リリカルなのはクロスSSその66

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1名無しさん@お腹いっぱい。
ここはリリカルなのはのクロスオーバーSSスレです。
ガンダム関係のクロスオーバーは新シャア板に専用スレあるので投下はそちらにお願いします。
オリネタ、エロパロはエロパロ板の専用スレの方でお願いします。
このスレはsage進行です。
【メル欄にsageと入れてください】
荒らし、煽り等はスルーしてください。
ゲット・雑談は自重の方向で。
次スレは>>975を踏んだ方、もしくは475kbyteを超えたのを確認した方が立ててください。

前スレ
リリカルなのはクロスSSその64
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1209789426/

*雑談はこちらでお願いします
リリカルなのはウロスSS感想・雑談スレ36(避難所で進行中)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1209615724/

まとめサイト
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/

NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/

R&Rの【リリカルなのはStrikerS各種データ部屋】
ttp://asagi-s.sakura.ne.jp/index.html
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 19:51:52 ID:A+vzEnZP
【書き手の方々ヘ】
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
 http://gikonavi.sourceforge.jp/top.html
・Jane Style(フリーソフト)
 http://janestyle.s11.xrea.com/
・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認してダブルブッキングなどの問題が無いかどうかを前もって確認する事。

【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は感想・雑談スレ、もしくはまとめwikiのweb拍手へどうぞ。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
 前の作品投下終了から30分以上が目安です 。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。

【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
 議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
 皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
 著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
 いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
 追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 19:52:12 ID:A+vzEnZP
【警告】
・以下のコテは下記の問題行動のためスレの総意により追放が確定しました。

【作者】スーパーロボット大戦X ◆ByQOpSwBoI
【問題の作品】「スーパーロボット大戦X」「スーパーロボット大戦E」「魔法少女(チェンジ!!)リリカルなのはA'S 次元世界最後の日」
【問題行為】盗作及び誠意の見られない謝罪

【作者】StS+ライダー ◆W2/fRICvcs
【問題の作品】なのはStS+仮面ライダー(第2部) 
【問題行為】Wikipediaからの無断盗用

【作者】リリカルスクライド ◆etxgK549B2
【問題行動】盗作擁護発言
【問題行為】盗作の擁護(と見られる発言)及び、その後の自作削除の願いの乱用

【作者】はぴねす!
【問題の作品】はぴねす!
【問題行為】外部サイトからの盗作

【作者】リリカラー劇場
【問題の作品】魔法少女リリカルなのはFullcolor'S
【問題行為】盗作、該当作品の外部サイト投稿及び誠意のない謝罪
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 19:52:53 ID:A+vzEnZP
ミス
前スレはこちら
リリカルなのはクロスSSその65
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1210670509/l50
5魔法少女リリカルなのはTES ◆O4WHtYg2/w :2008/05/19(月) 20:43:13 ID:qoYRfec9
>>1乙です。

行きつけの定食屋が二週間目を離した間に閉店。
その鬱憤を晴らすべく、一気に短編クロスオーバーを書き上げました。
他に予約も無ければ、20:50から投下したいと思います。
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 20:49:59 ID:I4//Q1Lz
支援するぜ!
スタァアアアアプ!!
7一尉:2008/05/19(月) 20:50:31 ID:urWtFRlG
KOたよ。支援
8魔法少女リリカルなのはTES ◆O4WHtYg2/w :2008/05/19(月) 20:52:01 ID:qoYRfec9

「そういや、井之頭さんってお酒呑まれへんの?」

「ええ。前世によほど酒で痛い目にあったとみえて……」

「でもさー、ゴローの売ってるコップみたいなので皆は酒呑むんだろ? 昨日ドラマで見たぜ」

「コップではなくグラス。ヴェネティアグラスだ、ヴィータ。
 しかしそれなら、井之頭殿は甘いものを好まれるのでは?」

「ええ、まあ……どちらかというと」

「あら。それじゃあ井之頭さん、駅前にすっごく美味しい喫茶店があるのは知ってます?」

「いや、知りませんけど……喫茶店ですか?」

「ええ、とっても美味しいお店なんですよ。是非一度行ってみてください」

「いやぁ……喫茶店に男一人で入るのも、ちょっと……」

「それは大丈夫や! とっても入りやすいお店なんよ?」

「ほう……」


孤独のグルメ

  番外編:海鳴市『翠屋』のアンミツ
9魔法少女リリカルなのはTES ◆O4WHtYg2/w :2008/05/19(月) 20:52:35 ID:qoYRfec9
 個人輸入業者にとって、個人の顧客は好みもわかるし高額に買って貰えるので、親密となるに越した事は無い。
 だが、それにしても八神さんの家族構成は、結構長い付き合いになるけれど、よくわからない。
 女の子二人に女性二人、大型犬が一頭――しかもその殆どが外国人。
 少々怪しいとも思うが、まあ、仲も良さそうだし、何より一介の輸入業者が立ち入るような問題じゃない。
 しかし……少し気になっていた。
 さっきはあんなふうに素っ気無く返答したものの、俺は甘い物には実際目が無いのだ。
 特に和食系の甘いものには……。
 気付くと俺の脚は、自然に海鳴駅前へと向かっていた。
 昼飯を食わずに商談を続けて、時間は四時過ぎ。腹はペコちゃんだ。何か腹ごしらえをしたい。
 喫茶店なら何かしらこう、腹に溜まる料理があるだろうから、まずはそれを食べる。
 それからお勧めだと言うアンミツなるモノをデザートに堪能するとしよう。
 駅前の雑踏を掻き分けて探すこと数分。

「あった。ここかぁ……」

 どうやら俺は目当ての店を見つけたらしい。
 喫茶店『翠屋』。
 個人経営の店にしては、随分イメージと違って明るいデザインだが……。

「なんだ。良い感じの喫茶店じゃないか」

 ところがドアを開けて中に入ると――

 ――カランカラン。
 
 ――印象がガラリと変わった。
 うわ、なんだこれは。女の子ばかりじゃないか。
 近所にある……何とかという私立学園の制服を着た女の子やら、主婦らしい女の人やら。
 ……そうか。入りやすいというのは、はやてちゃんにとっての入りやすいってことか。
 参ったな。だからってこのまま店を出るのも間抜けすぎる。

「いらっしゃいませー! 何名様でしょうかー?」

「あの……ひとり、なんですけど」

「はーい、窓側のお席へどうぞーっ」

 お下げの女の子に案内されて、窓際の席へと腰を下ろす。
 メニューを開くと……ほほう、色々あるんだなあ。
 さすが八神家全員がお勧めする店。どれもこれも食ってみたいが……。
 とりあえず空腹を満たすのが先決だ。

「……ん?」

 なんだ……この翠屋ランチってのは。
 翠屋セットってのもあるな。
 うん。よしこれだ。これはいい。
 喫茶店でランチってのも気が利いてるじゃないか。

「スイマセン、この翠屋ランチってのを……」

「翠屋ランチですか? えっと……それってお昼までなんですよー。
 だからその、もうやってなくって」

「そうか……それじゃあ、この翠屋セットを」

「ですから、ごめんなさい。それもお昼までで……」
10魔法少女リリカルなのはTES ◆O4WHtYg2/w :2008/05/19(月) 20:52:57 ID:qoYRfec9
 ガーンだな。
 結局、腹に溜まるモノが無いってことか。
 それならスパゲティとかを頼む手もあるが……。
 きっと一つじゃ物足りんし、大盛りは無い。二皿注文するのもナンだ。
 かといって、今から店を出て余所で食べてくるってのも……。
 となれば、ここはサッと食べて余所でドスンと食うか。

「……それじゃ、アンミツ下さい」

「ハーイッ。 お母さーん、アンミツひとつでーす」

「はいはいーッ」

 女の子の声に、厨房から女の人の声がかえってくる。
 夫婦で経営してるって話だったが、奥さんが料理を作ってるのか。
 注文をしてしまうと少し気が楽になり、こうやって店内を見回すゆとりがでてきた。

「へぇーっ。なのはもウェイトレスさん、板についてきてるじゃん」
「さすが翠屋の二代目だよねー」
「んー……別にまだ後継ぐって決まったわけじゃないよ、アリサちゃん、鈴鹿ちゃん。
 それに板についてきたって言ったら、フェイトちゃんの方が――」
「え、あ、そうかな? あたし、まだ全然だと思うんだけど……」
「そんな事ないって! 十分ウェイトレスさんやってるよ!」

 私立学園の制服を着た女の子達が、さっき席へと案内してくれたお下げの子と話している。
 なのは――そうか。あの子がはやてちゃんの友達の、なのはちゃんか。
 道理でアルバイト店員にしては小さいと思ったんだ。家の仕事を手伝ってる訳か。
 しかし……となると、もう一人のウェイトレスさん。金髪の子は何なんだろう。
 フェイトちゃん……という名前からして、日本人とは思えないし、
 なのはちゃん達と同年代だから、アルバイトの筈もない。

「……ホームステイか?」

 それにしては流暢な日本語だが。

「なのはー、アンミツできたぞーっ!」

「はぁーいっ! お待たせしましたーっ!」

 お、きたきたっ。
 ……いかん、慌てるんじゃない。
 俺は腹が減っているだけなんだ。
 腹が減って死にそうなだけなんだ。
 俺の目の前に運ばれてきた器の中身は――
11魔法少女リリカルなのはTES ◆O4WHtYg2/w :2008/05/19(月) 20:54:01 ID:qoYRfec9

『アンミツ』
 ・豆は茶褐色。
  粒が大きく艶もあり実に柔らかい。
 
 ・黒蜜だが、いわゆる黒蜜よりクセが無くさっぱりしている。

 ・餡子とバニラ・アイス。やや少なめか?

 ・定番の真っ赤なサクランボ。

 ・寒天が半透明に輝いている。


 ほう。上にはアイス、か。
 やっぱり女の子向けだなぁ。
 だいたい、こういうのは……ちょっと甘すぎやしないか?

「いいんだけどさあ……」

 早速、スプーンで掬って口へと運ぶ。

「……………ッ!」

 うまい!
 確かに思ったとおり……複雑な甘さだ。
 いや……スゴい甘さと言ってもいい。
 だが悪くない……決して悪くないぞ!
 なんだ、これは!
 餡子が違うのかな……。

「しかし、どうしてサクランボを乗せるのだろう」

 続いて赤く色の付いた実を口に含む。
 ……うん、これこれ。
 って、なにが「これ」なんだろう。
 着色料の味かな。
 このワザとらしい赤色が、何処か懐かしい。
 それにこの寒天!
 甘味尽くしの中にあって、これはすっごく爽やかな存在だ。

 ――カランカラン。
12魔法少女リリカルなのはTES ◆O4WHtYg2/w :2008/05/19(月) 20:54:32 ID:qoYRfec9
「いらっしゃいませーっ! フェイトちゃん、お願いなのっ」

「あ、うん。わかった。……いらっしゃいませーっ。一名様ですね、窓際のお席へどうぞーっ」

 金髪の女の子――フェイトちゃんがパタパタと駆け足で、お客を案内する。
 ドスンと俺の隣に腰を下ろしたその客は、金髪の軽薄そうな男だった。

「ええと、ご注文のほうお決まりでしたら――……」

「カレースパゲティにアイスコーヒー」

 カレースパゲティ! そういうのもあるのか!
 ……カレーって男の子の味だよな。

「えっと……カレースパゲティに、アイスコーヒーですね?」

「違ぇよ。カレーとスパゲティつったの!」

「あ……と、申し訳ありませんッ!」

「なんだよ、この店――注文もまともに取れねぇのかよッ」

 誠心誠意の謝罪に対し、大声を上げる男。

「…………」

 その横で黙ってアンミツを口に運ぶ俺。
 どうしたんですかー、と言いながらなのはちゃんもやって来るが、根本的な解決には成りそうもない。
 店員の謝罪と言っても、女の子二人だ。
 舐められている、というような感じか。
 そしてやおら男が水の入ったグラスを手に取り――

「……きゃぁっ!」

「フェイトちゃん!?」

 女の子にぶちまけた。

「ちょっと、そこのバカチンッ! あたしの友達に何すんのよッ!」

 溜まらず他の客――さっきなのはちゃんと話していた友達の一人だ――が声をあげる。
 それに対して、また大声で喚く男。
 その横に座っている俺。
 食べかけのアンミツ。
 アンミツ。

「………」
13魔法少女リリカルなのはTES ◆O4WHtYg2/w :2008/05/19(月) 20:55:00 ID:qoYRfec9
 ――バンッ!!

 もう我慢の限界だった。
 俺はポケットから代金を取り出すと、テーブルに掌を叩きつける。
 女の子達を始めとする店中の視線が突き刺さるが、構うものか。
 席を蹴るようにして立ち上がった。

「……人の食べてる横で、そんなに怒鳴らなくたっていいでしょう」

「あ?」  

「今日は物凄くお腹が減っていて、このアンミツも凄く美味しいのに……見てください!」

「………」

「半分しか喉を通らなかった!!」

「なんだァ? テメー、文句あんのか?」

「ある」

「テメーがどう残そうが食おうが、こっちには余計なお世話だ!」

 もっともな意見だ。
 だが退けない。退けるわけがない。
 真正面から男の目を見て言ってやる。

「……あなたはモノを食べる時の気持ちを全然、まるでわかっていない!」

「なにぃっ?」

「モノを食べる時はね。誰にも邪魔されず、自由で……。
 なんというか、救われてなきゃあダメなんだ。
 独りで。静かで。豊かで……」

「なにを訳のわからない事を言ってやがる……ッ!」

 ドン、と男が俺の身体を突き飛ばし――
14魔法少女リリカルなのはTES ◆O4WHtYg2/w :2008/05/19(月) 20:55:45 ID:qoYRfec9
「があああああああ!!」

 ――其処からの動きは半ば、条件反射だった。
 伸ばした左腕の手首を右手で掴み、一息に引き寄せるや否や、其処に左腕を絡ませる。
 後は即座にその腕で間接を固めるのみ。瞬きするほどの時間で済む。

「痛っイイ! お…折れるう――――ッ!!」

 無論、折れる。その為の技法だ。
 別に手加減してやる義理はない。だが――

「……お客さん、それ以上はいけない」

 ぽん、と俺の肩に置かれた手が、それを遮った。
 ――エプロン姿の男だ。
 この距離に近づかれるまで、まるでわからなかったが……。

「お父さんッ!」

 なのはが声を上げるが……お父さん?
 つまり――この翠屋の店長、という事か。
 見れば厨房から顔を覗かせた女性が、何故だか微笑んでいる。
 なるほど。
 騒ぎを聞きつけた彼女が、旦那さんを呼んでいたわけか。

「………………」

 ため息を吐いて、俺はゆっくりと不良を解放してやった。



 騒動を起こした事を詫びて店の外に出た俺は、ため息を吐いて空を仰ぎ見る。

「……やれやれ」

 あー……いかん。熱くなりすぎて、またやってしまった。
 いかん。いかんなぁ……。
15魔法少女リリカルなのはTES ◆O4WHtYg2/w :2008/05/19(月) 20:56:15 ID:qoYRfec9


「おい、お前――凄く運が良かったんだぞ?」

「あァ?」

 その後、しばらくして。
 締め上げられた腕を擦っている不良を店の外に放り出し、高町士郎は先刻の客を思い返して言った。
 飛び出してくる敵の手を取り、そのまま間接を固める――洗練されたあの動き。
 一介の人間ならともかく、数多の激戦を潜り抜けてきた士郎の目を誤魔化す事は出来ない。
 何せあまりの殺気に、思わず自分が気配を消して接近せざるを得なかったのだから。

「……ありゃあ長野の辺りの古武術だ。あまりに危険すぎて使い手のいなくなった、な。
 お前、下手すれば本当に腕を折られてたんだぞ。痛いだけで済んで良かったじゃないか」

「………………」

「コレに懲りたら、もう店にイチャモンつけて小銭を巻き上げるなんて真似は止すんだな。
 最近、この辺で暴れまわってたのはお前だろう。
 警察や学校には連絡しないでおいてやるが――次は無いぞ」

 恨みがましく何かを口にしようとした不良の顔が、一転して蒼白になる。
 無理もない。あの時の動きを見ればわかるが、この不良はあまり喧嘩慣れしていない。
 ところが――あの男。動きの切れも、技の鋭さも、並以上だった。
 脅しとして十分以上に効果があったのだろう。
 慌てた様子で立ち上がると、そのまま走り去る。
 その背を見送りながら――それにしても、と士郎は呟いた。

「一体……何だったんだ、あの客……?」
16魔法少女リリカルなのはTES ◆O4WHtYg2/w :2008/05/19(月) 20:56:51 ID:qoYRfec9
あとがき:
 鬱憤晴らしの孤独のグルメでした。
 着想は(作者さんが何方か忘れてしまったのですが)以前に投下されていた「ユーノ君の孤独のグルメ」から。
 折角『翠屋』という美味しい題材があるのに、これを活かさないでどうするんだ!と、
 個人輸入業者の井之頭ゴローさんに海鳴町まで来て頂きました。
 最初は機動六課メンバーからの質問→回想というネタを考えていたり。
「なんでなのはさんは独りで御飯を食べるんだろう?」
「モノを食べる時はね。誰にも邪魔されず、自由で……。
 なんというか、救われてなきゃあダメなの。
 独りで。静かで。豊かで……」
 とか色々考えてはいたのですが、シンプルに纏めてみました。
 ちなみにゴローさんが古武術やってたのは本当ですよ。

 ともあれ、お目汚し失礼致しました(礼)
17名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:01:30 ID:I4//Q1Lz
Stylish氏ですよーw 孤独のユーノ君はw
GJ!
雰囲気出てましたー! なんというか、食へのこだわりがいいw
18名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:04:17 ID:A+vzEnZP
GJ!
雰囲気がいいですねー
時系列は…A,sとstsの間ですか?
19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:07:05 ID:H9wthAWc
翠屋って洋菓子屋じゃなかったっけ。
20名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:08:25 ID:K8Cnqehe
>>16
SSを読むときはね、一人でパソコンに向かって誰にも邪魔されずに自由で…
なんていうか、開放されてなきゃだめなんだよ…現実とかから。
何を言いたいかというとGj。
21名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:22:20 ID:gw9cSP/L
白米喰いたくなりますよねー。
22名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:23:31 ID:a7/J4PJ1
GJ!!
さすがゴローさん、容赦がないw
オブリビオンのほうも楽しみにしてますー。
23名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:23:42 ID:Vp0tzgQ9
>>19
とらハだと軽食も出してるらしい。
24名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:24:44 ID:A+vzEnZP
>>19
無印一話で「喫茶翠屋」って言ってる
25魔術士オーフェンStrikers:2008/05/19(月) 21:28:36 ID:aeW+u4vR
すいません。
前回からだいぶ間隔開きましたが
十時くらいに魔術士オーフェンStrikers7話投下してもよろしいでしょうか?
26名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:34:47 ID:rJmFjENv
>>25
まってたんだぜ
27名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:35:24 ID:NhjM1Qam
マッテタゼ
28名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:35:58 ID:w98ieGjn
どうぞ!
みなさんも支援よろしくメカドック(古
29名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:36:36 ID:A+vzEnZP
支援したいけど時間的に無理だぜ
30名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:36:52 ID:gw9cSP/L
うへっ、まってたんだぜ。
31名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:38:12 ID:beUOQcHQ
この俺様が支援し殺す
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 21:56:23 ID:+5TguTo9
セールで買い漁った桃缶をたっぷり用意したから、支援体制は万全なんだぜ?
33魔術士オーフェンStrikers:2008/05/19(月) 22:01:33 ID:aeW+u4vR
それでは投下します。
何か知らないけど結構な量になってしまった。


魔術士オーフェンStrikers 第7話



「――――場所はエイリム山岳丘陵地区、保護対象のレリックをモノレールにて輸送中にガジェットが襲撃、かぁ。報告だと新しいタイプのガジェットも出てるみたいだね…。
本部の指揮ははやて部隊長が取ってくれる、…らしいんだけど、大丈夫かなぁはやてちゃん……もう徹夜三日目なのに…っと、ゴメンゴメン。脱線しちゃったね?」
山岳地帯上空―――目的地へ向けて進む機動六課大型ヘリの内部にてスターズ分隊長・高町なのはの口から今回の作戦内容がスラスラと紡がれていく。
隊長陣はともかくフォワード陣にとっては突然の、そして初陣となるこの出動。その為か彼女らは皆一様に緊張した面持ちを見せている。

「それじゃあ確認するね。私とフェイトちゃん、ヴィータちゃんは空域の制圧。標的は飛行タイプのガジェット…かぁ。」
「うん、新型だね。……ていうか、ヴィータって今日休暇のはずじゃあ…」
「…まぁ、成り行きでな」
遠い目をするヴィータを尻目に事情を知っているなのはが「あ、あはは…」と苦笑いしながら今度は対面に座るスバル達に向き直る。
「みんなは列車に侵入したガジェットの殲滅とレリックの回収ね?」
『はいっ』
フォワード陣もなのはの指示に頷く。
「で―――え〜っと……」
そして最後に―――観念したかのように―――今までなるべく見ないようにしていた方向へとなのはが視線を向ける。

「…………………………」
「…………………………」
そこには皆と少し離れた所に座り、頬を膨らませたまま前方を睨みつけたまま微動だにしないリィンと、その対面に座り居心地悪そうに彼女の視線を無視し続けているオーフェンがいた。
「リィンには現場でフォワードの子達の指揮、オーフェンさんにはそのサポートを頼みたいん…です、けど……」
「ああ。まぁ俺は空飛べねぇんだし、そっちに回るしかないだろうな……」
「………了解です」
やや口元をヒクつかせながらなのはが同意を求めるとオーフェンは苦笑いで、リィンは憮然とした声音でだが頷く。

(ね、ねぇヴィータ…)
フェイトが隣にいるヴィータに念話で話しかける。彼女は後から合流したため朝錬時の騒動を知らず、
なぜ二人の間にこんな険悪なムードが漂っているのか一人理解できていないでいた。
(ん、なんだよ…?)
(えっとね、オーフェンとリィンなんだけど…何かあったのかなって思って)
(あ〜、そういやオメーは居なかったんだっけ…)
(って事はやっぱり………)
何かあったのか……と、フェイトが心配そうな顔を浮かべる。
(……いや、まぁ本っっっ当にどうでもいい話なんだけどな……)
そんな彼女から微妙に目を逸らしつつそう前置くとヴィータは朝からの一連の流れを掻い摘んで説明しだした。

話は約30分前まで遡る―――――
34魔術士オーフェンStrikers:2008/05/19(月) 22:02:45 ID:aeW+u4vR
(なんだかなぁ……何でこんな事になるかなぁ……)
そう一人ごちながら鉄槌の騎士・ヴィータはうんざりと天を仰いだ。
空は快晴―――雲一つないとまでは行かないがそれでも晴天といっていい陽気だ。管理局勤めになってからは何かと忙しい毎日。
こんな日に休暇を貰えたのならもうそれだけで上々の気分だろう。……そう、上々の気分だったのだ―――――『ついさっきまでは』
ちらりと、顔は天を仰いだまま視線だけで隣にいる自分をここまで引っ張ってきた妹分―――リィンを窺う。
―――彼女は怒っていた。
腕を組み、眉を尖らせてさっきから自分たちの正面で渋面を作るオーフェンを睨み続けている。どこから調達してきたのかやけにギラギラしたサングラスなどかけながら…。
多分迫力を出そうと思った結果なのだろうがどうみてもギャングごっこをしている子供くらいにしか見えない。見事なまでに裏目ってる。

ちなみになのはと新人`Sは気がついたらすでに居なかった。フェイトもびっくりのソニックムーブだ。あいつら後でぜってぇ一発ずつド突く。
…というか何でアタシはこんな所に連れて来られたんだろう。せっかくの休日なのに…。
リィンが言うには「もしも勝てそうになかった時、ユニゾンしてほしいから」だそうだがそれならシグナムに頼んだほうがいいと思う。あのおっぱい侍なら喜んで付き合うだろうに。
…まぁ、断りきれないアタシもたいがい姉バカだと思うけどよ。
でも流石にいつまでもこんな居心地の悪い空間に居たくはない。オーフェンだって本気で戦り合うつもりもなさそうだし(当たり前か)適当に収集つけてさっさと帰ろう。
「なぁ、リィ「さぁオーフェンさん!いざ、尋常に勝負です!」

ウ、ウゼェ…こっちのセリフに被せてきやがった…。ワザとじゃねぇだろうなこの野郎。
「いやぁ、んな事言われたってな…」
と、困ったように頬を掻きながらオーフェンがアタシの方に視線を寄越す。それにシュタ!と右手を上げて心配するなと合図する。
なんだかんだ言ってもリィンはアタシの妹分だからな。アタシが優しく諭してやればちゃんと言うこと聞くって。
そう確信を持ちながらニヒルに彼に頷き返すと咳払いを一つする。
「なぁリィン、いいじゃねぇか、許してやろうぜ…?オーフェンだって悪かったと思ってるって、きっと…」
「甘いですヴィータちゃん!!」

聞く耳持たなかった…。姉貴分のささやかなプライドを粉砕しながらリィンの口上は続く。
「オーフェンさんはリィンの純真な心を弄んだ上にこの小さな体を汚しつくした挙句、最後には玩具のように捨てたんですよ!?贖われる血も無しに許すわけにはいきません!」
…要するに油断して捕まり(純真な心を弄ばれ)、はやての口内に押し込まれ(体を汚しつくされ)、泣きながら逃げたのに探しに来てくれなかった(玩具のように捨てられた)、と…。
……(体を汚しつくされ)の部分は、はやてが聞いたら怒り狂うだろうな…。つーか目ぇ血走ってるぞ、大丈夫かコイツ…。
35名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:04:20 ID:65VVCm96
ずっと待ってたんだぜ支援!
36魔術士オーフェンStrikers:2008/05/19(月) 22:06:05 ID:aeW+u4vR
「待て待て待て、いくらなんでも人聞きが悪すぎるだろ!?」
流石に我慢ならなかったのかオーフェンが叫び返してくるがリィンはにべもない。
「極大解釈すれば大体こんな感じです!」
それはつまり違うって事だろーが…。
「それにオーフェンさんが嫌がるリィンを無理やりはやてちゃんの口に放り込んだのは事実じゃないですかぁ!!」
「いや、だってアレお前がやってくれって頼んだんじゃん」
「そんなおバカな頼み事誰もしてません!リィンがお願いしたのは、仕事もせずに惰眠を貪るはやてちゃんをオーフェンさんの熱いキスで目覚めさせてほしいという
切実にしてスウィートなお願いです!!」
「どっちにしろアホな頼み事だってのには変わりないと思うんだが……」
オーフェンが確信たっぷりに呟く。

「全然違います!それに今となってはそんな事はもうどうでもいいんです!」
が、やはり今のリィンの耳には届かない。溢れ出る闘志の表れか、すでにその全身から白銀の魔力を迸らせている。
「リィンを本気で怒らせるとどうなるかその身に思い知らせてあげなければ気が済みません!!」
どうやら本当にマジで戦るつもりらしい。
(……ワリィ、止めらんねぇわ。こうなると結構頑固なんだコイツ。面倒くせぇだろうけど一回吹っ飛ばされてやってくれ。それで多分気は晴れるだろうから…)
再び右手をシュタッ!と上げて一応念話でオーフェンに詫びておく。
(頼りにならねぇな、オイ…)
リィンが本気だという事を彼も悟ったのかそんな事を言いながらジリジリと後退していく。
それを見て取ったリィンも空中に魔方陣を展開させる。
「――――――」
「――――――」
両者共、すでに臨戦態勢――― 一触即発の空気が場を支配していく。

「あ、いたー!リィン曹長にオーフェン三等陸士、発見しました!」

が、その張り詰めた空気は思わぬ第三者の声によりあっけなく霧散させられた。
「シャーリー?」
「あ、ヴィータさんまで!…あれ?今日って休暇のはずじゃあ…」
唐突に、本当に唐突に虚空に現れた眼鏡をかけた活発そうな少女―――シャリオ・フェニーノが通信画面の向こうで首を傾げる。
「あ〜、まぁ色々あってな…」
適当にお茶を濁しておく。「妹分の逆恨みの片棒を担がされているんです」とはとてもじゃないが言えない。………どうせすぐ広まっちまうんだろうけどな。
シャーリーは納得したのかしてないのか、あるいはどうでも良かったのか「ふ〜ん」とだけ呟いて後は何も追求して来なかった。
「何ですかシャーリー?リィン達は今凄く忙しいんです。何か用件があるのなら後で―――」
さっきまでの破裂寸前な雰囲気を若干弛緩させてはいたが未だオーフェンとの対峙は止めていないリィンがシャーリーに食ってかかる。
「いや、後じゃ遅いんですよ!出動です、出動!ヘリのスタンバイは出来てますから早く戻って来てください!」
「――――――」
シャーリーの言葉に皆の間にさっきまでとはまた違った緊張感が走る。
37名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:06:16 ID:rJmFjENv
支援
38名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:06:33 ID:gw9cSP/L
我は放つ光の支援
39名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:08:15 ID:gw9cSP/L
しえーん
40名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:08:24 ID:beUOQcHQ
支援弾幕で塗り潰し殺す!
41名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:08:57 ID:QgbOuHf8
久方ぶりに実家帰ったらオーフェンが全巻処分されててしょんぼりです。支援
42魔術士オーフェンStrikers:2008/05/19(月) 22:12:35 ID:aeW+u4vR
「戻るぞ」
「えっで、でも…」
「後にしろ!今はこっちが優先だ!」
リィンの戸惑い混じりの声に有無を言わさぬ口調を投げつけるとアタシは六課本部の方へと一目散に走り出した。



(――――つーわけで作戦終了まで決闘は延期…。リィンがあんな顔してんのはそういう訳だ。
巻き込まれたくなかったら事が収まるまで放っといた方が身のためだぜ…)
話を締め括るとヴィータは立ち上がり制服のポケットから待機状態のグラ―フアイゼンを取り出す。もうそろそろ敵とエンゲージする頃合だろう。
(あ、あはは…。で、でも大丈夫かな?二人共そんな状態なのに同じ任務任せちゃって…)
それに習いフェイトも立ち上がり、チラリと例の二人の方を見る。

(まぁ平気だろ。作戦に私情持ち込む程トーシロじゃねーって、どっちも)
メインハッチに向かいながら新人達に細かいアドバイスをしているなのはに声をかける。
「なのは、そろそろだろ」
「あ、うん。ヴァイス君!」
ヴィータの言葉に頷くとなのはは操縦室のヴァイスにメインハッチを開くよう指示を送ると、改めて新人達に向き直る。
「よっし、じゃあちょっと出てくるね。みんなも訓練終わりで疲れてるかもだけど頑張って…チャチャっとやっつけてちゃおう!」
「「「はいっ!」」」
「は…はい!」
「――――ん、いい返事!」
そう言って微笑むと彼女は開いたハッチの方へと足を進めていく。
(オーフェンさん…)
と、すれ違い様、念話で話しかけてきたなのはを横目で盗み見ると彼女の瞳は緊張の為か不安そうに表情を曇らせている桃色の髪の少女に向けられていた。
(キャロの事……お願いしますね?)
(………)
オーフェンは「気付くよな、そりゃ…」と胸中で密かに呟くと真剣な表情でこちらを見つめるなのはに向けてわずかに頷いた。
気の利いたセリフの一つも言ってやるべきだったのかもしれないが、生憎思いつかなかったので止めておいた。
だが彼女にとってはそれでも十分だったのか、安心した様に微笑み一度だけ強く頷くと後はバリアジャケットを纏いあっさりと空の中へと飛び去っていった。

