す事無く念話に答える。
「(アルフか?)」
「(ああ、今そっちに向かう、あの犬っコロはバインドで何重にもふん縛っておいたから暫らくは動けない筈さ、そっちはどうだい!?)」
「(・・・・・・・・すまない、戦いの最中にフェイトを人質に取った未確認の敵と戦う事になり、その敵と守護騎士には逃げられてしまった。
フェイトは命に別状は無いがリンカーコアから魔力を奪われ体力の消耗も激しい、至急救援の手配を頼む)」
『フェイトを人質に取った』という言葉に目に見えてアルフは慌てたが、主人を救いたいという気持ちが彼女を突き動かした。
簡潔に今の場所を聞いた後、力強く返事をし念話を切る。
「救援か・・・・・どうやら運はお前に味方したようだな・・・・」
シグナムの言葉に、ナイトガンダムは目に見えて驚きを露にする。
一瞬会話内用を口に出してしまったのではないかと思ってしまう。
「どうやら思念通話・・・・念話が使えるようになったのは最近らしいな。素人が使う場合は盗聴されやすい、気をつけることだな。
だがどう言う事だ?私が逃げたというのは?」
念話を盗聴されたのは純粋な失敗だった。使い方のみを聞き、注意事項を聞かなかった自分を責めたい気分になる。
だが、今回に関しては説明の手間が省けたので良しとしようと思う。
「(このような場合・・・・確かアリサが言っていたな・・・『結果オーライ』と)聞こえていたのなら話しは早い。
どうか我々を見逃して欲しい」
戦闘の意思がない事を証明するため、持っていた剣を静かに地面に置く。
「・・・どういうことだ?貴様の仲間が来れば形勢は逆転する。なぜその様な事を言う?」
「私にはもう、戦闘を出来るほどの体力も魔力も残ってはいない。仮に戦っても数分と持たないだろう。
だがそれは君も同じ。仮に私が勝てなくても、足止めを、もしそれすら出来なくても更に体力を消費させる事が出来る。
そうなれば貴方も逃げ切れる事が難しくなる筈・・・・・違うか?」
彼の言い分は半分は当たっている。確かにこのまま戦えば、自分は逃げ切る事が難しくなる。
だが他は違う。先ずはナイトガンダムの状態、確かに体力も魔力も消費はしているが、数分と持たないという事はありえない。
足止めや時間稼ぎは無論、自分が負ける可能性もある。
14高天 ◆7wkkytADNk :2008/09/15(月) 00:07:09 ID:eGqd+Kl6
なのになぜナイトガンダムは嘘をついたのか。同情?情け?いや違う。
「・・・・・テスタロッサを助けた礼か・・・・・」
「それもある。だがこの勝負、邪魔が入ったため互いが全力を出し切る事無く、未完で終ってしまった。
だからこそ再び剣を交えたい。全力で・・・死力を尽くして」
地面に置いた剣を再び広い、切っ先をシグナムに向ける。
「今回は重要な情報を引き出すことが出来たが、それは私の推測が正しかったにすぎない。だからこそ、
今度は勝負に勝ち、本当のことを、君の口から聞きたい」
目の前の騎士に、シグナムは純粋に好意を抱いた。同時に残念に思う。
もし、今の立場が味方同士だったら、自分達はよい友に、良い好敵手になっていたに違いないと。
「ああ、良かろう、騎士ガンダム!!再び剣を交えよう!正々堂々と!!力の限りに!!!」
シグナムもまた、レヴァンティンの切っ先をナイトガンダムに向ける。互いの剣が自然とぶつかり合い交差する。
騎士として、互いの再戦を誓い合うために。

シグナムが転移した事を確認したナイトガンダムは、フェイトの様子を見るため近づこうとするが、突然の立ち眩みに襲われ、
足をもつれさせ転倒してしまう。いや、これは立ち眩みなどではなかった。
「・・・・・・思った以上に・・・ダメージが・・・大きかったな・・・・・」
先ほどまでは、自然と気を張り詰めていたため普通に会話や行動をする事ができたのだろう。だが、
今はシグナムも、仮面の騎士も撤退し、救援ももう直到着する。そんな安心感が支配した瞬間、体は正直になった。
どうにか力を振り絞り顔を上げる。目もかすんでよく見えないがぼんやりと見える人影、
自分の名を必至に呼んでいる事から、おそらくはアルフだろう。
その救援が到着したという更なる安心感が彼を襲い、意識を奪っていった。


・24時間後

:アースラ内救護室

「・・・・・ん、ここ・・・・は・・・・・」
小さい唸り声を上げながら、ナイトガンダムはゆっくりと目を開ける。
最初に目に入ったのは真っ白な天井ではなく、天上一面を覆う照明の光り。
特殊な光りなのだろうか、明るい割には目覚めたばかりの瞳が痛くなるような事は無かった。
「・・・・・ここは・・・・どこだ・・・・・」
ベッドから上半身を起こし辺りを見回す。隣には自分が寝かされているベッドと同じ物があり、
窓から見える景色は夜の様にほの暗い。
「あれは・・・・次元空間内の景色・・・・そうなると・・・・」
「此処は本局か次元航行艦の中か?」そう呟こうとした瞬間突然扉が開き、リンディが入ってきた。
「ガンダム君!!良かった・・・目が覚めたのね」
心から安心した笑みを浮かべたリンディが小走りでナイトガンダムの元へと近づき、彼の体を支える。
「ああ、すみません。リンディ殿・・・・ここは・・・・」
「ここはアースラの艦内、貴方は砂漠での戦闘でダメージを負って気絶していたのよ」
リンディの言葉を聞きながら、あの時の事を思い出す。
シグナムとの戦闘、謎の仮面の男、人質になったフェイト
「っ!フェイトは!!フェイトは無事ですか!?」
「安心して、そして落ち着いて。フェイトさんならリンカーコアを吸収された以外、怪我は無いわ。さっき目覚めたばかりよ。
むしろ貴方の方こそ大丈夫、回復魔法で傷は塞がったけど・・・・・疲れや痛みはない?」
身を乗り出しながら尋ねるナイトガンダムに、リンディは安心させるように微笑みながら彼の肩に優しく手を乗せる。
自信の落ち着きの無さを恥じると同時に、リンディの母親としての暖かさに、心が自然と癒されていく。
「・・・・いえ、大丈夫です。それに申し訳ありませんでした、取り乱してしまって」
「いいのよ、それよりお腹すいてない?何か軽い食べ物でも持ってくるわね」
笑顔で手を振り部屋空でていくリンディを、ナイトガンダムは笑顔で見送る。そして
「・・・・・大人しく待とう・・・・・話はそれからでも出来る」
再びベッドに体を横たえ、体を休める事にした。


こんばんわです。投下終了です。
>>1乙 です。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。
職人の皆様GJです。
次は何時になるのやら・・・・orz
15名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 00:21:58 ID:fs4nhZjO
>>高天氏
GJでした!!
ナイトガンダムvsシグナムの決着は一先ず先送りという形になりましたか……
でも、その後の二人のコンビネーションによる仮面の男へと攻撃はとても良かったです!!
(正直気持ちがスカっとしましたww)
徐々に真実に近付きつつあるナイトガンダム達、次回も楽しみに待っています!!
16名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 16:33:57 ID:itY8Y1J1
高天氏GJでした!
騎士同士のバトルは熱いぜ!


と、あまり関係ないんだけど、岡田芽武なリリカルなのはというのをちょっとだけ妄想した。

夜 天
乃 王

とか書き文字で登場するはやてとか出そうだなーと。
いや、それだけだが。

その者は、叢雲(くも)を従えやってくる。
その姿は王のように気高く
その瞳は死のように冷たい
その閃光は闇を切り裂く――

…うん。無理。
17名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 17:18:41 ID:C5Nj+54x
>>14
かっこいい戦いです。GJ!
18名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 18:50:36 ID:AvQFFB2P
仮面男の外道度が上がってる…!
騎士対騎士の戦いってなんかいいね。かっこいい。
19ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 19:25:44 ID:XjOFS/Lr
間に合えば、22時50分に投下予約を。
20名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 19:35:10 ID:EHmb0Hrv
>>19
間に合えばって。
確実な時間にすることをお勧めしますが、大丈夫ですか?
21名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 20:11:41 ID:8AxjxrNm
>>19
まだ書き上がってないなら書き終えてから予約することをお勧めします
22名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 20:18:26 ID:t/QjJZ3u
推敲はすべきだろ・・・jk
23名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 20:42:21 ID:tfs/reLk
まあ落ち着け
24魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/09/15(月) 20:43:45 ID:IVK7hRFT
ではそれまでに時間の余裕もあるようですし、魔法殺し屋☆ピノッキオの代理投下を行いたいと思います。
今は大丈夫でしょうか?
25名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 20:49:25 ID:iqVXGQp5
OK!
26魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/09/15(月) 20:50:25 ID:IVK7hRFT
了解しました! では代理投下、行かせていただきます
======

時空管理局 本局上層部直轄である特務監査部の朝は早い。
しかし夜は早く寝れるという事も無い。ようは睡眠時間を極限まで削らなければ職場だと言う事だ。


「……あのヒゲ大将が……いてこますぞ、ワレ……」

とある本局の一室でその女性は、あまり品の無い寝言を呟きながら盛大に寝ていた。
暗い執務室兼私室で、書類が散乱する仕事机に座ったまま、上半身を机の上に投げ出す体勢でだ。
彼女の名前は八神はやて。彼女の名前は管理世界の一部では有名である。
胸元まで盛大に開け放たれたワイシャツ姿だったり、周りには空の酒瓶が落ちていたりするが……

「好きでお前におべっかなんぞ……」

寝言は続く……しかし八神はやては有名人である。
管理外世界の出身でありながら、類稀なる魔法の才能に恵まれた少女にして、最悪と呼ばれた闇の書最後の主。
若くして部隊運営を任され、緊急対応のモデルケースとして作った部隊は、あの奇跡の機動六課として大成功。
そして今は……『血の特務監査部』の主任である。


「あぁ……お好み焼きが食べたいなぁ〜」

特務監査部は古くからある部署ではない。かのJS事件後に作られた新しい部署だ。
しかしその特性 本局内部に対する徹底的な綱紀粛正や、噂の域を出ないとはいえ裁判無しでの殺害権限から恐れられている。
後にも先にもこのような部署が設けられた事は無く、それだけこの時期に管理局全体がどれだけ混乱していたのかを推し量る事ができるだろう。
そして八神はやてと言う人物の経歴を後の歴史家が振り返った時、この時期の彼女 つまり特務監査部主任の評価はハッキリ分かれる。
一つは『管理局のために身を粉にして働き、後に続く要職歴任の礎とした』と言う意見。
もう一つは『人道的な配慮に欠け、己の利益の為に何でもした』と言う意見。
だがどちらの意見もその期間を『現在』とする八神はやて本人には知りえないし、関係の無い事だ。


今彼女にとって重要な事は……朝一の会議に遅刻しそうだと言う事だろう。



「はやてさん……はやてさん?」

そんな大絶賛遅刻危機なはやてに扉越しに掛けられるのは救世主の声。
しかし何時も通り寝酒を深酒した彼女はその声にも耳を貸さず、起きる気配が全く無い。

「もぉ……入りますよ」

ピッと軽い電子音が正規の方法を用いて開かれた事を示す。
入ってきたのは金紗の髪をツインテール、浅黒い肌に整った容姿をした少女だった。
手にはスペアに当たるこの部屋のカードキー、身を包むのは管理局の制服。
迷わず壁際のスイッチを叩き、灯された照明の下で飛び込んでくる風景に彼女はタメ息。
なぜならば部屋の主は居眠り学生よろしく机に座ったままグースカ寝ていたのだから。

「起きて下さい。会議が始まりますよ」
27魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/09/15(月) 20:51:33 ID:IVK7hRFT
言葉を掛けられながら肩を揺らされたとなれば、流石の酔っ払いも目を覚ますだろう。
しかしはそれも『目を覚ます』というだけの事。

「むぐぅ……誰やぁ〜こんな朝っぱらから会議をセッティングしたのわぁ!」

「昨晩、やる気満々でセッティングしたのは……アナタです」

現在進行形で寝ぼけている。勢いよく上げられた頭、薄っすらと開いた瞳は何時も以上に濁っていた。
不意にガバッと上げられた頭を含め、八神はやての全てが停止する。何事か?と少女が首を傾げれば……

「…頭が痛いんよ…」

「水でも飲んでください」

「連れてって」

省略しまくっているが、その言葉の言わんとするところは『水を飲むので飲む事が出来る場所まで連れて行け』と言う意味だ。
『はやてよりも小柄な少女がそんな事を出来るはずが無い』
それが普通の人々が普通の人間に抱く感想。

「しょうがないですね……うっ!」

だが少女は容易くはやてを持ち上げたのだ。所謂お姫様抱っこ……から誠意を抜いたような形で。
そして近づいてみれば他人様よりも利く彼女の鼻は、猛烈なアルコール臭に顔を顰めた。
そこでふと考える。
『コイツをこのまま会議に出していいものか?』と。本人は全く気にしないだろう。
他の会議のメンツも『本気になれば次元航行艦とタイマンを張る』と恐れられる特務監査部主任に文句を言うまい。
だけど……私は気になる。しばらく会っていないルームメイトからも、『面倒見が良い』と評される性格のおかげだろう。
連れて行く先は決まった。

「ほわぁ? お風呂やん」

「シャワーを浴びてきてください。薬と水を用意しておきますから」

大きな欠伸をしながら首を傾げるはやてを、テキトウな感じで下ろして少女は言う。

「ほんまに甲斐甲斐しい娘やな〜トリエラは。よ〜し、私のお嫁さんになるんよ」

「ヒルシャーさんを見つけて許可を取ってくださいね」

背後から聞こえる脱衣の音、ソレに続くシャワーの水音を聞きながら少女 トリエラは会議が開かれる場所を思い返す。
どうして自分が……『武器』でしかないはずの自分がこんな事をしているのだろう……と。
それでもやっぱりトリエラはそういう人なのだ。会議がある部屋を思い返して呟く。

「主任は遅れますって……謝っておかないと」

『血の特務監査部』とか『虐殺部隊』と恐れられる部署の構成メンバーが送る平和な朝。
28魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/09/15(月) 20:53:43 ID:IVK7hRFT
ゲンヤ・ナカジマは忙しい人物である。どれくらい忙しいかと言えば、クラナガン1忙しいだろう。
なぜならクラナガンの治安など多岐に渡る分野を統括する、時空管理局地上本部の実質的なトップに彼は居るのだから。

「この件についてだが管轄区域の再配分も踏まえて……」

そんな言葉で始まった会議は数分のインターバルを挟みながら、何度も名前を変えて継続されること数回。
JS事件により露見した陸と海の様々な格差を是正するという名目で、この地位に着かされたゲンヤには仕事と敵が多い。
ある意味海と陸の両方から睨まれていると言って良いだろう。
どちらにもコネクションを持つと言うのは、どちらにも気を使わなければ成らないと言うこと。

「だが海の連中はこのプランじゃ呑まねえぞ?」

「しかしそれでは根本的な改善の……」

一つの案件でもお互いの利益が錯綜する場合、海と陸ではどうしても隔たりが出来てしまうもの。
片方だけ突っぱねるような事は出来ない以上、どちらにも配慮と譲歩をした案で通すしかない。
ゲンヤはその調整役兼……いざと言う時の生贄。責任を取って辞めて貰うために責任者は存在するのだから。



「もうこんな時間か……」

会議を終えた後、淡々とデスクワークを積み上げていたゲンヤは、すっかり冷め切ったコーヒーを口に含みながら呟いた。
大きな窓から一望できるクラナガンの町並みは世闇に染まり、人工的な地上の星が輝き出す。
そんな光景を見下ろすこの場所を揶揄する言葉に『王の椅子』と言うものがあった。
これは以前この場所で強権的に地上の治安を守ってきた人物 レジアス・ゲイズ元中将に対する皮肉なのだろう。
だがこの部屋の主になってしまったゲンヤには、そんな皮肉が全く的外れなものである事は直ぐに解った。

「アンタはすげえや……レジアス中将」

座ったからこそ解る王の椅子の重さ。優秀な人材は海から引き抜かれ、限られた戦力でこんなに広いクラナガンを守ると言う事。
それがどれだけ大変な事か、見ているだけだった者たちにはきっと解らない。

「俺なんてもう挫けそうだってのに……ここをずっと一人で」

確かにゲンヤが着任してからは管理局全体が忙しい時期だ。レジアスよりも一日の仕事量は多いのかもしれない。
だが彼が感服するのはその期間の長さ。今は陸と海の戦力差見直しが表向きとは言え進んでいる。
つまりこの忙しさやプレッシャーも何れは改善するだろう。だがレジアスの時はそうではなかった。
もちろん改善要求や予算編成は提出したのだろう。しかしそれも却下され続けたのだから、先の改善など見込めない。
それでも長い期間、地上の平和を守り続けてきた。その果てに辿り着いてしまったのが、戦闘機人計画だったのだろう。
29魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/09/15(月) 20:55:28 ID:IVK7hRFT
「そう言えばギンガはダウンしてねえかな?」

仕事の忙しさが『公』の問題だとしたら、愛しい娘の心配が『私』の問題。
発端は血のアフター5と呼ばれる無差別テロ事件。彼の娘 ギンガはその事件に偶然居合わせて、犯人達と交戦・負傷したのだ。
だが問題はその後だろう。負傷は彼女の特殊な事情を考慮し、もぎ取った技術権限で速やかに治療できた。
その後に開かれた状況説明会と言う名の取調べも、大きな負担にはなっただろう。

「しっかし運が良いんだか悪いんだか……」

問題はゲンヤの裏の行為が全くの偶然で露見してしまった事。
確かに子飼いの殺し屋を諜報員として、娘に紹介するゲンヤも問題だといえばその通り。
しかし親密な関係になったギンガと殺し屋がデート?何ぞしていたからこそ、ゲンヤは娘を失わずに済んだし、テロも早期に解決できた。
だが残念な事に殺し屋はやっぱり殺し屋であり、管理局員の目を考慮してターゲットを生かして捕まえる……何て事は選択しなかったのだ。
迅速かつ確実、永続的に対象を無力化する方法は何だろうか? 答えは簡単『殺す』こと。
本人の報告と全てが終わってから突入した陸士部隊、どちらからもその成果の報告は受けている。
犯人グループは鮮やかな手際で皆殺しだったらしい。つまりギンガもその惨状を目撃してしまった。

『父親に雇っていると紹介された人物が、テロリストとは言え容易く人を殺した』

そんな事実から一端の捜査官であるギンガならば辿り着ける推測は……

『父親は殺し屋を雇い、暗殺を行っている』というものだろう。殺し屋から事の顛末を聞いてから、ゲンヤは彼女に会っていない。
心配じゃないといえば嘘になるが、それよりも会って問い詰められる事が父親的には恐ろしい。

「必要なこと何だがな……おっと噂をすれば……」

据えつけられ通信端末が電子音を立ててチカチカと明滅。ディスプレイに並ぶ文字が示すのは秘密回線だと言うこと。
つまり公に連絡をとる事が出来ない相手。

「俺だ。トラブルか?」

「いや、仕事は滞りなく終わったんだけど……」

名前を出すことも無い会話だが、ゲンヤは訝しげに首を傾げた。
有能な殺し屋、人間味に些か欠ける樫の木で出来た人形、ピノッキオが言い難そうにするとは……

「電話を貰ったんだ……ギンガさんから」

その言葉にゲンヤが慌てる事に成る。

「これから会わないか?って言われけど、明確な返答はしていない。場所と時間を言われただけ。
 僕は……行くべきかな? 雇い主と父親の意見を聞きたい」

普通に考えれば行くべきではない。だがそれは地上本部を纏める者としての言葉。
思い出すのはピノッキオの話をしているときの娘の顔。父親、ゲンヤ・ナカジマとしては、こう言わざるえない。

「勝手にしろい」
30魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/09/15(月) 20:56:46 ID:IVK7hRFT
ギンガ曰く『デートの続き』である本日の予定はディナーから始まる。
場所はあの日の予定通り、ショッピングモール最上階に設けられたレストラン。
事件が直接的に起こったフロアは閉鎖されたままだが、他の階は元気に営業している事から、商売人の心意気を感じる。
値段もソコソコするが、味も良い。オシャレでありながら、堅苦しさを感じさせない。そんな何処にでもあるお店だった。

「やぁ」

「来てくれたんだ」

先に予約したテーブルについていたギンガは、あの日と同じく若干遅れてやってきたくすんだ金髪の青年 ピノッキオを迎える。
その顔は決して喜びだけで輝いては居らず、不安を筆頭にした不の感情がチラホラと顔を覗かせる。
そんな彼女の様子を気にした風もなく、前回と同じサングラスを外しながらピノッキオは席に着く。
だが一つだけ違うところがある。それは……

「その服……」

「ん? あぁ、この前に買ってもらった服だよ」

ヨレヨレのモノではなく、真新しいノリが効いてパリッとしたジャケット。
適度に着崩しているがソレを下品と感じさせない着こなし。どれ今までのピノッキオではありえないことだ。

「着てくれてるのね?」

「服だからね。着なきゃ意味が無い」

「……」

そういう事ではない! アナタが着てくれたからこそ嬉しいと思うのだ!!……なんて考えが通じる相手ではない。
ふとギンガは思い出してしまう。電話越しにした質問。それに重ねて自分の選んだ服を着ている事で生まれる複雑な感情。

「お仕事……してきたの? その服で?」

「いや、仕事をする時はバリアジャケット。処理が楽なんだ、血とか」

適度に落とされた照明の店内には落ち着いたBGMが流れ、会話が他に届くことはない。
しかし簡単に出てくる「血」と言う単語がピノッキオの感性や仕事柄に再認識させていた。

「……そう」

意識すると目の前の人物 好意さえ抱いていたはずの青年ですら、酷く恐ろしいものだとギンガは感じてしまう。
呆然と見ていることしか出来なかった鮮やかな手捌き。料理をするかのような手軽さ、職人のような正確性で命を奪う。
ここは既にピノッキオの間合いだ。背筋を駆け抜ける寒気。ギンガは待機状態のブリッツキャリバーを握り締めた。
31魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/09/15(月) 20:58:28 ID:IVK7hRFT
しかし緊張の相手が口にするのは意外な言葉。何時ものやる気の無い表情にわずかに見える安堵の色。

「良かった」

「え?」

運ばれてきた前菜を落ち着いた動作で口に運びながら、ピノッキオが呟いたのはそんな言葉。

「本当に元気みたいで……反応も早いしね」

「っ!?」

ギンガはドキンと心臓が高鳴り、加減を失った手からブリッツキャリバーが滑り落ちそうになる。
慌ててキャッチすれば体が動き、椅子とテーブルの上に食器がカシャリと音を立てた。
周りから集まる視線にカッと赤くなる顔。その様子にもフォークの動きを止めない相席者。

「不意討ちの時に闘志や殺気を表に出しちゃダメだ」

「精進します……」

ちょっとムスッとした顔のまま、ギンガは料理に手をつけた。そこからは何時も通りの二人。
決して弾むような会話では無いが確かに紡がれる優しい空気。ギンガの言葉にピノッキオも端的ながら答えていく。
そんな時間だからこそ本当の問題が忘れられてしまうそうで……だけどしっかりと諍いの種は残っていた。

「貴方にとって人殺しってどういうこと?」

運ばれてきたメインディッシュ 若鶏のソテーを前にして、今までの会話と変わらない口調でギンガは聞いた。
『人殺しはダメ!』と言う解り易い意見をギンガは持っているが、それを直ぐ口にするような事はしない。
それを言ってしまえば意見が一切噛み合う事無く、喧嘩別れになるビジョンが簡単に予測できたからだ。

「普通な事かな……」

『例えば』と前置きをして、ピノッキオはナイフとフォークを手に取る。
まずはフォークがソテーに突き刺さり、ソレを支点にして固定する事で安定。
続けてナイフを当てて前後の動かす事で鶏肉を食べるのに適した大きさにする。
この一連のアクションは錬度により美しさなどの差があるとはいえ、誰もが自然に行える行動だろう。

「若鶏のソテーを出されたら、フォークで押さえてナイフで小さく切る位に」

斬るならば最良の場所は首の動脈。突くのならば体の中心よりも若干左の心臓。
そうすれば人の命を簡単に奪う事が出来ると言う事を、本当に当たり前のように考えているし、簡単に実行する事ができた。
32魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/09/15(月) 20:59:28 ID:IVK7hRFT
「ギンガさんはどう?」

「え?」

「人殺しをするってどう言う事?」

ギンガは驚く。それは実に珍しい事。このディナーの中だけでも、ピノッキオが鸚鵡返しとは言え質問を返してきた事は無かったから。
相手から聞かれたのならば、感じるままに思いをぶつけても大丈夫だろう。
そんな計算に裏打ちされて、彼女は思い切って真意を告げた。

「いけない事だと思うわ。人の命を奪うっていう事は……罪よ」

そんな回答にも、自分の答えを否定される形になったピノッキオは動じない。
それどころか満足そうに頷き、彼にしては珍しく饒舌に続けて二つの目の質問。

「言うまでもないと思うけど、僕とギンガさんの間には大きな意識の違いがある。
 でも……ギンガさんが僕と同じような場所に居たら、きっと違いは生まれない」

「どうして?」

「人格や意識はどうやって作られると思う?……環境だよ。
 僕の生きて来た場所はそれこそ……『鶏肉のソテーをナイフで切るように人が死ぬ』ような場所だった」


ピノッキオは自身の生まれを知らない。ただ色々あってギャングだかマフィアの商品になっていたような気がする。
そんな暗い穴倉から連れ出してくれた人物もやはりソチラらの人であり、役に立つ方法を考えれば……人殺しは最良の手段だった。

「本当に簡単に死ぬんだ……僕の師匠も抗争先で銃弾を受けて、あっけなく死んだ。
 おじさんだって、何時死んでしまうか解らない。ライバルのファミリーや警察、下手を打てば仲間にだって殺される。
 少しでもおじさんに降りかかる危険を払う。それが僕の恩返しだった」

会ってから初めて、これほど饒舌に語るピノッキオを目撃したギンガは、その驚きとは違う驚愕が体を駆け巡っていた。
命を奪う事自体を忌避してきたが、その理由が恩人に対する恩返し。確かに自分から話すような事ではないにせよ……

「じゃあ私も! そんな場所に居たら……人を殺すようになる?」

「僕が言ったのはそんな場所での常識だけ。殺すかどうか自分が決める」

確かにピノッキオが言ったのは『環境によっては人殺しが大した意味を成さなくなる』と言う事だけ。
それだけではピノッキオが人を殺す直接的な理由にはならない。しかし彼は既に口にしているのだ。
『恩返しの為に……』と。
33魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/09/15(月) 21:00:41 ID:IVK7hRFT
「僕は人殺しが好きなわけじゃない」

ピノッキオが殺すのは何時だって他人の為。命の恩人であるクリスティアーノ為であり、今は次元遭難者である彼を拾ったゲンヤの為。

「それが大事な人の為に有効な方法だから殺すんだ」

その言葉でギンガはふと思い出す。自分がピノッキオの真実を知り、恐怖して軽蔑とも取れる感情を抱いた事件。
そうだ……あの時だって。

「私のために……殺したの?」

テロ事件が起きた時、ピノッキオは何もアクションを見せなかった。鎮圧するような動きすらしなかった。
つまりその時点では彼がテロリストを殺す理由は存在しない。殺した理由はギンガを危険にあっており、殺される事も考えられたからだ。
命が軽い物と知っているから、下手に危険に飛び出すようなマネはしない。
しかし大事な人の命の軽さも知っているから、そのためなら命を危険に晒すし、人も殺せた。

「どうかな? 僕は人を殺す悪い奴だからね、全部信じない方がいいかもしれない」

グラスに注がれていたワインを飲み干して、ピノッキオは立ち上がる。
未だに状況を整理できていないギンガは下を向いたまま。その場を離れる間際に彼女の耳元で小さく、しかしはっきりと呟いた。

「でも……父親くらいは信じてあげたら? そうとう参ってるよ、ゲンヤさん」

去り際に残すのはそんな言葉。解っていたんだ!とギンガは内心で叫ぶ。
ゲンヤが暗殺なんて依頼する理由くらい! 解っていたんだ! あの人は何時だって……私やスバルの為に……

「感謝するべきだ。人の命が重い物だって……認識させてくれた環境と、それを作ったあの人に。
 それじゃ……」

それだけ言って去っていこうとする背中。それを見送りそうになって……ギンガは急に腹を立てている自分に気がつく。
口にするのは他人の事ばかりで自分を全然省みない大バカ野郎。
何時だって興味の無いように目をしているくせに、お父さんの心配までして……

「待って!」

他人の好奇の目など関係ない。ギンガは立ち上がり、去ろうとしていたピノッキオの肩を掴んだ。
意外そうに振り向いた顔に張り手を一つ。それでも揺るがない顔に更に腹が立ち……強く抱きしめて……

「貴方は……もう少し自分を大事にするべきだわ。お父さんの心配をするより……」

「僕は孝行息子だから」

「バカ」

ギンガはピノッキオを抱き締めて……キスをしていた。そこから先の事を彼女はあまり良く覚えていない。
翌朝 着替えもせずに寝ていたベッドの上で、彼女が最初に思い出したのは……ファーストキスはタバコとワインの味だったこと
34魔法殺し屋☆ピノッキオ(代理):2008/09/15(月) 21:02:24 ID:IVK7hRFT
と言う事で、魔法殺し屋の最新話をお送りしました。
魔法も殺しも無い平和なお話でしたねw 
ギンガとピノッキオの会話が長くなって微妙だな〜といまさら思う。
う〜む、精進が必要だな……それではまた〜

======
以上で代理投下終了いたします。
ギン姉ったらだいた〜ん
35ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 21:30:17 ID:XjOFS/Lr
先ほどは曖昧で申し訳ありません。
ちゃんと書き上がっていますので、22時50分に投下させていただきます。
36名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 21:35:06 ID:lmIT/UfY
GJ!
ゲンヤも苦労してるなあ、中将みたいに心臓悪くなっちゃいそう。
37名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 21:40:35 ID:AnGvnzCf
GJでした!
実際レジアスは大変だっただろうな。
決して勝つ事のできない戦いを頑張ってたんだから。
光が見えない暗闇だ。
それでも投げ出さなかったんだから、
強い人だったと思う。
38名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 22:04:19 ID:C5Nj+54x
乙っす。
それにしても、はやても凄いのう。
トリエラもペースに巻き込まれているようだ。
39名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 22:12:33 ID:iqVXGQp5
初めて〜のチュウ〜♪ 君とチュウ〜♪

いやぁ、なんかキテレツやゼロ魔の歌を思い出してしまったよ。
ってか、まさかギンガからするとは思わなかった。
寝ぼけはやてと良い、バトルはないけど良い感じに萌えました、GJです!
40ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 22:50:44 ID:XjOFS/Lr
それでは、時間になりましたので投下します。
41ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 22:52:03 ID:XjOFS/Lr
 機動六課壊滅。
 その事実を真っ先に受け入れたのは、フェイト・T・ハラオウンだった。なの
はと共に帰還した彼女は、市街の有様と六課の惨状に動揺はしたものの、激し
く取り乱すような醜態は見せず、隊長として自己を保ち、現場の指揮を執り始
めた。
 スターズ分隊のヴィータ副隊長も、新人達三人を引き連れすぐに帰還した。
地上本部周辺にてガジェット部隊と奮戦を繰り広げていた彼女らであるが、突
如として敵が撤退を開始したことで通信機能が復活し、そこでヴィータらは初
めて市街のみならず六課までもが襲撃を受けていたことを知ることになる。

 帰り着いた六課の隊舎は、一部を残して崩壊していた。

 遅れて帰還した機動六課総隊長八神はやては、残骸と化したその姿に、思わ
ず地べたに膝をつき、シグナムに支えられなければ立つことさえ出来なかった。
「シャマルは……ザフィーラはどうした!」
 二人の反応が途絶えていることを危惧したはやては叫んだが、前者は司令室
があったと思われる瓦礫の下から発見された。
 シャマルはクラールヴィントによる結界で司令室にいた隊員達を守り抜き、
司令部の人的被害は最小限に抑えられた。だが、彼女に守れたのはそこまでだ
った。多くの隊員が傷つき、倒れていった。ザフィーラも、それに含まれる。
彼は、隊舎にある非常用シェルターの付近に倒れていた。いつもの獣の姿では
なく、人の姿を取り……敵と戦ったのだろう、腹を貫かれて意識を失っていた。
生きてはいたが、いつ死んでもおかしくはない状態だ。
 病院送りとなったザフィーラや、運び出される負傷者、死傷者を見ながら、
はやては一言も口を発しなかった。
 彼らとは逆に、奇跡的に軽傷で済んだ者もいる。医務室にて拘束中であった
セインである。彼女の脱走を防ぐために結界が張られていた室内であるが、崩
壊による衝撃でそれが解かれ、セインは間一髪能力を発動して脱出することが
出来た。しかし、逃げ出す気はなかったらしく、襲撃に現れたルーテシアやナ
ンバーズとは合流を避け、騒動が終わった後に戻ってきた。フェイトは意外に
思ったが、セインとしては自分が捕らえられている場所にかつての仲間が襲撃
してきたわけで、自分ごと隊舎を破壊しに掛かった仲間に対しての不信感が強
まったのである。

 負傷者と死傷者は、ともに二桁の数に上る中、行方不明者も存在した。
 それは誰か? 確認したフェイトは、思わず息を呑んだ。そして、傍らに立
っている親友の顔を見る。
「なのは……」
 戦場で一度も怯えを見せたことのない親友の表情が、恐怖で凍り付いていた。

 ヴィヴィオが、敵によって攫われたのだ。


        第15話「悪夢を映す鏡」

42ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 22:53:20 ID:XjOFS/Lr
 ゼロが発見、いや、救助されたのは襲撃から一夜明けた昼過ぎだった。崩れ
落ちたビル、その瓦礫の下から助け出されたのだ。彼までもが敗北したという
事実は、六課全体に強い衝撃を与えた。損傷自体はそれほどではなかったのだ
が、生き埋めとなって救助されるまで身動きが取れなかったらしい。
 六課へと戻ったゼロは、見るも無惨な隊舎の姿を見た。しかし、無口で無表
情は変わらず、フェイトに状況を確認したときも極めて冷静であった。
「負傷者、死傷者が多すぎる。行方不明者は、一人減ったけど」
 全部で三人いた行方不明者、その内一人はゼロであったが、彼はこうして発
見されて帰還することが出来た。次にヴィヴィオだが、敵がヴィヴィオを攫っ
ていったことを、ザフィーラが消えゆく意識の中に止めていたので、生死はと
もかく敵の手の中にいることは間違いない。
 そして、最後の行方不明者は……
「シャマルの話では、ギンガは敵の戦闘機人、つまりナンバーズ二人と戦闘中
だったらしい」
 戦闘記録も残っていたのだが、隊長及び副隊長以外は見ることを禁じられた。
だが、これは妹であるスバルにとって、あまりに凄惨な映像だったからと判断
された故だ。

 ギンガは壮絶な戦闘の結果、左腕を切断され、敵に捕らわれてしまった。

 ゼロは、ギンガと別れたときのことを思いだした。自分が出撃し、彼女が六
課に残った。彼女は妹を頼むと自分に言って、だが、自分はそれを果たすこと
も、彼女を守ることも出来なかった。
「もっと早く、敵の狙いに気付くべきだった」
 スカリエッティは、ゼロと、そしてその背後にある機動六課とゲームをして
いた。つまり彼が狙うのは、あくまでゼロと六課だったのだ。市街地への攻撃
も、地上本部の封じ込めも、ナンバーズ移送計画を邪魔したことも、全部陽動。
 機動六課の壊滅、スカリエッティの狙いは初めからそれだけだった。考えて
みれば、セインもろともゼロを殺そうとした男が、積極的にナンバーズの奪還
をしてくるわけがなかったのだ。

 ゼロとフェイトの視線に、なのはが写った。焼けて、ボロボロになった人形
をその手に持っている。彼女は虚脱したように、暗い表情をしていた。
 そんな姿を見て、なんて声を掛けてやればいいのか、フェイトには思いつか
なかった。どんな言葉も、気安めにすらなりはしないと判っていたから。
「……ゼロ」
 声は、ゼロとフェイトの背後からした。振り返ると、そこにはやてがいた。
顔を伏せ、表情を見せようとしないが、声は酷く冷たくなっていた。
「はやて、何か用――!?」
 ゼロに代わって声を掛けたフェイトの前で、はやてはデバイスを起動、その
先端をゼロに突き付けた。魔力が解放され、辺りにいた隊員達がすぐに異常に
気付いた。リミッターを施されているはずのはやての魔力であるが、それを感
じさせない力が周囲に波動を伝えていた。
「なんで……守ってくれなかった」
 顔を上げたはやてに、フェイトは息を呑んだ。怒りに満ちた瞳と、その瞳か
ら流れる涙。刃物よりも鋭い視線で、ゼロを睨んでいる。
43ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 22:54:21 ID:XjOFS/Lr
「何で守ってくれなかった!」
 怒りで爆発する魔力の波動からゼロを守るため、フェイトが防御魔法を張っ
た。だが、防ぎきるには至らずゼロ共々吹き飛ばされた。
「痛っ――なんて、力」
 フェイトが唖然としながらはやてを見るが、既に守護騎士達によって取り押
さえられていた。それでも気持ちが収まらないのか、はやては泣き叫んでいた。
 その姿を、悲しそうにリインが見つめていた。
「はやてちゃん……」
 誰もが今、はじめてしまった。はやての弱さと、そして――

 はやてが一番、ゼロの力に期待をしていたという事実に。


 機動六課を壊滅させたスカリエッティ一味であるが、大勝利という美酒に酔
ってなどはいなかった。それどころか、今回の戦果に対してノーヴェが不満を
訴えていたのだ。
「あれだけのガジェットを投入して、みんなで戦った結果が旧式のタイプゼロ
とガキ一人だと!? 納得できるか!」
 言葉は汚いが、無理からぬことだ。確かに六課の隊舎を崩壊させはしたが、
隊長や隊員達は健在であり、ゼストによって撃破されたゼロも救助され、健在
だという。壮大な作戦が成功したのは事実だが、隊舎を破壊したという以外に
目立った戦果がないのだ。
 しかも、敵の首を幾つか持って帰ってきたというならまだしも、トーレとセ
ッテが連れてきたのは片腕をもがれた古くさい戦闘機人、ルーテシアが持って
帰ってきたのは彼女よりも小さい幼女だ。捕らわれたナンバーズの奪還を諦め
てまで行った作戦なのに、この程度でしかないのか。
「口を慎め、ノーヴェ。ドクターのことだ、考え合ってのことに違いない」
 トーレはこのように言うが、彼女自身なにか確信や根拠があるわけではない。
単に忠誠心からドクターの擁護をしているだけである。
 不満をくすぶらせるノーヴェだが、ドクターは壊れたタイプゼロを見ると愉
快そうに笑いながら研究室に閉じこもり、それきり出てこなくなった。ウーノ
ですら入室を禁じられてるといい、一体中で何をやっているのか。不満をぶつ
ける相手が居らず、ノーヴェの苛々は溜まるばかりだった。
 一方、幼女ヴィヴィオのほうであるが、スカリエッティは彼女をすぐにどう
こうするつもりはないらしく、クアットロに「丁重に扱ってくれ、ただ、すぐ
に目を覚ますこともないように」と注文を加えていた。子供のお守りなど趣味
ではない、とクアットロは呟き、如何にも面倒くさそうにしていたので、ディ
エチが代わって役目を果たしていた。

 それから、丸一日が経過した。研究室から一向に出ようとしないスカリエッ
ティに痺れを切らしたノーヴェが、扉をぶち破ってでも引きずり出そうかと考
え始めていたとき、スカリエッティは一日ぶりに彼女らの前に現れた。
「みんな、揃ってるかね?」
 いつになく嬉しそうな表情で、スカリエッティは笑っていた。その笑顔を見
て、何故かノーヴェは怒りが冷めていくのを感じた。ヘラヘラしやがって、と
思うはずが、玩具を買い与えられた子供のような無邪気さに、何も言えなくな
ってしまったのだ。
44名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 22:54:58 ID:r9gN96Fj
支援
45ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 22:55:34 ID:XjOFS/Lr
「さて……何から話そうか?」
 ノーヴェのほうを見て軽く笑いながら、スカリエッティは口を開いた。達成
感、とでもいうべき表情を浮かべ、ナンバーズの姉妹らを見回している。
「あのガキ、あいつは一体なんなんだ!」
 口火を切ったのはノーヴェであるが、実は全員が同じことを考えていた。タ
イプゼロを回収した理由はまだ判るが、あの幼女は一体なんなのか。ただ一人、
クアットロだけは不敵な笑みを浮かべている。
「ガキとはまた恐れ多いことを。彼女こそ、我々が探し求めていた王様だよ」
 言葉に、衝撃が走った。
 王、スカリエッティは今、王と言ったか?
「あれがアタシたちの……王様?」
 ポカンとして、ノーヴェが尋ね返した。
 あんな自分が軽く小突いただけで死んでしまいそうな子供が、王だというの
か。信じられないが、ドクターが嘘を言うはずはないし、その理由もない。
「見た目で判断してはいけないよ、ノーヴェ。君が敬愛していたチンクだって、
君より幼い姿をしているが、君より強かっただろう?」
 この例えは、ノーヴェを納得させるに効果的だったらしい。そういわれてみ
ると、それもそうだと思った。
「では、我々が回収してきたタイプゼロは?」
 トーレの質問に、スカリエッティは一段と笑みを強めた。
「トーレ、それにセッテ……君たちは素晴らしい功績を挙げてくれた。無論、
ルーテシアも同等の働きをしてくれたが、セッテなどは初戦闘にもかかわらず
良くやってくれた」
「いえ、それほどでもありません」
 謙遜するセッテであるが、これは本心である。
「王を手に入れた我々の計画は、更なる段階へと進む。このゲームの勝者は、
決まったようなものだ」
 自信を見せるスカリエッティに対し、ナンバーズらは半信半疑だった。確か
に人は見た目ではないとは思うが、ヴィヴィオはどこからどう見ても無力な幼
女にしか見えない。
「更なる段階って、具体的にはどんなことするの〜?」
 クアットロが尋ねるが、スカリエッティは即答をしなかった。
「その前に、君たちに紹介しおこうか……さぁ、こちらへ」
 驚愕による動揺が、辺り一面に広がった。
 トーレが愕然としながら、何とか口を開いた。
「お前は……お前は……!?」


 襲撃事件から三日、負傷者の救助と死傷者の運び出しが終了した起動六課隊
舎では、瓦礫の撤去がはじまりつつあった。相変わらず指揮を執っているのは
フェイトだが、ティアナも彼女の補佐に付いた。
「スバルの側に、居てあげなくて良いの?」
 その問いに、ティアナは小さく首を振った。なのはと同じく、スバルもまた
虚脱していた。キャロを側に付けているが、自分は痛ましくて見ていられなか
った。フェイトがなのはに声を掛けられなかったように、ティアナも友人に声
を掛けられなかったのだ。
 戦い終わって、犠牲はとても大きいものだった。ナンバーズらは大した戦果
ではなかったと思っているが、六課が負った傷は想像以上に酷い。
46ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 22:56:44 ID:XjOFS/Lr
「まさか、ザフィーラがやられるとはな……」
 崩れた隊舎内を見て回りながら、ヴィータが静かに呟いた。鉄壁の守護獣で
あった彼がやられたという話し、俄に信じることが出来なかったヴィータだが、
事実は事実だ。

 敵はそれほどまでに強いのか、それとも――

「我々も、ただのプログラムでは居られなくなっていると言うことだろう」
 ヴィータの呟きに、シグナムが真剣な声と表情で返した。
「……どういう意味だよ」
「お前も気付いているはずだ。我らが、この十年で守護騎士というプログラム
から変化しつつあることに」
 シャマルと、ザフィーラがやられた際、シグナムとヴィータはそれをすぐに
察知することが出来なかった。以前までなら、騎士間におけるリンクシステム
によってすぐにでも気付けたはずなのに。
「ザフィーラの容態は、重い。だが、あの程度の傷もかつては無限再生能力で
回復できたはずだ」
 それが今では、普通の人間や動物と大差ない回復速度にまで落ち込んでいる。
恐らく、自分たち守護騎士が人間という存在に近づきつつある影響なのだろう。
「でも、だからってあいつが負けるなんて!」
「……ザフィーラは前線に立つ機会が、減っていた」
「それは、だけど修練や鍛錬をかかしちゃいなかった!」
 どちらも事実であるが、ヴィータは否定をしたかっただけかも知れない。
「ヴィータ、お前はこの十年で、自分が強くなったと思うか?」
「えっ?」
「いいから、どうなんだ」
 言われて、ヴィータは考えた。十年一昔と言うだけ合って、十年間は長いと
思う。自分は容姿こそ変わらないが、はやてやなのはは普通に成長し、時の流
れを感じさせる。そして、彼女らと歩んできた十年、自分は確かに強くなった
と確信が持てる。
「私も、自分は強くなったと思う。だが、強くなることがあるのなら、その逆
もまた然り……衰えること、弱くなることだってあり得るんだ」
 プログラムであったときは、一定の強さというものが常に約束されていた。
しかし、その全体が崩れたことによって、『一度の生』という確かな命を手に
入れたが故に、守護騎士は人と同じ制約を受け始めたのだ。
「無論、ザフィーラが弱かったとは思わん。だが、今まで不老不死、無限に再
生を続けてきた我らだ、いきなり生命という名の制約を抱いてしまい、キレが
鈍ったと言われても、否定は出来ない」
 以前ならば、どうせ再生されるのだからと、かなり無茶な行動や攻撃、戦闘
を繰り広げることが出来た。だが、これからは必ずしもそうではないと、シグ
ナムは心を戒めざるを得なかった。

47ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 22:57:58 ID:XjOFS/Lr
 なのはは、所在なさげに隊舎近くの森の中、木の幹に身体を預けてへたり込
んでいた。木漏れ日が暖かな光りと空気を伝えるが、なのはには心地よくも何
ともなかった。
「ヴィヴィオ……」
 人形を、力を込めると崩れてしまいそうな人形を持ちながら、なのはは呟い
た。
「ここにいたか」
 そんな彼女の前に、ゼロが現れた。
 なのはは、はやてと違い、ゼロを詰ることはしなかった。全ては自分の至ら
なさから来たと、悔やみ続けていたのだ。はやてとて、やり場のない気持ちを
ゼロにぶつけたに過ぎないのだが、なのははヴィヴィオの安否を気遣うことが
優先的でゼロになど気が回っていなかった。
「……何?」
 惚けた声で、なのはが尋ねた。精神の抜け落ちたような、姿だった。
「お前を呼んでこいと言われた」
「フェイトちゃんに?」
 頷くゼロに、なのははため息を付いて起ち上がった。
 自分は魔導師であり、六課の隊長だ。いつまでも、こんなことはしていられ
ない。判っている、判っているのだが……
「ヴィヴィオ、大丈夫かな」
 その問いは、その場にいるがゼロに向けられたものではない。彼にしたとこ
ろで、答えられるわけもない問いだ。
「敵は目的があって攫ったんだろう。必要ないなら、他の隊員のようになって
いたはずだ」
 率直な意見を告げるゼロだが、そんなことはなのはも理解している。
「あの子がレリック持っていたときから、スカリエッティとの繋がりは考えて
いた。だけど、私はそれを調べることを怠っていた」
 拳を握りしめ、歯を食いしばる。悔しさと涙を、必死で堪えようとして、

 出来ることもなく泣き出した。

「私はいつもそうだ! 依存して、甘えて、縋り付くことしかしない。ヴィヴ
ィオは確かに私を求めてくれた、だけど……私もあの子を必要としていた!」
 心の支えか、精神安定のためか、なのははヴィヴィオを、自分でも驚くほど
大切な存在にしていたのだ。
 居なくなってみて、初めてそれに気付いたが。
「母親に……ママになってあげるべきだった。ちゃんとあの子のママに、私は
なるべきだったんだ。なのに、私は!」
 悔やんでも悔やみきれず、血が出るのではないかと思うほどの強さで、なの
はは唇を噛んだ。
 ゼロは、そんな彼女に背を向けて、呟いた。
「悔しいなら、行動をしろ」
 なのはが、顔を上げた。
「悔しいんだろう、心配なんだろう、なら、取りかえして見せろ」
 ハッと、なのはは驚いたものを見るかのように、ゼロを見ている。
 そう、悔やんで、落ち込むことなら、誰にだって出来る。
「……勿論、当たり前だよ!」

48ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 22:59:11 ID:XjOFS/Lr
 八神はやてに対する周囲の視線は冷めつつあった。原因は、言うまでもなく
ゼロへの暴言と、醜態を晒したことにある。忠実であった守護騎士でさえも、
しばらくはそっとしておくべきだろうという判断の下、距離を置くようになっ
てしまった。
 ただ、はやての気持ちもわからないではない。特にリインは、その心情を深
く理解していたようで、周囲にはやてを責めないようにお願いして回っていた。

 機動六課、はやての夢。理想の舞台。

 それが音を立てて崩れたのだ。

 しかも、はやては最近になってやっとゼロのことを認めるようになってきた。
前向きに、強い味方であると期待を寄せるようになったのだ。
 その矢先の、この事件。はやてが期待した強いはずのゼロは、敵の騎士に敗
北してビルの下に埋もれ、そうしている間に六課は壊滅。期待はずれも甚だし
いではないか。
 八つ当たりだと言うことは、判っている。だが、シャマルが負傷し、ザフィ
ーラが病院送りとなった現状に、行き場のない気持ちをぶつける相手がはやて
には必要だったのだ。
「まだや……機動六課は、まだおわらへん」
 崩壊した隊舎で、何故か崩れ落ちずに残った執務室に、はやてはいた。
 自分の暴挙を反省こそしなかったが、ゼロには謝るべきだと思っている。思
ってはいるが、ああいう行動をしてしまった今、どう謝罪していいのかが判ら
ない。
 はやては、不器用だった。

 執務室の椅子に座りながら、はやては積もった瓦礫の一部を払いのけた。引
き出しを開け、紙とペンを用意する。
 報告書作りである。魔法関係の機器は全て壊れてしまい、使用不能だ。前時
代的だが、紙に書くしかない。
「全て、私の責任……か」
 認めたくないが、自分の判断ミスだ。
 なのはやフェイトなど、各々が自己を反省しているようだが、六課の総隊長
は自分なのだ。自分が責任を取って、ケジメをつけなくてはいけない。
「師匠にも、顔向けできないな」
 ギンガの父、ゲンヤ・ナカジマはかつての上官である。師匠と呼んでいるが、
彼に頼み込んでギンガを引き抜いたのは他でもない、はやて自身だ。今のとこ
ろ、何の連絡もないが、責任を感じざるを得ない。
「これから、どうするか」
 先ほども言ったが、このまま終わるつもりはない。
 隊舎はなくなった。犠牲者も多く出た。だが、それで諦めてどうする。やら
れたなら、やり返せばいいのだ。
49ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 23:00:14 ID:XjOFS/Lr
「見てろ……スカリエッティ」
 気合いを入れ直し、はやてはペンを握って報告書を書き始めた。持ち直しも
一番早いのが彼女の取り柄だろう。
 この報告書を提出すれば、自分は処分を受けるだろう。降格か、解任か、い
ずれにせよ、この事件からは外される可能性がある。

 だが、それは杞憂に終わった。何故なら、はやては――

「たい…ちょう……」

 聞き違えかと、思った。

 聞こえるはずのない声が、はやての耳に響いた。はやてはペンを取り落とし、
ゆっくりと顔を上げた。
「ギン、ガ――?」
 攫われたはずの、戦闘に敗北し、捕まったはずのギンガがそこに居た。ボロ
ボロのバリアジャケットに、血と泥で汚れた身体。
 身体を引きずりながら、ゆっくりと歩いてくる。
「ギンガ!」
 慌てて、はやては椅子から飛び出し、ギンガの下に駆け寄った。倒れ込む彼
女の身体を支え、膝を突きつつ抱き留めてやる。
「まっ、まってな、今すぐ人を……」
 ダメだ。通信機器は全て壊れているし、シャマルは負傷してこの場にはいな
い。なら自分が、応急処置程度の回復なら自分にだって、いや、それともすぐ
に誰でもいいから人を呼ぶべきか!?
 動揺で混乱するはやてに対し、ギンガがその身体を強く掴んだ。
「隊長に、はやてさんに伝えなければ、いけないことが……」
 弱り切った声、肩で息をしながら、絞り出すようにギンガは言葉をはき出す。
喋るなと叫びたかったが、彼女が何か重要なことを言おうとしているのは明ら
かだった。
「今まで、どこに?」
「スカリエッティの、研究所に……だけど、私は逃げ出して」
 予想外の発言にはやては驚愕が隠せなかったが、同時に天運を感じた。ギン
ガがスカリエッティの研究所にいたというのなら、そこから逃げ出したという
のなら、彼女はその場所を知っているはずだ。
「ギンガ、詳しい話を――」
 はやてはギンガの左手を掴もうとして、

 違和感を、憶えた。

「あっ、れ?」
 肉の潰れた感触が、はやての身体に伝わった。はやては無言で、感触のした
位置を見る。
 脇腹だ、脇腹に手刀が刺さっている。
「がっ……ぐっ……」
 どうして? そう尋ねようと口を開き、代わりに出たのは言葉ではなく血塊
だった。口元から触れだしたそれは、はやての胸元と床、そしてギンガの顔に
も跳ねた。
50ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 23:01:24 ID:XjOFS/Lr
 グチャグチャという生々しい音を響かせながら、ギンガが手刀を抜いた。

 血に濡れた左腕を、あるはずのない左腕を、引き抜いた。

 冷めた目で、はやてを見つめている。

 はやては起ち上がると、脇腹を押さえながら、後ろ足で窓辺に下がった。何
かを発しようとする度に血が溢れだし、言葉にならない。
 デバイスを起動するどころか、魔力を解放することも、出来なかった。
 だけど、はやては無理矢理、血塊と共に言葉を叫んだ。
「なんで――――!?」
 血と涙に濡れた顔で、はやてはギンガに向かって叫んだ。
 しかし、そんな彼女の目に飛び込んできたのは、左手に魔力を集中させるギ
ンガの、凶悪な笑みだった。

 執務室が、爆発した。


 爆発音に、外にいた隊員達はすぐに気付いた。
 フェイトやティアナ、シグナムやギンガ、近くで休んでいたスバルやキャロ
も勿論、なのはとともに戻ってきたゼロも、その爆発音を聞いた。
「はや、て――?」
 爆発が起こった執務室の窓辺から、吹き飛ばされるようにはやてが落ちてき
た。瞬間的に、フェイトが落下位置まで飛んでそれを助けた。

 生暖かい感触が、すぐに伝わった。脇腹が抉れ、血を吹き出している。

 ヴィータが悲鳴に近い叫び声を上げ、シグナムも声こそ上げなかったが青ざ
めた顔をしている。なのはは駆け寄ると、跪いて回復魔法の発動に掛かった。
フェイトもまた、それに習う。
 スバルはオロオロと動揺しながら、爆発が起こった執務室を見た。一体何が
起こったのか。何が爆発したのか、それを確認するつもりだった。

 そして、見た。
51ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 23:03:23 ID:XjOFS/Lr
「ごきげんよう、皆さん」

 声に、その場にいた全員が顔を上げた。
 そして驚愕の表情が、ゼロを除いて、広がっていく。

「ギン、姉――?」

 ギンガ・ナカジマが、立っている。
 ボロボロだったバリアジャケットがいつの間にか直っており、顔や身体にあ
った汚れも綺麗に消えている。
 ただ、バリアジャケットの色は白ではなく、紫色だった。
「本当に、ギン姉なの……?」
 雰囲気が違うことに、気付いたのだろう。信じられないものを見るかのよう
に、スバルが問いただした。
「あらスバル、お姉ちゃんの顔を忘れちゃった?」
 微笑むギンガに、スバルは何か言おうとして、言えなくなった。姉の姿を見
ながら、スバルはあるものに、気付いてはいけないものに気付いた。
「ギン姉、手! 左手!」
 言葉に、ギンガの微笑みが消えていく。
「手? 左手が、どうかした?」
「血が、血が付いてる!」
 距離があるので叫ぶように声を出すスバルに対し、ギンガはつまらなそうな
表情を見せた。
「あぁ、これ……これはね」
 笑いながら、ギンガは視線を、なのはとフェイトによって回復魔法を施され
ているはやてに向けた。
「この血は、そこに転がってる人のものよ」

 瞬間、シグナムが動いた。

「貴様ァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
52名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 23:03:30 ID:fAhWx/B8
支援
53ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 23:05:25 ID:XjOFS/Lr
 レヴァンティンを抜き放ち、バリアジャケットを纏ってギンガへと斬り掛か
った。スバルが止める間もなく、斬撃はギンガへと振り下ろされた。
 だが、しかし……
「怒り狂って斬り込むなんて、結構お熱い性格なんですね?」
 ギンガはその斬撃を左手で、片手で掴み、受け止めた。レヴァンティンが、
軋み始める。
「でも、不意打ちでこの程度なんて……弱すぎよ」
 左手に力を込めると同時に、ギンガはレヴァンティンの刀身をへし折った。
いや、砕き折ったと言うべきか、握力だけで破壊したようにも見える。
 驚愕に包まれるシグナムの背後に、声が響いた。
「どけっ! シグナム!」
 ヴィータだった。グラーフアイゼンのギガントフォルムを起動し、鉄槌の一
撃をギンガに叩き込んだ。
「それが、なにか?」
 冷めた目と、冷めた声で、ギンガは構えを取った。構えて、そして左の拳を
迫り来る鉄槌に突き出した。
 ヴィータが愕然とする中、グラーフアイゼンが砕け散ってゆく。全てを砕く
鉄槌が、逆に砕かれたのだ。
「二人とも、邪魔よ」
 魔力を、紫色と赤色の混じり合った魔力を解放させ、ギンガはシグナムとヴ
ィータを吹き飛ばした。二人は地面に上手く着地するが、デバイスを破壊され
たショックからか、放心したように動けなくなっていた。
「さて、と」
 ギンガは改めて、下にいる隊員達をみた。誰もが誰も、彼女を見ている。
「今日は挨拶だけだから、そろそろ帰ります」
 微笑みながら、凶悪で冷たい笑みを浮かべながら、ギンガは言う。そしてま
ず、妹のスバルに顔を向ける。可哀想に、スバルの表情は恐怖で支配されてし
まっている。
「また会いましょう、スバル……それに、ゼロ」
 最後にゼロの方を見ると、ギンガの周囲に魔力の粒子が舞った。

 そして、それが消えたとき、ギンガの姿はどこにもなかった。

                                つづく
54ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/15(月) 23:06:57 ID:XjOFS/Lr
第15話です。
この作品を書くに当たって、やはり26話もある中で、
特別これは書きたい、という話はいくつかあります。
一般にもここを書きたいからこの小説を書いた、
なんて話があるように。

ここから先は、流れるように進んでいくと思います。
それでは、感想等ありましたら、よろしくお願いします。
55名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 23:21:28 ID:fAhWx/B8
GJ!
さて困った、『イレギュラー化』したらゼロが助けたやつはいないぞw
ギンガ姉さん逃げてー!
56名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 23:34:03 ID:mfNBmwaP
GJ!
はやて株が上がった瞬間ギン姉による暗殺未遂とかw
ギン姉はタイプ「ゼロ」だけに強化度も段違いなのかな?
スバルが頑張らないとゼロは手加減しないんだろうな、やっぱりw
57名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 23:47:44 ID:usS/hs6q
>>54
GJです!はやてが実は一番ゼロを信頼していたってのがなんとも、
てかギン姉強いぜ!道楽じゃなくてマジに弄ったなスカリエッティ!

>>55
確かに『イレギュラー』と認識したら人間ですら斬るからな
ギン姉ピンチだwww
58名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 00:02:53 ID:HoE0TTVo
GJでしたー。
それにしても、スカリエッティのラボにいた人物が気になる。多分ゼロに関係あるキャラなんだろうけど、基本的に撃つか斬るかされてるはずだしなあ。
59名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 00:17:57 ID:aA5371TK
もしやまさかのワイリーorシグマだったりしてw
ゼロは騙されてたとはいえ幼いベビーエルフも容赦なく叩き斬るからなぁ。
ギンガマジやばいwwwスバルの説得が効くようなチャチな改造してないぞありゃ。
60名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 00:19:27 ID:RodLYorl
>>58
流れ的にギンガだろ?
61名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 00:34:06 ID:2wu0LySE
どう考えてもギンガだろ
なぜワイリーやシグマが沸いて出る

>爆発音に、外にいた隊員達はすぐに気付いた。フェイトやティアナ、シグナムやギンガ

ギンガじゃなくてヴィータだな。まとめに載せる時に直せば済む話だが一応
62名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 01:57:34 ID:FP3jrHNd
ゼロが処分してしこりに残っているのってアイリスだけじゃないか?
63名無しさん@お腹いっぱい:2008/09/16(火) 03:13:53 ID:IHLu14LN
何か強化されてますがSランクオーバーレベルじゃないですかね?
まぁ、良い機会なので無謀と慢心の精霊に取り付かれてくだされ。
ゼロに真の恐怖と破壊を教えて貰えばいいかと。
まぁ、今は『上げ』の時期ですね。
あの余裕と冷めた顔がなのはさんにロックオンされたクアットロのような断末魔の恐怖に歪むのが楽しみや……。
64名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 09:57:16 ID:ZA17RKLL
>>54
GJでした!
はやて重傷、ギンガ凶悪化と超展開で楽しみな限りで。
さてセインもこれで一層仲間化フラグが立ったワケこの先どうなるのか。
>>62
いやゼロ4でクラフト倒した時もかなり悩んでたぞ。
結局自分は闘うことしかできなかったとか何とか。
65名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 13:12:49 ID:X8+JqfdW
GJ
無限再生と言えばゼロも死亡フラグほぼないな
大破がいつものことになってる程の戦闘タイプ
戦うことしかできないと自認してる彼に救うことか期待
66一尉:2008/09/16(火) 14:30:41 ID:QhMJOOUC
なるぼと無限再生と破壊なら良い
67天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/16(火) 18:26:24 ID:S6kHrG11
ゼロ氏GJ!
物語も折り返しを越えて、中々ハードな展開になってきましたね。

本日19時半くらいに天元突破第11話の投下予約をさせて頂きます。
整数話の更新って何ヶ月ぶりだろう……(汗
68天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/16(火) 19:34:17 ID:S6kHrG11
ではそろそろ時間ですので、投下を始めたいと思います。
69天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/16(火) 19:37:13 ID:S6kHrG11
 新暦0075年5月13日、密輸ルートで運び込まれたロストロギアレリック≠ガジェットと呼ばれる魔導兵器が発見、輸送レールを襲撃するという事件が発生。
 今回確認されたガジェットは三種類、いずれの機種もAMFを搭載していた。
 件のリニアレールの周囲には数体のムガンも確認されたが、ガジェットとの関連は不明。
 ムガン出現による出撃要請を受け、機動六課前線部隊が正式稼働後初の緊急出撃、隊員一同の活躍もあり事件は無事に解決。

 同日、ベルカ自治領の市街地に大量のムガン出現を確認、別件で現場に偶然居合わせた八神はやて部隊長及びフェイト・T・ハラオウン隊長が迎撃活動に参加。
 敵の物量に押され一時危機的状況に陥ったが、ロングアーチ管制班の搭乗する新型魔導兵器ガンメン≠フ投入により戦局は好転、無事殲滅を完了。
 戦闘終了後、刻印ナンバー44のレリック及びコアドリルを回収、両者は機械的に接続されており、今回のムガン大量発生の人為的事件性が指摘されている。

 なお、今回確保した二つのレリック及びコアドリルは、現在中央のラボにて保管・調査中。

 ――機動六課部隊長補佐、リインフォースUの勤務日誌より抜粋。

「……と、ここで綺麗に終わっとけば万々歳やったんやけどなー」
「ですー」

 数日前の勤務日誌を読み返しながら、はやてとリインフォースUは揃って息を吐いた。
 スバル達前線部隊の初陣は、確かに初任務としては上々の形で幕を下ろした。
 併行して発生したベルカ自治区のムガン出現事件も、隊長格二人や聖王教会騎士団の奮闘、更に途中参戦したガンメン軍団の活躍により壊滅の危機は免れた。

 新設部隊としては悪くない滑り出し、しかし問題が全く無い訳ではなかった。
 鉄道会社や一般乗客による、車両の破壊や運航ダイヤの遅れによる各種損害への苦情や賠償請求。
 ベルカ市街地での戦闘における情報伝達ミスによる被害の拡大や、八神部隊長の越権行為。
 更に魔力資質の低い内勤職員の前線投入や、それによる質量兵器保有の疑惑等々、浮上した問題を挙げればきりが無い。

 これらの問題に対し時空管理局地上本部は八神部隊長を緊急召喚、部隊の管理責任を追及した。

 そして、その結果――、

「――降格してもーた」

 あははははーと呑気に笑う部隊最高責任者に、なのは達は思わず嘆息を零した。
 今回の失態へのペナルティとして、はやての一階級降格の他にガンメンのデータ提出と査察の受け入れ、そして近々開催される骨董品オークションの警備への人員派遣が通達された。
 中々に手痛いペナルティではあるが、しかしこの程度の追及で済んだことは機動六課という組織としては寧ろ僥倖と言える。
 充実した人員や潤沢な予算などの本局の各種優遇措置、それに聖王教会との関係など、余所から疎まれる要素には事欠かない。
 最悪の場合、部隊解体という洒落にならない事態も十分あり得たのだ。

 それなのにこの緊張感の無さ、こいつは事態の深刻さを解っているのだろーか……ジト目で睨む隊長陣一同に、はやて二等改め三等陸佐の笑顔が引き攣る。

「ま、まぁアレやな! 終わり良ければ全て良しと……」
「いや何も終わってねーだろ」
「はやてちゃん、実は何も考えてないでしょ?」

 強引に話を終わらせようとするはやてにヴィータが容赦なくツッコミを入れ、なのはも疲れたように息を吐いた。
 他の面々も二人と似たり寄ったりな表情を浮かべて呆れている。
70天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/16(火) 19:39:51 ID:S6kHrG11
 なのはの右手には白い包帯が巻かれている、その下には列車奪還任務の際に負った傷が今でも生々しく残っている。
 デバイスとはいえ刃物を素手で握るという無茶の代償は、消えない傷跡としてなのはの右手に深く刻み込まれた。
 傷は深く、シャマル曰く一歩間違えていれば指や掌の神経を切断し、最悪の場合二度とデバイスを握れなくなっていた程だという。
 ある意味管理局の広告塔とも言えるエースオブエースに致命傷一歩手前の傷を負わせたという事実も、なのはの上司であるはやてへの風当たりを強くしていた。

 治療の際、なのはは魔法による負傷の完全治癒を拒否、自身への戒めとして傷跡を残すことを選んだ。
 この右手の痛みが、生涯肌に残る醜い傷跡が、誓いを忘れ、間違えてしまった愚かな自分を思い出させてくれる……未だ傷の塞がらぬ右掌を、なのははぐっと握り込む。
 握った拳の中を、鈍い痛みが電撃のように走った。

「ところで、前線部隊の訓練の方はどんな塩梅なんや?」

 唐突に話題を変えたはやての問いに、なのはは一瞬反応が遅れた。
 代わりに隣のヴィータが口を開く。

「順調も順調、怖ぇ位に快調だ……デバイスの第二形態のリミッター解除を急遽繰り上げようかって、なのはとマジ顔突き合わせて話し合わなきゃならねー程にな」

 ヴィータの科白に、はやて達は唖然と目を見開いた。
 スバル達の新型デバイスには幾重にもリミッターが組み込まれ、訓練の進度や成長の度合いによって順次解除していくという教導方針を採っている。
 新人達の訓練開始から一ヶ月強、第二形態解放は時間の問題だとは思っていたが、どうやら四人の成長は自分達の予想を大きく超えていたらしい。

「……異常なまでの成長速度だな」
「そうね。これがロージェノムさんの言う螺旋力の覚醒≠セとしたら……あの子達が一体どこまで伸びるのか、空恐ろしくなるわ」

 硬い表情で呟くシグナムに、シャマルも同意の声を漏らす。

「スバル達は強くなるよ」

 二人の言葉に、なのははそう言って鈍痛の走る右拳を握り締めながら天井を見上げた。

 教官というものも因果な役職だ……自分と空を隔てる冷たいコンクリートの塊を見上げながら、なのはは薄く自嘲する。
 己の全てを教え授けようと意気込んで、厳しくも大切に丁寧に育ててきた筈の教え子達は、しかし気がつけば自分の手を離れて己の道を一人で歩き出している。
 教導を始めて一ヶ月強の今の時点で、この科白は早過ぎるかもしれないが、それでもそう思わずにはいられなかった。

「わたし達を超えて、限界という天井すらも突き抜けて、どこまでも……」

 天井を見上げたまま淋しそうに呟くなのはを、はやて達は無言で見詰めていた。

71天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/16(火) 19:42:21 ID:S6kHrG11
  
  
 轟、轟轟――雲の壁を突き破り、蒼穹のサーキットを鋼の巨人達が縦横無尽に駆け抜ける。 
 人型汎用魔導兵器グラパール、それが三体。
 轟くエンジン音の咆哮は不可視の刃となって地上に降り注ぎ、衝撃波の斧が朽ちた街に止めの一撃を見舞う。
 崩れ落ちる廃ビル、抉れる地面……だが刃金の覇者達はそのような路端の石ころ≠ネど気にも留めず、空色の舞台で闘争のダンスをひたすら踊り続ける。

『うおおおおおおおおおおっ!!』

 額にブレードアンテナの一本角を装備した青色のグラパール、エリオの駆る機体が腕のブレードを引き抜き、背面スラスターを爆発させるような勢いで噴かして加速する。
 同時に左右の側頭部から獣の耳のようにアンテナを生やした桃色基調のグラパール、キャロの専用機がハンドガンを構え、エリオ機を援護するように魔力弾を撃ち出した。

『シューティングレイ!!』

 凛としたキャロの声と共に放たれた二発の魔力弾が、漆黒の機体色以外は特に特徴の無い三機目のグラパール――区別上、以後プロトグラパール≠ニ呼称――に迫る。
 更にエリオ機の握るブレードの切っ先に紫電が迸り、まるで鞘を被せるように電撃の膜が刀身全体を覆う。

『メッサーアングリフ!!』

 エリオの怒号と共に、電光を纏う鋼の刃がプロトグラパールへと鋭く突き出される……が、

「……ふん」

 漆黒のグラパールのパイロットシートに窮屈そうに身を納める巨漢、ロージェノムは、迫り来るエリオ機の突撃を鼻で笑う。
 プロトグラパールが緩慢な動作で右腕を突き出し、そして親指と人差し指、二本の指先で挟み込むようにエリオ機の切っ先を受け止めた。
 瞬間、掴まれた切っ先からまるで毒に侵されるように、ブレードを覆う電撃の「鞘」が霧散していく。
 死角に回り込みながらプロトグラパールを襲うキャロの射撃魔法も、着弾の直前に粒子レベルに分解されてしまう。

 AMF……エリオは忌々しそうに表情を歪めた。
 先日のリニアレール襲撃事件の後、サンプルとしてレリックと共に回収されたガジェットの残骸。
 スクラップ同然の残骸からサルベージしたAMF発生システムを、ロージェノムはグラパールの防御システムに組み込んだのだ。
 対物理バリアとAMFという二重の楯に護られたプロトグラパールに、エリオ達の攻撃は切っ先一つ、弾丸一つとして通せなかった。

「その程度か? 魔導師よ……」

 気だるそうなロージェノムの声と共に、プロトグラパールがブレードを掴む指先を弾いた。
 直後、まるで見えない壁をぶつけられたかのようにエリオ機が吹き飛ぶ。

『エリオ君!』

 キャロ機に受け止められ何とか体勢を立て直す青い同型機をつまらなそうに一瞥し、プロトグラパールは姿の見えない四機目≠探して視線を彷徨わせる。
 正面から左右、背後に頭上、そして足下……いた。
 眼下に広がる瓦礫の山、廃棄都市のなれの果て、その一角に確かに見つけた。
 倒壊しかけた廃ビルの屋上で右腕を突き出し、掌の中に橙色に輝く大粒の魔力弾を生成集束させている、今は紅蓮色に塗り替えられたかつての愛機――ラゼンガン。
72天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/16(火) 19:45:39 ID:S6kHrG11
 否……モニタースクリーンを眺めるロージェノムの双眸が、怪訝そうについと細まった。
 あそこにいるのはラゼンガンではない、肝心の頭が分離している。
 ラゼンだけか、ではラガンはどこへ消えた?
 索敵の網を蜘蛛の巣のように張り巡らせるプロトグラパールの周囲を、まるで道のように幅広な光の帯が突如幾重にも取り巻いた。
 これは確か、ウィングロードとやらだったか……まるで周りの空間ごと捕らえるかのように球形に機体を取り囲む光の檻を、ロージェノムは興味深そうに眺め遣る。

 その時、プロトグラパールの頭上で何かが光った。
 雄叫びを上げながら漆黒の巨人に急速接近する、額と両腕からドリルを生やした「顔」……ラガンだ!

