乙でぃす
【書き手の方々ヘ】
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
http://gikonavi.sourceforge.jp/top.html ・Jane Style(フリーソフト)
http://janestyle.s11.xrea.com/ ・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認してダブルブッキングなどの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
前の作品投下終了から30分以上が目安です。
【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は応援スレ、もしくはまとめwikiのweb拍手へどうぞ。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。
【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
【警告】
・以下のコテは下記の問題行動のためスレの総意により追放が確定しました。
【作者】スーパーロボット大戦X ◆ByQOpSwBoI
【問題の作品】「スーパーロボット大戦X」「スーパーロボット大戦E」「魔法少女(チェンジ!!)リリカルなのはA'S 次元世界最後の日」
【問題行為】盗作及び誠意の見られない謝罪
【作者】StS+ライダー ◆W2/fRICvcs
【問題の作品】なのはStS+仮面ライダー(第2部)
【問題行為】Wikipediaからの無断盗用
【作者】リリカルスクライド ◆etxgK549B2
【問題行動】盗作擁護発言
【問題行為】盗作の擁護(と見られる発言)及び、その後の自作削除の願いの乱用
【作者】はぴねす!
【問題の作品】はぴねす!
【問題行為】外部サイトからの盗作
【作者】リリカラー劇場
【問題の作品】魔法少女リリカルなのはFullcolor'S
【問題行為】盗作、該当作品の外部サイト投稿及び誠意のない謝罪
ウート・ガルザ・ロキ充填開始
>>1乙です
態々申し訳ありません
本当に有り難うございます
それでは20分から投下を投下をさせて頂きます
エーテルの波をこえて 星の海を渡っていこう
そこにはあきれるほどの まだ見たことのないものが ちらばっているはずさ
光を追い越し 時間を翔んで いつまでも どこまでも…
支援!!
バイドとRを支援
ギンガの意識を呼び覚ましたのは、嗅覚を刺激する異臭だった。
不快なアンモニア臭。
周囲の状況が視界へと鮮明に浮かび上がるや否や、彼女は反射的に身を起こそうとした。
それを押し止めたのは、肩に乗せられた手と低くくぐもった声。
『落ち着いて、安静に』
其処で漸く、ギンガは自身の目前に、見慣れない人影が存在する事に気付いた。
その全貌を確認すると同時、彼女の全身へと緊張が奔る。
その人物は、管理局員ではなかった。
全身を重厚な漆黒のアーマーに包み、頭部は同じく漆黒のマスクとヘルメットに覆われ、微かな紅い光を零す視覚装置が2つ、両眼に当たる部位へと装着されている。
ギンガの鼻先へと差し出された右手、漆黒のグローブには首部を折り取られたアンプルが握られ、残る左手は小さなアンプルケースを抱えていた。
肩に置かれた手から腕を辿り見れば背後にもう1人、寸分違わぬ様相の人物が立っている。
『もう大丈夫だ』
安心させる様に放たれた声は、音声出力装置を通しての幾分機械的なものだった。
呆然と彼等の全貌を眺めるギンガを余所に、彼等は彼女に怪我が無い事を確認すると、傍らに置かれた、或いは背部に装着していたそれを手にし、小さなスイッチを弾く。
数秒後、それが何であるのかを理解したギンガは瞬時に思考を引き締め、呻く様に呟いた。
「質量兵器・・・!」
漆黒の銃器。
凡そデバイスに見えぬそれは、管理世界に於いて所持する事など決して許されぬ兵器。
そんな意思の込められたギンガの声を聴き留めたのか、銃器を弄る彼等の手が一瞬だけ静止し、しかしすぐに動き始める。
そして、次いで彼等より発せられた言葉が、彼女を更に混乱させた。
『管理世界では、質量兵器は禁忌だというんだろう? 知っている。今までにも散々言われたよ』
思わぬその発言に、ギンガの内に沸き起こり掛けた警戒も敵愾心も、双方が鳴りを潜める。
代わりに浮かぶのは、云い様のない疑念。
知っているのなら、何故それを使用している?
彼等は何者なのか?
次元犯罪者?
反管理局組織?
だとしても何故、自分を攻撃せず、あまつさえ救助までするのだ?
「あの、貴方達は・・・」
『ギズモよりビショップ。要救助者1名確保、管理世界の人間だ』
ギンガの問い掛けを遮るかの様に、何処かとの通信を行うアーマーに身を包んだ人物。
彼女の背後ではもう1人が質量兵器を手に周囲を見渡しつつ、油断なく警戒を行っている。
やがて通信を終えた1人はギンガへと向き直り、手にした銃器を掲げてみせた。
『悪いが魔法なんてものは使えないんでな。これだけが身を守る術なんだ。納得できないだろうが、此処は見逃してくれ』
『君と同じ管理世界の人々も、何とか了承してくれたよ。今は生き残る事が最優先だからな』
前後から放たれる声。
彼等の言葉に、ギンガの脳裏を最悪の可能性が過ぎる。
まさか、地球軍?
「貴方達は・・・何なんですか?」
微かに震える声と共に放たれた問い。
目前の人物は気負う様子もなく、即座に答えた。
しえん
『他の人達から聞いたよ。君達が第97管理外世界と呼ぶ惑星の住人さ』
「・・・地球の?」
『ああ。ちょっとした事故で此処に飛ばされちまったんだ』
「事故?」
更に問い掛けようとするギンガ。
その時、上方より甲高い音と共に巨大な漆黒の影が飛来、降着装置を展開すると3人から20m程の地点に軟着陸する。
R戦闘機と比較して2回りほど大きいそれは、強襲艇の様なものらしい。
機体側面にタラップが展開され、2人はギンガに手を貸し立ち上がらせると、周囲への警戒を緩める事なく機体へと向かい歩み出す。
数瞬ほど躊躇ったギンガではあったが、この状況は貴重な情報収集の機会であると判断。
誘導に従って歩み出し、タラップを登る。
此処に至って漸く、ギンガは周囲の場景に意識を向ける事ができた。
自身が意識を失い横たわっていた地点を振り返り、次いで頭上を見上げ、その異常さに混乱する。
呆然と周囲を見渡し、やがて吐き出された言葉は隠し様もない驚愕に震えていた。
「何・・・これ・・・?」
其処は、ハイウェイの上だった。
周囲を埋め尽くす高層ビル群の間を走る高架道路上には、放置された車両が無数に鎮座している。
ビル群の規模から見ても、クラナガンに匹敵する巨大都市である事は疑い様がない。
しかし、何よりギンガが驚愕したのはそんな事ではなく、闇に沈む広大な空間、彼女の頭上に拡がる異様な光景だった。
「街が・・・!」
上空、漆黒の闇の向こう。
広大な都市が、視界を埋め尽くす様に存在していた。
ありとあらゆる構造物の上下が逆転した、悪夢の様な情景として。
タラップ最上部にて、呆然と上空を見上げるギンガ。
背後より肩を叩かれ咄嗟に振り返れば、その人物は首を動かして先を促した。
『混乱するのは分かるよ。詳しい事は中で話そう』
歩を進め、機内へと踏み入る。
分厚い外殻内部には壁際に並んだ座席と固定用のフレームがあり、ギンガはその1つへと座らせられ、フレームを降ろすよう指示された。
従うべきか否か、僅かに躊躇した彼女であったが、安全の為だろうと自身に言い聞かせるとフレームに手を掛け、身体を固定する様にそれを降ろした。
そして固定装置が微かな電子音を発し、上部に点灯するライトが赤から緑へと変わると同時、軽い振動と共に機体が浮かび上がった事が感じられた。
思わずフレームを握り締めるギンガ。
そんな彼女へと、相変わらず音声出力装置を通した低い声が掛かる。
機内には防音措置が施されているらしく、ギンガは問題なくその音声を拾う事ができた。
『心配しなくてもいい。捜索拠点を中継した後、避難所へ向かう。其処には君と同じく保護された被災者が大勢居る』
「・・・どれ程なんです?」
『今日の時点で3904人だ。まだ確認が済んではいないが、他の地点で生存者が発見されていなければ君が3905人目という事になるな』
余りにも予想外の状況に、ギンガは忙しなく思考を廻らせる。
4000に迫ろうかという数の生存者が存在する事は喜ばしいが、それを保護しているのが第97管理外世界の人間であるというのは、正しく管理局の予想を超える事態であった。
それでも何とか状況を理解しようと、彼女は2人の地球人から目を逸らす事なく思考へと没入する。
そもそも、事故で飛ばされてきたという彼等は、一体何者なのか?
彼等の様子からは、こちらに対する敵意や警戒は全くといって良い程に感じられない。
もし彼等が、クラナガンと本局を襲った地球軍艦隊に属する者であれば、こちらに対し無防備である筈がないのだ。
彼等は、軍属ではないのか?
「あの、貴方達は・・・軍人、なのですか?」
支援
ギンガはどのステージだ?支援
躊躇いがちに問い掛けるギンガ。
警戒されるかもしれないとの懸念もあり、多少ながら言葉がたどたどしく紡がれる。
対する返答は、一言。
『いいや』
1人が身を傾け、その身を包むアーマーの肩部をギンガへと向けた。
其処には1つの単語が、漆黒のアーマーに映える様、白い塗料によって刻まれていた。
しかしギンガには、それを読み取る事ができない。
ミッドチルダ言語にも共通する字体ではあるのだが、精確な発音が解らないのだ。
悩む彼女を見兼ねたのか、1人が助け舟を出す。
『「POLIZEI」だ。警察って意味だよ』
「警察?」
『民営武装警察。治安維持や対人・対都市レベルの脅威からの民間人保護を、政府から委託されている軍事企業の事だ。ウチはその最大手だよ』
民営武装警察。
その言葉にギンガが戸惑う間にも、彼等の説明は続く。
『俺達はその1中隊でね。旅客船団の護衛と、引き続き目的地での治安維持に就く筈だったんだが・・・』
『船団が空間歪曲に捕まっちまってな。脱出を試みたんだが、奮闘空しく此処へ転送されちまったんだ。もう2ヶ月以上も前の事だよ』
「2ヶ月前?」
『ああ。此処が外部から隔絶された空間という事は解るか?』
「・・・はい」
『その中にガラクタの寄せ集めが浮かんでいただろう? 此処はそのガラクタの中さ。取り込まれたスペースコロニーの残骸の中だよ』
またもや、管理局の知り得る事実を上回る情報が齎された。
ギンガの記憶が確かならば、この隔離空間が観測されたのは約4週間前の事であった筈だ。
しかし彼等の言葉を信じるのならば、空間の形成は2ヶ月以上前に始まっていたという事になる。
バイドは隔離空間そのものを、次元世界へと転移させたというのか?
そして、この広大な都市空間。
彼等はスペースコロニーの残骸だと言った。
ギンガとてスペースコロニーという言葉を知ってはいたが、実物を目にした事などありはしない。
次元世界を渡る術を持つ管理世界の人間にとって、宇宙空間に都市を建造する必要性など殆どなかった。
故に、その構想は存在しても、実現させた例など1つとしてありはしない。
本局または支局艦艇は、次元空間に巨大な居住空間を形成してはいるが、しかしあれらはスペースコロニーからは懸け離れたものだ。
これ程までに巨大な都市空間を宇宙空間に建造した文明など、少なくともギンガは聞いた事もなかった。
そして、何より気に掛かる事は。
「残骸って・・・廃棄されたんですか?」
『ああ。8年前になるが、空間歪曲に呑み込まれてな。14基のコロニーの内、無事発見されたのは3基。残る11基の内6基は生存者皆無の状態で発見。残る5基は・・・』
「行方不明?」
『そういう事。これはその内1基って訳だ』
これ程までに巨大な建造物を廃棄したという事実も然る事ながら、同様のものが14基も存在していたとの言葉に、ギンガは心底から驚愕した。
しかし同時に彼女の意識、冷静さを保った思考の一部は、生存者が皆無であったという6基のコロニーについて考察を開始する。
そして然程に間を置かず、彼女はその疑問を言葉として発した。
「その、生存者の無かった6基ですが・・・」
『何だ?』
「何故、住民は全滅したのですか?」
その問いに押し黙る2人。
警戒させてしまったか、と僅かばかり後悔したギンガであったが、数秒後にそんな彼女へと答えが返される。
ギャロップ支援
『汚染された』
「・・・汚染?」
『俺達や君を此処へ放り込んだ存在にだ。地球はもう半世紀に亘って、その存在との戦いを継続している』
「その・・・存在の、名は?」
『バイド』
やはり、とギンガは自らの予想が的中した事を胸中にて再確認したが、沸き起こるのは喜びではなく際限のない不安ばかりであった。
これ程の巨大建造物、防衛体制も尋常ではなかったであろうそれを6基も汚染し、その住民を殺戮したであろうバイド。
自分達が今まさに、そんな存在を相手にしているのだという実感と恐怖が、今更ながらにギンガの意識を癌細胞の如く蝕み始める。
常識外の超高度軍事技術を有する第97管理外世界ですら、バイドによる殺戮を防ぐ事はできなかった。
管理世界がバイドという存在を知り得てから、僅かに2ヶ月。
果たして管理局に、勝ち目などあるのだろうか?
『失礼、こちらからも少し良いかな?』
思考へと沈むギンガに、声が掛けられる。
目前の人物を見やれば、彼はその手で自身の視覚装置を指していた。
「何でしょうか」
『君の眼は、何らかの機械的強化が施されているのか?』
途端、ギンガの全身が文字通りに凍り付く。
何故、気付かれた?
彼女がそう問い返すより早く、目前の人物は彼女の疑問に対する答えを述べた。
『君は先程、周囲や上空の光景を認識していたな。暗闇なのに、暗視装置も用いずにどうやって、と思ったんだ』
その言葉にギンガは内心、自らの不注意を恥じる。
不用意な行動と発言から、彼等に余計な情報を与えてしまった。
何とか当たり障りのない返答を組み立て、それを声として発する。
「昔、事故で両眼を失ったんです。仰るとおり、これは機械式の義眼です」
『・・・済まない』
「いえ、お気になさらず」
その時、機内にコックピットからの警告が流れた。
着陸態勢に入るとの事だ。
十数秒後、微かな振動が機体へと走る。
固定器具が解除されフレームが上がると、先に立ち上がった2人がギンガへと手を貸し、立ち上がらせると同時に機体から降りるよう促した。
タラップを降りた先に広がるのは、様々な設備が据えられた簡易前線基地らしき拠点。
コロニーの端に位置する何らかの生産施設らしき其処には、数機の強襲艇が翼を休め、更に十数人のアーマーに身を包んだ人物の姿があった。
機体から数歩ほど離れた位置で周囲を見回すギンガ。
ふと彼女は、自身が立っている地面へと視線を落とし、脳裏へと浮かんだ疑問を口にする。
「そういえば、重力があるんですね」
『どういう訳かな。コロニー自体は回転していないのに、何故か正常な重力が発生している。これもバイドが関わっているんだろうが、詳しい事は解らない』
彼女の疑問に答えると、1人は1機の強襲艇へと向かい、残る1人はギンガを促して歩き始めた。
歩調を気遣っているのか、何度も振り返りながら天幕のひとつへと向かう。
『保護した被災者は一時的に此処へと集められる。2時間後に避難所へと向かう機があるから、それまで此処で待っていて欲しい』
「・・・分かりました」
『あの天幕に行って、食料と毛布を受け取ってくれ。心配は要らない。避難所の防備は厳重だ。此処もそうそう危険な状況には曝されないさ』
ピースメーカークルー支援
ギンガの肩を軽く叩き、次いで握り拳を作り親指を立ててみせる彼。
彼女の不安を少しでも和らげようとしてのジェスチャーだろう。
そうして、手を振りつつ彼女へと背を向けた、次の瞬間。
「・・・ッ!」
爆発。
強襲艇の1機が、火を噴いた。
『敵襲!』
ギンガに背を向けていた人物が叫ぶ。
同時に彼女は、彼の手によって地へと伏せられていた。
『姿勢を低く! そのまま強襲艇まで走るんだ!』
ギンガへと鋭く指示を飛ばした彼は質量兵器を構え、拠点の外部に拡がる闇の向こうへとその銃口を向ける。
発砲。
短く3回、重い射撃音が響いた。
同様の音が、拠点内の其処彼処から響く。
ギンガは動かなかった。
彼女の機械的強化を施された眼球は、闇の奥に潜む者達の姿を捉えていたのだ。
認識阻害魔法を解除し、地表面に設けられた重厚なハッチ内部から現れる、20名を超える魔導師達。
管理局、バイド攻撃隊。
そして彼女とほぼ同時、第97管理外世界に於ける警察機構の一団も、攻撃隊の姿を捉えたらしい。
即座に照準を修正し、しかし襲撃者の姿に動揺したのか、暫し無言の時が流れる。
もしかすると通信にて意見を交わし合っているのかもしれないが、外部への音声出力が無い為、彼等の真意を量る事はできない。
形成される、奇妙な膠着状態。
それを破ったのは、攻撃隊からの勧告であった。
『地球軍に告ぐ。直ちに武装解除し、投降せよ。こちらは時空管理局、当次元世界に於ける治安維持機構である。指示に従わない場合は、武力を以っての鎮圧も辞さない。繰り返す。直ちに武装解除せよ』
魔法による拡声機能を用いての、投降を促す呼び掛け。
対する武装集団からの応答はなし。
ギンガの目前の人物を含め、彼女の視界内に確認できる全ての人影が、その手に携えた質量兵器の銃口を攻撃隊へと向けたまま微動だにしない。
その間にも、攻撃隊からの投降勧告は続く。
一方で、警告なしの先制攻撃に驚愕していたギンガであったが、管理局の抱える地球軍に対する過剰なまでの恐怖と敵意を考慮すれば無理もないと納得し、同時に自らの為すべき事を考え始めた。
さて、自身はどう動くべきか。
偶然による接触ではあったが、彼等が地球軍ではない事、管理局に対し害意を持ってはいない、或いは判断を下すに足る情報を持ってはいないらしい事は確認済みだ。
さらに彼等は、4000人近い被災者を保護しているという。
此処で敵対を選ぶ事は、双方に要らぬ損失を齎すだけだ。
バイドという共通の敵が存在する以上、対話による協力関係の構築こそが最適であるといえよう。
自らの思考に結論を下し、目前の人物へと語り掛けようとするギンガ。
しかし彼女の視界に、彼の持つ質量兵器の全貌が明確に映り込むや否や、その決心が大きく揺らぐ。
支援
「・・・ッ」
それは最早、「呪縛」とも呼べるものであった。
質量兵器。
忌むべき存在、廃絶すべき存在。
それに対する拒絶、それを使用する者に対する嫌悪。
次元犯罪者ですらその多くが魔法を使用する中、質量兵器を用いる第97管理外世界を含む幾つかの世界は、管理局内にあって常に嫌悪と侮蔑の対象でもあった。
表立っての批判を口にする者こそ少数ではあったものの、内心ではほぼ全ての局員が原始的で野蛮な地球文明を嘲っていた事だろう。
第97管理外世界の住人は、その兵器体系を用い続けた先に何が待ち受けるのかも知らず、自ら破滅へと向かう愚か者どもであると。
その認識が定着している背景には、当の第97管理外世界の出身者たる高町 なのはや八神 はやてが、管理世界の思想を全面的に受け入れている事実もあるのだろう。
質量兵器が氾濫する世界に於いて生を受けた彼女達が、自らの故郷に蔓延るそれを否定している。
時空管理局内外に於いて高い知名度を誇る彼女達であるからこそ、より一層その事実は強烈な印象として人々の記憶へと刻まれるのだ。
そして人々は、質量兵器への拒絶をより強めてゆく。
使用者を選ばず、指先ひとつで数多の命を奪い、無尽蔵の破壊を齎す悪魔の兵器。
余りに恐ろしく、おぞましく、愚かしい技術。
文明としてのレベルの低さを体現する、自らの滅びすら回避できない原始的な者達が用いる刃。
それを用いる世界の住人にすら否定される、滅ぶべき力。
そしてギンガもまた、同様の認識を持つ者であった。
第97管理外世界そのものに対する蔑意こそ持たぬものの、公然と質量兵器を用いるその軍事組織に対しての嫌悪と拒絶を拭い去る事は決してできない。
何より、クラナガンを襲った惨劇を目にした者ならば唯1人の例外なく、質量兵器の存在を容認しようなどとは考えられない筈だ。
僅かに2時間足らずの戦闘で31万もの民間人・管理局員の命を奪い、クラナガン西部区画を新たに2つの廃棄都市区画へと変えた質量兵器。
バイドにより汚染されていたとはいえ、あのモリッツGという名の機動兵器、そしてゲインズという名の人型兵器を創造したのは、他ならぬ地球軍であるという。
これらの事実を踏まえた上で、地球製の質量兵器を用いる武装集団と聞き、それを受け入れる事のできる人物が管理世界に存在するだろうか。
だからこそ、ギンガは目前の人物へと掛けようとした言葉を呑み込んだ。
伸ばし掛けた手を引き止めた。
そうして改めて、自身が採るべき最善の行動を模索し始めた。
思考は数秒。
彼女は再び、その手を目前の人物へと伸ばした。
背後から響いた金属音に、彼は振り向く。
その眼前には、華奢な女性の左手。
次の瞬間、その表面が無骨な手甲に覆われる。
アームドデバイス、リボルバーナックル。
突然の事に硬直する彼を視界に収め、ギンガはこれが最善の選択であると自らの思考へと言い聞かせつつ、言葉を紡ぐ。
「・・・投降しなさい」
早く来てくれ地獄の渡し守支援
恩を仇で返しちゃらめぇぇぇ支援
ギンガは選択した。
最善の行動、最善の手段を。
理性と感情、双方の囁くままに。
自身の信念と、組織の理念が叫ぶままに。
彼女は、「管理局員」として最善の選択を実行する。
「質量兵器の使用及び違法な軍事活動により、貴方がたを拘束します」
カートリッジシステムに装着された「AC-47β」が、小さく唸りを上げた。
* * *
それは偶然だった。
人工天体内部に於ける第88民間旅客輸送船団、及び資源採掘コロニーLV-220の捜索任務に当たっていた彼は、其処で巨大な空洞を発見。
スキャンの結果、天王星の衛星ミランダに匹敵する容積を持つと判明したその空間内には、数十隻の艦艇が停泊していたのだ。
迎撃を警戒したものの、それらの艦艇は外部に対する全ての機能がオフラインとなっているらしく、攻撃はおろか一切のレーダー波すら検出できない。
その状況を訝しく思いつつも彼は、機体を艦艇群へと接近させ情報収集を行う。
艦艇の殆どは地球文明圏のものであった。
軍用、民間用を問わず、過去に行方不明となったものばかりが59隻。
それらとは別に、この異層次元特有の高度文明の手により建造されたらしきものが22隻。
計81隻もの艦艇が、空間のほぼ中央に群れを成していたのだ。
しかしその中に、彼の捜し求める艦艇は存在しなかった。
第88民間旅客輸送船団、そしてヨトゥンヘイム級異層次元航行戦艦、アロス・コン・レチェ。
度重なるスキャンにも、目視による確認によっても結果は変わらず、致し方なく空間を脱しようと機首を侵入地点へと向けた、その時だった。
1隻の艦艇が、突如として動き出したのだ。
瞬時に機首をそちらへと向け、波動砲のチャージを開始。
鑑定を捕捉、各種レーダー波が艦体を舐める様にスキャン。
そうして脳内へと表示された結果に、彼は舌打ちする。
スキャン結果は目標艦艇に対し、管理局との戦闘中に現れたバイド汚染艦体の旗艦であるとの判断を下していた。
それは当然、通常の艦隊行動に於ける「旗艦」とは意味合いが異なる。
即ち目標艦艇は敵艦隊の実質的な中枢であり、それは艦隊行動を統括するバイド体を搭載している事を意味していた。
もし此処でそれを破壊すれば、敵艦隊の活動を抑止する事が可能かもしれない。
チャージ、2ループMAX。
フォース先端部に蓄積された暴力的なまでの波動エネルギーにより、前方の視界が歪に歪み始める。
システムが揺らぎを修復、同時に余剰エネルギーの強制排出を開始。
フォース・コントロールシステム、対空レーザー変更。
サーチ・モードよりショットガン・モードへ。
0.3秒後、コントロールロッドより対空レーザー変更完了の信号を受信。
スラスター出力を最大へ、目標艦艇へと突撃を開始。
しかし次の瞬間、彼はその軌道を目標艦艇より逸らしていた。
拡大表示された目標艦艇、その艦体外殻を内部より引き裂く、青い光。
彼は、その光を知っていた。
近接格闘戦用の光学兵器だ。
そして、それを操る存在
識別名称『ゲインズ3』。
地球軍より鹵獲した高機動型ゲインズに、高火力光学白兵戦兵装を搭載した漆黒の悪魔。
これまでに確認された機体数こそ少数であるものの、それらが齎した被害は想像を絶するものであった。
支援
支援
エクスカリバー支援
光学・実弾兵器、波動砲、陽電子砲の弾幕を正面より掻い潜り、艦隊中央へと踊り込む漆黒の機体。
R戦闘機を機体半ばより叩き斬り、巡洋艦のブリッジを潰し、戦艦のカタパルトより内部へと侵入し内部より全てを破壊する、正しく狂乱の徒。
一切の自己保存を考慮しないが故に凄絶なまでに苛烈な攻撃を可能とするその機体は、記録映像であるにも拘らず確かな恐怖を彼へと齎した。
爆発するテュール級と巻き込まれる数隻の艦艇、そして同じく破滅の光に呑まれゆく十数機のR戦闘機。
その映像を知らぬ者など、地球軍には存在しない。
では、R戦闘機ではゲインズ3を撃破する事は不可能なのかと問われれば、答えは否だ。
その機動性と瞬間火力こそ脅威ではあるが、圧倒的火力であればR戦闘機も引けを取らない。
否、一部機種については完全に凌駕している。
艦隊すら消滅させる波動砲を持つ機体、波動砲をそれこそ機銃の如く連射する機体、光学兵器の弾幕と目標追尾型ビットにより空間を支配する機体。
R戦闘機とは正しく、既存の全兵器体系を凌駕する為に生み出された「超越者」であり、同時に敵に対する「殲滅者」なのだ。
そんな兵器群が火力で敵に劣る等という事は、余程の大型バイド相手でもない限りは有り得ない。
そして、彼の愛機たる「R-9C WAR-HEAD」もまた、その常識外の火力によって「突き抜ける最強」とまで謳われた機体である。
第二次バイドミッションにて運用され、圧倒的な火力と引き換えにパイロットの居住性を無視し、その四肢を奪う事によって漸く搭乗が可能となった機体。
パイロット・インターフェースの改良後、既に複数の後継機が開発されていたにも拘らず多くのパイロットが搭乗機として希望したそれは、実戦配備より9年が経過した今なお、最前線に於ける主力機体の1機種としての座を不動のものとしている。
彼がこの機体に搭乗して6年、その間に積み重ねられた実戦経験とR-9Cの火力。
客観的に考えても、彼が敵に劣る事はない。
機体を旋回させ、再度目標艦艇へと向かう。
と、その時、ゲインズ3の兵装によって引き裂かれた外殻の間隙より桜色のエネルギー砲撃が放たれ、その奔流が機体側面400m程の空間を突き抜けた。
突然の事に驚愕するも、彼はすぐさま回避行動へと移る。
あの砲撃。
記録によれば、あれは管理世界中心都市「クラナガン」での戦闘中に、都市攻撃隊との交渉を行った「タカマチ」という名の魔導師が放つ砲撃であるという。
つまり目標艦艇内部に、管理局部隊が存在するという事か。
ゲインズ3と同じ空間に、魔導師が存在するだと?
脳裏に沸き起こる不審。
彼は即座に、新たに搭載されたシステムを起動する。
拘束された「TEAM R-TYPE」を尋問し、その後に開発させた受動的探索機構。
この異層次元文明圏にて普遍的に利用されている未知のエネルギー、「魔力素」とやらの検出システムである。
「TEAM R-TYPE」は鹵獲した管理局艦艇に対する解析調査によって、このエネルギーの識別に成功していながらその事実を隠蔽していたのだ。
そうして得られた魔法技術体系の知識を注ぎ込み完成されたのが、R-9WF SWEET MEMORIESという訳である。
システムの起動と同時、目標艦艇内部より複数の魔力素反応が検出される。
現在までに収集されたデータ、管理局に拘束されているパイロット達から転送された情報を含むそれらと照合した結果、艦内にはタカマチ以外にも戦闘機人と呼称されるサイボーグが2体、更には20を超える魔導師の存在が確認された。
乱射される魔導弾の反応から判断するに、彼等はゲインズ3との交戦状態にあるらしい。
好都合だ。
管理局部隊とゲインズが交戦状態にあるならば、自身は高みの見物を決め込んでいれば良い。
艦内という閉鎖空間に於いて、ゲインズは最大の強みである高機動を封じられている。
そうなれば高火力の砲撃を持ち、尚且つ小回りの利く魔導師が有利だ。
無論、その程度でゲインズと彼等の差が完全に埋まる訳ではないが、それでも互角の状況に持ち込む事は可能だろう。
そして戦闘の結果がどうなろうと、残った方も甚大な被害を受けている事は間違いない。
アルカンシェルなんて戦略兵器作った時点で魔法も質量兵器も大してかわらないだろうにw
支援
管理局部隊が生き残れば良し、ゲインズが残れば不意を突いて波動砲を叩き込む。
どのみち、こちらにとって悪い様にはならない。
問題は管理局部隊が残存した、その後に自身が採るべき行動だ。
捕虜を取られている以上、積極的に敵対する事態は避けたい。
しかし同時に、目標艦艇内部に存在するであろう制御中枢たるバイド体に彼等を接触させる事だけは、決してあってはならない。
万が一にも、彼等がそれを撃破し回収する事があれば、解析によってバイド建造の真実を知り得る恐れがある。
バイドを創造した存在が26世紀の地球文明圏そのものであると管理局が知れば、その情報を管理世界へと公開し、公然と21世紀の地球に対する武力統治を実行するであろう。
そうなれば現在の第17異層次元航行艦隊に、管理局全艦艇を敵に回しての総力戦を乗り切れるか否か怪しいものである。
異層次元中継通信が途絶し、空間跳躍ゲートも異層次元航法推進システムを用いての帰還も不可能となった今、現有戦力のみで事態の収束に当たらねばならないのだ。
第17異層次元航行艦隊と時空管理局艦隊、双方が衝突すれば共倒れになる事は間違いない。
そうなれば、後はバイドの思う壺だ。
管理世界がどうなろうと知った事ではないが、この異層次元に於いて確認された21世紀の地球が、自身の知る22世紀の地球とどの様な関連性を持つか不明である以上、それが管理局、若しくはバイドにより干渉される事態は避けねばならない。
即ち、管理局部隊との敵対を避けつつ、目標艦艇の制御中枢を破壊せねばならないのだ。
こうなれば、管理局との接触を避けろという艦隊からの指令は無視せざるを得ない。
頃合を見計らってゲインズを攻撃し、そのまま制御中枢の破壊へと移行するのが妥当か。
その時、思案を重ねる彼の脳裏へと、新たな情報が表示される。
魔力反応、検出。
目標艦艇内部、管理局部隊より約2000mの地点に、新たに別の魔力素が集束している。
情報照合、特定。
目標魔力素保有個体、識別名称「ヴィヴィオ・タカマチ」。
新暦75年、次元犯罪者「ジェイル・スカリエッティ」の手により、古代ベルカ王族のクローンとして製造された人工生命体。
その製造目的は、ロストロギア「聖王のゆりかご」起動過程に於ける生体認証の突破、及び起動後の艦艇制御の為。
更には肉体年齢の操作により、優秀な戦闘技術を持つ個体へと接近しその技術を吸収、より高度な戦闘能力を獲得する機能を持つ「生体兵器」。
ジェイル・スカリエッティ事件収束後、ナノハ・タカマチ一等空尉の養子となる。
通常時肉体年齢、7歳前後。
77年現在、クラナガン中央区画在住。
クラナガンに居る筈のそれが何故此処に居るのか。
新たに管理局が戦線投入したのか。
彼の脳裏を占める疑問は、そのどちらでもなかった。
彼の意識は、個体情報の上部に表示される、リアルタイムでの魔力素検出値へと向けられている。
戦闘機人No,5「196,000」。
戦闘機人No,11「207,000」。
ナノハ・タカマチ「1,790,000」。
ヴィヴィオ・タカマチ「38,869,000」。
彼は自身の目を疑った。
大き過ぎる。
検出された魔力素の値が、余りに大き過ぎるのだ。
約3887万だと?
管理局でも屈指の魔力保有量を持つタカマチですら179万であるというのに、3887万?
これは何の冗談だ。
こいつは、一体何なのだ?
非人道機体キター支援
彼の内に渦巻くその疑問は、程なくして晴れた。
ヴィヴィオ・タカマチの表示に重なる様にして、とある別種の表示が現れたのだ。
点滅を繰り返すその表示、バイド攻撃体識別名称。
その名を、彼は良く知っていた。
否、地球軍に属する者の中にあって、知らぬ者など存在しない。
その、バイドの名は。
「BFL-011 DOBKERADOPS TYPE『ZABTOM』」
瞬間、彼は軌道を修正し、スラスター出力を最大へと叩き込む。
青い光の爆発と共に、推進器に火の入ったミサイルの如く破滅的な加速を開始。
そして、数秒後。
「WAR-HEAD」の名が示す通り、R-9Cは正しく1発の弾頭となり、目標艦艇へと突入した。
* * *
漆黒のゲインズ、その右腕が振り抜かれるや否や、周囲の構造物が音を立てて横一直線に吹き飛ぶ。
鼓膜を劈く轟音と共に無数の破片が宙を乱れ飛び、音速を超え飛翔するそれらが一片の容赦なく攻撃隊へと襲い掛かる中、なのははその一切に頓着する事なく砲撃の準備へと入った。
彼女への直撃弾となり得る破片を、周囲の魔導師達が片端から叩き墜とす。
ゲインズが噴射炎を煌かせ、彼女を排除すべく突撃を開始。
周囲は既に破壊され尽くし、巨大なドーム状の空間と化している為、その行動を阻害するものは何もない。
先程、青白い光の刃が艦体外殻を引き裂いた際には、空気の漏出と窒息を予想し肝を冷やしたものの、どうやら艦体外部には通常大気が存在するらしく、恐れていた事態には到らなかった。
よって攻撃隊は、艦体の損傷を気に留める事なく、全力での交戦を開始したのだ。
今や艦内に生じたこの空間は、縦横無尽の機動を行うゲインズが引く噴射炎の残滓とブレードの光、色取り取りの魔力光を放つ直射弾と誘導弾、そして砲撃が飛び交う閉塞された戦場と化していた。
「ディバイン・・・バスター!」
放たれる直射砲撃。
突撃してくるゲインズの真正面より放たれたそれは、寸分違わず目標の胸部へと直撃する筈であった。
しかし着弾直前、ゲインズ側面のバーニアが点火、一瞬にして機体が百数十m側面へと移動。
砲撃は目標を捉える事なく空間を貫き、先程ゲインズが引き裂いた外殻の隙間を更に拡げる様にして艦体外部へと消えた。
ゲインズは突然の回避行動により構造物へと接触、一時的に動きを封じられる。
これこそが、攻撃隊が意図した状況であった。
「今だよ!」
なのはの声と共に、動きの取れぬゲインズへと向けて放たれる高速直射弾、砲撃、IS。
爆発に次ぐ爆発の中、チンクが目標へと向けて駆け出す。
その小さな身体が後方より飛来したランディングボード上へと跳躍し、直後にボードを操るウェンディによって2人の身体は最大加速。
クラナガンで目にしたヴィータとR戦闘機の共同攻撃を髣髴とさせる機動で目標へと接近し、チンクが付与された速度もそのままにボード上より飛び降りた。
彼女は身を起こそうとするゲインズの肩上へと着地、瞬時に頭部へと走り寄るとその手で以って漆黒の装甲へと触れる。
「やった・・・!」
思わず、なのはの口から歓喜の声が零れた。
他の攻撃隊員も、ウェンディも同様だろう。
チンクのIS「ランブルデトネイター」は、金属に触れる事でエネルギーを対象内部へと蓄積させ爆発物と化す能力だ。
対象のサイズ制限や、制限内であっても大型であればあるほど蓄積に時間が掛かるといった欠点はあるものの、非常に強力な能力である事には違いない。
そしてそれらの問題点は、他ならぬチンク自身が最も良く理解しているだろう。
だからこそ彼女は、頭部装甲ではなく制御系が内包されているであろう、頭部センサー類の密集域へと触れたのだ。
惑星破壊兵器じゃねーか!支援
『チンク姉、離れて!』
ウェンディの念話。
なのはが、皆が、同様の思いでチンクの離脱と、ISの起爆を待った。
しかし。
『・・・駄目だ』
チンクより返された念話は、苦渋と絶望に満ちたものだった。
『エネルギーが・・・エネルギーが流入しない! 特殊電磁装甲だ!』
瞬間、なのははアクセルシューターを放つ。
ゲインズの左腕が、チンクを鷲掴みにすべく動き出したのだ。
それを阻止すべくシューターを放ったものの、その弾速ではゲインズの動きを阻止するには間に合わない。
しかしなのはに先んじて、ウェンディがエリアルキャノンを、他の攻撃隊員2名が砲撃魔法を放っていた。
3発の砲撃がゲインズの左半身を襲い、その巨体を衝撃と着弾時の爆発とで吹き飛ばす。
チンクは着弾直前に、迫り来るゲインズの腕を無視して跳躍。
彼女を捕えるべく伸ばされた腕が空を切り、それでもしつこく後を追おうとするマニピュレーターをアクセルシューターが弾く。
更には、チンクが放ったスローイングナイフ「スティンガー」が頭部センサー近辺へと接触し、直後に爆発。
センサー事態を破壊するには到らずとも、数瞬の間その機能を奪う。
直後、一連の戦闘行動の間に集束を終えた4人の砲撃魔導師から同時砲撃が放たれ、光の奔流はゲインズの巨体を呑み込んだ。
轟音と爆発。
攻撃隊に間に、歓声はない。
絶対的な威力を誇る砲撃を4発も直撃させたにも拘らず、誰もが敵を撃破したとの確信を得られずにいた。
事実、砲撃魔導師は次なる砲撃の準備に入り、他の魔導師は直射弾の発射に備えている。
チンクはスティンガーを手に爆炎の向こうを睨み、ウェンディに到っては「AC-47β」が許す限りの出力を以って無数のフローターマインを着弾地点付近へと配置していた。
『Caution. DOSE 60%』
レイジングハートより警告。
「AC-47β」内のエネルギー蓄積率が、臨界点へと近付いている。
しかし、此処で排出を実行する訳にはいかない。
エネルギー蓄積による魔力増幅率の増大をキャンセルする事への抵抗だけでなく、何時またゲインズが動き出すとも知れぬこの状況下で、8秒間にも亘る無防備な状態を曝す事などできる筈もなかった。
『一尉・・・!』
『分かってる、来るよ!』
そして、その危惧は的中する。
爆炎の向こうより振るわれる、巨大な光の刃。
フローターマインが片端から爆発を起こし、複数の砲撃魔法と無数の直射弾が炎に揺らめく巨大なシルエットへと襲い掛かる。
最早、鼓膜が正常な機能を放棄せんばかりの轟音と振動が響き渡った後、なのははクラナガンでの戦闘時と同じく、祈る様な思いで着弾地点を見詰めた。
もう動くな。
頼むから、これで終わってくれ。
もう勝ち目はない、戦う意味など無いのだ。
おとなしく、そのまま眠っていれば良い。
地球軍は既に魔法に対応済み支援
「・・・っく!」
無情な轟音と共に、炎に塗れた構造物の破片が周囲へと撒き散らされる。
ゲインズは、機能を停止してはいなかった。
左脚を失い、胴部を抉られ、頭部の約半分を消し飛ばされながらも、その巨大な右腕のブレードを振り翳し、攻撃隊へと襲い掛かる。
しかしスラスターを損傷しているのか、その動きには先程までの驚異的な速度が感じられない。
それでも十分な脅威ではあるのだが、なのはの胸裏には僅かな余裕が生まれた。
これならいける。
皆に時間を稼いで貰い、スターライトブレイカーで止めを刺す。
如何に特殊な防御措置を施された装甲であろうとも、半壊した状態で集束砲撃を撃ち込まれれば一溜まりもないだろう。
『一尉、奴の左腕が!』
勝利への確信を得たなのはの思考は、しかし次の瞬間には焦燥に支配されていた。
チンクからの念話により、ゲインズの左腕へと視線を投じたなのはは、其処に存在するものを見るや否や叫びを上げたのだ。
その視線の先には、中央から上下へと割れた盾と、その先端より伸びる右腕と同様の機構。
「退避して!」
直後、ゲインズの左腕より、全長が30mを優に超えるブレードが展開された。
右腕のそれが全長約20m、2つの刃が腕部の甲と平行に伸長しているのに対し、新たに展開された左腕のブレードはより長大であり、巨大な単体のそれが腕部の甲に対し垂直に形成されている。
どうやら、より大型の敵性体に対すべく装備された、大威力兵装であるらしい。
ゲインズは右腕を左側面の腰部へ、左腕を右肩部上方へと回し、更に全身を左へと傾けつつ攻撃隊へと迫り来る。
そして、その破滅的な攻撃は実行された。
1撃目。
全身の捻りと共に振りぬかれた腕部、更には機体左後方のスラスターとバーニアの噴射による加速を受けて放たれた、右腕のブレードによる横薙ぎ。
ブレード先端の速度は極超音速を突破し、それに触れた構造物、更には掠っただけの構造物すら「消滅」させる。
しかし間一髪、攻撃隊はそれを回避していた。
2撃目。
1撃目と同様に全身の捻りとスラスター・バーニアによる噴射の加速を受けて放たれたそれは、横薙ぎではなく上方よりの袈裟懸けに振り下ろされた。
右腕のそれを更に上回る速度で放たれた斬撃は、3名の魔導師を文字通りの塵と化す。
悲鳴が零れる事はなく、血肉が飛び散る事もなかった。
「消滅」。
唯、「消滅」したのだ。
それを目にしたなのは他、攻撃隊員の誰もが、怨嗟の声を洩らす余裕など持ち合わせてはいない。
脳を揺さぶる轟音と衝撃により、意識を保つ事で精一杯だったのだ。
そして、その隙を狙うかの様に、有り得る筈のない「3撃目」が放たれる。
3撃目。
左腕を振り抜いたゲインズは、その右肩を攻撃隊の正面へと曝していた。
破損した装甲を隠す事もなく、ゲインズは右腕を頭部前面へと翳し、肘部を前方へと突き出す。
その様を目撃した攻撃隊が、朦朧とする意識のままに回避行動を開始しようと試みた時には、既に遅く。
爆発するスラスターの炎と共に、漆黒の巨体により8名がその身体を押し潰されていた。
「・・・ぅぁああ!」
瞬間的に超音速を突破したゲインズの巨体は、一瞬にして8名の魔導師を挽肉と化し、さらには周囲の魔導師をも衝撃波により害する。
しかし破損した推進機構ではその運動を制止する事はできず、そのまま抉られた艦内構造物の壁面へと衝突、全ての動作を停止した。
衝撃波に吹き飛ばされ、壁面へと叩きつけられていたなのはは、何とか身を起こし周囲を見渡す。
「・・・あ・・・あぁぁ・・・!」
無事な者は、1人として存在しなかった。
ある者は意識を失い、ある者は重傷を負い、ある者はその命を奪われている。
構造物の残骸に串刺しとなって息絶えている者もあれば、鋭いエッジ状の破片によって胴を上下に分かたれてなお息を残している者もあった。
命に別状がないと思われる者の中にもまた、四肢が異常な方向へと捻じ曲がり不気味な痙攣を繰り返している者、呼吸と共に咳き込み血を吐く者、血塗れの手で自身の目を押さえ悲鳴を上げ続ける者など、目を覆いたくなる様な惨状の中に身を置く者が複数存在する。
だがそれでも、戦闘の継続に支障がない者達から、続々と念話が飛び込んだ。
『一尉・・・一尉! 無事ですか!?』
『ウェンディ!? ウェンディ、何処だ!? 返事をしろ、ウェンディ!』
『・・・アタシは無事ッス、チンク姉。そっちこそ大丈夫ッスか!?』
『あの野朗! やりやがったな、鉄屑め!』
それらの念話を聞きつつも、なのはは答えるだけの余裕を持たなかった。
喉の奥から込み上げる、強烈な鉄分の臭い。
直後、彼女の口から赤い飛沫が吹き出した。
白いバリアジャケットに、点々と赤い染みが拡がりゆく。
拙い。
先程の衝撃で、何処か内臓器官を傷めたらしい。
身体が思う様に動かないという事は、余程に深刻なダメージを負ったという事か?
思わず屈み込み、血を吐き出すなのは。
耳を覆いたくなる様な音と共に赤い飛沫が弾け、元の優美さを欠片も残さぬ床面へと赤い水面が出現する。
呆然と、自らより流れ出た生命の液体を見詰める彼女の肩を、誰かが軽く叩いた。
ゆっくりと振り返れば、其処には回復魔法の名手たる局員と、彼女を連れてきたであろうウェンディの姿。
局員の顔は焦燥を浮かべ、ウェンディは今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。
自身はそんなに酷い状態なのか、と何処か他人事の様に思い浮かべるなのは。
その後方で、絶望を煽る轟音が響き渡った。
「・・・そんな」
呆然と呟いたのは、局員か、ウェンディか、それともなのは自身か。
振り返り投じた視線の先で、ゲインズがゆっくりと身を起こし掛けていた。
その巨体は左脚に次いで右腕を失い、胴部右側面の装甲は殆どが粉砕され脱落している。
しかしその動きは些かの躊躇すら見せず、ただ攻撃再開を目指し残された左腕を以って身を起こし、残された頭部センサーの光をなのは等へと向けた。
その瞬間、なのはの肩を支えていた局員の腕が跳ね、ウェンディからは小さく悲鳴が上がる。
殺される。
なのはは理解した。
このままでは、3人とも殺される。
意思ある者としての抵抗すら許されず、蟻の様に踏み潰されるだろう。
周囲の生存者達が、自らを害しようとする悪魔へと抗う。
無数の光弾が漆黒の巨体を襲い、回復魔法を使える者達はこの状況下に於いても負傷者の治療を続けていた。
なのはの肩を支える彼女もまた治療を中断する事なく、「AC-47β」により増幅された魔力を以って臓器の損傷を癒し始める。
急速に消えゆく体内の違和感、そして全身を襲う倦怠感。
これならば、然程の時間を掛けずに戦闘へと復帰できるだろう。
しかし、それでもゲインズの攻撃再開には間に合わない。
現にその漆黒の巨体は今、バーニアによって宙へと浮かび上がっているのだから。
「・・・アタシ達・・・終わり、なんスか?」
ウェンディの呟き。
答える者は居ない。
損傷したスラスターでの加速はやはり無理があったのか、ゲインズは不自然に巨体を揺らしつつ攻撃隊へと向き直る。
振り上げられる左腕。
流石はゲインズ。
支援
流石バイド軍の主力機体支援
怒りも、焦燥も、諦めすらなく。
なのはは、ただ呆然とその様を眺めていた。
そして遂に、青白い光を放つ巨大なブレードが振り下ろされようとした、次の瞬間。
爆発と見紛うばかりの光が、ゲインズを呑み込んだ。
「ぁ・・・!」
何も聴こえなかった。
音が無かった訳ではない。
余りの轟音に、鼓膜が破れたのだ。
視神経を焼かんばかりの閃光に視界が眩み、何もかもが白い壁の向こうへと消える。
次いで全身を襲った衝撃に意識を手放し、しかし更なる衝撃により無理矢理に意識を覚醒させられた。
2回ほどそれを繰り返し、漸く視界が回復してきた頃に全身を捉える浮遊感。
何とか首を回らせて周囲を見やれば、あらゆるものが宙へと浮かんでいる。
破片が、デバイスが、局員が、死体が。
何ひとつ落下する事なく、宙へと浮遊しているのだ。
状況、無重力状態へと移行。
『一尉・・・一尉!』
念話での呼び掛け。
これはチンクか。
『チンク・・・何?』
『無事か、一尉!? 周りを見てみろ!』
その言葉と共になのはは、漸く鮮明となった意識の中へと周囲の状況を映し出す。
そうして認識した光景は、余りに非常識なものだった。
「何・・・これ・・・?」
ゲインズの存在していた地点には、何もなかった。
ゲインズのみが消え去っているのではない。
周囲の構造物も、裂けたゆりかごの外殻も、床面も壁面も上部構造物も。
一切合財が消滅し、何もない暗闇のみが拡がっていた。
そして、数百mほど前方であろうか。
巨大な次元航行艦の断面が、まるで艦体を半ばより折り取られたかの様に、内部構造を攻撃隊の視界へと曝していた。
「聖王のゆりかご」は艦体中央部を消し飛ばされ、半ばより2つに分かたれていたのだ。
「・・・聴こえますか? 一尉、この声が聴こえますか?」
突如、聴覚が機能を回復し、背後より声を掛けられる。
振り返れば、先程の局員がデバイスを片手になのはの治療に当たっていた。
当の彼女は自身の負傷すら後回しにしているのか、全身に血を滲ませたまま息を荒げている。
なのはは咄嗟に彼女の肩を支え、後方のゆりかごの残骸へと飛ぶ。
その一部へと彼女の身を横たえたなのはは、少々声を荒げて容態を診た。
ゲインズ無双w
支援
なんとういう殺戮支援
「無茶しないで! まずは自分の身体を・・・」
「私は大丈夫です、大した事はありません・・・それより一尉、あれを・・・」
なのはの言葉を遮り、彼女は頭上を指し示す。
その指の向く先を辿り、なのははそれを視界に捉えた。
「・・・まさか!」
それは、忌まわしき存在。
自身を含め、管理局員からの無限にも等しい敵意を向けられる、異質な質量兵器。
決して生み出されてはならぬ、邪なる力。
そして、自らの故郷たる弟7管理外世界が生み出した、最大にして最悪の過ち。
「R-TYPE」
「今のは・・・波動砲!?」
「波動砲って・・・質量兵器って、ゆりかごを割れるものなんですか・・・?」
呆然と言葉を交わす間にも、純白の機体と青いキャノピーを持つR戦闘機はゆりかご前部へと接近し、その機首に装着されたフォースの先端へと青い光が集束を始める。
どうやらあの機体は、ゆりかごの半身を跡形もなく吹き飛ばすつもりらしい。
「駄目・・・!」
知らず、なのはは飛び出していた。
背後の彼女からの制止も聞かず、一心に不明機体へと向かう。
駄目だ、あれを破壊させてはいけない。
あの中には、間違いなくヴィヴィオの姉妹、若しくは兄弟が居るのだ。
それを救い出すまでは、ゆりかごを破壊させる訳にはいかない。
「止めて!」
叫び、レイジングハートを構える。
しかしR戦闘機は彼女より僅かに早く、波動砲のチャージを終えたらしい。
瞬間、フォースの先端で青い光が炸裂し。
同時に、周囲の構造物を巻き込みつつゆりかご内部より放たれた虹色の砲撃が、R戦闘機の機体側面を貫いた。
「・・・嘘だ」
陽電子砲搭載ゲインズまだー?支援
視線の先、広範囲へと拡散した波動砲の着弾により、残った艦体の殆どを破壊されたゆりかご。
その原形を留めぬ残骸の中、剥き出しとなった玉座の間。
記憶に残るそれよりも遥かに広大な空間となっている其処に、それは悠然と佇んでいた。
「嘘だよ・・・」
巨大な鋼色の胸像。
言い表すのならば、これが最適な表現だろう。
全高、約40m。
異形の甲冑を思わせるそれには四肢が存在せず、額からは巨大な赤い結晶構造物が覗いていた。
なのはは知っている、その結晶の名を。
「嘘だ・・・有り得ない・・・」
「レリック」。
第一級捜索指定ロストロギア。
嘗て機動六課が回収に奔走し、ジェイル・スカリエッティが己が野望の為に収集し、体内にそれを宿したヴィヴィオを聖王と化した、過去の高度次元文明が遺した負の遺産。
しかし、なのはは知らない。
否、誰も知る筈がない。
直径が「4m」を超えるレリックなど、存在する筈がないのだから。
「信じないよ・・・」
そして、その巨大な甲冑の周囲を取り囲む、魔力の壁。
虹色の光を放ちつつ周囲を破壊し行くそれが、更に凶暴に、凄絶に、嵐の如く吹き荒れる。
聖王の証、カイゼル・ファルベ。
「あれが・・・あれが・・・ヴィヴィオの・・・」
直後、その頭部より放たれた無数の誘導操作弾と、レリックより放たれる豪雨の様な高速直射弾の弾幕が空間を埋め尽くした。
R戦闘機がフォースを盾にそれらを受け止め、甲冑の頭部へと波動砲を叩き込む。
轟音と共に砕ける頭部側面。
粉砕された甲冑、その輪図画に残った破片が周囲へと拡散してゆく。
爆発と粉塵が収まった時、甲冑の粉砕跡から覗いていたのは、余りにもおぞましい生命体、その歪み切った形相だった。
「兄弟なんて・・・」
他者の命を呪い、自身の生を呪い、自身を呪う者を呪い、他者の幸福を祈る者をすら呪い、この世の全てを呪い尽くしてもなお足りぬといわんばかりの、その形相。
憤怒と、恐怖と、絶望と。
害意と敵意と殺意と悪意が渾然一体となり、次元世界全ての生命を喰らわんとするかの様な、憎悪と怨嗟とに塗れたその造形。
砕け散った甲冑の右側面より覗くそれは、翡翠の様な「碧」の眼を持っていた。
そして、更なる砲撃により破損した甲冑頭部の間隙より現れた、その残る眼は。
「・・・認めないッ!」
紅玉の如き、鮮やかな「赤」であった。
異形の咆哮と共に、甲冑胸部が上下へと開放される。
其処より覗くは、生命の鼓動を刻む黄金色の球体。
そして、R戦闘機が、魔導師達が、その力の矛先を異形へと定めた瞬間。
虹色の光が、暴風となって解き放たれた。
ドブケラが来るwww
支援
ドプケラヴィヴィオとか恐ろしすぎる支援
頑張れバイド!支援
初ドプケラはザプトムですた支援
投下終了です
支援、有り難うございました
という訳で、前回1人だけ語られなかったギンガの状況と、そしてゆりかご戦のお話でした
ギンガが接触した民営武装警察とは「GALLOP」のアレ
つまり凾フ「サタニック・ラプソディー」と同時に発生した事件「デモンシード・クライシス」を鎮圧した、あの地球軍顔負けの連中です
当然、あの機体も・・・
因みに「POLICE」ではなく「POLIZEI」としたのは、筆者が大好きな某一本腕STGへのオマージュです・・・ドイツ語カッコ良いよドイツ語
マンテル社?
何の事かね?
「R-9C WAR-HEAD」
「U」と「SUPER」の自機です
拡散波動砲とショットガンレーザーにシビれたのは自分だけじゃない・・・筈
個人的に「FINAL」での弱体化っぷりに最も涙した機体です
僕のショットガンレーザーを返せよぅ・・・orz
最後に現れたのが「U」のステージ1、「SUPER」のステージ2のボス「ザブトム」です
シリーズ御用達のボス「ドブケラドプス」の死骸を用いて建造された戦略兵器との事
子供の頃、背後から迫り来る壁とあの顔が怖くて怖くて・・・
因みにヴィヴィオの弟、若しくは妹です
額の結晶は本当は青ですが、こちらはレリックとなっています
関係ありませんが、RシリーズのBGMは「SUPER」のステージ1,2,4,6とボス戦が至高と思っているのは自分だけ・・・?
さーて、来週のサz・・・Λはー?
ギンガ、警察「を」タイーホ
なのは、でっかい第二子誕生
>>55 GJ!
なのはさんまだ若いのにそんなに大きな子がいるなんて…
お体にお気を付けて頑張ってください
ギンガの管理局中心の狭い視野は
ひどく歪だなあ……
GJ!
ギャロップは比較的にまともな会社だと思うけど
地球人自体が既に野蛮な種族であるのは否定できない事実だから仕方がない
第二子はでっかいってレベルじゃないwそれに種類も妙に多いし
R-9C WAR-HEADはSLGにおいては亜空間機能を持つ戦術機だったけど
FINALではラグナロックと同じく弱体化(安全性と安定性を考慮した結果?
そして、RシリーズのBGMはΔのもなかなかによかったです
GJ!
地球人に守られてた、管理世界の人々の今後の動きが気になるなぁ。
GJ
ギン姉が残念だが仕方ないかな。
石川県民並にフラグぶち折った気がするけどw
なのはさんはそこで否定しちゃいかんでしょ。
お話聞いてあげてくださいよ。無理かwww
GJ!
ピースメーカーに救助された人々
これでキャロがかゆうまになってない事を期待
希望の先に絶望が待ってるのがRだとしてもだ
GJ
兄弟がいるはずだからと戦闘機にぶちかましをしておいて
当の兄弟を見つけたら存在否定ですかい
いつからそんな自己中な人でなしになったんだ……
GJ、そういえば、設定ではドプケラは電子機器や機械をハッキングする能力があるんだった、
>>55 GJ!
自分もラグナロックの弱体化に泣いたよ!音楽は2の最終面が好き!
ちょwギンガww巻き込まれただけの人たちにそれは…魔法使えないんだからしょうがない。
さっそく魔道師たちが死亡したが最終的な生存者数が気になるぜ。
やっぱRにはドプケラちゃんは必須っすよね。
ヴィヴィオもおっきい弟or妹ができて大喜びだね!でも並の家に収まるサイズじゃないのが問題www
次回はゼプトム+聖王パワーとなのは&R-9Cが決戦か、共同戦線ははるのかな。
弾幕合戦か大砲対決か?ザプトムの惑星破壊攻撃は炸裂するのか?楽しみすぐる。
誰か特撮とクロスさせてくれ
GJ大質量のレリックに聖王の鎧までつくのか、簡単には破れないだろ。
ハッキングか 蓄積も無いのにフォ−スの不具合が出る可能性もあるのにデバイス大ピンチだな。
GJでした!
ギンガめ。やってくれる。
そんなことしてたらバイドにやられてしまうぞ。
まあ持っている常識からして仕方ないんですが。
なのはのほうは面白くなってますね。
これは更なる絶望の予感。
キャラが酷い目にあってるのが楽しかったりします。
なんかバイドが格好良いのですw
容赦の無い所が魅力的で。
R-typeも応援してますね。
レイハの台詞があった時、汚染が気になってしまったw
次回ヴィヴィオの妹?の活躍に期待。
>>キャラが酷い目にあってるのが楽しかったりします
同意。最後は幸せになってほしいけどアイレムR的に無理ですよねー……
普通は拒絶反応出るところが「アイレムだし」で納得できる。不思議!w
援軍なしだと第十七艦隊側はキツイな…
避難民からしたらてめーら何やってんだって感じだよな。
そんな事よりこの絶望的な状況の打開と身の安全と衣食住保証してくれという感情だろうし
ほんとに蓄積も無いのに国連軍ですらまだ未解明なのにフォースを導入して不具合がかなり出そう。
避難民「何か質量兵器持ってるけど避難所も食べ物もあるし助けてもらってラッキー」
管理局「悪の地球人をタイーホして助けに来たよ!」
避難民「ちょwwwwwおまwwwwww」
下手すりゃまとめてバイド汚染・・・
普通なら最悪の展開は万歳三唱で管理局を出迎える
だが、バイドに汚染されるが追加されるから侮れないw
誰かメタルギアとなのはのコラボ書いてくれ。
「フリードをキャプチャーしたのね」
「美味いのか?」
いいセンスだ。
1ヶ月ぶりのGJ!!
最後の方をチラッと読み直してみて気づいたのですが、要するに『このドプケラはオッドアイ』って事でしたね。ザブトムは拡散波動砲のオーラ撃ちで倒すに限る。
文の中に『弟7管理外世界』ってのがあって吹いた。(失礼)
余談:以前なのはの創作で、『アンダーカバーウィッチーズ』なんてのがあった気が…ちょっと捜すか。
あぁ、GJ!
質量兵器拒絶反応がここまで過敏じゃなかったらなぁ…とか
ミッドがなぁ…とか、色々残念。ギンガ…汚染されても頑張れよ…
>75
「キャロ、ヴォルテールは…」
「そんなにドラゴンステーキが食べたかったら地下迷宮に行ってください」
司書長がリュック背負っておいでおいでしていますが、無害です
アインハンダーかよ!Rシリーズ並みにイカレタ設定だったな、あっちもある意味救いようないし
しかし管理局、質量兵器完全否定する割りにアインヘリアル運用しているし
>>80 アインヘリアルは魔力砲だからいいんだそうだよ
しかし地球軍はヴィヴィオを生体兵器、なのははR戦闘機を最大にして最悪の過ち呼ばわり。
これは和解できるのかなあ?
GJ!!です。
ギンガが凄いw
警察の人と会話もして、体のことを聞かれたときも気を使うような心があったのにwww
問題は、市民と捕まえた警官隊を現戦力だけで守りきれるのだろうか?
これで守りきれなかったら・・・市民の生き残りからしたら、とんだ疫病神だぜw
83 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/04(金) 00:49:00 ID:K4wy8xK6
ギンガ&管理局は避難民の暴動で2割は殺される気がする。そんでもって避難民皆殺しで、その記録がばら撒かれてとか…
キャロとバクラの人氏、帰って来てくれないかなと思っている俺。
この間 来ただろう。
処罰なんざ後でも出来るだろうに所属も聞いているんだから。
GJ!
時空管理局の横暴に全俺が怒った!
管理局自体、色々世間に顔向けできないことをやってるわけで第97管理外世界の人たちのことをあれこれ言える立場じゃないと思うんだ。(それでも罪は罪だが)
魔法自体限られた人間しか使用できないのにそれ以外の人間は汚染して死ねと?
バイドの脅威から保護されていた人からはどう見えるのでしょうかね?
どうでもいいけど民営武装警察って元ネタのGALLOPのせいで
皆機体に乗ったら人が変わるスピードキ○ガイという印象がある
GJでした!
あと、どうでもいいかもしれないが
石川県民にまだ出番あるのかな?
あれで終わりとか…
ちょwwwwwwwwwww
これから寝ようと思ったのに、眠気が吹っ飛んだw
さすがR-TYPE氏
GJだぜ!
あとギンガァーー!
お前何、日本の公務員みたいな硬直しきった対応するんだYO!!
あ、そういえば管理局って官僚組織でしたねw
管理局員じゃあ仕方ない
はい、早朝投下のお時間です。
五時四十分から第二話投下しますね。
さすがにこの時間帯じゃ被らないでしょうし。
―――迫り来る浄化の炎から逃げられるとでも思っているのか?