「それじゃあ、私たちも行くけど…オーフェンもリィンも気をつけてね?」
「アタシ等も空を抑えたらそっちの援護に向かってやっからよ」
振り向くと新人達への激励を終えたのか、なのはと同じくバリアジャケットを展開させたフェイトとヴィータがこちらへと歩いてくる。
「ああ、そっちも油断だけはするなよ」「リィンの事なら心配無用です」
声が被った。
一瞬、お互いキョトンと顔を見合わせるがすぐにリィンの方がプイッと顔を逸らしてしまった。
その反応にオーフェンが軽く嘆息する。
(こりゃこっちから折れてさっさと謝っちまった方が賢明だな…。経験上このまま放置してても碌な事になりそうにねぇし…)
そんな事を考えながらクスクスと笑うフェイトと呆れ顔のヴィータが出撃していくのを見送る。
43名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:15:26 ID:65VVCm96
これもオーフェン以外ならフラグに見えるんだけどなぁw支援
44名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:16:29 ID:mMmXOEqu
オーフェンはフラグクラッシャーだからな支援
45魔術士オーフェンStrikers:2008/05/19(月) 22:17:29 ID:aeW+u4vR
(あの…)
―――と、突然頭の中に声が響く。
リィンの方を見ると相変わらず不機嫌そうな顔をしているが何か気になる事でもあるのかチラチラとこちらを窺っている。
(何だ…?)
こちらも念話で先を促してやると少し迷う素振りを見せながらだがおずおずと話し始めた。
(あの…キャロをお願いします、ってどういう事ですか?)
(聞いてたのか?)
(……はい、偶々ですけど)
盗み聞きのような真似をしたとでも思ったバツが悪そうにリィンがうな垂れる。
(ああ、悪い。別に責めてるわけじゃねぇんだ…え〜と、何ていうかな。キャロの奴少し悪い緊張の仕方してるみたいなんでそこら辺のフォローをお願いしますって事だよ)
そう視線でキャロを指し示しながらまだ慣れてない念話での会話を続ける。
(悪い緊張、ですか…?)
(ああ、元々荒事に向いてるタチとは言えねぇだろ、あいつは。そうでなくても場数もそれほど踏んでない上にまだ体も出来てねぇ子供だ。無理もないさ。…正直いきなり実戦の場に出すのはどうかと思うんだがな…)
(それは……)
その言葉を六課への反感だと感じたのかリィンが一瞬何かを言いかけるが反論が何も思い浮かばなかったのかあうあうと喘いだ後、眉を顰めて俯いてしまった。
それを見てオーフェンはやれやれ、と苦笑する。

(だからそんな顔するなって…。少し心配ってだけの話なんだからよ。それに…本当は俺だって人の事言えた義理でもねぇんだ…)
(え……?)
思わぬフォローにリィンが目をパチクリさせる。
(俺がまだガキの頃に籍を置いてた組織…大陸黒魔術士同盟(ダムズルズオリザンズ)っていう所なんだが…。
そこも年が低かろうが能力的に秀でてれば構わず戦力として数えるって所は同じだったからな。実際俺は15か14の時にもっと危険な任務を任された事があるよ)
(………………)
「だからそんな所に所属してた自分が管理局の体制をどうこう言う資格はないだろう?」と、言外に含める。
まぁ、それでもさすがに10歳の子供を任務に就かせるというのは同盟でも前例がなかったはずだが、
それも魔術という代物は力を制御しきれるようになるまでに莫大な時間を費やすため幼年期のほとんどを魔術の制御に費やすからだ。
もし魔術が魔法ほど容易に制御出来得るものならどうだったか分からない。いや、十中八九戦力に数えるだろう。魔術士の理念とは『自立』の一言に尽きる。
そんな彼らにとって「子供だから」というのは戦場から遠ざける理由にはならない。


(……リィンは)
(ん?)
俯いたまま小さな拳をギュッと握りリィンが小さく洩らす。
(リィンは…キャロ…もエリオも、あの二人が六課で戦いたいと思ってくれてるのは良い事だと思ってます…)
(………………)
開いたままのハッチから流れ込んで来る強風が彼女の長髪をはためかせる。そろそろ目的地が近いのか徐々にヘリの高度が下がってきている。
46名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:19:10 ID:+5TguTo9
年m……ちょっと年上の女性に縁が多いオーフェンの明日はどっちだ支援。
47魔術士オーフェンStrikers:2008/05/19(月) 22:22:36 ID:aeW+u4vR
(隊にとって有功な戦力だからとかそんな意味じゃないです…。あの二人は確かにまだ小さいですけど、でもちゃんと自分で考えて…ちゃんと自分で決めて、ちゃんと自分の意思でこの場所に立ってるです。
…ならリィンはそれを止めるんじゃなくて、手伝ってあげる側に廻りたい…です)

そう言いながらも心中では何か引っ掛かるものがあるのか、言葉の内容に反比例してその声は酷く自信無なげだった。

(…まぁ、その為に俺たちがここにいるわけだしな)
(え……)
(違うのか?)
(ッ!は、はい、じゃなかった、違いませんですぅ!)
その言葉にリィンは弾かれたように顔を上げるとワタワタ両手を動かしながら捲くし立てる。…本当に感情を素直に出す少女だ。
オーフェンがそう思ったのとほぼ同時―――操縦室のヴァイスから声がかかった。
「オーフェンの旦那!リィン曹長!そろそろ目的地です、準備を!」
言われて立ち上がり、ハッチの外を見てみると下にはレール上を疾走する列車が見える。ちなみに上空では先に出て行った隊長陣が縦横無尽に飛びまわりながら派手にドンパチを繰り広げている。
それを確認するとオーフェンは改めて、今度は肉声でリィンに声をかける。

「…だとよ。俺はとりあえずライトニングスに付く。大まかな指揮はなのはの言った通りお前に任せるが、いいか?」
「―――はいです!」
リィンは頷くとフォワード達に向き直る。皆緊張しているのかいつもより若干表情が硬い。
「今回の任務はさっきなのはさんが話した通りです。ガジェットの殲滅とレリックの確保。ライトニングスとオーフェンさんは後方車両を抑えて下さい。前方車両と列車の停止はスターズとリィンが請け負います。
レリックに関しては…近くで探知してみないと細かい場所は分からないので列車に降りた後にみんなに通信で指示を送りますです」

そこまで一息に言い切り、スバル達が自分の言葉に頷いたのを確認すると彼女はスゥッと小さく息を吸い直し―――
「ではみなさん!リィンとオーフェンさんが全力でサポートしますです!だからこの初めての実戦、どうかみなさんの精一杯を尽くしてください!」
ムン、と胸を張りながらそのよく通る幼い、しかしどこか力強さを感じさせる声で新人達に活を送った。
「――――――」
その突然の激励に言われた当の四人はしばしの間、唖然とした顔をする。文句自体は「よくある」励ましの言葉だ。
―――だが何故だろう…。そのよくある言葉に頼もしさのようなものすら感じる…。気が付けば彼女らは表情を引き締め敬礼の姿勢を取っていた。
するとリィンは一つ頷くと、今度はオーフェンに向き直ると何かを訴えるような瞳で彼を見つめる。何を訴えているのかは何となく読み取る事が出来た。要するに「お前も何か言え」という事だろう。
仕方が無いなという様に彼はフォワード陣の正面に立つ。。
「……その、何だ。今のお前らならガジェットくらい何体出てこようが問題じゃねぇよ。だ、だから自信持って行って来い…よ?」
言い慣れない言葉に舌を噛みそうになりながらもオーフェンはこんな感じでいいか?と視線だけでリィンに問う。
―――すると彼女は首を左右に振りながら「やれやれ」とでも言いたげなポーズを取った。
「………」
「わひゃ!」
オーフェンが無言で固めた拳を振り上げるとリィンは彼の視線から逃れるように身を隠す。

と、それを見てスバルが不思議そうに首を傾げると、横にいたティアナの袖をクイクイと引っ張る。
「ねぇねぇティア」
「ん、何よ?」
「うん。オーフェンさんとリィン曹長もう仲直りしたのかなって思って。ほら、だってさっきまで…」
「…あれが仲良くしてる様に見えるわけね、アンタには。ていうかそんな事気にしてる暇があるんならアンタはもう少し気を引き締めなさい。せっかく信頼してもらってんだからね」
そう言いながらティアナはスバルの頭に軽く小突くとハッチの方へと向かう。と、スバルも慌てて彼女を追う。

まず先陣を切るのは彼女達だ。
48名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:26:47 ID:rJmFjENv
支援だぜ
49名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:26:58 ID:gw9cSP/L
支援
50魔術士オーフェンStrikers:2008/05/19(月) 22:27:29 ID:aeW+u4vR
「……じゃ、行くわよ」
「うん」
そう言うと二人はあっさりとヘリから身を躍らせて行ってしまった。
(まぁ、あの二人なら心配いらないだろ。もし万が一不測の事態が起こってもティアナが居れば上手く立ち回れるだろう…し!?)
二人が消えていった方を眺めながらオーフェンがぼんやりそんな事を考えていると不意に後ろから髪の毛を思いっきり引っ張られた。突然の事に首がガクン、と後ろに反り返る。
「ッッ、ってぇな!」
思わず罵声を飛ばしながら振り返ると、そこには―――やはりというべきか―――既に距離を取ってこちらをジト〜っと見つめているリィンがそこには居た。
「何すんだよ…」
相手の意図が分からず引っ張られた髪を撫で付けながら半眼で問う。するとリィンはその反応に満足したのか今度は不敵な笑みを浮かべる。
「ちょっと甘い気もしますけどこれとさっきので今朝の事、チャラにしといてあげます」
「…さっきは『リィンを本気で怒らせたら』どうとか色々物騒な事言ってなかったか?」
「はい。でも冷静に考えてみたらそんなに怒るような事でもありませんでした」
「……………」
あんまりといえばあんまりな物言いにオーフェンが絶句する。と、そんなオーフェンを尻目にリィンはふよふよとハッチの出口まで飛んで行くと―――
「それじゃオーフェンさん、二人の事『お願いします』ね?」
そう言うが早いが彼女は一瞬でバリアジャケットを纏うと先に降りていった二人を追って急降下していく。
「……何なんだ、一体」
訳が分からずそんな事を呟いてみる。これは、一応許してもらえたって事なのか?

そんな事を考えていると不意に後ろの方で小さな物音が聞こえた。
「…………?」
振り返ってみるとキャロが口元に手を当て、微笑を浮かべてクスクスと笑っていた。
彼女の顔にはついさっきまで浮かべていた不安そうな表情はもう見当たらない。
……どうやら良い感じに肩の力が抜けたらしい。
(気を抜かれ過ぎても困るが…。ま、さっきまでのガチガチの状態よりかはずっとマシか)
そう思いオーフェンは今度はエリオへと目を向ける。…キャロに見惚れていた。
―――よし、こっちは心配の必要はないな。
「痛っ!な、何ですか!?」
「いや、何となくな」
ムッツリ小僧の頭に何となく拳骨など落とすと改めて咳払いをする。
「よし。降りてからの事だが、攻撃は俺とエリオのみで行う。キャロはエリオのサポートと自分に飛んでくる攻撃の防御だ。エリオも必要以上にキャロから離れるなよ。
常にコンビネーションを意識して戦え」
「え…、と、フリードは何をすればいいんですか…?」
おずおずとキャロが自分の相棒を指差しながら言うと、人語が分かるのかオーフェンの方を向いて「アギャア!」と一つ鳴くと羽をバサバサと羽ばたかせる。
その様が何となく「無視すんな、この野郎!」と言っているように見えた。

「フリードもキャロと一緒にエリオのサポートだ。エリオが敵を捌ききれなかった時のみ攻撃する事を許す。いいか?」
二人が頷くとオーフェンも「よし」と頷き返しメインハッチから下を見下ろす。
すでにヘリは自分たちの戦場へと着いている。
オーフェンは胸元から自分のデバイス『フェンリル』を取り出すと、一つ大きく息を吸い込み―――
「――――行くぞ」
「「はい!」」
「アギャア!」

迷わず、一気にヘリから飛び降りた。

51魔術士オーフェンStrikers:2008/05/19(月) 22:30:31 ID:aeW+u4vR
「何だ…?」
モノレールの先頭車両―――レリックを傍らに置きながらダミアン・ルーウは天井を睨みながら呟いた。
「どうかしたのかね?」
彼の前方のモニターから声がかかる。そこには小さな画面に映ったスカリエッティの姿があった。
「……誰かがこの列車の上に落ちてきた。」
「あ〜、多分管理局の連中だろう。来るとは思ってたけど、意外と早かったねぇ」
事もなげに言ってくる彼にしかしダミアンは表情を崩さない。
「だから言ったのだ。あんなガラクタに運ばせずとも私がこのレリックとやらごとそっちに転移すればこんな無駄手間は踏まずに済んだ」
「私も言っただろう?レリックは莫大なエネルギーの塊だ。そんな物を迂闊に転移させては何があるか分からないし、
何より君にかかる負荷もバカにならないから止めておいた方がいいよ、とね」
「……ならばどうする?私は人を殺傷する術には長けていないぞ?」
「そうだねぇ…適当にからかって帰ってきたらどうだい?」
「………」

さすがに憮然となってモニター越しのスカリエッティを睨む。と、そんなダミアンの反応が可笑しいのか彼は肩を震わせてケタケタと忍び笑いを洩らす。
「からかわれているのは私のように思えるのだがな…」
人差し指で額を抑えながらダミアンが嘆息する。するとスカリエッティはイスの背もたれに深く体を預けるながら「心外だなぁ、」というように片眉を吊り上げる。
「まさか。肉体を持たない君を彼らが捕えられるはずがないからね。
それに―――話をしておきたい人物もそちらに来ているんじゃないかね?何と言ったかな、ホラ…黒ずくめの彼だよ」
「―――――」
ダミアンが再び視線を天井へと向ける。障害物を透過しつつ視界を凝らしていく。すると、
(―――居た…)
列車のかなり後方でおかしな格好の子供二人と共に襲ってくるガジェットを次々と破壊している。
「鋼の後継……」
かつてダミアンを…オリジナルの自分を消滅に追い込んだ直接の原因―――そして恐らくダミアンが死んだ後の、キエサルヒマ大陸の命運の行方を知ってるであろう男。

「――――なるほどな。確かに奴には聞きたい事がある。……礼を言わなければならないかな、スカリエッティ?」
「クク…何、気にする事はないよ。面白いサンプルを提供してくれたほんのお礼さ。
それに私は友達は大切にする性質なんだ。―――では、善い話が聞けるよう祈っているよ」
その言葉を最後に虚空に映っていた二ヤケ顔が掻き消える―――と同時に部屋に静寂が戻ってくる。
ダミアンは改めて視線を未だガジェットとの戦いを続ける黒づくめの男へと向けるとゆっくりと胸中で呟く。
(貴様次第だぞ…キリランシェロ)
彼を視界に捉えたままダミアンは転移を開始する。
(私がこの世界でこれからどう動くのかは全て、貴様の答え次第だ…)


数瞬後―――まるで初めから存在していなかったかのように運転室から彼の姿は掻き消えていた。

魔術士オーフェンStrikers 第7話 終
52魔術士オーフェンStrikers:2008/05/19(月) 22:33:34 ID:aeW+u4vR
えっと、まず何よりも先に言っておきたいのですがリィンとはフラグがどうこうとかは全く無いっス。流石に犯罪すぎるだろう…。

で、本編時系列で第五話冒頭まで。
はやての仕事が遅れたためヘリ内のシーンでフェイトが、そして休暇中に引っ張り出されたためヴィータが、初めから任務に加わってます。

しかし前回の投下から一ヶ月以上……か。ずいぶんかかってしまった。
今回も難航でしたねぇ。ていうかむしろ難破しました。
ほんとは今回からエリオ&キャロ大活躍の初陣編のはずだったんだけどあれよあれよという間に銀髪妖精との仲直りがメインになっているという謎展開に……。
次回は一応バトル……だけど頭にガチが付くバトルはもっと先になると思います。

最後に支援をしてくださった方々、ありがとうございました!
53名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:35:49 ID:wp2XxH3U
>>10 細かいトコだけど、鈴鹿→すずかデス。
54名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:38:28 ID:65VVCm96
GJ
フラグ云々は解って言ってるぜ
犯罪過ぎるし成立した後が想像できんしw

追伸:綺麗な彼も嫌いじゃないけどヤクザな彼がもっと見たいです
55名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:38:58 ID:O+lSgkNZ
>>52
犯罪か……ま、いまさらな気がしないでもないがなww
もともと違法な仕事してたわけだしw
GJ!!
56名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 22:58:36 ID:ubt+JF53
なぁに、オーフェンは元々犯罪者一歩手前と言うかむしろそちら側の人間だったし、俺は一向に構わんですよ?
クリ嬢の前例もあるしね!!とまれGJした。
57名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 23:08:42 ID:8+TVwHx7
そーいやはぐれ旅一巻では結婚詐欺やってたな
58名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 23:16:14 ID:rJmFjENv
つかもぐりの金貸ししてる時点で
59リリカルスクリーム ◆0qJqyuBpiQ :2008/05/19(月) 23:25:12 ID:wgoJohes
皆さん乙です!
予約している人がいらっしゃらないのでしたら
十一時三十五分ごろからリリグナーを投下してもよろしいでしょうか?

にしても随分久しぶりになってしまったなぁ…orz
60名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 23:33:13 ID:iFLuPgQ8
だめの反対
61魔法戦記リリグナー12話おゆるしください:2008/05/19(月) 23:41:19 ID:wgoJohes
驚異的な戦火を挙げたマイヨとその愛機ことファルゲンではあったが…ここまでの戦闘が限界だった。
ファルゲンの機体は既に悲鳴を上げ始めている。
そして悔しさを押し殺して帰還した彼を待っていたのは
あろうことか日本戦線経由でカザフまで移動し、月のギガノス総司令部へ帰還せよとの辞令であった。
そのころミッドチルダでは。

「はあっ…はあっ…はあっ…。」

スバルが壁に寄りかかって肩で息をしている。
ティアナはへたり込み、フェイトはショックでべそをかくエリオとキャロを必死に慰めている。
なのはの純白のバリアジャケットは赤く染まっていた。
ロングアーチ組はヴィヴィオを中心に彼女を庇うように机やイスを引っ繰り返して部屋の隅にバリケードを作っている。
そして彼らの目の前には…
毒々しい色の装甲服に身を包んだ兵士が変わり果てた姿になって死屍累々と横たわっていた。
それは無茶な威力偵察を命じられ、愚直なまでにそれを遂行しようとし、
降伏勧告も受け入れずにしゃにむに六課のメンバーに向かっていった
気の毒なバルシェム達の成れの果ての姿であった。

「生き残ったのは4人だけ、か…。」
「はい、申し訳ありません。」

六課の隊舎の脇に停められたバルシェム達の指揮者。
ヴィレッタが膝を付く4人のバルシェムを慈しむような目で見ながらやりきれない気持ちを吐き出すようにため息をついた。

「ふん、10人近く送り込んで4人しか戻ってこなかった上結局六課の奴らに使わせたのも通り一遍の技だけ。
スターライトブレイカー級の砲撃魔法のデータが欲しいってボスは言ってたのに全く役立たずどもめ。」

頬杖をついて言ったのはバルシェム達を六課にけしかけた局員である。

「な、なんだその面は!貴様、文句があるのか?」

穴が開きそうな凄まじい形相で彼を睨み付けるヴィレッタに気圧されぎみの局員。

「ヴィレッタ……!一尉。このままここに居ては六課に察知される恐れがあります。撤退を進言しますが。」

そんなヴィレッタを諌めるとズイと進み出つつイングラムが言った。

「くっ…仕方ねえか。」
62魔法戦記リリグナー12話 ◆pniZfu/UQY :2008/05/19(月) 23:45:46 ID:wgoJohes
こないだ酉を変えたってのに
変える前の古い酉のままで書き込んだ上に盛大に酉バレしちまうなんてなんたる醜態。
全くどうかしてるな自分…ほんとスンマセン。


舌打ちをする局員の声とともに宅配便の配送トラックに偽装した指揮車は勢い良く走り去って行った。
その直後にスバルが正面玄関から走り出てきたのだが、タッチの差で
偽装指揮者はそこから視認出来ない場所まで逃げおおせて
しまっていた。

「あなたたちは致命的なダメージを負わずに済んだのね?」
「…問題ありません。」

ヴィレッタの問いに異口同音に答えるバルシェム。

「そうか。それは結構…。じゃあ楽にしなさい。実戦装備は解除してもかまわないわ。」

安堵の息を漏らすと彼らを労うように微笑みながら言うヴィレッタ。

「ありがとうございます。」

異口同音にそう言うとものものしい装備を解除し、おもいおもいにくつろぎ出す三人のバルシェム達。
そう。四人ではなく三人だ。というのも面妖な事に、残り一人の男型バルシェムは
首から下の装備は解除したものの
爬虫類の顔のようなデザインのヘルメットには手を付けようともせず、突っ立ったままだ。

「ん…?、あなた。どうしたの?」

見かねて声をかけるヴィレッタ。

「…自分の事でしたらお構いなく。」

ヘルメットごしに無機質な声で呟くバルシェム。

「お構いなくって事は無いでしょう。ひょっとして何か怪我でも?ヘルメットを外して見せてみなさい。」
「………。」

仕方なさげにヘルメットに手をかけるバルシェム。
その下から現れたのは…。

「…ちょっとあなた…その髪は一体どうしたの?」

一瞬笑みをこぼしかけて言うヴィレッタ。
バルシェムはヴィレッタとイングラムのデータを基にして作られたクローンだ。
従って青い髪を生やした彼らと同じようにバルシェムも基本的には青い髪を生やして生まれてくる。
ところがこのバルシェムは何故か、透き通るような銀髪だったのだ。

「アイン副隊長は製造過程でミスがありまして、頭髪が脱色してしまっているのです。」


63魔法戦記リリグナー12話 ◆pniZfu/UQY :2008/05/19(月) 23:47:47 ID:wgoJohes
気にしていたらしく恥ずかしさで少し赤くなった頬を人差し指で掻きながら俯くそのバルシェムを見かねて、
彼の部下らしい女性型のバルシェムが近寄ってきて、言った。
アインというのは製造番号である。

「…そう。でも髪の色が違う事など些末な問題だし、あなたのせいじゃないのだから恥じる必要は別に無いわよ。」

ヴィレッタは言いながら興味深そうにそのアインという名のバルシェムを見つめた。


そしてその頃
ギガノスに占領された深夜の三沢基地。
旧地球連合軍が配備していた戦闘機がスプレーによる落書きだらけで野晒しにされていたり、
あるいはそれとは対照的に
ピカピカに磨かれたメタルアーマーが駐機されている一角に真新しい輸送機がぽつんと置き去りにされている。
そしてその輸送機に乗って、半日ほど前にこの基地に降り立ったある軍人が居た。
その軍人とは…。

「第二戦術機動軍所属エミ・ジョウノ特務少尉ですね。チェック完了…各種危険物探知機にも反応ナシ、
…迷惑をおかけして申し訳ありません。もういいですよ。」

間延びした声でMPが手元のコピー用紙に目を通しつつ言った。

「迷惑だなんてそんな事無いですよ。それでは。」

欠伸をかみ殺して立ち去るMPを手を振りつつ笑顔で見送りつつ
自分に割り当てられた部屋へと向かう女性。しかし、

「チッ…この糞寒い中真夜中まで何時間も立ちっぱなしだなんて、管理外世界はこれだから…
全く任務とはいえ割りに合わないわよ。ドクターは大丈夫かしら。」

彼が立ち去ると同時にたれ目だったのがツリ目になり、不機嫌そうな顔でぼやきはじめる女兵士。
そう、彼女こそスカリエッティからの密命を受けて行動するナンバーズの2番こと、ドゥーエである。
ジョウノ・エミなどという名前は偽名にすぎないのだ。
その時!

「まったく、ウェルナーはあの拾ってきたウェットスーツの女にかかりきり、ダンは上の空だ。もうすぐ一時的とはいえ
大尉殿がこの基地にいらっしゃるというのに。」

不機嫌そうにやってきたのはプラクティーズのカールである。

「妹達は殆んどが任務中にロストしてしまったって言うけど、ドクターは身の回りの事で不自由したりしてないといいけど…。」
「む…。おい貴公!」
64魔法戦記リリグナー12話 ◆pniZfu/UQY :2008/05/19(月) 23:49:41 ID:wgoJohes
ぶつぶつと一人ごちるドゥーエを見つけ、不審に思ったカールが顔をしかめる。

「貴公!聞いているのか!見慣れない顔だな。官姓名を名乗れ!」
「うっさいですねえ…何ですか一体?」

詰め寄るカールに思案しているところを邪魔されて暗殺者丸出しの素の顔で苛立ち気味に振り向くドゥーエ。

「うっ…?」
「ハッ…?あ…えーと、何か?」

カールが剣幕に圧されて後退る。
気が緩んでいたとはいえ
素を見せてしまったというミスを犯した事を悟ったドゥーエ。素早く取り繕おうとするが時すでに遅し、
カールの彼女を睨む怪訝そうな視線はよりいっそう激しくなっていた。

「…貴公の官姓名は?この基地では見かけない顔だが。」
「第二戦術機動軍のジョウノ・エミ特務少尉です。」

調子を取り戻して微笑みを浮かべつつ識別表をカールの手にとらせるドゥーエだったがその笑顔も事ここに至っては先ほどの
素の表情のインパクトの強さがさらに際立つだけであった。それに…。

「日系には見えんがな。…写真とはまるで別人だな。そのツリ目の方が素の顔なのかね?」
「ツリ…ハッ!?………。あははは。ツリ目?何の事ですかカール・ゲイナー少尉。」

表情こそ取り繕ったものの彼女の目つきは素のそれと何ら変わらないツリ目のまんまだったのだ。
素早く柔和そうな目つきに切り替えるドゥーエだったが…。

「何で私の名前を知っている?」

これまで滅多に犯した事が無いミスというものに対し精神的な免疫があまりない彼女は焦りに焦り、なおもド壺に嵌った。

「いや…その…プラクティーズって有名ですから…。」

その頃…基地の裏手では。

「警備任務でしかも夜勤なんざ、暇で適わんな。」

小銃を構えたMPが欠伸をしながら言った。
その時。

「…ん?そこのお前ら。何やってる?」

ふいに暗視ゴーグルの緑色の視界に若い男女が二人ほど映った。
ギガノスの軍服を着ては居るが、兵士にはどうも見えない。

「待て!何処へ行く…止まれ!」
65魔法戦記リリグナー12話 ◆pniZfu/UQY :2008/05/19(月) 23:52:22 ID:wgoJohes
二人の男女はMPに気が付くと二手に分かれ基地施設へ向かって猛然と走り始めた
袈裟懸けにしていた小銃をすかさず構えるMP。
二人がゲリラである事は明白であり、制止など受け容れない事を悟った彼は躊躇なく引き金を引いた。

「うっ…。」

女性の方が銃弾に肩とふくらはぎを貫かれ、膝をつく。

「曹長!」

男の方が悲痛な声で女性の方を見ながら叫ぶ。

「行って下さい少尉。自分は、ここまでのようです…。」

上着を脱ぎ捨て、体にくくりつけられた手榴弾をいくつか組み合わせて作られたらしい
即席爆弾の起爆装置になっているピンに手をかけながら
女性がか細い声で男性に向かって叫ぶ。そして…。

「あなたにお仕え出来て、幸せでした。願わくば来世でもあなたに…。」

次の瞬間、爆発音ともにまだ幼さの残る女兵士は閃光とともに粉々に吹き飛んだ。

「お前の死…無駄にはせん。」

頬に一筋の涙を伝わせながら小脇に抱えたトランクから2連装のロケット砲を取り出す男性兵士。
だがそんな彼にも次の瞬間MPの銃弾が襲い掛かり、無情にもその喉もとを貫いた。

「ううっ…地球連合軍に…栄光あれ!」

急速にぼやけていく視界のそれでもその端におぼろげながら捕らえられた基地の一部に向け、彼はロケット砲のトリガーを引く。
そしてその直後、彼の体は続々と集まってきたMPが放った銃弾により、物言わぬ肉の塊へと変えられた。
爆発音が闇夜に木霊する。
だがそんな地球連合軍の劣勢を体現するような二人の若者のあまりにも無計画で無茶な特攻など
露も知らない三沢基地の内部では。

「な…何?」
「この振動の伝わり方は…爆発だ!ゲリラを近づけるとは…警備の連中は何を…うっ?あ、危ない!」

いぜん睨み合っていたカールとドゥーエは不意に襲ってきた至近距離での爆発による揺れに
足をとられてふたり纏めて転んだ。
いや、正確には転びかけたドゥーエをカールが背中で受け止めた。
66魔法戦記リリグナー12話 ◆pniZfu/UQY :2008/05/19(月) 23:54:18 ID:wgoJohes
「痛ッ!…失礼。(ったく。何の因果で私がこんな目に…。)」

うつ伏せになるような形で転んだカールの上にのしかかるような体勢になってしまったドゥーエ。
彼女が立ち上がりかけた時、不意に全身に違和感が走った。

「しまった!ライアーズマスクが…」

転んだ衝撃で神経伝達回路が集中しているヒジの部分が床に当たったのだがその際に誤作動が起きたらしい。
その意思に従ってその場その場に合った姿に彼女を作り変える固有技能ライアーズマスクは今や彼女の意志に反し、
ナンバーズの2番としての正体を露呈させようとしていた。

「ここは危ないかもしれんな…怪我は無いか?ガンルームに…ムッ?少尉!その姿は…?」

ウェットスーツ調の機人服という本来の服装を露にしたドゥーエに警戒の視線を向けるカール。

「チッ…。」

舌打ちをするドゥーエ。
失策だった。全くもって自分の迂闊さが呪わしかった。だが慌てる必要は無いのだ。
失策には違いないが、こういう事態になら
これまでの任務でだって遭遇したことが無いという訳ではない。そう、こういう時は…。

「ああ、ええと、これはつまり…。」

偽りの柔和な笑顔のまま失敗を言い繕おうとする子供のような態度でもごもごと口篭るドゥーエ。
そして次の瞬間!

「こういう事ですよ。」

音も無く固有武装、ピァッシングネイルを装着し、カールの心臓を一突きにすべく襲い掛かった!しかし…。

「へえ…避けましたか。オモチャの兵隊さんでも一応軍人ですもんね。」

おどけたように微笑みながらそう言うと、暗殺者としてのより妖艶で蟲惑的な素の表情で改めて微笑んで見せるドゥーエ。
そしてそんな彼女の凄まじい変貌と紙一重で交わしたもののともすれば間違いなく
人生を断ち切られていたという事実にショックに声も出ないカール。

「それならこれでどうです?」

パチン!
言いながら指を弾くドゥーエ。
するとバインドの光が巻き起こり、カールをがんじがらめに縛り上げる。
こうなっては魔力の素養も無く、運悪く拳銃を携帯していなかった
カールに対抗の術は無かった。

「連合軍のスパイめ!貴様のような女…引き千切っても飽きたらん!」
67名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 23:57:59 ID:udJED4EN
久々の支援!
68魔法戦記リリグナー12話 ◆pniZfu/UQY :2008/05/19(月) 23:58:15 ID:wgoJohes
怒りを露にして叫ぶカール。だがドゥーエはそんな彼に冷ややかな笑みを向けた。

「連合軍…?笑わせないで頂きたいですねえ。私がそのような下等な組織に与するとでもお思いですか?」
「なにっ…それでは貴様はいったい…?」

縛られたままおどろきの声を上げるカール。

「私が一体何者なのか…?さぞ気になるところでしょうがここで名誉の戦死を遂げるあなたがそれを
知る必要はありません。それでは…さよな…ッ!!」

今度こそ何の抵抗も出来なくなったカールに改めて引導を渡すべく
ピァッシングネイルを構えるドゥーエ。その時!

