リリカルなのはクロスSSその75

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1名無しさん@お腹いっぱい。
ここはリリカルなのはのクロスオーバーSSスレです。
型月作品関連のクロスは同じ板の、ガンダムSEEDシリーズ関係のクロスは新シャア板の専用スレにお願いします。
ガンダム関係のクロスオーバーは新シャア板に専用スレあるので投下はそちらにお願いします。
オリネタ、エロパロはエロパロ板の専用スレの方でお願いします。
このスレはsage進行です。
【メル欄にsageと入れてください】
荒らし、煽り等はスルーしてください。
ゲット・雑談は自重の方向で。
次スレは>>975を踏んだ方、もしくは475kbyteを超えたのを確認した方が立ててください。

前スレ
リリカルなのはクロスSSその74
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1216520618/

*雑談はこちらでお願いします
リリカルなのはウロスSS感想・雑談スレ44(こちらは避難所になります)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1219748821/

まとめサイト
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/

NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/

R&Rの【リリカルなのはStrikerS各種データ部屋】
ttp://asagi-s.sakura.ne.jp/index.html
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 22:07:42 ID:FkQMa2Ew
【書き手の方々ヘ】
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
  http://gikonavi.sourceforge.jp/top.html
・Jane Style(フリーソフト)
  http://janestyle.s11.xrea.com/
・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認してダブルブッキングなどの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
 前の作品投下終了から30分以上が目安です。

【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は応援スレ、もしくはまとめwikiのweb拍手へどうぞ。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。

【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
 議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
 皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
 著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
 いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
 追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 22:09:01 ID:FkQMa2Ew
【警告】
・以下のコテは下記の問題行動のためスレの総意により追放が確定しました。

【作者】スーパーロボット大戦X ◆ByQOpSwBoI
【問題の作品】「スーパーロボット大戦X」「スーパーロボット大戦E」「魔法少女(チェンジ!!)リリカルなのはA'S 次元世界最後の日」
【問題行為】盗作及び誠意の見られない謝罪

【作者】StS+ライダー ◆W2/fRICvcs
【問題の作品】なのはStS+仮面ライダー(第2部) 
【問題行為】Wikipediaからの無断盗用

【作者】リリカルスクライド ◆etxgK549B2
【問題行動】盗作擁護発言
【問題行為】盗作の擁護(と見られる発言)及び、その後の自作削除の願いの乱用

【作者】はぴねす!
【問題の作品】はぴねす!
【問題行為】外部サイトからの盗作

【作者】リリカラー劇場
【問題の作品】魔法少女リリカルなのはFullcolor'S
【問題行為】盗作、該当作品の外部サイト投稿及び誠意のない謝罪
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 22:18:28 ID:0UDwER/3
>>1乙〜
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 22:19:13 ID:P60fYw/3
>>1乙!
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 22:24:35 ID:QJWovFcI
>>1乙!
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 22:47:13 ID:CsiNhxTX
>>1乙です!
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 23:06:57 ID:jHPO0NR3
>>1乙ぜよ!
9ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/07(日) 23:26:19 ID:Xk+aXCrt
23時50分に投下予約を。
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 23:40:10 ID:jHPO0NR3
早いけど支援するぜ!
11ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/07(日) 23:50:51 ID:Xk+aXCrt
では、時間なので投下します。
12ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/07(日) 23:52:21 ID:Xk+aXCrt
 オットー、ウェンディに続いてチンクまでもがゼロの前に敗れたという報は、
ナンバーズ全体を揺るがした。あのウーノでさえ、顔色を変えてスカリエッテ
ィに報告をしたほどで、秘密基地は深刻な空気に包まれていた。
「ほぅ、チンクもやられたのか」
 昼食後のデザートとして、オレンジなど果実の盛り合わせを食べていたスカ
リエッティは、その報告に対して平静を保っていた。しかも、これといって動
揺すべき事柄ではないと言いたげに、オレンジにかぶりついていた。
「チンクならばあるいは、と思っていたが……」
 期待はずれ、というわけでもない。勝てるかも知れないと思っていただけで、
このような結果になることも十分に予想していた。故に、チンクは善戦したと
いう話を聞かされても、スカリエッティの表情や態度に変化はみられなかった。
「善戦したか……チンクもそれなりに強い戦闘機人だが、ゼロを苦しめた、と
いう辺りが限界だったようだ」
 実力ではナンバーズでもトップクラスに入るチンクだが、その彼女でも敵わ
なかった。スカリエッティは平然としているが、ウーノは違った。
「ドクター、最後の施設にいるナンバーズですが……呼び戻してはいかがでし
ょうか?」
「呼び戻す?」
「はい、チンクがやられた今となっては、勝ち目などありはしません」
 あるいは勝ち目など端からないことを知っていて、ドクターはこのゲームを
始めたのではないか? ウーノは近頃このように考えるが、それを口に出すの
は憚られた。
「最後の施設にいるのは……そうか、セインだったな」
 ナンバーズ6番、セイン。水色の髪に、髪色と同じぐらい明るい性格をした
戦闘機人だ。彼女は他の姉妹とは一風変わった能力を持っており、さらに生
来の気さくさから姉妹からの信用と信頼も高い。
「確かに彼女では、勝ち目どころか勝負にすらならないだろうな」
 セインは戦闘タイプの戦闘機人ではない。彼女の能力の真価は、直接戦闘で
発揮されるようなものではない。
「帰還させ変わりのものを送り込むか、増援を送るか……それをご検討なさっ
てはどうかと」
「増援はダメだ。こちらは一人ずつというのがルールだ。前者にしてもセイン
が私の言うことを聞くかな」
「どういうことです?」
「私は彼女に、嫌われているようだ。よく避けられる」
 何気にショックだったのか、少し投げやりな口調でスカリエッティは言った。
「セインのことは気に入っているのだがね、私は」
「……初耳です。一体、どのようなところが?」
 ドクターがナンバーズに対して、このようなことを言うのは珍しい。故にウ
ーノは、多少の嫉妬心を憶えながら尋ねた。
「優しいルーテシアには及びも付かないが、セインはあれで良い身体をしてい
る。あの身体は良い……想像しただけで弄くり回したくなってきた」
 それは、セインの能力や性能という意味だろうか? 絶対に、そうであって
欲しい。そうでなくてはならない。
 ウーノは小さく、ため息を付いた。


         第13話「罰ゲーム」
13ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/07(日) 23:53:20 ID:Xk+aXCrt
 セインには直に話すと言うことで、スカリエッティはウーノを伴いオレンジ
片手に通信司令室にやってきた。そこには、幾人かのナンバーズの姉妹達がい
る。スカリエッティは彼女らには気を止めず、ウーノにセインとの間に回線を
繋ぐように命じた。
 すぐに回線は繋がり、モニターにセインの姿が現れた。
『なにか用? ドクター』
 あからさまに不機嫌な表情と口調だったので、ウーノの顔が険しくなる。セ
インはそれに気付いたが、敢えて変えようとはしなかった。
「チンクのことは、聞いているかね?」
 スカリエッティは態度には触れず、用件だけを話すことにしたようだ。
『聞いたよ。だけど、それがなに?』
「ウーノが君のことを心配していてね。君はチンクや他の姉妹と違って戦闘タ
イプではない。このまま彼……ゼロのことだが、彼と戦っても勝てないだろう
と、まあそういうわけだ」
 片手に持ったオレンジを弄びながら、スカリエッティは語る。
『ドクターは……』
 セインがポツリと喋り出す。
『ドクターはどう思ってるの?』
 ウーノが心配していた、という言葉が引っかかったのか、セインはそのよう
なことを尋ねた。もっとも、ウーノが自分のことを心配しているなどと言う話
も俄には信じがたいことなのだが。
「私としても、確かに君は無くすに惜しい人材だ。君の能力は貴重で、しかも
替えが利かない。これまで幾度も重用してきた」
 そもそもセインを今回のゲームに参加させたのは、実のところは数合わせだ
った。丁度その時、稼働中の戦闘タイプでゲームに参加出来るものがいなかっ
たのだ。
「そこでこう言うのはどうだろう? 君はこっそりと帰還して、誰か別のナン
バーズと入れ替わるというのは。敵は君が居ることを知らないし、小狡いがそ
うしたほうが……」
『嫌だよ、お断りだね』
 強い口調で、セインは断言した。
『私はチンク姉やウェンディ達の敵を取る。逃げる気はない』
「彼女らはまだ死んでないが」
『だとしても、負けっ放しじゃ、ナンバーズの名折れだ』
 正直、セインがそのようなことを気に掛けるとは思わなかった。だが、考え
ても見ればチンクと彼女は姉妹の中で、もっとも懇意にしていた仲であるし、
ウェンディは自身が教育を担当していた。それが立て続けに敗北し、敵の手中
にあるというのが耐え難いのかも知れない。
「しかし、君ではゼロに勝てない」
『そんなの、やってみなくちゃわからない!』
「聞き分けがないな。無理だと言っているのに」
 その時、側で黙って聴いていたノーヴェが前に出てきた。
14ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/07(日) 23:54:21 ID:Xk+aXCrt
「アタシもセインに賛成だ。ドクター、アタシを行かせてくれ!」
 ノーヴェは、チンクから直接教育を受けていた妹で、彼女のことを最も信頼
している姉妹の一人だ。
 信頼、信用、信任……ジェイル・スカリエッティには理解できない感情だ。
「君はダメだ。専用装備がまだ完成していない」
「そんなの、必要ない! この拳があれば十分だ!」
 勇ましい言葉であるが、それで勝てるのならチンクは負けなかっただろう。
ゼロは力押しで勝てるような相手では……いや、待てよ。
『ノーヴェ、悪いけど増援も、入れ替わりも必要ないよ』
「なんでだよ!?」
『私は、自分の力でゼロを倒す……私だってナンバーズだ!』
 言うと、セインはそのまま一方的に回線を閉じてしまった。あまりの反抗的
な態度にウーノがスカリエッティの表情を伺うが、彼は特に気にしていないよ
うだった。
 彼は片手のオレンジを弄びながら、思案顔をする。
「ドクター頼むよ、アタシも行かせてくれ!」
 上目遣いに懇願するノーヴェだが、スカリエッティはその頭にポンッと手を
置いただけで何も言わなかった。彼にしては真剣そうな表情を浮かべていたの
で、ノーヴェはそれ以上、何も言えなくなってしまう。
「ディエチ」
 スカリエッティは隅の壁により掛かりながら、事を静観していたナンバーズ
の少女に声を掛ける。
「……何?」
 閉じていた目を開き、ディエチが答える。
「君に命令を与える」


 エリオ・モンディアルの負傷と、それに伴う戦線離脱は機動六課に暗い影を
落とした。特に保護者であったフェイトは見るからに落ち込んでいたし、キャ
ロも気が滅入っている。スバルやティアナにしても同様で、六課内に陰鬱とし
た空気が流れているかに見えた。
 しかし、はやてとなのはは違う反応と対応をした。はやてはエリオに関する
報告をシャマルから聞くと、一言「ド阿呆が……」と言ったきり口を噤んだ。
そして報告書には、エリオの命令無視と暴走行為の結果であると記したのだ。
この対応はフェイトの反感を強く買うことになるが、事実なので反論が出来な
い。まさか嘘を書く分けにもいかないし、こんな命令をはやてが出すわけもな
いのである。
 逆になのはの反応は至って普通だった。エリオの負傷に対し心を痛めたり、
落ち込むフェイトを励ましたりした。だが、それだけであり、彼女の関心は別
のことに大きく傾いていた。

 聖王病院から引き取ってきた幼女、ヴィヴィオである。
15ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/07(日) 23:55:40 ID:Xk+aXCrt
「なのはママーっ」
 はじめ、このようになのはのことを呼び慕うヴィヴィオに対して、なのはは
かなり困惑していた。というのも彼女は末っ子の生まれであり、下に弟妹がい
ない。つまり子供の相手をするのが苦手なのだ。
 逆にフェイトはというと、彼女の場合はそれなりに手慣れた方である。エリ
オやキャロのこともあるし、義兄夫婦の間に生まれた双子の子供もいる。だか
らどちらかというと、フェイトの方が世話役として適しているのだが、今の彼
女にその気力はなかった。
 ただ、なのはとフェイトは同室であるから、必然的にフェイトもヴィヴィオ
と触れ合う機会は多くなる。ヴィヴィオは、フェイトのことも「フェイトママ」
などと呼んで、ささくれだったフェイトの心を癒やしてくれた。

 出会った当初は内向的に見えたヴィヴィオであるが、六課に馴染むにつれて
生来のものと思われる明るさを見せるようになってきた。
「あっ、ゼロー!」
 ゼロに対してもそれは同じで、病院で助けられた一件から、なのはほどでは
ないにしろ、ヴィヴィオはゼロに懐いていた。
「何か用か?」
 対するゼロは相変わらず言葉数は少ないが、どこか力を抜いた声で答えてい
る。ヴィヴィオの方も、ゼロはあまり喋らない人なのだと認識しているようで、
口数については気にしていない。
「これから、なのはママに会いに行くの。ゼロも一緒に行こうよー」
 どうやら、訓練場に行くようだ。
 エリオがいなくなっても、六課の日常が変わるわけでもない。フェイトにし
ろキャロにしろ、訓練に身が入らなくなったわけでもないし、前者は消極的な、
後者は積極的な理由で訓練に励んでいた。

 訓練場へと到着したヴィヴィオは、なのはの姿を見つけると駆けだしていっ
た。丁度、訓練が一段落したのか、なのははヴィヴィオを笑顔で迎えるが……
彼女の元に辿り着く直前、ヴィヴィオは盛大に地面に転けた。
 地面は柔らかい土だから大きな音はしないし、衝撃もそれほどではなかった
はずだが、ヴィヴィオは数秒間地面に突っ伏していた。顔からぶつかったし、
やはり幼女には痛いのだろう。
 助け起こそうかとゼロやフェイトが動こうとしたとき、なのはがそれを手で
制した。
「大丈夫だよ、あれぐらいなら。多分、怪我もしてない」
 どんな根拠があるのかと思ったが、確かにヴィヴィオは地面から顔を上げる
ことは出来た。
「さぁ、ヴィヴィオ。自分で立ちなさい」
 なのはは基本的には優しいのだが、根が戦士のためかこういった部分には厳
しかった。ヴィヴィオは顔を上げはしたのだが、涙を浮かべている。
「ママ……」
 助けて欲しいと訴えるが、なのは屈んで手を伸ばすだけ。
「私はここだよ、ヴィヴィオ」
 しかし、ヴィヴィオは動かない。それとも動けないのか。
 見かねたゼロが、ヴィヴィオの手を取る。だが、あくまで助け起こすのでは
なくその手伝いをするだけだ。ヴィヴィオはゼロの顔を見つつ、何とか自分の
足で起ち上がった。
16ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/07(日) 23:56:53 ID:Xk+aXCrt
「意外と甘いんだね」
 嫌みのない声で、なのはがゼロに声を掛けた。
「なのはが厳しすぎるんだよ。ヴィヴィオはまだ小さいんだから」
 そう言いながら、フェイトはヴィヴィオを抱きかかえた。そんなヴィヴィオ
に、なのはは近づき涙を拭ってやる。
「泣いちゃダメだよ。倒れたときの涙は、弱さの証だ。ヴィヴィオは、強くな
らなくちゃね」
 子供に言うようなことも出なかろうにとフェイトは呆れるが、ヴィヴィオは
意外なほど、素直だった。
「うん……わかった」
「いい子だよ、ヴィヴィオ」
 そう言って、なのはは微笑みながらヴィヴィオの頭を撫でた。


 ヴィヴィオの存在が、陰鬱とした六課の空気を吹き飛ばしつつあることは疑
いようがなかった。あどけない、裏表のない幼女の存在は凄惨な戦いの中に生
きる少女達の清涼剤になっているようだ。
 特に、なのはの変化は著しかった。はじめはヴィヴォの扱いを困っていた彼
女であるが最近はそうでもなくなってきている。我が儘で手が掛かる、という
のならともかく、ヴィヴィオは多少甘えん坊な一面が大きいものの、なのはの
言うことに対しては聞き分けが良い。
「ヴィヴィオも六課に馴染んできたみたいで、よかったですね!」
「そうだねぇ、すっかり懐かれちゃって」
 スバルの言葉に、笑顔で返すなのは。ヴィヴィオは子供らしい屈託のなさで
なのはに接している。
「うん、なんだか可愛くも思えてきたよ」
 母親代わり、という意味では相変わらず困惑は隠せない。しかし、妹という
のでは歳が離れすぎているし、やはり娘というのが妥当なのかも知れない。
 娘……か。自分が母親代わりとして必要とされていることは判るなのはであ
るが、果たしてこのままで良いものか。
「深く関わるのは、不味いのかな」
「へ?」
「ん、何でもないよ」 別れは、きっと遠からず訪れるはずだから。


 高町なのはが明るくなった、という話は六課内でも話題になっていた。今ま
でもフェイト以外は、なのはは十分明るい性格だと思っていたのだが、こうし
て比べてみると今の方がずっと明るいように思われる。
「なんか、昔のなのはを見ている見たい」
 ヴィヴィオと戯れる親友を見ながら、フェイトはゼロに話しかける。
 ここ最近のなのはは、何に対しても興味や関心が薄かった。その一線引いた
姿勢にフェイトは違和感を憶えていたのだが、ヴィヴィオの相手をしているな
のはを見ると、それが杞憂に過ぎなかったのだと思い直した。
「確かに、楽しそうだ」
 ゼロも何故かヴィヴィオから懐かれてはいるが、彼女が真に慕っているのは
やはりなのはであること、誰の目にも明らかだった。そんな暖かく明るい空気
に一番近い場所で触れているせいか、フェイトもまた元気を取り戻しつつある。
17ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/07(日) 23:57:53 ID:Xk+aXCrt
「昨日ね、病院にエリオのお見舞いに行ってきたんだけど、元気そうだった」
 絶対安静には変わりなかったが、エリオは意識を明確に取り戻し、流暢な会
話を行うほどには回復していた。
 面会したエリオは、自分の未熟さを素直に恥じ、悔いていたという。
「キャロに言われて、ハッとしました。僕は、焦りすぎていたみたいです」
 ゼロに謝っておいて欲しい、といわれたのだが、ゼロは何故エリオは自分に
謝るのかわからなかった。恐らく助けられた事への礼ではないか、とフェイト
は推測したが、実は全く違う意味であったことは後日知ることになる。
「ところで、残るナンバーズのことなんだけど……」
 フェイトが和やかな表情を引き締め、口調も変えてゼロと向き合う。
「今のところ、目だった動きはない。ガジェットの数も、確認されているだけ
なら以前までの半分以下みたい」
「なら一人で行く」
「でも、それは!」
 エリオの一件から、はやてはゼロに同行することを固く禁じるようになった。
暴走が原因とはいえ、はやてにしてみれば貴重な戦力をゼロとスカリエッティ
のゲームで失ったことになるのだ。彼女は残る施設の戦力が少ないことを確認
した上で、そのような命令を出した。
 命令である以上従わないわけにはいかず、フェイトやギンガの訴えも退けた。
はやては仲間を失うことを恐れているようだ、とリインが語ったがフェイトと
しては納得のいかない部分も多い。
「すぐに出撃する」
「ヘリで? それとも転送の準備を……」
「いや、あれでいく」
 近くの木に、ライディングボートが立て掛けてあった。


 残る最後の施設は、食料保存庫である。
 食料と言えば人間が生活する上でなくてはならないものであり、今までの施
設と比べても重要度に関しては変わりないと思われるが、実は全くそうではな
い。確かに規模がそれなりだが、この手の施設はクラナガンだけでも無数に存
在する。
 食料保存及び供給のための施設が一つでは、効率が悪いのと有事の際に支障
をきたすというのが理由である。だから、一つを制圧されたぐらいでは市民レ
ベルにおいて生活が混乱することはないのだ。
 何でそんな場所をスカリエッティが制圧したのかと言えば、それこそ数合わ
せに過ぎなかった。それっぽい施設が思いつかなかったから、と言うのが理由
であり、彼としてはゲームが行えるならどんな場所でもよかった。
「そろそろ、敵が来る」
 施設奥の大倉庫にて、セインは瞑想するかのように物静かに目を閉じていた。
精神を集中させ、これから行われるであろう戦闘をイメージする。ドクターの
言ったことなど、百も承知だ。自分では万が一にも、勝ち目などないだろう。
 例え、ノーヴェの力を借りたとしても。
「大丈夫、お姉ちゃんに任せとけ……」
 勝算は、ある。イメージ通りに事を運べば、勝ち目のない戦いをひっくり返
すことが出来るはずだ。
 負けないのではなく、勝つ。勝って、チンクやウェンディ達を取り戻す。
「その為に、私は全力を尽くす」
 言い終わると同時に、敵襲を知らせる警報が鳴った。
18ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/07(日) 23:59:12 ID:Xk+aXCrt
 セインの思いとは裏腹に、この戦いは序盤の段階でゼロの有利に運んでいた。
ライディングボートで施設に飛来するという方法を採ったゼロであるが、空中
からほぼ全てのガジェットの配置を確認できたのである。
「なんだ、あの配置は?」
 数の少なさは元より、配置からして乱雑だった。適当な数を適当な位置にあ
てがっただけといった、戦略性のなさ。一応、地上における突入ポイントは押
さえているようだが、空に対する備えがなさ過ぎた。
「エリアルショット!」
 ライディングボートの先端から、エネルギー光線が発射される。地上にいる
ガジェットを撃ち払いながら、対地攻撃によって一掃していく。気付いた空戦
型ガジェットが応戦しようと飛び立つが、ゼロは続けてレイストームを発動し、
それらを撃ち落とした。
 おかしい。あまりにも簡単すぎる。
 まさか、残るナンバーズが戦闘を不得意としている戦闘機人だとは知らず、
ゼロは疑念を抱いていた。
 だが、その疑念を遮るように別方向から攻撃があった。
「お前がゼロだな!」
 ガジェットU型の背に乗りながら、一人の少女が飛来してくる。明るい水色
の髪が印象的な娘だった。
「最後のナンバーズか」
 バスターを構えながら、ゼロは警戒する。
「それはウェンディのものだ、返せ!」
 ガジェットで攻撃をしながら、少女が叫ぶ。砲火を避けながら、何故、自身
で直接攻撃を仕掛けないのかとゼロは思った。
 光線やらミサイルやらを避け続けるゼロだが、少女はあろう事か体当たりを
敢行してきた。
「落ちろ!」
 ガジェットをゼロに叩き付け、爆発させる。衝撃に、ゼロはライディングボ
ードから振り落とされた。
「馬鹿か、こいつは」
 こんなことをしては、自分もただでは済むまい。少女の方を確認するゼロだ
が、少女は不敵な笑みを浮かべると近くの倉庫の屋根へと突っ込んでいった。
 ゼロはそれを最後まで確認する間もなく、セイバーを手近な倉庫の壁に突き
立てることで地面への衝突を回避した。
「チッ……」
 戦略も戦術もあったものではない。
 ゼロは少女が落ちた倉庫へと向かった。壁を蹴って屋根の上に上がるが、ど
こにも見あたらない。当然地面にもいないし、中に落ちたのか? だが、屋根
に穴はなど空いていない。
 訝しがりながら、ゼロはバスターを構えつつ倉庫内に入った。
 しかし、そこにはやはり誰も居ない。
「逃げたのか……?」
 広いが何も入っていない倉庫内を見回しながら、ゼロは呟いた。
 すると、どこからともかくこんな声が響き渡る。
19ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/08(月) 00:00:44 ID:EmePT2G0
「誰が逃げるか」
 声に反応し、後ろを振り向くが、そこには誰も居ない。銃口を向けながら、
ゼロは思案する。この敵の、能力を。
「姿を消す能力……いや」
 カランっと、なにかが天井から落ちてきた。二本の棒のような、先に黒いな
にかが付いて、
「――――ッ!」
 ゼロは咄嗟に後ろに飛んだ。それと同時に、天井から落ちてきた爆弾が爆発
する。威力はそれほどでもないが、直撃すればダメージになっただろう。
「なんだ、今のは」
上を見上げるが、爆弾を落とせる窓や穴の類は見あたらない。天井自体は刺
して高い位置にないので、視認でそれぐらいは確認できるのだ。
 ゼロが上を見上げ注視する中、地面からそれを覗く者がいる。ゼロが天井を
見上げて動かないのを確認すると、それはナイフを出した。
「くらぇぇぇぇぇぇっ!」
 叫び声は、今度は地面からした。
「なっ!?」
 地面から、先ほどの少女が飛び出してきた。手に握るのは、チンクが使って
いたスティンガー。
 避けようとして、避けきれなかった。斬撃は、ゼロの胸を斬り裂いた。
「地面を潜る能力か」
 バスターを向けながら、ゼロは少女を見る。
 傷口は、浅い。
「ナンバーズ6番、セイン。潜行する密偵!」
 叫ぶと、セインは再び地面へと潜った。バスターショットを放つが、セイン
が潜る方が遥に早かった。
 虚しく地面にあたるショット見ながら、ゼロは周囲を警戒する。どこから現
れるかわからない敵、これは驚異的な能力である。今までのナンバーズは戦い
方こそ様々だったが、姿は常にさらしていたのだ。
「だが…………」
 はじめのガジェットによる砲撃と、今のスティンガーによる斬撃、攻撃とし
てはいささか威力に欠ける物足りなさだ。
 まさか、このセイントか言う奴は。
「そこっ!」
 再びセインが地面から飛び出してきた。今度は背後からであったが、ゼロは
気配を察知してこれを避けた。セインはそのままジャンプし、今度は天井を通
り抜けた。どうやら、壁という壁を通り抜ける能力らしい。
「今度は上か」
 少しすると、また爆弾が降ってきた。ゼロは正確にバスターで撃ち落としな
がら、疑念を確信に変えつつあった。
 セインがゼロの垂直上から爆弾を片手に降ってくる。爆弾を投げるセインと、
それを避けるゼロ。彼女はそのまま地面へと潜った。
「今度は地面」
 セインは、何らかの方法で地面や天井からこちらの立ち位置を見極めてくる。
そして、必ず死角からの攻撃を行ってくる。
20ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/08(月) 00:01:38 ID:EmePT2G0
 また背後に気配を感じ、ゼロはゼットセイバーを引き抜き応戦した。
「なっ、どうして!?」
 スティンガーを突き刺そうとして、セインは逆にスティンガーを叩き落とさ
れてしまった。
「お前は、戦闘タイプじゃないな?」
「――っ!」
 図星を疲れ、セインは慌てて後ろに飛んだ。
「な、なんでそんなことを」
「お前の攻撃は単調で、しかも弱い。ガジェットの配置も、オレに対する攻撃
方法も、即席で考えたんだろう」
 今までのナンバーズと比べ、セインの攻撃はあまりにお粗末だった。確かに
彼女の能力は驚異だが、これにしたって戦闘向きじゃない。どちらかと言えば、
潜入など隠密行動に使うものだ。
「お前は死角から攻撃すれば当たると思っているようだが、それが単調だ。死
角からしか攻撃してこないとわかれば、そこを警戒すればいいのだから」
 呆れたような声である。ゼロはセインが戦闘タイプではないと見切ると、途
端に戦意を失ったらしい。彼も気付いたのだろう、セインでは自分に勝つこと
など出来ないと言うことに。
「だから、それがどうしたっていうんだ!」
 セインは憤りを隠せずに叫んだ。どいつもこいつも、自分を馬鹿にしや張っ
てと言わんばかりに、天井に向かってジャンプをした。天井を突き抜け、屋根
に登り立つ。
「こうなったら、こいつをまとめて落としてやる」
 屋根の上には、予め用意してあった爆弾が軽い山のように積まれていた。ゼ
ロの言うとおり、自分は戦闘タイプではない。他の姉妹のように攻撃用の武器
は持っていないし、さっきのスティンガーもチンクがくれた物に過ぎない。
 能力と掛け合わせることでゼロを翻弄し、倒すつもりだった。戦闘が苦手だ
とか、そんなことはどうでもいい。勝つことだけを考え、挑んだのに。
「なんなんだよ、もう」
 悔しさに、涙が出そうだった。

 対する倉庫内のゼロは、そんなセインにいつまでも構っているつもりはなか
った。ゲームの幕引きとしては派手さも緊迫感もないが、そんなことを気にす
るつもりはない。
 ゼロは地面に落ちていたスティンガーを拾うと、
「ランブルデトネイター!」

 それを天井へと突き刺し、爆発させた。

「な、なんだ、なんだ!?」
 突然爆発で、よりにもよってセインが用意した爆弾に誘爆する形で崩れゆく
屋根から落ちながら、セインは混乱と動揺で慌てに慌てた。しかし、地上にゼ
ロの姿を確認すると気を引き締め直し、
「ディープダイバー!!!」
 再び地面に潜ろうと先天固有技能を発動させるセインだが、それは叶わなか
った。彼女は、ゼロが咄嗟に投げた物体に地面を遮られ、衝突した。
21ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/08(月) 00:02:28 ID:EmePT2G0
「これ、てっ!?」
 シェルコートが、セインと地面の間を阻んでいた。
 セインの先天固有技能ディープダイバーは、無機物の内部を自由に潜り、泳
ぎ回ることが出来る突然変異で発生した能力だ。接触していれば他人や物体を
つれて潜ることも可能であり、凡庸性は高い。その為、重用しているという
スカリエッティの言葉は嘘でないのだが、ディープダイバーには一つの弱点が
あった。
 即ち、フィールドやバリアを抜けることは出来ない。
 ゼロはそれを見破ったのか、シェルコートのバリアでセインを弾き飛ばした
のだ。
「こんなのっ!」
 半ば慌てて、セインはシェルコートを払いのけた。

 それが勝敗を決した。

「えっ――?」
 最後に敵の位置を確認しようとしたセインが見たのは、バスターを構えるゼ
ロの姿だった。彼は敵に対してあからさまな隙をさらけ出したセインに、容赦
なくバスターショットを連射した。
「うわぁぁぁぁぁっ!?!?」
 衝撃が、セインの身体を襲った。地面に倒れ、ディープダイバーで潜る間も
なくバスターの連射を浴びた。
 何発、何十発と撃ち込まれるバスターショットに身体を痛めつけられ、セイ
ンは潜って逃げることも出来なかった。彼女がもし、シェルコートを払いのけ
るのではなく拾っていれば、それを盾に地面に潜ることが出来ただろう。
 チンクや他のナンバーズなら、そうした。シェルコートは彼女らにとって防
御装備だ。しかし、セインにとっては自分と地面を遮る障害物に過ぎなかった。
「痛い、よ……」
 戦いを挑むこと自体が、無謀だったのだ。セインは己の矜恃と、負けた姉妹
達のことを想って戦ったが、ゼロはいい加減このゲーム自体に辟易していた。
エリオを巻き込み、傷つけてしまったという自責の念もあった。
 だから、ゼロはセインが戦闘タイプでないとわかった上で、敢えて容赦はし
なかった。する理由も、特になかった。
「終わりだ、さっさと降伏しろ」
 それでもバスターの威力を弱めて連射を行った辺り、ゼロの複雑な心境が見
て取れる。
 セインは唇をかみ、涙を浮かべながらゼロを睨み付けるが最早どうにもなら
なかった。痛みで身体は動かないし、抵抗することも逃げることも出来ない。
「チンク姉……ウェンディ……」
 姉妹らの名前を呟きながら、セインは敗北を受け入れた。自分もまた、敵の
捕虜となるのだろうか。それならそれで、チンクやウェンディらに再会できる
かも知れないが、一体どんな顔で彼女らに会えば――
「えっ?」
 その時、セインの状況解析システムが遥遠くに巨大なエネルギー反応を感知
した。
 彼女は光学ズームで反応地点を視認し、愕然とした。
「ディエチ……?」

22ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/08(月) 00:04:00 ID:EmePT2G0
「宜しいのですか、ドクター?」
 オレンジを絞りってジュースにしながら、ウーノが出来るだけ平静を装った
声で尋ねた。
「何がだね?」
「ディエチのことです」
 絞ったジュースをグラスに注ぎながら、今からでも命令の撤回をするべきだ
という気持ちを表に出さず、ウーノは言葉を繋げる。
「ドクターの決めたゲームのルールにも、反するのではありませんか?」
「いや、先にルールを破ったのはゼロの方だよ」
 グラスに注がれたジュースを見ながら、呟くようにスカリエッティは言う。
「チンクと戦ったとき、彼は先に騎士の少年を先行させた。あれは良くない、
後々彼も来たが、私は彼に言ったはずだ。彼は常にゲームに参加していなけれ
ば行けないと」
 だからこれは、ルール違反をした者への罰ゲームだ。
 実際は、エリオが勝手に行ったことなのだが、そんな事情をスカリエッティ
は知らないし、知っていたとしても命令は変えなかっただろう。
「ですが……セインにはまだ使い道があると思いますが」
「必要ないな。彼女は私の命令を利かなかった。私を嫌うのは勝手だが、命令
無視はよくない、私はとても、悲しい気持ちになる」
 あの身体に種を植え付ける日を楽しみにしていたのだが、どうやらそれも出
来なくなりそうだ。
 折角、撫で回すに良い体付きをしていたのに。
「私は君が嫌いではなかったよ、セイン」

 ゼロとセインが戦っている食料保存庫から遠く離れた高台に、ナンバーズ10
番、ディエチの姿があった。
「IS、ヘヴィバレル」
 狙撃砲イノーメスカノンを構えながら、砲身にエネルギーチャージを行うデ
ィエチ。
「ごめんね、セイン……でも、ドクターの命令は絶対だから」
 逆らうことなど、出来るわけもない。
 何を言っても言い訳になるし、自分がこれからしようとしていることを、言
い繕うつもりもない。恨むなら恨め、憎むなら憎んでくれ。
 それでも私は……撃つ。
 ナンバーズ中、最強最大の破壊力を誇るイノーメスカノンのエネルギー直射
砲が発射された。物理破壊のみを目的とした、極めてシンプルな砲撃。それだ
けに、威力は魔力砲撃で言うところのSランククラスに匹敵する!

 食料保存庫が、吹き飛んだ。

 圧倒的な威力を誇る砲火が、ゼロとセインを消し飛ばした。

                                つづく
23ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/08(月) 00:06:13 ID:EmePT2G0
第13話です。
あっという間に半分まで投下が終わりました。
一応ここからは、また少し本編に戻りつつことが運んでいくと思います。
後、セインは可愛い娘っ子です。

それでは、感想等ありましたらよろしくお願いします。
24名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 00:11:44 ID:dxhZ+8PN
>>23
乙です。
取り敢えず、エリオは『美味しい所を持っていく』
フラグなのかが気になってます。 
25名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 00:18:25 ID:CglC24qr
GJ!
さすがハカイシン、悩む友人と違って叩き斬るだけですねw
26名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 00:19:40 ID:vPJoFX/d
ワイリーフラグかこれは!?
27名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 00:22:56 ID:fbdbv7qo
どっちかと言えばお弁当フラグ
28名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 00:28:42 ID:Woh8LfmP
フォルテって出ないの?
29名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 00:29:20 ID:78mK5zIm
くぅ〜続きがきになる〜!
このスカは嫌にさまになるな、容赦がない
30名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 00:43:05 ID:xFK91+J3
GJ!!です。
スカ博士がちゃんとした悪役の大物に見えるとはw
そして、セインは弱さ的にワイヤーへチマールに見えちゃったぜ。
31名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 01:06:20 ID:YczgYfRE
GJ!
エ、エホウ!(エリオの奴、何てことしてくれたんじゃあ、あのアホウの略)
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 11:07:52 ID:KrZt/tah
GJ!
ちゃんと一つ前のボスの技で止めを刺しているのが何とも王道っぽいです。
しかしゼロがどんどん重装備になっていくなぁ‥ロッドやシールドがない代わりかな?
続きも楽しみに待ってます!
33名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 11:35:11 ID:51cd4013
GJ! 毎回毎回のロックマン節が実に良いなw
さあー次に占拠される四箇所はどこだろうw
34名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 12:15:18 ID:8cHKICjU
GJ!!
これからの展開がますます見えなくなってきた!!
突然の砲撃を喰らったゼロとセイン。二人は生きているのか?
そして管理局に監禁されたオットー、ウェンディ、チンクの運命は?

そして、
スカリエッティの計画に問題はないのか?
35名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 12:21:22 ID:BZBDNgtB
>>23
GJ! 
>>33いやその前に中間ステージがXシリーズのお約束w
しかしこれはまさかセイン裏切りのフラグかいな?
確かにスカとワイリーは似ているが最大の違いが今回ではっきりしましたな。
それは自分の作品を決して捨て駒にしないことだ。
まあスカがいい悪役になってるのは否定しない。全力で!
次回も楽しみにお待ちしてます!!
36一尉:2008/09/08(月) 14:21:28 ID:hYl444Df
ふむ次回にもな支援
37名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 16:23:22 ID:xdlR1LSK
ゼロがディープダイバーをラーニングしたらとても恐ろしい気が
だってセインと違って攻撃力があるんだぜ?
そういやランブルデトネイターで自爆攻撃も出来るねw
38名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 17:56:20 ID:HDVl0qq+
フラッシュストッパーやタイムストッパーよりはマシだと思うが
39名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 18:48:53 ID:BZBDNgtB
GJ!
>>38
ダークホールドも忘れないでもらおうか。
だがあの手の技って燃費悪い上使い所が限られるから
ゼロは使わないと思ふ。
40Strikers May Cry:2008/09/08(月) 18:56:37 ID:J8t2txdx
19:00頃投下します、「リリカルVSプレデター」を。
41リリカルVSプレデター:2008/09/08(月) 19:02:20 ID:J8t2txdx
リリカルVSプレデター (後編)


「これは……一体なんだ……」


武装局員の一人が、目の前に広がっている光景にそんな言葉を漏らした。
彼ら武装隊は武装強盗団を追って廃棄都市区画の一角のビルに踏み込んだのだが、そこで彼らを待ち受けていたのは銃弾や砲火の歓迎ではなかった。
漂うのは凄まじい血と臓腑の臭気、目に映るのは闇夜の中でも鮮やかな鮮血の赤。武装隊が交戦する筈だった敵はそのすべからくが無残な屍肉に変わり果てていた。
周囲には銃をメチャクチャに乱射した跡が残っており、激しい戦いが繰り広げられたと容易く想像される。
この惨状に“仲間割れ”という言葉が武装局員の脳裏を駆ける、彼らは周囲を警戒しつつ死んだ犯人達に近づいた。
そして鉄火場に慣れた彼らは一つの点に気が付く。


「おい……この死体……」
「ああ、おかしいな……」


おかしな点、それは倒れた犯人達の傷だった。
死んでいる者達の身体の傷は、そのほとんどが銃創ではなかった。あるいは身体を切断され、あるいは大穴を開けられ、そのどれもが彼らの知る銃弾による傷ではない。
そしてさらに大きな疑問が頭を過ぎる。
見たところ死んでいる人間の数は軽く20〜30人以上はいる、なのに敵の死体は影も形もないのだ。
これだけの武装した者達が戦って、相手は一人の死傷者も出していないのか? そんな事は常識的に考えてありえない。
この武装強盗団が相応の手強さを有していた事は、追跡してきた彼らが一番良く分かっていた。
だからこそ、この惨状が信じられなかった。


「……誰がこんな事を?」


悪魔か死神か、こんな所業を成し遂げる相手が人間とは想像もできない。思わず彼らの脳裏に人ならざる怪物が過ぎる。
そしてそれはあながち間違ってはいなかった、少なくともこの惨殺を起こした主は人類ではないのだから。
彼らが形容し難い戦慄を感じていると、そこへ場に似合わぬ澄んだ声が響いた。


『こちらシグナム、そっちはどうだクルーガー?』
「隊長……脅かさないでください」
『脅かす? お前らの肝はそれほど小さくあるまい。で、首尾はどうだ?』
「それが……なんと説明したら良いか……」


目の前の惨状、見知らぬ第三者に確保する筈だった犯人達が惨殺されているなど、どう説明すれば良いか分からなかった。
この現状をどう彼女に伝えるか、幾らか思案する。そんな時だった、自分のバリアジャケットの上に付いた赤に気付いたのは。
三つの点が三角形を形作る光の点が自分の身体の上を這っていた、それが照準を定める為のレーザーサイトという照準装置だと理解した時には全てが遅かった。
次の瞬間、轟音と共に彼の胸から真っ赤な花火が炸裂、内臓を血潮と共に盛大に撒き散らしながら胸に大穴が開けられた。


「がぁっ……ぶはぁっ!」


彼は口から断末魔の叫びと血反吐を吐き散らし、胴に詰まった内臓を半分近く吹き飛ばす程の凄まじい衝撃で倒れ伏す。
倒れ行く中で彼の視界はこちらにレーザーサイトを向ける陽炎のような空気の揺らぎを見た、それが最後の映像として網膜に焼きついた後にはただ死の闇が広がる。
闇に飲まれた彼の意識は彼岸へと旅立つ、絶命に至るまでにそれほど時間はかからなかった。


『どうした!? 何かあったのか!?』


突然叫びと共に通信を絶った部下へシグナムが声を荒げるが返事が返ってくる事はない、ある筈がない。
42名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 19:05:45 ID:p3Xb6oO2
支援
43リリカルVSプレデター:2008/09/08(月) 19:06:40 ID:J8t2txdx
死者はただ沈黙を守るしかないのだから。
武装隊の最初の一人を狩られた後、場には絶叫と爆音そして肉が爆ぜ飛ぶ音や刃で刻まれる音が響き渡った。





「どうした!? おい、応答しろ!!」


最期に絶叫を残して突如として切られた部下との通信にシグナムが声を上げるが応答はない。
彼女の胸中に何か冷たい感触が沸きあがってくる、それは激戦や危機を前に必ず訪れる第六感だった。
何か得体の知れない危険が喉元に迫っている、確信めいた予感が烈火の将の心に過ぎる。
彼女は飛行魔法の速度をあげて部下達が向かった廃ビルを視認した。
そして視界に入った瞬間、ビルから凄まじい爆発が巻き起こる。
巨大な爆炎を上げながら外壁を貫通した光が空を駆けた。魔力反応は感じない、犯人の有した銃火器だろうか?
風から漂うイオン臭、ビルのコンクリート壁が硝子化するまで溶けるほどの超高温、少なくともシグナムの知る銃にあんなモノは存在しない。
あえて言うなら理論上制作可能なプラズマ砲だろうか、しかしそんな武器が流通しているなどと言う話は聞いた事が無いし、あったとしても今自分の部隊が追っている犯人達がそんな物を有している可能性は限りなく低いだろう。
確かな事は、今ここにまったく未知の得物を手にした第三者が介入している可能性があるという事だった。
シグナムは真紅の月が昇る空を見上げ、自分よりも高い高度を飛ぶヘリに通信を送った。


「ヴァイス、今のを見たか?」
『ええ、どうも敵さん厄介な得物持ってるみたいっすねぇ』
「お前は適当な場所でヘリを下ろせ、それではアレの良い的だ」
『了解。向こうの射程も分かりませんからね』


ヴァイスは簡潔に返事を返すと、手頃なビルに向かってヘリを着陸させに行く。
彼が降下するのを見守ると、シグナムは今一度向き直って目標ポイントに飛んだ。
先ほどまでビルの外壁を貫いていた光はもう止んでいる、戦闘が終わったのかそれとも膠着状態に陥ったか。
どちらにせよシグナムの心に油断は無い、闘争を司る全神経・全思考を研ぎ澄まし、愛剣を握り締めて彼女は仲間の下へと急いだ。
接近するにつれて低空飛行に移行し、射撃の的にならぬよう注意する。
そして、ヴァイスが射角を有利に取れるビルの上からこちらをカバーしている事を確認すると一気にビルの中へ飛び込む。
そこで彼女を待ち受けていたのは地獄のような光景だった。


「嘘……だろう?」


思わずそんな言葉がシグナムの唇から零れ落ちる。
それは、烈火の将・剣の騎士の二つ名を持つ彼女らしからぬ気の抜けた声だった。
だが無理も無い、そこに広がる凄惨な光景、惨殺された部下の屍を前にすれば如何に歴戦のベルカ騎士とて動揺くらい生まれる。
追跡していた強盗の死体の中に混じって倒れているのはバリアジャケットを着装しデバイスを手にした首都航空隊の武装局員達の骸。
ある者は胴に大穴を開けられ、ある者は首を切断され身体を切り刻まれている。
見るも無残な部下達の変わり果てた姿にシグナムは手にした愛剣レヴァンティンの柄を痛いほど握り締めた。
そんな時、屍の山の向こうから弱弱しい声が響いた。


「ごふっ……た、隊長……」
「来てくれたんですね……」
「くっ……ご無事ですか」


振り向けば、そこには血の海の中で傷を負いながらも一命を取り留めていた数人の武装隊員がいた。


「お前たち、大丈夫か!?」
「はい……なんとか……」
44リリカルVSプレデター:2008/09/08(月) 19:10:49 ID:J8t2txdx
「生きてます」


シグナムは息のあった部下達へと駆け寄る、彼らは身体に無数の裂傷を刻まれてはいるがかろうじて致命傷になるほど深くは無いらしい。
周囲への警戒はそのままに、彼女は息も絶え絶えになった部下の一人を抱き起こした。


「これは一体何があった? 相手は一体何者だ?」
「分かりません……突然攻撃されて……見た事もない武器でした……」


魔力を使わない質量兵器、防御障壁をガラス細工のように粉砕する程の威力を持つプラズマ砲・追尾性能を有し斬首台(ギロチン)のように易々と人体を切断する円形ナイフによる攻撃。
そして光学迷彩を駆使して神出鬼没に襲い来る異形の刃はさながら死神。その悪魔染みた猛攻に、数多の修羅場を潜り抜けた武装局員もその多くが命を散らした。
次々と武装隊の魔道師を屠った未知の敵、絶体絶命の状況だったがそんな時そこへ強盗団の銃撃が乱入。
するとその暴威は標的を武装隊から銃器を手にした犯罪者へと変更したらしく、今度は彼らと死のチェイスを始めた。

と、いうのが生き残った隊員の語る事の経緯だった。どうやらその未知の敵は局員も犯罪者も無差別に殺戮しているらしい。
今頃はシグナム達が追っていた犯罪者を血祭りに上げているのだろう。
語り終えた隊員は、先ほどの殺戮劇の様子を思い出したのかそれとも傷口からの出血の為か、少しばかり顔を青ざめさせていた。


「光学迷彩にプラズマ砲か……少なくとも我々が追っていた奴らとは別口のようだな」
「ええ、自分もそう思います」


部下の言葉にシグナムは状況を考察する。
当初の捕縛対象は既に大半が殺されているだろう、部下からも死傷者が出ている現状では任務の継続は不可能だった。
その時、またさきほどのプラズマ砲の轟音が響き渡る。衝撃にビルが揺れ、天井からチリが落ちる。
音と振動からしてこの広大な廃棄都市区画のどこか、それほど遠くない場所のようだ。
あの未知の怪物はまだここで戦闘を行っている、つまり犯人達は幾らか生きているらしい。
この事実にシグナムは意を決し、生き残った部下達に名令を下した。


「お前達は一度引け。後続の部隊と合流し速やかに撤退、本部に応援要請を出せ」
「了解しました」
「しかし、隊長はどうなさるのですか?」
「私は追跡を続ける」
「そ、そんな……いくらなんでも無茶ですよ」
「私の腕を知らん訳ではあるまい。それとも私が負けるとでも思うか?」


狼狽する部下にシグナムは闘志に満ち溢れた不敵な笑みを浴びせる。
こんな独断先行は本来するべきでないがここで引く烈火の将ではない。
相手が誰であろうが部下の命を奪われた上に捕縛対象が虐殺されるのをむざむざ黙って見ているなど騎士の名がすたると言うものだ。


「分かりました……どうかご無事で」
「お前達もな」


シグナムの言葉に部下は不承不承に頷くと、踵を返して撤退していった。
これでこの場に残ったのはシグナムとヴァイスに逃走中の犯人達そしてまだ見ぬ狩人だけ。
血の河と屍の山が織り成す広大で混沌とした一つの狩場に、狩人と騎士の二人の戦士が揃った。

45名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 19:11:47 ID:kAvSE9DN
死神は静かにやってくる支援
46リリカルVSプレデター:2008/09/08(月) 19:14:06 ID:J8t2txdx



「ちきしょう! ちきしょう!! ちきしょう!!!」


そう喚きながら、男は夜闇の支配する廃ビルの中を駆けていた。
彼の全身は血まみれで、至る所から血潮を滴らせている。それはあるいは自身の傷から流したものであり、あるいは仲間の返り血。
十分に練った計画、だが成功する筈だった銀行強盗は上手くいかず管理局の追撃を受け、その上訳の分からない化け物にまで出くわす始末だ。
仲間のほとんどはあの化け物、透明な怪物に殺され手にした銃はとっくに弾切れ、さながら悪夢のような状況に男はひたすら悪態を吐く。


「糞っ! 糞っ!! どうしてこんな事になんだ!? 本当なら今頃札束の上で酒と女を楽しんでる筈だろ? それがこんな……糞ったれが!!」


逃げ惑いながら口汚く運命を罵る、今男にできるのはそれくらいだった。
男のダミ声はこんな静寂に包まれたビルの中で良く響く、それは狩人の追跡を引き寄せる効果しかないが今の彼に冷静な判断などできはしない。

そして、光学迷彩で闇に姿を隠した狩人は喚く男を赤外線サーモグラフィで観察しつつ狩り方を思案していた。
肩に装着したプラズマ・キャノンで仕留めるか、腕部に装着したリストブレードで刻むか、今日はまだ使っていない伸縮式の槍スピアで串刺すか、携帯している武器は多く選択肢は無数にある。
狩りの醍醐味、獲物を屠る瞬間に想いを馳せて狩人は武器の選択を吟味した。
相手は遁走を重ねる下種ではある、しかし今まで自分の手を逃れて生き延びた事は賞賛に値する事だ。
出来れば首を無傷で手に入れてハンティングトロフィーとして飾りたいと思う。
自然とキャノンの使用は否定される、そして狩人は腰に括りつけた武装の一つに手を伸ばした。
それは円形をした一見するとフリスビーのような物だった、だが握る為に中央にあるグリップや外周に設けられた恐ろしく鋭利な刃からそんな可愛いオモチャで無い事を伺える。
レイザー・ディスク、使用者の任意操作とAI操作により標的を切り刻む恐るべき刃の円盤。
狩人はフェイスヘルメットが記憶した周囲の地形と目標への軌道を計算し、手にした刃を投げ放った。
鋭利な刃が空気を切り裂く鋭い音が響き、レイザー・ディスクが目標の首を切り落とさんと迫る。
相手はこちらの攻撃になど気付いていない、いや、もし気付いていたとしても哀れな獲物に抗う術などありはしなかった。
あとほんの数瞬、瞬きする間に獲物の首が宙を舞う。

そんな時だった、肉を切り裂く音でなく硬質な金属音が響いたのは。


淡い緑色の魔力で形成された弾丸、高速直射式の狙撃が宙を飛ぶレイザー・ディスクを砕いたのだ。
飛来するディスクを狙撃して撃ち落す、信じられぬ精密射撃である。
狩人はフェイスヘルメットのカメラシステムを射線の先に合わせてズーム、赤外線サーモグラフィによって狙撃銃らしき武装を持った男の像が現れた。


「姐さん! 犯人確保頼みます!」


狙撃手ヴァイス・グランセニックはディスクの飛んできた方向に乱射しながらそう吼えた。
それは決して精密な狙撃と呼べるものではなかったが、弾幕を張り敵の動きを殺すのも射手の勤めである。
彼の弾幕の中を一つの影、鮮やかな緋色の髪を揺らした美しき女騎士、烈火の将シグナムが駆けた。
シグナムは血でドロドロに汚れた犯人の襟元を掴むとその場で思い切り引き倒す。アスファルトとキスした男は突然の事に素っ頓狂な悲鳴を上げて痛がった。


「ふぎゃあ! い、いてえ……」
「命があるだけありがたいと思え!」


烈火の将は凛然とした声で男に怒鳴りつけると、即座に彼が手にしていた銃を叩き落し両腕を拘束した。
こんな状況でも確保すべき犯人への対処法は忘れない。
両腕の自由を奪われた男が呻くがそんな事を気にする余裕はなかった。シグナムは男を遮蔽物に成りうる頑強そうな柱の影まで引きずっていく。


「おい、お前以外の者はどうした!? まだどこかで隠れているのか!?」
47名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 19:15:06 ID:kAvSE9DN
ヴァイスに死亡フラグが立ってそうだ 支援
48リリカルVSプレデター:2008/09/08(月) 19:16:57 ID:J8t2txdx
「ほ、他のヤツは皆死んじまったよぉ……残ってんのは俺だけだ……それより早くここから逃がしてくれ! このままじゃアイツに殺されちまうよぉ〜」


地べたに転がった男は鼻水と小水を垂れ流しながら、シグナムに向かって情けない声で懇願した。
シグナムは、ぎゃぎゃあとうるさく喚き尿のアンモニア臭を漂わせる男に、眉間にシワを寄せて不快そうな顔をする。


「静かにしろ! それよりアイツは何者だ? サーチ魔法にもかからん上にあの武器……聞いた事も無い、お前の組織と関係があるのか!?」
「知らねえ! 俺は何も知らねえよ……本当だ、信じてくれぇ」


男の言葉に嘘は無かった。死の淵、命の瀬戸際で自分を完全に欺ける程の者はそうはいない。
やはり敵は完全に自分達の追っていた事件とは関係の無い第三者である、その確証を得てシグナムは相手の戦闘理由を予想する。
ヤツは何かの為に戦っているのではない、戦う為に戦っているのだ。
無差別に殺す対象を求める怪物、そんな相手に交渉など無意味だろう、意思疎通とて可能か怪しい。


「ヴァイス、そこから相手は見えるか?」
『見えません、奴(やっこ)さんの光学迷彩随分高性能みたいっすよ……ストームレイダーのナイトビジョン(暗視装置)じゃなかなか見つからねえ……』


ヴァイス愛用の狙撃銃型デバイス“ストームレイダー”、そのスコープは単なる光学照準装置ではない。
局の管制や他の魔道師のデバイスとリンクして周囲の映像やセンサーと組み合わせて索敵を行う事も出来る優れものだ。
夜間や暗所での戦闘を想定して可視光線を増幅する暗視装置、いわゆるスターライト・スコープとしての能力も有している。
それらをもってしても未知の敵は発見できなかった。


「クソ……さっさと顔出しやがれ……」


いつまでも見えぬ敵に苛立ち、ヴァイスは誰にも聞こえぬ悪態を吐きながらスコープ越しにビルの中を探す。
いくら光学迷彩と言っても完璧に像を消し尽くす事は不可能であり、揺らぐ陽炎のような姿を肉眼で確認することができるのだ。
狙撃手はそれを血眼で捜す。だが彼がいくら必至になったところで見つかる訳などない。
何故なら……



彼の背後にその狩人の陽炎が迫っていたのだから。



音を聞いた、何か獣が口の中でくぐもった唸り声を漏らすような音。
ヴァイスはスコープから目を離して振り返る、するとそこには陽炎のような“何か”が立っていた。
像が揺らぐその姿、まさしく光学迷彩で姿を隠した未知の敵である。
そして、ヴァイスは自分の胸に照準を合わせた三つのレーザーサイトの赤い光点に気が付く。
身体の上を舌なめずりするレーザーの意味、すなわち相手の射撃攻撃が発射されるという事だ。
ヴァイスは防御力に富む障壁を張る事などできない。彼にできるのは、ただ正確に精密に目標を狙い撃つ事だけ。
ヤツが撃つプラズマ砲を防げる筈などない、ならば彼の選択肢は限られていた。


「ちっきしょう!!」


そう叫ぶと同時にヴァイスは迷わず振り向き、今までストームレイダーを寝かせていたビルの外壁に足をかけて盛大に飛び出した。
向かう先はビルの外の十数メートル下の地面、下手をすれば骨折するがあのプラズマ砲を喰らうよりは百倍マシだ。
ヴァイスがビルから飛び降りた刹那、爆音と共に彼が一秒前まで立っていた場所がプラズマ砲で吹っ飛ぶ。
49名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 19:18:34 ID:kAvSE9DN
あぶねえええ 支援!
50リリカルVSプレデター:2008/09/08(月) 19:18:34 ID:J8t2txdx
あと少しタイミングが遅れれば死んでいた、そう肝を冷やしながら空中でストームレイダーを一度待機状態に戻すと、迫り来るむき出しの地面に上手く足を向ける。
接地と同時に魔力で強化した足で五点回転着地法を行い衝撃を逃がしながら着地、そして即座にストームレイダーを再びデバイスモードに戻してビルの屋上に狙いを定めた。


「姐さん! 上だ!!」


ヴァイスがそう叫んだ瞬間、炎を纏った巨大な刃の蛇がビルの屋上を薙ぎ払った。
炎蛇の名はレヴァンティン、カートリッジをロードし連結刃となった刀身が凄まじい魔力を込めて、魔剣が狩人を狩らんと宙を駆ける。
爆音と共に標的となったビルの屋上が吹き飛び、砕け散ったコンクリートと鮮やかな炎が夜の空を舞い踊った。
“飛竜一閃”、無数の節を有する変幻自在の連結刃と化したシグナムの愛剣レヴァンティンの繰り出す絶技である。
シグナムは敵のいた場所を焼き潰すと、手首を返してしなる灼熱の鞭を元の長剣に戻した。


「ヴァイス、無事か?」
「ええ、ちょいと足にキテますけどなんとか……それはともかく、奴さんは仕留められましたか?」
「いや、手応えが無かった。寸前で避けられたようだ」


手のレヴァンティンの刀身を見つめながらシグナムはそう漏らした。その刃には蛍光色をした緑色の液体が付着している。
それが何なのか、彼女には分からなかった。だがそれこそは狩人、別の世界ではプレデターと呼ばれる異星種族の血液だった。
シグナムはレヴァンティンに付着した異様な色の血を拭いながら、拘束した犯人を指差してヴァイスに言葉をかける。


「ヴァイス、お前もそいつをヘリで護送しろ。せっかく逮捕したのが死なれては敵わん」
「ちょ! “俺は”って、姐さんはどうすんですか?」
「私は残ってヤツの相手をする」
「そ、そんな……」


相手はあまりに未知の上、単身残り戦うなど沙汰の外である。だがここで引くなど騎士の矜持にかけて出来ない。
部下を殺され、ここまで翻弄されて黙って引くなど守護騎士の将としてシグナム自身が許さなかった。
彼女一人を残して行くことにヴァイスが食い下がる、強靭なる騎士といえど女一人を残すのは男として忍びないのだろう。
だがそんな彼をシグナムは一喝した。


「良いから言うことを聞け! これは命令だぞ!」
「……了解しました」


不承不承に頷くと、ヴァイスは拘束された犯人を担いでヘリまでの退路を駆け出した。
だが途中で彼は立ち止まり、振り返ると不安そうな顔で口を開く。


「姐さん……ちゃんと生きて帰ってくださいね」


普段は陽気なヴァイスから出たとは思えないほど力ない言葉、それだけ彼がシグナムの身を案じているのだろう。
烈火の将は部下のこの言葉に対し、不敵な笑みと自信に満ちた言葉で返した。


「私を誰だと思っている?」


彼女のこの言葉に、ヴァイスはただ無言で一度頷くとそのまま去って行く。烈火の将、シグナムにここまで言われて彼女を信じぬ訳にはいかなかった。

こうして、一つの猟場で狩人と騎士、一対一の死闘の火蓋は切って落とされた。

続く。
51名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 19:20:08 ID:kAvSE9DN
あれ? 後編じゃなかったの 支援
52Strikers May Cry:2008/09/08(月) 19:20:39 ID:J8t2txdx
投下終了です。

すいません、後編とか書いてありますけどコレ中篇でした。 本当にすいません。
まとめに載せる際は直しておきます。

まあ次回、シグナムVSプレデターのガチバトルできっちり〆ますので。
53名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 20:37:09 ID:nuoAvtV5
「私を誰だと思っている」このセリフある意味死亡フラグですよね。特に頼りになる先輩キャラには(笑)

なんでもプレデターシリーズはタフガイが、エイリアンシリーズは女傑が生き残る傾向があるそうです。
まあエイリアンが来るよりはプレデターの方がマシでしょうけど、もしもエイリアンが魔道師に寄生した結果、
魔法を使うようになってしまったら、プレデターでも手に負えないでしょう。
54名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 21:38:55 ID:nUC2x3Jz
プレデター贔屓の自分としてはプレちゃんに勝って欲しいですね。

>>53
エイリアンの強さは個々の戦闘力じゃなくて種族全体の「生態」ですよね。
兵隊一匹撃ちもらしたらそいつがクイーン化してまた増えるし。
55名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 21:50:02 ID:imQ2oNyK
捕食者が勝つと姐さんがコレクション入りしちゃうw

プレデターはクリーチャーでありながらも持つ気高さが魅力だと思うんだ
例え敗北しても、彼らは美しい

あとエイリアンは魔法使えないと思う。でもレアスキルは獲得しそうで怖いw
56名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 22:10:57 ID:qsuHTBBn
>55
プレデリアンみたいな突然変異体も出るからなあ、プレデターのメットの映像に映らないレアスキルのみで何体も惨殺しちまったし。
普通だったらプレデターに寄生しても、あんな風にはならないそうだ。

でもガリューだのフリードだのに寄生されたら、ドッグエイリアン所の騒ぎじゃねえし。接近戦タイプのベルカ騎士なんて、攻撃→デバイス熔ける→二段アゴか尻尾でアボーンのコンボが眼に浮かぶ。
57名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 22:27:00 ID:mOGxFkBc
>>51
GJ!姉さんが映画の登場人物のようです。

>>56
雑談は専用スレで。
58名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 22:55:12 ID:hbaWfrfc
ヴィヴィオタンはオッドアイカワイイ

―回収されたボイスレコーダーより―
59名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 00:53:57 ID:iQIhnwZX
GJ!!です。
プレデターの装備の一つの光学迷彩の恐ろしさがよく分かりました。
事件解決後に、ティアナにヴァイスあたりがプレデターの戦術を話したらティアナが戦法を真似しそうだw
60名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 00:56:58 ID:VWH83Rj3
>>59
あんな超科学、簡単にできるはずが・・・・・・
ティアナだと案外簡単にできそうだから弱る

科学的には幻影作るほうが難しいのに
61名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 00:57:28 ID:6oOO9na1
1話のBランク試験で既に実践しとるがな
魔力光学迷彩「オプティックハイド」
62名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 01:00:05 ID:VWH83Rj3
>>61
そういえばそうだった/(^o^)\
あれっ、ティアナに足りないのって火力だけじゃね?
63名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 01:05:45 ID:xtRx7xSl
宇宙人の超科学の質を舐めるなよファンタジー
64名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 01:08:46 ID:6oOO9na1
ミッドやベルカの魔法は
磁力とか電力とかと同感覚で魔力を扱う科学的魔法だぞ
65名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 08:37:54 ID:sIO2WrjN
もうそろそろソーディアンたちをですね…
66名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 08:55:45 ID:Le+gwoSc
>64
確かにミッド式やベルカ式は、エネルギー源こそ魔力だがその実体は科学によるもの……なんだけど、どう考えてもおかしいのがある。
おそらくはミッド式が開発される前に使われていた、原始的な科学によるものではない魔法の名残なんだろうけど?

ラノベのコミック版の一つ『とある科学の超電磁砲』――砲、の一文字だけで高町なのはを意味している気になるのは何故?
67名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 09:00:13 ID:V62QqQx0
むしろ同じ落ちこぼれ同士ってことでリルカをですね
68名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 09:02:20 ID:TZNsn74y
>>66
そんな設定、どこであったよ?
69名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 09:47:25 ID:0w30tGFW
話し合うのは構わないが、ここでやることじゃないだろ?
やるなら雑談スレあたりでやってくれ。
70名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 13:06:33 ID:y86rbhwE
>>22
>>彼は常にゲームに参加していなけれ
ば行けないと」
正:いけない
71名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 14:31:25 ID:DsQY4CPx
>>70
そういうのはwikiで修正してやれよ。

……ってか、間違ってるか?
72名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 15:24:33 ID:fQ7wwjwQ
>>71
間違ってはいるかな。
参加する必要の有る無しだからね。
強いて漢字をあてるなら『要けない』かな。
73一尉:2008/09/09(火) 16:02:12 ID:7wTQXlYe
参加必要な武器使う良い
74名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 16:03:58 ID:fyFtiaIt
>>67
リルカってワイルドアームズ2ndのか?
それより不屈繋がりでアナスタシアだろ。
なのはがアガートラームでも良さげだが。
75名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 16:44:47 ID:sb5QTog/
ゼロ投下されてたのか。良いペースだな。週2だっけ?
あまり他所の女と仲良くしてるとシエル様にジャンクにされるぜ
順調にナンバーズのISをシージングしてってるな。ガジェットの武装シージングしても便利かもな
76名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 16:54:21 ID:DsQY4CPx
ゼロは全26話だとか言ってるし、10月には終わるんじゃね。
8月に投下が始まった作品なのに、この一年で一番印象深い作品になるかもしれん。

職人には是非ペースを崩さず、完結してもらいたいな。まあ、頑張ってくだせい。
77名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 16:59:17 ID:CDRZfyRA
>>74
実はエッチなお姉さんと悪魔でいい冥王は違うと思うぜ?
むしろ欲望繋がりのルシエドを経由してスカの所に現れそうな
トカ&ゲーが空から降ってきても不思議はないなぁ
78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 17:14:29 ID:ec7yfj9Y
雑談は避難所でやれ、って何回言われりゃ分かるんだ? いい加減に自重くらいできるようになろうな。
79名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 17:57:36 ID:adjWhsd9
ゼロ信者だけじゃなくて、全体的に問題のある奴が多いんだな
80名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 18:12:34 ID:zmufzKIq
>>75>>76はまだ感想・応援の範囲だろ。
俺に言わせれば信者云々こそ雑談か本音スレでやれと。
作者は関係ないんだから。
81リリカル! 夢境学園 ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 18:23:25 ID:QVGRzIo7
なにやら荒れているところすみません。
本日九時半ごろからアンリミテッド・エンドラインの続きを投下してもよろしいでしょうか?
結構長いので、支援をお願いしたいのですが……よろしくお願いします。
82名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 18:41:11 ID:m0uycqW1
待ってました!
83名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 20:29:37 ID:Z6xastHs
《こちらゴーストアイ、部隊の一部を支援に回す》
84名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 21:20:38 ID:iQIhnwZX
支援w
85名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 21:30:01 ID:LsHv52kO
まってました〜支援
86アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 21:30:45 ID:QVGRzIo7
そろそろ時間ですので投下開始します。
今回は非常に長いので支援をお願いします――スーパーティアナタイム!

 

 許せない、許せない、許せない。
 俺の腕を。
 俺のプライドを。
 貴様は、貴様は踏み躙った。
 こっちを向け。
 こちらを見ろ。

 俺と戦え、ティーダァアア!!


                  ――失われた腕から血を流す狂人の咆哮より




 パチパチと色んなものが燃えていた。
 熱い、熱い、熱い。
 焦がれるように、焼けるように、熱せられるように。
 何もかもが熱かった。
 歩く床も、吸う空気も、チリチリと髪を焦がして、肌を焼いて、流れる鼻水もすぐに乾いてぱりぱりになる。
 ここはどこ?

