【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.11
1 :
名無しさん@お腹いっぱい。:
>>1乙ー。
即死回避に……ノーチェの異常な可愛さについて語ろうか?
ノーチェがかわいいのか、あの口調だったら誰でもいいのか
軍曹を女体化して比較してみる必要があるか
もしくはカーズ様
乙ですー。
>>3 P3のアイギスを見る限り、
美少女+「〜であります」が重要だと思う
普通の喋り方になったらアイギスイラネって奴が多かったし
>>1乙
軍曹&ノーチェ&アイギス&このみ「
>>1乙でありますっ!」
NWとアルシャードガイアのクロスとか面白そうだな…
問題は微妙に公式でやられてしまってることか
ALGって宮沢家以外のキャラが微妙に薄いんだよな
HAーーーーHAHAHA、
薄イ、薄イッテ連呼シナイデクダサーーーイ! 薄イ、薄イ薄イ、!
薄イ面白スギデス!
>>9 おまえはフォルテッシモのキャラだろうが
…ガイアのパーソナリティに追加されてるのかもしかしてっ!?<基本ルルブしか持ってない
ガイアのキャラといえばあれが居るじゃないか。トキノ・ケイ。
>>6 マイナーなのはわかってるが、何故そこに<E1>こと白井沙穂軍曹がいない……っ!
13 :
ゆにまほの中身:2008/08/21(木) 16:57:45 ID:1ccPXIqE
アリアンサガ買えたー。ベネットのオチ要員っぷりに愛しさが止まらない。
そんなわけで3話投下しに来ましたアル。
支援くださいー(涙)。
<店長の憂鬱>
結希は、店長に与えられた部屋の中で唸っていた。
経営は難しいが楽しい。ノイマンである彼女は好奇心も旺盛だ。対外的な交渉にも優秀な人材がいるし、喫茶店は上手く軌道に乗っていると言っていい。
忙しさは永人が抜けたせいもあり以前より増えているが、キッチンで踏ん張ってくれている彼らがいる。今すぐどうなる、ということはない。
つまり、厳しくはあるがまだもう少しの間ならなんとかなる、ということだ。
霧谷雄吾に申請したエージェントやイリーガルの調達ももう少しで目処がつくとのこと。
ただし。ここで、それまでに解決しなければならない問題が発生したのだ。
ため息をつき、彼女はとりあえずやるべきことに目を向けた。
「仕方がありませんね。とりあえず必要なメンバーにメールを打っておきますか」
まだ喫茶店は仕事中だが、これは必要なことである。とりあえずはこの問題をなんとかしないと彼女の名誉にも関わる。
結希はこれからの予定を合わせるために智世を呼び出した。
支援っておいしい?
<尋問は味方がたくさんいるところで行いましょう>
その日。メイド喫茶「ゆにばーさる」の閉店時間から10分ほど経ったが、従業員は全員フロアに集められていた。
結希は全員がいることを確認したあと、悲しげに言う。
「皆さんに、少し悲しいお知らせがあります」
「し、支部長。一つ聞いてもいいだろうか?」
少し強ばった表情で、手を挙げて尋ねた勇気ある少年がいた。
クセのない緑の黒髪。銀縁の眼鏡。狐を思わせる皮肉気な表情。眼鏡の位置を直すクセ。自前の白ランに着替えた彼は、「ゆにばーさる」の特別執事として君臨する者。
黒須左京(くろす・さきょう)。
UGNのイリーガルエージェントであり、一癖も二癖もある、皮肉屋の情報通執事である。コードネームは『オーディンの槍(グングニル)』。
なにかと他人に突っかかり、余計な一言もかなり多いが、このアクの強い集団の中ではそれもまた個性として見られている。
そんな彼が誰かに許可を得るために挙手して発言するのは非常に珍しいが、結希はそれに笑顔で応えた。
「はい。なんでしょう左京さん?」
「なぜ我々は床に正座させられているのだろうか?」
その通りである。
今、『ゆにばーさる』の店員のうち何人かが床に正座させられているのだった。
集まれと言われて集合した時に、笑顔の頸城智世が何人かに向けて、
『いいからそこにお座りなさい下っ端。正座で支部長をお迎えするのですよ』と告げ、それに逆らえる人間がいなかっただけの話である。
今、智世のお願い(めいれい)を聞いて床に正座しているのは左京・隼人・司・十也・柊の五人。
大抵不服そうではあるものの、何か口答えすることができずに大人しく正座させられている。
立っているのは結希・智世・綾・桜・椿・狛江・ノーチェであるから、ちょうど男性と女性で扱いが区別されている形となる。
……つくづく男性の立場の低い職場である。
閑話休題。
左京の質問に、結希は先ほどの少し悲しそうな表情をして答える。
「今、この喫茶『ゆにばーさる』において重大な事件が起きているんです」
「それと今俺らが正座しなきゃならないことにどういう関係があるんだよ支部長」
司がそう口を挟む。そーだそーだ、と口々に言う面々。と、その時だ。
あらあら、といままで笑顔で状況を見守っていた智世が、結希には聞こえないよう能力を調整して呟いた。
「最近の殿方は女性のお話を静かに聞く耳をお持ちではないのかしら?
なんならわたくしの歌で試してみましょうかしら。何人がリザレクトせずに済むか、見物ですわね」
重い沈黙の落ちる店内。
言われた男性陣のみならず、ノーチェや狛江まで震えている。が、言われた当人達はそれどころではなくクーラーの利いた部屋の中で冷や汗をかく羽目になっていた。
頸城智世(くびき・ちせ)。
UGチルドレンの一人でありながら、精神攻撃を得意とするヤンデレメイドである。コードネームは『暗い日曜日(ラストソング)』。
結希を偏愛といっていいほどに溺愛し、彼女の敵になるものと見れば全部が全部容赦なく叩き潰すのを主義とする。
それを知っている店内の人間はもう黙るしかないのであった。
みんなが黙った理由を結希だけは理解できていないが、とりあえず静かになったようなので話を続けた。
「実は……女子用の制服であるメイド服が、数着足りないんです」
途端に、(主に心の)距離の離れる男子勢と女子勢。
戸惑っていた少女達に、汚物を見るような視線が混じる。
「やだ」とか、「サイテー」とか、そんな感じのいたたまれない視線である。男どもが無罪を主張しようとめいめい口を開こうとしたその瞬間。
発言を封殺するように結希が動いた。神妙な面持ちで彼女は告げる。
「その事態を重く見た私は、霧谷さんに相談しました。
霧谷さんはおっしゃいました―――『その支部の支部長はあなたです。どんな方法を使っても構いません。あなたの力で、解決してください』」
いやそれ絶対『こっちにそんな問題を振るな』って言われてるよな。と男ども全員の心の声が唱和するが、心の中のことだからやっぱり意味はない。
せいぜい彼らの心のシンクロ率が上がったくらいの話だ。無駄に。
そんな彼らの心の内を知るはずもなく、結希は続ける。
「そう。わたしは秋葉原支部の支部長です。つまり、この事件を解決できるのはわたしだけ。そう、わたしだけなんです!」
「……だから?」
司が促す。
それに呼応するように、芝居がかった様子でびしぃっと男性陣に指を指して決めポーズをとりながら結希は宣言した。
「そうっ。つまり、薬王寺探偵団結成ですっ!」
『なんでだぁぁぁぁぁぁああああっ!?』
今度はリアルで男性陣の声が唱和した。
シンクロ率上げは無駄ではなかったようである。無駄に。
ベネット、ラブ!
智世が言うには、最近結希は古い少年探偵ドラマにはまっているらしい。
『おじいさんの名にかけて誓うだけでどんな難問も解けてしまうなんて、すごく素敵ですよねっ』とか、
『わたしは誰に誓えばいいのかな。死んだ人じゃないと意味無いのかしら……それじゃ、黄麗ちゃんとか?』とか、
『謎はすべて解けた!とかって決め台詞は一度は言ってみたいですよねぇ……』とか、楽しそうに話してくるとのこと。
ちなみに彼女のオススメは、二人組みユニットの片割れが主役を演じる方の二期だとか。
つまり俺らはとばっちりかよ!とか、ちょうどいいから利用しようとしてるだけじゃねぇか!と口々にぶーぶー言う男性陣は、
智世の『どなたが一番はじめにジャームになるのか、試してみましょうか?』という小さな呟きにより沈黙。……さすがに立場低すぎないか、コレ。
笑顔で楽しそうに瞳をきらきらさせながら、結希は智世の取り出した伊達眼鏡をかけながら言った。
「では、これから聴取をはじめたいと思います。じゃあ、端っこにいる柊さんから。
柊さんは、何か申し開きはありませんか?」
「すでに犯人扱いじゃねぇかっ!?」
とはいえ、そんなことを言っていても彼の疑いが晴れるわけではないので必死で頭を巡らせる。
すぐに名案が思いつくわけでもなく、とりあえずこういう時の常套手段として話をそらして時間を稼ぐことにした。
「っていうか支部長さんよ、俺がメイド服盗んでなにすると思ってんだ?」
「え……なに、と言いますと?」
「だから、俺がそれを盗む理由だよ。人を犯人扱いしてんだ、動機のひとつやふたつは掴んでるんだろ?」
そう胡乱な目で問う柊に、しばらくうーん、と唸ってから、ぴんと来たように指を立てて言ってみた。
「動機、動機ですか……メイドフェチ、とか?」
「そんな怪しい趣味は持ってねぇ。っつーか、それなら俺の部屋に盗品があるって言うんだよな?探してみろよ、絶対出てこないから」
「皆さんの部屋はもう調べましたよ。なかったからこういうことになってるんじゃないですか」
「エラそうに言うんじゃねぇよっ!?」
「えらそうじゃなくてえらいんですよ、支部長ですから」
そういう話はどうなんだ。
閑話休題。そういえば、と柊はたずねる。
「数着足りねぇっつったな、それって一気になくなったのか?」
「え?いえ、一着ずつ足りなくなっていってるんですけど」
「……それって、一番最初のがなくなったのはいつなんだ?」
「十日前、ですかね?」
結希のその言葉を聞いて、柊は深く長いため息をついた。その『これだからお子ちゃまは』と言わんばかりの仕草に、結希がむくれる。
「なんですかそのため息は。まるでわたしの推理が間違ってるみたいじゃないですか」
「推理っつーか、それ以前の問題じゃねぇか。
なぁ支部長さん、俺が来たのは一週間前だぞ?どう頑張っても十日前にメイド服盗むのなんか無理だろうが」
あ。とやっと気づいたように、結希。
言われてみればその通りなのだが、彼女は今気づいたようだ。どうやら調査の前の、与えられた前提情報を見逃していたらしい。
結希はごまかすように笑って、柊に謝った。
「それもそうですよね。失礼しました」
「本気で失礼だよな今回の件って。まぁ、疑いが晴れたならよかったけどよ」
「そう言っていただけると助かります……それにしても、一番に近いくらい怪しい人物として見ていただけにちょっとヘコみますねぇ」
「なんだよ、やっぱりよそ者は信用できないってか?」
柊はそう苦笑交じりに言うものの、もちろん本気で言ってはいない。結希がそれを否定することを理解した上で言っている。
短期間にこれだけ他人のことを信じられるというのは、ある意味大物なのか、バカなのか。判断に困るところである。もちろん結希も苦笑交じりにいえ、と否定し―――続けた。
「アンゼロットさんから、柊さんは下着ドロの容疑で警察にご厄介になりかけたことがある、とお聞きしていたものですから」
「黒歴史のことを語るんじゃねぇえええっ!?」
結希の言葉を聞いた女性陣の視線が、よりいっそう厳しいものになったのは言うまでもない。
……なお。柊の言う『黒歴史』とは、彼の人生上の汚点のことである。別に特定作品を指してそう言っているわけではないのであしからず。
はんにゃ?
あーテステステス
規制とかれててカキコできるようだったら本人の代わりに続きを投下しますにゃーん。
ノーチェが奮闘して、柊の容疑が誤解であることを証明するまでの10分間、彼は冷たい視線を受け続けることになった。
そのためにちょっといじけた柊が部屋のすみっこでさめざめと泣いている光景があるが、結希はそれを無視。
……少しは自分の趣味のために起きた出来事であることを自覚してほしいものである。
一人減った男性陣の中を見回し、結希は次の人物を指定した。
「では、一人容疑者が減ったところで次にいきましょう。次も本命ですよー。
ね、この支部に来てから自分を指してアキバ系の人間だとたまに言うようになって、そっち側のお友だちまでできた隼人さん」
「俺っ!?」
「はい、あなたです。この間同好のお友だちができたって、なんか嬉しそうに話してたじゃないですか。
メイド服を横流しして、お友だちに配っているんじゃないですか?」
そう『いけませんよ、お友だちは選ばなくては』と暗に責めているような表情で言う結希に、あわてて叫ぶ。
「待てって!確かに俺は自分をアキハバラに馴染む人間だとは思ってるけど、支部長の言うような意味じゃない!
っていうか、俺はメイド喫茶にはどっちかっていうと不満があります!」
「メイド喫茶に不満……ということは、この支部を○○○喫茶や、××××しゃぶしゃぶのお店にしたいんですの?」
「違うっ!頸城、アンタは口出すなよ!ほら、支部長があまりのアブノーマルな発言についてこれてないだろうがー!」
「は、はにゃあっ……こ、これが本物のアキバ系の力ですか。
支部長としてはエージェントの趣味に口を出す気はないのですけど、あんまりにも、こう、コアな趣味をしている人はちょっと……」
ちーがーうーんーだーっ!と、正座のまま器用にその場に崩れ落ちる隼人。
衝動は加虐な智世、隼人を前に水を得た魚状態。大全開である。
そんな彼らを見ていた女性陣の一人が、意を決したように手を挙げて結希に向けて発言する。
「あの、薬王寺支部長」
「なんです?椿さん。もう少し待っててくださいね、隼人さんが犯行を自供するのも時間の問題なんで」
「いえ……その、差し出がましい口を挟みますが、隼人にそんな趣味はないです。
毎回毎回こちらの支部に出向くことになるとぐちぐち言いますけど、休みの日は楽しそうに機械をいじくってますし。
もしそういう趣味があるなら、休みの日はそういうお店に行くんじゃないかと」
椿が淡々とそう言うと、結希はう、とうめいて黙りこくった。
隼人が椿を見て拝みはじめるが、まぁそこはスルーの方向で。
結希が隼人に問う。
「ごめんなさい。ちょっと話が脱線してしまいましたね。
それで隼人さんは、自分が犯人じゃないって証明できますか?」
「証明って……なぁ支部長。言わせてもらうけどな、俺にとってはメイド服って興味がないもんなんだぜ?なんでそんなもん盗まなくちゃいけないんだよ」
「そんなに興味ないんですか?椿さんのメイド服姿とか」
「そんなもんここに来ればいくらでも見られるだろ。
っていうかなんで椿なんだよ、あいつはやっぱりあんなひらひらした服似合わないって。そもそも開店の時だって合うメイド服がなくてウェイターのカッコだったんだろ?
メイド服の規格に合わないような体型のヤツのメイド姿なんか見て嬉しがる特殊な奴の気が知れないね」
そう否定する隼人。確かに彼に店のメイド服を盗むような動機はなさそうですね、と結希が心の中で思った時、ぽつり、と隼人の背後から声が響いた。
「……誰が、女の子らしい服の似合わない男女ですって?」
次の瞬間、隼人が宙を舞った。
一瞬で何かに縛られたように後ろへと引っぱられる。背中をしたたかに打ちつけた隼人が痛みを独り言のように呟き、仰向けになった視線の先にいた声の主を見る。
そこには、とてもとても酷薄でありながら楽しそうに笑う椿という名の般若がいた。
「……あの、椿、さん?俺にぐるぐる巻きついてるこの糸はなんでしょうか」
「隼人―――ちょっと向こうで、お話しましょうか?」
その笑顔を見た者は言う。あれは本物の鬼だった、と。っていうか、気にしてたのか。隼人そこまで言ってないけど。
デリカシーのない発言は身を滅ぼします。お気をつけください。
しばらく隣の部屋で隼人の悶絶しているような声や、魂消る絶叫が響き―――ぼろぼろになった彼を、ぽいっとゴミのように店の端にうち捨ててから椿が元の位置に戻る。
彼女は笑顔で結希に言った。
「お見苦しいところをお見せしました。どうぞ続きを、支部長」
「わ、わかりました。次行きましょう次」
こくこくこくこく、ともの凄いスピードで首を縦に振りまくる結希。
椿は怒らせちゃダメだ、という共通認識で一丸にまとまったゆにばーさるの面々であった。
じゃ、じゃあ……と呟いて、結希は次の容疑者を口にする。
「次は、司さんですね。司さんも有力な容疑者です」
「なんでだよ。俺にもそんな趣味ないっての」
言われた司は不機嫌そうにそう答えるが、いえいえ、と結希が首を横に振る。
「司さんは、誰よりも強い動機があるじゃないですか」
「強い動機?なんだよそれ、心当たりないぞ?」
意外そうにそういう司に、結希は悲しそうに言う。
「司さん……なんで、苦しいならそう言ってくれなかったんです?」
「えーと、支部長?」
「生活苦で店のものに手をつけ、あまつさえそれを売り払うなんて……」
「ちょっと待てぇぇええええっ!?」
司の絶叫。
もう魂から出る声だったが、店の八割方の人間はなるほど、と納得している。
各人が唸る。
「うぅむ……見事な推理だ、薬王寺支部長。なるほど、そんな犯罪を起こす人間全てがそういう趣味をもっているわけではない、という視点か」
「おいコラ左京っ!?てめぇ人を売るつもりかっ!」
「司くん、言ってくれればお昼ご飯くらいはおごったのに……」
「玉野までっ!?っていうか昼はここでまかない自分で作って食ってるっての!お前らの分も作ってるだろうがっ!?」
「司ー司ー。なんとか鍋の中で曲がるくらいまでの時間でゆでたパスタに塩こしょうかけて、パスタをかみしめながら食べると、少しの量でお腹膨れるでありますよー?」
「いらんわそんなナポリの知恵っ!?っつーか俺がスパゲティなんて水と熱を大量に使うもんを主食にできると思うなっ!」
し、支援っ!
ツッコミどころはそこかい。
と、そこでそれまで黙っていた左京の隣の少年がぽつりと呟いた。
「……そこまで切羽つまってるんだったら、すぐにメイド服売っちまってんじゃねぇの?」
薄い色素の髪と目。司ほどではないものの低めの身長。常に憮然としている無愛想な表情。
彼の名は加賀十也(かが・とおや)。左京とは色々と因縁のある、UGNの高校生イリーガルエージェントだ。
コードネームは<探求の獣(クエスティング・ビースト)>。司や左京と同じく、夏休みということでここに召集されたメンバーの一人である。
十也のその言葉に、首を傾げる結希。
「どういう意味です?十也さん」
「だから言葉のまんまの意味だよ。
金目当てならメイド服売っちまって金にしてるはずだろ、その割に司の生活が楽になってるとこは見たことないと思ってよ」
十也の言うことはこうだ。
もしも司が金ほしさにメイド服を盗んだのだとしたら、それをさっさと金に換えているはず。そうだとしたら、司の生活がよくなったという話があってもいいはずなのだ。
にも関わらず、相変わらず飲み物は水。それを冷やすのはエフェクトで作った氷、という自分の侵食率を上げて生活するという極限状態なのが変わらないのである。
金があるならまずそんな身の危険をまねく事態は真っ先に回避するだろう。茶を作るにしても、ペットボトルを買うにしても、その金がないからこそのこの状態だ。
でも、と結希が反論する。
「もしかしたら、盗んだはいいけど売りさばくルートがなかっただけかもしれないじゃないですか?」
「つまり、あんたはそこまで司がバカだって言いたいのか?そんなもん盗む前に普通考えつくだろうが」
「そういえば、数度にわたってメイド服が盗まれていると言っていたな。
売りさばくルートのない人間で、明日をもしれん身の奴がもう一度同じ危険を冒してまで無用の長物を盗む意味がない、か。フッ、お前にしては冴えているじゃないか」
十也の考えを補強したのは左京だ。もっとも、最後のいらない一言でよけーなお世話だこの野郎、と十也に言われているが本人はやはり気にしていない。
お互いに憎まれ口を叩きつつも、彼らはそれなりに長い付き合いである。本人達は否定するだろうが、お互いの考えていることくらいはわかるのだった。
結希は残念そうに言った。
「つまり、司さんもハズレですか……ちょっと残念です」
はぁ、とため息をつく結希を尻目に、椿とノーチェがもう床につっぷして泣いている司に声をかける。
「えぇと……疑ってごめん、司くん」
「結希の話結構説得力あったでありますからな」
「こらノーチェ!……だ、だからほら、泣かないで?あとで何かお詫びするから。ね?」
「同情はいらない、信頼がほしい……」
もう、半分人間不信になってもおかしくない司だった。……合掌。
支援しますようー
では。と結希が残った二人に視線を向けた。
「残る容疑者はあなた方だけですが……ぶっちゃけ、どっちが犯人なんですか?」
「探偵ごっこはどうしたっ!?」
司のツッコミ!
結希はスルーした!
閑話休題。
言われた二人のうち、先に口を開いたのは左京だった。
「言っておくが。俺にそういった趣味はないし、メイドなら親父の屋敷に結構な数が働いている。
売り払うのならそちらの方が足がつきにくい。俺なら確実にそちらを選ぶが」
左京の言葉にごもっともです、と頷く結希。
彼の父親は政治家をやっている。それなりに大きな屋敷に住んでいるらしい父親であるが、少々複雑な家庭の事情により、左京がその家に行くことはあまりない。
とはいえ、やろうと思えばオーヴァードが進入できない屋敷でもないため、やっぱり左京は容疑者とは考えにくいのだった。
左京は続けて言った。
「一番怪しいのは、やはりこいつではないだろうか」
「ちょっと待てお前司に続いてオレまで売る気かっ!?」
隣の十也に指をさしての発言に、十也が叫ぶ。
しかし左京はそんな彼の激昂を前にしても涼しい顔で、ついでに人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて答える。
「フッ、当然だろう。容疑者はもはやお前しかいない。素直に罪を認めてはどうだ?」
「やってないものを認めるわけねぇだろうが!?」
「ふむ、さしずめ動機は……メイド服への興味か?メイドを見続けることでメイド服の方に興味を持ってしまった、と。
長いつきあいになるが、お前が服装倒錯者だとは思っていなかったぞ」
「人の趣味を勝手に作んなよっ!?っつーかなんだよメイド服への興味って!それじゃオレはただの異常者だろうがっ」
「きっと探究心が大きくなりすぎていつの間にかジャームになってたんだろう。なぁ、<探求の獣>?」
「あぁ、だから<探求の獣>なんですか」
「おぉそうなんだ。じゃああたしとは獣つながりだね。よろしくねー<探求の獣>」
「オレをその名で呼ぶなぁぁぁぁぁあああああっ!?」
左京の半分ニヤニヤしながらの確信犯、結希のやっとふに落ちたという表情の一言、狛江のズレた呼び方、そして十也の魂の絶叫。
……これまで幾度となくこの台詞を口にしてきた十也であるものの、なんか血涙でも流しそうなほどの魂からの声である。
まぁそれはさておき、だ。と、一通り十也をいじくって満足したのか、左京が再び問う。
「もしも自分でないというのなら、それにふさわしい証拠を出してもらおうか。
そもそも俺がお前が怪しいと言ったのは別に何の根拠もない言葉ではないぞ?
お前ももともとここでウェイター業をすること自体には抵抗があっただろう。それが、いくらUGNの依頼とはいえここ毎日ほぼ連勤だ。
俺達イリーガルはエージェントとは違い、任務は依頼という形で提供される。断ってもいいはずなのに、それを断らない理由とは何だ?
その理由がはっきりしないと、この状況ではメイド服を盗むのにやりやすいからと思われても仕方ないと思うがな?」
その言葉にぐ、とうめいて視線をそらす十也。
その顔が少し赤くなっていることは、隣にいる左京以外には気づけない。ちなみに気づいた左京はニヤニヤ笑いをさらに深めている。
「べ、別にいいだろうが。どんな理由があって働いてようが、俺の勝手だろ」
「……犯行の自供」
そう、今までなかった声が響いた。
それと同時に、ごりぃっ、という音がして十也の後頭部に固い何かが突きつけられる。
一瞬の沈黙。その後状況を理解した十也は、認めたくないがとにかく今の状況の確認をとろうと背後にいる声の主に呼びかける。
「……えぇと、綾、さん?」
珍しく敬語になりつつ推測の声の主へと呼びかけると、背後に立つ少女はそう、と言葉すくなに肯定した。
ゆるやかにウェーブの入った黒髪。茫洋とした瞳。いつもどこか悲しげな表情の消えない、年齢の平均からいっても小柄で細身の少女。
久遠寺綾(くおんじ・あや)。
割と早期に実戦投入されたUGチルドレンの一人であり、「ゆにばーさる」では上級メイドをつとめる少女である。
無口で必要最低限以上はしゃべらないが感情がないわけではない。表出が苦手なだけである。
そんな綾は、今愛用の拳銃の銃口を十也の後頭部に押し付けている。その状況下で、十也はとりあえず延命のためにたずねた。
「なにを、してるんだ?」
「……罪をさばくために。たとえお友達でも、罪を犯したのならばわたしがさばく。
……それが、お友達が変わってしまう前に止められなかった、わたしのできるたった一つのことだから」
「だからやってねぇって言ってるだろうがよ!?」
「……みんなそう言うの。罪を犯したお友達は、みんな」
「絶対お前冤罪で何人か殺ってるって!っていうか今まさにその状況だよUGNはもっとこいつの扱い方考えてくれよっ!?」
精神的にさっきからダメージ受け続けているせいなのか、もはや十也の精神はクラッシュ寸前である。
半分涙目の彼に、じゃあ、と綾がぽつりと呟く。
「……なんで最近よくこの支部でよく働くのか、その理由を教えて。やましいことがないのなら。答えられるはず」
ぐっ!?となにか綾の言葉がクリティカルヒットしたらしい十也のうめき声。
うんうん、と頷きながら左京が心底楽しそうに言う。
「そうだな、やましいところがないなら言えるはずだ。さすがは<断罪の女神(アドラスティア)>、いいことを言う」
「それともアンタ、自分が犯人だって言いたいの?」
そうキツイ口調で言ったのはキツい目つきの少女だった。
長めの流れるような黒髪。ツインテールにまとめているものの、艶のある髪はまるでビロードのよう。
富士見桜(ふじみ・さくら)。
東京近郊のM市支部に在籍する、UGNのイリーガルエージェントである。
とはいえ、並のエージェント以上にUGNとしての活動に熱心であり、今では作戦立案が彼女の手で行われることもあるほどなのだとか。
そんな彼女がなんでここにいるのかというと、人員があまりにも足りていないアキハバラ支部への出向を霧谷から命じられたゆえである。
そもそもM市支部も少し前まで支部長不在の状況下だったので結局人数は足りていないのだが……
まぁ、ある支部は支部長と高校生エージェント一名計二名でなんとかなっていたので、死ぬほど忙しくてもなんとかはなるのだろう。
霧谷雄吾も頭を悩ませながらもその辺りは考えているはずである。たぶん。
桜は、言い方こそキツイものの身内に対しては配慮に欠ける行動はしない。やや感情にまかせて勢いで行動する傾向もあるが、そこは持ち前のノイマン脳でカバーしている。
十也へのこの言葉も、彼がそんな人間ではないのを知っている上で、このままでは犯人扱いされる彼に対して発破をかけた形でもある。
言われた十也はそれでもしばらく逡巡していたものの、あぁちくしょう!と叫んで一気に結希に向かって言った。
「9月の頭が穂波の誕生日なんだよっ!
何がほしいかって話を夏前に綾と穂波がしてて、その時にあいつが限定モノのイルカのシルバーアクセが欲しいって答えてて、そのために金が必要なんだっ!」
その告白に、店に沈黙が落ちる。
ちなみに彼の言う穂波、というのは正式名称を高城穂波といい、彼の学校のクラス委員をつとめる明るく前向きな少女で―――ついでに十也の片思いの相手でもある。
結希は青春ド直球なその言葉にしばし沈黙し、ちょっといたたまれない気分になりつつ十也に言った。
「……すみませんでした。納得したんでもう泣かなくていいですよ、十也さん」
「誰のせいだ誰のっ!?」
十也、本気で泣き出す五秒前。
<計画は計画的に立てましょう>
ともあれ。
男性陣全員の疑いが晴れた後、全員が結希を見た。
具体的に言うと、ドラマで探偵が「犯人はこの中にいる!」って言った後に、外にいた違う奴が「実は犯人俺です」って言ったくらいの気まずさ。
そんな空気に包まれつつ、結希はおかしいですね、と言いながらぽつりと呟く。
「大抵こういう事件は内部犯なんですけどね、ドラマだと」
「ドラマの見すぎだよっ!っていうかそんな理由で内部犯説出してたのかっ!?」
「え、だって内部犯じゃないと『犯人はこの中にいる!』って言えないじゃないですかっ!?」
「言わんでいいっ!あんた今日からもうドラマ見んなっ!」
もちろんそんなことで疑われてはたまらない。付き合いの長い司がツッコミをいれる。
でも、と椿が思い出したように言った。
「メイド服がなくなる事件そのものが終わったわけじゃないんですよね。
薬王寺支部長、その事件の周期性や、盗まれたものの特徴なんかはないんですか?」
「特徴って、みんな同じ制服のメイド服ですよ?」
「いえ、そうじゃなくて。誰が着てたとか、そういうことなんですけど……わかりますか?」
む、と唸って結希はぺらぺらと資料のページをめくる。
しばらく唸った後、答えた。
「えぇ、各人の衣装が一組ずつ盗まれてますね。これが偶然でないとすれば、相手はメイド服を選んで持っていっていることになる」
「あら支部長、ちょっとここ見て。勤務表」
桜が持ってきた勤務表を見て、これがどうかしたんですか?と問う結希。桜は自分の気づいたことを告げる。
「こっちの表が盗まれたメイド服と、その日付の記録でしょ。で、ここ見てここ。
一番最初が10日前、あたしと玉野さんと久遠寺さんのが盗まれてる。次が8日前。ノーチェと支部長のやつね。で、ちょっととんで3日前に狛江の」
「それが、どうしました?」
「あたしと玉野さんと久遠寺さんと支部長はいつもいるからいいとして、問題はノーチェと狛江よ。
ノーチェも狛江も、メイド服が盗まれる日に店に立ってるでしょ?」
「えーと……ほんとですね。わたしも確かメイド服が盗まれた日は久しぶりにホールで働いてました。
じゃあ、もしかして犯人は常連のお客さんの中にいる、ってことですか?」
結希のたどりついた答えに、こくりと頷く桜。ノイマン持ちはやっぱり話が早い。さすがはノイマン脳。いや、そんな用語ないけど。
げ、と呟いて司が嫌そうな顔をする。
「常連ったって、どんだけいると思ってんだよ。今夏休みだから毎日見る顔なんて結構数いるぜ?」
うーん、と唸って、結希が隼人に聞く。
「確か隼人さんはモルフェウスでしたよね?」
「……支部長、前のめりの能力しか持ってない、しかもチルドレンに何を期待してるのか知らないけど、<サイコメトリー>なら使えないぞ?」
<サイコメトリー>とは、モルフェウスの物品から情報を読み取るエフェクトである。
しかし、ハヌマーン/モルフェウスで前衛型であり、社会的経験の少ないチルドレンの隼人では上手く情報が集まるはずもなく、習得していない技能だったわけだ。
ちぇ、と結希が呟いたそこに、先ほどから天性のひらめきを見せている桜が話しかけた。
「ねぇ支部長、犯人は狛江やノーチェみたいに新しいメイドが入ってくると、それに反応してメイド服を盗みにくるのよね?だったら―――」
桜は、これまで数多くの作戦立案をこなしてきているエージェントである。
彼女の立案した計画は、即実行に申し分ないほどに練りこまれていた。
結希は彼女がこの支部に慣れてきたことを嬉しく思いながらも―――彼女の作戦を実行するために、すぐさま号令を飛ばした。
<作戦は二重三重に予防線を張って決行しましょう>
翌日の喫茶「ゆにばーさる」。
営業時間を終了し、フロアはすでに明かりが落ち、明日の仕込み組であるキッチン担当たちもすでに店を出ている。
フロア担当も、新人のメイドが最後にロッカーを出て、しばらく経った時だった。
ボルサリーノを斜に掛け、夜だというのにサングラスをかけた黒コートの、職質モノのもの凄い怪しい男が立っていた。
男はゆにばーさるの壁にある鎧戸に触れた。
同時―――鎧戸が抵抗もなく一瞬にして砂に変わる。
その先は事務室で、そこを出て左に曲がれば女子更衣室である。
男は迷うことなく女子更衣室へと入り、ロッカーの名札を確認し、新人メイドのロッカーに手をかけ―――
「―――現行犯だな。言い逃れできねぇぞ、メイド服泥棒」
声をかけられて、びくん、と一つ震えて手を止める男。
男は声の方を向く。そこにいたのは、彼が今盗もうとしていたメイド服を昼間着ていた人間が立っていた。
柔らかく風になびく髪、大きな瞳、小柄で華奢な体。しかし、昼間に優しく微笑んでいた顔は、今は引き締められ、強いまなざしで男を睨んでいる。
逢杜玲(おうもり・れい)。
UGNにもFHにも所属せず、仕事とあればなんでもこなす何でも屋。
その端麗な容姿から、最近は潜入任務などを多く受けこなしているオーヴァードで、今回、結希が調達した罠の一つである。
男は逡巡した後、昼間は笑顔で給仕をしていたメイド一人なら組み伏せる、と考えたのか、手の中に20センチほどのサバイバルナイフを生成。
玲に向けて駆け出しながらナイフを突き出す男。
しかし玲はあわてず騒がず横に立てかけておいた自分の得物を手に取り―――両手で思い切り床に向けて振り下ろす。
ごどぅんっ!とすさまじい音がして、床が陥没。
ついでに男が握っていたサバイバルナイフは、玲の得物によって吹き飛ばされかぃん、とマヌケな音を立てて天井に突き立った。
男が凍りつく。それは、ナイフが弾き飛ばされたことに対してではない。玲の握っている得物―――その身長よりもはるかに長いクレイモア(十字剣)に対してである。
呆然としている男を見て、はっ。と嘲るように笑うと、玲は酷薄な視線を向けて言う。
「女一人相手ならどうにでもなると思ってたか?ナメんなよ、この野郎」
クレイモアの切っ先をゆっくりと男に突きつけて言う。
「俺は、男だっ!」
……ツッコミどころはそこなのか。
逢杜玲。最近女装しての潜入依頼ばかりが入ってくる何でも屋を一人で経営する、バリバリの武闘派な青年である。
玲のその言葉に正気に返ったのか、男はすぐさまロッカーから手を離し、逃走に入る。
逃がすか、と玲が追撃に走ろうとした時、男の手のひらからどろりと液体が流れだして瞬時に人型になる。
クレイモアを振り抜こうとしていた玲は、男との間に割って入る形になったその人型を苦もなく一撃で叩き斬る。
彼は男を追おうとして、気づく。両断された<血の従者>が、液体ならではといった形で彼を縛りつけていたのだ。
男が逃げていくのを見てち、と舌打ち。
器用に携帯を取り出して、結希に電話をかける。
「もしもし、支部長か?最低限の仕事はしたぞ、後は好きにしろ」
支援だよっ!
外に出た男を待っていたのは、怖い顔をした昼間はメイド服を着ている少女達と、ウェイター勢。
路地に逃げようとしても、路地全てを塞いでいるのか逃げても逃げても追ってくる。
そして―――とうとう袋小路に追い詰めた。
椿が言う。
「大人しくしてください。でないと、少し痛い目にあってもらわないといけなくなります」
「死ぬようなことはないと思うけど。でも、警察に行って頭くらいは冷やしてきなさいよこのド変態」
桜は本気で汚物を見る目で男を見て言う。
彼女もかなり怒り心頭のようだ。そしてそれは、むしろ女性陣よりもとばっちりをくらった男性陣の方が強いのかもしれない。
「俺らもアンタのせいでイヤってほど最悪な目にあったけどな、大人しくしてくれるなら何もしないぜ?」
「そうそう。大人しくしててくれるんなら、店長も危害加えないようにって言ってたしな」
「……加賀、高崎。お前ら顔にさっさと動けって書いてあるぞ」
十也も隼人も実にイイ笑顔でいるが、男を見る目は獲物を狙う肉食獣の目である。動けたら好きにできるのにな、という心の声がダダ漏れになっているとも言う。
10人近い人間に囲まれた男はじりじりと後ろに退っていき―――隼人・椿・柊・十也・狛江が気づいた。
次の瞬間、男が内側から弾け飛んだ。衝撃が閉鎖された空間を暴れ狂う。
あわててそれぞれ近くにいた人間―――隼人が左京を、椿が桜を、柊が司を、十也が綾をかばい、狛江は重力の壁を生み出して衝撃を緩和した。
爆発の余韻が未だ残る中、爆心地近くにいながらも彼らは一人もリザレクトすることなく立っていた。
当然かばった人間は無傷とはいかないので、壁にもたれかかったりはしているものの、とりあえず全員生きてはいた。
桜が被害状況を説明するために、支部長に携帯で連絡する。
「もしもし、支部長?……まさか本当にこっちまで従者だとは思ってなかったけど、大丈夫?」
ビルの屋上で、双眼鏡を使ってどこかを見ている痩せぎすの男がいた。
彼の見ている先で、一瞬光と爆音が響く。
それを見て、ひゃは、と焦ったように笑う男。
「ボクを捕まえようとなんかするからだ。天罰が下ったんだ。
ひゃはは、ひゃはははっ!メイドはメイドらしく、ご主人様のすることに口を挟んじゃいけないんだよ、死んじゃうよ?」
「それは残念でしたね」
その声は、涼やかなものだった。
男は声に凍りつく。
見てはいけない。見てはいけないと理性は理解しているのに、それはやめることが出来なかった。
後ろを振り向く。
そこには、中学生くらいの印象が「こいのぼり」な少女と、けして目の笑っていない女性が立っていた。結希と智世だ。
智世は笑顔で言う。
「殿方というのは、女性を守る甲斐性があってこそ素敵な殿方足りえるのですわよ?
メイドとは使用人とはいえ意思を持つ一人の人間。ご主人様と呼ばれたいでしたら、相応の品性を身につけてからになさいな」
じり、と一歩退りながら、男は呟く。
「な、なんでここが……」
「最近のメイド喫茶は質実剛健なんですよ。それに、さっきの爆発で怪我をした人はいても亡くなった方はいません」
誇らしげにそう言って―――結希は、冷たい目を男に向けた。
「いませんが―――わたしの部下を傷つけたことを、絶対に許す気はありません」
怖い顔でそう言って。彼女は智世に一つ命令を下す。
「智世さん。懲らしめてあげてください」
それにはっ、と智世は嬉しそうに答えて―――夜の闇に、男の絶叫が響き渡った。
「それにしても、すごいでありますなぁ。この町の猫さんたちにお願いしてローラー式に場所を把握するなんて」
『いえいえ。あなたの助力がなければその把握は難しかったですよ、ご協力ありがとうございます』
その頃。マンションの部屋の一室で、黒猫とノーチェがハイタッチをかわしていた。黒猫は人語を話している。
ネームレス。
情報屋を営むオーヴァードであり、動物を伝達役として使うオルクスシンドロームを主とする。
結希の要請により、彼も今回の作戦に参加していたのである。
彼らの担当は、もしも相手が自分ではない存在を遠隔地から操る類の能力者だった場合、レネゲイドウィルスの波長をたどり、その場所を把握すること。
ノーチェの魔法で大体の場所を把握し、それに応じてネームレスが自分の操る動物をリーダーとした群れを誘導。位置を特定するというものだ。
黒猫はぺこりと頭を下げると、言った。
『それではそろそろ私はお暇させていただきます。皆さん返ってくる頃でしょう、あなたの力は必要になるでしょうが、私は必要ないでしょうからね』
「おや、もう行ってしまうのでありますか。気をつけるのでありますよ」
『えぇ。頼まれごとも、解決しなければなりませんしね』
「よろしくお願いするのでありますよ。―――では、また」
黒猫はぴょい、とその場を飛び退くと、窓から歩いて出て行った。
それを見送った後、すぐに下の階がにぎやかになる。おそらくは負傷者が帰ってきたのだろう。回復魔法を持つノーチェのできることは多い。
彼女は窓を閉じ、すぐさま扉を開けて下へと向かう。
そして、にぎやかな声が一つ、一階のフロアに増えた。
続く。
しえんなの。
今日の分は以上だそうですよ。あとコメレス
3話
大事件ってこれかい、なことです。ども、ゆにまほの中身です。
今回は主に男性陣がエラい目にあうというコメディタッチのお話。前回は説明が多くなりすぎた感があるため、今回は気楽に読めるもんをめざしました。
クロスオーバーの醍醐味はやっぱりこういう掛け合いにあるとも思います。
ついでにこういう話が書き手のセンスを一番問うと思います。そんなわけですげぇ怖いんですが、こういうの。
うんでも精進だよこういうのも。色んな人に色んな感想言われるってのも、経験の内です。
まあそんなどうでもいい話は置いておいて、レス返しー。
>>695 うーん……ちょっと話がめんどくさくなるのですが、解釈としては「ダブクロ世界にはそもそも『魔法』が存在していない」になりますか。
というより、世界の成り立ちが違います。NWの魔法は「世界にもともとあった不思議な力」でDXのエフェクトは「ウィルスが人間に干渉して発生した力」って感じ。
レネゲイドがもともとあって、それを使えた人間がこれを『魔術』であると解釈したって感じですね。
「ゆにまほ」では少なくともそういう解釈です。できるだけプレイヤー的な感覚に沿った設定を採用したつもりです。
いるかいないかわからなかったんでやろうと思ってなかったんですが、
ダブクロ知らない人のために世界観についての「ゆにまほ」的解釈と司と隼人のキャラについて説明文を本文以上に書いたりする需要があるのかな?あるならやるかも。
>>696 地味言うな。ノーチェはいいキャラですよ。出張りすぎるから使いやすくて逆に困る。今回もおいしいとこもってきましたしね。
そんなわけでクライマックスは引き立て役確定だよごめんよノーチェ。
えーと、こういうとこで言っちゃっていいのかはわからないんだけど、学研の「決定版図説」歴史群像シリーズですね。
写真も多いし、剣術については技の流れなんかも写真つきで説明されてて個人的には値段を考えれば十分満足。
畳斬りとか巻き藁五本一気斬りとか兜割りとか真剣での古流剣術稽古とか二刀の戦い方の写真もあって、結構好きです。
結構前に出てたやつなんで、持ってる人は持ってるかもしれませんが(汗)。
>>697 あぁ好きだよ大好きさ!オーバーナイトでちょっと出てくるって聞いて買う気なかったのに買っちまったじゃねぇかよ(誰に言ってんだ)!
まぁ、動かしやすすぎてちょっと困ることもあるんですけどね。
情報収集に関してはトップクラスのおとぼけ長寿キャラなんで、不思議話もできれば真面目話もできる。こいついれば大抵話転がせるけど、ワンパになりがちっていう典型。
次回はちょっと違う面で可愛いノーチェが書ければいいな。
>>698 あざーす。
オールドエスは……出そうと思えば出せるけどもそんなに本筋には関わらないかも。
っていうか、そんなにこっち気にしない方がいいと思いますよー(汗)?自分好き勝手しかしないし。
>>699 自分は忘れてないよっ!?侵魔ちゃん(仮名)が忘れてるだけで!
うん、自分は忘れてないってば。卓上作品板の方で勝手に捏造話書いちまうくらいには(さりげない宣伝乙)。
>>700 無効化能力をそのまま適用すると一方的展開になりますから、ある程度無視することが多いのですが、今回は……ま、先の話は置いときましょう。ネタバレもったいない。
昔JGCで行われた柊捕獲話とかでも「オーヴァードは月衣を抜いて攻撃はできない」という設定が使われてましたっけか。今回はそれを丸無視してますが。
ただし完全に適用するとアレなんで、設定としては「魔法とレネゲイドは混ぜると誤作動する」が正解でしょうか。ノーチェは月衣を持ってる上魔法系なので対処できたと。
もしもノーチェでなく柊が初見でワーディングに巻き込まれてた場合は、仲間がいなけりゃなぶり殺し、いた場合は完全に足手まといです。
具体的に言うと、ワーディングに巻き込まれた時点で「全達成値が半分になる」という鬼のようなペナがついて回るわけです(酷いなオイ)。
これを解除するには、その状態で難易度12の精神判定を行う必要があります。
ノーチェは素の状態で精神が13あり、叡智の水晶(2ndではデータ化されていないので、オリジナル裁定)で+4ボーナス、あとはダイス目7以上で成功、という状況。
なお、この判定に成功すれば以降ペナルティはなし。ついでに柊の精神値は6で、この判定を初見で成功するには最低2回クリティカルが必要だという。GMマジ外道。
元祖ブラストハンドはもう特異点とPC1ポジションなくなっちゃってるんで(笑)。
もみじができるのはせいぜい平行世界移動が限界だと思ってます。要はダブルクロスの別ステージくらいまで。
あの能力は彼女のイメージが強く影響するので、「レネゲイドがない」世界は想像できてそこに移動できても「レネゲイドがない上魔法がある」世界は想像が難しい。
強くイメージできない茫洋とした先に移動させることは難しいだろう、という判断です。っつーか考えてなかったよこのコンビの能力の世界間移動なんて(爆)!
ブラストハンド’sともみじの出番については……まぁ、後のお楽しみ、ということで。
ではでは。次回またお会いしましょう。
PS 明日以降、ひょっとしたら直接お会いできる方がいらっしゃるかもしれません。
もしも本人を見つけても、けしてエサを与えないでください。与えちゃダメですよ?俺は警告したからなっ(なにが言いたい。)!?
ノーチェ話をくりだすと速攻食いつきますが、けしてエサは与えちゃいけませんともえぇ(だからなにが言いたい。)。
――――
以上です。これでいいよな? ユージィン。
因みに私の投下物は地霊殿と緋想天を混ぜるために設定練り直したんで、あとは書けばいい……だけだとおもう。うん、がんばる。
では友人はコレで消える。じゃ!
リストが更新されねえと専ブラが動かねえ……ともあれ乙!
乙ー。
こ、こいのぼりがダメな子だ……
>>38 ギコナビなら板移転先検索でどうにかなるだろ
ぷ・・・PCが多すぎるwww
出てきてないのはアライブと完結してないエクソダス組かな?
コーヒーにこだわりのある支部長と委員長は出たというには微妙だし
トワイライトとヴァリアントは流石に出すのは無茶だと思うしなー
【馬鹿は何か言いたげな視線を送っている!】
ならば私からはガンドッグプリンセスを
NW×DXならやはり快男児と竜作じいちゃんの香港ノワール大激闘、というのもありかと。
じいちゃん確かこのあたりの時代の人だよね?
さて、この辺の時代を舞台にした作品はほかに何があるかな…
ストライクウィッチーズはちょっと後だし、サクラ大戦や葛葉ライドウはだいぶ前だし…。
え、エンゼルコア……?
>42
10年くらいズレてないか?
エンコアは大戦前夜っていうトワイライトと同じ時代だって言うだけだが?
だがNW時空なら一緒でも構わないはずさ。そうだろ?
ところで永人直ってないぜ。
>>12 ビームロケットパンチ搭載軍曹のコードはEXじゃなかったか?
…マスラヲで出ないかなぁ
>>44 む、じいちゃんそんなに年はなれてるのかー
じいちゃんは戦後の高度経済成長期の人
んで快男児は大戦前の人やね
「闇祓う光明」の第2話の再構成版といいますか、改訂版ができましたので5分後くらいを目安に投下したいと思います。
天空に紅い月が昇るとき、闇の眷属『エミュレイター』たちが人の世界へと侵入してくる。
彼らには『科学』という『常識で生み出された力』は一切通用しない。
闇に対抗しうる唯一の力、人々が遠き過去に忘れ去った『魔法』を駆使して戦う者たち。
その者たちの名は夜闇の魔法使い。
……ナイトウィザード。
グアアアッ!
前方にはライオンとヤギの頭、胴のうしろに蛇の尾を持つ巨大な四本足の怪物、キマイラがほえる。
怒りに満ちた目、よだれをたらしながら大きく開かれた口、何よりも見上げるばかりのその巨体。
鎌首をもたげる蛇の頭のついた尾からは何かがこすれるような不気味な音が。
土の上とはいえ、地面にめりこんだ足からは、その重量がかなりのものであると予想できる。
怪物の目の前には髪をポニーテールに結わえたスーツ姿の女性が。
さらに女性の後ろには、小学生と間違われそうなくらいに小柄なセーラー服姿の長髪の少女。
厚く雲で覆われた星の見えない夜空の真上に煌々と輝く、紅い満月に照らされたふたりの目に恐怖はない。
ふたりと異形の化け物がいるのはフェンスで囲まれた、土があらわになっている巨大な空き地。
フェンスのそばには何本もの木が植えられ、青々とした葉を茂らせていた。
黒井の見つめる正面には3階建て、右手には4階建てと2階建ての鉄筋コンクリート製の建物が並ぶ。
そして足元の地面にはラインが引かれ、そこが運動をするスペースであることを示していた。
そこは、糟日部市にある陵桜学園高校の校庭、そしてふたりの通いなれた母校である。
女性は陵桜学園の世界史教師、黒井ななこ、そして少女は黒井が担任をしている3年B組の生徒、泉こなた。
エミュレイターと戦うふたりはこの地を守るウィザードであった。
キマイラへの攻撃をこなたに任せ、自分は周囲に漂うゴーストを倒すことに集中する黒井。
それでも、キマイラが炎を吐いたときには魔力で黒い球体を呼び出して、こなたを守ることは忘れてはいなかった。
何度も任務を共にしてきたふたりの信頼関係は高く、お互いの動きを注視することはない。
だが、常に互いの状況に気を配っていることに変わりはなかった。
おかげでこなたの攻撃は順調にキマイラにダメージを与え続け、黒井はその間に2体のゴーストを消滅させることに成功していた。
直後のゴーストの攻撃をかわし、魔力をこめた腕輪を通じて手から生じる闇の刃をかまえ体勢を整える。
間もなく、勢いよく振り払われた刃が3体目のゴーストを消滅させることに成功した。
だがゴーストを両断したそのとき「くっ!」という声が聞こえ、こなたが出遅れたことに気づいた!
(あかん!)
おそらく、かわした時にうっかり態勢を崩してしまったのだろう。
結果、立て直しに失敗したこなたは、キマイラの前に無防備なまま立つことに!
こなたが攻撃を受ける前に何とかしなくては、そう思った黒井の背すじに寒気が走る。
大きく開かれたキマイラの二つの口の奥に、かすかな輝きが生まれたのに気づいたからだ。
( 『火炎攻撃(ブレス)』がくる!)
黒井は手にした巨大な本を急いでめくり、こなたに向かい手をかざす。
そして一瞬の集中の後、聞いたことのない言語でつづられた呪文を、一息にそして大きな声で吐き出した!
「 《 暗き守り手、躍り出よ! 》 」
かざされた手のひらから巨大な暗黒の球体が飛び出し、こなたとキマイラの間に割って入る。
直後、キマイラの口から、滝の流れにも似た炎の激流が二人に向かってほとばしる。
鉄をも溶かす灼熱の炎を目に歯を食いしばるふたりだったが、炎はまつわりつくことすらできなかった。
こなたに向かった炎のほとんども、黒い球体に吸われて中心部をかすかに光らせただけだった。
ホッとため息をつく黒井だったが、そのとき一瞬だけこなたの姿がほのかに赤く輝いたことには気づかなかった。
黒井のおかげで大きなダメージを受けることのなかったこなた。
そしてそれはこなたに態勢を立て直すだけの時間を与えることとなった。
万全の態勢で攻撃のかまえを取るこなただが、その手に武器はない。
格闘技経験者とはいえ、通常の攻撃手段ではエミュレイターにダメージを与えることは不可能なのに。
だが、こなたに攻撃の手段がないわけではない。
なぜなら、こなたは自らの肉体を武器として戦うウィザード、龍(ロン)使いなのである。
「はあああっ!」
気合と共にこなたの拳がキマイラに突き出される。
直後、拳圧と思われる風と共に、何本もの電光がからみあいながらキマイラを直撃!
バシッと何かがぶつかるような音と共に、キマイラの巨体が揺らぎだす。
ズン……
キマイラは倒れ付し、その姿があっという間にかき消されていく。
鈍い光を放つ紅い宝石をその場に残して。
大地に残された赤い宝石を無言で拾い上げ、黒井に手渡すこなた。
黒井はかるく感謝の言葉を返して、そばの空間に手を差し入れる。
ウィザードの使える個人結界『月衣(かぐや)』の効果で、ある程度のものはしまっておくことができるのだ。
「なんとか終わりましたね、黒井先生」
こなたが笑顔で語りかけると、少しだけ緊張が解けた黒井がうなずく。
ふだん口数の多い黒井ではあったが、このときばかりは口を開くことがままならなかった。
全力疾走直後のように荒い息を整えようとして動きが鈍くなっている、汗だくの黒井であった。
黒井はウィザードとはいえ、力に目覚めてからそれほど多くの実戦を経験したわけではない。
まだまだ戦いに無駄な動きも多いため、戦いによる疲労を少なくすることは難しかった。
一方のこなたは汗ひとつかいていない。
それはこなたのほうが歴戦の勇士であることを証明していた。
とはいえ時には力不足を感じることも多く、聞いている経歴に謎があることを感じている黒井であった。
黒井が手を空間から引き抜くと同時に紅い月が消え、戦いの痕跡がかけらも存在しない、ごく普通の夜景へと変わりゆく。
やがて息を整え終えた黒井がこなたに近より、そこで激戦があったとは思えないほどに軽い口調で声をかける。
「しっかし、よりにもよって陵桜学園に出るとはたいした連中やな」
「学校壊しちゃったらどうしようかと思っちゃいましたよ」
今にも舌を出しそうに、猫を思わせるような表情で笑うこなた。
先ほどまでとは別人を思わせるほどの変貌ぶりである。
だが黒井も慣れたもので、動じる様子を見せることはなかった。
「月匣(げっこう)張っとけば跡は何にも残らんから、その辺は心配しとらんかったけどな。
ちゅうか泉のほうが先輩やろ? そんな心配せんでもええって知っとるやないか」
「いやあ、月匣がいつ消えるか心配だったんですよ。あいつらが『月匣の主(ルーラー)』とは思えないし」
表情を変えないままのこなたの言葉に黒井は少し考え込む。
そして頭をかいてつぶやくように言う。
「確かにな。せやけど連中が消えたら月匣も消えたんや。連中の中にルーラーがおったんちゃうか?」
「まあ、どこかの『下がる男』みたいに魔王とばかり戦ってきたわけじゃないですからね。私もよくわかんないです」
こなたは肩をすくめる。
その姿が『無理に大人ぶっている子ども』を思わせてかわいいと黒井は思った。
こなたは他に何者かがいないかを確認するために、周囲をキョロキョロと見る。
そのそばで黒井もこなたの死角を補うように、あたりをチェック。
無言の連携がそこにもあった。
やがてあたりに誰もいないことを確認し、ホッとひと息ついて、こなたは言う。
「とりあえず、これでおしまいのようですね」
東の空高く輝く三日月の光の下、ふたりは胸をなでおろす。
と同時に、ふたりとも汗ばんでいることを思い出し、それぞれ手近な空間からタオルを取り出し汗をふいた。
汗だくの黒井とは対照的に、こなたはうっすらと汗をかいているだけではあったが。
「そやな。ほなら任務完了やな。連絡取る前にヒールしたろか?
キマイラのブレス、ダークバリア使たとはいえ、無傷やないやろ?」
そう言って大きな本、魔道書を小脇に抱えてこなたに寄っていく黒井。
あちこち触れながらケガの程度を調べると案の定、こなたの手や顔に火ぶくれが見つかった。
「やっぱりなあ、魔法に耐性のあるウチもそうやし。
さて、ほならヒールするで、泉」
そう言って黒井は、キマイラたちとの戦いを思い出していた。
こなたも、黒井も、キマイラから2度もブレスを浴びていたのだ。
呪文が主戦力となる魔術師である黒井はともかく、こなたの受けたダメージは相当なものである。
普通なら消し炭すら残さずに消し飛んでいたはずであった。
実は、こなたのそばに出現させた暗黒の球体の正体は、ダークバリアという魔法の障壁であった。
球体のそばで発動する『攻撃力を持った魔法』を吸い寄せる魔法である。
とはいえ、キマイラの強力な火炎を防ぎきることはできなかったようで、こなたも黒井も、からだのあちこちに火ぶくれができていたのだ。
それでも、まともに火炎を浴びるより、はるかにマシであることは確かであった。
こなたのそばに立ち、黒井は魔導書片手に呪文を唱える。
「 《 清らなる、癒しの御手よ 》 」
黒井のからだが、こなたのからだが、うっすらと輝きだす。
こなたは自分に魔力が流れ込んでくること、それまであった痛みが少しずつ引いていくことを感じる。
しばらくたてば、火ぶくれが跡形もなく消えるであろうことは間違いなかった。
「先生、きょうもフォローありがとうございます。先生がサポートしてくれるからこそ、私が思い切って前に出られるわけで。
タンカーだけでは持ちこたえられませんからね。 ……あ、まあ、さっきは先生の後ろに立っちゃいましたけどね」
こなたの発するネトゲ用語に、黒井は出会った日にふたりで決めたことを思い出す。
『泉、ウチらの任務のこと、ネトゲのフリして話さんか? これやったら学校で話したりメールでやり取りしてもおかしないやろ?』
この言葉を聞いた時の、こなたの狐につままれたような顔を、黒井は今でも思い出す。
当時、それなりに社交性を発揮するものの、どこか覚めたところがあった、こなた。
そのためか友人らしい友人はおらず、どことなくクラスで孤立しかけていた。
とはいっても完全に孤立しているわけではなく、一歩引いたところからみんなを見ている感じであった。
そんなこなたが大きく顔をくずしたことが、その時のことを強く印象付けていた。
やがてふたりを包んでいた魔力の輝きが薄れる。
呪文の発動が終わったのだ。
「よっ……と。うん、全部治ったみたいですね」
精神集中を解いた黒井が、呪文を唱えている最中のこなたの言葉に答える。
「さっきのはしゃあないって、ふたりっきりで戦ったんやし。
ま、マジックユーザーだけでもしゃあないんや。これからも頼むで、泉」
続けて自分自身に呪文を唱える黒井を見ながら、こなたは答えた。
「こちらこそ、黒井先生」
笑顔で答えるこなたを見つめ、黒井はこなたの成長に思いをはせる。
どこか覚めたところがあり表面的な付き合いはできていたものの、親しい友人のいなかった入学当初のこなた。
その表情が人懐っこさのある明るいものへと変わり、多くの友人に囲まれるようになっていた。
なにが変化の理由だったのだろうかと思い返しているうちに、ひとりの少女とその友人たちの姿が浮かんでくる。
休み時間に、黒井が担任をしているこなたのクラスにちょくちょくにやってくる、髪をツーテールに結わえた神社の娘。
四人姉妹の三女で、こなたと同じクラスに双子の妹がいる、こなたがもっとも仲のよい友人。
柊かがみ。
彼女の双子の妹で、こなたと同じクラスにいる、柊つかさ。
そして、なぜかこなたたちと馬があう、学級委員を務めている優等生、高良みゆき
彼女たち3人とかかわりだすようになってから、こなたの表情が豊かなものへと変貌していったのだ。
(学級委員の高良や柊の妹にも影響受けとるけど、何より柊の姉のおかげやな)
黒井は温かい目でこなたを見つめる。
そんな黒井の視線に気づいたこなたは、キョトンとするばかりであった。
「黒井先生、どうかしました?」
無邪気な顔で見つめるこなたに、黒井は時の流れを感じていた。
そして、はじめてウィザードとして対面した時のことを改めて思い返す。
「泉、自分が三岬町から越してきたウィザードか?」
黒井の質問に無言でうなずくこなたに、黒井は返す言葉を失っていた。
ここで黒井が会うはずたったのは、少し前まで三岬町で活動していたベテランウィザード。
ところが、目の前に立っているウィザードは、自分の教え子だったのだ。
「先生が孤高の黒豹? じゃあ、自己紹介は省かせてもらいますね。
で、用件ですけど、私、日本コスモガード連盟から先生を指導するようにって頼まれました」
ほほえんではいるものの、黒井を見つめるこなたの目は覚めていた。
(あれから2年とちょっと……か。あっという間やったな)
ひたっていた思い出から抜け出して今を思う。
そして、自分を覆っていた魔力の光が消えていることに、その時気づく。
「おっ、きっちり治ったみたいやな」
それまで痛みを感じていた部分に触れてみると、もう痛みは感じない。
治療は完璧に終わったようだ。
「さて、と」
携帯を取り出し、いずこかへと連絡を取る黒井。
しばらくコール音がなった後、出た相手に黒井が話し出す。
「日本コスモガード連盟ですか? 黒井ななこです。泉こなた共々、任務、無事に完了しました。
詳細は後ほど書面にて連絡しますよってに。ほなら」
黒井は携帯をしまい、こなたを見るとニヤリと笑って口を開く。
「泉、きょうはこれでしまいやな。だいぶ遅うなったけど、宿題忘れたらあかんで」
「うぇぇぇっ! 黒井先生、任務なんだから仕方ないじゃないですかあ」
「そないなことが理由になるかい。第一、任務のことはみんなに内緒にせなあかんのやなかったか?