「カール…何処だ!何処に居る!」

カールの同僚であるダン・クリューガーとウェルナー・フリッツの声だ。
それももうすぐ傍まで来ているらしい。彼らが来るのがあと1秒でも遅ければ一連の騒動は別の結末を見ていたのだが…。

「カール!ここに居たのか…。む?その女は誰だ?」
「第二戦術機動軍所属…ジョウノ・エミ特務少尉です。先ほど負傷したところを少尉に助けて頂きまして…。」

小脇にサブマシンガンを構えたダン達がそこに辿り着いたとき…彼らが目にしたのは
カールといわゆる「お姫様だっこ」状態で彼に抱かれた体の各所に傷を負っている
(ように見えるようにライアーズマスクで巧妙にカムフラージュしている)ドゥーエの姿であった。

「(やっぱりさっきのはただの誤作動だったみたいね。壊れていたら流石に洒落にならなかったけど…。)命拾いしたわね
オモチャの兵隊さん…。ここは私に話を合わせて貰えるかしら?折角お母さんに遺書を書く余裕が出来る程度には
寿命が延びたんだし…フイにしたくないでしょう…?」

カールの腕の中で力の無い笑みをウェルナーとダンに向けたまま声量こそ小さいが
刃物のような声で彼にに耳打ちするドゥーエ。

「…私は特務少尉を医務室へと運ぶから、貴様等は先に状況の確認を急いでくれないか?」
「ああ…判った。」
「あの人が心配だ…そろそろ目を覚ます頃らしいのだが。」

少し戸惑いつつ立ち去っていくウェルナーとダン。
ウェルナーはやはりこの間拾ったあの女性…トーレの事が気がかりのようだ。
そして彼らの足音が聞こえなくなるとドゥーエは弾かれるようにカールの手から逃れた。

「改めて俺を殺そうというのか?だがそう思い通りには…」
「…勘違いしないで。言ったでしょう。遺書を書くくらいの時間はあげるって…。とりあえずこの場は逃がしてさしあげます。
勿論いつかはこの手にかかってもらう事になりますが…まあ、せいぜい残り少ない人生を楽しんでおくことですね。そ・れ・と。」
69名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/19(月) 23:59:56 ID:udJED4EN
支援!
70魔法戦記リリグナー12話 ◆pniZfu/UQY :2008/05/20(火) 00:02:28 ID:bW78Wbav
身構えるカールをよそに済ました顔でピァッシングネイルを弄びながら淡々と述べるドゥーエ。と、
不意にまた口元が歪み、彼女特有の蟲惑的な笑みが浮かんだ。そして次の瞬間。

「むわっ…ぷっ!?」

カールを抱きしめると、彼女が教育していたクアットロには及ばないまでも
かなりの大きさを誇る胸に彼の顔を押し付ける!

「な…いきなり何の真似だ貴様!」
「さっき転んだ時に庇ってくれたからそのお礼兼冥土の土産です。彼女作った事なんか無いんでしょう?
このくらいなら今まででもいろんな男性にやってますんでお構いなく。
あるいは私じゃなくて他の女の人だったら惚れてたかも知れませんねえ…。もっとも今となっては
言ってもせんない事でしょうが。それじゃあさよなら…。
あなたが私に適当なところで殺されるまでの短い間ですが
統一帝国ギガノスの栄光と勝利のためにがんばりましょう!…なんてね。クスッ…。!」

「待て!せめて名前を聞かせろ!」
「……ドゥーエ。」

顔を赤くして叫ぶカールを置き去りにして、未だ煙が立ち込めて警報が鳴り響く薄暗い基地の中に彼女は消えていった。

「一体何者なんだあの女は…?俺の知らない所で何が起きているのだ?それにしてもただの数字とは。偽名にしても
もっとマシな名前を名乗ればいいものを。」

カールは腑に落ちなさそうな顔で呟いた。
71リリカルスクリーム ◆pniZfu/UQY :2008/05/20(火) 00:06:43 ID:bW78Wbav
ここまでであります。
エビの飼育と「星を見るひと」
に嵌ったばっかりについつい投下が随分ご無沙汰になってしまいました。
プラクティーズも結構好きなんですよねえ。
最近のアニメだとプラクティーズみたいな立ち位置のキャラは軒並み女性ばかりだから
彼らみたいなキャラって貴重だと思うんです。
72名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 08:49:17 ID:WTs+P6cS
スクリーム氏キター!
乙です
73名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 09:45:22 ID:NN1Dtn9W
>>72
罰としてかりうの刑……ともあれGJ
74LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 17:09:58 ID:zJuWF/AX
17:30辺りからリリカル側プロローグを投下したいのですが良ろしいでしょうか?
75名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 17:11:20 ID:8jUlqsHj
>>74
どんとこい支援
76名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 17:18:51 ID:dYF25oPW
かもーんw
77LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 17:30:08 ID:zJuWF/AX
それでは投下を開始致します。
支援をくださる皆様、御協力感謝致します。(一礼)
78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 17:34:29 ID:dYF25oPW
支援!
79LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 17:35:07 ID:zJuWF/AX
【LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS】

♯PROLOGUE:SIDE - MAGICAL GIRL LYRICAL☆NANOHA StrikerS

□■□■□

「━━御免なカリム、遅なってもうて!?」

落ち着いた造りの高価そうな扉を押し開けて、
昼下がりの麗らかな陽射しが採光重視な造りの洒落た窓から注がれる
これまた品の良い風情に纏められた部屋の室内に
一人の少女が息急き切らせて駆け込んで来た。
少女は栗色のボブヘアーの毛先を吐く呼吸のリズムに合わせて僅かに揺らしながら
上気して薄らと朱を挿した頬の左側を伝う一筋の汗を自身の左手の甲で軽く拭い、
着ている渋茶色の時空管理局陸士制服の首許のネクタイを僅かに緩めつつ
先に室内で待ちアフタヌーンティーの準備を進めていた女性にゆっくりと歩み寄る。
カリム、と少女から呼ばれた待ち人は
カチューシャで軽く留められた癖の無い腰までの長さの艶やかな金髪を片手で軽く払いつつ、
身に纏うカソックに似合う柔らかな微笑みを以て少女を迎える。

「あら、はやてちゃん別に良いわよ。
 三佐になって今までより更に忙しくなったでしょうし、
 それに私とはやてちゃんとの間柄じゃないの。
 それとも、きちんと公私の区別は付けるべきかしら━━八神はやて三等陸佐殿?」

少女━━八神はやては、そんなカリムからの台詞受けて呼吸を整え終えると
同時に全身から過度の緊張を抜いた後にカリムが着いているティーテーブルの席の
対面の椅子に座り、それを見計らったタイミングでアールグレイを煎れたティーカップと
それを載せているソーサーをカリムははやての前の卓上に緩やかに差し出す。

━━此処は、ミッドチルダ北部・ベルカ自治領内に在る聖王教会本部内の
カリム・グラシアに与えられている執務室で在る。
今駆け込んで来たはやては、昨日にカリムから直接話がしたいと
誘いを受けてこの場を訪れていた。
カリムから直接話がしたいから来て欲しいと云う事は
大概が『直ぐに公には出来無いがどうすべきかをはやて等の
極親しい者と相談したい』と云う事で有る。
故に、はやては約束に間に合わせようと遅刻しながらも
こうして急ぎ馳せ参じたので有る。

 
80名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 17:37:14 ID:Y/Q/Gxxq
支援
81LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 17:41:00 ID:zJuWF/AX
出された紅茶をゆっくりと飲んで一息吐いたはやては
居住まいを正すと改めてカリムに向き直り、
挨拶と遅刻への謝罪を合わせてカリムに向けて頭を下げる。

「ほんまに堪忍なぁ。忙がしさを言い訳にはしとうないんやけど……
 確かに、今先刻解決させた事件の報告書の作成で遅れたんやもんなぁ……
 カリムには何でもお見通しやね」

たはは、と誤魔化し笑いをしながらカリムに謝るはやてを見て
カリムは内心で微笑ましいと思いつつも、同時に図らずも口にされた
はやての台詞に引っ掛かりを覚え、結果として何とも微妙で曖昧な微笑みを浮かべてしまう。

「お見通し、ね……本当にそうで在ったなら、
 何の杞憂も抱かなくて済むのかも知れないけれど……」

僅かに憂いを漂わせたカリムの様子を気遣って、空気の流れを変えようと
はやては幸先の良さそうな方向の話題へと重くならない口調で話を振る。

「前に話してくれた予言の件、やね。去年も同じ内容の予言が現れた言う……
 けど、それに対処する為に『あの話』をわたしに持ち掛けてくれたんやろ?
 そう言えば、今日は何で呼んでくれたん?
 『あの話』の件で何や良い風向きが吹いた言うてたけど?……まさか、
 単にお茶会したくてわたしを呼んだんや無いんやろうね?」

最後の台詞の辺りでははやてはわざと頬を膨らませて
軽く諌める様な感じで言ったが、それを察したカリムは
顔を臥せ背けてクスクスと小さな笑いを洩らした後に
再び顔を上げ、和やかな微笑を取り戻しつつはやてに台詞を返す。

「……それも良かったんだけれど、ね♪ けれど、先刻言った様に
 御互い忙しい身でしょう?━━それじゃあ、本題に入るわね」

自身のカップを取り上げ一口付けてアールグレイの豊潤な味わいで
喉を潤したカリムは、改めて居住まいを正して話に臨む姿勢を整えた。
それに合わせてはやても先程までの気安さを多少引き締めて話に臨む。

「『あの話』ですけれど、ミゼット提督始め彼の“伝説の三提督”の協力を取り付けられたわ」
「本当なんっ!?」

カリムの口から出された名前を耳にして、はやては吃驚して即座に尋ね返す。
もし丁度紅茶を口に含んでたとしたら、確実に噴き出していた勢いで有る。

82名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 17:41:44 ID:Y/Q/Gxxq
支援
83LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 17:46:24 ID:zJuWF/AX
「本当よ、わざわざ呼び出してまではやてちゃんを担ぐ必要は無いでしょう?」

此方はまるで動じず変わらず和やかに話すカリム。

「クロノ君とリンディさんは話の初めから乗り気でしたし、
 これで『あの話』の実現が早まるわ」

━━クロノとリンディ━━所謂“ハラオウン家”は
代々続く生粋の時空管理局魔導師の名門で在り、
同時にカリムやはやてとも近しい親戚付き合いの如く親交が篤い。
それに加えて時空管理局の中でも影響力の強い伝説の三提督からの協力を
得られたならば、何をするにしても筋の曲がった事で無い限りは
先ずは通らない筈は無いと云う心強い後ろ立てで在る。

カリムの台詞は続く。

「━━早ければ……一年半後。はやてちゃんの方は、もう当たりは付けてるの?」
「わたしの方は問題無ぃよ。なのはちゃんとフェイトちゃんは直ぐに『うん』て言うてくれたし、
 更に二人が目星付けてる子達が居るようやから。二人の目ぇなら期待出来る子達な筈や♪」

明るく答えるはやてに対して、カリムは「そう…」と言って
やや疲れを帯びつつも安堵の息を吐く。
カリムの微妙な風情に心配と訝しさがない交ぜになったはやては、
気遣わしげにカリムに声を掛ける。

「……そっち(聖王教会)、そんなに大変なん……?」
「……正直、ちょっと、ね」

隠し立てしても逆にはやての不安を助長させてしまうだけで有ろうと
考えてか、カリムは素直に愚痴を溢す。

「ロストロギア関連は時空管理局との協力態勢がしっかりとしてるから
 それ程でも無いんだけど……“旧ベルカ派”の動向が、ね……」
「旧ベルカ派かぁ……」

カリムの口から吐かれた厄介な名前に、はやても眉を顰める。

━━“旧ベルカ派”
それは、ベルカ貴族の中でも『ミッドチルダ中心社会を打破し、
曾てのベルカ聖王国の威光と栄光を取り戻そう!』と画策し暗躍する
懐古主義的急進派の事で在り、その成就の為に先ずはミッドチルダ政府と
時空管理局を反社会的手段で打倒しようとしている“テロリスト同盟”で在る。

曾ての大戦から後の今のベルカ民族は、
ベルカ王朝解体に代わり聖王を架空の信仰対象として奉り上げて
「民族的中心存在を政治からは切り放して封じる」事で
聖王教会を中心として現体制に保護存続を認めて貰っている立場で在る。

 
84名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 17:53:41 ID:Y/Q/Gxxq
支援
85名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 17:54:55 ID:dYF25oPW
支援する!
86LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 17:55:26 ID:zJuWF/AX
また、ミッドチルダを中核とした管理世界連盟にしてみても、
元の聖王国時代の版図が次元世界にまで広大に渡り各次元世界に散ってしまっている
膨大なベルカ民族を混乱や暴動無く纏め上げるには、象徴たる存在と
それを擁する自治組織の必要性と利用価値を容認するのが最も効率的で有ると
協議の末に衆議一決したので有る。

ここに、双方の妥協の下に
実は危ういバランスで保たれている現状が成立したので在る。

そんな現状に置いて、旧ベルカ派の思想と行動は聖王教会/時空管理局双方に取って
次元犯罪以外の何物でも無く、殊に聖王教会に取っては正に
「身内の問題」として対処せねばならない懸案事項なので有る。

「……と言う訳で、聖王教会騎士団は管理局に先んじて彼等を取り締まろうと必死で
 人員が分散してしまって手が足りない状況なのよ。しかも、旧ベルカ派は
 違法魔導師達を抱え込むのみならず最近出来たらしいサイキッカー組織とも手を組んだらしいのよ。
 今はまだ小規模なサイキッカー組織らしいけれど、彼等の個々の戦闘力や
 今の社会に対する不満の高さを考えると決して軽視出来る要因では無いわ」

そこまでを一息に言い終え、カリムは再び紅茶に口を付ける。

「サイキッカー…かぁ。確かに、今までの社会はサイキッカーを虐げて来てたもんなぁ……
 特に魔導師が率先して」

はやても暗鬱と言葉を口にする。

━━次元世界にサイキッカーの存在が確認されたのはほぼ10年前からで在る。

呪文やデバイスを必要とせず魔法に酷似した力を行使し、
魔力素に拠らずに精神力を直接力に変換する事が出来て、
バリアジャケット・システムを介さずに無意識的に自身の身体を覆っている
不可視のオーラの作用だけでバリアジャケットに近い守備力を生身で獲得している
新人種は、その力の発動特性から“サイキッカー”と呼称付けられて
当初は稀少技能(レアスキル)保有者として時空管理局に歓迎されたが、
程無く人種総浚いで危険存在と見做される事になる。

その理由は、サイキッカーの殆んどが何がしかの精神故障の症状を現して
暴力的及び攻撃性の高い思考を帯び易く、能力発現してから自発的に
自己抑制の訓練を積んで長い時間を掛けて自身を制御出来るか
余程強い心や意思を持つ者で無ければ、直ぐに情緒不安定になって
暴走する者が殆んどで在ったので有る。
また、魔導師が適正者に魔法を教えて初めて力を行使出来るのとは違って
サイキッカーは自然発生的に覚醒して即座に或る程度の力を奮えてしまえる事が、
事態の悪化に拍車を掛けた。
87名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 17:57:08 ID:Y/Q/Gxxq
支援
88名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 17:58:28 ID:dYF25oPW
魔法VS超能力 支援する!
89LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 18:01:41 ID:zJuWF/AX
つまり、突発的な超能力暴発事件が多数発生し、
怪我人は愚か死者まで出してしまう事例が多発したので有る。

これに対し時空管理局も何も手を打たなかった訳では無いが、
サイキッカーの力の不便な点のひとつとして
「非殺傷設定で奮う事が出来無い」と云うものが有り、
暴走サイキッカーの中でもまだ理性を残した者の中には
何とか手加減して威力を落としてくれる者も居たが、
それでも殆んどのサイキッカー対処場面が
『絶対に死なない安全性は無い』
と云う過酷な修羅場になる為、取り締まる管理局側にも
洒落にならない被害が被られるので有る。

また、サイキッカーの内包しているリンカー・コアは
魔導師のそれとは性質の異なるもので在った為に
対魔導師用のリミッターを受け付けないと云う事も
サイキッカー取り締まりのハードルを高めた。

そして最大の悲劇が、
当時の魔導師達が自分達とは異質なサイキッカーのリンカー・コアに着目し、
取り締まりと研究の名の下に社会に対して大手を振って
サイキッカーを用いた人体実験が横行した事で有る。
と或るマスコミがスッパ抜いたその内容は冷酷残虐苛烈を極め、
世論の風向きと心有る管理世界連盟の各国代表からの糾弾も有り
サイキッカーへの人体実験は表向きは抑えられたが、
実は今でも裏では引き続き人体実験が行なわれていると真実しやかに噂されている。

噂の真偽はどう有れ、それらの経緯から
現社会へのサイキッカーの恨みは根深いと言える。
それが、己がサイキッカーで在る事を秘密にし
今は社会に迎合してそれなりに慎ましやかに暮らしている者で在るとしても。

そして、大衆や魔導師の側からもまた
サイキッカーを危険視する風潮は薄れてはいない。

「━━とは言っても、リチャード・ウォン技術部総部長の登場の御陰で
 サイキッカーに対するリミッターもまだ効果が低いながらも開発されましたし」

カリムが新たに話題を付け足す。

「それに最近、自身もサイキッカーで在る事を公表したウォン少将自身の肝煎りで
 発足された管理局サイキッカー部隊が犯罪取り締まりに活躍なされていて、
 実際に教会騎士団も多少は負担が減って助かっているわ」
「確かになぁ……」

はやても思い当たる節が有るので有ろう、お茶受けのクッキーを囓りつつ頷き同意する。

「けど、ウォン少将が自分がサイキッカーだってのを明かした時には
 わたし、俄かには信じられへんかったわ。だって、ウォン少将って
 『非殺傷設定での攻撃が出来る』筈やん?」
「そうなのよねぇ……」

はやてが疑問に首を傾げるのに併せてカリムも小首を傾げ、
そして思い付いた推論をカリムが口にする。

「……ウォン少将がそう云う特別なサイキッカーなのか、
 またはウォン少将はやっぱり元は魔導師でサイキックにはつい最近覚醒したのか……?」
「魔導師でサイキッカー!? そんな反則的な存在、居てる筈無いやろ!?」

90名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 18:03:11 ID:Y/Q/Gxxq
支援
91名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 18:06:37 ID:grBIf5un
剣を13本ぶっ刺しても即死にならないからねぇ。支援。
92名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 18:08:06 ID:dYF25oPW
魔導師とサイキッカーのハイブリット 支援
93LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 18:08:51 ID:zJuWF/AX
カリムの推論を聞いて、はやては吃驚して否定の声を放つ。
そんなはやての反応にカリムも驚きつつも、何とか気を取り直して
ひとつ小さく咳払いすると落ち着いた声音ではやてに語り掛ける。

「━━まぁ、今この場で色々邪推しても意味は無いわね。
 ウォン少将は今も実際に実績を積み重ねておられるのですし」
「そうやね。ウォン少将、ああ見えて階級を嵩に着ないおおらかな御人やし。
 うちのシャマルも医療技術関係でウォン少将には御世話になっとるし、
 ヴィータなんか会う度にウォン少将が中華飴やら胡麻団子やらくれるんで
 結構気に入ってるんやで」

はやて自身もウォンに対しては好印象を抱いているらしく、
微笑みを浮かべてカリムに語り返す。
そんなはやてを見てカリムは僅かに表情を曇らせて、
若干固い声音ではやてに注意を喚起する。

「……けど、常に何か企んでる感じで、
 対面してて安心出来無い感じの人なのよねぇ、ウォン少将って」
「それはカリムの考え過ぎやってぇ」

それを聞いて、はやては気楽な感じで
ヒラヒラと片手を振りもしながら笑って否定する。
変わらぬはやての雰囲気に、ひとつ溜息を吐くと
先程よりもやや明るい感じではやてに応えるカリム。

「━━そうかも、ね。只、ウォン少将には気を付けて。
 これは只の私の勘だから、今はこれしか言えないわ」
「心配症やねぇ、カリムは」

はやては和やかに笑いながら空いたカリムのカップに
ティーポットから新たな紅茶を注ぎつつカリムに話し掛ける。

「それにしても、ウォン少将がサイキッカーだったんも驚きやけど、
 もっと驚いたんはその後やな。先刻カリムも言うとったけど
 ウォン少将が設立した管理局サイキッカー部隊、何だかんだで
 今や武装隊ん中でも高い実績を誇っとるもんなぁ」
「……確かにそうね。けれど、彼等が出て来ると現場の様相が激化するのも事実なのよね……」

驚きを思い出しつつも興味を惹かれて喋るはやてに対して、
憂いの表情を浮かべて手にしていたカップを下ろすカリム。

━━約半年前にリチャード・ウォン空少将の発案と推進の下に発足した
“管理局サイキッカー部隊”は、文字通りに数多のサイキッカーを時空管理局に登用して
武装局員として運用する事を目的とした部隊で在る。

設立以来、常に戦力的な人手不足に悩まされている時空管理局では在るが、
企画が提案された初期には
「部隊編成が可能な程の数のサイキッカーを集めて暴発して逆に災厄を呼び込むのでは……?」
と部隊設立そのものを危険視する声が管理局内でも圧倒的で有った。
しかし、ウォン少将の稀有な政治的手腕と豊富な人脈に拠って
管理局サイキッカー部隊設立案が管理局運営部会を通り
実際に管理局サイキッカー部隊が起動し始めてからは、
それが杞憂だったと云う事が証明される。

今や管理局技術部総部長を兼任するウォン少将が、
管理局内で頭角を現し始めた辺りの頃から行なって来たサイキッカー研究の蓄積と成果を
基にして所属サイキッカーの精神面のケアに万全が敷かれた事に依って、
暴発する事無く比較的順調に部隊運営が行なわれたからで有り、それに伴って
出動先の現場でも着実に実績を上げて行った為で有る。
94名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 18:11:01 ID:Y/Q/Gxxq
支援
95名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 18:11:24 ID:dYF25oPW
不穏な予感が怖いw 支援
96名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 18:12:43 ID:grBIf5un
ヴォルケンズが懐柔されちゃってるぞ支援!
97LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 18:16:57 ID:zJuWF/AX
また、サイキッカー部隊とは言っても
厳密にはサイキッカーのみで構成されている訳では無く、
魔導師ランクが低くとも一芸に長けた魔導師も率先して重用している為に
管理局魔導師の中でも殊に陸士達の間では受けが良い。

しかし、サイキッカー故の軋轢までが解消した訳では無い。

その問題の端的な例が「非殺傷設定問題」で有り、
近年激化する次元犯罪者達からの抵抗に対抗する為には
確かにサイキッカー達の力は効果的有効では有ったが、
先にも述べた様にサイキッカーの奮う攻性超能力は手加減は可能なれど
『非殺傷設定を付加させる事が出来無い』為に、
管理局サイキッカー部隊が相手をした犯罪者には重傷者が頻出し、
時には死者が出る事も少なくなかったので有る。
これまでそれが大きな問題にならないで済んでいるのは、
単にそう云う不都合を大きく上回る実績の高さと
司令官たるウォン少将の政治的手腕と指揮才覚故に過ぎない。

「……特に、部隊の中核的主力を担っているガデスと云う重力使いに
 エミリオと云う光使い、この二人の遣り方は目に余るものが有るわ。
 まるで、破壊や殺戮を愉しんでいるかのよう……」

そう言い、今は目前には居ない何かへの嫌悪と恐れを抑えようとするかの様に
カリムは左の腕で自身を抱き縮め、カリムの台詞を聞いたはやても露骨に眉を顰める。

━━エミリオ・ミハイロフとガデスとは、
二人共にウォン少将が管理局サイキッカー部隊を設立させる際に
何処からか連れて来たサイキッカーで在り、
エミリオは光属性の、ガデスは重力子へと
各々異なる変換資質を備えているとは云え
共に魔導師ランクにして空戦SS相当の実力を備えており、
二人共に管理局サイキッカー部隊の初期中核メンバーとして
様々な事件を解決して来ている。
しかし、その戦闘傾向は良く言っても単独に拠るスタンドプレー、
はっきりと悪く言ってしまえば唯我独尊的な立ち回り方で、
犯人の生命や周辺施設への被害は愚か支援してくれている同僚への損害すら
殆んど考慮せずに好き勝手に暴れ回っているので有る。
それでもガデスの方は豊富な傭兵経験を積んでいる経歴からか部下や仲間に対して
「邪魔だから退がってろ」と言って自身以外は退かせる位の配慮はしているが、
エミリオなどは「自分の身も自分で守れない方が悪いんだよ」と嘲け嗤いながら吐き棄てて
傍若無人に超能力を奮い、或る事件では潜伏したテロリストを殲滅する際に
何かの切っ掛けでキレて暴走したエミリオ独りに因って潜伏場所で在った第4廃棄都市区画が
エミリオ独りの手で一瞬で『蒸発』してしまったので有る。
ウォン少将の配慮に依って事前に避難勧告及びエミリオ以外への局員への退避指示が徹底していなければ、
恐らく人的被害は数百に上っていたで有ろうと推測されている。
尚、更地となった曾て第4廃棄都市区画だった地区は、
ミッドチルダ政府の施策の下に復興計画が進められていると云う。
尤も「費用も掛からずに更地に出来た事が渡りに舟だっただけだろう」と云うのが、
世間からの専らの風評では有るが。

ひとつ溜息を吐いたはやてが、軽く深呼吸をした後に
気を取り直してカリムに話し掛ける。

「……まぁ、管理局サイキッカー部隊をこれ以上どうこう言うても
 鬱になるだけやな。そう言えば、先刻に話に出て来た
 旧ベルカ派と手ぇ組んだサイキッカー集団って、何やの?」

はやてから声を掛けられた事を切っ掛けとしてカリムは身体から強張りを和らげ、
顔を上げてはやてと眼差しを合わせていつもの感じを取り戻した調子で応え始める。
98名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 18:19:29 ID:Y/Q/Gxxq
まさか廃棄都市を復興させるために蒸発させたのか?支援
99名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 18:32:05 ID:grBIf5un
もしかしてDARKNESSはミッドチルダで完成させる気ですかぃ?支援。
100LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 18:34:21 ID:zJuWF/AX
「確か…“新生ノア”と名乗っていたかしら。
 カルロ・ベルフロンドと云う男性が最初は率いていたのだけれど、
 つい最近にそのカルロが擁立したキース・エヴァンスと云う
 新たなリーダーのカリスマと実力に依って徐々に規模と勢力を大きくしつつ有るわ」
「そうなんかぁ……その内、わたし等とも確実にカチ合うやろうなぁ。
 けど、予言の件の他にもわたしが本来欲しがってたコンセプトを盛り込んだ
 “あの件”が実現すれば、そいつ等の事も含めてカリムの苦労は激減りするんよ♪
 そう━━わたしが率いる“機動6課”が設立されれば!」

先程から気苦労に因る疲労感を滲ませているカリムを励ます為だろう、
自身の控え目な胸を張って左拳でドンとまで叩いて殊更に元気良く宣言するかの様に
はやてはカリムに応え返す。
そんなはやての様子を見て和やかに微笑みを湛えつつ「頼りにするわね」と
カリムがはやてに応えると同時に、扉越しに聞こえた「失礼します、騎士カリム」と言う
声に続いて朱紫色のショートヘアのシスター━━カリムの右腕たるシャッハ・ヌエラが、
胸元にファイルを抱えて室内に入って来る。
カリムは顔を向けて和やかにシャッハに声を掛ける。

「あら、そろそろ時間かしらシャッハ?」
「いえ、はやてさんに御挨拶をと━━失敬っ!!」

カリムからの問いに此方も朗らかに応えようとしたシャッハの表情に
瞬時に険が疾り、両肩と背中が大きく露出したハイネックのボディスーツに
大きな白布をパレオの様に腰に巻いて翠色の腰帯で飾ったバリアジャケット姿に
刹那で変身し、ボディスーツと同色の肘まで覆う指貫き手袋を篏めた両手に
トンファーを模したアームド・デバイス“ヴィンデルシャフト”を手にすると、
間を置かずに跳躍して部屋の窓際角の天井をデバイスの一撃で打ち砕く。
しかし望む手応えを得られなかったのか、怪訝そうに眉根を寄せながら
着打点の下に位置する床へ着地するシャッハ。

最初は呆気に取られていたカリムで在ったが、
次の瞬間には己を取り戻して謎な行動を起こしたシャッハに落ち着いて問い、
首を捻りながらもシャッハは応える。

「どうしたの、シャッハ?」
「いえ、何か気配を感じたんですが……気の所為だったかも知れません」
「そう……教皇様の御容態も芳しくは有りませんし、
 もしかしたら他の派閥からの間諜かも知れませんわね。
 シャッハ、警戒有難う」
「は、騎士カリム」

カリムからの感謝と労いの言葉に対して、
バリアジャケット姿のまま片膝を着き
カリムに向けて騎士の礼を取るシャッハ。

━━現在の聖王教会は聖王を架空存在としての象徴として
奉る一方で、実際の最高権力者として“教皇”を載いている。
しかし、既にかなりな高齢に在る現教皇の体調が此処数年思わしくなく、
現在の教会内部では現教皇逝去後の次期教皇の座を巡り
政争暗闘が影に潜んで行なわれている。
そして、現教皇からの信頼篤いカリムは
次期教皇の座に最も近いと目されており、
次期教皇の座を狙う他派閥から睨まれているのが実情で有る。

101名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 18:36:12 ID:Y/Q/Gxxq
支援
102名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 18:40:38 ID:grBIf5un
新生ノアにはCYBORGが居るぞ支援。
103名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 18:52:07 ID:dYF25oPW
規制か? 支援
104LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 18:55:32 ID:zJuWF/AX
「ところで……気の所為で壊された天井の修繕費は
 貴女のお給料から引いても良いかしら、騎士シャッハ?
 “はい”か“YES”で答えて下さいね♪」
「ちょっ何ですかそれ騎士カリム!?」

慈愛を湛えたかの様な輝く微笑みを浮かべながらそう問うカリムに対し、
即座に脊椎反射の如く切り返しツッコむシャッハ。
そんなシャッハに対し、朗らかに笑いつつ声を返すカリム。

「ほほほ、冗談ですわ♪ 教会の資金から必要経費で落とすから安心なさい」

冗談で無くほっと胸を撫で下ろしつつ
バリアジャケットを解除してカソック姿に戻るシャッハ。
そんな漫才を端から眺めつつはやてが音頭を取る。

「さぁ、堅い話はここまでにして
 本格的に午後のお茶会に突入しようや! カリム、シャッハ」

顔を見合わせるとどちらともなくクスクスと笑い出すカリムとシャッハ。
そして、改めて三人がティーテーブルの席に着き、
アールグレイの豊潤な香りとカップから昇り立つ綿の様な湯気が
一刻仕事を離れて和やかに談笑を始めた三人を柔らかく包んで行った……。


━━だが、シャッハの懸念は当たっていた。
聖王教会中央本部から続く深い森の中を
独りの魔導師がデバイス片手に教会から離れる方向へ疾走していた。
彼は魔導師ランクとしてはD程度でしかないが、
殊幻影魔法を織り交ぜた隠密活動では
実にSランク相当の実力を備えているのをウォンに見い出された
“密偵”で在った。
そして今、入手した情報━━機動6課設立の事を
主たるウォン少将に報告すべく、一路転送ポートへと加速魔法で駆け抜けて行った……。


━━そして、運命の歯車は噛み合う
その刻を刻一刻と近付けて行く。

そしてこれから更に一年半後━━全ては出逢い、物語は本格的に動き出す。


105名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 18:57:53 ID:Y/Q/Gxxq
カリム、アンゼより優しいみたいだなw支援
106LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 19:03:31 ID:zJuWF/AX
==================
以上、リリカル側プロローグは終了です。

はやてとカリムがお茶しながら延々と語らい合ってただけでしたから、
皆様が読んで楽しめたかは正直不安です。
また、オリジナルな敵勢力が違和感無く描けるか
これからが頑張りだと自分に喝入れもしましたがw

尚、この時点でウォンに関する様々な伏線を提示しています。
その内のひとつのヒントは
 「PFの同人アンソロジーを読み漁れば思い当たるものが有ります」
です。

それでは、稚拙な文章ながらも御付き合い載き有難う御座います。
次に御目に掛かれる機会を楽しみにさせて載きます。それでは。(一礼)
107LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 19:08:24 ID:zJuWF/AX
因みに、刹那なせっちゃんは
「元は極平凡な魔力資質も皆無なミッドチルダ人」
としてこのリリカル側プロローグより更に半年後に完成する
裏設定ですので、今回の話には名前すら出て来ませんでした。
彼のファンの皆様、申し訳有りませんでした! m(__)m
108名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 19:14:41 ID:grBIf5un
プロローグ乙でした。
『格ゲーの概念(プレイヤー次第で幾らでもひっくり返る)を抜いたら』
最強とも言えるウォン閣下の活躍ぶりが正にGJです。
この調子でどうか本編も盛り上げてって下さい。お待ちしております。

余談:前回の話ですが、発生して自然消滅した時空の穴、
ELECTRICITYと初代GRAVITYはそこに消えちゃったという裏設定ですか?
109LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2 :2008/05/20(火) 19:20:42 ID:O2swOf8u
>>108
いえ、その御二方に関しては別の所に伏線が潜んでいます。
ヒントは「ガデスの台詞」です。
次元穴はどちらかと言えば管理局サイキッカー以外全員に関わります。
詳しくは後の作中にて、で御許し下さいませ。
110名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 20:39:55 ID:QnrubH1v
今まで読むだけだったのでSS書いてみようとする前にちょっと聞きたいんですが、いいですかね?
・なのは、フェイト、はやて、クロノら管理局組は敵として出ます
・リリなの世界を強い人々としてもいい人々としても見ません。
・同性愛要素は一切ありません。
・オリキャラはでませんがマイナーなキャラが多く出ます
・魔法最強主義でも万能主義でもありません。質量兵器万歳、非人道兵器満載な戦闘です

これだとルール違反になるでしょうか?

