3 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/29(金) 20:36:58 ID:b9wIRCvd
乙
5 :
ゼロの影:2008/08/29(金) 21:38:13 ID:AcHO88jT
6 :
ゼロの影:2008/08/29(金) 21:42:57 ID:AcHO88jT
其の四 月影
オスマンは学院に戻ったルイズ達に称賛を送った。
奪われた神秘の石を奪還し、盗賊のフーケも捕らえた。誇っていい戦果だがその顔は晴れない。フーケを捕らえることは出来たがゴーレムに苦戦し、敗北する寸前だった。
自らの力で打ち負かしたという実感が無いため後味が悪い。それはキュルケやタバサも同じだろう。
詳しく訊くより先に賢者の石について尋ねられたオスマンは遠い目をして語り始めた。
昔、倒れていた旅人四人――自称勇者一行――を救って食事や宿を提供し、いろいろ協力したため「他にも持っているから一個どうぞ」と譲られた。
それから使う機会も無く大切に保管されてきたのだと言う。
「……あの、一ついいですか」
「何じゃ?」
ルイズが大きく息を吸い込み、キュルケとタバサは耳をふさいだ。部屋全体が震えるような怒声がオスマンの鼓膜を直撃する。
「何で使い方を訊かなかったんですかっ!?」
「す、すまん」
彼らがどうやってハルケギニアに来たのかオスマンも知らず、手がかりはない。怒り出すのではないかとミストバーンの方を窺うが動揺していないようだ。
帰る手段がわからないままだが、主との連絡が取れるためそこまで焦ってはいない。地道に調べるつもりだった。
7 :
ゼロの影:2008/08/29(金) 21:46:03 ID:AcHO88jT
その夜、食堂の上の階で舞踏会が行われた。
食事をとる必要のないミストバーンは人のいないバルコニーに佇み、主に報告を行っていた。
「――やはり器には魔族の体が適しています」
彼の正体は暗い思念から生まれた暗黒闘気の集合体である。他者を乗っ取る能力を持った彼は主から全盛期の肉体を預かり、それを守る任務を帯びていた。
単に強者を引きこみたいだけではなく、主に身体を返還した時のための新たな器を探している。
元々“自分の”体を求める本能はあったが、大魔王と出会ってからはそれがいっそう強まった。主の役に立つために、暗黒闘気を存分に振るえる最高の器を欲していた。
忠実な部下の言葉を聞いた大魔王は考え込んでいる。
『もし人間を器にするならば、根本的な強化が必要となるな』
備わった魔力や身体能力、生命力などを比べると魔族の方が優れている。少しずつ体質を変えていかねばならない。
やがて大魔王は楽しげに笑い、グラスを口に運んだ。部下を通して夜空に浮かぶ二つの月を見ることができる。
「双月もまた、趣のあることよ」
大魔王がそう呟くと同時にルイズが使い魔を探してバルコニーにやってきた。後ろ姿を見て息を呑み、立ち止まる。
月影を浴びて衣は神秘的な光を帯びている。まるでこの世のものとは思えない姿に彼女は言葉を失った。
「もし太陽が二つあれば――」
そこから先は言う必要などなかった。魔界に太陽をもたらすために彼らは戦うのだから。
どちらが呟いたのかわからない言葉に意外な想いに打たれてルイズは立ち尽くしていた。
大魔王の肩書を持つ者と闇が具現化したような部下が、光の象徴たる太陽を求めるような言動をするのが信じられなかった。
さらに、料理の減り具合に目を光らせていたメイドの一人――シエスタという名の少女だ――が食事をとらないのか気になったため近づいていく。
「初めて本物の太陽を見た日のことは……今でも忘れられん」
大魔王の声には宝物を見つけた少年のような響きが混じっている。異世界の月光が彼を感傷的な気分にさせているのかもしれない。
影は黙って主の言葉に耳を傾けていた。太陽への渇望は、数千年仕えてきた彼が誰よりもよく知っている。
ルイズとシエスタに気づいていないのか、気づいていても気に留めないのかわからないが、静かな会話が流れていく。
どうやら彼らはたびたび地上に赴いて朝焼けや夕焼けなど太陽を見たことがあるらしい。
ルイズは頭を働かせて必死に想像しようとした。太陽のない世界を。
(うー……無理)
シエスタも同じく頭を抱えている。
声をかけられないまま彼女達は何となく顔を見合せて、溜息を吐いた。
8 :
ゼロの影:2008/08/29(金) 21:48:28 ID:AcHO88jT
舞踏会も終わり夜が更ける頃、フーケは壁を見つめていた。
魔法衛士隊に引き渡される前に学院の適当な一室にぶちこまれたが、いずれ監視と防備が厳重な監獄に移されるだろう。
危うく殺されかけたのをルイズのおかげで――正確に言えば大魔王のおかげだが――命を救われた。
だが、国中の貴族の誇りを散々傷つけてしまったのだ。考えられる刑罰は縛り首もしくは島流し。どちらにせよ大切な家族に会える見込みは無い。
脱走しようにも杖を取り上げられているため不可能だ。高い所にある窓には固定化のかけられた鉄格子が嵌っている。
「ごめん……」
可愛い妹達の顔を思い浮かべたフーケは目を閉じて呻いた。
しかし、窓の外に気配を感じたため目を開いた。もしかすると口封じに殺しに来た刺客かもしれない。
相手の顔を見た途端、彼女の顔が引きつった。
「何であんたが……」
それもそのはず、彼女の命を奪おうとしたミストバーンが現れたのである。空中に静止したままじっと見つめられ、フーケは怯えた。
「やっぱり殺しにきたのかい? 安心しなよ、どうせ極刑になる可能性が高いんだからさ」
ミストバーンは軽く首を振って懐から袋を取り出して見せた。中身が金貨だと悟ったフーケが疑いの眼差しで眺めまわす。
金の出所が気になったが――訊いては後悔すると直感したため疑問は飲みこんだ。
「雇うつもり?」
無言で首を縦に振る。
貴族の魔道具を専門に盗みを働くならば相当な実力や人脈が必要不可欠だろう。学院では得られないものも社会の裏側に通じた人間ならば簡単に手に入れることができる。
特に目当てのものを指定するわけではない。帰るための手がかりに関する情報だけでなく、役に立ちそうなものならば知識でも品物でも歓迎するつもりだった。
「……選択の余地はなさそうだね」
断れば即座に殺されるだろう。自由の身になり報酬も得られるなら、悪くはない条件だ。
フーケが頷くと彼の掌から黒い波動が迸った――。
その後フーケは脱獄の手引きをした者への嫌疑をそらすため、
『怪しげな組織に属している親切なマザコン紳士が自分に惚れて逃がしてくれたためほとぼりが冷めるまで姿を消します 土くれのフーケ』
という適当にでっち上げた声明を送りつけた。
それを目にしたある男は一歩遅かったことを悟り、かなり落ち込んだという。
>>8 ちょww
なんと言うピンポイントな偶然ww
10 :
ゼロの影:2008/08/29(金) 21:50:26 ID:AcHO88jT
以上です。
キャッキャウフフに憧れているのに、憧れているはずなのに、いつの間にか…。
1と影の人、乙です
ワルドwww
投下乙。
落ち込んだということは、このSSでは惚れてんのかw
影の人乙
フーケwwwこれ分かってやってるだろw
しかしフーケが敵にならないとすると宿屋での戦闘が難易度下がるか?
スレ立て主、影の方、乙でしたー!
最後のオチに吹きましたww
乙でした!
>>13 や、ミストさんがいる時点で難易度どころの話じゃない気が
あと使い方聞かないオスマンやマザコン紳士に吹いた
表現が絶妙過ぎる
>>10 大魔王様と腹心の太陽求めてきゃっきゃうふふふふふですねわかりま(ry
17 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/30(土) 16:41:51 ID:es6LNzrs
まあどんなに戦闘難易度高くてもこっちにはチート性能のミスとがいるからな
これをどう立ち回らせるか・・・
そこはゼロ魔原作をよく見てみるんだ。
7万ほどキツイの除けば、戦闘難易度、なにそれおいしいの?な世界だから。
浮かぶ、浮かぶぞ、分身したワルドが闘魔滅砕陣でもがき苦しむ光景がw
足を踏み込むだけで打破するんですねわかります
何気にダイ大の面子って多対一に慣れているやつらばっかなんだなぁ。
>>21 だって雑魚は基本グループで襲いかかってくるし。
納得だな
最上級モンスターを素手で瞬時に倒せるキャラばかりだからな。
マザコン男が勝てそうなのはぎりぎりチウくらいだな
軍隊アリレベルか
チウは出合った当初は軍隊アリの群れに薬草を使い切るくらいだけど
終盤ならそこそこは強くなってたはず
その手の強さだけで言ってしまえばメルルとか超弱い
そもそも戦闘描写ないじゃんw
メルルの強さは直接戦闘力ではなく予言(占い)と、サミットの時に見せた感知能力かと。
よくよく考えると、戦闘能力が高くとも、絡め手に弱そうな連中ばかりだな。
……幾つもの謀略を察知して仲間を助けられそうなキャラは、マトリフ師匠とポップ、アバン先生くらいか?
>>29 ヒュンケルとかラーハルトも少しくらい頑張れそうじゃね
ヒムは力尽くで(ry
おっさんもそこそこ探知できそうではある
>>31,32
おっさんに謀略を察知して仲間を助けるには能力が足りて無さそうに思う。
騙されなくなる事と謀略を察知することは別でしょう。
(というより謀略を察知する事は騙される事より高い能力が必要だと思う)
35 :
ゼロの影:2008/09/01(月) 08:19:31 ID:BmrjPvAd
其の五を8:25頃に投下します。
今作におけるルイズとミストバーンの関係は
「真面目で容赦ないミストバーンに時には恐怖し、時には嫉妬し、時にはツッコみながら強くたくましく生きていこうとするルイズ」
という感じになりそうです。
36 :
ゼロの影:2008/09/01(月) 08:25:27 ID:BmrjPvAd
其の五 二年虚無組魔影先生
ルイズは夢の世界を疾走していた。叱られた時に逃げ込む湖と、そこに浮かぶ小舟を目指して。
小舟に乗ったルイズの元にマントを羽織った憧れの貴族が現れ、彼女が顔を輝かせた瞬間――全身を鋼鉄の爪が貫いた。驚いたような表情を浮かべて彼は消えてしまった。
霧の中から姿を現したのは彼女の使い魔。恐怖のあまり動けない彼女に向って音も無く歩み寄る。
しかし、その足が止まる。霧を振りかえった彼は、その中にいる相手に氷の声で告げた。
「怒れ。憎め」
誰ともわからない者の放つ冷ややかな空気と、憎悪に限りなく近い感情に緊張が高まり――頂点に達したところで空気が歪んだ。
「あ……ああ……!」
本気の怒りを放つ影が、ゆらりと振り返った。
とうとう耐えられなくなった彼女の意識は現実へ浮かび上がった。
広場で白い影を中心に、生徒達が円を描くように取り囲んでいた。ある者は顔をゆがめ、ある者は叫びをほとばしらせ、ある者は恐怖を隠しきれないでいる。
やがて、円の中から一人生徒が彼の前に進み出た。金属に包まれた掌がすっと伸び、漆黒の糸が生徒の身体に絡みつく。
操り人形のように体が縛られるのを見ながら、疲れ切ったルイズはぼんやりと己に問いかけていた。
(……どうしてこんなことになったの?)
発端は担当の教師が風邪をひいたことから始まる。代理が見つからず自習になると生徒達が喜んだのもつかの間――オスマンが授業を行うようミストバーンに頼んだのである。
彼はミストバーンがフーケを殺しかけたことを知らない。「捕らえる際に傷を負わせたのを賢者の石で回復させた」とだけしか聞いていないのだ。
ルイズをはじめとする生徒達は必死で懇願し、止めたのだが聞き入れられなかった。
「安心せい、死者は出さんと本人も言っておる」
「安心できるわけないじゃないですかッ!!」
泣きそうになりながらルイズは全力でツッコんだ。うっかり間違えて殺してしまいました、なんてことになりかねない。
それでも、いつもと違った環境での授業の意義云々をもっともらしい顔で説かれると反論できない。
(落ち着くのよルイズ、きっとわたしたちの実力を図ろうとしているのよ、もしかすると使える魔法を見せるだけでいいかもしれないわ)
沈痛な空気のなか授業が開始され、恐る恐る生徒の一人が手を上げて発言した。
「あの、先生はどういった魔法を教えるつもりでしょうか?」
教師を任されたとはいえ使い魔に対する態度とは思えない。しかし、それを笑うだけの度胸がある者などいない。授業中の“事故”が起こるかもしれないのだ。
「魔法は不得手だ」
ならば格闘技の訓練になるのだろうか。メイジだからそんなことなどしたくないというのが本音だが、背に腹は代えられない。
固唾を呑んで言葉を待つ彼らに静かな言葉が流れていく。
「だが、魔法を放つには精神力が鍵となる。私が教えるのは心の力についてだ」
ルイズ達が意外だと言うようにミストバーンの顔をまじまじと見つめた。精神力など強さに含めないように見えるが、実は熱い心を持っているのか。
37 :
ゼロの影:2008/09/01(月) 08:30:04 ID:BmrjPvAd
どうすれば強い心を持てるのか。精神力を絞り出せるのか。身を乗り出して聴く生徒達に、どこまでも冷たい声が響いた。
「まずは……殺したい相手の顔を思い浮かべろ」
「「えぇっ!?」」
いきなりそれかよ、と誰もがツッコんだがタバサだけは一人頷いている。
生徒達が途方に暮れているのを知ったため、彼は“手助け”をすることに決めた。
だが、一人ずつ順番に前に出るよう言われても皆顔を見合わせるばかりだ。
「おい、お前行けよ」
「殺人鬼がいるとこになんかいられるか! 俺は自分の部屋に戻る!」
「俺の冒険は……ここまでだぜ」
口々に恐怖と絶望の込められた台詞が飛び交うなか、ルイズは震えながらミストバーンの前に立った。
召喚した者の責任として真っ先に使い魔に向き合わねばならないと思ったためだ。
彼の指から暗黒闘気の糸が伸び、体を縛りつけた。
「闘魔傀儡掌……!」
束縛はそれほど強くない。一応手加減していると思ってルイズが気を抜きかけた瞬間――違和感が全身を貫いた。
『ゼロのルイズ』
『あいつ本当に貴族なのか?』
『ニセモノだろ』
『魔法も使えないくせに。まるで寄生虫じゃないか』
彼女の中にため込まれていた鬱屈した思いが膨れ上がり、凶暴な牙を剥く。暗黒闘気によって暗い感情を呼び覚まされたようだ。
「怒れ。憎め」
ミストバーンの眼がギラリと光り、ルーンが輝きを帯びた。
彼の眼に映ったのは、ルイズの中にため込まれた膨大な負の感情。刺激を受けた今、魂の内で暴れ回っている。
限界まで高まる感情をルイズが抑えつけようとした瞬間、奇妙な感覚が二人を襲った。
ルーンがますます輝き、ミストバーンは視えていた力の流れが光とともにルイズとつながったことを知った。
二人の身体を震わせるものは――どす黒い感情による共鳴。
溢れだす直前ぶちりという音とともに傀儡掌の糸が弾け、ルイズの体が解放された。精神力を振り絞った彼女は殺気に満ちた目で彼を睨んでいる。
「怒りを増幅させる感覚を掴んだようだな」
どこか満足げに呟く彼に生徒達は怯えた視線を向けたが、ここで逃げれば間違いなく文字どおり痛い目にあうことになる。
覚悟を決めて順番に進み出る。まるで巨悪を退治しようとする主人公達のごとく悲壮な表情で。
38 :
ゼロの影:2008/09/01(月) 08:34:56 ID:BmrjPvAd
「憎い! 憎いわァァ!」
ある時は少女が口から火を噴きそうな勢いで二股をかけた相手に対する怒りを露にし。
「何で僕はモテないんだああッ!!」
ある時はマリコルヌが己の境遇を嘆き。
「殺してやる……殺してやる!」
ある時は怒る標的を目の前の不気味な男にした生徒が咆哮し。
「フハハハハッ!」
勇者一行を返り討ちにする某魔族のようなミストバーンの高笑いが炸裂し。
広場はちょっとした地獄絵図になった。
阿鼻叫喚の中タバサが進み出るとキュルケが親友に心配そうな眼差しを送った。
華奢な体だが、傀儡掌をかけられながらも手を動かして杖を構える。
「許さない……!」
その言葉は戒めている相手ではなくこの場にいない誰かに放たれていた。
無理矢理身体を動かし魔法を放つ。エア・ハンマーがミストバーンに叩きこまれ、生徒達が息を呑んだ。
攻撃を食らったら激怒して反撃するのではないか。
少女の体が串刺しにされるのを想像し、全員が思わず目をそむけたが惨劇は起こらなかった。
衣の霧の中に吸い込まれ、打ち返された風の塊をタバサは魔法で逸らし、なおも杖を構える。やがて傀儡掌が消え、両者は攻撃態勢を解いた。
見つめ合う二人の眼差しは互いを認めるものであったと目撃者は語る。
ミストバーンはタバサの抱える闇が他の生徒達とは比べ物にならないことを見抜いていた。身体が強靭なら暗黒闘気を操る術を叩きこむところだ。
また、ルイズも気になった。暗い感情が湧きあがり溜めこまれていく様子が他の生徒達と異なっていたのである。ルーンによってつながったのもルイズだけだ。
特殊な力を秘めているかもしれないためこれからもルイズと行動をともにしようと考える彼だった。
精神的疲労が普段の何十倍にも達する授業も終わる頃になって、コルベールが慌てて駆け寄ってきた。
アンリエッタ王女が行幸するので授業は中止だと言う。
それを聴いた瞬間、生徒達は叫んだ。心を一つにして、魂の絆に結ばれたかのように完全にシンクロしながら。
「「何でもっと早くそれを言ってくれなかったんですかああっ!!」」
暗黒闘気によって増幅された怒りがコルベールのカツラに直撃し、吹き飛ばしたのだった。
39 :
ゼロの影:2008/09/01(月) 08:36:29 ID:BmrjPvAd
その晩ルイズの部屋に噂のアンリエッタ王女が訪れ、思い出話に花を咲かせた後で物憂げな表情を浮かべた。
アルビオンで貴族達が反乱を起こし、王党派を打倒しようとしている。反乱軍が勝てば次に矛先を向けるのはトリステインであることは明白だ。
対抗するためにゲルマニアと同盟を結ぶため、政略結婚としてアンリエッタがゲルマニアに嫁ぐことになった。
だが、アルビオンの貴族達はこの結婚を妨げるため、血眼になって致命傷となるもの――アンリエッタのしたためた一通の手紙を探している。
それがゲルマニアに渡ればすぐさま結婚は破棄され、トリステインは一国でアルビオンに立ち向かわなければならない。
ルイズが友情に燃える眼で承諾したためアンリエッタは手紙の末尾に一行付け加え、指輪――水のルビーを手紙と共に渡し、旅の無事を祈ったのだった。
40 :
ゼロの影:2008/09/01(月) 08:37:50 ID:BmrjPvAd
以上です。
>爆炎の人
すみません、爆炎先生のサブタイがあまりに印象深かったので似たものにしてしまいました。問題がありましたら変更します。
本編でのミストバーンの精神的ダメージと身体的ダメージの割合は5:5もしくは4:6くらいですが、こちらでは9:1か8:2を予定しています。
端から見てる分にはよい授業だったwww
特にマリコルヌ嫉妬覚醒すればスクウェアに届きかねないw
どっかのSSにいたぞ、そんなマリコルヌw
ギーシュと決闘して遍在使ってた。
それは話すなら呼び捨てにするんじゃねえ、さんを付けろ!ギーシュさんと呼べ
首相が辞任したので22:50頃から投下します(何故
いらっしゃい支援。
虚無と獣王
13 虚無と怪盗
「ちょっと気になってる事があるんだけど」
ウルの月、フレイヤ、虚無の曜日。
休日という事で訓練は無し、と言っていたにも拘らず夕食後になるといつものメンバーが集まってきていた。
虚無の曜日には唯ひたすら怠惰に過ごすと公言して憚らないギーシュまでもが来ていたが、訓練自体は行わず雑談に興じている。
ルイズが王都で買ってきた戦斧用の革紐を渡したり、それを見たキュルケが茶々を入れたり、長大だが流麗なデザインの戦斧をギムリたちが見たがったり。
そんな中で、レイナールがルイズに向かって話し掛けたのが、冒頭の台詞である。
「何?」
「ひょっとして愛の告白?」
「ななななななに言ってるのよキュルケ!」
いつものキュルケのからかいに反応したのはルイズだけで、レイナールはさらっとスルーした。反応すれば相手の思うつぼなのは判っている。
「怒らないで聞いてくれよ。ちょっと言いにくいんだが、ヴァリエールは魔法を使っても常に爆発してしまうんだよな?」
「今わたしはケンカを売られているのかしらよし買ったわ」
キキギ、とルイズの周囲で空気が軋むような錯覚を覚えたレイナールが慌てて言い繕う。
「売ってないものをいきなり買わないでくれないか最初に怒らないでって言ったのに!?」
ルイズは表情を全く変えずに答えた。
「つまり決闘を申し込んでいるのねよし買ったわ」
このままでは話が全く進まないと判断したクロコダインがため息交じりのフォローを入れる。
「少し落ち着けルイズ。それでレイナール、何が気になるんだ」
「なんでそんなに胸が小さいんですか、とか?」
混ぜっ返す事に関しては他の追随を許さないキュルケが絶妙のタイミングで口を挟むが、横で本を読んでいたタバサに杖で軽く頭を叩かれた。
「言い過ぎ」
キュルケは、普段はこういう会話に入ってこない親友がどんな形であれ参加してきた事に驚き、同時に喜びを感じる。
「ごめんね、そりゃタバサも聞いてて余り愉快じゃなかったわよねー。でも大丈夫、タバサはまだ成長期アイタ」
この謝罪はお気に召さなかったようで、また頭を叩かれた。今度はさっきよりも強い。
「続き」
「ん、ああ、えーと、みんな爆発するって言うんだけど、見た事がないからどうも信じがたいんだ。だって魔法理論から言ったっておかしいだろう?」
唐突かつ強引なタバサの路線修正に若干戸惑いながら、レイナールはようやく本題に入る事が出来た。
「おや、君はまだルイズの爆発を見た事が無かったのかい? 違うクラスでも一度くらいは目撃していてもおかしくないだろうに。一度見ておくと危険回避の重要性が理解できるよ」
「正直ぼくたちは見慣れちゃってるからなあ。君の疑問がかえって新鮮だよ。緊急時の対応とか身をもって覚えちゃったし」
同じクラスのギーシュとマリコルヌが好き勝手な事を言うので、ルイズは取り敢えず2人にローキックを放っておいた。
「あいたぁっ!」
「ぼくのふくよかなふとももに鞭のようにしなる蹴撃が!?」
たった一発のローでもんどりうって倒れる様を見て、クロコダインはいい蹴りだと感心するのと同時に仲間の女武闘家を連想した。そういえば髪の色も一緒だな、と。
しえん
使い魔にそんな感慨を抱かれているとは露知らず、ルイズはレイナールに向きなおった。彼がからかい目的ではなく純粋に疑問に思っているのは判ったので蹴りは出さずにおく。今のところは。
「あんたが疑問に思うのは当然よ。当のわたしも訳がわからないんだから」
どんな呪文を唱えても爆発してしまう。
四系統魔法はおろかコモンスペルですら例外ではないこの現象は、レイナールが言う通り現在の魔法理論を真っ向から否定するものだ。
そして、そんな事は当のルイズが一番よく理解している事でもあった。
幼い頃は母や姉、雇った家庭教師からもあり得ないと言われ、一縷の希望を託した魔法学院の教師すらも解説できない現象。
入学してから丸一年、自分でも時間の許す限り調べてはみたが、これまで失敗魔法が爆発を引き起こすという事例は見つける事が出来なかった。
そんなルイズにとってレイナールの質問は、理性では理解できても感情では「なに喧嘩売っとるんじゃボケぼてくりこかすぞワリャア」としか反応できないものである。
実際の発言が幾分ソフトなのはまだ理性が働いているからといえよう。
一方のレイナールは、ルイズには悪いと思いながらもどこか納得のいかない表情だった。
実際に目にしていないのに常識外の減少を鵜呑みにするのはどうにも抵抗がある。ルイズたちが嘘を吐いていないのは判っているのだが。
教科書に書いてない事が起きるのはおかしい、そんな頭の固い部分があるのに本人は気付いていない。割と内心が表情に出やすい事にも。
ここで微妙に空気が悪くなるのを感じたキュルケが話題を変えた。
「そういえば聞いた? アルビオンの内戦の話」
「ああ、王党派と貴族派に分裂しているらしいね。戦力は拮抗しているというじゃないか」
ローキックの痛みが和らいだのか、先日の食堂の一件で空気の読めない同級生に煮え湯を飲まされた(あくまで主観上では)ギーシュが話に乗る。
因みにもう1人の犠牲者はまだ転がっていて「たった一言でこの仕打ち! 痛い、でも、ああ……ああ……!!」とか呟いていたが、敢えて無視されていた。
ツッコんだら負け、という認識が何故か全員に行き届いている。VIVA・チームワーク。
「ちょっと、それいつの話よ? 国からの手紙じゃ、貴族派が圧倒的な数で王党派を押してるって話よ。軍人の家系ならもう少し情報を集めた方がいいんじゃない?」
肩をすくめるキュルケにギーシュが反論した。
「待ってくれ、ぼくがこの話を聞いたのは大体2週間くらい前だよ? キュルケこそ、その手紙はいつ貰ったんだ」
「一昨日ね。情報については間違い無い筈よ、実家の商売にも関わる事だし」
2人は顔を見合わせる。お互いの情報が正しいとして、こんな短期間で一方の軍勢が勢力を伸ばせる理由が思いつかないのだ。
「ねね、アルビオンて内戦状態だったの? そんな話聞いてなかったけど」
「ぼくも初耳だよ」
ルイズやギムリの質問に、キュルケはふう、やれやれ的な表情で答える。
「他国相手の商売している連中はとっくに警戒してるわ。まあ学生レベルにはまだ降りてこない情報かしら」
言外に「へー知らないんだーヴァリエール遅れてるー」と優越感を込めつつルイズの愉快な反論を楽しみにしていたキュルケであったが、期待した反応は帰ってこなかった。
つまんないわねどうしたのかしらとそちらを見ると、ルイズは目を点にし汗を流しながらキュルケの後ろを指さしている。
何か言おうとしている様だが口をパクパクさせているだけで言葉が出てこないようだ。
全くもうなんなのよ、と振り向いて、キュルケはルイズと同じ表情になった。
彼女の眼に映ったのは、30メイルはあろうかという巨大なゴーレムが本塔めがけてのっしのっしと歩く姿だったのである。
マゾコリヌめvww
支援
『土くれ』のフーケは、自らの作りだしたゴーレムの肩に身を伏せながら本塔を睨みつけていた。
神出鬼没の怪盗として名を売る彼女であったが、今回の様に派手な騒ぎを起こす事はこれまでの仕事には無く、正直に言えばモットーに反する。
闇を駆け、影の如く忍び寄り、獲物を捕らえた後は風の様に去る。
盗みに入られる側としてはふざけんなと言いたくなるモットーであるが、一応目撃者を少なくする事で口封じの可能性を減らしたり、護衛に怪我を負わせるのを防いでいる一面もあったりするのだ。
それが何故こんな派手にも程がある行動に出ているのかというと、早急に魔法学院を立ち去らなければならなくなったのである。
当初の予定としては学院の内部に入り込み、ある程度の時間をかけて内部構造を調べ上げた上で、芸術の様に盗んで行く筈だったのだ。
ところが義妹の住む国に内乱が勃発してしまい、色々訳ありの義妹を放置しておく訳にはいかなくなってしまった。
それでも宝物庫から何かちょろまかす時間位はあるかと思っていたら、馴染みの情報屋から「あー、アルビオンな、多分来月まで保たないで、いや王党派ボロ負けやぞ」と今朝がた聞かされた。
もはや一刻の猶予もない、とっとと盗んでさっさとアルビオンに帰らなければとフーケは判断した。
宝物庫の壁にはやたら強力な『固定化』の魔法が掛けられているのはこれまでの調べで分かっている。
その分物理衝撃には弱い、多分弱いと思う、弱いんじゃないかな、まチョット覚悟はしておけと、自分の親くらいの年の癖に変なアプローチをしてくる学院教師から聞き出したのは今日の昼休みの時間。
夕食の後こっそり壁の厚さを確認してみたが、流石に国内有数の宝物庫だけあって自分のゴーレムで破れるかどうかというところだ。
本当ならこの条件下で仕事はしないのだが、もうそんな事を気にしている時間は無かった。
ゴーレムのパンチで壁が破れればそれで良し、破れなくてもこのまま姿を消して故郷に帰ろう。金は無くとも義妹と、共に暮らす孤児たちの護衛くらいは出来る。
そんなことを考えながら、フーケはゴーレムの腕を鉄に『錬金』させた上で塔に殴りかからせるのだった。
「なななななななななによあれ───────────っ!」
ルイズが声を出せるようになったのは、ゴーレムが本塔を殴り始めてからである。
「なんだってあんなゴーレムが魔法学院を攻撃してくるのよ!」
「ぼくが知るもんか!」
ルイズの大声のお陰でキュルケ達も茫然自失状態から復活した。復活しただけで動けはしなかったが。
「ひょっとして『土くれ』のフーケか!?」
そう言ったのはギーシュだが、「でもあんな派手な事するか? 仮にも怪盗だろ」とギムリからの疑問には答えられない。
「ゴーレムが攻撃しているのは多分宝物庫の外壁」
ゴーレムの動きを冷静に観察していたタバサの指摘に、ルイズとレイナールが反応した。
「じゃあやっぱりフーケ!? わたしたちでなんとかしないと!」
「じゃあやっぱりフーケ!? 急いで先生たちに知らせないと!」
180度違う意見に2人は顔を見合わせた。
「ちょっと待って先生たち呼んでくる間に確実に逃げられちゃうわよダメでしょそれは!」
「じゃあ僕たちに何が出来るんだ相手は最低でもトライアングルクラスのメイジなんだぞ!」
がるるるる、と言わんばかりの剣幕のルイズに一歩も引かないレイナール、そんな2人にキュルケが話し掛ける。
「言い争ってる間に動いたら?」
見ればタバサとギムリ、ギーシュは既にゴーレムの方へ向かっており、マリコルヌは逆方向に走っていた。
クロコダインはルイズが動くまで判断を保留しているのか、ゴーレムを警戒しながら主を守るように立っている。
「行くわよクロコダイン!」
ルイズが走り出すのと同時にクロコダインも動く。
「ルイズ、判っているだろうが」
「無茶はしないわ! でも背も向けないわよ!」
フーケは焦っていた。
ゴーレムに渾身の力で攻撃させているにも関わらず、壁には亀裂すら入っていない。
近寄ってきた学生達が魔法で攻撃してくるのは大した妨害にはならないが、逃げ出す時の精神力を考えるとこれ以上時間を掛けたくはない。
教師達を呼ばれて退路を塞がれるのも面倒だ。次の一撃で突破できなかったら逃走しよう。
フーケはゴーレムの手を槍の様に変化させ、助走をつけながら塔へと突き出した。
30メイルもの巨体に通じる魔法は少ない。
ルイズ達はそんな現実を早々に突きつけられていた。
ドットメイジのギーシュ達はともかくとしても、トライアングルクラスのキュルケやタバサの攻撃も碌なダメージを与えられないでいる。
正確にはダメージを与えても、土を補充する事ですぐに回復しているのだ。
一番ダメージを与えているのがクロコダインの戦斧で、振るう度にゴーレムの体が爆発するかの如く吹っ飛ぶのだが、流石に一撃で体を消滅させる事は出来ない様だった。
「まずいね、一旦退いた方がいいんじゃないか?」
「珍しく意見が合うじゃない!」
ギーシュとキュルケの掛け合いに、ルイズは顔を歪ませる。
啖呵を切って駆け付けたものの、魔法の使えない自分はここでは足手まといだ。
クロコダインもゴーレムと戦いながらもこちらを気にしているせいか、全力を出せないように見える。
だが、背を向けて逃げ出すのは嫌だった。若い頃戦場を駆け、数多くの武勲を誇った母親の子として、弱きを守る者こそが貴族と教えてくれた父親の子として。
そんなルイズの目に、ゴーレムの手が鋭く尖って塔に突き出されるのが見える。
ルイズは咄嗟にありったけの力を込めて、フレイムボールの呪文を唱えた。
学院に大きな爆発音が轟く。
「何なんだい!」
悪態をつきながらフーケが前を見ると、塔に突き出した筈のゴーレムの腕が肘から消失していた。
「嘘だろ!? 鉄製に『錬金』しておいたってのに!」
どんな魔法かは判らないが相当な威力なのは確かだ。これはヤバいかともう一度前を見て、しかしフーケはこちらに運があると確信した。
ゴーレムの一撃が効いたのかさっきの爆発のおかげなのか、難攻不落だった宝物庫の壁に見事な大穴が開いていたのだ。
フーケはゴーレムに時間稼ぎを命じると、フードをかぶって宝物庫へと飛び込んだ。
ゴーレムの腕が吹き飛ぶのを、ルイズは信じられない気持ちで見ていた。
自分が唱えたのはフレイムボール、しかし杖から炎は出現しない。だが失敗した筈の魔法は元の魔法とは比べ物にならないほどの凄まじい威力を発揮している。
「ちょっと、やるじゃないの!」
笑顔でキュルケに言われるが、正直実感が湧かない。
「凄いな、でもあれを教室で披露はしないでくれよ? 命に関わるからね」
ギーシュが皮肉交じりに、しかし感心した様子で話しかける。
「やりすぎ」
タバサが無表情に、でもどこか焦った様子で指摘する。
「やりすぎ?」
ルイズ達はそこでようやく壁の大穴に気がついた。
「…………」
一瞬の沈黙の後。ルイズはゴーレムを見上げながら叫ぶ。
「学院の宝物庫に穴を開けるなんて! 敵ながら凄い実力の持ち主だわ!!」
うんまあそういう事にしておこうか、と学友達は思った。
「遊んでいる場合じゃないぞ、気を付けろ!」
再び動き出したゴーレムを見てクロコダインが注意する。
「間合いを取って、魔法で攻撃」
「もう一回派手な失敗頼むわよ、ルイズ!」
「いちいち引っかかる言い方ね!」
颯爽と、機敏に、あたふたと、生徒達はゴーレムから一定の距離をとるのだった。
薄暗い宝物庫の中、フーケは素早く辺りを見回す。人の気配なし、宝物が衝撃で壊れた様子なし、OK、今のところ問題なし。
取り敢えず片っ端から盗んで行く訳にはいかない。大量の盗品を捌いている余裕はないのだ。
だからと言ってサイズの大きな物を持ってはいけない。何か、適度に小さくて尚且つ高く売れそうな物はないか。
そんな彼女の眼に、ある物が映った。30サントほどの黒い筒状の何か。
学院長の秘書をしていたフーケは、それがオールド・オスマンが個人的に納めたというマジックアイテムだという事を思い出した。
使い方は分からないが、マジックアイテムという物は魔力を通せば動くと相場が決まっている。
フーケは筒を懐に入れ、レビテーションで下に降りようとして、
「おでれーた! まさかこんな所に盗みに入る奴がいるたぁ思わなかったぜ!」
突然声を掛けられ動きを止めた。
杖を構えて周囲を見渡すが、人の姿も気配も感じられない。
「おーい、どこ見てんだ。ここだよ、ここ!」
声のする方を見ると、そこには一本の剣があった。
おそらくは壁に飾られていたのだろうが、先ほどの衝撃のせいか床に落ち、鞘から刀身が半ば抜け落ちている。
「なんだ、インテリジェンス・ソードか」
フーケは溜息をついた。武器に意識を与えたインテリジェンス・アームズは別に珍しいものでもない。
「いやいや、そう言わねぇでくれよ。ちょっと姉ちゃんに頼みがあんだ」
「何よ」
「ついでと言っちゃあなんだが、俺も盗んでってくれね?」
「……ハァ?」
フーケがマジックアイテムを盗み出すようになってそれなりの月日が立っていたが、自分から盗んでくれと言いだすお宝は初めてだった。
「ほら、俺ってば見ての通り剣だろ? 斬ってナンボの商売なのにこんな蔵の中にいても仕方ないと思わね?」
言ってる事はもっともだが、刀身に思いっきり錆びの浮いている長剣を盗むメリットをフーケは思いつかなかった。
大体150サントはあろうかという剣など邪魔にしかならない。特にこれから逃げようという時には。
故にお喋りな剣は無視していこうと背を向けたのだが、剣はわざとらしい口調でこんな事を言った。
「あー、このまま置いてかれちゃったらあんたの特徴とかペラペラ喋っちゃうだろうなー、俺」
速攻で床ごと『錬金』してやろうかと思ったが、そんな時間も精神力も惜しい。
フーケは無言で剣を拾い上げると最後に1つお約束の仕事をして、壁の大穴から飛び降りたのだった。
突然ゴーレムが音を立てて崩れ始めた。
30メイルのゴーレムが土の塊に戻るのだから、当然大量の砂埃が舞い上がり、離れた場所にいるにも拘らずルイズ達の視界が塞がれる。
「なによ突然!」
叫び声を上げる彼女達に駆け寄るクロコダインだったが、予想外の現象は更に続いた。
周囲の土が盛り上がり、ドーム状になって彼らを閉じ込めたのである。
「きゃっ!?」
それまで塔から洩れる明かりや月の光で薄明るかったのがいきなり真っ暗になって、ルイズ達は悲鳴を上げた。
「ったくもう!」
キュルケが短く呪文を唱えると、拳大の火の玉が三つ浮かび上がり、辺りを照らす。
攻撃に加わっていた全員が10メイル程のドームの中にいるのが判る。幸い誰も怪我などはしていない様だった。
タバサがドームを杖で叩くと硬質の音がかえってくる。
「多分、鉄製」
土メイジのギーシュもドームに触って材質などを調べ始める。
「これは結構ぶ厚いぞ。土とかに『錬金』するのも時間がかかりそうだ」
「そんな! フーケに逃げられちゃう!」
そんな中、クロコダインは拳で何回かドームを叩いた後、ルイズ達に忠告した。
「今からこいつを破るから出来るだけオレから離れていてくれ。それと耳も塞いでおいた方がいい」
「判った、任せるわよクロコダイン」
主からの信頼の言葉に、クロコダインは太い笑みを返す。
彼女達が反対側の壁まで下がり、タバサが『サイレント』の魔法を唱えるのを見届けると、クロコダインは愛用の戦斧を逆手に持って逆袈裟に斬り上げた。
「唸れ!爆音!!」
グレイトアックスが壁にぶつかるのと同時に魔宝玉に秘められた爆裂系呪文が発動し、鉄製のドームを1/3程も吹き飛ばす。
「うええええええ!?」
「な、なんて威力なの……!」
感心する同級生を尻目に、タバサがドームの外へ出る。
既に外に出て周囲の気配を探っていたクロコダインに、「中を見て来る」と言い残し、『フライ』で宝物庫へと飛んだ。
半ば予想していた事だが宝物庫の中に人の姿は無い。
ぐるりと周囲を見渡して、タバサは壁に何か書いてあるのに気がついた。
[ 神隠しの杖と伝説の剣、確かに領収致しました。 土くれのフーケ ]
流麗な書体で書かれたその署名を見て、タバサは小さく呟いた。
「目立ちたがり」
以上で投下終了です。
支援ありがとうございました。
最近マリコルヌの立ち位置が気になります。
安易に変態キャラにしすぎているかもしれないと。
あと爆炎先生、魔影先生と来たので獣王先生とかGTC(グレートティーチャークロコダイン)とかやった方がいいのかと
思いましたが、よく考えたら本編で既に先生役でした。
ではまた。
乙
GTC吹いた、既にといわず是非w
乙
これはガルーダ登場フラグか
マリコルヌはあれだ。
変態であって嫉妬マスクでもあるんだが、
意外に人情味もあって愛嬌もある憎めない男なんだよ。
もうここのSSでは○○先生がデフォでもいいような気がしてきた。
>>58 なんか、ラーハルトが
「お前たちには速さが足りない」
とクーガーばりにキメてるのを幻視した。
兄貴化したラーハルト、想像できないw
最期に同僚と弟分の激戦を眺めながら静かに逝く事になるから駄目だ。
どうにも、彼には『変態になればなるほど進化する、それがマリコルヌ・ド・グランドプレだッ!』と、バオーばりに叫ばれるイメージがあるなあ。
>>61 担当声優の津久井教生氏によれば、あれは昼寝しただけらしい。
何というだいなしw
獣王さん乙です
学院メンバーで日常を描くのは楽しいもんだ
切磋琢磨?している彼らが今後どうなるか見物です
ただ、少しクロコダインの扱いに苦労しているような
元々、動かすのが難しそうだからな・・・
充電期間と考えればいいか
>>58 ラーハルト先生・・・
人に物を教えるタイプ・・・か?
厳しそうな先生なのは間違いない
ラーハルトの人どうしてるかな・・・
ラグドリアン湖の仙人直伝の腿パーンの威力は流石ですね
>>67 水の精霊が謎の被り物姿でくるぶしつやつや病とかに罹ってるんですね、わかります。
ウィキペディアを見ていたらマァムはルイズと同い年、レオナはタバサより1つ年下でした。
……なんだろうこの格差社会(乳的な意味で
こんなところにも格差社会が…
ルイズ、タバサ、強く生きてくれ
おっさんが幼い子供と勘違いしたのは仕方のないことだな
71 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 17:21:53 ID:e2PfZyEc
基準が違うんだな
漫画のキャラクターは、見た目で分かるようデフォルメされるのが常です。
ダイ大の女性キャラは比較的胸が大きいので――人間ではない方々は、人間の顔が見分けにくいので――胸で年齢や様々なものを確認するのです。
……ルイズとタバサは、ちょっと、ね。
あの人が描く作者って貧乳なのマジいないしねぇ
ここのスレ住民の人口は決して少なくはないと思うんだけど、
何故更新が遅くなるのだろうか。
この新スレだってTOPページからじゃなくて前スレからのリンクで来ているんだぜ?
俺?
俺のようなwikiのことよく判らん奴が更新なんてやったらどんな不具合が起こるか判らないじゃないか!
(怖くて手が出せない)
貧乳はいるじゃないか
ほら、マァムのいた村の近くの森でモンスターに襲われていたおにゃのこが
避難所だと報告スレがなかったのでココで
わかる範囲でまとめておきました抜けあったら教えてください
で質問、小ネタに戻るリンクや広告との間に罫線を引きたいなと思ったんですが
更新履歴が判りづらくなるかと新着情報のページは作りましたが
やはり一気にやるのは不味いですか?
あとサブタイトルを頁頭に持ってきたいなら一緒にsetpageの設定もしますけどどうしましょう?
爆炎の六話が抜けてるみたい(五話と間違えてる?)なので追加の程をよろしく
です
>>まとめの人
他の項目に関しては特にどちらでも良いって感じです
人いないね。夏休みが終わったから?
ぴたっと投下が止まってしまったな。
俺も書こうかと思ったけど、結構難しい。
>>81 だれを召還するのかな
人外だったらルイズ的に当りキャラばかり
人でもメルル以外のメインはワルドがワルド(笑)になるくらいには強いというチート
だがメルルには高精度の危機回避能力があるからなあ
メルル「アルビオンへ行くのですか?彼の地からは不吉で邪悪な気配がするんですけど…」
ルイズ「もうちょっと具体的に言えないの?」
ルイズ「私の感覚ではあまり具体的な事は解らないんですけど、強いて言えば味方の振りしたマザコンでロリコンの変態紳士が待ち構えているような…」
アンアン「そんな危険な場所に大事なおともだちを送る訳にはいきませんわ!」
まあ行かなければそれはそれで大ピンチですが
>>84 ちょw
具体的にはいえないと言いつつ無茶苦茶具体的じゃないですかメルルさんww
>アンアン「そんな危険な場所に大事なおともだちを送る訳にはいきませんわ!」
このアンアンはいいなw
>86
そもそも、綺麗なアンアンはアルビオンへの回収任務をルイズにあんなあざとい話し方で話さないと思う。
いや、「マザコンでロリコンの変態紳士が待ち構えて」に反応しての台詞だからこそいいんだ。
待て待て
>ルイズ「私の感覚ではあまり具体的な事は解らないんですけど、強いて言えば味方の振りしたマザコンでロリコンの変態紳士が待ち構えているような…」
>ルイズ「私の感覚ではあまり具体的な事は解ら(ry
>ルイズ
90 :
84:2008/09/09(火) 05:49:52 ID:XsoBlxGp
>>89 すまん、素で間違えた orz
改定版
メルル「アルビオンへ行くのですか?彼の地からは不吉で邪悪な気配がするんですけど…」
ルイズ「もうちょっと具体的に言えないの?」
メルル「私の感覚ではあまり具体的な事は解らないんですけど、強いて言えば味方の振りしたマザコンでロリコンの変態紳士が待ち構えているような…」
ルイズ「怖っ! どんな危険地帯だというのアルビオン!」
メルル「しかも王子に身の危険が降りかかる気配も感じるんです…」
ルイズ「マザコンでロリコンでしかも王子狙い!? ある意味顔が見てみたい!!」
アンアン「そんな危険な場所に大事なおともだちを送る訳にはいきませんわ!」
女三人寄れば姦しい…。
部屋に入るタイミングを逃すギーシュさんだった。
>>90 いやいや、そこで
ギ「ならばこのギー(ry にお任せを!」
扉を力強く開けて、夜中なのに大声で宣言ですよ。
聞いてた隣のキュルケもこれでアルビオンスルーです。
路銀をもらえなかったので、船賃で苦労したり、アルビオンについてからはモグラ道主体で進んだりで、苦労するわけですよ。
そして王党派と接触した後は、手紙もらってフツーに帰還です。
題して「ギーシュ、はじめてのおつかい」
ワルドとの決戦を経て賢者になったりはしませんか?
ふぅ……
ギ「虚無の使い手で王族の血を引くハーフエルフの子を保護してきたよ」
こうですか?よくわかりません><
>>93 マテマテマテ、なぜワルドとの決戦の後で賢者タイムに突入するんだギーシュよw
一方その頃トリステインではカップリング抗争が起きていた。
なかでもルイズ/メルルが主体の「鬼畜ウェールズ×変態紳士誘い受け」派VSアンアン率いる「ウェールズ総受け」派の対立は深刻なものであったという。
おっさんが見てえ・・・・
97 :
ゼロの影:2008/09/10(水) 16:45:36 ID:tOKUs0a8
其の六、16:50頃投下します。
98 :
ゼロの影:2008/09/10(水) 16:50:09 ID:tOKUs0a8
其の六 白のアルビオン
出発の朝、二人の前に颯爽と現れたのは羽根帽子をかぶり口ひげを生やした男だった。
「グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。同行を命じられている」
ワルドは白い歯を輝かせながら春風のように爽やかにミストバーンに笑いかけた。
「僕の婚約者がお世話になっているようだね」
素晴らしい笑顔に返されたのは沈黙だけだった。気まずい空気がたっぷり流れた所で出発する。
出発してからずっとワルドのグリフォンは走りっぱなしだった。一刻も早く港町ラ・ロシェールへ到着したいようだ。
彼はルイズに熱い想いを語り続ける。
忘れかけていた約束をいきなり突きつけられたため彼女は困惑していた。
港町に到着し、宿を取ってルイズと一緒の部屋に入ったワルドは力を込めてルイズに語りかけた。
「僕にはわかるよ、君は特別な力を持っているってね」
ルイズは力なく首を振った。今まで散々ゼロのルイズと呼ばれてきたのだ。甘い言葉も簡単に信じることはできない。
だが、ルイズの心にミストバーンの言葉が浮かんだ。
『お前は自らの力で私を召喚し、これほどの威力の爆発を起こすことが出来た』
――自分はゼロではない。
「……あの、わたし、爆発だけは誰にも負けないって思っていますわ」
彼の言葉に励まされ、最近張り切って爆発の練習を行っていた。爆発しか起こせないのではなく、自分だけが爆発を起こすことができるのだと。
威力の低い爆発を素早く起こしたり、できるだけ高い威力の爆発を生じさせたり、調節のコツを掴もうと試みている。
それを聞くとワルドは嬉しそうに笑った。
「そう、その意気だよルイズ! さすが僕のルイズ!」
興奮したように目を輝かせ、熱く囁く。
「呼び出した使い魔も、とても強そうだ。メイジの実力を測るには使い魔を見ろというだろう? 君は偉大な力を持っているんだよ!」
己の言葉に陶酔したようにますます目に熱を込める。両者の顔が接近し、ほのかに甘い空気が漂った。
「ずっとほったらかしにしたことは謝るけど、僕には君が必要なんだ。この任務が終わったら結婚しよう」
そこまで言って今にも接吻しそうなワルドはルイズから視線を外し、壁を向いた。そこには使い魔が何も言わず立っている。
婚約者同士が熱く語り合っているというのに関心を一切示していない。唯一、偉大な力というところでわずかに眼光が鋭くなっただけだ。
出て行けとも言えないため二人きりで愛を語るというワルドの計画は失敗に終わった。
99 :
ゼロの影:2008/09/10(水) 16:54:35 ID:tOKUs0a8
さらに、宿が傭兵達に襲撃された時もワルドの目論見は外れた。
格好いいところを見せて好感度を上げるまたとないチャンスだったのだが、ワルドが反撃を開始しようとした瞬間ミストバーンが姿を現した。
もう少し早く敵を攻撃していれば観察の対象になったかもしれないが、
(今か? いや、もう少しピンチになってからの方がいいな。そうそう、台詞も考えておかないと。可愛いルイズの心を掴むような……)
と思っていたため機を失ってしまったのだ。
間の悪い男である。
ミストバーンはそのまま何事も起こっていないかのように歩いて行く。
矢が雨のように降り注ぎ、確かに命中しているはずなのに一滴の血も流れない。白い衣が破れて黒い霧が噴き出すが、すぐにふさがってしまう。
メイジ以上に恐ろしい相手だと悟った彼らは逃げ出そうとしたが、一片のためらいもなく技の名が告げられた。
「ビュートデストリンガー!」
ただのならず者ならば手加減する必要も無い。鋼鉄の爪が標本にするように次々と彼らを刺し貫いていく。断末魔が空気を震わせ、すぐに消えた。
刺激が強すぎるためワルドはルイズを庇い、眉をひそめて問いかけた。
「……君、矢が刺さってなかったかい?」
「あんなものは効かん」
ルイズはもう質問する気力も無いのか黙って従っている。
ワルドは常識の通じない相手に呆れていたが、やがて口をポカンと開けることになった。
貴族派と思われる仮面の男が放った魔法が直撃しても、意に介さず蜂の巣にしてのけたのである。
「もしかして魔法も効かないのか? ……何というか、その、羨ましい体だね」
敵に回したくないな、とワルドは疲れたような笑みを浮かべた。
風石を動力としている船に乗り込んだ一行――特にミストバーンは空の旅を満喫していた。特に言葉にしているわけではないがルイズには何となくわかった。
彼が嬉しそうにしているのは、主が魔界では絶対に見られない光景を楽しんでいるためだ。
憎悪の化身のような彼が喜びを感じるなど想像しづらいルイズは首をかしげつつ尋ねた。
「あんたが心の底から喜ぶとしたらどんな時なの?」
答えは無いかと思われたが、予想に反して比喩表現も交えて返ってきた。
「バーン様の大望の花が――」
「咲いた時、ね。……あんたなんか魔界に帰っちゃえばいいのよ」
(訊かなきゃ良かった)
面白くないものを感じたルイズは頬をふくらませた。
納得いかない。召喚したのだから一応主人と言えるはずなのに、尊重するような態度はまるで見られない。
支援
101 :
ゼロの影:2008/09/10(水) 16:59:40 ID:tOKUs0a8
(ツェルプストーが見たら何て言うか……。アルビオン行きがバレなくてよかったわ)
ルイズの脳裏に犬猿の仲の相手が浮かぶ。ツェルプストー――『微熱』の二つ名を持つキュルケは燃えるような赤い髪と瞳、褐色の肌の持ち主である。
その因縁というのがツェルプストー家が先祖代々ヴァリエール家の恋人を奪ってきたため、というドロドロしたもので二人はよくぶつかっている。
もっとも、軽口にムキになってしまう姿を楽しまれているのだとルイズは気づいていない。
ことあるごとにちょっかいを出してくるキュルケがどんな反応を示すか想像したルイズは思い切り顔をしかめた。
フレイムを召喚したと誇らしげに語っていた彼女は、きっと使い魔の優秀さ、従順さについてこれでもかと自慢してくるだろう。
それに対してこちらは――。
先を考えるのを打ち切って思考を巡らせる。
(タバサの風竜に乗ってみたかったわ)
キュルケの友人である青髪の小柄な少女――タバサについてはあまり知らない。とても無口で本にかじりついているためだ。
彼女の召喚した竜を見て羨ましいと思わなかったと言えば嘘になる。その背に乗って風を感じられたらきっと気持ちいいだろう。
(あいつは飛べるけど、わたしを運ぶことはないわね)
ますます面白くないものを感じたルイズは溜息を深々と吐き出した。
どれほど力をつけたら彼に認めさせることが出来るのだろう。いくらなんでも倒すまでとは言わないだろうが――。
(そういえば、わたしの爆発は効くのかしら?)