そんなんで宿題免除できる思うとったら大間違いやで。ほなら、学校でな」
こなたに手を振ってから小声で何かつぶやくと、黒井の姿はかき消すように消えた。
黒井は転送魔法を使って自宅まで戻ったのである。
直後、こなたも黒井と同じ転送魔法で姿を消すこととなった。
「で、いったい何の用だ? アンゼロット」
こなたと黒井が陵桜学園の校庭で激戦をくりひろげてから数日後、どことも知れない場所に立つ巨大な白亜の城のテラスに声が響く。
広々とした海の上に浮かぶ巨大な岩山がいくつもあり、そのひとつひとつの岩山の上に城が建てられている。
岩山は城の建てられている頂上付近と波打ち際につながる麓はしっかりとしているものの、その間をつなぐ部分はまるで針金細工のように細くなっていた。
巨大な城壁の上に高々と伸びるいくつもの尖塔が並び、全天を覆う青い空には巨大な星がいくつも見え、その中にはなんとわれわれの住む地球までふくまれていたのだ。
一幅のシュルレアリスム絵画のような光景に囲まれ、そびえたつ城。
その中のひとつ、もっとも巨大な城にその声は響いたのだった。
そこは、われわれの世界とは異質な場所にある、『世界の守護者』の居城であった。
テラスの中央に置かれた大きめの丸いテーブルに3人の人物が座り、そのまわりにはエンジ色の軍服を着た男たちが何人も立っている。
男たちは美形ぞろいと思われるが、その顔は仮面で覆われてよく見えない。
だがその表情は硬く、何かを警戒しているようだった。
テーブルでは人形を思わせる銀髪の少女と、白い小袖に緋袴という巫女装束の若い女性が、ひとりの青年を見つめている。
青年はTシャツにジーンズ、パーカーといったラフなかっこうをしており、どう見てもこの場にはそぐわない。
しかも、腕を組んで銀髪の少女をにらみつけており、とても穏やかな話しが行われているとは思われなかった。
先ほどの声の主はこの青年のようであった。
テーブルには三つのティーカップ。
青年の隣に座っている少女と、女性の分は少なからずカップの中身が減っていたが、青年の前に置かれたカップに注がれた紅茶は出された時のままであった。
「そんな怖い顔でにらまないでください、柊さん。怖い顔がもっと怖くなりましてよ」
「やかましい! とっとと任務の内容を教えやがれってんだ!」
笑顔を絶やさずに青年に話しかける少女の名は真昼の月『アンゼロット』、全てのウィザードに指令を出すことのできる世界の守護者である。
われわれの住む世界、『第八世界ファー・ジ・アース』とも呼ばれるこの世界は、幻夢神と呼ばれる神の見ている夢として生まれた世界である。
そして、大いなる観察者『ザ・ゲイザー』、そして本当の名前が不明でTISという呼び名で呼ばれる少女、この二柱の神の分身が代理でこの世界を治めているのだ。
アンゼロットはゲイザーの指示の元、永遠とも思える長い時間、この世界を守護してきたのである。
そんなアンゼロットに諫言をする者はいても、くってかかる者などまずいない。
ある種、この青年だけに許された特権とでも言っていいのだ。
とはいえ、青年の払った代償を考えると割に合わない特権ではあるが。
「ホント、柊は怒りっぽいんだから。せっかくアンゼロットがお茶を出してくれたんだから、少しは飲みなよ」
「何が入っているかわからないもん、飲めるか!」
青年はぷいと横を向く。
その大人気ない態度に、女性は隣で肩を落とすしかなかった。
ふてくされたような態度を取る青年をあきれ顔で見つめる、巫女装束の女性の名は赤羽くれは。
青年の幼馴染で陰陽師の名家と呼ばれる赤羽家の長女で、その力でエミュレイターと戦うウィザードのひとりである。
かつて『星の巫女』という運命を背負い、世界を滅ぼす原因になると世界中から狙われたこともあった。
だが、共に高校生だった青年とローマ聖王庁の使者、そして『星の勇者』の運命を背負った後輩と協力し、その宿命を打ち破ることに成功。
その時以来、青年への思いはさらに強くなったのだが、青年はいつまでたっても気づいてくれない。
それだけが、くれはの不満であった。
なお、巫女装束は中学時代からくれはの常服となっており、自宅、学校、その他を問わず常に同じ姿である。
それはくれはの通っていた輝明学園、そして赤羽家の特色であり、くれはもそのことに異議を唱えたことはなかった。
だが、他校の生徒との交流から巫女装束を常服としていることは『普通ではない』ということに気づいてはいる。
とはいえ、このまま家業を継ぐことはすでに決めており、他の服装をする機会が少ないことに不満は抱いていない。
そのくれはが見つめている青年の名は柊蓮司(ひいらぎ・れんじ)。
どこにでもいそうなガラの悪い青年にしか見えないが、世界の危機を人知れず何度も救ったことのある英雄なのだ。
もちろん、そんな彼がただの人間であるわけはない。
彼もまた日本コスモガード連盟に所属するウィザードのひとりなのである。
彼の活躍は『柊サーガ』としてウィザード、特に世界各地にあるウィザード組織の幹部たちに知られている。
魔王の力により、その名を冠した小惑星『ディングレイ』が地球に衝突するおそれがあるという危機に陥ったときが、彼の名が知られるようになった最初である。
このとき彼は小惑星を導く役目を担ったエミュレイター『星を継ぐ者』を、『星の勇者』が滅ぼす助太刀をしたのだ。
つづいて異世界『第一世界ラース=フェリア』に存在する魔王ディングレイの本体が、こちらの世界に戻ってきたところをラース=フェリアの戦士たちと協力して撃破。
これで、幼馴染のくれはが背負っていた『星の巫女』としての運命を完全に断ち切ることもできたのだ。
さらに金色の魔王『ルー=サイファー』が世界結界と呼ばれるエミュレイター排除の結界を操作し、ウィザードの持つ力を失わせようとする企みをも阻止したのだ。
これらは全て、ひとつの目的に沿って魔王たちの企んでいたものであり、その最終目的が七徳の宝玉の収集であった。
「どんな願いでもひとつだけかなえることができる」という宝玉の争奪戦、後にマジカル・ウォーフェアと名づけられた戦いの中心に、彼はいた。
だがアンゼロットにも裏界の魔王たちにもひとつの誤算があった。
宝玉がそろった時に起きるのは「願いをひとつかなえること」ではなく、裏界の皇帝『シャイマール』の復活。
シャイマールの力で世界を滅ぼすことこそが、宝玉の収集をアンゼロットに命じたゲイザーの真の狙いであった。
だが、その企ても大勢のウィザードたち、特に柊蓮司の手によって阻止されたのだった。
その他にも、彼は大きな戦いをいくつも経験している。
近い将来、自らが魔王となって、はるか未来で世界を滅ぼすことになるウィザードが、魔王として覚醒することを防いだこともある。
「柊力」と呼ばれる謎の力を狙ってきた古のウィザードを倒したこともある。
異世界に逃亡した魔王のかけらがその異世界を狙うものの力を取り込み、復讐に戻ってこようとすることを防いだこともあるのだ。
さて、柊蓮司が出された紅茶に手をつけないのには理由がある。
『アンゼロットのオモチャ』とも言われる柊蓮司がアンゼロットから受けたさまざまな仕打ちに、アンゼロットから出された紅茶が絡んでいるからであった。
任務完了の慰労と共に出される紅茶、それは次の任務の指令を出すための前置きでしかないことがほとんどであった。
時には紅茶を飲んだとたん眠らされ、次の任地へと連れて行かれたこともある。
こんな仕打ちを受けてばかりいたら、飲むことを躊躇するのもやむをえないと誰もが思うであろう。
と思うのは彼ばかり、他のだれもがそのことを気にも留めていなかった。
にらみつける彼の視線を軽く受け流してアンゼロットは口を開く。
「では、お話したいと思います」
ふたりの次の任地は埼玉県鷹宮市および糟日部市、任務の内容は陵桜学園で起きている異常事態の調査。
そして、鷹宮神社およびその関係者の護衛であった。
「柊」
「ああ」
鷹宮神社と聞いたとき、くれはと柊蓮司の顔つきが変わる。
神社の宮司一家は彼の親族にあたり、今の宮司と彼の父親は再従兄弟(またいとこ)の関係にあった。
親族としてのつながりは薄いが、赤羽家とのつながりもあり、宮司夫妻と娘の四姉妹とは彼が中学生のころまで、何度か顔をあわせたことがあったのだ。
ウィザードとなってからは任務に追われて会うこともなくなっていたが、彼は姉妹と一番最後に会ったときのことを思い出していた。
姉妹の上ふたりは自分の姉である柊京子とフンイキの似たところもあり、苦手な相手ではあったが、話し相手にはなってくれた。
だが、下の双子は近寄るそぶりすら見せず、口を聞くことすらできなかった。
双子の姉のほうからにらみつけられていたことを思い出し、つい苦笑する。
(そういや、『お姉ちゃん』のガードが固かったっけなあ)
「柊さんには陵桜学園高校で、それからくれはさんには鷹宮神社での護衛をお願いしますね」
「ちょっと待った!」
思い出にふけっている柊蓮司は、肩を震わせながら叫ぶ。
それは恐怖ゆえの震えではない。
かつて任務で行われた処置を思い出して、怒りに満ちているが故の震えであるのだ。
「まさかこの年で高校に通えって言うんじゃないだろうな、アンゼロット! 今さら高校生に『下がる』なんてイヤだぞ!」
「はわぁ、柊、また『下がる』んだ」
「下がってたまるか!」
「はわっ!」
柊蓮司の即答にくれはは驚く。
そんなくれはの顔と、アンゼロットの邪気にあふれる笑顔をよそに怒号があたりに響く。
その表情はそれまで以上にあせりを感じるものになっていた。
『下がる』
それは、彼がウィザードとなってからずっと、つきまといつづけている言葉であった。
彼の本来の二つ名である『裏切りのワイバーン』より、『下がる男』という呼び名のほうが知られていることも、それを証明している。
高校生の時、2年から3年に進級するはずが『なぜか』1年に学年が『下がった』のがそのはじまりであった。
その後、別の任務において成長した力が強すぎるという理由で、その能力を『下げられ』てしまう。
さらに別の任務では、せっかく復帰した高校3年から中学3年にまで学年が『下がり』、復帰後さらに別の任務において高校2年に『下がって』しまっていた。
しかも、アンゼロットに渡された『下がるお茶』で年齢まで『下がって』しまったことまである、という始末なのだ。
その結果、彼にとって『下がる』という言葉は既に忌まわしいものでしかなくなっていた。
「輝明学園とは勝手が違いますから、柊さんにも臨時雇いの職員という形で行っていただきます。
柊さんは陵桜学園の警備および用務員ということで、くれはさんは鷹宮神社のお手伝いということで。
それぞれ近くに住居も用意してありますので、このままお連れしますね」
アンゼロットは終始笑顔を絶やさぬまま言葉を締めくくろうとしたそのとき、くれはが言い出す。
「ねえねえアンゼロット。ちょっと、お願いがあるんだけど……」
席を立ち、まっすぐアンゼロットのそばに近寄るくれは。
周囲で警戒している精鋭部隊『ロンギヌス』のメンバーに、かすかに緊張が走った。
アンゼロットに危害が加えられることを警戒してのことである。
だが、くれはに危害を加える意図がないことを感じ取ったアンゼロットが、目でロンギヌスたちを制止した。
このやり取りに気づいたのかはわからないが、くれははそのままアンゼロットの脇に立ち、柊蓮司に聞こえないように小声で耳打ちをする。
その内容にアンゼロットは目をみはった。
「よろしいんですか?」
くれはは大きくうなずいて、ポリポリと頭をかきながら言った。
「ここら辺で、ちょっと思いきっとかないとダメだろうしね」
くれはとアンゼロットはそろって柊蓮司を見つめる。
彼はキョトンとするばかりであった。
「なんだあ?」
そのとき、急に何かを思いついたかのようにポンと手を打ってくれはが言う。
少々芝居がかって見えるのは、意図的なものなのであろうか。
「そうだ柊! たしか、鷹宮神社の親戚も『柊』だったよね? じゃあさ、呼び方変えてもいいかな? ……『蓮司』って」
「いいぜ! ……っていうか、前に向こうの連中と会ったときも、そう呼んでたじゃねえか。今さら気にすんなって!」
途中から赤くなってモジモジしながら話すくれはの言葉に、彼はあかるく答える。
それは何も考えずに発せられた言葉のようであった。
その態度にくれはとアンゼロットは頭を抱えるしかなかった。
だが、それを見た彼は頭をひねるだけであり、ふたりの落胆の度合いはますます深くなっていった。
「ダメだ…… ぜんっ…… ぜん、わかってない」
「柊さんが鈍感であることはわかってましたけど、これほどだとは……」
こめかみを押さえながらのふたりのやり取りに、キョトンとするばかりの柊蓮司であった。
以上です。
とりあえず、この4人を中心に物語は進んでいく予定です。
登場人物について
PC1:柊かがみ
登場時点では未覚醒ですが、彼女もウィザードです。
クラスは陰陽師/ヒーラー覚醒時のレベルは5になります。
PC2:泉こなた
クラスは現時点では秘密。
レベルは9です。
PC3:黒井ななこ
クラスは魔術師/キャスター
レベルは7です。
PC4:柊蓮司
クラスは魔剣使い/アタッカー
レベルは13、「シェローティアの空砦」のデータを元にしました。
まだ交わっていないかららき☆すた陣に違和感があるけれど、
続きを楽しみにしてますよ b
あ、気になった点。柊蓮司は炎砦以降は日本コスモガード連盟と縁が切れているハズ。
ルール的にはシナリオフックでしかないので「星を継ぐ者」内のみに限定され、
物語的には「星を継ぐ者」でくれは暗殺命令に違反したから解約されたカンジ?
63 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/22(金) 22:51:35 ID:8xoo81Ka
>>62 ……芳香剤関連で新たにコネ結んでるとか。
普通に考えると何らかの手は打ってると思う。土星での会戦でも戦力に数えられてたし。
ゆにまほの人はJGCのホテルから投下するつもりだったらしいよ。
でもホテルの回線が死んでるから私が代わりに投下することになったよ。
11時半から投下しまーす。
のあっリアルタイム遭遇
友人さん乙ですー
<休日の過ごし方 −氷とわんこと小さな鬼−>
喫茶「ゆにばーさる」にも、月に一度定休日がある。不定休だが。
今月は盆が終わるまでは定休日を取らないことを当初の予定にしていたが、永斗の抜けた穴は意外に大きく、そろそろ全員に休みを与えないと誰かが倒れる、という状況。
そんなことを結希が漏らしたことを霧谷は深く受け止め、世間が本格的な盆休みに入る少し前の月曜、定休日を挟むことを決意したのだった。
いきなり降ってわいた休日に、めいめい大切な人のところに行ったり、連絡を取り合ったりということをしている中、ノーチェは一人秋葉原の町を歩いていた。
ノーチェと柊はこちらでは異邦人である。連絡をとりたい相手もいないし、そもそも顔見知りそのもののが「ゆにばーさる」内のみに近い。
探し物をしていることもあるし、結希にもらった臨時ボーナスで(2000円)、向こうの世界でもしてない秋葉原観光を決行しようと思ったというのもある。
そんな理由から一人ぷらぷらしているノーチェだった。
ゆにばーさる近くのマンションから、ジーストア前を通って中央通を渡って古くからある定食屋へ。
そこでから揚げ定食を『もっきゅ☆もっきゅ☆』と食べた後、最近出たという冷たいおでん缶をつつきながら駅から離れるように狭い路地を選んで歩く。
と。狭い路地の中の、さらに路地裏へ行く道。そこで、見慣れた白髪頭を見た気がした。
ノーチェは一度は路地の前を通り過ぎたものの、そのままバック。再び白髪頭を目にする。
重力に逆らっているクセの強い白髪頭は、やはり同僚のものだった。彼はその場にしゃがみこんだまま動かない。
彼女は、月衣からもう一つ買っておいた冷たいおでん缶を取り出す。人間腹がすきすぎるとばたりと倒れる奴もいる。
「司ー、どうしたでありますか?お腹が減って力が出ないでありますか?」
「おわっ!?……な、なんだノーチェか。おどかすなよ」
「そのつもりはないのでありますが、そうなってしまったならごめんでありますよ。
それで、こんなところでどうしたでありますか?お腹減ってるなら、はい。おでん缶でありますよ」
「……ありがたくもらっとく」
いらない、と言えないあたり生活苦が感じられる。
缶詰はかなり日持ちがするため、一人ぐらしの強い味方なのである。缶コーヒーとか5年は持つらしいし(未確認情報)。
ともあれ、再びノーチェはたずねた。
「それで。司はこんな何もないところで何してるでありますか?せっかくの休日、お友達と遊んだりしないでありますか?」
それに少し困った、というか言葉に悩んだように司が答える。
「あー……俺の暮らしてたとこってのが、日帰りで行くには厳しい場所でな。そもそも貧乏人にはすぐ切符とれるだけの金もないってことだよ。
電話も仕事用にもらってるのしかないし。携帯はとっくに基本料払えなくて解約させられたしな」
「え?結希の話では司にはこっちに来ているご友人がいると聞いているのでありますが」
「友人ね、そりゃたぶんケイトのことだな。あいつは支部長と二人の世界築いてるころだろうから友人ってのはお邪魔虫だろ」
邪魔してやるのもそれはそれで楽しいんだけど、ケイトの奴には今ごろ最大の壁が立ちはだかってるだろうしな、とぼやく司。
ちなみにその想像は限りなく当たっており、結希の部屋の前で彼と智世はハブとマングースよろしく対峙しているのだが、話の本筋から離れるので割愛。
くりん、と首を傾げてノーチェは問う。
「それで、司は結局何してたでありますか?」
「いやな……ちょっと困ってたとこなんだけどな。こいつ、どういうことだかわかるか?」
本気でなんらかの対応に困っている様子の司。
ノーチェが司の横からひょい、と後ろを覗きみると、そこには小さな柴犬がいた。
子犬は暑いらしく舌を出しているが、司の足に体をこすりつけながらじゃれているように見える。
「……犬、でありますな」
「そんなことは見りゃわかるっ。そうじゃなくて、こいつが離れないんだよ」
「好かれてていいことではありませんか」
「よくねぇよっ!?」
要領を得ない、と言うように訝しげな目を司に向けて問うノーチェ。
「だから、なんでそれで困ってるでありますか?
ちっちゃい動物に好かれてるっていうのは悪いことではないでありましょう。榊さんが見たらもう悶絶ものでありますよ?」
「誰だよ榊ってっ!?」
まぁ、彼女が嫌われるのは猫限定だが。……あれは非常に同情したくなる姿であった。
閑話休題。
司は、しばらくうなりつつじっとノーチェを睨んでいたが、やがて子犬に目を落として呟いた。
「……苦手なんだよ、こういうの」
「犬が苦手なのでありますか?どこの『ザ・捕まる男』でありますか」
「誰だよそれは。そうじゃなくてだな―――こういう、ちっこいのが寄りかかってくるってのは、苦手なんだ」
ぽつり、ぽつりと語りだす司。
母親は司を生んですぐに死んだ。顔も覚えてはいない。
父親は彼の目の前で一度<ロード・オブ・アビス>こと長瀬明(ながせ・あきら)により殺され、一度死んだ後にジャーム化。
同時に光の雨に撃ちぬかれた兄もその時に死に、永斗はオーヴァードとして覚醒した後、司を襲おうとした父を、もう一度殺した。
学校の友人も、こちら側に踏み入れても生き残っているのはケイトだけ。
クラスメイトとして前日まで接していたはずの人間も死んだり、ジャーム化したりと何人か消えたことだってある。
そうやって、レネゲイドウィルスに関わったものが次々と消えていくことを彼は知っている。
多くの人々が知らないまま変貌した世界の中で、それでも司は懸命に立っている。それはオーヴァードすべてに言えることだ。
けれどオーヴァードとして覚醒した自分もまた、レネゲイドウィルスに関わる者。
それゆえにというべきか。司は自分が「普通の人間」とは違うイキモノであると思っている。
だから日常にしか生きていない、それも人に寄りかからなければ生きていけないような、小さな「まっとうな」生き物に懐かれるのは、困る。
司はそう告げる。
彼の告白に、ノーチェはため息をついた。
やれやれ、とでも言いたげな彼女のその司を小馬鹿にするような仕草に、彼は睨みを利かせる。
「なんだよそのため息は。言いたいことがあるんなら言えや」
「じゃあ、遠慮なく言わせてもらうでありますよ。
いいでありますか?司はたしかにたくさんのものを失くしたのでありましょう。けど、まだ司はここにいるではありませんか」
ノーチェは、優しく微笑みながら司に呼びかけるように告げる。
彼女は吸血鬼だ。生きる時間が、流れている時の流れが、彼女が出会っては友だちになっていく人間とは違いすぎる。
消えるものがある。失うものもある。それでも彼女は人間と関わることをやめない。今まで関わった人々を、水晶球に記録して。ずっとずっと「誰か」と生きていく。
たとえひとところに留まることができなくとも、人との関わりの中で生きていく。おそらくは、一人で消滅するその時まで。
その理由は簡単で―――人と関わっている時こそが、彼女が一番楽しい時であるからだ。
彼女は人間ではないが、それでも人としての意識を持っている。
人間社会で人に混じって生きている以上当たり前といえば当たり前だが、なまじちょっと超人病がでかかった人間なんかよりもよほど人間らしい。
だから、言う。
「司は、まだこの世界にいるのでありますよ。
たとえ非日常の世界に足を踏み込んでいようと、すでに自分から人との交わりを捨てたバケモノとは違う。
あなたが誰かを傷つける力を持ってても、殺せる力を持ってても、なんの理由もなくこの子にそれを向けるわけではないでありましょう?
それなら司は、まだ人間でありますよ。
それに―――この子は、司を守ってくれる優しい『人』だと思ってるみたいでありますよ?」
くすりと笑って言った言葉に呼応するように、子犬はじゃれているだけではなく、つかまり立ちするように前足を司の足にかける。
その瞳は純粋そのもので、ノーチェの言葉を肯定するように司をじっと見上げていた。
司はしばらくその目を見ていたが、やがて諦めたようにため息をついた。
「……っだぁぁ、ウチは犬なんか飼ってる余裕ねぇんだってのに」
「おや、飼うのでありますか?」
「このまま付いてこられて、間違って車にでもはねられたり飢え死にとかされても寝覚め悪いだろうが。
ノーチェ、お前金残ってるだろ?必要なもん買いにいくぞ」
「あのマンションて犬飼ってもよかったでありましたか?」
「そこは応相談ってとこだろ……まぁ、支部長なら丸め込める気がしなくもない」
片手で子犬を抱え込む司。すると子犬はその腕をするりとすり抜け、前足を司の肩にのせて彼の薄いフードの中に納まり、すぐにべた、と頭に前足をかけて止まった。
いきなりの行為に司が抗議の声を上げようとするが、ノーチェがそうでありますか、と能天気に言いながら、中腰になっていた司の頭の上にちゃんと子犬を乗せてやる。
「司の頭に乗りたかったのでありますね?これでオーケーでありますか?」
わん!と元気に答える子犬。
そんなやり取りに抗議する気力を失い、ハーフのカーゴパンツのポケットに手を突っ込み、ノーチェに行くぞ、と促す司。
了解でありますっ、と言って元気に彼女はその後ろをついていく。
『お前、こいつの言いたいことわかったみたいだけど動物と話せるのか?』『いえ、なんとなくでありますよ』『あぁ、頭の中動物級っぽいもんな』『し、失礼なっ!?』
そう、にぎやかな日常を回しながら。
<休日の過ごし方 −異邦人とチルドレンと町−>
柊は、いきなり生まれた休みを持て余しているところを同じくヒマな隼人に連れ出されることになっていた。
もっとも彼としても、地元である秋葉原については案内は必要なくとも、
喫茶店の仕事とマンションとの行きかい以外ほとんど歩いたことのない「この世界の秋葉原」についてはよく知らない。
外に出るのなら、案内をしてもらいがてらもといた世界との違いを見るのも面白いだろうと隼人に連れられたままにして歩いている。
隼人も特に休みにすることがなかったために、同じくヒマそうだった柊を誘って町をぶらぶらすることにしただけだ。特に行きたいところがあるわけでもない。
とりあえず腹ごしらえすることもなく出てきたために、隼人が近くのケバブドッグを二人分買いに行く。
それを待ちながら、柊はぼうっとガードレールにもたれながら人の流れを見ている。
ここ最近、馬車馬が裸足で逃げ出すようなハードな仕事内容をこなしていたのだ、いきなりの休みと言われて気が緩んでいるようである。
そんなことを自覚して、少し自嘲した時だった。
―――黒く長い髪の人影が見えた。
視界を通りすぎたその人影を、あわてて視線で追う。
ほどなくしてそれは見つかったが、当然彼が考えている人物であるはずもなく。
「お前、ああいうのが好みなのか?」
ちょうどその時タイミングよくというか悪くというか、戻ってきた隼人にそんなところを見られていた。
彼の好奇心に満ちた視線にさらされつつ、柊はバツが悪そうにそんなんじゃねぇよ、と答える。
悪い悪い、と苦笑しながらケバブドックを渡しつつ、笑いはそのままで隼人がたずねる。
「けど、今の様子はどう見ても普通じゃなかったぜ?なんかマズいもんでも見たのかよ」
彼なりに、様子のおかしかった柊を心配しての発言である。
隼人は柊を一番最初に発見した人物である。彼が、彼の敵を追ってこんなところまで来てしまったのも、元の世界からのバックアップが受けられていないことも知っている。
そんな状況で任務をすることになったら、ということを考えれば隼人自身ふざけんなと言いたくなる。
だから、柊がもし敵に出会うことになったら最初に見つけた人間として手伝いくらいはしてやろうと思っていたのだ。
けれど今のはそういう物騒なことではなかったらしい。
その証拠に柊はう、とうめいて少し黙った。通常時は思ったことをすぐ口に出す彼としては珍しい。
言いたくなければ言わなくてもいいけど、と隼人が言おうとしたその時、柊が一瞬前に白状した。
「……幼馴染に、よく似た奴がいた」
「幼馴染?」
「あぁ。ったく、こっちはあっちじゃねぇんだからいるわけないってのにな」
そう苦笑する柊。
よく似た『秋葉原』の光景だからって、知りあいを見間違えるなんて相当疲れてるんだな、とぼやく。
隼人は、一拍おいて人の群れに視線を移しながら軽い口調でたずねた。
「ホームシックか?」
「らしくねぇが、そうかもな。長い間家空けんのには慣れてるはずなんだが」
半年も任務に叩き込まれたこともある。確かにそれ自体は珍しいことではないが、なまじこの光景がよく実家近くに似ているために郷愁をさそったようだ。
はは、と苦笑する柊に対して、隼人はいいじゃねぇか、と目を細めながら言う。
「帰れる場所があるんだ。そこを大事に思うのは普通だろ、失くしてからじゃ遅いからな」
隼人がオーヴァードとして目覚めたのは、大きな事故にあった時だった。
正確に言えば、それで両親を失った彼がとある研究所に検体として運び込まれた、それが彼の不幸だった。
そこで検体として扱われた彼は、人間の尊厳を踏みにじるような研究を行われ、そこが壊滅した後にUGNに引き取られチルドレンとしての教育を受けることになった。
だから、自分には『帰る場所(にちじょう)』が存在しないと思っていたのだ。
―――そう、少し前までは。
少し誇らしげに、彼は言う。
「俺だって、仲間が消えたりするのは嫌だからな」
彼の胸ポケットには、数枚の写真を収めた定期入れがいつも入っている。
特に電車移動をすることのないUGNのエージェントであるが、それでも彼がそんなものを持っているのは、中に入っている写真をとても大切に思っているからだ。
今一番上に入っているのは、ぼろぼろの少年少女の写真だ。彼と椿と狛江、そして少年二人。みんな傷だらけであるにも関わらず、全員どこか誇らしげにしている。
それは、彼がチルドレン時代に撮った最後の写真。
彼らが自分達の信じた道を貫き通し、そのおかげで今も続く「みんなの日常」を守りぬいた、その時の写真だった。
そこには、隼人の日常(まもりたいもの)がある。失くしたくないものがある。
だから、それを守るために戦える。
そこにオーヴァードやウィザードといった境は存在しない。
戦うのは、単に大切なものを守りたいからというとんでもなくシンプルな理由。そして、彼らが刃をとるのはそんな理由で十分なのだ。
隼人の過去を知っているわけではないが、その気持ちだけは理解できたのだろう。柊も口の端を緩ませながら、だな。と呟いた。
秋葉原の街をぶらぶらと歩く。人通りもある程度おさまってきたのを実感していたその時だ。
彼らを含む周囲が、<ワーディング>に覆われたのは。
隼人はすぐさま周囲を警戒しだす。
柊は一瞬激しい頭痛に襲われたが、それでも倒れるのだけはこらえた。ノーチェと同じ、月衣の誤作動現象である。
彼女からワーディングの危険性について説明されていた柊は、じんじんと痛む頭の訴えを無視してつい先日ノーチェによってスタンプ式につけられた魔装を起動する。
魔装。
最近になってファー・ジ・アースで開発された、「装備する魔法」である。
以前は魔法の習得に、決められた手順を踏んだ詠唱行為を覚えることが必須だったのだが、それでは使い勝手が悪い、という声によって作られたのが魔装である。
今でもそういった古い形式の魔法を使う魔法使いもいるが、魔力を食わせ続けることさえできれば誰にでも魔法が使えるという魔装の利点は大きい。
形式としては特定の効果を生み出すために組まれた紋章や呪文を、直接肉体に彫り込んだり、もっと簡単に特殊な定着液をつけた透明インクでスタンプしたりと色々である。
柊がワーディングに巻き込まれた時用に、水晶球の記録を読み込んだノーチェが対ワーディング用魔装を作り、先日完成したものを彼にぺたんこと貼り付けておいたのだ。
魔装が起動すると同時に一気になくなる頭痛。心の中でノーチェに感謝し、月衣に異常がないかを確認、隼人と同じく周囲に目を配った。
そこには、黒い悪魔のような生き物がわらわらと現れている。数としては5、60といったところか。ノーチェの話とも符合する。
隼人は柊に視線をやり、呟く。
「やれるか?」
「は。誰に向かって言ってんだ」
ワーディングが張られると同時に体を揺らがせた柊の心配をした隼人の言葉に、力強く返して彼は月衣から相棒を取り出す。
柄に赤い宝玉をおさめた、白金に輝く剣。それは、幾度となく彼と世界の危機を超えてきたパートナーだ。
それを見て、隼人も少し口の端を持ち上げた。どうやら余計なお世話だったようだ。
隼人も定期入れを胸ポケットから取り出し、モルフェウスとしての能力を発揮する。黒革の定期入れは一瞬にして黒い日本刀に「変化」した。
物質を変化させ、まったく違う物へと変質させるシンドローム、それがモルフェウスだ。
その光景を初めて見た柊は、けれど特に驚くこともなく言った。
「それがお前の力ってわけか。見せてもらうのははじめてだな」
「つまんねぇな、もうちょっと驚けよ。それとも、そっちにも似たような力があんのか?」
「そうだな……箒が変形したりはするけど、そんなきちんと変化はしない。ただ、なんつーかもうある程度のことなら驚かなくなっちまっててな。
椿に一本釣りされんのとか見ちまってたし。」
「それもそうだな。じゃあ―――こっからは、せいぜいお前を驚かせてやるとするかね!」
同時、二人の剣士が地をかける。
72 :
sage:2008/08/22(金) 23:36:59 ID:RggsgkMA
sienn
柊は近場の一匹を斬り伏せ、その勢いを利用してすぐさま左足を軸足に一回転。集まりつつあった異形共をなで斬りにする。
彼を包囲した状態で首をぽんぽんと刎ね飛ばされた化け物の上を跳躍してくる一匹が、頭上から柊を襲う。
それに対し慌てることもなく、もはや動かなくなった先の一匹の平らになった切断面を蹴って、頭上からの一撃をすり抜けながらかわし―――
―――「何もない空間」を蹴って角度を調整、背面跳びによく似た体勢から体を捻り、意趣返しのように斜め上から飛びかかりつつその異形を袈裟に叩き斬り伏せる。
初めて見た人間は、ワイヤーアクションを見ているような気分になるだろうが、これもれっきとした『月衣』の効果、その特殊利用である。
月衣は個人用結界―――逆に言えば、自身の意思により形成される一つの「世界」だ。
世界結界の薄くなったファー・ジ・アース内では、これさえ纏っていれば浮遊することも可能になる。
が、近距離白兵戦を得手とする者達にとっては踏ん張りのきかない空中は技の威力を殺すことにもなりかねない。
よって、彼らは月衣による浮遊を行う時、月衣を「足場」であるとイメージする。浮遊、というよりは月衣を床と見立てることで「浮いている」ように見せているのだ。
その状態を上手く調整することで、本来は存在しないはずの足場を蹴り、意表をついた3次元戦闘をすることを可能にしたのが柊のスタイルである。
地を強く踏み蹴る。その音が響いた、と異形共が思った瞬間には、すでに彼らは斬られた後だ。
斬っては走り、駆け抜けながら斬る。その速度は落ちることはない。
まるで、ビデオの通常再生に一人だけ三倍速が混じったかのような光景である。
姿を目にすることすら難しい超高速の斬撃と移動。斬られた側は、その自覚すらなく真っ二つにされている。
もはや音すら置き去りにするほどの速度で、敵の間をすり抜けながら黒い刃が異形を引き裂き続ける。
超速行動を可能にし、風と音を味方とするシンドローム、それがハヌマーンである。
黒い刃をモルフェウスで作り出し、この音速超過の移動速度と斬撃で敵を斬る。それが隼人のスタイルだ。
タイプの違う二人の剣士が、それぞれが驚異的な速度で大量の敵を片付けていく。
そして。
柊が横薙ぎの斬撃で敵を斬り、その返す刃で残る一匹の腕を跳ね上げ、空いた空間に体を滑り込ませつつ首をはねる。
隼人が一匹を片付け、残る一匹を目視すると同時に刀の峰に左手を添え、その速度を存分に発揮しつつ突貫する。
正面から首を刎ねられ、横合いから腹部を突き貫かれた異形は、たまらず崩れ去った。
同時に消え去るワーディング。隼人は黒い日本刀を黒革の定期入れに戻し、柊は月衣に魔剣をしまって、同時に一息。
彼らは視線を合わせると、どちらからともなく手を上げ―――乾いた音が、喧騒を取り戻した町に小さく響いた。
ごめんようごめんよう……支援
<休日の過ごし方 −ゆにばーさる−>
司とノーチェがさまざまな買い物を終えてマンションに戻ってみると、なんだかフロアが大騒ぎになっていた。
あの沈着冷静な椿が、女性陣になだめられながら落ち着かない様子でどうしよう、と同じ言葉を繰り返しているのである。
狛江が心配そうに椿の顔を覗きこみ、結希が励まし、桜が左京の淹れた紅茶を彼女に出す。
それでも落ち着かないらしく、両手を組んで祈るように額に押しつけたりしている。
そんな光景に彼らが呆気にとられていると、背後から声がかけられた。
「ただいまー……って、うわなんだこの騒ぎ」
「お。上月面白いもんのっけてんじゃねぇか、飼うのか?」
隼人と柊である。
その声に司が振り向くのと、椿がそちらを見たのは同時だった。
椿は今にも泣きそうだった状態から、一瞬驚きに表情を変え、次の瞬間には全力で駆け出していた。
「ボタンっ!」
叫ぶと同時、彼女は司の頭に載っていた子犬を掴んで抱え上げた。
<肉体>10の突貫を受けた司は思い切り吹き飛ばされたわけだが。ついでに言うと、宙を舞った荷物は手ぶらの柊と隼人がちゃんと受け止めている。
ともあれ、椿は子犬を抱きしめるとその場にしゃがみこんだ。
状況を把握できていない彼らのところへ、結希がとてとてと歩いてくる。ノーチェがたずねた。
「えーと……結局、どういうことなのでありますか?」
「えぇとですね。ついさっき、双枝市―――椿さんと隼人さんがもともといた支部なんですけど、そこから連絡がありまして。
椿さんが支部に連れ込んだ子どもの柴犬、ボタンがいなくなったっていうんです。それで椿さんはさっきからちょっと精神的に安定を欠いてまして。
ノーチェさんかネームレスさんがいらっしゃったら探してもらおうって話をしてたんですけど……どうやってボタンを探し出したんです?
っていうか、司さん生きてますか?リザレクトしてませんか?」
「してねぇよっ!?」
鼻をすりむいたのか、赤くなっている鼻を押えて立ち上がる司。
そして、彼は椿がボタンを抱きしめているのを見ると、一つため息。
柊と隼人から荷物をひったくると、椿の前に置いた。
「ほら、ソイツの生活用品。どうせ支部長に直談判するつもりで既成事実のために買ったもんだし、遠慮なく使え」
「え……司、くん?」
「たぶんご主人様が恋しくて頑張って双枝市だかから自分の足で走ってきたんだろ。大事にしてやんな」
そう言って、司は椿とボタンの前を通り抜けようとする。
ノラなら自分の出番もあるかもしれないが、すでにご主人様がいるんなら特に自分がいなくてもいいだろう、と思ったのだ。
椿が礼を言おうと考えるよりも早く、さっさと通り過ぎようとして―――ボタンがフードに噛みついた。
思い切り首がしまる形になり、後ろにたたらを踏む司。こら、とあわてて椿がボタンをはたき、口がフードから離れた。
げほごほ、とその場でしゃがみこんで空気を求めた後、ちょっと涙目で司は椿を、正確にはその腕の中のボタンを見てなにしやがる、と叫ぼうとした時だった。
ボタンが司のほっぺたをぺろん、と舐めた。
拳を握ったまま凍りつく司を見て、一番最初に反応したのは椿だった。
「司くん。ボタンがありがとう、だって」
その言葉に、司は珍しいことに顔を耳まで赤くして、即座に自分の部屋に向けて全力で駆け出した。
……恥ずかしいからといってそこまで照れるのはどうなんだ、と思わなくはないが。
とはいえ、椿はその後正式に司のところを訪れてきちんと礼を言い、それに大したことはしてない、と司が答える展開になった。
そして―――この後、マンションで飼われることになったボタンが、椿だけでなくたまに司の後をちょこちょこと歩く姿が見られるようになったとか。
支援〜
<休日の終わり>
「えぇ、そんな感じで楽しい休みの日でした。みなさん息抜きできたみたいですし、感謝してます」
暗い部屋の中、結希はテレビ電話通信で霧谷と会話をしていた。
それはよかった、といつもの笑顔で霧谷は答える。
いつもの定時連絡のやり取りである。その後一通りの連絡を交し合った後、霧谷はおもむろに結希に言った。
『そういえば、頼まれていたジャームの調査についてですが』
「なにか分かりましたか?」
結希の目が鋭くなる。最近、ジャームが大量に発生する事態が起きている。
初めはノーチェたちが襲われた日で、今日も隼人と柊が襲われた。こちらのオーヴァードに被害はないものの、実はそれが毎日に近い感覚で出現しているのだ。
霧谷はえぇ、と頷いて言った。
『<マルチランサー>というジャームがそちらに向かった後、消息を絶っています。彼はエグザイル/ノイマンのオーヴァードのようですね。ただ……』
そう告げて言いよどむ霧谷。そして、彼はしばし言うのを逡巡していたことを、意を決して言った。
『彼が過去に<群れの主>を使用したことがある、という情報はどこをどうさらっても見つかりませんでした』
その言葉が何を意味するのか―――結希がそれを理解するのは、もう少し先のことになる。
続く
支援
タイトルに『代打』ってつけるのわすれた。
まぁいいや。
投下終了。
作者コメントは日付が変わったあたりに送ってくるらしいので、そのときにまた会いましょう。
ではまた後で
代理投下おつかれさまです
楽しませてもらいましたー
割とヒマな支部長の一日 乙
【支部長はほとんどでていない】
気のせいか司のワークスがポーリィと被ってきたようなw
あと、柊のその戦い方はゲッコウの中じゃ出来ないような……
最終的には箒に乗って戦うんだし関係ないか
事件もちょっとずつ動き出してる感じだねぇ。これからの展開が楽しみです
>>81 んー、月匣の中が一つの世界で、その中で個人単位の月衣っていう世界を作り出せてるからできるんじゃね?
敵の攻撃は常識外のものだから普通に貫通するだろうが
>>82 いや、月衣による飛行ができないだけ
って、ルールブックみたらフォートレスの中はできないけどゲッコウの中は飛べるのか
ややこしい……
あのバカ、寝落ちしてやがった。5時まで起きて待ってたんだけど……
まぁいいです。作者コメントが届いたので貼り付けします。
――――
そんなわけで、一話
天さんのトークショー最前列で見れた!めちゃくちゃ酷かった(誉めことば)!
……けどさ王子、自分まだDX買って一年、サプリ揃えだして一週間ってとこなのに、3rd 出すんだ。そうなんだ。orz
複雑な本人の気持ちはさておき、レス返しー。
>>38 あざーすっ!
おいらもいきなりスレ止まったからびびったよ。なんとか上手くいったようでなにより。さんくすだぜ、知人F。ちゃんとお土産かって帰るからな!
>>39 執筆時点ではこいのぼりをダメな子にするつもりはなかったんですよう。
が、事件を起こしてそれを支部長に解決させてたらうっかり自分の好きなネタばっか混ぜてて気が付けば『ぽんこつのぼり』に……
ごめんよう。ごめんよう支部長。
>>40 PCが多すぎる?いえいえ、話はこれからですぜ社長。アライブ組・エクソダス組とも、どんな登場になるかお楽しみにお待ちいただければと思います。
トワイライトとヴァリアント?そりゃああなたリプレイの読みすぎってもんですよ?
>>48 うぅぅ……おっかしいな、手元にあるやつは直ってんのになぁ。ともあれ、誤字報告ありがとうございました。
っていうか、今まではっきりと明記してこなかった自分が悪いのですが、この話はだいぶ公式設定と食い違う箇所があります。
・柊がまだあの魔剣を持っていること
そもそも柊はセカンド環境後はウィッチブレイド持ちになってるわけなのに、この話では魔剣で戦ってます。
これは、まだ柊がウィッチブレイドを持った姿が描かれてすらいないので、ヴィジュアル的に想像し辛かったためです。
そもそも企画段階では柊はまだ空砦出演すら確定してない時期だったため、2nd のパーソナリティのイメージで書いてます。
空砦(ラジオドラマ)ではどうやら任務こなしたあとは実家に帰ってるようなので、そもそも放浪生活をしてないですし。
なので、これは公式による裁定ではなく、完全なオリジナル展開―――それがイヤなら平行世界とでも思っておいていただければと。
だからこの話は空砦の先でも後でもありません。完全に単なるクロスオーバーの素材としてNW世界を都合よく切り取ったものだとお考え下さい。
・月衣とレネゲイドウィルスの関係
公式(JGC突撃セッション)においては、そもそもオーヴァードは月衣を突き抜けた攻撃はできません。これも王子発言ですが。
ただしこれでは話が成立しないため、今回は特別に新しく法則をたてました。
大きくはこの二点か。これを頭にいれた上で読んでほしいなぁ、と思います。
っつーかまとめ人さんがいらっしゃるのでしたら、これちょっと目次にのっけといていただけると助かります。
ではでは、また明日。
――――
はい。作者コメントは以上です。
ではでは。
今来た
PC版NWの環境だったり公式時系列を無視してる卓の俺が言うのもなんだが
つまり大雑把にいうと「ゆにまほ卓環境という認識でおk」という事なんだな?
19時くらいから投下します。
ところで卓ゲ版作品スレってどこ?
そっちにも投下するよう頼まれたんだけど、場所が分からなくて……
一応、専用ブラウザ使ってるから、スレタイ教えてくれれば大丈夫ッス。
うぉ! そのままだったのか……申し訳ない。ありがとうございます。
<回る日々>
お盆。
世間的には休みの人が多く、ひどいところでは通常の数倍の人の入りが見込まれる時期。
がんがんに冷房をつけていても、その熱気はすさまじいものがある。
ウェイターもメイドも、いつもの1.5倍速くらいの速さで店内を動き回っている。
「ありがとうございます。オーダーを復唱させていただきます。
ストロベリーパンケーキがふたつ、アイスカフェオレが一つ、青汁牛乳が一つですね?」
「マルゲリータビアンカ(プチトマトをのっけたマルゲリータ)、ボンゴレロッソ(あさりのトマトパスタ)、ショコラータコンパンナ(生クリームのせチョコドリンク)
オーダーいただきましたー!」
「トンポウロウ(中華風皮付き豚の角煮)と鍋焼きうどんと石焼ビビンバ、あとそれから鴨肉のオレンジソテーでまーす!」
「オペラとギムネマ茶お待たせいたしました」
「いちごおでんと鯖の味噌煮と自家製激辛麻婆豆腐、スープカレーにチェリーコーク。かしこまりました」
……ここは何屋だ。
ともあれ、縦横無尽に動き回るフロア担当たち。
かきいれ時の夏休み、その中でも一番人の入るお盆だ、気合も入ろうというものである。
その中で、小柄な体で駆け回るノーチェ。今はトレイにちょっと高そうなティーセットをのせて、よたよたと歩いている。
わざわざ硬水を使ってイギリス本式で淹れたロイヤルミルクティである。演出上、高いティーセットを使ってお客様にお出ししているのである。
もちろん、こんなことをわざわざ書いている以上はただで済むわけがなく。
ちょっとテーブルからお客の足がはみ出ていたところを、彼女のブーツががすめた。体勢が崩れる。あ、と口が開く。両手でトレイを持っている以上手はつけない。
彼女が床が迫ってくるのが、スローモーションになるのを感じて反射的にぎゅっと目を閉じる。が、衝撃もティーセットが壊れる音もいつまでたってもこない。
「……ぎりぎりセーフ、だな」
安堵したようなその声を聞いて、ノーチェはうっすらと目を開く。
そこには、右手でノーチェを抱え込むようにして、左手でノーチェが手放した高価なティーセットを載せたトレイを持っている柊がいた。
さすがは<器用度>高い風/火であるだけのことはある。
閑話休題。
おぉぉー、と沸く客席。そのことが意識の中に入っていないノーチェは、今の状況のことも忘れてたずねる。
「あれ、蓮司?どうしてここにいるでありますか?今キッチン修羅場中でありましょう?」
「フロアも修羅場じゃねぇか。単に店長さんから『手が足りないんで、お客様にお会計で呼ばれたらキッチンから誰か出てください』って言われたからその帰りだ」
大丈夫か?とたずねて彼女を床に下ろして無事を確認すると、片手で支えていたトレイを渡してぽん、と頭に手をのせる。
ヘッドドレスが乱れるのでそれ以上はせず、軽く背中を叩くと柊は言う。
「ほら、お客さんが待ってるぞ。転ばないように気をつけろよ」
「あ、ありがとうでありますよっ!行ってくるであります!」
そう答えてぱたぱたとテーブル席へと歩いていく。
踵を返してひらひらと手を振って『気にすんな』、という意思表示をしてから修羅場(キッチン)に戻る柊。
まだ「ゆにばーさる」でバイトを始めて半月ほどの彼らだが、このキャラクターの濃いことで有名な「ゆにばーさる」で、そのキャラが埋もれることなく注目されていた。
ノーチェは前にも書いたが、銀髪紅眼であきらかに外国系の顔立ちをしているにも関わらず、しゃべり方は「〜であります」とどこかのカエル軍曹まんま。
その割に日本語自体は流暢で、その上敬語もきちんと使えているというギャップと謎だらけのキャラ立てで妙に人気が出た。
柊はキッチン担当でほとんどフロアには出ないものの、そこが逆にレアキャラ扱いされている。
たまに出てくる時は大抵今のように誰かがミスをしかけた時で、それをさりげなく見事にフォローをいれる姿が目撃されて以来「レアキャラお兄ちゃん系」として定着した。
どこに行ってもレアキャラ扱いされる男である。
ともあれ、そんな彼らの頑張りもあってなのか「ゆにばーさる」は連日超満員。
フロア担当もキッチン担当も最早誰がいつ磨耗してもおかしくない状況の中、今日の朝になって結希が朗報を伝えた。
曰く、霧谷に頼んでいた援軍が今日の夜にあちこちから集まってくるとのこと。
とりあえず今日をしのぎきれば多少はキッチンもフロアも少しは楽になるのである。
ゴールが近くなれば少しは元気が出るのも人間の性。昨日までは仕事が終わるとあの椿でさえぐったりという事態だったのが、開店前のその一言で全員気合入りまくりだ。
シェン
<降り来る災厄>
そんな地獄のような忙しさの中、司は店を裏口から出て買出しに向かっていた。
朝に予定数をいれていても、足りなくなる食材の一つ二つはどうしても出てしまう。そんな時は近くのスーパーまでダッシュして買いに行くのである。
キッチン担当の人間は少ない。それが一人抜けるのだからやっぱり大変になる。その時はなんと店長の結希がキッチンに入る。
なんで店長がキッチンに入るんだ、という指摘もごもっともだが、他のフロア担当ではダメなのだ。
そのことについてキッチン担当三人組はこんなコメントを残している。
「メシ作るって言ったら野ウサギ狩るとこから始める奴とか、爪をちょちょいっと変化させてまで皮付きのまま人参をおそるおそる切る奴とかに任せられるか」
「包丁を持ったこともない奴をヘルプにいれるのは、いくら器用だからってちょっとなぁ……フロアで人気あるんだしそっちで働いてもらったほうがいいだろ」
「っていうか、なんでウチの女どもはそろいもそろって支部長以外料理作ったことない奴ばっかりなんだ?」
閑話休題。
とはいえ、あんまり結希をキッチンに入れることもできない。
なぜならバカップルの片割れが『へぇ。僕以外で結希の料理を食べられる人がいるんだ』と、なんだか黒いオーラを全開にして呟いたことがあるからである。
……最近はヘタレ度の増している彼とはいえ、あんまり悪い方向に導くとちょっとうっかり世界がエンドラインに突入してしまいかねないので、
結希は厨房にあまり入らせてもらえないのであった。
司は買出しを終えて店への道をひた走る。
オーヴァードとしては体力があるほうでもないが、平均的な高校生並には動ける司はちょっと遠いスーパーからの道のりに悪態をつきつつもぼやく。
「なんで俺がこんなこと……っても言ってられねぇんだよなぁ。あのクソ兄貴、帰ってきたら絶対しばき倒した後殴り倒す」
しばき倒すも殴り倒すもほぼ同義なのはスルーの方向でお願いしたい。
とはいえ、明日からは少し楽になる。今日までの辛抱だ、と思ったその時だった。
キンっ、と甲高い音を立てて、周囲のものの動きが止まった。<ワーディング>である。
司がため息をついてその場に荷物を下ろす。
結希から話は聞いている。おそらくはほぼ毎日のように現れるというジャームの群れだろう。
一つ舌打ち。大したことがないとは聞いているが、今は時間がないというのに。
ぞろぞろと現れるジャームの群れ。その数は20程度。
司はその場で足を軽く踏み鳴らす。その意味に気づくジャームはなく、ただ司を包囲するように動く。
完全に包囲されたところで、司は口の端を酷薄に吊り上げた。
「残念だけどな。今はお前らの余興に付き合ってるヒマは、ない」
同時に指をぱちりと弾く。
一瞬にして、様変わりする光景。司の周囲の空中の水分が一瞬にして凍りつき、氷はぱらぱらとあられのように降り注ぐ。
しかし何といっても壮観なのは、20体ほどのジャームが全て氷の中に閉じ込められていることだ。
「俺の<領域>の中で、お前らごときが指一本も動かせると思うなよ」
はん、とジャームの群れの弱さを鼻で笑い、踵を返す。同時にがらがらと音を立てて崩れ去る凍りついたジャーム。
こんなことに時間をとられているヒマはないというのに、と荷物を持った瞬間だった。
「そう言わずに、付き合え」
くすり、という笑い声とともにその背中に放たれた声は、心臓に冷たい刃を潜りこませるような幻視をさせた。
あわててそちらを向くと、くすんだ金色の長いウェーブヘアをなびかせた、白いフレアワンピースの少女が立っていた。
じり、と一歩退る。本能的にこの相手がただものでないことはわかった。なんとか状況を把握するため、司は少女を睨んで問う。
「……ずいぶんと強引なお誘いだな。そういう女はモテねぇぞ?」
「おあいにくさま、だな。私はほしいものは力づくで奪う主義だ」
「数の力に頼ってか?もっとモテねぇぞ、そういうの。クラスに一人はいる陰湿なリーダーって感じで」
「ふふふ、なるほど耳に痛いな。けれど数は力だ、それは否定しないだろう?」
「それは否定しねぇけど、それならそれよりデカい数に負けることになると思わねぇか?まとめて薙ぎ払うだけの暴力の前じゃやっぱり負けるしな」
「あぁ、そうだな。私もそう思う。だが……私が数に頼っていたのは、そういう力しかない状態で生まれてきたから。
私は、ずっとずっと自分の力で相手を倒してみたかった。この手で敵を貫く瞬間が、楽しみだった」
「根っからのドSじゃねぇか。やっぱりあんまり仲良くはしたくねぇぞ」
その言葉に、再びの笑顔がかえる。同時に司の顔の真横を、高速で光り輝く何かが通りすぎていった。
なにかがなんであるかは分からないが、女が司に向けて手のひらをかざしていることから、おそらくはこの女が何かしたのだろうことくらいはわかる。
女はやはり笑顔。司は冷たい汗が滑り落ちるのを自覚しながら、さらに一歩退る。
「これがはじめてなんだ。だから―――逃がさんぞ」
女の目が開かれた。そこにあったのは赤い瞳。それと同時にすさまじい異変が起きる。
司の中で、何かが恐れ縮こまるように強くうごめいた。あまりの衝撃にその場にたまらず膝をつく。
心臓が早鐘を打つ。レネゲイドが活性化している状態に似ているが、けれどそれは違うと本能的に理解する。
レネゲイドとは関係のないところ―――司の『人間』としてのところが強制的に眠らされるような感覚。そしてそれを補うようにウィルスが働くために起こりかける衝動。
なんとか残った気力をかき集めて衝動の発生を押さえ込むものの、走って逃げ出すのは無理そうである。
そんな中で女は笑みを崩さない。その異変は女にはなんの影響も与えていないようだ。
「せっかくこんな力を手に入れたんだ。ちょうどいい実験台が見つかったと思ったんだが……これでは、あまり変わらないかもしれんな」
「変わらない、だぁ……?」
無理やりに上体を起こし、司はなんとかというように相手を目に写す。
―――見えたのは、金色の髪と赤い瞳。
そして、その背後に輝く紅い紅い―――血のような色の月。
はじめて見るそれに、司は寒気をともなった怖気を感じるほど。そんな光景を見て一瞬呆気に取られた彼の姿を嘲笑うように、女は言った。
「あぁ。私が今まで<餌>としてプラーナを喰らい、消えてしまったただの人間どもとな」
そう、彼女は―――ここに顕現したエミュレイターは、言った。
<魔の顕現>
司の帰りの遅さが気になった隼人が結希にそれを言うと、結希は笑顔で答えた。
「わかりました。今はちょうどディナーの時間帯も終わったことですし、行列もはけましたし、柊さんと二人で司さんを迎えに行ってください。
ちゃんと三人で帰ってくるんですよ」
彼女も司の帰りが遅くなったことが気になっていたらしい。
何か危ないことに巻き込まれているかもしれないということで、二人を迎えに行かせることにしたようだ。
彼らは連れ立って司が向かったであろうスーパーへと向かい―――突然に、隼人が虚空を見上げて立ち止まり、黙った。
「どうした高崎、上月見つかったか?」
「いや……なんか、なんかおかしい感じがするんだ」
「何がだよ」
「たぶんワーディングがあると思うんだが、何かに遮られててうまく感じ取れないっていうか、そんな感じなんだが」
なにかしっくりこない様子の隼人に、ワーディングと聞いて対ワーディング用魔装を起動する柊。備えていれば最悪の事態だけは回避できるはずだ。
「高崎、それってどっちだ?」
「たぶんあっちのはず、なんだけど」
自信のなさそうな彼の言葉に、柊は月衣を強く意識して、告げる。
「信じる。行こうぜ、イヤな予感がする」
「イヤな予感って……」
「信じろ。……少なくとも、俺はこれまでイヤな予感だけは外したことはねぇ」
「それはそれで嫌な人生だな」
「ほっとけ」
ともあれ。彼らが隼人の指した方向へと歩き出した、数歩目。
一瞬にして光景が変わった。
柊にとってはそれは見慣れたもの。彼にとっての戦場の象徴。
―――紅い月。
ち、と舌打ち。これまで大人しくしてたのにこんな時にきやがったか、と内心呟く。
すぐさま月衣が正常に動いているか確認しようとし―――異常に気がついた。
戦えないことはないが、少し体が重い。ごく軽くはあるものの月衣の不適応が起きている。ノーチェが作った魔装は正常に働いている、ならばなぜ―――と考えて。
隣にいる隼人が膝をつくのが見えた。
「高崎っ!?おい、大丈夫かっ!」
「う……なんなんだこりゃ、どうなってる?」
「どうしたっ?ちゃんと息できるか?立てそうか?」
隼人の様子は明らかにおかしい。一目見ただけでも柊がおかしいと思える程度には。
息は上がっていて、頭を押えたまま小刻みに体が震えている。
当人の隼人としても、正確になにが起きているのかを把握しているとは言いがたい。
わかることといえば、ごく軽い衝動が常に起きていて、それに抵抗しようとする力が上手く働いていないということくらいだ。
これはマズい、と直感的に判断した柊は彼を抱えて一度この月匣を脱出し、再び自分一人で中に入ることを決めて隼人に肩を貸そうとしたその時だった。
おかしな風の流れを感じて正面を向くと、大きな塊が吹き飛ばされて彼に向かって飛んでくるところだった。
かわそうと思って体が動きかけたところを、飛ばされてくるものが何であるか認識すると同時に目を見開いて強引に足を止め、それを両手で受け止める。
勢い自体はそれほど強いものではなかったらしく、衝撃は軽かった。
受け止めるのに成功したそれは、ぐったりとしていた。ところどころ傷はあるものの息はある。
そのことに安堵して柊は意識のないそれ―――司を下ろして二人の前に出る。
おそらくは司を放り投げたのだろう相手は、金の髪を振り乱しながら紅い月を見上げ哄笑をあげた。
「はは、ははははははははっ!ようやくだ!ようやくの再会だな、柊蓮司っ!プレゼントは気に入ってくれたかっ!?」
その言葉と同時、柊が最後に会った時とは段違いの魔力の渦が巻き起こり、それに散布されていたレネゲイドウィルスも巻き上げられて嵐となり三人を襲う。
三人を吹き飛ばさんばかりの圧倒的なまでの力を見せつけて満足したのか、彼女はわざとらしくおっと、と呟いた。
「少し強すぎたか?すまんな、この力にはまだ慣れていないんだ」
「……ちょっと見ない間に、ずいぶんとまぁ妙な力をつけやがったな。どんなドーピング使ったんだ?」
前に柊に襲いかかってきた時の彼女には、自身が一人で戦う力はなかった。
少なくともこれほどのプラーナを保持してはいなかったし、もしも持っていたとしても自身一人で制御できるような能力は持っていかったはずだ。
でなければ、たとえ苦戦したとはいえ柊一人では勝てるはずもないのだ。
その問いに、いやらしい笑みをそのままに侵魔は答えた。
「こちらの世界にレネゲイドウィルス、という妙な物体があることは知っているだろう?それを手にしただけのこと」
「おいおい、確かレネゲイドと月衣は妙な相互干渉引き起こすんじゃなかったっけか?
それで俺も一度エラい目にあってるんだがな。同じ月衣持ちのお前がどうして何の副作用もなしに使えてるんだよ」
レネゲイドウィルスと月衣は妙な相互干渉を引き起こす。
具体的に言うと、もとの世界にはなかった物質に対して不適応状態を引き起こして月衣の負荷が大きくなり、魔法をまともに使えなくなったり動けなくなったりする。
それはノーチェや柊は自分の身で体験していることだ。
月衣を書き換えることでその負荷をなくすことはできる。が、レネゲイドウィルスに対する遮断効果は続くわけなので彼らはオーヴァードとして覚醒することはない。
しかしこの侵魔は明確に月匣を使い、その内にレネゲイドの力を持ち込んでいる。
月匣をはれる以上は月衣を所持しているはずだ。だが、月衣をはっている以上は他世界物質であるレネゲイドウィルスを取り込みオーヴァードになることはできないはずだ。
それに対し、侵魔はうん?と心底楽しそうに首を傾げただけだった。
「なぁ柊蓮司」
「お前にフルネームで呼ばれる筋合いはねぇよ」
「忘れていないか、我ら侵魔は貴様らウィザードとは決定的に違う点があることを」
その言葉に柊は訝しげな目で相手を見る。それを楽しそうに嗤って、相手は答えた。
「我らは基本的に精神寄生体だ。我らにとって体は枷にすぎん。人の心にとりつき、喰らい、その存在を自らのものとするモノ。
私は、ただそれをこの世界の『ジャーム』という一匹の化け物に行っただけのこと」
つまりは、ジャームの内にあった精神を喰らった、ということ。そしてその残った体を自分の殻にして定着させたということだ。
くすくすくす、と彼女は笑う。楽しげに、狂ったように、心底から面白おかしく。
「楽しかったぞ!こいつの心は絶望と渇きと怒りと嘆きと悲しみでいっぱいだ。表出している感情が一つに留まらずにぐるぐると流転し続けている!
それもすべてが我らには極上の養分になる負の感情ばかり!なんと素晴らしいことか!」
「聞いてるだけで胸焼け起こしそうだな、この悪食が」
「はははっ、なんとでも言うがいい。
知っているぞ、柊蓮司。この世界は我らの故郷より至極離れた場所にある。世界の守護者もここには手が出せんのだろう?