クロス作品はまだ言いませんが吉里吉里かSRCで作ろうかと思っている話です
なのはの話そのものは好きですが、管理局や管理内世界の在り方には疑問がありまくりです
主役はアリサとすずかとユーノになる予定です。
111一尉:2008/05/20(火) 20:41:39 ID:jF8Y1rmK
ガデスとドライアス支援
112名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 20:41:58 ID:Uiqi3lBT
>>110
要は、その設定で納得できるものが出来るかどうかだと思うんだが。
まぁ、読んでみないと判らん、ってのが正直な意見だな
113名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 20:48:26 ID:1NiX8cbB
>>110
ウロスの方で聞いたらいいんじゃない?
114名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 21:07:19 ID:HNjR85Px
別にいいと思うけど、敵役となるなのふぇいはやてが、劣化させないことが条件じゃない。
無意味に貶められたり、低脳化した場合は問題外だけど。
115名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 21:30:03 ID:gjyJ8yDt
>>110
敵キャラには敵キャラならではの魅力の出し方というものがあると思う。
設定自体には問題ないと思うけど
>・同性愛要素は一切ありません。
なんでわざわざこんなことを…?
116名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 21:33:59 ID:CotHo6fP
なのはを百合もの思ってんじゃないの?
117名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 21:35:34 ID:2E8AKXhd
実際は百合物としては中途半端だけどな。
ここはノーマル派が多いんでね?もしくはどうでもいい派。

118名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 21:35:46 ID:+31w8lsY
>質量兵器万歳、非人道兵器満載
これはどうなのだろうか。
反対に質量兵器万能主義になってしまうのも頂けないな。
これじゃ非人道的なのが、相対的に正当化されそうで見たくないかな。
119名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 21:36:41 ID:mgHc4mV+
>>116
同人誌とかSSとか読んで見た気になってるとかじゃね?
120名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 21:51:55 ID:pZrXRKnp
普通に百合百合うっせー層が多いからだろ。ここは全然だけど。
121名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 22:04:57 ID:nHxYoCl/
>>110
個人的には見てみたいな
まあ、これ以上はウロス行きか
122名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 22:07:09 ID:2BzytY4W
>>110
過度のアンチやヘイトにならなければ読んでみたいな
さて、それじゃあウロスへ行こうか?
123名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 22:10:49 ID:TKGDU67u
キャラ改変とかマンセーさえなければいいや。
クロスである以上多少の設定のすり合わせは必要だし、後は面白いか否かで。
124魔装機神  ◆BbNMlcrDFw :2008/05/20(火) 22:20:04 ID:PYYB5NMX
11時頃に投下したいのですが、よろしいでしょうか?
125名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 22:22:23 ID:+31w8lsY
是非お願いします!
126名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 22:39:12 ID:CBP/cFce
よろしくないの反対
127魔装機神  ◆BbNMlcrDFw :2008/05/20(火) 23:01:37 ID:PYYB5NMX
時間ですので投下します。

FLAME OF SHADOW STS 30 

「おい!どういうことだよオマエ!」

うがあぁ! と小人らしき少女、アギトはスカリエッティの眼前に迫り、キッと睨み付ける。
いきなり人を呼び出しておいて、「もうレリック探さなくてもいいよ」なんていわれれば、誰だって怒る。

「もうルールーの母さんを生き返らせるのはもうやめた、なんていうんじゃないだろうな!!」

わーわー叫びまくるアギトを無視して、スカリエッティはその奥にいるゼスト、そして少女、ルーテシアを見る。
そのゼスト、ルーテシアの表情もどこか納得いかない表情をしていた。

「はいはい、ちょっとは落ち着きなさい、おちびちゃん」

そんなアギトを、ドゥーエはまあまあと抑える。
これからそのことを話すのに、余計なことを言わないでほしい……

「どういうことなのだ? 急にレリックの捜索を打ち切るとは?」

そんな二人を見て、ゼストは静かに、それでもそのまなざしは相手を射抜くように睨んでいる。
スカリエッティは、そんなふたりにやれやれと少々ため息をつく。

「どうもこうも、もう聖王の器の奪還は絶望的でね。これ以上レリックを集めてもあまり意味は持たない。
だからその旨を君たちに伝えたまでさ」

どこか含みある、そんな笑みを浮かべるスカリエッティにアギトはきっとにらみつけた。
そんなアギトを見て、なら……とゼストもデバイスを構える。

「もうお前との協力関係はここで終わり、ということでいいのだな?」

きらりと光るデバイスをスカリエッティに突きつけ、ゼストは彼との決別を示そうとしていた。
それを見て、アギトもやる気万全で構える。
だが、それと同時に腑に落ちないところもある。
それだけを言うのなら、通信を入れればいいだけのことである。
何故、態々自分達をアジトまで呼び戻したのか。
その理由がゼストには分からなかった。

「どうやら、ゼストのほうはうすうす気づいているみたいね」

「そのようだね」

くすくす笑っているドゥーエを見て、スカリエッティは自分の机にある書物を手に取る。
それは、髑髏の形をしている、いかにも不気味なものだった。

「それ……」

その書物をみて、ルーテシアは思い出す。
元は彼女がその書物を見つけたのだ。
だが、確かその直後に奪われたはず。

「管理局を攻めたときに取り返したんだよ。それで調べて見ると、なかなか面白い書物でね」

そう言うと、スカリエッティはこの本に書かれている文字を調べた結果を映す。

「これは、話によれば、魔法で人を完全に蘇生させる方法が記されているんだよ」

スカリエッティの言葉に、3人は驚きの表情を見せる。
人を完全に蘇生させる方法?
128名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 23:02:41 ID:XLB24F75
支援
129魔装機神  ◆BbNMlcrDFw :2008/05/20(火) 23:03:15 ID:PYYB5NMX
「馬鹿な、そんなことが……」

あまりの話に、ゼストはその書物を見る。
そんなもの、在る訳がない。

「いや、ある。私たちの世界にはな」

突然、背後から声が聞こえてきたのでゼストは振り舞えると、そこには金髪の、見た目では紳士的な男が立っていた。
一体何時の間に……

「私はニコラス・コンラド。以後、お見知りおきを」

ニコラス……二コルは歩み寄り、エミグレ文書を手に取る。

「これがエミグレ文書、私たちの世界では死海文書のひとつで、人を蘇生される方法が記されている」

二コルはそう言ってぺらりとページをめくる。
そこには、見たこともない文章が羅列されていて、3人はまったく理解できない。

「それでね、そのエミグレ文書を使って、一つの実験をするんだ……騎士ゼストなら、もう察しがついているよね?」

ゼストに向かい、にこやかに向かうスカリエッティ。
その表情に、まさか……とゼストは睨み付ける。
いや、彼ならばするだろう……
ある程度はこの男のことは理解しているから、当然なのかもしれない。

「そのエミグレ文書の実験に、メガーヌを使おうというのか?」

睨み付けたまま訊ねるゼストに対して、スカリエッティはにこやかに笑った。
ただ、その笑みはひどくこちらの気分を損ねるには十分だった。
それは肯定という意味で捉えてもいい。

「てめえ!ルールーのお母さんを実験で使う気かよ!?」

アギトは両手から炎を発し、今にもスカリエッティに襲い掛かる勢いで迫った。
それじゃ、今までの事は何だったのだろうか。
今まで気に食わないこいつらに協力してきた意味は?
そんな想いがアギトの脳内を駆け巡った。

「何を言っているんだい?いまだ見つからない11番を探すよりも、より確実性が増したじゃないか。
準備が整えば、今からでも出来るのだよ」

アギトの睨みにまったくうろたえないスカリエッティは、そのままゼストを見る。
しばらくそんな状態が続き、場の雰囲気は一気に最悪の状況となった。

「ドクター、少し尋ねた……い……こ」

運悪く、そんなときにやってきたセッテ。

「あ……」

だが場の雰囲気を一瞬で把握し、セッテはしどろもどろしながらもどうすればいいのかと一生懸命思案する。

「で、私たちに何のようだ?」

そんなセッテを見て、ゼストは一息入れてスカリエッティを見る。
どうやら少し落ち着いたらしい。
そんなゼストを見て、アギトも渋々下がる。
少しだけこの空気が収まったようだ。
130名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 23:03:15 ID:b9VkRjaY
支援
131魔装機神  ◆BbNMlcrDFw :2008/05/20(火) 23:04:39 ID:PYYB5NMX
「なに、簡単だよ。その実験が終わるまで、ここを守ってほしいだけさ。
さすがに管理局のほうも、そろそろ気づく頃かもしれないしね……」

ふふふ、と笑うスカリエッティに、あいつらか、とゼストも頷く。
自分やルーテシアたちが何度も妨害に遭っている管理局の部隊。
機動六課。
これまで、彼らには幾度となく行動を邪魔された。
言われてみれば、そろそろここだと特定はできなくても、大体の目星は立っていてもおかしくはない。
おそらく、彼が言う、守るというのはここを感づかれないようにしろということか……

「私はいいよ」

ゼストが決断をする前に前に、ルーテシアは一歩までに出て、協力の姿勢を見せる。

「ルールー!?」

アギトは驚いてルーテシアを見るが、その顔には、決意の表情があった。
メガーヌを、母さんと会えるなら、なんでもする。
彼女はそう決意した。
だからスカリエッティに協力している。

「お前がそういうのなら、私も従おう」

「だ、旦那まで……あーもう! こうなったらあたしも協力してやるよ!!」

そのルーテシアの顔を見て、ゼストも同意し、結局はアギトも渋々といった形で同意することになった。

「ただし、私もなすべきことがある。そのことは覚えていてもらおう」

そう言って、ゼストは黙って去っていった。
その背中を、スカリエッティは崩さない笑みで見る。

「ありがとうセッテ、おかげで助かったわ」

そして、未だにオロオロしているセッテに、ドゥーエは笑みを浮かべて優しく頭をなでる。
撫でるたびに、桃色の長い髪がふわりと揺れる。

「え……あ……ありがとうございます」

セッテは、いきなりのことで驚いたが、セッテは顔を赤らめて顔を下げる。
こういう風にされるのは初めてで、どうしていいのかまったくわからない。
そんなセッテを見て、スカリエッティは少し驚く。
セッテ、ディード、オットーはクアットロの案により、余分な感情を省くように作られている。
ディードとオットーは、まだ多少の感情があるが、その二人とは違い、セッテはクアットロが完璧というほどの出来だといっていた。
そんなセッテだが最近、時折ちょっとした感情を見せるようになった。
特に、今回のような感情の表し方は初めてだった。

(これも人を素体にした結果、か……)

ナンバーズは人を素材として作られた。
人を素体とする限り、成長というものもあるし、ちょっとした異変というものもある。
はたして、セッテはどちらだろうか……

(やはり、ドゥーエとゼロか……)

思えば、そのちょっとした変化の始まりはゼロ、そしてドゥーエがやってきたぐらいかもしれない。
どの妹にでも平等に接するドゥーエ。
本来の性格なのか、どの姉に普通に接するゼロ。
さらに、ゼロの本来はタイプゼロであるが、一応は13番目の戦闘機人、
ナンバリング、そしてゼロとしての稼動時期もセッテよりも短い。
132魔装機神  ◆BbNMlcrDFw :2008/05/20(火) 23:06:22 ID:PYYB5NMX
(積極的に自分に構ってくる二人に、少しずつだが変わってきている、か)

クアットロには悪いかもしれないが、スカリエッティはセッテのこの微妙な変化を嬉しく思っている。
子供の成長を楽しみにしている親のように……。

「それで、ドクターに何のようなの?」

そして、ドゥーエは思い出したようにセッテに訊ねる。
確か、彼女はドクターに用があったはず……
セッテもハッとして思い出し、ドクターを見る。
そのときだった。

『ドクター、いるんですか?』

ちょうど、ウーノがスカリエッティに通信を入れてきた。
その顔は、どこか不満な顔を表していて、少しだけセッテを見る。
画面越しからでも伝わる視線に、セッテは申し訳なさそうにシュンとなる。

「どうしたんだい、ウーノ?」

『少し多忙でしたので、セッテにドクターを呼ぶように頼んだのですが、中々来ないのでこちらから入れました』

そういうことか、とスカリエッティはセッテを見る。

「そんな目でセッテを見ないでやって。あんな空気じゃなかったのよ」

と、ドゥーエはセッテを慰めながら、さっきの緊迫した空気を思い出す。
稼動期間も短いセッテには戦闘とは違うあの独特なあの空気にどうしていいのか分からず、それどころではなかった。

『どういうこと?』

だが、そんなことを知るはずもないウーノは、ドゥーエの言っている意味がわからなかった。
いろいろあるの、とドゥーエはウインクをする。

「ところで、私に何の用なんだいウーノ?」

と、ここでようやく話の筋を元に戻す
確か、ウーノはクアットロとともにオットーの修理をしていたはず。
そこまで多忙とも思えないのだが……

「あれに、ちょっと異変が起こったんです」

あれ、と聞いて、スカリエッティはほう、と興味津々にウーノを見る。
オットーの修理中、突然「あれ」に少し異変が起きたと作業用ガジェットから連絡を受けた。

報告を受けたウーノは、オットーをクアットロに任せ「あれ」が眠っているところに今はいる。

「今まで何も何の反応がなかったあれに、ほんの少しですが魔力反応が察知されたんです」
「ほう」

その言葉に、スカリエッティは面白そうに聞く。
まさか、あれに魔力反応があったとは……
最近連続で起こる意外すぎる出来事。
これは、もしかしたら自分の身に何かが起こる前触れだろうか……
133魔装機神  ◆BbNMlcrDFw :2008/05/20(火) 23:09:01 ID:PYYB5NMX
「今はまだ本当に微弱で、なんとかジャマ―をかけてはいますが、今後さらに魔力値が高くなるとどうなるか……」
「そうか……なら私もそっちへ行こう」

そういうと、スカリエッティはすぐに準備をする。
何はともあれ、自分の目で確かめなければ何もわからない。

(本当に、私を楽しませてくれる……)

スカリエッティは、静かな笑みを浮かべて部屋を後にする。
これから、どのようなことが起こるかは自分でもわからない。
だが、それは自分を楽しませてくれる。
彼はそう思い、アジトの最深部へと足を運ぶ。

「この反応……」

スカリエッティのラボ近くにある森林の中、アスモデウスは微笑を浮かべながらも、それでいて特異な魔力を察知した。
もちろん、それは先ほどウーノが話していた「あれ」のことである。

「この世界とは違う……どっちかって言えば私たちの世界に近い魔力……面白いことになりそうね」

どうやら、決戦のときは近い。
そう思うと、アスモデウスは笑みをもらす。
自分、アスタロト、アモン。
三大悪魔の中で、とうとう最強の悪魔が決まる。
これ以上に面白い事はない。

「さて、どうなるか……」

アスモデウスは、これから起こることに、胸を高鳴らせる。
そして、その魔力のそばで、もうひとつ、意外な反応を示すものがあった。

「あら?」
クアットロは、オットーの修復中、奇妙な反応をキャッチした。
ごめんねぇ、オットーちゃん、と一応詫びを入れ、クアットロはその反応の場所を探索する。
もしかすれば、侵入者の可能性もある。
しかし、それにしては少し大きい。

「これは……レリック?」

レリックが何かに反応を示し、光っているのだ。

「念のために、ジャミングをかけたほうがよさそうね……」

クアットロ派管理局に気づかれてはいけないと思い、魔力を察知できないようにジャミングをかける。
例の「あれ」の魔力増加とレリックの反応……
これが何を意味するのか、知る者は未だに誰もいない……


「どうした、もう終わりか?」

アースラの訓練施設で、紅麗は目の雨で倒れているティアナを見る。
その姿は悲惨なもので、体中が傷つき、所々が黒く煤けていた。
今日はあの時の訓練のときとは違う。
死なないように調整しているとはいえ、今回は蒼い炎が容赦なく彼女を襲う。

「はぁ……はぁ……」
134魔装機神  ◆BbNMlcrDFw :2008/05/20(火) 23:11:17 ID:PYYB5NMX
もう体力の限界なのか、既に体に力が入らない。
ただ、ぐったりと倒れているだけ。
ティアナは、この短い時間で紅麗という男の力を嫌というほど体感した。
魔力を持っていないのに目に見えないほどの圧倒的なスピード。
そしてそれから放たれる重い一撃。
どれをとっても、今の自分を遥かに凌駕している。
いや、比べるのも馬鹿らしい。
それほどまでの差が、この二人にはあった。

「もう立てないか……所詮貴様はこの程度ということか」

だが、さっきからこの男が放つ言葉に、否応なく反応してしまう。
自分が倒れるたびにここまでか、ふがいない、見込み違いか、などと言ってくる。
こうまで言われるとさすがに腹が立ち、自然と力が入る。

「はぁ…はぁ……ま、まだよ……」

全身の力を振り絞り、ティアナは立ち上がる。
既にこの行為を何回繰り返しているかわからない。
だが、自分はまだ立っている。
この根性も、部隊長であるなのはの訓練による賜物だろうか……
それとも友のためにこそなせる力だろうか。
とにかく、見上げた底力である。

「そうだ、それでいい。これだけのことで根をあげる程度では、別魅は到底覚えることができない」

まだ立ち上がるティアナに、紅麗は仮面越しに微笑を浮かべる。
口ではああいっているが、紅麗もここまで耐えるとは思っても見なかったらしい。
既に模擬戦を始めてから30分以上はたっている。
その、何度も立ち上がる姿を見て、紅麗はあるものを思い浮かべる。
どのようなことあろうと諦めず、自分に向かってきたものたちのことを。
だからといって手を抜くつもりはない。
おそらく、次の戦いまで時間がない。
長々と時間をかけて教える時間などないのだ。
だから、さっきからずっと別魅をだし、体に叩き込んでいる。
それによって掴める物もあるだろう。

「はぁ……はぁ……」

しかし、既に彼女は限界だ。おそらく、一歩も歩くこともできないだろう。
もう、彼女の体は戦える状態ではない。
もし、これが彼女の部隊長達ならやめさせるだろうが、紅麗にとってはここからだった。
この絶望的状況の中、火事場の馬鹿力を発動できるかどうか。
ある意味、この訓練はこれからが本番だった。


(だ、だめ……頭がくらくらする……)

ティアナはなんとか立ってはいるが、もうこれが限界だった。
あの魔力を使わない幻術、「別魅」。
なぜ、魔力を使わずにフェイクを作れるのか。
今まではその原理がさっぱりわからなかった。
しかし……
(もう……これが最後のチャンスね……)
何か、なにかが解りかけているのだ。
魔力を使わずに、フェイクを作り出す方法が……
あと、少しなのだ……

「どうした?動けないのならこちらから行くぞ」
135魔装機神  ◆BbNMlcrDFw :2008/05/20(火) 23:12:47 ID:PYYB5NMX
しかし、紅麗は無慈悲の如く攻め立てた。
もはやする必要もないのに、別魅でティアナの目を翻弄させる。
いくつもの紅麗がティアナの周囲を飛び回る。
その間に、本物の紅麗は瞬時に彼女の元へ迫る。

「く……」

さすがに、少しは目も慣れてきて、迎撃を試みようとする。
伊達に30分以上も別魅を見ているわけではない。
しかし、もう体が自由に動かない。
そんな彼女に、紅麗の攻撃を躱すことはもちろん、防御することもできなかった。
空しくも、紅麗の右足が彼女の腹部に直撃する。

「が……は……あぁ」

腹部に重い感触が伝わり、無意識に自分の口から唾液が飛び散った。
紅麗は目いっぱい力を入れて、そのままティアナを吹き飛ばす。
だらしなく、無抵抗にごろごろと地面を回り、どさりと倒れて蹲っている。
どうやら、かなり効いたようだ。
紅麗はさすがにここまでか、と静かにティアナを見る。

「な…に?」

だが、次の光景に紅麗は驚きを見せる。
先ほどまで倒れていたティアナが、少しずつだがゆらゆらと、蜃気楼のように消えていく。
136名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 23:14:29 ID:dXyhqbZm
支援
137魔装機神  ◆BbNMlcrDFw :2008/05/20(火) 23:15:08 ID:PYYB5NMX
(これは……)

紅麗は、念のためにそのティアナに炎を浴びせる。
最低温度に調整されたそれは、ぼぅっと音をたてながらティアナを包み込む。
しかし、それと同時に、すぐにティアナが消えた。
最低温度の炎で、それはおかしかった。
紅麗は少し辺りをうかがうと、ちょうど仮面で隠れた視線のところで、ティアナが倒れていたのだ。
既に意識は失っているが、その顔はどこかやり遂げたような顔だった。

(そうか、ついにやり遂げたか……)

ふふふ、と満足そうな笑みを浮かべる紅麗。
まさか1日でやり遂げるとは思わなかった。
これまでにも独自でやっていたのだろうし、もしかしたら気を失った時に偶然できたのかもしれない。
それでも、これはほめるに値することだ。
これも、あのスバルとか言うもののため、か……

(かくも、思いの力というものは時に予測不能なことが起こすな……)

紅麗は、ふと弟のことを考える。
あいつもまた、一人の人のため戦っている。
その思いで、自分をも凌いだこともあるのだ。
まんざらでもないか、と紅麗は微笑を浮かべる。
自分もまた、そうなのだから……

「ちょ、ちょっと!なんなのこれは!?」

当然の声に紅麗は振り向くと、そこにはシャマルがまさかの光景に唖然としていた。
おそらく、そとでこの光景を目撃して急いできてやってきたのだが、予想以上の惨事を見たからだろう。

「てぃ、ティアナ!!大丈夫なの!?」

そこに、いったい訓練でどうやったらここまで痛めつけられるのか?と思いたくなるほどぼろぼろの状態をティアナを見つける。
その後、すぐさま医務室に運び込まれ、彼女が気を失っている間、
烈火のいない彼の自室に「何考えてんの!!」という部隊長の怒鳴り声が響いたという。


今回はこれで投下完了。
もうすぐ最終決戦が始まるます。
そろそろ劇的に話を進めないとなあ……
138名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/20(火) 23:18:57 ID:+31w8lsY
GJ!!
139名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 00:14:51 ID:b6RjJCZq
とりあえず小ネタ程度にユーノ君、職業・殺し屋verを書いてみました。
文章もひどくろくに直してないようなひどい代物ですが、これで職殺クロスを書いてくださる方がいればうれしいです。
投下よろしいでしょうか?
140名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 00:17:08 ID:ZPsRNVeL
予約はないと思うからおk
141×DOD ◆murBO5fUVo :2008/05/21(水) 00:21:32 ID:WzpoykRC
少々失礼します。

何のかんのと言いながらほぼ週一ペースで投下してきましたが、
今週末の投下はお休みになりそうです、とご報告申し上げます。
申し訳ありません。
142ユーノ君 職殺ver:2008/05/21(水) 00:24:50 ID:b6RjJCZq
それでは駄文ながら投下させていただきます。
オリキャラ、誰てめぇと言いたくなるようなキャラ変更注意。



クラナガンのビル街の一角にあるマンション。
その中にある部屋のひとつから出てきた恰幅のいい男――レスト・アンリは上機嫌だった。
時空管理局高官と深い繋がりがあるこの男は、簡単に言うと強姦魔である。
基本的な手口は一つ、魔力が無く社会的身分の低い20歳以下の女に目をつける。
権力をつかい住所を特定、その後その女の家に魔法を応用して押し入り襲う。
その情景を自作デバイスに録画し再度会うことを誓わせる。
もし、相手が勇気を出して訴えた所で権力で握りつぶせる。
問題はまったく無い、とレストは思っていた。
なんといってもミッドチルダでは魔力を持っている人間は優遇されやすい。
さらにレストはAA+の元武装局員、これでは――

「何言ったって無駄だ…クック」

思わず呟くとレストの思わず笑った。
さっきまで自分がいた部屋には女が一人何もできずに泣いているだろう。
だが彼女にはどうしようもない。
例外として一人自殺することで、地獄から逃れた女がいるが、レストのにはなんの影響もなかった

「俺はパーフェクトだ…パーフェクトなんだぁ!はっはっは…!!」

レストがその顔を醜悪に歪ませながら笑っている。
実に不愉快な笑い声だった。




レストは上機嫌のまま念話で友人に迎えに来るように伝えると、そのままマンションの入り口まで出てきた。

「…ん?」

すると妙な視線を感じた。

「何だ?」

視線の方向に振る向くがだれもいない、そこには小さな路地があるだけだ。
気のせいだ、とは思いつつも気になる。

「……ふむ」

時間をチェックする。まだ友人が到着するには余裕がある、そう判断するとレストは路地を歩き始めた

路地はたいした広さもなくただ淡々と道が続いているだけだった。
周りは静かだ
「気のせいか……」
特に深追いをする必要も無い。そう思い道を引き返し始めた。
その時。
143名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 00:26:33 ID:PmuIJ3uq
支援w誰がやるのかなw
144ユーノ君 職殺ver:2008/05/21(水) 00:26:54 ID:b6RjJCZq
シュピン!