気になったものの試す度胸はないため胸の内にしまいこんだ。
やがて空中に浮かぶ巨大な大陸アルビオンを目にした魔界の主従から感嘆の息が漏れた。
「通称は『白の国』。由来は大陸の下半分が白い霧に包まれているからよ」
「この地ならば、陽光の恩恵を存分に受けることができそうだな」
すっかり観光気分の彼らとは反対に船長は顔を蒼くしている。空賊の接近から逃げ切れず停船命令に従うこととなったのだ。
太陽に祝福された地に見とれていた彼は無粋な闖入者に不機嫌そうな眼を向けたが、ワルドから暴れないでくれと懇願されたため船倉へ入った。
空賊の頭の前に連れてこられ、貴族派につくよう勧められたルイズは震えながらも一蹴した。
すると頭は豪快に笑い、変装を解いて本当の姿を現した。その正体はアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだったのである。
アルビオン王家に伝わる風のルビーでウェールズ本人だと確認し、ニューカッスル内の居室へと向かい手紙を受け取る。
明朝非戦闘員を乗せたイーグル号が出発することをウェールズは告げ、帰るように促した。彼の軍は三百、敵軍は五万。勝ち目は万に一つも無く、真っ先に死ぬつもりだ。
ウェールズとアンリエッタの想いを悟ったルイズは悲痛な面持ちで亡命するよう叫んだ。
アンリエッタの性格をよく知っているため、末尾で亡命を勧めている確信があったのである。
だが、ウェールズはただの一行たりともそのような文句は書かれていないと否定した。
苦しげな口調が真実を告げているが、アンリエッタの名誉を守るためだと知ったルイズにはそれ以上何も言えなかった。
どれほど愛していても、いや、愛しているからこそ亡命はできない。貴族派が攻め入る格好の口実を与えてしまうからだ。
やがてウェールズは最後の宴に彼らを招待した。
ワルド涙目支援
103 :
ゼロの影:2008/09/10(水) 17:04:26 ID:tOKUs0a8
勇ましい者達の宴は華やかさと悲しさを帯びていた。
王が明日の戦いは一方的な虐殺になるため逃げるよう促しても、集まった者達は笑いながら拒否した。
死を目前にした者達の明るく振舞う姿にルイズは気分がすぐれないようだ。それをワルドが支え、彼らの近くに立つミストバーンの元にはウェールズが歩いてきた。
その眼に不穏な輝きが宿りウェールズの目が細められる。
刹那、両者の手が閃光のように素早く動き、鋼鉄の爪はウェールズの眼前に、ウェールズの杖はミストバーンの胸に突きつけられていた。
命を狙ったと思った家臣達が激高するのをウェールズが手を振って黙らせる。実力を測ろうとしただけだと悟ったのだ。
一瞬の攻防で力を視たミストバーンは一つ尋ねた。
「死を恐れていないのか……?」
「怖いさ。でも、守るべきものがあるからね」
貴族派レコン・キスタはハルケギニアを統一しようとしており、理想を掲げている。しかし彼らは流される民の血も荒廃する国土も考えない。
内憂を払えなかった王家の義務として、勝てずとも勇気を示さなければならない。
そう語る彼の瞳には諦めでも絶望でもない輝きが宿っている。彼は譲れぬもののために命をかけて戦い、他の者達を照らそうとしている。
「我が主も、私も、強者には敬意を払う。私はお前の名を忘れはしないだろう……永遠に」
寡黙な男の率直な言葉にウェールズは微笑んだ。
「守るべきもののために全力で戦う――それは君も同じだろう? ならば、君もまた尊敬に値する」
対等な視線と言葉に沈黙で応えたのは、彼自身の魂を認められた気がして戸惑ったためだった。
アンリエッタには勇敢に戦い死んでいったと告げてくれ――そう言い残してウェールズは宴の中心へ戻っていった。
廊下を歩くミストバーンはルイズの姿を発見した。
彼女は泣いていた。なぜ愛する者を残して死を選ぶのか理解できずに。
彼に気づいたルイズは駆け寄り、飛び込むような勢いで闇の衣を掴んだ。
「お願い、ウェールズ様を助けて! あんたならできるでしょ、そんなに強いんだから!」
物理的な攻撃は一切効かず、魔法も吸収し、増幅して打ち返すことができる身体。さらに、一日中戦い続けても全く疲れを感じない。
今まで鋼鉄の爪による攻撃しか行っていないが、暗黒闘気を使えばさらに多くの敵を葬ることが出来るだろう。
ハルケギニアの住人が闘気を使えない以上対抗するすべはない。彼の戦い振りによっては戦況を覆すことも可能だ。
だが、ルイズの期待は裏切られた。
「大魔王様は命じられていない」
涙で濡れた瞳が失望に陰る。ウェールズとミストバーンの会話を聴き、互いに認めあったと思ったが――彼は戦うつもりはないらしい。
「あの王子さまに生きていて欲しくないの?」
流れる沈黙が何よりも雄弁に答えを語っている気がしたが、返事は無い。
「あんた自身の気持ちはどうなの?」
もう一度訊ねると、「これはウェールズの戦いだ」とだけ呟いた。
彼の参戦で反乱軍を押し返したとしても効果は一時的なもの。真の平和を得ることはできないだろうし、ウェールズの覚悟を汚すことになりかねない。
勝って生き残ってほしいとは思うが、それが不可能なことは本人が一番知っているだろう。
「どうして……!? あんただって本当は――」
異世界の住人が干渉すべきではないという気持ちも分からなくはない。だが――。
背を向けて歩み去る後ろ姿は、新たに溢れる涙でぼやけてしまった。
104 :
ゼロの影:2008/09/10(水) 17:10:57 ID:tOKUs0a8
以上です。
○ガンダがなくても凶悪すぎる性能で戦闘が…。
○崖での襲撃その他削除
○宿屋襲撃は二手に分かれる提案前に終了する可能性大
○ルーラ・トベルーラあり
○何より、弱体化しておらず大魔王との連絡が取れる場合、全体を通してある種の閉じた関係に終始しがち
などの理由からキュルケ達の見せ場(特に戦闘面)が上手く作れず、あれこれ考えてみましたがどうしても無理が出たためアルビオン行から外さざるを得ませんでした。
私の発想力が足りませんでした、本当に申し訳ありません……orz
ただ、キュルケとタバサは登場しますし、最後に挙げた彼の姿勢は今後関わってくる予定です。
乙
弱体化してなければそうなると思いますよ、本来のミストらしくてよいです
おけおけ。
キャラのらしさを貫かせた結果変わった事ならそれは自然さ。
無理なトレスで不自然になるよりずっといい。
影の人乙です。
基本的に大魔王様が命じなければ襲ってくる敵以外は攻撃しないからそれほど大惨事にはならないけど、
一旦戦うとなったら誰も勝てないよなーw
乙です。
レコンキスタの運命はワルドが握っている様な気がする。
ワルドが余計なことをすれば…………。
これは今回の旅はルイズの気を引くだけにしてウェールズはこっそり暗殺のほうがいいかもしれんね
まあウェールズは戦いですぐ死ぬだろうが
クロムウェルよりルイズにゴマ擦った方が力を得られる可能性がw
111 :
ゼロの影代理:2008/09/13(土) 00:35:12 ID:1iBNOEzo
規制をくらいましたので其の七をこちらに投下します。
其の七 誇りにかけて
翌日、ルイズはワルドとの結婚式を進めていた。ウェールズが見守り、神父の前でルイズとワルドが並んでいる。
憧れの相手との結婚なのだから嬉しくないはずがない。それなのにルイズは唇を噛んだ。何故かミストバーンの姿がちらついて離れない。
彼は壁際に影のごとく立っている。結婚式に興味など持たず出席もしないと思い込んでいただけに予想外だった。
神父の言葉を聞き流しながら本当にワルドと結婚していいのか、行動を共にしてきた使い魔を思い浮かべながらルイズは自分に問いかけていた。
彼を支えているのは主の存在。どれほどの強敵が相手でも、主がいる限り彼の心が折れることはない。何度でも立ち上がるだろう。
果たして自分の中でワルドはそれほど大きな存在だろうか。心の拠り所となっているだろうか。
(――違うわ)
おそらくワルドも同じだろう。必要としていることに偽りはないだろうが、心を支えているとは思えない。
結論にたどり着くとルイズは自然と首を振っていた。
「ごめんなさい、ワルド。わたし、あなたと結婚はできないわ」
言葉を聞いた途端ワルドの顔に朱がさした。ルイズの肩を掴み、熱に浮かされたような目で睨む。思わず怯えた様子で見つめるとそれも一瞬で消えてしまった。
「……わかったよルイズ。潔く身を引こう。だが忘れないでくれたまえ、僕は君を必要としていることを」
「本当にごめんなさい」
ルイズは申し訳なさに震えているが、あっさり聞き入れてくれたことへの安堵も顔ににじんでいる。
ワルドは傷ついた表情で悲しみに暮れるポーズをとり、溜息を吐いた。
「――ということで結婚式は中止だ。実に申し訳ない」
ウェールズはどう言葉をかけるべきか迷ったようだったが、下手に慰めると逆効果になると考え励ますような笑みを向けた。
「では、お別れだ。最後に君達に会えてよかった」
ルイズに、ワルドに、ミストバーンに順々に視線を移す。
「殿下……本当によろしいのですか!? 姫様に――」
なおも言い募ろうとするのをワルドが止める。
ほんのわずかに表情がゆがんでいる。死を覚悟し、戦場に向かう決意を固めていても想いを殺しきれなかったらしい。
「一目会いたかったが叶わぬようだ。命を落とした後に会いに行くとしよう。……アンリエッタを頼む」
信頼のこめられた言葉にルイズとワルドは頷いたが、ミストバーンだけは違った。
「断る」
ウェールズとワルドは目を丸くし、ルイズは簡潔な拒絶に絶句した。
思っても口に出さなければ良かったのに、と心の中で嘆く彼女の耳にわずかに温度のこもった声が届く。
「本当に大切なものならば……自らの手で守れ」
何千年もの間そうやって主を守り抜いてきた自負がある。ウェールズはすぐに死ぬため不可能だと知っていながら彼はそう言った。
ウェールズはしばし言葉を失っていたが、やがて朗らかに笑いだした。
「残念だ。もっと早く君のような相手と出会っていれば、どんな困難も恐るべきものではなくなっただろうに」
「殿下、こいつ……彼は」
大魔王の部下で何のためらいもなく大勢の人間を殺した血も涙もない冷徹非情な男だと言いかけて飲みこむ。今この場で言うべきではない気がした。
「主のために戦うというのだろう? できることならば共に戦ってみたかったが」
ミストバーンが実力を測った時にウェールズも強さを察したらしい。ルイズは何か言うよう肘でつついたが、もう口を開く気はないようだ。
「もし、もう一度守る機会が与えられたならば――」
続きを口にせず、三人にもう一度別れを告げてウェールズは礼拝堂を出ていった。
112 :
ゼロの影代理:2008/09/13(土) 00:37:51 ID:1iBNOEzo
任務が終了し、戦いに赴く者を見送ったルイズ達にはこれ以上この場にとどまる必要はない。
ワルドがグリフォンを呼び、それに乗って帰ることを提案したため頷く。
だがミストバーンが軽く首を振って拒絶した。
怪訝に思った彼女をいきなり掴んだ彼は、あっけにとられるワルドを残し礼拝堂を後にした。
ルーンを輝かせ、何かに導かれるように走る彼がたどり着いた先に広がっていた光景は――血まみれになっているウェールズと酷薄な笑みを浮かべるワルドの姿だった。
閃光のように素早く杖を翻し、青白く光らせつつ胸を突こうとする。傷を負ったばかりのウェールズの動きは鈍く、避けられそうにない。
だが、ルイズを放りだしたミストバーンの爪が杖を弾いて狙いを逸らした。胸を浅く切り裂いただけで致命傷には程遠いのを見たワルドは苛立たしげに舌打ちした。
「どういうこと? 礼拝堂にいたはずなのに、いつの間にかここにいて、ウェールズ様を殺そうとするなんて」
乱暴に放りだされ床に尻餅をついたルイズは混乱したように視線を彷徨わせた。
「ルイズ、誤解だ。僕は――」
「彼は裏切り者で……遍在を使ったんだ」
言い訳しかけたのをウェールズの苦しげな声が遮る。
遍在――それぞれ意思と力を持った存在を作り出す呪文。
ミストバーンはルーンの働きによって仮面の男とワルドの力が同じことを見、内通者ではないかと疑っていた。
図書館で得た知識の中には風のスクウェア・スペルも含まれている。あえて泳がせていたのは道案内として役に立ってもらうためだった。
憧れの相手が見せる冷酷な表情にルイズは現実を認めざるを得なかった。
「ウェールズ様の命を狙っていたの? だったらわたしと結婚するなんて言い出さなくてもよかったじゃない」
ワルドは目を燃えあがらせて叫んだ。もはや仮面を完全に捨て、本性を剥き出しにしている。
「世界を手に入れるために君が必要だったんだ! 始祖ブリミルをも超える君の才能が!」
ワルドが必要としていたのは、彼女自身ではなく魔法の力。それも、ありもしない才能を手に入れようとしていた。それを悟ったルイズがワルドを睨みつける。
「目的の一つは君を手に入れることだが、果たせなかった」
指を立てて蛇のような笑みを浮かべてみせる。
「二つ目はアンリエッタの手紙。そして三つ目はウェールズの命」
それだけ聞けば十分だというようにミストバーンが進み出る。対するワルドは苦笑した。
「君はアルビオンの興亡に何の関係も無いだろう? ルイズに忠誠を誓っているようにも見えない」
戦うつもりはない、というように肩をすくめてみせる。物理攻撃も魔法も通じないと称する相手と戦うのは避けたいところだ。
ミストバーンにとってトリステイン以外の国はそこまで重要ではない。ハルケギニアに滞在した時間はまだ短く、ウェールズと顔を合わせた時間などほんのわずかだ。
それでも彼は戦うつもりだ。認めた者のために。
「ウェールズの邪魔はさせん。そして――」
ルイズへ向き直った彼の眼が壮絶な光を帯び、高らかに宣言する。
「お前は私の物だ!」
「……は?」
予想外の唐突な発言にルイズは間抜けな声を発した。ワルドとウェールズも目を点にして固まっている。
正確には「お前(の力)は私(とバーン様)の物だ」と言いたいのだろうが言葉が足りない。普段の無口さが仇となった。
言いきられたワルドは薄い笑みを浮かべ、杖を構える。
113 :
ゼロの影代理:2008/09/13(土) 00:40:13 ID:1iBNOEzo
鈍く光る指先がワルドに向けられた瞬間、ミストバーンの両側に二人のワルドが現れた。合計三人のワルドが地を蹴り、瞬時に接近する。
距離が離れていては変幻自在の伸びる爪に締め上げられるか刺されてしまう。懐に飛び込んでしまえば逆に攻撃しづらいと踏んで突進するワルドの眼が見開かれた。
高速で伸びるはずの五指の爪は剣を形成し、両側から迫った杖を受け止めた。
さらに中央に突っ込んでくるのを見、二人を容易く振りはらいつつ身体を捌き回避する。その身のこなしはワルドの予想外だった。
接近戦でもこれほど戦えるとなると、得物の射程の差を生かして防戦一方に追い込み有効打を探すことはできない。
杖を繰り出しつつ詠唱を完成させて魔法を叩きこむが、空気の槌は増幅され、打ち返された。かろうじて回避したワルドの苦笑が歪む。
「非常識な体質だな。……化物め」
ミストバーンの眼が光り、いったん爪を引っ込める。
今度は縄のように伸ばし三人のワルドを拘束すると、立ち尽くすルイズに視線を向けた。
その苛烈な眼光が語っている。
自らの手でワルドを倒せと。
だが、昔からずっと憧れてきた相手に簡単に杖を向けられるはずがない。ここでワルドを倒すことが貴族としての役目だとわかっていても。
ミストバーンはルイズを煽るように言葉を吐き出した。
「この男は裏切ったのだぞ。忠誠を誓った相手を……!」
アンリエッタを。トリステインを。ルイズを。守るべきものを。ウェールズの信頼も踏みにじった。
ワルドの所業を思い出したルイズの眼が怒りに燃えあがる。暗黒闘気をきっかけとして暗い感情が練り上げられた時の感覚を思い出し――詠唱する。
素早く爆発を起こす練習の成果が発揮され、三回連続して鈍い音が響くとワルド達は全員消滅した。
最初からワルド本人はこの場にいなかった。おそらく結婚式に臨み礼拝堂に残ったのも遍在の一人。ミストバーンと戦う事態に備えてのことだ。
わざわざ勝ち目の薄い敵と真正面から戦う必要はない。殺されることになったとしても遍在ならば安心だ。
本人は今安全な場所苦笑していることだろう。
ろくに戦ったことなどない少女がいきなり誰かを殺せるとはミストバーンも思っていない。遍在を消滅させることで精神的な成長を遂げさせようとしたのだ。
屈辱に身を震わせるルイズは、まだ戦いは終わっていないというように目を光らせている彼を見て声を上げた。
「ねえ、これから――」
いらえはない。
ワルドがまだ遍在を操ることが出来るなら、ルイズと手紙以外の目的――ウェールズの命を狙うはず。ルーンの力を研ぎ澄まし、ワルドの気配を探っていく。
礼拝堂に残していた一体が風の吹くように移動したのを感知した彼は勢いよく振り返り、ウェールズの背後に現れた遍在へ爪を伸ばした。
全身を貫かれ、薄い笑みを貼り付けたワルドは驚いたような顔をして消滅した。
他に遍在が現れる様子は無く、今頃本人は退却しているだろう。
ウェールズは荒い呼吸の中、顔を上げて笑った。
「……ありがとう」
感謝の言葉に何も言えぬミストバーンを残し、ウェールズは走っていく。帰ることのない戦場へ。
114 :
ゼロの影代理:2008/09/13(土) 00:42:31 ID:1iBNOEzo
そのまま彼が立ち尽くしていると、ルイズがタックルするような勢いでしがみついてきた。口にする言葉は昨晩と同じ。
「ウェールズ様を助けて!」
主の指示を仰ごうとしたが声は聞こえない。部下の判断に任せるつもりなのか、それとも今こちらの様子を観察していないのか。
かすかな違和感を覚えながら鋼の声で答える。その声はかすかにひび割れていた。
「バーン様は――」
ルイズはぼふぼふと衣を両手で殴り、噴火寸前の火山のような目で睨んだ。
「あんた自身はどうなのよ!? あんたが行かないならわたしが――!」
彼女にも自分一人が行ったところでどうしようもないことはわかっている。
しかし、アンリエッタの心を想い、ウェールズの命を救いたい一心ですっかり冷静さを失っている。
彼がもっと弱ければ亡命するよう協力してほしいとしか思わなかっただろう。
だが、救いたい意思と状況を打開するだけの力がありながら戦わないのはルイズには理解できない。
国の興亡と彼は無関係だが、ウェールズの臨む戦いは待ち望んだ好敵手との一騎打ちなどではなく、ただ虐殺されるだけの一方的なもの。彼が戦ってもいいはずだ。
任務は終わったというのにすぐに立ち去ろうとしないのが何よりの答えだ。
沈黙した相手にルイズの怒りがとうとう頂点に達した。可憐だが気迫のこもった声が城内に響き渡る。
「笑わせんじゃないわ……! 何が強者には敬意を払う、よ。とんだ嘘っぱちじゃない」
ピクリと鋼の指が動いた。
「あ、ひょっとして怖いの? だったら謝るわ、無茶言って。そうよね、いくらあんたでも無理よね。通じる攻撃があって殺されちゃうかもしれないし」
空気が音を立てて凍っていく中、とどめとばかりに弾丸のような言葉が炸裂する。
「大魔王の信頼する部下は尊敬する戦士の勇姿も見ずに逃げ出した臆病者って言いふらしてやるんだから! 大切なご主人様の顔に泥を塗ることになるわね!?」
押して駄目なら爆破しろと言わんばかりだ。魔界の主従は挑発されたら後には退けない性格だとルイズは睨んでいた。
己の力に自信を持ち、誇りを守ろうとする貴族と似ているのだから。
口を封じようにも彼の主はルイズに協力するよう命令したのだ。勝手なことをしては“お叱りを受ける”だろう。
あくまで挑発はきっかけの一つに過ぎない。結局は彼の意思次第だ。
危険な賭けだが、何もせずにいては後悔するに決まっている。
誇りにかけて、彼の心を確かめたかった。
彼は選択を迫られていた。
戦うか、戦わないか。
心に従うか、従わないか。
115 :
ゼロの影代理:2008/09/13(土) 00:44:01 ID:1iBNOEzo
ウェールズは全身に傷を負いながら戦い続けていた。
味方と離れ離れになった彼は孤立無援。敵がメイジではないとはいえ数が違いすぎる。疲労が徐々に蓄積され、傷が少しずつ増えていく。
ウェールズは想い人の名を呟き前を見据えた。名も無き雑兵に討たれ首をとられるとしても、最期まで誇り高くあろうと。
彼の瞳に一斉に突き出される無数の武器が映る。
だが、それらが身体に届くことはなかった。
目の前に飛び込んできた白い影が全て受け止めたのだから。
両腕を顔の前で交差させ、数えきれぬ刃を受けながらその姿が揺らぐことはない。突然の闖入者に周囲の兵達は凍りつき、目を見開いた。
「ミストバーン……!?」
ウェールズは信じられないと言うように囁いた。
その足元から蜘蛛の巣を思わせる漆黒の網が広がっている。我に返って襲いかかる兵士達に掌を向け、拳を握りこむ。
「闘魔滅砕陣!」
空間をも捻じ曲げるような技で瞬時に多数の敵の動きを止めたミストバーン。
彼の後ろ姿を見てウェールズはかけようとした言葉を呑みこんだ。
――言葉はいらない。
彼らは地を蹴り、戦いへと身を投じた。
116 :
ゼロの影代理:2008/09/13(土) 00:45:02 ID:1iBNOEzo
以上です。
反乱軍の皆さんがルイズを睨んでます。
トップクラスに好きな技の闘魔滅砕陣をようやく出せました。
闘魔滅砕陣かっこいいよ闘魔滅砕陣
超魔生物ハドラーとミストバーンの共闘が見たかった…。
影の人、乙です!
まさかルイズに挑発されてミストが動くことになろうとは……w
まあ、ミストとしてもああ言われては動かずにはいられないかもしれません。
ここまでミストにすっかり恐れをなしていたルイズでしたが、やっぱりかんしゃくを起こすと無鉄砲でしたね。
さすがルイズ、俺たちに出来ない事を平然と(ry
あと、闘魔滅砕陣かっこいいよ闘魔滅砕陣。
乙でしたー
ミストよ、らしくない気がするがルーンの影響か?
闘魔滅砕陣かっこよすぎだろjk
GJです
さすがにワルドもミスト相手には分が悪いと感じてたようだな
めずらしく5体満足で逃走か
闘魔滅砕陣は見た目がかっこいいが技の性質上強いキャラのかませ技として扱われるのが残念だったんだよな
この技範囲どのくらいまで伸びるんだろうな
ホントはチート性能なのにな
ん〜…
ちと、アンケートっぽいこと訊くけど…
フレイザード×ルイズ
フレイザード(鎧)×ルイズ
バルトス×ルイズ
もし、読むとしたらどれがいいと思う…?
バルトスに一票
やっぱ普通にいい話も読みたい
フレイザードに一票
外道っぷりを発揮してもらいたい
フレイザード×ルイズ :殺伐&燃えCOOL
バルトス×ルイズ :ほのぼのいい話
とか、キャラの組み合わせだけじゃなく、話の方向性も判断材料にしたい。
フレイザードとルイズの博打道中なんてのも楽しそうだ
学院でタバサ相手に巻き上げられる二人
街でボロ負けする二人
ついに、フィンガーフレアボムズのメドローア版や、
氷炎滅花散を炸裂させるフレイザード様が見れるんですね!
メドローア=虚無
把握
というかフレイザードって、
キ ス で き る の か ?
本(?)スレでMHのグラビモスとキスして顔に大火傷負ってたけど
とりあえず問題無しってのがあったから何とかなるんじゃないの。
出来ることは出来るだろうけど、火傷と凍傷で一人あしゅら男爵みたいな顔になるかもw
その度胸と根性でフレイザード様に一目置かれたりとかw
>>127 つまりフィンガーメドローア虚無ズですね
火傷と凍傷の後をあえて治療せず残しておくくらいすると、メダルの件もあって使い魔も承諾してくれそうか?
奴は何も持っていないことによる覚悟とか尊重しそうだし。
あの言葉…
「恨むなら魔物の分際で人間の子を育てたワシを恨め」の台詞が…
最終回当たりで…
「恨むなら下僕の分際で主に逆らったワシを恨め」になるのやも…
>>132 虚無に目覚めたルイズが魔王になるのかw
ハルケギニアにはスケルトンは居るんだろうか。
骨で作られたゴーレム、いやガーゴイル扱いになるのか?
>>135 ゴーレムより、悪魔とか幽霊とかになるんじゃないのか?
バルトス召喚
最初怖がって涙目になるタバサだったが徐々にバルトスになついていく姿が幻視できてしまう。
タバサが新ジャンル『ガクブルデレ』に転職か
……なんか語呂悪いな、『ガブデレ』位にしとくか
139 :
ゼロの影代理:2008/09/14(日) 23:30:34 ID:EXHv3rf7
代理投下はじめます
140 :
ゼロの影代理:2008/09/14(日) 23:32:18 ID:EXHv3rf7
代理の方、投下ありがとうございました!
規制中ですのでこちらに其の八を投下させていただきます。
其の八 戦う理由
圧倒的な勝利を確信していた反乱軍の兵士達は混乱に陥っていた。
それもそのはず、彼らの――ハルケギニアの常識が通じない相手が参戦していたからである。
時折鋭く光る不気味な眼。闇の凝集したような異様な姿。身にまとった衣も金属に包まれた手も恐ろしさを増幅させている。
何よりも考えられないのはその生命力。どれほど刃で切り裂かれようと、刺されようと、全く痛みなど感じないように戦い続ける。疲労すら存在しないようだ。
たまにメイジの魔法が撃ち込まれるが、手で無造作に払いのけられるか増幅して打ち返されるかのどちらかだった。
また、不死身の体に頼りきっているわけではない。素早さや膂力も相当なものであり、軽やかな動きとともに銀光が翻り、次々に敵を刺し貫いていく。
両手の爪は彼の意のままに動き、ある時は獲物を締め上げ粉砕し、ある時は剣を形成し切り裂いた。
迫る刃を手刀でへし折った彼にウェールズが不思議そうに問いかけた。
「何故君は戦う?」
彼は本来戦う必要などないはず。強大な力は主のために振るわれるのだとウェールズも察している。
「最後の勇姿を見届けるためだ」
そっけない答えにウェールズは苦笑した。
(ならば、戦わずに安全な場所から見物だけしてもいいのでは?)
そう言っても答えは返ってこないとわかりきっているため黙っていた。
内心を窺わせないまま手の双剣を構え敵のただ中に斬りこんでいく。剣舞にあわせて血飛沫が舞い、衣の裾が翻った。
彼の存在そのものが武器だと思わせる姿だった。
周囲の兵達は満身創痍のウェールズを狙うが、暗黒闘気の網に捕らえられ体を捻じ曲げられた。
掌を差し出し滅砕陣を展開した彼を援護するようにウェールズの魔法が飛ぶ。獲物の首を折った滅砕陣が消えたところに走りこみ、隣に立って杖を振るう。
ウェールズの詠唱の隙もミストバーンが全てカバーしている。会って間もなく共闘は初めてとは思えないほど彼らの連携は息が合っていた。
信じられないようにミストバーンはポツリと呟いた。
「初めてだ。誰かと共に戦うのは……」
そう語る彼の表情はわからなかったが、不愉快さを感じてはいないようだ。
幾千年も前から彼は一人だった。一人で主を守り抜いてきた。
認め合った者と肩を並べて、あるいは背中合わせで戦うのは初めての経験だ。
これからも共に戦いたかった――そう思った時だった。
141 :
ゼロの影代理:2008/09/14(日) 23:33:32 ID:EXHv3rf7
ウェールズの苦しげな呻き声が聞こえた。
一瞬の隙をついた敵の刃がウェールズの胸を切り裂いたのだ。その一撃だけならば致命傷ではないが、先ほどからの負傷や疲労もある。
蒼い顔のウェールズがよろめくのを、彼は見た。
『あの程度で人間は死ぬのか?』
『当たり前じゃない!』
フーケ討伐時の会話が蘇る。
彼一人ならいくらでも戦い続けることができる。それこそ敵を全滅させることも可能だろう。
だが、ウェールズが倒れれば意味は無い。人間の生命力を考えるともう長くはもたないだろう。
ウェールズはよく戦った。勇敢な戦いぶりを見ることが出来た。肩を並べて戦うことも。
ならば、あとは命の灯が消えるのを見届けるだけだ。それで全ては終わる。
だがその時、ルイズの心からの叫びが弾けた。
『ウェールズ様を助けて!』
ルーンが強く輝き、彼の姿がウェールズの傍らから消えた。
姿を現したミストバーンを見てルイズの顔がゆがんだ。彼一人現れたということは、ウェールズは死んだと告げているようなものだ。
だが、ルーンを輝かせながらいきなりルイズを力強い手で抱えた彼は杖を指差して目をカッと光らせた。
(もしかして、威力の高い爆発を起こせってこと?)
根拠の無い勘だが、何故かそんな気がした。
何が何だかわからないまま詠唱を始める彼女とともに一瞬で戦場に戻った彼はウェールズの上空へと飛び、かなりの高さからルイズの体を放り出した。
そのまま瞬時に倒れかけたウェールズの元へ移動し、抱えてルイズに目で合図する。
今までならば咄嗟に動くことなどできなかっただろうが、爆発の練習を何度も行い、遍在とはいえワルドを倒したことによって彼女の精神は強靭になっていた。
落下しながらも詠唱を終えた彼女の起こした爆発は、ウェールズの立っていた地面を盛大に吹き飛ばした。
もうもうと上がった土煙が兵士達の視界を奪い、混乱を助長する。
地面に激突する寸前で乱暴に掴まれ、呻いた彼女が抗議するより先に離脱する。
反乱軍の兵士達が目撃したのは“突然再び現れた不気味な敵が勇敢に戦った皇太子ごと跡形も無く吹き飛ばされた”光景だった。
142 :
ゼロの影代理:2008/09/14(日) 23:34:52 ID:EXHv3rf7
その頃、炎の髪の持ち主キュルケは親友タバサの部屋に押しかけ一方的に話しかけていた。
一見ただの無遠慮な態度に見えるが、タバサがはねのけようとしないのはその下に隠された気遣いを察しているからだ。
原因となったのは、ルイズの使い魔の行った授業だった。
どす黒い感情を増幅させるというとんでもない内容のわりに後遺症などはなく、皆胸をなでおろした。
それでもキュルケは友人の抱える闇を知っているため放っておけず、わざわざやってきたのだ。
真の目的に言及すればはぐらかされるのがわかりきっているためタバサは大人しく話を聞いていた。
授業についての遠慮ない感想を述べた後で灼熱の髪をかき上げながら息を吐く。
「突然休んで……今頃どうしてんのかしら? ヴァリエールも大変ね」
タバサも大いに同意を込めて頷く。
家同士険悪な間柄で気にくわない部分も多いが、真面目な姿勢に好感が持てることもあり、すぐムキになるルイズの反応をキュルケは面白がっていた。
だから召喚に成功した時からかってやろうと思ったが、とんでもないものを呼びだしてしまった。
キュルケやコルベールが止めるより早くあっという間に串刺しにしかけたのだ。よく死者が出なかったものだと思う。
一方、タバサは一目見た時からなぜか彼に懐かしさを感じた。
ゴーレムとの戦闘で二人は戦っている相手よりミストバーンに恐怖を覚えた。そしてタバサは己に足りないものを悟った。
ただ一つのもの以外は全て不要だと切り捨ててしまえるほどの覚悟。
まるで存在そのものが武器であるような、戦いしか知らないと思わせる姿。
そして特別授業で自身と彼の内包する闇の深さを身をもって思い知らされた。
だが同時に、それだけではない何かも感じていた。
「ご主人様さえいればいいって態度だからねー。どうなるのかしら」
二人とも彼に直接関わっているわけではない。関心はあるのだが、相手にその気がないのだから交流の深めようがない。
直接的か間接的かはわからないが、この先もし関わることがあるとすればルイズが鍵となるだろう。
結局、彼女達は要観察という結論を下したのだった。
143 :
ゼロの影代理:2008/09/14(日) 23:36:54 ID:EXHv3rf7
ルーラでミストバーンに運ばれる間、ルイズは夢の中でどことも知れぬ世界を歩いていた。
何かに導かれるようにひたすら歩き続ける彼女の前に分かれ道が現れた。
一方を選び進んでいくと彼女を包む景色が変化し、いくつもの戦いを映し出していく。
真の姿をさらけ出した影は、最強の器を返してもなお主のために戦おうと忌み嫌っていた能力を振るう。
最後に長年かかって鍛え上げた理想の器に入りこんだ影が魂を掴むと、光が溢れだし焼き尽くした。
そして場面が変わる。
瓦礫にもたれかかるようにして青年が傷ついた身体を横たえていた。
最強の敵に追い詰められ、このままでは勝てないと悟った彼は震える手を見、わずかに唇をゆがめて額の眼を抉り出した。
逃げるという選択肢もあったのに、彼は逃げなかった。彼が彼であるために。
大魔王の名を守るためだけに全てを捨て魔獣となった彼と、同じく全てを捨てた勇者の戦いはいつ果てるともなく続いた。
勇者は窮地に陥ったが、最高の相棒の言葉に勇気づけられ力を振り絞る。
そして、彼の放った太陽のような閃光に大魔王は目を奪われ――その隙に勇者の手が自分のために作られた剣を掴み、切り下ろした。
口から血塊を吐き出した彼の身体は、果たせぬ夢を具現化した玩具と同様真っ二つにされた。
勇者は音の消えた空間で、瞼を閉ざし、静かに別れを告げる。
対極の立場だが共感を覚えた相手へ。
石と化した大魔王の亡骸は渇望し続けた太陽へと消えていった――。
ルイズはいつのまにか先ほどと同じ分かれ道に来ていた。
今度はもう一つの道を選び、歩を進める。本来ならば存在しないはずの道を。
映った景色はまったく別のものだった。
眼光鋭い老人の傍らに寡黙な影がつき従い、彼らは歩いて行く。
暗く淀んだはずの空には雲一つなく、澄み切った青空が広がっている。燦々と降り注ぐ陽光を浴びる大地は荒れ果てているが、わずかに生命の兆しが見えた。
大魔王は満足げに笑い、それを見る影は心から嬉しそうにしていた。
彼らは、太陽に照らされた魔界の様子を飽くことなくいつまでも眺めていた。
144 :
ゼロの影代理:2008/09/14(日) 23:39:29 ID:EXHv3rf7
学院の自室に戻ったルイズは傷だらけのウェールズの姿に息を呑んだが、賢者の石を取ってくるよう言われたため慌てて駆け出した。
瞼を閉ざしたウェールズの顔は白く、今にも生命の火が消えてしまいそうだ。水の秘薬や賢者の石でも助からないだろう。
だが、まだ手はある。彼だけにしか使えない手段が。
その掌に黒い輝きが集い、ウェールズの身体に染み込んでいく。
賢者の石を持って戻ってきたルイズが目撃したのは、ウェールズの身体を棺に入れるミストバーンの姿だった。
助からなかったのかと肩を落とすルイズに鉄の声が届く。
「命はつないだが、しばらく眠る必要がある」
死んだのを蘇らせたわけではなく、死へ向かうのを彼の力――生命の一部とも言える――暗黒闘気で食い止めている状態だ。
それを聞いて顔を輝かせたルイズは感動のあまり絞め殺しそうな勢いで抱きついた。彼はスライムに顔面に体当たりされたような顔をしている。
ふと彼女は何故ウェールズを助けたのか疑問に思った。彼自身も己の行動に戸惑っているようだ。
懇願に心を動かされたとは思えない。
(いまさら慈愛に目覚めました、なんて絶対ありえない)
大魔王の部下にするためかとも考えたが、歩んできた人生を考えればウェールズは承諾しないだろう。彼もそれはわかっているはずだ。
思い返せば、ウェールズを救出する直前ルーンが輝いていた。
使い魔を従順にさせる効果があるらしいが、今まで働いていなかった分が溜まりに溜まって放出されたのだろうか。
召喚してからの呼びかけの中で最も強く望んだことを叶えようと。
だがそれは彼の意志に反している。彼はウェールズの覚悟を尊重しようとしていた。生きていてほしいと思っていたにせよ、最期を見届けたら去るつもりだったはず。
ルイズは背筋が寒くなるのを感じた。
――彼が彼でなくなる時が来るかもしれない。
(……まさか、ね)
今回は召喚されてからの蓄積と彼の願望が結び付いて効果が発揮されたのだろう。だが、強固な意志を持つ彼がこれ以上干渉を許すとは思えない。
(ウェールズ様に生きていてほしいって強く願ってたんだわ、きっと。今回はともかく、もうわたしの言うことなんてきかないだろうし。……それはそれで腹立つわね)
頭を振ってしつこくまとわりつく不吉な予感を追い出そうと努める。今はただ喜びに浸っていたかった。
145 :
ゼロの影代理:2008/09/14(日) 23:41:21 ID:EXHv3rf7
「ありがとう。きっとウェールズ様も――」
どこから棺を用意したかも訊かずアンリエッタに知らせようとしたのを止められ、ルイズは考え直した。
目が覚めるかどうかまだわからない。裏切られた時一層辛くなるだけだから下手に希望を持たせる真似は慎むべきだろう。
だがミストバーンがアンリエッタへの気配りなどするはずない。なぜ止めたのかよくわからないままルイズは棺を心配そうに見やり、続いて彼に視線を向けた。
「あんた、それ」
どれほど破れようとすぐに修復するはずの白い衣が燻り、背から煙が立ち上っている。
「わたしの魔法で……?」
普通の魔法は効かないのに彼女の爆発だけは効果があったようだ。さらに、ワルドや理不尽な状況への憤りが威力を増加させていた。
ウェールズを抱えた時爆発に巻き込まれたためさすがに無事では済まない。
(え、わたし死ぬの?)
心の準備も十分でないのに戦場に運ばれ、上空から放り出され、地面に激突しかけて、ただでさえ寿命が数年分縮んだのにここで残りの人生がゼロになってしまうのか。
「あんたが命令したんじゃない。そりゃわたしだって――あ」
そのまま連れ出さずわざわざ爆発を起こさせたのは、ウェールズに敵前逃亡したという汚名を着せないためだろう。
いくら慌てていたとはいえその気になれば範囲や規模を変えられたはず。せっかく練習してきたのだからもっと上手く調節すべきだった。
良くて即死、悪ければ――身を震わせながら抵抗しようと杖を構えるが、攻撃は来ない。獲物に恐怖を味わわせるだけ味わわせてから殺そうというのだろうか。
「は、はっきりしなさいよ、心臓に悪い」
彼はルイズが何を言っているのか理解できないようだ。
(……殺すつもりはないってこと?)
彼女を殺そうと思えば戦場に置いてくるだけで、そもそも落下するのを放置するだけで済んだはず。
幸い今回は力を貸せという大魔王の言葉の許容範囲内に収まったらしい。
もうルーンの輝きは消えているが、効果が発揮されている最中の出来事だったせいかもしれない。
「あは、あはは、何でこんな綱渡りみたいな思いしなくちゃなんないの……!?」
緊張の反動でルイズは泣き笑いしながら床にへたりこんで息を吐き出しかけ、使い魔を攻撃してしまった事実に気づき愕然とした。
慌てて賢者の石を振りかざしても無駄だと氷の声が返ってくる。悔しさを噛みしめた彼女の耳に飛び込んできたのは予想外の言葉だった。
「見事だ……ルイズ」
彼の意思を読み取って急な指示に従い、いきなり高所から放り出されても凄まじい威力の爆発を起こし、ウェールズ救出の力になったことを褒めているのだろう。
初めて名を呼ばれた彼女の顔がくしゃりと歪む。
「バカ……! 褒めるところズレてんじゃない? 嬉しくないわよ……!」
震える声を風が運んでいった。
146 :
ゼロの影代理:2008/09/14(日) 23:43:11 ID:EXHv3rf7
以上です。
本気の爆発食らわせて距離が近づくのは少年漫画の「この私に一撃を食らわせるとは褒めてやろう」的な……あれ、何か間違ってる。
これまで力を視たりつながったりする以外あまり働いていなかったルーンが今回頑張りました。斜め上に。
「大魔王様のご命令」や「ルーンの効果」は使いすぎないように気をつけたいところです。
爆発が効くのか疑問ですが、虚無は通じる(かなり効きやすい)ということでお願いします。
147 :
ゼロの影代理:2008/09/14(日) 23:44:13 ID:EXHv3rf7
代理投下終了です。失礼しました
楽しませてもらってます影の人。
乙ー
「この私に一撃を食らわせるとは褒めてやろう」的なってある意味死亡フラグじゃね?
>>149 「全力でお相手しよう!」
とかのフラグだな
バリエーションとして
「よくもこの体に傷を……許さん!」
とかも
……ん?
>>149 それで期待して、ハリー!ハリー!ハリー!ハリー!ってパターンもあるぜ?
まあダメージが闇の衣だけならまだ大丈夫だろうが、それで若バーン顔が見えたり傷ついたりしたらキレるんだよな
ミストバーンがいつルイズに対して
「たまには自分の力だけで解決してみせろ」
と言うか楽しみ
>>155 そして諦めを踏破するんですね、分かります。
>>153 ミスト「お前も私と契約しているのだから、こんな時に私が何と言うか分かっているだろう?」
ルイズ「……大魔王様の言葉は」
ミスト「そう、全てに優先する」
なるほど、そこでルイズは虚無に目覚めるのか。
ミスト 「……フン。あの小娘、叩かれてやっと底力を見せおったわ。
これでなんとかアルビオン艦隊の方はおさまるかもしれんな。」
それ、ルイズがオッサンに潰されるフラグw
159 :
ゼロの影代理:2008/09/17(水) 09:23:25 ID:3cM4h0Kr
避難所に投下が来ていたので代理します
───────────────────────
代理投下ありがとうございました!
規制が続いてますのでこちらに其の九を投下します。
其の九 奇跡の草原
ウェールズの眠る棺をどうごまかすか頭を悩ませたルイズだったが、ミストバーンから彼が夜眠ることにすればいいと言われ即座に採用した。
彼について無数の疑問があるため今更指摘する輩などいない。「だってミストバーンだから」と言えば皆何となく納得するだろう。
問題を一つ片付けたルイズだったが顔は晴れない。次に待ち構えているのは比べ物にならない難題だ。
アンリエッタに何が起こったか報告しなければならない。しかも、ウェールズは生きているという事実を隠した上で。
「やっぱり姫様にだけは話した方がいいんじゃないかしら」
とルイズは何度か言ったが拒絶された。ウェールズの意志に任せるつもりらしい。
王宮にてアンリエッタに謁見したルイズは事の次第を説明した。
手紙を取り戻したと知っても彼女の顔は暗い。ウェールズの“死”が彼女の心を責め苛んでいる。
「裏切り者がウェールズ様を殺そうとするなんて……よくぞ止めてくれました、ルイズ」
ルイズが何か言おうとすると沈黙を守っていたミストバーンが重々しく告げた。
「ウェールズは勇敢に戦った」
それを聞いたアンリエッタは覚悟をにじませた目で、
「そう、ですか。……ならば私も勇敢に生きようと思います」
と告げた。
いつものように授業が始まる前、いきなり休んだルイズにクラスメートが群がり何があったのか口々に尋ねた。
「噂によると魔法衛士隊隊長と一緒に出かけたらしいね。もしかして愛の逃避行とか?」
「まさか! ゼロのルイズがそんなロマンティックなことに挑戦するわけないじゃないか。相手を爆破して終わるよ」
すっかり爆弾魔扱いだ。
「胸がゼロでなくなる方法を探しに行ったんじゃない?」
「あり得るな。そして失敗したわけか」
「ああ可哀想に、私の胸で泣いていいのよ? 前よりひどくなってるじゃない」
好き放題喋る彼らにルイズは憤死寸前だ。退屈な者達は面白そうな話題があるとすぐ飛びついてしまうものらしい。
「う、うるさいわね! 王宮にお使いに行っただけよ! どうしても知りたいならミストバーンに訊いて!」
「んな無茶な」
即座に生徒達は首を振った。
彼らが大人しく席に戻ったところでコルベールが到着し、授業が始まった。
160 :
ゼロの影代理:2008/09/17(水) 09:26:21 ID:3cM4h0Kr
妙な物体を机に置いた彼は『火』の系統の特徴について説明するよう言った。『火』の系統を得意とするキュルケがやる気のなさを全身から発散させながら答える。
「情熱と破壊が本領ですわ」
コルベールはにっこりと笑い頷いた。
「そうとも! しかし、『火』が司るものが破壊だけでは寂しいと思います。使いようによってはいろんな楽しいことが出来るのです。破壊や戦いだけが『火』の見せ場ではない」
コルベールは続いて妙な物体を動かし始めた。情熱に目を輝かせる彼とは対照的に、生徒達は説明を適当に聞き流している。
油と火の魔法を使って動力を得る装置らしいが、魔法を使えば済むため重要性が感じられない。
「魔法はただの便利な道具ではない。『火』が破壊のためだけの力ではないように、使いようで顔色を変えると思います。伝統にこだわらず様々な使い方を試みるべきですぞ」
信念に満ちたコルベールの言葉に対して生徒達の反応はどこまでも鈍かった。
ルイズもあくびを噛み殺しながら何となく使い魔の方を見る。やはり彼は真面目に装置の仕組みについて鏡に書きこんでいた。
「いけすかないツェルプストーが使うんだもん、暑苦しい『火』は破壊にしか使えないわよ」
呟いたルイズには意外なことに、答えが返ってきた。
「火は再生をも司る」
主の象徴たる火の鳥――不死鳥は灰の中から蘇る。炎による浄化と再生を体現する存在だ。
「私の使う暗黒闘気こそが、破壊のためだけの力なのだろう」
淡々と事実を告げる口調にルイズは首をかしげ、周囲の人間に聞かれないよう声をひそめた。
「何言ってんの? あんたの能力でウェールズ様を救ったんでしょ。だったら破壊以外にも使える立派な力だわ。……洗脳とかじゃなくて」
今度は彼の方が理解できなかったらしい。
「人間は正義の光とやらを好むと――」
「それはあんたの戦い方がアレだからよ。先生も言ったばかりじゃない、使いようだって。建設的なことに使えば……どう考えても無理ね」
可能性を追求しかけて二秒で諦めた。大魔王の部下に無茶な注文だと自分でも思ってしまう。
161 :
ゼロの影代理:2008/09/17(水) 09:29:37 ID:3cM4h0Kr
その後ルイズはオスマンから呼び出され、『始祖の祈祷書』を渡された。
王女とゲルマニア皇帝の結婚式の巫女に選ばれたため詔を考えなければならない。
意気込んだもののすぐさま挫折した彼女は使い魔に助けを求めかけて即座にやめた。
口があるのかわからないような相手に詩的な表現を期待するのは間違っている。比喩を用いるとしても「花でも摘むように首をはねる」など傾向が偏っているだろう。
どう考えても祝福の言葉など持っているとは思えない。
うー、あー、と妙な声を上げながら床やベッドを転げ回る彼女の奇行にも一切関せず読書に耽っている。その傍らには数冊の書物が置いてあり、扱っている内容はバラバラだ。
今読んでいるのは始祖ブリミルについての本らしい。
約六千年前に活躍したハルケギニアで神の如く崇拝される偉大なメイジであり、その生涯や魔法は謎に包まれている。
魔界の魔法と始祖が操ったとされるものには似た部分があるため興味をそそられるところだが、書物は伝説の偉人として扱っており、どこまで確実かわからない。
何しろ彼の魔法で天地までもが鳴動したというのだ。神格化され大げさに伝わっている部分もあるだろう。
天空を思わせる模様が刻まれた表紙の本を閉じ、新たな一冊を手に取る彼を見てルイズの血管は切れそうになった。
(ななな何よわたしがこんなに苦労してるってのに自分は優雅に読書なんていい身分じゃない。そんなに大魔王さまのお役に立ちたいってわけ!?)
と憤ってみたところで真面目に肯定されるに決まっている。
ますます釈然としないものを感じたルイズはささやかな抵抗を試みた。彼を連れて中庭に出た後、質問攻めを始めたのである。
青空の下に連れ出して少しでも開放的な気分にさせ、情報を聞き出そうというのだ。
まずは返事する確率の高い戦闘に関する質問――特に呪文について尋ねた。
こちらが知識を提供するだけでは不公平だ。前々から彼の世界のことも知りたいと思っていた。
すると、ほとんど喋らない彼の代わりに大魔王が質問に答えた。
一般的な火球呪文や氷系呪文といったものから天候を操る呪文まで様々なものを説明され、ルイズの目が輝く。
ミストバーンへの質問の大半は沈黙に撃墜されたが、答えが返ってきたのは大魔王の偉大さについての質問だった。
普段の無口さが嘘のように滔々と大魔王の魅力を語られた彼女はうっかり魔王軍、それも近日本格結成予定――最短でも数百年後だが――に入ろうかと考えかけ、我に返った。
とても面白くないものを感じる。自分はその五十分の一も褒められていないというのに。
数千年の間仕えてきたと誇らしげに語られたルイズは妙な疲労を覚えた。
(何かしら、このもやっとした気持ち……)
162 :
ゼロの影代理:2008/09/17(水) 09:32:49 ID:3cM4h0Kr
気を取り直して情報を探るべく質問を続け、ずっと気になっていたことをぶつける。
「あんたがいた世界――魔界って太陽が無いんでしょ? どうして?」
答えたのはやはり大魔王だった。
かつて世界は一つであり、人間と魔族と竜族が血で血を洗う戦いを繰り広げていた。
延々と続く争い憂いた神々は世界を分け、別々に住まわせることにした。脆弱な人間は地上に。強靭な体を持つ魔族と竜族は魔界に。
魔界にはあらゆる生物の源である太陽がなく、荒れ果てた大地が広がっているだけである。
ならば魔界は真っ暗なのかと尋ねると否定された。
数千年前に作られた人工の太陽が光源となり魔界を照らしているが、昼間でもかすかな光しかなく生命を育むほどの暖かさは無いのだという。
地上で見るものと同じ太陽を作り出すことはできず、彼らは太陽を手に入れようとしている。
ルイズは話を聞いてうーん、と考え込んだ。
馬の遠乗りで丘に登り気持ちのいい風を感じることも、光を浴びながら美味しいお弁当を食べることもない世界。
花々の無数の色彩や木々の緑、空の青も雲の白もない世界。
頭で理解しても実感は湧かない。
もし魔界に太陽があって地上と同じ豊かな地であれば、大魔王は何を望むだろうか。
試しに尋ねてみると「花見酒というのもいいかもしれんな」と笑いながら言われたが、どこまで本気かわからない。
話に熱中していたルイズは声の大きさに気を遣うことを忘れていた。
そのため、メイドの一人――シエスタが聞き耳を立てていたことに気づかなかった。
謎が多いミストバーンについての情報は生徒だけでなく使用人も欲しがっている。
彼女は舞踏会の時に聞いた会話を厨房の料理人や仲間に知らせたが、一笑に付された。「見た目からして闇っぽいのに太陽を求める奴に従うわけないだろ」というのである。
嘘じゃないと言い張っても聞き入れられなかったシエスタは意気込んでさらなる情報を集めようとしていた。そして――
「きゃああっ!?」
気配を感じたミストバーンの爪に危うく刺されかけた。皮膚一枚を隔てたところで奇麗に止まっているのは見事としか言いようがない。
「すごい、加減がずいぶん上手くなったのね。レベルアップしたんじゃない?」
使い魔の影響を受けて感覚が麻痺してきたようだ。
「……私が?」
彼は意外そうに己を指差した。褒められて反応に困っているらしい。
間違った方向に心温まる会話を繰り広げる二人にシエスタがおずおずと詫びる。
「あ、あの、本当に申し訳ありませんでした! 太陽についてお話ししているのを聴いてしまいました……」
盗み聞きされたと知ってルイズは渋い表情になったが、そもそもこんな場所で大声で喋っていたのが悪い。
シエスタが再び丁寧に謝罪し、お詫びの気持ちとして故郷に行くことを提案した。
「すごくきれいな夕焼けの見える草原があるんですよ。おいしいシチューも」
その草原はあまりの美しさから『奇跡の草原』と呼ばれたこともあるらしい。
ルイズは迷ったが、素晴らしい光景を見ればインスピレーションが湧いて詔の文面が思い浮かぶかもしれない。
ミストバーンも主の目の保養になればと承諾し、彼らはシエスタの故郷――タルブの村に行くことに決めた。
163 :
ゼロの影代理:2008/09/17(水) 09:35:43 ID:3cM4h0Kr
実際の夕焼けを目にしたルイズは言葉を失い、ただ見とれていた。
草原は燃える炎の色に染まり、沈みゆく太陽は普段見るものの何倍も美しかった。
その輝きは暖かく優しく照らすだけではなく、弱い者を容赦なく焼き尽くすようにも見えた。
奇跡の名に恥じぬ凄絶な光景を大魔王も気に入ったようだ。
さらに、反対側の山から昇る朝日も別の美しさがあるのだと言う。
「この光景こそが宝物だって思うわ」
食事を告げに来たシエスタがしみじみとしたルイズの言葉に嬉しそうに頷く。
いつものように沈黙しているミストバーンは主と地上に来た時のことを思い出していた。
『何千年後になるかはわからぬが……あの太陽は魔界を照らすために昇る』
偉大なる主は手で太陽を掴み取る仕草をしながらそう語った。
さらに思考は過去をたどり、主との出会いまでさかのぼる。
『お前は余に仕える天命をもって生まれてきた』
全てはそこから始まった。
どれほど永い時を生きても、何があっても、その言葉を忘れることはないだろう。
ルイズとミストバーンと大魔王は夕陽を見る間、確かに同じ思いを共有していた。
興奮も冷めやらぬままシエスタの家で名物のシチューを食べたルイズは目を輝かせながら舌鼓を打った。素朴ながらも貴族のぜいたくな舌を満足させるほどの味らしい。
シエスタが恐る恐るミストバーンにも薦めたが、食事の必要が無いと断られ肩を落とした。だが、彼女が落ち込んでいるとなんと大魔王その人が語りかけてきた。
「数千年生きればいくら贅を尽くした食事でも飽きもする……そのような料理を味わってみたいものだ」
たちまちシエスタの顔が明るく輝いた。
「じゃあ作り方教えますね! 実際に作る所を見た方がいいですよね……ミストバーンさんも一緒に作りませんか?」
ルイズがシチューを噴き出しそうになり、かろうじてこらえる。慌てて飲みこんで必死の形相でシエスタを止めた。
「何言ってんの!? こいつが料理なんてドラゴンが裁縫する方がまだマシだわ!」
「やってみなければわからないじゃないですか。世の中には一か八かの賭けに勝ち続け奇跡を起こしまくりカウンターで一発逆転し続ける方もいますから」
「そういう問題じゃないわよ!」
彼は暴言にも動じず主からの指示を待っている。
「侍女達に作り方だけ教えればよい……と言いたいところだがあえてお前に作らせるのも面白いかもしれんな」
(よっぽど退屈してるのかしら)
腹心の部下がやり遂げると信じているのか、奮闘する様を見て楽しもうと思っているのか――ルイズにはどうも後者に思えてならなかった。
「じゃ、決まりですね。最高の一品を作りましょう!」
「たまには逆らいなさいよ……」
その忠誠心の十分の一でいいから自分に向けてほしいと思いながら
支援いる?
165 :
ゼロの影代理:2008/09/17(水) 09:40:59 ID:3cM4h0Kr
以上です。
それにしてもこの大魔王、ノリノリである。
いろいろバランスが崩れそうなのでバーン様は自重してくださいお願いします。
ボケ担当は特にいないはずのに、ルイズがツッコミまくっているような気がします。
────────────────────────────────────────
代理投下終了
なんだろうなこのミストに対しての感情……萌えか!?
あと早い投下速度に濡れる。抱いて!
そして常駐している雑談スレで寝ている間にダイ大の話題が出ていて乗り遅れた時のSHIT感は異常
166 :
ゼロの影代理:2008/09/17(水) 09:45:52 ID:3cM4h0Kr
すいません、最後の行で投下ミスがありました
×その忠誠心の十分の一でいいから自分に向けてほしいと思いながら
○その忠誠心の十分の一でいいから自分に向けてほしいと思いながら、ルイズはテーブルに突っ伏した。
ゼロの影様、並びにスレ住人の皆様、申し訳ありませんでした
こ、これは・・・乙
バーン様万歳w
直接力で介入しないアドバイサー的役回りだと、いい具合に機能するもんだね。
「いつか魔界に太陽を」って、侵掠前提って思わなければロマンだなぁ…
エプロン装備のミストだと・・・!?
そういえば、大魔王様はワイン飲んでるシーンはあるが何か食ってるシーンってあったっけ?
飲めると言うことは、喰えると言うこと!
鳥の丸焼きを一気飲みする大魔王様。
ボケ担当がバーン様とは珍しやw
>>170 食べてるシーンはないけど、若き日のロンを勧誘してたシーンで、
テーブルの上にパンや果物、ナイフやフォークがおいてありました。
問題は、地上と違って魔界にはニワトリや、牛や豚が居るとは思えないこと。
つまりバーン様が日常的に食しているのは――モンスター料理なんでしょう。
あばれうしどりだな
イカ食ってたんじゃね
ミストはじめてのおりょうり
……包丁とエプロン装備してシエスタの指示通りおっかなびっくり料理をするミストを想像した
>177
そのうち楽しくなってきて『食材』を楽しそうに、スプラッタ風味に解体していくホラーチックな風景が……!
でも出てくるのは見事な料理な訳だな。…どれだけ過程がおぞましくても
>>179 スライムは煮ると白身魚みたいな味がするとエニックスのゲームブックに書いてあった。
双葉社のゲームブックだと切るとたまねぎのにおいがすると書いてあったけど。
あと、キラーリカントの掌のスープってのもあった。
スライムベスのゼリーと氷河魔人のかき氷ですか。
スライムはかじってもおいしくないって
黒髪でグランバニア王女な俺の娘が言ってた気がする
5の小説にピッキーを使った料理あったような……
5であったっけ?
読み直してくる
ミストは包丁つかうよりも手をシャキーンと伸ばして切るんじゃないか
そうやって切ったらまな板まで切っちゃいそうだw
ミストがいずれ大魔王様の口に入るものを相手にそんな不衛生な真似をするはずがない
練習でもまな板から包丁から下手したらキッチン丸ごと消毒しそう
お米にまで洗剤を使ってしまいバーンさま死亡ですね、分かります
我らのクッキング・ミストはそのようなミスはしない
キルバーンとかミストバーンがいるからクッキングバーンとかがいるのかもわからんね
なんというアイアンシェフ
「ワハハハッ、キンーグシェフ!バーン様のお食事の一切はこの私に任されているのだ」
「道化が」
「……」
194 :
ゼロの影代理:2008/09/19(金) 23:22:00 ID:hD1lDB2X
代理投下始めます
195 :
ゼロの影代理:2008/09/19(金) 23:24:42 ID:hD1lDB2X
代理の方、投下ありがとうございました!
書き込めないのでこちらに其の十を投下します。
其の十 もう一つの太陽
学院に戻ったルイズ達にもたらされたのはアルビオンの宣戦布告の報――フーケからの情報で知った――だった。
ミストバーンは聞いた瞬間に戦うことを決意した。命じられずとも主の気持ちはわかる。
人間が何人殺されようとどうでもいいが、奇跡の――この言葉は気に入らないが――草原の見せた光景を壊されぬために行くつもりだった。
彼の無言の視線に対し、ルイズは頷いた。
「わたしも行くわ」
使い魔が一片の躊躇も無く戦おうとしているのに逃げるわけにはいかない。
彼は黙ったまま意気込むルイズを眺めている。どことなく疑わしげな視線にムッとした彼女は口を尖らせた。
「何よ。……わたしにだって守るべきものがあるのよ」
認めさせるという意地以上に、民の血が流れるのを防ぐのが貴族の大切な役目だ。危急の際に彼らを守るからこそ君臨を許される。肝心な時に戦わなければ意味が無い。
「どうせ村そのものはどうでもいいって思ってるでしょ? だったらわたしが戦わなくちゃ」
彼は敵の中に切り込んで暴れるだろう。その際村人達が大勢殺されていようが何の関心も向けないに違いない。だからこそ自分が少しでも被害を抑えるつもりだった。
彼の助けもなく戦場で戦い抜くことができるのか不安は大きいが、安全な場所で戦わずにいるのは嫌だった。
彼女の覚悟をミストバーンはどう思ったのか、反対する様子はなくタルブの村へルーラを唱えようとする。
だが、出発する二人の前にキュルケとタバサが現れた。戦場に行くのだと言っても引き下がるような性格はしていない。
「様子が変だからね。……前からだけど」
アルビオンやタルブの村に行ったことを指しているのだろう。
前者は表向きは王宮へのお使いということだったが、噂によると手柄を立てたらしい。
後者は、休暇届を出したとはいえ真面目なルイズには珍しくサボり同然である。気になるのも当然と言えよう。
タバサはキュルケとの付き合いから参戦を決意した。
ルイズは二人が同行する理由をそう結論付けたが、少し違っている。
キュルケは“王宮へのお使い”の後でルイズの雰囲気が変わったのを感じていた。
一緒に行って見届けることができなかったため今度こそ、という思いがある。
タバサもミストバーンに関心を抱いているため賛成したのである。
風竜に乗りこんでからルーラを唱える。
タルブの村に到着し、レキシントン号に視線を向けたミストバーンは何も言わずに風竜の背を蹴り、夕映えの中を飛んだ。
196 :
ゼロの影代理:2008/09/19(金) 23:27:06 ID:hD1lDB2X
甲板に降り立ったミストバーンは導かれるように迷いのない足取りで歩く。ルーンが眩しく輝き標的の居場所を教えている。
邪魔する者は全て爪で貫くか切り裂き、静かに目的の部屋までたどり着いた。
その中にいたのは、忠誠を誓った相手や彼の尊敬する者の信頼を裏切った男――ワルド。
扉を破った相手を見たワルドの顔が強張る。まさかタルブの村までミストバーンが来るとは予想もしなかった。
風竜に遍在達が乗っていたが、それらが気づくより先にレキシントン号内まで乗り込んできたのだ。
ルーンの働きではそれぞれ意思と力を持つ遍在と本体の区別はつかない。複数の気配を感じ、一番安全な場所に来たところ本人がいたのである。
ルイズ自身に討たせたい気持ちもあるが、民を守るという使命がある。裏切り者の始末こそ彼にふさわしい仕事だろう。
一歩、また一歩、距離を詰める。
「自らの肉体は傷つかず、思い通りに動かせる……お前に相応しい能力だ」
「君の言えた台詞ではないな。忌わしい体に頼りきった強さなど、しょせん偽りにすぎん」
蔑んだような口調に対し、苛立ち混じりの嘲笑とともにワルドが吐き捨てる。
侮辱されたミストバーンは激高するかと思われたが、無言で攻撃を誘うように手招きした。
空気が帯電する中ワルドは四人の遍在を呼び戻し、杖を抜き放ち襲いかかる。対するミストバーンは爪で剣を作り迎え撃った。
ルイズはいきなり置いていかれたことに憤ったものの、タバサもキュルケもすでに気持ちを切り替えている。
レキシントン号内の敵は彼に任せて自分に出来ることをするしかない。言うことをきかない使い魔への怒りを煮え滾らせながら彼女は杖を握り締めた。
村人を助けるといっても何から始めるべきか混乱した彼女にタバサが淡々と告げる。
「避難の援助」
ハッとして下を見ると逃げ遅れた村人達を敵兵が襲おうとしている。風竜を駆り接近した三人から魔法が放たれる。
氷の矢がと炎の球が飛来し、士気が乱れたところに爆発が生じる。反撃の矢が飛ぶのを回避し、再度上空から攻撃を加えた。
「……あんた加減するの上手くなったじゃない」
キュルケがそう言うのも無理はない。村人を巻き込まぬようすれすれのところで正確に爆発を起こし、兵士達を吹き飛ばしている。
その威力は行動力を奪う程度で足止めにふさわしく、惨状を招いてはいない。
「爆発に関しては我ながら芸術的だと思うわ。魔法が効かないあいつにだって通じたんだもの」
そう語る横顔には戦場への恐怖はほとんど感じられず誇らしげな色が目立つ。来る前より却って落ち着いたようだ。
年齢にふさわしくない肝の据わりようにキュルケは首をかしげた。タバサも疑念を抱いている。
生徒の中ではキュルケとタバサが断然実戦経験が多く、ルイズは爆発しか起こせないこともありろくに戦うことなどなかったはず。
“王宮へのお使い”が彼女を変えたのだろうか。
精神的にたくましく――悪く言えば図太くなった気がする。
「ずいぶん落ち着いてるのね?」
兵士達の怒号や攻撃を見下ろしながら問いかけると複雑な表情とともに答えが返ってきた。
「これくらいでいちいち怖がってたら神経もたないわ。あいつと一緒にいるのよ?」
「……それもそうね」
心の底から納得したキュルケとタバサはアルビオン軍へとさらに攻撃を叩き込んだ。
197 :
ゼロの影代理:2008/09/19(金) 23:29:26 ID:hD1lDB2X
艦内の一室で杖と爪の剣がぶつかりあい、甲高い音が響き渡った。援護すべく武器を構えた周囲の兵士達はすでに全員倒されている。
彼らの戦いは誰にも邪魔されることなく続いていた。
(なぜだ……?)
五対一の数の差か、ワルド自身予想していなかったことに渡り合えていた。
だが、杖を振るう彼の心に違和感がまとわりつき本能は警告を発し続けている。
その正体に気づいた瞬間、彼の眼が見開かれた。
ミストバーン最大の特長は不死身の体。
だが彼は先ほどからあらゆる攻撃を防ぐかかわすかしており、かすらせもしない。不死身の肉体に頼らなくてもワルドの攻撃など無意味――そう証明するかのように。
「まさか――わざと攻撃させていたのか!?」
倒せるかもしれないとわずかな希望を持たせてから絶望の淵へ叩き落とす。その方が苦しみが大きくなるのだから。
ワルドが答えに辿り着くのを待っていたかのように銀の光が二筋流れる。今までの攻防が手抜きに思える斬撃に遍在二体の首が飛ぶ。
両手の爪が伸びるのを残りの遍在が飛び退ってかわし、先端が床に付き刺さる。
回避したことに安心した瞬間、爪は床を破って姿を現し胴体に食らいついた。胸から腹にかけて穴を開けられ消滅する。
これで残るはワルド本体のみ。
「く……!」
勝ち目はない。冷静に判断したワルドは飛び退いて呪文を唱えた。一瞬の隙に身を翻し逃走しようとした動きが止まる。
「知らなかったのか? 貴族は敵に後ろを見せないものだ……」
ギシギシと人形のようにぎこちない動きで振り返り、敵と向かい合う。震える体が本人の意思に反していることを示している。
全身に絡みつくのは漆黒の糸。
闘魔傀儡掌という名の、動きを自在に操る技。
指に合わせてワルドの手がゆっくりと動き、杖が上がる。くるりと回転させ、刃を己に向けると顔が歪んだ。
虫でも潰すように無造作にミストバーンの指が折られ、刃が肉を貫く音が響く。膝をついたワルドの眼が見開かれる。
彼が覚悟を決め、遍在とともに危険な戦場を駆けたのならばミストバーンもこのような戦い方はしなかっただろう。
ウェールズを殺そうとせず、レコン・キスタに与する理由を明らかにして信念を見せていれば異なった結果を生んだかもしれない。
強者には敬意を払う彼だが、実力があっても精神の伴わない相手への評価は低い。単純な力量より己を高めようとする意志の有無が重要な判断基準だと言えた。
死に向かうワルドの眼に何かを視た確信が宿る。
赤く染まる口元に嘲りと哀れみを足した微笑が刻まれた。
「君こそが……ほんとうのゼロ、と……」
鮮血を吐いて倒れ伏したワルドの体に一片の関心も向けず、彼は部屋を後にした。
198 :
ゼロの影代理:2008/09/19(金) 23:31:00 ID:hD1lDB2X
村人の避難を完了させたルイズ達は大砲の射程圏内に入るわけにはいかず、戦艦に近づけずにいた。
焦燥感に駆られるルイズはふと目をこすった。視界がぼやけたのは一瞬で、見えないはずのものが見えている。
それは、杖を己に突き刺し血塊とともに忌わしい言葉を吐き出すワルドの姿。
何を言ったかは口の動きでわかる。長年ルイズに浴びせられ続けてきた言葉――ゼロ。
ルイズは震えながら己を勇気づけようと指に水のルビーをはめ、『始祖の祈祷書』を勢いよくめくった。
「うう……うええ……っ!」
こみ上げる吐き気を必死でこらえ、青ざめた顔で呻きを漏らす。
ワルドの最期が網膜に焼きつき離れない。絡みつく糸に操られ、自ら杖を心臓に深く差し込んでいくおぞましい光景。
戦いにおいて割り切った思考ができるようになったと思っていても、あっけなく心の防壁は剥がれ落ちる。
「破壊以外にも使える立派な力って言ったそばから……なんて使い方してんのよあいつ」
指一本で、命を奪った。こういう時にこそ絶対に越えられない深い淵を感じる。
悪寒を振り払おうと白紙をめくり続けると、今までと違い途中で文字が浮かび上がっている。信じられぬ思いで読みふける彼女にキュルケが声をかけるが耳に入らない。
書いてあるのは四つの系統と零――虚無の系統について。
選ばれし読み手が指輪をはめることで読むことができるとも書いてある。
さらに、初歩の初歩の初歩の魔法として『爆発』が挙げてある。これは自分が虚無の系統だということではないか。
まだ信じられないが試してみる価値はある。
できるだけ大きな爆発を起こして、忌まわしい映像ごと吹き飛ばしてしまいたかった。
「お願い、できるだけあの戦艦に近づいて」
「わかった」
ルイズの言葉に何かを感じたのか、タバサは聞き返さずにシルフィードを上昇させた。
――エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ
体の中から何かが生まれ、回転するような感覚。
――オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド
生まれて初めて自分の系統を唱えるのだと確信が体に染み込んでいく。
――ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ
いつしかレキシントン号を見下すまでに高度が上がっている。
――ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル…
呪文が完成した瞬間、ルイズは己の魔法の威力と性質を理解した。
自分の魔法は全てを巻きこむ。
だが、選択もできる。
殺すか、殺さないか。
破壊すべきは何か。
彼女は選び、杖を振り下ろした。眼下に広がる艦隊に向けて。
199 :
ゼロの影代理:2008/09/19(金) 23:33:00 ID:hD1lDB2X
夕暮れの草原をもう一つの太陽が照らした。
巨大な光の球が膨れ上がり艦隊を包みこむ。目を焼くような閃光が弾け、天空を駆け抜け焼き尽くす様はまるで――
「不死鳥、か」
大魔王はグラスを片手に呟いた。彼の眼には炎上した艦隊が地面に墜落していく光景が映っている。
彼の象徴が不死鳥とされるのはメラゾーマが圧倒的な威力と独自の形態を併せ持ち、その姿が優雅な不死鳥となるためだ。
術者の魔力によって魔法の威力は大きく左右されるが、大魔王のそれがあまりにも桁違いであることから生じる現象だった。
「素晴らしい……その力、余の物にしたくなったぞ」
身体的な強さはそれほどでもないが、一撃で大艦隊を叩き落とすような真似ができるのは魔界でもほんの一部だろう。
これをきっかけとして爆発だけでなく他の魔法をも使えるようになるならば、可能性は未知数だ。
大魔王は楽しげに低く笑い続けた。
ミストバーンも全てを照らす光に目を奪われていたが、ルイズ達に合流し、“奇跡”を起こした少女を眺めた。
『虚無』について聞かされ、授業の時にルイズだけが違うと感じた理由が今になってわかった。
精神力を糧として魔法を発動させるのは同じだが、蓄積や変換の過程が大きく異なっているのだ。
今回の凄まじい威力の爆発は、生きてきた中でため込まれた莫大な怒りを解き放った結果起こった。
ミストバーンは憎悪を増幅させる感覚を教えたが、それは『虚無』の使い手である彼女と相性の良い技術だった。
ルイズは授業を元に、自分で暗い感情を呼び覚まし力に変換するコツを掴みつつある。会得できれば今回のような規模の『虚無』を高い頻度で放つことも可能だろう。
以前から努力する姿勢や逃げない意地を認めていた。
今、強大な力を見せた彼女は真の強者――認めるに値する相手だ。
今までと違った光を浮かべてルイズを見る彼の元へ大魔王の声が届く。
『お前はその娘を守り抜け。騎士……シュヴァリエのごとくな。ふはははっ!』
「はっ」
上機嫌の主に対し彼は力を込めて頷いた。
一方ルイズは自分の手を見つめて顔を曇らせている。ずっとゼロだと言われ続けてきたのに突然巨大な力が現れたため戸惑っている。
『虚無』がどれほどの重みを持っているか、他者から狙われるか。そういったことに疎いルイズにも薄々想像が付く。
不安に苛まれる彼女は震える身体を抱きしめて呟いた。
「こんな力持ってるってバレたら殺されるかも……」
そんな彼女にミストバーンは小さく首を横に振った。それはないと言いたげに。
「何で?」
心細くなっているのに否定され、目に涙を浮かべながら問いかけると彼は静かに宣言した。
「私が守るからだ」
どこまでもまっすぐ言い切られたルイズは絶句した。
キュルケとタバサもアストロンをかけられたように固まっている。普段の彼からは想像もできない言葉だけに破壊力も大きい。
彼女らには大魔王の言葉が届かなかったため驚くのも無理はない。
素直に喜ぶより己の耳と頭その他が心配になったのかルイズは自分の耳を引っ張り、頭を叩き、頬をつねり、また耳を引っ張っている。続いて心の底から彼の心配を始めた。
「……あんた頭どっかにぶつけておかしくなったんじゃない? どこに連れてけばいいの? そんなこと言ったってどうせわたしの言うことはちっともきかないくせに」
ワルドへの仕打ちと言葉の差があまりにも大きすぎるため頭がすっかり混乱している。
「何か、こう、胸がドキッとしたわ。もしかして……寿命が二十年以上縮んだかも? 嬉しいような嬉しくないような……こんな時どんな顔をすればいいのかわからないわ」
「気持ちはわかるけど落ち着きなさい、あんた完全に不審者よ」
頭を抱えぶつぶつ呟き続けるルイズにキュルケ達は呆れた眼差しを向け、帰途に就いた。
200 :
ゼロの影代理:2008/09/19(金) 23:35:57 ID:hD1lDB2X
ミストバーンにふと主の声が届いた。
『ところで、帰る手段については何か見つかったか?』
急いているわけではなく単なる確認だがミストバーンは恐縮そうに震えた。
申し訳なさに打ちひしがれながら特に手がかりがないことを告げると大魔王はふむ、と呟いて何やら考え込んでいた。
「何か……?」
『……いや』
主の反応にミストバーンは方針変更の必要性を感じた。今まで役に立ちそうなものと同等に探してきたが、帰還に関する情報収集を最優先にした方がいいようだ。
『虚無』を使うルイズが呼び出したのならば元の世界に帰るのも『虚無』が関わってくるのではないだろうか。
ミストバーンは『虚無』について探ることを己に言い聞かせ、ルイズを見つめた。
ほんの少し距離を縮めた気がした二人を待っていたのは、目を覚ましたウェールズだった。
以上です。次話から少し雰囲気が変わります。
ワルドは本編とは反対に覚悟不足になりました、申し訳ありません。
「遍在を駆使して互角の勝負」や「光の闘気に目覚める」、他にも「黒の核晶抱えて遍在が特攻」など考えられるだけ考えてみたのですが、どうしても説得力が……。
全体を通して本編と対照的な部分が多いです。
無茶だと思いながらもミストバーンの手料理の行方について書きたくなってしまいました。
201 :
ゼロの影代理:2008/09/20(土) 00:13:23 ID:JwP710uw
まとめの方への登録もしてみました、改行等おかしなところとかありましたら指摘おねがいします
ゼロの影の人、乙です。
ワルドの偏在は確かにザボエラの理想そのものの魔法だなあ。
ワルド 「オレの理想!! それは、自分の肉体は一切傷つかずに思い通り動かせて、
なおかつ一方的に敵をいたぶれる……そんな能力っ……!!」
ルイズ 「……さ……最低の発想だわっ……!!」
>黒の核晶抱えて遍在が特攻
いくらなんでもアレの効果範囲外まで本体が離れられるかどうか…
射程距離無茶苦茶だよね、あれ…?