「おとうさん?」

 熱いよぉ、熱いよぉ。
 怖くてたまらない。指が動く。

「おねえちゃん?」

 ああ、ここはどこだろう。
 見覚えがある、焼け焦げた世界、烈火の光景。
 煙くさい、喉に張り付く、壊れそうな心。

「どこぉ?」

 それは本当に心だけだったのだろうか。
 少女は考える。
 パチパチと耳に届く声、脳内で聞こえるアラート音。

「あ?」

 腕を見る――火花が散っていた。
 裂けた皮膚と肉と血に溺れるように見える金属の輝き、ケーブルと合成金属の骨格。
 嗚呼、思い出す。
 嗚呼、理解する。
 あたしは、私は、人間ではないのだと。

「あぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
87名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 21:32:10 ID:PPm33OiF
支援
88アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 21:32:13 ID:QVGRzIo7
 

「ぁあぁあ――あ?」

 スバルは自分の絶叫で目を覚ました。
 目に飛び込んでくるのはボロボロに壊れたどこかの部屋、煙がどこからか侵入し、焦げ臭い――火の粉が舞う紅蓮の空間。
 燃えている。
 チリチリと緩やかに燃える部屋。
 その中で、スバルは瓦礫に埋もれながら横たわっていた。

「っ、ここは……ぁっ!?」

 動こうとして全身に走った激痛に悶絶した。

「いった〜〜い!」

 涙が零れる。
 模擬戦でうっかりエリオのパンチを食らって、全身に電流を流された時のような激痛。
 その数倍以上の痛み、体を見下ろせば全身に傷を負っていた。
 腹部には血がにじみ、手足は擦過傷だらけ、息を吸うたびにどこか痛む、骨にヒビが入っているかもしれない。
 スターズ分隊特製の頑丈さならば定評のあるバリアジャケット、それが原型を留めていなかった。
 瓦礫をベットに横たわるスバルがまとっていたのはアンダースーツのみ、それも穴だらけのボロキレだった。
 スバルは思う。
 どこか能天気に、これが市外だったら恥ずかしくて動けないかも、と心の中で呟く。
 それほどの露出度だったが、どこか間が抜けた感想だった。

「あ」

 あの時、自分が行った行為を思い出す。
 マルチタスクで演算していた処理――バリアブレイクを瞬時にバインドブレイクに書き換え、撃たれる間際に発動させたこと。
 同時にバリアジャケットをパージし、バインドを解除すると同時に障壁を張った――とまでは憶えている。
 けれど。

「マッハキャリバー、現在地どこかな?」

『You are in three upstairs from the place a little while ago.(先ほどの地点から三階上の階層です)』

「吹っ飛ばされたね」

 人間を遥か三階まで吹き飛ばすほどの砲撃、固定されず着弾点を咄嗟にずらしたのにも関わらずにだ。
 常人だったら既に死亡しているだろう。
 それほどの威力。
 何故スバルが生きているのか、それは自分自身が一番理解していた。

「人間、じゃないしね」

 スバルが自嘲するように笑みを零す。
 合金製の骨格に人工筋肉、幾重にも遺伝子状態から調整された己の肉体。
 戦闘機人。
 スバルはそう呼ばれる存在だった。
 初めての任務で戦った鉄の爪を持つあの少女と同じ存在。
 通常の人間よりも遥かに頑強、その肉体が役に立った。
 スバルは思う。
 人間ではないことが辛くないわけじゃない、そのことで傷もある。
 けれど、命を今の瞬間まで繋ぎ続けられることに感謝は忘れない。
 そして――聞こえた。
89名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 21:32:24 ID:oJEPb9sQ
支援
90アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 21:33:02 ID:QVGRzIo7
 
「え?」

 轟音。
 遥か階下から、地響きが聞こえた。
 僅かに身体が揺れる、ホテル自体が揺れる、それほどの衝撃。

「あ」

 思い出す。
 何故思い出さなかったのか、そう叱責するほどの大切なこと。
 体を起こす、瓦礫を撥ね飛ばす、全身に走る激痛――構わない、無視。
 歯を食いしばり、叫ぶ。

「いかなきゃっ!」

 脳裏に浮かぶ大切な人。
 その像が――部屋に残された窓、そこに垣間見えた姿と重なった。
 スバルの目が見開かれる。
 一瞬、窓を通り過ぎた姿。
 それを見間違えるなんてあるわけがない。

「ティ」

 オレンジの色のツインテール、それが片方解けて、無残な姿。
 嗤う手によって引きずり上げられる、無残な姿。
 その人物は――

「ティアー!!!」

 ティアナ・ランスター。
 スバルのパートナー、その人だったのだから。



【Unlimited・EndLine/SIDE 3−12】


91アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 21:34:22 ID:QVGRzIo7
 
 自分は親友を救えなかった。
 自分の力が届かなかった。
 自分が足手まといだった。
 三つの哀しみ、三つの怒り、三つの絶望。
 それがティアナの心を縛り、肉体までをも支配する。
 まるで見えない鎖のようだった。
 指の一本一本に力が入らず、脱力し切っていた。
 リラックスではない、その脱力ではなく――枯渇。
 人は深い絶望に合間見えると、全ての気力を失うという。何もする気が起きない、何もすることが出来ない、何も――生み出せない。
 ティアナはまさしく人の形をした陶器のようなものだった。
 何も詰まっていない、がらんどうな肉体を自覚する。
 けれど、少しだけ興味があるものがある。
 彼女の心を引き付ける引力があった。空っぽな自分を動かす理由が存在した。

 それは――目の前の怪物が叫んだ言葉だった。

「なんで?」

「あ?」

 狂乱し、彼女を殴りつける化け物が首を捻る。
 唇から血を流し、絶叫する、血を吐くかのような怪物の問いにティアナは答えた。

「なんで……兄さんの名前を知っているの?」

 大気に融けゆく言葉、それはハンドの耳に確かに届いた。
 聞こえて、化学反応を起こす。
 瞬間、ハンドの唇が震えた。

「兄さん?」

 よろよろとまるで怯えたように、歓喜するかのように、ハンドが後ろに数歩下がる。

「兄さん? 兄さんにいさんニイサンにいさんにいさんにいさん!?」

 瞬間、呪文のようにティアナの言葉を繰り返す。
 早口でジャリジャリと溶け切らない錠剤とガラス片を噛み砕きながら、ハンドが呟く。
 ガリガリと壊れた、原型を僅かに留めただけのヘルメットを掻き毟り、まるで目の前に蜃気楼でも取り除くかのように手を動かして、叫んだ。

「そうか」

 べっと血を吐き出す。
 笑みを形作る、狂気の笑み。
 それは恍惚だった。
 それは狂喜だった。
 喜びたまえ、祝福せよ。
 まるでそう告げるかのように、隻腕の手が華麗にデバイスを振り回し、ティアナの眼前に突きつけられる。
92アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 21:36:01 ID:QVGRzIo7
 
「貴様――ティーダの妹か」

 ヘルメットから覗く血走った瞳。
 まるで悪魔か天使を見つけたかのような狂気の混じった瞳。
 答えろ、答えろと瞳が告げる。
 物理的な圧力すらも感じられる視線に、ティアナは答えた。

「そう、よ」

 答えた瞬間――僅かな間断も無く、その首に光の鎖が絡まっていた。

「っ、が!」

 チェーンバインド、デバイスから伸びた拘束のための鎖が伸びて、ティアナの体を縛り上げる。
 そして、浮かび上がった。
 僅か数分前と同じように、ティアナの身体が、ハンドの隻腕の腕によって持ち上がる。
 その肢体を縛り上げられ、まるで処刑される聖人のように、されど聖人の持ち得なかった淫猥さを持って。
 ティアナは美しい。
 傍目から見ても誰もが同意するだろう。
 血を流し、何度も殴られ、蹴られ、ぼろくずのような格好で、無様な状態であろうとも。
 故に四肢を縛られ、吊り上げられた少女を見て浅ましき情欲を持った人間ならば欲情するだろう格好。
 それにハンドは興味を持たない。

「ティーダの妹……」

 虚無すら感じられる瞳、血走った目に睨まれて、ティアナは声すらも許されない。
 ギリギリとその肢体が引き絞られ、アンダースーツ越しの乳房が揺れて、骨が軋む、肉が悲鳴を上げて、破れた皮膚から血が流れる。
 引き裂かれるのだろうか。
 手足を分断されて、醜い肉塊と成り果てるのか。
 絶望の淵に恐れが混在する。
 生存欲が怯えのあまり、恐怖という感情を沸き正せ、ティアナを振るわせた。

「ティーダは――どこだ」

「……え?」

「アイツは――どこにいやがる!」

 ハンドの血走った目が狂気を湛えながら、叫ばれた絶叫は悲鳴の如く震えていた。
 彼は知らないのか?
 兄の死を。
 既に当の昔に死に果てた――“墜落死”した兄の死を。

「死んだわ」

「あ?」

「兄さんは死んだ! とっくの昔に死んだのよ!」

 ティアナは叫ぶ。
 その己が叫んだ言葉に、自分で傷ついていた。
 大切な肉親だった。
 大好きな兄だった。
 それを失った悲しみが蘇る、胸を突く激痛にも似た感傷、涙が零れそうになる、叫びたくなる。
 時が僅かに癒して塞いでくれた瘡蓋、その傷口を掻き毟るような行為。
93名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 21:36:03 ID:R/58NAqj
しえん
94アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 21:38:18 ID:QVGRzIo7
 
 ――なんで死んだんだ?

 ――しらねえ、墜落死らしいけどな。

 ――空戦魔導師の癖にか? 情けねー。

 ――最低の死に方だな。

 囁かれる言葉。
 その言葉に傷つき――同時に初めて兄の死因を知った。
 どうして死んだのか、それすら教えてもらえなかったから。
 ティアナが知っていることは少ない。
 【ミッドチルダ閉鎖事件】
 そう呼ばれる事件に兄は出動したことだけは知っている。
 泣き縋るティアナを隣に住んでいた隣人に彼女を預けて――帰らぬ人になったのだから。
 緊急用の避難所で過ごした数日間――どこからか聞こえる爆音、銃撃音、それに誰もが怯えていた。
 世界が終わるかと思っていた。
 そして、それが終わればまた一緒に暮らせると信じていた。

 だけど、それは叶わなかった。

 無残な死体になって、もう二度と言葉を交わすことは出来なくなった。
 その時には何十人もの死人が出たと聞いている。
 沢山の人が死ぬほどの大きな事件、それに兄は参加し、殉職したのだと。
 自分だけが特別ではないということは痛いほど噛み締めている。
 だけど、知りたいことがあった。
 やりたいことがあった。
 せめてもの償い――兄の夢を受け継ぐこと、執務官への昇進。
 そして、兄の死の真相。
 ……謎が多すぎるのだ。
 ただの死にしてはその死んだ場所も状況すらも教えてもらえなかった。
 ティアナは試した――機動六課のデータベース、本局直属の部隊、それなりの権限を得た状態。
 それで検索した結果――ティーダー・ランスターの死因及び事件に関してプロテクト。
 調べることすら出来なかった。
 だから。

「死んだ、だと」

 ハンドが浮かべた顔に。
 ゆるゆると落胆と憤怒と憎悪と焦燥と――最後に浮かんだ納得の色にティアナは気付いた。

「そうか」

 ハンドが息を吐く。

「死んだか」

 それは白い息、蒸気――漏れ出す魔力により己の帯びる大気の熱量を向上させてしまう、魔力の残り香。
 はち切れんほどに暴走した魔力の残滓が、蒸気となって彼の口元から吐き出されているのだ。
 まるで人の形をした蒸気機関のような光景、それにティアナは一瞬思考を別のところに飛ばした。

(スバル)

 己の目の前で救えなかった親友。
 彼女の体のことをティアナは知っていた。
 人とは違う体を持つことに傷を負っていることを知っていた。
95名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 21:39:27 ID:ec7yfj9Y
SIEN
96名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 21:39:42 ID:le8a5qQg
 
97アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 21:40:59 ID:QVGRzIo7
 
 救えなくてごめん、とティアナは心の中で呟く。
 ザクリと心のどこかで血が流れる気がした。
 傷を負ったと思う、痛みが、肉体と精神の両方で悲鳴を上げるように伝わる。
 締め付けるバインドの痛みが、心が吹き出す苦痛に共鳴し、軋みを上げている。
 苦痛は感情だ。
 ハンドの視線を感じながらも、脱力し切った指先に引っかかったままのアンカーガンを、クロス・ミラージュを握り締める。

「いつ死んだ?」

「六年前、よ」

「そうか。“あの時か”」

 やはり。
 やはりと考える。
 ティアナは確信する。
 “こいつは兄さんの死んだ原因を知っている”。
 ――瞬間、脳裏でどこかスイッチが入ったような気がした。
 外見上どこも変わらずに、けれどどこかが変わる。

「知ってるのね?」

「あ?」

「兄さんの死を、その原因を!」

 時間は十二分に存在していた。
 マルチタスクは延々と演算を繰り返し、その意思が伝わったクロス・ミラージュは駆動音も静かにバインドブレイクの処理結果を既に出している。
 すなわち。
 ――体を巻きつけていた鎖が瞬時に弾け飛んだ。
 魔力が足りないならば、精密なプログラミングで補う。
 力ではなく、技術で覆したのだ。
 あ? と間抜けた声を上げるハンド、その側頭部にティアナの足がめり込んでいた。

「らぁあっ!」

 ティアナが腰を捻り、魔力を放出しながら、身体能力を強化。
 ハンドの身体が引っこ抜かれたように吹き飛び、床に転ぶ。

「はぁっ!」

 ハンドの身体が地面に転がるのと同時にティアナは着地する。結い上げた片方のツインテールが解けて、さらりと流れる髪が邪魔だとばかりに書き上げる。
 ハンドを吹き飛ばした、その蹴りはある親友から教わっていた技術。
 シューティングアーツ。
 半ば強引に教え込まれた技術だったが、確かなティアナの血肉となっていた。
 基礎の基礎、正しい人体の蹴り方と威力の集中点を合わせるだけの技法程度しか覚えておらぬが、それで十分。
 心の中で親友に感謝をしつつ、ティアナは走り出す。
 その行き先は壁に穿たれた穴、外へと続く入り口。
 そこに向かうのには理由がある。
 一つ目は純粋にこのまま戦闘を続けても勝てる見込みが無い――AA+の熟練魔導師、スバルと二人掛かりでも一蹴されるような相手。
 援軍が必要だ。
 先ほどスバルが提案したようにギンガたちと合流しなくてはこの敵には勝てない。
 悔しいけれど、事実。
 だから、二つ目の理由。
 援軍を呼ぶために逃走するにしても廊下を走ってもすぐさま追撃される、廊下全てを焼き尽くすような砲撃魔法を叩き込まれれば一巻の終わりだ。
 故に彼女は外を選んだ。
 一直線に階上へ向かえる“道”へと。
98アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 21:42:51 ID:QVGRzIo7
 
「クロス・ミラージュ! 演算をお願い!!」

 私にやれるか、私に登れるか。
 空への道を!

『Yes sir』

 瞬間、ティアナの手の中でクロス・ミラージュが姿を変える。
 待機状態へと戻ってしまう――否、演算処理に集中するために形状を変えた。
 まだあまり育っていない胸の谷間にクロス・ミラージュを押し込む、ずたぼろのバリアジャケットでちゃんと仕舞えそうな場所がそこだけだったから。
 一瞬、もっと巨乳だったらかっこついたのにと考えた。

(いや、今の自分に文句をいってもしょうがないでしょ)

 自嘲の文句を上げて、ティアナは足を踏み出し、跳んだ。
 外へと飛び出す。
 同時に魔法を発動――瞬間、外に飛び出したティアナの身体が“空へと落下した”。

「よしっ!」

 上空へと落下しながら、彼女は体勢を変えて、横をすり抜けようとした壁に足をつけて“床”に変える。
 彼女が発動したのはベクトル操作、すなわち重力を操作した。
 ……かつて彼女は空隊を目指し、勉学に打ち込んだことがある。
 その時は己の飛行適正の欠落により、空隊の道を進むことは出来なかったが、空を飛ぶための魔法――すなわち飛行魔法自体は取得しているのだ。
 よく勘違いされるのだが、飛行魔法の習得自体は難しくない。
 問題はその制御――飛行適正すなわち三次元の機動を行えるだけの空間把握能力があるか否かに掛かっている。
 本来人間には大地を歩くための足があり、道具を使うための手が存在しても、空を飛ぶための翼はない。
 人体とは空を飛ぶことを想定していないのだ。
 それなのに、魔法という奇跡を用いて空を飛ぶ。
 その代償は大きい。
 通常であれば生涯体感することがあるかないかという空を舞う体験に、本能は対応していないのだから。
 例えば時速数百キロを超える速度で大地を駆け抜ける。
 例えば高度数千メートルの位置から落下する。
 例えば地上から空へと舞い上がる。
 その時、人体に何が起こるのか?
 それは――パニックだ。
 本能という人間が動作するための、生活するための、生きるためのマニュアルに載っていない行動に大半の人間がエラーを起こす。パニックと拒絶反応を起こすのだ。
 脳が混乱し、僅か数メートルを浮かび上がっただけで墜落するものは飛行適正の低いものには珍しくない。
 意思ではなく、肉体が、精神が、恐怖を覚え、混乱に呑まれるのだから。
 その事実をティアナ・ランスターは熟知していた。
 だが、彼女は知らない。
 己の上司、高町なのはが魔法も知らぬ世界で、空へと飛ぶことも想像していない状態で即座に魔法を理解し、一切の拒絶反応もなしで空へと飛び上がることを理解した人間だということを。
 飛行魔法が人間の脳に与える影響を熟知している学者が知れば卒倒するだろう驚異的な事実を彼女は知らない。
 そして、彼女は知らない。
 年々、そのような飛行適正のある――翼も持たず、空へと舞い上がることに拒絶反応を起こさない魔道師が増えているということを。
 されど。
 そのような事実、学説は今の彼女には関係のない話。
 ベクトルを操作し、複雑に計算され続ける処理と同時に脳が起こす拒否反応――猛烈な吐き気と歪む視界を強引に押さえ込みながら、彼女は床となった壁を蹴り上げる。
 彼女は壁そのものを完全に足場と化していた。
 上空に落下しながら、足を踏み出し、走っていた。

「火事!?」

 瞬間、青空を仰ぐ形になったティアナは気付いた。
 ホテルの最上階から伝わるように燃え上がる炎に。
 上層から広がっているらしい火は勢いを増し、ギンガたちが侵入したはずの階層は既に炎上しているようだった。
99名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 21:43:54 ID:PPm33OiF
支援
100アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 21:44:46 ID:QVGRzIo7
 
(どうする!?)

 一瞬足を止めるべきか、考える。
 けれども、次の瞬間、背後から響いた爆音にその思考を粉砕された。
 顔を向ければ空を舞い上がる、隻腕の魔導師の姿。
 浮かぶのは笑み。
 蒸気を放ち、首を左右に振り回す狂人の姿。
 その背後にまるで蜘蛛の巣のように展開された立体魔法陣。
 血で編み上げたかのように深紅の輝きが、呪詛が、世界に顕現する。

「っ!」

 ティアナの背に戦慄が走り、再び走るための加速を開始する。
 その下方で、魔力の放出現象が発生。
 魔法陣から生み出される赤い光球、血塗られた胎児のようなおぞましさ。
 帯びるのは鮮血のような紅の輝き。
 まるで滴る血涙のよう。

「っ!」

 ティアナは壁を蹴る。
 踊るように壁を蹴りながら旋回し、アンカーガンをクイックドロー。
 吐き気が酷い、脳内はベクトル操作の演算で手一杯、簡易的な魔力弾を射ち出すのが限界。弾道補正する余裕すらもない。
 胃がひっくり返りそうだった、奥歯を噛み締めてないと意識が飛びそうなほどの頭痛がする。

「るるる♪」

 されど、そんなことは知らぬと隻腕の魔導師が迫る。
 大気が歪み、ヘルメットの中で血走った目が愉悦に歪むのが見えた。
 口笛を吹きながら。

「ららら♪」

 隻腕の魔導師が森羅万象を書き換える。
 深紅の魔力光が視界を埋め尽くす、穢れが世界に満ちるようだった。

「ぁあああ!」

 ティアナが叫ぶ。
 己に活を入れて、壁を蹴り、走った。
 次々と降り注いでくる光球、それに上空へ落下しながら――傍から見れば飛翔しながら、ティアナはアンカーガンのトリガーを引き絞る。
 橙色の弾丸が吐き散らすように落下し、虚空を切り裂いて滑空、
 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。
 神速の早打ちで、魔力弾を迎撃。迎撃の弾丸に光球が自壊し、その衝撃に鼓膜が震える、肌が切り裂かれる。それでもティアナは踊るように壁を踏み踊り、高速のステップで舞いながら引き金を引き続ける。
 まるでシューティングゲームのようだった。
 ただしこれは命がけ。
 一つでも届けば、ティアナの体は撃ち出される魔力弾の爆撃で粉砕されるだろう。
 その前に射ち落とす、空へと舞い上がりながら、壁の上を踊りながら、クルクルと迫る爆風を受け流し、ガラガラと降り注ぐ上空からの瓦礫を避ける。
 誰が想像するだろう。
 誰が理解するだろう。
 一人の少女が壁の上で踊りながら銃撃し、一人の男が空を舞い上がりながら魔法を放つ。
 非現実的な光景。
 されど、それは現実そのものだった。
101アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 21:46:51 ID:QVGRzIo7
 
「シュート!」

 手を振り抜く、魔力を放出、限界を超えた供給量にリンカーコアが悲鳴を上げている。
 脳が破裂しそうで、吐き出しそうで、それでもティアナは動きを止めずに魔力弾を乱射。
 三連射、あまりの速度に連なる穂先を持つトライデントが撃ち放たれたかのようだった。
 目の前にまで迫った三つの光球を立て続けに貫く。
 爆散、大気中の酸素を貪欲に喰らい、燃焼剤と化した閃光が小さな太陽のように膨れ上がり――衝撃破が放たれた。
 それは歌声のようであり、絶叫にも似た無音の咆哮。

「っ!」

 ――呑まれる。
 目を閉じる。瞼の上からでも焼け付きそうなもう一つの太陽の閃光、体を軋ませる衝撃、一瞬ベクトル操作の集中が乱れる。
 下へと引きずり戻す重力の束縛を思い出す。

『Dangerous!』

 瞬間、壁から足を滑らせた。
 まるで地面から伸びる鎖に引き戻されたかのよう。

「あっ!」

 ティアナが目を開く、体勢を立て直すために。
 されど、彼女の視界に映ったのは――紅の閃光だった。
 真正面から深紅の刀身が彼女に迫っていた。

「え?」

 まるで死神の鎌。
 彼女の細首を刎ね飛ばす――死出の誘い。
 デバイスの先端から伸びる深紅の力場を刀身と化して、振り抜かれる。
 咄嗟にアンカーガンの銃身で受け止める。
 焼け付くような衝撃が響いた。
 メリメリと頑強な合金で出来たはずのデバイスが悲鳴を上げて、ティアナは己の愛銃の絶叫を聞いたような気がした。
 どれだけ持つ?
 数秒? 数瞬? いや、それよりも早く切り裂かれる。首にまで刃が届く、両断される、死んでしまう。
 このままでは躱せない。
 重力に縛られたままでは――動けない。
 だから!

「クロス・ミラージュ!」

 取り戻せ、制御を!
 その思いを込めて、叫ばれた言葉に。

『Yes!!』

 胸元に仕舞い込まれたもう一つの相棒は応えた。
 瞬間、滑り落下していく身体が宙に留まる。
 わずかな制動。
 落下加速のついた体は簡単には止まれない――それで十分。
 壁に付いた膝を折り畳み、背中を仰け反らせ、アンカーガンの銃身を両断した魔力力場がティアナの目と鼻の先を通過する。
 赤い光刃が目に焼きつく、大気が焦げるような音、切り裂かれた髪の先端が視界の片隅で舞う。
 それを見届け、背中に冷たい汗を流しながら、ティアナは壁に背中をぶつけ、さらに上空にベクトルを向けながら、バック転。
 ただの自然落下速度以上の速さで、続けざまに振り下ろされた攻撃を避けた。
 分厚いホテルの外壁をも両断するハンドの斬撃に、埃が舞い、破砕音が轟いた。
102代理:2008/09/09(火) 21:52:05 ID:abQCGZ+R
 
「……おしぃ」

 ハンドが嗤う。
 ティアナの前で制止した空戦魔導師は壁に立つ少女を見て、嘲笑う。
 壁を蹴り、さらなる飛翔を行う。

「今度は死ぬか?」

 壁から空へ、隻腕の魔導師は楽しむようにティアナを見下し、侮蔑し、歓喜していた。
 もっと足掻けと、もっと苦しめと、もっと楽しませろとその唇が告げていた。

「簡単に、死なないわよっ!」

 とはいえ、武器を失ってしまっていた。
 アンカーガンの銃身は完全に両断され、もはやデバイスとしての機能は果たさないだろう。
 一か八かクロス・ミラージュを使う?
 しかし、今演算処理をやめれば落下は必死だった。
 今いるのはホテルの大体四階ぐらいだろうか。
 これ以上は上がれない――既に真上は炎上しているから。
 炎は回り続ける、轟々と火の粉を降り注がせ、ティアナの肌を焼くほどの距離。
 熱い、汗が吹き出る、肌を流れる血が渇いて、パリパリと音を立てるほどに。

「ゲームをしよう」

 虚空を踊る隻腕の魔導師は告げる。
 大気を透明な床とでも言うかのように踏み締め、そのデバイスを高々と振り上げた。
 ミッド式の魔法陣が浮かび上がる、まるで隻腕の魔導師を称えるかのように二重に連なる魔法陣が彼の前に浮かび上がり、同時に無数の小さな魔法陣が彼の周囲に顕現する。
 小さな魔法陣。
 そこから深紅の魔針が形成される。
 細長い糸のような厚み、長さは50センチにも至るガラスのような針。
 魔力光が凝縮し、大気中の埃を核として、擬似物質を生成。
 空気中の帯電量を操作、ベクトルを変更、ティアナには決して真似出来ない複雑な処理を、簡易なストレージデバイス一本で操作してみせる。
 それを見て、ティアナは駆け出す。
 逃げるために。

「虫の如く、足掻け」

 発射。
 深紅の魔針が撃ち出される、まるでニードルガンのように。
 大気を切り裂く荒々しい暴虐音を立てて、襲い掛かる。

「っ!」

 優れた動体視力を発揮。
 残り少ない魔力を視神経の強化に集中――身体能力の強化は苦手、だけど文句は言えない。
 銃弾にも迫る速度の音速の針をティアナは掻い潜る。
 襲い来る衝撃がティアナの体を浅く切り裂く。肩を、足を、脇腹を、二の腕を、引き裂く魔針の威力。
 服を霞め、消し飛び、裾を貫かれてはそれを引き千切り、追撃に迫る針を躱す。
 ほぼ全損したバリアジャケットとはいえ、まるで紙のような扱い。貫通力に優れている。
 ティアナが過ぎ去った場所には墓標のように針が突き立てられる。
 次々と、次々と、ハンドは笑いながら針を放つ。
 楽しげに、虚空を踊りながら、手を振りぬく。デバイスが煌めき、魔法陣が発行し、新たな弾針が精製される。

「二発」

 二つの針が飛ぶ。
 それに対し、頭を伏せて、ティアナは躱す。
 刹那、頭部を掠めた魔針の衝撃に縛っていた髪が解けて、ブロンドヘヤがストレートに靡いた。
103名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 21:52:42 ID:nLfn1LCQ
支援
104代理:2008/09/09(火) 21:53:15 ID:abQCGZ+R
 
「三発」

 三つの針が飛ぶ。
 断続的な針の襲来、その内ニ発の軌道を読み、ティアナは体を逸らし、足場を踏み変えるも――三発目の軌道に絶句。
 どう足掻いても彼女の胴体を貫く、必中の軌道。

(これ、は!)

 ティアナの判断は早かった。
 二発の魔針をギリギリに避け、最後に迫る魔針に対し、ティアナは右手を向けた。
 右手で受け止める? 否、彼女の細い肉体では留めることも出来ずに、その先にある胸部に魔針が突き立てられるだろう。
 だから――彼女が翳したのはアンカーガンの銃身。
 彼女の愛銃は魔針を受け止める、一度は断ち切られた、残ったのは手元のグリップのみ、それでも。
 それでも受け止めて、その身の破損と引き換えに主を護った。

「ごめん」

 謝る、己の愛銃に。
 そして、砕けた。
 魔針を弾き逸らし、その代償にアンカーガンが砕け散る、銃身を無残に破損し、その手から滑り落ちた。
 衝撃は大きい、ティアナの身体が弾き飛ばされる、炎の中に飲まれそうなほどに吹き飛ばされて。

「シ」

 右上に一つ、右下に一つ、左下に一つ、左上に一つ。
 顕現する魔法陣。
 生み出される閃光、魔法の迸り、忌まわしき奇跡。
 精製される四つの魔針。
 四・矢・刺・死。
 四つのシ、四つの針、四つの魔法陣。

「発」

 撃ち出される四つの閃光。
 それをティアナは――避ける術はなかった。
 アンカーガンも失った、体勢は崩れて、撃ち出される襲撃は今まで以上。
 絶望的で、どうしょうもない。
 絶望が体を蝕む、虚無感が心を冒す、それでも。

「ぁ」

 前を見る。
 手を伸ばし、最後の瞬間まで足掻こうと、真実を掴むために、睨み付けて――“目の前を横切る翼の道を見た”

「え?」

 蒼い、空のような色をした壁、それが魔針を受け止めていた。
 ビキビキとひび割れ、貫通した魔針がティアナの眼前で制止する。
 あとたった数センチ深く食い込めれば、その脳髄を貫いていただろう魔針の先端。恐怖を帯びるには十分すぎるほどの光景。
 けれど、ティアナは気付かない。
 それよりももっと重要なことに気付いていたから。

「ウイング……ロード?」

「あ?」

 空へと続く翼の道。
 その色は間違いない空色。
 その色を持っている人間はただ一人。
105名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 21:54:16 ID:le8a5qQg
 
106代理:2008/09/09(火) 21:55:30 ID:abQCGZ+R
 
「ティア――!!」

 その瞬間、ティアナの真上から何かが飛び出した。
 炎を切り裂き、蒼い閃光が、もう一つ作り出した翼のロードを駆け抜けて、空を駆ける。
 それは一人の少女。
 焦げ付いた鉢巻をなびかせ、輝ける意思を光らせた蒼い乙女。
 ティアナ・ランスターの相棒。

「スバル!」

「ぁああああああ!」

 ティアナの叫びに笑みを浮かべながらも、彼女は魔力を腕に伝達させ、リボルバーナックルのシリンダーを回転させながら、一直線に加速。
 それはまるで流星のように。
 それは燕のように。

「ディバィイン!」

 生成されるスフィア。
 光り輝く光球を突き出した左手に構えながら、スバルは隻腕の魔導師に迫る。

「しぶとい」

 瞬間、それを叩き落そうとハンドは右手を動かし、デバイスを起動。
 させようとした瞬間だった。

「さ、せっない!」

 ティアナが吼えた。
 己の失敗を取り戻すと叫ぶかのように、左手を動かし――壁に突き刺さった魔針を掴む。
 同時に彼女は己のアンダスーツに右手を被せる、クロス・ミラージュを引き抜く。
 待機状態から起動状態に、己の胸の谷間からハンドガン形態になった愛銃を抜き放ち――“一つの銃声を響かせた”。

「っ!」

 瞬間的にハンドの眼前に紅い障壁。
 あらゆる魔力弾を弾き、叩き落す激流のような防護壁が立ちはだかる。
 だが、その壁に“三つの銃弾が食い込んだ”。
 ライン上に並べられた弾丸の一つ目が壁に衝突し、霧散するよりも早く二発目が融合し、さらに食い込み大きく膨れ上がりながら三つの弾丸がまるで撃針のように二つの弾丸を壁の向こうへと叩き込む。

「こ、れはっ!」

 瞬間、ハンドが驚愕に目を見開いた。
 ありえない光景に驚いたのか? 否、この狂人にありえない事態などない。それらに対する反応など当の昔に欠如している。
 ただ驚いたのは、それが見覚えのあった光景だったから。
 “かつて撃ち込まれたことのある技に動転した”。

「ティ――」

 ハンドがその名を叫ぼうとした瞬間、その唯一残された右手が吹き飛んでいた。
 ティアナの貫通した銃弾、それが彼の肘から先を貫き、千切れ飛ばした。
 鮮血が溢れる、噴水のように。

「アァアア!?」

 絶叫を上げて、ハンドが狂乱したかのように顔を空へと上げた瞬間。
 その顔面に閃光の杭が打ち込まれた。
107名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 21:56:36 ID:I2KCX58Y
支援
108代理:2008/09/09(火) 21:56:53 ID:abQCGZ+R
「バスタァアアアアアア!!」

 輝ける閃光。
 蒼い軌跡。
 あらゆるものを一撃にして倒す。
 一撃必倒の実現。
 スバルの撃ち出したディバインバスターの奔流が隻腕だった魔導師の全身を飲み込み――吹き飛ばした。
 砕け散る蛍光色のヘルメット、爆砕する大気、視界が純白に焼け付いて、まるで天使が降臨したかのような神聖さ。
 錐揉みしながらハンドの身体が遥か下の大地に墜落する。
 アスファルトの大地を粉砕し、めり込み、血反吐を吐き零す――確実に重傷、或いは致命傷。

「スバル……」

 たった一撃。
 それであの恐ろしい狂人を打ちのめした己の相棒に、ティアナは乱れて、少しだけ焦げてしまった長いストレートヘヤをなびかせながら、声を上げた。
 言いたいことは沢山あった。

 ――生きていたの?

 ――助けてくれてありがとう。

 ――なんで私を助けたの?

 ――私は貴方と比べて弱いと思った?

 沢山あるけれど、言いたいことはまずその四つだった。
 どう言い出せばいいのか、少しだけ考えて、そして決意。

「スバル、あのね……」

「――よかった! ティアが無事で!」

 ティアナが勇気を出して告げようとした言葉はスバルの声に掻き消された。
 目の前に浮かぶのはニコニコといつもの能天気なスバルの笑み。
 長い付き合いだ。
 そこに浮かぶ安堵の色から読み取れる感情はただ一つ――よかったという感情。
 純粋にティアナが無事でよかった。
 単純にティアナが無事でよかった。
 ただそれだけ。
 それだけだ。
 馬鹿みたいに能天気な彼女は嘘なんか付けない、それは彼女との長い付き合いでティアナが骨の髄まで理解していること。

 なんて、馬鹿馬鹿しい。

(悩んでいた私が馬鹿みたい……)

 はぁっとため息を吐き出し、ティアナはとんっとスバルの展開したウイングロードの上に降り立つ。

「あ、ティア! 大丈夫? 足とか色々怪我してるけど――」

「スバル」

「なに――?」

 ほえ? と、目を丸くしたスバルの頭部に、ガンッとクロス・ミラージュの銃底がめり込んだ。
 小気味のいい、とても痛そうな音。
109代理:2008/09/09(火) 21:58:44 ID:abQCGZ+R
「いたーいっ!」

「当たり前でしょう、痛そうに角度を付けたわ」

「なにするの!?」

「それはこっちの台詞! まず、自分の心配をしなさい!」

 そう叫んで、ティアナはスバルの手を取った。
 彼女の左腕、その二の腕から火花が散っていた。金属のフレーム、ケーブルが露出し、人工血液が溢れ出している。
 よく見なくても、スバルの全身がずたずたで、ティアナといい勝負、いやそれ以上かもしれない。

「無茶ばっかりして……死んだらどうするの?」

 ティアナは僅かに喉を鳴らし、俯いた。
 スバルまで私を置いて逝ったと思った。
 大切な人が消え去るのはどこまでも深い苦痛。
 たった数分前まで確かに心に刻み込まれていた絶望は死にたくなるほど辛く、怖いものだった。

「ごめん」

 スバルは声を小さく、謝った。

「いいわ。私も間違ってたから」

 ごめんとティアナは告げる。
 抗って、反発して、スバルを危険に晒したのは事実。
 もしもスバルじゃなかったら、あの時確かに自分はパートナーを殺す引き金を引いていたのだ。
 ハンドの手によって殺されていたのだ。
 自分もまた死んでいたのだ。
 だから、ごめん。
 済まないという気持ちで胸が一杯だった。
 安堵という感情で余裕の取り戻されたティアナの胸に溢れかえる感情は波となって、彼女の双眸から零れ落ちる。
 ティアナの瞳は涙で溢れていた。

「いきてて……よかったぁ」

 ボロボロと子供のように泣きながら、スバルにティアナは抱きついた。
 喉を枯らして、ぼたぼたとスバルの肩に涙を零す。

「しんじゃったとおもった……」

 ティアナは抱きしめる。
 失わずに済んだ大切な相棒を、大切な親友を、その体温を感じたくて、子供のように泣きじゃくる。

「ごめんね、ティア」

 スバルは彼女を抱きしめる。
 己よりも年上で、強くて――とても脆い少女を抱きしめる。

「ごめん」

 スバルはただひたすら謝りながら、彼女の背を叩くことしか出来なかった。
 それだけが儚い彼女に出来るたった一つの行為だと分かっていたから――
110アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 22:00:30 ID:QVGRzIo7
 
「……はぁ」

 数十秒後、脱力し切った声が聞こえた。
 スバルの肩から顔を外し、涙を止めたティアナは顔を上げる。
 その目は赤かったけれど、すっきりとした表情を浮かべていた。

「泣いた、泣いた。子供の時以来ね、涙を流したのは」

「そうなの? アタシ、しょっちゅう泣いてるよ? 玉ねぎを刻んだ時とか」

「それは誰でも泣くわよ」

 スバルの冗談めかした言葉に苦笑し、ティアナは突っ込みを入れる。
 スバルは安心する、よかったいつものティアだと。

「さて、と。ちょっとスバル、下までウイングロードを伸ばしてくれない?」

「え? いいけど」

 スバルが見下ろした先、そこにあるのは地面にめり込んだハンドの肉体だけだ。
 どう見ても死体、いやまだ生きてるのか?
 どちらにしてもあまり近づきたくないが、スバルは脳内で慣れ親しんだウイングロードの術式を構築・解放。
 なだらかな曲線を描いて、地上までのロードを形成する。
 クルクルと、狂狂と、意識しているわけではないだろう、螺旋状の階段。
 地獄に繋がる地底を掘り抜くかのようなドリルの道路を、ティアナは歩き出した。

「あ、ティア」

 スバルが慌てて追いかける。
 悲壮な決意を決めたその背中を追いかけて、二人は地上に降り立った。
 眼下には血を吐き零す狂人、既に両手無き魔導師――ハンド。
 ヘルメットは粉砕され、その素顔が露になっていた。
 その顔面は酷かった。
 片目はまるで貫かれたかのように潰れ、その頭部はケロイド状に焼け爛れていた。先ほどの攻防によるものではない、もっと古い傷。
 彫りの深いまるで巨木を彫りぬいて作り上げられたかのような男の顔がそこにあり、血を吐き零していた。
 間違っても眺めていたい光景ではない、二十歳にも満たない少女にとってはなおさらだった。

「捕縛するの?」

 スバルが問いかけるが、ティアナは首を横に振った。

「聞くの」

「え?」

「答えなさい」

 ティアナが髪を掻きあげながら、右手の平に納めたクロス・ミラージュの銃口を突き付けた。

「ティア!?」

 突然の行為に、スバルが声を上げるが、ティアナは構わずに言葉を続ける。

「貴方はティーダを、兄さんの何を知っているの!」

「え? お兄さん? え??」

 スバルが状況を掴めずにおろおろと視線を二人の間で行ったり来たりしていると、不意にハンドが口を動かした。
111名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 22:02:39 ID:iQIhnwZX
支援
112アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 22:02:47 ID:QVGRzIo7
 
「が、かかかかっ!」

 笑い声。
 瀕死の状況にありながら、ハンドは笑っていた。

「なぁにも知らないのか、キサマハ」

 ごぶごぶと喉から血を吐き出す、顔が汚れ、血泡が浮かび上がらせながら、ハンドは嘲笑の笑みを浮かべる。
 恍惚とした表情。
 まるで空が綺麗だと笑うかのよう、清々しい笑み。

「何も知らない? どういう意味!? 兄さんに、何があったというの!」

「ハハハッ。知らない、誰も知らない、キサマハ知らない。下らないなぁ、キサマハ知らぬのか」

 ゲタゲタと嗤う。
 まるで幼稚な子供が空に浮かぶ雲にどうやったらあれを掴めるの? と呟く様を見たかのように。

「――“死神”だ」

「え?」

「世界ノ敵ノ敵、世界ノ敵、楽園の反逆者、レギオンとはそのためにある」

 笑いながら、哂いながら、嗤いながら。
 鮮血を零し、無知なる少女達の罪を嘲笑うかのようにハンドは笑い声を上げる。
 攣り上がる唇を震わせながら、鮮血を吹き出す右手を掲げた。

「ああ、死神よ。ナゼだ、ナゼ俺を――“もっとも美しい時に殺してくれなかった”」

 ボタボタと血が流れる、男は止めていた出血を解放する、赤黒い血が彼の全身を染め上げる。
 赤く、紅く、朱く。
 己の血を飲みながら、己の血を啜りながら、己の血を浴びながら。

「俺は世界の敵になれなかったのか!」

 悲嘆だった。
 絶叫だった。
 落胆だった。
 誰にも届かない。
 無知なる少女達には決して理解し得ない、言葉を吐き散らしながら、世界の敵になれなかった哀れなる“手”は叫ぶ。

「“ブギーポップ”!」

 その名を。
 死神の名を。
 彼は叫んで、世界に轟かせた。
 死に場所を間違えた男は泣き叫んで咆哮を上げた、悲痛なる声を響かせる。

「ブギー……?」

「……ポップ?」

 スバルとティアナが呟くその名前の意味を彼女達は知らない。
113アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 22:05:07 ID:QVGRzIo7
 
「一体、それは――」

 なに? とティアナが続けようとした刹那。

「ティア!!」

 スバルが気付いた。
 流れる血潮、地面を染め上げる血液、そこに含まれる深紅の輝きに。

「終わらせてくれないのならば」

 絶望に浸る男の声が響く。

「くっ!!」

 ティアナがクロス・ミラージュの引き金を引いた。
 しかし、僅かに遅く、男の周囲から噴き上げる激流の如く魔力障壁に弾かれる。
 いや、それだけじゃない。
 彼女達を覆い隠すように深紅の檻が形成されていた。
 おぞましい血臭を放つ深紅の檻、まるで凝り固まった血液で作り出されたかのよう。

「これはっ!」

 スバルが右手を振り上げて、カートリッジロード。
 リボルバーナックルで檻に拳を叩き込む――が、ぬちゃりという音と共に檻が飛び散り、瞬く間に復元した。

「なにこれ!?」

 見たことの無い術式だった。
 そして、とてつもなく強固な檻だと理解する。
 ――古来、魔術における血液とは重要な位置を占める。
 処女の血、聖人の血、供物たる小動物の血液。
 いずれもその体に流れる血は儀式として重宝され、多用される。
 さて、ここに疑問を発する。
 奇跡の力たるリンカーコア、その魔法の発動において血液はまったく無関係か?
 否。血を用いた魔法もまた管理世界の魔法に存在し、重要な媒体として使われている。
 血液とは人の肉体に流れる命の源。
 全身を流れる血管を巡り、酸素を運び、命を運ぶ。
 すなわち肉体の元。
 ならば、リンカーコアの供給する魔力を遮るのか?
 違う。
 その伝達率は比類なき物、電流における塩水のように極めて低い損失量で魔力を流す伝導物質。
 故に、その魔法は血を用いて、大量の放出を可能とした魔力量はAAAにも及ぶ大魔法。
 構成の荒さを放出量で補う堅牢なる籠であり。

「終わらせてやる」

 おぞましき血溜まり、血塗られた大地に横たわる敵にすらなりえなかった男は螺旋を描くかのように魔力を放出する。
 その流れる血液に乗せて、魔力を載せて、輝きを高める。
 追われ、負われ、終われ。
 死の招き手に追われながら、幾多の知りうる限りの苦痛と幻覚に負われながら、その人生の終焉を終わらせるために。

「オワラセテヤル!」

 血と共に叫ばれた言葉に、スバルとティアナは蒼白になる。
 その言葉が持つ響きに、やけくそになった、命を捨てた感情を感じ取ったから。
 ――自爆。
 間違いない、こいつは彼女達を道連れに死ぬ気だと、震える大気の感覚と鳴動する魔力光の輝きに理解する。
114アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 22:07:22 ID:QVGRzIo7
 
「スバル!」

「うんっ!」

 バリアブレイクの演算開始。
 同時にティアナがクロス・ミラージュに魔力を供給。

「くだ、けろぉおおお!!」

 スバルが全力で拳を振り下ろす――されど、それは惰弱。
 彼女の体は先ほどの砲撃で限界を迎えている、身体機能は衰え、その脳内チップはレッドアラートを鳴り響かせ続けている。
 故に、命を賭けた――訂正、命を捨てたハンドの障壁を破るには至らず。

「つらぬけぇ!」

 ティアナの銃撃――一つにして三連の銃撃。
 されど、それは学習したハンドの障壁に巧みに命中点をずらされ、貫通することは叶わず。
 牢獄は顕在。

「くぅっ!」

「はやく!」

「終われ終われ終われ終われおわ――」

 最大限に高めた魔力、それを連鎖式に反応させ、励起爆砕を起こさせようとした瞬間だった。
 パリンッ、と――何かが砕けた音がした。

「あ?」

 檻が粉砕された。
 “まるでビスケットを指先で砕いたかのような壊れ方”。
 続けざまに割れる音。
 二つ目の音は少し遅く――十二分に二人の視覚でも追うことが出来た。
 ハンドが纏う激流のような障壁、それを貫く“グロテスクな灰色”の銃撃を観た。
 そして、その銃弾はハンドの胸を貫いた。

「がっ」

 魔力が砕け散る、魔法が霧散する、彼の意識が強奪されるかのように失われていく。
 それでも彼は血走った目で、銃撃の方向を向いて。

「て、めぇえは――!!」

 血の泡を吐き出しながら、叫ぼうとしたハンドの額。
 そこに風穴が開いた。
 後頭部から脳漿を撒き散らして、ハンドが倒れた。

「……え?」

 一瞬を繰り返し、繋ぎ合わせたような僅かな時間。
 まるで映画のワンシーンのような切り替わる、巡るましい光景。
 スバルは、ティアナは呆気に取られて、同時に振り返る。

「誰!?」

 それは狙撃だった。
 二人は撃たれる危険性すら忘れて、銃撃が飛んできた方角に目を向けた。
115アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 22:09:10 ID:QVGRzIo7
 
 ――遥かな先に一つの人影が見えた。

 二人は見る。
 二人は目撃する。

 ――高い高い建造物の頂上に、誰かが立っている。

 直線距離にして数キロメートル。
 生半可な視力では判別など出来ない遠距離。
 されど、スバルは戦闘機人ならではの優れた視力に、ティアナは咄嗟にかけた視力強化の魔法によって視認。

 ――それは黒いジャケットを着た男。

 手にはライフルだろうか。細長い、歪な鉄の塊を携えている。
 ゴーグルを掛けて、顔は判別出来ない。ただ茶色い髪をなびかせ、幽鬼のように男は建造物の頂点に立つ。

「あんな距離から!?」

 恐るべき凄腕。
 そう認識して――同時にティアナは気付く。
 何故、彼は立ち上がっている?
 確実に伏射か違う姿勢で狙撃した筈。
 なのに、何故……こちらに姿を晒したのだ。
 まるでそうじゃないとフェアじゃないと告げるかのように姿を晒したように思えた。

「みて、ティアナ!」

 瞬間、スバルの声にティアナは見た。
 コートの男が翻り、背を向けた瞬間――風に攫われたようにその姿が消えたのを。

「嘘」

 目を擦っても、そこに男は既にいなかった。
 まるで元からいなかったかのように。
116名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 22:09:15 ID:le8a5qQg
 
117アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 22:11:38 ID:QVGRzIo7
 
「幽霊、じゃないよね」

「違うわ。見間違えじゃない」

 二人の人間が同じ姿を見ているのだ、見間違えなどあるわけがない。

「あそこに、確かに誰かが居たのよ」

 そして――私たちを助けた。
 ティアナは見る。
 撃ち抜かれて、死亡したハンドを。
 彼の銃撃がなければ、確実にスバルとティアナは死んでいた。
 だけど、何故助けてくれたの?

「陸士108部隊の人だったのかな?」

「分からないわ」

 陸士の格好をしていなかった。
 そもそも、陸士だとは思えなかった。
 ただのカンだが、違うような気がした。
 もっと怖くて、もっと恐ろしくて、もっと――凄いような気がしたのだ。

「とにかく、戻りましょう。ギンガさんたちと合流するか、なのはさんたちを助けないと」

「う、うん!」

 謎を残しながら、少女達は歩き出す。
 六年の怨念を残し、志半ばで果てた男の遺骸を残して。

 怨念は果たされることなく、朽ち果てた。





 ……転移魔法の後の感覚は好きじゃない。
 己の張り詰めた空気を引き剥がされ、乱暴に新しいものを叩きつけられたような気分になるから。

『なんで、勝手に撃ったの? ビスケット・シューター』

 イヤホンから聞こえる責めるような声。
 いや、単なる疑問の言葉だろう。
 彼女は怒りなどの感情をまだ憶えていない、無垢なる子供だから。

「悪いな。どうにも、見ていられなかった」

 先ほどまで立っていた狙撃ポイント、そこから数キロは離れた森の中で黒いジャケットを纏った男――ビスケット・シューターは詫びるように呟く。
 手には重たい、命を奪った鉄塊が握られていた。
 人を殺すために罪は重くなる。
 引き金を引くための重さは積み重なり倍加して、容易く引き金は引かれるようになってしまう。
 ブレーキが壊れるのだ。
 命の大切さを思う心が磨耗する故に。
118名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 22:11:46 ID:COyZIA29
支援します。
119名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 22:12:11 ID:nLfn1LCQ
支援
120名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 22:12:55 ID:abQCGZ+R
支援
121名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 22:13:25 ID:CZW+PalS
支援ですー
122アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 22:13:35 ID:QVGRzIo7
 
『……知り合い?』

 透明な、鈴のなるような声が鼓膜を揺らす。

「ああ」

 儚く、油断をすれば聞き逃してしまいそうな声だが、彼はしっかりと返答した。

「大切な親友の……忘れ形見だ」

 そう言い切ると、彼は胸元から取り出した煙草を咥えた。
 腰ポケットに手を伸ばし、そこから取り出した銀製のライターを取り出すと、静かに手で風から守りながら、火を灯す。
 ジリジリと青い炎が煙草の尖端を焦がし、紫煙を立ち上らせる。

「っ」

 吸い込む――苦味が肺に広がる。
 苦痛にも似た味、毒が肺を蝕む感覚、不味い。
 だけど、止められない、止めることは許されない。
 紫煙を吐き出し、彼は苦痛を堪えるように眉を歪めた。

『また、たばこ?』

 煙草を吸う時の独特の呼吸音が伝わったのか、イヤホンの向こう側から訊ねるような声が響いてくる。

「ああ」

『あの子も嫌ってる、あなたも好きそうじゃない。なのに、なんで吸っているの?』

「さて、な」

 イヤホンの向こうで首を傾げる彼女の顔が簡単に想像できる。
 無垢な子供、穢れを知らぬ、ただ大切なものために進む――それを半ば利用しているような自分に吐き気を覚える。
 ドクターの真意は理解しているつもりだ。
 だけれども、罪悪感は忘れられない、忘れることなど許されない。

「忘れないためさ」

『……? なにを?』

「痛みをだ」

 そして、今日痛みを一つ砕いた。
 ビスケットのように、ぶち壊したのだ。
 過去の怨念を一つ晴らした。
 イヤホンに手を当てて、向こう側の彼女には聞こえぬように彼は呟く。

「……ティーダ。お前の宿敵は、悪いが俺が殺しちまった」

 空の上にいるのか、それともどこにもいないのか。
 六年前、空から墜ちた――笑いながら落ちていった親友に手向ける手土産だとばかりに、ビスケット・シューターの名を冠する孤独な狙撃手は煙草を投げ捨てた。

123アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 22:15:38 ID:QVGRzIo7
 


 そして。

 一つの戦いは終わり。

「グリフィス補佐官、ゲンヤ陸佐!」

「どうした?」

「ライトニング04とフリードの魔力放出量の上昇を確認! これは!? 暴走です!」

「なん、だと!?」

 カラカラと運命が回りだし、新たなる劇が幕を開く。


「っ、ライトニング03が移動を開始――ライトニング03! ライトニング04! 互いに“交戦状態に入りました”!!!」


 さあ、休む暇は無い。

 観客に退屈なき劇を魅せよう。

 新たなる戦いが、始まった。


 それは無垢なる少年と無垢だった少女の殺し合いへと始まる舞踏劇――



 ―― To Be Next Scene SIDE 3−13
124名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 22:18:53 ID:ec7yfj9Y
支援
125アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/09(火) 22:19:14 ID:QVGRzIo7
投下完了です。
多数のご支援、代理投下、誠にありがとうございました。
一度は規制にかかったものの無事に投下完了です。
次回はホテル外部、装甲車を追っていったエリオたちの視点になると思います。
グルグルと巡るましい視点の変更で分かりにくいでしょうが、なんとか分かるように頑張るつもりです。
読んでくださって、ありがとうございました。


そして……いい加減忘れられてそうな気もしますが、ちゃんとブギーポップクロスだということをアピールできたと思います。
クロス元はブギーポップシリーズですよ!(苦笑)
126名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 22:25:19 ID:oJEPb9sQ
GJでした!
とうとうブギーポップという言葉が出てきた。
その内本人も出てくるのかな。
ヴァイスが格好良いですね。主人公みたいでw
127名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 22:26:24 ID:iQIhnwZX
GJ!!です。
ハンドはティーダの死を知らないという事は、腕をぶっ飛ばされた後に撤退し別の誰かが殺したのかな?
それとも、激戦でティーダを限界まで追い込んだけど、起死回生の技でやられて撤退、その後、ティーダが墜落して死んだのだろうか?
次回も楽しみにしています。
128名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 22:56:09 ID:ec7yfj9Y
GJ! ティアナやスバルの衣装がなんともwww
129名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 09:05:57 ID:y0hmFALd
>アンリミテッド・エンドライン
作品を読む時、自分は常に可能な限り脳内でイメージながら読んでいます。
よって――
>まだあまり育っていない胸の谷間にクロス・ミラージュを押し込む
なん……だと……?
何を考えているんだァァーーッ! 破れた箇所から見える柔肌はともかくワケを言えェーーッ! お兄さん許しません!(ぉ
いや、もうスバルといいキャラが美少女であるという利点を上手く使った描写でしたね。
バトルと色気の融合! これって意外とリリなのに足りてなかったものじゃね? 服とかあんまり破れませんよね。
純粋にバトルとしても楽しめました。まさにスーパーティアナタイム。
いや、正直原作八話のイベントで精神的に一皮剥けてないとティアナって弱いイメージがあったんですが、そんな問題を抱えながらも、敵を見事下して見せましたね。
ティーダの技らしい射撃魔法が出た時は思わず「おぉ」とか感嘆を口に出してましたよw
ラストのヴァイスといい、威力だけではない射撃魔法の真髄ってものがあって、アンリミの戦闘は新鮮ですね。
それにしても、意外とSSでは触れられてないスバルとティアナの絆。ボロボロの美少女が抱き合うとか、素敵ですよね。ステッキーです。
そして、ついにキーワードが出てきました。
ライトニングサイドでも何か起こってるみたいだし、物語も加速してきて期待も膨らみますw
130リリカル×アセリア ◆UcPt.BPOZc :2008/09/10(水) 11:07:05 ID:nskidrAH
こっそりひっそりこんにちは。
131名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 11:07:55 ID:xXXLRmxk
こんにちわ
132リリカル×アセリア ◆UcPt.BPOZc :2008/09/10(水) 11:07:58 ID:nskidrAH
運命の系統樹の方を書いたので11:30に投下したいと思います。
1336月15日:風華 ◆UcPt.BPOZc :2008/09/10(水) 11:31:39 ID:nskidrAH
 6月15日。 まだ梅雨が終わりきらないこの中途半端な時期に私立風華学園中等部に2人の転入生の姿があった。

「高町なのはです。 よろしくお願いします」
「アリサ・バニングスよ。 よろしくね」

 高町なのはとアリサ・バニングスの2人である。
 さて彼女達2人が海鳴から離れた場所の学園に転入しているのには理由がある。
 先日、レティ・ロウランから突如与えられた任務――地球、しかも日本国内で奇妙な反応があるのを調べる為だ。
 本来ならそれなりの人員を用意したい所なのだが、管理局も人手不足。 まだ重大な反応が出てない状態では人を回す事が出来ない為、現地出身である高町なのはに白羽の矢が立った訳である。
 しかし短期の調査ではもしもの状態になった時対処出来ない為、長期の任務となったのだが、高町なのははまだ学生。
 昼間に学校にも行かず街中を歩くには怪しすぎるのだ。
 そこで事情を知ったアリサが学園への編入を手伝ってくれたのである。
 調査地域にある学園の1つに、アリサの父が経営する会社が多大な寄付金を納めており、自分達が通う学校と姉妹校を結んでいた為、容易に交換留学生として編入する事が出来たのだ。

「でもアリサちゃんがついてくる事はなかったんじゃないかな?」

 初日も無事終わり、学生寮に戻ってきた2人は夕食を食べながら話す。 因みに同室である。
 まだ事態が掴めていないとは言え、何があるか分からないのだ。 その何かがあった時、魔法が使えないアリサの身をなのはは心配しているのだ。
 しかしアリサは大丈夫だ、と手をひらひらさせる。
 もちろんアリサには魔法は使えない。 それを分かっているからこそこれ以上は踏み込まないと決めているのだ。
 しかしそれ以外で自分に出来る仕事はある。 それが普段の日常生活中に何があった時、フォローする事だ。
 
「こういうのはあたしも行った方がいいわよ。 あんたのフォローも出来るし」
「うん……それはありがたいんだけどね……」

 やはり不安は隠せないなのは。 そんな様子を見てため息を吐くアリサ。 その気遣いがなのはの長所であり短所だ。
 あの事故後、少しは治ったと思ったのだがどうやらそんな事はなかったらしい。

(まったく。 もう少しこっちを信じてくれたっていいのに)

 そりゃあ、自分は魔法が使えないから心配してくれるのは嬉しいのだが。 もう少しこちらを信じて欲しいものだ。
 アリサ自身はこれ以上、魔法使いの世界に関わる気はない。 あくまで自分はこの【日常】の世界でなのは達を迎える為にいるのだと考えているからだ。
 だから自分が意図して関わるのはここまでだ。 自分では関わらないと決めた領域で頑張るのはなのはなのだから。

「だからちゃんとあんたは自分の事を頑張りなさい!」
「……うん!」

 やっとなのはに笑顔が戻った。
 アリサもそんななのはに笑いかけると、とりあえず今日出された課題を終わらせる事にした。

(そういえば恭司お兄ちゃんは何処の学校の先生になるんだろう?)

 と課題を終わらせながら、なのははふとそんな事を考えた。
 先日会った時は、教師になるとだけ言っていたので何処の学校かは聞いていない。

(恭司お兄ちゃんが先生だったら良かったのになぁ……)

 そうすればもっと学校生活が楽しいものになるだろう。
 でもそんな都合がいい事が起きる訳がない事も知っていた。 だからそんな事を考えるのはここまで。
 今は課題を終わらせる事に専念しよう。

「あっ、なのは。 そこ間違ってるわよ」
「にゃっ!?」
「……」
「……今日もよろしくお願いしますアリサ先生」

 とりあえずアリサに頭を下げて助力を請うなのはであった。


1346月15日:風華 ◆UcPt.BPOZc :2008/09/10(水) 11:38:08 ID:nskidrAH
 ○―――○



 高町なのはがアリサ・バニングスと一緒に課題を終わらせている頃、高村恭司は喫茶店で1人の男と会っていた。
 7月から恭司は学校の教師となる。 その学校の名前は私立風華学園である。 偶然にも高町なのは達が通っている学校である。
 なのはが時空管理局の仕事で私立風華学園に編入したように、恭司もまたとある事情で私立風華学園の教師になるのである。
 【媛伝説】。 それが恭司の研究対象である。 故にこの【媛伝説】に深い関わりがあるとされる風華の地へと赴く事になったのだ。
 もちろんそれだけの理由で、学院生であった恭司が突如風華学園の教師になる訳ではない。 本来ならば風華の地で暮らしていた師である天河諭教授が研究していた筈なのだ。
 しかし今から半年前に天河教授は突如行方不明になった。 当初は何時もの事だと恭司を始めとする人間はそれほど動揺する事はなかった。
 だがさすがに半年――本来なら最低でも1ヶ月事に連絡がある――と音信不通では何かあったのかと思うのは仕方が無い事である。
 これにもっとも反応したのが、教授の【媛伝説】の調査に協力していた【シアーズ財団】である。
 驚いた事に【シアーズ財団】は恭司に天河教授の後を継いで、【媛伝説】の調査を行って欲しいと連絡してきたのだ。
 この連絡を受けて一番驚いたのは恭司本人である。 確かに天河教授の弟子とも呼べる人物は恭司しかいないとはいえ、まだ学生でしかない恭司にこのような話が回ってくるとは思ってもいなかったのだ。
 それに他の人程、恭司は天河教授の事を心配してはいなかった。 銃弾が飛び交う戦場のど真ん中でも動じず、生水を飲んでも腹を壊さない。 現代のインディー・ジョーンズみたいなあの人なら平気だと信じているからだ。
 その辺りについては【シアーズ財団】も知っている筈だ。 確かに半年も消息が分からないとなれば、次の行動に出るのは当然なのかもしれないが、どうも恭司は何かが引っかかっていた。

「それでは現地の事は【ジョセフ・グリーア】に聞いてください」
「分かりました。ジョン・スミスさん」

 そしてもう1つ。 【シアーズ財団】の連絡役だと言う【ジョン・スミス】。 彼もまた恭司の目から見て胡散臭い存在であった。
 こちらをまるで実験動物を見るような目で見てくる男だ。 それに恭司も仕事で天河教授と共に【シアーズ財団】の連絡役と会った事があるのだが、何時の間にかこの男になっていたのも気になる。
 その辺りは前任が辞めてしまったのでこの男になっただけかもしれないが。

「なら連絡はここまでです。 あちらのでの住まいはこちらでご用意させていただきます」
「ありがとうございます」
「では7月1日に学園に着任挨拶をしに行くようにお願いします。 期待していますよ高村恭司君」

 最後まで実験動物を見るような目でこっちを見ていた男が喫茶店から出て行くと、恭司は盛大に息を吐いた。
 氷が随分と溶けているアイスコーヒーを飲むと、改めて手渡された書類を確認し始めた。
 目的は【媛伝説】の痕跡などがもっとも残されていると言う風華の地にての現地調査である。
 これに関しては、少々首を傾げるしかあるまい。 その辺りは天河教授が既に調査を終えてるのではないのかと思うのだ。
 となると、これは試験の一種なのだろうと恭司は判断する。 恭司が現地調査を行い担当者が天河教授の後継者だと判断してくれれば、今まで天河教授が調査した資料などを受け取り、正式に【高村恭司】が【シアーズ財団】から支援を受けられるのであろう。
 とはいえ、天河教授の事だ。 その内帰ってくる筈だから一時的な中継ぎみたいな感じになるだろう。 まぁ、やれる事はしっかりとやろう。
1356月15日:風華 ◆UcPt.BPOZc :2008/09/10(水) 11:39:59 ID:nskidrAH
「だけどまさかグリーアさんがなぁ……」

 現地での責任者はあの【ジョセフ・グリーア】だと言う。
 幼馴染での父親であり、昔からの知り合いの人だ。
 あの事故の後に街を去ってしまっていて、病院に入院していた恭司が退院した頃には、行方が分からなくなっていたのだ。 まさかこんな所で行方が分かるとは思ってもいなかった。
 人生、何が起きるか分からないもんだなぁ、と思うと恭司の脳裏に何時も自分の隣にいた少女の姿が浮かび上がってくる。

「……優花」

 今はいない幼馴染であり大切な人である少女の名を呟くと、恭司は書類を鞄にしまうと勘定を払い、喫茶店【アーネンエルベ】から出る。
 何かある度に利用している喫茶店だが、風華に行けば暫く利用出来ないだろう。 その事がちょっと残念に思いながら、こっちに戻ってきたら利用させてもらおうと決める。
 そういえば後輩の彼はどうしてるだろうか? 前に大学を中退してとある事務所に就職して仕事を頑張っているらしい。 彼女の方も無事に退院出来たと聞いている。 元気でやっているのだろう。

「あっちでの仕事が一段落したら、連絡でも取ってみるかな」

 そう思いながら、恭司は部屋に戻る事にした。 一ヵ月後とは言え、準備するものは沢山ある。
 自分の仕事道具であったり、媛伝説の資料だったり。 大学院の方にも連絡が必要だろう。
 さぁ、今日から忙しくなりそうだ。
136リリカル×アセリア ◆UcPt.BPOZc :2008/09/10(水) 11:41:56 ID:nskidrAH
短いの仕様です。
アニメ版舞−HiMEのキャラも出てきます。
なんかどっかで聞いた事があるような名前がありますが、きっと気のせいです。
次回こそアセリアの方を…!
137一尉:2008/09/10(水) 14:01:34 ID:e2vIzTjy
うーんこれは支援
138地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 19:32:23 ID:aDNhGVs6
誰もいないみたいなので投下予告を
8時半から地獄の四兄弟第4話を投下します。
この話から超展開の連続になる予定ですが、よろしくお願いします。
139地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 20:31:38 ID:aDNhGVs6
第四話、始まります
今回は「あの男」が登場します。


その夜、電灯の光の下キャロ・ル・ルシエは一人涙を流していた。
長きに渡って共に戦ってきたパートナーから殴られた頬を押さえ、誰も通る気配のない公園のベンチで俯いている。
そんな彼女を心配するかのように愛龍フリードはたった一匹主人の顔を覗き込むが、その表情が変わることはなかった。

「うっ……」

自らの言動の後悔とエリオから殴られたという事実で目から涙を流し続け、膝に乗せた両手に落とし続ける。
感情任せに彼を侮辱し、自分勝手なレッテルを貼り付けた。それでは殴られても当然かも知れない。
もしかしたら、もう戻ることはできないのだろうか――
そう考えると更に涙が溢れ出てくる。
そんな彼女の前に二つの人影が暗闇から姿を現す。

「キャロ、どうしたの!?」



ミッドチルダ首都、クラナガンの時空管理局地上本部。
現在キャロは人通りの少なくなったロビーで、備え付けられた椅子に座りながら、自分がよく知る人物二人にいきさつを説明した。
一人は見る男性全てを魅了させてしまうような美貌と母性を併せ持つ容姿、煌めくような金髪、制服の上からでも確認出来る抜群なスタイル。
元機動六課ライトニング部隊隊長であり現在は次元執行部隊執務官、エリオとキャロの恩師でもあるフェイト・T・ハラウオン。
もう一人はフェイトと同じような制服を身に纏い、肩まで届くオレンジ色の長髪、リーダーの如く人を率いる強さを感じさせる容姿。
キャロが機動六課に所属していた頃共に戦い、現在はフェイトと同じく次元航行部隊執務官であるティアナ・ランスターだった。
二人は最近ミッドチルダ各地で起こる事件の捜査をしていた。
何の前触れもなく次元震動が発生し、そこから発生しては消える謎の魔力反応が検出されるという奇妙な現象の多発。
そんな怪事件の調査を元機動六課隊員である二人に依頼される。しかし手がかりは一切得られず、難航の一途を辿るばかりだ。
報告書の提出の為に地上本部に帰還する途中、公園に通りかかったところで偶然キャロを見つけた。
事情を知ったフェイトはあまりの衝撃で声も出なかった。
彼女は後悔した、自分のいない間に仲の良かった2人が互いに啀み合うという悲しいことが起こってしまった。
やはり仕事を放棄してでも家庭に専念すべきだったのだろうか。

「ティアさん、フェイトさん……私はエリオくんに酷いことを……」
「キャロ、そんなに自分を責めるんじゃないの」

後悔の声を打ち消すように隣に座るティアナが言う。

「それに本当に悪いと思ってるんだったら、まずエリオにちゃんと謝るべきじゃないの?」
「ティアさん……」

涙で目を赤くするキャロの顔を覗き込みながら続けるが、意気消沈したままで変わる気配は見られない。
それに見かねたティアナは溜息をつくと椅子から立ち上がる。

「フェイトさん、あたしはエリオを探してきますからキャロを」
「……お願い」

ティアナが頷き、エリオを探す為に外に向かって走っていった。
フェイトは涙を流すキャロの肩に手を乗せるが、そこからどうすればいいのか分からなかった。
頭の中が自己嫌悪で溢れている今の彼女には何を言っても通じないのかもしれない。


そんな二人を監視する二つの影が存在したことに気付いた者は誰もいない。
戦うのは得策ではないと考えたのか、何もせぬまま闇へと消えていく。
そして一人の少年は心に深い傷を追った――
140名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 20:32:11 ID:1rQ5cIdc
孤独のボーイエリオ 支援
141地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 20:33:31 ID:aDNhGVs6

04 再臨する蜂


クラシックな雰囲気の漂う黒のスーツに身を包む赤毛の少年――エリオ・モンディアルは人の気配がない公園の道で一人、自らの右腕に巻いている黄色いブレスレットを見つめている。
これは異形の生命体――ワームの暴行を受けたあの日、キックホッパーである矢車から受け取った代物だ。
彼に何の意図があって自分にこれを渡したのか、正体は何なのか、エリオには分かっていない。
そして何かをはめ込むことのできそうな穴が中央に空いているが、何か意味があるのだろうか。
矢車に疑問を何度かぶつけたことがあるが、その度に意味不明なことを言われはぐらかされてしまう。
少なくともマスクドライダーなる未知の技術を用いた戦闘スーツを所持している人間が所持しているのだから、ただのブレスレットではないはず。
そもそも、ワームのような怪物と互角に戦い合うことの出来る兵器を作ることが出来る世界とはどのようなところなのだろう。もしやミッドチルダをも上回る技術力を誇っているのだろうか。
ブレスレットと似たような形状で思い出したが、長らく共に戦ってきた相棒――ストラーダは今どうしているのだろう。
整備の為にメカニックに預け、そのまま姿を消してしまった。もしストラーダが今の自分を知ったら失望するかもしれない。
いや、もしかしたらもう失望しているだろう。自分は感情任せにパートナーを殴りつけ、逃げ出した。
こんなのは騎士を目指す者のやることではない、卑怯者のやることだ。
そう考えたエリオは悲しみが混ざる深い溜息をついた。
ふと気がつくと、この公園は機動六課に所属していた頃の初めての休日にキャロと共に訪れた場所だ。
あの日の彼女は見るもの全てに安心感を与えるような笑顔に溢れていた。でも自分はその笑顔を奪ってしまった。
後悔の気持ちが頭の中を駆け巡っていくと、一人の人物が通りかかる。
桃色のショートヘアーを持ち、管理局の制服に身を包む小柄な少女。
エリオはその人物を見て目を丸くし、不意に名前を呟いた。

「キャロ……?」

自分と共に戦ってきたパートナー、キャロ・ル・ルシエだった。
一瞬、あの日のようにワームが擬態した偽物かと疑ったが、相棒であるフリードがそばにいるので本物で間違い無さそうだ。
キャロは暗い表情で俯きながら公園のベンチで一人座り込んだ。その脇には愛龍フリードがパタパタと飛んでいた。
エリオは一人、木の陰からその様子を見つめるだけだった。恐らく彼女は自分のことに気付いていないだろう。
普段ならこういうキャロを見たらそばに行って何か言葉を掛けるかもしれないが、今の彼にそんなことはできなかった。
彼女を殴りつけた自分が今更何を話せと言うんだ。キャロはもう自分のことなど軽蔑しているに違いない。
顔を見るだけで自己嫌悪と罪悪感が沸き上がってくる、エリオはもう一秒でもここには居たくなかった。
もう自分にはパートナーでいる資格なんて無い、いや自分なんていなくなった方が彼女にとっていいのかもしれない。
そう思いながらエリオはキャロから逃げていくかのように広場から去っていった。



燦々と輝く太陽の光を遮るかのような人の通る気配が感じられない路地裏。
微妙に湿気が漂うその道で、影山瞬と神代剣の二人は共に悲哀の表情を浮かべながら道端に座り込み、俯いていた。