でなければいつまでも貴様だけがこの世界に留まる必要はあるまい。私も元の世界に戻ることなどは考えていない。
あんな化け物(まおう)どものいるところに戻ったところで、せっかく手に入れたこの力を失うだけだ。
私はこの世界のジャームどもを喰らいつくし、ただ唯一の君臨者としてここに立ちたいだけだ。
オーヴァードでは私には―――いや、月匣には対抗できん。そこに転がっている二人が良い例だろう」
つまり、だ。と侵魔はその口の端をさらに強く持ち上げ、右手を大きく振りかぶり―――
「―――貴様さえ死ねば、この世界は私のものになるということだ!」
―――叫んで、振り抜く。
彼我の距離は20mほど。けして届くはずの無いその距離での振りかぶりに、しかし柊は悪寒を覚えて魔剣を自身の左側に襲いかかるものを受け止めるように構える。
そしてそれは限りなく正解だった。
振りぬかれるその瞬間、相手の二の腕から先がアンバランスに巨大化。横薙ぎに周囲を薙ぎ払いにきたのだ。
魔剣がその巨大な質量を受け止める。
いつもならば避けるなりかわすなり受ける直前に同じ方向に跳んで衝撃を緩めたりすることはできたのだろうが、今は彼のすぐ後ろに二人の立つこともできない人間がいる。
彼らを今守れるのは自分しかいないと理解している。
だから、防刃線維のグローブが間に挟まっているとはいえ刃に添えるようにして侵攻を押えている左手の甲の痛みも耐える。
最初の衝撃で少し流された剣閃で少し切り裂かれた左肩から流れる血を意識しないようにする。
衝撃を受け流せずに軋んで悲鳴をあげる体のあちこちの訴えも無視する。
びりびりと空気が慄き、地面が陥没する。しかし―――結果として体中を走る衝撃に、柊は耐え切った。
漏れそうになる苦鳴を飲み込み、侵魔をにらみつけた。
「この程度で、俺が死ぬとでも思ってんのか?」
「ほう、よく耐えたものだ。だが―――これでどうだ?」
侵魔は圧倒的優位に立っているからこそその笑みを崩さず、右手を彼に向かってかざす。
その手のひらの前にあるのは魔法陣。白い燐光を放ちながら、それは発動の時を待っていた。
柊が奥歯をかみ締める。それ自体はそれほどの威力はなさそうだが、魔剣は侵魔の左手を押えるのに使っているので弾くのは無理。かといって、かわせば司と隼人に当たる。
どうするか、と頭が働くよりも先に、酷薄な笑顔のまま侵魔が告げた。
「チェックメイトだ、柊蓮司」
閃光が彼に向かって放たれる―――その一瞬前。
柊の背後から、声が響いた。
「行くぞ、司っ!」
隼人が柊の体を思いきり後ろに引っぱる。思わぬ方向からの攻撃に、たまらず後ろに倒れこむ柊。
何をするのかと尋ねるよりも先に、司が侵魔に向けて告げた。
「俺を……<領域>使いを―――ナメんじゃ、ねぇっ!」
同時に彼の背後の赤い空間が、彼の力の象徴である『氷』によって『凍らされ』た。
びきびきびき、と氷にヒビが入っていき、ばかん、と口を開く。そこは真っ暗な空間で、何があるのかはこの領域を作り出した張本人である司以外にはわからない。
司は親指で首をかっ切るジェスチャーを見せ、一言だけ告げた。
「次に会うときゃ十倍返しだ。利子つきでぶち込んでやるから、覚悟しやがれ」
それと同時に隼人が司と柊を抱えて真っ暗な空間に飛び込む。
侵魔があわてて閃光を解き放つが、時すでに遅し。口を開いたはずの氷の裂け目が、一瞬にして周囲の氷ごと崩壊したのだ。
残されたのは紅い空間と金髪の侵魔のみ。
彼女はふん、と鼻を鳴らすとその口の端を再び持ち上げる。
「まぁ、いいだろう。この世界で私を殺すのは不可能だ。
そもそもオーヴァードは月匣内で立つことすらできん。あの男に仲間を呼ぶことなどできはしない。
どうせここから遠く離れることもできんのだ、すぐにあぶりだしてやろう」
彼女がぱちん、と指を鳴らす。それだけで、月匣内に大量に撒き散らされていたレネゲイドウィルスは月匣の外に放出され―――秋葉原を侵攻しだした。
しえん
<闇の中の輝き>
「状況は、激しく悪いと言っていいでしょう」
「ゆにばーさる」の店内。客は閉店前にも関わらず、0。ここ数日はなかったことだ。
秋葉原一帯がワーディングに包まれた、それから30分後のことだった。結希は沈痛な面持ちで霧谷と話していた。
霧谷がその言葉に答える。
『えぇ。双枝市にいるヒカルさんから衛星で監視を続けてもらってますが、秋葉原周辺をワーディングが完全に覆ってしまっているそうです。
おそらくはオーヴァードとなった、アンゼロットさん達の世界からきた侵魔、エミュレイターの仕業でしょう。
そして、相手はその中心地でワーディングと月匣という結界を重ね合わせた空間に静かに立っている。
アンゼロットさんの話でいうと、月匣とは通常兵器の効果を軽減、あるいは無効にする力があるのだとか。これでは広域爆撃も無駄になりそうです』
「そうですか……こっちではそのエミュレイターオーヴァードと交戦して逃走に成功した人たちがいるんですけど、
彼らの話によるとオーヴァードはその空間内では無力化されてしまうそうです。
ノーチェさんの話によれば、月匣内に入った時点で『普通の人間』は無力化されてしまうんだそうで。
オーヴァードはそれに対抗するために体内のレネゲイドが活性化してしまって、ごく軽くですが、衝動が起きっぱなしになるんだそうで。
となると、戦えるのは柊さんとノーチェさんの二人だけになってしまうんですけど……」
『あれだけの規模のことが起こせる相手に、たった二人では太刀打ちは難しいですね』
「えぇ。わたしも、実際戦った柊さんたちも同じ意見です」
今、この町はワーディングの中に沈んでいると言っていい。そして、そのワーディングの中に入った秋葉原の中に大量のジャームが放たれている。
ジャームそのものはそう強くもないが、秋葉原をワーディングで包んだ主は今はワーディングの混ざった月匣の中にいる。これを倒さなければ根本的な解決にはならない。
「ゆにばーさる」のエージェントたちを何人か向かわせて各地で対処しているものの、圧倒的に手が足りない。
これでは、この町が落ちるのも時間の問題だ。
結希は唇を噛みしめた。
彼女は、この町をジャームから守るためにいる。それが結希のここにいる意味だ。
その彼女が、一匹のジャームが原因の問題で守るべき場所を失う、それが悔しくないはずがないのだ。
結希はもともと責任感の強い娘だ。一度任されたことは頑張ってなんとかしてしまおうと動く少女だ。
けれど、彼女が支部長を任されるようになってから少し状況が変わる。彼女をとりまいていた環境が何枚も彼女の上をゆき、任された支部を何度か全滅させてしまう。
もちろん最終的にその幾多の苦難を仲間たちと一緒に乗り越えてはきたものの、彼女についたあだ名は『全滅支部長』。
これでは彼女についてこようというエージェントは少なくなる。
そんな中で結希に与えられた支部、アキハバラ。
結希はクセの強いエージェントたちを持ち前の努力と真摯な姿勢でまとめ上げ、この街の『日常』を守ってきたのである。
―――それが今。彼女はなんの抵抗もできずに、ジャームもどきのエミュレイターオーヴァードにこの街を明け渡すことになる。
結希ももちろんあきらめたくなんかはない。だがしかしそれはもはやこの街だけの問題ではなくなっている。
オーヴァードの力が通用しない以上、この世界に勝ち目は―――
「―――あれ?」
結希は、ふと引っかかる。
エミュレイターオーヴァード。月衣とレネゲイド。そして―――司が、<猫の道>というエフェクトを使用して月匣を破ったこと。
そうだ。
あのエミュレイターオーヴァード……名前が長いので漢字表記にするが侵魔超人には、オーヴァードの力が通用しないわけではない。
単に相手の月匣の中に入れば、オーヴァードが無力化してしまうだけだ。つまり、月匣の外からの大火力があれば倒せる可能性がある。
しかし、今この支部にはそれだけの火力はないし、外から爆撃を行うなんてことも待ってほしい。この街にはまだ、無力化されただけの一般人もいるのだ。
そしてもう一つ。
司が月匣を破ることができたという事実だ。その時司の使った<猫の道>は、オルクスのエフェクトである。
オルクスは領域―――つまりは空間に意味づけをし、その境界の内側を己のものとして操ることが出来る能力者。
考え込みだした結希に、霧谷が問う。
『薬王寺さん、どうかしましたか?』
「いえ、でも、もしかしたら……でもこれしか方法が。というか、これなら―――?」
結希のノイマンとしての本質が次々と仮定をくりだし、パズルのようにいくつもの問題に対しての対策を考えていく。
そして―――しばらくして彼女はばんっ、と机の上に置いてある置き電話の受話器を引っつかみ、電話の向こうの相手に向けて叫んだ。
「ノーチェさん、今から私が伝えることはどれくらいで実現できますかっ!?」
可能ですか?ではない。結希が自身の武器である頭脳を存分に使ってはじき出した答えだ、彼女はそこに絶対の信頼を持っている。
電話の向こうのノーチェが何事かとたずねたのだろう。
それに向けて、結希は絶対の自信を持って告げた。
「―――反攻作戦開始です。悪いですけど、私達も噛ませてもらいますよ?
この街は私達が守ってきたんです、ラストステージに間に合わないなんて私(しぶちょう)が絶対許しません―――っ!」
支援いります?うずうず
<反攻の一矢>
支部長用の司令室。
この部屋にいるのは、結希、ノーチェ、柊、司、隼人の五人だった。
結希は、落ち着いた声で告げる。
「今の状況はご存知ですね?
秋葉原一帯は通常のワーディングにとよって覆われ、中をジャームが闊歩している。そして、その状況を作り出した張本人は月匣ワーディングの中で大人しくしています。
その意図はおそらく、柊さん。あなたを逃がさないようにして、街を人質にあなたをあぶりだそうとしているというところでしょう」
あぁ、と苦い顔で頷く柊。
状況が自分のせいだと、彼は強く認識している。
なんで彼がその状況を把握した上で落ち着いているかというと、しこたま怒られたからである。
月匣から抜け出した後、能力を無茶な使い方してぐったりしていた司を担いでゆにばーさるまで運び、いきなりの広域ワーディングでざわめく店内を出た。
一人月匣ワーディングに突入するつもりだと判断したノーチェが他の店員に「お願い」して簀巻きにした後、智世からのお説教によって機を待つことを約束させられたのだ。
当然智世の言うことは正しかったし、他のジャームによっての被害は他の仲間が抑えてくれている。
ノーチェが対ワーディング用魔装を対月匣ワーディング対応仕様に書き換えている間だけ、という約束で留まることにしたのだ。
だがしかし。結希のその言葉に、隼人が噛みついた。
「支部長。この状況を作り出してんのはアイツだ、そいつの勝手な逆恨みなんだから柊が原因とか言うなよ。こいつが悪いわけじゃないだろ」
その言葉に、うん、と力強く頷く結希。
「当たり前です。ただ、状況の原因の一端は柊さんにあるんですから、あなたも責任もって作戦行動に参加してもらいますよ?」
結希が言った言葉に、司が作戦行動?と鸚鵡返しに尋ねる。
彼女は続ける。
「はい。今いるこの4人で、あの月匣ワーディングの中の侵魔超人をぶちのめしてきてもらいます」
「ぶちのめすって……どーやって。俺らオーヴァードはあの中じゃろくに動けないんだぞ?」
「今のままではその通りです。けど、あれはつまるところ月匣とワーディングが重なった結界とほぼ同義です。ですよね?ノーチェさん」
司の問いにそう答えて、結希はノーチェに問うた。
それに対し、ノーチェはえぇ、と頷き、返す。
「合成の過程でちょっと変質は起きてるでありますが、この程度なら全然問題なく修正が効くのでありますよ。
こんなことよく考えるでありますなぁ、結希」
感心したように言って、ノーチェは続けた。
「つまり、あの空間内はワーディングの要素が入ってるとはいえ月匣なのであります。オーヴァードなら月衣を纏いさえすればその効果は無効化される。
月衣をまとっていないがゆえにオーヴァードはその空間内で無力化されてしまう。ならば、月衣をまとわせれば良いのでありますよ」
「まてよ。そんなことできるのか?」
柊が問う。基本的には、自分以外の世界に干渉を受けないようにウィザードが持つものが月衣である。
似たようなものは開発されているが、それを調達している時間はおそらくはない。
それを知っている柊の問いにふるふると首を横に振り、ノーチェは簡潔に答えた。
「無理でありますな」
「無理、じゃ意味ねぇだろうが」
「蓮司は短気でありますなー。人の話は最後まで聞くものでありますよ。
月衣は手に入らないのでありますが、それならそれでやりようがあるのでありますよ。
月匣っていうのは、基本的には『魔法』という存在をイノセントに知らせないためのものであります。
逆に言うと、月匣には『魔法を知らない人間を無力化する』と言う力があるわけでありますな。これは世界結界による修正作用を回避するためであります」
そう言って、彼女は結希に視線を促す。こくりと頷き、彼女はでは、と告げた。
「もしも、魔法を知らない人間を無力化する、という制限をなくすことができたら?」
つまりは、彼らが相手の月匣に割り込んでその制限を消すか、同じく月匣を相手のワーディング月匣内に展開すればどうなるか、という仮定。
彼女の言葉に柊がノーチェを振り向いた。
「そんなことできるのかっ!?」
「わたくし一人では難しいのでありますよ。
わたくしたちウィザードは、その制限だけは外せないようになってるでありますからな。これも世界結界の修正力が事前に働いている結果なのでありますが。
ただ、ここには世界結界はないでありますからある程度その制限は外れるでありますし―――やっぱりわたくし一人では無理ではありますが、ここには司がいる。
自分の<領域>を操れる司がいるなら、その制限を外して、月匣内でもわたくしと司ともう二人くらいならその効果を及ぼせるでありますよ」
つまり、司とノーチェ二人がかりなら月匣の中で『どんな人間でも支障なく動ける月匣という領域』を作り出せる、ということだ。
司がにやりと笑う。
「そりゃあいい。あいつには10倍返しの約束しちまってるからな、待たせちゃ悪い」
「司さん、物騒です。っていうか、その捨て台詞は負けてますよね」
「いいんだよ支部長、最後に勝てば。で、俺とノーチェともう二人。どうせ柊はあいつ倒せなきゃ帰れないんだし参加だろ?」
司の言葉に柊はあぁ、と言って頷く。
あのエミュレイターをあそこで討ち取れなかったのは自分の責任であるし、なによりも、あのエミュレイターを倒して魔石を得ないと元の世界には帰れない。
だから、絶対に負けられない。自分が帰るために、そして、彼がこちらに来てから出会ったたくさんの人が住む街を守るためにも。
そんな彼を見て、最後に結希が隼人に話を振る。
「そういうわけで、他の人を呼び戻す時間がありません。あなたに行ってもらいますよ、<ファルコンブレード>。これは任務です」
「そんな言い訳しなくても行くさ。
あいつには好き勝手されて俺もだいぶ頭に来てるし―――何より、こいつを拾ったのは俺なんだ。ここまできてめんどくさがれないだろ」
柊を指しながら苦笑して言う隼人。
結希は『任務』とあらば常にやる気のない隼人の逃げ場をなくそうと言ったのだが、その気遣いは無用に終わる。
隼人は誰かに強制されて何かをするのには確かにやる気がないが、エンジンが一度かかってしまえばもう止まらない。
それも自分やその周りが関わってくるとなれば絶対に止まらない。その言葉は、彼が柊を自分の『仲間』だと認めているという証拠でもあった。
全員のモチベーションは十分だ、と判断した結希は、告げる。
「外側のワーディングに際限なく現れる敵についてはわたしたちに任せてください。
確かに今は人が足りませんが―――ちょうど、心強い援軍がくるころなんです。絶対にこの街を、みんなそろって守ってみせます」
だから、と彼女は四人に向けて告げた。
これから最も危険な戦場に赴く者達に、命令を下すものの立場として、強く。強く。
「絶対に皆、戻ってきてください。これは喫茶「ゆにばーさる」の、店長の命令です」
その言葉にめいめい返事を返し―――
―――この世界の命運をかけた夜がはじまる。
支援
支援にゃ
代打も連投規制くらったらしい。忙しいのにごめん。
続きは日付変更後予定です。
じゃあとりあえず乙
現状完全に無視してるけど柊よりノーチェのほうが重要なポジションっぽいぞ侵魔超人
というか侵魔超人ってなんかプロレスしそうだね
>ゆにまほさん
日常パートが終わりクライマックスに向かうですね
続きをお待ちしております
・・・隼人の侵食率が上がり過ぎませんように(きっと無理)
>>105 モッガちん「侵魔にだって愛情はあるんだー!!」
ですね、わかります。
オクタヘドロンが此処にも進出してたら「紅衣」を購入すれば良かったと思ったんだけど……
やっぱ無茶か。
申し訳ない。急ぎすぎて途切れてしまいました。
続きはあと1投下分なので直ぐに投下します。
んで、ゆにまほ作者コメントについては1時に投下いたします。
<紅月の下>
侵魔は、ほう、と感嘆の声をもらした。
彼女の目の前には、つい一時間ほど前に彼女の前から姿を消したものたちの姿があった。
彼女は名前を知っている唯一の人物、柊にたずねた。
「どんな手品を使ったんだ、柊蓮司?私の異界の中で、ウィザードでもないものがなぜ立てる」
「さぁてね。お前に教える義理はねぇが―――仲間の力だ」
にやりと笑ってそう答える柊。その少し後ろに立って、ノーチェの水晶球に手を当てている司が言う。
「ようバケモン。さっきの言葉どおり、10倍返しに来てやったぜ?」
「あぁ、さっきの<エサ>か。やれるものならやってみるがいい。このいまや侵魔を超え、超人すら超えた私に勝てるものならな」
「勝つさ。ちょっと力手に入れたからいじめっ子見返そうとしてるいじめられっ子と同じ程度の奴なんぞに負ける気はしない」
と答えるのは隼人。
隼人は写真を取り出して、黒い刀を形作る。
柊は月衣から自分の相棒、魔剣を取り出す。
司は片手だけを侵魔に向けて、相手を睨む。
ノーチェは体の魔装をアイドル状態にした。
侵魔が、告げる。
「さぁ、そろそろはじめようか。この世界の命運を握る戦いの始まりだ―――私が全員楽しく殺して、この世界を丸呑みしてやろう」
そうして―――最後の戦いの、火蓋が落ちた。
続く。
しえ……は必要なさそうだ。
どうも。友人Tです。多分友人は漢字の読みを間違えてしまっているのでしょう。
では作者コメントを
――――――
そんなわけで、5話いかがだったでしょうか。ゆにまほの中身でございます。
どう考えてもこの後クライマックスくるだろ!な引きのクセに色々あって間にあわなそうなんで、次は6話じゃなくて全編幕間のちと短い話にしようかと思ってます。
王子トークショー楽しみー。
そんなわけでレス返し。
>>80 あざーっす。その言葉が楽しみで書いてます。今回はいかがだったでしょうか。しかし自分ほんとに日常後落とすの好きだな。
>>81 支部長は今回だいぶ活躍しました、と思う。3話で活躍させすぎたんで、ちょっと今回は自重。メリハリメリハリ。
司が?……にょー、とかいう司か。ツッコミいなくなるじゃんですよ。
前作者コメでも書きましたが、そもそもこれパラレルワールドなんで。あと、戦闘演出って言葉はご存知で(マテ)?
>>82 今回一気に動きました。つくづく自分はタメができない人間のようです。orz
月衣と月匣とワーディングの解釈はそれで問題ないはずです。
>>84 すんません(平伏)。迷惑かけますが今回もよろしく。
さて、それじゃあちょっと王子のとーくしょー行って来るぜヒャッハァ!
――――――
今回の投下は以上です。
まぁ、今日は迷惑書けたほうだけどね……連投規制くらっちまったい。
ではこのへんで。ノ
/::.::.::/:// .::.::.::.::.::.:./ ! .::.::.::.::.::.::.::.::.::.:|::.::.::.::.::.::.::.::.
\ ゝ‐<::./::./ .::.::.::.::\/ | .::.::.::.::.::.:: /::.::.:|::.::.::.::.::.::.::.:::
\ 〃 / _ ヽ:/::.::.::.::.::.:/\ |::.::.::.::.::.:: /::.::.:: |::.::.::.::.::.ヽ::.::
{{ / / __ ヽ ',.::/::./ `ー |::.::.::.::.:: / |::.::.:/|_::.::.::.::.:l::.:: 保管のお知らせ
. ── | ! /r ) } |イ斤テ左≡ォz /::.::.::.::/ 斗七 !::.::.::.::.::.::.|::.::
. ∧ ヽヽ _/ /::! レヘ :::::::::/ /::.::. / j / | .::.::.::.::.:: |::.:: ●闇祓う光明 #02
. , -―ヘ `ー /.::.| rー'゚:::::::/ /::.:/ テ左≠=ヵ::.::.::.::.::. |::.:: ●「ゆにばーさる」と魔法使いの夏 #03〜#05
____/ { /.::.::.| ゞ辷zン // う。::::::7 /イ .::. |::.::.::.|::.::
彡_/ ヽ イ ::.::. | /ヘ:::::::/ |.::.::.:|::.::.:∧::.
〃 V ヽ ヽ.::.: | ヾ辷:ン /:l::.::./!::.:/
l { ∨ }__.::.|\ <! ・ /::.l::|::./│/
ヽ ヽ {  ̄ ̄ ̄`ヽ _ イ::.: l::|:/ j/
、 \ \ } ) / ̄ ̄ ̄l7::.:|::.::.j::l′ /
ついでに永斗の誤字も修正
さて、一息ついたところで、と。
アリアンロッドリプレイルージュとのクロスって電波が飛んできた。
一番最初に浮かんできたのは、エリンディルにやってきた柊に
「ふ〜〜〜き〜〜〜つ〜〜〜じゃ〜〜〜!!!」
って、絶叫しながら突進してくる占いばーさんの姿だった。
なんでやねんorz
追われているところを匿ってくれる、ちょっとワイルドな神殿のお姉さんとか
……ワイルドじゃないな、なんだろう
横ぼ…げふん、アグレッシブな神殿のお姉さんは好きですか?
シグ・レント・柊の
ウマが合いそうな男三人旅とかw
っ「追われているところを匿ってくれる、ちょっとウマの合う神殿のお姉さん」
だ、ダメだ。ウマが合うのはダメなんだ!
逆に、秋葉原に飛ばされるノエルとか。
異世界で困っているところをトランの面影を持つ男に助けられて…
ノエル「……!? ……あなた、トラン……さん……?」
謎の男「トラン? いいえ私は通りすがりのゲームデザイナー。薔薇の王子とお呼びください」
フラグ立てあーんどフラグスルーですねわかります
ノエルと薔薇の王子。
何だその妙に語呂が良いタイトル。
期待しちゃうぞ?
…うーん、ストライクウィッチーズよりはスカイガールズの方がクロスさせやすいかなぁ…(時代設定的に)
あとNWとならGS美神の方が絶対可憐チルドレンよりクロスさせやすいよねきっと!
ノエルを助けるのがローゼン閣下だったら……伯爵に負かりませんか?
【西川のりお伯爵が来た】
いつの間にか、
御劔一家に組み込まれている柊蓮司。
…順位は、アフロの下なんだろうなぁ。
アフロと聞いて、柊がケロン人になるという電波を。
「柊蓮司がペンギン村に飛ばされました」ってフレーズが思い浮かんだんだけど、
柊が悲惨な目にあう姿しか思い浮かばない。
っていつもどおりかw
ドキッ 女装だらけのクロスオーバー、ポロリも(ry
というネタが来たが、
よりにもよって思い付いたメンバーが、柊(輸血)、竜之介、瑞穂ちゃん、山田妙子だった。
そもそも竜之介と柊(輸血)は一応女だった。
それなら乱馬(らんま1/2)とはずむ(かしまし)に入れ替えればいいじゃない
この時間になったのは新幹線の遅れのせいなんだけど、支援飛ばせる人とか、いるのか……?
……だよなぁ。
とりあえずは遅くなりましたが投下しにきましたよっと。連続投下は本日が最終になりそうです。
なんでクライマックス直前で止めるねんって方は、自分に思う存分ヘイストをお願いします(オイ)。
ともあれ、作者的には息抜き……のつもりで書いたけど結局は確認のために机の横にリプが山と積まれた話。
どーぞー。
<獣と雷>
路地裏。二人の少年が背中合わせに立っていた。
白ランの少年・黒須左京が笑う。
「……まったく、支部長も無茶を言ってくれる。『事件の解決まで持久戦、自重しつつ戦え』とのお達しだ」
「なんだよ。もうお疲れか、いつもあれだけ偉そうな口利いといてよ」
背中合わせの少年・加賀十也がそれを笑う。
二人は、この戦いが始まってすぐ飛び出し、一番長く戦っている。
傷こそほとんどなくとも、己の衝動が耐えがたくなってくる頃だ。左京でも珍しく弱音を吐くほどには。
だが、それでも。
二人は前を向き、大量の敵を睨む。
左京が十也に向けて言う。
「お前こそ。辛いならそこらへんで寝ていてもいいのだぞ?この程度なら俺一人でも十分だ」
「はっ。弱音吐かなきゃやってらんねぇほど弱ってる奴なんぞに言われて寝てられるかっての」
ここで倒れれば、その分だけ他の誰かが傷つくことを知っているから。
ここで自我を失えば、もう二度と大切なものが戻らないことを知っているから。
二人の少年は、ただただ前を向き、眼前の敵を潰すことだけを考える。
「さっさといけ、<探求の獣>。前衛のお前にここにいられると俺が困る」
「俺をその名で呼ぶな!ついでに命令もすんな、俺は支部長の命令に従ってんだ。お前の指図に付き合うつもりはねぇ」
けど、と最後に十也は呟いて、ジャームの群れへと走り出す。その異形の腕を振りかざして、その群れを吹き飛ばすために―――。
「付き合うつもりはない、が……ここを守るためだ。お前のその提案、ちょっとだけ受け入れてやるよ!」
ふん、とその言葉を鼻で笑い、左京がその異能を操る指先をジャームの群れの先頭へと突きつける。
「上等だ。当たるなよっ!」
指先より迸るのは雷の槍。彼の二つ名、グングニルと呼ぶに相応しい、神速の光槍は、数多のジャームを薙ぎ飛ばしていく―――。
獣と雷はいまだ健在、ただただこの街を襲うジャームを圧倒的な力で吹き飛ばし続ける。
お久し振りのご本人様ですね。
知り合いも、新幹線が止まって大変だったと言ってました支援。
<世界の鍵>
はぁ、と深くため息をついた少年がいた。
彼の周りには無数のジャームたち。
最近はこんな輩に狙われているために色々と放浪生活をしながらUGNのイリーガルとして食っていっている彼だが、どうやらこれは自分を狙ったものではないようだ。
あわてて思い人に連絡しようとしたら、通話ボタンを押す直前に着信が告げられる。
名前の表示を見れば、彼にとっては非常に苦手な人物の名前。
しばらく葛藤するが、出なければ出ないで非常にまずいことになる。
仕方なくとると、そこからはその人物―――頸城智世の声がした。
もしもし、と言う隙すら与えず智世が言う。
『貴方、本当に結希さんの思い人である自覚がおありになるのかしら?』
痛烈な言葉を棘だらけの口調で言われる。さすがラストソング、そのダメージで心がずきずきと痛む。
とりあえずは言葉を返した。
「君が結希の側についているんだろ、だったらまだ安心できる」
『あら、ナイト役をわたくしに譲る気になりまして?』
「そんなことは言ってない。僕は、結希を好きな気持ちだけは君に負けるつもりはないからね」
電話の向こうからはふん、と鼻で笑う声。
『ナメないでいただきたいですわね。
よろしいですか?わたくしはあなたに結希さんを思う心が負けているから引いているのではありませんわ。
結希さんがあなたを選んだから、引くのです。
結希さんがあなたを捨てる日がくれば、すぐさま奪って差し上げますので覚悟しておきなさいな?』
「……うん、そうだね。ありがとう」
『礼を言われる筋合いはございませんわ。
さっさと結希さんを守りにきなさい、この○○○』
そう言って、一方的にぶつんと切られる会話。
ため息は一つ。目の前にはジャームの群れ。そんな中でなお、少年はただ静かに告げた。
「こんなこと言われちゃったんじゃ仕方ないね。早く結希のところへ行かないといけない。
それで―――誰から最初にこの世に別れを告げたい?
僕はさっさと行かなくちゃいけないから、ちょっと今手加減なんかはする気が起きないんだ」
直後。ジャームが30匹ほど一気に蹴散らされる。
それが、ジャームたちには見えないほどの速度で移動した少年の、腕のなした結果だった。
薙ぎ払われたジャームたちの破片が雨と降り注ぐ中、加害者の少年だけが真剣な表情で酷薄な台詞を吐く。
「逃げてくれると、僕としてはとても助かるんだけどね。
実力の差が分かるような顔には見えないし―――仕方ない。君達全員、ここで行き止まりだ」
その言葉と同時、少年は服の中から獣の腕を繰り出し―――そして、一方的な虐殺はほんの短い時間で終わることになる。
んじゃ支援しまっす
私怨
<紅き炎と戦場の歌>
バス停に、一人の気弱そうな少年がいた。
おかしいなぁ、と一人呟く。待ち合わせの相手が来ないというだけでなく、この街に不案内なことが彼の不安に拍車をかけていた。
その時だ。彼の背後に立っていたジャームが、彼に向かって腕を振り下ろした。
少年が驚く声すら響かずに巨大な腕が振り下ろされて、アスファルトが砕けた。もうもうと沸き起こる砂煙。
その砂煙の中で、ジャームは気づく。自分の腕が傷だらけになっていることに。
焼けつく痛みに気づいた瞬間、絶叫。
その砂煙の中から、おどおどしたままの少年が現れる。
「ご、ごめんなさいっ、僕はちょっと特別な体質なんで……あなたみたいなのが触ると、怪我しちゃいますよ?」
少年が思わずジャームに謝っているところに、強い声がかけられた。
「こぉら史朗っ!なにそんな雑魚ジャーム相手にダメージ受けてるのよ情けないっ!」
「うひゃっ!?……さ、桜。おどかさないでよ」
声と同時に少年に向かって駆けて来るのは富士見桜。桜が呼んだとおり、少年の名は史朗―――松永史朗(まつなが・しろう)といった。
もともとは桜と同じ支部の、切り札の一枚のような少年であり、そうそう支部を出ることはないのだが、このたび霧谷によって秋葉原まで呼びつけられた援軍の一人だ。
桜は史朗を睨んでから、告げる。
「まったく、もうちょっとしっかりしなさいよ。史朗は力はあるんだから」
「う、うん。だけど桜、待ち合わせの時間からだいぶ遅れて―――」
「街中でジャームが大量に出現してる中を、史朗はあたしにつっきれって言うのっ!?」
「ご、ごめんなさい……」
おもいきり怒られてへこむ、これが史朗と桜の関係である。
―――本当はもう一人、友だちがいて。
―――本当はもう一人、皆の姉がいた。
けれど、その光景は今はない。
だから彼らはその先を歩く。それでも彼らはその先をゆく。自分の選んだ道を、ただ信じて。未来を守り続けるために。
桜は、いまだ萎縮する史朗に、ぽつりと告げた。
「まったく……あたしを守る時くらいはしゃきっとできないの?」
その言葉に、思わずえ?と聞き返す史朗。ううん、と首を振って彼女は告げた。
「史朗があたしを守る。あたしが史朗を守る。いつものことよね、できないとは言わせないわよ?」
「できるよ。桜は、絶対に守ってみせる」
史朗は真剣な目でそう応える。実は支部長から『桜ちゃんを守ってあげてね』という指令を受けていたし、なにより。自分が守りたいから。
その言葉に満足そうに頷いて、彼らはジャームの街を駆け出した。
大切な人と生きるこの街を、守るために。
<白銀の剣とレネゲイドの意思>
人のいない街で、七村紫帆(ななむら・しほ)は途方にくれていた。
ミナリと一緒に他支部の援軍に行ってやってくれ、と彼女のいる鳴島市のUGN支部長、九条柳也(くじょう・りゅうや)から言われたのは三日前のこと。
委員長こと友人のミナリ―――八重垣ミナリ(やえがき・みなり)は、
『なんでそんなことをもっと早く言わないんですかまったくもう柳也さんは』とえんえんとお説教を開始するものの、柳也はそれを丸無視。
夏休みに入ってさらに過酷さを増すミナリのオーヴァード指導にちょっと『外に出たいな……』と思っていた紫帆にとってはそれは天の声のように聞こえたものだった。
そんなバケーション気分の紫帆が行く先で待ち受けていたのは、ジャームの群れ。
気づいた時にはワーディングの中に入ってしまっており、大量のジャームに囲まれていて、とりあえずはいったん逃亡。
向こうの支部に連絡をした後、この街が今ジャームに襲われていることが判明。ちょっと支部が危ないので、支部の方に向かってくれ、とのこと。
能力は低いとはいえ相手は大群だ。そんなものをいちいち相手にしてはいられない。
ミナリの後ろに隠れてちょこちょこと逃げ回りながら支部に向かっていたのだが、ちょっと失敗してミナリとはぐれてしまったのだ。
なんとか町内地図を見て支部にたどりつこうとするものの、普通の地図にUGNの支部の名前があるはずもない。
喫茶「ゆにばーさる」なんて店があったが、そんなまんまな名前をつけるネーミングセンスの支部長はいないだろう、と判断。
さらに5分ほどにらめっこした時だった。
ぱん、と軽い音。
その音につい最近お近づきになった紫帆は、音のもとである背後をおそるおそる振り向く。
あんまり日常生活では聞くことのないその音―――拳銃の破裂音―――を出したのは、銀色の髪の少女だった。その手には案の上黒い塊が握られている。
少女は、男性にも女性にも、男にも女にも、老人にも子どもにも見える表情で、紫帆を見た。
「こんなところで何をやってるのかは知らないが、キミも力を使えるのなら構えたほうがいいんじゃないかな?
ハムレット曰く―――いや、やめておこう。キミに言ってもあまり意味を成さない」
いきなり現れて変なことを言う子どもを見た紫帆はちょっとヒき……賢者の石が彼女がオーヴァードであることを教えたため、納得した。
同時に倒れる紫帆の見ていた案内板の向こうに立っていたジャーム。
うひゃ、と呟いて、紫帆はあらためて少女を見る。
「えぇと、助けてくれんだよね?ありがとう。私の名前は七村紫帆。あなたはなんていうの?」
「ふぅん。選ばれしもの、か。それならボクも名乗っておかなければならないな。
ボクはシザーリオ。レネゲイドの意思であり代行者。これだけ意思に背くものの集う街を放っておくわけにもいかないだろう?」
紫帆にとってはあまりに要領を得ない答えに、彼女ができたのは『……あぁ、そうなんだ』と微妙な顔で頷くことだけだった。
シザーリオ、と名乗った少女にも、そんな反応がくることはわかっていたのか、彼女は小さな微笑を浮かべたままさて、と呟く。
「キミがどう思うかは知らないが、一応は味方だとだけ言っておくよ紫帆。僕たちの選んだ選ばれし子の一人。
ともかく、今はこの状況を切り抜ける方が先だろう?UGNのここの支部の場所はボクが知っている。案内するよ」
「え。ほ、本当に知ってるの?」
「疑い深いのは人間として正しいことだ。とはいえ―――こんな状況でFHはキミを狙うほど悠長なのかい?」
ボクの知る限り、彼らは撤退にせよ攻撃にせよ拙速を重んじていたはずだけどね、と続けるシザーリオ。
紫帆には難しいことは正直よくわからない。しかし、虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言う。そんなことをミナリが言っていたような気がする。確か。
そううんうんと頷いて、紫帆は意を決して告げた。
「わかった。連れてってシザーリオちゃん。たぶん、委員長もそこにいると思うんだ」
「……ボクにちゃんをつけて呼んだのはキミが初めてだよ、紫帆。ともあれ、では行こうか?」
シザーリオは周囲をぐるりと見渡してから、告げた。
「この包囲を抜けてから、ね」
sien
<盾の刃と衝撃の超人共>
ミナリは、目の前の光景にため息をついていた。
目の前にあるのは、二人の男性の醜い争いだった。しかもあんまり見た目綺麗じゃない高校生(A)と、見た目だけ綺麗な高校生(B)。
ミナリが紫帆を探していると、いきなり声をかけてきた少年(A)こと、国見以蔵(くにみ・いぞう)。
そしてそれを一瞬で押しのけてミナリにナンパをしかけてきた少年(B)こと久坂勇(くさか・いさみ)。
直後に以蔵が勇を押し倒し、醜いケンカをはじめたのである。
それだけならまだいい。ミナリとしても許容範囲であるし、二人をしかりつければいいだけの話だ。
問題はそれ以降、次々とミナリの想像を絶する事態が起きていることが原因である。
まず、以蔵が新しく現れたジャームに襲われそうになると同時、(以蔵を巻き込みながら)宇宙から少女アンドロイドが降ってきた。
次に、パラシュートで降下後、いきなり手にした棒を槍に変化させた女性がミニバンを串刺し。同時にミニバンをぶん投げて(以蔵ごと)ジャームを吹き飛ばす。
……最後には、ドラゴンが現れてあんぎゃー、とブレスを吐き出して大半を(以蔵ごと)薙ぎ払った後、しゅるしゅるとミニサイズの少女に変化。
常識派のミナリにはちと厳しい現実。
その、もはや異世界に来てしまったかのような錯覚を起こさせるような異様な状況をおさめたのは、カチューシャの少女だった。
「以蔵!勇くん、なにやってんの!
マーヤちゃんも降ってくる時は連絡の一つも入れなさいって言っておいたでしょ?
シャルさんも!あなたはもう少し常識派かと思ってたのに、ソフィアちゃんの一人くらい抑えられなくてどうしますっ!
モルガンちゃんも!こんなビルが集まったところでブレスとか吐いたら迷惑じゃない!」
少女は勝気そうな表情のまま、正直この世界のものだと思いたくはないくらいにごちゃごちゃな連中を一喝。
その後、呆然としていたミナリを振り向いて言った。
「UGNの人よね?わたしは三室戸もみじ。こいつらの……まぁ、大家みたいなモンかな」
「はぁ、大家、ですか」
「違うだろもみじ!お前は俺のもんだ!マイラバーマイラバーラマンラマーン!」
「ラマンは愛人でしょうが!」
支援しますよ
ミナリともみじの会話に割り込んできた以蔵にボディブロー。以蔵、ごあふぁっ!?と叫んで撃沈。
まったくもう、と呟いて恐ろしい実力行使をした後、彼女は的確に告げる。
「モルガンちゃんは勇くんと一緒に向こうの道のジャームたちをお願い」
「ふっふっふ、任せておくのじゃー!このカオスガーデンの主にして竜の女王、真祖ブラストハンドになっ!」
「はっはっは、当たり前のように任せてくださってかまいませんよもみじさん。この本家ブラストハンドがあの程度の敵一掃してみせますよ」
「シャルさんはマーヤさんとあっちの公園内の駆除をお願いします」
「まぁそれが妥当なところだろう。エルキュールの奴もどこかに落ちているだろうから回収しておけば安心だしな」
「了解しました」
「えーと、あなたは……」
「ミナリです。八重垣ミナリ」
名前を告げると、彼女は頼もしそうに笑った。
「そう、ミナリさんもこの二人の方についてってくれる?あなたはどっちかっていうとそういう能力みたいだし」
そう言われて、はぁ、とミナリは答えるしかない。正直もうこの状況に頭がついていっていないのであった。
そして、と最後にもみじはまだ悶絶している以蔵を振り向く。
「以蔵、アンタはあたしと一緒に向こうに行くわよ。いい?」
「一緒?そう、そうだねもみじ。生まれる前から僕らは常に一緒さアーハーン?そう、お前がその気なら今すぐにでも俺とトゥギャザーしないか?」
「その気ってどの気よこの馬鹿」
ハリセン一閃。その慣れた動き一つ見るだけで、ミナリは彼女を只者ではないと感じ取った。
そんなことはさておき、ハリセンを肩に担ぐようにして、しゃがみこんで頭を押えてくぉぉぉぉ、とうなる以蔵を見下ろして一つため息。
「……ほら、コレが終わったらいくらでもあたしのメイド姿が見られるでしょうが。少しはやる気だしなさいよ、ブラストハンド」
「い、いくらでもっ!?おはようからおやすみまで俺を見守り続けるメイドもみじ!?うぉぉやる気出てきたぁぁぁぁっ!」
しゃきーん、と効果音を口で言いながら立ち上がる以蔵。
そんな彼をもう一度ため息まじりで苦笑しながら見て、もみじはほんの少し微笑んだ。
そして―――それまでうっひょぉぉぉおおおっ!と奇声を上げていた以蔵が、ぱちん、と指を弾いて何事か呟くと、近くまで迫ってきていたジャームの頭が爆散する。
「―――ブラストハンド、それが俺の名だ。地獄に行っても忘れるな」
「じゃからわらわが真祖ブラストハンドじゃ。名前の使用料よこせ以蔵」
「いえいえ、そこの使用料関連はこの本家ブラストハンドを通してにしましょうモルガンちゃん」
「……そろそろわたしも新正ブラストハンドあたりを名乗るべきでしょうか、シャル」
「やめておいてくれマーヤ。お前にまでそちら側にいかれると正直本気で困る」
かっこよくよくわからないポーズを決めながら以蔵。半眼のモルガン。笑顔の勇。茫洋とした瞳でマーヤ。頭を押えつつのシャル。
そんな光景を見て、ミナリはため息をつきつつ呟いた。
「……なんか、ここにいると私もイロモノ扱いされそうな気がする……」
心の中で自分の不運を嘆きつつ、八重垣ミナリは駆け出した。
メジャーアクションで《支援射撃》
<永遠の少年と道化の仮面>
薄い色素の髪、白い肌、ジャケットを上から引っ掛けた、サスペンダーの半ズボン。
可愛らしいだろう面持ちの少年が、大量のジャームの群れの前に立っている。
だろう、と表現したのは単純で、今はその顔がどう考えてもへそを曲げているようにしか見えないから。
少年は隣に立つ男に対して告げる。
「まったく……キミといる時はいつもこうだよジョージ」
「はっはっは。それはこっちの台詞だよ応理君、君といる時はいつもこうなんだから困る。僕は紫帆君のメイド姿を目に焼き付けておこうと思っただけなんだけどねぇ」
「ジョージ、いつからメイド趣味になったんだい?キミん家には結構いるだろ、あのオーストリアの古城に」
「おやおや。ここ一年ほどの騒動のことを知らないのかな?
さすがはピーターパン。ネバーランドにでも引きこもってたのかい?某資本主義の国にあるやつ」
「穢れきったところは夢の国(ネバーランド)とは言わない。万魔殿(パンデモニウム)って言うんだ。あんなものと一緒にするなよ」
閑話休題。
薄い笑いを貼り付けたままに少年、群墨応理(むらずみ・おうり)と話しているのは、亜麻色の髪の青年だ。ジョージ、とは呼ばれているもののどう見ても日本人である。
彼の名前は千城寺薫(せんじょうじ・かおる)。UGNの中枢評議員、テレーズ・ブルム直属の部下で、研究員をやっている。
基本的に好奇心のまま動く彼の現在の主な目的は紫帆の観察であり、紫帆が霧谷の下した命令によって秋葉原支部に行くということを知った彼はすぐさま直行。
その先でばったりと何度か会ったことのある応理と出会ってしまったのだった。
なお。
応理が薫をジョージと呼ぶのは、一番最初に薫と出会った場所が例の城だったせいである。
ともあれ、応理は不機嫌そうな表情を隠そうともせずに言った。
「まったく……雄吾に言われてヘルプとして来てみればこの状況だ。ともかく、支部に行ってみないと状況がわからない」
「それについては同感だね。じゃあ―――結局共同戦線と行こうかな?」
「ちょっと納得いかないけどそうも言ってられないだろう。何より、キミの実力だけはボクは買ってるんだよ?」
「僕は支部がどこかわからないからね。ちょうどいい所で会った、と思っておくべきかな」
「子どもに道を聞くのかい?」
「最近の子どもは困ってる人を助けないくらい発達が不健全なんだね、嘆かわしい」
「……金持ってるからっていい気になるなよ」
「おや?何か言ったかい応理君」
「いいや何も。それより、キミを怪物たちが待ってるよ?」
応理の言葉に、薫が白衣の袖からしゅるしゅると茨を伸ばす。
「おやおや本当だ。そういえば応理君、ここも最近は夢の国と呼ばれているらしいじゃないか」
「他にも聖地、なんて呼んでる人間もいるね。それがどうかしたかい?」
「夢の国には怪物は必要ないと思わない?」
薫のウィンクしながらの言葉に、ははっ、と声を上げておかしそうに笑う応理。
「そうだね、夢の国はみんなの夢でできている。そこに―――悪い夢は必要ない」
応理が言い終えると同時。
ジャームの群れを多い尽くすほどの茨の群れと、茨の隙間を縫うように放たれる黒い釘が、その一角を一瞬にして消滅させた。
しえん
146 :
ゆにまほ中身:2008/08/25(月) 02:42:02 ID:YMB2LMN9
さるさんーorz
3時待ちっス。
ゆにまほの人=さるさん
ちぃ覚えた。
うお、投下来てる。しかもオールスター!
嵯峨野童子もくるのかな……
<白糸使いの蜘蛛・真円の狼・断罪の女神>
白い糸が空間を走り、ジャームの群れを拘束。切り刻む。
黒い獣が地面を蹴ってジャームの群れへと回し蹴りを叩き込む。
その隙間を縫い、少女の弾丸が次々とジャームの眉間を正確にうちぬく。
いずれもゆにばーさるを代表する名物メイド。しかし一度戦闘となれば、彼女たちはそうそう止められはしない。
あまりの光景に、もはや理性の欠片も残ってはいないだろうジャームたちの一部が逃げ出そうとしたほどだ。
分断されては勝てないと悟ったか。ジャームたちは彼女達を完全に包囲するように頭数を揃えつつある。
次々と増えていくジャーム、そんな光景を前にして、それでも彼女達の表情は変わらない。
綾が告げる。
「……この街にはお友達がたくさんいるの。あなた達がそこに入るというなら、その罪は今すぐわたしが裁く」
狛江が吼える。
「いいねいいね、これ百人組み手以上だよねっ!?オーヴァード空手の修行の一環として取り入れられるねっ!」
椿が語りかける。
「あなた達がいるところは、ここじゃない。ここは私たちの場所、絶対に好き勝手に奪わせたりなんかさせないっ!」
彼女達には、結希から先ほど元凶をたたきにいったチームがいることは知らされている。
彼らが帰ってくるまでこのジャームたちをえんえんと相手をしなければならないとわかっている。
だからこそ。
あのゆにばーさるの日常が帰ってくることを信じて、彼女達は戦い続ける。
***
さまざまな人間が、この街を守るために戦っていた。
傷つくことも恐れず、侵食されていく己をも省みず、ただ守りたいものを守るために。
誰かの明日を守るために。
誰かの日常を守るために。
そしてなにより―――自分の日常を回していくために。
その輝きたちが、この街を守っている。この街の日々を回している。だからこそ―――この夢のような街がある。
誰かの見ている夢のように、お祭り騒ぎの続く街を。
けれどその夢はけして悪いものではない。だからこそ守ろうとするものがいる。あらゆる人々との絆がこの街を守ろうとさせる。
人々のつむぐその幻想(きずな)が今、この街を侵食から防いでいるのだ。
その輝きは止まらない。
きっと―――全てが終わるその時まで。
to be next...climax phase
そんなわけで、幕間いかがだったでしょうか。ゆにまほ中身でございます。
天キャラが書けねぇーっ!いや、わかってんだけどあれだけの破壊力でないよ普通の人間が書いてもっ!
それはさておきJGC楽しかったー!みかきさんにノーチェ書いてもらった!自分もう人生に悔いねぇよ!
私事ですが、シナリオクラフトDXアキバステージやってきた!
隼人が狛江の付属品になってた。あとシャンパンならぬコーラファイトするチルドレンズ。コーラファイトの後片付けする苦労人つかちゃん。
乾杯の音頭取ってコーラ一気させられて大惨事になる結希。二階から落ちて糸で戻ってくる椿。二階の宴会場の床ぶち壊して床ごと崩落させる狛江。
スリッパ卓球でキュマイラ筋を大人気なく全開で発揮するも、イオノクラフトで空飛ばれて思い切り跳ねた後のスマッシュをカットで返される春日恭二。
温泉って楽しいよね(どんなセッションやねん)!
そんなわけでレス返しー。
>>105 そうですねー。っていうか狙ったよ侵魔超人!
「エミュレイターでオーヴァード、なんか長いからてきとーに略称作んないと。漢字に変換して……ちょww」というのが経緯。
ネタですよ!超一発モノのネタですよ!うんごめんもうやんない!
>>106 これからクライマックスです。
っつーかまだ白紙(汗)。夏が終わるまでに投下できるといいなぁ。
隼人の侵食率?大丈夫ですよ生還者だしきっと(無責任)。とりあえず現時点で100超えですが(待てぃ)。
っつーか、心配なのはむしろつかちゃんだったり。
クライマックスのレギュレーションをちらっと書いとくとですね。
・ノーチェと司は、月匣の維持・調整を行わなければならないので同一エンゲージにいなければならない。
・維持作業中は、MPなら1R5点消費、侵食率も1R5上がるものとする。
・維持作業中は、マイナーの行動を行えない。マイナーが「維持作業」に使用される、という解釈。
・片方に維持作業を任せることもできる。ただし、一人で維持している方は代償が倍になる。また、イニシアチブが回ってきても行動はできない。
と、こんな感じ?ちなみに維持作業をしてないと司・隼人はその場で戦闘不能、柊・ノーチェは達成値半分トラップ。
>>107 「紅衣」はセカンドでデータ化されてたっけ?……なんてことはどうでもよくて。
交流が個人レベルでしかないんで、無理です。しかもアンゼかノーチェの二択。うおぉ、大変だオクタヘドロン。
あ、ちなみにちゃんとほかのキャラ出そうかとかも考えたんですよ?
嵯峨童子とかはたぶんエンドラインで星を見上げながら、「む、ケイト殿?」とか言ってるし、
フィンとかは英国からきっと秋葉原で大事件が起きてて、隼人が中心にいるって聞いてもう少し若かったらなーとか思ってるし
日向はたぶん今はみんなにチャンピオンにならないか聞いて回ってるころでしょう。
っつーかさすがにデモンズシティとか平安のキャラは出せんのよ。わかってくれ。頼むから。
さてさて。先も書いたようにクライマックス―――なのですが、まだ書き始めてもいません。
投下はいつになるかわかりませんが、少しでもいい展開になるといいなと思います。では、また。
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─(○)─
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|| ∧_∧_________
||─(・∀・ )彡》'》'》'》'》'》'》'》'》'》'》'》彡彡
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||─(´∀` )彡))'))'))'))'))'))'))彡 保管
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|| ∧ ∧ ______ ●「ゆにばーさる」と魔法使いの夏 幕間
||─(゚Д ゚;) 彡333333333彡
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|| ∧_∧ ___
||─(・ω・` )彡》》》》》彡
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152 :
保管庫の人:2008/08/25(月) 03:09:33 ID:YTSdXcC7
ゆにまほ保管時に使えそうなAAを探してるものの、なかなか良いものが見つかりません。
それはそれとして、>113-129のあたりとか、前スレ>707以降とか
取りこぼしてることに気付いたので、そのうち。(忘れないようにメモ
153 :
中身:2008/08/25(月) 03:16:47 ID:dfkZBXWS
いや、ありがとうございますなんだけど……そんな、俺のためにそんなことされても何もでないよ(おどおどびくびく)?
っていうかやっぱ早過ぎないかっ!?読みながら保管作業してるよなっ!?あ、ありがとうございますですよっ!?
うん。ご迷惑おかけしてます。本気で毎回すみません。「永斗」とか、ほんと助かってます。
PS 卓上板作品スレの方でもちょこちょこやってます。宣伝乙。
ためしに
>>113にあるアリアンロッドリプレイルージュクロスのハンドアウト作ってみた
PC1
コネクション:一本の魔剣
君の名はノエル・グリーンフィールド。世界を滅ぼそうとした神竜ゾハールを倒し、世界を救った英雄だ。
戦いの後、仲間達と旅をしている君は、かつての戦いで死んだ仲間の墓参りをすませ、今は近くの街で、両親へのおみやげを物色していた。
だが、突如空に赤い月が浮かび上がり、モンスター達の襲撃を受ける。
危機にさらされた君の前に現れたもの。
それは、柄の部分に蒼い宝玉がはめこまれた一本の剣であった。
PC2
コネクション:ダイナストカバル大首領
君の名はレント・セプター。ダイナストカバルが創り出した人造人間の魔術師だ。
街で教育係の少女、アルテアとくつろいでいた君に、大首領からの緊急連絡が入った。
世界各地で赤い月が観測され、それと同時に出現するモンスター軍団の攻撃で各地の支部に被害が出ている、というのだ。
そして、奴らの目的はノエルの捕縛、あるいは抹殺である、と。
大首領から君に、かつての戦いの時と同じ指令が出される。『ノエルを護れ』と。
PC3
コネクション:ガーベラ
君の名はクリス・ファーディナント。将来有望な若き神官戦士だ。
街の神殿にやってきた君は、そこで重傷を負ったガーベラと再会した。
彼女は、今にも倒れそうになりながら君に告げる。
突如、ディアスロンドがモンスター軍団に襲撃された。幸い教皇とノエルの母、ノイエは難を逃れたものの、二人を護るため戦ったゴウラが瀕死の重傷を負った、と。
さらにそいつらの狙いはノエルである、ともガーベラは言った。
ノエルが危ない。君は急いでノエルのもとに向かった。
PC4
コネクション:ジュライ
君の名はエイプリル・スプリングス。元情報部十三班のエージェントだったガンスリンガーだ。
一人街の郊外に佇んでいた君は、かつての仲間であるジュライとしたくもない再会を果たした。
適当にあしらって宿に戻ろうとした君だが、ジュライからの情報を聞くと顔色を変えた。
赤い月とともに出現するモンスター軍団を指揮しているのが、かつて薔薇の武具をめぐる戦いの中で死んだはずのフェブラリィだというのだ。
新たな戦いの予感を覚えた君は、急いでノエルと合流することにした。
PC5
コネクション:アンゼロット
君の名は柊蓮司。『下がる男』とも呼ばれる神殺しの魔剣の使い手だ。
例によって例の如く、アンゼロットに呼び出された君に、新たな任務が与えられる。
それは、異世界に逃走した魔王の討伐と、マジカル・ウォーフェアのどさくさで紛失した七瀬晶の魔剣の回収。
魔王を放っておくわけにはいかないし、大切な思い出があるあの魔剣を失いたくはない。
不幸中の幸いと言うべきか、両方とも同じ世界にあることは確認されている。
君はその異世界へ旅立った。……とんでもない方法によって。
リプレイのエピローグの続きをイメージしている。
でも、本編になることはないと思うorz
156 :
154:2008/08/25(月) 15:21:31 ID:iy/L/g+S
……勢いまかせで書いたのはいいけど、見事にスルトの剣がらみのネタまじってやんのorz
>>155 あらかたの「とんでもない方法」は見慣れて当たり前の方法になっている以上……
今回はどんな方法を使うんだろう(wktk
1.転生者になる
2.殺される
3.生まれ変わる
4.育つ
5.ミキサー大帝の協力を得て魂だけ分離させて送り込む
6.事前にしっかりと説明を受けてから「極普通」の召喚魔方陣によって転送
……ある意味一番とんでもない
マテ、それは世界が滅ぶ前兆だ
>158は別に拉致方法を4つあげてるわけじゃないから、>159-160って続くのは少しおかしい。
7.扉を開けたらエリンディルだった
8.世界結界の外へ島流し
9.(晶の魔剣の関係から)芳香剤のとばっちりで(ry
あれ、感想一番乗りかな?
ゆにまほの人GJ。
ヘイストヘイストー。クライマックス激しく早く見たい。
ミナリ哀れ。強く生きろ
聖ジョージとピーターパンの組み合わせがなぜかツボに入った。
ゆにまほの人GJ!やっぱりこういう闘ってるのは自分達だけじゃない!
っていう演出は熱くなるものがありますね、っていうかブラストハンド達が出た時点で今までのダブルクロスな雰囲気が見事に台無しになってて吹いちまったじゃないかwww
天さんっぽさは確かにちょっと弱かったですが十二分に面白可笑しいブラストハンド達が見れて満足だったりw
なんかむしろファイナルハーツの店員さんたちがこの事態にどうしてるのか
見たかったり。
・キャスター
・キャスター
・キャスター
・ヒーラー
なんだこのパーティ。
あ! すまん、1行目抜けてた。
「ハンドアウト風のネタを書いてみようと思った」という前提だとでも思ってくれ
>>171 そういわれても、やっぱり意味がわからんが
マユリ
ギョーム
ジルドレ
エリス
…とか?
さすがにスタイルクラスだけ書き出されてもなんだかわからんよw
ひどく偏っていることだけが分かるねw
はわときゃとおむすびと入れるとするじゃん。
クロス先が後衛系だったりすると、その(笑)
正直、その、なんの話にもならない枠組みだけ出されて悩まれても……
何か言ってほしいんならどんなキャラなのかテクスチャ張ってくれないと、クロス以前に会話にならないから……
その、会話したくないならチラシの裏にでも書いて悦ってろとしか……
これはもう
>>171に責任持ってそのハンドアウト風のネタをしっかりと仕上げて載せてもらうしかないな
宣伝はいいんだが専ブラに表示されないぞ
板一覧更新
もしもこのスレ完走したら次スレはそっち行くか。スレルールもちょっと見直す?
……どうだろう。正直今立ってるスレタイざっと見るとあんまり混ざりたくないんだが。
とりあえず様子見すべきだと思う。
先走るのはキケン。
スレルールねぇ。
直したとしても、悪乗りばっかする連中が守るかどうか……
とりあえずまだまだ気が早い。
450KBかレス950になったら、ぞの時点の状況で考えよう。
そのころには向こうも方向性が固まっているでしょ
まぁ完走までまだ時間ありそうだしゆっくり考えようか。
>>185 そこは本気で同意。
前スレもやっと埋まったばかりだしね
まあしばらくは様子見で、まあ、いい方なスレが建ってきたら考えよう
それが無難っぽいね
おうよ、ってわけでネタを振ってみよう。
麻雀ネタはこれまで結構出たけど花札ネタはなかった気がするっ!
温泉を目指して花札勝負。ラスボスはサーヴァントのサーヴァントと花札一騎打ち!
……ナイトウィザードキャラの花札宝具とか考えてみたけど思い付かない想像力の貧困な俺orz
そっち方面とクロスさせたいのか
まあ俺も虎大活躍の話を考えてはいるんだがな
虎…五虎将か!?<違う
そして天大暴れ、と
は、花札カッター!! 花札乱舞!!
NWで博徒っぽいキャラというと……ベル?
やめて。小さな奇跡で卓ひっくり返すのやめて。
温泉と聞いてクロウ=セイルが以下略
ベルよりちゃん様の方が花札は得意っぽい気がする。気がするだけだけど。
ベル様は大きい役を握るためにちまいこと考えすぎて、
あと一枚!ってところで、感性で安い役でホイホイ上がるちゃん様に負けるという展開と見た
なるほどなぁ……俺はベルは相手の役潰しに夢中になって自分の役ができず、ちょーこーのカスかタネ当たりで負けってイメージが。
未来知ってるイコ=スーや秘密全部わかるリオンがいるんだぞ
勝負にならん
鷲頭麻雀どころの話じゃない
>201
リオンはオープンリーチに弱そうだな。
そしてブッコ抜きのカミーユ=カイムンとツバメ返しのエリィ=コルドン。
誰も天の卓の話をしようって言ってるわけじゃないと思うんだが……
まぁいいや。なんで魔王前提で話進んでて、その上リオンとかイコとかいるからダメじゃんってなってんのかわからんが
だったらウィザード勢でやればいいじゃないか(アンゼ除く)!
あかりんは無駄に引き強そうだ。
あれもこれもと頑張って失敗するマユリ。地味強いエリス、くれは(タネから猪鹿蝶狙い)
地味にカス狙いであまり負けない静、参加できるだけで喜ぶ命、コウ狙いがモロバレレッド
意外に弱い時雨、ルール無視なゲシュペンスト、勝てなくて花札でメンコはじめるいのり、参加するリンカイザー
くらいまでは見えたっ!
それぞれが能力をフルに使うアリアリルール
チップはプラーナでの支払いもちろん青天井
そんな福本漫画チック……可愛くないのでやっぱなし
あかりんは幻想舞踏がなー
中の人のリアル幻想舞踏もあるし・・・
アレを封じるには御剣忍法≪念力投射≫が必要だなw
>>204 ARIAルールに見えた
お茶会の人、忙しいのかなぁ
そういう能力系マージャン漫画を再現したルールで実際やってみたら
能力同士で相殺しあって結局マージャンが強い人間が勝ったという話思い出した
NWのこの設定と、このアニメのここの部分って根幹部分が良く似てるぜ!
よし、ここをこう辻褄合わせれば……いける!
って思った時に限って、公式で既に同じようなシナリオやられてたり
登場人物の設定がもろ被りだったりする罠。
でも僕は諦めない。
むしろ全然似通ってないのとクロスさせるという手もあるぜ
>210
前提を覆してどうするw
柊なら、柊ならそれでもなんとかしてくれる……っ!
【なんとかするのは書き手だという】
>>203 とはいえ花札がメインのクロス先って言うと…サクラ大戦では死ぬほどやりこんだなあw
>>210 なんとなく、ぽっと思いついた全然違うものとクロスさせてみた。
柊「つまりだな、世界は別の世界から来る悪ーいヤツらに狙われててな、
それをやっつけられる力を持ってるのが、俺たちウィザードなんだぜ?
わかるか?」
よつば「……えで せつめいして」
柊「え?(かきかき)」
よつば「……じがきたなくて よくわかんない」
柊「……(´・ω・`)」
エリス「これが、私たちが身にまとう月衣って結界なの。知ってた?」
よつば「り、りろんはしってる」
エリス「理論は知ってるんだ、すごいねー」
よつば「すきなひとが、くれはをまもってくれたらいいのに」
くれは「そうよね。まったくそうよね。
でもその好きな人はね、私を置いて別の女の子を庇って、
たった一人で世界中を敵に回して逃げ出しちゃったの」
よつば「……なかいいな?」
くれは「いいよね」
>>209 ならば逆に「その登場人物がもし○○だったら」という内容に置き換える再構成ネタを提案してみるぜ
なぁに、(例えサンプルでも)卓の数だけ解釈や展開が違うシナリオがあるんだ
再構成シナリオでも個人的には大いにアリだと思うぜ
>>214 よつばとwwww
意外に面白いかもしれないwwww
よつば「……なぁ、エリスー……」
エリス「なに……?」
よつば「ようじはないか?」
……ダメだ、よつばと!を知らない俺にはアルテアにしか読めんw
>215
辻褄合わせというか、そういう設定を考えてる時が一番楽しいっていう人もいるんじゃないかな。
ちょっと思いついた設定を投下してみます。
とりあえずトレーラーとハンドアウトだけ。SSになるかどうかは未定。
あとデータ部分は割と適当。TRPGのルールよく知らないので。
後衛ばっかりだし、一部ウィザードクラスと組み合わせにくいし、属性もろ被りだし。
--------------------------------------------------------------------------------
■今回予告
Angelic Voice ――。
聞く者の魂に直接作用し、その人の心までをも操る力を持った魔法の歌声。
かつてその力を悪用し、世界を手中に収めんとした者たちがいた。
しかしその企みは未遂に終わることとなる。
それから数年。
芸能界に颯爽と現れた1人の新人アイドル歌手を巡って、再び恐るべき計画が動き出す。
ナイトウィザード・クロスオーバー
「だいすきなうた 〜 Project S.D. II 〜」
少女は、本当の自分を奏でることができるか。
220 :
219:2008/08/30(土) 04:44:50 ID:8xR4T+sL
■ハンドアウト
●PC1 ほしな歌唄(しゅごキャラ!)