>>202 あまりの嵌りっぷりに盛大に噴いた(w`
俺の中でワルドの爪から厄介な毒が出るイメージが固まった瞬間だった
避難所にまた新しいの来てるね
では代理投下してみんとす
─────────────────────────────────────
お久しぶりと言いたい所ですが書き込めない為こちらで投下します
――第7話――
「どうしたの……もう終わり?」
二度目の沈黙が訪れたヴェストリの広場に、ルイズの冷厳な声が響く。だが周りからの反応は無かった。ルイズ達を取り囲をでいるギャラリー達のほとんどは、口を開けたまま言葉を失っている。
――あの『ゼロ』が、ギーシュを圧倒している――
にわかには信じ難いその光景を目にした事で、それ以外の事が思い浮かばなかったのだ。
「ふ、ふん。い、いい気になるのはまだ早いんじゃないかな?僕のワルキューレは七体まで出せる。君はまだ二体を倒したに過ぎないのだよ?」
三体目のゴーレムを錬成し、挑発ともとれるルイズの言葉を、どもりながらギーシュは反論した。とは言え、それは外見だけの話であるのだが。
ギーシュは内心焦っていた。その表情には、これまでの余裕は無い。決意に燃えるルイズの気迫に、どこか圧されていたのだ。錬成したワルキューレの背中越しに、ギーシュが前を見遣る。
予想外の展開に、周囲がざわつく中、ピンク髪の少女だけは、微動だにしない。彼女の方が優位であるにも関わらず、である。周囲に目を向ける事も無く、ただじっと、自分の出方を伺っていた。
――どうすれば良い?――
このまま何も出来ずにやられるなど、みっともない事この上無い。そう思い込むと、こと格好を付ける事に関しては、とても優秀な、ギーシュの薔薇色の脳細胞が再び活性化を始めた。
そう、全てはルイズの爆発に尽きる。どういう訳かあの落ちこぼれは、いつの間にか爆発をコントロールする術を見つけていたらしい。そこまで分析した途端、はっ、と気付く。
――そうだ、爆発をコントロールできると言うのなら、何故僕をさっさと吹き飛ばさない?――
疑問と違和感が同時に浮かんだギーシュは、先のワルキューレが倒された光景を思い出す。確かあの時は、自分とルイズとの中間辺りで爆発した……。それらの事象に共通する事柄と言えば――
「そうか、距離だ。君の爆発は射程が限られているね?おおよそ、10メイル強と言った所か!?」
「!!」
ルイズがどきりとした。その顔を見たギーシュは、ほくそ笑む。どうやら自分の推理は間違ってなかったらしい。
ここに来る前、ルイズは何度か試し打ちを行っていた。結果は……ギーシュの推理通りである。それ以上の距離を狙っても、てんで当たらなかったのだ。昨日の戦いの時は、もっと調子が良かった筈なのだが……。
――ううん、あれは例外ね――
ルイズが頭を振る。あの時は死に物狂いだったのだ。それはキュルケ達が最後に放った炎の竜巻などを見ても明らかである。ハドラーと戦った全員が、限界、いや、むしろ限界以上の力を捻り出していた節すらあった。
ともあれ、今の自分には、そこまでの力を出せそうには無い。ルイズはそう思うと、自嘲気味に目を伏せた。その様子に、ギーシュは更に気を良くする。
すっかり立ち直り。落ち着きを取り戻していた頭には、先程までは気付けなかった新しい情報が、次々と舞い込んで来ていた。
かっこいいギーシュ支援
――なら、次だ――
自分の予想を確かめるべく、ギーシュが杖を振った。先程の光景を再現したかの様に、ワルキューレが三度目の突撃をかまして来る。はっ、と顔を上げたルイズは、魔法に集中すると、前方へと杖を向けた。だが――
「今だ!」
ギーシュが杖を振ると、ワルキューレが横に跳んだ。一歩遅れて、先程までゴーレム達がいた場所に、爆発が起こる。
「避けた!?」
目を丸くして、またもルイズが驚いた。その表情にギーシュは、再び自分の予想が当たっていた事に思わず雄叫びを上げそうになる。
だが貴族たるもの、それを表に出す様な下賎な振る舞いはするべきではない。すんでの所でそう思い直したギーシュは、手にしている薔薇を口元に持って来て、ただニヤリと、不敵な笑みを浮かべた。
「僕を甘く見ない事だね。君の魔法はさっきまでのやり取りで、把握したのだよ」
「くっ!」
口上の間、動きが止まっているワルキューレに、ルイズは再び杖を向けた。その光景を見たギーシュが、ほぼ同時に、杖を振る。
先に反応したのはワルキューレの方であった。地面を蹴ってその場から離れた直後、破壊すべき対象がいなくなった無人の空間に、再度爆発が起きる。
「君のそれは、平民どもの持つ銃みたいなものだ。一度に一発ずつしか撃てない上に、集中が必要な所為か、狙ってから爆発までの間に隙がある。そうと分かれば話は簡単だよ。君が杖を向けた瞬間に、その射線から外れるだけで、簡単に避ける事が出来るのだからね」
鼻高々な様子で説明をしたギーシュが杖を振ると、ワルキューレが前後左右に軽快なステップを踏む。この動きについて来れるのかい?と言わんばかりの、見え見えのデモンストレーションであった。
ワルキューレがステップを踏んでいる間も、ルイズは呆気に取られたままであった。自分の魔法にそんな弱点があったなど、気付きもしなかった。
――そう言えば、今まで動かないものばっかり狙ってたわね――
ルイズがふと思い出した。昨日のハドラーは、戦いの間碌に動かなかったし、ここに来るまでに、試し打ちした石や岩は言うまでもない。先のニ体も、一直線に突撃して来たからこそ命中したのだろう。
とはいえ普通のゴーレムでは、決してこう言った展開にはならなかったろう。ゴーレムというのは普通もっと動きの鈍いものだからだ。
ギーシュの操作技術が中々優秀な事、ワルキューレの中が空洞であり、その分身軽な造りだった事。これらもろもろの出来事が今の事態を生んでいた。
(もっとも、ワルキューレの中身が空っぽなのは、単にギーシュの力が足りないだけだったのだが)
「降参したまえルイズ」
検証とデモンストレーションを終え、自分の下にゴーレムを戻したギーシュは、高みから見下ろす様な視線で、ルイズに告げた。
「……何ですって?」
「降参したまえと言ったんだよルイズ。今ので分かっただろう?所詮、君の魔法では僕のワルキューレに勝てない」
すっ――と、ギーシュの目が冷たさを増した。
「これは警告だよ。次は三体を同時に掛からせる。その意味が分かるだろう?」
「……」
ルイズは黙ったままギーシュを睨み付ける。分かっている。例え一体を爆発させられても、後の二体が自分へ襲い来ると言う事だ。その上、自分の爆発の弱点については、先程ありがたい解説を頂戴したばかりである。だからと言って――
「……降参は、無しよ」
自身の『目的』は一応達成出来た。だがメイドとの、ハドラーとの『約束』は、まだ残っている。何が何でも、この決闘は、負ける訳にいかなかった。
ルイズの言葉を神妙な面持ちで聞いたギーシュだったが、やがて芝居掛かった仕草で顔を押さえると、頭を振った。
「やれやれ……。女性を傷付けるのは僕のポリシーに反するのだが……仕方無い」
ギーシュが新たに二体のワルキューレを作った。
「医務室のベッドで少し頭を冷やしたまえ。行け!ワルキューレ!」
ルイズのいる場所に杖を向け、叫ぶ様にギーシュが命令を下した。主人に頷く事も無く、指示を受けた三体の戦乙女達は、ただ黙って横一列となり――真っ直ぐ突撃して来た。
「――来たわね!」
ルイズが僅かに片足を引いた。前足へ体重を乗せて、やや前傾気味になり、いつでも走り出せる様に体勢を整える。距離を詰めていたワルキューレ達がハドラーの前を通過し、ルイズの射程距離に入った。その時――
「散れ!」
ギーシュの掛け声に合わせ、左右のワルキューレが斜め前方へと加速した。中央のゴーレムを頂点とした三角形を作って、ルイズを包囲せしめんとする。
――今だ!――
囲んで来るであろう事を、あらかじめ予想していたルイズは、散会した直後、杖を正面――中央にいたゴーレム――へ向けた。同時に、少女の手の動きを注視していたギーシュも、それに反応して、杖を振る。
瞬間、一直線にルイズへと向かって来ていた正面のワルキューレが、弾かれたように、右に跳んだ。その直後、またも一歩遅れる様にして爆発が起きる。
ギーシュが解説した通りの展開である。――やはりルイズの魔法では――多くのギャラリー達がそう思ったその時だった。
「!」
観客達の目が、突如、釘付けになる。空振りに終わった筈の、爆発の中から突然、ルイズが姿を現したのだ。
魔法を唱えたと同時に、ルイズは前方へ駆け出していた。自分の爆発はおそらく確実に避けられる。ならば避けた隙を狙って、包囲を突破し、一気にギーシュ本人を叩く事を考えたのだ。
ワルキューレの脇をすり抜けたルイズは、作戦が上手くいった事を内心で喜ぶ。だが――
「そう来ると思ったよ」
どこか冷めた様な声が聞こえた次の瞬間、ルイズの身体を衝撃が襲った。いつの間にか、ギーシュが錬成していた四体目のゴーレムが、ルイズに強烈な体当たりをかまして来たのだ。
完全に予期していなかったタイミングでの攻撃に、ルイズの身体が派手に吹っ飛んだ。
「う……」
勢い良く地面を何度も回転し、仰向けになってようやく開放されたルイズは、苦し気な呻き声を上げる。その直後だった。
「チェック・メイトさ」
唐突なギーシュの宣言と同時、ルイズの両腕にいきなり重みが走る。二体のワルキューレ達が、ルイズの腕を踏みつけていた。足元にも、いつの間にかもう一体が待機している。三方から完全に組み伏せられた格好だ。
ルイズは何とか抵抗しようとしてみたものの、女の自分ではとても動かせそうに無い様だった。それでも脱出しようと懸命に抵抗する。
もぞもぞと身体が動く度に、男性ギャラリーからの熱い視線が大いに注がれた。何故か半裸且つ、全身が軽い火傷だらけの、小太りな生徒などは、熱心を通り越し、もはや生肉を前にした獣の目つきとなっている。
「さて、これで君の動きは完全に封じた訳だ……だから、これが最後だよ。まだ、やるのかい?」
余裕と、少しばかりの嘲りが混じった顔をしながら、ギーシュが言った。ルイズは僅かに首を持ち上げ、声の主を見る。
視線の先のギーシュは、ニヤついた笑みを浮かべていた。『ゼロ』如きが自分に敵う訳が無い。そんな笑いである。
――負けられない――
そう、より一層の決意を固めたルイズは、ギーシュの目をきっ、と見返すと、力を込めて返答した。
「ええ、勿論よ。……その表情が変わるまで、何度だって、やってやるわ」
ルイズの力強い声に、ギャラリー達が湧いた。いいぞー、と素直に応援、又は、面白がる者。この状況で何を言わんとするや、と呆れ顔な者。その反応は様々だ。
ギーシュの反応は後者の方であった。肩をすくめながら、やれやれとばかりに息を吐く。
「まったく、君の負けず嫌いには恐れ入るね。……まあ君の気持ちは、この僕も良く分かった」
ギーシュが杖をげ掲げた。同時に、ルイズの腕に、更にゴーレムからの圧力が増す。
「――これ以上、妄言を吐かなくても済む様に、僕も協力しようじゃないか。やれ!ワルキューレ」
ギーシュの命令で、三体のワルキューレが一斉に腕を振り降ろした。観衆が目を見張る。ほんの数秒後には、その無慈悲な冷たい拳が、ルイズの全身に食い込むに違いない。そう、誰もが確信したその時だった!
「――負ける、かああああ!!」
手首を反し、杖先を自分の目の前に向けたルイズが、咆哮を上げた。瞬間、目標まであと数サントに迫ったゴーレムの腕が、いきなりあらぬ方向にひしゃげる。皆に見えたのはそこまでだった。そして――
ヴェストリの広場に大爆発が起きた。今までのやり取りが、ままごとに見えた程の激しい爆風と轟音が発生する。
数秒後、近くにいたギャラリー達のローブは根本からめくり上げられ、耳の中はしきりに異常を訴えていた。空高くまで上がる土煙が、今も引き続き、規模の大きさを主張し続けている。
「な……何が起こったんだ!?」
狼狽をした顔を隠そうともせず、ギーシュが困惑した声を上げた。状況を確認したいものの、爆心地では今も熱と土煙が立ち上っている。その時だった。
「ん?何だ?」
突如眼前の地面に降って来た何かの欠片を見て、ギーシュが声を上げた。だがその直後、
「う、うわあっ!!」
ギーシュの声がひっくり返った。同じ様な欠片が大量に、雨の如く上空から降り注がれたのだ。
一体何事だ?そう思ったギーシュの前に、少し大き目な『それ』が、足元に転がった。
「――!!」
ギーシュの顔がみるみる青くなる。真っ黒に煤けたそれは、間違いなくワルキューレの頭に付いた羽飾りであった。ということは――
「まずい、ワルキューレ!」
ギーシュが慌てて残ったゴーレムに命令しようとしたその瞬間、少し離れた場所にいた乙女像が、派手な爆発音を上げて破壊される。その後ろからは、風で舞い上がった桃色の髪――ルイズが、眼光鋭く顔を覗かせていた。
『――!!』
まるで昨日の『悪魔』を思い出させるその姿に、誰もが一瞬、息を呑む。
その一瞬の隙を突き、ルイズは動き出した。
支援!
「爆発の……特徴?」
決闘の少し前、ヴェストリの広場へ向かう途中、ハドラーが投げ掛けた言葉に、ルイズが首を傾けた。
「うむ。主の爆発で、一つ気付いた事がある」
「それって……?」
やや緊張した顔のルイズが聞き返す。間を置いて、ハドラーが切り出した。
「距離だ」
「……距離?」
「そうだ。どうやら主の魔法は、距離が近い程威力が高くなるらしい。昨日の戦いや、教室での出来事を思い出してみよ」
言われてルイズは、記憶を探り出した。昨日からこっち、間近で魔法を使った事と言えば……ハドラーの懐に飛び込んだ時と教室で『錬金』を唱えた時だ。成る程、いずれの場合も、普段の爆発に比べ、遥かに規模が大きかった。
「……ええ、確かにそうね」
回想を終えたルイズが、同意する。中断していた授業が再び始まる様に、ハドラーは淡々と、先を続けた。
「恐らくは、威力を高める事だけに、集中出来るから、なのだろうな。爆発させる場所が自分の目の前ならば、いちいち狙いを付ける必要も無い」
ハドラーの言葉にルイズが、はあ、と感心じみた声を上げる。ただがむしゃらに唱えていただけの魔法に、そんな違いがあったとは思いもよらなかった。
「……何だか、悔しいわね」
「何の事だ?」
訝しげに眉根を寄せたハドラーを、ルイズは、じっ、と見つめた。
――自分がずっと探していた答えを、この男は、いともあっさり見つけてしまう――
何とも言えぬ胸中に、使い魔(仮)に対しての、嫉妬や羨望にも似た、色々な感情が混じり合う……。そんな、石膏で固まったみたく、渋面を崩さないルイズに対し、ハドラーは、軽く息を吐くと、諭す様な口調で語り掛けた。
「俺は、闘争のみに生きて来た様な男だ。……主の魔法の事も、それに当て嵌まっただけに過ぎん。この世界の魔法とは異なるものの、俺も『爆発』の使い手なのだからな」
そう言って、ニヤリと笑う。ハドラーに、自分の心をずばり言い当てられてしまい、ルイズの顔は、みるみる間に赤くなった。
「な、何で……」
「以前の俺もそんな表情をしていた事がある。今の主が何を思っているのか、何と無く分かるつもりだ」
やや自嘲気味に話すハドラーの胸に、かつての部下であった男の姿が浮かんだ。自分を越える力を持ち、勇者の父親でもあった男。大魔王が奴に信頼した声を掛ける度に、自分も同じ様な顔をしていた事を思い出す。
「……主はいずれ強くなる。焦る必要は無い」
「そ、そう……?」
あくまでも真摯な様子で問くハドラーに、さっきとは違う理由でルイズは赤くなる。が、
「……しかし、主は非常に分かりやすい顔をする。俺もそうだったが、戦闘中は、あまり感情的にならない事だ」
付け加えられたダメ出しに、ルイズは顔を通り越し、頭まで真っ赤にするのだった。
問答を思い出し、ルイズが足を踏み出す。先程の一撃で負傷している上、体力、精神力ともに、限界に近い。それでも、何とか下半身の筋肉を総動員し、怒涛の勢いでギーシュへと向かって行った。
「う、うわああああ!」
視線の前方にいるギーシュは、パニックに近い悲鳴を上げた。ばたついた動きながらも、一足跳びで、ルイズから離れると同時に、腕を振り上げる。
――このままじゃ間に合わない――
ワルキューレが錬成されてしまえば自分の負け。そう判断したルイズは、足を止める事無く、咏唱を始める。
何と無く気付いていた。自分の魔法は、自身の感情そのものであると。怒り・闘争心……自分の中にある、火の様な想いが、爆発の威力を強くする。だが……。
――感情的にならない事だ――
ハドラーの声がこだまする。確かに、感情は大きな力である。だがそれだけでは、敵は倒せない。全てを理解した上でルイズは思案した。今自分が何を求め、どうするべきか。
――威力は要らない。欲しいのは距離。そして、それに必要なのは恐らく――
半ば確信した様子で、ルイズは今までとは違うイメージで集中した。心を昂ぶらせるのでは無く、氷の様に尖らせる事。――獲物に飛び掛からんとする肉食獣の如く、今、準備は完了した。
「ワル、キューレェェェ!」
必死の形相で、薔薇を振り降ろすギーシュに、ルイズは真っ直ぐ杖を向ける。先端が指し示した、ただ一点だけを狙い、丹精に作り込んだガラス細工を叩き付ける様に、小さく、短く叫んだ。
パン、と軽い炸裂音が広場に響く。隙の無い一撃だった。が、速度を優先した分、威力や規模などは、さっきまでのものとは比較にもならない。だが――
「なっ!?」
ギーシュの顔が驚愕で歪む。ルイズの爆発は、恐ろしい程の正確さで、ギーシュの手を撃ち抜いていた。衝撃に手放した薔薇が、スローモーションの様に空中を舞う。そして――
ギーシュにもルイズにも見せ場があっていいな
支援
だん!、と、音が響く。前足を地面に打ち付けて、ルイズは止まった。膝を曲げ、前傾した上体は、剣士が『突き』を放った様にも見える。
――いや、それはむしろ『突き』そのものだった。足と同様に真っ直ぐ伸ばされた腕。その先端に構えられている杖は、正確に、ギーシュの胸へと向けられていた。
風が――吹く。観客は皆、頭が麻痺でもしたかの様に、言葉を発しようとはしない。ギーシュですら、その中の一人に含まれていた。目を見開いたまま、魂をどこかに置いて来たかの様に固まっている。――その時。
ひゅん、と、ギーシュの頬を、何かが掠めた。急に襲って来た鋭い痛みに、ギーシュが手をやる。
「え……?」
掌にべっとり付いた血に、ギーシュが呆然とした表情で尻を着いた。落ち着かない様子でしきりにまばたきを繰り返す。その視線の先には、赤く染まった自分の杖――薔薇――が転がっていた。
「あ…………」
間の抜けた一言を最後に、ギーシュから反応が消えた。やや間が空き、やがてゆっくりと構えを戻したルイズは、大きく息を吐く。静寂な広場に少女の呼吸音が響き渡る度、止まっていた周囲の時間は、少しずつ動き始めた。
「お、おい……」
「ああ、これってまさか……?」
ざわつきが少しずつ、だが、着実に大きくなっていく。立っている者と倒れている者。そこから浮かび上がる一つの事実が、この広場に立ち込めようとしていた。
「嘘……だろ!?『ゼロ』のルイズが、ギーシュを……?」
一度決定された事実は、もはや覆る事は無かった。誰かの発したその一言は、波となって、徐々に大きくなっていく。
「マ、マジかよ!?」
「『ゼロ』が『青銅』を……!!」
「ま、まだ慌てる時間じゃない!これはきっと孔明の(ry」
どよめきが刻一刻と場を支配していく。そんな中、ようやく呼吸を整え終えたルイズは、ふと、周りの様子が変化している事に気付き、顔を上げた。
「あ……」
視線の先には、友人達の姿があった。ルイズと目が合うと、キュルケは、穏やかな表情を浮かべ、タバサは親指を立てる。
そのの仕草で、ようやく事態を察したルイズはぐるりと周りを見渡した後、照れ臭そうに笑う。
――どよめきは、歓声へと変わった。
――僕は……――
騒ぎの中、ギーシュは未だ、虚ろな思いに囚われていた。
……余裕の展開になる筈だった。その上で、自分は鮮やかに勝利を収め、目の前の娘に、貴族というものについて教育してやるのではなかったのか?
……とんだ恥晒しだ。地面の砂を掴み、ギーシュが一人思う。そんな時。
「――『ゼロ』に負けるなんて、ギーシュも情けないな」
不意打ちの様な声に、ギーシュがはっ、とした表情になった。殆ど呟きほどの声。だが、その一言が、何を意味するのか、ギーシュは気付いてしまった。
「大口叩いておいて……ざまあねぇな」
「貴族の資格が無い『ゼロ』に負けたんだろ?ならあいつは何なんだ?」
「貴族(笑)の皮を被った平民とか?」
ぽつ、ぽつ、と連鎖していく声に、ギーシュが必死に耳を塞いだが、その程度では、物音は完全に遮断出来ない。それどころか、反って敏感になった意識は、雑多な音の中から、自分へ向けられた侮蔑の言葉を、正確に拾い上げてしまう。
――止めてくれ……止めてくれぇ!――
学院一の落ちこぼれに敗れたという事実。それは、次は自分が、嘲笑の対象に祭り上げられる事を意味していた。耳に入り込んで来る、心無い声に、ギーシュの心が悲鳴を上げた。
――モ、モンモランシー――
すがる様に、ギーシュは(本命の)恋人の名を浮かべた。結果は駄目だったが、途中までは自分が優位だったのだ。もしかしたら、そんな自分の勇姿に心を動かされたかもしれない。
現実逃避じみた想像をしながら、愛しい恋人の顔を探す。だが、見慣れた縦ロールの少女の姿は、どこにも見当たらなかった。
――終わった――
絶望的な思いが頭を支配し、ギーシュはその場にうずくまった。恋人に捨てられた上、この先ずっと、嘲笑の対象にされる。絶望を通り越して、笑い出したくなる気持ちだった。と、その時。
「?」
ギーシュが表情を変えた。今まで碌に、隙らしい隙を見せなかったルイズが、突如背中を向けたのだ。
――ああ、そう言えば――
ルイズが勝利宣告を受けてなかった事を思い出す。が、それだけだった。気付いただけで事態が変わろう筈も無い。そう思い、再び無気力を貪ろうしたギーシュに、突然、声が響いた。
――チャンスじゃないか。『ゼロ』は後ろを向いて、君の薔薇は目の前に転がっている――
何を馬鹿な事を……。どこか聞き覚えのある声に、ギーシュの表情が、そう反論した。が。
――馬鹿は君の方だ。考えてもみたまえ。君は、倒れただけで『負け』ではないのだよ?――
囁きは止まない。先程よりも、更に強気な口調だった。それにあてられたのか、少しだけはっきりした頭が、この決闘のルールを思い出す。……確かに、まだ『負け』だとは言っていなかった。だからこそルイズはあの男に、判断を仰ごうとしているのではないか。
――理解した様だね。なら、分かるんじゃないか?今君がやる事は、ワルキューレを作って後ろからちょいと小突く。それだけの事さ。後は適当に取り繕えば、大逆転に次ぐ大逆転。つまり……君の勝利だよ。そうなれば、モンモランシーだってきっと『僕』を――
「君は……まさか」
ぞっとして、ギーシュが震える。馴染みある声、気取った口調、そして『僕』。それはつまり――
――まあ、そういう事さ。僕は君、君は僕だ。だから決めたまえよ。僕の言う通りにするのか。それとも……。この先ずっと惨めなままでいるかい?――
声は、それきり聞こえなくなった。ギーシュがぼんやりと顔を上げる。目に映ったのは、無防備なルイズの背中だった。恐らく先程の一撃でダメージを負っているのであろう。酷く頼りない足取りは、『声』の言う通り、少しつつくだけで、簡単に崩れてしまいそうだった。
――この先ずっと惨めなままでいるかい?――
最後の言葉が胸に浮かび、ギーシュはゆっくり首を振る。決断は下された。
息を吸って、止める。震えはもう無かった。覚悟を決め、ギーシュは素早く前方へ身体を起こすと同時に、片手で地面を凪いだ。途中、馴染んだ感触を掌に確かめると、既に完了していた『錬金』の魔法を唱える。
「ワルキューレェェェ!!」
勢いを殺さず、ギーシュは、そのまま一気に薔薇を引き上げ、目標に向けた。前方に出現した最後のワルキューレが、弾丸の様に、ルイズの元へと殺到する。
「!」
異変に気付いたルイズが振り返ろうとする。が、既に遅かった。魔法を唱える間も無く、青銅の拳が唸りを上げて襲い掛かる。
「もらったあ!」
ギーシュが歓声を上げた。もはや避けられない暴力に、ルイズが目を閉じたその瞬間――
「――――!」
金属の擦れる音が広場を包み、戦乙女の全身は鎖に包まれた。
これはいい決闘だ支援
投下終了です。代理していただけたら助かります。
ここしばらく、仕事や用事が重なって、中々筆が進めませんでした。
内容もまだギーシュ編完結してないしで、すみません。
次こそは終わると思います。多分ですがwではまた ノシ
──────────────────────────────
代理終了
地獄の鎖か!? ヘルズチェーンなのか!?
グッバイ、ギーシュ、君の事は忘れない
あと小太りさんマジ自重w
これは良い勝負でした
代理投下乙でした
そこで終わるのか?なんという引き。さあ、早く筆をとる作業に戻るんだ。
うわあああ続きが気になるってレベルじゃねーぞ!
ギーシュが頑張ってた分、最後に落ち目坂に転がり始めたのがカワイソスに思えるから不思議だ。
223 :
ゼロの影代理:2008/09/20(土) 20:50:41 ID:aaf9zizy
さあ、本日二回目の代理投下だ
──────────────────────────────
代理の方、投下とまとめありがとうございます!
そして爆炎の人GJ!
最後の一行で叫びそうになってしまいました!
昔の彼と同じように大切なものを見失ったギーシュはどうなるか、続きが気になります。
まだ規制中なのでこちらに其の十一を投下します。
其の十一 絶望への序曲
棺を開けて椅子に腰かけていたウェールズは二人を見ると立ち上がり、両手を広げた。その髪はかつて陽光のようだったが、今はやや陰りを帯びている。
ルイズの眼に美しい涙が盛り上がり、頬を伝う。
「ウェールズ様……!」
今にもアンリエッタに知らせようとする彼女を押しとどめる。心の準備が必要だから、と冗談めかして囁くとルイズの顔に笑みがこぼれた。
「ありがとう。どれほど感謝しても足りない」
ウェールズは穏やかに微笑み、少し席を外すよう頼んだ。
怪訝そうな様子を見せたのも一瞬で、命の恩人にゆっくりお礼を言いたいのだろうと思ったルイズは出ていった。
ミストバーンは冷静にウェールズを観察している。
生命をつなぐ暗黒闘気がなじんでいないのか傷が癒えきっておらず、死へ向かうのをかろうじて食い止めている不安定な状態のままだ。
死から蘇らせたわけではないため偽りの生命とは言えないが、異質なものが体内に存在することに本人も気づいたらしい。
「何故生かした」
温和な笑みは拭い去られ、感謝と言うには冷ややかなものが視線に混じっている。命を救われたというのに表情は険しい。
答えないのは彼自身も理解しきれていなかったからだ。
彼にはウェールズを救う気はなかった。共に戦ったのも近くで華々しく散るのを見届けるため。譲れぬもののために戦い死んでいく覚悟を汚すつもりはなかった。
だが――生かしてしまった。
尊敬する者に生き延びてほしい気持ちはあったが、それ以上に大きかったのは自分でも理解できない衝動だった。
それに流されたとはいえ結局は自らの行動なのだから、結果も己に返ってくる。そう思っている彼はあの時ルーンが輝いていたことに気づいていない。
224 :
ゼロの影代理:2008/09/20(土) 20:53:10 ID:aaf9zizy
あの時ウェールズはアルビオンの王族として死ぬはずだった。しかし、部下は全員討ち死にしたというのに彼はこうして生き長らえている。
眠っている間、ルイズ達が勝手に生存を明らかにしなかったことだけは感謝している。
目覚めた時には全てが終わっていた。
レコン・キスタと戦うという選択肢もあったがその気はない。愛する者の治める国に争いの火種を持ちこみたくないためだ。
もし選ぶとしても――時間が必要だった。
ハルケギニアの者達は彼が死んだと思っている。ある意味それは正しいのだろう。
ここにいるのはウェールズであってウェールズでない。
覚悟を尊重しようとしたミストバーンに悪意がないことは彼も知っている。
それでも素直に受け入れるには、生き直すには、彼の背負うものは重すぎた。
高潔な人格がいっそう彼を苦しめている。
命を救ったことに感謝すべきだと思っていても、やり場のない感情をぶつける相手は一人しかいない。
覚悟を理解していたはずの相手からこのような形で生かされ、裏切られたような心境だった。
ウェールズの苦しみを知っているであろうミストバーンは何も言わず、憎悪に近い感情のこもった眼差しを受け止めている。
結果的にウェールズがウェールズとして死ぬ機会を奪った者は、氷の声で告げた。
「怒れ。憎め」
言葉に応じるようにウェールズの眼に暗い輝きが宿る。
宴や礼拝堂での会話が、戦場での共闘が嘘のような空気が二人の間に立ちこめている。
短い間とはいえ共に歩んだ道は完全に隔たっていた。
この先交わることがあるのか――わからない。
やがてウェールズは視線を外し、疲れたように呟いた。
力を貸すことを約束する代わりに、一つだけ頼みがあると。
225 :
ゼロの影代理:2008/09/20(土) 20:56:29 ID:aaf9zizy
「太陽のもと、誰の目もはばかることなく、手をとり歩く……」
ラグドリアンの湖畔での誓いを思い起こしながらアンリエッタは亡き父王の居室にいた。
飾りなりの重圧に酒量が増えた姿を臣下に見せるわけにもいかず、彼女は隠し持っているワインを夜中にこっそり飲んで眠りに落ちるのだった。
酔うと決まって思い出すのは、生きていると実感できた十四歳の夏の短い時間。一度でいいから聞きたかった言葉。
今日はワインの効果が薄かったのか目覚めが早すぎたため、眠れぬまま寝返りを打っていた。
「どうしてあなたはあのときおっしゃってくれなかったの?」
涙をぬぐったその時、扉がノックされた。アンリエッタはガウンを羽織るとベッドの上から誰何した。
「誰です? こんな時間に何事ですか?」
「僕だ……と言えばいいかな」
どこか迷いをにじませた声にアンリエッタの心臓は大きく飛び跳ねた。
忘れるはずのない、何よりも望んでいた声。何度も夢見た笑顔の持ち主が扉の向こうにいる。
「風吹く夜に」
最後のためらいを打ち砕いたのは何度も聞いた合言葉だった。返事も忘れてドアを開け放ち、ウェールズを抱きしめる。
「ウェールズ様……生きていらっしゃったのですね」
「僕は亡霊さ」
苦しげに呟く彼の手をそっと取り、アンリエッタは頬をすりよせた。
「嘘……こんなに温かい手の亡霊なんていませんわ」
先ほどとは違い活力に溢れた表情が、生きていてくれて嬉しいと語っている。
アンリエッタの胸に希望が湧きあがり、輝く未来を次々に映し出していく。
まずは生きていたことを明らかにして、それから、それから――。
ウェールズは辛そうに微笑んで囁いた。
「アンリエッタ。最後のお願いがあるんだ」
幸せに陶然としていた彼女の顔が凍る。せっかく手にすることのできた希望を再び奪われようとしていると知って、彼女は固くウェールズを抱きしめた。
何度も首を振る彼女の髪にそっと触れ、彼は願いを口にした。
「君と初めて出会ったラグドリアンの湖畔で、共に歩きたい。……太陽のもとで」
226 :
ゼロの影代理:2008/09/20(土) 20:59:45 ID:aaf9zizy
一瞬でラグドリアンの湖畔に到着した二人は残された時間を惜しむように言葉を紡ぎ合う。
どうやってウェールズが見とがめられることなく王宮に侵入したのか、移動させたのは何者の仕業か――それらの疑問はアンリエッタの頭から抜け落ちていた。
朝日を浴びた水面が二人を祝福するかのようにキラキラと輝いている。
ウェールズの蜂蜜を溶かしたようだった髪は今は陰りを帯び、風に揺れている。それを見つめるアンリエッタは苦しげだ。
大切な存在が、再び手の届かない遠い所へ行こうとしていると知って。
「なぜ亡霊などとおっしゃったのです?」
「僕はもう死者の列に加わったようなものだ……守るべきものを守りきれなかった」
痛みをこらえる表情にアンリエッタは言葉を失い――勇気を振り絞った。少しでも愛する者の力になろうと。
「わたくしはこう聞きました。あなたは勇敢に戦った、と」
沈黙したウェールズになおも語りかける。
「わたくしの知るウェールズ様は勇敢なお方です。今までも……これからも」
その言葉を聞いたウェールズの手が震えた。双眸からほんの少しだけ暗い霧が薄れる。
もう一つの道を見つめ直したような、そんな眼だった。
アンリエッタは、いくら言葉を尽くして留まるように懇願しようと彼が苦しむだけだと悟った。
(意地悪な人)
再会の喜びを与えて去ってしまう。最後の別れを告げに来てくれたのはとても嬉しいが、同時にとても残酷だ。
「一つだけ……一つだけ、わたくしのわがままを許してくださいな。……誓ってくださいまし。水の精霊の前で、わたくしを愛すると」
促されたウェールズは水辺へと足を運んだ。アンリエッタもそれに倣い、水に足を浸す。
「さあおっしゃって。わたくしはこの一瞬を永久に抱くでしょう。どれほど月日が流れても。何があろうとも。……いいでしょう?」
その一言をずっと心の支えにして生きていくことができる。
ウェールズの唇がゆっくりと動いた。その足元に闇が広がり、彼の全身を飲み込んでいく。抱きしめようとするのを優しく拒絶し、暗黒の波に身をゆだねる。
「あ……」
声は聞こえなかった。
姿が消えた後も、彼が立っていた場所をアンリエッタはぼんやりと見つめていた。
まるで夢のような一時だった。神と呼べるほど偉大な存在が、ほんの気まぐれでこの舞台を演出したのではないか――そんな気がしてしまう。
もしかすると本当に夢の出来事だったのかもしれない。ウェールズに会いたいという想いが生んだ儚い幻だったのかもしれない。
立ち去れずにいたアンリエッタはふと煌くものを見つけて駆け寄り、拾い上げた。
風のルビーが彼女の掌できらりと光った。
227 :
ゼロの影代理:2008/09/20(土) 21:02:21 ID:aaf9zizy
再び深い深い眠りに落ちたウェールズは棺の中で寂しげな笑みを浮かべている。
ミストバーンは赤く燃える太陽を眺めていた。
尊敬し、認めあった者との距離は今や遠く隔たっていた。
何のために共に戦ったのか。自らの行動が正しかったのか。意味があったのか。
――何もわからない。
命を救った相手からの憎悪に限りなく近い感情も彼は静かに受け止めていた。
疎まれ嫌悪されることには慣れている。魔界では、主を除き周囲は全て敵と言ってもよかったのだから。
数千数万の他者の憎悪より主一人の失望の方がよほど耐えがたい。
主以外の者との関わりは、しょせんうたかたの夢。
彼はただ拳を握り締めた。
ウェールズの願いを叶えたことを報告するために思念を飛ばし、主を呼ぶ。今までと同じように。
しかし、反応は無い。
声が届かない。気配も感じない。
その時彼は、血の気が引く感覚というものを初めて理解した。
アルビオンで戦いに赴く直前に反応がなかったことを疑うべきだった。主の性格からして観戦しないはずがない。部下に一言ぐらい指示を与えるはずだ。
おそらくあの時、一時的につながりが消えていた。いつからかはわからないが少しずつ弱まっていたのだろう。
復活するかもしれず、主も結び直すよう手を打っているはずだが、連絡がとれないままの可能性もある。
タルブの村から帰る前に主は帰る手段は見つかったのか訊いてきた。それはこうなる事態を予測してのことか、それとも魔界で何らかの動きがあったのか。
否定の言葉の前にあった一瞬の間が気にかかる。長く仕えてきた経験が、問題が生じたことを告げていた。
己の叡智と力に絶大な自信を持つ大魔王が部下に軽々しく相談をもちかけるはずもない。大抵の事態ならば簡単に解決できるだろうし、そこまで差し迫ってはいないようだった。
だが、万一のことがあれば悔やんでも悔やみきれない。
今まで主の存在があったため異世界でも動揺することなく行動できていた。
もし彼がルイズに心を許していれば、キュルケ達と強い絆を結んでいれば、焦りはしないかもしれないが――それは彼には不可能だった。
力が存分に振るえて主の存在があるのなら閉じた世界から出ようなどとは考えない。
それが今、仇となった。
彼は、異なる世界で一人だった。
もし魔界に戻れなければ。戻ったとしても主がいなければ。
ハルケギニアでの行動が――否、今まで仕えてきた数千年が全て無意味になる。
混乱の後に芽生えたのは、心を次第に焼いていく焦りだった。
緊張感あるなぁ
以上です。
アンリエッタ書くの難しいよアンリエッタ
スレを見て衝動的にミストバーンの料理ネタを書いたので、最終話まで終わったら投下するかもしれません。
…いよいよラストに向けて動き出します。
かなり苦しい展開もあるので一気にいきたい気がしてきます。
────────────────────────────────────────────────────────────
代理終了
料理ネタ期待しております
もちろんこれからのクライマックスにも
しまった 途中で書き込みしてしまった・・・orz
え〜改めまして、代理乙であります。
そして作者の方へも乙を
爆炎も影も次回も楽しみにしております。
232 :
ゼロの影代理:2008/09/20(土) 21:58:20 ID:aaf9zizy
>>230 うおお、替え忘れてるー!?
スマン、二連続代理なんて慣れてないもんだから orz
いや、君は頑張った。
作者さん方も乙!
このウェールズとミストバーンでファイズのあのやりとりを思い出した
「夢ってのは呪と同じなんだよ、夢をかなえられなかった者はずっと呪われたままなんだ」
「夢をみると、時々凄くせつなくなるけど、時々凄く熱くなる、らしいぜ
俺には夢がない、でも誰かの夢を守ることはできる」
爆炎の人と影の人と代理さん、皆さん乙でした。
爆炎の方はギーシュの行く末が心配だ。
どん底に落ちて尚力を求め、大王様に仕えるミョズ司教の口車に乗ってキメラ生物になる。
OK、日付が変わる前に投下してみんとす
…だ、代理ばっかりじゃつまらないって思ったわけじゃないんだからね!
虚無と獣王
14 捜索隊と獣王
トリステイン魔法学院から見事に脱出した土くれのフーケは、逃走経路として以前から当りをつけていた森の中で悪戦苦闘していた。
「ったくどうなってんだいこいつは!」
彼女が睨みつけているのは先程盗んだばかりのマジックアイテムである。
『神隠しの杖』という名が付けられているそれは、通常のアイテムとは異なりフーケが魔力を通しても反応を示さなかった。
スキルニルと呼ばれる魔法人形の様に血液がキーになる訳でもないとなると、おそらく使用するには特殊な条件が必要となるのだろうとフーケは判断する。
発動させるには他のマジックアイテムが必要になるとか、ある一定のポーズを順番に取っていかないと発動しないとか。
問題は、その条件とやらがさっぱり判らないという事である。
一応念の為に盗んできたインテリジェンス・ソードにも尋ねてみたが「えー、知ってる訳なかろ。剣だぜ俺」との返答だった。心底埋めてやりたいと思うが我慢する。
大抵のマジックアイテムなら後腐れなく捌く自信がフーケにはあったが、使用方法の判らないアイテムに気前良く金を払ってくれるモノ好きな好事家に心当たりはなかった。
取り敢えず、深呼吸を二回して気持ちを落ち着かせる。焦りや怒りは何も生み出さない。
今、自分が取れる行動パターンは2つ。
1・マジックアイテムを売りつけるのは諦めて故郷に帰る。
2・学院に戻って誰かからマジックアイテムの使用方法を聞き出して来る。
1は消極的な安全策で、自分の身は確実に守れるが内戦状態の故郷に残した義妹の安全は守りにくい。
2は大騒ぎの学院に戻る事になりリスクはかなり大きいが、その分リターンも大きくなる。
しばらく悩んだ末、フーケが選択したのは2の案だった。
せっかく盗んだ物を使い方が判らないからと言って諦めるのは惜しかったし、あの騒ぎの中でも自分の正体はバレていないだろう。
適当に理由をつけて学院長あたりから使用方法を聞き出してくればいいだけの事だ。
そうひとりごちて、フーケは残り少ない精神力で馬の形のゴーレムを作った。ここまで逃げて来る時にも使用したモノだ。
時間はまだ深夜には至っていない。さっさと学院に戻って少しでも休まなければ。
2つのマジックアイテムを下見の時に見つけていた無人の小屋に隠し、フーケは元の職場に舞い戻るのであった。
おっさんきたあああ
翌早朝から始まった事実確認の為の会議は、一時間も経たない内に責任の押し付け合いの場と化していた。
ルイズ達は第一発見者という事でこの会議に参加させられていたが、事情を説明する気力は既に尽きようとしている。
一応仮眠はとったものの、満足に眠れたとは言えない状態なのに宝物庫で教師達の言い争いを聞かされているのだから、それもまあ無理のない話と言えよう。
ルイズが欠伸を噛み殺しながら仲間達を見ると、ギーシュ、ギムリ、マリコルヌは既に夢の中へと旅立っていた。
レイナールは生真面目な性格の為か起きてはいたが、その眼は擦り過ぎて赤くなっている。
キュルケは授業中にもたまに披露している奥義『眼を開けたまま寝る』を発動させており、タバサに至ってはどこからか取り出した本を一心不乱に読んでいた。
唯一眠気を見せていないのはクロコダインだけだが、これはもともと生物としての耐久度が違い過ぎるだけの話だ。
クロコダインは使い魔という事で数には入っていないだろうから、まともに説明できそうなのはわたしだけね、と思うルイズだった。
それにしても眠い。いや寝ちゃダメ、ちゃんと先生たちに報告しなきゃ、でもタバサに次の会報の原稿を頼まれてるのよね。
あれも早く考えなきゃ、やっぱり巨乳の反対語は貧乳じゃなくて微乳だと思うのよ姉さまも書いてたけど、ああ壁の穴から入ってくる風が気持ちいーなー眠いーでもねちゃだめー、ちゃんとせんせーたちにー……
ハッと意識が戻る。ついうっかりと眠ってしまっていたようだ。まだ何分も過ぎてはいないのだろうが、どうもマリコルヌの軽い鼾で目が覚めたようだった。
しかし、ほんの数分でも休息を取った事で眠気からは解放された。覚醒のきっかけになったとはいえ、小太りのアレと同レベルにだけはなるまいと固く心に誓う。
ふと気が付くと、教師達はいつの間にか責任問題から誰かの尻を撫でるの撫でないのという心底どうでもいい話題に熱中していた。
帰ってもいいだろうかと真剣に思うルイズに、ようやく声が掛かったのは更に15分程経過してからである。
尻の話が終結したのか、もしくは話を逸らしたいのか、オールド・オスマンが第一発見者に事情を聞こうとしたのだ。
それが本題なのにここまで放置されていたのよね、とルイズはうんざりする気持ちを抑えつつ昨夜目撃した事を話し始める。
途中、クロコダインやレイナールが補足しながら話し終えるのに10分かかった。
ちなみに宝物庫の壁を破壊したのはフーケのゴーレムという事になっている。正直に失敗魔法でふっ飛ばしましたと言っても信じては貰えなかっただろうが。
話を聞き終えた学院長は思わず頭を抱えていた。
フーケの後を追おうにも、手掛かりが全く無いからである。
せめて逃げた方角だけでも確認したかったのだが、フーケの作った鉄製のドームの所為で視界が塞がれていた為、それもかなわなかった。
王室には届け出たくないんじゃよなー、だって色々うるさいしぃ、と教育者らしくない事を考えているオスマンである。
これからどうするべきか、正直手詰まりなんじゃないかという空気を一変させたのは、今まで姿を見せていなかったミス・ロングビルだった。
なんと彼女は昨夜の戦いを自室から目撃し、逃げていくフーケの姿を確認したというのである。
慎重に後を追った彼女はフーケに追いつけはしなかったものの、かの怪盗が潜伏していると思われる小屋の在り処まで突き止めていた。
正に三面六臂の大活躍であり、学院の責任者から見れば女神に等しい仕事振りである。
「では王室に報告して早く兵を差し向けてもらいましょう!」
そんなコルベールの発言をオスマンは一蹴した。
今から報告をしていてはフーケに逃げられてしまうだろうし、そもそもこれは学院の問題なのだから解決するのも学院の人間でなくてはならないというのである。
教師達の中には「それってただの保身じゃないのか」と思う者もいたのだが、賢明にも口には出さなかった。
さて、こうなると問題は誰がフーケを捕えて秘宝を取り戻すかである。
今までどんな厳重な警備や優秀な追跡者を出し抜いてきた怪盗を捕縛したとあれば相当な名誉だ。
だが最低でもトライアングルクラス、もしかしたらスクエアの可能性もあるメイジを相手にするとなるとかなりの危険を伴う。
名誉と危険を天秤に掛けた結果として、捜索隊に名乗りを上げる教師はただの1人も存在しなかった。
普段は己の系統を自慢し、実際にスクエアの実力を誇るギトーですら俯いたまま杖を掲げる気配はない。
「どうした? フーケを捕えて名を上げようという貴族はおらんのか!?」
オスマンが挑発に限りなく近い檄を飛ばすが、教師達は顔を見合せるだけで動こうとはしなかった。
そんな時が止まったような重苦しい空気の中、ただ一人動いた者がいる。
凛とした表情で杖を掲げたのはルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール、通称『ゼロ』のルイズであった。
支援
当然の如く大騒ぎになった。
学生が、それも始祖の血に連なる国内でもトップクラスの大貴族の娘が盗賊退治に乗り出すと言い出したのだから、大騒ぎになるのは当然と言えるが。
これまで発言の無かった教師達が口を揃えて危険だ、まだ学生なのに、教師達に任しておけという声が飛ぶがルイズは意に介さない。
まだ学生なのも危険である事も充分判っているが、それを踏まえた上で行かなければならない理由が彼女にはあるのだ。
大体捜索隊に立候補もしないのに教師に任せろと言われても何を任せればいいのか困るので、その旨を指摘したところ相手は黙ってしまった。
ルイズは思う。黙られても困るものだなあ、と。
困っていたら、ルイズの隣の席で寝ていた筈のキュルケがいつの間にか杖を掲げていて、ますます騒ぎが大きくなった。
参加動機が「ヴァリエールが行くのにツェルプストーが行かない訳にはいかない」というのは単に張り合ってるのか、それとも違う理由があるのか。
もっとも表情はつまらなさそうにしていて、明らかにルイズが立候補しなければ寝て過ごしていたのだろうと言う事が判る。
更に読んでいた本を閉じながらタバサが無表情のまま杖を掲げた為、宝物庫の中はますます騒がしさを増した。
ただ一言「心配」とだけ口にした彼女をキュルケは抱きしめ、ルイズはぎこちなく礼を言い、鼾をかいていた筈のマリコルヌは何故かその光景を見てハァハァ言い始めたが皆で無視する。
一部の教師はそれでも彼女たちを止めようとしたが、それを遮ったのはオールド・オスマンだった。
いわく、タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士であり、キュルケは優秀な軍人を多く輩出した家系の出で自身の魔法も強力であると。
そしてルイズの名を上げて、一瞬詰まり、誤魔化すように周囲に目をやって、ほらあんなに強そうな使い魔を召喚しているし的な事を威厳たっぷりの口調で言った。
ルイズとクロコダインのじっとりとした視線を、齢三百歳とも言われる偉大なメイジは華麗にスルー。結果として威厳は落ちているのに彼はまだ気づいていない。
実はオスマンは、ルイズの使い魔に刻まれたルーンの意味を確かめるのにちょうどいい機会ではないかと、そんな事を考えていたのだ。
もちろん、万が一の事を考えてある種の『保険』を掛けるつもりでもあったのだが。
そんな内心はおくびにも出さず、オスマンはルイズ達に向きなおって言った。
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
「杖にかけて!」
3人が真顔で唱和すると、オスマンはロングビルに馬車の準備と道案内をするように命じた。快く了承したロングビルが宝物庫を後にする。
「わたしたちもちょっと着替えてこない?」
ロングビルの背中を見ながらそう主張したのはキュルケで、タバサもその意見に無言で同意した。確かに今の彼女達は学院の制服姿であり、フーケ捜索に相応しい格好とは言い難い。
ルイズとしても反対する理由はないので自室に戻ろうとしたが、クロコダインがその場を動こうとしないのに疑問を抱いた。
「どうしたの? クロコダイン」
ひょっとして勝手に捜索隊に志願したのを怒っているのだろうかと思ったが、どうもそうでは無い様で、彼はルイズを見るとこう言った。
「いや、オレには何が盗まれたのかサッパリわからんからな、お前達が着替えている間に詳しい事を聞いておこうと思ったのさ」
「あれ? クロコダイン、ひょっとして字が読めなかったの……?」
ルイズは壁に書かれたフーケの署名を視界の隅に入れながら質問した。
今まで問題なく会話が出来ていた為、文字に関してはこれまで全く気にしていなかったのだ。
「ああ、少なくともそこの壁に書かれている分は読めないな。オレの居た所の文字とは異なっているようだ」
クロコダインはそう言うと、ポンとルイズの頭を軽く叩いた。
「さあ、言いたい事は色々あるが時間が無い。早く着替えてきてくれ」
支援
ミス・ロングビル、すなわち土くれのフーケは、厩舎に向かいながら心の中で始祖を呪っていた。
(ああもう、なんだって学生なんかが引っ掛かってくるんだい!)
それもその筈、フーケの立てた目算は完膚なきまでに崩壊しているのだ。
彼女の予想は教師達が捜索隊に手を上げない所までは当たっていた。
幾らメイジとしてのレベルが高くとも彼らは所詮教師に過ぎず、何か特殊な訓練を受けている訳でもない。そんな人間は決して危険に飛び込むような真似はしない。
だがそんな中でも、生徒思いのコルベールや責任者であるオスマンなどは、最終的に自分が行くと言い出すとフーケは思っていた。
この2人ならマジックアイテムの使用方法を知っている可能性は高く、また自分に手を出そうとしているのが丸わかりなので適当にあしらいつつ情報を入手する自信もあった。
ところが蓋を開けてみれば、捜索隊のメンツは明らかにアイテムの情報など持っていない学生3人である。
(あー、やっぱクニに帰っときゃ良かったかなー……)
現在のフーケ、うしろむき48%。
しかし、いや待て、と彼女は思いなおす。
諦めるのはまだ早い。確かに今回は予想が外れたが、それなら予想が当たる様に計画を立て直せばいいだけの事だ。
フーケは限られた時間の中でいかに行動するか、急いで考えを巡らせ始める。
現在のフーケ、前むき67%。
もっとも、彼女のモチベーションは厩舎においてうしろむき100%に限りなく近付く事になるのだが。
支援
着替えが終わり、厩舎を訪れたルイズ達が見たのは、2台の馬車であった。
1台は自分達が使う分だとして、では何故もう1台準備されているのか。少なくともクロコダインは馬車に乗る事は出来ない。
ひどくどんよりとした表情のロングビルに尋ねようとして、ルイズは馬車の周りに四つの人影を見た。
「やあ、遅かったじゃないか君たち!」
ロングビルとは対照的に、ひどく爽やかな笑顔でギーシュは手を上げる。
「……なにやってんの、あんたたち」
「見て判らないかい?」
ギーシュの後ろでは、ギムリとレイナール、マリコルヌが馬車に馬を繋いでいた。
「まさか一緒に行くなんて言い出すんじゃないでしょうね」
「まさか! 僕達にそんな度胸があると思っているのかい?」
聞き様によってはえらく情けない事を造花のバラを咥えつつのたまうギーシュに、ルイズは半目で質問した。
「じゃあなんで馬車なんて用意してるのよ」
「決まってるじゃないか! もちろんこれから森にピクニックに向かうからさ!」
「…………は?」
あまりと言えばあまりの言葉に、ルイズだけではなくキュルケやタバサまで呆然とする。
当のギーシュはそんな様子など意にも介さず言葉を続けた。
「だってこんなにも天気が良いんだよ? とても授業なんて出てる場合じゃないね、親しい仲間と一緒に遊びに行くべきだと僕の中の始祖がそう仰ったのさ!」
始祖も6000年後にこんな愉快な言い草の種になろうとは思いもしなかっただろう。
「……まあ前半だけは同意してもいいけど、男4人でピクニック? 淋しいにも程があるわね」
まだ呆然としているルイズの横からキュルケが突っ込むと、ギーシュは大仰に肩をすくめてみせた。
「ま、たまには男同士の友情を深めるのもいいと思ってね。正直女の子との遠乗りはもう懲りたよ。毎回野郎ばっかりなのは御免だけど」
「それは生まれてこのかたオンナノコと出かけた事の無い僕に対する挑戦? 死ぬの? ねえ、死ぬの?」
「落ち着けマリコルヌ! 早まるんじゃない!」
馬車の後ろからそんなやり取りが聞こえてきたが、友情を深める為に敢えて無視する。
「つまりそういう事さ。まだどこに向かうかは決めていないから、偶然君たちと同じ方向に向かう事があるかもしれないが、あくまでそれは偶然だからそのつもりで」
悪びれる様子もないギーシュに、ルイズは一応警告した。
「はっきり言っておくけど、これってかなり危険な事よ。ついてくれば最悪の場合命に関わるし、学院からもいい顔はされないわ」
「ただのピクニックなのに?」
ギーシュはピクニックに行くという主張がよほど気に入ったようだった。
「まああそこで僕たちまで捜索隊に立候補していたら流石に止められていただろうからね、世の中には体裁という物も必要という事さ。あ、これはただの独り言だけど」
「寝た振りしながら風の魔法でこっそり内緒話をしていたなんて事実はないしな。言っとくがこれも独り言だ」
馬車の準備を終えたレイナールとギムリが、独り言とはとても思えない独り言を言う。
つまるところ、彼らはどうしようもなく貴族だと言う事に、ルイズは気付かざるを得なかった。
「ピクニックなら仕方ないな。ちゃんと弁当は持ったのか?」
それまでシルフィード、フレイムと一緒にいたクロコダインがニヤリと笑いながら言うと、マリコルヌが籐のバスケットを掲げる。
「食堂に無理を言って作って貰ったよ。パンに適当な具材を挟んだだけらしいけどね」
「つまり、準備も覚悟も出来ているという事だ。ルイズよ、お前達と同じ様にな」
クロコダインは真剣な眼でルイズを見た。
「ルイズ、お前に並々ならぬ覚悟があるのは判る。だが、前にオレが言った事は忘れてくれるなよ」
「────大丈夫。ちゃんと覚えてるわ」
それは数日前の訓練後に交わした言葉。戦う目的、撤退という選択、そして誇りの意味。
「貴族としての誇りと義務を、わたしは貫くわ」
「ならばオレは主を守ろう。使い魔として、武人としてな」
2人は杖と戦斧を掲げ、互いに笑みを浮かべるのだった。
支援
以上で投下終了です
支援ありがとうございました
次回、ようやく戦闘シーン……になるといいなあ
現在ちと体調がよろしくない為、次の投下は遅れる可能性が高いです
尿路結石マジイタイ
>>249 投下、乙であります。
うお、ご無理をなさらないように
次回を気長にお待ちしております。
>>249 投下乙です!
作者さんの尿道痛恨石が、早く尿道改心石に変わりますように
獣王氏乙です!
おマチさん、強く生きろ。
ご無理をなさらぬよう…。
尿路結石って呪文で治せるのか?
それはともかくお大事にしてくれ
>>245辺りのフーケ、狙いに凄く説得力あるね。
行動自体は変えてないのに、内面描写だけでこれだけ筋が通るとは思わなかった。GJ!!
そしてギーシュ達格好いいよギーシュ達。小粋だ。
結石痛そう…お大事に( ´・ω・`)
>>253 土、水で治癒可能とか?
出産の次に痛いんだっけか
私も尿酸値高いんで心配です。
平均年齢高そうだよね。このスレそんな俺も20代後半だが
もちろん家族にはこのスレの事は内緒だw
257 :
ゼロの影:2008/09/21(日) 12:00:34 ID:WpeQdZd2
獣王氏、代理投下ありがとうございました。
其の十二、12:10頃投下します。
258 :
ゼロの影:2008/09/21(日) 12:09:10 ID:WpeQdZd2
其の十二 ゼロ
目の前に立つ男が震える手で自分に杖を向け、一気に胸を刺し貫いた。
鈍い音まで耳に響くようだった。
不自然な動きを止められるはずの他者――兵士達の体からは生命の気配は感じられず、床に転がっている。
ひげを蓄えた男の口から血塊がこぼれ、ゆっくりと言葉を紡ぎだしていく。
その体が倒れ伏すと同時に視界が真っ黒に染まった。
「いやああっ!!」
跳ね起きたルイズは戦場ではなく自分の部屋にいることに気づき、ほっと息を漏らした。
散々うなされたため全身に汗をかいている。
タルブの村から帰った直後は虚無に目覚めた興奮やウェールズの目覚めなどによりワルドの最期の衝撃が薄れていた。
だが、ミストバーンが主との連絡が取れなくなったと知ったのがきっかけとなり、毎日のように悪夢を見ることとなった。
何か問題が生じたらしく、確認のため絶対に一度は帰りたいと思っているようだ。探すのも役立つ道具や魔法ではなく、『虚無』や異世界についてが大半である。
今は主の言葉が効いているのか大人しくしている。つながりが消える直前の様子がそこまで緊迫したものではなかったのも大きい。
だが、日を追うごとに焦りと苛立ちがほんの少しずつ募っていくのが分かる。
もしそれが最悪の形で爆発したら学院――いや、トリステインで止められる者などいないだろう。
理由も無く殺しはしないだろうが、暴力によって学院を支配し、異世界についての情報や帰る手段を探させるかもしれない。
誇り高い貴族が屈するはずもなく、戦いが始まればどれほどの血が流れるか未知数だ。
ワルドの無残な最期が蘇る。皆をあのような目にあわせるわけにはいかない。
そして、常に大魔王の安否を気遣っているであろう彼を見るたびに黒く煮えた思いが湧き上がるのを止められなかった。
数千年仕えてきた大切な存在であることくらい彼女にだって想像できる。だが、頭でわかったつもりになっても感情では納得できない。
仮にも同じ“主人”であるはずなのに、どこまで認められているのか。努力や意地は評価されていても、それは敬意と言えるのか。
使い魔としての忠誠でも、対等な立場でもなく、あくまで強者が“必死に頑張る弱者”を見下しているだけではないか。
「そ、そんなことないはずよ。見事だって言ってたじゃない」
ぶんぶん頭を振って浮かんだ考えを弾き出そうとする。
彼はいい加減な軽口の類は口にしない。必要最低限のことさえろくに喋らないのだから。
(あいつが凄い力を持ってるのは認めるけど……)
いっそ彼が一回魔界に帰ってしまった方が、こちらとしてもすっきりするのではないかとさえ思ってしまう。
忠誠心を見せられるたびに、メイジにふさわしくないと言われているような気がした。彼にそんなつもりがないことはわかっているけれど。
絶対に踏み込めぬ領域を嫌でも思い知らされてしまう。
強さは尊敬できるが、他者の――大魔王は除く――心情を察する能力はそこらの人間以下だろう。
心の底から尊敬し身も心も捧げろとまではさすがに言わない。
こちらにある程度心を許していればそれなりに満足できるのだが、そんな様子など欠片もない。
「このいやーな感じ、前もあったような……いつだったっけ? って、それどころじゃないわ!」
暗い方向へ逸れる思考を立て直し、彼女は改めて決心した。
「何とかしなきゃ。わたしが召喚したんだから」
どれほどの時間が残されているのかわからない。
数年後かもしれないし、数ヵ月後かもしれない。その時が来てからでは遅いのだ。
彼より遥かに焦るルイズに可能性を見せたのは、土くれのフーケだった。
259 :
ゼロの影:2008/09/21(日) 12:12:06 ID:WpeQdZd2
フーケの脱獄を知った時、ルイズは真っ先に使い魔を問い詰めた。
魔法衛士隊の者達をはじめ、皆、名門ヴァリエール家の令嬢ルイズやその使い魔を疑いはしなかった。
ルイズには捕らえた盗賊――それも一度は命を落としかけた――をわざわざ逃す理由など無く、主の意思を無視して使い魔が勝手な行動を取るなど想像できるはずもない。
逃走後に出された声明から様々な憶測が飛び交ったものの、おそらくスクウェアクラスの優れたメイジが固定化のかけられた鉄格子も壁もまとめて破壊したのだと言われている。
だがルイズにはわかる。彼女の前では爪による攻撃と闘魔傀儡掌しか見せていないが、その気になればどんな強固な牢獄だろうと簡単に砕けることを。
疑念が肯定され、ルイズは頭を抱えた。
名門中の名門ヴァリエール家の令嬢の使い魔が盗賊とつながっているとバレたらどんなことになるか――考えたくもない。
もちろん必死に止めたがきくような性格ではないため、取引について知らせることなどを条件に許可し、直接関わらずにいた。
だが、今こそ彼女の力が必要だと悟ったルイズはミストバーンに頼み、フーケとの面会を取り付けたのである。
プライドが散々邪魔をしたがトリステインの未来には代えられない。
ミストバーンとの取引を終えたフーケは怪訝そうに問いかけた。
「ヤバイことになってんじゃない?」
「……! あいつから聞いたの?」
「態度でわかるよ。焦ってるってね」
事情を聴いたフーケは腕を組んで息を吐き出した。ルイズもそれに負けじと肺の奥底から絞り出すような溜息を吐く。
「帰りたい気持ちを少し軽くすることができればいいんだけど」
そうすれば今まで通りの生活を送るだろう。暴走の時期をかなり遅らせることができるはずだ。
「それに、見てるこっちもキツイんだもの」
彼の苦痛を和らげてやりたいという気持ちもある。焦りの炎が心をじわじわと焼いていく様を近くでずっと見続けるのは精神衛生上よくない。
強大な力を持っているだけに苛立ちもなおさらだろう。
「……あるよ、方法」
「えっ!?」
フーケは複雑な表情で笑った。
「気が進まないけど、あんたの使い魔に殺されかけたのをよりによってあんたに救われたからね」
殺すつもりで攻撃していたのだから命を奪われても文句は言えなかったのに、その相手から救われた。
ミストバーンのせいで捕まったと思ったら脱獄でき、結果残ったのはかなりの額の報酬である。悪くない取引は今後とも続けたいところだ。
そもそも彼が暴れ出せば盗賊稼業どころではなくなる。その時が来てからでは手遅れだ。
「ま、本人と主人のあんた次第だけどね。やるかい?」
「……ええ」
ルイズはしばし逡巡したものの、覚悟を決めて頷いた。
260 :
ゼロの影:2008/09/21(日) 12:16:47 ID:WpeQdZd2
フーケに案内されて二人がやってきたのはアルビオンにあるウエストウッド村だった。
そこに住む少女が記憶に関する魔法を操ると知ってルイズは安堵した。危険物に対処する手段が見つかったのである。
「四大系統に属さないみたいだからたぶん『虚無』だわ。あんたを呼びだしたのも『虚無』が関わってるとするなら、何か掴めるかもしれないでしょ。見せてもらいましょうよ」
帰りたい思いを一部だけ忘れさせると言ってもあっという間に拒絶されて終わりだろう。そう思ったため以上のような理由で説得した。
程度は全く異なるものの二人とも焦っているため話はあっという間に決まった。
森の中に建てられた素朴な家々。その中の一軒に入ったルイズは硬直した。
彼女が見たものは、妖精という言葉が相応しい神々しいまでの美少女だった。
草色のワンピースが清楚さを演出し、素朴な格好も美しさを損ねるのではなく親しみやすい雰囲気を与えていた。
(そんなことより!!)