マスターチーフ。
国連宇宙軍海兵隊所属
特殊機甲部隊SPARTAN-II-117
Master Chief Petty Officer
わかりやすく呼ぶならば特務曹長と言った所だろうか。
一般に実働部隊――兵士として最前線で戦う人物に与えられる階級は、
二等兵、一等兵、伍長、軍曹、曹長、そして准尉の六つが存在する。
二等兵は文字通りの新人兵。訓練を終えたばかりの兵士だと思えば良い。
その上に一等兵がおり、それらを統括する存在として伍長がいる。
そして伍長と士官の間に入るのが、軍曹、曹長である。
簡単に言えば、小隊における参謀役と言っても過言ではない。
この軍曹、曹長というのは、兵士にとっては神に等しい存在だ。
兵卒にとって『先任下士官=軍曹や曹長の意見は絶対』と言うのは事実であるし、
士官にしてみれば、下士官の意見を聞かない人物は確実に早死にするというのが、定説だ。
ちなみに、多くの場合に誤解されがちだが、准尉とは士官の事ではない。
士官教育を受けていない人物が、部隊を指揮するような状況になった際、
その権限を示す為「士官相当」という意味で与えられる階級であるのだ。
つまり、兵卒として戦うならば、曹長が最上級階級であると言える。
無論、これは大雑把にわけた分類であるし、組織によっても呼称は様々だ。
管理局においては最下等の陸士であっても、それなりの地位や権限があるし、
陸曹、陸士といった階級であっても現場の判断で指揮を執る事ができるのだから。
―――では、特務曹長とは何か。
先に言っておこう。およそ尋常な人間が得られる階級ではない。
常に最前線で戦い続けた、叩き上げの兵士にのみ与えられる階級。
勇猛に戦い、仲間を救い、不屈の精神を備え、そして常に生還し続ける存在。
この人物さえいれば、どんな状況でも打破できる。
そういう敬意、信頼や憧憬の念を込めて呼ばれる階級こそが特務曹長、
即ち「マスターチーフ」の階級なのだ。
だが、それは勿論UNSC――国連宇宙軍においての話。
管理局においては特務曹長などという階級は存在しない。
故に。
未知の世界の、未知の組織の、そして未知の階級の人物に対して、
管理局が当初行った対応は、本来マスターチーフが与えられるそれとは、
大きくかけ離れたものであったのは、間違いないだろう。
――――即ち、完全な密室における拘留である。
**************************************
ソファーが一つ。テーブルが一つ。観葉植物が一つ。ドアが一つ。
窓無し。出入り口は施錠済み。外に監視者二名。部屋の隅に監視カメラ複数。
その中にあって、マスターチーフは普段と変わらない態度であった。
ソファに腰をかけて、テーブルの上に放られた書類に眼を通す。
機動六課、そして未確認勢力との接触後、
六課の保有する施設内へと移送されたマスターチーフは、
これまで全くといって良いほど、口を開いていない。
しかしながら、それは外側の話だけだ。
彼の纏う第六世代ミョルニルアーマーの内側では、
その神経回路を通して、このような会話が繰り広げられていた。
『――此方は一通り眼を通した。其方はどうだ?』
《こちらも情報収集は、一応終わったわ。――それにしても魔法だなんて。ちょっと信じられないわね》
管理局内部に存在する無線端末を通し、電脳の海へ潜ってきた相棒からの返答。
そして続けざまに送信される、彼女の得た膨大な量の情報を、
チーフは黙って、その脳内に受け入れた。
管理局――時空管理局というものが設立されるきっかけとなった事件は、
おおよそ約五世紀ほど前にまでさかのぼる。
旧暦462年――幾つかの世界が大規模次元震なるもので消滅した。
少なくとも当時の管理局世界人にとっては、それは大きな衝撃だったらしい。
(だというのに原因が不明瞭だというのが気にはなったが)
それが直接の契機となり、次元世界の統一へと人々は動き出し。
最終的には時空管理局が成立され、本局が『海』、そしてミッドチルダに『地上本部』が置かれた。
その後、世界を滅ぼすような質量兵器の全面廃止、
およびロストロギアの封印という決まりが成立したのが、
おおよそ150年ほど前の事だ。
『ロストロギア?』
《古代人、先史文明が残した危険なオーバーテクノロジーの産物、その総称》
『つまり、フォアランナーの遺産か』
《そう。それを管理局では、ロストロギアって呼んでるの。まあ、本質的には変わらないわね》
フォアランナーとは、かつて銀河系を支配していた超古代種族である。
ある理由で滅亡した彼らは、現在確認されているどの文明を、
遥かに超越した技術を有しており、その産物を『フォアランナーの遺産』と呼称していた。
そしてどうやらそれは、管理局において『ロストロギア』の名称をつけられたようだ。
とはいえ勿論、問題は其処ではない。
彼ら二人が危険視しているのは、管理局全体に蔓延する思想と、その行動方針である。
質量兵器を根絶する事によって、魔導師を大量保有する管理局の優位を確保。
そしてロストロギアの封印、次元世界の平定を名目にした、異世界への拡大政策。
更に「世界を管理する」という名称による、局員の士気高揚。
言葉を少し変えれば、何の事は無い。
何処の世界でも実行されている、あり触れた政治方法だ。
―――少なくとも、時空管理局の設立当初は、だが。
《コヴナントは逆にフォアランナーの後継者を名乗って、他種族を支配下においた。
もっとも手段と目的が逆転してしまったのだけれど――管理局も同じみたい》
彼らの質量兵器、そしてロストロギアに関しての忌避感。
そして時空を管理するという名称から齎される使命感。
魔法、魔導師への精神的、物質的、両面からの完全な依存。
ある種の宗教と言っても、恐らくは過言ではないレベルに達している。
端的に言えば―――――酷く『歪』なのだ。
《それで、どうするの? 協力を『強制』されたんでしょう?》
何処にいっても頼られるのねと笑いを含んだ声。
それに頷きを返し、マスターチーフは卓上に置かれた、書類の束を手に取った。
先刻、この部屋に拘留されると共に渡されたものである。
主な内容は、この管理局の制度と、マスターチーフの今後についてだが――
・故郷である次元世界の捜索、および帰還への協力。
・帰還までの身分として、管理局機動六課部隊員を与える。
・質量兵器の没収。および代替となるデバイスの授与。
・未確認勢力(コヴナント)迎撃への参加要請。
要約すれば、内容はこんな所だろう。
勿論『強制』などとは一言も書かれていない。あくまでも『要請』だ。
しかし――実質的には似たようなものだ、とチーフもコルタナも判断した。
となれば、悩むほどの問題ではない。
数十分後、マスターチーフは部屋を訪れた八神はやてに対し、
この時にコルタナへ告げたのと、同様の言葉を言い放つことになる。
***************************************
「断る」
当然の結論であった。
元より救難信号は発信し続けている為、遅かれ早かれ人類はミッドチルダに到達する。
その為、元いた世界を探すなどと言った、上から目線の提案はまったく意味を為さない。
ましてやマスターチーフは捕虜でもなく、漂流者でもないのだから、
管理局側の一方的な物言いに頷くような必要性は、まったく無いのである。
問題なのは、現時点において、管理局と接触している国連宇宙軍が彼のみという事だ。
いわば国連宇宙軍の代表と言っても過言ではない。
その彼が、管理局に頷き、管理局の要求を受け入れ、それに従って戦えばどうなるのか。
前例ができる。
質量兵器を手放し、戦力としては不確定な魔法を用いることを認めた、という。
つまり管理局の傘下に入り、それに恭順する――国連宇宙軍には、その意思がある、と。
勿論、マスターチーフ一人の動向で全てが決まる筈はあるまい。
だが、大きな影響を残すことは確実と言えた。
そして彼は、このような歪な組織に、人類の命運を預けることを良しとしない。
「せやろうな。でも、この世界について大体の事はわかってくれたと思う」
半ば以上は、その答えを予想していたのだろう。
八神はやては慌てる事もなく、苦笑交じりに頷いた。
若干19歳の彼女にさえ見抜けるほど、管理局の体制は脆い。
たとえ大規模な火災であったとはいえ、現地駐留職員では消火できず、
本局――首都からの魔導師が来てやっと何とかできる、というのは異常だ。
地上本部があるミッドチルダでさえこれなのだから、他世界に関しては推して知るべし。
「管理局の体制は正直言ってガタガタや。
あの連中――コヴナントに対抗できるとは、とても思えへん。
だけど、わたしは、この世界を護りたいと思ってる」
意識的に嘘を二割程度混ぜた、虚言。
少なくとも――管理局の権力基盤は磐石だ。
力不足な面もあるとはいえ、皆からの信頼も厚く、
そして次元世界を管理するに足る戦力も保持している。
彼女個人に関して言えば、幼い頃に手にした魔法の力、家族、親友達への信頼があった。
勿論、自分ひとりで何とかなる等とは欠片も思ってはいないが、
みんなの力を合わせれば――絶対に大丈夫だと、確信を持って言える。
故に八神はやては、危機感を抱いてはいても、管理局それ自体が崩壊するとは思っていない。
それは尊い想いである。傲慢などとは、誰にも呼べない。
19歳の少女が抱いている、とても大切な気持ちなのだから。
「だからこそ、協力して欲しいんや。
マスターチーフ個人としてではなく――国連宇宙軍として。
わたし達に、奴らとの戦い方を、教えて欲しいんよ」
彼女の提案は、こうだ。
つまり遠回しな『強制』ではなく、明文化された『要請』。
管理局が頭をさげて、国連宇宙軍に教えを請う、という事だ。
勿論、正確な文書にするとなれば管理局ではなく、機動六課となるだろう。
はやて自身、管理局の代表として発言するような権限は持っていない。
「機動六課は特殊なロストロギア――レリックを専門とする部隊や。
あの未確認勢力はレリックを狙っていた。
っちゅうことは、今後も敵対する可能性が高い。
だから外部からの協力者を呼び寄せた……って事にすれば、
割合と丸く収まるんやと、思うんやけど――」
どうや?と伺うように首をかしげて、はやてはチーフの顔を覗き込んだ。
SPARTAN-IIは任務時間中、そのヘルメットを解除する事を禁じられている。
その為、金色に煌くバイザーは彼女の顔を反射するのみで、その表情を伺うことはできない。
だが――マスターチーフは、ゆっくりと頷いて見せた。
「――――悪くない」
《だけど、多少なら譲歩できるわね》
「誰や……ッ!?」
唐突に聞こえた女性の声に、驚いたように周囲を見回すはやて。
それに対し、声の原因がが何者かを理解しているチーフは、
落ち着き払った様子で、自らの首筋へと手を回す。
其処に挿し込まれている一枚のカードを引き抜くためだ。
掌ほどの大きさのカードには、情報集積クリスタルが備わっており、
特殊装甲服のクリスタルと双方向で情報をやりとりできるほか、
映像投影機も備わっているため、このように――――……。
《はじめまして、ヤガミハヤテ陸佐。
私はUNSC所属戦艦オータムの管制AI、コルタナ。
隠れていてごめんなさい。でも――ちょっと警戒していたものだから》
――高性能なAIならば、自分の姿を空中に投影することもできる。
青い女性、という表現が最も的確だろうか。
本当に掌に乗れそうな――はやてはリィンフォースIIを連想した――大きさの美女。
肩のところで切られた髪の毛と相俟って、随分と活発な印象を覚える。
《まずは勿論、貴女たちのいう未確認勢力――コヴナントに関する情報。
此方もココに来ている兵力がどの程度かはわからないし、
全容を把握しているわけじゃないから、今判断できる所まで。
……携帯端末は持ってます?》
「え? あ、ああ……これでええか?」
我に返ると、コルタナの指示に従い、はやては制服のポケットから小型の端末を取り出す。
手帳型の其れは、はやて個人の私物だ。
それなりに多忙な毎日を送っている彼女にとって、スケジュールなどを確認するのが容易で、
ちょっとした情報などを即座に調べる事ができるため、随分と重宝している。
《では、ちょっと借りますね――――うん。回線が繋がった》
その端末へと少し手を伸ばすだけで、あっさりとコルタナは接続を開始する。
少なくともマスターチーフにとっては、特に驚くべき事ではない。
コヴナントやフォアランナーのデータベースにも彼女は容易に接続していたし、
その情報処理能力は、たった一人で複数の船舶を操って艦隊戦闘が行えるほど。
つい先刻までも管理局のネットワークにアクセスしていたくらいなのだし、
この程度の芸当は朝飯前と言ったところだ。
即座に彼女が言った通り、コヴナントに関するデータが送信され、
携帯端末に受信されたそれを、はやては驚きの眼で確認していく。
《それと、幾つかの質量兵器に関しての情報提供。
これについては、其方の用意したデバイスが、此方の要求スペック以上なら――。
そうね。マスターチーフ個人に関しては、それを使用しても構わない。
良いでしょう、チーフ?》
「無論だ」
特に拒否する理由は見当たらない。
少なくとも兵器に関しては、既に調査が開始されているだろうし、
ある程度のローカライズをされ、性能を落としたた上ではあっても、
小型火器や車輌は市販され、免許や許可状さえあれば一般市民でも手に入る。
コヴナントが――管理局が――それらを使わない以上、軍事機密と呼ぶほどの物ではない。
そしてコルタナが、火砲その他、重要な物品に関しての情報を与える事はないだろう。
となれば後はチーフ個人の問題となる。
彼は旧式ハンドガンを愛用しているとはいえ、それは趣味趣向ではなく、
単に新型の方が使い勝手が悪いと感じられたからで、以上でも以下でもない。
状況に適しているとなれば、臨機応変に装備を取り捨て選択していたし、
優秀な装備ができるというのであれば、是非もなかった。
恐らくそれは、国連宇宙軍にしても同様だろう。
問題なのは性能に関係なく、魔法装備の使用を強制される事であり、
対等な条件のもと「性能の良い装備」を採用するのであれば、
国連宇宙軍には全く躊躇と言うものはない。
ここ数年で幾度、装備の更新が行われたかを考えれば、実に明白といえる。
そういった事で躊躇っていられるような状況は、とうの昔に過ぎているのだ。
支援
《これは私から貴女への――そうね、個人的なお返し。
ただ一方的に頼み込んだだけじゃないです、って、偉い人に言ってあげなさい》
「つまり――?」
《つまり『個人的な貸し借りはゼロ』ってこと》
「お互い対等な立場でスタート……か。
…………うん、それでええ。わかったわ」
問題は無い。何もだ。
勿論今後、彼は機動六課の面々とも関わっていくことになるが――
―――――きっと大丈夫だ。
はやてには確信があった。
リクレイマー。謎の予言。『陸』と『海』との確執。未確認勢力――コヴナント。
だが、彼女は信頼している。自分の家族を。自分の友人を。初めて持った部下達を。
そしてそれは、出会ったばかりのマスターチーフ、コルタナでさえも例外ではない。
その信頼は、とても尊い、大切なものだ。
「それじゃ、宜しくたのむで。――――マスターチーフ」
躊躇う事無く、彼女は二人に手を差し出した。
大きな手が、がっしりと彼女の手を掴む。
「了解した」
HALO
-THE REQULIMER-
LV2 [START]
Fin
以上ここまでー。
ほ、ほいほいと協力なんてできるわけないじゃない!みたいな。
書きたいシーンは色々あるのだけれど、まずは次回に予定してる戦闘ですね。
頑張ります。
乙です。
しかしコルタナ、1じゃ美女どころか不気味な悪霊にしか見えなかったのに
すっかり立派になって……
R-TYPEとHELOの作者さんGJです!Rはフラグブレイカーだらけなのが気になりましたがw。
HELOの方は予告編のようになるのか楽しみです。
GJ!
コルタナ最高!チーフの判断もらしくていいです!
しかし魔法は使える素質のある奴にしか使えない、HALO世界の地球はリンカーコア持ち多いのかな。
>>「ザブトム」
…とりあえず、のっけから「ゴマンダー」じゃなくてよかったなぁと(w
ああ、俺も書きたい!
いや書く! とりあえずおっぽり出したプロット再構築してガシガシ書いてくる
そしてR−TYPE&HALO超乙
71スレ目のほうに18:25から投下しますので、どなたか支援お願いします。
17.2KBです。
GJ!
でもAMF下なら質量兵器だよね!
チーフ、マスターチーフじゃないか!
確かに管理局が単独でコヴナントに立ち向かうのは厳しそう。だが、彼がいるなら
あるいは・・・・・・ともかく、GJ!
そして、私の方も2040ごろに投下してよろしいでしょうか?
今回書く必要があると思ったり書きたかったシーン全て書いたら23KBに
なっちゃいました。その割りにドンパチはありません。
時間になったのでオメガ11、ベイルアーウトッ
ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL
第13話 陸と海の境界線、そして動き出す欲望
翼を得た者は飛ぶ――例え、その翼が法に触れていようと。
欲望は動き出そうとする――人知れず、だが着実に。
地上本部が『G空域』と呼ぶ、洋上高度三万フィートの青空。
メビウス1は、新たな愛機であるF-2のコクピットで周囲を警戒していた。雲の量はそこそこ多い方ゆえに、どこから敵機が飛び出てくる
か分からない。
レーダーで索敵しようにも、画面に映るのは妨害電波で出たり消えたりする欺瞞信号ばかりでアテにならない。完全に目視だけが頼りだ。
「――見つけた」
小さく呟き、メビウス1は操縦桿を捻る。F-2は素早く翼を翻し、獲物を見つけた鷹の如く猛然と加速する。
彼の視線の先には、瞬きすれば見失いかねない小さな黒点が二つあった。まだ距離があるので機種の判別は出来ないが、事前情報でメビ
ウス1は敵機の正体を知っていた。F/A-18Fスーパーホーネット、ユージア大陸の国家では運用されていない戦闘攻撃機だ。
ホーネットなら戦ったことあるんだが――。
対峙した経験のない機体を相手するゆえ、それなりの不安が付きまとう。だが、メビウス1の駆るF-2は敵機に悟られることなく、確実に後
方に回り込んでいた。F/A-18Fの後方下位に位置したメビウス1は、ウエポンシステムを操作して赤外線ミサイルのAAM-3を選択する。
「高度を高めに取ったのは正解だぞ、アヴァランチ……だが」
AAM-3の弾頭が、F/A-18Fのエンジン熱を捉える。それと同時に、敵編隊が突然二手に分かれた。ようやく気付いたらしい。
「僚機にも警戒を徹底させておくべきだったな。ロックオン、フォックス2! ブリザード、キル!」
ミサイルの発射スイッチを押して、目の前のF/A-18Fのパイロットに撃墜宣告。悔しそうに空域を離脱していくブリザード機を尻目に、メ
ビウス1は急上昇で逃げを図るコールサイン"アヴァランチ"のF/A-18Fを追いかける。
高度があるなら下に逃げろ、加速性のない機体じゃ尚更だ――胸のうちでアヴァランチに問題点を指摘しながら、メビウス1は相手との
距離を縮め、機関砲の引き金に指をかけた。
機体の火器管制システムが表示した、機関砲の着弾予想地点にF/A-18Fが入る。迷わず、メビウス1は引き金を引いた。
「ガンアタック……アヴァランチ、キル!」
「あーあ、負けちゃったよ」
メビウス1とアヴァランチ隊による空戦訓練が終了してから二〇分後。地上本部所属の、クラナガン郊外にある野戦飛行場では、二人の
パイロットが双眼鏡を手に、着陸態勢に入ったF-2とF/A-18Fの異機種合同編隊を眺めていた。
訓練前のブリーフィングで、彼らの間ではある約束事があった。この訓練で勝者は編隊の先頭を行くというものだが、合同編隊の先を行
くのは尾翼にリボンのマークをつけたF-2だ。
先ほどぼやいたのは"スカイキッド"というコールサインを持つパイロット。元は地上本部の陸戦魔導師だったが、今回パイロットに"転職"
した。
「これでうちの部隊は全員負けか、ホント洒落にならん強さだな」
スカイキッドに続いてぼやくパイロットはコールサイン"ウィンドホバー"。彼もスカイキッドもそうだが、地上本部戦闘機隊はもともと
陸戦魔導師だった者が多い。魔力量が少なく魔導師ランクも低い彼らに、『本局の空戦魔導師と互角に戦える』という謳い文句で始まっ
たパイロットへの転向訓練は夢のような話だった。
そんな彼らの前にある日突然現れたのが、コールサイン"メビウス1"の名を持つ出身世界不明の男だった。彼はどこで身に着けたのか豊
富な実戦経験と天才的な操縦技術で、現在地上本部戦闘機隊の指導を行っている。ウィンドホバーもスカイキッドもその指導を受け、見
事に"撃墜"された。同僚のアヴァランチは「俺が仇を取ってやるさ」と自信満々に離陸した訳だが、結果は案の定敗北であった。
「メビウス1って、よく俺たちのミスを一つ一つ言えるよな。あんな空戦機動真っ最中に」
「ああ……後ろに目がついてるような反応も見せるしな。味方でよかった」
スカイキッドの言葉にうんうんと頷きながら、ウィンドホバーは視界の隅に現れた誰かの影に気付く。
「彼は……メビウス1はよくやっているようだな。水を得た魚、翼を得たリボン付きと言ったところか」
「――へ? え? レ、レジアス中将!?」
ようやく影の正体に気付いたウィンドホバーは慌てて敬礼。スカイキッドも冷や汗をかきながら敬礼しようとして、レジアスは「楽にし
たまえ」と手を振った。
「どうだ、メビウス1の指導は?」
「は、ハイ! 非常に的確で、で、で、えーと」
「メビウス1が指導するようになってから、技量は大幅に向上したと自認しております」
緊張のあまり呂律が回らず焦るスカイキッドに、ウィンドホバーが助け舟を出す。レジアスは頷いて見せて、
「そうか、喜ばしい限りだな。これからもよろしく頼む」
と言って二人の下を去っていった。地上本部の総司令官ともあろう方が、一人でわざわざ歩いて末端のパイロットに声をかけるなど、本
来あり得ないことだ。
「……驚いたな。寿命が縮まるかと思った」
「俺もだ。しかしウィンドホバー、そういう割りに結構冷静に対応してたじゃないか」
「伊達にお前さんより歳は取ってないからな」
「それは俺がガキだって?」
「さて、どうかな」
とぼけてみせるウィンドホバーを、スカイキッドはジト目で見る。実際、スカイキッドは三〇代が大半を占めるパイロットたちの中で、
彼は二〇代だったりする。だからスカイ"キッド"なのだ。
とは言うけど、あの人だって俺とそう変わらんだろうに――。
着陸し、駐機場へたどり着くなりコクピットを降りて、機体の点検を始めたメビウス1の背中を遠目に見ながら、スカイキッドは不機嫌な
面を露にさせていた。
飛行場のブリーフィングルームに入ったレジアスは、アヴァランチに模型の飛行機片手に今回の飛行の問題点を指摘するメビウス1を見つ
けた。
「ああいう時はだな、素直に急降下した方がいい。速度が得られて、その後の反撃もしやすい……ん、中将?」
「なるほど、勉強になる――うわ、レジアス中将!?」
熱心に聞き入っていたアヴァランチはレジアスが近くに来たことではっとなり、慌てて敬礼する。一方で、メビウス1はまるで腐れ縁の知
人でも見つけたような反応だ。
「元気そうだな、メビウス1……ああ、アヴァランチと言ったか。ご苦労、少し彼と話がしたいんだが、下がってもらっていいか?」
「は、はい……じゃあ、後でなメビウス1、また頼む」
レジアスに言われるがまま、アヴァランチはメビウス1に一声かけてからブリーフィングルームを立ち去った。
「……短い間に、ずいぶん慕われているようだな」
二人きりになったブリーフィングルーム、レジアスはここまで歩いてきた道のりの最中、部下たちから聞いたメビウス1の評判がよいこと
に気付いた。それと同時に、部隊の士気が大きく向上していることも。
「ええ、まぁ――みんな熱心にやってます。これなら本局の連中にも勝てるって」
地上本部に出向し、教官紛いのことをやっているうちに、メビウス1は地上本部内の凄惨な状況を目の当たりにした。
優秀なものは多くが本局に引っこ抜かれ、地上に残るのは戦力的に見劣りするランクの低い魔導師ばかり。そうなると自然に、本局の人間
にはエリート意識が生まれる。一方で地上では劣等感を抱く者が増えて、本局に行くために優秀になろうとする。そうして本当に優秀にな
った者が本局に行き――悪循環だった。
おまけに、地上本部指揮下であっても出世や昇格のため、本局に寄り付く部隊すらある。実質的に命令系統がもう一本存在するようなもの
だ。真の意味で、地上本部の指揮下にある部隊はわずかである。
「どこの国でも陸軍と海軍の仲は悪いといいますが、これはひどいもんです」
両手を上げて、呆れたような声でメビウス1は言った。地上本部は陸、本局は海という通称があることから、彼は元の世界でも似たような
構図が存在するのを思い出したが、正直予想以上だった。
「耳が痛いな」
率直な感想を述べたISAF空軍のエースの言葉に、レジアスは思わず苦笑いするしかなかった。
「君の言うとおり、本局と我々の対立は根深いものがある……戦闘機にしてもそうだ、案の定本局から抗議が来た」
「なんと?」
「質量兵器を封じてきた先人たちの気高き行いをどうたらこうたら――馬鹿馬鹿しい、では質量共に劣る我々はどうしろというのだ」
そう吐き捨てるレジアスの言葉が、メビウス1の思考に引っかかる。今の言葉、六課の連中が聞いたらどう思うだろうかと。
同時に、メビウス1はレジアスの指揮官として、現状をどうにか打破しようとするその姿勢に好感を覚えた。
最近、地上本部内では急速に部隊の再編成が進められている。元の世界で士官教育を受けたメビウス1の意見を取り入れつつ、同時に本局
寄りの人員をなるべく重要なポストから遠ざけた。いざという時に、命令に従わないような者を部隊長にしておくのは危険だ。
装備も改修が進められている。被視認性の低い迷彩服に、魔力によって実体弾を発射する自動小銃の導入。これなら魔力量が少なくても、
弾丸の雷管にわずかな魔力を流し込んで発火、発砲するだけなので継戦能力は大幅に向上する。問題点といえば、弾が無くなれば魔力が余
っていてもどうにもならないことだった。
「……失礼、今日は愚痴を言いにきたのではない。来週、公開意見陳述会があるのは知っているな?」
「ああ、あれですか」
メビウス1も、通達でその話は聞いていた。管理局の各部の代表が集い、報道陣の前で意見を述べるのだ。事が事だけに、警備はきわめて
厳重になる。確か、機動六課も参加するはずだ。
「陳述会の前に、本局の空戦魔導師と演習を行う。四日後だ、勝利した方が陳述会会場の上空を防衛する」
「またえらく急な話ですが……さしずめ、陳述会で戦闘機について批判してくるであろう本局を、演習結果で黙らせるってとこですか」
「察しがよくて助かる。勝てるかね?」
レジアスの問い。メビウス1は少し考えるような素振りを見せて、しかし答えは決まっていた。
「……やれますよ」
――とはいえ、ただ一方的にボコるんじゃ演習の意味がない。
言葉とは裏腹に、メビウス1にも考えはあった。
翌日、機動六課。
ベッドの中で、もぞもぞとティアナは目を覚ました。寝ぼけた目で時計を見ると、もう昼近い時刻だった。
「あー……寝すぎた」
オフをもらったので目覚ましをセットせずゆっくり寝ようと考えた訳だが、言葉通りさすがに寝すぎたせいで、身体が少しだるい。
どうせ今日は一日休みだし、二度寝しようかなぁ――。
日々訓練に晒されて鍛えられはするけども、同時に同じくらい悲鳴も訴える身体からは、容赦ない眠気が来る。
瞼を閉じようとして、窓の外から久しく聞いてないような音が聞こえてきた。
ああ、なんだろうこの雷みたいな音。おっかしいな、空はよく晴れてるようなのに――。
次の瞬間、ズゴーッと轟音が隊舎の上を駆け抜けていった。腹に響く、それはそれは凄い轟音であった。寝ぼけた人間を起こすなど朝飯前
だろう。
「うわぁああああ!? 何、何!?」
ベッドから跳ね起きて、彼女は寝癖や薄い肌着はそのままに窓を開けてみる。見れば、リボンのマークをつけた戦闘機が六課隊舎上空をぶ
んぶん飛び回っていた。騒音問題で訴えたら勝てそうだ。
「……あの、リボン付き。人の惰眠を邪魔して」
撃墜してやりたい気分にもなったが、心のどこかで喜んでいる自分がそこにいる。それに気付いたティアナは一人赤面し――素早く着替え
と洗面を始めた。
――帰ってきた、のかな?
「ほれ、地上本部の戦力再編成案」
"航法訓練"の名目で、久しぶりに訪れた機動六課、はやての執務室。メビウス1は、手にしていたメモ帳をはやてに手渡す。
「おおきに。悪いなぁ、こんなスパイみたいなことさせて……」
受け取ったはやてはパラパラとメモ帳の中身を確認しつつ、申し訳なさそうな声で言った。
記憶媒体に入れず、わざわざ一つ一つメモを取ったものを渡すのは、地上本部内で記憶媒体の持ち出しが厳禁となっているからだ。
身内にさえ信用できない人物がいる――レジアスはそう言っていた。最近は、地上本部内を本局の者と思しき人間が調べて回っているとも聞
いた。
「ISAF空軍からこっちに迷い込んで六課で戦って、今度は地上本部に出向いて教官やって、さらにスパイもやって……組織を二股どころか三
股。俺はオセロットか」
「いいセンスや……冗談、冗談やから怒らんといて」
自嘲気味な笑顔を浮かべるメビウス1をはやては茶化すが、不機嫌な表情になった彼を見て慌ててなだめる。
「なるほど……査察官にでさえ、情報公開を求められても拒否する訳やな。これはまたブラックに近いグレーな兵器」
メモ帳に記されていた情報の一つ、地上本部戦力再編成に伴い、新規開発された自動小銃の項目に目を通しながら、はやては呟く。
「他にも迷彩服、戦車、ことごとくグレー路線。各部隊の隊長もレジアス派ばかり。こりゃあ今度の陳述会で叩かれるで」
やれやれ、と言った具合にメモ帳を閉じたはやての言葉。
「――それほど、彼らは戦力不足なのさ」
だが、地上の実情を目の当たりにしてきたこの男は、地上本部を庇うような言葉を発した。
「八神、お前さんの言うとおり、レジアス中将はどっか裏がある。けど……」
「けど?」
「あの人の地上を何とかして守ろうという気概は、本気だと思う。問題発言があるのは事実かもしれんが、俺はそこまで悪い人に思えん」
はやては、ただ黙って聞いていた。なんとなく気まずい雰囲気になるのを感じたメビウス1は、言葉を続けた。
「本局は戦闘機や他の武器のことを質量兵器紛いだとか言って批判するが、そういうのを導入せざるおえないほど、地上の戦力は深刻なん
だ。そして、そんな事態にまで追い込んだ責任は、優秀な人材を引き抜き続けた本局にもあると思う……だからと言って、皆が皆責任は本
局にあるとは言わない。中将の手段が強引過ぎて、自ら離れていった者も多いようだし。何が言いたいかって言うと、あー、つまりだ」
そこまで言って、メビウス1は苦々しい表情を浮かべ、こめかみを突く。言いたいことがうまくまとまらない。
「要するに、メビウスさんは地上本部に出向して、向こうの実態を見てきた。想像以上にひどかったから、あまり彼らを悪く言わないでや
って欲しい?」
「そう、そういうこと」
それまで黙って彼の話を聞いていたはやてが、口を開く。メビウス1は彼女の分かりやすい解釈に感心しつつ、何度も頷いた。
支援
「ふーむ……正直な話、陸の実態はよう分からんところがあったんよ。だから、メビウスさんの言うことは信用するしかないと思う。けど
なんて言うかな、理解は出来ても納得は出来んって言うか……中将に黒い噂が絶えんのも事実やし」
「それで充分だ。俺も一〇〇パーセントあの人を信用した訳じゃない。現場の連中は信じてやって欲しいが」
「うん――まぁ、現状戦闘機に対抗可能っぽいのはうちと地上本部だけっぽいから、いざとなったら協力することもあるかもしれへんな。
その時はメビウスさん、悪いけど掛け橋になってや」
「望むところだよ」
ひとまず、この話題はそれでお終いとした。地上の凄惨な状況を知ってもらう、それだけでもメビウス1は充分だと考えた。
「さて、辛気臭い話題は置いといて……今日の用事は、これだけじゃないんだ。これから先は六課にとって美味しい話だぜ」
「ほう? 期待してええかな?」
にんまりと笑ってみせるメビウス1に、はやては同じように笑ってみた。
そして、彼の言う六課にとって"美味しい話"とは、確かに美味しいものだった。
「ん……?」
ひとまず用事を終えたメビウス1だったが、帰投予定時刻まではまだ時間がある。
しょうがないので六課の敷地内をぶらぶら歩いていると、どこからかひどく歪んだ、高い音色が聞こえてきた。
近いな――。
何気なく音がした方向に向かって歩いてみると、ベンチに座った小さな少女が――おそらくはエリオやキャロよりも幼い――顔を真っ赤に
して、精一杯手にしたハーモニカを吹いていた。
緑と赤のオッドアイに金髪の髪を、可愛らしく結っているのが印象的だった。
「……あ」
少女はメビウス1に気付き、しばらく彼を見つめると――何故だか、どんどん涙目になっていく。
――まずい!
なんとなく嫌な予感はよぎったか、時すでに遅し。少女は声を上げて泣き出してしまった。おそらく結構な人見知りなのだろう。
「うぇええええんっ」
「あぁ、ごめんごめん。驚かせちまったな、よしよし……」
慌てて泣く少女をあやしてみるが、そういった経験皆無のメビウス1にこれは強敵だった。おそらく、ある意味で黄色の13より手強い。
そこでふと、彼の視線にあるものが止まる。彼女が手にしていたハーモニカだ。子供向けの玩具なので彼にはかなり小さいが、他にいい手
が思いつかなかった。
「悪い、ちょっと借りるよ」
少女に一声告げてから、メビウス1はハーモニカを咥えて、唯一吹ける曲を少女に聞かせた。
曲名は、いまだに知らない。ただ、ユージア大陸のある酒場で、よく流れていたのを何度も聞くうちに覚えてしまった。
――あれはなんて店だったか。「SKY KID」とか言ったか? 壁に黄色中隊の撃墜数が書かれていたな。
ふと、懐かしい記憶が脳裏をよぎった。曲を終えて少女を見ると、今までが嘘のようにパタリと泣き止んでいた。
「……どうだ、上手だろう?」
得意げな笑顔を浮かべる彼を見て、少女は安心したのか、興味津々な目で何度も頷いて見せた。
「もう一回……」
「お、アンコール? OKだ」
彼女の望むまま、メビウス1はもう一度ハーモニカを咥えて曲を吹き出す。
独特の優しい音色が気に入ったのか、演奏を終えると少女は笑顔を浮かべて拍手を送ってきた。
「はは、ありがとう……お嬢ちゃん、お名前は?」
「ヴィヴィオって言うの。おじさんは?」
「おじさんはね……おじ、さん?」
メビウス1は どうよう している!
幼い彼女の容赦ない言葉にひどく狼狽していると、後ろから笑い声がした。振り返ると、そこにいたのはツインテールの少女、ティアナだっ
た。
「あ、てめ、笑ったな」
「あははは、エースパイロットもおじさん呼ばわり。ホント、子供って正直ですよね」
「そりゃ俺がおじさんと?」
「さぁ?」
意地悪く笑ってみせるティアナに、メビウス1は少し不機嫌な表情をしようとして、ヴィヴィオの存在を思い出し、かろうじてポーカーフ
ェイスを維持する。
「おじ……もとい、お兄さんはメビウス1って言うんだ、よろしくなヴィヴィオ」
「うん、よろしくお願いします」
「いい子だ」
ちょこんとお辞儀をするヴィヴィオの頭を撫でてやって、メビウス1はティアナの方を向いた。
「しかし、どうしたんだこの子? 誰かの子供か?」
「それは……」
「なのはママとフェイトママの子ー」
答えは、ヴィヴィオの方から出てきた。ティアナも「まぁ、そういうことです」と言って彼女の答えを肯定する。
だが、これは彼にあらぬ誤解を生み出してしまった。
「何……高町とハラウオンの子? え、いや、ちょっと待て。あの二人いつの間に、いやいやそうじゃなくてあり得るのか生命学的に? だ
ってお前、二人とも女だろ? は、まさか恐るべき子供たち計画……」
「メビウスさーん、MGSネタが好きなのは分かりましたから、いい加減気付いてください。養子みたいなもんですよ」
「あ、なるほど……」
よくよくティアナから話を聞くと、以前のガジェット迎撃戦の際に保護した女の子で、身元が分からないので六課で預かっていると言う。
そうして懐かれたのがなのはだったので、ヴィヴィオの「ママ」になっているそうだ。同時にフェイトも後見人になったので彼女も「ママ」
ということらしい。
「俺がいない間に、結構大事になってたんだな」
「大事ってほどでもないですが。まぁ確かに、色々ありましたけど……」
「ふむ……ん、なんだいヴィヴィオ?」
ふと視線を下ろすと、ヴィヴィオが本を手にして、メビウス1の飛行服の袖を引っ張っていた。
「メビウスおじさんに、読んで欲しいの」
「ああ、この本をね……おじ、さん」
メビウス1は どうよう(ry
必死に笑いをこらえるティアナに「後で覚えてろよ」と一瞥し、メビウス1はヴィヴィオの持っていた本を受け取る。
「んーっと、何々……姫君の、蒼い鳥?」
どこかで聞き覚えのあるタイトルだな、と胸のうちで呟き、メビウス1は本の内容を、ヴィヴィオに向かって読み上げ始めた。
どこに行っちゃったのかな――。
六課の敷地内を、なのはは歩いていた。少し目を放した隙にヴィヴィオの姿が消えていた。目下、彼女は「娘」を捜索中な訳である。
幸いにも、ヴィヴィオはすぐ見つかった。途中でハーモニカの音が――知らない曲だったが、優しい音色だった――聞こえたので、それを
頼りに進んでいくと案の定、いた。メビウス1とティアナも一緒だった。
「ヴィヴィオー、もう、どこ行っちゃってたの……え?」
ベンチに腰かけて、メビウス1に本を読んでもらっているヴィヴィオに声をかけようとして、メビウス1の発した言葉を聞いた彼女は、動
きを止めた。
「歴史が大きく変わる時、ラーズグリーズの悪魔は現れる……っと、よぉ高町。どうした?」
「あ、なのはママー」
ベンチから飛び降り、元気よく飛びついてきたヴィヴィオを受け止めて、なのははメビウス1に問う。
「メビウスさん……今なんて言いました?」
まったく予想だにしていなかった。カリムの予言の言葉が、まさか彼の口から出るなんて。
歴史が大きく変わる時、ラーズグリーズの悪魔は現れる――リボンをつけて、現れる。
歴史が大きく変わる時、ラーズグリーズの悪魔は現れる――黄色い翼を身につけて、現れる。
気がつくと、懐かしい場所にいた。
酒場の外では、本日ついに五機目の敵機撃墜を果たした部隊の若手パイロットが、同僚たちからやっかみと酒を浴びせられている。
五機撃墜すれば、"エース"と呼ばれるのが彼らの慣わしであった。
視線を正面に戻すと、褐色の肌の落ち着いた雰囲気の女性が――しかし、羽織っているフライト・ジャケットには誇り高き航空兵のワッペ
ンがある――紅茶を飲んでいた。彼女は酒が苦手なのか、それともそうしている方が好きなのか、外の騒ぎを楽しそうに眺めていた。
だが、彼は気付いてしまった。その女性は、もうこの世にはいないはず。不調機で上がり、"リボン付き"に撃墜されたのだ。
つまりこれは過去の記憶、それも都合のいい部分だけで固めた夢なのだ。
「――?」
ふと、誰かの視線を感じて顔を向けると、ハーモニカを持った少年がいた。「どうしたの?」と言わんばかりに首をかしげている。
なんでもない、と彼はその犯しがたい面に笑顔を浮かべ、傍らのギターを手に取った。言わなくても分かる、少年のハーモニカと演奏する
のだ。
少年がハーモニカを咥え、彼はギターの弦を弾こうとして――突如、全てが消え去った。夢がお終いなのは理解できた。
そうだろうな、と彼はため息を吐く。俺は、彼の家族を殺したも同然なのだから。彼を一人にしたのは、俺なのだから。
夢だろうが現実だろうが、彼と演奏する資格も、生きる資格も、当の昔に――。
「13、起きて下さい。13、ドクターが呼んでるッスよ」
「う、むぅ……」
ようやく現実世界に戻ってきた黄色の13が最初に目にしたのは、教え子の一人であるウェンディであった。
「どのくらい、眠っていた……?」
「四時間ってとこッスかね。なんか疲れてるように見えるんスけど、大丈夫ッスか?」
口調は相変わらずだが、彼女なりに心配してくれているようだ。黄色の13はわずかに笑って
「大丈夫だ、伊達に鍛えてない」
と言ってみせた。妙な夢を見たせいだろうか、肩が重苦しいが、そこは歴戦の古強者だ。ベッドから立ち上がるなり、きびきびした動作で
ウェンディに疲れていないように見せた。
二人は適当に雑談を交えながら、地下ゆえに自然な日の光ではなく人工的な明かりで照らされた通路を歩いて、あのマッドサイエンティス
ト――スカリエッティの元に向かう。
「いったい何の用だ、スカリエッティは」
「さあ? あたしは何にも知らされてないッス。ただ呼んできてくれって言われただけで」
「……前々から思っていたんだが、なんで君たちナンバーズは奴の言う事を聞くんだ?」
抱えていた疑問を、黄色の13はウェンディにぶつけてみた。あの悪趣味で何が望みなのかさっぱり分からず、とりあえず命の恩人である
こと、その後の衣食住を保障してくれていること、あとはウェンディたちの指導を任されていることを除けば、付き合うのを避けたい人間
に無条件で付き従う彼女たちを、黄色の13は理解しかねていた。
「んー……」
腕組みをして、たっぷり三分は考えただろうか。しかしウェンディは特に疑問も無さそうに、彼の問いに答えた。
「親みたいなもん、だからッスかね」
「親……?」
「そうッス。ほら、あたしたちってドクターに造られたじゃないッスか。だからドクターは親で、あたしたちはその子供。子供が親の言う
こと聞くのは、当然ッス」
あとはあたしが一発派手に暴れてみたいのもあるッス、とウェンディは付け加えるが、黄色の13にその部分は聞こえていなかった。
親、と言う言葉を聞いて彼の脳裏に蘇ったのは、何故か夢に出てきたあの少年だった。少年の親は、黄色の13が撃墜したISAF空軍機の残
骸によって、家ごと消滅してしまった。少年はもう、親孝行などしたくても出来ないのだ。
「そうか――なるほどな」
これが罪滅ぼしになるとは思わない。だが、彼が痩せこけてしまったと思っている良心が疼く。
親を奪った者として、今度は親孝行の助けをするべきだ、と。例えそれがどのような結果になろうと、彼女たちが望むなら。
「納得したッスか?」
「ああ――ありがとう」
頷き、笑って見せる。
ウェンディはあっという間に納得してしまった彼に首を傾げつつも、お礼を言われて「えへへ」と嬉しそうに頬を緩めた。
そうこうしているうちに、ブリーフィングルームに辿り着いた二人は扉を開けて中に入る。
「ドクター、13を連れてきたッスよー」
「ああ、ご苦労……下がっていいよ、ウェンディ」
ブリーフィングルームには、データ端末を熱心に覗き込むスカリエッティがいた。彼は顔を上げようともせず、言葉だけウェンディに送る。
「了ー解、じゃあ13」
「ああ、後でな」
言われるがままウェンディは黄色の13に別れを告げてから、ブリーフィングルームを去った。
「……画面からは、なるべく離れて見なさいと母親に教えられなかったか?」
「あいにく親の顔など見たことも無くてね」
呼び出しておいて、端末から離れようとしないスカリエッティに嫌味の一つでも言ってから、腰を下ろす黄色の13だったが効果がないよ
うだ。不機嫌な表情を露にさせていると、ようやくスカリエッティは端末のキーを叩き、顔を上げた。
「そう怖い顔をしないでくれ。今日は君に、話がある」
「手短に頼む。あと三〇分もすれば彼女たちの訓練指導を行う」
「ほう。どんなメニューなんだね、その訓練とやらは」
興味があるのか、スカリエッティは少しばかり楽しそうに聞いてきた。
「コンビネーションを主にやっている……突撃と援護、回避と牽制、捜索と警戒」
黄色の13は面倒臭そうに答える。魔法のことはよく分からないが、彼はかつての黄色中隊の指揮官として、個々の技量に合った訓練方法
と指導を行っていた。
「なるほど……では、本題に入ろう。13、いよいよ私は動こうと思う」
感心したように頷きながら、スカリエッティは端末のキーを叩いて、画面を表示させる。そこには、彼の今後の行動計画の全てが網羅され
ていた。その内容を黄色の13は最初のうちこそ興味なさげに見ていたが、徐々に顔色に明確な変化が現れた。
「貴様……これは、本気か?」
「本気だよ。我々の戦力なら、可能さ」
「誇大妄想を広げる政治家たちは山ほど見てきたが……」
呆れたような、感動したような。どちらとも取れる表情を浮かべて、黄色の13は言った。
「世界に挑もうというのか、スカリエッティ?」
「挑むのではない、変えるのさ」
ぞっとするような、不敵な笑みを浮かべるスカリエッティ。
無限の欲望は、人知れず、だが着実に動き出そうとしていた――。
支援
投下終了。
例によってウィンドホバー、スカイキッド、アヴァランチの三名は
AC6よりゲスト参戦。ゲスト参戦はとりあえず以上の予定です。
ブービーが出るかもと期待していた人、ごめんなさい。
GJ!
さすがメビウス1は格が違うわ〜人間としてもできてる。
中将も苦労してるのね(ノД`)
GJ
軍隊経験者なら中将の苦労がとくに解るだろうなぁw
108部隊とかも遠ざけられたのかなーとふと思った
どうでもいいけどメビ1、ヴィヴィオと間接キスですよねこのロリコンめ!
GJ!
さすがのメビウス1も泣く子には勝てんかww
GJです!
地上は踏んだり蹴ったりですからねえ
質量兵器がどうこうとか言ってられませんから
どちらかに偏らずに架け橋となっているような感じですね。
GJ!
GJおじさん呼ばわりは精神的にくるものがあるだろうなw
はやても実情を知ることが出来て理解を示してくれた。これが良いきっかけになると良いが。
実際兵器の配備に法律的な問題はないんだよなw
スカさんも本編と違う何か目的があるようだ
おっさんじゃない、お兄さんだ!GJ
難しいお年頃だぜGJ!
AC6からのゲスト組に支援要請をするのは危険だ!
奴等は何もかも(正真正銘のライバル機の兄機さえ!)粉砕しちまうからな!
128 :
ジェダイ:2008/07/04(金) 23:45:29 ID:MLgBXtZo
職人の皆様GJです。
選ばれし騎士のエピソード2を00:30に投下したいのですがよろしいですか?
しえんしとく
職人さんがフォースと共にありますように。支援
131 :
ジェダイ:2008/07/05(土) 00:34:16 ID:X8ucJ3Kr
エピソード2
ダース・ヴェイダーは未知なる世界で生きていた。
突然、襲いくる機械兵器。救助にきた時空管理局の魔導師。
高町なのは
フェイト・T・ハラオウン
八神はやて
リインフォースII
彼女達と協力し機械兵器を倒したことでヴェイダーは自分が魔法を扱う世界に居ると悟り、フォースを通して魔法を得た。
その時、なのはの元にシグナムという女性からの状況報告の念話が入る。
同じタイミングでヴェイダーはそのシグナムの近くで機械兵器が移動しているイメージが浮かび……彼女に忠告し。
なのは達と空を飛んでシグナムの元へと向かったのであった。
第162観測指定世界 定置観測基地。
この基地で「アースラ」となのは達の間を持ってナビゲートしている少年と少女の管理局員がいた。
一人は本局管理補佐官グリフィス・ロウラン。
もう一人は通信士シャリオ・フィニーノ。
そして、今グリフィスは卓上マイクを片手に持ってアースラに現状報告をしていた。
「発掘員の方は観測隊が無事に確保しました。
待避警報が出た後も発掘物が心配だったそうで……。」
「ヴェイダーさん、ならびに高町二等空尉たち護送隊は妨害を避けて運搬中です。」
入れ代わってモニターで四人の姿を追うシャリオの報告にアースラで受信した通信司令、エイミィ・リミエッタは「了解」と答える。
『現場とアースラは直接通信が通らなくなってるからシャーリーとグリフィスくんで管理管制をしっかりね。』
そう言葉をかけてもらいグリフィスは自身の気持ちを引き締められるのを感じて「はいっ!」と答えた。
すると、シグナムとザフィーラが派遣されていた場所のモニターを見ていたシャリオは救援の姿を捉える。
「あっ……現場のほうにヴィータさんたちが到着したようです。」
支援
フォースの導きを支援
支援とともにあれ
135 :
ジェダイ:2008/07/05(土) 00:38:20 ID:X8ucJ3Kr
発掘作業先、ポイント2
上空からシグナム達を確認し、二人の女性が降り立つ。
「ひでえなこりゃ……完全に焼け野原だ。」
地に立ち、ロストロギアが爆発した辺り一面を見回してため息をつくように惨状への感想を漏らす。
「かなりの範囲に渡っているが汚染物質の残留はない。
典型的な魔力爆発だな。」
「ここまでの話を総合すると……。
聖王教会からの報告・依頼を受けたクロノ提督がロストロギアの確保と護送を三人に要請。
平和な任務と思ってたらロストロギアを狙って行動しているらしい機械兵器と異世界からやってきたという黒い魔導騎士が現れて。
こちらでのロストロギアは謎の爆発……って流れであってる?」
「はい。あっています。」
小さなモニターで基地と通信を繋ぐシャマルの確認にシャリオは断言する。
「ヴェイダー卿は魔導騎士だったのか。」
シグナムからの質問にシャリオはダース・ヴェイダーの闘っていた姿を想い出しながら答える。
『魔導騎士とも少し違うみたいで……護送隊の高町二等空尉達とは明らかに違う何かの力を使用していました。』
「そうか……会ってみたいな。」
期待に満ちた笑みを見せて述べるシグナムにシャマルはやはりそう来きたかと思っていた。
そんな中、ザフィーラは先程から発掘作業の場所に出来たクレーターを見ていたヴィータの姿が目に入り。
彼女の元に歩み寄って声をかける。
「どうかしたか?」
ザフィーラの声に気付くとヴィータは彼に振り向き、またクレーターを見遣りながら心情を話しだす。
「相変わらずこーゆー焼け跡とか好きになれねーだけさ。
戦いの跡はいつもこんな風景だったし……あんまり思い出したくねえことも思い出すしさ。」
記憶から引き出される、少し前の事件。
白雪が降る遺跡の中でバリアントジャケットを血で赤に染め、虫の息の高町なのはの姿。
傷に障らないように彼女を抱き起こし、熱い雫が目尻から溢れだして泣いているのさえ解らずに医療班に助けを求めたこと。
メイ・ザ・フォース・ビー・ウィズ・ユー支援
支援
138 :
ジェダイ:2008/07/05(土) 00:43:05 ID:X8ucJ3Kr
「リインが見たら心配するぞ。」
「っ!」
彼女の頭に手を置き、優しく撫でるシグナムにヴィータは自然と顔が強張っていたことを解って目尻に滲んだ涙を拭う。
「うっせ。考え事してたんだよ。」
「調査魔法展開。アースラと無限書庫に転送お願いね。」
『はい。』
その頃、護送隊飛行ルートではリインがなのはからAMFに着いて説明を
羽ペンを夜天の書に走らせ。
ヴェイダーも耳を傾けて聞いていた。
バリア、シールド、フィールド、物理装甲。
この基本魔法防御4種。AMFはその中のフィールド防御の一種でかなりの上位レベルであると。
「魔力攻撃オンリーのミッドチルダ式の魔導師はとっさには手も足も出せないもんね。」
ミッドチルダ式の脆いところを述べるフェイトにはやてもベルカ式の脆さを話す。
「ベルカ式も、強化の類は魔力に頼ってる部分があるよ。
武器だけでアレを倒すのはけっこうキツイんよ。」
「でも、なのはさんやフェイトさん、ヴェイダーさんは簡単に……」
「あれはフィールド外からだったからだよ。それに囲まれたりしてフィールド内いたら厳しいね。
やり方はあるけど、かなり妨害されちゃうし。」
「リインなんか気をつけないと大変だよー。」
悪戯っぽく付け加えるフェイトの言葉に途端にリインは気付き、あたふたとなる。
「そうです!リインは魔法がないとなんにもできないです……」
「そういえば、気になってたけどヴェイダーさんが手を掲げて握った瞬間に壊せてたり。
ポイント2の方で機械兵器が移動しているのが解ってたけど。
あれってなんの魔法なん?」
ふと彼が使っていた力が気になり、はやてが尋ねると。
「あれはフォースだ。」
「フォース?」
呼吸音を響かせ、彼が答えた名称になのは達は復唱して同時に聞き返す。
魔法にバランスを 支援
卿と魔法少女の会話場面を想像したら噴いたw支援
フーコー
支援
142 :
ジェダイ:2008/07/05(土) 00:49:50 ID:X8ucJ3Kr
「自然や宇宙……存在するありとあらゆるものの導きを自分の力として乗せ、信じて扱う。魔法と扱いは似ているが魔力は必要としない……似ているようでまるで違う。
正直言うと私はさっきまで魔法の使い方すら解らなかった。」
「うそ(やん)(です)!!」
ヴェイダーから語られた真実に四人の少女達は思わず声をあげてしまう。
無理もない。
自分達が話していたAMFに。
影響されずに闘える力を持って、さらに先程まで魔法が使えなかった人が今目の前で一緒に飛行しているからだ。
「じゃ、じゃあ、ヴェイダーさんどうして飛べてるですか……?」
恐る恐る尋ねるリインにヴェイダーはきっぱりと答える。
「フォースの導きにしたがって魔力の扱い方を知ってそのまま私の力とした。ただそれだけだ。」
なのはちゃん並に化け物やな……やっぱり、機械兵器壊してたんは魔法じゃなかったんや。
と、はやては彼を見据えながら感じていた。
そして、四人が何よりも気にかけていたのは先程、念話で聞こえた青年の声。
普通に話せばボイスチェンジャーを介して話しているかのような声であるにも関わらずだ。
何故、マスクを被っているのか。
整頓された呼吸音を発しているヴェイダーにリインは怖ず怖ずと尋ねる。
「それじゃあ……ヴェイダーさんはどうしてマスクをしてるですか?」
「…………昔、私は愚かな闘いで手足を失い。全身を熔岩の火で内蔵まで焼かれた。
そのために、私の身体は半分が機械で成っている。君達が指摘した右手も残っている左手、この手足も内蔵も……。
そして生命維持装置がこのマスクとなっている、外せるが約10分しか生きられないから。
不自由なものだ。」
ヴェイダーから語られたマスクを被る凄惨とも言える理由に……なのは達は言葉を失ってしまう。
「ご、ごめんなさい!!ヴェイダーさん、わ、私……」
罪悪感からか、リインはあたふたと彼に頭を何度も何度も頭を下げる。
フォースは魔力の中にも・・・ 支援
支援
145 :
ジェダイ:2008/07/05(土) 00:55:58 ID:X8ucJ3Kr
するとヴェイダーはそんな彼女へレザーガントレットに包まれた左手を掲げ、指先で頭を優しく撫でながら声をかける。
「君が謝ることはない……君は私を知らなかったから。
そして、知らないことを知ろうとした君はむしろ誇ったほうが良い。
リイン、私のような者に責任を感じてくれて感謝する。ありがとう……。」
撫でてくれる指先から漆黒の甲冑に潜む彼の優しい心を感じ、リインは何も言えなくなり。
頬を赤く染めて「……はい。」と俯く。
だが、その瞬間。
フォースが再び機械兵器の群れが地上を低空飛行している姿をヴェイダーに導いた……。
「…………。」
途端に呼吸音が止み、リインから手を離して辺りを見回し始めた彼にフェイトは不思議そうな表情で尋ねる。
「ヴェイダーさん……?」
「方向を、変えた……。」
「え……?」
ヴェイダーから返ってきた言葉を聞き、なのは達は表情を険しくして彼の視線の先を見遣る。
その方角は東南であるが自分達ではただ景色が見えるだけであった。
「……そのまま飛んでいろ。出掛けてくる!」
」
「ヴェイダーさん!?」
四人の制止の声に振り向く事は無く、ヴェイダーは彼女達から離れて飛び去る。
その姿はもはや小さくなっていってしまう。
「意外とアバウトやな……ヴェイダーさんって。」
後ろ姿を見送りながら感じた印象になのは達は苦笑いを浮かべてコクコクと頷くしかなかった。
『こちら観測置!先程と同型の機械兵器群の姿を確認!地上付近を低空飛行しつつ北西へ移動しています。
高々度の飛行能力があるかは不明です!』
ヴェイダーが飛び去った後に入った通信の内容にはやては表情を険しくしてフェイトに振り向く。
「フェイトちゃん、これって……。」
「うん、ヴェイダーさんが言ってた。」
フォースの万能性は異常
魔力を跳ね返すライトセーバー 支援
148 :
ジェダイ:2008/07/05(土) 01:01:31 ID:X8ucJ3Kr
そして、その通信は発掘作業ポイント2から辺りを探索していたシグナム達の元にも届いていた。
『護送隊の進行方向へと向かっているのを察知したヴェイダーさんが向かいましたが……。
やはり、ロストロギアが目的でしょうか。』
「そう考えるのは妥当だな……」
グリフィスの推測にシグナムはそう告げて目の前にいないなのは達がいる空を眺める。
「三人が揃ってやられることは無いと思うが……。」
「運んでいる物がアレだものね……ヴェイダーさんを手伝いましょ。」
シャマルの提案に頷き、睨むように空を見上げていたヴィータの背中を「しっかりしろ。」と言うように叩いてシグナムはグリフィスに応答する。
「観測基地!守護騎士から2名。シグナムとヴィータが騎士ヴェイダーを援護する!」
「あに勝手に決めてんだよ。」
「不服か?」
「ねーけどさ。」
照れたように付け加えるヴィータに。
「こっちは二人で大丈夫。」
「危機あらば駆け付ける。」
シャマルとザフィーラはほほえましい表情で彼女の背を押してあげるように言葉をかけてくれる。
「守るべき者を守るのが騎士の務めだ。
ジェダイの騎士であるヴェイダー卿は体言して我らは見ているだけか?」
挑発するかのように背を押すシグナムの言葉にヴィータは照れたまま反論する。
「しねぇよ!ジェダイだかなんだか知らねぇけど負けてられるか!」
「なら行くぞ、その務めを果たしにベルカの騎士の姿を焼き付けてやるぞ!」
「ああ!」
ベルカの騎士として負けていられない。
そう強く決意し、シグナムとでなのは達にヴェイダーの援護、ならびに機械兵器の迎撃をする旨を念話で伝える。
「主はやて。我らでヴェイダー卿を援護します。テスタロッサ、手出しは無用だぞ。」
「なのは!おめーもだぞ!」
念を押すように二人が言い聞かせるとフェイトとなのはは苦笑しながら『はい、了解。』と返事をした。
『二人とも、おーきにな……気ぃつけてー』
「はい。」
「うん。」
変わって声をかけてくれる主にシグナム、ヴィータも微笑んで答える……が。
ジェダイの騎士 支援
みんな、そいつは大悪人だぞw
支援
151 :
ジェダイ:2008/07/05(土) 01:08:58 ID:X8ucJ3Kr
『あ、そうそう。ヴェイダーさん強いからそっちも負けたらあかんで。』
そう主から付け加えられた言葉に二人は違う微笑みを浮かばせだす。
「……了解です。」
「リイン、あたしの活躍しっかり見てろよ!ヴェイダーが誰だか知らねぇけど負けねーからな!」
『はいですヴィータちゃん!』
護送隊との念話を切り、二人はジェダイ騎士ダース・ヴェイダーへの期待。燃え上がる対抗心を抱いて空を見上げ……。
「出撃!!」
と告げて飛び立つ。
そして、空に駆け出した瞬間に二人はこの世界には不釣り合いな威圧感を放つ存在をすぐに発見する。
不気味な呼吸音が風に乗って耳に伝わらせ……宙に浮かび、漆黒のマントが風に揺らされ背中の甲冑を見せている大男が居た。
……すべてにおいて漆黒に染める彼は黒皮の手甲に包まれた左手を翳して感覚を洗練している。
「おい!ジェダイ騎士のダース・ヴェイダーはお前か?」
ヴィータの尋ねに大男はゆっくりと振り向いて呼吸を止ませて頷く。
「我々は主はやての守護騎士。私はシグナムだ……ヴェイダー卿、先程は有り難い言葉を頂いた。感謝する。」
「んで。私はヴィータ。」
期待に満ちた笑みで名乗る二人に研ぎ澄ませながらヴェイダーも応える。
「私がジェダイの騎士、ダース・ヴェイダーだ。……フォースが導いたのだろう。」
「フォース?」
「信ずる力、だそうだ。」
「へぇ」
「話は後だ。来るぞ……」。
「何?」
ヴェイダーから発せられた言葉に反応を示すと同時に二人のもとに観測基地から通信が届く。
『機械兵器、移動ルート変わらず。
余り賢くはないようですね。
特定の反応を追尾して範囲内にいるものを攻撃するのみのようです。』
……昔に闘ったドロイド達以下ならマシだな。
グリフィスの推測にヴェイダーは少し肩が軽くなったかのような気持ちになっていた。
卿が空飛んでるの想像したら凄かったw 支援
そういやクローン兵士のお陰で帝国軍にはドロイド見なかったな支援
支援
156 :
ジェダイ:2008/07/05(土) 01:15:44 ID:X8ucJ3Kr
『ですが、対航空戦能力は未確認です。お気をつけて!』
「問題ない……フォースと共に在れば良いだけだ!」
グリフィスの忠告に左手を強く握りるダース・ヴェイダーの言葉。
「フォース……か。」
シグナムから説明されたこの言葉をヴィータはいたく気にいっていた。
信ずる力か……結構イイかもな。
再び、記憶に流れる怪我をしたなのはの姿……。
それを振り切る為にヴィータは三つの鉄球を掌に浮かべる。
あんなのは……
あんな思いは……もう二度と……
フォース(信じる力)と一緒に……。
「まとめてブッ潰す!!」
思いのたけをぶつけるかのようにデバイス・グラーフアイゼンで鉄球を打ち放つ。
「良い言葉だ……ヴェイダー卿がジェダイ騎士のフォースを見せてくれるなら我々のフォースを見てもらおう!!」
レヴァンティンを節刃に変化し、鞭のようにしならせ……シグナムは愛用の剣を振るう。
かつて最強と謳われたジェダイ騎士のフォース。
烈火の将の剣。
鉄槌の騎士から放たれた鉄の糾弾。
三人の力が迫り来る機械兵器の群れへと同時に振るわれた瞬間、力の直撃による爆焔が地平線の中で巻き上がった。
その光景をモニターを通して観測していたアースラ、護送隊、観測基地の者達は感服していた。
誰もがシグナム、ヴィータの凄さは理解していた。だが……ヴェイダーのフォースの力は目を見開くものがある。
時空管理局艦船「アースラ」。
「合流地点までもうすぐだし、そろそろ回収準備しようか。」
機密機械に囲まれたブリッジで感嘆の言葉を漏らすエイミィにクロノは険しい表情のまま視線はモニターを見据えていた。
「どうしたの?クロノくん」
そんな彼に気付き、声をかけるとクロノは重い口を開いて答える。
「あのサイズのAMF発生兵器が多数存在しているのが恐いと思う。
何か、規模の大きな事件に発展する可能性もある。
猟犬がいるなら狩人がいるようにロストロギアを狙う……誰か技術者型の広域犯罪者は1番危険だ。
そうなった場合、管理局で対応できる部隊はどれほどいるか……そんなことを想定すると苦い顔にもなるさ……。」
Do or do not.There is no try. 支援
158 :
ジェダイ:2008/07/05(土) 01:25:10 ID:X8ucJ3Kr
「なるほど、指揮官の頭の痛いところだね……」
クロノの話した内容に気が重くなり、エイミィはため息をつく。
「……はやても指揮官研修の最中だからな。一緒に頭を悩ませることになる。」
「そうだね……。」
そして、煙が風で吹かれ。機械兵器の惨々たる残骸の山の中に居る三人の姿が映り。
話題はヴェイダーへと移っていく。
「シグナムとヴィータは流石に凄いね……。それにこの世界のことが全部初めてのものらしいけどヴェイダーさんは想像してた以上に強い。」
「預言にあった。選ばれし者……ダース・ヴェイダー。
彼の使っている力は僕ら魔導師よりも強力……いや、それ以上かもしれない。」
ヴェイダーの足元には機械兵器の面影すらみえないぐらいに細かい程に分解されていた。
「破壊するんじゃなくて、分解なんて……魔法じゃ難しいよね。」
エイミィの言葉にクロノは強く頷く。
「彼の力が必要なほどの何かが迫っていると思うと……より気持ちが重くなるよ。」
「まあ、今回の事件資料と残骸サンプルはそのテの準備の貴重な交渉資料でしょ。
事件がどう転ぶかわかんないのはいつものことでしょ。どうにかなるよ。『PT事件』も
『闇の書事件』も。
これまでの色んな事もみんななんとかしてきたんだし。
今日はきっちり任務を済ませて予定通りに同窓会!笑顔で迎えてあげようよ。」
心配ないよ。というように微笑むエイミィにクロノはやっと難しい表情を解して「そうだな……」と微笑み返して答える。
しかし、この時。誰も予想していなかった。
預言にはもう一人の存在があったことを。
シスの暗黒卿? 支援
160 :
ジェダイ:2008/07/05(土) 01:28:55 ID:X8ucJ3Kr
以上です。
長くなりました。支援して下さった皆様、前回たくさん感想を頂きありがとうございます。
書きながら「スカリエッティよりヴェイダーの方が極悪」ということに気付いて吹いてましたww
さて、預言にあるもう一人の存在もまたおいおい書いて行きます。
では!