「なあ剣、俺達って兄貴の光を遮ってるだけなんだよな」

弱々しい言葉に反応するかのように剣は顔を上げ、影山の方に向ける。

「俺達は所詮ワーム、この暗闇からは抜け出すことができないんだ……」

自らを嫌悪するかのようにぽつりと呟く。
かつて彼らのいた世界では、スコルピオワームである剣の命を犠牲にしたワーム掃討作戦が行われた。
その作戦が成功し、機密組織ZECTは存在を公にし残党狩りの為にワームの探索する効果のあるネックレスを民間に配布した。
影山はそれを数個も首にかけてしまい、ワームの亜種――ネイティブへと強制的に変えられてしまった。
ネイティブの事など何も知らない影山は自分がワームになってしまったと思いこみ、生きることに希望を失ってしまう。
そんな彼を救う為に矢車は彼の命を奪ったが、ある日このミッドチルダに流れ着いてネイティブの体を持ったまま復活した。
そしてワームの肉体を持つ剣がそんな影山に共感するのに時間は必要なかった。
142名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 20:34:06 ID:boJcNttm
支援
143地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 20:34:31 ID:aDNhGVs6

「影山兄さん、生きてるって何なんだろうね……」
「虚しいよな……俺達に安息なんてないのかな」

共に人間の肉体を持たない二人は傷をなめ合うかのように悲痛の表情を浮かべながら呟く。
自分らには幸せを掴み取る権利などない。
自らを卑下し続ける彼らの前に、突然彼は足音と共に現れた。

「その格好は何なんだ!」

不意に声をかけられ驚いた影山と剣は顔を上げると、その男が立っていた。
年齢は二人とほぼ同じだろう。
体つきはガッチリしており、上半身はお洒落なスーツと首に絞めた黒のネクタイに包まれ、その下の筋肉は鍛えてありそうだ。
現れた男――名護啓介は一切の迷いもぶれも見られない表情を浮かべ、彼らのことを睨み付けてくる。

「何て汚らわしい……不愉快だ!」

名護はいきなり横柄な態度で二人に食って掛かった。
表情、言動、態度、全てにおいて癇に障るものなのか、彼らは顔を歪める。

「そんな変な格好で馬鹿なことをしてないで、今すぐ社会の為に何ができるかを考えなさい」

その一言が引き金となって彼らの中で何かが切れた。
そのまま二人は立ち上がり、血に飢えた野獣のように名護を睨み付ける。

「何なのさ……俺達のこと笑いに来たの?」
「ゴゥ、チュ〜……ヘェル!」
『Standby』

名護の言葉が気に食わないのか二人から憤怒の感情が沸き上がり、剣は隠し持っていたサソードヤイバーを取り出す。
それに反応するかのように空から電子音と共にサソードゼクターが降ってきて、剣は右手で掴み取る。
同時にパンチホッパーの変身ツール、ホッパーゼクターも跳躍しながら影山の手元に飛んできた。

「何のつもりだ!?」
「剣、こんなやつ殺っちゃおうぜ……変身」
『Hensin』

「分かってるよ兄さん、俺は弱いものをいたぶることにおいても頂点に立つ男だからさ……変身」
『Hensin』

驚愕の声を上げながら二人を睨む名護に対して影山はベルトに、剣はヤイバーにそれぞれのゼクターを装填する。
異なる電子音と共に彼らの体はヒヒイロノカネに包まれ、やがてそれはアーマーへと変化していく。

『Change Punch Hopper』

パンチホッパーへと姿を変えた影山、サソードのマスクドアーマーに包まれた剣を見て名護はほんの一瞬だけ怯むが、すぐに落ち着きを取り戻す。
144地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 20:36:52 ID:aDNhGVs6
「お前達、まさかライダーか!?」
「へぇ、ライダーのこと知ってるんだ」
「それを何処で手に入れた、答えなさい」
「関係ないだろ!」

名護の問いに対してパンチホッパーは仮面の下で不気味な笑みを浮かべながら歩み寄ってきて、自らの拳を打ち出してくる。
それを名護は持ち前の反射神経を用いて体を転がせるように避けて距離を空ける。すぐに体勢を立て直し二人の前に立った。

「もしや青空の会以外にもライダーシステムを作る組織が存在しているのか?……ならば仕方がない!」

言い放つと、名護は何処からか機械質のベルト――イクサベルトを取り出し、バックル部のロックを外す。
それを自らの腰に巻き付けるとバックルがロックされ、装着される。
スーツのの内ポケットから変身ツール――イクサナックルを取り出し、自らの拳に当てる。

『Ready』

ZECT製のマスクドライダーシステムが放つ音程とはまた別の機械音が響く。
名護には目の前の二人が一体何者で、何故ライダーシステムと思われる物を所持しているのかは見当がつかない。
しかしここで彼らを野放しにしておくのは危険だ。
そう判断した名護は、イクサナックルをベルトに装填した。

「変身!」
『Fist on』

電子音が発せられると同時にベルトから金の十字が現れ、回転しながらアーマーを形成していく。
やがて形成されたアーマーはパワードスーツとなり、それは姿を現す。
クロスシールドに守られた頭部のイクサメット。
聖職者をモチーフとされたアーマー。
胸部に装着された動力源のソルミラー。
負担を軽減する為に全身に備え付けられたデルタアース。
人類をファンガイアの脅威から守る為に「素晴らしき青空の会」が科学技術を結集させて作り上げた『Intercept X Attackker System』
通称イクサシステムの研究成果である正義の戦士――仮面ライダーイクサへと名護啓介は姿を変えた。
セーブモードの状態で現れたイクサを見て、サソードとパンチホッパーは仮面の下で驚愕の表情を浮かべるが、すぐに落ち着きを取り戻しイクサの元へ駆け寄る。
パンチホッパーは自らの拳をイクサのアーマーを目標に打ち出すが、乱暴な一撃は軽く避けられて、逆にカウンターのパンチを脇腹に浴びてしまう。
それを見たサソードは短期戦で決着をつけようと判断し、サソードゼクターのニードルを強く押し込む。
ガチャン、という全身のマスクドアーマーが浮かび上がる音がする。

「キャストオフ!」
『Cast Off』

機械音声と共に装甲がイクサ目掛けて弾け飛ぶ。
それを防ぐ為なのかイクサの胸部に内蔵されたイクサエンジンがフル稼動でそのエネルギーを全身に巡らせる。
それによってマスクを守るクロスシールドが四方に開く。
赤いの両眼が現れるのと同時に灼熱の波動が周囲に発せられ、装甲を地面に叩き落とした。
145地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 20:39:05 ID:aDNhGVs6

『Change Scorpion』

サソードとイクサはもう一つの姿を現した。
片やサソードはワームに対抗する為のクロックアップ機能が備え付けられ、サソリを連想させる紫のアーマーに包まれたライダーフォーム。
片やイクサは能力を制御する為のセーブモードから100%の力を発揮できるバーストモードへと覚醒した。
互いの形態が変わるのと同時に、イクサは何処からか専用の武器――イクサアームズの一つ、イクサカリバーを取り出しそれを構える。
通常形態である銃型のガンモードのパワートリガーを引く。凄まじい勢いで放たれた弾丸はパンチホッパーとサソードの装甲に容赦なく激突する。
イクサはエネルギー弾を連射したまま、二人のライダーを退けていく。元々ファンガイアとの戦いの為に用いられる弾丸だが、ライダー相手でも効果があるようだ。
しかし一方的に攻撃を受けたままではない。二人は弾丸を左右に避け、それぞれ異なる方向から攻撃を仕掛ける。
パンチホッパーは乱暴な打撃を、サソードは洗練された剣術を用いてイクサの装甲にダメージを与える。
イクサ自身の戦闘力は決して低くはないが、同じく強大な戦闘力を誇るライダー二人が相手では徐々に劣勢に追い込まれていく。
この状況を打破する為に、イクサは接近戦で戦うことを選ぶ。イクサカリバーのマガジンを、グリップ内部へと押し込むと、本体から赤いブレードが現れる。
イクサカリバー・カリバーモード。
エネルギーが通るエナジーラインが内蔵され、特殊金属・ブラッディメタルで生成された刃、ブラッディエッジで構成される。
イクサカリバーをライダー達に振るうが、サソードヤイバーに止められてしまう。そして互いに渾身の力を込め、刃を弾く。
カリバーとヤイバーの金属がぶつかり合い火花を散らす中、この路地裏の中に静かな足音が響く。
それに気付いた三人のライダーはその方向を向いた。

「羨ましいな、お前ら」

現れたのは薄汚れた漆黒のコートに身を包む男、矢車想だった。
その手には自らの変身ツールであるホッパーゼクターが握られている。

「兄貴」
「兄さん!」

パンチホッパーとサソードは仮面の下で歓喜の表情を浮かべる。

「何だお前は」
「俺も是非笑って貰いたい……変身」
『Hensin』

イクサの疑問を無視するかのように矢車はホッパーゼクターをベルトに装填すると、エコーの強い電子音が狭い道に響く。
そしてヒヒイロノカネがその肉体を包み、アーマーが形成される。

『Change Kick Hopper』

矢車はバッタを連想させる緑のアーマーを持つ戦士、キックホッパーへと姿を変え、両腕をだらりと下げながらイクサの前に立つ。
三人のライダーに囲まれたイクサは一気に不利な状況に追い込まれたと判断する。
イクサメットの口部分に手を当て、本当の力を発揮する為のエネルギーパック――イクサライザーを取り出した。
146名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 20:41:29 ID:1rQ5cIdc
ライダー支援!
147地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 20:41:35 ID:aDNhGVs6

「見なさい、これがイクサの本当の力だ」

イクサライザーを横に広げ、機能を発動させる為のボード――コーリングコンソール上のボタンにコマンドを打ち込む。

『1』
『9』
『3』
『ラ・イ・ジ・ン・グ』
『ENTER』

コマンドを全て打ち込むと、イクサ特有の電子音が辺りに響く。
そしてイクサの体を太陽の如く眩い光が辺りを包み、三人のライダーは思わず仮面の下で目を瞑った。
やがて光が消えたので、ライダー達は目を開ける。
しかしどういう訳かそこにイクサの姿は無かった。



喫茶店――カフェ・マル・ダムール

「うわぁ!」

ミッドチルダでイクサに変身して三人のライダーと戦っていた最中、突如光に包まれた名護は床に激突した。
その体を包むイクサのアーマー、専用武器のイクサアームズは消滅している。
すぐに起きあがり、周囲を見渡した名護は今いる場所が見慣れた喫茶店であることを知る。

「な、名護さん!? 何処から出てきたんですか」

いきなり現れた名護を見て驚愕の表情を浮かべる青年――紅渡の事などお構いなしに名護は先程経験した妙な出来事を思い返す。

「あの三人は一体何者だったんだ。それに、あそこは一体……?」


ミッドチルダ

同時刻。
エリオとキャロの喧嘩から数週間、ティアナは任務の合間を縫ってエリオを探し続けているが未だに見つからない。
通信端末で連絡を取ろうとしたがストラーダは現在整備中でメカニックに預けている事を知る。念話も何度か飛ばしてみたが一切の返答がなかった。
やがて立ち止まり、辺りを見渡すとそれが起こる。
目の前の空間にいきなり亀裂が生じ、それは裂け目へと変わっていく。やがてそこから膨大なエネルギーが噴出された。

「何これ、次元断層!?」

ティアナが驚愕の声を上げていると、世界を崩壊させるような爆音と視力を低下させかねないほどの閃光に辺りが包まれ、思わず目を閉じてしまう。
焦げ臭い匂いが漂うので恐る恐る目を開くと、それが目に飛び込んできた。

「痛っ……何が起こったんだ」

硝煙の中から現れたのは、ハンチング帽を被りカジュアルな服装に身を包む一人の青年だった。
年齢は20代前半に近く、それなりに顔が整っていてあらゆる女性を誘惑させてしまうことができそうだ。
ミュージシャンなのかその脇には黒のギターケースが置かれている。
ティアナは一瞬その容姿に見とれてしまうが、ハッと我に返り青年の元へ駆け寄る。
148地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 20:43:13 ID:aDNhGVs6

「あの、大丈夫ですか?」

怪我でもしているのか苦痛の表情を浮かべ、肩を押さえながら蹲る青年はティアナのことに気付く。
その途端、一変して表情がにこやかな笑顔へと変わる。

「これはこれは、俺としたことが見苦しいところを見せるとは」
「いえ、別に大丈夫です」

見るもの全てを虜にしてしまうような笑顔で青年は会釈するが、それに気を取られることのないようにティアナはある推測をする。
着ている服はミッドチルダでもよく見られるが、いきなり目の前の空間に裂け目が生じてそこから人間が出てくるという話など聞いたことがない。
この男はミッドチルダの住民ではないことを一瞬で察した。

「あたしは時空管理局執務官のティアナ・ランスターと言います。あなたは次元漂流者の方ですよね」
「時空管理局? 次元漂流者? 失礼ですが何のことでしょうか」

青年はそれらの単語に聞き覚えがないのか、怪訝の表情を浮かべた。
気を取り直すかのようにティアナは話を切り替える。

「あ〜……事情聴取をしますのでひとまずご同行お願いします」
「喜んで、私でよければ何処までもついていきます」
「ではまずあなたの名前を教えて下さい」

質問に対して青年は再びにこやかな笑顔を浮かべ、自らの名前を名乗った。

「風間大介と言います」

それがティアナ・ランスターと風間大介、二人の銃使いの出会いだった。


エリオは暗い表情で顔を俯かせながら公園を出ようとしていた。
不思議なことに先程から誰ともすれ違わないが、今の彼にとっては都合が良かった。
キャロの顔を見れば見るほど罪悪感が沸き上がり、自己嫌悪が頭の中を支配していく。
その気持ちから生まれる表情は酷いものに違いない、そんなの誰かに見られたくなかった。
その時、彼のそんな思考を打ち消すかのように絹を裂くような悲鳴が公園に響いた。
少女のものと思われる。
その声に聞き覚えのあるエリオは無意識に来た道を戻っていった。


エリオは再び公園の広場に出た。
そこにはとても人間とは思えない後姿が見えていた。
まるでムカデを連想させるような醜悪な顔付き、茶色に染まった全身の筋肉に生えたムカデの足、鋭い爪を持つ巨大な怪物――ジオフィリドワーム。
そしてその背中越しには追い詰められ、絶望と恐怖を浮かべて後ずさるキャロとワームを睨み付けるフリードの姿。
彼らがワームに襲われていることを理解するのに時間は必要なかった。
だがエリオに体を動かすことなど出来ず、目の前の光景をただ眺めるしかできなかった。
自分はもう彼女と何の関係もない、それにストラーダも持たないのに行くなど自殺行為だ。
でも、このまま放っておいてもいいのだろうか? ここで彼女を見殺しにしたら自分は一生卑怯者のままだ。
放っておけばいい。
助けるべきだ。
エリオの中で二つの思いが交錯する中、ワームは徐々にキャロに迫ってくる。
彼女はワームのことなど何も知らないのか、目の前に立つ異形の怪物を見て体が膠着してしまっている。
そんなキャロを守る為にフリードはワームの顔に飛び掛かるが相手になるはずが無く、あっさりと地面に叩き付けられてしまう。
149地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 20:45:26 ID:aDNhGVs6

「フリード!」

気を失ったフリードの元へキャロは駆け寄ろうとするが、ワームの打撃を受けてしまい後頭部を木に叩き付けられ、同じように意識を喪失させる。
それを見た途端、エリオの不安定な精神に変化が現れた。
彼は無意識のうちにワームの元に走り出し、体当たりで突き飛ばした。
そしてエリオはキャロとフリードの盾になるように両手を広げて立ちはだかっていく。
何故こんな事をしているのか彼自身分からないが、ある思いが彼を支配していた。
二人を守りたい。
やがて起きあがってきたジオフィリドワームは生理的嫌悪感を与えるような鳴き声を発しながら、醜悪な顔でエリオを睨み付けてくる。
しかし彼は臆することはない。例えパートナーから嫌われても、いくら自己嫌悪に陥ろうとも悪に屈しない正義の心は未だ宿っていた。
エリオはキャロからワームを引き離す為に必死になって腕にしがみつくが、すぐに振り落とされてしまう。
地面に叩き付けられたエリオに追い打ちを掛けるかのようにワームはその足で彼の胸を踏みつけてくる。

「がはっ……!」

肺が破裂するかと思うほどの衝撃が彼を襲う。
一瞬、気を失いそうになった。
しかし負けるわけにはいかない、ここで負けたらキャロとフリードが危ない。
そう思ったエリオは両手に渾身の力を込めて足を押さえつけ、そのまま突き飛ばしていく。
足下を狙われたワームはバランスを崩してしまう。
エリオはその隙をついて立ち上がり、苦痛に耐えながらキャロとフリードを抱え少しでもこの場から離れようとする。
しかしその途端、ワームは再び拳を彼の体に叩き込む。
鉄パイプで殴られたかのような衝撃が体の芯にまで響くが、倒れている暇なんて無い。
標的がキャロから自分に変わったのが唯一の救いなのかもしれないが、この状況を打破出来る要因には成り得なかった。
ストラーダを持たない今のエリオには目の前の脅威を打ち破る手段など持ち合わせていない。

「キャロ……僕は君のことを殴りつけておきながら逃げ出した最低の卑怯者だ、これじゃあフリードに嫌われてもしょうがないよね」

意識を失っているキャロに向かってエリオはぽつりと呟く。
確実に聞こえていないだろうが、言わずにはいられなかった。

「でも、僕は君を守るから……守ってみせるから」


僕の心臓はまだ動いている。
僕の中に流れる血はまだ止まっていない。
まだ終わっていない。
まだ生きている。
まだ諦めない。
でも、このままじゃ負けてしまう。
例え卑怯者に成り下がろうとも、どれだけ軽蔑されても構わない。
力が欲しい。
目の前の怪物を倒せる力が欲しい。
二人を守れる力を――!


エリオの思いに共鳴するかのように、腕に巻いているブレスレット――ライダーブレスから光が放たれる。
やがてその光は徐々に増してゆき、ジオフィリドワームを怯ませていく。
それに気付いたエリオは全身に力が宿り、傷も癒えていく。
一体どういう事なのか。
疑問が頭の中に芽生えてくる中、それは現れた。
空の彼方から流星の如くジオフィリドワームに高速で飛び込んで、その体を突き飛ばしていく。
それは自らの動きを止め、何が起こっているのか理解出来ないエリオの目の前に姿を晒す。
150地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 20:46:51 ID:aDNhGVs6
「は、蜂……?」

そこに現れたのは蜂だった。
ただし集団で行動し巣を作る生物のそれではなく、人工的に作られたと思われる機械質な蜂だ。
それはスケルトンイエローの羽根をばたつかせながらエリオの手の平にそっと乗っていく。
彼は無意識のうちにそれを握りしめた。するとどういう理屈なのかは分からないがこの手から膨大な情報量が頭の中に流れていく。
エリオは握りしめた物体、矢車から授かったブレスレットの正体を知る。
その名はザビー。
かつて、ZECTによって生み出されたそれはワームと戦う為に4人の男が用いていた。
完全調和の名の元に戦う為にザビーになった第一の男、矢車想。
共に戦う仲間を守る為にザビーになった第二の男、加賀美新。
新たなる完全調和を築きザビーになった第三の男、影山瞬。
影山に戦いを教える為に無理矢理ザビーを従えた男、三島正人。
男達の戦いの記憶が流れ込む。
やがて彼は自分がやるべき事を瞬時に導き出した。
それは、目の前の怪物からキャロとフリードを守ることだ。
体力を取り戻した彼はワームと対峙する。

「……変身」
『Hensin』

エリオは握りしめた蜂――ザビーゼクターを右腕に巻いたライダーブレスにはめ込んだ。
エコーの低い電子音が発せられると、眩い光が体を包み込んでいく。


彼は感じた。
圧倒的な力が全身の血液、神経の流れに乗って巡っていくのを。
この力があればワームと戦える。
この力さえあれば自分が傷つけた大切な人を守ることが出来る。
やがて彼の体はヒヒイロノカネに包まれ、それはアーマーを構成していった。


あらゆる悪を焼き切るかのような激しい光から現れた姿は、既にエリオではなかった。
その体を包むのは、バリアジャケットとは違いあまりに機械的で無骨なアーマーだ。
常人以上の聴力を得られるアンテナと視野をカバーするスコープを持つ仮面。
上半身を包む銀色のマスクドアーマー。
全身の活性化の為に頬部と両肩に付けられたラングスリット。
下半身を守る黒のサインスーツ。
完全調和の名の元に戦い、機密組織ZECTが生み出したマスクドライダー第二号機――仮面ライダーザビー マスクドフォームへとエリオ・モンディアルは姿を変えた。
危機を感じたジオフィリドワームは自らの拳をザビーに振るうが、左手で軽く受けとめられてしまう。
反対にそこから強烈なカウンターの拳がワームの胴体に決まった。
よろけるワームに対してザビーは追撃のパンチを数発決めていく、やがて重量感のある最後の一撃でその体を突き飛ばしていった。
勝てる。
圧倒的なザビーの力を手にしたエリオはそう確信した。
本来ならばエリオは槍を使った戦い方が得意で、今のように肉弾戦で戦うなど専門外だ。
しかし今の彼は無意識のうちに体がボクシングスタイルで戦うように動いている。もっとも、乱暴なスタイルになってしまうのは仕方がないが。
やがてその拳でワームを吹き飛ばしたザビーの頭の中で、決着を付ける為にやるべきことが瞬時に流れ込んだ。
ザビーゼクターのウイングを反対側に持ち上げる。
ガチャン、という音と共にマスクドアーマーが外れていく。
両肩。
両腕。
胸部。
頭部。
順番に装甲が浮かび上がっていくと、ザビーはその言葉を叫んだ。
151地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 20:49:26 ID:aDNhGVs6

「キャストオフ!」
『Cast Off』

ザビーゼクターを180度回転させると機械音声が周囲に響き、上半身を守るマスクドアーマーが弾け飛んでいく。

『Change Wasp』

音声と共にそれが現れると、両眼を光らせていく。
蜂を連想させる形を持つ仮面――ボーンシェルメット。
黄色く輝く胸部の装甲――ザビーブレスト。
鎖骨部を守り肩甲骨部へと伸びたショルダーブレード。
蜂を思わせる姿の戦士――仮面ライダーザビーは真の姿を現した。
攻撃力重視のマスクドフォームから俊敏な動きが可能となったライダーフォームへと姿を変えた。
身軽になったザビーを見て、ジオフィリドワームは突如自らの姿を消していった。
周囲を見渡すと物凄い勢いで公園から離れようとするワームの姿が見える。そのスピードはソニックムーブに匹敵するかもしれない。
このままでは逃げられてしまう。
そう判断したザビーはベルトの側面に付いているスイッチに手を掛ける。

「クロックアップ!」
『Clock Up』

スイッチをスライドさせると機械音声が発せられ、全身に力が流れ込む。
ザビーは地面を蹴ると、ワームと同じように世界からその姿を消していった。


世界の時間が止まっている。
いや、彼らが世界の流れる時間より早く動いているのだ。
超加速機能――クロックアップを発動して二人は戦っていた。
突如出現したザビーを見て逃げ出そうとしたワームに動揺が走る。
もう後がないと判断したのか無茶苦茶に拳を振るう。
だが自暴自棄なだけの敵の攻撃など、今のエリオ――ザビーにとっては何の脅威にもならない。
乱暴に迫る大振りな拳を半歩身体をずらすだけで軽々と躱し、強化された右足による反撃の回し蹴りをワームの頭部に叩き込む。
脳髄に響いたのかふらついていく。それを見たザビーは力強く拳を握りしめる。

「ライダースティング!」
『Rider Sting』

ザビーゼクター上部のフルスロットルを押すと、電子音と共にゼクター内部からタキオン粒子がニードルを中心に全身に駆け巡っていく。
ザビーはあらゆる力を右手に集中させる。
心臓から流れ込んでゆく血液。
全身を駆け巡る神経の流れ。
ゼクターから噴出されてゆくタキオン粒子。
全てを右手に込めていき、ワームの元へ駆け抜けていく。
それを見たワームは逃げだそうとするが、もう遅かった。

「はあああああっっっっっっ!」

ワームの心臓を目掛けて、ザビーは渾身のストレートを放つ。
突き刺さったニードルからザビーの込めたあらゆる力がジオフィリドワームの全身に駆け巡っていき、細胞の破裂音が響く。
やがて断末魔の叫びを上げるかのようにその体は砕け散り、爆発四散し消え去った。

『Clock Over』

時間が正常な流れに修正されるのを知らせるかのように機械音声は響く。
そして、凄まじい爆音と爆風が周囲に押し寄せる。
その様子を見つめていた者がいたことを、知る者はいなかった。
152名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 20:53:36 ID:1rQ5cIdc
ザ・ワールド! 時よ止まれ、支援
153地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 21:15:00 ID:aDNhGVs6
漆黒に包まれた部屋の一室。
無意味に広いその部屋には、窓がなければ階段もなく、エレベーターもない。あるのは巨大なモニター画面だけだ。
そんな部屋に、年齢を特定することのできない白衣に身を包んだ一人の男が目の前の画面を眺めている。
その名はジェイル・スカリエッティ。
本来ならばここにいるべき男ではない。
生命操作や生体改造、精密機械に通じた科学者である彼は三年前、自らが起こしたJS事件によって逮捕され、無期懲役の判決を受けた末に第9無人世界の「グリューエン」軌道拘置所第1監房に収容されていたはずだった。
そんな彼にある時、転機が訪れる。
『ワーム』と名乗る存在が面会に来て、ある計画の協力を持ちかけてきた。
無論、スカリエッティはそんな話を信じなかった。だが聞いていく内に彼の持つ無限の探求欲が刺激されていき、飛びついていくのに時間は必要なかった。
そして彼は『ワーム』の協力により脱獄に成功する。当初は騒ぎにならないかと思案したが、スカリエッティが脱獄したことなど誰にも気付かれることはなかった。

「キックホッパー、サソード、パンチホッパー、そして新たに現れたマスクドライダーザビー、プロジェクト・Fの残骸が資格者か……興味深い」

モニター画面に映るのはミッドチルダに現れたライダー達とワームの戦いの記録だった。
その様子をスカリエッティは不気味な笑みを浮かべながら眺めている。
そんな彼の元にハイヒールの音が近づいてくる。

「間宮殿、どうなされたのですか」

スカリエッティは背後を振り向くのと同時に、音は鳴り止んだ。
そこに立つのは見る男全てを虜にしてしまう美貌を持ち、喪服に身を包む一人の女だった。
名前は間宮麗奈。
ワームの中でも特に優れた知能と戦闘能力、冷酷性を持つ。
彼女はかつて多くのサリス・成虫体と共に人間社会に潜伏し、ワームの益となる情報を探った。
しかしある時ワームの記憶が失ってしまい、人間として『間宮麗奈』となりある男と恋に落ちる。
やがて彼女はワームの記憶を取り戻すが、愛した男――風間大介の手にかかり命を落としたが、蘇っていた。
その容姿からは想像出来ないくらいに圧倒的な威圧感を放っている。凡人ならばそれを感じ取った途端、尻餅をつくかもしれない。
しかしスカリエッティは微動だにしなかった。

「ドクター、計画は進行しているか」
「勿論ですとも」
「モニターにもあるように、ザビーの新たなる資格者が現れた」
「そのようですね」

スカリエッティは邪悪な笑みを保ったまま、再びモニター画面に目を通す。

「ライダーはキックホッパー以外危険視する必要はない」
「何故でしょうか」
「キックホッパーの戦闘能力は他のライダーとは比べものにはならない。恐らくカブトと互角、あるいはそれをも上回るだろう」
「ほぅ……」

麗奈は機械のような冷たい表情で淡々と語る。スカリエッティはそれをただ聞くだけだった。
かつて麗奈は部下を率いてカブトと戦ってた最中、突如現れたキックホッパー一人に圧倒されていた。
体力的にも戦力的にもこちらに分があると思われたが、相手は有利に戦っていた。
そういう出来事があって、若干だがキックホッパーに対して畏怖の念を麗奈は抱いている。
154地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 21:16:38 ID:aDNhGVs6
「ハイパーゼクターの捜索状況はどうなっている」
「未だに発見されません、あの虚空の中にあるというのは確かなのですが」
「何としてでも見つけ出せ、あれは我々の勝利の鍵だ」
「仰せのままに……」

スカリエッティが含み笑いを浮かべると、一匹のサリスワームが部屋に現れる。

「報告します、改造手術を行っていたはずのタイプゼロ・セカンドがベルトと共に何者かによって奪還されました!」

それを聞いた麗奈は顔を顰める。

「何……?」
「更に警護に回っていたスネーク、バットが敗れエリアZのネイティブも全滅した模様です」
「分かった、下がれ」
「ハッ」

報告を終えたサリスワームは部屋を後にした。

「我々を復活させたとはいえ、ネイティブなど所詮その程度だったということか……読めていたが」
「カブトとやらの仕業でしょうか」
「その可能性は高いが、ハイパーゼクターを持たないカブトなど脅威ではない。タイプゼロ・セカンドもろとも始末することなど容易いことだ」
「あれは今後戦力になるかもしれませぬがいいのですか?」
「我々を見くびっているのか?」
「いえ、滅相もありません。不愉快にさせたのなら失敬」

睨み付けてくる麗奈に対して、スカリエッティは表向きに謝る。
そんな彼らの元に一人の男が暗闇からゆっくりと姿を現した。

「準備が整ったぞ、ドクター」

その男は眼鏡を掛け首にネクタイを巻いている。漆黒のスーツに身を包み、その上には同じ色のコートを羽織っている。
全身からは麗奈をも上回る威圧感を放ち、地獄の悪魔すらも凌駕する強さと恐怖が感じられた。
現れた男は乃木怜治。
ワームの頭領であるその男は、麗奈をも遙かに上回る戦闘力と驚異的な再生能力を誇り、数々の能力を用いてライダー達を圧倒し続けた。
時間停止。
能力吸収。
分裂。
しかしその能力もライダー達に破られてしまい、やがて乃木自身も敗北してしまった。
乃木が現れたことに気がついた麗奈は顔を振り向かせる。
155地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 21:19:17 ID:aDNhGVs6
「本気でこの男に力を与えるつもりか」
「当然だが」
「このような下劣な男が手に入れたら、明日にでも我々を裏切るに違いない」
「それはそれで一興だ」

顔を歪める麗奈に対して乃木は平然と答えていた。

「行こうか、ドクター」

スカリエッティは笑みを浮かべながら無言で肯く。
麗奈には乃木の真意が理解出来なかった。
スカリエッティという男は驚異的な頭脳と技術力を誇り、計画の進行に多大な貢献を与えた男だ。その点のみは麗奈も高く評価している。
だが『計画の進行』を口実に、この男は戦闘力の低いネイティブはおろか同胞であるワームまで、己の探求心を満たす為に生体実験や肉体改造を行っている。
犠牲となった数は計り知れない。
乃木はそれに対して何の感情も見せていないが、何か考えでもあるのだろうか。
だがどのような思惑があり、いかに信頼を寄せているにしても麗奈の中ではスカリエッティは『自らの欲望に駆られて行動するだけの愚かで醜い男』という評価だ。
モニター画面が放つ明かりの中、麗奈は闇の中へと消えていくまで二人の後ろ姿をただ眺めるだけだった。


戦いを終えたエリオ・モンディアル――仮面ライダーザビーはその腕に自分が傷つけたパートナー、キャロ・ル・ルシエを抱え、彼女の胸の上に愛龍フリードを乗せている。
ワームの打撃で頭を強打したのか彼らは未だに目覚めない。
もしここで目覚めたらどうすればいいのだろう。今この手で抱えている少女を自分は殴りつけてしまった。
かといってあのまま汚いコンクリートの上に放置するわけにもいかない。だが何処に連れて行けばいいのだろうか。
悩みながら足を進めていると、ザビーの前にその女性が現れた。

「あなたは……? それに、キャロにフリード……」

ザビーの仮面の下で、エリオは驚愕の表情を浮かべた。
それもそのはず、目の前に立つのは自分の恩師であるフェイト・T・ハラウオンだからだ。
自分がワームと戦っていることに気付いたのかその体はバリアジャケットに包まれ、バルディッシュも戦闘態勢に入っている。
その瞳からは暖かさと母性が感じられる。このフェイトは本物で間違いないだろう。
そう察したザビーは腕の中に抱えるキャロとフリードを無言でフェイトに突きつけた。
彼女は困惑の表情を浮かべながら二人を受け取る。そしてザビーはフェイトに背中を向けて去っていった。

「待って、私は時空管理局のフェイト・T・ハラウオンです。話を聞かせて下さい」

フェイトの言葉を無視するかのようにザビーはその場を離れていく。
今の自分は感情任せにパートナーを殴りつけて、逃げ出してしまった卑怯者だ。そんな事実を恩師であるフェイトには知られたくなかった。
まあ、キャロが目覚めたら多分知ってしまうだろう。そうなったら自分のことを失望するに違いない。

「クロックアップ……」
『Clock Up』

ぽつりと呟きながらベルトのスイッチをスライドさせる。
ザビーは全身の力を足に込めて、地面を強く蹴り出す。
そして逃げ出すかのように自らの姿を消していった。


04 終わり


次回

仮面ライダーカブト レボリューション 序章

第1話 交錯する時空


天の道を行き、総てを司る
156名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 21:20:53 ID:5GfSH1Ef
名護さんなにやってんすかwwww
157名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 21:22:01 ID:c5PuScpI
まさかキバまでクロスするとは・・・・・・面白!!
158地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/10(水) 21:26:14 ID:aDNhGVs6
これにて第4話終了です。
何かいろいろとやってしまった感じがしますが後悔はしてません。
この話からもうとことんフリーダムな展開の連続になっていきます。
次回はこのSSとリンクしてる仮面ライダーカブト レボリューション 序章。
スバルと天道メインで話を進めていく予定です。
どちらも頑張って書きます。


カブトクロスと言っておきながらこれから何の複線もなく他作品のライダーが出る可能性がかなりあります。
とにかくよろしくお願いします。
159名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 21:59:52 ID:il4i7Cxk
まさかの名護さんwwww
160名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 22:32:40 ID:zB7LNKfB
ライジングイクサでもクロックアップされたら如何し様もないんじゃ?
161名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 23:25:02 ID:FU9uOIbn
GJッス!!

まさかキバまで…これはブレイド、ファイズ、龍騎等の平成ライダー登場を期待したいです。
162名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 00:18:37 ID:n89/Hl9x
個人的にはあんまりクロスさせすぎると収拾がつかなくなるんで
どうなるんだろうと思いますが基本的にエリオが主役で話が進んでいくならいいですね
ともあれGJでした
163一尉:2008/09/11(木) 13:38:16 ID:KATTYokL
とれても支援
164リリカル! 夢境学園 ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 17:56:32 ID:PjabN2PP
どうもこんばんは。
アンリミテッド・エンドラインの続きを今夜八時前から投下してもよろしいでしょうか?
165名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 17:58:38 ID:vlRfy7Ku
待ってますー
166リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/11(木) 18:22:18 ID:cn2qyHe5
10:30頃に投下予約を。
167名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 19:10:51 ID:Cyfo05d5
キターーーー!
支援
168アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 19:52:42 ID:PjabN2PP
そろそろ投下開始します。
支援をお願いします。




 人は痛みなど知りたくはない。
 人は何かを知りたくなんかない。
 ただ護られて、安らぎに包まれて、ただ生きていければ幸せなのだと、僕は知っている。
 僕はそう認識している。
 だから。
 だから、その幸せを護るために、僕は――


                         ――ある少年の座っていた砂浜に書かれた一文より


 疾る鋼鉄の車体。
 駆動する四輪。
 林の中を駆け抜けて、一台の装甲車が走行していた。

「ららっらら、ららーら♪」

 歌声が聞こえる。
 イヤホンにはお気に入りのメディアプレイヤーを差込み、それは歌いながら運転していた。
 速度にして80キロ超、一歩間違えれば林に激突し、衝突事故も免れない状況にあるというのにその運転手――レギオンの一人はヘルメットも脱ぎ捨てて、歌を口ずさみながら運転を続けていた。
 手元は振るえ、眼球は忙しなく周囲を見渡しながらガクガクと痙攣している――麻薬中毒患者の如き形相。
 耳元から鳴り響く歌声。
 それは蕩けるような歌姫の声。
 ただ彼らだけが持つ、録音された音声の記録媒体。

 ――血を湛えなさい/贖うために。
 透明なる言葉。

 ――肉を称えなさい/逆らうために。
 透き通った旋律。

 ――骨を讃えなさい/存在するために。
 透過する声音。

「ららーらーら、ららーら♪」

 体に染み込むような歌声に、レギオンの顔に浮かぶのは恍惚とした笑み。
 それは既に死に果てたものの残響音。
 それを頼りに、それに汚染され、それに呑まれたものの末路。
 どこにも届かない、欠け落ちた運命にしがみ付いただけの骸だった。

「らーらーらー♪」

 レギオンは同じ歌をループし、永遠と回り続ける歌に耳を傾けながら、輪唱するかのように喉を鳴らす。
 アクセルを踏み込み、ギアを変えながら、何十本目かも忘れた木々を横目に前方を見据える。
169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 19:53:12 ID:lh96B2dI
支援
170アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 19:54:18 ID:PjabN2PP
 
「いい声だね」

「そうだろう?」

 木々を避けて真っ直ぐに伸びた獣道、そこにアクセルを踏み込みながら加速。
 ガリガリとけたたましい音を立てて、土を、地面を、踏み削りながら装甲車は疾走する。

「俺は歌手だったんだ」

 らららと喉を鳴らす。
 終わりきった骸が喉を鳴らしながら、ハンドルを操作し、僅かな体に染み付いた過去を思い出す。

「歌うことが好きだった」

 嗚呼、思い出す。
 嗚呼、染み出してくる。
 過去が、記憶が、記録が、歌声となって溢れ出し――

「あ? そういえば、お前誰だ?」

 横を振り向く。
 居ないはずの助手席に、一人の少女。
 空色の頭髪に可愛らしい顔を浮かべた少女が、ぶらぶらとスポーツシューズを履いた足を動かして座っていた。

「はろっ」

 にっこりと浮かべられる笑み。
 無造作に振られる手、黒いタンクトップの下に押し込まれた乳房が震動の度に震える。

「アタシはセイン」

 瞬間、レギオンはカチリという金属音と冷たい感触を味わった。
 それが彼女のホルスターから引き抜かれた拳銃の銃口だと知るよりも早く、乾いた音が彼の意識を奪った。

「あの世で会えたら、歌を聞かせてね」

 紅い血潮が飛び散る。
 ベチャリと防弾ガラスのフロントウィンドウが赤に染まる、ばたんっと開かれた右のドアから血を流した男の死体が零れ落ちた。

「おっとっと」

 即座にドアを開き、レギオンの遺体を叩き通したセインはハンドルを操作しようと手を伸ばし、席を替わろうとした瞬間。

「あれ?」

 紅く染まったウィンドウの向こうで、さらなる赤を見た。
 獰猛な笑みを浮かべながら、グルグルと旋回する鉄槌を掲げた幼女。
 おそらく世界一危険な幼女だろう。
 記憶を検索――紅いバリアジャケット、巨大なハンマー、凶悪な目つきと笑顔。
 思い出す、あれは確か……機動六課副隊長の……

「やばっ!!」

 ヴィータ。
 その名前を思い出した瞬間、肯定するかのように咆哮が轟いた。
171アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 19:55:07 ID:PjabN2PP
 
「粉砕・突貫!」

 旋回、回転、轟風。
 大気を飲み込み、支配し、己が力とする。
 ラケーテンフォルム・グラーフアイゼンのハンマーヘッド、その片方から推進剤を噴出させながら、今までの鬱憤を晴らすかのように振り抜かれる鉄槌。
 それは重量にして数トンにも至る加速状態の装甲車から真正面に激突する覚悟。

「ラケーテン!」

 膨れ上がったハンマーヘッドが真正面からフロントウィングを粉砕し、運転席にめり込む。
 その増大した質量全てを打ち込み、車体全てが震え立つように振動しながらも前面がヴィータの体に激突する。
 がぁんっと激しい衝突音。
 間違いなく相対速度からすれば複雑骨折は確実、常人なら即死もありうる。
 なのに、彼女は笑いながら腕を動かし、手を振りぬく――

「ハンマァアアアア!!!!」

 誰が信じるだろう。
 外見年齢にして十歳にも満たぬ彼女が破砕音を響かせながら、巨大なる鉄槌を振りぬいて見せたと。
 腰を捻り、突き刺さった運動エネルギーの全てのベクトルを変換し、横薙ぎにぶっ飛ばしたということを。
 一瞬、装甲車の車体が宙を浮く。
 あまりにも強引なベクトルの変更についていけずに、運転席を失った装甲車がドリフトじみた機動で旋回。
 土砂が巻き上げられ、幾つもの木々に車体をぶつけながら、停止した。

「ぺっぺっ! あー、痛いじゃねーか、畜生」

 ぽんぽんっと腹を叩いて、アザになったかなぁ? と首を捻るヴィータに、援護するために遠巻きに配備されていた陸士たちは唖然としていた。
 あまりにも人知を超えた頑強さと攻撃力に……

「ほら、さっさと確保しろ! まだ逃げてる奴はいるんだから!」

 ヴィータの活の入った怒鳴り声に慌てて陸士たちが装甲車両に駆け寄り、中身を確認しようと動き出す。
 元の通常状態に戻したグラーフアイゼンを肩に掛け、ヴィータは何気なく原型を留めていない運転席を見つめて……首を捻った。

「ん? おかしいな」

 彼女自身の手で粉砕された運転席。
 そこには“僅かな血溜まりとひしゃげた運転席しかない”。

「さっき誰かが居たような気がしたんだが……気のせいか?」

 それは気のせいではなかった。
 ヴィータは気付かなかった。
 彼女がラケーテンハンマーを叩き込んだ瞬間には、運転席にいたはずの少女が姿を消していたことを。
 そして、その後ろの車両からあるものが消失し、その少女は既に遠くに行ってしまっていることも。
 気付かない。
 この時はまだレギオンたちの狂騒の宴の最中、そこで暗躍する集団の存在を知りうるはずもなかった。



【Unlimited・EndLine/SIDE 3−13】
172アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 19:56:09 ID:PjabN2PP
 
 走る。
 走る、疾る、疾走する。
 陸士108部隊が用意した車両の助手席に乗り込み、窓から前方を走行する装甲車を睨み付けていたエリオは無線の送信ボタンを押しながら告げた。

「ライトニング03、現在逃亡車両Bの後方20メートルをキープ中です。車両自体には異常は見られません」

『分かった。引き続き、後方をキープ。配置が済み次第、停止準備に入るぞ』

「了解」

 その通信に、エリオではなく横で運転を続ける運転手が答える。
 彼らは一台のジープに乗っていた、助手席にはエリオ、運転席にドライバー、後部座席にはキャロとフリードが乗っている。
 車両の振動は激しく、キャロは口元を押さえながら酔いに耐えていた。

「ルシエさん? 大丈夫ですか」

 ガタガタと震える車両の中で、バックミラーでキャロの様子に気付いたのだろうエリオが声を掛ける。

「あ、はい。大丈夫です」

 縦に、横に、振動が走る車両の中の居心地は最悪だった。
 スプリングはロクに利いていないためクッションはひたすら硬く、お尻をぶつける度に痛みを感じる。
 後でシップ貼ろうかな? でも、誰に貼ってもらおう、シャマル先生に言えばいいのかな?。
 と、キャロがぼんやりと考えていると、何を勘違いしたのかエリオは平然と。

「エチケットパックあります?」

 とドライバーに尋ねた。

「あー、それなら席の下に常備してあるぞ」

 運転に集中しているためか、どこか棒読みで答えるドライバーに、エリオは礼を告げると。

「席の下にパックがあるらしいですよ?」

「ち、違います!」

 真っ赤になったキャロが反論し、フリードもギャフー! と主の援護をする。
 違うんですか? と首を捻るエリオ。
 その様子に隣のドライバーは苦笑を浮かべて、同時に沈痛の影を浮かべた。
 まだ幼い子供なのに、このような戦場に出す自分達が情けないと感じていた。
 そして、同時に憤る。
 このような戦場に出すことを許可した保護者であろう誰かに。

「さて、そろそろ一般の車道に出るはずだが」

 林の中を掻き分けて、装甲車両が直ぐ先で検問されているはずの道路に躍り出た。
 ばぅんっと弾んで、装甲車が荒々しくアスファルトの道路に走り出す。
 それを追ってエリオたちの乗るジープが飛び出す。
 同時に他に併走していた車両も二台、それぞれ飛び出す。
 瞬間、三台の車両が道路に降り立つと同時に装甲車両の車輪が唸りを上げた。
 加速、さらなる加速。
 一気にアクセルを踏み込んだ時特有の焦げ臭い煙と音を立てながら、ぐぅんっとロケットのように加速する。

「っ! 対象が速度を上げた!」

 ドライバーが焦った言葉を吐き出し、スピード計を見る。
 時速90キロオーバー、装甲車両はそれ以上の速度を叩き出している。
173アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 19:57:13 ID:PjabN2PP
 
『速度を落とさせろ! 検問は強いてあるが、強行突破の可能性がある!』

「了解!」

 ドライバーが答えると同時にアクセルを踏み込む、速度が上がると同時にクラッチを踏んで、ギアをシフトチェンジ・
 ガキガキと歯をかち鳴らすような音を立てて、三台の車両が速度を上げる。
 単なる追走劇が一転としてカーチェイスとなった。

「しっかり掴まれよ!」

「は、はい!」

 キャロは上ずった返事を上げながら慌ててシートベルトをつける、エリオは最初からシートベルトに付けており、フリードのみどうすればいいのか迷いながらキャロに抱きしめられる。
 三者共に体を固定したのを確認し、ドライバーは足を突き出した。
 アクセルを最大に踏み込み、数秒と掛からずに時速90キロに至る。
 重たげなジープの車体が暴走する装甲車にグングン迫る、しかし前方の車両が不意に左右に震え始めた。
 蛇行運転? 違う。

「っ!」

 その理由を瞬く間に読み取ったドライバーが咄嗟にハンドルを切る。

「きゃっ!」

「っ!」

「ギャフッ!!?」

 急激な車線変更にキャロとエリオとフリードの身体が揺れ、車体に押し付けられる。
 瞬間、元居た車線に突っ込んでくるように迫る装甲車の背部――否、ブレーキを踏んで減速し、こちらに体当たりをしてきたのだ。
 エリオたちの乗るジープもまた減速し、斜め後方に位置を取る。

「くそ、舐めた真似を――っ、逃げろ!」

「え?」

 瞬間、装甲車両の周囲に放電するかのように光が走る、障壁が展開されて、エリオたちの車両とは別方向に向かう。
 それはもう一台の車両。
 そこに目掛けて加速し、障壁を纏いながら装甲車が突撃してくる。

『まずぃ、まにあわ――ザザァ!』

 躱そうとしたのだろう、襲われた追跡車両が車線を変更しようとしてハンドルを切るも――その車体に鋼鉄の巨獣が食い込んだ。
 まるで紙くずのように車体が蹂躙され、吹き飛ばされる。
 道路から飛び出し、半壊した車両がグルグルと近くにあった木々に激突し、機能の全てを破綻させながらも、その動作を止めない。
 水触媒式のエンジンが粉砕される衝撃で暴走し、派手な轟音を上げながら、残った部品を吐き散らす。

「やられた!」

「乗ってた人は!?」

「わからん! その前に、あっちもやばいぞ!」

 キャロの悲痛な叫びに、ドライバーは怒鳴り声で返した。
 障壁を張った装甲車両は残ったもう一台へとターゲットを絞ったのか、グングンと加速しながら前方にいる車両目掛けて突っ込んでいく。
 前方をキープしていた車両も加速し、左右に逃れようとしているのだが、改造エンジンでも積んでいるのか、馬力が違う。
 重たげな車両にも関わらず、車間距離が狭まっていく。
174名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 19:57:42 ID:0DK/Xsu6
支援
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 19:58:19 ID:lh96B2dI
支援
176アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 19:58:56 ID:PjabN2PP
 
「あのままじゃ!」

「くそ、どうすれば!」

 ハンドルを叩き、ドライバーが口汚く己の非力を罵った。
 その時だった。

「――ボクが出ます」

 窓を開けて、エリオが顔を突き出しながら告げた。

「なっ! 馬鹿、この状態で」

「大丈夫です、事前に風圧設定はしましたから」

 そう告げるエリオは全開に開けた窓から器用に体を抜け出すと、車体の上に乗り出す。

「ストラーダ」

『OK』

 腕時計型の待機状態から黒い機械仕掛けの槍に瞬く間に変形。
 電光のような黄色の魔力光を点滅させて、エリオはその手に刀身を構える。
 風圧に髪を揺らしながらも、獣のような姿勢で、少年は前を見据えた。

「エリオ君!?」

「近づけてください、飛び乗ります」

「無茶をいうな! 幾ら何でも――」

 ドライバーの男が若さゆえの暴挙かと、エリオを止めようとして視線を上げた。
 その瞬間、ドライバーとエリオの目が合った。

(こいつ)

 瞬間、ドライバーは理解した。
 エリオは……その瞳に何も浮かべていない。
 危機的な状況にあるにも関わらず恐怖も焦りも浮かばず、ただ綺麗なガラスのように光を反射しているだけで、その瞳には何も映っていない。
 口元に浮かぶのは笑み。
 喜んでいるわけでも、楽しんでいるわけでもない、礼儀としての笑み。
 自分の体を弛緩させ、最大限に浮かべるための表情。
 背筋に震えが走った。
 何度目かの出撃で見たサイコパスの犯罪者、その顔に似ていた。
 何もかも諦めて、大きく歪んだ人間が浮かべる瞳の色によく似ていた。
 行かせていいのか? 深くドライバーが悩んだ瞬間だった。
177アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 20:00:04 ID:PjabN2PP
 
「なんだ?」

「え?」

 エリオとキャロが上げた声に気付いたのは。

「なんだ、ありゃぁあ?」

 風が吹いていた。
 加速する車体には当たり前の轟風、されどその風が歪んでいるように思えた。

 ――装甲車の側面、そこで土砂が舞った。“不自然に”

「?」

 キャロが首を傾げる。
 まるでそこに誰かが着地したかのように思えたから。
 けれど、彼女は気付くのが遅れた。
 彼女の想像が正しいことに。

「なっ!」

 刹那、土砂が激しく立ち昇る。
 まるで掘削機で削られたかのように装甲車のすぐ横で土砂が上げられる、一定のリズムで、土埃が舞う。
 背後にいるエリオたちは見た。
 土砂の中で、不自然に揺らめく陽炎を。

「なにか、いる!」

 エリオが鋭く上げた声、それは正しい。
 瞬間、装甲車両の周囲に張られた障壁――その上部が激しく放電した。
 ごぅんっと空気が弾けて、まるで誰が降り立ったかのように――否、降り立つものがいた。

「なんだ?」

 それは人ではない。

「あれ、は!」

 それは黒い甲殻を纏いし異形。
 全身に醜く引き攣れたような傷跡、されど痛々しさではなく凄みを帯びる、傷すらもその身を戒める鎧だと言わんばかりに猛々しい風を纏った風格。
 その首に紅い襤褸切れをはためかせ、己を拒む存在に恐れる事無く腕を突き刺す威容。
 風を切り裂くような漆黒の影身が障壁に降り立ち、メリメリと爪を突きたてて吼えていた。

「使役獣!?」

 キャロがその正体を看破した瞬間、障壁が両断された。
 黒く光を透過した翅を広げ、大気を震わせながら、押し込んだ爪の一撃に障壁が貫通され、その異形が装甲車両の上部に着地する。
 同時にダダンと足下部の爪を食い込ませながら、使役獣と思しき黒い異形は手を振るわせた。
 ただ手を振り抜いた。
 それだけなのに――起こった現象は目を疑うものだった。
 運転席がハンマーで押し潰されたかのようにひしゃげる。
 乱暴な鉄杭で貫かれたかのように破損、フロントガラスが割れる破砕音が鳴り響き、絶叫が流れる風に混じって聞こえた。
 装甲車の運転が不規則に揺らぎ始めて、見る見るうちに減速を開始する。

「まずぃ!」

 ドライバーが再びハンドルを切り、速度を落とそうとブレーキを踏み込んだ瞬間だった。
178名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 20:00:20 ID:lh96B2dI
支援
179アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 20:00:47 ID:PjabN2PP
 
「行ってきます」

「え?」

 聞こえた言葉と共に車体の上から一人の少年の影が消えた。

「エリオ君っ!!?」

 叫ばれるキャロの悲鳴、それを無視して――少年は跳んだ。
 迷走する装甲車両の上で、こちらを視認する異形に向かって。

 少年は理解する。

 ――イレギュラーの彼は決してこちらの目的の遂行を見逃してくれないだろうと。

 それは把握する。

 ――迫ってくる少年は決してこちらの行動を見逃してくれないだろうと。


 そして。


「失礼します」

 揺らぎ、振るえ、暴走する車両の上でエリオは四肢を叩きつけながら、言葉を告げる。
 礼儀は大事だ。
 何事にも礼儀は必須。

「貴方は敵なのでしょう?」

 確認するように告げる言葉。
 それに漆黒の異形はただ爪を構えて、応える。
 殺意が肌に突き刺さる、言葉よりも雄弁に。

「では」

 その両腕に紫電が迸る、魔力を供給、ストラーダを握り締める。
 ――意識を戦闘にまで移行。
 ――敵の戦闘能力が不明、全力を出す。

「倒します」

 瞬間、エリオと異形の姿が世界から掻き消えた。
 二人だけの世界に飛び込むために。

180アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 20:02:18 ID:PjabN2PP
「……嘘」

 一人と一匹は戦っていた。

「本当に、Bランク魔導師か!?」

 装甲車両の上で戦っていた。
 誰もが絶句する速度で。

 ――戦い抜いていた。

 轟音、撃音、爆音。
 音の乱舞。破壊の舞踏。殺戮の輪舞。
 それは旋風のように速く、嵐のように凄まじい、一体と一人のコンチェルト。
 黒き人外――漆黒の甲殻に、数え切れない醜い傷跡、紅い複眼、鋭く伸びた爪、それら全てが恐怖の意味を成さないほどの気迫の篭った絶叫が迸る。
 その爪は合金の床を抉り、空気を爆散させ、鉄すらも粉砕する凶器。
 両手合わせて二つ。二振りの凶爪に対抗し、真っ向から打ち合っているのは黒い穂先、黒い柄、機械仕掛けの槍――ストラーダを握り締める穏やかな笑みを浮かべた少年。
 白い戦衣を翻し、燃えるような紅い髪をなびかせた少年が、真っ向から黒き獣と激突していた。
 振り下ろされる凶爪に匹敵――否、凌駕する速度で槍を振るう。
 早く、速く、疾く。
 目にも留まらない、残像が実体を持ち、複数の穂先が、無数の爪が、互いに火花を散らし、その世界を描き出しているかのような錯覚すら覚える高速斬舞空間。
 漆黒の獣はその肉体に宿る反応速度と優れた筋力、そして永遠と戦い続けた経験を持ってその高速の応酬を可能とする。
 その速度はソニックブームを起こす――遷音速の一撃。
 白衣の少年はその身に流れる生体パルス――神経を伝達する微弱な生体電流を操作し、神経間の伝達速度を上昇。
 同時に変換資質を通して魔力を電磁波に変換、無意識な、されど明確な操作と調整によってストラーダに対するシグナルパルスとして作成。魔導師が使う命令言語よりも早く、魔力的結合によるデバイスへの意志伝達よりも速く、少年はストラーダを操作している。
 それは同じ電気への変換資質を持つSランク空戦魔道師、フェイト・T・ハラオウンにさえ出来ない異形の技。
 “彼のみが可能とする能力”。
 穂先を振るう軌道上への加速、引き戻す時の逆噴射、それらを狂ったように繰り返し、連続し、得た速度は音速を超えた斬撃。
 互いに音速を超えた人外の攻防。
 音響の壁をぶち破り、破壊を撒き散らす斬舞の宴。
 音すらも置き去りにした人外と怪物の激突。
 激突する爪が軋みを上げる、振り下ろされる瞬間にノズルを噴射し悲鳴のような音を上げる穂先、激突の衝撃に大気が四散し、互いに踏み込まれる足に装甲車の上部がひび割れ、めり込む。

 ――RU・LALALALALLALALALA!!!!

 ――GA・AAAAAAAAA!!!!!

 呼吸音。
 咆哮。
 それは奇しくも歌声のように響き渡り、一体と一人の戦いを鮮やかに奏でる。
 グルグルと回転し始める車両の上、グラグラと揺れる不安定な足場。
 時間は無いと互いの把握。
 だから、同時に動き出す。
 同時に踏み出し。
 ――目の前に爪が迫る――それをたたき上げた穂先で迎撃――弾かれた爪の返しを諦め、もう片方の手が抉るように放たれる――
 ――握ったストラーダに生体電子パルスによる高速命令、逆噴射、その圧力で旋回――放たれた爪が空を切る――
 ――千切れた白衣をなびかせながら旋回、回転、回りながら穂先を振り抜く――圧倒的視野を誇る複眼で確認、弾かれていた手が蛇のようにうねり、それを打ち抜く――
 ――衝撃、吸収は不可能、吹き飛ばされる体躯――痺れる手、されど追撃は可能、しかし、吹き飛ばされる少年の瞳に油断はない、故に間合いを取る――
 ――その全てが一連の動作。

 それがたった二秒間に行われた高速の攻防だった。
 壊れゆく、破綻を迎える車両の上で行われた斬舞。
 それに、少年は、黒き人外は、理解する。

 ――こいつの速度は僕を超える、まさしく人外。
 ――こいつの反応は己に匹敵する、人とは思えぬ。

 その瞬間だった。
 装甲車両が暴走の果てに横転し、足場としての役割を終えたのは。
181アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 20:05:12 ID:PjabN2PP
 
「っ!」

『ッ!』

 車両を蹴り飛ばし、二人が舞い上がる。
 エリオが五点着地法で衝撃を殺し、ガリューは己の両脚と翅を持って衝撃を和らげ着地。
 破砕音を奏で立てて、背後で土砂と埃を巻き上げながら炎を上げる装甲車両を見もせずにエリオはストラーダを構え、漆黒の異形は爪を構える。

「エリオ君っ!」

 その時だった。
 ようやく追いつき、ドリフトするかのように止まった車から飛び出したキャロが声を上げるも。

「下がってて」

 切り捨てるように、冷たい笑顔のままエリオは告げた。
 拒絶のような言葉。

「え?」

「下がってろ、嬢ちゃん」

 エリオと異形の間に広げられる空気に気付いたドライバーの陸士がキャロを抑えて、引き下がる。
 同時にハンドサインで生き残り、車を降りた陸士たちに包囲するように合図する。
 誰もが理解していたのだ。
 目の前に居る幼い少年、彼だけが目の前の異形と拮抗出来る存在だと。
 僅かにチャンスがあれば状況を開始する。
 そう考えての配置に、エリオもまた気付いている。
 一対一の堂々とした決闘など騎士道じみたものに憧れなど抱いていない。
 必要ならば外道に染めても構わないだろう、そう思えるほどに冷めている。
 だけど、それが誰かの悲しみに繋がるのならば?
 己の役割の損失に繋がる――それだけは耐えられない。
 故に。

「僕は証明し続ける」

 魔法のような言葉。
 己の存在意義を示す決意。
 必要性を証明し、使われ続ける。
 それこそが“エリオ・モンディアルの代用品”である己の存在意義なのだから。
 漆黒の異形は応えない。
 ただエリオの言葉を聞いて、エリオの瞳を見つめ、体を震わせるのみ。
 周囲360度をほぼ埋め尽くす圧倒的な視野で警戒しながら、同時に大気に触れる触角の感覚で周囲を索敵し、その様子の全てを把握する。
 異形には世界は立体的に移っていることだろう。
 流れる風も、見えぬ埃も、全て認識している。
 それ故に、異形は手を掲げる。

「なにを――」

 手を振るう。
 音速を超えた挙動、それは大気を叩き潰し、切り裂き、攪拌する行為。
 普段であれば収束した大気の圧縮波によって衝撃破を発生させ、他者を打倒するための動作。
 だが、それでは足りぬ。
 円でも描くかのように、津波でも起こすかのような大降りの動作で、漆黒の腕を振り抜く。
 そして、世界に――風が生み出された。
182アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 20:07:43 ID:PjabN2PP
 
 攪拌された大気が、混じり合い、弾けあい、かき乱されて、風を生む、波を作り、エリオの紅蓮の髪を靡かせる轟風となって。

「え」

 音が大気に溶けるよりも速く――異形が目の前に踏み込んでいた。
 速い。
 音よりも早く、誰にも違和感を抱かせる事無く、漆黒の影はエリオの目の前に迫り、爪を翳していた。
 並の人間ならば認識するよりも早く、その頭部を砕かれていただろう速度。
 ――それをエリオは避ける。
 人間の最高反応速度0.11セコンドを凌駕した速さで、一歩横に飛び退いていた。
 同時に旋回。
 駆け抜ける異形の背にストラーダの刀身を打ち込もうとして、空を切る。
 既に彼はそこにはいないのだから。

「はや」

 一瞬遅れて音が弾けた。
 轟音。
 エリオの体を打ち飛ばすように衝撃破が吹き荒れて、事前に設定したバリアジャケットがそれを排除する。

「いっ!」

 舞い散る埃を振り払い、周りを見渡す。
 見つけた場所は遥か十数メートルの道路の外れ、そこに異形は降り立ち、再び手を振るう。
 轟っと風が吹き荒れた。
 今度こそエリオは目撃する、その速度の理由に驚愕する。
 異形は同時に足を踏み出していた。
 そして、風に追いつき――飛び込んだ。
 エリオは理解する。
 加速化した意識の中で迫り来る漆黒の凶器に意識を傾けながらも、何故そこまで疾いのかを悟っていた。
 音速を超える速度をこの異形は持っている。
 二本の脚で大地を蹴り飛ばし、翅を羽ばたかせ、超音速の機動を誇るまさしく人外。
 されど、物理法則――魔法を操れない存在に立ちはだかる音速の壁は分厚い壁となって異形の前に現れる。
 並大抵の頑強さではぶつかった瞬間に粉砕される音響の壁、それを軽減するための動作が風だった。
 例えば静かな水面と波立った水面、どちらのほうがするりと手を差し込めるだろうか?
 どちらのほうが目立たず、抵抗なく、波紋も広げることはないだろうか。
 攪拌され、確かな大気中の硬度を軽減し、霧散化させた大気の中に突入すれば――それは恐るべき速度となる。
 縦横無尽、止まることのない、衝撃破が吹き荒れる。
 剃刀のように大地を削り、空気を両断し、世界が歪む、漆黒の軌跡に埋め尽くされる。
 戦闘機の超音速巡航にも匹敵する速度と鋭さを持った人外の突進に触れるだけで切り裂かれるだろう。
 けれど、エリオはそれに。

「 」

 声を発するよりも早く、手足を動かす。
 切り裂かれながら、衝撃破に蹴散らされながら、踊るように地面を踏み変えて、迫る異形の閃光を迎え撃つ。
 そして、一瞬漆黒と純白の影が交差し、加速世界から姿を現す。
 誰かが悲鳴を上げたような気がした。
 髪がなびく、腕から血が溢れる、あまりにも速い爪の斬撃がエリオの体を突き刺さり、血潮を撒き散らさせた。
 ストラーダの防御、それすら間に合わずにエリオの肩に異形の兇器が食い込み、その衝撃を“あえて押さえず”エリオと異形は共に大地を滑空していた。

「よし」

 エリオは笑みを変えない。
 肩肉を抉られ鮮血を流し、異形と共に吹き飛びながら、痛みを顔に浮かべない。
 まともな直撃は圧倒的に質量に劣る自分の不利だと理解していた。
 けれど、対抗するだけの速度を今の自分は持ち得ない。
 故に――
183名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 20:08:03 ID:lh96B2dI
支援
184アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 20:09:48 ID:PjabN2PP
 
「捕らえました」

 ギュルリと奇妙な音を立てて、突き刺さった爪が“盛り上がった肉に挟まれる”。

『!?』

 異形が複眼の奥で戸惑いの光を見せた。
 ありえない光景、深く削り取ったはずの肩の傷口がもはや治りつつあるというのか。
 同時に気付く、ストラーダを握るエリオの手の爪、それがギジギジと音を立てて伸び始め、僅かに、されど注目すれば分かるほどに少年の髪が伸びているということに。
 少年が笑う。
 深い絶望を湛えた瞳で異形を睨んで、その胴体に掌を打ち付けた。
 紫電が迸る手を。

「紫電一閃というんでしたっけ?」

 深く全身に抉られた傷跡だらけの顔はところどころに本来の絶縁性を失い、薄い甲殻に纏われた場所。
 本来もっとも頑強なはずの胴体は過去に帯びた傷を持って、軟い甲冑と化している。
 故に、異形の胴体に触れた紫電は確かな威力を発揮していた。
 紫電が全身を流れる、卓越した人外の神経がかき乱され、激痛と表現し難い感覚を持って異形はエリオを強引に投げ捨て、転倒した。
 超音速の機動上で転び、アスファルトの大地に自身を叩きつける。
 爆音も同然、土砂が巻き上がり、投げ飛ばされたエリオとは別方向に、壊れた人形のように異形の身体が転がり、道路外れの木々をめり込んで、停止する。

「や、やったのか?」

 ドライバーの陸士が呆然と土砂を巻き上げて、黒い異形が叩きつけられた場所を見つめていた。

「エリオ君!」

 その陸士の手から強引に抜け出て、キャロは同じく地面を叩きつけられたエリオの下に走り出した。
 フリードのしがみ付く帽子を押さえながら、土埃の中に埋もれた少年に駆け寄り。

「大丈夫!?」

「あ、はい……なんとか生きてます」

 白いバリアジャケットの外套を四散させながら、エリオは擦過傷だらけの体で笑った。
 激突の瞬間、想定外の過負荷が掛かったバリアジャケットがオートでパージされ、その自壊した衝撃で着用者の保護を行ったのだ。
 本来ならば挽肉にでもなっていただろう衝撃から生き延びられたのは、事前に設定を入力しておいた開発班の設計者であるシャーリーのお陰でもあり、ライトニング隊長であり参考元のバリアジャケットの保有者であるフェイトが入力した設定でもあった。
 キャロのバリアジャケットとエリオのバリアジャケットはデザイン上は似ているが、中身は別物だった。
 キャロの防護服は魔力運用を妨げない、同時に軽快な動きを取るための、後方支援のために設定されたバリアジャケット。いわば負荷の少ない薄着である。
 しかし、エリオのバリアジャケットはフェイトのものと似ている、高速戦闘のための戦闘服。
 高速戦闘においてもっとも怖いのは被弾であり、同時に速過ぎる速度故の衝突事故だ。
 慣れないものにおいて出会い頭に対応できずに衝突し、その速度故に己が自滅する場合が多い。
 速さというのは諸刃の刃である。
 ただでさえひ弱な人間の肉体が容易く肉塊になるほどの危険性を常に秘めた高速状態。
 高速機動とは、リスクを常に背負っている命がけの綱渡りなのだ。
 常に怯えるほどの繊細さ、同時に必要な時にアクセルを踏み込めるだけの勇気。
 その二者を兼ね備えていなければ完成し得ない、決して成り立たない高速戦闘技巧者の極み。
 果たして彼はその二つを備えているのだろうか。

「大丈夫ですよ、コレぐらいじゃ死にませんから」

 エリオは手を伸ばすキャロの手を掴んで、よろよろと起き上がる。
185アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 20:11:59 ID:PjabN2PP
 
「よくやった坊主」

 その背を、ぱしんっと駆け寄った他の陸士が叩いた。

「すげえぞ、小僧」

「お前、本当に高ランク魔導師じゃないのか? 強いなぁ」

「俺も負けてられないな、もっと訓練しないと」

 陸士たちが笑顔を浮かべて、異常なる戦闘を繰り広げたエリオを褒め称えた。
 彼らは等しく大人だった。
 普通なら嫌悪感を出すだろう光景に、取り繕う笑顔を浮かべて、健闘を称えられるだけの大人だった。
 正しい大人。
 困惑も疑問も心のうちに押し込めて、まだ未熟な、何も知らないだろう子ども達の心を思いやるだけの分別を彼らは持っていた。
 だから。

「よし、バインド使える奴はさっきの野郎を捕縛しとけ。ぎっちりとな」

「野郎なのか? まさか雌ってことは」

「知るか! とりあえず簀巻きになるまで掛けとけ! 他の奴らは俺と一緒に装甲車の中を確認するぞ、もしかしたら誰か潜んでいる可能性もある、油断するな」

 ドライバーの男が指示し、彼らが己の仕事を遂行しようと動き出し、エリオがキャロに肩を借りながら歩き出そうとした。
 そこで、悲劇は起こった。

 ――小さな音が響き渡った。

「え?」

 空気が小さく割れたような音が聞こえる。
 先ほどまで笑っていた人たちが一斉に踊りだす。
 醜いステップを踏んで、赤い華を咲き散らせながら、くるぐると踊りだし。

「ハハハッハハ!」

 壊れたスピーカーのような笑い声が響いて、周囲から浮かび上がるようにボディーアーマーに鉄塊――質量兵器を握り締めた一団が出現。
 その胸には巨大なランドセルのような機械、その頭頂部から魔力カートリッジが排出される。
 キャロは知らない、それが機械で再現されたオプティックハイド、光学迷彩のための装備だと。
 悲鳴が上がる、けれどそれを埋め尽くすようにマズルフラッシュが瞬き、銃声が鳴り響いた。

「デストロ〜イ」

 死ぬ、死ぬ、皆死ぬ。
 赤く染まりながら、手足を吹き飛ばしながら、必死に足掻こうとして杖を伸ばした人の頭部が消し飛んだ。
 まるで桜吹雪、真っ赤な吹雪。
 生臭い香りと笑い声が響く絶叫場で。

「キャロ!」

 怯えて、瞳孔を広げるキャロを庇うかのようにエリオの体が覆いかぶさる。
 小さな少女の体に少年の体温が染み込むように伝わってきて――同時に感じる、その体の向こう側からの衝撃。
 一発、二発、三発、衝撃が溢れて、キャロの体が押し倒される。
186名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 20:14:27 ID:lh96B2dI
支援
187アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 20:14:32 ID:PjabN2PP
 