ルイズは心の中で絶叫した。その視線は少女――ティファニアの胸らしき位置に釘付けである。
こんな胸があってたまるものか。こんなものが許されるはずがない。
思わず自分の胸があるはずの部分に手を当てたルイズはわなわなと震え出した。
「ああああれ何よ、ありえないわあんなもの。冒涜だわ、冒涜よ」
隣のミストバーンを見ると彼も固まっている。が、その理由は全く別のところにあった。口から驚愕の言葉が転がり落ちる。
「く……黒の核晶!?」
「何か知らないけどたぶん違うと思うわよそれ」
黒の核晶を知っていればもっと具体的にツッコんだかもしれないが、結局訂正の機会はないままだった。
壮絶な誤解を与えたと知らないティファニアはフーケの姿に嬉しそうに顔をほころばせる。
「『虚無』について知りたがってたよね、あんた。見るだろ?」
彼が頷くと、あらかじめ事情を知らされていたティファニアが詠唱を始めた。
――ナウシド・イサ・エイワーズ
室内の空気が歪んでいくが、一片の害意も感じられないため彼は黙って聴いていた。
ティファニアには純粋な善意があった。ただ彼の苦痛を少し取り除こうとしているだけ。フーケはともかく、ルイズも似たようなもの――のはずだった。
――ハガラズ・ユル・ベオグ
ふとティファニアの視線が困惑したように彷徨った。ルイズに一瞬だけ向いた目はこのまま続けていいのか尋ねている気がした。
『虚無』をかけられている最中の彼は半ば意識を手放しかけているようだ。
(どうしよう?)
ここで止めるべきではないか。心に踏み込むことになるがいいのか。
『大魔王様のご命令だ』
『バーン様の大望の花が――』
主に絶対の忠誠を誓う姿が蘇る。そして、ワルドの最期も。
「続けてちょうだい」
得体の知れぬ感情にまかせてルイズが頷くと、ティファニアに不可視の力が集まっていく。
261 :
ゼロの影:2008/09/21(日) 12:20:58 ID:WpeQdZd2
――ニード・イス・アルジーズ
まるでどこか遠い世界に身体が運ばれていくような感覚が彼を襲う。
全身が少しずつ分解され力が抜け落ちていくような気がしたが、移動に似た感覚を見極めようと精神を集中させる。
(――様……!)
立っている地面が崩れていくように体が揺れた。
――ベルカナ・マン・ラグー……
警告が心の片隅で響き、止めるべきだと声がした。だが、ルーンが輝いて手を動かすのが遅れたところで光が弾ける。
空気の歪みが消えると同時にティファニアが崩れ落ちた。
フーケが慌てて抱き起こすと寝息が聞こえてきた。消耗しきって眠ってしまったようだ。
「おかしいね。今までこんなことなかったのに」
首をかしげるフーケの言葉を聞き流しつつ彼を観察するが、特に目立った反応は無い。どうやら成功したようだ。
大きく息を吐き出したルイズは心の重荷がとれたように笑い、フーケとティファニアに礼を述べてトリステインに帰っていった。
自室に戻ったルイズは己の使い魔をしげしげと眺めた。
『忘却』をかけられた後、彼は何も喋っていない。元々無口だが今の彼には口があるのか疑いたくなるほどだ。
恐る恐る腫れ物に触るように尋ねる。
「そ、その……帰りたい?」
反応は無い。帰る理由が思い当たらないというように。
安堵しかけたルイズは凍りついた。
(まさか……)
彼が帰りたがっていたのは、主のためだけだ。
数千年にわたって仕えてきたと語る彼の誇らしげな様子をよく覚えている。
「まさか――!」
帰る理由がわからないということは、つまり――。
奪ってしまったものの大きさに気づいたルイズの顔から血の気が引いた。己の体を固く抱きしめるが震えが止まらない。
「わたし……なんてことを……!」
その衝撃で彼の心には穴が開いてしまった。
大きな大きな、埋めることのできない虚無の穴が。
ここにいるのは“ミストバーン”ではない。“ミスト”とさえ呼べないかもしれない。
戦う意味も、闘志も、生きる理由も、信念も、何もかも――全てを失った抜け殻、“ゼロの影”がそこに立っていた。
262 :
ゼロの影:2008/09/21(日) 12:22:46 ID:WpeQdZd2
以上です。
『虚無』は大変なものを盗んでいきました…。
“ミストは何故、これほどの力を持ちながらキツイ目にあうのか?”“いや、キツイ目にあうからこそ、これほどの力なのか?”と後から後から疑問が(ry
何故こうなってしまったのかという理由や状態の説明は次で行います。
投下乙でした
考えてみれば本編でも酷い目にあってますよねミストさん
死ぬタイミングが悪すぎてバーン様が感慨を残す暇もありませんでしたし
全部師弟愛コンビにもっていかれたよ orz
あと胸にふたつも黒のコアを装備している妖精は大変けしからんですな
バーン様がどんな反応を示すか気になります
「余の歌姫にry」
影の人乙
そうか、テファの胸革命は黒のコア×2だったんだ。(違)
ワロスwww
次回にwktk
影の人、乙です。
よりによってあれを黒の核晶と間違えなくてもw
にしても、ミストバーンが記憶喪失になってしまうとは。
ゼロ魔本編でサイトの事を忘れたルイズより危険かもしれない。
ルイズ死亡フラグ((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
目覚めた時がハルケギニア最後の日か…
この程度でミストバーンの忠誠心が消え失せたとは思えない
いずれ第二第三のバーンへの忠誠心が(ry
記憶戻ったらブチ切れんじゃね?
269 :
ゼロの影:2008/09/22(月) 20:55:24 ID:eIpLW7aL
其の十三、21:00頃に投下します。
270 :
ゼロの影:2008/09/22(月) 21:00:17 ID:eIpLW7aL
其の十三 虚無の影
ルイズは今までとは比べ物にならぬほど悩んでいた。
フーケ達にすぐに事情を知らせ、聞いた話と合わせて考えた彼女は以下のような結論を出した。
ティファニアの魔法『忘却』は、記憶の鎖を切り離し、つなぎ直すようなものである。
帰還への執着を和らげようとしたが、主の存在によって深くつながっているため一部だけ切り離すことができず、丸ごと抜き取る形で効果が発揮されたらしい。
直後にティファニアが意識を失ってしまったのも無理はない。数千年分の記憶を操作するなど初めての経験であり、消耗が激しくいまだに体調が回復していないとのことだ。
心の大半を占める記憶の鎖が切り離され闇に沈んだ結果、残りの欠片はバラバラでほとんどつながっていない。
つまり、今の彼は心が砕け散った状態にある。
最も大切なものを奪われ、自身を支えてきた柱を折られた彼は抜け殻になっている。
今まで主の役に立つことを最優先にしばしば彼女のことを放り出して姿を消していたものの、現在は勝手に出歩くこともなくルイズに従っている。
ほとんど影響を及ぼさなかったルーンがここぞとばかりに効果を発揮しているようだ。
だが、いくら話しかけてもへんじがない。ただのしかばねのようだ。
以前の沈黙は感情を窺わせたが、それもない。何の意思も持たぬ人形――それも壊れかけのものを連想させる。
もっと言うことを聞いてほしいと思っていたが、こんな姿を見たくはなかった。
今の彼を動かしているものは残った心の欠片も含まれているのか、ルーンの働きだけか。それさえわからない。
予想していた形とは違うが、彼が彼でなくなるかもしれないという予感が的中してしまった。
夕日を浴びて佇む彼は砕けたはずの心が痛んでいるように見えた。目をそむけたくなる姿だった。
今の彼を見ればワルドは嘲りと哀れみを足した表情を浮かべることだろう。希望を抱いてから絶望の淵へと突き落とされたのだ。
彼は間違いなく苦しんでいる。何を失ったのかもわからないまま絶望している。
271 :
ゼロの影:2008/09/22(月) 21:02:54 ID:eIpLW7aL
こうするしかなかった、わざとではないという心の声をもう一人の自分がすぐさま否定する。
本当にこれしか手段が無かったのか。
どこかでこうなることを望んではいなかったか。
トリステインのためという名目で自分のためという想いを隠してはいなかったか。
苦痛を取り除くと言いながら、都合の悪いものも一緒に消えることを望んではいなかったか。
まだ残された時間はあった。目を向けようとしなかっただけで他に手の打ちようがあったかもしれない。
自分に忠誠を誓わないのならいっそ帰ってしまえばいいと思ったこともある。
大魔王に絶対の忠誠を尽くすのに自分には心を許さない彼に、強大な力を持ちながら自分のために振るおうとはしない彼に、苛立ち嫉妬していた。
大魔王を心から敬う態度を見るたびに心の奥底に少しずつ黒い澱がたまっていった。
あの時抱いていた感情は、授業で無理矢理呼び覚まされたものと同じ。
それはあらゆる時代、あらゆる場所で戦いの火種となるもの。意思持つ者が必ず抱き、永遠に持ち続けるもの。
その感情の名を憎悪と言う。
憎悪と呼ぶほど激しいものではなかったにせよ、全く無かったと言えば嘘になるだろう。
それに、なぜ彼に帰還への思いの一部を消すと言わなかったのか。
答えは簡単だ。
説得する手間を惜しんだからではない。彼の怒りを買うのが怖かったからだ。
本当に他者のためを思うのなら全てを説明し、その上で拒絶されたのなら学院の者達に害を及ぼさぬよう説得するなど力を尽くすべきだったのではないか。
彼も賛成していたのならルイズの責任とは言えないかもしれないが、隠したままだった。危険が大きいとはいえ都合の悪いことを隠していたのでは彼への裏切りになってしまう。
それに、あの時止めようと思えば止められたはず。ティファニアに続けるよう命じたのはルイズだ。
「何が……何が“認めさせる”よッ!」
認めさせると言いつつ怯えていた。呼び出した者と向き合うことから逃げていた。自分の心の闇からも。
以前彼を挑発した時に臆病者だと罵ったが、本当に憶病だったのは自分だ。
272 :
ゼロの影:2008/09/22(月) 21:06:16 ID:eIpLW7aL
(こうなったら……!)
ルイズは竜の口に飛び込むような心境で杖を握った。
試みるのはショック療法である。攻撃を仕掛け、心を――それが無理なら闘志だけでも呼び覚まそうというのだ。
被害の広まらぬよう人のいない場所まで連れ出した彼女は顔を蒼くしながら震えている。
こちらの生命も危機にさらされるどころではないが、腕の一本や二本折られる覚悟で行うつもりだった。
杖を振ると彼の近くで爆発が起こった。
闘魔傀儡掌か爪のどちらかがくるのを予想しながら身構えるが彼は全く動かない。己に危害が加えられようとしているのも、どうでもいいように。
距離を近づけても規模を大きくしても結果は同じだ。何度やっても変わらない。
(わたしは、こんなことするために練習したんじゃないのに)
衣の裾や袖が弾けても、反撃どころか抵抗さえしない。それだけの価値も無い存在だと言われているようで悔しくて――歯を食いしばったルイズの手元が狂った。
「ああっ!」
直接爆発を食らった彼の体が傾いだ。しゅうしゅうと胸のあたりから霧が立ち上り、ルイズは恐怖と歓喜がないまぜになった気持ちで待ち受けた。己を貫くはずの冷たい爪を。
だが――。
ルイズは白い衣から煙が上るのを愕然と眺めた。
「どうして……!?」
彼はやはり、動かない。
「悔しくないの!? ちょっと刺されただけで死んじゃう人間から攻撃されてんのよ!? 今のあんたなら……わたしでも殺せるわ!」
絶叫が空に虚しく吸い込まれ、消えていく。
そこまで追い詰めたのもルイズ自身だ。
「そんなに――そんなに大切なご主人様なの!? 何で! 何でよ!? どうして止めなかったの!?」
もはや自分が何を言っているのかわからない。無茶苦茶な言葉を叩きつけている気がするが止められない。
ルイズにも薄々予想はついている。
彼がティファニアの詠唱を止めなかったのは敵意が感じられなかったこと以上に、『虚無』を見極めようとしたからだ。
さらにあの時ルーンが淡く光っていた。まるで従順にさせる絶好の機会だというように。妨害されなければこうなる前にティファニアの魔法を止めていただろう。
もしかするとルーンは言うことをきかせたいという内心を汲み取ったのではないか。
あれほど強く冷酷な彼を意のままに従える――そんな光景にどこかで心惹かれていたのかもしれない。
主以外の相手ならば誰だろうと、何人記憶から消されようと、決してこんな状態にはならないだろう。
それがどうしようもなく悔しい。
なおも荒れ狂う感情のまま杖を振るいかけて、ぽとりと落とす。
「わたし……なんてことを……!」
よりによって自分の使い魔を、それも戦意の無い相手を攻撃してしまった。
心を取り戻すと唱えながらいまだに嫉妬している。
直視したくない己の醜さに気づき、心が引き裂かれそうな痛みを味わいながら、彼女は衣を掴んで喉も嗄れよとばかりに叫んだ。
「怒りなさいよ、憎めばいいでしょ!? あんたらしくないわよこんなの……ッ!!」
彼が彼であるために必要なものを奪ってしまったのは自分が原因だ。
身を震わせるルイズの口から傷ついた獣のような慟哭が迸った。
273 :
ゼロの影:2008/09/22(月) 21:08:13 ID:eIpLW7aL
静かな絶望とともに落ち着きを取り戻したルイズは図書館で本の頁をめくり続けていた。
だが、壊された心を蘇らせる方法も、記憶を取り戻すすべも、見つかるはずがない。
抜け殻のようになったルイズの中を大量の文字が通り抜けて行く。
「うう……!」
「なにあんたの胸みたいなぺしゃんこの声出してんの?」
どうすればいいかわからず呻いた彼女に温度のある声が降り注いだ。
視線の先には炎の色の髪を持つ犬猿の仲の相手――キュルケがいた。その隣にはタバサもいる。
反対側の椅子に座った二人は目で話すよう促した。言葉に詰まったのも一瞬で、彼女は濁流のように想いを吐き出した。
話を聞き終えたキュルケは溜息を吐き、髪に手をやった。
「呆れた。どこの世界に使い魔の心打ち砕いて踏みにじる主人がいるのよ」
今の彼女に言い返すだけの気力も資格も無い。ただひたすら唇を噛んで俯いている。貴族としてのプライドはもはやズタズタだ。
「こうなった責任は誰にあるのかしらね?」
ルイズから視線を外し、虚空に目を向けてキュルケが誰にともなく問いかけた。
場を提供したフーケか。
魔法を唱えたティファニアか。
抗しえなかったミストバーンか。
違う。
「わたしの――」
そこから先をキュルケは言わせなかった。ルイズの唇に指を突きつける。
「そう思うならあんたが取り戻しなさい。くよくよしている場合じゃなくてよ」
彼も彼の主も何があろうと戦い抜く覚悟を持っている。自らの行いが招いた結果から逃げることはない。
故意ではなくとも大切なものを奪ってしまったのなら、召喚した者の責任として取り返さねばならない。
悲劇に酔う暇も、後悔に浸り続ける余裕も許されない。
「わたしに……できるかしら」
彼の主が声を届ければ、それこそすぐに記憶と心を取り戻すかもしれない。
だが彼女にできることなどほんのわずかだ。
重圧に押しつぶされそうなルイズにキュルケは激情に燃える眼差しを向ける。
「いっつもイノシシみたいなあんたらしくないわね、ヴァリエール。できるかどうかじゃない。“やる”のよ」
ルイズはハッとしたように顔を上げた。
そうだった。何もしないうちから諦める権利などない。
「でも、いいの?」
彼が記憶を取り戻せばトリステインに牙を剥くかもしれない。
物理攻撃はもちろん、『虚無』以外魔法の通じない相手に立ち向かうのがどれほど難しいかメイジならわかるはず。
安全を考えればこのまま放っておくのが一番だ。
「その時は戦うだけよ」
決まってるじゃない、とキュルケはあっさり言いきった。
使い魔として召喚された相手に怯え逃げ惑うのはプライドが許さない。貴族の恥となる状況を黙って見過ごす方が耐え難かった。
「やるかやらないか、あなたが決めること」
タバサもそう言いつつ頷く。
274 :
ゼロの影:2008/09/22(月) 21:09:28 ID:eIpLW7aL
もし彼女達とミストバーンの距離が他のクラスメートほどに遠ければ、危険の芽が摘み取られた程度の認識しか持たなかっただろう。
逆にルイズと同じくらい近ければ、問題の大きさに途方に暮れ、恐ろしい力を知るだけに踏み出せなかっただろう。
直接関わらず観察に徹していた距離だからこそ、そう言えるのかもしれない。
「可能性はゼロじゃない……それより自分の心配したら?」
キュルケにもわかっている。ルイズが暴走を止めようとしたのは自分が殺されるのが嫌だったのではなく、周りの者達が傷つくのを見たくなかったためだ。
「あなたが一番望むことは何?」
彼はただ一つのもの以外、全て切り捨てる覚悟がある。
「わたしが……」
自分の中で一番強い声に耳を傾ければ、答えはすぐに出てきた。
誇りにかけて彼の心を取り戻す。
それが、今最も大切なことだった。
死んだ魚のようだった目に輝きが宿り、意思の力を取り戻すのをキュルケは満足そうに眺める。
「タバサ。ツェルプストー。礼を言うわ」
目を丸くしたキュルケの眼の前でルイズは両手を自分の頬に叩きつけた。乾いた音が図書館内に響き渡る。
迷いの晴れた目で顔を上げた彼女にタバサがぽつりと呟く。
「彼の闇は深い」
彼の中に懐かしいものを見たタバサには何となくわかる。彼の過去も、背負ってきたものも。人形と化すほどの苦しみも。
ルイズの気持ちも理解できる。
心を壊された者を近くで見続ける辛さは、誰よりもよく知っているのだから。
「でも、どんな闇の中にも光はある」
半ば自分に言い聞かせるような言葉にルイズは頷き、立ち上がった。
275 :
ゼロの影:2008/09/22(月) 21:12:33 ID:eIpLW7aL
以上です。
二人の精神状態が心配です。攻撃されても反撃しないなんて……重症だ。
彼には奇跡補正が無いから「頑張れ」としか言えません。
私がキャッキャウフフを夢見れば夢見るほど、キャッキャウフフは私から遠ざかる。
ミスト召喚でそれはかなり無理がある気がいまさら(ry
影の人乙です。
まぁ数千年分も消せばそうなるわなw
元に戻った時にどうなることやら…イ`ルイズw
次回にwktk
>私がキャッキャウフフを夢見れば夢見るほど、キャッキャウフフは私から遠ざかる。
大丈夫だよ!ミストの記憶が戻ればキャッキャウフフ出来るよ!
海辺にて
「ほぉらミスト、つかまえてごらんなさーい(はぁと)」
「…………闘魔滅砕陣!」
どうみても殺し愛です。本当にry
人がいないようなので黒の核晶の番人召喚の小ネタ、投下します。
主のためなら命をも捨てる何気に熱い漢だと思います。
忠誠心篤いキャラを考えた時にミストバーンや親衛騎団の次に連想してしまう…。
〜黒の核晶の番人召喚小ネタ〜
何が、起こったんだ?
オレは確か老人の放った光の矢に消し飛ばされたはずじゃ……。
目の前には先ほどまでとは全く異なった光景が広がっていた。極寒の地ではなく陽光降り注ぐ穏やかな草原に、オレと、オレを呼び出したらしい人間達が立っている。
冷静になれと自分に言い聞かせて、オレは今までの人生を振り返った。
オレは昔、魔物の群れを率いて暴れ回っていた。そこらの魔族を絆の力――数の力とも言う――でなぎ倒し、そりゃもう好き放題にやっていた。
そんなオレを完膚なきまでに叩きのめし部下になるよう誘ってくださったのが、偉大なる主――大魔王バーン様だった。
魔界の神とも言うべき強さに心酔したオレは迷わず忠誠を誓い、誇りを持って仕えてきた。
ある時オレは数匹の魔物と一緒に呼び出され、危険な任務について告げられた。
極寒の地に落とす予定のピラァ。そこに搭載された黒の核晶凍結を防ぐための番人になれというのだ。
成功はすなわち死を意味する。
他の魔物達が尻込みする中、オレはためらいなく進み出て告げた。
「オレが……やります!」
オレはバーン様のためなら死ねる。誇張でも何でもない本心だった。
大魔王様の壮大な野望の礎となれるなら本望だ。
ミストバーン様は感心したようにオレを見つめてくださった。
そして、バーン様は満足そうに笑い、オレの志を嬉しく思うとおっしゃってくださった。
あの老人によって邪魔されたことは残念だが、今頃地上は消滅して魔界に太陽の光が降り注いでいるはずだ。
大魔王様はそれをご覧になってお喜びになっているだろう。
我が生涯に一片の悔いなし。
意識を現実の光景に戻すとピンクの髪の少女がオレに向かって「強そう!」「凄いわ!」などと騒いでいる。
周りの奴らもこちらに害を加える様子は無く、魔物の存在を当然のものとして受け止めているようだ。
奇妙な連中だ。
好奇心が湧いたため情報を得ようと目の前の少女に話を聞いてみた。
いわく、ここは魔界でも天界でもない全く別の世界。
帰る手段は無いと知らされバーン様のために働くことができないのが残念に思われたが、最大の使命は果たしたため心残りは無い。
召喚や儀式についての説明を聞きながらオレは思い切って第二の人生を歩むのもいいかもしれないと思うようになっていた。
ただ、使い魔として忠誠を誓う前にオレを呼んだ少女が第二の人生を賭けるに値するか確かめる必要があった。
果たして資格があるかどうか――とくと見せてもらおう。
「え、ちょっと、その“仲間になりたくなさそうな目”はいったい――」
「お前の正義をオレに説きたくば、言葉ではなく力で語れッ!」
そう叫んだオレは渾身の力で炎を叩きつけた。
完
投下乙でした。内容見るまでどのキャラの事なのかさっぱり分からなかったw
まとめサイトの方ではカウンターが昨日初めて2000突破してたね
この調子でじわじわ認知されていくと嬉しいな
280 :
ゼロの影:2008/09/24(水) 16:35:51 ID:aq/g6dgV
其の十四、16:45頃に投下します。
281 :
ゼロの影:2008/09/24(水) 16:40:40 ID:aq/g6dgV
其の十四 誰かが誰かであるために
彼はどことも知れぬ空間で、瓦礫にもたれかかるようにして身を横たえていた。冷たい地面は彼の身体を捕らえ、放そうとしない。
その前には巨大な扉があった。神の金属に似た神秘的な煌めきと岩山を思わせる重厚さがある。
それを開ければ大切なものが取り戻せる気がしたが、体に力が入らない。
どうしようもない深い疲労が全身を包んでいる。限界まで光の闘気で火あぶりにされたような気分だった。
力という力を根こそぎ奪われ、立ち上がることができない彼の足元に見えない手が忍び寄る。
どこまでも深い虚無が彼を引きずりこもうとしている。それに身をゆだねればもう苦しまなくてすむ気がした。
(――様)
呟きかけた名に首をかしげる。
じわりと力がにじんだが、すぐに手の中をすり抜けていった。
ルイズが自分の部屋に戻ると眠りから覚めたウェールズが困惑した様子で訊ねてきた。
「いったいどうしてしまったんだ? いくら話しかけても返事どころか反応すらしない」
記憶を闇に沈められた結果心が砕けたと告げると、ウェールズの顔に浮かんだのは憂慮ではなくまぎれもない怒りだった。
ルイズが意外そうに見つめるとすぐに消えてしまったものの、見間違いではない。ウェールズは視線を避けるように部屋の中を歩き回る。
「今のあいつ……彼は燃え尽きた灰のようですわ」
立ち上がるためのきっかけは何もない――そう悲観的な言葉を漏らすルイズにウェールズは穏やかに問いかけた。
「心当たりはないかい? 彼の記憶や心を取り戻すための何かに」
もちろんある。彼の主だ。だが、今大魔王からの声は届かなくなっている。
最大の望みが潰えた今、道しるべは無い。
ただ単に主のことを語って聞かせても心には届かないだろう。
ルイズは考えた。頭が痛くなるほど考えた。
そして結論を出した。
ルイズは草を踏みしめ、風を吸いこんだ。
タルブの村の草原に立った彼女らは夕焼けを待っていた。
壮絶なまでの美しさを誇る草原ならば彼の心をも蘇らせるのではないか。名を冠する通り“奇跡”が起きるのではないか。
そんな一縷の希望にすがったのだ。
キュルケとタバサも結果を見届けることを申し出たが今回ばかりは断った。もし成功した場合、直接的な関わりが薄い彼女達まで巻き込む可能性がある。
『からかう相手がいなくなっちゃつまんないから戻ってきなさいよ?』
『はしばみ草のジュース、完成させて待ってる』
まるでルイズの運命を見透かしたような言葉に対し、彼女は約束した。
必ず帰ると。
ゆっくりと太陽が沈みゆく中ルイズは待った。
草原が血のような赤に染まる。視界いっぱいに炎に焼き尽くされたような景色が広がる。
ルイズは期待に満ちた眼差しで彼を眺め――悲しげに笑った。
何の反応も無い。
「そう……よね」
奇跡が簡単に起これば誰も苦労しない。
彼自身奇跡を全く信じていないのだ。苦しい時だけ頼みにするつもりもないだろう。
282 :
ゼロの影代理:2008/09/24(水) 18:00:55 ID:M5YdRdtM
代理入りまーす
───────────────────────────
すみません、投下真っ最中という絶妙のタイミングで規制されましたorz
続きを代理投下していただけると嬉しいです。
日が沈んでも立ち去ることができないルイズは柔らかい草の中に座り込み、召喚してからの出来事を振り返った。
召喚直後、いきなり蜂の巣にされかけた。
「あの時は死ぬかと思ったわ……」
あれから何度命の縮む思いを味わっただろう。
授業で爆発を起こし、落ち込んでいた時にかけられた言葉は今でも覚えている。
「ゼロじゃないって信じることが出来た」
この時の会話がきっかけで爆発を肯定的にとらえられるようになり、練習を始めた。
望めば高みに上ることができると言っていたが、少しは上にいくことができただろうか。
フーケのゴーレムに苦戦していたのを助けられた。同時に底知れぬ恐ろしさを覚えたけれど。
舞踏会では魔界の主従の一面を垣間見ることが出来た。見た目通りの存在ではないと知って内面に興味が湧いたのもこの時だ。
特別授業では“心の力”を教わったが――。
「前向きなものじゃないけどね。憎悪とか憎悪とか……やっぱり憎悪とか」
無理矢理精神力を絞り出したため疲れ果てたことを覚えている。
高ぶる感情を抑制した結果、ルーンの光につながれ共鳴するような不思議な感覚も味わった。
どうやら『虚無』は怒りを源に発動するらしく、感情を増幅させるすべは役に立ちそうだ。
アルビオン行で忘れられないのはワルドの裏切り。ほのかに憧れを抱いていた相手の本性を知り、杖を向けた。
彼はウェールズと共闘し、命を救った。その戦いぶりを見られなかったのは残念な気もするがきっと恐ろしいものだったに違いない。
「いきなり空中に放り出すなんて……っていまさらか」
今立っているこの場所で、奇跡としか言いようのない美しい夕焼けを見て同じ想いを共有できた。太陽のない世界に住む者達と。
そしてとうとう、『虚無』に目覚めた。
『見事だ……ルイズ』
今までずっと“ゼロのルイズ”と呼ばれてきた。彼が、彼こそが、初めて“ルイズ”と呼んでくれたのに。
もう彼女の名を呼ぶことも無い。誰かを認めるだけの意思も無いのだから。
鳶色の目から涙がこぼれ落ちた。
認められ、救われた。今まで戦ってくれた。それに自分は応えることができたか。
――否。何もない。何もしていない。
それどころか最も大切なものを奪い、苦しませている。
主人である自分を尊重しろと思っていながら、相手にしたことがそれだ。
ゼロと呼ばれることに苦しんでいたのに、使い魔をゼロにしてしまった。心に虚無の穴をあけてしまった。
何のために召喚したのか。自分が召喚しなければ良かったのではないか。キュルケやタバサなら彼からもっと認められたのでは。
もしかすると彼女達なら絆を結べたかもしれない。主の記憶を奪われても、心を壊されぬほどに深い絆を。
一度疑い出すと止まらない。嗚咽が漏れ、後から後から涙が転がり落ちていく。
彼の傍らに立つウェールズが苛立ったように言葉を紡ぐ。
「君は僕を生かしたではないか。それなのに、君がこんな状態では憎むこともできん」
やはり反応はない。なおも挑発するように言葉を重ねる。
「逃げる気か? 君を必要とする者から」
283 :
ゼロの影代理:2008/09/24(水) 18:03:06 ID:M5YdRdtM
その時、彼の中で否定の声が響いた。
――からは逃げられない。
逃げるつもりもない。
永遠に仕えると誓ったのだから。
空が白み始めると心の中で何かが動き、体を持たぬ彼が心臓が脈打つような感覚を抱く。
決定的になったのは山の稜線から現れた日輪を目にした瞬間だった。その姿は誰かによく似ていた。
優しく照らすだけでなく、弱き者を容赦なく焼くようにも見える輝きが、ある語を浮上させる。
――焼き尽くすもの(バーン)。
それをきっかけとして生涯を決定づけた言葉が闇の中から現れた。
『お前は余に仕える天命をもって生まれてきた』
全てはそこから始まった。
忌み嫌っていた力を認め必要とした主の言葉は、どれほど月日が流れても、何があろうと、忘れることはない。
彼の内に灯がともる。
『あの太陽は魔界を照らすために昇る』
太陽は昇る。
生きとし生ける者を照らすために。
たとえそれが異世界の住人であっても。
心の欠片が、闇の中から浮上した記憶の鎖の切れ端で少しずつつながっていく。主の象徴たる不死鳥が灰の中から蘇るように。
炎が司るものは浄化と再生。
ゼロからの再生。
「バーン……様……!」
厳かに、恭しく名を呟く。神聖なものに触れるかのように、畏敬の念に震えながら。
それ以上思い出しては苦しむことになる、忘れたままでいろという声がどこかで聞こえる。
逃げれば苦しまずに済む――囁きを彼は冷たい手で払いのけた。
「逃げ出した先に……安楽などあるものか!」
この先さらなる苦難が待ち受けていようと退かない。退くわけにはいかない。
大魔王の名を守り通すためならば、主はどんな強敵が相手だろうと逃げずに戦うに違いない。全てを捨ててでも強くなり、拳を握りしめ、地を蹴り、立ち向かうだろう。
それは彼も同じこと。
主を守るためならば、神が相手だろうと戦う覚悟は何千年も前からできていた。どれほど時間が経とうとその覚悟が錆びることはない。
このままでは終われない。
彼が彼であるために、今まで歩んできた意味がゼロではないと証明するために、立ち上がる。
主の存在がある限り、何度でも。
かすかに開きかけた扉はそれ以上動かない。ならばどうするか――決まっている。
掌に全ての力を込める。
暗黒闘気から成る彼の最強の技。名に主の肩書の一字を持つ技の中で最後の、神の金属をも容易く砕く掌圧。
「闘魔最終掌!」
切り札を叩きつけると扉は粉々に砕けた。その向こうから陽光のような金色の閃光が溢れ全身を包みこむ。
数千年にわたる記憶の奔流が彼の中に流れ込み、無数の光と音が駆け巡る。
聞こえてきた一言が翻弄される彼の意識をつなぎ止めた。
「ミストバーン!」
彼の背から放たれる力を感じ、立ち上がった少女が叫んだ。初めて名を呼ばれたと彼が意識したかどうかわからない。
その叫びが一瞬にして完全に悟らせる。自分が何者か。何をすべきか。
大魔王の影。主を守り抜き、戦い続ける者。
284 :
ゼロの影代理:2008/09/24(水) 18:07:06 ID:M5YdRdtM
「バーン様……!」
かすれた、しかし力強い声を聞いたルイズが嬉しそうに微笑み、その顔が凍りつく。
まるで再び夜が訪れたかのような錯覚に襲われたためだ。
心臓が握り潰されるような痛みが胸に走り、顔が歪む。
「あ……ああ……!」
呼吸ができない。かすれた声を絞り出すことさえままならない。
全身を鎖で締め付けられていくような凄まじい圧力を感じる。
憎悪は予想していた。
ティファニアに続行を命じ、苦しませた責任を担った。抵抗できないのをいいことに言うことを聞かせ、爆発を食らわせまでした。
誇りを傷つけられたのに屈辱を感じることすら許されなかったのだ。怒らないはずがない。
いざとなれば戦う覚悟も固めていたはずだった。
それを容易く打ち砕く絶対的な恐怖。
これが、魔界の王の半身の殺気。
これが、最も踏み込まれたくない領域を汚された者の激怒。
本気の怒りを放つ影が、ゆらりと振り返った。
285 :
ゼロの影代理:2008/09/24(水) 18:09:34 ID:M5YdRdtM
以上です。
ようやく其の五の冒頭とつながりました。
次話、其の十五 罰。
急展開を迎えます。
──────────────────────────────
代理終わりましたー。
さあルイズさん、罰の時間ですが生き残る事が出来ますでしょうか?
次回にwktk
乙だが・・・
ルイズ死んだなこりゃ
乙ですルイズはこの先生きのこることができるのでしょうか
そして何とかっこいい「大魔王からは逃げられない」
ルイズはもはや名前をクズに変えた方がいいんじゃね?
ってくらい足引っ張ってるな
まるでカツだ
>>288 そんなこと言うな!
そんな…カツに失礼だろw
代理投下ありがとうございました!
一番しんどい気がする其の十五、投下します。
ここさえ、ここさえ過ぎれば……!
其の十五 罰
ルイズは怯えていた。
本物の怒りに。純然たる殺意に。今まで彼を恐ろしいと思ったことは何度もあったが、全く比べ物にならない。
共に戦い強さを実感したウェールズでさえ目を見開き凍りついている。
ルイズを庇おうと足を踏み出しかけたが、彼女自身が拒否してミストバーンの前に進み出た。
覚悟を遥かに上回る剥き出しの殺意と憎悪が心を切り裂いていく。
彼をここまで怒らせたのは自分だという事実が何よりも悲しかった。
それでも憎悪の化身から目を逸らすことはできない。自らの行いが招いた結果から逃げるわけにはいかない。
(わたし、死ぬのね)
フーケとの戦いで彼に殺されるかもしれないと恐怖した。今、その予感が現実になろうとしている。
「……ごめんなさい」
別れが近いと思うと素直に言える。
同じ目に遭えば自分も相手を許せないだろう。わざとではなかった、で済むような過ちでも相手でもない。
使い魔からこれほど真剣に見つめられるのは初めてだという想いが、不思議な安らかさをもたらした。
杖を構えたものの抵抗は無意味だとわかっている。いかにルーンが力を発揮しようと、こうなった彼を止めることはできない。
彼女は激痛の後に訪れる死を覚悟した。
だが――何も起こらない。
彼は腕を握りつぶさんばかりに掴み、自分を抑えるのに全力を傾けているようだ。全身が凶暴な衝動を訴えているのに。
「わたしを……殺さないの?」
眼光は彼女を射殺さんばかりだ。灼熱の怒りが草原をも焼き尽くすほどに迸っている。それなのに最大限に自制心を働かせ、攻撃を押しとどめている。
答えは血を吐くようだった。
「大魔王さまのお言葉は全てに優先する……!」
どれほど殺したくない相手でも大魔王のためならば容赦なく殺す。その逆もまた然り。
『お前はその娘を守り抜け。騎士……シュヴァリエのごとくな』
明言されていなければ、あるいは単に協力しろというだけならば殺しただろうが、下された命令に逆らうことはできない。
主への忠誠こそが、彼にとって譲れぬものなのだから。
「バーン様は言われた! 貴様を守り抜けと!」
――ああ、やっぱり。
彼女の心を静かな諦めが包んでいった。
『私が守るからだ』
(守るって言ったのも命令でしかなかったんだわ)
それ以外無い。そこに少しでも彼自身の意志があると思ったのは勘違いにすぎなかった。
彼は力にしか興味がないとわかっていたはずなのに、何を期待していたのだろう。
大魔王のために『虚無』を手に入れようとしているだけだ。ルイズ自身は必要とされていない。
ワルドはありもしない力を求め、ミストバーンは目覚めた力を求めた。違いは甘い幻想に包んだか否かということだけだ。
努力する姿勢を認められたと思ったのも、ゼロではないと言われた気がしたのも、きっと――。
認められたと思って喜んでいた自分がひどく馬鹿らしく、こっけいな道化に思えた。
(なんだ……わたしのやってきたことって、結局――)
少しずつ築き上げてきたものが、自分を支えてきたものが、ガラガラと崩れ落ちる音が聞こえた。ゼロになるのを実感した。
彼を召喚できたのは何かの間違いだと――今までやってきたことに何の意味もなかったと思い知らされることが罰なのかもしれない。
残ったものは、彼からの深い憎悪だけ。
心を虚無が蝕み力を削ぎ落していく。今彼女はウェールズがぞっとするような虚ろな表情を浮かべている。
唯一の救いは、彼女への怒りが大きいあまり他の者達に危害を加える様子は無いことだ。
ひどく空虚な気分になったが、それこそがふさわしい気がした。
一方ミストバーンは、ルイズだけでなく自分自身に腹を立てていた。
いくら『虚無』が強力でも全力で立ち向かえば耐えられたかもしれない。ルーンの働きもあったとはいえ抵抗できず、こんな事態を招いてしまった。
完全でなくても使命を見失い、守るべきものを守りきれなかったことが許せなかった。
ほんの一瞬とはいえ偽りの安らぎの中に浸ってしまった。
(何が……何が“バーン様の部下”だッ!)
醜態を晒し、主の信頼を裏切ってしまった悔しさのあまり体が震える。
主が知れば厳しい罰を与えるだろう。それでも許されるかどうかわからず、任を解かれ処刑されるかもしれない。
ルイズと自分自身への怒りが極限にまで達し、それを無理に抑え込もうとした時――それは起こった。
授業の時と同じようにルーンが輝き、伸びた光がルイズと彼をつなぐ。前回は感情の高まりと抑制に呼応して共鳴するだけだったが、今回は違った。
ルーンを媒介として彼の膨大な感情――怒りがルイズに流れ込んでいく。
無意識のうちに『始祖の祈祷書』を開いた彼女はページをめくり、浮かんだ文字を朗々と詠唱する。
――ユル・イル・ナウシズ・ゲーボ・シル・マリ
からっぽだったルイズの中に入った感情はうねり、高まり、『虚無』の力へ変換されていく。
――ハガス・エオルー・ペオース
詠唱をなおも続ける。彼女が唱えている呪文の名は世界扉(ワールド・ドア)。
やがて杖を振り下ろすと水晶のようにキラキラ光る小さな粒が空中に現れ、鏡のように光景を映し出した。しかしそこに映っているのはルイズが見たこともない暗黒の世界だ。
人が通れるほどの大きさまで膨らんだ扉を見て彼女は痺れた脳の片隅でぼんやりと考えた。
タルブの村で大半の力を使ってしまったはずなのに、これほどの大きさの扉を作り出すことが出来たのは彼の感情とルーンの働きだ。
特に、流れ込んできたものの中の一部は莫大な力へと換わった。まるで圧縮されたエネルギーの塊が解き放たれたように。
疑問を解決するより先につながった先が魔界だと知ったミストバーンはためらわず歩いて行く。共に来いとも言わないまま。
ウェールズは約束を果たすために従い、ルイズは立ち尽くした。
扉の先に何が待っているのか分からない。行けば戻れないかもしれない。
それでも――このままでは終われない。
「わたしも、行かなくちゃ」
ルイズは力を振り絞り、彼らを追った。
彼を召喚したことの意味を確かめるために。
魔界に到着した途端ルイズ達を襲ったのは魔物の群れだった。
咄嗟に杖を向けて爆発を起こそうとしたが何事も起こらない。完全に精神力を使いきってしまったようだ。
ルイズを守ろうとしたウェールズは複数の敵に囲まれてしまった。無力な彼女に鋭い爪が迫り――銀の光が次々と敵を穿ち引き裂いていく。
ミストバーンが、彼女を守っている。本心はどうあれ指一本触れさせまいと力を尽くしている。
共に戦っているウェールズがふと訝しげな顔でミストバーンを見つめた。戦いぶりにどこか違和感を覚えているようだ。
『バーン様は言われた! 貴様を守り抜けと!』
心にどうしようもなく苦いものが広がるのを感じながらルイズは空を見上げた。
何が足りないのか、千の言葉より雄弁に語る暗黒の空を。
敵の集団を片付けたミストバーンはルーラを唱え大魔王の居城へ向かった。
真っ先に主の無事を確認して安堵したのも束の間、合わせる顔が無いというように俯く。
客人に歓迎の意を見せた大魔王が反応に目をとめ何があったのか問うと、言葉もなく身を震わせる。
ルイズは戸惑ったように彼を凝視した。
(怯えてる? こいつが?)
あれほど強く冷酷な彼が、威厳は感じるものの外見は普通の老人に恐怖するなど信じられない。
釈然としないままルイズが代わりに経緯を説明すると、部下の味わった苦しみを誰よりも理解しているはずの大魔王は冷然と告げた。
「罰を与えねばなるまい」
「でも……!」
ルイズが言い募ろうとするのを制し、罰を受けるのは当然だというようにミストバーンが進み出る。
その体がわずかに宙に浮き、両手が上がる。見えない十字架に磔にされているように。
大魔王が手を差し伸べると黒い波動が走り、彼の身体に突き刺さった。圧縮された暗黒闘気が撃ち込まれたのだ。
空中に固定されていなければ今の一撃で吹き飛び壁に叩きつけられただろう。
「ぐああ……ッ!」
彼女の顔から血の気がさっと引き、拳に力がこもる。自分が目の前の光景を作り出してしまった――その一念が心を押し潰そうとする。
彼は苦痛の声を押し殺し、続く攻撃に耐える。
二度。三度。
鈍い音が空気を震わせるたびに体がわずかにはねる。
大魔王の面には冷ややかな怒りがわずかに浮かんでいるだけで表情は無に近い。チェスの駒を動かすような態度だ。
彼の前に飛び出しかけたルイズをウェールズが止める。手加減の有無にかかわらず彼女が食らえば一撃で死んでしまう。
「放して! あいつは悪くないもの、代わりにわたしが――!」
ふりほどこうと必死にもがくルイズを痛ましげに見やり、言葉を絞り出す。
「罰を受けなければ、彼は自責の念に苛まれることになる……! 庇ったところで苦しむだけだ!」
そんな精神状態では力を発揮することもできない。
実際、到着直後の魔物との戦闘では力を出し切れていないようだった。共に戦ったことのあるウェールズだからこそわかる。
残酷だが前に進むためには必要なことなのだろう。
庇うことでルイズの気は済んでも、本人には逆効果になる。
認識の甘さを悟ったルイズの動きがピタリと止まる。しばらく俯いていたが、やがて顔を上げた彼女の眼は悲痛な色に染まっていた。
「見てることしか……できないなんて……」
しょせんできることなど何もない、彼との関係はそんなものだと言われているような気がした。
奮い起こした勇気を深い絶望があっけなく飲み込んでいく。
ワルドが最期に告げた言葉が心を支配していく。
何も出来ないのも当然だ。
なぜなら自分は“ゼロ”だから。
避けることも、防ぐことも、倒れることすら許されない無慈悲な攻撃。人間にたとえるならば銃弾を撃ち込まれ続けるようなものだろう。
(これが魔界の――大魔王の流儀ってわけ?)
肩書からは想像できないほど理知的で知らぬうちに安堵したのだが、魔界に君臨する王が穏やかなだけであるはずがない。
惨い光景から目をそむけそうになるのを必死でこらえる。本来ならば自分が味わうべき苦痛なのだから。
その顔色は蒼く、きつく噛み締めた唇から血が滴り落ちる。
無力さを思い知らされる――これこそが本当の罰なのかもしれない。
今にも切れそうな精神の糸をかろうじてつないでいるのは傍らのウェールズの存在だった。
力が抜けそうになる彼女の体を支え、万一危険が迫ればすぐさま守れるように張りつめた空気を身にまとっている。
同じ貴族。同じハルケギニアの住人。同じ――人間。
一人だけならば耐えられなかった。
どれほどの間攻撃が続いたのかわからない。
「あ……」
不可視の戒めを解かれた彼の体が落下し床に膝をついた。
倒れそうなのをこらえ、立ち上がる。それだけの動作も辛いようだ。
先ほどまでの無表情が嘘のように大魔王は客人に笑いかけた。今度は自分の番かと身構えるルイズに否定するように手を振ってみせる。
「安心せい、そなたに同じことをするつもりはない」
「でも、あいつがあんなことになったのも、全部わたしが――」
痛い目になどもちろんあいたくないが、自分だけ逃げるのはもっと嫌だ。
恐怖をこらえ気丈さを見せるルイズに大魔王は面白いと言うように笑った。
「代わりと言ってはなんだが少々力を貸してもらう」
「え?」
大魔王がすっと笑みを消して呟いた。
「困った事態になったのでな」
以上です。
ルイズの精神が限界に近づいてますが、同じくらいミストの心と体がギリギリです。
「グチグチ言わずビンタ一発」のつもりが……あれ?
他に考えた罰はどれもさらに厳しいものになったので却下。
客の目の前で罰するのはどうかと思いますが、魔界基準ということでお願いします。
次で最終話の予定だったのですが、張り切ったらぎゅうぎゅうで駆け足な感じになってしまいました。
最終話を前後編にわけるのはアリでしょうか?
ありです
世の中に一巻を上下に分けたりしたライトノベルがあってだな・・・
それくらいどうってことないのさ。
タイトルをちょっと弄ったり足したりして続く漫画なんかもあるな
後後後後後後後後日談ってやってるのを見たことがある。
続、とか続続、また又、新、ニュー、と来て最後に痛快と来たりするんですね。
さらにその先にはおじいちゃん物として再構成の道が
なんだか知らぬがとにかくよし!
あとちょっとだけ続くはずが、ちょっとじゃなくなってたのもあるわけだしアリです。
305 :
ゼロの影代理:2008/09/29(月) 13:56:51 ID:VuoKspi1
代理投下参ります
306 :
ゼロの影代理:2008/09/29(月) 13:57:34 ID:VuoKspi1
代理投下ありがとうございました!
前後編に分けることにします。
ウェールズの見出す答えは。
ミストバーンの苦難の果てに待つものは。
ルイズの行く道の先にどのような光景が広がっているのか。
“二人”の出会った意味とは。
…いよいよ最終話です。
前編を投下します。
最終話 ????? 前編〜世界が輝く時〜
大魔王はルイズ達を玉座の間から適当な部屋の一室に案内した。
魔界の王の住居なのだからさぞかし陰鬱なのだろうと思っていたが、その典雅さはトリステインの王宮にもひけをとらない。
部屋の中央には不思議な光沢を放つ金属でできているテーブルが置かれ、その周りには椅子が何脚か並べてある。
大魔王が“困った事態”について語り始めるとルイズは警戒を強めた。
『虚無』の力はトリステインやハルケギニア全体のために役立てたい。魔界の勢力争いの道具になるつもりは全く無い。
内心を見抜いたかのように大魔王は悠然と笑ってみせた。
「敵対する輩と戦えというのではない。それこそ、ミストバーンや余の得意とするところだからな」
冷酷な一面を見たため頷きかけたが、ふと疑いが首をもたげた。ミストバーンは罰を抵抗せずに受け入れていたが、もし全力で戦ったら本当に大魔王は彼を圧倒できるのか。
凄まじい威圧感と覇気は肌に突き刺さるようだが、外見はあくまで老人である。
ルイズの疑念を見抜いたのか大魔王は悪戯を思いついたような表情を浮かべ立ち上がった。テーブルから離れるよう身振りで示し、二人が下がると軽く指を弾く。
爪ほどの大きさの火がチロチロと燃え、テーブルに触れた瞬間轟音とともに巨大な火柱を形成し、真紅の炎を天井まで立ち上らせる。
スクウェアクラスのメイジでさえ破壊するのに苦労するであろうテーブルはあっけなく焼かれ、融かされた。
二人の表情をどう受け取ったか、火事にはならんから心配するなと告げる。
「ス、スクウェアスペル!?」
「しかし、詠唱は無かったようだが」
「今のはスクウェアスペルではない……ドットだ」
二人にも理解できるようハルケギニアの言い方に合わせたようだ。
力を実感させる機会を見つけ、こちらを威圧し、屈服させようとしているのだろうか。甘く見られているのだとしたら、なおさら退くわけにはいかない。
そう思って睨みつけると「これは失礼」と言った。二人の驚く顔が見たかったらしい。
(そういえばずいぶん退屈してたわね)
自分の魔法で他人をあっと言わせたい気持ちはわかる。珍しい客人が相手ならばなおさらだろう。
座り直した一同に話を続ける。
307 :
ゼロの影代理:2008/09/29(月) 13:59:14 ID:VuoKspi1
「今見せた通り、単なる戦いならば話は簡単だ。……だが見たであろう。魔界の姿を」
黒く厚い雲に覆われた暗い空。見渡す限りの荒れ果てた大地とたぎるマグマばかりが広がる世界。
最大の特徴として生物の源たる太陽が無く、人工の太陽は生命を育むほどの暖かさは持たない。
「その魔界の太陽に異変が生じたのだ」
今まで定期的に大魔王が魔力を注いでいたのだが、徐々に光が弱くなっているのだという。単に魔力を込めるだけで良いなら大魔王一人で解決できるが、問題は根本的なものらしい。
「偽りとはいえ太陽は太陽……それも無くなれば魔界はさらなる闇に閉ざされる」
あまり考えたくない事態だ。不明な点が多いためウェールズは考え込み、質問した。
「その太陽はあなたが作ったのでは?」
「直接には関わっておらん。六千年ほど前、一人の男が礎を作り出したが――詳しい情報を掴む前にすぐ姿を消してしまいおった」
六千年という言葉にルイズとウェールズの空気が変わる。
「始祖……ブリミル?」
あくまで可能性にすぎないが、『虚無』の使い手たるブリミルの仕業だと考えられなくもない。生涯が謎に包まれているため一時的に魔界に迷い込んだこともあり得る。
魔界の魔法とブリミルが扱ったとされるものには似通った部分がある。ただの偶然ではなく、彼の魔法の一部が元となって伝わっている呪文もあるのかもしれない。
ハルケギニアの知識を得る中で始祖について知った大魔王は、『虚無』の使い手こそが鍵を握ると考え、つながりが弱りつつあってもミストバーンを呼び戻そうとはしなかった。
何も言われずとも『虚無』に関する情報を探るであろうことを読んでいたためだ。
「お前は何があろうと余のもとに戻るからな」
確信に満ちた声に影が頷く。
事情を知ったルイズの心に協力したいという思いが芽生えた。
人工太陽の礎さえ作ってしまえば、大魔王が定期的に魔力を注ぐだけでいいためそこまで多くの精神力は必要としないらしい。
世界扉の時のように彼の力を借りれば成功させることができる。
勢力争いに利用されるのではなく、魔界全体のためになるなら問題は無いだろう。
だが、申し出ようとして彼女は力なく俯いた。
伝説の『虚無』の使い手でありながら、彼の苦しみを見ていることしかできなかったではないか。
『虚無』を完全に使いこなせるとは言えない。本当に、偉大なる始祖の行ったことを真似できるのか。
――出来ない。
そう言おうとした彼女に低い声が響く。
「やれ」
「でも! ……始祖のように『虚無』を扱える自信なんて無いわ。わたしには何もできない……“ゼロ”なんだから」
絶望に染まった声が室内に響き渡る。
「あんたは『虚無』だけが目当てでそれ以外ちっとも認めてなくて……『虚無』が無ければ、ただのゼロだって思って――!」
言いながらルイズは自己嫌悪に陥っていた。こんな言葉をぶつける資格はない。
大魔王にはなれないという当然のことを知っていながら、大魔王に対するものと同じ忠誠を望んだ。
その結果起こったことや彼の苦しみを考えればもっと酷い言葉で非難されても仕方がない。
今も口にしないだけで激しい怒りをみなぎらせている。
それでも彼は首を横に振った。
「私は強者には敬意を払う。……許せん相手であってもだ、ルイズ」
彼の尊敬する対象は敵味方を問わない。相手が命を落とそうと抱いた敬意が消えることはない。
ルイズの肉体は強くないが、心はそこらの戦士よりよほど強靭だ。ゼロと呼ばれ続け、逆境の中何度も諦めずに立ち上がり、努力してきたのだから。
『虚無』は彼女の心の力を元に放たれるのだから精神力も立派な強さだ。
308 :
ゼロの影代理:2008/09/29(月) 14:00:39 ID:VuoKspi1
「嘘……嘘よ……」
誤解を悟ったルイズの顔が歪む。
ゼロではないと言われた気がしたのは思い込みではなかったのか。努力や逃げない姿勢を評価されたと思ったのも。
“ルイズ”として認めていたのか。
言葉に込められた響きは教室の時とわずかに異なっている。その中にあるのは本物の――。
信じられないと言いたげな彼女を見てウェールズが苦笑をにじませた。
「嘘かどうか、君が一番わかるはずだろう?」
表情を改めるとミストバーンに向き直り、深々と頭を下げる。
「命の恩人に……それも僕を救うため傷ついたというのに、あのような態度を取ってすまなかった。非礼を許してほしい」
ウェールズの謝罪にルイズは驚いている。憎むこともできないという言葉の意味や、どんな感情を向けていたかを知ったのだ。
「今まで暗い霧の中に隠れて思い出せなかったが、倒れた僕を爆発から庇ってくれた」
爆発を起こしたのも敵前逃亡の汚名を着せないため。彼一人ならば爆発の規模が大きくても対処できたはずだ。
ルーンが働いていてもウェールズの誇りを守ろうとした意思に偽りはない。
もはやウェールズの眼から怒りや憎しみの色は消えている。
その眼はもう一つの道を見据えていた。ハルケギニアに戻り、歩き出すことができるだろう。
辛く苦しい道のりになることは間違いない。
安易にアンリエッタを頼っては愛する者の国に戦いの火種を持ち込むことになり、彼女も恋人の命惜しさに自国を危機に晒したなどと言われてしまう。
レコン・キスタにどのように立ち向かうか、どこまでやることができるのか、まだわからない。
それでも――。
「君の姿を見ておきながら、うずくまったままでいるわけにはいかない」
傷つき、疲れ果て、それでもなお消せない想いがあるのなら立ち上がるしかない。
『もし、もう一度守る機会が与えられたならば――』
やはり、戦う。
それがウェールズの見出した答えだった。
自分が自分でなくなるという苦しみを味わった二人の間に、礼拝堂や戦場での空気が蘇る。
「君はラ・ヴァリエール嬢の名を忘れはしないだろう?」
憎しみだけでなく敬意を込めて、永久に記憶に刻むか。
ウェールズはそう訊いている。
かすかに、だが確かに頷く。それだけでルイズには十分だった。
ゼロになっていた力が蘇る。灰の中から復活する不死鳥のように。
彼らの立ち上がる様を見て心の力や本当の強さが何なのかわかった気がする。その姿はとても眩しいものとして彼女の眼に映った。
(悔しいけど……認めるわよ)
主への姿勢に嫉妬を覚えたけれど、同時に感嘆――尊敬していたのだと。
彼を見て、全てを懸けて誰かのために行動することの重さを知った。
忠誠を語ることは容易い。だが、真に口にする資格のある者はごく少数だ。
『大魔王さまのお言葉は全てに優先する……!』
それ以上言葉はいらない。
『怖いさ。でも、守るべきものがあるからね』
ウェールズが戦いを選ぶのもそれだけの理由だ。
二人ほど強くなくても、何も行動しなければ貴族を名乗れない。彼から向けられる敬意以外の感情も変わらない。
これ以上何もできないまま見ているだけなどまっぴらだ。
ここで諦めるくらいなら――ゼロと蔑まれ続けた時点で進もうとする意志を放棄している。
「やるわ」
ルイズは顔を上げ、宣言した。彼女が彼女であるために。
思わず「言わなきゃわかんないんだから、ばか」と憎まれ口を叩いてしまったが。
つい先ほどまで青ざめ唇を噛んでいた少女と同一人物とは思えない。今彼女の眼はハルケギニアにいた時より烈しく燃えている。
大魔王は満足そうに頷き、ルイズ達を案内した。
309 :
ゼロの影代理:2008/09/29(月) 14:02:16 ID:VuoKspi1
四人が向かったのは魔界を見渡せる広大な丘の上だった。
彼らの見上げた先には人工の太陽がある。ブリミルはここで魔法を唱えたらしい。
ルイズは唾を呑みこんだ。
本当にできるのか。世界扉を作り出したのも、彼の力が流れ込んできたのも、何かの間違いでただの偶然ではないのか。
だが――
『お前が望むならば……高みへ上ることができる』
やらねばならない。出会いの――今までの歩みの意味がゼロではないと証明するために。
覚悟を決めて『始祖の祈祷書』を開く。手が途中で止まりかけたが、再びめくって眩しく輝くページを開ける。
息を深く吸い込んで詠唱を始める。
ゼロと呼ばれながらも諦めなかった『虚無』の使い手ルイズ。
ゼロからの再生を遂げた大魔王の部下ミストバーン。
ゼロとゼロ。
ルーンが輝き二人をつなぐ様を見た大魔王が呟いた。
「ミストバーンよ、今わかったぞ。何故お前がその娘――ルイズに召喚されたのか……!」
彼はどす黒い思念から生まれた暗黒闘気の生命体。いわば怒りや憎しみの結晶と言っていい。そのため、純度の高いエネルギー源となる。
先ほどは怒りと暗黒闘気の一部分が勝手に流れ込んだだけだが、あらゆる感情と自身を形成する暗黒闘気を意識して注ぎ込めば――その力は爆発的に跳ね上がる。
授業の時は共鳴を起こしただけだった。世界扉の時は調節できなかった。自在に力を与えることができるようになった要因は、時間の経過ではない。
ルイズは授業で掴んだ感覚や今まで味わった暗い想いを呼び起こし、流れ込んだ力を増幅させていく。
だが、まだ足りない。
もっと――もっと力を。
無音の叫びを聞いたミストバーンはためらわずさらなる暗黒闘気を注ぎこんだ。大魔王がそれを見て鋭い光を目に浮かべる。
己の身体を削る行為にウェールズが息を呑む。
「何故……何が君をそこまで駆り立てる!?」
処罰の痛手から回復していないのに、存在を維持する力をも振り絞り、自らの生命をすり減らし続ける。
「この忌わしい体が……お役に立てるのだ……!」
(君は――!)