ワークス:アイドル歌手
クラス:落とし子、使徒/キャスター(未定)
属性:未定/未定
PC間コネクション:露木椎果(顔見知り)
シナリオコネクション:三条ゆかり(マネージャー/事務所の社長)
デビュー当時から付き合いのあるマネージャー。共にイースター社から抜けた同士でもある。
クエスト:謎の追っ手から逃げ切る(1点)
君はとても歌が大好きな、新人アイドル歌手だ。
かつて所属していた芸能プロダクション「イースター」の方針に嫌気がさし、新しい事務所に移籍した。
イースターの妨害もあってか、最近はTVなどへの露出も少なくなり、地道な営業活動をする毎日である。
今日の仕事場は、東京・秋葉原にある小さなライブハウス。
規模は小さくとも、店には自分の歌を真剣に聞いてくれる客が集う。そんな環境が心地よい。
……謎の集団が君の前に現れるまでは。
●PC2 志宝エリス(ナイトウィザード)
ワークス:高校3年生
クラス:大いなる者/キャスター
属性:天/冥
PC間コネクション:赤羽くれは(先輩)
シナリオコネクション:私立輝明学園 秋葉原校(所属)
あの事件のあと、君は輝明学園の3年生として充実した学生生活を送っていた。
クエスト:ほしな歌唄を助ける(1点)
輝明学園に転校してきてから2ヶ月以上が過ぎた。
灯の他にも仲の良い友人が出来たりして、君は毎日が楽しくて仕方が無い。
そんな中、君は友人たちからある噂を聞く。
新人アイドル歌手・ほしな歌唄が近く秋葉原でライブを行うというのだ。
かなり興味はあるものの、金銭的な問題などもあって流石に行くつもりは無かったのだが……
天文部に顔を出したOB・赤羽くれはが取り出したのは2枚のライブチケットだった。
221 :
219:2008/08/30(土) 04:45:45 ID:8xR4T+sL
●PC3 露木椎果(Dear...〜この歌をあなたに〜 / ナイトウィザード)
ワークス:アイドル歌手
クラス:天/冥
属性:夢使い/キャスター
PC間コネクション:ほしな歌唄(顔見知り)
シナリオコネクション:杜プロダクション(所属)
アイドル歌手グループ「Dear」が所属する芸能事務所。一条財閥が支援している。
クエスト:一条家の計画を潰す(1点)
君は人気グループ「Dear」の一員として活躍する実力派アイドル歌手だ。
自分の歌声は人を魅了する特殊な力を持っている。かつてその力が恐るべき計画に悪用されかけたことがあった。
それから数年、君は再びそのプロジェクトが動き出したことを知る。
彼らが狙う新たなターゲット。それは最近デビューした新人アイドル歌手、ほしな歌唄だった。
●PC4 赤羽くれは(ナイトウィザード)
ワークス:神社の娘
クラス:陰陽師/ヒーラー
属性:冥/水
PC間コネクション:志宝エリス(後輩)
シナリオコネクション:緋室灯(仲間)
高校時代の後輩にして、何度も戦線を潜り抜けてきた頼れる存在だ。
クエスト:志宝エリスに協力する(1点)
友人のウィザード、緋室灯が君の元を尋ねてきた。
彼女の手には2枚のチケット。少し前にTVで話題になったアイドル歌手、ほしな歌唄のミニライブが秋葉原で行われるらしい。
自分の代わりに、ここへ共通の友人である志宝エリスと一緒に行ってきて欲しいのだと言う。
近所でライブをやるというのなら、ちょっと覗いてみるのも楽しそうだ。
どうせ柊はいないし。
どーせいないて。
哀れ過ぎだぜ柊。でもそうでないとお前じゃ無いぜ柊。
>>219 そこでCV:小暮絵麻さまなマーメイドですよw
柊…、相変わらず出張中なんだな…
225 :
219:2008/08/30(土) 07:57:10 ID:JdMR0LIH
SSのプロットを組みつつ。
うーん、NW×Dear×しゅごキャラとかマイナーすぎたかねぇ。
>222>224
なんだこの食いつきのよさ
>223
色々考えた上で除外したw
どっちかっていうとマーメイドの皆さんは単独でNWになるんじゃねーのかなw
なんつーか、すっかり亭主が出張ばかりで帰ってこないから一人で遊び歩いてる奥様だな。
>226
くれは&エリス『ええ、すっかり』
どっちが本妻なんだ
ばっかお前そりゃ魔剣さんがパートナーに決まってんじゃねぇか!
【馬鹿は妄想に飲み込まれた】
どっちも柊は絶賛スルー中だし、決まってないよなぁ
ところで、空塞でもし柊死んだらどうするよ?
個人的に、今までクロスしたことのあるキャラに死亡を伝えたいんだが
>>230 >空塞でもし柊死んだら
クラス:転生者を生やして何事も無かったかの様にコネにいそうだ。
>>230 したいんならやれば?
死んだとしてリアルで何年経ってるかとかそれまでここがあるのかとかいろいろ現実問題あるけど
柊が死亡した場合だって?
HAHAHAそんなの「生死判定してないから生死不明」という扱いにして
きくたけが「次回の伏線」として「謎の剣士」という立ち位置でシナリオに使うに決まってるジャナイカw
「キミの知っている柊蓮司は死んだ……」
くれはがアーティファクトに組み込まれたりエリスがかつての仲間を集めて追いかけたりする展開は燃えるかも
ところで、GF買ったので空砦情報。
柊の魔剣は箒に打ち直されたという事になった。
卒業後、5月までは魔剣の改修を行なっていた事もあって、のんびりしていたらしい。
で、ラースに突入するわけだが、基本的にラジオどおり。
ただ、くれはへの想いが…
「もし、なんでしたら特別にくれはさんを呼び戻し…」
(あっけらかんとした口調で)「ああ、いいよ別に。事情だけお前の方から伝えておいてくれよ」
「ですが、先ほども言いましたように今回のミッション、帰還確立は極端に低…」
「ははは。脅かすなって。帰ってこないつもりはないからな。せっかく卒業したんだし」
なお、卒業証書は回収できた模様。2ヶ月で回収に成功するとは優秀だな、在学生。
いや、もしかしたら向こうに行ってから学園迷宮にばら蒔かれる可能性も >卒業証書
あのスクメズの依頼がいつの時期なのか明言されてない訳だし…
柊蓮司の目指せ大学一直線
つまりあれか、卒業してからしばらくニート生活だったわけか。
…某槍的にレベル下がらないのか?
>>238 1レベル下がってるな。2ndルルブ時点から。
まぁ、それはそれとして高校の卒業式って3月頭ぐらいだろ?
5月まで2ヶ月はどっかに放り込んでも大丈夫なわけですよ。
魔剣?改修中スペアに晶の魔剣でも持ってることにすれば。
>239
晶「内助の功ですね、分かります」
逆にスペアをひどいものにするのも面白いかもしれん
・ハリセン
・ごぼう
・デッキブラシ
・エクスカリパー
「さあ柊さん、どうぞお好みのものをお選び下さい♪」
《以下FF5》
クレバー矢野「……(何かを考えている)……デッキブラシで。」
ようやく規制解除されたよ!
突然ですが、13時30分から【とある偽善使いと魔剣使い】の続きを投下してもよろしいでしょうか?
OKにゅ。
そろそろ時間ですので投下します。
容量は11KB。
立派に規制にひっかる容量ですので、どうか支援をお願いします。
今日も不幸ですよっと、自然に口ずさんだ。
クルクルとペンを回しながら、上条 当麻は授業を受けていた。
本日午前中最後の授業は【開発術】だった。
何人ものクラスメイトがそれぞれ薬を飲み、二枚のカードで挟まれたメモ用紙の中身を見ずにノートに書き写し、あるいはコインを机の上に手を触れずに立たせようとしていた。
そのチャレンジする様子はそれぞれ違っていた。一人は血管が切れそうなほどに踏ん張りながらコインを震えさせて、あるものは欠伸をしながら何枚ものコインを立てたまま積み重ねている。
もちろん当麻も同じように薬を飲み、目の前のカードに目を向けるが――何も見えない。
何時もどおり何の能力も現れる気配はなし。ふぬーと言葉だけで気合を入れてみるが、何も見えない。
「ちっ、せめてカードなんかどうでもいいから、女子のスカートか下着でも透過出来ればいいのになぁ」
小声で独り言を呟く当麻。
「なにカミやん。昼間っからいやらしい願望を唱えとんねン」
と、当麻が適当に呟いた言葉に、隣に座っていた長身180センチを超える青髪ピアス(男、学級委員)が似非臭い関西弁で突っ込んできた。
ボケたら響くようにツッコミが返ってくるところので、関西人としての魂を磨き上げようとしているのかもしれない。
「んー、まあどうせ見えるんだったらそれぐらいの役得が欲しいなぁと思ったんだよ」
とはいえ、当麻はレベル0の身であり、“向こう側”の連中からは“右手”以外の異能の存在を否定された身である。
もし異能が欲しければ魔王にでも魂を売るか、50年ばかし山で修行するか、忍者のスキルを持つサラリーマンにでも育てられるしか方法は無いだろう。
まあ、万が一、億が一にでもいつかこの超能力開発で能力が覚醒する可能性は無きにもあらずなのだが――あまり期待はしていない。
「んーそれなら、ボクは念動力が欲しいなぁ、こう自然な風を演出出来る程度でええかラ」
「スカートでもめくる気か? 発想が小学生だろうが、せめてくいっと中を降ろすぐらいの勢いでいけよ」
中とは何か。
それは語る必要も無いし、真っ白い(場合によっては水色縞々)の宝具とでもいえば分かるだろう。
「おお! カミやん、魔王の発想やな!」
青髪ピアスが興奮していた。
まあそんなことしたら抹殺確定だけどなー、エロゲーじゃねえんだしと当麻は心の中で呟いて。
「上条ちゃん? あと隣のもお喋りは止めないですけど、セクシャルハラスメント談義には罰ゲームですよ?」
ずいっと聞こえた言葉に上条は、隣の青髪ピアスも口を閉じた。
ゆっくりと目を向ける。
すると、そこには一年七組の担当教師にして、不可思議な生命体がいた。
まず教卓には首しか映っていない。とはいえ、生首ではなく純粋にそれ以外が見えないだけだ。
当麻のクラスの担任教師 月詠 小萌の身長は135センチ。安全性からジェットコースターの乗車を拒否されたという伝説を持つ童顔ロリっこ教師なのだ。
おそらく名前からしてご両親はその未来を想像していたとしか思えない、まさしく萌えるための存在だろう。
神が与えもうた奇跡だ。
許されるなら全力で頭をなでなでしたいところだが、生憎俺の趣味は(外見)ロリではないし、彼女と当麻は教師と生徒。
禁断の関係に陥るには甘ったるい味がするだろうが、そんな危険性を踏む趣味は当麻になかった。
彼の信条は日々平穏である。
「うん? なんで、上条ちゃんは私を凝視してるんですか?」
じーと睨み付けるような上条の視線に気付いた小萌が、ぽっと恥ずかしそうに頬を染めるが、上条は素直に今の心境を告げた。
「いえ、なんで小萌先生はそんな身長とロリ声でまるで狙ったような外見なのか統計学的に推測していただけっす。小萌という名前の時点で呪いでもかけられました?」
「し、知らないですよー! 私だって好きでこの体型なわけじゃないんですから!」
むきーと怒る姿も可愛らしいまま、小萌が叫んだ時だった
しえん。
「うん? なんで、上条ちゃんは私を凝視してるんですか?」
じーと睨み付けるような上条の視線に気付いた小萌が、ぽっと恥ずかしそうに頬を染めるが、上条は素直に今の心境を告げた。
「いえ、なんで小萌先生はそんな身長とロリ声でまるで狙ったような外見なのか統計学的に推測していただけっす。小萌という名前の時点で呪いでもかけられました?」
「し、知らないですよー! 私だって好きでこの体型なわけじゃないんですから!」
むきーと怒る姿も可愛らしいまま、小萌が叫んだ時だった。
チャイムが鳴った。
授業の終了である。
「よっしゃ、授業終了! 夏休みだぁああ!」
当麻はすさかずカバンを手に取ると、隣の青髪ピアスにさよならを告げて、さらば諸君と敬礼した。
「あ、上条ちゃん! まだ先生は言い残したことが――」
「では、先生。次の学期で会いましょう〜!」
じゃあな、とっつぁーんという勢いで、当麻は廊下に飛び出すと全力競歩で飛び出していった。
競歩だから走っていないというのが当麻の言い訳だった。
「カミやんは相変わらずやなァ」
青髪ピアスはニヤニヤと楽しげに呟くが、小萌は困ったように言った。
「上条ちゃん、明日から補修なんだけどなー」
「大変やな」
「君もですよ?」
「マジですか!?」
とある偽善使いと魔剣使い
一章 忍び寄る異分子
自由だ、ひゃっほーいと当麻はコンクリートの牢獄から開放された白鳥のような気分だった。
うすっぺらいカバンを肩に掛けて、先日降ろしたばっかりの札の入った財布を叩き、新作ゲームでも買って一週間ぐらい引きこもりになるかー。
と、どこかの下がる男ならば涙を流して羨ましがるような平和な生活計画を立てていた。
幸せそうな笑みを浮かべてにやにやしていたのが原因なのかもしれない。
夕焼けにギラギラと光輝く風力発電の三枚プロペラにサムズアップし、脳味噌まで煮るつもりっぽい灼熱のアスファルトな商店街で棒アイスを買って口に含んで、のんびりとバスにも乗らず、ゲーム屋にでも買いにいくかーと計画を立てていた時だった。
不意にカバンの中で振動音がした。
「ん?」
カバンの隙間に手を突っ込むと、プルプルと振動音を上げる物体を掴み出す。
青いカラーリングのそれは普通の携帯によく似ていたが、見る人が見れば違うものだと知るだろう。
0−PHONEと呼ばれる特殊な携帯電話。先日ビリビリこと御坂から受けた多数の電磁波に触れてもなお動作に支障のない電磁防御まで施され、耐弾、耐電、完全防水という優れもの。
一応は機械であり、魔法の類が使われているわけではないので“右手”で触れても大丈夫なそれを掴み取ると、通知相手の名称を確認。
――アウレオルスと表示されている。
「ん? なんかあったのか?」
まさか魔王が追ってきたんじゃないだろな、と“一ヶ月ほど前に起きた事件”を思い出しながら当麻は通話ボタンを押した。
「もしもし」
『少年か?』
「はいはい、上条ですよ」
0−PHONEの向こう側から聞こえたアウレオルスの声に当麻は僅かに緊張しながら応える。
先日あったばかりだというのに、携帯に電話する。
それには確実に理由が存在するはずだ。アウレオルスの性格から考えて伝え忘れていたことがあったなんて考えられない。
そんなうっかりさんではないし。
「なにかありました?」
『当然。そうでなければ連絡などすまい、伝えることがある』
そう告げるアウレオルスの声には僅かな緊張感があった。
いつでも余裕を持っていた彼の声に緊張感が混じるのは敵が近づいている時だけだ。
『魔術師が侵入した』
「え?」
『学園都市に二名侵入した形跡が見られた。私のネットワークの一部が分断されている、詳細は不明だが数は二名。何らかの目的で動いているようだ』
魔術師。
通常の学園都市の生徒ならば突拍子もない、信じるはずもない単語に当麻は至極冷静だった。
この世界には超能力は存在しても、魔術などない。
この世に奇跡の全ては科学で解明出来る。
それが当たり前、それが常識。
“この世の裏側を知らぬものはそう認識している。”
『憮然。如何に留守にしていたとはいえ、失態だ。笑ってくれても構わん』
「そんなのはどうでもいいですよ」
人の失敗をせせら笑うような趣味は結構あるが、洒落の使い時ぐらいは分かっている。
C円
「それで魔術師って“こっちのですか? それともあっちのですか?”」
「“こっち”だ。ウィザードの反応ではない、月匣の展開も確認はされていない」
「なるほど」
緩やかに当麻は考える。
学園都市に侵入した二人の魔術師。
昔アウレオルスに聞いた話だと魔術と超能力は互いに不可侵だと決めていると聞いている。
それを破り、超能力開発の最先端である学園都市に侵入したということはそれだけの大事だということだ。
身を竦み過ぎ去る嵐ならば放置してもいい。
見知らぬ陰謀だろうが、当麻の目の届かぬ範囲でのことならば当麻は放置するだろう。首を突っ込むことなどない。
だけど。
もしそれが当麻の大切な誰かを巻き込むようなものならば――
「……俺が壊す」
右手を握り締め、当麻は静かに決意を告げた。
その声から当麻の心境を読み取ったのか、アウレオルスが電話口の向こうから言った。
『未然。少年、まだ魔術師が侵入した事実があるだけだ、目的は不明。迂闊に動くな』
「ああ、分かってる……」
『心配はない。こちらの領域の問題だ、少年は巻き込まずに終わらせるだろう。しかし、万が一の場合もある。夜は出歩くな』
忠告を告げて、アウレオルスからの通話が切れる。
当麻はもはや答えない0−PHONEを切ると、再びカバンに放り込んだ。
先ほどまでの能天気気分は半ば消し飛んでいた。
自分のよく知っている日常、その中に異分子が紛れ込んだことを知ったから。
「まったく、明日から楽しい夏休みだってのに」
右手の指を鳴らす。
熱いアスファルトの熱を当麻は感じていなかった。
背筋に走る寒気が、右手に篭る熱が、脳裏を占める不吉な予感が熱を感じる器官を麻痺させていた。
「俺の幻想/日常を壊すなよ」
平穏など脆い夢だと当麻は知っていた。
幻想を護るために戦う魔法使い達を知っていた。
だから、当麻は平和を愛する。
一秒先まで保たれ続ける日常を噛み締める。
一秒先では壊れるかもしれない世界を理解しながら生きている。
当麻が知らない裏側で誰かが世界を狙っているのかもしれないのだから。
だから。
だから。
この右手が届く範囲で、誰かが日常を壊そうとするのならば。
「俺がその幻想/野望をぶち殺す」
何の変哲もない右手。
ただの少年が告げた言葉。
それは虚空に溶けて、確かな宣言となった。
その遂行が約束された。
しぇー
時は少し進む。
それは夜の闇。
高い高いビルの上、走る影が二つ。
一人は白。
小柄な人影、一生懸命に走る姿、どこか必死で愛らしい――少女。
教会の修道女を思わせるシスター服を纏った銀髪の少女。
けれど、それは確かな凄惨な光景だった。汗を流し、息を荒く吐き出しながら、走る少女。
「止まりなさい!」
それを追う影が告げる。
黒い髪を靡かせた人影。
着古したジーンズ、白いTシャツを上半身に身につけ、確かな乳房の膨らみを見せるそれは女性。
長身の女性の腰まで届くポニーテールの横に並ぶような日本刀の鞘が見えた。
「嫌だよ!」
それに拒絶した声を上げる少女。
ビルの屋上の端で少女がべーと舌を突き出し、挑発するように告げる。
「貴方達に私は渡さない、“禁書目録”を渡すわけにはいかないんだから!」
少女が声を張り上げて、告げる。
轟々と吹き荒れるビル風にも負けず声が響く。
「いえ、それは違います! 私は、私たちは貴方を保護したいだけなのです!」
その声を受けた女性は、その美貌を悲しく歪めた。
何故そんなにも悲しい顔を浮かべるのか、少女は違和感を覚えるべきそんな光景。
だけど、少女は構わない。
「うるさい、うるさい、うるさい! 渡さない、絶対に渡さない、禁書目録は決して誰にも渡さないんだから!」
そう告げて、少女はビルの柵を乗り越えた。
向こうのビルまでたった数メートル、彼女の脚力ならば超えられると理解していた。
「っ! 仕方ありません」
女性が唇を噛み締め、日本刀の柄に手を置いた。
「“七閃”」
瞬間、その手が掻き消えた。
変わりに風が止んだ。まるで大気が切り裂かれたかのように風が一瞬止んだ。
そして、同時に少女の身体が吹き飛んだ。不自然に、自分で跳んだわけでもなく、弾き飛ばされて――虚空で停止する。
まるで蜘蛛の糸に捕らえられたかのように、不自然に停止し――
「あっ!」
「捕らえましたよ」
女性の顔が歓喜に歪む。
僅かな悲しみを、苦痛を押し殺して、喜びに満ちる。
本当にその瞬間だった。
支援
シェーン
「え?」
女性の手がかくりと落ちた。
その瞳が見開かれていた。
視線の向こう側には――誰もいない。
“少女はいなかった。”
「そんな!」
女性の顔が苦痛に歪む、悲しみに彩られる。
「また消えて……」
手の届く場所にいた大切なものが消え去ってしまったかのように、叫んだ。
「“インデックス”!」
少女の名を叫んだ。
いつまでも、いつまでも。
そして、それをせせら笑うなにかが一体。
「馬鹿馬鹿しい」
クスクスと嗤う者が一人。
「愚かしい」
ケラケラと嗤う者が一人。
「哀れなり」
ゲラゲラと嗤う者が一人。
終わらぬ悲劇の繰り返しを、それは嗤い続けていた。
――上条 当麻が不幸に見舞われるまで あと8時間??分
紫煙
神
投下完了です。
今回は短くてすみません。
ようやく規制が解除されたので連載を再開出来ました。
アウレオルスと上条の口調は以前受けた指摘どおり修正しました。
次回からようやく物語が動き始めます。
支援ありがとうございました。
投下乙。
次から物語が動くと言うを楽しみに。
,..:-――-- 、
,ィ'´:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\
.':.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:'.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ.
. .':.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:i:.:.:.:、:.:i、
.':.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.;イ:.i:.:ィ:i:_|、:i:._!:」 --- 保 管 ---
l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::.:.j `¨`ミ イ7¨
!:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.;ィ:.:.| 代fテ fオ ●ながされて藍蘭島 前スレ>734
':.:.:.:.:.:.:.:.:.;イ(!:.:.! '' ''! ●アリアンロッド >113-120
j:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.`r,!:.:| ' ノ ●花札&麻雀 >191-203
!:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./!:.ト、 ´,ィ′ ●よつばと! >214>217
l!:.:.:.:.:.:.:,ィ:/j、 l:.:| / 辷':.| ●しゅごキャラ!&Dear... >219-221
/ .:.:ノ \:.:.`\ リ\:.:. },ノ ●とある偽善使いと魔剣使い #01 >246-256
.: ./ .:/ 入.:.:.ト}` ̄`ヽリ川'| :. ‥
/ / :/\_ .::| ,)リ.} 工ニイ | , -‐- 、
/,イ:.:/:i:.:.| `T’: 彡’ ,!/ ⌒ ヽ , '´ ヽ. :
.: .{:| | :|:.:l.:.:| }:.:. .:.:, ' }./ :. }
!:!:| :ト,:.:V .ハ:.:. / / ,! ! |
AAが正しいのかどうかは知らない。
投下&保管乙。
【お知らせ】
21 名前:AirRock ★ 投稿日:2008/08/30(土) 23:24:17
\.odn.(ad|ne).jp を全サーバで規制。
とのこと。これまでの経験から行くと二ヶ月くらいは書き込めなくなると思われ。
ODNですか……大手ですねー。
どなたが引っかかるのかは分かりませんが
1季節につき大体1〜3日間は規制されるJcomはマシな方だったのか…
確かJcomって運営側から連絡が行く前に先手をとって対応するんで有名なプロバじゃなかったっけ?
だからこそ規制期間が3日ぐらいで済んでいるんだと。
規制期間短い上に頻繁に規制されないJcomは遥かに良心的だよ
なぜか連休や土日をピンポイントで狙ってくるけどなw
柊蓮司を円環少女世界に放り込んで見る。
任務そのものはサクッと終わらせられたが、
「魔法消却を無効化する魔法使い」として、
あらゆる魔法使いと非魔法使いから狙われることに…。
でも、それって何時ものことじゃん。
…と今更、気づいた。
本当にいつものことだな。
というか任務終わった時点で連れ戻してやれよw
「柊さーん、こちらは少ーしばかり忙しく、あなたを連れ戻す暇がありませーん。自力での帰還をお願いしまーす。」
「いつもいつも無駄な手間かけて拉致する奴の言葉かこの野郎っ!」
>>271 自力帰還ネタはもう誰かやってなかったか?
っていうか魔剣使いが自力帰還とかできるわけねぇと思う俺はフレーバー厨
スルトの剣がそのまんまのネタなことに気づいた
>>272 メタな事言えば【マリーシ】もしくは【ガイア】で帰れる。
柊は。
そうでなくても芳香剤と連絡が取れればとりあえず帰れない事もない気がするからなぁ
だが空間の境界を切り裂いて世界と世界を繋ぐまでは演出の範疇だろう
Byバンダナ騎士
,. -―- 、
/ ,、 `ヽ、
/ ,、{ 、 、`ゝ
{ { トヘ i ヾi
| λ| ヽト、 ト、|_ ヽ 申し訳ありません。
l iム-_- 、 ,.-`;.ニ`j i i`
ヽj人ヽ-` ! 'ー'_ノ〉y' | アンゼロット様が不在の今、
j{<| ``ー、レ'´ ̄ レ' ハ! 異世界からの転移を受け入れることは、世界結界に穴をあけるのと等しい行為。
'ヾヽ. ,-'-、 ノトノ
W,jヽ、` ̄´ /レ'`ヽ 出来る限りの支援は行いますので、今しばらくお待ち下さい。
r'=、:├-`_-_'-r='、: : :|
||:::}|::|:::::::::‖::{|::::}|::::::`>、,.、
,.-ァ||:::〉、!::::::::::||::::l|;.:::ヽ、:,ノ、r`'_`ー-、_
,.-‐ ニ´-‐'{レ'::::::》::::::::||::::/〈:::::::`': :jj「 : :゙:=:-':': :ヽ
i´: j : : : : : : : ;.-':'´:ヽ::::||:/::::ヾ、: : : :||!: : : : :/: : : : : }
}: : { : : : : : : :ヘ: : : : : :/: : : /': : : :|||: : : :/: : : : : : |
|: : i : : : : : : : :ヽ、: / : : ;. '´: : : : : :.|||: : :/: : : : : : :.j
ト、: }: : : : :_: : : : y´: : ;/ : : :_: : : : : :|||: :/ : : : : ;-:‐:|
|: : :l: : : :(_ j: :/;.: ':´: : : : : (__): : : : {|{:/: : : : : :|: : |
つーか、そのままラース=フェリア送りだろうしな。
冥魔王の本気モードは10レベル程度じゃどうにもならんぞ、柊。
…そう言えば異世界に転生を果たした前科もちなら、次にどこに生まれても不思議じゃあないな。
556 名前: 自治スレ@ローカルルール議論中 [sage] 投稿日: 2008/09/04(木) 18:37:32 ID:zq9d18tw
トウガは今度はエル=ネイシアあたりに転生してるんじゃないか
柊スレで柊の初恋について話題が上っていたんだが、あまり想像がつかない。
他作品で柊にフラグ立てられるやついるんだろうか?
柊は全部終わってから初恋って気付きそう。
>>281 子供時代って前提を付けた上で
FLCLのハル子が頭に浮かんだ
少年の心と日常をさんざか引っ掻き回したあと、嵐のように去っていく女性ってよくね!?
ここで今までのヒロインの話が出ないあたり……
おまえらほんとに柊をわかってるなww
実に柊好きが多すぎるww
時を越えてきたor異世界の同一存在性転換バージョンとかが柊の初恋が
ネタ的によさそうな気がする。で後で気づいて俺の初恋を返せーとか叫ぶのが
柊クオリティ
柊レンの出番ですか
何かとダイナシな感じが実に柊らしいww
ここでわりとありがちに実はくれはの母ちゃんとかだとほのぼのしますな。
まあ、ネタ的に面白くもなんとも無いのでテキトーに改ざんしますがユカイな方向に
ぎゃーっす…!やはり誰しもが思いつくのか…っ! o...rz
柊にフラグを立てるには、
柊に惚れ薬系を一服盛るのが一番手っ取り早い気がするぜ
……そこ、そんなん誰だって当たり前とか思ってても言うなよ
なんというか、これまでの経験で薬盛られたりとかには割りと敏感そうじゃね?w
惚れ薬を飲ませた所で
惚れた相手に対する心境が(仲間的な意味で)から(恋人的な意味で)に変わるだけで
行動自体は全く変わらない予感
>>291 でもアンゼロットの薬からは逃れられないから無意味なのが実に柊。
ほれ薬飲んで恋人できても最後にはフリップフロップで飲んだ事実がなくなってそんなできごとは
なかったになりそうだ
つか、柊って惚れてようが惚れてまいが行動は変わんないわけだから盛る意味すらない気がする。
恋人になりたいなら盛るよりも既成事実でもでっち上げた方が楽じゃね?
>295
盛[も]るんじゃなくて、盛[さか]るんですね。
【 ↓ 】
ヒロイン的に問題なのは行動変わるかどうかじゃなくてナンバーワンでオンリーワンになれるかどうかな気がするがどうだろう
アンゼロット「仲間と私どっちをとるの!?」
ですね、わかります。
えーと
世界も仲間も守るのが柊だから……
両 方 取 る
だな
ベル「私の下僕になればアンゼロットから拉致監禁されなくなるわよ」
柊に効果ありそうなのはこうだな
柊が本気で逃げれば一回くらいはアンゼロットの拉致監禁から逃れられそうじゃね?
継がないもので晶と逃げちゃったからもう使い切ったんじゃね?一回は一回だし
てす
>>302 逃げ切れたわけじゃない、ってとこがポイントだなw
>>304 がんばっても逃げるだけしか出来ないとかwww
そしておまいのIDがすげぇwww cycとかww
柊の恋愛談議を聞いてたら、なんかおりて来たので、今回予告風に書いてみるw
―――その事件は、ありえぬ来訪者から始まった。
「…まさか、あなたがこの宮殿に訪れるとは思いませんでした。何を企んでいるのです?」
銀の髪を持つ少女は、問う。“主”と同じ、金の髪を持つ少年に。
「ふん…ボクだってここには来たくなかったさ」
それに、不機嫌を隠そうともせず、その少年…
「けどね、危機なんだよ。このボクがここに訪れなきゃいけないほどの危機。ボクの主と…世界のね」
裏界最強の魔王の落し子が答える。
「魔王はともかく、世界の…?それは一体どういう「アンゼロット様!大変です!」
「なんですか?騒々しい」
「はっ、つい先ほど、柊殿のマンションで強力なエミュレイター反応が確認されました!
そして、魔力波形から推測した結果、そのエミュレイターは弱ってはいますが…」
「ひーらぎれんじぃ!」
たまの休日、惰眠を貪っていた柊のもとへ現れた少女。
「ぬお!?なんだこのガキ!?いったいどこから入ってきやがった!?」
日本人離れした容姿の愛らしい少女。金の髪と銀の瞳持つ少女。
「うるしゃい!ガキって言うな!もとはと言えばお前のせいなのだからな!」
そう、それはかつて世界を滅ぼしかけた…裏界最強の魔王。
「ん…なんだこのガキ、どっかで見たような…ああっ!?」
「このるー・さいふぁーを怒らせたこと、こーかいさせてくれる!」
―――それは異世界からやってきた脅威
「…ボクの主の本体は今、寄生されておかしくなっている。異世界からやってきた、厄介な奴にね。
主と“それ”が完全に同化してしまったそのとき、それが生まれる。邪悪なる魂を持ち、魔王の力を持った…最強最悪の落し子が。
それを防ぎうる資格を持つのは…たった1人。そう、あいつにしか出来ないだろう」
「…お話は、分かりました。でもなぜ柊さんなのです?それに、厄介な奴とは一体?」
「主からひきずり出す資格はこの世界ではあの男にしか無い。ボクの主がこの世界で唯一興味を持ったあの男にしかね。
…あいつを追ってきた使徒に吐かせた。あいつらの名前は『駆け魂』。そして、それを引きずり出す方法は、たった1つ…」
―――脅威に挑むのは魔剣使い、柊蓮司と…
『と、言うわけで柊さん。頼みましたよ。キスまでなら特別に許可しますから』
「ちょっと待て!なんだその任務は!?ぶっ倒すとかならともかく、んなこと俺にできるわけねえだろ!?」
『こちらでもできる限りのお手伝いはします。そうでもしないと柊さんには無理でしょうし。
何か必要なら言ってください。それともう1つ、特別にアドバイザーを用意しました』
「アドバイザー?なんだそりゃ?」
『朴念仁の柊お1人では無理でしょうから、向こうの世界で用意してもらいました。駆け魂狩りの専門家…世界最高の駆け魂狩人に」
―――異世界で、神と呼ばれた1人の男
「はうー。なんだか大変なことになっちゃいましたね神様」
「別のバディを指揮して駆け魂狩り、セーブロードなし、バックログなし、ファーストプレイのみの一発勝負…いつもの事だな。
今回は僕の命がかかって無いだけまだマシとも言える」
「でもでもぉ、失敗したら異世界が大変なことになるって」
「失敗?その心配はいらない。我がままな魔界のプリンセス…今までで20人は見てきた」
「…あのぅ、やっぱりゲームで、ですよね?」
「当然。前にも言っただろう。僕が今まで現実の話をしたことがあったかって」
―――二人三脚で、2人の男が攻略に挑む!
「…巫女属性つきの幼馴染と家庭的な後輩、ヒロインのライバルっぽい美少女悪魔っ娘。素晴らしい。リアルでここまでフラグが立ってる奴を初めて見た」
「フラグ?いやでも俺全然もてないぞ?あいつらもただの仲間だし、向うもそう思ってんだろ。ベルだって面白がってちょっかい出してるだけだし」
「…なるほどな。やっぱりお前は適任かも知れないな」
「どういうことだ?」
「気にしなくていい。ただお前がなんで前髪がうざったい位長くないのか不思議に思っただけだ」
「???」
―――そして、閉ざされた世界で
「はうー。駄目です全然つながりません!どうしましょう!?あと少しなのに…」
「エンディングはすでに見えていた。必要なフラグは全部立てた。あとはあいつを信じるしかないな」
「信じる、ですか?」
「ああ、そうだ。僕は信じる…あいつが天然のギャルゲー主人公だって」
やることを全て終えた、満足げな笑みで呟く。
「後は…神のみぞ知るってね」
―――今、世界を賭けた告白が始まる
ナイトウィザード×神のみぞ知るセカイコラボレーション『魔王のみぞ知る世界』
「と、特別だからな!特別に…わらわに接吻することを…許可する」
>>306-307 やべぇちびっこルー様攻略記超読みてぇ。
―――さて。
知人宅のは串規制でネカフェは焼かれてるという向かい風、それでも俺は超えてみせる!
まぁ、こんな時間に支援できる人がいるわけねぇっつー向かい風まではクリアできんがな!
そんなわけでゆにまほクライマックス、40分から投下予定。支援できる人はいてくれるとうれしい。
<ほんの少し前>
「それにしても、あんなのにどうやって勝つつもりだったのでありますか?」
ノーチェは柊に聞いた。
秋葉原全体がワーディングによって包まれ、ジャームの出現報告を聞いて人の出払ったゆにばーさるのフロア。
部屋の中は二人しかいない。
ダメージ自体はオーヴァード特有の回復能力リザレクトで回復しているものの、まだ月匣ワーディングの影響の残っている可能性の高い隼人と司は仮眠室で横になっている。
今のところ二人とも目は覚ましており、特に体に異常はないらしい。
彼女の言葉は本当に不思議そうで、逆に心にぐさっとくる。う、と柊はうめいた。
ちょっと前まで柊は頭に血が上った状態だった。
具体的に言うと、司と隼人を店に運んだ後にすぐさま場所のわかっている月匣内に飛び込もうとするくらいには。
実は彼が戦闘時に彼我の戦力差も勝ち目も考えずに特攻するのは結構珍しい。
本来は戦闘時は意外にも冷静なことが多いのである。
しかしこの男、目の前で仲間を殺されたり、それに準じるほど好き勝手された場合その冷静さは簡単に吹っ飛ぶ。
それを未熟ととるか仲間思いととるかは個人の判断によって分かれるところだろうが、今回はそれに加えて敵を狙うのが彼自身だというのがその理性をぶち切った。
月匣内に行くつもりだとノーチェにより看破されて智世によって頭を冷やされたおかげで今は大人しくしている。
しかしそれもノーチェが対ワーディング月匣用に魔装の術式を調整するまでの話。
それが終わればまた飛び込んでいくだろうことは彼女にもわかる。もともとそう気が長い人間でもないのだ。
そのため、水晶球が先ほどの映像を解析・術式の書き換えをしている中、ノーチェはせめて、と先の交戦で腕を負傷していた柊の治療をしていたのだった。
彼女の言葉は水晶球で先の戦いを解析がてら見ていた、彼女本人の率直な感想である。
ノーチェはその感想をさらに重ねた。
「どうもあの侵魔超人、オーヴァードとしての力を身につけただけじゃなくてもともとの『魔法』もペナルティなしに通常の代償だけで使えるみたいでありますし。
さらに言うなら、アレがこっちに来てから身につけた技っていうのは近距離白兵戦用でありましょう?
遠近両方こなせる器用貧乏なオールラウンダーではなく、魔法特化能力者が白兵戦用に調整された能力者を取り込んだようなもの。
そんなの相手に勝てると思ってたわけではないでありましょう?」
「……わかってる、今は反省してるっての。
けどな。あいつの狙いは俺で、月衣を持ってなきゃあいつには対抗できない。それは事実だろ」
「ここにもう一人月衣持ち(ウィザード)がいるでありましょうに」
頭をがしがしかきつつバツが悪そうに、それでも譲れないというように言った柊に対し、何を今更、というようにノーチェは不思議そうに言った。
それに目を丸くした後、柊はため息をつきながら苦笑する。
「お前、前の時もそう言ってついてこなかったか?」
「事実でありましょう?というか、使えるものは使えばいいのでありますよ。乗りかかった船でありますし、この街好きでありますしな」
蓮司はどうなのでありますか?と首をかしげながら彼女は問う。
少し複雑そうな表情をしながら、彼はあぁ、と頷いた。
「ここは俺の暮らしてた『秋葉原』とは違うけど、やっぱり『秋葉原』なんだよな。
街角にある店とか、暮らしてる人間とかは違うけど、それでもここに流れる空気っていうか、そういうのは変わらない。
俺にとって守りたいものっていうのはいくつかあるんだけどよ、『世界』なんつーもんを守りたくて戦ってた覚えはないんだよな」
「はいっ?え、でも蓮司はこれまで何度も世界を救ってきたのではないのでありませんか?」
目を丸くするノーチェ。
確かにアンゼロットの下僕だのトラブル磁石だの下がる男だの言われているが、柊蓮司というウィザードはその業界では知らぬ者なしの歴戦の勇士なのだ。
いかに彼一人で成したことではないといえ、一端のウィザードであるのならば、その戦跡を見れば絶句するほどのものである。
その彼が、これまでのことを思い返してノーチェの反応に苦笑する。
「『ここで勝たなきゃ世界が終わる』とか言われてたことは結構あったけど、世界を守るためだけに戦う、なんつーのは俺には無理だ。
俺が今までやってきたことってのは、結局一緒にいた仲間が狙われてたのを助けたりとか、俺が守りたいものを守ったりしてきただけ。
それと世界が天秤にかけられてたら、どっちかを選ぶんじゃなくて他の道を探そうとしてきたってだけだ。
ついでに言うなら、なりゆきに流されながらそれでもがむしゃらに諦めないで足掻いてたらなんとかなった、ってモンばっかりだったしな」
「はぁ、そうなのでありますか。それで、それがどうしたのでありますか?」
「俺はあいつにこの町とここに住む連中をやるつもりも、俺が死ぬつもりもないってこった」
ぽすぽす、とノーチェの頭に軽く手をのせる。
やれやれ、と彼女は言うと、逆に聞いた。
「それで?わたくしも付き合うには付き合うでありますが、率直な話前衛後衛一人ずつでは厳しいでありましょう。
わたくしと蓮司のペアなら、基本的にわたくしは支援にまわって、ちょこちょこ軽く魔装を撃つ、という戦法になりましょうが……正直、火力足りなすぎでありますよ。
相手は魔法も使えれば近距離戦もできるのでありましょう?司との交戦映像を見る限り、どちらも伊達や酔狂のレベルではない。
オルクスシンドロームで逃走の得意な司だったからこそあの程度で済んだでありますが、真正面から戦うとするとちょっと厳しすぎるであります」
「だな。……せめてもう一人火力特化がいればなぁ」
自分でも、現状の戦力で挑むことの難しさを認めてぼやく。
柊も分かっているのだ。負ける気はない。負ける気はないが―――柊とノーチェだけでは勝ちをさらうのは非常に難しい、ということを。
しかしノーチェは柊の言葉に首を傾げた。
彼女にはあと一人仲間がいればなんとかできるとは思えない。
ノーチェ自身は仲間の盾となる能力者と支援特化能力者がいてくれれば万全の準備ができる、という考えだったのだ。
そう言ったノーチェに対して柊は拳を握り締めながら言う。
「悔しいが、今のあいつに真っ向勝負挑んでも勝つのは難しい。白兵特化と魔法特化が爵位級で一匹ずついるようなもんだぞ?まともにやって勝てるかよ」
「それにわたくしたちで挑まなければならないわけでありますが……まぁ、ともかく。火力特化がもう一人いればどうなるのでありますか?」
ノーチェの言葉に、柊は一言だけ告げた。
「囮だ」
次の瞬間、ノーチェの0-Phone が着信を告げた。
紫煙だ。受け取れ
<紅に染まる戦場・前>
開幕と同時、隼人と柊が地を駆け抜ける。
風と音すら置き去りにする超高速移動で駆け寄る二人の剣士に対し、待ち受ける金髪の少女は―――薄く笑みを浮かべた。
右手を上に掲げる。
柊がとっさに上に目を向けると―――そこには、無数の光があった。叫ぶ。
「避けろっ!」
「遅いっ!星の光よっ!」
少女が手を振り下ろす。それと同時に、空を埋め尽くすほどの輝きが紅い空間に雨と降り注いだ。
赤い空をストロボをたいたような真っ白な輝きが覆い、2、3度瞬く。一歩遅れて地面を揺るがす轟音。
光を操るシンドローム、エンジェルハイロゥのものである。それをエグザイル/ノイマンの彼女が使えるのは、彼女が<異世界の因子>と呼ばれる力を持つからだ。
体を奪ったジャームの知識、それを持ち前の頭脳と生み出した群れの映像を通して、体には発現できていないエフェクトを獲得したのである。
ノーチェがとっさにかり、と自分の指に牙を立て、空間に血文字でなにやら紋章を描き自分と司と水晶球がやっと入る程度の対魔法結界を展開する。
結界を無惨にがりがりと削り取りながら進む光は、しかし結界の効果により大部分が彼らの体に当たることなく終わる。
しかし彼女ができるのは魔法の対象を増やすことで、その限界は一人まで。柊や隼人まではカバーできはしない。
その隼人は近づく光の雨に凄まじいプレッシャーを受けつつも、その速度を緩めることはしない。
光は月匣中を降り注ぐが―――ただ一点だけはその輝きに支配されない場所がある。
それは、光を放つ侵魔の立つ所そのもの。まさか自分を巻き込むわけにもいくまい、その一点を目指し、彼はさらに速度を上げた。
結果―――髪の先を、服の端を削られながら、ごうごうと光の雨が降り注ぎ、破片が次々と体にうち当たる、その中を。
スピードは落とさず、最小限の回避行為で、彼は目立った傷もなく白兵戦距離(ショートレンジ)へと相手を取り込むのに成功する。
振りかぶり、袈裟の一撃。
普通なら目に映ることもないほどの黒い刀による超高速の斬撃を、しかしちらりと見ただけで金髪の侵魔は表情を崩さない。
ウェーブの長い髪をなびかせることもなく下ろしていた右手を無造作に上げる。
人間の腕などなんの抵抗もなく切り落とす刀を受けるにはあまりにも貧弱なその行動に隼人が一瞬目を見張るものの、彼はそれを振りぬく。
硬質なもの同士がかみ合う重く耳障りな音が響く。
隼人の全体重をかけたその一撃は、涼しい顔をした侵魔の―――瞬時に伸びた剣のような爪によって受け止められていた。
彼女は言う。
「それで終いか、小僧」
ならば、と侵魔は笑みを変えることなく左手を彼の顔の前にかざす。
同時に輝き、いくつもの紋章や呪印が浮かび上がる左腕。そして左手の手のひらの前に展開する白色の燐光を放つ魔法陣。それは天属性魔法の発動を示すものだ。
いくら高速機動をウリにする隼人とはいえこの至近距離で食らえば無事では済まない。そこへ。
侵魔の周囲の温度が急激に下がる。空気中の水分が凝結されて細かな氷の破片へと変化する。
隼人はそれを確認すると同時に大きく後ろへと退った。一歩前にたたらを踏む侵魔。隼人が叫ぶ。
「やれっ!」
「言われなくてもやるっての。さっきのお返しだ、避けずに食らえよっ!」
片手で水晶球を触ったまま、司が拳を地面にぶつける。
刹那、体勢を崩していた侵魔の足元から氷の牙が生まれ、次々にその白い少女に噛み付いていく。
牙は次々に下から生まれゆき、侵魔と侵魔を貫く氷の上から上から噛み付いていき―――少女を中心とした氷の柱が出来上がる。
が。
固く硬質な澄んだ音を立てて、氷の柱が粉々に砕け散る。ダイアモンドダストのような小さな氷の舞う中、そこには特に変わった様子もなく不敵に笑う少女がいた。
「―――今、何かしたか?」
その余裕に満ちた台詞を吐く侵魔を見て、ヤロウ、と小さく呟いて静かに闘志を燃やす司。
侵魔がいまだ輝き続ける左腕をもって、距離をあけた隼人ではなく司とノーチェの方に向けて再び魔法陣を起動しようとした時だ。
彼女の頭上を、紅い月の光を遮り何かが通りすぎた。
光の雨を、いくつか被弾しつつも捌ききり大きく跳躍していた柊が月衣を蹴り空中での姿勢を制御、足場のない空中で三角跳びの要領で跳躍、侵魔の無防備な背後へと着地。
同時に彼女へ向けて全速の薙ぎ払い。ざぐり、と白い侵魔の体に魔剣の刃がもぐりこみ、半ば以上両断する。
しかし侵魔の顔にはまだ不敵な笑み。むしろ心底楽しそうに笑って、彼女は左の手のひらをすぐさま司たちから柊へと向けなおす。
「まさか自分から来てくれるとは思っていなかったぞ柊蓮司っ!<スターライト>っ!」
生まれた魔法陣と、その周囲にいくつも展開する透明な印章。そこから放たれる巨大な流星が柊を襲う。
柊は完全にかわすのは無理と判断。即座にせめて受ける量を減らすためにその場で左足を軸に回りながら被弾量を減らす。
時を同じくして声が響いた。
「<ダークバリア>っ!」
ノーチェの声だ。その力ある言葉により柊の隣に拳大の黒い闇色の塊が生まれ、流星の輝きを食らっていく。
しかし、全てを受け止めるにはあまりにその闇は小さすぎ、光の塊は大きすぎた。ぱんっ、と軽い音を立てて弾ける闇の球。
威力は多少削がれたものの、柊の脇腹を灼いていく白光。
生身で意識があるまま焼かれるおぞましさ。焦げる肉の臭い。じわりと広がる、じんじんとしみこみ広がる類の痛み。
それらを全てアドレナリンで蓋をし、回転の勢いを利用して再びの斬撃。ち、と舌打ちして侵魔は横っ飛びで回避。それと同時に長い爪を切り離し、柊に向けて打ち出す。
柊は追撃の手をいったん止め、飛びくる爪を魔剣で弾き、逸らし、かわす。
侵魔とて自分が投擲武器の扱いなどに慣れていないことくらいはわかっている。今の攻撃はたんに追撃の手を一手遅らせるためのもの。
左腕の魔装を起動して柊を撃つ準備を整え―――
「俺を忘れんなっ!」
その背後で待ち構えていた隼人が、黒い刀を振り下ろす。
背筋を這い上がる悪寒に、とっさに侵魔は使おうとしていた魔装起動準備を破棄。魔法を開放する。
「<ディフェンスアップ>!」
透明な障壁が黒い刀に立ちふさがる。しかし隼人の一撃はそれを紙のようにたやすく切り裂き、その下にあった侵魔の左腕の付け根を深々と切り裂いた。
その隙をついて柊もまた追撃に走る。ぎり、と歯噛みして侵魔は新たに魔装を起動する。
「調子にのるなよ人間ども……っ!<ディストーションブラスト>っ!」
柊と隼人を含む空間へと黒い球が放たれた。
それは空間ごと存在を削り潰すだけの力を秘めた黒球。弾けて破壊をもたらすもの。ならば、破壊の力の外へと逃げればいい。
二人は目配せ一つせずに背を向けてダッシュ、効果範囲から逃げ切る。ざざぁ、と砂を噛む音を響かせながら、停止した隼人が軽口を叩く。
「あいつ、お前に対してだけ殺意ものすごく高くないか?」
「いや、ていうか高すぎだろ。なにしたんだよ柊」
隼人達が声が聞こえる位置まで来ていたのでその軽口が聞こえたらしい司が同調して言う。
いまだくすぶり続ける痛みを無視しつつ柊はぼやく。
「なにってなんだよ。襲いかかってきたから普通に返り討ちにしただけだっつーの」
「あぁ、たぶんそれでありますよ。あの連中って人間に負けたりするとものすごい屈辱に感じるらしいでありますからな」
ノーチェが言った言葉に、隼人がため息まじりに呟いた。
「なんつー勝手な……」
「エミュレイターとはそういうものでありますよ。そもそもが人間を食いものとしか思ってない連中、基本的なスタンスとして人間を見下してるであります。
敵も味方ももとは人間なあなた方とは少し感覚が違うでありましょう。
その中で蓮司はあいつをあと一歩で倒せそうなところまでいったのでありますから、それは殺意高くなってもしかたないでありましょう」
「逆恨みにもほどがあるけどな」
解説に少し息をつき、一拍置いて柊が言う。
「まあそんなことはどうでもいい、勝つのが先だ―――仕掛けるぞ」
その言葉に三人が頷く。
それを見て口の端が持ち上がるのがわかる。仲間の頼もしさを感じつつ、柊はあらかじめ話し合っておいた作戦を決行するためにたずねた。
「高崎、ノーチェ、準備は?」
「いつでもいいぞ」
「こっちもであります。司も準備OKでありますな?」
「おう。それじゃ、はじめるかっ!」
三者三様に答え、まずは司が再び片手を地につく。そのまま己の領域を広げていき、その領域の地面から熱を奪っていく。
地上や地中の水分が凝結、霜柱が細かく立ち上がるのを確認し、彼はノーチェに目配せした。
ノーチェがこくりと頷いて、すぅ、と息を吸って吐き出した。彼女の吐息に乗り、生まれたのは―――『霧』だ。
吸血鬼には、<霧散化>というスキルがある。
不死者たる彼らが不死者たるゆえんは、何度殺しても再び立ち上がるその生命力にある。
<霧散化>とはその生命力を象徴する技術の一端であり、彼らがその命の危険を感じた際に体を靄と化して巨大な力をかわす能力だ。
逆に言えば、彼らは体をいつでも霧に変えられるということ。
それを利用し全てを変化させるのではなく、力の一部を霧に変えることに傾ければこんなことも可能になる。
その微細な水の粒子は冷やされた地熱を受けて凍り、一気に変化した地面の熱で気流もまた爆発的に変化しており白く小さな氷がしゃりしゃりと音を立てて巻き上げられる。
その結果―――月匣内に氷の粒が舞い踊り、真っ白に染まった。
当然それに驚くのは仕掛けられた侵魔だ。
彼女自身はオルクスの能力を持っていないため、彼女の世界である月匣に何がどこにどれだけあるのか、といった詳しい把握はできない。
めくらまし。
それに気づき、彼女は歯噛みした。
「くっ―――こしゃくなマネをっ!」
そして―――真っ白なその霧の中でも、音は響く。
呟いたその声がいかに小さくても、音を感知するのに長けたシンドロームならばそれを感知するのはわけのないこと。
そして、音すらも追い抜く隼人の移動を侵魔に感知する術はない。
手加減などする意味はない。隼人は自分のもてる力を発揮、突貫する。
余計な力を加えない、ただただ速度だけを追い求めた全速移動しながらの突き。峰に添えられた左手で微調整、弾丸のごとき速度で駆け抜け、音の元である侵魔に突き進む。
「くらえっ!」
相手の驚愕する顔が見える、それとほとんど時を同じくして、右腕に深々と刀が吸い込まれるように突き入れられる。
侵魔がとっさに掲げた右腕に、手のひらからずぶりと突き入れられたその光景を見て、侵魔の顔が歪む。
―――笑みの形に。
「―――つぅかまえ、たぁ」
「っ!」
心底楽しそうな笑みを浮かべ、痛みなどかけらも見せずに金髪の娘は隼人に告げた。
隼人は速い。彼女の目でも捉えるのは至難の業だ。その上でこの氷霧だ、彼の攻撃をかわすのは難しいと判断した上で侵魔はこの行動をとった。
すばしっこい相手ならば、足を止めればいいだけの話。
彼女の体には攻撃を弾く力も速度もないが、幸いその柔軟な体を使い受け止めてダメージを逃がすことは得意である。
そこまでを読み、瞬時に戦術を組み上げた。それは彼女の体のノイマンとしての能力が可能とした瞬時の戦術判断だ。
後はそれまでの戦闘経験を思い返して隼人の行動に最も即した行動をとればいい。
突貫を受け止められ、動きの止まった隼人の腹部に左手を当てる。それは優しく撫でるような指先だった。そして―――
「<ヴォーティカルカノン>」
0距離で魔装が開放される。
それは先ほど彼らがかわしきった一撃などよりもより収束され、一人の命を刈り取ることだけを意識して作られた魔法だ。
存在を否定する黒い砲撃が隼人の腹部を容易く貫く。
これまで味わったことのない『存在の否定』という感覚に、隼人の意識は一瞬で刈り取られた。
言葉を吐き出す時間も与えられず、腹部を丸く貫かれた体が、白霧の向こうにきりもみしながら吹き飛ぶ。
そして―――
「見えているぞ、柊蓮司」
隼人を追いかけるように時間差で現れた柊に背を向けたまま、彼女はくすりと笑った。左手はそのままに、右手はだらんとたらしたまま。
吹き飛ばされた隼人を見て激昂の声を上げる柊を、嘲笑うように。
「て、めえぇぇぇぇぇっ!」
「どうした?余裕がなくなってきたぞ?」
相手は『あの』柊蓮司だ。
制限つきの四人組では地力で自分に叶わないことくらいはあの男ならば計算にいれているはずだ。
意外にも知られていないが、柊蓮司の戦況把握能力と戦術思考はけしてあなどれるレベルのものではない。
そうでなければ、デーモンたちを大量に配置し、自身の作った生命体を取り巻きにしていた金色の魔王の月匣から生き残ることなどは不可能。
そうでなければ、先のマジカルウォーフェアにおいて、守るものを一つ抱え魔王とウィザードの精鋭たちの混成部隊を退けることなどはさらに不可能。
それを侮り斬られた侵魔のなんと多いことか。
たしかに剣士として卓越した経験と非凡な才能、それを元にした技術をもって戦っているものの、それだけでその戦跡を語りきるのには無理がある。
まだだ!まだ死宴は終了していないぜ!
彼の本質はもっと違うところにある。
一番の本質といえば諦めの悪いその性格になるのだろうが、戦場においての本質となると少し意味が変わってくる。
彼の戦場下における本質とは、現状を把握し、彼我の力を正確に把握し、相手の持ち味を封じ、自陣営の能力を発揮する力。
つまりは戦術構成能力だ。
本人が犠牲を許容できない性質であり、またその能力上指揮官や参謀を任せるのは無理だが、こと4人組のパーティであるのなら彼がいることでその能力は数倍にもなる。
彼自身も気にしていないのかもしれない。けれどその能力があってこそ、彼は今までの激烈で熾烈で苛烈な戦場の数々を見事に渡り終えてきたのだ。
その柊蓮司が、わざわざ敵の視界を塞いでおいて、なんの策もなく単体の地力で劣る仲間を突っ込ませるわけがない。
すなわち、先の一人は『囮』。
氷で視界を塞いでいる以上は霧の向こうの二人が遠距離攻撃をするのは仲間を誤射する可能性がある以上は避ける。
ならば本命は隼人にかかずらって意識をそちらに向けた瞬間、時間差で突貫する柊自身であるはずだ。
そこまで読みきり、侵魔は笑う。囮は片付けたのだ、気にする必要などない。
そして今度こそあの付与魔法使いの小娘が割り込むこともない。
何より、柊蓮司とて人間だ。目の前で仲間を殺されて、気にならぬはずもない。なにより、この男の唯一のネックが『仲間』だ。
確かにそれがある限り諦めないが、その状況になれば計算高いはずのその理性は簡単に吹き飛ぶ。
柊が怒りの言葉と共に振り下ろす斬撃。それは確かに侵魔を切り裂いた―――はずだった。
彼が切り裂いた侵魔は、即座に氷に溶けて消える。くすり、という笑い声はその背後から聞こえた。
「忘れたか?貴様には一度見せていたはずだがな。私の本職は夢を司るものだ。
その力もあまり攻撃に向いたものではないものばかりだが―――この程度は使えるぞ?夢の世界で切り裂かれたとて、私の体には傷一つつかぬ」
おかしそうな笑い声。夢を操り、柊に侵魔を斬り殺した、というのを見せかけてその刃に空を切らせたのだ。
侵魔はその言葉をついで、酷薄に、楽しげに、狂ったように笑って―――告げた。
「面白いものは見終えたか?では―――死ね」
同時。
だぢゅどぢゅばぢゅずぶぐばずんっ!と。
白い闇の中で、鋭いものが水の詰まった皮と肉を貫く音と叫び声が上がっては―――喜悦に表情を歪ませる侵魔以外の誰にも届かず、消えた。
氷にも質量がある。
荒れた気流に巻き上げられていても、その風さえなくなれば一つ、また一つと氷の粒は落ちていく。
白い霧を作りあげていた氷が落ちていく。
その霧の先をじっと見続ける司とノーチェ。
視界を塞ぐため、遠距離射撃系能力者の二人は攻撃することができない。白い霧の中に駆けていった二人を信じ、その先を見続ける。
やがて晴れていく氷霧。そこには
―――笑みを崩さぬまま立つ、金髪の娘がいた。
視線に気がついたのか、その笑みを浮かべたまま見ていた方向から外し、彼らへと向き直る。
「なぜ生きているのか、という表情だな。
簡単だ。貴様らの策ごときを、この私が読みきれぬとでも思っていたか?侮るのも大概にしろ、人間風情が」
そう告げる割に、怒っている様子はない。
むしろ、『何か』を楽しんでいる様子ですらある。
司が嫌な予感を押し殺し、たずねる。
「へらへらしやがって。何か楽しいことでもあったのかよ?」
彼の言葉の何がおかしかったのか。
侵魔は紅い月を見上げ、胸を大きくそらし、爆発するように哄笑をあげた。まるで月にすら噛みつかんばかりの笑い。
見るものを萎縮させかねないほどの狂喜に、中てられそうになるほどだ。
彼女は噛みつかんばかりの狂気を迸らせ、その言葉に答える。
「楽しい?あぁ、これ以上の楽しみがあるものか!
我らは人を食らうもの、我らは世界を食らうもの。世界を食らうために、世界を守るモノを食らい続ける諦めの悪い悪食共!
その悪食にとって一番のご馳走というのはな、力ある守るもの―――ウィザードの存在に他ならない」
人間の中で、ウィザードたちは通常の人間とは比べ物にならないほどの存在の力―――プラーナを有している。
プラーナを奪って生きているエミュレイターはより強力なプラーナを狙って動くが、巨大なプラーナを持てば持つほど当然ウィザードは強い。
侵魔は哄笑を上げながら、続ける。
「だがそれ以上に、だ。純粋に自身に傷をつけたものに報復するというのは楽しいものだろう?」
「やり返すいじめられっ子かてめーは。
悪いが俺はそんな根暗じゃないんでね、やられたらやり返すのは当たり前のことで殊更楽しいと感じたことはねぇ」
「なるほど、平行線か。だが……これを見ても冷静でいられるか?」
侵魔は嗤ったまま軽く手を振る。
ずばん、と何かを切り裂く音がして、霧の一角が吹き払われた。そこにあったソレは
―――不揃いな剣山と、ピンを刺しすぎた昆虫標本の虫を想起させた。
地面から天を突くように伸びた、不揃いな角度の無数の肉色の槍。
肉色の槍のところどころは怪しく紅に濡れ、赤い月の光に照らされてより赤さを増す。
槍は、たった一つの『もの』に対して必ず触れているようだった。
『もの』は、一つが親指ほど太さの肉槍によって支えられた、標本のように串刺しの姿のまま、槍の刺さっていない右腕だけをだらりと垂らしたままぴくりともしない。
ふくらはぎから進入した槍が、太ももから先を出す。
右の腰から突入した槍が、左の腹からその先端を見せる。
背中から没入する槍が、胸から全体を赤に塗らして顔を出す。
いくつも。いくつもいくつもいくつもいくつも。
無数の槍に貫かれ、地に足をつけられないほど。
全体重を肉の槍に支えられ、それでも抵抗する様子はない。
いつもの強いまなざしは閉じられ、剣こそ握ったままであるものの力強さなど欠片もない。
白い刃の剣には赤い液体が伝い、剣先から定期的に地面に赤い雫をぽたり、ぽたりと流し落とす。
呼吸の際の身じろぎすら見られない。もっとも、あれだけの槍に貫かれて内臓が無傷なはずもないだろうが。
そんな変わり果てた姿で―――柊蓮司が、そこに『あった』。
ウィザードでなければ歯の根が噛みあわなくなりそうな、赤一色の、幻想的でありながら世界中の悪意を集めたような禍々しい光景に浮かぶ、一つのオブジェ。
普通の人間ならばそんなものを見たら卒倒してしまいそうな光景。
ノーチェですら息を呑んだ。彼女の知るオスマントルコの英雄も、ここまでの仕打ちをしたところを見たことはない。
彼女のそんな姿を見て、満足そうに侵魔が嗤う。
「はははははっ!なかなか面白い形だろう。人間のオブジェなど珍しいものではないが、ここまでの素材で作ったものはない。
さっきまではあの忌々しい目で生意気にも睨んでいたが、体にこれだけ私の一部が食い込んでいるのだぞ?