「ぎゃふぅ!」

 フリードの悲痛な叫び、彼女の帽子から零れ落ち、その主と共に地面に転がり落ちる。

「エ、リオ君?」

 地面に重なった二人、エリオの体の向こうから外は見えない、ただ笑顔が浮かべるエリオが彼女を抱きしめて。

「大丈夫?」

 と静かに応えて――ごぷりと口から吐き零した赤い何かが、キャロの頬に降りかかった。
 熱い。
 熱く感じて、それは大切なものだと瞬時に理解して、キャロは知る。
 それがエリオの血液だと、彼は彼女を庇って撃たれたのだと。
 見てみれば分かる、その左腕が歪み、着弾したらしく血を流している。
 周りを見る、先ほどまで笑っていた、人たちが誰も彼も地面に倒れ付して、赤い鮮血を流している。
 彼女は知る。
 もう誰も喋らないと、死人たちの沈黙が続き、それを狂笑と銃撃音が汚していると。

「いゃ」

 キャロを抱きしめるエリオの体温が熱い。
 彼女の体にエリオの血が掛かる、護りきるとばかりに彼は離れない、それが苦しい。

「いや」

 血の匂いがする。
 吐きそうになりそうな、どこか生臭く、甘さすら錯覚しそうな濃い血臭。

「いやあ」

 笑い声がする。
 死んだ人たちに銃撃が打ち込まれる、先ほどまで彼女と共にあったドライバーが死んだはずの肉体を震わせて、飛び跳ねている。
 ぱすんっとまるで風船の空気を抜いたような音と共に死者を汚す焔が吹き出させて、そのボディーアーマーを着たレギオンたちは笑っていた。
 ニタニタ、ニヤニヤと。
 楽しそうに、本当に楽しそうに笑っていた。

「ぁあああ」

 体のどこかで軋みが上がる。
 心のどこかでスイッチが入る。
 “パリンと何かが割れる音がした”

「なんだ?」

 その叫び声に気付いたレギオンが一人。
 銃口を向けて、倒れ付したエリオを見る。

「こイツ、生きてるのか? あ、誰か庇ってやガル」

 エリオの体の下、怯えた瞳でこちらを睨み付けるキャロの存在に気付く。
 その横にいるフリードには目もくれない、もっと面白い標的がいたのだから。

「殺せ殺せ、さっさとロックボトムを回収しないといけないんだから」

「了解。まあ一緒に殺してやろう、優しいヨナァ、オレ」

 引き金を引いて――そのレギオンは己の命を断ち切った。
188アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 20:17:52 ID:PjabN2PP
「あ?」

 地面から飛び出た鎖、その先端からが銃身に直撃、その衝撃でクルリと銃口が己の顔面を向いていた。
 マズルフラッシュ。フルオートの弾丸がヘルメット越しの頭部を砕き、醜いダンスを踊らせる。

「あー?」

 瞬間、レギオンたちが一斉に銃口を構える。
 そして、彼らは聞いた。
 ――笑い声を。

「あ、はははははははははは」

 壊れた少女の声を。
 ずるりと力の抜け出たエリオの体を無造作に振り払い、立ち上がった、血潮に塗られた赤いドレスを纏った少女を。

「こわい、こわい、こわい」

 少女は笑う。
 怖いと叫びながら、手を伸ばす。
 まるで招くかのように、見えない何かを引き寄せるかのように。

「殺せ」

 ――銃撃。
 されど、それは即座に展開された無数の鎖に阻まれる。アルケミック・チェーン。
 まるで意思を持つかのように奮い立つ無数の鎖が全てを遮断し、銃弾を弾き散らしていた。

「いやだ、いやだ、いやだよ」

 鎖の殻の中、少女がいやいやと首を振りながら、すっと手を上に掲げて。

「こわいの、ころして」

 振り下ろす、煌めく純白の輝きを帯びて。

「フリードリッヒ」

 破壊の全てを呼び起こす。
 太陽の如く眩く、地獄のように残酷なそれを解放する。
 小さな竜は戒めから解き放たれる。
 燃え盛る炎を纏い、血塗られた大地の上に、無数の死者を生贄に呼び出したかのように。
 白き狂竜はおぞましく声を上げた。
 そして。

「けしちゃってよ」

 少女の名を受けて、狂乱する白竜はその吐息を解き放った。
 全てを飲み込み、燃やし尽くす紅蓮の祝福が降り注ぐ。
 そして、全てが燃やし尽くされる。
 悲鳴も断末魔の絶叫も焼き尽くし、香ばしい血肉の焼ける音を響かせながら、赤い世界の中で少女は歌いだす。

 狂乱の竜使いが目を開く。

 全てを燃やし尽くすために。

 壊れた少女が歌声を響かせる。

 ―― To Be Next Scene SIDE 3−14
189アンリミテッド・エンドライン ◆CPytksUTvk :2008/09/11(木) 20:20:09 ID:PjabN2PP
投下終了です。
ご支援ありがとうございました。
次回は暴走するキャロとそれを食い止めるもの。
一人の心亡き少年と心狂わせた少女の戦いになると思います。
読んでいただきありがとうございました。
190名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 21:01:23 ID:lICWiA6A
GJでした!
エリオが強い。
いや、エリオを真似た誰かというべきか。
191名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 21:18:22 ID:H/5/wU6Q
GJ! 何がGJってエリオが!!
192名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 21:33:02 ID:Z6fmAXSS
GJ!!です。
ガリューとエリオの超高速戦闘がいいッ!!w
ガリューはクアットロから受けたイングラムだったかな?のおかげで、
古傷があり、本編とはちょっと違うようですね……ガリューが雌なら、同じ個体の雄は角があるんだろうかw
193リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/11(木) 22:33:31 ID:cn2qyHe5
それでは、投下したいと思います
194リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/11(木) 22:35:09 ID:cn2qyHe5

「なぁ、チンク」

スカリエッティラボの食堂に当たる場所。
ぐったりと椅子にもたれていたジョニーが声を上げ、ゆっくりと立ち上がった。
食堂にいたチンクという眼帯少女がジョニーの声に視線を向ける。
他の戦闘機人達より一足先に自己紹介しあった彼女は、幼くて可愛らしい容姿だが、落ち着いた言動と右目の眼帯が老成した雰囲気を醸し出している。
少なくともあのトーレとかいう怖い女性や、何を考えているのか分からないスカリエッティよりは好感が持てた。

「何だ、ササキ?」
「俺の頬を引っ張たいてくれ」
「……ササキはそういう趣味があるのか?」

チンクは顔を少し赤らめて、美しい銀色の長髪を揺らしながら問い掛ける。
その言葉にジョニーの顔も真っ赤に染まった。
慌てて否定の言葉を紡ぐ。

「ち、違う! 俺にそんな性癖は――! と、とにかく思いっきり頼む」
「……まぁ、良いだろう。行くぞ?」

ああ、と答えて、来るべき衝撃に備えて歯を食い縛る。

「へぶぅっ!!」

甲高い、風船が弾けたような音と共に豪快に吹っ飛ぶ。
頬を襲った、予想を遥かに超える痛みにジョニーは悶え苦しんだ。
まるで焼けるように熱くて痛い。
たちまち頬は赤い模様を作り出した。

「ひい、ひい! 痛い! 痛いぃ!」
「……ササキ、君は下痢に頭をやられたのか?」

ジョニーが痛みに転げ回る様子を見て、チンクも呆れた表情を露にする。
自分から頼んでおいてこのザマだ、誰でもそういう趣味があると誤解してもおかしくは無いだろう。
ヒリヒリと痛む頬を優しく撫でて、ジョニーは立ち上がった。

「痛かった。痛かったぞ!」
「……当たり前だろう?」
「つまり……夢じゃ、ない!? ……いや、夢の中なのに一晩ぐっすりと寝れるような夢だ。……こんなんじゃ覚めないか……?」

大げさと言っていい位に驚愕し、そして困惑するジョニー。
ジョニーはこの状況が悪夢の一種だと信じていたのだが、そんな甘い考えもチンクによって一瞬で砕け散ってしまったのだ。
ジョニーの行動に納得したのか、成る程、と呆れながらも頷くチンク。

「残念だが諦めた方が良い、これは夢ではない。紛れもなく現実だよ、ササキ?」
「…………理不尽だっ……くそぉ……!」

悲痛な叫び声がスカリエッティラボに響いた。

第八話「友人」

『ここは地球ではない、異世界だよ』

そんな事をいきなり言われても、信じる馬鹿が一体何人いるだろうか?
そんな事を信じるのは、恐らく相当頭のイカれた野郎に違いない。
ジョニーがそれを言われた時は隠しカメラを探した程だ。
他人の奇妙な言動を見れば誰だって面白いと感じるだろうし、視聴率を気にするテレビ局もそれを狙った番組を作る。
所謂ドッキリ番組だ。
当然ジョニーは自分がそのドッキリの出演者なのだと思っていたが、いつまで経っても司会の人間は出てこなかった。
195リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/11(木) 22:36:37 ID:cn2qyHe5

さらに、スカリエッティとやらがジョニーに見せつけた技術は、確かに地球のそれを頭一つ分抜き出ていた。
ここにいる女性陣――戦闘機人と呼ばれるナンバーズの面々も、スカリエッティの技術で生み出された存在らしい。
そして何よりも頬に残った確かな痛みこそ、ジョニーのいる場所が異世界であるという現実を突き付ける最大の要因だった。
よく出来た脚本だ、と嘲りながら軽く聞き流していた昨日のスカリエッティの話を記憶の棚から引き出す。

スカリエッティはジョニーから粗方の情報を聞き出すと、満足気な表情でこちらの世界について話していた。
魔法技術、数多くに渡る世界の存在、戦闘機人、そして時空管理局という組織。
本人曰く指名手配を受けている違法研究者であり、今のジョニーをのこのこと敵側の管理局の元へ行かせるつもりも無いらしい。
そこで元特殊部隊ジョニーを傭兵として雇う事にした、という訳だ。
と言っても魔力を持った魔導士の世界で、拳銃一丁のジョニーが役立つ機会などほとんどない。
つまり、自分達の事を知られてしまったジョニーを雑用係として監視下に置くという事だ。
命を奪われないだけマシ、そう前向きに考えるしか出来なかったジョニーは再び大きな溜め息を吐いた。

「まぁそう気を落とすな、ササキ。向こう――地球だったか、そっちでは無職だったのだろう?」
「……まぁ、な」
「だったら向こうでだらけた生活を送るより、まだこの状況の方が良いんじゃないかな?」
「……半ば監禁状態で一日雑用やらなんやらさせられて、賃金は寝床と食事だけ。ペットの犬猫だってもう少しマシな生活してるよ」
「まぁいいじゃないか、ドクターがササキに興味を持たなかったら、今頃死んでるぞ?」
「俺は今そんな穏やかでない場所にいるんだよ!」

紅茶にミルクを注ぐチンクに、ジョニーは悲痛な面持ちで声を上げた。
今日はお気に入りのエイリアスというドラマの放送があるのに、今回どころかしばらくは向こうのテレビはお預けだろう。
悲しみに暮れ、信じてもいない神様に祈るジョニー。
それに呼応したかのように誰もいない筈の後方から誰かがジョニーの肩を掴んだ。

「サァ、サァ、キイイィィー!」
「うぎゃああああぁぁ!!」

思わず叫び声を上げてしまうジョニー。
慌てて振り向くと、快晴の空をそのまま溶かしたような髪で明るい笑顔の少女。
みっともなく叫び声を上げたジョニーを見て面白そうに笑うその少女の名は、セインだ。
自己紹介の際に突如壁から出てきたので印象深く残っている。彼女の能力らしい。

「あはは、驚きすぎ」
「……君か。えーと……セインだったか?」
「おぉ、正解! いやぁ、ササキはからかいがいがあって良いなぁ、あはは」
「誰もいない筈の場所から声掛けられたら驚くに決まってるだろ!」
196リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/11(木) 22:39:05 ID:cn2qyHe5

けらけらと笑い声を上げるセインに、恥ずかしさと怒りで顔を赤く染めるジョニー。
チンクも僅かに顔をしかめさせて、セインを叱り付ける。

「そうだぞ、ササキはおもちゃじゃないんだ。余り遊びすぎるな、セイン」
「はーい、チンク姉」

さすがに姉のお叱りには従順だ。
心の中でチンクに喝采を送る。

「それに、ウェンディもな」
「あはは、あー、バレてたみたいッスね」

チンクが声を上げると、盗み聞きしていたのか気まずそうに少女が出てきた。
ウェンディと呼ばれる彼女もまた、セイン同様明るく活発で好印象だ。
彼女達のやりとりは、さすがに姉妹というだけあって、それに相応しい暖かみがある。
それが、ジョニーの中で疑問をふつふつと湧き起こさせた。

「なぁ、君達は、その……スカリエッティに作られたんだろ? それで、奴の言うことを聞いて戦ってる」
「そうッスけど、それが?」

何を言ってるんだ、と困惑した表情をジョニーに向けて訝しむウェンディにセイン。

「君達はそれで良いのか?」

思い返せばリキッドも、自分を作った存在と戦いを繰り広げていた。
奴の憎しみに溢れたその瞳は、一生忘れる事は無いだろう。
それなのに、こんなに可愛らしい少女達は駒として動いている。
何の疑問も、持たずに。
ジョニーにはそれが大きな違和感だったのだ。
セインがジョニーの疑問に返答する。

「そんな事を言われても私達は特に目的とか希望とかある訳じゃないから、生みの親の言う事を聞いてるんだけどねぇ」
「確かに、そうかもしれない。けど――!」
「ササキ」

チンクの声で沈黙が広がる。

「君は、何故軍人になったんだい?」
「……俺の爺さんに憧れたからだ」
「君の戦っていた理由は、銃を握って人を撃っていたのは、ただ君の祖父に憧れていたからかい?」
「それは……」

口籠もるジョニー。

「所詮戦う理由なんて誰も大した事じゃ無い。私達も、君もな。……ほら、ササキ、料理を作らないのかい?」
「あ、ああ……そう、だな……」

チンクに言い返せず、逆に丸め込まれてしまうジョニー。
セインとウェンディは目を輝かせた。

「ササキ、何を作るの?」
「……俺の母親直伝の日本式唐揚げだ」
「おぉ、期待ッス!」

何も言い返せない自分が少しだけ腹立たしくて。
それでも、席を立ち上がるしかないジョニーだった。


197リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/11(木) 22:40:43 ID:cn2qyHe5

スネークはゆっくりと目を開いた。
いつもならあって当たり前の土の匂いが無い。
そればかりかいつものような茶色ではない、真っ白な天井がスネークの視界を覆っている。
体を起こして辺りを見回すと、塵一つ無い清潔な空間が広がっていた。
そう、ここは機動六課の寮だ。
武器は殆どが管理局が預かる、と没収されてしまい、非常に歯痒い思いをしている。
手元にあるのは直接的な殺傷力の無さから護身用としていち早く返されたM9だけで、これが今のスネークの身を守る唯一の武器である。
どうせなら、確実に無害だと分かっている装備品位は返してもらいたい。
特に、段ボールは手荒い扱いを受けていないか不安だ。
見慣れた骨董品が無くてなんだか落ち着かないのは、綺麗にまとまった寮よりも小汚いテントに慣れてしまったからだろう。
オタライアに毒され過ぎたか、と一人ごちる。
窓から差し込んでくる朝日を横目に、スネークはシャワーを浴びるべく立ち上がった。



昨日機動六課隊舎の部隊長室で行われた、事情聴取には程遠い和やかな情報交換会の後、スネークは六課の軽い施設案内を受けた。
若い隊員が多いせいか部隊も明るく、アットホームな雰囲気が印象的だったな、と思い返す。
スネークはこういう雰囲気には慣れていない所為か、やはりどこか違和感を感じるのだ。
長い間一人でいる事を選び、他人の介入を拒み続けた報いなのかもしれない。
それを思うと、少しだけ重い気分になった。

ともあれ、その施設案内が済んでしまってスネークはやる事が無くなってしまった。
邪魔さえしなければ適当にブラブラしても良い、とはやてに言われたものの、目的意識もなく生活するのはさすがに苦痛を感じる。
朝の散歩、そして食堂での朝食。
さて、午前と午後をどう過ごしたものか、と思考に耽る。
この苦悩がまだ何日も続くのかと思うと、気分も一層憂鬱になってしまう。
早く手続きとやらが終わる事をスネークは切実に願った。



「スネークさん!」

海を見渡せる隊舎の周りを散歩しているスネークに、女性特有の柔らかな声が掛かる。
スネークが振り返れば、誰しもが魅了されるであろう長い金髪を揺らし、柔らかな微笑みを浮かべながら美人が歩いてくる。
機動六課で会うよりも前にタルタスで出会っていた彼女の名は、フェイト・T・ハラオウンだ。
六課の制服ではなく、動きやすいラフな格好をしている。

「君は……フェイトだったな」
「はい。おはようございます、スネークさん」
「ふむ。……タルタスで会った時の制服も良いが、そういう格好も悪くないな」

フェイトはスネークの言葉に驚き、嬉しさを滲ませた表情に変わっていく。
美人だな、とスネークは改めて思った。
機動六課の隊長陣は美人揃いで、高町なのはも遺跡オタクには勿体ない位だ。
地球へ帰る前に一人ずつディナーのお誘いをしてみるかな、等と考える。

「覚えてたんですか? そんな素振り全然無かったから、忘れてるのかと思ってました」
「一度会った女は忘れない。美人なら尚更な」
「フフ、お上手ですね」

少しばかり顔を赤く染めて返答するフェイトに、本音だ、と告げる。
さすがにこんなタイミングではムードも無く、冗談や世辞に聞こえてしまうか、と反省する。
フェイトはスネークの横に立って微笑んだ。

「これからフォワードの訓練なんです。スネークさんは何を?」
「暇を持て余していた所だ」
「……だったら、スネークさんも訓練を見ていきませんか?」
198名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 22:42:36 ID:69du9h1T
支援
199リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/11(木) 22:42:35 ID:cn2qyHe5

フェイトの思わぬ提案にスネークは、ふむ、と思考を巡らせた。
スネークは今まで、攻撃型の魔法は直接見た事がない。
戦闘空間を、まるで空を飛ぶ蛇ではないかと錯覚させるように乱れ飛ぶ翡翠の鎖が、一番付き合いの長い魔法だ。
他人の訓練なんてそこまで興味は持たないが、やはり『魔導士の訓練』という言葉には、スネークも僅かに興味を持った。

「……折角の美人の申し出だ、是非行かせてもらおう」
「はい、わかりました。すぐそこですよ、行きましょう?」

スネークは歩み出すフェイトの後を追った。
フェイトは歩みを止めずに振り返り、少し攻める口調でスネークに声を掛ける。

「……一つ聞きたいんですけど、スネークさんはいつもそんな風に手当たり次第に女性を口説いているんですか?」
「とんでもない。心の底から褒めたくなる程の美人相手の時だけだ」
「……そうですか、成る程。ふむ、成る程」

気のせいか、フェイトの笑顔がより濃くなる。
そのまま僅か数分歩いた所で、フェイトが立ち止まった。
スネークが連れてこられたのは隊舎屋外の端、海がよく見える場所。
そこにはなのは率いるスターズ分隊に、ライトニング分隊の少年少女達が待機していた。
なのはがいち早くスネークに気付いて声を上げる。

「フェイト隊長……と、スネークさん? どうしたんですか?」
「訓練見学のお誘いを受けたものでな。……だが、ここで訓練するのか?」

スネークは辺りを見渡してみるが、訓練に適した場所とはとても思えなかった。
穏やかな海面を見て気分を落ち着けてから訓練を、なんて事も無いだろう。
スターズ分隊の青髪の活発そうな隊員のスバルが、スネークの疑問を浮かべた表情を見て、得意気な表情を作った。

「フフフ……スネークさん、これが六課の技術力ですよ! ……さぁなのはさん、お願いします!」
「バカスバル、あんたも初めて見た時は驚いてたでしょ」

スバルがおどけて、オレンジ色の髪のティアナがそれに突っ込みを入れる。
なのははそんなやりとりを微笑ましい表情で見て、手元のパネルを操作する。
それと共に、海面上に緑一杯の森林で埋まっている島が出現した。驚愕するスネークに、外見は幼いが見た目通りの年齢ではないらしい、スターズ副隊長のヴィータが説明する。

「なのは隊長完全監修の空間シミュレーターだ」
「……VR訓練の発展型みたいなものか」

シャドーモセスに潜入する前に、勘を取り戻す為に行ったVR訓練をスネークは思い出す。
しかし技術的には、こちらの世界が圧倒していた。
あくまで仮想空間に人間が意識を入り込ませるVR訓練に対して、こちらは『現実』にそれを引っ張ってきている。
この分だと飛行機に乗らずに海外旅行が楽しめそうだ。
この世界にオタコンを連れてきたら、感動の余りに再び失禁してしまうかもしれないな、と苦笑を漏らした。
VR訓練、という言葉になのはが反応を示す。

「地球にも、こういう技術が?」
「……軍の最新技術に似たものがある。俺は余り好きじゃないがな」

地球も進歩してるんだなぁ、とどこか懐かしそうに呟くなのはにスネークは奇妙な違和感を感じた。
アフリカの現住民族が先進国で携帯電話を弄ったりして文明的な暮らしを満喫している、という風景を見た時のそれと似ている。

「そう、地球は日々進化しているんだ。君がユーノとイチャイチャしてる最中でさえな」
「も、もぅ、からかわないで下さいスネークさん! ご、ごほん。……じゃあ皆、今日から個別訓練だけど張り切っていこうね!」

わざとらしい咳払いの後に、顔を赤くしたままのなのはが訓練前の挨拶をする。
はい、と新人達が威勢のよい返事と共に、なのはの後をついて訓練場へと向かって行く。
スネークもその後を追っていった。

200リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/11(木) 22:45:56 ID:cn2qyHe5


「魔法世界での訓練を見た感想はどうだ、スネーク?」

一通り新人達の個別訓練を見終えたスネークに声が掛かった。
濃いピンク色の長髪をなびかせているのと、凛とした表情が特徴的な美人。
ヴォルケンリッターの将、剣の騎士の二つ名を持つシグナムだ。
本当にこの部隊は、スネークの古巣、ムサい男達が集っていた部隊とは大違いだと実感させられる。
美人が多くて、純粋そうな少年少女達がいて、どこか優しい雰囲気を放っている。

「シグナム、で良かったか? ……さすがに鉄槌を振り回したり、それを受け止める少女は地球にはいなかったよ」

スネークは先程見た光景を思い出しながら、髭を撫で返答する。
シグナムも笑みを浮かべた。

「ヴィータとスバルか。確かに、初めて見たら驚くだろうな」
「……君は訓練には?」
「私は人に物を教えるのは得意としていないんだ」
「成る程。それで? 俺に何の用があるんだ?」

どこかうずうずしているシグナム。
その瞳からは何かに期待している色が伺えた。
教官擬いの事を苦手としている人間が、わざわざこんな所にスネークを尋ねてきたのだから、大体の予測はつく。
溜め息を吐くスネークの鼻先に木剣が突き付けられた。

「スネーク、お前の実力が知りたい」
「……はぁ。魔力も無い男の実力を知った所で、後悔するだけだぞ」
「どうかな。スクライア曰く、『身体能力、危険感知能力、判断力。どれを取っても只の傭兵とは思えない』そうだが?」

ニヤリ、と木剣を突き付けたままスネークに笑い掛けるシグナム。
余計な事を、とスネークは内心でユーノに悪態をついた。

「武器もロクに持たない男をいたぶるつもりか?」
「私を倒せと言ってるんじゃない、実力が知りたいだけだ。加減もするし、バリアジャケットも付けないでやろう」
「結構な心遣いだな。……断る。高評価を得る事に興味は無い」

彼女の好奇心を満たす為に戦うつもりもない。
スネークははっきりと断るが、シグナムは木剣を下ろして腕を組み、不適な笑みを浮かべる。

「ふむ、さすが軍事大国の元軍人。絶対に適わない、手も足も出ない相手とは戦わない訳か。懸命な判断だな」
「……大した自信じゃないか」

明らかな挑発だ。
やすやすと乗ってやるつもりもないが、やはり不快にはなる。
シグナムはスネークに近寄り、耳元に口を近付けて、そっと囁いた。

「もう一つ、良い事を教えてやろう、スネーク。お前の武器装備は既に本局から戻って、六課が握っている。あの、『段ボール箱』もな。……分かるか?」
「何だとっ……まさかっ!?」

絶望的な未来がスネークの脳裏をよぎる。
豪快に水を掛けられてふにゃふにゃにふやけた段ボールの末路を想像して、シグナムの不適な笑みに怒りを募らせる。
卑劣な、とスネークは歯軋りした。
懐のM9に手を伸ばす。
シグナムはスネークの反応を予測していたのか、ますます機嫌良さそうに微笑む。

「さぁスネーク、どうする?」
「クッ……手出しはさせんっ!」
「フッ、ようやく乗り気になったか? ……いくぞ!」

201リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/11(木) 22:46:55 ID:cn2qyHe5
スネークがM9を構えたのを確認したシグナムは、木剣を構えて勢い良く突進してきた。
スネークは後方に大きく跳躍して、振り下ろされる木剣を回避する。
ブォン! とスネークが立っていた場所の空気を切り裂くその音が、威力の大きさを物語る。
木剣と言えど、当たったら只ではすまない。
高まる緊張が、スネークのとある記憶を呼び起こした。

 ――さぁ、俺を感じさせてくれ! 俺に生きる実感をくれ!――
そう、あの戦いだ。
スネークが廃人になるまで追いやって、二十一世紀仕様のサイボーグ忍者としてスネークの前に再度立ち塞がった友人、グレイ・フォックスとの戦いと似ている。
フォックスから溢れていた、全てを飲み込んで消し去ってしまうような殺気や狂気は無いものの、速さに関してはフォックスと良い勝負だろう。
再び、シグナムが距離を詰めてくる。
彼女の胴体を狙ってM9の引き金を引くが、スネークの予想通り木剣によって弾かれてしまう。
何事も無かったかのように木剣を振るってくるシグナム。
まるでハリケーンだ。
スネークは避けるたびに精神をすり減らす。
スライドを引いてもう一発シグナムに向かって発砲するが、やはり一閃の元、跳ね返される。
一発当たれば即ノックダウンするだろう一撃をなんとか避け続けながら、スネークは苦笑した。
やはり、あの時とそっくりな戦いだ。
騎士と忍者には何か通じるものがあるのかもしれない。
一発ごとにスライドを引く作業をもどかしく感じると同時に、シグナムが声を上げた。

「どうした、スネーク? 闇雲に撃ってても私は倒せんぞ!」

そんな事はわかってるさ、と内心で呟く。
もう何発か避けた所で息をついて、シグナムを見据える。
別の戦法でいくしかない。
スネークは、サイボーグ忍者や宿敵リキッドとの戦いでも大活躍したコンボ、パンチ・パンチ・キックを選ぶ事にした。
戦いの基本は格闘で、武器や装備だけに頼っていてはいけない。
スネークは友人グレイ・フォックスの言葉を思い出しながらM9を構えて、ゆっくりと近づく。
先程まで回避に撤していたスネークの様子が変わった事に、シグナムも警戒する。

シグナムの剣の間合いまで後一歩、という所でスネークは立ち止まった。
何をするのだろうか、とシグナムはワクワクしているようにも見える。
スネークは深呼吸をし、意を決して――

――M9を手から放した。
緑の草地に吸い込まれていく銃に、シグナムも戸惑った表情と共に意識を取られる。
その瞬間スネークは、可能な限り全速力でシグナムとの距離を詰めた。

「!」

スネークは左パンチで木剣を払い退けて態勢を崩させる。
そして右パンチを思い切り叩き込むが、シグナムは頭を捻って回避した。
右の拳は虚しく空を切るが、これで終わりではない。

(――まだだっ!)

シグナムは既に態勢を持ちなおして剣を振りかぶっている。
スネークは思い切り体を捻らせて、跳躍した。

「はあああぁぁ!」
「うおおおおぉぉっ!」

遠心力で加速した足はグングンとシグナムに吸い込まれていく。
そして確かな手応えを確認する直前。
側頭部に受けた衝撃でスネークはあっさりと意識を手放した。



202リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/11(木) 22:49:19 ID:cn2qyHe5

「……う、ぐぅ……」
「あ、起きました?」

スネークが重たい目蓋をなんとか持ち上げると、再び真っ白な天井が広がっていた。
側頭部がじんじんと鈍い痛みを主張している。
どうやら気絶していたらしく、窓の外の景色は既に燃えるような赤色に染まっていた。
柔らかい声でスネークを気遣う医務官のシャマルの横には、頬にガーゼを付けたシグナムが立っている。

「やぁ、シグナム、おはよう。その頬はどうしたんだ?」
「ああ。滑って転んだ時に、段ボールをこよなく愛する男に運悪く当たってしまってな。……まさか、銃を捨てるとは思わなかった」

ははは、と笑い合う。
どうやらスネークの最後の攻撃はちゃんと当たったようだ。
パンチ、パンチの後の回し蹴りもなかなか良いかもしれない。

「それで? 段ボールは返して貰えるんだろうな?」
「ああ、勿論だ」
「……段ボール? まさか貴方達、そんな下らない事で……」

呆れた表情をするシャマルに、下らなくなんてないさ、とスネークは頭を振ってみせる。
何だかんだ言って、良い退屈しのぎにもなったのも事実だ。
シグナムが思い出したかのように声を上げた。

「だが、スクライアの言った通りだな」
「……あいつは何て?」
「『スネークに武器装備を整えさせたら、並の連中なら敵じゃない』、と。後は……」
「後は?」
「『ああ見えて負けず嫌いな一面があるから、ちょっと焚き付ければ意外に乗り気になる』だそうだ。フ、事実だったな?」
「……酔っ払いたくなってきた」
訓練場でのシグナムの言動を思い出してげんなりする。
ユーノが大事にしている骨董品の数々に、スティンガーをぶちこんでやりたい気分だ。
シグナムがスネークの言葉に反応した。

「酒なら付き合ってやるぞ。ここは飲める連中が少ないからな」
「あ、それなら私もー!」
「そうだな、ザフィーラやヴァイスも誘ってやるか?」
「スネークさんが帰っちゃう前にやらなきゃね、だったら明日にでも――」

シャマルも乗り気なようだ。
既に飲み会を開く事は決定事項らしい。

「……美人は酒の最高のつまみだ、楽しみにしているよ」

こんな空間にいる事にスネークはやはり違和感を感じる。
それでも、悪くない気分だ。
少しだけ、地球に帰る事に未練を覚えるスネークだった。
203リリカルギア ◆l/Ps/NPPJo :2008/09/11(木) 22:51:05 ID:cn2qyHe5

おまけ

「おぉ、ササキの唐揚げ美味しいッス!」

ジョニーが料理に奮闘している中、ウェンディが顔を綻ばせた。
どうやら、日本人の母がジョニーに仕込んだ料理の腕は好評のようだ。

「おい、摘むのは一つだけだぞ」
「あいよー」

セインも唐揚げを一つ摘むと、それに赤い何かを――

「――ケチャップゥ!!?」
「あたしは唐揚げにはケチャップ派だけど……どうしたの?」
「ケチャップなんて邪道、糞だっ……! 見たくもないっ……!」
「……何を騒いでいるんだ?」

ジョニーの魂の叫びを聞き付けたチンクが様子を見にやってくる。
セインとウェンディが首をかしげているのを見て、疑問の眼差しをジョニーに向けた。

「チンク姉、ササキがなんかケチャップに異常な敵意を燃やしてるんだけど……。ササキ、どうかしたの?」
「あれは忘れもしないシャドーモセスでの出来事っ! 牢屋の警備に付いていた俺は一人の男を監視していたっ……そう、ソリッド・スネークだっ……!」
「……なんか、一人で話し始めたッスよ」

怒りに燃えるジョニーにたじろぐ女性陣。
ジョニーは構わずに話し続ける。

「奴は卑怯にもケチャップで死んだ振りをっ……! 卑劣っ……! ……ぐぐ、とにかくそれ以来、俺はケチャップは大嫌いなんだ!」

ジョニーの言葉に、呆れたように頭を振るチンク。
セインとウェンディも苦笑を漏らしている。

「そんな安直な手に掛かる方も……」
「大体、荷物は没収しなかったッスか?」
「いや、ちゃんと身ぐるみ剥がした。隠す場所なんて……」

ジョニーはハッとする。
一つだけ、思い当たる場所があった。

「ま、まさか! あいつ、ケツのあ――グェッ」

奇怪な悲鳴を上げて倒れるジョニー。
後ろには顔を赤くしたチンクが立っていた。

「下品だぞ、ササキ」
「……ごめん」

頭を擦りながら立ち上がるジョニー。
セインが頬を掻きながら、言い放つ。

「……でも、そこしか考えられないよね」
「……変態ッス」
「……セインもウェンディも、くだらない事をいつまでも考えるものじゃないぞ」

一応は二人を嗜めるが、チンクの中でスネークは変質者というポジションに落ち着いたのだった。
204名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 23:02:05 ID:lb+nDDBC
GJ!
ダンボールが出てきたw
それにしてもここの六課とスネークは良い……。
205204:2008/09/11(木) 23:03:23 ID:lb+nDDBC
すいません。これより代理投下をします。
206リリカルギア代理:2008/09/11(木) 23:05:32 ID:lb+nDDBC
はい、第八話投下完了です。

シリアス薄いです。
MGSシリーズお馴染みの牢屋からの脱獄は色々と手段があって楽しめるんですけど、MGS4では無くてちょっとガッカリしました。
身ぐるみを剥いだ相手がいつの間にかケチャップを持っている、なんてのは当事者からしたら相当疑問に思っただろうと思います。
いやぁ、ほんとジョニーは良いキャラしてて大好きです。

それでは、次回もよろしくお願いします。




207名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 23:09:52 ID:Rail9DY0
GJ!
スネーク段ボールに拘りすぎだろw
さて、雷電よろしく段ボールの魅力にとりつかれる第二の被害者はどいつだ!?
208名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 23:14:17 ID:Cyfo05d5
GJ!
しかし、スネークが完全に変質者扱いだなwwww
ここからどうなるのか凄く気になる。
209名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 23:15:22 ID:Z6fmAXSS
GJ!!です。
ダンボールの為に戦うのかいw
ダンボールの魅力に取り付かれるのはヴィヴィオと予想。
なのはが仕事終わりに部屋に帰ってくると……「ダンボールが動いてるのッ!!」
ゆりかごに乗り込みヴィヴィオ救出に向かうが、玉座の間にあったのは動く大きいダンボールッ!!とかww
210名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 23:29:02 ID:byLm/kx2
スネーク、ダンボール箱の為に戦うなよw
それよりも無限バンダナは没収されたのだろうか、すごっく気になる

あと、ジョニーお前は何をしているんだw
まあ、兵士としてはかなり優秀だよなゲノム兵として遺伝子強化されてるし
2だとゴルルコビッチ大佐の私兵部隊にいたりさ。
結構歴戦のベテランだよな、下痢が全てをダメにしてるけどw
211名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 23:38:36 ID:cBxEzNAf
4でもなんだかんだで、生き残っているしなw
六課とBB部隊を闘わせて見たいわ。
212マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 00:14:16 ID:Lr7f11OS
職人の皆様GJです
さて、お久しぶりです。とんでもなく更新が遅れてるマスカレードです。
特に予約がないようでしたら、1時〜2時くらい……つまり今日の深夜あたりから、
マスカレード第20話(前編)の投下予約しておこうかなと思います。

とりあえず毎度恒例マスカレード・カブト編のこれまでのあらすじを三行で。

なんやかんやで力を見せつけ過ぎたカブトはついになのは達に捕獲されてしまう。
そんな中で、電王の登場や立川の死と、なんやかんやでクライマックスに!
カブト編もクライマックス、どうなる天道!

とまぁ……こんな感じですかね。
端折りすぎですねorz
213名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 00:20:46 ID:rFH0q8d/
支援
214名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 00:31:35 ID:0EsAbYjL
>「ダンボールが動いてるのッ!!」
アンタ遥か昔にまるきり同じことを、当時のウロスに書いただろwww
215名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 01:35:30 ID:HtuIjJ49
スネーク、ダンボール好きすぎだろwww
そしてジョニー……ミッドの技術で下痢って治らないのかな?(ぇ
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 01:44:12 ID:xVGFlWJv
>>212
キターーーーーッ!!
待ってました!
そして支援
217マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 01:46:13 ID:Lr7f11OS
それでは、これより投下します
218マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 01:48:25 ID:Lr7f11OS
「行くぜ! 俺の必殺技……パート2!!」

――Full Charge――

電王の掛け声に応えるように、チャージされたフリーエネルギーがデンガッシャーの剣先へと収束されて行く。
チャージが完了し、デンガッシャーから離れたオーラソードは、周囲のワームの身体を切り裂きながら飛んで行く。
電王が振るうデンガッシャーに合わせて、空を舞うオーラソードは滑るように飛んで行くが――

「えぇっ……!?」
『Protection,EX』

その先にいたのは、高町なのはであった。
なのはの危機を察知したレイジングハートは咄嗟にバリアを展開し、オーラソードを弾く。
しかし、直撃を防ぐことには成功したが、それでも衝撃はなのは側にも伝わる。
結果、バリア毎弾かれたなのはの体は、そのまま地面へとたたき付けられることとなった。

「ハイパー……キック!!」

――Rider Kick――

ハイパーカブトは真っ直ぐに、宙に浮かんだコキリアワームへと真っ直ぐに飛んで行く。
まるで竜巻のようなタキオン粒子を纏ったその脚は、激しい火花を散らせながら、コキリアワームを打ち貫いた。
着地すると同時に、時間は元の流れを取り戻し、展開されたカブトの装甲も元の位置へと戻って行く。
やがて、変身を解除すると同時に意識を失った天道は、過度の疲労からか、その場に倒れ込んだ。

その後、意識を失った天道は、すぐにアースラの医務室へと運び込まれた。
幸い天道のダメージはそれほど重い訳でも無く、すぐに意識を取り戻す事が出来た。
それも起きるや否や、天道の態度は相変わらずの尊大さ。
流石の加賀美もはやても、呆れずにはいられなかったという。
勿論、呆れた反面、天道がいつも通りの態度であることには安心を覚えたが。

「どう? 美味しい?」
「……んー…………」

現在は、はやてがお見舞いついでに作った料理を、天道が食べている最中である。
メニューの内容は“オムライス”。
単純で平凡な料理でありながらも、料理人の実力を見る事が出来る料理だ。
そんなオムライスを、しばらく味わった天道が出した答えは。
219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 01:49:45 ID:xVGFlWJv
支援
220マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 01:52:21 ID:Lr7f11OS
 
「……まぁまぁだな」
「うんうん、まぁまぁかぁ……って! 美味しくないんかい!!」
「……まぁまぁだな」

はやての料理に対する評価は一言のみ。“まぁまぁ”だ。
そんな天道の態度に多少の落胆を覚えたが、なんだかんだで美味しそうに食べてくれている。
まぁ、これはこれでいいのかな?等と考えながら、はやては天道を眺めていた。


ACT.20「FULL FORCE-ACTION」


それから数日の日をおいて。
今日も天道は、このアースラ内での生活を強いられていた。
……と言っても最近は以前程の危険人物扱いでは無く、良太郎並の行動は許されていたが。
良太郎はたまに元の家に戻っているらしいが、まぁそんなことは天道にとってはどうでも良かった。
それよりも天道にとって最も重要なのは、今の自分がこの戦艦内でどう生きていくかだ。
そしてその答えが、天道が今まさに立っている場所にある。
目の前にあるのは、沢山の食材に、まな板、包丁、その他諸々。
そう。ここは厨房だ。アースラの食堂で、皆の料理を作る、厨房だ。
そんな場所に、天道総司は立っていた。
それも、白いエプロンを着けた―――コック姿で。

「よし、では今日も一日。旨い飯を作るぞ!」
「「「はいッ!!」」」

天道の掛け声に、厨房の料理人達は声を揃えた。

221名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 01:54:05 ID:xVGFlWJv
白包丁の男キター
222マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 01:56:28 ID:Lr7f11OS
すぐに天道は自分の持ち場につき、局員達の昼食の準備を始める。
手慣れた手つきで、冷蔵庫から持って来た新鮮な野菜に包丁を突き立てて行く。
その包丁さばきは見事の一言。
素早く野菜を捌きながらも、決して形を乱すこと無く、常に一定の間隔で綺麗に捌いている。
厨房で料理を作る局員達は、目を輝かせてそんな天道の包丁捌きを見詰めていた。
さて、何故天道が食堂で料理を作っているのかと言うと―――時は数日前へと遡る。


それはある日の事だった。
いつも通りに、クロノに持って来られた料理を完食した天道。
そんな天道が、箸を見つめながら、ぽつりと言った。

「やはり……旨くないわけじゃないが……旨い訳でもないな」
「失礼な。だいたい君はそんな贅沢を言える立場じゃないだろう?」

天道の食べっぷりを黙って見ていたクロノであったが、これには流石に呆れ顔。
クロノも小さなため息を落としながら、むすっと言い返す。
一方で天道は、箸を持ったまま、何かを考えるような姿勢で食器を見詰めるのみ。

「そんなに不満なら、食べなければいいだろう? それか、君が自分で作れば――」
「――それだ」
「へ……?」
「俺をここの厨房へ案内しろ」
「…………」

クロノが言い終えるのを待たずに、天道はすっくと立ち上がった。
困ったクロノは、渋りながらも艦長であるリンディに連絡を入れ、指示を仰いだ。
223名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 01:58:08 ID:xVGFlWJv
さすが天道!俺達に(ry
224マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:00:30 ID:Lr7f11OS
結果、答えは即座に帰って来た。

「面白そうだから、いいじゃない」

と、これがリンディ・ハラオウン艦長が出した答えであった。
アースラで起こったあらゆる責任を負うべき館長である筈なのに、そんなに軽くていいのかと
クロノは突っ込みたくて仕方がなかったが、どうせ自分が何を言っても無駄なのだろうと。
またしてもクロノはため息を落としながら、リンディの思いつきに付き合うことにした。
そういう訳で、早速天道は食堂へと招かれ、自慢の腕前を奮って見せた。
リンディとクロノ、二人分の晩御飯を作ることになった天道は、“味噌汁”、“鯖の味噌煮”、に、白米という非常に単純な料理を作った。
当初はあまりの平凡さに、期待外れだ何だと言っていたが―――
一口食べればそんな考えはすぐに吹き飛んだ。
天道の料理を食べた二人がどんな反応を示したのか。それは最早想像に難くない。
料理も単純ながら、二人の感想も至って単純。「旨い!」の一言。
こうして天道の料理の噂は瞬く間にアースラ内に響き渡り、翌日には厨房で実際に料理を作る立場に。
翌々日には、厨房の料理長のポジションを任せられる程になっていた。
これが、アースラ内での天道の自由な行動を許す大きなきっかけになったのは、まず間違いないだろう。
たった数日ではあったが、天道の料理を食べた人は、明らかに天道に対して好意を抱いていたからだ。
実際、この数日間、アースラの局員達はこの食堂の料理ばかりを好んで食べるようになったと言う。
と言うのも、天道の料理は、食べた者を昇天させてしまう程の美味しさなのだ。
そうなるのも当然と言えば当然だろう。


と、こうして料理長として料理を作る事になり、現在に至る訳である。
天道が野菜を刻んでいると、ふと背後から何者かの気配を感じた。

「止まれ。俺が料理をしている時、その半径1m以内は神の領域だ」
「…………」

背後の気配が止まった。流れる沈黙。
キリのいい所まで作業を終わらせた天道は、ゆっくりと背後へと振り向いた。
225名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 02:03:54 ID:xVGFlWJv
天使になったわけですね。わかります
226マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:08:07 ID:Lr7f11OS
 
「なんだ、クロノか。どうしたんだ?」

天道に話しかけた相手は、他ならぬクロノ・ハラオウンであった。
当初は厨房の料理人にアドバイスでも頼まれたのかと思ったが、相手がクロノなら話は別だ。
一応形だけでも天道はクロノの指示に従っている以上、蔑ろにする訳にも行かない。
天道も警戒心を解き、エプロンを外して応対した。

「何だ。そんないつも通り真剣な顔をして」
「天道……君の処分が決まった。一緒に艦長室まで来てくれるかな。
 ……あといつも通り真剣な顔って何だ。」
「気にするな……ようやくか。待ちくたびれたぞ」

クロノはどことなく心外そうに呟くが、天道はお構いなしにエプロンを脱ぎ始める。
考えてみれば、天道がクロノとこんな風に話すようになったのも、ごく最近――
とくに、暴走したカブトを、ザビーが身を呈して救った時からなのだろう。
あれ以来、天道は少しだけクロノという人間を見直したのだ。あくまで少しだけだが。
きちんとエプロンを畳んだ天道は、それをクロノに渡しながら、不敵に微笑んだ。




それからややあって天道は、クロノに案内され、艦長室の前まで連れられた。
どうやらクロノは艦長室の中まで同席する必要はないらしい。
案内を終えたクロノは、「自分の役目は終えたから仕事に戻る」と、そのまま天道の前から姿を消した。
調度クロノの姿が見えなくなると同時に艦長室のドアは開かれた。
中から、自分を呼ぶリンディ・ハラオウン艦長の声が聞こえる。
声に導かれ、天道は一歩踏み出す―――刹那、室内の予想外の和風さに一瞬とは言え天道は自分の目を疑った。
無理もない。これまで天道は、アースラ内部で機械的な部屋ばかりを見て来たのだ。
それなのに、まさか艦長室がこんなにも庶民的な部屋だと一体誰が想像しただろうか。
と言っても、天道にとって和風の空間というのはかえって落ち着ける空間なのだが。

227マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:09:23 ID:Lr7f11OS
 
「どうしたのかしら? 天道さん。この部屋がそんなに意外だった?」
「……ああ。少しはいいセンスをしてるようだな」
「それはどうも」

天道がこの部屋に入った瞬間から既に表情に小さな微笑みを浮かべていたリンディだが、
天道にセンスを褒められた事に気を良くしたのか、リンディはさらに上機嫌そうに微笑み返した。
いや、天道にとってはこんな会話はどうでも良い。
重要なのは、自分に下される処分についてだ。
と言っても、管理局――というよりもネイティブの連中が天道の力を必要としている以上、
天道に実害が及ぶような処分が下されるとは思えないが。
それ故に天道は、自信満々といった雰囲気で、腕を組みながら言った。

「そんな話はどうでもいい。それより、俺に下された処分とやらを聞かせて貰おうか」
「まぁそう慌てないの……処分と言うよりも、ちょっとしたお話があって呼んだだけだから」
「話だと? 言っておくが俺は、管理局に入るつもりは無いぞ」
「ええ、その話なんだけど……」

ばつが悪そうに苦笑しながら、リンディはテーブルのボタンを押した。
同時に、リンディと天道の眼前に、宙に浮かぶモニターが現れる。
天道もいい加減見飽きた技術である為に、今更驚いたりはしない。
モニターに映し出された人物は、天道の顔を見るなり、満面の笑みを浮かべ、画面に身を乗り出した。
228マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:12:00 ID:Lr7f11OS
 
「いやぁ〜……貴方が天道さんですか! どうやら噂通りの方のようですね!」
「…………」

モニターに映る一人の男。歳は中年程。体格は小太り。
正直言って、どこにでも居そうな普通の男だ。
天道はモニターに映った男に、冷たい視線を送る。

「……どうやら噂通り、クールな方のようですね! いやぁ益々素晴らしい!」
「要件は何だ。わざわざこうして俺を呼び出したんだ。俺に何か言いたい事があるんだろう」
「いやぁ〜……本当に素晴らしい、まさに天道さんのおっしゃる通り!
今回は一つ、話したいことがありましてねぇ……」

モニター画面の中で、気のいい笑顔を続けていた男の表情が変わる。
笑顔という点では変わらないが、その中にもどこか真剣な色合いを浮かべたような表情。
天道には、この男がどこか気味悪く感じられた。

「あ、その前に……私はネイティブの根岸と申します。以後お見知りおきを」
「ネイティブだと……?」
「ええ、ですがその件はまたの機会に。時間も無いので、今は天道さんへの処分だけ伝えさせて頂きます」

ネイティブという単語を耳にすると同時に、天道の目付きも変わる。
何せ今最も優先すべき謎なのだから。
天道はちらりとリンディを見やるが、リンディも申し訳なさそうにゆっくりと首を横に振るのみ。
どうやらリンディ提督ですら、ネイティブという言葉についてはあまり知らないらしい。
仕方がない……と、天道はため息混じりにモニターに視線を戻した。

「えー……結論を言わせて貰うと、天道さんにこれといった処分はありません。
 そしてリンディ提督とアースラスタッフ一同には、今後は天道さんの指揮下に入って頂きます」
「「な……!?」」
229名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 02:14:16 ID:xVGFlWJv
根岸…ついに来たか…
230マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:14:31 ID:Lr7f11OS
 
不敵な作り笑顔を全く崩さないままに、根岸が言った。
対照的に、天道とリンディの二人が驚愕に表情を固める。
もちろんリンディにとってそれは不服な事なのだろうが、天道とていきなりこんなことを言われても訳が解らない。
つまりは、自分を管理局に入れるということだろうか?
だとすれば、天道はそんな命令に従うつもりは無い。
というよりも、アースラのスタッフを、それほど天道は欲してはいないのだ。
自分一人でも十分戦える以上、本当に味方として信用できるかもわからないような組織を側に置く天道ではない。
と、天道がそんな事を考えていると、横に座っていたリンディが声を張り上げた。

「ちょ、ちょっと待って下さい! それは一体――」
「まぁまぁ落ち着いて! 別にリンディ提督の階級を下げるとか、天道さんを上司
 として管理局に招き入れろとか、そんな事を言ってるんじゃありませんよ」

リンディの言葉を遮って、根岸が苦笑気味に続ける。

「リンディ提督以下アースラスタッフ一同には、ただ天道さんの手助けをして欲しいんですよ」
「手助けだと……?」
「ええ、貴方は今まで通り、ワームを倒してくれればいい。
 そのために必要であれば、彼女達の力を借りればいいんです」
「……生憎だが、俺にそんな手助けは必要な――」
「まぁまぁまぁ! そう言わずに! あって損するものじゃないでしょう!
 つまり、貴方は今まで通り、我々は貴方に協力したい……そう言ってるんですよ」

またしても天道が言い終える前に、根岸が割り込んだ。
正直あっさり納得することは出来ないが、現時点では根岸の言い分に、
天道にとって損失になるような事が見受けられないのも事実だ。
231名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 02:22:43 ID:hlE/vpCg
支援
232マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:23:09 ID:Lr7f11OS
もしも向こうから何らかの要求が突き付けられたなら、また話は変わって来るが。
根岸は正直言ってZECTの加賀美総帥や三島と同じくらいに胡散臭い。
だが、根岸が自分の力を必要としていることに恐らく嘘はないのだろう。
ならば、こちらから利用してやるまで。
以上の点を踏まえて、暫く考えた後、天道は結論を出した。

「……いいだろう。ただし、俺の邪魔だけはしない事だな」
「えぇ、はい、それはもちろんです! リンディ提督も、分かってますね……?」
「……わかりました。私たちは今まで通り、仮面ライダーと協力して敵を倒せばいい……ということですね?」

根岸の問いに、リンディは少し表情を曇らせながら、答えた。
まぁ根岸のような胡散臭い男にいきなりこんなことを言われれば誰だってそうなるか、
などと考えながら、天道もリンディの顔を見つめる。
リンディに言わせれば、天道もまた仮面ライダーの一人。
ならば、今まで通り仮面ライダーをサポートすればいいと判断したのだろう。
リンディの答えを聞いた根岸もまた、満足そうな笑顔を浮かべ、大きく頷いた。

こうして、結果的に天道は無罪放免。
それどころか、アースラスタッフという心強い味方を手に入れる事になるのであった。



天道が食堂に戻った時には、局員達の朝食も終わり、人影も少なくなってきた所だった。
食堂に見えるのは、サボり癖があるのか仕事が暇なのかは知らないが、のんびりと朝食を食べている数人のみ。
そんな人々も次第に食事を終え、自分の持ち場に戻って行く。
そんな中で、段々と人が居なくなってゆく食堂を見守っていた天道の目に、明らかに不自然な姿をした一人の男が映った。
鋭く尖った二本のツノを持ち、頭から足先まで全身真っ赤っかという異様な姿を持った怪人。
野上良太郎に取り憑いた、赤鬼の姿をモチーフとしたイマジン。
名前は―――モモタロスというらしい。
どうやら初陣の時から、良太郎がイメージしていた桃太郎と、このイマジンのイメージが一致していたらしい。
そんな理由で、いつからかモモタロスと呼ばれるようになったこのイマジン。
本人はそんな名前のセンスに非常に不服そうだが。
良太郎に取り憑いたばかりのモモタロスは、誰とも打ち解けようとはしない。
ただ、たった一人でふて腐れたように食堂の椅子に寝そべっていた。
傍らに置かれたコーヒーは既に冷めている様子で、どうやらモモタロスは長時間ここでダラけていたのだろうという事が伺えた。
233マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:25:30 ID:Lr7f11OS
 


良太郎や他の局員達にいつの間にやらモモタロスと名付けられたこのイマジンは、
何をするでもなく、ただぼーっと天井を眺めていた。
モモタロスは今、非常に苛立っていた。
良太郎という特異点の少年に取り憑いてしまった事に関しては、今はそれほど悔やんではいない。
寧ろ、イマジンとして過去を侵略するよりも、正義のヒーロー電王として、侵略者を倒す方が、段違いにカッコイイ。
元々派手にカッコよく戦いたかった彼にとっては、電王として戦えるという事はプラスなのだ。
1番の問題はその後。電王としての戦いの中で、自分の最高にカッコイイ―筈の―必殺技を、なのはにぶつけてしまった事だ。
勿論、彼に言わせればあんな邪魔なところにいたなのはが悪いのだ。
だが、それでいいのかという疑問が、彼の心を苛む。

なのはが悪いと決め付けて逃げる事は確かに簡単だが、それは本当にカッコイイのか?

小さな子供を傷付けて、自分は平然と罪から逃れようとする。
そんな形が、本当に彼が望んだ物なのか?
答えは、Noだ。
今の自分が最高にカッコ悪いという事は、彼自身が1番理解しているのだ。
だが、だからと言って不器用な彼に、今更素直に頭を下げるなど、出来る筈もない。
だからこそむしゃくしゃと悩んでいるのだ。
良太郎には口を利いて貰えなくなり、何処か責められている気がしてなのは達に顔を合わせる事も出来ない。

「畜生……良太郎の奴、人を悪者みたいな目で見がって……」

天井を見詰めたまま、小さな声で呟いた。
寂しさや虚しさといった感情が嫌と言う程に込められた声。
それは、周囲の者が見ているだけでも、何処か可哀相に思えてくる程だった。
234マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:27:26 ID:Lr7f11OS
ややあって、うじうじと寝転んでいた彼の視界に、一人の男が入った。
自分を見下ろすその顔には、確かな見覚えがある。
天然パーマに、嫌に落ち着き払ったいけ好かない野郎――天道総司だ。
何か言いたい事でもあるのか、天道はただ自分を見下して気味悪く立っていた。

「……なんだよ?」
「ここは寝る所じゃない。飯を食わないのなら出て行け」
「っるせぇな! 言われなくても出てってやるよ!」

言われた途端に腹が立った。
すぐに立ち上がったモモタロスは、天道に背を向けて、ズカズカと歩いて行く。
別に行く宛てはないが、今ここにいることが胸糞悪い。だから出て行く。
そう考え、食堂を出ようとするが―――

「待て」
「……あ?」
「お前、顔が赤いぞ」
「な……!? べ、別に赤くなんてねぇよ!?」

食堂のドア付近で振り向くと、何やらトレイに食器を乗せながら、天道が言った。
顔が赤い。この一言で、何故か心の中身を見透かされたような気がしたモモタロスは、少し焦ったようにそれを否定する。
いや、元々モモタロスは顔が赤い訳だが。
と、モモタロス本人も、ややあってその事実に気付いた。

「って……俺の顔は元々赤いだろうが!!」

モモタロスが怒鳴るが、天道は耳を傾ける様子も無く、マイペースに作業を続ける。
トレイに乗っているのは、魚と白いご飯。
それをテーブルに置いた天道は、モモタロスに視線を送った。
235名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 02:29:00 ID:xVGFlWJv
支援
236マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:31:22 ID:Lr7f11OS
 
「お前、今日は何も食べてないだろう」
「別にちょっとくらい食わなくたって死にはしねぇよ」
「いいから食べろ。腹が減っていては、余計に苛々するだけだ」

天道の言葉に、モモタロスは誰が食うもんかとそっぽを向くが――
刹那、モモタロスの腹がぐうと音を鳴らした。
そういえば、昨日の夜からろくに何も食べていなかったなぁと。
そんな状態で天道の作った料理を見てしまって、腹が減らない訳が無かった。
ご飯からは白い湯気が立ち上り、味噌に漬けられた魚は美味しそうな香りを醸し出す。
気付けばモモタロスは、渋々ながら天道が誘導するテーブルの席に着席していた。
あくまで渋々ながらだ。別に食べたい訳じゃないからな! と心の中で繰り返しながら。

「……礼なんて言わねぇからな」
「いいから黙って食べろ」
「チッ……相変わらずいけ好かねぇ野郎だぜ……」

言いながら、天道が作った「鯖の味噌煮」という料理を箸で口に運ぶ。
口に入った鯖を、歯で噛み砕いた瞬間―――
モモタロスの目はかっと開かれ、口元が緩んだ。

「どうだ?」
「ッ……うっめぇぇぇぇぇええええええぇ!!!」

天道な問い掛けに答えながらも、残った鯖味噌と白米を、ガツガツと頬張る。
美味い。美味過ぎる、と。
あまりの美味しさに、初めての料理を次々と飲み込んで行く。
モモタロスがそんなペースで食事を続けると、鯖味噌も白米もあっという間に無くなっていた。
完食したモモタロスは心底幸せそうな表情で腹を叩きながら、椅子の背に体重を預けた。
ややあって、ふと天道を見てみると、天道はやけに自信ありげな表情で、人差し指を天井に向けていた。

「おばあちゃんが言ってた……料理とは常に人を幸せにするべきものだ……ってな。
 どうだ。少しは気持ちが楽になったか?」
「へっ、別にメシ食ったくらいで変わるかよ」

天道に顔を背け、腕を組んで答える。
確かに言われてみれば、料理を食べている間はまるですべて忘れたように幸せな気持ちだった気がする。
気はするが、素直になれないモモタロスは、改めて美味しい等とは絶対に言う気は無い。
237マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:33:56 ID:Lr7f11OS
第一、そんな気がするだけでは意味が無いのだ。
問題は良太郎やなのは達にこれからどう顔向けすればいいのか。
例え一時的に気持ちが切り替わろうが、根本的な問題を解決しない事には何も変わらないのだ。
そんなモモタロスの懸念を知ってかしらずか、天道がぽつりと呟いた。

「そうか。ならば自分はどうしたいのか……まずはそこから考え直すんだな」
「あ? 俺がどうしたいかだ?」
「変な言い訳を考えずに、素直になることも時には必要という事だ」

言いながら、天道は食器の乗ったトレイを厨房へと運んで行く。
何が言いたいんだよと言い返したかったが、どうせ天道はそこまでは教えてはくれないだろう。
自分で考えろ、と。恐らくはその一言で済まされてしまう。
ならばわざわざ自分から悔しい思いをしに行く事も無い。
それ故に、モモタロスは、一人で考える事にした。

「あぁ……さっきのメシ上手かったなぁ」

と、その前にぽつりと一言。
結局、すぐには難しい考え事には入れないモモタロスであった。
しかしもしかすると、モモタロスがこうして少しは前向きに思考出来るようになった原因は、天道の料理にあるのかも知れない。
と言っても、それは誰にも――おそらくモモタロス自身にもわからないことだろうが。
238マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:38:23 ID:Lr7f11OS
 


「ちょっとちょっと……これはやり過ぎだって……!」

一方で、アースラのブリッジ。
このある意味いつも通りの空間で、いつも通りにエイミィが呟いた。
しかし、今回は一つだけいつも通りではない。
これまでにも数々の怪人を見て来たエイミィに、今更“やりすぎ”とまで言わせるもの。
それは、彼女達が仮面ライダーに出会ってから、未だかつて経験した事の無い規模での事件。

「どうしたんだ、エイミィ」
「どうしたもこうしたも、これはやり過ぎだよ!」

エイミィの背後から、クロノが声をかける。
エイミィは冷や汗を流しながら、自分が見ていた映像をブリッジ全体に見えるように、巨大なモニターに表示させた。

「なっ……!?」

と、同時に唖然とした。
それは、クロノの表情が次第に青ざめて行くのが見て取れる程。
モニターに映った映像は、町の銀行らしき施設をこれでもかという程に破壊する緑の怪人。
周囲に無造作に散らばる物は、怪人が銀行から奪った大量の札束。
そして何よりも二人を驚愕させたのは、怪人の周囲を取り囲む、数十台のパトカーだった。
これまでのアンデッドやワーム、オルフェノクは全て、割と目立たない範囲で活動していた。
だからこそ、管理局側もライダー達も、秘密裏にそれを鎮圧することが出来た。
仮に、多少規模が大きな戦闘が発生したとしても、ZECTが派遣したゼクトルーパー
達が立ち回ってくれたお陰で、大事にはならなかった。
それなのに、今回あの怪人が襲ったのは、よりにもよって銀行という公然的な施設。
そんな銀行を襲えば、すぐに警察に連絡は行くし、人々も集まってしまう。
結果、今回の事件は今までのように人々に隠し通すのは無理なレベルにまで発展してしまったのだ。
239名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 02:41:10 ID:xVGFlWJv
支援
240マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:44:42 ID:Lr7f11OS
どうしたものかと、エイミィは思考する。
今連絡が取れる戦力は、なのは達魔導師組と、天道に剣崎、それにクロノと良太郎。
ちらりとクロノを見ると、クロノの身体には未だに対カブト戦での傷が生々しく残っていた。
もし再び戦闘に巻き込まれれば、下手をすれば傷口が開いてしまうかも知れない。
しかしクロノは、例え怪我をしていようが自分の仕事とあらばすぐにでも駆け付けるつもりなのだろう。
それを考えると、今回のようなすぐには手出しが出来ない状況も一概に最悪とは言えないのかも知れない。
と、そんなことを考えていると、背後にもう一人の気配を感じた。
エイミィが振りかえると、ドアの前に立った良太郎が、顔をしかめながら、モニターを見つめていた。

「良太郎君……?」
「僕が行くよ」

まるで暴れまわる怪人に対して、怒りを露わにするように。
手に持ったライダーパスをぎゅっと握りしめながら言った。

「大丈夫なのか?君は……」
「大丈夫……やらなきゃいけない事は、わかった気がするから」
「……わかった。だけど今回は今までとは違う。警察や一般人がいることを忘れないように」
「うん。わかったよ、クロノ君」

小さな微笑みを浮かべると、良太郎は踵を返した。
どこか頼りない微笑みだが、どこか安心出来る微笑み。
矛盾しているが、どういう訳か、良太郎を止める気にはなれなかった。
そうして、良太郎が現場に赴く為、ドアの扉を開けると―――


「どうも! ウィーアー・チームデンライナー署です!」


その先に拡がっていたのは、何処までも続く砂漠と、巨大な赤い列車。
ポカンと口を開ける良太郎達三人を尻目に、列車――デンライナーから顔を除かせた少女は、笑顔でライダーパスを突き出した。
パスに描かれたマークは、どう見ても97世界の“警察署”に酷似したマーク。
良太郎は思わず自分のパスと、少女――ナオミの持つパスを見比べた。

「あ、あの……これは?」
「良太郎! いいから早く乗って!」
「ちょ……ちょっと!?」

良太郎の混乱を知ってか知らずか、ナオミの背後から現れたハナが、良太郎の腕を掴み、車内に引っ張り込んだ。
エイミィとクロノは唖然とした表情で、ただ見ているだけしか出来なかった。

「デンライナー署、初出動です!」

と、そんな二人の耳に、ナオミの明るい声が響いた。





パトカーに囲まれる中で、札束が無造作に詰め込まれた袋を持った怪人が、警察官達を威嚇する。
警察官達は一斉に銃を発砲するが、怪人の身体には何のダメージも与えられない。
この怪人、名をカメレオンイマジンと云う。
何故これ程の大金を欲しているのか―――それは、このイマジンが契約した人間が、“死ぬ程金が欲しい”と要求したから。
241マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:46:16 ID:Lr7f11OS
警察官達は圧倒的な力の差を見せ付けられながらも、パトカーの影から銃を放ち続ける。
そんな中、その中の一人が、パトカーの窓から無線機を引っ張り出して、大声で怒鳴った。

「五代雄介! 今何処に居るんだ、五代雄介!」

と、幾度かその名を呼ぶが、反応は無し。
こんな時に連絡が取れない事に苛つき、男―――「一条 薫」は小さく舌打ちしは、無線を車内に放り投げた。
そして、一条はすぐにパトカーから離れる。
同時に、カメレオンイマジンの放った炎が命中したパトカーは爆発。
物影に隠れながら、手に持った銃を睨む。
こんな銃では奴に傷を負わせる事すら出来ないだろう。
だが、それでも諦める訳には行かない。
物影から銃を突き出し、カメレオンイマジンを狙う。
しっかりと照準を定め、引き金を引く指に力を込める―――その時だった。
カメレオンイマジンの身体が大きく爆ぜ、その身体が1mほど後方に吹き飛ばされる。

―――五代か!?

思い当たる名を心の中で呼びながら、何が起こったのかと周囲を見回す。
そして一条の視界に入ったのは、カメレオンイマジンの前方に立つ一人の戦士。
クワガタムシを摸した頭。緑の複眼。赤いライダースーツ。そして、それを覆う銀の鎧。
ダイアを象った赤い銃を構え、カメレオンイマジンへと走り出した。
242名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 02:49:00 ID:xVGFlWJv
橘さんwwww
243マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:49:33 ID:Lr7f11OS
 


――俺は強い。

赤いライダー――ギャレンは、走りながら、右腕で構えたギャレンラウザーを、
左腕に乗せ、連射。カメレオンイマジンを、撃って撃って撃ちまくる。
撃つ度にカメレオンイマジンのボディは爆発し、攻撃が通っていることを実感する。
それは、ギャレン――橘に精神的な安息を与える。

――俺は強い……そうだ、何も心配する事は無い。俺は強いんだ!

ギャレンラウザーからの発砲を続けながらカメレオンイマジンに組み付いたギャレンは、
力任せにカメレオンイマジンを殴りまくる。
一発、二発と。凄まじいラッシュをカメレオンイマジンの身体に打ち込む。

「ワァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「……クッ!」

ギャレンの連続パンチがカメレオンイマジンのボディに減り込み、
その衝撃でカメレオンイマジンは徐々に後退して行く。
ギャレンの咆哮は止むこと無く、まるで怒りをぶつけるかのようにひたすらに殴る。
それこそ、一切の反撃を許さない程に荒々しく、目茶苦茶に殴りまくる。
やがて、ギャレンは腰にセットしたギャレンラウザーを再び抜き、カメレオンイマジンの身体に密着させ―――連射した。
ギャレンの咆哮に重なり、カメレオンイマジンが苦痛の声を漏らす。
それでも銃撃の嵐は留まる事をせず、カメレオンイマジンの身体を爆ぜさせる。
撃たれ続けたカメレオンイマジンは、銀行の扉に激突。同時に銃撃は収まる。

―――俺の勝ちだ!