「不意を衝いたつもりだろうが……甘いな」

 欠伸交じりなロージェノムの呟きと共に、プロトグラパールが右腕を持ち上げ……その時、空色の光の鎖が鋼の右腕を絡め取った。
 バインド……モニタースクリーンを走るロージェノムの瞳が、掌から魔力の鎖をのばす青いグラパールを捉えた。

『うおおおおおおおおおおおっ!!』

 スバルの声で怒号を轟かせながら、ラガンは着実にプロトグラパールに近づいている。
 ウィングロードの監獄に囚われ、その上バインドの鎖に繋がれた今、迫り来るラガンの一撃を躱すことは不可能だろう。
 だが対抗策が無い訳ではない……躱せないならば正面から打ち砕けば良い、それだけだ。

「この程度で王手を掛けたなどと」『思ってる訳ないでしょうが!!』

 怒号するロージェノムへの返答の声は、即座に、それも背後からもたらされた。
 廃ビルの屋上に仁王立ちするラゼンが蜃気楼のように消え失せ、代わりにプロトグラパールの背中の向こうに頭の生えた<宴[ンガンが突如出現する。

『クロスシフトC、征くわよ!!』

 ティアナの怒号と共にラゼンガンが尻尾を引き抜き、渾身の力を籠めて刀のように振り下ろした。
 同時にエリオ機もブレードを構え、バインドの鎖を巻き取りながら弾丸のようにプロトグラパールに突撃する。

『テールサーベル、脳天唐竹割りぃ!!』
『シュペーアアングリフ!!』

 挟み撃ちにするように前後から迫るラゼンガンの偃月刀とエリオ機のブレードを、二条の刃金の煌めきが受け止める。
 いつの間にかプロトグラパールの左右の手には、エリオ機と同じブレードが握られていた。
 二刀流……瞠目するティアナの前に通信ウィンドウが展開し、不敵な笑みを浮かべたロージェノムの顔が映し出される。

『まさか尻尾にそんな使い方があったとはな、些か驚いた。だが戦とは敵の裏の裏を衝くもの……詰めが甘かったな』

 いけしゃあしゃあと……ロージェノムの挑発に激昂しかける感情を、ティアナは理性で無理矢理抑え込んだ。
 頭を冷やせティアナ・ランスター、戦いの必需品は熱いハートとクールな頭脳だ。

「アンタが裏の裏を衝くって言うんなら、アタシは裏の裏の裏を攻めるまでよ! ギガドリル――」『遅い』

 左腕をギガドリルに変形させるラゼンガンの一瞬の隙を衝き、プロトグラパールがブレードを滑らせた。
 鈍色の軌跡を虚空に描きながら横薙ぎに振るわれたブレードの切っ先は、ラゼンガンの首筋に正確に吸い込まれ――次の瞬間、まるですり抜けるように首の中を素通り≠オた。
 手応えは無かった。
 まるでそこに何も無いかのように、まるで幻でも見ているかのように。
73天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/16(火) 19:48:01 ID:S6kHrG11
 幻術……驚いたように目を見開くロージェノムの前で、ラゼンガンの頭部が陽炎のように揺らめきながら消え去った。
 更に残る首から下の部分も、まるで肉体の成長が退行したかのように一回りサイズが縮み、左腕のギガドリルも霞のように消滅した。
 そしていつの間にか周囲を取り囲むウィングロードの檻さえも、まるで幻のように魔力光の残滓すらも残さずに消え失せている。

 ただ一つ、雄叫びと共に頭上から流星の如く突進するラガンだけは、消え去ることなく未だ存在していた……恐らくあれは、あれだけは本物なのだろう。
 全ては幻、空の上のラガンを如何に偽物らしく見せる≠ゥという一点だけに徹した道化芝居……この時になってロージェノムは漸く全てを理解した。

「敵に裏の裏の裏まで読ませておいて、実は裏の裏の時点で正面突破! クロスシフトCのC≠ヘCheat(詐欺)のC、深読みに溺れて沈んでなさい!!」

 ロージェノムの思考を読んだかのようなタイミングで、この企てを演出した策士――ティアナがラゼンのコクピットで高らかに笑う。
 エリオのバインドを引き千切り、プロトグラパールが背面スラスターに火を点す……が、

『逃がさない……クロスファイヤーシュート!!』

 ティアナの怒号と共に生成された無数の魔力弾が、離脱しようとするプロトグラパールに四方から襲いかかった。
 怯む漆黒の機体を橙色と薄桃色に光る新たな鎖、ティアナとキャロのバインド魔法が拘束し、更にエリオも鎖を再構成して、三方向からプロトグラパールの動きを封じ込める。

「スバル! やっちゃいなさい!!」

 声を弾ませるティアナに応えるようにラガンのドリルが、バインドの鎖に拘束されたプロトグラパールに真っ直ぐに迫る。

『ラガンインパクト!!』

 スバルの声で蒼穹を震わせるラガンの咆哮を、ロージェノムは愉快そうな笑みと共にモニタースクリーン越しに見上げる。

 そして、次の瞬間――、



 
 
「ぜーったいに、納得出来ない! 認めたくない!!」

 モニタースクリーンの一面に表示される「YOU LOSE」の二単語を怨敵でも見るような目で睨みながら、ティアナはシミュレーターの筺体を力任せに殴りつけた。
74天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/16(火) 19:50:01 ID:S6kHrG11
 エリオとキャロは落ち込んだように表情を曇らせ、スバルは精魂尽き果てたような顔で床に座り込んでいる。

 策は完璧だった。
 逃げ場は封じ、隙も潰し、万が一必殺のラガンインパクトが躱された時のための次なる一手も用意していた。
 常識的に考えて、並の人間ではティアナの策略の檻から抜け出すことは不可能、その筈だった。

 ティアナ達の敗因はただ一つ……敵が「並の人間」でも「常識の通じる相手」でもなかった、ただそれだけだ。

 正面の大型モニターでは、模擬戦の決着の瞬間――つまりティアナ達の敗北の瞬間――が、まるで嫌味のように何度もリピート再生されている。
 モニターの映像を苦々しそうな目で見上げながら、ティアナは屈辱の瞬間を反芻した。

 それは一瞬の出来事だった。

 重力をも味方につけて垂直降下したスバルのラガンは、プロトグラパールの額から突如飛び出したニードル状のドリルに突ら抜かれてあっさりと撃沈、断末魔の絶叫と共に爆破四散した。
 スバル撃墜のショックを引きずりながらも即座に反撃の刃を振り上げるエリオのグラパールとティアナのラゼンを、プロトグラパールは身を縛る三重のバインドごとブレードで一刀両断。
 返す刃でキャロのグラパールのコクピットを貫き、シミュレーションは終了。

 まさに瞬殺だった。

「機体性能は互角って言ってるけど、アレ絶対嘘よ! 詐欺よチートよインチキよ!!」

 憤慨するティアナに便乗するように、モニター越しに模擬戦を観戦していたメカニック達も騒ぎ出す。

「そうだ! 幾ら何でもアレは酷いぞ!?」
「子供に華持たせる優しさはねーのか、あの髭親父は!!」
「大人げねーぞ所長! ガキ共に賭けた俺の食券返せーっ!!」

 好き勝手に野次を飛ばすメカニック達だったが、当の本人が筺体を軋ませながら顔を出した瞬間、まるで時が止まったかのようにブーイングの嵐は消え去った。
 エリオとキャロも、何かを言いたそうな顔でロージェノムを見つめていたが、結局何も言わずに視線を逸らした。
 先頭を切って不満を爆発させていたティアナでさえも、いざ本人を前にすると流石に委縮してしまい、顔を強張らせながら自然と後退りする。
 そしてスバルは……いつの間にかシミュレーターの筺体に背を預けて舟を漕いでいる、論外だ。
 このオッサンに正面から文句を言える奴がいたら見てみたい……メカニック達の顔に浮かぶ畏怖の表情が、この場の支配者が誰かを雄弁に語っていた。

 だが――、

「もう……駄目ですよ、ロージェノムさん。あんまり虐め過ぎちゃ……」

 王の横暴に真っ向から異を唱える勇者もまた、確実に存在した。

「この子達はこれからが伸び盛りなんですから、成長の芽を潰すような真似は困ります」

 そう言って困ったような、それでいてどこか怒ったような表情でロージェノムを見上げるのは、教導隊の白い制服に身を包む隊長陣筆頭、誰もが認めるエースオブエース。
75天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/16(火) 19:52:31 ID:S6kHrG11
「なのはさん……?」

 思わぬ人物の登場に思わずたじろぐティアナ達を振り返り、なのはは顔の前で人差し指を立てながら口を開く。

「途中からわたしも皆のシミュレーションを観てたんだけど……駄目だよ、四人共? 幾らガンメンに乗ってるとはいえ、あんな綱渡りな機動は教官として認められないな。
 わたしはガンメンのことはよく分からないし、皆が頑張ってるのは解るけど、模擬戦は喧嘩じゃないんだから。
 シミュレーションだから、仮想空間だからって好き勝手に暴れちゃ駄目……折角魔法も戦い方も毎日一生懸命練習してるんだから、模擬戦でも練習通りにやろうよ?」

 眉を寄せながら説教するなのはに、ティアナは居心地悪そうに視線を逸らし、エリオとキャロは俯き、そしてスバルは幸せそうな顔でいびきをかいている。

 だが、その時――、

「確かに模擬戦は喧嘩ではない。だが子供のお遊戯という訳でもあるまい」

 なのはの訓戒に異を唱える者が現れた……ロージェノムだ。

「実戦は不測の事態と不確定要素の集合体だ。幾ら練習を繰り返したところで、その思惑通りに事が運ぶことはあり得ない。
 ならば互いの今持てる知恵と力の全てを惜しみなく出し合い、己の限界を以てぶつかり合うことこそが模擬戦の真髄ではないのか」
「それで味方同士潰し合ったら元も子もないでしょう!?」
「その程度で潰れるならば元より芽など無い」
「それは強者の理屈です、皆が貴方のように強い訳じゃない!」

 ロージェノムの紡ぎ出す言葉の全てを、なのはは噛みつくような勢いで否定する。

 普段の穏やかな姿とは似ても似つかぬなのはの剣幕にティアナ達が唖然とする中、ロージェノムは眼前の小娘を悠然と見下ろし、そして薄く嗤った。

「……若いな」

 ロージェノムの呟きが格納庫に木霊し――その瞬間、空気が凍った。
 まるで能面を被ったかのように、なのはの顔から表情が消える。
 あのオッサン、地雷を踏みやがった……!
 なのはの変貌にメカニック達が声無き悲鳴を上げ、ティアナが顔色を失い、エリオとキャロが怯え、そしてスバルが爆睡する中、いよいよ二人は険悪なオーラを爆発させる。

「わたしの言ってること、わたしの教導……そんなに間違ってますか?」
「無知とは恐ろしいものよ。お前は自分を正義と信じているのかもしれんが……それは違う」

 捻じり渦巻く二人の言葉は、しかし決して交わらぬ平行線を辿っていた。
 螺旋の光を宿すロージェノムの視線と、不屈の焔を灯すなのはの眼光が中空で激突し、バチバチと火花を飛ばしながらせめぎ合う。
 まさに一触即発。
 全員が固唾を呑んで二人の舌戦の成り行きを見守る中、まるで最後の決着をつけるかのように同時に口を開いたなのは達の言葉は――けたたましく鳴り響く非常警報に掻き消された。



天元突破リリカルなのはSpiral
 第11話「スバル達は強くなるよ」(了)
76天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/16(火) 19:55:53 ID:S6kHrG11
以上、投下完了です。
ホテルの話に入るまえに、今回からちょっとだけオリジナル展開に入ります。

前回GJコールくれた方々、この場を借りてありがとうございます。
77名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 20:04:31 ID:x0gJAtKX
GJ!
なのはvsロージェノム!?
意外な展開です
78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 20:25:25 ID:x0gJAtKX
GJ!
なのはvsロージェノム!?
意外な展開ですね
79名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 20:26:17 ID:x0gJAtKX
連投スイマセン
80名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 20:28:56 ID:xUR6dHhd
無理を通して道理を蹴っ飛ばす
無茶をして怪我したなのはと倦怠の海に沈むも目覚めたロージェノム
どっちも言い分は解るけどグランレガン的には後者がないければダメだからなぁw
81名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 20:30:13 ID:xUR6dHhd
グランレガンって何だw
グレンラガンね、スマソ
82名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 20:49:29 ID:lrR3C2x3
グレンラガン本編を見ずに、iアプリ全4部を全クリした俺、参上(SSも今回が初見)。
螺旋王となのはの対立、スバルのラガンインパクトなどといい具合に観せてくれましたが、
一番のGJは青のエリオ機とピンクのキャロ機(似てると思ってたけど本当にやるとは)。
これから読破してきますんで、そちらも頑張ってください。
83名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 21:14:04 ID:lkt1/fGF
スバルてめぇww
84名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 22:22:08 ID:itABJC63
お前らネットが規制されるぞ!偽名とか偽住所とか使ってでもいいから自民に批判メール出せ!

政府は今年末にまとめる新たな「青少年育成施策大綱」の枠組みを決定した。
〈1〉インターネット上の有害情報の規制
今回決定した枠組みに対する意見を国民から募集し、 年末に新たな大綱を決定する。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080725-OYT1T00343.htm

■自民党公式サイト http://www.jimin.jp/jimin/goiken/index.html


85名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 23:59:27 ID:lkt1/fGF
本決まりしてどうにもならなくならないと誰も騒がないがw
86名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 00:49:35 ID:39GVlxkY
騒がないと本当にどうにもならなくなるよ
87名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 01:06:37 ID:6qjyQ9uq
>84
偽名・偽住所は、かえって信用を失うもと。
署名や請願などで罰せられた例はないので、反対の理由などを明確にしたうえでメール、できれば手紙を書いて送りましょう。
メールの場合は必須の部分だけでも埋めて、手紙の場合はきちんと自分の住所氏名を記したうえで。
88名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 13:01:33 ID:39GVlxkY
今BIGLOBE百科辞典見てきたが2008年6月11日に「青少年ネット規制法」が確立し1年以内に施行するとか書いてあったぞ
お前ら精一杯騒げ
89名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 13:04:08 ID:39GVlxkY
百科辞典じゃない百科事典だった
90一尉:2008/09/17(水) 13:45:15 ID:6/C6oY2u
うーん二千百科事典でいいいか。
91名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 18:41:51 ID:8zr1/Sq4
>84
読売の方404になっとるが
92名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 18:59:35 ID:OxTkyUvd
以後雑談禁止
93リリカル武者○伝 ◆IsYwsXav0w :2008/09/17(水) 20:30:02 ID:dBOA9mWz
八時五十分から投下をさせていただきたく思いますが、よろしいでしょうか?
94名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 20:31:53 ID:OxTkyUvd
>>93
どうぞどうぞ
95名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 20:44:54 ID:CrgArMUa
>>93
待ってました!
96リリカル武者○伝 ◆IsYwsXav0w :2008/09/17(水) 20:52:43 ID:dBOA9mWz
時間を過ぎましたので、行かせていただきます!
======


「トッキー、なのは、ユーノ……」

 ただ、雨が降っていた。
 黒衣の少女、フェイトが行使した強制転移魔法。
 その発動の直前、トッキーは戦う力を持たない子供達を逃がしていた。
 だが、それは……

「置いてきぼり食らっちまったかな、こりゃ」

 これまでずっとトッキーと一緒であったシンヤにとっては、事実上の戦力外通告と同義。
 確かに自分には戦う力などない。
 ススムが巻き込まれて行方知れずになった直後でもあるから、わかる話ではある。
 ただ、無性に寂しかった。自分がいらないと言われたような、そんな気がして。
 そんな脱力したように突っ立っているシンヤに忍び寄る、小さな影があった。

「ちょっとあんた、何勘違いな事言ってんのよ!」

 甲高い、脳天に直接響くようなキンキン声が耳を突き抜けて行く。
 その主はシンヤと同じく、トッキーの手によってぎりぎり強制転移から逃れた少女の一人、
なのはの親友でもある少女、アリサだった。

「勘違いだぁ? ガキのくせに何テキトーな事……」
「ガキはあんたもでしょ! 二、三年ばかり先に生まれたからって大きな顔してんじゃないわよ!」
「何だと!?」
「何よ!!」

 売り言葉に買い言葉。
 互いに熱くなりやすい性格が災いしてか、まさに犬猿の仲といった風情で睨み合う二人。
 このままでは埒があかないと、同じくなのはの親友の一人のすずかが止めに入る。

「落ち着いてよアリサちゃん、それにシンヤさんも!
 ねぇ、アリサちゃん、何か言う事があったんでしょう?」
「そういやそうだったわね。こいつのせいでかく乱されるところだったわ」

 余計な所に噛みついたのは彼女も同罪であるが、そこに突っ込んではいけないような気がする。

「いい? トッキーは消えちゃう前に、『メール』とかなんとか言ってたでしょ?」
「おー! それ、おれも聞いた! けど、めーるってなんだ?」

 置いてきぼりを食らうまいと、三人の足元をちょこまかとしていた羽丸が割り込んで来た。
 だが、話の内容までは分かっていないようなので、アリサは無視して話を続ける。

「きっとトッキーはあんたにどうしても任せたい事があったのよ!
 だから、あたし達を無理にでもこっちに残した。そういう風には考えらんないの!?」
「任せたい事、だって……?」
「そうよ! 悔しいけど、あたし達じゃなのはとおんなじ場所に立つ事はできない。
 ずるいわよ、あの子一人だけ魔法少女始めました、なんて……」

 そう言いながら、顔面に叩きつけられる雨粒を拭うアリサ。
 しかし、ぬぐった雫は本当に雨だけだったのだろうか?
 その声は寒さ以外の理由で震えているようにも思えた。

「けど! 戦えないけど、ううん、戦えないからこそできる事がある!
 トッキーはそう言いたいんじゃないの!?」
97リリカル武者○伝 ◆IsYwsXav0w :2008/09/17(水) 20:53:37 ID:dBOA9mWz

 アリサの歯に衣を着せない言葉はシンヤの心の隙間を的確に突いてくる。
 そんな事は、本当は言われなくても分かっていた。
 分かっていたからこそ、認めたくなかったのかもしれない。
 そうだ、自分は対等の相棒としてトッキーの隣にいたかったのだ。
 本当は刑事として彼と肩を並べる父が羨ましかった。
 だがトッキーと一緒にジュエルシードを探す旅で、自分がその位置に立てる……
そんな気がしていた。
 しかし、現実はそうはいかなかった。
 その場所には先約があった。武ちゃ丸やシャチョー達、他の武者頑駄無だ。
 彼らに比べたら自分はただの子供でしかなく、なんの力も持っていやしない。
 なのはのような魔法の力も、ススムのように機転を利かせる知恵さえも。

「あんたがトッキーの家族も同然だって言うなら、
 あんたがそれに気付いてあげられなくてどうするって言うのよ! この馬鹿!!」

 そうして頭の中を纏まらない考えがぐるぐると回り続けている中でも、アリサは叫び続ける。
 水面に波紋が拡がって行くように、アリサの一言一言がシンヤの心に沁みわたっていく。
 ……あぁ、そうか。だから、アリサの言葉はこんなにも深々と突き刺さるのだ。
 アリサも自分と同じく、親友の隣という位置を求めても得られない立場にあるから。
 そう、彼女の叫びは自分の叫びなのだ、と。
 だが、そこは素直になれないお年頃。
 明らかに下級生な女の子に馬鹿とまで言われて、どうして今更こちらから頭を下げられようか。
 参った、このままだと延々ピーチクパーチク好き放題に言われたまま話が進まない。
 けれども謝るのも何だか癪に障る。どうしたものか……

「ねーね、シンヤー」
「なんだよ羽丸、今手が離せないんだ。後にしろ、後に」

 羽丸が何か話しかけてくる。しかし今はとても構っていられるような心理状態ではない。
 適当にあしらっておくかと、シンヤは大して考えもせずに返事をする。

「そのけーたい……けーたいなんとかっての、貸してー?」
「はいはいどうぞ。わかったから今はあっちに行っててくれ」
「さんきゅー! ねーねー、すずかー! もらってきたよー!」

 ――やっと行ったか。さてどうするか……って、携帯!?
 
 シンヤも、そしてアリサも気が付いたようだ。
 バッと振り向き、二人の視線はほぼ同時にある一点に注がれる。
 羽丸の頭を撫でながら、にこにこと微笑むすずかに対してだ。
 すずかは長年のアリサとの付き合いで、こういう時……天邪鬼な人間が素直になれなくて
困っている時、どうするべきかよく知っている。
 無理やりにでも事を進めて、うやむやにしてしまう事だ。
 そうすれば、後は本人が勝手に落とし所を作ってくれるから。
 
「ほらシンヤさん、新着メールが入ってます。ついでに不在着信も。
 早く確認しないと、大切な用事だったら後で大変な事になってしまうかもしれませんよ?」

 満面の笑顔で微笑むすずかに対して、引き攣った表情を向ける事しかできないシンヤ。
 この日、少年は女という存在の恐ろしさの一端を垣間見、また一つ大人になっていった。
98名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 21:02:47 ID:dBOA9mWz
 


 巻之弐拾四「届け、我が声! 命をかけたメッセージやでっ!」



 一方、強制転移によってフェイトの母、プレシアの待つ「時の庭園」へと飛ばされたなのは達。
 心を持たぬ魔導兵器「傀儡兵」による襲撃の第一波を蹴散らし、プレシアの捕縛を目指し
突き進む彼女たちだったが、その行く手にはまだまだ多くの困難が待ち構えていた。

「わぁっ! いっぱい来たぁ!?」

 槍を手に携え、蝉を模した胴体から蝙蝠のような羽を生やした飛行型の傀儡兵が
大階段を昇る一行の眼前に雲霞のごとく迫り来る。
 思わず身構えてしまうなのはの横を通り過ぎ、先陣を切って飛び出していく青い旋風があった。
 斗機丸だ。

「俺が先陣を切る! なのはとクロノは撃ち漏らしを、ユーノは二人のアシストを頼む!」
「わかりました……って、トッキーさん一人で!?」

 斗機丸は自慢の足の速さを生かして果敢に突撃し、まず目に留まった不幸なその一体に向けて
バーニアからもたらされる爆発的な加速力を加え、鋭い切っ先を突き立てる。
 傀儡兵の体がスパークとともに激しく痙攣したかと思うと、だらりと弛緩した。
 そう、例えるならばまるで糸の切れた操り人形のように。
 同時に傀儡兵の目に当たる部位からは赤い輝きが失われ、
その機能は完全に停止してしまった事がわかる。
 しかし、斗機丸の勢いはそれだけで止まらない。止められない。

「むぅん!」

 傀儡兵の残骸が刺さったままのナギナタライフルを、ハンマー投げの要領で全身を使って振り回し、
遠心力を重ねて別の傀儡兵二、三体を巻き込むように残骸を投げつける。

「これで、トドメだ!」

 即座にナギナタライフルを構え直すと、手元のスイッチをテンポ良く操作する。
 射撃モードに切り替えて、荷電粒子からなる数条の閃光をたった今投げ捨てた残骸に向けて放つと、
その数体の引き起こした爆発が、他の傀儡兵を巻き込んで拡がっていく。
 一分にも満たない時間が過ぎた後には、傀儡兵の集団はまとめて爆発の輝きの中に消え去っていた。

「よし、これなら! なのは、狙えるね?」
「もちろんだよ、クロノ君! ディバインシューター……」
「スティンガースナイプ……」

 最初の突撃から生き残り、この壊滅状態の元凶となった斗機丸に狙いを定める傀儡兵たち。
 しかし、彼らは手の届く範囲にいる斗機丸の事にばかり気を取られ、背後への警戒はお留守のよう。
 そうなったら今度は砲撃戦に長けるなのはやオールラウンダー・クロノの出番だ。

「シュートッ!!」

 二人の叫び声が重なって、桜色と青白色の光が放たれる。
 傀儡兵は迫りくるその攻撃から逃れる事は出来ず、次々と鉄屑へと還っていった。
 
「……これで全部か?」
「みたい、だね」
99リリカル武者○伝 ◆IsYwsXav0w :2008/09/17(水) 21:03:55 ID:dBOA9mWz
 気がつけば、辺りを埋め尽くすのは残骸の山、山、山。
 そんな中、魔導師三人で背中合わせになり、慎重に辺りを見渡してクロノとユーノが囁き合う。
 ごくわずかな時間にもかかわらず、襲いかかって来た傀儡兵は全て撃退された。
 斗機丸の活躍あってのことだが、当の斗機丸自身はどこか浮かない表情を浮かべている。
 敵地のど真ん中でいちいち喜んでいるわけにいかないというのは道理であるが、
性急な突撃も含めてどこか不自然なものを感じさせた。

「す、すごいねー、トッキー君! あんなにいっぱいいたのに、もうやっつけちゃうなんて!」
「なに、ちょっとばかり多勢に無勢の状況に慣れていただけさ。
 『連携の極意を極めし者は、個が多を圧倒する事も可能となる』……俺の師の教えだ」
「そうなんだ……ところでトッキー君、どうかした? どこか痛いところ無い?」

 そんな状態を敏感に感じ取り、なのはは心配そうに斗機丸に声をかける。
 だが、答える彼の姿に不審なそぶりは欠片も見受けられない。

「いや、特には……そんな風に見えたか?」
「う、ううん! 多分、私の気のせい!」
「そうか……」

 それでとりあえず納得したのか、引き下がるなのは。
 そんな彼女の背中を見やりながら、トッキーはやはり隠しきれるものではないなと感じていた。
 今の自分の体は「制限時間」の事を抜きにしても、やはり100%の力で戦えるほど
万全の状態ではない、と。
 反応速度自体に問題はない。
 以前、自分に応急処置を施した忍に告げた通り、部分的には以前より上回っている面もある。
 わずかに感じる違和感も、戦闘機動を繰り返すたびに埋まりつつあった。
 しかし、悲しいかな所詮は急造品。
 派手な立ち回りの時に、ほんの小さな音ではあるが部品の軋む異音が体内を駆け巡る。
 その音こそが、それ以上の踏み込みは危険だとシグナルを示していたのだ。
 だが、今更立ち止まってなどいられない。
 ここは敵地……と、言う事は必ずあのフェイトという少女も出てくるはず。
 なのはの意向も汲んでやりたいが、いかんせん経験に差がありすぎる。
 自分か、もしくはクロノが相手をするべき対象だろう。
 だから今はただ前に進むしかない。たとえその先が……

「トッキー君?」
「な、何だ、なのは? まだ何か気になる事でも?」

 その言葉に斗機丸が気がつき、慌ててそちらを見ると三人ともじっと彼を見つめている。
 まさか気付かれたのではと、内心の焦りを抑えてごく普通に接しようと行動したが、
はたしてどれだけ感づかれずにいられるか、彼の心に大きな不安がのしかかり始めていた。

「もう、『何だ?』じゃないよ! これからの事を話してたのに……」
「これから?」

 トッキーの疑問に、クロノはやれやれと言わんばかりに肩をすくめ、説明を始める。
 恐らく彼にとって本日二度目であろう説明を。

「あぁ、そうだ。僕らは今あてもなくこの庭園の中を彷徨っているも同然の状態だ。
 外部と連絡が取れればここのデータを持っているエイミィからナビゲートも得られるんだろうが、
 ジャミングがかけられていて音信不通。そこで……」
「まず第一に。武ちゃ丸たちと合流する」

 長々と説明をするクロノだったが、途中から横から割り込んできたユーノに
その続きを奪われてしまった。

「なるほど、妥当な手段だな。単純な戦力増強にもつながるし……」
「僕が話している途中だったろう、ユーノ!」
「執務官殿がお困りのようでしたのでぇ、僭越ながら捕捉させていただきましたー」
「僕がいつ困ったと言うんだ!?」
100リリカル武者○伝 ◆IsYwsXav0w :2008/09/17(水) 21:05:04 ID:dBOA9mWz
 ユーノの人を食ったような態度に、よせばいいのに食いついて行くクロノ。
 ちなみに両者の年齢差、実に五歳ほど。

「あー……続きを頼んでいいか?」

 またもいがみ合うクロノとユーノに軽く呆れながら二人をなだめ、
話題を正常な方向へ軌道修正しようと試みる。

「すまない、ついかく乱されて……敵である堕悪武者やフェイトの使い魔と
 行動を共にしていた点も気になるからね、確認はとっておきたい」
「成程」
「それで、第二に取るべき手段だが……」




「駆動炉を、ぶっ潰す!」

 なのは達のいる位置から、少し距離の離れた時の庭園の下層部。
 こちらにも襲いかかって来た傀儡兵の哀れな躯の頭部を踏み砕き、アルフは力強くそう宣言した。

「駆動炉? おいおい、あのオバハンのトコに行くまでに寄り道しろって言うのかよ?」

 こちらも戦闘直後のため、すでに武装を完了している武ちゃ丸……いや、武者丸が
突然そう言いだしたアルフに文句を垂れる。
 だがしかし、アルフ親衛隊の三名がそのような口の利き方を許すはずがなく。

「何を! 貴様、武者頑駄無の分際で姐御に逆らうのか!?」
「姐御の判断は絶対なんだな!」
「そもそも俺は姐御のためとは言え、敵だった奴と組むのは気に食わなかったんだ!
 姐御! こいつもう放っといてここに置いて行きやしょうぜ!」

 ぎゃあぎゃあとアルフの背後から喚き立てる落ちこぼれ堕悪武者三名。
 虎の威を借る狐とはまさにこの事を指すのだろう。
 とうとう武者丸の苛立ちも頂点に達し、このヘタレどもに向け、こう一喝した

「やっかましい! 戦えないススムを護衛するとか偉そうな事言っといて、
 てめーら三人揃ってススム取り囲んでガタガタ子羊みたいに震えてただけじゃねーか!!」
「うっ……」
「そ、それは……」

 一発で形勢逆転。あぁ、所詮は負け犬の遠吠えという事か。
 三人組はチワワのような瞳をしてアルフを頼るが、アルフも武者丸に同意と判断したのか
逆に冷たい眼差しを向けられる始末だ。

「あ、あのー……その、駆動炉って何なの? いや、何となくわかるけど一応」

 このままだと埒が明かない、という最後の一言を呑み込んでススムがたずねる。
 
「あぁ、そうだったそうだった!
 この庭園の最上階、そこにここのエネルギー供給を担ってる大型の魔力駆動炉がある。
 侵入者撃退用のトラップやら、今襲ってきたガラクタやらもそのエネルギーを受けて動いてるんだ」
「なるほど、つまりそこさえ叩いちまえば……」
「邪魔する奴は、なんにも無くなる!」
101リリカル武者○伝 ◆IsYwsXav0w :2008/09/17(水) 21:06:32 ID:dBOA9mWz
 
「なるほど……確かに傀儡兵とやらの動きを止めるのは重要だし、
 エネルギーの供給源を断てば外部との連絡手段も復活する公算が高い。
 だが、その場所をどうやって突き止める?」

 そしてなのは達。
 彼らもまたその駆動炉を破壊するという結論に至っていた。
 だがしかし、彼らと武者丸たちの間には大きな差がある。

「だよね……武ちゃ丸君達と一緒になれればいいんだろうけど……
「その武ちゃ丸達もどこにいるかわからないしね」

 それは、内部の情報に精通している者の有無。
 アルフという先導者を有する武ちゃ丸達とは違い、なのは達は準備もなく突然ここに連れて来られ、
まさしく手探りの状態でこの広く、入り組んだ庭園を彷徨わされているのだ。

「せめて、彼らに僕達の存在を知らせる事が出来ればいいんだが……」
「ジャミングかかってるのに、どうやってそんな通信とるんですか?」
「一々突っかかって来ないでくれ、仮定の話さ。
 向こうがこちらの存在に気付いてさえくれれば、こちらも少しは動きを取りやすくなる。
 だけど……」

 それきりクロノは沈黙してしまう。
 そう、向こうにこちらの存在を知らせる手段など現時点の彼らには存在しないから。
 これ以上言っても不安材料を増やすだけだと判断したのだろうが、
その沈黙だけで意味は十分すぎるほど伝わってしまっていた。

「武ちゃ丸君が魔法使えたら、念話も試せたんだけど……」
「なのは、それだって相手の大体の位置がわからなければどうしようもないよ」

 がっくりと肩を落として呟くなのはと、彼女の案の問題点を指摘するユーノ。
 希望が見えたと思えば、結局は八方ふさがりか……そう思われた。
 しかし、その言葉に意外な反応を見せた人物がいた。

「! 待て、待ってくれ! 機械的でない通信手段なら使えるのか!?」

 この中で最も「機械的」な存在であるはずの斗機丸だ。

「え? あぁ、そうでないと魔導師としてはいろいろと困るからね。
 たとえば、念話の応用で傀儡兵に行動を指示したりとか……」
「成程な……それなら試してみる価値はある、か」

 クロノの返答を受け、我が意を得たりと何やら納得した様子で斗機丸は一人思索にふける。

「トッキー君?」
「……あるのか、手段が?」

 不思議そうに斗機丸の顔を窺うなのはと、半信半疑でその真意を尋ねるクロノ。
 そんな二人に向かって斗機丸は状況を打開できると言う確信を持って、
にもかかわらず笑顔とはほど遠い真剣身を帯びた表情でこう答えた。

「あぁ。どんな妨害電波も邪魔する事のできない、『最後の手段』の引き鉄がな」
102リリカル武者○伝 ◆IsYwsXav0w :2008/09/17(水) 21:07:37 ID:dBOA9mWz
 
 庭園の最上部を目指して警備の薄いルートを重点的に選び、ひた走る武者丸達。
 ところが、そこに時ならぬビープ音が鳴り響く。
 その音はどこまでも甲高く、そして無機質に聞く者の不安をかき立てる音色であった。

「何の音だい、こりゃ?」
「警報ですかい、姐御!?」
「いや、それにしちゃ……」
「携帯の着信音……なわけないよね」

 イヌ科の特徴が色濃く表れている耳をひくつかせて、辺りを慎重にうかがうアルフと堕悪武者達、
そして怪訝そうな表情を浮かべるススム。
 だが、一人だけ明らかに様子のおかしい者がいる。

「おい、一体何の冗談だよ、こいつは……!?」

 武者丸だ。
 彼は普段の明るい様子とはまるで逆に、その顔色を真っ青にしてただ呆然と立ち尽くしていた。

「武者丸、知ってるの?」
「我致止飛(がちゃんぴ)だ!」
「が……ガチャ○ン?」
「違う! こいつは斗機丸の……『我致止飛』起動要請信号だ!!」




「ねぇ、トッキー君。最後の手段って言ってたけど……」
「危ない事じゃ、ないですよね……?」

 「最後の手段」という言葉に、なのはは心配そうに斗機丸に問いかける。
 斗機丸の姿は普段と違い、出力全開時のように各部の装甲が展開している。
 その上各所のレンズ部分が怪しげにチカチカと点滅しているのだから、
なのはやユーノの不安を煽るには十分を通り越してお釣りがくるくらいだ。
 そんな彼女達を心づかい、斗機丸は努めて柔らかい物腰で、ただし態度はあくまで真剣に答えた。

「……なぁに、大した事じゃないさ、二人とも。君達が気にする事はない。
 電波とも術法とも違う、この世でいちばん信頼のおける『戦友』にだけ通じる方法さ」
「電波とも、魔法とも……? そんな方法が?」

 こめかみに指を立て、難題を前にした時のように難しい顔をしながら
ユーノは斗機丸の言葉を何度も噛み締める。

「あぁ、そうだユーノ。俺と武者丸、鎧丸は一つの絆で繋がっている。
 何度も同じ死線を潜り抜けた、最も信頼のおける戦友と言う……な。
 その眼には見えない「縁」の力で結びつけられた、いわば専用回線をこの特別な通信に用いている。
 俺の信じた二人に、絶対に伝えなくてはいけないメッセージを伝えるために」

 それは具体的に何をしたかという事を一切明らかにしない、要領を得ない説明であった。
 クロノは周囲に警戒を払いながら、なのはとユーノは神妙な表情を崩さぬまま
押し黙ってその言葉を噛み締める。

「わざわざそんな特別な手段を使うなんて……」
「……よく、わからないけど大切なものなんだね」

 だが、とりあえず遠く離れた二人にメッセージが届くらしいという事を知って
なのは達もとりあえず納得だけはしたようだ。
 何より、斗機丸の無言の圧力を感じたという事が一番大きい。
 普段、理知的な斗機丸だからこそ説得力を持つ「この先を知ってはならない」という圧力を。
103リリカル武者○伝 ◆IsYwsXav0w :2008/09/17(水) 21:09:03 ID:dBOA9mWz
「あぁ、とても大切な事なんだ。それだけわかってくれればいい」

 ――そうだ、なのは、ユーノ。君達は知らなくていい。知らない方がいい。
   知ったなら、きっと黙ってはいないだろうから……




「間違いない、さっきの感じ……あいつが、斗機丸がこの近くにいる!」

 その音……斗機丸からの非常事態を知らせるサインが鳴り止むと同時に武者丸は走り出す。
 曲がり角の向こうから、ビープ音を聞きつけた傀儡兵の一団が襲いくるにもかかわらず
アフターバーナーを点火し、文字通り爆発的な勢いをもって。

「どけぇぇぇぇぇっ! 雑魚なんぞに用はねぇっ!!」

 すり抜けざまに左右から刃を振り上げる二体の傀儡兵を薙ぎ払い、横一文字に両断。
 正面に立ちはだかり、その進行を止めようという愚行を犯した傀儡兵に対しては
蹴り倒した上で刀を突き立て、そのままさらに加速する。

「邪魔する奴ぁ、みんな纏めて焼き切ってやるぜっ!!」

 傀儡兵を突き刺したまま「道頓堀断裂灼熱斬」の体勢に移行する武者丸。
 巻きあがる輻射熱をはらんだ熱風が周囲の傀儡兵を押しのけ、刀に刺さった躯の傀儡兵は
摩擦に耐えきれず、ばらばらになりながら武者丸のはるか後方の地面に取り残されていった。
 それでも武者丸の進撃はとどまるところを知らない。
 鈍色の光沢を放つ大型の傀儡兵が複数立ち並び、道を塞ごうとするがそれは愚かな選択。
 今の武者丸を止められる者はいないのではないか……そう錯覚させるほどの
鋭い殺気を放ちながら、武者丸は床から刀を抜き放ち、目の前の障害を斬り伏せた。

「でぇりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

 それはまさに火龍のいななき。
 雨による威力の減衰や、加減の一切ない灼熱斬の威力はそう比喩するに相応しい。
 刀に斬られた傀儡兵は、切り口からまるで飴が融けるようにぐにゃりとへし折れ、
土煙を上げながら物言わぬ鉄塊と化していった。

「武者丸! 一体どうしたのさ!? ガチャンピって一体何の事だよ!?」

 そこに、遅れてたどり着くススムやアルフ達。
 皆一様に武者丸の急な行動と、それが引き起こしたこの光景に目を丸くし、言葉を無くしていた。

「……斗機丸の奴が、かなりヤバい状態みたいだ」
「……えっ?」

 信じられない言葉が武者丸の口をついて出たとしか、その時のススムには思えなかった。
 この大暴れの様子と、今の武者丸のショックを受けている顔が、
どうしても一本の線に繋がってくれないからだ。

「け、けどトッキーがどうしてこんな所に? って言うか、何でそんな事分かったの!?」
「分かるんだよ、俺と鎧丸には! あいつがどうしようもなくなっちまった時……
 最後の手段を選ばざるを得なくなった時が!」

 武者丸は、事態を把握できていないススムに向けて、ただただ自分の知識の中にある事だけを
相手が理解しているかどうかは関係なくぶつけ続ける。
 まるで、自分自身の戸惑いを打ち消そうとするかのように。
104リリカル武者○伝 ◆IsYwsXav0w :2008/09/17(水) 21:10:23 ID:dBOA9mWz
「何でアイツがこんな所にいるのかは知らない。けど、間違いなく斗機丸はここにいるんだ!
 アルフ、お前ここに住んでたんだったら、俺達以外の侵入者がいるかどうかわからねーか!?」
「ちょい待ち、すぐにやってみるから……
 あとさ、ちょっとは落ち着きなよ、武者丸?」
「何!?」

 アルフはただただ立ち尽くすススムを指さし、武者丸にそっと耳打ちする。

「あんたがそんな怖い顔してると、あの子が心配するよ?」
「ススムが?」
「そうさ! あたしは使い魔だからね。
 ご主人様のフェイトとはどんなに遠く離れても心を繋げる事ができるから、
 仲間のピンチを察知するって言うのは何となくわかる」
「そんな事、できるのか?」

 少しばかり驚いた表情の武者丸に対し、アルフは胸を張って、鼻高々に……とはいかないまでも、
ゆっさゆっさとふわふわな尻尾を振りまわして答えた。

「一応ね。今はフェイトの方が心を閉ざしちゃってるから、わからないけど……
 って、話をそらすな! でも、あの子はそうじゃないだろ?
 何の前触れもなしに、人が変わったみたいに刀振り回して大暴れなんてやっちまったら
 ドン引きするに決まってるじゃないか!」
「うぐ……」

 返す言葉もない。
 実際、周りの事も顧みずに大暴れしたのは消せない事実であるからだ。

「とにかく、フォローくらいは入れてやるから、頭冷やしてちゃんとわかるように説明しなよ?
 このままじゃあ、誰も納得なんてできやしないからね」
「お、おう……」
「じゃ、頑張りな! あたしもちょっと一働きしてくるから……さ。
 そうそう、警戒の方も忘れないで頼むよ? ちょーっと無防備になっちゃうしね」

 扉の脇に付いている端末に向けて、右腕をぶんぶん回しながら歩いて行くアルフの背中を見送ると
武者丸は困り顔で立っているススムの方を見やる。
 はてさて、説明するのはいいがどうやって切り出したものか。
 今更「我致止飛とは何か」を説明しないわけにはいかない。
 だが、それを聞いて果たしてススムは納得してくれるのだろうか。

 斗機丸の動力炉のエネルギーを解放し、自爆させると言う装置の発動の承認を
旧知の仲である自分と鎧丸……シャチョーが担っていると言う、その事実を。

「武者丸……」
「お、おう!」

 ススムが声をかけてくる。
 びくん、と、少し挙動不審な反応が混じってしまい、怪しまれなかったかと邪推するが
特にそこには疑いを持っていない様子。
 少しほっとして、アルフや、それを手伝おうとして逆に足を引っ張っている
堕悪武者達の作業を眺めながら、とりあえず壁に背を預けて語る事にした。

「トッキーさ、本当にここにいるん……だよね?」
「あぁ……」

 やはりと言うか何と言うか、互いにどこかぎこちない。
 ススムは武者丸の真意を測りかねている状態だし、武者丸としても
いろいろと気を使おうとして頭の中が混線している。
 意外に理屈っぽいススムと、口より行動な武者丸の二人は一度話がこじれると
このような膠着状態に陥りやすいのだ。
105名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 21:10:45 ID:0tzB7fw3
支援〜
106名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 21:12:07 ID:eawmglXP
支援
107リリカル武者○伝氏代理:2008/09/17(水) 21:17:09 ID:OxTkyUvd
「やっぱり、ボク達を追って?」

 ススムが、責任はすべて自分にあるかのような思いつめた表情を見せる。

「いや、そこまではわかんねぇ。
 あいつからの通信があったって言っても、感覚的なものだからなぁ……
 あのブザーはそれを拾って音に出すだけで、
 俺には大体どの辺りにいるかって事くらいしかわからない」
「そうなんだ……で、どこら辺から? 無事なの? そもそもガチャンピって何?」

 矢継ぎ早に繰り出される質問の数々に、武者丸は目を白黒させながら戸惑っている様子。

「おいおい、そんないっぺんに言われたって答えきれねぇって!」
「でも、知りたいんだ!
 自分達だけ全部知ってるふりで、ボクだけ蚊帳の外なんてごめんだよ!
 ねぇ、教えて、武者丸? ボクだって、もう何も知らないただの子供じゃないんだ!」

 じっと武者丸を見上げるその瞳。
 そこに宿るのは、キラ星の輝きにも負けない、強い決意の輝きがある。
 その熱意に負け、武者丸も重い腰を上げる覚悟を決めたようだ。

「……そうだったな、忘れてたよ。
 お前はもう俺の『友達』で、俺達の『仲間』だったよな」
「じゃあ!」
「けど、続きは今すぐってわけにゃいかねぇな、そう……」

 ススムの顔が火が灯ったようにぱあっと明るくなる。
 ただし、武者丸の表情はどこまでも真剣なままで。

「こいつらを、全部片付けてからな!」

 その一言とともに、ススムを抱えて武者丸が壁から飛び退くと、その壁を突き破って
鋼鉄製の拳が大音響とともに突き出して来た。
 壁に開いた大穴からは、無数の赤い目の輝きがじろりとこちらを睨みつけている。

「武者丸! もうあんな無茶は……」

 バックパックに据え付けられたのぼりを翻しながら、刀を構えて駆けて行く武者丸の背中に
ススムが声をかけようとするが、もうその先の言葉は二人にとって必要なかった。

「わーってる! こんなザコぶっ飛ばすのに、あんな無駄な事してらんないからな!」

 この庭園のどこかに無二の戦友がいる。
 しかも、自爆寸前に至るまでの窮地に立っている可能性が高く、いまはその消息も知れない。
 視野狭窄となった状態からでは見えなかった事も、アルフやススムの言葉を受けた今では分かる。
 助けに行ける自分が大技を使いすぎてガス欠なんて事になれば目も当てられない。
 結局は「急がば回れ」という言葉の通り、たとえゆっくりでも道に迷わないように
確実に前に進んでいくしかないのだ。

「待ちやがれ、武者頑駄無!」
「助太刀するぜ!」

 と、そこに意外な援軍が駆け付ける。
 アルフの手前、露骨に反目し合う事も出来ず、ずっと相互不干渉を決め込んでいた
へっぽこ堕悪武者の三人組だ。

「おいおい、お前らはアルフの手伝いじゃなかったのか!?」
「なんだなんだ、さっきの名誉挽回くらいさせろ!」
「本当は邪魔だって追い出されてしまったんだな」
「おい圧愚害、黙ってろ!」
108名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 21:17:18 ID:CrgArMUa
支援
109リリカル武者○伝氏代理:2008/09/17(水) 21:18:16 ID:OxTkyUvd
 結局何をやってもオチが付いてしまう堕悪武者達に失笑しつつ、
武者丸は奇妙な共同戦線を張り、迫りくる鋼鉄の兵士達に立ち向かっていった。




「トッキー君、もういいの?」
「あぁ、ここまでやって気付いてくれなかったら……その時はその時さ」

 信号を切り、展開した装甲を戻しながら斗機丸は、ずっと不安そうだったなのはの頭に
ポンと手を置いて、少しでもその不安を払おうと試みる。
 その姿を見てクロノは力になれない自分に歯噛みしつつ、起動状態のデバイス「S2U」を握りしめて
行動する事を促した。

「なら急ごう、少しここに長居し過ぎた。
 きっとあの扉の向こうには、凄い数の傀儡兵が待ち構えているはずだ」
「そうだな……すまないな、クロノ」

 階段の上に見える大きな扉に目をやり、斗機丸の言葉に「余裕を持っている自分」を演じながら
あからさまに見えない程度の作り笑顔で答える。

「かまわない、どうせ多勢に無勢だ。
 これ以上悪い状況が無いと思えるなら、わかりやすい希望にすがってもみたくなるさ」

 なのはやユーノもそれには同意見らしく、特に口を開くことはしない。
 特に彼女らは武者丸がどういう人物か知っている分、かける期待はなおさら大きいのだろう。

「よし……じゃあ、俺達は俺達にできる事から始めよう!」

 意を決し、ゆっくりと扉を開く。
 そして、すぐに襲い来るであろう攻撃に備え、武器を、デバイスを構える一行の目の前に映ったのは、
床と言わず、壁と言わず不気味に輝く空間に「喰われた」無人の通路だった。

「これは……?」

 見慣れぬその異様な光景に息を呑み、駆け足で進みながら思わずそう呟くなのは。

「この穴……黒い空間がある場所は気を付けて!
 『虚数空間』……あらゆる魔法が一切発動しなくなる空間なんだ!」

 そのつぶやきを漏らさず聞き取り、クロノは彼女の方を向きながら注意を促す。

「飛行魔法もデリートされる……もしも落ちたら、重力の底まで落下する!
 二度と上がってこれないよ!」
「き、気をつける!」

 虚数空間のせいで、ごくわずかな距離も遠回りしながら進まざるを得ず、
軽い苛立ちが募リ始めていた。
 だが、その分考える時間はある。
 なかなか本格的な攻勢をかけてこないプレシアの行動に対する疑念について
斗機丸はその時間をこの疑問に充てていた。

「しかし、意外と手薄だな……てっきりもっと多くの警備が集まっていると思ったんだが」
「そうだね、虚数空間が内部を侵食し始めてるから、ひょっとしたら連中も飲みこまれて……?」

 ユーノもそのことについて思う所があったらしく、彼なりの考えを即座に答えてよこす。
 だが、しかし。
110リリカル武者○伝氏代理:2008/09/17(水) 21:20:25 ID:OxTkyUvd
「それは違う」

 それは斗機丸でもクロノでもない、第三の声によって否定された。

「あなた達を相手に回すのに、雑兵では時間稼ぎにもならない。
 母さんはそう判断したから」

 その声の主。
 次の部屋へと通じる扉の前に、いつの間にか姿を見せたよく知るその顔は。

「……! フェイト、ちゃん……」

 長い金髪を、己の発する魔力の波になびかせて立つ少女、フェイト=テスタロッサ。
 プレシアの娘を自称する超一流の黒衣の魔導師が、先を急ぐ一行の前に障壁として立ちはだかった。




 武者丸が、なのはが新たな戦いに飛び込んだちょうどその頃。
 シンヤ達もまた違う場所での「闘い」を始めていた。
 まだ雨はやまない。けれども、そんな事を気にしてはいられない。
 例えほんの少しでも自分達にできる事をするために、辛い戦いにその身を投じている友のために。

「じゃあ、不在着信の方から……? 見慣れない番号だな」
「とりあえず、かけ直して見る?」

 自身の携帯電話の画面に浮かぶ数字列を見てシンヤは少し考える。
 いたずら電話かもしれないが、それでもトッキーが残した言葉に関係があるかもしれないと思い、
まずはこちらにかけてみる事にした。
 とぅるる、とぅるると音が流れ、

『はぁーい、お待たせしました、八神ですが……』

 物腰柔らかな若い女性の声が聞こえてくる。
 だが、その声も、八神という名字もシンヤにとっては馴染みがない。
 シンヤはその声を聞いているアリサとすずかに目くばせするが、二人とも首を横に振っている。
 とりあえず、ここにいるメンバーに心当たりのある人物からの電話ではないという事か。

「あ、はい。さっきお電話をもらった者ですが、不在着信でございましたので……
 失礼だけどどちら様ですか?」

 慣れない敬語を無理に使ったためか、かなり不自然な会話になっているシンヤの姿を見て
アリサが噴き出すのを必死でこらえている。
 覚えてろよこのぴょこ髪女と内心で呟きながら、シンヤは相手の反応に神経を傾けた。

『え? あぁー、武ちゃ丸君のお友達ですね?』

 ビンゴ。
 どうやら、彼女は武ちゃ丸と接触を持った人物のようだ。

「武ちゃ丸と会ったんですか!?」
『えぇ、お友達を探す最中だったという事で……それも見つかったとさっき電話があったので
 その事をお知らせしようとしたんですが……』

 武ちゃ丸が探していた「友達」。
 そんな人物は一人しか考えられない。
111名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 21:20:59 ID:eawmglXP
支援
112リリカル武者○伝氏代理:2008/09/17(水) 21:21:45 ID:OxTkyUvd
『えぇ、電波が届かないという事だったから、こちらからお電話させていただいたんですが……
 もしもし、もしもし?』

 ススムが生きていた。
 その事実にほっとし、張りつめていた糸が切れたように、シンヤは
ひざを折り曲げてその場にへたり込んでしまう。

『もしもし? 大丈夫ですか?』
「あ、あぁ……大丈夫、です。んで、二人は今どこに?」
『えぇ、っと……』

 答えにくそうに、電話の向こうの女性は口ごもる。

『あのね、二人とも、他のお友達と行くところがあるって言って……
 戻っても来ずに、その……どこかに行っちゃったの』
「あー……そうすか」

 とりあえず、武ちゃ丸たちはいないという事がわかった。
 だが、それで十分だ。
 この状況で、武ちゃ丸が自分達の所以外で行く場所があるとすれば、そこは一つしかない。
 
『あの、気を落とさないでね? きっと大丈夫だから……』
「へ? あぁ、大丈夫ですからよ、とにかくありがとうございました!」

 言うが早いか、さっさと携帯の電源を切ったシンヤを待っていたのは
ついに我慢の限界に至り、ダムが決壊したかのように噴き出すアリサの爆笑だった。

「ぷっ……あっはははは! アンタ、何よあのみょうちきりんな敬語!」
「あっはははははは! けど、これ何が面白いの?」

 つられて羽丸まで笑っているのがなんだか頭にくるが、今はそんな事はどうでもいい。

「うるせぇ! 俺は今ちょっと安心してるんだ。
 トッキーやなのははただ放り出されただけじゃない、
 頼りになる奴が助けに行ったって事がわかったからな!」

 シンヤだけが分かったような顔をして力説するが、アリサやすずかは置いてきぼりで頭の上に
クェスチョンマークを浮かべているように見えた。

「? 言ってる事がよくわかんないんだけど……」
「分かんなくたっていい、んな事よりメールの方だ!」

 慣れた手つきで指先を巧みに動かし、メールボックスに届いていた一通のメールを開く。

「こいつは、トッキーからの……?」
「何て書いてあるの?」
「落ちつけよ、すぐに……うん?」

 その画面上に並ぶ文字列を見て、シンヤは首を傾げる。
 後ろからのぞきこむアリサとすずかもそれに従って同じく傾きながら呟いた。

「これって……」
「電話番号、ですよね?」

 文面はそれだけ。届いた時間は……大体「あの」彼らが飛ばされる瞬間。
 あのわずかな時間でどうやって、と思わないでもなかったが
そんな事を詮索するのは後でもいい。
113リリカル武者○伝氏代理:2008/09/17(水) 21:23:32 ID:OxTkyUvd
「まーた電話かよ。けど、トッキーからって事はきっと大事な相手に間違いないな」

 今度は迷わずにその番号にかける。
 局番からすると携帯電話だが……? と、思いつつ相手を待っていると。

『た、たたたたたーいへんだぎゃー!! 我致止飛が、我致止飛がぁ〜!!』

 繋がった瞬間、鼓膜を破壊せんばかりにいきなり聞こえてきたのは
どこかで聞いた覚えのある、独特なあの声。

『も、申し訳ありません。当方の社長は只今取り込み中でして……
 私、秘書のナンシー阿久津と申しますが、ご用件は?』

 トッキーの関係で、「社長」と呼ばれる人物はやはり一人だけだ。

「シャ……チョー!?」

 社長、すなわちシャチョー。
 そう、武ちゃ丸とトッキーのもう一人の仲間、鎧丸だ。
 トッキーが彼らに残したメッセージは、もう一本の運命の糸を手繰り寄せようとしていた。

 ――次回を待て!!

114リリカル武者○伝氏代理:2008/09/17(水) 21:25:39 ID:OxTkyUvd
今回は以上です。
我致止飛に用いる回線については割と独自の解釈を織り込んでいます。
次回はついになのはとフェイト、最後の対決でお送りする予定。
それでは、また!


代理は以上です

トッキーそれは使っちゃ駄目よ
本当ヤバイから
そろそろ終わりの見えてきた無印、なのはとフェイトのラストバトルに期待しつつGJ!
115名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 21:27:39 ID:CrgArMUa
乙です!
トッキーいいいいいいいいい
お前って奴はああああああああ
116名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 21:28:46 ID:0tzB7fw3
GJ! 次回も期待してますぜ!!
117名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 21:51:52 ID:44YOQUjc
GJ!
シンヤいないのにそれは本当にやばいよシャレになんないよトッキー…。
シャチョーもようやく出番がありそうで楽しみです。
118名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 22:51:29 ID:Lbzc8HDF
>リリカル武者○伝
なんつーか、シンヤって好きだなぁw
なのは達には子供らしくないカッコよさがあるんですが、逆にシンヤには子供としてのカッコよさがあるんですよね。いや、ある意味コイツも子供らしくねー。
あと、アリサとの掛け合いがピッタリ過ぎてニヤニヤですwクラスにいるよね、こういう二人ww
我致止飛というキーワードも出てきたわけですが、ああもうっ元ネタ詳しく知らないからうまく理解出来ない!
シンクロできる人が羨ましいですね。
とにもかくにもクライマックスに向けてガンガン盛り上がって参りました。
原作よりもずっと参戦キャラ多いのに、皆一人残らず生き生きしてるなぁ。クロノとユーノの関係など、これまで積み上げてきた伏線が活きに活きてますね。
これだけ熱い奴らが揃ってるんだから、結末ももしや…と考えずにはいられません。
相手はあらゆる二次創作で鉄壁の死亡フラグを誇るプレシアさん。果たして彼女をなのは達は救えるのか?
その心配以前に、敵としてこの場に立つことになってしまったフェイとの決着はどうなるのか?
トッキーの安否や如何に!?
119Strikers May Cry:2008/09/17(水) 22:55:10 ID:0tzB7fw3
23:00になったら投下します。

リリカルVSプレデターの後編、完結編を。
120リリカルVSプレデター:2008/09/17(水) 23:02:50 ID:0tzB7fw3
リリカルVSプレデター (後編)


狩人は久方ぶりに驚愕を覚えた。さきほど獲物の一人、剣の形をしたデバイスを構えた雌が放った攻撃で手傷を負ったのだ。
まさか自分が血を流すような事態になるとは思ってもみなかった。相手が多少魔力量の多い個体だというのはヘルメットの機能で算出されていたが、繰り出された攻撃は予想以上だった。
神速とも呼べる速度で飛来する炎刃の猛攻をその卓越した身体能力で回避し直撃は避けたが、もしもまともに喰らっていれば彼とて無事ではすまなかっただろう。
狩人は火傷と裂傷を負った傷口に鎮痛剤・抗炎症剤・代謝促進剤などの多種薬剤を混合した治療薬を注射する。
爛れた傷に直接注射が行われ凄まじい激痛が生まれるが、歴戦の狩人は低い呻きを漏らすだけでそれを耐えた。
そして傷から染み渡る痛みと共に自分に傷を負わせた雌の事を反芻する。
近接攻撃を主体とする戦闘方法にデバイスの構造からベルカ式、それも最近では少ないタイプ、俗に古代ベルカ式と呼ばれる種類だと分かった。
先ほどの放った技の攻撃力や殺す寸前の獲物を守った動きなどの点から察するに、魔法体系技術を使う戦闘者の中でもかなり上位の個体と判断できる。
この惑星に来て最大の獲物に、狩人は凄まじく湧き上がる愉悦を感じずにはいられなかった。
ここでの獲物はあまりに脆弱で狩りを楽しむ暇すらなかった、しかしあの雌は違う。
正にあれこそ狩人の求めるモノ、全力を出すに値する獲物だった。
彼は左腕部に装着したガントレットのコントロールパネルを開くと、そこに表示された異星独特の文字で描かれたキーを操作し、対魔法用の特殊装備の準備を始める。
魔力結合に干渉し魔法術式の構築や効果を妨げる反魔法を目的とした特殊フィールド、ミッドチルダの言葉で言うならば“AMF”と呼ばれるモノが狩人を中心に周囲を包み込んでいった。
悠久の昔から、彼らの種は魔法を使う者達をこうして狩ってきたのだ。





確保した犯人と一緒にヴァイスを逃がしたシグナムは周囲のビルの中で最も大きなモノの中へと入った。
それは無論、まだ見ぬ未知の敵を待ち伏せする為である。
相手が自分でなく撤退するヴァイス達の方を追うという可能性もあったが、今までの経緯から相手の事を考慮してそれは無いと彼女は判断していた。
敵味方関係無く、ヤツがただ戦闘能力をもつ者を殺そうとするのは傷ついた部下でなく抵抗してきた犯人達を追った事からも分かる。
ならばヴァイスよりも自分を狙う筈だ、シグナムはそう確信に近いモノを感じた。
そしてその通り、ビルの周囲に展開したサーチ魔法に何か違和感を感じる、ヤツが接近してきた証拠だ。
そもそも相手が光学迷彩を用いている上に補助魔法を苦手とするシグナムでは正確な位置は分らないし敵である確証も低いが、歴戦の騎士の細胞は微弱ながら気配を感じている。
確かにこちらに敵意を持った何者かが接近しているのだ。


「さて、では歓迎してやるとするか……」


高い空戦能力を持つ彼女がいくら広大と言えどビルのような屋内で戦うのは不利に見える、だがここを選んだのに理由はちゃんとある、歴戦のベルカ騎士は見えぬ相手を燻り出す方法を熟慮していた。
光学迷彩とは特殊なフィールドで光線を捻じ曲げ自身の姿を陽炎の如く消し去る技術である、これを用いた相手を索敵するには高度なサーチ魔法や超音波ソナーのような装置が必要だ。
無論、シグナムはそんなモノを持っていないが、それ以外の方法などいくらでもある。
彼女は手に魔力を集中し生来の能力、魔力変換“炎熱”を行使する。術式構築のプロセスを経ずとも直接変換された魔力が炎をなって発現。
そしてシグナムはそれを天井に向かって撃ち放った。
目標はビルの各所に設けられたスプリンクラーの一つ、それを強烈な炎で吹き飛ばす。瞬間、ビルの内部で豪雨とも思える散水が始まる。
例え姿が見えずとも実体は存在する、散水の水滴が接触すれば光学迷彩も意味を成さない。
廃棄都市区画といってもこの種の防災設備が生きている事はよくある、シグナムはそれを利用したのだ。

同じ頃、ビル内に侵入した狩人は突如始まった散水に驚愕した。
光学迷彩のフィールドに水滴が接触し、表面から徐々に不可視の空間に障害が起こり始める。
帯電しつつ光学迷彩の皮が剥がされ、狩人の姿が晒されていく。
それは正に異形だった。
121リリカルVSプレデター:2008/09/17(水) 23:05:05 ID:0tzB7fw3
身長2メートルを優に超える巨体に凄まじく筋肉質な五体で、顔は金属性フェイスヘルメットで覆い隠し、頭にはドレッドヘアーを思わせる頭髪様の管を生やしている。
さらに全身を覆う肌は爬虫類進化種族らしくワニやトカゲのように硬質で独特の模様をしており、手足の指先にはまるで鉤爪のように鋭く尖っていた。
そしてその人外の身体には各所に武装を備え付けている。
両肩には可動式プラズマキャノン二門、腕にはガントレットに内蔵したリストブレード、腰には伸縮式スピアと数枚のレイザーディスクを下げていた。
正に“完全武装”と呼べる各種装備、これこそ宇宙の狩人の姿である。
狩人は大量の水との接触で帯電を続け、著しく隠密性を欠く状況を解決すべくガントレットのコントロールパネルを開き光学迷彩機能の調整を急いで行う。
だがその前に烈火の将の声が場に響き渡った。


「なるほど、貴様が隠れていたカメレオンという訳か」


突然ビル内に木霊した人の言葉に狩人は視線を向ける、そこには魔剣を構えた烈火の将がこちらに手にした刃よりも鋭い視線で睨み付けていた。
良く澄んだ透き通る声で狩人に声をかけたシグナムは、そのまま一拍の間も置かず炎の刃を振るう。
カートリッジの撃発に伴い排夾が起こり、空中に金色の薬莢が舞い踊る。そして炎を纏った刃の蛇が狩人に襲い掛かった。
外部に比べれば格段に狭い空間だというのに、連結刃に変形したレヴァンティンは超高速を維持しつつ正確無比な軌跡で敵を切り裂かんと走る。
狩人はシグナムの振るう腕の軌道から斬撃の軌道を予測しその強靭な脚力でもって跳躍し回避。
高層建造物を単純な脚力で瞬く間に駆け上る事が可能な狩人の足は風の如く速き刃の鞭を逃れる。
目指すは天井、横薙ぎに自分を刻もうと迫る刃を飛び上がって回避し頭上のコンクリートにガントレットに収納されたリストブレードを突き立ててぶら下がる。
そして即座にレーザーサイトの照準をシグナムに向け、両肩に装着したプラズマキャノンの砲火を見舞った。
超高熱のエネルギーが大気を焼きながら麗しい女騎士を焼き潰す為に放たれる、騎士は手にした連結刃を元の長剣に戻しながら迫る攻撃を瞬時に展開した魔力障壁で防ぐ。
三角形を成したベルカ式独特の紋様、硬質・堅牢を売りとするシールドが高熱のプラズマ弾頭を受け止めた。
瞬間、凄まじい爆発を伴いそれは四散、障壁越しにも伝わるあまりの衝撃と熱にシグナムは顔を歪めてよろめく。
高位ベルカ騎士のシグナムの展開した防御障壁を軋ませる程の破壊力、正に尋常ならざる兵器である。
だが彼女の身体にかかる負担は単に敵の火力だけではなかった。


(コレはなんだ? 身体が重い、魔力結合が上手くいかない……まさか……AMFか?)