まるで刃が空を切るような音がした直後。

「が……ご…!」

レストの首に緑の光を放つ縄のようなもの――バインドが巻きついていた。
否、首だけではない、両手両足すべてを拘束するようにそれはあった。

「グ…」

レストはいきなりの襲撃に驚きと恐怖を感じながらも、バインドブレイクで脱出を試みるが失敗した。
どうやらこのバインドは、彼の知るバインドのどれとも違うものらしい。

「ぐぞ…」

魔法の行使をあきらめたレストは、バインドにチェーンのようなものが連なっていることに気づいた。
そして敵の姿を、自分の首から術者に続いているはずのそのチェーンを通して確認しようとする。
簡単に混乱しないあたりは腐っても元武装局員、といったところである。
だが……彼の目には映っていたものは――

「こんにちは、レスト・アンリさん……ああすいません、今の時間はこんばんは、でしたね」

――時空管理局本局、無限書庫司書長、ユーノ・スクライア。
その男がここにいた。

「さてと――それじゃあ殺しますね」

なんと前触れもなく殺人宣言をする彼にレストは焦った。
両手両足を拘束され抵抗手段は皆無、
とにかく時間を稼ごう、もしかしたらいない事を怪訝に思った友人が助けてくれるかもしれない

「ま…まっでぐで……」

喉の強烈な圧迫感に耐えながら必死に言葉を発する。
それを聞くとユーノは何を思ったか首の部分のバインドの拘束をゆるくした。

「げっほげっほ……くそ……」
「まあ、ボクも鬼じゃないですからね…最後の言葉くらいは聞いてあげますよ、ちなみに叫んだりしても防音結界があるので無駄ですよ」
145名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 00:28:19 ID:PmuIJ3uq
支援、なんて卑しいんだwww
146ユーノ君 職殺ver:2008/05/21(水) 00:33:16 ID:b6RjJCZq
まるで何かの仕事をこなすようなユーノの言葉を聞きながら、先程は湧かなかった疑問が頭に浮かんだ。

「な…なんで、あんたが俺を…」
「ああ、その事ですか――ボクはね、殺し屋です、あなたを殺すように依頼されたんですよ」
「こ……殺し屋?」

裏社会には詳しいつもりでいたが、まったく聞いたことがなかった。

「ええ、あなたの犯した女性の一人が自殺したの知ってますか?その人の恋人から依頼が着たんですよ、無残にぶっ殺してくれって」
「ちなみに報酬はこれです…」

そう思い出したように言うと、ユーノはポケットから小さなハンカチが入った箱を出した。

「ハン…カチ?」
「はい、ヴィヴィオがどうしても欲しいっていうものですから、つい♪」

先程まで無感情だったユーノの声に、喜びの感情が混ざる。

「本当はもっと高く買うこともできたんですけど…まあ良いですよね?」

ヴィヴィオという単語に聞き覚えはなかったがそこまで頭が回るほどには冷静ではなかった。
むしろ、自分の命がたったハンカチ一つ分で買われたことをさぞ楽しげに話すユーノに怒りを覚えた。

「てめぇ、俺を殺したらてめぇもただじゃすまねえぞ、俺はな管理局の――」
「この人でしょ?あなたのお友達は」

レストが言い終える前にユーノは胸ポケットから写真を出した。
その写真には、レストの罪を何度ももみ消してくれた男が写っていた。

「この人はもうボクの仲間が殺しているはずですから、安心して死んで良いですよ」
「な…こんな…」
「はあ…あなたさ、往生際が悪いですよ、あなたは人を死なせてるんですよ、それも愛してくれる人がいる女性を……悪いこと極まりないじゃないですか」
「…へ?」
「愛する人が殺されるっていうのはきっと辛いんですよ、もしその人が死んで原因が生きているていうなら、……ボクは愛のために殺します、人でもなんでも」
147ユーノ君 職殺ver:2008/05/21(水) 00:35:46 ID:b6RjJCZq
ため息をつきながらまるで説教するようにユーノが言う。
こうしている間結構な時間が過ぎたはずだったが誰も来る気配がない。
――死
この言葉が頭をよぎる、今まで何人も殺してきたが自分が殺されるなど考えたこともなかった。

「まって…金は払う…ゴガ!!」

命乞いを言い切る前に首が異常な力で締められる、先程とは比べ物にならない――このままでは首がもげてしまうほどの。

「さてと仕上げです、ボクのこの特性バインドは魔力を上乗せすることで締める力をあげることができるんですよ」
「あ……が…!」
「これを作るのには苦労しましたよ、無限書庫の資料を何度漁ったことか…ボクはなのはじゃないですからそう簡単にはいかないんですよね」

まるで講義のようなのんきなユーノ声も、もはやレストには聞こえなかった。

「もう聞こえませんか、さて、じゃあさっき言ったように……殺しますね♪」
「あ……あ…」

ユーノが自らのバインドに魔力を込め始める。
みちみちという耳をふさぎたくなるような音が耳を嬲っていく。

「人の恋路を邪魔するやつは、首をもがれて地獄に落ちろ♪」

そのユーノの声と肉が潰れるような音と同時に、レストの意識は永遠に消えた。


ユーノは自宅に帰ると誰かと携帯電話のような特殊デバイスを自分のパソコンに繋いでいる。
その姿はとてもついさっき人を殺したようには見えない。

「ええっとデータ転送…これでよしっと」

ユーノが殺しに成功したことを示す写真データをパソコンを通してあるサイトに転送した。

「ふう、やっぱり悪人を殺すっていうのはたまらない…それも他人の愛のためなんて言うんだからまったくボクは――」

――なんて卑しいんだ。


148名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 00:37:43 ID:PmuIJ3uq
支援、MrAAと死織さんが混ざった性格っぽいですね。
149ユーノ君 職殺ver:2008/05/21(水) 00:37:54 ID:b6RjJCZq
以上です。
正直かなり恥ずかしいです。
蜘蛛とかもだせればよかったんですが僕の力じゃ無理でした。
ていうか、実はユーノにいかれた台詞を言わせたかっただけだったりwww
150名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 00:38:08 ID:pRvv3vKT
ユ、ユーノが蜘蛛…いや死条に……
151名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 00:47:47 ID:+3r64796
GJ! このユーノ間違いなくギンギンw
152名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 00:51:06 ID:sa76A8ud
>>151
なんか、殺し屋1を思い出すなww
153名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 01:23:46 ID:hhQ6dPVY
ユーノこええええええええええええw
154名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 02:20:06 ID:t18wYC9K
なんて卑しいSSなんだ……GJ!
155名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 03:49:30 ID:P3SN/qoA
わざわざユーノにせず蜘蛛をだしてほしかったな。
なのは勢とのからむとエロくなりそうだ。
156名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 07:40:01 ID:aDp/3tE9
>>149
元ネタ知らんが、恐ろしくGJ
ユーノはやはりこのタイプの人間か。。。

>>110
亀レスだが、内容には興味在るので1票
157名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 08:15:24 ID:XUyMLksa
しかし惜しいのは折角の職殺クロスなのにエロが無いという…
ぜひとも避難所でエロエロ書いて欲しかったよ
今過疎ってるし
158名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 09:03:17 ID:NKchQy+j
>ユーノ君 職殺
職業殺し屋なのにエロがない。
なのに、殺しのシーンだけで興奮してしまうなんて…僕はなんて卑しいんだ。
ここまでの感想で全部ネタ言われてて、ネタ知ってる皆の卑しさに吹いたw
ちょっと物足りないですが、ワンシーン的な内容なのは仕方がないですね。
だって、あの漫画のストーリー部分って大抵十八禁なんだもんw
しかし、殺し屋ユーノのイカレタ部分が上手く表現されてました。
ハンカチ一枚で人ぶっ殺す辺りが狂気。
しかも、ヴィヴィオの為とか、一般的な愛情を持ちながら根本的な部分で狂っちゃってる辺りがまさに職殺特有の殺人鬼っぽかったです。
多分、なのはとかユーノの周囲の人間は皆普通なんでしょうね。
可能性があるとしたらフェイトくらい? っつかフェイとなら似合いそうですなw
159名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 14:10:15 ID:PmuIJ3uq
GJ!!です。
ユーノ・・・なんて卑しいんだw
強姦魔の相棒を殺したのが誰か気になります。アイナさんかな?
160名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 14:34:36 ID:CPk26htP
ああ……なんて卑しい淫獣なんだ。
シャマルが死織さんでザフィーラが赤松さんというの希望。
161名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 14:50:57 ID:9m4Xfi7/
>>106
遅まきながらGJ!
ウォンが味方側かよ!吹いたwww
でも元の世界でも一般人から見ればノアは反体制テロ組織で、ウォンはそれを壊滅させた正義の立役者になるんだよな。
とことん時流を掴み自分の立場を確立するのにすぐれた男だぜ!
162名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 19:12:32 ID:I1s1byoF
ゲイズスレは相変わらず的を得た議論をするなぁ
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1210034469/130-147
163名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 20:36:00 ID:NZs7J8gM
>>162
1ターンチャージで即発射してくる機動兵器のスレに見えた俺は末期
164反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 20:49:57 ID:+hadhlYe
予約がないのならば、9時からリリカル殺生丸第十話を投下させていただきます。
ただ、一体どこで何をどう間違ったのか、43KB21000文字14レス分という、
もはや狂気の沙汰みたいな量になってしまったので、支援をお願いしたいです。
165リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:00:09 ID:+hadhlYe
では行きます。
みんなお待ちかねスーパーギンガターイム!(ぇ
166リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:01:16 ID:+hadhlYe
ミッドチルダ首都・クラナガン。
数多の次元世界を統括する時空管理局の恩恵の下、実質的な管理世界の首都として繁栄を極めた街。
無数のビルが建ち並び、色とりどりの広告が散りばめられた摩天楼は、しかし今は混乱の渦中にあった。
灰色のコンクリートジャングルは、魔力弾の飛び交う戦場となっている。
住民達は1人残らず避難し、残った人間は管理局の魔導師達だけ。デバイスの先の街並みは、冷たい鉄の軍勢によって占有されていた。
先の戦闘で地上本部を攻撃した、ガジェットドローンの大軍団。
真紅の触手のごときケーブルをくねらせ、無骨な単眼を光らせて、陸士達へと襲い掛かる。
並大抵の攻撃ならばAMFによって即座に無効化されてしまうが、防衛兵力の面々はそれでも引き下がらなかった。
それぞれの攻撃を束ね、一斉射撃をもって鎮圧する。一対一では勝てぬ相手も、一対多なら対応可能。
問題はこれがいつまで続くかだ。
数の利が管理局にあるのならこの戦法で押し切れるが、実際はガジェットの方が圧倒的多数。
長期戦になれば攻撃スピードの差から、逆にこちらが押し切られてしまう。
(我々が一気にカタをつけねばならんな……)
そんな地上の様子を横目で見下ろしながら、1人の空戦魔導師が内心で独りごちた。
癖の強いブロンドを風に揺らし、そのまま鋭い碧眼を正面へ向けると、敵陣目掛けて猛烈な速度で加速する。
航空機のような形状をしたガジェット達が、すぐさま端整な容姿の男の行く手を遮った。
それに臆することなく、男は手にした巨大な銃身を、豪快に片手で振り上げる。
すらりと伸びた彼の足ほどの長さはあろうかというほどの、近代ベルカ式ライフル型デバイス・オーバーフラッグ。
立ち込める排煙と共に、魔力カートリッジの薬莢が勢いよく弾き出された。
瞬間、ごう、と響き渡る爆音。
空気を震わすほどの破裂音と共に、音速にすら迫る魔力の弾丸が叩き出される。
次々と連射されるヴァリアブルバレットが、ガジェットの装甲をスイカのように吹き飛ばしていった。
地上本部首都防衛部隊でも、1、2を争う速射弾の腕前。当然威力も申し分ない。
「隊長!」
そして彼の元へともう1人の魔導師が飛んできた。
赤毛をドレッドヘアにした黒人の男性で、そのイメージに違わぬ屈強な肉体を有している。
サイズは一回り小さいものとなっているが、手にしているのは同じくライフル型のデバイスだ。
「やはり、どこもかしこも苦戦しているようだな」
未だ銃身から硝煙をたなびかせるデバイスを下ろし、男が部下へと向き直る。
「連中とまともにやり合えるのは、隊長達オーバーAランクくらいです」
「あとは対AMF戦歴の長い、機動六課の魔導師達ぐらいか……もう少し真剣に対策を学ばせておくべきだったな」
瞳を微かに伏せながら、金髪の男が呟く。
高町なのはを筆頭とする六課の戦力達は、ガジェットや戦闘機人の相手を専門に行ってきた者達だ。
連中との交戦を重ねることで、当然AMF対策も固められていく。
ジャミング下での効率のよい魔力結合の方法、干渉を極力抑えるバリアジャケットおよびデバイスのプログラム、etc……
人数こそ少ないものの、今となっては対AMF戦に関しては、どこよりも優れた技術を有するに至っていた。
「しかし、自分は情けないです……あんな嬢ちゃん達を頼りにせねばならんとは……」
黒人男の低い声は、いささか無念を孕んだように響いていた。
無理もないだろう。高い魔力適正を持っているとはいえ、六課の戦力の半分は訓練生上がりの若年兵だ。
本来ならこうした激しい戦場では、むしろ自分達ベテランが、彼女らを支えてやらねばならないはず。
しかし現状はどうだ。逆に自分達が、若者達を戦力の中核に据え、あまりに重い責務を背負わせているではないか。
「悲しいが、これが我々が状況に甘んじ、のんべんだらりと胡坐をかいてきた日々のツケだ」
言いながら、金髪男は自身のデバイスから、何か棒のような物を引き抜く。
同時にぶんっと音を立てて顕現する、真紅の魔力光で構成された刀身。いわゆる仕込み刀というものだ。
右手に剣を、左手に銃を構えながら、男は視線の先に浮かぶ船を見据える。
全長数キロメートルはあろうかという、天を覆うかのような巨大な戦艦。紫色と金色の、荘厳ささえ漂うカラーリング。
古代ベルカ文明最大のロストロギア・聖王のゆりかご。あれを破壊せねば、ミッドチルダに未来はない。
そしてそのために力を振るい、あの若き魔導師達の力になることこそが、自分達のできる最大の贖罪だ。
「同情も謝罪もあとで結構。今はただ彼女らのためにも、我々で露払いをするだけだよ」
「はっ」
独り言を呟くような金髪男の言葉に、黒人男が敬礼で返した。
167名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 21:02:09 ID:NZs7J8gM
支援
168リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:02:27 ID:+hadhlYe
「分かっていると思うが」
言いながら、金髪男が再び黒人男へと向き直る。
「油断するなよ、ダリル。我々の敵はこのガジェット共だけではない。戦闘機人もそうだが……妖怪というのも紛れいていると聞く」
「ヨウカイ、ですか?」
聞き慣れない単語に、ダリルと呼ばれた黒人男は首を傾げた。
何せ発言した金髪男でさえ、初めて聞いてから一週間も経っていないのだ。彼がそんな反応を返すのも仕方がない。
「人の姿を取った、他の次元世界の化け物でな……」
そこまで言い終えたところで、一拍の間が空く。
次の瞬間、金髪男の口元は、にぃ、と微かに歪んでいた。
「リミッター付きとはいえ、あのシグナム嬢を下したそうだ」
「ほぅ」
感心したようにダリルが漏らす。
ヴォルケンリッターの烈火の将といえば、先の六課の隊長クラスであり、言うまでもなくニアSランクの強者だ。
この金髪男もまたそれなりに交友があり、何度か模擬戦をしたことがあるというのは、彼の隊では周知の事実である。
「楽しそうですな、隊長」
困ったような笑みを浮かべながら、ダリルは口を開いた。
こういうところが、自分達の隊長の困ったところなのだ。
何だかんだで闘争好きで、強い相手と刃を重ねずにはいられない、あのシグナムと同じバトルマニア気質が。
「ああ、楽しみで仕方がないさ。かの人外の魔物と舞踏を共にできると思うと、今からもこの心臓が熱く激しく脈を打つ」
金髪男はそう返しながら、寄って来たガジェットを光の剣で両断する。
細身の刀身が、あたかも鋼鉄の装甲をバターのごとく切り裂き、その断面を灼熱させる。
「願わくば、彼と私のこの指が、運命の赤い糸で引き合わせられることを」
呟く。
結婚式場の控え室で、最愛の恋人を待ちわびる花婿のように。
遊園地へ行く日を前にして、わくわくと瞳を輝かせる子供のように。
相手は妖怪という、全く未知の存在だ。しかも積年の好敵手たるシグナムよりも強いと言うではないか。
血湧き肉躍るとはまさにこのことだ。デバイスを握る手がうずうずする。これを楽しみと言わず何と言うのだ。
そして、それを邪魔する無粋の者達がいる。
ミッドの空を覆いつくす、有象無象のガジェット達。一対一にしてくれれば、一体どれほど嬉しかったことか。
「――管理局をなめるなよ、機械仕掛けの化け物共」
にやり、と。
大胆不敵な強者の笑みと共に、金髪男が呟く。
「次元世界の守護者たる我らが力、その冷たい五臓六腑に至るまで、とくと全身で味わうがいい」
我々には矜持がある。数百年に渡って平和を守ってきたプライドが。
高々1人の反逆者のおもちゃごときに、管理局は決して屈指はしない。
その誇りを胸に抱き、黒光りするライフルと赤熱するサーベルを携え、金髪男が飛び立った。
あの犯罪者の欲望を乗せた、忌々しき呪いの方舟目掛けて。
「グラハム・エーカー以下フラッグ隊、戦端を開くぞ! この私と運命を共にする覚悟のできた者から、腹をくくってついて来い!」

新暦75年9月19日。かの地上本部襲撃事件から、きっかり一週間後。
次元犯罪者ジェイル・スカリエッティは、遂に聖王のゆりかごを起動させる。
先史文明最悪の質量兵器は、数百年もの時を超え、ミッドチルダ上空にその姿を現した。
空にはびこるガジェットドローン、街を荒らす戦闘機人。

後にJS事件と呼ばれる一連の案件の、最後の戦いが、今ここに幕を開けた。
169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 21:03:08 ID:8B1tCGPa
緊急支援
170リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:03:47 ID:+hadhlYe
魔法妖怪リリカル殺生丸