ギャレンはラウザーのカードトレイを展開し、二枚のカードを取り出した。
一枚は、ダイアの5「ホエールドロップ」。
一枚は、ダイアの6「フライファイア」。
この二枚をラウズすることで放つコンボ技、「バーニングスマッシュ」で奴を倒す。
しかし、ギャレンがこれらのカードをラウズすることは無かった。
244名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 02:51:26 ID:xVGFlWJv
支援
245マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:55:09 ID:Lr7f11OS
慢心からか、ギャレンはカードをラウズする為、一度立ち止まってしまった。
特になんの対策もすることなく、敵の前で堂々と無防備な姿を曝してしまったのだ。
勿論、それは敵にとっては十分な隙。そんな一瞬の隙を突いたカメレオンイマジンが、
カメレオンを摸した腕の触手を伸ばし、ギャレンラウザーを叩き落とした。

「ウ、ウワァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

触手はギャレンラウザーだけには留まらず、ギャレン本体にまで跳ね飛び、ギャレンをめった打ちにする。
全身から激しい火花を散らせながら、数歩後退するギャレン。
一撃一撃が痛々しくギャレンを傷つけ、橘の悲痛な叫び声が響く。
そのままカードとギャレンラウザーを落としたギャレンは、
カメレオンイマジンが放った炎に焼かれ、装甲を爆発させながら宙を舞う。

「うわぁっ!?」

そして地面に落下すると同時に、ギャレンバックルから飛び出したオリハルコンゲートがギャレンの変身を解除させる。
人間としての無防備な姿を晒してしまった橘は、何もする事が出来ずに、ただ尻餅をついたまま後退りを続けるのみ。

「貴様……さっきは随分と遊んでくれたな?」
「う……うわぁあああ……!」

迫りくるカメレオンイマジンから逃れようと、近くに置き去りにされたパトカーに縋り付く。
どうやらギャレンが戦っている間に大半の警官は退避したらしく、ここにいるのは橘のみ。
カメレオンイマジンは、橘にトドメを刺すべく、橘の眼前にまで迫っていた。

「死ねッ!」
「ウ、ウワァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

橘が絶叫した、その時だった。
すぐ近くから銃声が響き、放たれた小さな弾丸がカメレオンイマジンの身体に減り込む。
何のダメージも無いものの、当たった銃弾はカランと音を立てて地面に落下。
完全に怯え切った橘を尻目に、カメレオンイマジンは銃撃の方向に視線を送る。
視線の先に居るのは、停められたパトカーを盾代わりに、背後から銃を突き付ける一人の刑事――一条だった。
246名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 02:57:42 ID:xVGFlWJv
橘さああああん!!
247マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 02:58:37 ID:Lr7f11OS
 
「貴様……」

最早橘に興味が無くなったカメレオンイマジンは、一条に向き直り、拳を振りかぶる。
腕に装着された触手を伸ばし、遠距離からの一撃で一条を仕留める為だ。
振り上げた拳を、一気に振り下ろす事で、触手は真っ直ぐに一条へと飛ぶ。
一条は、咄嗟に腕で頭をかばうような動作を取る。
それというのも、一般人である一条に、人間の目視できる速度を遥かに越えた攻撃を回避出来るわけがなく―――

「……なに?」

――否。一条に触手が命中する事は無かった。
一条の視界を、黒いワンボックスカーが遮り、同じようにカメレオンイマジンからの視界も遮られる。
イマジンが触手を伸ばすと同時に、二人の間に一台の黒いワンボックスカーが割り込みをかけたのだ。
「デンライナー署」と描かれたワンボックスカーのドアが開くと同時に、カメレオンイマジンは自分の目を疑った。
なんと、ワンボックスカーの中にいる一人の少女が、自分に向かって巨大なバズーカを構えているのだ。

「な……嘘だろ!?」
「行っけぇぇぇっ!!!」

しかし少女は――ハナは何の躊躇いも無くバズーカを発射。
放たれた巨大な砲弾は、カメレオンイマジンのボディに直撃し、そのまま遥か後方へと吹っ飛ばした。
ビルの壁にたたき付けられたカメレオンイマジンは、崩れ落ちてきた瓦礫を払いのけながら、何とか立ち上がる。
正直言ってハナの砲撃もそれなりに迷惑だが、誰もそれに突っ込む者はいないので問題は無い。
ハナの砲撃に続き、ワンボックスカーから降りた良太郎は、腰にデンオウベルトを巻き付け、カメレオンイマジンを睨んだ。

248マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 03:04:53 ID:Lr7f11OS
良太郎がライダーパスを翳すことで、デンオウベルトのターミナルバックルは白く輝く。
ターミナルバックルから舞い散るように現れた白い粒子は、良太郎の身体を包み、
黒い装甲を顕在させていく。
良太郎の「変身」という声に合わせて、良太郎の姿は電王・プラットフォームに変化。
戦闘能力はソードフォームには遥かに劣る、電王の素体フォームだ。
勿論それは良太郎にも十分わかっている事だし、このままで敵に勝てるとも思っていなかった。
だが、それでも良太郎に、モモタロスを呼ぶつもりは毛頭無く。
………………
…………
……。




戦闘が始まってから、どれだけの時間が経っただろうか。
電王はがむしゃらに向かって行くが、結局カメレオンイマジンには一撃もダメージを与える事が出来なかった。
どんな攻撃を繰り返しても、返され、流され、反撃される。
それもその筈だ。プラットフォームには、対した戦闘力など存在しないのだから。
だがそれでも、電王はカメレオンイマジンに立ち向かう。
効かないと分かっていながら、震える拳を振り上げ、力いっぱい殴り付ける。

「フン!」
「うっ……」

勿論、すぐに受け止められ、反撃の一撃を受ける。

「何やってるの良太郎! 早くモモタロスを呼んで!」

ハナの声が聞こえるが、電王はまるで意に介さず、カメレオンイマジンとの戦闘を続ける。
そもそも良太郎が、モモタロスの助けを必要としていないのだ。
いや、出来る事なら一緒に戦ってほしい。でなければ死ぬ。
だが、それを理解していても、良太郎には、モモタロスを戦わせたくない理由があった。
故に、良太郎は絶対にモモタロスを呼ばない。
今頃モモタロスは、アースラ内で一人で悶々としていることだろう。
何せ戦うために現代に来たのに、戦わせてもらえないのだから。
そんな勝ち目の無い戦闘が随分と続き、やがてカメレオンイマジンが口を開いた。
249マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 03:08:01 ID:Lr7f11OS
 
「おっと……俺の目的はお前じゃない。
 こんな事をしている間に金が無くなってしまっては元も子も無いな」
「うぐっ……!」

意識が朦朧とし始めた電王の耳に届いた声。
行かせるものかとばかりに電王は立ち上がるが、すぐに背中に重い肘打ちを貰い、再び地面に倒れ伏してしまう。
何も出来ない電王を尻目に、カメレオンイマジンは札束が押し込まれた袋へと近寄ろうと歩き出すが――

「させないよ」
「何!?」

そんなカメレオンイマジンの眼前に、桜色の光の柱が聳え立った。
慌てて動きを止めたカメレオンイマジンは、すぐに光の発信原である空中に視線を送る。
そこに顕在したのは、白きバリアジャケットを身に纏った少女――高町なのは。
なのはは、ゆっくりとカメレオンイマジンの目前に降り立つと、レイジングハートを突き付け、言った。

「こんな大金、どうするつもりなのかな……?」
「お前には関係ないだろう!」

カメレオンイマジンが答えると同時に、レイジングハートの先端から、轟音と共に桜色の閃光が轟いた。
ディバインバスターのチャージを短縮した、ショートバスター。なのはの技の中では、比較的威力の低い技だ。
問答無用のショートバスターに飲み込まれたカメレオンイマジンは、フラつきながらも、なんとか持ちこたえる。

「何なんだお前は! いきなり攻撃なんて卑怯だろう!」
「質問してるのは私だよ。もう一回、頭冷やしてみる?」
「な……!?」

刹那、カメレオンイマジンは、背筋が凍りつくような感覚に襲われた。
なのはと目を合わせた途端に、まるで蛇に睨まれた蛙のように。
なのはの目付きに、カメレオンイマジンは素直に恐怖という感情を抱いたのだ。
250マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 03:12:03 ID:Lr7f11OS
それもそのはずだろう。
なのはは今、非常に怒っていた。
理由もまた、非常に簡単。
一つは、銀行強盗まがいの犯罪を起こし、警官や多くの人を傷付けた事。
一つは、橘や良太郎といったなのはの仲間達を傷付けた事。
それらはなのはの中の怒りのスイッチを入れるには十分過ぎる理由であった。
しかし、カメレオンイマジンにそんなキレた人間の相手をするつもりは毛頭無く。
というよりもこんなおっかない相手と戦う気は毛頭無く。

「ちっ……こ、ここは一度退いてやる! 覚えていろ!」
「……な!?」

有りがちな捨て台詞を残したカメレオンイマジンはすぐにその体から体色を抜き始めた。
そして、なのはが再びショートバスターを放とうとした時には既に、カメレオンイマジンはその姿を消していた。
これもカメレオンイマジンの能力の一つ。自分の姿を消してしまうという、悪質な能力だ。
なのははレイジングハートを握り締めながら、小さなため息を落とした。

一先ず、カメレオンイマジンは後回しにするとして、この状況を把握する為、周囲を見渡す。
横転し、炎上するパトカーが数台に、「デンライナー署」と描かれたワンボックスカーが一台。
そして、ボロボロになった良太郎に駆け寄るハナと、気を失った橘。
そして、見知らぬコートを来た男――一条。
今来たなのはには、この状況が理解出来る筈も無く。
なのはは再び、今度は一際大きなため息を落とした。



銀行から数km離れたオフィス街の工場で、カメレオンイマジンはその姿を顕在させた。

「クソッ……何なんだ、あいつらは! お陰で計画が台なしだ!」

工場の壁を叩きながら、なのは達に対する愚痴を零す。
奴らさえ現れなければ、自分はとっくに金を奪い、契約者と結んだ契約を果たし、過去へ飛べた筈なのだ。
成功すれば過去をぶち壊して、イマジンの支配する世界に変える大きな一歩となる筈だったのに。
そんなことを考えながら歩いていると、前方から一人の女が現れた。
黒い喪服を着た女は、表情一つ変えずにカメレオンイマジンの目前まで迫る。

「力が欲しいか?」
「何だ、貴様は!?」
「我々はワーム。貴様らが望む闇の世界に、我らの力が欲しくないか?」

カメレオンイマジンは、暫し悩んだが、結局女の申し出を受ける事にした。
計画を果たす為になら、最早手段は選んでいられない。
確かにこの女は胡散臭いが、過去に飛んでしまいさえすえばこちらの物なのだから。
こうして、今ここにイマジンとワームの連合軍が結成されたのであった。
251マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 03:15:06 ID:Lr7f11OS
 


「ねぇ兄貴……今の聞いた……?」
「……闇の世界、か……」

一方で、カメレオンイマジンと喪服の女が話している場所から
やや離れた物陰で、三人の男達が静観していた。
一人は、影山瞬。地獄兄弟、弟だ。
一人は、矢車想。同じく地獄兄弟、兄。

「闇の世界は、俺達だけの世界だ」
「うん……あんな奴らに、俺達の世界を語って欲しくないね」

二人は顔を見合わせ、物陰から鋭い視線をカメレオンイマジンに飛ばす。
まるで自分のテリトリーを侵される事を嫌う野生の獣のように。
そんな二人の声に反応して、すぐ側で寝転がっていた三人目の男が、気だるそうに起き上がった。

「……勝手にしろ。餌さえ取れれば、それでいい。」

三人目は―――浅倉威は、不敵な笑みを浮かべながら、矢車に向き直った。
そんな浅倉の背後の窓ガラスには、三匹のミラーモンスターが、腹が減ったと言わんばかりに咆哮していた。
252マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 03:16:13 ID:Lr7f11OS
 


スーパーヒーロータイム
「NEXTSTAGE〜プロローグ・X〜」


「何なのよ、一体!」
プレシア・テスタロッサは、ただひたすらに走っていた。
とにかく帰ろう。早く家に帰ろう。
その一心で、ひたすらに走り続けていた。
突然現れた仮面ライダー――シザースは、プレシアに一言だけ、
「逃げてください」と告げ、そのまま緑の化け物に向かって行ったのだ。
状況はさっぱりわからないが、プレシアにも、自分には何の力も無いという事だけはわかっていた。
それ故にただ逃げ続けるしか出来ずに、訳も分からず言われるままに逃げるのみ。
そうして何処まで走り続けただろうか。
走り続けて疲れ果てたプレシアの元に、一人の少年が現れた。

「また貴方なの……?」
「あはは、久しぶり、プレシア」

プレシアを呼び捨てで呼ぶ少年――キング。
キングは、楽しそうに笑いながら、プレシアの周囲を歩き始める。

「それよりさ、まだ自分のこと思い出せないの……?」
「……貴方は私の事を知っているの?」
「さぁ、どうだろうね?」

キングは、楽しそうに笑いながら、1枚の写真を取り出した。
写真に写っているのは、金髪のロングヘアーをツインテールで束ねた少女。
携帯で撮った画像をプリントアウトしたんだ 等と自慢げに語りながら、
キングはその写真をプレシアに手渡した。

「一つ教えてあげるよ。その子の名前はフェイト・テスタロッサ」
「フェイ……ト……?」
「そう、あんたの大切な大切なたった一人の娘だよ。」

愉快そうに言うキング。
プレシアは、「フェイト」と呼ばれた少女の顔を見ていると、何故か頭が痛くなる気がした。
何か、大切な事を。どうしても思い出さなければいけない事を、自分は忘れているような。
そんな気がしたからだ。
253マスカレード ◆RIDERo79Vw :2008/09/12(金) 03:26:24 ID:Lr7f11OS
あぁぁぁ……ようやく投下終了です。
もう時間かかりすぎですね、申し訳ないです。
では今回のコメントという名の言い訳を良くある質問Q&A風に。

Q、ギャレンは何のために出てきたんですか?
A、これは悩んだんですが、もうすぐボドボドイベントには入る中で、
  ギャレンが負ける話の為だけに1話取るのがアレだったので、
  この辺で入れさせて頂きました。

Q、一条さんとクウガは?
A、もうすぐ本格的に出るんじゃないでしょうか。

Q、仮面ライダーZOは?
A、いつかは出すつもりですがまだ未定です。。。

Q、プレシアの話は?
A、スーパーヒーロータイム枠でのプレシア編は次回で終わりにします。

Q、デンライナー署?
A、G3の扱いに悩みに悩んだ訳ですが、デンライナー署ならなんとか警察署に繋げられるかと。
  あとデンライナー署の方が色々クロスさせ易いです。マスカレード的に。

こんなところでしょうか。
最近は忙しくてめっきり更新が途絶えてしまっていたマスカレードですが、
これからも何とか続けていきますので気長に待っていてもらえると幸いです。
ずっと書いてないとネタだけはたくさん浮かびますね。
仮面ライダーアマゾンとのクロス、電王&キバクライマックス刑事(+名護さん&音也)とのクロス、
牙狼〜GARO〜とのクロスなど……
ストーリーは頭の中で出来上がっている訳ですがまずはテッカマン優先で行かせて貰います。
では、長々と失礼しましたー
254一尉:2008/09/12(金) 11:55:06 ID:egxVPWgE
ふむデンライナー署支援
255名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 13:03:42 ID:xVGFlWJv
GJ!
とりあえず天道と管理局の決着は付いたみたいですね。まぁ根岸が現れた時点で波乱の予感ありまくりですけど。
橘さんはもう、もうね、ネタですね。
そして苦悩してるモモタロスを天道が何気なく悟らせる。良いッスねー。後半戦の電王の活躍が気になるところです。
個人的には天道とはやてがゴニョゴニョ…
256名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 15:31:55 ID:rFH0q8d/
GJ!!です。
橘さん、ご苦労様ですw
257ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/09/12(金) 19:45:05 ID:0YiQUmNz
GJ!!です、久しぶりに賑やかなライダー勢が見れて嬉しい限りです。
テッカマンの更新も、どうかご自分のペースで無理をなさらずに。

牙狼クロス<これにワクワクが止まりませんw 牙狼スキーとして。

さて、19:50からゲッターロボ昴の幕間を投下します。
今回は最初からぶっ飛んだ展開です、欝です。
258ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/09/12(金) 19:52:32 ID:0YiQUmNz
幕間「三万回目の滅び」

宇宙とは可能性――分岐し続けるもの。

並行世界の彼方、彼女は全てを失った。

総ては――守るべきものは崩れ去った。


<聖王の揺り篭>浮上と制圧から数時間後。
大規模次元震動によって、世界は侵された。
天空を引き裂き、後光を背負って現れた神の軍団は、圧倒的だった。
異教の神像の如き姿――無数の手を持った人型、獣頭亜人の形、不定形で光の粒子のみの存在。
それらは、言う。

『愚かな人類に――ゲッターに手を出す者どもに鉄槌を下す』

次元の壁を操り次元消去兵器アルカンシェルすら無力化する神々は、開戦から僅か数秒で――。
時空管理局本局を粉砕した。
崩れ去る世界の秩序の象徴――全てが狂った日。
その日から、秩序と安寧は過去のものとなり……狂ったように暴れる人々が敵となった。
鬼ですらない、暴徒。同じ種族でありながら、既に言葉通じぬ狂乱の徒。
残された時空管理局の兵力は地上本部を中心に再編成されていき、スバル・ナカジマとティアナ・ランスター、機動六課の生き残りも吸収された。
レジアス・ゲイズ中将が暗殺された後、混乱の地上本部を治めていた男の名こそ、神隼人。
ゲッターと云う狂気に憑かれた男の名だった。
世界の因果律は狂い、時空災害が相次いで発生し、ロストロギアの不完全な活性化は幾つもの次元世界を滅ぼした。
次元転移を繰り返す神との最終決戦――ミッドチルダの啼いた地獄、開始――銃火が、魔法が、次元消去兵器が乱れ飛んだ。
虎の子のXV級次元航行艦に、ありとあらゆる兵器を詰め込んだ艦隊、773隻。
次元転移を用いる敵を捕捉する為に使い潰された人員、五万と二千名。
そして。
全てが死んだ。
機動六課構成員の約九割が闘いの中で果てた。
骸の残る死に方ができたものは、ほぼ皆無だった。
時空管理局局員の約32パーセントが死亡したこの日を、人は<大破壊>と呼ぶ。


走れ、走れ、走れ。
体中から流血して、今にも息絶えそうな友たる少女、ティアナ・ランスターを抱えて、スバルは疾駆する。
相棒である脚甲のデバイス、マッハキャリバーは無言で車輪を廻し、白いバリアジャケットが風に揺れる。
遠く、神々との決戦で用いられた人造の巨人――ネオゲッターロボは、超合金製の骨格を曝け出して跪いていた。
青い装甲は残らず剥がれ落ち、次元干渉波によってぐちゃぐちゃに掻き乱された機械の内臓は火花を散らして沈黙している。
ネオゲッターの左腕は神を倒した際の衝撃波で砕け散り、もはや原形を留めていない。
プラズマボムス――動力源の暴走によって千切れ飛んだ三号機のコクピット――中の陸士は生きていまい。
二号機に乗せられていたティアナも無事とは云いがたく、確認できるだけで骨折が二箇所、出血もひどい。
声をかけながら駆けた。瓦礫の横に横たわる陸士の骸を痛々しく見ながら……。

「ティア……大丈夫、もうすぐ野戦病院に着くから――」

嘘である。
地上本部は『敵』の爆撃で崩壊し、治療が出来そうな施設は軒並み爆砕。
野戦病院と言うのは咄嗟のでまかせで、子供だって騙せそうにない陳腐な嘘だった。
街には、生存者なんて一人もいないのに。
でもティアナはうっすらと笑って、そう、と言った。

「……じゃあ、なるべく早く着きなさいよ……あんまり、長く我慢は……できないんだから」

「――うん」
259ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/09/12(金) 19:55:02 ID:0YiQUmNz
それっきり喋ることもなく、ただひたすらに生き残りを探して炎の街並みを駆け抜けた。
できれば、シャマル先生のような治療魔法に長けた人がいると良いのだが――。
決意を、言葉にした。

「ティアは、あたしが助けてみせる」

「何様よ……馬鹿」

こんなときでも軽口が叩けるパートナーに、苦笑しながら道を歩み。

絶望の形を見た。

全焼した街並み――火災の竜巻が全てを赤猫のように舐め取った後の地獄。
その中で息絶えた陸士達が点々と転がる――焼け焦げた部隊章『陸士108部隊』と隊長の証たるバッジ。
灰の山からかろうじて見えるそれが、スバルの瞳に焼きついた。

「何……これ?」

それだけが、父の死を知らせるモノなのだと気づき。
膝から力が抜けそうになる。家族は皆死んだ。
ギン姉は……この手で葬った――遠く、遠くへと。
それでも――ティアナを助ける為なら、生きられた。
涙を流し歯を食い縛って立ち上がり、唸り声だけが
響いた。
ティアナが、血を吐いて微笑んだ。焦土の大地によって赤黒い血が焦げ、異臭を放つ。
失われる命の輝き――紅。

「ス……バル……あんたは、生きなさい。最後まで、生きて、足掻いて、生き抜いて――」

「ティア?! やだよ、ティアまで……やだよぉ……」

閃光が視界を焼き潰す――戦闘機人であるスバルの視界が遮光によって薄暗くなる。
遥か彼方、かつては高層タワーのそびえ立つ地上本部のあった場所――今は瓦礫の山――から緑色の光の柱が立った。
幻想的でありながら、おぞましいと思わせる煌びやかな光の集束は徐々に激しくなり、やがて世界を塗りつぶした。
天空の裂け目――虚数空間へ繋がる穴に覆いかぶさるように緑色のオーロラが発生し、大地の亀裂から光が迸る。
噴き上がるそれは巨大な渦を形作り……空間が絶叫した。
数億枚の硝子が割れるような甲高い音が響き、虚空を覆う現世の理が崩壊していく。
世界の悲鳴、天の叫び、大地の唸り。

「何、これ……?」

呆然と呟き、腕の中のティアナの体温がどんどん失せていくのがわかった。
ティアナの顔は、死に直面しているにも関らず、うっすらと笑みが浮かんでいる。
呟き――彼女の死に際は、何処までも優しい幻に包まれていた。

「ティーダ……お兄ちゃん……私も……その……中に?」

彼女の見る夢が如何なるものであれ、スバルは止めたかった。
寂しかった、怖かった、嫌だった。
もう、独りになるのは――。

「やだぁぁああ! ティア、いかないで――」
260ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/09/12(金) 19:56:35 ID:0YiQUmNz
虚ろな、もうすぐ逝く者の瞳がスバルのほうを向くも、それは彼女を見ていなかった。
もっと遠く、総ての次元と因果を飛び越えた先にある、超越概念を見据える目。
歌うような声が紡がれた。

「スバル……あんたが、選ばれたって……私は、いくね――」

「――何それ、やだよ、あたしは……」


そして。


光に呑まれるようにティアナの柔らかな身体は解けていき……光の渦となって空に消えた。
後には何も残らず、彼女の握っていたクロスミラージュの銃身だけが、形見だった。
青い髪とハチマキが揺れ、がちがちと歯が鳴った。
スバルは絶叫――今度こそ、独りだった。

「うわあああぁぁぁぁ!」

まともに死体が残る死に方は、できなかったのだ。
死体が消失したのは、ティアナだけではない。
ミッドチルダで神々と戦い、息絶えた人間の霊魂が緑色の光となって上空の渦に飲まれ――。
異形の存在が顕現した。


上空で次元航行艦隊の群れを引き裂いていた神の一柱が、絶叫する空間の次元振動を感じ取り唸った。
雷鳴が鳴り響き、宇宙から降り注ぐ放射線が曲がっていく……大質量の転移の証。
古代印度の神々のような荘厳な鎧を身に纏った神は、全長六十メートルはある槍でXV級を撃沈すると、天空に穿たれた渦を指差した。
蜥蜴のような顔のそれは、牙を剥き出しにして告げる。

『いったい何者が、此処に“あれ”を呼ぶというのだ?!』

『この場で果てた人類の集合意識……いや、<進化の意志>そのものの介入か!』

『次元震発生……! ゲッター線指数上昇――奴が、来る』

瞬間、宇宙を震撼させる声(ヴォイス)が、ミッドチルダの次元宇宙に響き渡った。
無限螺旋。
並行世界で続く、滅びと云う連鎖の果て。
次元と時空を突き破って現れるそれは、神鳴る刃――宇宙を滅ぼす機械の化け物。
野太い男の声――スバル・ナカジマは、空を呆然と見つめて聞いた。
虚空すら引き裂く大規模次元干渉――赤黒い装甲の塊が覗く。
幾何学模様が呪文のように刻まれたそれが、脈動する。

《性懲りも無く、しつこい奴らだ……お前達の宇宙は、ゲッターが滅ぼす》

『キッサッマァァ! エンペラー!!』

『忘れはせん、あの並行宇宙で散った同胞――ここに集まった<神>の眷族に討たれよ!』

この宇宙に集結していた百数十柱の神々が一斉に天を見上げ、怨嗟の声をあげた。
数千億の人類を死に追いやった巨人の武具が相次いで亜空間へ向けて突き刺さり、次元振動波によって空間が歪み、炸裂。
ギリギリギリギリ、と空がそれこそ粘土のようにたわみ、原子崩壊を起こしながら閃光を放った。
崩壊光――空気が震動し、爆風によって瓦礫の山が宙を舞った。
されど、宇宙空間から伸びる巨大な腕にそれは通じず、反対にエネルギーを吸収した腕から幾つもの砲門が現れた。
幾何学模様を圧縮したような砲身が伸び、緑色のゲッター線が集束され――砲撃。
雷鳴のように、“それ”は叫ぶ。
天地が轟いた。
261ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/09/12(金) 19:57:51 ID:0YiQUmNz
《ゲッター、ビィィームッッ!》

天より降り注ぐ光の槍が、神々を貫きながらミッドチルダを汚染した。
<進化の意志>の体現たる光の柱は、人々を飲み込みながら地上を染め上げていく。
光――虚無すら内包した万能概念の輝きは人々の形を崩し、根源へと戻していく。
恍惚の表情、真理を悟った仙人の如き顔――。
同じく、ゲッター線によって同化、吸収されていく神の軍団――抗うように断末魔をあげるも、根源への回帰には抗えぬ。

『馬鹿な――我らが――』

『そうか――宇宙とは――“奴”に挑む為の――』

そして、天空を覆う数だった神々と次元航行艦隊までもが、その異形の存在に同化していった。
鋼はぐるりと曲がり、人間は無機物と有機物の境目も無く溶け合い、大質量の一部となる。


消えていく。


全てが――自分を除く総ての人類が、■ッ■ーエンペラーに取り込まれていく――。

「……みんな……いかないで……」

されど、大地から噴き上がる霊魂の流出は止まらずに、大切な人たちの魂もまた、溶け合う――零へ。
なのはさん――ティア――ギン姉――父さん――エリオ――キャロ――。

「やだぁぁあああっ!」

大地に染み込んだゲッター線が、スバルの、“選ばれしもの”の意志に呼応して膨れ上がり。
虚空を裂きながら、スバルが金色の瞳で咆哮した――悲しみの哀歌。

「みんなを、返せぇぇぇ!!」

戦闘機人タイプゼロの解放されたエネルギーが荒れ狂い、大地が粉々に砕かれる。
悪夢を突き抜けた果てに在る存在の召喚――否、同調による“それ”の自発的な転移。
赤い装甲に一対の角、悪魔のような黒い翼が翻り、風を切った。
上空に見える、総てを同化、吸収した巨大ゲッターが、呻き声のようなものを漏らした。
262ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/09/12(金) 19:58:53 ID:0YiQUmNz
《真ゲッター……三万回目の並行世界、ついに見つけたぞ――》

身長五十メートルの巨人は、腕からゲッター線を放射しながらチャージングしていく。
スバルは、青いショートカットの髪を揺らし、白いバリアジャケットをゲッター線で分解されながら、本能の告げるままに叫んだ。
呪いのように、謳うように、高らかに。
破壊の詩を。

「ストナァァ――」

《異世界、まったく別の次元で生まれた純粋にゲッターを操りうるモノ――》

膨張していく光球は、真ゲッターロボの手を離れながら空間を震わせ、ミッドチルダに進化の光を撒き散らした。
やがて、ゲッター線が固まったエネルギーの高密度圧縮体が、超光速で弧を描きながら撃ち出されんとし。

「――サンシャインッッ!!」

《――それがお前か、スバル・ナカジマッッ!!》

瞬間、宇宙を揺るがす爆発が惑星を呑んだ。


この日――とある並行宇宙で、スバルと云う名の少女が生まれた。
人あらざる戦闘機人、その試作として。
誰が知ろう、その運命を。誰が知ろう、その秘められし力を。

すべては――<進化の意志>のあるがままに。

物語は、始まる。
263ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/09/12(金) 20:02:29 ID:0YiQUmNz
以上です。
今回は幕間と云うことで、第七話でゲッペラーとバトルしていた方のスバルのお話を。
魔力エンジンじゃないネオゲッター、機動六課と合流しているスバティア――と、そんな取り合わせです。
次回の更新は多分、闇王女になりそうです。

ではでは。
264名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 20:06:02 ID:8RD340yH
GJ!
なんという容赦のない虚無展開www
まさにゲッターロボサーガ!
265地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/12(金) 20:37:27 ID:wVY3y0wp
GJです!
どちらの更新も無理のないペースで頑張って下さい。


空気読まないで投下予約を
22時よりカブトレボリューション 序章 第1話の投下をします。
時期的には四兄弟第1話よりちょっと前の話です。
よろしくお願いします。
266地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/12(金) 22:02:43 ID:wVY3y0wp
では、時間なので投下します。



夕日に照らされた公園で少女は涙を流し、地に伏せていた。
父が買ってくれた洋服を泥だらけにされても、姉が洗ってくれる髪を無茶苦茶にされてもじっと蹲りながら泣いていた。
それでも数人から受ける理不尽な暴行が止まることはない。
その中には以前、少女と遊んでいたクラスメートまでもが存在する。

「悔しかったら空でも飛んでみろよ」
「お姉ちゃんもロボットなのかな?」
「そんな訳ないじゃん、こいつはどっかから拾われてきたんだよ」

笑いながら突き刺してくる言葉や暴力は別に痛くない、もう慣れてしまった。
でも涙が流れてしまう。
自分のこの状況を家族に言うなど出来なかった。
もしそんなことをしたら、姉がクラスメート達に何か言うに違いない。その結果優しい姉までもが自分のように暴行を受ける毎日を送ってしまうだろう。
それだけは嫌だった。
だから、いくら泥だらけになった理由を家族に問われても、適当な嘘をついて真実を隠し続け、暴力を受ける毎日を送っていた。
初めは当たり前のように周りに溶け込み、無邪気に遊んでいたはずだった。
だがある日を境にそれはあっけなく崩れてしまう。
彼女は自らの体が原因で、周囲から突き放されていった。
初めのうちは庇ってくれるクラスメートも何人か存在し、守ってくれていた。
しかし人間ではない彼女は受け入れられず、やがて味方だったはずの彼らからも疎まれていき、独りになってしまった。
石を投げつけられたり、授業で使うノートや教科書を破り付けられたこともあったがもう気にならない。気にしても意味がない。
ただ一つだけ気になることがあった。
涙でぼやけていく視界の中で、姉とお揃いのキーホルダーが壊されていたこと。
お金を稼いでくれた父が、姉妹の為に買ってきてくれたのに。
自分とお揃いと聞いて姉が喜んでいたのに。
痛みよりも、二人への罪悪感で少女から涙が流れる。

「あ、こいつまた泣いてるよ」
「もう観念したのかな」
「違うよ、油断させて逃げようとしてるんだよ」
「何て卑怯なんだ、悪いロボットは平和の為にやっつけるべきなんだ」
267地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/12(金) 22:03:53 ID:wVY3y0wp
何か言葉が聞こえてくるが聞いていない。
いや、聞きたくない。
我慢すればいつかは終わるから。
容赦のない拳と蹴り、木の棒を使った打撃が、少女の脇腹や背中を襲いかかってきて、髪も引っ張られる。
やがて少女は暴力を悲しむより、楽しいことを考えるのに頭を集中させて、瞳を閉じていく。
疎まれる前、クラスメートと送った毎日。
父と姉の優しさ。
亡くなってしまった母の笑顔。
どれも楽しいことのはずなのに、思い浮かべれば浮かべるほど涙が溢れていく。
まるで全てが遠くに消えていってしまうようだった。


突如、暴力が止んだ。
少女は目を開き、顔を上げた。暴力を振るっていた子供達の姿はそこにはない。
かわりにその男が立っていた。
そして男は少女に手を差し伸べ、語り合った。




「お婆ちゃんが言っていた。人が歩むのは人の道、その道を拓くのは天の道」

男は真っ直ぐにこちらを見つめながら左腕の人差し指を天に指し、父親のような優しい声で少女に言う。
その瞳からは一切の弱さが感じられない。あるのは太陽のような絶対なる強さと優しさ、大いなる安心感だった。
優しい父と姉。この時の彼女には心を開ける人間は二人しかいなかったが、不思議とその男とは本音で話すことが出来て、心も安らいでいく。
268地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/12(金) 22:06:26 ID:wVY3y0wp

「お前は一度でも理由もなしに誰かを傷つけたことがあるのか?」

問いかけに対し少女は首を横に振る。

「なら大丈夫だ、世界はお前の敵じゃない」

男は言う。
やがて少女にそれを差し出す。すると表情に笑顔が生まれ、瞳の涙も消えていった。

「困難が多いだろうが、お前自身が変わろうとすればお前を取り巻く世界も変わる」
「本当?」
「ああ、本当だ」

互いに目を合わせ、穏やかに微笑む。
そして二人はある約束を交わした。
気弱で泣き虫なのは変わらなかったが、少女はこの時から一歩前に進むことが出来た。
その約束が何だったのかはもう覚えていない。しかしそれが自分が変わるきっかけとなれたことだけは確かだった。
やがて別れの時となり、男は少女に囁いた。

「未来で待ってるぞ……」



そして彼女は憧れとなる人間と出会い、誰かを守れる強さと勇気とを手に入れた――



〜12年後〜



その日、銀色の制服に身を包む港湾警備隊 特別救助隊員――スバル・ナカジマは昼食を終えたので午後の仕事に入ろうとしていた。
普段共にいる相棒――マッハキャリバーはその手の中にはない。
最前線で救助を行う彼女は連日のように行う訓練、陸海空問わずの救助活動によりデバイスに負担がかかる恐れがあるので、急遽点検が必要となった。
別に定期的な検診が必要というわけではないが本番時に何か不備があってからでは遅い、その為現在メカニックに預けている。
そろそろ整備を終えてる時間なのかもしれないので、マッハキャリバーを取りに行く為にメカニックのいる建物へと向かっている。
するとそれが目に入り、足を止めた。
269地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/12(金) 22:08:08 ID:wVY3y0wp

「ん、何これ?」

道の真ん中にあるそれをつまみ上げる。
それは親指にも満たない大きさを持つ緑色の石ころだ。
石ころと言ってもそれはエメラルドに近い輝きを放ち、一種の美しささえも感じさせる。
太陽に照らすと更に輝きを増しそうだった。

「落とし物かな?」

まじまじと見つめていると突如辺りが薄い暗闇に包まれていく。
それに気が付いたスバルは上空の太陽を見上げる。
見るとその光が黒い球体に遮られ、オーロラのように淡い光となってコロナが浮き出てくる。皆既日食だ。
日食とは太陽の一部分、あるいは全体が月によって覆い隠される現象だ。
部分的に隠れる「部分日食」は2、3年に一度の割合で見れるが、今回起こってるのは全体が隠され、数十年に一度の割合でしか起きない「皆既日食」だ。
スバルは初めてそれを見たのか石ころを握りしめたまま、その神秘的な光景に心を奪われている。
すると突如、自分の右手から熱が発せられるのを感じた。握り拳を解くと拾った石から緑色の波動と物凄いパワーが放たれている。

「え、何!?」

驚愕の声を出した途端、目の前の空間に亀裂が生じ、やがて周囲が歪んでいく。
突如発生した断層の向こう側に広がるのは、無限に広がる虚無の空間だった。
何が起こってるのかは理解出来ないが、ここからすぐ離れるべきだ。
本能でスバルはそう感じ、その場を離れようとするが遅かった。
悲鳴を上げる暇もなく歪みはまるで自らの意思でも持つかのようにブラックホールのようにその体を吸い込み、虚無へと放り込んでいく。
周囲に人の気配が無いのに加え、監視カメラも設置されていなかったので異変に気付く者は誰もいない。
スバルが握りしめていたエメラルドグリーンの石ころは地面に落下し粉々に砕け散ってしまう。
やがて歪みが消え、彼女の姿はミッドチルダから消えていった。



そして世界は繋がり、伝説は再び始まった。
最強男の伝説が――


仮面ライダーカブト レボリューション 序章



その1 交錯する時空
270地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/12(金) 22:12:04 ID:wVY3y0wp


類い希なる才能を持ち、『天の道を往き、総てを司る男』と称した男――天道総司。
幼い頃に両親を亡くし祖母に引き取られた彼はその名の通り、自分に絶対の自信を持ち『選ばれし者』と信じた男だ。
一見すると傲慢な面が強く、自分勝手な人間と思われがちだがその心には熱い精神が宿る。しかしそれを表に出すことはない。
実の妹――日下部ひよりを守る為にワームと戦うことを決意し、7年という時間を費やし己を鍛え続けた。
長きに渡る鍛錬の結果ついに未来を掴み取り、太陽の神――仮面ライダーカブトへと選ばれ、妹を含む全人類を守り抜いた。




フランスの異人館の如く豪華な外見を持つ美しい豪邸の広いリビング。
そこである兄妹が朝のやり取りを交わしていた。

「お兄ちゃん! 行ってきま〜す」
「ああ、気をつけるんだぞ」

ある日曜日、ネズミ色の作務衣を身に纏いソファーに腰を下ろす20代の青年――天道総司は新聞の一面から目を離し、細長い体をセーラー服に包み、天真爛漫な笑顔で学生カバンを持つ少女――天道樹花を笑顔で見送った。
樹花は天道のことを『お兄ちゃん』と言うが実際に血のつながりがあるわけではなく、幼い頃に両親を亡くした天道が祖母に引き取られてから誕生した義理の妹だ。
もっとも、その絆は本物の兄弟のように深いが。
妹が玄関のドアを開いて外を出るのを確認すると、天道は再び号外に目を通す。

『原因不明の皆既日食多発!』

最近メディアがこぞって大衆に流している話題。
天道は視線を集中させるようにその記事を眺める。ここ数ヶ月の間、本来ならば数十年に一度しか起こらない皆既日食の多発。
この通常ならばあり得ない現象が、何かが起こる前兆ではないかと彼は感じている。
人類の未来を守る為に最大の敵――グリラスワームとの戦いに勝利してからも、彼は未だ人間に危害を加えるワームの残党と戦っていた。
しかしその度に奇妙な現象が起こる。戦っているワームが空間を裂いて逃亡、残党とは思えないほどのワームの出現。
加えて対ワームの最強兵器――ハイパーゼクターを召還しようとしてもあの戦いから一度も現れないことが、天道にとって最も不可解だった。
あれは天道の意思があればどの時空、どの次元をも飛び越えて手元に来るはず。もしや連日の皆既日食に関係しているのか。
一年の月日が経つ頃には全滅したのかワームの姿は見られなくなった、しかし安心はできない。
ハイパーゼクターが現れずZECTも解散した今、異国の旅から帰ってきた天道は万が一の時に備えて再び体を鍛えることにした。
新聞を読んでいた彼の敏感な神経がそれを察知する。
271地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/12(金) 22:14:45 ID:wVY3y0wp

「何だ? この違和感は……」

おかしい。
世界の何処かで歪みが生じている。
何かがこっちに来る――?

感じ取りながらぽつりと呟くと、それは起こった。
目の前の空間に亀裂が生じ、裂け目が出現する。
そこから発せられるエネルギーはリビングの中を縦横無尽に駆け巡り、天道の肌に突き刺さっていく。

「これは一体!?」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

突然絶叫が響いてきた。
裂け目の向こう側から弾丸のように何かが飛んできて、それは物凄い勢いで床に衝突する。
それと同時に空間の亀裂と謎のエネルギーは消滅し、この部屋に静寂が戻った。
一体何が降ってきたのか。天道は落下物の正体を確認する、もしワームだったら戦闘態勢を取らなければならない。
しかし落下物の正体は天道の予想を遙かに裏切るものだった。

「痛った〜……ここ何処〜?」

見ると青色のボーイッシュな髪型に、小柄で華奢な体つきの少女が一人、そこにいた。
歳は義理の妹である樹花より少し上、実の妹の日下部ひよりとほぼ同い年に見える。表情からはあどけなさが残るものの、強い意志みたいなものも感じられた。
銀色が基調のレディーススーツを着ているが、それがこのような少女に似合うかどうかは別だ。
肩を強打したらしく、苦痛の表情を浮かべながら左手でさすっている。
その様子を天道はただ見つめるしかできなかった。
少女は柔らかい声を出しながらキョロキョロと周りを見渡すと、天道のことに気付いたのか目を合わせる。

「あ、こんにちは〜……」

少女は天道に頭を下げ、挨拶をするしかできなかったようだ。
272地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/12(金) 22:25:37 ID:wVY3y0wp


「なるほど、事情は分かった」

スバルは目の前の青年と視線を合わせるかのようにリビングに備え付けられたソファーに腰掛け、膝の上に履いていた靴を乗せている。
あれから自らの名前を名乗って、事情を簡単に説明していた。
道を歩いていると急に変な裂け目に飲み込まれ、気がついたらここにワープしてしまったと。
しかしミッドチルダという世界から来たこと、デバイスやロストロギアといった専門用語、時空管理局の存在については一切口外していない。
理由はここがミッドチルダではなく、管理外世界の可能性が十分にあったからだ。
まず青年の着ている服がスバルには見慣れないものだった、ミッドチルダでこんな格好をしている人間など見たことがない。
せめてマッハキャリバーさえ手元にあれば今いる場所と先程通った空間の正体が判明できるかもしれないのに、今は整備に出している。
最悪のタイミングだった。
言語がミッドチルダと共通ということが唯一の救いだろう。
スバルがこの部屋に流れ着いた際に通った空間の正体が何なのかは分からない。
少なくとも入り口が魔法陣ではなかったので転送魔法、あるいはキャロやルーテシアが使う召還とは違うかもしれない。
そしてこの出来事に関する唯一の手がかりと思われる、緑色の輝きを放ったあの石は虚無に飲み込まれる際に落としてしまったことに気付く。
青年はこのような突飛な話を真剣な表情で聞いている。スバルの言うことに何の疑いも持ってなさそうだった。
端整な顔立ちで若々しいが、歳は自分や姉のギンガ・ナカジマよりも上だろう。
その表情からは得体の知れない強さとオーラを放ち、あらゆる分野の達人にも見える。

「驚かないんですか?」
「何故驚く必要がある」

青年に投げかけた疑問をあっさりと返されたので、スバルは呆気にとられる。
やがて数秒の間が空くと、青年は再び口を開いた。

「ナカジマと言ったな、一つ聞く」
「何ですか」
「お前、掃除や食器洗いは得意か?」

質問の内容は意外なものだったので、一瞬戸惑ってしまう。
273地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/12(金) 22:28:39 ID:wVY3y0wp

「え?」
「聞いてるんだ、答えろ」
「ええ、普通にできますよ」

傲岸な態度をとる青年の質問にあっさりと答えた。
主婦のいないナカジマ家は基本的に家族で分担して家事を行っている。スバルやギンガはもちろん、父のゲンヤも例外ではない。
そういった家事を繰り返したおかげで掃除はもちろん食器洗い、更には料理や洗濯も人並みにはできるようになっている。

「よし、決まりだ。着替えてくるから外で待ってろ、玄関は向こうだ」

それを聞いた青年は何を思ったのか立ち上がり、人差し指でスバルの背後を指すと部屋から出て行く。
言われるままスバルは玄関で靴を履き、豪華な作りのドアを開いて外に向かう。
振り向くと目の前に飛び込んできた光景を見て、彼女は目を丸くした。

「うわぁ……!」

美しい。
その一言でしか表現出来なかった。
目の前に飛び込んできた建物は壁や窓、周囲に植え付けられている木々や花。全てにおいて調和が取れていて、見るもの全てに億万長者が住む豪邸というイメージを焼き付けるだろう。
ミッドチルダ首都、クラナガンでも滅多に見られない。
スバルは自分がここから出てきたと言うことを認識すると、何とも言えない複雑な気分になってしまう。

「何をやってるんだ、行くぞ」

この光景に目を奪われていると、外出着なのかカジュアルな服装に身を包んだ青年が家の中から現れた。




「これから何処に行くんですか?」
「黙ってついてこい」

スバルの投げた質問はあっさりと返されてしまう。
彼女は今、青年の後をついて行くように見知らぬ道を歩いている。辺りは閑静な住宅街で、平和という言葉がよく似合いそうだった。
JS事件で戦ったガジェットやナンバーズによるテロ、マリアージュ事件の様な連続殺人事件が多発していたミッドチルダと比べれば戦乱という言葉とは無縁そうに見える。
しかしそんな穏やかな道とは裏腹に、現在のスバルの心境はあまり良いものではなかった。
男女が二人きりで道に歩いているという光景は端からはデートに見えるかもしれない。しかし先程から二人の間には沈黙しかなく、ただ歩いているだけだった。
当然スバルは何度か青年に話しかけたがその度あっさりと一言で返され、終わるの繰り返しだった。それは彼女にとって少し息苦しいようだ。
274地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/12(金) 22:33:30 ID:wVY3y0wp
彼女とコンビを組んでいたティアナ・ランスターとも訓練校時代、最初は上手くいってなかったが話題を振れば会話は出来たし、向こうから話しかけてくることもあった。
しかし、目の前の青年が自分から話しかけてくるということは家に出てから一度もない。
何か話題を振った方がいいのだろうか。
そう考えたスバルは知恵を絞り、思い当たった疑問を青年に投げかけた。

「え〜と、そういえばあなたの名前は何て言うんですか? せっかくなので教えて下さい」

笑顔を浮かべながら質問した。
正直、これが限界だった。趣味や好きな食べ物の質問をしてもまともな答えが返ってくるとは思えない。
この程度なら普通に答えてくれるはず。
スバルのその考えが間違いだったということに気付くのはすぐだった。

「お婆ちゃんはこう言ってた」

質問を聞いた青年は急に足を止め、振り向くと同時に左手の人差し指を天に掲げる。

「俺は天の道を行き、総てを司る男」

高らかと宣言する青年を祝福するかのように、太陽の光は照らし続ける。
まるで自分が世界の中心であるとでも言うかのように瞳の中には強い意志が宿り、圧倒的な存在感が感じられた。

「俺の名は……天道 総司」
「……へ?」

青年の名乗りに対して、スバルは呆気にとられるしかできない。
会って間もない人間に対して失礼かもしれないが、ほんの一瞬だけ変人という言葉が頭の中を駆け巡っていく。
一体何を言っているのかこの時はまだ理解出来なかったが、今の一言にとてつもない力が込められていたということだけは確かだった。



それが天の道を行き、総てを司る男――天道総司との出会いだった。



その2へ続く
275地獄の四兄弟 ◇urBUIOMA:2008/09/12(金) 22:44:43 ID:wVY3y0wp
え〜これにて全三話の予定の仮面ライダーカブト レボリューション 序章が始まります。
地獄の四兄弟とリンクし、エリオが矢車達と出会うちょっと前の出来事と考えて下さい。
このSSではハイパーカブトは出るかどうか現在検討中です。
これと四兄弟が完結したら、仮面ライダーカブト レボリューションに入ります。
276名無しさん@お腹いっぱい:2008/09/13(土) 01:50:03 ID:VpAxn26G
>>275
GJでした!
スバルと天道、エリオと地獄兄弟の交流、続きが楽しみです。
キャロやなのは、ユーノ達も他のライダーとの出会いがあるのかも気になる所w

あと質問です。SS倉庫の方にはまとめで掲載されてないようですが、
「地獄の四兄弟」1話から読むにはどうすれば良いでしょうか?
277名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 02:01:10 ID:brLm/x8L
携帯からだけど、『地獄 兄弟』で検索したら出たよ
だけどクロスSS表とかには載ってないみたい
278名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 02:08:47 ID:brLm/x8L
ああ、『地獄兄弟』じゃなくて、『地獄』と『兄弟』に間を開けて検索してね
279名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 02:47:20 ID:KUt95jbm
地獄の四兄弟氏の作品をインデックスに追加しておきました。
ただし初めてwikiの編集をしたもので間違えている可能性もあります。
280名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 10:20:28 ID:gJiyEIy5
GJ!地獄兄弟氏もマスカレード氏もどちらも楽しく読めました。
地獄兄弟氏、続きを楽しみにしてます。
マスカレード氏、楽しみにしていたテッカマンが更新されると聞いて
絶頂の極みです。いつまでも待ってますよ。
281名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 10:31:12 ID:brLm/x8L
マスカレードでも地獄兄弟でも天道は相変わらずだなぁwwww
282一尉:2008/09/13(土) 14:23:32 ID:EzNsmn2M
マスカレードなら支援
283R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/09/13(土) 18:46:45 ID:xvp++A41
こんばんわ
もう誰も覚えてはいないかもしれませんが、8時頃に映画イベント・ホライゾンとのクロス
「Wizards on the Horizon」第二話の投下を予約させて頂きます
一応ホラーなのでご注意を

そして少々長めなので、できればご支援をお願いいたします
284名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 19:15:23 ID:JRreGEdo
風呂入る前に支援
285名無しさん@お腹いっぱい:2008/09/13(土) 19:41:25 ID:Ci0qTMqM
風呂上りに支援
286名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 19:54:09 ID:JynA5lvv
全年齢向けのSSスレができました
リリカルなのはの二次創作なの Part1
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1221216627/l50
287名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 19:55:42 ID:ggn9TASr
ここは元から全年齢向けだろww
288名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:00:17 ID:NvVv3YrC
支援しかない
289Wizards on the Horizon ◆xDpYJl.2AA :2008/09/13(土) 20:02:33 ID:xvp++A41
それでは投下します



指を失った武装局員が治療を終えブリッジへと戻った後、医務室に残っていたのはシャマルと意識の無いヴィータだけであった。
他の医務官は重力タンク溶液保存槽内より引き上げられた死体の検分へと向かい、残る負傷者達も既に各自の責務を果たすべく船内へと散っている。
1人となったシャマルは持ち込んだ医療器具を拡げ、その点検と更なる非常時への備えに明け暮れていた。

「これで良し・・・と」

それらが一段落した頃、彼女はふと咽の渇きを覚え、紅茶の入った魔法瓶を手にする。
彼女個人の私物として持ち込んだものだが、その本来の目的は彼女自身の咽を潤す為ではなく、医務室を訪れるであろう負傷者とその随伴者の精神を落ち着かせる事にあった。
負傷の度合いにもよるが、動揺しているであろう彼等に1杯の紅茶を勧め、我を取り戻させる。
これまでにも実践してきた事であり、当然その効果も良く知っていた。
だからこそ今回も、クラウディアからこちらへと移る僅かな猶予の中で、医療器具を纏めた少々重い鞄と一緒に魔法瓶を掴んできたのだ。

しかし先程は負傷者の数が多かった事、ヴィータの症状を診る事に意識を傾けていた事などもあって、それを実践するには至らなかった。
そして今、意識の無いヴィータを除けば、医務室にはシャマル1人。
特に周囲への注意を払う事もなく、彼女は魔法瓶の蓋を外した。
上下を返した蓋に紅茶を注ぎ、湯気を立てる琥珀色の液体をゆっくりと喉に流し込む。
芳醇な香りが嗅覚を満たし、僅かなりとも状況に切迫されていたシャマルの意識を解きほぐしていった。
彼女は最後の一滴を飲み干すと、ゆっくりと息を吐く。
そうして凪いだ精神状態で以って、シャマルは状況に対する独自の再評価を始めた。
その口から零れるのは、この状況に対する小さな不安。

「どうなっているのかしらね・・・」

状況は極めて悪い。
負傷者多数、ヴィータの意識障害。
クラウディアは次元航行艦としての機能の殆どを破壊され、通信機能の破壊により救助を呼ぶ事すら不可能。
この船の循環システムには損傷が見付かり修復を試みてはいるものの、もし復旧が不可能ならば20時間で二酸化炭素濃度が危険値へと達する。
重力タンク溶液保存槽内より引き上げられた41体の死体を除く、ジェイル・スカリエッティと戦闘機人を含む100名以上の乗組員は未だに所在不明。
重力推進とやらの中枢である『コア』の詳細はベニラル博士より語られはしたそうだが、内容が余りに専門的な上に難解な事もあり、全くと言っていい程に事態の解明には結び付いていないという。
そもそも、第152観測指定世界に於いて発達した超高度純粋科学技術を用いて建造されたこの船は、魔法技術体系による次元間航行を前提とする管理世界出身者達の常識、その悉くを真っ向から否定する非常識の塊だ。
虚数空間すら自在に航行し、更には通常次元世界への帰還すら容易く成し遂げるというこの船は、理論上では光の速度をすら突破し、如何なる距離に関わらず一瞬にして目的地へと到達する事が可能であるという。
正直なところ、その言葉を信じている者は殆ど居ない。
魔法技術体系ですら実現していない技術を、純粋科学技術体系が実現したとは到底信じられないのだ。
だが、この船が得体の知れぬ技術によって建造された、異質な存在であるとの認識は確実に根付いていた。
そしてそれこそが、この船の内に存在する全ての人間を、霞の如く掴み処の無い不安と疑心暗鬼の渦中へと落とし込んでいる。

自らが身を託しているこの巨大建造物は、果たして本当にその命を保障するものなのか?
単なる認識ではなく、この艦は実質的な被害をクラウディアとそのクルーへと齎している。
艦体を破壊し、武装隊を傷付け、1名を精神的異常状態へと追いやった。
この艦は本当に、単なる実験船なのか?
得体の知れない、敵対的な何かが船内に潜んでいるのではないか?
290Wizards on the Horizon ◆xDpYJl.2AA :2008/09/13(土) 20:03:49 ID:xvp++A41
「考え過ぎ・・・だと、良いけど」

溜息をひとつ、シャマルは魔法瓶へと蓋を戻し、未だ使用された形跡の無い診察台へとそれを置く。
魔法瓶の底部が診察台へと触れた、その瞬間。

「・・・ッ!」



魔法瓶の表面、鈍色の光沢に、影が映った。



「誰!?」

咄嗟に振り返り、クラールヴィントをリンゲフォルムへと変貌させる。
早鐘を打つ心臓を強靭な意志によって無視し、周囲へと視線を走らせた。
御世辞にも明るいとは言えない照明の中、黒に近い濃灰色の構造物が、生命体の内部構造の様なグロテスクさを醸し出している。

柱の影・・・人影なし。
主要通路へのハッチ・・・閉じられている。
床面・・・隠れられる様な場所はなし。
診察台・・・

「・・・!」

保護カバー。
緑色、薄手のそれが、診察台の1つに掛けられている。
だがシャマルには、それを掛けたという記憶がない。
この医務室へと入った当初には、全ての診察台はカバーが掛けられているどころか、使用された形跡すら無かった筈だ。

「誰なの!?」

自然と、言葉に力が籠る。
カバーの内より漏れる、微かな光。
緑のカバーには、小さな影が映し出されている。
リンカーコアの反応、魔導師か。

「5つ数えます・・・その間に、其処から出てきなさい」

クラールヴィントをペンダルフォルムへ。
『旅の扉』を形成し、右手をその前へと翳す。
向こうが大人しくこちらの要求に従うとは、シャマルは考えていなかった。
言葉通りに5つ数え終える前にリンカーコアを摘出し、蒐集こそ不可能なものの、対象の動きを封じた上で捕縛する。
彼女の狙いは、それだった。
291Wizards on the Horizon ◆xDpYJl.2AA :2008/09/13(土) 20:04:52 ID:xvp++A41
「1つ・・・」

カバー内の影が、不自然に揺らめく。
逃げるつもりかと、シャマルは警戒を強める。

「2つ・・・」

微かな吐息。
緊張しているのか、不規則なそれ。

「3つ・・・」

カバーに掛かる左手。
右手は軽く開き、旅の扉へと触れさせる。

「4・・・!」

そして4つめのカウントを待たずして、シャマルは右手を旅の扉へと突き入れた。
手がリンカーコアを捉える、確かな手応え。
同時に、左手のカバーを渾身の力で剥ぎ取る。
緑色のそれが取り払われた、その先にある存在をシャマルの視線が捉え。

「え・・・」



そして彼女は、凍り付いたかの様に動きを止めた。



「嘘・・・よ・・・」

それは、小さな存在だった。
毛糸の帽子の下より覗く、少々くすんだ赤い髪。
ともすれば人形と見紛う程の小柄な身体。
褐色の服は高級とは言えないまでも、家庭の温かさを感じさせる素材。
ひと目で手編みと判る、毛糸の白いマフラー。
ごく一般的な寒冷地の服装に身を包んだ、5・6歳の少女。
だがその全貌は、凡そ通常とは言い難かった。

「嘘よ・・・」

その白い筈のマフラーは紅く染まり、彼女の上半身の殆どは同じく鮮烈な紅に塗れている。
診察台の上へと拡がりゆく、同色の液体。
それは彼女のスカートへと染み、その色をもどす黒く変貌させてゆく。
虚ろな瞳は光を映さず、頬へと掛かった鮮血の斑点が、それとは対照的に命の存在を窺わせていた。
彼女の膝上には捩じれ、鮮烈な赤に染まった小さな動物のヌイグルミが2つ。
少女の胸からは1本の腕が生え、その手には光り輝くリンカーコアが握られている。

「何で・・・何で・・・」

シャマルは知っていた。
この少女が何者であるかを。
彼女を尾行し、『狩り場』へと追い込んだ者が誰であるかを。
彼女が助けを求めようとした人物の肉体を打ち砕き、永遠に屠り去った人物が誰であるかを。
必死に逃げる彼女を、背後より一刀の下に斬り伏せた者が誰であるかを。
大量の出血により今まさに息絶えんとしていた彼女からリンカーコアを奪い、その息の根を止めた人物が誰であるかを。
彼女は、彼女こそは。
292Wizards on the Horizon ◆xDpYJl.2AA :2008/09/13(土) 20:05:57 ID:xvp++A41
「嘘よ・・・嘘」
「これ・・・」

少女の胸から突き出た己の腕を見やり、恐慌に陥るシャマル。
そんな彼女の意識へと、少女の声が飛び込んだ。

「あ・・・ああ・・・」
「わたし、おねえちゃんになるの」

その言葉と共に少女はシャマルの眼前へと、血濡れとなった2つのヌイグルミを差し出す。
酷く歪に捩じれ、元の原形を留めてはいないそれら。
言葉も無く、溺れる間際の様に口の開閉を繰り返す事しかできないシャマルの様子を無視するかの様に、少女は続く言葉を紡いだ。

「ママと、おとうとにね・・・あげるの」

空気の漏れる様な、か細く耳障りな音。
シャマルは、それが自身の咽喉から発せられている事に、漸く気付いた。
過呼吸症。
今まで一度たりとも経験した事など無いそれが、彼女を襲っていた。
一体、何が原因なのか。

「嫌・・・嫌ぁ・・・!」
「・・・あげるの」

決まっている。
シャマルを襲う、圧死せんばかりの強迫観念。
そして罪悪感。
恐怖、怨嗟、悲嘆、諦観、絶望。
自らのそれか、他人のそれかも判然とせぬ負の感情が、シャマルの内面にて荒れ狂う。
そう、この少女は。
この少女の命を奪ったのは。



「・・・おうちに、とどけるの」
「嫌あああぁぁぁぁッッ!」



照明が、落ちた。

■ ■ ■

「原子炉、出力低下! 電力供給量70%!」
「システムにエラーが・・・駄目です、システム基幹部が操作を受け付けません!」
「船内生命反応増大! 位置の特定は不能!」
「何が起こっている!?」

ブリッジはまるで、戦争でも始まったかの様に騒然となっていた。
突然の電力ダウン、生命反応増大。
一部を除くシステムが次々にダウンしてゆく中、クラウディア・クルー等は必死に原因究明へと乗り出している。
クロノはそれらクルーの作業を見守りつつ、状況を的確に判断しようと努めていた。
しかし、全く現状の要因が掴めない。
見る限り、それは六課の面々も同じらしく、誰もが不安げに右往左往している。
はやてですら、状況を判断するに足る情報が無ければ如何ともし難く、顰め面を隠そうともしない。
フェイトやフォワード陣は船内の見回りに出ているが、電力のダウンと共に発生した電波障害により連絡が取れないのだ。
船内の連絡機構は言うに及ばず使用不能であり、彼女達を含む武装隊各員の所在すら掴めないのが現状であった。
293Wizards on the Horizon ◆xDpYJl.2AA :2008/09/13(土) 20:07:02 ID:xvp++A41
「博士、どうなっている!?」
「恐らく機関室だ。制御系に何らかの異常が発生している」

船長席にてコンソールを操作するベニラル博士へと、状況を問い掛けるクロノ。
対して博士は、短く推測を述べると、喋る時間すらも惜しいと謂わんばかりに席を立ち、ブリッジを後にせんとする。
クロノは自らも席を立ち、その後を追った。

「クロノ君!」
「はやて、君は此処に残れ! 機関室には近付くな!」

言い残すと、クロノは素早くブリッジを出て博士へと追い着く。
速足で歩く彼の隣へと並び、疑問を投げ掛けた。

「何故、重力波が?」
「重力波は漏れていない。コアではなく、集積回路上で安全装置が働いたんだろう。確かめてみよう」

全長1kmを優に超える連絡通路を抜け、2人は後部機関室へと踏み入る。
相も変わらず不気味に回転し続けるコアを横目に、博士は壁の一部へと手を伸ばし、突起を半回転させた。
すると、エアの噴射音と共に壁が開かれ、人が四つん這いとなって漸く入れる程の狭い集積回路への通路が現れる。
博士は腰のポーチ内に納められた用具を点検し、通路の縁に手を掛けた。

「此処で待っててくれ。私は損傷個所を見付けて修復してくる」
「気を付けろ、博士」

そうして、通路の奥へと消えてゆく博士の姿を見送り、クロノは息を吐いた。
ふと振り返れば、巨大なコアが周囲を取り囲む3つの磁気リングと共に、重厚な音を立てつつ奇妙な回転運動を続けている。
第97管理外世界の中世に於ける、西洋の拷問器具を連想させるデザインのそれは、見ているだけで得体の知れない不安感が沸き起こるものだ。
少々ながら気分が悪くなったクロノはコアから目を離し、博士の消えた狭い通路へと視線を戻す。
しかし直後、意識の深層へと響いた声に、彼は凍り付いた。



『艦長ぉぉぉ・・・』
「・・・!」



その声に、クロノは聞き覚えがあった。
彼が提督となって間もない頃、とあるロストロギア回収任務中に耳にした、この世のものとは思えぬ声。
それが再び、彼の意識を震わせる。

『置いてかないでくれ・・・!』
『頼む・・・待って・・・待ってくれ・・・俺を・・・俺達を置いてかないでくれぇぇぇぇ・・・!』
『艦長・・・!』
『待ってくれよぉ・・・ビニー・・・トレント・・・此処を開けてくれぇぇ・・・!』
『神様・・・嗚呼・・・どうして・・・!』

声は徐々にその数を増し、クロノを責め立てる。
何時しか、彼の呼吸は病人の様に荒くなり、額には脂汗が滲んでいた。
目を閉じ、小さく声に乗せて自らへと言い聞かせる。

「幻聴だ・・・」
『艦長ぉぉぉ・・・!』
『仲間だろ・・・なぁ・・・見捨てないでくれ・・・まだ生きてるんだぞ・・・!』
『畜生・・・畜生・・・! 腐り始めた・・・手が・・・手がぁ・・・!』
『嫌ぁ・・・開けてぇ・・・此処を開けてぇぇぇ・・・!』
「幻聴なんだ・・・!」
294Wizards on the Horizon ◆xDpYJl.2AA :2008/09/13(土) 20:08:11 ID:xvp++A41
肩を震わせ、1人呟き続けるクロノ。
その背後に突然、何者かの気配が生まれた。
クロノは咄嗟にデュランダルとS2Uの待機状態を解き、背後へと振り返る。
そして、その存在を目にするや否や。



「・・・何故だ」



機関室に、小さな悔恨の声が響き渡った。

■ ■ ■

はやては1人、後部機関室へと続く連絡通路を走る。
クロノはブリッジに残れと言ったが、言い知れぬ不安が彼女を襲ったのだ。
ブリッジのクルーに機関室へと向かう旨の言葉を残し、彼女は連絡通路へと駆け込み只管に走った。
余り運動は得意ではない。
飛ぶ事が出来れば問題はないのだが、船内AMFの出力は時間を追う毎に増大し、僅か数分で簡素な魔力結合すら不可能なまでに至っていた。
息を切らし、躓きそうになりながらも必死に走る。

だが次の瞬間、彼女は足を止めざるを得ない状況へと追い込まれた。
微かに周囲を照らしていた非常灯の光が、次々に消えていったのだ。
連絡通路全体が、忽ちの内に闇に呑まれる。
はやては荒い息もそのままに周囲警戒を行い、状況評価を下そうと試みる。
しかし念話もデバイスも使用できない現状、単独では如何ともし難いと判断し、声を張り上げた。

「誰か! 誰か居ないんか!?」

声が、連絡通路内に空しく反響する。
再度叫ぶが、それに答える声は無かった。

「誰も居ないんか!? 返事してや!」

返答は無い。
はやての背筋を、冷たい感覚が走り抜ける。

何故、誰も居ない?
この船には今、120名を超える人員が乗り込んでいる。
しかも70名を超える武装隊が、船内各所を見回っている筈なのだ。
主要連絡通路に誰も居ない等という事態は、有り得る筈もない。
しかし現実に、誰1人として自身の声に答えを返す者は存在しないのだ。
一体、何が起きているのか?