身体に感じる違和感、それは紛れも無く魔法行使を阻害するAMF(アンチ・マギリング・フィールド)のモノである。
大火力に常軌を逸した身体能力、さらにAMFまで有する敵にシグナムは嫌な汗が背を伝うのを感じた。


「まったく……厄介なヤツだ」


彼女の口から漏れた残響が空気を振るわせた刹那、第二・第三のプラズマキャノンの砲火が放たれた。
レーザーサイトの死の光点に従い超高熱のエネルギーがシグナム目掛けて直進する。
シグナムは着弾と同時にカートリッジを消費して障壁強度を増強、凄まじい衝撃に耐えつつ飛行魔法を行使して側方に飛んだ。
彼女にとって接近戦が最大の長所だとは言え、圧倒的遠距離火力を有する相手に姿を晒し続けるのは得策ではない。
ひとまず周囲の遮蔽物、直径数10メートル以上はあるコンクリート製の柱で身を隠す。
プラズマキャノンの威力は確かに凄まじいが、これだけ大質量の物体を即座に破壊する事は叶わない。
シグナムはひとまず息を整える、重いAMFの重圧で魔法が上手く使えず身体にかかる負担も大きい。
せめて一時、一秒でも良いから呼吸と反撃を整える時間が欲しかった。
だがしかし、狩人はその暇すら与えぬとさらなる追撃を開始する。
手を伸ばしたのは腰に下げていた円形の刃、レイザー・ディスク。
赤外線サーモグラフィによって遮蔽物越しにシグナムの姿を補足すると、狩人は手にしたレイザー・ディスクを全力で投擲する。
人外の膂力で放たれた円形刃はフェイス・ヘルメットの記憶した周囲地形と連動し空中で鮮やかな弧を描きながら遮蔽物となった柱を回りこみ、正確な軌道でシグナムの白く美しい肌を血染めにせんと飛ぶ。
122リリカルVSプレデター:2008/09/17(水) 23:11:11 ID:0tzB7fw3
思わぬ方向から遮蔽物を回避して迫る高速の刃に対処するなど尋常の者には不可能である。
狩人は天井からリストブレードの刃を引く抜き、床に着地しつつ鉄仮面の下で静かに勝利を確信した。

だがそれは愚計に他ならぬ、歴戦の狩人ならぬ油断だった。相手は守護騎士、烈火の将シグナムである、尋常の使い手である筈が無い。
相手の首を刎ねる筈だったレイザー・ディスクは肉を切断する音も鮮血が迸る音も響かせず、投擲したそのままの軌道で飛んだのだ。
そしてディスクが狩人の手元に戻ってくるのと同時に柱を遮蔽物として身を隠していたシグナムが躍り出る。
あろう事か、彼女は遮蔽物越しに投げられたレイザー・ディスクの軌道を読み回避したのだ。
単純な反射神経ではいきなり視界の死角から投げられた高速の刃を避けるのは至難、だが事前に予備知識を得た一流ならば話は別である。
シグナムは初見でレイザー・ディスクが追尾性を持つ投擲兵器と察し、投げた後に生じるであろう隙を狙ったのだ。
鮮やかな緋色の髪を揺らした女騎士は狩人に向かって飛行魔法を用いて駆け出す、その凄まじい速度はさながら一陣の烈風の如し。

投擲と着地の隙に接近を許し、両肩のプラズマキャノンで吹き飛ばすには接近されすぎた、撃てば爆発に巻き込まれる危険性が高く、射出威力を調節する暇は無い。
眼前に炎を纏ったシグナムの刃が彼を絶命させんと迫り来る。
狩人はレイザー・ディスクの回収を諦めて、腰に下げた武装の一つ伸縮式スピアに手を伸ばした。


「はあぁっ!!」


シグナムが裂帛の気合を込めた凛々しい声を上げながら、敵を両断せんと燃える刀身を縦に一閃。
狩人はこれを後方に大きく跳び退り難なく回避すると同時に、手にしたスピアの刃を展開。今まで50センチほどの長さだった槍が甲高い金属音と共に一気に2メートル以上に変形。
彼はその超硬質特殊合金製の槍を凄まじい膂力でもって振るい上げるとシグナムにその切っ先を向ける。
そして“今度はこちらの番”とでも言わんばかりに、強烈な突きを繰り出した。
狩人が繰り出す槍の切っ先をシグナムはレヴァンティンで受け流す、耳障りな金属音が鳴り響き刃と刃がせめぎ合い美しい火花が宙に舞い散る。


「くっ!」


刃越しに感じる異星種族の壮絶な金剛力にシグナムの表情が思わず苦悶に歪む。
魔力を込めたレヴァンティンの堅牢な刀身が槍を受け流す度に軋みを上げる。接近したことでより強力に作用する濃密なAMFフィールドが魔力結合を阻害しているのだ。
接近戦こそベルカ騎士の領分であるが、この相手にはいささか厳しいものがある。
そもそも身体能力が人類の規格外の域にある異星の狩人と接近戦に持ち込む事自体が自殺行為に等しい。
並みの使い手ならば一方的に刃の餌食と成り果てている事だろう。
シグナムがそうならず、巧みに攻撃を捌き切り結べているのは彼女が騎士として最上位属する腕前だからに他ならない。
だがしかし、一合・二合と刃を交わす度、確実に彼女は押されていた。
胸を貫こうと迫る苛烈なる突きを払うと腕の芯まで震えが響き、横薙ぎに迫る斬撃を受け止めればあまりの衝撃に魔力で強化した筈の身体が後方に吹き飛ばされる。
仮面に覆われたその下で狩人がどんな顔でどんな表情をしているか見ることは出来なかったが、シグナムには刃越しに相手の内に沸く感情を感じていた。
“相手は自分を追い詰める事を楽しんでいる”と。
その事実がシグナムの闘争心にさらなる炎を灯す。夜天の守護騎士の長、烈火の将シグナム、どこの馬の骨とも知れない怪物風情に舐められる程弱くは無い。


「調子に……」


跳躍と同時に振るわれた刺突を、魔力を込めたレヴァンティンの刃で払い上げる。
狩人の槍には凄まじい力が込められていたが攻防の中で既にシグナムは軌道を読んでいた。
払い上げた槍の下に踏み込むと共に身体を沈ませ、そして美しい緋色の髪を揺らしながら身体を反転させる。


「乗るなぁっ!!!」


身体全体で捻りを加えたレヴァンティンの燃え盛る刀身が狩人に一閃。胴を狙った刃は皮と肉を焼き焦がしながら腹部を大きく切り裂いた。
123名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 23:13:23 ID:uPeLSOEJ
支援
124リリカルVSプレデター:2008/09/17(水) 23:14:34 ID:0tzB7fw3
相手が人ならば確実に絶命させるほどにレヴァンティンの刃は深々と刻んだが、いかんせん相手は異星の狩人である。
巨体に纏われた爬虫類種特有の強固な肌と筋肉は魔剣の刃を内臓に達する前に食い止めたのだ。


「ヴゥルオォッ!!」


燃える刀身で腹部の肉を横一文字に割られ、狩人は激痛に獣のように呻きながら後方へと一息に跳び退る。
彼は距離を取ってシグナムの間合いから一度逃れ体勢を立て直そうとするが、彼女はそれを許さず相手に合わせて跳躍。
そしてカートリッジを炸裂・排夾しレヴァンティンの刃に強大な魔力を満たし、刀身に灼熱の炎を纏わせると、彼女の有する技の中でも必殺の一閃を繰り出す。


「紫電一閃っ!!」


凛々しく澄んだ声が響くと同時に、魔剣の刃が今度は大きく上段から振り下ろされる。
カートリッジから供給された多大な魔力は、AMF効果範囲だろうと関わらず甚大な殺傷力をもたらした。
燃え盛る刃は狩人の顔面を両断せんと縦に一閃、だがその刃は寸前で槍に止められる。
ビルの内部全体に響き渡る程の凄まじく大きな金属音、振り下ろされたレヴァンティンの刃と伸縮式スピアのグリップがぶつかり合い火花を散らす。
しかし拮抗は一瞬、カートリッジをロードして莫大な魔力を得た魔剣は炎と共に障害を両断せしめた。
槍の柄をレヴァンティンの刃が真っ二つに切り落とされ、狩人の被っていた仮面も浅く刻む。
踏み込みが足りなかった訳ではない、相手が寸前に一歩身を引いた為に必殺の一閃が届かなかったのだ。
狩人の反射速度に胸中で舌を巻きながら、シグナムはさらに斬り込もうと踏み込む。
だがその瞬間、狩人の腕に装着されたガントレットから“何か”が射出され、シグナムの全身に絡みついた。


「くっ! なんだっ!?」


起伏に富んだシグナムの艶やかな肢体に絡みつく、それは狩人の武装の一つネット・ランチャー。
対象を包み込んで拘束し、徐々に緊縛を強めてワイヤーを構成する金属糸に組み込まれた鋸歯で切り刻む武器である。
例え鋼鉄だろうと用意に切断する鋭利なワイヤーがシグナムの身体を包み、少しずつ緊縛していく。
豊満極まる乳房にワイヤーの網目が食い込み柔らかな乳肉の形を変え、騎士甲冑に覆われていない露出した肌を裂かれて僅かに血を滲ませる。
徐々に強くなっていく緊縛の力にシグナムの肢体は身動きを封じられ、刻まれていく。
あと十秒も待たずに拘束の力は最高潮へと達し、彼女の身体をそれこそ微塵切りにするだろう。


「うあぁ……」


ギリギリと全身を締め付け肉へと食い込んでいくワイヤーに、シグナムの口から苦悶の喘ぎ声が漏れる。
身体の中でも特に突出した胸にいたっては強固な筈の騎士甲冑が裂かれて僅かに乳房が露出する程だ。
手足の動きが封じられた状態ではレヴァンティンで切る事もできない、正に絶対絶命の窮地。
だが怜悧なるシグナムの思考は死の迫る前に脱出方法を紡ぎだした。


「くっ、これなら……どうだっ!!」


そう叫んだ瞬間、シグナムの纏っていた騎士甲冑が外部への指向性を持って爆発を巻き起こした。
凄まじい爆発の威力に、彼女を拘束していたワイヤーが千切れ飛び、緊縛は解放される。
シグナムは魔力で構成された防護服、騎士甲冑を瞬間的に指向性炸裂させたのだ。
125名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 23:16:27 ID:Lbzc8HDF
勇者よ…支援
126リリカルVSプレデター:2008/09/17(水) 23:17:04 ID:0tzB7fw3
爆発の際に放出された魔力を自身の変換資質を用いて燃焼させれば、いかに特殊ワイヤーとてただでは済まない。
騎士甲冑の外装部がパージされ上着部分とスカート部分は消失、さらに髪をポニーテールに結んでいたリボンが衝撃で吹き飛び髪型がストレートへと変わった。
あちこちが切り裂かれた騎士甲冑のアンダーは血で滲み、実に痛々しい姿である。
だがシグナムに休む暇などなかった。
彼女が剣を構えた刹那、アンダーのみの騎士甲冑で露になった豊満極まる肢体の上を赤い光点が舐め回すように這う。
シグナムがワイヤーの戒めを脱するよりも早く狩人はトドメのプラズマキャノンの照準を彼女に合わせていたのだ。
距離を取り、威力調節を高出力に設定、シグナムを即座にミンチにする為の砲火は準備を整えていた。
狩人の肩にある二門のプラズマキャノンの砲門に収束している高エネルギースプリンクラーの水が蒸発し湯気が立つ。
その刹那、凝縮したプラズマの塊が射出される。
下手な防御をすれば死は免れない高威力、カートリッジをロードして防御に魔力を上乗せする暇も無い。
シグナムの胸の上に光るレーザーサイトの光点目掛けて高エネルギーのプラズマが迫る。
受ければ死は確実の攻撃、だがシグナムが行ったのは回避でも防御でもなかった。
走ったのは輝く刃、狙うは迫り来る高熱の魔弾、炎の魔剣はその刀身でプラズマの塊を見事に両断する。
真っ二つに切り裂かれたエネルギーの塊が刀身に纏われた魔力の力でシグナムの両側方へ飛び、壁に激突して爆散した。
後には高熱を帯び、煙を上げるレヴァンティンを構えたシグナムのみが残された。


「どうした、もう終わりか?」


未だ向けられたままのレーザーサイトとプラズマキャノンの砲門に烈火の将は恐怖など微塵も感じさせぬ凛々しい言葉で挑発した。
二発目を迎撃できる余裕はあるとは言い難い、回避や防御も困難だ、しかしそれとて彼女の戦意を折るには遠い。
いかな苦境も剣と誇りで切り開く気概がシグナムにはあった。

狩人はこれに思わず全ての戦略を忘れ、息を飲んだ。
知性の低い蛮族や低脳な獣ならばともかく、こちらの兵装を理解した知性体人類種の雌があんな命懸けの戦法を易々と行うとは前代未聞である。
そして同時に彼の胸に大いなる歓喜が湧き上がった。
これこそが知的生命体と戦う醍醐味、生きるか死ぬかの領域で引かぬ胆力を持ち、狩られるどころか逆にこちらを殺す戦意に満ちた者との出会い。
人間の時に換算すれば実に800年以上の時を狩りと戦いに投じてきた彼だが、これ程までに勇猛な敵に対面したのは初めてである。
もはやシグナムを獲物として認識するのは間違いだ。
彼女は狩られるだけの獲物ではなく、命を賭して戦うに値する“戦士”であると再認識する。
もうこの戦いは狩りではなくなったと彼は判断した。

次の瞬間、シグナムの胸の上に照準を合わせていたレーザーサイトの赤い光点が消失する。
狩人の両肩に装着されたプラズマキャノンの砲口に収束していたエネルギーもまた、急速にその熱量を失っていった。
突然射撃兵器の脅威が去り、シグナムは安堵よりも不気味さを感じる。相手の意図が掴めない事は単純に強大な敵と対するよりも恐ろしい。
彼女は怪訝な顔をして狩人を注視する。そして、狩人はさらに不可解な行動をした。
両肩のプラズマキャノンに手をかけたかと思えば、装着しているジョイントから取り外し床に投げ捨て、今度は腰に手を回して武装を取り外し始める。
狩人は予備のレイザー・ディスクやまだ使っていなかった武器を次々と外して投げ捨てていく。
そうして残された装備は腕や足などに装着されたガントレットやフェイスヘルメットのみとなる。
さらに、狩人はおもむろに残された装備の中、左腕に装着したガントレットに付けられたコントロールパネルを開きボタン操作を行う。
すると、今までシグナムの身体にかかっていた重圧が一気に消え去る。AMFのフィールドは解除されたのだ。


「貴様……なんのつもりだ?」


突然の事に、シグナムは思わず言葉を漏らす。
何故こんな状況で武装を解除する必要性があるのか、相手の行為があまりに理解不能で不可解だった。
だが、狩人は彼女の言葉など気にせず、最期に自分の顔に装着していたフェイスヘルメットに手をかける。
繋がれていたプラグが圧縮された気体の抜けるような小気味良いと共に一本ずつ外されていき、遂に狩人の素顔が露になった……

鈍色の金属製ヘルメットがスプリンクラーの水で濡れる床に落ちて水しぶきと金属音を立てるが、シグナムはそんな音などまるで聞こえなかった。
晒された敵の醜貌に彼女の目は釘付けになる。
127リリカルVSプレデター:2008/09/17(水) 23:18:06 ID:0tzB7fw3
爬虫類種から進化した生物だけにまるで恐竜を思わせるような顔には特徴的な顎部。
外部に二対四本の巨大な牙があり、それぞれが独立して動くその牙はさながら節足動物の足のようで不気味だ。
その内側にはさらに内部にもう一つの顎があり、それは通常生物と同じく上顎と下顎に分かれている。しかし上顎部の牙は何本か抜かれており、醜い外観をさらに際どいものへと変えていた。
内部上顎の歯を抜歯する、これは彼らの種族特有の成人通過儀礼(イニシエーション)を終了した証、狩人として大成した証明である。

この凄まじい形相を見たシグナムは一瞬醜さに眉をしかめた、その次の瞬間、甲高い金属音が鳴り響く。
見れば、狩人の両腕に装着されたガントレットから鉤爪のような形の刃、リストブレードが現れていた。
リストブレードは伸縮式なのか、かなりの刃渡りを有しており、全長は優に70センチ以上はある。
幅・厚みも非常に豪壮でありかなりの重量を予想させるが、狩人はこれをまるで意に返さず軽がると振り回しシグナムに向かって構えた。


『こいつ……もしや……』


ここに至り、彼女はようやく狩人の行為がなんなのか理解した。
これは“決闘”なのだ。有利不利、勝機のあるなしに関係なく、己が認めた戦士に敬意を表してただ誇りと意地を賭けた死闘を望む。
狩人はそれをシグナムに挑もうとしているのだ。
今まで、この敵はただ人々を殺戮する事だけが目的かと思っていたシグナムもこれに認識を改める。
敵はただの殺戮者ではない、強き獲物を求める狩人にして気高き戦士なのだ。
その事実にシグナムの中にある種の感情が湧き上がってくる、それは紛れもなく“悦び”だった。

騎士道精神を重んじる実直で理性的な武人にして麗しい美貌を持つ彼女はその美しい顔の下にあるモノを隠していた。
それはあえて言うならば雌獣(けだもの)、盛りの付いた発情期の犬のように浅ましい欲望を燃やす狂った野獣。
理性の鎖で拘束され身動きを封じられているが、時折抑えきれぬ程に荒れ狂っては闘争という名の快楽を欲する。
耐え難いその闘争衝動を満たそうと、友人の執務官や教会シスターとの模擬戦で適度に渇きを癒してはいるが、所詮それは単なるその場しのぎだった。
本当に欲しいのは命を賭して戦う決闘、生きるか死ぬかの危険と隣り合わせの刃の遊戯。
そして何より血が欲しい、熱く迸る敵と血潮が見ねば雌獣は真の意味では満足できないのだ。
闇の書の呪われた運命から解放されて久しく血の臭いと味のもたらす快楽、もはや得られる事のないと思っていた悦び。

それが今正に目の前に現れたのだ、シグナムの胸の中にどす黒くそして蕩けるように甘い快楽が溢れ出してきた。


「ふふ……くくくっ……」


濡れた唇から漏れたのは小さな笑い声、最初は必至に抑え込み殺そうとしたが、それは即座に決壊した。


「あぁ〜っはっはっは!!」


それはシグナムを知る者が見れば己が目を疑うような光景。彼女が大声を上げて笑うなど守護騎士の仲間たちとて見た事はあるまい。
狩人もこのいきなりの豹変に目を丸くするが、彼女はそんな事など構わず笑い声の後に声を続ける。


「決闘の申し込みとは最高だな……久しく忘れていた、この熱い血の滾り……身体が芯から火照ってくるぞ」


艶を孕み恍惚とした声でシグナムの口から喜悦が零れる。
紅潮した頬と潤んだ瞳、まるで性感に悶えるように彼女は闘争の狂喜に震えた。
128名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 23:18:24 ID:Lbzc8HDF
あの乳をネット縛りだと…? プレデターめ! GJ! 支援!w
129リリカルVSプレデター:2008/09/17(水) 23:19:46 ID:0tzB7fw3
戦える、それもいつもの模擬戦が子供のママゴトに思えるほどの死闘を。もう嬉し過ぎて気が狂いそうだ。
シグナムは自分の中の雌獣を抑え付けていた鎖が千切れていく音を聞いた気がした。
“もう我慢しなくて良い、思う存分殺し合える”そう思えば苦痛も疲労も淡雪の如く消え去り、後には高揚と悦びしか残らない。

そしてシグナムはおもむろに手を予備のカートリッジに伸ばすと、そのまま遠くへと放り投げた。


「さあ、これで条件は五分だ……存分に死合おう」


心から嬉しそうな笑顔と声、狩人はシグナムの発した言語の正確な意味は理解できなかったが、そこに込められた意思は察した。
これに彼の胸には感動すら芽生えた、まさかここまで自分の申し出に応えてくれる者がこの世にいようとは思いも寄らなかった。もはや彼女の事を愛しいとさえ思える。
生まれた星も、種族も、性別も、存在を構成する全ての要素が正反対の二人はこの瞬間、戦いという名の行為によりこの世の誰よりも相手を近しく感じた。
そして、今までビル全体に降り注いでいたスプリンクラーがその機能を停止し、人口の雨が終わりを告げる。

瞬間、それを合図に二匹の獣は駆け出した。


「はあぁっ!!」
「グルゥオッ!!」


雄叫びと共に迫る両雄、最初に風を切ったのは狩人の刃。
右腕に装着されたリストブレードがシグナムの首を刎ねようと唸りを上げる、それは技術など欠片もないただ力任せに振るった野蛮な斬撃。
だが単純(シンプル)で無駄のない攻撃は凄まじい威力と速度を誇る無双の刃である。
並みの魔道師ならば回避する事も防御する事もできず錆となるだろう。しかし相手は歴戦のベルカ騎士、そう容易く倒れるほど甘くはない。
左側方から首を跳ね上げようと襲い来る高速の刃を予備動作で事前に見切り、その軌道が自分に到達する寸前に跳躍し回避。
鍛えられた脚力と飛行魔法とを同時行使した跳躍は狩人の攻撃よりも素早く完遂され、彼女の身体を宙へと舞い躍らせる。
狩人の刃は艶やかな美女の身体に触れる事無く虚しく空を切るに終わり、相手に反撃の機会を与える事となった。
美しい緋色の髪を躍らせながら宙に舞ったシグナムは飛行魔法で急制動をかけ、今度はこちらの番とでも言わんばかりに手にした魔剣を振るう。
攻撃後の無防備な背中に炎を纏ったレヴァンティンの切っ先が走ると共に、狩人の蛍光色の血液が迸った。
シグナムは空中を舞いながらの華麗な反撃から着地すると、さらなる追撃の為に魔力強化した足で床のアスファルトがひび割れる程の力で踏み止まり方向転換を行う。
だがその追撃を許さず狩人の刃が再び彼女に放たれた。
狩人は自分の後ろを取ったシグナムに、先ほどの攻撃の横薙ぎの回転運動を利用して今度は左腕のリストブレードを裏拳で繰り出す。
追撃に移ろうとしていたシグナムは咄嗟に三角形のベルカ式防御障壁を即座に構成する。
間一髪、柔肌が切り裂かれる寸前に狩人の刃は障壁に阻まれて侵攻を止める。
だが防がれてなお狩人は力を微塵も緩めない、いやむしろ更なる力を込めて刃を振りぬいた。


「くあぁっ!!」


人類種ではありえぬ凄まじい金剛力が、障壁ごとシグナムの身体を吹き飛ばす。
悲鳴と共に飛ばされた彼女の身体は激突したコンクリート壁を砕き隣のフロアまで転がった。
障壁と騎士甲冑越しにもシグナムの身体を強烈な衝撃が襲う。口内が裂けたのか口元からは血が鮮やかな紅色を垂らす。


「くっ! やってくれる……」


砕け散ったコンクリート片を跳ね除けながらシグナムは苦痛を気力で抑え込み立ち上がる。
レヴァティンを構えると、狩人が彼女を追って即座にコンクリート壁を打ち砕き現れた。
そして再び、力任せの単純で無駄のない必殺の斬撃を繰り出す。右腕に装着された鉤爪の刃が柔肌を求めて風を切りシグナムへと迫る。
130名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 23:21:25 ID:Lbzc8HDF
少なくともシグナムはシュワちゃん並の脅威ということですね支援
131リリカルVSプレデター:2008/09/17(水) 23:21:46 ID:0tzB7fw3
だが彼女はこれを冷静に見極め、横薙ぎの軌道を正確に把握して魔力強化した脚で後ろにバックステップを行い回避。
狩人は追撃でまた左のリストブレードを裏拳の形で振るう。
高速の刃が襲い来るが、シグナムはこれを身体を沈めて回避、緋色の髪を何本か掬いながら自分の頭上スレスレを通過する刃の懐に潜り込む。
そしてカウンターとばかりに狩人のわき腹にレヴァンティンを滑らせる。
強固な皮と屈強な筋肉を切り裂いて、狩人の身体から蛍光色をした緑色の血潮が飛び散った。


「グゥヴォオォッ!!」


攻撃の勢いのままに狩人はシグナムから距離を取りつつ激痛に呻く。
体勢を立て直してリストブレードをこちらに向ける狩人、シグナムはレヴァンティンを脇に構えてこれを追撃する。
“この好機、逃さず仕留める”、そう強く思いながらシグナムは全身全霊を懸けて駆け出す。
彼女の身体に溜まった体力・魔力の疲労はそろそろ限界に近い、もしこの一撃で勝負が決せぬならば、もはや逆転は無いだろう。
濃密な死の予感と闘争の悦びが肌を粟立たせ、シグナムをこれ以上ない程に興奮させる。
口の中に満ちた血潮が蕩けるように甘く感じる、戦いという魔薬は彼女という存在を狂喜させ尽した。
そしてそれは狩人もまた同様。
彼もまた極上の戦士との激闘に悦び、性的興奮までも沸き上がり勃起すら覚える。
およそ人型の種族を相手に接近戦で負け知らずの自分をここまで追い詰める敵、数百年の狩りの中でも最高の領域に位置するだろう敵との死闘は実に甘美だった。


「うおおぉぉぉおっ!!!」
「ガアァァァァアッ!!!」


野獣の如き咆哮と共に、理性という名の鎖から解き放たれた二匹の獣はその存在を一振りの刃へと昇華させて駆け出す。
もはや両者には回避も防御もない、残った全ての力をこの一撃に込め、相手を引き裂く為に刃を振るう。
距離が迫り、必殺の間合いに相手が踏み込んだ刹那、狩人は交差させた腕から逃げ場のない斬撃を繰り出す。
狩人の二本の腕が両側方からシグナムの首と腹を狙って高速で駆け抜けた。
彼の膂力をもって行われるこの二連撃はいくらシグナムでも防御は不可能、既に間合いに踏み入った以上は回避も叶わない。
刹那の時、狩人は勝利を確信する、もう僅かに刃が進めば彼女の身体は哀れなる姿へと変わり果てる。

だがこの攻撃の軌道を、上方へと駆け上る一筋の煌めきが絶った。
それは脇に構えられたレヴァンティンによる下段からの斬り上げに他ならない。
この一閃は単なる斬撃ではない、シグナムが自身に残る全ての魔力を練りこんだ必倒必殺の刃である。
交差するリストブレードの刀身を狙った魔剣は、シグナムの身体が刻まれる前にその刃を天高く跳ね上げた。
もう少し、あと一刹那遅ければ間に合わず彼女の頭蓋は砕けていただろう。
これは奇跡でも幸運でもない、死の淵においても恐怖せず相手の攻撃を読みきった剣鬼の成せる神技である。
狩人の武器は巨大にして強固・堅牢ではあるが、腕に直接装着された上に過剰な重量と刃渡りの関係上小回りが利かない。
こうして上に跳ね上げられれば、体勢を立て直すのに幾らか時間を必要とする。


そしてその時間はシグナムが決着の刃を振り下ろすに余りあるものだった。


空気を切り裂く鋭い音と共に盛大に蛍光色の血液が宙を舞う。
燃え盛る魔剣の刃が左の肩口から右の腰近くまで深く深く斬り込み、絶命必至の一撃を狩人の身体に刻み込んだ。
132リリカルVSプレデター:2008/09/17(水) 23:23:08 ID:0tzB7fw3
大量失血と臓器への深刻な外傷、屈強な狩人の身体はついにコンクリートの上に音を立てて倒れ伏す。

こうして、狂気にもとに繰り広げられた闘争という名の舞踏は美しき剣鬼の勝利に終わった。


「ゴフッ!……ガァァッ……」


口から蛍光色の緑色をした血を吐き出し、狩人は倒れた身体をビクビクと痙攣させる。
もはや助かる見込みはあるまい、シグナムは僅かな憐憫を込めて彼を見下ろした。
少し間違えば今こうして地に倒れ伏し、鮮血に沈んでいたのは彼女だろう。
危うい勝利と滾る闘争の終焉にシグナムの中で燃え上がっていた熱は完全に消滅した、もう死闘に狂喜する心は欠片も残ってはいない。
そこに立っているのは元の麗しい女騎士だった。

シグナムは息も絶え絶えになった敵に近づき相手の顔をもっと傍で見下ろす。
その醜悪極まりない顔に驚くほどに嫌悪感は生まれない、逆に命を賭して戦ったこの異形の戦士に敬意すら感じた。
ただ、客観的な人類の美的感覚で相手の容貌にポツリと言葉が漏れた。


「随分……醜い顔だな」


狩人は薄れ行く意識の中でこの言葉を聞き、ふと彼女を見上げる。
ストレートに解かれた鮮やかな緋色の髪、特に乳房に素晴らしい起伏をもった爆発的なプロポーション、うっすらと紅潮した白い肌、そして激闘によりあちこちが裂けて素肌を晒すアンダーのみの騎士甲冑。
もしも人間の男が見れば思わず唾液で口元を濡らしてしまいそうな程に、今のシグナムは艶めいた色香をかもし出していた。

だが異星の狩人からすれば、彼女は酷く醜く感じた。
彼の種族からすればツルツルとした人の肌は気色悪いし、毛の生えていない哺乳類というのも理解しがたい。
なにより人型哺乳類種の雌特有のやたらと乳房に実った脂肪など醜悪の極みである。
シグナムの発した言葉、完全には理解できなかったがどうやら自分に対して“醜悪だ”と評しているニュアンスは伝わった。
どうやら自分も彼女も互いを醜い容姿と思っているらしい、死闘に狂喜するどころかそんな事まで似通っていると思えばひどく滑稽に思った。


「ミニクイカオ……ククッ……ハッハッハッハ!!」


シグナムの言葉を反芻し蛍光色の血を吐きながら狩人は笑った、大いに笑った。
激闘の中で死ねる事ほど名誉な事はないのに、これほど愉快な気分で死ねると思うと笑いを抑える事などできない。
そして彼は勝負の締めくくり、潔く散り際を飾るべく最後の力を振り絞って左腕のコントロールパネルを操作した。
瞬間、コントロールパネルから電子音が響きだす。
一定のリズムで少しずつ早まっていく電子音、最初は意味が理解できなかったシグナムだが即座に理解に至った。
これはカウントダウンだ、何をカウントしているかなんて考えるまでも無い。
ここまで互いに共感した彼女には戦士の思考が読めた、彼らのような気高い戦士が無様に骸を晒すようなマネはしない。


「自爆とは!」


思わずそう漏らしてシグナムは駆け出した。
爆発の範囲がどれほどになるか予想もできなかったが、相手の想像を絶するか学力から推察するに小規模では済まないだろう。
133リリカルVSプレデター:2008/09/17(水) 23:24:44 ID:0tzB7fw3
体力も魔力も限界まで消耗した彼女だが最期の力を振り絞って走った。自害の巻き添えを食らって死ぬなど冗談ではない。

そして、そんな風に走り去るシグナムの後姿を見つめながら、狩人は愉快そうに断末魔の笑い声を響かせる。


「アァァ〜ッハッハッハッハ!!!」


彼女が駆け出した後、誰もいなくなったビルの中で最後の瞬間まで狩人の笑いは響き続けた。





「何だよありゃ!?」


ヴァイスはヘリから見えた凄まじい爆発に思わずそう叫んだ。
核兵器を用いた際のキノコ雲にも似た爆炎が巻き上がり周囲の廃ビルをなぎ倒している。
犯人を護送してその足で舞い戻り、シグナムの加勢に来たヴァイスだったが、戻ってみればそこでは大爆発が全てを飲み込んでいた。


「クソッ! 生きててくれよ姐さん……」


ヴァイスは誰に言うでもなく一人毒づきながらシグナムのデバイスの反応をレーダーで探す。
局の管制システムに登録されたデバイスならばこれに反応して位地が特定できる筈である。
そして上空を旋回する事数分、微弱な反応がレーダーに現れた。

レーダーの示す座標へと機首を向ければそこには彼が血眼になって探していた騎士がいた。
彼は即座にヘリを着陸させてシグナムへと駆け寄る。
シグナムは激しいヘリのローター音に見向きもせずガレキの山の上に座り込んでいた。


「姐さん! 無事ですか!?」
「ああ……ヴァイスか……」
「“ヴァイスか”じゃないっすよ、アイツはどうしたんすか?」
「倒したよ……」
「倒したって、マジっすか!?」
「ああ……」


シグナムは会話するのもおっくうだと言わんばかりに力なくそう答える。
無理も無い、命懸けの激闘に次いで大爆発からの脱出で彼女は精根尽き果てていた。
もう彼女には自分ひとりで満足に歩く体力すら残ってはいない。


「すまんヴァイス……肩を貸してくれないか? 正直歩くのもままならん……」
「いや、別に良いっすけど」


シグナムの頼みに答えるとヴァイスは彼女に手を貸して立たせて自分の肩を貸した。
支えた彼女の身体は思っていたよりもずっと軽く、ボロボロの騎士甲冑から露になった柔肌がひんやりと心地良い感触を伝える。
シグナムのあられもない姿と相まってヴァイスの頬は赤く染まっていった。


「どうした? 顔が赤いぞ?」
134名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 23:24:50 ID:Lbzc8HDF
支援
135名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 23:27:55 ID:Lbzc8HDF
更に支援
136リリカルVSプレデター(代理):2008/09/17(水) 23:34:59 ID:Lbzc8HDF
「い、いや! なんでもないっすよ!」


身体のラインをくっきりと見せる騎士甲冑のアンダー、それもあちこちが裂けて肌が晒されている艶めかしい姿に興奮するなというのは健全な男には無理な事だ。
ただ、激闘の余韻の為に今のシグナムにはそこまで頭が回らなかった事が幸運か、ヴァイスはきっちりと色香に満ちた姿を目に焼き付けておいた。


「ああ……ヴァイス」
「は、はい! なんでしょう!?」
「一つ頼みがある……」
「“頼み”っすか?」
「ああ……帰ったら熱いコーヒーを淹れてくれ……うんと濃いヤツをだ」


熱くて苦い目の覚めるようなコーヒーを疲れきった身体が欲している、シグナムはささやかな欲望を長年の部下に囁いた。
この要求に、ヴァイスはニカッと笑みを浮かべ二つ返事で答えを返す。


「はい、じゃあうちの部隊自慢のコーヒーマシンで淹れたヤツを」
「ああ……期待しているぞ」


狩りの夜が終わり、朝焼けの照らす中で烈火の将は朝日にも負けない満面の笑みを見せた。


終幕。






投下終了です。
最期はアメリカンに朝焼けと笑顔とコーヒーで〆ました。

やっぱプレデター良いわwww
137名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 23:35:16 ID:7zXwmIAe
もしかして、さるさん?

それはそうと支援
138名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 23:43:55 ID:Lbzc8HDF
>リリカルVSプレデター
投下当初はそんなに短く書ききれるものか? と不安に思いましたが、そこは見事にプレデターらしい死闘部分を切り抜いて描ききりましたね。
プレデターの場合、相手が超常的な存在で人間がヒイヒイ言いながら辛うじて勝つってのがパターンなので、今回のシグナムとのある意味互角ともいえる戦いは斬新で、それでいて『らしい』雰囲気がありました。
要所要所に出てくる原作知ってるからこそニヤリと来るネタが素晴らしいw
ラストの『醜い顔だ〜』の一連のシーンは第一作で虜になったファンにはたまらんですたい。
あと、映画だけじゃ分からない詳細な設定とかもこの作品で初めて知ったり。なんつーか眼から鱗。
リリなのというある意味原作とは正反対の位置にある作品とのクロスなのに、あまり違和感を感じないのは、そのファンならではの知識を作品に活かしてるからだと思いますね。
はぁー、それにしてもやべーよプレデターの武器。
何が一番ヤバイってあのワイヤーだよ。
え、いや威力じゃなくて。原作ではマッチョ男が喰らってたから特に何も感じなかったけど、あれをシグナムが喰らうって…その……エロくね?(ぉ
139名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 00:07:38 ID:7NFIkVX7
>>136
貴様に告げる言葉はただ一つ! GJだぁ!
いやはや素敵な剣戟バトルでした。
シグナムがノリノリで、プレデターもまたクロス作品としての魅力を存分に溢れ出させた迫力極まる戦闘を魅せてくれましたね。
烈火の騎士と宇宙の狩人。
その残虐性はともかく、闘争本能では為を張りそうだw
そして、なんといってもプレデターの再現率が半端ない!
あらゆる武装を使いこなしながらも、最後には決闘のために武装を脱ぎ捨て、槍で戦いを挑む!
まさしく戦士! そして、それに応えるシグナムもまた戦いに魅せられた剣鬼。
二者の戦いは見ている側がはらはらするほど熱く、燃え滾る、烈火のような剣戟っぷりでした。
凄いの一言しか思いつかないです。
正直元作品が魔法少女ものだということをすっかり忘れていましたw(ぉ
そして、最後にこれだけ言わせてくれ。
シグナム姐さん、エロイよ!
一々描写が艶かしく、それがまた戦闘に妖しい色気を纏わせるね。
くそ、相対したらうっかりその肢体を眺めて切り伏せられしまうぜ! 大変けしからん! もっとやれ!(まて)

あと最後に出てくるヴァイスが健気でしたw
いやー死ぬかと心配しましたが、よかったよかった。
これからも頑張ってください!
待ってます!!
140名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 00:29:27 ID:K2N8jlvP
>>136
結局レギュラーキャラは死なないんだよな
割りを食うのはクロス先と死ぬために用意されたモブキャラか
141名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 00:33:31 ID:3NRgCPc1
>>140
映画の展開を考えれば、一番割を食うのはやっぱりモブだろう
142名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 02:07:13 ID:xoZcAwAk
なのは達が殺されまくる話が見たい訳じゃないしな。
143名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 02:07:45 ID:R0YDPi38
>>136 GJ!
しかしエルダーからのプレゼントマダー?
144名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 12:40:25 ID:dOnhrGJX
>>142
俺は読みたい。
つーか、ただのマンセークロスなど、見たくもない。
145名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 12:47:41 ID:nGuezYtT
話をぶった切るがリリカルセイバーズの更新が気になる(スルーして下さい)
146名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 12:49:09 ID:LJ/DZl5n
>>144
Fateクロスで二人死んだ奴ならどっかにあったな。
147一尉:2008/09/18(木) 13:00:53 ID:roCXbxsh
やれやれ感動したな。支援
148名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 13:14:10 ID:m/u0VcxJ
>>144
なのはクロスロワ
149名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 13:20:56 ID:9BSuoEeb
テッカマンブレード・デトネイターオーガンの世界となら
すんなりとクロス出来そう。
ブラスターボルテッカとスターライトブレイカーの
合体攻撃も出来そう。
150名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:49:07 ID:AfWrViR/
>>136
姐さんも何だかプレデター化してるwGJ!
セクシーな所もどきどきした。
そう言えば、カプコンのエイリアン×プレデターのような状況になったら
プレデターとの共闘もできるかもと思った。
151名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 15:14:34 ID:p79DuUeN
GJ!!です。
やっぱり、プレデターはいいなw
一番いいのが、お互いに認め合ってるのに見た目の感想が姿がキモいってwww
おっぱいを理解できないプレデターに同情するしかないよ。

もし、仮にミッドでエイリアンが繁殖したら、魔法が使える個体が出るだろうなぁ。
砲撃したら障壁を張るやつとか。ナンバーズが苗床になったら、幻術使えたり高速で飛んだりする
個体も出そうだw
152名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 17:25:11 ID:0l5vEI+F
つまりマジデリアン(仮)が出現するとw
153リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 18:41:37 ID:BNnb1yvf
2のプレデターは武器いっぱいでびっくりしたなあ。
円盤で腕叩き切って自爆を止めたお巡りさんもすごかったが。

投下予定もないようなので18:50より投下。
…何回やっても投下前は緊張する。
154リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 18:50:06 ID:BNnb1yvf
「田舎マフィア程度がっ!管理局の魔導師なめんなよ!!」
「暴魂チューボ、いざ参るっ!!」

二人の武装局員、クラッドとキールはユーノを安全なところまで下がらせ、眼前の敵を迎え撃とうと
していた。


魔法帝王リリカルネロス第4話 「守れ! 秘密基地」


まず、勢いよく啖呵を切ったクラッドは牽制用に散弾型の攻撃魔法をばらまこうとした。だがチューボの
踏み込みはクラッドの想像を超えて速かった。魔力を収束させて射撃魔法を撃つ暇など存在しない。
上段から振り下ろされるチューボの刀に身の危険を感じたクラッドはたまらずシールド魔法を発動する。
そして次の瞬間彼は己の目を疑った。円形の盾を作る標準的なシールド魔法『ラウンドシールド』、
その盾が半ばまで叩き割られていたのだ。何の魔力も込められていない刀を使って、
魔力による肉体強化を受けていない人間の手で、ただ物理的に。

「ウソだろオイ!?」

自分の中の常識を覆す光景に思わずクラッドは叫んだ。声にこそ出さない物のキールも驚愕している。
シールドを叩き割って目の前に突きつけられたチューボの太刀は、刃こぼれ一つしていなかった。

ミッドチルダにおける防御の概念として、バリア、フィールド、シールド、物理装甲の4つがあげられる。
ここから分かるように、魔法を介さない純粋に物理的な障壁も魔法に対する防御能力を持っている。
では逆に、純粋に物理的な攻撃は魔法を打ち破れるのだろうか。可能なのである。
頑丈さで知られるシールド魔法より更に強固な物質で作られた刀、それを振るうは改造処置と飽くなき
訓練で鍛え上げられた肉体、この2つが組み合わされば魔法でさえ斬れないわけがなかった。

魔法文明の恩恵にあずかる管理局の誰もが想像し得なかった現実がここにある。

ラウンドシールドはチューボに向けた杖型デバイスの先端から発生していた。もしシールドの発生位置が
もっと体に近かったらそのままクラッドの胴体は袈裟懸けに叩き斬られていただろう。シールドさえも
切り裂く攻撃をバリアジャケットで防ぎきれるとは到底思えない。

「ちっ…!」

一撃で仕留めるつもりだったのかチューボは悔しげに舌打ちをする。
そしてラウンドシールドに深々と食い込んだ刀を持ち前の剛力で引き抜き、再び上段に構えた。

「サイドワインダー!!」

だがチューボがクラッドに斬りつける前に、キールの魔法が完成する。捕らえがたい蛇行軌道を
描く強力な射撃魔法がチューボの意識を刈り取らんとして迫って来た。

「ちょろちょろと目障りな!」

チューボはその魔法を事も無げに斬り払う。迎撃のやりづらい蛇行軌道の魔法を寸分の狂いもなく斬った
事も驚きだが、刀で斬られた魔法そのものが分解していくのはもっと驚くべき事だった。
またしても魔導師としての常識を疑う光景だったが、今度は呆気にとられずクラッドとキールは
今最も必要な行動をとることが出来た。
155リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 18:51:13 ID:BNnb1yvf
「ヤバかった……助かったよ相棒」
「礼は無事に帰ってからにしてください」

即ち、飛行魔法である。
チューボが射撃魔法を迎撃した瞬間を狙って、クラッドとキールは10メートル程浮き上がった。
接近戦を得手とする者がそう多くないミッドチルダ式の魔導師としては、そもそも会話できる距離まで
近づかれた状態から戦闘開始というのが大きな失敗である。故にこういった状況下で必要なのは出の速い
魔法で相手の動きを止めつつ距離を取ることだ。まして相手が接近戦に特化したタイプなら尚の事である。

「卑怯だぞ貴様ら、降りてこい!」
「冗談じゃねえ、このまま安全なところからガンガン撃たせてもらうぜ!」

その発言内容から相手が飛べないと判断したクラッドはやや調子に乗りつつ、宣言通りに射撃魔法を
発動させる。

「スプレッドショットォ!」

クラッドは魔力はそこそこにあるが精密な射撃が苦手なため、小さな魔力弾を大量にばらまき点ではなく
面で攻撃することを得意としていた。リンカーコアを持たない普通の人間なら数発で昏倒するような
魔弾がチューボに雨霰と降り注ぐ。

「どうだどうだどうだぁっ!」
「ぬ…!」

数え切れないほどのスプレッドショットがチューボの鎧にぶつかっていく。鎧越しに伝わる衝撃、
振動は機関銃で撃たれたのにも匹敵するだろう。つまり――――

「効かんわ!」
「何ィ!?」

つまり、チューボには効果がなかった。その名が示す通り、ヨロイ軍団の軍団員は大半が強固な鎧を
身に纏っている。その鎧はネロス帝国の、ひいてはこの地球で最高の技術で作られた物だ。
それらの鎧は、管理局の常識では計れない恐るべき強度を持っている。
魔法の運用をはじめとする多くの技術で管理局に遥かに劣るネロス帝国だが、ロボット工学、
生体工学など管理局を上回る技術はいくつもある。2人の武装局員は今その一端を垣間見ているのだ。

「マジで化け物か!?」
「そのまま続けててください!」

スプレッドショットは効果が薄くとも足止めにはなっている、そう判断したキールは捕縛用のバインドを
仕掛ける。弾雨の中ゆっくりと歩を進めるチューボに、狙い澄ました一撃が放たれた。

「ボールパイソン!」

狙い違わず、キールオリジナルの捕縛魔法はチューボを捕らえる。

「何!?これは…」
156リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 18:52:32 ID:BNnb1yvf
 
キールの仕掛けた捕縛魔法ボールパイソンは、1本のバインドが大蛇のように相手の全身に巻き付き
締め上げるという物だ。魔力を込めれば捕らえた相手の骨をもへし折るというバインドとしては危険な
部類の魔法だが、今これを使うことに彼は躊躇がなかった。

「よっしゃ!こいつが決まればもうこっちのもんだな」
「どうでしょうかね…」

勝ったつもりでいるクラッドとは対照的に、キールの顔色は優れなかった。強力な魔法をかけ続けて
いるためだけではない。不安が拭えなかったからだ。

(本当に効いているのか…?)

巻き付いたバインドはミシミシと骨の軋む音を立てて―――――――いなかった。
チューボの鎧は変形する素振りすら見せていない。キールの全魔力を込め、人間なら気絶していても
おかしくないほどの力を加えているというのに。

「さて、被疑者も確保したしアースラに連絡して転送を……」
「クラッド、とどめをお願いします」
「へ?」

キールの発言にクラッドは思わず間の抜けた返答を返してしまった。彼は模擬戦でボールパイソンをかけ
られた事があるため、その威力をよく知っている。出は遅いが脱出は不可能、それがこの魔法の恐ろしさ
だと考えていた。それゆえに相棒のこの発言は理解し難い。

(慎重すぎるにも程があるだろ……)

アースラに転送して更に厳重にバインドをかければ十分だろうと思っていたクラッドは、意識を奪って
おくことにそこまでこだわらなくてもよいだろうと感じた。だが、キールの慎重さはしばしばこのコンビの
危機を救ってきたのも事実である。故にクラッドはこの状況に最適なとっておきを使うことにした。

「ブラストスピア!!」

クラッドの持つ杖型デバイスの先端から1メートルほどの赤い魔力刃が飛び出し、名前の通り槍の
ような姿となる。ボールパイソンがキールの切り札なら、クラッドのとっておきはこの槍であった。
魔力の大半を一箇所に集中させたこの槍の威力はかなりのもので、A+ランク魔導師のシールドも
突破できるだろうと言われている。ただし術者自身がそれほど槍の扱いになれているわけではないので
動く敵になかなか当たらないという致命的な欠点があるのだ。故に彼はこの魔法を、仲間が完全に相手の
動きを封じたときしか使わないことにしている。

「食らいやがれ俺の必殺の一撃いいいっ!!」

叫びながら魔力を全身に漲らせ、自らの体を弾丸のように発射させてチューボに突っ込んでくるクラッド。
それを見て、今までおとなしくしていたチューボが僅かに身じろぎした。さすがに怖じ気づきやがったか、
とクラッドは嗜虐的な笑みを浮かべる。

強力なバインドで相手を縛り、大技でとどめを刺す。その戦術自体は間違いではなかった。
唯一点の致命的な誤算を除いては。

槍の穂先とチューボの距離が2メートルというところである。それまで無言だったチューボは裂帛の
気合いと共に全身の筋肉をフル稼働させた。
157リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 18:55:54 ID:BNnb1yvf
 
「ぬりゃあああああ!!!」

瞬間、チューボを縛るバインドが弾け飛ぶ。

「え?」
「な!?」

ボールパイソンを力ずくで破る人間がいるなど想像もしていなかったクラッド、鎧そのものは破壊
できなくとも動きを封じることは出来ると考えていたキール、2人の思考が一瞬停止する。
だが加速していたクラッドの体は止まらない。そしてチューボは突っ込んでくるクラッドを避けよう
ともせずに刀を腰だめに構える。

「ちっくしょおおお!!」

激突の瞬間、チューボが迎撃に選んだのは突きであった。一方半ばヤケになりつつも、下手に進路を
変えて隙を作るよりはこのまま突撃した方がマシだと考えたクラッドは槍を構えてそのまま突っ込んで
行った。体を右側にねじり、突きを放つための力を溜めるチューボの左肩にリーチの差からクラッドの
ブラストスピアがずぶりと突き刺さる。鎧を貫通した魔力ダメージがチューボの全身に
激痛を走らせた。必殺の一撃が相手に突き刺さり、勝利を確信するクラッド。

「どうだぁっ!」
(痛い、痛いな……)

だがチューボの強靱な意志と肉体は魔力ダメージによる昏倒など許さなかった。

(しかし、ヨロイ軍団員に……)

クラッドの槍が自分の体に突き刺さったこの瞬間こそ、彼が待ち望んだ瞬間なのだ。
中空に浮いていた敵が彼に間合いに飛び込んでくる、この瞬間こそが。

「痛みなど関係ないわ!!」

引き絞られた弓が放たれるように、強化された筋肉の力でもって渾身の突きが放たれた。

「カ…ハッ……!」

血飛沫が飛び散り、クラッドの口から苦悶に満ちた空気が漏れる。
チューボの刀は本来ダメージを防ぐはずのバリアジャケットを唯の布きれ同然に貫き、
クラッドの脇腹に致命的と言える一撃を穿っていた。傷口からあふれ出した血が2人の足元に
血だまりを作っていく。勝利の女神は、肉を斬らせて骨を断ったチューボに微笑んだのだ。

「あ、ああ……クラッドォォー!!」

その結果を見たキールは己の判断の愚かさを呪いながらクラッドの名を叫んだ。
ボールパイソンの威力を過信していなければ、突撃ではなく射撃を指示していれば、と
普段理性的に働く頭脳が様々な『もしこうしていれば』の結果ばかりを映し出し思考をかき乱す。

「さて、次は……どんな手品を見せてくれる…?」
158リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 18:58:18 ID:BNnb1yvf
刀を引き抜き、仮面の下で凄絶な笑みを浮かべながらチューボはキールの方に向き直った。
支えを失ったクラッドの体が血だまりの中にべちゃりと音を立てて崩れ落ちる。

「うあ、あああ……こんな、事が…」

恐慌状態になったキールは何事かを呟きながらその様子を見ているばかりであった。

アースラのように辺境の管理外世界を中心に活動している次元航行艦は、管理局と同等の戦力を持った
相手と戦闘になることはあまりない。戦いはいつも格下相手、幾重にも張られた防御魔法と数々の
医療魔法は局員を手厚く守ってくれている。そんな状況が長く続いているため、武装局員の中でも
ギリギリの死線をくぐっている者はほとんどいない。
特に管理局員としての経験が短いクラッドやキールのような若手はその傾向が顕著で、敵の力量を
推し量ることも出来ず、また差し迫った死にパニックを起こすのである。

動く様子のないキールを見て好機と思い、歩き出そうとしたチューボの足を弱々しく掴む物があった。

「舐めんな……オレは…まだ……」
「ほう、まだそんな力があったか」

出血で意識を朦朧とさせながらも、クラッドがチューボの足にしがみつく。

(キー…ル……お前…逃げて……報…こ、く…)
(クラッド……?クラッド!?何を馬鹿なことを、あなたも帰るんですよ!?)

クラッドから届いた途切れ途切れの念話が、キールの頭に冷静さを呼び戻し、現状を再認識させる。
放っておけば相棒の死は確実、だが敵は強大すぎる。距離の空いている今なら自分だけなら逃げられる
だろう。だが。普段冷静沈着なキールにしては珍しく分の悪い賭けを行おうとしていた。

目の前のこの敵を、潰す!

「あなたを見捨てはしません…よ……!?」

魔力を収束したその瞬間だった。視界の端を横切る銀色の輝き。一瞬遅れて右肩に感じる熱さと、
腕から力が抜けていく感触。デバイスを取り落としながらキールが見たそこには、ざくりと肉を
切り裂かれたような傷痕があった。

(あ…れ……?)

一体何が起こったのか。眼前の敵を見てキールは合点がいった。チューボは、兜に付いていた
三日月の鍬形と同じような形状の刃物を手に持っている。

(投げたのか…!)

キールが混乱したり立ち直ったりしている暇を待ってやる道理などチューボにあるわけがなかった。
宙に浮いている敵が大きな隙を見せているなら彼がやることは決まっている。唯一の飛び道具での
攻撃だ。一見すると鍬形は1つしか無いように見えるが、そこには何枚もの三日月手裏剣が
格納されている。
159リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 19:00:22 ID:BNnb1yvf
 
(こっちの赤毛より防御が薄いな……)

チューボは身軽な方ではない。むしろヨロイ軍団の中でも一、二を争う重量級だ。地面の上を駆ける
だけならまだしも、何メートルもジャンプして浮いている敵を斬りに行く、というのは現実的ではない。
杖を取り落としたキールがもはや盾も満足に出せないというなら、手裏剣でその命を絶とうとするのは
チューボにとって当然の選択と言えるだろう。今まで使わなかったのは数に限りがあることと、
シールドを警戒していたという理由からだ。

「でえいっ!!」
「ぐぅっ!」

さらに2発目の手裏剣を投げるチューボ。キールは必死で回避するも太股が切り裂かれていく。
悲鳴と共に血が噴き出し、痛みでキールの動きが更に悪くなる。

「こいつでとどめ……」
「チェーンバインド!!」
「うおぉっ!?」

しかしチューボが3発目を投げることは出来なかった。
戦力外と思われていた、伏兵が参戦したからだ。チューボの周辺に浮かぶ4つの魔法陣、緑色に輝く
そこから飛び出した4本の魔法の鎖がチューボの四肢を絡め取る。

「キールさん!クラッドさんを早く!!」
「ユーノ君!?……分かりました!」

早々に逃げてどこかに隠れていたはずの金髪の少年が、不意を打って放った捕縛魔法は見事チューボを
捕らえていた。

(逃げていた小僧か、不覚!しかもこいつの魔法、これは…さっきの蛇みたいなやつより……強い!)

民間協力者ユーノ・スクライア、彼は魔法戦闘における花形と言える攻撃魔法には全く適正がなかった。
それこそ、多様な攻撃魔法を搭載したデバイス、レイジングハートが失望するほどに。だが攻撃偏重主義の
魔導師が軽視するサポート方面にこそ彼の天賦の才があったのだ。防御、回復、結界、調査……そして捕縛。
攻撃に特化したレイジングハートを手放した今こそ、少年は真価を発揮しようとしていたのである。

「ぐおおお…!千切れん…!!」

いかにチューボが力を入れようとも鎖は千切れる素振りを見せなかった。それどころか、ばきり、ばきりと
不気味な音を立てながら鎖に巻き付かれた部分が変形を始めている。

(馬鹿な!俺の鎧にダメージを!?)

驚愕するチューボを後目に、倒れ伏すクラッドの元に辿り着いたキールは応急処置用の回復魔法を
発動させた。どこかでデバイスを落としていたが拾いに行く間も惜しかった。右腕と左足の痛みと
出血も忘れてひたすらに回復魔法に力を注ぐ。クラッドは自分よりもはるかに重傷なのだから。
その様子を見ながら、何故いつまでたっても助けが来ないのかと怒りを感じたユーノはアースラに
念話を送りつけた。
160リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 19:01:52 ID:BNnb1yvf
 
『エイミィさん、聞こえますか!アースラ、応答してください!もしもし!?』
『どうしたのユーノ君。何か動きがあった?』
『転送の準備を早く!!重傷者二名!クラッドさんが特にヤバいんです!』
『……えええっ!?何でそんなことに!?ていうかそっちでも戦闘!?』

会話しながらユーノは頭痛を感じていた。クラッドさんとキールさんは戦闘状態になったのに
報告もしていなかったのか、と。

(僕がさっさと通信しとけばよかった……)

現場では局員の指示に従うこと、というリンディのお達しを守ったのが徒となってしまった。
エイミィがそっちでも、と言っているのが気になったが、死人が出そうな今追求することではない。

実は同時刻、クロノ・ハラオウンもネロス帝国と交戦しており、アースラのクルーはそちらで出現した
敵の解析、転送先の算出に尽力していたのだ。もちろんユーノ達がいるこのエリアにもサーチャーは
配備されていたのだが、この時運悪く別の地点を映していたのである。クラッドとキールのどちらかが
ネロス帝国と接触したことを報告していればこうまで事態が悪化することはなかったので、この点に
関しては完全に彼ら2人の手落ちと言えるだろう。相手を舐めてかかっていたこと、舐めていた相手が
想像を遥かに超えて強く通信どころでなくなったことが災いしたのである。

『時間がないわエイミィ、直ちに回収を!』
『了解!ユーノ君、あとちょっとだけそいつ捕まえといて!』
『分かりました』

これでどうにか、そう思ったユーノだったが事態は尚も彼の思惑に反した方向に動いていく。
身動きがとれずもはや万策尽きたかに見えるチューボは森の奥にわずかに視線を向けると、
自信ありげに言葉を紡いだ。

「ふん。愚かだな、小僧」

そのセリフに、ユーノは自分の魔法に縛られているチューボを見た。威圧的なフォルムの甲冑に鉄の仮面。
ユーノには見えなかったが、その仮面の下でチューボは笑っていた。自分の苦境などどうということも
ないとばかりに嘲笑っていたのだ。

「あのまま隠れていれば死なずに済んだものを」

ダンッ――――
「うわぁっ!?」

ユーノがその意味を問う間もなく、火薬の爆発する音が響いた。同時にユーノの視界を塞ぐ何か。
離れていたキールにはその光景がよく見えた。炸裂音と共に森の中から撃ち出されたのは投網。
強化繊維で編まれた捕縛用ネットである。そして間髪入れずに飛び出してくる人影。高いカモ
フラージュ性能を持つ森林迷彩を施された装甲の持ち主が、肉厚のサバイバルナイフを片手に
網の中でもがく少年に襲いかかっていった。
ナイフは一切の容赦なくネットに突き刺さり、貫いた。そのまま2人はもつれあいながら地面に落下する。
161リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 19:03:45 ID:BNnb1yvf
 
ヨロイ軍団爆闘士ロビンケン、それが彼の名だった。森林迷彩とヘルメット、ガスマスクのような
仮面はどこか特殊部隊を思わせる。トラップの名手で、地形を生かした様々なトラップで敵を
追い込む様は密林の狩人と呼べるだろう。生真面目な性格で下らない娯楽に興味はなく、チューボと
同様に暇なときには鍛錬を欠かさず行っていた。
チューボが仮面の下で笑ったのは、訓練中に奇妙な音を聞きつけ近くまで様子を探りに来ていた
ロビンケンの存在に気が付いていたからだ。

「そんな、ユーノ君まで………ヒィッ!!?」

チェーンバインドが消滅し自由の身となったチューボがキールを見下ろしていた。
思わず悲鳴を上げ防御魔法を使おうとするも、間に合わない。

「まったく手間をかけさせてくれる」

サクリ、と軽い音がする。
ゴミを片づけるような気安さでチューボはキールの体に刀を突き立て、
彼は相棒であるクラッド共々、仲良く血の海の中に倒れた。

「助かったぞロビンケン。…………どうした?」

礼を言うチューボだったが、がさごそとネットを探る
ロビンケンの不審な動きに疑問を持つ。答えはすぐにロビンケンが教えてくれた。

「いない…」
「何?」
「あの小僧がいないんだ!やつめ、どこに消えた!?」

ロビンケンの言葉通り、網の中は空っぽだった。確実に仕留めたはずのユーノが綺麗サッパリ消えて
いたためロビンケンは狼狽を隠せない。

「俺のネットはあの小僧を確実に捕らえたはずだ!だがナイフを突き立てたときにはもうどこにも
いなかった、一体何がどうなっている!?」
「落ち着けロビンケン、あの小僧は魔法使いだ。何かオレ達の知らない技を使ったんだろう……ん?」

ふと、小さな黄色っぽいものがチューボの目に映った。ロビンケンの足元、ネットの端から顔を出した
それはきょろきょろとあたりを探る内に、チューボと視線をハッキリ合わせてしまう。
顔しか出してないがイタチの仲間だろうか。チューボと目が合ってしまったイタチは石になったかの
ように動かなくなる。

(………イタチ?)

チューボの脳内に閃くものがあった。ブルチェックが持ち込んだ生物、魔法の存在、その生物を
ゲート6から外に捨てに行ったブルチェック、帝王の危惧、魔法を使う敵、全てが今一つの線で繋がる。

「そいつだあああぁぁぁぁぁ!!!」
「キュウウウウ!!!」

チューボの叫びに呼応するかのように、イタチもまた叫びながら駆け出す。

「そのイタチだ、そいつを捕まえろロビンケン!いや、殺せ!!」
「了解した!」
162リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 19:06:18 ID:BNnb1yvf
 
ちょろちょろと逃げ回るユーノ。行われているのは捕まったら命はない死の鬼ごっこだ。
もはや魔法を使うことすら忘れて命がけで逃げ回るユーノの動きは、ここに来て鋭さを増す。
チューボとロビンケンが刀やナイフを振り回し、その命を絶とうとするもとにかく逃げ回って
捕まらない。そしてチューボとロビンケンがフェレットに変身したユーノに気を取られたこの時、
管理局側の撤退のシナリオは完成に近づいていた。

「バインド……!」

血だまりの中でキールが小さく呟くとともに、2人のヨロイ軍団員にバインドが巻き付く。

「何だこれは!?」
「貴様まだ生きていたか!」

瀕死の人間がデバイス抜きで放ったその捕縛魔法に大した威力はなく、彼らの筋力からすれば足止めに
しかならないのは明白だ。だが今は、その足止めが出来ればそれで十分だった。

『ユーノ君、急いで!』
「はい!」

エイミィからの念話がユーノに最後の一滴まで力を振り絞らせる。
倒れ伏すキールとクラッドの元へ、早く、一刻も早く!