GJ お疲れです。フォース便利だなぁ。
みんなの支援コメントが秀逸で笑った。
スカリエッティがシスの暗黒卿になってダース・ヴェイダーとライトセイバーで戦う
姿をつい想像してしまいました。 できればヴェイダーが新しく自分のライトセイバーを
作る場面を見てみたいですね。 もちろん色は赤ではなく青か緑で・・・
投下お疲れっす。
シスの暗黒卿が出るのか?
って事はスカはそいつの弟子?
いやこいつほどシスに相応しい奴もいないと思って。
パルとスカ、結構凶悪なコンビになりそう。
これに対抗してヴェイダーも豊富な知識を持つユーノを弟子に!
GJ!
さすがフォース、魔法より神秘的だw
シディアス卿が出てきて、管理局を支配し皇帝になる姿が目に浮かびました。
お初です、そしてよろです。
スターウォーズにもなのはにも疎い兄も絶賛!
エピソードフルコンプの私もGJを送りまする!!
乙です。
魔導騎士のところを、最初はマジックナイトと読んでしまいました……。
騎士道原そk(ry
キィィィングスカッ(ry
そういやこっちも守護騎士だな
誰かヴァルキリープロファイルとクロスさせる勇士は居ないのか
もしくはSO3
>>171 残念ながら、幇神演義ものに着手してしまったので余裕がないのですよ、私の愛しいヴァルキュリア。
>>171 ヴァルキリー世界となのは世界では魔法の
効果範囲が違いすぎて扱いにくそうだな。
>>171 天界の落し物をロストロギアと勘違いして回収に来た管理局部隊とヴァルキリーが鉢合わせしたり
次元航行技術を発達させすぎた管理局を粛清しに断罪者が降臨したりする訳か。
>170
ふむぅ、後ろにココナッツの殻を持った黒子が付いてくるのか。
次元世界の主な定番メニューはスパムとスパムと卵とソーセージとスパムや、スパムとスパムとベーコンと卵とスパムや、
スパムとスパムとスパムとスパムとスパムと卵など、多彩なようだ。
スパムがスバルに見えてきた
ウロスに行きなさい
投下でもないのに雑談はどうかと…
>>175 モンティだまらっしゃい、へんな歩き方でウロスに来い
>>171 VP、ドラゴンオーブヤバい
SO3、名前被ったり
どうも、久しぶりです。
予約がないようなので、20時15分になのはMissngの続きを投下します。
「え、噂? って、あの幽霊がどうのって奴だよね? 知ってる知ってる。……誰に聞いたかって? さぁ、覚えてないなぁ。気付いた時には皆がいってたんからねぇ…」
「幽霊? ああ、そういえば聞いたことあるような…。でも詳しくは知らないないわね。私そういうの嫌いだから」
「…何ですかあなたは? 現実に行方不明者が出ている事件を、心霊現象だと言うつもりですか? 仕事中なので、帰って下さい」
魔法少女リリカルなのはMissing
第四話 中編
時空管理局本局。
「…つ、疲れたぁ……」
廊下の壁に額を押し付けて、ギンガは気だるげに呟いた。そんな彼女を、数人の局員が奇異の目で見ながら通り過ぎていく。
ゲンヤからブリッツキャリバーを受け取り、そのまま真っ直ぐ本局に来て数時間が経った。 幾つかの部署を回り、暇そうだなぁ、と思った局員を探して、それとなく話し掛ける。そんな風にしてギンガは情報を集めていた。
言うまでもないが、効率は悪い。
だがギンガ一人で動くしか出来ない現状では、どうやった所で大した成果は上がりにくいので、仕方ないことではあった。
「今日明日で終わらせようと思ってた訳じゃないけど、こんなペースじゃしばらく掛かりそうね…」
『仕方ないよ。物語≠ェここまで広がっている以上、相手の方が有利な状態なわけだし』
顔を上げてぼやいたギンガに、詠子はそう言った。
と、その時、
「意外だ。随分動いているんだな」
「きゃあっ!?」
突然背後から声を掛けられて、ギンガは飛び上がって驚いた。
「…何だ、その反応は」
慌てて振り返ったそこにいたのは、喪服のような印象を与える、黒を基調とした服に身を包んだ少年と、それに寄り添うように佇む臙脂色の服を着た少女だった。
「あ、あなた達…!?」
一月前にも逢った、空目恭一とあやめである。
「何で…ここに…?」
どれだけ動揺しているのか、パクパクと開閉する口からそんな言葉を出すギンガに、空目は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに納得したらしく、
「その身体の本来の持ち主…ということか」
合点のいった表情で一人頷く。
『ふふ、相変わらず賢いねぇ。その頭の回転の早さは素直にすごいと思うな』
「ああ…えと、どうも、ギンガ・ナカジマと言います。…って詠子さん、その調子だともしかして気付いてました?」
『うん』
「…今度からはすぐに教えて下さい」
心臓に悪すぎる、と思いながらギンガはそう言った。
『ごめんね? ちょっとギンガさんがどんな反応するか見てみたくて』
「確信犯かよ!」
しれっと言った詠子に声に出して突っ込んだギンガは、空目が睨むように自分を見ているのに気付いた。
「あ、ごめんなさい。ちょっと頭の中で強かなことを言われてつい…」
「驚いた」
「ってぇぇ、はい?」
小さく、しかしはっきりと呟いた空目の声に、ギンガは思わず聞き返す。
「その女の異常な人格を宿して、まともな精神状態にあるとは思いませんでした」
感心したように空目がそう続けた。隣であやめも小さく頷いている。
「…ああ、そういうことですか…」
その言い方には多少思うことがあったが、とりあえずは空目の言う通りだとギンガは思った。電波な女(比喩ではない)を受信して、そのまま頭の中に居座られ、たまに勝手に人の身体を使われたりしているのに、その女と仲よくしているのは、確かに少しおかしいかもしれない。
「いや、確かに変な子ですけど」
主にあらゆる意味で。
だが、
「何か、慣れると結構可愛い子ですよ?」
それは嘘偽らざるギンガの言葉だった。
今も少し意識すれば、視界を埋め尽くす程のみんな≠フ姿が見える。それらを含めた全てのモノと友達になりたいと、本気で考える詠子に心動かされたのもそうだが、今はそれよりも、単純に彼女と友人でいたいという思いの方が強い。
良くも悪くも、十叶詠子には裏表がない。みんな≠ニ友達になりたいと思うのも本心なら、人間が好きだというのも本心なのだ。勝手に身体を使いだすことがあるが、もしかしたらそれは、以前の自分では出来なかった、人との交流≠したいと思っているからもしれない。
(勝手に思ってるだけかもしれないけど…)
しかしそう思うと、何となく詠子に対して微笑ましい気持ちが生まれてしまい、変なモノが視えたり聞こえたりすることなど些細なことのように感じるのだ。
「……そうですか。あなたがそれでいいなら、俺から言うことはないな」
嘆息するように言った空目の態度に何となくカチンと来たが、とりあえず今はこんな話をしている時ではないことを思い出す。
「そんなことより空目君、この組織の職員が行方不明になっている事件について、何か知ってることはない? …ってあれ?」
そう聞いてから、ギンガは周りの状況に気付いた。
「…何か変ですね…?」
多くの局員が往来するこの廊下には、今も何人もの局員が何かしらの用で歩いている。
だというのに、その廊下のど真ん中で話をしている三人に、誰も目を向けていないのだ。
まるでギンガ達がそこにいるのに気付いていないかのように。
「…詠子さん、何かしました?」
『いや? 何にも』
「何かしたのは俺達の方だ」
「はい?」
首を傾げるギンガに空目が言った。
「あまり人に目立つのは避けたいからな。神隠し≠ニしての力を使わせてもらった」
傍らのあやめに目をやると、恐縮そうに頭を下げられた。
「…あー、そういえば最初に逢った時もこんな感じでしたね。……神隠し=H」
いつの間にか普通にタメ口な空目の言葉に納得しつつ、ギンガは再度首を傾げる。
「ああ。面倒だから詳しい事情は省くが、異界≠ノ身を置く今の俺は怪異≠ニ同じモノだ」
「…へぇー…」
怪異≠ニは詠子の言うみんな≠フことだろう。
そんなモノと同じだということがどういうことか、分からないギンガではない。
詠子の話では、みんな=c怪異≠フ世界は、殆どの人間が立っているだけで自己の境界が曖昧になっていき、やがて身体が溶けるように崩壊し、二度と元には戻らなくなるような場所らしい。
(…何よ、詠子さんのこと酷く言っといて、自分だって人のこと言えないじゃないの…)
そんな場所で生活して平然としている空目が、まともな神経であるとはとても思えない。
『私には、人のこと異常だなんて言えるほど、あなたがまともとは思えま…ハッ! いつの間に!?』
「じゃあ、空目君。あなたの目的は私達と同じでいいのかな?」
「…匂いが変わった…魔女≠ゥ。…ああ、その通りだ。残念だがこの事件、俺にはもう打つ手がない。手の届く範囲で何人かは襲われるのを未然に防ぐことも出来るが、あまり動けば元凶に気付かれる」
沸沸と空目に対して不満を募らせている間に、話しているのは詠子と空目になっていた。
「この事件を止めるためには、おそらく魔導師である事件の元凶と戦え、かつ怪異≠ノついてある程度の知識を持つ者と手を組むのが近道だと思った」
無表情なようで、何となく不本意そうな雰囲気を放ちながら空目はそう続けた。
「ふふふ、以前とは立場が逆になっちゃったねぇ。私はあの時フラれちゃったけど、またこんなチャンスが来るとは思わなかったな」
愉快そうにそう言って、詠子はいつもの子供のような笑みを浮かべる。
『ちょ、ちょっと詠子さん?』
『うん? どうしたの?』
すぐにでもOKしそうな詠子に、ギンガは慌てて制止の声を掛ける。
『この人達本当に大丈夫なんですか? 少し前まで敵対していたんでしょう?』
『敵対していたと思っていたのは彼らだけだよ? 私は今でもみんなの味方だし…』
『ぬぇぇぇい! 話になりません!』
「ちょっと空目君! あなた一体何企んでいるんですか!?」
どこまでも無防備な考え方をする詠子に任すわけにはいかないので、気合いで自身を取り戻したギンガは空目を問い詰める。
「…また匂いが変わった…。…これは…犬か? …いや、何の話だ?」
再度の人格変化に、空目は面倒そうに対応しながら聞き返した。
「惚けないで下さい! 事情はよく知りませんが、あなたは詠子さんと対立していた筈です」
聞いて答えるとは思わないが、それでもこちらが警戒していることが分かれば、それなりに揺さぶりを与えられるだろうと、ギンガは言葉を続ける。
「何で私達の力を借りようと思ったんですか?」
「……なるほどな…」
自分を見据えるギンガを見つめて、何処か納得したような表情で空目は呟く。
「…何ですか?」
「何でもない。質問に答えるが、それが一番効率的だからだ。見ての通りだが、俺には直接敵と戦う手段がない。たとえうまく事件の元凶に辿り着いたとしても、返り討ちでは意味がない。
かといって知り合いでもないここの人間に怪異≠ノついての全てを話し、協力を求めるなど論外だ。ならば事情を知っている人間と同盟を結ぶのが最善の策だと思った。そんなところだ」
「…ちょっと待って下さい」
一息に話され、話の理解が間に合わなかったギンガは少し考え込んでから、
「…話は分かりましたが、あなたの言葉を信用出来るモノは全くありませんね」
そう言った。
「それにそれが本当だとしても、事件が終わった後に詠子さんに危害を加えない保証にはなりません」
「そうだな」
続けて言われた空目は、肩を竦めてあっさり答えると、踵を返して歩きだした。
「…ちょ、何処に…!?」
「協力を強制するつもりはないが、協力を得られないのなら俺がここにいる必要はない。俺達で出来る限りのことをするまでだ」
振り向きもせずにそう言って、空目は通行する局員達の中に入っていく。ギンガに一礼した後、その後ろをあやめが慌てて追いかける。
そんな二人を、周囲の人間は見えていないにも関わらず自然な動きで避けている。
「俺達が消えればこの現象も消える。そうなればもう逢うことはない。安心しろ」
(…どうする?)
牛歩戦術など考えてもいない、すでにギンガから興味をなくしたかのような躊躇のないその歩みに、ギンガは迷う。
(詠子さんの安全の為には間違いなく正着の判断。だけど私達だけで捜査となれば相応の時間がかかることは間違いない。その間に何人の局員が消えることになる?)
すでに管理局の戦力は激減している。オーバーSの魔導師が数人消えた
こともそうだが、その他の局員も決して軽んじていい戦力ではない。
高ランクの局員が何人いたところで、敵を探る術も人数も足りなければ組織として成り立たない。その敵が大規模な組織なら尚更だ。
(でも…だからって!)
事件解決までにかかる時間は不明。その間に局員が消えることになるのは間違いない。悪ければ管理局自体が消えることになる。
空目達と組んでも事件解決までにかかる時間は不明であることに変わりはないが、その期間は圧倒的に短縮されることは断言出来る。
(その代わりに詠子さんが危険に晒されていいの!?)
迷うところではない。ここは事件の解決が最優先。後者を選ぶのが管理局員として当然の行動である。
だが、
(…そんなものは知らない!)
ギンガが選んだのは前者だった。
「…友達を危険な目に遭わせるかもしれない選択なんて御免だ…!」
知らず呟いた言葉に、あやめは一瞬振り向いたが、空目は止まることなく人の中に…、
「ちょっと待って」
『! 詠子さん!?』
消えていこうとした直前、再びギンガの身体を乗っ取った詠子が空目に呼び掛けた。
「…忙しいな。また魔女≠ノなったな…。…何だ?」
「この事件の魔女≠ェ何処にいるのか教えて欲しいな」
「……何?」
いきなりのそんな発言に、流石に空目も足を止めて振り返った。
「ちょっと考えたんだけど、多分あなたには見当が付いていると思うんだよね」
クスリと笑って詠子は続ける。
「あそこまで決定的に私と決別したあなたが、長期的に私と行動を共にしようと考えるとは思えない」
「…………」
「ということは、長期的にならないという確信があるわけなんだよね」
「…大したものだな…。いや、俺が迂闊だったか…?」
自嘲するように呟いて、空目はあっさりと詠子の言うことを認めた。
「おそらくここではなく、地上本部の方に魔女≠ヘいる」
『っ!?』
「ふふ、ありがとう」
驚くギンガとは対照的に、詠子は笑顔でそう言う。
「…精々気を付けろ。お前だけの身体じゃないからな」
鼻を鳴らすように言った空目は、そのまま周囲に存在感を溶け込むように消えていく。
「大丈夫だよ。じゃあギンガさん。こっちはハズレみたいだから、移動しようか」
『あ…でも…』
(…このままだと結局空目の思い通りに動くことになる。…どうしよう…?)
『大丈夫だよ、ギンガさん』
迷うギンガに、詠子は何処か余裕を持った態度で言った。
『空目君はそんな酷い人じゃないし、それにもし何か考えていたとしても…』
「私はそう簡単にはやられない」
空目の姿が消えたそこで、詠子は笑みを浮かべていた。
続く
と、こんな感じで投下完了です。
ここでギン姉タイムをやってみたかったんですけど、何かgdgdな感じに長くなってしまったので、
前・中・後編に分かれることになりました。
のんびり書いているので更新は遅いと思いますが、そこらへんはご容赦下さい。
GJでした!魔女さまー。
仲良しな二人がとても素敵で。確かに詠子さんは可愛い。
原作も読んでみました。面白いですね。
なんかもう一人魔女がいるみたいで。
いろいろ期待してます。
GJでしたwしかし原作を読んだ者としてはどちらかというと詠子の方が悪役だったんですけどね、
ギンガの必死さに笑えました。
GJです!
さすがは陛下、見切りをつけるのの早いこと早いことw
そして、詠子先輩かわいいよ詠子先輩
ギンガって今も怪異が常時見えてる状態なのかね?
だとしたら相当凄いぞ、原作だと「絶対型」は大抵成人するまでに死んじゃうらしいし
というかあんなんいつも見えてたら発狂するぞ
前スレ埋めないか?
埋まりましたね
ネタ分からん
18:25分から投下を開始します。
クラナガンシュピーゲル4話です。20KBありますので、支援をお願いします。
クラナガン・シュピーゲル「少女と少年 その4」
その日、数台の犠脳体兵器が、首都を同時襲撃した。
炎が/粉塵があがり、破壊が全てを覆う。
鋼鉄こそが身体/手足/武器。
機体の中心に据えられた髄液の詰まったカプセル――脳の浮かぶそれが、質量兵器を駆動させる。
地下水道をぶち破って現れた機械の蟹を、地上本部の狙撃部隊は呆然と見つめた。
「軍用質量兵器……? 馬鹿な、マスターサーバーの干渉をどうやって……」
突然、デバイスの空間モニターが開いた。
外部からの干渉によるデバイスの操作に、隊員たちがうろたえ、恐怖した。
それは、デバイスへの干渉だけに止まらなかった/陳述会会場のモニターが乗っ取られる=電波ジャック。
ざわざわと慄(おのの)く、出席者達/演説を行おうとしていたレジアス中将の巨躯が、ぴたりと止まり大声をあげた。
「今すぐ通信を切れっ! 全回線をオフにしろっ!!」
《駄目です、地上本部の中央管制室が機能していません。敵の電子的侵入と、外部からの攻撃によるものと思われます。
これは――催眠ガスによる制圧――でも、どうやって――なんだ、貴様……》
《いやさー、ちょっと代わってね?》
物音――若い少女の陽気そうな声が通信官の声を遮る。鳩尾への一撃/倒れこむ身体。
気絶した通信官に代わり、彼女がレジアスの耳元で囁いた。
《どうも、レジアスのおっちゃん。この会場は、ドクターが乗っ取ったよー》
「……!! 貴様は」
くすくすと笑い――少女らしいからからした声。
通信機の向こうで、緑色のショートカットが揺れる/悪戯っぽい笑み。
《初めまして、かな? 戦闘機人ナンバーズの6番『セイン』――あたしのISで、ここの管制は抑えた》
全モニターが切り替わる――同じ映像が、陳述会会場の大型モニター/武装局員の空間モニター/地上本部の通信用窓口を侵略する。
催眠ガスが充満した室内/空調とスプリンクラーで洗い流されていくそれを確認すると、長身の男は、ガスマスクを外した。
倒れた管理局員たちを背にした男――紫色の髪/ぎらぎらした欲望に満ちた金色の瞳/薄い笑みを湛えた口元/裾の長い白衣/趣味の悪いネクタイ。
赤い口紅を塗ったような唇が吊り上り、悪い夢のような光景を造り出す。
歓喜に満ちた、若々しい男の声。
《こんにちは、全次元世界の皆さんっ! 今この瞬間こそ、歴史の変革が始まるときだ!!》
「ジェイル・スカリエッティ!! テロ支援を行う、広域指定次元犯罪者――どうして地上本部に?!」
金髪の女性執務官、フェイト・T・ハラオウンの驚き――長年追ってきたテロ支援組織のエージェントの登場に、動揺。
通信先のシャリオが度肝を抜かれるほど鋭い声音だった。
シャリオ以下、機動六課隊員の仰天。
《マスターサーバーは実在と判断しています! 敵のハッキングは、マスターサーバー<轟>までは侵せなかったみたいで――ッッ!
敵は管制室情報中継システムを起点に、地上本部のみならず、全世界の情報ネットワークに声明を流していますっっ!!》
「全世界……?」
戦慄しながら、フェイトは空間モニターを見た。
途方も無いことが、起ころうとしていた。
《私の名は『ジェイル・スカリエッティ』――時空管理局の暗部が産み落とした闇の申し子であり、理想郷アルハザードの存在証明だ。
アルハザードこそ、かつて超高度魔導文明を築き、全次元宇宙を支配した偉大な古代文明の名である。
これは、我々の理想――かつての人類最高時代の再起を願う者に、相応しい道具を与えること――と合致するものであり、これぞ我が天命である。
すなわち、世界の変革を望むもの全ての、支援者にして共感者、それが私だ》
ミッドチルダ語による宣言、もしくは声明ともつかぬ言葉の数々――画面下部に複数の言語で字幕。
切り替わったまま操作不能になるモニター/全ての警備地区の管理局員が目にする/会場の群集が静まりかえり、朗々と語りかけてくる男の姿を無言で見つめる。
謳いあげる――舞台役者のように。
《世界の歴史とは、武器によって成り立ってきた! ベルカ王国を実現させたものは、魔法を上回る銃器の力に他ならない!
民主主義を掲げたミッドチルダで、最も多く流通する武器は、デバイスではなく銃器に他ならない!
あらゆる次元世界は、銃器の発達によって力を持ち、同盟の根拠になるのは互いの武力の大きさに他ならない!
国家と民族を自立させるものは、諸君が手にした銃に他ならない! 望み求めよ、されば、我々が諸君に力を与えよう!!》
会場の外で戦うティアナの叫び。
「馬鹿げた寝言を!」
「君達はここで、僕らナンバーズに敗れる運命だ――犠脳体が、君達の希望を消していく」
犠脳体の戦術ヘリが、その巨体から誘導ミサイルを放つ――フリードリヒの体に直撃/魔力障壁でかろうじて防ぐが、爆風に翼を持っていかれる。
地面に叩き落された白銀の飛竜が、弱弱しく鳴いた――キャロが桃色の髪を揺らして近寄り、泣きながら喚いた。
「フリードォォォ!! ッッッ、アルケミックチェーン!!」
錬鉄召喚――召喚陣から伸びる無数の鋼鉄の鎖/束縛を目的としたそれが、幾本も空中を舞い、戦術ヘリを捕らえんとする。
戦術ヘリ――高度を上げてこれを回避。
地上への爆撃用の兵装が解放され、公開意見陳述会会場に向けて対地ミサイル/対戦車ロケット/クラスター爆弾を解き放つ。
火の矢が、炎を吹いて直進していく――まるで生きた鋼の咆哮。
「やらせるかぁぁぁ!!」
スバル――青い髪が揺れ、リボルバーナックルの回転弾倉に詰め込まれたカートリッジが炸裂/魔力スフィアが空中に生成され、砲撃準備完了。
が、多大な隙が生まれた瞬間でもあった。
「……無駄」
ディードの突撃――超音速の剣閃が、スバルの砲撃姿勢目掛け振り下ろされ――。
横合いからの赤い魔力砲撃に抑えられた。
咄嗟にIS<ツインブレイズ>を起動/光刃が粒子の如き魔力素を分解しながら、防御障壁の役割を果たす。
ティアナの絶叫――兄から習った管理局員としての心。二挺拳銃からの砲撃魔法による足止め。
「管理局員は諦めないっ! 望みを捨てないっ! 仲間を見捨てないっっ! ちゃんと撃ちなさいよ、スバル!!」
鋼で覆われた拳が魔力スフィアを叩き、そのエネルギーを一方向へ集束/射出する。
近距離型砲撃魔法――その名は。
「ディバインバスタァァァ――ッッ!!」
青い魔力光が奔る――高速で軌道上にある爆弾を飲み込み、解体/分解/爆発させる。
だが、足りない/遅い/短すぎる。直進した誘導ミサイルは既に音速の壁を越え、魔力防壁を先んじて放たれたロケット砲が揺るがし貫徹、
超音速の衝撃波を放ちながら会場の堅牢な物理防壁にぶつかろうとした。
間に合わない――焦りが、フォワードメンバーの脳髄を焼かんばかりに支配する。
通信――力強い男の声。
《俺たちが引き受けた。狙撃開始だ》
地上本部狙撃班の一斉射撃――計8発の対地ミサイルのうち、3発が空中で爆散/残り5発が直進。
さらなる迎撃陣が撃ち落そうとするが、加速した弾頭にかすりもしない。
支援
楽器の生演奏=広域通信。
不意に、懐かしい旋律が耳に届く――バイオリンの優しい音色/しかし、氷山の中から響くような冷え冷えとした印象。
スバルの機械化した両目が、拡大視界で、ミサイルの着弾予定地点で弓を手にバイオリンを奏でる少年を捉えた。
ひっ、と息を呑む――夢見るような白皙の天頂青(ゼニスブルー)の瞳――半ば閉じられた目がふと焦点を結ぶ=スバルと視線を合わせた。
にこりと微笑む――唐突に音が止み、驚愕に立ち止まったスバルを真っ直ぐに見つめ、言った。
《転送を開封》
少年『白露・ルドルフ・ハース』の、楽器の弓を掲げた手に――四肢に――全身に――白熱の輝きが閃いた。
瞬間、ミサイルが全弾爆ぜた。
空中に生まれる火球五つ。
へなへなと座り込むスバル――白露さんが巻き込まれた? あの爆発では――。
泣きたいような、それでいてどうしようもない空洞が生まれかけ――銀色の光に掻き消された。
――キリキリキリキリ
何かが激しく軋むような騒音が、広域通信を通して聞こえた。
禍々しい鋭さに満ちた白銀色の特甲――顔も体も刃でできた甲冑に覆われたような姿。
バイオリン=左腕と一体化した盾に――右手の弓=銀の手斧のようなものに変貌。
立って歩くことのできない形状の、鋭い刃でできた足――戦闘機の翼のような形状。
全身に纏った増幅された強力な抗磁圧で浮遊する、鋼の刃で出来た人型=うっすら虹色の輝きを帯びた特甲猟兵。
最強の<特甲>――レベル3を使用する個人。
《この姿では、初めてだったね――スバルさん》
スバル――言葉が出ない/あまりにも異様な光景に、身体が動かない。
その背後、剣戟――ディードの握る一対の白刃と、エリオのストラーダの矛先がぶつかり合い、火花が散る/ブースターの推進力を生かしての突撃。
これを、ディードは己の背面から抗磁圧を噴出し加速、押さえ込んだ。
「スバルさん、しっかりしてください! ッッ!!」
辺り一帯に響き渡る地響き。
犠脳体兵器――新たに一体が地下から出現/爆発――アスファルトを削って飛び出す灰色の巨大な掘削機。
次々と地面をぶち抜くアーム――軍事施設の真ん前に無茶な侵攻を図る馬鹿げた兵器だ。
情報――シャリオを仲介してのマスターサーバー<轟>からのもの。
《軍用機体ヴィルトシュヴァイン機能拡張型――本局で開発された、紛争介入用戦闘車両ですっ!》
「本局の兵器が、どうして敵に?!」
ティアナの悲鳴をぼんやりと聞きながら、スバルが、その化け物を目で追った。
巨体――大型トラック数台分はありそうなずんぐりした灰色の六輪戦車。
側面に移動補助用の四本の短い脚部/六本のアーム型ガトリング砲座。
機体前部から生えた牙のような一対の雷撃器――鋼鉄製のイノシシ=ベルカ語でヴィルトシュヴァインの威風堂々たる姿。
敵兵器の突進――地上本部を護る柵に雷撃器がぶつかる/炸裂――抗磁圧のハンマーに砕け散る防御柵/塵に還るテロリスト達の死体。
猛るイノシシ戦車の砲火――アーム型砲座の稼動による弾丸の嵐。
テロリストの横転した装甲車の陰に飛び込むフォワードメンバー四人――動けなくなる。
そのとき、必中の弾丸――アームの弾倉を次々と打ち抜く/半数以上が稼動停止。
はるか遠方からの狙撃――陽気な元狙撃手からの通信が、ティアナの耳に入った。
《――今ので半分は潰した。あとはお前の仕事だ、フォワードリーダー》
「ヴァイス陸曹? どうして――」
《腕は落ちてないみたいだな、ヴァイス》
突然の通信乱入=地上本部狙撃班班長の無機質な声。
だが、何処かに親しみが込められていた。
《狙撃班に戻る気はないか? お前の腕は、ヘリの操縦なんかで潰すべきじゃない》
《止してくれ、俺はラグナを撃っちまった……銃を握る資格なんて》
そう言いながらも、狙撃を続行――ガトリング砲の有効射程範囲外からの正確無比な狙撃の雨が、砲座の全てを撃ち抜き、停止に追い込んでいた。
狙撃班も負けじと撃つ/陸戦兵器の眼であり耳である探査装置をぶち抜く――センサーの半数を機能停止に持ち込む。
搾り出すような声――友に戦うことを求める戦士の声。
《銃が人を選ぶんじゃない、人が銃を使うんだ。資格とやらは、お前が妹さんから逃げる為の口実に過ぎんよ、ヴァイス》
《俺は……》
狙撃手の懊悩を耳にしながら、ティアナはフォワードメンバーに指示を出そうとした。
糞ッ、何が妹だ――貴方は、そんなにも戦えるじゃないか――そう言ってやりたかった。
けれど、それはできなかった――銀色の悪魔が、上空に静かに浮いていたから。
抗磁圧のかん高い引っ掻くような音――スバルが、弱弱しく呟いた。
「白露……さん」
空中での戦闘は、時間にして十秒にも満たなかった。
飛び立つ白銀の異形――白露。
対峙する犠脳体――大型戦術ヘリ。
抗磁圧を両足から噴射、姿勢制御を行いながら浮遊する白銀の甲冑に、ガトリング砲が撃ちこまれる。
機銃掃射――超高速の弾丸の嵐――を、白露は避けた。ふわり、とした慣性の法則を無視した機動――抗磁圧の反発力。
宙を切った弾丸が、会場を防衛する魔力防壁に弾かれて火花を散らした。
ならば、と戦術ヘリから放たれる超音速の対空ミサイル2発――炎を吹く矢。
充実感が、カプセルに入った男だったモノを満たした。
何を恐れることがあろう、この身は鋼/破壊を撒き散らす為だけに、我は脳髄を捧げた。
汝ら矮小な人間を、一人残らず消し飛ばす為に。
白露――斧を持つ手を振り上げる――唸りを上げて振り下ろす。
衝撃――抗磁圧の爆風が、空域を薙いだ。
見えざる抗磁圧の刃が、ミサイルをひしゃげさせる/吹き飛ばす。
炸裂――白露に到達することなく、ミサイルが弾け飛ぶ。
理解不能――眼下に浮かぶ白銀の刃で出来た甲冑に、ありったけの破壊を見舞う。
ガトリング砲/ロケット砲――まるで兵器の見本市。
甲冑が盾を掲げる=抗磁圧の壁に弾丸の軌道が逸れる。
さっと甲冑が頭上を向く――凄まじい騒音とともに上空へ飛び立ち、ロケット砲を回避/ヘリの操縦席めがけて振り下ろされる斧。
魔法のように一直線に宙を走る爆圧の壁が、ヘリの操縦席を/カプセルに入った脳髄を木っ端微塵に打ち砕いた。
戦術ヘリの落下――ダークグレーの装甲が巨人の掌のような抗磁圧の刃に歪み、滅茶苦茶な鋼の塊になって駐車場で爆炎。
それを見届けることも無く、怪物的な存在は地上へ降下。
そして、白馬の代わりに鋼を纏いし王子様は舞い降りた。
愛しい姫君の元へ。
砲座をもがれてもなお、犠脳体=ヴィルトシュヴァインは健在だった。
むしろ、そのタフな装甲と駆動系、そして最大の攻撃力を誇る雷撃器――抗磁圧の打撃を放つ牙がある限り、この巨躯そのものが凶器といえた。
だから、一瞬でも安心したフォワードメンバーが浅はかだったとも言えなくも無い。
六輪の唸り声――猛烈なスピードでの突撃=四人が隠れる装甲車目掛けて。
四人の反応は、各々の判断に因った。
ティアナ――二挺拳銃クロスミラージュに内蔵されたアンカーで向かいのビルに向け跳躍。
エリオ――幼竜に戻ったフリードリヒとキャロを抱えて高速移動魔法――ソニックムーブの起動。
そして、唯一人が逃げ遅れた。
スバル――白露の異形めいた力に呆然/猛然と迫る怪物の牙が、装甲車を殴打=その影に隠れていた彼女の体が吹き飛ぶ――数十メートル先まで。
装甲車と一緒にビルディングに突っ込み、壁が割れ粉塵が舞う。
ティアナの声。
「スバルゥゥゥゥ!!」
エリオとキャロの声。
「スバルさんっっ!!」「スバルさぁぁん!!」
白露の声。
《君は、ここで終わる人じゃ無い筈だ、スバルさん……だって――》
瓦礫の山の天辺に投げ出された肢体/ずたずたに裂けたバリアジャケット/抉れた肉。
流れ出す鮮血=極微量。スバルは、人ではない――戦う為に作られた人造器官が、止血処理を勝手に施す。
それでも、ダメージは大きい。ほとんどの器官が、なんらかの負傷によって機能を低下させている。
生命の危機が、彼女の命を侵そうとしていた。
その危機に、脳に埋め込まれた制御チップが、矢継ぎ早に指令を出す。
痛みの無効化/人格面での戦闘への適正化を図るべく、それが起動した。
《――君は僕達と同じだから》
戦闘に向かぬ本来の性格を高度な瞑想状態へと導く、魔法の言葉――脳内チップへ転送される情報の波。
――人格改変プログラム
嫌だ――誰かを傷つけるのも、傷つけられてしまうのも、普通とは違う自分の身体も。
傷ついて死んでいく? 今この場所で? 誰にも看取られずに/誰も救えずに?
凄まじい狂気にも似た執念――嫌だ、嫌だ、イヤだ、イヤだ、いやだ、厭だ、厭だ、いやだ。
でも、どうすることもできない――ここで朽ちていくのを待つだけなのだと、頭脳の酷く冷静な部分が告げる。
(スバル、泣いちゃ駄目だよ。お母さんの娘で、ギンガの妹だぞ? スバルもホントは、強いんだから――)
それは在りし日の母の声で、突然やってきた。
目の前の現実=辛いことや嫌なこと、仲間達の自分を呼ぶ声が遠のき、代わりに何かが聞こえてきた。
ああ、あれは――。
《Buddy,please wake up!!》
大切な相棒、マッハキャリバーの声も、雑音としてしか捉えられない。
それは、優しい笑い声となりて、スバルを夢の世界へ誘(いざな)った。
記憶の海に眠る、幸せな声――ああ、幸せだ、幸せだ、幸せだ。
気づけば、スバルがいるのは、地獄のように硝煙と血肉に塗れた地上本部の施設内ではなかった。
好きで好きでたまらなかった、お母さんとお父さんとギン姉がいる、極々普通の家庭――最も世界が輝いて見えた時で、幼いスバルは、生きているお母さんと一緒にいた。
――人格改変プログラムとは、精神を一種の瞑想状態に導き、『揺りかご』に抱かれた幼子のように保護する機構である
幸せな記憶が、溢れた。
何も考えなくていいと、母が囁く――あらゆる不幸は世界の裏側で起こる殻の外側の物語であり、自分は殻の中で自分と言う存在を保てばよい。
それこそが、唯一無二の、欠けることのない幸福の形。
何時も気が強くて、お父さんを引っ張っていく人だったお母さん。
何時もお母さんに引っ張られていたけれど、お母さんの帰る場所を守る為に働いていたお父さん。
何時も自分を気にかけてくれていたお姉ちゃん。
皆が自分と手をつないで、楽しそうに笑顔で歌を歌い始める――とても、とても素敵な楽しい歌を。
《脅威の増大により、戦時状況下におけるバランサーの解除。マスターサーバー<轟>の支援を受領。インヒューレント・スキル発動準備完了》
とても、幸せだった――もう、何もいらないと思えるくらい。
過去と言う、失われないものの中に在る、『揺りかご』にスバルの心は包まれた。
(あたし、今とっても幸せなのっ! お母さん達もそうでしょ?)
返答は、笑顔。
お日様みたいに笑う皆につられて、スバルも太陽みたいに笑って、その言葉を唱え上げた。
《対装甲貫徹戦術を開始します》
ゆらり、と粉塵の向こうで立ち上がった人影を、ティアナは信じられないと言う顔で見守った。
犠脳体がまだ生きているスバルのシルエットを捉え、その長大な牙を剥きだしにして吼えた。
ヴィルトシュヴァインは、六輪を高速回転させ突っ込む/オットーとディードの牽制攻撃のせいで、フォワードメンバーは助けに行けない。
「ッッ! 邪魔だ!!」
「……タイプゼロは、多少破壊してでも頂いて行く」
エリオの突撃槍と、ディードの二刀流のぶつかり合い/絡み合う大蛇のよう。
白露――はるか上空に移動/眼下のスバルを見下ろしながら、斧を掲げ、振り下ろす。
抗磁圧の刃が、青いボディスーツの放つ抗磁圧の推力機関の逆噴射とぶつかり合い、ギギギギ、と凄まじい騒音を残した。
「がっ!」
かろうじて刃を防いだ人影が、落下――追撃しようとした白露の喉元目掛けて、一対のブーメランソードが飛来する/抗磁圧の盾に軌道を逸らされる。
刃で出来た甲冑に覆われた白露の顔が、その人影を捉えた。
高い身長の少女が二人/青紫のショートカットと、桜色の長髪/豊麗な胸元を包む青いボディスーツ/四肢から展開した刃と手に握られたブーメラン。
空中戦型戦闘機人二名が、白露の特甲と対峙する。
《戦闘機人か……君達の感情を食べたら、あの子の中の僕も、戻ってきやすくなるかな?》
青紫の髪の、年長の戦闘機人――『トーレ』が呻くように呟いた。
「特甲猟兵……レジアス中将の切り札というわけか」
「トーレ、この空域からの離脱を推奨します。今の我々の、レベル2に該当する装備では――」
桜色の髪の戦闘機人『セッテ』の呟き――無感情な人形じみたそれに、トーレが顔を顰めた。
戦力差は絶望的だ。頼みの綱だった犠脳体兵器は特甲レベル3の前には無意味だったし、自分達の武装では、質量兵器の完成形といえる白露の装備には、
如何にも無力だった。
だが、撤退するわけにはいかなかった。妹達の作戦行動=タイプゼロシリーズの確保を支援するためには、この化け物じみた特甲を抑えておかねばならない。
悲痛な顔で、トーレは言った。
「数分でいい。奴を抑えるぞ、セッテ」
「了解」
手斧の一撃――抗磁圧の不可視の斬撃を回避しながら、二人は白銀色の悪魔に踊りかかった。
白露の攻撃――抗磁圧の盾による爆圧の壁。
地上のスバルの姿をもう一度目に捉え、微笑した。
軍用車両の突撃――まさしくイノシシのそれ。
一対の巨大雷撃器が、立ち上がったスバル目掛け猛進し、轟音が響き渡った。
超重量の突進=何かが粉砕される音――思わず目を閉じる/悲鳴が口から洩れた。
目を開けると、巨大な六輪戦車がアスファルトを削りながら後ろに後退、転倒していた。
派手に粉塵が舞う中、ひしゃげた脚部を展開して起き上がる鋼鉄のイノシシ――大きく凹み、ひび割れた前部/折れ砕けた一対の牙=雷撃器。
ティアナ――瞠目して立ち尽くす。
「……え?」
エリオとキャロ――何が起こったのか理解できていない顔。
「スバル……さん?」
粉塵から飛び出す影――ぼろぼろのバリアジャケットを展開した、よく見慣れた少女だったモノ。
スバル――夢見るような虚ろな顔/金色に輝く瞳/抉れた左腕から覗く機械の強化骨格、人工筋肉/半ば崩壊した左の拳が、黄金に輝く鋼に置換される。
周辺の景色を捻じ曲げる強力な干渉領域――IS<振動破砕>による振動波が、四肢を中心に放たれる。
その干渉領域によって揺れる髪/白い鉢巻。
電気ノコギリのような振動音=凶器と化した四肢の雄叫び――触れるもの全てを崩壊させるエネルギーが解放を待ち望む。
右の拳=振動破砕に耐えるリボルバーナックル――左の拳=輝きを帯びる抗磁圧型障壁発生装置。
両足=主の急変について行こうと必死なマッハキャリバー。
殺人的爆走――粉塵を巻き上げながら、イノシシの脇腹に右の拳を叩き込む/接触面から流し込まれる振動エネルギー。
反作用として発生する衝撃波が、マッハキャリバーに伝わり、後ろに吹っ飛びかねない状態になるも、左の拳が放つ抗磁圧が衝撃を相殺する。
アスファルトが爆裂し、イノシシの側面装甲にひびが入り砕け散り、車輪が吹き飛び、巨大な戦車の内部機関が弾け飛ぶ。
さらに拳を打ち込む/一撃、二撃、三撃。
共鳴で増幅された振動波が内部から装甲を叩き割り、機械の臓器を露出させたイノシシが、耳障りな騒音を撒き散らした。
鋼鉄が引き裂かれ、捲れ返った。
――ギィィィィィィィ
それは怪物の咆哮に似ていた――露出するカプセル=犠脳体の中枢、人間の大脳。
犠脳の上に飛び乗った。無表情にスバルが拳を振り上げる――振り下ろしかけとき、抗磁圧の爆風がスバルの身体を/犠脳を吹き飛ばしていた。
中枢制御装置を吹き飛ばされた六輪戦車が、稼動を停止/機能停止。
キリキリキリキリ、という抗磁圧の噴射音――白銀色の異形/白露の特甲が、虚ろな金色の双眸を見つめた。
《今の虚ろな君じゃ駄目だ……もっと、もっと輝いている君を食べないと、僕は感情を取り戻せない》
何十分にも、刹那の出来事にも思える時間。
けれど、それはすぐに終わった。
ナンバーズ=オットーとディードの介入――光線の結界とディードの剣閃が白露の特甲に放たれた。
だが、一方は抗磁圧の盾に逸らされ/一方は抗磁圧の斬撃によって左腕を寸断。
「――ッッ!!」
切り落とされた己が左腕を拾い上げると、オットーを抱えてディードは離脱を開始した。
飛行機並みの速度で飛翔して逃げる。
通信=脳内チップを介してのナンバーズ独自の方法。
《すまん、ディード! セッテが撃墜された。回収に向かったが、特甲猟兵がそっちに――》
《トーレ姉様、では、撤退を》
《ああ……》
敵の急な撤退に呆然としていたティアナだったが、相棒の戦闘機人としての姿を目にしたことを思い出し、急いでスバルに駆け寄った。
スバルは陽気な人間を装ってはいるが、その実とても傷つきやすい繊細な心の持ち主でもあった。
異形としての力を振るったことは、確実に彼女を追い詰めている筈だと、ティアナは心配していた。
「スバル! アンタ大丈夫なの?」
虚ろな瞳――黄金に輝くそれが、ティアナをじっと見据え――。
リボルバーナックルが、ティアナの胸元目掛けて打ち出されていた。
「――え?」
――ああ、とっても幸せだよ、お母さん
虚無が、母の声でスバルに囁いた。
(皆殺し――それこそが、レベル3の製造概念。何故ならば――)
閃光が、弾けた。
支援
以上で投下終了です。
今回、ようやく白露の特甲が出せましたー。
スーパーヴァイスタイムと暴走スバルタイムでお送りしました。
ではでは。
ティアナあああああああああああ!
ご無沙汰しております。
予約が大丈夫でしたら、22:00程から投下を開始したいと思います。
×DODの方です。
支援
211 :
新人:2008/07/06(日) 20:59:37 ID:ck5i40Nn
投下予告です
・時期的に3期の後
・主人公はスバル
・クロスさせるのは仮面ライダーシリーズ、CLANNAD、らきすた、Kanonの予定
現在プロローグを推敲し、設定を練ってる最中です
3日後に投下の予定です。
支援
>>221 KANONか……お手並み拝見だな
それでは自分は24:00、日付が変わってすぐに投下の予約させていただきます。
ところで皆さん、明日の日付は……?
>>207 GJ! 次回も期待です。
でも他の連載も見たいです、どうかそっちも頑張ってください。
《DOD氏と武者○伝氏からの支援要請了解、援護に向かう!》
七夕ネタか…
支援待機!
どうも皆様、御久し振りです。(一礼)
30分後の22:00辺りからEPISODE:1-3を
投下したいのですけれど、宜しいでしょうか?
>>218 22:00からDOD氏
00:00から武者○伝氏が予約しています
>>219 あらら;
でしたら、武者○伝氏投下終了の30分後に
投下予約させて載きます。
かなりな深夜から投下開始になりますでしょうし、
自分自身も投下速度はそんなに早い方では無いので、
支援して下さるとおっしゃって下さる方々は
翌日に支障が出ない範囲で御願い致しますね。
それでは、また後程に。(一礼)
では投下を開始します。約18kbの8分割です。
支援
鑑識と現場検証を行う後続の魔導師たちがやって来るのを待たずして、カイムはその場に残った
なのはたちに背を向け、森に向かって歩みをはじめた。
キャロは呼び止めようとしたのだが、声を発することはできなかった。たとえ足を止められても、
その後どうすればよいのかわからなかった。
それは、ほかの仲間や上司たちも同じであるらしかった。皆戸惑いを含む視線を向けはするが、
動き出すことはできずにいた。天空のたかくに残っている太陽の、燦爛と照りつける射光の下で、
一人は歩き、他はとどまる。
やがて本当に何の感情も見せないまま、人目を避けるようにホテルから離れ、下草を踏みしめて
カイムは森の中へと入って行った。木の葉と樹木の幹の群の中に、人間ひとりが身を溶け込ませる
までそれ程時間はかからなかった。森に差しかかってから幾許の時をも置かず、カイムはその姿を
隠者の如くに消し去った。後には何も出来ず見送った魔導の戦士たちと、シャドウの物言わぬ黒の
骸と、ドラゴンが残された。
空白。
暫し経ってからフェイトが下に目を向けてみると、ライトニングの子供たちは、カイムが失せた
森を見たまま、言うに言われぬ思いの為す複雑な表情をしていた。キャロの相棒、フリードリヒは、
そんな二人を心配しているのだろうか、きょろきょろと目を動かしながら鳴き声を上げずに飛んで
いた。
シャマルを経由して得た映像で大まかな事情は知っているが、当時の様子の詳細までは知らない
なのははというと、そのとき最も近くに居たという副隊長のヴィータに向かって話しかけていた。
戦闘時の報告を受けているのと同時に、カイムについても話を聞いているのだろう。
はやての脇に控えているヴォルケンリッターの他の守護騎士たちも、お互いの表情を窺ったり、
主たる部隊長からの問いに答えたりしている。その中ではやては、ドラゴンからも話を聞き出そう
としていた。竜の静かな声が世界とそのすみびとについて語るのを聞きながら、はやてのこういう
大胆なところは、見習いたい長所だとフェイトは改めて思った。
ある者は押し黙り、ある者は聞きある者は話し、語り、そうして僅かな時が流れた。そのあいだ
誰も動かなかったのは、膠着を破るのに十分な動機や切っ掛けが無かったからか、それとも場の纏う
雰囲気が暗黙の内にそうさせたのか。
その両方であるようにフェイトは思った。「人を殺めた」という、隠すところのない剥き出しの
言辞をドラゴンが用いたことで、その内容に己も仲間たちも当惑している、とフェイトは感じた。
殺人が禁忌なのはミッドチルダでも当たり前のことなのだが、これを罪悪という二文字に集約して
しまうことがはばかられてしまい、ある種の混乱を感じていた。
それが、戦争なのだろうか? フェイトはそう考えた。
戦いなら幾度となく乗り越えてきたし、管理局員にはその中で職に殉ずる者だっている。だが、
それはあくまで時空管理局と犯罪者という、単純な敵対関係の中だった。互いが互いの正義と理を
掲げ、国や人間が対等に命を奪いあう、殺し合いとしての戦争は経験がなかった。
親友のなのはから以前聞いていたが、彼女の故郷・海鳴のあるあの国も、ほんの6、70年ほど
前にはその種の戦争があったそうだ。しかし戦場で戦った、兵士たちの心理は、その話を聞いても
想像もつかない。まして異世界の戦争など。
「あやつに治療を、と聞いた」
その内に、ドラゴンがそんなことを言った。言葉を向けられたのは、カイムの火傷に治療をと、
リインを通して持ちかけていたシャマルだった。
フェイトは目を向けた。ドラゴンからの言葉は暫く振りであったためか、仲間たちも耳を傾けて
いた。シャマルが頷くとドラゴンは、確認したと言わんばかりに一つ唸った。集結した視線に気が
ついてからの一瞬の空白に、程近い木蔭から、小鳥が二羽舞い上った。
支援します
「礼を言う。だが不要ぞ」
「そんなことありませんっ」
そのように言ったドラゴンに対し、珍しく、シャマルは頑として譲らなかった。火傷は酷ければ
痕が残るし、熱を持ったら質が悪い。そのような言を並べてドラゴンに反論した。
カイムの本性がどう、とかいうことは、シャマルにはその時なかった。
だいいち殺人行為なら、ヴォルケンリッターの自分たちだってしてきたではないか。そのような
思いが在った。同じ戦場に立つ者として純粋に、その身を心配して言葉が出ていた。
「ですから、検証が終わったらすぐにでも」
「そうさな。だがおぬしらのことだ。治療とはおそらく、魔法なのだろう?」
それに対し、ドラゴンはそう問い返した。当たり前過ぎて、想像さえしなかった切り返し。
うなずくしかなかった。事実だった。実際そのつもりでいた。
「無駄なのだ。魔力を得過ぎたようでな。我らは己によらぬ魔術の類は受けにくいのよ」
世界崩壊が開始する直前に漆黒へ体色を変化させ、竜の血に根付く記憶によりカオスドラゴンに
形態を変えた時から、帝国軍の赤き鎧を凌駕する、魔力への強い拒絶がドラゴンの身体に備わって
いた。目に見えぬ魔力の防壁は、世界を去り「血の記憶」の呪縛からも解き放たれ、紅のからだを
取り戻した今も消えていない。
巨大な容量を持つ竜族であるが故のその領域に、カイムもまた足を踏み入れつつあった。
血肉を吸い鍛えられていく彼の得物と競うように、数々の命を殺害したカイムは多様な魔や魂を
身の内に取り込んできた。受け皿たる身体はその度に鍛えられ強靭さを増してきたが、その果てに
制した鬼子たちとの戦いが、彼の体に奇妙な変容を齎していた。ドラゴンと共に巨人から略奪した
大量の魔力が、契約相手のそれには及ばぬものの、魔法に対し強力に抵抗するようになっていた。
自身の精神状態の如何によって強度が浮動するという不安定極まりないものだが、いずれにせよ
他者の魔法を弾く天然の盾であった。脱着が自由に行えるバリアジャケットと異なる、本人の意思
ではどうすることも出来ない種のバリアーだった。
(もっとも、いずれにせよ拒むのだろうな)
暴怒と衝動の下においては容易に消し飛びはするものの、人間として持つべき意識はカイムにも
残っている。己を異常者として認知することもできていた。
当たり前のように人間らしく生きる者たちの姿は、無為にその自覚を深めさせるだけだ。
先程なのはたちの目の前から立ち去ったのも、無関心というよりは、彼女たちの姿を見ることで
何らかの痛痒を感じたからだとドラゴンは受け取っていた。
カイムとてかつての心を取り戻したくないわけではなかろう。そのような男にとって彼女たちの
姿は辛いものだった。そしてドラゴンとてカイムには、そんな思いをさせたくはなかった。
「そう……ですか」
「薬草に使える葉なら森で見かけた。放っておいても勝手に治す」
この竜が己れの言を曲げるとは思えず、シャマルは引き下がらざるを得なかった。案じる視線の
中に複雑そうな気配を含ませた顔をしていた。その肩にシグナムがぽんと手を置いた。
しえーん!
(遠いな)
水色の空によく映える赤い首を見つめながら、漠然とフェイトは思った。
はじめて出会ったとき口の利けない竜の相方だったのが、列車の上では屈強の竜騎士に変わり、
そして今は精神を病んだ復讐の人。
さらには「人間同士が殺し合う」戦争という、空想のような時間を生きた人でもある。それでも
魔法という名の一点でつながっていたヴォルケンリッターとは違って、魔法体系の共通点も一つと
して存在しない。
考えたこともなかったが、生物学的にももしかしたら差異があるのかもしれなかった。こちらで
いう人間とは、形骸は同じでも違う種族なのかもしれないと、そのようにさえ思われた。
共同戦線に在ったというけれども、正直言って仲が良かったわけではなかった。
避けてきたわけでは決してない。世話になっているキャロやエリオの保護者としても、この先の
任務で背中を預けるかもしれない相手としても、彼らはずっと気に掛かる存在だった。
しかし思い返してみれば、片手の指に足る回数しか顔を合わせてはいなかった。
過去彼らが戦っていたのは何となく分かっていても、戦ってばかりいたとは思っていなかった。
その中で心を病んだとも思っていなかったし、多くの生命を奪ったとも考えたことはなかった。
フェイト自身が彼らには身の上話をしていなかったが、それは彼らも同じだったのだ。
――どうすればいいんだろう。
お互いに知らないことが多過ぎたとフェイトは思う。だがたとえ知ったところで、何も起こりは
しないと同時に気付いた。
助けてあげたいと思う。
苦しんだり悲しんだりしている人がいるのなら、何とかしてあげたいと考えてきた。精神の核に
その思いを据えて今まで生きてきたし、それは今なお彼女の基底にあり続けている。
ただその思いだけでは、どうにもならぬと分かった。
差しのべられた手や他の全てをかなぐり捨てて、深い闇の淵に消えていった人を、フェイトは
一人知っていた。
母、プレシアがそうだった。
(……わからないや……)
フェイトだけではない。出会ってから日が浅いということを差し引いても、彼らと魔導師たちが
言葉をかわし交わった時間は圧倒的に少なかった。槍の扱いをと頼んだエリオは蜘蛛の糸を切れと
言伝されただけだった。刃を交えたヴィータも奇妙な印象を持っただけであり、今までその正体を
確かめる術はなかった。
最も近くに在ったキャロでさえ、カイムと直接顔を合わせたことはあまりない。ドラゴンの傍に
いるはずのカイムは、キャロが森に足を運ぶと大抵は奥へ引っ込んでしまっていたそうだ。
そんな話をキャロから前に聞いたが、今にしてみれば人を避けていたのかとフェイトは思った。
何故だかそれが、無性に悲しく思えた。
竜騎槍支援
支援
「マイスターはやて。そろそろ」
「ん。せやな、もうじきやな」
そんな折、リインの小さな指がはやての肩をとんとんと叩いた。戦後のメンバー集合から今まで
およそ三十分が経過している。そろそろ現場検証の時間がやってくる、という頃合いになっていた。
去ってしまったカイムが、はやてとて心配ではある。カイムが背を向ける前に一瞬見せた目には、
悲しさや寂しさとは別の種類の、ぐちゃぐちゃと錯綜したような眼光があった。
しかし部隊長として、はやては責任を果たさなければならぬ。部隊を率いる者は公務においては
個人の感情を全て捨て去り、任務に邁進せねばならないのだ。優しい彼女にとってもまたカイムの
ことは気がかりだったし、話を聞いた今はその過去と現在の精神を案ずる思いがあったが、彼女は
もう子供ではない。己の感情そのままに動くことは許されはしない。歯痒くはあるのだが。
「なれば、我も姿を隠す必要があるのではないか?」
「いや、その必要はあらへん。敵の……シャドウ、の分析の時にそばにいてほしいし。それにな、
当時の状況、もっと詳しく聞きたいんや」
人間どもがこれからどのような事をするかは分からないが、このような異様のドラゴンが居ては
まともに作業ができないのではないか? と、はやての言葉から推察してドラゴンは言ったのだが、
当の本人は首を横に振り言葉を返した。
確かに喋るドラゴンというものを見たことがある人は少ないと思うが、魔法生物の類であれば、
鑑識という立場からすれば見慣れているはず。
というより鑑識でなくとも、魔導師であるなら少なくとも、竜族の存在そのものに驚くことは
まずあるまい。
それに、カイムが居なくなってしまった以上、シャドウやガーゴイルについての話ができるのは
ドラゴン以外にいないのだ。先ほどはやてが聞いたことをそのまま鑑識に伝えてもよかったのだが、
やはりこういうことは本人の口から聞いた方がいいだろうと思った。
話を進めているうちに新たな情報が出てきたら、それはそれで助かる、というのもある。
「そうか」
そう答えると、ふっと出し抜けに、ドラゴンは長い首を伸ばして空を仰いだ。
その場にほとんど動きが無かったことから、思わずぎょっと見る者もいれば不審そうにする者も
いて、また何か来るのか、と内心警戒を深める者もいた。これはシグナムだが、そういうことでは
ない。
ドラゴンの目は空を向いていたが、意識は別のところにあった。
そのように感じたのはキャロだった。森で会っていた時にも幾度か、似たような挙動をしている
のを見かけたことがあった。それはドラゴンが、どことも知れぬカイムと『声』で会話をしている
ときに、よく見せる動作であった。
「カイムさん?」
「ああ」
ドラゴンの返事は少々おざなりなものだった。
『声』での会話には、普通それほど集中する必要はないとキャロは知っていた。フリードリヒと
空を舞っている最中にカイムに連絡を取っているのも確認したし、『声』とは別種のものであるが、
片手間にキャロに向けて思念を放ったこともある。ミッドチルダの魔導師の念話と同じで、さほど
意識を注ぐ必要がない種のものらしい、とキャロは分析したことがあった。
それなのに意識を注ぎ込んでいるということは。
それほどカイムの『声』が微弱なのだろうか。
ソーサルカンパニーのシエロの逆存在だな。
支援
「これらを引き取りたいと言っておる」
そんな想像をして余計に心配そうな顔をするキャロを放置して、冷たいほのおを炎々と燃やした
瞳から、ドラゴンは黒い甲冑に視線を突き刺した。
かつての世界にあっても敵であった者たちだが、カイムに苦痛を味あわせた時点で、ドラゴンに
とっては敵意のランクは上がっていたらしい。不倶戴天の敵であり、かつ烈火のごとき震怒の矛先
たる存在に向ける視線は、生物の頂点に君臨する種に相応しい、本能的な恐怖をもいざなう暗黒を
内包していた。
「これを……シャドウを?」
「ああ。『有効に』活用する、と」
上下関係に由来する種のプレッシャーには慣れているはやてが、それについては何とか応対した。
割れた瞳がこちらを向くのには一瞬どきりとしたが、どろどろしたものが残り火ほどに薄れていた
のには、はやては内心ほっと安堵した。
「鎧自体には仕掛けは無い。そのうえどれも同じものだ、弄り回すには一つで事足りよう」
「余裕があれば……になると思うけど」
同じ世界を生きていた彼らのことだ。まるっきり初対面の自分たちが保管しているより、有効な
使い方を知っているのならその方がいいだろう、とはやては思った。それに、それがもし魔術的な
ものであるなら、後々に参考にできるところがあるかもしれない。何しろ異界の魔法なのだ。自分たち
ミッドチルダの住人にない、魔力の用途や魔法の発想というものが在るのかもしれなかった。
「それに、できたら、『使い方』っていうのを後で教えてもらえると助かるんやけど」
「伝えておく。それと、そこの娘ども」
言うと、大多数の視線がドラゴンに集中した。
帝国軍も連合軍もそうだし、ドラゴンがかつて見てきた人間の軍や騎士といったものはほとんど
男性で構成されていた。だから考える必要なしと無意識に処理したのだが、この機動六課の戦闘員
はほとんどが女性だ。失念であった。
気を取り直して、ドラゴンはスバルとティアナ、ヴィータの順に目を向けて言った。
「青と茶」
今までのドラゴンの口ぶりから察するに、色で言うならバリアジャケットか髪の色、と判断する
のが妥当であろう。
とも思われるのだが、今のドラゴンはカイムの代弁者。となるとカイムがそのように言っている、
と考えた方がいいだろう。しかしいずれにせよ、この竜と人とは同じような呼称を用いているよう
であった。
青色といえば、ほぼ間違いなくスバルである――と、総員の見解が同じところに収束した。自分が
呼ばれていることに本人も気づいて、緊張したのか、スバルはぴしりと背を伸ばした。
茶髪にはなのはやティアナ、それにはやても居るが、なのはの呼称は「白」から変化していない。
それにスバルが呼ばれたこと、ドラゴンが目を向けた方向を考えると、ティアナの事を指している
のだろう、と皆思った。少し驚いた表情をティアナは見せた。
「小さな赤髪」
「ちょっと待て。それは一体どーいうまとめ方だ」
「知ったことか。あやつがそう言った」
「……あのやろう」
粗略な扱いに憤慨するヴィータだった。
支援
支援
「伝言だ。『詫びる』と一言のみ」
でもそんなことを言われると、何も返せない。
「……何、謝ってんだよ……」
「知るか。それだけだ」
もうそれ以上は知らぬ。
というのは本当であるらしく、ドラゴンはそれ以上ヴィータに言葉を投げかけなかった。困惑と
やるせなさとが己の中で複雑に絡み合うのを感じながら、ヴィータはそのまま沈黙してしまった。
何を言えばいいのかわからなかった。
そのヴィータを捨て置いて、竜の目が再びはやてをとらえ直した。
「元凶は紫の髪の幼い娘と、カイムほどの背の男が一人だ。召喚士は幼子、南に逃げたらしい」
「情報提供、感謝します。召喚士がいるんなら、きっちり対策を練らんとな」
「森を全て灰燼に帰さしめれば燻し出せたやもしれぬが、あやつの傷もある。深追いはせなんだ」
良かったか、と問うドラゴンに、はやてはひとつ頷いた。
犯人逮捕のためとはいえ、森を丸裸にしてしまってはさすがに損害賠償請求が飛んでくる可能性
もある。それに相手は召喚士、転送系統の魔法のエキスパート。転送魔法で逃げられることも十分
ありえた。「警護対象に損害を与えました、犯人確保にも失敗しました」では目も当てられない。
試用運用下にあり、結果を残さねばならない六課にとって、それは最もあってはならない。
「気をつけてください」
はやては一拍の間の後でそう言った。
一転して厳しく引き締めたその表情を前にして、何を、とドラゴンが問い返す前に続けた。
「としか言えへんけども。殺傷行為は基本的に罰せられます。機動六課とて例外はあらへんし、あの人も」
はやては心配だった。
六課の評判が、という種の意味合いもありはしたが、単純に、彼らがこの先罪を犯してしまうの
ではないかという思いがあった。罪人と呼ばれ後ろ指を指されてきたという自分の過去の経験から、
はやてはカイムの精神状態の他に、純粋にそれが心配であった。
管理局に追われる立場になるのかもしれない、という不安も心の中に湧いていた。今後もし何か
あてば、それがもし重大な事件に発展してしまえば、彼らが御尋ね者になるという可能性もあった。
そうなったら自分たち管理局員は、彼らと戦い捕縛しなければならない立場にある。
得体の知れない存在とはいえ、はやての中ではもう、カイムとドラゴンは仲間として認識されて
いた。浅い仲ではあるものの、かつて仲間であった者と刃を交える苦しみを、味わいたくなかった。
(罰?)
しかし、ドラゴンはそうとは受け取らなかった。
言葉の中に、はやての感情とは別に感じるところがあった。眉間に並んだ竜鱗を寄せて、亀裂を
深めてみせた。
(戦いで殺戮を禁ずるのか?)