命を握られているということを嫌と言うほどわからせてやったら、少しやりすぎたようでな。ぴくりとも動かなくなってしまった」
よく見れば彼の体は肉の槍に貫かれているだけではなく、他にも削り取られたような傷痕や穿たれた穴、いまだ突き刺さる硬質化した長い金色の髪針などが散見する。
そこかしこから血が流れ、肉色の剣山の生え際はすでに赤い液体によって池が出来ていた。
赤い月は赤い池に映り、より怪しげに照り輝く。
「……せよ」
息を呑んだノーチェには、隣でぽつりと司が呟いたのが聞こえた。
え?と口から間の抜けた声を出しながら振り向く。司はうつむいたまま、拳を握り締めた。
侵魔はまだ語り続けている。
笑いを引っ込め、警戒すべきものを睨むように身動きのとれず息をしているかも怪しい柊に向けて左手を向ける。
手の平に生まれる二重の魔法陣。見た目からして今までの魔法とは一線を画するのが分かる。
魔法陣は燐光を放ちながら、何もない空間から光の中にあるプラーナを収束してより巨大な光の力を溜める。
それは人一人どころか、消そうと思うのなら家の数軒軽く吹っ飛ばしかねないほどの力の渦。魔法使いならばその威力を想像できないはずもない。
今の柊にはかわす術もなければ防ぐことすら不可能。あんなものを食らえば、動くこともできないほどダメージを負ったウィザードなどひとたまりどころか塵一つ残らない。
支援する
思炎だ!今こそ王子共鳴を!(何
「とはいえ……この男の諦めの悪さは酔狂では語りきれん。今の内にとどめを刺してしまうべきだろう、形があるうちは諦めんだろうからな。
骨の欠片も残さず消え去れ。<ジャッジメント―――」
そう、侵魔が言い終わる前に。
司が拳を思い切り地面に叩きつけた。
冷気が侵魔の真下から吹き上げ、巨大な狼の顎のごとくに氷の柱が一瞬で地面から生え、彼女をはさみ込む。
司は赤い瞳を怒りに燃えるようにたぎらせながら侵魔を睨む。
「そいつを放せよって、言ってんだよこのバケモンが……っ!」
上月司は、基本的にものを斜に構えて見る少年だ。具体的に言うと、兄と金のこと以外ならばクールな頭脳と考え方を持っているのだ。
あまり群れるのも得意ではないが、それなりにやんちゃな部分があるためそんなところもあいまって総合的に子どもっぽく見えるものの、基本的には氷のごとく冷静である。
それがこうやって、言葉の上だけでも怒りを示すのは非常に珍しい出来事だ。
そんな彼の怒りを込めた一撃をまともに受けた侵魔。
しかし、氷の柱がずぐり、と鳴動し、白く華奢な右手が氷の中から突き出た。次の瞬間、氷塊に白いひびがはいり、ぱきんっ!と澄んだ音を立てて砕ける。
砕け、それでも巨大な氷塊が轟音とともに砕けていく中から、金髪の侵魔が不機嫌そうに現れる。
その視線を真っ向から受け止め、司は侵魔を睨みつける。侵魔はふん、と鼻を鳴らした。
「……邪魔をするな。さっきまでエサだった人間が、こんな子ども騙しで私を止められると思っていること自体がおこがましい。
今すぐ命乞いとともに逃げ出すのなら、見逃してやるが?」
「はん。その子ども騙しの力がなけりゃそいつに殺されるところだった奴にエサなんて呼ばれる筋合いはねぇ」
その挑発に、さすがに黙っていられなくなったのか侵魔は未だ二重魔法陣のくすぶり続ける左手を司の方に向けた。
「ずいぶんと口が回るな、小僧。その口を今すぐ塞いでほしいのか?」
「口で人間に勝てないようじゃ、お前の底の浅さも透けて見えるな」
「―――よかろう。柊蓮司も黄泉路が一人では寂しいだろうからな、先に送ってやる」
そのまま、魔装を解き放つ。
同時に光の塊が司の真上に出現。彼を中心とした空間に雨のごとく降り注ぐ。
先にも言ったがその威力は家の数件軽く吹き飛ぶ力だ。周囲を巻き込むその魔法を、まともに食らえば確実にノーチェも巻き込まれて二人とも倒れる。
魔法障壁一枚程度ではその威力を削いでもほとんど意味をなさない。
そして、ここで司とノーチェが倒れれば、それは全滅を意味する。
しかしそれでも、司はその死の雨から目を放さない。たとえこうなるとわかっていても、彼はあのまま柊にとどめが刺されるのを黙って見ているわけにはいかなかったのだ。
そこに後悔などない。後は、なりゆきをただ見守るだけだ。
そうやって降り注ぐ光をただ見ている彼に、傍らのノーチェがささやいた。
「……司、結界維持を頼みますであります」
その声は、まるで残りの全てを彼に任せたかのような声色だった。
同時。彼女は水晶球から手を離し、水晶球を蹴って司をかばうように月衣で浮遊し、体を翻す。
それは、まるでおとぎ話のような光景だった。
聖女がその身をもって審判の矢から他者を守るような、一枚の絵画のような光景。
ただし彼女は聖女では当然なく、それどころか背徳者である吸血鬼であり。彼女をうちぬくのは世界を食らう強大な魔であった。
そして―――その小さな体は、抵抗らしい抵抗も見せずに大量の光の雨に撃ち抜かれた。
光の雨は、少女を木の葉のように舞い上げ―――軽い体とともに、ひらひらとゴシックロリータの服を風に弄ばれながら、彼女は爆光の中で生まれた煙の中に消えた。
ハッピーエンドが大好きだ!(挨拶)
クライマックス、書いてみたら40k台半ばオーバー。……馬鹿ですかお前は、と思わず分量見て呟いたゆにまほ中身ですこんにちわー。
投稿規制くらうどころの話じゃねー。一回に投下していい分量じゃねーべ、ってことで分割投下になりました。
二分割しても規制食らうぜヒャッハァ!さるキライさるコワイさるキライさるコワイ(がたがたぶるぶる)。
一応区切りのいいここで止めてみたんですが……いかがだったでしょうか。
とりあえず多くは語らないほうがいいよね!よね!
そんなわけでちょっとこの話製作中の苦労話を。聞きたくない方はスクロール推奨。
あっはっは……マジ苦労しました(疲労困憊)。
そもそもクロスオーバーする二つが両方TRPG。
当然ルールが違う以上通常通りにラウンド進行すると、話がつまんなくなることこの上ない。(NWは1R基本複数回行動、DX2は基本1R1行動とか。ダイス減少とか)
なんでルールをある程度は目をつぶってもらうとして、それはそれとしてTRPGらしい味を出す必要がある。いやむしろ出したい。
となればルールタームやスキル・エフェクトなんかで出すことになります。
正直キャラ組んでるわけではないのですが、できるだけ記述されてるのだけでなんとかしようと悪戦苦闘。いや、一人大幅に改造されてる奴いるけど。
あとは動きやギミックなんかも割と凝ってみたつもりです。後編までにギミックわかってもバラさないでくれると嬉しいっス。
怖いって方は前作読めば一つくらいは希望が見えるかもしれませんが。
それと剣山描写すんの死ぬほど楽しかったっ。テンション上がりすぎ。そのまま後編描写も力みすぎた感が……。いやいや、うん、頑張ったよっ!?
ちょいスプラッタ入ってるからそういうの無理な人は読まないように―――って中書きで書くことじゃないわな。
以下レス返
>>147 イコールで結ぶなよ!変なこと覚えんなよ!自分はちぃちゃんよりもショートカット娘派だっ(どうでもいい)!
……まぁ、今回もさるさん食らったわけですが。だめー!ネガティブになる発言きんしー!ほらまだエピローグっ、エピローグ書いてるから……っ!
>>148 嵯峨野は地名だと思います。それだとえんどーさんガウェインネタできなくなるし。
>>152 ノーチェAAほしいなぁ(無理に決まってんだろうが)。
>>165 ヘイスト確かに受け取ったぜ!……めがっさ遅くなりましたすんませんマジごめんなさいっ!
>>166 オゥ、そう言われると嬉しいっス。あの変な組み合わせ書いててすごい楽しかった。セントジョージははぼんくらーずの顧問になればいいんだよ(何の顧問だ)!
>>167 ブラストハンズは超狙いました。
開幕はとりあえず最初のリプレイの顔たちにはじめてもらい、次は無印主人公。
史朗が出てきたのは桜の相棒がいないから。紫帆はオリジンのレネゲイドの化身と会ったら珍妙なことになると確信したからこそ。そして―――奴らです。
それまでちょっと弛緩しつつも緊張したダブルクロスらしい話を続けて、一気に落とす。
奴らとミナリ絡ませたらもう常識人なミナリはついてけない(笑)。でも組み合わせとしては書いてて非常に楽しかった。その後もとのベースに戻すのが大変でしたが。
天キャラをらしく書けるのはもはや一種の才能だと思います……。
>>168 ファイナルハーツはすでに撤退してます。春日恭二は家電を守るために戦ってます。出ないけど。書かないけど。
さてさて。この状況だけ見ると全滅まで秒読みの段階。この話の中にいくつも後編への伏線を張ってるのですが―――期待を裏切らないように頑張りたいと思います。
後編は自分が一番書きたかったシーンが入ってますので、それまでお付き合いいただければ幸いです。ではでは。
現状ロイス状況
PL
司→ノーチェ 慕情/不快感 ……なんかエラそうに言われるのはムカつくけど、上から目線なわけじゃないからそこまでムカつかないような気がする。
司→柊 友情/憐憫 ……まぁ、普通にいい奴だと思うけど。上司がアレってのは不幸な奴だよなぁ、と思っている。
司→ボタン 幸福感/疎外感 ……ちっこいのは苦手だけど懐いてくるし。玉野のなんだけどな。と思っている。ツンデレ。
ノーチェ→司 連帯感/憐憫 ……生活のために命かけて働く仲間でありますなっ!ご家族が度々出奔されるのはかわいそうでありますが、と思っている。
柊→隼人 感服/嫉妬 ……色々大変だったんだろうなー。悩んででも答えを出せるってのは突っ走ってばかりの自分とは違って凄いことだと思っている。
隼人→柊 尽力/脅威 ……話を聞く限りとんでもない状況で生き延びてきた奴だよな。こっちにいる限りは手伝ってやりたい、と思っている。
隼人→ノーチェ 友情/嫉妬 ……仲間仲間。ただ、同じところにいるのにそれ以上に普通だよな、と思っている。
あと敵にそれぞれロイス結んで後は自由枠。
NPC
椿→司 連帯感/憐憫 ……ボタンを連れてきてくれたいい人。でもかわいそう、と思っている。
結希→ノーチェ 連帯感/憤懣 ……貧乳はステータスですっ!ただし、食べたものは返してもらいましょうか(にっこり)?
紫帆→シザーリオ 感服/隔意 ……あ、うん、その、なんか凄いよね。たぶん絶対分かり合えない気がするよ……と思っている。
応理→薫 有為/敵愾心 ……ジョージの癖に。金持ってるからってエラいと思ってんなよこのっ、このっ!と思っている。
薫→応理 好奇心/無関心 ……別に僕は不死者なんかに用はないんだけどね。でもまぁ機会があったら心霊医術でサバいて(サイコメトリー)みたいなぁ、と思っている。
あと敵にそれぞれロイス結んで後は自由枠。つーか面白い関係だけ書いてみた。
次回はそんなにおそくならない、はず。
>>323 GJ!随分な大作になったなぁ(まだ完結まで見ていないのに何を言う
エミュが実にジャームっぽい。さすが侵魔超人!そこに痺れる憧れるぅ!
>>307 柊が攻略する側なだけで正攻法で失敗→結局力技で解決フラグな気がしてきた
だがそれがいい!
__
,. '´ `丶
/ _ノ `ー 、ヽ
/ ',
{__==========__| 保管
/Jヽ三三ノ´ `ヽ三三ノト、
{.イ;:〃〃;: ;:〃〃;:|r} 神のみぞ知るセカイ
フ 「 「ゆにばーさる」と魔法使いの夏
/::\ ,ィ マニ ァ ミ ,八
/::::::::::::::≧イyvyvyvyx≦:::::::::\
. /:::::::::::::::::::::::ト、厶r‐ミ,ノ/:::::::::::::::::∧
/::::::::::::::::::::::::::レ´ て Y::::::::::::::::::::::∧
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|:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::!
DX2といえば田中天だって電波が来た
(こいのぼりからノーチェへのロイスが何かおかしい気がする……気がするんだ……)
ゆにまほの人GJ!
なぜか自分の中ではノーチェ≧こいのぼりというイメージが…
なんというかこう、AとAAの間には狭くて深い溝がある、みたいな?
…あれ、どこかから音楽が…。これは、『暗い日曜日』…?
貧乳はステータスです。
ほら、ケイトくんが浮気したあの娘(こ)も
スレンダー系の現在(いま)アイドルだし。
ゆにまほ乙!やはら戦闘の駆け引きは熱いですね
つまりケイトの性癖は…
こんなところに変態がいますよー(叫
待てコラ 貧乳好きのどこが変態だ
巨乳好きこそただのマザコンじゃねえか
「変態ッ!? 変態は許しませんよ!!」
――七徳の宝玉。
先の戦いにて失われたかのアーティファクトは、戦いを終えた今でも多くの謎に包まれている。
七徳の宝玉は如何にして生まれたのか。
何故シャイマールの力を封印できたのか。
ここで少し昔話を語ろうぞ。
とある老人と少年が織り成す、正義の宝玉を巡る悲しい物語を。
…。
……・。
………。
そう。
それはまだ、正義の宝玉が「四星球」と呼ばれていた頃の話……。
全く胸なんかにこだわっている変態ばっかで嫌になるな。
むちむちふくらはぎこそ至高と心得るがいい。
なにがむちむちだ!
すらりと細い脚線美こそが至高だろうが!
>>214の電波を受けて、「土器☆、柊蓮司の育成日記」なるネタが浮かんだ。
クロス先がまるで思いつかんが。
土器で育成……だと……?
ドングリと一緒に煮込むのか
>335
むちむちではない、むっちりだ。
>336
そしてそれは、“極上”だ。
341 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 19:32:26 ID:IQdrZOTy
>337
土器と柊蓮司そして育成、外国のゲームで首だけの女神様を植木鉢で育成するゲームがなかったっけ?
土器…はにわ…土偶…
うわあああああ!誰だ、土偶戦士ガンダムなんて電波を放った奴は!すでにNW関係無いじゃないか!
ゆにまほさん乙ですサー!
あなたも残虐非道さん6号ですな?この残虐非道っ!
…しっかし、無理です、伏線が全くわかりません。と言うかダブルクロス持ってません。
それにしても、透き通った氷で人を刺したら氷を通して何が見えるだろうとか考えたこともありますが、実際に描写されるとあんまり気持ち良くありませんね。いや、気持ち良くなったら終了でしょうが。
はにわ「足なんて飾りです」
土偶「当たらなければどうということはないっ!」
と申したか
REXのシンシア・ザ・ミッションとのクロスで
絶対運命改変拳で「ウィザードの自分」に入れ代わったカルロス
ってネタを思いついたが野郎キャラでクロスって微妙かなあ…
>341
以前、韓国の友人に「ねえ、Tomakって知ってる?」って聞いたら
「知りません! 何のことかさっぱり分かりません! エヴィアンなんて知りません!」
って即答された。
それは「よく御存じじゃねーか馬鹿野郎ww」と返すのがやはり正解なのだろうか…?
>>341 首だけアンゼロットと首だけベルをバランスよく育てるゲーム?
349 :
ゆにまほ中身:2008/09/08(月) 09:47:01 ID:dSP5bbl5
こんな時間に誰かいるとは思えないが……
しかし!しかしだ!今日この時間に投下できないとまた数日のびるねん!
だから俺はやる……っ!たとえさるを食らおうと!
……まぁ、無駄な熱血はさておき。6話後半投下っす。予定では50分より投下。
居ますよ。そして楽しみに待ってますよ
<Get set ...>
意識の再起動。そのキーは、強い思いだった。
氷の霧が晴れていくのを、再起動した体の目が映す。晴れたその先にあるのは、金の髪を振り乱して笑う侵魔。
これはお前にしかできないことだ、とあいつは言った。
それぞれの役割を語ったあいつの目は真剣そのもので、それを信じさせるには十分だった。
なによりあいつが一番危険な目にあうはずなのに、そのことに気負い一つ見せなかったことが自分にそれを信じさせた。
力が戻る。
まだやれる。
たとえ腹に大穴が空いてようと、体の損傷などいくらでも暴走気味のウィルスが癒してしまう。
だから、こうなった時にむしろ大切なのは心のほう。
暴走気味の同居人に流されることなく、苦痛に悲鳴をあげたい肉体に流されることなく、いつまで『戦うための思い』を保てるかどうか。
倒れない。
こんなところで倒れる気はないし、バケモノになるつもりもない。
ここまできたんだ、後は―――
視界に再び金髪の侵魔が映る。
―――あいつを倒すだけで、ハッピーエンドに手が届く!
愉快な気分で、獣のように犬歯をむき出しに盛大な笑みを刻み。彼はしっかりと、人としての意識を取り戻す。
仲間に任されたのは、たったひとつのわかりやすくてシンプルなこと。
任された役目をまっとうするために―――勝利をその手に掴むために。
今は手の中の感触をしっかりと握り締めて。ただ、時を待つ。
<紅に染まる戦場・後>
ほう、と侵魔はノーチェのとった行動を虚をつかれた思いで見ていた。
あの状況で司をかばう、という行動をとるとは思わなかったのだ。そもそもノーチェはスペルマスター系のクラス、けして体力のあるほうではない。
司もそう体力があるとはいえず、平均的なものだ。となれば、あの光の雨を防御魔法一枚程度で生き残ることは不可能。
これで全滅に陥らせることができるはずだった。
その予測を、ノーチェは覆してみせたのだ。しかし侵魔は笑みを崩さない。その功績は、ノーチェの命をもったものであるからだ。
支援能力のあるノーチェが生き残るよりも、司の一人の方がよりくみしやすい。遠距離攻撃能力者が一人残ったところで、できることなどほとんどない。
賞賛と哀れみと優越感をもって、彼女は煙の向こうを一瞥する。
まったく、哀れだ。そう呟いたその時だった。
さくん、と軽い音。
同時に彼女の体のバランスが崩れた。あわてて倒れないよう足を踏ん張る。
倒れることだけは免れたものの、バランスのおかしさは変わらない。何かの攻撃を受けているのかとも思ったが、そういった効果は見当たらない。
そして彼女は気づく。
先の軽い音と時を同じくして、ひゅんひゅん、と何かが旋回している音がすることに。
その音は彼女の背後から。やがて風を切る旋回音は遠くなりゆき、ぼと、とやけに生々しい、なにかが落ちる音がした。
彼女がその落下音の方を振り向く。そこには―――
白い腕が、あった。
先の隼人の斬撃によって切り裂かれ、その傷痕にそってもとの白い色そのままに、断面の一部が乳白色の結晶に変化している、左腕。
そしてその結晶は彼女の左腕―――その断面にも付着している。つまりそれは、まごうことなき彼女の腕であった。
絶句する。
頭に冷や水をぶっかけられた感覚。空白地帯が頭の中を一瞬にして埋め尽くす。
確かに隼人の一撃を受けはした。傷口が結晶化させられかけていたのも認めよう。
しかし、あれは確かに深手ではあっても問題のないダメージだったはずだ。
半ばまで結晶化させられた後も魔力伝導率も落ちた様子はない、それは先のジャッジメントレイの威力からしてもわかる。
それがなぜ、こんな時間差で腕が―――っ?
「ば……っかなっ!?」
「―――事実でありますよ。受け入れるであります。
わたくしの即時展開魔装も、半ば切り絶たれたものを切れないほど非力ではないでありますよ」
その特徴的なしゃべり方に、侵魔の体がぎくりと震えた。
そろそろとそちらを見ると、すでに砂煙が降りた中で、いまだ荒れる風にばさりと翻る長い銀の髪。
銀糸のごときそれは、風に巻かれて、一匹の竜のごとくにも見える。
そこには、今穴だらけになったゴシックロリータの服をひらひらと風になぶられながら、口元の血を拭い、赤い大きな瞳をゆがめた、侵魔を見つめる少女の姿。
いつもある愛嬌のある笑顔はそこにはなく、にやりと不敵な表情で笑っている―――ノーチェが立っていた。
「なぜだっ!?なぜ貴様が―――っ!」
「死んだはずだろう、でありますか?
仮にも世界を敵に回した侵魔が、敵にまわしたのは人間だけなんて、そんな都合のいいことが本気であるとでも思っていたのでありますか?
あそこにはもっと他にも仲間がたくさん住んでるであります。
人間とも、まぎれていけば暮らせるはずだったのでありますのに―――侵魔なんてものが入ってきたせいで、『妖怪』は悪であるという考え方も生まれた。
それのせいで、どれだけの人外が迷惑してると思ってるでありますか?」
怒りの混じった言葉。彼女は人外であっても人間と共に生きることを肯定する珍しいタイプの吸血鬼だ。
そして人間よりも魔に近い人外が、侵魔によって利用され起きた悲劇を知っている。だからこそ、たとえケンカが嫌いでも、自分のために、仲間のために彼女は戦うのだ。
その言葉に、鈍感だった侵魔も感づいた。
この娘は人間ではない。魔法をあれだけ自在に操っていたことも勘定に入れれば、当然不死者の王であろう。
あれだけの光の渦の中再び立ち上がるのは深紅の夜に立ち向かい続ける矜持と生命力ゆえ、身体的な急激な変化は彼女の髪を結んでいた拘束術式を開放したため。
吸血鬼、と呼ばれる人外の死ににくさはウィザードの中でもトップクラス。あれだけの光の雨とて、一度の直撃程度ではそうそう死にはしない。
それ以上に、侵魔は戦慄する。
いや。そんなことよりも、左腕がないと私は―――
その先を考えようとするのを必死に押し込めたその時。
びちゃびちゃっ、と大量の液体が地面に落ちる音がした。
侵魔はおそるおそるそちらに目をやる。彼女はそこにあるものを理解している。
ありえない。『あれ』が今更動くことなどはありえてはならない。それは彼女自身が一番よく知っている。あれだけのことをされて、動けるはずはないのだから。
ノーチェが表情を変えずに、音のもとに向けて声をかける。
「頼まれたことはやったでありますよ―――蓮司」
「おう……上等だ。ノーチェ、司」
水音は口の中にたまった血の塊を吐き出した音。
今まで力なく閉じられていた瞳が、いつもの半眼に開かれる。
傷が癒えたわけではない。串刺しの状態が終わったわけでも当然ない。
痛くないはずなど当然ない。体中の痛みにさいなまれ続け、体はまともに動かせない。
脂汗と血はいまだに流れ続けている。この状態では痛みだけで意識を失ってもおかしくはない。
それでも―――柊蓮司は、目を覚ました。
胸元から淡い光が漏れていた。
光の元は、彼の懐にある夜色の石から。ウィザードならば誰もが知っている、最近開発された魔導具―――死活の石だ。
死に瀕したものに対し、強い生への執着を持たせて意識を保たせる魔法の石。
しかし、これが効果を発揮するには多少時間がかかる。
その間に<ジャッジメントレイ>なんて広域殺傷魔法でもぶち込まれて塵も残らなくなれば、さすがにどんな手を使っても復活は叶わない。
だからこその一手。それが司の一撃であり、注意を他にそらし彼の生存確率を0にしないための策。
とどめを刺されるのを待つだけのはずの柊が息を吹き返したことに怖気立つ侵魔。しかし彼女はすぐに死活の石のことを思い出し、舌打ちして平静を取り戻す。
「柊蓮司……っ!相変わらず、往生際の悪いっ……!」
「しつこさだけ、は……自信があって、…っな」
とぎれとぎれに言葉をつむぐ柊。その言葉には、空気の漏れるような呼吸音がついてまわる。
彼は目を覚ましたが、逆に言うのならそれだけだ。体中の傷が消えたわけでも、それどころか自由に動けるようになったわけでもない。
体のどこが痛いのかさえわからないほどの苦痛が常に頭に信号として送られていて、麻痺した頭は痛覚の活動を凍結させるほど。
今の彼にあるのは、奇跡とも言えるほどにかすかに残った、あるかなしかの意識だけだ。
呼吸をするのすら困難なその様子を見て、侵魔が自分の絶対的優位を誇るように笑った。
「はは……はははっ!柊蓮司、ずいぶんと苦しそうじゃないか?
お前の命が私に握られているということを、忘れたわけではないだろうなっ!?」
ずぐり、と侵魔は、彼女の手の先から地中にもぐり、分裂し地上に出て伸びた肉の槍を意図的に軽く揺らす。
それにより一部の傷口を広げられ、ばたばたばたっとあらゆるところからに池にしたたり落ちる血。柊が苦痛に顔を歪めるが、悲鳴は上がらない。
口に血が溜まり声を上げることもかなわない、と言った方が正解なのだが。
その様子を見て笑い声を上げる侵魔。
柊は再び口の中の血の塊を吐き出すと―――実質的に自分の命を握られている状況下でなお、再び不敵に笑った。
2、3度咳をすると、ある程度呼吸を整え彼は侵魔に向けて告げる。
「お前、こそ。どうなんだよ。左腕……飛んでっちまったぞ?」
ぎくり、と。侵魔の背筋がその言葉に凍る。表情が一気に強ばる。息を忘れる。
支援
エミュレイターと呼ばれるものたちにとって、特に彼女のように実体化できる侵魔・シェイプドライフであり、その上完全に人間と同じ形を持てる程の力を持つものが、
腕の一つ二つ失ったくらいで特に戦いは不利になることはない。先ほど柊に腰を半ば斬り絶たれかけた傷もすでにないし、司によってつけられた傷もすでに消えている。
侵魔にとって体とは容れものであり、血などは流れない。その容れものも、精神体たる彼らはプラーナをそちらに傾けるだけで修復される。
確かにそれが腕一本となれば力と時間は必要になるが、逆に言えばそれだけだ。ジャームとしての力と魔法を同時に使える彼女の圧倒的優位が崩されるはずもない。
それでも、侵魔は柊のその言葉に恐怖した。
「貴様……まさか。気づいて、いるのか?」
その、心底の恐怖の声に。彼は笑みを崩さず聞き返した。
「お前、が。左手……でしか、魔法が使えないって。ことか?」
全身を絶え間なくさいなむ、地獄のような苦痛の中で、己の血にまみれながら。
それでもなお自分達の勝利を信じて敵を睨む柊。
今にも途切れそうな彼の意識を繋ぎとめているのは、強靭な意志ゆえ。絶対に負けない、という、絶対にみんなで生きて帰る、という強い意志ゆえに。
めげない、曲げない、諦めない。強くゆらがぬ意思。
それこそが柊蓮司の本質だと。それは―――侵魔自身も知っていたことではなかったか。
そんな姿を、侵魔は底知れないものと相対したような悪寒に襲われながら見ていた。
なんだ。なんなんだこの男は、と今にも叫びだしそうな震える心を押えながら、彼女は柊を見続ける。
今になって思えば、おかしい点はいくつもあった。
隼人の氷霧の中の突貫は、結晶化能力を使用していなかったこと。あれがあれば少しくらいはダメージが通っていたはずだ。隼人に彼女の意識を集めることにも繋がる。
柊をなぶる中、彼が一度もプラーナを開放しなかったこと。指に貫かれ、髪に削り抉られ、そんな苛烈で過激な猛攻の中、柊は悪あがきをしない人間ではない。
彼にとどめをさすのを、司ががむしゃらに止めたこと。仲間を傷つけられることに対しては慣れている彼が、あんなに必死になるようにはやはり見えない。
柊は、口の中に残った鉄錆味の欠片を吐き出して、言葉を続けた。
「……でなきゃ。こんなに体張って、この手を止めるかよ」
きっかけは一度戦った時のこと。柊が剣で右手を受け止めた時点で、右手で魔法を発動すればそこで詰んでいたはずだ。
もちろんただの性癖、という場合もなきにしもあらず。だから、ノーチェの水晶球に映し出される司との戦いの映像を見てその想像を補強した。
この侵魔はどういう理由かまではわからないが、右手でしかエフェクトを使えず、左手でしか魔法を使えない。
それをノーチェに告げると、彼女と結希はおそらくは異なる能力の放出口を同じにするとどんな干渉が起こるかわからないので能力を出す場所を変えたのでは、と推測した。
まぁ、難しい話はどうでもいい。敵の特徴が分かって、その上攻めるべき場所も把握できた。
その後、身をもって左手でしか魔法は使えないが、右手が一番上手く使えるだけで、それ以外もある程度エフェクトを使用できる、が正解だと気づくが作戦自体は変更なし。
防御も範囲攻撃もできる魔法が使える厄介な左手を失わせるためには、ダメージを軽減できる右手を何かに集中させておく必要があった、ということ。
彼は、侵魔に告げた。
彼女にとっての恐怖の言葉を。
「囮ってのは、狙われてる奴、が。やらなきゃ……効果薄い、だろーが」
ぞくりと総毛立つ言葉と視線。
彼女は激昂を持ってその悪寒を吹き飛ばそうとする。
「なにを……バカなことを、言っているっ!?貴様が私に命を握られているのは変わらんっ!」
侵魔の噛み付かんばかりの絶叫。それに。
柊は不敵に笑ったまま答えた。その声にあるのは、変わらない不屈の意思と信念。
「……まーな。けどな、一つ言わせろ、よ。
お前、こそ。……俺が、ここまでやられて、黙ってられるような…温和な奴だとでも思ってんのか?」
なに?と眉をひそめる。
柊は、どこにそんな力があるのかわからないほどぼろぼろの状態だというのに、唯一串刺しになっていない剣を握った手を、ゆっくりと持ち上げる。
全身に残る力を振り絞るように。剣を握る腕は力が入らないのだろう、細かく震えてすらいる。それでも。何の意味もないその行為に、残る力を振り絞る。
それをふり回す力などどこにも残ってないはずなのだ。それどころか、剣をこの状態から振り下ろしたところで腕一本の力では柔らかい彼女の体を斬ることなど不可能。
なのに。
金髪の侵魔には、高々と掲げられたその刃が、魔を斬り殺す斬魔の断頭の刃のように見えた。
内心の恐怖を覆い隠し、腕に力を込めて、叫ぶ。
「黙れっ!今すぐこのままくびり殺してくれる!」
「慌てん、なよ。余裕がなくなってきてるぜ?
俺は囮だって言っただろ、なぁ―――『隼人』っ!」
支援でさぁ
全幅にして絶対の信頼をもった、叫び声が吐き出される。
その声に応えるように、同時。
『なにか』によって、侵魔は深く切りつけられていた。伝わる衝撃によって一瞬にして意識を刈り取られる。
彼女が切り付けたものを『なにか』としか理解できなかったのは単純な理由だ。
それは彼女の目に映らないほどの高速で、音も風の流れも気配すらも置き去りに、閃光のごときスピードで彼女に接敵、無言で斬りつけたからだった。
もちろん―――斬ったのは隼人だ。
彼の中のレネゲイドは、半ば彼自身の意思を無視して傷を癒し、あらゆるものを壊せ、と精神(こころ)を蝕む。
隼人はその内なる声に心をゆだねず、それ以上の意思をもって体に染み付いた力の使い方で、ただ敵を斬るために走った。
それが彼の役目。ただ敵を斬ることが、彼自身に与えられ、また彼のできる唯一のこと。
月匣突入前。さまざまな役目を与えられた残りの二人に対し、隼人が柊に言われたのはたったの一言。
『とりあえず全力であいつをぶった斬れ』
どうしようもなく単純なその役目に、少し不満を口にすると、そいつは苦笑して言ったのだ。
『俺らみたいなとにかく前に出て、体張って殴るしか能のない連中に、それ以外のことができるとでも思ってんのか?』
それはつまり。前に出て敵にダメージを与える、という一点に関しては柊が隼人を信頼しているということだ。そしてその言葉は、隼人にとっては何よりの力になる。
任された役目であるその斬撃は。これまでで最速の、彼自身を黒き閃光に見まごうほどの一撃。
それは、腕を失い幾度も凍らされ斬りつけられた侵魔の意識を一撃のもとに飛ばすほどの超音速の切り上げ。
ただただ速いだけではない。その動きは、まさに人とは思えないほどの力強さ。
オーヴァードで、ハヌマーンであるからこそできる斬撃だった。
けれど、侵魔もただでは転ばない。
一瞬の後に意識を取り戻し、いまだ体にくすぶる衝撃を、体をそのまま裂いて流し、もう一度くっつける。
その程度のことならば精神生命体のエミュレイターであり、その上エグザイルの能力を使用できる彼女ならばこともない。
何が起きたのかはわからないが、この場では彼女の敵は彼女以外の全員だ。
ぎり、と歯噛み。視覚はつながったまま。ならば敵を目に映して打倒するだけ。
後ろにのめりかけた体を強引に引き戻そうと足を踏ん張り、体を戻そうとして―――
空に異質を見た。
空はいまだ赤いまま。そこに変化はない。
しかし。
その先に輝くものがあった。
色はない。色を透けとおす大量の『もの』が空に浮かんでいた。
それは、武器の群れだった。
短剣が。長槍が。箒が。句内が。鎌が。突撃槍が。長柄が。峨嵋刺が。斧が。手甲が。打撃棍が。鉄鎚が。刀が。薙刀が。細剣が。曲刀が。駆動鋸が。手裏剣が。長剣が。
弓矢が。銃が。機関銃が。狙撃銃が。投矢が。小銃が。銃剣が。榴弾が。拳銃が。機械弓が。砲撃用箒が。鞭が。魔法杖が。
3Dフレームで作った水晶やガラスのような、形だけはそこにある、さまざまな武器がそこにあった。
形も違えば攻撃方法も違う、まったく統一感のない武器の群れ。
いや、全ての武器に統一されて存在する特徴があった。
―――そこだけ色のついた、赤い月などよりもなお強く深い、臙脂に近いまでの真紅の宝玉。
ぱっと見ただけでは赤い空に変化がないのは、その宝玉も色彩は違えど赤であるゆえに。
赤い紅い夕焼け色の宝玉の武器群が、切っ先を下にし、そこにある。
侵魔はその宝玉を、幾度も目にしていた。それを突きつけられ、命からがら逃げ出せたこともあった。
それは、神殺しの名を冠す刃。
名を持たず、それゆえに下級侵魔の間では嘲りと侮蔑を込めて『名無し』『無銘』と呼ばれ、畏怖と恐怖をもって『黄昏の剣』とも呼ばれる、魔の企みの終焉を告げるもの。
今彼女の頭上にあるものは、その剣の平行世界存在群。
魔剣とはいえただの剣に世界を超える力はない。ゆえに、自身の平行世界存在の形だけしか存在できない幻。それでもそれらは、『己の担い手』の号令を待つ。
武器とは『害なすものを止める器』という意味を持つ。
つまり『守るもの』という意味を持っており、それが第一に守るものは己を担う主である。己の主の命令は、身命にかけて守るもの。それが武器の意義だ。
それは多にして一。個にして全。無数に存在しながら一人でしかない『担い手』の、声を待つように整然と中空に整列する。
侵魔は目を最大限に見開き、向かい来る滅びに抗うことも忘れ、その光景をただ目にする。
口の端から血の筋を走らせながら、魔剣を高く掲げた柊は、封印開放、と唇を動かす。音にならぬその言葉は、確かにその意思を聞き届けた武器群により即座に実行される。
きぃん、と高い音が空中に響き、一つ一つの武器の宝玉が真の輝きを開放。赤い空をより強く赤く、燃えるような空色へと染めかえる。
残したわずかなプラーナを開放し、力に変換。それは清涼な風のように舞い上がり、武器の群れに纏われる。
そして。彼は。
すでに大量に己の血を吸った、届かぬ刃を―――振り下ろす。
それはまるでオーケストラの指揮者の指揮棒のごとく。戦場の隊司令官の軍刀のごとく。動かぬ体で、残る全ての力を搾り出すように―――叫ぶ。
「いっ……けええええぇぇぇぇっ!!」
体中から無理をした代償として血煙を撒き散らしながら。放たれたその言葉を待っていたかのように、敵めがけ降り注ぐ武器の雨。
侵魔はその場から逃げ切るのは不可能と判断しつつも、背を向けて逃げようとする。
しかしそれは叶わない。司が先ほど彼女を食らった氷の塔は、破砕されながらも足を凍りつかせ地面とつなぎとめられていて、その場から動くことはできなくなっていた。
だから、彼女にはその武器の群れを見ていることしかできなかった。
「が、あああああぁっ!」
降り注ぐ刃の雨。
剣が裂き、槍が突き、斧が断ち、鋸が斬り、矢が穿ち、弾が貫き、棍が砕き。
次々と容赦なく動けぬ侵魔を貫いていく幻の刃。魔を貫いては砕けていく、儚くされど強い意志により統制された忠実なる軍勢。
痛みとともに近くなっていく自身の底。それに恐怖しながら、それでも彼女には次々と自身に向けて降り注ぐ刃の軍勢を見ていることしかできはしない。
そんな、生きるもの全ての生存を許さぬ雨の中で動けるものなどいるはずもない。しかし侵魔は、その透明な刃の雨の中を猛然と突き進む黒い閃光を見た。
「これで―――終わりだぁぁっ!」
斬撃で生まれた勢いをさらに利用し、刃の雨の中視線は侵魔に据えたまま、降る場所がわかっているようにかわし、足元に突き刺さった短剣を蹴り、跳ぶ。砕ける幻の剣。
その勢いのまま。速度を殺さず、むしろそれ以上に速く、両手で握った刃を、振りぬく。
斬った部分が結晶化。その上斬撃の衝撃によりその場所から次々と結晶が吹き飛ばされていく。
結晶化したままの部分を降り来る透明な刃が貫き、自身の破砕とともに砕け散らせる。
両腕を失い、右半身を失い、体中を大穴だらけにして。滅びに向かう自分を受け入れられない侵魔は、なお叫ぶ。
「いやだ、私の計画が、この世界を食らう私の計画がっ……こんな、ところでっ!?」
「俺たちが必死になって守ってきたからこの町の日常があるんだぜ?お前なんかにここをやれるかよ。
それから―――柊(あいつ)から伝言だ。『そもそも知恵ってのは、力で劣る人間が使うもんだ。付け焼刃の策略なんぞでそこをお前らが超えられると思うなよ』だとさ」
隼人が黒い剣を肩に乗せ、人間ナメんな、と呟いて。砕けていく侵魔に肩をすくめる。
侵魔はもう一度何かを叫ぼうとし―――その前に顔までぱきりと結晶化し、砕けた。
時を同じくし、粉状の結晶が赤い空に舞い、いまだに宙ぶらりんの状態だった柊が抵抗ひとつすることなく地面に落ち、自分の血の池に沈む。
ばちゃり、という水音とともに赤い空から赤さが抜けていく。
黒い夜闇が取り戻され秋葉原はこの瞬間、平穏を取り戻した。
街にかけられていたワーディングが解除され―――街のあちこちに、一拍の間をおいて歓声が上がった。
支援射撃。
50分から投下だなんて、いつものドジっこが見られないじゃないか!
<戦い終わって日が暮れる>
「えーと、とりあえずは毛針はほっといて他の治療いくでありますね。このなんか大穴空きまくりのとこは特に危ないと思うでありますよー。
もう、こう、なんていうか……ひっくり返す直前のホットケーキみたいな?」
髪の毛を適当に黒いリボンでくくりなおし、ポニーテール状にしたノーチェが応急処置の回復魔法を行う。
柊が彼女のやけに具体的な説明台詞にうんざりしたように目を閉じたまま呟く。
「……頼むノーチェ、もうちょっと静かにやってくんねーか。想像して気持ち悪くなるから」
「え?ですから、ケガするのに麻痺した人間っていうのはすぐ特攻したがるからちょっとくらい痛い目見せろと研修時に言われてるでありましてな?
あ、隼人も逃げちゃダメでありますよ。いくら自動修復してくれるからってきちんと治療した方がいいことには変わりないのでありますから」
「遠慮するっ!そんなドS直伝の治療受けたくねぇよっ!?」
もっともである。
そんな隼人を横目で見て、司がそういえば、と呟く。
「あー、でもこれもファンタジー世界独特だよな。めったに受けらんねぇと思うんだが」
「ぜひよろしくお願いしますノーチェ先生」
「……ミーハーめ」
閑話休題。
MPポーションを月衣から取り出し、一気飲みした後腕まくりしたノーチェは、唯一の回復手段を持つ貴重な人材だ。
彼女は容態を見ながらうーん、とうなると柊に問う。
「蓮司蓮司、一気に回復するけど困ったことが起きるかもしれない方法と、ちょっと長い間苦しいけど安全な方法、どっちがいいでありますか?」
「……その心は?」
「わたくしの血を飲むか普通に回復魔法繰り返すか」
「後者でっ。むしろ後者じゃなけりゃ嫌だよっ!?」
コンマ1秒で即答。穴だらけ(ほっとけーき)のどこにそんな力が残っているのかは分からないが、さすがに吸血鬼になるリスクはちょっと負いたくなかったらしい。
こくんと頷き、ノーチェはいくでありますよーと間の抜けた声を告げ、手のひらを上に掲げた。
すると彼女を中心として虹色に輝く煌く魔法陣が現れて煌きがそのまま彼らを覆っていく。舞い上がる光。
光は傷口を覆い、内側から修復を行っていく。
その光が止むのを待ち、隼人が自分の体を見る。半分以上はレネゲイドの力でふさがっていたものの、ずいぶんと体が軽くなるのを自覚した。
血は完全に止まり、皮のつっぱる感覚もない。感心しながら言う。
「すっげぇな魔法。さすがファンタジー」
「魔法自体は一応法則性があるものでありますよ。わたくしから見れば隼人のあの移動速度とか司の氷を出す力とかの方がずっと不思議でありますが」
そう告げながら、まだ立ち上がる気力もない様子の柊に対して手を掲げひーるー、と緊張感のない声で魔法を発動している。
隼人もそんなもんかね、と呟いて、司を見た。面白そうに彼はからかう。
「それより、司。お前あの時普通にキレてただろ」
「……なんのことだか、さっぱりだな」
隼人のからかいにそっぽを向いてそう答える司。
そんな司の様子に、にやにやしつつさらに踏み込む隼人。
「とぼけんなよ。柊が囮になった後お前とノーチェでなんとか注意そらすっていう話だったのに、注意逸らすだけにしちゃ派手すぎるだろアレ。
うっかりこっちも巻き込まれかけたんだぞ」
「巻き込まれたらお前がマヌケだっつーだけの話だな」
「巻き込んだらお前のコントロールがド下手だっつーだけの話だぞ?」
笑う隼人にうるせぇ、と呟く司。
そもそもがクールなように見えるよう動いたり、どちらかというと斜に構えた考え方をした本人が熱くなったのを照れたらしい。難儀なツンデレである。
司はその隼人の視線から逃れるように、傍らに落ちていた大きな赤い石を見つけ、拾う。
「おいノーチェ、欲しいのってこれでいいのかよ?」
「お。ありがとうでありますよ司っ!それだけあれば蓮司も一緒に向こうに帰れるでありますっ!」
笑顔のノーチェの放った帰る、の言葉に少しだけ重くなる雰囲気。
その空気を壊したのは、数度目のヒールによってなんとか苦痛なくしゃべれるようになった柊だった。
「別にすぐ帰るわけじゃねぇよ。8月の終わりまでは働いてほしいって支部長さんに言われてるし、それまではこっちでゆっくり羽根伸ばすさ」
その言葉になんだ、と呟く二人。
なんだってなんだよ、と不機嫌そうに呟きながら、ほら、と柊はぼろぼろの右腕を拳を固めてふらふらと揺らしながらも突き出す。
その意図をくみ取り、ノーチェは右手で回復魔法をかけながら左手の拳を固め。司は軽く握った拳を裏拳気味に。隼人は笑って拳を握って。
―――ごつん、と四つの拳が打ち合った。
つぎでおしまい。
支援ですよ
支援じゃー
日曜に投下したかったけどもさすがに13時間労働中に投下は無理だべ。どうもゆにまほ中身でございます。
いかがだったでしょうか。スプラッタ全開な前半を吹っ飛ばすような展開を目指してみた、つもりです。
作者の勝手な主張になるんで流したい方はこっからしばらくスルー推奨。
今回の戦闘コンセプトは『王子っぽさ』。
クライマックスフェイズになると毎度おなじみ超クレバーなゲーマー思考と的確な戦術指揮でみんなをひっぱる矢野王子。
このスレでも毎度毎度「クレバー王子全開バトルマダー?」という意見が散見されたため、今回は無謀を承知ながらもそれをほんのちょっと実践してみようと思いました。
……この程度が限界でした(オイ)。
閑話休題。
えーと、一応ですね。ルール的な解釈をちょろっといれますと
・侵魔超人は柊が自分のエンゲージ内にいると奴を狙わなければならない、っつー自動攻撃誘導ギアスがかかってる。
・侵魔超人の左手はピンポイント攻撃ができる。そこを攻撃する場合は達成値ペナを受けるものの、一定以上のダメージを与えれば左腕が落ちて魔法が使用不可に。
ってな感じ。
さらに前半からの流れを入れると、
ノーチェが二倍ダメージでHP0→深紅の夜で復活、拘束術式発動、ドレインライフ付き魔装開放→クリンナップで柊生死判定成功→次ラウンドへ→→
→→(描写はないがノーチェがヘイストを隼人に)→隼人侵魔超人を超え最速カウントに→→ライトスピード一発目→透過でノーダメ→柊、サトリで行動→
……って感じです。
作中で柊は『あの侵魔は絶対自分を狙ってくる』ということと『あの侵魔は左手でしか魔法が使えない』ということを事前に情報として手に入れてます。
その情報をもとにして作った作戦は
『自分を囮にして攻撃を集中させ、油断したところを司が全体的にダメージを与え、危なくなったら自力蘇生のできるノーチェがかばう。
司とノーチェと隼人の三人でなんとか敵全体にダメージを与えつつ気づかれないようにして左腕にダメージを与え、切り離す。
その後は普通のジャーム退治とそう変わらない。一撃必倒高火力型の隼人と柊が全力全開でぶった斬る』
とゆー意外にシンプルなもの。
つまりは『自分を囮にして、高火力型の仲間が侵魔を倒す』というのが基本コンセプト。最終的に隼人と司がパーティに加わったため、ちょっと余裕が出た。
もちろん、演出として最後まで近づかないと攻撃できない隼人を侵魔の意識から失くすため、一度吹っ飛んでもらい囮のための囮役をやってもらったりとか、
囮の柊がほんとに死なないためになんとか助けるようにっていう細かいとこはその場その場で調整するようにっていうのはちゃんと打ち合わせ済み。
細かいとこは打ち合わせっていえるのかは謎だが、柊としては仲間を信じてそれを個人判断で頼むっつったわけなので打ち合わせなんだろう。たぶん。
で。一番書きたかったのは―――当然<三千世界の剣>+<ライトスピード>同時カウント撃ち。
つーか、侵魔超人の残りHP見ても絶対鬼畜なくらいのオーバーキル入ってるよなこれ(汗)。
柊は<三千世界+生命の刃+刃の供物+封印開放+プラーナ>、隼人は<光速+クリスタライズ+疾風剣+錬成の掟+サポートデバイス(+マシラ)>。
……データにすると酷い話だ(笑)。
うん。でも描写としては大満足です。
伏線としては、『回避技能の高い』と作中で言われた司が一切あの攻撃を避けようとしなかったこと(ノーチェがかばうってことも織り込み済みだったため)。
隼人が一回殺されてからまったく反応がないこと(オーヴァードは一回致命傷くらった程度じゃ死にません。っつーかそれ致命傷って言わないよな(笑))。
同じく隼人が霧の中の特攻でわざわざ声を上げて侵魔に自分の位置を知らせたこと(一度隼人が倒れ、その後の侵魔の意識を柊に集中させるための攻撃)。
なんかが上げられますでしょうか。
後はつかちゃんがわざわざ地の文で『しないわけにはいかなかった』行動をしてたりとか。裏返しの意味ですとか。すんません。分かりづらいっすねorz
そんじゃ、レス返しー。
>>325 前半は本気でバカなことしかしてなかったっスからねこいつら(笑)。侵魔超人に憧れてもしびれても結局はこいつは流れ星、堕ちる宿命にあったのだってヤツです。
>>327 え?なにがおかしいんですか?……いやそれは冗談として。
普通に考えるとこいのぼりとノーチェって関係作るほど仲いい描写がないんでどうしようかと思ってたら、天啓のごとく例の言葉が。
ノーチェは外見年齢13歳とあって結希と同じくらいなんで、意外にこんな感じで親近感抱かれて勝手に仲間扱いされてんじゃないかと。
>>328 そうっスね。自分の中でもノーチェ>こいのぼりです。もっとも、0.0001は0.00001より大きいとかそんなレベルですが。言葉にするとぺたんこはつるぺたより上みたいな?
>>330 熱い、と言われると結構嬉しいです。全部、とは言わずとも状況は八割方ヤツの手のひらの上なわけですが(苦笑)。王子怖ぇー、マジ怖ぇー。
ダイナストパパンからして神崎の娘はべらしてますしねー、奴らはしょせんそういう血なのさ。エピローグでそういうケイト書いてますが……見たい(首を傾げてみる。)?
>>329,331,332,335,336,340
はいはいエロい人たち乙。自分を巻き込まないでくれたまへ(超☆他人のフリ)。
>>342 土偶戦士かー……あれか。最後は兵馬俑で他の連中を無双しながら第四のピラミッドが空から落ちてくるのをラブラブな拳で吹き飛ばして一騎打ちか(混ざりすぎ)。
ドSと言われたりドMと言われたり忙しいなぁ自分(遠い目)。ある程度は伏線書き出してみましたがどうでしょう。腕の左右とかは注意して見てればわかったかも。
うーん、ほんとはもうちょっと生々しい表現だったんですけどね。
湯気みたいに温度の表現とか、肉槍の質感とか、書こうと思えば書けたんですが……ちょっと意図から外れるんでばっさり削除。切ないけどまぁ趣旨離れすぎだし。
透き通った氷で、ですか。思考実験っすねぇ。箇所にもよるでしょうが、鮮やかなピンク色の筋肉、酸素たっぷり載せた紅血、皮下脂肪の黄と暖色系なのにむしろ寒気が。
どこぞの茶人は目に入った血で視界が赤く染まったのに感動し、どうやって焼き物にこの色を出すかってはしゃぎながら戦場で血ぃだらだら流してたらしいですがね。
ふっつーの人が血まみれではしゃいでりゃそりゃ職質食らうでしょう。自分もスプラッタ見るのそんな好きじゃないよ?信じて?
さてさて。……実はまだ書きあがってへんのやけどもエピローグ(汗)。
しかもなんかダブクロ勢のキャラ出しすぎたために共通エンディングがえらいダブクロ色に染まっててノーチェと柊添えものなんだけど(大汗)。
それでも許されるなら書き上げたあと投下したいにゃー。しばらくお待ちくださいにゃー。
とまぁ、こんなあとエピローグ残すだけのところでアレだがこの話のDXキャラPC紹介。ほんとにアレだなっつーとこには目をつぶれ!gdgdにもほどがあるぞ自分!
高崎 隼人(たかさき はやと)―――シンドローム:モルフェウス/ハヌマーン 17歳 男子 UGNエージェント/ゆにばーさる店員
出演:『ダブルクロス・リプレイ・オリジンシリーズ』・『ダブルクロス・リプレイ・ゆにばーさる <ティーパーティーへようこそ>』
モルフェウス能力で黒い日本刀を作り、ハヌマーン能力で高速戦闘するタイプの、基本的にやる気のないエージェント。
大抵人使い荒いなぁ、とぼやきつつ仕事をする。表面上はどんな仕事でもめんどい、と言ってはみるが、実は一度火がつくと何が壁になろうが止まらない。
そんな彼に、表面上の発言の不真面目さを毎回毎回注意する相棒が椿である。
なお、彼らは注意も含めてパートナー的な関係。どっちが欠けても完璧な仕事はできない。コードネームは『ファルコンブレード』。
昔はチルドレンとして自棄なところから投げやりな生き方をしていたものの、今は『誰か』と『自分』の日常を守れることを自分の誇りに思いつつも―――クセは変わらず。
普通系。元実験体で、当時の名は『牧村 早人』。『ダインスレイフ』、と呼ばれる戦闘用人格を持っていたが、ある事件を契機に自身の制御下におく。
負けたがる、というよりかどうしてか相手より下に行きがち。最終的には勝つからいいんだが。ちょっと不真面目、さらに椿ほどではないが世間知らず。
ゆにばーさるではフロアで接客・キッチンで料理の両方を担当。つぶしが利く、スペシャリストには遠いがある程度使い勝手のいい人材。
ちなみに古いタイプのアキバ人間らしい。萌えとは無縁の硬派(?)な電子機器いじりが趣味。になったらしい。趣味ができたのはいいことだと思う。
責任感は割と強く、さらに言うなら走り出すと周りが見えなくなる。その分ものすごく到達まで速いけど。
普通系なせいなのか、オリジンシリーズではPC1ポジションをつとめた。
椿と一緒に様々な支部に出向しながら珍妙な仲間達と共に様々な事件を解決していくこのシリーズはマジ必見。
また、もう一つの出演作品ではトワイライトシリーズで大活躍したMI6の(元)凄腕エージェントと友誼を結び、事件を解決。こっちもまた超面白い((笑)的に)。
上月 司(こうづき つかさ)―――シンドローム:オルクス/サラマンダー 17歳 男子 UGNイリーガル/高校生/ゆにばーさる店員
出演:『ダブルクロス・リプレイ 闇に降る雪・聖夜に鳴る鐘』
不幸貧乏高校生。ことあるごとに問題を起こしやがる兄貴をぶちのめしつつ日々を貧乏に生きる27円高校生。コードネームは『紺碧の刻印(アイスブランド)』
もうちょっとまともな生活を送らせてやれUGN。いつか兄ちゃんを殺しかねんぞ。
サラマンダーの能力で氷を生み出し、オルクスの能力で場所を区切る氷結領域の主。具体的には動かずに周囲を凍らせる能力を持った、UGNのイリーガルエージェント。
割と斜に構えた物の見方をする、キレ者風味を感じさせる能力者。しかし、兄貴のせいで台無し(笑)。
仕事に関してはやる気が高い。そうしないと生きていけないともいう。生活能力はおそらく兄貴のせいで高い。
先ほどから兄貴兄貴と連呼しているが、オーヴァードに覚醒するまでに両親を失い、今ではたった一人の肉親である兄がいる。
しかし、兄貴である上月 永人に生活能力は皆無。ゆにばーさるでは料理長を勤められる程度には料理する能力があるようだが、そういう問題じゃなく生活力がない。
具体的にいうと、司の稼いだ生活費を全て「仕事に使うから」という名目で(趣味のために)大量にバラを購入するためだけに勝手に使用したりするような男である。合掌。
司も成人すれば少しは楽に……ならないだろうなぁ。ちょっとキレやすく眼つきが悪いが、悪い人間ではない。ちょっとやさぐれてひねくれて捻くれているだけである。
愛称は「つかちゃん」。意外にファンシーなあだ名だと思っても口にしてはいけない。笑顔のまま氷の柱に閉じ込められるからね。
リプレイにおけるポジションはPC4か3。大抵が暴走する永斗を押さえ、たまに二人でカッコつけ、同級生であるケイトや結希と絡むとゆー八面六臂の大活躍。
あととりあえず彼のオープニングは生活苦からはじまる。ライフパスに『かわいそう』がないのが不思議なくらいかわいそう。
なんかネタ方面ばかりが強く印象に残るものの、基本的に彼はクールでどちらかといえば個人行動をよしとするタイプである。たぶん。なんかこの話でも犬と戯れてるけど。
柊とノーチェに関してはほとんど桃月と変わらんので割愛。
ト-!
_,」-L. _
r‐r┐,. ´ ヽ_┌r┐ カ モ
`└L′・ ・ '.」┘′ 保管すぞー
{ rー──‐┐ }
,ゝ└──‐ ┘,.イ ● 「ゆにばーさる」と魔法使いの夏 #06後半
rく,ゝ'` ーr─┬ヘ.ム
. `´ │ │ `┘
`'⌒’
【レネゲイド・ウィルス】
GJです!
>オーヴァードは一回致命傷くらった程度じゃ死にません
嘘だ!隼人がクライマックス時に侵蝕率100%越えてないなんて!
……あ、タイタス復活なのか?
ロイスを昇華して復活できるから戦闘ではなかなか死なないよね
むしろ戦闘後の方が事故率高いしw
・・・あれ?どのロイスをタイタスにしたんだ?
侵魔超人にとって即昇華じゃないですかね?
なんいせよゆにまほの人GJっしたー!
ノーチェの研修担当した人誰だー!(w
たぶん額に傷痕があってリビングレジェンドとか呼ばれてる剣道部部長なんじゃないかと予想するのですがw。
乙でした
ところで、つかちゃんの出演作品ににライブボックス収録の小説
「Grand Guignol グラン・ギニョール」
同じく隼人に「硝子の瞳 PhotographCollector」を追加して欲しいです。
あれを読むと兄ちゃんが普通にかっこいい殺し屋で困る。
遅ればせながらゆにまほの人GJ!!
じつは柊のほうが囮なんじゃないか、というのは薄々思ってましたが、肝心な侵魔超人のギミックはよめませんでしたよ、なるほどなー。
まあアレですね、所詮データ上のノイマンがリアル天才デザイナーな中の人に勝てる道理がありませんよね!!(色々とぶち壊し)
ここ見てるとSSデビューしてみたくなるよね。
男は度胸。なんでも書いてみるものさ。
,-――-――‐.、
_「': : : :,; : : : : : : ̄i:ヽ.
/: : : : :《 : : : : : : : : :ヽi
j: : : : ,ハ: `ヽ: : ;ヘ、 : : : : }
く\. i: :{: :j ⌒VWi/ `ヽ} : : /|
<□\\ ヽ小{. ○ ○ .ルレ': i
<◇ \\ .|: l@ r―-┐@|: :|): :! 女は豊胸!
<◇ ヽ/⌒ヽ.|: | 、 .| | |: :|:/⌒i
<◇ \ / `ヽ._ .、L___|イ、|: :|' /
<◇ / ハ. ヽ/ ,.|: :ト._∧
{ ゝ j ヽ / / |: :| ヽ
>>375 それは「こんなことできるなら俺もやってみたい!」とかそんな気持ちなんだろうか
だとするとここで書いてる一人としてうれしい
結構勘違いされてるけど書くこと自体はそんなに難しいことじゃない
純粋に仲間が増えたのはうれしいし、「やってみたい」って衝動を人に起こせる何かを作れたってのは誇らしいしね
まってるぜ
いや、結構本気で
(うほっ、いいSSスレ)
「(SS) 書 か な い か」
という流れか
>>375 いいのかい?
俺達は素人さんにだって平気で期待しちまう名無しなんだぜ?
すごく、楽しみです……
毎度・・・一ヶ月ぶりで毎度? どうもです
キャンペーンのラスボスはガンガン強くしていいって柊の中の人が言ってました
40分ぐらいから投下します
おぉっしゃ来いやぁっ!
支援!
「うぉおおおおっ!!」
カズキのサンライトハートが迸り、ベリトの肉体を吹き飛ばした。
粉砕され消滅するその巨躯の中心、暗く鈍い輝きを放つ六角の金属。
打ち砕かれたその肉体が再生する間隙を逃す事なく、蓮司の魔剣が飛んだ。
激しい金属音と、飛び散る火花。
核鉄に叩き込まれた渾身の斬撃は、しかし一片の傷をつける事さえ適わない。
「く……っ!!」
舌打ちと同時に蓮司は刃を引く。
刃を引かずにいれば魔剣が修復した肉体に巻き込まれるからだ。
同時に噴き出した闇が破損した肉体を修復し、溢れ出した力が消滅した巨躯を再構成させた。
ベリトの超越した再生力の源は、いわずと知れた黒い核鉄。
ヴィクター化の源でもあるその核鉄がエネルギーを無尽蔵に収奪して肉体を修復しているのだ。
故に、ベリトを完全に殺しきるには黒い核鉄を破壊するしかない。
だが、それができなかった。
エネルギードレインの力が暴走している現状では、ベリトとその核鉄に供給される生命力は世界総ての生物のそれに等しい。
人一人の力ではどれほど全力を込めても傷一つ付けるさえできはしない。
瞬間的にならば斬撃の威力を大幅に高める事は可能なのだが、それで殺しきる確証があるかと問われれば、首を横に振らざるを得ない。
(くそ……どうすりゃいい……!)