『所定位置に全員揃いました!』
『回収!』
『了解、回収します!』

一瞬の閃光の後、そこに2人と1匹の姿はなく残っていたのは血の海だけだった。

「消えた!?あいつら、瞬間移動を行ったのか?あれほどの傷で!」
「おのれっ!ここまで追いつめておきながら取り逃がしたなどと、帝王になんとお詫びをすれば
いいのだぁぁぁ!!!」

戦いの終わった山中に、ロビンケンの驚愕の声とチューボの叫びが響き渡る。その声は、近隣の
野鳥や獣が恐れを成すほどであった。




「救護班、急いで!」

リンディの命令であらかじめ待機していたアースラの医療スタッフは、回収した2人の局員に
救命処置を行っていた。彼ら二人はまさに一分一秒を争うほど危険な状態だった。

「輸血、急げ!」
「脈拍が下がっています!」

クラッドとキールが医務室に運ばれていく様子を見ながらユーノは自分を責めていた。最初から
二人と協力していればこんなことにはならなかったかもしれない。網で捕らえられたときに驚いて
チェーンバインドを解除しなければ、少なくともキールが致命傷を負うことはなかったはずだ。

(僕がもっとちゃんとやっていれば……)
163リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 19:09:33 ID:BNnb1yvf
 
ユーノ・スクライアは責任感が強い。時に病的なほどのそれは、彼の育った環境に原因がある。親が
いないユーノは部族皆の子として育てられた。その環境は決して不幸な物ではなかったが、幼いユーノ
の心には常に不安が付きまとっていた。
『もし自分がいらない子供なら捨てられるのかもしれない』
スクライア一族の者が聞けば激怒するかもしれないことだが、ユーノは本気でそう思っていた。故に
彼はいつでも『よい子』であろうとした。自分のことは自分でやり、他人の助けとなれる様々な魔法を
覚え、遺跡発掘について必死で学んだ。その働きぶりは素晴らしく、大人達は彼を褒め、ついには
若干9歳にして発掘現場を一つ任されるほどであった。
ここで彼らにとって不幸なことが4つある。1つ目は、幼いユーノの練習用にと任せたごく小さな
発掘現場からジュエルシードという一級品のロストロギアが出土してしまったこと。2つ目は、
発掘されたそれが運搬途中で事故に遭い流出してしまったこと。そして3つ目は、ユーノがその
責任感からジュエルシードの回収に、スクライア一族秘蔵のデバイスであるレイジングハートを
持って一人で飛び出してしまったこと。最後に最も不幸なことは、ジュエルシードが流れ着いた
世界が地球であったことだ。多数の生物、人間が存在する世界でジュエルシードは容易にその力を
発揮し、恐るべき怪物を生みだして攻撃能力に乏しいユーノの命を奪いかけた。もはや独力での
解決は不可能だろうと判断したユーノは管理局に助けを求めたが、今度は地球に存在する恐るべき
組織、ネロス帝国によって二人の武装局員が瀕死の重傷を負わされた。

(全部僕のせいだ……僕がちゃんとやらなきゃいけなかったのに……)

前述の通り強い責任感の持ち主であるユーノは、クラッドとキールが死にかけているのは全て自分に
責任があると考えていた。あの時こうできていれば、という考えがいくつも頭をよぎり、最終的には
自分がジュエルシードを見つけてしまったばかりにこんな事になったのだ、という考えに行き着いて
しまい、少年は自分を責め続けていた。

「ユーノ君、あなたの方はどう?怪我は?」
「僕は怪我なんてしてません、クラッドさんとキールさんをお願いします」
「何言っているの!あなたも危なかったんでしょ?さあ早く診せて…」
「僕はいいんです!!」

そういったわけで、酷く落ち込み憔悴した様子のユーノは自分に怪我がないか診ようとした局員を
振りきって走り去ってしまった。実際、彼には本当に怪我はなかったし、この場には居たくなかった。
床に残った血の跡が、『お前の罪だ』と言っているような気がしたからだ。




ネロス帝国本拠地ゴーストバンク、帝王が降臨した謁見の間ではガラドーによる任務報告が行われ
ようとしていた。帝国初の魔法の実戦投入ということもあって一同興味津々であったのだが、
帝王も含めその場にいた者は全てガラドー達の様子に首を捻っていた。

「あいつら、なんであんなにボロボロなんだ?」
「確かガキ一人殺すだけだろ?一体何と戦ったっていうんだ」

ガラドーの装甲はいくらか損傷を受け、アルフもまた疲労した様子。影の1人に至っては仲間から
肩を貸してもらってようやく立っているという有様だった。

「ガラドーよ、報告せよ。一体何があった!」
「かしこまりました帝王!本日、我々は目標である伊集院唯をアルフの魔法によって拉致し、
これを抹殺しました。しかしその直後、時空管理局と名乗る魔法を操る者者に襲撃を受けたのです」
「何だと!?」
164リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 19:12:37 ID:BNnb1yvf
 
 
ガラドーは宙を舞うクロノ・ハラオウンを睨み付けながら、その戦力を測っていた。

(これが屋外なら空を飛べる奴が圧倒的に有利だが、ここは屋内だ。足場も多い、交戦も十分可能
だろう、だが…)

ガラドーが警戒するのはクロノの攻撃能力だ。軽闘士に過ぎないとはいえ、影は仮にもネロス帝国で
強化と訓練を受けている戦士だ。それを初撃で3人まとめて倒すなど、尋常の腕前ではない。
それに、幼い外見に反しクロノからは一流の戦闘者のみが纏うオーラのような物を感じる。
紛れもなく強敵であった。

「これが最後通告だ。降伏する気はないんだな?」

いちいち癇に障る上から目線の物言いも、おそらくは実力に裏打ちされたものだろう。

「その前に聞いておこう、時空管理局執務官とは何だ?」
「時空管理局っていうのはこっちでいうケーサツみたいなもんだよ。……多分ジュエルシードを
回収しに来たんだと思う」
「それを知っている君はこの世界の住人じゃないな?結界もミッドチルダ式だったし、大方次元犯罪者に
作られた使い魔といったところか」

ガラド−の質問にはアルフが答える。だがその後に続いたクロノの言葉はアルフに到底承服できる物
ではなかった。

「ふざけんな!あの子は次元犯罪者なんかじゃ…」
「アルフ!!余計なことを口にするな!」

ガラドーの怒声は、頭に血が上ったアルフを一気に冷却した。

(そうだ、こっちの情報を管理局にもらしたらフェイトがどんな目に遭うか…!)

最悪の結末が脳裏をよぎり青くなるアルフ。その言動にクロノは大いに興味を持ったが、現状降伏する
様子のない相手、それも殺人犯とこれ以上問答する必要はないと感じたため実力行使に移ることにする。

「まあいい、話は後でゆっくり聞かせてもらう。……スティンガースナイプ!」

クロノ愛用のデバイス、S2Uの先端から発射された光弾が、不規則な螺旋を描きつつアルフに襲い
かかる。敵は魔導師とそうでない者のコンビだが、まずこの場で先に倒しておくべきは重火器などを
持っている様子のないガラドーではなく、使い魔であるアルフだと判断したからだ。

「このっ……」

当たるとヤバイと判断したアルフはかわそうと大きく跳ねた。が、その瞬間である。

バチィッ!
「んなっ!いつの間に!?」

アルフの体をクロノの仕掛けておいたバインドが捕らえる。いったいいつ使っていたのか、それすらアルフには
分からなかった。
165リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 19:15:05 ID:BNnb1yvf
 
「やばっ!!」

誘導性能の極めて高いスティンガースナイプが身動きのとれない相手を外すことなどないが、
それは何の邪魔も入らなければの話だ。スティンガースナイプがアルフを撃ち抜こうとする最中、
ガラドーはクロノに攻撃を仕掛けていた。だが思考を並列処理し、戦場での多角的な対応を
可能とする執務官はそれを喰らうようなことはない。

「ラウンドシールド!」

キィンと甲高い金属の衝突音が響く。投げ放たれた4発の十字手裏剣はクロノが片手間に張った
シールドで防がれていた。が、その結果はクロノを驚かせるには十分だった。ほぼ同時としか思え
ない速度で立て続けに投げつけられたその小さな金属片は、ラウンドシールドに弾かれることもなく
突き刺さっていたのだ。

(どんな強度の物質だ?いや、どんな力で投げれば……)
ドオォンッ!!
「うわあっ!?」

瞬間、クロノの思考は衝撃に揺さぶられた。ラウンドシールドに刺さっていた手裏剣が爆発したためだ。
シールドの破壊には至らないもののかなりの衝撃を受けたクロノは、シールドごと弾き飛ばされる。
同時に魔法の制御が乱れ、アルフに迫っていたスティンガースナイプはあらぬ方向へ曲がって床に激突し、
消滅してしまった。この隙にゆるんだバインドを破壊してアルフは自由の身となる。

(今のは何だ、爆弾か!?あの小ささでなんて威力だ!)

恐ろしい威力の質量兵器。ユーノから話には聞いていたが、実際受けてみるとその威力に戦慄を禁じ得ない。
立て続けに喰らえばその衝撃はバリアジャケットを貫いて、クロノの体をずたずたにするだろう。

「やはり相当の手練れのようだな……」

一方攻撃を防がれたガラドーには驚いた様子はなかった。この程度でやられるようなら彼の直感が
『強敵』と認識するはずはないからだ。だが、小手調べはここまで。ここからは本気だ。

「だが、この技はどうだ!」

その瞬間、ガラドーの姿が一気に増える。クロノだけでなくアルフもその光景に目を見開いた。

「幻術か!?いや、魔法は使っていない!これは一体!?」
「ぶ、分身!?」

ミッドチルダ式の魔法には、虚像を作り出して相手の目を惑わす幻術といわれる魔法が存在するが、
ガラドーの分身はそういった類の物ではない。肉体の改造と飽くなき鍛錬のみが為し得る奇跡の
ような業だった。

「くそっ!魔力も無しにこんな真似を!」

クロノの驚愕をよそに、5人のガラドーは少しずつタイミングをずらしながらクロノに飛びかかった。
身軽なガラドーにとってクロノの浮いている『高さ』はアドバンテージとはならない。
虚実織り交ぜた短刀での攻撃が四方八方からクロノに襲いかかる。
166リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 19:17:40 ID:BNnb1yvf
 
(チャンスだ!)

ここぞとばかりにアルフも攻撃を仕掛ける。ガラドーの攻撃の隙間を縫うように、二十発ほどのフォトン
ランサーが発射される。図らずも上手くいった連携にアルフとガラドーは勝利を期待した。だが――――

「この程度で落ちるほど執務官は甘くない!」

通じなかった。フォトンランサーはフィールドで受け流し、さらにはガラドーの分身を見切り実体のある
攻撃のみをシールドで弾く。並の魔導師ならば為す術もなく落とされるであろう連携をクロノは防いで
みせたのだ。

(今のを防ぐのか!?)
(畜生、やっぱり執務官には歯が立たない!どうにかして逃げないと…)

執務官クロノ・ハラオウンは恐るべき敵である。今のガラドーでは勝てぬほどに。
事ここにいたってついに彼は撤退を決意した。

「アルフ、脱出の魔法はあるか?」
「一応……でもあいつが許してくれるかどうか」
「許すわけがないだろう。君達は危険すぎる」

小声で交わしたガラドーとアルフの会話に、しっかり聞こえているのかクロノが割り込んでくる。
おそらくは視覚や聴覚といった感覚を強化する魔法を使っているのだろう。

「だから…完全に無力化してから連行する!」

その瞬間廃屋の中に漲るクロノの魔力。

「ウソだろ!?」
「これは…!」

まるで室内全てを貫かんとするがごとく、100以上の魔力刃が出現する。
あとは呪文を唱えれば魔力刃が雨のように降り注ぎ、目標を制圧するだろう。
全ての虚像もろとも撃ち抜けば、どれだけ分身しようが関係ない。

「スティンガーブレイド・エクスキューショぐッ……!」

魔法を放つ直前、いきなりクロノの呼吸が詰まった。紐のような物が首に巻き付き、クロノを絞め
殺そうとしている。同時にS2Uを持つ右手と左足にも何かが巻き付く。

「ガラドー様!ここは我らに任せてあなたは脱出を!」
「お前達!」

昏倒していたかに見えた3人の影が、隙を見て特殊ロープを投げつけクロノを捕らえたのだ。

「馬鹿な、もう目覚めて…うわああぁっ!!」
167リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 19:20:21 ID:BNnb1yvf
 
影達がスイッチを押すと電流がロープを伝い、クロノの体にダメージを与える。
その威力は装甲の厚い戦闘ロボットにもかなりのダメージを与えるほどだったが、バリアジャケットで
守られたクロノにはそこまでの効果はない。だが、集中を乱し大規模な魔法の行使を妨げる程度の
痛みは与えていた。

「くそ、このガキ化け物か!」
「構うな、時間を稼ぐんだ!」

3人の影は含み針や手裏剣でさらに攻撃するも、クロノは電流の痛みに耐えながら防御魔法で的確に
自分の身を守っていく。バリアジャケットを解除せず徐々に耐電撃仕様にシフトしていくことで、
その動きは目に見えてよくなっていき、影の攻撃は時間稼ぎにもならなくなりつつあった。
影達にも分かっていた。目の前のこの少年は今の自分達では勝てないと。そして彼があと少し呪文を
唱えれば魔法が完成し、頭上を埋め尽くす刃が降り注いで自分達が全滅することも。

「ガラドー様、お早く!」
「馬鹿な、お前達を見捨てて俺だけ逃げられるか!」

と、そこで何かを呟いていたアルフがガラドーに小声で話しかける。

「ガラドー。一瞬でいい、あいつに隙を作ってくれれば全員で逃げられるよ」
「……任せる」
「魔法陣が出たらあたしの周りにあいつらを集めてくれ」
「応!」

ガラドーはアルフの言葉を聞くと、指先を軽く何度か動かして影達に指示を送った。

一方バリアジャケットのプログラム切り替えが完了し、電撃のダメージがほとんど通らなくなった
クロノは速やかに魔法を発動させようとしていた。詠唱が中断されいくらかの魔力刃は消滅したが、
大半はまだ頭上に残っている。

「スティンガーブレイド…」

その時クロノの眼前に丸い何かが投げつけられた。爆弾の可能性もあるため、シールドとフィールドを
二段重ねで張る。今度はどんな攻撃があっても魔法を発動させるつもりだった。

「エクス…」

その丸い何かが炸裂する。クロノの体に爆発の音も衝撃も来ない。ただ、もうもうと広がる真っ白い
煙が彼の視界を埋め尽くす。

(な、何だ!?)
「キューション…!?」

質量兵器と呼べるかも定かではない原始的な忍の道具、煙玉。想像以上のローテクで攻撃された
クロノは、一瞬視界同様に頭の中も真っ白にしてしまう。爆薬仕込みの十字手裏剣のような部分的に
管理局の技術力を超えた武器や、使い魔のような魔法文明の落とし子を相手にしていたため
その落差によるショックは大きい。
そして煙が広がると同時にクロノの体に巻き付いていたロープを引く力がなくなり、煙の向こうで
アルフの魔力反応が強まるのを感じる。
168リリカルネロス ◆IYbP33Ghd2 :2008/09/18(木) 19:23:25 ID:BNnb1yvf
 
(視界をふさがれても隙間無く攻撃すれば同じ事……いや、こいつら逃げる気か!)
「…シフト!」

敵の目的に気付いたクロノは慌てて魔法を発動する。だが、気付くのが遅すぎた。
スティンガーブレイドの着弾とほぼ同時に魔力反応と気配が消え失せる。

『転移魔法か!エイミィ、追跡は!』
『転移先は……ダメ!多重転移してる、追いきれない!』

スティンガーブレイドの何発かは手応えがあった。だが転送で逃げ切られては何の意味もない。
煙が晴れたそこには、もう敵の姿はなかった。

「くそ。なんて奴らだネロス帝国…」

アルフによって命を奪われた少女の亡骸だけが残る現場を見下ろして、クロノは苦々しげに呟いた。
みすみす犯罪者を取り逃がした悔しさが胸を占める。
ネロス帝国との最初の戦いは敗北であると、彼は思っていた。



「……それでお前らはおめおめと逃げ帰ってきたっちゅうんか。帝国の恥さらしやな!」

ガラドーの報告が一区切り吐いたところで、ゲルドリングが嫌味満点な口振りで糾弾を開始する。
この男は他の軍団に失態があれば、自分の所は棚に上げてその非をあげつらうことを常としていた。

「待て、ガラドーは伊集院唯の暗殺という目的は達成している。未確認の敵の情報を持ち帰った
点を鑑みても責められるいわれはないはずだ」
「帝国に刃向かう敵が出てきたら、命に替えてもそいつを仕留めるんが筋……」

「報告いたします!!」

ゲルドリングの言葉をぶった切って、暴魂チューボの大声が謁見の間に響き渡った。

「いきなりなんや、おい!」
「今し方、ゲート6付近で時空管理局と名乗る魔法使いどもと交戦しました!」

突然乱入してきたチューボの言葉に、どよめきが広がる。

「詳しく報告するのだチューボ!」
「はっ!本日、自主トレーニングの途中ゲート6付近で不審者を発見、これと交戦しました。
奴ら自身の語るところによれば時空管理局は異世界の官憲に当たる存在で、使い方次第では
地球を滅ぼす兵器にもなり得るというジュエルシードの回収任務にあたっているようです。
また奴らの中にはブルチェックが以前回収した小動物らしき輩がおり、帝国の情報も漏れている物と
考えられます。ゲートの付近に来ていたのがその証拠かと」
「ぬうう、やはりあの時の奴が!」
169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 19:27:36 ID:9EinOoZ0
サルサン?
170リリカルネロス代理:2008/09/18(木) 19:29:19 ID:knMhkZzj
 
帝王は怒りを露わに声を荒げる。ブルチェックがこの場にいれば回路に掛かる負荷が増大しすぎて
ショートしていたかもしれない。

「ロビンケンと協力し、3人のうち2人は深手を負わせましたが、奴らは瞬間移動を使用し脱出。
取り逃がしてしまいました」
「チューボ!お前は帝国の秘密を知る者を取り逃がしたというのか!」
「申し開きの言葉もありません!」

チューボは帝王の前に平伏しながら、懐から1枚のカードを差し出した。

「これは敵の所持していたデバイスです。管理局の技術を知るには良き品と考え、奪取して参りました」
「む……」

思わぬ戦利品に帝王の激昂は少しなりを潜める。

「現在ゲート6付近ではロビンケンが警戒を続けています。帝王、おそらくゲート6はその所在が
知られているはず。一刻も早い破棄を進言いたします」
「ふむ、そうだな……チューボよ、ロビンケンを呼び戻し、直ちにゲート6を抹消せよ」
「ははっ!」

帝王の命を受け、チューボは急ぎ足で退室していった。

「さて……」

帝王は右手でレイジングハートを弄び、左手に持った汎用ストレージデバイスを眺めながら思案していた。

(作戦の修正が必要だな…)

帝王ゴッドネロスは天才的な頭脳の持ち主である。それはネロス帝国の戦闘員の殆どが彼の手で作られて
いることからも分かるし、また世界経済の大半を牛耳るに至った経営手腕からも分かる。その頭脳が今
高速で稼動し、新たなプランを生み出そうとしていた。
まず彼は機甲軍団の軍団長ドランガーに命を下す。

「ドランガー、ジュエルシードの探索はどうなっている?」
「発見の報は入っておりません」
「ならば機甲軍団は一旦全軍を呼び戻せ」
「はっ!」

続いて帝王はアルフに声をかけた。

「アルフよ」
「えっ!?あ、はい!」
「時空管理局がいかなるものか皆に説明せよ」
「わかっ…分かりました」

ともすれば普段の言葉遣いが出そうになるが、「貴様、帝王に対して不敬だぞ!」などと言われる羽目に
なってはたまらないのでアルフは精一杯丁寧に返答する。

「ええと、まず時空管理局っていうのは……」
171リリカルネロス代理:2008/09/18(木) 19:30:10 ID:knMhkZzj
 
帝王自身はレイジングハートからある程度の情報を得ていたが、アルフの口から語られる管理局の姿は
また違った角度から見たもののため、帝王の好奇心を十分に満たしてくれた。
そしてアルフの説明が終わった後である。戦闘ロボット軍団烈闘士ザーゲンが進み出て発言した。

「恐れながら帝王、このアルフが時空管理局と通じている可能性があるのでは?」

ドクロのような頭部に左手の大鎌、死神の異名を持つ男はアルフに冷ややかな視線を向ける。
だが助け船は意外なところから出された。爆闘士ガラドーである。

「いや、アルフに奴らと通じている様子はなかった。むしろ恐れている様子だったな」

ザーゲンはそれを聞いてガラドーとアルフを交互に見ていたが、やがて忍びのガラドーがそこまで
言うならば、と発言を取り下げた。それを見たアルフは、全員連れて脱出できたことでガラドーに
恩を売れたのではないかと思い内心で喜んでいた。
帝王は最後に、ゲルドリングを呼ぶ。

「ゲルドリングよ、お前達モンスター軍団には特別任務を与える」
「へえ、なんでもしまっせ」
「犬を連れてこい」
「は?」

一瞬、帝王が何を言っているのか分からなかったゲルドリングは目をぱちくりとさせる。

「犬、でっか?」
「そうだ、試したいことがある。早急に捕まえてくるのだ」
「お任せ下さい帝王。おうお前ら、帝王直々のご命や、気合い入れて行くで!」

そう言うと、ゲルドリングは配下を引きつれて謁見の間を出ていく。

「それでは本日はここまでとする。各員、時空管理局との戦いに備えて体を休めておけ」
『ははっ!!』

帝王の姿が消え、その日の会議はそれで閉会となる。
内容の濃すぎる1日を過ごしたアルフは、ようやく休むことが出来そうだった。



「まさか、ここまでやられるなんて……」

リンディは唸った。ユーノの話を聞きネロス帝国が恐ろしい相手であると認識していても、
正直ここまで武装局員が一方的にやられる程とは思っていなかった。

「完全に私の判断ミスだわ……。エイミィ、二人の様子はどう?」
「クラッド君はまだ予断を許さないそうです。出血が多すぎたそうで……。
キール君は峠を越えたようです。現場への復帰は当分無理ですけど」
「……そう。他の局員は?」
「すでに帰投しています。残念ながら成果はなかったそうですが」
「構わないわ、今は安全を最優先になさい」


172名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 19:31:18 ID:9EinOoZ0
支援
173リリカルネロス代理:2008/09/18(木) 19:31:41 ID:knMhkZzj
 
そこまで報告を聞いてリンディはふう、とため息を吐いた。

「手痛い犠牲を払って得た成果が出入り口1つ、か」
「でも艦長、ここを監視してればネロス帝国の動きも掴めますよ」
「そうだといいんだけど…」

リンディにはそう思えなかった。見かけこそ若いもののリンディも管理局ではかなりのベテランだ。
長年培ってきたその経験が彼女に警告する、そんな甘い相手ではないと。

「艦長!目標に動きがありました!」

オペレーターであるランディの報告で、ブリッジクルーの視線がモニターに集まる。
モニターには、地中に格納中のゲートと、その付近で警戒を続けるロビンケンが映っていた。
ロビンケンがしゃがみこみ地面に向かって何かをやると、ゴーストバンクへと通じるゲートが
地表に姿を現す。

「へっへーん、一旦捕まればもうアースラのサーチャーからは逃げられないよ」

言いながらキーボードを叩くエイミィ。一挙手一投足も見逃さないつもりであった。

「どうやら向こうも帰還するようですね」

迷彩カラーの装甲がゲートの中に消えていくのを見ながら、アレックスが現況を語る。

「まあしばらくはここを見張って…」
ドオオォォォン!!!

アレックスの言葉を遮るように、突如響き渡る轟音。画面の中ではゲートのあった場所から土煙が
立ち昇っている。

「一体何!?……ええ!?これって、まさか!」
「何があったのエイミィ、報告して」

サーチャーが集めたデータを整理して、エイミィは頭を抱えた。そこに示されているのは、苦労して
発見した監視対象の消滅だったからだ。

「地中より激しい振動を感知、おそらくは爆薬によるものと思われます。威力から見て、あの
出入り口を丸ごと爆破したのではないかと。……ホント、なんて奴らよ!」
「ばれそうになったから出入り口そのものを消滅させたってことなの…?」

そこに、扉を開けてクロノがブリッジへ入ってくる。

「どうやら、ネロス帝国というのは相当の曲者らしいな」
「クロノ君大丈夫?こっちから見る限り結構苦戦してたみたいだけど」
「クリーンヒットは1発も貰ってないよ。1発でもくらってたら今頃僕も医務室の世話になってる
ところだが」

元気そうな息子の様子にホッとするリンディだったが、すぐに表情を引き締め『母親』ではなく
『艦長』としての顔でクロノに問いかけた。
174リリカルネロス代理:2008/09/18(木) 19:32:39 ID:knMhkZzj
 
「クロノ・ハラオウン執務官、ネロス帝国と交戦してみてあなたはどう思いましたか?」
「彼らは危険です。まず殺人という行為を当たり前のように実行に移すその精神。それに武装の
レベルや戦闘技術も侮れません。ユーノの奴が言っていたとおり、質量兵器を中心とした一部の
技術では管理局を上回っている可能性は高いです」

そこで一旦クロノは言葉を切る。続けて何を言うべきか、彼にしては珍しく迷っている様子だった。

「だけど、どうにも妙でした」
「妙、というのは?」
「使い魔の存在が浮きすぎています。あの組織に次元犯罪者が絡んでいるとしたら、あまりに魔法への
備えがなさすぎる。あいつら、腕は立つのにまるで初めて魔導師と戦ったみたいにちぐはぐでした。
それにあの使い魔が何を言おうとしていたのか気になります」
「魔法を知らない現地の犯罪組織が、たまたまこの世界に来てた魔導師を捕まえた、なんてことないよね」

偶然とは言えエイミィの当てずっぽうな推理はかなり核心を捕らえていた。
もっとも今の彼らにそれを知ることは出来ないのだが。

「いや、まさかそんなことは…」
「肯定は出来ないけど否定する事も出来ないわね。まだ分からないことだらけよ、可能性を狭めるのは
やめておきましょう。ところでエイミィ、ユーノ君はどうしているかしら」
「あー……部屋にいるみたいです。いきなりあれじゃあショック大きすぎですよね」
「同行した二人は瀕死の重傷、本人も殺されかけたわけだし……きっとひどく傷ついているわ。
あの子のケアのことも考えないと」

リンディ、クロン、エイミィはそろって深々とため息を吐いた。

「ホント、世界はこんなはずじゃないことばかりだ」




アルフは今ある理由で途方に暮れていた。

「腹減った…」

昼食は車の中でガラドーに分けて貰っていたのだが、夕食をどこでもらえばいいか分からず困って
いたのだ。人ではないのだからモンスター軍団で食事をとるのが妥当でしょう、と秘書Kに言われて
モンスター軍団のエリアに来てみたものの、「はあ?下っ端に食わせる飯なんかねえよ」「犬なんや
からそのへんでネズミでも捕まえて食うたらどうや」などと心ない言葉を浴びせられた揚げ句食料を
得ることが出来なかったのだ。どうもいきのいい犬を捕まえるのに苦労しているらしく、同じイヌ科
であるアルフへの風当たりが厳しい。

(でもまあ、どっちみちあれは食べたくなかったしねえ)

思い出すのはモンスター軍団員がうまそうに食べていた食料。いや、あれを食料と呼んでいいものか、
モンスター軍団は大皿に山盛りになった白い泡のような物をうまそうに食っていたのだ。
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 19:32:51 ID:9EinOoZ0
支援
176リリカルネロス代理:2008/09/18(木) 19:33:49 ID:knMhkZzj
 
(こうなりゃホントにその辺の山で何か捕まえて…)
「おおアルフ、ちょうどいいところにいたな。お前を捜していたところだ」
「…ガラドー?」

外出許可はどこでもらえばいいのか、と考え始めていたアルフにいきなり声をかけてきたのは
今日一日ですっかり見慣れた感のあるガラドーだった。相変わらず気配は感じなかったが。

「ついて来い」
「え?ああ、うん」

理由も言わず歩き出すガラドーに、反論する術を持たないアルフは仕方なくついていく。
その行き先は、ヨロイ軍団のエリアだった。

「よし、入れ」
「いったい何……え、これって」

ドアの中には広々とした空間があった。そこにはヨロイ軍団勢揃いか、と思うほど大勢のヨロイ軍団員と、
大きめのテーブルがいくつか、そしてなかなかに豪勢な肉を中心とする料理がたくさん用意されていた。

「こりゃ、いったい…」
「今日の戦い、お前がいなければ俺は影を犠牲にして逃げねばならんところだった。
これはせめてもの感謝の印だ」
「え…マジ?」

その時アルフ達が入ってきたのとは別の扉を開け、銀色の甲冑を纏う戦士が姿を現した。
その男、軍団長クールギンが食堂に入ってきた瞬間その場にいた全員が雑談をやめ、佇まいを整える。
クールギンは静かになった室内を通り過ぎると、何が起こるのかと内心ビクビクしているアルフの前
で歩みを止めた。

「私は凱聖クールギン、このヨロイ軍団の長を務めている。アルフよ、我が軍団の影を救ってくれた
こと深く感謝する。我がヨロイ軍団は恩義には報いる主義だ。何か困ったことになったときは我が
軍団の者に相談するがいい。帝王の御意志に反しない範疇で力になろう」
「あ…その……ヨロシクオネガイシマスデス」

秘書Sから帝国のシステムについて簡単に説明を受けていたアルフはかなり驚いていた。凱聖といえば
帝王に次ぐ位置にある最高幹部のはず、その人物がわざわざ奴隷同然の扱いであるアルフに礼を言いに
来るのはアルフの常識では考えられない。相手が想像以上のVIPだったこともあってかなり緊張して
しまったアルフは、使い慣れない敬語を使って片言の挨拶を返すのが精一杯だった。別段アルフは偉い
人間が苦手というわけではない。ネロス帝国の偉い人間の機嫌を損ねるわけにはいかない、という思い
がアルフに緊張を強いたのだ。

「皆の者、今宵はアルフを虜囚ではなく客人として遇する。異議はあるか!」
『異議なし!』
「よし!ならば今宵は思う存分飲み、食らうのだ!新たな敵、時空管理局との戦に備え英気を養え!」
『応!』

かくして、アルフを交えての宴がヨロイ軍団で開かれたのであった。
177リリカルネロス代理:2008/09/18(木) 19:35:08 ID:knMhkZzj
 
「俺は暴魂チューボだ。お前達が戦った相手は若いが腕利きだったそうだな」
「ああ。執務官てのは管理局の中でもよっぽど腕の立つ奴でなきゃなれないエリートなんだ。
あの歳で執務官やってるってことは、あいつは天才ってやつだと思うよ」
「俺の戦った奴は腕はさほど大したことがなかったが、とにかく空を飛んでいるのがやっかいでなあ。
魔導師との戦い方を考えねば……。そうだ、アルフ。今度修行に付き合ってくれるか?」
「あたしで役に立てるなら喜んで」

「爆闘士ロビンケンだ。管理局という組織についていくつか聞きたい」
「あたしもあんまり詳しくは知らないけど、分かる範囲でいいなら答えるよ」
「助かる。まず、奴らの戦力規模はどれくらいだ?」
「管理局は次元世界に手を広げすぎて慢性的な人手不足らしいから、ここみたいな辺境の管理外世界には
次元航行艦単艦で来てると思うよ。一隻にどれくらいの戦力が乗ってるかまではちょっと……」

「雄闘バーロックだ。よろしく頼む」
「こちらこそよろしく」
「管理局が使う魔法について聞きたいんだが……」

「しかし、飯食うときでも仮面外さないのが結構いるんだねえ」
「別段不便はないさ、慣れているからな。口元さえ開けば食事はとれる」
「へえ……。そういや軍団長って人は全然食べてないみたいなんだけど」
「軍団長はいつもご自分の部屋で食事をとられる」
「そりゃまたなんで?」
「忠告しておこうアルフ、地球には『好奇心は猫を殺す』という言葉がある」
「ありがと……余計なことは考えないようにしとく」
「それでいい。特に帝王の身辺を探ろうなどとは考えんことだ。恩人を手に掛けたくはない」
「肝に銘じとくよ。……ええっと、あんたはなんて呼べばいい?」
「我々は影だ。個人を識別する名前など必要ない」


このように多くのヨロイ軍団員と交流を深めていたわけだが。
自分の手元にある大きな肉の塊を眺めながら、アルフはふと呟いた

「あたしだけこんないい思いしてていいのかな…」

宴に招待され今がチャンスとばかりに顔を売っていたアルフだが、未だ牢の中のフェイトを思うと
胸が痛む。

「どうした、好きなだけ食っていいんだぞ」
「フェイトのことが心配なんだよ。あの子、一人で寂しくしてないかな…」

その言葉を聞いて、一人の影が進み出た。

「軍団長、ビックウェインに差し入れを持っていこうと思うのですがよろしいでしょうか」
「なに、ビックウェインに?……ふ、そういうことか。いいだろう、許可する。奴も単調な任務で
暇を持て余しているだろう。退屈を紛らわせるものも何か持って行ってやれ」
「はっ!!」

言うが早いがその影はてきぱきと料理をまとめて部屋を出ていく。
178名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 19:36:06 ID:knMhkZzj
 
「ガラドー、ビックウェインって…」
「牢の見張りをやっている戦闘ロボットだ」
「そっか。………ありがとう」

このネロス帝国を支配するゴッドネロスはまさに悪の権化だ。だけど、帝国を構成するメンバーは、
帝王ほど悪い奴らじゃないのかもしれない、そう思うアルフだった。




「なに、わしに差し入れ?」
「はい。もし必要なければ捕虜にくれてやるなり牢の中に捨てておくなり好きにしてくれ、
とのことです」
「ほう、これは……。分かった、好きにさせてもらう」

影の持ってきた包みを見て、大体の事情を察したビックウェインはそれ以上を聞かなかった。

「ところで、フェイトの様子はどうですか?」
「落ち込んではいるが今のところ健康状態に問題はないな」
「了解しました。それでは自分はこれで」

ビックウェインが呼び止める暇もなく、影はその場から姿を消す。

「あわただしい奴だな……。まあいい。フェイト、こいつはお前にやろう」

そう言ってビックウェインは、影の置いていった風呂敷包みを鉄格子の前に持って行った。
風呂敷をほどいた中からはタッパーに詰めた何種類かのご馳走と、数冊の本が出てくる。

「え?あの…だけど、これはあなたへの差し入れだって…」

フェイトには、何故自分がこんなものをもらうのかが理解できない。

「ロボットは飯を食わんよ。それにしても……わざわざこんなものが来るくらいだ、
アルフは上手くやっているようだな」
「アルフが!?」
「わしは今ここを離れられんが、今日何かしら戦闘があったことは聞いている。アルフがお前に
準じる強さを持っているというなら、働きを示せてもおかしくはない。もっとも、初日から
戦闘に駆り出された事には同情するがな」

目の前の少女がバーベリィを撃墜した事実を思い出しながら、ビックウェインは話し続ける。

「まあせっかくのもらいものだ。しっかり食べて体力を付けておけ」
「でも、その……私、こんなに食べられません……」
「食べられる分だけでいいから食べておくといい」
「……はい」

不自由極まりない身の上であったが、目の前のこのロボットが色々と自分に気を使ってくれて
いることはフェイトにも分かった。無骨な戦闘ロボットらしく不器用ではあったが、その優しさが
フェイトには嬉しかった。
179リリカルネロス代理:2008/09/18(木) 19:36:59 ID:knMhkZzj
 
(お父さんって、こんな感じなのかな…)

ふと、知識でしか知らない単語がフェイトの脳裏をよぎった。それは母を裏切ってしまったと自分を
責め続ける少女に、ほんの少しだけあてられた暖かい光。あたかも血の池でもがく盗人が目の前に
垂らされた蜘蛛の糸に飛びつくように、フェイトはそこに縋ろうとしていた。母の下には帰れず、
使い魔とは連絡が取れず、世話係のウィズダムは悪い人間ではないがずっといるわけではない。
フェイトの閉ざされた世界には、他に救いがなかったから。

しばらくして、食事を終えたフェイトは風呂敷に入っていた本を開いてみた。

「………………………………」
「……どうした?」

無言で眉をひそめ、本とにらめっこするフェイトの様子を不審に思ったビックウェインは
思わず声をかけた。フェイトは何と答えていいのか迷っている様子だったが、やがて
僅かに頬を染めながらおずおずと答えた。

「……読めないんです」
「そういえば地球人ではないんだったな。なら本が読めないのも仕方なかろう」

どうやら字が読めないことを恥じているらしいフェイトを慰めると、ビックウェインは
1冊の本を手にとってみた。どうせ暇だし、子守の真似事をしてフェイトに本を読んでやるのも
悪くないかもしれないと思いながら。

「なんならわしが読んでやっても……」

タイトルを見て思わず絶句する。表紙には行書体で大きく『太平記』と書かれていた。
鎌倉幕府の滅亡から室町幕府の興り、南北朝の時代までを描いた軍記物語である。

「……ウィズダムにもう少し子供向けの書籍を手配させておこう」
「すみません……」

よく分からないが自分のせいかと思ったフェイトは反射的に謝ってしまう。これもプレシアによる
虐待の賜物だろう。ビックウェインがそのことに気付くことはなかったが。

「まったく、ヨロイ軍団の趣味は渋すぎていかん。せめて……」

小声で彼は怒りを露わにする。

「せめて現代語訳しておくべきだろうに!」

――――論点が大きく間違っていた。
伝説の巨人ビックウェイン、戦闘以外は結構からっきしの3級品なのかもしれない。
180名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 19:38:21 ID:knMhkZzj
ネロス帝国との初戦は管理局にとって苦い結果となった。
心に傷を負ったユーノは、全てを忘れるためにがむしゃらに働く。
だが、アースラの総力を結集しても帝国の正体は全く掴めなかった。
一方帝王ゴッドネロスは恐ろしい計画を着々と進めていた!

次回、魔法帝王リリカルネロス
「ここは地の底、ゴーストバンク」

こいつはすごいぜ!




   提  供

 桐原コンツェルン
  ヨロイ軍団
 時 空 管 理 局


このSSは、野望をクリエイトする企業、桐原と
和の心を愛するヨロイ軍団、
ご覧のスポンサーの提供でお送りしました。


181名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 19:41:25 ID:knMhkZzj
投下完了。

ネロス帝国は悪の組織です。世界征服を企む悪の組織です。
大事なことなので二度言いました。
帝王の誕生日にパーティー開いてみんなで祝ったりしますが、恐ろしい組織なんです。

魔法も使えない原始人相手に楽勝だと思ってたら殺されかけたでござる、の巻。
モブ局員のクラッドは南斗五車聖でいう風、キールは海に当たります。
書いているうちにどんどん扱いが悪くなってきましたが、プレシアに一蹴される人たちなんで
まあいいか。
今回焦ってばかりのキールも敵がもう少し弱ければ呉学人ばりに活躍してくれたでしょう。
魔法を使えないからって相手を舐めてはいけないというお話でした。

執務官殿大暴れの巻。
なのはがいると霞むだけでこいつも十分化け物だと思います。
ベルカ式じゃないけど接近されても頑張れるよ!

ヨロイ軍団でゴチになる話。
ヨロイ軍団は部下や仲間をとても大事にしています。
一旦懐にはいるとネロス帝国も結構いいところなのかもしれません。
裏切り、脱走、軍規違反は即死刑ですが。

次回はいわゆる日常パートの予定。
ユーノ頑張る。
アルフこき使われる。
フェイト牢の片隅で膝を抱えている。といった話になる予定。

ゲルドリングと犬の組み合わせでぴんときた人はメタルダー通だと思います。


以上で代理終了

GJ!
そうだよねネロス帝国は悪の組織だよね
ヨロイ軍団が良い人?達すぎて忘れるとこだったぜ…
それにしてもユーノは背負い込みすぎて無茶やらかすのがピッタリだ
182名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 20:14:09 ID:EXLbxc0K
犬→アルフ量産→人→白い悪魔量産、こうですか解りません
あとヨロイ軍団は何処に行けば就職できますか?w
183名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 20:37:14 ID:RP8q08zR
ヨロイ軍団いい人(?)すぎるだろJK。
くそぅ!ずれてるけど…ずれてるけどいいぞ!




で、プレシアママは?
184名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 20:45:35 ID:4DnHrAPv
>リリカルネロス
なるほど……これが世に言うツンデレってやつか(ぉ
いやー、ここまでの話ではネロス帝国の悪逆非道ぶりが全開だったので、そういう欝展開ばかりを予想してただけに、前回のビックウェインから始まりヨロイ軍団などの良い人っぷりに良い意味で裏切られましたw
やっぱヨロイ軍団って高潔なイメージありますもんね。
打算的な考えで近づいたアルフだけど、これからどんな関係に発展してくのか楽しみだなぁ。
大抵は無印のストーリーをなぞるような動きをしない初期のフェイトとアルフのコンビが、こうしたオリジナル展開に巻き込まれていくのも斬新で先が読めません。
最初はフェイトとアルフの安否を心配しまくってたけど、もうさ…やっぱりネロス帝国に寝返りなよ。ビックウェインの側近あたりを目指せばいいと思うよ。
あとヨロイ軍団、就職マジオススメ。他の軍団とかプレシアと違って裏切りとか切り捨てないからw
もちろん、今回の管理局員との戦いで見せたように、彼らが悪であるのは確か。その冷酷非情ぶりは変わらないと思います。
今後の展開も穏やかなままではいられないでしょうが…しかし、この一時の清涼剤を今は楽しませていただきます。
まったく、こいつぁすごいぜ!
185名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 20:50:01 ID:4DnHrAPv
>>184
訂正。「なぞるような動きをしない」→「なぞるような動きしかしない」
186名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 20:50:09 ID:xaTcshcl
GJ!
なんか管理局よりネロス帝国のほうが良さげに見えてくるw
悪の組織としても、アルフに優しくしてくれた所も。
悪のカリスマですね。
アルフが頑張ってるので嬉しいです。
187魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 21:16:30 ID:4DnHrAPv
さて、投下予定もないようなので21時30分に投下させていただきます。
Stylishの十八話だけど内容は閑話休題的な話。
ダンテ出てくるとキャラのやりとりがフランクに成るから萌えとか無理じゃね? やっぱ外人に日本のワビサビは分からんって編。
188名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:19:09 ID:knMhkZzj
支援
189名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:26:48 ID:y/gaAVdu
支援
190名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:28:14 ID:4IxioJZY
俺は頭にキメラシード頭に乗っけて、頭部に花を咲かせて待ってるぜ。
191魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 21:30:32 ID:4DnHrAPv
 床に転がした電話機が鳴っている。
 丁度コートに手を掛けたところだったダンテは、器用に受話器を蹴り上げると、そのまま空中でキャッチして耳に押し当てた。

「デビル・メイ・クライだ。生憎だが、出張の為しばらく休みだぜ。期限は未定だ、よろしく」

 受話器から響く怒声とも懇願ともつかない雑音を聞き流しながら、無造作に放り投げる。
 キンッと音を立てて、輪投げよろしく電話機の上に乗っかった。
 最初から興味など無かったダンテは、それを尻目にコートを羽織る。
 久方ぶりに袖を通した、ダンテの性格を体現する真紅の服装に自然と笑みが浮かんだ。やはり、この格好が一番しっくりくる。

「そう言うワケだ、レナード。後は頼んだぜ」
「……何日も事務所空けっ放しで、俺に連絡も寄越さないでおきながら、いきなり帰って来てそれかよ」

 そこだけ新品同様になっている入り口のドアの傍に立っていたレナードは、弱弱しく悪態を吐いた。
 もはや、この男に何を言っても無駄だと悟っている。
 大仕事をこなし、報酬も入って万々歳という直後にそのまま消息を晦ましたダンテをレナードが今の今まで気に掛けていたのは、もちろん安否を気遣う理由ではない。
 便利屋としても裏の世界に名の知れ渡っている<Devil May Cry>に、唯一まともに仕事を斡旋できるのがレナードの強みの一つだからだ。
 ダンテが帰って来ていきなり無期限の休業宣言をすれば、一番ワリを食うのは誰か言うまでも無い。

「ここ最近、キナ臭くなってそこら中の組織が殺気立ってるんだ。腕っ節の立つお前さんだって引く手数多さ。
 ……それを、いきなり全部キャンセルはねぇだろ!? 頼むよ、話もつかねえとなったら俺が酢豚にされちまう!」
「キャンセル? 話も聞いてねえよ。人の都合も考えずに勝手に請け負うからだ。せいぜい料理されないようにダイエットに励みな」
「ひ、人事だと思ってよ……!」

 レナードの悲壮な訴えなど歯牙にもかけない。
 これが無力な一般人の叫びなら良心が痛まないわけでもないが、相手は小ずるい腹黒の小悪党だ。自業自得というものだろう。
 それでもレナードは得意の口八丁で何とかダンテの考えを改めさせようと食い縋る。

「ダンテ! 金払いのいい依頼かもしれないけどな、さっきも言ったとおり最近何処も殺気立ってるんだ。
 そんな時期に、管理局からの長期の仕事なんて引き受けてみろ。どの組織からも睨まれるぜ? 便利屋としての信頼もガタ落ちだ、公的組織に尻尾振る飼い犬だってな!」
「言わせたい奴には言わせとけよ。外に知り合いを待たせてあるんだから、足引っ張るな。もう行くぜ」
「外? あのスゲエ車に乗った綺麗な金髪のオンナか?」
「ああ、美人だろ?」
「お前さんの好きそうなタイプだよ。アンタの事務所の前じゃなかったら、強盗と好きモノの変態が群がってくるだろうぜ……」
「あんないい女なら尻尾を振ってもいい、そうだろ?」

 ダンテは舌を出して『ハッハッハ』と犬の真似をしながらおどけて見せた。
 二本の<得物>を仕舞ったギターケースを引っ掴むと、縋るレナードへウィンク一つ寄越して事務所のドアに手を掛ける。

「それじゃあな。俺のいない間、事務所の管理は頼むぜ」
「ダンテ! いつまで待ちゃいんだ!? 帰って来るんだろ!?」

 答えず、気楽に手を振すると、ダンテは事務所から出て行った。
 閉まったドア越しに『ちくしょー、この悪魔!』という嘆きが聞こえるのを耳に入れず、ダンテは意気揚々と手持ち無沙汰に待つフェイトの元へと向かった。

「待たせたな」
「私物は、それだけでいいんですか?」
「あまり物は持ち歩かない主義でね」

 後部座席にケースを放り込み、自分は助手席へと腰を降ろす。
 ここへの道すがらと同じ、勝手知ったるリアシートを後ろへ押し倒すと、ダッシュボードの上に足を投げ出した。
 他人の車でここまでリラックスできるダンテの図太さに呆れながら、言っても無駄だと悟っているフェイトはため息一つで済ませ、車を走らせる。
 死にかけた街の景色が前から後ろへと流れていく。時折、その景色の中に人の姿も見かけた。
 なけなしの現金を抱えてベンチに横になった男。派手に着飾った娼婦。そして、路地裏の影で寄り添うように座り込んだ子供達。
 それらを見る度に、フェイトはやるせない気分になっていた。
192魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 21:31:27 ID:4DnHrAPv
「華やかなりし街の影ってところか」

 フェイトの心の内を代弁するように、ダンテが呟いた。
 繁栄の在る場所には格差もまた存在する。完全な平等などというものは、文明の停滞の下でしかありえないのだから。それはこの世界においても例外ではない。
 多くの次元世界との交流が複雑に絡み合うミッドチルダにおいて、訪れる人はその種と同じだけ差が存在するのだ。

「首都に住んでいると忘れてしまいがちな……これが現実だと、分かってはいるんですけれど」
「気にするな。ここも、そう悪いもんじゃない。
 ――ところで、コイツか? <悪魔>と繋がりがある次元犯罪者ってのは」

 一介の執務官と便利屋が世情を嘆いても仕方ないとばかりに、ダンテは話を切り替え、情報の表示された電子ボードを睨み付けた。
 ダンテほど物事を割り切れないフェイトだったが、質問には頷いて答える。

「ジェイル=スカリエッティ。私が追っている、大物の犯罪者です。各所のレリック強奪に関わるガジェットは彼の差し金、最近になって<悪魔>との繋がりも濃厚になりました」
「こいつが俺の事務所を吹き飛ばしてくれた張本人ってワケだ」
「奴と会話を交わしたんですよね。本人と接触したのは、多分ダンテさんが初めてです」
「ベラベラとよく喋る、胡散臭い奴だったよ。俺は自分よりお喋りな奴は嫌いなんだ」

 不機嫌そうに鼻を鳴らす。
 フェイトは肩を竦めた。ダンテの証言から、スカリエッティの人物像を少しでも把握しようと思ったが、この様子ではあまり積極的に語ってはくれないだろう。
 だが、打算的ではあるが共通の敵が出来ることは、共に戦う上で都合がいい。

「情報は少ないですが、スカリエッティに関しては帰ってからダンテさんにも詳しくお話します。
 それで……今のところ奴の協力者として可能性の高い<バージル>という男に関してなんですけど……」
「まとめて一緒に話してやるよ」

 <バージル>という名前が出た途端、目に見えて変わったダンテの雰囲気にフェイトは口を噤んだ。
 ただ敵意や怒りを抱くだけではない、悲しみと懐かしさも入り交ざった複雑な表情を浮かべている。
 自分とスカリエッティがそうであるように、ダンテとバージルには浅からぬ因縁があるらしい。
 彼の敵であるならば、やはり自分にとっても敵となる。
 得体の知れぬ<悪魔>という存在を交え、複雑に、そして肥大化していく暗黒の気配を感じながら、フェイトは車を進める先に敵の姿を幻視した。
 これまで漠然としていた、自分たちが真に敵対すべき者達の姿が徐々に形となり始めている。
 <奴ら>はこちらの思惑の届かぬ場所で、一体何を企み、何を成そうとしているのか――。
 エンジンの僅かな振動だけが響く車内、お互いに似た懸念を抱きながらダンテとフェイトは沈黙を続けていた。






魔法少女リリカルなのはStylish
 第十八話『Dear My Family』




193魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 21:33:05 ID:4DnHrAPv
「――そこまで! <インターセプトトレーニング>終了!」

 ティアナが最後の誘導弾を撃ち落した瞬間、なのはが訓練の終了を告げた。
 絶え間無い疲労の蓄積から解放された安堵に、ティアナは大きく息を吐く。張り詰めた神経が解れていく感覚と同時に脱力感が全身を重石のように襲った。
 座り込みたい、が。堪える。
 デバイスをホルダーに差し込み、直立不動で次の指示を待つティアナの意地とも言える気丈な姿を見て、なのはは微笑した。

「今日の個人教導はこれにて終了。休め」
「はい!」

 ようやくティアナの体から強張りが抜ける。
 愚直なまでに公私の区別を付けたがるティアナの生真面目さも、もうなのはには慣れ親しんだものだった。今はそれすら好ましく思える。
 少し気の緩んだティアナのぼうっとした視線とぶつかり、二人はしばし見詰め合って、湧き上がった奇妙な可笑しさに一緒に小さく笑った。
 教導官と訓練生としての時間は終わる。ここからは少しだけプライベートだ。

「完璧だったね。次からはワンステップ先に進めるよ、ティア」
「ありがとうございます、なのはさん」

 それはつまり、こういう呼び方をするようになった二人の新しい関係だった。

「誘導弾の操作も大分精度が上がってきたね。小手先の技だけど、二種類の射撃があるだけで攻撃の幅は驚くほど広がるよ」
「最近、直線射撃に偏ってる自覚はしてましたから。なのはさんのお墨付きなら、矯正は成功ですね」
「ティアならあまり細かく言わなくても自分で使いどころ考えられるよねぇ……うーん、なんか物足りないなぁ」
「いや、教導官の方が訓練に疑問持ってどうするんですか?」
「だって、あの日から意気込んで色々訓練考えてるのに、ティアってば結構難なくこなしちゃうんだもん」

 以前の自分と立場が入れ替わったかのようななのはの言動に、ティアナは苦笑した。
 あの模擬戦を経て、心を開いた夜――あれからティアナの日常は少し変化し、自身の中では大きく何かが変わった。
 なのはは基本を教えながらも教導にティアナの要望を取り込むようになり、ティアナはそれによって過酷になった訓練を一皮向けた精神力によってこなすようになった。
 もう焦りは無い。戦いへの苛烈な意志はそのままに、周囲を見渡す冷静さと余裕を持つようになったのだ。
 なのはの望む、新人メンバー達のリーダー格という器になりつつあるティアナにとって、残された問題は彼女自身の戦闘力の向上だった。

「――やっぱり、一撃の威力が欲しいと思うんですよね」

 訓練やチームワークについて以前より遥かに気安くなった雰囲気でアレコレと交わす中、自身の話へと移って、ティアナはおもむろに告げた。

「あたしの弱点は、ここぞという時の切り札が無いことだと思うんです」

 ティアナは自己分析を冷静に口にした。
 なのはは頷く。

「そうだね、射撃型はどうしても魔力容量と出力が攻撃力に直結する。
 魔力弾を量はそのままに、圧縮して濃度を上げるっていうティアの方法は、上手くその弱点をフォローしてると思う。でも、限界はある」
「一発で、大ダメージを与えられる攻撃方法が欲しい。<ファントム・ブレイザー>じゃ駄目なんです」
「確かにあの魔法は、正直ティア向いてないかな。
 威力と範囲はカバー出来るけど、消耗率が高すぎるよ。魔力量を効率で補ってるティアに適したものじゃない」
「どちらかというと、なのはさんのバスターと同じ系統の魔法ですからね」

 近くの木の幹に腰掛け、談笑する様は降り注ぐ木漏れ日も手伝ってひどく穏やかな雰囲気を漂わせていたが、交わされる言葉は真剣そのものだった。

「……やっぱり、タイプの違うわたしじゃアドバイスは難しいのかなぁ。わたしの考えることはティアも既に考えてるみたいだし」
「存在そのものが必殺のなのはさんに、必殺技のコツを尋ねても難しいですよね」
「何その物騒な評価! ティアまでそんなこと言うの!?」

 時折、そんな場を和ます冗談も交えながら語り合う。
 少し前までは考えられない、なのはとティアナのやりとりだった。
194魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 21:35:10 ID:4DnHrAPv
「参考になるか分からないけど、わたしの場合は鍛える時短所を補うより長所を伸ばす方法を取ったよ。
 例えば、当時必殺技だった放出系魔法を改良しようと思った時、発射シークエンスを変更する方法を取ったんだ。まだ未熟だったからチャージ時間が長くて高速戦では使えなくて――」
「発射の高速化――じゃないですね。なのはさんなら、チャージタイム増やして威力を上げたんじゃないですか?」
「当たり! 使いどころはとことん選ぶけど、信頼出来る切り札になったよ」
「その見かけによらない博打好きな人柄に惚れます」
「にゃにゃ!?」

 真顔で告げるティアナに対して、なのはは奇声を上げながら頬を赤くした。
 もちろん、当人は誤解を恐れない本音を告げただけである。なのはの性格に、どこかダンテと共通する部分を感じ取ったのだった。
 なのはは気を取り直すように咳払い一つすると、改めて自分の助言をティアナに告げた。

「まあ、要するに。持ち味を活かす、っていうのが重要だと思うの」
「持ち味……」
「例えば、ティアの場合はわたしにも真似出来ない命中精度とか魔力の圧縮率。その辺にパワーアップの鍵があるんじゃないかな? 新しい魔法を覚えるより、ずっと近道だと思うよ」
「……なるほど」

 ティアナは神妙な顔で頷いたが、対するなのはは自分自身の助言の余りの曖昧さに少し落ち込んでいた。

「ごめん。あんまり参考にならないよね……」
「いえ、そんなことないですよ」

 首を振るティアナの眼に、誤魔化しや気遣いは無い。本心だった。

「なのはさんのおかげで、ちょっと試してみたいことを思いつきました。ありがとうございます」

 何かを得た興奮と決意が、自然と力強い笑みを形作っていた。

「ははっ、どういたしまして」

 そんなティアナの様子を頼もしいと思うと同時に、なのはは更に大きく落ち込んでしまう。

「……なんか、やっぱりティア自分一人で解決しちゃったみたいだね……」

 出来が良すぎるというのも困りもの。
 あの夜には、目の前の少女を鍛える為に一大決心したものだが、蓋を開ければ『アレ、わたし実は要らない子なの?』と思わずにはいられない現状だった。

「あ、いや。なのはさんのおかげですよ、閃いたの! ホント! ありがとうございます!」
「いいよぉ、そんな気を使わなくて……。どうせ、わたしに教導なんて向いてないの。部下の気持ちも分からない独りよがりな女なの……」
「なんでそんなに打たれ弱くなってるんですか!? なのなの……いや、なよなよしないで普段通りに戻ってくださいよ!」

 模擬戦の時のように眼が死んでるなのはをティアナが慌てて慰めていた。
 もちろん、半分はじゃれ合っているようなものである。互いの弱さを笑って話せる程度には、二人は分かり合っていた。
 雨降って地固まる、とは正にこの事。
 ――そして、もう一つ固めるべき地があることをティアナは理解していた。
195名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:35:14 ID:g8jycFuz
支援ダァーイ
196魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 21:37:06 ID:4DnHrAPv
「おーい、なのは。こっちの訓練も終わったぞ」

 駆け寄ってくるのは同じく個人教導を行っていたヴィータとスバル。
 例の如くスバルは、時にヴィータにぶっ飛ばされ、時に自ら転がり、痣と土汚れだらけだった。

「お疲れ様。スバルの調子はどう?」
「ギリギリ合格点ってところか。馬力は上がってるけど、前に指摘した部分を十分に改善できてねーな。長所を伸ばしすぎだ」
「ハハ……すみません」

 一見するとヴィータとスバルの二人は同じ突撃思考タイプに見えるが、そこは年の功。
 猪突猛進気味なスバルの戦闘方法に生じる粗をヴィータは前々から懸念していた。しかし、矯正の効果はあまり見込めていない。

「索敵とか位置選び、細かい点を相棒のティアナに任せすぎてたな。一人になると、その辺が隙になっちまうぞ」
「……すみません」

 ヴィータの的確な指摘に、スバルは気まずげに俯いた。
 チラリ、とティアナの方を一瞥し、それから何かを堪えるように口を噤んでまた俯く。
 普段の快活なスバルらしくない仕草だった。
 その分かりやすい態度を、ティアナはもちろんなのは達が気付かないはずはない。
 あの日――模擬戦以来、それはどうしようもないことなのかもしれないが、スバルとティアナの間に小さな溝が出来てしまっているのだった。
 日常の中で、二人は以前と同じように寝食を共にし、会話もしているが、やはり以前と同じように心を通わせることは出来なくなってしまっていた。

「……まあまあ、ヴィータちゃん。とりあえず、訓練はこれで終了。
 スバル達はシャワーを浴びて着替えたら、オフィスに集合してね。はやて部隊長から何か発表があるらしいよ」

 重苦しい程ではないが、どうにも形容しづらい微妙な二人の雰囲気を払拭するようになのはが告げた。
 それじゃあ、と。これまでなら嬉々としてティアナを伴っていた筈のスバルが一人で隊舎へ向かう背を眺め、なのはは無言を貫くティアナに小声で問い掛けた。

「やっぱり、スバルとは仲直り出来てない?」
「寝る前とか、話すタイミングを計ってるんですけど……なんか、普段通りに返されると曖昧になっちゃって……」
「スバルなりの気遣いなんだろね『気にしてない』っていう。実際は、気にしちゃってるみたいだけど」
「アレは、完全にあたしの方に非がありますから。負い目の分、強く切り出せないんです」
「きっかけがあれば、だね?」
「ありますか?」
「任せなさい」

 ティアナにスバルへの謝罪と仲直りの意思があることを確認すると、なのはは満足げに笑ってドンッと胸を叩いて見せた。
 その仕草に小さく笑みを浮かべ、感謝の意思を込めて一礼すると、ティアナもまたスバルの後を追うように隊舎へと向かった。
 なのははその背中をいつまでも見守っていた。
 懸念は残っている。しかし、不安はない。
 ティアナは、きっとスバルとの絆を取り戻すだろう。あるいはそれ以上のものを。
 好意の反対は無関心だと言う。
 模擬戦で見せたスバルへの苛烈な反発がティアナの偽らざる感情ならば、それが一端に過ぎないスバルを想う心もまた本物なのだ。
 良くも悪くも、あの頑なな少女がスバルという存在を自らの内まで踏み込ませ、心を許しているという事実が、なのはには微笑ましく映るのだった。

「ホント、不器用なんだから……」
「おめーが言えたことじゃねーだろ」

 年上ぶって苦笑してみせるなのはの後頭部を、ヴィータがグラーフアイゼンでコツンと叩いた。





197魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 21:39:39 ID:4DnHrAPv
 オフィスには制服に着替えたフォワードのメンバー達とシャマルやシャリオなどの手の空いた一部の隊員だけが集められていた。
 新人達もすっかり板についた一糸乱れぬ整列を、向かい合う形ではやて達隊長陣が眺めている。
 その上司達の中に二人――六課では本来在り得ぬはずの姿があった。

「――もう聞き及んでると思うけど、機動六課に外部協力者を迎え入れることになった」

 自分の傍らに立つ二人の人物へ隊員達の視線がチラチラと向けられるのを感じながら、はやてが厳かに告げた。

「いずれも任務の際に遭遇した<アンノウン>に対抗する為、特別措置として一時的に六課へ出頭することになった人物や。
 正式なメンバーではない為、いろいろと制約と自由の違いはあるが、私らの手助けをしてくれる力強い味方である事は間違いない。皆、仲良くするよーに」

 最後はちょっと茶化すように告げる。
 場の空気が和んだところで、はやてが促すまま二人が一歩前に出た。

「まず、皆顔くらいは会わせてるやろ。数日前から六課にいて、今日正式に契約を交わしたダンテさんや」
「ダンテだ。ま、よろしく頼むぜ」

 以前とは違う借り物の制服姿ではない、真紅のコートに身を包んだ彼本来のスタイルでダンテは軽く挨拶をして見せた。ウィンクもおまけに付ける。
 既にほぼ全てのメンバーと交流のある彼の参入は好意的に受け入れられた。スバルが軽く手を振るのを、隣のティアナが諌めるのが見えて苦笑する。
 そして、もう一人。こちらは新人達には全く見覚えの無い男に紹介が移った。

「こちらは本局から来ていただいた、無限書庫のユーノ=スクライア司書長や。
 私よりも偉いので、言うまでも無いけど失礼のないように。気さくな人やけど、高町隊長とプライベートな関係やから玉の輿狙う娘は命賭けてなー」
「はやて……」

 真面目な顔で冗談とも本気とも取れないことを告げるはやての傍らで、ユーノとなのはが引き攣った笑みを浮かべていた。
 一方で、この意外な人物の登場に初耳のメンバーの中ではどよめきが起こっている。
 本局勤務の重役が、身一つでやって来たのだ。個人的なコネや要請でどうにか出来る人物ではない。
 ティアナや一部の聡い者達が疑念を抱く中、ユーノは咳払い一つして、人当たりのいい笑みを浮かべた。

「ユーノ=スクライアです。未だに情報の少ない<アンノウン>に関しての分析などでサポートする任に就きました。所属としてはロングアーチに位置します。どうぞ、宜しく」





 簡単な紹介が終わると、堅苦しい場はそこでお開きとなった。
 レクリエーションのような軽い雰囲気の中、オフィスのメンバーは二つに分かれる。
 隊長陣を中心としてユーノの下に集まる者と、既に大半のメンバーと親しくなっているダンテのグループだ。

「これからお願いします! ダンテさん!」
「空中戦のログ見せてもらいました! スゴイです! あの、剣も使うって本当ですか? 良かったらボクと模擬戦……」
「エリオ君、いきなりそんなこと言ってもダンテさん困っちゃうよ。あの、これからよろしくお願いします」
『キュクルー』

 抱きつかんばかりに駆け寄ってきたのは新人メンバーだった。
 若さゆえの素直な性分か、真っ直ぐな好意を向けてくる三人にダンテはらしくもなく尻込みしていた。
 スバルはもちろん、控え目ながらも初対面とは変わって警戒心の無いキャロの笑み。エリオに至ってはダンテに向ける視線がテレビの中の有名人に向けるそれである。
 荒事ばかりの人生のせいか、尊敬と敬意を持たれるのはどうにも慣れていない。警戒混じりのフリードの素っ気無さくらいで丁度いいのだ。

「ハハッ、ここまで歓迎されるとこっちが度肝を抜かれちまうな。まあ、猫の手だとでも思って気楽に接してくれ」

 何とも言いがたいむず痒さを苦笑に変えて、ダンテは言った。
 そして、まるで流れ作業のように次々と見知った顔が前に現れ、言葉を交わしていく。
198魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 21:42:23 ID:4DnHrAPv
「ダンテさんの剣はデバイスと一緒に預かっておきます。メンテナンスもバッチリ任せてください!」
「頼もしいな。ティアがいなかったから、デバイスの方はしばらく触ってないんだ」
「ティアナのクロスミラージュも相当ですけど、ダンテさんは更に過激な扱いしてますね。二人してデバイス泣かせですよ?」
「デリケートな扱いは苦手でね」
「でしょうね。……剣の方ですけど、すこーし解析させてもらってもいいですか?」
「……分解はしないでくれよ」

 シャリオの言葉に苦笑いを返し、

「六課に歓迎しますぜ、旦那」
「ああ、まったくいい所だ。美女に囲まれた理想的な職場だな。これで花の首飾りとキスで歓迎されれば文句無しだ」
「そいつはフェイト隊長にねだってください。ハグなら、俺がなんとか」
「男と抱き合う趣味は無いぜ」
「俺もです」

 数少ない同性同士、妙に気心の知れた笑みを浮かべ合いながらヴァイスと軽く拳をぶつけ合う。
 そうして一通りの挨拶を終えると、ダンテはあからさまに『今気付いた』と言わんばかりに驚きの表情を浮かべて、離れた場所で佇む最後の一人を見つめた。

「Hey! こいつは驚いたな、俺の知り合いにソックリだ。つい最近振られたばかりの相手でね」
「うっさい! ……あの時は、悪かったわよ」

 3年ぶりの再会を数日前に自ら台無しにしてしまったティアナは、ダンテのいつものジョークに対して少しばかり気まずそうに返した。
 あの時は、色々問題を抱えていて素直に再会を喜べなかった。
 現金な話だが、その問題が解決した今、誰よりも彼に話を聞いてもらいたい。そんな想いをおくびにも出さず、腕を組んで不機嫌な表情を作る。
 もちろん、その全ての虚勢を見透かしたダンテは、笑いながら静かにティアナの下へと歩み寄った。

「あの時は傷付いたな。こう見えて、中身は結構ナイーブなんだ」
「……ごめん」
「冗談さ」
「分かってる。でも、ごめん。アンタから……逃げたわ」

 最悪のタイミングでの再会だった。
 彼から教わった信念を何一つ貫き通せず、敗北し、惨めな自分の姿を見られたくなかった。精一杯の虚勢で拒絶し、そんな行動の中で自分は一瞬彼に縋ってしまおうかとも考えたのだ。
 情けなさと悔しさ、自己嫌悪が蘇って、それを堪える為に唇を噛み締める。

「そういう所は相変わらず不器用な奴だな」

 そんな変わらない性格を、ダンテは苦笑して受け入れた。

「でも変わったよ、お前。3年前とは見違えた」
「……本当?」
「スタイルの話じゃないぜ?」
「バカ。真面目に言ってよ」
「こいつは失礼。雰囲気というか、顔つきがな……ティーダに似てきた」

 ティアナは驚いたようにダンテを見上げた。穏やかな微笑みが浮かんでいる。
 彼が時折見せる、挑発するものでも茶化すものでもない――それこそどこか兄の面影を感じる、包み込むような優しい笑顔だった。家族に向ける顔だった。

「あたしが、兄さんに……?」

 自己嫌悪など吹っ飛んで、ティアナはダンテの発言の真意を確かめるように尋ねた。
 途端、真摯で真っ直ぐだった瞳が悪戯っぽく歪む。

「ああ。アイツ、女顔だったからな」
「もうっ!」

 それがダンテなりの照れ隠しだと長年の付き合いで分かっていたが、上手くかわせるほど老練もしていないティアナは頬を膨らませて胸板を殴りつけた。
 怒り任せにしては随分と軽い音が響き、そのまま二人の間に沈黙が走る。
199名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:42:24 ID:g8jycFuz
ティアー!俺だー!婿に来てくれー!!
・・・あれ?
200名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:45:21 ID:knMhkZzj
支援
201名無しさん@お腹いっぱい:2008/09/18(木) 21:45:33 ID:ukS675fB
支援する!!
202魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 21:45:33 ID:4DnHrAPv
「……ありがとう」
「ああ――会いたかったか?」
「たぶんね」
「釣れないな」

 そして、二人はごく自然に抱き合った。
 異性としてのそれではなく、家族として。激しくは無く、ただ静かに。
 3年という月日で離れた距離をたったそれだけで埋め合える、酷く穏やかな抱擁だった。

「こういうの、何て言うんだったか……」
「感動の再会、でしょ?」

 温もりを感じ、軽口を返して、ティアナはその時ようやくダンテとの再会を果たせたような気がした。
 しばらく動かずにその体勢のままでいる。
 心地良かったが、心の片隅で違和感を感じていた。
 ――はて、何か忘れちゃいまいか?