他支援
支援
平素において殺人者と疎まれることはあろう。
ドラゴンがカイム以外の人間の滅びや死にさして感じるところはないが、人間の成す社会では、
それが誅せられるべき罪であることは知っている。
曲がりなりにも人間に関わり、社会に関わってしまっている以上、そこに法というものがあると
いうのなら、従ってやっても良いという程度には考えていた。
だが殺しにかかってくる敵を殺害して、罰を受けよと命ぜられる謂われはない。
(偽りではないようだ)
しかしはやての表情から察するに、本気でそのように言っている。
どうやらこの世界では、それが絶対の法であるらしかった。なるほどこの人間たちのどこか甘い
立ち位置も、初対面の自分たちへの警戒心の無さも、そういったところに源泉があるのやも知れぬ
とドラゴンは思った。
まあ、いい。
本当に殺さずに済むのなら越したことはない。
これからの戦いが穏便に済まされる予感は欠片も感じられないが、あえて口にすることもないと
ドラゴンは思った。
殺さねばならぬ時が来たら、避けようがなくどうせ殺すのだ。言ったところでどうにもならない。
そのように思って、ドラゴンは「ああ」と、はやてに向かって首を縦に振った。
「あやつとて、戦わずに済むのならそれが一番良い」
これ以上に虚しい肯定も、きっとない。
支援ー
そしてやがて、検証がはじまった。
後からやってきた魔導師たちは、供述するのが言葉を話すドラゴンということで最初はさぞかし
驚いた様子を見せたが、はやての読み通りそこは慣れたものなのか、あるいは割り切りが早いのか、
すぐに通常の作業へと戻っていった。シャドウの屍を分析し、ドラゴンやはやて、記録を管理する
リイン、映像を持つシャマルから情報を引き出していく。
作業そのものは順調に進んでいき、検分を行う男が持つ記録紙が二枚目に入るところまでは早かった。
それから程なくしてはやてが尋ねると、やはり解析は順調とのことだった。
というより、単純だ、と一人は言った。
「魔力の関わる要素は無し、か……」
「甲冑表面に走る文様と、胸部裏側のエンブレムが気になりますが、それ以外は特にありませんね」
果たしてドラゴンの言葉の通り、物言わぬ甲冑そのものの中には魔力の残滓はおろか、魔術的な
痕跡は一切確認されなかった。
それに対して、ガジェットの型や造りは、今までの事件のそれと同じ種で何の変わり映えもない。
それ故に作業の進行はスムーズで、もしやガジェットまで内部の構築が大幅に改編されていたら
という考えは、あっという間に杞憂であったと示された。シャドウの解析は着々と行われていき、
「魔力痕無し」の結果だけが次々と導き出されてゆく。
「外殻の文様に意味はない。隠れたものは『天使の教会』の紋章だ。帝国軍が鎧兜に使っていたな」
「教会? 『帝国』って、宗教国家やったんか」
「崇める神ではなく教祖を頂点としていたが、その表現は恐らく正しかろう」
このように、最初はまずはやてとの間でやりとりが行われ、ドラゴンが補足的に横から口を出す
程度であった。
しかしそうしているうちに、基本的にドラゴンの言ったとおりの結果が出てくると分かったのか。
直接聞いた方がはやての勧めもあって、調査を行っている数人の魔導師たちは一部は手を止めて、
先に竜に話を聞きにくるようになった。
ドラゴンの答えは澱みない。人間たちの問いは魔術において表層的なものであり、言葉では言い
表せぬ深い淵を突くものではなかった。ドラゴンがあまり口にはしたくない「主」に関わる話や、
過去戦った他の魔物についての問いが出なかったことも、その一因ではあったのだろうが。
「もう一つの新種が出たとも聞きましたが」
「燃え尽きて灰も西の森に落ちた。見たくば見てくるがいい。ひと際大きい木の十字の傍だ」
作業にはその場に残っていたフォワードメンバーや、なのはたち分隊長陣も加わっており、主に
シャドウの他にも散乱していたガジェットの残骸の運搬など、分析以外の作業の手伝いをしていた。
新たに増えた敵と、味方だと思っていた男の豹変に、皆こころの中にしこりのようなものが残って
いたままだったが、作業に精を出すうちに少しずつ考えを整理しつつあるようにはやては思った。
ただ、いつまで待っても、カイムは帰ってはこなかった。
携帯投下でした。スローペースですみません。
ではまた。何かありましたらどうぞ。
GJです
ところで8/8で誤字報告
直接聞いた方がはやての勧めもあって
GJ
人より人外の方が馴染んでるクロスって珍しいっすよねw
カイムはいっそ完全に狂えたなら楽なのに、と思うくらい不憫
ある意味でファーストコンタクトがクロノでよかったよ……
携帯でこの量を……ありえへんw
>>245 ご報告ありがとうございます。そしてすみませんでした。wikiにて修正します。
GJ!
回復魔法も効かんとは難儀なことだ…
フェイトがギャップに悩んでるな、なのはとは全く別ベクトルな作品から来たキャラだからなあ。
アンヘルの言葉から殺したくなくても殺しざるを得ない場面が来そうだぜ。
GJまあカイムとか手加減出来んしな。過剰防衛になりそう。
ナンバーズとかはすぐに危険と判断し撤退しそうなのが救いだが。
はやても教会の実態知ったら驚くだろうな
たまにはレス返しなぞ。
>>246 いきなり六課と邂逅したらどう考えてもガチ殺し合いにしかなりませんものね。
と、思って書いてみたらここまでたどり着くのに半年以上かかったという。
投下直後右親指が攣ってたのは内緒です。
>>248 魔法ではどうにもならないのを入れてみたくて、このように。
今後考えているシナリオで何とか活かして味を出してみたいと思っています。
>>249 その辺りはミッドの法律関係のデータがもうちょっと欲しいところです。
>教会 ……。
教祖があれですし。
感想ありがとうございました。今回だけでなく、毎回全て目を通しています。とても励みになります。
次回の更新はスバゲッチュの方になるので、そちらもご期待ください。
では武者○伝氏にバトンタッチ。
了解、承りましたー。
DOD氏、GJでした!
はやてとアンヘル、互いの言い分はそれぞれの過ごしてきた世界では
全くの正しい言い分であるので、すれ違っている事にハラハラしてしまいます。
他の面子も抱えている悩みがそれぞれ重くて、今後の事が気になって仕方ありません。
それでは投下に移らせていただきます。
さーて、皆おさらいだ、今日は何月何日かなー?
「あっ! いたいた! 武ちゃ丸くーん、ススムくーん!」
七月に入り、元々ひどかった蒸し暑さはピークに達しようとしていたある日の事。
薄手のかわいらしいワンピースを着たなのはがざら版紙に刷られたプリントを両手に抱え、
翠屋に向かう途中だったススムと武ちゃ丸の姿を見つけ、よたよたと駆けよって来る。
すってんと転びやしないかとはらはらしながら見守る二人の心境を知ってか知らずか、
危なっかしい動きを見せながらも何とか彼女が二人の元に辿り着いた頃には、
へとへとになっていたのはむしろその二人であった事を記しておく。心因的な意味で。
リリカル武者○伝SS零参
「雷鳴轟き、天地が揺れる! 最終戦争七夕の夜なの!?」
「七夕?」
「そうなの! 町内会の出し物でね、七夕の行事を手伝ってくれる人探してるんだけど……」
「なぁシュシュム、あのな……」
「うん、ボクでよかったら手伝うよ」
「あのー」
「ありがとう! 皆忙しくって、あんまり集まれなくて困ってたところだったの」
「おーい? 二人とも、聞いとんのか?」
「それはいいけど、笹の方は大丈夫なの?」
「なぁ〜、なぁって!」
「うん! お知り合いの獣医さんが大地主さんでね、竹林に生えてるのを譲ってくれるって……」
なのはとススムの会話はいつしか打ち合わせや世間話を転々とし、それなりに盛り上がる。
ただ、除け者にされたも同然なあの白い奴としては当然面白くない。
何度も何度も声をかけるが一向に混ぜてもらえる気配がない。そして、ついに。
「こらー! いい加減にワイの話も聞いてーやー!!」
武ちゃ丸は二人の耳元で、戦場中に響き渡るあの大声で叫びを上げた。
突如もたらされたこの音響攻撃に、声を上げる事すら叶わずススムとなのはは
もんどり打ってもがき苦しむ。よって、まともに話をする事ができたのはさらに後の事となった。
「〜〜! 鼓膜が破れるかと思ったじゃないかぁ……」
「なぁなぁシュシュム、なのは、『たなばた』って、何や?」
ススム達の訴えを無視し、武ちゃ丸はきょとんとした顔でそう問いかける。
「えっ? 天宮には七夕って無いの? 結構昔の日本に似てるからあると思ってたんだけど……」
「んな事言うたかて無いもんはしゃーないやん。なぁ、たなばたって何?」
そんな武ちゃ丸に、目をきらきらと輝かせてなのははずいっと身を乗り出して語り出した。
「あのね、七夕って言うのは一年に一度、別れた恋人達が再会できるとってもロマンチックな日なの!」
「いや、間違ってはないけど……ちょっと要約し過ぎなんじゃ?」
「じゃあ、むつかしー所はススム君が説明してくれる? だって五年生なんでしょ?」
横槍を入れてきたススムに対してむっと頬を膨らませつつ、なのはは鋭く切り返しをいれる。
「なんでそーなるのさ!?」
「えー? 文句言うからにはちゃんとした反論を用意して欲しいもの」
「ホントになのはちゃんって三年生? 仕方ないなぁ。あのね、七夕って言うのは……」
七夕だー!支援!
ススム曰く、七夕とは昔、天の世界に織姫と彦星という互いに愛し合っていた二人の男女がいたが、
互いにいちゃつきすぎて全く仕事をしなくなったので、怒った神様によって天の川の両岸に
離れ離れにさせられてしまった。
しかし、二人の流す悲しみの涙が地上に洪水を頻繁に引き起こしてしまったので、困った神様は
一年に一度だけ二人が会う事を許される日を設けた。それが七月七日の七夕の日である……と。
「それで、何でかはよく知らないけど笹に願い事を書いた短冊を飾り付けると、
その願いが叶うっていう伝説があるんだ。さっき話してたのはそういう事だよ」
「へー! 何やおもろそうな行事やなぁ! ワイも混ぜてもらってかまへん?」
「もちろん! 最初っからそのつもりだったしね」
なのはの答えに、武ちゃ丸は満面の笑みで飛びあがって喜びを示した。
「よっしゃー! あ、そや! ワイだけやったらおもろないな、他のヒマしとるみんなも
呼んでもええか?」
「もちろんだよー! きっとちっちゃい子が喜ぶよー」
「ホンマか!? そしたら斗機丸と、あとはアイツとコイツと……」
「うんうん! 皆いっぱい呼んできて! 絶対楽しいから!」
その場の勢いに任せ、武ちゃ丸の提案をヒョイヒョイと安請け合いしてしまうなのは。
ススムはその光景に一抹の不安を抱き始めていた。
「ハハ……ボクなんだか大変な予感がしてきたよ、なのはちゃん……」
「えー、そう? きっと楽しいよー!」
「せやで! シュシュムは心配し過ぎやて! ハゲても知らんでー?」
「う、うん……」
武ちゃ丸となのはの笑顔とは裏腹に、ススムの胸の内には抱いたばかりの不安が
形容し難いもやとなって残り、その表情に暗い影を落とさせていた。
数日後、海鳴市西町の小高い山を登った所にある八束神社。
そこの社務所を借り切って、ススムが予見した通りに当初町内会が想定した以上のスケールで
七夕行事は執り行われた。
それと言うのも「武者頑駄無きたる」の情報はあっという間に子供たちの間に広まり、
興味本位の野次馬やヒーロー番組に憧れる世代の小さい子達の出席率がかなり高くなったためである。
「しっかし……アレだな」
「んー?」
そんな子供たちがきゃいきゃい言いながら武ちゃ丸やトッキーらに群がって
遅々として進まない作業に明け暮れている時である。
床の上に寝かされた立派な長い笹の枝に、どうにも取り残された形で
真面目に飾り付けをしていたシンヤが、同じく黙々と飾り付けを続ける
ススムに向けてぼそりとこうこぼした。
「最近の願い事は幼稚園児のでさえどうも夢がなくていけないとは思わねーか?」
「あぁ、うん。これとかだね……」
二人の視線の先には拙い字で、やたら現実的な内容が書かれた短冊が下げられていた。
ある物は「こうむいんになりたい」、
またある物は「ガソリンのねだんがこれいじょうあがりませんように」、
とどめにある物は「パパがもうにどとうわきをしませんように」ときた。
とてもじゃないが夢もロマンもへったくれもない。
ススムとシンヤはげっそりとした表情でそれらを見つめ、世知辛い世の中を嘆いた。
「なんつーか、もっとこう……あるだろ?
ウ○ト○マンになりたいとか、プリンのプールで泳ぎたいとかロックスターになりたいとか」
「あー……うん、けどなのはちゃんとか見てると妙に納得かも。
とてもじゃないけどボクらより年下とは思えないし、ひょっとしたらこれが時代の流れなのかもね」
「寒い時代だと思わねーか」
「うん、かわいげ無いよね」
などと、貴様らも十分かわいげの無い思考ですよと突っ込みたくなるような会話を繰り広げる
「小学生」二人。人のふりみて何とやらである。
そんな夢を忘れた古くない地球人たちを横目に、武ちゃ丸とトッキー、そして彼らが呼んだ
スペシャルゲストは子供たちと有意義なコミュニケーションタイムを過ごしていた。
「何度言えば分かるのですか貴方は!? やっこの折り方はそうではありません!」
「だーっ! 似たような形になればそれでいいだろこのインキン無礼!」
「それを言うなら慇懃無礼です! 子供達の前で何と下品な言葉遣いですか!?
同じ超将軍の一人として羞恥の念を抱かざるを得ません!」
「るせぇ! だったらここらで決着付けるか!?」
「いいでしょう、野蛮人!
貴方とは常日頃より一度白黒付けねばならないと思っていましたのでね!」
「おいおい雷鳴、それに天地も……」
「あわわ……何で、何でこないな事になってしもたんや……?」
前言撤回。
武ちゃ丸がスペシャルゲストとして招いた四人の頑駄無超将軍たち。
彼らがとんでもない超特大の地雷であったのだ。
まず地雷その一。荒鬼頑駄無(こうきがんだむ)。
「ねーねーおっちゃん、何お願いしてるの?」
「おっちゃんはやめろ。俺はな……悪の化身死威猛が滅ぶ事を願ったんだ」
「しいたけ?」
「そう、死威猛だ。この世のすべての悪をつかさどる破壊の化身だ。
俺達は正義の刃をもってこいつらを世界から滅ぼさなくてはならない」
「ふーん、そうなんだー」
罪状、正義の味方厨にして極度のしいたけ嫌い。
その立場を濫用し子供たちを自分と同じしいたけ嫌いに教育しようと企んだ。
次に地雷その二。獣王頑駄無(じゅうおうがんだむ)。
「ムゥッ!?」
「どうしたのー?」
「そこの藪の影にいる子狐が『私も混ぜて』と言っとるたい」
「えー?」
「うそだっ!!」
「狐は喋らないよー!」
「ばってん、本当の事……むぅ」
自然の声と称して電波を受信する修験者。
その罪状は所構わず電波を受信し、子供たちに誤った知識を広めた事。
ちなみに荒鬼とは逆にしいたけ好き。
そしてその三とその四は……
「もう勘弁ならねぇ! 表に出ろぃ!!」
「フッ、いいでしょう。この際ですし、格の違いというものを見せつけて差し上げますよ!」
義賊あがりの荒くれ者、天地頑駄無(てんちがんだむ)と
貴族育ちの純粋培養、雷鳴頑駄無(らいめいがんだむ)。
近しい仲間にもかかわらず相性最悪の彼らが最も癖者であった。
「オーラオラオラオラァッ!」
いきなり二丁の連発式火縄銃を振り回し、境内に躍り出た雷鳴を追う天地。
一方の雷鳴は、そんな天地の放つ怒涛のような弾丸の嵐をスイスイと華麗に避ける。
「やれやれ。頭に血が上っていますよ? 攻撃が単調で、狙いも無茶苦茶です。
本当に私に当てる気があるのですか?」
「うっせぇ! 百発撃って一発当たりゃあそれで十分だ!」
下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。
確かに一つの真理であろう。だが、果たして外れた残りの九十九発は一体どこに行くのだろうか?
「二人とも、お願いですから喧嘩はやめてくださーい!!」
必死になって前後不覚の二人に向けて停戦を呼びかけているなのは。
そんななのはに、彼女の身を案じた優しい女性の声が掛けられる。
「あのね、なのはちゃん……」
「な、何でしょう……?」
「その……えぇっと……ずいぶんと個性的なお友達がいるんだね、って……」
「にゃ、にゃははは……」
なのはと、彼女の顔見知りらしいどこかぽやんとした若い巫女がそんな境内の様子を眺め、
二人は引き攣った笑みを浮かべながら戦慄の走る会話を繰り広げている。
それもそのはず、彼女らの視界いっぱいに広がる光景は流れ弾を浴びて廃墟のようになった
かつて、ほんの数分前まで神社と呼ばれていた施設の姿であったからだ。
「武ちゃ丸! トッキー! 二人を止めないと!」
「うぅ……わかっとるんやけど……」
「それが、その……な」
ススムはこれ以上の乱暴狼藉を食い止めるべく武ちゃ丸とトッキーに行動を促すが、
彼らの周りには小さな子供たちの中でも特にやんちゃそうな子らが集まり、
飛び交う銃弾と吹き荒れる爆風にあらん限りの歓声を送っていた。
「やれやれー! もっとやれー!」
「うぁっ、すげっ、これテレビとかゲームなんかよりぜんぜんすげー!」
「ぶっ飛ばせー!」
そんな過激な子供たちをかき分け、トッキーらは歩みを進めようとする。
「君達、そこをどいてくれ! 彼らを止めないと……」
「ばっか、なんで止めるのさ?」
「何だよ、ケチケチするなよー!」
「見せろよー!」
「あいたた、引っ張りなやて! 伸びる! ワイ自慢のぷにぷにほっぺが伸びてまうー!?」
そんな世も末と見える光景を目の当たりにし、二人は疲れ切った表情を見せ、
互いにその顔を見合わせた。
「なぁ、ススム」
「何? シンヤ」
「子供ってさぁ、残酷だよなぁ」
「そうだね……」
自分たちもまたその子供であるという事を完全に置き去りにした発言、再び。
そんな二人の目を覚ますべく、後方から駆け足とともに一人の少女が駆けてきた。
「そんな黄昏てる場合じゃないよ、二人とも!」
「な、なのはか? って、お前そういやユーノはどうしたんだよ、ユーノは!?」
シンヤの乱暴な問いかけに対し、なのはは無言で社務所の方を指さす。
すると、どこからか聞き覚えのある悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「たーすーけーてー……」
そのか細い助けを求める声をたどって視線を巡らすと、意外な場所にその声の主、ユーノの姿はあった。
ただし、誰もの度肝を抜くような形で。
「さ、笹に飾り付けられてるって言うか縛り付けられてる……」
「うわぁ……ひでぇことする奴がいるな」
「けど、そもそも人前なんだし、ここにいても正直結構困るって言うか……
その、ごめんね、ユーノ君! 後で助けに行くからねー!」
「そ、そーんなぁー……」
あまりにもあっさりと救助の道を断たれるユーノ。
現実はいつだってこんなはずじゃなかった事だらけである。
「トッキーも武ちゃ丸もユーノも、誰も彼もアテにならねぇ!
あの二人の知り合いはこんな一大事に何やってやがるんだよ!?」
「そ、そうだ! 荒鬼さんと獣王さんだっけ?
すいませーん! 大変な事になって……」
ススムは絶句した。
「荒鬼! またぬしは子供にしいたけは邪悪の化身だとか誤った知識を植え付けようとして!
おいどんの眼の黒いうちはそのような子供じみた好き嫌いは許さん!」
「黙れ獣王! しいたけみたいな危険物、この世から消えて当然!
それを邪魔するとは超将軍の風上にもおけん奴! ここで斬って捨ててくれる!」
こっちはこっちでとんでもなく低レベルな争いを繰り広げていたからである。
「あ、あの……ちょっと……」
「駄目だこりゃ、どこもかしこも大暴れかよ!?」
「おかしいなぁ……みんな、どうしちゃったのかなぁ……?」
「って、なのはちゃん? 眼が、眼が怖いよ!?」
大人げなく暴れまくる、まるで駄目な超将軍たち。略すると語呂が悪くなるので自重。
と、そんな混沌の権化と化した八束神社跡地にさらなる脅威が襲いくる。
「ゲハハハハ! まさかここまで俺様の策がうまくいくとはな!」
この様子を察知したのか、突如天より一人の堕悪武者が襲いかかって来たのだ。
「あぁっ、よりによってこんな時に堕悪武者が!」
「ど、どーしよっ、どーしよーっ!?」
「って、ちょっと待て!
あいつらがいきなり短気になったのはてめえのせいか!?」
シンヤの指摘に、その堕悪武者は鼻高々と胸を張って自慢話を開始する。
「フフン、その通りよ! 武者の闘争心を刺激し、凶暴化させる特殊な香……
まだ試作段階だが効果はあったようだなぁ!」
「え? けど武ちゃ丸とトッキーには効いてないみたいだけど……」
その通り。子供に取り囲まれている彼ら二人はいつもの通りに平然としているようだ。
「あー……何故だ?」
「自分でやっといてわからないのかよ!?」
おつむが足りていないこの堕悪武者に代わって説明すると、
トッキーは言わずもがな鉄機武者。機械の体に生物を操る香が効くはずがない。
武ちゃ丸の方は、そもそもこの姿は闘争心などあって無きに等しいフ抜け状態。
0にいくら数字をかけ算しても0にしかならないし、たとえ普通の武者の闘争心を一として
彼が小数点以下だとすれば効果ははるかに薄いのが道理である。
「まぁいい、これだけ効けば十分だ!
聞けい、頑駄無ども! 俺の名は……」
『うるさい! お前は少し黙ってろ!!』
堕悪武者が名乗りを上げようとしたその瞬間、彼を取り巻く四方向から
超将軍たちそれぞれの必殺技が哀れな乱入者へと降り注いだ。
闇を切り裂く蛍火の如き緑光の一閃が、大地の怒りにも似た野生の牙が、
激震怒濤の乱れ斬りが、巨大砲から放たれる裁きの雷が一点に集中し、
堕悪武者に名乗る暇さえ与えず文字通り塵芥になるまで完全に粉砕しつくしたのであった。
「あぁっ、堕悪武者がやられた!?」
「くそっ、あいつがこの争いを止める最後の希望だったのに……!」
「二人とも落ち着いてー!!
すっごいむちゃくちゃな事言ってるよ!?」
トチ狂って堕悪武者をお友達にでもなりにきたかのように扱うススムとシンヤ。
そして彼らの後方には泣き叫ぶ小さな子供たちと不安を隠せない小学生くらいの子供たち。
このままでは武者頑駄無の名誉が地に落ちてしまうという恐れが生じていた……そんな時。
「……ん?」
「これ、ひょっとして……雨?」
「ウソだろ? さっきまであんなに晴れてたのに……」
ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。
それはまるで、織姫が友人同士で争い合う超将軍たちの姿を悲しんでいるかのような
冷たい雨がその激しさを増しながら降り注ぎ始めたのだった。
「そう言えばさ、雨が降ると天の川が増水してその両岸にいる織姫と彦星は
お互いに会いに行けなくなっちゃうっていう話だったよね……」
「えぇーっ!?」
「そんな、ひどい!」
「きっと怒ってるんだよ! 二人の大事なデートの日なのに大ゲンカしてる人たちがいるから!」
「もうケンカはやめてーっ!!」
何気なくススムが呟いた一言は、女の子を中心に大きな波紋を呼び起した。
雨に打たれた事もあり、その声でようやく頭が冷えた様子の四人は辺りの惨状を見渡して
バツが悪そうに各々がそれぞれのやり方で反省し始めていた。
「ま、まぁ、その……なんだ。民の規範となるべき武士として、あるまじき行為だった。
その……本当にすまない」
「大地が、天がおいどん達に抗議の声を上げちょる。
皆の楽しい宴を裏切ってしまってまっこと申し訳なか」
荒鬼と獣王は割と素直に謝罪の意を表したが、雷鳴と天地はと言えば……
「……ケッ」
「ふぅん」
とりあえず矛を収めてはいたが、互いに不貞腐れ、謝罪どころかロクに相手の顔を見ようともしない。
その様子にしびれを切らしたかのように、雨はスコールのように強烈な降り方になっていた。
「ホラ! 二人が仲良くしないから織姫様も怒ってるじゃないですか!?
もう、私……こんなのいやだ!」
気丈ななのはもついに我慢の限界に達した。
雨にまぎれて熱い水滴がその双眸からこぼれ、心からの本音をぶちまける。
ほんの小さな理由で楽しいはずの行事が台無しになってしまった事に耐えきれなくなったのだ。
ついに声を上げて泣き出したなのはを先程の巫女が優しく抱きとめなだめているが、
その眼差しははっきりと彼女に代わって抗議の意を示していた。
「わーった、わーったよ、嬢ちゃん!
悪かったな、雷鳴、その……テメェの忠告、素直に受け入れないでよ」
「いえ、こちらこそ天候不順による日照不足で野菜が育たない事で気が立ってしまっていて……
関係のない子供たちにみっともない姿をさらしてしまい、慙愧の念に堪えません」
「ダメです! もっとちゃんと、はっきり言ってあげてください!」
なのはを抱きしめながら、巫女は煮え切らない態度の二人を一喝する。
そんな彼女の態度に呼応し、やはり女の子を中心に激しいブーイングが巻き起こり、
さらに状況は加速した。
武ちゃ丸たちの周りで先程大騒ぎしていた悪ガキどもは居心地が悪そうにしている。
そして雷鳴と天地は思わぬほどの強い声にびくりと一瞬身をすくめ、やがてどちらからともなく
とうとうその言葉を紡ぎだした。
『ゴメンナサイ』
二人がはっきりと謝ってすぐに、あれだけ降っていた雨は嘘のようにやみ、
雲は切れ、沈み始めた陽に暗く変わり始めた空を満天にさっと映し出した。
「なのはちゃん、もう許してあげてもいい?」
「……うん! 今日の主役の織姫様だって許してあげたんだもん。
私だっていつまでも怒ってられないよ」
「……やて。よかったなぁ、皆!」
眼の端に浮かんだ涙をぬぐいつつ、恥ずかしそうにはにかみながらなのははそう言った。
そんな彼女の態度を確認し、武ちゃ丸は弾かれたように躍り出て事態の収束を確信した。
「さぁ、続きを始めよう! 境内の方はむちゃくちゃだけど社務所の方は無傷だからね」
「おっし! さぁ、飾り付けた笹を立てるぞ!」
「こんなにいい天気になったんだもの。皆のお願いをしっかり見てもらおうよ、ね!」
武ちゃ丸の声に応え、トッキーが、シンヤとススムが、そして四人の超将軍が
社務所の中から笹を引きずり出し、天に向けて立て掛ける。
その立派な出来栄えに子供たちはこぞって歓声をあげ、いやがおうにも盛り上がって行った。
七夕祭りは、これからが本番だ。
「ったく、本当に散々な一日だったぜ……」
「まぁまぁ。そやけど、丸ぅ収まって最後はホンマに楽しかったで!」
そして、その帰り道。シンヤと武ちゃ丸の言葉が、その日の出来事全てを代弁していた。
途中、想定外にも程があるアクシデントがあったものの、
イベントや企画自体はつつがなく行われ、皆楽しいひと時を過ごす事が出来たのであった。
なお、余談であるがこの日以来この街の子供たちのアンケートに
少しばかり夢と希望の混じった回答が混じるようになったという。
「そういえば、武ちゃ丸は短冊に何て書いたの?」
不意にススムは武ちゃ丸に問いかける。
武ちゃ丸はそんなススムにいじわるっぽく微笑み返し、返答とした。
支援
「そー言うシュシュムはどないなん?」
「え? へへへ……じゃ、一緒に言おうか。せーの……」
息をすっと吸い、呼吸のタイミングを合わせる。
「ずっと武ちゃ丸と仲良しでいられますように」
「ずっとシュシュムと友達でおられますように」
思わず見合わせたままのよとんとした顔を見つめあい、互いにぷっと吹き出してしまう。
何だ、そっちも全くおんなじじゃあないか、と。
「にゃはは、ススム君と武ちゃ丸君らしいねー」
「そういうなのはちゃんは何て書いたのさ?」
「えっ? 私も大体いっしょだよー。いろいろあって友達になれた人たちと、
ずーっと仲良く過ごせますように、って……」
笑いの輪になのはも混ざり、明るい空気はどんどん広がっていく。
シンヤはその少し外から輪を見つめ、何の気なしにつぶやいた。
「オイオイなんだよ、それじゃあ普通に将来の夢書いた俺が仲間外れみたいじゃんか?」
「シンヤ君の夢? あーっ、聞きたい聞きたいー!」
「あ、それボクも知りたいな。シンヤってさ、あんまりそういう事話さないし……」
「る、るせえ! こー言うのはあんまり人に言わないものなんだっつーの!」
真赤な顔をして、照れ隠しにぶんぶんと腕を振り回しはぐらかそうとするシンヤ。
果たして彼の願い事とは何であったのだろうか。
いずれそれについては語る機会も訪れるだろうが、今はその時ではない。
なぜなら、今この瞬間にもこの日最後の一騒動が刻一刻と忍び寄っているためである。
「しかし、後世にまで語り継がれる超将軍の皆さんがあそこまで癖の強い方々だったなんてな」
「あ、あれを『癖が強い』で済ませちゃうんだ、天宮って……」
「ところでトッキー、神社が見事なまでに倒壊しちまったけど、あれどうすんだ?」
「大丈夫だ、アテはある。ともあれ、奇跡的に誰にも怪我が出ずに終わってよかった」
「にゃはは……今日は大変だったね、ユーノく……」
「くぅん?」
鳴き声が違う。
その瞬間、はっきりとなのは達の間に流れる時間は停止した。
今までずっとユーノだとばかり思っていた肩の重みは彼と全く別の存在であったからだ。
「なのはちゃん、その子……子狐?」
「おい、なのは……そういやユーノって、あの後どうした?」
「……あぁーっ!?」
同じ頃、誰もいなくなった社務所の脇に立てかけられた笹から悲しげな声が漏れ聞こえている。
「大きな星がついたり消えたりしてる……暑っ苦しいなぁ、ここ……
おーい、誰かおろしてくださいよォー……」
満天の星空の中で天の川が美しく輝く中、屋根より高い立派な笹のてっぺんで、
悪戯坊主によって飾り付けられたままのユーノは一人寂しく遅い救助の手を待ちわびていた。
後日、鎧王グループ本社・社長室にて。
「フンフンフーン、ボクちゃんの願い事は〜鎧王グループのさらなる発展で決まりだぎゃー!
まったく金儲けはやめられない止められないのみゃー!」
「シャチョー、斗機丸様から経費の請求書が届いております」
「斗機丸がきゃー? 珍しい事もあるもんだみゃー、ちょっと見せるだぎゃー」
「かしこまりました」
その日、鎧王グループ本社ビルに誰のものともつかない声にならない声が響き渡ったという。
======
以上です。
せっかくの七夕ですので、バレンタインの時のようにこうして筆をとってみました。
また何かの機会でこういう感じのほのぼの分濃い目の短編を書いていきたいな、と思います。
支援ありがとうございました!
支援
GJ。
ユーノォォォ!?精神崩壊しちゃダメだって!
七夕GJでしたー
堕悪武者影薄すぎて吹いたww
武者○伝氏、GJです!
日頃仲良しさんな武者達の喧嘩を本気で止めようと
泣いてまで叫ぶなのはちゃん……実に堪能させて載きました。
では、予告通りにこの後30分後に
LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS EPISODE:1-3
を投下させて載きます。
深夜ですが、御目に留められた皆々様、宜しければ御付き合い下さいませ。(一礼)
267 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/07(月) 01:05:39 ID:J5VcGTWg
武者○伝、GJでした。
それでは、予約通りに投下を開始致します。(一礼)
【LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS】
♯EPISODE:1-2
□■□■□
(━━たった二人の為に廃棄都市区画の大部分を使っての
魔導師ランク試験、か……何とも贅沢だな)
その魔導師ランク昇級試験の会場たる廃棄都市区画の地下水路に
息を潜めるその青年は、思考の内で明ら様な侮蔑と嫉妬を込めて
そんな台詞を吐き捨てる。
今、彼は六十人近い“同志”と共に薄暗い
地下水路の奥深い一画に潜み待機している。
彼等の目的を初めに言ってしまえば、
上で行なわれている魔導師ランク昇級試験の試験官を務める
高町なのは一等空尉とリィン・ツヴァイ空曹長及び
視察に来る八神はやて二等陸佐への襲撃、後に彼女達の拉致または殺害で有る。
(管理局側が用意したサーチャーへのハッキングは巧く行ってるみたいだな)
彼は、自身の左眼やや斜め上の空間に展開させた葉書大の小さな空間ディスプレイに
映し出される試験会場の様子に時折視線を向け、これから彼等が巻き起こす争乱に
巻き込まれる運命に在るとも知らない受験者たる二人の少女の気を引き締めつつも
何処か初々しい様子に軽く微苦笑を浮かべる。
(まぁ、「通信映像を脇から盗み見られる浅い程度までしかアクセスしていないから」とは
これ遣ってる奴は言ってたが、それでも普通ならあっさり察知されるぜ? しかも、相手は
管理局でも曰く付きのインテリジェントデバイス、レイジングハートだ。それでも察知される事無く
此処まで見事にハッキングしてるってのは……噂じゃあ『意識だか精神だかを直接電脳空間に投影して
アクセスしてるから、速度も影響力も普通のハッキングの比じゃあ無い』っつうらしいが、そんな事は
普通は魔導師にだって出来無いぜ? サイキッカーってのは、やっぱ化け物だな)
彼は意識して表情を引き締め直すと、思考の内で今回の作戦に協力参加している
“新生ノア”率いるサイキッカー達に思いを馳せると同時に、今回の作戦を軽く御浚いする。
━━元々は、旧ベルカ派の幹部の一人から持ち上げられた時空管理局地上本部要人の
暗殺テロ計画が本来の作戦で有った。
しかしこの幹部、その実は先祖から受け継がれた今や有名無実な爵位と
先祖の遺産を食い潰しての財力しか誇れない、魔導師では在るがその魔力は
極々弱いと云う“戦”と付く事柄に関してはとことん無能な男で在る。
そんな男が、旧ベルカ派の指導者たる“大公”が用事で遠方の次元世界に赴いて不在な内に
手柄を挙げようと立案したのが事の発端で有る。
その作戦概要も、大雑把に言ってしまえば単なる無謀な特攻作戦で終わっていたが、
戦力補強の為の協力要請を受けた新生ノアの参謀で在るカルロ・ベルフロンドが
自身の情報網から入手していた情報を元にして、同日ほぼ同時刻に行なわれる
この魔導師ランク昇級試験も同時に襲撃して陽動色の強い二方面作戦としての
組み直しを提言したので有る。
普通に考えれば単なる魔導師ランク昇級試験を襲撃目標にするなど
一笑に伏されるところで有るが、この試験の試験官を務めるのが
聖王教会の重鎮・カリムの息の掛かった時空管理局本局要人で在る
八神はやて一派に属する者達だと知った、より上級な別の旧ベルカ派幹部からの
推奨の後ろ楯も得られた結果として、現状の二方面同時作戦として組み直されたので有る。
(━━尤も、この作戦組み直しを考えたのはカルロって奴じゃ無く、
新生ノア総帥のキース・エヴァンスって奴だったけどな)
彼はそう内心で独り言ちながらも思考を続ける。
(まぁ、より上の幹部を引っ張り出せたカルロとやらの人脈作りや情報収集の才覚も
凄いけれど、そいつが心酔して遣えて且つ今回の作戦の先まで見通してるキースって奴は
どんだけの化け物だってんだよ?!)
━━キースはこの魔導師ランク昇級試験襲撃に関して、
旧ベルカ派幹部達を納得させる為の幾つかの要因を先読みして挙げている。
第一に、別動隊が離れた別の場所に居る時空管理局地上本部の要人を襲撃するのと
ほぼ同時刻に此方が作戦を開始する事に因って、必然として時空管理局からの
救援戦力は分けて展開せざるを得なくなると云う事。
しかし、時空管理局内に潜む協力者から齎されている情報に拠れば
標的自体には警護も付いてはいないとは云え、襲撃を仕掛ける予定の場所は
仮にも時空管理局仕切りの試験の会場内で有るのだから、いざ争乱が起これば
それを察知した時空管理局の地上部隊本部や本局航空魔導師隊からかなりな数の
魔導師が救援として直ぐに駆け付けて来るだろうと云う意見も多数出たが、
これに関して更にキースは救援派遣はかなり遅くなるだろうとも見ている。
要因のひとつとして、次元航行部隊を主体とする時空管理局の本局と
各次元世界への駐屯任務を帯びた陸戦魔導師部隊を主体とした地上部隊及び
その統轄を為す地上本部との管理局内部での確執が挙げられている。
標的には本局所属の魔導師ばかりが揃っている故に、此方には地上本部からの救援は
出し渋られて到着が大幅に遅れるか、さも無ければ事が終わるまでは様子見を決め込むか
地上本部要人への救援の方を優先して、事態の最中には全く救援を動かさない展開も
有り得ると言う。
また、本局航空魔導師隊は高ランクな空戦魔導師が多く所属する
精鋭揃いで在るが、その機動性に反して事態に対する初動が軒並み遅い。
これには、地上部隊との管轄問題が大きく作用していると言う。
どちらにしても、作戦に擁せる時間は充分に有ると言える。
(……まぁ、それでも作戦自体は短時間で済ませるべきなんだけどな)
地上に居る標的に気取られない様に出力を抑えて広範囲に発された
移動準備を促す念話を受けて、彼は黙したまましゃがんでいた体勢から
立ち上がり、今の念話を発した少し先の前方に立つ男の姿を視界に収める。
(カルロ・ベルフロンド……確か、魔導師に喩えればオーバーSランクに
匹敵する力を持ったサイキッカーらしいけれど、参謀って名乗る位だから
後方で指揮出してるだけかと思いきや、俺達と一緒に実働に参加してくれるとは、な)
カルロ・ベルフロンド━━
紺を基調としたスラックスを穿き、紺蒼白のストライプ柄のYシャツの上から
ブラウンとベージュのツートンカラーのビジネスベストを重ね着て、首回りは
鮮やかな紅いスカーフをネクタイ風に巻いてアクセントに蒼いブローチでそれを
留めていると云う、シルエットとしては地味だがカラーは派手な衣服に身を包み、
端正な顔立ちに掛けられた武骨な黒縁眼鏡と後ろに撫で付けられてきっちりと
セットされた紺紫色の髪型とも合間って、一見するとアパレル系メーカーのマネージャーみたい
にしか見えないが、その実は新生ノアの総帥・キースを骨身を惜しまず補佐し、
キース不在の間は総帥代理を務め、そして実戦に置いてはたった独りで本局航空魔導師隊の
一個中隊を全滅撃墜させた戦歴を持つ、AAA級サイキッカーなので在る。
支援
支援
先程から思考を続けている彼と同じく各人の顔脇に光量を抑えた小さめの空間ディスプレイを
展開させて、そこに映した地下水路までを含めた試験会場の立体ワイアフレーム・マップを
交えてこれからの行動計画を手早く皆に再確認させて行くカルロを彼は視界の端に収めつつ、
ちらっと自身の周囲にも視線を巡らせて皆の様子や武装を視認しながら今回の戦力を
念話受信とは別に脳内で換算する。
━━手勢は六十名弱。
内、魔導師が十五人。
ノアから派遣されたサイキッカーがカルロ含め十人。
更にサイキッカー側は、実働の他にもバックアップ要員としての
サイキッカーを数人投入して来ている。
そして、魔導師/サイキッカー含めて空戦可能な者は内の十人。
また、旧ベルカ派の陣容の常としてその構成人員には
非魔導師な者達が多く、今回も残りの三十人弱はそう云う者達で在るが、
そう云う者達には組織が極秘裏に密造や密売している銃器等の質量兵器が
支給されており、今回はアサルトライフルを主武装として支給されている。
中には支給品以外の個人所有での銃器や武具を持ち込んでいる者も散見される。
他にも、各種手榴弾やロケット・ランチャー等も揃えられているのが心強い。
更には、別に隠し玉も有る事も通達はされている。
装備の点に付いては、あの爵位と財産だけが自慢のぼんくら幹部に感謝しなければな、
と彼は心中で嘲り気味に苦笑する。
━━旧ベルカ派の思想特徴として
『時空管理局が提唱する法を遵守しなければならない謂われは
我々には無い。言わんや、管理局システムを支えている魔導師至上主義を
助長している質量兵器廃絶など愚の骨頂で有る。道具とは道具その物に
非は無く、あくまで使用者の意思に善悪を左右される物でしかない。
それよりも、利便性を逆に危険視して力無き人々から身を守る術を取り上げ、
資質を持つ一部の者達に力を独占させている事こそ“悪”で有り“罪”と言える。
我々は、時空管理局及びミッドチルダに拠る管理世界支配体制を打破する為には、
使えるものは何でも使う』
と云うものが有り、組織としては質量兵器への禁忌が薄いどころか戦力増強に
有効且つ効率的な手段として積極的に取り入れている。
しかし、技術力の未熟故か次元大戦時代に猛威を奮った戦略級質量兵器の
再現開発にまでは到る事は出来ていないのが現状で有る。
そうした彼の思考の切れ良いタイミングで
カルロからの作戦再確認はものの1分も経たずに完了する。
尤も、作戦概要は皆事前に頭の中にきっちりと叩き込んで来ているので、
本当に再確認程度の意味しか無い━━否、敢えてそうする事で皆の意識を
切り換えさせ易くさせるのがカルロの狙いか。
本来ならこう云う指揮をしなければならない筈のぼんくら幹部の側近は、
カルロの行動を出過ぎた事と勝手な理屈で叱責しつつも側近自身の代弁として
摩り替え様としながら、カルロに指揮の面倒な部分を押し付けてしまっている。
(……あれで腹立てないってのは、カルロってのはよっぽど人が出来てるのか、
さも無きゃかなりな苦労人だな、こりゃあ)
そんなカルロに僅かに同情の念を重ねる、彼。
と、皆を見回していたカルロの右腕が垂直に差し上げられる。
顔脇のディスプレイに視線を遣ると、地上の受験者二人が今にもスタートする場面で有り、
彼は自身の得物で有る片手鋼棍(メイス)型アームド・デバイスを握り締め直し、作戦開始の合図に備える。
そして、地上での受験者達のスタートと同時に
カルロの右腕が振り下ろされて作戦開始が告げられ、
襲撃者達は当初の予定通りに約十人単位の小集団に素早く纏まり
別々の水路へと散開した。
□■□■□
作戦の仕掛け時を確認する為に自身の顔脇に座標固定した空間ディスプレイに
時折視線を走らせながら、彼は自分に加速魔法を掛けてくれた魔導師も含む
同班の同志達と共に非常灯以外の明かりの無い仄暗い地下水路の側道を疾走して行く。
此方の作戦概要は、試験のゴール地点に此方が先回りして、受験者達がゴールした後に
現れるで在ろう高町なのは一等空尉とリィン・ツヴァイ空曹長の二人が受験者達に
直接声を掛けようと充分に近付くのを待ち伏せし、周囲及び上空を包囲して高町一等空尉達を
受験者達ごと一斉攻撃に晒すと云うもので有る。
その為に、散開した各班は地下水路の抜け道を利用して
最短経路で試験のゴール地点周辺の各ポジションへと向かっている。
それは今の処上手く行っており、受験者達よりも僅かに早くポジションに
到着出来ると云う、標的に気取られ難く且つ襲撃体勢を整える時間も
きちんと取れる絶妙のタイミングで配置に着ける事は確定的で有る。
とは言え、管理局魔導師の中でも高い防御力を誇る高町なのは一等空尉の事。
そう簡単には撃墜は出来無いで有ろう事は予測の範疇内で有る。
その為に、包囲攻撃は高町なのは一等空尉をその場に足止めする事が主目的で有り、
それに因ってヘリ上に居る八神はやて二等陸佐をも引き擦り出す囮としても活用する算段で有る。
また、これには高町なのは一等空尉に飛ばれない様にし、
彼女の高い空戦能力を封じる意味も含まれている。
この際、彼女等の傍に魔導師ランク昇級試験受験者二人が居る事が重要で有る。
普通ならばCランク魔導師と言えばそれなりに戦力として数えて良いだろうが、
今回の此方の布陣に対するならば高町一等空尉達よりも遥かにランクの低い
受験者二人は、高町なのは一等空尉に取っては庇護対象にしかならずに
良い足手纏いになるで有ろうと云うのが、作戦改訂を考えたキースの見解で有る。
(……確かに、その読みは良い処を突いているだろうし、キースの側近で在るカルロが
俺達と一緒に実働に交じってるのも、作戦成功確率をより高める為だろうな。
けど……)
彼は、自身の顔脇に浮かぶ空間ディスプレイに映し出される
受験者達の様子を見ながら僅かに考えを巡らす。
そこに見える受験者の少女二人は、見事なコンビネーションを
見せて障害を手早く次々にクリアして行く。
考察するに、片方は手甲型アームド・デバイスを主武器とした典型的な
近代ベルカ式の近接陸戦魔導師で中距離射撃魔法も持ち、もう片方は
カートリッジ式の拳銃型デバイスを主武器とするミッドチルダ式の射撃型魔導師で
デバイスに仕込んでいる射出式アンカーでの絡め手や幻影魔法の使い手で在り、
どうやらコンビネーションのイニシアティブは此方の少女が取っていて、
手甲型デバイスの少女が前線で動き回り易く出来る為の下地作りをしている様だと見える。
問題は、その手際の良さで有る。
これは、この受験者二人の存在は足手纏いよりも
もう少しましに計算に組み込み直すべきか?とも見てしまう。
それ程に見応えが有った。
当初の予定には無かった要素と言えば、フェイト・T・ハラオウン執務官の
試験視察への同席も有るが、それに対応出来る戦力は充分に用意出来ていると
彼は断言出来る。
(そう言えば……)
と、彼はキースが旧ベルカ派幹部達への説得に考えた
今回の魔導師ランク昇級試験襲撃へのもうひとつの効果の説明を思い出していた。
高町なのは一等空尉、フェイト・T・ハラオウン執務官、八神はやて二等陸佐━━
この通称“三人娘”は、その容姿の可憐さとそれ以上に強力な膨大な魔力と
数々の大事件を解決に導いた輝かしい実績を時空管理局本局の幹部達に注目されて、
時空管理局本局のプロパガンダを担うアイドル兼英雄としても持ち上げられている。
管理局内にファンクラブが存在する他にも、時空管理局本局全面バックアップの下に
ニュースやワイドショーにも良くゲスト出演し、それに拠って管理局外にも三人娘それぞれの
私設ファンクラブが急増し、確かな情報筋からは近々三人娘それぞれのソング・シングルと
ファッション画像データ集が時空管理局本局謹製として発売されるらしい。
(……そうするとこの襲撃が成功すれば、それ等が彼女達の遺作になる訳だなぁ……
い、いや、別に俺が欲しい訳じゃ無いぞ!? あ、そうだ、フェイトのシングル位は
レクイエム代わりに買って聴いてやっても良いな! 画像データ集は遺影として
ハードディスクの奥深くに永久保存して━━)
何やら内心で自己弁護を始める、彼。
どうやらフェイトの隠れファンの一人で有るらしい。
とまぁ、そんな風に時空管理局本局の正義と強さの象徴としての
広告塔としても重宝されている三人娘を撃墜拉致または殺害出来れば、
時空管理局のイメージアップ戦略を大きく頓挫させる事も可能で、
彼女達の安否に関わらず「彼女達を標的としたテロの実行を許した」と云う
事実に因って、本局と地上本部との溝は更に深まる事は確定的と言えるだろう。
しかし、作戦前の集合時にカルロにその事を尋ねていた彼は、
カルロがぽつりと溢したこの台詞の方が強く印象に残っていた。
━━「……戦争に決定打を打てるのは膨大な物量か
━━運命に選ばれた少数の規格外な異端分子(イレギュラー)だけです。
そして、我々ノアは異端分子の強大さと恐ろしさを厭と云う程に知っている。
そして、キース様はあの三人娘のデータを見て彼女達に戦局を左右し得る
異端分子的なものを見出しています。
数値を超えた、それこそ運命に選ばれた感じなものを……。
旧ベルカ派の幹部連中はこの意見だけは一笑に伏しましたが、
僕としてはあの三人娘を早々に潰したいのです。
それがキース様の意志なのですから』
(……まぁ、この班にはカルロも居るし、何より旧ベルカ派の中でも
最強と名高い“三頂騎士(ドライエクスリッター)”の内の二人までもが
参加してる主力班だからな。そう簡単にはやられはしないぜ)
そう考えながら彼が再び前方に視線を向けようとした瞬間、
手甲型デバイスの少女の不意を突き掛けた小型オートスフィアを
拳銃型デバイスの少女が手甲型デバイスの少女を突き飛ばし庇いつつ
迎撃した映像を最後に、唐突に空間ディスプレイの画像が一面砂嵐に染まる。
最初は受信トラブルかとも思い、彼を始め周囲の同志数名はディスプレイの
調整に挑もうとしたが、2秒も経たずに画像は復旧する。
サーチャーからの映像回線にハッキングを仕掛けていたサイキッカーから
齎される画面端に表示される補足情報に拠ると、先程の拳銃型デバイスの少女からの
流れ弾に因ってサーチャーが破壊されてしまったらしい。
しかし、こう云う事態も想定していたカルロの事前指示に拠って、
映像遮断と同時に即座に此方の別班が独自に持ち込んでいたサーチャーを
射出する事で直ぐに映像情報を復活させたので有る。
管理局側のサーチャーがトラブルに因って使用不能になった際には、
試験官で在る高町なのは一等空尉やリィン・ツヴァイ空曹長は現状把握の為に
直接会場に現れざるを得なくなり、その場合には彼女達の注意は受験者二人に
主に向かうで有ろうから此方のサーチャーは発見され難くなるだろう、と云う
見込みでの備えで有ったが実際に使う事になるとは、彼に取っては
少し意表を突かれた感を覚える。
復活した空間ディスプレイには、受験者二人が先程の崩れ掛かった高架道路の中段で
何やら熱い言い合いをしている姿が映し出された。
(……見てる此方が恥ずかしいぜ。青いな、コイツ等…
…若いって事は、やっぱ良いもんだよなぁ)
自身も未だ二十代前半な癖に妙にオジサン臭い事を思ってしまう、彼。
しかし、得られた追加情報はかなり有益なもので有る。
どうやら拳銃型デバイスの少女の方は片足を酷く捻挫し、
手甲型デバイスの少女と何や彼やで言い合った末に
消費魔力の大きい大技を二人して仕掛けるつもりらしい。
これで、消耗し怪我を抱えた受験者二人の足手纏い率は格段に上昇する。
もし受験者二人が最後の賭けに破れてリタイアしたとしても、
試験官の二人が回収の為に受験者二人の許に現れる事は変わらないし、
その場合にも直ぐに対応して他班集結まで足止め出来る様に
一番近くの自分達の班が受験者達を地下水路から随時追跡している。
(大丈夫、だ。彼等さえ居れば━━)
そう思い直した彼の眼は、カルロと列び最前線を疾る
バリアジャケットを纏った二人のベルカの騎士を見遣ろうとして━━
視界の端に入った空間ディスプレイの映像を見て驚きの表情を浮かべる。
支援
支援
(……おいおい、コイツ等本当にBランク昇級を目指す
Cランク魔導師かよっ!? こりゃあ、この受験者二人の力量評価は
実際のランクよりも上方修正して作戦に組み込み直した方が良いんじゃないのか?!)
その動揺は彼だけでは無く、周囲の同志数人からも
程度の差こそ有れ見て取れる。
丁度その時、今までずっと黙っていた三頂騎士の二人から、
皆に向けて念話と肉声絡みで声が掛けられる。
「……問題無い。此方を圧倒するには奴等は未だ足りない」
「御前達は援護に徹しててくれれば良い。それよりも、
囮の受験者共はゴールに向かった。我々も急ぐ」
自信と落ち着きに溢れた二人のベルカ騎士の台詞を耳にして、
同志達に拡まろうとしていた動揺が直ぐ様に収まる。
そうして気を取り直した彼等は、直ぐに移動を再開して
受験者達がゴールする30秒程前に全員が所定の配置に着き、
息を潜めて物陰から襲撃開始のタイミングを窺う。
受験者達も程無く加速してゴールに飛び込み、それを出迎えていた
リィン・ツヴァイ空曹長の他にも、受験者達の様子を見に来て
彼女達の無茶なゴールのフォローの為にゼリーに似た性質の柱状障壁を
乱立させる《アクティブガード》と網状の柔らかい魔力障壁を張る
《ホールディングネット》を掛けた高町なのは一等空尉も読み通りに
受験者達の前に現れて二人+1の許へと近寄って行く。
八神はやて二等陸佐とフェイト・T・ハラオウン執務官の乗る
幹部輸送用ヘリも、都合良くかなり高度を落として受験者達を窺っている。
身を潜める襲撃者達が固唾を呑んで襲撃開始の合図を待つ中、
リィン・ツヴァイ空曹長が拳銃型デバイスの少女━━ティアナの
挫いた左足首に向けて治癒魔法を掛けようとした頃合いを見計らって、
ぼんくら幹部の側近のそれなりに堂々とした合図の念話が響き渡る。
(作戦、開始ぃっ!!)
その合図と同時にはやて達の乗るヘリとなのは達が集まっている地点に
ロケット・ランチャーの砲火が放たれ、着弾爆裂に因って生じた火炎の華が
激戦開始の真の合図となり、なのは達を包囲する様に潜んでいた襲撃者達からは
一斉に鉛弾と魔力弾と超能力弾の集中砲火をなのは達が居る辺りに浴びせ掛け始め、
ビルの各所からは空戦可能な魔導師達やサイキッカー達が飛翔して
はやて達が乗るヘリに向けて殺到する。
こうして、これから一年間に渡る永い戦いの
最初の激戦の火蓋は切って落とされた……━━。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
以上、投下終了です。
漸く、次回は本格的なバトル突入です。
しかも、原作サイキの方の第三勢力のと或る人も乱入予定です。
そして、初実戦でスバティア活躍します。(予定未定)
それでは、支援して下さった皆様方。
こんな夜分遅くにまで御付き合い載き、誠に有難う御座います。
感謝の念に堪えません。
では、今宵はこれにて。皆様、御機嫌良う。(一礼)
乙。
カルロは相変わらずのいいんちょぶりですねw
面白かったけど「在る」や「有る」が何度も多用されていたり
似たような言葉の重なりがくどいというか所々で外されるんだわ
そこんとこが残念かな話は面白いんだけど構成の仕方がね…
気悪くしたらゴメン
おっと言い忘れ
乙
>>282 成程、これは確かに改善課題ですね。
何とか次には解消出来る様に色々勉強して精進します。
助言、誠に感謝致します。(一礼)
GJ!
キース様がやっぱり来てたー!こちらでもやっぱり反体制!
社会的にはウォン閣下が善で、キース様が悪、2と同じかw
>>284 前置き長すぎw
期待してたのに、結局襲撃しないじゃねーか(゚Д゚)ゴルァ!!
GJ!!
カルロさんが。三人娘とスバティアに襲撃だと〜!?
なんて面白そうな展開なんだ!権力に挑む展開に燃えざるを得ない!
288 :
HALO代理:2008/07/07(月) 12:54:44 ID:gAE9sUMN
作者さんが規制中との事で、13時頃から代理投下します
―――――人類の存在は神への冒涜である。
HALO
-THE REQULIMER-
LV3 [SPARTAN]
深夜。
クラナガン郊外、廃棄都市区画。
本来、一般市民は昼間でも立ち入らないだろう其処に、無数の気配があった。
気配の中心は一台のトレーラー。
クラナガンでも多く見かける輸送タイプの車両である。
確かに奇妙かもしれないが、こういった場所に止まっていてもおかしくはない。
だが、ある一点。其処にだけ違和感が存在した。
トレーラーの乗員らしき人物も、トレーラーに向かう人物も、
黒いスーツを着込んだ彼らは、明らかに堅気の人間では無かったのだ。
身にまとった気配。周囲へと注ぐ視線。常に懐に伸ばせるように構えられた腕。
そしてトレーラーのコンテナから下ろされるのは、厳重に梱包された黒いケース。
最早、事態は明白であった。
管理局世界では違法とされているロストロギアの密輸入、密売。
そして、その光景を双眼鏡越しに眺める集団がいた。
「――――ドンピシャリってところね」
『時間、位置、人員……。情報に誤差が無くて助かりました』
管理局所属、陸上警備部陸士108部隊。
地上の治安維持、わけても密輸入の取り締まりを得意とする彼らにしてみれば、
文字通りの意味で『鴨が葱を背負ってやってきた』といったところか。
密かに周囲を包囲し、取引が成立したところで一斉確保、検挙へ移る。
小規模――恐らく個人レベル――での密輸入である為、投入戦力は最小限。
即ちギンガ・ナカジマ陸曹以下10名の人員が張り込みを行っている。
その内の3名は通信や情報整理を担当するべく指揮通信車輌に詰めているため、
実質的に戦闘行動を取れるのはたったの7名。
だが――ギンガにとっても、他の陸士にとっても、こうした状況は日常茶飯事だ。
待機している姿にも、何ら気負いが無い。
「2人、かぁ。他に伏兵もいなさそうだし、フォワード7人でも多かったかな」
『まあ、三倍の戦力比を覆せる魔導師は民間にいないですからね』
「わからないよ? タカマチ一等空尉みたいな例もあるし……」
『きっと第二、第三のエース・オブ・エースが現れる、ですか。
まあ、さすがにエースを相手にするのは御免ですが――……っと。
ナカジマ陸曹、連中、取引を始めるみたいです』
「……うん、此方からも確認できた」
反対側――指揮通信車輌の上に待機している同僚と、通信越しに会話しながら、ギンガは頷いた。
トレーラーから下ろされた大型ケースに対し、購入側らしい黒服がトランクを開けてみせる。
此方からでは上蓋が邪魔になって見えないが、現金であるのはまず間違いないと見て良いだろう。
「トランクが相手側に渡って取引が成立したら、即座に確保。
一人も逃がさないように気をつけて」
『了解!』
黒服がトランクの蓋を閉じる。
頷きを交わす。
ケースを持ち上げる。
トランクを差し出す。
それを受け取ろうと手を伸ばす。
握る。
今だ。
「確――」
――――黒服達を巻き込んで、トレーラーが爆裂した。
**************************************
「――――」
誰もが言葉を喪った。
廃墟と化したビルの間で燃え上がる炎。
赤々と照らし出された夜空。
其処に浮かび上がったのは、一隻の武装艇であった。
その後部がゆっくりと開き、ロープを伝って次々に異形の兵士が降下する。
装甲服を着込んだ小人が十五名、それより背丈の高い爬虫類じみた容貌の兵士四名。
そして一際巨大な兵士が一体。総員で20名である。
「あれが……報告にあった、未確認勢力………?」
未確認勢力――コヴナント。
複数の異種族によって結成された宗教的組織。
管理局と同等、或いはそれ以上の勢力、戦力を保有し、
フォアランナーの遺産と呼ばれるロストロギアを求めて、
宇宙――次元世界に勢力を拡大しつつあるという。
あの小人はアングイと呼ばれる種族で、通称はグラント。
仲間意識が非常に強いため、コヴナントの歩兵を担当しているらしい。
どれも数日前、初めて彼らと交戦した管理局員と、
そして「協力者」という人物から提供された情報だ。
報告に無かったのは爬虫類形の兵士と、巨人型の兵士。
報告され、実際に戦闘も行われたのは、ハンターと呼ばれる巨大な兵士であった。
レクグロなる環状生命体――ミミズ型生物の集合体である彼らは、
そのとてつもない筋力量から重火器を駆使する、屈強な兵士である。
だが――今、降下艇からおりてきたのは、それとは全く異質の存在であった。
どう見てもそれは集合体ではなく一つの個体であり、
ハンターが必ず装備しているという強力な火砲ではなく、巨大なハンマーを備えている。
だが――そういった情報との誤差を抜きにしたって、異常な光景なのは事実だ。
このミッドチルダの首都――クラナガンを異形の存在が闊歩しているというのは!
それこそ映画などでしかお眼にかかったことのない非人間型の生物に、
陸士108部隊の面々は、未だ監視体制のまま反応する事ができずにいた。
――――大丈夫だ。まだ気付かれてはいない。
夜闇に紛れ、皆が皆、気配を押し殺している。
大丈夫。大丈夫の筈だ。
だが――周囲を見回していた爬虫類兵が、不意に視線を逸らす。
――視線があった。
次の瞬間、周囲に響き渡るような甲高い声が響き渡る。
「……嘘ッ! 気付かれた!?」
統率のとれた動きでコヴナントどもは銃を構える。
疑う余地は無い。その銃口は、彼女達――陸士108部隊の配置箇所へ向けられていた。
回避する余暇も無く、雨の如く光弾が降り注ぐ。
『バリアジャケットを展か――うわぁぁあぁぁあッ!!』
『くそ、なんだこれ、身体に張り付いて―――ぎゃああぁあぁあぁっ!!』
爆裂音が再度響き渡る。そして念話で飛び交う、悲鳴、絶叫。痛み。
空気を焦がす異様な臭いと共に放たれるそれは、容易くバリアジャケットを貫通する。
フィールド系、バリア系ともに有効性を認められず、シールド系に辛うじて有用性を認む。
これらの報告は既に陸士108部隊にも通達されていた。
――が、だからといって染み付いた習慣を即座に変えることはできない。
当然だ。今までも、そしてこれからも、魔導師にとって防御系魔法は絶対の盾だ。
AMF下――魔法それ自体を行使できない状況下でもなければ、破られる筈はない。
その筈だったのだ。
だが、このプラズマ弾は、それが通用しない。
更にはコヴナントの用いる投擲弾は、身体に張り付くと剥がれ落ちず、
周囲の人員を巻き添えにして爆裂した。バリアジャケットなどを展開する暇も与えずに。
誰もが信じていた事実が、こうもアッサリと打ち砕かれる光景。
一般的な魔導師ならば、ある種の絶望すら覚えてしまうかもしれない光景。
だが――――……。
「ブリッツキャリバー!」
《SET UP!》
ギンガ・ナカジマは違った。
即座にバリアジャケットを展開し、同時に脚部ローラー=ブリッツキャリバーを装備。
グラント、爬虫類兵の集団を突っ切ってハンターに至る道筋を脳裏に描き、彼女は駆け出す。
無論、傍観しているほどコヴナントの練度は低くない。
管理局は人外との戦闘に不慣れだが、コヴナントは"人外"との戦闘を幾度と無く乗り越えているのだ。
即時反応。手に握った武器――プラズマガン、プラズマライフルというらしい――を構え、
突出して迫ってくる標的にめがけ、電光弾による弾幕を展開する。
弾速こそ遅いが威力の高いプラズマガン、そして威力は低いが高速で飛来するプラズマライフル、
それぞれの弾丸の間を潜り抜けるギンガ。光弾が間近を霞め、大気の焼ける嫌な臭いが鼻を擽った。
回避不能な直撃弾に対しては拳を突き出し、シールドを展開。ついに魔法を行使する。
「く、ううぅぅうぅぅぅっ!!」
激突。衝撃。
反発するエネルギー同士が煌き、周囲に稲妻が走る。
プラズマ弾は音を立ててシールドを侵食。穴を穿って食い破るが――……
其処までの過程でエネルギーを使い果たし、バリアジャケットに至る前に消失した。
――思った通りだ。
防げない威力ではない。ギンガの顔に会心の笑みが浮かぶ。
その光景を見て、混乱の極みにあった部隊員達も辛うじて平静を取り戻していく。
「みんな、一度撤退して体勢を立て直して!
防げない攻撃じゃないから――早くッ!!」
『しかし、陸曹を置いていくわけには――……』
「良いから! 今の装備と戦力じゃ抵抗はできないし――……。
大丈夫。私もすぐに後退するから……ッ!」
『りょ、了解ッ!! ――――体勢を立て直し次第、すぐ戻ります。ご無事で!』
如何に未確認勢力の有する武器が此方のシールドを貫通するとはいえ、防げる威力ならば。
接近さえしてしまえば、ミッドチルダの白兵型魔導師に敵う相手はそういない。
ましてギンガは、数少ない魔導対応の格闘技――シューティングアーツの伝承者である。
各々の方法で気配を殺し、身を隠しながら後退していく友軍を背に、ギンガは拳を握り締めた。
――――皆が撤退する時間くらいなら、一人でも稼いでみせるッ!