第十話「銀河咆哮」


クラナガン上空、地上本部付近。
主要な戦場を外れたこの場所で、ゼストはアギトと共に、あの巨大な塔へ向かって飛行していた。
今回の地上での戦闘は、管理局を制圧するためのものではない。
あくまで目的は、空中へと上がろうとする魔導師達を戦闘に誘い出し、足止めをさせること。
このような制圧に時間のかかる建造物は、別に攻めるメリットはない。よってガジェットからも戦闘機人からもノーマーク。
誰もいない蒼穹を、人造魔導師と融合騎が並行して飛行する。
眼下、そしてゆりかご付近での喧騒に比べて、あまりにも静かな空だった。
「今度こそ、旦那をアイツの所まで送ってってやるからな」
アギトが意気込んで言った。
ゼストの最終的な目的は今度も同じ。生前行動を共にした無二の親友・レジアス中将に出会うこと。
理想を共にした仲間として、会って確かめなければならないことがある。
そのために、今までみっともない姿を晒しつつも、恥を忍んで生き続けてきた。
(それにしても……)
しかし、ゼストの表情は冴えない。
今回、彼がスカリエッティから割り当てられた役割は、全くなかった。
戦闘の混乱に乗じてレジアスの元へ向かいたいと言ったら、あっさりとそれを了承したのだ。
他の戦闘機人にも、ルーテシアにも、挙句客人である殺生丸にさえもそれぞれに仕事があったというのに、ゼストには何もない。
地上本部攻撃の際には取り繕っていたが、結局のところ、自分は既に用なしだったということか。
それだけだったとしても、別に不自然はないだろう。この状況にはそれだけで説明がつく。
だが、どうにも何かが引っかかった。
根拠はないが、どうしても嫌な予感がしてならないのだ。
(奴はわざと俺を主戦場から遠ざけた……?)
そんな予感が、胸に引っかかって離れないのである。
もはや自分はいてもいなくてもいい存在どころか、いられると困るという段階に位置しているのではないだろうか。
しかし、自分を排除したところで、一体スカリエッティは何をするというのだ。
自分にいられては困ることとは――
「ん?」
その時、不意に目の前に現れた人影が、ゼストの思考を中断させた。
視線の向こうに誰かがいる。
他に人っ子一人いないだだっ広い空の中で、ぽつんと1人、何者かが浮いている。
目を凝らしてみてみると、そこにあったのは1人の若い女性の姿だ。
桜色の長いポニーテールをたなびかせ、同じく桃色を基調とした騎士甲冑に、そのしなやかな肢体を包み込んでいる。
腰に差したのは刀剣型のアームドデバイス。そして隣に浮いているのは、アギトにとってはにっくき存在――リインフォースU。
「局の騎士か」
その足を止め、ゼストが目の前の女に向かって確認する。
リインと一緒にいるということは、六課部隊長八神はやての守護騎士・ヴォルケンリッターの1人と見て間違いない。
「本局機動六課、シグナム二尉です」
女騎士――シグナムは律儀に名乗った。
「前所属は首都防衛隊。貴方の後輩ということになります」
「そうか」
ゼストは短く返す。
相手は自分の正体を――ゼスト・グランガイツ隊長を知っていた。いや、調べていた。
いつか顔が割れるということは分かりきっていた。
その称号を誇るつもりはないが、かつてはストライカー級の魔導師だった自分のプロフィールなど、照合すれば一発でヒットするだろう。
171名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 21:04:34 ID:8B1tCGPa
なんで阿修羅すら凌駕する人やねん支援
172リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:05:07 ID:+hadhlYe
「中央本部を壊しにでも行かれるのですか?」
一方のシグナムは、真顔でゼストに問いかける。
この男の実力は並大抵のレベルではない。何せギガントフォルムのグラーフアイゼンを、正面から粉砕してみせたのだ。
そんなことはなのはにも、そしてフェイトにすらできやしない。生前のランクS+も、その力をまざまざと物語っている。
油断するわけにはいかなかった。ゼストもまた、殺生丸同様の強敵だ。
「古い友人に……レジアスに会いに行くだけだ」
ゼストはあっさりと自身の目的を白状した。
自分のことを調べたのならば、彼との関係も知っているだろう、とでも言わんばかりに。
「それは復讐のため?」
シグナムが尋ねる。
彼の追っていた戦闘機人事件の資料を見れば、当時からレジアスには共犯者としての嫌疑がかかっていたことが分かった。
そしてゼストは――否、ゼスト隊は、犯人のアジトと思しき場所での戦闘で全滅している。
自分達が突入するという情報をリークしたのは、レジアスではないのか。
唯一無二の親友が、その舌で自分達を犯罪者に売ったのか。
そう思っていて、復讐のためにその刃を振るいにきたのではないか、と。
「言葉で語れるものではない」
されど、生ける死者は答えず。
その右腕に携えた槍を構え、シグナムへと向き直る。
「道を開けてもらおう」
「言葉にしてもらわねば、譲れる道も譲れません」
観念したように、シグナムもまたレヴァンティンを抜き放った。カートリッジをロードし、自らの必殺剣・紫電一閃を発動。
違法技術たる戦闘機人への関与の可能性、不必要とも思われるほどの力であるアインヘリアルの建造。
彼女自身、レジアスに対して特に好意的に見ていたわけではない。
しかし、上官は上官だ。そして彼だけではなく、あそこには多くの局員がいる。
こんな危険人物を、素通りさせるわけにはいかない。戦いは避けては通れない。
「あぁっ……!」
そのレヴァンティンの姿を見て、アギトは小さく息を呑んだ。
「アギト、どうかしたか?」
「な……何でもねぇっ」
取り繕ったように、慌てて訂正する。
彼女の二つ名は「烈火の剣精」。
言うまでもなく、それはただの飾りではない。アギトの特性を端的に現している。
戦闘スタイルなどから分かるように、魔力属性は炎熱系だ。そして同時に、得意とするのは剣系デバイスの補助。
そして目の前にいるシグナムは、「炎の性質変化能力を持った」「剣系デバイスを使用する」「古代ベルカ式の騎士」。
繋がる。
自らが最も相性のいいロードの形と、完全に合致する。
しかし、それがどうしたというのだ。戦いの最中に、そんなことに構っている暇はない。
小さく首を振ると、脳裏に浮かんだ思考を外へと放り出した。
「言葉でグダグダ語るなんてなぁ、騎士のやるこっちゃねぇんだよっ!」
叫びながら、アギトの身体が発光する。
「シグナムと同じ」桜色の魔力光は、そのままゼストの身体へと溶け込んでいった。
屍から蘇った人造魔導師の身体を、熱い魔力が駆け巡る。炎の魔法の熱量が、中心から末端にかけて行き届く。
こげ茶の髪は、光り輝く金髪へと変貌。バリアジャケットを兼ねた襤褸にも、同様の彩度が差した。
ユニゾン完了。ゼストとアギトの身体が、光の速さで同調する。
「騎士とか、そうでないとか……お話しないで意地を張るから戦うことになっちゃうんですよ!」
シグナムの傍らに浮遊するリインの身体もまた、「シグナムとは合致しない」白色の魔力光と化し、体内へと浸透した。
僅かに青みのかかった、白銀のヴェール。それが彼女の全身を包み込み、淡い紫色の彩りを見せる。
シグナムとリインもまた、ユニゾン完了。
ゼストの携えた槍が、シグナムの握った剣が、灼熱の炎を纏って対峙する。
片や、融合騎アギトの魔力によって。片や、自らの魔力資質によって。
『うるせぇ、バッテンチビッ! 剣精アギト、大義と友人ゼストがために、この手の炎で――推して参るッ!』
『祝福の風リインフォースU、管理局の一員として――貴方がたを止めさせてもらいますッ!』
互いのユニゾンデバイスが名乗りを上げる。
性格も性質も経歴も全く違う、しかし、現在のロードとは相容れない性質であるという点だけは共通した、2人の融合騎が。
「行きます」
「うむっ!」
そして騎士は互いのデバイスを取り、炎の武具を振りかざし、桃色と黄金のスパークを天空に輝かせた。
173リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:06:16 ID:+hadhlYe
クラナガン廃棄区画、高速道路上。
がちゃり、がちゃりと、鋼鉄の具足の音が響いていた。
デバイスを構えた陸士達の目の前で、白いヒトガタが揺れている。
きらびやかな銀髪を揺らし、汚れなきたてがみを揺らし。
その行く手に真紅の用水を引いていきながら、しかし本人は朱色に染まることなく、幽鬼のように歩み寄ってくる。
「ひ……っ!」
杖を携えた者のなかで、誰かが短い悲鳴を漏らした。
腕の振動が伝わって、その場の全員のデバイスががちがちと音を立てている。
恐ろしい。
目の前に亡霊のようにゆらゆらと揺らめく、あの白いヒトガタの何かが恐ろしい。
顔色一つ変えることなく、何者が触れることをも許さず、血の河の真ん中を歩いてくる、あの男が。
人間とは到底思えない――化け物が。
「う、うわああぁぁぁぁっ!」
一斉射撃が始まるのに、それほどの時間はかからなかった。
恐怖に当てられた誰かの砲撃を皮切りに、タイミングを合わせているわけでもないというのに、一気呵成に魔力弾が撃ち込まれる。
狙いをつけることなんかまどろっこしくてたまらない。ただただ当たりさえすればいい。
この化け物を追い払うことさえできれば。
狂ったように悲鳴を上げながら、魔法の輝きが雨となって男へと殺到する。
瞬間、しかしそれら全てが静止した。
色とりどりの球状の光に混ざって、何やら細かい光が見える。
それは線だ。緑色の妖しい煌きを放つ、仲間達を次々と殺めた死神の鞭だ。
そしてそれに気付いた瞬間、陸士達の意識は一様に刈り取られ、後には延長された赤い河が流れるだけとなった。
これでこのエリアには誰もいない。管理局の雑兵達は、粗方殺しつくした。スカリエッティから与えられた役目もひと段落だ。
「フン……」
一方的な虐殺の末、白い化け物は――殺生丸は、またもつまらなさそうに鼻を鳴らす。
地上本部戦の折には、上空から高見の見物をしていただけに過ぎなかったが、実際に戦ってみると骨のないものだ。
もちろん、普通の人間よりは圧倒的に強い。しかし結局のところ、その程度では、幾度となく屠った妖怪達とさほど変わらない。
やはりシグナムのような骨のある人間は、この世界においても一握りだったようだ。
とはいったものの、これはこれで悪いことばかりではない。相手が弱いということは、仕事も早く片付くということ。
あのいけ好かない科学者の力になどなりたくない殺生丸からすれば、あまり働きたくないというのが本音だった。
それは最初の戦闘から一貫している。あの時の廃棄区画での戦闘から、ずっと。
ふと、何かに気付いた殺生丸は、高速道路を歩きながら、視線をゆっくりと泳がせる。
金色の鋭い双眸に映るのは、すっかり古びた街並み。その全てが、何となく見覚えのあるものばかり。
同じなのだ。
このブロックは、あの時ルーテシアを奪還するために戦った場所と、まるきり同じ場所だったのである。
ひび割れたビルの配置も、歩くアスファルトの感触も、血の中に混じった空気の匂いも、全てがあの時と同じもの。
ならばこの辺りのどこかに、大きな穴が開いているはずだ。自分の壊した道路の穴が。
道の両幅に僅かに注意を傾けながら、ゆっくりと歩いていく。
そして、その穴を見つけた時、
「――お待ちしておりました」
そのすぐ側に、1人の少女が立っていた。
純白のフィットスーツタイプのバリアジャケットに、鍛え上げられた肉体を包んで。
白銀の光を放つ、鋼鉄の拳と雷神の具足を携えて。空色の光を放つ水晶のような物を、その首に提げて。
風に踊る、紫色の美しい髪。紺色のリボンが、その中に混じってたなびいている。
緑色の瞳は、鋭くひきしぼられ、殺生丸を真っ向から見据えていた。
「殺生丸さん」
ギンガ・ナカジマの姿が、そこにあった。
4年の時を経て、再会したあの場所で。全ての始まりのきっかけとなった場所で。
驚きのあまり何もできず、ただただ震えていることしかしなかったあの時の場所で。
しかし今は両腕を力強く組み、自らの足でしっかりと立って。
あの時逸らした視線を背けることなく、正面からその獣の瞳を睨みつけて。
ギンガは遂に、4年前の命の恩人と――殺生丸と向き合っていた。
174リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:08:04 ID:+hadhlYe
「お久しぶりです。4年前の空港火災の時、貴方に助けられたギンガ・ナカジマです」
ギンガはつとめて冷静に、自らの名を名乗る。
内側から沸々と湧き上がる怒りを、捜査官業務仕込みの強靭な理性で抑え込みながら。
今自分の目の前に、妹を傷付けた男がいる。
正義のヒーローと信じていたのに、それを裏切り、スバルを瀕死の重傷へと追い込んだ張本人がいる。
しかし、今はまだ早い。怒りの全てを爆発させるのは、もっと後にすべきことだ。
故に、今は必死に堪えながら、淡々と言葉を紡いでいった。
そして殺生丸は、特に言葉を発するわけでもなく、ただ微かにその目を丸くする。
(どこかで見覚えがあると思えば……あの時の小娘か)
今の今までついぞ忘れていた、炎の中で出会った幼い少女の姿が、ようやく記憶の中に蘇る。
この見知らぬ魔法の世界へと飛ばされた、最初の場所。轟々と燃え盛る、コンクリートの建物の中。
そこで初めて出会った、ミッドチルダの住人。
殺生丸が、右も左も分からぬ異界で初めて顔を合わせ、反射的に助けてしまった少女。
なるほど確かに見てみれば、あの時の面影が随所に見られる。
妖怪に比べて短命であるが故に、遥かに早い成長スピードは、いたいけな幼子を美しい女へと変えていた。
よくよく思い出してみれば、戦闘機人の臭いにしたってそうだ。ナンバーズ以前に嗅いだという臭いが、おぼろげながらに蘇る。
あの血と肉と鉄と油のないまぜになった奇妙な臭いは、あの空港火災の時に知ったものではなかったか。
目の前に立つ、正真正銘の戦闘機人――タイプゼロ・ファーストたるギンガではなかったか。
一方のギンガは、今まで完全に自分のことを忘れていたというような反応にむっとしながらも、その言葉を続けていく。
「何故貴方は、犯罪者のスカリエッティに加担したのですか」
今までずっと、その口で最初に聞こうとしてきた質問を、声に出して発した。
他にも色々と話したいことはかつてはあったが、今はそれはどうでもいいことだ。
この応答が終わった瞬間から、戦いは幕を開けることになるのだから。
「元の世界に帰る。それに奴が1番手っ取り早かっただけだ」
必要以上のことは言わない、人間性の削ぎ落とされた冷淡な言葉。
ギンガにとっては、既に予想していた回答であり、それ以外のものは在り得なかったであろう回答だった。
そしてこの瞬間、殺生丸はこのミッドチルダに来て初めて、まともにギンガと口を利いたのだった。
自らが最初に憧れた異性。こうありたいと強く願った白馬の王子様。
4年という長い歳月を経てようやくかけられた言葉が、そんな冷たい言葉だった。
その事実は、少なからずギンガの心に亀裂を走らせ、その表情を曇らせる。
しかし、感傷に浸っている暇などない。胸の痛みを振り払うと、なおも言い募る。
殺生丸と向き合うために。ある意味初恋ともいえた男と、真っ向から戦うために。
「自分が元の世界に帰るためならば、何をしてもいいと?」
さんざ使い古されたにも程がある、カビの生えたような言葉だ。
内心で自嘲するも、その様子は表情にはおくびにも出さず、ただ冷静に言葉を発していく。
帰ってきた殺生丸の答えは、沈黙。まるで霧のようにその髪を揺らしながら、彼は何も答えない。
2人はじっと押し黙る。さわさわと揺れる風の音だけが、この皆殺しの現場となったハイウェイに響いていた。
1秒経ったろうか。はたまた1分経ったろうか。1時間経ったと言われても違和感はなかっただろう。
そんな緊張した沈黙の最中。
「――貴様ら人間ごときのために、わざわざ遠慮などしてやる道理などあるまい」
遂にその重い口が開かれた。
「っ!」
ギンガの瞳が見開かれる。その視線だけで相手を射抜かんとするほどの、激しき怒りと共に。
この男は人間のことを、何とも思っていない。そこらの蟻と同じように、生きようが死のうが知ったことではないと見下している。
こんな男に自分は救われたというのか。こんな男にスバルは傷付けられたというのか。
自分に対し、殺生丸に対し。沸々と怒りが高まってくる。大地の下で激しくうねる、灼熱のマグマのように。
「フルドライブ……」
囁くような小さな声。
『Ignition.』
ギンガの命令に呼応し、ブリッツキャリバーの紫色のスフィアが発光する。
連続してロードされるカートリッジ。飛び散る金属色の空薬莢。足元に燦然と輝くは、近代ベルカの紫色の魔法陣。
話し合いの時間はこれで終わりだ。前座は終了し、ここからが本番となる。闘争の時間の始まりだ。
「A.C.S……起動ッ!」
175リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:09:18 ID:+hadhlYe
ギンガが吼える。
雄たけびと共に魔法陣は掻き消え、しかしそこには、新たな光が顕現する。
煌いたのは、1対の翼だった。
紫電のごとき魔力光に輝く、神々しささえ放った紫の両翼。羽根の粒子が周囲に舞い散り、ギンガの顔を照らし出す。
聖なる翼の加護を受けた乙女は、地上に舞い降りた女神とでも呼ぶべきか。
否。そうではない。
ギンガ・ナカジマは、言うなれば――戦乙女(ヴァルキュリア)だった。
相対する殺生丸とギンガ。
片や、悠然とした様子で微動だにせず。片や、シューティングアーツの構えを取る。
荒涼とした廃棄区画の街並みを一直線に貫く高速道路の上で、紫電の両翼が光り輝く。
「たとえ、かつての恩人だとしても……貴方を許すわけにはいきません」
固く握った左拳の横で、ギンガが鋭い眼光を燃やした。
この拳が、この魔法が、この力の全てがどこまで通用するかは分からない。
立ちふさがる殺生丸の存在は、圧倒的なまでに大きい。純白の衣が、冷徹な殺意が、巨大な波濤となって全身を殴りつけてくる。
これがあの殺生丸の力。あらゆる敵を寄せ付けない、絶対的なまでの力。
真正面から向き合うことで、初めて実感した力。
正直、身の震えるような思いだった。
これほどまでに強く、気高く、恐ろしい相手と戦うと考えると、怖くて怖くてたまらない。
エース・オブ・エースの高町なのはとも、もう1人の恩人たるフェイト・T・ハラオウンとも異なる、禍々しいまでのプレッシャー。
それは相手が人ならざる者――妖怪であるが故の感触か。
「貴様が管理局とやらの人間だからか」
そんなギンガの内心などお構いなしに、殺生丸は平然と問いかけてくる。
未だ、その刀に手をかけることもせず、その研ぎ澄まされた爪さえも持ち上げず。
あの時と同じ無表情のまま、ただゆらゆらと銀髪を揺らし、そこに立ち続けている。
常軌を逸しているとすら取れる余裕。それがまた、ギンガの内の恐怖心を一層煽り立てた。
「――私の信じる正義のために」
それでも、引き下がるわけにはいかない。
じっとりと汗で濡れた左手を、より強固に握りなおす。
管理局のためだけじゃない。仲間を傷付けたあの男を、スバルに涙を流させたあの男を、この手で倒すために。
かつて胸の中に抱き続けた幻想を、今この手で打ち砕くために。
ただ、己が正義のために。
4年前のあの日から、ずっとこの時を待ち続けていた。
願う形とは大幅にずれてしまったが、それでもこうして、互いに真っ向から相対している。
燃え盛る炎の中で出会った、異界から迷い込んだ妖怪と、戦闘機人の身体に生まれた少女。
かつてこの場所で再会した、元の世界を目指す犯罪者と、その出会いを待ちわびた捜査官。
地上本部の塔ですれ違った、妹を容赦なく傷付けた男と、妹を守ることができなかった姉。
そして今。
こうして、共に戦場で。
金色と緑色の瞳が、互いに見つめあう。
4年という長い歳月は、ギンガに殺生丸に語るべき百万の言葉を積み上げさせた。
しかし、今やこの場に言葉などは不要。
ただ、それぞれの手に、それぞれの力に、戦うための力を込めて。
百万の言葉よりもずっと真っすぐで、ずっと純粋で、ずっと苛烈な闘争のために。
吹き抜ける風さえも、鋭利なる闘気の刃へと変えて。
触れる者全てを傷付け、立ち入る者全てを押し潰すほどの、張り詰めた緊張感が空間を支配する。
風の音だけが響き渡る静寂の世界の中で、静かに銀色と紫色が揺れる。
そして、風が止んだ。
刹那、その場に訪れるのは、完全なる無音の世界。
次の瞬間、世界は爆音に満ちた。
ナックルスピナーが唸りを上げて回転する。
ファイナルリミッターの解除されたブリッツキャリバーが咆哮する。
先手を取ったのは、やはりギンガからだった。
176名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 21:09:56 ID:CPk26htP
ロリータ妖怪支援
177リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:10:26 ID:+hadhlYe
「たああぁぁぁぁーっ!」
気合いと共に、白きバリアジャケットが疾駆する。
たなびく長髪と濃紺のリボン。紫に輝く羽毛が虚空に散る。
今までの戦闘で発揮した速力をも凌駕する、強烈な加速と共に、殺生丸に向かって殺到した。
オリジナルたるマッハキャリバーから受け継ぎし、雷神の具足の最終形態――ギア・エクセリオン。
Accelerate Charge System――通称「A.C.S」は、ギンガの持ち味であるスピードを、飛躍的に向上させる。
瞬間突撃システムのもたらす爆発的な加速力は、一瞬にして殺生丸をその間合いへと捉えた。
そして、戦乙女の翼がもたらすものは、何も速力に限った話ではない。
「せやあぁぁっ!」
振りかぶられたリボルバーナックルから突き出される、強烈な鉄拳。
反射的に殺生丸が身をよじり、その攻撃を回避する。
魔力付与によってパンチ力を増幅させる魔法・ナックルバンカー。その攻撃力もまた、今までの比ではなかった。
今回は当たりこそしなかったものの、今までの拳ならば、かわすことなくそのまま受け止められていただろう。
少なくとも、このナックルバンカーによる一撃は、あの殺生丸に回避行動を取らせた。
そのまますれ違ってしまったギンガは、しかし身を捻って敵の方向へと向き直り、後ろ向きに滑走する形となる。
このギア・エクセリオンの性能は相当なものだ。
自身の魔力のみならず、戦闘機人としてのエネルギーさえも、最大限に引き出してくれている。
先の地上本部戦でスバルが発揮した、魔法と戦闘機人動力のハイブリッド。
それを行使しながら、しかしブリッツキャリバーはびくともせず、その全力全開に応えて駆動していた。
急ブレーキをかけながら、左拳を持ち上げ、全面に突き出す。
足元に散る火花。排出されるカートリッジ。形成される紫色の魔力球。
「リボルバーシュート!」
猛烈な衝撃波と共に、魔力の弾丸がリボルバーナックルから射出された。
紫電のごときマズルフラッシュを纏ったそれは、空気を切り裂く音と共に、高速で殺生丸へと飛来する。
刹那、白銀の大妖怪は遂に自らの得物を抜き放った。
右腕を持ち上げ、鋼鉄のごとく鋭利な爪を輝かす。リボルバーシュートは、閃光と共にあっけなく引き裂かれた。
しかし、ギンガの狙いはその命中ではない。威力に乏しいこの魔法では、殺生丸には通用しないことなど予想できている。
むしろ、この一瞬のスパークと硬直こそが、彼女の意図したところだった。
リボルバーシュートが炸裂したことにより、殺生丸の視界が光によって支配される。
「はああああぁぁぁぁぁっ!」
次の瞬間には、ギンガの雄たけびがそれを突き破ってきた。
相手の動きが止まった隙に身体を停止させ、そのまま再び特攻をかける。
鋼のスピナーの回転と共に、白銀の拳が再び殺生丸へと打ち込まれる。
衝突寸前のところで、殺生丸はその右腕を突き出してストレートを掴み、防御。痛烈な拳圧が、その足を僅かに滑らせる。
それだけには留まらない。更にもう片方の右の拳が、顔面目掛けて繰り出された。これを殺生丸もまた、左手を以って防御する。
それら全てが、一瞬のうちの攻防。
瞬きの間にも等しき時間で、互いにがっちりと組み合う構図が出来上がった。
拮抗状態にありながらも、ギンガはその両の拳で、じりじりと殺生丸を押していく。
殺生丸のメインの武器は、爪や剣などの斬撃系。対するギンガの武器は、腕力が直結する拳そのもの。
純粋な戦闘力では圧倒されていながら、しかし戦闘スタイルの差によって、ギンガは殺生丸にも引けを取らずに食らいついていった。
このまま膠着状態が続いては、満足に動き回ることもできない。
果敢に力を込めてくるギンガのがら空きの腹部へ、殺生丸の足が叩き込まれた。
「ぐ……っ!」
強烈な膝蹴りがギンガを襲う。
特に装備をつけているわけでもないというのに、シューティングアーツの達人にすら匹敵するほどの威力を持ったニーキック。
スタイルのよい女の肢体が勢いよく吹っ飛ばされ、そのままアスファルトへと突っ込んだ。
立ち込める粉塵を尻目に、殺生丸は天空へと飛翔する。
優美な銀の髪と白い毛皮が宙に広がり、高潔なる大妖怪の威容を輝かせた。
盛大な土煙の中、ギンガは態勢を立て直し、天上に浮かぶ不可侵の麗人の姿を睨む。
あの距離では、リボルバーシュートはぎりぎり届かない。しかし、相手の光の鞭ならば、十分に自分を捕らえられる。
近接戦闘を避け、一方的に嬲り殺しにするために空に上がったのだろう。
そうはいかない。私の拳が、空の敵には届かないと思ったら大間違いだ。
178リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:11:35 ID:+hadhlYe
未だ晴れぬ粉塵を突き破り、ギンガの身体が勢いよく跳躍する。
ギア・エクセリオンの双翼を煌かせ、さながら天使のごとく飛翔する。
狙う足場は殺生丸ではない。そのすぐ側に建っている、コンクリートの廃ビルだ。
ローラーブレードデバイスの基礎魔法・アブソーブグリップを脚部に行使し、ひびの入った壁面に思いっきりブチ当てる。
がりがりがりと音を立て、ギンガの身体が下降する。
悲鳴のような駆動音を上げながら、ブリッツキャリバーのローラー部が火花を撒き散らす。しかし、それも瞬間的なこと。
数秒の後にギンガの身体は静止し、ローラーブレードが垂直な壁面をがっちりと捉えた。
刹那、雷神の具足は加速する。
エンジンが咆哮を上げ、排気煙が吐き出され、猛烈な勢いとともにビルを駆け上がった。
重力に逆らい、垂直に立った姿勢を崩さぬまま、ギンガは豪快にコンクリートの壁を疾走する。
その高度は急速に上昇し、遂に殺生丸と同じ高さに至った。
緑の瞳と金の瞳が、一瞬のうちに交錯する。
「だああぁぁぁぁっ!」
ギンガの身体が跳躍した。
すらりと伸びた脚部の筋肉が、カモシカのように躍動する。全身是武器の肉弾となり、両脚を揃えたドロップキックを繰り出した。
疾風のごとき蹴撃が、しかし殺生丸の身体を僅かに掠めるのみにとどまる。
――やはりそう簡単に的は定まらないか。
内心で歯噛みした。
奇をてらったつもりだったが、空中の敵に直接飛びかかるともなると、照準を定めるのも一苦労だ。
しかし、今ので大体のコツは掴めた。次は初手よりも、さらに精度を高めることができる。
再び別のビルに貼り付くと、リボルバーナックルで壁面を殴りつけ、その勢いで身体を飛ばす。
美しくしなる脚を振りかぶり、今度は回し蹴りの姿勢をとって殺生丸へと肉迫した。
今度は外しはしない。タイミングは感覚で把握した。この一撃で地面へと叩き落とす。
しかしそれは――ギンガより遥かに高いスキルを有した殺生丸にとっても同じこと。
「つぅっ!」
攻撃が繰り出されるよりもさらに早く、殺生丸の反撃の鉄拳が相手の頬を捉えた。
思いっきり顔面を殴りつける痛恨の一撃が、逆にギンガを叩き落とす。
その身体が宙を舞い、コンクリートにぶつけられ、劣化した壁面を粉々に砕いて床へと転がった。
痛む全身に鞭を打ち、ギンガはふらふらと立ち上がる。
フェイントをかけても駄目。立体的な攻撃に出ても駄目。触れることすら許されず、あらゆる攻撃が無効化される。
圧倒的なまでの力の壁が、まざまざと眼前に叩きつけられていた。
「それなら……!」
それでもギンガは絶望はしない。
まだ手は残されている。
純白のリボルバーナックルを振り上げ、勢いよく床を殴りつける。
「ウイング……ロードッ!」
瞬間、薄暗い室内を魔力の光が満たした。
光は一筋の太い線となり、壁の穴から外へと高速で伸びていく。
それは道だ。あたかも天空への階段のような紫の道が、眩い光輝と共に顕現していた。
これぞ、スバルの――そしてギンガの先天固有魔法・ウイングロード。
母クイント・ナカジマから、遺伝子レベルで受け継いだ希少スキル。
DNAのモデルが優秀な魔導師であったが故に、そして自身もまた魔法を学び続けたが故に、その手に掴んだ奇跡の力。
飛べないとばかり認識していた相手の、まさかの飛行手段。
その軌道から逃れるべく、殺生丸は反射的に後方へと飛び退ろうとした。
179リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:12:54 ID:+hadhlYe
「させないっ!」
しかし、そこにはあの道がある。
複雑な魔術紋様が刻まれた紫色の光のロードが、殺生丸の退路を阻む。
背後へと回り込んだウイングロードは、そのままカーブを描いて上昇していった。
闘犬を閉じ込める檻のように延びたそれは、巨大な螺旋階段の形を描く。
奇しくもあの4年前の日、殺生丸が初めてギンガと出会った、あの空港の吹き抜けのように。
ブリッツキャリバーが唸りと共に加速する。ウイングロードに飛び乗ったギンガが、全速力でスパイラルを駆け上がる。
ぐるぐると殺生丸の周囲を回り、上へ上へとその身を加速させて。
遂にその頂に達した瞬間、紫電の翼が天空に舞った。
魔力の道から飛び上がったギンガが、その身を思いっきり回転させ、そのまま殺生丸目掛けて急降下してくる。
「せえぇぇぇやああああぁぁぁぁぁぁぁーっ!!」
車輪のようにスピンしながら、空気を切り裂き、轟音を鳴らし、思いっきり踵落としを叩き込んだ。
それを殺生丸は両腕で防御するが、そんなものでは止められない。
落下速度と重力の上乗せされた渾身の一撃は、そのまま妖怪の貴公子と共に地上へと落下していく。
止める術もなく、逃れる術もなく。
螺旋のトンネルを急速に降下する両者は、そのまま高速道路に激突し、隕石の落下のごとき爆音を立てた。
立ち込める粉塵の量は、今までギンガが叩きのめされた時の比較ではない。あっという間に周囲一帯の視界が奪われる。
煙の中心で、それでも殺生丸は膝もつかずにそこに立っていた。
あの程度の一撃でどうにかなるというほどでもなかったが、こう視界が悪くては相手を捕捉することができない。
ならば犬妖怪の鋭敏な嗅覚をもって、その位置を特定すれば――
「!」
その鼻を研ぎ澄まそうとした瞬間、粉塵の中に見える光。あの紫色の魔力光は、紛れもなく先ほどのウイングロード。
臭いを辿るまでもなく、向こうから居場所をこちらに示してきた。
鼻への意識の集中を中断し、殺生丸はその凶悪な毒爪を振り上げる。
そしてウイングロードの光から距離を推測し、ギンガが間合いに入った瞬間、必殺の猛毒を突き込んだ、
「っ……」
かに思えた。
しかし、毒々しい緑の光を湛えた爪は――虚しく空を切る。
反対に、その漆黒の胴鎧に、光の道が思いっきり叩きつけられた。
ウイングロードに、ギンガは乗っていなかったのだ。
それそのものは大した威力ではない。それこそ、先ほどの踵落としの方がまだ遥かに強力である。
しかし、相当な速度で彼の胸部を捉えたそれは、その身体を一瞬大いによろめかせた。
内心で歯噛みしつつも、今度こそ殺生丸は己が嗅覚で敵の位置を探る。
そしていよいよ、盛大に広がった粉塵も晴れてきたこの瞬間、
「リボルバアァァァァー……!」
絶叫と共に、それは背後から襲い掛かってきた。
A.C.Sの最大加速で、ギンガが拳を振りかぶって突っ込んでくる。
左手に収束される紫の魔力。手刀の形を取った掌で、刃のごとき鋭利な形に圧縮されたエネルギーが、ナックルスピナーの唸りと共に回転。
殺生丸もまたその態勢を強引に立て直し、先ほど空振った魔手を再び構えた。
「ギムレットォォォォォッ!」
「毒華爪ッ!」
攻撃の繰り出されたタイミングは、全く同時だった。
殺生丸の右腕が、ギンガの左腕が、ボクシングのクロスカウンターのように交錯する。
それぞれがそれぞれに、顔面狙いの一撃を、文字通り間一髪のところで回避した。
ギンガの魔力のドリルによって、殺生丸の銀色の髪が僅かに虚空に舞い散る。
殺生丸の猛毒の爪に掠められて、ギンガの紫色の髪が僅かに散って溶解する。
180リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:14:30 ID:+hadhlYe
そして、二撃目は殺生丸の方が早かった。
「あぐっ……!」
腹部に容赦なく叩き込まれる、左ボディーブローの痛打。猛烈な勢いで吹き飛ばされるギンガの身体。
そしてそこに一陣の風が駆け抜ける。
ギア・エクセリオンの恩恵を受けた雷神の具足すらも僅かに凌ぐ俊足で、殺生丸が追走したのだ。
これまで積極的に攻撃を行わなかった殺生丸のスタイルからは、大きくかけ離れた強引なまでの攻め。
思わずギンガの緑の瞳が、驚愕を孕んで見開かれる。
あるいは彼女は、先ほどの一撃で、この気高き妖怪の逆鱗に触れてしまったのだろうか。
それを確認することすら叶わず、ギンガの身体は上方へと投げ出される。
右からのアッパーカットを、ガードする間もないままに食らってしまったのだ。
そこへ更に追撃の毒華爪。
シグナムから回されたデータを元にした、対毒仕様の強靭なバリアジャケットを溶かすまでには至らないものの、
その破壊力は、ギンガの身体に再びアスファルトの感触を味わわせるには十分すぎた。
倒れこむ少女の首元へ、更なる駄目押しの光の鞭が迫る。
絹のように柔らかな白い肌を捕らえ、スバルの時のように首を協力に締め上げられ。
そのままギンガの身体は、思いっきり振り回された。
「ぐ……ああああぁぁぁぁっ!」
西部劇の投げ縄のように操られるそれは、縦横無尽にギンガの軌道を操り、その身を痛々しく傷付ける。
道路を引きずり、壁に叩き付け、最後には投げ飛ばした。
そしてそれだけではまだ気が納まらないのか、持て余された先端が、彼女の腹部を思いっきり鞭打った。
まるで使い古した雑巾も同然のボロボロな状態まで痛めつけられた身体は、もはや悲鳴すら発することなく墜落する。
立ち込めた土煙の中、倒れ伏したギンガの身体が、激痛にびくびくと打ち震えた。
口元から吐き出される、鮮血。無骨な灰色の道路に、ごく小さな真紅の水溜りができる。
身体を動かさなければ。でなければ、殺生丸と戦えない。
しかし、既にさんざ傷付けられた肉体には、小刻みに震えるだけで力が入らない。それどころか、徐々に目まで霞んできた。
――強すぎる。
この男は、自分にはまるで手に負えない。
あらゆる手を尽くしても、殺生丸の人間離れした力は、それら全て打ち砕く。
所詮、自分では敵わないということか。
悔しいが、やはり殺生丸のその力は、侵しがたい絶対的なものであって、自分では到底手が届かないということか。
全身の力が、ゆっくりと抜けていく。
這いつくばるような姿勢だった身体が、徐々に崩れ落ちていく。
(やっぱり、無理だったんだ)
どれだけ手を尽くしても、今の自分にはあの壁を越える力がない。
4年前のヒーローは、やはり手の届かない天井の存在だった。
(スバル……)
ごめんね。
お姉ちゃんが戦ってくるって言ったのに、結局何も出来なくて。
スバルの涙も拭えないような、駄目なお姉ちゃんで。
(本当に……ごめんね――)
181名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 21:15:03 ID:nEAjCPOX
支援
182名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 21:15:30 ID:bKOkJSae
何でハムさん出てこないん?支援
183リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:15:44 ID:+hadhlYe
――ほらスバル、転んだくらいで泣いちゃ駄目だよ。

(えっ……?)
薄れゆく意識の中、不意にどこかで聞いたような声が響いた。
とうとう幻聴すら聞こえてきてしまったか。そんな風に思いながらも、ギンガはその声に耳を傾ける。
一体この懐かしい声は、どこで聞いた声だっけ。
このとても温かくて心地のよい声は、誰の口から出た声だっけ。
――お母さんの娘で、ギンガの妹だぞ?
(ああ……そうか)
段々と記憶が鮮明になってきた。
これはあの空港火災よりも、ずっとずっと昔の話だ。
シューティングアーツの練習こそ始めていたものの、未だに満足な防御魔法すら使えなかった頃の声だ。
――スバルもホントは強いんだから。
(母さん……)
これは自分の母の声だ。未だ存命だった頃の、愛すべきクイント・ナカジマの声だ。
とても強くて優しくて、自分達に生きる場所を与えてくれた母親。
戦うために生まれた戦闘機人でも、人間と一緒に生きていくことだってできることを、彼女は教えてくれた。
(母さんなら、スバルを助けられたかな)
答えは返ってこないと分かりつつも、ギンガは誰へともなく問いかける。
きっとクイントが生きていて、そしてここにいたならば、スバルを助けられただろうか。
あの能天気で熱血漢でありながら、どこかで昔の弱虫なままの妹の力になれただろうか。
最愛の家族の涙を、その手で拭ってやることができただろうか。
――シューティングアーツの練習、スバルももっとちゃんとやればいいのに。
次に聞こえてきたのは、クイントよりも遥かに幼い、少女の声だった。
考えなくても分かる。これはかつての自分の声だ。
いつものようにシューティングアーツの鍛錬に励んでいた時に、それを横からじっと見ていたスバルにかけた声だ。
――いたいのとかこわいの、きらい。
ああ、そうだ。確かにあの時のスバルは、そういう風に答えていたっけ。
――じぶんがいたくてこわいのもきらいだけど、だれかをいたくしたりこわくしたりするのは、もっときらい。
普通と違う、戦うために作られた身体に生まれたスバル。
その痛みを知るが故に、誰よりも傷つくことを怖がり、同時に傷付けることを怖がったスバル。
転んだりしたぐらいですぐに泣いてしまうけれど、誰よりも優しい心を持ったスバル。
――そっか。
記憶の中の自分が、そんな妹に笑顔を向ける。
――まぁ、スバルは強くなくてもいいのかな。
あの時放った言葉が。朦朧となりかけた意識に波紋を打つ。

――お父さんやお母さんがいるし……私もいるから。

(ああ……そうだ)
閉じかけた瞳が、ゆっくりと開かれる。
あの時、幼い自分はあの場所で誓ったではないか。スバルを――あの最愛の妹を、必ずこの手で守り抜こうと。
泣き虫で、身体も強くなくて、でも優しいスバルの剣となり、盾となることを、この口で約束したではないか。
守る。
その言葉が、力尽きかけた身体に、再び息吹を送り込んでいく。
守ると約束するということは、大きな責任を背負うということだ。あらゆる困難の中にあっても、必ず相手の力になるという責任を。
最初は空港火災の時。そして二度目は地上本部の時。今までの自分は、責任を貫き通すことができなかった。
ならば今度こそ、この命を賭してでも、その責務を全うしてみせる。
この圧倒的なまでの力を持った邪悪な大妖怪。スカリエッティの引き連れる、ガジェット達や戦闘機人。
自分はそれらから、今度こそ守らなければならない。
このミッドの人々を。そして――スバルを。
「私が――」
力強く腕を突き、足をふらつかせながらも立ち上がる。
首にかけた水晶が――お守り代わりにと言って、妹から受け継いだマッハキャリバーが、淡い光を放ち始める。
スバル・ナカジマは。

「――――私が守るって決めたんだ!!!」
184リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:16:54 ID:+hadhlYe
咆哮に合わせ、強烈な光を放つマッハキャリバー。
ギンガの右腕が、空色の煌きに包み込まれる。
眩い魔力光の中から姿を現したのは、黒光りするもう一つの鉄拳。
漆黒のボディを有した、スバルのリボルバーナックル。
「ううぅぅぅぅおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ!」
猛然と雄たけびを上げながら、ギンガがその両の腕をクロスするように突き出した。
右手から、左手から。フルロードされる魔力カートリッジ。排気煙の中、次から次へと空薬莢が弾き出される。
双方のナックルスピナーが、野獣のごとき唸りを上げる。
それぞれにそれぞれへと回転が干渉し合い、激しい火花が顔を照らす。
亡き母から受け継いだ、誰かを守るためのこの力。
右と左の両手が揃った、リボルバーナックルの鋼の拳。
極限まで高められた魔力が。
身体中から搾り出された戦闘機人の動力が。
この手の中で渦を巻く。
大気すらびりびりと震わせる、凄まじいまでのエネルギー。
全身から一分の隙もなく放たれる、強烈なまでの気迫。
右手に宿るは、スバルから託された思い。
左手に宿すは、自らが守るために得た力。
この身を動かすのは、母から受け継いだ意志。
大切な人を守るために。
そのためならば、どんな壁だって打ち貫いてやる。誰が立ちはだかろうとも受けて立ってやる。
込められたエネルギーが巨大なスフィアを成し、腰だめの姿勢から、さらにその輝きを増していく。
今こそ、この力で貴方を倒す。
かつて命を救ってくれた貴方を。
憎むほどに恋焦がれた美しき獣を。
今は、私の守りたい人のために。
「――プゥラズマアアァァァァァァァァァッ!!」
呪文の言葉を叫ぶ。
この手で放つは、もう1人の恩人の技。
憧れの人から技を受け継いだのは、ディバインバスターを身に付けたスバルだけじゃない。
その一撃に込めるは、私の意志。
どんな敵が相手でも、打ち倒さんとする強い意志。
その矛先を、今。
貴方に向けて。
「スマッシャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――――ッ!!!」
純白の左腕が、勢いよく突き出された。
解き放たれるのは、絶大なまでの力の奔流。
フェイトの放ったオリジナルのような電撃は伴わないものの、その威力はそれを補って余りある。
紫色の激流が、空気を歪め、道路を削り、瓦礫を焦がして、殺生丸へと襲い掛かる。
衝突の瞬間、膨れ上がる膨大な光。
ギンガの全身全霊を込めた一撃が、猛烈な音と衝撃波を伴って炸裂した。
185リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:18:11 ID:+hadhlYe
「はぁ……はぁ……」
強烈な光と熱が立ち込める中、ギンガは左腕を抑えながら、苦しげな息を吐いてその中心を見やる。
ぼんやりとしたその瞳に、先ほど見せた強靭な光は見られない。けれど、真っすぐに前を見つめている。
己の全身に残された全ての力に、両手のリボルバーナックルの全カートリッジをも加えたプラズマスマッシャー。
もはやこれ以上戦える力は、一滴たりとも残っていない。
ギア・エクセリオンの戦乙女の翼さえ消えうせ、ギンガはすっかりと枯れ果てていた。
これ以上の戦闘はさすがにできそうにない。殺生丸は一体どうなった。自分は倒すことができたのか。
視線の先に広がった粉塵が、徐々に晴れていく。
「――っ」
瞬間、ギンガは息を呑んだ。
視界の中で、あの銀糸がゆらゆらと揺れている。
はっきりと目に映ってきた、あの純白の衣。袖口と左肩で、真紅の花が燃えていた。
それらとはうって変わって、胴体を覆うのは闇に溶け込むような漆黒の鎧。そして、額に浮かぶ蒼月。
殺生丸の姿はそこにあった。
一切の傷を負わず、何物にも汚されることない威容を持って。
その右手に、妖気の光を纏いし破壊の剣を携えて。
爆砕牙の力で、プラズマスマッシャーの全破壊力を受け止めきった殺生丸が、悠然として立っていた。
ふらり、ふらりと。
ギンガの足が、力ない足取りではありながらも、殺生丸の方へと向かっていく。
全身から血液を流し、今にも倒れそうな身体を突き動かし、その歩を少しずつ進めていく。
倒さなくては。
殺生丸は、自分が倒す。この過去を乗り越えて、スバルを守るために。
執念にすら近い意志の力で、全ての体力を失った身体を、必死に殺生丸の元へと近づけていく。
そしてその様を、爆砕牙を鞘に収めた殺生丸は、微動だにせずじっと見つめていた。
どれほどの時間が経ったろうか。遂にギンガが、敵の懐へと到達した。
震える左拳を、緩慢とも言える動作で伸ばす。
こつん、と。
とても弱々しく、力のない拳が、しかし確実に、殺生丸の胴鎧を叩いていた。
(あ……)
それが彼女に残された最後の力だったのだろうか。
瞼が落ち、ふらりと脱力し、ギンガの身体がゆっくりと崩れ落ちる。
(……軽かった……なぁ――――)
少女の意識は、遂にそこで完全に途絶えた。
そして冷たい道路に倒れようとした身体を、伸ばされた腕がそっと支える。
鋭い爪を生やした手は、あの殺生丸の手だ。
もたれかかるようにして倒れてきたギンガを、そっと自身の懐に預ける。あの時と――4年前、彼が彼女を助けた時と同じ姿勢。
妖怪の男は何も変わることなく。戦闘機人の少女は強く美しく成長した。
意識を失ったギンガの顔は、そんな中で、あの壮絶な戦いが嘘だったかのように、ひどく穏やかに眠っていた。
「……フン……」
寡黙な殺生丸がそこに何を見出したのか。それを知る者は、誰一人として存在しない。
腕の中で安らかに眠るギンガを抱えると、道路の端まで運んでいって、そこに身体を横たえる。
そして当の本人は、静かにその場を立ち去っていった。

ばたばたと羽の音が鳴り響く、薄暗い管理局のヘリコプターの中。
兵員達のスペースには、2人の人影と1匹の獣の姿がある。
青い毛並みを持った狼は、盾の守護獣ザフィーラ。
「もうすぐ着くわ。……行けるわね?」
若草色の騎士甲冑を身に付けた、湖の癒し手シャマルが問いかけた。
「――はい!」
力強く答えたのは、まだうら若き少女の声だった。
186リリカル殺生丸 ◆9L.gxDzakI :2008/05/21(水) 21:19:17 ID:+hadhlYe
投下終了。
反目史上最高の投下量でした。……あー疲れた。でも書いてて楽しかった!(ぇ
そして、支援をくれた方々に感謝!