「…………グスッ。よかったね、ティア」

 聞き慣れた相棒の声と鼻を啜る音を聞いて、ティアナは瞬時にダンテの懐から飛び退った。
 我に返ったティアナは自分の置かれていた状況を思い出し、戦慄と共に周囲を見回す。
 返って来たのは映画のクライマックスを見守る観客のような生暖かい幾つもの視線だった。具体的にはニヤニヤしていた。
 当のスバルは涙と鼻水を垂らしながらも笑みを浮かべるという感激の極みといった表情で、その傍らではエリオとキャロがどこか羨ましそうにこちらを見ている。
 親愛に満ちた二人の抱擁は、家族の愛に飢えた子供達を大いに刺激したらしい。

「な、な、な……っ!?」

 ドモるどころか言葉にも出来ず、壊れたように繰り返すティアナが顔を真っ赤にしながらダンテの方を見ると、こちらは相変わらず飄々とした態度で肩を竦めていた。
 全て分かっていて続けていたらしい。
 怒りと羞恥で脳みそが破裂しそうな感覚を味わいながら、この混沌とした心境をどう表せばいいのかも分からず、更に混乱する。
 そんなパニック状態のティアナにスバルがトドメを刺した。

「記念に一枚撮っておこうか?」

 理性の糸をぷっつんと切ってしまったティアナは、奇声を上げながらスバルに殴りかかった。





 賑やかなダンテを中心とした集団から離れて、ユーノとそれを囲う旧知の者達がそれを見守っていた。

「大人気だね」
「絵になるからなぁ、ちょっとしたアイドルや。士気の面でもええ効果やね」

 苦笑するユーノにはやてが相槌を打った。
 ダンテとユーノは同じ立場のはずだが、こちらにははやて達三人の隊長陣とヴォルケンリッターが静かに寄り添うだけだ。
 人望の差――などと卑屈に考えることはないが、自分の役職の重さが肩に乗っかっているような気がして、ユーノは人知れずため息を吐く。
 こうして10年来の友人と再会しても、子供の頃のようにはいられない。
 なのはとオークションで再会して以来、時折そんな切なさを感じることがあるのだった。

「でも、驚いたよ。ユーノ君が来るなんて、わたしギリギリまで知らなかったんだから」

 あえて黙っていたのであろうはやてに対して少し怒るように、なのはが言った。
 フェイトも同感だった。
203魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 21:47:56 ID:4DnHrAPv
「理由はともかく、よく無限書庫を離れられたね?」
「書庫の管理体制には以前から改善案が推されててね。今回は、その新しいシフト設置に乗じて暇を貰ったワケ。定期的な連絡は必要だけどね」
「それにな、ユーノ君が六課に来たのは呼んだからやない。本人からの要望と本局の許可があったからや」

 その予想外の答えに、全員がユーノの顔を見つめた。
 ユーノが<アンノウン>の情報解析に必要な人材だと判断する根拠も分かっていないのに、それを本人が志願したというのだから当然だった。
 奴ら――<悪魔>との遭遇は、ユーノにとってあのホテルでの一件が初めてのはずだ。奴らを一体何時知り得たというのか?

「――詳しい内容は、後で改めて話すよ。あのダンテさんも交えて」

 皆の疑念に満ちた視線を受け止め、ユーノは小さく頷いた。

「今、言えることは……僕はずっと前から奴らを知っていた。もちろん、知っているだけで、その存在を信じるようになったのはつい最近だけどね」
「どういう、ことなの?」
「何もかも不確定だけど……奴らの記録自体は実ははるか昔からあったんだ。ただそれを誰も現実として受け止めなかっただけでね。
 僕はあのオークションの日まで、個人的にその記録を調べていた。神話や物語を読むような気分で。だけど、あの日確信した。
 <悪魔>は、実在する」

 狂人の戯言とも取れるユーノの発言を、その場の全員が全く疑いなく受け止めていた。改めて突きつけられる現実への戦慄と共に。
 これまで遭遇し、それでも尚別のモノへと結び付けようとしていた逃避にも似た認識を、ユーノの言葉がハッキリと切り捨ててしまった。

「ハッキリと確証は持てないし、まだまだ分からないことは残ってる。だけど、あのオークションの事件を切欠に僕なりに色々調べてみたんだ」

 もはや周囲の誰もが沈黙し、ユーノを見つめていた。
 ダンテ達の喧騒が酷く遠くに思える。

「全て説明するには時間が掛かる。だから結論だけ告げておくよ――この事件の黒幕の一人は、おそらくウロボロス社のアリウスだ」

 ユーノの唐突な発言に呆気に取られるしかないはやて達を尻目に、彼は捲くし立てるように続けた。

「そして敵の目的はこちらの世界と悪魔の存在する世界――<魔界>を繋げることだよ」

 確証は無く、ただ確信だけを胸に告げるユーノの脳裏には、あのホテルでの一件以来何度も思い出す本の一文が繰り返し浮かんでいた。



 されど魔に魅入られし人は絶えず。

 彼らは魔を崇め魔の力を得んと欲し、大いなる塔を建立す。

 その塔、魔の物の国と人の国とを結び

 魔に魅入られし者は魔に昇らんと塔を登れり。

 そはまさに悪業なり。



 そはまさに<悪業>なり――。






204名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:49:44 ID:4IxioJZY
淫獣はレジアス中将並みに大変で偉大な人なんだ支援。
205名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:50:56 ID:M2h8RWZR
支援。
206名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:53:02 ID:RSEW8Iid
支援
207魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 21:53:37 ID:4DnHrAPv
 彼は夢を見ていたらしい。
 その夢の中で彼は、初めて手にした剣で迫り来る黒い敵を延々斬り続けていたのだが、その黒い敵の姿形は、時として醜い肉塊のような化け物であったり、亡者の如き骸骨の群れであったり、あるいは彼に生き写しの弟の姿であったりした。
 最後に切り裂いた影の姿が、ぼんやりと記憶に残る母親の顔をしていたような気がしていたが、そこで我に返った彼の立つ場所は、いつの間にか巨大な塔の頂上に変わり、瞬きする間にはこの世ならざる魔の河が流れる異空間へと行き着いていた。
 取り返しのつかないミスを犯したことに気付いた彼は激しい怒りと喪失感に叫び声を上げるのだが、その時にはまたも場所は移り変わり、其処は無数の墓石が並ぶ墓地となっていた。
 人間の名前、悪魔の名前――墓石に刻まれた文字はその全てが彼の知る者達の名前だったが、最後の墓石に刻まれた名前が自分自身のものであると気付いた途端に目が覚めるのだ。
 誰が、何の為にかは分からない。何度も繰り返される問いかけを耳にして。

《――更なる恐怖を、望むや否や?》





 深夜。
 主が出て行って間もないその事務所には、早くも灯りが戻っていた。
 看板が<Devil May Cry>の文字をネオンの輝きで描く。その光を見るだけで、暗闇に潜む者たちは背を向けて立ち去った。
 悪魔さえ泣き出す男の所在を、その輝きは示しているのだから。

「デビル……メイ……クライ」

 光と静寂の満たす事務所の中で、男は佇んでいた。
 ドアだけが新調され、荒れ果てた内部を一通り見回り、自らの目的が達せられないことを悟ると、彼はただ静かに座る者の居ないデスクを眺めている。
 目を細め、耳を澄ませて、つい先日までここで生活していた者の残滓を手繰るように。

「――ダ、ダンテェッ!?」

 唐突に、飛び込んできた騒音によって静寂は破られた。
 不快感を欠片も表に出さず、ただ淡々と振り返った男が見た者は汗だくになって駆け込んで来たレナードの肥満体だった。
 滅多にしない運動によるものだけではない汗も、そこには混じっている。
 追い詰められた必死の表情が、事務所の中に居た男の姿を捉えた途端希望に輝いた。

「な、なんだよ……戻ってきてたのかよ、ダンテ!? 助かったぜ!」
「……」

 縋り付くレナードを無感情に見下ろし、男は近づいてくる複数の人の気配を感じて視線を入り口に戻した。
 粗野な性格をそのまま格好にも表した、明らかに堅気ではない男が数人乗り込んでくる。
 いずれも良く言えば屈強、悪く言えばチンピラのような風情の者達ばかりであった。

「レナァァードォッ! 前金返すか、命で支払うか!? 選べって言ってんだろぉがっ!」
「ヒィッ、だからもう全部使っちまったって言っただろぉ!?」
「仕事も果たさねぇで、フザケタこと抜かしてんじゃねえ! テメェ、あのダンテに渡りを付けられるって売り文句はどうしたい!?」

 リーダー格らしい男の怒声の中に含まれた言葉に対して、男はようやく反応らしい反応を見せた。

「……ダンテ」

 呟き、鉄のように動かなかった表情が僅かに震える。

「あん? なんだぁ、このアンチャンは?」
「すっげ、シャレた格好してるなぁ。目立つ目立つ」
「お〜、見ろよこの剣」
「ヘンな剣だな?」
「オレ、知ってるぜ! これ日本刀だろ?」

 チンピラ達の顔に悪意と愉悦が滲み、はやし立てるように男を取り囲んだ。
 男の整った顔立ちやスラムには見られない小奇麗な格好に対する暗い妬みと、ソレに対する暴力的な衝動が彼らを動かしていた。まるでそれが彼らという種の本能であるかのように。
 しかし、周囲の有象無象に比べれば幾らか理性的なリーダー格の男は、値踏みするような視線を向けていた。
208名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:55:54 ID:4IxioJZY
逃げた方が良いぞ命が惜しいなら支援。
209名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:56:22 ID:Ltu0Fln9
あっ死んだ。
支援
210名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:57:08 ID:RSEW8Iid
バージル!?
支援 
211名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:59:04 ID:gv3Whbh+
見事な死亡フラグ支援
212魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 21:59:29 ID:4DnHrAPv
「……銀髪に奇妙な剣を持った男。オイ、アンタはまさか……」
「そ、そうだよ! このレナード様は請けた仕事はしっかり果たすぜ? こいつがダンテだ!」

 男の背後で震えていたレナードは、ここぞとばかりに捲くし立てた。
 管理局に向かったダンテが何故戻って来たのかは疑問だが、今はとにかく首の繋がった安堵感が勝っている。
 先ほどまで殺気立っていたチンピラ達へ身代わりとなる生贄を捧げるように、レナードは男の背を押した。

「なるほど、アンタか。レナードの話じゃあ、しばらく依頼は受けないと言ったらしいな?
 だが、テメェの都合なんて関係ねぇ。いくら腕が立とうが所詮便利屋だ。オレ達のような組織の恩恵無しじゃ、ロクに生きていけねえことくらい分かるだろ? ん?」
「……」

 脅すような視線と嫌らしい笑みを浮かべながら、自分こそ強者であると強調するように男の顔を覗きこむ。
 しかし、そこに在ったのは全く変わらず貫き通された無表情だけであった。

「何、気取ってんだぁ!? 噂だけの優男がよぉ、こんなご大層なモンぶら下げやがって――」

 目の前のリーダー格が理想としているらしい『静かなる威圧』が実効を示さず、怯えの欠片も見せない男の様子に業を煮やした仲間の一人がおもむろに手を伸ばした。
 その手が、男の握る刀の柄に触れようとした瞬間――指が五本とも根元から落ちた。

「あれ?」

 肉と骨が見える綺麗な五つの切断面を眺め、痛みよりもまず疑問を感じる。
 その一言が彼の遺言だった。
 斬り落とされた指と同じ末路を、彼の胴体と頭が辿った。

「え――」

 仲間の体が一瞬で幾つものパーツに分かれ、床に転がる生々しい音と光景を現実として受け止め、男を囲っていたチンピラ達の何人かが間の抜けた声を出す。

「ひ――」

 そして、それが悲鳴と怒号に変わる前に、全てが終わった。
 今度は狙い済ましたように顔だけ。周囲のチンピラ達の首から上がスライサーに掛かったかのように輪切りにされ、驚くほど静かな出血と共に床に崩れ落ちた。
 遅れて胴体の転がる音が響き、最後に小さくキンッという金属音が鳴る。
 いつの間にか抜刀された、男の持つ刀が鍔を鳴らす音であった。

「……ひっ、ひぃぃぃぃッ!? ダンテェ、何やってんだよぉぉぉ!!?」

 死体となった者達の代わりに背後で尻餅をついていたレナードが悲鳴を上げる。
 ダンテ――そう呼ばれているはずの男は、その言葉に全く反応すら見せず、来た時と同じように淡々とした足取りで事務所のドアを潜った。
 そして、チンピラ達の中で唯一生き残った――目の前の惨劇に、生きているという自身の幸運すら分からずただ呆然としていたリーダー格の男は、すぐ横を通り過ぎた<蒼い影>を見て我に返った。

「テ、テメェェーーーッ!!」

 怒声というよりは悲鳴に近い叫び声を上げて、懐から取り出した武器を立ち去ろうとする男の背に向ける。
 肩越しに振り返り、男はその武器の正体を把握した。

「魔導師か……」

 震える腕で突きつけているのは片手杖型の汎用デバイスだった。
 性能的には何の変哲もないが、正式な登録を抹消された違法品である。正確には元魔導師であり、今は犯罪者に身を落とした人間だった。
213名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 22:01:37 ID:g8jycFuz
兄貴の存在自体が死亡フラグw
214魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 22:01:59 ID:4DnHrAPv
「そうだ! 言っとくがコイツの殺傷設定は……っ!」

 言葉は、文字通り寸断された。
 再びキンッという鍔鳴りが響く。誰も、男の抜刀の瞬間を見極めることなど出来なかった。
 いつ抜かれたのかも分からない刀が鞘に戻った瞬間、超高速の太刀筋に時間が追いつく。
 突きつけられたデバイスの先端に切れ込みが出来たかと思うと、そこから真っ直ぐな亀裂が走り、その先にある腕を伝って持ち主の体を真っ二つに斬り裂いた。
 デバイスと人体を切断した斬撃はそのまま背後の事務所にまで到達してようやく止まる。入り口のドアが斬り崩され、その上にあるネオンの看板まで破壊した。
 もはや人間技ではない。
 全てを見ていたレナードは、言葉もなくただ恐怖に震え、漏らした小便で濡れた床にへたり込み続けるだけだった。

「あ、悪魔……っ」

 奇しくも、ここを去るダンテに告げたものと同じ言葉が漏れる。
 男は――少なくとも『ダンテと瓜二つの顔を持つ』蒼いコートの男は、惨劇の場と化した事務所からやはり淡々と歩き去って行った。
 凄まじい斬撃によって半壊した<Devil May Cry>というネオンの看板が火花を散らして、まだ辛うじて瞬いている。
 一部の光が消えたそこに残された文字は――<Devil>と、ただそれだけであった。





《――魔とは何か?》

 誰が、何の為にかは分からない問いかけが何度も男の耳を打つ。

《鼠に鳥の気持ちが分かろうか? 人の子よ……貴様らは見上げる空を知るのみ。限られた幸運な存在……》

 場所も時間も関係なく、ふと気付けば囁きかけてくるこの声は幻聴などではなく、あるいは男に残された人間としての部分の警告なのかもしれない。

《――無知とは祝福なり》

 あるいは、その人間としての部分に気付いた悪魔達が呪いを掛けてでもいるのか。
 だが、いずれも無意味なことだった。
 男はもはや止まらない。
 その淡々とした歩みのまま、暗闇を渡り歩き、人と悪魔の屍を残しながら、死の淵に向かって歩み寄っていく。

《この広大な世界。仰ぐしかない空の広さを知った瞬間……絶望のうちに貴様は死ぬだろう!》



「――空が青いことなど、世界を一周せずとも分かる」



 そして地獄の底から響くようなその呪詛を男は――バージルは一刀の下に切り捨てた。



215魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 22:03:38 ID:4DnHrAPv
 そっくりの顔。そっくりの力。
 しかし、共に生まれた双子の歩む道は決定的に違えてしまった。

「いずれ成る。これが運命とでも言うならば……」

 夜の静寂に包まれた街を、バージルは歩いていく。
 おそらく同じようにここを歩いていただろう、自らの半身との再会を予感して。

「こういうのを、感動の再会と言うらしいな――ダンテ」






to be continued…>






<悪魔狩人の武器博物館>

《剣》マーシレス

 絡み合う蛇の装飾が施された細身の剣。
 細身といっても異常な長さの刀身との比較であって、標準的な両刃剣と同じくらいの幅である。
 入手経路は不明だが、アリウスの私物としてオークションに出品されていた。
 同時に出品された人形が事件の切欠となっている為、この剣も管理局に押収され、現在分析中である。
 その実体は、機能や魔力の付加されていない一般的な刀剣でありながら、リベリオンと同じくダンテの魔力に耐え得る魔剣。
 それ自体に力は無く、長い年月で魔への耐性を付けたようだが詳しい経歴はやはり不明。
 細身な為リベリオンより軽く、長い刀身も合わせてスピードとリーチに優れた武器である。代わりに威力は僅かに劣る。
 だが、今のところ実戦での使用は確認されていない。
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 22:04:24 ID:gxMd32ZN
支援
217名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 22:05:43 ID:M2h8RWZR
>>191
>>それでもレナードは得意の口八丁で何とかダンテの考えを改めさせようと食い縋る。
『食い縋る』という表現はあまり一般的じゃないな。
『食い下がる』と『追い縋る』を混同してる。
218魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/18(木) 22:06:00 ID:4DnHrAPv
投下完了です。
途中でさるさん喰らいました。素直に代理投下スレ行けばよかったんでしょうが、なんかどんどん支援が来るの見てたら退くに退けなくてw
何はともあれ、多大なる支援感謝です。

ダンテとティアナの再会やり直しがメインでした。
何、なのはさんともイチャイチャしてるだって?
だ が そ れ が い い(ほっこり)
個人的にクロスモノは物語よりもキャラの絡みが一番重要だと思っているので、自作品でも大事にしていきたいです。
あと、敵の目的判明。なんかあっさり風味ですが、DMCプレイヤーなら初心者だろうとネタ分かりまくりだと思うので、あまり後半まで引っ張っても「Ω ΩΩ<な、なんだっ(ry」とか驚かないだろうから即バレ。
まあ、DMCならある意味お約束ですよねw
B級ストーリーとA級の演出目指して、次回より物語が本格的に動き始めます。乞うご期待。
219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 22:07:39 ID:RSEW8Iid
乙です。バージルらしかったです。
最近代理投下が多かったけど、代理投下なしで投下完了とはすごいですね。
でもさるさんくらったらどのくらいの支援をもらえばさるさん解除なんでしょうね?
220名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 22:17:57 ID:p79DuUeN
GJ!!です。
関係の回復が見れてよかったぜwあとは、スバルと上手くいけば解決だ。
さて、威力不足をどうティアナが補うか楽しみです。
221名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 22:20:40 ID:J6NiyVdU
うわぁ〜、漫画版のネタにすんげぇニマニマしちまったwww
やっぱアレか、バージル兄さんがトマトのようにスライスするのはお約束か。
この兄弟の“感動の再会”に今から萌え汁垂れ流して待ってます!

しかし毎回毎回、話の作りが丁寧ですねぇ。
凄まじく引き込まれてしまいました、GJ!!


でも“なのなの”ってあなたwww
222名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 22:29:31 ID:4IxioJZY
GJしかしティアナは後は良いのに、一撃必殺の技とか決定打に欠けるのが問題か。
223名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 22:41:04 ID:0l5vEI+F
GJ!
火力の低さはレッドオーブ吸収での魔力底上げ+SLB系の収束砲取得かいね?
224リリケロ軍曹:2008/09/18(木) 23:19:17 ID:IyQvCrRM
職人の皆様GJであります!

30分から第3話の前半を投下したいと思います。
225名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 23:22:18 ID:UjH5aH+i
軍曹殿に支援だ!
226名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 23:26:38 ID:AfWrViR/
支援
227リリケロ軍曹:2008/09/18(木) 23:31:40 ID:IyQvCrRM
「魔法……だと?」
「うん。それが僕達、時空管理局が在るミッドチルダでの主な技術だ。」

眼の前で自分に情報を提供してくれた少年の言葉にギロロは信じられないと言うように呟く。
今、彼が居るのは次元航行艦「アースラ」のレクリエーションルーム。
医務室で眼を覚まし、目の前でギロロの容態を看てくれていたリンディと互いを知り。
彼女から自分がこの艦にいる経緯を聞かされる。そして、自身がミッドチルダに侵略にやってきたことを明かすと「もっと、お話を聞かせてもらいます。」と時空管理局の提督として厳格な表情と声で言われ、ギロロは話さなくては殺られると怯え。
場所を移し、この場所で詳しい話をすることになった。事細かに話しては軍人として失格以上であるため大まかなことしか説明していない。
そして、今度は彼女達から自分の置かれている状況を聞かされ今に至る。

第3話「ギロロ、魔導師の資格あり。であります!」


「信じてもらえますか?」
リンディからの尋ねにギロロはどう答えれば良いか思考が追い付かず、呆然と白いテーブルを見下ろす。

魔法か、信じられない……ことではないな。
転移してしまい、こんな未知なる場所に存在を置くことになったきっかけを思い起こす。
『すっげーかっけぇ!』
とブリッジのモニターに映しだされた画像のペコポン人に心を奪われていたケロロやタママとは違い、彼らの傍で彼は熱心に文面を眼でなぞっていた。
そこには確かに”魔法”や”魔導師”という単語あり、ギロロの頭には色濃く印象づいた映像として残っている。
ならば彼女達の言った『時空管理局』という役職は次元世界での警察や軍人の変わりを果たしているのだ。事はソレでだいたい理解出来た。

が、彼は今1番聞きたいことがあった。
それは自分の身柄がどうなるか……
「……で、俺はどうなるんだ。」

腕を組み、二人からの言葉を待つ。
軍人であることで解答はおおよそ推察出来る。
銃殺か労働か、侵略者と言ったんだ拘束だけでは済むはずはない。なら、ここで暴れてケロロ達と合流するのが得策だ。
が、ギロロの考えは掠ることも無く。
先程、ミッドチルダにおける魔法の有り様を説明してくれた少年から予想を外れた答えが返ってきた。
228リリケロ軍曹:2008/09/18(木) 23:34:51 ID:IyQvCrRM
「君はしばらく僕らの監視下で生活してもらうことになる。まあ、名目上としてだからかなり自由だね」
「だろうな。侵略側とされる側……って、なんだと!?」
耳を疑う答えが返ってくる。ギロロは眼を白黒とさせ思わず声を荒げて聞き返してしまう。

「だから、君は僕らの監視下というよりは一緒に行動または生活してもらうことになる。ってことだ」
「待て!少し優遇し過ぎるんじゃないのか?俺は侵略者だぞ」
舐めているのか……くそ、ペコポン人め!
その結果はありがたいが、軍人としてはどうしても自分が甘く見られているように感じられる。
たまらずギロロの感情は沸騰し始めた。

そんなギロロの心中をリンディは表情からみえた動揺から察し、彼の質問に静かに答える。
「確かにそうかもしれません。ですが、今まで時空管理局は色んな事件に関わって来ましたが、実は一度も宇宙人が関わった記録は無いのです」
「何?本当なのか?」
「ああ、僕も聞いたことはない」
彼女の息子であり、管理局に身を置くこの少年……クロノからも同意の言葉を返されギロロは勘違いした自分が少し恥ずかしく思え、感情が下降していく。
「それを踏まえての判断がこのようになりました。それに……」
「?」

何だ?と言うようなギロロの反応にリンディは微笑んで言葉を繋げた。
「何だか他人のように思えなくて」
彼女の言ったことにギロロとクロノはどういう意味か解らなかった。が、何か深いなにかが込められているとその優しげな母性溢れる女性の笑顔から思わせる。
魔法という技術が発展していても宇宙人との交信はまだ無い。俺が侵略者だと説明した時も驚いていたが……そう言うことか。
「本当であっても貴様らペコポン人の言うことは聞くわけにはいかん……だが介抱してもらったからな、こんな事になったのも俺達の自業自得だ。
大人しく捕虜になろう。」
水色の結った髪を揺らし、ひと息ついて決定の意図を説明してくれたリンディやクロノ。
捕虜に対して優しすぎる。と言えるこんな待遇になんとも複雑な思いを抱きながらギロロは頭が下がる思いで答えて抵抗しないという意志を表すためにリンクしていたデータ倉庫からあるだけの武器、弾薬を出す。

229リリケロ軍曹:2008/09/18(木) 23:38:13 ID:IyQvCrRM
「な……し、質量兵器とかあるじゃないか……。」
ゲームのように空間から数々の武器が突然姿を表した……
実体弾ライフル、小型大型ミサイルポッド等。ミッドチルダでは禁止されているものばかりがごろごろとテーブルの上に所狭しと列び……リンディとクロノはその光景に絶句した。
「こ、こんなに…………。」
「常に武装出来るように心掛けるのが軍人だからな。」
誇らしげに胸を張り、ギロロは当然のように肯定する。

そんな彼……いや、異文化の差にリンディは、しかたないのかもしれない。と理解してテーブルの上に置かれた武器を自分の手元に手繰り寄せて確認した。
「じゃあ、これで全部なんですね?」
「ああ……ん?なんだコレは。」

一応データ倉庫に何もないことを確認するため詳細を小さなモニターで表示すると一つ見慣れない厚いカードが眼に映る。
手元に引き寄せ、データから実現した小さなカードは自分の肌よりも明るい赤と白で色染められていてまるで自分専用のような不思議な感覚があった。
よく見ればの真ん中には黄色いカラーのスカルマーク……自身の帽子についているものと同じマークがその感覚の正体を裏付けているようでもある。
しかし。
武器通販で購入した覚えはなかった……。
じっとそのカードを見下ろし、ギロロはクロノに尋ねる。
「すまん、データ倉庫を確認したら未確認のモノが出てきたんだが……俺は全く知らない。何だか解るか?」
どれ。とクロノは彼が手に持っていたカードを受け取った。だが、途端に彼は驚いた表情を浮かべる。
すると傍でそのカードを眼にした彼の母がギロロにとって予想外の言葉を返した。

「これは……デバイスかしら。」
「デバイス?」
先に受けた説明が正しければデバイスとは魔導師が持つ得物……。
何故俺のデータ倉庫にそれが?
首を傾げて心当たりを探るが。よくよく思い出してみてもそんな代物はケロン星には無く、武器の通販カタログにも無く。やはり購入した覚えはなかった。
230リリケロ軍曹:2008/09/18(木) 23:43:22 ID:IyQvCrRM
そこであることを思い出す。それは自分の標準装備のビームライフルとビームサーベル、バルカンポッド、ハイパーバズーカ、メガ・ビームランチャー……それに特殊兵装のフィンファンネル×2とデンドロビウムが無かった事。
これらは大手武器メーカーが発売したC.A.チップとバイオセンサーチップが搭載されているために特に高価なもの。
恐らく次元転移でデータ倉庫にトラブルが起き、どこかに飛んでしまったのかもしれない。

きゅ、給料十五ヶ月分をはたいて買ったものを……。
血の涙が溢れてきそうな軽いショックを受けながらも「関係は無いな。」とギロロは震える身体を抑えて判断した。
「や、ややや。やはりこんな代物、俺は知らん。」
「そう……なら試してみる必要があるかもしれないわ。」
(なんで震えてるのかしら)
腕を組んで断言した彼を引き締めた表情で見据えながら渡されたカードを片手にそう述べる。

「試すだと?」
「ええ」

「クロノ。彼を訓練室に。私はフェイトさんを迎えに行くから」
「了解です提督。ギロロ伍長、来てくれ。」
「あ、ああ。」
艦長である彼女の下した言葉に意を介し、クロノはカードを受け取ってギロロへ同行を促し。レクリエーションルームを退出する。

自動ドアが閉まり、二人が部屋を跡にし。リンディは腕時計の刻む時間を確認してから改めてテーブルに列んだ武器、弾薬を見て苦笑を漏らす。

それは安堵とこれからのことへの不安が入り交じった複雑な思いから……。

「本当によくこれだけ……。彼と彼が言う友達が侵略活動を出来ていたらミッドチルダは大騒ぎになっていたわね。」
そして、ある思いが頭に浮かんでいた。

似ていたな……。と
耳に残るギロロの声に懐かしさを感じてしまう心にリンディは自然と苦笑いを零してしまう。


231リリケロ軍曹:2008/09/18(木) 23:44:54 ID:IyQvCrRM
以上が前半です。
私情で後半は近いうちに投下します。
232名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 00:26:02 ID:WKk6fa6h
投下乙!
ギロロの声のひとってヘルシングのアーカードだったりウホライエンなんだよな
渋い声の似合うひとだよな
233名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 00:37:43 ID:v4x2++nR
GJ!
伍長は強い女に出会えるのか!?
どうでもいいけど「デンドロビウム」じゃなくて「デンドロギロロ」な
234名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 02:59:16 ID:SV9Tpi8p
>>232
いやそこは大教授ビアス様でしょう。数分間とはいえ戦隊シリーズ唯一の完全なる世界征服を遂げた首領ですよ。
235名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 03:25:50 ID:7A84AFHO
>>Stylish氏
投下乙でした!
ダンテとこの作品のはやてやティアナの様な最高にCOOLでぶっ飛んだ女たちとの共演、次回も楽しみにしてます!

本編の機動六課は真面目ちゃんの集まりだからダンテみたいな強烈なキャラがいてもいいと思うんだ…


>>リリケロ軍曹氏
GJです!
やはりリンディさんもジョージのあの渋い声に惹かれたのでしょうか?

軍曹さんとナンバーズのお姉さま方との話も楽しみにお待ちしてます!

お二人とも乙かれさまでした
236リリケロ軍曹:2008/09/19(金) 09:51:57 ID:1lrWgYFB
皆様、今回も感想ありがとうございます。

>>233
そうでしたねι
原作ですとあまり見ませんでしたから。
ありがとうございます。
237一尉:2008/09/19(金) 12:13:06 ID:XykjU0OG
ナイズたぜギロロ君支援。
238仮面の男 ◆DvBI45asCU :2008/09/19(金) 17:28:50 ID:93NBK6/b
はじめまして。初投下です。
クロス元は3が主軸なのですが、「ペルソナ」全般ということで。
18:00頃から投下を始めたいと思います。
239名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 17:41:44 ID:ZL3nOK4g
しえーん
240名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 17:56:23 ID:1XSp92Tq
愚か者ここは戦場だ支援。
241女神異聞録リリカルなのは:2008/09/19(金) 18:00:22 ID:93NBK6/b


―そのアルカナは示した―


<00: The changing world>


「お目覚めですかな?」
聞き覚えのある声が、彼をまどろみから引き起こした。
俯いていた顔を上げると、彼は椅子に腰かけていた。
目の前には、一度見たら忘れられないであろう燕尾服を着た老人と、見たことのない女性が鎮座していた。
老人は口元に常人ならば頬が引き攣るほどの笑みを浮かべ、女性はただ静かに眼を閉じている。
非現実的な空間は藍色一色に染め上げられ、部屋にしては狭いそこはリムジンの車内だった。
横手のワインセラーから漏れる灯りが、仄かに彼の自然に組まれた足元を照らしている。
…ベルベットルーム。夢ではなく、かといって現実でもない空間。
物質と精神。意識と無意識。夢と現実の狭間にある場所。そして、彼にとっては馴染み深い場所でもある。
しかし、そのベルベットルームの様相は彼が知る場所とは大きくかけ離れていた。
「…イゴールさん」
いかにも、と老人は頷いた。ゆで卵のようにつるりとした頭がゆれる。
それだけならば何の変哲もないただの小柄な老人ではあるが、その異様さは何と言ってもその長い鼻とギョロリと剥かれた目であろう。
一度見たら忘れられそうもない老人…、ベルベットルーム主たる、イゴールだ。
彼はそんな老人の容姿にも慣れたもので、簡潔に尋ねた。
「…僕は、どうしてここに?」
僕は。…僕は、死んだ筈だ。平和の日差しを全身に感じながら瞼を閉じたあの瞬間、僕は確かに死を感じた。死を…そう、あのよく知っていた感覚を。

『さあ―』
 脳裏をよぎる声は、されど届かずに。
242女神異聞録リリカルなのは:2008/09/19(金) 18:01:04 ID:93NBK6/b
「結論から申し上げますれば、貴方は確かに元いた世界においては死した身。
しかし、貴方の魂は死の間際、無意識にユニバースの力を発動されたのです。
ユニバースの力によって貴方の魂は、今、別の世界において、体を取り戻すまでに回復なされた。」
「…別の世界…?」
「左様。あなたが目覚めた時、その世界は既に貴方の知る世界ではない。
ユニバースの力が導いた、別の次元世界です。」
「……。」
 色々と不可思議な現象を体験してきた彼をしても、理解が今一つ及びつかない。とにかく分からない事が多すぎる。
「フフ、理解できずとも無理はございませんな。契約者の鍵は、まだお持ちですかな?」
「………」
 契約者の鍵。淡い燐光を放つ藍い鍵が、彼の目の前に現れた。
それを見て、イゴールは満足げに頷く。
「さて、積る話は御座いますが、時は待ってはくれませぬ。
貴方をここにお引き留めしておくのも、些か難しくなってきました。しばしの別れと、あいなりますな。
では、またお目にかかる時まで、ごきげんよう…。」
老人と女性の姿が虚ろになっていく。
その声も朧げに霞み、意識が覚醒してゆくにも関わらず混濁してゆくという矛盾した感覚を感じながら、彼は声を聞いた。
それは今際のあのとき脳裏に響いたあの声だったのか。
それとも―…。

そのアルカナは示した。
旅路は未だ絶えず、愚者は往く。それは意義ある旅路か、ただの放浪か。

『―始まるよ。』
243仮面の男 ◆DvBI45asCU :2008/09/19(金) 18:03:20 ID:93NBK6/b
とりあえず序章はこれだけです。短くてスミマセン…。
244仮面の男 ◆DvBI45asCU :2008/09/19(金) 19:14:36 ID:93NBK6/b
連投失礼します。
30分頃に投下開始します。
245女神異聞録リリカルなのは:2008/09/19(金) 19:39:32 ID:93NBK6/b


時は、待たない。始まりはいつでも唐突に、思いもよらない形で訪れる。


<01: Time of darkness>


機動六課。正式名称「古代遺物管理部 機動六課」は、その名の通りロストロギア関連の危険な任務を扱う古代遺物管理部の機動課、第六の部隊だ。10年前の闇の書事件の当事者、八神はやてが設立、部隊長を務めている。
時空管理局内でも特殊な位置付けとなっているこの部隊は、今。完全にシステムダウンしていた。


数分前、間もなく日付が変わろうとしている時刻。
時空管理局のエースオブエース、高町なのはは市街地に出現したガジェットドローンの殲滅に駆り出されていた。
任務自体は比較的容易なものだったが、なのはが駆り出される必要性は無かったと言ってもいい。単に部隊長であるはやての指示だ。その背景にはこんな時間に出てくるガジェットへの不満が少なからず絡んでいたのだろう。
『もう少しで殲滅完了です。がんばってください』
「うん。」
司令室からの通信を受け、微笑みながらそれに返すなのは。
カプセルに似た円錐形の機体を持つそれはガジェットドローンT型と呼ばれる、最も多くみられる種類だった。量産性に富む機種というのは、往々にして性能は低い。なのはにとってT型はただの玩具に等しかった。
246女神異聞録リリカルなのは:2008/09/19(金) 19:40:15 ID:93NBK6/b
戦地の只中とはいえ、無敵のエースは余裕を崩さない。崩れるはずもなかった。
そう、その瞬間までは。
「な、なに…?」
 突如襲う、異質に足を突っ込んだ感覚。
体を包む不快な圧迫感。空は暗い緑に染まり、月は異様な存在感を持って辺りを明るく照らしていた。
足元に広がる染みが、夜空の満月を映し出す。
そして、周囲のガジェットは一機残らず機能を停止していた。
「どういうこと…?」
独り言とも司令室への問いかけともとれるその呟きに答えるものは、何もなく。
ただ静寂だけが世界を包んでいた。


「どういうことや!?」
その頃、八神はやて指揮するロングアーチでは、更なる以上事態が発生していた。
周りにいた筈の職員は、全員が棺のようなオブジェと化し、機器系統はすべてが動きを止めているのだ。
「敵の攻撃か…!?」
どんな?どんな敵が、どんな方法でここまで異常な状況を作っているというのだ?

『はやて、聞こえる?』
混乱し、焦るはやての頭に響いた念話は、なのはの出撃にあたり、待機状態であったフェイト・T・ハラオウンの物だった。その声がはやてを幾分か冷静にさせた。
「フェイトか!ってことはそっちも?」
『うん、たぶん、同じ状況だと思う。エリオとキャロが棺桶みたいなものに…』
「…どう思う、この状況?」
『…わからない。けど、まずい状況だとは思う。ライトニングで無事なのは、私とシグナムだけみたい』
「………」
 フェイトの言葉に黙り込むはやて。状況がわからない以上、下手に動くこともできない。
職員のほぼ全員がオブジェと化してしまっている今、できることは皆無に等しかった。
247女神異聞録リリカルなのは:2008/09/19(金) 19:41:01 ID:93NBK6/b
なのはは、しんと静まり返った市街地で一人混乱していた。
司令室とも連絡はつかず、相棒であるレイジングハートも呼びかけに答えない。ガジェットも依然動きは見せない。故障か?ちらと思うが、
(そんなわけ、ないか)
全てのガジェットが一律に故障するというのも異様な話だ。
しかしガジェットどころか、まるで時が止まってしまったかのように、なのはの周りに動くものは何ひとつ存在しなかった。
物音もしない世界に変化が生じたのは、なのはがとりあえず移動をしようと歩を進めた時だった。

ぐちゅり。

背後に異様な物音を聞きつけたなのはは振り返り、
(なに、あれ…)
そして、凍りついた。

腕が生えていた。まるでゴムで表面全てを覆ったような、真っ黒な腕。
煌々と輝く満月の光を受けながら、だがその腕は、僅かな輝きも放たない完全な影のようにそこに存在していた。
物音は、それの背後から響いていた。
そして、現れる。十数本もの同じような腕。
「…!」
立ち尽くすなのはの前に、腕ではない別の何かが姿を現す。
その正体は、青白く光る一枚の仮面。
目と口の部分がくり貫かれ、薄い笑みを浮かべているようにも見えるそれが、一本の腕に掲げられている。
ゆっくりと腕が振られれば、まるで仮面が辺りを見回しているかのように見える。
いや、実際「見え」ているのだろう。
動けずにいるなのはを見つめるような形で、不意に仮面の動きが止まった。
微かな金属音と共に、全ての腕に瞬きもせぬ刹那に、銀色の輝きを放つ剣が握られていた。
影の様な腕の中にあって、その剣は異彩を放ち、なのはの目を釘付けにする。
そして、影は迫る。完全に無防備ななのはに向かい、白刃を煌めかせ。
「ひっ…」
悲鳴は出なかった。ただ凍りつくような恐怖に息を引きつらせる。
強烈な死の気配に当てられて、動くこともできない足が笑う。
「レ、レイジングハート!お願い、レイジングハート!!」
なのはは必死の想いで相棒に呼びかけるが、全く応答しないレイジングハートはますますなのはの恐怖心を刺激する。
248名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 19:41:17 ID:6pbNxtA+
我は支援、汝は支援。
249女神異聞録リリカルなのは:2008/09/19(金) 19:41:45 ID:93NBK6/b
膝から力が抜け、地にしゃがみこんだ。
仮面はますます狂喜の様相を呈し、射程内に捉えたなのはに向い、腕を振り上げる。
殺される。絶対的な予感がなのはを支配した。それでも尚、その腕に握られた白人から目を離せずにいた。そして、次の瞬間―、
「タナトス!!」
かざされていた腕は宙を舞った。
地面に落下し、べしゃりと音をたてた腕は、しばらく切り離された蜥蜴の尻尾のようにウネウネと動いていたが、やがて動かなくなり、黒い液体となってから蒸発した。
<オォオオオォォォォ!!>
足首程まである黒のロングコートに、獣の頭蓋骨のような上顎と下顎に分かれた銀の仮面。
目があろう場所にはただ空虚な孔があいているだけだ。
棺桶の様な物体を幾つも鎖でつなぎ合わせた外套のようなものを、その身を覆うようにして浮かべている。咆哮はその怪人が発していた。
手には長い剣が携えられ、月光を浴びてその刀身が不気味に輝いている。
その姿は、さながら「死神」。生命を刈り取る剣を携え、棺に入れた死者を冥界へ誘う漆黒の影。
いまだ動けずにいるなのはと異形の前に、黒い服を着た深い藍色の髪の青年が立ちはだかった。
その青年は、片手に銃を持っていた。細身の青年は真っ直ぐに異形を見据える。
そして、黒衣の死神が跳躍した。
250女神異聞録リリカルなのは:2008/09/19(金) 19:42:20 ID:93NBK6/b
一息に異形との距離を詰めると、何が起こったのか理解していないかのように動かずにいる異形の腕を、荒々しく何本かまとめて押さえつけた。
その細腕からは想像もつかぬほどの力を持っているのか、そのうち何本かがぐじゃりと奇妙な音を立てて潰れた。
怪人はそれも意に介さずに、剣を振りかざす。
と、ようやく己の危機に気付いたのか、異形は緩慢な動作で手に持っていた白刃を構えたが、既に遅すぎた。
キン、と僅かな金属音だけを残し、縦一直線に振るわれた剣の一撃で、全てが叩き折られる。
「五月雨切り」と呼ばれるそのスキルが、異形の剣を持っていた腕も、掲げられた仮面も、その全てを両断していた。
異形は辺りに飛散し、黒い液体のように溶けて、霧散した。
そして最後に、獣じみた荒々しい息遣いを上げていた黒衣の怪人の姿が不意にゆらぎ、消えうせた。
全てを終え、青年は銃をクルクルと手の中で回転させ、腰のホルスターに収める。
ただ眼を見開いてその光景を見詰めていたなのはの前に、腕が差し出された。
視線を上げると、端正な顔つきをした青年。なのはを安心させようとしているのか、微笑んでいた。
「立てる?」
その言葉に我にかえったなのはは、膝に力が入らない事に気づき、青年の手を取った。


魔術師は示す。すべての始まりを、物語の、始まりを。
251仮面の男 ◆DvBI45asCU :2008/09/19(金) 19:45:47 ID:93NBK6/b
ここまでです。
敵は悩みましたが、一応始まりのシャドウということで。
それでは失礼しました。
252名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 19:49:37 ID:6pbNxtA+
乙、女神異聞録とかwktkするタイトルだぜ。

ライドウも続編出るし本当メガテンはクレイジーだぜ。
253名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:01:21 ID:WKk6fa6h
悪魔召喚師14代目キャロ・ル・ルシエですね、わかります。
ヤタガラスみたいな組織にミッド守護の任を命じられ、普段は機動6課で働いているのか
ゴウト役はフリードなのだろうな
レジアスは宗像役だなw
254名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:01:43 ID:i2y71hlV
GJ
タナトスかっこよす
255名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:04:58 ID:ZL3nOK4g
乙です!
メガテン好きとしては楽しみだ。ペルソナはレアスキル扱いかな、やっぱり。
256仮面の男 ◆DvBI45asCU :2008/09/19(金) 20:07:50 ID:93NBK6/b
ミス発見…
>>249
×白人 ○白刃
です。すみません。
257ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 20:26:34 ID:BhEqZJx+
22時50分に投下予約を。
今回も結構長いので、時間になりましたらそそくさと投下します。
258名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:57:25 ID:4Rea2+iZ
P3はやり込んだし、好きなんだが…。
主人公の魂ってある物のために使用中じゃなかったっけ?
259名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 21:19:51 ID:tSOfI0XJ
まあユニバースは公式設定で
「その力は生身で宇宙を越える事すら容易にし、もはや実現不可能な事象は何一つ存在しない」
とすら言われるほどの力だからな、何が起こっても不思議じゃあない。
てつをばりの奇跡でも起こったんだろう。
260名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 22:32:51 ID:6s8WIaG0
きっとエリザベスと特別課外活動部が助けてくれたんだよ
261ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 22:51:05 ID:BhEqZJx+
 ギンガが目覚めたとき、彼女は手術台のような場所に寝かされていた。明か
りの少ない、薄暗い部屋。拘束はされていないが、意識が戻ると同時に激しい
痛みを身体が再認識しはじめる。
 左腕に、違和感を感じる。視線を向けると、肩口から下がない。
「あぁ、そうか……私、負けたんだっけ」
 敵と戦闘し、敗北して、左腕一本持って行かれた。勝てると思って戦ったわ
けではなかったが、完膚無きまでに自分は叩きのめされたらしい。
 腕と、そして体中の傷が疼き、痛みを発するが、堪えきれないほどではない。
誰かが的確な応急処置をしてくれたようで、ギンガは痛覚に支配されることな
く意識を保つことが出来た。
「目覚めたかね?」
 声は、すぐ側でした。起きあがる気力のないギンガは、首だけ声のした方向
に向けた。
「あなたは……」
 白衣を着込んだ男が、立っていた。青年というほど若くもなければ、中年と
いうほど年を食ってもいない。高くもなく低くもない背に、中肉中背の容姿。
だが、ギンガはこの男を、薄笑いを浮かべ、舐め回すような視線で自分を見つ
める男の顔と名前を、知っていた。
「ジェイル・スカリエッティ」
「その通り、気分はどうかね?」
 この男がここにいると言うことは、自分は敵に捕まったのか。そういえば、
戦闘を行った戦闘機人の一機が、目的と狙いは自分であると言っていた。
「最悪……身体中痛いし、あなたの顔を見たら、吐き気までしてきた」
 精一杯の悪態をつくが、正直喋ることすら今のギンガには労力を要すること
だ。しかし、知りたいこと、知るべきことは山のようにあった。
「どうして、私を捕まえたの?」
「何、君は私の技術によって生み出された、一番最初の成功例。どんなものか
興味があってね」
「あなたが、私を作ったの?」
 それは、ギンガが前々から知りたがっていた疑問。
「いや、違う。私は君の製作には関与していない」
「……そう」
 やや落胆したように、ギンガは呟いた。
「けれど、君がどうして作られたのかは、知っている」
「――えっ?」
「誰が、一体、何のために、君という存在を作り出したのか、私はそれを知っ
ていると言ったんだよ」
 ギンガの目が大きく見開かれた。知っている、スカリエッティは、長年自分
が追い求めてきた真実を、知っている。
「興味が、あるかね?」
 スカリエッティは徐に、小脇に抱えていた物をギンガに見せた。
 それは、紛れもない人の腕。ギンガにはもう無い、左腕。
「良いだろう、教えてあげよう、真実を。そして、君に新たなる力を授けよう」


          第16話「血塗られた記憶」

262ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 22:51:56 ID:BhEqZJx+
 八神はやてをその手にかけ、その忠実なる守護騎士をも圧倒したギンガ・ナ
カジマは、ジェイル・スカリエッティの秘密基地、人によっては秘密研究所と
呼ぶ場所へと帰還していた。ちなみに、ギンガは秘密基地で認識している。響
きの子供っぽさに、好感が持てるからだ。
「新しい腕の調子はいかがかね、ギンガ」
 ギンガの帰還を知ると、スカリエッティはわざわざ出迎えに現れ、馴れ馴れ
しく彼女の名前を呼んだ。はじめ、彼に名前を尋ねられた際、ギンガは答える
のを拒否したが、「なら、タイプゼロかファーストと呼ばせて貰おう」と言わ
れたため、どうせ調べられれば分かることと割り切って教えてやった。
「極上……とでも言って欲しい?」
 意地悪そうな笑みを浮かべながら、ギンガは血に染まった左腕を見せつけて
やった。たまたま居合わせたノーヴェが、その生々しい色と臭いに顔をそむけ
る。よく見なくとも、ギンガは全身に返り血を浴びていた。
「まあ、八神はやてを倒すぐらいには強かったわよ」
 サラリと言ってのけた事実に、周囲の空気が変わる。八神はやて、それが機
動六課総隊長の名であることぐらい、ノーヴェでも知っていることだ。
「殺したのかい?」
「さぁ? 死んでるかもしれないし、生きてるかもしれない。ただ、手加減は
しなかった、それだけよ」
 殺意は、確実にあった。
「怖いな、君は。誰に命じられたわけでも、提案されたわけでもないのに自ら
の上官を性能試験の相手に選ぶとは」
 スカリエッティの言葉に、嘘はない。彼は、ギンガの新しい左腕の性能試験
を行うにあたって、当初はガジェットやナンバーズを使うつもりであった。し
かし、ギンガはそれをまどろっこしいの一言で片づけて、手っとり早く性能を
試しに行ったのだ。
 即ち、自分が強いと思っている人間に戦いを挑むという方法で。
「はやてさんは期待外れだったけど、守護騎士は良かったかな。怒り狂って、
我を忘れて攻撃してくるんだもの」
 はやてが誇る守護騎士、シグナムにしろヴィータにしろ、隊長たちに勝ると
も劣らない実力者だと言われている。無論、彼らクラスにもなれば個々に差が
現れるに違いないが、数段実力の劣っていたギンガからすれば、あのような連
中は総じて「強い人たち」という括りで纏められていた。

 その強いはずの守護騎士を、ギンガは軽くあしらってやったのだが。

「古代ベルカの守護騎士が使うデバイスを破壊したか……まずまずだな」
「上々、ぐらいは褒めてあげましょうか?」
「褒める? 褒められるべきは、私ではなく君だよ」
 そう言うと、スカリエッティはギンガに背を向けた。
「まあ、新しいものはマメな点検と整備が必要だ。それに、いつまでも女の子
が見まみれというのは、目に良くない。ついてくるといい」
 無言で、ギンガはスカリエッティにつき従った。
 ノーヴェは、そんな二人のやり取りを唖然として見ていた。見ていることし
か、出来なかった。

263ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 22:53:06 ID:BhEqZJx+
 ギンガによって重傷を負わされた八神はやてであるが、奇跡的に一命は取り
留め、聖王病院へと搬送された。なのはとフェイトの応急処置がなければ危な
かったというシャッハの話は、守護騎士たちを青ざめさせるに十分だった。
 一命は取り留めたものの、はやては意識を取り戻すことが出来ず、暫定的な
処置としてフェイトが六課の総隊長代理を務めることとなった。総隊長である
はやてが負傷した以上、二つある分隊の隊長から代理が選ばれるのは不自然で
はないが、なのはでなくフェイトである理由は、なのはが拒んだからだ。執務
官としての実績があるフェイトと違い、なのはは戦闘方面意外は疎い。分隊を
率いる程度ならまだしも、全体の指揮を総括することなどできはしなかった。
 しかし、だからといってフェイトに務まるのかと言われると、本人に言わせ
れば「やるしかない」ということになる。第一、六課は現在壊滅的な打撃を受
けた状態だ。総隊長及び多くの隊員が負傷し、拠点たる隊舎は崩壊、部隊を再
編しようにも身動きが取れなかった。
 総隊長代理などと言っても、当面は地上本部ならびに本局宛に報告書をまと
めることと、仮の隊舎を用意するぐらいか。幸い、まだ六課には活動停止命令
も解散命令も来ていない。この先どうなるかはわからないが、今は六課を立て
直すことだけを考えなければいけない。
「はやてちゃんは言ってました。まだ、六課は終わったわけじゃないって」
 リインの言葉は、フェイトの心に響いた。はやてとは近頃、方針や考え方の
相違で対立することもしばしばあったが、今にして思えば彼女は常に六課と、
そこにいる仲間たちについて考えていた。

「私はな、別に強くなくても良い。なのはちゃんやフェイトちゃんは十分強い
し、それで十分。私は強くなるんじゃなくて、偉くなる。みんなの強さを、存
分に活かせる場を作るために、もっと偉くならな!」

 いつか、はやてはこのように語ったことがある。
 
 あの時、互いの夢を笑顔で語り合えた頃が、あるいは一番幸せな時間だった
のかもしれない。
 なのはにしろ、はやてにしろ、長い月日が過ぎる中で、自分たちは道をたが
えてしまったのだろうか? そうなのかもしれない。フェイト自身には、これ
といった目標があるわけでもないし、夢にしたところで本当にささやかなもの
だが、二人は違う、違い過ぎるのだ。
「夢、か……リイン、あなたに夢はある?」
「夢ですか? ありますよ、もちろん!」
「それは、なに?」
 胸を反らせ、堂々と答えるリインの姿に微笑みながら、フェイトは尋ねた。
「はやてちゃんがいて、シグナムやヴィータちゃん、シャマルやい…ザフィー
ラがいる、そんな生活がずっとずっと続くことです!」
 分かりやすい、リインらしい夢だった。いや、リインに限らず、他の守護騎
士もあるいは、同じような夢を持っているのではないだろうか。
「それは、とても良い夢だね」
 そして、とても難しい夢だった。

264ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 22:53:54 ID:BhEqZJx+
 隊舎崩壊に伴い行き場を失った六課であるが、六課のバックボーンの一つで
ある聖王教会が、仮隊舎が決まるまでの拠点として教会が保有する施設の一つ
を提供した。教会側の真意は不明瞭だが、申し出を断る理由はなく、また負傷
した六課の隊員の多くが聖王病院にて治療を受けているということもあって、
フェイトはここを一時しのぎの場とすることにした。
 大半の隊員はそれに従ったが、従わなかった者も多数存在する。脱走、ある
いは除隊、いずれにせよ六課は壊滅したものと見切りをつけ、自主的に去った
者が少なからず存在した。規律や規則、秩序までもが崩壊しかけていた証拠で
あるが、フェイトはギリギリのところで食い止めることに成功した。
 だがフェイトはこの時、自分が総隊長代理のままでは六課は長くは持たない
と実感していた。
 はやてと、そしてなのはにはカリスマがあった。それに比べてフェイトは、
エースオブエースなどと呼ばれている親友のように何か肩書があるわけでもな
く、また、広報などの場に出ることを避けていたこともあってか、部隊員をま
とめる求心力に欠けていたのだ。
「こればっかりは、仕方ないか」
 今更言ってどうなるわけでもないが、このように明確な形で現れると辛いも
のがある。はやてが健在なら、例え隊舎を失おうとも力強い言葉で隊員たちを
鼓舞し、部隊の再編を行うことができただろう。また、なのはにしてもカリス
マ性からくる人望の高さで、容易ではなにしろ隊員たちをまとめあげたに違い
ない。
 だけど、自分にはカリスマもなければ、人望もあまり高くはない。
「だからこそ、頑張らないと」
 フェイトだけが、苦労をしているわけでもない。総隊長代理の打診は拒否し
たなのはであるが、彼女は実戦部隊の再編に乗り出している。フェイトが総隊
長代理になったことで、ライトニング分隊は戦力が半数になった。故に、これ
を解体してスターズと統合、分隊を一つにしたのだ。
 反対意見こそ出なかったが、ライトニング分隊副隊長シグナムは不満げだっ
た。統合はなのは指揮する新生スターズ分隊ということになるのだが、その分
隊長はなのはであり、副隊長はヴィータのままだ。ライトニング分隊では副隊
長を務めていたシグナムは、役職無しとなる。そもそも、本来なら副隊長であ
った彼女が隊長として格上げされても良かったわけであり、口にこそ出さなか
ったがシグナムには違和感の残る結果となった。
 しかし、ヴィータにしろ、シグナムにしろ、現状では戦力として数えられて
いない。理由は単純、デバイスがないのだ。
 ギンガによって一撃の下で破壊されたデバイスは現在修理中だ。古代ベルカ
の騎士が扱う物だけあって、そう簡単に直る物ではない。つまり、部隊を統合
したといっても実質的な戦力は、なのはと新人三人のみ、しかも、その新人三
人に至っても問題が発生していた。

 スバル・ナカジマが、その戦意を喪失していたのだ。

265ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 22:54:54 ID:BhEqZJx+
 施設内にあてがわれた一室で、スバルは膝を抱えて蹲っていた。
 ギンガが襲撃に現れてから、既に二日が過ぎている。聖王教会の施設へと移
ってきて、六課の隊員から離脱者が発生して、その中にはこんな意見もあった。
「ギンガ・ナカジマが裏切るなんて、六課はもうお終いだ」
「奴は寝返ったのか? それとも、最初からスカリエッティと繋がってたんじ
ゃないのか!?」
 他でもない、はやてが襲われ重傷を負ったのだ。身内には優しいはやてであ
るから、多くの部下が彼女を慕っていた。そして、その彼女に重傷を負わせた
ギンガへと、怒りの矛先が向いたのだ。
 スバルに対する視線も、侮蔑と偏見を含んだものへと変化していた。一般に、
ギンガは裏切ったものであるとして認識されていた。それは、洗脳されている
にしてはギンガの自我がハッキリしていたこと、洗脳魔法に見られる機械的な
動作がなく饒舌であったこと、などが理由としてあげられている。
 彼女やスバルの事情を知る者、つまりフェイトやなのははギンガがスカリエ
ッティの手により、戦闘機人としての部分を弄られ、高度な洗脳を受けている
のではないかと推測したが、それを理由に彼女を庇えば、ナカジマ姉妹が戦闘
機人であることを公表することになってしまう。また、戦闘機人ならば尚更怪
しいなどと言い出す者も現れるであろうし、二人ともこの件については触れた
がらなかった。
 それが結果としてスバルを孤独にしていたのだが、そんな彼女にティアナが
ずっと付き添っていた。彼女もスバルが戦闘機人であることを知っている一人
だが、今回の件では口数が少なかった。ギンガがもし、こういう表現もおかし
いが、単純に敵の手に捕らわれていただけなら、自分は親友を励まし、共に彼
女を救い出すために奮闘しただろう。

 だが、ギンガはスバルの敵になった。

 はやてを襲い、守護騎士を圧倒し、実力は以前のそれを遥に超えている。

「ギン姉……」
 蹲り、すすり泣くスバルを抱きしめてやることぐらいしか、ティアナには出
来なかった。ギンガがどうしてあんなことになってしまったのか、それは判ら
ない。けど、このままで良いわけがない。
 スバルはきっと、愛する姉と戦うことは出来ないだろう。ならせめて自分が、
自分が戦って、あの人を正気に戻すことが出来れば。

 心に誓うティアナであったが、彼女は一つの思い違いをしていた。

 それはティアナに限らず、なのはやフェイト、スバルでさえ知らなかったこ
と。もうすぐ彼女らはその事実を、知りたくもなかった真実を知ることになる。


 さて、六課壊滅において奇妙な幸運を手に入れたのはセインである。彼女の
身柄を拘束していた六課はその機能が麻痺し、権限によって拘束していたはや
ては病院のベッドの上。要するに、処遇が宙に浮いているのだ。
266ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 22:56:00 ID:BhEqZJx+
 本局に引き渡そうにも、また襲撃される恐れがある。フェイトは慎重になっ
ており、しばらくはセインを目の届く範囲に置くこととした。ただ、彼女を監
視するにも戦闘要員には手の空いている者がおらず、やむなくゼロに頼んでい
た。ゼロに向いた仕事ではないが、彼も現在の六課の状況が厳しいことを知っ
ていたし、受けざるを得なかった。

「ナンバーズは全部で12人、みんな戦闘機人だよ」
 セインと行動を共にすることが多くなったゼロは、必然的に彼女から多くの
情報を得ていた。セインはゼロが気に入ったのか知らないが、彼に対して冗談
を言うことはあっても、嘘を言うことがなかった。訊かれたことは一つを除い
て全部話したし、聞き分けも良かった。
「私を含めて、4人やられているから残りは8人、その内5人が戦闘タイプ」
 ナンバーズといっても、セインのように戦闘に不向きなタイプが多数存在す
る。戦闘だけが能ではない、とはクアットロの意見であり、彼女は戦闘タイプ
の姉妹を戦闘屋と呼んでいる。ノーヴェなどは僻みだ嫌みだと言っていたが、
チンクは彼女の気持ちもわかると擁護していた。
「1番のウー姉は、ドクターが多分唯一信用している人。この人は情報入手及
び処理が専門の、ドクターの秘書みたいな人」
 セインは、姉妹の情報を与えることに対しては躊躇いを憶えていたが、ゼロ
が一つの条件を呑んだことで開示をはじめた。
「3番のトーレ姉は戦闘タイプでは稼動歴が一番長い。実戦投入回数も多くて、
ナンバーズでは一番強いね。次にクア姉だけど……この人は情報戦専門。ハッ
キングとかクラッキングとか、情報操作が得意で、凄く性格の悪い」
 その条件とは、スカリエッティの秘密基地の場所を言わないこと。彼女がそ
れを教えれば、管理局は大部隊を送り込んで制圧を行うだろう。ドクターはと
もかく、ナンバーズの姉妹らがそう簡単に降伏するとは考えにくい。激戦とな
り、もし命を落としたら? セインには、それだけは出来なかった。
「7番のセッテは、なんて言うか機械っぽい。何が良いのかドクターに忠誠を
誓ってて、教育係だったトーレ姉とよく一緒にいるね。この二人が、その、ギ
ンガって人を倒したんだ」
 ゼロは最初難色を示したが、最終的には条件を呑んだ。敵同士という立場で
はあるが、セインの気持ちがわからないでもなかった。
「9番ノーヴェは、チンク姉が教育係をしてた子で、とにかく負けん気が強い
よ。勢いのある攻撃をしてくるし、実戦経験が不足してると思うけど、それを
補うぐらいの突撃をかますかもね」
 10番のディエチは、かつてゼロとセインを砲撃してきたナンバーズで、12番
のディードというのは、最初に倒したオットーの双子の姉妹らしい。
「以上がセインさんによるナンバーズ講座でした! 何か質問ある?」
 一応、ISに付いてなども判る範囲で教えて貰ったが、そんなことよりもゼロ
は気になることがあった。
「二番目は、どうした?」
「え?」
「ナンバーズ二番についての説明が、なかったが」
 その問いに、セインは「あー、それねぇ」と頭を掻いた。
「実は知らないんだよね。ナンバーズ二番は、私が稼動するより前に長期任務
に出ちゃって……チンク姉から上しか顔は知らないんだ」
 正体不明の、二番。不気味ではあるが、ゼロとしては現状判っているナンバ
ーズの対策をしなくてはいけない。
267ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 22:57:10 ID:BhEqZJx+
「でも、本気で一人で戦うつもりなの?」
「……あぁ」
 ゼロは、一人で動くことは出来ないかと考え始めていた。結果的な話になる
が、彼とスカリエッティのゲームの余波で、機動六課は壊滅したようなものだ。
隊員の間には、ゼロが来てから全てがおかしくなったと思う者も出始め、かつ
てのはやて以上に彼を危険視していた。そうした風潮をフェイトは押しとどめ
ようと努力しているのだが、こればかりは今のところ目立った効果がない。
「事実、オレが六課をメチャクチャにしてしまったようなものだ。多くの人が
傷つき、死んでいった」
 ギンガが囚われ、敵として戻ってきたように、自分はこの世界に良くない影
響を与えているのかも知れない。
「後ろ向きだね、随分」
「…………」
「あんたなら、何が起ころうと、ぶった斬って前に進むと思ったのに」
 何気ない言葉だったが、ゼロは少しだけ意外そうな顔でセインを見た。
「悩んでる暇ってさ、割りと勿体ないよ?」
「……そうかもしれない」
 自分には、戦うことしかできない。
 それが判っているのだから、やはり自分は戦い続けるしかない。答えなんて
出なくても良い、得られる物などなくてもいい、それでも自分は戦うのだ。
「ところで、スカリエッティについて何だが」
「ドクターがどうしたの?」
「奴は、戦闘機人を自分の意のままに操るような技術を――」

 開発しているのか? そう尋ねようとして、ゼロの言葉は中断された。

 フェイトから渡されていた、小型の通信機器が鳴り響いたのだ。

「事件か?」
 画面に現れたフェイトに、ゼロは簡潔に問いただした。
『……うん』
 いつもなら、すぐに事態の詳細を伝えてくれるフェイトの口が、何故か重か
った。ゼロは怪訝そうに、彼女の言葉の続きを待った。
『時空管理局本局が、襲撃を受けた』
 セインが、一瞬言葉の意味を理解できずにポカンとした。
「スカリエッティが、部隊を送り込んだのか?」
 行ったこともない施設名であるが、この世界を含めた多次元世界を管理する
時空管理局の本拠地であることは理解している。六課の次は、本局を狙った?
 だが、それにしては少々軽挙ではないか……
『敵は、単機』
 今度はゼロが、言葉を失う番だった。
『称号の結果、敵はギンガ……ギンガ・ナカジマと判明!』

268ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 22:58:42 ID:BhEqZJx+
 この日、時空管理局本局はスカリエッティ対策として本局内の警戒レベルを
2ランクあげる作業を行っていた。局員の配置や、有事の際の行動など、それら
の指導と管理を任せられたのは次元航行艦隊のクロノ・ハラオウン提督であり、
彼は魔導師としても高い実績を持つフェイトの兄だ。
「六課でさえ壊滅し、地上本部も危なかったというが……内部工作に対する備
えもほしいところだ」
 地上本部は、何者かが内部で暗躍し、管制機能を初めとした指揮系統を破壊
したという。工作員の存在が考えられるが、より規模の大きい本局の局員を全
員洗い直すとなると、一体どれほどの時が必要になるか。
「いないと、信じたいがな」
「何をですか?」
「だから、内部工作員……!?」
 突然後ろから声を掛けられ、クロノのは驚き振り返った。そこには、平凡な
管理局の制服を着た少女が立っている。
 しかし、その顔にクロノは覚えがあった。
「君は、ギンガ・ナカジマ!」
 囚われ、敵によって洗脳を受けた可能性があるという少女が、何故こんなと
ころにいる!?
 クロノは待機形態のデバイスを取り出すが、ギンガは特に反応しない。
「ダメですねぇ、本局も。この制服を着て、普通に証明書を出せば入れちゃう
なんて。セキュリティが甘いと思いますよ?」
 混乱を避けるため、ギンガの裏切り行為は伏せられている。フェイトの報告
書が未だ届いていないので、管理局の公式記録にもまだ載っていたのだ。
「そんなじゃ――」
 ギンガの笑みが、冷たいものへと変化していく。
「何かあったとき、危ないじゃないですか」

 魔力光が、光り輝いた。


 圧倒的とは、他者より遥に強い力で相手を寄せ付けないことをいう。
 戦闘開始から三十分も経たぬ間に、クロノと駆けつけた局員達は窮地に立た
されていた。
「強すぎる……何なんだ、お前は!」
 クロノのデバイスが氷結魔法を発動させ、ギンガの左腕を凍り付かせた。ギ
ンガは氷で固められた左腕を見るが、
「この程度の封印が、何だっていうのよ」
 呟くと共に、左腕から発せられた赤い光がまとわりつく氷を打ち砕いた。
 半ば唖然として、クロノはその光景を見ている。そして、あることに気付い
た。
「そうか……その腕、その光り」
 こちらの魔法を受け付けない絶対無比の力、格段に上がっているギンガの魔
力、そして腕から発せられる赤い光、導き出される答えは、一つだけだ。
「えぇ、レリックよ。この腕はドクタースカリエッティが作った特注品、レリ
ックウェポンが埋め込まれてるの。素敵でしょ?」
 赤い魔力光が、クロノの後ろに居た局員を撃ち飛ばした。額を割られ、血を
流しながら苦しみ藻掻いている。
269ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 22:59:24 ID:BhEqZJx+
「じゃあ、終わりにしましょうか?」
 クロノは、意識的に後ろに下がっていた。

 勝てない、自分ではこいつに勝つことが出来ない。

 嫌だ、死ぬのだけは、嫌だ。

「父さんみたいには、いかないな」
 クロノはこの十年で、成長した。リンディとフェイト以外の家族を、結婚し
て妻がおり、子供も二人居る。守るべきものが彼にはあり、帰るべき家が彼に
はあった。だから、死にたくない。死ぬのは嫌だ。
 父のように、身を挺することは、出来ない。
「……目的は何だ。何故、単機で乗り込んできた!」
「別に大した理由はないかな。ドクターがナンバーズの一部が不満げにしてる
から、捕まった戦闘機人を助け出すことも検討しなきゃ、とか言ってたから。
ここに居るんでしょ? 二機ばかり」
 そんな理由で、時空管理局本局に乗り込んできたというのか。いや、確かに
警備体制の移行を突くという作戦は成功しているが、本当にナンバーズ奪還な
ど出来るとでも言うのか。すぐに他の武装局員が集まって、彼女を包囲する。
ギンガは既にSランク以上の実力を見せているが、数で押せば勝てないわけが
ない。
「でも、何かもうどうでも良くなってきた。あなたの首で貰って、それで帰ろ
うかな」
 とんでもないことを、ギンガは言った。
「ふざけるな!」
 氷塊が出現し、ギンガの頭上に落ちる。ほとんど反射的に、ギンガは左の拳
を突き上げそれを打ち砕いた。

「弱いわね、あなたも」

 氷の雨が降り注ぐ中、ギンガは不敵に笑った。

「辞めろ、ギンガ!」
 声は、クロノの背後から響いた。
 一瞬、虚を突かれたようにギンガが表情を変えた。そんな彼女を警戒しつつ、
クロノも声の主を確認する。
「あなたは……」
 それは、クロノ以上にギンガがよく知って居るであろう人物。ギンガは攻撃
の構えを解いて、その男を見つめていた。

「父さん――」

270ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 23:00:26 ID:BhEqZJx+
 ゼロは、フェイトとなのは、そしてティアナにスバルらと共に本局へと乗り
込んでいた。ギンガの襲撃を聞きつけ、慌てて駆けつけたのだ。
「襲撃ポイントまでのルートですが、局内のセキュリティシステムが内部から
狂わされたらしく、最短ルートまでの隔壁が閉鎖されています。遠回りをする
にも、そこには襲撃者が放ったガジェットが……」
 応対した職員の悲観的意見をいつまでも聞いている暇はなかった。襲撃者が
ギンガで、戦っているのがフェイトの兄だという。
 どちらが勝つにしても、敗者の命の保証はない。互いの兄姉が頃試合をして
いるという事実は、フェイトとスバルの血の気を引かせた。
「ポイントまでの最短ルートで、直線上の部分はある?」
 戦時になれば、途端に冷静になるのがなのはだった。彼女は職員が提示した
地図を元に、色々と質問していた。
「ありますが、十枚以上の隔壁で閉鎖されています。システム復旧までは時間
が……」
 しかし、なのはは質問の答えを最後まで聞いていなかった。彼女が聞きたか
った答えは、既に出ていた。
「それで、襲撃地点にいるのはクロノ提督と?」
「駆けつけた職員のほとんどがやられたそうですが……失礼、待って下さい」
 局員の通信機器に新たな連絡が入る。
「今入った情報によると、陸上警備隊第108部隊所属の、ゲンヤ・ナカジマ三
等陸佐が現場に突入した模様です!」
 スバルが、驚きの表情を局員に向けた。
「どうして、父さんが本局に……」
 そんなスバルの反応を横目で見つつ、なのはが叫んだ。

「急ぐよ。隔壁十枚、その程度なら私が撃ち破る!」

 レイジングハートを構えるなのはの姿に、ゼロを除く誰もが圧倒された。


「まさか、地上にいるはずのあなたがいるなんて……ね」
 肩をすくめるように、ギンガは声を出した。
 クロノを庇うように、娘の正面に立つゲンヤの表情は固い。フェイトからの
報告で、娘が敵に捕まり、捕まったと思えば敵として現れはやてを襲って重傷
を負わせた、その事実を彼は知っていた。
「ギンガ、お前は何をしてるんだ!」
「何って?」
「八神を……あいつを襲ったというのは本当か?」
 目の前にいるのは、確かに彼の娘、ゲンヤ・ナカジマの娘であるギンガ・ナ
カジマだ。しかし、今のゲンヤにはそれすらも信じられなかった。まさか、娘
がはやてを殺そうとするだなんて。
「目を覚ますんだ、ギンガ! スカリエッティの野郎に何をされたのかは知ら
んが、これ以上、罪を重ねるんじゃない。安心しろ、俺がお前を守ってやる!」
 娘の心を取り戻そうと、ゲンヤは必死に叫んだ。
 叫んだが――

「うっさいわね!!!」

 ギンガの怒声が、それをかき消した。
271ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 23:01:39 ID:BhEqZJx+
「目を覚ませ、ですって? まさか貴方、私がドクターによって改造されて、
洗脳されてるとでも思ってるの?」
 違うとでも言うのか。
 娘の声に衝撃を受けながら、ギンガは愕然としていた。
「私は、知ってしまったのよ」
 ゆっくりと、ギンガが歩き出した。
「どうして、私が作られたのか」
 歩みに対して、ゲンヤは一歩、また一歩と後ろに下がった。娘から、彼は逃
げて、逃げようとしている。
「何故、私とスバルは作り出されたのか」
 ギンガの声に混ざるのは、殺気と怒気。ゲンヤに、父親に明確なまでの敵意
を彼女は向けていた。

「なんで、私とスバルが母さんの遺伝子を持っているのか!」

 絶大なる魔力が、ギンガの持つ紫色の魔力と、レリックが持つ赤色の魔力が
混ざり合った波動が空間を揺らした。

「ギ、ギンガ……!」
 圧迫感に、ゲンヤが尻餅をついて倒れた。膝が震えて、立つことが出来ない。
まさか、ギンガは、娘は、あの事を――
「思うところ、あるみたいね? そうよ、あなたが、あなたが母さんの遺伝子
を売り渡したのよ!」
 考えてみれば、おかしな話であった。ギンガとスバル、クローン培養によっ
て誕生した戦闘機人の姉妹の遺伝子が、姉妹を救出した女性のそれと同じだっ
た。それが縁で、女性は二人を引き取った。
「偶然の一致? そんな馬鹿な話があるのかと思ってたけど、子供の頃の私は
それを疑問に思わなかった。あの頃は、地獄から解放された嬉しさで、他のこ
とは何も考えられなくなっていたから……」
 ゲンヤの静観といわれた顔だちが、崩れていく。それは娘に対し許しを請う
ような、動揺しきった表情。
 そう、全ての原因は彼にあった。かつて、上官だった男の頼みを断れなかっ
たゲンヤは妻の、優秀な魔導師とされていたクイント・ナカジマの遺伝子を提
供したのだ。
「あなたが、私を作り出すきっかけを提供した……あなたが、あの地獄に私を
生み出させた」
 歩み寄るギンガに、ゲンヤは明かな恐怖を感じ始めていた。
「し、知らなかったんだ。俺はただ、優秀な魔導師の遺伝子を研究するだけだ
と、そう聞いていたんだ!」
 しどろもどろに言い訳を並べるゲンヤの姿に、頼りがいのあった父親の姿は
ない。
「言い訳は、それだけ?」
 ゲンヤと、そしてクイントは心当たりがあったのだ。ギンガとスバルの遺伝
子が、何故一致したのか。それを知っていたから、二人は姉妹を養女として引
き取った。
272ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 23:02:50 ID:BhEqZJx+
 贖罪のつもりだったとでも言うのか?