左腕のタービンは彼女の戦意に応え、猛々しく唸り声をあげて回転を開始。
ブリッツキャリバーもまた、そのポテンシャルの全てを発揮すべくエンジン音を響かせる。
「は、ぁあぁあぁあああぁあぁっ!!」
そして彼女はコヴナントの集団へと飛び込んでいった。
**************************************
――――ほぼ同時刻。
廃棄都市区画を目指して、夜闇を切り裂いて飛行する一機の輸送ヘリがあった。
長方形の前方と後方にローターを備えたそれはJF-704式。
側面に描かれたマークから、管理局所属のものと見て取れる。
「ったく、こっちは昼間ヒヨッコどもを飛ばした後なんスよぉ?」
「――コヴナント共に言ってくれ」
その操縦手はやれやれといった口調で、同乗者に愚痴を零していた。
もっとも言葉ほどには声に棘が無い。
少なくとも操縦手は彼――突如現れた異邦人に対し、特段に悪い印象を抱いてないからだ。
「ヒヨッコどもは昨日、連中とやりあった後だから出撃は無理。
連中は旦那の専門分野って事で、おまけに六課のヘリパイは俺だけ、と。
まあ、時間外労働――頑張っていきましょうかね、お互いに」
「ああ」
寡黙な男だ、というのが第一印象。
そしてこうしてヘリによる移動中に重ねた会話の結果、
彼の寡黙さは、好意的な意味で捉えられるようになってきた。
無愛想なのでもなく、他者と関わる意思がないのでもなく、
基本的に必要な事しか言わない、という性格なのだ。
元々は陸で狙撃手として働いていた彼にしてみれば、
そういった男は、ほぼ確実に信頼できるという認識があった。
「さって、そろそろ降下地点なんだが――随分派手にやってるなぁ。
廃棄都市区画とはいえ、ああもまあバンバン花火を上げられるもんだ」
勿論、まだほんの僅かにしか交流がないのだが、
少なくとも人を見る眼には自信があると、操縦手は自負している。
間違いない。こいつは良い奴だ。
ヘリ後部のタラップを解放しながら、小さく頷いた。
少なくとも、悪い奴じゃあない。
「ヴァイス・グラセニック陸曹、いつでも行けるぞ」
「それじゃ――お手並み拝見させてもらいますぜ、マスターチーフの旦那」
**************************************
暇すぎて支援
ギンガ・ナカジマによる遅滞戦闘は、問題なく実施されていた。
コヴナント達の攻撃を巧みに回避し、防ぎながら、格闘攻撃によって文字通り『叩いて』いく。
勿論、二十人から同時に攻撃されて無傷と言うわけにはいかない。
バリアジャケットのあちこちは焼け焦げ、髪を縛っていたリボンも、端の方が消し飛んでいた。
次の狙いは――あのハンマーを持った巨人だ。
その巨躯に見合った大きさの戦槌を片手で持ち上げ、ギンガ目掛けて振り上げる。
――予想通りだ。
打撃型の真髄は、刹那の隙に必倒の一撃を叩き込んで終わらせること。
出力、射程、速度、防御能力、彼我の戦力差。
それらは全て関係が無い。相手の急所に正確な一撃。
――狙うのは、ただそれだけ……ッ!
振り下ろされる戦槌を、最小限に身を捻って回避する。
そのままの勢いで懐に飛び込み、がら空きの胴部へ必倒の一撃。
ギンガは引き絞っていた左腕を解放し、神速の拳を―――
「――が、はぁっ!?」
何が起きたのか彼女には認識できなかった。
相手の動体へと一撃を打ち込もうとした瞬間、
彼女の身体は軽々と数メートルは空中を舞っていた。
次いで、腹部――鳩尾に激痛が走る。
―――殴られた。
そう理解したのは、地面に叩きつけられた瞬間だった。
「げほ……がはっ、はぁ、はぁ……っ」
ギンガ油断だった、というのは酷かもしれない。
それは実に巧みなフェイントだったのだから。
戦槌による強烈な一撃を放つと見せかけて、空いた左拳を叩き込む。
その外観と戦闘スタイルからは、想像もつかないほどの機敏な動き。
彼らはジラルハネイ。国連宇宙軍においてはブルートと呼称される種族である。
現在はコヴナントの主力歩兵として、実に重要なポストを占めている。
ブルート族は一時は原子力時代、宇宙時代にまで文明を進歩させておきながら、
大規模な戦争による環境悪化から産業化以前にまで後退し、そして再び文明を復興した過去を持つ。
しかしながら驚異的な事実は――――ブルート達が何も学ばなかった、という点。
ブルート達は一度滅亡しながらも、未だに戦争に明け暮れているのだ。
フォアランナーの時代から確認される知的存在の中で、このような種族は彼らだけである。
つまりブルート達は、文字通りの意味で戦闘を愛している、と言っても過言ではない。
文明誕生以前から、途方も無い年月を彼らは戦闘にのみ費やしてきた。
コヴナントに参加して以降も、それは変わりない。
新たに齎されたプラズマ兵器を喜んで受け入れたブルート達は、
しかしそれに満足せず、自らの用いてきた凶悪な兵器、武器、戦術をコヴナントに提供した。
即ち原始的、或いは酷く暴力的だが、実に効果的なものばかりを、だ。
つまり端的に言えば――人類などと言う未熟な種族とは、格が違うのだ。
「は……ぁ、はぐ…………っ」
リボルバーナックルを地面に突き、立ち上がろうと足掻く。
――が、無理だ。身体に力が入らない。呼吸が苦しい。
ぼんやりと霞む視界の中に、ブルートが大きくハンマーを振りかぶるのが映る。
その周囲を取り巻いているのは、先程まで蹴散らしていた筈のグラント達。
異種族であっても理解できた。彼らの顔には勝利を確信した、厭らしい笑みが浮かんでいて。
だけど――彼女が眼を奪われたのは、ブルートの背後。
"其れ"は酷く低い、地獄の底から吹く風のような声で、言い放った。
「――――まだ終りではない」
**************************************
ヘリから飛び降りたマスターチーフの視界に飛び込んできたのは、
ただ一人で奮戦する管理局員の女性と、それを地に叩き付けたブルートの姿。
ブルート族は、その歴史、性質に見合った、酷く残虐な嗜好を持っている。
恐らく、このまま放置すれば、あの娘は楽に死ぬことができないだろう。
国連宇宙軍の兵士達と同様に、死ぬ寸前まで弄ばれ、苦しむのだろう。
その事実を認識した時、既にチーフはトリガーを引き絞っていた。
射線上に管理局員――ギンガ・ナカジマがいるが、特に問題は無い。
ブルート族の肉体は強靭であり、そして何よりもこの弾に貫通能力は無いからだ。
つい先程に渡されたばかりのライフル型の簡易デバイス。
試作品でもある為、内部構造がほぼ露出している以外は、
基本的に通常のアサルトライフルと変わりなく扱うことができた。
デバイス開発主任のシャリオ・フィニーニ一等陸士曰く、
『マジカルライフル』等と言うふざけた名称らしいが、
ようは極めて簡略化されたカートリッジシステムである。
本来ならば、魔力が圧縮充填されている『弾』を炸裂させることで、
魔力をデバイスや術者本人へと供給し、強化させる機構であるが、
この銃器の場合は、その魔力をそのまま銃身に通して射出するようになっている。
使用者にリンカーコアが存在していなくても使用可能な為、ある種の質量兵器とも呼べるが、
完全な質量兵器に比べれば、遥かに言い訳のしやすい装備ではあった。
勿論だが、不満はある。
構造上、ほぼ常に発動している『非殺傷設定』というのも、その一つだ。
相手をどの程度無力化できたのか、一見して判断することができない。
倒した相手であっても警戒しなければならないというのは――……。
否、そもそもそれ以前に、このブルートを殺すべきだという認識があった。
だが、今は文句を言っている場合ではない。
それに少なくとも、機動六課のスタッフは「誰でも使用可能」という、
チーフが提案した条件を達成してのけたのだから。
「――無事か?」
32発の魔力弾を背後から受けてはひとたまりもない。
あっさりと昏倒したブルートを横目に、チーフはその女性局員に声をかけた。
ブルートに対しての言葉とは違う。低い声には気遣うような調子があった。
「あ……、は、い……大丈、夫……で……すっ」
息も絶え絶えといった様子だが、気丈な反応。さすがに殿を務めただけの事はある。
一瞬探る眼になり、即座に安心したような表情になった彼女だったが、
すぐにその瞳がチーフの背後へと向けられる。無論、チーフも察知していた。
グラント達だ。
リーダーであるブルートを倒されて混乱しつつあった彼らだが、
しかし目の前に敵がいる以上、それを斃さねばならないという意味で、
コヴナントにとっての事態は何ら変わりなく、そして極めて明確なものであった。
現在、ライフルに残弾は無い。そしてマガジンを交換している余暇も無い。
チーフの判断は素早く、そして的確であった。
「――――ッ!」
彼は躊躇無く銃を振り上げると、間近に迫ったグラントへ叩き付けたのだ。
ぐしゃりと鈍い音がしてグラントは吹き飛んだが、同時に銃身が醜く歪む。
無論、鈍器として使う分には問題は無いだろうが、それで乗り切れるような状況ではない。
どうせ残弾も無い。躊躇う事無く放り捨て――ようとして考えを変え、思い切り投擲する。
強化改造を施されたスパルタンの膂力によるものだ。
直撃を受けた爬虫類人型兵士が頭部を陥没させ、斃れる。
爬虫類人型兵士――国連宇宙軍ではジャッカルと呼ばれている兵士達。
元々は被捕食者だった彼らは、索敵能力を高め、目的の為に手段を問わない気性によって生き延びてきた。
それ故にコヴナントでは斥候や特殊部隊員、そしてスナイパーのような役割を担っているのだが、
彼らの放つ正確無比、長距離からの射撃によって、マスターチーフは苦戦を強いられた事が何度もある。
極めて有効な弾幕を張れるとはいえ、逆にそれしか取り得の無いグラントどもよりも、遥かに優先すべき対象だ。
――――だが、これで手持ちの装備はゼロになった。
信頼すべきサイドアームであるM6Dハンドガンは、解析の為とかでシャーリーに預けてある。
かつては常に八個は携帯していたグレネードも『政治的判断』の為、今は所持していない。
完全なる徒手空拳。対峙するのは10以上もの銃口。
格闘用、或いは白兵戦闘用のデバイスを装備しているならともかく、彼一人では無謀だ。
ギンガは余力を振り絞り、腹部を押さえながら必死に立ち上がろうとし――
「問題ない」
マスターチーフの一言によって押し留められる。
躊躇無く、彼はグラント達に向かって足を踏み出した。
普通の魔導師――否、普通の海兵隊員ならば絶対に戦場へ行かないような軽装で、何故出撃したか。
理由は単純明快であり、彼女の心配は杞憂だったのだ。
つまり、訓練されたスパルタンに敵はいない。
――ただ、歩く武器庫があるだけだ。
**************************************
さるさん? 代理投弾しようか?
「――――――ッ!!!!!」
グラント達の悲鳴が響き渡る。
仮にギンガがコヴナント達の言語を理解できたならば。
彼らが叫んでいる単語の意味もまた、理解できたかもしれない。
哀れなグラント達はこう叫んでいたのだ。
――――『悪魔』と。
正しく、それは『悪魔』の所業に思えたかもしれない。
弾丸の切れたライフルで二人の仲間を次々と叩き潰してのけた彼は、
次の瞬間にはその手に、コヴナントの兵器であるプラズマガンを握っていたのだ。
コヴナントのプラズマ兵器は基本的に、二つの銃身の間にグリップが存在する形状をしている。
この銃身の間で何らかの気体が荷電され、強力な威力を持った光弾となって射出されるのだが、
プラズマガンは、単発のかわりに長時間荷電することで、高威力の攻撃が可能となっている。
少なくともコヴナントの持つ防護フィールドならば一発で無力化することができ、
そのことから恐らくはバリアジャケットであっても解除することも、不可能ではあるまい。
勿論前述した通り、難点は連射が不可能なことだが――スパルタンにとっては問題にならない。
その正確無比な射撃能力を鑑みれば、この至近距離であれば、一発たりとて外すことは無いのだから。
プラズマガンによる精密射撃で、グラント、ジャッカル共々射殺していく。
その一方で、先程『非殺傷』で打ちのめしたブルートが身動ぎするのを確認。
即座に光弾によるヘッドショットを実行。
頭が弾け飛ぶ様に、確実に『無力化した』という手応えと満足感を得る。
少しでも残量バッテリーの多いプラズマガン、或いはプラズマライフルがあれば即時交換。
正しくスパルタンにとって、敵兵士とは武器庫、弾薬庫そのものなのだ。
敵の兵器を使うことにも最早、躊躇う事はない。
人類はそういったプライドなどが役に立たない領域にまで、追い詰められていたのだから。
グラント十数体を無力化するのに、殆ど時間はかからなかった。
**************************************
「……す、ごい……」
《――大丈夫? ごめんなさい。治療キットがあれば応急処置もできるのだけど――》
「いえ、平気――です。頑丈さには取り得が、あって……」
だが――勿論、これで終りの筈が無かった。
続いて夜空に滲むようにして現れたのは、増援だろう。
もう一機のコヴナント降下艇であった。
即座に身構えるチーフとギンガだったが、しかし空から飛来するのはそれだけではない。
《……待って、チーフ。ストームレイダーから通信よ》
「グランセニック陸曹か」
『もっと気楽にヴァイスって呼んでくだせぇよ、旦那』
上空にいる機動六課ヘリパイロットのヴァイス・グラセニック陸曹は、
言葉通り、気楽で明るい口調でチーフからの返信に答えた。
本来ならば念話を使えば良いのだが、生憎とチーフもヴァイスも不得手である。
魔導師ばかりの管理局では半ば以上お飾りだった通信機が、
この二人の間では、実に有効活用されているようだ。
「ではヴァイス陸曹。どうした?」
『北方500mの地点に着陸できそうな場所を見つけやした。
この通信は陸士108部隊の方にも回してますから、皆其方に撤退して貰うとして。
其処の確保をお願いしたいってぇのと、今から旦那のクルマを落しますんで。
有効活用して、地上人員の撤退援護の方――宜しく頼んます』
「了解した。――助かる」
『なぁに、いつでもどこでも、って奴ですよ』
その言葉に、コルタナが微かに笑みを浮かべた。
昔の戦友を思い出したのだ。
通称ペリカン――輸送艇エコー419によって輸送されるジープは、
戦場の兵士からは「デリバリー」と呼ばれ、実に頼りにされていた。
事実、チーフとコルタナも、幾度と無くその恩恵を受けている。
フォーハマー、そう呼ばれていた女性パイロットが懐かしい。
彼女は、あの戦役を無事に生き延びただろうか? 恐らくは、きっと。
《……ねえ、チーフ》
『どうした、コルタナ?』
《悪くないんじゃない、管理局の人たちも》
内臓神経回路を通じた会話に、チーフは小さく頷いた。
豊かに残された自然。魔法と言う未知の力。管理局の奇妙な体制。
自身が異邦人である事を差し引いても、このミッドチルダは奇怪に過ぎた。
だが――其処に暮らす人たち。人類。
彼らにどうして悪い印象が抱けるだろうか。
低空にまで高度を下げてきた輸送ヘリが、その後部タラップを解放。
文字通り、そのクルマを「落とした」。
並の自動車ならば一発でサスペンションがお釈迦になりそうな衝撃であったが、
軍用に設計、開発されたこの車体ならば十分に受け止められるのだ。
ほぼ同時に降下完了したコヴナント達が、即座にヘリめがけて射撃を開始するも、
ヴァイス陸曹は巧みな操縦でそれを回避し、一気に高度を稼いで舞い上がる。
「――良い腕をしている」
《回避運動が? それとも「デリバリー」?》
「両方だ」
M12ワートボグ。
マスターチーフと共にミッドチルダへと落着した兵器の一つ。
端的に言えば二人乗りの軍用ジープそのものなのだが、
わけても特徴的なのは、後部に据え付けられた大型機関砲座である。
助手席の兵員が持つ銃器とあわせて、まさしく移動砲台と呼ぶべき絶大な火力を誇るのだが、
現在、チーフの目前にあるそれは、その後方銃座が撤去されていた。
マスターチーフ、そして彼の操る質量兵器群は未だ公的に認可されたわけではない。
このような状況で大型の火器を駆使すれば、たとえそれが幾らコヴナントに有効だとしても、
管理局員の心象は悪化し――ひいてはマスターチーフそのものの存在が危うくなる。
それらの自体を考慮した結果、これもまた八神はやての『政治的判断』に基づく改造であった。
《M12C……ワートボグ・シヴィリアンモデル、ってところかしら》
いつもの通り運転席に飛び乗り、エンジンを回す。
高らかに響き渡る駆動音。何ら問題は無い。
――いや、むしろ調子が良いくらいだ。
機動六課の整備スタッフは、実に良く働いてくれたらしい。
今の今までワートボグの脇に立っていたギンガを助手席に招きながら、
マスターチーフは満足げに頷いて、こう応えた。
「――ああ、悪くない」
**************************************
荒々しく地面を削りながらワートボグが駆ける。
「大丈夫か?」
「え、……は、はいっ。
――あ、ギンガ・ナカジマ陸曹です。
助けて頂いて……ありがとうございました」
「マスターチーフだ」
《私はコルタナよ、ナカジマ陸曹。
正確には違うけど、デバイスみたいなものかしら?》
苦笑交じりの声。
先程もチーフと会話していたのは彼女なのだろう。
落ち着いた女性の声。てっきり通信機の向こうにいると思ったのだが。
……恐らくは彼こそが、報告にあった『協力者』なのだろう。
管理局に属する人員で、ああも簡単に質力兵器を扱える者はいない。
技術的な問題でも、心理的な問題でも、だが。
《それと、どういたしまして、というより――お互い様ね。
多分、貴女がいなかったら私達も間に合わなかったもの》
事実、コヴナント出現の報せを受けてから飛んでくるまでの間、
増援――或いは救援が間に合うかどうかは、懸念事項だったのだ。
幸いにして撤退支援には間に合ったが、それも彼女のお陰といえる。
そして――会話を繰り広げている最中であっても、コヴナントは手を休めない。
後方からはプラズマ弾が次々に発射されてくるし、何発かは頭スレスレを飛んでいく。
本来ならば運転に専念すべきチーフも、片腕を車外へと突き出し、プラズマガンを発射。
だが――コヴナントどもを黙らせるには至らない。
「――――」
「―――?」
不意に、臨席のギンガが物言いたげな眼で此方を見ているのがわかった。
傷が痛むのかとも思ったが、どうもそういった雰囲気ではない。
どちらかというと咎めるような視線に思え、チーフが首を傾げると、
途端にコルタナが呆れたような声で告げた。
《チーフ、忘れたの? 管理局の人は質量兵器が――》
成程とチーフは頷く。
管理局世界の人間にとって、質量兵器は忌避すべき物だ。
他に頼るべき武器の存在しない自達らには、理解不能な思考。
しかしながら、魔術があるのだ。馬鹿げた力。理解不能な能力。
両手でハンドルを握り締めながら、チーフは考え込む。
ややあって、彼は何か明暗を思いついたらしい。
「弾を節約する」
「え?」
小さく呟くなり、マスターチーフはハンドルを思い切り回した。
後部のウェイトが無くなったウォートボグは、大きく尻を振りながら反転。
そのままチーフがアクセルを踏み込むのにあわせ、エンジン音も高らかに一気に飛び出す。
――――コヴナント達の真っ只中へ、と。
「え、えぇええぇえぇえぇぇえぇっ!?」
「舌を噛むぞ」
次の瞬間、大きな震動が車体を襲った。
ボンネットに激突した数名のグラント達が、鈍い音を立てて空中へと跳ね飛ばされる。
勿論、それで終りではない。跳ね飛ばされた者はまだ運が良かったと言えた。
不幸にも車輪に巻き込まれた者は、ベキベキと嫌な音を立てて轢かれたからだ。
まさに猪(ウォートボグ)の突進である。
蜘蛛の子を散らすように逃げていくコヴナントを追い立てながら、
着実にチーフは後続の魔導師たちの為に道を切り開いていく。
「い、いえ、確かにこれは質量兵器――じゃ、ないと思いますけど――ッ」
《……ごめんなさいね、ナカジマ陸曹》
呆れたような声。先程コルタナと名乗ったAIのものだろうか。
彼女は笑いを含んだ声で、親しみの溢れる声で、こう続けた。
《こういう人なのよ、彼は》
**************************************
数分後。
チーフ達を含む陸士108部隊の生き残りは、全員が撤退地点に到着していた。
プラズマガンを構えて油断無く周囲を警戒するマスターチーフをよそに、
着々と管理局員たちはヘリに乗り込み、負傷者達は治療を受けていた。
もちろん、ギンガ・ナカジマ陸曹も同様である。
腹部への殴打は下手すれば内臓破裂すら起こしかねないほどのものだったが、
彼女の場合は、ある事情から肉体が頑強であったため、
幸いにも比較的――奇跡的とも言う――軽傷で済んでいたようだった。
打撲傷に対して簡単なヒーリングが施されたのみで、特に問題無い状態にまで回復していた。
そして負傷者を満載したまま、ヘリコプターは最寄の拠点目指して上昇を開始する。
――だが、事態はこれで解決した、というわけでは無い。
新たな問題が浮上したのだ。
つまり、部隊員が明らかに足りない、という。
無論、殉職した者もいる。そういった可能性もあるだろう。
だが――それはありえないのだ。
何故なら、足りない人員とは指揮車輌内に残っていたメンバーだからだ。
――まさか、置いてきた?
自分の――部隊指揮を預かる身としては、とんでもないミスだ。
思わずギンガはヘリの内側から、身を乗り出し、眼下の暗闇を見やる。
勿論、それで見えるわけがない。実際に行って確かめなければ――。
「待ってください! まだ仲間が――……。
指揮車輌に、取り残されて、撤退できてないんです……ッ!
救出に向かわせてください!!」
ギンガの言葉を聴いたマスターチーフが、ヘルメットのスイッチを入れた。
殆ど間を置かずして、内臓HUD(ヘッドアップディスプレイ)に新たなウィンドウがポップアップする。
モーショントラッカー。動体反応を追跡する簡易レーダーである。
電波妨害下にあっても問題なく動作する為、UNSF海兵隊で正式採用され、
SPARTAN-IIにおいても第五世代ミョルニルアーマー以降、標準で搭載されている装備だ。
視覚的なステルスを用いていない限り、ほぼ全ての生命体を追跡可能なそれは、
確かに味方を示す光点が三つ――停止しているため、反応は微弱だが――残っている事を告げていた。
即座にコルタナが補正をかけ、視野に方向を示すマーカーを投影する。
まさしく、敵陣の真っ只中だ。
当初の予定が張り込みであり、彼女達が陸士108部隊であったのが幸いした。
密輸に関する調査、任務が多い事から、一番目立つ指揮通信車には様々な迷彩機能が施されているのだ。
その為、今現在――取り囲まれているとはいえ――残された陸士達の存在は気付かれていない。
だが、それも時間の問題である。そして救出もまた困難だ。
ブルートを撃破したとはいえ、未だジャッカルやグラントといった兵士達は残っている。
これ以上、戦闘行為が長引けば、確実にコヴナントは増援を派遣してくるだろう。
それは勿論、管理局にしても同じだろうが――……。
だからと言って、この敵の包囲網を突破して味方を救出し、脱出する。
そんな事が果たして可能だろうか?
だが、ギンガはリボルバーナックルのはまった左手を握り締め、飛び込む決意を固める。
――できるかどうかなんて知らない。やるか、やらないかだ。
しかし、暗闇の中を見通すように眺めていたマスターチーフの言葉は、実に冷たいものだった。
「ヴァイス陸曹、上昇だ」
「――――ッ!」
――やはりそうか。そうなのか。
少しでも好感を抱いた自分が愚かだった。
質量兵器を扱うような輩は、決して他者を省みない。
人間が人間を殺す事を許容し、世界が滅ぶことさえ受け入れる。
見ず知らずの、管理局の人間など、どうでも良いのだろうか。
だから――誰かを見捨てても、何も感じないのか!
勿論、彼らを助けたいというのは――ある意味で無責任な願いだ。
わかっている。ここで多数を危険に晒したりはできない。
十中の九を救う為に一を切り捨てるのは、極めて合理的な判断といえる。
だけど、だけど――……ッ!
激情に駆られたギンガがチーフに詰め寄ろうとした瞬間、
「ナカジマ陸曹、此方の指揮を頼む」
「――へ?」
まったく予想外だった言葉が、彼女の出鼻を挫いた。
困惑するギンガを横目に、チーフはコンテナから新たな銃器を取り出していた。
今度のは先程のと異なる、完全実弾式の質量兵器。MA5Cアサルトライフルである。
更には弾薬の詰まったカートリッジも幾つか腰部にマウントする。
「え、あの、それって……?」
《後で最も近い拠点で合流するわ。其方にはヴァイス陸曹もいるから》
先程まで用いていたプラズマガンは背中にマウント。
此方は残存バッテリーが少々心許無いが、現地調達すれば事足りるだろう。
いつも通りの身支度をするような、気負いの無い動作。
その仕草のまま、彼は解放された後部タラップへと脚を踏み出す。
「問題は無い」
そう言うなり、マスターチーフはヘリから身を躍らせた。
これくらいの高度ならば、鍛えられた魔導師は元より、
先程もヘリから飛び降りてきた事を考えれば、彼でも着地できるのだろう。
だが――……。
「―――――」
ヘリから地表へ。どんどんと降下して、小さくなっていくチーフ。
信じられない。その姿を機上から眺めるギンガは、小さく呟いた。
ますます彼――マスターチーフの事がわからなくなっていく。
質量兵器を躊躇い無く使う。銃で撃ち殺すことにも慣れている。
更には車輌で敵を轢き殺しても表情一つ――見えないが――変えない。
だが自分の命を救ってくれた。
このヘリにいる多くの仲間もまた、彼が救い出してくれた。
そして今、彼は再び、人を助ける為に死地へと飛び込んでいる。
先程自分が思ったとおり、見ず知らずの、管理局の人間を助ける為に。
「グランセニック陸曹…………その、今の、って」
「自分もまだ旦那とは付き合い浅いんで、良く知らないッスけどね。
……ま、その短い付き合いでもわかる程度にゃ"あーいう"人だって事で」
そう言ってヴァイス・グランセニック陸曹は笑った。
悪い人物じゃあない。
質量兵器を躊躇い無く使う。銃で撃ち殺すことにも慣れている。
だが――戦場で肩を並べて戦うなら。背中を任せて戦うなら。
或いは背中を任せてもらえるのなら。これ以上ないほどの良い男だ。
「……グランセニック陸曹、指揮をお願いできますか?」
「ああ、どうぞ、ナカジマ陸曹。こっちは問題ないですぜ」
笑うような声。実際、笑っているのだろうと思う。
それを受けて、彼女もまたタラップから空中へと身を躍らせた。
デバイスに備わっている通信回線を開き、チーフへと呼びかける。
「あの……私もご一緒させてください!」
『――指揮を任せると言った筈だが』
《言っても無駄みたいね、チーフ。わかるでしょう?》
終わり?
それとも猿?
支援?
通信回線の向こうから、困惑したような溜息が聞こえてきた。
彼と出会って一時間弱。初めて眼に――耳にした、人間らしい仕草。
思わず、笑ってしまった。
「それで……その、一つお願いが」
『?』
「弾丸の節約は、やめてくれますか?」
《良かったじゃない、チーフ。 これで寂しくなるって事はなさそうよ?》
笑い声が聞こえてくる。
どうやら、救出のほうは無事に終了しそうであった。
HALO
-THE REQULIMER-
LV3 [SPARTAN]
Fin
支援
>>459-477 以上ここまで。
規制に巻き込まれて投下できないので、
何方か気付いた方がいたら、代理投稿を宜しくお願いします。
連載開始したばっかでコレか……OTL
すいません。新参で、質問があるんですが、例えば遊戯王とクロスさせるとして、主人公を遊戯じゃなくて、オリキャラで書くのっていいんですか?
優しい回答お待ちしてます。
流石にそれはアウトじゃね?
他所でやれ
さるさん+電話で途中までしか投下できず OTL
ともかく作者さん、そして代理投下の皆さん乙でした。
ギン姉可愛いよギン姉。あとチーフも格好良くてGJ!
>>314 そもそも優しい解答って何様のつもりだ。
初心者以前に一般人としての礼儀をわきまえてから来い
脇役ぐらいがオリキャラなら許されるだろうけど主役のオリキャラはアウトと思われる
お前ら……ちっとは感想も書けよwww
はいはいウロスウロス
GJ!!です。
車で轢き殺すチーフ最高w
GJ!!
やはり、HALOは車で敵を轢くのはデフォだなww
後、ギンガもチーフもいい味出てたな。
GJ!! 面白いですね、続き待ってます〜♪
シャーリー(´・ω・`)
昨日の放送の悲しみが未だ抜けきらぬ反目です。
8時頃から、久々の時事ネタたる七夕短編を投下します。
今回はちょっとした告知めいたものもあります
GJ顔色変えずに死体踏み越えるって相当慣れなきゃきついだろうな。
非常に濃厚なストーリー、戦場を熱い人間模様 満足でした。
リレー方式で続き投下してくれた方々ご苦労様でした。
それでは投下を行いたいと思います。どうか支援のほどをよろしく。
30KBとか、もう、ね。短編じゃないよね(ぇ
7/7 〜つーか七夕って具体的に何書けばよかったのよ?〜
「もう間もなく七夕やねぇ……」
某日、機動六課部隊長室に木霊した、若い女性の関西弁。
綺麗なデスクに腰掛けた八神はやて二佐が、どこかうっとりとした様子で呟いていた。
いつもは大量の書類がうず高く積まれており、さながらグレートキャニオンを彷彿とさせる仕事机なのだが、
意外にすっきりとしている辺り、どうやらここ最近は穏やかな日々を送っているらしい。
「また何か馬鹿騒ぎをするつもりか」
やれやれといった様子で、男のため息混じりの声が響く。
眩いばかりの見事な銀髪をロングヘアーにした、長身の美青年の姿があった。
細身なラインにもかかわらず、漆黒のコートの開いた胸元からは、強靭に鍛え上げられた筋肉が見受けられる。
腰に差した刀は相当長い。ただでさえ背の高いこの男の背丈よりも、更に長大な刀身を有していた。
妖しく輝く青い瞳を持った麗人は、異世界では最強の英雄と謳われた男――セフィロス。
「それで、今度は一体何をするつもりだ?」
「むっふふ〜、よくぞ聞いてくれましたっ! 機動六課大七夕祭り、なんと当日は前人未到の超巨大笹を――」
「却下だ」
ぴしゃり、と。
興奮気味に叫んだはやての言葉を、最後まで聞き終えるよりも早くセフィロスが遮った。
「ええ〜なしてよぉ〜」
自信たっぷりの提案を真っ向から否決され、はやては机に突っ伏してぶーぶー言いながら反論する。
これだけ気持ちよく却下されれば、確かに不快にもなるだろう。
だからといって、このリアクションはいい大人には似合わないものなのだが。有り体に言えば、相当ガキっぽい。
「よく考えてみろ。自然物がそんな巨大に育つわけがないだろう。前人未到の突然変異が、そう都合よく起こると思うか?」
セフィロスはもっともらしい理論を展開した。
もし仮にそのような笹があったのならば、ルーテシアやキャロの遠隔召喚を使えば取り寄せるのは簡単だろう。
しかし、問題はその「仮に」がまず起こり得ないということだ。
言うまでもなく、笹は生き物である。ひな祭りの雛壇のように、おいそれと巨大化させられるものではない。
「む〜……ええもん、吹き流しやら電飾やらいっぱい飾ってド派手にしたるもん」
少々むくれながらも、はやては端末を起動させて何やら操作を始めた。
文脈から察するに、その「機動六課大七夕祭り」とか言うもののプランを変更しているのだろう。
材料発注がどうとか、だの、電力供給がどうとか、だのといった独り言からも把握できる。
それで話が終わりだと判断したセフィロスは、そのまま腕を組んで壁にもたれかかった。
(それにしても……)
ソルジャー特有の輝きを放つ視線を向け、思案する。
これから展開されるというこの馬鹿騒ぎ、一体予算はどこから下りると言うのだろうか。
まさか通常予算から天引きするわけにもいかないだろう。通常業務に支障を来たしてしまう。
だからといって、上のお偉方へと普通に申請したところで、そんな無茶な要求が通るわけがない。
つまり、パイプラインは自然と限定される。要するに、コネクション。
大方犠牲になるのは、あのクロノのところか、あるいはスバルの父親のところだろうか。
「……やれやれ……」
真剣そのものな表情で常識はずれのおふざけを展開するはやての横顔を見ながら、セフィロスがまた小さくため息をついた。
>>314 優しい回答wwwwww
ここでやるべきじゃない。どこかの投稿サイトか自分のサイトでやれ。
翌日、再び部隊長室。
「――前回のひな祭りでの巨大雛壇の件は、ほんまおおきにや」
何やら書類のようなものを片手に、はやてが口を開いた。
「あの企画も、みんなの資金援助があれへんかったら、確実に実現はせぇへんかった」
ぽんぽんと書類を胸元に当てながら、机の周りを歩き回る。
うろうろ、うろうろと、一定のリズムを保ちながら、右へ左へと足を進めていた。
「あの時は事後報告になってもうたけど、今回の七夕祭りは動く金額が金額や。
ひな祭りの時とはレベルがまるで違う。そんな金額をいきなり突きつけてもビックリするやろしな。……そこでや……」
いつしか、机の周囲を行ったり来たりしていたはやては、その場に立った来訪者の目の前に立っていた。
黒い制服を身に纏った男性へと、その手を伸ばす。
がっちりと引っつかまれ、ぐいと引き寄せられるネクタイ。茶色い髪を揺らしながら、はやてが叫んだ。
「――クロノ君、お金貸して!」
「かつあげされてるような気分だ」
うんざりとしたような声で呟いたのは、若き提督クロノ・ハラオウンだった。
苦虫を噛み潰したような顔を背け、この傍若無人な部隊長から思いっきり視線をそらす。
「ええやんかそれくらい〜。私とクロノ君の仲やないのぉ♪」
しかしはやてはそんな様子は一向に気にも留めず、猫なで声のような甘ったるい声色で要求した。
そもそも前回のひな祭りにおける巨大雛壇も、予算が通らなかったということで、
急遽彼が提督を務めるクラウディアの資金を分けてもらうという形になったのだ。
無論、前述通り、真っ当な形で頼んだわけではない。気が付けばクロノの元に請求書が届いていたという、そんなオチである。
「……それで、具体的にはどれくらいの金額が必要なんだ?」
ネクタイを握り締めるはやてをひとまず引き離しながら、クロノが問いかけた。
それに呼応するように、「はい」という短い声と共に提示される書類。すなわり予算案。
突きつけられるやいなや――黒き瞳は一瞬で丸くなった。
(セフィロスッ! なんでお前がはやてを止めてくれなかったんだっ!)
切羽詰ったような念話を、部屋の隅から哀れむような視線を向けるセフィロスへと飛ばす。
(面倒だった。俺には止められん)
(だーもうっ! 大体、何なんだこの金額は!? 前回のすら比較にもならないぞ!)
(知ったことか)
(あ゛あ゛あ゛あ゛ーッ!)
この場で思いっきり頭を掻き毟ってわめき散らしたい衝動に駆られる。
はやてによって提示された、「機動六課大七夕祭り」とやらの予算額は、彼の想像を絶するほどの量だった。
前回の雛壇にしたってかなりの費用がかかったというのに、何なんだこの料金は。数字の桁が明らかに違う。
「何だこれは!? こんな金額、おいそれと貸せるようなものじゃないだろう!」
思わず声を荒げながら、ニヤニヤと笑みを浮かべるはやてへと怒鳴りつけた。
いつもの冷静沈着な姿はどこへやら、クロノ・ハラオウン、ただ今絶賛錯乱中です。
「ほぉ〜、貸せない? 貸せないときたかぁ〜……」
一方のはやては、その笑顔を崩すことなく、至って平静な様子で振舞っている。
目の前のクロノが貸せない、と力強く言い切っているのにもかかわらず、だ。
10年近い付き合いのある友人ならば、彼の頑固さは身をもって知っているはず。なのにこの落ち着きぶり。
セフィロスが何やら薄ら寒い気配を感じた時には、既にはやての手は内ポケットに伸びていた。
「ほい」
懐から取り出されたのは、1枚の写真。距離の離れたセフィロスの位置からは、そこに写されているものは分からない。
反射的にクロノはそれを受け取る。そして、そこにあったものを見た瞬間、
「――……ッッッ!」
今度こそ彼の表情は一気に蒼白となった。
失礼、支援します
「こぉ〜んなものが私の手元にあるっちゅーのに、貸せない? 貸せないと? ほほぉ、そうきたかぁ〜♪」
「ま……待てっ! これは酔ったフェイトが勝手に……!」
「私の記憶が正しければ、フェイトちゃんは私と同い年で19歳。当然未成年なのになぁ〜……なんで酔っ払うことがあるんやろ?」
「そ、それもフェイトがジュースとアルコールを勝手に間違えてだなぁっ!」
「おーっほほほほ! まさかそれをこの写真見た人全員にいちいち説明して回れるとは思っとらんよなぁ〜、んん〜?」
「くぅ……っ!」
一体何がそこに写されていたのかは知る由もないが、どうやらこの場ははやてに完全に一杯食わされたらしい。
哀れ、このまま言われるがままに、クロノはその予算を大量に搾取されることになるだろう。
何かといけ好かない奴だったが、今回ばかりは、セフィロスも内心で彼に同情した。
そして、七夕当日の夜。
「……ってなわけで、今夜はみんな『機動六課大七夕祭り』へよーこそいらっしゃいましたぁ!」
隊舎の正面入り口前で、はやてがめいっぱい元気な声を張り上げていた。
白の強い空色の浴衣を身に纏い、手元のメガホンに向かって思いっきり大声で叫ぶ。
弾けるような笑顔が、頭上の電飾によって煌々と照らされていた。
「にゃはは、はは……本当にやっちゃったんだね」
夜空の下に集った参列者を代表し、桃色の浴衣を着こんだなのはが苦笑と共に口を開く。
この日のために徹底改修された機動六課隊舎は、それはもう物凄いことになっていた。
会場中央にはそれなりの大きさの笹が陣取っている。それはまだよしとしよう。凄まじいのはそこから先だった。
すっかり消灯された隊舎からは、商店街の七夕祭りなどでよく見るくす玉が大量につり下げられていた。
色とりどりの球体から垂れた吹き流しが、吹き抜ける夜風にさらさらと揺れる。
無論、装飾品はこれだけではない。それらの合間を縫うようにして、ド派手な和風の電飾が並べられていた。
おまけに会場内には、どこから集めたのか大量の屋台までもが置かれている。
さながら夏祭りをそのままこの軍事施設にぶち込んだような、そんな非常識な空間。これには参列者達も苦笑い。
「わーい屋台だ屋台だー!」
いや、約一名、スバルという例外あり。
からからと景気のいい下駄の音を鳴らして、立ち並ぶ屋台へと一目散に駆け出していった。
「ったく、あの馬鹿スバルは……」
「まぁまぁ。みんなが楽しめてこその祭りやから」
堪え性のない相方に対して不機嫌そうに呟くティアナをはやてがなだめる。
「……んじゃ、みんな今夜はめいっぱい楽しんでってーな!」
そして最後にもう一度、メガホン越しに声を張り上げた。
「やれやれ……はやてさんも毎度毎度やることが派手だよなぁ」
少々呆れたような調子で漏らしたのは、第102管理外世界エンディアス帰りの心剣士キリヤ・カイトだ。
高校3年生という年齢の割には気難しそうな表情を浮かべ、灰色っぽい髪を人差し指でぽりぽりと掻く。
「とか言いながらも、アンタもちゃっかり浴衣用意済みじゃない」
横から勝気な声をかけるのは、幼馴染みのシーナ・カノン。
鮮やかなショートカットの赤髪と、同じ色の浴衣が印象的だった。
そしてキリヤの方もまた、この少女の指摘通り、ばっちり浴衣を着込んで祭りの空気に溶け込んでいる。
これまた髪の色に合わせたような灰色の浴衣だ。
「まぁ、それもそうなんだけど」
「ほぉら、せっかくのお祭りなんだから、細かいことは考えずにぱーっと遊びましょうよ!」
満面の笑顔を浮かべながら、両手を思いっきり広げて言う。
白い模様の書きこまれた真紅の両袖が、ぱぁっと宵闇の中で鮮やかに舞い上がった。
支援
はやてテラ外道w
地獄に落ちろwww 支援
支援
「……それもそうだな」
しばし思案したキリヤだったが、結局最終的にはそうした結論に落ち着き、小走りで進んでいくシーナの後に従った。
昔から彼も、この男勝りな幼馴染みにはどうしても弱い。
キリヤにはそもそも派手さうんぬん以前に、ボウリングに行ったりひな祭りをやったりと、
ここに来てからどうも息抜きばかりしすぎなのでは、という気持ちもあったのだ。
だが、あのリーベリアの激戦の終盤においては、こうした娯楽を楽しむ機会もあまりなかった。
(まぁ……これくらいの方がちょうどいいのかもな)
そして最終的には、そんな結論に至ったのである。
「ねぇキリヤ君、こっちに金魚すくいがあるわよ」
りんと鳴る鈴のような声が、横合いからキリヤの名前を呼んだ。
そちらを振り向けば、そこにいたのはもう1人の仲間の姿。近所の神社で巫女をしていたクレハ・トウカである。
彼らが在学していた学園の中でも、1〜2を争う絶世の美少女。栗毛のロングヘアーが、上品なウエーブを描いている。
山吹色の浴衣姿も、彼女が身につければさながら黄金のようだ。
「うわぁ、懐かしいわね〜!」
傍らのシーナが歓声を上げながら、屋台の方へと駆けていく。
クレハの神社では毎年夏祭りが開かれているため、こうした屋台自体は珍しくはないのだが、
それでも大きくなった今では、特に金魚すくいからは幾分か遠ざかった印象があった。
それなりに分別がつくような歳になったことで、わざわざ生き物を1匹余分に飼おうとは思わなくなったからかもしれない。
しかし、今は無礼講のお祭りタイムだ。久々に童心に帰ってみるのも悪くはない。
「よぉし、久しぶりにやってみるか!」
灰色の右袖をまくりながら、下駄の軽妙な足音を立ててキリヤが意気込んだ。
屋台のところまで歩み寄ると、受付をしていたロングアーチの1人からモナカと入れ物を受け取る。
水槽の目の前にしゃがみ込み、色とりどりの金魚達へと意識を集中させた。
「頑張ってね、キリヤ君」
「どうせならガツーンと一発で決めてみなさい!」
左右の隣に座った美少女2人から激励の声。
シーナとクレハ、両手に花。男冥利に尽きるといった、羨ましいシチュエーション。
異性関係には鈍感だったキリヤには、その辺りはよく理解できていなかったが、ともかくも今は金魚へと注意を向けた。
そして手頃なところへと、右手のモナカを突っ込む。
「あーおしいっ!」
シーナの感想は、その場に起こった状況を余すことなく表現していた。
密集していた金魚達は侵入者に鋭敏に反応し、蜘蛛の子を散らしたようにさっと逃げ出してしまったのだ。
それらに比べれば遥かに大柄な人間には、追いつけるだけの小回りのよさはない。
「よし、もう一度……」
言いながら、キリヤは水中からモナカを抜くと、再び金魚の群れへを真っ向から見据えた。
四角い水槽の中で縦横無尽に泳ぎ回る、百花繚乱のごとき魚達。五感を研ぎ澄ませ、その動きを辿る。
精神統一。さながら明鏡止水の境地へと至るかのように。
狙いどころの金魚はどれだ。この無数の軍団の中、一際隙の大きな奴はどれだ。
(見えた! 見えたぞ……水の一滴ッ!!)
直観的に見抜く。一瞬その動きを止めた、赤々と輝く鱗の1匹。
「そこだっ!」
疾風怒濤の早業で、モナカを水槽に向かって叩き込む。
刹那の一閃。尾びれが薄い膜へと触れる。やがて小さな全身がすくわれ、水面を突き破って外気へと晒された。
「やったぁ!」
思わずキリヤの口から湧き上がる、歓喜の声。
両隣からも、シーナとクレハの二人組からの歓声が上がる。
勝利を確信し、その口元を綻ばせながら、モナカを金魚ごと懐へと引き戻そうとした瞬間、
「……ああああああああーっ!」
半透明の薄膜は、その後2秒ともたずに真ん中から破れていた。
キョンwww
支援
キリヤ懐かしいw 支援!
木で作られた割り箸が、茶色いソースの絡まった小麦の麺を掴む。
緩慢な動作で半透明なプラスチックトレーから引き上げられたそれは、小さな口へと運ばれた。
ルーテシアの口の中へと、熱々の焼きそばが吸い込まれていく。
あまり食べたことのない、不思議な濃いソースの味をした麺料理を味わいながら、その視線は大きな笹へと向かっていた。
「……殺生丸は七夕、知ってる?」
そして、傍らに立つ男へと声をかける。
見上げた先にあったのは、刺青のような独特の模様を顔に宿した、端整な風貌の男だった。
猛獣を彷彿させる鋭い黄金の双眸は、先ほどまでのルーテシアと同じく笹へと注がれている。
夜の薄暗闇の中に映えるのは、上物の糸を思わせるかのような、見事な銀の長髪だ。
地球の戦国時代から、不慮の事故によってこの世界へと飛ばされた大妖怪。名を、殺生丸と言う。
「人間の祭りには興味がない」
感情の希薄な冷たい声で、素っ気ない返事をルーテシアへと返した。
この空気の読めない男は、こうした祭りの場でも浴衣など着用せず、普段着のままでたたずんでいる。
それでもその姿が浮いていないのは、その普段着が古風な和服であったからだろうか。
「じゃあ、これは知ってる?」
ぞんざいな返事に気を悪くした様子もなく、ルーテシアは何やら紙のようなものを取り出した。
紫色の、細長い長方形。見たところ折り紙を切って作られているようだ。何やら環状の紐のようなものが伸びている。
「……何だそれは」
理解不能といった様子で、殺生丸が問いかけた。
用途不明。何かを書きとめて書類とするためにはあまりに小さすぎる。
短文を書いた手紙とするためにはあまりに細すぎる。そもそもどちらにしたって、その紐が持ち運びには邪魔だ。
まさかこんな単純な構造で、遊びの道具とするというオチでもないだろう。
「さっき、あそこでもらった」
紫の浴衣の幼女が指差すのは、周囲に立ち並んだ屋台のうちの一軒だった。
見ればそこからその紙をもらった人々は、何やらそこへ細工のようなものを施した後、笹の枝へと引っ掛けていく。
あれが正しい使い方なのだろうか。では、引っ掛ける前にしている作業は何なのだろうか。
「どうしたの?」
と、そこへ若い女性の声がかけられた。
そちらを見ると、藍色の浴衣を身に纏ったギンガの姿があった。
紫がかった青い長髪と相まって、非常に上品な印象を受ける。
「これ」
「ああ、短冊ね」
予め説明を受けていたのだろうか、ルーテシアが差し出した紙を見て、ギンガはあっさりと即答する。
「七夕祭りの有名なおまじないらしくてね。願い事を書いて笹にかけると、願いが叶うんだって」
にっこりと笑顔を浮かべながら、ギンガはその場にしゃがむようにして説明する。
同じ目線の高さからの説明を受けたルーテシアは、しばしその手元の短冊をじっと見つめていた。
そしてしばらくの後、そっと手を出して、無言で何か書くものを要求する。
意図を察したギンガが差し出したマジックペンを受け取ると、さらさらと何かを書きつづった。
横から覗き込む殺生丸だったが、彼には英語に近い文体を持ったミッド語はまるで読めない。
「『お母さんが早く目を覚ましますように』、か……」
ちょうど殺生丸のために通訳するようにして、ギンガがそこに書き込まれた文字を読み上げた。
こうして管理局預かりの身になった今でも、彼女の母は未だ眠りについたままだ。
仮死状態の期間が長かったため、蘇生治療にも時間がかかっているのである。
「願い事、聞いてもらえるといいわね」
微笑みを浮かべ、ギンガが口を開いた。
支援
七夕支援
書き終えたルーテシアは笹のもとへと歩いていくと、そのままその場で足を止める。
特に短冊を枝にかけるわけでもなく、じっとその緑の幹を見上げていた。
殺生丸とギンガもまた、直立したまま動かなくなってしまった彼女の元へと歩み寄る。
「……何をしている」
先に問いかけたのは、殺生丸の方だった。
「どうせなら、高いところにかけたいと思って」
視線を笹の方へと向けたまま、振り返らずに問いかけに答える。
思考の意味を図りかねて沈黙する殺生丸だったが、一方のギンガは、微かにぷっと噴き出していた。
今彼女が口にした発想は、これまでの彼女からは想像しがたいものだ。
感情に乏しく、娯楽への興味のなかったルーテシアが見せた、等身大の子供らしい感情。
9歳の少女たる彼女に本来あるべきもので、しかし今まではことごとく排除されていた遊び心。
それが今こうして垣間見られたというのは、やはり心に余裕ができたからなのだろうか。
いずれにせよ、よい傾向であることに違いはなかった。
「駄目ですよ。殺生丸さんも、もう少し子供心を分かってあげないと」
そして、いつまで経っても特に何もしようとしない殺生丸へと声をかける。
ルーテシアが求めているのは、面識の薄い自分ではない。ずっと一緒に旅してきた、この銀髪の麗人だ。
当の殺生丸は、一瞬不機嫌そうに眉を僅かにしかめると、観念したかのように歩きだす。
そしてルーテシアの元へたどりつくと、ひょいとその身体を持ち上げ、自らの背中へと預けた。
いわゆる肩車というやつ。少女の視界が、ぐっと高度を上昇させる。
そんな微笑ましい光景を、ギンガは横から静かに見つめていた。
「こっちのほうがたかいぞー!」
と、彼ら達の横合いから響く、得意げな幼女の声。
そこに立っていたのはあのセフィロスだ。殺生丸と同じように、ヴィヴィオを肩車している。
傍らには彼女の保護者たるなのはや、ザフィーラの姿もあった。
別に殺生丸の背が低いわけではない。彼自身もなかなかの長身だ。
しかし、相手が悪すぎた。セフィロスは2メートルにすら迫るほどの巨人である。
当然、ルーテシアとヴィヴィオの座高の差など、すぐに埋まってしまった。
「フッ………」
片翼の天使は戦国の大妖怪を見下ろし、微かな哄笑に口元を歪める。
「………」
そんな態度を取られて黙っているほど、殺生丸は寛容ではない。
猫の額ほどしかない心の広さはすぐに我慢を拒否し、凶悪な眼光をもってセフィロスを睨みつける。
鋭さを増す黄金の瞳。迎え撃つ青く妖しく輝く瞳。射抜くような強烈な視線の激突。
ばちばち、ばちばちと、その狭間で火花が散るようなイメージが喚起された。
と、不意に殺生丸が、肩の上のルーテシアに違和感を感じる。
そちらを見れば、彼女は自身の右肩から垂れ下がるたてがみのごとき毛皮に、ぎゅっとしがみついていた。
「柔らかい……」
顔こそいつもの無表情だったものの、どこか愉悦の混じった声色が満足げに呟く。
こうしてこのふわふわもふもふの手触りを堪能するのは2回目だ。前回同様、そのまま寝入ってしまいそうな気持ちよさ。
「あー、ヴィヴィオもあっちのほうがいいー」
少しだけ、ショックを受けたような表情を浮かべたセフィロスだった。
「……セフィロス……」
「にゃはは、はは……」
「ったく、何やってんだかアイツらは……」
心底呆れかえった様子でセフィロス達を見つめながら、ヴィータはさらさらと筆を取る。
幼い容姿の割には馴れた手つきで、赤い袖を躍らせていく。
それぞれの髪の色と同じ浴衣を纏ったエリオとキャロが、感心したような目つきでそれに釘付けになっていた。
「よし、と」
書き終えた短冊を持つと、笹に向かって歩いていき、少し背伸びをして枝にかける。
エリオ達もそれに続くと、見事な筆文字の書き込まれた赤い紙を覗き込んだ。
一体ヴィータは何を書いたのだろう。やはり副隊長というからには、それなりに知的な願いなのだろうか。
もしくは自分達の成長を願ってくれていたりするのかもしれない。
そんな思考を巡らせながら読んだ短冊は、
「『昨今の食料品値上がりの煽りを、アイスだけは受けませんように』……って……」
「最近小麦粉とか色々高くなってんだろ? アイスもあんまり値段上がったら困るからな」
予想に反したあまりにあまりな内容の短冊に呆然とする2人に対し、
ヴィータはそれがどうしたと言わんばかりのけろりとした態度だ。
良く言って平凡。悪く言えば、俗っぽい。というか、アイス好きだったんだ。
もう少し次元世界の平和だとか、そういったものを深く考えていると思っていたのだが。
「い……意外と、普通なんですね……」
とはいえそんなことを口に出すわけにはいかないので、エリオはつとめて平静を保って感想を述べる。
引きつった笑顔と、額に流れる冷や汗が、横から見たキャロには印象に残っていた。
「おめーらの成長を願ってくれてないかなー、とか思ったか?」
「えええっ!?」
「そ、そそ、そんなことないですよぉ!」
まさかの問いかけに対し、エリオとキャロはさながら蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
必死に否定する様子が、かえってそれが図星であることを証言している。
いくら魔法の力があっても、やっぱりまだまだ子供だな。
そう思いながら、ぷっと噴き出すヴィータ。自分も外見は子供だろう、とか、そういうツッコミは野暮というものです。
「心配すんな。神頼みなんかしねーでも、お前らはそのままでも立派に育つ」
言いながら、ヴィータは下駄の音をからころと響かせながら、エリオ達のもとへと歩み寄る。
そして、自分よりちょっとだけ背の高い部下達の頭へと手を伸ばし、わしゃわしゃと力強くなでる。
「つーわけで、まぁ頑張れや」
「は、はぁ……」
何だかわけの分からないうちに自己完結されたエリオ達には、困惑しながら生返事を返すしかなかった。
「ちびっ子達はもう書いたの、短冊?」
と、そこへクレハと同じオレンジの浴衣を纏ったティアナがやってくる。
この日は頭のツインテールをストレートに下ろしており、そこがまた随分と色っぽい雰囲気を醸し出していた。
「あ、私達はまだです」
「そう」
キャロの返事を聞きながら、ティアナは笹へと向かい、自身の短冊をかける。
書かれた願いは「経験を積んで、執務官になるに相応しくなれますように」。アイスに比べればかなりまともだ。
そして当のティアナは、枝にかけられたいくつかの短冊のうち、青いものを手に取った。
「これはスバルね。えっと……『なのはさんみたいに強くなれますように』……」
ああ……と納得したような表情を、その場の全員が浮かべる。
なのはに対して強い憧れの念を抱いていて、同時に感情表現豊かなスバルのことだ。これ以上らしい願いもないだろう。
思わず、エリオとキャロの表情が緩み、自然と口元も綻んでいた。
「――それから、こっちは」
「「「へ?」」」
思わず間抜けな声が上がる。3人の幼児の視線の先には、新たな短冊を手に取るティアナの姿があった。
「『災害や紛争に巻き込まれた人を助けられるようになれますように』、
『欲を言えば、そうした悲しい出来事がなくなりますように』、『ついでに私情を言うなら、アイスをお腹一杯食べられますように』
『ホットドッグやスパゲティとかも食べられますように』『あとはギン姉と一緒にいられる時間が多くなりますように』
『週末ティアと遊びに行けますように』『もう少しだけ背が高くなりますように』『それから――」
気が付けば、ティアナの手元には10枚以上もの大量の短冊が寄せ集められていた。
まぁ、確かにこれもスバルらしいといえばスバルらしいのだろうが。それにしたって書きすぎだろう。
中にはヴィータですら霞むような、しょーもない願いまでありやがる。微笑ましく思った自分達が馬鹿だった。
「……何枚書いてるのよ、コイツ」
その場の人間の総意を表し、ティアナがため息混じりに呟いた。
と、そこでヴィータが何かに気付き、少々高いところにあった短冊を手にとって目にする。
そこにあったのは、同志ヴォルケンリッターの一員の書いたものだった。見た目にそぐわず、流暢な文字が刻まれている。
曰く――「たまには広い所で散歩ができますように」。
「……ザフィーラ……」
頭の痛くなるヴィータだった。
「そういえば、2人とも刀を使う人なんだよなぁ」
「キリヤも一度お手合わせ願ってみたら? 同じ剣道家として」
「えええ!? い、いやいやいや、いくら何でも無茶だよ!」
そんなキリヤ達の会話を尻目に、きゅらきゅらと車輪を押す音が通り過ぎていく。
茶色いコートに身を包み、頭にはつばと垂れの着いた帽子。額には銀のフレームのはげたゴーグルをつけていた。
押しているのは、黒光りする重厚な鉄の馬。
人を乗せ、ガソリンで走るモトラドだ(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)。
旅人キノとエルメスもまた、このお祭り騒ぎへと足を運んでいた。普段着のままなのは、まだここへ来て間もないからだろう。
「面白い風習だね、キノ」
エルメスがキノに向かって声をかける。少年のような高い声だ。
この彼だか彼女だかよく分からないモトラドは、世にも珍しい言葉を話す乗り物である。
「そうだね、エルメス」
「キノだったら何をお願いするの?」
エルメスの問いかけに対し、キノはしばし思考する。
そしてしばらくの後に、いつものクールな声音で事もなげに答えた。
「そうだな……『道中食糧に困りませんように』、『安くてシャワーのある宿に恵まれますように』、
『次に行く国が物価の安い国でありますように』、『移動中は雨の日が少なくなりますように』、『美味しい名物に……」
「キノはがめつい」
「そういうエルメスは?」
嫌味のようなツッコミを軽くスルーすると、キノは逆にエルメスへと問いかける。
今度は、返事はすぐに返ってきた。
「『腕のいい整備屋さんと質のいいパーツに恵まれますように』、かな?」
「ボクと似たようなものじゃないか」
特に呆れたような素振りもなく、かといって苦笑いを浮かべるわけでもなく、無表情でキノが言った。
そしてエルメスの荷台に置いたたこ焼きへと手を伸ばし、食べる。
「モトラドは食品トレーじゃないのに」
と、エルメスが嘆いた。
ちょうどその時、キノの視界に見知った人間の姿が映りこむ。水色の浴衣を身につけた、青い髪の少女だ。
「あ、キノさん。久しぶりー」
声は先に相手からかけられていた。
下駄の音と共に駆け寄ってくるのは、綿飴を片手に持った、姉とは対照的に活発なスバルの姿である。
「スバルさんでしたっけ。お久しぶりです」
キノは以前この国に来た時に、スバル達から魔法と管理局に関する説明を受けたことがある。
そんな縁もあって、キノは軽く彼女へと一礼しながら挨拶した。
「あれ? 見ないうちに髪伸びた?」
怪訝そうな声でエルメスが問いかける。
以前会ったあの時にはボーイッシュにまとめられていた青い髪が、今では肩にかかるくらいまでの長さになっていた。
少年のような快活さを持った表情に、微妙に女の子らしさが同居したようにも見える。
「あはは……まぁ、色々とありまして。……それじゃ、ちょっと人を待たせてるので、これで」
当のスバルは僅かに照れたような表情で返した後、そのまま反対側へと駆けていった。
「忙しい娘だよねー」
「そうだね」
群青色の着物に身を包んだ男が、じっと夜空を見上げている。
紫色の綺麗な瞳は片方だけだ。まるで封印でも施すかのように、左目は厳重に包帯のようなもので覆われていた。
ルルーシュ・ランペルージの頭上に広がるのは、見渡す限りの満天の星空だ。
漆黒のじゅうたんの上に、さながら無数の宝石がばらまかれたような、そんな光景。
特に天空を横切る天の川のインパクトは相当なもの。神々しいまでの煌きに満ちた大運河だ。
「お待たせ〜!」
と、弾けるような明るい声が近付いてくる。
視線を地上へと落とし、無邪気な笑顔を浮かべた伴侶の姿を認めた。
2つの綿飴のうち片方を受け取り、かじる。甘い味と柔らかな食感が口の中に広がった。
「綺麗な空だね、ルルーシュ」
隣に立ち、共に夜空を見上げながら、スバルが呟く。
「トウキョウ租界やサッポロでは、こういう星空は見れないからな」
「都会の光害はどこも一緒だね」
隊舎の施設が残らず消灯となっていたのは、こうした景観を少しでも損ねないためというものがあった。
都市の眩いネオンや生活の光は、図上に広がる星々を容易に覆い隠してしまう。
クラナガンの中でも郊外に位置するこの六課隊舎では、ここの電気を消すだけでも、それなりの効果が得られていた。
「……前にも神根島で、ユーフェミアと一緒にこうして星を見た」
地球にある島の名前を出し、呟く。
神聖ブリタニア帝国第3皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア。ルルーシュにとっては、1つ年下の腹違いの妹だった。
そして同時に、幼少期の彼にとっては、初恋の相手でもあったのかもしれない。
「ユーフェミア様とは、どんな話を?」
スバルが尋ねた。
「元の俺には戻れないのか、と聞かれた」
「その質問には何て?」
「……戻れたらどんなにいいことだろうね、と」
「……そっか」
それきり、しばらく2人は沈黙する。
3年前のあの日。帝国に反旗を翻した、捨てられた皇子の最後の戦いのきっかけとなった、あの行政特区日本設立の日。
ルルーシュの左目に封じられているギアスの暴走によって、平和の舞台は血の海と化した。
虐殺される人民。狂奔する皇女。
結局ルルーシュには、ユーフェミアを殺すことでしか事態を収められず、同時にその決断はひどく彼の心を蝕んだ。
「……やっぱり、戻りたいと思う?」
おずおずと、スバルが問いかける。
それこそ彼にとって、あの時へと戻れたらどれだけよかったことだろう。
己が軽率なミスをやり直すことができたならば、どれだけ彼の心は救われることになるだろう。
それだけではない。あの頃のルルーシュの周りには、大切なものがたくさんあった。
生徒会の仲間がいた。唯一無二の親友がいた。最愛の妹がいた。
しかし、それら全てが、まるで細かな砂のように、細い指の間をすり抜けた。
あらゆる絆を奪われた悲しき皇子の姿が、今はここにある。
「確かに、それが叶うに越したことはないと思う」
そしてルルーシュは、やはりそう答えた。
「でも」
しかし、言葉はなおも紡がれていく。
ふっと穏やかに微笑んだ表情が、スバルの方へと向けられていた。
「今は、ここに――俺の傍にいてくれた、たった1人の人がいる……この場所で笑っていたい」
オールスターっすかw
支援
救いなら、ルルーシュは既に手にしていたのだ。
この異世界からやってきた少女は、何があろうとも自分の傍からいなくならなかった。
たとえ仮面の下の正体を知ろうとも、スバルは消えたりしなかった。
他の全てを世界に取り上げられても、スバルだけは消えずに残った。
世界に真っ向から立ち向かってでも、スバルは自分を守ってくれた。
こんなに血に汚れ、こんなに心を擦り減らされ、不様な姿をさらした自分の、生きる理由になると言ってくれた。
居場所を失った孤独な皇子にとっての、最も愛しき人。
「ルルーシュ……」
スバルの表情もまた、自然と綻んでいた。
と、不意に遠くから何やら大きな音が鳴る。
音のする方を見ると、小さな光のようなものが、地上から黒天の夜空へと勢いよく昇っていた。
そして頂点へと到達した瞬間、光の塊は炸裂する。
どん、と。
遅れて低い破裂音が鳴った。
続けて似たような光が、続々と空に上がっては、色とりどりの円を描く。
さながら、夜空に広がる大輪の花畑のように。
「うわぁ〜、綺麗〜……」
次々と空に上がっていく花火を見ながら、スバルはうっとりとしたような声を漏らす。
その傍らには、ルルーシュが静かに笑顔を浮かべながら寄り添っていた。
「まさか花火まで持ち出すとはな」
微かに苦笑いを表情に貼りつけながら、セフィロスが呟いた。
ここまでやるとなると、一体どれだけの予算が動いているのだろう。自分もあの書類を見ておけばよかった、と後悔した。
くす玉にしても、電飾にしても、屋台にしても、相当な金を動かしているはずだ。
恐らくこの悪ふざけのあおりを受け、思いっきり搾取されたであろうあの口うるさい提督に、今だけは同情する。
「どや? たまにはこういうんも、ええもんやろ?」
からからと笑いながら、横に立ったはやてが問いかけた。
この茶髪の娘の問いに対し、セフィロスは思考を己が内側へと向ける。
思えばこうして思いっきり遊んだのは、一体何年ぶりになることだろう。
5年前のニブルヘイム事件のあの日、彼の人生は一変した。
プロジェクトSによって生まれ落ちた、浅はかな人間達の欲望の結晶――ジェノバ細胞を持つモンスターもどき。
自身の境遇を呪ったセフィロスは、苦難の果てに、そのエイリアンの意志を受け入れた。
敵は星にはびこる全ての人間達。味方は当の昔に滅んでしまった。
たった1人残された阿修羅の、孤独な戦い。
種族の使命を一心に背負った5年間に、心の休まる瞬間は一瞬たりとも存在しなかった。
それが今、こうして羽を伸ばしている。新たにできた仲間達と共にふざけ合っている。
「……かもしれんな」
共に笑顔を浮かべる、漆黒と空色の浴衣姿が、並んで立っていた。
そしてそんな花火の筒が並べられた場所では、
「フン……まぁさすがに、俺は場違いといったところか」
僅かに自虐的な笑みを浮かべながら、白銀の体毛と黄金のたてがみを持つ人狼が、せっせと花火を空に打ち上げていた。
アニメだとオカマの人マダー?支援
【特報】
世界は選択肢によって成り立っている。
もしもこの場所でこの道を選んでいたならば。
もしもあの時にこの行動を取っていたならば。
それは二択かもしれない。三択かもしれない。あるいは十択。二十。三十。百以上にも。
あらゆる無数の選択肢が、世界を無限に細分化させていく。
何が本物なのか、何が贋作なのか。
何が一次なのか、何が二次なのか。
何が本筋なのか、何が伏線なのか。
そこに差異はなく、ただ等しき価値のもとの世界として、それぞれがそれぞれに在り続ける。
この世界はあの世界の偽物ではない。
そして、あの世界を否定する真実ではない。
これは、選ばれなかった選択肢の元に展開される、望まれなかった結末へと帰結した、
もうひとつの「■ー■■■■ ■■の■■■」の物語である。
「日本人よ――私は帰ってきた!」
―― コードギアス 反目のスバルR2 ――
2009年、制作決定
「行くよ……マッハキャリバー!」
『All right,buddy.』
あとがきでさるさんorz
一応どなたか代理投下してくれると嬉しいです
352 :
反目氏代理:2008/07/07(月) 20:17:41 ID:6h/228qZ
はやて「ところで、セフィロスさんは何を願ったん?」
セフィロス(言えない……「人類抹殺成就」だなんて、絶対に言えない……)
そんなわけで、投下終了。時系列の異なるディアス以外は全部登場の、反目作品オールスター的な内容です。
今回は片翼メインで書かせていただきました。
久々に書いてみたのですが、やっぱりはやてとセフィロスのコンビは書いてて楽しいw
殺生丸とギンガがなんか和解してるような雰囲気なのは……次のリリ殺を書いてからの方が分かりやすかったかもしれません。反省。
あと、告知について。
ギアスR2クロス、皆様もご存知の通り、最初は連載するつもりはなかったのですよ。
でもね……すまん、見ているうちにどうしても書きたくなってしまった(ぉ
そんなこんなで連載決定です。とはいえまだ原作放送も半ばですし、
自分もリリ殺書いた後にはシャニウィン残り半分、更にその後に1つ書きたいA'sクロスがあるので、開始はまだまだ先になりそう。
ともあれその日になるまで……
ゆっくりしていってね!!!