カズキと共に無意味な攻撃を繰り返しながら、蓮司は必死に思考を巡らせる。
この状況では増援は望めないだろう。
強いて言うなら上空にいるベール=ゼファー。
彼女なら黒い核鉄を打ち砕くのも可能かもしれない。
だが、この場にはベルだけでなくリオン=グンタもいる。
ベルが黒い核鉄の破壊に回れば、当然リオンはベリトの防衛に回るだろう。
それを掻い潜り事を成す事ができるか。
わからないが、どうしようもない現状よりはマシだ。
蓮司はベルに向かって叫ぼうと天を見上げ、
「……!?」
天空に浮かぶ巨大な魔方陣に気付いた。魔法発動の際に顕れるモノとは違う。
規模こそ違うが蓮司はそれに見覚えがあった。
それは事あるごとに呼び立てられ、ひっきりなしに任地に送り出される時に使われるモノだ。
つまり――
「転移結界? ――アンゼロット!?」
※ ※ ※
「座標固定完了! エネルギードレイン発生地点より周囲100mを隔離します!」
作戦室にロンギヌスの声が響く。
モニターに映し出されている荒い画像を見据えながら、アンゼロットは小さく頷いた。
蓮司達が闘いに赴いた後、彼女達は座して結果を待っているだけではなかった。
エネルギードレインの発生源であるベリトをファージアースから次元の狭間――アンゼロット宮殿の存在するこの場に引きずり込む。
ベリトの生命力が世界中の生命からの供給であるのなら、これによって供給は絶たれその力は大幅に削減されるはず。
世界の人々をエネルギードレインの猛威から救うと同時にベリトの力を減衰させる策であったが、リオンやモーリーの展開した月匣を潜り抜けてそれを為すには時間が必要だった。
もっとも、それは――
「――宮殿内の全ロンギヌスに通達」
静かに、だが室内に満遍なく響く声にその場にいたロンギヌス達は振り返り、立ち上がる。
主の言葉を待ち受ける多くの視線を受けて彼女は瞑目し、そして再び言葉を紡いだ。
「現時刻を持って宮殿を破棄します。総員ファージアースに向かいなさい」
「アンゼロット様!?」
背後に控えていたロンギヌス・コイズミが驚愕を露に一歩詰め寄る。
しかし彼女はモニターに映るベリトを厳しく見据えたまま、有無を言わさぬ表情で口を開く。
「これは命令です。逆らう事は赦しません」
※ ※ ※
しえーん
「大魔王ベール=ゼファー。一つだけ訂正をしておきます」
直上に浮かび上がった転送陣の紋様を目にしても、リオンの表情は一切崩れる事はなかった。
対処するでもなく、妨害するでもなく、むしろそれを待ち受けるようにただ沈黙を守っている。
次元の狭間に隔離されてしまえばベリトの力が失われてしまうのは、当然彼女にもわかっているはずだ。
リオンの態度にベルは眉をひそめるしかない。
「核鉄の力を暴走させるのは私の『目的』ではありません」
「何……?」
「いままでの事はあくまで『手段』。私の目的は”ここから”です」
リオンの言葉をようやく理解したベルが明らかに表情を変えた。
それまで顔に浮かべていた余裕が弾けとび、虚空を睨み据える。
「アンゼロット! 転送を止めろ!」
半ば無意味と悟りつつベルは叫び、しかしやはり転送は止まることはなかった。
転送陣が眩い輝きを放つ。 転送が始まり周囲の景色が変わっていく。
移り変わっていく世界の中、リオンは静かに言葉を紡ぐ。
「……彼女が『世界の守護者』である以上、選択肢は他にはありえません」
暴走した黒い核鉄は世界総ての命を蝕む。
エネルギードレインによるベリトへの力の供給を防ぐという意味以上に、『常識』という世界結界を形成する人々護るために狭間の世界に隔離するというのは当然の選択だった。
だがそれは同時に、ベリトをアンゼロットのいる世界に引き込むという事でもある。
それが意味するところは――
「………ちっ!」
ベルは怒りをあらわにしてリオンを一瞥すると、眼下のベリトに向かって滑空した。
飛翔しながら膨大な魔力を練り上げる蝿の女王を冷ややかに見据えながら、リオンは小さく呟く。
「――王手詰み(チェックメイト)」
「なんだ!?」
急速に入れ替わっていく世界にカズキが思わず周囲を見回す。
一瞬の浮遊感の後、周囲100mが切り取られた大地が海原に沈みこむ。
遠くには荘厳なアンゼロット宮殿。空に浮かぶ巨大な地球。
「そうか、ここなら……!」
アンゼロットの意図に気付いた蓮司が叫んだ。 だが、カズキは勿論蓮司にもこの状況の本当の意味が理解できていない。
同時に上空から雷のような怒声が響いた。
「――退けっ、柊 蓮司! 武藤カズキ!!」
「!?」
弾かれるように見上げた空に、怒気を孕ませたベルがいる。
いや、孕ませているのは怒気だけではない。戦慄を感じさせるほどの膨大な魔力が彼女を中心に荒れ狂っている。
反射的に二人は地を蹴ってベリトから遠ざかった。
が、同時に直感的にそんな事に意味がない事も悟る。
ベルの放つ魔力はくれはが練り上げたスターフォールダウンの比ではない。
目標であるベリトは当然、距離を取った二人どころか転送された大地そのものを消滅させるほどの強大な攻性魔力。
形なき力が形を成す。 それは正に圧縮された太陽。
自分達に向けられていないにも関わらず、身体が灼け骨が溶けるような感触が叩きつけられる。
灼熱の光球は掲げられたベルの手によって更に変形する。
細く長く引き伸ばされたその太陽は指向性を持った核熱の大槍になる。
「――《ディヴァイン・コロナ・ザ・ランス》ッ!!」
ベルの手から極大の閃槍が投擲された。
あらゆるモノを浄化し気化させる天聖の力が一直線にベリトへと走る。
だが――
ベリトは自らを貫き灼き尽くさんとするその力に、まったく眼もくれなかった。
紅の双眸が見つめるのは極大の魔力ではなく。それを放つ裏界の魔王でもなく。
その向こう、遥か彼方に聳える荘厳な宮殿。
その中心に座する、『無限の魔力』。
「 !!!」
ベリトが咆哮した。 それはもう声とすら認識できない無形の圧力。
爆発するように溢れ出した暗黒が迫る閃槍を一瞬で呑み込み、その向こうにいる少女へと殺到した。
ベルは迫る闇に反射的に防御壁を展開し、そして瞬時に悟る。
驚愕する暇も声を上げる暇もなく、闇が防御壁ごとベール=ゼファーを押し潰した。
おってつだい、おてつだいー
天を貫く黒い極光を、そして世界を侵食していく闇を、蓮司とカズキは呆然と見つめる事しかできなかった。
立ち竦む二人の前に空から何かが落ちてくる。
ソレは地面に激突し、まるで塵の様に幾度も地を転がってようやく停止した。
「……ベル?」
忘我のまま声を絞り出し、蓮司は地面に目を向ける。
彼女は言葉の代わりに、口から血を吐き出した。
いつも冷笑を称えているその唇が屈辱に歪み、立ち上がることすらおぼつかない。
一撃。
たったの一撃で、裏界においても五指に入るだろう力を持つ大魔王ベール=ゼファーを一蹴した。
「――無駄です」
その事態を理解する事さえもできずに立ち尽くす二人――そして屈辱に歯を噛むベルに、リオンの声が響いた。
「『守護者』の力を得た以上、もはや現身でしかない今の貴女では勝てません」
「守護者の力……」
世界の守護者たるアンゼロット。
神との契約によってその行使を禁じられているその力は無限とも言われている。
ベリトはエネルギードレインによってその無限の力を奪い取ったのだ。
世界総ての命どころの話ではない。
「そんな力を得たベリトを、制御できるとでも……!」
ベルが満身創痍の身体を引き摺るように立ち上がり、冷淡なリオンを睨みつける。
無限の力の直撃を喰らってなお生き延びる彼女の生命力は驚愕に値するが、既に立ち上がる事しかできないのは明白だった。
リオンはそんなベルを見つめたまま、唇をほんの僅かに歪めた。
「制御する必要などありません。何故なら、アレはすぐに消える事になりますから」
「……っ。ソレで世界を滅ぼすというならまだしも、そこまで走狗に成り果てるつもり……!」
ベルが嫌悪感も露にリオンを睨みつける。
しかし彼女は冷然とした表情を一切崩す事なく、静かに言葉を返した。
「私はあの方の忠実なる従僕。それ以上でも、それ以下でもありません」
「本当に忠誠を誓っているのなら、殊更に『忠実』なんて言葉は使わないものよ。モーリーのようにね」
「―――」
突き刺すようなベルの言葉にリオンの身体が小さく揺らいだ。
端整な眉を僅かに歪め、冷たい薄青の瞳の奥に感情の灯が灯る。
そこに畳み掛けるかのようなベルの声が飛んだ。
「あいつが望んだ時に望んだ知識を与えるだけ……そんな生き方、あんたが持ってるその書とどこが違うの、リオン!」
「……っ」
リオンは答えない。
だがそれは沈黙を保ったというよりは、答えに窮するといった方が正しい。
唇を噛み、手にした書物を握り締める。
彼女は小さく肩を震わせると、ゆっくりと手をベルへと伸ばした。
「――貴女は、うるさい」
手の平から魔力が膨れ上がり放たれる。
先のベリトの一撃からすればそれは取るに足らない威力のものであったが、今のベルにはそれを避ける余力すら残っていなかった。
「――っ」
放たれた闇の魔力がベルの身体を呆気なく貫く。
まるで糸が切れた人形のように、ベルは崩れ落ちた。
「ベル!」
「リオン……!」
蓮司とカズキが同時に身構える。
しかしそれに動いたのはリオンではなく、その眼下、胎動する闇の中にいる巨狼。
ベリトの紅の凶眼が鈍く光る。同時に闇の極光が走り抜けた。
反射的に蓮司とカズキは防御し――ようとして。
――次に気付いた時には、闇に食い尽くされた空を見上げていた。
(なに、を――)
されたのか全くわからない。
否、攻撃をされたのだ。
ただそれが二人の反応を圧倒的なまでに……攻撃を受けたことを認識できないほどに、超越していたというだけ。
状況の理解と同時に感覚がようやく追いついてくる。
思い出したかのように全身に痛みが湧き上がってきた。
超越しているのは速さだけではない。その威力もまた、耐えきれるようなレベルではない。
「が、ふ」
そう、レベルが違う。
強いとか弱いとかいうそういった比較の物差しではなく、存在としての桁が違う。
おそらくその気になっていれば、ベリトは二人を肉片一つ残らず消し飛ばす事もできただろう。
なのにまだ生き残っていられるのは――
「……ようやく出てきましたね」
リオンの声に蓮司とカズキは軋みを上げている身体を必死に持ち上げた。
前方にいるリオンとベリト。
両者の間に立ち塞がるように、空間が傾ぐ。
「守護者の持つ無限の魔力を得たベリトを倒し得るのはただ一人。つまり――」
動けない三人を守る様に顕れた人影。
長い白銀の髪を揺らしてリオン達に立ち塞がる、一人の少女。
「――ようこそ、”真昼の月”アンゼロット。この舞台は貴女のために用意したのです」
支援とは……支え、援(たす)けることをいうのだ!
「――始めから、手遅れだったという事ですね」
険しい表情でリオンを見据えながら、アンゼロットは静かに口を開いた。
リオンは何も語る事はせず、ただ小さく唇に笑みを作ってそれを肯定する。
――そもそもの話、リオンやベリト達の操るホムンクルスが出現しだしたのは昨年の末。
対するにアンゼロット達ウィザードがこの地を訪れ動き出したのはその約一ヵ月後……つい最近だ。
目的がベリトのヴィクター化による世界総ての生命の収奪であったというなら、ウィザード達が動き出す前に総てが終わっている。
事実、その基幹となるカズキの持つ黒い核鉄の奪取は、過日のリオンの介入によっていとも容易く為されているのだ。
そして奪取からベリトのヴィクター化までの行程はほぼ数日で終わっている。
やろうと思えば年をまたぐ前に完遂してしまえたにも拘らず、ウィザード達が動き出すまでの一ヶ月間、リオン達は表立って行動する事がなかった。
それは何故か。
待っていたのだ。ウィザード達が動き出すのを。
ウィザードを率いる彼女を。
「アンゼロットを……?」
軋む身体を無理矢理に引き摺って立ち上がった蓮司が、呻くように疑問の息を漏らした。
確かに世界の守護者たるアンゼロットの力はこの世界の何物をも凌駕するだろう。
だが、契約に縛られる彼女はその力を使う事ができない。
だからこそ彼女はウィザード達を使ってこの世界を守護しているのだ。
「……頭が悪いですね、柊 蓮司」
無貌の秘密侯爵は嘲るでもなく、呆れるでもなく、ただ静かに事実だけを述べた。
「此度の一件においてウィザード達の動きが遅れたのは、偏に錬金戦団とウィザード達の確執によるもの――」
戦団のみならず、絶滅社、聖王庁、一条家、トリニティ、国土防衛隊、米国特殊部隊レイヴンロフト……数え上げれば暇がない。
エミュレイターに対する組織の垣根を越えた連合――『ウィザーズユニオン』などと称していたところで、その実態は己の利益と権威を優先する人間同士
の確執の集まりなのだ。
自らが薄氷の上に立っていることを理解していながら、共通の敵が存在していながら、なお相争いあう人間達。
それがかろうじて瓦解せずに済んでいるのは――
「貴方は彼女を身勝手で理不尽な存在だと思っているでしょうが……その『身勝手で理不尽』なまでの統率がなければ、
そもそも人間達が結束する事などできはしないのです」
リオンの言葉を瞑目したまま聞いていたアンゼロットは何も答えない。
肯定も否定もしなかった。
そんな彼女を漆黒の瞳で見つめたリオンは、薄く微笑を浮かべて手にした書物を軽く撫でる。
「ここまでくればもはや他の運命が干渉する余地はありません。この書物に記された結末は唯一つ」
そしてリオンはまるでアンゼロットに道を譲るように身を引いた。
眼前に開かれた彼女の視界に映るのは、自らの力を喰らって守護者と同等の存在に成り果てた赤銅の巨狼。
「手を出さない、というのであればこのままファージアースに帰還させてもらいます。ご自由に処されてください、『世界の守護者』よ」
感情を込めず、しかし明らかにそれとわかる挑発にアンゼロットは小さな拳を握り締めた。
ベリトを倒し得るのは同じ無限の力を持つアンゼロットただ一人。
しかし、自ら手を下す事は力の使用を禁ずる神との契約に悖る行為でもある。
たとえ世界を守るための非常手段であったとしても、契約は例外を赦さない。
非常手段を行使するに至った時点で既に、守護者としての役割に不適格とみなされるからだ。
すなわち彼女に待っている結末は、ベリトと己の消滅だけ。
アンゼロットはその結末を理解しながら、しかし毅然としてゆっくりと歩を踏み出した。
「……アンゼロットッ!」
「アンゼロットさん!」
叫ぶ蓮司とカズキに、しかしアンゼロットは振り向かない。
毅然とベリトを見据えたまま、揺るぎのない声で銀髪の少女は断言した。
「わたくしは『世界の守護者』。世界を守るためであるならば、いかなる犠牲も厭いません。
それは――わたくし自身の命とて、例外ではないのです」
言って世界の守護者は、再び歩き出す。
一歩、また一歩と二人から遠ざかり――そして自らの滅びへと赴いていく。
蓮司は僅かに歯を食いしばり、僅かに顔を俯けた。
カズキは身を震わせて、サンライトハートを掴む拳に力を込めた。
「……アンゼロット。お前に……言いたい事がある」
蓮司が搾り出すような声を上げると、彼女は僅かに歩を緩めた。
彼を振り向かないまま、静かに眼を閉じて彼の言葉を待つ。
蓮司は僅かな沈黙の後――顔を上げて、力強くそれを言い放った。
「―――意外と頭が悪いんだな、アンゼロット……!」
援護を。その先に光があることを
「な、っ」
アンゼロットの顔が驚きに歪む。
別に彼に対して何か甘い言葉を期待していた訳ではない。
だが、ここでそのような暴言を吐かれるのは完全に彼女の想定外だった。
思わず振り向いてしまった彼女が眼にしたのは、言ってやったといわんばかりに不敵な笑みを浮かべる蓮司の姿だった。
「何度も何度も俺をいいようにこき使ってるくせに、まだ理解してなかったのか」
「ひ、柊さん……?」
悲鳴を上げる身体を無視して、蓮司はアンゼロットに向かって歩き出す。
それに続くようにカズキも、彼女に向かって歩を踏みしめる。
「俺は世界のためだからって犠牲を受け入れる事なんてしねえ。大のために小を殺すなんて事はしねえ。そいつはな――」
蓮司は呆然と立ち竦んでいるアンゼロットの目の前まで辿り着くと、力強く彼女の腕を取り、引き寄せた。
「――そいつは、お前の命だって例外じゃねえんだよ」
「……っ」
強張った少女の小さな身体を抱き止めると、蓮司は身体を入れ替えるようにしてアンゼロットを後ろに押しやった。
少し乱暴に押し出されたアンゼロットは僅かに身体をよろめかせ、そして我にかえって呻く。
「あ、あなた……!」
詰め寄ろうとしたアンゼロットを、差し伸ばしたカズキの腕が制した。
彼も蓮司と同じように、彼女を護る様にしてベリトに立ちはだかる。
「オレも蓮司と同じだよ。オレは、アンゼロットさんも含めて皆を守りたい。どんなに小さくても、犠牲を出すやり方なんて……そんなのは嫌だ」
「……っ」
アンゼロットは言葉を失って唇を噛む。
彼女は肩を震わせると、僅かな怒気を孕ませて目の前の二人に叫ぶ。
「アレはもう貴方達の手に負えるモノではありません! なのに――」
「それでもッ!!」
アンゼロットの声はカズキの一声に断ち切られる。
彼は手にした光槍を一閃して、ベリトを見据えたまま言葉を続ける。
「それでも、オレ達はここにいる! 何もできずにやられるのなら、仕方ないかもしれない!
……けど! 『何もしない』で諦める事は――できない!!」
カズキの叫びに蓮司は苦笑を閃かせると、彼と同じように魔剣を一閃させてアンゼロットに背を向ける。
「……そういうこった。諦めるなら、俺達がやられてからにしてくれ」
「貴方達……っ」
絶句するアンゼロットに、二人は話は終わりとばかりにベリトに向かって駆け出した。
支援、なんと心地よき真っ直ぐなるバカどもよ!
そして無謀な抵抗が始まった。
動かないベリトに向かって魔剣を振るい、光槍を突きつける。
しかしそれらは微動だにしない巨狼に簡単に弾かれ、返す一撃で大きく吹き飛ばされる。
人形のように転がり、地面に叩きつけられる。
それでも二人は闘うことをやめなかった。
敵うはずがない、というのは誰よりもアンゼロット自身が理解している。
彼等もまた、それは理解しているはずだ。
なのに彼等はなお闘いを挑み続け――彼女はそれを止める事ができなかった。
噛み締めた唇から血が零れる。
止めなければならない、と心中で思いながら、それでも魅入られたように身体は動かない。
それは多分――きっと、見惚れているからだ。
何物にも屈する事のない信念。
どれほど傷付いても決して退かない鋼の意思。
どこまでも単純で、どこまでも愚直で……だからこそ、それは震えるほどに尊く美しい。
「……まあ、構いませんが」
どこか遠くで、冷めた声が響いた。
「最初期の『刷り込み』があるとはいえ、いつまで抑えられるかわかりません。彼等のためにも、決断は早くしておいた方が良いのではないですか?」
冷淡に言い放ったリオンの言葉に、アンゼロットは顔を俯けて胸に手を添えた。
リオンが言う通り――そしてアンゼロットが理解している通り、二人の抵抗で状況が動く事はもはやない。
世界にとって二人の力は得難いものだ。
彼等が力尽きる前に、決断せねばならない。
神との契約を破り、自らの手でベリトを討ち斃す。そうすれば二人の命と世界を救う事ができる。
それが世界の守護者としては当然の選択だった。
だが――それは同時に。
彼等二人の意思と、目の前の彼等の姿を裏切る行為。
白銀の髪を震わせて、少女は静かに拳を握り締める。
(御赦し下さい、我が神よ。わたくしは――)
支援
そして俺はここまでだ後は頼むぐふっ
あー……ヤバいヤバいww
支援。
―――勝てねえな、こりゃ。
蓮司は自分でも驚くほどにあっさりと状況を受け入れた。
おそらくは共に並び戦うカズキも同じ心境だろう。
防御を完全に捨てて、総ての力をただ斬撃に込める。
だが、渾身の力を振り絞ったその一撃も、受けるどころか避けようともしないベリトにかすり傷一つすら付ける事が叶わない。
ベリトが虫を払うように――実際その通りなのだろう――腕を一閃した。
身体が吹き飛び、遅れて全身を貫く衝撃が走り抜ける。そこでようやく二人は攻撃を喰らった事を認識した。
最大限に手加減した一撃ですら二人の知覚と防御を遥かに上回っている。
それはもう、闘いとも抵抗とも言えない代物だった。
激しく地面に叩きつけられ、なお収まらない衝撃に地を抉りながら転がる。
もう受身をとる余力さえも残っていない。
ようやく動きの止まった身体を持ち上げると同時、
「……ぶ」
口からばしゃりと血が零れた。どうやら肉体が限界にきたらしい。
痛みはもう全く感じない。そんなものは既に通り越えてしまった。
ただ気力だけでがらくたのような身体を引き起こす。
近くには自分と同じく満身創痍のカズキがいた。
身体中傷と血に塗れ、左手だけでサンライトハートを握っている。
右腕は力なくだらりと垂れ下がったままだった。
お互いにそんなボロボロの状態を見て取って……二人の間に何故か苦笑が零れた。
「……損な性分だよな、お互い」
吐血した口を拭いながらそんな事を言うと、カズキは僅かに眉根を寄せて首を傾げて見せる。
「そうかな? 考えたこともなかったけど」
「……すげえな、お前は」
本気で言っているだろうカズキをまじまじと眺めて蓮司は感嘆の声を上げた。
「蓮司は違うのか?」
「当たり前だ。面倒なのは嫌いだし、楽したいに決まってる」
けどよ。
蓮司は言いながら魔剣の柄を握り締めた。
力を込めたつもりだったが、実際そうできているのかすらも怪しい。
「なんでか知らねえが、俺が納得できるやり方はいっつも面倒な事になるんだよ」
「……はは」
「笑い事じゃねえって」
吐き捨てながらも、蓮司の口元は笑っていた。
そして二人は表情を引き締めて目の前のベリトを見据える。
魔剣の切っ先を、光槍の穂先を、敵に向けた。
「じゃ、行くか」
「おう」
これで最後の一撃になる事は、既に二人は理解している。
そして、それがベリトに対して何ら痛痒を与えるものではない事も、理解している。
だが二人に退く選択肢はあり得ない。
何故なら二人の後ろには、護るべきモノがある。
何故なら二人の裡には、決して折れないモノがある。
――たとえ勝つことは叶わなくとも。
――諦めて負けることだけは、二人にはできない。
蓮司はカズキと同時に地を駆ける。
振り上げて振り下ろす力さえ惜しいと切っ先はベリトに向けたまま。
残された力を総て振り絞り、自らの身体を弾丸に代えて、巨狼へと叩きつける。
真っ直ぐに伸ばされた魔剣の刃が――在りえない感触を蓮司の腕に伝えた。
肉を裂く感触。ヒトを貫く手応え。
掠れた視界に銀糸の髪がばらりと舞う。
手にした魔剣を突き出したその眼前。
白刃に貫かれた世界の守護者が、そこにいた。
「ア――?」
蓮司はその光景を理解できず、声を絞り出すことさえできなかった。
こふ、と少女の口から血が零れる。
魔剣に貫かれたアンゼロットが蓮司に倒れこみ、
「――ベリト!!」
リオンの叫ぶような声が轟いた。
初めて出された指示、そして初めて聞く焦燥を伴ったリオンの声に戸惑ったのか、ベリトの動きが明らかに鈍った。
状況を把握できないまでも、反射的に蓮司は崩れるアンゼロットを抱え込む。
アンゼロットの闖入に攻撃を停止せざるを得なかったカズキが、その二人を護るように覆いかぶさった。
一瞬遅れて狙いの逸れたベリトの豪腕が奔る。
総てを破砕するその一撃は三人を掠めるだけに留まったが、その衝撃だけで三人はもつれる様に大きく吹き飛ばされた。
二人はアンゼロットを抱え込んだまま地面を跳ね飛ばされる。
元より痛みは感じなくなっていた。二人にとってはむしろ突然現われたアンゼロットに対する驚愕の方が大きい。
「アンゼロット、お前……!?」
「………痛――」
咳き込むように血を吐き出して、アンゼロットは小さく呻いた。
蓮司の魔剣によって貫かれた黒い衣装は、彼女の血を吸って鈍色に染まっている。
「……わたくしに、こんな事をさせるなんて」
力なく囁くその声は僅かに非難の色を帯びていたが、何故か彼女の口元は苦笑が浮かんでいる。
そして彼女は自分を抱えている蓮司を押し退けて、ゆっくりと立ち上がった。
「アンゼロット……」
「大丈夫です。貴方ごときの力でどうこうなるほど、ヤワではありませんわ」
彼女の言うとおり、見れば既に魔剣に貫かれた傷は消えてなくなっている。
裂かれた衣装から覗く白い肌には、その痕さえも残っていなかった。
「なんなんだよ、一体……!」
訳がわからず蓮司は呻くように叫んだ。
すると彼女はふうと一つ溜息をつくと、
「……貴方達のせいですから。ちゃんと責任、取ってくださいね」
蓮司の問いには答えず、アンゼロットはいつも通りの微笑を浮かべた。
口調こそ平静を取り戻しているように見えるが、その顔色は尋常ではない。
白磁を思わせる肌は更に白味を帯びて蒼白になっていた。
あ……あぁ、あーはいはい。
支援。
「おいっ!」
問い詰めようとする蓮司を無視してアンゼロットはベリト――と、それを見下ろすように宙に浮かぶリオンに向き直った。
一々話している時間はなかった。
目の前に二人がいる、というのもそうだが――それ以上に、別の意味で時間がないはず。
彼女はリオンを見据えると、精一杯の余裕を見せてから口を開く。
「この展開は貴女の書物に載っていましたか、”秘密侯爵”?」
「………ッ」
アンゼロットの言葉に、リオンが眼に見えて表情を歪める。
自らの存在意義に等しい書物を強く握ると、リオンは努めて――装っている事がわかる表情で声を漏らした。
「……その程度のゆらぎで書に記された運命が覆る事など、ありません」
「――ゆらぎ?」
そんなリオンの言葉を、そんなリオンの態度を、アンゼロットは満足そうに見届けてから微笑む。
魔剣に貫かれた自らの胸に手を添え、身を以って思い知ったその事実を胸に、彼女は静かに口を開く。
「――『コレ』はそんな生易しいモノではありませんよ」
「……? 何を」
アンゼロットはリオンの呟きを無視して一歩を踏み出した。
浮かべていた微笑を収めて、目の前に佇む巨狼を翠の瞳で凛然と見据えた。
「わたくしは世界の守護者。世界を喰らう者に与える力など持ち合わせません」
狭間の世界に凛と声が響く。
彼女は胸に添えた手をゆっくりと広げた。
「わたくしが力を与えるべきは―――」
少女の動きと共に、その身体から清廉な魔力が溢れ出す。
留まる事を知らず高まっていくその力は圧倒的で、しかしそれでも不快感は微塵も感じさせない。
眼前のベリトが吐き出す闇色に対して彼女の放つ力は白色。
同じ力を礎にしながら対照的な無限の魔力。
本来そうあるべき、限りない力を――アンゼロットは力強く、解き放つ。
「―――世界を護る者達!!」
闇を払う光が迸った。
少女の身体から噴き出した膨大な力が、世界を照らし出すように輝き、後ろにいた蓮司とカズキへと収束していく。
「これは――!」
アンゼロットが齎した啓示の力が身体に降臨すると同時、二人は自らの変化に眼を見開く。
当に絞り尽くしたはずの力が湧き上がって来る。
否、それどころかこれまで得た事のない程の活力が身体から溢れ出している。
驚愕と共に蓮司達がアンゼロットに眼を向けると、彼女は二人に力を与えた代わりとでも言うように身体が傾ぎ、その場に膝を付いた。
「アンゼロットッ!」
地を蹴って駆け出す。
アンゼロットを支えようと手を伸ばすと、それを彼女は首を振って拒絶した。
彼女は顔を俯けたまま、苦笑に近い微笑を漏らして囁く。
掠れるような声で、しかしはっきりと信頼を込めた声で。
「……貴方達には、成すべき事があるはずですよ?」
「―――」
二人は彼女に伸ばしかけた手を止めて、拳を握った。
そして項垂れるアンゼロットの脇を言葉なく通り過ぎ、彼女に代わって前に立つ。
相対するベリトの圧力が緩んだのを感じて、アンゼロットは僅かに顔を上げた。
目の前には彼女を護るように立つ二人の少年。
魔剣を携え、光槍を携え、揺ぎ無く立つ二つの背中。
たったそれだけの壁が、世界を喰らう巨狼の圧力を防いでいる。
アンゼロットは僅かな羨望と共に眼を細め、小さく笑んだ。
「そのような事に力を使うなど……正気なのですか……!?」
呻くようなリオンの声が響いた。
彼女の動揺はある意味当然のものではある。
守護者の力の使用は自身の消滅を招く行為なのだ。
にも拘らずそれをベリトにはなく蓮司達に使うなど、あり得ない。
しかしアンゼロットは、浮かべた笑みを更に深めてリオンへ言う。
「正気とは言い難いですね。わたくしともあろうものがこんな馬鹿な賭けをしてしまうなんて」
だが、元よりその『力』の萌芽は見て取れていたのだ。
例えば星々の軌道を導き操る魔王ディングレイ。
例えば未来よりの因果に守護された魔神。
人智の及ばぬ『運命』を掌握するそれらを、討ち倒すことは叶わずとも揺らがせてきたその力。
己が身に刻まれた破戒の痛み―― 一時的とはいえ寸断された契約の喪失感に、しかしアンゼロットは愉快そうに口の端を歪めた。
「貴女の書に記されたその『運命(シナリオ)』、変更させていただきますわ」
そうしてアンゼロットは目の前の二人――自らの手で神との契約に傷を付けさせた、憎むべき二つの背中に語りかける。
「――ちゃんと、護って下さいね」
二人はベリトを見据えたまま振り返らない。
互いに手にした得物を力強く握り締める。
「――任せろ」
蓮司はゆっくりと拳をカズキに差し出した。
カズキも同じく、蓮司に向かって拳を差し出す。
「何を隠そう――」
二人の拳が、背後で見守る少女に見せ付けるように、重ねあわされた。
「「――――俺達は、世界を護る達人だっ!!」」
支援せずには要られない
残光を引いて二つの身体が疾駆する。
迫り来る脅威を見て取ったか、ベリトが絶叫を上げて闇の力を迸らせる。
だが、巨狼が吸い尽くした力が無限ならば、守護者の加護を得たその光も無限。
限界を凌駕する闇が炸裂するその刹那に、限界を超越した光が到達する。
爆ぜるような火花を上げて魔剣が疾走する。
その刃を駆る魔剣使いが見るのは未来の軌跡。
眼前の闇を、眼前の敵が動く挙動を、ソレが取ろうとする動きをまるで心を読むように把握して一歩を踏み込む。
閃く刃光。魔剣が己の『力』を――己の主さえも知り得ぬソレを振るう相手に歓喜するように唸りを上げる。
――秘密侯爵の持つ書を絶対の運命が記されたモノだと呼ぶならば。
ソレは絶対の運命を覆し切り伏せる改竄の刃。
神のごとき力と、その運命を宿すモノを断ち切る、相克の力。
故に秘匿されしその名を『神殺し』と呼ぶ。
たとえ死して転生し、夢見る神の使徒と成り果てたとしても、その少女が『神』であった事実は変わらない。
なれば巨狼が得た無限の力は正しく神の力。
それゆえに。
かつて世界と運命を敵に回した裏切りの刃は逃さない。
神を切り裂く。運命を断ち切る。
守護者の力を得たが故にその魔剣に相克する存在と成り果てたベリトに逃れる術はない。
巨狼の身体が爆ぜるように吹き飛ぶ。
大きく裂かれた傷口からまるで血風のように闇が噴き上がった。
その闇を迸る光が撃ち祓い、吹き飛ばす。
黎明の輝きを纏ったサンライトハートがベリトの胸に突き立てられた。
その閃光は強大ではあるがベリトの力を討ち貫くには到底及ばない。
受け止められる。
光が闇に呑まれていく。
渾身の力を振り絞るカズキに、しかし無慈悲にも絶対的な力の差がのしかかる。
彼の放つ閃光に食いつくようにベリトの闇が纏わり付いた。
サンライトハートがぎしぎしと悲鳴をあげ、表面に亀裂が入った。
そして闇に押し潰されるようにサンライトハートが――彼の命が、粉々に打ち砕かれた。
支援しつくす
ついさっき、斗貴子が見せた物憂げな表情が脳裏を掠めた。
"――ただの個人的な感傷だ"
昨年の春、彼が斗貴子によって与えられた新しい命――黒い核鉄は平凡だった彼の人生を大きく狂わせた。
錬金術や武装錬金、闘いなどと全く縁のない日常で生きてきた彼を、非日常の世界へと誘ったモノ。
それによって降りかかった苦難や災いは想像を絶するものだった。
――だが、それでも。
"確かに黒い核鉄は忌むべきモノだが、それでもアレは……"
――それでもアレは、オレと斗貴子と自分を繋いでくれた絆なんだ。
だから。
「だから―――!」
千々に砕かれ崩壊した己が命に見向きもせず、彼は手を伸ばした。
その視線の向かう先は、その腕を向ける先は、ベリトの胸部。
それはそこにあるべきものではない。
そこにあっていいものではない。
例え何があっても、例えそれが忌むべきものであっても。
―――決して、この手は離さない。
「―――来い!! オレ達の武装錬金!!!」
あははっ!あははははっ!
やべー腹痛ぇーっ!
行けよ行ってこいやこの阿呆(あいすべきばかやろう)共っ!
咆哮が力となり、力が形と成る。
闇の中心を内から突き破り、伸ばした手の先に現われる白銀の槍。
少女との絆の証を少年は力強く握り締める。
瞬間、黎明の輝きが狭間の世界総てを覆い尽くした。
その閃光の中心、カズキの姿が変質する。
胸に刻まれる核鉄の刻印。
その肌は灼けつくような赤銅。
淡い燐光を放つ蛍火の髪。
世界の生命を吸い尽くす存在、ヴィクター。
しかしかつて忌むべきモノであったそれは、忌むべき力であったそれは、ただこの時において総ての命を束ねる力となる。
「世界の皆の生命、アンゼロットさんの力、全部――全部!! 返してもらうッ!!」
吹き上がる闇の悉くを吸い尽くし光と転化する。
カズキは手を翻して穂先をベリトに向けると、咆哮と共にそれを叩きつけた。
「エネルギー全開っっ!!!」
迸る閃光と噴き出した闇がせめぎあい、弾け合い、喰らい合う。
この瞬間においてカズキの得た力は無限。
しかし源を失えども、この瞬間までベリトが得た力もまた無限。
完全に拮抗した力のぶつかり合いが辿り着く先は、互いの消滅に他ならない。
その両者にたった一つ――そして決定的に異なる事があるとすれば。
「――力が足りねえのか」
――少年は一人ではない。
「だったら――コイツも持っていけ!!」
カズキの握り締めるサンライトハートの柄を、蓮司が片の手で握り締めた。
空いたもう片方の手に握る魔剣を、迸る閃光に叩きつける。
魔剣にはめられた真紅の宝玉が輝きを増す。
そして蓮司は、咆哮と共にその力を解き放った。
「――――魔器解放っ!!」
閃光が鮮紅(センコウ)へと変わる。
夜闇を討ち払う黎明の輝きが夜闇を灼き尽くす紅蓮の焔となって迸り、紅い月に染め上げられたその世界をなお紅く熱く染め上げる。
その圧倒的な光景に、駆け抜ける熱風に、見守る少女は身体を大きく震わせた。
それは何物にも屈する事のない。
何物にも消される事のない。
二人の戦士の意思を具現したかのような熱い衝動。
その身も、その心も、その魂さえも震わせる、燃え滾るような―――真っ赤なひかり。
「「貫けえええぇぇぇぇっっ!!!」」
迸る咆哮と共に満ちた鮮紅が、
ただ一つの欠片も残さず総ての闇を灼き尽くした。
支援支援支援!
今回は以上です
BGMは議論の余地なく「真っ赤な誓い」一択。というかむしろ歌に合わせて流れを作った
柊の魔剣の宝玉が「真紅」って時点で既にこのフィニッシュは確定
ゲーム的ギミックとか戦術とかはもう他の人がやってるし今更なのでもうどうでもいい
守護者も巻き込むバカヤロウ共の魂の咆哮。アイラブ王道。
・・・アンゼロットがいなくても大勢に影響はない? そんな後付設定しりません
支援し損ねたぜッッ!!
無念w
>錬金の人
GJっしたっ!
自分がやられると嬉しいからきちんと感想書くよ、書くよ!
毎回毎回楽しく読ませていただいてます。あぁくそう、こういう熱いの自分も書けるようになりてぇっ!熱さでヤケドするよ!するよ!
さて。
カズキと柊のやり取りも、ベルとリオンのやり取りも、実に彼ららしかったと思います
そっか、リオンはこれがきっかけでぽんこつで遊ぶようになるんだね。ベル様合掌
馬鹿が二人になると、馬鹿は二倍じゃなくて二乗になるんだってのがよくわかりました。支援超楽しかったww
ラストは赤い極光が目に見えるようでした。激烈に熱い話をありがとうございます
次を楽しみにしています。では。
/⌒⌒ヽ
<三三三三>◎ | /ノノハリ ◎<三三三三>
│ `、||、゚ ^゚ノ| │
◎ ⊂†^\†/†つ ◎ だって、聞かれなかったしぃ……。
\ L ∧」 /
◎ ◎ //」」」>◎ ◎ 保管
/ \ >H H< / \ ●NIGHT WIZARD cross period #21
<三三三三>◎ ◎ U U ◎ ◎<三三三三>
>>411 錬金の人ブラボー!ただただブラボーとしか言いようが無い。
なんという燃え展開、確かに聞こえたぜ真っ赤な誓い。
四万十川の鮎を食べた京極さんのように震えてしまいますよ。
美味しんぼ乙。
そして、錬金の人GJッ!
錬金の人GJ! この展開は燃える……!
>>411 熱い!滾る!漲る!
素晴らしいクライマックスじゃー!
GJっしたーっ!
お久しぶりです。
闇祓う光明の第3話の再構成が完了しました。
他に投下される方がいらっしゃらなければ10分後にでも投下したいと思います。
>>62-63 言われてみれば確かにそうですよね。
その辺は後々の話でなんとかつじつま合わせしてみたいと思います。
>>420 |ハ,_,ハ
|´∀`';/^l
|u'''^u;' |
|∀ ` ミ トウカマエ・・・
| ⊂ :, シエン スルナラ イマノウチ
| ミ
| 彡
| ,:'
|''~''''∪
l^丶
もさもさ | '゛''"'''゛ y-―,
ミ ´ ∀ ` ,:'
(丶 (丶 ミ
(( ミ ;': ハ,_,ハ
;: ミ ';´∀`';,
`:; ,:' c c.ミ
U"゛'''~"^'丶) u''゛"J
/^l
,―-y'"'~"゛´ | もさもさ
ヽ ´ ∀ ` ゛':
ミ .,/) 、/)
゛, "' ´''ミ ハ,_,ハ
(( ミ ;:' ,:' ´∀`';
'; 彡 :: っ ,っ
(/~"゛''´~"U ι''"゛''u
3年生最初の中間テストが終わったとき、少女はやってきた。
「西田香津美(にしだ かつみ)です、よろしくお願いします」
3年C組担任の桜庭ひかるのとなりで挨拶する姿は、清楚と言ってよかった。
ただ、派手さがないためにクラスの中で目立たない存在になるであろうことは間違いなかったが。
だが、彼女の登場をきっかけに学園内にちょっとした異変が起きることとなったのだった。
香津美の転入から数日が過ぎた、梅雨真っ盛りのある日のことである。
どんよりと曇った空の下ではあったが、陵桜学園の校内はいつもと変わらない明るさであった。
学園内の教室のひとつ、3年B組では、ひとつの机を囲むように4人の女生徒が座っている。
4人は自他共に認める親友であり、休み時間ごとに机を囲んで話しこんでいる姿がいつも見られた。
そしてその4人の中で特に賑やかなのは、チョココロネを手にした一番背の低い女生徒、泉こなたである。
こなたは後ろの席を向いて座り、その目の前に、こなたほどではないものの少し幼な目に見える少女が座っている。
まるでカチューシャのような大き目のリボンがアクセントの、肩口でそろえられた髪がトレードマークのおっとりした少女。
少女の名は柊つかさ。
こなたが陵桜学園に入学してすぐに親しくなった、最初の友人である。
外国人にからまれていたつかさを助けたことが縁で知り合ったと、こなたは言う。
ただしそれは、こなたから見てのことである。
つかさ自身は外国人は道を聞いていただけかもしれないと今でも思っており、こなたはそのことを否定しなかった。
ふだんの生活態度からは想像もできないことではあったが、こなたは会話だけなら問題なく英語を駆使できる。
そのこなたの耳に入った外国人の言葉の内容は、はっきり言ってナンパ以外の何者でもなかったのだ。
いや、その発言にはむしろストリートガールに対して言うような発言が山のようにあったのだ。
はっきりいって、あのままであったらつかさの身にとてつもない不幸が舞い降りていたことは疑いないであろう。
そしてそのことをつかさに知られないようにするために、あえてつかさの誤解を解く気にならないこなたであった。
そのつかさの、こなたから見て右側には、クラスの学級委員を務める高良みゆきが座っている。
こなた同様背中まで髪が伸びているが、軽くかかったウェーブが重さを感じさせない。
4人の中ではもっとも女性らしい体つきをしてはいるが、本人の持つ品のよさがその姿を清楚に見せていた。
眼鏡をかけた上品そうな面持ちが、彼女に『お嬢様』を感じる。
事実、みゆきは東京の高級住宅街に住む、正真正銘のお嬢様なのであった。
みゆきとこなたの出会いは一年生の文化祭の準備をしているときである。
当時から学級委員であったみゆきが、こなたとつかさのフォローをしたことがきっかけであった。
みゆきのもつ雰囲気から自然と会話が弾み、いつの間にか3人でいることが多くなっていた。
当時は学級委員であったつかさの姉とも顔見知りであったことから、4人が共に行動することが多くなったのも自然な成り行きであった。
そして、つかさの左側で、みゆきと向かい合わせに座っているのが、つかさの双子の姉、柊かがみであった。
キリッとした顔つきが少しキツ目に見える上、髪をツーテールに結わえているため、こなたから「ツンデレ」とからかわれることの多い少女である。
実のところ、かがみは自分の優しすぎる面を問題点と捉えているため、人一倍の厳しさで覆い隠そうとしているだけなのである。
だが、つかさはもちろんのこと、こなたに対しても厳しくなりきれないでいた。
そんなところが、こなたに「かがみはツンデレだ」だとからかわれる由縁であった。
かがみは隣のC組の生徒であるため、休み時間のたびにB組へとやってくる。
一年生のころからずうっと続いているこの習慣、もはやだれも不自然に思うものはいなかった。
妹のつかさの様子を見にくるのが目的だと、一年のころにはよく言っていた。
だが今では、妹だけではなく妹とB組の友人、特に泉こなたに会いに来ているのではないかとだれもが思っていた。
それほどに、こなたとかがみの仲はいい。
それゆえ、C組にいる中学時代からの友人から薄情者扱いされているのだが。
そんな4人が、いつもどおりにお弁当を持ち寄って昼食を取っている。
楽しい会話を調味料にしながら。
話題は取り留めのない、日常的なことばかりである。
けれど、そんな会話ができることが4人の喜びでもあり、大事な宝物でもあった。
残り一年をきった学園生活を惜しむかのように、4人は会話を続ける。
ふいにかがみが自分のクラスに転校生がきたと話し出す。
「こんな時期に? もっといい天気の時に来ればいいのにねえ」
「いや、転校するのに天気は関係ないだろ。親の都合なんだから」
だるそうな顔でコロネをくわえつつ発するこなたの言葉に、即座にツッコミを入れるかがみ。
そのタイミングのよさは、長年コンビを組んできたベテラン漫才コンビを思わせるほどである。
そしてそれは、二人が一緒にいるときによく見られる、なじみの光景でもあった。
「それで、どんな方なのですか? 転校なさってこられたのは」
みゆきが、ふと気づいたかのようにかがみに質問してくる。
おかげで話が脱線することは防げたが、別に意識してやったわけではないのが彼女のすごいところではある。
「ええっとね…… 名前は、西田香津美さんって言うんだけど、フンイキは峰岸に近いかな?」
転校生の名前を聞いた瞬間、一瞬こなたの動きが止まる。
だれにも気づかれることはなかったが、そのときのこなたの表情はとても硬いものであった。
だがすぐにいつもどおりのとぼけた顔つきへと戻り、内面の動揺をおくびにも出さずに言葉を発した。
「じゃあ彼氏持ちなのかな? あやのんみたいに?」
ふたりが共に名をあげた、C組におけるかがみの友人、峰岸あやの。
上品なたたずまいの美少女であり、こなたやかがみの交友関係の中で唯一の彼氏持ちである。
ふだんは気にすることのない恋人の話題だが、さすがにこういうときには気になる4人であった。
その手の話題に超然としているようなこなたでさえ、他のだれにも浮いた話がないのが寂しいとボヤくことがある。
残りの3人の気持ちは言うまでもないことであろう。
「さあ、それはわからないわよ。まだロクに話もしてないんだから」
こなたを横目でにらみながらのかがみの言葉に、待ってましたとばかりに合いの手を入れるこなた。
その反応のよさは、まさに絶妙のタイミングと言ってよかった。
「そりゃ、休み時間のたびにこっちに来てたら話す機会もないよね? かがみ」
ニヤリと笑うこなたにかがみは顔を赤くして反論するが、意味をなしていなかった。
もっとも、そのことに気づいてないのはかがみ本人だけだったが。
つかさも、みゆきも、そんなかがみをにこやかに見つめるばかりだった。
だが、このときこなたの心の中をのぞくことができたら、だれもが驚いたことであろう。
なぜなら心の中でこなたは大きく動揺していたからだ。
(西田香津美……って、まさか香津美のことじゃないよね? いくらなんでもそんなことって…… )
こなたの内心の動揺に気づくことのないまま、おしゃべりは続いていく。
新たな話題の口火を切ったのは、みゆきだった。
「それにしてもここのところ続いてますね。おとといからは校内警備ということで、臨時雇いの人がいらしてますし」
「ああ、蓮司兄さんね」
かがみが何気なくつぶやいた言葉に、こなたとみゆきの視線が集まる。
ふたりの視線に気がつくと、キョトンとするつかさをよそに、自分のうかつさに気づいて顔を赤らめるかがみ。
知り合いなのかとみゆきに問われ、バツが悪そうにかがみは答えた。
「そうなのよ。かなり遠縁の親戚なんだけど、昔っからフラフラしててねえ。
やっと決まったバイト先だからって頑張ってるみたいだけど、そろそろ定職についてもらわないと一族の名折れだわ」
「お、お姉ちゃん、蓮司お兄ちゃんは『日本コスモガード』って会社にちゃんと就職してるってば」
「なに言ってるの、あそこは人材派遣会社じゃない。あんなの就職してるって言わないわよ」
必死に言葉をつむぐつかさを、かがみは一刀両断にする。
「あのう、かがみさん。『日本コスモガード連盟』は人材派遣会社ではないんですよ」
申し訳なさそうに話しかけるみゆきの言葉にかがみの動きが止まる、まるで一瞬にして彫像になったかのように。
事態を理解できないつかさは、姉とみゆきの顔を交互に見つめている。
ただひとり、こなただけがほくそ笑むようにかがみを横目で見ていた。
「え……そ、そうなの?」
きしむ音が聞こえてきそうなくらいぎこちない動きでみゆきを見、さっきの発言が本当か確かめようとするかがみ。
みゆきはその質問にうなずいて答えた。
「ええ、本当ですよ。
日本コスモガード連盟はコスモガード連盟の日本支部でして、主な業務は天体観測のデータを下に、地上への危険度を測ることなんですよ。
地上に影響が出る虞があるときは関係各所へ連絡して対策を採るように連絡なさるとか。
地上に既にある、宇宙からの飛来物が及ぼす影響を調査するための部署も存在しているということですので、遠縁のお兄様もそちらに所属されているのではないかと」
「さすがみゆきさん。よく知ってるね」
「いえ、以前父の会社がお世話になったことがありまして。
業務の都合でうちにも何度かいらしたことがあって、そのときにお聞きしたんですよ」
一方、内心でこなたはホッと胸をなでおろしていた。
みゆきが知っているのはあくまでも表向きの業務のみであったからだ。
日本コスモガード連盟の裏側の顔は、対エミュレイター用のウィザードの派遣業務。
こなたも、そして話題の主である柊蓮司も、この、裏の任務で長い間付き合いが続いていたのだった。
「そ、そうなんだ……ありがと、みゆき」
なんとかみゆきに返答したかがみではあったが、完全に硬直してしまって身動きが取れないようであった。
そんなこととは露知らず、みゆきの説明に素直に関心るつかさをよそに、かがみに話しかける人物がいた。
ほくそ笑みながらかがみをずっと見ていた、泉こなたであった。
「むふふ、かがみったらヒドイねえ、遠縁の親戚を容赦なく切り捨てるんだから。
やはりアレかな? つかさにひっつきそうな悪い虫って思ってるのかな、その人のこと?」
「なっ! だ、だって、仕方ないじゃないの、なんだでだか知らないけどムシが好かないんだから!」
自分の感情が理不尽なものであることを自覚してるせいか、真っ赤な顔で反論するかがみ。
それを見たこなたは、ますますかがみをからかうのであった。
「ほほう、やはりそう思ってたんだ。そんなにつかさのことが心配なんだ、おっかないお姉ちゃんとしては」
「だれが『おっかないお姉ちゃん』よ! つうか、そんなに心配してないわよ、だって蓮司兄さんにはくれはさんがいるんだし」
周囲に恋愛に関する話がないとはいえ、そこは年頃の女の子。
こういった話題には敏感である。
新たに名前の出たくれはとはどんな人なのか、蓮司とはどんな関係なのか、興味心身でかがみに注目する。
「ちょ、ちょっと! そんなに近づかないでよ!」
かがみが両手でこなたとみゆきを制止しようとする。
だがそのとき、かがみの腕時計の表示が目に入ったみゆきが、ふいに心配そうな声でかがみたちに話しだす。
「あの、盛り上がっているところ申し訳ありません。そろそろお弁当を片付けないとまずいのではないでしようか?」
みゆきの一言に自分たちの腕時計を確認し、あわてて弁当を食べ終える3人。
一方でこなたの心は完全に落ち着きを取り戻していた。
C組に来た転校生がかつての親友の名と同じであったことを、そんな偶然はありえないと結論づけて。
食事を終え、かがみは席を立つ。
手をふり教室を出ていくかがみを、こなたたちは手をふって見送った。
やがて、満腹になったこなたが居眠りをして黒井に頭を叩かれた以外は、たいしたこともなく放課後に。
こなたはつかさとみゆきを伴ってC組へ。
いつもはかがみがB組へやってくるのだが、きょうは違った。
とはいえ、C組のホームルームの終了が遅くなった時など、たまにあることではあるのだが。
「かがみぃ、帰ろうよ」
こなたが真っ先に声をかけると、かがみは手をふって3人に答える。
少し離れた場所ではC組におけるかがみの友人である日下部みさおが、同じくかがみの友人である峰岸あやのに抱きついていた。
「あやのー、柊が薄情くんになっちまったよう。私らより、ちびっこのほうがいいんだってよー」
「なっ! だれもそんなこと言ってないだろ!
それに、あんたらはあんたらで寄るところがあるって言ってなかったか、日下部?」
かがみはいっしょに行こうとのみさおの言葉に後ろ髪を引かれながらも、3人のそばへと向かう。
いつもの4人がそろって、あとはまっすぐ駅まで帰るだけ。
なのだが、きょうのこなたはいつもと違い、なぜかC組の教室をキョロキョロと見る。
その様子を見たかがみは、昼休みに話した転校生の話題を思い出す。
おそらくは、どんな子なのか興味津々で見にきたんだろう、そう思ってかがみは心の中でほくそ笑む。
転校生を探すこなたの顔が可愛いと思いながら。
かがみと目が合ったみゆきが、ニッコリほほえんで、うなずく。
どうやらみゆきも、かがみの視線の先にあるこなたの行動をに気づいたようだ。
だが、つかさはそこからさらにワンテンポ遅れてようやく気がついたようで、こなたに質問を投げかける。
「どうしたの、こなちゃん?」
「転校生を探してるなら残念ね。きょうは急ぎの用事があるって、もう帰ったわよ」
つかさの質問に答えるような形で、かがみはこなたに言う。
その表情は少し意地が悪そうに見えた。
「おおっ! 何も言ってないのに私のしてることがわかるとは、さすが私の嫁!」
「だれがあんたの嫁だって? とにかく、きょうも寄ってくんでしょ? 今月の新刊も気になるし、つきあったげるわよ」
目を輝かせながらのこなたの言葉に呆れながらも、こなたに話しかけるかがみ。
だがその顔は本気で呆れているものではなく、わずかながら笑みが浮かんでいた。
そして、それを気づかれていないと思っているのは、かがみ本人だけであった。
「おーよしよし、素直に私といっしょにゲマズに寄りたいって言えばいいのにねえ」
感激の言葉と共にかがみに抱きつき、撫でまわし始めるこなた。
その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
一方のかがみはテレ臭さのあまり、耳まで赤くなっていた。
「こ、こらっ! 離れろ! ひっつくな!」
名残惜しそうにかがみから離れるこなた。
実はかがみも同じ気持ちではあった。
だが、いつまでもここでふざけていられないのも事実。
かがみは自分がしっかりしなくてはという思いと共にこなたに背を向け、席を立つ。
そうでもしないとこなたの術中に嵌ってしまうおそれがあったから。
それほどまでにこなたとのやり取りが楽しいかがみだった。
自分を飾ることなく付き合える友人として、こなたは最高の存在だった。
もちろん、みゆきやみさおやあやのとの間に距離があるわけではない。
だが、妹のつかさと同じくらい近くにいる存在がこなたであることに違いはなかった。
一部では友情以上の関係がウワサされてはいたが、ふたりにはそのような意識はなかった。
だが、生涯にわたっての付き合いになるかもしれないという予感だけは、ふたりとも持っていた。
そしてそれは、ふたりをよく知るだれもが認めていることでもあったのだ。
「じゃ、そろそろ行こっか」
「そだね」
「そうですね」
「うん!」
教室を出て玄関へとむかう道すがら、ひとりの青年が近づいてくることに気づく。
お昼休みの話題に出ていた校内の見回りの臨時職員、柊蓮司である。
4人が蓮司とすれ違おうとしたとき、つかさが笑顔で声をかけた。
「蓮司お兄ちゃん、バイバーイ」
「おお、もう帰りか。寄り道なんかしねえで、まっすぐ帰るんだぞ」
もう高校生なんだからというつかさの反論に笑う蓮司。
子ども扱いされていることにむくれるつかさ。
「ムダ口叩くヒマがあったらちゃんと仕事してよね、蓮司兄さん」
蓮司はイラだつようなかがみの言葉に、頭をかいて苦笑するしかなかった。
「やっと見つかった仕事先なんでしょ? くれはさんのためにもがんばってよね」
そのまま通り過ぎようとするかがみを追いかけながら、軽く会釈をするこなたとみゆき。
だが、蓮司とこなたがアイコンタクトを取ったことに、かがみたちは気づかない。
そしてそのまま何も起こらなかったかのように玄関へむかっていった。
少し間をおいて4人を追う蓮司。
実のところ先ほど4人とすれ違ったのは、こなたと状況の確認をするためであった。
表情その他に異常を示すものはなく、ここまで何事もなかったことにホッとする。
そしてそのまま、こなた以外には気取られないように護衛についたのだった。
玄関までついていった後は4人がバスに乗るまで、玄関ホールで待機。
停留所と周囲に気を配ることになっていた。
やがて4人が無事にバスで出発すると校内の見回りを再開する蓮司。
学校で何かあった場合、それが手かがりになるかもしれないからだ。
もちろん、4人のことが気にならないわけではない。
だが、今の4人には強力なウィザードが護衛に当たっているため、あまり心配はしていなかった。
(灯、頼んだぞ)
蓮司は自分たちと共に今回の任務についている顔なじみのウィザード、緋室灯(ひむろ・あかり)に心の中で願う。
緋室灯には、期間も読めない上に範囲も広いので、もう少し増援が欲しいということで来てもらっていた。
地元のウィザードの協力も得られるが、彼らの日常生活の舞台であるため行動に制限がついてしまう。
そのことが万一のタイミングに影響を及ぼさないとも限らない、とのアンゼロットの判断により派遣されてきたのだった。
バスを追う、2台の小型オートバイ。
離れて行動する2台のうちの1台に、灯は乗っていた。
空が明るいため、箒(ブルーム)による飛行が行えないためである。
なお、もう一台のオートバイに乗るのは『ナイトメア』の二つ名で知られたベテランウィザード、鈴木太郎である。
本名があまりに平凡すぎるため、他のウィザードからは二つ名でしか呼ばれないが、本人に気にする様子はなかった。
もっとも、任務中に「どりぃ〜む」と言うことがあるために、『ドリームマン』という呼び名があることは本人のあずかり知らぬところではあったが。
灯もナイトメアも、ジェットタイプのヘルメットとゴーグルにライダースーツといった、目立たない服装をしていた。
ナイトメアが着用している衣装一式は灯の要請によりアンゼロットが用意したものであった。
なにしろ、ナイトメアがふだんの任務で着用しているレザーのボンデージスーツは目立つことこの上ないため、今回の任務に支障が出るおそれがあったのだ。
月閘の外における常識を疑うものはあったが、ナイトメアと任務を共にしたもの全てが抱く懸念は当たっていなかった。
「灯くん、こちらは今のところ異常はないが、そちらはどうかね?」
「今のところ異常は存在しない」
ヘルメットにセットされたインカムごしに感情の起伏のない返答をする灯。
無表情で起伏のない話し方をする灯ではあったが、それには理由があった。
灯は、強化人間と呼ばれる対エミュレイター戦闘用の改造を施された人間兵器なのであった。
♪シエン〜
l^丶
○ | '゙''"'''゙ y-―,
\ ミ ´∀ ` ,:' シエン〜♪
(丶 ミ
ミ (/ ;':
_;: ___ /__ミ ____ o
/_/_/_/_/_,○_/_/_/_/_/_/_/l \ ハ,_,ハ
|____コン♪ ____|/| _(`';´∀` ';,
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|| | :| | :| | :| .| :| | :| || || l___l/lヽ)
||_| :|_______,,,| :|_|| ||l ll il ll||
支援
絶滅社という名の傭兵派遣会社に所属するため、灯の日常は常に戦場にあった。
そのため余分なものは不要ということで、改造手術により感情をカットされていたのだった。
灯とナイトメアが追うバスの中には、お互いの声が届く範囲にかたまって座ることのできた4人の姿があった。
運がよかったと言うつかさの笑顔を、姉のかがみはもちろんのこと、こなたもみゆきもほほえましそうに見つめていた。
バスの中でおしゃべりがはじまると、話題はいつの間にか先ほど会った柊蓮司のことから、お昼休みに話題に出たくれはのことに。
「『くれはさん』ってどんな方なんですか?」
「とっても優しくて素敵な人よ」
みゆきの言葉を受けて、かがみとつかさが、かわるがわるに思い出話をはじめた。
ふたりのことを叱る必要があったときでも、まるで母親のように優しく諭されたということ。
物腰は柔らかいけど、いざというときの芯はとても強い人であること。
驚いた時の口癖が「はわっ」であること。
蓮司とは同い年の幼なじみで、なにやら秘密を握っているらしいということ。
その秘密をネタにいろいろと、言うことを聞かせていたことがあったこと。
けれど、その秘密がなんだったのかは教えてもらえなかったということ。
尽きない思い出が次から次へと、ふたりの口から溢れ出てきていた。
そして、そんなふたりの思い出話を、みゆきは大切なものを受け取るかのように聞いていた。
笑みを絶やさずに。
ふたりもそんなみゆきの態度がうれしくて次から次へと大事な宝物を渡していった。
いつかは終わらせなければいけないことを残念に思いながら。
一方でこなたは、なにやら思い当たることがあるかのように、あごに手を当てながら聞いていた。
かがみはその様子を気にしながらも、聞きたがっていることには変わりないだろうと思い、こなたに言葉をかけることはしなかった。
こなたの首をかしげる様子を面白そうに横目で見ながら。
「それでね、くれはさん、おとといからウチの神社に手伝いに来てるんだよ」
笑顔で話すつかさ。
けれど、この言葉を聞いたみゆきは、目を、軽く見開いた。
「そうなんですか。蓮司さんのこともそうですけど、偶然ってあるものなんですね」
くれはと蓮司が、同じ日にかがみとつかさの周辺に現れることになったことに感心するみゆき。
その指摘にかがみとつかさは目を丸くし、言われればそうだと、指摘されるまであまり気に留めてなかったことを告白した。
ふたりはみゆきの指摘に素直に感心するばかりであった。
もっとも、こなたはいつもどおりのトボケた顔を通してはいたが、内心ではかなり苦笑していた。
それはもちろん、くれはと蓮司の本当の目的を知っていたからである。
だがそのことをイノセントである3人に話すことはできない。
けれど、親友に対して隠し事をしてもいいのだろうかという想いも、こなたの中にはあるのだ。
こなたの心に重いものがのしかかり、押しつぶされそうになっていた。
そんなこなたの気持ちに気づくことなく、かがみはこなたに話しかけた。
いつも見せる明るい笑顔で。
そしてこなたは、かがみの見せる笑顔が3人の中で一番好きだった。
「ほら、こなた、あんたも知ってるでしょ、秋葉原の赤羽神社。くれはさんってあそこの一人娘なのよね。
今、神職になるための大学に通っているんだけど、もうじき実習が始まるてことで、ウチの両親に神職につくための手ほどきを受けにきているのよ。
神社同志の集まりで顔見知りでもあるし、蓮司兄さんとのつながりもあって、まるっきりの他人でもないってことで」
「うん、知ってるよ、その人のこと。アキバの名物巫女さんなんだよねえ、くれはさんって」
あまりといえばあまりな発言ではあったが、3人ともこなたが知っていたことを『言われてみれば』と納得した。
赤羽神社の所在地は秋葉原、こなたのオタク活動の大きな拠点のひとつであったからだ。
しかも神社は、こなたのバイト先の目と鼻の先である、知らないほうが不自然とも言えるだろう。
「うんうん、やっぱり『はわ』は強烈だよね、『はわ』は」
かがみが「あんたねえ……」とツッコミかけたとき、車内アナウンスが終点間近であることを告げる。
そこで4人は仕方なしにではあるが、話を打ち切った。
だが、こなたたち4人のうち、みゆきを除いた3人は後で知ることになる。
この日が『4人が普通の生活ができた最後の日』になることを。
数時間後、鷹宮の駅から出てきたかがみとつかさは、すっかり暗くなった道を急ぎ足で歩いていた。
自宅に近づくに去れて街灯も少なくなり、道はますます暗くなるばかりであった。
「すっかり遅くなっちゃったな」
少し遅れ気味のつかさを気にしながら鳥居をくぐる。
2人の背後から照らす満月の灯も、境内を包む森に遮られて届かない。
わずかに照らす街灯を頼りに、本殿へと向かう。
森の奥から照らす満月を目印に。
「えっ?」
ふいに立ち止まるかがみ。
そこへ息を切らし気味のつかさが追いつき、話しかけてくる。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
だが、かがみは答えない。
とても恐ろしいものでも見たかのように、蒼白な顔で。
「つかさ……あれ」
ようやく動いたと思えば、かがみは、まるで手入れの悪いぜんまい仕掛けの人形のような動きで、何かを指差す。
見ると、かがみが指差す先には、東の空から昇る満月が。
どうしたのかと聞くつかさに、かがみは西の空を指し示すだけだった。
紅い満月の昇る西の空を。
「なんなの? なんでお月様が2つ出ているの?」
事態を理解できないつかさはただ、うろたえるばかりであった。
ズン……
ふいに重く、そして大きな音が2人の耳に聞こえてくる。
ひとつ、またひとつ、いくつもの音が聞こえくる先を、2人は見つめた。
そこにはマイクロバスよりもわずかに大きな影が数体、唸りを上げながらたたずんでいた。
ぎらぎら輝く紅い目を輝かせながら!
以上です。
展開がスローなのでやっと両作品のキャラクター同士を合わせることができました。
次回からは新規作成分に入ります。
もう少し事態が動くと思いますので、よろしくお願いします。
>>421、
>>428、
>>429 支援ありがとうございました。
GJ!
遂に邂逅キター!
新規分に期待せざるを得ない。
GJ!
なんですが。「コスモガードに正規雇用されてる人が学校の臨時警備員として雇われる」
って状況の不自然さに誰も気がついてないのは、非認識の呪いか何かですか。
ちょっと来てない内に三つもだとぉ!? ゆにまほさん、錬金さん、らきすたさんGJです
燃えるクライマックス二人ともお疲れさまです。
隼人さり気なくかっこいいですね。あと柊が英雄王に見えます。…いっそ血で回復してみればよかったのに。
ツンデレつかちゃんもナイス
蝶サイコー、真っ赤な誓い流れますねぇ、無限の力供給状態燃え、です。最後ヴィクター化してましたけど、白作り直しですね
らきすたさんには期待してます。そして就職しようがプーと認識される、世界レベルで修正される柊いとあはれ
そして任務につく炎髪灼眼の狙撃手と社長
…待て、社長が普通の服ですと!? ありえません!
御三方とも、応援しています。
らきすたのひと乙でー
ちょいと地の文が単調というか淡々としてる印象が強いかなぁと思ったりもしますが好みの問題ですかね
__
/ -―‐- 、:丶
〃´ \:ヽ
{{ __ }.::}
_, - ―‐‐┤ \ー‐――'<
/.::_/.::.::.::.::|.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::\
______//_/____::/|.::{.::.::.::.::.::.::.::.::.ヽ::.::ヽ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ~|lll|'.::|.::|.::.::.:|.::.::.::.::.::.::.l.::.::. ',
_ |lll「.::j.::l::.::.::l\⌒.::.::.::|.::.::.::l
│ |lll|::ハ.l:.::.:: | ヽ.::.::.: |.::.::.::| 闇祓う光明 #03
│ |lll| ',.::.::.│ \.::.|.::.::. |
│ |lll|三 ヽ ::.:|三三7:ヽ|.::.::.`ヽ ……保管、っと。(かちかちっ
│ |lll|" \| ""・l.::.::|⌒l:ド、l
│ |lll|、 ‘ー'ー' j.::.::|-イ.:|
│ |lll|:l>ー‐rーt< リ .::|.: l :|
│ |lll|:|_j;斗<_,>/.:: /! ::.: |
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├‐tュ‐‐┬‐tュ――|lll|:| / /.:: / i.::.|
│ ‖ ‖ ll |lll|:V ,'.::.:/ .|.::.|
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_j ̄|! ̄`|! ̄|! /  ̄ l\{ W / |.::.|
今回#03だったってことは、次回から新作ってことでしょうかね? 期待。
なんかFateとのネタスレが出来てた
きくたけワールドと比較しても得るものはないと思うんだがなぁ
ふと、荒川の河川敷で暮らすことになった柊ってネタが頭をよぎった。
…まあ、聖職者とか異能者とか河童とかもいるしなってことで妙に納得した。
きくたけ繋がりなら真魔装機神だろ、JK。
熱い〜風が〜戦士にはよく似合う〜
アゼルっすね
>>439 比較議論する情熱があるなら、ここに投下してほしいくらいだw
きくたけと奈須きのこは色々と同類な気がするのはきっと俺だけじゃないはず(演出と補正と思いつきと後付け的な意味で
>>440 あの河川敷はある意味、一種の月匣に覆われてるような気がするぜ
>>443 SWで超美形で鋼線を使うゴブリンを出してきた、っていう話はしたかな?