「もう、いいわよ」

 ギンガは顔を伏せた。ゲンヤはその隙に起ち上がろうと、腰を浮かすが……

「もう、死んで」
 魔力光が、ゲンヤの胸を貫いた。


「父、さん……?」
 なのはが砲撃によって貫いた穴を通り、マッハキャリバーを飛ばしてギンガ
の元へと現れたスバルが見たものは、

 姉によって、父親が撃たれる姿だった。

「父さん!」
 倒れる身体を、スバルが支えた。血が、制服一面に広がっていく。悲鳴を上
げて、スバルは父を呼んだ。
 そして、ギンガの方を見る。
「どうして、なんで父さんを!」
 泣きながら、スバルは叫んだ。
 そこにゼロやフェイトらも駆けつけるが、全員すぐに言葉が出なかった。
「ス、スバル……か」
 もう一人の娘が来たことに気付き、ゲンヤは声を絞り出した。
「スバル、聞いてくれ」
「喋っちゃダメだよ! 今、今すぐお医者さんを!」
「聞くんだ! いや、頼む、聞いてくれ」
 声に、スバルは思わず押し黙った。
「お前たち、姉妹の遺伝子は確かに俺の妻だったクイントのものだ……そして、
それを上官を通じて研究者連中に売り渡しちまったのは、この俺だ」
 衝撃の事実に、スバルは言葉を失った。失い、姉であるギンガを見る。彼女
は、喋り続けるゲンヤを不快げに眺めていた。
「だが、あいつは……クイントはその事を知らなかった。俺がお前らを引き取
ったのは、確かに負い目があったからだ。だけどクイントは、あいつだけは本
心から、お前らの母親になろうとしていたんだ」
 虫の息で、それでも伝えなければいけないことがあって、ゲンヤは最後の力
を声と言葉にして使い切ろうとしていた。
「恨むなら、俺を恨め。あいつを、お前たちの母さんを……嫌わないでやって
くれ」
 血塊と共に吐き出される声は、弱々しかった。既に、ゲンヤの意識は薄れは
じめている。
 スバルは、そんな父親の手を握りしめた。
「恨むなんて……私に、私たちにとって母さんは母さんだし、父さんは父さん
だよ!」
273ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 23:03:42 ID:BhEqZJx+
 涙混じりの笑顔を見せながら、スバルはゲンヤに微笑みかけた。ゲンヤは、
小さく笑みを見せた。
「ねぇ、そうでしょうギン姉――」
 同意を求めようと、姉の方に再び顔を上げたスバルが目にしたのは、

「だから、うるさいわよ、あなた」

 二発目の魔力光を放つ、姉の姿だった。

「うがぁっ!?」
 スバルが支えるゲンヤの身体に、ギンガの放った魔力光が直撃した。赤い光
のそれは、ゲンヤを貫き地面へと刺さる。
 トドメの、一発だった。
 ゲンヤ・ナカジマは、愛娘の腕の中で……絶命した。

「嘘でしょ、父さん……嘘だよね、ねぇ、目開けてよ!」
 父親の死を、姉の手によってもたらされた死を信じることが出来ないスバル
は、泣き叫んでその身体を揺すった。しかし、死に絶えた人間が反応すること
はなく、ゲンヤは二度と動くことはなかった。
「無駄よ、もう死んでるわ」
 その無情なる声は、他でもない父親に手を下した娘の、スバルの姉もの。
 スバルは、姉の声に反応するかのように、絶望を認識していく。
「ギンガ、なんてことを――!」
 フェイトがデバイスを構え、ティアナもそれに習った。ゼロもバスターの標
準を、ギンガに向けた。前者二人はともかく、ギンガはゼロに対してのみ複雑
そうな表情を向けた。

「…………ギン姉」

 その緊迫を突き破るかのような低い声が、響いた。

 父親の遺体をそっと地面に置き、瞳を閉じる。
「…………」
 無言で、スバルは起ち上がった。いつもと違う友人の姿に、ティアナが危険
な雰囲気を感じ取った。
 そして、スバルは――

「ギン姉ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 瞳を金色に輝かせ、右の拳を振り上げて、ギンガに、姉へ突撃した。

「IS、振動破砕……先天固有技能!?」
 赤き光が、ギンガを守るように壁を作っていく。だが、そんなものは構わな
いと言わんばかりの勢いで、スバルは拳を打ち込んだ。
 衝撃が、ギンガとスバル、二人の姉妹の身体に響き渡っていく。スバルの右
腕が軋み、グローブに亀裂が走る。ギンガの張った結界も、ヒビが入っていく。
274ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 23:05:11 ID:BhEqZJx+
「このっ!」
 ギンガは魔力を解放させ、スバルを吹き飛ばした。これ以上、振動破砕を食
らい続けるのは不味い。
 吹き飛ばされたスバルと入れ替わるように、赤き戦士が前に出た。

「デァッ!」

 ゼットセイバーを構えたゼロが、ギンガに斬り掛かったのだ。

「ゼロ、あなたも私に剣を向けるのね」
 重い一撃に顔を顰めながら、結界で受け止めるギンガ。
「この前まで仲間だった私を、あなたは殺せるのかしら?」
 底意地の悪そうな笑みを浮かべるギンガだが、対するゼロは冷ややかだった。
ティアナに助け起こされるスバルを背後に感じながら、彼は断言した。
「お前はもう、ただのイレギュラーだ。オレは、お前を斬る!」
 斬撃が、結界を斬り裂いた。
 ギンガは後方に距離を取って、構えを取る。
「そう……あなたがそのつもりなら、私も全力であなたを倒す!」
 睨み合う両者であるが、二人の戦闘がここで行われることはなかった。

「さがって!」

 怒声に近い声で、なのはが叫んだ。レイジングハート、その砲撃形態の標準
を、ギンガに向けている。

「やばっ!」
 ギンガの身体を光りの粒子が包むのと、なのはの砲撃が発射されるのはほぼ
同時だった。しかし、ギンガは直撃寸前に自身を転送させることに成功した。
「外した、逃げられた!」
 悔しそうに、なのはがレイジングハートの先端で床を叩いた。当たれば一撃
で相手の意識を奪えただけに、その損失は大きかった。

 けど、なのはがそれを気にする余裕はなかった。

 スバルの泣き叫ぶ声が、なのはの戦闘による熱気を急速に覚ました。

「スバル……!」
 ティアナが、泣き叫ぶ彼女の身体を抱きしめた。父親の血に濡れた身体を、
実の姉と戦い傷ついた身体を、抱きしめている。
 涙と嗚咽、その全てを受け止めることは出来ないだろう。
 でも、他の誰にも譲れない、任すことの出来ない役目だった。

 私は、スバルの親友なのだから。

                                つづく
275ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/19(金) 23:06:10 ID:BhEqZJx+
第16話です。
単純計算で、五週間後に完結するこの作品ですが、
折り返し地点は過ぎました。
後はもう、ラストまで書き続けるだけです。

フェイトが表のヒロインだとすれば、ギンガは裏のヒロインといえるのか?
主人公はゼロであり、敵はスカリエッティあるというのは明確でも、
ヒロインは誰かといわれると、良く分かりません。拘りがないって言うか。
ただ、上記の二人がゼロにとって重要な存在ではあるのは事実ですが。

それでは、感想等ありましたら、よろしくお願いします。
276名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 23:11:04 ID:UpSLa/fr
GJ!なんという展開ですか。
まさかギンガが親殺しを平然と・・・・・・
彼女の次の標的はレジアスか?
果たして次に邂逅した時相対するのはスバルかゼロか?
おっとその前に後半4ステージですかね。
次回、お待ちしてます!
277名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 23:22:11 ID:7jXBPxE5
GJ!
イレギュラー認定キター!
どう考えてもギン姉死亡フラグです、ありがとうございました。
278名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 23:25:06 ID:Oatp84eI
GJ!!です。
今までなかったゲンヤが見れましたw
それにしても、ギンガの強さが半端じゃないwww
279名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 23:45:19 ID:qkY2LOk1
GJさすがゼロ。
2でXを前に敵は叩き斬るまでと誓っただけはあるw
でもギン姉、世界観的にも死亡フラグが立ちまくりで><

ところでシグナムとヴィータが戦力外って事は
リィンUはゼロのサイバーエルフ的ポジになる可能性がry
280名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 23:48:28 ID:2o5V5Mv5
GJでした!色々凄い状況ですね。
リインUの夢は皆が戦う職業では難しいな・・・。
このギンガは割りと好きだったりしますw
281名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 23:50:27 ID://uo10e1
GJです!
本心からの裏切りと、ナカジマ家崩壊とは…凄い絶望。
前半は割といい具合に進んでただけに、この堕とし方は絶妙でした!
282名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 23:52:02 ID:z8xggdzv
GJ!です
しかし、ゲンヤはともかくはやてやクロノまで平気で殺そうとするあたり、ほんとに洗脳されてないんでしょうか?
自分の意思と信じて思考を誘導されているとか?
真実を教える事で、拠って立つ基盤を壊し、憎む対象を与える事で精神を(望んだ方向に)立て直させる。
この手の物語の洗脳の基本ですな。
下手に洗脳魔法とかあるから気づかないとか?
283名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 00:02:51 ID:AQ1KzKvQ
投下乙!
実際、何かありそうなんだよなナカジマ家の場合はw
スバル、ギンガともにクイントさんの遺伝情報が使われてたり
クイントさんとの間に実子がいなかったり、事件後に更正組みを引き取ったりしてさ
284名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 01:08:28 ID:GMm0cb24
乙でした!
凄い話ですね……話の流れを(本編と)あまり変えないで、進めるのかと思ってました。
う〜んこれはどちらかと言うと、怪しい宗教や悪徳商法が使う、マインドコントロールの類なんでしょうか?
上手く言えなくて、御免なさい。
285名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 01:27:25 ID:3WVuCxOM
ギンガがX4のアイリスに見えてきた。
286名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 06:08:13 ID:DoIhsXkn
「障壁の十枚ぐらいならぶち抜ける」──ですよねーなのはさん
そしてゼロのイレギュラー認識、ギンガ・・・
『深紅の破壊神』の異名を持つゼロに完全に「敵」たと
認識されちまったぜ。生き残れるかなぁ?
287名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 06:41:32 ID:Bo6Sjknm
な、なんじゃこりゃー!ギンガが自ら敵に!?
こいつはおもしろくなってきた!

今後はゼロだけではなくスバルとも何かあるのかな?楽しみだ!
288名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 07:01:21 ID:k4b9hU44
ゼロの方、乙です。

ギンガはスバルあたりが頑張らないと生き残れないだろうな。
最終対決がゼロだったら間違いなく斬られる。
289ジェダイ:2008/09/20(土) 11:07:57 ID:Y3xlHAn+
すいません、ジェダイです。
以前にベイダークロスを続けようと考えたのですがよくよく考えて1からやり直そうと思います。
クロスはスターウォーズのままで新しいSSの予告を投下します。
290ジェダイ:2008/09/20(土) 11:12:08 ID:Y3xlHAn+
総ての始まりは……ここから……。
「通商連合、彼らがロストロギアを扱っていると情報を得た。今回、君達管理局の魔導師と私達ジェダイはパートナーになる。」
「はい、よろしくお願いします。く、クワイ=ガン・ジンさん、オビ=ワン・ケノービさん」
手を取り合う魔導師とジェダイ……。
「クワイ=ガンで構わないよ」
「私もオビワンで良いさ。」

そして、世界にバランスをもたらす運命の子との出会い……。
「君達は天使なの?」

「は、はぁ!?そんなんじゃねーよ。私はヴィータ。あっちは高町なのは」
「君は?」
「僕はアナキン。アナキン・スカイウォーカー」


「あんな小さな子に負担を追わせるなんて……」
「だが、私達からすれば君も小さな子供達だ。」

暗躍する暗黒面の信奉者達……

「シスじゃと?」
「はい、マスター・ヨーダ」

「ありえんな、シスは先史の。数千も昔に滅びた存在だ」
「しかし、マスター・ウィンドウ。私達の命を狙った者は赤いクリスタルのライトセイバーを使い。またダークサイドのフォースと感じました。伝説のシスの特徴に酷似しています」

「ふむ、ならば聖王教会とも話し合う必要があるのう……」
「それと、予言の運命の子を見つけました」


次元世界を巻き込んだ戦いが始まる……
「ちょっ!?アナキン、船動いてるって!!」
「あー、ダメだオートパイロットになってるよー」
「戻れ戻れアナキン!!」
「うーん、ムリだよね?R2。」
『ピポピュィ』
「ぅおいっ!」

長きに渡る光と闇のサーガの序章……。

リリカル・ウォーズ エピソードT ファントム・メナス

構想開始
291ジェダイ:2008/09/20(土) 11:13:35 ID:Y3xlHAn+
以上です。

のんびりと書いていこうと思ってます。

そして職人の皆様GJです。
292一尉:2008/09/20(土) 13:48:16 ID:A1NF/LUl
まあなこれおもしろいたね。
293Strikers May Cry:2008/09/20(土) 17:23:41 ID:WHacWtfL
誰もいないようなので投下します。

以前に投下したMGSクロス短編の三回目です。
294蛇さんの美食講座:2008/09/20(土) 17:24:26 ID:WHacWtfL
メタルギアソリッド3クロス 蛇さんの美食講座その三

後にビッグボスと呼ばれる男ネイキッド・スネーク、彼はある任務で異世界に訪れいつものように食料を確保した。
だが確保したその生物は彼の知るどの生物とも違うものだった。なのでとりあえずいつも通りに専門家へと無線を入れる事にする。
動植物の専門家パラメディックが通信に応えた。


『フェレットを捕獲(キャプチャー)したのね』
「フェレット?」
『ええ、フェレットはイタチ科の仲間でヨーロッパケナガイタチから家畜化された動物なの、最近では色々な国でペットとしてとても人気があるのよ』
「そうか、ところで……」
『まさか食べる気じゃないでしょうね!?』
「い、いきなりどうした?」
『だってあなたは捕まえたらなんでも食べるじゃない!』


パラメディックの突然の怒号に、スネークは驚いて声を失った。
まあ、捕まった可愛い愛玩動物の事を考えれば女性は普通こういう反応を示すだろう。
そんな彼女に、スネークは冷静に答えた。


「おいおい、まさか俺がフェレットを食べる訳ないだろ?」
『本当? 本当に食べない?』
「ああ、本当だ」
『……分かったわ。それで、ナニを聞きたいの?』
「ああ、こいつの味を教えてくれ」
『やっぱり食べる気じゃない!!』
「い、いや! 違う違う、これはその……単なる好奇心だ」
『なんだか信じられないわ……』
「本当だって、俺を信じてくれ」
『……本当に食べちゃダメだからね?』
「ああ」
『えっと、フェレットはイタチの仲間だから味はたぶんイタチに似てると思うわ。イタチの中には食用に飼育されてるモノがいるくらいだから不味くはないと思うわ、わたしは食べた事ないから分からないけど』
「そうか、不味くはないか……」
『……スネーク』
「い、いや! 本当に食べないって!!」
『そう願うわ』


数日後、ミッドチルダで一つのニュースが流れた。

“……では次のニュースです。一週間前から無限書庫司書長、ユーノ・スクライア先生が失踪した事件に進展は見られず、当局は営利目的と反政府組織のテロによる誘拐二つの線で捜査を……”

295Strikers May Cry:2008/09/20(土) 17:25:54 ID:WHacWtfL
はい、投下終了です。

前回の召還蟲・召還竜に続けるっていったら何故かこんなネタを思いついてしまいました。
フェレット好きの方サーセンwww
296名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 17:26:50 ID:Hl46vwd5
ユーノ!返事をしてユーノ!ユーノぉぉぉぉぉ!
297名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 17:40:55 ID:uyOpMrmn
GJ!!です。
あぁ!!ユーノが微笑みながらドアップの夜空の星になっちまうッ!!
翌日、フェレットを探す自称魔法少女な移動砲台が町を灰燼にするぞw
何もないほうが探しやすいって理由なだけでw
ともかく、次の犠牲者は誰だwww
298名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 17:55:10 ID:rZDB++1R
ユーノおおおおおおおお!
299名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 18:07:42 ID:8cM/TgY7
GJです!次はアルフかザッフィーか?!
300名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 18:38:29 ID:k4b9hU44
GJです。

>>299
あのゲーム、犬は食べれないんです。少なくとも3では。
だからきっと大丈夫!そう信じさせてくれ。
301名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 18:53:15 ID:iF9TLkY2
そうすると、次に蛇さんに喰われるのは……ゲボu――!?…………

【馬鹿は謎のバックスタブで首をナイフで掻き切られて絶命した】
302名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 18:55:50 ID:Nl+JTVl5
ザフィーラは狼だから喰われるかも。
303名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 19:02:07 ID:n21Ae6H9
次はもしかしたら、
闇の書の防衛プログラムが喰われるかも知れんな……<蛇さんの美食
304名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 19:12:36 ID:ykeVmnka
GJ&スネーク自重wwwww
305名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 19:18:57 ID:z4/b7DU/
GJです!
スネーク恐ろしすぎw
306THE OPERATION LYRICAL:2008/09/20(土) 19:58:09 ID:SQpr9Ous
スネーク、それは食べちゃだめだろおおおおおお!!!www
タイムパラドックスどころじゃないぜ、まったく。

<<まぁそれはそうと、2015から投下したいんだが、いいかな?
実は、今回は37KBもあるんだ。書きたいシーンみんな書いちゃって。クラナガン奪回最終章だったりして……>>
<<警告、アンノウン急速接近!ブレイク、ブレイク!>>
<<うぉおおわ!?>>
307THE OPERATION LYRICAL:2008/09/20(土) 20:17:08 ID:SQpr9Ous
ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL


第22話 クラナガン奪回


誰かが言っていた。エースには、三つの種類があると。
強さを求める奴、プライドに生きる奴、戦況を読める奴。
あたしはどれなんだろう、とティアナは思う。自分にエースと名乗る資格があれば、と言う前提だが。
状況ははっきり言って悪い。スバルと分断された今の彼女は結界が施されたビルの中で、ナンバーズを一度に三人相手している。
魔力の残りもあと僅か、これまで何とか回避を続けていた身体も、疲労で言うことを聞かなくなっている。
――それでも、諦めない。
不屈の闘志を胸に秘めて、ティアナは立ち上がる。かくれんぼはお終いだ。彼ならきっと、笑ってこう言うから。
「ビビッた後に何するかが、エースか否かの分かれ道……!」
飛び出し、クロスミラージュを構える。最初に出くわしたのは、先ほどから圧倒的な破壊力を見せるノーヴェだった。
「そこか!」
ジェットエッジのノズルが吼えて、ノーヴェは突進。ティアナはそれらにありったけの魔力弾を放って迎撃する。
並みの者なら恐れをなして飛び込むのをためらう魔力弾の弾幕だったが、ノーヴェは右手のガンナックルで直撃しそうなものを優先的になぎ払い
構わず突撃を敢行。
「大した火力も無いくせにぃ!」
ガンナックルを振りかぶり、ノーヴェはティアナの懐深くに潜り込むと、きつい右ストレートを彼女の腹部に叩き込む。
力任せに叩きつけられた金属の手甲によって、ティアナの身体は吹き飛ばされるはずだった。だが、ノーヴェの腕は空を切った。同時に消滅
するティアナの身体。
「ノーヴェ、下がるッス!」
後方で援護のポジションについていたウェンディからの一声で、ノーヴェはバックステップ。直後、彼女が立っていた空間に叩き込まれる魔力
弾。ティアナが幻術を囮に使ったのだ。
外した、とティアナは舌打ちし、すぐにその場を移動。もたもたしていると位置を特定される。案の定、隠れ蓑に使っていた瓦礫がウェンディ
の放ったエリアルキャノンで壁ごと粉砕された。
あれを食らったら、火傷じゃ済まないわね――。
生きるか死ぬかの瀬戸際なのに、思考はどこか冷静だった。ビルの中を走り抜け、射撃に最適な位置を探す。
「!」
視線を巡らせていると、視界の片隅に赤く光る刃がちらついた。反射的にティアナはクロスミラージュをダガーモードに切り替えて、飛び込ん
できた刃を受け止める。間一髪、刃は彼女の首を切りつけることなく停止した。
襲撃をかけて来たのはディード、双剣ツインブレイズの使い手である。彼女は自分の攻撃が受け止められたことに僅かな驚きを見せ、もう一振
りのツインブレイズを振りかざす。
二刀流!? 冗談じゃない――。
高速で振り抜かれる赤い刃。ティアナはそれをクロスミラージュで弾く、弾く、弾く。今にも押し切られそうなのは目に見えていた。
現に致命傷になる部分への斬撃は防げているが、腕には何本ものかすり傷が走っている。
その時、ティアナはふっと何かを思いついた。危険な賭けだが、博打も成功すれば作戦だ、躊躇する余裕は無い。
「はあああ!」
ディードはとどめとばかりに跳躍、渾身の力を込めてツインブレイズを一気に振り下ろす。だがティアナにとって、それはチャンスのほかなら
なかった。
振り下ろされた刃をクロスミラージュで受け止め――このまま鍔競り合いをやったら確実に負けると思ったその瞬間、水平に払い流す。
いきなり抵抗が無くなったツインブレイズは重力に引かれ降下、ティアナの肩を掠める。たまらず彼女は表情を歪めたが、上から真っ二つにさ
れるよりはマシだ。
思いもよらぬ受け流しに、ディードは驚愕の表情。その横顔に、ティアナは使っていなかった左手のクロスミラージュを、ガンモードで突きつ
ける。
308名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 20:17:48 ID:llvVGXhw
支援
309THE OPERATION LYRICAL:2008/09/20(土) 20:19:15 ID:SQpr9Ous
今度はディードの表情が歪む。これでジ・エンドとティアナが引き金を引こうとしたその瞬間――側面から、大きな邪魔が入った。
「どおおおりゃあああ!」
「!?」
よりにもよってこのタイミングで、ノーヴェが高速で突っ込んできた。予想外の攻撃にティアナは防御もままならず、ノーヴェの強烈な正拳を
もろに食らった。衝撃と共に視界が吹っ飛び、彼女はビルの無機質な床へと叩きつけられる。
痛い。整った顔立ちも細い腕もしなやかな足も、全身が苦痛を訴えてきた。無視して立ち上がろうとして、ティアナは脇腹に激痛を感じてその
場に膝を落とす。肋骨をやられたかもしれない。
「……正直、一人でここまでやるとは思ってもみなかった」
複数の足音が近付いて来て、彼女ははっと視線を上げる。ノーヴェとディード、それに続くウェンディが、ティアナを取り囲むようにしてやっ
て来ていた。
クロスミラージュを構えようとする――だが、ティアナはそこでようやく気付いた。腕の中にあったはずの、クロスミラージュが無い。
慌てて視線を巡らせると、少し離れた位置にクロスミラージュが転がっていた。ノーヴェに吹き飛ばされた時に、手放してしまったのだ。
――なんてこと、デバイスを手放すなんて。
攻撃手段が無くなってしまった。今の彼女には、もはやなす術が無い。その間にも、ノーヴェたちはティアナに近付いてくる。足音一つ一つが
ティアナには怖くてたまらなかった。
「こいつは捕獲対象じゃないから、殺しちゃっていいんスよね?」
ウェンディの言葉が、ティアナの恐怖心をさらに煽る。このままでは死ぬ、殺される。
呼吸の間隔が短くなってきた。どうすればいいのか分からない、誰かに助けてほしかった。
脳裏に浮かぶのは、先に逝ってしまった兄の姿。自分も、彼のところに行ってしまうのだろうか。
――馬鹿野郎、諦めるんじゃない!
その時、頭の中で聞き覚えのある声が走った。脳裏に浮かぶ兄が怒ったような表情を見せ、誰か別の人と被る。
――何やってんだよ。お前さんの力は、そんなもんか?
兄に被った別の誰かは、笑ってそう言った。
誰なんだろうと記憶を探っていると、彼が着ているフライトジャケットのリボンのマークが目についた。
――安心しろ、"ティアナ"。お前なら大丈夫だ。"リボン付き"が保障する。
出撃前に、彼から言われた言葉が、また繰り返された。その言葉が引き金となり、死への恐怖で縮こまっていたティアナの心に火を点ける。
自分は何をやっているのだ。まだ動ける、まだ戦える。武器を手放してしまったなら拾いに行けばいい。何故こんな単純なことが分からない。
その時、ティアナは気付いた。視界に映るビルの天井、機能を失った大型のライトが、際どい形で空中にぶら下がっている。石ころの一つでも
当てれば、外れて地面に落ちてくるかもしれない。
ノーヴェたちに悟られないよう、手近にあったコンクリートの塊を掴む。チャンスは一度、失敗したら次は無い。
「こいつで終わりだ……!」
ノーヴェがガンナックルを、ディードがツインブレイズを、ウェンディがライディングボードを構える。彼女たちの頭上には、ティアナの狙う
ライトがある。
310THE OPERATION LYRICAL:2008/09/20(土) 20:21:27 ID:SQpr9Ous
――今!
勇気を振り絞り、ティアナはコンクリートの塊を投げつけた。ノーヴェたちは一瞬何をするのかと身構えたが、彼女の狙いには気付かなかった。
宙に舞うコンクリートの塊は狙い通り、ライトに当たった。衝撃で外れかかっていたそれは完全に天井から切り離され、落下。床に叩きつけら
れて、破片が砕け散る。たまらず、ノーヴェたちは舞い散る破片から眼を守るべく瞳を閉じた。
その一瞬を、ティアナは見逃さなかった。残った体力を振り絞り、クロスミラージュの転がる床まで疾走。滑り込んでそれを手にし、寝転がっ
た体勢のまま、構える。
「あ……!」
「こいつ!」
ようやくティアナの狙いに気付いたノーヴェたちだったが、すでにティアナはクロスミラージュの照準を合わせていた。
引き金を引き、魔力弾を二発だけ撃つ。放たれたそれはノーヴェとディードの眉間に直撃し、彼女たちは意識を失った。非殺傷設定だから、死
にはしないだろ。
「ノーヴェ、ディード! こんのぉ!」
いきなり撃ち倒された二人を見て、ウェンディは仇討ちとばかりにライディングボードを構える。その寸前に、ティアナは立ち上がり、クロス
ミラージュをダガーモードにして思い切り肉薄する。
右手のクロスミラージュで、ウェンディを切りつける。咄嗟にウェンディはそれをライディングボードでガードしようとするが、大きくて重い
それを動かすには、若干のタイムラグがあった。
不十分な形でダガーモードの魔力刃を受け止めたウェンディだったが、ライディングボードを弾き上げられてしまう。はっと視線を正面に移す
と、ガンモードに切り替わったクロスミラージュの銃口がそこにあった。
「終わりよ」
躊躇う様子など一切見せず、ティアナは引き金を引く。ウェンディはほぼ零距離で魔力弾を浴び、「あっ」と短い悲鳴を上げて倒れた。
ティアナはそれを見届けると、僅かな逡巡の後、銃口を下ろす。
「……残念、五機落とさないとエースとは呼べないのよね」
気絶した三人の戦闘機人を眺めて、彼女はふぅ、と一息ついた。

一方、クラナガン市街地奥深くまで進撃した陸士B部隊のベルツとその部下たちだったが、それまであまり姿を見せなかったガジェットV型の
大群が突然現れ、彼らは包囲されていた。
ベルツは部下の一人と瓦礫に身を隠しつつ、唯一残った武器である拳銃で抵抗していたが、装甲の厚いV型の前には拳銃など焼け石に水だった。
それでも銃撃を続けるベルツだったが、拳銃の弾が底を突いてしまった。予備のマガジンに交換しようと腰に引っ掛けていた雑嚢に手を突っ込
むが、中身は空だった。今のが最後らしい。
「……ソープ、弾をくれ!」
サブマシンガンで戦う部下に声をかけると、彼は自分の腰の雑嚢からマガジンを取り出し、ベルツに手渡す。だが、その数は二つとあまりに少
ない。苦々しげな表情を浮かべていると、部下が口を開く。
「それしかないんです、俺もこいつの弾が切れたらもうカンバンです!」
サブマシンガンのマガジンを交換しつつ、部下もまた苦しげな表情を浮かべていた。
これは、もう駄目かもしれんな――。
そんな思考が、ベルツの脳裏をちらつく。ユージア大陸での撤退時も悲惨極まりない状況に追い込まれたが、あの時は何とか友軍の救出部隊が
間に合った。だが、今回はそれも望めない。増援を要請したが、返事がどこからも帰って来ないのである。
「はい!? 何か言いましたか!?」
そんなベルツの心の呟きを察してか、部下が銃撃をやめることなく彼に声をかけてきた。直後、V型のレーザーが飛んできて、防御陣地の代わ
りにしていた瓦礫の一部を吹き飛ばす。一瞬身を屈めて、ベルツは返答をする。
「何でもない。ソープ、あの世でまた会おう!」
「了解! あぁ、死ぬ前に一回、駅前の新しい居酒屋に行ってみたかった……!」
死を覚悟した彼らは瓦礫を飛び出そうとする。どうせ死ぬなら、最後まで足掻くつもりだった。
311名無しさん@お腹いっぱい:2008/09/20(土) 20:23:48 ID:AfaT1bqN
支援する存分に投下しろ!!
312THE OPERATION LYRICAL:2008/09/20(土) 20:23:50 ID:SQpr9Ous
瓦礫から身を乗り出したベルツたちを確認したV型の群れが、一斉に攻撃態勢に入る。
その瞬間、V型の群れの後方で一際大きな爆発があがった。何だと思って視線をやると、鉢巻きを巻いたショートカットの少女が、右手のリボ
ルバーナックルを振り回し、雄叫びを上げていた。
「うおおおおお!!」
少女――スバルは、手当たり次第にV型を殴り、無反動砲でもないと撃ち抜けないはずのその装甲を突き破り、粉砕していく。
眼にも止まらぬ速さ、とはきっとこのことだろうとベルツは頭の片隅で考えた。取り囲まれているはずなのに、スバルはV型のレーザーを物と
もせず、二本のアームによる格闘攻撃を払いのけ、次から次へとV型を撃破していった。
「……はぁ、間に合った。お待たせしました、機動六課所属、スバル・ナカジマ二等陸士です!」
一通りのガジェットV型を撃破した彼女は、呆然と戦闘の行方を見守っていたベルツたちに近寄ってきた。どうやら彼女が増援らしい。
「ご苦労。B部隊指揮官、レオナード・ベルツ二尉だ。こっちはソープ陸曹……助かったよ」
敬礼を交わし、ベルツは笑みを浮かべた。たった一人の増援だが、ガジェットV型を軽々と蹴散らすこの実力は、なかなか頼りになる。
「いえ、そんな――戦況は、どうなってるんです?」
感謝されたことで僅かに頬を緩めたスバルだったが、ここはまだ戦場だ。各地に散らばったベルツの部下や他の部隊の陸士たちを束ねる必要が
あった。すぐに表情を真剣なものに戻し、ベルツに問う。
「ここに至るまでの市街地のガジェットは全て片付けたが、部隊が散り散りになっちまってる。航空支援も期待できないからな、俺たちが彼ら
を助けて行くしかあるまい。悪いが、援護を頼めるか?」
「はい、任せてください!」
バシッとリボルバーナックルを叩き、スバルは頷いた。
ベルツはそんなスバルを見て、どこかで見たことがあるなと考えていたら確か以前救出した一〇八部隊のギンガ陸曹と同じ装備であることに気
付いた。姓も同じだから、きっと妹だろう。
――姉に代わって、妹が恩返しにきてくれたか。
ふっとベルツは感慨深いものを感じて笑みを浮かべ、彼女と行動を共にすることにした。
313THE OPERATION LYRICAL:2008/09/20(土) 20:25:52 ID:SQpr9Ous
「――ぶち抜けぇええええええええ!!」
間違いなく、最後の力を振り絞った、ヴィータのグラーフアイゼンによる一撃。
メビウス1の援護の下、"ゆりかご"艦内に突入した彼女は全身傷だらけになりながらもガジェットたちの防衛網を突破。動力炉に到達し、手持
ちのカートリッジ全てを投入して破壊を試みていた。
「うおおおおおおおお!!」
すでに何度も何度も、自分が出しうる最大の一撃をこの動力炉に叩き込んだ。だと言うのに、この禍々しいほど妖しく光る動力炉は、壊れる様
子を見せない。
――だからって、諦められるか!
動力炉を包む防護フィールドとの激しい鍔競り合いの最中、ヴィータは思考を巡らせる。
こいつをぶっ壊さなきゃ、はやてのことも、なのはのことも守れない。"ゆりかご"まで護衛してくれたメビウス1にだって、申し訳ない。だか
ら、だから壊れろ、砕けろ、ぶち抜け!
そんな彼女の必死の思いは、力になった。肉体的にはとっくに限界のはずなのに、グラーフアイゼンを叩きつけられた動力炉には、亀裂が走り
出している。あと一押しで、全てが砕ける。
――だが、ここに来て彼女の相棒の方が、限界を超えてしまった。グラーフアイゼンはついに防護フィールドを打ち破り、動力炉本体に到達し
たその瞬間、バラバラに砕け散ってしまった。
「……!!」
身体から、不意に力が抜けてしまった。グラーフアイゼンと同じく、自分自身ももう戦えないほどにまで、消耗してしまっていた。
ダメ、だ――絶望が、彼女の脳裏を支配していく。もはや動力炉を壊すことは、叶わない。あとは固い"ゆりかご"の床に叩きつけられるのを
待つばかりだ。
「はやて、みんな……ごめん」
そうなるはず、だった。ところが、彼女が次に感じた感触は、思いのほか柔らかく、暖かいものだった。
何も考えられないぼんやりした頭を動かすと、そこには騎士甲冑を着た主、はやての姿が。髪がいつもの茶髪ではないのは、リインフォースと
ユニゾンしているからだろう。
「あ……はやて……リインも?」
「はいです……」
「――謝ることなんか、あらへんよ」
優しく微笑んで見せるはやてとリインフォースは、視線を動力炉に移す。釣られてヴィータも視線を動かし、我が目を疑った。
「鉄槌の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼンがこんなになるまで頑張って……壊せんものなんか、あらへんよ」
ピキリ、と動力炉に入っていた小さな亀裂が広がっていく。そして、先ほどまでの頑丈さが嘘のように、動力炉はバラバラになった。
これでヴィータの任務は、完了だった。
314THE OPERATION LYRICAL:2008/09/20(土) 20:28:01 ID:SQpr9Ous
動力炉が破壊されたことで、思わぬ効果が生み出された。"ゆりかご"から発信されていたECMが、大きく弱まったのだ。
「……! レーダー、ほぼ回復! 各機、中距離ミサイルの使用を許可する!」
無人戦闘機とのドックファイトを繰り広げていたが、絶対的な数の差により膠着状態だった地上本部戦闘機隊に対し、空中管制機ゴーストアイ
はただちに強力な中距離空対空ミサイルの使用許可を出す。
「こちらアヴァランチ、了解! おい、頼む」
「合点承知」
F/A-18Fを駆るアヴァランチはすぐさま後席にウエポン・システムを操作させ、使用する兵装でAIM-120を選択する。
レーダー上に映る敵機に手当たり次第にロックオン、同時攻撃できる数としては限界な四機の敵機に向けて、アヴァランチはAIM-120を放つ。
「今までのお返しだ、遠慮はいらねぇから全部食っていけ――アヴァランチ、フォックス3!」
ミサイル発射スイッチを連打。発射されたAIM-120はロックオンした各々の目標に向かって突っ込み、爆発。四機同時撃墜と言う快挙を果たす。
「いやっほう、いい感じだ、全弾命中!」
「これでイーブン……いや、もうこっちのもんだ!」
後席が歓声を上げ、更なる獲物を求めてアヴァランチは操縦桿を捻り、機首を翻す。その重量ゆえ加速力は鈍いF/A-18Fだが、ミサイルの搭載量
は半端ない。主翼下に抱えるAIM-120は、まだまだあった。敵機を蹴散らすにはもってこいだ。
「アヴァランチに遅れるな、各機続け!」
「天使とダンスだぜぃ!」
味方も奮起し、逃げ惑う敵機Su-35を追い散らす。制空戦闘の情勢は、すでに決まりつつあった。
同時に制空戦で勝利がほぼ確定したことで、一部の戦闘機隊は低空に下り、地上で戦闘中の陸士及び近接航空支援の空戦魔導師の援護に向かう
ことになった。ウィンドホバーの駆るF-16Cもまた、その中の一機だ。
「陸士部隊、敵の位置を知らせろ。航空支援を行う!」
「なんだって? ありがてぇな。ポイント三−三−六にガジェットが集結中だ、叩いてくれ!」
「了解!」
ウィンドホバーはレーダーで陸士から送られてきた座標を下に機体を降下させる。市街地の中、小さな公園にガジェットT型とV型が集まって
いるのが見えた。これに間違いない。
「俺たちの街によくも……高くつくぜ、こいつは」
F-16Cのコクピットからガジェットたちを睨みつけ、ウィンドホバーはウエポン・システムを操作して機関砲を選択。本来なら対地ミサイルで
も叩き込んでやりたい気分だが、空戦の最中を抜け出してきたため、あいにく対地攻撃可能な装備は機関砲のみだった。
「ウィンドホバー、ガンアタックを仕掛ける……そぉら、食らえ」
地面に衝突しないよう注意しながら、ウィンドホバーは操縦桿とラダーペダルを巧みに操り、照準を微調整。全弾当てるつもりで、引き金を引
いた。
ミサイルには及ばないが、毎分六○○○発もの発射速度を誇る二〇ミリ機関砲の威力は、対地でも恐ろしいものがある。薄い上面装甲を蜂の巣
にされたガジェットたちはボロ雑巾のように弄ばれ、爆発していった。
「こちらウィンドホバー、攻撃終了。どうだ?」
「助かった、いい仕事だぜ。よし、前進再開!」
地上に確認を取ると、陸士の威勢のいい声が返ってきた。航空支援で百人力を得た陸士たちはさらに前進し、市街中央に接近しつつあった。

戦況は、すでに管理局側に傾いていた。召喚獣もエリオとキャロの二人によって鎮圧され、市街に展開していたナンバーズも全員が取り押さえら
れていた。陸士部隊は一度はバラバラになったが再編成され、進撃。市街地のガジェットを次々と制圧していく。
クラナガンの完全奪回まで、あと僅か。残る脅威は、"ゆりかご"のみ。
315名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 20:28:32 ID:llvVGXhw
支援
316THE OPERATION LYRICAL:2008/09/20(土) 20:33:51 ID:SQpr9Ous
その"ゆりかご"と言えば、動力炉が破壊されたことで出力不足を起こし、ハリネズミだった対空砲火も陰りを見せていた。
F-22を駆るメビウス1は、対空砲火が弱まったことでさらに突入することになった空戦魔導師の援護を行っていた。
「綺麗に並んでやがるな……」
機体を上昇させ、メビウス1は眼下の"ゆりかご"上面に設置された速射砲と対空機関砲の群れに眼をやった。機能を停止しているものも多いが、
それでもまだ半分はメビウス1のF-22に反応し、矛先を向けてきた。
エンジン・スロットルレバーを叩き込み、アフターバーナー点火。F119エンジンが咆哮を上げ、F-22は一気に加速し、"ゆりかご"に接近する。
速射砲の放つ砲弾が近くで爆発し、機関砲から撃ち出される弾丸の雨はしかし、F-22を捉えることが出来ない。出力不足のため、搭載する火器
管制システムも機能不全に陥っているのだろう。
メビウス1はそれらに向かって迷わず、機関砲を叩き込む。固定目標ゆえ、外すことは絶対にあり得ない。
二〇ミリの弾丸は速射砲の砲身を叩き割り、対空機関砲の砲塔を粉砕していく。これで、後続の空戦魔導師も突入しやすくなるはずだ。
――とは言え、長居は無用か。
精度が悪いとは言え、ずっと狙われっぱなしと言うのも気分が悪い。メビウス1は残った対空砲火に掴まらないよう、ラダーペダルを交互に踏
んで機体にランダムな機動を繰り返させながら上昇、射程内より離脱する。
「ゴーストアイ、"ゆりかご"内部の状況は?」
先に突入したなのはとヴィータ、さらに続けて突入したはやてのことが気になり、メビウス1はゴーストアイに問う。戦場の情報の一斉統括も
行っているゴーストアイなら、内部の状況も詳しく知らされているだろう。
「こちらゴーストアイ。スターズ2が動力炉の破壊に成功したが、戦闘続行は不能だ。ロングアーチ、八神二佐が救出済み……スターズ1は現
在、"玉座の間"にて交戦中」
「交戦中……了解、新しい情報があったら教えてくれ。通信終わり」
メビウス1は高度を落とし、"ゆりかご"と並ぶように飛び、ディスプレイを操作してデータを呼び出し、"玉座の間"の位置を確認する。後付け
された戦闘機のカタパルトからそう離れていない位置にあるが、何せ艦内だ。今のメビウス1には、せいぜいなのはが無事、ヴィヴィオを取り
戻してくれるのを祈るほか無い。
「なのは……くれぐれも、無理はするんじゃないぞ」

「助けるよ……」
その"玉座の間"にて、長年の相棒、レイジングハートを構えて、なのははしかし、優しさと力強さに満たされた笑顔を浮かべていた。
目の前の聖王化したヴィヴィオはバインドで拘束している。狙いは絶対に、外すことはない。
「ヴィヴィオ、ちょっとだけ……痛いの、我慢できる?」
我が子同然のヴィヴィオを救うためとは言え、これは荒治療。確認の意味を込めて、なのはは正気は取り戻したが、身体は依然として抵抗しよう
とするヴィヴィオに問う。
「うん……」
はっきりと、ヴィヴィオは頷いてくれた。強くなったね、となのはは感慨深げにそれを見つめ――文字通り最後にして最強の切り札、ブラスター
モードのレベルVを起動。足元に大きな、桜色の魔力陣が展開される。
さらに周囲に浮かび上がるのは、四つのブラスタービット。これらが加われば、もはや撃ち抜けないものは何もない。
おそらくは、ヴィヴィオの魂に纏わりつくこの邪悪な鎧さえも。
照準をヴィヴィオに合わせ、全ての準備は整った。防御を抜いて魔力ダメージのみで、体内にあるレリックの破壊を狙う。
「全力全開――スターライト……」
桜色の魔力が、レイジングハートとブラスタービットに集まっていく。
撃ち砕け、邪悪な鎧を。解き放て、愛しき子を。そして帰ろう、みんなの元に。あの何でもない、しかし楽しかった日常に。
きっと、彼も待ってくれているから。
「ブレイカァァァー!!」
ごう、と空気が唸りを上げる。桜色の閃光は星の光のごとく瞬き、ヴィヴィオを飲み込んだ。
317名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 20:34:59 ID:llvVGXhw
支援
318THE OPERATION LYRICAL:2008/09/20(土) 20:36:06 ID:SQpr9Ous
完全に、全ての力を使い果たした。もう立ち上がることさえ、困難だった。
しかし、閃光が終わったその時、なのはは目を見開いた。えぐられたクレーターの中央に、鎧を砕かれ、元に戻ったヴィヴィオが、そこにいた。
「ヴィヴィオ……」
レイジングハートを杖代わりにしてよたよたと歩き、彼女はヴィヴィオに向かおうとする。だが、その行動はヴィヴィオ自身の言葉によって遮ら
れる。
「来ないで……!」
「!?」
歩みを止めて、ようやく気付く。ヴィヴィオは、一生懸命、自分の足で立とうとしていた。
転んだ時、自分一人で立てなかったこの子が、自分の足で――。
「強くなるって、約束したから……」
ヴィヴィオが続けて放った言葉を聞いて、なのははいてもたってもいられない気分になった。立ち上がることさえ困難のはずの身体は走り出し、
クレーターを駆け下りて、ヴィヴィオをぎゅっと抱きしめた。
これで、全てが終わった。
まるでその時を待ち構えていたかのように、同じく艦内に突入してきたはやてが、リインフォースとユニゾンした状態で、崩れた瓦礫の隙間を
通ってやって来た。
「なのはちゃん!」
「はやてちゃん……」
二人は顔を見合わせて、頷く。もうやることは決まっている、さっさとこんなところからおさらばだ。
だと言うのに――どうやら、そうもいかないことを彼女たちは思い知らされる。
「う、ふふふふ……」
「!」
不意に声がして、なのはは振り返る。先ほど最大出力のディバインバスターで叩きのめしたはずの、クアットロがそこにいた。すでにその表情か
らは極限にまで追い詰められ、足取りもおぼつかないことから、意識を保っているだけでも奇跡的な状態なのは目に見えている。
そのはずなのに、クアットロは妖しい笑みを浮かべて、壊れた人形のようにふらふらと歩き、近付いて来る。
「……っ動かないで」
咄嗟にレイジングハートを構えるなのはだが、クアットロからは攻撃の意思が見当たらない。だが、何かたくらんでいることは確かなようだ。
警戒しながら彼女の動向を伺っていると、クアットロは突然、自身の手にあった何かの遠隔操作用スイッチを押した。
直後、艦内に響き渡る警告メッセージ。
「これは……!?」
「ふふふ……まったくもって、あなたたちは素晴らしいわ。"ゆりかご"も聖王も倒しちゃうなんて……だから、これはあたしからのご褒美……」
「――なのはちゃん、上!」
クアットロの言葉に理解しかねていると、はやてが叫ぶ。はっと視線を上げれば、"玉座の間"の天井を突き破り、四脚歩行のガジェット、通称W
型が多数降下してきていた。その数は延々と増え続け、無機質だが凶暴な牙をこちらに向けてくる。
「この艦の最後の攻撃手段……残存していたガジェットを全て放出して、自分自身も三〇分後には自爆するシステム。フィナーレには打ってつけ
の手段ね」
自爆、と言う言葉になのはとはやて、リインフォースははっとなる。生存本能がひっきりなしに警告を送ってくる、すぐに逃げろと。
だが、逃げるには目の前のW型を駆逐せねばならない。依然として高いAMF濃度のこの環境下で、それは恐ろしく時間を食う羽目になる。
要するに、W型の相手をしていたらどの道"ゆりかご"は自爆してしまうのだ。
「――はやてちゃん、ヴィヴィオと彼女をお願い。私が時間を稼ぐ」
僅かな逡巡の後、なのはが口を開く。だが、当然その言葉の意味を、はやては知っていた。
「な!? なのはちゃん、それはあかん!」
「はやてちゃん、接近戦苦手でしょ? 大丈夫、まだ戦えるから……」
半ば強引に押し付ける形で、なのはは腕に抱えていたヴィヴィオをはやてに任せる。はやては戸惑い、迷った末――ヴィヴィオを腕に、クアット
ロを背中に乗せる。
「ママ……」
「大丈夫だよ、ヴィヴィオ――ママなら、すぐ戻ってくるから」
彼女なりに、状況を察知したのだろう。不安げな声を上げるヴィヴィオに向かって気丈にもなのはは笑って見せた。
「一撃撃って、進路を切り開く。はやてちゃんは全速力で、脱出して」
「了解……なのはちゃん、必ず戻るんやで」
「分かってるって」
319THE OPERATION LYRICAL:2008/09/20(土) 20:38:49 ID:SQpr9Ous
不敵な笑みをはやてに見せ付けて、なのははレイジングハートを目の前のガジェットW型の大群に向ける。
残り少ないカートリッジをロード。フラつく足元を気力でどうにか踏ん張ってみせ、なのはは叫ぶ。
「ディバイン――バスタァァァ!!」
レイジングハートから、巨大な桜色の閃光を放つ。進路上にあったW型は回避しようと各々飛び上がるが、何機かは閃光に飲み込まれ、そうでな
くても脱出路を開けてしまう。
「行って、はやてちゃん!」
「……!」
なのはに言われ、はやては一瞬歩みを止めたが、思いを振り払って脱出路へと進む。そんな彼女に襲い掛かろうとしたガジェットW型に向かって
なのははアクセルシューターを放ち、行動を止めさせた。
W型の群れは悩んだ素振りを一切見せず、全てがなのはに振り向く。その数は視界いっぱいに映るほど。対照的に、彼女に残された力はあとわず
かしかない。
「――それでも、諦める訳には行かない」
レイジングハートを構え、なのははガジェットW型の前に立ち塞がる。
絶望的な状況――だが、それがどうしたと言うのだ。この程度で屈していては、同じエースの彼に笑われてしまう。
「エースオブエースの名は、伊達じゃないんだから……!」
足元に魔力陣を展開。突っ込んできたW型の群れに、彼女は正面から戦いを挑んだ。

「なのはが内部に残ってる!?」
ゴーストアイから新たにもたらされた情報は、メビウス1を驚愕させるのに十分なものだった。
ただちに救出部隊を編成して彼女を助けようと言う動きが出たが、それに待ったをかけたのはゴーストアイだった。
「駄目だ、突入は危険だ! サーモスキャンデータを確認したところ、"ゆりかご"内部ですでに崩落が始まっている! 各員、突入は禁止!」
「くそ……」
メビウス1は呪詛の言葉を吐き捨てる。地上の皆も同じ思いだったが、やむを得ない。
だが――だからと言って、諦めてしまっていいのだろうか。
メビウス1は計器に手を伸ばし、ゴーストアイから送られた"ゆりかご"内部のデータを呼び出し、サブディスプレイに表示させる。
現在、艦内との交信は高濃度のAMFにより行えない。最後に先に脱出したはやてがなのはを見たのは"玉座の間"。
そもそも彼女たちは、戦闘機のカタパルトから侵入した。敵機が補給のために着艦する機構を利用させてもらったのである。
――待てよ、敵機は確かSu-35だったな?
記憶を掘り起こし、Su-35の特徴をメビウス1は思い出す。大型で空気抵抗の少ない機体に、パワフルなエンジン。だが重要なのは、この機体が
艦載機ではないということだ。本来なら陸上の長大な滑走路でもないと降り立つことは無理なこの機体を、"ゆりかご"は艦載機として運用可能
なほど巨大なのだ。それならば、メビウス1の愛機であるF-22も降りれても、何ら不思議ではない。
「……カタパルトの位置がここ。"玉座の間"がここ……決して、遠くはないな」
データの確認を終えたメビウス1は、操縦桿とエンジン・スロットルレバーを握りなおし、機体を翻させる。
目的地は"ゆりかご"、戦闘機用の離発着カタパルト。
「……待て、何をするつもりだ、メビウス1?」
彼の行動に気付いたゴーストアイが、声をかけてきたが、もう構う余地はない。
「こちらメビウス1、これより本機はスターズ1の救出に向かう」
「――なんだと!?」
驚くゴーストアイを無視して、メビウス1は"ゆりかご"の戦闘機用カタパルトを目視確認すると、一気に機体を急降下させた。
「待て、メビウス1! 突入は危険だと言った!」
「この戦争では、死人が出すぎた。もう誰も死なせたくはない」
「命令違反だ、分かっているのか!?」
通信機を通じて怒鳴り散らし、必死にメビウス1を止めようとするゴーストアイだったが、無駄だった。
「承知の上さ――」
メビウス1は僅かな逡巡の後、答える。
「天使と、ダンスだぜ!」
320THE OPERATION LYRICAL:2008/09/20(土) 20:40:50 ID:SQpr9Ous
予想通り、"ゆりかご"のカタパルト内部は広く、そして長大だった。大型爆撃機は無理でも、これなら戦闘機程度の離発着は難しくない。
とは言え、敵地も同然の艦内である。F-22を艦内に強行突入させ着艦したメビウス1はコクピットのシートの下に置いていた、シャリオから頂い
た魔力弾を撃つアサルトライフルを引っ張り出し、コクピットから降りて周囲を警戒する。
――ひとまず、この辺に敵はいないようだな。
念のためAMF下でも撃てるかどうかアサルトライフルの引き金を引く。軽く反動があって、銃声とともに放たれた魔力弾は床に穴を開けた。威力
は多少落ちるが、使えなくはなさそうだ。
不安がないと言えば嘘になるが――行くしかあるまい。
愛機F-22の脚のロックが完全であることを確認し、メビウス1は駆け出した。目的地は"玉座の間"、決してここから遠くはないが、急がねばなる
まい。
不思議と、ガジェットとは出会わなかった。ただし、ゴーストアイの言った通り艦内の各部では崩落が始まっており、途中狭い瓦礫の間を潜り抜
けたり、邪魔な瓦礫を無理やり動かして進まねばならないところがあった。
「この……っ」
行く手を遮る瓦礫を強引に引きずって動かすと、どうにか人間一人が通れそうなスペースが出来た。メビウス1はその中を潜り、アサルトライフ
ルで周囲を警戒しながら、しかし迅速に進んでいく。
崩落で瓦礫が落ちてこないか上にも注意しつつ進んでいくと、再び巨大な瓦礫の山と遭遇した。その向こうで響くのは、爆発音と閃光。なのはが
もう近くにいるのだ。
手近にあった瓦礫に手をかけて動かそうとしてみるが、びくともしない。見れば、鉄骨が突き刺さって瓦礫をしっかり固定してしまっていた。
――登るしかないか。
やむを得ず、メビウス1は瓦礫に足をかけ、乗り越えることにした。いかにも崩れそうな瓦礫にはなるべく触らず、比較的頑丈そうな瓦礫に捕ま
り、彼は瓦礫の山を登っていく。
どうにか頂点に達した時、はるか眼下に無数のガジェットのものと思しき残骸が多数、転がっているのが見えた。その中心に、助けるべき人物は
いた。
「なのは……!」

――これで、ラスト。
ほとんど気力だけで戦っているような状態。なのははレイジングハートから何の効果も付属されていない、単純な魔力弾を撃つ。
正面からもろに魔力弾を食らったガジェットW型だったが、その装甲には傷ひとつ付かない。僅かに動きを止め、W型は怒ったように突っ込み、
なのはに体当たりを仕掛ける。
「あう……っ!」
避けることすら叶わず、なのははW型の体当たりを受けて地面を無様に転がる。バリアジャケットもすでにボロボロで、ダメージ緩和の機能もほ
とんど停止していた。
何とか立ち上がろうとするが、途中で膝が笑い、彼女は力なく地面に屈服してしまった。
もう、魔力弾の一発も撃てない。にも関わらず、W型はなのはに迫り、装備する鎌を振りかざそうとしていた。
駄目だった。やはり、消耗しすぎていた。いくらエースオブエースと言えど、もうどうにもならない。
「ごめんね、ヴィヴィオ、みんな……帰れそうにない」
目を瞑ると、脳裏に浮かんでくるのは愛しい人たちに大切な仲間たち。
W型が鎌を振り下ろそうとする――その瞬間、彼女の耳に入ったのは、いるはずのない、彼の叫び声。
きっと幻聴だろう、となのはは考えた。メビウス1がこんなところにいるはずがない。心の中のどこかにあった、彼に助けてほしいと言う願望が
現れたに過ぎないのだ、と。
だが――その後に響き渡る銃声が、彼女の考えは間違いであることを教えてくれた。
虚ろな目で視線を上げると、W型がこちらに鎌を振り下ろさず、どこか別の方向にその無機質な機械の眼を向けていた。
「え……」
思わず、言葉が漏れた。W型の視線の先には、アサルトライフルを構えたメビウス1の姿があった。
W型はその矛先をメビウス1に向け、前進。それに向かってメビウス1はアサルトライフルを撃ち込み、弾が切れると懐の拳銃に切り替えてW型
を迎撃する。
ありったけの弾丸の雨を浴びたW型は途中まで前進を続けたが、断末魔のような機械音を上げて、その場に倒れた。
「……なのは、無事か? いや、無事だな。そうでなきゃ困る」
W型を撃破したメビウス1は、なのはの元に駆け寄ってきた。
321名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 20:42:12 ID:llvVGXhw
支援
322名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 20:43:29 ID:GCMH6wgr
支援
323代理投下:2008/09/20(土) 20:47:32 ID:FIhgmMXM
「どうして……」
「?」
「どうして、こんなところに……」
疑問の言葉を投げかけると、メビウス1は笑って答える。それがさも、当然であるかのように。
「見て分からないか? お前を助けに来た――さぁ、ここは危ない。立てるか? 行くぞ」
メビウス1は倒れているなのはの身体を起こし、肩を貸して歩き出そうとする。だが、なのははその手を振り解こうとした。
「駄目です、私なんか連れて行ったらメビウスさんまで間に合わない……構わないから、置いていってください」
「馬鹿野郎、ヴィヴィオの世話をハラウオンに押し付ける気か」
抵抗する彼女の手を引っ張り、強引にメビウス1はなのはを連れて行く。
「エースはな、生き残ってこそエースなんだ。それを忘れるんじゃない」
「…………」
なのはは、答えなかった。ただ不思議と、今この瞬間まで生きることを諦めていた自分が恥ずかしかった。
生きろ、生きろ。こんなところで死ぬんじゃない、天寿を全うしろ。
胸に手を当てると、心臓の鼓動さえもがそう言っているような気がした。同時に、自分の肩を担ぐメビウス1のほのかな温もりが、自分はまだ生
きていることを教えてくれた。
瓦礫の山を潜り抜け、二人はもう少しで戦闘機のカタパルトがあるところにまで進んでいた。
その時、なのはは後ろから不意に殺気を感じ、振り返る。迷子になっていたのか、一機のガジェットT型がこちらを見つけ、接近しつつあった。
「メビウスさん、後ろ……!」
「!」
彼らが反応する直前、T型がレーザーを放つ。直撃はしなかったが、その一撃はメビウス1の左足をかすめ、彼は膝を落とす。
「っく……!」
空いている左手でメビウス1は拳銃を持ち、T型に向かって残り全弾を叩き込む。偶然にも一発がセンサーの集中するカメラに当たり、T型は盲
目のままレーザーを撃ち散らすが、当てずっぽうなので脅威にはならなかった。
メビウス1は弾切れの拳銃を投げ捨て、再びなのはの肩を担いで歩き出す。
「メビウスさん、足は――」
「どうってことねぇよ、この程度」
痛む足を引きずりながら、彼は歩みを進めた。
ようやくカタパルトに辿り着くと、メビウス1は駐機していたF-22のコクピットに飛び乗った。梯子などないため、そうせざるを得ない。
「早く!」
「けど、これって一人乗りじゃあ――」
「女の子一人くらい、詰めればどうにかなる」
躊躇するなのはを一喝し、メビウス1は手を伸ばす。なのはは残った体力全てを振り絞り、彼の手を借りてF-22のコクピットに乗り込んだ。
だが、突如響き渡る轟音。振り返ると、F-22の後方にまで崩落が迫っていた。早くここを脱出せねば、機体もろ共ぺしゃんこだ。
F-22のキャノピーが閉じられ、F119エンジンは再スタートを開始する。
その瞬間、"ゆりかご"全体が大きく揺れる衝撃が巻き起こった。