//
最後だけさるさんくらうとかorz
どなたか代理投下お願いします
353 :
反目氏代理:2008/07/07(月) 20:19:15 ID:6h/228qZ
以上です
GJ!
反目氏は作品完結させるの早いっすね
反目氏乙&GJです
9時ちょっと過ぎ位から投下したいのですが、よろしいでしょうか?
GJ
新制作は来年になってしまうのか
まあ、手広くやりすぎるのも困りものですし
ゆっくりした結果がこれだよ!にならないことを期待しますw
カオス七夕GJ!
イベントで混沌としたネタがとても面白かったですよ〜。
そして反目R2も楽しみ〜!
GJ!
相変わらずはやてはトラブルメーカーとして優秀ですねw
ギアスのクロスも楽しみにしてます
GJ!
しかしセフィロスも相変わらずなw
そろそろ時間になりましたので、投下します。
魔法少女リリカルなのは ULTRA SEVEN story
第二話 ランナウェイ
それは太陽のように熱く、太陽のように真っ赤な巨人であった。突如として現れた
巨人は咆哮をあげる怪獣に勇猛果敢に迫り、怪獣も巨人の接近に気がついたのか、
今以上の雄叫びをあげ、巨人を迎え撃つように走り出した。二つの巨体が走るたびに
地響きがおき、周辺の森に住む動物が騒がしく暴れ、逃げ出してゆく。
巨人は理性を殆ど持たない怪獣に飛び掛り、肩を掴んで身動きを封じようとした。
しかし、怪獣も大人しくするはずも無く、大きく体を揺らすと巨人の腕を振り払う。
さらにそれが気に触ったのか、短いが太く強靭な腕を巨人目掛けて振り下ろす。巨人
はすぐさま振り下ろされた腕を受け止めると、そのまま怪獣の腹に蹴りを入れ、怯んだ隙を狙って怪獣の頭に何度もチョップを食らわせる。
『ダァアア!』
『ゴオオォォォ!』
「こんな巨大な戦いがあるなんて……」
「真竜クラスの竜でもここまで巨大なものは存在しません。これが……怪獣」
両者は雄叫びを上げ、肉弾戦を続ける。そんな光景を目の当たりにしたエリオ
とキャロは愕然とした。今まで巨大な生物同士の戦いといえば、キャロの竜の
一匹、ヴォルテールと白天王と呼ばれた生物だけだろう。それでも二匹の身長
は15m程度、しかし目の前で繰り広げられる戦いは40m以上の生物の戦いであり、
スケールが違った。
怪獣の存在そのものは昔から確認されていた。現存する生物がなんらかの当然変異
を遂げたものなのか、それともロストロギアなどで生み出されたものなのか、はたまた
怪獣そのものがロストロギアとも言われ、管理局でもその生態の調査はなされていた。
しかし確認された固体数は少なく、また保護も捕獲も難しい怪獣の生態は未だ不明の
ままでいた。今回の密猟団の摘発により保護された怪獣がミッドチルダに輸送されず、
現地で預かっていたのはそういった危険性があるからである。
「ユーノ先生、あの怪獣、どうするんですか? まさか、殺したりは……」
たとえ暴れまわる怪獣であっても元々は密猟され、自分の意思とは関係なしに
連れてこられた怪獣に非はないだろう。不安げに問いかけるキャロにユーノは
安心させるように微笑みながら答えた。
「大丈夫、多少手荒いことはするけど、大人しくさせるだけだから」
「そうですか、よかった」
その答えに安心したのかホッと胸をなでおろすキャロ。
同時に巨人と怪獣の戦いも佳境を迎えていた。巨人から次々と繰り出される
スピーディな攻撃に対応できない怪獣はしだいに動きが鈍くなっていた。それ
を見計らってか、巨人は怪獣との間合いを取り、両腕をあわせるとその先から
リング状の光線を発射した。光線が命中した怪獣はまるで電撃が走ったように
体を痺れさせるとゆっくりと倒れ、目を閉じた。気を失っただけらしく、息は
あった。まるで暴風が吹いているような音を出しながら息をしているのがその
証拠である。
巨人は倒れた怪獣を持ち上げると、そのまま宙に飛ぶ。数十トンはあるはず怪獣
を軽々と持ち上げ、さらに飛行まで可能とする巨人の能力に驚きである。巨人は
一気に速度を出して何処かへと飛んでいってしまう。
「あ、巨人が……」
「エリオ君、本部に戻ってくれないかな。セブンもそこに行っているはずだから」
「セブン? わ、わかりました」
エリオはユーノに言われたとおりにフリードに指示を出す。移動を開始して数分
とたたないうちにエリオは気になっていたことをユーノに質問した。
「ユーノ先生、一体、あの巨人は何者なんです? 先生は何か知っているよう
ですし、それにどうして管理局の魔導師が僕たちを襲ったんでしょうか? 本部
とも通信が取れなくて、さらに保護した怪獣が外に出て暴れて……第一、今朝の
ニュースでユーノ先生は行方不明って聞きましたけど」
「う〜ん、一度に説明するのには時間が掛かるかな。あの巨人の名はウルトラ
セブン、僕はセブンに助けられここにいる。怪獣のことや局員のことは保護隊
本部についてから説明するよ。とにかく、僕たちはまたとんでも無いことに巻き込まれてしまったのさ」
「とんでもないこと……ですか?」
***
「これは……」
「酷い、私たちがいない間にこんなことになっていたなんて」
約一時間掛けて、本部へと帰還したエリオとキャロが見たものは戦闘が行われた
痕跡がある本部の姿であった。半壊した本部の周辺には恐らく先ほどの怪獣が
暴れたためか酷く荒らされていた。ふと、そのときユーノがセブンと呼ぶ巨人と
その巨人に運ばれたはずの怪獣の姿が無いことに気がついた。
「ユーノ先生、巨人と怪獣は一体どこへ?」
「怪獣が保護されていた場所にいると思う。その前にコイツらをどうにかしないとね。一先ず降りよう」
その後、荒れた地面に降り立った三人。その際キャロはフリードを幼竜の姿に
戻した。三人は気絶し、バインドを掛けられている局員を半壊した本部に運んで
いく。さすがに身内組織の人間を牢に入れるのは気が引けたが、用心のためである。
ここでも違和感があった。誰一人として保護隊の人間と出会わなかったのだ。
「隊長も皆も一体どこに行ったんでしょう?」
疑問に思ったことをつい口にするキャロの言葉にユーノがすぐさま答えた。
「他の牢にいるよ」
「え、どうしてです!?」
「彼らと同じさ。怪獣を解き放ったのもここの人間だ」
「そんな、一体どうして?」
「操られていたんだ」
『え?』
突然三人の後ろから聞き覚えの無い声が返ってきた。振り返るとそこには見知らぬ
青年が立っていた。エリオとキャロは警戒するがユーノは反対に親しげに話しかけていた。
「カザモリさん、怪獣は?」
「あぁ、眠らせて保護区に戻した。他の二体も無事だ。恐らく、この密猟騒ぎ
は囮だろう、そうでなければここまで大げさな行動には出られない」
「一応、局員は牢に入れておいたけど」
「気を取り戻したら、様子を見よう。大丈夫なようなら協力を仰ぎたい」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
突然、エリオが二人の会話に割ってはいる。事情がよく飲み込めなかったため
である。突然現れた謎の男はどうやら敵ではないようだが、自分たちは彼のこと
を良く知らないのだ。一体どういう関係なのかを聞き出したかった。
支援
「ユーノ先生、この人は一体誰なんですか? 局の人でもないようですし、それ
に囮とか操られているとか……」
「あぁ、ごめんごめん。彼はカザモリ・マサキ、僕の命の恩人さ。彼の言うとおり、
彼らはなんらかの精神操作を受けている。さっきの騒ぎもそのせいさ」
「命の恩人? ユーノ先生、さっきはあの巨人に助けられたって……まさか!」
「カザモリさん」
「別に構わない。『今』は隠す必要はないからな」
カザモリの了承を得て、ユーノはカザモリの事と自分が何故ここにいるかを説明
を始めた。
「二人とも、ニュースで僕が行方不明になったことは知っているよね? 実は
僕も局員に襲われたんだ。あまりにも突然だったから、抵抗も出来なくて、
バインドを掛けられたんだ。なんでこんな事をって言ってみたんだけど、答えて
くれる訳も無くてね、無限書庫をあさり始めたんだ」
「無限書庫を?」
「あそこの情報量は半端じゃないからね。敵もそれを狙ったんだろう。僕を捕
らえたのも情報を引き出すために利用しようとしたんだろう。もちろん、僕は
拒否したけどそしたら次は実力行使にでようとしてね、僕は抵抗できない状態
だったし、万事休すかと思った時に彼が来たんだ。それからはすごかったなぁ、
敵も彼の出現に浮き足立ってしまって、一瞬で撃退された。その時は何がなんだ
か分からなかったんだけど、とりあえず、書庫にプロテクトを掛けて、彼と一緒
に逃げたんだ。その後ごらんの通りさ」
「そんなことが……それじゃ、ミッドの地上本部の局員は全員操られているんですか?」
「いや、今頃は全ての局員が入れ替わっているだろう。そして、ここでも同じ
ようなことが起きたに違いな。ここは保護隊とは言え、そう簡単に局員全てが
操られるとは思えない。敵が侵入していると見て間違いないだろう」
エリオの質問に答えるようにカザモリが言った。操られているや入れ替わって
いるなども気にはなるが、敵というのが一体何のかエリオは知りたくて、問う
ように返事を返した。
「敵……ですか?」
「あぁ、エリオ君と言ったね、キャロちゃんでもいい。ここ最近で妙に挙動が
大人しくなった者や、ボケっとした者はいないか? とにかく、普段とは何か
違う局員がいないか思い出して欲しい」
「ン……特に無いですけど……キャロは?」
「私も……皆さん普段と変わった様子はなかったと思います」
「そうか、ありがとう」
急にそのようなことを聞かれても、一々他人の挙動を細かく観察するものなど
そうはいない。よほど観察眼が鋭いか物好きなだけである。ある程度は予想して
いた答えだったのか、特に気にした様子もなく、カザモリは軽く礼を言った。
「カザモリさん、もしかしたら、ここにはもういないんじゃないかな?」
「かも知れないな。港に逃げたか……」
「あ、そういえば、ユーノ先生、港は封鎖されているはずなのに、どうしてここへ?」
エリオはふと思い出し、ユーノに問いかけた。港の封鎖の主な原因は世界を
繋ぐ次元間が不安定だということである。そんな状態で次元航行艦は運行で
きない。下手をすれば未開拓地に飛ばされるか、永遠に次元間を彷徨う事に
なるのだから。そんな危険な状況下にあるにも関わらず、ミッドチルダにいた
はずのユーノがいるのはほぼ不可能である。
「港は封鎖されていない。まぁ言い方を変えれば封鎖されているともいえなくはないか……」
「どういうことですか?」
次はキャロが質問した。
「さっきも言ったが地上本部とやらの局員は全て異星人によって占拠されている。
人知れずな」
「異星人?」
「宇宙人って事ですか?」
「キュクルー?」
二人と一匹が頭をかしげる様は中々可愛らしいものがあった。カザモリはフッと
笑みを浮かべると、すぐさま真剣な顔つきに戻る。
「問題はこれからどうするかだが……」
「一度、ミッドチルダに戻ってみないか?」
「危険だと思うが?」
ユーノの提案にあまり賛同的ではないカザモリ。しかし、危険だということは
ユーノも理解しているはずである。それなのにそういう提案をするということ
は考えがないわけではないのかも知れないと、カザモリは聞き返した。
「何か考えがあるのか?」
「一応ね、もしかすると彼女たちも捕まっているかも知れないけど、心強い味方がいる」
「彼女たち?」
ユーノの言う彼女たちと誰なのかはカザモリは知らない。しかし、エリオとキャロ
には心当たりがあった。確かに、彼女たちならこれと無い味方になるのは当然だろう。
「元機動六課のメンバー!」
「確かに、皆さんなら心強いです!」
「正解、地上本部になら、なのはやはやて、ヴォルケンリッターたちがいるはず
だ。彼女たちならそう簡単にやられるとは思わない。どちらにせよ、ミッドチルダ
の現状を知らなければ、奪還も出来ない。出来る限り、協力者を集めたい」
「ふむ……俺はその機動六課という部隊は知らないが、君たちがそこまで言う
人材が揃っているのなら期待は出来るな。保護隊の人間が目を覚ましたら、彼ら
にも協力してもらおう。たった四人で敵の本拠地に乗り込めば、返り討ちにあう」
「わかった。港も奪還しなければいけないしね」
***
「……ッ!」
同時刻、ミッドチルダ地上本部にて、大勢の局員に囲まれていたはやてと
リイン。いつの間にか周りを取り囲んでいた局員に気がつくのと局員たちが
デバイスを構え、魔法を発動しようとする瞬間はほぼ同時。
「捕らえよ、凍てつく足枷!」
凍てつく足枷・フリーレンフェッセルンは本来、設置型の凍結・拘束魔法で
あるが、リインはそれを周囲の局員にぶつけるように放とうとするが、地上本部
の空気中の水分はあまり多くはない。それは地上本部の空調管理による温度や
湿度の調整によるものだ。その為、人間にとって程よい湿度でもフリーレンフェッセルン
を発動させるには条件が厳しい。ベルカ式魔方陣が現れても氷を精製するのに時間が
掛かってしまった。主を守ろうとするリインのとっさの行動だったが、あまりにも
突然のことそのことを忘れていたのだ。
その隙を狙って前方を固める局員のデバイスから射撃魔法が放たれてしまう。
直後に魔法を放った局員は凍結されるが、すでに手遅れである。
「マイスターはやて!」
「リイン!」
「やらせん!」
まさに疾風のようにとはこのことである。局員たちの頭上、正確に言えば天井
を駆け、現れた蒼き狼。瞬時に強固なシールドを発生させ、主を攻撃から守る。
感極まるはやてとリインは現れた狼の名を叫んだ。
『ザフィーラ!』
「この盾の守護獣、主に指一本触れさせはせん!」
そして現れたのは盾だけではなかった。突然、左右の局員たちが一瞬にして
吹き飛ぶ。右側の通路には長剣を構え、左側の通路には鉄槌を構えた騎士が
立っていた。
「シグナム!」
「主を守るのが我らの務め、ご無事で何よりです」
右側の騎士、シグナムははやての下に駆け寄り、彼女の言葉に答えるように
返事を返した。
「ヴィータちゃ〜ん!」
「おいおい、泣くなよリイン」
左側の騎士、ヴィータは泣きながら、飛んでくるリインを受け止めながら、
シグナム同様はやての下へと駆け寄る。現れたのは剣、主の敵を打ち砕く剣たち
であった。そして、もう一人。
「おのれ……ギャッ!」
奇跡的に無事だった右側の局員の一人が震える手でデバイスを構えるが、魔法
を放つ瞬間に頭部に分厚い本が直撃し、気を失う。そこには虚空から伸びる手が
あった。一見、奇妙な光景だが、はやてにはそれがなんなのか分かっていた。
「遅いぞ、シャマル」
「シグナムが早すぎるのよ〜」
えげつない攻撃で局員を倒したのが癒し手であるシャマルであった。シグナム
に文句を言いながら、はやてに駆け寄るとすぐさま怪我が無いかを確認する。
「良かった、怪我はないみたいね。ごめんなさい、遅れちゃって」
「皆、よう来てくれた!」
「我らヴォルケンリッター、主の危機に黙っているわけには行きません。主はやて、
現在この地上本部は危険です、一旦本部を抜け出します」
「うん、そうしたほうがえぇみたいや。よう分からんけど、地上本部は墜ちた
と見てえぇみたいや」
はやてが了承すると同時に周りが騒がしくなる。恐らく増援だろう。しかし、
今度ははやてがデバイスを起動させる時間は十分にあった。眩い光に包まれ、
はやては騎士甲冑に包まれ、同時に指揮を取る。
「シャマル、接敵まではどれ位?」
「この距離だと五分……いえ、向こうも急いでいるから、三分!」
クラールヴィントのセンサーを最大に発揮し、周囲の状況はシャマルの手の中
にあった。どこに敵がいるのか、どこから攻めてくるのかなども彼女には逐一
クラールヴィントから情報を得ていた。
「正規の脱出ルートは封鎖されとるはずやから、私の部屋の窓から逃げる。その前に、
隔壁を閉鎖、進行を遅らせる!」
はやてはすぐさまデスクの端末を起動させ、周囲の隔壁を下ろさせる。本来
なら警備室からの操作でなければ、いけないのだが、はやてを含め、一部の
局員のデスクからならば、その周囲のみの隔壁を閉鎖が可能である。その後、
隔壁が降りる音が響くが……
「はやてちゃん、隔壁が上がっているわ!」
センサーのよって、それを確認したシャマルが叫ぶ。
「チッ……警備室も墜ちとったか……皆、長居は無用や、脱出するで!」
『了解!』
六人は一斉に窓から外へと飛び出す。はやてを中心にリインははやての肩に
ザフィーラとシャマルが彼女の左右に付き、さらにその前をシグナムとヴィータが固める。
「ヴィータ、本部を壊さん程度に攻撃!」
「あいよ、アイゼン!」
『シュワルベフリーゲン』
威力を抑えたヴィータの誘導弾が本部の壁を直撃する。すると、はやての部屋
の警報がなり響き、窓の隔壁が降りる。これは外から襲撃を想定したものである。
誤認を防ぐために特定の攻撃、たとえば魔法による攻撃に反応して隔壁が下ろさ
れる。この隔壁はたとえ警備室でも解除には時間が掛かる。これである程度の時間稼ぎが出来る。
「どこへ向かいます?」
シグナムの問いかけにはやてはすぐさま答えた。
「局の関連施設は全部墜ちとるはず。一先ず、聖王教会へ。多分、カリムは
この事件の事を予測しいてたはずや。教会騎士団もおるし、対策はとっとる
はず。そう簡単に墜とされるとは思わへん」
「しかし、教会からなんの警告が無いというのは……」
「情報を遮断されとったか、その時、すでに本部は墜とされとったか……教会
が手を出そうにも、局が問題無いと言えば手が出せへん」
局員の様子を見る限り、教会からの警告も了承しつつなんの対策もとっていない
ことは明白、とるはずが無い。はやての下に情報が届かなかったのも情報操作が
なされていたのだろう。
「味方の本拠地から逃げるか……奇妙なもんやね」
「二年前よりも酷い状況です」
「局の怠慢のせいじゃねーのかよ?」
ヴィータの言い分も正しいのかも知れないが、はやてはどうしてもそれだけ
とは思えなかったのだ。いくら管理局が怠慢していると言え、そう簡単に本部
が乗っ取られるとは思えない。
「とにかく、カリムの所に行けばある程度分かるはず……急ぐで!」
味方に追われるという奇妙な逃避行の始まりであった。何故なのかという疑問
が残るなか、はやてたちは飛び続ける。
そして、今日この日より、人知れず、全次元世界の平和を守るはずの管理局地上
本部は墜ちたのだった。
投下終了です。
前回思いっきり題名を忘れていました。
題名は魔法少女リリカルなのは ULTRA SEVEN storyです。
それから、もしよければまとめの方への更新をお願いします。
GJ!
なんだか凄い状況ですね……。
皆が合流する日が楽しみです。
近々フルメタ×なのはをやってみたいと思います
テスタロッサの名前とか変なクロスオーバーは無しでやります
>>368 で、だから何?
誘い受けは嫌われるよ。
と、釣られてみる
GJしかし公的機関の中枢が停止するってすごいパニック引き起こすと思う
GJ!
はてさてこんな事態になってしまってこれからどう相成りますやら
30分から代理投下をしたいのですが、今予約などございませんね?
ざっと目を通してきましたが、大丈夫なようなので行かせていただきます
======
魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者
第八話
「自由になりたい」
「ほぉ・・・これが『イレイン』か・・・・」
目覚めた私が最初に聞いたのは、男の声だった。
そして、目を開けて最初に見たのも男だった。
目に付いたのは3人、一人は緑色のスーツを着たいかにも『俺は偉い』と主張しなければ生きていけない様な男と
私を目覚めさせたと思われる白衣を着た男達。
白衣を着た男達は、やり遂げた満足感を隠す事無くさらけ出しながら興味丸出しで私を見つめ、
緑色のスーツを着た男は美味しそうに右手に持った葉巻を吸いながら、純粋にいやらしい瞳で自分を見つめていた。
目覚めた私が、最初に願った事は一つだった。
「この男が主でありませんように」
だが、その願いが叶う事は無かった。
それからは、主である安二郎は私という存在にこの世界の文化、基礎的な知識、私が目覚めた目的、そして自分の偉大さを教え込ませた。
おそらく主や自分を目覚めさせた研究者達は、私が生まれて間もない赤ん坊程度の知識しか持っていないと思ったのだろう。
その時点で、彼らは『イレイン』という存在、そして『自動人形』という存在にどれだけ無知だということが分かった。
「(十中八九、強くて何でも言う事を聞く便利な僕だとおもっているのでしょうね・・・・めでたいわ)」
正直、こんな主に仕える気など微塵も無かった。いや、元々『イレイン型』は他の自動人形とは違い、自我を強く持っている。
そのため、自動人形でありながらも、主に使える、主の命に従うという行為に縛られる事も無く気の向くままに行動できる。
無論、気に入らなければ、主を殺すことだって出来る。
イレインも当初は主である安二郎を殺してしまおうかと思ったが、ある二つの理由が彼女の行動を思い止まらせた。
一つが、今の環境である。
生きていくための最低限の知識(といっても、サバイバル知識や言語、そして行えば必ず捕まる犯罪行為の数々)は備わってはいたが、
この世界の文化や日常生活での知識は全く持ち合わせていなかった。そのため、ここで受けらえる教育は無視する事が出来ず、自分が必要だと思った所だけは学ぶ事にした。
そして何より、ここでは衣食住が保障されている。正に『裸一つ』の私がこの場から逃げないのに十分な理由だった。
もう一つが私に掛かっている『リミッター』だった。
おそらく初期イレインの事件が発端だったのだろう。目覚めた私には『リミッター』が掛かっていた。
このリミッターがある限り、主人である安二郎を殺す事はできない。
奴の影響力は、ここで生活をしている内に嫌といううほど理解できた。だから仮に脱走などしても、直に捕まってしまう。
偶然にも、リミッターの解除コードは既に知る事ができた。『自分への侮辱行為』という何とも間抜けな解除コード。
それを知った時は、直にでもリミッターは解除されると思っていた。ここで学んでいると、安二郎の悪名も自然と聞くことがあったからだ。
だが、リミッターを解除するには、安二郎に直接侮辱行為を行わなければならなかった。
当然、影で安二郎の悪口をいう連中も、本人に向かっては決して言わなかった。皆、自分の命や生活を犠牲にしてまで、本人の目の前で口を開く筈がない。
だが、一人だけいた。安二郎の目の前で堂々と、悪態をつける人物が。
「ふ〜ん・・・・・ここが月村忍の屋敷ね・・・・」
私に関してはある程度の自由行動は許されていた。今まで大人しく安二郎を主として接して来たため、向こうも逆らわないと確信したのだろう。
そのためか、奴は私が決して裏切る事がないと確信し、私を一種の『放し飼い』にしていた。
だからこそ、此処へ来る事が出来た。私は見てみたかった、権力や影響力などの力を微塵も恐れないで安二郎と対立する『月村忍』の姿を。
「申し訳ありませんが、忍殿達は未だ就寝中。メイド長のノエル殿でしたら起きていますが?ご案内いたしましょうか?」
さすがに早朝だったためか、『月村忍』は眠っており、会う事は出来なかった。
彼女が作った西洋の鎧の様な物を来たロボットに軽く警告を含んだ別れの挨拶をした私は、安二郎の屋敷へと戻った。
特に焦る必要は無いと思った。また来れば良い。そすうれば、またあの子猫とも触れ合う事が出来るし、あの甲冑を着たロボットとも話ができる。
そんな楽しみを抱えたまま、私は足取りを軽くし安二郎の屋敷へ帰った。
「まさか・・・・・こんな事になるなんてね・・・・」
壁に背を預け、両腕を組みながらイレインは目の前で行われている戦闘を見ながら、呆れたように呟いた。
確かに私は再びこの屋敷へと来た。だが、それは子猫と戯れるワケでもなく、あの甲冑を着た騎士と他愛も無い話をするためではない。
『月村家を襲撃し、ノエルとファリンを破壊する事』これが自分に課せられた命令だった。
だが、リミッターが外れた今の自分がこの命令に従う必要は無い。
本当なら散々主面をし、自分をべたべた触りまくった安二郎をこの手で切り裂いてやりたかったが、
自分を目覚めさせてくれた事と基礎的な教育、そして多額の資金(目を盗み拝借)という今後生きていくために必要になる物を与えてくれたため、
寛大な心で裏拳一発で済ませた。
ノエル達を攻撃しているのも、自由になった自分をほっては置かないだろうと考えたため。
だから彼女達には恐怖を植えつける。二度と私に関わりたくなくなる様に。
今ノエルは2人の量産型の自分と戦っている、既に一期は彼女のブレードの餌食となって破壊されているが、それでも2対1、
性能に関してもさほど変わらないため、勝負は目に見えていた。
これ以上見ても結果が見えていると理解したイレインは、眠そうにあくびをした後、体を大きく伸ばす。
「ん〜〜〜〜〜〜・・・・・まぁ、勝負は私の勝ち。同属のよしみで半壊で済ませてあげ(ファイエル!!!」
ノエルの叫びと共に、彼女の左腕は肘から先が飛び出し、量産型イレインの腹にめり込む。
俗に言う『ロケットパンチ』の直撃を受けた量産型イレインは、体をくの字に曲げたまま吹き飛び、後方で様子を伺っていた
もう一体の量産型イレインを巻き込み壁に激突、二機とも体を激しく痙攣させた後、機能を停止した。
「・・・・・・片付きました・・・・・・」
忍から予備の左腕を受取り、手馴れたて手つきで装着、イレインの方へとゆっくり体を向ける。
「・・・・へぇ・・・・伊達じゃないのね・・・・・こんなふざけた武器を持ってるなんて・・・・」
ノエルの目線を正面から受け止めたイレインはゆっくりと壁から背を放し数歩前へ出る。そして左腕にノエル達と同じブレードを装着
「・・・だけどね・・・・・そんな玩具でイキがってんじゃないわよ・・・・・旧型!!!」
見下すようにノエルを睨みつけたイレインは、床を蹴り、一気にノエルとの間合いをつめ、彼女の脳天目掛けてブレードを振り下ろす。
ノエルは咄嗟に右腕に装着しているブレードで防ぐ。ぶつかった瞬間、耳を劈く激しい金属音が鳴り響き、ノエルの足が大理石で出来た床を砕きながらめり込む。
「ご覧の通り・・・・同じタイプの機械ならね・・・・・旧型より・・・・新型の方が強いって・・・・わかったでしょ!!?
こんな漫画をパクッたふざけた武器なんかつけったて、所詮は(違う」
明らかな否定の声、その声を発したノエルは、初めてイレインを睨みつける。純粋に、感情をむき出しにして
「この腕は・・・・忍お嬢様が一生懸命作ってくれた・・・何日も徹夜して・・・・図面を引いて・・・・・・私の・・・いえ、
私達の機械部品は、忍お嬢様の・・・愛で出いている!!!」
接触したままブレードを切り払い、イレインを吹き飛ばす。
「玩具でもなし・・・・ふざけてもいない!!!ファイエル!!!」
即座にイレインの着地地点を割り出したノエルは、再びロケットパンチを放つ。
先程の鍔競り合いで、ノエルは接近戦、特に力比べでは彼女にかなわない事が分かった。悔しいが、彼女の言う通り純粋な性能差だろう。
「(やはり・・・・プロトタイプや旧型が強いというのは、アニメや漫画だけの様ですね・・・・)」
なら方法は一つ、距離を開けて攻撃を行なうしかない。屋敷の地下にいけば、それこそブラックマーケットを開けるほどの重火器が此処にはあるが、
それをとりに行く暇も無いし、それ以前に彼女には通常の重火器はあまり効かないだろう。
だが、自分にはこの左腕がある。これなら距離も稼げるし彼女にも致命的な打撃を与える事ができるだろう・・・・だが、当たればだが
ノエルに吹き飛ばされたイレインは、空中で一回転した後ゆっくりと着地、再び斬りかかろうと前を見るが、
其処にはノエルの左腕が目の前まで迫っていた。
「っ!気持ち悪い!!!」
量産型イレインなら間違いなく直撃した攻撃を、イレインは何無く切り払い、無効にする。
真っ二つになり爆散した自分の左腕を悔しそうに見つめたノエルは、最後の一発となる左腕を瞬時に装着し、イレインの様子を伺う。
すると、イレインは突如右腕に巻かれていたロープの様な紐を解き、質を確かめるようにムチの様に振るう。
叩かれた大理石は砕け散り、その威力を存分に見せ付けるが、それだけではなかった。
「っ、高圧電流!?」
「そう。『イレイン型』のみが持つ特殊武装『静かなる蛇』。『インヒューレント・スキル』って言うらしいわ。見ての通り高圧電流を流した鞭、
自動人形でも、これは効くわよ〜!!!!」
欲しい物が手に入った様な笑顔で、イレインは静かなる蛇をノエル目掛けて振るった。
「(・・・確かに、電流は厄介ですね・・・・)」
最初の攻撃を横に飛び避ける、だが獲物を狙うかの様な柔軟さで迫る鞭に、ノエルは徐々に追い詰められていった。
高圧電流を帯びた鞭が床の絨毯に、そして窓のカーテンに当たり炎を発生させる。
接近戦所か距離をあけての攻撃も駄目、正直な所正に絶体絶命、負け戦である。だが
「(こちらの攻撃が効かないわけじゃない・・・・・捨て身ですが・・・・やってみますが)」
どの道、無傷で勝てるとは思っていなかった。いや、勝てるかどうかも怪しかった。だが、ここで自分が彼女を止めなければいけない。
彼女が破壊されれば、外でファリンが戦っている量産型も止まるだろう。そうすれば、全てが終る。
内心で決心をしたノエルは動くのを止め、真っ直ぐにイレインを見据える。
「ふ〜ん・・・・あきらめた?なら、御望み通りに・・・・」
諦めたと思ったイレインは何の迷いも無く、ノエルに静かなる蛇を振るう。振られた鞭は、無抵抗のノエルの体に巻きつき締め上げるそして
「破壊してあげるわ!!!!」
獰猛に微笑みながら、高圧電流をノエルに流し込んだ。
「ああああああああああああああ!!!!!!!!!」
ノエルの体は照明の様に光り輝き、彼女のメイド服は所々が千切れ吹き飛ぶ。そして数回痙攣した後、彼女は俯き、力なく床に倒れこんだ。
「・・・・・終ったわね・・・・」
先程とは違い、無表情で煙を上げているノエルを見据えたイレインは、静かなる蛇を再び巻きつけ、その場を後にしようと背をむける。
一歩、二歩と歩み始めるイレイン、彼女が5歩目の歩みを始めたその時
機能を停止していた筈のノエルは飛び起き、真っ直ぐに背を向けているイレインへと突っ込んだ。
ノエルはこの時を狙っていた、相手が勝ったと確信し、背を向けた瞬間を。
相手は気付いてはいるが、こちらを振り向く頃には懐に入れる、そして最後の一発を彼女の腹に打ち込めば
「(勝てる!!)」
イレインが振り向ききるまでに懐に入ったノエルは、左腕を握り締め、
「カートリッジ・・・×5・・・・フルロード・バースト」
わき腹に押し付ける。そして
「ファイエル!!!」
渾身の一撃を放った。
ノエルの渾身の一撃を受けたイレインは吹き飛び、体を壁に叩きつけられ機能を停止する・・・・・筈だった。
「へぇ・・・・お姉さま・・・結構姑息な真似をするのね・・・・」
確かにノエルの拳は放たれた。だが、その拳はイレインのわき腹にめり込まずに、月村邸の天上に大穴を開けただけだった。
目を見開き驚くノエルを、イレインは彼女の左肘を天上に掲げるように持ち上げながら、悪戯が成功した子供の様に微笑む。
「だけど、悪くはなかったわよ。こちらのセンサーに引っかからないように自分の生命活動を無理矢理止めるなんて・・・まぁ、自動人形だからこそ出来る芸当よね?」
ノエルは咄嗟に右腕のブレードで斬りかかろうとするが、瞬時にイレインが空いた手でその腕を押さえつける。
「残念でした・・・・・・さようなら!!!」
イレインはノエルの両腕を離すと同時に、彼女の鳩尾に容赦なく前蹴りを放った。
何の防御も出来なかったノエルは口から空気をありったけ吐き出し、壁目掛けて吹き飛ぶ。そのまま勢いをつけて壁に激突しようとした瞬間
「ノエル!!!」
ノエルの命令で今まで隠れていた忍が突然現われ、吹き飛ぶノエルを背中から抱きしめるように受け止める。
だが、それでも勢いは止まらず、そのまま二人は壁に激突、結果的に忍がクッションの代わりとなり、壁の激突によるノエルのダメージは無くなったが、
本来彼女が受けるはずのダメージを忍が受けることとなった。
「忍お嬢様!!なんで・・・・」
「何でって・・・・ノエル達が頑張ってるのに・・・・じっとしてられないわよ・・・・ゴフッ!!」
衝撃で内臓を痛めたのだろう、忍は口から血を吐き出し、ノエルのメイド服を赤く汚す。
ノエルは今すぐにでも忍を助け起こそうとする。だが、動こうとする彼女の前には既にイレインがおり、余裕の笑みで自分達を見下ろしていた。
「全く・・・夜の一族だからって無茶をするわね〜・・・ただ後先考えない馬鹿なのかしら?」
気絶した忍を小馬鹿にする様に見下すイレインを、ノエルは射殺さんばかりに睨みつける。
「・・・・何?その目は?」
自分を睨みつけるその瞳が気に入らなかったのか、イレインは見下す相手を忍からノエルへと変える。
「貴方は、豊かな心を持っているのに・・・・何も・・・・考えないのね」
「貴方よりはるかに考えてるわ、お姉さま。私はね、自由を手にする。誰にも縛られない・・・完全な自由を」
イレインはゆっくりとしゃがみ、至近距離から余裕の表情でノエルを見据える。
「召使いとして生きている惨めな貴方には理解できないでしょうね。貴方は所詮旧型、主の命令には絶対服従なお人形さん。
だから月村忍からは離れずに此処に縛りついている。貴方も私と同じだったのね、自由を得られない可哀想な子。
そんな腐れた人形根性を、否定するために生まれて来たのがこの私・・・・・最終方『イレイン』」
これで話は終わりといわんばかりに、イレインは立ち上がり立ち上がり、ブレードを構える。
「まぁ、同属のよしみで生かしてはあげるわ。外の量産型にも生命活動を停止させない程度に痛めつける様に命令したから死んではいないでしょう。
だけどお姉さまはしつこそうだから、もうちょっと恐怖を味わってもらいましょうか・・・・」
悔しそうに自分を睨むノエルの右肩に狙いを定めてブレードを振り被る・・・・そして
「先ずは右う(ドコォオオオオオオオ!!!!!!」
右腕を切り落とそうとした瞬間、突然硬く閉ざされた扉が吹き飛んだ。
イレインはノエルへの攻撃を中断し、扉の方に顔を向ける、そこには
「・・・・・あの時の・・・ロボット・・・・・」
イレインは見た事があった、自分が始めて月村家の屋敷を訪れた時、塀の落書きを一生懸命掃除し、自分に笑顔でまた来るように言った相手
「たしか・・・・ガンダムって言ったわよね」
ナイトガンダムが、剣と盾を構え、こちらを正面から見つめていた。
「・・・遅かったか・・・・」
扉を吹き飛ばし、部屋に入った瞬間、ナイトガンダムは悔やむように呟く。
彼が先ず目にしたのは口を血で汚しグッタリとしている忍と、そんな彼女を右腕だけで優しく抱きしめるノエルの姿。
今すぐにでも彼女達の元へ行きたかったが、自分を不思議そうに見つめるイレインに、ナイトガンダムは踏みとどまり剣を構える。
「・・・・・君がやったのか・・・・・」
「ええ、そうよ。貴方こそ忠告はしたわよね?ここから離れろって・・・・・どうしてまだいるの?やっぱり月村忍には逆らえない?」
「違う!!私は自分の意思でここにいる・・・・忍殿の恩義を受け、ここにいさせてもらっている・・・・」
挑発する自分の言葉を意に返さず言い返すナイトガンダムに、ノエルは先程のにやついた表情から一変、
不機嫌さを隠す事無く表し、ナイトガンダムを睨みつける。
「まったく・・・・・・かっこいいわね・・・・・・ムカつく程に!!!」
イレインは床を蹴り突撃、ナイトガンダムに斬りかかる。
「待つ・・・っ!!」
制止の声より早く振り下ろされるブレードに、ナイトガンダムは咄嗟にシールドで防ぐ。
激しい金属音が響くと同時に、ナイトガンダムの足が大理石の床を砕きながらめり込んだ。
「なんて力だ・・・・外で戦った者以上だ・・・・」
「まったく、私を量産型と一緒にしないで欲しいわね。だけど、その事を知っていて、尚且つ此処まで来たという事は
倒したんだ。なる度、戦闘も熟せるんだ・・・・だけどね・・・・力不足よ!!」
そのまま押し切ろうとするイレインにナイトガンダムは咄嗟にブレードを受け流し後ろへ飛び跳ねる。だが、
着地した途端、彼の体に静かなる蛇が巻きついた。
「残念、この武装は量産型には無かったでしょう・・・・このままショートしてしまいなさい!!!」
高圧電流が静かなる蛇を伝い、ナイトガンダムの体に流れ込む。
「ぐぁああああああ!!」
電流の光りに包まれながら、苦悶の表情を浮かべるナイトガンダムに、イレインはトドメと言わんばかりに、
彼が巻きついた状態で静かなる蛇をハンマー投げの様に振りまわし、壁に叩きつけた。
イレインの力と、振り回した事により発生した遠心力により、ナイトガンダムの体は激しい音と共に壁に浅くめり込み、
その後、重力に従いゆっくりと地面に叩きつけるようにして落下した。
「ガンダム様!!」
体から白い煙を発し、倒れこむナイトガンダムに、ノエルは痛む体を押し立ち上がり、助けに向かおうとするが、
彼女が近づくより早く、ナイトガンダムは剣を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がった。
「・・・へぇ、耐電処理でもされてるのかしら・・・・・なら、もう一度!!」
倒したと思った相手が予想を反し起き上がった事に、イレインは不愉快を隠さず表し、再び静かなる蛇を振るう。
獲物を狙う大蛇の様に、ナイトガンダムに迫る静かなる蛇、数秒後には再び彼の体に絡まり、高圧電流を注ぎ込む。
だが、ナイトガンダムは避けようとはせず、素早く背中に装着していた電磁スピアを取り出し、それで防御するように前に構えた。
「はっ?どういうつもりか知らないけれど・・・これで終わりよ!!」
静かなる蛇は電磁スピアに巻き付く。そしてイレインが高圧電流を流そうとしたその時、
ナイトガンダムは即座に電磁スピアを逆手に持ち床に深々と突刺した。その結果、静かなる蛇から流れ出た高圧電流は、地面に逃げることとなった。
だが、それだけに留まらなかった。
「ちっ!!こしゃくな真似を!!」
イレインは即座に電磁スピアに絡まっている静かなる蛇を取ろうとするが、電磁スピアは静かなる蛇の先端も一緒に床に突き刺さっていたため
取る事が出来ず、彼女が手間取っている隙に、ナイトガンダムはイレインに向かって跳躍、
「ムービー・サーベ!!」
上空で剣を振り、斬撃魔法『ムービー・サーベ』を放ち、電磁スピアとイレインとをつないでいる静かなる蛇を断ち切った。
メイン武装を失ったイレインは舌打ちをした後、即座に使えなくなった静かなる蛇を右腕に巻きつけ左腕にブレードを構える。
その直後、彼女目掛けて降下してきたナイトガンダムが、剣を振り被り、自身の力と落下のエネルギーを加え振り下ろした。
「はっ、騎士様は接近戦がお望み?」
メイン武装を破壊され、振り下ろされる実剣を目の前にしても、イレインは余裕の笑みを見せ、ナイトガンダムの斬撃を
左腕のブレードで軽々と受け止め、力任せに振り払う。
「(くっ・・・『ゼータ』での強化でも力負けする・・・・・なら)」
吹き飛ばされながらも、打開策を瞬時に考えたナイトガンダムは、空中で体を一回転させバランスを取り着地、即座に床を蹴り
再びイレインに斬りかかった。
イレインもまた、ブレードを構え床を蹴り正面から突撃をする。だが、彼女は先程と変わらず、余裕のある笑みで迎え撃った。
確かに『静かなる蛇』を破壊されたのは予想外だった。だが、先程の攻撃から、力では自分が勝っている事は理解できた。
あの魔法みたいな攻撃も、接近戦で距離を縮めていれば撃てない筈、仮に撃てたとしても、あの時の様に剣が発光するから直に分かる。
自分が攻撃を行なうには十分な隙だ。
「(ふふっ・・・・・間違いなく私の勝ちね・・・・・)」
これで自分は自由になれる。この子やノエル達も自分の恐ろしさを十分に知った筈。追いかけようとは思わないだろう。
彼女は自分の勝利を信じて疑わなかった。だが、その考えは直に打ち消されることとなる。
ガキッ!! キィン!!
静かなる蛇の放電により発生した炎が、瞬く間にホール全体に燃え移り、辺りを赤い光りと高温、そして焦げ臭い匂いで埋め尽くす。
「・・・ん・・・・」
そんな劣悪な環境の中で、月村忍は小さく唸り声を上げ、瞼を2〜3度小さく動かした後、ゆっくりと目を開けた。
彼女が最初に目にしたのは見慣れたホールの天上、そして直に自分を覗き込むように見つめるノエルの顔が彼女の瞳に写った。
「ノエル・・・・・私・・・・」
朦朧とする意識の中、忍はなぜ自分がノエルの膝枕の世話になっているのか考え、直に思い出した。
「っ!そうだ!!イレインは・・・っ!!」
無意識に立ち上がろうとするが、体を動かした途端に激しい激痛が襲い、彼女の動きを制限する。
「忍お嬢様・・・無理をしてはいけません」
体の痛みを隠す事無く顔に表す忍に、ノエルは申し訳ない気持ちで一杯になりながらも、彼女の体を優しく押し、
再び寝かせる。
「あ〜・・・やっぱり無理か・・・・これはアバラが数本逝っちゃってるわね・・・・」
「当然です!いくらなんでも無茶のしすぎです!!なぜ隠れていてくれなかったのですか!!?」
「だって・・・・・ねぇ。ノエル達が頑張っているのに、何もしないで隠れているなんて嫌だったし」
痛みを隠すように満面の笑みで答える忍に、ノエルは一瞬ポカンとするが、直に微笑み、
右腕で忍の髪の毛を優しく撫でる。
「ふふっ、こういう風に頭を撫でられたのは何年ぶりかしら・・・・・って!イレインは!!?すずか達は!!?」
このまま、再び眠ろうとしたが、周りの風景がそんな忍の行動を制止させる。
先ほどの様に立つ事はせずに、今度はノエルの瞳を見据え、忍は尋ねた。
「ご安心ください。先程ファリンと連絡を取りました。寸での所でガンダム様が助けに来てくださり、すずかお嬢様は無事です。
イレインに関しても、今ガンダム様が戦っております」
「ガンダム君が?」
ガキッ!! キィン!!
先程から聞こえるこの金属が激しくぶつかる音は、おそらく二人が戦っているからだろう。
忍は自然と首だけを動かし、音がする方へと顔を向けた。
一面炎に包まれているロビーで、二人は剣を交えていた。互いの刃がぶつかり合い、甲高い音と火花を撒き散らす。
ただ相手に一撃を食らわせるため、ただ相手の攻撃を防ぐため、彼らは炎に包まれているロビーを、恐れる事無く
動き回り、飛び跳ね、交差する。
激しいワルツを奏でるかの様な剣舞を忍はただ呆然と見ていた・・・いや見惚れていた。そして呟いた
「ガンダム君が・・・・押してる・・・・・」
「くっ!なんでよ!!」
ナイトガンダムが繰りだず斬撃を、イレインはブレードで受け止めながら否定の言葉を大声ではき捨てる。
こんな筈では無かった。勝負は直につく筈だった。
力では自分に分がある。その力を十分に振るえるブレードでの接近戦は、正に絶好の活躍の場。
だが、現実は違った。力の限り振り下ろす自分のブレードを、目の前の騎士はあっさりと受け流し
直に鋭い斬撃を繰り出してきた。
自分が一回振り下ろすたびに受け流され、その三倍の斬撃が自分に襲い掛かる。
正に勝負は彼女の思惑とは正反対に進んでいた。
ナイトガンダムが此処までイレインを押す事ができたのには、単に実戦経験と剣術の技量によるものだった。
確かにイレインはナイトガンダムに力では勝っている上にリーチもある。
だが、彼女の攻撃方法は、剣術や流派などが無い、その持ち前の力による『ごり押し』による攻撃のみであり、
剣術に精通しているナイトガンダムにはあまり脅威とはならなかった。
それでも、彼女の力と身体能力は厄介な事には変わりない。だからこそ、それらを今までの実戦経験と自身の剣術で補っていた。
今までの戦闘から相手の攻撃パターンを瞬時に予測、攻撃の流れから隙を見出し、斬撃を繰り出す。
相手の斬劇は、防ごうとはせずに受けながし無効にする。正にそれの繰り返し。
確かにイレインは戦闘に関してはずば抜けた性能を持っている。だが、起動したばかりで、尚且つ戦闘経験を積んでいない彼女には
自身に備わっている力で押し切る攻撃しか出来なかった。
無論、普通の相手にならそれでも十分通用する。だが、剣術の心得があり、幾多の実戦を経験したナイトガンダムには
力任せに攻撃を繰り返すイレインの動きは正に素人。受け流す事など造作もなかった。
荒れ狂う力を自身の技量と剣術で無効化する。
後に、彼の仲間である騎士アムロは、ガンダム族の騎士団にこう助言をする。
「力に力で対抗しては駄目だ、力には技だ」と
「なぜ君は戦う!!理由を教えてくれ!!」
「何!?戦闘中に質問なんて、余裕かましてるんじゃないわよ!!」
自分が必至に攻撃しているにも拘らず、目の前の騎士は平然と自分に質問をする事に
イレインは自分が不利になっている事を痛感させられる。
「私は自由になる!!自分の意思があるのに、自動人形として生まれただけで主の玩具になる生き方なんて
絶対いや!!私はね、ノエルやファリン、そしてあなたの様に主人のお手伝い人形として生きる気なんて無いのよ!!!!」
そうだ、自分は負けられない・・・負けたら自由が手に入らない・・・・・一生奴隷として虐げられる
支援
「違う!!!!」
不利と分かっていながらも、ナイトガンダムは剣を受け流さずに受け止める。
結果、鍔競り合いとなり、強化系の魔法を掛けていても徐々に押されていくが、イレインに言葉を伝えたいナイトガンダムは
それを承知で、彼女の剣を受け止めた。
「私やノエル殿、ファリン殿は自分の意思でここにいる!!やりたいからやっている!!決して命令などではない!!
君こそ、なぜこのような真似をする!!!君は本当は優しい人だ!!こんな真似は間違っている!!」
ナイトガンダムは思い出す、初めてイレインと出合った事を、あの時、愛おしげに子猫の頭を撫でる彼女の顔を。
ナイトガンダムの言葉に、イレインは目をそらし俯く。そして腹の底から声を搾り出すように、自分の思いを素直にはき捨てる。
「だって・・・・・仕方ないでしょ!!私が自由になるには、私という存在を知っている人物が邪魔になる!!
その人たちが私という存在を忘れるか、恐怖し、二度と関わりたくないと思わない限り、私は何時までも不自由な人形のまま!!
ねぇ!?私間違ってる?答えてよ・・・・・・答えなさいよ!!!!」
「・・・・確かに、・・・君の考えを実行したら、誰にも束縛はされないかもしれない。だが、君は自由を
手にする代わりに孤独になる・・・・・一人になる・・・・それでもいいのか!?」
「・・・そんなこ・・・・っ」
「そんなこと構わない」と呟こうとしたが、突然彼女の体に異変が起きた。
急激な疲労が彼女を襲い、満足に足を踏ん張る事も出来ずによろめく。
正直、イレイン自身にも何が起きたのか理解できなかった。無論、人間と同じ生身の部分を多く使っている自動人形にも
『疲れ』や『疲労』という概念は存在する。
だが、自動人形がそれらを体験するには、普通の人間の数十倍以上の労働でもしない限り起こりえない。
戦闘用に調整されたイレイン型なら尚更である。
「くっ・・・・・なんで・・・・なのよ!!」
原因不明の疲労に、イレインもどうして言いのか分からず、ただうろたえるしかなかった。
そしてその隙を、ナイトガンダムが逃す筈がなかった。
「もらった!!」
イレインの突然の行動に不審感を抱きながらも、ナイトガンダムはチャンスとばかりに、剣を腕とブレードの接合部に突刺した。
金属が砕ける音と共に、左腕に装着されていたブレードはイレインの腕から離れ、床に突き刺さる。
唯一の武器を失ったイレインは、どうにか距離を取ろうとするが、ついに満足に立つ事も出来ずに、尻餅をついてしまった。
「・・・・これまでだ・・・・・投降してくれないか・・・・・・・」
ナイトガンダムは警戒を続けながらゆっくりとイレインに近づいた後、剣を突き付け、投降を促す。
彼としても、無防備な女性に剣を突きつける様な真似はしたくは無かった。
だからこそ、内心で願う。彼女が投降してくれることを。
未だロビーが激しく燃えている中、互いが互いを無言で見据える。時間にして一分ほどの沈黙が続き、
ナイトガンダムが再び投降を呼びかけようとした時、
「・・・・・わかったわ・・・・・」
イレインは俯きながら呟き、右腕を差し出した。
心からホッとしたナイトガンダムは、剣を仕舞、差し出されたイレインの手を取る。そして
「・・・・・ごめんなさ・・・・・」
ナイトガンダムが彼女の呟きを聞いた直後、彼は右腕を掴まれ、力任せに壁目掛けて放り投げられた。
突然の事に唖然としてしまったために、何の防御も出来ずに壁に叩きつけられる。
顔を顰め、ゆっくりとずれ落ちるナイトガンダムの姿を、悲しげに見つめたイレインは、ゆっくりと立ち上がり屋敷の奥へと逃げ出した。
「くっ・・・・待つんだ・・・・」
力任せに叩きつけらたため、体の節々に痛みを感じながらも、ナイトガンダムは起き上がろうとする。すると
「大丈夫?ガンダム様」
先程まで、ナイトガンダム達の戦いを見守っていたノエルと忍が近づき、彼の体を助け起こした。
「ありがとうございます・・・・・二人ともご無事で」
「ええ、なんとかね。ありがとう助けてくれて。すずか達も無事だと聞いたわ。本当にありがとう」
心からお礼を言う忍に、ナイトガンダムは笑顔で答える。そして
「・・・・お二人は先に外へ出でください。私は、彼女を追います」
イレインが逃げた方へと体を向け早速行こうとするナイトガンダムを、忍達は慌てて止めに入った。
「ガンダム君・・・もういいのよ・・・・追う必要なんてないのよ・・・・イレインは逃げたし・・・」
忍にはイレインの末路が分かっていた。
あの時、突然動きが可笑しくなったのは、間違いなく『機動酔い』という自動人形特有の症状によるもの。
おそらく、安二郎はイレインを『機動』させるだけで、細かなメンテナンスなどを行わなかったのだろう。いや、行えなかったのかもしれない。
そんな状態でノエルやガンダムと戦ったのだ、無理が来てもおかしくはない。
本当なら直にでもイレインを迎撃するために追うべきなのだが、あの状態では長くは持たないだろう。
「・・・・イレインはもう・・・・・・だから追う必要なんて無い、ガンダム君も無傷じゃないんだら・・・・・」
「・・・・・申し訳ありません・・・忍殿」
ナイトガンダムはゆっくりと体を忍達の方へと向け、跪く。
「私は・・・・どうしても彼女のことがほっておく事が出来なのです。もし、彼女と始めて会ったのが今この場所でしたら、
私も忍殿の考えに賛成していました。ですが、私は知ってしまったのです。彼女の優しさを・・・本当の彼女の心を。
今から私は彼女を追い、説得してきます。ですからお願いです。彼女を・・・・・許してやってください・・・・・・」
深々と頭を垂れるナイトガンダムに賛同するように、ノエルも忍に頭を垂れた。
「忍お嬢様、私からもお願いします。確かに彼女が行ったことは許される事ではありません。ですが、もし私が彼女と同じ立場でしたら
忍お嬢様と出会わなかったら、私も・・・イレインと同じ道を歩んでいたに違いありません・・・・・私は彼女に味わって欲しくない
孤独という歪んだ自由を、そして味あわせてあげたいのです、暖かい居場所を・・・同契機として・・・いえ、姉として・・・・」
頭を垂れる二人に、忍は大きく溜息を吐く。だがその表情は笑顔に満ち溢れていた。
「わかったわ!ガンダム君、イレインを連れてきなさい。此処の片付けをさせた後、当分はファリンの下っ端として働いてもらうから」
「「忍殿(お嬢様)」」
「私は屋敷の消火システムを作動させてくるわ、ノエルは私とついてきて。あと、イレインの症状は一刻を争うわ。
だからなるべく早くつれてきてね・・・・それと」
忍は跪くナイトガンダムの元へと近づき、腰を下ろす。そして彼の両肩に優しく手を載せ、正面から瞳を見据える。
「必ず無事に帰ってきなさい・・・・・約束して・・・・・」
「御意」
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・畜生・・・・・」
壁に手をつき、息を荒げる。
彼女の機能は限界に達していた。数分前の激闘が嘘の様に、もう満足に動く事も出来ない。
もし今、ノエルやあの騎士『ガンダム』が追ってくれば、自分は間違いなく負ける。
「結局・・・・イレイン型といえども・・・自由を手にする事は出来ない・・・か・・・・・・」
足から力が抜ける。もう立つ事も出来ない。おそらく活動限界だろう。活動の停止・・・・・それは死につながる。
壁に背を預け、ゆっくりと腰を下ろす。周りには誰もいなかった。目に映るのは赤く燃え上がる炎。
「何だ・・・・・今の私・・・自由だ・・・・・・だけど・・・・・なんか・・・・違うな・・・・・」
確かに、今のイレインは自由だった。誰にも束縛されない・・・・・彼女が望んだ自由。だが、なぜか満足感に浸ることが出来なかった。
「やっぱりこんな状態だからかな・・・・・・・いや・・・・・違うな・・・・・・・・」
目を閉じ、自然と考え込む。
『・・・・確かに、・・・君の考えを実行したら、誰にも束縛はされないかもしれない。だが、君は自由を
手にする代わりに孤独になる・・・・・一人になる・・・・それでもいいのか!?』
「・・・・なんだ・・・・私・・・・寂しいんだ・・・・・孤独が嫌なんだ・・・・・・はは・・・馬鹿みたい・・・今になって・・・・」
辺りの炎がより激しさを増し、彼女を焼きつくさんとする。
「・・・あの子猫・・・元気・・・か・・・な・・・・・」
ゆっくりと、眠るように瞳を閉じた時、天上が崩落し、彼女の頭上に降り注ぎ・・・・・・そして
・数日後
「・・・ん・・・・・」
小さい唸り声を上げながら、イレインはゆっくりと目を開ける。
最初に目に入ったのは真っ白な天井。今の状況を理解できない彼女は自然とベッドから上半身を起こした。すると、
「ふぅ〜・・・・ようやくお目覚め?」
近くから聞こえる声に、イレインは咄嗟にベッドから出ようとするが、上手く力が入らないため、
上半身を少し動かすだけで終る。
「まったく、無茶しないの、貴方死ぬ寸前だったのよ」
忍は無警戒にイレインのベッドまで近づき、彼女の近くに腰を下ろす。そして
ビシッ!!