今回で、殺生丸とギンガの4年越しの因縁に、ようやく決着がつきました。
実際のところ、これがリリ殺における実質的なラストバトルです。
まだ殺生丸の戦闘はあるにはあるのですが、1番気合いが入ってるのはここ。
それから、今回リボルバーギムレットを、原作とはちょっと違った形で出させていただきました。
前作「片翼の天使」のオリジナル魔法・リボルバーブレードのドリル版を想像してください。

あと、最初の2レス分くらいのところに出てきた人は、片翼の●トー少佐みたいな一発キャラです。赤い糸は結ばれてなかったようで。
ダリルという部下がいるのは見ての通りですし、ちゃんとハワードという部下もいます。
だからといって、亡くなった元管理局文官のルーテシアのパパは、ビリーという名前のCVうえだの眼鏡ポニーテールではないです(ぉ
187名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 21:31:18 ID:bKOkJSae
>>186
GJですた!
ギンガ、4年越しの決着。やはり殺生丸は強かった。
あれ?でも傷一つ無いって・・・確か強さはシグナムとそう変わらない設定じゃあなかったっけ?
まあいっか。殺生丸だし)オイ
さて、ゼストVSシグナムの戦いの行方は?
そしてこの作品の正ヒロイン(!?)ルーテシアの心は救われるのか?
まあ後者に関しては愚問ですな。
次回、楽しみに待ってます!
188名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 21:32:13 ID:IqE6u+PD
GJです!
犬夜叉はアニメしか知りませんが、殺生丸強いですね!

ところで、生き残ったチンクはどうなるんでしょう?
189THE OPERATION LYRICAL:2008/05/21(水) 21:36:20 ID:1Ul+wN64
GJ!いつもながら見ていて飽きない文章です。
そして殺生丸が洒落にならんほど強ぇぇえええ!


んで、こちらもほぼ戦闘シーンオンリーを描いて参りました。反目氏ほど
の力量はありませんが、2150ごろに投下してもよろしいでしょうか?
190名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 21:37:33 ID:z70KTwSQ
支援逃したー!今から読んできますorz
191名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 21:45:47 ID:kEitbQku
>>189
上空の味方機!構わんから全話投下してくれ!
192名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 21:50:46 ID:z70KTwSQ
読み終えた―GJ
ギン姉カッコイイよギン姉
だがそれよりもハムフラに吹いたww
丁度改造用にバラしてるだけにwww

>>189
引き続き支援に移る!
193THE OPERATION LYRICAL:2008/05/21(水) 21:51:20 ID:1Ul+wN64
では時間になったのでオメガ11イジェークトッ!


ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL


第9話 Yellow


―そして黄色の風が吹く。


少し時間は遡る。
酸素マスクの中での規則正しい呼吸は、久しぶりの実戦で熱くなった思考を冷静にしてくれた。
彼―黄色の13は愛機Su-37のコクピットで、レーダー画面を眺めていた。
画面上では、先ほどまで威風堂々とした編隊を保っていたはずのF-15Cが次々と撃墜されていく。
リボン付きは単独か―いや、違う。
機首のIRST―赤外線探知装置だが、スカリエッティの手により魔力探知も可能になっている―を通して見れば、明らかに航空機とは異なる
反応が四つ。これがあの狂気の科学者の言う"管理局"とかいう連中に違いない。
「なんだ、全滅…?」
レーダー画面に視線を戻すと、すでにF-15Cの編隊は消え失せていた。無人機の実力などやはりこの程度、と言いたいところだが相手がエル
ジアを敗戦に追い込んだ"リボン付き"なら仕方ないかもしれない。
胸の鼓動が高鳴る。もう一度、彼と戦うことが出来るのかと思うと、彼は嬉しくてしょうがなかった。戦闘機乗りとしての本能が、強い敵
を求めていた。
行くとするか―エンジン・スロットルレバーを叩き込み、Su-37を猛然と加速させる。相手も気づいたのか、IRSTが捉えた状況を表示するサ
ブディスプレイに動きがあった。
「まずは、こいつからだ…!」
不用意に前に出てきた目標をロックオン―黄色の13は知る由もないが、この目標はヴィータだ―主翼下のR-27中距離空対空ミサイルを六
発発射。
放たれたR-27の群れは高速で目標に接近し、着弾。蒼空の向こうで、ちかっと微かな閃光が走るのが見えた。戦果を確認したかったが、前方
より急接近してくる飛行物体を目撃した黄色の13は操縦桿を引き、機体を上昇させる。Su-37は彼の操作に機敏に反応し、空を駆け上って
いく。途中で操縦桿を左に倒してハーフロール、天地がひっくり返った状態で視線を上げると、飛行物体―F-22が真正面から突っ込んでく
るのが見えた。
互いにミサイルも機関砲も角度がありすぎて発射しても命中しない。黄色の13はまずはこのまますれ違うことにした。
―面も拝みたいしな。
急接近。F-22とSu-37は数メートルほどの距離ですれ違う。その瞬間、彼はF-22の尾翼に例の"リボン"のマークが描かれていることに気づく。
「やはりな…こうしてまた戦えるのを嬉しく思うぞ」
ラダーを蹴飛ばし、機体を横滑りさせながら反転。黄色の13は上空のF-22を睨む。
「来い、リボン付き!」
194THE OPERATION LYRICAL:2008/05/21(水) 21:52:57 ID:1Ul+wN64
目の前の敵機がどれほど幻であった欲しいと思ったことか。海面をバックにこちらを睨んでくる黄色中隊カラーのSu-37を、メビウス1は信
じられないような表情で見ていた。
「何の冗談だよ、くそ…」
ひょっとしたら無人機かもしれないが、すれ違った瞬間に見えたコクピットではパイロットが存在したような気がした。
何より、六課でも屈指の魔導師であるヴィータを軽々と屠るのは無人機では到底不可能だろう。
そのヴィータはと言えば、海面に落ちる前にシグナムに救出されてすでに戦闘空域を離脱していた。
「メビウスさん!」
「援護します、離れて!」
通信機になのはとフェイトの声。ヴィータを目の前で撃墜されて頭に血が上ったのかもしれない。さながら戦闘機のように編隊を組んで、
彼女たちは果敢にもSu-37に挑む。
「よせ、そいつは普通じゃない!」
メビウス1は制止させようと怒鳴るが、彼女たちはその前に攻撃を開始。なのはがアクセル・シューターを放ち、Su-37は桜色の誘導弾から
逃れるべく急上昇。そこに待ち伏せしていたフェイトがプラズマランサーを発射しようとする。
しかし―Su-37は初めからそうされるのを見越していたように、フェイトに向かって機関砲弾をばら撒く。F-22のM61A2、俗に言うバルカン砲
と比較して連射速度は落ちるが、Su-37の装備するのはその分一撃の威力が高い三〇ミリ機関砲だ。
「っく…!」
先手を食らったフェイトはたまらず防御魔法を展開。機関砲弾の雨が止んだ時には、Su-37の姿はどこにもなかった。
どこに―辺りを注意深く見渡すフェイトに、メビウス1から警告が飛ぶ。
「ハラウオン、上から!」
「え…!?」
はるか上空から、Su-37が逆落としに突っ込んでくる。Su-37は主翼下からR-73短距離空対空ミサイルを二発発射。再び防御魔法を展開させ
るフェイトだったが、発射母機のSu-37が急降下していたため、あらかじめ速力がついたR-73の運動エネルギーは予想をはるかに上回る。
一発、二発と直撃。元より防御魔法は苦手としてたため、あっという間にフェイトを守っていた光の膜は砕け散ってしまう。
「わぁあああ!?」
ミサイルの爆風と破片こそ凌いだものの、衝撃は容赦なくフェイトを吹き飛ばす。
Su-37はそのまま急降下を続行、次なる目標―なのはに狙いを定める。
「フェイトちゃん…っこのぉ!」
親友を目の前で吹き飛ばされたなのははカートリッジ・リロード。ディバイン・バスターの短縮版であるショートバスターでSu-37を迎え撃
つ。桜色の閃光はSu-37に迫り―突如、Su-37はふっと失速。"木の葉落とし"と呼ばれる空戦機動の一種で、機体をわざと失速させることで
敵の攻撃を回避するものだ。失速しても機体のコントロールが可能なSu-37には打ってつけの機動と言ってよい。
Su-37はショートバスターを回避、失速しながらも機首をなのはに向け、R-73を一発、発射。
迎撃―間に合わない!
プロテクションを発動し、なのははR-73の直撃を耐え抜く。衝撃が魔力の防壁越しに彼女の身体に襲い掛かる。Su-37はアフターバーナーを
点火させ失速から回復すると、なのはに追い討ちをかけようと機関砲弾をばら撒いてきた。
―凄い、攻撃がまったく絶えない。
敵機であるはずのSu-37の連続攻撃に感嘆しながら、なのははアクセル・フィンをフルに機動させて三〇ミリの弾丸から逃れる。
ところが、Su-37の射撃は正確だった。なのはの逃げる方向に弾をばら撒いて進路を遮り、本命の弾丸を撃ち込む。それらをかろうじて回避
するなのはだったが、弾丸は正確に彼女を追いかける。いずれ直撃弾をもらうのは目に見えていた。
「このままじゃ…!?」
焦燥に駆られるなのはは、突然銃撃が止んだことに気づく。
はっと視線を上げると、Su-37は急上昇して降下してきたメビウス1のF-22と対峙していた。
「メビウスさん…!」
「下がれと言ってるだろう、馬鹿!」
メビウス1はなのはを怒鳴りつけて、Su-37に向かって二〇ミリの機関砲弾をばら撒く。当てるためではない、なのはとフェイトの後退の時
間稼ぎのためだ。
195THE OPERATION LYRICAL:2008/05/21(水) 21:54:08 ID:1Ul+wN64
Su-37は右にロールしながら機関砲弾を回避するが、その結果なのはたちから遠ざかってしまう。メビウス1の目論見通りだ。
「…すみません。フェイトちゃん、下がろう」
「情けない話だけど…仕方ない、か」
渋々、二人は超低空飛行で空域を離脱する。これで空域に残ったのはメビウス1のF-22、さらに黄色中隊カラーのSu-37の二機だけに。
ひとまず高度を高めに取ったメビウス1はSu-37から目を離すことなく、通信機の周波数をエルジア空軍が使用している帯域に切り替えた。
「おい、聞こえているな!応答しろ、黄色の13!」
「……戦闘中に敵に向かって話しかけてくるとはな、何のようだ"リボン付き"」
わずかな逡巡の後、応答があった。やはりこのSu-37にはパイロットが乗っているのだ。それも、幾度となく対峙した宿命のライバルが。
「何故攻撃を仕掛けてくる。この世界はユージア大陸じゃないんだぞ」
「そんなことは知っている」
「なら何故!」
「一度死んだはずの身だからな―エルジアも既に無い。戦闘機乗りとしての本能に従っているまでだ…助けてもらった恩もある」
「スカリエッティとか言う奴か」
「お前には関係のないことだ」
通信は切られた。くそ、とメビウス1は胸のうちで吐き捨て、上昇してきたSu-37との格闘戦を開始する。
まずは後ろを取らなければならないが、闇雲に追い掛け回しても燃料を消費するだけだ。メビウス1はF-22を加速、高度を上げてSu-37に正
面上位から覆い被さるように接近、すれ違った瞬間反転上昇、宙返りの途中で水平飛行に戻るインメルマン・ターンと呼ばれる機動でSu-37
の後方上位に位置する。
兵装、AIM-9短距離空対空ミサイルを選択。AIM-9の弾頭が作動し、Su-37のエンジンから放たれる赤外線を捉える。
「フォックス2…何!?」
ミサイルの発射スイッチを押そうとして、メビウス1はかっと目を見開いた。Su-37は赤外線誘導のミサイルを欺瞞するフレアを大量にばら
撒いてロール、AIM-9の弾頭は突然発生した大量の赤外線に混乱し、その隙に黄色の13はロックオンの範囲外に逃走。
こいつ―ロックオンされる瞬間を読んだのかよ。
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、メビウス1は黄色の13を追う。今度は確実に仕留められるよう、兵装は機関砲を選択。
エンジン・スロットルレバーを叩き込みアフターバーナーを点火させると、F-22はSu-37に急接近。機関砲の射程に持ち込む。
ところが、照準に捉えようにも黄色の13は機体の首を左右に振り、メビウス1を手こずらせる。ジンキングと言う、機体にわざと不安定
な機動をさせることで攻撃を回避するものだ。
歯がゆい思いでメビウス1はラダー、エンジン・スロットルレバー、操縦桿を操作してどうにかSu-37を捉えようとするが上手くいかない。
その直後、黄色の13は機体を半ば強引に捻り込ませ、F-22の後方下位に潜り込む。
「くそ」
短く呟き、メビウス1は操縦桿を引いて急上昇。黄色の13のSu-37も離されまいとついて来る。
身体に圧し掛かってくるGに耐えながら、彼は後方を振り返って黄色の13がどの辺りに位置しているのかを把握しつつ操縦桿を引き続けて
そのまま機体を一回転させると今度は急降下。高度計の数値が吹っ飛び、あっという間に眼下に海面が迫ってくる。
その最中に彼の耳に入るのは死神の笑い声―ミサイルアラート。振り返るまでも無い、Su-37がR-73を発射したのだ。
フレアの放出ボタンを叩くと、F-22はフレアを散布しながら急降下を続行。R-73はフレアに惑わされ―すぐにメビウス1に向き直る。
「放出が速過ぎたか…!」
ならば、とエンジン・スロットルレバーを叩き込んでアフターバーナー点火。F119エンジンから炎が伸びて、降下速度はマッハを超えた。
赤外線誘導のR-73からしてみれば、アフターバーナーをガンガン焚いているF-22はさぞ美味そうな獲物に見えるに違いない。
海面が近い。メビウス1はここだ、と言わんばかりにアフターバーナーをカット。フレアを放出させながらF-22の機首を持ち上げていく。
「ぐっ…ああぁぁ…!!」
Gは容赦なくメビウス1の身体を締め上げる。血液が脳に回らなくなって、視界が暗くなってきた。このままではブラックアウトする。
ひょっとしたら、水平尾翼が海面に接触したかもしれない―スレスレのところで、メビウス1のF-22は海面へダイヴを避ける。直後、フレ
アに食らいついたR-73が爆発。衝撃がF-22を襲ったが、爆風と破片はかすりもしていない。
196名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 21:56:16 ID:z70KTwSQ
支援
197THE OPERATION LYRICAL:2008/05/21(水) 21:56:35 ID:1Ul+wN64
「…はぁ!やってくれたな、13…!」
視界は元に戻ってきたが血液不足でぼーっとする頭を叱咤し、メビウス1は後方の黄色の13を確認する。操縦桿を捻り、エンジン・スロ
ットルレバーを押し下げる。先ほどSu-37がF-22の後方に回り込んだのと同じ要領で、メビウス1は黄色の13の後ろに捻りこんだ。
今度こそ―兵装をAIM-9に。ロックオンを仕掛ける。
まさにその瞬間だった。突然、Su-37の機首が跳ね上がると空中で静止したような急減速。メビウス1は何が起こったのか一瞬理解出来なか
ったが、F-22がSu-37を追い越した瞬間にピンと来た。
「コブラ…!」
Su-37のような特に優れた機動性と失速時の操縦性を持った機体だからこそ可能な空戦機動。速度を一気に失ってしまうことからサーカス芸
と呼ばれているが、黄色の13は実戦の場で活用して見せた。
「やられる…!?」
コクピットに響くロックオン警報。おそらく黄色の13はこちらを確実に撃墜するため残っているミサイルを全弾撃ち込んでくるだろう。
ミサイルの直撃を受けて、木っ端微塵になる愛機の姿が目に浮かんだ。
―くそ、やっぱりあの時勝てたのは偶然だったか。
エルジアの首都ファーバンティ上空での決戦。あの時も最終的には彼と黄色の13の一騎討ちとなり、勝利したのは自分だった。
だが、今となってはそれも過去の出来事に過ぎない。現に今、自分は後ろを取られているのだから。
「諦めないで!」
突然、通信機に誰かの声が入り込んできてメビウス1ははっとなる。
「援護します、三秒後に右旋回を!」
「…高町?後退したんじゃ…」
「三…二…」
声の主は明らかになのはだった。当惑するメビウス1を無視する形で、なのはが通信機の向こうでカウントを開始。
「一…回避を、メビウス1!」
「…!」
そうだな―俺は"メビウス1"だった。
操縦桿を右に倒し、思い切り引く。F-22は主翼を翻し、右へ急旋回。その直後、水平線の向こうから桜色の閃光が飛び込んできた。
黄色の13はメビウス1を追撃しようとして、桜色の閃光に気づき急上昇。かろうじてなのはの砲撃魔法の回避に成功する。
「…っ!なんという火力だ、まるでストーンヘンジだ…」
突然、通信機に黄色の13の声。彼も突然のなのはからの援護砲撃に驚いているらしい。
「―遊びが過ぎた、か。決着はまた次の機会にしよう」
黄色の13はそれだけ言って、Su-37を急上昇させる。メビウス1は追おうとして、機体の残燃料が少ないことに気づく。激しい空戦機動の
代償だった。
Su-37は悠々と戦場を去っていく―。
「…ロングアーチ、聞こえるか?こちらメビウス1だ。敵機は撤退した、こちらも燃料が乏しい―帰投する、RTB」
疲れたように酸素マスクを外して、メビウス1は通信機に向かって言った。
F-22が機首を翻して帰路に着くと、青空には静けさが舞い戻ってきた―。
198THE OPERATION LYRICAL:2008/05/21(水) 21:58:08 ID:1Ul+wN64
投下終了。
あぁー、今見ると短いなぁ…もっと長々と空戦させてもよかったかもしれないです。
199名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 22:02:13 ID:z70KTwSQ

黄色カッケー
これでこそライバル。永遠の宿敵。
その技量がガジェット何かに活かされた日にはどうなることやらw
200名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 22:04:22 ID:Mt1qqAZA
GJ!
飛行機にはこんな技術もあるのですね。
なのはさんの援護もGJ。
201名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 22:12:37 ID:kEitbQku
GJ!
実戦でコブラとは……さすが黄色だ
202名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 22:30:22 ID:44GsIjYK
GJ!
……なんかゲームの画面が浮かんできたぞ!
203名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/21(水) 23:19:36 ID:Q1cF69Md
>>202
俺も管制官の声が聞こえてきそうだw
204魔法少女リリカルなのはTES ◆O4WHtYg2/w :2008/05/21(水) 23:19:54 ID:cz+X2/C5
GJ!

初プレイ時、本当に黄色中隊最後の一機と一騎討ちになった俺感涙。
何故だか撃ち落せなくて、結局時間ギリギリまで機関銃の撃ち合いになったなあ。
その前の段階で既にミサイルは全部撃ち尽くしてて、
何故か黄色の方もミサイルを撃ってこなかった。
二週目時「まったくの偶然だった」事を知って愕然としたよ。
205名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 00:22:29 ID:Lbt/Z7GK
>>186
GJ!!です。
ギンガは強かった・・・相手が悪かったよ。でも、刀まで抜かせるとは。
ルー子やゼストが本編とどう変わるのか楽しみです。
206名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 02:54:37 ID:NdU7eDph
キャバクラまだかなぁ
207名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 03:11:21 ID:nJ6D8ojw
あれ?おかしいな?メビウス1と黄色13が、壮絶なドッグファイトを繰り広げてる場面をイメージしてるのに、少し離れた所でイジェクトしてるオメガ11がどうしても一緒に出てきちまう。

ヽ(0w0)ノ オメガ11 アイムイジェクティンッ!!!
208一尉:2008/05/22(木) 11:37:11 ID:baEHnJp7
うむSu-37はロシア空軍機です。それそこ勇気有るのみたな。支援
209名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 14:29:13 ID:bBQXjO5W
遅ればせながら反目氏GJ!
誇りを持った管理局員が気持ちがいいですね。
それにギンガのシューティングアーツもかっこよかったです。
次はルーテシアでしょうか。

210魔法少女リリカルなのはMissing:2008/05/22(木) 18:27:52 ID:C3ngAMM9
19時からなのはMissing四話を投下します。
211魔法少女リリカルなのはMissing:2008/05/22(木) 19:00:14 ID:C3ngAMM9
 こんなことがをあった。

「ねぇ、こんな噂知ってる?」

 同僚の女性局員と私が、仕事の合間に話した時のことだ。

「何?」
「最近起きてる局員の行方不明事件、あれって幽霊が起こしてるんだって」
「ああ、ソレね…」

 勿論知っている。何故なら、ここ数日間私がやっている仕事というのが、その事件の捜査資料の整理だからだ。
 少しでも事件を捜査した者なら、おそらく全員が耳にする噂ではないだろうか。

「知ってるけど、信じてないわよ」

 私は半分見栄でそう言う。

「でもおかしくない? もう六十を越えてるのに、何の捜査の進展もないのよ?」

 彼女の言う通りだった。
 屋外ならば、やり方次第では証拠を残さず拉致することも可能だろう。
 しかし事件は、鉄壁のセキュリティに守られている筈の管理局の各施設、そしてここ本局の中でも起きていた。
 全くその痕跡を残さずに…。
 あまりにも異常である。

「…まぁね。確かに目撃情報の一つもないのは変よね」
「それに私、最近よく見るのよ」

 そこで同僚が僅かに声をひそめた。

「局員じゃない、男女の二人組」
「ふぅん?」

 興味はなかったが、聞いて欲しそうだったので、先を促した。

「片方が全身黒ずくめのかっこいい男の子で、もう一人が…臙脂色って言うのかな? そんな感じの、目立つ色の服を着た可愛い女の子だったんだけど」

 真剣な表情で同僚は続ける。

「その二人、私以外には見えてなかったみたいなの」
「…へぇー」

 しかし、何だよくある怪談かと、逆に私は真剣さをなくしていた。

「…で、その二人が今回の事件の犯人だって?」
「間違いないわ。きっとあの二人は、他人を誰にも見えないように出来る程度の能力を持った、妖怪か何かなのよ」
「幽霊じゃないんかい」

 そんな感じに、最後まで真面目な顔をしていた彼女の頭を軽くはたいて、仕事に戻った。
 同僚は、その日から三日後の昨日、姿を消した。



魔法少女リリカルなのはMissing

第四話 前編
212魔法少女リリカルなのはMissing:2008/05/22(木) 19:01:18 ID:C3ngAMM9

 陸士108部隊オフィスにて。

『困ったねぇ』
「全くです」

 デスクに山となっている書類を前に、詠子が呟き、ギンガは嘆息した。
 自分だけではない、オフィスにいる局員の全員が同じような表情をしている。
 ここ数週間における局員の忙しさは異常だった。
 一月程前から起きている局員行方不明事件、遂にその被害者は百人を突破したからだ。
 手がかりは皆無。
 被害者の中には、魔導師ランクがSランクオーバーの局員も何人かいる。
 このままの状態が続けば、そう遠くない内に管理局はそのシステムを停止することになるだろう。

「いや、ホントに困りました」

 椅子に座りながら、愚痴にならない程度にそう呟く。
 原因は間違いなく、みんな≠ナある。
 と、ギンガは思っていたのだが、

「…こんな無差別に襲って来るなんて…!」
『うーん、それはちょっと違うよ?』

 詠子のそんな発言によって予想を裏切られた。

『あの子達は別に、手当たり次第に人間をさらったりするモノじゃないの』
「…どういうことですか?」

 ここまで捜査が行き詰まっている以上、もはや詠子の手を借りざるを得ない。
213魔法少女リリカルなのはMissing:2008/05/22(木) 19:01:58 ID:C3ngAMM9

(出来ればこの人とは、対等な立場で付き合いたいんだけどな…)

 最近出来た友人を、知恵袋のような使い方しか出来ない自分を情けなく思いつつ、詠子に尋ねた。

『うん、それはね…』

 そんな訳で、ギンガは彼らについての情報を、ある程度教えてもらうことになった。



『彼らが普通の人間を襲うには、その人達が彼らの物語≠知らないといけないの』

 書類に目を通している振りをして聞いた詠子の言葉は、いきなり意味が分からなかった。

「物語=H」

 ギンガは聞き返しつつ、そういえば詠子と一緒に生活するようになってから、よく聞く単語だったな、と思い出した。
 長くなりそうだったからその時は質問はしなかったのだが、結局は聞く運命だったようだ。

『あれ、ここで躓いちゃった。そっか、あの子達には神野さんにお願いしたんだっけ?』
「……?」
『いや、なんでもないよ。うん、物語≠チていうのはね……』

 沈黙。
 そこからは「分かりきったことを説明するのは難しい」と言いたげな雰囲気が感じられた。可愛くはあったが、しかしそんな風に萌えている場合ではない。

「詠子さん?」
『…その存在が歩んでいる道、って感じかな?』

 随分と抽象的な言い回しだが、詠子はそう説明してくれた。

(…人生? じゃない。そんな簡単な説明なら、この人はこんなに困らない筈。でも道……?)

 折角頑張って言葉を選んでもらったのだからと、ギンガはその意味について思考する。
 そして、

「…もしかして、それはみんな≠ェ何をしたか、何をするか、っていう知識のことですか?」

 とりあえず思ったことを言ってみた。
 無意識かどうかは知らないが、さっきの説明で、詠子は「歩んでいる」道、とわざわざ現在進行形で言っていた。
 ということは、それは今も続いているモノで、過去にも存在していたモノなのだろう。
 それを知識と思ったのは、ただの勘であるが…。
 果たして詠子の反応は、
214魔法少女リリカルなのはMissing:2008/05/22(木) 19:02:46 ID:C3ngAMM9

『…………』

 沈黙。
 しかし先程とは違い、伝わって来たのは感心したような柔らかい感覚だった。是非とも今の表情を見せて欲しかったが、残念ながら手元に鏡がない。

『すごいねぇ。そう、それで正解。うん、本当は人間にもそれぞれ物語≠ェあるんだけど、それは今は関係ないね』
「ど、どうも」

 何の含みのない、純粋な賞賛を向けられて、何となくギンガは照れる。
 だがまだ質問は終わっていない。

「でもそれならどうして、この事件の原因がみんな≠カゃないと?」

 大方、この事件は、「人をさらうモノ」としての物語≠ネのだろう。神隠しとかスキマの妖怪とか、そんな類の。

(……うん?)
『ギンガさん?』

 そこでギンガは疑問を抱く。
 ここ最近、自分が詠子から得た知識は、おそらく事実だろう。ということは、みんな≠ェ誰かを消したり殺したり、発狂させたりするのは、かなり昔から起きていたことになる。
 しかし、今起きているような事件の前例は一度もない。
 ならばこの事件にみんな≠ヘ関係ないのか。

(いや、それはない…筈)

 ここまで非常識なことが、人間に出来る訳がないのだ。どんな形であれ、みんな≠ヘ関わっている。

(…物語=c…知識…)

 人間がみんな≠ノ襲われる には、それについての物語≠知らなければならない。
 ならば、

(…何故被害がここまで広がっている?)

