日が落ちた街道に一台の馬車と、その周りに数組の騎馬が走る
何かの行商の帰りに見えるその団体――実はセイルーン平和維持使節団である
異常気候、突然のデーモン大量発生、今現在、どこの国も混乱の極みを迎えている
その混乱に乗じて他国侵攻を企む国は少なくない
その様な国々に釘を刺すと同時に、デーモン発生の情報収集を行っている
しかし、良からぬ考えを持つ国なだけに、この使節団が狙われる事は少なくない
その為に目立たない様、使節団とは到底思えない質素な馬車に、護衛には見えない騎馬を数組従えるのみになっている
いかにもな町人や村人の格好をして変装しているので、端から見ても使節団には到底見えない
とは言っても、騎馬はなかなかの手練れであるし、
使節団団長であるアメリアは大国セイルーン第二王女であると同時に、若くして巫女頭になるほど魔道の才能があり、父親譲りの頑丈な体を持っている
そこいらの盗賊団や暗殺者では数分も持たないだろう
だが、だからと言って油断してはいけないと、街道中は緊張と警戒でピリピリとしていた
ずががががあん!!
突然、街道に爆発音が鳴る!
訓練を積んでいる馬はまだしも、馬車は爆発の衝撃でたまらずにひっくり返る
騎馬隊は襲撃者の探索及び撃退にすぐさま散開した
その中の一人はひっくり返った馬車に駆け寄る、が……
「ば、馬車がない!?」
使節団の馬車は盾の役割も持たせるために普通よりも頑丈に作られている
その為に、ちょっとした呪文などが直撃した所で少し外装が壊れるぐらいに止まる
だというのに馬車どころか破片の一つすら落ちていない
周りの被害を見るに、放たれた呪文が並外れた威力のものとも考えにくい
この摩訶不思議な現象を目の当たりにした隊員は、すぐさま他の隊員を集め、馬車探索に切り替えた
しかし、その探索は無駄になるであろう
何故なら、馬車は地面にひっくり返る直前に奇妙な鏡に吸い込まれ、この世界から消失しているのだから………
所変わって、ここはトリステイン魔法学院から少し外れた草原
今、二年に進級する為の召還の儀式が執り行われていた
皆が皆成功させて、各々の使い魔を従えている中、一人だけ未だ成功していない生徒がいた
皆まで言うまでもなくルイズである
「ミス・ヴァリエール、そろそろ次の授業が始まってしまいます…次で成功出来なければ終了とさせてもらいますよ」
幾度も失敗するルイズを辛抱強く見守ってきた教師のコルベールも、
流石に時間が時間の為に次で最後通牒を引き渡す
「……わかりました」
何度もチャンスを貰いながら失敗し続けたルイズに断る事は出来ず、了承するしかなかった
「宇宙の果ての何処かにいる私の僕よ!神聖で美しく強力な使い魔よ!私は心より訴え、求める!我が導きに答えよ!」
(お願い!何でも良いから来て!留年なんてしたら……お願い!私を助けて!)
925 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/14(木) 21:54:57 ID:Rr6tieNq
ズガガガガガン!!
今まで以上の凄まじい爆発が起き、周囲が砂塵にまみれる
しかし、今回はいつもと違い手応えがあった!
砂塵が収まるにつれて使い魔が輪郭を見せる
「(なに!なに!?結構デカいわ!グリフォンとか?いや、大きさ的にドラゴンの子供とか!?)」
初めての魔法成功という事もあり、期待は否が応でも高まる
しかし……
「馬車だ!ゼロのルイズが馬車を召還したぞ!!」
「しかも、馬なしの台車だけだ!!」
「ハハハ!流石、ゼロ!やる事が違うねえ!!」
召還されたのはグリフォンでもドラゴンの子供でもなく、ただの馬車、しかも馬無し
その上、見た目も貧相な、平民が使っているような馬車
「そんな…生き物ですらないなんて……」
期待が大きかった分、その急落ぶりは凄まじく、ルイズは思わずその場にへたり込んでしまった
落胆するルイズにコルベールも何と声をかけたものか困惑するも、取り敢えずは初めての魔法成功を誉めるべきだと
「おめでとう、ミス・ヴァリエール。見事に召還を成功させましたね。その勢いで契約も成功させましょう」
「えっ!?ミスタ・コルベール!これは生物ですらないんですよ!?そんなのと契約だなんて…」
「時間が押しているのです。それに一度召還したものを変える事は出来ません」
「うう…」
(コルベール先生が言う事はもっともだ、だけど!……仕方ない、取り敢えず契約を済ませてしまえば留年せずにすむし、使い魔の事は後々考えよう…)
取り敢えずの覚悟を決め、馬車に近付くルイズに、他の生徒の嘲笑が後押しする
僅かに残った成功の喜びでそれを何とか耐え、馬車の側にたどり着いた
契約の呪文を口にし、いざ
と、その時、横倒しになっていた馬車のドアが吹き飛び一つの影が躍り出た!