445 :
444:2008/09/15(月) 21:05:56 ID:sLs+qVgT
書き込んでから調べなおしたら、ルールはD&Dで、しかも使ってくるのは妖糸だった
記憶で書くといいことないね
サンレッドとクロスするリンカイザーを考えたが
リンカイザーがサンレッド以上の防御力を持っていても意味ないよなあ
あとなぜか戦術指南を始めるリンカイザーと河川敷に正座させられるヴァンプ様ってのも想像した
>>443 半年くらい前に、柊の魔剣直すために某おさんどんが某クマ幼女に召喚されてごたごたに巻き込まれるって話を考えた
……公式で奴の魔剣がウィッチブレイドになっちゃったのでお蔵入り決定
くそー、マユリのヒロインっぷりとかおさんどんのロンドン防衛戦とかマルコと柊の一騎打ちとか、書きたいシーンだけはいっぱいあったんだけどなー
もう一回折ればいいじゃない
【非道ぇ】
なるほど、普通に打ち直したら強度が弱くなってて、また折れちゃったんですね!
そりゃ、完全改造してウィッチブレードにしたくなるわ
何度も折るのはフラグだけにしておいてやれよ…
折れやすくなったところで、しばらくの代用品を求めて旅に出る柊。
いろいろあった末お・り・が・みの世界に飛ばされドリルな剣とかを持たされることにとか
魔殺商会新製品「特攻柊」なんて電波が……
そう言えば昔、なにか意味が有るかと思って江原にゴミを限界まで搭載してたな……
勿論、なんも意味無かったけどね!!
【馬鹿はコンプRPGを整理しながら魂の叫びを放った】
PC1【志宝エリス】
高校3年生になってしばらく過ぎたある日、志宝エリスは引っ越し先を探していた、
彼女は現在、部活の先輩である赤羽くれはの好意により彼女の家にお世話になっている身だ。
くれはもくれはの家族も(ついでに時々ふらっと現れる柊蓮司も)快く受け入れてくれているが
元来生真面目な彼女自身は「いずれは自立を」と考えていたのだった。
「それならば我々が管理しているいい物件がありますよ」
そう言ったのは臨時の護衛として赤羽家のご相伴に預かっていたロンギヌス・コイズミだった
「新築で駅から近くて交通の便もよく、しかも近くにヒーローも住んでいて女性の一人暮らしでも安心です。
エリス様が今後もウィザードとしてご協力していただけるならば家賃は割引きいたしますし、
進学や就職を考えているとしても非常に良い所ですよ」
コイズミの空気の読めない提案に食卓は微妙に凍りついたがエリスは1も2もなく飛びつき、
この日曜日に物件の見学に行くのだった
目指すは川崎市高津区溝ノ口――――――
シナリオコネクション:PC2【橘輪之助(リンカイザー)】
PC2【橘輪之助(リンカイザー)】
正義のヒーロー、リンカイザー!こと橘輪之助の元にある日、ヒーロー協会から一つの小包が届けられた。
宛名には「天体戦士サンレッド様」と書かれており、脳みそスライムの輪之助にも間違いであることが一発で理解できた。
同じ関東圏のヒーローのピンチ!一秒たりとも迷うことなくリンカイザーハウスを後にした輪之助だたが、彼はルートを全く考えていなかった!
秋葉原駅で偶然行き先が同じ少女、志宝エリスに出会い、何とかたどり着いた溝の口で彼はヒーローVS悪の組織の戦いに遭遇するのだった――
シナリオコネクション:PC3【天体戦士サンレッド】
453 :
その2:2008/09/17(水) 01:28:58 ID:q8sR3Y23
PC3【天体戦士サンレッド】
今日も今日とて近所の公園で宿敵フロシャイムの怪人をブチのめし、ヴァンプたちに八つ当たりじみた説教を始めるサンレッド
しかし、今日はそんな彼に真っ向から反発し、怒りを向ける少女が現れた
彼女の名は志宝エリス、ヒーロー仲間のリンカイザーが連れてきたこの少女はどうやらかよ子と同じマンションの入居希望者らしい
…鬱陶しく思いつつも女の子にてを上げるわけにもいかず、一緒にいたかよ子ともどうやら気が合ってしまったらしい
女の子2人に説教されてイライラが貯まっていくサンレッド。この怒りはとりあえず後で目の前で正座している奴らにぶつけるか……
などと考えながら目の前のヴァンプに殺意のこもった眼差しをぶつけているとこともあろうにそのヴァンプからとんでもない提案が上がるのだった
シナリオコネクション:PC4【ヴァンプ(悪の組織『フロシャイム』幹部)】
PC4【ヴァンプ(悪の組織『フロシャイム』幹部)】
「みんなでご飯にしませんか?」
かよ子さんとレッドが今にもケンカを始めそうだったので思わず言ってしまったけどうまくいったみたいだ
しかしこの子料理うまいなあ…え?私の本を読んだことがあるって?うわー照れるなあ〜〜〜〜!!
こっちの彼はいい食べっぷりだなあ…見ていてこっちが嬉しくなっちゃうよ。
…2人ともフロシャイムに勧誘してみようかな。どっちも明るくていい子だし内面に「魔」を宿しているみたいだし
え?ウィザード?魔法使い?大丈夫大丈夫!ちょっとでいいから考えてみてよ!
シナリオコネクション:PC1【志宝エリス】
なんかルージュを思い出す配置だなw
ノクチィとか言われるたびに親近感ありすぎて困るw
面白そうだw
とゆーかハンドアウトが一連の話になってるw
最早ハンドアウトじゃなくて
オープニングフェイズじゃねーかw
ぶっちゃけリンカイザーが空気な件
だがいるだけで、きっと戦闘中だけはクレバースライムな頭脳になるに違いない!
システム的にはサンレッドは一応勇者なのかね?
…ふと、ぷりん帝国vs裏界帝国って電波が飛んできたんだが、どうしよう?
>とゆーかハンドアウトが一連の話になってるw
>オープニングフェイズじゃねーかw
正直SSとか無理だと思いつつハンドアウトだけだと微妙だと思ってやってみました
反省はしていないし今でもSSとか無理だと思ってる。これだけ書くのに3時間かかったし
しかもよく考えたらシナリオコネクションというよりPC間コネクションだったり
>なんかルージュを思い出す配置だなw
>ぶっちゃけリンカイザーが空気な件
最初はリンカイザーに二作品の橋渡し役を考えていたのですが
アニメ版のキャラも入れたほうがいいかと思ってエリスを入れたらエラい動いてくれました
人間関係もエリス中心になっちゃったし…
ちなみに私は川崎には住んでいましたが溝の口は乗り換えに通ったくらいで
店とかは丸井のイエサブくらいしか知りません
本当にありがとうございました
創生の書。かつて神の手で無数の断章へと砕かれし、秘宝。
全部で400にも及ぶと言う断章をすべて集め再び1つにしたものは創生の力を手にし、世界を納める神になると言う…
その創生の書がファー・ジ・アースにもたらされた。
カードの姿へと変じた断章を獲得する方法はただ一つ。
同じく断章を集めるもの同士の、ルールに乗っ取った戦いに勝利するのみ。
そして、幾多のイノセント、ウィザード…そしてエミュレイターがその戦いへと参加した。
あるものは力を求めて。またあるものは争いを止めるために。そしてまたあるものは…面白そうだったから。
様々な理由で持ってこの戦いに参加したものは、この世界でもこう呼ばれる。
“カルドセプト”の使い手…“セプター”と…
やたら強いカードばっかり(コストまったく無視)ばっかり突っ込んで早々に魔力不足に陥るちゃんさま、
堅実なプレイだが使ってるブックは可愛い系のクリーチャーだらけのファンデッキなモーリー、
基本的には強いけど大概不運かミスで負けるベルw
動物とおしゃべりできる特殊な力を持った園児ふじのミカちゃん5歳を守るべく、
幼稚園に潜入することになった柊蓮司。
「で、どうせいつもの下がるお茶で年齢を下げて園児にするんだろ」
「それではいざというとき戦闘に支障が出るではありませんか。今回はコレを使います」
「……名札?」
「はい。特殊な魔法を掛けた『下がる名札』です。コレを身に付けていればイノセントの方々には5歳児として認識されます」
「おい」
「とはいえ服装の違和感は消せませんので、こちらで用意した絶滅社製特殊戦闘服相当の園児服を着用していただきます」
「ををいっ!?」
「いたいけな少女を……」
「解ってるよっ!やりゃあいいんだろうやりゃぁっ!」
つづかない
単に園児服コスプレの柊が見たかっただけです。それ以外は何も考えてません。
元は白き陽の御子に載ってたつんつるてん柊。
逆にひでえw
つ 【ウィザード及びその素質を持つ者には普通に見える】
>>465 その通り。
だからミカちゃんとそのおにいちゃんには普通に変な人に見えてます。
つ 【純粋な子供たちは常識に捕われない】
>466
おにいちゃんもウィザード化して動物と喋れる様になるのかw
おにいちゃん
「……で、どうだった?」
犬
「ターゲットの少女は、とある研究施設で生まれ、その頃から既に"能力"を持っていたようです。
彼女の母親が実験体だったのが、おそらく関係しているのでしょう。」
おにいちゃん
「ふん……なるほどな。となると敵が狙っているのも、そのへんか?」
犬
「間違いないでしょう。そして背後にいるのは……おそらくは、あの"プレンナー"かと」
あ、最後間違えた。
>>469-470 それだと「おにいちゃん」じゃなくて「あんちゃん」のほうが合ってるんじゃないかなwww
>>469 あんちゃん「ふむ、"プレンナー”か。やつが来るとは気がぬけんな」
犬「あ、あの……"プランナー”の言い間違いだったんですけど」
あんちゃん「……」
あんちゃん「ふむ、"プランナー”か。やつが来るとは気が抜けんな」
おとうと「わかってねえのに適当に頷いてるんじゃねえよ!!」
473 :
469:2008/09/19(金) 19:53:08 ID:3vJqSZAm
>472
あんちゃんwwww
プランナーときくとルドラサウムを思い浮かべる
ルドラサウムっていうと、幻夢神たんのことですね
どっちかつーと「大いなる者:夜ノ森」では?
>>462 トラン「ん・・・? 何か呼ばれたような気がしたんだが・・・」
園児ネタとしてはほかにも野原しんのすけ5歳にセクハラされまくる竜之介とか
擬宝珠檸檬4歳に至高のおむすびのレシピを伝授されるマユリとか
榎木実2歳になつかれるリンカイザーとかも考えなくは無かった。
けどほかに園児とかネタとか思いつくわけでもなかったのでミカちゃんだけ書いた。
反省は…あんまりしていない。
もし無限のフロンティア2が出るなら真・魔装機神の縁で柊も出場させてほすい。
なぁ〜ん……
>480
それは『無限の“ファンタジア”』だ。
見つけて ゆあどり〜む♪
どこに〜いても〜♪
お〜ぼえてる〜
>483
どこへ、だな
他作品キャラでアンゼロット様によりロンギヌスに拉致…じゃなくてスカウトされそうなキャラって誰だろ。
正直、組織に所属している連中全般がそうだと思うぞ……
あ、すみませんがちょっと確認してもいいでしょうか?
ここのクロススレって型月関連のクロスは禁止になってないですよね?
あと、嘘予告でもテンプレでもなくて。
単品の殆どバトルだけな短編って投下してもいいんでしょうか?
私はいいとおもいますよ
ゆにまほ全裸待機
>488
少なくともこのスレで、特定作品とのクロスがダメだって話は出た記憶がありません。
もちろん、
>>1にある
>御互いの作品を尊重しましょう。一方的なクロスは荒れる原因ですよ。
は守ってほしいですが。
どーんと来ればいいと思うよー?〉型月
ネタ被りも比較的気にしないスレだしねぇ
ふぃあ世界全体で見れば、エクスカリバー使いの喫茶店店員も
湖の貴婦人も魔女モルガンもマーリン先生もナチガメッシュも
嵯峨童子もいるんだもの。なんの問題もなし。
あ、ヘラクレスだけはシャードになってるからまずいか。
別に召喚されたのがシャードそのものだとかシャードになる前のヘラクレスだとか
平行世界のヘラクレスだとか理由はいくらでも付けられるだろう。何の問題も無い。
流れをぶっ壊してウソ予告ネタを投下。
「柊さん! 今からあなたはデュエリストです!」
「はぁ!?」
このアンゼロットの宣言が、全ての始まりだった。
いつものようにアンゼロットに呼ばれた柊蓮司に与えられた任務は、
これまでとは毛色の違うものだった。
巷で大人気のトレーディングカードゲーム、デュエルモンスターズ。
それを利用して世界を崩壊させんとする魔王、パール=クールの野望を阻止することが今回の任務である。
だが、いつものように箒(ブルーム)だの魔剣だのを使って直接戦闘を行うのではなく、
『デュエル』によって戦わなければならないのだ!
果たして柊蓮司はこの前代未聞の戦い――『デュエル』に勝利し、世界を守れるか!?
「ナイトウィザード デュエルモンスターズ 〜わすれないもの〜」
近日、未公開!!
勢いだけで書いた。反省はするが後悔はしない。
あ、クロス元が『遊戯王』だって書くの忘れてたorz
陰陽師や魔物使い、侵魔召喚師の活躍どころか>遊戯王
彦麻呂が出るとな?
>>496 黄金の林檎を担いで、ラドンに挑んだ自称ヘラクレス、旧姓クエスターさんがいるな。
502 :
ゆにまほ中身:2008/09/21(日) 13:53:27 ID:rPC82H4q
あい。予告より半日すぎました(汗)。
諸般の事情により今から突貫。支援いただけるとうれしいな。
おk、及ばずながら支援
<−なつやすみのはじまりはじまり−>
「と、いうわけでー……みなさんっ!今まで一ヶ月お疲れ様でしたぁっ!」
結希の宣言に、わー、というみんなの笑い声。
色々とあった夏休み期間も終わり、世間は新学期手前。
もともと定休にする予定だった連休を使い、喫茶「ゆにばーさる」の面々は、今、海に来ていた。
引率の結希は海での注意事項を淡々と述べた後、言った。
「今日は夜の7時から近くでお祭りがあるそうですので、女性陣は6時に宿に戻るようにお願いしますっ!
私のポケットマネーでちょっと皆さんにイタズラしますから、絶対に戻ってくるんですよー!男性陣は6時半には戻ってきてくださいっ。
じゃあ―――自由時間開始ー!」
ひゃっほーう、という声と共に精神の平均年齢の低い人間達がダッシュ。
それを頭痛い、というように見ている精神年齢の高い人間達。誰がどれ、という言及はよしておこう。
そんなわけで。たった一泊二日の夏休みが、はじまった。
おうよ、ずっと全裸待機中だ
<ちるどれんず・しーさいと>
「水着に着替えた!」
「着替えたでありますっ!」
「となればやることは一つっ!」
「一つでありますっ!」
「向こうの岩まで遠泳競争するよノーチェっ!」
「遠泳、遠泳って……ええぇぇぇぇぇぇっ!?」
水着に着替えてもうテンションがおかしいことになっているらしい狛江と、同じくテンションがおかしくなっていたものの遠泳すると言われて驚愕するノーチェ。
ちなみに、狛江は旅暮らし(しかも山篭り)なため水着などは持っておらず、UGN謹製のトレーニング用水着……具体的に言うと紺のスク水を。
ノーチェは白のフリルスカートつきワンピース、ストラップ(肩紐)はピンク色、黒ふちどりの水着を着ている。髪の毛は海に入るとは思えないいつものツインテールだ。
あの戦いの後、髪の毛が大量に伸びたノーチェ。
その様子を見た椿が絶句。隼人を連行→おしおきのコンボをした後、ノーチェに事情を聞き、戦闘以上にぼろっぼろになった隼人に謝罪。
そんな一幕の後、椿によりどんな頭にしようか、と音符が迸りそうな言葉の飛び交う時間の後、結局いつもどおりのツインテールに落ち着いたのだった。
閑話休題。
彼女たちのやり取りを見ていた隼人がこら、と狛江をたしなめる。
「お前な、体力が有り余ってるのはいいけど体力ない人間を遠泳とかに巻き込むんじゃねぇよ」
「大丈夫!オーヴァード空手を始めれば、体力なくても今日からあの程度!」
「いや無理だから。あとノーチェは空手もやってなけりゃオーヴァードでもねぇっつーの」
あう、と言ってしょげだす狛江。テンションの高低の激しい娘である。
そんな彼女を見てはぁ、とため息をつくと、隼人は言った。
「ほら、競争するんだろうが。言っとくが手は抜かねぇぞ」
え?と首を傾げて狛江が彼を見る。隼人はにやりと笑いながら、続けた。
「お前とはあの時何度か勝負したけど、結局横槍が入ったりタイマンじゃなかったりで決着がついたとは言えないだろ。
今回は正々堂々スポーツでお前の案に乗ってやろうじゃないか」
狛江はもともとFHの人間であり、隼人たちと敵対したりしていた。
実はその前の能力発現の研究所時代にちょっとした因縁があり、そのこともあって一度白黒をつけておきたい、という意思表示だ。
もちろんそれはポーズであり、隼人自身も海に来たからにははしゃぎたい気分なのである。
ともあれ、狛江がその言葉にきらきらと瞳を輝かせ何度も何度も頷く。
「うん、うんっ!今度は絶対負けないんだからっ!」
「ほっほーう。ハヌマーンをなめんなよ?」
「隼人こそっ!オーヴァード空手をみくびってると痛い目にあうよっ」
狛江の言葉に上等だ、と呟く隼人。その光景を見ていた椿が、ぽつりと呟く。
「……私も、やろうかな」
ちなみに椿はちょっと前まで狛江とおそろいの水着しか持っていなかったのだが、どういう筋から聞いたのか、どこぞの日本支部長がプレゼントしたらしい水着を着ている。
活動的なストライプのタンクトップツーピースと、スーパーミニのジーンズパンツ、という動きやすいながらも純粋露出の少ない水着。
もちろん彼女の豊満な体を隠せてはいないが。
げ、と呟く隼人とさらに目を輝かせる狛江。
さらにそこへ。
「へぇ……力比べですか。気持ちが緩む時にこそ場所を利用した鍛錬、という考え方はとても共感できます。私も参加させてもらっていいですか?」
「八重垣さん」
「いいんちょさんまでかよ……」
黒髪黒目に、ポリエステル製のスイムスーツを着た八重垣ミナリ(やえがき・みなり)がやってくる。
彼女はあの夜やってきた補充要員であり、UGN鳴島支部のエージェントである。
ある意味椿以上の委員長属性持ちであり、相手がいないこともあって『委員長系』メイドとして大人気であったという。
そんな彼女の参戦表明に、あれ?と狛江が首を傾げた。
「たしかいいんちょってブラックドックのサラマンダーじゃなかったっけ?
あたしはキュマイラだし、隼人はハヌマーン。椿なんかエグザイルのピュアだよ?こういう体使うのってあたし達とは比べられないくらい苦手なんじゃないの?」
「心配はいらないわ。私もなんの考えもなしに貴方たちと競おうとしてるわけじゃないから。
あと―――負ける気はないわよ?」
その不敵な笑みに、おぉ。と感心する狛江。不敵に笑う隼人。こちらも負けない、というようにこくりと頷く椿。
さらにそこへ。
「……じゃあ、僕も入れてもらうかな。これでもスポーツにはちょっと自信がある」
「あれー、真也じゃん。なに、真也もオーヴァード空手やってたのっ?」
「そんな珍妙な武道をやってた覚えはないっ!」
名乗りを上げたのは諏訪原真也(すわばら・しんや)。
ミナリと同じくやってきた補充要員であり、もとはFH所属のファントムセルという機関で最強のオーヴァードを作る計画の一環として改造されたXナンバーズの最新型だ。
ファントムセルから逃げ出したあと、UGNの保護下におかれることとなり、一緒に逃げ出したXナンバーズ3人(+1)とともにUGNのイリーガルとして行動している。
一応、ミナリの直属の上司とも顔見知りだったりする。
真也は狛江の言葉を即座に否定。その後、はぁ、とため息をついて答える。
「もともとは僕、陸上部にいたんだけど色々あって……まぁ、こんな体じゃ全力で動くことなんか『普通は』できないだろ?
オーヴァードとこういうことを競いあうっていうのははじめてだから、ちょっと試してみたいんだ」
「あぁ。そういえば諏訪原くんの仲間ってあんまり運動得意そうな人たちいないね。意外とガブリエルさんも普通の人だし」
何気にそれは傷つく発言だと思います椿さん。
閑話休題。
真也の言葉に一つ頷くと、にやりとやんちゃな笑みを浮かべて隼人が言う。
「ほうほう。でも手は抜かないぜ?」
「隼人隼人、それさっきも言ってた」
「う、うるさいっ!ともかくっ、真也も参加ってことでいいんだなっ!?」
「あぁ。せいぜい揉んでもらうよ、先輩達」
負ける気はないけどな、と続けて、珍しくやんちゃな笑みを返す真也。よっしゃ!と言って、隼人は今のなりゆきに呆然としていたノーチェに声をかけた。
「ノーチェ!」
「は、はいぃっ!?なんでありますかっ!?」
「号令頼んだっ!」
「あ……い、いちについてー」
ノーチェの間の抜けたかけ声。それに呼応し、おのおの準備をはじめる面々。
狛江は何を勘違いしているのかビーチフラッグスのように海に背を向けて砂浜に倒れこむ。
ミナリは眼鏡を外してノーチェに渡し、集中するように眉間を二本の指でおさえた。
元短距離走者の真也は手首をぷらぷらさせてクラウチングの体勢に移行。
隼人は見よう見まねで真也の真似をして同じ体勢に。
椿は体をこきこき鳴らして準備運動を。
よーい、の声でミナリ以外の全員の目が目標の島を見据える。ミナリはまだ目を閉じたまま。何かに集中しているように見える。
それを不審に思いつつも、ノーチェは半分まだ混乱した頭で、告げた。
「どんっ!」
皆が駆け出すのと同時。
ミナリの髪の毛が一瞬ぶわりと逆立つ。
「―――<フルインストール>っ!」
「えぇえええええええっ!?」
優等生のはずのミナリのいきなりのエフェクト使用に驚くノーチェ。
ミナリはノーチェの驚愕を置き去りに、一歩遅れて駆け出して叫ぶ。
「ブラックドックの本領、見せてあげましょう!」
生体電流を操り、遠泳にもっとも適した信号をプログラムして実行。あっという間に先行した4人に追いつき、海に突入。
ざばざばざばざばー、と水をかく音を聞きながら、ノーチェはぽつりと呟く。
「……おいてかれた、であります」
むぅ、とうなり、ノーチェは手をあごに当てて再び一人ごちる。
「今すぐ<虹色の才>を取得して<ウォータースパイラル>を経験点で会得……」
「すんな」
ばす、と上から軽いものが頭に落ちてくる感触。
跳ねたそれをあわわ、と言いつつなんとかキャッチ。よく見ればそれは浮き輪だった。
ノーチェは浮き輪から上に視線を向けようとし、いつものように頭に手を置かれてそれを阻止された。
浮き輪を持ってきた相手は言葉を続ける。
「お前があいつらを撃つってのは考えらんねぇから……魔法を推進力にして進もうとしてんのか。どっちにしろそんな無駄な使い方はやめとけ。
泳げるのかどうかは知らんが、それでも使って大人しくぷかぷか浮かんでろ」
「おぉ、これが浮き輪でありますか。はじめて触るでありますよ」
「……意外に泳ぎ上手いのか?お前運動苦手そうなのに」
「いえいえ。そもそも海に来るのがはじめてでありましてな?
わたくし達は太陽に嫌われた種族でありますし、いくら平気だからって好んでこういう日射しの強いところに来る習慣がなかったのでありますよ。
お友達ができても、わたくしが一ところに留まることは珍しいでありますから。一緒にバケーションなんてはじめてでありますっ!」
だから海で泳ぐのもはじめてでありますっ!と元気に言うノーチェ。
それに少し困ったように苦笑して、彼は頭から手を放すと、そのままこんどは崖のほうへ歩いていく。
その背中に、ノーチェは不思議そうにたずねた。
「あれ?蓮司はどこいくのでありますか?2時間ドラマごっこなら付き合うでありますよ」
「誰がそんな怪しい遊びするか。
ちょっとマーヤの奴に頼まれててな、『拾いもん』しにいくんだよ。夏休みがはじめてのお子ちゃまはおもいっきり遊んでこい」
「ですから、わたくしは見た目より子どもではないのでありますってば」
その言葉に柊はひらひらと手を振って、わかっているのかいないのか、返事にもならない仕草を返すだけ。後は気にせず進んでいく。
ノーチェはしばらく浮き輪を見つめ、ぷにぷにとつついてから――― 先に海に飛び込んだ子供たちのように、わー、と大きな声で海に突貫していった。
《支援射撃》
<真夏の浜辺熱血出店勝負!その1>
「司くーん!レモンといちごみるく、それとみぞれっ!一つずつ注文とってきたよっ!」
そう、元気に駆け込んでくるのは栗色の髪に同色の瞳の元気そうな少女、七村紫帆(ななむら・しほ)だ。
UGN鳴島市支部所属のイリーガルエージェントであり、ちょっとばかり世界の選択に関わった少女であり―――瀬戸川学園で『学校の何でも屋』を自称する娘である。
ベージュの地にパッションオレンジのハイビスカス柄。ヘソ出しツーピース、同色のパレオと白のストラップの水着。
アクセントなのか、鈍い銀色の石を茨のツタの形をした銀の針金がぐるぐると固定する形のトップにシンプルな皮ひものペンダントが胸元にきらりと光る。
おぼん片手に駆け回る元気な看板娘の言葉に、あいよっ、と威勢よく応えるのは呼ばれた通り司だ。
今彼が何をしているのかというと、モルフェウスの友人達に協力して作ってもらった小さな屋台で、自分の力で作った純氷で作るカキ氷屋を開店しているのであった。
結希が例の件で疑ったお詫びとしてどこかから調達してきた人力カキ氷機で、このわずかな時間の間もお金を稼ごうという涙がちょちょぎれそうな努力であった。
そんな司を見て同情していたのか、はたまた単に『何でも屋』の血が騒いだのか。
紫帆が配達注文の手伝いをしようと言い出し、半ば強引に手伝いをしているのだった。
実際司の作るカキ氷は、サラマンダーとオルクスの能力を無駄にうまく使用し、カキ氷に最高に適するように作った氷をごりごり削っているため、評判がいい。
とんとんとんっ、と黄・ピンク・透明に染まった白い氷の山の詰まったカップを、紫帆が持ってきたおぼんに載せる。
「七村、頼んだっ!」
「はいはーいっ!今行きますよー、左京くんがレモン、桜ちゃんがいちごみるく、史朗くんがみぞれっ!」
全部身内かい。つーか渋いな史朗。
閑話休題。
しばらく一人で回し続けて疲れたのか、手をぷらぷらとさせる司。そこへ。
「おやおや、お隣さんですか。今日はよろしくお願いしますね」
なんだか怪しい風貌の男が正面に入ってきて、司が露骨に警戒してみせる。
どのくらい怪しいかというと、真夏に臙脂色のローブにマントにブーツ、さらには大きな黒い蜘蛛の描かれている魔法使いのような大きな三角帽といういでたち。
その帽子からぴょこぴょこと紫色の髪が飛び出している、優男風の男だった。
彼は笑みを崩さないまま、フレンドリーに言う。
「いやぁ。昨日までお隣にいたたこ焼きやさんが、昨日いなくなってしまいまして。
あれは困りましたねぇ。こっちに積極的に地味なイヤがらせを繰り返すのをずっと無視してたら、結局むこうにはお客さんがいなくなって、泣きながら逃げるんですから。
今度はそんなお隣さんじゃないことを祈りますよ」
「……へぇ。そりゃ、妨害をするようなってことなのか泣いて逃げ出すようなってことなのか、どっちの意味で言ってるんだ?」
「決まってるじゃないですか。むろん両方です」
フレンドリーな表情の優男と、敵意むき出しの司。その間に静かな火花が散る。
司が宣言する。
「上等だ。真っ向からその出店勝負、受けて立ってやるよ」
「はっはっは。こちらも二日連続でお隣さんをなくしたくはないですからね、お手柔らかによろしくお願いします」
そう言うと、ローブ男はいそいそと隣にある『だいなすとかばる・極東ヤキソバ支店』と書かれた屋台に入っていく。
かくして―――真夏の壮絶な戦いは、始まった。
《アドヴァイス》
<すなのしろ>
ざばーん、ざざーん、と波の打ち寄せる波打ち際。
そこには、珍しい光景があった。
ただ静かに立つ久遠寺綾と、青い顔で浮き輪を腰に置いたまま正座するノーチェ。
綾の水着は白いビキニのツーピースだ。飾りの一切ないその出で立ちは、逆に危うい印象を与えるような気がしなくもない。
閑話休題。
目線のあわない二人。なんかノーチェの方は流れる水音が聞こえそうなほど大量の冷や汗をかいているような気がしないでもない。
そもそも人懐こいノーチェが、静かな誰かに対して何も話しかけないというのは非常に珍しいことだ。
綾が、ぽつりと言った。
「……言いたいことは?」
「え、えぇと……きょ、今日は暑いでありますなっ!」
あはは、とごまかすように笑うノーチェに、やはり表情を変えず、綾が一言。
「……間違えた」
「へ?な、なにをでありますか?」
「言いたいこと、じゃなくて……言い残したいこと、だった」
ぴぃっ!?と涙目になりつつツッコミすら入れられないまま鳴くノーチェ。
と、そこへ。二人の少女を覆い隠すほど大きな影がかかる。おいおい、と低く太い声が二人にかけられた。
「ずいぶんと怖い話をしてるじゃないか、嬢ちゃんたち。何があったんだ?」
ガブリエル・ガルシア。南米出身で、真也と同じくXナンバーズの脱走者の一人で、名前に似合わぬゴツい大男だ。
彼もまた、補充要員の一人である。子どもを見るとどうも庇護欲がかきたてられる皆のお父さんみたいなポジションをしめている。
ついでに言うと、霧谷はみんなのおじ様、柊がみんなの兄さん、ノーチェがみんなの妹みたいなポジらしい。年齢(一部精神年齢)的なものが関係しているのだろう。
がぶりえる〜、と地獄に仏を見たような顔ですがってくるノーチェ。
綾はそんなノーチェを一顧だにせず、ガブリエルを真正面から見据えてぽつりと答える。
「……わたし、砂の城を作ってた」
つまり彼女の話を要約するとこうだ。
知り合いの十也は穂波のためにプレゼントを買うため不参加。左京と和美は見当たらない。他の「ゆにばーさる」店員の同年代もまたみんなどこかに行ってしまった。
泳ぐのはあまり得意ではないので、マイペースに砂の城を作っていた。
もう少しでトンネルが開通しようとしていた、そこに……
「わたくしが波に流されてその砂の城をぐしゃ、と」
ノーチェがどよん、と珍しく落ち込んだように言う。さすがに罪悪感にさいなまれているようだ。
それを哀れむように見て、ガブリエルは綾をさとす。
「ほら綾。ノーチェも悪いと思ってるみたいだし、わざとやったんじゃない。許してやったらどうだ?」
それに少し逡巡し、綾はほんの少し目を細めて言った。
「……城が、もとに戻るわけじゃない」
「いや。まぁそれはそうだが……」
そう困ったように呟いて、ガブリエルはぽん、と手を打った。彼は得意げにこれでどうだ?とたずねると、手のひらを砂浜に埋めた。
次の瞬間。
さらさらと流れていく砂浜の砂が、ずおっ!と大きく音を立てて生き物のように盛り上がり―――刹那、1mほどの砂の城が完成していた。
虚ろな綾の瞳が、驚くように大きく見開かれた。
ガブリエルは自嘲するように告げた。
「俺の二つ名は『砂男(サンドマン)』でな。砂の扱いなら誰にも負けんさ……まぁ、できることといえばこれくらいだがな」
綾はそれを珍しく目をきらきらさせながら微にいり細にいりじっくりと見て、ガブリエルの方に視線を移し、ふるふると首を横に振った。
「……すごい。わたしは、こんなことできない」
「そ、そうか?じゃあ……こんなのはどうだ?」
まんざらでもなさそうにガブリエルが砂を操ると、今度は城の中に砂で出来た人形が現れる。
その変化を、これまで鈴木和美にも見せたことのないような表情で見ている綾。調子に乗って次々と砂の城を変化させるガブリエル。
綾から重苦しい気が抜けたことを実感すると、ノーチェはもう一度謝って、その場を後にした。
あんなに幸せそうなところを邪魔するのはよくない。別に命が惜しいからではけしてない。ないったらない。
<らばーずこんちぇると>
海の砂浜で、カラフルなパラソルの下、シートの敷かれたそこには、二人しか人影はない。
いちごみるくのカキ氷をぱくつきながら、桜はあー、と呟いた。
「なんていうか、不思議よね。史朗があの面子と一緒に働いてるなんて」
「そ、そうかな?」
だいぶ氷が溶け、みぞれから砂糖水になった部分をすすりながら松永史朗(まつなが・しろう)は答える。
霧谷の方から連絡があったその時、実は一も二もなく飛びつきたかったものの、支部の負担を考えて現支部長の水原ハルカにたずねた史朗。
彼のいる支部はほんの少し前に壊滅したばかり。そこから現場指揮官役の桜は持っていかれ、さらに足りないからと史朗までいなくなるのは支部として痛手にすぎる。
そのくらいは彼も把握しており、おそるおそるといった感じで史朗がその話をすると、ハルカはくすくすと笑った後にとん、と胸を叩いた。
『大丈夫よ。一応は支部としての体裁を整えるために、史朗君を渡すなら他のエージェントよこしなさいって霧谷さんには言っておいたわ。
だから存分に<桜ちゃんのところ>に行ってきなさい』
……来るのが八坂さんっていうのがちょっと心配だけど、と告げた彼女の横顔は少し哀愁に満ちていたが。
そんな、いつもどおりはっきりしない様子の史朗に桜はさらに突っ込む。
「不思議でならないわよ。史朗ああいう騒がしい連中とは一緒にいるのも苦手でしょ?」
「う……最初は怖かったけど、みんないい人だよ。失敗しても特に怒ったりしないし、僕の力を見ても嫌がりも怖がりもしないし」
不思議な人たちだよね、と史朗は曖昧に笑う。
彼はレネゲイドを死滅させる能力を持ったオーヴァード、俗に対抗種と呼ばれる能力を持つ。
その能力が上手く制御できなかったがゆえに、周囲の人間から疎まれるという幼少期を送ったせいなのか、なかなか自己主張ができない。
桜はその幼少期に出会いながらも、史朗の力にまったく怯えなかったため、今もこうして引きずりまわされるという力関係になっているのだった。
ゆにばーさるの人間は、9割方がUGN所属のオーヴァードである。
それも、結構な修羅場をくぐってきている。そのせいなのか随分とクセもアクも個性も強い連中だが、逆に言うと多少のことでは動じない人間ばかりなのだった。
その笑顔にほんの少しの喜びが混じっていることを見てとった桜は、くすりと笑った。
「よかったじゃない。友だちもできたみたいでさ」
「うん、来てよかったと思う。それに―――」
何かを言いかけて、桜と視線があったことで言うのをやめた史朗。それを不審げに見て、桜は首を傾げる。
「それに?なによ。はっきり言いなさいよ」
「い、いい。やめとく」
俯いてぶんぶんと首を横に振る史朗。その顔は桜からは見えないが、真っ赤である。
もともと上手く自分のことを表現できない史朗だ、幼馴染とはいえ、いや、幼馴染だからこそ言えないこともあるのである。
しばらくそんな彼をじとっとした目で見ていたものの、桜は一つため息をついた。
こうなれば彼は絶対になにも言わない、というのを経験上わかっているのだ。別に海に来てまでいつものケンカをするつもりはない。
白いタオル地のパーカーをシートの上に脱ぎ捨てると、真っ赤なビキニに包まれた彼女のしなやかな肢体が現れる。桜には珍しい派手な装いに目を丸くする史朗。
驚いている史朗の右手を両手で掴むと、桜はその手を取って立たせようと引っぱりながら笑顔で言った。
「ほーら史朗っ!せっかく海に来てるんだもの、泳ぐわよっ!」
「え、えっ、えぇっ!?さ、桜っ!?」
「海に来て泳がないとかはないでしょっ、行かなきゃっ!」
史朗を立たせて、海に駆け出す桜。史朗は腕を引かれながらその後に続く。
今日一日―――史朗の心臓がもつことを祈るばかりである。
《波紋の方陣》
ケイトはUGN、と書かれたパラソルの一つの下、挙動不審にベンチに座っていた。
……ベンチに座るだけで『挙動不審』とか書かれるのも失礼な話だが、正直そう表現するしかないのである。
同年代の少年少女たちはもうすでに海に向かって走ったり、遠泳対決したりしている。
その中で彼だけがベンチに腰かけ、せわしなく左右を見回したりと落ち着かない様子で何かを待っているのだ。そりゃあ挙動不審とか言われても仕方なかろう。
「ケイトさん?」
その声にびくんっ!と大きく震えるケイトの背中。彼があわてて後ろを見ると―――そこには、待ち人がいた。
白いひとつなぎの、柄のないワンピースで腰と胸元に鮮やかな緑色の小さなリボンのついた水着を着て、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめている薬王寺結希が立っていた。
その姿を見て頭が馬鹿みたいに真っ白になるケイト。
自由行動を結希が告げた後、大量に駆け出したゆにばーさるの店員達。それを見てケイトはやれやれ、と肩をすくめた後に結希に困ったように笑いかけながら言った。
「いやぁ、若者の好奇心ってやつは元気でいいね」
お前はどこの老人だ。
閑話休題。
そんな彼の言葉に、結希は彼の袖をきゅ、と掴んで、上目遣いでケイトを見上げてこう言った。
「ケイトさん。わたし、これから着替えてきますね」
その言葉にへ?とマヌケな声を上げるケイト。
結希はあまり運動が得意ではない。肌もそれほど強い方ではないため、海に来てもたぶん海に出るようなことはないだろうと思っていたのだ。
しどろもどろになりつつ、たずねる。
「え?え……だ、だって結希。海だよ?肌焼けちゃうよっ!?それにその……君、泳いだりするの苦手だろっ!?」
「そ、それはそうですけど……今年の夏はプールとか行けなかったのに水着買っちゃいましたし、その……」
はにゃにゃ、と呟いて彼女は顔を真っ赤にし、うつむいたまま小さな声で告げる。
「その、そのぅ……せっかく買ったんですから、ケイトさんに見てもらいたいんです……」
ケイトの心の心理描写をお見せできないのが残念だが、その言葉が放たれると同時彼の心の中で一度世界が滅んでビックバンが起き、今度は楽園が形成されるくらいの衝撃。
その後、『みんなと一緒に着替えるのは恥ずかしいですから、ちょっと待っててくださいね』とちょっとはにかんだ笑顔で言われ、魂が抜け、こくこくと頷くしかできず。
彼はえんえんと一人で待ちぼうけをくらうはめになったのだった。
まったく思考が停止しているケイト。
その心の中では、先ほど生まれた楽園でアダムとイブが蛇を無視してオクラホマミキサーを踊っているところだった。
ともあれ、そんなケイトを無視したまま状況と時は続いていく。
「そ、それで、その……どうでしょうか、ケイトさん。
あれもこれもって悩んでたんですけど、智世さんが『結希さんには余計な飾りは必要ありませんわ。ありのままのあなたが一番素敵です……っ!』っておっしゃって。
だから、一番シンプルなこれにしてみたんですけど……やっぱり、ちょっと子どもっぽいですかね」
ちょん、と腰の小さなリボンをつついて、苦笑する結希を見て、ケイトはようやく魂を体に戻す。
沸き起こる『今すぐにでも抱きしめたい』という気持ちを必死に押し込め、彼はぶんぶんっと首をもぎ取れんじゃないかという速度で勢いよく振る。
「そんなことないっ!よ、よく似合ってるよ。結希」
言うと同時、はにゃ、と呟いて顔を真っ赤に染めて両手でその顔を覆い隠す。それを見たケイトもつられたように顔を真っ赤にしてガッチゴチに固まる。
まったくの無言の二人。波風とさざ波の音だけが空間を埋める。
沈黙を破ったのは、結希だった。
「……あ、あのぅケイトさん」
「は、はいっ!?」
「わたし、ご存知の通り泳げないんで……泳ぎ、教えてもらえますか?」
「も……もちろんっ!」
はいはいごちそうさま。
「うーん、青いですね。そう思いませんか、以蔵君」
そんな二組のバカップルを、岩場の影から覗く男たちがいた。
片方は久坂勇(くさか・いさみ)。とりあえず顔だけは整っている女たらし。その実態はただのバカ。
彼は眼鏡の位置を細かく直しながら、暑さのせいではない汗を流しながら隣の男に声をかける。
隣の男はどこからかプロレスマスクを取り出すと、呟く。
「……師匠。今なんだな、これを使うべきなのは」
そのプロレスマスクには、赤い炎のような縁取りで目の周りが縁取られていて、なにより一番目立つのは、額の辺りにある『しっと』の三文字。
……いつからアレは師匠なんぞになったのか。師父じゃないだけマシなのか。ビッグ・ザ・○○老師とかじゃないだけマシなのか。
それを真剣な目で見ている勇の隣の男は国見以蔵(くにみ・いぞう)。ちゃらんぽらんな女たらし。隠すまでもなくただのバカ。
以蔵の取り出したそれを見た勇は叫んだ。
「それはっ……以蔵君っ、それだけはダメだ!君はわかっているのか、それを使ってしまえばもう戻れないんだぞっ!?」
「いいんだよ、勇。もうこれしかないだろ?俺たちの望みをかなえるためには、さ」
そう、自嘲するように笑って以蔵はそのマスクをいっそ懐かしげに見ながら告げる。
バカなっ!と叫ぶ勇。
「君はっ!君は、君はたったそれだけのために自分の人生全てを捨てるというのかっ!?」
「たった?俺がこの道を行くには十分に過ぎる理由だろ。いいか勇、俺はな―――とっくにもうそれに命をかけてもいいくらいには思ってるんだぜ?」
だから、と彼は続ける。
「見てろ、勇。このバカな男の生き様を。今この瞬間から、俺は国見以蔵を捨てるぞぉーっ!!くらいの勢いで行く」
「以蔵くん……」
「そう。俺は国見以蔵を捨てる。ポイ捨て。だすとしゅーと。
そして俺は、俺は今から―――『しっとマスクBH(ブラストハンド)』を名乗るっ!」
そう言ってその受け継がれし伝説にして伝統のマスクを以蔵がかぶろうとしたその時。
「なに盛り上がってんのよこのバカ」
後頭部にエフェクト付きの衝撃を受けて以蔵の頭が岩に直撃。さらには衝撃により岩場が破砕される。
……岩場を砕くパンチを受けても生きてられるのは正直オーヴァードとかそういう理由じゃ説明付かない気がする。
衝撃でしっとのマスクは岩場の破片によりずたずたに引き裂かれてゴミと化す。
……マスクがその瞬間涙を流したような気がしないでもないが誰も見てないのでスルー。
同じく岩場に掴まっていた勇もまた岩場の崩落に巻き込まれる。
その大惨事を引き起こした張本人は、一つため息をついて岩場の瓦礫に埋まった二人の首根っこを掴み、引きずり出す。
「まったく……以蔵、人様に迷惑かけない。勇君もこのバカの暴走に乗らないの」
下手人こと、三室戸もみじ(みむろと・もみじ)は、頭からどっぴゅ☆どっぴゅ、と絶賛血を撒き散らし中の以蔵と勇を引きずりつつ、問答無用でその場から離れる。
……これはこれで、一つの愛の形?なのかもしれない。
《タンブリング・ダウン》
<不死者と夏>
「やぁ、ティンク。どこへ行くんだい?」
にこやかにそう言ったのは、金髪に深い緑の瞳の少年だった。
群墨応理(むらずみ・おうり)。UGNのエージェントで教導官という立場でありながら、一年ほど前から『旅に出る』の一言で勝手にカヴァーを旅人にしていた少年。
その実態は自身をピーターパンと言ってはばからない、不老であることだけは確かな不死者である。
……本人曰く、結構簡単に死ぬらしいが。
ともあれ。彼は霧谷の要請によりアキハバラ支部を訪れ、そこで出会ったノーチェを一目でティンカーベル扱いするという暴挙に走った。
……まぁ、ある意味同類っちゃ同類だけども。
「応理。ですからわたくしは妖精さんではないでありますってば」
「なにを言ってるんだ。君は小さいし羽が生えるし魔法が使えるじゃないか」
「魔法はともかくとして大きさなら応理よりちょっと大きいでありますし、羽は虫っぽい翅じゃなくて蝙蝠の翼でありますよ?」
「この世界に落ちたティンクならそれもやむなしさ。そして」
これが一番大事だけどね、と片目を閉じて、微笑みながら彼は告げた。
「―――何より、君はボクと一緒だ。年をとらず、周りにおいていかれ続ける存在。ほら、ボクと同じ夢の中の存在(おわりなきもの)だ」
うーん、とうなってノーチェは肩をすくめて答えた。
「わたくしが働いているところは傭兵組織でありますし、普段は実家の仕送りのために働いてるのでありますから、夢もへったくれもないと思うでありますが。
まぁ。わたくしが年をとらないのも、友だちの方が先にいなくなってしまうのも事実でありますし、仕方のないことでありますな」
「……ねぇ、ティンク」
「でありますから、わたくしは―――」
「ボクと一緒に、こっちで暮らさないか?」
は?と、思わず言葉が続けられなくなるノーチェ。応理は芝居がかった言葉で続ける。
「ボクはこっちには仲間がいなくてね、一人で放浪してばっかりだったんだ。
とはいえ―――そろそろ一人も飽きた。だから、ボクと同じ存在と一緒ならこれから先ずっと、さみしくないだろ?
キミにとっても悪い話じゃない。向こうで血腥い戦場から抜け出せるんだからね。そんなわけだ、一緒にいてくれないかな?」
応理の言葉を呆けたように聞いたノーチェ。
海パンにジャケットを羽織った金髪の少年と、浮き輪を腰に抱えたままのツインテール銀髪少女の間に、海風が流れる。
ノーチェの頭がショックから再起動し、彼女は額を腕で拭う。
「あ、危なかったであります。いきなりの出来事に本当に頭がついていかなかったでありますよ」
「戻ってきたかい?じゃあ、答えを聞かせてもらおうか」
応理はやはり芝居がかったように告げる。
ノーチェは一瞬不思議そうな顔をして、くすりと笑い、満面の笑顔に変わって答えた。
「お断りであります」
「―――へぇ、なんでだい?キミは優しい子だと思ってたんだけど」
「買いかぶりすぎでありますよ。わたくしはわたくしのしたいことしかしないであります。
確かにここには椿も狛江も、いっぱいいっぱい友だちがいるでありますが、向こうにもたくさん友だちがいるのでありますよ。
わたくしが戦うのも、血を流すのも、おいていかれて嘆くのも。すべてわたくしのため以外のなにものでもない。
そこに、誰かのため、なんて理由(いいわけ)はないのでありますよ」
「つまり、キミはボクと一緒にいる安全な世界なんかよりもずっとそっちの方がいい、と。そういうことでいいのかい?」
そうであります。と笑顔のノーチェはそのままに応える。
応理はその笑顔を少しまぶしそうに目を眇めて見て、笑みを崩さぬまま、言った。
「……まったく。ボクらはこんなにも境遇が似通ってるのに、どうしてこうも違うのかな」
「いいではないでありませんか。それでこそ、わたくしたちはわたくしたちでありましょう?
―――けど、確かに一人が寂しい、って気持ちはわかるでありますよ」
だから、これをあげるであります。と言って、彼女は月衣から小さな水晶球のついた銀の鎖のブレスレットを取り出し、渡す。
応理は虚をつかれたように目を丸くしてそのブレスレットを見つめたまま、たずねた。
「……これ、なんだい?」
「わたくしの水晶球といつでもリンクできる子水晶でありますよ。これでいつでもお話できるであります。
たとえ世界を離れていようとつながるでありますから―――これで、応理も一人置いていかれることはないでありましょう?」
いつでもわたくしとお話できるのでありますから、と。彼女は綺麗な笑顔で笑った。
応理は答えず、その水晶球をじっと見つめている。
ノーチェはそれを横目で見ながら、ではわたくしは浮き輪を置いてちょっとのんびりしてくるでありますからー、と言ってその場を去る。
しばらくして、応理はくすりと笑った。
「まったく、酷なことをするティンカーベルだ。断られたら踏ん切りがつくってもんなのにね。
これじゃあ―――まるで、『友だち』みたいじゃないか」
そう、久しく使わなかった関係を表す言葉を呟いて。
《裏界の温泉》
<真夏の浜辺熱血出店勝負!その2>
「……どれくらいたった?」
「……10分くらい?」
崖のふちに、若い青年が二人立って、顔色を青くさせて見合わせている。
彼らは崖の上から飛び込んだ人影を見て、心配になって見に来たのだ。意外に見た目に似合わずまともな青年たちである。
背の高い青年Aが確認するように眼鏡の青年Bにたずねる。
「なぁ、アイツ素もぐりだったよな」
「酸素ボンベも水中眼鏡も、シュノーケルすらもなかったね」
「……素もぐりで人間って10分も息止めてられんのか?」
「潜水フリーダイビングの世界記録は深さにして214m、距離にして244m、時間にして8分58秒らしいけど、ちゃんと装備つけての話だしね」
やけに詳しいな青年B。ちなみに水平潜水の日本記録は115mで某芸人が持ってるとかいないとか。
閑話休題。
「……つまり、深く潜ってるにしろ遠くに泳いでるにしろ世界記録ってことか?」
「っていうか、人間ならまだ無理ってことだね」
「お、おおおおお落ち着いてる場合かっ!?レスキュー、レスキューってどこに連絡したら来てくれるんだっ?」
「……救急車じゃ無理だよね。どうしようか。ヤなもの見ちゃった」
「うおぉぉぉぉおおおおいっ!?」
もはやパニックになっている青年A。青年Bも半分これでテンパっている。彼らが恐慌に陥りかけたその時。
ざばんっ、と、近くの海から突き出た岩場に、手がかかった。
海面から彼らが見た投身自殺者(仮)が、何事もなかったかのように現したのだった。
海水で張り付く前髪をうっとうしそうにかきあげて、左腕に大きな網を抱えている。
なんだか網には大量の海の幸が詰まっている。彼は崖の上の二人を見ることもなく砂浜をざくざくと歩いていった。
それをあっけにとられて見つつ、呆然としている青年A。
青年Bはぽつん、と呟く。
「……あれって、人間か?」
失敬な。きちんと生物学上は立派に人間である。
支援?
陽炎をともなう鉄板の上にあった黄みがかった麺が二つの小手により空中に舞い上げられる。
ふわり、舞ったそこに上からダシ汁がかけられ、香ばしい香りと同時に一瞬にして巻き起こる白い蒸気。さながらそれは霧のごとく。
霧の舞う中から、今度は麺と一緒に野菜や肉も舞い上げられて、水分が一気に抜ける。
そしてそこへソースが滝のごとくに浴びせられ、ソースの焼ける匂いが周囲に伝播し、全体的に絡まっていく。
最後に琥珀色のゴマ油が上から雨のように降り来て、全体に絡みつく。
その様子を見ていた行列の一人が唸った。
「むぅっ、アレは……」
「し、知っているのか通行人A!」
「麺の雲から霧雨、ナイアガラ、黄金の雨……っ!まさか、こんな場末の海の屋台で、ヤキソバ48手の最高難度コンボが見られるとは……っ!」
ヤキソバ48手。
それはヤキソバ屋台において観客を沸かせながら美味いヤキソバを焼くための48の技。かつてこの技の継承権をめぐって死人が出たとか出ないとか(民明書房)。
その偉業(?)をやすやすと成し遂げた臙脂のローブに『LOVE大首領』エプロンの青年は、笑顔で客にどーもどーも、と歓声に答えてちらりと横のカキ氷屋台を見る。
彼の挑発的な視線を受け、司の目は―――楽しそうに細められた。
見てろ、と呟きカキ氷機を回す。
超高速のカキ氷削りで生まれる、器にはおさまらないほど微細な氷がふわふわと風に乗り、真夏の砂浜に華麗に舞う。
氷山のごとく器に盛られたカキ氷は、七つまとめて上に放り投げられる。
彼の周囲に置かれているのは赤のイチゴ、黄のレモン、青のブルーハワイ、黄緑のメロン、深緑の宇治、紫のブドウ、透明のみぞれのシロップ群。
7つのシロップが、虹のごとくに山なりに空に弧を描き、次々と氷山をその色に染めていく。
七つのカップがおぼんに降り立ち、無駄に後ろ手から回転させながら放り投げた練乳を右手でキャッチ、イチゴとメロンの上に白い綿雪がかかる。
それを見ていた行列の一人がまた唸る。
「むぅっ、アレは……」
「し、知っているのか通行人A!」
「ダイアモンドダスト、氷山浮遊、レインボーシュート、万年雪……っ!そんなっ、アレは戦時に失われたはずのカキ氷屋奥伝っ!?まさかこの目で見られるとは……っ!」
カキ氷屋奥伝。
それはカキ氷屋が己の限界を極めたがゆえに生まれるまさにカキ氷道の奇跡。中伝までは今も残るとされるが、奥伝は失われて久しいとかそうじゃないとか(民明書房)。
見返す司、それにヤキソバ屋もにやりと笑う。
その後ろをミナリが『上月君、紫帆をお借りしていきますね』と言って紫帆が引きずっていくが、司は気づいていなかったりする。
白熱した屋台勝負が行われ、次々に繰り出される凄まじい(?)技の数々を目にしながら歓声の上がる一角。
それを横目に、豊満な肢体の浅葱色の長い髪の女性が、体に似合わぬ巨大な―――具体的に言うと人間5人ぐらいを簡単に釜茹でできそうなサイズの大鍋を転がす。
そこには、大きな石でできているかまどがあった。
女性の名はマーヤ・エンテュメーシス。正式名称は長いんで省略。知りたければストライク一巻参照。
彼女は真夏の海に来ているというのに、水着に着替えることもなく、ロングパーカーとミニスカート、という姿で大きなかまどに大鍋を設置する。
それは図ったようにぴったりとフィットするのであった。
実はマーヤ、未来からきたアンドロイドであり、物質変換を得意とする。
彼女は、今日早朝から海岸に来て、ゴミを元として(缶や釘などを原材料に)鍋を、砂をもとにして石のかまどを作っておいたのである。
これも以蔵と、その彼に仕事をくれているUGNに恩返しをするためである。
かまどに火をつけ、大量に鍋用に調整したミネラルウォーターを叩き込む。そこへ、大きな網を担いだ柊がやってくる。
「おうマーヤ、頼まれもんひろって来たぞ」
「ありがとうございます。見せてください」
べちゃり、と置かれる網。中にはウニだのトコブシだのカメノテだの昆布だのの拾える小物から、ウツボ、カレイ、タイの仲間、カサゴ、イセエビなどの大物まで。
これを全部素もぐりでとったことを考えると、異様にサバイバル技能が高い気がしてくるが、まぁそれもやむなしといったところか。
っていうかこの海はどこなんだ。
閑話休題。
それを見て、マーヤは表情一つ変えず、しかし飾り耳のようなアンテナがぴこぴこと揺れておぉ、と唸った。
しぇん
「素晴らしいです、柊さん。協力感謝します」
「特にやりたいこともないしな。海だってはしゃぐような年でもなし」
おい19歳。
閑話休題。
マーヤは無表情に、しかし嬉しそうな声色で言う。
「これだけサンプルを提供していただければ、この海の前ではいくらでも同じものを生成できます」
「そーゆーもんなのか。便利だなぁオーヴァードは」
それだけの無茶をやらかすのはこの娘だけである。念のため。
つーか感心すんなよツッコめよ柊。状況に間違った方向で慣れてきてないか。
閑話休題。
でも、と首を傾げてマーヤは問う。
「とったのはこれだけなんですか?あなたがたウィザードは月衣という大変便利な荷運び用空間を常備しているとうかがっていましたが」
「月衣は別に荷運び専用じゃねぇから。中に色々入ってるし、服とかと同じとこにいれると大変なことになるだろうが。
まだサンプル足りないってならもう一回潜ってくるぞ?」
「いえ、サンプルは十分ですし―――なにより、つい昨日全部の包帯が取れたばかりの病み上がりにそんな無茶を言うほど酷い人間ではないですよ」
そう言われ、む、と少し仏頂面になる柊。
あの戦いから十日。
生死の境をさまよったその日はさすがに大人しくしていたものの、その翌日から彼は『タダ飯食ってるのは気分が悪い』とのたまい、キッチンに立ちだした。
食事を作ると血の匂いがつく可能性がある(から大人しく寝てろ、という意図だったらしいが)と結希に言われたため、仕事自体は皿洗いとゴミ出しのみに留めたが。
……どんだけ体力バカなのか。
とはいえ、その裏方の仕事にゆにばーさるがひそかに支えられていたのは確かである。
調理もできる人間が隼人・司・柊と限定で結希だけ、という状況からもみじ・マーヤ・紫帆と、単純に働き手が倍になったのだからスピードは倍になる。
作る人間が増え、皿洗い専門の人間ができたので、より効率的に動くことができ、夏休みの稼ぎ時を乗り切ったのだから責任者の結希は文句を言えない。
柊自身も傷の治りは若さゆえかウィザードゆえか異様なまでに速いが、さすがに体力を消耗する裏方で連日無茶すれば包帯がとれるのも遅れるわけで。
皮肉られて少し拗ねた子どもをあやすように、まぁまぁ、と言うとマーヤは網に引っかかった小さな獲物たちを指差し、くるんとまわす。
すると、小さな獲物たちは一瞬でその場から消え、ほんの一握りの砂が残った。
なにをしたのかといえば、瞬時に小物の成分を分析、分解、必要なものを解析し、鍋の中の水に合成したのである。
つまりは労せず最高のダシ汁が出来上がったことになる。ものすげぇ反則技だが。
「ともかく、おいしいお鍋ができそうなのでそんなに眉間にしわを寄せないでください。感謝しています」
「……なんか丸め込まれてる気がするが。まぁいいか、他に必要なもんないか?