ゴーストアイは空中管制機E-767の機上から、"ゆりかご"の状況を目視で伺っていた。
「む……!」
彼が眼を凝らしていると、"ゆりかご"に異変が起きていることに気付いた。艦体そのものに大きなひび割れが入り、剥げ落ちた外板が地面に向か
ってパラパラと落ちていく。
「こちらゴーストアイ、"ゆりかご"の崩落が本格的に始まった。全部隊、退避は完了しているか?」
「こちらB部隊、すでに安全区域に退避済みだ」
「陸士三〇八部隊、三〇九部隊、同じく退避完了」
「三〇二部隊、撤退済みだ……この世の終わりみたいな光景だな」
地上の友軍にはあらかじめ退避勧告を出しているが、念のため通信で確認を取ると、クラナガン市街地に展開していた部隊はその全てが撤退済み
だった。だが、それとは別に入ってきた通信がひとつ。
「こちら機動六課、八神! なのはちゃんは……スターズ1の、脱出は!?」
「――確認できていない」
「……了解」
通信の向こうのはやては、何かやり切れない表情をしていた。だが、ゴーストアイには何も出来ない。入手した情報を、淡々と報告するほか無かった。
324名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 20:48:07 ID:XWBF1yAz
ティアナはとうとうソルジャーに目覚めたか
なのははマーセナリーとしてナイトはフェイトか?
こうなったらもうトンネルくぐりしかねぇ
支援
325名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 20:49:21 ID:XWBF1yAz
ティアナはソルジャーに目覚めたか
なのははマーセナリーとしてナイトはフェイトか?
こうなったらもうトンネルくぐりしかねぇ
支援
326代理投下:2008/09/20(土) 20:49:25 ID:FIhgmMXM
全ての敵戦闘機を撃墜した戦闘機隊も、万が一"ゆりかご"が上空で自爆した時に備えて、高度を高めにとって退避していた。
「おい、信じられるかよ? あんなデカい代物が空を飛んで――崩れようとしてる」
アヴァランチが呟く。"ゆりかご"のような巨体が宙に浮かんでいるだけで驚くべきことなのに、それが崩れようとしているのだ。驚愕するほかあ
るまい。同僚のスカイキッドも、その光景に目を奪われていた。
「古代ベルカは、ずいぶん恐ろしいものを作っていたんだな」
「――そんなことより、メビウス1はどうなった? おい、ゴーストアイ!」
ウィンドホバーは内部に突入したメビウス1の存在を思い出し、ゴーストアイに問いかける。だが、返ってきた通信は非常なものだった。
「こちらゴーストアイ、メビウス1との交信は先ほどから途絶えている……」
それでも、パイロットたちは決して諦める様子は見せなかった。メビウス1が、伝説のエースがここでくたばるはずがない、と。
きっと、映画のようなハッピーエンドで締めくくってくれる、そう信じていた。

一方地上では、ウイングロードを展開して"ゆりかご"に突入しようとするスバルを、ティアナが必死に抑えていた。
「ティア、放してよ! なのはさんが、まだあの中に……」
「落ち着きなさい! 無茶よ、どの道あの高度じゃ行けない」
「そんな……」
がっくりと膝を突き、スバルは安全区域で"ゆりかご"を見上げるしかなかった。
――助けに行きたいのは、あたしだって同じよ。
ぎゅっと唇を噛み締めて、ティアナはスバルと同じく"ゆりかご"を見上げる。だが、それと同時に彼女はかすかな希望を抱いていた。
数十分前、リボンのマークをつけたF-22が"ゆりかご"艦内に強行突撃したとの情報を得ていたティアナは、彼ならなのはさんを助け出してくれる
かもしれない、と考えていた。
それがかすかな希望であり、そして複雑な心境の元だった。

ゴーストアイが引き続き、"ゆりかご"の様子を伺っているその時だった。艦体に入っていたひび割れが大きくなり、ついに"ゆりかご"の艦体は真
っ二つに折れてしまった。金属の軋む轟音はさながら断末魔のようで、見る者全てを圧倒した。
しかし、ここに至ってもレーダーにメビウス1の反応が無い。
――やはり、ダメだったか。
静かにため息を吐き、彼はヘッドセットを外そうとする。だが、そんな彼に待ったをかける反応が、レーダーに浮かび上がっていた。
慌ててヘッドセットを付け直し、ゴーストアイは表示されるコードを確認する。
レーダー上に表示される、新たな機影。併せて表示されるコールサインは――「Mobius1」だった。
「――いたぞ、レーダーにメビウス1を確認!」
327代理投下:2008/09/20(土) 20:51:00 ID:FIhgmMXM
「うわっ」
通信機を通じて耳を襲った歓声の渦に、メビウス1はたまらず悲鳴を上げた。慌てて通信機のボリュームを落とすが、それにしたってうるさい
ことこの上なかった。
歓声の渦に混ざって聞こえてくる、いつもの渋い声はゴーストアイのものだ。もっとも、彼もいつに無く興奮した様子だった。
「こちらゴーストアイ、聞こえるか!? スターズ1は、どうだ!?」
「……こちらメビウス1、スターズ1は救出。命に別状は無い……とりあえず落ち着け」
「了解、了解! よくやった!」
言うことを聞く様子の無いゴーストアイに、メビウス1は思わず苦笑いを浮かべた。
「……みんな、凄い喜びようですね」
同じく苦笑いを浮かべるのは、狭いF-22のコクピットで彼の身体の上に乗らざるをえないなのは。
なんというか、今この場を誰かに見られたらこう言われるだろう、「羨ましい!」と。実際、メビウス1も美人を乗せて飛ぶのは悪くない気分だ。
例えそこが狭いF-22のコクピットだろうと。
「あぁ……みんな、お前に生きていて欲しかったんだ。だから命は粗末にするもんじゃない」
「――ごめんなさい」
素直に、なのはは謝った。メビウス1は「分かればいいんだ」と頷き、とりあえずF-22の機首を母艦である"アースラ"に向けていた。
「…………」
「…………」
しばらく、二人は無言だった。メビウス1は操縦に集中しているだけなのだが、なのはの方は、何故だか気恥ずかしくなって、彼に声をかけられ
ずにいた。
――あったかいなぁ。
生まれてこの方、これほど長く異性の身体と密着している時間は無かった。飛行服とボロボロのバリアジャケット越しに伝わってくるメビウス1
の温もりは、度重なる戦闘で疲れた今のなのはには心地よかった。
「――あの、重く、ないですか」
口を開いてみて、なのはは激しく後悔した。いきなり自分は何を言い出しているのだ。確かに彼の身体の上に乗っかっている形だけども、今話す
ことではない。
もっともメビウス1は「んー?」と大して気分を害した様子は無い。
「……そうだな、ちょっと体重増えたんじゃないか? まぁー、美人なら多少の体重変化くらいどうって……痛い痛い」
ぽかぽかと迫力の無い打撃音が、F-22のコクピット内に響く。なのはが顔を真っ赤にして、メビウス1の頭をヘルメット越しに叩いていた。
「――失礼ですよ、メビウスさん」
「悪かった、機嫌直せ」
"アースラ"まではまだ距離がある。二人を乗せたF-22はのんびりと、蒼空を駆け抜けていく。
「この歓声が聞こえるか!? 聞こえんとは言わさんぞ!」
通信機の向こうでは、地上の陸士や空戦魔導師たちが力の限りの歓声を上げていた。

"ゆりかご"、内部崩壊を起こして自沈。ナンバーズも全員が確保された。
管理局は、クラナガンの奪回に成功する。
だが――確保された人物のリストの中に、ジェイル・スカリエッティの名はどこにも見当たらなかった。
そして、そこから先こそが、"恐ろしい御稜威の王"が蘇る瞬間でもあった。
328名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 20:51:52 ID:llvVGXhw
僕にはまだ帰れる所があるんだ支援
329代理投下:2008/09/20(土) 20:52:30 ID:FIhgmMXM
投下終了です。またさるさん規制食らったorz
と言う訳でクラナガン奪回です。37KB、しんどかった(ぉ
ここから先は、原作にない展開になりますので、どうかよろしくお願いします。
330名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 20:53:59 ID:XWBF1yAz
変に二重投降・・・○| ̄|_

04と5のラストと無敵艦隊撃滅を足したような感じだな
331名無しさん@お腹いっぱい:2008/09/20(土) 21:05:50 ID:AfaT1bqN
GJ!!
なんか、きな臭くなってきたな。
スカさんはいったいどんな隠し玉をもっているのか・・・
だが、メビウス1大空のデートとはなんて羨ましい
そろそろ終わりも近そうですが、次回も楽しみに待ってます。
332名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 21:09:56 ID:XWBF1yAz
最後の最後でX-02に・・・
は流石にないか
333名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 21:12:53 ID:b766a8Nu
GJです!
一人の超エースは戦況をも変えてしまう……。
そしてスカ公がなにやら企んでますが、彼ら彼女らならどうにかしてしまうものと確信してます。
334名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 21:45:04 ID:rag1eIbP
原作三部作どれも見たことないのにこのシリーズにはまってしまった俺w
メガリス戦期待してます!
335名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 02:05:14 ID:Ub/FEDUc
GJ。
次のスカの仕込みはまさかSOLG&V2か?
336名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 02:49:58 ID:qoCp9mV2
GJなんだぜ!
某所の影響か知らないが、オメガ11がいればなんて思ってしまったw
地上の味方のピンチに颯爽と機体からベイルアウトし登場w
詳しくは各自で調べて欲しいよ。

いよいよエスコンお約束の超兵器がくるw
ベルカ繋がりでエクスキャリバーかSOLGか
モルガンとか・・・パイロットはもちろんスカ博士でw
337名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 03:46:57 ID:Z8HxSb6Q
トンネル潜りはあるのだろうか・・・

338名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 13:28:55 ID:b+vzBEY4
http://jp.youtube.com/watch?v=OrNWX9GkgLg&feature=related

Rex Tremendae

恐ろしい、
恐ろしい御稜威の王よ、
あなたは救われるべき者を無償でお救いになる。
慈しみの泉よ、私もお救い下さい。
339名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 13:39:57 ID:2qcpBFMy
>>2
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
 著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
340名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 13:44:36 ID:b+vzBEY4
>>339
申し訳ない
しかもh取るの忘れてるorz
341一尉:2008/09/21(日) 15:07:44 ID:06FZ6K4b
ふむよいお話たな。支援
342りりかるな黒い太陽:2008/09/21(日) 15:41:38 ID:Uf8KYaeb
予約がなければ16:00から久しぶりに投下を行います。
343名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 15:59:22 ID:VxlzbyDp
<<こちらゴーストアイ、部隊の一部を支援にまわす!>>
344りりかるな黒い太陽_3話:2008/09/21(日) 16:01:34 ID:Uf8KYaeb
乾ききり、荒れた荒野を転がる光太郎を数条の熱線が追いかける。
光太郎が飛び去った地面を焼く熱線は、当たれば変身していない光太郎の体を容易く貫く威力がある。
反応が遅れた実験開始当初に焼ききられ、穴が開いた数箇所を中心に赤黒く染まった白いドレスシャツがその威力を物語っていた。
砂埃に汚れてしまった新調したばかりの服は、確実に改造されているのに、普通の人間と同じように擬態した血液に染められ、血を吸った砂を貼り付けたまま乾いている。
髪と服に入り込む砂を零しながら光太郎は転がり、横に飛び土煙の中を走り抜けていった。
そうして、一度に放たれる数と次が放たれるまでの間隔を計っていた。

クライシス帝国の改造人間が見つかった時のために、実験に協力してほしい。
早々に光太郎の体を調べても無駄だと判断したスカリエッティが光太郎にそう頼んで来た。

光太郎は最初、断るつもりだった。
だがウーノ達を使い何度も頼み込んでこられ…こうして参加する羽目になった。

対峙することになった機械兵器の性能を計り終えた光太郎は、機械兵器との距離を確実に詰め、唯一の武器である拳を突き出す。
改造される前に習い覚えた空手の突きが熱線を放つ機体正面の黄色い、センサー状のパーツを貫き通す。

戸惑うことを知らぬ異世界の機械兵器は尚も反撃に転じた獲物を殺すべく射線を確保しようと移動していく。
それに応じて、光太郎も拳に貫かれ壊れかけた機械兵器を盾に動き回る。
光太郎は視線を四方へ世話しなく動かしながら、迷っていた。

(このまま素直に協力していていいのか?)

スカリエッティの下に来てから、急にそんな考えが湧き上がっていた。

グランシス帝国の改造人間が現れた時の為にデータが欲しいという事情は光太郎にもよくわかる。
この姿で戦って見せても彼らがクライシス帝国と戦う時に必要なデータは全く集まらないだろう。
むしろ、無い方がいい…自分から相手を裏切ることに罪悪感も感じていたが、それでも光太郎はまだ変身できなかった。

一見友好的ななスカリエッティが信用できない。
たかがそれだけのことが、変身をするかどうかの判断を決めかねさせていた。
その間にも機械兵器のアームケーブルが伸び、先端に付いたアンカーが風を切って襲い掛かってくる。
光太郎はゆっくり二体目を撃破しにかかる。

勿論そんな光太郎を、検査の場合と同じくスカリエッティはモニター越しに観察していた。

「見たまえ、(初めて見る皆達の為に説明するが)彼が例の検査不可能なクライシス帝国の改造人間だ」
「ドクターでも無理だったんですか?」
「ああ、素晴らしい隠蔽技術だ。手を尽くしてみたが、困ったものだよ。まるで普通の人間のようだ」

困っているどころか実に楽しそうに言うスカリエッティに、複雑な顔でモニターを見つめていたチンクが尋ねた。

「ドクター、彼のスペックは?」
「君達よりは全体的に高めだが、それだけだな。ISもない…まぁこれだけのステルス能力はそれだけで価値があるがね」

何人かはそれを聞いて内心首を傾げた。
彼女らの目には、光太郎は彼女らの生みの親がわざわざ姉妹を集めて見物するほどの物ではないように映っていた。
浮かんだ疑問をウーノが口に出そうとした瞬間新たに一つ、大きな通信画面が開いた。
光太郎の映るモニターと同じように砂埃の舞う荒野を背景にして、クアットロが顔を出す。

「えー? ドクター、みんな呼び出しておいてそれだけなんですかぁ〜?」

話を聞いていたらしく、クアットロはおどけた仕草で口元を手で隠す。
彼女が愛用する伊達メガネのレンズが強い日差しを反射し、スカリエッティ達からはその表情は窺えなかった。
だが詰まらなさそうな言葉の端々でクアットロが嘲笑っているのは明白だった。

「キモーイッ、IS無しで許されるのは人造魔導師までよねぇー。ねぇチンクちゃん、あなたもそう思わない?」

嫌らしい笑みを手で隠したクアットロはガジェットの放つ熱線をかわし、距離を詰めて殴り壊す光太郎を嘲う。
ガジェットを素手で倒す程度の能力はあるようだが、異世界の改造人間である光太郎を彼女は見下していた。
ISもなくガジェットとの距離を詰め、的確にガジェットの急所を拳で貫き一機撃破するしかない光太郎を実に楽しそうに見ている。
345りりかるな黒い太陽_3話:2008/09/21(日) 16:04:09 ID:Uf8KYaeb
「クロスレンジの能力は高い」

一つしかない目でその動きを眺めていたチンクは冷静な口調で姉に返事を返す。
返事を聞いたクアットロはチンクに含みのある笑みを一瞬向けた。
それに顔を顰め、チンクはナンバー3トーレへと目で意見を求める。
ナンバーズの実戦リーダーであるトーレは実戦経験も多く、光太郎の能力を正確に評価できる。
自分に同意してくれるはずと期待しての行為だったが、トーレは素っ気無い口調で「だがそれだけだな」と答えた。
身体能力で上回るものがあろうと、彼女らのISと比べられる程の物には彼女には見えなかった。

「皆、結論を急いではいけないな。次はもっと大量にだして見よう。どのくらいいけるか試して見ようじゃないか」

そう言って、スカリエッティは会話を止めると多数のガジェットを光太郎の側へ送り出す。



だがそれから…ガジェットガジェットと格闘を行う光太郎を見て10分もすると、スカリエッティの顔からは笑みが消えていた。
光太郎の戦い方は近接戦闘を行うナンバーズの参考にはなるかもしれないが、そんなもの見せられても研究者であるスカリエッティが面白いはずも無い。

数を増やし逃げ回るだけになっても、光太郎はどこからか武装を出すわけでもない。
光太郎の焦りの無さも気に入らなかった。少しずつだが光太郎は傷を負っている。
そんな状況であってもスカリエッティの素人目だが動じた様子は微塵も感じられなかった。

「フム、期待はずれだったかな…」

スカリエッティの呟きが光太郎と彼の作り出したガジェットが生み出す騒音に紛れて消えた。

(ちょっと勘が鋭すぎるが)お人好しの間抜けな青年がスカリエッティ達を見るあの眼差しはモニターの中でも何ら変わりない。
その目の奥にある輝きも…あの、黒い瞳の中に時折光る火花。
信頼するウーノにさえ言っていない(最もウーノはウーノ独自のスカリエッティ観察眼によって何か気付いているのかもしれないが)、
今はまだスカリエッティだけが気付いている閃光にスカリエッティは科学者らしくもなく、何か神秘的で、とてつもなく危険なものを直感的に感じただけでなく、その直感を理由もなく信じていた。

スカリエッティがその火花に気付いたのは、光太郎の体を隅々まで検査し何もわからないでいる時だった。

光太郎の持つ雰囲気、その一挙手一投足。
光太郎の肉体が、素人はおろかスカリエッティの目にも普通の人間の細胞の一つ、血液の一滴にしか見えないサンプルが、何かを。
何かを、異端だが紛れも無い天才であるスカリエッティに訴えかけ、スカリエッティに何度も何度も見直させていた。
そんなある日、スカリエッティは検査を行った後光太郎に幾つかの質問を行った。その一つに答える光太郎と目が合った瞬間だった。

研究の為に訪れたある世界で偶然皆既日食を体験した時のような、言い表せない感情が稲妻となってスカリエッティの体を突き抜けた。

光太郎は何か切り札を隠し持っている―スカリエッティはそう確信した。
スカリエッティはその感覚の原因をそう考えた…そして激しく燃えるきらめきに、わけもなく胸を躍らせていたスカリエッティはモニターを見上げて拍子抜けしていた。
日曜の朝テレビの前である番組が始まるのを待つ子供と大差ない気持ちで、古代ベルカの機械兵器を基に作り出したカプセル型の機械兵器と戦う光太郎を見始めただけに落胆は大きかった。

クライシスの改造人間達と同等以上の光太郎の戦闘データを得たいというのは事実だが、そんなのは、ただのつまらない作業だ。
機械兵器と対峙させれば、隠している何かを見られるのではないかと期待したからナンバーズを集めてみたが、泥臭いだけ。
必死に戦う様が美しいとか言う輩もいるらしいが、スカリエッティにそんな趣味は無かった。

ため息混じりにデータも大体取り終え、光太郎の肉体のスペックは計り終えたのを確認したスカリエッティは、今はどうすれば面白いデータが取れるか、この落胆が薄まるかを考えていた。
こんな下らないデータを得る為に無駄な時間を過ごしたのかと苛立ちが沸いていた。
だが、この程度の危機では切り札を隠し通すつもりなのかもしれない…リスクはあるがスカリエッティは、破棄も止むなしと決定した。

「これ以上やらせても意味がない………」

計りながら作成していたスペック表をざっと眺め、彼は光太郎から少し離れた場所で待機している娘達を見る。
「ディエチ、君のイノーメスカノンで彼を狙撃してくれないか?」
「ドクターったらひっどぉーぃい!もう壊しちゃう気なんですかぁ!?」
346りりかるな黒い太陽_3話:2008/09/21(日) 16:06:50 ID:Uf8KYaeb
頼んだディエチより先にクアットロが砂に塗れながら無邪気に笑う。
嗜虐心に輝いた目は、クアットロのいる場所から微かに見える小さな点へと向けられた。

「まだ巻き込むけど…?」

そしてモニターの枠の外で、砂に塗れながら待機していたナンバー10 ディエチの声が返ってきた。
念には念をと、スカリエッティの指示でクアットロと隠れていたディエチは、目の中に埋め込まれた機械を作動させ照準を合わせていた。
レーダーや電子システムさえも惑わすクアットロのIS、シルバーカーテンで姿を隠し光太郎の動きを観察していたディエチは消極的だった。
ロングヘアーを後ろで縛った頭を振り、髪の毛に入り込んだ砂を振り払う。
茶化すクアットロと平然と先日まで愛想良く会話をした相手を撃てと言うスカリエッティに、微かに表情が歪んでいた。

「構わないさ。それはそれでイノーメスカノンの良いデータになる。もういいからさっさと片付けてしまってくれ」

笑みを浮かべたスカリエッティは戦い続ける光太郎へと、表情とは裏腹に感情のない視線を送っていた。
そんなスカリエッティを見たディエチは即座に横に置いていた固有武装『イノーメスカノン』を手に取った。
大きな無反動砲のようなそれを抱え、狙撃体勢を作る間に微かに表情に出ていた不満はすっかりとなりを潜めていた。

だが、姉妹達の中でディエチと組むことが多いクアットロは、騙されている光太郎を狙撃することにディエチが納得していないことに気付き、「お馬鹿なディエチちゃん」と小さく零した。
幸いその呟きも、イノーメスカノンの駆動音に紛れてディエチの耳には入らなかった。

優秀な狙撃手であり、つい今しがたまでゆっくりと観察していたディエチには、相変わらず機械兵器群と格闘を繰り返す光太郎を狙撃することは容易いことだった。

クライシス帝国の怪人が流れ着いた時の為のデータ取りなんて適当な言葉に騙され、葬り去られようとする光太郎に同情が募るが…この距離なら、光太郎は何も気付かず気付いた時にはイノーメスカノンのエネルギー弾に潰されている。
それが不幸中の幸いかもしれないと彼女は考えた。

ディエチの先天固有技能『ヘヴィバレル』がディエチのエネルギーを変換していく。
そして精神を研ぎ澄まし、遠くに映る小さな的へと照準を合わせた彼女は、不意に光太郎と目が合った。
驚いたものの、ディエチは構わず引き金を引く。赤い光の束がイノーメスカノンから発射された。

狙い違わず、エネルギー弾は光太郎に着弾し、ガジェット達も巻き添えにして大きな爆発を起こす。

「ふふふ、証拠隠滅まで完了よね」
「…黙って。まだ生きてる」

自分をはっきりと見ていた光太郎の目が脳裏に焼きつき、微かに青くなるディエチとクアットロの視線の先で着弾地点の煙が晴れていく。

「あっらー…なんだかもっとキモくなってなぁ〜い? ドクター、どうしましょうか?」

唖然としてクアットロが言う。
煙の中で光る感情の感じられぬ赤い目が、ディエチを見つめていた。
やがて…近くにいたガジェットを破片も残さず粉微塵にし、離れていたガジェットの破片が散らばる荒地に立ち上っていた煙の殆どが消えると、姿が完全に見えた。

『っクっクっクッ…はは、はははははははは!!』
スカリエッティの笑い声が響く煙が晴れた砂埃舞う大地には光太郎の姿は無い。
光太郎の立っていた場所には、光さえ飲み込むような黒い…バッタに似たフォルムを持つ長身の怪人が立っていた。
黒い体に、深い緑色の腿、二の腕、胸に刻まれた紋章「R……X?」男の全く損傷の無い四肢が微かに蠢き、残っていた煙が薙ぎ払われる。
煙が晴れたお陰で、体中が煤け、着弾したらしい部分の色が微かに変化しているのが見えた。

だが恐らくは損傷の為に色が変化したその部分も見る間に美しい緑色へ戻っていく。

あれ?
だが何度瞬きをしても緑色の皮膚にはもう、傷一つ見当たらなかった。

『はははははははは! ウーノ! 光太郎に回線を開いてくれ。二人には聞こえないようにね』

自分に聞こえないようになどと言うスカリエッティにディエチは抗議したが、スカリエッティは鼻歌を歌いだしそうな上機嫌さで光太郎に通信を開いた。
画面に映った光太郎は、整った顔立ちをした青年ではなく…黒い肌赤く輝く昆虫そっくりの複眼が映った。
触覚もついているのを見て本格的だなと、スカリエッティがほぅ、と興味深げに呟いた。
347名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 16:09:59 ID:J92POtaW
そのとき支援が起こった。
348名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 16:12:36 ID:5KAEjAnw
これは支援の仕業だ!
349名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 16:13:39 ID:krZLgsJo
支援支援
350りりかるな黒い太陽_3話:2008/09/21(日) 16:14:18 ID:Uf8KYaeb
『光太郎。新たな目標として試作機を出したんだが、見えるかい?』
『…見えないが、居場所はわかる』

満面の笑みのまま、スカリエッティはさも申し訳ないといった態度を装おうとして謝罪を口にした。

『あぁすまない…!どうやら暴走してしまったらしい。破壊してくれ』…ディエチには聞かせずに交わす言葉に、ナンバーズ達の表情も青褪める。
『……お前の作った戦闘機人じゃないのか』
『いやいや心配はいらない。人型だが、さっきまでの機械兵器と何も変わらないことは私が保証しよう』

チンクらと同じような存在ではないのかと気にする光太郎とそれでも問題ないと考えるスカリエッティ。
二人の視線が交差した。

『本当だな?』
『こんな嘘をつく必要などないだろう?』…スカリエッティは通信を切り、勢いよく白衣を翻して振り向いた。

『よし、これでRX?の攻撃データを得られるぞ。ウーノ準備はいいかね?』と彼は上機嫌に言った。

その間ずっとバッタ怪人は、ディエチを見ていた…
通信が切れたのと時を同じくして―ゆっくりと近づき始めていた怪人は、何も言わず走り出す。
ただ走っているだけのようだが、速度はそこいらの魔導師の飛行呪文や車よりも速い。土煙をあげながら、大きくなっていく標的からディエチは目を逸らした。
何も知らないディエチが慌ててスカリエッティに尋ねた。

「え? ド、ドクター…ど、どうするの!?」
『ん?…え?……ああ、! そうだね。近頃流行の管理局のエースオブエースを見習って、全力全壊というのはどうかな?』

自分がやけに素早い赤い複眼の怪人に迫られて無いからか、ディエチの耳にはドクターの声は寧ろ先程までより楽しそうに聞こえた。
だが彼女らにはそれまで、スカリエッティの言動に疑念を持ったりすることもなければ、反対することもなく素直に大砲を構えなおした。
長距離から狙撃を行ったお陰で、チャージする時間はあったが…距離を詰めてくるバッタ怪人から受ける本能的な恐怖にディエチの精神力は減衰していた。
そんなディエチに生理的に受け付けないのか、視線を逸らしたクアットロが言う。

「ディエチちゃん、急がないと取って食べられちゃうわよぉ。ドクターの仰るとおり、全力全開でさっさと壊しちゃいましょう?」
「う、うん」

スカリエッティの命令と嫌悪感たっぷりのクアットロの声に背中を押されたディエチは素直に照準を合わせ、もう一度引き金を引く。
着弾…だが、だがすぐにバッタ男は煙の中から無傷で出てきた。

いやよく見ると、着弾した部分が煤けているしどことなく怒っているような気がした。
二度目の砲撃で二人の位置を掴んだのかその足は真っ直ぐディエチへと向かっていた。

「ちょ、ちょっとドクター!? これって本当にAランク並の威力出てるんですかぁ!?」

ヒステリックに叫ぶ姉に、生みの親は安全な場所で小躍りしながら視線を向けようともしなかった。

「うん、それは間違い『勿論それは間違いない。改良の余地はあるが測定データもちゃんとそれに見合う値を示しているよ。ほぅ…先ほどよりもダメージは少ないようだが、もしかしてもう耐久力が増したのかな? ウーノ、データは取っているだろうね』
『勿論ですわ』

迫ってくるバッタ男を見た瞬間から恐怖に駆られていたディエチは、暢気な創造主達の会話を聞いてイノーメスカノンを投げ捨てた。
一番上の姉の口調がどこか得意げだったのが腹立たしかったが、そんな余裕はディエチにはなかった。
迫り来る得体の知れない存在への恐怖が、スカリエッティに作り出された彼女の体を支配し、飛行能力のないディエチは飛行能力を持つクアットロの体へとしがみ付いた。
『二人とも逃げろ! 姉が行くまでなんとか生き延びるんだ!』

我に返った姉の一人が何か叫んでいるのが耳に届き、クアットロの体が宙に浮いた。

『おお、! 足も速い…皆、ここを見てくれ。時速にして約300にまで到達したぞ』

大砲を捨て、その場を放棄したディエチは姉に言われるまでも無く全速力で走り出していた。
だが、バッタ男はもっと速く…二人の移動に気付いたのか鮮血の色に光る複眼が、空へと舞い上がった二人に向けられていた。

「ド、ドクター!? 助けてくださいッ!!」
『フフフ、いいぞ!! 面白くなってきた。これならいくら調べても中身がわからないのも頷ける…映像から再度データを検証しなおそうじゃないか!』
351名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 16:16:34 ID:J92POtaW
俺は支援の王子。
352りりかるな黒い太陽_3話:2008/09/21(日) 16:17:13 ID:Uf8KYaeb
二人がスカリエッティの笑い声に絶望し、バッタ男が追いついた瞬間…バッタ男の前に通信画面が開いた。

『待ってくれ光太郎! すまない、今のはちょっとしたドクターの悪ふざけなんだ』

モニターに映っているのはチンクだった。
その背後に腹を押さえて、くの字になって床に転がるスカリエッティと、介抱するウーノの姿が見えたが誰も気にしなかった。

「ふざけるなッ変身してなかったら怪我じゃすまないところだったぞ!」

スカリエッティや世話役のチンクも初めて聞く怒声に、妹思いなナンバーズから一撃食らって床に転がっていたスカリエッティは満面の笑みで光太郎を見上げた。

『変『悪かった。それについては謝ろう、本当にすまない…ドクター、貴方からも謝ってください』
『あぁそうだね、すまない。君の反射神経もチェックしたくてね。だからせめて弱い設定にしておいたんだが、必要なかったかな? 君のその姿について教えておいてくれれば、他のやり方もあったんだけどねぇ…?』

好奇心に胸を満たされ、恐怖や相手に対する配慮などどこかに置き忘れてしまった創造主を見てナンバーズ達は皆「これが無ければ…」と零した。

ディエチも思わず、「光太郎さん、嘘です。信じちゃダメです。」と目で訴えかけた程だ。
だが当の光太郎は、「全く、もう少し考えてくれ」と不満を零すだけだった。

迎えをやる。
そういわれた光太郎達は、多少気まずい空気を残しながら、砂塵の舞う荒野に暫く残されることになった。

光太郎は何も言わず、変身を解くこともない。
自分が襲いかかろうとしていた二人から目を放し、照りつける太陽と雲ひとつ見えない空を見つめていた。
空の色は緑がかっていて、ここが地球ではないことを光太郎に突きつけていた。

光太郎は気にしていない風を装おうとしながら、内心冷や汗をかいていた。
嫌な予感は消えてはいない。
裏づけとなる客観的な理由はないが、スカリエッティに変身した姿を晒したのは間違いだったのではないか…と感じている。
だが実際、生身なら今の砲撃は耐えられなかった。

変身させられたせいでこの姿のデータも奴は取りたがるだろう。
協力することは約束したのだから、最初から見せるのが筋だったのだろう。
だが…嫌な予感がする。

それに以前の光太郎なら、もっとダメージを追っていたのではないかと思う。
狙われている事に気付きそのエネルギー弾がかなりの高エネルギーである事を察知した時、"不思議なこと"が起こったのかもしれない。
以前はもっともっと追い詰められなければ、こんなことはなかった。

(俺の体は、魔法に対して神経質になっているのか?)

胸に浮かんだその考えは、スカリエッティへの追求を弱めていた。

(撃たれる直前…スカリエッティ達の声が聞こえたような?)

念話の存在を知らない光太郎は不思議がりながら宙へ浮かぶ二人の足元へと向かっていく。
二人を光太郎が殺そうとしているに気にも留めないとは、光太郎は考えなかった。

ここに連れてこられた時のように、転送魔法によってスカリエッティの研究所へと戻るなら二人と一緒にだろうと近寄ってきた光太郎に…悲鳴が上がった。
宙に浮かぶクアットロは黒い物体を発見したかのように頬を引きつらせて離れていく。

それに気付いた光太郎は無言で足を止める。
RXの姿になっているせいだとはわかったが、新調した服は駄目になってしまった光太郎は変身を解除することもできない。
迎えを待つ間、三人の間にはより気まずい空気が流れていた。
353りりかるな黒い太陽_3話:2008/09/21(日) 16:21:49 ID:Uf8KYaeb
以上です。
中々しっくり来ない…OTL
光太郎にデバイスいらないんじゃないの?と思ってるんですが…空飛べたかな
むしろ飛べないほうがいいのか…
354名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 16:26:21 ID:cWUbkeGN
乙!

大丈夫光太郎ならそのうち不思議なことが起こって普通に飛べるようになるさ。
355名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 16:28:01 ID:J92POtaW
地雷原の上でタップダンスを踊るスカリエッティ…w
リボルケインはアームドデバイスに入るのやら入らないのやら。

今回も楽しませて貰いました。
356名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 17:19:21 ID:y2fQ19WK
>>353
バイオでゲル化すれば飛べる、それこそ光速度でwww
357リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/21(日) 18:31:09 ID:krZLgsJo
21:00頃に投下予約をお願いします。
358名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 19:26:38 ID:G0pTmC+L
了解しました。
359名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 19:31:17 ID:yCRSM+hR
ダンボール内で待機!全裸で!
360名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 19:37:04 ID:GNLGf9on
>>353
GJ!不思議なことがおきたならしょうがないw
垂直跳び60mはいけるから空中戦は足いかせば充分だと思う。
361名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 19:41:01 ID:LIh7WGpe
GJ!
環境に適応して飛べるようになっても不思議じゃないなw
362名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 19:47:33 ID:EYdYrvE3
それに空を飛べる相手に苦戦するのは仮面ライダーの華
いざとなったら偉大な先輩の技を借りるんだ!
363作者の都合により名無しです:2008/09/21(日) 20:13:49 ID:DRoEsS3F
まぁ飛べるライダーもいるしいいんじゃないですかね?
続きを楽しみにしてます
364名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 20:49:47 ID:40dWN+UI
いやRXは飛べなくても最強のライダーだし、創世王になって既に最終回の時より強くなってるんだからもう十分では?
平成ライダー達の各最強フォームでも、ノーマルのRXと互角に戦えそうなのってホンの数人では?

クウガアルティメットフォーム・・・微妙
アギトシャイニングフォーム・・・ ちょっと厳しい。
龍騎サバイブ・・・ドラグレッターがいればそこそこ。
ファイズブラスター・・・飛びながら遠距離戦のみなら、接近されたら無理
ブレイドキングフォーム・・・基本戦闘力的には一番有力か?
アームド響鬼・・・鍛えてます、でも攻撃力的に厳しい。
ハイパーカブト・・・ハイパークロックアップに対応されなきゃなんとか。
電王クライマックスフォーム・・・何でもありというか、光太郎兄ちゃんの幸運に対抗できるのはこいつ等ぐらいかもしれん。

少々RXびいきだが世代なんだから仕方ない。えっ!?キバ? 既にヴァンパイアって設定で勝ち目無いでしょう。だって相手は太陽の世紀王(今は創世王)でしょ。
365名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 20:52:31 ID:KtX8sXMh
おっと、それ以上は雑談じゃないかな
続きはウロスに行くんだ
366名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:01:31 ID:8wK5XDed
スカリエッティ達が光太郎をクライシスの改造人間と勘違いしてるのには、全力で突っ込みいれたくなった。ゴルゴムの世紀王ブラックサンは、大神官ダロム自らが改造した純地球製?の改造人間じゃい。地球舐めんな!と。

「仮面ライダー 世界に駆ける」を見ると、クライシス怪人は一対一ならRXの三分の一のパワーしかないBLACKにも勝てないことが分かります。1話で無事に変身できてたらスカル魔如き雑魚同然だったハズ!
367366の人:2008/09/21(日) 21:02:54 ID:8wK5XDed
もう書き込んじまったよ・・・次の人はウロスに行ってくれ。
368リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/21(日) 21:02:58 ID:krZLgsJo
それではそろそろ、リリカルギア第九話の投下を始めたいと思います。
369リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/21(日) 21:04:20 ID:krZLgsJo

動物は自らと異なる姿、異形を本能的に嫌うものだ。
人間はその中で最もその傾向が強いと言えるだろう。
人間という生物は僅かな思想の違い、貧富の差、果てには肌の色が違うだけで、相手に容赦の無い悪意や敵意をぶつける。
そんな考えも時代の移り変りによって変化を遂げるが、根強く残っているのも事実だろう。

だがそんな考え方から、見放された男がいる。
その男は通常では存在しえなかった生物。
即ち『怪物』とも言い換えられるだろう。
男の出自を知りながら、その世界の住人は男を『英雄』と呼び讃えた。

『英雄と呼ばれた怪物』である。

「……『英雄と呼ばれた怪物』、か。ますます興味を抱いてしまうじゃないか――ソリッド・スネーク君? ……フフ。フフフ、ハハハハハ!!」

白衣の男、ジェイル・スカリエッティの不気味な笑い声が、彼のアジトに響き渡った。

第九話「青いバラ」

真っ黒なタキシードを着用したスネークは、落ち着いた、それでいて気品溢れる内飾が施されている廊下をゆっくりと歩く。
成る程、空間に見合った格好の連中が闊歩している。
正直、あまりスネークが好む場所ではない。
タバコが欲しいところだな、なんて考えていたスネークは目の前の扉をノックして、ドアノブを捻る。
その部屋の中には、一人の男がいた。
ハニーブロンドの長髪をリボンで纏め、旅をしていた時の小汚い服装ではなく、男の役職に見合うきっちりとしたスーツを着ている。
スネークは笑みを浮かべ、恭しく男に話し掛けた。

「スクライア司書長、会えて光栄だ」
「……やめてくれよ、スネーク。君にそんな風に呼ばれると……こう、嫌な感じがする」

男――ユーノ・スクライアがブルッと震え、肩を竦める。

「何、司書長として返り咲いた祝いの言葉みたいな物だ」

一司書として出直す、なんて言っていたユーノだが、いざ無限書庫へ行ってみれば彼を待っていたのは熱烈な歓迎。
当時の司書長はその座をユーノに譲り渡すと嬉々として宣言し、司書達も歓迎の拍手を送った。
上層部もそれをあっさりと承認。
結果、一度は断ったユーノも再び司書長という立場に落ち着く事になった訳だ。
局内ではちょっとした話題にもなっているらしい。
自分の事を卑下していても、やはり能力面では素晴らしいものがあったのだろう。
ユーノは気恥ずかしさを誤魔化すように頬を掻いた。

「それはどうも。……君もタキシードが似合っているね、正直見間違えたよ。スニーキングスーツよりもずっと良い」

格好を褒めるユーノにスネークは顔をしかめ、蝶ネクタイをいじってみせる。

「……どうも窮屈で行動しづらい。戦闘には向かないな」
「おいおい、わざわざ買って上げたんだ、そんなに文句を言わないでくれ。……それにしても、やっと意味が分かったよ」
「……俺がお前に動向を申し出た理由か?」
「うん。……君、ここのオークションなんかじゃなくて、六課の警備が目当てだろう?」

ズバリ言い当てるユーノに、正解だ、とスネークは微笑んだ。
そう。ここはホテル・アグスタの一室、ユーノにあてがわれた控え室だ。
ここで行われるオークションで出品されるロストロギアを、ガジェットドローンがレリックと誤認する可能性がある。
その予測の元、会場の警備に機動六課がついたのだ。
話に聞いていただけのガジェットという自動機械にも興味を持っていたし、暇を持て余すのは不満だった。
そこに舞い込んできた、ユーノが鑑定の仕事を受けた、という話。
これを利用しない手は無い、という訳でユーノに同行を願い出て現在に至る。
六課の副隊長陣、シグナムとヴィータが一足早く警備についているのをチラリと見たが、隊長陣も既に到着している事だろう。
370名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:05:16 ID:xjtkUB2T
sien
371リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/21(日) 21:06:06 ID:krZLgsJo

「……全く、君も相変わらず元気な男だね」
「ふかふかのベッドが安眠を提供してくれているからな」
「そう言わないでくれよ、テント生活も悪くは無かっただろう?」

臭い骨董品さえ無ければな、と不適に笑うスネーク。
ユーノはしかめっ面を返しながらも、やはり苦笑する。
そんな中、控え室にノックの音が響いた。
やけに大きく聞こえる。

「ユーノ先生、そろそろ準備をお願いします」

はい、という返事と共に立ち上がるユーノ。

「もうすぐ開始か?」
「うん。君はこれから警備の所に行くのかい?」
「ああ。……とは言えガジェットとの戦闘は、直接は見れないだろうがな」
「空間モニターを用意してもらえれば御の字って事?」
「そういう事だ」

良く分かっているな、とスネークは苦笑して立ち上がり、控え室を後にした。



スネークがテラスへ出ると、見慣れたバリアジャケットを身に付けた少女達が立っていた。
スターズ分隊の隊員、スバルとティアナは緊迫した表情を浮かべていたが、スネークを見て驚愕している。
どうやら、タイミングは良かったらしい。
スバルが歓声を上げる。

「スネークさん、カッコイイです! うわぁ、タキシード似合ってますね!」
「コラ、バカスバル! 全く……スネークさん、オークションは良いんですか?」
「……オークションよりも面白いものが見れそうだからな。敵襲だろう?」

はい、と頷くティアナは指揮を取っているシャマルに連絡を取り、空間モニターを表示させた。

「……これが、ガジェット・ドローンか」

青掛かった、丸みを帯びたボディが群れを成して移動している。
小型が多いが、中には人の体よりも一回りも二回りも大きい型の機体も伺える。
このガジェットは、単体でAMFという魔力結合を阻害する空間魔法を発動する事が出来て、魔導士の天敵らしい。
スネークがそれらをじっくり見ようとする間も無くモニターから爆発音がこだまして、ガジェットは粉々に吹っ飛んでしまう。
六課の副隊長陣と、喋る犬だ。
騎士甲冑を身に纏ったシグナムが剣を一閃させれば、巨大なガジェットは切断面を曝け出させて爆発。
可愛らしい姿に反して溢れる闘気を放つヴィータが巨槌を振れば、打ち出された魔力弾がガジェットに寸分違わず命中し、例外無くそれらを破壊する。
そして喋る犬、ザフィーラが気迫の籠もった叫び声を上げれば、地面から生えた粛正の針がガジェットを貫く。
堅実だった現実感が音を立てて崩壊していくのをスネークは実感して、恐怖した。
魔法だのなんだの言われ続けたが、さすがに人形や犬が喋るのはやりすぎだ。

「……犬は喋らんぞ」

スネークがそう呟いた直後、ユーノ自作の念話用カード型デバイスがシャマルの念話を受け取り、スネークの脳内に再生させた。

『ザフィーラは犬ではなくて、狼ですよ』

スネークはシャマルの弁に返事を返さずに溜め息を吐く。
そんなスネークの様子に気付かぬままスバルが、わぁ、と声を上げた。
二人ともモニターに釘づけになっている。
372リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/21(日) 21:07:22 ID:krZLgsJo

「副隊長たちとザフィーラ、凄い!」
「これで能力リミッター付き……スネークさん」
「……何だ?」

ふと思い立ったように、ティアナがスネークに視線を移した。
副隊長達の実力に感動している訳では無さそうだ。

「スネークさんも射撃型ですよね?」
「まぁ、剣を振るったりする事は無いだろうな」
「……シグナム副隊長との模擬戦で接近戦を仕掛けて、見事一撃入れた、と耳にしました」

真剣味を帯びたティアナの言葉に、スネークは数日前の記憶を掘り起こす。
人質を取られてシグナムと止むなく戦ったその記憶は、スネークを苦笑させる。

「相手が手加減をしていて、俺の方は麻酔銃しか装備を持っていなかったから取った戦法だ。いつもは銃に頼ってばかりの兵士さ」
「それでも、凄いです。私なんて……。スネークさんは、何か接近戦の訓練を受けていたんですか?」
「……一般的な閉所における戦闘法、CQBなら」
「……そう、ですか。……私も……」

質問をスネークに投げ掛けてきたティアナは、どこか思い悩んだように見え、瞳が放つ光は弱々しく感じられた。
兵士なら誰でも習うだろうCQBの話を出して、スネークは嫌でも『それ』を思い出す。
屋内等二十五メートル以内での接近戦闘術を指すCQBに対して、敵と接触ないし接触寸前、銃の使用が難しい程近距離の戦闘術、CQCだ。
伝説の兵士ビッグボスが最も得意としていて、彼の代名詞とも言える戦闘術。
もしもスネークがそれを彼から直接習っていたとしたら、積極的に使っていただろうか?
ふと湧いた疑問に、どうだろうな、とスネークは首を振った。
潜入任務は現地調達が当たり前で、使える物はなんだって使うのが基本だ。
だがスネークは元々刃物が余り好きではないし、CQCを使うような状況でも知恵を振り絞り、時には力押しで問題無くやってこれた。
それが通用しなくなる位に頭の回転速度や体力が衰えた頃には、既に現役を退いているだろう。
ティアナはスネークの返答に黙り込んでしまい、スバルがそんなティアナの様子に気を掛ける。

「ティア、大丈夫?」
「……ん、なんでもない。スネークさん。ありがとうございます、参考になりました」

ティアナはそう言いながら何度か頭を振ると、再び力強い決意の籠もった瞳を取り戻した。
それに呼応したかのように、戦況ががらりと変わる。
順調に数を減らしていたガジェットの動きが良くなったのだ。
シャマルの声が脳内に響く。

『相手側に召喚士がいる可能性が大きいです、副隊長たちが戻ってくるまで防衛ラインを!』

了解、と威勢良く返事をして飛び出していくスバルとティアナ。
観戦するか、と歩きだすスネークの背中に、シャマルのキツい口調が掛かる。

『スネークさんは危険ですから屋内に戻って下さい!』
「…………ふむ、観戦チケットは売り切れか」

了解、とスネークは肩を竦めて返事をし、ホテルの中へと戻っていった。


373名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:07:53 ID:Y8Q/Ux0u
全力で支援
374リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/21(日) 21:10:16 ID:krZLgsJo

「ササキー?」
「ん?」

広大なスカリエッティのアジトの掃除に一息ついていたジョニーを呼ぶ声。
ジョニーが顔を上げると、騒がしいセインやウェンディとは違って落ち着いた雰囲気を持つ少女、ディエチがモニターに写っている。
こんなハイテクな機械にも段々と慣れつつある事に、幸せと恐怖が入り混じった不思議な感覚をジョニーは覚える。
ハイテクは好きだが、やはり地球が恋しい。

「ササキ、ドクターが呼んでるよ」
「……ディエチ。嫌だと言っておいてくれ」
「ええっ、それは不味いんじゃ……私も困るよ」

予想もしなかった返答に、戸惑いの色を見せるディエチ。
正直、スカリエッティは苦手だったのでジョニーは行きたくなかった。
それでも駄々を捏ねていると、恐らく怒り狂ったトーレがやってくるだろう。
彼女の刄が自身の身を切り裂く恐怖に身震いする。

「……冗談さ。奴は、何て?」
「確認したい事があるんだって」
「そうか。……はぁ。じゃあちょっと行ってくるよ」

昨日洗い浚い喋ったジョニーに、今更何を確認するというのか?
全く想像もつかないし、それだけに不安も感じる。
ジョニーは憂鬱な気分を腹に押し込めて立ち上がり、スカリエッティの元へと向かった。



「やぁ、ジョニー君」

相変わらず不気味な雰囲気を放つ男、ジェイル・スカリエッティがジョニーを笑顔で迎えた。
こんな奴と話す位だったら、ナンバーズの面々と親睦を深める方が遥かにマシだ。
ジョニーの口調も自然と堅くなる。

「何の用だ? 飯の用意はまだ――」
「――これを見てもらいたい」

ジョニーの言葉を遮ったスカリエッティは、いつも彼の傍にいる女性、ウーノに空間モニターを出現させる。
群れながら飛行を続ける機械兵器がモニターの画面上に映っている。
どうしても笑いを堪えられないのか、スカリエッティは満面に笑みをたたえていて、実に薄気味悪い。

「……こいつは、ガジェット・ドローンだろ? あんたが作った……」
「ああ、その通り」

AIを搭載した機械兵器ガジェット・ドローン。
ジェイル・スカリエッティが制作したそれは画面上で次々と破壊されていく。
戦っているのは、恐らく時空管理局と呼ばれる連中だろう。

「……やられているじゃないか、大丈夫なのか?」
「これにはさほど期待していないよ。……それよりも、見て欲しいものがあるんだ」

スカリエッティが視線をやると、ウーノが何やら操作を始める。
電子音と共にモニターの画面が変わり、男を映し出す。
ジョニーは目を見開き、顔を驚愕に染めた。

「こ、こいつっ!?」
「最近スクライア司書長の復職に合わせて管理局に保護された、『スネーク』と名乗る男さ。何故こんな所にいるかは不明だがね」
375リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/21(日) 21:11:33 ID:krZLgsJo

モニターの画面には忘れようもないあの男、ソリッド・スネーク。
シャドーモセスの時とは違ってタキシードを着用していて、バンダナは付けていないし髪も伸びている。
さすがに、リキッドと瓜二つだ。
スカリエッティはジョニーの様子を見て、満足気な表情を浮かべた。

「さぁジョニー君、確認してもらいたい。この男は『シャドーモセスの真実』のソリッド・スネークで間違いないかな?」
「……髪は伸びてるけど間違いない、奴だ。……奴もこっちに来てるなんて」

管理局に保護された『スネーク』が『ソリッド・スネーク』であるという確証を得たスカリエッティは、やはりか、と呟いて笑みを浮かべる。
まるで恋い焦がれるかのように、画面上のスネークに視線を向けた。

「……フフ、そうか、フフ、それは素晴らしい、フフフ、ハハハハハ!! ……ウーノ、直接彼を見たい、ちょっと出てくるよ」
「お気を付けて、ドクター」

スカリエッティは、呆然としているジョニーを残して部屋を颯爽と後にした。
生命操作技術云々に固執するスカリエッティと、それによって生み出されたソリッド・スネーク。
どうやら、また面倒な事になりそうだ。
画面越しに写る、力強さが伺えるスネークの瞳は、それに気付いているのだろうか?
腹の痛みと戦いながら、自身の未来をひたすらに案じるジョニーだった。



スネークはアグスタ近くの森林地帯、先程まで戦闘が続いていた場所に佇んでいた。
勿論、もうオークションは終わったので私服に戻っている。
散乱していたガジェットの残骸も、管理局の手によって回収されている。
それでも僅かに残っていた、焦げる臭いが鼻を突いた。
それを紛らわせるようにタバコを取り出すスネークに、声が掛かった。

「スネーク!」
「ユーノか。……六課の連中は?」
「既に任務を終えて撤収していったよ。僕もこれで今日の仕事は終了だ」
「そうか、なら俺達も――」
「――スネーク」

言葉を遮るユーノに、何だ、とスネークは問い掛ける。

「……ちょっと、散歩しないかい?」


喧騒なミッド中心街を抜けて、外れの小さな公園に辿り着く。
ブランコと鉄棒、そしておまけ程度にベンチがあるだけだが、静かで落ち着いた雰囲気にスネークは好感を持った。
散歩している間は一言も言葉を発しなかったユーノが夕焼け空を仰ぐ。

「……こんな風にミッドを散歩するなんて、もう無いだろうと思ってたよ」
「おまけに、もう会う事も無いと思っていたなのはと再会、恋仲になった訳か」

軽い口調のスネークだが、ユーノの顔は真剣そのものだ。

「さっきなのはから聞いたよ。……帰る日が決まったんだって?」
「ああ、三日後だ」
「じゃあ、君とこうして散歩して話すのもこれで最後、か」

ユーノは、そうだな、と微かに呟くスネークをしっかりと見据える。
一度深呼吸すると、噛み締めるように話し始めた。

「僕は君に感謝している。君のおかげで僕は新しい生き方を見つけられた。自分自身と向き合う勇気を持てた」
「……俺は少しアドバイスしただけだ。結局、何事も決断を決めるのは自分なんだからな」
「それでも。……それでも、君は僕の恩人で、かけがえのない仲間で――大事な親友だ」
376名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:11:47 ID:xjtkUB2T
sien
377リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/21(日) 21:12:51 ID:krZLgsJo

ユーノが差し出してきた手を、スネークはギュッと握り締めた。
しばらくしてユーノは名残惜しそうにその手を離すと、寂しそうに微笑む。

「僕もこれから精一杯頑張っていくよ。旅をしていた時と違って、ホワイトカラー(頭脳労働者)だけどね」
「俺は相変わらずブルーカラー(肉体労働者)のままだな」
「……君に頭脳労働は似合わないだろうしね」

ハハハ、と笑い合い、スネークはタバコを取り出して火を付ける。
夕焼け空に、吐き出された紫煙が溶けていく。
スネークが今まで吸った中で、一番美味く感じた。

……しかし。

「いや、違うよ――」

スネークでもユーノでもない男の声に、そんな穏やかな空間は破壊される。

「――君は根っからのグリーンカラー(戦争生活者)だ。ソリッド・スネーク君」

スネーク達の元に、白衣の男が歩み寄ってくる。
肩まで届く紫の髪に、狂気を含ませた表情。

(俺を、知っている……?)

男の瞳からは戦意を感じられないものの、浮かべている薄ら笑いが嫌悪感を駆り立てた。
明らかに管理局員ではない。
鳥肌が立ち、全身の細胞が危険信号を放っていてその男が敵だと警戒している。
ユーノは驚愕を含ませた、今までスネークが見たこともない形相で男に叫ぶ。

「お前はっ……ジェイル・スカリエッティ!?」
「やぁ、スクライア司書長、君とも初めまして……かな?」

スカリエッティを睨むユーノに、念話を飛ばす。

『ユーノ、奴は一体?』
『……例のレリックを集めている主犯格の男だよ』

「そう警戒しないで欲しいなぁ、私は戦いに来た訳じゃないんだ。……スネーク君、君に会いに来たんだよ」
「……何?」

スカリエッティは口の端を吊り上げる。
スネークはタバコを携帯灰皿に突っ込んでM9を構え、その薄気味悪い笑顔を睨み付けた。

「フフフ、君は、グリーンカラーだ。戦いが君を生かしているし、君自身、誰よりも戦いを愛していている。心の中では戦いを望んでいるんだよ」
「…………知ったような口を聞くな」
「事実だろう?」

そう怒らないでくれ、と言ってスカリエッティはスネークに近寄る。
スネークの瞳をじっくりと覗き込んで、笑い声を上げる。
警戒心か、嫌悪感か、ともかくスネークは一歩後ずさった。

「……ククク、君は素晴らしい、素晴らしいよスネーク君、最高だぁ!」

スネークは確信した。
この男、スカリエッティは狂っている。
何を言っても無駄だ。
ユーノは六課に連絡をしたようで、すぐに応援が駆け付けてくるだろう。
スネークは身構えているユーノをチラリと見てからM9の引き金を引こうとして、スカリエッティの言葉に硬直する。
378リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/21(日) 21:14:00 ID:krZLgsJo

「オリジナルである父親、そしてたった一人の兄弟を殺していながら、君の瞳は力強い光を放っている! 実に素晴らしいぃ!」
「っ!?」

時が止まった。
この男は、管理局に保護された次元漂流者の『スネーク』ではなく、『ソリッド・スネーク』を知っている。
ユーノが困惑した表情を浮かべてスネークに目をやる。
スネークも動揺を隠し切れずに、スカリエッティに怒鳴った。

「貴様、何故俺の事を!?」
「代用品として産み出され、オリジナルを超えた……ハハ、科学者として興味を持たせられるよ。プロジェクトFよりも何年も前の技術で生まれたとは思えない完成品だぁっ!」
「答えろっ! 何故知っている!?」
「……スネーク君、君は『青いバラ』だ。不可能を可能にする男。自然界には存在しない、人工的に作られた蛇……」
「ぐっ……」
「フフフ、さっきも言った通り、今日は会いに来ただけさ。いやぁ、予想以上に素晴らしいものが見れて良かったよ」

スカリエッティの足元に魔法陣が形成される。

「転移魔法だっ!」

ユーノが我に返って叫ぶと同時にM9の引き金を引くが、スカリエッティは腕を振るって弾き、平然とスネークに笑い掛けた。
魔法陣の放つ光が増していく。

「悪魔の兵器を一人で倒す程の実力に興味があるんだ。出来れば君の故郷、地球だったか、そこにはまだ帰らないでもらいたいなぁ、こちらが出向くには手間が掛かるしね」

「スカリエッティ!!」

バリアジャケットを身に纏った六課の隊長二人が、スネーク達とスカリエッティの間に飛び込んでくる。

「フフフ、それでは。スネーク君、君は運命からは逃れられないよ。……また会おう!」

スカリエッティは不気味な高笑いを残して光に包まれ、姿を消す。
フェイトが声を荒げた。

「シャーリー、追跡を!」

スネークは苦虫を噛み潰したような表情と共にクソ、と毒づく。
正直、何が何だか分からない。
何故奴は自分の事を知っているのか?
リキッドやビッグボスの事を知っているのか?
そして何よりも、『運命からは逃れられない』という言葉が、スネークの胸に突き刺さった。
それは戦いの中で生きるしか無い運命と、ビッグボスに縛られ続ける運命、どちらの意味なのか。
両方かもしれない、とスネークは拳を握り締める。
公園内は何事も無かったかのように落ち着きを取り戻していた。
フェイトがスネークに駆け寄る。

「スネークさんっ大丈夫ですか!?」
「問題無い。……大丈夫。大丈夫だ」

目蓋を閉じて呼吸を整えると、自然に気持ちも落ち着いてきた。
ふと横を見れば、なのはも心配そうな表情を露にしてユーノの傍にいる。
反応ロスト、という言葉がなのはの目の前のモニターから微かに聞こえてくる。
フェイトが複雑な表情の元、溜め息を吐いた。

「……なのは、とりあえず戻ろう。スネークさん、はやてが話を聞きたいそうですから、部隊長室までお願いします。ユーノもお願い」
「……分かった」

ジェイル・スカリエッティという名前がスネークの脳内に深く刻み込まれる。
奴の高笑い、青いバラだと言い放った事、スカリエッティの全ての言動に対して、スネークは舌打ちをした。
379リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/21(日) 21:16:42 ID:krZLgsJo


機動六課、部隊長室。
外はもう夜の闇に包まれて真っ暗になっている。
そろそろ涼しかった夜も夏の熱気が近づいてきて暑苦しくなるだろうが、部隊長室は緊張感に包まれていてスネークにはやけに涼しく感じられた。
先程のスカリエッティとの出来事についてユーノから詳しく聞いたはやてが、スネークにゆっくりと問い掛ける。

「スネークさん。……あなたの事を、教えて戴けませんか?」

そう、ここにいる隊長陣、そしてユーノもそれを聞きたがっているだろう。
スネークの出自。
現在に至るまでの経緯。
スネークもこの部屋に来るまでに覚悟していた事だったから、すんなりと話し始める事が出来た。
スネークは全ての記憶、経験を掘り起こし、ゆっくりと一つずつ話していく。

二十世紀最強の兵士、ビッグボス。
彼を複製するための計画、自分を産み出した『恐るべき子供達計画』。
兵士達の天国、武装要塞アウターヘブン。
地球上のあらゆる地点からの核攻撃を可能にした悪魔の兵器、メタルギア。
父親だと知らずにビッグボスと対峙して、彼を殺害した事。
二度の戦いでPTSD(心的外傷後ストレス障害)に掛かり、隠遁生活――現実社会から逃げ出していた事。
雪の吹きさぶシャドーモセスで行われていた新型メタルギアREXの開発。
自由を求めて全世界を敵に回す事を決意した、『恐るべき子供達計画』によって産み出された兄弟、リキッド・スネークとの戦い。

全てを話し終えた時、部屋にいる者は皆辛い表情に包まれ、言葉を失っていた。
確かに、こんなに非人道的で、非現実的な話を聞かされたら絶句するのも頷ける。

「地球でもそんな、酷い事をっ……」
「……奴の言う通り、俺は父親と兄弟を殺した。……俺の人生で、一番のトラウマだ」
「それは、スネークさんに責任は――!」
「――いや。俺が一生背負っていかなければならない事だ」

辛い記憶に顔をしかめる。
なんとも気まずく居辛い雰囲気になってしまった事にスネークは少し後悔して、無理矢理に話を進めた。

「……で、だ。奴は――ジェイル・スカリエッティは俺に異常な執着心を見せていた。……奴について教えてくれ」

スカリエッティの狂気を滲ませた笑い顔を思い出して顔を歪めながらもスネークは問う。
黙りこくった四人の中、はやてがその問いに答えた。

「……科学者ジェイル・スカリエッティ。生命操作や生体改造に異常な情熱を持った次元犯罪者です」
「生命、操作だと?」
「人間の体に機械を埋め込めるよう調整して強力な兵士を作る戦闘機人や、外科的な介入によって後天的に能力を付与させて作り出す人造魔導士……です」
「……奴が言っていたプロジェクトF、というのも?」
「それは……」

口籠もるはやてに、神妙な面持ちでフェイトが乗り出してくる。
なのはが心配そうに見つめた。

「……フェイトちゃん」
「なのは、大丈夫。……スネークさん、プロジェクトFは……オリジナルの記憶を持たせたクローンを生み出す技術、です」
「! ……人間の完全複製、か。……奴は人間を、知的探求心を満たす為のおもちゃにでも考えているのか」
380リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/21(日) 21:18:36 ID:krZLgsJo

ますますスカリエッティに対する嫌悪感を募らせる。
人間の命は尊いものだ。
研究の為に弄ぶようなものではない。
倫理感を失った科学者こそが本物の悪魔かもしれないな、と毒を吐く。
フェイトが辛そうに、絞りだすように話を続けた。

「……私も、そしてエリオもプロジェクトFによって生み出された存在なんです。オリジナルの代理とさせる為に……」
「何だって……!?」

二十歳にも満たない女性がそんな事実を毅然と受け止めている事が信じられなくて、スネークは茫然とする。
スネーク自身、自分がクローンだと聞かせられた時には、怒り狂うリキッドに何も言えずに動揺しきっていた。

「……エリオも、それを知って?」

はい、と頷くフェイトに、スネークは頭を抱える。
十歳程度の少年もがそれを抱えて生きている事に、何とも言えない感情に襲われ、自然に口が動く。

「君達は、強いな」
「いえ。……エリオも私も、周りの皆が支えてくれたからこうしていられるんです。だからこそ、スカリエッティを止めなければ……!」
「スネークさんは、気にしないで地球に戻って下さい。スカリエッティは、私ら六課が必ず捕まえてみせます」

改めて決意を表明するはやてに、スネークは首を振った。

「いや。俺も……俺も、奴と戦う」
「スネークさん!?」

スネークの予想外の言葉に虚を突かれたはやてが非難の声を上げる。
当然だろう、魔力を持たない一兵士が戦線に加わる事を認めるなんておかしい事だと、スネーク自身そう思う。
だが、引き下がれない。
引き下がる訳にはいかない。

「……奴は、絶対に止めなければならない。このままでは帰れない」
「危険です!」
「そんな事は百も承知だ。……今まで危険ではない任務なんて無かった」

ぐぅ、とはやてが唸ると同時に、今まで口を開く事が無かったユーノがおもむろに声を上げた。
その瞳はスネークをしっかり捉えている。

「……スネーク。奴は君を、戦いを望む人間だと言った。君の選択は、それを認める事になるんじゃないのかい?」

キツい言葉がユーノの口から飛び出るが、スネークの意志は変わらない。
それを認めるつもりも無い。
ユーノから視線を逸らさずに、スネークは言い放つ。
381リリカルギア代理:2008/09/21(日) 21:28:19 ID:G0pTmC+L
これより代理投下を行いたいと思います。
382名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:28:56 ID:KtX8sXMh
リリカルギア氏が規制を食らってしまったようだ。
ケータイなんで代理投下したくても出来ない、誰か頼む。
383リリカルギア代理:2008/09/21(日) 21:29:03 ID:G0pTmC+L

「いや、違う。俺は生きる為に、生の充足を得る為に戦うんじゃない」
「ふむ。じゃあ、何の為に?」

ユーノがまるで生徒に質問を投げ掛ける教師のようで、少し滑稽に思えた。
僅かに苦笑して、すぐに顔を引き締める。

「……俺の親友がこう言った。『俺達は、政府や誰かの道具じゃない。……戦う事でしか自分を表現出来なかったが――いつも、自分の意志で戦ってきた』」

それはグレイ・フォックスがREXの足の下で、死の間際に言い放った言葉。
どんな言葉よりも深く、スネークの体に染み込んだ言葉である。

「俺は、この言葉に忠実に戦う。誰が強制したものではない、俺の意思で選び取る戦いだ。……奴を放ってはおけない!」

はっきりと、そう伝える。
ユーノは腕を組んでしばらく熟考すると、出し抜けに笑った。
そして、そのままスネークを見据える。

「成る程。……なら、僕も最大限協力させてもらうよ」
「ユーノ君っ!?」

女性陣が驚きの声を上げる。
はやてがユーノに詰め寄った。

「ユーノ君も止めてくれなアカンのにっ!」
「はやて、スネークの決意は固い。止めても無駄だよ」
「それでも! 魔力も持たない人が――」
「――そう、スネークは魔力を持たない。つまり彼はAMFに関係なく戦える。はやてだってシグナムさんから、スネークの実力を聞いただろう?」

うぅ、と口籠もるはやて。
この辺はさすがというべきか、ユーノはズバズバと言い返し、逆に黙らせる事に成功している。
口が回る男は頼れるな、とスネークは感心する。
観念した、と言わんばかりにはやてが両腕を上げた。

「……はぁ。分かりました、認めます。……ユーノ君もスネークさんも、意外としつこい所があるんやね……」
「蛇だからな」
「はは……じゃあ、スネークの地球への帰還は民間協力者という事で延期。ああそうだ、スネークの装備の許可も取ってこなくちゃね!」
「あ、ああ。そうだなユーノ、頼む。」

どこか上機嫌にも見えるユーノは、忙しくなるぞぉ、と気合いを入れている。
たじろいでいるスネークを見て、柔らかい微笑みを浮かべたなのはが、こっそりと耳打ちをしてくる。

(ユーノ君、スネークさんとお別れするのを誰よりも寂しがっていたんですよ)
(……どうせなら美人な女性に寂しがって欲しかったな。君みたいな)
(……フフ。照れてるスネークさんを見るの、初めてです)

スネークは照れ臭さを誤魔化すように言うが、フェイトもなのはもスネークの気持ちを察しているのかクスクスと笑っていて、どうにも落ち着かない。

何はともあれ、新たな世界での、新たな敵。
ジェイル・スカリエッティとの戦いが、始まる。


384リリカルギア代理:2008/09/21(日) 21:29:59 ID:G0pTmC+L
おまけ

機動六課部隊長での会議の後。
ユーノがふとスネークに目をやり、そのままジロジロと眺めている。
しばらくはそれを耐えたスネークだったが、我慢できずに遂にユーノに顔を向ける。

「……さっきから何だ?」
「スネーク。……君、随分と髪の毛伸びたねぇ」
「……む」

ユーノが手鏡をどこからか取出してスネークに手渡す。
成る程、確かにシャドーモセス潜入直前に切った筈の髪の毛はすっかり伸びている。
肩まで悠々届いた髪の毛を見て、改めてリキッドと瓜二つである事を自覚させた。
ふと、疑問が生じる。
シャドーモセスで、リキッドはマスター・ミラーに変装して、スネークを欺いていた。

「なのは達は知らないだろうけど、スネークと初めて会った時は短髪だったんだ。……スネーク、軽く切ったら?」
「……ユーノ。サングラスと髪止め用のゴム持ってるか?」
「え? ……一応、あるけど。……はい」

何故持っているのかは敢えて突っ込まなかったが、有り難く受け取る事にする。
髪を纏め、後ろで一つに結い。
そして、サングラスを掛ければ完成だ。
手鏡を見ながら、明るい声になるように努めて声を出す。

「スネーク、マクドネル・ミラーだ! 懐かしいなぁ!」

ユーノ含め、部屋に居た人間は皆硬直する。
この男は何をやっているのだろう、と。
ユーノはずれた眼鏡を押し戻してスネークに呆れた視線を向ける。

「……君、何やってるの?」
「……何でも無い。鋏を貸してくれ、切る」

スネークは素早くサングラスを外してゴムを取る。
髪の色こそ違うが、予想以上に外見もマスター・ミラーとそっくりで、複雑な気分になった。

(……マスター、あんたには同情するよ)

少しだけマスター・ミラーの事を懐かしむスネークだった。


385リリカルギア代理:2008/09/21(日) 21:31:03 ID:G0pTmC+L
第九話投下完了です、支援ありがとうございました。

スネークとスカ博士接触です。
ちなみにMGS4ゲーム内で、「スネークはビッグボスからCQCを習い、それを封印していた」というような話がありましたが、
私は「オタコンがCIAからハッキングして発見したCQCの情報の元に、オタコンを練習台にして習得した」という小説版の設定の方がしっくりするのでそちらを採用しています。
そんな訳でCQCは登場しないと思うので、期待されて居た方には申し訳ないです。

おまけの方に関しては、疑問に思った人が多いんじゃないでしょうか?
声は似てたとして、素顔も似ていたのかな……?