「誰か!」
「はやて」

唐突に、声が返された。
はやての右後方、闇の奥より放たれた男性の声。
彼女はその声を聞くや否や、待機状態のシュベルトクロイツを握り締めて振り返る。
そして、闇の奥に浮かぶ光、その中に浮かび上がる人物の姿に、言葉を失った。

「・・・!」
「はやて」

優しげにはやての名を呼ぶ、年若い男性。
はやては漸く、掠れる声でその男性を呼んだ。
295名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:08:12 ID:ZlNKJAG0
296Wizards on the Horizon ◆xDpYJl.2AA :2008/09/13(土) 20:09:16 ID:xvp++A41
「お・・・とう・・・さん・・・?」
「はやて」

続く女性の声。
男性の隣に、もう一つの影が浮かび上がる。

「はやて」
「・・・お母さんっ!」

はやては、引き攣る声で叫んだ。
最早、記憶の中にしか存在しない両親。
それが今、目の前に居る。
何者かが作り上げた幻影か、それともホログラムか。
そんな考えは、微塵も彼女の脳裏へと浮かぶ事はなかった。

分かる、分かるのだ。
あれは、偽物などではない。
血を分けた親子だからか、はっきりと感じられる。
本物だ。
嘗て、小さな自分を抱き締め、無償の愛情を注いでくれた両親。
それが、すぐ其処に居る。
自分を見て微笑んでいる。
離れていても感じられる、両親の温かさ。
これが、偽物だと?
有り得ない。
あれは、両親だ。
本物だ。
叶うものならもう一度会いたいと、魂を焦がさんばかりに切望した人達だ。
誰が何と言おうと、そんな事は自分に関係ない。

もう一度、2人に抱き締めて貰いたい。
あれからの事を、ゆっくりと話し合いたい。
新しい家族を、2人に引き会わせたい。



もう一度、皆と一緒に暮らしたい。



「大きくなったのね・・・はやて」
「はやて・・・立派に・・・」
「お父さん・・・お母さん・・・!」

はやては、誘われる様にして一歩を踏み出す。
2人の許へ。
唯、2人の許へ。
今のはやてには、それしか考えられなかった。
そうして、両親の傍に更にもう一つの影が現れるや否や、彼女は堪らず駆け出す。

「はやて・・・」
「・・・ッ! リインフォースッ!」

はやては、駆ける。
しかし突然、不可視の壁によってその行く手を遮られた。
見えないそれを激しく叩くも、それが取り払われる事はない。
深い憤りと見えない障壁に対する憎悪に駆られるままに、はやては叫びを上げつつ壁を叩き続ける。
297名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:09:19 ID:kxba9ryQ
支援
298Wizards on the Horizon ◆xDpYJl.2AA :2008/09/13(土) 20:10:21 ID:xvp++A41
「ッ・・・邪魔や・・・消えろ・・・消えろおおォォォォッッ!」

叩く。
叩く。
叩く。

「邪魔をするなああァァァァッ! 消えろッ! 消えろぉッ!」

叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く。
壁は消えない。
両親の許へは行けない。
リインフォースの許へは行けない。
怨嗟の叫びと共に、更に叩く。
最早、手の感触が無い。
生暖かい何かが頬を伝い、別の何かが顔に飛び散るが意に介してはいられない。
更に叩こうとして、はやてはそれに気付いた。

「・・・!」

闇の中、自身の傍らに浮かび上がるディスプレイ。
表示された『door』の文字。
英語だ。
だがその表記の歪さに、はやてが気付く事はない。
一も二もなく、はやてはその表示に触れようと手を伸ばし。



「止めて!」



背後より飛びかかった何者かによって、床面へと倒れ込んだ。

「なっ!?」
「はやてちゃん、馬鹿な事は止めて!」
「なのはちゃん!?」

自らを押し倒した人物の正体に、はやては狼狽する。
何時の間にか周囲には照明の光が戻り、空間を明るく照らし出していた。
はやては素早く身を起こし、なのはを撥ね退ける。

「きゃ・・・」
「邪魔せんといて! みんな・・・みんなが其処に・・・!」

腕を精一杯に伸ばし、画面に触れようとするはやて。
しかし眼前を、1発の桜色の魔力弾が突き抜けた。
アクセルシューター。
それは壁面へと着弾し、霧散する。
AMFが既に解除されている事を悟ったはやては、シュベルトクロイツの待機状態を解き、その先端をなのはへと向けた。
その目に浮かぶのは、疑い様もない敵意。
息を呑むなのはを余所に、彼女は憤怒を内包した声を発する。

「はやてちゃん・・・?」
「何で邪魔するんや・・・何で・・・何で・・・」
「・・・はやてちゃん、落ち着いて・・・周りを良く見て」
299名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:10:54 ID:ZlNKJAG0
300Wizards on the Horizon ◆xDpYJl.2AA :2008/09/13(土) 20:11:25 ID:xvp++A41
なのはがレイジングハートの矛先を下ろし、何処か怯える様な声ではやてへと語り掛けた。
その異様な様子に、はやても少々頭が冷える。
突き付けていたシュベルトクロイツを下ろし、周囲へと視線をやり。



「・・・此処・・・何処や?」



明らかに連絡通路とは異なる空間に、戸惑いの声を発した。
2つの巨大な円形の耐圧扉に挟まれた、閉鎖空間。
はやては、その壁際に立っていたのだ。
状況を掴み切れずに戸惑うはやての様子をどう捉えたのか、なのはは恐る恐るといった風情で語り始めた。

「はやてちゃんが・・・此処に入って行くのが見えて・・・」
「え・・・」
「ドアが閉まる直前に・・・私も滑り込んで・・・そしたら、はやてちゃんが外側のドアを叩いていて・・・外へのドアを、開けようと・・・」
「外側・・・?」

そして、はやては気付いた。
自らが立つ場所に。
自らが為そうとしていた、恐るべき行為の現実に。



「・・・エアロック・・・?」



画面に映る2つの表示。
『inner door』『outer door』。
その表記がぶれ、一瞬にして第152観測指定世界の言語へと移り変わった。

■ ■ ■

「血中の二酸化炭素濃度が上昇した為に、脳が幻覚を・・・」
「あれは幻覚なんかじゃない。確かに人が居たんだ」

電力が回復した30分後。
ブリッジに集まった一同は、各々を襲った奇怪な現象について議論を交わしていた。
医療スタッフの1人が二酸化炭素による幻覚説を唱えたが、それはクロノを含む数人からの力強い否定によって退けられる。
そのスタッフは困った様にシャマルを見やるが、同じ医療スタッフである彼女もまた、俯いたまま軽く首を横に振るばかり。
一体、何を見たのか。
幾ら問い掛けても、彼女は一向に見たものの内容を語ろうとはしなかった。
唯、シグナムとザフィーラだけは、既に彼女が見たものについて話を聞かされているらしい。
しかし彼らもまた黙り込んだまま、頑としてその内容を話す事はなかった。

「両親や」

はやてが、語り始める。
誰もが声を発する事なく、彼女の言葉を聞き漏らすまいと聴覚に意識を集中させていた。

「ずっと昔に亡くなった・・・父親と、母親と・・・大切な人が、見えない壁の向こうに立ってたんや・・・偽物や、幻覚なんかやない。あれは、本物やった」
「本物?」
「上手く言えんけど・・・とにかく、幻覚なんかやなかった」
「・・・クロノは?」

はやての言葉が終ると、フェイトがクロノへと問い掛ける。
彼は暫く口を噤んでいたが、やがて重々しく口を開いた。
301名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:12:08 ID:Phe63dvU
すえん
302Wizards on the Horizon ◆xDpYJl.2AA :2008/09/13(土) 20:12:31 ID:xvp++A41
「昔の、部下だ・・・ロストロギアの回収任務中に、殉職した」
「・・・ごめん」
「気にするな」

其処で、なのはは漸く口を開く。
決定的な、ある疑問を解消する為に。

「クロノ君」
「何だ」
「・・・博士は、どうしたの?」

それは誰もが疑問に思いながらも、口に出す事を憚られていた事柄。
今この瞬間、ブリッジに姿の無い人物について。
それに対するクロノの答えは、簡潔ながら不可解なものだった。

「点検通路に入って以降・・・行方不明だ。通路内を探したが、発見できなかった」

沈黙。
誰もが異常な状況に戸惑いを隠せず、疑心暗鬼ばかりを募らせている。
それは、この船を造り上げた異質な技術体系に対するものであり、姿を消したベニラル博士に対するものであり、この船そのものに対するものであり。
何より、奇怪な現象を発生させている『何か』に対するものであった。
しかし現時点で、それが何であるかを知る術は無い。
対策を立てる事もままならぬ状況の中で、生き残る為の行動を模索せねばならないのだ。
そんな時、オペレーターの1人が船外クルーからの入電を告げる。

「・・・艦長、修復班より入電です」
「繋いでくれ」
『・・・ブリッジ、聞こえるか。こちら右舷エンジン修復班・・・損傷部の修復完了。左舷はユニットそのものが破壊されている為に修復不可能』
「了解、良くやってくれた。船内に戻り、休息を取れ」
『・・・艦長、このまま循環システム修復班の手助けに向かっては駄目か?』

思わぬ申し出に、クロノは驚いた様だ。
微かに目を見開いた後、確認の問いを発する。

「こちらとしては願ったりだが・・・疲労しているのでは?」
『その船の中に居るくらいなら、ずっと外に居た方がマシだ・・・これより艦内へ向かう。以上』

その言葉に、なのはは心底より同調した。
この得体の知れない怪物の腹の中に居る事に比べれば、防護服を着ての船外活動は遥かに居心地が良い事だろう。
と、クロノは通信を終えると、幾つかの画像をプリズムディスプレイ上へと表示した。
実験船のスキャン結果、船内の何処かを写したらしき画像、幾つかの文字の羅列。

「ロウラン准陸尉が見付けた。後部機関室、第二耐放射能ドア近辺の壁面に記された、第97管理外世界の文字だ」
「え・・・」

その言葉に、一同は食い入る様に画像へと見入る。
確かに壁面の一部、久しく見るアルファベットの羅列が刻まれていた。
なのはは、それを読み上げる。

「・・・U.S.A.C.・・・深宇宙探査船・・・『イベント・ホライゾン』・・・?」
「地球の船やとでも言うんか!?」
「落ち着け。これを見ろ」

驚愕に声を上げるはやてを窘める様に、クロノはその画像をスライドさせた。
船名の少し下に、年号が刻まれている。

「AD・・・『2040』!?」
「どういう事ですか?」
「部隊長、これが一体・・・」
303名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:14:37 ID:9udmUGvp
sienn
304Wizards on the Horizon 代理投下:2008/09/13(土) 20:23:11 ID:Phe63dvU
どうにも状況が掴めないらしきフォワード陣。
戸惑いがちに声を発したスバルとティアナに、はやてが興奮気味に答えを返す。

「2040年っていうんは・・・その、今から30年以上も先の事や」
「・・・えと、その・・・どういう事です?」
「・・・解らんよ。何も解らへん。そもそも、この表記が本当に正しいのかどうか・・・」
「それなのですが、八神部隊長」

続いてグリフィスが進み出ると、コンソールを操作。
幾つかのデータを呼び出すと、一同へと向き直る。

「システムを隈なく調査した結果、一部の表層システムを除き、殆どがブラックボックス化している事が判明しました。その中から見付けたデータですが・・・ご覧下さい」

そしてグリフィスは、映像記録の1つを再生し始めた。
全員がディスプレイへと視線を固定し、映像と音声に意識を釘付けにする。
其処には、十数人の乗組員達が精力的に動き回る、嘗てのブリッジが映し出されていた。
画像の左上に『captains log date : 1:23:2040』との表示。
壮年の男性の声が、スピーカーより放たれる。

『我がクルーは優秀だ・・・各部署のチーフ達を紹介しよう。クリス・チェーンバーグ、ジャニス・ルーベン、ベン・フェンダー、ディック・スミス・・・』

次々に映し出されるクルー達。
その全員が、肩口に星条旗と鷲のエンブレムが縫い付けられた、褐色または濃緑色のジャケットを身に纏っていた。

『我々は漸く安全圏へと脱した。これより重力推進機関を始動し、プロキシマΑへのゲートを開く』

最後に映し出された男性。
彼こそが船長らしい。
男性はカメラに向かい、聞き慣れない言語で以って言葉を紡ぐ。

『AVE ATQVE VALE・・・出会い、そして別れを』

彼は手を上げて自信に満ちた笑みを浮かべ、此処ではない何処かへと別れを告げた。
必ず帰って来るという、確信に満ちた笑み。
しかし次の瞬間、画像にノイズが走り、音声が雑音に満たされる。
何が起こっているのかも解らぬまま、しかし左下の『time ref : 02.03.20』の最後の秒数が連続してカウントされている事実だけが、先程の映像から直に続く記録である事を物語っていた。
グリフィスは映像を閉じ再度、一同へと向き直る。

「この後は不明です・・・現在、フィノーニ一等陸士がフィルターでのノイズ除去を試みていますが、余り芳しくはありません」

一同は言葉も無く、映像の消えたディスプレイを見詰めていた。
なのはも例外ではなく、明らかにアメリカ人と分かる人物達の映像に、混乱する思考を押し留める事に苦心している。
そんな一同の様子を気に留める事もなく、グリフィスは新たなデータを呼び出し、説明を始めた。

「スキャンの結果、前部デッキ及び主要連絡通路の材質強度と、機関部のそれに著しい差がある事が判明しています。機関部の材質組成を調査しましたが、未知の合金である事以外は判明していません。
既知の管理世界及び管理外世界、更には観測指定世界にて確認されているいずれの物質とも合致せず。未知の人工金属です」

更に複数の画像及びスキャン結果を次々に表示し、グリフィスはそれらを前に自身の導き出した結論を述べる。
その声色には、凡そ感情というものが感じられなかった。

「主要通路及び前部デッキについては、第152観測指定世界に於いて次元航行艦建造に普遍的に用いられている合金が使用されています。第97管理外世界の言語による表記も同様で、機関部に於いてのみ確認。
他の船内構造物上の表記に於いては、第152観測指定世界の言語のみが用いられているのです」
「それって・・・」
「使用されている言語、材質組成、システムのブラックボックス化。これらの事象より、1つの仮説が立てられます」
305名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:25:03 ID:9udmUGvp
しえn
306Wizards on the Horizon 代理投下:2008/09/13(土) 20:25:24 ID:Phe63dvU
皆がグリフィスに注目し、続く言葉を待つ。
彼はウィンドウの殆どを閉じ、眼鏡を外すと、それを口にした。



「この船は、後方機関部のみが次元世界に於いて回収され、それを第152観測指定世界が解析し、連絡通路及び前部デッキを増設したものと考えられます。
この船を造ったのは、彼等ではない。第97管理外世界、アメリカ合衆国・・・但し『30年後』の、ですが」



アルファベットの羅列である『U.S.A.C. DEEP SPACE RESEARCH VESSEL』の表示が、ディスプレイ上で鈍く光を放つ。
次元世界に浮かぶ『深宇宙探査船』のブリッジに、不気味な沈黙が下りた。

■ ■ ■

「次元航行艦じゃなくて宇宙船・・・しかも未来から・・・」
「大変な事になっちゃったね・・・」

第3デッキを見回りながら、エリオとキャロは予想を超えた状況に対する戸惑いを吐露していた。
あれから間もなく一同は各々に調査を開始し、2人は何かしら手掛かりがないものかと前部デッキ内の捜索を始めたのだ。
その傍に、小さな使役竜の姿は無い。
今回の任務が次元航行艦内部という事もあり、ミッドチルダへと残してきたのだ。
強大な戦力を欠いた2人ではあったが、これまでに築かれたコンビネーションに対する自信もあり、不安は無かった。
しかしその自信と熱意とは裏腹に、現状では後方機関部への侵入は固く禁じられている為、彼等が調査をするとなれば精々が前部デッキ内での活動に制限される。
今頃はティアナやスバルも、第2デッキ辺りをうろついている事だろう。

「でも、たったの30年で恒星系の脱出を果たせるなんて、有り得る事なのかな?」
「あの世界は魔法が無いから・・・科学技術の発達が早いのかも」
「それで、管理世界も為し得ていない他の恒星への旅に出て・・・次元の壁を越えてしまった、って事かな・・・」

意見を交わしつつ、2人は通路に並ぶ重厚なコンテナの扉を開き始めた。
ごく最近に開かれた形跡のあるコンテナの中身は、船体応急処置用のネイルリペアと、それを装填するネイルガンだ。
現在クラウディアの修復に当たっているチームが、かなりの数を持ち出している。
皮肉にも、クラウディアに供えられていた応急処置器材よりも優れた性能を有していたが為に、修復チームのほぼ全員がこのネイルガンと修繕資材を使用していた。
元々これが目的でこちらに移ったとはいえ、彼等の浮かべていた複雑な表情がエリオの脳裏に浮かぶ。
そして何より、9本のネイルが装填されたシリンダーを装着する大型のネイルガンは、資料で目にした事のある従来携行型小型質量兵器を遥かに上回る凶悪さをそのデザインから漂わせているのだ。
親指ほどもある太さのネイルが射出され、先端の返しが展開する様を思い浮かべるだけで、対人兵器として使用された際の凄惨な光景が脳裏に思い描かれる。
余り宜しいとはいえない光景を意識から追いやり、エリオは次のコンテナへと手を伸ばした。
扉を開け、その中に鎮座していた物を目にして―――

「・・・!」
「・・・エリオ君?」

―――エリオの手が止まる。
それは、小さな車の模型。
赤い塗装が所々で剥げ、地金の色が剥き出しとなっている。
荒々しい音を立て、エリオは即座に扉を閉じた。

息が苦しい。
何だ、これは。
どうなっている。
何故あれが、『あんな物』が此処にある?

微かな金属音。
咄嗟に視線を音源へと向ければコンテナの1つ、その扉が開いていた。
誰も触れてはいないにも拘らずだ。
エリオは荒い息もそのままに、何かを恐れる様にして、ゆっくりとそのコンテナの前へと立つ。
中にはデバイスを模した、低年齢男児向けの玩具が1つ。
エリオは今度こそ、接続部を破壊せんばかりの勢いで、叩き付ける様にして扉を閉じる。
彼の混乱、そして恐怖は、既に限界を迎えていた。
307Wizards on the Horizon 代理投下:2008/09/13(土) 20:27:36 ID:Phe63dvU
何故だ。
何故こんな物が、この船にあるのだ。
自分はあれを知っている。
あれの持ち主が誰なのかを知っている。
嘗ては自分の、自分のものだと、そう思っていた・・・『思い込んでいた』。
幸せな、まだ何も知り得なかった頃の自分。
両親と『思い込んでいた』人物達に愛されながら、あれらを宝物としてクローゼットに隠していた自分。
最早、思い出す事すら苦痛となった、嘗ての記憶。

だが、違う。
あれらは自分のものなどではない。
あれらの本当の持ち主は、既に何処にも居ない。
居る筈がない。
何故なら、彼は既に死んでいる。
今この時間を生きてはいないのだ。
あれらは死者の持ち物であり、自身は仮初の持ち主として一時的に貸し与えられていたに過ぎない。
あれらは今でもモンディアルの屋敷にあるか、あの『両親と思い込んでいた』人間達によって処分されているだろう。
間違っても、ミッドチルダより遠く離れた次元世界に浮かぶ『宇宙船』、その内部に存在する筈などないのだ。

「エリオ」
「ッ・・・!?」

何処かより聴覚へと飛び込んだその声に、エリオは肩を跳ね上げて周囲を見渡す。
誰も居ない。
周囲には、人物の影1つ無かった。
そう、唯の1つも。

「キャロ・・・?」

新たに家族となった少女の名を呼ぶも、彼女の声が返される事はない。
キャロは何時の間にか、その姿を消していた。
咄嗟にストラーダをスピーアフォルムへと変貌させる。
船内AMF出力は上昇していない。
『敵』が潜んでいるのならば、今はまだデバイスを用いて交戦できる。

自らの記憶に怯える思考が、忽ちの内に戦闘に際したものへと変貌。
冷徹な観点を以って、状況の分析を開始する。

『敵』はこちらの情報を、ある程度入手しているらしい。
そうでなければ、ロッカー内に玩具を置き、母親として振る舞っていた『あの女性』の音声を用いて、こちらの精神に揺さ振りを掛けるなど実行できる筈もない。
解らないのは、そんな手間を掛けてまで何をしようとしているのか、という事だ。
恐らくはキャロの身柄を拘束しているのだろうが、その方法も不明。
しかし、八神部隊長やハラオウン提督の証言から、何を仕掛けてくるのかある程度の予想は着く。
『モンディアル夫妻』だ。
『敵』はその姿を模し、自身の前へと現れる筈。
即座に非殺傷の一撃を叩き込み、昏倒させる。

模倣とはいえ、嘗て両親と慕った2人の姿に対する攻撃を行う事については、エリオに躊躇はない。
自身の人格を冷徹であると意識した事は無かったが、しかし常人と比較し、人を傷付ける事に対する抵抗が少ない事は自覚していたのだ。
誰彼構わずという訳ではないが、自らが『躊躇する必要性が無い』と断じた対象については、『暴力』を以って相対する事を厭いはしない。
六課の面々、更には保護者であるフェイトや、家族でもあるキャロですら気付いてはいないであろう、エリオの内に潜む暴力衝動。
それは明らかに、違法研究を行っていた管理局所属研究所及び、管理局保護施設での生活、それらの期間の内に育まれた狂気。
彼自身も自覚はしていたが、それを捨て去ろうという考えは更々無かった。

フェイトはその衝動が、既に癒され霧散していると考えている。
だが、それでは駄目なのだ。
六課の面々は任務に対し厳しい認識を持ってはいるが、ある面が決定的に不足している。
特に、八神部隊長とスターズ・ライトニング両部隊長やキャロは、それが顕著であるとエリオは考えていた。
308名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:29:19 ID:Phe63dvU
それは、純粋な『暴力性』だ。
彼女等は犯罪に対する怒りこそあれ、『敵対者』に対する理屈を超越した『殺意』が欠けている。
幼いながらも、両親をはじめとする世界に対し一度は絶望し、更には長期間その精神状態を維持した事による従来型倫理観の欠如は、エリオという少年に冷酷な現実観を植え付けていた。
即ち彼は、自らの正義を成す為に『暴力』を選択する事に対し、些かも躊躇を持ち得ないのだ。

『敵対者』に理由を訊く。
説得を試み、投降を促し、穏便な解決を図る。
此処までは他の隊員と同じだ。
しかしそれでも交戦しか術がないとなれば、『敵対者』の主義主張を含む一切を、暴力を以って捩じ伏せる。
其処に感情や議論を挟む余地は無く、単なる鎮圧行動に過ぎない。
その結果へと至る行動を選択したのは『敵対者』自身なのだ。

寧ろ、周囲の人間が何故そうなった事を悔やむのかが、エリオには理解できない。
ルーテシアと相対した際に、その事について思い悩むキャロに対してエリオは、何時かはきっと解り合えると励ました。
だがそれは、彼がフェイトの保護下で過ごす内に学んだ、一般的に受け入れられ易いが為に多用される理想論だ。
エリオ本人にとっては、その思考を持つ事に意味があるとは思えなかったし、またその価値も無い。
ルーテシアとの相互理解は確かに望んではいたが、敵対するならばその拠り所たる召喚虫ガリューを、彼女から永遠に奪い去るつもりであった。
結果的にそうはならなかったというだけであって、彼自身はガリューの殺害をも已むなしと捉えていたのだ。

エリオにとって、自らの欠落した倫理観を補う存在とはフェイトであり、そしてキャロであった。
他の隊長陣やフォワード陣に対しては上司・同僚としての信頼こそあれ、その役割を期待する程に人間性を知り得ている訳でもなく、それ以外の人間ともなれば尚更である。
彼にとってフェイトとキャロは、家族という関係以上に、自らの欠陥を補う重要なファクターとしての認識があったのだ。

だからこそ、そのキャロを襲ったであろう『敵』に対する殺意が、より一層に先鋭化する。
ストラーダの矛先が纏う半球状の不可視の結界、非殺傷設定の魔力障壁は更に密度を増し、突くのではなく薙いで用いるのならば、そのまま対象を即死させかねないまでに硬度を増していた。
エリオ自身もその事は重々承知してはいるが、一方で意識の片隅では、それでも構わないとの認識もある。
この『敵』の用いる戦法は危険すぎる。
万全を期すならば、此処で完全に排除してしまう方が良法だろうと。

「エリオ」

再び、女性の声が響く。
エリオは最早、その声に懐かしさを感じはしなかった。
唯々、冷徹なまでに距離を測る理性と、暴発を目前にした殺意を以って時を窺う。
309Wizards on the Horizon 代理投下:2008/09/13(土) 20:32:24 ID:Phe63dvU
「エリオ」

3度目。
エリオは確信した。
後方、10m。

「エリオ」

9m。

「私の」

8m。

「大事な」

7m。

「大事な」

6m。

「可愛い」

5m・・・『射程内』。

「エリ・・・」

振り向き様に、エリオはスピーアアングリフを発動。
バネの如く収縮させた全身の筋肉より放たれる加速とも相俟って、穂先の速度は視認すら不可能なまでに至っていた。
瞬間的にして爆発的な魔力噴射が終了するや否や、矛先の魔力障壁が標的を捉え。



次の瞬間、霧散した。



「え」

呆けた声が上がったのは、一瞬の事。
加速された矛先が、標的を貫く。
半球状の障壁によって突き飛ばされる筈であった目標。
白亜の突撃槍がその肉体を食い破り、深紅に染まった矛先が目標の背面より覗く。
しかし爆発的な加速の為された一撃は目標を貫くに留まらず、突然に事に呆けるエリオの手を擦り抜け、目標を刺し貫いたまま通路を翔け抜けた。
そして、通路の突き当たりへと矛先が接触、火花を散らして壁面へと目標を縫い止め停止する。

此処で漸く、エリオは気付いた。
全身を襲う重圧、締め付けられる様な息苦しさ。
超高出力のAMFが、船内に展開されている。
非殺傷設定の魔力障壁は、AMFの発動によって強制的に解除されたのだ。
310Wizards on the Horizon 代理投下:2008/09/13(土) 20:33:23 ID:Phe63dvU
そして、彼は見る。
ストラーダによって、壁へと縫い止められた目標。
その矛先によって身体を貫かれ、壁面と床面を朱一色に染め上げる人物。
紺色、時空管理局管理局の制服。
しなやかで整ったボディライン。
僅かな照明の中でも輝きを失う事のない、金色の髪。
今この瞬間は、その全てを赤黒い血の海へと沈める、その人物の名は。

「どう・・・し、て・・・」



フェイト・T・ハラオウン。



「う・・あ・・・」
「エ・・・リ・・・オ・・・?」
「うわああああああぁぁぁぁぁッッ!?」

次の瞬間、エリオの意識を無数の声が襲った。
それは彼の意識の奥底より湧き上がる、記憶の中の亡者達が上げる怨嗟の叫び。

自らを確保しにモンディアル家を訪れた管理局員に対し、自らの存在意義を否定する言葉を再三に亘って放っては自己弁護するモンディアル夫妻の声。
研究所にて自らに苛烈な実験行動を科し、満足のいかぬ結果に暴言を放つ研究員達の声。
初めて魔力を暴走させ、3人の研究員を生死の縁へと追い込んだ直後に囁かれた、自らを化け物と恐れる声。
内心の怯えと侮蔑を隠しもせず、それでいて優しげに道徳の尊さを謳う保護施設局員の声。

「ああああぁぁぁぁあああああぁぁあああぁぁぁッ!?」

最早、エリオは限界だった。
全ての状況を受け入れる事を拒否し、転がる様にしてその場から逃げ出す。
壁面へと磔にされたフェイトの存在ですら、今となっては彼の視界へと映りもしない。
奇声を上げ、何度も転びそうになりながら、第3デッキを後にする。

必死に走るエリオ。
何時の間にか周囲からは光が消え、彼は完全な闇の中を疾走していた。
ただ只管に、圧し掛かる無数の『声』からの逃避を望み、何処へとも知れず駆け続ける。

「止めろ・・・止めろ、止めろ!」

行く手を遮る壁は存在せず、導き手となる誘導灯の明かりすら無い。
にも拘らずエリオは、まるで何かに導かれる様にして平坦な道を走っていた。
相も変わらず『声』は彼の精神を蝕み、その幼く歪な意識を追い詰める。

「止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ!」

やがて闇の中に、小さな光が点った。
唐突にエリオの意識へと飛び込んだその光の中には、必死に走る小柄な影。
瞬間的にエリオの思考は鮮明さを取り戻し、その影の正体を知る。

「ッ・・・キャロ!」

少女の名を呼んだ瞬間、脳裏に響く『声』の密度が圧倒的に増し、エリオは慄いた。
『声』が増えた事にではない。
新たに増した『声』の向かう先が自らではなく、キャロであった事にだ。
そして、その内容の残酷さに、エリオは驚愕する。
311名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:35:17 ID:ZlNKJAG0
312名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:36:14 ID:9udmUGvp
支援
313Wizards on the Horizon 代理投下代理:2008/09/13(土) 20:38:09 ID:9udmUGvp
年端も行かぬ少女を異端と断じ、追放を叫ぶ長の声。
明らかにその死を望む、心ない同族の声。
何故こんな子が生まれたのかと、自らの娘をなじる両親の声。
少女を兵器として認識している事が容易く見て取れる、研究員の声。

「キャロ!」

必死に走るキャロは、その頬を涙で濡らし、絶望に叫んでいた。
その姿にエリオは、堪らず彼女の方へと駆け始める。
キャロもこちらに気付いたか、驚愕の面持ちでエリオへと向き直った。

「エリオ君!?」
「キャロ、こっちへ!」

エリオはキャロへと走り寄ると、その手を掴む。
瞬間、それまで意識を苛んでいた『声』がはたと止み、忽ちの内に思考がクリアとなった。
咄嗟にキャロを引き寄せ、腕の中に囲う。

「エ・・・リオ・・・君?」

幻覚ではない。
其処には確かに、キャロの温もりがあった。
声は既に消え失せ、キャロは僅かながら平静を取り戻している。

「もう大丈夫・・・大丈夫だから・・・」

キャロの髪を撫ぜつつ、エリオはそう言い聞かせた。
余程に恐ろしかったのだろう、彼女は小さく身を震わせながら啜り泣いている。
乗り越えたかの様に思われた残酷な過去を眼前にまざまざと突き付けられ、自身と同じく耐え切れずに逃げ出したのだろう。
エリオは、そう判断した。

考えてみれば、おかしな話だ。
あのフェイトが、不意を突かれたとはいえ、あの程度の刺突を躱す事ができないものだろうか。
AMFによる妨害もあったが、しかし僅かながらにも回避行動を見せなかった事は、今になって考えれば有り得ない事だ。
まさか、あのフェイトは。
あれすらも『敵』の構築した幻影だったのだろうか。

「・・・落ち着いた?」
「・・・うん」

そうして、漸く泣き止んだキャロの顔を窺うと、彼女は泣き腫らして赤くなった目を恥ずかしそうに伏せた。
苦笑し、まだ眼尻に残る涙を拭ってやるエリオ。
何時の間にか座り込んでいた腰を上げ、大切なパートナー、家族へと手を差し伸べる。
その仕草にキャロは、何処か気恥ずかしそうながらも、嬉しそうに手を伸ばし。



「・・・ヴィータ副隊長?」



唐突にエリオの背後へと、訝しげな声を放った。

「え?」

振り返るエリオ。
その視線の先に、治療服に身を包んだままのヴィータの姿を捉える。
彼女は此方へと背を向けたまま、壁面へと向かい腕を翳していた。
そして聴き慣れた、今この瞬間に最も聞きたかった声が、船内スピーカー越しにエリオの意識へと飛び込む。
314Wizards on the Horizon 代理投下代理:2008/09/13(土) 20:39:53 ID:9udmUGvp
『エリオ! キャロ!』
「フェイトさん!?」

その声に、エリオは心底からの喜びの声を上げた。
彼女は、無事だったのだ。
やはり先程のフェイトは、『敵』の用いた幻影か何かだったらしい。
彼は喜びを表情へと浮かべ、彼女が居ると思われる方向へと振り向く。
そして、気付いた。

「フェイトさ・・・!?」
『エリオ! こんな・・・こんな!』
『正気に戻れ、ヴィータ! 止めろ、それに触るんじゃない!』

彼女と自分達を隔てる、分厚い金属壁の存在に。
呆然と『円形の耐圧扉』、そのほぼ中央に設けられた強化ガラスの向こうで泣き叫ぶフェイト、更に六課のメンバーを含む十数人の顔を見やる。
皆、一様に絶望をその表情へと浮かべ、ある者は泣き叫び、ある者はデバイスを振り翳し、またある者は扉を破壊せんとする者達を押し留めていた。
直後、大音量の警告音が鳴り響き、エリオは思わず耳を押さえて苦痛の呻きを漏らす。

『駄目ええええぇぇぇェェッ!』
『副隊長・・・何でッ!?』
『畜生、やりやがった!』
『船外の連中は!? あと何秒掛かる!』
『緊急医療キットを! 早く!』
『キャロッ! エリオッ! 嫌ああああぁぁぁァァァッ!?』

泣き叫びつつ、更に激しく扉を叩くフェイト。
レヴァンティンを抜き、しかし炎を発する事のないそれに向かって、何かを叫んでいるシグナム。
医療キットを取りに行ったのか、背を向けて走り去るシャマル。
扉の向こう、片隅で制御回路の操作を試みているらしきシャリオやグリフィス、ヴァイスとティアナ。
扉へと詰め寄ろうとするなのはとスバル、それを押し止めるはやてとザフィーラ。
未だに状況を理解し切れぬまま、エリオはその光景を呆然と見つめる。

そして、聞いたのだ。
唐突に上がったヴィータの悲鳴、それが止むと同時に響いたアナウンス。
警告音に続く、無機質な合成音声。
それが告げた、無慈悲な宣告。
半ば麻痺した思考を、感情の無い音声によって紡がれた言葉が打ちのめす。
自身とキャロ、そしてヴィータの運命が既に決した事を知らせる言葉。
終末へと誘う言葉が。



『スタンバイ。25秒後に減圧を開始します』



眼球と鼓膜の奥底、微かな痛みが鈍く疼いた。
315名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:40:29 ID:Nfy2xxPe
sienn
316名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:40:43 ID:Nfy2xxPe
支援
317Wizards on the Horizon 代理投下代理:2008/09/13(土) 20:40:56 ID:9udmUGvp
投下終了です
支援、有難う御座いました

そして今回から、イベント・ホライゾン号が本性を現し始めました
リリなのの登場人物は殆どが深刻なトラウマ持ちなので、以前の犠牲者達よりも遥かにヤバい状況にあります
エリオの異常性は、原作からなるべく離れずに、人を傷付ける事に対する、独特の価値観を持たせたいと思った結果です
取り敢えず次回は、映画最大のトラウマシーンへ
勿論その主賓はエアロック内の3人です
では、また
318名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 20:42:38 ID:9udmUGvp
代理投下代理終了
319天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/13(土) 21:02:28 ID:uYXpMBs6
投下GJ&代理投下お疲れ様でした。

22時くらいに天元突破外伝中編の投下予約をさせていただきます。
今回(外伝)も全部で四部構成になりそうです。
320名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 21:03:02 ID:9udmUGvp
GJ!
なんてガクブルな状況なんだ、この先生き残れるのか?
321名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 21:05:40 ID:TyTImh6O
GJ!!です。
エゲツない攻撃をする船だなぁw
トラウマを抉り、それに気をとられているうちに必殺の罠に掛けるなんて。
減圧という事は、エリオたちの血液が沸騰するのかな?
322名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 21:09:05 ID:qOhpRKLS
GJでした!
そうか、減圧すると沸点が低くなるんだった。
323ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU :2008/09/13(土) 21:15:05 ID:80cUNIzx
私も23時50分に投下予約を。
週二投下なので日を跨ぐのは本意ではないのですが、22時50分だと
先に予約された方の投下と被る恐れがありますので……
もう少し、早くに予約をするべきでした。申し訳ありません。

今回かなり長いので、規制対策のため時間になりましたら前置き為
しに投下させて頂きます。
324名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 21:47:30 ID:8pWPnaIG
GJこの船の正体知ったら驚くだろうな。
乗り込んできた人間のトラウマ具現化させて破滅させる
地獄まで行った文字通りの化け物船。乗りたくはない。
325名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 21:50:12 ID:3y7wMXC1
宇宙での血液沸騰って結局起きないんじゃなかったっけ。
ソースは忘れたけどソ連あたりで起きた事故で宇宙飛行士が真空状態に曝されて死亡したとき
血液沸騰は起きず死因が酸欠死だったはず
326名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 21:56:18 ID:TyTImh6O
そうか、ありがとう。
そうっぽいみたいだ。
327天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/13(土) 22:05:14 ID:uYXpMBs6
では時間になったので投下を始めます。
328名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 22:12:15 ID:rllNGU92
支援
329名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 22:19:23 ID:ZlNKJAG0
330名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 22:24:24 ID:3L317qqD
代理投下をしてみます。
331Spiral氏代理投下:2008/09/13(土) 22:26:13 ID:3L317qqD
 ――夢を見ていた。

 夢の中で、彼女≠ヘ傷ついた宝石の身体を仄暗い水の底に横たえ、まどろみの中を揺蕩いながら傷を癒していた。

 ガラスの壁の向こうで、「主」が険しい顔で彼女≠見下ろしている。
 咄嗟に口を開こうとした彼女≠ヘ、しかし自分が何を言いたいのかが解らないことに気付いた。
 AIへの過負荷が余程激しかったのか、思考の言語化機能にバグが生じている。
 それでも何かを口にしようとしたが、肝心の声が出て来ないことに愕然とした。
 尋常でないダメージだった、一体どれだけ乱暴な運用をされればこれ程の傷を負うのか思いつきもしない。
 一体何があったのか、なぜ自分は今ここにいるのか、それさえも彼女≠ヘ思い出せなかった……損傷が記憶野にまで及んでいるのかもしれない。

 中枢システムのシャットダウンし、再び闇の中に堕ちていく彼女≠フ意識の最後の一欠片が、小さくなっていく「主」の背中を認識した。
 置いて往かないで……遠ざかる影に必死に呼びかける彼女≠フ声無き叫びが、「主」に届くことは無かった。

 ――そして、闇が全てを塗り潰す。


332Spiral氏代理投下:2008/09/13(土) 22:29:36 ID:3L317qqD

 
 闇よりもなお黒々とした影が、夜天を蠢き這い回る。
 その数、まさに無量大数。
 双子月の表面にはまるで人の顔のような不気味な陰が浮き上がり、その「口」から掌に顔を張りつけた手首が、踵や足の裏に顔を埋め込んだ足首が、際限なく吐き出される。
 敵は多元進化確率生命体反螺旋艦載機、パダ級とハスタグライ級――かつて大グレン団の漢達を苦しめた、アンチスパイラルの無人兵器。
 ガンメンサイズに縮小されたその怨敵が今、時を越え次元を超えて再び地球人類の前に姿を現したのだ。

 人類殲滅システム――かつて銀河を制圧したアンチスパイラルが、螺旋生命体を根絶やしにするべく星々に配備した破滅の玉手箱。
 ミッドチルダ滅亡により日の目を見ることなく眠り続け、この無人の惑星ごと忘れ去られていた負の遺産。
 それが超銀河ダイグレンという螺旋力の塊の出現により、永い眠りから解き放たれた。

 探索艇の地上降下直後を狙った敵の襲撃にグラパール隊の指揮系統は混乱、無限とも言える敵の物量もあり危機的状況に陥っていた。
 減らない敵、散っていく僚機……新兵達は未知の強敵に恐怖し、十年前の最終決戦を生き抜いた歴戦の豪傑達は記憶の奥に刻まれたトラウマに苦しめられる。
 探索艇との通信は途絶え、ヴィラル達の護衛として地上に降りたグレンラガンとも連絡が取れない。
 アークグレンラガン級スペースガンメンも積んでいない、また新規に造るような時間も無い。

 まるで出口の無い迷宮に迷い込んだかのような救いの無い絶対的絶望が、伝染病のように刃金の軍勢を侵し蝕んでいく。

 だが……恐怖に屈しない強く真っ直ぐな心を持った者も、胸に一本芯を通した者も、確かに存在した。

『あぁーっ、もう! うじゃうじゃゾロゾロとひっきりなしに……こいつら台所裏の黒いゴキかい!?』

 通信ウィンドウの向こうで憤慨する少女、超銀河ダイグレンの管制として今回の旅について来た幼馴染のふくれっ面に、少年は不謹慎とは解っていながらも苦笑を隠せなかった。

『む……ナキム、今ウチのこと笑ったやろ? 馬鹿な奴やなー思いながら嘲笑に嗤ったやろ?』
「いや、マオシャ……「嘲笑」と「嗤う」は意味が重複してると思うんだけど?」
『重箱の隅つつく前にまず謝罪か否定しろや、この馬鹿ナキム!!』

 スピーカーを壊さんばかりの勢いでがなり立てる幼馴染に、ナキムと呼ばれた少年は思わず両手で耳を押さえる。

 その時、動きを止めた少年の機体――超電導ライフルを背負ったグラパールに、敵の群れが殺到した。
 ハスタグライ級の五本指から放たれる光線が、パダ級の踵の発射口から吐き出されるミサイルが、グラパールに迫る。

『ナキム!?』
「大丈夫」

 青ざめた顔で悲鳴を上げるマオシャに穏やかに笑い返し、ナキムは全方位から迫り来る敵の攻撃を真っ直ぐに見据えた。
333Spiral氏代理投下:2008/09/13(土) 22:32:03 ID:3L317qqD
 授業のおさらいをしようか……左右の操縦桿を握り直すナキムの、まだ幼さの残る横顔には、相変わらず笑みが浮かんでいる。
 だがその笑顔は幼馴染に向けたそれとは全く真逆の、獣のように獰猛で、刃物のように鋭く研ぎ澄まされた戦士の顔だった。
 バックパックに背負った超伝導ライフルを引き抜き、少年のグラパールが宇宙を翔ける。

「一つ、大勢で人を虐めない」

 雨のように降り注ぐ光線とミサイルの隙間を掻い潜り、すれ違いざまに螺旋弾を敵の鼻面に零距離から撃ち込む。

「二つ、人に銃を向けない」

 スラスターを全開に噴かして敵に肉薄、逆手に翻した超伝導ライフルの銃床を槍のように敵の装甲に突き立てる。

「三つ、友達は大切に。無暗やたらと喧嘩しない」

 超電導ライフルを再び正面に構え直し、ナキムはスコープを覗き込んだ。
 二時の方向に孤立した味方がいる……ナキムは小さく息を吸い込み、吐息と共にトリガーを連続で引く。
 金属の軋み擦れる音がコクピットに響き渡る、その数……三回。
 超電導ライフルの銃口が三度光を放ち、撃ち出された螺旋弾が味方を襲う敵機の背中に吸い込まれ……そして撃ち抜いた。

「――ただし、」

 射撃モードを「自動掃射」に切り替え、グラパールは超電導ライフルの弾倉を交換した。
 身の丈を超える長銃を全身で支え、自動照準は解除……目視で十分、味方に当たりさえしなければそれで良し。

「一度決めたからには徹底的に、己の意地を貫き通す!」

 怒号と共にナキムはトリガーを引き絞り――瞬間、身を揺るがす程の激しい震動と衝撃がグラパールを襲った。
 フルオートで怒涛の如く吐き出される無数の螺旋弾が次々と敵を打ち砕き、喰い破り、容赦なく蹂躙する。
 グラパールの腕の中で獣のように暴れ回る超伝導ライフルを、ナキムは必死に抑え込んでいた。
 再装填した螺旋弾を全弾撃ち尽くすまで僅か数秒、しかし少年にとっては無限に等しい時間だった。

「――復習、終わり」

 全弾撃ち尽くし、沈黙する超伝導ライフルをだらりと下ろし、ナキムは荒い息を吐きながらひとりごちた。
 モニタースクリーンを見渡してみれば、一面に広がる星の海……だが、どれが地球であるのかは分からない。
 随分と遠くまで来てしまった……モニタースクリーンから視線を落とし、ナキムは淋しそうに小さく笑った。

「今度のテストは満点確実かな……ヨマコ先生」

 この満天の光のどれかにある故郷、そこで今も教鞭を執る恩師に、ナキムは独り思いを馳せる。

 少年の呟きは、天に満ちる無限の光の中に溶けて消えた。


334Spiral氏代理投下:2008/09/13(土) 22:35:02 ID:3L317qqD
 
 
「はぁ!? またブラスタービット壊したんか?」

 素頓狂な声を上げて背後を振り返る栗色の髪の女性に、車椅子を押す少女がばつの悪そうな顔で視線を逸らした。

「うん、今度は本体ごと……こう、中から何か生まれるみたいな勢いで、バキって――」

 後半は開き直ったように身振りを交えながら状況を説明する少女に、車椅子の女性――八神はやては呆れたように嘆息を漏らす。

「……毎回術者より先にデバイスが音を上げるやなんて、一体どんだけ馬鹿魔力してんねん」
「やー、それ程でも……」
「褒めてへん、褒めてへん」

 そんな馬鹿なやりとりを続けながら、少女ははやての車椅子を押して、管理局本局の広々とした廊下をゆっくりと進んでいく。
 穏やかな時間だった。
 ここ十数ヶ月は味わった記憶のない――そして最近はその感覚すらも忘れかけていた――のどかで平和な時間だった。

 少女のデバイスは現在メンテナンスルームで修理中、ガンメンも格納庫で解体整備中である。
 愛機を駆り敵陣に斬り込むか、愛杖を片手に砲撃を連発するしか能のないと豪語する少女は、その両方を取り上げられた今、久々に与えられた休暇を持て余していた。
 自慢出来るようなことではないが、これまでの短い人生の大半を戦いに傾けていた少女は、一般的な余暇の過ごし方――正しい暇の潰し方というものを全く知らない。
 途方に暮れる少女を見かねたはやては、自身の息抜きも兼ねて彼女を散歩に連れ出した。

 そして、今に至る。


335Spiral氏代理投下:2008/09/13(土) 22:36:40 ID:3L317qqD
「グリフィスくんな、今度XV級新造艦の艦長やることになったんや。
 名前はアースラU、伝説の不沈艦アースラに肖って名付けたんやて。何や照れるわぁ。
 エリオ達ライトニング隊も、クラウディアからそっちに移ることになっとる」
「へぇ」

「今年の公開陳述会、質量兵器の一部解禁とB級以上の管理外世界の管理世界への昇格が焦点になりそうや。
 前者はガンメン、ちゅー限りなくグレーゾーンな兵器を主力にしてる時点で今更な気もするけどな。
 当日の会場や街の警備はスターズ隊に頼もうか思うてる。ラゼンガンにも出張って貰うことになるかも知れへん」
「考えとく」

「来月頭には第97管理外世界のお偉いさん方との秘密会談、こっちの全権はクロノくんで、ウチも参加することになっとる。
 議題は螺旋力関連の技術提供と地球の管理世界昇格、それを見返りに連合軍への参加と次元星戦参戦の要請。
 こっちの都合で地球を巻き込むのはちと辛いけど、割り切らなあかんよね。地球出身者として、今回の悪巧みは絶対に成功させるで」
「頑張って」

 一方的に喋るはやてに生返事を返しながら、少女は数ヶ月前の病室での会話を思い返していた。
 XV級次元戦艦アースラの撃墜から数ヶ月が経過した。
 重傷を負ったアースラクルーの殆どが職場復帰を果たし、新たな配属先で日々奮闘しているらしい。
 しかし中には、その時に負った傷が元で退役や内勤への転属を余儀なくされたものも少なからず存在した。
 目の前の女性――元アースラ艦長、八神はやてもその一人である。

 アースラ最期の闘いとなったあの日、不沈艦が沈む最後のあの時、はやては敵の攻撃を生身で受け止め、クルーが脱出する時間を稼いだ。
 艦全体を覆う巨大な防御陣を展開し、全方位から降り注ぐ敵の猛攻を耐え抜いた。
 しかしその無茶によりはやての守護騎士の一人、融合騎リインフォースUは消滅、はやて自身も二度と空を飛べない身体になった。
 わがままを押し通し、余りにも重い代償を背負わされる……世の中とは本当に、こんな筈じゃなかった′サ実に満ち溢れている。

 退院後、管理局に復帰したはやては現場を引退、内勤職員として現場の仲間達をサポートする道を選んだ。
 それが彼女にとって幸せであるか否かは少女には解らない、しかし過酷な運命に屈することなく今の己の持つ全力全開で戦い続ける道を選んだはやてを、少女は尊敬している。

 だがら自分ははやての代わりに、はやてから翼と大切な家族を奪った奴等を徹底的に殺し尽くす……左右で色の違う少女の瞳の奥で、暗い炎が燃えていた。


336名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 22:38:12 ID:ZlNKJAG0
337天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/13(土) 22:44:26 ID:uYXpMBs6
 
 
 エンキの光線が虚空を斬り裂き、グレンラガンのドリルが蒼穹を貫く。
 その度に破壊された敵が爆破四散し、紅蓮の炎が空を鮮やかに染め上げた。
 しかし空を覆う敵の軍勢は、一向に数を減らす様子を見せない。

「くっ、次から次へと……こうも数が多いと流石に面倒だな」
(回答。ガジェット・ドローンはゆりかご%熾狽フ製造プラントで随時製造・補充される仕組み)

 疲れの滲んだ声で呟くヴィラルの中≠ナ、ユニゾンしたリインフォースVが口を開く。

「聖王のゆりかご……あの顔無しのデカブツか」

 リインフォースVの応答に、ヴィラルはクラナガン跡の中央に横たわる黄金色の巨大な方舟――次元戦艦聖王のゆりかご≠見下ろした。
 どこにも顔の見当たらない奇妙な艦から次々と吐き出される、楕円や球体をモチーフとした艦載兵器、ガジェット・ドローン。
 火力自体は大した脅威ではないが、スピンバリアー弾を無効化するバリアは並大抵の攻撃では刀の切っ先もドリルの先端すらも通らぬ鉄壁。
 必殺技の連発にエンキとグレンラガンは疲弊し、劣勢とまではいかないが厳しい戦いを強いられていた。

 ミッドチルダの衛星軌道上に超転移した超銀河ダイグレンを待っていたものは、地球によく似た美しい惑星と、天上を廻る二つの月。
 そして螺旋反応を察知し偽装解除した人類殲滅システムと、テリトリーへの侵入者を認め再起動したゆりかご≠フ自動迎撃システムによる二重の歓迎だった。
ゆりかご≠フ苛烈な対空砲撃によりヴィラル達の降下に誤差が生じ、グレンラガンとは合流出来たが探索艇の消息は未だ不明。
 敵襲を警戒し、ガンメンを出撃させた状態で大気圏突入したのが逆に仇となったのだ。
 ミッドチルダ螺旋族とアンチスパイラル、敵対していた二つの勢力の遺した置き土産が、今はまるで共闘するかのように宇宙から地上から調査隊を追い詰める。

 グラパール隊が軌道上でアンチスパイラルの残党を相手に奮戦するその頃、地上に降りたヴィラル達もまた孤独な戦いを続けていた。

「あのデカブツを何とかするのが先決か……グレンラガン、あのデカブツと合体して艦体の制御を掌握しろ。アレが止まればガジェットも止まる」
『了解』

 ヴィラルの指示に通信ウィンドウに映る赤い髪の青年――ギミーが首肯し、グレンラガンが右腕のギガドリルを構える。
338天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/13(土) 22:45:16 ID:uYXpMBs6
 だが、その時、

『光速螺旋転移反応を感知! 二人とも気をつけて、何かがここに超転移して来る。大きさは……ダイグレン級!!』

 薄桃色の髪の女性、ダリーの警告に、ヴィラルとギミーの顔に緊張が走った。
 次の瞬間、ガラスが割れるような音と共に空間が歪み、まるで山岳のように巨大な影が姿を現す。

『うそ、だろ……?』
『あれは、まさか……!』

 ギミーとダリーの愕然とした声が、通信機から流れ出る。
 二人の動揺は当然のものだろう……かく言うヴィラル自身も、あまりの衝撃に声すらも出ない有様なのだから。
 髑髏を思わせる不気味な顔、まるでハンマーのような左腕、そして大地を穿ちその巨体を支えるドリル状の両脚。
 それはまるで――否、大きさこそあれ≠ノ比べて遥かに小さいものの、その姿はまさに、

「テッペリン、だと……!?」

 ヴィラル達獣人のかつての根城にして生まれ故郷、螺旋王ロージェノムの居城。
 人間達はデカブツと呼び、獣人達は王都と讃えるアークグレンラガン級超巨大ガンメン、テッペリンそのものだった。

(警告。あれは墓守、ゆりかご≠守護する独立支援ユニット)
「あれもあの顔無しの防御システムだと言うのか」

 リインフォースVの報告に、ヴィラルは苦々しそうに舌打ちした。
 たとえよく似た別物だと理性では解っていても、本能がこの巨大ガンメンに刃を向けることを拒絶している。
 だがヴィラルを余所に、重厚な駆動音を轟かせながらテッペリンもどきが動き出した。
 長い戦いになりそうだな……腹を括るヴィラルの中≠ナ、リインフォースVも表情を引き締める。

 第二ラウンドの火蓋が、切って落とされた。

339天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/13(土) 22:46:12 ID:uYXpMBs6
 

 
 思い出すのは無限の大空、どこまでも続き広がる風と雲と光の世界。
 魔力色の絵具を持ち寄り、三人で挑んだ蒼穹のキャンパス……だけど完成した「絵」は、いつの間にか涙で滲んでいた。

 大空を舞い踊る四基の刃金の鳥――ブラスタービットを周囲に従え、少女は手の中の愛杖をくるくると回す……その左右にはもう一つずつ、別の誰かの影があった。
 右手に漆黒の戦斧を携える黄金色の髪の女性と、騎士杖を右手に握り左手に魔導書を抱えた白金色の髪の女性。
 どちらも少女にとって掛け替えの無い大切な存在であり、右手に握られる魔杖のかつての主≠焉A親友として絶対の信頼を置いていた者達。

「スターズ1、中距離火砲支援……とゆーか一番槍、いきまーす!!」

 緊張感に欠ける名乗りと共に少女が虚空を踏み締め、まるで長銃でも扱うかのように杖を水平に構えた。
 足元に虹色の魔法陣が展開され、光の粒子が杖の先端に集束する。

「エクセリオンバスター」

 まるで龍が火炎を噴くかのように魔杖の先端から光の奔流が撃ち放たれ、雲の壁を突き破りながら真っ直ぐに蒼穹を貫いた。

 空を突き進む少女の砲撃を追うように、続いて黄金色の髪の女性が動いた。
 砲撃の軌跡をなぞるように高速で敵陣に突入し、掌から雷撃の槍が無数に撃ち出す。

「行って、ブラスタービット」

 少女の指示を受けた魔杖の分身――ブラスタービットが敵陣に突入し、変則的な軌道でバラバラに飛びながら確実に敵を撃ち落としていく。
 更に四基のブラスタービットを制御しながら、少女は魔杖本体からも魔力弾を撃ち続ける。

「おー、大したもんやなぁー」

 黄金色の女性の動きを妨げることなく、五つの砲台を駆使して巧みな援護を行う少女の技量に、傍らで呪文構築中の白金色の髪の女性が感嘆したように声を上げる。

「砲撃魔法は高町家のお家芸だから。これ位出来なきゃ、ママに顔向け出来ないよ」
「でもなのはちゃん家て確か剣道家やったよね、鉄砲は専門外ちゅーか寧ろ御法度ちゃうんか?」

 無関心を装うように素っ気なく、しかし照れたように頬を緩ませながら応える少女に、白金色の女性は悪戯っぽい笑みを浮かべてツッコミを入れる。
 ぴしりという擬音でも聞こえてきそうな程に見事に固まる少女に小さく笑みを零し、白金色の女性は呪文の最終段階に入った。

「詠唱完了……二人とも準備はええかぁ?」

 白金色の女性の音頭を受けて黄金色の女性が飛び退くように敵群から距離を開け、少女もまた気を引き締めるように杖を握り直した。

「響け終焉の笛、ラグナロク……」

 白金色の女性の前面に正三角形の、足元に円形の魔法陣が展開され、魔力の粒子を集束させながらゆっくりと回転を始める。

「雷光一閃、プラズマザンバー……」

 黄金色の女性の周囲に金色の光の球体が顕現し、戦斧から変形した大剣の刀身に電光が迸る。
340天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/13(土) 22:47:10 ID:uYXpMBs6
「スターライト・エクセリオン……」

 呼び戻した四基のブラスタービット、そして手元の杖それぞれの前面に一枚ずつ、合計五枚の魔法陣を展開し、少女が魔力を充填する。

 ビシリ……許容量を遥かに超える過剰な魔力供給に、魔杖の表面に亀裂が入った。
 泣き叫ぶ愛杖の悲鳴を全身で聴きながら、それでも少女は力を籠め続ける。

 そして――、

 限界を超えた魔力負荷に耐えきれなくなったブラスタービットが、音を立てて爆ぜ砕け散り、

「「「トリプルブレイカー!!!」」」

 怒号と共に撃ち出された三色の破壊の光が、敵の群れを跡形も無く消し飛ばした。

「……何や、懐かしいなぁ」

 敵を一掃し、静寂を取り戻した空を見渡しながら、感慨深そうに呟く白金色の女性に、少女は「え?」と顔を上げた。

「うん……昔を思い出す」

 懐かしそうな声で同意する黄金色の女性に、少女は困惑の色を強める。

「ウチとフェイトちゃんと、そしてなのはちゃんと……三人一緒の空なんて、きっともう無理やって諦めてた」
「ずっと三人一緒だと思ってた子供の頃、三人揃えば何でも出来るって信じてたあの頃……ちょっとだけ、思い出しちゃった」

 少しだけ淋しそうに、しかしどこか嬉しそうに笑う二人に、少女に心境は複雑だった。
 この二人の眼は自分を反射しているが、決して自分を見て≠ヘいない、
 自分を通して、他の誰かを見ている。
 その誰か≠ヘ、少女にとっても大切な人で、大好きだった人で、ずっと胸の中で生きている強い人。
 魂の半分を分かち合う、大切で大好きな憧れの人……だけどそれは決して自分では、少女その人ではない。

「ヴィヴィオはなのはによく似てるよ」

 金色の女性、少女にとっては第二の母親とも言える優しい人の、何気ない一言。
 決定的な科白だった。
 ずっと追い掛けている背中と重ねられる、そのこと自体は悪い気分ではない。
 だけど自分の中の、喪ってしまった人の面影だけに目を奪われ、肝心の自分自身を見てくれないのは淋しかった。
 手をのばせば誰かの温もりを感じられる場所にいながら、それでも少女は孤独だった。
 零れた涙は、晴天を滑り落ちるたった一粒の雨となり、無限の蒼穹の中に消えていった。

 それは涙の味のするセピア色の思い出、三人で飛んだ最初で最後の空の記憶だった。


341天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/13(土) 22:48:05 ID:uYXpMBs6
 
 
 テッペリンもどきの戦艦級巨大ガンメン――墓守の機械仕掛けの双眸に光が灯り、圧倒的な熱量を孕む光の奔流がエンキとグレンラガンへと撃ち放たれる。
 迫り来る敵の光線にエンキは鋼鉄の楯を、グレンラガンはドリルの傘をそれぞれ広げ……次の瞬間、二体の背中をガジェットの光線やミサイルが突如襲った。
 テッペリンもどき参戦のインパクトで押され、その存在をすっかり忘れていた本来の敵の不意打ちに体勢を崩したエンキ達を、墓守の光線が正面から直撃する。

「がぁっ!?」
『うわっ!!』『きゃあ!!』

 苦悶の悲鳴を上げながら吹き飛ばされる二体に追い討ちを掛けるように墓守がハンマー状の左腕を持ち上げ、そして勢い良く振り下ろした。
 速度を増しながら迫り来る墓守のハンマー、視界一面を覆い隠すその巨大な「天井」を見上げ、エンキが頭頂部のリングに光を灯し、グレンラガンが右腕のギガドリルを構える。

 エンキのリングが光る、煌めく、照り輝く。
 グレンラガンのドリルが回る、周る、廻る。

 身の丈の何倍にも膨張巨大化したグレンラガンのドリルが唸りを上げ、激烈な輝きを宿したエンキのリングの中心で光が弾ける。

 そして――、

「エンキ・サン・アタック!!」
『『ギガドリルブレイク!!』』

 気合いと共に同時に撃ち放たれたエンキの砲撃とグレンラガンの突撃が、ハンマーの天井を粉砕した。

「『俺達を誰だと――』」

 爆発する墓守の左腕を背景に決め台詞を口にするヴィラルとギミー、だが二人の言葉は、横合いから鳴り響く風切り音によって掻き消された。
 黒煙を突き破り、鋼鉄の三本指が二体のガンメンに迫る……あれは、墓守の右腕!
 咄嗟に回避行動に移るエンキとグレンラガンだが、二体を取り囲むように隙間なく密集したガジェット達が壁のように逃げ場を塞ぐ。
 横薙ぎに振り抜かれる墓守の巨大な右手が三本指を大きく広げ、進路上のガジェットを無慈悲に巻き込みながら二体に肉薄し――、

(報告。光速螺旋転移反応を確認、探索艇とパターン一致)

 冷静に告げられるリインフォースVの報告と共に、ガジェットの壁をこじ開けながら二体の傍から突き出されたもう一本の巨大な右腕≠ェ、墓守の右手を掴み引き千切った。

『おまたせ! ダイグレン、定刻通りにただ今到着よ!!』
「完全無欠の大遅刻だ!!」

 通信ウィンドウに表示された厚化粧の男――リーロンの上げた名乗りに、ヴィラルは反射的に怒鳴り返した。
 モニタースクリーンの側面を占領する、艦に手足を取り付けたような姿の巨大ガンメン――ダイグレン級戦艦ガンメンダイグレン=A二体と共に地上に降下し、そして消息を絶っていた探索艇である。
342天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/13(土) 22:48:51 ID:uYXpMBs6
 敵の増援を感知し、墓守が新たな動きを見せた。
 髑髏を彷彿とさせる胴体部の顔が大口を開け、舌のように口内から突き出したカタパルトから艦載機が弾丸のように撃ち出される。
 次々と発進するガンメン達、それらもまたヴィラル達にとって見覚えのある機体ばかりだった。

 まるで毬栗のように鋭い突起に覆われたガンメン、キングキタン。
 猿を模した顔に飛蝗のような脚のガンメン、アインザー。
 バズーカ砲を背負った飛蝗型ガンメン、キッドナックル。
 隣り合わせに繋がる双つの顔それぞれの口の中から腕を生やしたガンメン、ツインボークン。
 頭頂部に髷型の飾りのある、ずんぐりとした体躯のガンメン、モーショーグン。
 まるで兎の耳のような長い両腕をだらりと下ろした、ほっそりとした体躯のガンメン、ソーゾーシン。

 かつて救世主シモンの駆るグレンラガンと共に地上を奪還し、十年前の最終決戦で隔絶宇宙に散った大グレン団のガンメン達が勢揃いしていた。

 刃のように鋭利な手足を持つガンメン、ビャコウ。
 目玉のような紋様の描かれた翼を両肩から生やしたガンメン、セイルーン。
 まるで甲羅のように巨大な顔を逆さに背負ったガンメン、ゲンバー。
 両足の爪で球形のバーニアユニットを握った飛行用ガンメン、シュザック。

 十七年前、地上奪還のために戦う大グレン団を苦しめ、そしてグレンラガンのドリルに倒された人類掃討軍幹部のガンメン達が集結していた。

『あらあら、まるで同窓会ね』
「……いや、寧ろ夢か冥府の棺の中にでも迷い込んだような気分だな」

 リーロンの皮肉に、ヴィラルはどこか開き直ったような面持ちで鼻を鳴らす。

 墓守の口の奥から最後の艦載機、八重歯の鋭い真紅のガンメンが撃ち出された。
 ギャンザ――かつて、それがあの機体の名前だった。
 まだヴィラルが人類掃討軍として部隊を率いていた頃、小隊長機として螺旋王から賜ったカスタムガンメン。
 しかし地上に出た人間達に鹵獲され、ギャンザは新しい名前と姿を得て生まれ変わった。
 獣人からガンメンを奪った漢の率いる軍団の名を冠した真紅のガンメン、地上奪還の旗印。

 その名は――、

「――なぁ、グレン」

 ヴィラルの眼光が、モニタースクリーンに映る宿敵を射抜いた。

 もしも、今この世界が夢であるならば……それは飛びきりの悪夢だろう。


343天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/13(土) 22:49:44 ID:uYXpMBs6
 
 
「――ィオ? ……ヴィオ!」
「……へ?」

 はやての声に、少女はふと我に返った。
 手前の車椅子に視線を落としてみれば、はやてが心配そうな顔で自分を見上げていた。

「何や怖い顔しとるけど、どっか調子悪いんか?」
「え!? い、いや……別にそんなことないよ?」

 慌てて取り繕う少女にそれ以上の追及をすることなく、はやては目の前の自動扉に視線を移した。
 鋲で打たれた金属製の表札にはメンテナンスルームと書かれている、いつの間にかフロアを一周していたようだ。

「ちょーど良かった、ちぃとここに用事があったんや」

 そう言って自力で車椅子の車輪を回しながら自動扉を潜り、メンテナンスルームの中に消えていくはやての背中を、少女は慌てて追いかけた。

 少女のデバイスの完全修復には、もう少しだけ時間が必要らしかった。
 修復ポッドに入れられた赤い宝玉を一瞥し、少女は先行するはやてを追って薄暗い部屋の中を足早に進んでいく。
 メンテナンスルーム最奥部に設けられた小さな部屋、管理局の擁する一人の天才に宛がわれた個人的な工房が、はやての目的地だった。

「おや?」

 客人の来訪に部屋の奥で機材を弄る白衣を着た黒髪の少年――この工房の若き支配者が、作業する手を止めて二人を振り返った。
 眼鏡の奥から覗く金色の双眸が、電灯の光を受けて煌めく。

「これはこれは……ようこそ、はやて部隊長殿。そしてごきげんよう、愛しい聖王陛下――いや、今は螺旋王と呼ぶべきかな?」

 仰々しい仕草で一礼する白衣の少年に、少女は聖王という単語に一瞬不愉快そうに表情を歪め、はやては苦笑しながら口を開く。
344天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/13(土) 22:50:49 ID:uYXpMBs6
「こんにちは、スカリエッティ。首尾の方はどうや?」
「上々だ、君の案件は実に素晴らしかった……」

 早速話の本題に入るはやてに、スカリエッティと呼ばれた少年はそう言って氷のような笑みを浮かべる。

「融合騎を一から創り上げるというのは、この身に刷り込まれたオリジナルの記憶を含めても初めての経験でね、中々楽しい工作の時間だったよ。
 ちょうど今し方最終調整が済んだところだ、そういう意味でも君達は実にタイミング良くやって来た。完成した品はほら……あそこだ」

 スカリエッティが指差した先――工房の中央に設置された作業机の上には、見覚えのある剣十字型のペンダントと、見慣れない大冊が置かれていた。
 人工皮製の表紙に四本の角を生やした目玉のような趣味の悪い装飾の施された真新しい大冊は、恐らく魔導書型デバイスだろう。
 そしてその傍らに置かれたペンダント、細い鎖に繋がれたあの金色の剣十字は――、

「はやてちゃん、それって……」

 驚愕に目を見開きながら剣十字を指差す少女の言葉を黙殺し、はやては机上のペンダントを拾い上げた。

「待望のご対面やで……リイン」

 はやての呟きに応えるように掌の中の剣十字が淡い光を放ち、まるで御伽噺の中の妖精のように小さな少女が顕現する。
 これは、何かの夢だろうか……はやての掌の上に浮かぶ妖精の少女を映す己の双眸を、彼女を認識する己の脳神経を、少女は本気で疑った。
 腰まで届く銀色の髪、横顔から見える大空のように澄んだ蒼い左眼――リインフォースUだ、リインフォースUがそこにいる。
 容姿は死んだ筈の少女の友人、消えた筈のはやての家族が、しかし目に前で元気に動いて、飛んで、そしてはやてと喋っている!
 今、ここに生きている……。

「リイン……」

 呆然と呟く少女の声に反応したように、リインフォースUらしき少女が顔を向ける。
 まるで鏡合わせのように喪った友人と瓜二つの顔に、しかし一つだけリインフォースUと違うところを少女は見つけた。
 右眼だ――リインフォースUの右眼は左眼と同じ空色だったが、この少女の右眼は夕焼けのように紅い。
 オッドアイ、自分と同じ……大好きな人の面影に混ざる自分との意外な共通項に驚きながら、少女は目の前の妖精が、消えた友人とは似て非なる存在であることを思い知った。

 その時、リインフォースUによく似た少女が口を開いた。
 少女の二色の瞳を真っ直ぐに見上げ、

「おはようございます、マイスターヴィヴィオ。私はリインフォースV、貴方の楯」

 はっきりと、そう口にした。


345天元突破リリカルなのはSpiral:2008/09/13(土) 22:52:00 ID:uYXpMBs6
 
 
 鳴り響く銃声が大気を振るわせ、轟く砲哮が大地を揺らす。

『うぅぅぅおおおおおおおおおおおおぉっ!!』

 ギミーの気合いを共にグレンラガンの全身から無数のドリルが突出し、鼠花火のように不規則な軌道を描きながら四方八方に撃ち出される。
 降り注ぐドリルの豪雨を掻い潜ったガンメン達の前に、白い影が立ち塞がる……エンキだ。

『死人は死人らしく土の中で眠っていろ!!』

 ヴィラルの怒号と共に大口を開けたエンキの体内から幾つもの銃器が迫り出し、撃ち放たれた無数のミサイルが無人機の軍勢を呑み込んだ。

 荒涼とした死と静寂の世界は、すでにその面影すらも消え失せていた。
 吹き抜ける風は硝煙の香りに侵され、砂の海は鉄屑と鉛玉の山に埋もれている。
 絶え間無く飛び交う銃弾の大群はまるで異常発生した蟲のように蒼穹を覆い隠し、ミサイルが雲のように空を流れ、光線が雨のように地上に降り注ぐ。

 それはまるで宴だった。
 埃塗れのおもちゃ箱から掘り起こされた絡操仕掛けのホスト共と、聖域に土足で踏み込んだ招かれざるゲスト達が全力全開でぶつかり合う、破壊と殺戮の宴だった。

 襲い来る凶弾の猛威を耐え抜き、ガンメン軍団がガジェットを従えエンキ達に襲い掛かった。
 数えきれない程の銃弾が、ミサイルが、光線が、たった二体の脅威を墜とす為だけに惜しみなく撃ち込まれる。
 だが過剰苛烈とも言える敵の攻撃は、しかし一発とてエンキ達に届きはしなかった。
 まるで天地が逆転したかのように地上から空へと降り注ぐ鋼の雨――ダイグレンの対空砲火による弾幕のカーテンが、撃ち込まれる敵の砲撃を相殺していた。
 ダイグレン前面に搭載された九門の主砲、更に両肩と腰回りに設置された副砲が合計三十四門、その全てが一斉に火を噴き、空を覆うガジェットの軍勢を薙ぎ払う。

 ずん……ダイグレンが一歩足を踏み出す度に、その圧倒的な質量に大地が震える。
 周期的に地を揺るがすその律動は次第にその頻度を上げていき、止まぬ地鳴りに呑まれるように廃墟が次々と崩れ落ちていく。
 ダイグレンは走っていた。
 全身の砲門から休みなく砲弾を吐き出しながら、山岳を思わせるその巨体からは想像もつかぬ俊敏さで地を駆けていた。

『ホウチョウアンカー!!』

 怒号と共に突き出されたダイグレンの舳先、まるで包丁のように鋭く幅広い衝角が、凶刃の如く墓守に迫る。
 十七年前、四天王シトマンドラの駆るカスタムガンメンをその母艦ごと両断し、テッペリンの左腕を砕いてみせたダイグレンの包丁が、墓守の巨体を串刺しにした――否!