彼女の脳天に、手加減無しのチョップを叩き込んだ。
「な・・何するのよ!!!」
「これで今までの悪さは無かった事にしてあげるわ・・・・・この忍様の寛大な心に感謝しなさい!!」
腰に手をあて、胸を張りながら『えへん』と呟く忍に、イレインは覚めた瞳で見つめる。
「・・・・なんで・・・私を助けたの・・・・・・」
「あら?相手を助けるのに理由なんて必要?」
「私は真面目に聞いてるんだけど・・・・・」
冷めた瞳から一転、忍を射殺すように睨み付けるイレインに忍は溜息を一回、そして瞳を真っ赤に変色させ、
イレインを見つめる。
「本当はさ・・・・アンタの事なんかどうだってよかったのよ・・・・・いえ、私の大切は家族を傷つけたんだもの・・・・・
いっそ・・・・・死んで欲しかったわ・・・・・だけどね、ノエルやガンダム君が貴方の事を助けたいって頭を下げて頼むもんだから。
私はあの子達の願いを聞いただけ。後で皆に感謝しなさい。燃え盛る屋敷から貴方を救ったのはガンダム君なんだから、彼には熱いキスを与えても罰は当たらないわよ」
途中からニヤつきながら話す忍に、イレインは自分を此処まで運んでくれたという騎士の姿を思い出す。
あの時、朦朧とする意識の中・・・確か・・・誰かに抱きかかえられていた・・・・そしてその誰かは
必至に私に呼びかけていた。
『もうすぐだ!!』『死ぬんじゃない!!』そんな事を。
「後は貴方を修理して今にいたるわけ。生身の部分はさすが夜の一族の純血人の遺伝子を使っているから直に直ったけど、機械部品に関しては
見事にズタボロ。あの戦いでのダメージの筈は無いから元からね。まったく、よく戦闘どころか、まともに動けたわね。
ああ、今まともに動けないのはパーツが体に順応しきれていないから、まぁ、あと数時間経てば動ける筈よ」
ふと、イレインは、今まともに動かせる右腕をベッドから出し、肘を2〜3回曲げた後、ピアノを弾くように指を動かす。
確かにあの時の様な機能不全は全く無い。いや、初めて目覚めた時以上に体の調子が良い。
「(・・・さすがね・・・・・短期間でここまで・・・・)」
「不足パーツはノエルとファリンのを使ったわ。彼女達にも感謝しなさい。あと、安二郎・・・アンタの主に関してなんだけど・・・・・」
「やめて!あんなエロ親父・・・・・寒気がするわ」
「ふふっ、その物言いなら安心ね。あいつはね、脅迫・器物破損・不法侵入・恐喝・放火・etcの罪で檻の中よ。
リスティ・・・ああ、知り合いの警察がとても優秀でね、彼女も言っていたわ『叩けば埃はまだまだ出る』って。
それにあいつ、それらを素直に認めてるらしいわ。余程今回の事が効いたのね。あいつももう、私達に、貴方に関わる事は無いでしょう」
一応主といえる安二郎の末路に、イレインは特別な感情を表す事はなく、ただ『そう』とだけ呟いた。
リミッターも解除され、安二郎という存在からも開放された。もう自分を縛る物はない・・・・・いや
「で、月村忍。貴方の目的は、まさか、私を修理して御終いなんてことはないでしょう?」
おそらく月村忍は私を欲している、だから私を治したに違いない。だが、
「いえ、目的なんて無いわ」
忍はあっけらかんと即答した。当然イレインは納得できる筈が無く詰め寄る。だが、彼女が言葉を発しようとした瞬間、
忍が右腕の手の平で彼女の顔を覆い隠す様に遮る。
「あなた、自由になりたかったのよね?私はその考えを邪魔はしない。もし、貴方が斬る事大好きなクレイジー野朗だったら
そうもいかないけど、貴方も良い事悪い事の『常識』というのは持っている筈だし、それにガンダム君の推薦もあるからね。
だから貴方を束縛する事は絶対しない。私、月村忍の名に誓って約束するわ」
真剣に、自分を見据え、はっきりと誓う忍に、イレインは沈黙の後、溜息を一回、そして
「はぁ、真面目な顔、あまり似合わないわよ・・・・・忍お嬢様」
生まれて初めて笑顔を見せた。
「ふふっ、よろしい。それじゃあ本題に入るわね」
「本題?」
「そっ、貴方、此処で働きなさい」
部屋に沈黙が走る。先程のような緊迫した沈黙ではなく、一筆書きで書いたカラスが鳴きながら中黒を撒き散らす様な沈黙。
「あ〜・・・・一言言わせて貰うわ・・・・この嘘吐き野朗!!!」
「失礼ね!強制はしないわよ、ただ頼んでいるだけ。ちゃんと給料もあげるし休みもあるわ、理想的な職場よ。
それに〜、貴方が壊した物の修理や弁償もして欲しいし〜・・・・・いいのよ、『強制!!!』じゃないから」
『強制』という言葉を強く発言しながら詰め寄る忍に、イレインは苦虫を噛み潰した表情を隠す事無く表す。
「あ〜も〜わかったわよ!!ここで働くわよ!!此処を黒焦げにした事にも責任感じてるし・・・・・それに
此処の子猫達にも興味があるから・・・・・それに」
『やっぱり・・・・・一人は・・・寂しいからね・・・・』
「ん?何か言った?」
「なっ!?なんでもないわよ!!・・・・それと、ガンダムは何処?」
「何?愛の告白?」
「馬鹿!助けてくれたお礼を言いたいだけよ」
顔を真っ赤にし否定するイレインに忍はお腹を抱え、遠慮無く笑い出し、イレインはそんな忍を睨み付ける。
「あ〜ごめんごめん!!そんな顔しないで、ガンダム君ならお出かけよ、すずかの友達の家に」
・時空管理局本局
:資料室
戦闘機人
人の身体に機械を融合させることにより、常人を超える能力を得た存在。
天性の才能や、地道な努力により力や技を見につける「魔導師」とは異なり、人為的に体を作り変えることにより、安定した力を身に着ける事が出来る。
体を改造するため、身体能力も魔力強化を施した時と同等、もしくはそれ以上になるため、純粋な兵器としては優秀であり、
安定して数を揃えられるため、戦力の不足を補える事からも、兵器技術としては飛びぬけて優秀な技術である。
だが、本来身体機能の代わりを務める人工骨格や人造臓器を、兵器としての『身体能力の強化』に用いる事に技術的問題があった事や、
『正常な人間を改造する』とう非人道的な行為のために、今では違法技術とされている。
もっとも、完成の域に達したものはほとんど存在せず、旧暦時代、大規模次元震により滅んだ次元世界の住人が、
唯一完全な形として生み出したと古い記録にあるが、詳細は定かではない。
「・・・・・やはり・・・・・・」
一通り戦闘機人についての説明を読んだガンダムは、納得したように頷く。
以前の忍の説明から「もしや」と思った彼は、その疑問を解消すべく、リンディに頼み込み、本局内にある資料室を使わせてもれないかと頼み込んだ。
『調べ物をしたい』というナイトガンダムの願いに、リンディは快く了承し、彼に最新型の端末機械を貸し与え、この場所まで案内をしてくれた。
「しかし・・・・紙で出来た本が一冊も無いとは・・・・・」
改めて、自分が使っている資料室を見渡す。其処には分厚い本やそれらが詰まった本棚などが一切無く、
利用している全員が、ナイトガンダム同様、机に備え付けられているモニターに移る映像や説明書きを見ていた。
「本や資料をデータ化して一纏めにしていると聞いたが・・・・・どうも好きになれないな」
この世界に来て、ラクロアには無い様々な技術や文化と触れ合い、学び、その度に関心させられたが、
『本というのは、手に持ち、その厚みや重み、感触を味わいながら読む物』という考えを持つナイトガンダムには、この技術はあまり好きにはなれなかった。
「・・・・・とりあえず戻ろう・・・・イレイン・・・彼女の事も気になる」
教わった通りに、借りた端末機械に戦闘機人に関してのデータを入力したナイトガンダムは、席を立ち、資料室から出て行こうとする。すると
「あ〜・・・・君、ちよっと・・・・」
後ろから誰かに呼び止められたため、振り返る。
其処には、まだ少年と言って良い歳の、オレンジの髪の毛を持つ男性が、遠慮がちにナイトガンダムを見つめていた。
彼の顔を見た途端、ナイトガンダムは内心で『またか』と呟いた。
様々な次元を管理する時空管理局、その本局ともなれば、働いている住人は人間以外のものも決して少なくはない。
だが、それでも人間に尻尾や獣の耳が生えた『獣人』と言われる者が殆どであり、ナイトガンダムのような生物は
魔法や様々な生物が認識されているここでも、注目の的であった。
その度に、好奇心を抑えられない人に色々と質問をされたり、写真を取られたり、女性局員に抱きしめられたりと、
正に、てんてこ舞いな状況に陥っていた。
「どうしました?」
「あ〜・・・ごめん・・・君に興味を持っちゃってさ・・・・・おそらく他の人からも色々質問なんかを受けてるから
もう嫌だと思うんだけど・・・・・もし迷惑でなかったら・・・・話しとか聞かせてくれないかな?」
両手を合わせ、頼み込む男性に、ナイトガンダムは快く了承、『お礼に何が飲み物でも』という彼の言葉に甘えて
自販機が置かれている休憩所へと向かうこととなった。
・本局内休憩所
「では、ランスター殿は研修のためにこちらへ?」
「そう、執務官を目指す足がかりにするためにね・・・・・・これからレポートを書かなきゃいけない。理解はしてるけど大変だよ・・・・」
苦笑いしながらも、ティーダ・ランスターは自動販売機で買ったグレープジュースを喉に流し込んだ。
つられてナイトガンダムも同じ自販機で買ったスポーツドリンクを飲もうとするが、一口飲んだ後、顔を顰め、静かに缶を置く。
「・・・・・嫌いなのかい?なんでまたそんな物を?」
「・・・・これも・・・一種の訓練でして・・・・・」
真剣に悩むナイトガンダムの表情に、ディータは悪いと思いながらも小さく笑ってしまう。
そんなティーダを、ナイトガンダムは恨めしそうに見つめようとするが、彼の目はティーダの顔ではなく
彼の脇に置かれている綺麗にラッピングされた箱の方に行く。
ティーダも、直にナイトガンダムの視線に気付いたのだろう。ラッピングされた箱を丁寧に持ち、彼に見せるように持ち上げる。
「ああ、これね・・・妹へのプレゼントなんだ・・・・」
「妹さんとは、先程話に出て来たティアナさんですよね?」
「そう、とてもお転婆でね、『私もお兄ちゃんと一緒に局員やる〜』って騒いで・・・・兄としては、そんな物騒な道より、普通の勤め人になって欲しいね。
このプレゼントも、中身は玩具の拳銃。まったく、やっと6歳になったんだから、普通に魔法少女変身セットでも頼めば良いのに・・・・・」
両手でプレゼントの箱を玩びながら、ディータは淡々と呟く。
「やはり・・・・妹には・・・ティアナには・・・・・普通の生活を送って欲しい・・・・・ははっ、駄目だな。自分の考えを押し付けるのは良くない・・・」
「それは違いますよ、ランスター殿」
ナイトガンダムの言葉に、ティーダは自然と彼の方へと顔を向けた。
「貴方の考えは『押し付け』や『強制』ではありません。それは貴方の心からの『願い』です。本当に妹さんを、ティアナさんを思っているからこそ
自然と口に出来た、兄として、妹を大事にしたいという嘘偽り無い『願い』です」
微笑みながら語りかけるナイトガンダムに、自己嫌悪に満ちあふれいていたティーダの心は、次第に安らいでいく。
「それに、まだ時間はあります。お二人でゆっくりと話しあってみてはどうですか?」
「・・・そうだね。うん。少し先走りすぎた様だ・・・・・・反省しないと・・・・」
立ち上がり、飲み干したジュースの缶をゴミ箱に向かって放り投げる。吸い込まれるようにゴミ箱に入った事を確認したティーダは
小さくガッツポーズをした後、微笑みながらナイトガンダムを見据えた。
「本当にありがとう。君と話せて本当によかった。今度食事でもしようか?是非妹を・・・ティアナを紹介したい」
「ええ、楽しみにしています」
二人は再び再会することを約束するように握手をし、それぞれの場所へと向かった。
その後、ティーダと分かれたナイトガンダムは、ハラオウン家に帰宅するため、転送装置がある部屋へと向かう。
すれ違う人達に興味本位で見られる事にも慣れたもので、そんな彼らには笑顔で答えながら先へと進む。
「たしか・・・・次を左に曲がれば・・・・・・・」
先程、別れ際にティーダに教えられた、転送装置がある部屋への近道を思い出しながら歩み続ける。
そして、言われた通りに左へと曲がったナイトガンダムは、転送装置部屋の扉と、
その近くで蹲って泣いている一人の少女を見つけた。
「うっ・・・・ひくっ・・・・・」
少女は泣いていた。年齢からして4〜5歳の少女。
本局には体の検査で、2つ年上の姉と、最近母親になった女性と一緒に来ていた。
自分の検査は終わり、姉の検査が終るまで待っているようにと言われたのだが、此処にはまだ数回しか来ておらず、
姉の検査が終るまで暇だったため、『少し位は』と思った彼女は、一人本局内を探検する事にした。
だが、見る物全てが新鮮だったため、彼女は我を忘れて見入ってしまい、結果、見事道に迷ってしまった。
周りには知らない風景、そして知らない人達。
突然襲ってきた孤独感に、彼女は我慢出来ずに泣き出した。
今の彼女には、鳴く事で孤独感を無理矢理忘れる事しか出来なかった。その時
「どうしたんだい?」
泣きじゃくる彼女に、優しい声が投げかけられた。
「ひっく・・・・・」
少女は目を擦りながら、声がした方へと顔を向ける。そして素直に驚いた。
「えっと・・・・・ロボット・・・・・」
泣く事も忘れ、自分をポカンとした表情で見つめる少女に、ナイトガンダムは微笑みながら
安心させるように頭を優しく撫でる。
「まぁ、そんな所かな?それよりどうしたんだい?こんなところで泣いていて?迷子かい?」
ナイトガンダムの質問に、少女は素直に頷く。そして、同士に期待もしていた。
目の前にいるロボットが、自分をお姉ちゃん達の所へ連れて行ってくれるのではないかと。だが、
「・・・ごめんね・・・・君をお母さん達に所へ連れて行くことは出来ないんだ・・・・」
申し訳無さそうに呟くナイトガンダムに少女は再び泣き出しそうになるが
「・・・・・・実は・・・・・私も迷子なんだ・・・・・」
その言葉に、少女は泣く事も忘れ、呆気に取られる。
「・・・ロボットさんも・・・・・迷子・・・なの?」
「うん。私も道に迷ってしまったんだ・・・・君と同じだね・・・・」
腕を組み、『う〜ん・・・こまったこまった』と呟くナイトガンダムの姿に
少女は自然と泣く事を止め、ナイトガンダムの元へと近づき彼の手を優しく握った。
「・・・・へへっ・・・・私も迷子・・・・一緒だね・・・・」
「だから私も困ってるんだ・・・・・だから先ずは一緒に君のお母さんを探そう。そうすれば、私も君のお母さんから場所を聞くことが出来るから」
慰めるように、ナイトガンダムは少女の頭を優しく撫でる。
少女も、その行為に嫌な素振を見せずに、照れ笑いをしながら身を任せていた。
「よし、それじゃあ探そう、君のお母さんを。あっ、名前がまだだったね、私はガンダムと言うんだ。君の名は」
名前を聞かれた少女ははっきりと答える。あの時、母親になってくれた女性から与えられた名前を。
「・・・・スバル・・・・・・・スバル・ナカジマ」
こんばんわです。投下終了です。
読んでくださった皆様、支援してくださった皆様、感想をくださった皆様、意見をくださった方、ありがとうございました。
職人の皆様GJです。
モロに本編のメインキャラが出来てません・・・・・orz
次回はVSシグナム(A.s本編7話)です。
次は何時になるのやら・・・・・orz
魔法紹介
ムービー・サーベ=サーベ系の斬撃魔法。サーベより威力はあり直に撃てるが、連射が出来ない。
これにて代理投下完了です。
高天氏、GJでした!!
まさかナイトガンダムがティーダやスバルと関わるとは……!
次回もwktkして待ってます!!
390 :
新人:2008/07/07(月) 23:08:24 ID:98yyYZ8y
乙です!
ナイトガンダムは漫画しか知りませんが懐かしかったです。
面白かったですw
次回待ってます
・・・・・・・・・・そしてアセリアはまだだろうか・・・
30分ごろ投下します。
リリカル・グレイヴの短編で七夕の番外編SSを。
そろそろ投下すますね。
リリカル・グレイヴの七夕SSで、今回はめちゃギャグです。
リリカル・グレイヴ 番外編 楽しい七夕パーティー
「と、言うわけで七夕をしようじゃないか」
ある日突然、ジェイル・スカリエッティはナンバーズとグレイヴにそう言った。
折りしもその日は七月七日、日本で言うところの七夕という行事の行われる日であるが、ここにいる面子でそれを知るものは一人もいない。
唐突に訳の分からない事を言われた一同は思わず同情めいた視線をスカリエッティに投げかける。
「ねえ、ドクター遂におかしくなっちゃったみたいだよ?」
「ああ〜、前から薄々と“いつかこうなるんじゃないか”と思ってったんっすけどねぇ…」
「てか、前からああじゃね?」
セイン・ウェンディ・ノーヴェ、さらりと容赦ないヒドイことを言う。
「んなっ! かなりヒドイこと言われてる!? ドクターショック…」
「ド、ドクター。 元気を出してください!」
ナンバーズの発言にショックを受けたスカリエッティはションボリと落ち込み、体育座りで床にのの字を書き始めた。
そんな彼をサポート役である秘書のウーノが必死に慰める。
数分間のの字を書きつつウーノに慰められて元気を取り戻したスカリエッティは元気を取り戻して再び立ち上がって一同に向き直った。
「まあ気を取り直して、今日は七夕だ!!」
スカリオエッティは息をまいてそう言うが、いきなり“タナバタ”等という未知の単語を言われても反応に困る。
一同は顔を見合わせてぽかんと首をかしげた。
「グレイヴ、知っているか?」
「……」
チンクの質問にグレイヴは首を横に振って答えた。
彼が生まれ育った世界にも日本人はいた、なにせかつての組織の舎弟やボスも日系だったくらいだ。
それでも七夕という行事を知る機会は彼にもなかった。
そして聞いてもいないのにスカリエッティは勝手に説明を始める。
「では説明しよう! 七夕とは、その昔織姫と彦星が(以下略〜」
スカリエッティは意気揚々と、織姫と彦星の伝説や短冊に願い事を書くという慣わしを説明した。
まあ要するに笹に願い事を書いた短冊吊るしてみんなで祝うという至極単純なものである。
一通りの説明を受けて一同は七夕の主旨をある程度理解したが、そこでディードが手を挙げた。
「ドクター質問があります」
「なんだいディード?」
「内容は理解できたのですが、そのような事をして何か意味があるのですか?」
「それはもちろん、私がしたいからさ!!」
スカリエッティはグッと親指を立てて、茶目っ気たっぷりにそう言う。
いつもの雰囲気はどこへやら、今日の彼はやけに陽気だった。
「では皆で外へ行こうか」
「え? 外出て良いの?」
「もちろんさセイン、天の川を見なければ七夕にならないからね」
「やった〜♪」
スカリエッティの言葉にセインは飛び跳ねて喜んだ、まあいつも地下で生活していれば無理もない話だ。
そしてスカリエッティはクルリと踵を返すとグレイヴに指差す、かなり失礼な行為だが無限の欲望に礼儀は皆無である、欠片も気にはしない。
「さてグレイヴ君、君にはあれを運んでもらおうか」
「……?」
グレイヴが視線を向ければ、そこには大量の笹と短冊やらなんやらの七夕グッズの数々。
それらは結構な量が積まれていて小高い山のようになっている、これでは確かにスカリエッティやナンバーズが運ぶには酷だろう。
グレイヴは何も言わずにそれらの大荷物を肩に担いだ。
かなりの重さだがいつも彼が背負っている銃火器を満載した棺に比べれば大した事ではない。
「さて、では行こうじゃないか! 美しき星を見に!!」
そしてその他様々な荷物をガジェットに載せて全員は外部に通じる大型エレベーターに乗り外へと出た。
しかし、そこで彼らを待っていたのはあまりにも残酷な現実だった。
「こ、これは……なんという事だ…」
「ドクター! お気を確かに」
あまりの事態にスカリエッティは顔面蒼白となり膝を付いて絶望に打ちひしがれる。
そんな彼をウーノが必死に慰めるがスカリエッティはあまりの衝撃にショックから覚められずにいた。
そう、外は今……雨が降っていた。
「これじゃお星様見れないね〜」
「いやぁ〜、残念っすね〜」
セインとウェンディ、いつも陽気に笑っている表情を曇らせてションボリとうなだれる。
他の姉妹も皆、せっかくの外出の楽しみを奪われ、天気と同じく表情を曇らせた。
愛すべきファミリー(家族)のこの事態にビヨンド・ザ・グレイヴは決意する。
彼女達を守り、そして悲しみを打ち破るのが自分の役目なのだから。
「……」
「ん? どうしたグレイヴ?」
なにやら様子のおかしいグレイヴにチンクが不思議そうに首を傾げて尋ねる。
そんな彼女に彼は頭を撫でながら無言でいつもの必殺グレイヴ(ブランドンでも可)スマイルを見せると一旦施設の中に戻った。
しばらくして、再び表にやって来た彼は何故か銃火器を満載した愛用の棺、デス・ホーラーを背負っていた。
さらにそのまま跳躍、背負っていたデス・ホーラーが円形のファン部分を中心に二分割し地面にアンカーを打ち込み固定しつつ巨大な砲身を持つ長大なツインキャノンに変形した。
これこそが“Ceruberus O.D.(ケルベロス・オーバー・ドーズ)”ビヨンド・ザ・グレイヴの有する最強最大の攻撃技である。
グレイヴが両手に持ったケルベロスのライトヘッドとレフトヘッドが銃身部に差し込まれ、後部ファンが回転し砲身に凄まじいエネルギーがチャージされていく。
何者をも死を免れえぬ最高の死の砲が唸りを上げようと呻く。
その巨大な砲門が狙うは空中、ファミリーを悲しませる憎き雨雲である。
そしてそんな彼にチンクが顔を青くしながら突っ込んだ。
「ちょ! ま、待てグレイヴ! いくらそんなもので撃っても雨は止まないぞ!?」
「……」
チンクの突っ込みにグレイヴは“まかせておけ”とでも言いたげな微笑、どうやらこの死人止まる気はないらしい。
っていうか、この砲撃で本気で雨を晴らすつもりだ。
遂に死んだ影響が脳に出たか? と一抹の不安を隠せぬチンク。だがこの熱気がどういう訳か伝染したりしたもんだから困ったもんである。
自信の固有武装イノーメスカノンを引っさげてディエチも空に狙いを付けて砲撃のチャージに入る。
「ディエチ!? 何をしている?」
「チンク姉、でもグレイヴだけに任せておけない」
「いや……だからそんな事をしても雨は晴れないから…」
妹の無茶な行為にとりあえず冷静に突っ込みを入れようとするチンクだが、そこにやたら暑っ苦しい声が割って入る。
「何を言っているチンク!!!」
「トーレ?」
「諦めたらそこで試合終了だぞ!」
「はい!? それはいったい何のセリフだ?」
「ええい! うるさいわ!! つべこべ言わずに妹の活躍を見守らんか!!!」
無駄に熱血な姉なんかスイッチが入ったらしく今日はやけに燃えていた。
そしてトーレとチンクの二人がそんな会話をしている間にもグレイヴとディエチの大火力組は凄まじく無駄な攻撃準備を終えていた。
「それじゃいくよグレイヴ」
「……」
ディエチの言葉にグレイヴは黙って頷く、彼女の持つイノーメスカノンの砲門に光と共に凄まじい熱量のエネルギーが収束して破壊の唸りを上げる。
グレイヴの構えるツインキャノンの二つの砲身にもチャージされたエネルギーにより放電現象が巻き起こり弾頭に加速を加えるべくファンが高速回転して徐々に熱量を高めていく。
そして狙撃砲とツインキャノン、三つの砲身は同時にその咆哮を上げた。
耳をつんざき空気が裂けそうな程の大爆音。
壮絶な破壊力を内包した砲撃が天空へと吸い込まれ、雲を貫きその上の青空に爆ぜた。
空に陽でない光が輝き、一瞬眼を痛くする。
しばらくの間、耳に砲撃の余波が残り、余韻が冷めたところで皆は空をもう一度見上げてみた。
未だ雨は止まず、天気は不機嫌な鈍色だった。
△
「ああ、セインはなんて書いたっすか?」
「えっとねぇ“もっとオッパイがでっかくなりますように”って書いた。ウェンディは?」
「“カットバックドロップターン修得したい”っすよ」
「ああ、前から言ってたもんねぇ〜」
笹に願い事を書いた短冊を吊るしながらセインとウェンディがそんな会話をしている。
その笹はなにやらクリスマスツリーのようにデコレーションされており、凄まじく派手に飾られたそれから“七夕”という単語はかなり連想され難い。
だがまあ、七夕に縁のない人間が飾ったのだからそれもまた仕方のない事だろう。
結局雨は上がらず、七夕パーティーは雨天の中で決行された。
とりあえず何をやれば良いか分からないので、好きな料理を並べて楽しみながら笹を飾ると言うカオスな行事となったのはあまり突っ込まないでおこう。
そしてナンバーズの皆々はそれぞれに行事を楽しんでいた。
先ほどの二人を除いては……
「……」
「……」
皆が七夕パーティーを楽しむ場の隅っこ、壁際にグレイヴとディエチの二人は体育座りをして床にのの字を書いていた。
背景は暗くなり、どこか雨とは違った陰鬱な空気が漂っている。
二人が悪いわけではないのだが、どうやら雨を晴らせなかったのを気にかけて落ち込んでいるらしい。
そのあまりに沈痛なオーラに、他のナンバーズはそんな二人を心配そうに眺めている。
「グレイヴ落ち込んでますね」
「うん、ディエチもね」
双子ことディードとオットーがいつもはあまり変わらぬ表情を哀しそうに歪ませて姉妹と兄貴分の哀れな姿を見つめて呟く。
「何か出来ることは無いでしょうか?」
「難しいね…」
「それならば良い事があります」
「セッテ?」「セッテ姉さま?」
二人の間に割って入ったのはナンバーズ7番セッテ、彼女の言葉に双子はいささか驚いて揃えて声を上げた。
なにせセッテはナンバーズ中最も感情の希薄な娘と言われている、彼女がこのように自分から誰かに声をかけるのは珍しい事だった。
「それで“良い事”とはなんですか?」
「ええ、実は…」
不思議そうに首を傾げて尋ねたディードにセっテは自分の考えたアイディアをヒソヒソと話し始めた。
そしてそんな彼女達を眺めるスカリエッティとウーノやトーレ等のナンバーズ初期メンバー一同。
「ふふっ、どうやら皆楽しんでいるようだ。実に素晴らしいよ」
「そのようですね」
「ところでウーノ、君はなんて書いたんだい?」
「え!? それは……その…」
スカリエッティの何気ない質問にウーノは顔を赤くして恥らう。
いつもはそう見れない彼女のそんな仕草にスカリエッティのみならずその場に居合わせたトーレ・クアットロ・チンクも興味深そうな顔をする。
「恥ずかしがらずに教えたまえ」
「えっと…これです…」
ウーノがおずおずと取り出した短冊には『ドクターの願いが叶いますように』と書かれていた。
「ほほう、嬉しい事を書いてくれるじゃないか」
「その……ありがとうございます。 ではドクターはなんと書いたのですか?」
「ん? 私かい? 私はこれさ!!」
スカリエッティが自信満々でかざした短冊、そこには『雨が上がりますように』と書いてあった。
「ええ!? 計画の成功ではないんですか!?」
支援
支援! 最近のスカ博士は軽すぎる!w
「いや、今はこれが一番の願望だし」
ドクター・スカリエッティ、願いは意外に普通だった。
その普通な願望に驚くウーノをよそに、スカリエッティはクルリと振り返ってトーレたちに向き直る。
「で、君たちは何を書いたんだね?」
「私たちですか? 私はこれです」
「私はこれで〜す♪」
トーレが見せた短冊にはたった一言『最速!!』、クアットロの短冊には『世界中の人間が自分の前に跪くように♪』と書いてあった。
「ははっ! なるほど、二人らしいねぇ。 で、チンク君は?」
「はい、私はこれです…」
チンクはスカリエッティに自分の書いた短冊を見せた……
△
「……」
「……」
グレイヴとディエチは相変わらず床にのの字を書きながら落ち込んでいた。
もはや、次元が歪んで虚数空間に落ちかねないくらいな雰囲気が漂っている。
普段も無口な二人だが、今日の雰囲気は常のそれを遥かに上回っていた。
そしてそんな二人の近づく影が一つ。
「おい、いい加減に元気出せよ」
活発そうな赤毛の少女、ナンバーズ9番ノーヴェである。
「ノーヴェ…」
「……」
ノーヴェに視線を移しつつも床をいじいじと弄る二人、そんな彼らにノーヴェは苛立ったような、不満そうな顔で詰め寄った。
「ああ、もう! 辛気臭え!! 元気出せよ!! さっきの事なんて誰も気にしてねえって」
「でも…」
「……」
「良いから元気出せ! 出さなきゃぶっ飛ばすぞ!!」
顔を赤くして怒鳴りつけるノーヴェ。乱暴な事を言っているようだが、これでも彼女なりに慰めようと必死だった。
それは優しさを素直に表に出せない彼女らしい行為、これこそ彼女が姉妹からツンデレ呼ばわりされる理由である。
そしてノーヴェのそんな優しさを理解したのか二人はやっと表情を綻ばせた。
「うん、そうだね……いつまでもこうしてたって始まらないし」
「……」
ディエチはそう言いながら、グレイヴは無言で立ち上がる、もう二人に先ほどの怨念染みた負のオーラはない。
グレイヴは苦笑するように微笑して、ノーヴェの頭を撫でてやった。
「……」
「な、撫でんなよ…」
「でもノーヴェ嬉しそうだよ?」
「う、うっせ〜! とにかくあっち行くぞ!!」
ノーヴェはそう言って顔を赤くしながらグレイヴとディエチの手を引いて、今回のメインイベントである短冊の飾られた笹まで引っ張って行った。
すると、そこには先に笹の葉に短冊を吊るしている影が三つ、セッテ・オットー・ディードがいた。
何故か、三人はノーヴェに連れられて来たグレイヴとディエチを見て眼を見合わせる。
「どうしたんだよ、三人とも?」
「いえ、あまりの効果に驚いたところです」
「まさか本当に叶うなんて…」
「やはり三人で書いたのが効いたんでしょうか?」
「なんの話だ?」
「これです」
セッテ・オットー・ディードの言葉に対してノーヴェが不思議そうに首を傾げて聞き返す、するとディードが一つの短冊を見せた。
それは他の短冊の優に5倍ほどの大きさを誇り、書かれた字もひどく大きかった。
そこにはこう書いてあった、『グレイヴとディエチが元気を出しますように セッテ・オットー・ディード』
「お前ら三人で書いたのか?」
「はい、書いたの三人で威力も三倍です」
ノーヴェの言葉にセッテが誇らしげに指を三本立てた、普段の彼女のクールな印象と相まってそれはけっこうシュールだった。
そして何故か、ノーヴェは少しだけ不満そうな顔をして小さく呟いた。
「なんだよ……あたしと同じこと書くなよ…」
「何か言いましたか?」
「な、なんでもねえよ!! ともかくグレイヴとディエチもゃんと短冊書け!!」
ノーヴェは恥ずかしさで一層赤く染まった顔でそう言うと、ディエチとノーヴェにあたふたと短冊を渡した
「そうだね、じゃあ私は…」
支援
やっぱナンバーズのほのぼのは良いな
ディエチはそう言いながら、さらっとすぐに書き上げた。その短冊には『一発必中』と書かれていた。
「まあディエチらしいな」
「うん、まあ私は狙撃くらいしか取り柄ないし」
「で、グレイヴはなんて書いたんだ?」
「……」
ノーヴェの質問にグレイヴは手にした短冊を差し出した、そこには……
△
どんちゃん騒ぎの七夕パーティーが終わった後、ピコピコとモノアイを光らせながらたくさんのガジェットがせわしなく後片付けに奔走していた。
金属製のアームを伸ばしては散らかった皿やらなんやらを次々に片付けていく。
だが、片づけが行われる中で一つだけ手が付けられていない物があった。
それはメインイベントである短冊の吊るされた笹、過剰な装飾を施されたそれは七夕の余韻を楽しむ為に明日までこのままにするらしい。
皆の様々な願い事を吊るされた派手な笹は少しばかり悪趣味かもしれないが、これはこれで面白みのあるもにだった。
そして、その中に隻眼の二人がまったく同じ事を書いた短冊が二つあった。
『皆がいつまでも健やかにありますように』
片目の機人と片目の死人は、随分と似た考えをしていたようだった。
終幕。
オマケ。
プルルルルル♪
「はい、こちら世界征服から下着のテレビの修理まで、スカリエッティ研究所です」
「ああ、ウーノ? 私、ドゥーエだけど」
「あら? 久しぶりね、どうしたの?」
「私の出番は?」
「………ええっと、忘れてた訳じゃないんだけど…ほら、あなた簡単にこっちにこれないでしょ?」
「短冊書いて出番を待ってたんだけど…」
「……ごめんなさい」
「うん…良いの、期待はしてなかったから」
「そう……ごめんなさいね。それであなたなんて書いたの?」
「えっとね“早く妹に会いたい”って」
「そうなの……叶うと良いわね」
今度こそ終わり。
支援w
406 :
SMC氏代理:2008/07/07(月) 23:46:19 ID:G5c5JfJU
はい、投下終了です。
しかし、本編遅れて申し訳ない、中々スランプが進んで進みません。
口直しと言ってはなんですが、これで楽しんでいただければ幸いです。
以上です。
(注:SMC氏が最後にサルサン喰らった模様なので、卓越ながら代理投下させて頂きました。
最後に、SMC氏GJ!! スカの軽快さに全俺が吹いたww)
GJです
GJですが、本編のナンバーズとスカの状態を思うと泣けてくる……
LMS氏の作品が避難所に投下されていたので、
0時20分くらいから代理投下の予約をさせて頂きます。
サルサンの確率が近頃高くなっている様なので、
皆様の暖かい支援、よろしくお願いします。
GJ!
しかしドゥーエの願いが切なすぎるww
さて、十五分ごろに久しぶりの投下良いですか?
GJ!!です。
スカ家ではGDが家政婦かw
本編では次々とナンバーズに死人が出てるからギャップが凄いwww
ああ、ちょっと遅かった。
じゃあLMSさんの最終投下の三十分くらい後で良いですか
ぬ、ではその次に七夕SSを投下させていただいてもよろしいでしょうか?
世にも珍しいラグナメインのSSですw
ラグナメインだって!?
ヴァイスを(性的に)狙うティアナに失った目の代わりの赤外線照射装置ィィィィィィィィ!で
対抗するのか?w
支援
どう考えても七夕が先ですよね
起きていられる自信が無いので僕は明日に回します
ぬ 申し訳ないです。
それならばお言葉に甘えてLMS氏の次に投下させていただきます。
ちなみにラグナはめっさヒロインです。
ヴァイスと何故かドゥーエも出るよ!
遅かったー新人です。
なら自分もその後でビーストウォーズメタルスクロスを投下します。
LMS(代理投下)→夢境学園氏→ビースト氏でいいのかな
支援
>>413 性的な意味で落ちつけw
それにしても、規制がきつくなってるな
ここまで代理を必要とした事態はここでは初めてか?
DMCづくめ俺の今の心臓はさしずめヘル=レイスの持ってる心臓の如く今にも爆発しそうだぜ。
420 :
LMS氏代理:2008/07/08(火) 00:20:13 ID:lfovAp+A
それでは、代理投下の時間になりました。
皆様の支援の程、よろしくお願いしますorz
そろそろ時間だな。支援体勢に入る! 総員BJ待機だ!
422 :
LMS氏代理:2008/07/08(火) 00:21:13 ID:lfovAp+A
知ってる方も知らない方も、こんばんわ。そしてお久しぶりです
漸く身の回りが落ち着いたので、季節ネタと言うことで軽くリハビリ代わりに書いてみました
LMSの番外編という形ですが、覚えてくれている方がいらっしゃいましたら読んでやってください
1
それは、静かな夏の晩。
「宅急便でーす」
「はーいただ今……あ、貴方ー? いつものが届いたわよー?」
「おお、そうか、もうそんな季節かー。今行くー!」
一緒に酒を飲んでいたダンテが面白そうだと玄関に向かう士郎に着いて行くと、玄関の外に馬鹿でかい包みが鎮座していた。その大きさたるや、完全に玄関の中には入らない。
「……何だこりゃ」
「設置は明日だな、さすがに。朝まだ涼しいうちに片付けてしまおう」
「お願いね」
ポカーンと梱包された謎の物を見上げるダンテをよそに、高町夫婦は中身が何であるか分かっているらしく、驚いた様子もなく淡々と予定を立てていた。
Lyrical Magical Stylish
Star Festival
「なぁ、なのは。これは何だ?」
「笹ですよ」
「ササ?」
「ハイ。もうすぐ七夕なので」
「タナバタ?」
なのはは庭先に出現した馬鹿でかい笹の木を何となく嬉しそうに見上げている。一方のダンテはというと、なのはの言葉の意味がてんで分からないようで、クエスチョンマークを頭上に大量に撒き散らしつつ、なのは同様に笹の木を見上げていた。
「……食べれんのか?」
「食べる動物もいるみたいだし、ダンテさんなら食べれそうですね」
その本気とも冗談とも取れない言葉にダンテは一歩近寄り、手近な葉を一枚千切って眺めてみる。だが、お世辞にも肉厚とは言えない上、上手いことやれば指先くらいなら切れそうな鋭さを見せる葉を食べる気にはならなかった。
「……不味そうだからやめとくわ」
「そうしてください。食べる用に届いたわけじゃないので」
「だったら最初からそう言えっての」
手にした葉っぱをとりあえずその辺に投げ捨てつつ、ダンテは若干不機嫌そうに舌打ちしつつ、なのはに質問する。
「で、これは何なんだ? 何に使うんだ?」
「えーっと……明日、7月7日は七夕っていう日なんです。日本の昔話に織姫と彦星っていう人がいて、お互い愛してるんだけど一年に一度しか会えない、それが七夕の日」
「成る程、ロマンチックな日って訳だ。だが、話が繋がらんぜ? それとこのササってのと何の関係が?」
「せっかちですね。それじゃモテませんよ? それでですね、その日に短冊っていうのに願い事を書いてこれに吊るすと願いが叶うって言う話がありまして」
「ますます繋がってねーな……オリヒメとヒコボシだっけ? その二人、関係なくねーか?」
「いいんですよ、昔話というか御伽噺ですから。ともかく、この笹はそういったものなので、食べたりしないように」
久々のLMSなのはにwktk 支援!
424 :
LMS氏代理:2008/07/08(火) 00:23:07 ID:lfovAp+A
2
食べねーよ、と言いつつ、ダンテは再度笹の木を見上げる。成る程、いわれて見ればそこら辺の木より風格があるようにも思えるから不思議だ。
「しかし、残念だったな」
「何がですか?」
「7月7日だろ? 後一つ7がないとジャックポットにはならねぇぜ」
「いやいやいや、意味わからないですし。日付的にありえないですって」
肝心なところで気が利いてねぇな、とよく分からない理屈を並べつつ、ダンテはなのはの話に耳を傾ける。
「えーっと……それでですね、お父さんの実家の近くに笹がいっぱい生えてるんです。だから、毎年この時期になると送ってくれるんですよ」
「ほー……。ん? 毎年ってことは去年もやったのか?」
「やりましたけど……それが?」
「いんや、大した意味はねーんだがな。去年や一昨年のお前さんは何を願ったのかと思ってよ」
「それは秘密ですよ」
返ってくるのはまあ予想通りの答え。最も、ダンテ自身その答えはそもそも期待していなかったようで、さしたる興味も示さずに、ふーんと一言で流す。それ以上に気になったことがあったから。
「で、願いは叶ったのか?」
「年によりけりですね」
「うわ、現実的な答えだなオイ」
「そりゃまあ、そういうもんでしょう」
まあ、そんなもんだ。木に願うだけで願い事が叶うなら、ずっと昔からこの世界は平和に満ちているはず。そんなどうでもいいことを考えながら、ダンテはなのはに向き直った。
「今年は何を書くんだ?」
「そうですね……ダンテさんが早く帰ってくれますように、とかどうです?」
「冷てーな、オイ。泣くぞ」
「冗談ですって。まあ、秘密にしておきます。そういうダンテさんは?」
「世界平和。ラブ&ピースって奴だ」
完全に予想外だった一言になのはの時が止まる。きっと、今の自分の表情を鏡で見たら面白いことになっているに違いないなんて考えながら、とりあえず言葉も思い浮かばないのでダンテを見るだけにした。
「…………」
「オイ、その疑いの眼差しは何だ」
「……自覚がないんですか? カケラも似合ってないじゃないですか」
「ピザ百枚とか書いたほうがいいか? だがまあ、願うんなら世界平和ってのはホントなんだぜ?」
なんせ、とダンテは一度言葉を切って、表情を隠すかのように笹の木をまたも見上げる。
「本当に平和になりゃ、こんなヤクザな商売する必要もなくなるしな」
「…………」
その声は、いつものダンテのものと違ってほんの少しだけ哀しそうで。なのはもまた、ダンテの背負っているものを思い出し、違った意味で言葉に詰まってしまう。
「そうだな、そんだけ気前のいい日なら百枚ぐらい吊るすか」
「それじゃ逆に叶わないですよ」
だから、すぐさまいつもどおりに戻ったダンテの口調に、なのはは表には出さないよう、心の中でそっと安堵するのであった。
凄い投下の嵐ですよ、奥さんw
支援です。
支援砲火〜!
支援
429 :
LMS氏代理:2008/07/08(火) 00:24:37 ID:lfovAp+A
3
「へぇ、これがタンザクってヤツか。変な形だな」
「変じゃないですよ。これが普通なんです」
「でも縦書きみたいじゃないか。俺書けなくね?」
「横に書いて横に吊るせばいいでしょう」
「……いいのか?」
「……いいんじゃないですか?」
「いい加減な返事をありがとよ、そうさせてもらうぜ畜生め」
毎年恒例の行事ということで、アリサやスズカも毎年高町家の笹に短冊を吊るしている。というわけで、そのメンツにダンテを加えた四人がちゃぶ台を囲んでいるわけだが、小学生の少女三人に混じった銀髪の外人、傍から見たら中々に珍妙な光景であろう。
そんな中、アリサやスズカは二人のやり取りを見てクスクスと笑っている。
「ちょっと二人とも、そんなに笑うところ?」
「だって面白いじゃない」
「ホント、息があってるよね二人って」
「だろ?」
「ちょっと!」
とまあ、色々あったものの無事四人とも書き上がり、各々好きな場所に吊るそうと笹の前に移動する。なのはたちが背伸びをしながら少しでも高いところに吊るそうと必死なのに対し、ダンテはその頭上から悠々と手を伸ばして一番目立ついい位置にさっさと吊るしてしまった。
ど真ん中で一枚だけ揺れる、一枚だけ横に吊るされたダンテの短冊を見てアリサ達が笑う。
「ダンテさんの、モロバレですね」
「まあ、一人だけ横じゃあねえ」
「しょーがねーだろ、日本語書けねーんだから」
「話せるのに書けないって言うのも不便ですよね」
「そこまで言うなら教えてくれっての」
「教えても覚えないのは誰ですか……」
「さて、そんな礼儀知らずなヤツは知らんな」
何のかんの言いながら各々結び終える。湿っぽい夏の風が、吊るされたばかりの短冊を煽っていく。
「叶うといいね」
四人でその光景を眺めながら、誰とはなしに呟いた言葉に皆が賛同した。
「そうね」
「そうだね」
「そうだな」
ダンテは目を細めて短冊をぼんやりと見つつ、自分の書いた願いを思い出す。「Love & Peace」、たったワンフレーズに込められたその願いが、いつか叶う日が来るのだろうか。
(……らしくもねぇな。叶わなくたって、自分でなんとかすりゃいいだけの話か)
茜色に染まる空を見ながら、ダンテは拳を握り締めるのだった。
「あー……飲みすぎた」
「またですか……だからって私の部屋で酔い醒まししないでくださいよ」
「まあいいじゃねぇか。ほら、スルメでも齧れ」
「いりません」
支援
431 :
LMS氏代理:2008/07/08(火) 00:26:00 ID:lfovAp+A
4
明日も学校だということで寝ようとした矢先、フラフラの闖入者がやって来たためになのはは仕方なくベッドに腰掛けて応対する。
そのダンテはというと、椅子どころか机に座り、なのはにスルメを差し出して拒絶されていたわけだが。
「それで、どうかしましたか? もう眠いんですけど」
「特に用はねーけどよ」
「ならいいじゃないですか。そのスルメ食べたら出てってくださいね」
「食べ切らなきゃ居ていいんだな?」
「追い出しますよ」
「まあ落ち着けっての」
ガシガシとスルメを齧りながらダンテは出て行こうとしない。なのはは寝るのを諦め、ダンテを半眼で睨みつけた。
「本当は何か用があるんでしょう?」
「相変わらず鋭いね。お前のそういうとこ、好きだぜ?」
「それはいいですから」
「と言っても、本当に大した用件じゃねーんだよ。ただ、お前さんが何を願ったのかなー、ってね」
「だから、それは秘密だって」
「なんで?」
「なんででもですっ!」
「ほー?」
ニヤニヤとヤな感じの笑みを浮かべるダンテ。それを見たなのはは直感した。
「……見ましたね?」
「さーて、ね?」
「出てってください。というか出てけ!」
「そんな怒るなよ……じゃーなー」
ハッハッハ、と笑いながら去っていくダンテに思わず枕を投げつけるも、ダンテが閉じた扉に虚しく当たって跳ね返るだけだった。
「……最悪」
枕を取りに行く気分にもならない。明日朝一で短冊の内容を書き直すことを決めてなのはは布団を被り―――
「……え?」
そして、世界が殺気に包まれた。
「これは……!」
「なのは!」
よく知った気配になのはが布団を跳ね除けるのと、出て行ったはずのダンテが再び扉を荒々しく開いたのは全くの同時だった。
「ダンテさん!」
「やれやれ、しばらく様子見で残ってたのが幸いしたな」
「ウチのご飯が美味しいからじゃなくて?」
「それもあるけどな」
「あるんですかい」
一瞬前の緊迫はどこへやら、突如起こった戦闘への不安など微塵も感じさせない様子で二人は言葉を交わす。
「そんじゃま、とっとと蹴散らすとしようか」
「ええ。安眠の邪魔をしたツケ、しっかり払ってもらわないと!」
コテは外したほうがいいだぜ! 投下時以外にはな! 支援
支援します
七夕支援
435 :
LMS氏代理:2008/07/08(火) 00:27:38 ID:lfovAp+A
5
いつもの笑みを浮かべた二人は同時に窓を蹴破って濃厚な殺気の渦中へと飛び出した。
「レイジングハート!」
「Set up」
寝巻きで飛び出したなのはは着地までの短い間に戦闘態勢へ。同時にレイジングハートが結界魔法を発動し、周囲一体を覆う。
「「―――Let's Rock!!」」
そして着地と同時に背中合わせにポーズを決め、群がる悪魔へなのははレイジングハートを、ダンテは指を突きつける。
「……あれ、ダンテさん、剣は?」
「…………」
「…………」
「……スマン、忘れた」
わりーわりー、と全く悪びれないダンテの言葉に思いっきりコケそうになりながら、なのはは全力で突っ込んだ。
「何しに来たんですかっ!!」
「落ち着けよ、そう怒るなって。剣はないが、代わりならあるだろ?」
「……代わり?」
訝しげに問うなのはにウインク一つ返しながら、そうさ、いい物があるだろう? といわんばかりにダンテは庭の中心へと群がる悪魔を蹴散らしながら歩く。その先にあるものは、昼間皆で短冊を吊るした笹の木。なのはの顔が青ざめる。
「ちょっと! ダンテさんまさか!?」
「せっかくの記念日だ。天で見てるって言うオリヒメとヒコボシにも見えるように派手に行こうぜ!」
だからってそれを抜くな、そう言いたかったなのはの制止は間に合わず、ダンテは自分の身の丈を遥かに超える笹の木を腕一本で楽々引き抜いて。
「イーーーヤッハァァアア!!」
何も考えず全力でぶん回した。風圧に耐え切れずに笹の葉が吹き飛んでいく中、撓る幹が周囲の悪魔を根こそぎ薙ぎ倒していく。
「何てことを……」
ダンテのあまりに常軌を逸した行動に、なのはは怒りとも呆れとも取れぬ表情で頭を抱える。
まだ七夕の晩は終わっていないというのに。これでは、短冊に書いた願い事が叶わなくなるかもしれないではないか。それもこれも全部―――
「お前等の―――せいなんだから!」
間近に迫った鎌をレイジングハートで易々と弾き返し、返す一閃を悪魔の腹に突き刺す。
「吹き飛べ!」
「Divine shooter」
そして零距離での射撃。腹部どころか胴体を八割方消し飛ばし、一撃の下に霧散させる。
「絶対許さない!」
それでも収まらない怒りの炎。なのはは両手足にベオウルフを装着すると、魔法を使うのも面倒だとばかりに自分から悪魔に殴りかかっていく。
唸りを上げるハイキックが一体の頭部を爆砕し、足が地に着くと同時に突き出された拳がインパクトを示す光と共に深々と突き刺さる。
その隙を狙って繰り出された鎌を片腕で捌き、捌くと同時に抜いた拳が鎌を弾かれてよろけた悪魔を塀まで吹き飛ばす。
相変わらず肉体言語だぜ、だがそれがいい 支援!
437 :
LMS氏代理:2008/07/08(火) 00:29:36 ID:lfovAp+A
6
「やれやれ、女の怒りは買うもんじゃない。そうだろ?」
その一端を担っているのは間違いなくダンテなのだが、そんなのはお構い無しとばかりに笹を振るう。リベリオンより遥かに長いそれは剣というより槍だ。
いい位置の敵には高速の刺突が、それより近い相手は暴風じみた威力の払いが襲う。
「Yeah!!」
手近な相手をあらかた片付け、ダンテが次に狙うは吹き飛ばされて塀に折り重なるようにもたれかかる三体。
扱いにくさをものともしない雷光のようなスティンガーが塀もろとも爆砕する勢いで三体纏めて串刺しにする。
上手いこと三体刺さったことに口笛を吹きつつ、その笹を器用に持ち上げ、ダンテはなのはに向かって笑いかけた。
「団子三兄弟の出来上がりだ。なあ、なのは?」
「阿呆なこと言ってないでちゃんと戦ってくださいっ!」
「阿呆とはヒデェな、オイ。こーいったお祭の日には多少の遊びは付きものだろうが。お供え物も必要だろ?」
ダンテの声は完全に無視し、なのはは更に腕を足を、愛杖を振るう。
レイジングハートの先から放たれる光弾は、相変わらず見た目からは想像も出来ない威力で群がる悪魔を蹂躙し、それを掻い潜る者には裁きの光が断罪を下す。
「ああもう、数が多い! レイジングハート!!」
「Mode Ceruberus ready」
「It's cool! Million Carats!!」
それでも、この狭い庭では一度に戦える数には限りがある。次から次へと溢れ出てくる悪魔に業を煮やしたか、なのはの怒りが季節外れの氷柱となって具現化する。
「「GYAAAAAAAA!!」」
まさに無差別攻撃。小さき闘士を押し潰さんとする愚昧の群は、絶対零度の障壁によって壊滅する。
だが、氷柱によってぶち抜かれた悪魔の群などなのはにとっては最早チラ見する意味もない。フィンを起動し、空へと飛び上がる。
上空から戦場を見下ろす。どうやら、増援は収まったらしい、ならば今居る連中を殲滅すれば、この怒りも多少なりとも収まるに違いない。
「ダンテさんっ!」
「オーライ! っと」
怒気を孕んだなのはの叫び。それを聞いたダンテはおっかねえなとばかりに片手を挙げて返事をし、庭の中央に陣取った。
「さーて、Come and get me. 捕まえてみな、ノロマ野郎ども」
肩に担いでいるのがリベリオンでなく、笹なのがなんとも格好つかないが、そんなの悪魔にとっては関係ない。
たった一人のクセに数で勝る自分たちを心底蔑んだように挑発するその仕草は、悪魔の怒りに火をつけるのには十分すぎた。
「GAAAAA!!」
かくて、残りの悪魔全てが、戦場を避けたなのはを放置してダンテへと一直線に突進していく。
ダンテはそれを見てニヤリと笑みを浮かべると、笹をその辺に投げ捨てて、上に向かって声を張り上げた。
「Showtimeってヤツだぜ! 派手にぶっ放しな!」
そして返事を待たずに、一体の頭部を蹴って上に跳ぶ。そして、今まで姿を消していたなのはとすれ違った。
「「Go to hell!!」」
怒りの篭ったなのはの声と、心底楽しそうなダンテの叫びが響く。目標を見失った悪魔が上を見上げたのは、その声に反応してか、はたまた自分たちの最後を悟ってか。
溜めに溜めた魔力で太陽のように輝くベオウルフが、唸りを上げて地面に激突した。
「ヴォルケイノォ!!」
その白光、まさしく噴火の如く。吹き荒れる衝撃波が大地と周囲諸共、残りの悪魔を殲滅した。
ミルキーウェイ支援
支援〜!!
440 :
LMS氏代理:2008/07/08(火) 00:30:25 ID:lfovAp+A
7(終)
「あーあー、ツルッパゲになっちまったな」
ダンテが振り回し、ヴォルケイノの衝撃波の煽りをモロに食らった笹は見るも無残な姿になっていた。葉は全て吹き飛び、運の良かった枝がごくごく僅かに残っているだけだ。
当然のことながら、皆で結んだ短冊も一枚残らずどこかへ吹っ飛んでしまっている。
ダンテがそんな惨憺たる笹を持ち、見上げながら事も無げに言うのを見て、なのはは思わずダンテを半眼で睨んでしまう。
「誰のせいですか……」
「いやいや、最後止めを刺したのはお前だぜ?」
「……ダンテさんが投げ捨てなければよかっただけでしょうに」
「無茶言うな」
家に笹が来るようになってから結構経つが、まさか七夕の晩すら超えられずにツルッパゲになる年が来ようとは思わなかった。それでも―――
「しっかしまぁ……門を閉じてから結構経つってのに、未だにちょくちょく出やがるな。やれやれ、これじゃあまだしばらくは帰れそうにもねーか」
「……そうですか」
笹は大変な姿になってしまったけれど。あるいはド派手なパーティを開いたことに、織姫と彦星が感謝の贈り物をしてくれたのかも知れない。
言葉は残念そうに、だけどそこに含まれた嬉しそうな響きは隠せずに。なのはは、笑みが浮かんでるであろう自分の表情を見られないよう、ダンテに背を向けて言ったのだった。
―――もうしばらく、ダンテさんが少しでも平和な日々を送れますように―――
最後はいい台詞で締める それがなのは! 支援
442 :
LMS氏代理:2008/07/08(火) 00:32:02 ID:lfovAp+A
というわけで七夕の話でした
またちょろちょろと何か投下できたらいいなー、とか考えてます
まあ、それ以上に
復帰しようとした早々にプロバイダ規制とか勘弁してくださいorz
(ということで、引き続き代理投下させていただきました。
皆様のご支援、ありがとうございます。
そしてLMS氏、GJ! あいかわらずのコンビを再び見れたことに感動しました!)
乙
竹ヤリwww基本中の基本ですねw
GJです!
まさに日本の夏に一回は見ておきたいw
面白かったです。
GJ!
まだ夢境学園さんが残っているが一番過激な七夕なのはまちがいないw
GJ!二人のやりとりが最高だ!
そして後の人のために少し早い支援
>>THE REQULIMER氏へ
GJです!
元ネタは知らないのですが、このマスターチーフのかっこよさには痺れるしかありませんw
あまりのかっこよさにギンガが惚れないかどうか心配ですw
弾薬の節約で轢き逃げっておまw いや確かに質量兵器ではないですけれど、凄まじいの一言です。まさしく盲点!
ヴァイスも一緒に出てきて、狙撃手スキーな自分としては大満足でした。
次回はギンガと一緒にマスターチーフがコヴナント涙目展開かな?
期待しております!
>>反目のスバル氏へ
思えば幾つもの作品を完結させてきた反目氏の力量は凄いですね。
その主要キャラがオールキャストで出るとこうなるのかw
カオスな展開に笑いつつも、しっかりフェンリルさんが出てきてGJ!
クロノをカツアゲするはやて、テラ外道www
反目のスバル:R2にwktkです!
リリカル殺生丸のラストを期待して待ってます!
>>平成セブン氏へ
ウルトラセブンとの世界観がやばいくらいにクロスしてますねw
二話しかまだ読んでなかったのですが、今すぐ過去スレ読んできます!
入れ替われた管理局員、怪獣との戦い。
どこかホラーな感覚がします。
ウルトラQのような恐ろしい物語が展開されるのでしょうか?
次回も楽しみにしてます、GJ!
>>Strikers May Cry氏へ
グレイゥウウウウウウ!
何で隅っこでのの字書いてるんだよ!? と思わず天然パーマ男の勢いで突っ込んでしまいましたw
でも、そんなグレイヴもいいw(まて)
スカ博士が軽い、軽い。最近流行っているのはスカ博士のコメディ化か? まったく誰のせいだ(まて)
七夕の内容も本編を見ていると泣けます。なんで、こんなにほのぼのなのに。
世界は本当にこんなはじゃなかったことばかりだよ!
最強の死人兵士の行く末を心配しつつ、楽しませてもらいました。
GJです!
>>LMS氏
お久しぶりです。
帰ってくるのを首を長くしてまってましたw
相変わらずのなのはの暴れっぷりに、ダンテのスタイリッシュさに痺れるしかありませんw
そして、笹の木……成仏しろよw
スティンガーまで噛ましてよく折れなかったもんだ。
でも、最後のなのはの優しさに、どこか遠くにいってしまったなのちゃんの原型を見ました。
この二人のコンビがまたいつか見れるのを楽しみにしつつ、次回作を待ってます!
GJです!!
代理の人乙でした!
それでは1時5分ごろから投下を開始しますね。
内容はアンリミテッド・エンドライン番外編 18KBです。
そして再び名無しへと……。
さぁ、次は次とてやはり支援するっきゃない!
すいません、自分も眠気がきたので明日にまたきます。
では学園氏支援させて頂いきます。
そろそろ時間ですので投下開始します。
オリキャラが一人いますので、注意!
空に流れる川は広く
引き裂かれた恋人たちは嘆き悲しむ
愛はいずれ冷めるのだから
熱はいずれ冷めるのだから
人は孤独には耐えられない
だからこそ、人は寄り添う
そう、愛は繋がってこそ保たれる
――空に流れる星々を見上げる女の呟きより
星が綺麗だと思う。
片目に写る夜空はとても綺麗だった。
黒いカーテンに輝く宝石を散りばめたような星空。いつか兄が教えてくれた、魔法によるクリーンな環境だからこそ見れる光景。
昔は兄と一緒にはしゃぎながら見た光景。
けれど、今はたった独りで見ている。
「綺麗」
だけど。
どこか泣きそうになる。
左眼に眼帯を付けた少女は寮の屋上で空を見上げていた。
その服装はパジャマ。
既に消灯時間は過ぎている。
夏の夜とはいえ、風は涼しいを通り越して寒いぐらい。
けれど、彼女はただ飽きることもなく、夜空を見上げて――
「ラグナ〜」
自分を呼びかける声とカラカラという聞きなれた声に振り返った。
ラグナと呼ばれた少女が振り返った先、そこには車椅子に乗った少女――同室のクラスメイトの姿。
「あ、マイ」
「また空見てたの?」
マイと呼ばれた同じくパジャマ姿の車椅子の少女がカラカラと屋上のアスファルトの上を滑りながら、ラグナの傍にやってくる。
「よく飽きないねぇ」
「でも、空が綺麗だし」
「だからといって、こんな夜更けまで起きてちゃ駄目だよ〜」
ていっと言って、マイが手を伸ばして無理やりラグナの額にチョップをかます。
痛くないが、少しだけ衝撃がラグナの頭に走った。
「む〜、何するの」
「消灯時間過ぎて抜け出す悪い子に罰を上げてるのよっ」
「そんなこといったら、マイだってそうじゃない」
「アタシはラグナを追いかけてきたからいいの。ほら、さっさと寝るよ〜」
そう告げて、マイが左右のタイヤを逆方向に滑らせて、方向転換する。
カラカラと聞きなれた音を立てながら屋上の移動用エレベーターへと向かう彼女を見ながら、ラグナは唇を緩めた。
「ありがとね、マイ」
心配してやってきてくれた同室の親友に静かにラグナは礼を告げる。
「ん? なんか言った、ラグナ?」
「なにもー」
お礼の言葉を心に秘めて、最後にラグナは名残惜しそうに空を見上げると、ゆっくりとマイに続いて歩き出した。
時期は夏。
七夕と呼ばれる季節が間近な夏の夜のことだった。
【UnrimitedEndLine】
番外 星々映す孤眼
「今日は七夕やでー!」
「は?」
ある日の機動六課。
出撃もなく、お昼時に食堂でフォワード陣+隊長陣+ロングアーチのほぼ全員が食事を取っている時に突然はやてがそう告げた。
「えっと、あ、ソイソース取ってください」
「あ、これね」
エリオの言葉に、ティアナがソイソースのビンを取る。
「ふむ。明後日までは晴天か」
「シグナム〜。食事しながら新聞を読むのはやめなさいって言ってるでしょ」
「む。すまない」
和気藹々と何事もなかったように食事を再開する一同。
「っておいこら! 私を無視すんなぁ!!」
バシンとテーブルが叩かれる。
しかし、それを見る隊員たちの目は冷ややかだった。
「なんでしょう?」
「食事時は静かに食べないといけないんですよ」
「う」
最年少組に窘められる部隊長。
「はやてちゃーん。エリオとキャロに言われて恥ずかしくないの?」
「うぅう……ごめん」
はやては素直に謝った。
なんというかまったくもって威厳の欠片もない駄目な光景だった。
世にも珍しいラグナSS支援
アンリミテッド支援
支援!
そして、数十分後。
全員がご馳走様でしたと手を合わせ、食器を返した時だった。
「あ、あのぉ。私……発言してもええかな?」
おずおずと手を上げるはやて。
そこに威厳は無い。
「いいよ、はやてちゃん」
「うぅ。部下に許可貰って発言する上司って……」
鬱屈した想いを抱えながらも、はやては告げた。
「えーとなー。皆七夕って知ってるか?」
「?」
「知らないです」
「聞いたこともないです」
「私は知ってるけど」
「それって地球だけの文化じゃない?」
隊長陣は知っていると反応するものの、他は首を傾げていた。
「かー。知らんのか、悲しいなぁ」
やれやれと肩を竦めて見せるはやてに、フェイトがボソリと呟いた。
「はやて。地球の文化っていわゆるローカルだよ? それを常識のようにいっても、通じるわけないよ」
「主……心苦しいのですが、まったくもってその通りかと」
さらにシグナムの追撃が、はやての心に突き刺さった。
地球ってどこですか? とエリオが尋ね、シャマルが第97管理外世界のことよと答えたりなどするが、それらは全てはやての心を抉る光景だった。
自分の住んでいた世界。
それがとんだド田舎だと突きつけられているような錯覚に陥っていた。
し・え・ん!!
「うわーん! これは新手の職場イジメかぁ!? 上司をそんなにいたぶって楽しいんか?!」
「リインは見ていて、とても楽しいですー」
「リィイン! そんな薄汚れた喜びに目覚めたらアカン!!」
間違った方向に進みかけている八神家の末っ子にチョップで修正を加えると、ゴホンとはやては咳払いした。
「今日7月7日は七夕デーということで、ちょっとしたイベントを開くでー!」
「イベントって、何をするんですか?」
「ふふん。具体的にはすこーしばかり美味しいものを食べて、あと笹に短冊を吊るすでー」
「短冊?」
「短冊というのはな――」
クイッと首を捻るフォワード陣に気分を良くしたのか、もったいぶってはやてが口を開いた瞬間。
「短冊というのはねー、願いことを書いて笹に吊るすと叶うっていうおまじないのことだよー」
なのはがさらりと答えてしまった。
「――なのはちゅわぁああああん!!」
「な、なに!?」
「私の台詞―! 返せやー!」
きしゃああという叫び声と共に飛び掛り、スターズ隊長に襲い掛かる部隊長。
まさしく見苦しいという言葉が似つかわしい光景がそこに広がっていた。
「はやてー。さっきから話進んでないぞー」
チューチューとオレンジジュースを飲みながらゆっくりしているヴィータがぼやくように呟いた。
「んー、そうやったね」
「はやてちゃーん、どうでもいいけど手を離して〜」
床に押し倒され、何故か制服を脱がされかけていたなのはが少しだけ涙目で声を上げた。
普段の威厳とかキリッとした姿など微塵もなく、ミスお色気! と呼ばれてもしょうがない格好である。
そんな姿にスバルはまた一つ理想を砕かれて少しだけ遠い目を浮かべ、ティアナはまあ人間だしと肩を竦め、
キャロは何故か興味深々で見つめて、エリオは普段どおり笑っていた。
どうでもいいが、恐るべきは心体共に強靭であり優秀なはずの教導官を押し倒せる元特別捜査官の手腕である。
自称おっぱいマイスターの異名は伊達ではなかった。
支援砲火!!!!
「まったく。うっかりなのはちゃんの育った胸を堪能するところやった」
「堪能しないで〜」
「ええい、うるさい。私の出番を奪った罪は重いで!」
にゃんにゃんという擬音が付きそうな行為をなのはに行った後、はやては軽く額の汗を拭って、親指を立てた。
「ナイスおっぱい!」
「うぅ、汚されてしまったの。お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃんごめんなさい……」
「意味不明だよ、はやて。あと揉まれたぐらいで凹んじゃ駄目だよ、なのは」
「そして、何故私の胸を見るのですか、主」
フェイトのツッコミ、はやての視線に怯えるシグナム。
今日も今日とて、機動六課は横道を逸れまくっていた。
「まあそれはそれとして、皆これから飾りつけやでー! 訓練も無しや!」
「おお〜」
その言葉にフォワード陣が湧いた。
自分達の技量が磨かれていくのは分かるけれど、それでも日々の訓練は厳しく、骨身が軋む。
飾りつけの手伝いをさせられるとはいえ、一時の休息は嬉しかった。
「ぅー、午後は隊長陣全員でフォワードとの模擬戦しようと思ってたのに」
「部隊長ありがとうございます!」
息も絶え絶えにもがくなのはの言葉に、部隊長を褒め称える声が上がった。
地獄からの生還の如き歓声だった。
「ってそういえば、ヴァイス陸曹の姿が見えないんですけど?」
不意にティアナが周囲を見渡して、違和感に気付いた。
「んー、ヴァイス君か? ヴァイス君ならなー」
「ちょっと買出しにいってもらっとる」
クラナガン。
そこの商業地区の一角で、一人の男がぼやいていた。
「なんだかなー」
手には大きな紙袋を抱え、頭の後ろには括りつけたバイク用のフルフェイスメット。
羽織っているのはフライト用ジャケット、手にはバイク用のレザーグローブ。
茶髪の髪を開いた片手で掻き毟り、その男――ヴァイス・グランセニックはため息を吐き出した。
「幾らバイク持ちだからってパシリはねえっすよ」
そうなのだ。
今日の今朝方、待機任務で今日も一日ヘリのメンテでもするかー、あああと書類溜まってるから片付けねえと。
というヤル気を見せていたところ、ひょこひょことはやてが顔を見せて。
「ヴァイス君〜、アンタバイク持ってけえへんかった?」
「え? 一応持ってますけど」
「ん、なら頼むわ」
という言葉と共に差し出された買出しリスト+資金(一応公私は弁えているのか、ポケットマネーらしい)。
それに単なるヘリパイロットであるヴァイスに逆らうという選択肢はなかった。
故にこうして態々クラナガンにヴァイスはやってきているわけで。
「なんともまあ情けない」
言葉と共に出てくるのはため息だけだ。
こんな時にはタバコの一服でもしたいのだけれども、あいにくクラナガンの歩道は歩き煙草禁止になっていた。
法を護る立場である管理局員が歩き煙草で捕まるというなんとも面潰しな真似も出来るわけがなく、空気を吸って二酸化炭素を吐くだけだ。
どんよりと曇った顔を浮かべながら、ヴァイスはズボンのポケットに入れた買出しリストをガサガサと取り出す。
「えーと、後は……」
次の買う物を確認しようとヴァイスがリストに目を通した時だった。
不意にドンと横から衝撃を感じた。
横を通りすがる女性がヴァイスの肩に掠めるようにぶつかったのだ。
「っ!」
大した衝撃ではなかったが、片手には大きな紙袋、支えるべきもう片方の手はリストを持っていたという不安定な体勢には十二分すぎる衝撃だった。
慌てて紙袋を押さえるものの、数個の物品がアスファルトに転がる。
「やべっ」
紙袋を一旦下に置き、ヴァイスが落ちた品物を回収しようと手を伸ばした時だった。
さっと拾い上げ、ヴァイスの前に差し出された手があった。
規制に負けるな支援
「はい、どうぞ」
「ん?」
それは透き通るような蒼い髪をした女性。
凹凸の目立たない体型であるものの、すらりと伸びた長身を白いワンピースで包んだ清楚な雰囲気を持った美女。
普通ならば目を奪われそうな美貌の女性に、ヴァイスは眉をひそめた。
「お前は……」
差し出された品物を受け取りつつも、ヴァイスは礼を言うのも忘れて目の前の美女を眺めて――ある種の確信を篭めて呟く。
「――”ドゥーエ”か?」
姿は違う。
声も違う。
雰囲気すらも違う。
だが、彼女が行う動作に既視感を憶えた。
「あら、正解よ。ヴァイス・グランセニック」
クスクスとどこか妖艶な笑みを、清楚な女性が浮かべた。
「こんなところで何をやっているの? 機動六課でも首にされたのかしら」
「馬鹿を言うな。れっきとした職務中だ」
「職務中、ね」
ヴァイスの格好を眺めるように視線を走らせて、ドゥーエは上品に口元に手を当てて微笑んだ。
「どう見てもパチンコ帰りのチンピラにしか見えないわね」
「おいこら。っとそれはそれとして、お前もなんでこんなところにいる?」
普段はレジアスお付きの諜報員として忙しく活動しているはずのドゥーエが平日の昼間からクラナガンを歩いているというのは意外だった。
「んーまあ簡単に説明するなら――七夕だからかしら?」
「タナバタ?」
ヴァイスが傍目からも分かるぐらいに首を傾げ、その様子にドゥーエがクスリと笑みを零した。
「まあ説明してあげてもいいけれど――ヴァイス、お昼はまだだったかしら?」
し・え・ん!!!