では、次回もよろしくお願いします。
386名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:37:18 ID:qoCp9mV2
投下乙!
ブリーフィングのワンシーンで髪の伸びたスネークが出てるけど
本当にリキッドとよく似てるんだぜ

しかし、メタルギアと聞くと某MADが浮かび上がるからこまるw
リキッドとジムハウスマンの会話が秀逸すぎてww
387名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:38:51 ID:KtX8sXMh
《こちら空中管制機ゴーストアイ、投下を確認した。貴官に通信が入っているな、中継しよう》

自分に忠を尽くせ、GJ!
随所にちりばめられたMGSネタがファンとしては嬉しい限り。これはMGS4までしっかりやり込んでますねw
しかし、バリバリ質量兵器装備なスネークが戦うには許可を取るといっても何らかの言い逃れ出来るような手段も必要かも。
まぁそれはともかく、次回も楽しみにしております。
《以上だ。次の出撃に備えてくれ》
388名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:39:17 ID:G0pTmC+L
GJ!!
おお、スネークが覚悟を固めましたか。
確かに彼はスカの行状は許せないでしょうなあ。
しかしそれとなくフォローを入れるなのはさんが、たまりません……。
続きを楽しみにしています。
389名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 22:55:19 ID:yCRSM+hR
投下乙でした!

スネークのスカ一味との戦いが始まりますが質量兵器の使用許可は出るんだろうか?
390名無し@お腹いっぱい:2008/09/21(日) 23:23:58 ID:PVW4/sS+
それにしてもジョニーはやっぱりMGS4後半のマスク無しイケメンバージョンなんだろうか?
・・・ジョニー無双が見たいです、安○先生。
391名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 01:53:25 ID:cI88B2xQ
あんなイケメンが糞垂れてたなんてなw
ジョニーも戦うのか?
392名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 10:50:27 ID:yU1nRSFV
>リリカルギア
オラ、わくわくしてきだぞ!w
直接的な戦闘もないのにこのワクワク感。
キャラ同士のやりとりが魅力的でそれを見てるだけでも楽しいのは原作のMGSに通じるものがありますね。
今回も、ティアナとスネークの間に発生したっぽい師弟フラグ。省略されたけどホテル編はティアナ成長の切欠ですから、これを気に何か起こって欲しいwティアナは理詰め戦闘好きそうだしww
ユーノとスネーク、スカリエッティとスネークのやりとりの流れも素晴らしかったです。
人間としての行き方を求めながら、兵士として生きた過去を否定出来ない。リキッドが言ったような内容をスカ山はまさにラスボスの風格でした。
「グリーンカラー(戦争生活者)」などの要所で使われる用語もMGSっぽくて、最後まで小気味良く読めましたね。
新たな戦いに向けての丁寧な伏線立ての回であり、同時に退屈させない話の運び方が実に上手い。期待も高まってきました。
魔法を使わない兵士の介入によって、六課や彼らの行く末がどのように変わっていくのか楽しみです。
それにしても、ユーノ。コレまで見たどの作品より輝いてやがる…。
スネークとの関係がオタコンとのそれを思い出させていいですね。男の友情とは素晴らしい。
あと、ジョニーはスカサイドだと下痢がマッハで悪化。ストレスが腹に来るからねw
393一尉:2008/09/22(月) 11:59:15 ID:8HCr1tnq
さずかスネークならよいたね。支援
394THE OPERATION LYRICAL:2008/09/22(月) 19:01:48 ID:ool4ce8o
スネェェェェェーク!! GJです!
MGSファンにはたまらないネタがいっぱいですね。

<<・・・まぁ、それはそうとだ。こちらオメガ11、実はもう23話が出来上がったんだ。自分でも
びっくりだ。1930に投下予約したい、よろしいかな?>>
395名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 19:30:46 ID:fz/ooGbM
早い……支援
396THE OPERATION LYRICAL:2008/09/22(月) 19:31:22 ID:ool4ce8o
<<時間だ、投下する!>>

ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL


第23話 流れ星


――それは"救い"の始まりである。


"ゆりかご"陥落より、少し前。
アサルトライフルで武装した三〇二部隊の陸士たちは、市街地で戦闘を続けていた。
すでに情勢は管理局側に傾き、あとはひたすら残存しているガジェットを撃破していく戦いとなる。
――否。そのはずだったのだが、召喚獣を撃破し、引き続き陸士たちと行動を共にしていたエリオは、今回の作戦に乗じてアジトに乗り込み、ス
カリエッティの確保に向かったフェイトの身に危機が迫っていることを知らされた。
助けに行きたい――けど、目の前の敵が!
残存しているガジェットの数は多い。中には陸士たちには強敵であるV型も混じっていた。
「……エリオ君」
同じく行動を共にするキャロが、不安げな表情を隠すことなく露にしていた。
目の前の敵か、それとも自分たちの母親にも等しい存在か。
思考の板挟みにあって、苦しげな表情をしていると、傍にいた名も知らない若い陸士に肩を叩かれた。
「よう、坊主。訳ありって感じだな? お兄さんに話してみろ」
「――実は」
時折飛んでくる流れ弾にときどき中断されながら、エリオはフェイトがスカリエッティのアジトで危機的状況にあることを話す。
話を聞いたこの陸士はふんふん、と頷き、同じく傍にいた同僚の陸士に声をかける。二人は手短に会話を終えると、確認するように頷きあい、エ
リオとキャロ、幼くも勇敢な少年と少女に向き合う。
「よし、そういう事情なら了解だ。ここは俺たちに任せろ」
「え――でも」
貴方たちだけでは、と言いかけたキャロに対し、陸士は「馬鹿」と言葉を遮る。
「俺たちはそんなに頼りないか? 侮るなよ、これでも三〇二部隊じゃトップエースだ」
「そういうこと。さぁ、行け。上空までは援護してやる」
にっと頼もしい笑顔を浮かべ、陸士たちは銃口を前に向ける。死ぬつもりは一切ない、雄々しいその姿に、エリオは覚悟を決めた。
「キャロ……フリードで空に上がろう。戦闘機に狙われないよう、低空を高速で飛ぶんだ」
「エリオ君――分かった、フリード!」
エリオに促されて、キャロは自身の相棒である飛竜フリードの背中に飛び乗る。普段は小さく可愛らしささえ感じられるフリードも、今では伝説
の飛竜と言ってもいい面構えになっていた。
エリオもフリードに乗って、彼らは空へと舞い上がる。高度を上げすぎては戦闘機の餌食になる可能性があるため、市街地の建物に翼が掠らない
かどうかのスレスレで飛行し、スカリエッティのアジトに急行していった。
後に残された二人の陸士は、互いに顔を見合わせ、口を開く。
「さて……俺たちも行くぞ、シンゲン。子供にばかりいいカッコされちゃたまらん」
「へいへい。だがジークよ、"行く"ことはないぜ。敵さんならそこにいる」
陸士が視線を走らせると、彼らの姿を見つけたガジェットT型の群れが、ぞろぞろとこちらに向かってきていた。
二人はそれぞれアサルトライフル、軽機関銃を構え、正面からそれに挑む。
銃弾とレーザーが交差し、閃光が瞬く。響き渡るのは銃声、爆音。
「終わったら一杯やるか!」
「賛成だ!」
レーザーが身を掠ろうとも、彼らは絶えず動き回り、ガジェットたちにありったけの銃弾を叩き込んで行った。
397名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 19:33:01 ID:A9IR9+mG
支援支援
398THE OPERATION LYRICAL:2008/09/22(月) 19:33:25 ID:ool4ce8o
可笑しい。可笑しくてたまらない。
狂気の科学者、スカリエッティは、その名の通り狂人のように、笑ってみせていた。
彼の目の前には、全ての迷いを断ち切った金色の魔導師、フェイトがバルデュッシュを構え、真ソニックフォームの状態で立ち塞がっていた。
「ハハハハッ……いやぁ、失敬。人と言うのはなかなか、馬鹿に出来ないものだねぇ」
笑みを崩さず、スカリエッティは地面に転がる、すでにフェイトによって撃破されたトーレとセッテを眺めながら言った。
つい先ほどまで、彼女は取り押さえられていたのだ。高濃度なAMFの中で、行動の自由を失った魔導師の行く末など、誰でも容易に想像がつく。
だが、彼女はそんな絶望を打ち破ってみせた。開きっぱなしにしていた通信回線から聞こえた、エリオとキャロの声によって。
「まったく持って素晴らしい。"ゆりかご"も沈んだようだし、クローンであっても人の強さは変わらないか」
「――違う、私は強くなんかない」
バルデュッシュの矛先を向け、フェイトは力強く、スカリエッティの言葉を否定した。
「弱いから、今の今まであなたに押さえられていた――でも、私には仲間がいる」
「それが"人の強さ"だと言うのだよ」
「そんな、貴方の勝手な理屈――」
これ以上聞く気はない。心のうちで付け加え、フェイトは高速でスカリエッティに迫る。さながら、アフターバーナーを点火した戦闘機のように。
真ソニックフォームの名は伊達ではない。
巨大な金色の刃を振りかざし、フェイトはスカリエッティを薙ぎ払うべく、腕を振るった。
空気が切り裂かれ、刃はスカリエッティを捉える――はずだった。
「!」
一瞬の後、フェイトは手ごたえが無いことを感じ取った。バルデュッシュの刃は空を切り、後に残ったのは真っ二つにされて、それでも笑い続ける
スカリエッティのホログラフ。
瞬時に彼女は後退し、防御の構えを取った。正面は囮、必ずこの隙に奴は何らかの手段で、攻撃を仕掛けてくる。
――しかし、現実はフェイトの予想とは正反対だった。ぶった切られたホログラフは消えて、後に残ったのは無力化したトーレとセッテのみ。
警戒態勢を崩すことなく、周囲の気配を探っていると、どこからか聞き慣れない高音が、アジトの中に響き渡ってきた。
「いったい――」
怪訝な表情を浮かべるが、直後にぐらりとアジト全体が揺れた。自爆装置でも起動したのかもしれない。
自爆装置、と聞いてフェイトは駆け出し、手近にあったアジトの端末に手を伸ばす。このアジト内に侵入して分かったことだが、カプセルに入れ
られた何十人もの実験体となった人々。彼ら彼女らは、まだ生きている可能性があった。
「間に合って……」
端末を操作し、状況を確認。やはり自爆装置の機能は作動していた。どうにかして、それを止めなくては。
キーを叩いてみるが、自爆装置には強固なプロテクトがかけられていた。プロテクトを分析し、初めて自爆を止められるが――とてもじゃないが
間に合わない。
「シャーリー!」
「はい!」
通信回線を通じて、"アースラ"にいるシャリオにバックアップを頼む。処理速度は大幅に上がる。わずかながら、希望が見えてきた。
だと言うのに――フェイトは殺気を感じて、振り返る。ガジェットV型が二機、背後から接近しつつあった。
399THE OPERATION LYRICAL:2008/09/22(月) 19:35:26 ID:ool4ce8o
「こんな時に!」
バルデュッシュを構えて迎撃と行きたいが、今端末から手を離せばその分処理が遅れる。一秒たりとも無駄に出来ないのに、それは致命傷だ。
だが、どの道このガジェットを撃破しなければ自分がやられる。やむを得ず、フェイトはバルデュッシュを構えようとする。
その瞬間、突如としてガジェットV型が動きを止めた。胴体に後ろからぶすりと突き刺さるのは、見覚えのある槍。
まさかと思ったが、そのまさかだった。胴体をいきなり貫かれたガジェットV型は爆発。残り一機が慌しく、襲撃者に向けレーザー攻撃を開始する。
「うおおおおお!」
襲撃者、フェイトにとっては頼もしい援軍――エリオは撃破したV型の爆風に紛れ、レーザー攻撃を回避。残り一機の懐深くに飛び込むと、槍型
のデバイス、ストラーダを突きつける。魔力付加されたストラーダはV型の装甲を突き破り、その機能を完全に奪った。
速い、とフェイトは息を呑んだ。エリオの動きは今までとは明らかに鋭さが違う。
「フェイトさん……早く!」
エリオの言葉で我に返った彼女は、再びキーを叩く。
プロテクトの解析――完了。
自爆装置の機能停止命令、送信中――受信、命令を受け付ける。
最後にアジトの中央管制装置と思しきものが、「本当に停止しますか?」と問いかけてくる。決まってる、YESだ。
「止まれ……!」
祈るような気持ちで、彼女はキーを叩く。結果が表示されるまでの時間が、フェイトには恐ろしく長いように思えた。
表示される結果は、自爆装置の停止。アジト全体を揺らしていた衝撃も収まった。
「……やっ、た」
ぺたん、と安堵したフェイトはその場に尻餅をついてしまった。今頃になって、手足が震えてきた。
「フェイトさん!」
「――あぁ、エリオ」
駆け寄ってきたエリオに向かって、フェイトは笑みを浮かべてみせた。
「終わったよ……あはは、助けられちゃったね」
「僕も、少しは頼りになるでしょう?」
得意げな笑顔を浮かべ、エリオは地面にへたり込んでいる彼女に手を貸し、起き上がらせた。
地上及び空はキャロのフリードが押さえてくれている。スカリエッティの姿は見当たらないが、見つかるのは時間の問題だろう。
それより今は、とフェイトは頼もしくなったエリオを見つめ、地上にいるキャロに思いを馳せていた。
400THE OPERATION LYRICAL:2008/09/22(月) 19:37:36 ID:hASFpDND
「……で、結局見つからなかった訳やね」
戦い終わって、再建中の機動六課隊舎。とりあえず、一通りの機能を取り戻した会議室で、フェイトの報告を受けたはやてが呟いた。ただし、そ
の口調には決して詰問するような感じられない。
「ごめん……私の責任だよ。油断したばっかりに」
申し訳なさそうに頭を下げるフェイトだったが、この場にいる全員が「仕方ないさ」と言った感じの表情を浮かべていた。
アジトは制圧、内部にいたナンバーズも全員確保された。調査を進めていくと分かったことだが、アジト内にはガジェットの生産設備があって、
その生産ラインの一部を、無数の無人戦闘機が埋め尽くしていたと言う。
戦闘機はおそらく、メビウス1と同じくこちらの世界に飛ばされてきたものだろう。だが生産設備の方は、とてもスカリエッティ一人では揃えら
れまい。レジアスがかつて援助していたことを裏付ける証拠になる。
だが、その中にはスカリエッティの姿が無かった。追跡調査は続行されているが、依然としてその足取りは掴めていない。
「――まあ、そう悲観するもんじゃない」
なおも思いつめたような表情を浮かべるフェイトに向かって、口を開くのはメビウス1だ。
「アジトは差し押さえて、"ゆりかご"も沈んだ。配下の戦闘機人も全員確保。もう奴には何も出来ないさ」
「うん――実際、本局のほうもその考えなんよ。今はクラナガンの復興の方が忙しいようやし」
そう言って、はやては端末を操作し、現在のクラナガン市街の様子をモニターに出す。
戦場になって荒れ果てたように見えた市街地だが、避難から戻ってきた人々はくじけなかった。街中に転がるガジェットの残骸から装甲を剥ぎ取
って何をするかと思えば、そのまま建築物や道路の修理用資材に当ててしまった。中には電子部品を頂いて家電製品の修理に使ったり、二つに割
れて、今はクラナガン中央にその身を横たえる"ゆりかご"から装甲を剥ぎ取って資材にしてしまう猛者すらいた。
巷では"ゆりかご"の装甲は戦車砲でも撃ち抜けない複合装甲のため、高値で取引されている――らしい。
「いつの時代も最後に勝つのは民衆だな」
「たくましい人たちだよね……」
「商売上手やなぁ、見習わんと」
呆れたような、感心したような。乾いた笑い声を上げて、それぞれ言葉を漏らす。
「まぁ、それはそうと――実は、メビウスさんにええニュースがあるんよ」
「ん?」
一旦言葉を区切り、はやてはにんまり笑ってみせた。対照的に、メビウス1は怪訝な表情を浮かべ、彼女の次の言葉を待つ。
「……元の世界、見つかったで」
401THE OPERATION LYRICAL:2008/09/22(月) 19:39:40 ID:hASFpDND
時空管理局管轄の留置場。
留置場といっても、いかにも牢屋といった感じの狭苦しい空間ではなかった。部屋は広いし、温かみのある空間。さすがに監視は行われているが
窮屈と言うほどでもない。
それゆえ、黄色の13は複雑な表情を浮かべていた。軍に入隊した時の基礎訓練で、捕虜になった時の対処方法を思い出さなくてもいい。何しろ
忘れてしまっている。だが、捕虜――と言うより、罪人であることには変わりない。
「どうした?」
唐突に声をかけられて、黄色の13は我に返る。同じく留置場送りにされた一人、チンクから声をかけられた。
「次はお前だぞ、13」
視線を下げると、二人の間にあるのはチェスが置かれたテーブル。チンクの差し向けてきた騎士が、黄色の13の女王に迫ってきていた。
「……むぅ。弱ったな」
仕方ないので歩兵を動かすが、おかげで防衛線に穴が生じてしまった。その隙を逃さず、チンクは駒を動かして攻め込む。
「チェックメイト」
「…………」
してやったり。チンクは黄色の13の反応を楽しそうに待っていた。
当の黄色の13と言えば「あれがこーなってこれがそーなって……ん? おお?」と指をチェスボードの上に走らせ、独り言を呟き、完全に負け
たことを思い知ると、ため息を吐いた。
「――駄目だ、お前には勝てん」
「空中戦は強くても、チェスは弱いんだな」
笑いながら、チンクはチェスを片付ける。彼女の言葉に黄色の13が微妙にヘソを曲げていると、二人の試合を観戦していたウェンディが、容赦
ない追撃を黄色の13に浴びせる。
「チンク姉ー、実は13ってノーヴェにも負けたんスよ」
「本当か? 13……ホントにチェスは弱いんだな」
「うるさい」
しっし、と手を振って人の弱みを容赦なく叩く二人を追い払い、黄色の13は不貞寝をすべく横になった。
ウェンディはそれを見て「あー、大人気ないッス、13」とか言っていたが、知ったことではない。一瞬の判断が命取りになる三次元の空中戦と
じっくり考えて敵地に攻め込むチェスとでは勝手が違うのだ。
確保されたナンバーズと黄色の13は、ひとまずこの留置場に集められ、今後どうするか、選択の余地を与えられていた。
一つは、管理局の更正プログラムに従い、社会復帰を目指す。一つは、あくまでも管理局には従わず、無人世界にて刑期を終えるまで監房に入る
か、である。
ナンバーズの皆は、もうどうするか決めてあった。ウーノ、トーレ、クアットロ、セッテは監房に入ることを選んだ。理由は人それぞれだ。
残るチンク、セイン、オットー、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ、ディードは全員、更正プログラムを受ける。
ただ一人、黄色の13のみがどうするのか決めかねていた。元を辿れば彼は次元漂流者、管理局に保護されるべき身だが、理由はどうあれスカリ
エッティに協力した。管理局の方も、彼については処分を決めかねている様子だ。
――戦闘機の教官の話も、あったな。
寝返りを打ち、黄色の13は地上本部の指揮官代行を名乗る人物――確か、オーリスとか言った――から提案されたものを思い出す。
402THE OPERATION LYRICAL:2008/09/22(月) 19:41:48 ID:hASFpDND
『管理局は、優秀な者であれば贖罪も兼ねて受け入れる制度があります。あなたなら、きっといい教官になれるでしょう』

犯罪者を雇用と聞いて、黄色の13は正気か、と聞き返したくなった。どれだけ管理局とやらはお人よしなんだ、と。
とはいえ、このまま地面にへばり付くのもパイロットとして面白くない。どうせ敗北した身、ならば自分のあるべきところに行こう。そういう考
えもまた、彼の胸のうちに存在していた。
「ういーっす、帰ったよー」
「あぁー、疲れた……」
扉が開かれる音がして、同時にセインとノーヴェの声がした。後に続くのはディエチ、オットー、ディード。更正プログラムを受けるに当たり、
書類が必要になっていたのだが、彼女たちはその発行が遅れていたのだ。それが今、ようやく終わったのだろう。
「あー、13」
「――なんだ?」
セインに声をかけられて、黄色の13は上半身を起こす。
「こっちに来る途中にチラッと見えたんだけどさ、あんたの愛機……ええと」
「Su-37か?」
「そう、それ。なんか、この留置場に引っ張り込まれていたよ。修理も終わってたようだし……」
ふむ、とセインの言葉を聞いた黄色の13は、留置場の小さな小窓に目をやる。外に広がるのは、眩い太陽、蒼い大空。
大方、例の地上本部の者が黄色の13をその気にさせようと彼の機体をここに持ってきたのだろう。クラナガンから遠く離れたこの留置場は生活
必需品や食料などの搬入を、輸送機に頼っている。ゆえに、滑走路があるのだ。
修理の終わった愛機に滑走路、脱走にはちょうどいい条件だが――。
そこまで考えて、黄色の13は首を振った。そんなことをすれば、目の前の"教え子"たちに迷惑がかかる。第一、脱走してどこに逃げようと言う
のだ。燃料もそう長くは持つまい。
それに、わざわざこんな最果ての地に、管理局の地上本部はSu-37をこの地に持ち込んだ。自分を信用していると見ていい。
「悪くないかもしれんな、教官と言うのも……」
ぽつりと呟き、黄色の13は天を仰いだ。

黄色の13が悩んでいるのと同じように、悩む人間がここにも一人。
「帰れるのか……ううむ」
すっかり日が暮れ、周囲の明かりは外灯だけになってしまった六課隊舎、屋上。メビウス1は手すりに身を任せ、腕組して天を仰ぐ。
飛行服の胸ポケットから、古びた写真を二枚取り出し、彼ははやての言葉を思い出す。

『まだ確証はないんやけど、メビウスさんの話してくれた情報と、ほぼ一致する世界があるんよ。九割方、メビウスさんの世界やと思う』

元の世界。ユージア大陸に、ついに帰れる時が来たのだ。それなのに、それを心底喜んでいない自分がいる。
そもそも、自分が管理局、と言うより機動六課に協力したのは、彼女たちと対峙した敵戦闘機に敵国エルジアの国籍マークが描かれていたからだ。
ISAF空軍の軍人として、この地に飛ばされたエルジア軍残党が、また何かよからぬ行動を起こそうとしているのかと考えた彼は、その調査のため、
六課に加わった。ところが、結局エルジア軍は何も関与してなかった。スカリエッティが偶然この世界に飛ばされてきたエルジア空軍機を無人化
して、運用していたに過ぎない。黄色の13も、エルジア軍人としてよりも一人の戦闘機乗りとして、またナンバーズたちの教官として戦いに
加わった。
403THE OPERATION LYRICAL:2008/09/22(月) 19:43:54 ID:hASFpDND
それなのに、命の危険を冒してまで、六課の仲間たちと共に戦い抜いたのは、知らず知らずのうちに仲間意識が芽生えていたからだろう。
「要するに、俺はここに未練があるんだ。仲間たちと一緒に生きたいんだな……」
そう結論付けて、メビウス1はため息を吐いた。
思い返せば、いい奴らに出会えたと思う。
色々と裏はあったが、地上の平和を守るため奔走し、最後には自分自身の罪と向き合って、責任を取った指揮官。
自分に自信が持てず、ゆえに対決したが、それを乗り越えて素晴らしいセンスを発揮した銃士。
若くして同じエースの名を背負い、そう呼ばれるに相応しい技量を持ち、無茶をやる魔女。
他にも、陸の戦闘機乗りたち、六課の仲間たち、みんな忘れがたい、いい奴らだった。
――それでも、俺はやはり帰るべきなんだろうか。
二枚の写真を見つめ、メビウス1は誰かに問いかけるように、胸のうちで呟いた。
その時、強い風が吹いた。彼の手にあった写真は飛ばされ、隊舎の屋上の上を流れていく。
慌ててそれらを拾おうとして、メビウス1は誰かが写真を拾い上げるのを目にした。視線を上げると、そこには制服姿のティアナがいた。
「ランスター? なんでここに……」
「下から、誰か屋上にいるのが見えたので」
彼の問いかけに答えながら、ティアナは手にしていた写真にちらっと目をやる。
古ぼけた二枚の写真、片方にはどこかの基地の門前で、軍服を着たメビウス1と、彼の両親と思しき二人の男女が写っていた。
ただし、写真に写るメビウス1のその表情には、今より堅さやあどけなさが残っている。おそらく、軍に入隊して間もない頃、記念に撮ったもの
なのだろう。
もう片方には――ティアナは少しばかり、写真を見たことを後悔した。同じく軍服を着たメビウス1、傍らに写るのは、当時の彼と同じ年頃と思
しき、女性の姿。
「あ」
ティアナは声を上げる。メビウス1は素早く、少し強引に、彼女の手から写真を奪っていた。
「……ごめんなさい」
「――いや、俺も乱暴だったよ。悪かった」
ティアナは写真を勝手に見たことを謝り、メビウス1は仕草が乱暴だったことを謝る。
なんとも言えない心地の悪さが漂うが、彼女はそれを打破すべく、口を開いた。
「ご家族と……恋人、ですか?」
「ああ――」
包み隠さず、メビウス1は頷いた。ただし、更に言葉を付け加えて。
「みんな、もういないけどな」
「いない?」
ティアナが怪訝な表情を浮かべると、メビウス1は、ゆっくりと昔のことを思い出すように、意味を話し始めた。
「――俺が、軍隊に入った頃だ。"ユリシーズ"って名付けられた小惑星が落ちてきてな。親父もお袋も……彼女も、みんな吹き飛ばされちまった」
「……!」
驚くティアナを余所に、メビウス1は、言葉を続けた。
「そんな訳で、天涯孤独の身さ」
「……結婚して、家庭を持とうとは、考えなかったんですか?」
「俺が愛した女は彼女が最初で最後だ」
そう言って、メビウス1は今はもういない恋人の写る写真を手で揺らす。笑顔を浮かべているが、その表情には明らかに、底知れぬ悲しみがある。
「そもそもな、戦闘機乗りに女房なんて必要ない。帰りは遅いし、いつ死ぬかも分からないし――女房の方が、不幸になっちまうよ」
「――そんなこと、ありません!」
独り言のように呟くメビウス1に対して、ティアナは叫んでいた。
何故そうしたのかは、だいたい見当がつく。それに、彼女としては、彼がそんな悲しいことを言うのが、我慢ならなかった。
「彼女、きっと悲しんでますよ。自分の愛した人が、そんな悲しいこと言うなんて……身勝手ですよ、メビウスさんは」
「ランスター……」
「……ごめんなさい、言い過ぎました」
我に返り、ティアナは彼から目を逸らした。
404名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 19:45:56 ID:1nSRA/oC
支援
405THE OPERATION LYRICAL:2008/09/22(月) 19:46:04 ID:hASFpDND
「いや――お前の、言うとおりかもな」
ところがメビウス1は、気分を害したような様子を見せなかった。手すりから離れ、星の瞬く空を見上げた彼は、ため息を吐く。
――実際、お前はどう思う? 俺が愛した女はお前が最初で最後って言ったら、悲しいか?
夜空の向こうにかつての恋人を思い浮かべ、彼は胸のうちで問う。彼女は、困ったような苦笑いを浮かべた。そんな気がする。
元の世界に戻る。戻って、家庭でも持つべきか。家族を作るなら、自分の故郷の方がいいだろう。
だが、それを良しとしない自分もいる。
何故だろうな、とメビウス1が傍らにいるティアナに視線を送ろうとした時、彼女が「あ」と突然、夜空を見上げて呟いた。
釣られて彼も夜空を見上げる――小さな星が一つ、夜空を駆け抜けていくのが、一瞬だったが見えた。流れ星だ。
流れ星は、一つではなかった。後から二つ、三つと増えていき、次第にその数は増していく。やがて、空を埋め尽くさんばかりの流星群が姿を
現した。
「こんな時期に……綺麗」
ティアナは不思議そうに首を傾げながらも、素直にその光景に見惚れていた。
メビウス1も同じものを見たが、脳裏によみがえってきたのは、よりにもよって"ユリシーズ"が地表に降り注いだあの日の夜の光景だった。
だが、隣の彼女は夜空の流星群に見惚れている。
いい加減、自分も過去を振り払うべきだろうか。そうすれば、この流星群もマシに見えるかもしれない。
――その時だった。突然、六課隊舎に警報が響き渡った。
「何だ……!?」
「分かりません――ロングアーチ、応答を!」
ティアナが通信回線を開くと、モニターの向こうでシャリオが大慌てで司令室の席についていた。
「シャーリーさん、状況は!?」
「待って、情報がまとまってない――分かってるのは、空から隕石が落ちてきて、地方都市が一つ吹き飛んだってことくらい……」
隕石、と聞いてメビウス1とティアナは頭上を見上げる。流星群の中の一つが高度を落とし、綺麗な流れ星から凶暴な赤い隕石と姿を変え、はる
か遠くに落ちていくのが見えた。
直後、落着地点の方角から、夜空を照らさんばかりの閃光が上がる。隕石が落着したに違いなかった。
「……急ぐぞ、ランスター」
「はい!」
二人は駆け出し、それぞれの持ち場へと向かう。
途中、メビウス1は記憶の中に、これと酷似した光景があるのを思い出した。"ユリシーズ"が地球の引力に引かれて落ちてきた、自分が家族と恋
人を失ったあの日とはまた、別のもの。
まさか――いいや、違う。そうであってくれ。

夜空から降り注ぐ流星群。だが、その実態は地表にある全てを焼き尽くすのが目的の、死の流星群。
御稜威の王が、目を覚ました。"救い"が始まる、破壊と殺戮という名の、邪悪な"救い"が――。
406名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 19:47:37 ID:xXp06FPK
支援
407THE OPERATION LYRICAL:2008/09/22(月) 19:48:41 ID:hASFpDND
投下終了です。
ええ、アレです。ご期待の"アレ"が動き出しました(ぉ
なんでこんなに最近更新早いかって言うと、ちょうどプロット組んでる時に
書きたいと思ってたシーンが連発してるからです。
それでは次回をお待ちください。
408名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:08:03 ID:wRh4rh+j
GJ!
6課は真のバックの三脳までには至らないのね。
409名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:08:58 ID:yU1nRSFV
>THE OPERATION LYRICAL
最終決戦完結! そして戦士達は…と、締めに入るかと思えったらまさかのEXミッションに意表を疲れました。
ゆりかご攻略戦は前回の戦闘機での内部侵入に含めて、エスコンを彷彿させるシーンもありながらリリなのキャラも頑張ってるという燃え仕様で手に汗握りました。
メインのなのはさんを前回で終わらせたので、今回はフェイトそん側かなと思ってましたが、まさかのスカ逃亡。
やはりラストの隕石はスカ山なんでしょうかねぇ。
帰還の目処も立っていたメビウスと、何より13の描写がこれでは死亡フラグのように思えてならないw
戦闘機乗りはそういうの立ちやすいんだから、台詞にも気をつけなきゃいかんよ。
まだ窮地が続きそうなこの展開。ティアナのとの間になんかフラグ立ててるメビウスが次回直面するのはどんな事態なのか?
AC3しかまともにクリアしたことないから、いい意味で予想つきませんw
410くらいべいべ:2008/09/22(月) 20:27:31 ID:1lTozM8Y
 あの、ちょっとした単発物を投下してもよろしいでしょうか?
411名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:34:25 ID:r7hjAQ2Q
迷わずいくべし。
412くらいべいべ:2008/09/22(月) 20:39:24 ID:1lTozM8Y
 ありがとうございます。でもまあハルヒとのクロスというある意味地雷。
 危険だと思ったら、迷わずスルーしてください。
 それでは投下します。
413名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:42:19 ID:RrL6KRju
>>412
まずsageろ。テンプレにもあるだろう?

メールアドレスを打ち込む欄にsageと入れるだけ。簡単だろう。
414くらいべいべ:2008/09/22(月) 20:45:32 ID:1lTozM8Y
 すみません。うっかりしてました。
415名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:46:28 ID:PljjxZMd
>>413
気持は痛いほど理解するがもう少し優しい言い回しにしようぜ
別のスレは新参叩きが酷い事になり
結果凄まじい過疎っぷりを呈している
>>412
sageるのは大半のスレで基本だから今度から気をつけて支援
416名無しさん@お腹いっぱい:2008/09/22(月) 20:53:03 ID:Vc53389Q
THE OPERATION LYRICACAL氏
GJ!!
これはあれか、恒例のトンネルくぐりか
戦闘機でトンネルくぐるとか航空魔導士もびっくりだよ。
黄色の13もいるし、EXステージは期待せずにはいられない
投下が早くて驚いたが、次回の投下も期待してます。
417くらいべいべ:2008/09/22(月) 20:53:53 ID:1lTozM8Y

 昔の小説風にいうなら、我輩は猫である。名前はシャミセン。
 どこで生まれたのかは当然ながら覚えてない。気がついたらこの家で日向ぼっこしていた。
 私はこの家の飼い猫であり、これまた当然ながら飼い主が存在する。
 我が先達である『我輩』という一人称を使う人(猫)物は、人間(正確には違ったような気がするが)を獰悪な種族と評したそうだが、私にはそれほど獰悪には思えなかった。少なくとも私の飼い主である『キョン』と呼称されている人間はそうである。
 ただ、時折私に愚痴という名のぼやきを私に語るのと、キョンの妹君がやたらと私を撫でたがるのは性にあわないが、それだけである。
 人間というものは奇妙なもので、毛というものが極端に少ない。
 生えているのは成人しているものであっても頭部と性器のみであり、それ以外はつるつるしている。なるほど、先達が薬缶と評するのも納得できる。
 いままで様々な種族と出遭ったが、これほど中途半端な体表をしてるのは人間だけである。
 だが、この世で最も栄えているのは人間だそうである。それ以外はゴキブリだとか、プランクトンだとかぐらいらしい。
 その最も繁栄しているという人間であり、我が飼い主たるキョンは最近私に対するぼやきが増えている。それは非常に気に入らないのだが、その内容は非常に興味深いものであった。
 曰く、学校に宇宙人がいる。ただ非常に無口でどう接していいか、わからない。
 曰く、未来人もいる。その姿は人間の価値観でも愛らしく、かつ癒されるらしい。特に胸が。
 曰く、ついでに超能力がいる。ただ正直どうでもいい。
 等等、じつに奇奇怪怪な内容を話してくれた。その中でも極めつけは
 ―――涼宮ハルヒなる人間は神様みたいな能力を持ち、彼女には怪奇が集まってくる
 それはそれは驚くべきことである。ついでに言えば、キョンの周りの宇宙人やら未来人やら超能力者やらは、そのハルヒなる人物を監視するためにいるとのこと。
 私たち猫にも神という概念は存在する。ただ人間と違って実在するのだ。
 それは所謂猫又とか化け猫とかそういった類のものだが。ちなみに私はまだ出会ったことはない。
 ただ、海鳴なる都市には猫又ではないが陣内 美緒なる女神が存在すると、とあるさすらいの猫が言っていた。
 とにかく、その神もどきのハルヒなる人物は自分の能力は知らず、皮肉なことにキョンとともに奇怪な現象を探しまわっているらしい。
 正直勘弁してくれというのが、キョンの言葉だが、そこまで嫌がっていないと私は見ている。
 事実、彼はハルヒなる人物を語るときの顔は非常に生き生きしていて、彼女の突飛な行動に対しても苦笑しながらも付き合っているのがその証拠だろう。随分と楽しい人生を送っているようだ。
 そういったぼやきを聞くことを繰り返し、それが私と主人たるキョンの習慣の一部になっていたとき、ある話題が増えていた。
 ―――今度は魔法使いが現れたらしい。
 魔法使いの名前はフェイト=T=ハラオウン。
 なんでもロストロギアなるものを調査しに来た異世界の魔法使いだとか。ロストロギアなるものの説明はよくわからなかったが、調査の結果ロストロギアが某ハルヒなる人物であることは理解できた。
 ただ、困った事に本来ロストロギアは物であるらしい。だが、対象たるロストロギアは涼宮ハルヒ。つまりは人間であるのだ。
 人間は面倒くさいことに、人権なるものを尊重する。故に同じく人間である某ハルヒに対してどうするか、迷っているらしい。その為今は静観している。
 そんなことが、彼の話の内容であった。
 猫である私にとって関係ないことであるが、とりあえず私はますます怪奇なことになっている主人に対して、ねぎらうように前足でポンポンと体をたたいてやった。
418名無しさん@お腹いっぱい:2008/09/22(月) 20:56:30 ID:Vc53389Q
支援
419くらいべいべ:2008/09/22(月) 20:57:12 ID:1lTozM8Y
そんなこんなで飼い主の愚痴を聞きつつ、家で日向ぼっこする日々を繰り返していたのだが、唐突に事件は起こった。
 その日、私は恒例の散歩を行っていた。正確には私の縄張りの巡回といったところか。猫である私以外の種族でも大抵行うこと。
 とはいっても基本この街は同種族の闘争や異種族間の闘争も起こらない平和そのものであるので必要かと言われれば、私の心の贅肉といったところか。
 いやはや飼い猫である私は体にも贅肉がついていて、最近それが非常に気になるのだが。それはいかに。
 そうやって塀の上をのそのそと歩いていると、空気が変わった。どこかおかしいのだが、なにがおかしいのかと言われるとよくわからない。だが確実に変わっていた。
 どんよりと停滞した空気。
 何故か、人っ子一人、ましてはそれ以外の種族すらいない現状。
 明らかに異常だった。
 私の脳裏に警鐘が鳴るのを無視してそのまま進む。
 人間の諺に好奇心猫を殺すという言葉があるが、実際そうなるかもしれないのに、首を突っ込もうとしている私は明らかにご主人に感化されているな。
 やれやれ。そう心の中で呟くと慎重に先に進む。
 警戒しながら、おっかなびっくり進むと向こうには小さな公園がある。私は公園の前に座ってどうしたらよかろうかと考えてみた。別にこれというものが浮かばない。
 ここまできたのだから、進むしかない。虎子を得んとするならなんとやらだ。
 まあ私の場合は虎とは同属なのでむしろ歓迎されるかもしれないが。そう決心するとそろりそろりと公園の中に前足を踏み入れる。
 縁とは不思議なもので私が此処で引き返していたら、私はあのような事態に陥っていなかっただろう。この出来事は今日に至るまでの腐れ縁である元同属の双子の姉妹との出会いの切実となるのだから。
 さて、公園に足を踏み入れたのはいいものの、私は途方に暮れてしまった。
 何故ならそこはまさしく異界となっていたのだ。外から見た限りでは全く判らなかったのだが(後に聞いた話によると封鎖結界というけったいな術の効果らしい)公園に踏み入れた途端、世界が変わった。
 空は紅く変質し、どこか歪に歪んでいた。その中心で二人の化け物が踊っていた。
 そう。化け物だ。
 何もないところから雷を出したり、手に触れることなく物を動かしたり、動体視力に優れた猫である私ですら視認するのが難しいほど高速で動いたり、空を飛んだりするものを化け物といわずして、なんといおうか。
 思わず猫なのに阿呆の人間のように口を開きっぱなしになってしまったのは、誰であろうと責めることはできないであろうと私は思う。
 やがてその舞踏が唐突に止まると、二人はお互いはなしている。よくよく話を聞いてみると主人がよく話している涼宮なんとかについてのようだった。
 話に聞いた白人という人間の種族である黄金色の毛を持つ女性とご主人とよくいる自称宇宙人だという長なんとかという人間にしては美しい毛並みを持つ二人の会話は酷く物騒な内容だった。涼宮なんとかを拘束するとか、しないとか。
 やれやれ。そういうのは本人のいないところでするものではないのではと、場違いなほど酷く暢気に私は思った。
 そんな二人を眺めながら、ふと周りを見回すと少しはなれたところに人間がいるのを発見した。
 私の主人であるキョンだ。
 彼はどうやら酷く腰を抜かしているようで、なんというか。酷くみっともない格好だった。
 詳しくは彼の名誉のためこれ以上は言えない。
 なんともいえない、生易しい暖かい視線を送りつつ、彼に近寄る。呆然としている主人は私が至近距離に近づいても気がつかない。
 しょうがないのでニャーと一鳴きして、自己主張してみる。おお。ようやく気がついたようだ。
 彼は酷く驚いた顔をして私を抱きかかえると、ほっとしたのか、色々と愚痴りだした。うん。愚痴るのはいいが、ご主人様よ。空気読め。
 かくして私は涼宮なんとかを巡る、途方もない騒動というか、事件というのに巻き込まれてし
420くらいべいべ:2008/09/22(月) 20:59:35 ID:1lTozM8Y
 投下しました。
 題名は「とある猫の憂鬱」です。
 413様415様ご指摘ありがとうございます。
 これからは気をつけます。
421くらいべいべ:2008/09/22(月) 21:06:24 ID:1lTozM8Y
 ああ!またしてもすみません。投下したつもりが尻切れトンボになってる!
 とりあえず、最後の行は 

『かくして私は涼宮なんとかを巡る、途方もない騒動というか、事件というのに巻き込まれてしまったのだった。やれやれ。』

 となります。すみません。
422名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:15:54 ID:psly/ZMt
乙ー
・・・・・なんだこれ!?

ここへの投下は初らしいと聞くが、なんという奇奇怪怪な話だ
sageの件に関してはJane doe Styleていう2chや同じシステムの掲示板をブラウズする為だけのソフトがあるから、それを使うといい
ボタン一発でsageたりできる
423くらいべいべ:2008/09/22(月) 21:24:52 ID:1lTozM8Y
 そんなのあるんですか?
 あまり2chの出入りにも掲示板の書き込み自体してないんで、よくよくわからないことがおおすぎて。
 こういうのって、常識以前の問題らしいので、結構ご指摘を受けることが多いんですよね。
 それで結構へこんだりorz
まあ、生易しい目で見守っていただけるとありがたいです。
 
424名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:27:18 ID:fz/ooGbM
乙!
むふぅこれは摩訶不思議……。
425名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:42:29 ID:68HudTVg
少し亀だがTHE OPERATION LYRICAL氏GJ!
降ってくるのはやっぱり隕石かレールガンなのか?
426名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:50:02 ID:fz/ooGbM
>>423
僭越ながら、できれば暇を見つけて2chのやり方について情報を集めてみてはいかがでしょうか?
このようなネットの場ではほんの少しの注意不足により、痛い目に合う事が多いようなので。
自分も始めのころは、sageやアンカーの仕方がわからずに苦労しました。
手始めに2chで検索して、やり方を見てみてはどうでしょうか。
後、その他にわからない事があったら避難所のスレ(運営あたり?)で質問をしてみるのも良いかもしれません。
どうも失礼致しました。
427くらいべいべ:2008/09/22(月) 21:53:54 ID:1lTozM8Y
 426様提案ありがとうございます。
 そうですね。まずは自分でですね。
 さっそく、いってきます。
428魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/22(月) 22:12:35 ID:yU1nRSFV
ジョジョクロスの小ネタですが、15分から投下させていただきたいんですがかまいませんねッ!!
429魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/22(月) 22:17:29 ID:yU1nRSFV
 ――エリオがジェイル=スカリエッティ一味に組することとなった切欠はこうだった。

 本名<エリオ=モンディアル>はプロジェクトFと呼ばれる人造魔導師計画によって生み出された。
 その真実を知った時、彼は研究施設に送られたが、その一年後には偶然と運を味方にしてそこを脱走した。
 それからは、路地裏を這う虫ような生活だった。
 実の両親だと思っていた人間に裏切られ、施設で囚人のような扱いを受けていたエリオの心には、世の中の全てを憎む意思が疼いていたが、しかし所詮は子供でしかない。
 この巨大な社会という化け物の腹の中で、親の加護を失った無力で憐れな子供の行き着く先など決まっている。
 人生に捻くれた大人達に殴られ、飢えに苦しみ、そんな日々を過ごすうちにエリオは少しずつ絶望していった。

『これは運命なんだ! ボクはもうすぐ、父さんと母さんがそうしたように誰も彼もに忘れられて死ぬんだ』

 そう信じた。
 行くところはなかった。
 ひとりぼっちだった。
 心底まいっていた。
 エリオは4歳にして人生を捨てていた。

 ――そんな時だ。
 ノラ猫のようにレストランのゴミ箱を漁っているエリオの所に、少し年上の少女がたまたま通りがかった。
 名前を<チンク>と言った。
 その少女に声を掛けられた時、すでに弱りきっていたエリオは彼女が自分に何を求めようが驚く気も抵抗する気もなくなっていた。
 自分とは立場の違う裕福なお嬢様の気まぐれ、とは思えない力強い彼女の腕に引かれ、エリオは歩く。
 チンクはそのレストランにエリオを引き入れると、待ち合わせをしていたらしいテーブルの仲間に視線を送り、次いで店の給仕に向かって叫ぶように言った。

「こいつにスパゲティを食わせてやりたいんですが、かまいませんね!!」
「……え?」

 その突然の提案に、驚いたのはあろうことかエリオだけだった。
 テーブルの仲間は何を質問するわけでもなく、かといって嫌悪の表情も無く、自分に運ばれたスパゲティの皿を薄汚い小僧の前に差し出した。
 呆気に取られるエリオの頭の中は、感謝はもちろん疑念すら吹き飛んで真っ白になっていた。
 彼らの揺ぎ無い行為は憐れな子供に対する安っぽい同情心など超越した、確固たる理念を貫いていた。
 促されるままに、久方ぶりの食事を済ませ、人心地ついたエリオはチンクとテーブルについた仲間の男を交互に見る。
 男は何も喋らないので、エリオの方から尋ねた。

「何で、ボクなんかにこんなことしてくれるんですか?」

 男は、その質問に答えなかったが、感情を込めない態度でこう言った。

「そうしたいと言うのなら、しばらくオレ達の住処に泊まってもいい。
 だが、ガキは親のところへ帰るもんだ。そして学校へ行け! いいな……」

 得体の知れない乞食の小僧を受け入れる、奉仕の精神などという生温い心構えではない本当の懐の深さと、真っ当な世界へ戻そうとする厳しさを男は実感させてくれた。
 ただ人生に捻くれただけの子供なら、その言葉でもう一度正しい道へと戻れるかもしれない。
 だが、エリオは両親の元へはもう戻れないし、決して心を許すことも出来ないだろう。
 それからエリオは、独白するように自分の素性を男に話した。
 苦痛しかない行為だったが、驚くほど抵抗や反発はなく、まるで自分の抱えてきた苦しみは今この男に話す為に溜めてきたのだ、と思うほどすんなりと口から漏れた。
 全てを話し終えた時、男は立ち上がった。
430名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 22:18:50 ID:fFzR0lBs

431魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/22(月) 22:19:02 ID:yU1nRSFV
 ――その時、男の瞳には『怒り』が映っていた。
 何に対するものか?
 少年を殴った大人達か。生まれの違いだけで隔離し、モルモットのように扱った研究者達か。あるいは、命を玩び、生み出した子供を捨てた親に対するものか……その全てであるのかもしれなかった。
 吐き気をもよおす『邪悪』とは――何も知らぬ無知なる者を利用することだ。自分の利益の為だけに利用することだ。
 自分達の欲求を満たす為にエリオを傷つけた、手前勝手な愛情を振舞う両親を含む大人達ッ! それを育む腐った社会ッ!
 それら全てに対する男の純粋な『怒り』だった――。

「事情は分かった。すまなかったな。
 オレから君に出せる選択肢は少ない。君が『働く』というのなら、オレはオレの所属する『組織』に君を推薦しよう」

 エリオはこの男が何となく堅気の人間ではないのだろうという直感が正しかったことを悟った。
 苦笑を浮かべながらチンクも立ち上がり、それにつられるようにエリオも席を立つ。
 答えは既に決まってた。
 僅かな時間でしかなかったが、一人の人間として敬意を払ってくれた男の真摯な態度をエリオは既に信頼していたのだ。
 彼について行きながら、エリオは慌てて尋ねた。その名前を。

「――ブチャラティ。ブローノ・ブチャラティだ」

 男は自らを『ギャング』と名乗った。




<リリカルなのは×ジョジョ第五部>

―眠れる運命の奴隷達―(前編)





 ――トーレが自らの『意志』というものを強く意識するようになった切欠はこうだった。

 トーレは戦闘機人<ナンバーズ>の三番目として、この世に人工的に産み落とされた。
 長い年月で経験を積み重ねることによって、人間らしい判断や自我といったものは手に出来たが、彼女には生きがいだとか心を動かすものは最初から無かった。
 どこかで誰が死のうが、たとえ自分の手足がなくなろうが、心は動かないだろう。そうなっていた。
 ただひとつ……『巨大で絶対的な者』が出す『命令』に従っている時は、何もかも忘れ、安心して行動できる。兵隊は何も考えない。
 トーレは人間ではなかったが、人間を模した故に生み出される苦悩を、その無感情な戦闘機械としての心に抱いていた。
 その一点から何かが生まれそうな気がする。
 しかし、トーレはそれを不純物と感じ、消し去りたいと思っていた。
 自分は、後の生まれた感情豊かな姉妹達とは違う――。

 ある日、彼女の創造主であるドクター・スカリエッティは稼動中のナンバーズを集めて一人の男を紹介した。

『彼が今日から君達のリーダーだ』

 その決断に至るまで一体どんな経緯があったかは分からない。しかし、スカリエッティはただ簡潔にそう告げた。
 男の名は『ブローノ・ブチャラティ』
 何の変哲も無い、魔力すら持たないただの人間だった。
 一つだけ違う点があるとすれば、それは彼の持つ『特殊能力』だったが、戦闘能力という自分達にとって最も重視すべき観点からすれば、それほど特色ともならない能力だった。
 男は強い。が、それも人間の範疇だ。
 そう分析し終えた時、トーレはブチャラティに対する興味を失った。
 絶対的な任務遂行能力。戦闘力も判断力も含めて、トーレが興味を持つものはそれだけだった。その時、彼女の自我はただ戦いの為に存在した。
 そして、当初。ブチャラティは当然のようにナンバーズには歓迎されなかった。
 いきなり自分達の上に立ち、それでいて能力的には自分達に劣っている――それが歓迎される筈は無い。
 ブチャラティもその点は弁えているのか、彼がナンバーズの戦闘訓練に干渉することはほとんどなかった。賢明な判断ではあったが、その行動をクアットロが皮肉って彼を嘲ることも何度かあった。

 ――だが、変化はすぐに訪れた。
432名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 22:19:30 ID:fFzR0lBs

433魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/22(月) 22:21:33 ID:yU1nRSFV
 実戦経験を積む為の一環として、ナンバーズは他次元世界へ『任務』に向かうことが多々あった。それは重要な物資の強奪であったり、障害となる要素の排除であったりした。
 その全てにブチャラティは同行し――不思議な事に、帰還した時には『任務』を共にしたナンバーズと信頼関係を築いていたのだった。
 既に単独で任務を任される立場だったトーレには分からなかったが、チンクを始めとする他の姉妹が次々にブチャラティへの評価を改善していく様は素直に驚きだった。
 あのクアットロすら例外ではなかった。

『数値化できる能力じゃない。あの男には、言葉では伝えきれない『何か』がある。おそらく、ソレこそが私達に最も足りないものなのだろう』

 不思議な笑みを浮かべて呟くチンクの言葉を、やはりトーレは理解出来なかった。
 その疑問を解消する為にブチャラティへ模擬戦を申し込んだこともあった。
 結果はトーレの勝利だった。しかし、その戦いの中で疑問は更に深まった。
 能力値では圧倒できるはずのブチャラティに一時期は逆に追い詰められるところまで行った。
 トーレの確かな経験に基づく理詰めの戦闘予測を、ブチャラティは意外な発想とそれを実行する度胸によって尽く覆していったのだ。
 何より、ブチャラティの戦い方には理屈では説明し得ない疑問がついて回った。
 トーレは戦闘の後に尋ねた。

「お前の判断や行動は時折勝利に繋がらない場合もあった。自らの命を賭けてまで、何故そんな判断をしたのだ?」

 戦闘のダメージをおくびにも出さず、ブチャラティは服の埃を払いながら答えた。

「単なる訓練だと言われればそれまでだが、オレは戦う時に明確な目的を定めて戦っている。
 そして、その目的の為に勝利する方法は様々なはずだ。オレだけの力で何もかも勝ち抜く必要はない。オレの仲間の誰かが、オレの戦いを引き継ぎ、勝つことを想定して戦っている」
「そんな……そんな不確定なものの為に命を賭けると言うのか? ただの無駄死にになるかもしれないというのに?」
「そうだな、オレは勝利という『結果』だけを求めていない。
 大切なのは『勝利に向かおうとする意志』だと思っている。向かおうとする意志さえあれば、たとえオレが倒れたとしてもそれを引き継いだ誰かは勝利に近づく。
 そして、これは戦闘に限ったことじゃあない。生きることは『受け継いでいく事』だ。
 何が正しく、何が間違っているのか。決めるのは自分だが、それを教えてくれるのはそれまでの自分を育んでくれた『黄金の精神』なんだ」
「……」
「オレは、自分の『信じられる道』を歩いていたい」

 ブチャラティの言葉は、トーレにとってそれまでの価値観を変えてしまうほどの衝撃に満ちていた。
 単なる一個単位の戦闘機械として歩んできたトーレにとって、自分の『意志』を別の誰かに託すという発想は全く無かった。
 戦い、負ければそこで終わる。ただそれだけだ。
 だがこの時、ブチャラティはトーレに別の道を示した。
 自分の意志を引き継ぐ者――いるとすれば、それはやはり自分と同じ血肉を分けた姉妹達ではないか? 身近な存在が彼女に更なる後押しを与えた。
 カプセルに眠る、未だ生まれぬナンバーズの後継達を眺めながらトーレは一つの革新を得る。
 この時、トーレはブチャラティの『意志』を言葉ではなく心で理解した。




 ――ノーヴェがブチャラティという男を信望するようになった切欠はこうだった。

 彼女にとっても、やはりブチャラティとの出会いは彼を侮るところから始まっていた。
 自分が生まれた時にはもうそこに居た男。リーダーでありながら、能力は自分より下。勝気な性格のノーヴェはそんなブチャラティに分かりやすく反発した。
 彼女には、教育係であるチンクが苦笑と共にそれを戒める理由が分からない。
 それを分かる切欠はすぐにやって来た。
 ある日、ノーヴェは初の『任務』を与えられ、補佐のブチャラティと共に別の次元世界へ向かうことになる。
 そして、そこで彼女は未熟ゆえにミスを犯し、窮地に立った。
 救ったのは、もちろんブチャラティだった。
 戦いや任務を成功させるものは、単なる能力の優劣や数値化されたデータではない。
 その無言の証明を見せ付けられたノーヴェは悔しさと自らへの不甲斐なさを噛み締めることになった。
 自分を気遣うブチャラティの言葉が煩わしい。冷徹で合理的な判断のように見せているが、根本にある優しさを感じ取れることが、逆にノーヴェには辛かった。
434名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 22:22:02 ID:fFzR0lBs

435魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/22(月) 22:23:46 ID:yU1nRSFV
「あたしのことなんかほっとけよ!」
「そうはいくか。いい加減拗ねるのをやめろ。失敗から学んでいけばいい。長い人生で経験することに比べれば、こんなものは失敗の一つでしかないんだ」
「うるせえ、知ったような口聞くな! あたし達は『戦闘機人』……戦うための、兵器だ! 戦って勝ち抜く以外の生き方なんて――ねぇんだよッ!!」

 叫んだ。その瞬間、ブチャラティはノーヴェを凄まじい剣幕で怒鳴りつけた。

「甘ったれた事言ってんじゃあねーぞッ! このクソガキがッ! もう一ペン同じ事をぬかしやがったら、てめーをブン殴るッ!」

 ノーヴェは悔しさも忘れて呆気に取られていた。
 何故、彼は突然怒り出したのか?
 それから任務が終わり、アジトに戻っても、ノーヴェの心にはその時の衝撃と彼の怒りがもたらした不思議な感覚が残っていた。
 以来、訓練の時も座学の時も、いつも考えるのは彼の『怒ってくれた事』だった。

 ――なぜ、彼はイキナリ怒ったのだろう?

 でも、あの怒りは『恨み』だとか『嫌悪』だとか、人を『侮辱』するようなものは何もない怒りだった。
 初めての任務で敵対した者達から感じた『敵意』 あの時のように敵が『怒る』時とは大違いだ。
 マジになってこのあたしを怒ってくれた。彼には何の得もないのに……。
 彼のあの態度の事を考えると勇気がわいてくる。
 不思議な感覚だった。まだ成熟し切れていない、幼い精神しか持たないノーヴェは、その暖かい想いを理由も分からないまま受け入れていた。
 そうして、自然と自分の中で一つの人生観が生まれていった。
 戦う為に生み出された人工の生命<戦闘機人>――。

『戦闘機人っていうのは、ああいう人の為に働くものだ』……ひたすら、そう思うようになった。誇らしさすら感じていた。

 それは創造主の思惑さえ越え、一つの人格として生きることへの意義を見出した瞬間だった。
 以来、ノーヴェにとってブチャラティはチンクに並ぶ、仰ぐべき師であり兄となったのだ。





 ブチャラティとの邂逅から幾年月。ナンバーズも着々と目覚め始め、全ての予定は順調に消化される日々だった。

「予定は順調。素晴らしいことだ」
「そうだな」

 小洒落たティーポットで紅茶を注ぎながら、満足そうに呟くチンクにトーレが相槌を打つ。

「予定と言えば、昨日の任務で予定外のモノを拾ってきたそうじゃないか?」
「エリオのことか? 問題ない。我々の新しい仲間となる予定だ。今、ブチャラティがドクターに会わせている最中だろう」
「フン、ものになるといいがな」
「ブチャラティに任せておけば、何も問題ないさ」

 そんなやりとりとする年長組とは別のテーブルで、クアットロとノーヴェという珍しい組み合わせの二人が顔を突き合わせていた。
 ノーヴェの手元にはノートとテキスト。訓練スケジュールに組み込まれていない、個人的な勉強を行っているのだ。
 しかし、そんな向上心溢れる気概とは裏腹に、視線を彷徨わせるノーヴェの様子から既に飽きが来ていることは容易に分かった。

「何か今日は気分が乗らないんだよなぁ。今日の訓練って座学がメインだったしさぁ、一日ぐらい自主勉しなくてもさぁー」
「……あのね、ノーヴェ」

 元々体を動かす方が好きなノーヴェがそわそわとし出すのを優しく嗜めるように、クアットロはその背中にそっと手を回した。
 落ち着かせるように撫でる。
436名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 22:23:52 ID:fFzR0lBs

437魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg :2008/09/22(月) 22:25:06 ID:yU1nRSFV
「あなたは立派よ。一般的な数学なんてデータ共有で簡単に記憶できるのに、自分の力で一から理解したいから『教えてくれ』なんてなかなか言えるものじゃあないわ……。
 そして『九九』だってちゃんと覚えたじゃない?
 教えたとおりにやればできるわ。あなたならちゃんとできる」

 優しく、そして強く言い聞かせ、クアットロは書きかけのノートを手に取った。
 そこには『16×55』と式が書かれている。ノーヴェが今まさにぶつかっている『算数』の問題だ。

「さあ、いいかしら? 6かける5はいくつ?」
「6かける5は、ろくご……えと、ろくご……」

 ノーヴェは脳に直接データを書き込む方法とは全く勝手の違う、おぼろげな記憶を探りながら答えを搾り出す。

「……30?」

 確証の持てない呟きだったが、黙って見守っていたクアットロは途端に破顔した。

「そうッ! やっぱりできるじゃあない! もう半分できたも同然よ!」
「そーかッ! ろくご30ねッ! よしっ!」

 正解に気を良くしたノーヴェがやる気になってノートに向かい合うのを満足そうに見つめ、クアットロは微笑んだ。
 その時、唐突にまた別のテーブルから別の妹の怒鳴り声が上がった。

「何のマネっすかこりゃあ〜〜〜!?」

 椅子を蹴って立ち上がるほど肩を怒らせているのはウェンディだった。
 同じテーブルに座ったセインが、不思議そうに彼女の怒りの元凶らしい皿の上の物を見つめた。

「何って、イチゴケーキじゃない。紅茶のお茶請けなんだから、好きなの選べば?」
「イチゴケーキだっつーのは見りゃわかるっす! チョコケーキでもなきゃチーズケーキでもないっすからね。
 そうじゃあねえっすよ! ケーキが『4つ』じゃないっすか! このあたしに死ね! っつーんすかぁ!?」

 美味しそうな『4切れ』のケーキを指して怒り狂うウェンディの言動が理解できず、セインはしばし呆然と促されるままにケーキを眺めていた。

「……『4切れ』じゃ足りないの? もっと食いたいの?」
「知らないんすかッ、マヌケッ! 『4つ』のものからひとつ選ぶのは縁ギが悪いんすよ!
 5つのものから選ぶのはいい! 3つのものから選ぶのはもいい! だけど『4つ』のものから選ぶと良くない事が起こるんっすよ!」

 ウェンディは何も分かっちゃいない、という嘆きすら見せて、怒りの矛先をセインに向けた。
 既に呆れ始めているセインを尻目に、深刻な表情で語り始める。

「クア姉だってナンバーズの『4番』だから起動が遅れちゃったし、挙句あんな性格破綻者になっちまったんすよぉ〜」
「ウェンディちゃん。あとでちょっとお話しましょうね」

 こめかみに青筋を立てながらクアットロは言った。もちろんウェンディは聞いていない。

「そんなの迷信だよッ! 冷静に考えて、1個ずつケーキが減っていったら誰かがいずれ『4つの中』から選ぶはめになるんだから!」
「そこなんすよッ! こーゆー場合、お茶請け用意したセインが気をきかして3コにすべきなんっす……! まったく察して欲しいっすね!」
「もうォ〜、じゃあ食べなきゃいいでしょォ〜?」
「イチゴケーキが食いたいんすよ、あたしはッ!!」

 もはや子供の癇癪になっているウェンディの主張を尻目に、クアットロのテーブルではノーヴェが悪戦苦闘を経て問題を終了させていた。
438名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 22:25:20 ID:fFzR0lBs

439魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg
「やったーッ! 終わったよ、クアットロ。……どう?」
「出来たの……どれどれ?」

 自信満々で差し出されるノートに書かれた成果を見る。
 クアットロの顔から暖かい笑みが消え去り、急激に温度が低下していった。

「何これ……?」

 ノートには『16×55=28』という式が描かれていた。
 抜け落ちたかのような無表情の問いに気付かず、ノーヴェは既に答えは正解だと過信した笑顔を浮かべている。

「へへへ♪ 当たってる?」

 さあ、褒め称えてくれッ! 言わんばかりのノーヴェの顔に、次の瞬間クアットロは無言でフォークを突き刺した。

「ぁぎゃああああーーーッ!?」

 予想だにしない不意打ちに、血を撒き散らしながらノーヴェは悲鳴を上げた。頬には刺さったフォークがブラブラ揺れている。
 痛々しいその姿に対して、むしろクアットロは怒り狂っていた。

「この格闘バカが、私をナメてんのかッ! 何回教えりゃあ理解できんだ、コラァ!」

 普段の淑女らしい丁寧な言葉遣いも、艶のある穏やかな物腰も消え去り、顔面に血管をピクピク浮かせながら凶相へと変貌したクアットロは容赦なくノーヴェの頭を掴み上げた。
 髪がブチブチと引き千切れ、無理な角度に曲げられた首の骨が悲鳴を上げようが無視して思い切り顔を逸らせる。

「ろくご30ってやっておきながら、なんで30より減るんだ? この……」

 そのまま殺意さえ感じる怒りと共にテーブルへと振り下ろした。

「ド低脳がァーーーッ!!!」

 派手な激突音に顔面の骨とテーブルが軋む音が混ざり、周囲に響き渡った。
 うつ伏せになったノーヴェの頭を中心に血が広がる。
 しかし、そんな突然の惨状にも周囲の反応のほとんどは冷めたものだった。
 癇癪を納めたウェンディが『あ〜あ、切れた切れた。またっす』と呆れたように紅茶を啜る。トーレとセインに関しては完全に無視を決め込んでいる。
 毎回の事だからだった。
 ただ一人、チンクだけが二人の姉妹喧嘩というには少々激しい諍いを止めようとその場でオロオロしていた。

「低脳って言ったな……。殺す、殺してやる! 殺してやるぜぇ〜、クソ姉!」
「年上への口の利き方がなってないわねぇ……気に入らないなら言い方を変えるわ。ブチ殺すわよ、クサレ脳みそが!」
「こ、こら! 二人とも止めるんだ、それに使っていいのは『ぶっ殺した』だけだ!」

 完全に殺意にまみれた二人だけの世界に没頭する傍らで、背の低いチンクが必死になって半ばワケの分からないことを言っている。
 そんな一触即発の状況下へ、チンクの願いに応えて事態を収拾し得る人物がやって来た。



「てめーらッ! 何やってんだ――ッ!?」