いざとなれば主以外の存在を道具と割り切れることにウェールズは気づきつつあった。おそらくは彼自身も例外ではないだろう。
そして、肝心な時に役に立てなければ道具にすらなれない。
もう二度と主の信頼を裏切らないために、残された力を放出する。
今ここで譲れぬものを語るために必要なのは、言葉ではなく行動――“力”だ。
制止しようとしたウェールズは立ち尽くした。
この時、彼を止めるべきだったのかもしれない。
だが何を言おうと無駄だとその姿が告げていた。
視線がルイズの蒼い顔に向けられる。人間の身でこれほど膨大な力を扱おうとすれば大きな負担が生じるはず。
ミストバーンにいたってはその先に破滅が待つというのに止めようとしない。
以前ウェールズはアンリエッタとの最後の逢瀬を条件に力を貸すと約束した。
懇願という形を避けただけで、いつ果たす機会が訪れるかわからなかった。戦闘に関してはミストバーンは彼より強いのだから。
だが、ようやく理解した。
「今が、その時だ」
310 :
ゼロの影代理:2008/09/29(月) 14:05:28 ID:VuoKspi1
ルーンが光を増した。
ウェールズの掌から放たれた黒い霧――かつてミストバーンから注がれた暗黒闘気の一部がルーンを通じてルイズの中に入っていく。
憎悪と敬意を向けあった者達が、ルーンを介して結ばれる。
ルーンがなければ、ウェールズを生かすことも、人形になることもなかった。
ルーンがなければ、世界扉で戻ることも、こうして共に“戦う”こともなかった。
ようやく詠唱を終えたルイズは凄まじい力が脈動するのを感じた。
そして思い描いた。
憎悪の闇の中で輝く光を。
自分達の抱いた絶望が、希望の象徴へと逆転、昇華される様を。
太陽となって天空から世界を照らす光景を。
――太陽を我が手に。
「極大天候呪文(ラナルータ)」
天候系呪文(ラナ)。あるものは雷雲を呼び、あるものは昼夜を逆転させる。
『虚無』の使い手から空を操る魔法が放たれ、何かをゼロにする。
天が叫ぶ。地が唸る。
荒れ狂う力が濁流と化して丘の周囲に渦巻き、中心へ向かい術者達をも押しつぶさんとした時、大魔王が手を掲げ結界を張った。
その眼は状況を把握しようとわずかに細められている。
人工の太陽が作られた時もここまで空気が震えるようなことはなかった。光源の礎を作り出すだけならばそれほど消耗しないはずだった。
必要な力を計算して罰を与えたが、想像を超える事態が起ころうとしている。今、目の前で。
障壁とせめぎあった後、莫大な力が杖の先端が示す先――天空へと駆け上り頂点に達する。
その瞬間、世界が輝いた。
光に目を奪われた大魔王からほんの一瞬だけあらゆる表情が抜け落ち、空気が鎮まると広大な丘は空の一帯から降り注ぐ光に包まれていた。
黒雲が払われた隙間から覗く色は青。丘の周囲を力の残滓と思われる金色の粒子が乱舞し、淡い煌めきを放ってゆっくりと消えていく。
ルイズ達は言葉を失い、壮絶な美しさにただ見とれていた。
奪われ、待ち望んでいたものがようやく手に入ったかのような感覚。
今までに味わった苦しみの全てが吸い込まれ、溶けていく気がした。
宙を舞っていた光の粒が消え、今までと同じ暗黒の世界で変わったのはただ一点。
彼女達の立っている丘とその周辺に雲間から光が差し込めていた。
――偽りではない、本物の陽光が。
最終話――『太陽は昇る』
311 :
ゼロの影代理:2008/09/29(月) 14:07:05 ID:VuoKspi1
以上です。
後編で少し説明がありますがラナルータは微妙にアレンジされています。
自然に浮かんだ場面を書き加えていく内に、いつの間にか三人とも予定と予想を大幅に上回る根性を見せることに。
黒の核晶爆破前のハドラーとの会話が強く印象に残っていたため「敵との戦い以外で忠誠心を表現できないか」という思いが常に心にありました。
少しでも描けていれば幸いです。
読み返して「三人は本当に耐えられるか、ミストはここまでやるか」と疑問が浮かぶたびに「耐えられる、バーン様のためならやる」と、どこからともなく答えが返ってきました。
「オレは奴らが苦しむのが好きなんじゃねえんだ……苦しくても立ち上がるのが好きなんだよォッ!!」的な……すみません闘魔滅砕陣と極大エクスプロージョンのコンボはやめ(ry
とりあえず、作者の頭の中を解剖したい。
なんてコメントすりゃわかんねえよ/(^o^)\
もちろん良い意味でだよ?良い意味でだよ?
おお、すごいな。
確かに喧嘩ならバーン様が絶対勝つが、こういうトンデモな現象起こすにかけちゃ虚無の方が向いてるな。
トンデモ現象とはちょっと違うような気もするがこの祈祷書にならパルプンテも載ってそうだ
316 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 07:27:07 ID:Wt1Kva5V
おおっ!歴史が変わった!!(魔界の)
最終話のタイトルがタイトルだけに大神の同名BGMを流したいな。
なんでこう影の人は俺の心の琴線をかき鳴らして一曲仕立ててくれるのか
影の人は次回最終回かぁ。是非とも期待してます
けどこれが終わってしまうと、獣王氏も爆炎氏も忙しそうだしますます過疎りそうだ…
ここらで新たな職人さんとかがひょっこり来てくれないかなあ
319 :
384:2008/10/03(金) 13:57:10 ID:9lRLwIap
ロン・ベルクを召喚したら、
デルフが粉々に……
逆に、ロン・ベルクの技に耐えられる剣がデルフにすればおk
敵の悲鳴に紛れて、デルフの悲鳴が響き渡る戦場。なんてシュールな。
デルフ的には「ちょ、相ぼ(ry ギブ、ギブッ!」って具合だけど、
ギリギリ耐えられてしまうから存分に使われて地獄をみるデルフ。
ロン・ベルク「吸収とか俺の鎧シリーズより凄くね?」
ロン・ベルクって二刀流だからデルフだけだと1本足りないんだよな。
破壊の剣で星皇剣を出したらデルフが要らなくなっちゃうしな……
まんまドラクエから破壊の剣を出せば良いのかw
デルフを双子にすれば…
いや、なんでもない。
そこは武器職人てことで、自分でデルフ並みの剣をもう一本作ろう、とすれば…
破壊の杖の代わりになぜか真魔剛竜剣があれば
・・・デルフが材料にされなきゃ良いがな
錆剣のままだとかなり危険
思ったけど星皇剣って片手剣だったよね?
デルフ見た目両手剣なんだけどロン・ベルクくらいの実力者なら
星皇十字剣を両手剣仕様にアレンジできそうな気も
ヒュンケルだってブラッディースクライドを槍で撃ってたし…
あ、でもその場合「十字」じゃなくなるか…
星皇一文字剣
不可能じゃないけど、二振り分の負荷を一身に受けることになる為デルフでも死亡とか。
十字剣は決め技だから、おいそれと使えない方が燃えるよな。
デルフ+秘宝の剣で一回使えたけど、宝剣アボーンで使用不能。
デルフ+その他の名剣だと、剣+片腕アボーンと。
>>329 ブラッディスクライドは剣で打つほうがおかしい技だ
回転させてるから、幅の広い剣だと確かに威力落ちそうだな。
鎧の魔剣は両刃のまっすぐな剣だったから問題なさそうだが、
デルフみたいに片刃で、反りのある剣だと無理そうだな。
ロン・ベルク→二刀流で刀鍛冶も出来る
星皇剣→片手剣×2
デルフ→両手剣
____
/ ベルク \
/ ─ ─\
/ (●) (●) \ デルフ溶かして二つに分ければ良いんじゃね?
| (__人__) |
/ ∩ノ ⊃ /
( \ / _ノ | |
.\ “ /__| |
\ /___ /
デルフ6千年目にして弟or妹誕生ですね
デルフが二人(?)になったらそれこそうるさそうだな。
いや、ロンもあんまりしゃべるほうじゃないからちょうどいいのかな?
デルフ×2の漫才も見てみたい気もするが。
デルフと地下水で二刀流
大剣とナイフって絵的にイマイチじゃね?
ナイフの方をちょっと大ぶりにすればごまかせるか?
>>339 役割分担的にはぴったりなんだがな
魔法を吸収して対応、普通の物理攻撃にもその大きさで防げるデルフ
魔法を撃って攻撃ができる地下水
どちらも持ち主を操れる点も注目だな
いつか地下水=槍?って言ったの思い出した
地下水をパリングダガーとして扱えばオッケー
>>340 ロン・ベルクくらいだと簡単な魔法も使えそうな気がしてしまうw
普通の二刀流は大小の武器を持つのが普通だから問題は無し。
>>342 この場合は「ハルケギニアの魔法」で戦えるとこにメリットがある
下手にドラクエの魔法使いこなして先住かもしかしてエルフかと目をつけられたら面倒だし。
ロン・ベルクの場合が外見でアウチだろ。
>>345 そこは……ほら……モシャスとか
ディテクトマジックの設定次第では一発でばれるような気もしてきた
耳尖ってるしなぁw
エルフの魔法鍛冶師とか思われるようになるんだろうか。
適当に顔全体を覆う仮面でも作るんじゃダメ?
目撃した生徒は適当に誤魔化す!
肌の色はどうしろと。
そんなもん適当な服でも着れば良いんじゃないか?
全身すっぽり覆うタイプのローブでも良いし、なんなら耳を隠すための仮面と一緒に鎧を作れば良い。
そんな準備をしてから怪しい鏡をくぐるアホがどこにいると…
代理投下はじめます
代理投下ありがとうございました!
嗜好が偏り過ぎな気が今更ながらしてきました。
魔王軍大好きだよ魔王軍
規制中なのでこちらに最終話の後編を投下します。
最終話 太陽は昇る 後編〜The Other Sun, The Other ...〜
雲間から差し込める光が温かく四人を包み込んでいた。
ルイズは自分の魔法がもたらした結果が信じられないのか、魂が抜けたように呆然としている。
夢でないと確認するため頬をつねり、頭を叩き、大魔王の視線に気づいてようやく我に返った。
丘とその周辺だけとはいえ、今までとは比べものにならぬ明るさをもたらしたことに怒るのではないかと警戒し、身構えている。
彼女の予想に反して大魔王は本物の感嘆をにじませながら告げた。
「見事だ。『虚無』の使い手ルイズよ」
額の目を光らせて解せぬというように腕を組む。
「……わからん。この輝きは本物の太陽……地上を吹き飛ばした様子はなく、幻でもないというのに」
ブリミルの作り出した人工の太陽はすでに消えている。その役目を果たしたというように。
ルイズは祈祷書を読み返しながら手探りするように慎重に答えた。
「人工の太陽に関する呪文は途中に載ってるわ。だけど、なぜかこっちが光っていたの」
ブリミルは何故最初からこちらを唱えなかったのか。もしかすると唱えてもこれほどの効果は発揮できなかったのかもしれない。
本来ラナルータは昼夜を逆転させるだけであり、地上と黒雲に閉ざされた空を晴らすことはできない。
だが、大魔王のメラゾーマが不死鳥の姿になるように、術者の行使した力が桁違いであったため別次元の効果を発揮したのではないか。
疑問を追及するより先にミストバーンの体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
慌てて駆け寄ったルイズの視界が暗くなり、足から力が抜けて傍らに倒れこんでしまった。意識がかすむのを叱咤し、地に肘をつき顔を覗き込む。
すっかり霧が薄くなり素顔が見えている。目の光も弱く、消えかかっていた。
罰を受けて消耗した状態で生命を削り続けたのだ。とっくに限界を超えている。
最も遠いはずの消滅がすぐそばに迫っていた。
主の望みを少しでも叶えることが出来たという喜びも、これ以上役に立てない申し訳さに飲みこまれているようだ。
口が動くが声は聞こえない。ただ、何を口にしているかは分かる。
主への謝罪だ。
「嘘……せっかく、せっかくここまでやってきて、それなのに」
彼がどれほど主のために力を尽くしたか知っている。これから先、主の望んだ光景をともに見られるかもしれないのに。
彼の行いに応えきれたか。――否。
召喚されてから今までの間、本当に喜ぶ姿を一度でも見たか。――否。
主の大望が叶う可能性を目にしたというのに、苦しみながら死んでいくのを許せるか。
(そんなの、認めないんだから)
憎まれたまま永遠に別れるなど耐えられない。
それでは――自分もずっと笑えない。
「……けて」
歩んできた道や価値観が全く違うことも、数え切れぬ戦いと屍の上に立っていることも知っている。
命令がなければ殺されていたことも、今どんな感情を向けられているかも。
それでも――。
「ミストバーンを、助けて」
もし本当に生命を司る力の持ち主がいるならば、願わずにはいられない。
彼女は倒れ伏したまま、初めて心の底から祈りを捧げていた。
恐れ、憎み、尊敬した相手のために。
フーケやウェールズとは違う、越えられぬ淵の向こうにいた存在のために。
三種族の神々が彼を救うとは思えない。神々を憎む大魔王の忠臣のために奇跡を起こすはずもない。
始祖ブリミルや名も知らぬ偉大な存在に――彼を救い得る力を持つ者にただひたすら祈り続ける。
鳶色の瞳から零れた熱い涙が、冷たい頬に落ちていく。
ウェールズは魂から絞り出された言葉を聞き、一瞬だけ瞼を閉ざした。
『私はお前の名を忘れはしないだろう……永遠に』
『わたくしはこう聞きました。あなたは勇敢に戦った、と』
(君は、“勇敢に戦った”と告げてくれたのだな)
覚悟を決めたように眼を開く。
掌をかざすと、命をつなぎ止めていた黒い糸が彼に吸い込まれていく。
穏やかな表情を浮かべるウェールズとは対照的に彼は動揺を露にした。
「馬鹿な……! 何故生命を……!?」
力を貸すという約束はすでに果たされたはず。
彼はウェールズがもう一つの道を選ぼうとしていることを察していた。
それなのに、生命力の劣る人間が違う世界の住人に――それも異なる種族のために命を削るなど理解を超えている。
ルイズのことはもっとわからない。
彼を恐れ、意思と力を奪っておきながら危険を知りつつ取り戻そうとする。
今にも死にそうな蒼い顔で誰かのために涙し、祈りを捧げる。
彼女の心や涙の理由は一生理解できないだろう。
混乱するミストバーンにウェールズは静かに告げた。
「ここで何もせずにいては、僕が僕でいられなくなる」
その双眸は気高さに満ちていた。単に負債を返済するのではなく、譲れぬもののために戦おうとする眼だった。
自身の安全を考えるならば放っておくのが一番だ。呪文への協力ですでに限界に近付いている。これ以上力を放出すれば命を失う可能性が高い。
だが、このままハルケギニアに戻ったとしても前に進むことはできない。
後悔に苛まれ、己と向き合うことから逃げた抜け殻と化すだろう。そんな姿を晒す方がよほど耐え難かった。
最後の力を振り絞るが、滅びへ向かうのを遅らせるだけで精一杯だ。
そこに、もう一つの力が加わった。
「二人……必要なようだな」
チェスの盤面を眺めるように観察していた大魔王も重ねるようにして力を注ぎ始めたのだ。
両者の力によって眼光が徐々に明るさを増していく。
「……バーン、様?」
とりかえしのつかない失態を犯し、厳しく罰され、許されることはないと思っていただけにミストバーンは目を丸くして戸惑っている。
「たわけ。お前にはまだまだ働いてもらわねばならん」
過酷な罰を与えることで償いとさせた。いつまでも責める気はなく、優秀な部下を失おうとしているのを見過ごすつもりはない。
力を取り戻すにつれてミストバーンは悟らざるを得なかった。
元々不安定な状態にあったウェールズの体は避けられない死へと近づいている。
暗黒闘気で蘇らせたとしても、主が肉体を作り変えたとしても、ウェールズではなくなってしまうだろう。
勝利のために人間の体を捨てる意思があるならば力を与えたかもしれないが、本人は望んでいない。
身を起こすと同時にウェールズは倒れ、ほとんど聞き取れないほど小さな声である問いを吐き出した。
彼は形容しがたい感情を声に浮かべて答えた。
二度は無いことだった。
「お前は勇敢な戦士だ……ウェールズ」
純粋な尊敬の声が眠りに落ちそうな意識をかろうじてつなぎとめる。
ルイズが体を引きずるようにして近寄り、冷たくなっていく手をとった。指にはめられた水のルビーに触れた瞬間、ウェールズの目が大きく見開かれる。
死にゆく者に対する餞のように鮮明に映ったのは、想い人の姿。
水のルビーにウェールズの想いが流れ込んでくる気がしたため、ルイズはますます力を込めて手を握る。
記憶からそのまま再生されたように声がはっきりと心に響く。
『わたくしの知るウェールズ様は勇敢なお方です。今までも……これからも』
(そう、か)
ハルケギニアに戻り戦いに身を投じることは果たせなかったが、裏切り者にはならなかった。
力が及ばぬことも多くあったけれど、最後に大切なものを守り切った。
その面に満足そうな微笑が浮かぶ。
「……ありがとう」
ウェールズはウェールズとして瞼を閉ざした。
そして、二度と目を覚まさなかった。
大魔王は日に照らされる丘の姿を飽くことなく見つめていた。
いろいろと探ってみたが地上が魔界の蓋になっていることに変わりは無い。だが空の輝きは作り物や幻ではない。
まるで地上が存在しないような――直接空を見上げているようなありえない現象だ。
術者であるルイズ本人にも呪文の効果がはっきりとはわかっていないようだ。
『始祖の祈祷書』で読める部分がないか見直し、「爆発と世界扉と解呪を足した感じ?」と非常にあいまいな答えを返していた。
本来破壊できぬ障壁を吹き飛ばしたのなら爆発、空を直接届けるのなら世界扉、世界のあり方を戻すなら解呪、とそれぞれ考えることができそうだが結論は出そうにない。
肝心なのはこれからのことだ。
大魔王の誇りにかけて、二人に任せきりにするわけにはいかない。
まだ空の大半は暗いままだがミストバーンが消耗している状態でさえこれだけのことができたのだ。
彼が万全の状態で、ルイズが力を溜めて挑めば。ルーンによる共鳴を利用し大魔王の魔力や暗黒闘気と合わせることができれば。
ウェールズも一部とはいえ力を注ぎこめたのなら、不可能ではないはずだ。
ルイズやミストバーンの負担を減らすことも考えなければならない。
より大きな力を扱うと彼女の身体がついていかず失敗してしまうかもしれない。
また、予想外の事態だったとはいえ唯一無二の能力を持つ部下を失いかけた。
役に立とうとするあまり限界を見誤り、万全の状態でも力を注ぎすぎて命を落としかねない。
「余の影となり得るのはお前だけだというのに」
この場にいない部下に溜息を吐きつつ呟く。もしルイズが聞けば「本人に言いなさいよ」と指摘したかもしれない。
異世界の者とはいえ人間と魔族、それも大魔王が手を組もうと考えるなど魔界の住人が聞いたら耳を疑うだろうが、強者は種族を問わず認めるのが彼の信条だ。
今まで地上を消し飛ばすことを目標に力を蓄えてきた。
その最大の目的は魔界に太陽をもたらすため。いざとなれば自身をも駒の一つとみなし、囮を引き受ける覚悟があった。
さらに、冷遇の証を吹き飛ばし、天界へ攻め込むためのきっかけづくり――神々への復讐も大きな動機だった。
かつて神々が世界を分けたのは三種族が争う状況を憂いたため。協力することなど全く期待しておらず、力で押さえつけただけだった。
だが、もし人間と魔族の――もしかすると竜族も――力で魔界に太陽をもたらすことができたなら。
彼らが捨てた可能性を叩きつければ。神々でも成しえなかったことを達成すれば。
それこそがこの上ない復讐になるのではないか。
「それもまた一興かもしれんな」
ルイズは地上の人間と違い、三種族の神々の庇護とは無関係だ。人間でありながら神々の定めた世界の在り方を変える可能性を秘めている。
脆弱であると同時に強大な力を持つ彼女は、まさに異世界からの風。
黒雲を吹き払い、新たな時代の到来を告げる者。
陽光に照らされた魔界の姿を見る日が近づいている。同じ太陽でも魔界から見る“もう一つの太陽”はまた違った趣があるかもしれない。
地上破滅計画を捨てたわけではないが、極大天候呪文の方を優先するつもりだった。太陽を手中に収めてから改めて天界や地上への対応を考えればいい。
黒雲が全て晴れても全てが終わるわけではない。
状況が変われば戦いが生じる。それらに勝利しつつ部下が得た知識や道具――フーケとの取引で入手した品など――を役立て、魔界を豊かにするつもりだった。
陽光によるマグマの海など環境への影響の調査、不毛の大地に緑を芽吹かせるための試案など、すべきことは山積みだ。
今まで豊かにするための試みは全て徒労に終わったが、太陽さえ手に入れば一気に動き出すはずだ。
大魔王といえど闇雲に殺戮を欲し破壊を性とするのではない。彼が神々を憎むのも人間にのみ平穏を与えたことが許せなかったためだ。
その一方で、最強の軍の編成を諦めたわけではない。個性豊かな強者達が集い、相互に影響を与える様を想像するだけで胸が躍る。
障害は多いだろうが全て焼き尽くすのみ。力こそが全てを司る真理――それが彼の正義なのだから。
タルブの村の草原と同じような光景を魔界で目にすること。それがどれほど難しくてもやり遂げるだけの自信があった。
「……おお、そうだ。名物のシチューとやらを作らせるのを忘れておった」
大魔王バーンは心から楽しそうな笑みを浮かべた。
ルイズはしばらく魔界に滞在することを決めた。
ハルケギニアに戻る世界扉を作るにはミストバーンの協力が必要だ。一人だとどうしても精神力を溜めるのに時間がかかってしまう。
それに、始めたことは責任を持って最後までやり遂げたい。ゼロではないという証明を完結させたい。
初めは贖罪の意識が強かったが、ミストバーンやウェールズの姿を見て誰かのために力を振るう意味がわかった気がする。
そして、地上についての情報も欲しいと思った。
大魔王の狙いについて明確に知らされてはいないが、魔界の住人が陽光を浴びるには地上の支配か破壊が必須だった。
大魔王や部下の性格から考えて、人間ごと地上を吹き飛ばす計画を企ててもおかしくない。
太陽を手に入れたとしても、直後に地上と魔界の間で戦いが起こることは十分あり得る。
争いをやめろなどと簡単に口にすることはできないが、異世界とはいえ同じ人間が大勢殺される可能性を無視することはできなかった。
もっとも、要求や取引をするならばその条件として空が晴れることが必要だろう。
大魔王に慈愛を説いても効果は無いのだから、“力”で語るしかない。
太陽に祝福された丘にウェールズは眠っている。ルイズは水のルビーにそっと触れて思いを馳せた。
「……帰る理由が増えたわね」
彼の魂とともにハルケギニアに帰り、込められた想いと最期の言葉をアンリエッタに伝える。
そう意気込みながら設置された旅の扉をくぐると先客がいた。
魔界を見渡している先客――ミストバーンは丘の周囲に不穏な気配を複数感じ取っていた。
大魔王の勢力圏とわかっていてもこの丘を狙う輩がいる。
侵入者は全て殺し他の連中への警告としたが、機を窺う者は多い。結界を張るよう主に進言するつもりだった。
最初に本物の陽光を浴び、魔界の歴史に名を刻むことになる特別な地。
呪文の成功に尽力し、彼が心から尊敬した者が眠る場所。
それを汚すことは許せなかった。
強者への敬意は相手が命を落としても失われることはない。永遠に彼の魂に刻まれている。
彼は宮殿に戻ってからのことを思い浮かべた。
侍女にルイズを部屋まで案内させた後、玉座の間で大魔王と腹心の部下は向かい合った。大魔王の面には不敵なものや冷笑ではない、満足そうな笑みが浮かんでいる。
特別な報酬や賛辞は必要ない。
その微笑とただ一言で十分だった。
『お前は余の――』
「私は、あなた様の――」
続きを胸の内で呟くと力が湧きあがる。
それだけで、これまでに味わった苦難も全て吹き飛ぶ気がした。
思索に耽る白い背に向かってルイズは名を呼んだ。
「ミストバーン」
彼はルイズを許していない。怒りの炎は消えておらず、時折噴き上がるのがわかる。
それでも彼女の功績を認めている。今見ている景色や主の態度が何よりも評価に値するのだから。
「……ルイズ」
振り返った彼に歩み寄っていく。
まだ彼への恐ろしさや苦しさを感じる。完全に心が晴れたわけではないが、“ルイズ”として認められていると実感できるためどこか穏やかだった。
これから先、心の重りが全て消えるか、心から笑えるか、わからない。
「始祖はどんな人で、何をして……どうして大魔王と出会わなかったのかしら?」
返事は無い。予想済みだ。
六千年前、『虚無』の使い手ブリミルと大魔王バーンの道が交わることは無かった。
だが、現在の『虚無』の使い手ルイズと大魔王の部下ミストバーンは巡り合い、誰も成しえなかったことに挑もうとしている。
(できる。こいつとわたしなら)
あの時向けられた憎悪や殺意、味わった恐怖や絶望に比べればどんな困難も恐れるには値しない。
(……あれ? 淑女として失っちゃいけないものを失いかけてるような……気のせいよねきっと)
心の中で乾いた笑いを漏らし、気を取り直して再び問いかける。
「ずっと前から決まってた――特別な意味を持った出会いってあると思う?」
今度は頷いた。意外な反応にルイズが目を見開くと、彼はどこまでもまっすぐに答えた。
「私とバーン様の出会いがまさにそれだ」
ルイズは盛大に転んだ。ウェールズの苦笑いしている顔が見えるようだ。
「この話の流れでそっち? ……まだまだ認めさせる余地があるわね」
決意も新たにほんの少し覗く青空を見上げると、召喚した日と同じように太陽は燦々と輝いていた。
そして月日は流れ――トリステインに戻ってきたルイズは何があったのか語ろうとはしなかった。
だが、キュルケやタバサに向かって誇らしげに、太陽のように輝く笑みを浮かべた。
彼女の力でもう一つの結末にたどり着くことが出来たのだから。
ゼロの影〜The Other Story〜 完
以上でゼロの影〜The Other Story〜完結です。
ラストは当初、原作に沿うよう普通に魔界に戻って終わる予定でした。
しかし、ダイ達との戦いがあってこそ輝くのだと思いながらも、太陽に照らされた魔界やそれを見た主従をどうしても書きたくてたまらなくなり考え直すことに。
其の十一〜最終話の展開は許されるのか、過程と結果は互いに相応しいか、原作で最後まで敵であり続けた二人の距離感や描き方はどうすべきか、ルイズやウェールズの行動は……。
他にも色々悩んだり迷ったりしましたが、書きたいものを全力でぶつけるしかないと思い、このラストに決めました。
トリステインに戻るまでや戻った後を想像して楽しんでいただけると嬉しいです。
魔界滞在の様子としてミストバーンの料理ネタを投下する予定です。
今までお付き合い下さりありがとうございました!
影の人GJでしたー!
どっちの作品のキャラも壊すことなく見事な話を作り上げましたね。
影の人、本当にお疲れ様でした。
本編も勿論楽しませていただきました。が、このもう一つの結末の、
なんと優しい事か…ッ!!感無量です…!!
乙っした
そうだよなー。魔界を大事に思えて、地上がどうでもいいというか憎たらしいんで吹っ飛ばそうとしたんだよな
太陽出来て、手をかければ魔界が良くなるという状況になれば魔界に引きこもるわな
あれ?そうするとハドラー、ふつーにアバンに征伐されて終了?
ザボエラ たぶん魔界のどこかで研究
ヒュンケル 川に流され死亡
おっさん どこかでモンスターの王
フレイザード 生まれない
バラン 一人でも人類滅ぼすよ
優しい世界に乾杯!
考えたら地上か魔界か
どっちかが苦しまなきゃならない世界なんて理不尽だもんな。
>>362 ダイが生まれない可能性も出てくるね。
ヴェルザーも魔界が豊かになれば欲が深いのどーのと言っても
欲しい気持ちは薄れるだろうから
ヴェルザーが脅威にならない→バラン傷つかない→ソアラと出会う機会なくなる
魔界はこれより新たな伝説の時代を迎えるのだ!
鼻血噴いてもいい展開。完結に拍手。
>>363 ハドラーが死ぬから、原作みたいな殺され方しないから普通に師弟関係になるんじゃねえ?
>>364 つまり、アバン&バランのダブルコンビでハドラーと対決…。
ハドラー南無。
>>367 そのコンビだとアバン先生いらない子ww
冥竜王の危機がなければ、バランが普通にハドラーと闘ってただろうからなぁ。
それともハドラー(初期)程度の危機じゃドラゴンの騎士は生まれてこないだろうか?
脅威がいるかどうかに関わらず竜の騎士っているんじゃないの?
危機がきてから生んでも間に合わないし
それは言えてる
もしくは最初から大人の姿で知識も経験もある状態で発生するとか?
母竜が知識経験魔力継いで生まれてくる、ゆーてたと思うが?
成人するまでは自らの意思で紋章をコントロールできないとも言ってたな。
知識や経験は紋章に宿るっぽい描写があったので、本格的に知識や経験を継承するのは成人になってからなんじゃね?
それまでは、異様に物覚えのいい子供でしかないと思う。
>>368 勇者の片腕的なポジションにつくとか。
力のバラン、技のアバンと言う感じで並び称されるとか。
実際、後期ダイと並べても活躍出来るキャラだからな>アバン
ダイ大のパーティーは揃うことはないのか。
原作好きだから、ちょっと切ないけど。
魔界に太陽が出来て、地上も一連の大騒動が
起こらないんだからいいよね。
でもそうなると、今度は人間同士の戦争が
起こったりするのかなあ。
>>374 アバン先生のことだから、魔王討伐側にバランが居たら率先して片腕的な存在としてサポートする側になると思うけどな。
最終局面でキルバーンの相手をしてダイ達を先に行かせたみたいにさ。
勇者バランを無傷で魔王ハドラーと戦わせるため、
バルトスの相手を引き受け、ヒュンケルを託される。
この流れならバルトス死なないから、ヒュンケルも誤解せずに済むんじゃないか?
当時のハドラーだと、バランの小指で突かれても死ぬだろ…
知恵者の出る幕ねーよ。
>>378 トラップを見破る、陰謀を看破するなどいくらでもあると思うが。
他に、人質救出の為に二手に分かれるとか。
陰謀に関してはアバン先生が居た方が良いよね。
偉い人を殺してバランのせいにするくらいなら当時の魔王軍でも出来るだろうし、
バランはバランでそんなもんに騙されて喧嘩売ってきたら買うかもしれないしさw
トラップに関しては、人間に蟻地獄とかゴジラにトラバサミってレベルじゃない?
それに人質も妻子とかで無ければ知ったこっちゃ無さそうだし、このルートだと妻子は居ないだろうしさ。
問題は魔王軍が陰謀を張り巡らせる間があるかどうかだな。
当時のハドラーは竜の騎士なんて知らんだろうし、バランは雑魚を無視してハドラーぶっ殺して終わりにするだろうしさw
デデーン!っと魔王城なんて作ってたらドルオーラをドカーンとやられて終わりになりそうw
>>377 バランならハドラーに止めを刺す損ねるとか無さそうだけど、
バルトスとか問答無用でコナゴナだろうし、アバン先生は居た方が良さそうだよね。
俺も
>>378派かなー
すべて力押しで解決できてしまうだけに。
最初からLv99、最強装備の勇者上位互換キャラみたいなもんだから。
アバン先生は被害の拡大を抑える為にひいこらする役?ついでにメシも旨いし情けも厚い。
>>381 アバン先生が三角巾?かぶって家政婦する姿が見えた
じゃあ2パターンで攻めようぜ!
バランシングルパターン:バランが単独でハドラーだけを狙い続ける。ハドラーを討伐次第終了。
アバンパーティパターン:バランの行程を追い、残りカスや拠点を張った中ボスクラスを掃除する。悪しき心を持つ魔物を掃討次第終了。
そういや先代の竜騎衆もいるんじゃないか?
ラーハルト級がいたら単騎制圧されかねんぞ
海戦騎ボラホーン参りました!!!
>>381 アバン先生はむしろそういう役回りこそ喜んでちゃっちゃとやりそうだな。
バランがその手際のよさに呆れたり感心したりするぐらいには。
>>386 そんなイメージだなw
普段は率先して勇者の従者的ポジションに収まるアバン先生。
勇者は強すぎなので、分断して無力な奴の手下を…なんて魔物達の思惑を裏切り
飄々とスーパーアバンタイム展開とか。割といいコンビな気がしてきた。
ボラホーンやガルダンディーとハドラーって、どっちの方が強いんだろう
妙に爽やかなな腹黒策士という素敵キャラだったからな。
初の人間竜騎衆になるんだな
何故か眼鏡・爺1・爺2という構成に
その3人なら戦力的には申し分ないが、なんかバランが苦労しそうな。
>>387 バランとアバンのコンビってなんかシティハンターの冴羽と牧村を思い出すな
それ死亡フラグじゃねーかw
ああ、確かに似てるな。集英社だし。
気付かなかったw
>>390-391 見た目で舐められるけど、油断させて殺すには最高の面子だよなw
苦労する人は2パターンありそうw
バランパターン:1を犠牲に他を救うパターンの場合
アバンパターン:バラン、マトリフ、ブロキーナが好き勝手やる場合
バランも戦闘関連以外は不器用で世慣れない青年だからな
そのメンバーなら人間的にも成長できるしいいかもしれん、気苦労は多そうだがw
アルキードの種馬か
若い頃のバランってすんごいお人好しみたいだしなあ。
まぁダイの父親と考えれば違和感ないかと。
一歩間違うとダイもバランみたいな大人になりかねないんだな。
ゼロの影が完結したかと思ったら、なんでバラン&アバン先生のコンビ
の話にw
ssとして読みたいけど、ここに投下するのはスレ違いになりそうだな。
いや、影のバーン様が、余はこの魔界を地上はおろか天界すら霞む豊かな世界にしてみせよう!
とか燃えてるだろう一方、地上じゃこんな展開が…みたいな流れになってしまって
それが存外楽しくてな。
地上狙ってるのに竜の騎士を知らないハドラーって、
魔王として井の中の蛙なんじゃないか。
知っていたろう。ダイ本編では魔王軍の中で一番最初にダイの正体に気付いてる。
>>403 ああ、ごめん。
知っていたからバランの下についたらやばいと思ったんだよな。
いつ知ったのかによるんじゃね?
最初に魔王として出てきた時から知っていたなら、実力までは知らなかったんだろうけど、
バランって目的が同じようなバーン様に乗っかった感じだったと思うから、
6大なんちゃら結成時にミストと一緒にバーン様が紹介したんだったりして。
いやいやきっと菓子折り持ってスカウトマンが行ったんだよ
魔王軍に入りませんか?的な
407 :
ゼロの影:2008/10/08(水) 23:34:03 ID:/cvOrJln
ルイズin魔界の番外編、ミストバーンの料理ネタを23:40頃投下します。
408 :
ゼロの影:2008/10/08(水) 23:37:48 ID:/cvOrJln
番外編〜バッチリがんばれ〜
その日、魔界の第七宮廷では緊張が漂っていた。
大魔王の腹心の部下ミストバーンが、タルブの村にて作り方を教わった料理――素朴ながらも味わい深いシチューを作ったというのである。
巻き添えを恐れた料理人達は沈没船から逃げ出すように厨房から姿を消し、一人残された彼がどのような調理を行ったのか目撃した者はいない。
練習作の味見をするよう無言の圧力をかけられたルイズは丁重に辞退しようとしたが、他に誰もいないことを悟らざるを得なかった。
大勢仕えている侍女達は毒見役を押し付けられることを恐れ隠れてしまったらしい。
散々ためらったすえルイズは渋々ながら頷いた。
主人として使い魔の料理を味わってみたい気持ちがあり、好奇心がそそられる。
(ひどいことになってなければいいけど)
彼は一度タルブの村でシチュー作りに挑戦した。
だが、初めて調理器具を見るということでシエスタが辛抱強く一つ一つ道具について説明するだけで多くの時間が費やされ、実際に作ったわけではない。
ビュートデストリンガーで調理器具ごと食材を砕いたり爪の剣でまな板ごと切り刻んだりするのを防止するにはどうしても必要だったのだ。
実質的には今回が初挑戦と言っていい。
初心者にもわかりやすいように詳しく丁寧に書き込まれたレシピはもらっているものの、魔界の食糧事情では同じ食材を使用できない部分もある。不安はかなり大きい。
差し出された皿の中をじっくり観察する。色は――正常だ。
(調味料の代わりに暗黒闘気を使うなんてことは、してないようね)
続いて鼻を動かす。刺激臭はない。それどころか食欲をそそる香りが鼻をつつき、反射的にお腹が鳴った。
顔を赤くしたルイズは意を決して口に運んだ。
しばし流れる沈黙。
ルイズは反応を観察する相手に険しい視線を向けた。
「……あんた嘘ついたわね? 初めて作ったとは思えないわ」
一口食べた途端に音楽が鳴り響き天界に昇るような心地になるわけではない。
涙を滝のごとく流すこともなければ、わけのわからない比喩表現を使いたくなるわけでもない。
長年の経験者や本職に比べれば劣るだろう。
しかし、予想よりは遥かに美味だった。
(なにこの敗北感……!?)
ルイズは頭を抱えたくなった。
魔界に君臨する大魔王の部下。数千年の間戦いしか知らずに生きてきた存在。
それなのに料理もできるとあっては人間としての立場が無い。
嘘吐き呼ばわりされたことが理解できずにいる彼の前でルイズは食事を進めていく。
「“おいしくつくろうという情熱”が伝わってくるわ」
某シェフの食べたら筋骨隆々になる某スープを作るために必要なものが入っている。
どうやって初挑戦で無事成功させたのか粘りに粘って聞き出すと答えは単純だった。
まず、手順を念入りに確認し徹底的に記憶。
次に、必要なものを抜かりないよう完璧に用意。
そして開始する前に何度も繰り返し頭の中で最後までの流れを組み立てたという。
もちろん後片付けも塵一つ残さず綺麗に済ませている。
戦闘の方が容易だと言われたルイズは心の底から納得した。
「正面から強引に力押しで叩き潰して終わりだからね、あんたの場合」
要はシエスタのレシピに忠実に作ったということだ。
(ありがとう変なこと書いてなくて。こいつなら間違いなく実行してたわ)
始祖ブリミルと誠実なシエスタに感謝しつつルイズはこれなら大丈夫と太鼓判を押した。
あと数回練習したら、いよいよ大魔王が“召し上がる”番だ。
409 :
ゼロの影:2008/10/08(水) 23:40:12 ID:/cvOrJln
いよいよ本番になってルイズは我がことのように緊張していた。
幾度かの練習の後に作られたシチューが大魔王の前に運ばれると物陰から複数の気配を感じた。
料理人や侍女達が様子をうかがっている。悪魔の目玉もそこかしこに設置され、張り切って監視中だ。
(この暇魔族! 仕事しなさいよ!)
魔族は長い時を生きるゆえに密度の薄い人生を送るという言葉がどこからともなく浮かんできた。
大魔王は視線に気づいているはずだが、特に反応を見せるわけでもない。腹心の部下の真心と情熱のたっぷりこもった手料理を眺めている。
ミストバーンとルイズが凝視する中、まず一口。
場の空気が緊張に張りつめるが反応は無い。静かに食べ進める姿に痛いほどの沈黙が流れる。
一口も残さず最後まで食べ終えてから大魔王は呟いた。
「美味であった」
と。
さらにこう続けた。
「お前は余の予想を上回りおった……見事だ」
率直な賞賛の言葉に物陰から歓喜と絶望の声が響いた。どうやら敗者が一時的に石になる賭けをおこなっていたらしい。
ちなみに、彼らは後で大魔王から職務怠慢の罰を受けることとなった。
なぜかルイズは反射的にガッツポーズをしてしまったが、喜ぶはずの当人は何も言わない。ただ、目が興奮を示すように明るく光っている。
これからも作ってもらうと告げられ無言のまま頷く。
揃って退出したルイズが眉をひそめて彼の態度を批判した。
「せっかく褒めてもらったんだから“お褒めにあずかり光栄です”とか言ったらよかったじゃない」
「な……何と言えば良いのか……わからなかったのだ……」
どことなく歯切れの悪い口調にルイズの動きがぴたりと止まる。
「それってつまり――とっても嬉しかったってこと?」
こくりと頷かれた。
眼の光もいつもより輝きを増しており、心の底から喜んでいることが確かに伝わってくる。表情はわからないが口元がほんの少し綻んでいる気がした。
程度こそ違うが、戸惑う様子はレベルアップを指摘された時と似ている。
「あんたホントに数千年生きてんの?」
幸せそうな彼に思わずルイズはツッコんでしまった。
同じく数千年生きている大魔王に比べると感情を表に出すことが多く、受ける印象がだいぶ異なる。
湧き上がる感情の正体が分からないらしい彼の様子を見て、心の中で叫ぶ。
(愚か者ね……人はそれを“照れ”と呼ぶのよッ!!)
自分の言葉に絶望した彼女は床に突っ伏して泣きたくなった。
「何よ、何なのよこの切ない敗北感!?」
自分がいくら言葉を尽くして褒めようとそこまで喜ばないと認めたようなものではないか。
自分は彼にとってその程度の存在なのか。料理道的な立場から考えて。
シエスタは綿密なレシピを提供したという実績がある。
召喚してから一緒に行動してきたというのに、一介のメイドに劣る立場なのか。
――否。そんなことは許せない。
負けを認めたくないという思いで必死に頭を働かせた彼女にある考えが浮かんだ。
410 :
ゼロの影:2008/10/08(水) 23:41:52 ID:/cvOrJln
「……ねえ、ご主人様の健康管理や食生活への貢献も部下の大切な仕事だと思わない?」
関心を示すように眼が光る。
「わたしがハルケギニアで一番美味しいお菓子、クックベリーパイの作り方をあんただけに教えてあげる。きっとそれを食べればとっても喜ぶわよ」
大好物なのでこれだけは作り方を知っており、レシピを書くことができる。
努力家である彼女は、クックベリーパイだけは譲れぬという信念のもとに研究に研究を重ね、独自に編み出した究極の作り方を完全に暗記していたのだ。
試しに他人に作らせてみたところ大絶賛だった。
ちなみに、自分では作ったことがない。
「わたしは天下の大魔王の一番の部下にお菓子の作り方を教えたのよ!」
と、高らかに宣言する自分の姿を想像した彼女は不気味な笑みを浮かべている。
誇る方向が色々とズレていることに本人は気づいていない。
「わたしたちの力で! あのシチューにも負けない至高にして究極の一品を! 魔界の歴史に名を刻むお菓子を作るのよッ!!」
妙な方向で対抗心を燃やすルイズと、主が喜ぶならと承知したミストバーン。
二人の魔界での伝説が、いま幕を開けた――。
411 :
ゼロの影:2008/10/08(水) 23:44:17 ID:/cvOrJln
以上です。
ルイズが美味しいクックベリーパイの作り方を知っているのは、番外編内での地位向上のためということでお願いします。
ドーピング暗黒闘気シチューという展開も考えましたが収拾付かないのでゴシカァンしました。
軽いノリの番外編という形でならルイズin魔界を書けそうです。
○ルイズとミストバーンの会話がきっかけで魔の時代の到来を予感する魔界の住人
○戯れで「魔界の歌姫になれ」と言われ「そ、そこまで言うならやってあげてもいいわよ」と了承するルイズ
○ヴェルザーの元へ協力を呼びかけに行くことになったルイズとミストバーン
○極大天候呪文詠唱前夜〜当日の様子
などなど、ルイズが参入することで様々な可能性が。
特に下二つを書きたいと思うのですが、傾向が偏り過ぎな気が今更ながらしてきました。
無駄に緊張感溢れつつも微笑ましいミストクッキング、乙でしたw
おめめの発光が感情バロメーターなミストが可愛すぎる
み、ミストバーン萌えだとッ!?なんという新ジャンルを開拓したんだ、あんたは…ッ!!
恐ろしい、恐ろしすぎるぜ(ゴシカァン
>>411 偏りすぎ?
んなこと気にすんなィ!
4つとも書いちまえ!
ルイズとピロロのかけあいが見たい。
これって「ルイズが魔界に召喚されました」になってねぇ?
と思いつつも全部読んでみたい
まさしく逆召喚ものだな。
だが読んでみたいな。
そろそろ爆炎来てくれ。
ずっと続きが気になってるんだよー
フレイザードとかのアンケートを取った人は何処へ!?
暴魔のメダルとろうと無茶して燃え尽きた?
なんてこった、そこまでフレイザードについて把握しようとしただなんて……
422 :
ゼロの影:2008/10/11(土) 23:19:38 ID:GWbm0UJ/
検討した結果、
>>411の下二つを書くことにしました。
「ヴェルザーの元へ協力を呼び掛けに行くルイズとミストバーン」の番外編を23:25頃投下します。
時系列上はキルバーンが登場する前なのでミストと呼ぶのが正しいのですが、本体との区別がつかなくなるのでミストバーンと表記しています。
423 :
ゼロの影:2008/10/11(土) 23:23:45 ID:GWbm0UJ/
番外編〜竜魔影零〜
(――父さま、母さま、お元気ですか? 魔界は今日も……荒れ模様です)
桃色の髪の少女は乾いた笑いを漏らした。
鳶色の瞳には巨竜と白い影が激突する様が映っている。唸りを上げて迫る尾をひらりとかわし、銀色の爪を叩きつけるが鱗に阻まれ傷つけることはできない。
(わたし、どうしてここにいるのかしら?)
ルイズは引きつった笑みを浮かべたまま考えた。
大魔王は冥竜王ヴェルザーに協力を要請するため、使者としてルイズとミストバーンを派遣することを決めた。
聞いた瞬間ルイズは「異議あり!」と某弁護士風に指を突き付けてツッコんだ。
空を晴らすことはやり遂げるつもりだが、魔界の事情に首を突っ込む真似は避けたい。知恵を持つとはいえドラゴンの元に行くなど真っ平だ。鼻息荒くそう主張する。
だが、全て黒雲を消すには膨大な力が必要だ。何回も唱えると体への負担も深刻なものになり、ハルケギニアに帰るのも先のこととなる。
少ない回数で一気に逆転させるには竜族を統べるヴェルザーの力が不可欠だ。
「そなたを実際に見なければ信じまい」
太陽に照らされた丘の姿を見た者の多くは大魔王が術者だと思っている。ヴェルザーも例外ではないだろう。脆弱な人間への蔑視や偏見は根深い。
結局大魔王のみ念話を用い、二人が直接赴くことに決定した。三人まとめての念話の使用をルイズが提案したが、一度は直接会っておけと却下された。
抗議したものの「怖いのか?」と笑みと共に挑発され、退くに退けなくなった。プライドが高く負けん気が強いという点で魔界の主従と似ているかもしれない。
二人は無事ヴェルザーの元へたどり着いたものの、一笑に付された。
「人間の、それも小娘に協力しろだと? バカバカしい」
嘲笑されたルイズの顔が朱に染まる。
彼女の目の前にいる竜は巨大な体躯を黒い鱗に包み、双眸に凶暴な光をみなぎらせている。
その風格はまさに竜の中の竜。竜族を統べる冥竜王の称号に相応しい。草木の生えぬ山脈に配下の竜とともに住んでいる。
吹けば飛びそうなルイズの華奢な体を見てフンと鼻を鳴らす。侮辱されプルプル震える彼女の前にはミストバーンが無言で立っている。
少女が巨竜を前に怯えずにいられるのは、その背を見ているからだ。
『お前も日に照らされた丘を見たはずだが』
「信じられるか! どうせ自分一人の力では大したことは出来まい」
「ルイズはほんの少し協力しただけで実際は大魔王が行った」という思い込みを改めようとはしない。
彼女は反論できず唇を噛み締めるしかなかった。ウェールズやミストバーンが力を振り絞ったから成功したのだ。一人で唱えても何の効果も現れないだろう。
『お前にとっても悪い話ではないのだがな。どうしても断るか』
当然だと言いたげに息を荒々しく吐き出す。
『ならば――闘い、過ちを認めた方が協力するというのはどうだ?』
大魔王はチェスの駒を指で弄びながら提案した。正義を説きたくば力で語れと主張する彼の単純な案に、ヴェルザーも乗り気のようだ。
「いいぞ、さっさとここへ来い。貴様を打ち負かしてやる」
興奮を示すように口から炎がチロチロと伸びる。全身から放たれる覇気は煉獄の火炎そのものだ。
大魔王と冥竜王の激突を目撃することになるのか――心を高ぶらせたルイズの耳に飛び込んだのは予想外の言葉だった。
『余が行く必要はない』
ヴェルザーが理解できぬように口を開け、やがて真意を悟って激昂した。
「こいつらで十分だということか? ……貴様オレをなめてるのかッ!?」
「ちょっと、戦うってどういうこと!?」
頭に血の昇った二人とは対照的に大魔王もその側近もどこまでも冷静だ。
『そなたは戦わずともよい。余の部下ではなくあくまで協力者だからな』
思わずミストバーンを眺めたが全く動揺していない。あらかじめ知らされていたのだろう、単身で最強の竜に挑むとは思えぬほど落ち着いている。
ヴェルザーは怒りをみなぎらせていたが、やがて禍々しい笑みを浮かべた。
「部下でないなら無関係だな。大人しく見ていろ……大魔王の部下が惨たらしく引き裂かれる様をなっ!」
戦いやすいよう不毛の荒野に移動し、ルイズがある程度離れると両者は向かい合った。
空気が緊張に震え頂点に達した瞬間――両者は激突した。
424 :
ゼロの影:2008/10/11(土) 23:27:01 ID:GWbm0UJ/
戦いはなかなか決着がつかなかった。
ミストバーンの攻撃では鱗に阻まれ重傷を負わせることが出来ず、巨躯と強靭な生命力を持つ竜には効果が薄い。
ヴェルザーの攻撃は素早く動くミストバーンを捉える事は出来ず、単なる尾や爪では当たったところで全く痛痒を与えない。
鋼鉄の爪が砕けたのを見てミストバーンは掌に暗黒闘気を集中させた。
闘魔最終掌。
暗黒闘気を操る彼の、最強の技だ。
黒い波動が迸る掌を顔面に叩きつけると鱗があっけなく剥がれ引き千切られた。痛みにくぐもった声を吐き出したヴェルザーは目を見開いた。
鱗が剥がれたところに爪の剣が突き刺さり、傷を広げていく。
「貴様ッ!」
眼がギラリと光りヴェルザーは炎を吐き出しつつ距離をとった。その体の表面を金色のオーラ――闘気が覆っていく。
力を溜めるように両腕を曲げ、勢いよく突き出すと闘気の弾丸が放たれた。両手で防ぎつつ回避する彼ににやりと笑ってみせる。
「闘気による攻撃は効くようだな」
彼は何も言わず虚空を蹴り、再度ヴェルザーに接近した。
ルイズは口をぽかんと開けて死闘を眺めていた。
化物じみた強さを誇るミストバーンと、彼に劣らぬ圧倒的な力を持つヴェルザー。
非現実的な光景に頭が付いていかない。きっと戦いを好む者ならば呼吸も忘れ見入るに違いない。
『虚無』が強力だといってもその中に飛び込む気にはなれなかった。こちらは普通の人間なのだ。一撃でも食らえば死んでしまう。
ヴェルザーは全く警戒しておらず、最初からミストバーン一人を敵と見なしている。ミストバーンも彼女の助力を期待せず自力で勝利を掴むつもりらしい。
できれば力になりたいが、魔界の住人同士の争いに介入しかねている。
ミストバーンは“ルイズの使い魔”としてではなく“大魔王の部下”として戦っている。自分の入る余地は無い気がした。
考え込みそうになったルイズを現実に引き戻したのは黄金の煌めきだった。
なかなか獲物に当たらぬことに苛立ったヴェルザーが闘気を練り上げ、無数の矢の形状に変化させ、解き放ったのだ。
先ほどとは比べものにならぬ威力の攻撃は、遠く離れていた彼女の元にまで迫る。
(え?)
何本もの矢が飛来するのがひどくゆっくりに見えた。ミストバーンが弾かれたように振り向き、その姿が消えるのも。
鈍い音が連続して響いた。
ルイズは呆然と前に立つ者の姿を見つめた。
ルーラで飛び込んだミストバーンが己の身で全て食い止めている。
金色の矢は獲物に食らいついたことに歓喜したように、乾いた音を立てて破裂した。
「が……っ!」
全身を抉られ、焼かれる痛みに身体が揺れる。
白い衣のあちこちが黒く焦げ、煙が立ち上るのを見てルイズが声を絞り出す。
「わたしが……いなければ……!」
彼一人ならば対処できたはず。共に離脱するためのルーラは間に合わず、前に飛び込むだけで精一杯だったと彼女にもわかる。
しかし、彼は無言で首を横に振った。この場にいろというように。
425 :
ゼロの影:2008/10/11(土) 23:29:36 ID:GWbm0UJ/
「人間風情を庇うとは大魔王の部下失格だな。腑抜けたか」
冥竜王の声には面白がるような響きと勝利の確信が混ざっている。
いくら死ににくい身体を持っていようと、何発もまともに食らえば相当堪えるはずだ。
そこらの戦士の闘気ならばともかく、冥竜王渾身の一撃なのだ。文字通り痛恨の一撃となったことだろう。
ただ一度で敵の肉体も生命も消し飛ばす、竜族を統べる王の攻撃。
大量の闘気を放出するだけあって、直撃した魔界の大地はぐちゃぐちゃに抉れ、ひび割れ、穴だらけの惨い有様になっている。
肉体を持たないミストバーンだからこそ複数の矢を食らっても耐えられたのだが、ヴェルザーは凶暴な笑みを浮かべた。
簡単に滅びなければ、徹底的に潰すだけだと言いたげに。
生命力を一気に削ぎ落とす攻撃を受けても彼はどこまでも平静だった。
大魔王も余裕を失っておらず、静かに告げる。
『お前と闘う事態に備え、余は協力者たるルイズの守護を命じた』
ヴェルザーは嘲笑うように牙を剥いた。
爪を振りかざすとその先端に金色に輝く闘気が集っていく。痛恨の一撃を受けた今の彼では防ぎきれないだろう。
「来なくていいのか? 貴様の部下も協力者とやらも仲良く倒されてしまうが」
大魔王は怒るそぶりを見せず、朗らかに笑い出した。
『ふははははっ! 面白い、やってみよ』
「正気か? 部下はともかく貧弱な体の人間などすぐに死んでしまうわ。貴様の好きなチェスに例えるなら兵士(ポーン)……いや、それ以下だ」
大魔王はどこまでも不敵な笑みを浮かべチェスの駒――ヴェルザーの言葉に応じ兵士の駒を手にとった。
『なるほど、ポーンと言えるかもしれん。……どうした? 遠慮はいらんぞ』
「その言葉、後悔するなッ!」
極限まで闘気の込められた爪が突き出され、ミストバーンの胸に吸い込まれた。
甲高く澄んだ音が空気を震わせる。
余韻が消えぬうちにミストバーンが口を開いた。
「そのために私はあらかじめ許可を与えられていた」
彼は首飾りで爪を止めている。ピシピシという音とともに美しい表面に亀裂が広がっていく。
パキン、とガラスの砕けるような音が鼓膜を震わせる。
『――全力で戦ってよいという許可を、な』
首飾りが真っ二つに割れ、閃光が辺りを照らし出した。
収まった後に立っているのは白皙の美貌を持つ青年だ。閉ざされた双眸も神秘的な衣も整った造作を引き立てる役目を果たしている。
長い白銀の髪がさらりと揺れ、衣の裾が翻った。爪を掴んで思いきり引くと巨竜が体勢を崩し――無防備になった顔面に拳が叩きこまれた。
「……ッ!」
単純な、拳での一撃。
効くはずのない攻撃は金属をも噛み砕く牙を易々とへし折った。反撃の炎が二人を飲み込まんと広がるが無造作な手刀一発で空気が割れ、あっさり分かたれ消し飛ぶ。
闘気の矢が串刺しにしようと迫るが、不死鳥の羽ばたきを思わせる掌撃がことごとく弾き返した。
先ほど折った牙を手に喉元まで移動し、牙を杭、拳を槌代わりに全力で打ち込む。さらに拳を幾度も叩きつけ、より深く埋め込んでいく。
強靭な体を持つ竜相手に素手で殴りかかるなど予想を超えている。
「これが貴様の切り札か、大魔王バーン!」
信じられぬ膂力だが、ヴェルザーとてすぐに崩れるほど精神的に脆くない。
果敢に攻めようとして、凍りつく。
いつの間にか異常なまでに膨れ上がった力にようやく気づいたのだ。
426 :
ゼロの影:2008/10/11(土) 23:32:36 ID:GWbm0UJ/
『……何故危険を承知でルイズを向かわせたのか、まだ理解していないようだな』
大魔王の言葉に応じるように憤怒に燃える声が響く。
「誰の“胸”が貧弱ですってぇ……!?」
ルイズの目が怒りと憎しみに染まり、暗く燃えている。
そもそも胸のことなど一言も触れていないのだが、それを指摘する者は誰もいない。
大魔王はノーコメント。
ミストバーンは本来体を持たないため性別も無い。
ヴェルザーはドラゴンである。
「言われたとおり大人しくしてた相手をうっかり殺しかけて、貧弱呼ばわりするなんてね」
空気がうねり髪が逆立つ。
「そして――こいつを侮辱したわね!? わたしだって侮辱したこと無いのに! ……怒らせたことはあるけど」
先ほどとまるで違う、立ち上る力にヴェルザーはあっけにとられている。
『お前のことだからうかつなことを言って怒らせると思っていたが……当たったようだ』
刺激しなければ、怒らせるよう仕向けるつもりだったのだろう。
いつしか大魔王の手には盤上最強の駒、女王(クイーン)が握られている。
兵士の昇格(プロモーション)。怒りによって今の彼女の力は爆発的に跳ね上がっている。
『安全な場所にいては力を実感させることもできん。自らの体でじっくり確かめるがよい』
呪文を唱えるより先に叩き潰そうとするが、ミストバーンが盾となって完全に阻んでいる。
駒が盤面に叩きつけられると同時に杖が振り下ろされ、爆発が起こった。
煙が晴れるとルイズは我に返り、己に歩み寄る青年に何か言いたげな眼差しを向けた。露になった素顔をしげしげと眺めた後ようやく言葉を発する。
「あんた誰?」
と。
沈黙が漂う中、みけんにしわを寄せる。
「やっぱりミストバーン?」
こくりと頷かれ彼女は複雑な表情を浮かべた。
「顔隠す必要ないじゃない。笑っちゃうほど面白い顔ならわかるけど」
彼女の疑問を逸らすように大魔王が語りかける。
『どうだヴェルザー、まだ信じられぬか?』
「フン、人間にしては力を持っているようだ」
答えるヴェルザーは腕を爆発で抉られ苦しそうにしている。ルイズにその気があれば心臓や頭部を爆破されていたかもしれない。
戦闘は可能で戦意も衰えていないが、あれほど侮っていた相手にここまで傷つけられては間違いを認めないわけにはいかない。
協力の条件は”過ちを認めること”だったのだから、力を貸さねばならない。
「だが……いずれ貴様を倒し魔界の頂点に立つ」
宿敵の覇気をどう思ったか、大魔王は極大天候呪文やルイズの魔法について説明を始めた。
彼らを眺めながらルイズはミストバーンに話しかけた。
「素手で竜に殴りかかるなんて、けっこう無茶苦茶ねあんた」
それであの巨体に攻撃が通じるのだから常識を超えている。
「って、もしかしてわたし、とんでもないことしちゃったんじゃ……」
協力するはずの相手の腕を抉ってしまった。
だが、大魔王いわく不滅の魂を持つ冥竜王はたとえ倒されても復活するから気にする必要は無いらしい。そう告げられたため納得するしかなかった。
427 :
ゼロの影:2008/10/11(土) 23:34:11 ID:GWbm0UJ/
「それにしてもあの姿――貴様の若い頃によく似ている。禁呪法生命体か? 血縁者か?」
『血縁……そう言えなくもないな』
「何ッ!? 顔を隠していたのは箱入り息子ということか。貴様が家族愛に溢れていたとは思わなんだぞ」
ヴェルザーは大魔王の言葉にすっかり食いついている。
先ほど食らった矢の傷は無事か確かめようとしてルイズはミストバーンに触れたが、反射的に手を引っ込めた。
(冷たっ!?)
ヴェルザーは拳が金属に包まれていたことと、判明した“正体”に夢中になっていることもあって気にとめていないが、まるで氷のような冷たさだ。
ルイズが首をかしげる前で冥竜王と配下の竜も呪文に協力することが決定したのだった。
428 :
ゼロの影:2008/10/11(土) 23:36:51 ID:GWbm0UJ/
以上です。
処理しきれなくなるのでキルバーン(ピロロ)は登場しません。申し訳ありません……。
ヴェルザーは原作で登場した場面が少ないので想像による部分が大きいです。特に戦い方が。
アレな部分は「こういうヴェルザー像を抱く奴もいるんだな」と流していただけると幸いです。
「ミストバーンのハルケギニアライフ」というより「ルイズの魔界ライフ」になりつつあるので「呪文詠唱前夜〜当日」で最後にします。
……他の職人様方の投下をお待ちしております。
貧弱な体、って台詞をそう解釈するルイズに笑
ミストは思わせぶりに顔隠さずに最初から息子か親戚とか言ってた方がめんどくさくなくてよかったんじゃないだろうか、ザボエラに息子がいたくらいだし
虚無もトンデモだが、自分の体二つに分けるとか魔界の技術も大概トンデモだよな
トンデモついでにルイズは魔界で胸が大きくなる秘法でも探すといいと思うよ
魔太子ミストバーンの誤報として魔界を駆けめぐるが、
面白いからまあよいではないかというバーン様の意向でそのままに。
>>428 ピロロを希望した者です。無理を言って申し訳ありませんでした。
ポップがカイザーフェニックスを破ったのって、マホ何とかじゃないんだろうか?
相手の呪文のMP吸収するやつなかったっけ?
>>432 それは確かマホキテだけど、マホキテではダメージは消せなかったはず。
カイザーフェニックスを破ったのが呪文だとしたら、マホステじゃないかな。
ゼロの影見っけて全部読んでみたけど完結してるってのが驚いた。
あの作品のキャラが〜の方でも完結作少ないし。
この作者さんはプロットと書く気が起きれば、
誰と絡ませても上手いこと書き切れそうな気がする。
うろ覚えだけど、メドローアの特訓のお陰か骨を掴んだみたいなことを言ってたから、
大魔導師版北斗神拳ってことで、カイザーフェニックスの経絡秘孔を突いたってことで
すごいね、人体
カイザーフェニックス破りは
ヒャド系の応用で手に冷気をまとわせて
フェニックスの口に指を突っ込んで裂く
というとんでもないのじゃなかったっけ。
もとからヒャド系に適正があったのと、
メドローアの練習でヒャドでメラを抑えるのに慣れていたからだろうけど。
ポップは本来火炎系のが得意、メドの特訓のおかげで同レベルでヒャド系行使できるだけだよ
なんか最初からメラゾーマ使ってたしね
しかしこのスレのまったりとしてそれでいてしつこくないしゃっきりぽんな空気は好きだな。
光魔の杖は魔力あればいいんだから、
ルイズでも使えるな。
両世界の魔力って同じなのかな?
>>436 そんな説明あったっけ?
>>436-437 極大呪文まで使えるメラ系には及ばないけど、ヒャド系も凄くなかったっけ?
あとの年でヒャダルコを使えるとは!?みたいなのがあったような……
>>442 手元にマンガないからどの巻か忘れたけど、マトリフとメドローアの修行中にそんなセリフなかったけか?
キルのトラップにかかった時に、レオナが
ポップのヒャダルコは、自分のとは威力が
全然違うみたいな事は言っていた記憶がある
少なくともポップはメド修行前にマヒャドを使ったことはない。
そして指五メラゾーマを見よう見まねで成功させてる。どっちが得意か、わかるよな
才能のこと話してんじゃなくてどっちがとくいか?だからな。
使えるかどうかと威力の強弱とすこしややこしいね。
ポップってマヒャド使えたっけ?
メドローアできるんだから使えそう
メドローアはメラとヒャドができれば使えると思うんだけどな。
マァムに「両方ヒャド出してどうする」とか言われてたし。
使えてもおかしくはないけど実際に使ってはいない、というのが正解だろう。
作品中でマヒャドを使ったのはノヴァぐらいだ。
>436
それをやったのはポップじゃなくてダイだった記憶があるのですが。
ポップはシャハルの鏡でカイザーフェニックスを跳ね返したはずです。
最後の最後にカイザーフェニックスに手を突っ込んで引き裂いただろ
たしかポップが「俺って天才かも」とか茶化したらダイが「お前は最初から天才だよ」とか返事してたはず
あとメドローアの修行で火の魔法力のほうが強くて腕が焦げてたが
その理由が火の呪文のほうが得意だからじゃなかったっけ?