「そこまでです!」
馬車の上に立つ小さな影はポーズを決めつつ口上を垂れる
「世の中が混乱し、皆が手を取り合い平和を目指さなくてはいけないと言うのに、あろう事か大人数で馬車を襲うとは何たる不届き物!」
「自らで何も生み出さず、人の物を奪いつくす!!これ、すなわち悪!!」
「このアメリアが天に代わって成敗してみせるわ!!!」
ルイズはおろか、他の生徒たちはこの突然の口上に呆気に取られた
しかし、血気盛んなゴリゴリの貴族主義者である数人の生徒は、
この貧相な馬車から出てきた平民に悪だのなんだの言われた事に腹を立てた
「たかが平民の分際で貴族を馬鹿にするとは!身の程しらずめ!」
「俺たちが口の聞き方を教えてやるぜ!」
「恨むなら召還したルイズを恨むんだな!」
一人はブレイドを発動させアメリアに向かって走り、他二人はエア・ハンマーとファイアーボールを唱え始めた
「あくまでも刃向かうというのなら容赦はしませんよ!!はあっ!」
馬車から勢い良く飛び降りたアメリアは、杖を武器に走りよる一人を迎え討つ
規制でも食らったか?
アメリアw
930 :
規制&手直し:2010/01/14(木) 23:06:30 ID:Rr6tieNq
「ヴィスファランク【霊王結魔弾】!とおう!!」
アメリアの魔力がこもった拳はブレイドつきの杖を容易く折り、そのままの勢いで生徒の腹を叩く!
貫通せんばかりに腹を殴りつけられた生徒は馬に轢かれたかの如く吹き飛ぶ
後方で魔法を唱えていた二人は何が起こったか理解出来なかった
が、何故彼が吹き飛んだのかという事よりも、あの平民が貴族に手を出した事に腹が立ち、詠唱し終わった魔法を躊躇なく放った
「エア・ハンマー!」
凝縮された空気がアメリアを襲う!
目視出来ないのでは拳で打ち消す事も出来ず、アメリアは上空に飛ばされてしまう
「ファイアーボール!」
舞い上げられたアメリアの落下中を狙った魔法が放たれた
魔法が使えない平民では動きがとれない空中を狙われたのでは一溜まりもない
しかし、
「レビテーション【浮遊】!」
アメリアが咄嗟に唱えた浮遊の呪文により、そのコンボは不発に終わった
「空を飛んでいるぞ!」
「あの平民はメイジだったのか!?」
目に見える形で魔法が使われた事に、生徒たちは俄かに騒ぎ始めた
が、そんな事は上空にいるアメリアに聞こえる筈もなく
「フリーズ・アロー【氷の矢】!」
生徒たちの頭上から数本の氷の矢を降らせる
直撃はしなかったものの、地面に当たった矢はその周囲にいた生徒の足を凍らせる
相手が平民ではなくメイジである事、
そして、ほぼ不可能に近い「浮遊したまま魔法を使う」という超高等技術に力の差を見せつけられ、
実際に手を出した生徒を含め、完全に沈黙した
戦意喪失を見たアメリアは、高度を下げた後に浮遊を解き、地面に降り立った
と、そこにコルベールが駆けつけた
「ちょっ!ちょっと待って下さい!」
「どこの、どなたかわかりませんが、せ、生徒が、し失礼をしたようで、誠に申し訳ございません!」
ハアハアと息を切らして、コルベールは何とか喋る
「責任者である私が止めなくてはいけなかったのですが、何故か意識をなくしておりまして…」
実はコルベール、アメリアが勢いよく馬車から飛び出した際に豪快に吹き飛んだドアの直撃を受けて倒れていたのである
気がついたのは、見知らぬ少女が空からゆっくりと降りてきた時だった
何が起こったのかはわからないが、明らかに魔法で戦った痕跡があり、その上、生徒たちは皆顔を青くしている
これは生徒たちが何か粗相をしてしまったと思い、すぐさま駆け寄ってきたわけだ
「一体、何があったのでしょうか?」
ごめん、あとちょっとだけあったんだが、書きためていたと思っていたのが保存し忘れていたみたいで見つからんのよ
あと2〜3レス分だし、せっかく投下したのだし、キリが良いとこまで出しておきたいから、ちょっと書いてくるわ
「馬車を襲撃しておいて、何を言っているのです!」
襲撃しておいて「私たち何かしました?」と惚けられては、アメリアが怒るのも仕方ない事である