これでもサバイバルにはある程度慣れてるからな、調達してこいって言われりゃできるもんもある」
……逆に言えば、サバイバル活動に慣れるような任務に放り込まれてきたとも言う。それはそれでどうなんだ。
マーヤはそうですね、と呟いてUGNと書かれたパラソルの下を指差す。
「あそこにある大きな水色のクーラーボックスと、その横のダンボールを持ってきてもらえませんか」
それに文句一つ言うことなく砂浜を歩いていく柊。
それをじーっと見ていたマーヤに、声がかかる。
「お姉さんも海の家の人かい?」
声をかけたのは、やけに小麦色に日に焼けたTシャツに半ズボンの青年だった。とりあえずマーヤに面識はない。
マーヤはとろんとした瞳をそちらに向けて、わざわざ流木から綺麗に再構成した木の棒で大鍋をかき回しながら、彼の問いに答える。
「海の家をやっているわけではありません。これは炊き出しのようなものなので」
「あぁ、そうなんだ。彼氏とか?こんなキレーなお姉さん放っといて浜辺でメシ作らせてるなんて最低な男だねぇ」
「いえ、今火から離れると大変なことに……」
「いーじゃんいーじゃん、薄情な男のことなんか忘れてさ。ぜーんぶ忘れて俺と遊ぼうぜ」
《マジックシェル》
そうやって強引にマーヤの手を取ろうとする青年。
これはぞくに言うナンパ、というものでしょうか、と彼女はぼんやりと考え、その手が自分に触れようとする瞬間、目を少し細め―――
「マーヤ、荷物ここに置くぞ」
はい?と聞き返そうとそちらを振り向いた。それと同時、青年の体は後ろに向けて空中で一回転しながら吹っ飛んでいた。
ふべらばっ!?と謎の声を上げつつ遠ざかっていく青年。声に気づいたマーヤは、ぽつりと呟いた。
「……助けてくれたのですか?」
「あいつをな。お前絶対物騒なこと考えてただろ」
その呟きに呆れたように返すのは荷物持ちから帰ってきた柊だ。
失礼な、と無表情にマーヤは言い返す。
「少ししつこかったので片手を再構成して肉団子にしようかと―――」
「もうちょっと一般的な対応しろよっ!?」
「……おかしいですね。以蔵様なら三秒で立ち上がってくるんですが」
「アレと普通の人間を一緒にすんなっ!」
そも住む世界が違うと思われる。
閑話休題。
と、そこで周りが騒がしいことに気づく二人。
周囲を見れば、なんだか人だかりができている。
「おぉ、こっちには鍋がっ!」
「うっひょー!超マブい(死語)ねーちゃんが作ってんじゃんっ!ねーねーおねーさーん!一杯いくらー?」
「……さっき飛んでったにーちゃん、転がり続けて海に突っ込んだぞ。どんな投げ方すりゃあんなことになんだ」
「おおぉ、なんだあの海の幸鍋!まったく原価とか無視してんじゃねーか超食いてー!」
今のやり取りで妙に人目を集めてしまったようである。
それを見て、柊はため息をつき、マーヤに苦笑して言った。
「どうするよ。売るの前提になってるみたいだぞ?」
しばらく唸り、彼女は答える。
「……ここで路銀を稼いでおけば、夜の屋台でお金が使えますね」
「お前そういうの楽しみだったのか?」
「そういった食べ物のデータがあれば、以蔵様のリクエストによりお答えできるようになりますので」
うん、と一つ頷いて、マーヤは自分の服を変換、エプロンドレス姿に早変わりした。
またも沸く歓声。変身ヒロインは大きなお友達の華である。マーヤは無表情なままに告げる。
「では皆様!お代は一杯400円とさせていただきます。それでもよろしければきちんとお並びください」
かくして、真夏の浜辺にもう一つ名物屋台が生まれることとなる。
《ダークバリア》
支援.(もう一人の支援者みたいなネタは無い
531 :
ゆにまほ中身:2008/09/21(日) 14:13:01 ID:rPC82H4q
とりあえず、その1終了?その2は3時ちょっと前スタート予定。
支援砲火は多けりゃ多いほどありがたいっス。
つーか、このスレ終わるのが先かおいらが投下し終わるのが先かが怖くなってきた(汗)
乙。さてゆっくり読むか。残り70k切ってるんで長いようならスレ立ても考えないといかんかも。
_,._---,-― 、_
,ィ_ゝ(( r'〃ラミ.、ニ、ヽ、
/j,r、=‐`'´'´'"ソ )三=、_ヽ
,.ィ,ニ彳´ /,ノ`゛tミニ、` ト, バキューンバキュバキュバキューン
// j,イ 、.__ {/_,.. ``ミヌヽ_} 保 管 完 了
_ィ=;-t,、 ヽ〉 yヘーtッ-` ≠‐fッ"` 〉'¨Yリ _人_
j、ト,y'`jzj,__ 〈' { 、)__,.〃 ` - ‐´ |‐_ノ/ `Y´
`t;ヲトャ'‐、_,.> Y 人リ´ , ,-、 「ゆにばーさる」と魔法使いの夏 第7話(分割)
ュ'(,´_ __, _ ,、_ ゝ._ 人 __,., ィ;.从{r-‐'´ ! l 動物のおしゃべり
.<_,.ィ }´ {=_`ト{;'/ ゝ._) ,.ノ/≧=ニ´ィソ) 〉j`|l.l」,. = =| 0.i 遊☆戯☆王
.ィ,イ i'´7ニr‐、'::::.-「: |ー‐‐:'´|:,//:.ハ、>'/i: : : :>: :|_ニ´ _,-┴ ┘ カルドセプト
^'` /:::{___j:::::::|[ニ].: : : : : :|:.>'://::.|/、|:ヽ<: :/`Y、ノ j:ヽ
{:::::::::::::::::::l:|: :|: : : : : :jヾ: i'::::./ ,.|: : >ソト.イ`i‐':::::::|
ヽ::_::::::::::::j_!_;|---‐‐/: |i:.|/ '´ /: /: }:ヘ!ヽ_j:::::::ノ
<子どもたち>
UGNと書かれたパラソルの下、ふんふんふんふん、と鼻歌を歌っている青年がいた。
千城寺薫(せんじょうじ・かおる)。UGNのエージェントで研究者であり、中枢評議員直属の特権階級者。
……と書くととんでもなくすごい人間のように思えてくるが、実質はちょっとマッドの気の入った不思議な発言を繰り返す自由気ままな、それでも有能な研究者である。
薫は一通り歌って満足したのか、いつものように笑顔で呟く。
「海はいいねぇ。まさにリリンの―――」
「言っておくけど。海はそもそも世界にあったものであって人間の生み出したものじゃないわよ。
あと、あなたが言うとその台詞は色々とシャレにならない気がするわ、薫」
青年の隣に座っている白衣の少女がじとっとした目で見て、言った。
少女の名はテレーズ=ブルム。UGNの中枢評議員の一人で、薫と同じ研究畑の人間であり、彼の直属の上司でもある。
金の巻き毛と湖のように深い青の瞳。そんな少女がUGNの最高意思決定機関の一員だというのは、やはり見た目からは想像もつかないだろう。
そんな不機嫌そうなテレーズに、いつもどおりに薫はたずねた。
「あれ、そういえばテレーズちゃんは泳がないの?せっかく海に来てるんだよ?海。オーシャン」
「わざわざ英語で言い直さなくてもわかるわよ。
あのね、薫。わかってるの?」
こめかみに青筋を浮き立たせつつテレーズが尋ねる。
その空気をまっっったく読まず、薫は問い返した。
「え?なにがだい?」
「私がここにいる理由よっ!」
ばん!と砂浜を叩いて激昂するテレーズ。
テレーズ・ブルムは先ほども言ったとおりUGNの最高意思決定機関である中枢評議会、その12人のうちの1人である。
本来はぽんぽんとこんなところにこれる立場の人間ではない。
薫は言った。
「だから、海に遊びに来たんでしょ?」
「ちがうわよっ!なんでそんなノンキなのよあなたはっ!?」
ばんばん。
砂浜を叩くものの、そこにやはり迫力は皆無である。
薫はそれにいつもの笑顔で応える。
「冗談ですよ冗談。暑くてテレーズちゃんもイライラしてるんじゃないかっていうちょっとした気を紛らわせるためのボクの細やかな心遣い」
「余計にイライラするだけだから次からやめて頂戴」
「了解。で―――ここに来たっていうのは、例の事件のことでしょう?」
そう促されて、テレーズはえぇ、と表情から怒りを抜いて答えた。
「もともと、雄吾が新しく作った支部であるアキハバラ支部っていうのは、UGN内でもとても危うい立場にあるのよ。
日本支部幹部の何人かがUGNの中枢評議員を数人抱き込んで作った支部で、ある程度人材の融通なんかは利くようになってるけど、集まってる人員がマズいのよ。
支部を与えられては全滅させる、あの長瀬明の部下だった<運命の導き手>。
UGNの一部の暴走によって生み出された異能、それを今も持つ<ファルコンブレード>。
かつて中枢評議会の動きすら停止させた、綾渕宗二の教え子<シルクスパイダー>。
さらにはUGN中枢へアクセスするための鍵、その後継者である<タクティカルヴォイス>。
他にも色々。これまで世界に巨大な変革をもたらしかねない事件に関わってきた人間ばかり。
一括監視できるといえば聞こえはいいけど、彼らの人間性を無視して話をするなら、いつでも世界にケンカ売れるメンバーなのよ」
「テレーズちゃんは人間性を無視したりしないでしょ?」
「そう考える人間もいるってことよ。
そこで、どういう力が働いたのかはわからないけどその街が隔離された。そして、それをアキハバラ支部が解決した。
どういうことなのか説明をもらわなきゃいけないけど、日本支部長が色んな反対を押し切って作った支部だから、日本内で尋問できる立場にいる人間はいない。
だから、それなりに面識のある私がくることになったのよ」
部下のあなたもここにいたしね、とため息とともに告げるテレーズ。
ふむふむなるほど、と言って、意地悪く目を細める薫。
「つまり、テレーズ・ブルム評議員どのは彼らに余計なちょっかいが加わらないように霧谷支部長と『おはなし』しに日本に来たってことでいいのかな?」
「―――別に。たいしたことはしてないわよ、私はUGNと世界の混乱が本当にないのかどうか雄吾に聞きにきて、確信が得れたってだけだし」
目線をそらしてそう告げるテレーズ。
くすくす、と笑いをもらしながら薫は言う。
「まったく。お優しいねテレーズちゃんは」
「あのね薫。あんまり茶化してると今すぐあなたを中東あたりに飛ばしてみたくなるから、自分の命が惜しければやめてくれる?」
はいはい降ー参、と告げて両手を挙げる薫。
テレーズは中枢評議員の一人だ。UGNの、オーヴァードの、それ以上に今の世界を続けていくための選択をとることに躊躇いはない。
けれど、彼女もオーヴァードとして、一人の人間として、自分の下で日夜日常を守り続けている同じオーヴァード達を切りすてるという選択をよしとはしない。
厳しいが優しい。甘いが強い。それがテレーズ・ブルムを端的に表す言葉であると言えるだろう。
「それでさテレーズちゃん。結局なんで海にいるの?」
その言葉に一瞬う、とつまるテレーズ。
今の話は日本に来た理由であって海に来た理由じゃないよねー、と歌うように薫は言う。
テレーズは一見ただの道化師気取りのバカのようなこの部下の、本質をすぱんと見抜いてしまうこういうところが頼もしく、また苦手だった。
ぎゅ、と白衣を握り締め、彼女はうつむいて言う。
「雄吾が……」
「霧谷氏がどうかしたかい?」
「……『せっかく日本くんだりまで来たんですから、実地検分も含め、彼らに一日付き添ってみてはいかがでしょう?
あぁ、それは自分で言っておきながら名案です。ではチケットはこちらにありますので。旅館の方にはこちらから言っておきましょう』って」
薫はなにやら背後に暗いものを背負っているテレーズの空気をやはり無視。
「つまり、バカンスを楽しみに来たってことでいいのかい?」
「よくないわよっ!私がここにいるせいで滞ってる仕事がどれだけあると思って……っ!」
「じゃあ帰ればいいじゃない。実地検分だけなら僕がやっておくからさ」
「運転手に繋がらないのよっ。雄吾がどんな手を使ってるのかなんかわからないけどっ!」
もはや涙目なテレーズ。
それににこにこしながら薫は返す。
「まぁ、いいんじゃない?こんな日があってもさ。
霧谷日本支部長のことだし、テレーズちゃんがいなくなることで起きることくらいは計算に入れてるだろうと思うよ?」
「それはそうだけど……って、それとこれとは話が別でしょっ!?」
「どれとどれの話が別って言ってるのかは分からないけど。
キミは帰る手段がなくて、キミがいないことで起きる不利益もおそらくは最低限に軽減される。
さらには、ここにいる面子はさっきキミが言ったようにUGNへの不利益をもたらす可能性がある。
けれど、君自身がその人間性を保証できれば、もう少し彼らの身辺も落ち着くんじゃないのかな?なんてね」
うぅ、と可愛らしさからかけ離れたうめき声。
彼女は一つため息をついて、力を抜く。
「……わかったわよ。今日一日だけなんだからね」
「はっはっは、日本支部長もよろこんでくれるんじゃないのかなぁ」
まったく、と彼女が呟いたその時だ。
「あれ、女の子だー」
ぱたぱたぱたぱた、と砂浜の上を駆けてくる軽い足音。
何事かとテレーズがそちらを向くと、そこには長くくせのない金髪をポニーテールにまとめた空色の瞳の少女だ。テレーズよりも年上のように見える。
エミリア・ラウラ。真也と同じくファントムセルの実験体。しかし割と能天気でポジティブな占い師を目指すイタリア娘。真也と同じく、ゆにばーさるの助っ人の一人だ。
鮮やかな赤が基調で黒のバラの図柄、ストラップなし、後ろは紐で止める形のワンピース、黒のパレオという派手な水着を着た彼女は薫のほうを向く。
薫は紫帆を追いかけてここ数日ゆにばーさるに贅沢に入り浸っていたので、ゆにばーさるの面々とも面識があるのである。
「薫さんのお友達?」
「うん、お友達お友達。テレーズちゃんって言うんだ、仲良くしてあげてね」
「ちょっと薫っ!?」
薫のいきなりの行動にテレーズがあわてるも、彼はあわてず騒がずテレーズに耳打ちする。
「彼女はXナンバーズとやらの一人だよ。キミが実地検分しておいた方がいい人間に入るんじゃないのかな?」
その言葉にほんの少し詰まり、しばらく逡巡するものの、テレーズは納得がいかなそうにぽつ、と答えた。
「……テレーズ・ブルムよ」
「よろしくね、テレーズ。あたしはエミリアっ!」
「えぇ。よろしく、エミリア」
人懐っこい笑みを見せるエミリアに、同じく笑みを返すテレーズ。
そこへもう一人駆けてくる少女がいた。
「エミリアさんっ、やっと見つけたっ!」
亜麻色の髪をいつもの通りに高い位置でお下げにしている、薄いエメラルドの大きな瞳の少女。エミリアと同じファントムセルからの逃亡仲間、アイヴィ・ノールズだ。
薄い水色に濃い藍色のツタがからみついたような模様のツーピースでスカート型の水着。胸の前の細い白の紐リボンが風に揺れる。
慌てた様子のアイヴィに、やはりいつもどおり能天気に尋ねるエミリア。
「どうしたのアイヴィ。走ると転ぶよ?」
「別にそんなことはどうでもいいんですっ!真也さんにエミリアさんを連れてきてもらえないかってお願いされたんで呼びにきたんですよっ!」
「え。真也が?なんで?」
「みんなで遊ぶから一緒にやろう、って言われましたけど……」
具体的に何で遊ぶかは聞いていない、ということらしい。
しかしエミリアは真也が呼んでるなら、と言ってテレーズを見た。
しぇん。
でもこのタイミングだと、さるさんに狙われる可能性が……。
「テレーズも一緒に行こっ!せっかく海に来てるんだもん、みんなで一緒に遊ぼうよ!」
「え、えぇっ!?」
「それは名案だ。僕はちょっとここで荷物を見てるから、テレーズちゃんも遊んでおいで」
「ま、待って!待ちなさい薫!」
「エミリアさん、嫌がっているみたいですし無理矢理連れて行く、というのはちょっと……」
「えー?アイヴィだって同じ年頃のお友達ほしいでしょ?薫さんのお知り合いってことはUGN関係の人なんだろうし」
関係、どころかその運営に関わる一人だという。
ともあれ、エミリアにそうイタズラっぽい笑顔で言われたアイヴィは言葉に詰まる。
彼女はもともと孤児であり、その後は世界的に著名なピアニストになり、その後はFHの実験体として扱われてきた。
ピアノのレッスン自体は恩師と二人きり、FHの実験体は基本的に彼女よりも年上の人間ばかりと、これまで同年代の子どもと、子どもらしい遊びをしたことはない。
エミリアはそんなことおかまいなしに言っているわけだが、その言葉はピンポイントを突いてしまい、二の句が告げない。
そんなアイヴィの様子を見て、事情を紙の上からとはいえ知っているテレーズはしばらく逡巡するものの、彼女はその躊躇を断ち切ってアイヴィの手を取って歩き出す。
「行くわよっ」
「え、え。テレーズさんっ!?」
「さん付けなんかいらないわよ、どうせ同い年くらいでしょ―――アイヴィ」
その言葉に一瞬きょとん、とした後、アイヴィは心底嬉しそうに二度、三度と頷いた。
「うん―――うん、うんっ!行きましょう、テレーズっ!」
「あ、待ってよ二人ともっ!あたしも行くよー!」
そう言って、エミリアは手を繋いでいる二人を追いかける。
そんな光景を見ながら、薫がふふふ、と笑う。
「UGNの評議員があんな表情してるなんて、誰も信じないだろうねぇ」
薫の横にいたテレーズのミミズクがくるっくー、と鳴いた。
支援
支援 獣王の巣!
<浜辺といえば>
「えー……というわけで。結希が疲れて休んでるんで、暇だろうってこの連中に引っぱられてきた檜山ケイトです」
「おい審判?誰に向かって言ってるんだー?」
「うるさいな放っておいてくれよっ!?」
浜辺にモルフェウス能力で特設されたビーチバレー会場。
そこにいるのは遠泳対決をしたものの、まだ若さの有り余っている体力自慢と、人数が足りないからと集められた子供達である。
ケイトは半分やけになりつつ、それでもルールを告げる。
「ルールは普通のビーチバレーに則ったルールでやる。ただし、一チーム二人じゃなくて三人って特別ルールでやるからね。
チーム分けはやっぱり顔なじみと組んだほうがわかりやすいだろうってことで、さっき言ったとおりのチームでやってもらう。
それからエフェクト使用についてだけど、まずは暴走した時点で失格。次に、ボールが一個しかないからボール自体に危害を加えた時点でも失格とする。
もちろん、コートの外の相手チームに直接エフェクトで攻撃しても失格だからね」
「ケイトくん、『糸』でボール拾ったりとかするのは?」
「ボールへの危害、に当たるから却下」
「はいはーい。<漆黒の拳>でアタックの威力上げるのはー?」
「ダメに決まってるだろっ!?なんで大丈夫だと思ってるんだ!」
はぁ、とため息とついて、ケイトは力なく続けた。
「……じゃあ、チームごとに作戦会議開始ー。五分で終わらせてくれ」
はーい、と元気な声が響いた。
<チーム・オリジンの場合>
「まぁ、体力だけでいくなら俺らが負けるわけないよな」
ふふん、と胸を張って隼人が言う。実際問題、参加するチーム中、隼人・椿・狛江の三人組はもっとも身体能力の高いチームである。
白兵系3種と俗に言われるエグザイル・キュマイラ・ハヌマーンが一種ずついる時点で、体を動かすことにおいてはトップクラスであった。
そんな隼人をたしなめるのは、やはり相棒の椿だ。
「隼人。いくら得意分野でも、気を抜いたらだめ。どのチームもそんなことはわかってるんだから、その慢心をつきにくるはず。やるからには勝ちにいかないと」
そう真面目に言う椿に、少しバツが悪そうにわかってるよ、と答える隼人。
これもまた、いつもの通りの光景である。
そしてもう一人。目をキラッキラと輝かせているチームメンバーがいる。
その彼女を見て、隼人がものすごく心配げに尋ねた。
「ところで、なぁ狛江」
「え?なに隼人っ!?あたしは早くやりたいんだけどビーチバレー!」
「念のために聞くが……お前、バレーのルール知ってるのか?」
そうもの凄く心配そうに尋ねられた狛江。
それもそのはず。一応学生生活を送っていたことのある狛江ではあるが、基本的に頭の中は空手のことが9割を占めている。
彼女がそれ以外のことは瑣末事と済ませる脳内構造をしているのは、隼人も椿も把握済みである。
しかし、心配された方はそんなことどこ吹く風である。
狛江はむ、と唇を尖らせて隼人に言った。
「失礼な!あたしだってバレーくらい見たことあるんだから!」
「ほー、意外だ。スポーツは空手以外見ないもんだと思ってたが」
「アレでしょ?とにかく飛んできたボールを地面に叩きつければいいんでしょ?」
「それバレーだけどバレーじゃねぇっ!?」
そのやりとりを聞いた椿が一つため息。
「……狛江。とにかくあなたの近くに上がったボールは叩きつけてもいいよ。ただし、ネットの向こう側の地面に叩きつけるようにだけ気をつけて。後ネットには触らない」
「あ、やっぱりそれでいいんだ?うんっ!それなら頑張っちゃうよー!」
「私が基本レシーブを受けるから、隼人は自分で打つなり狛江にトス上げるなりブロックするなり好きにして。
たぶん、レシーブなら私が一番できると思うから」
「まぁ、そうだな。それが一番無難か……んじゃ、後は相手の出方を見ながら変更ってことで」
そこまで言ったところで、狛江が何かを期待するように手を突き出していることに気づく隼人。
ジト目で率直な感想を漏らす。
「……何やってんだお前」
「え?確かバレーってこういうのチームでやらなきゃいけないんじゃなかったっけ?」
「やらなきゃいけないわけじゃない。あれはまぁなんていうか。そう、気合入れみたいなもんだ」
「んじゃやろうよっ!あたし、バレーやるのもはじめてなんだからさっ!」
形から入るのってどうなんだ、と隼人が肩をすくめて視線を戻すと、そこには狛江の手の上に手を重ねる椿の姿。
……その光景に隼人が見事な足ズッコケをやらかしかけたのは内緒である。
「なにやってんだよ椿っ!?」
「言ったでしょうやるからには全力で、って。ほら隼人も。少しはやる気出して」
いつもやる気のない相棒に対するいつもの言葉に、いつもどおり大きくため息をつきつつ、へいへい、とその手の上に手を重ねる隼人。
いつもどおりのその光景をまぶしそうに確認すると、狛江は嬉しそうに言った。
「チルドレンズー、ファイっオー!」
「狛江、チルドレンズってネーミングはちょっと……」
「もうちょっと捻れよお前」
<チーム・アライブの場合>
紫帆は、あまりの展開の速さにちょっぴり呆然としていた。
司のカキ氷屋台を手伝っていたら、いきなりミナリにずるずる引っぱっていかれ、なし崩し的にビーチバレーに参加することになった彼女。
近くにいたテレーズも連れてこられたのか、ぶつぶつと『だから私は研究畑の人間でこういう体使うのは苦手なんだってば……』とか『逃げようかなぁ』とか言っている。
ミナリは、燃えていた。
具体的にはバレーコートを睨んで某アニメ製作会社の名を冠す立ち方で立っているくらいに燃えていた。
「―――いいですか。紫帆、テレーズさん。私たちのすべきことは、ただ一つです」
困ったように紫帆はえーと、と呟いて答える。
「えーと、優勝すること?」
「そんなことはどうでもいいんです」
一言のもとにずばっと切って捨てられる。はい?と首を傾げる紫帆。
ミナリは負けず嫌いだからビーチバレーでも負けるのは嫌なんだろうと聞いたのだが、紫帆の思ったこととは違ったらしい。
置いてきぼりの紫帆に言って聞かせるように、びしぃっ!とあるチームを指差す。人を指差しちゃいけません。
そこには、男二人に女一人の、このビーチバレーにおいては非常に珍しく男の多い編成のチームがあった。
「あそこを、正確にはあそこにいる二人を矯正することですっ!」
……ビーチバレーでどうやって矯正するんだ。
閑話休題。
紫帆は指差されている二人を見て、言った。
「えーと、以蔵君と勇くんだっけ?委員長は確かに二人のこと苦手そうだもんね」
「苦手じゃありません!あまりのふがいなさに腹が立つんですっ!
聞けば、オーヴァードの自覚もなしに幼馴染にそういう話をするわ、みだりにエフェクトを使い倒すわ、女の子にはとりあえず声をかけるわ……どれだけボンクラなの!?
同じ職場で働きながら、私が彼らにどれだけ目を光らせてたかわかるっ!?」
「あー……そういえば、以蔵君と勇君女性のお客さんには必ず声をかけてたっけ。
もみじさんと委員長が毎回どついては止めてたよね」
えぇ、と頷いてミナリはもみじを見る。
「三室戸さんは、とてもしっかりとした気丈な人です。
アレらと一緒にいることなくきちんとUGNに所属してくれればどれだけの部署が潤うか……。
まぁ、そこは本人の意思を尊重してイリーガルでも全然構わないんですが。
ともかく、それはそれとしてアレらに関わるのは三室戸さんの意思次第なので問題ないのですが、もう少しアレらはUGNとしての意識を持つべきなんです!」
「えーと……つまり、UGN魂を見せてやるってことでいいの?」
「なんですかUGN魂って。
ともかく、やるべきことはただ一つ。私たちの手で、あの二人の精神をぎったんぎったんに叩きなおすことなのっ!」
……はい、と頷くしかない紫帆。
紫帆はこの状況に同じく巻き込まれたテレーズを見た。
ちょっと慰めあおうと思ったのだ―――が。
「くるっくー」
目が点になる。
テレーズのいたところには、彼女がいつも肩に乗せていたミミズクがいる。そのミミズクは白いボードを支えていた。
『ミナリの趣味には付き合ってられないわ。この子を置いていくので頑張ってちょうだい byテレーズ』
byとか結構お茶目だな中枢評議会評議員。
燃えるミナリと能天気にくるっくーと鳴くミミズクの間に立って、なんだか途方に暮れる紫帆であった。
《力の法則》
<チーム・ストライクの場合>
「なんかいいんちょが俺を熱烈に見てる気がするんだけど、照れるな。コレがモテの特権ってヤツ?」
「はっはっは、安心したまえ以蔵君。彼女が見てるのは僕だ、君が照れる必要なんかこの世のどこにもないんだよ」
「……あたしにはなんか睨んでるようにしか見えないんだけど」
もみじ、正解。
ともかく、ともみじは言った。
「まぁ、なし崩し的にビーチバレーやることになっちゃったんだけど……以蔵、勇くん。一言言っとくわ」
「なんだいもみじ。愛の告白か?こんなところで照れるぜ」
「君が照れる必要なんてどこにもないって言っただろう。僕への愛の告白に決まってるじゃないか」
「うるせぇっ、お前はもとの世界の紅葉ちゃんといちゃついてろよっ!
いや、そっちの紅葉も俺のもんだ!なんか本編でもみじはもみじのもんだって言ったようなするけどあれは気の迷いだったっ!」
「……僕の紅葉を愚弄すると、いくら以蔵君でも許さないよ?いや、もともと君にあげる女性なんて一人もないけどねっ!」
「ほほう、許さなけりゃどうするって?アァ?」
「ここで雌雄を決しようか。浜辺に真っ赤な華を咲かせてあげよう」
「人の話を聞きなさいあんたら」
額をつきつけおしへしごりごりさせている二人の上に、重力で強化された二刀流ハリセンが飛ぶ。
もちろんやったのはもみじだ。
シャルやモルガンがいればツッコミをそっちに任せることもできるのだが、シャルはあの事件後すぐに帰国、モルガンは今もアキバでログイン中である。
砂に頭をうずめた二人をジトッとした目で見て、ハリセンを片方しまい、ソラリスっぽく二人にエフェクトを使用して感情を沈静化させる。
「で、人の話を聞く準備はできたのかしら?」
「ふぁーい」
「イケメンチェンジ!はいはい、どうぞもみじさん」
おのおのの返事を返していそいそと焼けた砂浜に正座する二人組。返事が違うだけでほとんど対応の変わらない奴らである。
ため息をつくと、もみじは腰に片手を当ててびしっと人差し指を立てる。
「とりあえず、相手の女の子に目を取られないこと」
「なんだよ、ヤキモチか?」
「ふふ。もみじさん、かわいい」
「ハリセンでホームランされたくなかったら少し黙ってて二人とも」
ぶんっと素振りした姿は場外にもって行きそうなホームラン狙いのフルスイング。
本気で球扱いさせられかねないと理解したのか、二人は黙りこくる。
よろしい、と言って、彼女は続ける。
「いい?このビーチバレーって、男女比1対2くらいなの。女の子オンリーのチームもあるくらいだしね。
だから、ちゃんとボールだけ見てなさい。女の子に見とれるのは禁止。見蕩れたらその時点で私の拳で殴り倒すわよ」
「なんだよ、やっぱり俺へのヤキモチか。かわいいぜもみじ」
「僕へのヤキモチを焼いてくれるとは思いませんでした。やはり、あなたも僕に……」
おぉっと。バッターホームラン予告ですね。彼女調子いいみたいですしね、どう思いますか。
えぇ、今の彼女ならビーンボールでもホームランできそうな気がしますよ。
「ま、待ったもみじ!そのフルスイングは人間に向けるもんじゃなくてボールに!ボールに向けてっ!?ねぇっ!?
「そ、そうですもみじさん!それに確か選手への攻撃は禁止のはずではっ!?」
「ナイス勇!そうだよもみじ、そんな物騒な攻撃は人に向けちゃいけないんだぜっ!?」
「残念ね。禁止なのは―――相手コートへの攻撃限定よっ!」
かっきーん、という音が場外まで聞こえそうなフルスイング。二つの大物が浜辺に舞う。
39℃の蕩けそうな日、炎天下の夢Let's Go Let's gameだった。
……ビーチバレーやれよお前ら。
しえ
《サモン・アラクネ》
<チーム・エクソダスの場合>
真也はとりあえず他チームの惨状を見た後、たずねた。
「……なぁエミリア、アイヴィ。君たちはちゃんとバレーボールのルール知ってるよね?」
オーヴァードに常識は通用しないとか思ったのかもしれない。たぶんそれは至極正しいが。
その言葉に、エミリアは唇を尖らせる。
「むー。なに、真也ってば知らないの?イタリアはバレーのプロリーグまであるんだから。
うちはそんなに裕福じゃなかったけど、基本的なルールくらいはわかるよ?」
「あぁ、そういえばエミリアはイタリア出身だっけ。だったら安心かな。アイヴィは?」
X島を脱出するまでの話を聞いてはいた真也はそれで納得する。スポーツ関連の知識はアスリートの真也は強いのである。<知識:スポーツ>持ってなさそうだけど。
アイヴィはしばらくきょろきょろしながら、あれーテレーズがいないー、と呟いていたものの、真也の問いに答える。
「え?あ、はい……そうですね、見たことはあります。何回か招待状をいただいて、先生に気分転換に連れて行ってもらったことがありますんで」
「そうか。なら少しはルールわかるね。まぁ……こんなこともそんなにないだろうから、楽しみながらやればいいんじゃないかな」
ぐるん、と腕を回しながらそう言う真也。
それに不安そうな顔をしていたアイヴィはくすりと笑って言った。
「うん、そうですね」
「そうそうっ!一緒にたのしもーよ、アイヴィ」
「せっかく海に来たんだし、僕らは思い切り楽しもうよ」
笑顔で頷く少女達。
夏の海でのビーチバレー、それは日常を奪われた彼らにとってはかけがえのない夏の思い出になることだろう。
「とにかく飛んできたの全部打つよっ!」
「バレーのルールに則りさえすればなにしても問題ないんですよね。ふふ、ふふふ」
「あーもう。他の皆さんに迷惑かけないようにやんなきゃダメだって言ってんでしょうが」
……相手が日常を逸脱しまくってる、というのはこの際目をつぶった方がいいような気もする。
支援 神獣撃
支援
>549 それは支援じゃねぇw
<Watermelone Clash!>
ミミズクに後を任せてきたテレーズはため息をつきながらてぽてぽと歩いていた。
まったく、肉体派チルドレンだのFHの改造人間だのと体を使って競い合うなんてちょっとありえないわー、となんだか俗世間に染まった発言をするが、聞く者はいない。
いつもなら独り言もミミズクが聞いてくれるのだが、ミミズクは今ビーチバレー中である。聞いてはいない。
と。
「あれ、テレーズさんじゃないですか」
そう声をかけたのは休憩をしていた結希だ。今は白いパーカーを羽織っている。
結希はテレーズと同じく若いながらもUGNで高い地位につく人間だ。彼女にとっても少し近しい立場の人間である。
テレーズは親しげに笑うと、答える。
「結希。あなたは遊ばないの?」
「午前中、はしゃぎすぎちゃいまして。今はちょっと疲れたし、ご飯の配達を頼んで休んでたところなんです」
ケイトさんもあの通り審判してますし、と結希。
あまり体力があるほうではない少女である。その上彼女自身は限界突破するまで走るタイプでもないため、無理なものは無理だとはっきり認めて休んでいた。
ふぅん、と笑ってテレーズはからかう。
「遊ばないのは疲れたから?それともご意中の彼が構ってくれないから?」
「て、テレーズさんっ!なんかキャラ違いませんかっ!?」
「朝から薫の相手して疲れてるのよ。雄吾の策略にもはまってる状態でちょっと鬱憤も溜まっててね、少しくらい鬱憤晴らしさせなさい」
きゃいきゃいと二人の少女がじゃれあっていると、そこに声がかかった。
「結希ー、結希ー……って、そちらの方はどなたでありますか?」
ノーチェだ。不思議そうな彼女に、結希が笑顔で答える。
「テレーズ・ブルムさんって言うんです。UGNで……そうですね、私と同じお友達って言えばいいですかね」
その彼女の言には、テレーズもまたオーヴァードである、という意味が込められている。
それを正確に理解したのかしないのか、そもそもそんなこと心底どうでもいいと思っているのか。ふぅん、の一言で終わらせると、いつもの能天気な笑みで自己紹介。
「はじめましてであります。わたくし、ノーチェでありますよっ」
「―――そう。はじめまして、ノーチェ」
これが雄吾の言ってた『協力者』か、と心の中で呟くテレーズ。
彼女は、霧谷から今回の事件には男女一名ずつの『協力者』が『違う場所』から来ており、彼らはこの夏が終わるともとの場所に戻る、という話を聞いていた。
ここ一年の間に特異点をめぐる戦いが日本で起きたりしたせいもあり、UGNでは『違う世界』が存在することも受け止められている。
だからこそ、『違う世界』に対する考えも若干緩めになっており、テレーズ自身は触らぬ神にたたりなし、といったように受け止めている。
彼女がここにいるのは、『違う世界』をFHに悪用されても困るため彼女自身までで情報を握り潰し、これ以上人の目に触れないようにするためでもある。
その、割と大事の中心にいるはずの『協力者』は、なんだか毒気を抜く笑顔でテレーズを見た。
霧谷から彼らの安全性自体は保障されていたが、確かにそこまで危機感を抱かなくてもいいか、と考えてよさそうにも思う。
そんなことはまったく気にせず結希が問い返す。
「それで、ノーチェさん。私に何かご用があったんじゃないんですか?」
「あ、そうそうでありますっ!えーと……」
《崩れずの群れ》
しえーん
554 :
ゆにまほ中身:2008/09/21(日) 15:16:11 ID:Cv4MDO2D
まぁ、覚悟してたがさるさんorz
くそぅ、壁がっ……壁が厚いっ!
くんずほぐれつの群れ
>554
期待してた
支援 《エンチャントフレイム》
さるさんktkr
・・・お疲れ様です
・・・今のうちに読んで追いついておこう
これだけレス数来てれば解除されるんじゃないのかな?
と思いつつ、≪エア・ブレード≫!
と言ってノーチェは月衣に手を突っ込む。
その光景に研究者として少し興味を引かれるテレーズ。月衣自体の報告は聞いていないため、これが『協力者』の能力なのか、と興味津々だ。
よっと、と彼女が掛け声とともに引きずり出したのは、ビニールシートと、白い鉢巻のような細長い布、どこから調達してきたのか10フィートほどの木の棒と―――
「……スイカ?」
「はいでありますっ!」
彼女の水晶球ほどの大きさはあろうかという、巨大なスイカであった。
テレーズはこの組み合わせを見ても上手く結びつかないが、結希はあぁ、と手をつき答えた。
「なるほど、スイカ割りですね!」
「ざっつらーいでありますっ。日本では海に来たらみんなスイカ割りを楽しむものだという話を聞いてたものでありますからわたくしも景気よくすっぱりと割ろうかとっ!」
「いえ、さすがにみんながみんなやるわけではないんですが……」
違うのでありますか?と素で尋ねるノーチェ。つーか当たり前だ。そんなことしてたら日本中の砂浜が真っ赤に染まるわ。
結希は苦笑しつつ、再び尋ねた。
「それで、なんで私を呼んだんですか?」
「確かスイカ割りは一人でやるものではないでありましょう?誘導してくれる人がいないとただの修行になるでありますし。
だから、結希も一緒にやらないかと誘いに来たでありますよ」
なるほど、と結希は頷くとパーカーをきちんと着直して笑顔でいいですよ、と答えた。
「私もヒマですし、実はスイカ割りするのも初めてなんです」
「ならちょうどいいでありますなっ!テレーズもヒマを持ち余してる口でありましょう?一緒にやるでありますよっ!」
え?と疑問を投げかけるよりも早く。ノーチェはテレーズの手を掴んで広いところへ向かって駆け出した。
***
「では。一番手ノーチェっ!いくでありますっ!」
どこかの丸いカエル軍曹が好きで仕方なさそうな台詞とともに、目隠しをしたノーチェが棒を手によたよた歩きだす。
参加に快く答えた結希も、なし崩し的ながらもやるからには真剣なテレーズも、一生懸命声をかける。
「あ、違いますよっ!右右、もーちょっと仰角ですっ!」
「そこは石があるわっ!……もう一歩大きめに、そう!」
ふらふら、ふらふらとよためきつつ、ノイマンの計算で完璧なポジションへと誘導されたノーチェ。
時々間違ってもみじの崩した岩山に突っ込みかけたりと危ない橋を踏みつつも、結希の今ですっ!という言葉を信じて彼女は棒を振り下ろ―――
「隼人、トス!」
「あいよっ!狛江、行けっ!」
「りょーかいっ!一番、辰巳狛江いっきまーす!くらえ、オーバーヘッド……回転蹴りぃっ!」
―――そうとした時、横合いからあらぬ方向からすっ飛んできた超高速回転するバレーボールが頭に直撃。ものの見事に吹っ飛ぶノーチェ。
あわてて駆け寄る椿。呆然としている結希とテレーズと対コートにいるチーム・エクソダスの面々。狛江を叱る隼人と、ごめんごめん、と謝る狛江。
そんな中、ケイトの冷静な声がむなしく響く。
「えー……これはセパタクローじゃなくてあくまでビーチバレーなんで、足アタックは禁止としまーす。危険だし。
あと、結希に間違いでも当てたら僕と手加減ナシのガチ決闘してもらうんでよろしくー」
状況が混乱しております。今しばらくお待ちください。
***
「いやー、おばあ様が川の向こうから手を振ってて、グレートピレネーが名画の前で疲れたよってそりを引っぱってくるのが見えた時はどうしようかと思ったでありますよ」
「まったく、心配させないでよ。心臓が凍ったわ」
のーてんきに戻ってきたノーチェと、それを困ったようにため息をつきながらのテレーズ。
飛んできたバレーボールによって大きなたんこぶはできたものの、結構普通に復活していたりする。すごいぞノーチェ。
ともあれ。スイカが割れてないのでスイカ割り続行である。
今度の挑戦者は結希だ。いきますよー、と一声上げると、ふらふらしながらも着実にスイカのほうへと歩いていく。
ノイマンとしての能力をフル活用し、方向や歩数などを完璧に計算して歩いているようだ。
「いやぁ……すごいでありますな、結希」
「仮にもノイマンのピュアブリードだもの。あの程度のこと造作もないわ」
そう平然と言った後、テレーズは少し哀れむように結希を見た。
「……まぁ。結希の場合、計算を超えるものが出て失敗する、っていうのがいつものことなんだけど」
テレーズが言い終わると同時。
計算上の最後の一歩を踏み出そうとした結希の足元にはバナナの皮が!
滑った。
それはもうきれいにつるんっと。
はにゃぁっ!?と鳴き声が砂浜に響いた。
なお、浜辺にバナナの皮を投げ捨てた以蔵がケイトにマジでガチバトルさせられたのを追記しておく。
結希にケガはなかったので3割殺しくらいで済まされたようではあるが。
……合掌。
支援 フォースシールド!
***
で。とテレーズはため息をついて告げた。
「結局、私もやることになるわけね」
「こういうのは参加することに意味があるんですって。結構楽しかったですよ?」
「はーい、それじゃ目隠しするでありますよー」
有無を言わせず巻きついていく白い布。
目を開けても、まったく先の光景は見えない。ふぅ、と一つため息。
「わかったわよ。やるからには割っちゃうけど、いいの?」
「おぉ、予告スイカ割りでありますなっ!カッコいいでありますよテレーズ!」
「というか、テレーズさんに割ってもらわないともう一週しなきゃいけなくなるんでむしろ割ってやるよくらいの勢いでお願いします」
はしゃぐノーチェ、苦笑の結希。
ともあれ、テレーズのチャレンジがはじまった。
さく、さく、と一歩ずつ歩みを進めるテレーズ。その歩みのたびに、ノーチェと結希から修正が入る。
それを正確に把握し、少しずつ角度を直し、ストップ!という言葉とともに足を止めた。
後は微妙に修正をかけて、一つため息。
「いくわよっ!」
大上段から、思い切りその手に握った木の棒を振り下ろす―――っ!
ぱこ。
……はい?という言葉が異口同音に三つ、吐き出された。
テレーズがあわてて目隠しを外す。
木の棒は確かにスイカに当たっていた。それを結希もノーチェもちゃんと見ている。のに。
「な、なんでっ!?なんで割れてないのっ?」
「実はあのスイカものすごく固いとか?」
「いやいやふっつーにスーパーで売ってたスイカでありますからな?」
ぱたぱた、と手を振るノーチェ。
ちなみにテレーズは耳まで真っ赤になっている。予告スイカ割りしといてできなかったのがそんなに恥ずかしかったんだろうか。
と、そこへ。
「なにやってんだお前ら」
声をかけた人間がいた。
そこにいたのは湯気のたつ深めの紙皿と割り箸を載せたトレイを持っている柊がいた。
「柊さん。なにやってるんですこんなところで」
「なにって……支部長さんがメシ運んで来いって言ったんだろうが。ほい、海鮮鍋とおにぎり三人分」
「あれ。テレーズさんとノーチェさんの分も持ってきてくれたんですか?」
「ちょうど三人でなんかしてるみたいだったからな。何度も往復すんのメンドいだろ」
ほい、とトレイを置くと、呆然としているテレーズとその状況を見て、一言呟いた。
「スイカ割りか」
「そうでありますっ!ただ、棒当たったのにスイカ割れなかったのでありましてな?」
ふぅん、と頷いてスイカに近寄り、ぺちぺちと叩く。
「スイカ自体は普通な。当たったとこへこんではいるし。単に力と当たり所の問題だろ」
「そうでありますか……あ」
何かに気づいたようにぽん、と手を叩いてノーチェは柊に何か期待するように目を輝かせている。
別に仲間になりたがっているわけではないだろうが、これまで一度も外れたことのない嫌な予感に従い、彼はたずねた。
「で?お前は何を期待込めてこっちを見てるんだ?」
「蓮司、ちょっと魔剣をお貸し願いたいのでありますよ」
「……一応。何のために使おうとしてるのか聞かせてもらおうか」
「魔剣でスイカをちょちょーいと」
「人の魔剣を包丁代わりに使おうとすんなっ!?」
柊、魂の叫び。
自分の半身をそんなことに使われればさすがに情けなくもなるだろう。
閑話休題。
ぶすっとした仏頂面で、彼はノーチェに告げる。
「あのな、もし貸したとしても魔剣だぞ?俺以外にまともに扱えるわけねぇだろうが」
「そーゆーものでありますか?」
「そっち側詳しいお前が知らないのは意外だな。
魔剣ってのは持ち主を選ぶもんだ、基本的に選ばれてる担い手以外じゃ使うのは無理。
気性の荒いじゃじゃ馬なら、担い手以外は触ることすらできねぇよ」
魔剣。
担い手を選び、それと共に夜闇を切り裂く成長する剣。
それらは自ら担うものを選ぶゆえか、それに値せぬ者に対してはその力の欠片すらも与えることはない。
柊の魔剣もまた例外ではない。魔を断つために存在するその意義を、スイカ如きに使われるのは心外だろう。
ノーチェは魔法的な知識はあれど、そういった近距離戦を得手とするウィザードの能力や詳しい事情などにはやや疎い。
逆に柊は特に魔器の専門だ。そちら側、武器知識などはそれなりにある。遠距離武器となるとちょっと厳しいが。
柊の説明にふぅん、と頷いてノーチェはたずねる。
《プリズムアップ》
しえ
「じゃあ、蓮司がスイカを魔剣で―――」
「ぜっっってーイヤだ。
……つーか、ともかくスイカが割れればいいんだろ」
ため息とともに彼は軽く拳を握る。
せいっ!と気合とともに拳でスイカを打ち抜く。ぱかん、と割れるスイカ。おぉぉぉー、と結希とノーチェ拍手。
ぶんぶん、とスイカの赤い果汁まみれになった右手をふりつつ、まだ呆然としたままのテレーズを見た。
スイカが割れなかったことが残念だったのかな、と脳内で補完すると、彼女の背中を左手でぽん、と軽く叩く。
「スイカ割りってのはスイカに棒当てたらそこで終わりなんだから、お前の勝ちだろ。あとは割れたスイカと鍋でも食べてな」
「なっ、な……別に落ち込んでなんかいないわよっ!」
「お。そんだけ元気ありゃ大丈夫だな」
んじゃ、俺はまだマーヤの手伝いがあるから、と結希に言うと、柊はトレイだけ持って戻っていった。
ノーチェがのーてんきに喜ぶ。
「やった、スイカ割れたでありますよ。あとは思う存分貪るだけでありますなっ!」
「割れたっていうか……確かにスイカ割りですけど、拳で割る人はじめて見ましたよ」
苦笑いしながら、結希がそう言うと―――テレーズが彼女の肩をがしっと掴んだ。
「……て、テレーズさん?どうしたんです」
「―――ちょっと結希?あの無礼な男は一体なに?」
「なにって……き、霧谷さんから聞いてません?柊蓮司さんっていうんですけど」
「ノーチェと同じ、『協力者』ってヤツね?この夏が終わったらどっかに帰るっていう」
こくこくこくこく、と首を縦に振るしかない結希。
柊、蓮司、と名前を呟いて、力なく結希の肩から手を下ろす。
ほっとため息をついた結希に、ノーチェの言葉がかかる。
「結希ー、結希ー。蓮司が持ってきたごはん、冷めないうちにいただくでありますよ」
「あ……はぁい。ほら、テレーズさんもいただきましょうごはん」
「……そうね。とりあえず、いただくわ」
てぽてぽてぽ、と力なく結希の後ろをついて歩くテレーズ。
うつむいていた彼女の顔を見れたものは、いない。
支援!ジェットストリームはわっ!
はわシスターズ
赤羽くれは/高槻やよい/諸葛亮孔明・朱里「「「はわ(わ)っ〜!?」」」
いでよ 支援ろん
しぇしぇ
《デジャ・ヴュ》
>568
はひ分が混ざってる
573 :
ゆにまほ中身:2008/09/21(日) 15:48:58 ID:rPC82H4q
その2、なんとか投下終了……。
ベッキーといいテレーズといい、別に柊ロリなわけじゃないのにちびっ子が寄ってくるのは奴がお兄ちゃん属性だからだろう。たぶん。
さーて、470超えちゃいました。スジならおいらが立てるべきなんだろうけど、ダメだったorz
どなたか協力してくださるとありがたいっス。
574 :
ゆにまほ追記:2008/09/21(日) 15:50:49 ID:Cv4MDO2D
次は5時15分前開始予定ッス
じゃあちょっと試してくる
鯖変わりまくってるからきをつけてー
えっと、ちょっと投下したい作品があるのですが、ダメでしょうか?
16時20分当たりから投下したいのですが、自分が投下すると時間被ってしまいますね。
ORZ
【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.12
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1221979917/l50 _,--、_
, -―'――-- 、`r‐-、
/ ヽ.‐-、ヽ
/ , \ i `}
j / ,ハ 、 ト、ヽ. Y´ ̄,ハ
i { j ⌒ヽ!\i`ヽヘ. /`ヽ./=}
ヾ小{ ● ● ル'ミ、 y'ミ、} 仲良く使ってね!
{ミl⊃ 、_,、_, ⊂⊃-、 >'=_} j
/⌒ヽ.トミ、}、 ゝ._) ,i`ヽ./⌒i=、}
\ j``ヽ_,.>、 __, イ、{=、j /ミ/
Y ト} ヌ/_j_:j_|ヨ ゞ'、_,.ヘZ'
´ ̄ヽk} K|≧≦/ヲ 、_彡'
579 :
ゆにまほ中身:2008/09/21(日) 15:57:28 ID:Cv4MDO2D
分量によりけりかな。
10〜20ならどうぞこちらで。自分は新しいスレ待ってそっちに、でなんとかなるし。
,.-、  ̄ ̄ /: : y/o i: / : :|: :ヽ:、`ノ´
ヽ__,〉 ,...:;'/: : : : /io レ: : : :|:_;.ノ:.ト '
,|: ;!; : : ://o |: : : :,トヘ,イ
,...:'´:[;.ィ': :/´7┴r;‐┬- |: : /:〉イ: :ヽ. スナイプ
,...:'´: : :,ノ:./イ´ / // | |: :| :|:〈: : : :ヽ. 保 管 完 了
<: : : : /:/:/ / ‐-ィ-‐ ヽ ヘ: ヘ:ヽ: ヽ.: : : :ヽ.
ヽ: └'/::::/ / /ヽ. ヽ ヽ: ヽ:ヽ;、 、: .;.-‐ヽ ●「ゆにばーさる」と魔法使いの夏 完結編・その2 (分割)
ヽ/` ソ / /:::::::ヘ. ヽ ヽ :<ぐ;>.>. -‐‐`
/ / /`ー--ヘ ヽ ヽ.: :>'´
/`i / / / ヽ. ヽ ヽ
`-' >./_,.ィ‐-' ヽ ヽ 〉
/:::;. '´ ヽ‐-、-'`:l
`´ \_|
25KBなんです。
向こうで投下しますね 申し訳ない。
あ、あと内容は型月とNWのクロスバトルSSです。
時間は四時20分当たりからでいいでしょうか?
ゆにまほの人、
>>578ぐっじょぶ。
そうか、テレーズも一応、中の人は王子かw
さて、こっちはどうしようかね
いつもどおり小ネタで埋めるとか
あと20弱だから何か投下するにも微妙だし
585 :
埋めネタ:2008/09/22(月) 06:05:41 ID:xlf4eG1r
「貴様に相応しいソイルは決まった…!」
「髪染めし青春の反抗! ダウナーズブラウン」
「罪深き天然の回避! フラグブルー」
「盟約守る不屈の闘志! ルビーフレイム」
「下がれ! 召喚獣ヒイラギ=レンジ!」
柊「だから、種族名みたく言うんじゃねぇぇぇ!?」
出典:FF-アンリミテッド
侵魔召喚師も奇特なもんを使役したもんだのう
梅
_,--、_
, -―'――-- 、`r‐-、
/ ヽ‐-、ヽ
/ \ i `}
/ / Y´ヽ ,ハ
i { ハ、 |ヘ.ハ、 i`ヽ/=}
! ハ | ノ \i `ヽヘ /ニミk_ハ
ヾ小{ ● ● レ'ミ、 y'ミ トj SSに出番が欲しい……
{ミl⊃ 、_,、_, ⊂⊃-、 >' ンミ}
k/⌒!,、 __, イ、{=、 /=jミ/
/ //_j_:j_|ミj ゞ;'ヽシ Z'
/ /K|≧≦/ヲ j 〉ト'
_,--、_
, -―'――-- 、`r‐-、
/ ヽ.‐-、ヽ
/ , \ i `}
j / ,ハ 、 ト、ヽ. Y´ ̄,ハ
i { j ⌒ヽ!\i`ヽヘ. /`ヽ./=}
ヾ小{ ● ● ル'ミ、 y'ミ、} よし決めた、地球を滅ぼそう!
{ミl⊃ 、_,、_, ⊂⊃-、 >'=_} j
/⌒ヽ.トミ、}、 ゝ._) ,i`ヽ./⌒i=、}
\ j``ヽ_,.>、 __, イ、{=、j /ミ/
Y ト} ヌ/_j_:j_|ヨ ゞ'、_,.ヘZ'
´ ̄ヽk} K|≧≦/ヲ 、_彡'
地下に行けば目立ってるさ
ルーとルルーのルー。
ごめんなんでもない
_,--、_
, -―'――-- 、`r‐-、
/ ヽ‐-、ヽ
/ \ i `}
/ / Y´ヽ ,ハ
i { ハ、 |ヘ.ハ、 i`ヽ/=}
! ハ | ノ \i `ヽヘ /ニミk_ハ
ヾ小{ ● ● レ'ミ、 y'ミ トj まだ埋まっていない……
{ミl⊃ 、_,、_, ⊂⊃-、 >' ンミ}
k/⌒!,、 __, イ、{=、 /=jミ/
/ //_j_:j_|ミj ゞ;'ヽシ Z'
/ /K|≧≦/ヲ j 〉ト'
_,--、_
, -―'――-- 、`r‐-、
/ ヽ.‐-、ヽ
/ , \ i `}
j / ,ハ 、 ト、ヽ. Y´ ̄,ハ
i { j ⌒ヽ!\i`ヽヘ. /`ヽ./=}
ヾ小{ ● ● ル'ミ、 y'ミ、} よし決めた、地球を滅ぼして埋めよう!
{ミl⊃ 、_,、_, ⊂⊃-、 >'=_} j
/⌒ヽ.トミ、}、 ゝ._) ,i`ヽ./⌒i=、}
\ j``ヽ_,.>、 __, イ、{=、j /ミ/
Y ト} ヌ/_j_:j_|ヨ ゞ'、_,.ヘZ'
´ ̄ヽk} K|≧≦/ヲ 、_彡'
うめぴーっ!
梅干しとピーナッツか
(/ \
/\ ,,-──-- 、 〈V〉 \
/ /''"───---- 〈∧〉 ヽ
/ /::::/:::/:::::/:::::::l::::::l:::l:::、\ ヘ
l .|::::/:::::l:::|::|:::::::::}:::::j:::l::::l::::ハ. ハ
{ r-v|::::ハL::l::L:l:.:.:.:.:l_::ノルLイ::l\| }
{ {:::_.ト l ィo^ヽ ヘノ .ィo^ヽ',|:::}:::::lー、. | 梅干しどうぞ
ゝ.L::_>V::〉l:::::::r} l:::::::r} |r L了::::冫 .|
\V::::::::ハ ゝ_ン ゝ_ン .lヽ∧ヾ./ ノ
|:::ハ::リ _ ー'ー' 人|_  ̄ ./
ヘ:{\lヽ{_.) ____.. イ入リV- '"
イ Kl 大∧ (##)
.{─‐}、了リ |\rー(##)(##)--.、
`ーイハ..Y人l\l===,テー─‐‐ '′
/:::〉-'' 人-〈__  ̄
「:::::/::Y: ̄Y´:::::::::::冫
ヽ∠:::|:::::::::l::::::::::::Y
 ̄ニrル-ルr'"
ト| ト|
U U
それは信玄餅では
_,--、_
, -―'――-- 、`r‐-、
/ ヽ‐-、ヽ
/ \ i `}
/ / Y´ヽ ,ハ
i { ハ、 |ヘ.ハ、 i`ヽ/=}
! ハ | ノ \i `ヽヘ /ニミk_ハ
ヾ小{ ● ● レ'ミ、 y'ミ トj まだ埋めなきゃならない……
{ミl⊃ 、_,、_, ⊂⊃-、 >' ンミ}
k/⌒!,、 __, イ、{=、 /=jミ/
/ //_j_:j_|ミj ゞ;'ヽシ Z'
/ /K|≧≦/ヲ j 〉ト'
_,--、_
, -―'――-- 、`r‐-、
/ ヽ.‐-、ヽ
/ , \ i `}
j / ,ハ 、 ト、ヽ. Y´ ̄,ハ
i { j ⌒ヽ!\i`ヽヘ. /`ヽ./=}
ヾ小{ ● ● ル'ミ、 y'ミ、} よし決めた、下がる男をいじって埋めよう!
{ミl⊃ 、_,、_, ⊂⊃-、 >'=_} j
/⌒ヽ.トミ、}、 ゝ._) ,i`ヽ./⌒i=、}
\ j``ヽ_,.>、 __, イ、{=、j /ミ/
Y ト} ヌ/_j_:j_|ヨ ゞ'、_,.ヘZ'
´ ̄ヽk} K|≧≦/ヲ 、_彡'
/ __
/' ,.-‐ ´: : : :`ヽ、
ー=,=-: : : : : : : : :`ヽ.
/: : : : : : : : 「r: : : : : : : : : :、:ヽ
/: : : : : : : : : : |:{|: : : : : : : : : : !: i
/イ : : : : : : : : : : |:\: : : : : : : : : ヽ:!
´ /: : : : : : : |: : ,イ:ハ : `i、: : :、: : : : : :ヽ、
,':,: : {: : : : ハ: :|、i| |: : ト、:|、:|、: :}: : : iヾ、
|ハ: : | : : 、|-Vtッミ、ヘ: :| ーkッ、|ヘ:|: :j: } なぜそーなる!?
ヽ|:、:ヽ:| `ー '´ ヽ! `ー'´ } ;イ; !
ヘト、ト.ヽ """ | "" u |//|ノ
i`ヘ ' /:´ハ|
ヽト:`、 ,:‐:‐:‐、 ,.': ;イ!
ハ: :iヽ.  ̄ ̄ /{;イ、'
__/! ヘ! \__,/ ! i`i 、
, : '´: /: | ト ヽ / |: ヽ: `ー- 、 _
__,..'´: : :/: :| ,イiヘ、 ` //7.、| : :ヽ: : : :`: 、
,.-‐‐,ァ'´: : jレ': : : :_: : :.ヽ、
/ ,.:':´: : : : :/;':./: : :ヽ: : : : :ヽ.__
j /:::/: : : ;ヽ!::|;ヘ: : : : : :ヽ>、: : ヽヽ.
`y'、,/:::/;::j:|ヘヾl,ソ-\;...ヽ`,,ヽ:!:::::.i `、
,/::y:., ,.....,....ト、 ヽ'、::::::::::|:|::::::|
-‐'j:::::|:::l::|:::::|::::| ヽ. | !ヽ::::::::|:|::::::}、
O 。 ハ::::|::|::|:::::|、:.| ` ,.、_|_i ト、:::ト、:::ハ.
o | 、:ヽr、:::::|-ヽ-‐ |_.!`ナ ヽ};i:::ヽ::ゝ うみゅ……お布団に埋まっていたい
}::::{ jkゞ、___' '‐ャ=;.'ア7/>〉:ト;、:ト、
○ /'7::::.>"`ヾヽ_` ` ̄,イ_,/:::;リ|j
,、_ ノ'y' y' / ハヽ , /::i::;::/ '
/::::::`::‐'-、 }`</イ,イ._‐- ///'从
/:::::::::::::::::::::::\ ン'イィ-;-' - ' |;イr.'
. /::::::::::::::::::::::::::::::::::`V::::::、' ! !ヽ::ヽ. o
_>'`―‐-、::::::::::::::::::::/:::::::::`、 `i:ヽ.
ヽ;:::::::/{::::::::::::::i‐ ,.‐-- ノ:::::::ヽ__
, ' / );/| フ::::::::::ヽ. j:::::::::ト、_:> \
なんか梅料理ありませんか? エリスさま
梅サンドか!
あかりん
「…サンドウィッチなんて……えっちぃ…(ガンナーズブルーム)」
じゃあ、大阪梅田で何か飼ってこようか。
●-●―っ
ソースって、男の子の味だよな
,: :´ ̄ ̄ ̄ ̄: :`.、
/(__: : : : : : : :/\
/__.二二二二二. __i
/: : : ,: : : : : : : : : : : : : :}: : : : :}
/ : : : :{∧;Aレ;{: : :/ヽA: :}: : :i : !
_人_ {j'{: : : ト┬‐┤|::./┬‐┐| : : | : |
`Y´ {lヘ: : : { 弋丿 レ 弋丿イ: : :.|: :|
{| jハ ⊂⊃ ⊂⊃: : : :|: :| それは ひみつ ひみつ ひみつ
l j{: : :}ヽ. ヽフ ノ:j: : : :i: :|
|.l: : :|: :,>;‐〈 ̄〆ヘ}: : : :| :.i
|:|:||三三三三:三:三{j: : :.|: :|
l: |||. うなぎパイ .||: : : |: :|
j: :i|| ノ'(⌒j l|: : : |: :|
く__,.ヘヽ.
| | | , - 、
{ l | {,.ヘ. \
,」_,i }, ̄ ̄||_ j|\ _j
/ / ハ/ \ハヘ
|i │ l |ノハヘ 人ノソリ从ハ
|i | 从 ● ● l小N ひみつのイっコちゃん♪
|i (| ⊂⊃ 、_,、_, ⊂li|ノ
| i⌒ヽ j V ノi|__/⌒)
| ヽ ヽ>、 __, イl | ヽ/.
| ∧__,ヘE{ <,.ロ、>}ヨ ハ l、_ノ
| ヾ ッE{ <ハ.>.}ヨ } ノ
_,--、_
, -―'――-- 、`r‐-、
/ ヽ‐-、ヽ
/ \ i `}
/ / Y´ヽ ,ハ
i { ハ、 |ヘ.ハ、 i`ヽ/=}
! ハ | ノ \i `ヽヘ /ニミk_ハ
ヾ小{ ● ● レ'ミ、 y'ミ トj まだ埋まっていない……
{ミl⊃ 、_,、_, ⊂⊃-、 >' ンミ}
k/⌒!,、 __, イ、{=、 /=jミ/
/ //_j_:j_|ミj ゞ;'ヽシ Z'
/ /K|≧≦/ヲ j 〉ト'
_,--、_
, -―'――-- 、`r‐-、
/ ヽ.‐-、ヽ
/ , \ i `}
j / ,ハ 、 ト、ヽ. Y´ ̄,ハ
i { j ⌒ヽ!\i`ヽヘ. /`ヽ./=}
ヾ小{ ● ● ル'ミ、 y'ミ、} SSに出番がないからだ
{ミl⊃ 、_,、_, ⊂⊃-、 >'=_} j
/⌒ヽ.トミ、}、 ゝ._) ,i`ヽ./⌒i=、}
\ j``ヽ_,.>、 __, イ、{=、j /ミ/
Y ト} ヌ/_j_:j_|ヨ ゞ'、_,.ヘZ'
´ ̄ヽk} K|≧≦/ヲ 、_彡'
あ、じゃあ俺に電波飛ばしてくださいルー様。いい案あったら書くかも
_,--、_
, -―'――-- 、`r‐-、
/ ヽ.‐-、ヽ
/ , \ i `}
j / ,ハ 、 ト、ヽ. Y´ ̄,ハ
i { j ⌒ヽ!\i`ヽヘ. /`ヽ./=}
ヾ小{ ● ● ル'ミ、 y'ミ、} これから地球を滅ぼしに行くから後よろしく
{ミl⊃ 、_,、_, ⊂⊃-、 >'=_} j
/⌒ヽ.トミ、}、 ゝ._) ,i`ヽ./⌒i=、}
\ j``ヽ_,.>、 __, イ、{=、j /ミ/
Y ト} ヌ/_j_:j_|ヨ ゞ'、_,.ヘZ'
´ ̄ヽk} K|≧≦/ヲ 、_彡'
_
Ψ
| 圏外
,'´r  ̄ 〉
i 〈ノノハ)))
| l|| ゚ヮ゚ノl|
ノ /ヽ y_7つ) はわ?
(7i__ノ卯!
く/_|_リ
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ヽ `ー-x___ _/ .|
\. `<{ .l| |
} | ‖ リ
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ノ==ァ >=ニ ̄ ̄ ̄ ̄`丶、
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./.:.:.:.:.:/.:.:.:./.:.:.:∧ :ヘ.:.:|.::.〈トイ.j } トイi.}´/::/ .〉、 \
./:.:.:.:.:/.:.:.:./.:.:.:./ ヽ.:.:ヽ\弋zン 弋ン イ.! :.:/ r、\ \
/::.:.:.:./.:.:.:./.:.:.:./ \.:.\ヽ:::::::: , :::::::: | | :/ 〉 ̄ ̄ \ あたしもクロスSSに出演したい……
./.:.:.::/::::::/.:.:.:.:/ 八ハ. ┌‐┐ / .l/ { 二ニ \
/::::/.:.:.:.:./.:.:.:.:.,'. \ 、_ ノ / .{´_. \
. /./:.:.:.:.:.:.:,'.:.:.:.:.:,' >、.. _, イ. \_>、. \
/.:.:.:.:.:.:.:.:.,'.:.:.:.:.:.:l. {"\| ` ̄´ .|¨ミ-、 `ー─ァ. ハ
.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/.:.:.:.:.:.: | / \ / ハ \_ | |
.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.:.:.:.:::.:! ./∨ >< ハ . ̄T=、. | |
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ノ -―- // ..// 、i| ナラ、ワタシとNWニ出演(乱入)しマショーか?
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| `ヽ、 ヘ. ヽ.__,ノ // // ヽ ヽ 人
`\ / /:::>,、 __ .|///) ) ヽ . 、 )
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/⌒\_!ハ へニニ≠、.:.:.:.:.:.:\__,
入: : : /^:/:.「:.i|ヽ: :\: : ヽ、.:.:.:.:.:.:/
___,ム_[>/: :/: : |: :|ヘ:.\:..\: : \;:;/ト、__ げひゃひゃひゃひゃひゃッ!
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/ : : : : : : :/ |l: :|ハ「`tッ ィ´tソ }l: :}\}ト┘\: : : : : :\ このスレは、乗っ取ったぜぇーーーぃ!
/ : : : : : : :/ .|ヽ:|ハ`,ー' , `ー,,' l: :| \: : : : : :\
/ : : : : : : :/ |: : }∨ゝ. ー ‐' イ|: :l__ \: : : : : :\
/ : : : : : : :/ .レ'r=ットx_≧t壬={_|: :|/:.:.:.:\ \: : : : : :\
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