ポップはラストあたりだと殆どの呪文を契約させられたと言ってたね。
やらせたのがマトリフなことからして、マヒャドとかイオナズンとかも少なくとも契約は済んでるんじゃないかと
ハドラーあたりから先は単発のメラゾーマやマヒャドじゃ効果無しなのが目に見えてるから、
使う動機も機会も無かったのではないかと…なんたるインフレ…禁呪法レベルがデフォだもんな。
大魔道士に使えぬ魔法など在りはしない!
455 :
ゼロの影:2008/10/15(水) 22:53:11 ID:H3tK0WJm
「呪文詠唱前夜〜当日」を前・中・後編の三話で完結編として投下予定です。
23:00頃に前編を投下します。
456 :
ゼロの影:2008/10/15(水) 22:57:07 ID:H3tK0WJm
完結編 心を一つに 前編〜光と影〜
極大天候呪文実行予定日前夜、大魔王の宮殿の中庭には冥竜王ヴェルザーが座し、一室では大魔王とルイズが言葉を交わしていた。
話し合った後大魔王は退出し、ヴェルザーの元へ向かう。
残されたルイズは考え込むように視線を彷徨わせたが、室内に入ってきたミストバーンに何か言いたげな表情をした。
彼の方も物思いにふけっているのかそれに気づかないままだ。
やがてルイズは視線を逸らし、緊張を和らげるかのように『始祖の祈祷書』をめくってぶつぶつ呟き始めた。
大魔王とヴェルザーが対面している中庭にはわずかに張りつめた空気が漂っている。
元々両者は敵対する立場だった。それでも手を組んだ理由は魔界に太陽をもたらすため。
当初、竜族を加えなくても回数を増やし、少しずつ黒雲の無い領域を広げればいいと考えられていた。
だが、術者への負担をはじめ様々な要因から極力少ない回数――つまり一度で全てを逆転させねばならないことが明らかになったため、竜族の力が必要になった。
計算した結果、竜族の力を加えても可能性はよくて五分五分。協力が不可欠だ。
また、神々を憎むバーンにとっては復讐の意味も帯びている。
神々が世界を分けたのは三種族が争う状況を憂いたため。協力することに期待せず、力で押さえつけただけだった。
だが、三種族の力で魔界に太陽をもたらし、彼らが捨てた可能性を叩きつければ最高の復讐になるのではないか。
ヴェルザーとも意見が一致し、竜族も協力することとなった。
訪れた大魔王が思考の淵を探るような表情をしていたためヴェルザーは不機嫌そうな声を出した。
「今更怖気づいたか? わざわざ予定より早く行うと決めたのは貴様だぞ。そもそも、あの小娘の体が耐えきれるのか?」
果たして上手くいくのかと言いたげなヴェルザーに大魔王は淡々と説明を行った。
ルーンを利用し他者から力を集める実験は成功した。
だがそのままでは術者であるルイズの体は途中で崩壊してしまうことが大分前からわかっている。そのため共に力を放出し、負担を肩代わりする必要がある。
自らが請け負うと告げられ、ヴェルザーの眼が簡単にへし折れそうな首に向けられた。
「魔族の中でしぶとい貴様でも耐えきれん。竜や他の魔族達と分担するのか」
返事は否定だった。
大勢で分担することはできず、ただ一名のみ可能だ。莫大な魔力を持つ者が該当するが、成功の確率が最も高いのは大魔王本人だ。
「むろん手は打つ……」
その目は何かを選び、決断したような光を帯びていた。
「貴様は異世界の魔法は使えんのか? 『虚無』とやらは“破壊できぬものをゼロにする”らしいが」
始祖の『虚無』の一部はこちらの世界の呪文と同じものもあるが、ハルケギニアで一般的な四大系統はどうなのか。
答えは、そのまま使用することはできないということだった。
こちらの世界のルーラやトベルーラはハルケギニアで使えても、ウィンディ・アイシクルやフレイム・ボールなどの呪文を使うことはできない。
こちらの世界の呪文と組み合わせて独自の効果を生み出そうとする試みも行われた。
だが、似た呪文の効果が速やかに発揮されたり効率的に威力を上げたりといった補助的な働きに留まっている。
時間をかけて研究を進めれば次の段階へ進めるかもしれないが、極大天候呪文の準備を最優先にしてきたため実現は遥か先のこととなりそうだった。
「興味深い呪文もあったのだがな」
「ほう? 何だそれは」
ヴェルザーの眼が好奇心で光った。魔界の住人だけあって“力”に関心を持たずにはいられないようだ。
「風の遍在(ユビキタス)と言う」
それぞれに意思と力を持つ存在を作り出す風のスクウェア・スペル。使えれば便利だと呟く大魔王を見てヴェルザーは試しに想像してみた。
複数の大魔王が完全に息の合った連係を披露し、高笑いしながら火球呪文や爆裂呪文を連発して攻撃してくる様を。
「……なかなか愉快な光景だな」
思わず頭を振って打ち消してしまったヴェルザーであった。
457 :
ゼロの影:2008/10/15(水) 22:59:20 ID:H3tK0WJm
当日、初めて本物の陽光に照らされた特別な地――ウェールズの眠る丘の上には大きな円が描かれ、線上に六つの点が打たれていた。
呪文の要であるこの場所で力を注ぐのは、それぞれの種族の中でも選りすぐりの強者達だ。
ミストバーンが円の中心に、上から見て頂にルイズ、底に大魔王、他の点にはヴェルザーと竜、そして魔族二名が立っている。
さらに魔界各地に魔方陣が作られ、力を注ぐ準備が整えられていた。
「結局負担について解決したのか?」
「このままではもたん。このままではな」
あっさり言いきった大魔王はミストバーンに向き直り、告げた。
「お前に長年預けていたものを返してもらう時が来たようだ」
ミストバーンは頷き、闇の衣に手をかけて封印を解いた。素顔が露になり、大魔王へ歩み寄る。
「お返しいたします。天地魔界に無敵とうたわれた、真の大魔王バーンの肉体を……!」
光が二人を包み、収まると、鋭い双眸の魔族が立っていた。若々しく覇気に溢れ、極限まで鍛えられた身体は敏捷性と力強さを感じさせる。
年齢は全く違うが全身を包む鋭気から同一人物だとわかった。
ヴェルザーが理解と疑問を浮かべた表情で呟く。
「貴様の分身体だったのか。何故わざわざそんなことを」
拍子抜けしたような声に大魔王が答える。
「……武器として利用するためだ。分身体は意思を持たぬので余の部下が一体化し操っていた。正解にはたどり着けなかったようだな」
大魔王は自らの肉体を二つに分けた。本体に叡智と魔力を残し、若さと力をもう一つの身体に込めて。
だが、大魔王に代わり魔界の覇権を握ろうと企む者には知られたくなかったはずだ。長年の間姿どころか声も隠し続けてきたのだから。
疑念の眼差しに対する答えは簡潔だった。
「魔界に太陽をもたらすためだ」
ヴェルザーがバーンを凝視する一方、ルイズはミストバーンに食い入るような、二名の魔族はどこか冷やかな蔑みに近い視線を向けていた。
実体を持たない、黒い霧のような姿へと。
闇の衣を着ている時と同様、胸の辺りにルーンが光っている。
「これが私の……本当の姿だ」
ミストバーンは、ミストという暗黒闘気の集合体が大魔王バーンの身体と一体化した存在だった。
自分の体を持たない彼は次々に身体を乗り換えて強くなるしかなかった。
その反動で強き者に――自らを高める者に、強い羨望の念とともに敬意を抱いた。彼には絶対にできないことだから。
己の能力を忌避していたからこそ、それを認め必要とした主に絶対の忠誠を誓った。
あらかじめ大魔王から負担についての説明と「返してもらう」ことを告げられたため、昨夜は秘密と正体をさらけ出すことに思いを馳せていたのである。
正体を知ったルイズはじっとミストバーン――ミストを見つめている。
授業で爆発を起こし、落ち込んでいた時にかけられた言葉の意味をようやく理解したのだ。
『わたしには何の力も無くて……誰かから必要とされることはないんだわ。認められることも――』
『……どれほど望んでも、何の力も持てぬ者もいる』
何の力も持てぬ者とは、他人の体を奪えば簡単に強くなれるが、器が無ければ何の力も振るえない彼のことだった。
458 :
ゼロの影:2008/10/15(水) 23:02:07 ID:H3tK0WJm
ミストは吐き出される言葉を予想した。
『自分の強さじゃなかったのね』
『寄生虫だわ』
だが、ミストの内心を知ってか知らずかルイズは威勢よくビシッと指差した。
「大魔王一筋で、ウェールズ様を尊敬してて、わたしを認めてくれて、冷たい奴かと思ったら意外と熱くて……だったら正体が何だって関係ないわよ」
ルイズにとって彼は“自分が召喚した相手”であり、それだけで十分だ。
もう少し人に優しくしてほしいと思わなくもないが、大魔王の部下に言うことではないとわかっている。
この程度でいちいち動揺するような繊細さはいつの間にか失ってしまっていた。
ミストはしばし言葉を失っていたが、いよいよ開始する時刻になったため中央に移動した。
皆表情を引き締め空を見上げる。
ルイズは大きく息を吸い、精神を集中させた。ルーンが輝き他者をつなぐ。朗々たる声が可憐な唇から紡ぎだされていく。
力が集まり高まっていくにつれて大魔王の顔がわずかに歪んだ。膨大な力が体内で荒れ狂う衝撃は想像を超えていた。
心臓が潰れそうな、全身の骨が粉々に砕かれるような、凄まじい痛みが意識を責め苛み切り刻んでいく。負荷に耐えきれず口から血塊が吐き出された。
皮膚が所々裂け、再生してふさがるそばから再び裂傷が走る。地面に血の滴が飛び散り辺りを染め上げた。
それでも彼は鋭い眼光のまま力を注ぎ続ける。
ミストは自身の体を削ってルイズに送り込んでいたが、ルーンの働きか彼女の考えが伝わってきた。
あまりに力が大きすぎるため扱いが極端に難しくなっている。
だが、本人以上に体や技を使えるミストと力を合わせれば、成功に近づけるだろう。
(来なさいよ。わたしの中に)
「馬鹿な……。魂を砕くかもしれんのだぞ」
本人の意識が邪魔になり消してしまう可能性もある。何の恐怖もためらいも無く暗黒闘気の塊を受け入れようとするなど彼の理解を超えていた。
ルイズは怒ったようだった。
(そんなことしなくても……一つになれるわよ!)
ウェールズとともに呪文を成功させた時のように。
今この瞬間、皆が望んでいる光景は――抱いている想いは同じだ。
ミストがゆらりと動き、ルイズの体に入り込んだ。意識を奪わずに二人で力をコントロールしようとする。
ルーンによって力が一つになり、ルイズの中に入ることで一体化した。
凄まじい力によって魔界だけでなく地上まで震え、世界全体が鳴動し咆哮する。
やがて渦巻く力の奔流が魔界の空に達し、眩い光が視界を覆いつくした。
閃光がおさまると黒雲に閉ざされていた空は完全に晴れ、温かく穏やかな陽光が魔界の住人を照らし、優しく包み込んでいた。
直接見ずとも、魔界各地で呪文に参加した者達もそうでない者達も歓声を上げたのがわかる。
彼らは口々に喜びの叫びを迸らせ、愉快そうにはしゃぐ。
荒れ果てた地面に寝そべり日光を浴びる者もいれば、瞼を閉ざし立ち尽くす者もいる。
太陽の恩恵についての詳しい知識はなくともわずかな間で悟ったのだ。これは生命に必要なものなのだと。
心が――世界が一つになっている。
それが確かに感じられた。
459 :
ゼロの影:2008/10/15(水) 23:03:00 ID:H3tK0WJm
「やった……! やったわ!」
ルイズはガッツポーズをしたが、ゆっくり倒れこんでしまった。体が鉛のように重く、荒れ果てた地面が柔らかな寝床のように感じられる。
精神的な疲労も激しいため今すぐ宮殿に戻って休みたかった。
他の竜と魔族も意識を失って倒れ伏し、ヴェルザーは本当にやり遂げたと信じられないのか黙って空を見上げている。
ミストは前回のように消滅こそしないものの、消耗が激しく存在を維持するだけで精一杯だ。
そして、大魔王を見たルイズは思わず息を呑んだ。
全身が血に塗れ、目や口からも血が流れている。あちこちに刻まれた裂傷より内側の方が酷いことを想像させた。
数千年抱き続けた己の野望がついに叶ったというのにその表情は険しい。ルイズが一度も見たことのない表情だ。
単に傷や疲労が原因ならそんな顔はしないだろう。
(どうして? 一件落着じゃないの?)
不穏な空気の源はすぐに見つかった。
黒竜が大魔王に視線を向けて告げる。
「貴様の力は極端に落ち、警戒していた部下も存在しなくなった」
声は、残酷な歓喜に彩られていた。
「今なら簡単に殺せるな」
460 :
ゼロの影:2008/10/15(水) 23:03:38 ID:H3tK0WJm
以上です。
出番のわりに 全 く 苦労しなかったバーン様にまとめてダメージが入りました。
若返って威厳が無くなったと言われますが、窮地に追い込まれてからの姿勢が見事だと思います。
老人姿も真大魔王も鬼眼王も魅力的。
ただ「爆発はどうしたァァッ!」は見るたび笑ってゲフゴフ
ヴェルザー鬼ww
後編を色々予測したくなるけど口チャックでw
GJでした!
影の人乙です!
ヴェルザーの発想は魔界らしいなと思いました。
ミストに憑かれたらルイズもマァムみたいに黒ルイズになるのだろうか
お久しぶりです。10分後くらいに8話投下しますね
今回文章量がいつもの1.5倍ぐらいあるので支援してもらえると
ありがたいです
途中でさるさんくらったら以後は避難所で続きを投下します。
では10分後に ノシ
ではいきます
――第8話――
「…………?」
予想していた痛みや衝撃が、いつまでもやって来ない事に不審がったルイズが、そろそろと目を開けた。が――
「な……何……これ?」
目の前に飛び込んで来た映像に目を丸くする。そこには、拳を突き出した形のまま、全身を鋭利な鎖でぐるぐる巻きにされたワルキューレの姿があった。
一体何が……。戸惑ているルイズの背後から、声が掛けられる。
「油断したな……主よ」
「ハドラー!?」
やはりという思いで振り返ったルイズが見たものは、いつも通りの使い魔の姿――では無い。ハドラーの左手首の辺りからは、刃のびっしり付いた鎖が生えている。恐らくは隠し武器の一種に違い無い。そうルイズは解釈した。が、
「……どう見ても長過ぎない?……これ」
ハドラーの立っている所からここまで、どう見積もっても10メイル以上はある。いくら折り畳み式とは言え、明らかに腕の体積を超えている不条理に、ルイズは指摘せずにはいられなかった。
「――主の勝利はまだ決まっておらん。最後の最後まで気を抜かない事だ」
「うわ無視」
眉一つ動かさずスルーしたハドラーについ突っ込むルイズ。とは言え、助かったのは事実である。ハドラーの助けが無ければ、自分は確実にやられていただろうから……。
ルイズは息を吐くと、気分を入れ替える。鎖の謎は気になるも、彼女は、自分の甘さを改めて認識した。
「まあそれは良い。だが――」
ルイズから目を離し、ハドラーがぶん、と左手を振る。人間離れした力は簡単にワルキューレを引き摺り倒した。
「……どういうつもりだ?」
ゴーレムの背後にいたギーシュを、ハドラーが睨み付ける。
「あ……」
ギーシュは、何か口を動かそうとするが、上手く喋れない。口も……身体も……脳ですら、普段の機能を果たそうとしてくれなかった。
「どういうつもりだと、訊いている!」
答えようとしないギーシュに、ハドラーが 怒りを滲ませた。殺気すら覚えそうなその迫力に、ギーシュはおろか関係無い筈の周りの観客達まで総毛立つ。
吐き気を催す程の緊張が漂う中、やっとの思いで『解凍』したギーシュは、唾を飲み込むと、恐る恐る言葉を搾り出した。
「き……、君だって、さ、さっき言ってたじゃないか。『まだ勝負は終わっていない』って……。ぼ、僕は……そのルールに、し、し、従っただけさ」
言葉を詰まらせつつも、ギーシュは何とかハドラーを見返す。棒切れ一つで猛獣と戦う様な気分だった。
(そ、そうさ……。僕は、ルールに従っただけだ)
ルール――その言葉をギーシュは何度も噛み締めた。姿形の無い、だがこの場においては絶対の存在である。少々強引な理屈ではあったものの、自分が咎められる程の理由も、また無い筈だった。それどころか――
「そ、それに……。ルール違反と言うのなら、き、君はどうなんだ?中立を守るべき審判が加勢したんだ。これ以上無い、ルール違反じゃないか!」
では頑張れ支援。
精一杯の声を出し終えて、ギーシュは肩で息をした。ハドラーから発せられる猛烈なプレッシャーは、ただ対峙しているだけでも体力を奪う……しかし。
(そうさ……僕は正しい)
確かに、きっかけこそ不純なものだったのかもしれない。だが、今やハドラーの横暴を防ぐ為にも、自分の勝利と未来の為にも、ギーシュは自分の意見の正当性を主張した。
「……それでも、僕を断罪しようと言うのかい?」
何とか威勢を保ちつつ、ちらりと視線を這わす。周囲の観客達はギーシュの言を受けて、再びざわつきを見せていた。その中には自分の意見に賛同する声も、ちらほらと上がっている。
だが、それでもハドラーの表情は変わらなかった。周りの空気など一切構う事も無く、相変わらず背筋の凍る様な視線でギーシュを見つめている。
しばらくして……。一通り議論は済んだのか、一人、また一人と、まるで波が引く様に口を閉ざしていく。
しん――と皆が判決を待つ中、使い魔の男は静かに切り出した。
「……ふん。確かにお前の言う通りだ。これが実戦ならば、おそらく主はやられていただろう」
ハドラーの言葉に、周りは僅かに色めき立った。はっきり肯定と取れる発言に、ギーシュは薄く笑みを浮かべる。
一方のルイズは、静かに佇んでいた。……負ける気は毛頭無い。だが、ハドラーの言う通り、油断してしまったのもまた事実だった。
潔く結果を受け入れる事も、貴族たる証だ。ルイズがそう決心した直後、使い魔の口が再び開いた。
「……だが、これは『殺し合い』ではない。――『決闘』だ。互いの誇りを賭けた、正々堂々の真剣勝負の筈」
ハドラーが再び口を開き、そのままギーシュを一瞥する。その眼光に広場の空気が凍りついた刹那、使い魔が歯を軋ませた。
「……その『決闘』で、お前は無防備の相手を背後から襲ったのだ。そんな者が『誇り』などぬかすでないわ!!」
――鼓膜が痺れる程の一喝。その迫力に、広場の全員が芯から縮み上がった。この手の事態には免疫のあるタバサでさえ、動悸が収まらない。思わず、手にしていたはしばみ草を落としてしまう程だ。ましてや人一倍臆病な、小太りの少年は……記すことさえはばかれる。
一切の有無を言わせない、絶対的な空気。だがそんな中、ギーシュは一人激昂した。
「ぼ……僕に誇りが無いだって!?よくもそんな出鱈目を!」
襲い来るプレッシャーを跳ね除け、ハドラーを見返す。誇りを虚仮にされたとあっては、黙ってはいられない。
怒りに満ちた二つの視線が真っ向から交錯した。一触即発の気配に、思わずギャラリー達の足が後ずさる。
「……では、何故正面から挑まん!相手はお前よりも格下なのだろう?」
「そ、それは……」
ギーシュが言葉を詰まらせる。汗のへばり付いたその顔は、焦りと保身がはっきりと見え隠れしていた。
(成る程……苛立っていたのは、このせいか)
ハドラーの表情が一層険しくなる。知らぬ内に、姿を重ねていたのかもしれない。態度も、行動も……。何もかもがそっくりだった。
一つ鼻を鳴らした後、ハドラーは息を吸う。ギーシュと、その背後に立つ、かつての自分の幻影に向けて、使い魔の男は哮った。
「認めるがいい。お前は敗北を恐れるあまり、誇りを捨てたのだ!」
ギーシュに言ったのか、それとも自分に言ったのかは、分からない……。その一言は諸刃の剣となり、ハドラーの胸を刺した。
「……そ、それでも……勝ちは……勝ちだ……っ!」
『影』が消え、再び一人となったギーシュは、呻く様に声を上げた。その態度に、ハドラーはまだ分からぬか、と言った様子で眼を吊り上げる。
「勝利だけが正しい訳では無い。男の戦いには……勝ち負けより大事なものがあるのだ!」
「いや私……女だし……」
おずおずと告げたルイズだったが、案の定無視された。いじいじと地面に字を書き出した少女をよそに、ハドラーが話を続ける。
「それに、もし勝つ事のみが重要だとするのならば、どの道お前は、戦った直後に負けていよう」
「な、何を馬鹿……な……?」
聞き捨てならぬと、反論しかけたギーシュの胸に、決闘前の気妙な一幕がよぎった。決闘の直前、ルイズは何故か必要以上に間合いを取ろうとしたのである。(最終的には、20メイル程で落ち着いた様だったが)
「…………!!」
何の意味があったのか、とギーシュが考えたその瞬間だった。
――君の爆発は射程が限られているね?おおよそ、10メイル強と言った所か!?――
自分の言い放った言葉がはっきりとフラッシュバックする。――あの時、ルイズはどんな表情をしていたか?
「そうだ……ルイズはあの時『驚いた』顔をしたんじゃない……『気付かれた』顔をしていたんだ!……な……なら……まさか……」
「ようやく理解した様だな。もし主が離れていなければ、お前は開始と同時に、爆発させられていただろう」
ハドラーが握り締めた指をぱっ、と弾いた。『爆発』のジェスチャーに、ギーシュが掠れた声を上げる。そして――
「……だが主はそれをしなかった。不利と分かっていながらも、決闘のルールに則り、正々堂々と勝負をしたのだ。我が身可愛さに、誇りを捨てたお前とは、比べるべくもなかろう」
ハドラーがとどめを刺した。その言葉はナイフとなり、ギーシュの心を刺し貫く。しばらく、死んだ様に動かなくなったギーシュだったが……。「はは……は……」
やがて燃え尽きた様な笑いを上げると、手にした杖を、頼り無く取り落とした。
「そう……だね……その通りだ。僕は……ルイズを侮っていた。だから、自分がこんな結果になった事を信じたくはなかったんだ……。誤魔化す為の見苦しい言い訳まで用意してね。……はは……こんな僕が、どうして貴族を語れるんだろう」
「ギーシュ……」
足元一杯に字を書き終えたルイズが、杖先に付着した土を払いつつ、気遣う様に呼ぶ。それをギーシュは手で制すると、黙って首を振った。
「いいんだ……。ようやく目が覚めたよ。……本当に愚かだったのは、この僕の方だった。」
自戒を込めてルイズに告げると、今度はハドラーの方を向いた。
「ハドラー……と言ったね。聞いての通り、僕はルールを破った。この上は潔く、君からの罰を受けるとするよ」
「ほう……?」
意外そうな表情でギーシュを見つめ返したハドラーに、ギーシュが思わず苦笑いを浮かべる。
「そんな顔で見ないでくれたまえよ。恥ずかしながら僕だって貴族なんだ。恥のすすぎ方ぐらいは……充分わきまえているさ」
そう言い放つと、ギーシュは足を前に踏み出した。その足取りは、今までの浮ついたものとは違い、堂々としたものである。
そんなギーシュの不退転の決意をひしひしと感じたハドラーは、口角を吊り上げて笑った。
「よかろう!お前の覚悟がどれ程のものか、見せてもらうぞ!!」
直後、ハドラーは左腕を思いっきり振り上げた。その勢いで、鎖に絡め取られていたワルキューレは一気に空を舞う。
「おおおおおお!!」
咆哮を上げ、ハドラーがそのまま左腕を振り回した。人間を軽く超越した膂力は、上空の乙女像を猛烈な勢いで旋回させていく。ワルキューレの空洞の身体から、悲鳴の様な風切り音が飛び出した。そして――
「はあっ!!」
左手のルーンが淡く輝いたと同時、使い魔の左腕が伸びた。戒めから解き放たれたワルキューレが、弾丸となって空中を疾駆する。その勢いはヴェストリの広場を通過しても尚衰える事無く、本塔の方角へと一直線に突き進んだ、その直後――
稲妻の様な轟音が響き渡る。ワルキューレ(だったもの)は、本塔の最上階付近、ちょうど学院の宝物庫がある辺りに、深々と突き刺さった。露出した下半身だけが、モズの早贄よろしく、外壁からぶらぶらと垂れ下がっている。
「…………」
冗談の様な光景の連続に、皆、口を一斉に引き攣らせた。その一方で、ハドラーもまた、顔をしかめている。
(ふむ……あそこまで飛ばすつもりは無かったのだがな……)
ハドラーが左手を見遣る。このルーンが光った瞬間、身体が羽の様に軽くなったのだ。
(まあいい)
その件については後回しだ。そう結論付けると、ハドラーは棒立ちのまま硬直したギーシュをゆっくりと見据えた。
「待たせたな」
「待ってませぇん」
何とも残虐な笑みを浮かべつつ、言葉を投げ掛けたハドラーに、ギーシュは早くも先程の言葉を、猛烈に後悔し始めていた。周囲もギーシュの逃れられぬ運命を悼んだのか、十字を切ったり、涙したりなど、すっかり混乱模様である。
先程までの威厳がすっかり消え失せたギーシュに、ルイズは小さく嘆息すると、ハドラーの前に立ちはだかった
支援って1人で何回かやっても効果あるのかな?
と疑問に思いつつ支援。
支援
「……もういいわハドラー。ギーシュも反省してるみたいだし。……それに、あのままじゃどの道勝ち目は薄かったと思うから」
「何?」
ハドラーの眉がぴくりと跳ね上がった。ルイズが苦笑いを浮かべて答える。
「……精神力がもう無いのよ。杖を突き付けた所までは良かったのだけれど……きっとギーシュを倒す程の爆発は使えなかったと思う。ギーシュもギーシュで意識が飛んじゃってて、降参どころじゃなかったしね。仕方無いからあんたに判断してもらおうと思っていたの」
「ル……ルイズ……それは……」
本当かい?と言おうとしたギーシュをルイズが後ろ手で軽く制する。
「……ま、とにかくそう言う事よ。決闘はあれで終わりじゃ無かった……だとしたら、あんたが手を貸した時点で、この決闘は私の負けよね?」
言い終えたルイズに、ハドラーの目が鋭く向けられた。値踏されている様な冷たい視線に、ルイズは冷汗を浮かべつつ、真っ向から対抗する。
自分を守る様に立つ彼女の姿を、ギーシュは心臓の縮む思いで見ていた。
自分に杖を向けた時のルイズの気迫は、身震いすら感じさせる程だった。あれが彼女の限界であったとは、到底思えない。
嘘か、誠か……。それ以前に何故自分を庇ってくれるのか。ギーシュの思いをよそに、両者が厳しい顔で見つめ合う。と――
「……そこまで言うのなら、この場は主に譲ろう」
ふっ、と表情を緩めて、ハドラーが折れた。急速に解凍されていく空気に混じって、ルイズは肺に溜まっていた息を一気に吐く。
緊張で早まった呼吸を落ち着かせると、未だぽかんとしているギーシュに向かって、小さく呟いた。
「……あんたが土壇場で見せた誇りに私も応えなきゃ、と思っただけよ。あんたから何もかも奪うつもりなんて、元より無いもの。それにね……あんたには感謝してるの」
「へ?」
「この決闘が無かったら、私はこの先もずっと『ゼロ』の名に怯えていたわ。……あんたの言ってた通りよ。私は爆発しか使えない『ゼロ』なの」
『ゼロ』と名乗ってルイズが笑う。だがその表情には、自虐や悲壮の色は全く見られなかった。
「……でも気付いたの。確かに自分は爆発しか起こせない。だけど……こんな風に爆発を起こす事が出来るのもまた、自分だけなんだって事を。だから――」
ルイズが息を吸う。そして――
「私は『ゼロ』を受け入れるわ。唯一無比、『爆発』を使いこなすメイジとして、いつか皆に認めさせてやるのよ!」
凜とした声で、言い放った。あまりにも想像の域を外れた発言に、ギーシュの顔から思わず血の気が引く。
「……む……無茶苦茶だ。そんな常識外の事、到底認めてもらえる訳が無い。それに……ここはトリステインだよ?何でもありのゲルマニアとは違う、格式と伝統を重んじた貴族の国だ。君の主張が受け入れられるにはその……あまりにも不利ではないのかね?」
恐る恐るギーシュが尋ねた。もしそんな事を周りに言い触らせば、反って反発を招くだけではなかろうか?魔法が使えない事による只の言い訳……そんな風に捉える者だって山ほど現われるに違いない。
自分を助けてくれた者がそんな目に合うのを、彼は見過したくはなかった。だが――
「ねえギーシュ。こうやって決闘した訳だけど……私の魔法はどうだった?」
ルイズは黙って首を振った後、突然話題を変えた。その態度に訝りながらもギーシュは素直に感想を述べる。
「あ、ああ……凄かったよ、本当にね。まさか僕のワルキューレが木っ端みじんにされるなんて……思ってもみなかったな」
「そう……良かった」
そう言うとルイズはにっ、と笑った。してやったりと言った表情である。さっぱり訳が分からないでいるギーシュに、少女は悪戯っぽく告げた。
「気付かない?今の受け答え……あんたは私の爆発を魔法だと認めてるのよ?食堂では『魔法かどうかも怪しい』って言ってたあんたがね」
「!!」
ギーシュが目を白黒させた。確かにルイズの言った通りである。
「決闘の途中からあんたはずっと、私の爆発を魔法として扱っていた。その時点で、私の目的は既に達成してたのよ」
「……」
「だから私は前に進める。今日の決闘で少なくともあんたは私の魔法を認めたんだもの。皆に認めてもらう事だって、決して夢じゃない……ううん。夢なんかにしない。いつか……絶対に叶えてみせるわ」
そう言ってルイズは力強く微笑んだ。陽光に照らされて笑う彼女を、ギーシュは、ただただ見つめる。
……ルイズはボロボロだった。あちこち破け、薄汚れた制服。鮮やかな桃色の髪は煤けてバサバサになっており、シミ一つ無かった顔や身体は、今は細かい擦り傷だらけになっている……。
みっともない姿だ。何もかもが、ギーシュが日々理想とする貴族像から遠く掛け離れている。なのに……
(ああ――)
なのに、そんなルイズが、ギーシュには何よりも眩しく感じられた。どんなにボロボロでも、彼女の中には決して汚せない心があるのだろう。
(はは……本当に、格好いいじゃないか……君は)
目の前で輝くルイズを見て、ギーシュは知らず、苦笑する。外見を取り繕う事で必死だった自分が、何とも恥ずかしく思えて来る。
……ルイズは精神力が切れたと言っていた。だが決して勝ち目が『無い』とは言っていない。おそらく……あのまま続いても、彼女は立ち上がって来たのだろう。
「――どの道僕は負けていた……か」
「え?」
「何でも無いよ。それよりルイズ」
何?と返事をしたルイズに、ギーシュはこれまでの態度が嘘の様に、丁寧に一礼する。
「このギーシュ・ド・グラモン。君に言った侮辱の言葉を全て取り消そう。本当に……済まなかった。僕が傷付けたレディ達にも、後で必ずお詫びに行くよ」
思わず呆気に取られるルイズに、ギーシュは笑い掛けた。
「……僕も頑張ろうと思う。君の様な『貴族』になる事をね」
ギーシュが薔薇を高らかに掲げ――
「ギーシュ・ド・グラモンがここに降参を宣言する。この決闘……僕の完敗だ!」
両者を讃える声が吹き荒れ、ヴェストリの広場は最高潮の熱気に包まれた。
ふむ。一見落着……と言う所かの」
机の上の『鏡』に映し出されたヴェストリの広場の映像を眺め、トリステイン魔法学院の長、オールド・オスマンは独り呟いた。
彼が居るのは学院の本塔最上階にある学院長室だ。部屋に駆け込んで来た教師達から決闘騒ぎの話を聞いたオスマンは、彼らを適当に宥めすかした後、『遠見の鏡』を使って事の成り行きを見守っていたのだった。
「しっかし、こんな些細な事ぐらいで『眠りの鐘』の使用まで訴えるとは……我が学院の教師も随分レベルが落ちたもんじゃ。のう?モートソグニル」
深く皴の入ったその手で髭を弄りながら、オスマンは自身の使い魔の名を呼ぶ。チュウ!と一鳴きし、ハツカネズミのモートソグニルは嬉しそうに返事をした。
それに満足したオスマンはそのまま鏡に手をかざす。映像がぱっ、と切り替わり、次の瞬間にはハドラーの全身像を映し出していた。
「ミス・ヴァリエールの使い魔……か。思えばこの騒ぎが円満に収まったのも、偏に彼のおかげ。じゃが……」
そのままオスマンは沈黙する。先程ハドラーの手に浮かんだルーンが、どうも気に掛かったのだ。どこかで目にした様な……頭を押さえ、齢200とも300とも噂されるこの老人は、顔を皴だらけにしつつ必死で記憶を辿るが……。
「まあええわい。そういう細かい事はミスタ・コルベールに任せようかの。全くあのハゲ……今更多少毛が焼けた所で変わりゃせんと言うのに」
あっさりと諦めると、昨日のショックから未だ立ち直れないでいる中年教師に、全て任せる事にする。名案だね、とばかりにモートソグニルが、またも鳴き声を上げた。
「ま、その件はいいじゃろ。しかし見物じゃったのう。いつも小生意気なガキどもが、あの男がいるだけで、まるで借りて来た猫の様じゃった」
ふぉっふぉっとオスマンは愉快そうに笑った。ついでに、現在学院の教師が一人足りていなかった事をふと思い出す。
「……ほっほ。たまにはお灸を据えてやるのもいいかもしれんのう」
口端を歪め、老人の顔が悪戯を考えた子供のそれになる。と――その時、入口の扉から小気味良い音がした。
「失礼します」
数度のノックの後、上品な仕草でドアを開けて現れたのは、一人の女性だった。緑のロングヘアーに清楚に着こなしたローブ姿。眼鏡をかけて軽く笑うその美しい表情は、知的さと、男をどきりとさせる魅力を併せ持っている。――学院秘書を務める、ロングビルだった。
「……先程の揺れで塔に異常が無いか確かめて参りました。やはり学院長がおっしゃった通り、小型のゴーレムらしき物は、外壁を完全に貫通しておりましたわ」
ちょうど宝物庫の辺りです、と付け加え、ロングビルは説明を終えた。
「ふうむ……困ったのう。宝物庫の壁は腕利きのスクウェアメイジ達が、固定化の魔法で厳重に封印を掛けてあったのじゃが……まさかあれを破るとは思わなんだ」
オスマンのぼやきに、ロングビルは黙って同調した。とはいえ――
「しかし未だに信じられませんね……本当に一人の使い魔が、アレを?」
未だ半信半疑と言った表情で彼女は目の前の上司に尋ねる。オスマンから話は聞いていたが、いかんせん、直接この目で見た訳では無い。簡単に信じろと言う方が無理だった。
「まあ、実際外壁が破壊されたのは事実じゃし……信じる他に無いの。それより当面の問題は壁の修復じゃな。……それで、ミス・ロングビル」
「何でしょう?」
「悪いんじゃが、ちょいとばかし王宮に出向いてくれんかのう?乗馬の教師が一人不足しとる様でな。補充の必要があるんじゃよ」
「……ええ、分かりましたわ」
ロングビルは頷くも、オスマンはとぼけた様な顔を崩さない。これが本題では無いのだろう。そう予測を立てると聡明な秘書は、オスマンからの言葉を黙って待つ。
「……そのついでにの。これを渡して欲しいんじゃ」
オスマンが渡されたのは一通の封筒だった。宛名を見たロングビルが軽く驚く。……トリステインでも有名な貴族のものだった。
「これは……?」
様々な疑問を集約した一言に、オスマンは答える。
「ふむ……。彼はこの学院の卒業生での。今でも儂を慕ってくれておる。……彼に頼めば壁の修理もすぐに手配してくれるじゃろう」
王宮には内緒での――言葉には出さず、そう締め括ったオスマンは口を閉じた。
「分かりました。では近日中に向かいますわ」
「『土くれ』のフーケなる盗賊が貴族の屋敷を荒らし回っているとも聞く。道中はくれぐれも気をつけての」
「ええ……。では」
そう返事をして、ロングビルは学院長室を後にした。そのまま学院の廊下を数歩ほど歩き――懐からオスマンの手紙を取り出す。
「さて……どう利用してやろうかしら、ね」
にやりと顔を歪めた後、秘書は暗い笑い声を上げた。
支援。
「いたた……」
決闘も終わり、人の数もまばらになったヴェストリの広場。ふっと気が抜けたせいか、ワルキューレに殴られた痛みがぶり返して来たルイズは、呻き声を上げた。
「あんな勢いで殴られたのに……よくもあれだけ動き回れたものよねえ」
呆れと感心が入り混じった声で、キュルケ。タバサも黙って同意する。
「人を新種の生き物みたい目で見ないでくれるかしら。……そういえばギーシュは?」
痣になっている部分を押さえつつ――どうせなら一回くらい爆破させておくべきだったかしら――なんて物騒な考えを浮かべたルイズが訊く。
「さっさと謝りに行ったみたいよ。『しおれた薔薇を待たせる訳には行かないんだ〜』とか言いながらね。今頃は医務室にいるんじゃない?」
「医務室?」
「モンモランシーが大急ぎでそこに向かって行ったのよ。ちょうど貴女が杖を吹き飛ばした時だったかしら」
やれやれと肩をすくめたキュルケを見て、何と無く事情を察したルイズはため息をついた。大方あの爆発で、ギーシュが怪我でもしたのだと早とちりしたのであろう……。
「はあ……まったく、大したバカップルぶりだわ」
何だか一層疲れた顔で、ルイズが毒づいた。元はと言えばあの二人のいざこざから始まった話だ。確かに自分自身、色々と得るものはあったが……。結果だけ見ればどうにもあのバカップルに、振り回された気がしてならない。
(ううん……私はまだ良い方か)
シエスタの姿を思い浮かべて、ルイズが苦笑する。彼女の方こそ完全なとばっちりなのだ。と、その時――
「ミス……ヴァリエール」
突然飛び込んで来た控え目な声に、振り向いたルイズは少し驚く。当のシエスタが、いつの間にか隣に来ていたのだ。
「あの……」
メイド姿の少女がおずおずと話を切り出す、が――
「シエスタ……だっけ?ギーシュはちゃんと謝りに来たかしら?」
「え!?」
ルイズが先に割り込んだ。虚を突かれ、シエスタの声が裏返る。
「……あ、はい!先程すれ違った時に……。いきなりの事なのでびっくりしてしまいましたけれど」
「そう……良かった」
そう言って、軽く微笑んだルイズ。春風の様なその暖かい表情に、シエスタは思わず顔を赤らめる。と――
「……けれど私もね。一つあんたに謝る事があるの」
「へ?」
突然の言葉に、メイドの少女はまたも驚いた。頭を掻き……ルイズはたどたどしく告げる。
「決闘の時に……私は一度、自ら負けを認めたわ。ギーシュが折れなかったら、多分あんたとの約束は果たせなかったでしょうね……」
勝手な事をした――真摯な様子でそう告げると、ルイズは謝る。が――
「……」
「え〜と……シエスタ?」
ぽかんとしたままの表情で、メイドの少女は固まっていた。妙な沈黙に、ルイズはとりあえず何事か訊ねる。と、その時。
「……何……言ってるんですか?」
腹から搾り出す様な声を出し、シエスタの様子が一変する。
「な、何って……」
「もお!……ちょっと来て下さい!ミス・ヴァリエール」
怒った様な口調でそう告げたシエスタは、ルイズの手を取るとさっさと引っ張って行く。
「ちょ、ちょっと!どこへ連れて行く気よ!」
「いいですから!とにかく来て下さい」
抗議するも、頑として取り合わないシエスタにルイズは仕方無く従った。面白そうね、とばかりにキュルケ達やハドラーも後を追う。
「着きました」
ルイズが連れて来られたのはアルヴィーズの食堂の裏にある厨房だった。妙な迫力のシエスタに促されて、渋々と中に入る。
「ひゃっ!」
ルイズの口から軽く叫び声が洩れた。
扉を潜った彼女を待ち受けていたものは、大勢の人だかりだった。皆なんらかの仕事着を着ている事から、おそらくは普段厨房で働いている平民達なのだろう。その全員の視線が、現在ルイズに向けられている。
「え……ええと……」
猛烈な居心地の悪さに、少女の顔に冷や汗が浮かぶ。何故こんな事になっているのだろう。シエスタとの約束を破りかけたのがそんなにまずかったのだろうか?訳が分からないまま、とりあえず思い付いた理由を並べていった。と――その時。
「……シエスタを助けてくれたって貴族の方は……あんたですかい?」
「え、ええ……そうだけど?」
人だかりの中から一人現れた中年の太った男に、ルイズが返事をした。仕立ての良いコック姿に、頑固そうな顔。おそらくはこの厨房を仕切る責任者なのだろう。
「失礼しました。俺はここで料理長をやってるマルトーってもんです」
不似合いな丁寧語で自己紹介をすると、マルトーは帽子を取って会釈をした。
「……シエスタから事情は聞きやした。何でも、ご自分とシエスタの名誉を守る為に戦って下さったとか?」
「え、ええ……」
ルイズが肯定する。少し間が空いた後、マルトーは息を洩らした。
「俺は……これまで貴族なんざ威張り散らすだけの能無しだと思ってました。俺達平民を、体のいい奴隷か何かと勘違いしてやがる、って……でも」
料理長の男は恥ずかし気に頭を掻く。
「どうやら俺が間違ってた様です。あんたみたいな立派な貴族がいるってんなら、俺も考えを改めなくちゃいけねぇ」
「え、え?」
突然の展開に呆気に取られたルイズ。そこに先程から黙っていたシエスタが近寄る。
「あの後……厨房に帰ってマルトーさんに全部お話したんです。たった一人で私を庇ってくれた貴族の方がいらしたんだ、って」
そうルイズに事情を説明した後、メイドの少女はぽつりと呟いた。
「私……本当はミス・ヴァリエールが約束を破ってくれる事を願っていたんです」
「え?」
驚いたルイズに、シエスタは控え目な微笑みを返す。
「貴族の方が庇って下さるなんて、初めての事でした。私にとってはそれだけで満足だったんです。……だからこう思いました。約束なんて無視してもらってもいい。ただあの方がこれ以上傷付かない様に……って」
「……」
「なのにミス・ヴァリエールは、その約束すら守ってくださったんですよ?」
「それは……」
つい声を上げかけたルイズを、シエスタは首を振って否定する。
「姿を見てすぐ分かりました。ああ、この人はどんなに傷付いても、自分の思いを曲げなかったんだろうな、って」
「……」
「私は平民です。決闘の際にあった些細な事なんて気にしません。でも……ミス・ヴァリエールの言葉と行動に、私は凄く勇気付けられたんです。……だから」
拳を握ると、哀願する様にシエスタは言い放った。
「だから……どうか謝らないで下さい。というか、そんな事くらいで謝ってもらったら反って困ります。こんなにしてもらったら……どうしていいのか、分からなくなっちゃうじゃないですか」
「そ、そうなんだ」
「そうですよ」
気圧された様子のルイズに、シエスタがふくれた様子で相槌を打つ。広場で怒っていたのは、どうやらこれが理由らしかった。
「……なので、私達から一言だけ、言わせてくださいね。ミス・ヴァリエール」
シエスタがそう言うと、後ろの使用人達が皆一斉に姿勢を正した。マルトーもそれに倣う。そして――
「ウチのシエスタを助けてもらって――」
厳めしい面の料理長が。使用人達が、
「私を助けていただいて――」
メイドの少女が――
『――ありがとう』
深々と頭を下げる。その光景に――ルイズは今朝見た夢の続きを思い出した。
478 :
爆炎:2008/10/17(金) 22:40:47 ID:qBq4mRDE
規制されてしまいましたので以後避難所に移動しますorz
面倒かけてすまない
投下終わったのかな?
代理投下いきます
「……それが、私の理想だからよ」
「理想……ですか?」
要領を得ない顔の使用人に、きっぱりと頷く。
「正直、諦めちゃおうかな……、て思った事は何度もあったわ。でも……その時にね、いつも思い浮かぶの。幼い頃から憧れたあの人達の事を」
胸に浮かんで来るのは家族の姿だった――
『烈風』とも字され、数多くの人々をその手で救って来た母。アカデミーに勤め、今も自身の開発した秘薬で病が治った、という手紙が送られて来るエレオノール。病弱な身でありながらも、魔法で使用人や動物達をこっそり助けるカトレア。
「……母様や姉様達の凄さを目の当たりにする度、私はずっと思って来た。あの方達みたいになりたい。あんな貴族になりたいって」
そう言って、息継ぎをする。いつの間にか声が大きくなっていたらしい。何だか照れ臭くなり、笑ってしまう。汗と土埃だらけの顔は、とてもぱりぱりしていた。
「それが私の出発点なの。それを目指す以外の事は……今は考えられないわ」
「……でも……貴方はもう何年もこんな事を続けて……」
たどたどしげに使用人が言う。気遣う様なその表情に、彼が何を言いたかったのか、少し分かった気がした。その上で……静かに首を振る。
「今日が駄目でも、明日は分からないわ。やれるだけやってみるつもりよ。いつか自分が納得するまで、ね。そして――」
息を吸う。話を聞いてくれた男への礼として、高らかに告げた。
「もしもそれが無駄に終わったとしても、私は後悔しない。一つの生き方を貫き通した……それもまた、立派な貴族の証だと思うから」
えっへんと胸を張る。何度も悩み、自問した末の自分なりの答。ついでに言えば他人に話したのはこれが初めてだ。つい反応が気になって、男の顔を覗き込む。と――
「……は……あはははは」
「な……。何がおかしいのよ!」
目に涙すら浮かべて笑う男に非難の声を上げる。今の話のどこに笑う所があったのか。いや、そもそも笑う事自体が有り得ないだろう。
そんな自分の心の声が聞こえたのか、この失礼な使用人はようやく笑うのを止めた。
「失礼致しました。……ですが私は決して貴方を笑っていた訳ではありません。笑っていたのは……自分の浅はかさにです。貴方の様な誇り高いお方に生き方を説いたなど……無礼の極みでした。どうか……お許し下さい」
そう言って、頭を下げる。その所作はこれまでに無い、とても恭しいものであった。
「いいわ……今回は許して上げる。でも、次やったら爆発させてやるからね」
「おお怖い……。これからは気をつける事にしましょう」
男がおどけた様な仕草をとる。軽く二人で笑った後、男は不意に自分の名を呼んだ。
「何?」
そう言って振り向く。夕日に染められた美しい景色を背に、優しい笑みを浮かべた男は――静かに口を開いた。
「……貴方が立派な貴族になられる事をお祈りしています」
「ええ……。ありがとう」
軽い一言を交わしてこの場を後にする。
――男が使用人を辞めたと聞いたのは、しばらくしての事だった。
「あ……」
とめどなく溢れて来た記憶に、ルイズは声を上げた。あの時の純粋な決意も、目標も……すっかり忘れていた。
――自分は爆発しか使えないんじゃないか?――
そうハドラーに洩らした事を思い出す。昔の自分なら、そんな弱気な言葉は決して出てこなかっただろう……。数限り無く浴びせられた嘲笑や罵倒は、明日への希望に溢れていたこの少女を『現実』という鎖に縛り付けてしまったのだった。だが――
――今日が駄目でも、明日は分からないわ。やれるだけやってみるつもりよ。いつか自分が納得するまで、ね――
――貴方が立派な貴族になられる事をお祈りしています――
ギーシュとの決闘や、シエスタとの事がきっかけになったのだろう。全てを思い出したルイズがふと、自分を見遣る。ボロボロになった姿はあの日から何も変わってはいない。立派……とは到底言い難いものだった。だけど……。
ルイズが顔を上げる。と、その時――
(……?)
ぽん、と音がして、ルイズは頭に軽い衝撃を感じた。誰かが手を置いたのだと気付いて振り返る。
「……ハドラー?」
手の主は自分の使い魔だった。名前を呼ばれたハドラーは、何も言わず、ただ軽く微笑む。そして――
「よく……やったな」
そう言って頭を撫でた。掌から伝わる暖かな感触に、ルイズの脳裏に今日起こった出来事がありありと浮かぶ。自分の爆発を魔法だと言ってくれた事。誇りと道を教えてくれた事。そして――
――ありがとう――
自分の魔法が、初めて人に感謝された事……。
自己満足かもしれない。当たり前の事なのかも知れない。それでも――
ルイズの目に熱いものが込み上げる。彼女はやっと、『貴族』への道を踏み出す事ができたのだ。
「ふ……え……ふええええええん」
ぼろぼろと涙を流し、ルイズは盛大に泣いた。突然の展開に、間近で見ていたシエスタ達がぎょっとする。
「ど、どどどうしたんですかい!?」
「きき、きっと私達が何かしてしまったんだわ。ど、どどどどうしましょう」
「ち、違うの!違うのぉ!ふええええん」
ルイズは必死に否定するも、感情が溢れて過ぎて涙が止まらない。ますます泣き出した彼女に、シエスタ達も余計に取り乱す。すっかり混乱した厨房に、ハドラーはたまらず息を吐いた。
「ふふ……主は本当に良く泣くな」
「う……うるさい。それもこれも全部あんたのせいよ。……もう、ばか、きらい」
ありったけの言葉でルイズがなじる。もっとも、泣き顔のままでは威厳も何もあったものではない。どちらが主人なのか分からない光景に、思わずキュルケが口を押さえる。遠い記憶を思い出し、タバサもほんの少しだけ口元を緩めた。
「さて……とりあえずこれは俺達からの気持ちでさぁ」
少しして……よくは分からないが、とりあえず自分に落ち度は無いのだと判断したマルーは、話を進める事にした。
「これは?」
次々と運ばれて来る料理にキュルケが質問する。
「マルトーさんにお願いしたんです。皆さんまだ昼食を召し上がって無かった様でしたので」
「遠慮はいらねえ。目一杯食って……て早っ!!」
マルトーが言い終わるより早く、タバサは既に、はしばみ草のサラダを平らげていた。空になった皿を突き出し、無言でおかわりを要求している。
「じゃあ私も頂こうかしらね。ルイズ〜、貴女も早く来ないとタバサに全部取られちゃうわよ」
「わ、分かってるわよ」
返事をして、ルイズは目元の涙を拭った。ようやく鮮明になった視界に、ふと見覚えのあるローブが目に映る。
(あ――)
広場でその身体にしがみ付いた事を思い出し、彼女は顔を赤らめた。
「……どうした?」
ハドラーの声に、ルイズがはっ、とした。
「……な、何でも無いわ。そ、それよりも急がないとね」
慌てた様子のルイズは、そうまくし立てると座席に向かいかけ――立ち止まる。これでは教室の時と全く同じではないか。
(そう……ね。ちゃんと言わなきゃ。ね)
そう考え直すと、彼女はハドラーに向かい合った。緊張のあまり心臓の鼓動が高鳴る。
「あ、あの、あの……」
「?」
舌がもつれ、中々言葉が出て来ないルイズにハドラーが片眉を上げた。その表情を見たルイズがようやく踏ん切りをつける。
「その……あんたのおかげで私は救われたわ。だから……礼を言うわ。――ありがとう。ハドラー」
そう言って深々とお辞儀をした。廊下での時とは違う心からの感謝。僅かに驚いた顔をする使い魔に、ルイズはしてやったりの気分になった。
「……さ、とりあえず食べましょ。言っとくけどあんたも同席するのよ。これから教えてもらいたい事が山ほどあるんだから……ってちょっと!!」
「あらルイズ、もう貴女の分は無くってよ」
「自重出来なかった。ごめん」
優雅にスープを飲み終えたタバサが満足げに詫びた。激昂するルイズを「おかわりはありますから」とシエスタが必死になだめる。マルトー達もつられて笑い出し、厨房の盛り上がりは最高潮になった。
(今日の日を、私は、絶対忘れない――)
もみくちゃになりながら、ルイズは満面の笑みを浮かべた。
――エピローグ――「ふう……」
今日の仕事を終え、彼は帰り支度を始めた。手に馴染んだ仕事道具を手早く仕舞い込み、立ち上がる。
時刻はすっかり夕暮れを迎えていた。沈みかけた太陽は今日もトリステインの大地を美しい朱に染め上げている。
久しく見ていなかった光景に思わず心を踊らせた彼が、ふと、ありし日の事を思い出した。
「立派な貴族になられる事をお祈りしています……か」
懐かしさを覚えつつ、彼は一人ごちる。
あれから何年も経っていた。使用人を辞めた彼は家に帰ってそのまま家業を継いだ。水が合ったのか、はたまたあの時の少女の生き方に魅せられたのか……。それ以来、彼は職を変えなかった。
彼女は理想を叶えたられたのだろうか?
一人問いかけた彼だが、それを知る者は誰もいない。こんな田舎だ。家業を継いでからというものの、貴族と言えば地元の領主ぐらいしかお目に掛かった事は無かった。だが――
「はは……」
あの時の少女の真っ直ぐな目を思い出し、彼は笑って首を振った。
心配無い。彼女ならきっと大丈夫だ。何故だかそう確信する。
「……立派な貴族になって下さい。ヴァリエール様」
あの日の約束を思い出して、彼は手を組んだ。今まで忘れていた事を謝るかの様に、深く、長く祈り続ける。
――やがて日が落ち切った頃、ようやく手を離した彼が『ついでに税金が安くなります様に』と締め括る。
二つの月が辺りを淡く照らす中、彼は揚々と家路へ歩き出した。
投下終了です。ようやくギーシュ編終了できました。感無量です
同時にルイズの精神的成長&前線投入フラグも立ちました。原作で言えば8巻終了時ぐらいでしょうか
まさにダイ並の成長率ですが、その分不自然にならない様心理描写を細かく書いたかと思います。
とはいえ使用人目立ちすぎだろjkとか色々反省点はありますがw
他にもルイズとハドラーの関係とかですかね、どう見てもセスタスとザファル先生です本当に(ry
次はおそらく番外編になると思います。久久に馬鹿な話が書きたいのと例の泥人形も登場させたいのでw
相変わらず仕事が忙しい状況なんですが、ぼちぼち書いていこうかと思います。ではまた ノシ
P・S ちなみにおまけも書いてみました。が……。ちょっとやり過ぎた感があるんで切り分けて投下します。
――おまけ1――
───アタシの名前はロングビル。心に傷を負った元貴族。学院長の秘書で不幸体質の愛されガール♪(※オッサン限定)
アタシがつるんでる奴らはセクハラばかりやってるオスマン、学院にナイショで自分の著書を買わせて来るシュヴルーズ。訳あって毛生え薬を探し回ってるコルベール。
上司がいてもやっぱり秘書はタイクツ。今日もオスマンに尻を触られたことで刃傷沙汰になった。異性だとこんなこともあるからストレスがたまるよね☆
そんな中アタシは一人で王宮に行くことになった。あらかじめ偽造しておいた手紙を渡すだけで十分楽しい。セクハラに耐えた自分へのご褒美ってやつ?アリバイ作りの演出ともいうかな!
「あームカツク」・・。そんなことをつぶやきながらしつこい貴族たちを軽くあしらう。
「ミスー、少しだけ話を聞いてくれないかい?」どいつもこいつも同じようなセリフしか言わない。トリステインの男はキザだけどなんか薄っぺらくてキライだ。もっと等身大のアタシを見て欲しい。
「すいません・・。」
・・・またか、と元セレブのアタシは思った。シカトするつもりだったけど、ちらっと貴族の男の顔を見た。
「・・!!」 ・・・チガウ・・・今までの男とはなにかが決定的に違う。スピリチュアルな感覚がアタシのカラダを駆け巡った・・。
「・・(何て威厳・・!!・・この方がオスマンの・・?)」
宛名の男は風のメイジだった。部屋に案内されてセクハラされた。
「やめて下さい!」偏在を使われた。
「モミッ!ムニュッ!」四人がかりでアタシは揉まれた。かゆ うま(引用ここまで)
――ロングビルの日記より一部を抜粋
――おまけ2――
ト リ ス テ イ ン の 王 宮 内 で ま た も
昨日昼過ぎ、公務の最中に、平民の女性にわいせつな行為をしたとして、トリステイン中央警備部は、王宮に勤める有力貴族の男を逮捕した。
――惨劇の舞台は昼過ぎの王宮内だった。被害者のロングビルさん(23)はトリステイン魔法学院長のオールド・オスマン氏から教師の補充を依頼され、王宮へと出向いていた。
容疑者はそんなロングビルさんに声を掛け「自分はオスマンさんの知人だ」など言葉巧みに誘うと、そのまま自室へ連れ込んだ。悲鳴を聞き駆け付けた衛兵によって男はその場で現行犯逮捕された。
人が行き交う中での白昼堂々の犯行に関係者達は驚きを隠せない。当時現場にいた兵士の目撃証言では、男はなんと偏在を利用して被害者の胸を四方向から攻め立てていたという。
「本当にうらやま……いえ、痛ましい事件でした」逮捕した衛兵は言葉少なに語った。
調べに対し、男は「(敬愛する)オスマン氏の秘書と言う事で、つい邪気眼が暴れてしまった。今は反省している」などと供述。容疑を大筋で認めている。一方、被害者の上司であるオスマン氏は騒動については何も知らなかったと主張、事件への関与を一切否定した。
このところ、宮内では有力貴族達の蛮行が立て続けに起こっている。王家の威厳失墜を噂する向きもあることから、今度の問題も、アンリエッタ王女を始めとした関係者達にとっては、深い頭痛の種となりそうだ。
また、被害者が女性である事は、各所で激しい議論を巻き起こす結果となっている。
『トリステイン女性の社会的地位向上を目指す会』の会長を務めるエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール氏(27)は「許し難い犯罪だ。犯人の男は生きたままカッタートルネードの中に放り込む事を希望する」とコメント。
それに対し、『ハルケギニア男女ふれあい委員会』代表のジュール・ド・モット氏は「スキンシップは男女の円滑な交流に欠かせない。極刑はやり過ぎだ」と反論。
「被害者は嫌がっていた様だが?」との問いには「きっとウブな方だったのでしょう。なあに、かえって免疫力がつく」と回答した。
――トリステインスポーツ(略・トリスポ)夕刊から一部引用
以上投下終了です。悪ノリが過ぎたかと反省しています。
以上代理投下終了します
爆炎さん、代理さん、乙でした。
この話の登場人物はみんな格好いいなあ。
負けて男を上げるギーシュもいいです。GJです。
>>485 こちらも読み終わって感無量です。
今回は涙腺刺激されましたよ。
シエスタのお礼に胸がジンとなって、ルイズのふええええええんにもらい泣き。
いいもの読ませて頂きました。
爆炎のかた乙です。
このハドラーはかっこよすぎる。
タイガージョーを思い出した。
ルイズの成長も納得です。
待たされた分、今回ボリュームと読みごたえがあった。爆炎氏&代理氏乙。
492 :
ゼロの影:2008/10/18(土) 07:03:11 ID:e4LKxb/Q
>>463 肌の色は特に考えていませんでした……。
中編を7:10頃投下します。
493 :
ゼロの影:2008/10/18(土) 07:08:15 ID:e4LKxb/Q
完結編 心を一つに 中編〜再臨〜
ルイズは黒竜の言葉に凍りつき、抗議しようとした。
「卑怯――」
「最大の敵の戦力が低下したのだ。この上ない機会だろう」
静かに遮ったのは大魔王だった。
弱肉強食の魔界では力こそが全てを支配する。
掲げる正義が跳ね返った時に否定しては、誇りや信念を――大魔王の名や今までの生き方をも否定することになる。
ヴェルザーの尾が唸り、意識を失っている魔族二名と配下の竜を吹き飛ばした。ミストの憑依を防ぎ、自らの手で宿敵を葬るつもりだ。
極大天候呪文に魔界の住人の大半が参加し疲弊した今ならば、邪魔が入る心配は少ない。
莫大な力の奔流に巻き込まれるのを防ぐため、呪文の中心地である丘の周辺から遠ざかるよう指示が出されていた。
ルイズは倒れたまま必死に顔を上げて両者を見つめている。彼女の中にいるミストの意識は焦りに染まっていた。
ヴェルザーは闘気を呪文のために使ったものの、身体は普段と変わらない。
一方大魔王は魔力と暗黒闘気をほぼ全て使い、肉体の損傷が著しい。回復呪文も効かないため自然治癒に任せるしかない状態だ。
呪文に参加した者達は皆、膨大な力の流れによって捧げる力を調節することができなかった。個人差があるものの、一番消耗しているのは大魔王だ。
「無粋だと思わんのか? ヴェルザー」
「ならばオレが退くだけの力を見せてみろ。言いたいことがあるなら力で語れ――貴様が主張してきたことだ」
ヴェルザーの望みはここで大魔王を殺し、魔界の頂点に立つこと。
「……そうだな」
大魔王も頷く。
今は太陽に照らされた魔界の姿を見ていたいのだが、達成感を噛み締めることは許されない状況だ。
戦うことを望んでいなくても逃げるという選択肢は無い。野望成就の美酒を味わいたいのなら、力を見せねばならない。
両者が動く。
「あ……ああ……!」
食い入るように眼前の光景を凝視しているルイズの口から、かすれた声が零れ落ちた。
冥竜王の牙が大魔王の左腕を食いちぎったためだ。
思わず耳をふさいだ彼女の顔にも血が飛んだ。
攻撃が来るとわかっていながら回避しきれなかったのは限界が近い証拠だ。
魔族ならば四肢を再生させることができるのに、それも無い。左の心臓が潰れているのだろう。
魔法を放つこともせず唸りを上げて迫る尾や爪、牙をかわし続けるが動きが鈍い。
目を閉じかけたルイズだが、鈍い音が響いたため反射的に目を開けて見てしまった。
太い爪が、大魔王の腹部を貫いたのを――。
494 :
ゼロの影:2008/10/18(土) 07:11:10 ID:e4LKxb/Q
喜悦に顔をゆがめながらヴェルザーは爪をひねりつつ乱暴に引き抜いた。傷口から勢いよく鮮血がほとばしる。
バーンの口から大量の血がこぼれ、地面に染みを作った。
ヴェルザーの眼がちらりとルイズに向けられたが、少女は諦めたかのように顔を伏せている。
しょせん大魔王やミストが万全の状態でなければ何もできないのだと結論付けて視線を戻す。宿敵を殺してから部下ごと滅ぼせばいい。
顔に愉悦を浮かべるヴェルザーと、左腕が付け根から失われ、腹部に風穴が開いた状態で正対しているバーン。
彼はふと震える掌を見つめ額に伸ばしかけたが、何かに気づいたように途中で動きが止まった。
ヴェルザーが当然だと言いたげに頷く。
「鬼眼を解放しても無駄だ。たとえここでオレを倒すことができてもいずれ復活する……全てを捨てても真の勝利は掴めん」
声には、勝利を確信した者特有の傲慢な憐みと己の力への陶酔が見え隠れしている。わずかばかりの落胆も。
鬼眼の解放は、肉体が魔獣へと変化し二度と戻れないことを意味する。
美酒も味わえず、チェスも出来ず、肉体を分けることもできず、あれほど望んでいた太陽に照らされた魔界の姿まで価値を失ってしまう。
そこまでして勝利のため、大魔王バーンの名を守るため、全てを捨てることを選んでも本当の意味で勝つことはできない。
残酷な事実を告げられた大魔王の眼は何かを待つように静かだった。
ヴェルザーはそんな獲物の姿を気持ちよさそうに眺めている。己の力で敵を圧倒する快感は何物にも代えがたい。
相手がプライドの高い大魔王ならばなおさらだ。
自分が敵の命を握っていると実感する心地よさは大魔王もよく知っている。
一思いに命を刈り取るのではなく、もっと愉しみたいという思いが理性を上回っていた。
相手の強い意志が折れるのを見届けてから葬りたい。己の力をより深く実感してから命を奪いたい。
魔界の頂点に立つという目的ゆえに消耗したところを狙ったヴェルザーだが、その過程に愉しさを見出し目的を忘れかけていた。
それも無理のないことだろう。
最後の手段である鬼眼解放も行わないならば、心が完全に折れるのは時間の問題だからだ。
己の力に自信を持つからこそ“遊び”への欲を抑えきれなくなってしまう。
逆転の可能性は無いかと思われた時、凛とした声が響いた。
「ここで倒されたら……魂を完全に吹き飛ばすだけよ」
両者が声の主に視線を向けると、ルイズが立ち上がり杖を構えていた。
主の腕が千切られ、追い詰められる様を見た時、ミストの悲痛な叫びがルイズの中に響き渡った。
「バーン様……ッ!!」
戦って不利になるだけならここまで動揺しない。
だが、よりによって望み続けたものを手に入れた直後に、力を十分に発揮することも許されないまま殺されるなど耐えられない。
主のために戦おうにも己の体を持たず、ヴェルザーの魂を砕くだけの力も残されておらず、ルイズの体をいくら酷使しようと盾にはなれない。
「私に身体があれば――!」
生命が縮もうと、魔獣になろうと、勝利のために全てを捨てられる。
ただ見ていることしか許されないため血を吐くような叫びを絞り出すのだ。
たった一人で主を守り抜いてきた事実があるからこそ長い長い時間が誇りに思えるのに、守り切れなければ仕えてきた数千年が水泡に帰す。
「何が……何が“バーン様の部下”だッ!」
肝心な時に役に立てなければ道具にすらなれない。
主の危機に何も出来ない存在など、正真正銘の“ゼロ”だ。
これが宿命の終焉なのか。
大切な存在を守れず、絶対に譲れぬものを貫けず、戦うことすらできないのか。
ならば、己のやってきたことは一体何だったのか。
495 :
ゼロの影:2008/10/18(土) 07:14:36 ID:e4LKxb/Q
無力さを――忌まわしい体を嘆くミストの声に、ルイズの心にある言葉が浮かんだ。
『見てることしか……できないなんて……』
彼が苦しんでいる時に何も出来なかった。自分がゼロなのだという想いを味わった。
己の非力さに深く打ちのめされた彼女にはミストの苦悩がわかる。
とうとうヴェルザーの爪が大魔王を貫いた時、かすれた声が零れた。絶望を糧とする者が聞けば狂喜しそうな声だった。
「バーン……様……」
戦う理由が消える。守るべきものが目の前で失われてしまう。
ルイズは顔を伏せて目を閉ざし、中にいる者の気配を探った。魂の回廊を通る様を思い描くと瞼の裏が一瞬白くなり、どことも知れぬ空間が見えた。
召喚した者とされた者だから視ることができたのかもしれない。
心の中に入り込んだ彼女の前に影が立ち、俯いて体を震わせている。
「ミスト」
呼びかけられ、顔を上げた彼は揺れる声で呟いた。
「ルイズ……こんなことを言う資格など無いとわかっている。虫がよすぎる願いだということも……! だが――」
祈るように真摯な口調で、魂からの叫びを吐き出す。
「もしお前に戦う力があるのならバーン様のっ……バーン様の力になってくれっ!」
彼はいま、他でもないルイズの力を認め、必要としている。
誇り高い彼が必死に言い募る姿を見てルイズは弱々しく返事をした。
「そんなこと言わないでよ。わたし疲れてるのに……もう休みたいのに……そんなこと言われたら――」
困ったような――しかし力強い微笑を浮かべ、手を差し出す。どこまでも真っ直ぐミストを見つめながら。
「退くわけにはいかないじゃない」
ミストは戸惑ったように手を凝視している。
「さっき言ったわよね、一つになれるって。それが本当だって、ゼロじゃないって証明するわよ」
言葉が彼の心にゆっくりと染み込んでいく。まるで今までの立場が逆転したかのように。
「本当に大切なものなら自分の手で守れ……あんたが言ったことよ。ここで諦めたらウェールズ様も失望なさるわ。偽者のために命をかけた道化にするつもりかって」
ミストが虚をつかれたような表情をした。
ウェールズに後のことを頼まれた彼は、確かにこう返事した。
『本当に大切なものならば……自らの手で守れ』
己を恥じるように一瞬下を向き、顔を上げて手を伸ばす。
今まで魂を握り潰すだけだった、温度を持たぬ黒い手を。
手が触れ合った瞬間光と影が交差し、互いに力が湧き上がるのを感じた。
ルーンによって力が一つに、入り込むことで体が一つになった。
そして今、呪文詠唱の時よりも近づいた心が一つになる。
彼女は悟った。
今こそ――彼を呼び出した者として、ゼロではないという証明を完結させる時なのだと。
傷つき、疲れ果て、それでもなお消せない想いがあるのなら――。
ルイズは立ち上がった。
その頬にはいつの間にか涙が流れていた。
496 :
ゼロの影:2008/10/18(土) 07:17:13 ID:e4LKxb/Q
もう力を使い果たしたと思っていただけに、少女が立ち上がったのはヴェルザーの予想外だった。
「立ち上がって何になる。力は尽きたはずだ」
鋭い眼光とともに言葉が返される。
「あんたはこいつを怒らせた。わたし以上にね」
怒りは力の源となる。たとえ力を使いきっても、きっかけがあれば再び魔法を放つことができる。
悲しみと絶望の後に湧き上がった、ヴェルザーと己への深い怒り。それが凄まじい勢いで膨れ上がっていく。
その激しさは記憶を取り戻した直後のものを凌駕している。
内側で荒れ狂う感情の奔流をルイズは心地よいものとして受け止めていた。
何故なら、彼女も怒っていたためだ。
いずれ争いが起こることは承知している。
だが、絶好の機会とはいえ空が晴れた直後にそんなことをするのは許せなかった。
皆が一つとなって成し遂げたことを、込められた想いを、踏みにじられた気がしたためだ。
この丘に眠るウェールズの心も汚すことになる。
「魂を完全に砕くなど、絵空事にすぎん」
「空見なさいよ。“破壊できないものをゼロにする”のが零番目の系統、『虚無』なんだから」
限りなく不可能に近いことをやり遂げた今だからこそ、説得力が増す。
触れるだけで折れそうな細い体のどこにそんな力があるのか疑問に思うほど、今の彼女は堂々と胸を張っている。
疲労のあまりよろめき苦しそうに口元を押さえたが、そのまま睨みつける。
奇妙な膠着状態によって時間が流れる中、ヴェルザーは大魔王の様子に目をとめた。
腹部の傷が塞がっている。ルイズに注意を向けている間、回復に集中し、少しずつ傷を治したのだろう。
(時間稼ぎか?)