馬車という単語を聞いて、コルベールは気付く
「もしや、あなた様はあの召還された馬車に乗っておられたのでしょうか?」
「へ?…召還?」
「はい。我々は今、召還の儀式を行っておりまして…ミス・ヴァリエール!こちらに来なさい!ミス・ヴァリエール!」
「…え、あ!は、はい!!」
初めての魔法成功…使い魔が馬車…馬車から人が出てきたと思ったら魔法戦
あまりの事態に思考停止していたルイズは、コルベールに呼びかけられてようやく我に返り、呼び出しに応じた
「多分ですが、あなた様がお乗りになった馬車が襲撃されたのと、こちらの生徒が召還したのが偶然重なったのかと…」
「召還で馬車ってどういう事なんですか?」
アメリア自身、召還自体は知らないわけではない
しかし、馬車を召還する呪文は見たことも聞いたこともないのだ
だが、周囲を見渡せば、確かに先ほどまで走っていた街道ではないし、時間も違う
自分が召還されてしまったという事は、どうやら間違いないようである
「それが…このような事態は初めてでして…ここでは何ですし、取りあえず場所を変えましょう」
「そうですね…ちょっとわからない事だらけですし…」
「ありがとうございます…それと、先ほどの事ですが……」
あっ、とアメリアは生徒たちとの戦いを思い出す
「あ、えっと!どうやらお互いに誤解があったようですし、気にしないで下さい!」
「そうですか!ありがとうございます!後ほど、改めてお詫びいたします。では…」
「あっと、失礼しました。申し遅れましたが私、トリステイン魔法学院で教師をしておりますジャン・コルベールです。それと、こちらは…ミス?」
「は、はい!私はルイズ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」
先ほどまで背丈的に年下ではあるがメイジ、つまりは貴族を召還してしまった事に顔を青くして固まっていたルイズだが、
良く考えたら自分は王族に連なる公爵家の娘であるのだから、そこいらの貴族を召還してしまった事ぐらいどうにでもなるんじゃないか
そう考えたら、今まで縮こまっていたのが急に馬鹿らしくなり、
ようやくいつも通りの自分を取り直し名前を名乗った
「あなた様のお名前をお聞かせ願えますかな?」
「私は…と、この格好ではあれなので、ちょっと待ってて下さいね」
そういうとアメリアは横倒しになった馬車に戻り、
今まで着ていた変装用の服から、いつもの服に着替える
多分、このまま場所を移すであろうし、まさか馬車ごととはいかないので、必要な荷物も一緒に持ってコルベールたちの元へ戻る
「お待たせしました」
「いえ、構いませんよ」
「あっと、自己紹介がまだでしたね!」
「セイルーン王国第一王位継承者フィリオネル・エル・ディ・セイルーンが第二子、
アメリア・ウィル・テスラ・セイルーンと言います。現在、王の命により平和維持使節団を取り仕切っています!」
コルベールやルイズが丁寧な自己紹介をしていたので、アメリアもそれを受けて正式に名乗った
コルベさん死亡確認w
これを聞いたコルベールとルイズは顔面蒼白である
セイルーンという国は知らない、知らないが、一国の王女である
しかも、アメリアが身分証明の為に出した紋章を見るにかなり豪華なものである
紋章は戦果を上げたり、国が発展した際に紋様が付け足されていく
つまり、発展した大国であればあるほど紋章は豪華になるわけだ
という事は、セイルーンという国はよっぽど見栄っ張りな国か、もしくは凄まじいまでの大国のどちらかである
アメリアが着替えてきた服装や装飾品、先ほどの戦闘力からして前者は考えにくい
そんな大国の王女を、しかも王命を遂行中に、形はどうあれ拉致してしまったわけだ
下手すれば大戦争が始まりかねない大不祥事である
自分の首が飛ぶ程度では済まされない
幸いにして、離れた所にいる生徒たちは聞こえなかったようだったので、取りあえず教室に帰るように指示し、
他の者よりも早く着くであろう風竜を召還したタバサに至急学院長を呼ぶように伝えた
そんな中、召還した張本人は魂だけ実家に里帰りしていた