「……やるわね」

 ダイグレンの艦橋がどよめきに包まれる中、リーロンが戦慄にも似た笑みと共に賞賛の言葉を呟く。
 山をも切り裂くダイグレンの包丁を、墓守は食らいつくように上下の顎門で挟み受け止めていた。
 包丁の表面に細かな亀裂が広がり、音を立てて砕け散る。
346名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 22:52:58 ID:3L317qqD
支援
347名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 22:54:30 ID:ZlNKJAG0
348代理投下:2008/09/13(土) 22:57:44 ID:3L317qqD
自分がやってみます。
349Spiral氏代理投下:2008/09/13(土) 22:58:45 ID:3L317qqD
 噛み砕かれた……物理的な意味でも精神的にもブリッジが衝撃に揺れる中、リーロンの双眸が不敵に光った。

「ミニサイズになっても、流石はあのテッペリンと言ったところかしら……でもね!」

 コンソールを操作するリーロンの指先が流れるようにパネルを這い回り、入力された信号が光の速さで中枢システムに到達する。
 瞬間、巨塔のようなダイグレンの両脚が大地を踏み締め、腰の捻りと共に振り出された鋼の拳が風切り音を轟かせながら墓守の左頬に突き刺さる。
 体重の乗った見事な右ストレートだった。

 だが墓守も負けてはいない……仰け反る身体を立て直し、途中から千切れた右腕をロケットのように垂直に打ち上げる。
 カウンターで繰り出された墓守のアッパーカットがダイグレンの鼻面を抉り、真紅の巨体が破片を撒き散らしながら斜めに傾く。

 踏鞴を踏み、倒れそうになる艦体を立て直したダイグレンが、両腕を矛のように墓守へと突き出した。
 ダイグレンの貫手に正面から応じるように、墓守もまた壊れた両腕を正面に振り出す。
 まるで力比べでもするかのように互いの手と手を正面から組み合う二体の戦艦級巨大ガンメン、そのパワーは拮抗し、互いに押しも引きも出来ぬ膠着状態に陥っていた。

 だが、それで良い……リーロンの唇が薄く吊り上がる。
 邪魔な墓守の動きは止めた、これで本命のゆりかご≠ノ近付ける。

「オッケーよ、二人共! 遠慮なく征っちゃいなさい!!」

 リーロンの発破に応えるように紅蓮色の閃光が空を貫き、墓守の脇を抜いてゆりかご≠ヨと一直線に迫る。

『『グレンラガンインパクト!!』』

 ギミーとダリーの怒号と共にグレンラガンの下半身がドリルに変わり、唸りを上げて高速回転しながらゆりかご≠フ巨大な艦体に深々と突き刺さった。
 ドリルを通じて二人の気合いの力、螺旋力がゆりかご≠フ中に流し込まれる。

 グレンラガン――正確にはその中枢であるラガン――には、合体したメカを支配する特殊機能が搭載されている。
 その力は搭乗者の螺旋力に比例し、理論上では如何なる巨大なマシンであっても支配することが可能と言える。

 保護プログラムの壁を次々と突破し、ラガンは順調にゆりかご≠フ制御システムを制圧していく。
 猛毒のようにゆりかご≠侵食する螺旋力が、遂に制御中枢に辿り着き――瞬間、まるで拒絶されるかのようにグレンラガンの機体がゆりかご≠ゥら弾き出された。

「そんな、ラガンの支配に打ち勝った……!?」
「こんなこと、初めてだよ……」

 グレンラガンの二つのコクピットそれぞれの中で、ギミーとダリーが愕然と呟く。
 ラガンの支配を撥ね退ける程の強力なゆりかご≠フ自己防衛プログラム……一瞬の接触ではあったが、そこには意思≠フようなものさえ感じられた。


350Spiral氏代理投下:2008/09/13(土) 23:00:39 ID:3L317qqD
もう一度だ……再びドリルを構えるグレンラガンの周囲を、墓守のガンメン軍団が取り囲む。
 エンキ達の一斉射撃やダイグレンの集中砲火をまともに受け、ボロボロになりながらも未だに動き続ける鋼の巨人達は、まさに黄泉から迷い出た亡者と呼ぶに相応しい。

「こいつら……!」

 邪魔な障害を纏めて薙ぎ払うべく、ギミーは操縦桿を握る両手に力を籠めた。
 迸る螺旋力が血流のようにグレンラガンの全身を回り巡り、右腕のギガドリルに集束する。

「ギガドリル――」

 ギガドリルを構え、必殺の一撃を放とうとするグレンラガンの前に、その時一体のガンメンが立ち塞がった。
 他のカスタムガンメン達よりも一回り大きな体躯に、隣り合う双頭の口内から一本ずつ腕を生やした異形のガンメン――ツインボークン。

「あ……」

 操縦桿を握る両手から――否、ギミーの全身から力が抜けていく。
 記憶の蓋がこじ開けられ、溢れ出す思い出の濁流に意識が流され呑み込まれていく。
 思い出すのは十年前、隔絶宇宙での敵艦隊との戦い……圧倒的な戦力差に母艦に逃げ帰ることしか出来なかった仲間達、絶望的な戦いを挑み笑いながら死んでいった先輩達。
 そして傷ついた自分達二人を最後まで護り抜き、敵の砲撃の中に散っていった双子のガンメン乗り。
 思い出してしまう、蘇ってしまう……彼らの最期の言葉が、自分達に託された彼らの遺志が。

 ――ギミー、ダリーを守れ。
 ――生きろよ、俺達の分も。

 今でも耳の奥ではっきりと響く彼らの遺言、その科白の何と重いことか。

「ジョーガン、バリンボォ……」

 両手が操縦桿から滑り落ち、コンソールの螺旋力ゲージが急速に落ちていく。
 駄目だ……モニタースクリーンに映るツインボークンから視線を逸らし、ギミーは掌で顔を覆った。
 たとえ偽物と解っていても、自分はジョーガン達と、大グレン団の皆と戦うことは出来ない。
 完全に戦意を喪失し、ラガンのコクピットで力無く項垂れるギミー、その思いはグレンのパイロットシートに座るダリーも同じだった。

 まるで電池の切れた玩具のように沈黙するグレンラガンを、ガンメン達の砲撃の光が呑み込んだ。



天元突破リリカルなのはSpiral
 外伝「そんな、優しい夢を見ていた」(続)


351Spiral氏代理投下:2008/09/13(土) 23:02:03 ID:3L317qqD
以上、投下完了です。
次の投下は筆の進み具合にもよりますが、多分本編11話になると思います。
前回GJコールくれた方々、今回支援してくれた方々、そして代理投下の方、この場を借りてありがとうございます。
352名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 23:05:02 ID:lCz4lN2d
作者&代理投下の人乙
でもね、サル顔がキッドナックル、バッタ型がアインザーなんだよ・・・。
353名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 23:20:37 ID:3L317qqD
Spiral氏GJ
リインフォースVとはこれは気になります。
パワーアップの予感。
354ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/13(土) 23:50:22 ID:80cUNIzx
 セインにとって、ナンバーズとは姉妹であり大切な仲間だった。
 戦闘機人という人と異なる存在であるからこそ生まれる結束や、絆があると、
セインは今日まで信じてきた。
 でもそれは、信じていたというより、信じたかっただけなのかもしれない。


「ぁ……っ」
 身体中が、痛い。そして、眩しい。意識が戻りつつあると同時に、光が視界
に差し込んできたのだ。

 生きてる、私はまだ、生きている……。

「気がついたか?」
 声は、すぐ側でした。眩しさに目を細めながら、セインは周囲を見回す。病
室、だろうか? 自分はどうやら、負傷して病院のベッドの上らしい。
「お前……なんで」
 口から出たのは、掠れ切った声。喉が、カラカラに乾いていた。それに気づ
いたのか、セインの傍らに立っていた男が、水差しに入っている水をコップに
注いだ。
 ほとんど無理やり、セインは起き上がった。身体中が軋むように痛みを発す
るが、彼女は無視して、ゼロから渡されたコップを受け取る。
「どうして、私を助けたんだ。私に、もう価値なんてない」
 一口、水を飲みながらセインは尋ねた。記憶は、さほど混乱していない。何
故自分がここにいるのかはともかく、自分が仲間に、固い絆で結ばれていると
信じたナンバーズの姉妹によって撃たれたことぐらい、憶えている。
「訊きたいことが幾つかあった、それだけだ」

 あの時、ディエチの砲火によって消滅の危機にあったセインを救ったのは、
ゼロだった。彼はセインの投げ捨てたシェルコートを拾うとそれを纏い、倒れ
ていたセインの上に覆いかぶさった。
「ハードシェル!」
 防御外套シェルコートは、かつてチンクの所有物であった時、鉄壁の守りを
誇っていた。施設規模の爆発でさえ完全に防ぐ高硬度の防御であり、生半可な
攻撃では傷すらつかない。その防御力は、ナンバーズが持つ装備の中でも確実
に最高クラスだろう。
 しかし、世の中に『矛盾』なる言葉が存在するように、ハードシェルが最硬
の防御なら、ディエチのイノーメスカノンは最強の攻撃だ。エネルギー直射砲
は物理破壊レベルなら、最大出力に達しなくてもSランク以上だ。

 直撃と、それによって巻き起こる大爆発。
 セインが生きていられたのは、間違いなくゼロのおかげだった。


        第14話「夢物語の終幕」

355ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/13(土) 23:52:16 ID:80cUNIzx
 信じていた仲間に裏切られたという事実は、セインに想像以上のショックを
与えたらしい。
 彼女はフェイトによって行われた尋問に対し、条件付きでほとんど素直に答
えた。条件とは、先に捕虜となった姉妹らの安否についてであるが、一人を除
いて回復に向かっているという。
「チンクって子は損傷が激しくて、専門機関で治療を受けてる」
 ゼロと激しい激闘を繰り広げ、最後は自らを滅してでも彼を倒そうとしたチ
ンクは、一番損傷がひどかった。高速移動したライディングボードの突撃に背
骨を完全に砕かれ、修復にはかなりの時間がかかるという。
 セインは一瞬だけ、ゼロを非難するような眼で見たが、お門違いだと気づい
たのかそのことには触れなかった。
「私たちは、どうなるのさ?」
「あなたを除いた二人は、三日後、時空管理局の本局に移送される」
 フェイトは殊更事務的に言葉を吐き出していた。セインもそうであるが、ナ
ンバーズが年端もいかない少女の姿をしていることに、彼女は疑問を覚えてい
たのだ。
「……私は?」
「あなたともう一人の子は、負傷具合が移送に耐えられないから当面は見送り。
しばらくはここに居て貰おう」
「意識があるのに?」
 セインの疑問はもっともであり、事実、損傷や負傷という意味ではセインが
一番マシなはずだ。他のナンバーズが機能停止にまで追い込まれたのに比べ、
彼女が受けたダメージはさしたるほどではない。ディエチの砲撃も、ゼロが完
全に防ぎ切り、彼の方が損傷してしまったほどで、損傷らしい損傷と言えば、
それこそゼロとの戦いで出来た傷のみだ。
 故にフェイトの言い分は嘘くさく、実際嘘であった。六課総隊長のはやてが、
捕虜の中で唯一意識を保っていたセインに興味を示し、本局よりも先に情報を
得るために移送リストから外したのだ。それには適当な理由付けが必要であっ
たが、一番最近の戦闘で捕虜になったこともあり、負傷度合が著しく、という
内容には意外な説得力があった。
「管理局は、あなたたちが協力的であれば丁重に扱う」
 その言葉に、セインは眉をひそめた。
「それって非協力的なら、丁重ではなくなるってことだよね?」
 尋問が拷問に代わり、自白剤やら暗示魔法などが使われるのだろう。
 自分でよかった、とセインは思った。チンクやオットーならば、協力を拒否
して拷問を受けることを選んだかもしれない。いや、チンク姉なら絶対にそう
しただろう。
 陰りが、セインの表情には見られた。
 明るさだけが取り柄、などと言われていたセインが、暗く淀んだ湖の底のよ
うに薄暗い。それだけ、あの一発は堪えたということか。
「いいよ、ドクターには愛想が尽きた。訊きたいことがあるなら、私が答える。
だから、他の子には手を出さないで」
 元々、そんなに好きでもなかったし。セインは割り切ると、いつの間にか空
になった水のコップに、お代わりを注ぐようにとゼロに注文を付けた。

356ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/13(土) 23:53:28 ID:80cUNIzx
 嫌われ者のスカリエッティ、などという称号をもらって、この男が喜ぶかど
うか。ゼロとセインが生きていて、六課へと帰還したようだという報告を聞い
ても、スカリエッティは何も答えなかった。証拠となる資料、六課内の各所を
盗撮した画像データを見せられた彼は、それきり黙りこんでしまったのだ。

 ディエチがスカリエッティの命を受け行った任務は、当人とスカリエッティ、
そして一部のナンバーズを除けば誰にも知らされていない極秘事項だった。
 セインの件に関しては、施設爆破による相打ちを狙って自爆を敢行したのだ
と、ノーヴェなどには伝えられていた。戦いに際し、セインが大量の爆薬やら
爆弾をかき集めていたのは事実なので、戦闘方面では単純思考であるノーヴェ
は、疑問を覚えることなく信じてしまった。
 一方、クアットロはウーノと同じく事の詳細を知る一人だが、彼女はセイン
生存の報に疑問を抱いていた。
「ねぇ、ディエチちゃん。あなた、セインちゃんが生きているのを知ってたん
じゃないの?」
「……そんなこと、ないよ」
 ドクターに対し忠誠を誓い、従順に任務をこなしていくディエチの評価は高
いが、彼女自身は何も疑問を感じていないわけではない。悩むこと、考えるこ
とは彼女にだってある。
「ディエチちゃんもつまんないわねぇ……」
 クアットロはディエチが同情心や仲間意識から、敢えてセインを見逃したと
思っているようだが、事実は異なる。ディエチは本当に、殺すつもりで砲撃を
した。だが、砲撃後生存者の確認はしなかった。仲間の死を平然と確認できる
ほど、自分は強くないと思ったから。
 しかし、これで12人いたナンバーズは8人まで減った。一人は長期任務に赴
いているから、実質7人。ウーノとクアットロが戦闘要員でないことを考える
と、戦力は半分以下にまで激減している。
「ドクター、どうするつもりかな」
「さぁ? 私たちは、あの人の考えるままに奉仕すればいいの。余計な事を考
えちゃだめよ?」
 そこまで割り切ることが、自分には出来るのか。ディエチは自分の両手に目
を向けた。血など、どこにもついてはいない。だけど、確かにこの腕が砲身を
支え、砲口を向けたこの手で、セインを撃ったのだ。
「良い気分じゃ、ないな」

 スカリエッティが残るナンバーズ、長期任務中の一人を除いた全員を集めた
のは、セインまでもが六課に捕まってから二日後だった。いつもニヤニヤとう
すら笑いを浮かべている顔が、今日に限っては違った。ディエチは思わず、ぞ
くりとするような寒気を感じ、ウーノやクアットロは見惚れ、ノーヴェに限っ
てはこんな顔もできるのかと感心し、割とカッコいいじゃないかとまで思った
ほどだ。
「さて、私の主催したゲームにおいて、貴重なナンバーズが4人、失われた。
これは非常に大きな損失であり、実に嘆かわしい話だ。しかし、敗北した姉妹
らを責めるほど、君たちの心は狭くない。そうだろう?」
 その通りではあるが、むしろ責められるべきはこんなくだらないゲームなど
を始めたドクターではないのか? ノーヴェはころころ表情を変えながら、ま
さしく複雑そうな顔をしている。
357ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/13(土) 23:54:38 ID:80cUNIzx
「セインの決死の行動で、ゼロは少なからずの痛手を被ったとの報告がある。
彼女の勇気ある行動を、私は称賛したい」
 どうもスカリエッティはセインに甘いのではないか、とウーノは思い始めて
いたが、考えてみればディエチの砲火で葬り去ろうとしていたわけだから、そ
れはないはずだと思いなおした。
「だが、ここらで我々も一つ反撃をしてみたいと思わないかね?」
 言葉に、ただ一人を除いてナンバーズらがざわめいた。
「具体的に、お願いできますか」
 姉妹の中で、実戦リーダを務めるナンバーズ3番、トーレが質問をした。
 よろしい、と言った感じでスカリエッティはうなずくと、モニターに情報を
映し出した。
「明日、ゼロによって倒されたナンバーズが、時空管理局本局に移送される。
これは確定情報だ」
「わかった! それを襲撃して、チンク姉やセインを助け出すんだな!」
 はやる気持ちを抑えきれない風にノーヴェが声を上げるが、スカリエッティ
は首を横に振った。
「残念だが、移送に関しては六課からSランククラスの魔導師が二人護衛につ
き、本局側も腕利きの部隊を送り込む手筈となっているため、こちらは容易に
手出しができない」
 当然と言えば当然の話だが、ノーヴェは納得がいかないらしい。だが、今の
ナンバーズには彼女ほどドクターに積極的に物を言うタイプはおらず、フォロ
ーを望めないノーヴェはそれ以上の進言を諦めざるを得なかった。
「じゃあ、あたしたちは何をするんだよ」
 ふてくされるノーヴェに、スカリエッティは楽しげな視線を向ける。
「要するに発想の転換だ。明日、ナンバーズが移送される。その場に六課から
強い魔導師が護衛として同行する……つまり、機動六課の戦力は半減する」
 いち早く、トーレがスカリエッティの真意をつかんだようだ。クアットロも
「あぁ、なるほど」といって納得したような表情になる。
 呑み込みの早い周囲に驚きながら、ノーヴェは答えをドクターに求めた。
「簡単なことだ。明日、我々は総力を挙げて機動六課を襲撃し、これを壊滅さ
せる」
 それは確定であり、決定であった。


 スカリエッティがゲームを一時中断し、もしくはそれすらもゲームの一部と
して組み込んだ策略を練っているとも知らず、六課はナンバーズの移送を明日
に備えて準備が始まっていた。スカリエッティが言ったように、移送に際して
総隊長のはやては、なのはとフェイトの二人を護衛として派遣することを決め
ていた。当然、スカリエッティ一味による奪還を危険視してのことであり、誰
からも異論の声はなかった。新人に任せられるような任務でもない。
 一方、はやて本人は管理局地上本部で行われる総会に出席しなければならず、
身辺警護にシグナムと、そして会場周辺の警備にヴィータと新人たちを連れて
いく予定となっていた。
358ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/13(土) 23:55:59 ID:80cUNIzx
 つまり、隊舎から主だった魔導師と騎士がいなくなるわけで、居残り組はシャ
マルとザフィーラ、それにギンガとゼロだけである。
「ま、なんかあったらよろしくな」
 はやてはそんなことを言いながら、ゼロの肩を軽く叩いた。意外な光景に、
リインや他の守護騎士が唖然とするが、はやては薄い笑みを浮かべながらゼロ
に背を向け、歩き去っていった。
 逆に、六課を離れるに際して、問題を抱えていたのはなのはである。彼女と
離れたくないヴィヴィオが、珍しく泣きながら駄々をこねたのだ。
「ほら、泣いちゃダメだよ。涙は弱さの証だって、言ったじゃない」
 言われて、ヴィヴィオはすぐに泣きやんだ。
「うん、偉いね。強い子だよ、ヴィヴィオ」
 泣きやむことは泣きやんだが、それでも離れるのが嫌らしい。怖いのだろう、
とはフェイトの意見だ。一度離れて、一生会えなくなるのではないかという不
安。そんなことあるわけないのだが、子供らしい恐怖でもあった。
「すぐ帰ってくるって。何か、お土産でも買ってきてあげるから」
 ヴィヴィオの頭を撫でながら、なのはは暖かい笑みを見せる。そして、傍ら
のザフィーラにヴィヴィオのことを頼む。昨今、ゼロの監視を辞めた、という
より辞めざるを得なくなった彼は、ヴィヴィオの護衛兼遊び相手という任務を
与えられていた。犬にはちょうどいい仕事だとは、リインの評である。
 まあ、少々大きいが犬は犬であり、ヴィヴィオも良くじゃれあっている。た
だ、ヴィータが「なんか複雑な光景だな、あれ」などと呟き、「それを言うな」
とシグナムに窘められたのは、ザフィーラに伝えない方がいい話であろう。

 かくして、機動六課の面々は一時的にではあるが離れることとなった。それ
は本当に一時的で、たまたまそんな日があった程度で済まされるはずだった。
 なのはとフェイトは都市部から離れた港に向かった。ここに停泊中の次元航
行船でナンバーズを移送する手筈となっており、引き渡しが無事に終われば彼
女たちの任務は完了となる。
 はやての出席する総会は、半日がかりで行われるものだ。中心となっている
レジアス中将は多くの議題を用意しており、話だけで4時間から6時間がかかる
だろうと言われている。ただの演説好きだろうというのは、はやての言葉だが
否定出来る人間はそれほど多くなかったかもしれない。
 ゼロやギンガは居残りであるが、ギンガはゼロが戦い続きで疲れているであ
ろうと気遣い、自室でデバイスの整備などをして暇をつぶすことにした。だが、
気遣いを受けた当人は、何故かセインの居る医務室で彼女と会話をしていた。

 そう、そんな何事もない一日になるはずだったのだ。

 後日になって、八神はやては当時のことをこのように記している。
「この段階において、スカリエッティは常に受け手側だった。彼が用意した舞
台にこちらが赴き、それを壊す。敵は攻める物であって、攻めてくる物ではな
い、情けない話だが誰もが当時はそのような認識をスカリエッティらに抱いて
しまっていたのだ」
 文書の最後に、はやてはこの日起こった出来事全てを簡潔な文章で表してい
る。
「あれは、そう、一言で言うならば――『私の夢が壊れた日』だった」

359名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 23:56:18 ID:TyTImh6O
支援
360名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 23:56:54 ID:tIQKC3f2
支援
361ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/13(土) 23:57:02 ID:80cUNIzx
 その日、医務室においてゼロはセインと会話をしていた。彼もまた独自に情
報を求めている一人であり、意外にもセインはゼロに対して口が軽かった。
「そもそも今回のゲームは、元々ドクターが考えていた計画の一部を流用して
行ったものなんだ」
「計画?」
「大規模テロによる陽動、一部のナンバーズやガジェットが都市の重要施設で
暴動を起こし、管理局が対応に追われている間に本命を落とす……テロリズム
における常套手段だよ」
 本命として狙いが定められていた場所については、セインは何も知らなかっ
た。知っている姉妹の方が少ないのではないだろうか。
「スカリエッティは、秘密主義者か?」
「さぁ、違うと思うよ。単純に誰も信頼してなければ、信用もしてないだけだ
よ」
「だが、お前は奴の……」
 娘のようなものではないのか? ゼロの考えに、セインは自嘲気味な笑みを
浮かべた。
「違うね、私たちはドクターにとって、ドクターが作り上げた作品でしかない。
こうやって自主性や自立性は持ってるけど、根本的な部分が人とは違う」
 だから、簡単に切り捨てることが出来る。
 恐らく自分は、用済みと判断されたのだ。当然だろう、主人たるドクターの
命に背き、ゼロと戦ったのだから。愛想を尽かしたというのなら、むしろスカ
リエッティの方なのかも知れない。
「だから、ドクターが何を考えているか、何がしたいのかは私にはわからない
し、知りたいとも思わなかった。何かを教えてくれる人でも、ないしね」
 つかみ所のない人間とは、まさにスカリエッティのような男のことを言うの
だろう。難しいことは自分にはわからないが、ドクターは自分の内面を見せる
ことを酷く嫌っていたように思える。自分の話をしたがらないというか、そも
そも彼は何者なのかと問われても、答えられるのはウーノぐらいではないだろ
うか。
「あ……そういえば」
「どうした?」
「一つだけ、ドクターが質問をしてきたことがあったな。これは、ナンバーズ
全員に訊いてるみたいだよ」
 質問と言うより、確認に近かったようにも思える。
「それは?」
「えっと、確か……」
 そう――あの問いは、

「私の夢を、知っているかい?」
362ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/13(土) 23:58:03 ID:80cUNIzx
 セインの言葉が終わるとともに、医務室の扉が開いた。
「あっ、ゼロこんなところにいた!」
 ヴィヴィオだった。ゼロを探していたのだろうか、ザフィーラの背に跨り、
嬉しそうな笑みを向けた。
「どうした?」
「なのはママもフェイトもママもいないから、ゼロ、一緒に遊ぼうよー!」
 子供らしい無邪気さに、ゼロは小さく、ほんの小さくだが笑った。六課では
肩身の狭いゼロにとって、ヴィヴィオの無邪気さは不快ではない。
「後で、部屋に行く」
「うん、絶対だよ!」
 それっと、声を掛け、ヴィヴィオはザフィーラに跨りながら退室していった。
興味深そうに、セインがそれを見つめていた。
「あの子は?」
 子供がいるのが珍しいのか、セインがゼロに尋ねる。
「事情があって、ここで保護している子供だ」
「へぇ……そうなんだ」
 一応の納得はしたセインだが、何か引っかかるものがあるのか眉を顰めてい
た。
「でも、あの子……どこかで」
 その時、室内に緊急を知らせる警報機が鳴り響いた。
「何があった?」
 壁に備わっている通信機器を操作し、司令室へと繋げるゼロ。小型の画面に
はギンガが現れた。
『ゼロさん、すぐ来てください! スカリエッティの大部隊が、市街に侵攻を
始めました!』


 最初に攻撃を受けたのは、外部ではなく内部だった。
 時空管理局地上本部中央司令室及び、通信管制室が何者かにクラッキングさ
れ、制御権を奪われたのだ。
「馬鹿な、これほどの技術……すぐに防壁を展開、敵のクラッキングを遮断し、
メインシステムを守れ!」
 レジアス中将の腹心である将官は指示を飛ばして対応しようとする。彼の判
断と行動は迅速であり、そう悪いものではなかった。
 だが、敵は更にその先を行った。
363ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/13(土) 23:59:08 ID:80cUNIzx
「なんだ……身体、が」
 将官は元より、士官達が次々に倒れていく。
 胸が、苦しい。立つどころか、急速に意識が途絶えていく。
「空調システムを、止め――」
 失われた意識は、二度と戻ることがなかった。
 何者かが『内部』から、空調システムに麻痺性のガスを流したのだ。麻痺性、
つまりは神経系を破壊する神経ガス。除去装置が作動するのが遅れていれば、
地上本部は全滅していただろう。
 異変はすぐにレジアス中将の耳にも入った。彼は総会を中断すると、臨時の
司令部を作り直接指揮を執ろうとしたのだが……
「ガジェット部隊、突撃してきます!」
 完全防御を誇る地上本部の構造が仇となり、作動したセキュリティシステム
が次々と隔壁を閉鎖、ガジェットが密集することでAMF濃度が高まり、魔導師
達は手も足も出なくなってしまった。
 本部の外で警護の任に当たっていた部隊も、ガジェットの攻撃によって掃滅
させられていく。六課の新人三人は何とか持ちこたえていたが、ほとんど守勢
に回っていた。
「馬鹿な、総会出席者を人質にでもするつもりか?」
 レジアスは敵の意図が読めず困惑するが、彼以上に敵のことを知っていると
思っていたはやてもまた、敵の狙いがわからなかった。
「この地上本部は、次元航行艦隊の襲撃を受けても持ちこたえられる作りにな
ってる……例え、ガジェットが千体集まっても陥落はさせられない。それぐら
いスカリエッティもわかってるはず」
 ならば、狙いは総会出席者などではない。そもそも、スカリエッティはガ
ジェットのAMFを利用してこちらの封じ込めに掛かっている。狙いはもっと、
別のものだ。
「まさか……いや、でも!」

 同じ頃、ナンバーズの護衛任務に赴いていたなのはとフェイトも、ガジェッ
ト部隊による奇襲を受けていた。
 だが、敵が奪還をしてくる可能性を理解していた二人にとって、この奇襲は
ほとんど予想通りだった。
「次元航行艦の出航急いで! ここは、私とフェイトちゃんで止めます!」
 活き活きと、なのははデバイスを展開していた。
 輝くような、美しい勇姿。かつてフェイトが見た、あるべき親友の姿。
「早く倒して、早く帰ろう……六課には、あそこには待ってる人がいるんだか
ら!」
「そうだね、久々に連携技でもやってみる?」
「いいねぇ、何年ぶりってレベルじゃないかな」
 二人は笑いながら、デバイスを構える。
 昔はよく、このように共に戦ったものだ。背中を預けて戦える相手、なのは
とフェイトは、そんな関係だった。

 先入観が、この時の彼女らを支配していた。敵の襲撃を予測し、実際敵の襲
撃が来たことで、敵の狙いを読み切ったと錯覚してしまった。
 それ故に、敵の真の目的、その狙いを見失ったのだ。

 後に死にたいほど後悔することを、この時のなのははまだ知らない。

364ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/14(日) 00:01:00 ID:80cUNIzx
 市街地にガジェット軍団が侵攻を開始したとの報を受け、ゼロとギンガは対
応に迫られた。
「オレがライディングボートで市街に飛ぶ。お前はここに残れ」
 そういって、ゼロはギンガを六課の残した。距離があるとはいえ、ここにも
ガジェットがこないとも限らない。その時、戦闘要員が一人も居ないのでは困
るのだ。
「仕方ありませんね……スバルたちのこと、任せます」
 なのはとフェイトを呼び戻そうと通信を送っているのだが、妨害電波は六課
にも及んでいた。はやてや新人らとも連絡は付かず、ゼロとギンガは独自の行
動を取らねばならなかった。

 その頃、スカリエッティの秘密基地は閑散としていた。
 スカリエッティとウーノを覗く全ての戦闘機人が出払っており、ガジェット
も膨大な数が動員されているのだ。
「ドクター、対象が動き出しました」
「位置は?」
「恐らく、市街への救援に向かったものと思われます」
「上出来だな。地上本部も、彼女が中から上手くやってくれたらしい」
 全てが自分の思い通りに動いている。そんな風に自画自賛をしたくなるほど、
スカリエッティの計略は上手く進んでいた。
「ルーテシアに、回線を繋いでくれ」
 ナンバーズの4人が居らずとも、まだルーテシアがいる。セインのことはとも
かく、ルーテシアに関しては確実に贔屓をしている節があると、ウーノは思っ
ていた。
『ドクター、どうしたの?』
 すぐにルーテシアと回線は繋がった。大抵は一緒にいるはずの、騎士ゼスト
の姿が今日は見受けられない。
「いや、首尾はどうかと思ってね。今回の作戦の要は、君なのだから」
『大丈夫だよ、ガリューもいるし、ドクターのお願いは叶えてあげる』
 それは、自分の願いにも繋がることなのだから。
「いい子だな、ルーテシアは。私は君の素直なところが好きだ」
 画面越しに言われたにもかかわらず、ルーテシアは何故だかこそばゆい気持
ちになった。まだ、色恋がどうとかいう年頃ではないのだが、好きだと言われ
たら照れるか気色悪いと感じるかの二者択一だろう。そして、ルーテシアは後
者の発想がまるでなかった。

 ルーテシアは、スカリエッティが嫌いではなかったから。

365名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 00:01:03 ID:tIQKC3f2
支援
366ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/14(日) 00:02:11 ID:J6VRYOT9
 クラナガンの上空を飛ぶゼロは、行く手を飛行する人間の存在を確認した。
魔導師、いや、あれは……
 向こうもゼロに気付いたのか、飛行を止めて空中に制止した。ライディング
ボートを加速させ、正面まで距離を詰める。
「久しぶりだな、ゼロ」
 いつかの騎士が、そこにいた。黒色の槍を片手に持ち、不敵な笑みを浮かべ
ている。恐らく地上本部を目指して飛んでいたのだろうが、後背にゼロの気配
を察知して動きを止めたのだ。後ろに付かれては、厄介だと思ったに違いない。
「オレはまだ、お前の名を知らない」
 バスターショットを構えながら、ゼロは騎士に問いかける。
「そうだったな、俺の名は――」
 しかし、名乗ろうとした騎士の声を遮るように、高い女の声が響いた。ゼロ
はその姿に、一瞬だが目を奪われた。
「旦那っ! そんな奴に構ってないで、さっさと行こうぜ。時間ないんだか
ら!」
 大きさは、そう、リインほどであろうか? 赤い髪色と、対照的なまでに白
い肌。小さな黒い羽を生やした姿は、小悪魔にも見える。
「また、サイバーエルフもどきか」
 リインと同じようなものなのだろうが、確かリインは自分のことを人工物で
あるが希少価値の高い存在で、類似品は滅多にいないと自慢していた気がする。
となれば、この少女もそれなりに重要な……
「アギト、気が変わった。ユニゾンだ」
「えっ? えぇぇぇぇぇっ!? ど、どうしたんだよ急に」
「俺は、こいつと戦ってみたいんだ」
 いつになく好戦的な、野性味溢れる笑みを浮かべる騎士に、アギトと呼ばれ
た少女は「うっ」と頬を赤らめた。
「わ、わかったよ。旦那がそこまで言うなら」
 ユニゾン、という単語には聞き覚えがあった。これもリインからの情報だが、
確か魔導師ないし騎士と融合することでとてつもないパワーを与えるという合
体技の一種だったはず。
 つまり、この二人は――!
「ユニゾン、イン!」
 炎に、騎士が包まれていく。燃え上がる炎は熱波となり、圧倒的な威圧感を
ゼロに与える。
 金を基調とした衣服に、輝く黄金の髪。黒色の槍には炎が灯り、その力強さ
を示している。
「空中戦だと、そちらは全力を発揮できないだろう……あそこはどうだ?」
 騎士は高いビルの、何もない広い屋上を指さした。
「良いだろう」
 ゼロはライディングボートを動かし、そのビルの屋上へと降り立った。バス
ターからゼットセイバーを引き抜き、構えを取る。
「改め名乗ろう……我が名は、騎士ゼスト」
 同じく屋上へ降り立った騎士も、黒色の槍を構える。
「――ゼロだ」
 名乗ると同時に、二人は駆けた。互いの武器が燦めき、激突する。

367ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/14(日) 00:03:30 ID:J6VRYOT9
 ゼロとゼストが戦闘を開始した頃、ギンガが残る機動六課では更なる事件が
起こっていた。
「ガ、ガジェットの反応を確認、凄い数です!」
 悲鳴のようなシャーリーの声に、ギンガは顔色を変えた。
「まさか、ここにもガジェットを送り込むなんて」
 あるいは、六課の各部隊に対する牽制のつもりか? 普段の六課ならば、隊
長達をはじめとした豊富な戦力を有している。だが、今はそのほとんどが出払
っており、ギンガぐらいしか戦闘要員はいない。
「地上本部への増援は期待できない、なら、隊長達が戻ってくるまで持ちこた
えるしかない……魔力防壁展開、絶対防御態勢!」
 打って出る、迎え撃つ、などという選択肢は存在しない。自分はゼロや隊長
達とは違う。一騎当千の実力なんて持ち合わせていないし、守りに徹する以外
に道はない。
「我ながら、かっこ悪いけど」
 問題は、持ちこたえられるかと言うことだ。ゼロが異変に気付き、引き返し
てくれる可能性は? 低くはないと思うが、高いとも言えない。六課の防御シ
ステムは、悪いものではないが地上本部とは比較にならないほど貧弱だ。そも
そもここは、拠点防衛戦に対応して作られてなどいないのだ。
 必死で対策を練るギンガであったが、敵は彼女の一枚も二枚も上手をいった。
「地下に敵の反応が!」
「まさか、ガジェットが地下にも?」
「違います、これは……この反応は」
 驚愕に等しい表情を向けられたことで、相手の言わんとすることがギンガに
は理解できた。そして、彼女は司令室に駆けつけたシャマルに向き直った。
「ここを、防衛指揮をお願いできますか?」
「……どうするつもりなの?」
「地下に降りて、迎撃します」
 それしかなかった。敵がナンバーズであり、戦闘機人だというならば、戦え
るのは自分しかいない。
 シャマルもまた、自分が戦闘要員としては適していないことぐらい理解して
いる。ギンガのサポートをしたいと思っても、指揮官が司令室からいなくなる
わけにはいかないのだ。
「でも、敵の反応は一つじゃない」
 モニターには、敵の反応を知らせる二つの光点が光っている。一対一ならま
だしも、分が悪すぎる。
 しかし、それでもギンガは決意を変えはしなかった。シャマルに背を向け、
一瞬でバリアジャケットを纏う。
「大丈夫です、私も……」
 顔だけ振り向けたその瞳は、強い光を宿している。リボルバーナックルが装
着された左の拳を握りしめ、ギンガは言う。
「私も、戦闘機人だから」

368ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/14(日) 00:04:34 ID:80cUNIzx
「ウォォォォォォォォッ!」
 雄叫びのような声と共に振り下ろされる槍の一撃を、セイバーの斬撃で弾き
返すゼロ。
 飛び散る火花と、舞い散る火の粉。
「どうしたゼロ、お前の力はその程度か」
 豪槍を片手で振り回す怪力もさることながら、一撃ごとの技のキレが凄まじ
い。いずれも一撃必殺の威力があり、ゼロは彼にしては珍しく守勢に回ってい
る。広い空間においては、剣よりも槍のほうが武器としては真価を発揮する。
速さで翻弄し、懐に入り込むという手もあるが……
「ぬぅんっ!」
 重い斬撃に、防御したにもかかわらずゼロは数歩後退した。
 強い、と素直に感じられる相手だ。騎士と言うより、武人や武将と言った風
格や佇まいを思わせる。
『旦那、さっさと倒さないとやばいって! 時間が』
 ゼストだってそうしたいところだが、ゼロは武器の不利を補うほどの実力を
発揮し、彼と渡り合っている。
「わかっている……わかっているさ」
 ゼロの背後に見える、管理局地上本部の巨大な建物。あそこに、あの場所に
ゼストの会わなければならない相手が、彼が残り少ない命を賭けてまでも知り
たい真実があるのだ。
 だが、ゼストは……
「アギト、衝撃加速だ!」
 瞬間、ゼストの槍に纏われていた炎が消し飛び、衝撃が振動を始める。ゼロ
は咄嗟にセイバーを収納し、バスターを構えた。

『ダァッ!!!』

 衝撃波と、チャージバスターが衝突した。互いのエネルギーが周囲に撒き散
らされ、圧迫感が双方の身体に伝わる。
『なっ、衝撃波が打ち消された!?』
 驚くアギトだが、ゼロもまた魔力衝撃波程度にチャージバスターを弾き飛ば
されるとは思っても見なかった。ゼストだけは、このような結果がわかってい
たのか、すぐさま槍を構え直した。ゼロも再びセイバーを抜くが――
「……何を迷っている、ゼスト」
 言葉に、ゼストの身体が固まった。
「お前の攻撃には、迷いが見られる。本気でオレを倒すつもりがあるなら、も
っと強力な攻撃も出せるはずだ。お前はオレとの戦いを行う中で、何かから逃
げている」
「馬鹿げたことを、なにを……そんな」
 ゼストが、明らかな狼狽を見せていた。図星を付かれたのか、武器を持つ手
に震えが見える。ゼロの言ったようにゼストには彼と戦う以外の目的が確かに
ある。
369ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/14(日) 00:06:05 ID:J6VRYOT9
『旦那の事も知らずに本気を出せだと!? 野郎、好き放題言いやがって!』
 ゼストの狼狽と動揺が、出したくても本気を出すことの出来ない身体である
が故だと判断したアギトは憤り、ゼロに敵意を剥き出しにする。
 しかし、ゼストはゼロに見透かされたくないものを、見透かされてしまった。
「アギト、ユニゾンを解除しろ」
『はぁ?』
「奴の望通り、本気を出してやる。フルドライブで、叩き潰す!」
『じょ、冗談よしてくれ! なにムキになってんだよ』
 フルドライブは、ゼストの身体に多大な負担を掛ける。これ以上身体を酷使
すれば、ゼストはどうなるかわからないのだ。
「ちっくしょーっ!」
 突然、アギトが強制的にゼストのユニゾンを解除した。けれど、それはゼス
トにフルドライブを使わせるためではなく、使わせないため。
 アギトは片手を上げると、巨大な火球を作り上げていく。
「旦那の事を守るのはアタシだ。旦那の前に壁があるならアタシが砕き、旦那
の前に敵が立ち塞がるなら、アタシが燃やし尽くす!」
 極大火球とも言うべき炎の塊に、さすがのゼロもたじろいだ。放たれる前に、
撃ち落とすしかない。
 そう考えるゼロに対して、アギトは彼の動揺を誘うためにある言葉を投げか
けた。
「お前がどんなに強かろうと、今頃お前の帰る場所はなくなってるぜ!」
「――! どういう意味だ?」
「そのままの意味、機動六課はナンバーズ部隊が襲撃してるのさ」
 言われて、ゼロは愕然とした。
 そして、思い出されるのはつい先ほどセインと交わした会話。

――大規模テロによる陽動、一部のナンバーズやガジェットが都市の重要施設
で暴動を起こし、管理局が対応に追われている間に本命を落とす……テロリズ
ムにおける常套手段だよ

 まさか、市街地及び地上本部への攻撃は陽動なのか!?
「しまった――!」
 ゼロは機動六課の隊舎がある方角を見た。

 遠く離れていても見えるもの、それは炎と煙の色だった。

370ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/14(日) 00:07:24 ID:J6VRYOT9
 地下へと降り立ったギンガは、ブリッツキャリバーを走らせ積極的に進撃し
た。元々、彼女はスバルと同様に守勢に回った戦い方を好まない。しかも、今
回は敵の数が二体、速攻による先制攻撃で一体を撃破するぐらいの気構えでな
いと、まともな勝負にならない。
「前方に光り……? は、速い!?」
 二条の閃光が輝き、ギンガに迫ってくる。咄嗟に防御魔法を展開して、体当
たりともいうべき衝突を弾き返した。
 衝撃に、ギンガは大きく後ろに下がった。
「今のを防ぎきるとは、なかなかやるな」
 背が高く、力強い声。紫色の短髪をした女がギンガに声を掛けた。
「さすがはタイプゼロ、といったところでしょうか」
 簡潔に、事実だけを言うような口調で女の傍らに立つ少女が呟いた。こちら
は長い薄桃色の髪を持ち、感情に乏しい視線をギンガに向けている。挑発的な
物言いでなかったのに、少女の呟いた単語がギンガの感情を刺激した。
「その名で、私を呼ぶな……!」
 戦意を剥き出しにし、構えを取るギンガ。
「失礼、私はジェイル・スカリエッティによって造られた戦闘機人、ナンバー
ズ3番トーレ」
「……8番セッテ」
 トーレと名乗った女は、武器らしい武器を持っていない。恐らく、ギンガと
同じく接近戦主体の戦闘機人。対するセッテという少女は、二本の巨大な剣の
ようなものを持っている。形状からして、投擲が出来るかも知れない。
「目的は、六課の壊滅?」
「さぁ、どうだろうな」
 不敵に笑うトーレの手足に、幾つものエネルギー翼が発生する。それを見た
セッテも、両手に持つ武器を構える。
「知りたければ、我々を倒してみることだ……ライドインパルス!」
「IS、スローターアームズ」
 二人の姿が、再び閃光となってギンガに迫った。

「シューティングアーツ!」

 二対一の戦闘が始まった。

371ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/14(日) 00:08:19 ID:J6VRYOT9
「くらえ、轟炎!」
 アギトの手から放たれた極大火球が、ゼロへ落ちていく。バスターショット
で迎撃出来る大きさではない。
 ゼロは、セイバーを構えた。
「ハァァァァァァァァァァッ!!!」
 チャージ斬りで、その火球を斬り裂いた。斬り裂かれた炎が左右に飛び散り、
爆発を起こす。
「な、そんな!?」
 ゼロはアギトに斬り掛かるべく、地面を蹴った。すぐにでも敵を倒し、六課
に戻らねばならない!
 だが、しかし、
「――フルドライブ!!!」
 ゼストが、その行く手を遮った。フルドライブを発動させたゼストは、そこ
から繰り出される超絶なる力を、ゼロへと叩き込んだ。
「なっ!?」
 ゼロはゼットセイバーで防いだ。攻撃を受け止めた。

 それがどうした。

 受け止めた衝撃ごと、ゼロはビルの屋上に叩き付けられた。それだけでは終
わらず、屋上を突き抜け、階下まで叩き落とされる。
 屋上を中心に、ビルに亀裂が走っていく。倒壊、いや、崩壊だ。ゼストの一
撃はゼロを倒しただけではなく、高層ビル一つを崩してしまった。
 例えゼロが今の一撃を食らっても尚、生きていたとして、崩れるビルの瓦礫
に埋もれては、文字通り手も足も出ないはずだ。
「だ、旦那……」
 心配そうな声をアギトはだすが、ゼストはさして気にせずに自分が破壊した
ビルを見ていた。
「今ほどの力は、もう出せないだろうな」
 自嘲気味に、ゼストは笑った。
 ゼロは正しかった。自分の目的、自分が知りたい真実。求めてはいるが、手
に入れる事への迷いが、ゼストには確かにあった。
 もし、彼と自分の正義が違っていたら? 彼が、俺の言葉を利かなかったら?
 俺は、彼を殺すのか――そんな、迷いがあった。
「アギト、ルーテシアと合流するぞ」
「ルールーと? でも……」
「そろそろ、行動を起こしているはずだ。お前も心配していただろう?」
「う、うん」
 らしくないゼストの姿に戸惑いを憶えながら、アギトは頷いた。

372ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/14(日) 00:09:32 ID:J6VRYOT9
 ギンガと、ナンバーズ二人の戦闘は激化の一途を辿っていた。格闘技法シュ
ーティングアーツを駆使して戦うギンガに、トーレとセッテは意外な苦戦をし
ていた。無論、圧倒的な優位は保っているのだが、ギンガはよく粘っている。
「インパルスブレードッ」
 トーレのエネルギー翼と、ギンガのリボルバーナックルがぶつかり合う。二
人とも格闘タイプというだけあって、激しい接近戦を繰り広げている。
「ブーメランブレード」
 セッテが投げ放った二刀の刃を、ギンガはトライシールドを展開して弾き飛
ばした。だが、ブーメランブレードは軌道を変え、さらに連撃を加えて防御を
破った。
「そこだっ!」
 防御が破られた瞬間に、トーレの拳が飛び込んできた。ギンガ避ける間もな
く吹っ飛ばされた。
「かはっ――」
 血塊を吐き出しながら、ギンガは何とか体勢を立て直す。戦闘機人だろうと、
血の色は赤い。
「血を見ると、いつも安心する。あぁ、私も人間なんだって思えるから」
 だから……私は、
「終わりです」
 近接戦闘による斬撃を加えようとしたセッテの一撃を、ギンガの拳が受け止
めた。ブーメランブレードが、ピクリとも動かない。
 セッテは僅かに表情を変えるが、彼女には武器から手を離すという機転が利
かなかった。
「ナックルバンカーッ!」
 ブーメランブレードごと、セッテに打撃が撃ち込まれた。武器破壊及び、衝
撃でセッテが大きく後退する。
「セッテ、お前は初戦闘なのだからあまり前に出るな」
 その事実に、ギンガの顔が驚愕に包まれた。初戦闘で、連係攻撃とはいえ、
これほどまで強いのか。
「ご安心を、さしたるダメージは受けていません」
 破損したブーメランを投げ捨てると、セッテはすぐさま新たなブーメランを
取り出した。武器破壊など無駄なこと、とでも言いたげな仕草だった。
 ギンガは足を踏みしめ、戦う姿勢を崩さない。勝ち目がないことなどわかっ
ているが、諦めるわけにはいかないのだ。
「ゼロさんが……ゼロが戻ってくるまで、私は負けられない!」
 意外なほど、ギンガはゼロを信頼していた。
 ギンガもスバルも、今でこそ明るい性格をしているが幼少時はそうでもなか
った。特にギンガは生い立ちと境遇から、ある意味ではエリオ以上に周囲の人
間に対して否定的だった。
 それが今は、会って間もないといっていい男を信頼し、希望を託している?
 理由は判らないが、ゼロは、あの人だけは信じることが出来る。私は、あの
人にならこの背中を預けられる!
「まだまだ、これからよ!」
 みなぎる闘気の威圧感を、トーレとセッテは受け止めた。互いに構え、ギン
ガとの戦いを再開しようとするが……

 突然、地面が、天井が、いや、空間その物が揺れ動いた。
373ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/14(日) 00:11:09 ID:J6VRYOT9
「防壁の内側、何かが来ます!」
 巨大な反応、魔力ではない。質量その物が、巨大だった。
 地面を突き破るように、何匹もの虫が、巨体をその身に持つ虫が現れた。
「地中から防壁の内側に回り込まれた……」
 唖然として、シャマルが呟いた。隊舎の結界防壁は強固であり、ちょっとや
そっとの攻撃では陥落しない。それは防御魔法を得意とするシャマルが一番よ
く知っている。だが、そもそも防衛基地として建設されているわけではない隊
舎の防壁は、地中まで伸びていないのだ。
「やられたっ! 非戦闘員の避難と脱出を――」
 叫んだときは、何もかもが遅かった。止まらぬ揺れはその大きさを増し続け、
遂には司令室の天井が崩れ落ちたのだから。

「なんて、ことをっ!!!」
 怒りにまかせて、ギンガはトーレに向かって突撃した。リボルバーナックル
の一撃を、しかしトーレは片手で受け止めてしまった。凄まじい衝撃が浸透す
るも、打ち抜けそうにない。
「先ほど、お前は訊いたな。私たちの目的を」
 攻撃を受け止めながら、やや余裕のある声でトーレが言った。
「お前は六課の壊滅が目的と推測したようだが、私たち二人に限って言うなら、
それは違う」
「じゃあ、何が!」
 それはな、とトーレはリボルバーナックルを弾き返しながら呟いた。
「私たちの狙いは、お前だ」
「――えっ?」
 意外な、考えもしなかった答えに、ギンガは動揺と混乱による隙を見せた。
そして、彼女はそれ故に後方中空に回り込んだセッテの存在に気づけなかった。
「今度こそ、終わりです!」
 セッテはブーメランブレードの二刀を重なり合わせると、勢いを付けて投げ
放った。二刀の重なり合った両刃が回転しながらギンガを襲い、

 その左腕を切断した。

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 耳を突き破るかと思うほどの甲高い悲鳴が、地下にこだました。
 切断部分から戦闘機人としての生体部品が剥き出しとなり、セッテは痛みに
叫び倒れるギンガを不快そうに眺め、右手を突き出した。
「黙れ」
 エネルギー砲が放たれ、ギンガに直撃した。爆発が起こり、煙が晴れた先に
は、機能停止し、地面へと倒れ伏したギンガの姿があった。
「セッテ、やり過ぎだぞ?」
 切断された左腕を拾いながら、窘めるようにトーレが言った。相手が旧式で
ある以上、分かり切っていた結果だが、ドクターからは殺さずに回収しろとい
う命令を受けているのだ。
「大丈夫、死んではいません」
 瀕死のギンガを担ぎながら、セッテは事も無げに言いきった。
374名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 00:11:43 ID:fNxu+mfI
支援
375ロックマンゼロ-赤き閃光の英雄- ◆1gwURfmbQU :2008/09/14(日) 00:12:19 ID:J6VRYOT9
 燃え上がり、崩れゆく機動六課の隊舎内を、ルーテシアは歩いていた。
 傍らに歩くガリューは、突入時に回収したレリックケースをその手に持って
いる。ナンバーズの移送を優先したことで、聖王教会へ運ぶのが遅れていたの
だ。これまで六課が回収したレリック、全てがルーテシアの手元にある。
「この中に、あるのかな」
 すぐにでも開けたい衝動に駆られるが、我慢しなくてはいけない。ドクター
からのお願いは、まだ終わっていないのだ。
 魔力で炎を蹴散らしながら進むルーテシアとガリューの眼前に、影が蠢いた。
この先は確か、簡易シェルターがあるとクアットロの調査でわかっている。
「……犬?」
 訝しがるルーテシアの前に、一匹の青い毛並みをした犬が立ちはだかってい
た。どこからどう見ても犬であるが、ここにいるということは使い魔の類か。
「ここから先は――」
 低い声を出しながら、犬が光りに包まれていく。ルーテシアが眼を細める先
で、犬が人へと姿を変える。
 やはり、獣人型使い魔か。
「一歩も通さんっ!」
 久方ぶりに獣人の姿へと変わったザフィーラが、ルーテシアたちに向けて構
えを取った。それを見たガリューが、レリックケースをルーテシアに預け、前
に進み出た。
「ガリュー」
 その背に、ルーテシアが声を掛ける。彼を心配しての、言葉ではない。それ
がわかっているガリューも、敵を前に振り返ったりはしない。
「ドクターは女の子を連れてこいって言ってた。だから、そいつは」
 冷ややかな目でザフィーラを身ながら、ルーテシアは呟いた。
「そいつは別に、殺して良いよ」

 ガリューとザフィーラが、目にも止まらぬ速さで交錯した。

 ザフィーラの拳が、ガリューの腹にめり込んでいる。力強い一撃であったが、
ガリューは声一つ上げなかった。
「が…ぁっ!?」
 声を上げたのは、ザフィーラのほうであった。打ち込まれたガリューの拳、
その先端から生えた鋭い刃に腹を貫かれていた。
 血反吐が、ザフィーラの口から溢れだし、ガリューの身体に飛び散った。
 ザフィーラは確かに強かったが、如何に守護獣といえど使い魔の一種、フェ
イトの使い魔であったアルフがそうであったように、外見上はともかく、彼も
また肉体的な衰えに勝てなかったのだ。
 事実、ガリューに繰り出された拳は彼の身体をめり込むだけで、突き破るこ
とが出来なかった。ガリューは貫通させた刃を抜き取った。肉の生々しい感触
と、そして他者にも聞こえる耳障りな音にルーテシアが眉を顰めた。
「馬鹿な奴。ガリューに勝てるわけないのに」
 さぁ、早く少女を、ヴィヴィオという名の少女を連れて帰ろう。

 ここはもう、終わってしまった場所だから。

                                つづく
376名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 00:20:41 ID:0RMBVu0T
後書き代理です。

第14話です。
日を跨いでしまいましたが、支援して下さった方、ありがとうございます。
多分、今まで投下した中で一番長いですね。
長いですが、この話は一本で書ききった方が効率がよかったと思います。

あんまり戦闘描写が得意とは思えないので、戦闘ばかりの回は書くのにも
時間が掛かるのですが、如何に視覚的に書くかを研究して書いてます。
次回は通常時の長さに戻るのかな。まだ書いてないけど。

それでは、感想等ありましたら、よろしくお願いします。
377名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 00:30:51 ID:YA121Qq8
GJ!!です。
幼女ハンタースカリエッティ誕生w
そしてルー子も満更ではないだと……オノレッ!!w
あと、セッテは7番ですよw
378名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 00:31:10 ID:BmxwnhcH
終わった……のか?
ならばすかさずGJ! ゼストがカーネルポジションな気がしてならないぜ。
文章全体に漂うそこはかとない退廃感とか、終末感といったものがゼロシリーズっぽいです。
379名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 00:31:44 ID:fNxu+mfI
GJ!
CEROAなのにエグイのはSSでも同じとな!?
続き楽しみにします
380名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 00:46:22 ID:poGhUDME
GJ!
なんかスカさん頭いい! てゆーかおい!六課陣!レリック置きっぱとか何考えとんじゃ!
381名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 01:20:28 ID:otKraVi/
GJ!
六課は危機管理が甘すぎましたよ、と
まあトントン拍子に敵を捕獲してりゃ気も緩むか
ゼロは俺かTueeeではなく苦戦してるのがいいなぁ



アレ、キャロとルー子の出会いって何時だったけ?
382名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 01:41:21 ID:6K8Vu6n6
乙です

犬さん弱すぎじゃね?という感想
AA相当なのに一発KOはちょっと……

他の部分が良かっただけにそこが残念
383名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 01:49:43 ID:g3b0hOXr
GJです
物量の差はでかいな
陽動的意味で

>>381
本編でならヴィヴィオ回収のときのはず
384名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 04:51:50 ID:/izUVWdp
GJ 敵をかばう主人公って良いよな

ただ、ザッフィーに関しては少し残念だった。魔法プログラムに肉体的衰えなんてあんのか
StS本編じゃ修復速度が遅くなってる云々で、プログラムじゃなくなってんじゃね?って
シャマルかシグナムが言ってたし、それが一撃でやられる理由ならまだ分かるが…
つってもヴィヴィオの遊び相手になってたりしてても、敵との交戦はちまちましてるし、
何よりザッフィーが鍛錬を欠かす事は無さそうな気もするが

とにかく守護獣で使い魔の一種だから衰えるって理由だとちょっと厳しいよな
なによりアルフがその例に挙げられてるが、いつ弱体化したんだ
アルフが一線を退いた理由って、衰え云々じゃ無かったと思うが
385名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 07:27:38 ID:+lmuK27q
肉体的なものよりも、最前線に立たなかった事による精神的な衰えの事を指してるんじゃね?
386名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 09:02:09 ID:ints5Wud
>Wizards on the Horizon
読み終わった後に寒気がしました。これこそ、まさに戦慄。
元ネタの映画を知る者としては、このあとどんな惨劇が待ち構えているか嫌というほど分かります。
っていうか、原作のトラウマシーンを、しかもちびっ子組でやろうというその思い切りの良さにマジ戦慄! 畏怖すら感じます、いい意味でw
いや、でもここから先大丈夫かなぁ普通のファンが読んでもw
化け物船の本領発揮ですけど、あとがきの通りリリなのキャラにはトラウマ持ちが多いのでもう被害が広がる広がる。
なんでもないさそうなヴォルケンズも重犯罪人の過去持ってますし、エリオ達のようなまだ幼い子供でも過酷な背景持ちというキャラ設定をここまで裏目に出す神展開ぶりには脱帽するしかありませんw
確かにバトルものってそういう重い設定ポンポン出てくるけど、それをここまで武器にする発想が上手いですね。
なんつーかこの先阿鼻叫喚の地獄絵図しか待ってないような暗黒展開ですが、怖いのに読むのをやめられない止まらないw
固唾を呑んで見守らせていただきます。

>ロックマンゼロ
お前にはがっかりだよ、ザッフィー…orz
相変わらずあらゆる点で安定した作品。更新速度、面白さ共によどみなく進んでおりますw
原作でも屈辱の六課敗北話だったわけですが、ギン姉のやられるシーンがしっかり描かれてたりと、痒い所に手が届いてるんですが、その分悲壮さが際立ちますね。
ヴィヴィオを攫われたなのはさんの反応も心配だし…この胃が痛くなる感覚は、しかしそれも味というものかw
なんか何気に仲良くなってそうなセインが六課襲撃でどんな反応を見せるのかも気になります。個人的に好きだから仲間になって欲しいなぁ。
まだ緊迫するシーンは途切れそうに在りません。次回、ゼロや他のメンバーがどう動くのか気になります。
387名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 09:49:11 ID:IuXZ9fZ0
>ゼロ
ボス4体倒したら繰る危機的な強制イベンktkr

スカに対しての不満から離反か…
ワイリーナンバーズならこんなことはないんだろうな。
あの主従なんだかんだいっても関係は良好だしな。
資金調達のために遊園地でバイトしたりとかwww
388名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 09:52:09 ID:A9lMuVKx
ザフィーラに関しては実力云々というかガリューが卑怯なだけだろ。
拳と拳の打ち合いかと思いきや刃物生やしてるんだから。
双方打ち込む寸前に出したのなら避けられないし、いくら
ザフィーラでも土手っ腹貫かれたら負けるだろ。
389名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 09:59:56 ID:I7tUom5E
アルフは使い魔なんで主人であるフェイトの魔力消費を軽減するためにロリ化して家事手伝い。
ザフィーラは使い魔扱いのおかげでリミッターの掛かっていない裏戦力だったはずなんだけどな・・・
守護騎士の中で最も硬い盾の守護獣が一撃で沈むとはペット扱いが長すぎて勘が鈍ったのかね。
390THE OPERATION LYRICAL:2008/09/14(日) 10:53:33 ID:d5T26e9c
<<投下GJだ。こちらも1130ごろに投下したいが、よろしいか?
今回はメビウス1と黄色の13、ノーカットの決着だ!>>
391名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 11:03:55 ID:A9lMuVKx
みんな冷静になって思い出すんだ。
原作でだって犬はディードの一撃で倒されてたじゃないか。

それとさっき書き忘れたが作者これからも頑張って。
392THE OPERATION LYRICAL:2008/09/14(日) 11:30:38 ID:d5T26e9c
時間になったので投下します。

ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL


第21話 Mobius1 VS Yellow13


戦場と化したクラナガン市街地――。
ベルツ率いる陸士B部隊はその兵力全てを持って、ガジェットによる防衛線の切り崩しにかかっていた。
彼らの武装は多くがアサルトライフルやサブマシンガンで重火器は少ないが、ベルツたちはそれを高い士気で補っていた。
「正面、ガジェットT型が四!」
「お帰り願え!」
行く手を遮るように現れたガジェットの群れに対して、ベルツは真正面から挑んだ。レーザーの青い閃光が途切れることなく飛んでくるが、
彼は冷静な思考を保ち、アサルトライフルの照準を合わせ、引き金を引く。
短い間隔で放たれた魔力によって雷管を発火させる弾丸は、的確にガジェットT型のカメラを撃ち抜き、機能不全に陥らせた。盲目になった
哀れな彼らはなおもレーザーを乱射するが、闇雲に撃って当たるものでもない。陸士たちはこの隙に接近、至近距離でアサルトライフルの弾丸
を叩き込み、T型を掃討していく。
「――まずい、伏せろ!」
だが、T型の掃討を部下に任せて周囲を警戒していたベルツは叫ぶ。ビルの陰から巨大な球体、ガジェットV型が姿を現していた。
V型の放つレーザーはT型のそれに比べてはるかに威力が高く、二本のアームによる格闘能力も脅威だった。
青白い閃光が市街地を走り、退避が間に合わなかった陸士たちを吹き飛ばす。ベルツは舌打ちしてアサルトライフルをフルオートで連射する
が、V型の装甲はやはり頑丈だった。銃弾はことごとく弾かれてしまう。
「無反動砲は……!?」
ひとまずビルの陰に身を寄せ、手近にいた部下に無反動砲はないか聞いてみるが、返事が無い。肩を叩くと、部下はその場に崩れ落ちてしま
った。よく見たら顔面をレーザーで撃ち抜かれ、潰されていた。
くそ、と吐き捨てるベルツだったが、突然空から大量の魔力弾が降ってくるのが見えた。降り注がれた魔力弾はガジェットV型の中でも唯一
装甲が薄い上面を貫き、爆発。戦闘機と違って陸士部隊の進撃スピードに速度を合わせられることから、近接航空支援を受け持った本局の空
戦魔導師の援護だった。
「ったく、世話が焼けるぜ、陸の連中は」
「サンキュー、助かった。終わったら一杯おごるぜ、兄弟!」
「楽しみにしておく」
空に浮かぶ空戦魔導師と短いやり取りを終えて、ベルツは部下を率いてさらに前進する。
地上からクラナガン奪回を図る陸士部隊は本局の空戦魔導師の援護の下、ガジェットの防衛線を突破しつつあった。
393THE OPERATION LYRICAL:2008/09/14(日) 11:31:45 ID:d5T26e9c
だが、空の戦況は、決していいとは言えなかった。
ドックファイトにもつれ込んだはいいが、やはり絶対的な戦力差は地上本部戦闘機隊の技量をもってしても、覆すことが出来なかった。
「この野郎……!」
Mir-2000を駆るスカイキッドもまた、後ろについた敵機Su-35を振り切ろうと必死になっていた。
同時に複数の目標を攻撃できる中距離空対空ミサイルが使えれば、こんな奴らはあっという間に蹴散らせそうな気もする。だが、クアットロ
が"ゆりかご"艦内から仕掛けてくるECM(電波妨害)がそれを許さない。空中管制機ゴーストアイのECCM(対電波妨害)でどうにか通信とレーダー
が使えるのが今の状態だ。
安全のため身体を固定するハーネスをあえて緩めて、スカイキッドは身を乗り出して振り返り、後ろのSu-35の様子を伺う。とっくの昔に短距
離空対空ミサイルの射程に入っているのに撃ってこないのは、機関砲でなぶり殺しにしたいからだろうか。
――無人機の癖に舐めやがって。
人間様を舐めるな、とスカイキッドは操縦桿を引き、愛機を急上昇させる。そのまま宙返りを打つのかと思いきや、彼は途中で操縦桿をなぎ
払い、もう一度引く。ぐるりと回転する視界に、次の瞬間襲い掛かってくるG。ハーネスを緩めていたせいで、身体をコクピットの至るところ
にぶつけてしまった。
それでも、スカイキッドは酸素マスクの中で笑みを浮かべた。Su-35はこちらが宙返りするものと思いそのまま上昇を続けていたが、彼の機体
は宙返りを途中で打ち切り、ロールでひっくり返って機首を下に向け、Su-35をオーバーシュートさせたのだ。
もらった――無様な後姿を見せるSu-35に向かって、迷わずスカイキッドは機関砲の引き金を引く。放たれた三〇ミリの赤い曳光弾はSu-35の
左主翼を粉砕し、コントロール不能に追い込んだ。
「スカイキッド、スプラッシュ1……」
くるくると回転しながら落ちていくSu-35を尻目に、スカイキッドは機体を水平に戻し、周辺警戒を行う。
視線を巡らせると、二時方向、かすかに見える黒点が市街地に向かって降りていく――なんだって、まずいぞ。
「こちらスカイキッド、敵機が一機抜けた! 地上部隊は警戒を……うお!?」
通信機に向かって怒鳴っている最中に、コクピットにロックオン警報が鳴り響く。視線を上げると、二機のSu-35がこちらを狙って急降下して
きた。どうやら、他人の心配をする余裕はもらえないらしい。
くそったれ――歯を食いしばり、スカイキッドは操縦桿を引いて敵機に挑む――上等だ、叩き落してやる!
394THE OPERATION LYRICAL:2008/09/14(日) 11:32:37 ID:d5T26e9c
低空へと降りていった一機のSu-35は、市街地上空を飛行する一機のヘリに狙いを定めていた。
そのヘリは、機動六課の新人フォワード部隊を搭載した、アルトの操縦するものだった。
「こちらゴーストアイ、警告! 敵機が接近しているぞ!」
「了解、了解――ええい」
管制機ゴーストアイからの警告を聞くまでも無く、アルトは後方から迫るSu-35を目視、急機動を繰り返す。
とは言え、所詮はヘリの機動力である。超音速を超えるスピードを発揮し、その上低速域でも優れた安定性を誇るSu-35を簡単に振り切れるは
ずもない。
アルトは操縦桿を薙ぎ払い、派手にロールを打つ。でたらめな急機動だったが、Su-35の放った三〇ミリ機関砲を回避するにはこれしかない。
もっとも、おかげでキャビンのティアナたちはひどい目にあってしまう。
『うわあああ!?』
「ごめん、みんな! しっかり掴まってて!」
悲鳴を上げ、頭を機内にぶつけるスバル、尻餅をついてしまうティアナ、キャビンの中を転がるエリオ、手すりに必死にしがみつくキャロ。
とりあえず謝った上で、アルトはヘリの高度を思い切り下げて、ビルの立ち並ぶ市街地の合間を縫うように飛ぶ。
こういうとこなら、さすがの戦闘機も――そう思ってレーダーに視線を送るアルトだったが、それがどうしたと言わんばかりにSu-35は食らい
ついてくる。無人機ゆえ、普通のパイロットなら感じるであろうビルや地面への衝突と言う恐怖を感じることが無いのだ。
「……アルト、ハッチ開いて!」
「えぇ!?」
「いいから早く!」
その時、何を思ったのかティアナがクロスミラージュを引き抜き、アルトにヘリのハッチを開けるよう指示してきた。
「冗談じゃないよ、ハッチ開けたらスピードが落ちちゃう……!」
「このまま普通に飛んでも落とされるだけよ!?」
「ああもう、了解了解」
半ばやけくそ気味にアルトは手元のスイッチに手を伸ばし、ヘリのハッチを開く。途端にキャビンに強い風が吹き込んできて、冷たい外気が
ティアナたちを襲った。その向こうには、好機と見たのか急接近してくるSu-35の姿が。
ティアナはすっと息を吸い込み――クロスミラージュを右手一つで構え、引き金を引く。放たれた一発の魔力弾はまっすぐ飛び、Su-35に限ら
ずあらゆる航空機の無防備な点、エアインテークに吸い込まれる。
数瞬の後、Su-35はエンジン部で派手な爆発を引き起こし、バラバラになりながら地面に落ちていった。
くるくるくるくる、パシッ。ガンマンの如くクロスミラージュを手の中で回転させ、ティアナは最後にそれを止めて、呟く。
「ざっと、こんなもんよ」
何でもない、当然のことをしただけ、と言ったような表情を浮かべるティアナの横顔には、すでに出撃前の不安の色は消えうせていた。
395THE OPERATION LYRICAL:2008/09/14(日) 11:33:27 ID:d5T26e9c
一方で、地上本部跡地。
一人の魔導師が空と地上で繰り広げられる戦火の嵐を眺めていた。名を、ゼストと言う。
――解放のための戦火、か。レジアス、これが貴様の目的か?
瓦礫を掘り起こしてようやく見つけたかつての旧友は、ほとんど爆心地の中心にいたにも関わらず、眠っているような状態で死んでいた。それ
も、武人として自分に出来ることは全てやり尽くしたような、安からかな死に顔だった。
羨ましい、と彼は思う。レジアスは自分の犯した罪と正面から向き合い、そして死んだのだ。だと言うのに自分ときたら、今や死んでいないだ
けの無意味な生を甘受し、スカリエッティの手駒同然になっている。
今から管理局に投降する――それも、考えはした。だがルーテシアは依然としてスカリエッティに付き合う様子だし、何より武人としての血が
それを許さない。
ならば最後は武人らしく散るか。それが、もっとも自分にふさわしい死に方のような気がした。
この場に黄色の13がいたら止めに入るだろう、だが彼はあいにく別任務で空にいる。
「旦那……」
傍らの妖精、アギトは不安そうな表情を浮かべている。目的を失った今、彼が何をしでかすのか分からないのが原因なのは明確だ。
「お前は付き合わなくていい」
自身のデバイスを手に取り、ゼストは立ち上がる。陸士たちによる奪回部隊は、もうすぐそこまで迫ってきていた。
「冗談、あたしはとことん付き合うよ」
「……勝手にしろ」
どうせ言ったところで聞きはしまい。炎のユニゾンデバイスは「そうこなくっちゃ!」と頷き、ゼストに続く。
ふと、彼は空の様子がおかしいことに気づき、天を見上げる。
響き渡るのはジェットの轟音。それらがいくつか連なって、低空へと降りてきていた。