鬼眼を解放しかけて止めたのは蘇ることを思い出したためかと思ったが、大魔王が宿敵の性質を忘れるだろうか。
最後の手段が通じないと思わせることで、敵から余裕を――体勢を立て直す時間を引き出すためだったのではないか。
だが、体力をある程度取り戻しても、魔力と闘気はほとんどゼロのままだ。
鬼眼を解放したバーンに倒され、剥き出しになった魂をルイズに狙われれば危ないが、どちらかを先に仕留めればそれで済む。
打つ手が無いことに変わりはない。
497 :
ゼロの影:2008/10/18(土) 07:19:40 ID:e4LKxb/Q
しかし、大魔王はふっと笑い天空を指差した。
「ヴェルザー。空を見よ」
注意を逸らしたところに攻撃を仕掛けるつもりか、それとも時間稼ぎを続けて力を蓄えるつもりか。どちらにせよ虚しい抵抗に過ぎない。
粉砕することを誓いつつ空を見上げたヴェルザーに対し、大魔王は芝居がかった口調で楽しそうに告げた。
「お前の所業を天も憂いているようだぞ」
言葉に応じるように太陽が黒に侵食されていく。呆然としたヴェルザーだったが、見上げたまま唸った。
「何の冗談だ? 日が陰っていくだけではないか」
「予定を早めた理由だが……決行と“正体”に気をとられていたようだな」
力のうねりを感じたヴェルザーは大魔王に視線を戻し、息を呑む。
気が逸れた瞬間に大魔王は左腕を再生させ、白い衣に身を包んだ男――己の分身体を作り出していた。
分身を生み出すならばある程度予兆があり時間もかかるはずだが、まるで風が吹くように忽然と現れたのだ。
(風――?)
ヴェルザーは昨夜の会話を思い出した。
意思と力を持つ存在を作り出す呪文、遍在について語った。
四大系統魔法と組み合わせることで、似た呪文の効果が速やかに発揮されたり、効率的に威力を上げたりすることにも触れていた。
遍在そのものを使うことはできないが、自分と同じ存在を作り出す点で似ているため応用したのだろう。
回復に集中していたのは力を取り戻すだけでなく、肉体を修復し、分身体を作り出すためだった。先ほど攻撃しなかったのも、力を温存し分身作成を優先していたためだ。
日が陰る中、ルイズの方からも力を感じ視線を向けると、手で口元を隠し詠唱している。大魔王に注意を向けており、攻撃の意思が無いため気づくのが遅れた。
「分身体には、皆既日食の日のみ使える秘法がかけられていた」
単に分離させただけではどちらも老いてしまう。それを防ぐためのものだ。
本体は少しずつ年を取っていくが、分身が若さを保っていれば元の姿に戻ることと分離、保存を繰り返して限りなく永遠に近い時を生きられる。
「その名は――」
日が完全に隠れると同時にルイズの杖が振り下ろされ、何かが凍りつくような感覚が周囲に広がった。
「凍れる時の秘法」
ルイズの体から抜け出したミストが、時の流れがゼロになった器へと潜り込む。
ミストは主のために戦うことを欲し、ルイズはそれに応えた。大魔王は舞台を整えた。
ミストとバーンの体が組み合わされたことで“ミストバーン”が誕生――再臨する。
「貴様らが何をしようと……三人まとめて倒すまでだ!」
巨大な爪が振るわれ三人を狙うが、ミストバーンが掌で止めた。
「何ッ!?」
貫くどころか刺さりもしない。絶対不可侵の存在だというように。
「お前と戦った時、攻撃を防ぐかかわしていたから気づかなかったかもしれんが……秘法は対象への干渉を防ぐ効果を持つ」
秘法がかけられた相手は動けないが、体を操る力を持つ者が一体化することで無敵の戦士が誕生する。
当初の日程では皆既日食の起こった後になり、一度元の姿に戻ると数百年そのままでいるしかない。
呪文の負担を肩代わりすることでどれほど消耗するかわからず、敵対者に狙われる可能性がある。
そのため、すぐに分離し最高の武器として使えるように日食の起こる日を選んだ。
498 :
ゼロの影:2008/10/18(土) 07:21:50 ID:e4LKxb/Q
「危険を承知の上で背負うことを決めたのか?」
無言で頷く。
他者より酷く消耗することも、敵対者と戦うことも、攻撃されることも、予想していた。それでも、彼にしかできないならば引き受けるしかない。
最大の目的――魔界に太陽をもたらすためならば自らを駒とするだけの覚悟がある。
ヴェルザーはミストバーンの力と素顔を知ってずっと警戒していたが、真の正体を知り“切り札”がなくなったため、その分甘く見てしまった。
遊びへの欲求に逆らえず、足をすくわれてしまった。
「遊び過ぎぬよう、余も気をつけるとしよう」
殊勝な台詞を表情と口調が完全に裏切っている。
ある程度正解に近い答えを前もって与え、真の一手――再臨――に辿りつけぬようにしていたのだ。
昨夜ヴェルザーの元へ赴く前に大魔王がルイズに話したのは、凍れる時の秘法についてだった。
始祖の呪文とこちらの世界では共通しているものがあるため秘法を探してみたところ、見つかった。
「もしかして……ミストバーンは?」
「そうだ。明日必要になるかもしれん」
ルイズはヴェルザーと戦った後体に触れた時のことを思い出して納得した。
何故秘法がかけられているのに動けるのか、彼の正体は何なのか疑問に思ったため、彼が室内に入ってきた時に問いかけるような視線を投げかけたのだ。
結局正体について知らされず、何が起こるかもわからないまま万一に備え詠唱の練習をしていた。
いきなり成功させることができるか不安だったが、秘法のかけられた体に長年棲んでいたミストと力を合わせたため上手くいったのかもしれない。
対象が動かない分身体だったこともあるだろう。
ミストは大魔王が日食の起こる日を選び、呪文詠唱が終われば再び分離することまでは知っていた。
だが、消耗は激しく秘法をかけることができず、今にも殺されそうになったため我を忘れた。
ルイズが秘法について聞いたことも知らされていなかった。
部下に話さなかったのは、元々は自分で秘法をかけるつもりだったため。
最初から手の内を全て二人に明かしては気取られる恐れがあった。
何より――己の力に絶大な自信を持つ大魔王のプライドが、他者に頼りきることを許さない。
だからこそ、命令はしなかった。ルイズはあくまで協力者なのだから。
秘法についての情報を与えても、行動に移すか、成功するかは彼女次第だった。
消耗を考えると賭けの要素が強いが、二人ならば成し遂げるという確信があった。
数千年の間体を預けてきた信頼する部下と、初めて陽光をもたらした相手。その二人だからこそ、そこまで評価している。
力を持つ者は種族を問わず認め利用するまでだ。
499 :
ゼロの影:2008/10/18(土) 07:24:51 ID:e4LKxb/Q
「……鬼眼を解放するつもりは無かったのだな」
大魔王は腕を組み、笑ってみせる。矜持にかけて悠然と。
「余が全てを捨てると思ったか? その覚悟を持たぬ者相手に」
返事の代わりに爪が振り下ろされたが、甲高い音とともに止められた。ミストバーンが拳を振り上げぶつけたのだ。
体格がまるで違うというのに振り払い、足を踏み出す。
氷の面の彼は、炎の怒りの結晶化した声で告げた。
「許さん」
並みの竜族や魔族ならば即座に石化しそうな怒りを浴びつつもヴェルザーは動じない。
「なるほど、後は部下に戦わせれば傷つかずにすむな」
「何を言っている?」
声が流れた。
一瞬のうちに大魔王は懐に飛び込み、腹部に手刀を突き刺した。
だが――浅い。分身体に預けている分、力は弱くなる。
しかし、彼は掌に魔力を集中させて解き放った。
「余は大魔王バーンなり!」
爆裂呪文(イオラ)が傷口内部で炸裂し、消耗を感じさせぬ声音が空気を震わせた。反撃を回避し、冥竜王を睥睨する。
部下のみに戦わせる気など全く無い。会心の一撃は譲れない。
腹部の傷口からは反撃開始を告げる狼煙のように黒煙が立ち上っている。
「ひれ伏せ。冥竜王よ」
傲慢な言葉を聴いてヴェルザーはかえって冷静になったようだった。
背負う名にかけて退けぬのはどちらも同じ。
先ほどと結論は変わらない。
「全て――力でねじ伏せるのみ!」
猛き竜の咆哮が響き渡る。
敵がどんな策を用いようと、どんな駒を用意しようと、叩き潰すだけだ。
ここから先は各々の意地のぶつかり合いになる。
眼光鋭く覇気溢れるヴェルザーに対し、大魔王バーンとミストバーンは構えた。その様子を見たルイズがぼやく。
「何でわたしの周りにはあんなのばっかりなのかしら? プライド高くて、負けず嫌いで、意地っ張りで、時々口より先に手が出て」
自分にも当てはまる部分があることに気づかぬまま前を見据える。
「不思議ね。あんなすっごいドラゴンが相手でこっちはボロボロなのに……負ける気がしないわ!」
今ここに、魔界最強の主従が闘おうとしていた。
500 :
ゼロの影:2008/10/18(土) 07:26:36 ID:e4LKxb/Q
以上です。
分離と保存についてですが
1.本体に魔力のほぼ全てと力の一部(双竜紋ダイと戦えるくらい)、分身体に魔力のごく一部と力の大半を分ける
2.分身体は秘法で保存、本体はゆっくり年をとっていく
3.何かのきっかけで合体し、若い頃の姿に戻る
という感じで1〜3を繰り返し、永遠に近い命を得るのだと解釈しています。
分身体に若さと力を預けたといっても、分離していきなり老人姿になるのはちょっと想像しにくいので。
違っている部分があるかもしれませんが、この作品内では一応上記の設定になっております。
それにしても、ルイズ怒る、ミスト激怒、バーン様はハイ、ヴェルザーもテンション高く、何故皆これほどノリノリなのか少し疑問に思います。
>>500 影の人、乙です。
>何故皆これほどノリノリなのか少し疑問に思います。
なんという傍観者視点w
まさにキャラクターが作者の枠を超えて動いてるという作家として最高の状態ですね。
あの大魔王が対策考えてないわけはなかった、とね。
考えたら原作の計画だって本来覆しようがなかったもんな…
だから奇跡なんだけど、それで邪魔されるほうは数千年頑張ってきたことを考えると
奇跡ってされるほうからすれば理不尽だよな。
言い忘れてた、影の人GJ!
504 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/19(日) 02:29:13 ID:nVAi4l+F
あの作品のキャラが召喚されましたにある
アバンが出るやつこっちで書いてくれないかなぁ
こっちとかあっちとか以前に、まず続きが出て欲しいとの意図だな?
私も同意見。とにかく続きが読みたいんだ!
爆炎の人です。まとめwikiの8話の誤字等を修正しました。
それに伴いサイズが50kを突破してしまいましたので、
8話の後半部分を「08a」の方に移し変えさせてもらってます。
以上報告でした。
いつもwiki登録や代理投下して下さる方々にお礼申し上げます。
しかし昨日の召喚人数の多さにはビビったw
乙乙です
召喚人数が三倍になっとるw
誰かどこかに召喚ゲート作ったのか?
黒の核をミストバーンが起動させてたから、分身にも魔力は残ってるんでしょうね。
皆既日蝕の度に秘法をかけるって言ってましたから、日蝕の少し前にいったん戻って若返ってから、
日蝕がおきたらまたミストに預けるというのを繰り返してたんじゃないですかね。
そうすれば本体が弱くなりすぎるのも防げるし。
原作だと前回の皆既日食ではバランが魔界に来てたんでかけなおし出来なかったとかだと
一応つじつまがあいそーだな、そのままだと僅か十数年で老人な外見になってしまったことになるしw
秘法についてですが、
若い頃本体と分身体に分かれて秘法をかける
分身は日食のたびに秘法をかけ直すが、本体はそのまま年をとっていく
そのまま数千年が経過
というイメージで、元に戻るのはピンチになった時だけだと思われます。
「何千年ぶりか忘れた」という台詞があったので。
わかりにくい説明ですみません。
あまり頻繁にかけ直さない理由って、本体がいきなり若返るor年を取らないことから誰かに感付かれるのを防ぐためとかもあるんじゃなかな?
「めんどくさいから」とかだったら面白いのになw
515 :
ゼロの影:2008/10/23(木) 20:04:37 ID:m8alzrz0
完結編の後編を20:10頃投下します。
516 :
ゼロの影:2008/10/23(木) 20:10:24 ID:m8alzrz0
完結編 心を一つに 後編〜太陽を背にして〜
太陽の下、竜と魔族と人間が向かい合っていた。
大魔王は古よりの宿敵に挑発するような笑みを浮かべた。
「三対一になってしまうな」
「力が落ちたのを狙ったオレが、文句を言うとでも?」
都合の悪い時だけ“正々堂々”を要求するつもりは無い。不敵な笑みを浮かべ三人を眺める。
「脆弱な小娘に魔力の回復していない魔族。部下も消耗し、全員くたばりぞこないではないか」
ルイズは精神的にも身体的にも疲労が激しく、怒りを力の源にするといっても限界だ。
大魔王は力を分身体に預けたため魔力と叡智を残した状態だが、肝心の魔力がほとんど残っていない。
ミストも消耗が激しく、器の力をどこまで引き出せるか分からない。
疲労困憊、満身創痍。
彼らの状態を表現するならばそれだけの語で事足りる。
それでもルイズに恐怖は無かった。魔界に君臨する最強の主従と共に闘うのだから。
尾が振り回されるのをミストバーンが両腕を交差させて受け止め、炎の息吹を掌圧で払いのける。大魔王も飛翔し攻撃を仕掛ける。
顔立ちは同じだが片方は双眸を閉ざし、片方は眼を鋭く光らせている。白い衣と血に染まった装束が翻り、それに対する黒竜の攻撃が空を裂く。
光と影が交差し、おおぞらに戦う。
まるで神話がそのまま現実となったかのような光景だった。
だが、長引けば長引くほどこちらに不利になる。
このまま戦っていては大魔王の魔力も体力も底をついてしまう。傷は塞がっても、最も疲弊しているのは彼なのだ。
ほとんど魔法を放たず、魔力を温存しているとわかる。
万全の状態であれば魔法をミストバーンが掌圧で弾いて叩きこんだり、暗黒闘気を込めた攻撃と部下の拳撃を組み合わせたり様々な連係攻撃ができるだろうが、今の状態では難しい。
ミストは自身の消耗を省みず器の限界に近い力を引き出している。普通ならば肉体が耐えきれず壊れてしまうが、凍れる時の秘法がかかっているためその心配は無い。
だが、先ほどまで存在を維持するだけでやっとだったのだ。そんな動きができる時間は残りわずかだろう。
その先に待つものは――。
一度着地し、再び攻撃するため地を蹴ろうとしたミストバーンが膝をついた。戸惑ったように己の体を眺め、呆然と呟く。
「……? 何故、立てない?」
まだ戦いは終わっていないというのに。
極度の怒りによって莫大な力を引き出していたが、もう時間が無い。
動きが完全に止まった彼に太い尾が振り下ろされ、体が地面に打ち付けられた。秘法のおかげで器が傷つくことは無いが、内側の本体がボロボロだ。
「ミストバーン!」
叫んだルイズにも金色の闘気の矢が放たれた。ほぼ闘気を使い果たしているため本数は前回より少ない。それでも、彼女が一本でも食らえば死んでしまう。
地に刺さった矢が破裂し、爆風が細い体をあっけなく吹き飛ばした。
「ううっ……!」
荒れた地面に叩きつけられ呻く彼女へ、さらに数本が飛来する。
――動けない。
517 :
ゼロの影:2008/10/23(木) 20:12:49 ID:m8alzrz0
「ルイズ……!」
ミストバーンが前に飛び込み、かろうじて防いだ。再び膝をつき、倒れそうになるのをこらえている。
身体がうまく動かないとルイズにも分かるほど動きがぎこちなく、未熟な傀儡師が無理に人形を操っている様を思わせる。
「ミ、ミスト――」
声を震わせるルイズに背を向けたまま淡々と呟く。
「バーン様は言われた。お前を守り抜けと」
かつて激しく憎悪し、殺してやりたいとさえ思った相手。
同時に、羨望とともに敬意を抱いた。逆境に負けず努力を続け、強大な力を手に入れたのだから。
そして、誰も為しえなかったことに挑み、主の大望を成就させるために力を尽くした。
さらに、彼に再び戦う機会を与えた。
以前は主に命じられたから協力していた。守れと言われたからそうしていた。
今もその命令に従っているのは変わらないが、果たしてそれだけだろうか。
反撃の糸口になり得るという計算だけではなく、守らねばならないという義務だけではなく――。
ミストにはよく分からなかった。
今まで主以外の誰かと共に強大な敵に立ち向かうことなどなかったのだから。
(ほんの一瞬だけでいい……暗黒闘気よ湧きあがれっ! 今こそ――バーン様をお守りするために!)
主に認められるまで忌避し続けていた力を、彼は今心の底から求めていた。
ふと、脳裏にルイズの言葉がよぎる。
炎ではなく暗黒闘気こそが破壊のためだけの力だと告げた彼に対し、こう言っていた。
『あんたの能力でウェールズ様を救ったんでしょ。だったら破壊以外にも使える立派な力だわ。先生も言ったばかりじゃない、使いようだって』
そう言った彼女自身も建設的な使い方を考えようとして諦めていた。
戦うための力であり、破壊をもたらすことに変わりはない。どす黒い感情を糧とすることも。
だが同時に、主を守るためのものでもある。太陽が魔界を照らす鍵ともなった。
拳を握りしめる彼の背後から声が上がった。
「大魔王の信頼する部下ならまだ戦える。……そうでしょ? ミスト!」
今こそ――言葉ではなく力で覚悟を示す時だ。
ミストバーンは何も言わぬまま、声に背を押されるようにして立ち上がった。
地を蹴って虚空を駆ける彼の後姿を目に焼きつけ、ルイズは瞼を閉ざした。
水のルビーにそっと触れ、ハルケギニアに帰る理由に思いを馳せる。
『いっつもイノシシみたいなあんたらしくないわね、ヴァリエール。できるかどうかじゃない。“やる”のよ』
(ツェルプストー)
顔を合わせれば喧嘩ばかりする仲だが、喝を入れられた。炎の心を持つ情熱的なライバル。
『どんな闇の中にも光はある』
(タバサ)
今なら彼女の言葉の意味が分かる気がする。物静かだが力づけてくれた友人。
炎のように激しく、氷のように静かに、対極に位置する力を合わせて対象を消し飛ばす様を思い浮かべる。
そして――
『ここで何もせずにいては、僕が僕でいられなくなる』
誇り高く、勇敢な貴族。ルイズもミストバーンも彼の名を忘れることは無いだろう。
518 :
ゼロの影:2008/10/23(木) 20:15:16 ID:m8alzrz0
(ウェールズ様。あいつは怖いし、冷酷だし、ツッコみたくなるし、腹が立ちます)
歩んできた道や価値観が全く違うことも、数え切れぬ戦いと屍の上に立っていることも知っている。
ほんの少し距離が近づいたと思っても決して越えられない淵が広がっていた。
だが、彼の手をとった時何かが変わった。
(扱い良くしなさいよって思うし、もっと認めさせたいし……だから、お願いです)
ひとかけらの勇気と力を。
“ルイズ”として初めて認めてくれた相手の力になるために。
共に闘い、彼女が彼女であり続けるために。
彼女は目を開いてミストバーンの背中を見つめた。ある時は恐怖を掃い、ある時は絶対的なそれをもたらした背を。
「あいつの姿を見ておきながら、うずくまったままでいるわけにはいかないもの」
ルイズは悟った。
彼の背こそが、今まで自分を駆り立ててきたことを。
大きく息を吸い込み詠唱を開始する。
――エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ
わずかに湧き上がった力をかき集め高めていくと、ヴェルザーの眼がちらりとルイズに向いた。
前回と違い、自由に天を翔ける竜に魔法を当てることなどできない。そう語る視線に対し、泥で汚れた顔に笑みを浮かべる。
(わたしを誰だと思ってるの? 十数年爆発を起こし続けたルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ?)
『爆発に関しては我ながら芸術的だと思うわ』
彼を召喚するまではゼロの証だと忌避し続け、彼と出会ってからは力の証として練習してきた爆発。
最初に身につけた、“初歩の初歩の初歩”の呪文。
上昇したものは、射程距離、命中率、調節の緻密さ、そして――威力。
――オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド
『わたし、爆発だけは誰にも負けないって思っていますわ』
先ほど見た大魔王の爆裂呪文(イオラ)。それを超える爆発を思い描く。
――ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ
ミストバーンがルイズへの攻撃を全て盾として食い止めているのが視界に映った。
彼女一人でドラゴンに立ち向かうことはできない。爪がかすっただけでもあっけなく死んでしまうし、詠唱する時間を稼ぐことも難しい。
だが、彼がいる。
彼が守ると言ったのだから、それを信じて力を高めておくだけだ。
――ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル…
ミストバーンが炎の息吹の中へ振り払おうともしないまま飛び込む。突破と同時に、渾身の力で顔面に拳を叩きこみ殴り飛ばした。
高度が下がった竜が範囲内に入り、再び動き出すまでのわずかな隙をルイズは見逃さなかった。
杖が振り下ろされ、左腕が吹き飛ぶ。
「人間なめんじゃないわよ、ドラゴン」
その言葉を最後にルイズはぱたりと倒れた。
519 :
ゼロの影:2008/10/23(木) 20:20:13 ID:m8alzrz0
片腕を失ってもヴェルザーの戦意に陰りは無い。
大魔王に向かって腕を振るうと、ミストバーンが庇い、押しのけるようにして代わりに殴り飛ばされた。
ヴェルザーは彼を尾で地面に叩きつけ、急降下して踏みつけた。そのまま体重をかけて踏みにじる。地面は凄まじい衝撃にぐちゃぐちゃに裂け、抉れ、無残な姿を晒している。
殺すことはできずとも動きを封じることは可能だ。主さえ殺せば闘志は完全に折れるという確信があった。
「う、あ……!」
抜け出そうとするが、敵わない。人形のように手足は力無く投げ出されたままだ。痛みを感じることも傷つくこともない体が思うように動かない。
整った相貌も白銀の髪も泥にまみれ、白い衣はズタズタになっている。
凶暴な笑みを浮かべたヴェルザーが爪に闘気を込める。金色の軌道を描きながら一閃されたそれは大魔王の胸から腹部にかけて切り裂いた。
鮮血が飛び散ったのも一瞬、傷口が炎で焙られるような熱を帯び、煙が上がった。闘気が傷を焼く音が響く。
「焼き加減はどうだ?」
さすがによろめいた大魔王に楽しそうな声が降り注ぐ。
「少々……足りんようだ」
気負いのない口調だが、服は元の色が判らぬほど変色している。
(動け……動け!)
ミストバーンが力を振り絞るが、四肢は動かず、重圧を払いのけることができない。
心が闇に塗りつぶされそうになった彼の目に飛び込んできたのは眩い火の鳥の姿だった。
ヴェルザーが炎を吐き出して迎え撃つと大魔王はもう片方の手から即座に二発目を放った。一撃目と合わさって巨大化した不死鳥が息吹とぶつかり合い、高熱の激突に光が弾ける。
ミストバーンは食い入るように凝視した。
太陽と、不死鳥と、彼を何度でも立ち上がらせる存在が織りなす景色を。
その時風が吹き、この丘に眠る青年の言葉を鮮明に呼び起こした。まるでたった今告げたかのように。
『守るべきもののために全力で戦う――それは君も同じだろう? ならば、君もまた尊敬に値する』
陽光が煌めき金髪の若者の姿を一瞬だけはっきりと映し出す。
「……ウェールズ?」
幻か、ルイズが無意識に何らかの『虚無』の力を発動させたのか、それとも――。
彼は勇敢に戦い、最後に大切なものを守り切った。
全ての力を使い果たし倒れているルイズに視線を動かす。彼女の表情は安らかで、満足そうな笑みさえ浮かんでいた。
その理由は単純だ。
己の為すべきことを為したため。
そして――彼を信じているため。
今まで主以外の存在から信頼されたことなどなかった。誰かから敬意を向けられたこともなかった。
主に視線を戻すとヴェルザーの手に掴まれている。先ほど爪を回避しきれなかったのも、掴まれたのも、深刻な消耗が原因だ。
それでも、炎のごとき眼光は揺らがない。
竜族を統べる冥竜王に向かって傲岸な言葉を吐いたのは、勝利を確信しているため。
――もう二度と、主の信頼を裏切らないと誓ったはずだった。
ここで諦めては、絶対に譲れぬものを自ら“ゼロ”にしてしまうことになる。
『もし、もう一度守る機会が与えられたならば――』
彼が彼であるために、立ち上がり戦う。
それが彼の答えだった。
「バーン様をお守りするのは……この私だ!」
大魔王最強の武器は、己の肉体。
足を無理矢理持ち上げ、どける。
そして、魔界最強の剣は大魔王の手刀。
精神を極限まで集中させ、単純な――それゆえに強力な一撃を、繰り出された尾にカウンターで叩き込む。最強の斬撃に、太い尾が半ばから切断され落下した。
主を捕らえる竜の右手に接近し、最後の力で閃光のごとき一撃を加える。
520 :
ゼロの影:2008/10/23(木) 20:25:05 ID:m8alzrz0
完全に力が抜けた彼の体が落ちていくのと対照的に、まるで太陽を掴み取るかのように大魔王の手が掲げられた。
握りこまれた拳に紅蓮の火炎が宿り、優雅なる不死鳥の姿を形成した。部下が攻撃を食らわせた箇所を正確に狙い、掴む手に叩きつける。
視界を赤と黒が塗りつぶしていく。その色は今までの魔界の姿を思わせた。
しかし、魔界の空を見上げると、そこには数千年の間渇望し続けたものがあった。思い描いてきた光景があった。
希望の象徴たる太陽と、どこまでも広がる青空が。
脱出した彼は天空へと駆け上がり、向きを変えて冥竜王へと真っ直ぐに飛んだ。大魔王の名にかけて、その腕で勝利を掴むために。
迎撃しようとした竜の動きが一瞬止まる。
大魔王の姿が太陽と重なり、目が眩んだためだ。
再び動き出すが左腕は千切られ、右手は焼かれ、尾も切られている。阻もうとする動きが遅れた隙に、彼は炎を吐き出そうとする顎の中に腕を突っ込んだ。
そして、軽く指を弾く。
ただ一言の呟きとともに。
凄まじい熱が口内だけでなく喉の奥深くまで弾けた。
炎を吐き出す寸前だったところに大魔王渾身の火球呪文が放たれたのだ。
自身の炎と小さな火球が触れあった瞬間、爆発的な勢いで膨れ上がり荒れ狂う。
熱に強い竜といえども体内で限界を超える熱量が炸裂しては――文字通り痛恨の一撃となる。
巨躯がぐらりと揺れ地に落ちた。かろうじて体勢を立て直したものの、しばらくは戦闘不能だ。「白炎」の二つ名を持つ者が喜びそうな匂いが漂っている。
「貴……様……ッ!」
「退け、ヴェルザー」
威厳に満ちた声が響き、苛烈な眼光が竜を射抜く。
「お前には配下の竜を統制してもらわねばならん」
生きているならば、竜族が分裂し、勝手な行動をとることを防ぐため役に立ってもらう。
為すべきことは山積みなのだから煩雑な要素は少しでも減らしたい。
このまま無理に続けた場合、魔族と竜族の全面的な対決や、種族に関わりない混沌とした闘争状態に発展しかねない。
「魔界に太陽がもたらされたというのに、今までと変わらんではないか」
力こそ正義という信念に揺るぎは無い。己が君臨するという前提も変わらない。
ただ、世界の姿が変われば力や秩序の在り方も変わる。
強者が上に立つ世界を地獄と呼ぶ者もいるかもしれないが、同じ地獄でもマシな地獄になるはずだ。
故郷である魔界を豊かにするのは何千年かかるか分からないが、永遠の命を持つ彼ならば不可能に近いことを成し遂げることができる。
ヴェルザーはしばらく沈黙していたが、ゆっくりと告げた。
「……フン。万全の貴様を叩き潰すこととしよう」
「その時は、受けて立ってやる」
不敵な笑みで答えたバーンに鼻を鳴らし、ヴェルザーはミストバーンへ視線を向けた。主を守るため必死で身を起こそうとする様を見て呟く。
「オレにもあんな部下が欲しいものだ」
「数千年の間忠誠を尽くし、秘密を預かり、戦い続け、給仕までする、生涯を共にする存在……お前にはおらんのか?」
「いるわけなかろうが! 自慢かそれは?」
両者の殺気はすでにおさまり、直前まで己の全てをかけて殺し合いをしていたとは思えぬ空気が流れている。
それほどの戦いを繰り広げたからこそ認めることとなったのかもしれない。力という則の支配する魔界の流儀に従って。
その一方で、ヴェルザーは次の皆既日食の日に秘法を妨害する手段を、バーンは『虚無』を利用し魂を完全に消滅させる方法を考えていた。
内心を窺わせぬままヴェルザーは倒れ伏すルイズに視線を移す。
「あの小娘……ルイズといったか。協力者でしかないくせに何故――何を求めて戦った。地位か? 権力か?」
こちらの問いには大魔王も明確な答えを見つけられなかったようだ。
「……わからん。おそらく、もっと単純なものだろう」
大魔王バーンは微笑を口元に刻み、空を見上げて眩しそうに目を細めた。
太陽は、新たなる時代の幕開けを告げるように天高く輝いていた。
しえん
522 :
ゼロの影:2008/10/23(木) 20:28:47 ID:m8alzrz0
宮殿の一室にてルイズはベッドに寝そべり休息を貪っていた。疲れきっているためずっとベッドから出たくない気分だ。
誰が運んだのかはっきりとは知らないが、抱えた手が力強かったことは覚えている。
近くの豪奢な椅子に大魔王は腕を組んで座り、窓の外に広がる光景を眺めている。
傷はほぼ塞がり衣も替えているため激闘を連想させる姿ではないが、疲労も傷も最も深刻だったのだ。
体は休息を欲しているのに、この瞬間こそが何物にも代えがたい極上の美酒だと言うように陽光に照らされた魔界の姿を見つめている。
優雅な仕草でグラスを傾ける傍らでは、ミストバーンが回復呪文の効かない主の手当てや給仕のために働いていた。
限界まで消耗しきっているはずだが、酒を嗜む主の姿を見て常より目を輝かせ、嬉しそうにしている。
「代わりをもて」
「はっ!」
嫉妬もする気も起きないような心和むオーラを放出する姿に、ルイズは
(喜んでる喜んでる)
と、こっそり心の中で呟いていた。
「これほど美味い酒を飲んだのは……初めてだ……!」
充実感の溢れる大魔王の声は、宝物を手に入れた少年を連想させた。
やがて自室で休息を取るため立ち上がり、扉まで歩いて行く。そこで足をピタリと止め、振り返った。
「何故、そなたは怒った?」
「成功した直後にあんなことされたら腹立つじゃない」
大魔王の質問はそういう意味ではなかった。
何故異世界の異種族のために涙し、怒れるのか。
最初に極大天候呪文を唱えた時に尽力した青年の顔が浮かぶ。
彼もルイズと同じように、越えられない淵の向こうにいた相手のために命をかけた。
人間は異質な存在を受け入れないと思っていたが、彼らが例外なのか否か。
強大な敵を前に団結するのは理解できる。仮に世界滅亡の危機を迎えれば善良とはいえない者達も手を組むだろう。
だが、ルイズが危険を顧みず力を尽くした理由を説明するにはやや弱い。
部下ではなく協力者なのだから最後まで戦い抜く必要は無かった。彼女一人ならば助かる可能性も十分にあったというのに。
『敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!』
(逃げ出すのは誇りが許さんということもあるだろうが……)
ミストもルイズも互いに力を引き出すかのように限界を超えて戦った。その源は一体何なのか。
ルーンの力か。一体化したためか。それとも――。
考え込む彼にルイズは声をかけた。
「数千年の夢が実現したんでしょ? すごいわ」
普段ならば素直に言わなかったかもしれないが、彼女なりに感慨がある。
それが伝わったのか、大魔王は彼女が今まで見た中で一番穏やかな笑みを浮かべ、静かに告げた。
「……ありがとう」
ルイズはうろたえて口ごもってしまった。大魔王の肩書を持つ者が率直に礼を述べるなど考えられなかったためだ。
慌てる彼女に背を向け、彼は姿を消した。
523 :
ゼロの影:2008/10/23(木) 20:31:00 ID:m8alzrz0
ミストバーンは命じられたためルイズの元に残ったが、彼もまた不思議そうに訊ねた。
「何故……何がお前をそこまで駆り立てた?」
「あんたの――」
そこから先は恥ずかしさを覚えて言えなかった。必死で他の言葉を探してぶつける。
「あ、あんたの作るクックベリーパイをまだ食べてないもの! 少しは感謝なさいよね!」
素直にこくりと頷かれ、言い出した彼女の方が戸惑ってしまった。
しばし逡巡した後に言いにくそうに呟く。
「そ、その……守ってくれてありがと」
貴重な戦力を失うわけにはいかないため――利用するためとは考えなかったのか。そう言いたげにじっと見つめると睨み返される。
「何よ。助けてくれたことに変わりは無いじゃない」
それに、義務感以外の何かも確かに伝わった。
慈愛や正義に目覚めたわけではないと知っているが、魔界に君臨する大魔王の部下にそこまで要求するのは酷だろう。
彼はルイズを真っ直ぐ見つめた。
もしルイズがいなければ、太陽が魔界を照らすことは無く、大魔王が美酒を味わうことも無かった。
“ミスト”として彼自身の魂を認め、主から守り抜けと命じられた――ただ守られているばかりではなく共に闘った相手。
己の力が、この手が在る理由を改めて教えた存在。
かつて戦いの場に送り出した尊敬する相手と、偉大なる主を心に思い描きながら口を開く。
ルイズの耳にかすかな声が聞こえた。
ほとんど聞き取れないほど小さな声で、ある言葉を告げたのだ。
(あ――)
ルイズは心に残っていた黒雲が全て吹き飛ばされるのを感じた。陽光に照らされたように胸がじんわり暖かくなる。
思わず肩を震わせながら俯く。
頬に熱い滴が流れているのがわかるが止められない。
『ずっと前から決まってた――特別な意味を持った出会いってあると思う?』
以前彼に尋ねた時は期待を裏切られたが、今再び訊けばもう少し違う答えが返ってくるかもしれない。
胸を躍らせた彼女の耳に聞こえてきたのは、何かが床に倒れこむ鈍く重い音だった。
「え? ちょっと」
苦しそうに眼光を明滅させている。主のために激闘の後から今まで働いていたが、限界に達したようだ。
呪文と違い直接体を削ったわけではないため消滅はしないが、休息を必要としているのは主と同じ。
慌ててベッドに引きずり上げて休ませようとするが、睡眠の必要が無い体なので寝て回復する類の疲労ではないようだ。
「そんなにボロボロだったのに給仕まで……! あんた絶対過労死するわよ」
結局ベッドの縁に腰かけた彼を見てルイズは額を押さえ、盛大に溜息を吐いた。
524 :
ゼロの影:2008/10/23(木) 20:36:20 ID:m8alzrz0
少し時間がたって落ち着いたのか、ミストバーンは普段どおりの冷静な声で静かに告げた。
「お前は部下ではないのだから功績への対価を支払わねばなるまい。何か望みがあれば大魔王様にお伝えする」
「うーん……」
以前の彼女ならば無茶な要求を突きつけたかもしれないが、今となってはためらわれた。
あまり即物的なことを求めると、彼との関係を自ら否定してしまう気がする。
“自分を守れ”“共に闘え”といった内容はすでに大魔王の命令の範囲内に含まれている。
自分なりの形で認めさせたいと思っているため無理矢理“主人として崇め敬え”と言う気は無い。
(かといって、何も無いのも立場が――そうだわ)
想いのこもらぬ物品ではなく、彼の意に反することもなく、自分の心を満たすようなもの。
「こ、これからずっと、わたしのためにクックベリーパイを作りなさいよね」
「えっ?」
ミストはキョトンとして目を瞬かせた。
貴重書や宝物の譲渡など他にいくらでも選択肢があるというのに、それだけで済ませるのは予想外だった。
相手の反応が鈍いためルイズは苛立ち、うっかり口を滑らせてしまった。
「だから! わたしのためだけに作ったあんたの手料理が食べたいって言ってんの!」
叫んだ直後にルイズは湯気が出そうな勢いで赤面した。
とてつもなく恥ずかしいことを言ってしまった気がするが、もう遅い。
態度を繕って本心を隠そうとした分のエネルギーが暴走し、とんでもない言葉を吐き出してしまった。
「……わかった。バーン様にお伝えしよう。“これからずっとお前のためだけに私が料理を作る”ことが望みだと」
どこまでも真面目に答えたミストバーンはルイズの顔色が凄まじいことになっているので首をかしげた。
「あんたのせいよ、ばかっ!」
ぼふっと枕を投げつけたルイズの顔は真っ赤で今にも泣きそうだ。
(“これからずっとお前のためだけに私が料理を作る”って――! 何で喋るの!? しかも報告まで!!)
却下するかと思いきや真剣そのものの態度で主に報告すると言い、あまつさえ復唱するとは思わなかった。
本人から改めて堂々と口にされると破壊力の桁が違う。
まさに痛恨の一撃だ。
よく考えると“これからずっと”はまずい。“お前のためだけに料理を”はさらに重大な問題がある気がする。
訂正するより先にミストバーンは報告するため行ってしまった。
一人残されたルイズは、恥ずかしさのあまり腕に顔を埋めた。
「あいつ絶対そのまま伝えるわ……!」
足をバタバタさせながら大魔王の反応を予想する。
きっと愉快そうに笑うだろう。こちらに楽しげに告げる様が目に浮かぶ。
『あ奴を“修行”させるのも一興かもしれんな。魔界に永住するならば余の部下にならんか?』
「何の修業よ!? それに永住ってそんなつもりじゃなくてハルケギニアに戻るまでって意味でああもうイヤあの馬鹿主従ーっ!!」
頭を抱えベッドの上でのたうち回る彼女を、窓から差し込む美しき陽光が照らしていた。
太陽は昇る。
心が一つになった者達を照らすために。
ゼロの影〜The Other Story〜完結編 完
525 :
ゼロの影:2008/10/23(木) 20:40:18 ID:m8alzrz0
以上で、今度こそゼロの影〜The Other Story〜は完結です。
登場人物がえらい勢いで動き回ってびっくりすることもありましたが(特に後半)、終わらせることができました。
あらかじめ動くことを予想していたのはルイズとミスト、予想以上だったのはウェールズとヴェルザー、大魔王は……。
あるシーンを連想させる部分と、その中で異なる点があります。
バーン様のメラにはロマンが詰まっていると思います。
余のメラかっこいいよ余のメラ
最後の最後でようやくキャッキャウフフらしきものが書けました!
間違っている気もしますがこれで思い残すことはありません。
今まで読んでくださった方、登録や代理投下をしてくださった方、本当にありがとうございました!!
おつかれさまでした
影の人、Other Story完結おめ。&お疲れさまでした。
ミストバーンにデレるルイズというのもなんだかすごいですが、
ゼロ魔のSSらしくていいんじゃないかと思いますw
影の人、乙でしたー!
前作といいOther Storyといい、何故にこれほどの良作品を生み出せるのですか!?
念願のキャッキャウフフも書けてよかったですね♪
影の人お疲れ様でした。
ミストがまじめすぎて天然ボケだよ、だがそれがいい。
お疲れ様でした。
ミストバーンにとって
主とは関係ない戦いの中、痛覚がある状態で心臓抉られたり傷口焼かれたり認めてもいない人間達から徹底的に痛めつけられ、瀕死に追い込まれる(ゼロの影本編)
記憶消されて抜け殻になり、復活したと思ったら全力で激怒と殺意を抑えこみ、厳しい罰を受けボロボロになった状態で命を削り続けて死にかける(The Other Srory)
目の前で主の腕が千切られたり腹を貫かれたりする光景が繰り広げられ、戦うことも出来ず苦しむ(完結編)
の中で、どれが一番つらいんだろう?
死ぬタイミングが悪くて完全にスルーされたり光の師弟の引き立て役にされたり原作では不遇なイメージがあるけど、こっちもこっちで…
お疲れさまでした。大変面白かったです!
しかし
>ヴェルザーは次の皆既日食の日に秘法を妨害する手段を、バーンは『虚無』を利用し魂を完全に消滅させる方法を考えていた。
こちらの流れだとキルバーンとピラァ・オブ・バーンはその目的で出て来るんですね。
闇の衣、素顔、本体登場ときたら次はマァムですね
ノヴァって闘気剣のせいか剣を大事にしていない印象がある。
何がいいたいかと言うと、デルフが切っ先だけに
いくら闘気剣つかうからって剣をたたき折る必要ないよね。>ノヴァ
超魔ゾンビ戦の時だってなにも折らんでもと思った。
闘気に加えて、生命を注ぐのには刀身を直に触れてないと駄目だったとか
自分の血を中継した方が闘気に転化しやすかったとか
デルフが闘気もうっかり吸収できたりとかしたらノヴァ涙目
獣王の人の続きが気になるんだぜ
果たしてデルフはおっさんに使ってもらえるのだろうか
キャッキャウフフの女神に横っ面をひっぱたかれたためミストマァム召喚小ネタを投下します。
ミストマァム召喚小ネタ
桃色の髪の少女が拳を握り、影に殴りかかった。
しかし実体を持たぬ者に拳撃が効くはずもない。空しく空を切った拳に、腕に、全身に黒い帯のようなものが巻きつき内側に潜り込んでいく。
やがて“彼女”の肌が闇を思わせる褐色に変わり、眼光が鋭くなる。
仲間達と少女が激突する直前、突然出現した光り輝く鏡が少女を飲み込んだ。
煙の中に人影が見えた時、ルイズは喜びのあまり飛び上った。
爆発しか起こせずゼロと呼ばれ続けたため、使い魔を召喚できるか不安だったのだが、無事成功した。
(どんな使い魔かしら。美しくて強くて――)
胸を躍らせながら煙が晴れるのを待ったルイズは奇妙な面持ちで相手を見つめた。
可憐な顔立ちの少女は褐色の肌を持ち、柔らかな髪の色に不思議と似合っていた。身に纏うのは見たことも無い衣服。
何よりも印象的なのは、肉感的な、それでいて均整のとれた完璧な肢体だった。誇り高い眼差しと相まって野生の獣のような美しさを感じさせる。
人間の――それも歳のそう違わない少女というのは予想外だったが、全身から放たれる鋭気が強さを証明しているようで落胆の言葉は思わず飲み込んでしまった。
コントラクト・サーヴァントを行うため何の意識もせず距離を詰めたルイズだったが、次の瞬間視界に広がったのは草に覆われた大地だった。
「え?」
足払いをかけられたようだ。
背中にかかった圧力で踏まれていることに気づく。
「アバンの使徒どもに与する輩か」
声も外見と同様、美しい鈴を思わせるが凍てつく冷気が込められている。
視線と警戒はコルベールに向けられているため、周囲の生徒たちでは相手にならないと判断したのだろう。
答えによっては戦いが始まるに違いない。
コルベールの纏う空気が張りつめたものに変わった。ただ一人の少女相手に大げさだと思う生徒もいたが、戦場で培われた本能が警鐘を鳴らしている。
「我々は敵ではありません。“アバンの使徒”とは一体?」
「人間のくせに知らんのか? ……まあいい。私を今すぐ元の場所に戻せ。大魔王様のために戦わねばならんのだ」
緊迫した声から察するに、どうも最悪のタイミングで呼び出してしまったらしい。戦いの最中ならば使い魔として暮らすことなど承諾しないだろう。
どう言葉を返すべきか分からず沈黙が漂ったが、相手に帰す意思が無いと判断した少女は拳を構えた。力ずくで言うことを聞かせ、元の世界に戻るしかない。
殺気を感じ取ったルイズは息を呑んだが、次の瞬間背中から圧力が消えたため身を起こした。
少女は頭を抱えて苦しげに呻いている。
「クッ……この女、まだ抵抗を……! ならば完全に魂を砕いて――」
言っている内容が理解できなかったが、今しかコントラクト・サーヴァントを行う機会は無い。
立ち上がり、素早く呪文を唱え、抱きつくようにして唇を重ねる。
「んっ――!?」
衣服越しに胸のあたりが輝いたのが分かる。ルーンを刻むことにも無事成功した。
だが、疲れと充足感の入り混じった表情の彼女に拳が振るわれる。
思わず目を閉じたルイズだが、予想した痛みは訪れない。
恐る恐る目を開くと顔面に叩き込まれる直前で止まっていた。自らの意思でないのは震えている拳を見ればわかる。
ルーンの効果と中にいる者の意思が合わさったためだとルイズが知るはずもなかった。
動きを止めた少女にコルベールが儀式や召喚についての説明を手早く行い、最後に帰る方法が分からないことについて告げた。
「ですが、彼女が初めて人間を呼び出したのならば、あなたを初めて帰す可能性もあります。ですから、彼女に協力し――」
「断る」
ルーンによって行動が制限されるならば他の体に移ればいい。
しかし、抜け出そうとした影は混乱した。
ルーンの働きのせいか魂が固定され、脱出は不可能だ。宿主の魂を完全に砕こうとしてもルーンが守るように周辺に浮かびあがり、握り潰すことはできない。
こんな状態では器の力を十分に発揮できず、固定された今ならば器が壊されると同時に本体が滅ぶかもしれない。
そして、このままでは――
(バーン様のお役には……立てん)
一人で生き抜くだけならどうにかなる。
だが、学院の教師もわからぬ帰還の方法に独力で辿りつけるのか。
帰る手段だけ見つかっても意味が無い。
体から離れられないのならば、理想の器に入ることも主の肉体を預かることもできない。
“守る”こともできない。
なすべきことはルーンを解除し、元の世界に戻ること。
鍛え上げた器が壊されていた時のために予備の体も探しておいた方がいいだろう。
使徒達の力を削いでおきたかったが、真の姿に戻った主ならば万に一つも敗れる可能性は無い。
ただ、主の大望が成就する瞬間を見ることができないのが一番残念だった。
本当に主から必要とされるのは数百年後。
それまでは予備の体を使うしかなく、最強の駒女王(クイーン)からただの兵士(ポーン)に格下げされたようなものだ。
胸のルーンが光り言葉を染み込ませていく。
“大魔王の役に立つため”にもしばらくは学院に――呼び出した者の近くに留まる必要がある、と。
完全に抑圧し捻じ曲げると抵抗が大きくなるが、心の隙間に潜り込み、巧みに思考を逸らしていく。
干渉を受け入れることとなったのは、長年の間被り続けてきた“ミストバーン”の仮面が外れ、精神の糸がほんの少し緩んだことが原因かもしれない。
ひとまず”彼女”が学院に滞在することが決定し、ルイズは埃を払いながら名乗った。
「わたしはルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」
「……ミスト」
この二人の少女が、ハルケギニアに嵐を起こすこととなる――。
その日の夜、ルイズは空気を搾り出さんばかりに溜息を吐いていた。
召喚した少女が大魔王の忠実な部下で魔王軍の幹部などと聞かされてもにわかには信じがたい。しかし、鋭すぎる眼光と不敵な笑みが圧倒的な説得力を醸し出している。
渋々納得した彼女はやけになり、どこからか入手したワインをハイペースであけていた。意識がもうろうとするなか、視界に入るのはボリュームたっぷりの胸である。
声が聞こえてくるのをぼんやりと感じ、ルイズは思わず呟いた。
「わたし、胸と会話してる」
そういえば、と思い出す。男子生徒は“ゼロのルイズ”にはふさわしくない使い魔だと口にしていた。主に胸が。
単なる大きさだけならば匹敵する女生徒もいるだろうが、胸から腰、そして大腿にかけてのラインはまさに芸術の域に達していた。
美の女神が全身全霊を捧げて作り出したかのような肢体からは健康的な色気がこれでもかと言わんばかりに迸っている。おまけに、格好は露出の多い武闘家のものだ。
一方我が身は――胸に手を持っていくと虚しい感覚しか伝えてこない。
ルイズの酔っ払った頭に怒りが充満し、爆発した。
「何でこんなのが出てくんのよ! わたしへの嫌味!? 新手の嫌がらせ!?」
こみ上げる衝動のままに手を伸ばし、豊かな膨らみをわしづかみにする。そして激情の赴くまま指を動かした。
「何よこの胸! 何なのよこの胸はッ!!」
突拍子もない行動にミストは怪訝そうな表情をしている。
「……? その程度の攻撃では傷一つつけられんぞ」
主の体ならば触れる前にフェニックスウィングを叩き込むところだが、「この女の体ならば別にいいか」という身も蓋もないことを考えていた。
どうせHPが減るわけではない。
「うっ……かみの、ひっく……なみだ、うえ……ふえええん!」
ルイズは儀式の際に張りつめた精神の糸が完全に切れたのか、嗚咽を漏らし、盛大に泣きだした。
一方キュルケは、ルイズの部屋から怒りに満ちた叫びと泣き声が聞こえてきたため様子をうかがうことにした。
何しろ“胸”という単語が何度も耳に届くのである。気にならないわけがない。
「ちょっと何やって――」
わずかに開いたドアから覗きこんだ彼女の思考が、一瞬完全に停止した。
可憐な顔立ちの少女が涙を流しながら一心不乱に胸を揉んでいる。
される方は物思いに耽っているのか、眉一本動かさず完全に無反応である。
(全く動じない包容力……まさに慈母だわ。何者なの、あの子?)
キュルケはごくりと唾を飲み込み、慌てて首を振った。これ以上見ていると禁断の世界へ踏み込んでしまう気がする。
珍しくぎこちない笑みを浮かべ、キュルケは自室へ引き返した。
やがて落ち着いたルイズは手を動かすのをやめて、文字通り胸に顔を埋めてすすり泣いた。
そんな彼女にどこか呆れたような声が降り注ぐ。
「戦闘の邪魔になるものが欲しいとは……。引き千切ってくれてやろうか」
「ふざけないで!」
ルイズは顔を上げ、激しい語調で言いきった。
「それは他人から与えられるものじゃないわ! 自分で得るものよ!」
そう告げる彼女の顔には気高い誇りが浮かんでいる。
台詞だけ聞けば格好いいと言えなくもないが、“それ”が指すのは胸である。
すっかり冷静さを失っている彼女はベッドに潜り込んで呟いた。
「一緒に寝るわよ」
さすがに床で眠らせるわけにもいかない。
言われたミストは断りかけて考え直した。
この器は秘法がかかっていない、人間の少女の体である。当然休息や食事が必要であり、余計な消耗は避けたい。
肌が接触する可能性もあるが、「この女の体ならば別にいいか」と横たわったミストの意識を妙な感覚が襲った。
(何だ……? 瞼が、重くなって――)
ルーンの働きで感覚を得ているのかもしれない――そう思いながら”彼女”は眠りに落ちた。
翌日、自分と同じ食事をとらせることにしたルイズは反応を見守った。
きっと豪勢な食事とその味に感動するだろうと予想していたが、“彼女”はスープを口に運んで妙な顔をしただけだった。
「何よ、口に合わないの?」
「わずかに感じる……。これが味覚というものか」
「え?」
今まで料理を味わったことなど無いような言葉にルイズが戸惑った次の瞬間、“彼女”はフォークを無造作に腕に突き刺した。
ルイズの手からスプーンがぽろりと落ち、目がこぼれんばかりに見開かれた。口が金魚のように虚しく開閉している。
ミストはわずかに顔をしかめながらフォークを引き抜いた。
「な、な、な、何やってんのよ……?」
「痛みを感じるか試そうと――」
「あんたの言うこと全く理解できないわ……! 頬をつねるとかでよかったじゃない」
“彼女”は半泣きになっているルイズの抗議を聞き流し、痛みを感じるようになったのは無茶な行動で器を壊すのを防ぐためだろうと考えていた。
「朝からショッキングな映像見せないでよ! 大丈夫なの!?」
血がだらだら流れる腕にベホイミをかけたミストは、ルイズから「いのちだいじに」と指示され、食事の作法について延々と説かれることとなった。
教室に向かう途中、すれ違う男子生徒の視線を追ったルイズが頭痛をこらえながら傍らの少女に問うた。
「その格好どうにかならない?」
だが、理由を逆に訊き返されたルイズは返答に窮した。
風紀を乱すからと言っても大魔王の部下には通じないだろう。
そもそも着替えさせる服が無いのである。ルイズやタバサの服では大きさが合わず、キュルケに頼むのはプライドが許さない。
(そういえば服のサイズのちょうど合いそうなメイドがいたわね。試しに着せて――)
想像してみたルイズは、生まれてきたことを激しく後悔した。
「……やっぱりそのままでいいわ」
さらに会話を交わす中、異世界の主への崇拝を語られた彼女は面白くないものを感じて頬を膨らませた。
「そんなに大切なご主人様なの?」
「当然だ。あの御方は長年の間、私にお体を委ねてくださったのだ」
その口調は、敬虔な信徒が神について語るようだった。
(え、え、どういうこと? 教えてワルド様)
何故か婚約者の顔が思い浮かんだルイズは恐る恐る尋ねてみた。
「それって……?」
「私はバーン様の御体を知り尽くしている。……誰よりもな」
嘘をついているのかと思って表情を窺ったが、誇らしげな色が浮かんでいる。
間違いなく事実を告げていると悟ったルイズは、ますます周囲の視線を浴びるのを感じ、訊かなければよかったと心の底から後悔した。
そのようにしてハルケギニアでの生活が始まり――やがて少女二名は数々の“奇跡”を起こした。
以下は、その中の一部である。
〜学院の章〜
「隠された奥のロマンというものを彼女は分かっていない。普段は慎むべき」
と主張する一派と、
「否、開放的な性格の持ち主がここぞという時に恥じらいを見せる……それこそが至高にして究極」
と語る者達が大論争を繰り広げ、クラスが真っ二つに分かれる。
一触即発となったものの、双方
「あの体はけしからんな」
「ああ、実にけしからん」
という合意に達したため停戦協定が結ばれ、以前よりも結束を強めることとなった。
さらにマリコルヌをはじめとする「あの足に踏まれたい」派が台頭し、第三勢力を形成する。
ある時、ギーシュをはさんでケティとモンモランシーが向かい合い、真竜の闘いを再現するほどのエネルギーを迸らせたことがあった。
そこに通りかかった“彼女”の腰のラインを見たギーシュはうっとりとして「光の天使だ」と呟いたため、全エネルギーが直撃。
しかし、生き延びたためしばらくの間「不死身」だと噂された。
「彼女はおそらく外見通りの存在――人間ではない。危険です」
そう警鐘を鳴らしたコルベールに対し、
「異質な存在を排除する……その心こそが争いを生むのではないかね。警戒するなとは言わんが、排斥するには尚早と言えるじゃろう。大切なのは……魂じゃよ!!」
と、オスマンは断言。
名言として後世まで語り継がれることとなる。
また、ある音声資料によると学院の片隅で以下のような会話がかわされたらしい。
「あんた何してんのよ!?」
「破壊力を持たぬ代わりに闘志を完全に打ち砕く技を――」
「それ時と場合と相手によるから! 教える方も教える方だけど真面目に覚えて実践してんじゃないわ!」
「相手による……ならばお前にも試すとしよう!」
「え!? ちょっと待ってやめ、いやあああ……!」
〜アルビオンの章〜
宿屋に宿泊した際、土くれのフーケから襲撃される。
「妹に似てるから戦いたくない」
そう告げられた“彼女”は
「ならば抵抗せずに死ね」
と言い放ち、躊躇せずに攻撃を叩き込もうとするのをルイズ達が必死に止めることとなった。
敵対したワルドはうっかり膝枕され、母の面影を感じたため「まるで聖母だ」と涙する。
彼はその場であっさりレコン・キスタを離反。
正義の光で戦い抜くことを誓った直後に光の闘気に目覚める。
その力で愛しいルイズと母を思わせる”彼女”を守り抜くことを決意。
さらに「アンリエッタこそが世界一可愛い」と思わず本音をもらしたウェールズと決闘い、もとい取っ組み合いの喧嘩を繰り広げた。
両者とも「愛は人を強くする」という結論に達し、夕日を眺めつつ固く握手し熱い友情を築く。
そして、反乱軍の兵士はいくら攻撃を浴びせても消滅しない遍在に恐怖することとなった。
以上のように、数々の伝説を作り出した“彼女”は元の世界に戻ることとなった。
しかし、戻ったのは何故か召喚された直後の時点だったため「闘志を完全に砕く技」でヒュンケルの戦意を喪失させる。
溜め込んでいた光の闘気は霧散し、ミストは抵抗なく体を乗っ取った後に散々暴れ回ったという……。
〜終〜
以上です。
「ウェールズと決闘い」は誤字で「ウェールズと決闘」ですorz
ミスト召喚の殺伐さにムシャクシャしてやった。
今は反省している。
ワルドtueeeになっていないか少し不安です。
とりあえず、まてやw
冷静になって考えると体から抜けられないなら、まず体の方ぶっ壊してると思うけどまあ、それは言わないお約束かw
体が死ねばルーン外れるから確実なんだけどねw
お久しぶりです。
一か月以上間が開いてしまいましたが12:45位から投下します。
虚無と獣王
15 捜索隊と獣王
森の中を二台の幌の無い馬車が行く。
一台はロングビルが御者を務め、ルイズ・キュルケ・タバサが乗るフーケ捜索隊のものだ。
先頭を切るルイズ達はロングビルに話しかけたり、奇襲が無いか周囲に気を配っていた。
「ねえ、フーケの奴、まだこの国にいると思う?」
そんなキュルケの問いにルイズとタバサは揃って「もういない」と答える。
「今までの貴族狙いならともかく、魔法学院の宝物庫を破ったんだもの。トリステインでこれ以上の標的は王宮しかないし、流石にフーケもお城の宝物庫には盗みに入らないでしょ。となれば後は国外に逃亡するしかないわ」
「同意。もうこの国にいる理由はない」
級友2人の意見にキュルケは頷き、しかし疑問を口にする。
「まあ私もそうは思うんだけどね。でもミス・ロングビルの証言を考えるとまだこの国に用があると考えられない?」
確かにロングビルは『フーケの潜伏先を突き止めた』と言っている訳で、それはすなわちかの怪盗は国外に出る意思がないとも解釈できる。
「でも捕まったら多分極刑よ? 自分の命より優先する用事なんてあるのかしら」
「そう言われればそうなんだけどね、なんか妙に引っかかるのよ」
首を傾げる2人に、タバサがボソッと呟いた。
「取扱説明書を盗み忘れた」
一拍の間をおいて、ルイズとキュルケは揃って笑い出してしまった。
「あはははは! と、取説! 無い、いくらなんでも流石にそれは無いでしょ!」
「い、いや、判んないわよ? 盗んだはいいけど上手く使えなくて途方にくれてたりとかってゴメン! 自分で言っててムリがあるわー!」
もともとスプーンが転がっただけで笑ってしまえるような年頃の彼女たちである。ツボに嵌ってしまったのか目に涙まで浮かべていた。
言い出したタバサまでもが、本で巧みに口元を隠してはいたが確かに笑みを噛み殺している。
だから、この明らかな冗談が実は真実であるという事に、彼女たちは当然気がついてはいなかった。
ロングビル/フーケはこれからの行動について思いを馳せていた。
正直、厩舎で男子学生どもの寝言を聞いた時はうっかり鬱に突入しそうになったが、そこは義妹の顔と胸を思い出す事でなんとか持ち直した。
胸に関しては、タイミングを間違えると逆に鬱が進行しかねない危険な賭けだったのだが、今回は上手くいったようだ。
学生達がマジックアイテムの情報を持っていない以上、オスマンかコルベールをなんとかおびき出さなければならない訳だが、では具体的にどうすればいいのか。
一番確実なのは学生の誰か、もしくは全員を人質にとって、教師達が出てこざるを得ない状況を作り出す事だ。
命まで奪うような事はしたくない。それは彼女の流儀に反する事であったし、大貴族の子女が捜索隊の中には含まれる為、不必要な恨みを買う危険は避ける意味もある
さて、この学生たちを無力化するにはどうしたらいいだろうか?