太陽は真上に昇ったお昼の時刻。
午前中の授業も終わり、楽しい給食の時間。
「ラグナー、そういえば今日って何の日か知ってる?」
そんな時間に、コッペパンを千切って口に放り込んだマイが唐突に口を開いた。
「え? 今日なんかの記念日だったっけ?」
隣の席で車椅子に座るマイの言葉に、ラグナが首を傾げる。
7月7日。
クラナガンの創立記念日だっただろうか?
いや、それともベルカ聖王の誕生日とか?
疑問符を浮かべそうなぐらいにラグナがうぅぅんと声を洩らして首を傾げていくのを見て、マイがクスリと笑う。
「ふふーん。やっぱり知らないか〜」
「何の日なの?」
「実はね。今日はタナバタっていう願い事が叶う日なんだよ」
「へ?」
タ・ナ・バ・タ?
まったく聞き覚えのない語感にラグナが眼帯に覆われていない右眼を瞬かせる。
「昔パパとママに聞いただけなんだけど、どこかの次元世界に伝わる神話が元らしいの」
「神話って……そういえばマイの両親って考古学者だったっけ」
「そうだよー。普段は変な昔話とか民話とか神話とかを調べてるみたいだけど」
「へえー」
マイの変な薀蓄は両親からかとラグナは納得する。
しえん
「それでどんな日なの? 願い事が叶うって……」
先割れスプーンの先端でスープに浮かぶニンジンの塊を突き刺し、口に放り込みながらラグナが訊ねる。
よく煮えてあって、口に放り込んだニンジンは甘くて柔らかかった。
「んー、ちょっとした神話でね。お空の星にはね、一年に一回しか会えない夫婦がいるの」
「お空の星?」
「そう。ヒコボシとオリヒメっていう神様、この二人は一度結婚したんだけど、あんまりにも結婚生活が楽しくて仕事をしなかったからオリヒメの父親が怒って二人を引き離しちゃったの」
「ひどい話……」
注意するならともかく、引き離すなんてあんまりだと思う。
思いあっている二人をどんな理由があれど引き離すなんていけないことだと思う。
そう思って、ラグナが少しだけ顔を沈ませると、慌ててマイが言葉を継ぎ足した。
「けどね。あんまりにもオリヒメが悲しむもんだから、オリヒメの父親は一年に一度だけヒコボシと会うことを許したの。その日が今日、7月7日」
「一年に一度だけかぁ」
あまりにも少ない日数。
365日分の1日だけ。
それで満足出来るんだろうか。悲しみは増えないんだろうか。
「ロマンチックっていう言葉でなら綺麗だけど、切ないね」
「そうだねー。でも、大抵の神話とか民話とかって理不尽なことが多いからね」
手に残った最後のパンにジャムをたっぷりと塗って、マイは口に放り込んだ。
あまーいという感じに口元を緩めると、彼女は最後に付け足すように呟いた。
「それでね、これが七夕の一番の醍醐味というか風習なんだけど。短冊を吊るすの」
「短冊?」
最後に残した牛乳を飲みながらラグナが訊ねると、マイは机から白紙のノートを取り出して、徐にハサミでページの一枚を切り取り始めた。
支援
支援
470 :
代理投下:2008/07/08(火) 01:34:16 ID:heTxRfIz
「笹の生えた竹に、これぐらいの小さな紙に願い事を書いて吊るすの。例えばこんな感じに」
切り取った紙にさらさらとペンを走らせて、マイが見せたのは「金持ちの男が引っかかるように」と書かれた紙切れ。
「ふぅーん。というか物欲過ぎじゃない?」
「いいのいいの。例えなんだから」
そういって、マイは最後に残ったデザートのプリンを口に放り込んで、ニッコリと笑う。
「ちなみにね。なんで短冊に願い事を書くかっていうと、元々は一年に一回しか逢えないオリヒメとヒコボシへの祈りから始まったんだって」
「え?」
「滅多に会えない人同士を結び付ける効果があるかもね」
そう告げて、マイはバシンとラグナの肩を叩いた。
彼女は知っている。
六年間、ずっと会うことも出来ない兄がラグナにいることを。
彼女の片目を奪い、それを嘆き続けるが故に会いに来ない兄への寂しさにすすり泣くラグナの悲しみを彼女は知っていた。
親友だから。
昼を少し過ぎた時刻。
夏の日差しを避けるように掲げられたパラソルの下で、ヴァイスとドゥーエはカップを交えていた。
「ふーん。そんな風習があるのか」
「まあ一部の次元世界の風習だから、普通は知らなくて当然でしょうね」
「普通は知らないだろ。で、その買い物袋はやっぱり旦那の注文なのか?」
ドゥーエの足元に置かれた買い物袋を見てヴァイスが訊ねると、ドゥーエはジュースのカップを唇に傾ける。
「そうよ。昨日の夕方にね、いきなりメールで『ドゥーエ! 七夕をするので、悪いが明日短冊の材料とシャンパンでも買ってきてくれ!』 って書かれててね。レジアス中将にもう相談したら、笑いながら行ってきたまえとOKされたわ」
「相変わらずだな、スカの旦那は……」
潜入工作員をパシリ要員にするなど並の人間には思いつくまい。
ある意味ではぶっとんだ発想の持ち主だとヴァイスは再確認した。
471 :
代理投下:2008/07/08(火) 01:35:20 ID:heTxRfIz
「無駄に行動力があるから困るのよね、あのドクターは」
ドゥーエがクスリと笑い、手元にあるサラダサンドに齧り付く。
上品にナプキンで掴み、端っこから齧っているものの、どうしてもサンドの具が食み出すのは避けられない。
それを避けようと口を動かすも、零れ落ちたトマトが手元に零れる。
「あ、まったくもう」
「もっと豪快に齧ったほうがいいんじゃないか?」
トーストサンドを手に、ヴァイスが一口でトーストの三分の一を噛み千切る。
こういうサンド類ではいっそのこと豪快に噛み千切ったほうが結果として被害が少ないのだ。
「馬鹿言わないで。今の格好から見れば分かるでしょ? 上品な雰囲気を崩すわけにはいかないのよ」
「上品ねぇ」
ドゥーエの性格を知っているヴァイスとしてはどうにも違和感がある。
装えば上品な態度だろうが、毅然とした佇まいだろうが、演じられるであろう彼女でも、ヴァイスとしてはどうしても違和感を感じるのだ。
レジアスの誘いを受けてから大体六年近く。
何度となく情報の受け渡し、擬態能力を使っての入れ替わりに、戯れと肉欲の捌け口に寝たこともある。
愛情など互いには抱いていない。
ただの仕事上の関係。
だけれども、互いの性格を知るぐらいには付き合いは長かった。
「あら、失礼ね」
「悪い。どうしてもな」
一口程度になったトーストの欠片を口に放り込み、汚れた指を軽く舐めながら、ヴァイスは用意されていた紙ナプキンで手を拭った。
ドゥーエもまたサラダサンドを食べ終わり、常備しているらしいウェットティッシュで丁寧に手を拭う。
「で? 話ってのはそれぐらいか?」
アイスコーヒーの紙コップを傾け、ヴァイスはコーヒーと一緒に氷を噛み砕いた。
ろくな製氷機を使っていないのか、僅かにカルキ臭いが気にせずにガリガリと噛み砕く。
舌を冷たく冷やす冷気が心地よい、ガリガリと砕かれていく氷の音が心地よく、口から喉へと通っていく冷たさが暑さを忘れさせるようだった。
そんなヴァイスをドゥーエは粛然とした女性の顔のまま見つめ――薄く微笑んだ。
「そういえば、妹さんはお元気?」
「っ!」
ガリッとヴァイスの口内で氷が最後の悲鳴を上げる。
咄嗟に噛み締めた上顎と下顎の犠牲となり、僅かな氷の破片がキラキラと周囲に散った。
「いきなり、なんだ?」
「いえ、七夕の話をしていたら思い出してね――ヴァイス、貴方は自分の織姫に何年会ってないのかしら?」
「……」
ヴァイスは答えない。
ただ煙草を取り出して、常備している安物のライターで火を付けた。
紫煙がゆっくりと煙草の先端に立ち上り、ヴァイスの顔に苦々しい表情で浮かぶ。
472 :
代理投下:2008/07/08(火) 01:35:53 ID:heTxRfIz
「不味そうに吸うわね」
「ああ」
「そんなに不味いのなら吸うのをやめない? キスすると苦い男は嫌なんだけど」
「不味いからいいんだよ。いつまでも痛みを感じられる」
彼の煙草は己を傷つける自傷行為だった。
現にこの六年間、煙草を吸っていて一度でも美味いと感じたことなどない。
むせ返るような煙の感触、舌に広がる苦い味、手首を切る勇気もない己への罰し方。
「ふーん。自分を傷つけて楽しい?」
「さぁな。だけど、多分必要なんだ」
勇気がないなら責めるしかない。
そうでもしないと生きられない。
不器用だと自覚はしているとヴァイスは自嘲する。
「言い訳にしか聞えないけれどね……偶には妹さんにでも会ってあげたら?」
ドゥーエが優しく告げる。
聞き分けのない子供を見つめる大人のような笑み。
「……今日はずいぶんと干渉してくるんだな」
「まあね。今日は七夕だし、肉親に会えない気持ちが分からないでもないわ」
擬態として作り上げられた蒼い髪をかき上げて、ドゥーエが少しだけ本音を交えた寂しい笑みを浮かべる。
「会いたい家族に会えないっていうのもとても辛いものよ?」
「けど、オレには」
そんな資格はねえよと答えようとした瞬間、ヴァイスの口元に人差し指が一本。
「いい男は言い訳をしないの」
「っ」
「まあ少しは考えてみるものね。辛いのは片方だけじゃないから」
そう告げて、ドゥーエはおもむろに立ち上がる。
裾に付いたパンくずを優雅に払いのけ、片手に買い物袋を手にしたままニッコリと満面の笑みを浮かべる。
「では、又の機会に会いましょう。ヴァイス・グランセニック」
まるで夏に吹く涼しい風のようにドゥーエは人ごみの中に消えていった。
彼女のような人造人間ですら家族には愛を持ち、肉親を思う気持ちがある。
全うな、まっさらな人間であるヴァイスには達成し切れない気持ちだというのに……
スカ博士の意外な大胆さに吹いたwww
支援。
474 :
代理投下:2008/07/08(火) 01:43:30 ID:heTxRfIz
「まったく」
ため息を付きたくなるような思いを背負わされた。
普段は目を背けている事項に、無理やり目を向けさせられた。
不快感。
僅かにカップの底に残ったコーヒーの水滴と氷の欠片を口に注ぎ込み、噛み砕きながらヴァイスは椅子から立ち上がる。日陰であるパラソルの下から、晴天の日光が降り注ぐ外へと足を踏み出す。
暑い。
たった数歩と進まずに汗が吹き出る。
上着のジャケットを脱ぎ、裾を腰に縛り付ける。
「タナバタ、か」
特別な日。
一年に一度しか会えない男女。
悲しくないのだろうか。
嘆かないのだろうか。
ヴァイスには分からない思い。
けれども、先ほどのドゥーエの言葉は脳裏に染み付いていた。
――会いたい家族に会えないっていうのもとても辛いものよ?
「好き放題に言ってくれるぜ」
殆ど赤の他人のような相手に言われただけだというのに、どこか心に残る。
痛みとして残ってる。迷いがあった。
「顔なんか出したところで……」
自分が吹き飛ばしてしまった妹――ラグナの左目。
痛みに泣き叫ぶ妹の姿。
駆けつけた病院で、醜く傷ついた自分の目に泣き叫ぶ妹の光景。
両親に罵倒された最低な自分の姿。
最悪だ。
思い出したくもない。
「どう顔をだせっつうんだよ」
拒絶されるのが目に見えていた。
ヴァイスには分からない。
逃げて、逃げて、贖罪のように金だけ振り込んで、一切の接触を避けていた自分の肉親への会い方が分からない。
「不可能だろうが」
彼は悩む。
いざ実行しようとしても、方法すら思い浮かばない自分に苛立った。
だから、だから――
不意に目に付いた一つの店に目を止めた。
「――文房具屋、か」
考える。
そして、思いつく。
同時に腕時計を確かめる。午後を過ぎた時間、買い物は大体終わっている。
行きと帰りを合わせれば2時間も掛からない。
「少し遅くなるっていう連絡をすればいいか?」
そう呟きながらヴァイスは足を文房具屋に向けた。
一つの決心と共に。
支援
476 :
代理投下:2008/07/08(火) 01:44:01 ID:heTxRfIz
時刻は夕方も終わる夕闇の時刻。
授業は終わり、夕食も済ませた。
涼しい風が吹く時間。
二人の少女――ラグナとマイが、学園の裏庭で空を仰いでいた。
寮を完備した学園、外出許可を取らなければ外に出ることもままならない、そこで風を浴びるには屋上かこの裏庭しかない。
「風が気持ちいいや」
ラグナがベンチの背もたれに寝そべりながら、風に流れるような声で呟く。
「そうだねー」
就寝時間までの僅かな時間。
普段ならば課題を解いたり予習などに使ったりするのだが、蒸し暑い夏の日。
部屋に篭って勉強するのにも苦痛で、二人は外に涼みに来ていた。
「そういえばラグナー、今日の物理難しくなかった?」
「そう? 一昨日の課題のほうが難しかったよ」
「あれはラグナ以外皆全滅だったじゃない。解くのに教科書以外に、専門書が必要な課題ってないでしょ」
「そうかなー? でも、マイは言語学ならすいすい解けるじゃない」
「アタシはいーの。子供の頃から色々次元世界は渡り歩いているから、地元で覚えたもん」
学生らしく勉学の悩みなどで一喜一憂しながら、ラグナとマイは笑いあう。
日の光が沈みゆく夕闇の中で二人の少女の笑い声が、風の音と共に混じり合う。
「あー、今日もいい天気だね」
「突然だね」
「そういえば言ってなかったっけ? 7月7日に雨が降るとね、それってオリヒメとヒコボシが泣いている涙なんだって」
「そう、なの?」
マイの言葉にラグナが驚いたように口に手を当てる。
「そう。7月7日に雨が降ると、お空の川が増水して二人は会えなくなるの」
マイが手を伸ばす。
車椅子から精一杯に手を伸ばし、うっすらと見えてきたお空の星々に笑いかけた。
「ここじゃない空、違う世界の夜空には天の河っていう星の河があって、二人はそれに阻まれているんだって」
「そう、なんだ」
「不思議だよね。どんな世界から見ても星空はあんまり変わらないのに、見える星が違うって」
幾多の並列世界。
まだまだ数え切れない世界の一端を事故に会い、歩けなくなった少女は笑う。
大切な友達に空の素晴らしさを伝えるように。
支援!
支援
支援
480 :
代理投下:2008/07/08(火) 01:45:48 ID:heTxRfIz
「そうだね、不思議だね」
ラグナは笑う。
左目を失い、その眼帯の下に醜い傷跡を覆い隠しながら、それでも少女は笑っている。
悔やむ時はとうに終わったと信じているから。
「ねえ、ラグナ」
「なーに?」
「もし短冊を書くとしたらどんなお願い事するの?」
「え?」
マイの言葉に、ラグナは少しだけ戸惑ったような表情。
マイはそんなラグナの様子を想像していたのか、さらりと言葉を続ける。
「私はね『また歩けるようになって、両親と一緒に旅がしたい』ってお願いするよ。ラグナは?」
恥ずかしげもなく本心を告げるマイ。
昼に書いた嘘のようなたわごとじゃなく、真剣な思いだからこそ恥ずかしくない。
車椅子の少女は当たり前のような願い事を親友の少女に明かした。
「わ、私は……」
ラグナは考える。
思いなんてとうに決まっている。
迷う必要すらも無く、決まっている。
だけど、願っていいのだろうか。
それだけが怖い。
「どんな願い事でもいいんだよ。私は笑わないよ」
マイは笑う。優しく、親友の少女を見つめる。
彼女の願いなんて、もうとっくに知っているのだから。
「わ、私は……会いたい人がいるの……」
ラグナは口を開く。
ゆっくりと、噛み締めるように、呟く。
「私は……兄さんに会いたい」
泣き出すように、ラグナは胸を押さえて、風に溶けそうな声を洩らす。
会いたいよ、と呟いた。
「もうずっと会ってないの」
キラリと右眼が灯り始めた電灯の光に反射して、輝いた。
それは涙。
思いの証し。
「六年間、ずっと会ってない」
ボロボロとラグナの目から涙が流れる。
零れ落ちる。
支援
482 :
代理投下:2008/07/08(火) 01:47:46 ID:heTxRfIz
「最後に憶えているのは、私に謝る兄さんの姿だけ」
許してくれと泣き叫ぶ兄の姿。
ふざけるなと兄を殴り飛ばす父親の姿。
悲鳴を上げて、止める母親の姿。
父親はラグナを溺愛していた。大切な息子を信頼していた。
それを裏切られた哀しみは家族を引き裂いた。
絶叫しか耳に残っていない。
優しい兄の姿はうっすらとした思い出の中。
「会いたいよぉ」
涙が止まらない。
眼帯がドンドン重くなっていく。
眼帯の下は既に眼球は摘出され、何もない空洞。
ただ涙腺だけは生き残っているのか、涙が眼帯を湿らせていく。
「会いたいよぉ、お兄ちゃん」
ラグナは泣き叫ぶ。
その場にいる親友にしか聞えない泣き声で、彼女は泣いた。
六年前、流すことの出来なかった涙の分だけ、涙を零した。
「よしよし」
ベンチに蹲り、涙を流すラグナをマイは抱きしめる。
想いを溜め込みがちの親友の背中を優しく叩いてあげる。
「きっと会えるよ」
マイは優しく告げる。
本心からの言葉。
「だって、ラグナは雨になりそうなぐらい一杯涙したんだもん」
涙を流す乙女に逆らえる奴なんていない。
マイは話にしかヴァイスのことを知らない。
けれど、それでいいのだ。
どんな兄でも悲しむ妹を助けないわけがない。平気な兄だったら、私がぶん殴ってやる。
マイはそう決めた。
「叶うんだよ、七夕だから」
「ほんとぅ?」
「そうだよ。ずっと会えない恋人同士がやっと会える運命の日なんだから」
きっと空の神様だって気を利かしてくれる。
「おにいちゃん……」
「よしよし」
マイはラグナが泣き止むまで抱きしめていた。
どこか遠くで、低い唸り声のような音を聞きながら――
483 :
代理投下:2008/07/08(火) 01:48:21 ID:heTxRfIz
「ごめんね、マイ。かっこ悪いところみせちゃって」
「いいよ、私だってパパとママに会いたいときもあるし」
二人は寮室に戻ってきていた。
ラグナが先導してドアを開き、マイがその後に続いて車椅子で入る。
「んーじゃあ、本当に叶うかどうか短冊でも書こうかなー」
「やれやれー。まあ笹がないけどね」
「だよねー」
それが問題だとラグナは笑いながら、自分の机に座ろうとして――気付いた。
「あれ? 手紙?」
「ん? ルームマスターが届けてくれたのかな?」
寮を管理するルームマスターが、時折学生に送られた郵便物を代理で受け取り、部屋に届けてくれることがある。
それかとマイは判断して、ラグナに何の手紙ーと訊ねようとした時だった。
「嘘……」
「へ、どしたの!?」
ラグナは手紙を見つめたまま、震えていた。
その様子に慌ててマイが車椅子を押して、迫った時。
「お兄ちゃんからだ」
「え?」
「だって、これ」
ラグナが見せた手紙。
そこには【ヴァイス・グランセニック】という名前が書かれていた。
「嘘みたい。ずっと、ずっと手紙出しても返事が返ってきたことなんてなかったのに」
「よかったじゃん」
「え?」
「願い事叶ったでしょ? まあ手紙だけどね」
はっとした顔つきでラグナは手紙を見つめる。
そうだ。
まだ会えていない。けれど、これは前進だ。
確かな希望。
「うん!」
ラグナは笑う。
片方しかない瞳――孤瞳で、窓から空を見上げた。
星々を映し出す瞳で、空を見ていた――
ペース早過ぎないか?支援
*規制解除されましたので、続きを投下します
「うーす、今戻りましたー」
くだびれた様子で、バイクから降りたヴァイスが隊舎の扉を開く。
「こらー! 遅いでー!!」
「うおっ!?」
扉を開いた先、そこには仁王立ちした部隊長が立っていた。
「ヴァイス陸曹〜、朝からこの夕方までどこいってたんかなー?」
「え、いや、頼まれた買出しをー」
「ほほう? その割にはめっちゃ遅いけど、どしたん?」
ゴゴゴゴという擬音すら発せそうな雰囲気ではやてがヴァイスを睨む。
下手するとSSランク魔導師の手によって、B+魔導師のヴァイスの命が奪われそうに成った時――
「んー、ちょっくらヒコボシになってきました」
「は?」
「まあまあ詫びはあとでたっぷりしますから、さっさとこれを使いましょう」
そういってヴァイスが取り出したのは買出しの荷物。
「ん。そうやら、ヴァイス君を絞ってもらうのはシグナムに任せてパーティするでー!」
「勘弁してくださいよ〜」
荷物を奪い、走り出すはやて。
その後姿を見ながら、不意にヴァイスは窓を見つめた。
「資格はねえ。だけど、これぐらいはいいよな?」
その呟きは誰にも聞こえない。
誰にも聞こえる必要がなく、ただ自分への弁護だから。
「こらー、なにしとるー! さっさとこんかーい!」
「へーい」
そうしてヴァイスは走り出した。
今の仲間の下へと戻るために。
これはいつかの機動六課であった平穏な日々。
これにて投下終了です。
途中で規制されてしまいましたが、ご支援、代理投下の方ありがとうございました。
普通はあまり見かけないラグナをメインとした内容でしたが、どうでしたでしょうか?
彼女の哀しみが少しでも伝わってくれると嬉しいです。
妹と打ち抜いてしまった兄。その罪と葛藤。
片目を失った妹。悲しみとそれにも勝る肉親への寂しさ。
エンドラインの話の片隅に転がる小さなエピソードですが、どうか楽しんでくださると幸いです。
一人オリジナルキャラがいますが、これはラグナの心の支え、彼女が送る学生生活でのピースとして必要なキャラとして登場させました。
本来ならば控えるべきだったでしょうが、誠にすみません。
7月7日を大幅に過ぎてしまい、すみません。
そして、またしても出てきたドゥーエ。出てくるたびにいい女になってしまった困りますw
近日投下予定のアンリミテッド・エンドライン本編も合わせてよろしくお願いします。
ありがとうございました。
GJ!
切ないですね……ラグナには幸せになって欲しいです
ストライカーズだけなら出番はユーノ並にあるのだからw
GJ
本編でヴァイスとラグナがどうなっていくのか続きが気になります
ほんまドゥーエさんは男の背中を押すのが上手いいい女やで…レジアスのおっさんと妙に仲良さ気で笑ったw
GJ!
490 :
新人 211:2008/07/08(火) 16:42:16 ID:jEuunpf9
誰もいないみたいなので投下予告を
本来ならSSの投下は明日でしたが予定を変更して本日の午後6時に投下します。
か〜な〜り無理があり、自爆の可能性があるSSと思いますが
最初からキバってクライマックスに行きます。
新しい人に、支援。
492 :
新人 211:2008/07/08(火) 18:01:35 ID:jEuunpf9
それでは、投下を始めます
タイトルは現在考えてる最中です。
とにかく、最初から最後までキバってクライマックスに行きます。
ショートカットの『彼女』は一人、そこにいた
その顔はあどけないものの、どこか勇気を感じさせる。
着ている服は軍服に似ているが、外見に似合うかどうかは別だ。
『彼女』は今、自分が見ている光景を疑っている
透き通った海のような青い世界が、辺り一面に広がっていた
風は一切吹かず、一切の音も聞こえない
明るくもなければ、暗くも無い。
辺りはそんな静寂に包まれた信じられない光景で広がっていた。
『彼女』にとって、それは全く見覚えのない光景だった、一体ここは何処なのか。
この世界からは何も感じない、『彼女』というたった一つの存在を除いて。
しかし、『彼女』は不思議と孤独感は感じなかった。
それと同じように、暑さや寒さ、更には飢えや乾きといった感覚までも、今の『彼女』には感じなかった。
今はいつなのか、何故こんな所にいるのか、どうやってこのような未知の空間に来たのか。
今の『彼女』にはその理由を考えるので精一杯だった。
『バル……』
突如『彼女』の思考を打ち消すような声が聞こえた。
493 :
新人 211:2008/07/08(火) 18:03:00 ID:jEuunpf9
『君の力を貸して欲しい』
何も存在しないと思われるこの世界に、その声は無意味に響く
『彼女』は辺りを見渡したが、声の主と思われる人物は何処にも見当たらない。
『全ての時空を脅かす脅威が牙を研いでいる』
『その脅威はいずれ君の世界も滅ぼしかねない』
虚無の空間に唯一聞こえるその声は一体どこから聞こえてくるのか。
『君と共に戦う戦士がいる』
『彼らは栄光の魂を受け継いで、世界の為に戦っている』
『だから君も、戦うんだ』
「彼女」はその話をただ呆然と聞くだけだった。
『そう……仮面ライダーとして』
その瞬間、眩い光が世界を包み、思わず『彼女』は目を閉じる
そして『彼女』の意識は消えていった。
494 :
新人 211:2008/07/08(火) 18:04:00 ID:jEuunpf9
プロローグ
「仮面ライダー……?」
『彼女』は自分の声で目を覚まし、起きあがった。
一体何をしているのか。そんな思いを抱えながら辺りを見渡す
「あれ…? ここは一体…?」
そこに現れたのは四方が黒に包まれた部屋だった
その部屋にただ一つ備え付けられたベッドに『彼女』は眠っていたようだ。
「どうしてあたしはこんな所に……」
呟きながら、全く知らない場所にいることを、『彼女』は理解した。
先程見た青い空間、そしてそこで聞いた言葉は夢だったのか。
自分が何故このようなところにいるのか、彼女は少し前のことを思い出そうとする
しかし『彼女』は思い出せなかった。意識を失う前に何が起こったのか、自分が何をしていたのか。
そして考えている内に、ある重要な疑問が『彼女』の頭の中に駆け巡った
それは――――
「あたしは一体誰なの……?」
そう、『彼女』自身のことだった
名前だけではない、自分の生まれ故郷、家族、友人、名前。
それら全てが今の『彼女』には思い出せなかった。
495 :
新人 211:2008/07/08(火) 18:05:51 ID:jEuunpf9
一体どういう事なのか、『彼女』は自分の埋もれた記憶を掘り起こそうとする
しかし、自分に関する記憶は何一つ出てこなかった。
ポケットを探るが、何も出てこない。
財布、身分証明書、何でも良かった
だが、それらしきものは何一つ見当たらなかった。
一体どうすればいいのか、そんな不安に駆られていると突如ドアが開く。
「ん、起きてたのか」
ドアが開いて入ってきたのは一人の青年だった
歳は『彼女』より少し上に見える。
一見、どこにでもいる好青年にも見えるがその表情にはどこか倦怠感を感じさせる。
「あ、あの…ここは一体……?」
『彼女』は、自分が今いる場所が何処なのか青年に訪ねる。
「ここはゼロライナーって列車だ」
「ゼロライナー……?」
青年の言った言葉を『彼女』はオウム返しする
しかしその言葉は全く聞き覚えのないものだった。
「君は時の砂漠に倒れてたんだ」
「え……? 時の砂漠……?」
「聞くより見た方が早いぞ」
青年の指す方向を『彼女』は窓から眺める。
496 :
新人 211:2008/07/08(火) 18:07:03 ID:jEuunpf9
「うわぁ……!」
その光景に『彼女』は驚愕した。
普通、砂漠と聞くと灼熱の炎天下の中、生物や植物はほとんど存在せず、延々と広がる砂地を連想させるかもしれない。
しかし、窓の外に広がるのは見渡す限り銀色の砂漠だった、遙か彼方には岩山が見える。
虹のように空は七色に輝き、オーロラが広がる。
神秘と呼ぶにふさわしい幻想的な光景に『彼女』は目を輝かせていた
その輝きは好奇心旺盛な子供の瞳を彷彿とさせる。
「君は運が良いと思うよ、俺達が通りかからなければどうなっていたか分かったもんじゃない」
青年の漏らした言葉で『彼女』はハッと我に返る
この時『彼女』は自分が記憶喪失と言うことを忘れていた。
「すみません、時の砂漠……でしたっけ? 何が何なのかよく分からないんですが」
「彼女」は青年に質問する。
「それに、時の列車って言いましたよね」
「…どう説明すればいいんだ」
質問攻めに対し青年は、溜息混じりに呟く。
「とりあえず、君は…」
「朋也〜」
青年の問いかけを遮るように、ドアの向こうから間の抜けたような声が聞こえる
その声の主はドタドタと音を立てながらこの部屋に入ってきた。
「朝ご飯、できたよ〜」
そこに立つのは2メートルを超える黒装束の偉丈夫だった。
両腕には鋼鉄の手甲が鈍い光を放ち、顔面にはカラスを連想させる金色の仮面が填められている。
497 :
新人 211:2008/07/08(火) 18:08:06 ID:jEuunpf9
仮面により素顔を確かめることは出来ないが、その格好と体格からは独特の威圧感を放つ。
その人間に見えない風貌は平安時代末期の僧衆、武蔵坊弁慶を連想させる。
「あ、起きてたんだ、よかったよかった」
外見からは想像出来ないくらいに剽軽な声を出しながら『彼女』の顔を覗き込む。
「あなたは一体……?」
「デネブです、よろしく」
デネブと名乗る偉丈夫は『彼女』に対し御辞儀をする。
「君は丸1日寝てたままだったんだ、いや〜どうなるかと思ったよ」
『彼女』の顔を覗き込んだまま、距離を近づける
それに対して『彼女』は身を竦ませてしまう。
「あれ、どうしたの?」
「お前に驚いてるんじゃないのか」
朋也と呼ばれた青年の説明で、デネブは自分の所為で『彼女』を驚かせてしまったことに気付く。
「驚かせてごめん…」
「いや、別に大丈夫です」
距離を離し頭を垂れるデネブに対し『彼女』は顔を上げるよう促す。
「それはそれとして、何で君はあんな所に倒れてたんだ?」
場の雰囲気を変えるように青年は『彼女』に問いかける。
「時の砂漠に倒れてる奴なんて今まで見たことないぞ、そもそもどうやってこんな所に来たんだ」
青年の質問に対し、『彼女』は間を空けてから口を開いた。
名前、家族、友人、故郷……それら全てが自分の記憶から抜け落ちていると言うことを包み隠さず説明した。
498 :
新人 211:2008/07/08(火) 18:09:33 ID:jEuunpf9
「なるほどね……つまり君は記憶喪失って奴なのか?」
「そうみたいです」と『彼女』は返す
それに対し青年は面倒臭そうな顔をする。
「……どうすりゃ良いんだ」
「朋也、ターミナルに行かないか? あそこで身柄を引き受けて貰えば……」
「今から行くのか? 連中はもう暴れてるだろ」
「だったら、最近噂になってるデンライナー署は……」
「ターミナルで聞いた話じゃあれってもう無いみたいだぞ」
デネブは「え、そうなの?」と返す。
「それなら、こういう場合は警察に届ける方が…」
「時の砂漠で見つけました〜なんて言えるか?」
「そうだった……」
そんな二人のやり取りを『彼女』は見ているが、何を話しているのか理解出来ず首をかしげる。
恐らく自分の身柄についてだろうが、聞き覚えのない単語が混ざっているので不安に駆られる。
『彼女』が沈黙している中、名案が思いついたかのようにデネブはパンと両手を叩く。
「よし、それなら記憶を取り戻すまで俺達で身元を引き受けないか?」
この発言に、他の二人は目を丸くした。
499 :
新人 211:2008/07/08(火) 18:10:17 ID:jEuunpf9
「はぁ!? お前は何言ってるんだ」
「だから、身柄は俺達が引き受けるって」
「そういうことじゃなくて、何で俺達が引き受けるんだ」
「だって可哀想じゃないか、自分のこと思い出せないって言ってるし。 別に引き受けても問題ないでしょ?」
「いや待て、問題ある無いじゃなくていろんな意味でやばいだろうが!」
「そうかな〜?」
「いや、普通そうだろ!」
喧嘩にも馴れ合いにも見えるような議論を交わしている
しかし、両者の意見は平行線のままだ。
「ねえ、君はどう?」
デネブは『彼女』に尋ねる
それに対して『彼女』は困惑した表情を見せる。
「そんなこと言われても困りますし……」
「ほら見ろ、困ってるじゃないか」
「とりあえず、あたしは……」
その瞬間『彼女』の言葉を遮るかのように気が抜けてしまうような音が鳴る。
それは『彼女』の空腹を伝える音だった。
「……………………………」
「腹、減ってるんだな」
赤面しながら『彼女』は無言で首を縦に振る。
500 :
新人 211:2008/07/08(火) 18:11:12 ID:jEuunpf9
『彼女』はゼロライナーの食卓についている。
奇妙な威圧感を放つ偉丈夫、デネブの押しの強さにより気がつくと椅子に座らされていた。
そのデネブは今、喜びのあまりに鼻歌を歌いながら朝食を『彼女』に差し出す。
「えっと……本当にいいんですか?」
『彼女』は戸惑いながら青年に尋ねる。
「ここまで作ってるんだから良いんじゃないか?」
青年は素っ気なさそうに返す。
「遠慮しなくて良いよ、おかわりはいっぱいあるからね」
デネブは嬉しそうに語る。
501 :
新人 211:2008/07/08(火) 18:12:53 ID:jEuunpf9
「いや〜とっても美味しかったです、もう最高でした〜」
「ありがとう、そう言ってもらえると作った甲斐があるよ。ごめんね足りなくて」
「大丈夫ですよ〜」と間の抜けた返事をしながら『彼女』は恍惚の笑みを浮かべる
その笑顔は先程見せていた不安な表情がまるで嘘のようだった。
「朝からよく食えるな……」
青年は呆れた顔をしながら率直な感想を漏らす。
『彼女』はデネブの言った「遠慮しないで良いよ」と言う言葉に甘え、用意された食事を一瞬で食べ尽くしてしまう。
しかし、それだけでは『彼女』にとって足りるものではなかったらしく、出された食事を一瞬で食べ尽くし、おかわりをする……
これでもかと言うようにその動作を繰り返し、その勢いは十分足らずで炊飯器を空にしてしまうほどだった。
青年の分の食事も用意していたことは不幸中の幸いだったかもしれない。もし、用意していなかったら彼の分も『彼女』が食べ尽くしていただろう。
ちなみに『彼女』は記憶喪失だったが、食事をする分には問題なかったようで箸や食器はスムーズに使うことが出来た。
「そういえば、さっきあたしの身柄について話してましたよね?」
食事を終えて一服していた『彼女』は口を開く。
「それがどうかしたのか?」
青年が返答する。
「もしもですよ、あたしが暮らすことになったら毎日のご飯は……」
「ああ、俺が作ってあげるよ」
『彼女』の問いを読み取る様にデネブは答える。
「それ、本当ですか」
「本当だよ」
そして、彼女は屈託ない笑顔を浮かべ言葉を放つ。
「わかりました、これからよろしくお願いします!」
502 :
代理:2008/07/08(火) 18:21:35 ID:yqZzCKQb
青年は盛大に吹き出した。
「君、今なんて言った……?」
「だから、これからよろしくお願いしますって…」
「それはもしかして一緒に暮らすって意味なのか……?」
「そうですけど、何か?」
青年は理解不能と言った感じの表情をする。
「ちょっと待て、君はそれに抵抗はないのか? いろんな意味でやばいだろ」
「だって、こんなに美味しいご飯が毎日食べられるんですよ? 断る理由がどこにあるんですか」
真顔で『彼女』は力説する。
「もしかして君は飯が食えるというだけで一緒に暮らす気なのか?」
「はい!」
目を輝かせながら『彼女』は即答する。
「朋也、向こうも反対してないみたいだし良いでしょ?」
「まるで俺が悪人みたいな言い方だな」
青年は困った表情を浮かべながらデネブに返す。
「もう一度聞くけど、本当に良いのか?」
「はい、あたしは問題ありません」
「……しょうがないか、まあよろしくな」
「よろしくお願いします!」
記憶を失った『彼女』の物語は始まる。
プロローグ 終わり
支援
あれ……侑斗は?
代理投下ありがとうございます。
今回出たデネブは桜井侑斗と契約したデネブとはまた別のデネブという設定です(本編にモールイマジンが数人出てきたようにデネブも数人出てきた)
とりあえず、素人なので少し頭を冷やしながら今度なのは3期を見直します…
・・・で、作品のタイトルは決まったの?
良作過ぎて涙が出るよ。
その…まだ決まってません…
このスレの方々に深く謝罪します。
ダメダメな描写、変な設定、悪質なキャラ改変等々…
このようなSSで目を汚して大変申し訳ありませんでした…
自分の実力を過信しすぎた為に起こったこの悲劇。
しっかりとした実力がつくまでもうここには投下しないことを誓います。
そして出来れば、このような最悪のSSはもう誰の目にも届かないようにまとめにも載せないで下さい…
代理投下をしてくれた親切な住民様、そしてわざわざ読んでくれた方々へ
本当に申し訳ありませんでした…
へこむの早ッ!
……自分でそう思うならば投下しなけりゃよいのに。
近年希に見る程の凹みッぷりだな
511 :
872:2008/07/08(火) 20:17:23 ID:ySW9nR9Z
文自体は悪くはないと思うぞ
もう少し書き続けてみれば?
もしかしたら化けるかもしれんしな
書かない火浦より書く素人、ってな……
……ごめん、泣いてます。
取り敢えず、自分の作品を卑下するのはやめろ
だな。穏和と低姿勢と卑屈は全部違う
世に送り出そうってのに産みの親すら祝福してやれないなんてあんまりだわ
>>513 「世界中の皆が批難しても、造り出した手前ぇだけでも
自分が造り出したモンは愛してやらにゃあ、誰がコイツを愛してやれる?!」
と、某麦わら海賊団の船大工&造船と水の都の市長の師匠も言ってたしな。
正直今の段階ではBJ(bad job)をつけざるを得ないが
腕を磨いてまた来いな。
自分の書いた文章を省みることができるのは美点だと思うよ。
世の中には「SSを書くってことは省みないことさっ!」と嘯いた結果、誰にも理解されない境地に至ってしまった人も多いわけだし。
まあ……その……なんだ、謙虚に頑張れ。
祝福しろ、連載にはそれが必要だ
とでも某水族館の男囚っぽいことを言ってみる
519 :
新人 211:2008/07/08(火) 21:22:04 ID:jEuunpf9
助言、ありがとうございます
これを機会に自分を磨いていこうと思います。
とりあえず、まずは設定を最初からしっかりと考える
そして登場人物の性格をちゃんと理解していこうと思います。
俺はぱっと見文章自体は読み易いし、そこまで酷くない気がするけどな・・・
初見で設定がわけがわからないってのも意図してのものとしてなら文芸で良くある手法だし・・・
「もう少し頑張りましょう」レベル
文章作法の紹介わ読むなり、研鑽できる場所で修行するなりしよう
熱意は買う
えーと、投下予約ありませんよね?
四十五分から投下良いですか?
支援開始
支援
投下開始します
Devil never Strikers
Mission : 11
Fly again
地上本部および機動六課の襲撃から一日が過ぎた。
機動六課隊舎の食堂は、もはや原型すら分からず、燃え残った椅子やテーブルが残っているのみだった。
その中で一番無事な物に腰かけながらダンテは呟いた。
「ピザは……ねーよな」
頭上には澄み切った青空。
前後左右どこに顔を向けても壁は無く、オープンテラスとなった食堂に一人佇むダンテ。
関係者以外立ち入り禁止のこの場に彼がいる理由は、事情聴取のためだった。
厳密には、というよりあからさまに部外者のダンテだが、この食堂を利用した回数はかなり多い。
最初のうちは気にする者も多かったが、はやてが親しそうに(要するに普通に)話しかける姿を見てからはその数も減っていった。
今ではピザを食べるダンテの姿は食堂の一部として認識されている。
「待たせたな」
そう言って現れたのはシグナム。
では始めるぞ、と前置きしてからダンテに質問を始めた。
「何故あの日ここに来た?」
「ピザを食うために」
「何故戦闘に介入した?」
「ピザを食うのに邪魔だったからだ」
「ふざけるな!と言いたいが……事実なんだろうな、それが」
どうやらダンテががどういう人間なのかをシグナムは理解しているらしい。
深いため息からは面倒な仕事を受けてしまった悲しみが漏れ出ている。
その後はどのルートでどんな敵を相手にしたのかを簡単に話して、事情聴取は終わった。
帰っていいぞ、と言いかけたシグナムを右手を上げて制する。
「何だ?」
「あのたぬきに話がある」
「主に?今はいないが……私から伝えておこうか?」
「いや、直接話したい。どこにいる?」
少し考えた後、シグナムははやての居場所を答えた。
「今は本局にいるだろう。帰りに病院によるといっていたからそこで待ってはどうだ?」
聖王医療院。
少し前にヴィヴィオが世話になったのがこの病院で、ダンテも名前だけは知っていた。
来るのは初めてだったが大きな病院だけあって目印も多く、道に迷うことは無かった。
病院内に入ったダンテは受付を無視して歩き出す。
目的は面会ではないのだし適当に歩いていれば誰かしら知り合いに会えるだろうと思ったからだった。
「あとはそいつに伝言頼んで、俺はどっかで昼寝だな」
呟いた直後に知り合いを見つけられた。売店で品定めをしている二人組。
近づいて声をかけようと思った時、片方が振り向いた。
「ダンテさん!!」
「よう、エリオ。調子はどうだ?」
「僕は大丈夫です……けど……」
「やっぱ悪いのか?」
「ええ……そうだ!ダンテさんもお見舞いに行きますか?」
ここでダンテはおかしいなと思い始める。
その正体はダンテがネヴァンの事を聞いているのに対してエリオがスバルの事で答えているからなのだったが、ダンテは気づかない。
「良いですね!きっと元気でますよ!」
キャロの言葉が決め手となり、ダンテの頭の中の疑問符は無くなった。
だが時既に遅く、二人の中ではダンテのお見舞いは決定事項らしい。
やれやれ、と思いながらもこいつらならはやてへの伝言を頼むのには丁度良いなとも思い、ニコニコと歩き出す小さな背中を追っていった。
支援
529 :
Devil never Strikers 3/7:2008/07/08(火) 23:51:40 ID:lg0IDAUO
そしてその頃、スバルの病室にはティアナの怒声が響いていた。
「うっさい!あんたはもう……生きてるだけマシでしょ!」
「でも、普通なら死んでるんだよ?それなのに生きてるなんて……変なんだよ絶対!」
叫んでいるのはスバルも同じで、こちらには悲しみがこめられている。
最初の内はティアナもこうではなかった。
落ち込んでいるスバルを元気付けようとして色々試していたのだが、何を言ってもネガティブな反応しか返ってこない。
そこで普段と同じように接してみたのが間違いだった。いつの間にかスバル限定の口癖が出て、いつの間にか怒っていた。
「生きてまた会える!それの何がいけないのよ!」
ティアナからすればそれは何より大切な事だった。
彼女にとっては生きてまた合えるという希望があるだけでもうらやましい。それすら持つことを許されなかったのだから。
だがスバルが悲しんでいるのもまたそこなのだ。
あれだけの怪我ですらギンガはまだ死なない。
生と死は表裏一体。普通に死ねないという事は普通に生きれない事に等しい。
この機械の体が良い例だ。無くした腕すら元通り。
それでよく人間を名乗れたもんだ。とすら思ってしまう。
スバルはティアナの言いたい事を分かっていながら、受け入れられず。
ティアナもまた、スバルの悩みを分かってはいるが、理解できない。
そして互いに言いたい事が違っていることを知りながら、譲れなかった。
支援
何を話せば良いのか、何を聞けば良いのか。
どちらも黙りこみ、室内に重苦しい空気が充満していく。
悪いのはスバルか、ティアナか。
だがティアナとこのままでいたくないと思ったスバルは、あの時の事を話し始めた。
「あいつら……あたし達が狙いだったんだ」
「え?」
「作業内容は捕獲って言ってたから、多分あたし達タイプゼロのどっちかが欲しかったんだと思う」
スバルは感情を含めない口調で話し続ける。
冷静に、客観的に、淡々と。
そこにいつものスバルはいない。必要以上にネガティブになってしまう原因を、それこそ機械のように話し続ける。
「で、何であたしは殺されなかったか分かる?」
もう抵抗することも出来ないから、わざわざ殺す必要も無い。
それがあの場でのチンクの考えで、真実だった。
だがあの場でチンクはこうも言った。
「彼女も私達と同じだ。敵のリーダーにそう言われたんだ」
それはノーヴェを説得するための建前。
だがスバルにとっては自分が戦闘機人だから助けられた。と受け取るには十分すぎる言葉だった。
殺さずにすむならそれで良いという甘い考えと、同属への同情。
この二つのうちどちらが真実に見えるだろうか。
目の端から涙をながしながらスバルは続けた。
「戦闘機人だから狙われて!
戦闘機人だから助けられて!
戦闘機人だから腕だって元通り!」
で、戦闘機人の癖に負けてる。最後にそう付け加えてスバルはベッドに倒れこむ。
自分が普通とは違う事を理解してから、スバルは考えていた。
いつかはこんな日が来るんじゃないか、と。
そして同時にそんな日が来るのなら、その時傷つくのは自分ひとりでありますように、とも。
だが現実は厳しかった。
スバルが負った傷は小さく、ギンガの傷は大きい。
確かめたわけではないが、それだけは確信を持って言える。
「ギン姉はぜったい助ける。これは約束する。……でも」
「でも、何よ?」
「その後が、怖いんだ」
その後。この事件が全て終わってから後も自分達は普通の人間として過ごせるのだろうか。
ティアナを始めとする機動六課の人々が自分への扱いを変えるとは思っていない。
だがそれより外になるとどうだろうか。
「それは、その……」
すでにこの病院内ですらスバルが普通の人間ではないという噂が広がり始めており、好奇や嫌悪の視線がいくつか存在している事をティアナは知っていた。
こればかりはティアナには何とも言えない。
もっとも誰かがスバルに何か危害を加えようとしたなら、真っ先にそいつに向かって駆け出すつもりだったが。
言葉に詰まったティアナは何かに助けを求めるように辺りを見回して、―――そしてダンテと目が合った。
「……あの、いつからいました?」
おそるおそる尋ねるティアナに、ダンテは肩をすくめて返す。
さあな、当ててみな。という意味だろうと受け取ったティアナはそのまま答えの方に顔を向ける。
「えーと、スバルさん達が狙いだった。の話からです」
素直に答えるエリオ。
なるほど。そこからか。どうしよう。
スバルが戦闘機人であることをダンテに知られてしまった。
それを知ったダンテがどうするのかが分からない。
具体的に言えば避けるのか嫌うのか気にしないのか、それが予想しにくいのだ。
ティアナが願うのはスバルを追い詰めない反応だ。
『ピザの具にはならねーな』とかでも良い、とにかくスルーして欲しかった。
「聞いてました?あたしね、戦闘機人なんですよ。あいつらと同じ」
だがスバルはそれを望まなかった。
下手に気を使われるよりいっそ素の反応が知りたかったのかもしれない。
「戦闘機人って言うのは人の体に機械を埋め込んで強くした存在なんです」
そのままスバルは戦闘機人の説明を始めた。
説明の中で『戦闘機人』を示す言葉に『人』や『人間』という言葉は使われなかった。
「大体こんな感じです。どう思います?」
スバルは何を望んで説明をしたのだろう。
侮蔑や軽蔑か?それとも同情や慰めの言葉だろうか。
そのどれもが人間としてのスバルを否定する言葉になる。
結局、普通の人間じゃない悲しみは、普通の人間には理解できない。
悪魔とのハーフですが?あしえん
534 :
Devil never Strikers 6/7:2008/07/08(火) 23:56:32 ID:lg0IDAUO
「Devils」
悪魔か、確かにそれも一理ある。倫理的な面から見たら確かに悪魔の技術と言えるだろう。
思った以上にキツイ言葉にうつむくスバル。
「never」
ダンテの言葉はまだ終わっていなかった。
反射的に顔を上げた瞬間、最後の言葉が紡がれる。
「cry!」
首が後向きにのけぞると同時に額に鋭い痛みが走る。
涙目になりながら顔を前に戻すと、伸ばしたままのダンテの人差し指が見えた。
どうやらデコピンを受けたらしい。
「ちゃんと意味を考えたのか?」
「え?」
Devils never cry
この言葉には聞き覚えがある。
前にティアナが問題を起こしたときにダンテが最後に言った言葉だ。
もちろん意味は調べた。
直訳すれば『悪魔は泣かない』となった。
そりゃまあ悪魔が映画を見て涙を流すとは思っていなかったが、だから何だというのだろうか。
はっきり言って全く意味が分からず、そのうちに忘れてしまった。
「悪魔は泣かない、涙を持っていないから」
額に触れたままの人差し指を、スバルの目元まで運び、そこにある輝きを掬い取る。
それをスバルに見せながら、続けた。
「これは、人間だけが持つ宝物なんだよ」
だからお前は人間だ。
言葉の中に込められた意味を、スバルは確かに理解した。
だが理解したところで今のスバルはそれを素直に聞き入れられない、どうしたって後ろ向きな考えが出てしまうのだった。
その考えるより速くに、思ったことが口から飛び出す。
「でも―――うわた!」
そこから先は出てこない。
ダンテのデコピンが再び額を襲ったからだ。
一度目より遥かに強いそれは、スバルの頭を枕の上まで弾き飛ばした。
「後は自分で考えな」
簡単に答えなんかやるものか。
自分で考えて決めやがれ。
そんな字が書かれていそうな赤い背中が病室の外に消えるのを見届け、スバルは考え始めた。
自分の事、戦闘機人の事、これからの事。
最初に考えたのは二度目のデコピンの時、ダンテの指を離れ、光を反射していた小さな輝きだった。
(綺麗だったな、あれ)
病室を出たダンテは、当初の目的を果たすべく歩き出した。
ふらふらと歩くこと数分で、前から歩いてくる目的の姿を見つけた。
限りなくフランクに話しかけてくるはやては、ダンテに対しても
「シグナムから聞きましたよ?話があるとか」
「ああ、カブトムシのとり方についてちょっとな」
「うちは木に砂糖水を塗りますね」
「だろうな」
「木に向けて声をかけても来てくれる訳じゃないでしょう?」
誰がカブトムシで何が砂糖水なのか、それが意味する物にはとっくに気付いているらしい。
ならば、とダンテは楽しむ。久しぶりの皮肉まみれの会話を。
「そのカブトムシだがな、どうやら最近燃えちまった木がお気に入りらしい」
「そら残念ですね〜」
「木のほうはまた生えるだろうが……また砂糖水が塗られるかがわかんねーんだ」
「うちなら塗りますね」
「じゃそのカブトムシはお前の味方だろうさ」
伝えたいことは伝えた。
これでこの病院に用はない、ずいぶんと大きい寄り道があったが無駄足ではないだろう。
はやてに背を向け、歩き出すダンテ。
「そのカブトムシはどんなカブトムシなんです?」
この質問に深い意味は無い。100%遊び心の質問だ。
どんな風に返してくるか、どんなカブトムシに例えるかに、ただ興味があった。
クロックアップして宇宙生命体と戦う奴か、それとも色々な重火器を装備したメダルで動く奴か。
足を止めず、振り返らずにダンテは答える。
「森の王者だぜ?最強に決まってるだろ?」
そらそうや、とゲラゲラと笑い出すはやて。
笑いが治まった時、廊下にダンテの姿は無かった。
「久しぶりに思いっきり笑ったわぁ〜、ダンテさん。ありがとな」
その声は誰もいない廊下で、響かずに消えていった。
自称最強の助っ人を得た木は、燃えてはしまったがまだ枯れたりはしない。
その木にいる者達が飛び立つまでは、絶対に。
Mission Clear and continues to the next mission
支援
二度も上げてすいません。これで投下終了です。
本編でもっと戦闘機人であることの葛藤を描いて欲しかったです。
>>533 そうなんですけどダンテは傷の舐め合いをするキャラじゃないんですよね。多分。だから言葉だけ。
GJ!
そりゃ自分が普通と違ってたら悩むよな。
さーて立ち直れるかな。
GJ!
やはりダンテはやることが違う
GJ!!です。
自身が望んで改造されたのなら、偏見があっても気にしないだろうけど、
生まれながらで自分で選んだんじゃないんだものなぁ。
本編ではそこらへんの葛藤がなかったので残念です。次回も楽しみにしています。
へこんでいるスバルがかわいく思えてしまった。
あと、改造された者の葛藤とか見ていると仮面ライダーとのクロスを考えてしまうわけだが。
彼ら、改造人間から見れば、戦闘機人もただの人間に思えるのだろうか。
『メダルで動く』&『森の王者』GJ!
毎度ながら笑いを誘うネタが随所に潜んでますね。
>>520 結構同意
ボロクソ言われてんのはどういう理由なんだ?
文章力自体に駄目出しされてるなら俺なんかは消えて無くなるレベル
設定とかキャラ性格改変とかか?
別にボロクソ言われてないだろ
ウロスで聞けよそんなこと。ここは議論をする場でもない。
GJ普通の人間ではないことに悩むスバルというのは普通の反応ですね
本編だとエリオとかもさらりと流されてしまいましたし。
547 :
カナカナゼミ:2008/07/09(水) 15:39:12 ID:+PrL//bJ
wikiを見ていたら意外とひぐらしがなかったので
予告編書いてもよろしいでしょうか?
まあなんだ、sageろ
549 :
カナカナゼミ:2008/07/09(水) 16:38:08 ID:+PrL//bJ
ーーある日別の世界から迷い込んだ男がした話
「あんたらは時空を越えられるんだろ!?」
「だったら俺の仲間を助けてくれよ!!!」
ドクターの襟首を掴んで絶叫する男
ーーそれは昭和58年 6月22日、友人が殺されると言うものだった
「これ……もの凄い魔力だ…」
「しかも昭和58年6月22日…」
調べた資料を見て絶句する一同
ーー謎の魔力
「お姉さんたちはだれなのですか?」
「ここは確かに雛見沢村だよ、だよ」
ーー潜入した彼女らを待っていたのは平和な日常
「嫌な事件だったね」
ーーだが、それも長くは続かない
『知らない』
『無かった』
『元はね、お祭りではなく儀式だったの』
『くけけけけけけけけけけ』
『嘘だッ!!!!!!!!』
「ウェンディ、」
「アジトに帰れ」
ひぐらしのなく頃に ー魔ー 魔法荒し編
To be Countineued.
あー…容量475キロ超えたんで新スレ立ててきますね
おk、やってみる
>>553乙
それではこちらは埋めましょうか。
ということで何か埋め用の雑談のネタとかありませんか?
メトロイドとのクロスってないよな?
ガ板のポルナレフが(ryを見てたら何となく・・・
ゼロの使い魔とのクロス考えたことあったんだけどな
ハルケギニアが重要な観測指定世界になって、はやてとヴォルケンリッターたちが派遣されるって内容で
なんかプロットがうまくまとまらない上に、別のスレでなのはがルイズに召喚されてたので断念
>>558 ルイズを逆召喚すれば・・・
サモンサーバントで召喚用のゲートを開けたけど
何時までたっても使い魔が現れないからゲートをくぐった先が管理世界でした、と。
問題はゼロ魔分が薄いことだな。
サイトご一行を次元震で地球に連れて行き、そこで無印かASあたりに絡ませれれば良いかも、
…それにしても、ルイズって1歩間違えたら次元犯罪者に…。
>556
こないだSFCのスーパーメトロイドクリアした時に考えた。
あの戦いでメトロイドベビーを我が子の様に想い、子を失った悲しみに暮れて宇宙船が彷徨ううち、アースラに遭遇して以下略。
あのスーツもビームも、サムスの生体エネルギーで稼働するから、リンカーコアからの魔力で動作するデバイスのようなものかと。
メトロイドとかXとかは生きたロストロギアだよな。それも危険度の極めて高い。
>>560 いっそのことそれをネタにするってのはどうだ?
サイトを召喚した瞬間、近くに19歳なのは&フェイト&はやてが居て次元の移動先をサーチしてハルケギニアへ追いかけてきて
ルイズを次元誘拐の現行犯で逮捕してサイトは事情聴取後地球へ解放
ルイズはそのままミッドチルダの裁判所へ護送されるというストーリー
その後司法取引して管理局員になりミッド式を覚えてハルケギニアへ駐在員として帰還するルイズ
>>563 それはちょっと……
普通に考えてルイズに故意はないし、重過失も多分無いんじゃないか。
それで逮捕というのはさすがにねえ。
奴隷化の方は確かに問題だと思うけど。
アステカの生贄の儀式の最中に乗り込んで殺人だとわめくぐらいの愚行だな
>>566 まあ確かにサイトにしてみれば誘拐されたも同然だろうから、そこまでの愚行ではないと思う。
トリステインないから召喚されたとしたら内政干渉だろうけど。
でも、やっぱり日本国とトリステインの間で決着をつけるべき話であって、
管理局はおよびでないという気がするな……
568 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/09(水) 23:47:52 ID:EL5jklk0
くあ!!下げ忘れた・・・
ミッドチルダだと、ガイバーのキャラはどうなるんだろ?
アプトムなんか扱いに困るだろうな。ユニットGとかゾアクリスタルはロストギア扱いかね。
管理局に見つかる時期でルイズの運命がきまるなあ…。
完全に呼ばれた直後なら事故ですむけど1巻の虐待してるときだと逮捕されかねんなあ…。
サイトは、管理局に見つかったらやっぱ強制的に地球に戻されるのだろうかね?
で、いっそ、こんな展開はどうだ?
聖地のアレをロストギア扱いにして、ハルケギニア に対する強制執行を開始し
メイジ&エルフ等亜人の連合軍VS管理局てきなお話。
始祖の祈祷書は夜天の書的なアレなんだよ
最後は祈祷書も小さい人になるんだよ
そしてルイズは管理局入り
デルフの魔法キャンセル能力を見込まれてサイトも管理局入り
サイトは・・・ほら、家族と一緒に暮らさせてください
一番の被害者だろ
もうひとつクロスさせるの方法としたら、闇の書の転生場所がはやてのところじゃなくて
ハルケギニアに転生してしまうてな感じ、
転生場所の候補はテファかカトレアのところか?
聞いてるうちに管理局が胡散臭く思えてきた…
>>574 カトレアがヴォルケンといっしょにいるっぽいSSは見たことあるな
転生先がテファなら、あの乳革命は闇の書が原因か?
しかし、あの孤児たちはシャマルの飯を食わされるのか・・・
>>571 ハルケギニアが舞台だと
既にゼロ魔クロススレに魔砲使いがあるからなぁ
始祖が虚数空間に消えた後のプレシア・テスタロッサで
アントバリの指輪でアリシアを蘇らせた、その後何か色々あった
みたいな設定だったが
…見てみたが、改めてまずいな…
クロスを構想してたんがロストロギアがいっぱいあるせいか思いっきり暴動がありそう…つか、ある…
580 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/10(木) 01:27:12 ID:JaCOZbJm
>>578 いま見たけど、よくも、まぁ暴動やテロが起きないな・・・
普通だったら、10年間位テロなどが続いてもおかしくないよな?
この流れ・・・管理局のイメージアップを図るためにアイドル活動するのですね。
となると、6課の女性陣をアイドルデビューさせるのか、当然ライバルは地上のレジアスとスカ博士の数の子達だな。
先に765プロより敏腕Pを借りたほうが勝てるなw
>>575 何をいってるんだ?管理局は随分前から非常に胡散臭い組織だぞ?
国交の無い国へ不法入国した上で自分の国の法律を振りかざすようなキ○ガイ集団だしな
マジな話で十六夜さん達を見つけたら「ロストロギア」認定して強奪していくだろうな。
しかし質量兵器の基準がわからん。
なのはの魔法レールガンは良くて、ゆりかごは駄目。
ヴィータの鉄球は良くて、ピストルは駄目。
……質量兵器の「質量」に意味はあるのか?
くそぅ…こりゃもう一回なのはシリーズ見直さないとわからんな
そして構想を練らなくては…
管理局ってわかりやすく例えると何なんだろ…
国家権力持ちのヤクザ
>>586 ……ゆりかごは駄目だから訳が分からないんだ。
あれ、ゆりかごは質量兵器だからダメなんだっけ?
単にスカ一味の基地みたいに改造されてるからダメなんだと思ってた。
>>588 それはそれでどうかと思うが。
現実で言えば、邪魔だからアメリカが現実に現れたノアの箱舟破壊するようなもんだぜ?
間違いなく世界各地で暴動が発生する。下手すりゃ世界大戦の引き金になる。
きっとアメリカが全世界を支配して、しかもすべての兵器を握っている状況なんだよ……
当然のことながらメディアも支配済み。
暴動を起こしたってすぐに鎮圧。
<⌒/ヽ-、___
/<_/____/
∧∧∧
∧∧-д-)-)
( -д)―〇 )
───<⌒/`ヽ_つ-、ヽ──・・・
<⌒/ヽ-、ヽ_\
/<_/____/
∧∧∧∧ ∧∧∧ ∧
( (-( -( - ( -д( -д)
(つ(つ/つ// 二つ
ハァ─) .| /( ヽノ ノヽっ ─・・・
∪∪とノ(/ ̄ ∪
∧ ∧
(( (\_ ∧∧∧∧∧Д)っ
⊂`ヽ( -д-) _)д-) ) ノノ
ヽ ⊂\ ⊂ ) _つ
スゥ──(/( /∪∪ヽ)ヽ) ノ ──
∪ ̄(/ ̄\)
∧∧∧∧ ∧∧∧ ∧
( (-( -( - ( -д( -д)
(つ(つ/つ// 二つ
ハァ─) .| /( ヽノ ノヽっ ─・・・
∪∪とノ(/ ̄ ∪
∧∧∧
∧∧-д-)-)
( -д)―〇 )
───<⌒/`ヽ_つ-、ヽ──・・・
<⌒/ヽ-、ヽ_\
/<_/____/
<⌒/ヽ-、___
/<_/____/