戦闘機隊が取り逃がした敵機は、ティアナが撃墜した一機だけではなかった。
たった五機のSu-35だったが、それらが低空へと舞い降り、順調に進攻していた陸士と空戦魔導師部隊に襲い掛かる。
ガジェットU型とは訳が違う性能を誇るSu-35は、空戦魔導師たちをいとも簡単に蹴散らしていく。
「くそ……ダメだ、このままでは全滅する! 我々は一時後退する!」
消耗を恐れた空戦魔導師たちは急ぎ後退――引き上げていく彼らを見ていたベルツは、どうにもいやな予感がしてならなかった。
そして、それは見事に的中してしまう。これまで一度か二度程度しか出現しなかったガジェットV型の群れが、一斉に姿を現してきた。
「くそったれ! おいソープ、そこでくたばってる奴の大型通信機かっぱらって来い! 増援を呼ぶ!」
V型の猛攻に苦し紛れのような銃撃で抵抗しながら、ベルツは信頼する部下に命じて、戦死した陸士のうち一人が担いでいた大型通信機を持って
来るよう命じた。並みの人間なら恐れるばかりで動くことすら敵わない弾幕の中、部下は通信機を引っ張ってきてくれた。
「使えるかどうか分かりませんよ!?」
「やってみりゃ分かる。こちらB部隊ベルツ、敵の猛攻に晒されている、増援を! もはや我、戦力無し!」
アサルトライフルの弾が切れた。ベルツは通信機のマイクに向かって怒鳴りながら、瓦礫に身を隠しつつサイドアームの拳銃を引き抜いていた。
396THE OPERATION LYRICAL:2008/09/14(日) 11:34:12 ID:d5T26e9c
増援要請を受けて真っ先に向かったのは、アルトの操縦する機動六課のヘリだった。新人フォワード部隊を降下させると、素早く戦場を離れる。
そうでなければ、またSu-35に追い掛け回される羽目になってしまうだろう。
降下したティアナたちだったが、そこにベルツたちからとはまた違う増援要請が入ってきた。どうやら、召喚獣が暴れているらしい。
「……部隊を二つに割くしかないわね。エリオとキャロ、そっちの方に向かって。あたしとスバルが、B部隊の援護に――!?」
指示を下している最中、ティアナは得体の知れない殺気を感じ取った。
「散開、命令どおりに二人は動いて!」
「りょ、了解……!」
「ご無事で!」
ただちにエリオとキャロから別れて、ティアナはスバルと共にその場を離れる。直後、飛び込んできたのは緑色の弾丸の雨。戦闘機人オットー
によるものだ。
「ティア、こいつら戦闘機人……!」
「みたいね――通せんぼってことかしら」
跳躍し、オットーからの攻撃をよける二人。だがそこに、手近にあったビルから突然砲撃が浴びせられる。狙われたのは、ティアナの方だった。
回避は――間に合わない!
せめて爆風による巻き添えだけは防ごうと、ティアナは咄嗟にスバルを蹴り飛ばす。「ティア!?」とスバルの方は訳が分からない、と言った
感じの表情を浮かべていたが、次の瞬間には当のティアナに砲撃が命中。寸前で跳躍したので直撃ではなかったものの、彼女の身体は弾き飛ば
され宙を舞い、ビルへと突っ込んでしまう。
「っく!」
外壁を突き破り、背中が激しく痛んだ。それでも立ち上がった彼女はただちにスバルと合流しようとして、異変に気づく。外に出ようとしても、
何か目に見えない障害物があって、出るに出られない。
――これは、封鎖結界!?
よりにもよって孤立させられてしまった。かなり強固な結界のようだから、単独で破壊するのはたぶん無理だろう。
「ティア、大丈夫!? 怪我は!?」
「大丈夫よ。あんたはB部隊の支援に行って。あたしは……」
念話はなんとか通じるらしく、外のスバルの心配そうな声が聞こえた。だが、今のティアナにはそれに構っていられる余裕はない。
「あたしは、こいつらを片付けてから行くわ」
彼女はスバルとの念話を断ち切った。ビルの内部、前に立ちふさがるのはナンバーズのウェンディ、ノーヴェ、ディード。
「馬鹿じゃねぇの? この戦力差を埋められるなんて……」
「正気とは思えないッスねぇ」
各々、装備を構えて彼女たちはティアナを小ばかにしたような言葉を放つ。
それでも、ティアナの表情が変わることはなかった。冷静にクロスミラージュを引き抜き、二丁拳銃のスタイルに。
「正気じゃないのは、あんたたちの方よ」
「あぁん? 何を言って……」
ノーヴェの言葉を遮るように、ティアナは顔を上げた。
その表情には、恐れなどが微塵も感じられない。まるで、歴戦の戦闘機乗りのような――メビウス1のような、"エース"の面構え。
やれるのか? と自分の中で、誰かが問いかけてきた。相手は三人、戦力差はいかんともしがたく、さらにいずれもが強力な能力を持っている。
だから彼女はこう答える。それが何よ、と。こっちは"リボン付き"のお墨付き。むしろ相手にとって不足無し。
ティアナが漂わせる、ただならぬ雰囲気に、ナンバーズの三人はわずかにたじろぐ。
「……怯むな、あたしたちだって伊達に13から指導してもらった訳じゃない」
それでも闘志を奮い立たせ、ノーヴェは構える。他の二人も、それに従った。
上等じゃない――ティアナもクロスミラージュを構え、戦闘態勢に。ナンバーズたちを、全力で迎え撃つ。
「――スターズ4、交戦!」
それは、以前機上無線で聞いた、戦闘開始を意味する言葉。単なる通信コードとしてだけでなく、自身を奮い立たせるもの。彼女の口から放た
れたそれは、ISAF空軍のエースと同じものだった。
397名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 11:34:51 ID:EI1iJG5u
支援
398名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 11:34:51 ID:EI1iJG5u
支援
399名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 11:34:52 ID:EI1iJG5u
支援
400THE OPERATION LYRICAL:2008/09/14(日) 11:35:16 ID:d5T26e9c
はっと、メビウス1はF-22のコクピットで周囲を見渡す。どこかで、ティアナが自分の名を呼んでいるような気がしたからだ。
「どうした、メビウス1?」
傍らを飛ぶヴィータが怪訝な表情を浮かべていた。メビウス1は「いや、なんでもない」と首を振って答える。
――そうか、お前も戦いを始めたか。頑張れよ、お前ならやれる。
メビウス1は胸のうちでティアナに向かって呟き、正面に浮かび上がる巨大な目標に目をやった。
全身を七六ミリ速射砲と二〇ミリCIWS対空機関砲で固めた、鉄壁の要塞。古代ベルカの遺産である"ゆりかご"が、そこにある。
目標までの距離はあと二〇マイルほどあるはずなのだが、あまりの巨大さゆえメビウス1はレーダーに表示される数値の方を疑ってしまう。
「……まるで、XB-10だな」
かつてユージア大陸でクーデターが起こった時、クーデター軍が投入した超大型爆撃機。メビウス1は、"ゆりかご"を見た時、真っ先にそれを
イメージした。しかも、XB-10はかつて世界に向かって戦いを挑んだベルカ公国の技術が入っている。
古代ベルカの空中要塞と、ベルカ公国の技術が入った超大型爆撃機。偶然とは言え、メビウス1は不思議な縁を感じていた。
――いや、XB-10はスカーフェイス1が撃墜した。こいつも落とせなくはないはずだ。
とは言っても、自分一人では落とせない。そのために、彼はなのはとヴィータをここまで護衛してやって来た。
「こちらゴーストアイ、突入口は戦闘機のカタパルトを使う。確認できるか?」
「……見えました」
ゴーストアイからの問いかけに、なのはが答えた。彼女の視線の先には、"ゆりかご"下部に設置された戦闘機用の離発着用カタパルトがある。
そこから侵入し、動力炉並びにおそらくは"ゆりかご"起動のためのキーになっているヴィヴィオがいるであろう、通称"玉座の間"を破壊する。
外面からでは無理でも、これなら"ゆりかご"は中核にダメージを受けて機能を損失するはずだ。
その時――メビウス1は、F-22のレーダーに反応があったことに気づく。速度、マッハ2。機影は一機だけだが、高速でこちらに接近しつつあ
る。メビウス1はこの機影に、覚えがあった。
「来たな……接触まであと三〇秒。スターズ1、スターズ2、五秒後にAMRAAMを全弾"ゆりかご"に撃ち込む。その隙に突入しろ。対空砲火はあ
る程度ミサイルが引き付けてくれるだろうけど、完全じゃないからな。気をつけてくれ」
「了解――え、ぜ、全弾!?」
なのはは思わず聞き返す。確かに、F-22に搭載されている残り八発のAIM-120AMRAAM中距離空対空ミサイルが全弾放たれれば、ハリネズミのよう
な武装の"ゆりかご"に接近しやすくなるだろう。だが、そんなことをすればメビウス1の手持ちの弾薬は短距離空対空ミサイルAIM-9サイドワ
インダーと機関砲のみになってしまう。接近中の機影は、それだけで相手するには厳しい実力を持っている。
「そんなことをしたら……」
「馬鹿。残りの兵装だけでも勝てるさ――ヴィヴィオを助けてやれ。きっと待ってる」
あくまでも心配そうな表情を浮かべるなのはに向かって、メビウス1は不敵に微笑んでみせた。
なのははそんな彼を見て、意を決したように正面に向き直った。目標は戦闘機のカタパルト、対空砲火に掴まらないよう、まっすぐ高速で突っ切
る。
「よし……レーダーロック。メビウス1、フォックス3!」
メビウス1は、ミサイル発射スイッチを連打。主翼下、胴体内ウエポン・ベイに搭載されていたAIM-120が全弾空中に切り離され、ロケットモー
ター点火。魔力推進の白い航跡を描きながら、"ゆりかご"に向かって突き進む。
「行け、ヴィータ、なのは! ヴィヴィオを頼む!」
「了解、任せとけ!」
「――了解。メビウスさん、ご無事で!」
「お前たちもな」
互いに敬礼を交わし、二人と一機は編隊を解く。
401THE OPERATION LYRICAL:2008/09/14(日) 11:36:12 ID:d5T26e9c
放たれたAIM-120に反応した"ゆりかご"の速射砲と機関砲は、即座に射撃を開始。速射砲は轟音を上げ、機関砲は野獣のうなり声のような音を立
てて分厚い弾幕を張る。たちまち先行した四発のAIM-120は対空砲火に引っかかり、使命を果たすことなく爆発してしまう。
それでも残った四発はどうにか対空砲火を潜り抜け、"ゆりかご"の外面に到達。複合装甲で覆われた本体にダメージは与えられなかったが、爆
風と破片が飛び散り、いくつかの機関砲をずたずたに引き裂いた。
わずかに弱まった対空砲火、それでも空中に咲く黒々としたガン・スモークは近づく者を威圧する。勇気を振り絞り、なのはとヴィータはその
最中を潜り抜けていった。
二人が無事に目的地にたどり着いたのを見届けたメビウス1は安堵のため息を吐き、すぐに頭を切り替える。
レーダーによれば、もう接近中の機影は視認可能な距離にまで近付いていた。
どこだ――メビウス1はキャノピーの外に広がる群青の世界に視線を巡らせる。
「決着をつける時が来たな、リボン付き」
彼が機影を見つけるのと、通信に聞き覚えのある声が入るのはほぼ同時だった。
双発のエンジン、空気力学的に優れた機体。全体を灰色主体の迷彩で彩り、主翼と垂直尾翼、尻尾に見える後方警戒レーダー用のレドームの先
端を黄色で塗ったSu-37。機首には同じく黄色で「13」の文字。
エルジア空軍のエース、黄色の13が、そこにいた。
「13……やっぱりあんたか」
「ああ。妙なものだな、あの時も首都上空だった……」
黄色の13に言われて、メビウス1はそういえば、と過去を振り返る。ユージア大陸戦争末期、彼と黄色の13が決着をつけたのもエルジアの
首都ファーバンティ上空だった。今回もまた、同じ首都、クラナガンの上空である。
「――13、あんた、自分のやっていることが分かっているのか? スカリエッティはテロリストだぞ?」
「知っている」
「ならどうして……」
そこだけが、メビウス1にとって大きな疑問だった。彼は戦闘機乗りとして、エースとして、誇り高い人間だったはず。それなのに、テロリスト
の一味に加わっている。以前ぶつけた疑問を、彼は改めてここで問う。
「――下で、俺の教え子たちが戦っている。俺は、あの戦争である少年の家族を奪った。教え子たちはスカリエッティに生み出されたんだ」
「罪滅ぼしに親孝行を手伝うってのか? 馬鹿言え、やってることはテロだぞ」
「テロか。確かに……俺は、自分の痩せこけた良心を満足させるために戦っているのかもしれん。だが……」
黄色の13のSu-37は、上昇。そのままメビウス1のF-22とすれ違う。
「それでも俺は、彼女たちを見捨てる訳にはいかない」
「――この、分からず屋め」
通信は、切れた。二人のエース、二機の戦闘機は旋回し、互いに正面から向き合う。
互いに、譲れないものがあるから。異世界の空を舞台に、メビウス1と黄色の13は、再び激突する。
「メビウス1、交戦!」
「黄色の13、交戦!」
402THE OPERATION LYRICAL:2008/09/14(日) 11:37:31 ID:d5T26e9c
青空のただ中、過去と未来の絆。
交差するのは、人の力強き翼。リボンと黄色。
"エース"と呼ばれた――人の、力強き翼。

交差した二機はそれぞれ相手の後ろに回り込もうと、複雑な螺旋を描く。
メビウス1は正面に黄色の13を捉えるが、黄色の13はただちに操縦桿を捻り、強引にSu-37の機首を沈み込ませ、メビウス1のF-22をやり過ご
す。そのままF-22が行き過ぎるのを見計らって、黄色の13は再び操縦桿を捻り、F-22の背後に回る。
だが、メビウス1も即座にエンジン・スロットルレバーを叩き込んでF-22を急上昇させる。以前のF-2と違って大出力のF119エンジンを搭載した
機体は鋭い機動で天に昇り、機首を下に下げて眼下の黄色の13を捉える。
捉えた――!
ひっくり返った視界の中、メビウス1はGに晒されながらも指を動かしウエポン・システムを操作。兵装、AIM-9を選択。ミサイルの弾頭がただ
ちにSu-37のエンジンから放たれる赤外線を捉える。
その瞬間、黄色の13はエンジン・スロットルレバーを引き下げ、操縦桿も折れんばかりに手前に引く。ふわっとした無重力のような感覚がSu-37
のコクピットの中に舞い降りる。Su-37は速度を一気に下げつつ、機首を天に上げる。フランカーファミリー伝統のコブラ機動だ。空中で一瞬
静止したかのような急減速にメビウス1のF-22は対応しきれず、Su-37を取り逃がしてしまう。
「しまった――!」
メビウス1はただちに操縦桿を薙ぎ払い、機体を急降下させて増速。一回転して水平に戻ったF-22は高度を下げて逃げようとするが、すでに黄
色の13はR-73短距離空対空ミサイルの弾頭を起動させていた。弾頭はF-22の機影を捉える。
「フォックス2」
静かに、黄色の13はミサイル発射スイッチを押す。主翼下に搭載されたR-73は白煙を噴きながら勢いよく放たれ、メビウス1のF-22に向かっ
て突き進む。
コクピットに響く、耳障りなアラート。メビウス1は後方を振り返り、突っ込んでくるR-73を視認するとフレアの放出ボタンに手を伸ばす。
待て、まだ早い――今だ!
出来ることなら今すぐ機体を放棄したい。そんな恐怖心を心の片隅に追いやり、メビウス1はR-73をぎりぎりまで引き付け、ここぞと言うタイ
ミングでフレアを放出させ、操縦桿を右手前に引く。F-22は赤外線誘導のミサイルを幻惑するフレアを放出しながら、左主翼を垂直に立てて右
に急旋回。あっという間に正面のHUDに表示されるGメーターの数値は九にまで吹っ飛び、メビウス1の身体を容赦なく締め上げる。
腹の底から唸り声を上げて、メビウス1は操縦桿を引き続ける。汗が滲み出てきて不快な感覚が体中に走るが、構っていられない。
右に急旋回を続けるF-22は、主翼の先端に水蒸気による白い糸を引きながらミサイルから必死に逃れようとする。
R-73はフレアに幻惑され、爆発。衝撃がF-22を揺さぶるが、機体に損傷はなかった。
「避けられた……!?」
驚き、黄色の13はさらにメビウス1に追撃を仕掛けるべく後方から接近。だが、その寸前にメビウス1は操縦桿を左に倒し、ついで右に。
F-22は左にロールするかと思いきや、右にロールして逃げを打つ。黄色の13はまんまとフェイントに引っかかり、メビウス1を逃がしてしま
う。
小癪な真似を――!
左に行き過ぎた黄色の13は振り返り、メビウス1の位置を確認。素早い立て直しで、早くもF-22はSu-37の後方に取り付こうとしていた。
コブラ機動はダメだ、二度も同じ手を食うほどリボン付きは馬鹿ではない。そう考えた黄色の13はロックオンされないようあらかじめフレア
を放出し、機体を横滑りさせて逃げを打つ。だが、その瞬間機体のすぐそばを赤い曳光弾が飛び抜けていく。機関砲なら直接照準するため、フ
レアなど関係ない。メビウス1はそれを見越して撃ってきた。
舌打ちして、黄色の13は操縦桿を右に倒し、引く。先ほどのF-22と同じく、9G旋回。自身の体重の九倍もの重力が容赦なく圧し掛かり、黄色の
13はたまらず苦悶の表情を浮かべた。
首は高いGであまり動かせない。彼は目玉だけを動かし、どうにか後方、自分を追ってくるF-22の機影を捉える。
――このまま我慢比べをやってもいいが、キツいな。
わずかな逡巡の後、黄色の13は操縦桿を突く。たちまち圧し掛かっていたGが消え、次の瞬間上に引っ張り挙げられるようなマイナスのGが彼の
身体を襲う。Su-37は右旋回の途中に機首を強引に下げたため、実質左旋回に。
「くそ!」
一方、Su-37を追いかけて右旋回中だったメビウス1は突然の黄色の13の方針転換に反応が遅れ、取り逃がしてしまう。先ほど自分がやった
フェイントと似たようなものだった。やはり、一筋縄ではいかない。
403名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 11:38:14 ID:EI1iJG5u
支援
404名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 11:38:15 ID:EI1iJG5u
支援
405名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 11:38:15 ID:EI1iJG5u
支援
406THE OPERATION LYRICAL:2008/09/14(日) 11:39:05 ID:d5T26e9c
Su-37はF-22を振り切ると、主翼を翻して、急降下。雲を突き抜け、一気に低空へと舞い降りる。メビウス1も後を追い、Su-37を追撃。
――どこまで降りる気だ。
高度計の数値はおかしくなったような勢いで減っていく。眼下にはクラナガンの市街地。このまま急降下を続ければ、引き起こしが間に合わず
地面に激突する羽目になる。
その時、黄色の13のSu-37の機首が跳ね上がった。高度五〇フィートの低空で、ようやく水平飛行に。メビウス1も操縦桿を引いて、F-22を
引き起こす。どうやら地面に道連れのダイヴをやるつもりではなかったようだ。
好機と見たメビウス1は、Su-37にロックオンを仕掛ける。高い電子音が鳴り響き、AIM-9の弾頭がSu-37をロックオン。
「メビウス1、フォックス2!」
発射スイッチを押して、AIM-9を発射。放たれた魔力推進のAIM-9はSu-37に向かって加速する。
ところが黄色の13は何を思ったのか再び高度を下げていく。その先には、立ち並ぶいくつものビルがあった。
まさか、と思ったが、黄色の13はやってみせた。ビルとビルの合間を縫うように飛行し、旋回。彼を追ったAIM-9は同じようにビルの合間に
飛び込み、途中でビルの壁面にぶつかり爆発する。
なんて奴だよ、畜生――。
驚愕するほか無かった。ビルとビルの合間をSu-37のような大型機で飛ぶなど、正気ではない。しかし、黄色の13はそれをやってのけ、さらに
ビルを利用してミサイルを回避してみせた。
ビルの合間を飛びぬけた黄色の13は上昇し、メビウス1と正面から対峙。メビウス1はただちにロックオンを仕掛けようとして、Su-37の主翼
の付け根で光が瞬くのを目にし、ラダーを蹴飛ばし機体を横滑りさせる。直後、F-22の傍らをかすめ飛ぶのは赤い三〇ミリの曳光弾。
黄色の13のSu-37はF-22と交差し、急上昇、反転。素早い機動の連続でF-22の背後を取る。
「ゲームオーバーだ、リボン付き!」
通信機に、黄色の13の声が入る。同時にロックオンの警報音もコクピットに鳴り響く。この距離では、おそらくどんな機動でも回避できまい。
フレアをばら撒いたところで結果は同じだ。
だが――メビウス1は、諦めなかった。
エンジン・スロットルレバーを思い切り引き下げ、操縦桿を左に倒す。F-22は右主翼を天に向けて、一気に減速する。
F-22の左主翼の先端の先には、Su-37のコクピットがあった。
「!」
常人なら、おそらく反応できまい。黄色の13のズバ抜けた動体視力は突っ込んできたF-22を捉え、ただちに操縦桿を突いて機首を下げる。
もしかしたら、F-22の主翼とSu-37の垂直尾翼が接触したかもしれない――それほどにまでぎりぎりの距離だったが、どうにか二機は空中衝突
せずに済んだ。だが、結果としてF-22はSu-37の後方に着いたことになる。
407THE OPERATION LYRICAL 代理:2008/09/14(日) 11:47:40 ID:l8KcsZjP
――さすがだよ、13。あんたじゃなければ、今のは反応できなかった。並みのパイロットなら、今頃空中衝突だ。
酸素マスクから流れてくる酸素を貪るように吸いながら、メビウス1の思考はどこか冷静だった。
ウエポン・システムに手を伸ばし、機関砲を選択。チャンスはおそらくこれが最後、二度目はない。
――互いに譲れないものがある。だから、俺はあんたに最高の敬意として、機関砲を撃つ。
「ガンアタック、当たれ!」
叫び、彼は引き金を引く。F-22の主翼の付け根に搭載されたM61A2、二〇ミリ機関砲が唸り声を上げ、赤い曳光弾を放つ。
放たれた機関砲の弾丸は、Su-37の右エンジンを貫いた。
「ぐ!」
金属ハンマーで背中を叩かれたような衝撃が、黄色の13を襲う。視線を下げて機体のダメージを確認すると、被弾した右エンジンの内部温度
が急激に上昇していた。このままでは爆発してしまう。
ただちに右エンジンへの燃料供給をカットし、機能を停止。空中爆発の危険は失せたが、これで右エンジンは完全に死んだ。もう、メビウス1
の駆るF-22には勝てないだろう。そうでなくとも電気系統にもダメージがあったのか、ウエポン・システムがダウンしていた。今のSu-37はも
はや的でしかない。
「――さすがだ、リボン付き。とどめを刺せ」
完敗だ、と黄色の13は操縦桿から手を離す。
ところが、メビウス1から送られてきた通信は、彼にとって意外なものだった。
「……13、操縦系統はまだ生きてるよな? 西に二〇〇キロ飛べ、俺たちの母艦がいる。お前の態度次第では、拾ってくれるはずだ」
「――何!? 貴様、見逃すと言うのか!?」
「そうじゃない。攻撃能力を失ったお前を相手にするほど暇でもなけりゃ、弾薬や燃料に余裕がある訳じゃない――命は大事にしろよ」
「待て、リボン付き!」
黄色の13は叫ぶが、メビウス1は聞いていないのか、アフターバーナーを点火して空域を離れていく。
残された黄色の13は呆然と、ただまっすぐ空を飛んでいた。
408THE OPERATION LYRICAL 代理:2008/09/14(日) 11:48:59 ID:l8KcsZjP
と言う訳で投下終了です。
途中で規制食らっちまったorz
メビウス1と黄色の13、一応の決着です。
リリなののリの字もない空戦ですが、この二人の間に割ってはいるのも
なんだかなぁ、ってことで。
409名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 12:28:40 ID:q6+S6u0F
GJっした!
410一尉:2008/09/14(日) 14:41:08 ID:22TUXv1e
メビウス1支援
411名無しさん@お腹いっぱい:2008/09/14(日) 14:53:50 ID:7dQfCwtP
GJ!!
メビウス1と黄色の13の空戦は手に汗握った。
次回はエスコン恒例のアレか?
次回も楽しみにしてます。
412リリカルルーニー ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 16:57:35 ID:rxvFb4Fi
GJです!
ところで、17:30ごろから投下してもよろしいでしょうか?
413リリカルルーニー ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 16:59:31 ID:rxvFb4Fi
書き忘れた(汗)
クロス元は「シャドウラン」です
414リリカルルーニー ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 17:31:21 ID:rxvFb4Fi
時間になりましたので、投下させていただきます。

以下注意事項
1.「シャドウラン」とのクロスです。
2.4版がベースになるので、殺や橋蔵たちは出ません。あしからず。
3.時系列は、Strikersの後です。
4.ゲストとしてですが、オリキャラが出ます。
5.タイトルは「Lyrical in the Shadow」。7レス+1です。

(>)Welcome to the Six World, Omae!
 都市の猛獣、ストリート・サムライ。電子の盗賊、ハッカー。そして怪しげな術担当の魔法使い。
 そんな奴らが巣食うストリートの影には危険がいっぱいだ。何処まで出来るのか、お手並み拝見といこうじゃないか。
(>)デンジャー・センセイ

(>)所詮魔法使いだろ? サムライの前線構築能力に勝てるとは思えないね。
 もっとも、そのサムライすら制するのが、俺たちハッカーだがな。”情報”と言う名の武器をなめるなよ。
(>)フロッガー

(>)あら、サムライが構築するのは「前線」だけど、私たちは「戦場」を構築するのよ? それこそ、あらゆる戦場をね。
 だからなのはちゃん、がんばってね〜。
 ……ところで、「ちゃん」でいいのよね?
(>)ファティマ

それでは、始まります。
415Lyrical in the Shadow(0/7) ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 17:32:11 ID:rxvFb4Fi
【シャドウラン】(名詞)
 非合法、あるいは、それに近い計画を実行するために行われる一連の活動
        『ワールドワイド・ワードウォッチ』2070年版より

Lyrical in the Shadow
 第1話「ウィザーズ・ストライクス!」前編
  〜始まり方は人それぞれ〜



416Lyrical in the Shadow(1/7) ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 17:33:04 ID:rxvFb4Fi
 その報告を聞いたとき、私が最初にとった行動は、日付を確認する事やった。
 せやけど、よぅ考えたら、ミッドチルダにエイプリルフールみたいな風習はあらへん。せやから、わざわざ嘘の報告を持ってきた、という事はなさそうや。
 という事は冗談か、と思ったけど、報告に来たのが、誰であろうグリフィス君。冗談でこないな報告をするとは思えん。それでも、確認せずにはおられへんかった。
「……それ、本当なん?」
「はい。間違いありません」
 いつものように振舞ってはおるけど、表情は硬いし、身体も声も震えとる。やっぱり、相当ショックなんやろうなぁ……
 ……などと言ってる私自身、グリフィス君の報告を理解すると共に、その重大さも解ってきた。単に、それを理解したくなかったから、脳が拒否反応を起こしとったんやろう。
 それもそのはず。信じられへん事やし、信じたくもない事や。拒否反応起こしたって、仕方がないやろう。

 なのはちゃんとヴィヴィオが、転送中の事故によって行方不明になったなんて。

 ……正直、それから後の事はよぅ覚えとらん。気付いたときには、スターズとライトニングのメンバー全員を会議室に集め、さらにはクロノ君とユーノ君とカリム、挙句の果てには三提督とのホットラインをつないどった。
 ……まぁ、その後の一悶着は、今となってはいい思い出や。現状を説明したら、いきなり飛び出そうとする人はおるし、この世の終わりみたいに絶望する人はおるし。宥めすかして発破かけて、何とか落ち着かせてから今後の行動について話し合って。
「……なんでこんなに時間かかったんやろ?」
「はやてちゃんが大事にするからですよ」
 うん、リィンにすらあきれられとる。
 確かに、なのはちゃんが行方不明になった、と言う連絡を受けたのが朝の内のはずやのに、今はもうお外は真っ暗やし。会議やら連絡やらで、結構時間たっとったんやなぁ。
 ……なんていっとる場合やないな。これ以外の事件がなかったからよかったものの、もしあったらと思うと、1日を無駄にしたのはかなり問題がある。
 しかし……
「まさか、こんな事が起こるなんてなぁ……」
 そもそもの原因は、転送の仕方と次元震にあった。

 もともと、地球――第97管理外世界に行く艦がなかったため、近くの次元まで向かう艦に便乗させてもらい、長距離転送をする、という計画やった。これ自体は、今まで何度もあったし、問題のある事やあらへん。問題は、転送中に近くで次元震が発生した事や。
 転送魔法と行っても、一瞬で送り込めるわけやなく、長距離となればそれなりに時間がかかる。その間に次元震が近くで発生してしまった。
 もちろん、次元震は次元崩壊にもつながる危険なものやから、常時チェックはしとる。ただ、極小規模で突発的なものまでは、さすがに予測しにくいらしい。今回のも、その程度の規模やったそうな。
 とは言え、次元震であることには変わりない。そのせいで、転送の座標に狂いが出たらしい。
「……いくらなんでも、運悪過ぎやろ……」
「……そうは思いますけど、みんなの前では言わないほうがいいですよ?」
 ……あかんなぁ。リィンにまでたしなめられるようになっては。
「でも、何処に行っちゃったんでしょうね?」
 ……一番の問題は、やっぱそこやな。
「まぁ、六課の運用期間中に見つかってくれるといいんやけどな」
 一刻も早く、と言うのが本音や。せやけど、いくらなんでもわがままが過ぎる事ぐらいわかっとる。せやから、最大に譲歩して、この期間内に見つかる事を期待したいんや。
「運用期間中やったら、何かあっても、六課で助けにいける。それに……」
「? ほかにもあるですか?」
 不思議そうな顔をするリィンの頭をくしゃくしゃと撫でる。「きゃっ」と驚いた声を上げるけど、むしろうれしそうにしとるリィンに、その理由を述べた。
「なのはちゃんたちが帰ってきたときのお祝いパーティー、開きやすいやろ?」
「……はいですっ!」
 リィンが無邪気に笑う。
 もちろん、そんな簡単に見つかるとは思ってへん。せやけど、無限書庫の司書長、ユーノ君が、過去の事例を探ってくれとる。それに、次元震によって座標がどれだけずれたのか、本局の方でも解析してくれとる。今は、この結果を待つしかない。
 だからこそ、守らなあかんのや。「なのはちゃんがいなかったから問題が出た」ではなく、「なのはちゃんがいなくても何とかなった」って言えんと、絶対に気にする。なのはちゃんはそんな娘や。
「……よし! さっさと書類片付けて、明日のために寝よか」
「了解したですっ!」
 明日も早いしな。そんな事を考えながら、書類に目を通し始めた。


417Lyrical in the Shadow(1/7) ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 17:37:09 ID:rxvFb4Fi
 長い転送魔法の効果を抜けると、そこは、見知らぬ森の中でした。
「……あれ?」
「ここがなのはママの故郷なの?」
 興味津々でヴィヴィオが聞いてくる。でも、私の記憶とはあまりに違うここが、本当に地球なのかも怪しい。
 転送先として使わせてもらっているすずかちゃんの家の庭でない事は、辺りを見たときに解った。山の中みたいに地面は傾いてるし、遠くから銃声が聞こえる。
 木についてはそんなに詳しくないけど、すずかちゃんの家にあったような木じゃないのは解る。それに、お城みたいなすずかちゃんの家もないし……
 ……銃声?!
「ママ、向こうの方でパンパン音がしてるよ?」
「うん。誰かが闘ってるみたいだね」
 自然、声が硬くなる。ヴィヴィオだけでも守らないと……そんな思いのせいか、ヴィヴィオを抱き寄せる手に力がこもる。
「……大丈夫だよね」
 そんなヴィヴィオの声に、思わず視線を下ろす。そこには、絶対の信頼を寄せる笑顔があった。
「ママ、強いもん」
「……そうだね。ありがと、ヴィヴィオ」
 思わず笑顔がこぼれる。クシャリ、と頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに笑ってくれる。
 この笑顔があれば大丈夫だ。ここが何処であろうと関係ない。局のみんなが見つけてくれるまで、なんとしても生き残って見せる。そして、ヴィヴィオと二人で、あのクラナガンに戻るんだ。
 そのためにやらなければいけない事は……
「レイジングハート、セットアップ」
『Standby, Ready』
 桃色の魔力光に包まれ、バリアジャケットを展開する。防御力の低いアグレッサーモードだけど、ピストルの弾ぐらいなら止めれるはず。魔導師がいる世界なのか、いたとして、使っても大丈夫なのか解らない以上、これだけでも用意しておく必要がある。
 後は、レイジングハートにここの情報を検索してもらって、どんな世界なのか、何処に居るのかを調べ、生きていくための方法を考えないといけない。
 そんな決意と共に、顔を上げ
 銃を突きつけた男の人がその言葉を発したのは、そのときだった。
「……コスプレ?」
 ……なんと言いますか……
 二人の赤い服を来た男の人が、こちらに銃を突きつけているのは解る。ただ、ピストルなんて物じゃなく、マシンガン(……だったかな?)だったのが誤算だ。威力は多分、ピストルの比じゃないはず。
 それよりも、いぶかしげな顔をして発した言葉が「コスプレ」って……そりゃ、確かにこんな格好を地球でしてたら、そういわれても仕方がないのかもしれないけど……って、
 もしかして、ここは地球?
 だとしたら、魔法は使えない。バリアジャケットだけでマシンガンの弾を止めれるのだろうか? はっきり言ってしまえば、そんなものは試したくもない。
 そんな時、後ろにいた人が忠告した。
「さっきの光がこいつだとしたら、魔法使いの可能性がある。気をつけろ」
 魔法使い……という事は、ここでは魔法が使える、という事? でも、地球には魔法使いはいない。いたとしても、私みたいに公開されていない存在だから、忠告に出てくるという事はない。
 という事は、やはり地球じゃない、と言うことだろうか? だんだん混乱して来た。
「……とにかく、コムリンクをパッシブモードにしろ。それと、貴様がここにいる理由は?」
 今度は、解らない単語が出てきた。「コムリンク」っていったい? 「モードを変更しろ」っていう事は、機械類だとは思うけど……
「それより、あなたたちはいったい……?」
 ヴィヴィオを背中に隠しながら、尋ねてみた。この世界の人間じゃない事を知られるかもしれない、という恐怖感が、とっさのごまかしにつながったんだけど……
 相手の表情が変わったのを見た時、後悔に変わった。
418Lyrical in the Shadow(3/7) ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 17:37:55 ID:rxvFb4Fi
 明らかに失敗した。殺気にあふれているのに気付いてしまったから。
 「コムリンクがない」と言うのが、ここまで問題になるとは思わなかった。まさか、そんな重要なものだったなんて……でも、もう遅い。
「答える義務はない。それに……」
 ひどく冷たい声。冷静に、冷酷に、冷徹に、その言葉を発した。
「我々はここにはいない」
「!」
『Protection』
 タタタンッ! タタタンッ!
 それは一瞬の出来事だった。銃撃よりほんの僅かに早くかざしたレイジングハートが、その意を取ってプロテクションを張ってくれた。そのおかげで、銃撃を防ぐことは出来たけど……
「くぅっ!」
 思わず呻き声がもれる。やはり、マシンガンだけあって攻撃力は大きい。シールドの方が堅かったかもしれないけど……後ろにヴィヴィオがいる事を考えると、半球状に防御する事が出来るプロテクションの方が安全だ。
「レイジングハート、アクセルシューター!」
『All right. Accel Shooter』
 カードリッジの撃発音と共に、プロテクションの周りに、魔力の光が灯る。私が得意とする誘導型の射撃魔法、アクセルシューター。それが12発。この森の中でも、この数なら余裕を持って扱える。
「む?」
 二人は怪訝そうな顔をしながら、木の陰に身を隠す。その状態から、さらに射撃。
 ……いや、後ろの人が、銃撃の合間に何かを投げつけるのが見えた。それは、放物線を描き、プロテクションに当た……
 閃光が走った。
「なっ!」
「きゃぁっ!」
 閃光弾っ?!
 それと共に、銃撃が激しさを増す。プロテクションが悲鳴を上げる! いつまで持つか判らないっ!
「シュートッ!」
 白く染まった視界の、頼りにならない目測と記憶を元に、相手の位置まで魔力球を誘導していく! だけど……銃撃は止まないっ!
「レイジングハート、もう一度っ!」
 ガガンッ!
 撃発と共に、再び魔力球が生まれる。そして、
「シュートッ!」
 今度は、もう少し広めにっ! 当たったかどうかの確証はない。だから!
「もう一度っ!」
『Master. Please settle down, master!』
 三度、アクセルシューターを放とうとする私に、レイジングハートが静止を呼びかける。
『……The enemy fainted』
 その声に、ようやく我に返る。そのとき初めて、視界が暗いのに気付いた。
 ……目を閉じていた。呼吸も荒い。アクセルシューターを撃つ前にあった余裕なんて、何処にもなかった。
 閃光で目が見えなくなった事なら、以前にも経験はある。プロテクションを破られるかもしれないという危機感も、何度かあった。命の危険を感じた事だって、一度や二度ではない。
 でも、そのほとんどは訓練で、実戦であったとしても全てがばらばらだった。それに、たとえ実戦であったとしても、話し合えれば分かり合える。そんな期待もあった。
 ……今回はそれらが一度に訪れ、期待なんて何処にもなかった。あったのは、ただ作業のように人を殺そうとする殺意だけ。その恐怖が、私の思考を奪い去っていたのだ。
「あ……」
 瞼を開ける。まだ焼付きはあるけど、状況を確認するぐらいは出来る。
 倒れていたのだ。二人とも。私は、それにさらに追い討ちをかけようとしていた。非殺傷設定だったから、死ぬような事はない。だけど、悲しみを撃ちぬくためにあるはずの魔法で、人を傷つけた。その上で、追い討ちをかけようとした。その事実が、私を苦しめた。
『Don't worry. Their lives are not in danger although there are some injuries』
「……ありがと、レイジングハート」
 レイジングハートが慰めてくれる。多少の怪我はあるけど、気絶しているだけだと。だけど……それでも、自分を許せそうになかった。
「ママ、大丈夫?」
 ヴィヴィオが心配そうに声をかけてきた。
 ……そうだ。この娘がいるんだ。ここでくじけているわけにはいかない。
「うん。大丈夫だよ。ありがとね、ヴィヴィオ」
 頭を撫でてあげる。完全とはいかないけど、少しは安心してくれたようだ。
 とにかく、気持ちを切り替えよう。まず、この世界の事を検索。位置の確認。救難信号の発信。そして、生活基盤の確保。……なかなか厄介だ。
「どうやら、敵の敵さんみたいだな」
 その声が響いたのは、これからのプランで頭がいっぱいのときだった。
419Lyrical in the Shadow(4/7) ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 17:38:41 ID:rxvFb4Fi
「なに鳩豆な顔してんだ? あんだけ派手に闘(や)りゃ、誰だって気付くぜ」
 木に寄りかかった男の人が、話しかけてきた。だけど……
 苦しそうなしゃべり方に、荒くなっている呼吸。そして、抑えた右の脇腹からは赤い物が、額には脂汗が滲んでいる。
「怪我してるんですかっ?!」
「なぁに、んなこたどうでもいい。それより……
 お前さんの名前と所属を教えてもらおうか。どうやら、コムがないみたいだから、口頭でな」
 口調と雰囲気が変わった。まるで、さっきの人たちみたいに。違いがあるとすれば、いきなり撃ってこないことだけ。
 ……多分、答えないと手当てをしようともしないだろう。という事は、答えないと、あの人を殺してしまうことに……
「……高町なのは。所属は、ありません。
それより、怪我の手当」
「SINレスの一般人なんか、いねぇぞ。何処に雇われたのか、ちゃんと言ってもらおうか」
 私の言葉をさえぎって、銃口をこちらに向けながら言った。
「本当なんですっ! 事故でここにきてしまっただけで、誰かに雇われたりなんかしてませんっ!」
「それよりおじさんっ! 怪我を治してよっ!」
「おじ……」
 涙目のヴィヴィオの訴えに、さすがに動きが止まったようだ。しばらくヴィヴィオと睨み合ったあと、ため息と共に銃を下ろした。
「……『泣く子と地頭にゃ』って言うが、まさか、こんなときに思い知るとはなぁ……
 まぁいい。こんなところで立ち話もなんだ。ついて来い」
 そう言って、歩いていこうとする。……って、
「大丈夫なんですか?」
 明らかにそんなはずないのに、思わず聞いてしまった。
「んなわけあるか。どてっ腹に風穴開いてんだぞ。躓いただけで死神の腕の中さ」
 なんて事ないかのように、不吉な事を言う。
「じゃぁ、せめて応急処置だけでもっ!」
「……生憎、苦手なんだよ、そういうのは」
「それなら、私がっ!」
「こんな所で、時間を費やしてるわけにはいかないんだ。
 少し行った所にセーフハウスがある。そこでなら、少しは休めるさ。応急処置のキットもあるしな」
 そんな事を言いながら、ふらふらと歩いていく。
 ……確かに、応急処置をするといっても、手元に何か道具があるわけじゃない。それなら、道具があるところまで行った方がいいのかもしれない。だから……
「っ!……おい。そんな事してると、汚れるぞ」
 私は、肩を貸してあげる事にした。ヴィヴィオは、後ろから傷口を押さえているようだ。
 確かに汚れるかもしれないけど、そんな事は気にならない。だから、
「かまいません。それより、あなたの名前を伺ってませんよ?」
 にっこりと笑ってあげると、バツの悪そうな顔でしたうちをした。そして、呟くように、
「……ゴートだ」
 名乗ってもらえた事が、嬉しかった。


420Lyrical in the Shadow(5/7) ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 17:40:36 ID:rxvFb4Fi
 この世界には、さまざまな人間がいる。だからこそ、相手の事を知るためにも、どのような人間なのかを区別する事は、ある意味、とても重要なことだ。
 一番簡単なのは、種族で分けることだろう(ドラゴンだって人間さ。グールはさすがに取り消されたが)。次いで性別。人種で区別するのも、廃れているとは言え、有効だ。
 国籍、宗教、政治的観念は、今なお諍いの火種として現役を誇っている(そしておそらくは、生涯現役だろう)。民族やら部族やらも同様。人間は「学習する生き物」だそうだが、本当かね?
 職業や趣味と言うのも、グループを作る理由としてはよくあるものだ。好きな女優について一晩語り明かすことが出来れば、ほかの奴らとは、確実に一線を画す事が出来る。良いか悪いかは別として。
 俺たちみたいな仕事をしている奴らにとって、「なにが出来るのか」は重要だ。自分に出来ない事をほかの奴に頼むのは、決して恥じゃない。自身の生存率を高めるために、「誰がなにを得意としているのか」を把握する事は重要なのだ。
 だが、俺から言わせてもらえば、そんな分け方よりも重要なものがある。すなわち……運が良いか悪いか、だ。どんな奴だって、幸運の女神のキスには敵わない。同様に、不運の使者の抱擁に捕まれば、どんな目にあってもおかしくはない。
「ねぇ、アレン」
 週末のシアトル。いきつけのバーで、美女を侍らせ、グラスを傾ける俺は……
「急ぎの仕事があるんだけど、やってくれるわよね」
 ……運が悪いほうに違いない……

421Lyrical in the Shadow(6/7) ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 17:41:21 ID:rxvFb4Fi
 とは言え、防音処理のされたコンパートメントに呼ばれたときから、こうなる事は予想していた。幾ら俺でも、そこまでぼんくらではない。その呼び出しがこの美女――レイチェルからのものであれば、なおさらだ。だが……ささやかな抵抗ぐらいは許されるだろう?
「なぁ、俺は酒を飲みに来たんだが……」
「でも、あなたにしか頼めないのよ。お願い、解って」
 すがるような目で頼み込んでくる。
 ……どうでもいいが、その「あなた(ダーリン)」って言うのはやめてくれ。そういう関係は、俺がローン・スターを辞めてこっちに来たときに終わったはずだ。しかも、元婚約者から女房気取りに格上げしやがって。
 しかし困った事に、こちらには積極的に断る理由がない。強いて言えば、「数少ない楽しみ」を邪魔されることぐらいだが……
「それに、そろそろ懐が寂しくなるんじゃない?」
 ……把握済みですか、そうですか。
 ここ2週間ほど、仕事が「まったく」なかったのが一番の問題だ。そうでなければ、断れたかもしれないのに。
「はぁ……それで、今度はいったいなにをやらせようって言うんだ?」
 ため息と共に、最後まで残った抵抗心をはき捨て、先を促す。人として何か大切な物をなくした気もするが、あえて無視した。
「簡単に言うと、人命救助よ」
「……そいつは、レスキューの仕事じゃないか? もしくは、ドク・ワゴンに頼んだほうが良いと思うが」
 災害救助隊か民間武装救助隊か、と言う程度の違いしかない。もっとも、レイチェルの会社の仕事で後者が必要になった場合は、自社の警備部隊なり何なりが動いてもいいはずだが、あえて聞かない。あまり深入りしたくない、と言うのが本音だが。
「救助が必要な人はね、1週間前にミュンヘンからロンドンに帰ってきてるの」
 ……ここはシアトルなんだが……いやな予感しかしないな、やはり。
「本来は一ヶ月の出張だったはずなんだけど、書類にミスがあってね。しかも、それに気付いたのが、今朝って言うお粗末っぷり」
[なるほど]
「直属の上司が、出張が終わったはずなのに来ないから、って連絡を入れなかったら、もしかすると……」
 ……ちょっと待て。
422Lyrical in the Shadow(1/7) ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 17:42:07 ID:rxvFb4Fi
 俺はすかさず、電源を落としたはずのコムリンクに目をやる。だが、無情にも電源ランプはついたまま。つまり……
「ランドール! またハッキングしやがったなっ!」
「あら? それがあなたたちのスタイルじゃなかったの?」
 んなモン、スタイルにしたつもりはねぇっ!
[ファイアウォールが大した事なかったからね。難しいことじゃないさ]
 くっそぉ、つい3日前に管理者用パスワードを変更したばかりだって言うのに。なんで俺のコムリンクなのに、管理者権限が俺にないんだ?
 俺は大きなため息をついた。同時に、現状の全てを認める事にした。気分は楽になったが、人としては失ったものが大きい気がする。それすらも諦めたが。
「で、そのシアトルにいないはずの社員を救出に行ってくれ、って事か?」
「ごめんね、こっちの尻拭いで。でも、公式に救助に向かう事が出来ないのよ」
 まぁ、企業がよくやる手ではある。関係ないところへ出張させておいて、一時的に与えた偽造SINでランをやる。失敗しても、それは社員ではなく、「本当の社員」は出張先で事故死、と言うわけだ。
 だが、その書類に不備があれば? そんな状況で失敗したら? 下手をすれば、正規のSINを探し当てられ、攻撃の材料を与える事になってしまう。それだけは、避けねばならないわけだ。
 だが、そこでふと気付いた事がある。いや、むしろ「気付いてしまった」事がある。
「……何かミスったのか? そいつは」
「……『連絡を取った』、って言ったでしょ? それで、警備員に見つかったらしいわ」
 ……間抜けな話だな、おい。まぁ、8時間の時差があっては、そんな事も起き得るわけだが。
「それともう一つ、『一ヶ月』って言うのは、ちょっと長すぎるんじゃないのか?」
 たいていは、1週間か、長くても2週間と言ったところだ。それなのに一ヶ月と言うのは、あまりに長い。
「相手は、末端とは言え、レンラク系列だしね。物理的に進入する必要もあったから、その準備期間も含めて、長めにしておいたのよ」
 ……おい。
「……レンラク系列の警備員って、もしかして、『赤備え』じゃないだろうな」
 レンラクが誇る私兵――軍隊にして警備部隊の「レッド・サムライ」(「赤備え」は隠語だ)。はっきり言って、相手にしたくない奴らの一つである。
「……少なくとも、本隊はいないはずよ。『新人研修』に来ている可能性はあるけど」
 逃げたくなって来た。
[それで、その人はどうなってるの?]
 そうだな、それは重要だ。
「まさか、捕まってる、って言う事はないよな?」
「何とかセーフハウスには逃げ込めたそうよ。途中で、妙な親子連れを拾ったそうだけど」
「親子連れ?」
「何でも、手助けしてくれたそうよ」
[スパイでもなんでもなく?]
「そこまでは解らないわ。相当な甘ちゃんではあるみたいだけど」
[他人事とは思えないね]
 誰の事を言ってんだ? おい。
 だがまぁ、敵でないなら、とりあえず無視するか。
「それで、要救助者の名前は?」
「コードネームは『マスク・ザ・レッド』。日本人で男性」
「……変わった名前だな……」
「知らないわよ。日本のアニメキャラクターからとったらしいけど」
「……となると、ランドールの領域かな?」
[僕だって、70年前のロボットアニメは専門外だよ]
 ……十分じゃねぇか、おい。
 まぁ、そんな話はおいておくとして。
「あと問題になりそうなのは……火力か」
 下手をすればレッド・サムライを相手にする事を考えると、うちの娘っこ――ガンスリンガーのフェイ・ニャンだけでは、少々心許ない。物理的よりも、むしろ精神的に。
「黒ひげさんに頼んでもいいかな?」
「かまわないわ。その辺りは、あなたに任せるから」
 うれしい言葉だね。
 ともあれ、黒ひげさんに連絡を取ってみる。数回のコール音のあと、一人のドワーフの顔が、眼鏡のウィンドウに映し出される。
「おう、俺だ」
「あぁ、黒ひげさん? 以前世話になったアレンですけど……」
「……おかけになった電話番号は、現在使われておりません」
「……さすがに2回目はどうかと思いますよ、それ」
 まぁ、なんだかんだで「解ってくれる人」だからいいんだけど……
 そんなこんなで、報酬の交渉まで済ませれば、後は仕事(ビズ)の時間。さっさと終わらせて、晩酌の続きと洒落込もう。

 だが、このランが数ヶ月の激動につながると思い知ったのは、後の事だった……
423名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 17:43:43 ID:xlXHahSs
しえん
424リリカルルーニー ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 17:45:38 ID:rxvFb4Fi
以上です。

さて、六課組はしばらくお休みです(いきなりですが)。
そしてオリキャラのゴートさん、いきなり死にかけです。
基本的には、なのはとアランの視点で進めていきます。無理があるときは、さすがに他の人の視線も使いますが。

……って、あぁっ! 何回か番号ミスってるぅっ!(涙)
正確には、417が(2/7)、422が(7/7)ですね。恥ずかしいなぁ、もぅ(汗)

それでは、また。
425名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 18:22:37 ID:bpVWbwTo
いきなりなんてシビアな世界にw
続き楽しみにしてます。
426名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 18:27:16 ID:DRsmxo9H
乙んこ!
がんばれ なのはちゃん(で、ちゃんづけでいいいんだっけ?)
もうがんばれとしか言いようがない状況、高町小家族は無事に帰ってこれるのだろうか!?

すまん、疲れてるかもしれん
427名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 18:28:26 ID:ZKW+a3v3
そろそろ次スレの季節?
428名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 18:45:02 ID:ZtNFDPDE
>>427
だな
頼んだ
429名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 20:20:44 ID:ZtNFDPDE
新スレ立てた
行く前に宣言するべきだったと思う
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1221391030/
430名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 20:39:21 ID:625krV44
このスレ、もしかして物凄くオッサン多いのか? 元ネタ古すぎて解からんw
431名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 21:22:22 ID:Cjr/RU2u
>>424
GJ!
シャドウランは名前ぐらいしか知らないけど、面白そうです!
432名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 22:32:58 ID:RaB8NBSf
>424
乙。
最新版のシャドウランですか。昔の、富士見の方で無く。
433名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 22:36:49 ID:DRsmxo9H
>>432
無線LAN搭載把握
434名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 22:45:27 ID:21MQaJT9
>>424
GJ!

しかし、シャドウランを知ってる人間はどれだけいるんだろ?

世界観については、この辺がわかりやすいのかな。
ttp://janus_.at.infoseek.co.jp/index.html
435名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 22:59:16 ID:+m4GuocS
>>424
ΣGJっ!!w
SHADOW RUN 4thとは、これまた通なチョイスを♪
まぁ、邦版リプレイがあまりにアレでしたからね……orz
……オリキャラでの挑戦も理解出来ますよ。
この初回を読む限りは、なのは達のキャラ性を殺す事無く
且つSR側もオリキャラ勢やコンタクト達が良い味出しつつ
コクは有るけどクドくない感じで実に楽しく読めましたよ。
各視点でのシーンキャラ心情での文章進行も、ルールブックでの
短編小説やウィリアム・ギブスンのサイバー三部作(ニューロマンサーや
モナリザ・オーヴァドライヴ等)の邦訳版みたいなノリで、
SHADOW RUNらしさ(と言うか米国小説らしさ?)を感じられて
ニマニマしてしまいましたよ♪
もし希望して良いなら、この先でなのは達とメタヒューマンとの掛け合いや
マトリックスからの支援を受けたり逆にマトリックス攻略に挑む
味方ハッカーをリアルから支援する様な展開が見てみたいですねw
次回も期待しています。
436高天 ◆7wkkytADNk :2008/09/14(日) 23:23:10 ID:4uHrgg6b
こんばんわです。11時50分頃に次スレでラクロアの10話を投下いたします。
よろしくお願いいたします。
437リリカルルーニー ◆fhLddwC5FM :2008/09/14(日) 23:38:16 ID:rxvFb4Fi
早速の感想、ありがとうございます。
実は、シャドウランが結構知られていた事にびっくりしてました。結構マイナーだと思っていましたので。

ただ、「オリキャラ」という表現について少々誤解が生じているかもしれない、と感じたので、説明させてください。

実は、今回のオリキャラはゴートさんだけなんです。キャラとしては、サンプルにあった「コパードオペ・スペシャリスト(秘密工作員)」を下敷きにしてます。
アレンたちは、「Role&Roll」誌で、過去3回行われたりプレイのキャラです。「ストリートの天使たち」と悩んだのですが、こっちの方が面白いと思いましたので、採用しました。

これからも、シャドウランの魅力が伝わるような作品を作りたいと思っています。
それでは、また。
438名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 23:44:06 ID:W6/D5iKJ
SHADOW RUNはスーファミの奴しかやった事ないわ、最初は何をすればいいのか
全然分からなくていかにも洋物って思ったわ。
魔法なんか回復以外は飾りさ、銃だよ銃!
439名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 09:15:51 ID:4IXLHCbx
GJ!!です。
こりゃまた凄い世界に行きましたねw
440一尉:2008/09/15(月) 17:14:07 ID:PTp6+2la
うむすばらしい世界たな。
441名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 19:44:01 ID:8QXxVICD
埋めましょうか。
ということで、埋めるために何か雑談のネタとかありますか?
442名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 20:25:04 ID:nFIJejt7
しりとりは前スレで振ったしなあ。だいたい残り17kbか。
443名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 21:18:10 ID:UKWTHiQG
MGS4のBB部隊を出したら六課はどうなるか?
444名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 21:31:44 ID:enxP/o98
トラウマ持ちという情報を事前に得ているなら説得を試みるんじゃない?
まぁ、話が通じるならスネークとの戦いでのみ浄化される、なんてことにはなってないだろうな。
445名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 04:57:46 ID:WbwRjuAq
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
           O 。
                 , ─ヽ
________    /,/\ヾ\   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|__|__|__|_   __((´∀`\ )< というお話だったのサ
|_|__|__|__ /ノへゝ/'''  )ヽ  \_________
||__|        | | \´-`) / 丿/
|_|_| 从.从从  | \__ ̄ ̄⊂|丿/
|__|| 从人人从. | /\__/::::::|||
|_|_|///ヽヾ\  /   ::::::::::::ゝ/||
────────(~〜ヽ::::::::::::|/        = 完 =

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                   ,.-―っ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                人./ノ_ら~ | ・・・と見せかけて!
           从  iヽ_)//  ∠    再  開 !!!!
          .(:():)ノ:://      \____
          、_):::::://(   (ひ
          )::::/∠Λ てノし)'     ,.-―-、   _
______人/ :/´Д`)::   (     _ノ _ノ^ヾ_) < へヽ\
|__|__|__( (/:∴:::(  .n,.-っ⌒    (  ノlll゚∀゚) .(゚Д゚llソ |
|_|__|_人):/:・:::∵ヽ | )r'        ー'/⌒ ̄ て_)~ ̄__ イ
||__|  (::()ノ∴:・/|::| ./:/         /   ̄/__ヽ__/
|_|_| 从.从从:/ |__|::レ:/      ___/ヽ、_/
|__|| 从人人从 ..|__L_/      .( ヽ     ::|
|_|_|///ヽヾ\ .|_|_     /⌒二L_    |
────────       ー'     >ー--'

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        巛ノi
        ノ ノ                  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     ノ')/ノ_ら      ∧_∧       | いきなり出てくんな!!
      、)/:./、      ( ´Д`)      | ビックリしたぞゴラァ!!!
     )/:./.:.(,. ノ)    `';~"`'~,.       \   ________
     \\:..Y:.(  ・ ''    :,   ,. -―- 、|/
_____ 从\、,. ,; .,、∴';. ・  ( _ノ~ヾ、ヽ
|__|_ _(_:..)ヽ:∴:@)       ノ(゚Д゚ #) )
|_|__|_人):|:・:::∵ヽノ)    (_(⌒ヽ''" `ー'
||__|  (::()ノ∴:・/|::|( \    \ \) )        _
|_|_| 从.从从:/ |__|::|ノ   \  ミ`;^ヾ,)∃        < へヽ\
|__|| 从人人从 ..| /:/ _,,,... -‐'''"~   /ー`⌒ヽ、  (( (゚Д゚llソ |
|_|_|///ヽヾ\ ./:/ _ \        /     /T;)   /~  ̄__ イ
─────── ノ (,    \/__/__,ノ|__`つ  ヽ__/
             ´⌒ソノ`

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|__|__|__/ /  ヽヽ,|__|
|_|__|___い 、  , ,ソ_|_|
|__|___/ ̄`^⌒´ ̄\_.|     .l´~ ̄ ̄ ̄`.lヽ
|_|_|  |         |_|    / ⌒ ⌒ ⌒ .| !
||__| 从ヽ-i´ ,_ ,_ 'i-'"_|   / ___ _ _ ___/,イ
|_|_|从イ/´:::::::::::::::::::::::`i、_|  / ̄       /i.|
|__||从/:::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ,._| ~||~~~~~~~~~~~~ ´||
|_|_| ,,!;;;;;;;;;i⌒i;;;;;;;i⌒i;;;;;;;;;;;!,|
446名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 05:01:42 ID:WbwRjuAq
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         .| |. .::' ̄|i/.ィ;;バ V  込!。レメ.:.} リ
        .| | i.i.:.::::代込ジ   ,~'゙  |ハリ  .:
      .:   | .ハ:.:ヾ.:.:ゝo`"゙   __,   ハ
          } :弋^ゞュ:ゝ    (;:ソ ,.兮{、
         ./ .:.:/T´:个 -  .._ /\イ))
        / .:.:ノ  \:.:.`\  リ\:.:. },ノ
     .: ./  .:/    入.:.:.ト}` ̄`ヽリ川'| :.      ‥
      / / :/\_ .::| ,)リ.}   工ニイ |       , -‐- 、
      /,イ:.:/:i:.:.|  `T’: 彡’   ,!/ ⌒ ヽ   , '´      ヽ. :
  .: .{:| | :|:.:l.:.:|   }:.:.    .:.:, '      }./           :. }
     !:!:| :ト,:.:V  .ハ:.:.    /  /     ,!        !      |
      ヾ!ヾ:.:V  .∧:}:.:.:. ..-/  ./      j}       λ     | :.
     : .: .:.:`/  ∧:.{`.:.:-イ   /     /:|     , ' ヽ     !        _
     : .: .::./  /: . ノ:.:.:.:. {   i    .∧ノ    /     \   ',      (__ _>-。-、
 _,..=ニヽ、_/   /: . ∧:.:.:..:.:.:|:  j    ./トノ  /      ハ.  ヽ    _: . /  o  x ヽァ
 三ニ,      /: . く:.::!.: : : :.:}:  |   /┤ /: .: .: .: .: .    |、   \ (_ .二ィ      K`ヽ、__
 .=ニ--┐ ノ: .: .: .:\. :.  ノ:   j   /.ノ ̄ : .: .: .: .: .: .: .: .: .:ト、:    \  : .: .ヽ. . . , イ    、__)
   : .: .し': .: .: .: .: .: .`ー´`ー-.ノ  ,': .: .        : .: .: .: .\\__,ノ\     ̄: . し'ヒ>、_)
           : .: .: .: . : . ,イ   | :.               \:::: .   )
             : .: . : . {:|.   !                   `゙ ー '´
               : .: .|:|    i
                 | ト、__ノ|
                 ヽ::   ノ
                  `ー'
ヴィヴィオ(魔法少女リリカルなのはStrikerS)
447名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 05:04:11 ID:WbwRjuAq
                             ヽ、
                  , :<´ ̄ ̄> 、}}ノ
              ー=≠": : : : : : : : : : : : :\
                 /: : : :/: {: : ヽ: ヽ : : ヽ:ハ
               i.: ::{ 斗-ハ: : :}十ト:i :}: :}: :}
               | { :|:W示h: :j示Y j: :|: :l
                    v|八:代り ソ辷リ }/: :i /
                Y:ヘ  _     } : /′
                 Yヽ. ヽノ   /: /ヘ
                   ヽi{`>- イ´/W}<
             /⌒ヽ   /i>く´   }ヘ\}
              {=x ノー ': ,/{/こ)'ヽ/ : l: : :`>: 、.._
           /^こヽ{ : : : / :| ,ハ   ∧: : }: : : : : : : : :`ヽ
             ノ  ヽノノ: : : : >:|/ || /: :`<: : : : : : :/: : : :}
         ∧/^Y,イ}: : : : く : {' l」/: : : :/ : : : : : /: : : : :|
         /: :{^ノ|: /|: : : : : ヽヘ、/: : :/「^}___ {/: : : : : ヘ
        ,/ : 〃: ||/: |: : : : : : :\' : /{⌒ 'こ} :〈 : : : : : : :〉
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                              | : : : > 、 : : |
                              | : : : : : : : > 、
魔法少女リリカルなのはStrikerS ユーノ・スクライア
448名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 05:06:28 ID:WbwRjuAq
                  , r
              _,..ゝ' _ `ヽ-、
               ;' ミ (゚:ノ .o.ヾj_
              ゝ-=彡' - `ナミ、
             /l/    .:/
              ´ノ"゙  :.:::::i
       __.      /      j
   ,. '´    `j     /,  ';   ..:!
  /    ,.-‐ ´  / !  i   ! !
  !   、,'    , '   `、 ',  ,' /、
  ',.   ` ..__  !    、 ヽ.j Lノ ',
    ` 、    ̄l     ', ゙´   ! l
      ` ー---',.    }   ノ ノ
           ゝ.、._.ノー-‐'丶゙__)
           Liノ

ユーノくん (魔法少女リリカルなのはA's)
449名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 05:08:20 ID:WbwRjuAq
No.9 :ノーヴェ

       r
   , '⌒⌒ヾ
  .イ lフ,从从ゝ
   ^'vlュ゚ -゚ノ'゛
.  <巡},\)つ
    (フ、,〈}
   〈患 l患、


           r
        , '⌒⌒ヾ
       .イ lフ,从从ゝ
     ≡ ^'vlュ ゚ -ノ'゛
       <巡},,\)つ
    ≡  ,(フ、,〈}
;;;⌒`)⌒`) 〈患´l患、
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

       r
   , '⌒⌒ヾ
  .イ lフ,从从ゝ  _
   ^'vlュ ゚(フノう  ⌒ヽ)
 ≡ (フ巡},,)     ノノ 人
≡   (フ、/}二[[]コ] <  >
   =  |n|        Y
. ≡  〈患
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

                \|/
        ── ─− ☆−─ ─
       r        / i ヽ、
   , '⌒⌒ヾ   /.  |  \
  .イ   ,lフ从ゝ        |
   ^ヘv(lュ ゚(フ     人
  巡}ニ,,\)う   <.  >
    (_(フ二[[]⊃`ヽY   ┃┃┃  ┃  ┃┃
    ./_/      ))   .┣━  ━╋━┓
   〈患    _,〃    ┃      ┃  ┃ ┃┃┃
        ` ̄                     ━┛
450名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 05:09:48 ID:WbwRjuAq
                     、、
                     \ヽ、
               _,. -―- . ヽヘ ノ}
             _, - '´       \} レ'ノ
    ヽー- -‐‐ '´           -‐¬ 、
     `ー-/     ,       、  ヽ   ヽ
       . '      , i    ヽ 、 ヽ  、 、  ',
      /  / /,  l i ! l    l  i l . l.  i i    i     
       /  i i  l| l. |   ィ 丁!T|.  l |.   |
     | ,i :/ | !,.イ丁 ト. 、 j l|,z== 、!: ! j !   |
      ! l| i :l l. ト,;:==、いノ!ノ  {t心Y /イ   l
       !|| :i| ::!.l:.. {i {tい` ′ _いノリ/l l |:l. ,   
       ! l', ::い:、l ヽソ  ,    ̄/l:l:|.!|:i:! ′
         ヽ!ヽ :ヽトヘ ´    __    l:l:|:!|::;' /
         ` \ヽ::ヘ、   ヽ′  ,川::リ//
            l.`::l::l::`iー-,. ..__//イ!//'′
              | l::l::!:;v'^´ 〉-―'/イく,、
               ! トv′_,/:::::::::::::::/::冫、_
             V.イ「 l::::::::::;.-'´ / /: : >、
            ,.イ: :/| l,.-'´ , '´ / :/: : : :\
           /:/ :/  、   . '´  ⌒j:/: : : : : : : ハ
              i: l (_)   `'´     ゝ:' i : ; : : : : : : :i
          l: :|:/ ト,     r1 、 |: :l::/: : : : : : : :|
           |/:l′i'/     ノ'′ヽ !: /: :i : : : : : : l
451名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 05:12:31 ID:WbwRjuAq
         l;;llllll||lll从从WWWl||ll,,ツ从ツツノlイノ'彡ヽ
         イ从、从从从从从ll|| |リ从////ノノ彡;j
        jl从从从从;;;;;;;;;;;;从;;;;;/;;;;;;;;;、、、;;-ー、イ彡:}
       (ミミ;;ッ''"゙ ̄ '、::::゙`゙''ー、/"´:::  :::: |;;;;;彡|
        }ミミ;;;} :::  {:: ゙:::::、:::    :::ィ ,,:::: };;;;イ;;l
        jミミ;;;;} :::  ヽ::::ミヽ::  |  ノ  W::  |;;;;彡:|
          }ミ;;;;;;} ::: ヾ {:::::ミ ヽ j イ|从 ":::: };;;;;;彡{
         iミ゙;;;ノ::::::  \'、 }}: l||イ /,ィ;;、、-ーーヾ'ァ;;イ、
        {;;;;リ:レ彡"三三ミヽ,,リ{{,,ノ;;;;ィ≦==ミ'" |;;〉l.|
        l"';;;l ゙'''<<~(::) >>::)-ら::ィ'ー゙-゙,,彡゙  .:|;l"lリ
          |l ';;', ::: ー` ̄:::::::ミ}゙'~}彡ィ""´   .:::lリノ/
         l'、〈;', :::    :::::::t、,j iノ:::、::..    ..::::lー'/
   ,、,,,/|  ヽヽ,,', ::.、    :::::(゙゙(  ),、)、ヽ::.  イ ::::l_ノ
)ヽ"´   ''''"レl_ヽ,,,', ヾ'ー、:::;r'"`' ゙'';;""  ゙l|  ::j ::: |: l,,,,
         ゙''(,l ', l| リ {"ィr''''' ーー''ijツヽ  l| :" l  |',`ヽ,
   き 利    (l :'、 `',. 'l| |;;゙゙゙゙"""´ー、;;| ノ:  / /リヽ \
.    く  い    Z::::ヽ '、 ゙'t;ヽ ` ´ ノ;;リ   ,r' //  |
   な. た     >; :::ヽ  ::ヽミニニニ彡'"  , '::::://  |
   ┃ ふ     フヽ ::\ : ミー―― "ノ , ':::: //:   |
   ┃ う      }ヽヽ :::::\::( ̄ ̄ ̄ /:::://:    |
   ┃ な     }| ヽヽ :::::`'-、竺;;ニィ'::://    |    l
   // 口    (: |  ヽ ヽ :::: ::::::...  :://     |    |
)  ・・.  を    (  |  ヽ ヽ::  ::::::... //      リ.    |
つ、       r、{  |   ヽ ヽ   //      /     |
  ヽ      '´    |   ヽ  ヽ //      /     |
452名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 05:15:01 ID:WbwRjuAq
         .  /!   _
.         / /___//
    < ̄>={_ノ´   ´ニ>'7
     .`7/´7 、/ ,ィ,ノl } ヽYゝ
      | | { (|/(ヒj ヒjノ,イハ
.      ,.、ヾゝ ゞi ト _r‐, ノ/ノノ
.      |_!   ,.ィ7ゞZラY^ヾ 
   rf{]::K7 [ /`o⌒)/   _〉
.   `ス::ノト'〈_ 不_,ノ`K´  \
    {二_ノ ,.〈イ介ニテべ>  .〉
.       ̄  TLゝ==彳{ゝ_/
          ̄}   ヽkニラ、
.    , − 、   /   ./|   l
   (7・ω・)</ ̄ィ ̄<:.:!   ノ
  r') l   T´/!/ 7´| ヽ! ∧
  | l_|  丶ー=ミ、 /  !  |ヽ-.ヘ
  ゝ-、    `ー、))'  !  `r、_,ヘ',

.               , -−- 、__, -‐- 、_ 
               /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:_.:-< ̄
  .            /.:.:.:.//-−- 、:.-:.、:.:ヽ
              /:.:.,.イ:./7´, ̄! ̄ト!.:.:.:.lヽノ
.            /:.:./(|.//|,イ.:ノ!.:,.イ.:!:!:./
          , '_,ィ二ゝ、! ⌒  ⌒/:.lル'
         /.:.|,ィ´   __,ト _`フ)_イ:.:./ 
       ∨.:, -_ニ! /l´ .ト、/  〉、 L
       ト〈 _」::〈 ∨   iく{ ,r'人 ニ<^)
        レ' ヾ::ヽ.l   〈::::ヾK.:.:.:.:.:.:.:.:.)
.       /   `ーヽ / \::::ソ.:.:.:.__,.ノ
.      /     `ー-ゝ __,ソ:.:.:.( 
     ,'            \   `ー-{:.)
      l               \    }ノ
     !              ヽ
.    ト、                 ヽ
     \      _ ‐_二_ヽ_ハ
       ヽ    //_ -‐r、`ー',
.        ヽ.//,.イ   ! \ l
         } ' ∧ l   l   ヽ}
.          ー'  } ',   ヽ  /
        ノ   / ヽ   Y
      ,.イ  /--‐‐ヘ  ∧
453名無しさん@お腹いっぱい。
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
           O 。
                 , ─ヽ
________    /,/\ヾ\   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|__|__|__|_   __((´∀`\ )< というお話だったのサ
|_|__|__|__ /ノへゝ/'''  )ヽ  \_________
||__|        | | \´-`) / 丿/
|_|_| 从.从从  | \__ ̄ ̄⊂|丿/
|__|| 从人人从. | /\__/::::::|||
|_|_|///ヽヾ\  /   ::::::::::::ゝ/||
────────(~〜ヽ::::::::::::|/        = 完 =

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                   ,.-―っ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                人./ノ_ら~ | ・・・と見せかけて!
           从  iヽ_)//  ∠    再  開 !!!!
          .(:():)ノ:://      \____
          、_):::::://(   (ひ
          )::::/∠Λ てノし)'     ,.-―-、   _
______人/ :/´Д`)::   (     _ノ _ノ^ヾ_) < へヽ\
|__|__|__( (/:∴:::(  .n,.-っ⌒    (  ノlll゚∀゚) .(゚Д゚llソ |
|_|__|_人):/:・:::∵ヽ | )r'        ー'/⌒ ̄ て_)~ ̄__ イ
||__|  (::()ノ∴:・/|::| ./:/         /   ̄/__ヽ__/
|_|_| 从.从从:/ |__|::レ:/      ___/ヽ、_/
|__|| 从人人从 ..|__L_/      .( ヽ     ::|
|_|_|///ヽヾ\ .|_|_     /⌒二L_    |
────────       ー'     >ー--'

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        巛ノi
        ノ ノ                  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     ノ')/ノ_ら      ∧_∧       | いきなり出てくんな!!
      、)/:./、      ( ´Д`)      | ビックリしたぞゴラァ!!!
     )/:./.:.(,. ノ)    `';~"`'~,.       \   ________
     \\:..Y:.(  ・ ''    :,   ,. -―- 、|/
_____ 从\、,. ,; .,、∴';. ・  ( _ノ~ヾ、ヽ
|__|_ _(_:..)ヽ:∴:@)       ノ(゚Д゚ #) )
|_|__|_人):|:・:::∵ヽノ)    (_(⌒ヽ''" `ー'
||__|  (::()ノ∴:・/|::|( \    \ \) )        _
|_|_| 从.从从:/ |__|::|ノ   \  ミ`;^ヾ,)∃        < へヽ\
|__|| 从人人从 ..| /:/ _,,,... -‐'''"~   /ー`⌒ヽ、  (( (゚Д゚llソ |
|_|_|///ヽヾ\ ./:/ _ \        /     /T;)   /~  ̄__ イ
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             ´⌒ソノ`

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