後ろの荷台でなぜか爆笑しているルイズとキュルケの声をどこか遠くに感じながら、フーケは作戦を練り始めるのだった。
二台目の馬車に乗るギーシュ達は、若者らしく熱い議論を真剣に交わしていた。
事の発端は、周囲を警戒していたマリコルヌが何故か遠い眼をしながらため息をついた所から始まる。
「どうしたんだいマリコルヌ。体調でも悪いのか?」
「ん、ああいやそうじゃないよ。ちょっと考え事をしていたんだ」
レイナールの問いに、どことなくアンニュイな風情を無意味に漂わせながらマリコルヌは答えた。
「僕達は今ピクニックと称して森の中へ向かっている訳だけど、どうせならもっと違う場所に行きたいなぁって、ね」
「なんか碌な答えが返ってきそうにない気がするけど一応聞くよ。どこに行きたいと?」
「おっぱい王国(キングダム)」
一瞬の躊躇いもなく即答する小太りの同級生を見て、レイナールは思う。
聞いた僕が馬鹿だった、と。
予想外の、ある意味では予想通りの答えにギムリは荷台から落ちそうになっている。
そして、御者台のギーシュは大真面目な顔で同級生にこう問い質した。
「すまない。よく聞こえなかったんだがもう一度言ってくれ給えよマリコルヌ」
「ああ、こちらこそ小さな声ですまなかったねギーシュ。いいかい、僕がイキたいのは、お・っ・ぱ・い・王・国だよ」
マリコルヌが丁寧に一音一音区切りながら大声で返事をするのとほぼ同時に、レイナールとギムリが大慌てで馬車の周囲に『静寂』の魔法を掛ける。
前を走る馬車に小太りの大声が届いていない事を確認し、2人は安堵の息を漏らした。
あんな発言が知れ渡った日には、それこそ学院内での居場所が無くなってしまう。自分が言った事ではないとはいえ、仲間と認定されただけで悲惨な青春を送る事になるのは目に見えていた。
もしくは学院に帰り着く前に速やかに抹殺される。犯人は当然同行者の女性陣だ。
ギーシュはそんな危惧など露ほども知らぬ様子でマリコルヌに話しかけた。
「素晴らしい、素晴らしいよマリコルヌ! 確かにそんな楽園があるなら僕もイッてみたいものだね! 一体どんな国なのか学術的な興味が湧いて仕方がないから端的に教えてくれなさい」
「ハハハ端的になんて言えないよギーシュ。まあ、敢えて言うなら、すべからく大きくて、なおかつ包み隠す事のない国さ」
おいおい端的にも程があるだろ、というギムリのツッコミは馬鹿2人の耳には残念ながら届かない。
「ちょっと待ってくれ、包み隠さないというのは確かに素晴らしくてとても素晴らしい事だが、すべからく大きいとはどういう意味なんだい!?」
次第に熱がこもるギーシュの質問に、マリコルヌは至極当然と言った顔で答えた。
「おや、判らないのかいギーシュ? 小さいという概念がその国にはないのさ。これもまた端的には表現できないけど、つまりメロンしか存在しないと、要はそう言う事だね」
端的に言って同じ男からしても君たちドン引きなんだけどな、というレイナールの感慨も、やはり馬鹿2人の耳には届かない。
「いいや違うな! 間違っているぞマリコルヌ!!」
やけにオーバーなリアクションで、ギーシュはマリコルヌの主張を力強く否定した。
「いいかマリコルヌ。女性の胸というものは確かに母性の象徴であり、ボクたちに熱くナニかを訴えかけてくるとてもキケンでひどく甘い畏敬すべきシンボリックな存在だ。
だが! 矢鱈めったら大きい胸の持ち主だけをひたすら持て囃すという昨今の風潮は全くもっていただけないと、ボカァそう思うね!!」
もはや御者そっちのけで熱弁を振るうギーシュに、しかし同級生の対応は厳しかった。
「とかなんとか言いながら、お前ツェルプストーと話すとき絶対谷間に目がいってるだろ、ギーシュ」
「いきなり客観的な事実を突きつけてやるなよギムリ。モンモランシや一年のあの娘は何と言うか、こう、控え目サイズだったろう? 人にはそれぞれ立場とか建前とかがあるものなんだよ」
「うわ保身かよ。いいじゃないか、別に巨乳派は必ず巨乳と交際しなければならないって法があるわけじゃないし。あとさりげに相手の内面を抉ってないかレイナール」
「いやあそれほどでも」
「褒めてないし」
ツッコミを入れつつ徐々に話をずらそうとするレイナールとギムリの努力を踏み潰すかのように、マリコルヌはギーシュの熱弁に負けない勢いで反論した。
「間違っているのは君の方だろう、ギーシュ! おっぱい王国を崇めたてまつる風の妖精さんとして全員メロンちゃんなのは既定事実でありこれっぽっちも譲れないね!!」
「なあ、今、風の妖精って言ったか……?」
「いや、どちらかというとちゃん付けの果物の方が気になるんだけども」
あまりに熱くなり過ぎている議論組とは対照的に、冷静にならざるを得ないツッコミ担当の2人である。
「何を言い出すかと思えば、全くなっちゃいないね!! 大きいも小さいもない! 胸という物はサイズに関わらず全てが尊いものなのだと言う事がどうして理解できないんだマリコルヌ!!」
「選別という残酷なルールがあるからこそ美(おっぱい)という物は光り輝くものじゃないか! 君も名のある貴族の出だと言うのに、そんな基本も理解できないとは失望したよギーシュ!!」
ただひたすらヒートアップしていく世にも下らない、しかしそれ故に熱い議論を前にレイナールとギムリは思う。
一体どんな魔法をぶつければこの馬鹿たちは黙ってくれるものだろうか、と。
そして、そんな二台の馬車を見下ろしている者達がいた。
雲ひとつない空の下、一匹の風竜がゆっくりと飛ぶ。彼女はその前足で鰐顔の獣人の肩を掴んでおり、背には虎ほどの大きさのサラマンダーを乗せていた。
「すまんなシルフィード。辛いようならすぐに言ってくれ」
幾分すまなさそうな口調のクロコダインに、シルフィードは明るい口調で応える。
「これぐらい全然大丈夫なのねー! むしろ背中の赤いのの方が重いのね」
「ちょっと待て、聞き捨てならんぞ青いの!」
3メイルの巨体を馬車に乗せる訳にはいかなかった為、出発前にルイズはタバサに頼んでシルフィードを同行させて貰っていたのだ。
クロコダインが一緒に行けないとなると戦力が明らかに落ちるのは自明であり、タバサも特に異論はなかった。
そうなるとキュルケも自分の使い魔を連れて行きたくなり、かくしてハルケギニアの空を3匹の使い魔が飛ぶ事となったのである。
なお、ギーシュ達の使い魔は同行していない。流石に大所帯になり過ぎるだろというセルフツッコミをする理性が、彼らの中にも存在していた。
結局目的地に着くまで笑い続けていた1台目と、決闘騒ぎに発展しつつあった2台目の馬車は、道中襲われる事もなくアジトと思われる場所に辿り着く事が出来た。
全く緊張感に欠ける彼らであったが何とか平静を取り戻し、フーケの隠れ家ではないかとされている小屋から少し離れた場所で身を潜める。
クロコダインとフレイムは主たちと合流し、シルフィードはそのまま上空で警戒に当たる。
風魔法の使い手であるマリコルヌが『遠見』の魔法で小屋の周辺を偵察するものの、人影は見当たらないが小屋の中の様子までは判らない為、誰かが直に見に行く必要があった。
車座になって作戦を練る一同の中で、
「私が行くわ」
とルイズが偵察に名乗りをあげたのには理由がある。
フーケの捜索に参加した者の中で、自分が一番『使い勝手が悪い』と、そう考えていたからだ。
系統魔法は全て爆発に変換され、かと言って自慢できるほどの体力もない。戦闘の経験がないのも問題で、まだしも決闘騒ぎを何度か起こしているギーシュの方が場数を踏んでいると言える。
昨夜は爆発魔法でゴーレムの腕を吹っ飛ばすことが出来たが、正直なところ狙った場所に魔法を当てる自信はない。
以前の自分ならこんなことは考えるのも嫌だったが、召喚魔法の成功と使い魔の励まし、そしてここ何日かの『監督業』のお陰か、ルイズはある程度自分の現状を客観視できていた。
フーケが小屋に居るのか判らないが、もし居たとしても小柄な自分ならば見つかる可能性は低いのではないかと考えてもいる。
ところが。
「ここはオレが行こう」
自分の使い魔にあっさり意見をスルーされた。
「ちょ、ちょっとクロコダイン! 人の話聞いてたの!?」
顔を真っ赤にして抗議するルイズに、クロコダインは噛んで含めるように言った。
「なあルイズよ。出発前にオレは『主を守る』と誓ったんだが覚えているか?」
「まあねー、ここで主を偵察に突っ込ませる使い魔は普通いないと思うわー」
「経験不足は否めない」
いちいち正論を口にされ、すぐには反論できない。
発言者がギーシュたちであったならば言い返していたかもしれないが、トライアングルメイジ2人と無類に強い自分の使い魔が(一部素直でない表現を用いながらも)ルイズの事を心配して言っているのを察してしまった以上、ここは無理にでも納得するしかないようだった。
相談の結果、アジトへ向かうのはクロコダインとフレイムということになった。
小屋の中にフーケがいた場合、クロコダインは怪盗を外へとおびき出し、その間にフレイムと視界を同調させたキュルケが盗まれたマジックアイテムを捜索、残りの面子はクロコダインと連携しながらフーケを捕縛する。
小屋にフーケがいない場合は、何らかの痕跡が残っていないか調べ、追跡を続行するか一旦学院に戻るか検討する。
大雑把にそんな作戦を立てて、ルイズたちはクロコダインとフレイムを見送った。
小屋の窓の無い側から、その巨体からは想像つかない程の素早さで接近するのが見える。
窓から中を覗き込んだクロコダインが少しの間を置いて傍らのフレイムに小声で何事か話しかると、使い魔と感覚を繋げていたキュルケがその声を聞き取った。
「中には誰もいないみたいよ? ただ罠が仕掛けられていないかクロコダインは心配してるけど」
危険が無い事にほっと安堵の息をついたルイズは、緩んだ空気を引き締めるように気合いを入れ直す。
「タバサ、罠が無いか確認したいから一緒に来て。キュルケとミス・ロングビルは男子たちと周囲の警戒をお願い。何かあったらフレイムを通して連絡するわ」
「わかりましたわ」
「ま、いいでしょ。タバサ、その跳ねっかえりをよろしくね?」
「ん」
「誰が跳ねっかえりよ!」
真剣な表情で動きだした女性陣を見ながら、ギーシュは造花のバラを構えながらポツリと呟いた。
「なんか微妙にシリアスな空気になってるけど、ここらへんでなんか面白い事を言った方がいいかと思わないか?」
傍で聞いていた仲間たちは、
「マリコルヌ、君は風メイジだったよな? こいつにエア・リーディングの魔法をかけてやってくれよ」
「ギーシュに空気を読ませるのはスクエアクラスでも無理だよ。そんな無駄な精神力を使うくらいなら僕はメロンちゃん創造計画を進行させるね!」
「君も空気読めないのはよくわかったからちょっと黙っててくれ頼む。僕たちの青春の為にも」
本人たちは至って真剣だが第三者から見れば面白いかもしれない事を言って、女性陣からじっとりと白い目で見られたのだった。
扉にトラップが仕掛けられていないのを確認して、ルイズたちは小屋の中に入った。
埃の積もった床、部屋の中央の机の上の飲み捨てられたと思しき古い酒瓶、崩れた暖炉、部屋の隅のチェストを見回してタバサは緊張の度合いを増した。
中を覗き込んだクロコダインも顔を顰めてルイズに指示を出す。
「ルイズ、フレイムに周囲の警戒を強めるよう言ってくれ。襲撃があるかも知れん」
「え、ちょっとどうしたの2人とも」
わたわたと2人の顔を交互に見渡すルイズに、杖を構えなおしたタバサが言う。
「この小屋は明らかに使われていない。フーケがここをアジトにしていたとは思えない」
「じゃあ、この小屋がアジトって情報自体が罠ってこと!?」
ルイズの言葉と同時にフレイムが低く唸り声を上げる。外にいるキュルケがなにか警告を送ってきているのだ。
「────2人とも外に出ろ。お出ましだ」
扉の前で臨戦態勢に入るクロコダインの隻眼に、昨夜対峙した30メイルのゴーレムが捉えられていた。
以上で投下終了です。
やっぱり戦闘シーンに到達できませんでした orz
次回は、次回こそは戦闘シーンを!
クロコダインは戦った! 勝った!
こんな事にはなりません。多分。
あと作中のギーシュの台詞はある意味私の声。
微乳だいすきー。
あとシリアス空気は壊すべきー。
おっさん乙。
獣王の人、乙です!
なんという使い魔超次元合体。いや、背中に乗せて、掴んで飛んでるだけですがw
あと、男どものやる気の無さマジパネェw
続きを楽しみにしてお待ちしてます。頑張って下さい。
乙です。
おマチさんの運命やいかに!
(元)魔王軍も面白いんだが、ダイとかポップとかアバンの使徒召喚が読みたくなってしまう。
まとめwikiのアバンやポップは更新が止まってるし、書く人はいないのかな……。
クロコダインのおっさんキター!!
大変乙でした! gj!!
主人公パーティ、ハドラーと親衛隊、バーンとその腹心。
物語の中核に近ければ近いほど強すぎる……ので、ブラスじいちゃんかチゥくらいが丁度いいんじゃないだろうか。結構キャラ立ってるし。
おっさん乙
おっさんに勝てそうにないけどフーケさんにはがんばってほしい
どっかでダイ召喚を読んだことがあるけどドラゴニックオーラ全開で好き勝手やってたからなあ…。
竜魔人や双竜紋はもちろん、紋章一つでもバランス崩れる危険性が。
まあオッサンは最終戦では戦力外だったし・・・
アバン先生の修行後くらいの強さで、さらに紋章無しだったとしても
ゼロ魔の世界としては思いっきり強いからなw
まあ、最新刊の戦車の主砲でキロ単位で狙撃可能なサイトよりはチートではない……か?
>>562 チートなのは戦車であって、サイトじゃないだろ。
ティーゲルクラスの戦車にとって、キロ単位の狙撃は基本戦術だぞ。
アバン先生が来た後、海破斬でガーゴイルを倒したときは、紋章使っていたっけ?
水平線の彼方まで切り裂いていたから、アレの射程は4キロ以上なんだが。
というか自衛隊の人ってそれぐらい朝飯前どころか、
他国の軍人にも変態とか呼ばれるほど技量が高いとか聞くけど。
>>564 自衛隊の人がすごいのは、あれを「動きながら、部隊規模で斉射する」ことができるところ。
サイトは単独で止まってから撃っていた。
まぁ、ティーゲルという戦車の性能上動きながらの狙撃は不可能なんだが、
止まった状態での狙撃は戦車にとっては最も基本となる戦術。
停止状態から、1〜2キロ程度距離で25メートルの人型に命中させるぐらいならできて当たり前、
できないのなら、即座に戦車から降ろされるようなレベルだ。
強すぎるのが問題ではなく面白いかどうかが肝でしょ
強さは申し分ないがいろいろ制限付けられそうな終盤のHP1状態のヒュンケルとかは面白そうだ
HP0には絶対ならないんだよな…
さすが不死騎団長ってか。
>>566
それ一応小ネタにあったね。
制限どころか寧ろ無敵になりそうなのは気のせいかな
>>558 そういう考え方ならチウはたぶんNGだけど、面白くはなりそうだから読みたい
ガンダールヴ+獣王の笛で凄いことになりそう
チウは召還できたら普通にそこそこ当たりのほうなのかな
窮鼠文文拳!!
>>570 明らかに動物で、喋る事が出来るのでそこそこ当たりではないかと。
はたしてチウは胸が無い女子に素直に従うのだろうか?
ヒュンケルは一度SSを考えてみたが挫折した。だってねぇ、マァムに
「オレを癒してくれた慈愛の天使よ」
とかモノローグで語ってしまう人ですよ?
オレの貧しい文才では再現不可ですわ orz
いや、ヒュンケルの台詞はうろ覚えで申し訳ないんだが。
>>553 獣王の人乙です。
>クロコダインは戦った! 勝った!
どこのドワーフ王だw
竜魔人化の反動とかで紋章が失われたダイなら、平民と勘違いされるだろうからイベントも原作に近い感じで進むかな?
素の身体能力だけでも十分強いけど性格を考えるとそう無茶なことはしないだろうし。
ダイ召喚による王道な物語を読みたいな。
紋章の力無しでもメラとかバギとかトベルーラとかは使えるから、
絶対先住魔法使いと勘違いされそうだな
個人的にはアバン流刀殺法だけでも十分チートに思えるレベルなんだが
海破斬とか空裂斬とかは、ゼロ魔の魔法使いにとって脅威たりうるだろうし
遍在使いに空裂斬を使ったらどうなるんだろう?
例え紋章無しでもガンダ補正かかるとそれに匹敵するくらいになりそうだけどな
ダイならヴィンダールヴで、ある意味原点回帰、とかでもよさそうだ
紋章の力がダイの体に強い負担をかけた結果、記憶喪失ふたたび。
で、何も思い出せない中、ルイズに巻き込まれる形で段々と戦い方を思い出していく、という感じかな?
>>576 空の技は、存在の核に当てなければ効かない技なので空の技自体はあんまり使い勝手が良くないように思う。
しかし、真の空の技の使い手ならば、遍在と本体を見分けられそうに思う。
バランに記憶を飛ばされた時点で召喚すれば……
そうなると「ディーノをどこに隠したァァ!」とブチ切れてドルオーラを放ちそうな気が。
最近読んだダイ召喚ものでは紋章も呪文も使えなくなってすっかり平民扱いされてたが、
実は世界を救った勇者で
母は滅びた国の王女で
戦闘生物竜の騎士の中で最強の、大魔王をして化物と言わしめた存在
だとルイズが知ったらどんな反応するのか気になった
つ 理解が追いつかない→逆ギレする→初歩の魔法使ってるの見る→orz
>>581 そもそも身体能力が変体なので、人間じゃないと知ったら喜ぶんでない?
そもそも使い魔の時点で人間であるって前提条件があやふやだからそんなもんで済まされたりするんじゃね?
というか、使い魔の格が、猫・鼠・蛙etc>>(越えられない壁)>>人間(平民)って
価値観からして色々と微妙だw
>>585 そりゃ、自分にできないことを補うために使い魔がいるわけで、人間ができることならそこらの平民にやらせれば十分です。
韻竜がそこらじゅうにいて、普通にものを頼んだり取引ができる相手であれば、竜という使い魔の価値は著しく下がるでしょうよ。
>>585 ばかもん! モートソグニルが人間じゃったら、ミス・ロングビルの下着を覗かせられぬではないか!
そういえばおっさんやガルダンディー、ボラホーンのような獣人系よりも
バランの下の竜のほうが当たりってことになりそうだな
>>587 ばかもん!漢なら直接ガバッとスカートに頭を突っ込まなくてどうするのだ!
>>589 お前はロマンというものがわかっていない。
まぁこれ以上は置いておいて。
下手をするとダイ大キャラで喚ばれた時点での評価は
クロコダイン>チュウ>ヒュンケルン、マァム>(美形の壁)>ダイ>(冴えないツラという壁)>ポップ
あたりになってしまうのだろうか。
ゴメちゃんはどのあたりになるのかな?
おっさんとネズ公の間ぐらいかな?
騎乗できる飛行型モンスター>ザコモンスター>(ルイズの価値観の壁)>クロコダイン>チュウ>ヒュンケルン、マァム>(美形の壁)>ダイ>(冴えないツラという壁)>ポップ
だと思うが
実際の価値を知ってる側から見るとてんではずれのモンスターでも人間より喜びそう、たとえヒュンケルクラスの美形でも
常識的に考えて騎竜付きのがるだんでぃやぼらほーんが一番ってことだな
ワニとネズミがヒュンケルより上ってwwwwwwwwww
例としてはなんだが、
サイトが喚ばれた直後の時点での評価はカエルやフクロウ、ネズミ未満だ。
おっさんやチュウが美形だと!?
そしてやっぱりポップは美味しいなw
初期評価が最低だから、他とは上がり幅が違うぜ!
しかもエロまでいけるという、読者に優しい設定付き!!
>>594 サイトは見た目が本当にただの平民(ちょっと変わった服を着てる程度)だったせいもあるかな、と
>>594 そもそも、動物を呼ぶ魔法で人間を呼ぶのが前代未聞だからなw
初めて成功した魔法の効果が普通と違ってたら、そりゃー嫌がるだろうw
しかし、人間だと思った相手が実は人間じゃなかったと判明して喜ぶのも珍しい状況ダヨナ
>>591 飛行型モンスター>おっさん>雑魚モンスター=チウ
くらいじゃね?
明らかにおっさんは当たりだろう
さらにおっさんは召還タイミングによっては騎乗できる飛行モンスターであるガルーダ付
クロコダインは、タイミングによっては人類の敵だからな……ダイとポップように、ルイズたちが意地を見せられるなら、また違うんだろうけど。
そもそも亜人に対するルイズの価値観がわからないから
モンスター>おっさん なのか
おっさん>モンスター なのか正直わからない
平民は使い魔としては最低以下なのは間違いないが(金でいくらでも雇えるしね)
そこらへんは出てくる相手次第じゃないないのか?
少なくともおっさんの見た目だけでルイズは当たりだと思うだろうし、
それがしゃべれるとなれば、なおいいだろう
>>600 おっさんは亜人じゃなくて喋るモンスターだろ。
おっさんは尻尾まで含めると
推定6メイルくらいで太目の巨漢だから重さもそれ相応
明らかに亜人というレベルを超えているな
アルビオン戦で出たオーガ兵ぐらい?
おっさんはリザードマンでドラゴン属か爬虫類属かでもめそう
ドラゴンキラー効くかな?おっさんなら皮膚で弾きそうな気がしないでもないが……
いいか、おっさんならば・・・
設定上喰らったら一発死なメドローアとかは無理でも、そうでない攻撃なら一撃だけなら耐えられるはずだ。
ドルオーラでもカイザーフェニックスでもな!!
ギガブレイクでも即死しない男なんだぜ。
このスレはおっさんを過大評価しすぎる傾向にある気がする
まぁ一回目バーン戦当たりから受けた攻撃の量を考えると
素の防御力なら作中で一番硬いかもしれん
>607
獣王クロコダイン――最終決戦においては『瞳』にされたとはいえ、最強クラスの力を誇る存在であることに代わりは無い。
性格的にも、無骨で豪放、しかし慕われるだけの器を持っていると思われる。
拡大解釈……はあるかもしれないが、過大評価とは言い切れないのでは?
生きる者には太陽が必要だと言っていたおっさんの男気で魔界に太陽の恩恵をもたらしてほしい
読み返してその台詞見た時「魔界の竜族と魔族は?」と思ったし
おっさんは防戦でこそ輝く、ってイメージがあるな
だからこそ盾であるガンダールヴには一番はまると思う
>>591 ルイズが喜ぶか悲しむか微妙なところだが
魔法さえ見せれば
ダイやポップやアバンやレオナやマァム(回復のみ)は
メイジの壁を超えて脱・平民できる
ポップの場合、状況によってはマント&杖装備でメイジ扱いされるかな。
貴族籍持ってなくても平民よりはマシと思うが。
杖をもってても、魔法系統があきらかに違うので
先住魔法を使うエルフか吸血鬼と思われるのが落ちのよーな気がする
エルフと交流が無い割りに恐れられて噂だけが一人歩きしてるので
エルフにみえなくても悪い噂はたちそーだ、乳革命でもないと超えられない壁的に
明らかに違うとかそういうの分からんだろ
トライアングル以上だと三つの属性の組み合わせとか同じ組み合わせでも按配ひとつでいろんな魔法に化けるんだし
ベタンとか明らかに存在しない傾向じゃない限りは独自の何かとかその程度にしか思われんだろ
違うも何もドラクエは詠唱が無いだろ
むしろ特殊な技術系の詠唱形式の類とかと思われるんじゃね?
魔法衛士隊とか見たいに気づかれない様に体術とかの動きの中に混ぜ込むものとかある訳で
>>618 ダイの大冒険の世界だとメラとかギラとか呪文使用時に言ってると思うが?
一般人がみればまあメイジと思うかもな、ラテン語っぽい詠唱も詳しく知らないだろうし
ただ、メイジを育成する学校でそんな勘違いをするのは
さすがにゼロ魔世界のメイジを踏み台にしすぎだと思う
メラとかギラとか言うのは詠唱じゃなくて発動ワードでは
ゼロ魔で言うところの最後の呪文名
一応呪文を唱えている場合もある。
ラナリオンやザオラルがそう。ベタンもたしか詠唱していた事があったような気がした。
ただどれも詠唱は口語なので、コモンマジックと思いきや系統魔法のような効果が出てみんな驚くのではなかろうか。
>>621 口語で発動するのは先住魔法なので、ちゃんとした知識のあるメイジには先住魔法と思われるんでない?
実際に先住魔法が使える人から見たら精霊から力借りてないのがバレバレで全く異質な系統だって分かるだろーけど
そこはもう「東方で研究されている技術」とでも言っておけばいいのでは
とりあえず知識にないものは皆東方でおk
ルイズの爆発まともに考察しないような学校だから
地元限定の常識には強くても、他は大してレベルも高くないだろう。
後半のポップ召喚したら大体メドローアかベタン一発で終わりそうだ。
ほかの連中も一撃で大抵の敵は倒せるからな
ただポップやマァムはVS七万戦がけっこうやばい
マァムは単体戦闘メインだからね。
覚醒ポップなら7万相手でもメドローア連発で無傷の勝利。
覚醒前でも2発撃てるから真ん中狙って指揮官倒せば何とか…
ポップの場合、人間相手だとメドは撃てんだろう
トベルーラで高速飛行しながらイオラ連発で良いんじゃないか?
避けまくり+回復+攻撃×7万でいけそうだがなぁ、マァム。
特に、敵陣に飛び込んで、範囲攻撃を封じてしまえば、何とかなりそうな気がする。
指揮官狙いアリなら、それこそどうにでもなるだろうし。
いくらなんでも攻撃×7万は無理だろ。精神的にも。
そんなのできるのはマジで疲れ知らずっぽいヒムくらいだ。
単純に殲滅できそうな火力持ちは使徒だとダイとポップとヒュンケルかね。
グランドクルスを大砲扱いするのもどうかとは思うが。
戦い振りを見せ付けてやれば7万を全て殺す前に逃げられるだろうから、
ポップは勿論マァムでもいけるんじゃないかな。
メドローアの場合は直接ぶつけなくとも、適当に地形を変えてやれば降伏しないかな?
>>631 65536ターン戦うと疲れ果てるんですね。
>>627 ポップは燃費が悪いから覚醒後でもメドローア3発くらいでMP切れするぞ
ポップの場合、戦場にマホカトールの魔法陣書いて、
7万中の洗脳組3万のアンドバリ効果を一気に解呪とかの方が絵にならないだろうか?
>>635 それをするのはポップには無理でない?
管轄としては先生の区分かと
俺にはできねぇ…と諦めるより、それでもっ!と挑んで一皮剥けるようなポップクオリティで
全く無理ではないよな
ロモスでやってるし
もって行き方と理由付けしだいじゃ良い解釈になりそうだ
・作れて1m以下のサイズ
・特殊な石による補助あり
馬鹿でっかい魔法を補助する触媒を基点にすればなんとか?
撤退戦の時にそんなの用意してる余裕ないだろーけど
(むしろ、出来るなら撤退前に最初からやれ的に)
いや流石にその序盤ポップは想定してないわ
>>639 逆に、はじめから指輪の効果を無力化する作戦で行くなら何とかやれないか?
本編終了後のポップは(本人大魔道師名乗っているけど)賢者だから
破邪系魔法使えるだろうし、基点はギーシュ・モンモン・キュルケ・タバサ・ルイズ
の5人で担当するとかならゼロ魔キャラの見せ場にもなりそうだし。
>>641 なにかいろいろと無理が無いか? と、言う思いと
巻が其処まで進んでともに成長してればアリなのか? と、言う思いが交錯するナw
書き上げれれば面白そうだが、そこまで続けるのがマジできっつそーだw
643 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/08(土) 11:21:23 ID:i0japD70
ポップがマホカトール使ったのは序盤でレベル一桁くらいの時だからまったく
参考にならんと思うが、そもそも洗脳解けるかどうか?
シャナクは解呪対象破壊するしな…
何故マホカトールを使用しようと思ったのか?
マホカトールが有効と思うに至った経緯、理由付け、ここら辺を上手く描写できれば中々おいしい場面になると思うが難しそうだな。
まあ、言い出しといて何だけど、あの時点でのルイズ達トリスティン側は
謎の裏切りってだけで友軍が操られてる事すら知らないしな。
先ずそこに気付いて貰わねば話が始まらないか。
メルルがいたら何か感知してくれたりするんだろうけどなw
ともかくマホカトール使用はみてみたい、攻撃呪文で圧倒するのではないのがいかにもポップらしいし
操られている友軍の女兵士にセクハラ → 反応無し → ( ・3・)アルェー?
これでイケるッッ!
マホカトールは「魔方陣内の邪悪な力を消し去る」術だから
洗脳とは言っても邪悪とは言いがたい「アンドバリの指輪」の力は消せないのでは
あえて言うなら邪悪(イービル)でも善(ローフル)でもなく中立(ニュートラル)だと思うのだ
VS七万戦は
ダイ バラン戦以降なら余裕で可能 それ以前だと紋章時間切れちょっと怖い
ポップ MP切れを起こす可能性大 それでも素でサイトより身体能力はある
マァム 体力的に問題はないが近距離限定なためちょっと怪しい
ヒュンケル ブラッディーの攻撃力射程攻撃範囲がすごいので適当にやれば余裕
おっさん 体力的にも攻撃範囲的にも問題はない ダイキャラでは一番余裕かもしれない
ダイ世界の基準でいえば洗脳という行為は邪悪に入ると思うから使えそうな感じがするぞ
紋章時間切れはザムザ戦がポイントじゃなかった?
ポップとダイ(後半)はトベルーラ使えるから中核を叩き易い
操りは消せないけど
ノヴァ 効果範囲の広いマヒャドが猛威を振るう MP切れてもオーラブレード
ラーハルト 速過ぎ捕捉できねオワタ
ヒム 攻撃効かない疲れない
非殺を貫く、って要素を加えたらどうなる?
ダイ大レギュラーメンバーで7万人の人間を虐殺できる人はいないと思うんだが。
バラン死亡後の反応から考えると
マァムヒュンケルおっさんは必要ならおそらく殺せるタイプ
ラーハルトヒムも目的のためなら殺せる
問題はダイとポップ
おっさんは殺すまでもなく、焼けつく息で全員麻痺させてしまえばいい。
たぶん一番余裕。
ポップはラリホー使えたっけ?
まぁ、MPの問題があるが。
マァムは強敵ミストバーンが動けなくなった時、とどめ刺さずに放置して進もうとしたから殺せないと思う…
俺もマァムは一番殺すの嫌がる方だと思うな。『慈愛』の使徒だし。
まあ、誰が対7万戦をやるとしても、なるべく殺さないように配慮ぐらいはしてくれるだろうけど。
要するに原作ゼロ魔のサイトとやることはさほど変わらないというか。
ただ、まったく同じでした、じゃ面白くないからそこは変えなきゃいけないんだろうけど。
複数の敵を瞬間無力化・・・・・・ザラキ?ラリホー?相手にアストロン?
ピオリム、マヌーサとマホカンタ重ね掛けでなんとかなるかな?
そーいや「へんなベルト」はいったいなんの伏線だったのだろう
658 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/11/09(日) 15:06:17 ID:wUkljWts
>「へんなベルト」はいったいなんの伏線だったのだろう
服が破れてもズボンがずり落ちないようにするためだよ
対七万と言っても全員を倒す必要は無く、圧倒的な力を見せ付けてやれば逃げ出す。
みたいなレスとかSSを読んだことがあるんだけど、どう思う?
メドローアとかドルオーラとかグランドクルスとか獣王激烈掌とか見せ付けてやれば逃げないかな?
特に前二つなんかは、そこらへんの山にでも撃って威力を見せ付けてやれば終わりそうな気がする。
ポップはマホカンタが有効かどうかでも変わってきそうだけど、使えたっけ?
>>659 ドルオーラやエビルデインのような発動に特殊な条件が必要か、あるいは
オメガルーラのような特殊なアイテムが必要か、さもなくば
バイバーハのような誰かのオリジナル魔法でなければまず、ほぼ全ての魔法をマトリフに
仕込まれてると見ていいと思うのですよ。
まあ使いこなせるかは別ですが
指輪の魔力で操られてる奴らは脅しても駄目じゃないかね?
魔王軍の皆さんで考えてみた
バーン様 瞳化→カラミティウォールで終了
ミストバーン 闘気の使い手がいないから傷つかない、どれだけ戦おうと疲れない 闇の衣なら魔法増幅打ち返しアリ 封印解除なら掌圧一発でえらいことに
ハドラー イオナズンやベギラゴンを駆使して戦う
バラン ただでさえ強いのに竜魔人化しようものなら…
ヒュンケル ブラッディースクライド連発
フレイザード はりきって暴れる もしかするとレベルが上がってメドローアを習得するかも
以下の面々は戦う必要に迫られた場合ということで
キルバーン 時間の許す限り罠を仕掛けまくって混乱する様子を楽しむ
ザボエラ 魔法の玉でモンスターを呼び出して戦わせる いざとなれば超魔ゾンビ
親衛騎団 『虚無』以外の魔法で止められる気がしない
魔王軍の連中は手加減しないから大変なことに。
おまいら、ベタンの存在を忘れてないか?まあ、重力でつぶれて死にそうだけど
手加減ベタンとか出来ないのかのう
ベタンは、消費MP大きいぞ。
べタンはMP消費の割りに攻撃範囲や威力が微妙
>>662 そもそも魔王軍在籍時だと、契約してくれそうなのがほとんど居ないようなw
竜騎衆は倒せなかったとはいえ、登場したばかりの超竜軍団を
ほぼ壊滅させたんだから消費MPに見合う効果はあるだろ。
いきなり「竜騎」の二文字の意味消滅するもんな…
ラナ系呪文で昼夜逆転とか
>>669 「お、夜だ」
「もう終業時間だな」
「んじゃ帰ろーぜ」
「一杯やってくか」
こんな感じですね、わかります
VS10万をやったロト紋なら・・・。
大体はタルキン爺さんのメガンテだけどさ。
VS7万の最大の問題は殺ってら殺ったでひじょーに問題になることだけどな
都市数個分、下手すれば数十個分の男手が消えるのでアルビオンが滅びかねない
MPが重要ならアバン先生の羽貰ったポップのメドローア
こうなったらおっさんが尻尾で適当に攻撃するしかないな
フィンガー・フレア・ボムズのラリホーマ版を両手に作り
それをメドローアを作るときのように合わせて、
気持ちドルオーラのような構えにして放てば……!
>>676 七万のアルビオン軍 ― 一体
これなら問題ないよね(棒
おやアルビオン軍7万の兵たちのようすが……
これなら一体だよ
黒幕はザボエラってことだな
>>677 なんかBURAIみたいだな>七万のアルビオン軍 ― 一体
あのゲームHP=人数の敵集団が出てくるし
想像すると地獄のような光景だよな。>> HP=人数
>>682 ゴンザやハヤテの一撃で数千削れるんだ……
>>683 そちらの方が想像すると地獄のような光景だなww
あのゲーム、軍団の人数が多いほど攻撃力が強いから7万もいれば最高Lvでも一発で死ねるな
左京の水壁が間に合えば楽勝だが
凍結行!!
バトル漫画のキャラに、戦うなというのは無茶な話だろうが、やはりアバンの使徒が人間相手にガチで殺りにいくというのはありえないわけで
やれないことはないが、敢えて最小限の被害で留めようとするところで苦心してほしい
んだんだ。
人以外はおっさんが吼えるだけで逃走する可能性が高いから被害が少なくなるな
つ『ニフラム』
消し去ってどうする
まあアニメ版の洗脳組は呪いの生物か何かっぽくはあるなw
最近投下こないな…
ゼロの影読み返して思ったんだが、ミストってこんな熱いキャラだったっけ?
最後の方なんか「くれてやるぞ! 私の生命!!」とか言いそうで。
原作においてトップクラスの強さを誇る敵が料理に目覚めるのは…クロスオーバーだからなのか?
そんなもん作者さんの腕前と転がし方次第ですよ
バーン様が幼女になったり、実はミストが幼女だったり、バランが幼女だったり、
全俺待望のフレイザード様が召喚されたり、レベルアップしてメドローア覚えたりとかいくらでも有りますよ!
対五万や七万で氷炎結界呪法を使ってスーパーフレイザードタイムですよ!
タバサとキュルケが氷炎を供給して巨大化ですよ!
フレイザード様が幼女か……、有りですね!
体積によって三段変化とか?
小さい=幼女、普通=お姉さん、大きい=お姉さま
……完璧だ、さすがフレイザード様!
フレイザードは体の左右が低温と高温に傾いている……きっと、契約を渋って暴れた所を本体である中央の岩石が見えるまで攻撃されたんだろうな……
フレイザードはコアの状態で召喚されて契約の後に体が再生すれば安全だ
あとは胸にルーンが刻まれればより原作っぽくなる
>体積
何の疑問もなく胸のことだと思ってしまった
>>701 かっけぇw
こうやってみるとフレイザードとのコンビもよさそうに見えてくるな
>>701 乙ウマ!
ルイズって敵役も似合いそうだなぁ
ルイズってメインヒロインより悪側の中堅ポジあたりの方が
人気が出たりして。
ヒュンケルみたいに悪役として登場して、フルボッコされた後で味方側になるわけか
悪役なのに間が抜けてて、素直になれないツンデレキャラ。
うん、普通に萌えキャラだわ。
>>705 一番最初に主人公と戦うんだけど簡単に倒されて、捨て台詞と共に去っていく。
それ以来、主人公とは腐れ縁になって、事あるごとに出てきてはドジを踏んで主人公を助けたりしつつ、
結局主人公に倒されて涙目で逃げていく。
仲間になるのは、最終決戦直前。
というのはどうだろう?
>>707 そして最後は自爆して、その後妙に強い召喚獣になったりとかするんですね?分かります
異世界でカードバトラーになったりもする奴か?
古くて微妙にマイナーだから分かる人が居るだろうか……パステリオンのD−アーネみたいな存在になるルイズか。うん、違和感が無い。
戦闘の余波で数万の惑星破壊、数千の超新星爆発が発生する魔女っ子ですね
スパロボ無限のフロンティアに出てきた貧乳悪魔魔女っ子がそんなキャラだった。
フレイザード召喚の場合は、平民とは言われないけど、ルイズの魔法の系統の判断はやっぱり揉めそうだ
「火なのか水なのかはっきりしなさいよ!」とか言われるんだろうな。
いや、真ん中のコアっぽいのは土だ!とかな。
メンヌヴィルがフレイザード召喚した場合も見てみたいな
他にも
タバサがミスト本体召喚→ジョゼフの闇を知って「どんな人間にもどす黒い感情がある」と反則体質でシャルルの心を明らかに→きれいなジョゼフ降臨 とか
タバサがミスト本体召喚→反則体質で母の心を蝕む毒を消去 とか
ジョゼフがバーン様召喚 とか
思いつきはするんだが書くとなると…
メンヌヴィルが召喚となると、魔炎気フレイザード様か
こんばんは、影の中の者です。
少々お聞きしたいことがあります。
ゼロの影〜The Other Story〜のメインストーリーから分岐するサブストーリーが思い浮かんだのですが、どう扱うべきか迷っています。
番外編にしようかとも思いましたが、何話かかかりそう(もしかすると十話近くなるかも)で…。
そもそも、メインストーリーが完結したのにサブストーリーを投下してよいのでしょうか?
よくってよ
大歓迎です
広がる深まるワンダーランド
やっちゃえやっちゃえ!
私は貴方のファンです。貴方の作品が投下されるのはとても嬉しいです。
魔炎気フレイザード様という単語を見てなんとなく思ったんだが、
逆にフレイザードの氷半分召還するのも手なのかね。
実はベギラマで蒸発したように見えてその直前に出現した鏡に!とか。
性格はフレイザードのままでいいとはいえ半オリキャラなのが難だが。
体が半分になったら性格も半分の面だけになったりしないもんかなぁ
でも、やっぱり氷の面を炎で狙われたら炎の面で受け止めて、
炎の面を氷で狙われたら氷の面で受け止めて、相手を小バカにして欲しいw
>>718-721 うおお、ありがとうございます。
ゼロの影〜The Other Story〜の其の六(アルビオン行)から分岐します。
設定や時間軸が異なったり、全く違う運命をたどるキャラが出てきたり。
数日中に投下予定です。
では。
お待ちしております
とはいえ、このスレの容量微妙だね
726 :
ゼロの影:2008/11/23(日) 12:35:30 ID:JDgXX+mB
投下しようと思いましたが、容量を考えると次スレのほうがよろしいでしょうか?
そこまで長くはないのですが。
長くないならここでいいんでないの?
728 :
ゼロの影:2008/11/23(日) 18:10:07 ID:JDgXX+mB
了解です。
18:15頃に投下します。
この話はゼロの影〜The Other Story〜の其の六から分岐したものです。
メインストーリーが完結してから思いついた話ですので設定や時間軸が異なったり、全く違う運命をたどるキャラが出てきたりしますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
729 :
ゼロの影:2008/11/23(日) 18:15:10 ID:JDgXX+mB
ゼロの影〜The Other Story〜
『ゼロと一の物語』
一 風が吹く時
出発の朝、二人の前に颯爽と現れたのは羽根帽子をかぶり口ひげを生やした男だった。
「グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。同行を命じられた」
ワルドは白い歯を輝かせながら春風のように爽やかに笑いかけた。
彼は婚約者であるルイズと久しぶりに会うのを楽しみにしていた。
昔から可憐な容姿と他の者には無いオーラに惹かれていた。
ハルケギニアの命運をも左右する力を持つ――そんな予感があったため、任務の中で絆を深め結婚しようと思っていた。
再会して彼はその確信を強めた。
いっそう彼女の力を手に入れたくなっただけではない。
成長した彼女の容姿は可憐な花のようだ。眼差しはますます気高さを増し、その中に秘めた憂いの影がいっそう美しさを引き立てている。
ワルドは一瞬見とれ、気を取り直して両手を広げた。
「久しぶりだねルイズ。さあ僕の胸に飛び込んで――」
「ワルド様!」
ルイズは躊躇せずに飛び込み、潤んだ瞳で彼を見上げた。誇り高い彼女が見せた意外な一面に、ワルドは胸が高鳴るのを感じた。
「どうしたんだい?」
「お会いできて嬉しいですわ」
ルイズは心の底からそう言った。
今まで常識が通じない使い魔に散々振り回されていたが、ようやく力になってくれそうな頼りがいのある人物と巡り合えたのだ。
花をまき散らしそうな甘い空気が漂うなか、出発する。
出発してからずっとワルドのグリフォンは走りっぱなしだった。一刻も早く港町ラ・ロシェールへ到着したいようだ。
彼はルイズに熱い想いを語り続ける。
それに対し、ルイズは召喚してからの心労を語った。
(憂い顔さえ美しい――)
ワルドは彼女に大切な者の面影を感じ、力になると決めた。
「僕は君の味方だよ」
ワルドの言葉にルイズは顔を輝かせ、泣きそうに表情をゆがめた。
(あいつにツッコんでくれる心強い味方が現れるなんて……夢みたいだわ!)
常識人が近くにいることにルイズは嬉し泣き寸前だった。
730 :
ゼロの影:2008/11/23(日) 18:17:22 ID:JDgXX+mB
港町に到着し、宿を取ってルイズと一緒の部屋に入ったワルドは力を込めて語りかけた。
「僕にはわかるよ、君は特別な力を持っているってね」
ルイズは力なく首を振った。今まで散々ゼロのルイズと呼ばれてきたのだ。甘い言葉も簡単に信じることはできない。
だが、ルイズの心にミストバーンの言葉が浮かんだ。
『お前は自らの力で私を召喚し、これほどの威力の爆発を起こすことが出来た』
――自分はゼロではない。
「……あの、わたし、爆発だけは誰にも負けないって思っていますわ」
彼の言葉に励まされ、最近張り切って爆発の練習を行っていた。爆発しか起こせないのではなく、自分だけが爆発を起こすことができるのだと。
威力の低い爆発を素早く起こしたり、できるだけ高い威力の爆発を生じさせたり、調節のコツを掴もうと試みている。
それを聞くとワルドは嬉しそうに笑った。
「そう、その意気だよルイズ! さすが僕のルイズ!」
ワルドはますます想いが募るのを感じ、ルイズも力を磨こうとする意思を認められ喜んでいる。
興奮したように目を輝かせ、熱く囁く。
「ミストバーンも、とても強そうだ。メイジの実力を測るには使い魔を見ろというだろう? 君は偉大な力を持っているんだよ!」
己の言葉に陶酔したようにますます目に熱を込める。両者の顔が接近し、ほのかに甘い空気が漂った。
ルイズは頬が火照り鼓動が速くなるのを感じた。
危険と隣り合わせで過ごしてきて、ようやく安らぎを与えてくれる相手が見つかったのだ。
「ずっとほったらかしにしたことは謝るけど、僕には君が必要なんだ。この任務が終わったら結婚しよう」
「ワルド様……」
今にも接吻しそうな二人は視線を外し、壁を向いた。そこにはミストバーンが何も言わず立っている。
婚約者同士が熱く語り合っているというのに関心を一切示していない。唯一、偉大な力というところでわずかに眼光が鋭くなっただけだ。
「ちょっと席外してくれない?」
彼が無言で出ていくと、二人はますます話に熱中した。
さらに、宿が傭兵達に襲撃された際、力が一時的に跳ね上がったワルドはミストバーンとともに敵を軽く蹴散らした。
もちろん物陰でタイミングを見計らい、格好いいと思う台詞を考えてから颯爽と登場したのである。
ワルドは風を巻き起こし、ミストバーンはそのまま歩いて行く。
矢が雨のように降り注ぐが、ワルドの近くまで来ると全て風で逸らされた。
ミストバーンには確かに命中しているのに一滴の血も流れない。白い衣が破れて黒い霧が噴き出すが、すぐにふさがってしまう。
メイジ以上に恐ろしい相手だと悟った彼らは逃げ出そうとしたが、一片のためらいもなく技の名が告げられた。
「ビュートデストリンガー!」
ただのならず者ならば手加減する必要も無い。鋼鉄の爪が標本にするように次々と彼らを刺し貫いていく。断末魔が空気を震わせ、すぐに消えた。
残った者は風の刃で切り裂かれ、戦闘はあっさり終結した。
刺激が強すぎるためワルドはルイズを庇い、眉をひそめて問いかけた。
「……君、矢が刺さってなかったかい?」
「あんなものは効かん」
ルイズはもう質問する気力も無いのか黙って従っている。
服の裾をぎゅっと掴まれたワルドは天に昇る心地がした。
彼女を安心させたい。
そのためには、力が必要だ。
ルイズの秘めた力ではなく、自身のさらなる力が。
731 :
ゼロの影:2008/11/23(日) 18:19:11 ID:JDgXX+mB
(彼の力を見極めなければ)
そう意気込んだワルドはやがて口をポカンと開けることになった。
試しに魔法を放ってよいか問うと頷かれたので早速実験した。
すると、直撃した――はずだったが、増幅され、打ち返されたのである。
「魔法も効かないのか? おそらくは痛みも疲労も感じない……。羨ましいね」
その言葉に動きを止めたミストバーンは、沈黙ののち静かに告げた。
「……この体のおかげでバーン様と出会えたことを思えば、確かに誇るべきだな」
化物のように強い彼が主について語る時、畏敬の念に満ちている。
彼にここまで言わせるということは、主である大魔王はさらに強大な力を持っているのだろう。
それこそ、現在ハルケギニアに存在するどんなメイジをも超える、神のごとき力を。
ワルドの中で一つの考えが芽生えた。
すぐに否定しかけたものの、震えるルイズを見て想いはますます強くなっていく。
己の目指すべき場所が変わっていくのを感じる。
(……力が欲しい)
ワルドはある決心を固めた。
風石を動力としている船に乗り込んだ一行――特にミストバーンは空の旅を満喫していた。特に言葉にしているわけではないがルイズには何となくわかった。
彼が嬉しそうにしているのは、主が魔界では絶対に見られない光景を楽しんでいるためだ。
憎悪の化身のような彼が喜びを感じるなど想像しづらいルイズは首をかしげつつ尋ねた。
「あんたが心の底から喜ぶとしたらどんな時なの?」
答えは無いかと思われたが、予想に反して比喩表現も交えて返ってきた。
「バーン様の大望の花が――」
「咲いた時、ね。……あんたなんか魔界に帰っちゃえばいいのよ」
(訊かなきゃ良かった)
面白くないものを感じたルイズは頬をふくらませた。
納得いかない。召喚したのだから一応主人と言えるはずなのに、尊重するような態度はまるで見られない。
ルイズは溜息を深々と吐き出した。
どれほど力をつけたら彼に認めさせることが出来るのだろう。いくらなんでも倒すまでとは言わないだろうが――。
(そういえば、わたしの爆発は効くのかしら?)
気になったものの試す度胸はないため胸の内にしまいこんだ。
憂鬱そうな彼女にワルドが話しかけ、心を少しずつ解きほぐしていく。
ミストバーンのそっけない態度に失望した後だからこそ、温かい言葉がいっそう心に染みる。
例えるならば北風と太陽だ。
幼い頃の想い出の中の人物で、憧れの相手という以上の感情は今まで抱いていなかったが、少しずつ惹かれていくのを感じる。
頼もしく、凛々しく、何より――優しい。
こちらに好意や愛情を向けてくれる。
何かあるとすぐ殺意や憎悪を剥き出しにするミストバーンとは大違いだ。
(わたし、ワルド様と結婚――)
胸の内で呟いたルイズは頬を赤く染めた。
732 :
ゼロの影:2008/11/23(日) 18:20:50 ID:JDgXX+mB
やがて空中に浮かぶ巨大な大陸アルビオンを目にした魔界の主従から感嘆の息が漏れた。
「通称は『白の国』。由来は大陸の下半分が白い霧に包まれているからよ」
「この地ならば、陽光の恩恵を存分に受けることができそうだな」
すっかり観光気分の彼らとは反対に船長は顔を蒼くしている。空賊の接近から逃げ切れず停船命令に従うこととなったのだ。
太陽に祝福された地に見とれていた彼は無粋な闖入者に不機嫌そうな眼を向けたが、ワルドから暴れないでくれと懇願されたため船倉へ入った。
空賊の頭の前に連れてこられ、貴族派につくよう勧められたルイズは震えながらも一蹴した。
すると頭は豪快に笑い、変装を解いて本当の姿を現した。その正体はアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだったのである。
アルビオン王家に伝わる風のルビーでウェールズ本人だと確認し、ニューカッスル内の居室へと向かい手紙を受け取る。
明朝非戦闘員を乗せたイーグル号が出発することをウェールズは告げ、帰るように促した。
彼の軍は三百、敵軍は五万。勝ち目は万に一つも無く、真っ先に死ぬつもりだ。
ウェールズとアンリエッタの想いを悟ったルイズは悲痛な面持ちで亡命するよう叫んだ。
アンリエッタの性格をよく知っているため、末尾で亡命を勧めている確信があったのである。
だが、ウェールズはただの一行たりともそのような文句は書かれていないと否定した。
苦しげな口調が真実を告げているが、アンリエッタの名誉を守るためだと知ったルイズにはそれ以上何も言えなかった。
どれほど愛していても、いや、愛しているからこそ亡命はできない。貴族派が攻め入る格好の口実を与えてしまうからだ。
やがてウェールズは最後の宴に彼らを招待した。
勇ましい者達の宴は華やかさと悲しさを帯びていた。
王が明日の戦いは一方的な虐殺になるため逃げるよう促しても、集まった者達は笑いながら拒否した。
死を目前にした者達の明るく振舞う姿にルイズは気分がすぐれないようだ。それをワルドが支え、彼らの近くに立つミストバーンの元にはウェールズが歩いてきた。
その眼に不穏な輝きが宿りウェールズの目が細められる。
刹那、両者の手が閃光のように素早く動き、鋼鉄の爪はウェールズの眼前に、ウェールズの杖はミストバーンの胸に突きつけられていた。
命を狙ったと思った家臣達が激高するのをウェールズが手を振って黙らせる。実力を測ろうとしただけだと悟ったのだ。
一瞬の攻防で力を視たミストバーンは一つ尋ねた。
「死を恐れていないのか……?」
「怖いさ。でも、守るべきものがあるからね」
貴族派レコン・キスタはハルケギニアを統一しようとしており、理想を掲げている。しかし彼らは流される民の血も荒廃する国土も考えない。
内憂を払えなかった王家の義務として、勝てずとも勇気を示さなければならない。
そう語る彼の瞳には諦めでも絶望でもない輝きが宿っている。彼は譲れぬもののために命をかけて戦い、他の者達を照らそうとしている。
「我が主も、私も、強者には敬意を払う。私はお前の名を忘れはしないだろう……永遠に」
寡黙な男の率直な言葉にウェールズは微笑んだ。
「守るべきもののために全力で戦う――それは君も同じだろう? ならば、君もまた尊敬に値する」
対等な視線と言葉に沈黙で応えたのは、彼自身の魂を認められた気がして戸惑ったためだった。
アンリエッタには勇敢に戦い死んでいったと告げてくれ――そう言い残してウェールズは宴の中心へ戻っていった。
733 :
ゼロの影:2008/11/23(日) 18:21:42 ID:JDgXX+mB
廊下を歩くミストバーンはルイズの姿を発見した。
彼女は泣いていた。なぜ愛する者を残して死を選ぶのか理解できずに。
彼に気づいたルイズは駆け寄り、闇の衣を掴んだ。
「お願い、ウェールズ様を助けて! あんたならできるでしょ、そんなに強いんだから!」
物理的な攻撃は一切効かず、魔法も吸収し、増幅して打ち返すことができる身体。さらに、一日中戦い続けても全く疲れを感じない。
今まで鋼鉄の爪による攻撃しか行っていないが、暗黒闘気を使えばさらに多くの敵を葬ることが出来るだろう。
ハルケギニアの住人が闘気を使えない以上対抗するすべはない。彼の戦い振りによっては戦況を覆すことも可能だ。
だが、ルイズの期待は裏切られた。
「大魔王様は命じられていない」
涙で濡れた瞳が失望に陰る。ウェールズとミストバーンの会話を聴き、互いに認めあったと思ったが――彼は戦うつもりはないらしい。
「あの王子さまに生きていて欲しくないの?」
流れる沈黙が何よりも雄弁に答えを語っている気がしたが、返事は無い。
「あんた自身の気持ちはどうなの?」
もう一度訊ねると、「これはウェールズの戦いだ」とだけ呟いた。
彼の参戦で反乱軍を押し返したとしても効果は一時的なもの。真の平和を得ることはできないだろうし、ウェールズの覚悟を汚すことになりかねない。
勝って生き残ってほしいとは思うが、それが不可能なことは本人が一番知っているだろう。
「どうして……!? あんただって本当は――」
異世界の住人が干渉すべきではないという気持ちも分からなくはない。
だが――。
背を向けて歩み去る後ろ姿は、新たに溢れる涙でぼやけてしまった。
そして、廊下を歩くミストバーンにワルドが真剣な表情で声をかけた。
大事な話がある、と。
734 :
ゼロの影:2008/11/23(日) 18:22:27 ID:JDgXX+mB
以上です。
「ワルドが…おれを呼ぶ声がした…!」のでこの話が思い浮かびました。
このストーリーのコンセプトは「もっとワルドを!」です。
何故かマザコン紳士からロリコン紳士に転しょゲフゲフ
投下乙です
そして、ワルドさんなにやってんすかw
>(憂い顔さえ美しい――)
>(あいつにツッコんでくれる心強い味方が現れるなんて……夢みたいだわ!)
そして、初対面の温度差が凄いw
影の人乙です
まさかワルド救済ものになるのか……問題はレコン・キスタに入っているかどうかだな
480kb超えたのでスレ立てしようとしましたが失敗しました……。
どなたかお願いします。
やってみます
乙です!
>>726 偽名はキル・ジョゼフですね、分かります。
埋めか
土系呪文
埋め
ヴェルダンデ、ヴェルダンデは何処だね?
さっきもう食べたでしょ
埋めついでに嘘予告篇を投下
その日、少女が召喚したのは、友達だった。
『フレンド』
幼き日、池の畔でなく少女にもたらされた奇跡。
それは、黄金色に輝く愛らしい瞳の小動物らしき謎のナマモノだった。
少女は友達に名前を上げた。
「ゴメちゃん」
ゴールデンでメタルっぽいからゴメ。皆が少女のネーミングセンスに恐怖した。
最初は得体が知れないと娘の身を案じた父親だったが、2人が無邪気に遊ぶ姿を見て警戒を解いた。
ついでにお抱えの絵師に20枚にもわたる連作を描かせて妻に怒られた。
自分にも他人にも厳しい母親だったが、誰も周囲にいない時には娘の友達を抱きかかえてゴロゴロと転がった。
「烈風」の二つ名を持つ彼女は、可愛いものに滅法弱かった。
時がたち、少女は魔法学院に入学する事になった。
全寮制の為、生き物は持ち込めない。
彼女の家の実力をもってすれば特例を認めてもらえただろうが、彼女はそれを断った。
少女は貴族の証たる魔法を成功させる事が出来ない。だからこそ、彼女は貴族の範となる事を誓っていた。
そして、召喚の日。扉をくぐってきたのは、実家に残した筈の友達だった。
友を使い魔にしていいのか。
躊躇する少女に友達は笑いかける。その笑顔を見て、少女も笑みを返した。
そうだ。例え何があっても、わたしたちは友達だ。
こうして2人は主と使い魔になった。
それからは色んな事があった。
愛らしい友達は、たちまち皆の人気者になる。
少女が同級生と決闘騒ぎを起こした時、友達は少女を守る為に広場に登場した。
その姿を見て同級生はあっさりと負けを認めた。
「いや無理だから! あんなちみっちゃいナマモノ攻撃するのムリだから!」
鼻血を出して言う事ではない、と少女は思った。
怪盗が宝物庫から宝を盗み出した。だがそれは囮。怪盗は何者かに依頼されゴメちゃんを攫おうとしていたのだ。
誘い出された少女たちに襲いかかるガーゴイル。だが土壇場で怪盗は少女に味方した。
「あんな可愛いナマモノを狙えるわけがないだろ! さっさと逃げな!」
幼馴染の姫の依頼で、婚約者と共に空飛ぶ城に向かう少女。
戦争の悲しさと王子の誇り、涙を流す少女に再び刺客が襲いかかった。
ガーゴイルの攻撃を、婚約者と王子が撥ね返す。
「ルイズの友達は僕の友でもある! お引き取り願おう!」
「おのれレコンキスタめ! こんな愛らしいナマモノを襲うとは人として許せん!」
「うわあ気が合うなあ王子! でもゴメちゃんは渡せないけど!」
「いやそもそも君のものでもないだろ子爵!」
少女は頭を抱えた。大丈夫かこの変態紳士たちは。
遠くガリアの王宮で、狂える王は命令する。
「余のミューズよ。一刻も早く彼の使い魔をここへ連れてくるのだ。
あのプニプニした体を想像するだけで心が震えるわ! 当社比シャルルの三倍くらい!」
命を下された女は思う。
ついうっかり捕獲に失敗してヤっちゃっても私悪くないよね、と。
てか私よりあんなナマモノのほうが上なんかい。
そして、燃え盛るタルブの村と空を覆う戦艦を前に、少女は叫ぶ。
己の系統たる虚無の呪文と、そして自分を支え続けてくれた友達の名を。
ダイの大冒険からゴメちゃん召喚。
近日未公開!
スイマセンスイマセン。本編が進んでいないのにスイマセン。
パソコンさま絶不調で修理に出しますので今年中に次の投下が出来るか分かりません。
ではまた。
乙〜
噴いたwww
ほうじ茶返せwwwww
>>749 復帰お待ちしております。
他に最近更新されてない作品も、ずーーっと待ってます。
あぼーん