 その物語≠ヘ普通の人間から見て明らかに異常である筈なのに、何故それを知る者が百人を越えている?
 一人か二人なら、色々な妄想をしている内に、偶然その物語≠ノ触れてしまうこともあるかもしれない。それがみんな≠呼ぶ程の知識となるかはわからないが、偶然というのはそういうものだ。
 だが数十人以上の人間が同じ物語≠ノ行き着くことなど、偶然を通り越して奇跡である。絶対にあり得ない。
 ということは、

「誰かが意図的に物語≠広めている!?」

 思わず叫んでしまった自分に、オフィス内の人間が驚いて振り向く。

215魔法少女リリカルなのはMissing:2008/05/22(木) 19:03:35 ID:C3ngAMM9
「ご、ごほん!」

 強引に咳払いで誤魔化した。

『やっぱりそう思う?』

 一人で赤くなっていたギンガに、詠子はそう問いかける。

「? 詠子さんもそう思ってたんですか?」

 言ってくれれば良かったのにと、ギンガは不満を漏らす。

『ごめんね。でも確証はなかったし、それにあんまりこっちの世界に触れすぎるのも良くないとおもって。前にそれで何人か無駄に犠牲にしちゃったし…』

 確かに物語≠ノついて知ればみんな≠ノ襲われる可能性が出てくるのは困るが、色々棲み着いてるあの部屋で生活している以上、何を今更といった感じである。

「まぁいいですけど…。しかしそうなると、次に私達がすることは…」
『噂の出所を突き止める、だね』
「はい」

行方不明事件は幽霊の仕業である

 この噂を何とかするのは、おそらくもう不可能である。ならば、噂を流している人間をどうにかするしかないだろう。

『ふふふ』

 ギンガが席を立ち上がった時、詠子が薄く笑う感覚が伝わって来た。

「どうしました?」
『ふふ、大したことじゃないよ。ちょっと昔を思い出していただけ』
「……はぁ…」
『なるほどな。空目君達はこんなことをされていたんだねぇ。ふふふ、悪いことしたなぁ』

 何やらぶつぶつと呟いている。一体何を思い出しているのだろうか。

(…まぁいいや)

 詠子の奇行は今に始まったことじゃない。いちいち気にしていたら日が暮れる。
 とその時、

「ギンガ」

 声を掛けられて振り向くと、そこにはいたのは捜査主任のラッド・カルタスだった。

「うん、何かな?」
『あ、こら』

 唐突に身体を使い出した詠子に、ギンガは抗議の意思を伝える。

『い、いきなり変なことしないでください!』
『ふふふ、気にしない気にしない』
「…調子はどうだ?」

 最近、急に雰囲気の変わった部下に違和感を感じながら、ラッドはそんなことを言う。
216魔法少女リリカルなのはMissing:2008/05/22(木) 19:04:13 ID:C3ngAMM9

「特に問題はないよ。ちょうど書類に目を通し終わったから、ちょっと個人的な用事を済ませに行くところ」

 ギンガは…詠子はそう言って柔らかく微笑む。
 それは少し前のギンガではあり得ない、子供のように無邪気な笑みだった。

「そ、そうか。まぁ手早く済ませよ。それとアレだ。ゲンヤさんがお前のこと呼んでたぞ?」
「父さんが?」
『父さんって言うなー!』

 ギンガが喚くが、詠子は気にしない。

「うん、分かった。ありがとう。じゃあ、先にそっちを済まそうかな」
「ああ、よろしくな。ところで今日の昼一緒にどうだい?」
「また今度」
「ギャフン」

 ラッドを沈黙させて、詠子はゲンヤ・ナカジマのいる隊長室に向かった。



「六課の捜査協力…ですか?」

 何とか身体を取り戻したギンガが耳にしたのはそんなことだった。

「そうだ。一昨日、はやての奴が打診して来た」

 このところずっとデスクに向かいっぱなしだった為気が付かなかったが、そんなことがあったらしい。

「例の行方不明事件もあるし、あまり大したことが出来そうにないんだが、お前はどう思う?」
「…そうですね。確かに余裕はありませんけど、スバルのことも気になるし、いいと思いますよ?」

 ゲンヤの問いに、ギンガは僅かに考えたものの、すぐにそう答えた。
 実はこの事件について知ってから今まで、ずっと気にかけていたことだったのだ。
217魔法少女リリカルなのはMissing:2008/05/22(木) 19:04:41 ID:C3ngAMM9
 唯の人間にみんな≠ノ対する力はない。 自分の知らない間に、六課にいる妹や、命の恩人でもあるフェイト・T・ハラオウンが彼らに襲われてしまうことは、どうしても避けたかった。
 そんな時のこの話は、六課の様子を探る口実としてちょうどいいものだった。

「…そうか。まぁ、出来る限りの支援はした方がいいしな」
「はい」
「それならギンガ、お前に渡す物がある」
「?」

 ゲンヤは机の引き出しを開けて、そこから紫色に輝くクリスタルのネックレスを取り出した。

「六課からお前に、捜査協力に対する感謝の気持ちだとよ」
『わぁ、綺麗だねぇ』
「これは…デバイス?」

 頭の隅で詠子が歓声を上げるのを聞きつつ、受け取ったギンガはそれを見て呟く。

「ああ、ブリッツキャリバーだそうだ。スバルが持っているのと同タイプのものみたいだな」
「いいんですか? かなり高価でしょう?」
「いいんじゃないか? くれるっつってんだし」
「…じゃあ、遠慮なく」

 そう言って、ギンガはそれを首にかける。
 普段ならもう少し遠慮するが、今の状況ではそうしてはいられない。
 この後ギンガは、管理局に蔓延した噂の元を探り、噂を広めた犯人を捕らえるつもりなのだ。高性能のデバイスはありがたい。
 ぶっつけ本番で新デバイスを使うのは少し不安だが、六課からということは、これを作ったのはおそらくシャーリーだろう。フェイトの補佐もしている彼女の作品なら、その信頼度は高い。

「じゃあ父さん、私はこれで。」
「おう、よろしくな」

 隊長室を出て、ギンガは表情を引き締める。
 今回の活動には、他の人間の助けは借りられない。これ以上の物語≠フ感染≠ヘ防がなくてはならないので、仕方のないことだ。

「…大丈夫」
『私がいるんだから、安心して』
「…そうですね」

 子供っぽいところが不安だが、魔女≠自称するこの少女が味方にいるのは、かなりのアドバンテージだろう。

「じゃあ、行きましょう」
『そうだね』

 短く言葉を交わして、ギンガは戦場に向かって歩き出した。

続く。

218魔法少女リリカルなのはMissing:2008/05/22(木) 19:09:44 ID:C3ngAMM9
投下終了です。
次回にギン姉の戦闘シーンを書くつもりです。
前回の反省を踏まえていいものを作るので、期待してて下さい、っと自らハードルを上げてみる。
それでは!
219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 19:48:15 ID:3L76fQGe
めッちゃ普通?に二人でいるんだな、村上が知ったら六課なんか知らんと出奔しちゃうじゃないかw
220名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 19:51:24 ID:3L76fQGe
すみませんsageわすれてました
221名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 19:51:41 ID:HoeMIO8C
GJ!
詠子さんの存在を感じたとたんに
ガチで獲りにいきそうな人が…
ギンガさん逃げてー!
222名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 19:57:15 ID:LBdjHayA
頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 
頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 
頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 
頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 頭デカ男消えろ 
223名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 20:04:21 ID:YKCWqqpy


306 :名無しさん:2008/05/15(木) 01:40:06 ID:Xaqi/GAk
文章力は高いんだけどね。 個人的には、
俺TUEEEE要素……ムカツク、でも読んじゃうっ。悔しいっ……(ビクビクッ)



611 :名無しさん:2008/05/20(火) 09:28:49 ID:LIBUCYPc
メタルサーガはどんどん酷くなってるな。
字数をやたらと強調したり痛い予兆はあったけど。


612 :名無しさん:2008/05/20(火) 09:50:52 ID:9.yoNpXI
電王、節制、グラヴィオン、スクリームの四名が現在ぶっちぎりの嫌われ者。
そこに新たに加わるかどうかってとこだな



な感じ。


307 :名無しさん:2008/05/15(木) 01:45:20 ID:PXrsHLBg
文章力高いか?
基本誰かの視点でしか話進めてないぞ
αの視点のときとか正直目が滑る


308 :名無しさん:2008/05/15(木) 02:03:21 ID:8ykF80bY
あそこまでキャラ捏造したら、文章力高い低いの問題以前な気もするがね
あんな荒んだ性格してたら、ゲームのような穏やかな家族関係できないだろ
かなり理想的な家族だぞ、父親以外は。厳しくも優しい母親に、いつも可愛らしい妹
あんな性格で、ゲームのようなED会話は無理だろww


309 :名無しさん:2008/05/15(木) 02:18:38 ID:GLLYo5t6
>>308
当時のウロスで設定どうのこうのといってる、説得力低いが
ラスボス殺してレベル255だから無敵デース…だと
あの性格はオリ主人公に多いアレの様な…

同じく当時のウロスで良い意見も悪い意見も〜っていうけど
明らかに否定意見の安価すっぽ抜けてたしな

なんにしても嫌なら早めにNGぶち込んでレス番すっ飛ばした方が吉だと思う


310 :名無しさん:2008/05/15(木) 02:25:08 ID:r6ldmj8I
まぁ文章力は高くないな>メタルサーガ
つか、今回のは何か読みにくかった。


224名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 20:10:26 ID:YKCWqqpy


367 :名無しさん:2008/05/16(金) 05:39:23 ID:PbrRGkLM
つかこんな所まできてレベルの低さを露呈させるなよ
使い分けできない奴らも主観で叩いてる奴らも


368 :名無しさん:2008/05/16(金) 06:40:15 ID:5HMRLDDw
〜〜〜だから管理局は弱い、とか本気でうざい。
そりゃあ、銀英伝の戦艦数万隻とかには勝てないだろうが
(なのはとのクロスには向いてないがw)、
R−TYPE辺りなら、戦力的には互角って事で押し通せるだろ。
相手がデフォで超音速戦闘する相手なら、こっちもデフォで超音速戦闘でも良いじゃないか。
クロス先に防御魔法を破る火力の奴が全くいないなら、なのは側の防御魔法も無しで良いじゃないか。
クロスなんだから、幾らでもすり合わせのしようはあるはずなのに。


369 :名無しさん:2008/05/16(金) 07:02:15 ID:jgAcSLlY
まあ、R−TYPEは最初の方は面白かったんだが、中身の人間が出てきてからはその能力がいかに高いか
それに比べてミッドの人間の能力がいかに低いかを説教交えて延々書いてる印象でイラっとくる。
更に感想と、関係ない話題から無理やり繋げるファンの方々がそれを加速させてる。


370 :名無しさん:2008/05/16(金) 07:35:58 ID:oefjGers
>>367
気持ちは分かるし同意もするが、なのはスレ関係はどこもこんな感じだしなあ
同調も感想も雑談も叩きも反発も、安易だったり幼稚だったり主観だけで周りが見えなかったり、それに惑わされて本質からかけ離れようが、それも本人自身の問題だし見守るぐらいでちょうどいいんじゃね?
多少目に付こうが気にしないことさw
225一尉:2008/05/22(木) 20:12:08 ID:baEHnJp7
文章力はゼロたな支援
226名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 20:29:22 ID:3a0TFlok
Missing氏投下乙
227名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 20:36:55 ID:abovNRR/
GJ! 次回楽しみです、もっとギン姉に出番を〜!!
228名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 20:47:51 ID:zBuyM246
GJだ!
というかホラーなリリカルなのはもいいですねw
こえ〜。
229名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:18:25 ID:VErnami4
>リリカル殺生丸
当初のフラグがバッキバキに折られる瞬間を垣間見た。
人間嫌いのクール系キャラということで「ははん、ツン率の高い相手にギン姉ヒロインの殺伐系恋愛話だな? 把握した」とか内心ほざいてた私ですが、蓋を開けてみれば美女と美男のガチンコバトル。
だ が そ れ が い い!
アニメではスバルの姉という立ち居地で、大人びた静かな女性を見せていましたが、やはり彼女もナカジマ家。
初恋フラグ立てた相手でも容赦なしの全力全開な漢前ぶりを見せてくれましたねw
でもさ、実はこの真剣勝負に愛が秘められてるとか思えね?
最後の殺生丸の行動ってデレじゃね?
そんな風に読み手が勝手に脳内補完しちゃう神戦闘でした。
ああ、やっぱこういう一匹狼キャラってこれくらいの苦さが丁度いいのよねw

>THE OPERATION LYRICAL
毎回のことなんですけど、戦闘シーンの描写が本物の戦闘機の知識に裏づけされた表現ばかりで興奮します。
こういう専門的なことは分からないけど、難しさの中で何となく理解出来ちゃう描写って好きなんですよね。濃いw
主力が戦闘機という特性を十分に活かした内容だと思いました。
ヴィータがロックオンされた時なんかまさにそれですね。
戦闘機の主観でロックオンされてマーカーの付いた魔法少女とか、イメージ的にかなり斬新ですな。
空中を舞う魔法少女と戦闘機。こういうインパクトのあるシーンって大好きw
なのはさんの援護射撃をストーンヘンジのそれと比べる表現を付けるだけで、魔法がなんだかミリタリーな響きを持つような気がするぜ。

>魔法少女リリカルなのはMissing
元ネタ知らない作品に関しての感想は控えているんですが、かなり面白いので無知なりにGJをw
リリなのが基本バトルアニメなので、やっぱりクロス側もそういう趣向のものが多い中、こういう全く違った作風を持つものとのクロスは斬新でいいですね。
ここまでの流れからすると、やっぱりホラー風なのかな?
このクロススレで読んでいて、これまで知らなかった作品にも興味を持つようになりました。これも原作調べてみようかしら。
こういう設定が練り込まれてる作品は、やっぱり原作見た方が楽しめそうですからね。
原作を知らないのに加えて、ここまでの流れでも、先が全く予測できません。
っつかギン姉は予想してなかったわw
230R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 21:24:42 ID:QLSc+NP/
こんばんわ
50分よりR-TYPE Λ 第十三話を投下したいのですが、宜しいでしょうか?
231名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:26:08 ID:cHFER4H8
よろしいの反対の反対
232名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:29:17 ID:W78TZlxX
>>230
スピード4段階目ですね!
惑星破壊波動砲の最大チャージ開始します。
233名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:37:29 ID:S8Jpe4vT
まってたぜ
支援w
234名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:37:37 ID:Lbt/Z7GK
支援ですw
235名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:42:37 ID:W78TZlxX
R-TYPE Λ12話の最後の2機種の説明待ってる支援
236名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:44:20 ID:ZJvQcW+i
>Missing氏
面白かったです。詠子さんが素敵ですねw
これからの二人の活躍に期待です。
237名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:48:17 ID:5Dcpa+Jt
R-TYPE Λ氏
どんとこいだ!
238R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 21:50:06 ID:QLSc+NP/
それでは投下します



振動。
出撃シークエンスの起動を告げる機械音声と共に、重力偏向カタパルトへと機体の運搬が開始される。
機体下部の磁力固定装置もそのままに、パイロット・インターフェースを通じて視界内へと直接投射される外部映像が、全体的に上方へと移動。
オートリフトが下降を始め、然して間を置かずに水平移動へと移行した。
リフトには機体の物理的固定を行う機構も搭載されてはいるのだが、出撃シークエンス時には磁力固定のみを用いるのが慣例となっている。
正規のシークエンスでは、リフトがカタパルト内に到達・停止した時点で両固定装置が解除される事となっているのだが、実際には各艦独自にプログラムの改変が為され、物理固定装置のみがパイロット・インターフェースの接続と同時に解除されるよう再設定されていた。
これはパイロット達の要請を他の乗組員達が受け入れた事により実現されたものであり、今では司令部ですら黙認せざるを得ない不文律と化している。

出撃シークエンス実行時に於ける、敵性体からの攻撃。
それによって致命的な損傷を受け艦の動力が停止、若しくはバイド汚染体による艦体への侵蝕が開始された場合、艦内に固定されたままのR戦闘機群は、脱出すら不能なまま艦と運命を共にする事となる。
跡形も無く吹き飛ぶのならば未だしも、R戦闘機群が汚染されバイドと化すなど、悪夢以外の何ものでもない。
よってパイロット達は、物理固定を解除しての出撃シークエンス実行を要求した。
磁力固定の場合、物理固定とは異なり、非常時には強制的にシステムが解除される。
つまりR戦闘機群は、艦内にてその束縛を解かれる事となるのだ。
その後にパイロット達がする事はひとつ。
「脱出」である。

R戦闘機群は艦体を内部より破壊し、外部空間へと脱出する。
宛ら内部捕食性寄生体の如く、宿主たる艦の外殻を食い破り、その生命を奪いつつ自らを襲う脅威から逃れるのだ。
無論、そんな事を実行すれば艦内の人間は全滅するであろうし、非常用固有動力にて稼動しているであろう各種センサーが艦体の損傷拡大を察知すれば、汚染を避ける為に非常処理プログラムを発動させるだろう。
艦内に存在する全ての核弾頭が強制介入により起爆シークエンスを発動させ、20秒後には人工の恒星が誕生する事となる。
パイロット達は独自の判断で、核爆発の範囲外へと離脱を図るのだ。
自爆行動に核を用いるのは、とある艦載兵器を確実に破壊する為である。

「次元消去弾頭」。
単発にて恒星系に匹敵する極広域空間消滅を引き起こし、小規模異層次元ならば数百発、極大規模異層次元であっても数千発を一斉起爆させれば、当該次元そのものを完全に消滅させる事すら可能とする、対異層次元汚染空間破壊用戦略兵器。
22世紀の地球人類が生み出した、バイドに次ぐといっても過言ではない、最悪の大量破壊兵器。

当然ながら、バイドはこの兵器の存在のみならず、その技術理論すら把握しているだろう。
26世紀に於いて、バイドそのものを異層次元の果てへと放逐した兵器こそ、この次元消去弾頭なのだから。
しかし22世紀の地球では、既に完成されていたこの兵器理論に対し、更にR戦闘機群の開発途上にて得られた数々の技術を導入。
結果としてこの兵器体系は、高位空間構造の破壊による対象の異層次元への強制転送のみならず、空間そのものの破壊による対象の完全消滅を可能とするに到った。
その結果に、軍は狂喜したものだ。

新型弾頭はすぐさま実戦運用され、バイド汚染星系を丸ごと消去するという、当初の想定を上回る戦果を齎した。
終わりの見えない対バイド戦線に僅かな希望を見出した軍は、汚染の確認されている複数の異層次元に対し、計27000発もの次元消去弾頭を投入、それらの空間を跡形もなく消滅させる事に成功。
しかし此処にきて、複数の異層次元の消滅による広域空間汚染を隠蔽、意図的に無視していた代償が回ってくる事となる。
239名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:51:17 ID:Lbt/Z7GK
支援
240名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:51:28 ID:5Dcpa+Jt
波動砲で支援砲撃
241R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 21:52:14 ID:QLSc+NP/
各異層次元の位相特定不能、太陽系を含む通常空間内に於ける航法すら覚束ないまでの多重空間歪曲同時乱発生。
カイパーベルト内資源採掘コロニーを目指す輸送船団は木星重力圏内へと偶発転送され地表へ衝突し、M45・プレアデス星団域中継ステーションは至近距離に転送された恒星中心核により蒸発。
太陽と地球のラグランジュポイント・L1に存在したリヒトシュタイン都市群は、都市を構成する14基のコロニー全てが突如として発生した空間歪曲により異層次元へと取り込まれ、内6基・9000万もの住民及び防衛艦隊がバイド汚染、
2年後に第8異層次元航行艦隊により発見・殲滅される事態となった。
極め付けは、第3深宇宙遠征艦隊がM33にて使用した2発の次元消去弾頭の内1発が、空間歪曲により地球と月のラグランジュポイント・L4へと転送された事件だ。
227基のコロニー群から僅か2000kmの地点に出現した、既に起爆シークエンスを起動した次元消去弾頭。
出現から7分後、弾頭はR-9Dの小隊による地球軌道上からの波動砲一斉射により破壊され事なきを得たが、この事件が地球文明圏に与えた衝撃は大きかった。

すぐさま弾頭の使用を規制する法令が組まれ、しかし艦隊司令に於いては独自の判断に基づく使用を許可するとの決定が下されるに至る。
以降、弾頭使用時には、入念な調査とシミュレーションが義務付けられる事となった。
第19世代量子コンピューター8基を用いてなお、完了までに15分もの時間を要する程の、桁外れの情報量でのシミュレートを行うのだ。
空間消滅の余波が他の異層次元へと及ぼす影響を徹底的に洗い出し、太陽系を含むオリオン腕への空間汚染が発生しないと確認された時点で初めて、弾頭起爆シークエンスが起動可能となる。
それ程までに危険で、正に破滅的としか云い様のない兵器が、新たに22世紀の地球が生み出した次元消去弾頭であった。

しかし弾頭の実用化から3年後、第三次バイドミッション終了直後に、とある事実が発覚する。



次元消去弾頭は、バイドに対し有効たり得ない。



31もの星系を破壊し、50を超える異層次元を消滅させた結果として導き出された答えが、それだった。

考えてみれば当然の事だ。
26世紀の地球は既に次元消去弾頭を開発していたにも拘らず、何故バイドという惑星級星系内生態系破壊兵器を創造したのか?
銀河系中心域に確認された、明らかに敵意を持った外宇宙生命体との接触に備えて建造されたという事実は、回収されたバイド体を調査する中で判明していた。
しかし何故、彼等はその「敵」に対し、次元消去弾頭を用いなかったのか?
その答えは、異層次元にて大量に拿捕された、26世紀の地球に於ける汎用巡洋艦「マッキャロン級」管制のログから判明した。

彼等は「使わなかった」のではなく、「使えなかった」のだ。
地球人類は外宇宙の脅威に対してではなく、同文明圏内での国家間戦争に於いて、無数の異層次元に亘り数十万発もの次元消去弾頭を使用、既に取り返しが付かないまでの空間汚染を引き起こしていた。
それこそ最早、たった1発の次元消去弾頭の使用で、銀河系を含む通常空間全域が崩壊するまでに。
22世紀と同様、炸裂時に発生する空間汚染を意図的に無視し、無思慮に使用を続けた結果がそれだった。
だからこそ彼等は、次元消去弾頭に代わる局地限定殲滅兵器を必要としたのだ。
242名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:53:11 ID:W78TZlxX
楽しいけど怖いぜ支援
243R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 21:53:46 ID:QLSc+NP/
それだけ大々的に弾頭を使用すれば、当然ながら「敵」もそれを観測し、同等の兵器を開発・配備していたであろう。
即ちバイドには建造当初から、対次元消滅回避機能が搭載されていた。
26世紀に於いては、80時間にも亘る核兵器及び波動兵器の波状攻撃を受け、機能基幹部に障害が生じた際を狙っての次元消去弾頭使用により、強制的に空間歪曲の彼方へと葬られたが、正常であれば大規模空間変動を感知した時点で他の異層次元へと空間跳躍を実行していた筈だ。
22世紀に於いて開発された次元消去弾頭は、26世紀のそれと比較し更に破滅的なものと化しているが、それでも数度の使用を経て解析され、新たに対処機能が備わっている事は間違いない。
次元消去弾頭は、汚染空間の破壊については極めて有効であるが、異層次元航行能力を持つバイド体そのものを排除するには、余りに相性の悪い兵器だった。

それはR戦闘機を初めとする、異層次元間移動を容易に実行する兵器群に対しても同様であり、それらに対する弾頭の使用が為されたとして、他の異層次元への退避、または弾頭そのものの破壊など、容易に対処される事は明らかである。
昨今の対バイドミッションに於ける地球文明圏及びバイド、両勢力にて運用される兵器体系のほぼ全てが異層次元航行能力を備えている事もあり、次元消去弾頭の戦略的価値は益々低下する一方であった。
しかし極広域空間破壊という、対バイド汚染生態系ミッションに於いてはこれ以上ない程に適した特性を有する事もあり、当然ながら軍がその技術を手放す事を良しとする筈もない。
結局、汚染生態系の完全破壊を目的とし、各艦隊は弾頭の独自運用権を与えられるに至った。
R戦闘機群により敵主力及び大規模汚染生命体を殲滅し、後に次元消去弾頭により作戦領域そのものを消滅させる。
それが現在の対バイド戦線に於ける基本戦略であり、事実、第三次バイドミッション「THIRD LIGHTNING」終了直後、最終作戦領域となった電界25次元に対し軍は40発の次元消去弾頭を投入、当該次元を完全に破壊した。
異層次元航行能力を持たない大多数の汚染生命体、そして汚染状況下に於いて形成された特異環境に対する殲滅・破壊行動に当たって次元消去弾頭は、最大の効率で以って最大の戦果を上げる事のできる、最良の兵器としての地位を確固たるものとしているのだ。

因みに、バイド殲滅の為とはいえ、深刻な空間汚染状況下に於いて次元消去弾頭を使用した26世紀の地球文明圏が如何なる結末を迎えたのかについては、未だ明らかになってはいない。
否、判明しているのかもしれないが、少なくとも公表されてはいないのだ。
真相がどうであれ、バイド消失から2週間後のログを最後に、26世紀に於ける地球文明圏についての記録は途絶えている。
それ以降のログを持つ存在が回収されたという記録は、一切存在しない。
「敵」が確認されたという銀河系中心域についても調査が為されたが、汚染された26世紀の地球軍艦隊とバイド生命体以外には、特にこれといった発見も無かった。
既にバイドによって侵蝕されたのか、それとも初めから何も無かったのか。
真相は、今や闇の中である。

そして皮肉な事に、地球文明圏の殲滅を目的とするバイドが、解析した技術理論で以って次元消去弾頭を製造・使用する事は、決してない。
空間汚染を回避しつつ「敵」を殲滅せんが為に建造された生態兵器は、自身が極広域空間汚染を用いての侵蝕・殲滅を実行する存在と化した今なお、自己戦略に基づく次元消去弾頭の使用が「バイド」という兵器の存在意義を脅かすものとする、
26世紀に於いて基幹部へと組み込まれたプログラムを打破できずにいるのだ。
それは22世紀の地球にとっては幸運な事であったが、しかし何時破られるとも知れない制約であった。
よって、軍はバイドによる弾頭の奪取を防ぐ為、各艦艇に非常処理プログラムの搭載を義務付けたのだ。

近隣、または同一異層次元内に於ける、救援可能な友軍艦艇の不在。
艦艇指揮官による非常プログラム実行許可。
シミュレーションに於ける、状況離脱可能率15%未満。
その他、複数の条件が満たされた状況下に於いて、非常処理プログラムは核弾頭のシステムへと強制介入、起爆シークエンスを起動。
艦体汚染状況下ではプロセスは更に簡略化され、侵蝕率が40%を上回るか、動力炉もしくは中枢防御ラインへの侵蝕域到達を以って、弾頭の即時起爆を実行する。
そしてその際、艦艇内に存在するR戦闘機群は艦体を破壊し、独自に脱出を図るのだ。
244R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 21:55:09 ID:QLSc+NP/
この非情とも云える決定に対し、異議を唱える声はごく僅かだった。
それすらも外部の人間より発せられたものであり、軍内部からの反発は皆無。
当事者たる艦艇乗組員ですら、当然の決定として非常プログラムの搭載、そしてパイロット達の要請を受け入れた。
彼等にしてみれば、バイドとの交戦状況下に於いて艦を失うという事態はそのまま、自らの生存が絶望的なものとなる事を意味しているのだ。
脱出艇に乗り込もうが、最小限の武装しか搭載していない小型艇では、異層次元での生存確率は極めて低い。
それどころか、艦体汚染状況下であれば脱出自体が不可能であるか、そうでなくとも脱出直後に汚染される可能性が非常に高い。
どのみちR戦闘機だけでも脱出させる事が、当該状況下に於いて最も合理的な選択なのだ。
反発する理由など、何処にもありはしない。
尤も、非常処理プログラムの実行、そしてR戦闘機群による脱出行動を上回る速度にて侵蝕が進む例も多く、既に20を超える艦艇の完全な汚染が観測されている。
結局はこの決定も、遅きに失した対策であった。

『558、559、出撃完了。608、609、第4カタパルト到達』
『609、聴こえるか』

オペレーターから通信。
パイロット・インターフェースを通じて投影される複数のウィンドウを閉じ、彼は肉声で以って答えを返す。

「こちら609、感度良好」
『609、パイロット・インターフェースに異常は無いか?』

彼の視界の端に一瞬、赤い光が点った。
オートチェック・プログラム。
1秒にも満たない内に消えたそのウィンドウに表示された情報を、彼の脳は完全に読み取っている。

「問題ない、オールグリーン」
『609、その機体は以前のものとは違い、パイロットに対し処理面での多大な負担を掛ける。繰り返すが、ドースが80%を超え次第、B-303回路を遮断しろ』
「了解」

視界が開けると同時、機体は遥か前方へと延びる重力偏向カタパルトの内部にあった。
青い光を放ちつつ点滅を繰り返す無数の誘導灯が、機体を射出口の先に拡がる空間へと誘う。

『なお、出撃と同時、貴機は609のコールサインを解かれ、正式に単独遊撃機としてのコールサインを与えられる。任務を復唱せよ』
「惑星級人工天体内部に侵入、第88民間旅客輸送船団及び資源採掘コロニー「LV-220」までの侵入経路を確保。機動強襲連隊の侵入を以ってヨトゥンヘイム級「アロス・コン・レチェ」の座標特定及び次元消去弾頭の捜索・破壊へと移行」
『確認した。609、スタンバイ』

視界内に変化なし。
しかし機体後方より重力が加わり、ウィンドウの表示が次々に赤く染まる。
キャノピー内に外部からの力学的影響が伝わる事はないが、インターフェースを通じて機体と一体化していると云っても過言ではないパイロットにとっては、背後から突き飛ばされるかの様な不快感だ。
前回の出撃時に大破した愛機に代わり、新たに与えられた「R」。
数少ない生産機数の内1機がこの艦隊に配備されていたのは、正に奇遇としかいい様がない。
任務の傍らに実戦データを収集するべく配備されたのであろうが、元々「TEAM R-TYPE」に対し協力的とはいえないこの艦隊の事。
実際に運用される事もなく、長らくハンガーの一画を占有しているだけであった。
245名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:56:14 ID:W78TZlxX
マッキャロン級キター支援
246R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 21:57:03 ID:QLSc+NP/
しかし、機体を失った彼が新たな乗機を求めた際、使用可能な機体はそれ以外に存在しなかった。
愛機の正当な後継機に当たる機体であるとは聞き及んでいたものの、碌にデータの蓄積も行われていない新型機で以って戦場へと舞い戻るのは気が進まなかったが、他に選択肢はない。
渋々ながら習熟訓練を開始し、しかし数日後にはその異常な性能に愕然としたものだ。

あらゆる面での性能が嘗ての愛機を凌駕し、しかもフォースまでが、それまでの常識では考えられないまでの総合性能を有していた。
通常の設計思想では有り得ない、良く言えば斬新、悪く言えば非常識な機体。
単独殲滅戦以外の用途など、とてもではないが考えられない過剰性能。
周囲の被害を顧みる事なく、只管に純粋な破壊のみを目的とした狂気の存在。

数度の実戦を経て、パイロットたる彼が下した評価は「正気じゃない」。
R戦闘機に対する評価としては、最大級の賛辞だった。

『609、射出』

「GO」との表示と共に、機体が爆発的な加速を開始する。
数瞬後、視界がカタパルトを後方へと置き去りにし、新たに通常宇宙空間にも似た隔離空間内の天体を映し出した。
メインノズル点火。
爆発的な推進力を得て、漆黒の機体が更に加速する。
進路変更。
地球とほぼ同じ規模の人工天体、地球文明圏・管理世界の両勢力艦艇及び、無数の巨大施設の残骸が集合して形成された、隔離空間内に浮かぶ鋼鉄の墓場。
無数の救難信号を発するそれらの中には、管理世界への侵入直前に消息を絶った第88民間旅客輸送船団と、メインベルトにて消失した資源採掘コロニー「LV-220」、木製軌道上にて消息を絶ったヨトゥンヘイム級異層次元航行戦艦「アロス・コン・レチェ」も含まれていた。

本来ならば核攻撃により纏めて殲滅したいところなのだが、万が一にも生存者が存在する可能性を無視する訳にもいかず、R戦闘機群による強行偵察及び侵入経路の確保を実行する事となったのだ。
そして生存者が確認されれば、後は機動強襲連隊の役目である。
閉鎖空間での戦闘に特化した彼等が生存者の救助に当たり、要救助者の確保、または全滅の確認を以って、R戦闘機群はアロス・コン・レチェの捜索・破壊任務へと移行。
彼はその先鋒として、他の数機と共に人工天体内部へと侵入するのだ。

『警告。隔離空間外縁部、時空管理局艦隊接近。総数204』
『ロック・ローモンドより全機、浅異層次元潜行開始。管理局艦隊との接触は避けろ』

艦隊からの警告。
すぐさま機体を浅異層次元へと潜行させ、管理局艦艇のセンサー網を回避する。
潜行開始の一瞬、キャノピー外の光景が揺らぐが、間を置かずにシステムが揺らぎを修正、視界が正常化された。
機体は空間位相をずらし、通常異層次元空間からの探知は不可能となる。
正確には、異層次元航行能力を持つ存在ならば探知は容易なのだが、管理局艦艇が有する技術は同一異層次元内での通常航行能力のみ。
こちらから彼等を探知する事は可能だが、彼等がこちらを探知する術はない。

隔離空間へと接近する管理局艦隊の表示を眺めつつ、彼は魔導師と呼称される存在、その中でも特定の人物についての思考へと沈む。
管理局によって拘束されたパイロット達より齎された情報、その中から判明した3人の名前。

フェイト・T・ハラオウン。
ティアナ・ランスター。
ユーノ・スクライア。

彼の愛機と交戦し、これを大破せしめた3人。
意図的ではないにしろフォースを暴走させ、結果として「デルタ・ウェポン」によるドース解放を行わざるを得ない状況へと追い込んだ、魔導師と呼称される先天的特殊能力保有者達。
247名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:57:03 ID:1L0D8AgE
支援
248R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 21:58:07 ID:QLSc+NP/
できる事ならば、二度と遭遇したくはない。
デコイ・ユニット顔負けの幻影を意のままに操る少女、R戦闘機を空間固定せしめる程の強度を誇る魔力鎖を自在に発生させる青年。
そして何より、大威力の砲撃と拘束誘導操作弾を乱発する、あの女性の姿を模った「人工生命体」。
情報によれば「あれ」は、遠距離に於いては雷撃を操作し、中距離に於いては高機動射撃戦を展開し、近距離に於いては大鎌の形態を取る固有武装を以って格闘戦を行う、正しくマルチロール・ファイターとも呼ぶべき「性能」を有しているという。
艦内では、その漆黒に近い濃紺青の服装も相俟って、嘗ての愛機を人型にした様なものだと言われた。
正しく同感だが、だからといってもう一度会いたいかと問われれば、答えは否だ。
態々、好き好んでそんな物騒な存在と戦り合う馬鹿は居ない。

警報。
目標天体まで30秒。
インターフェースを通じ、彼は周囲の汚染係数を確認する。
「15.28」。
明らかな異常値だ。
考えたくはない事態だが、やはりこの天体内部にバイド中枢が存在するのだろうか?

僅かな諦観を含みつつ、彼は艦隊へと目標到達を告げる。
新たな機体識別名称、そして2度目の使用と共に正式なものとなった、自身のコールサインと共に。



「「R-13B CHARON」、コールサイン「ベートーヴェン」、目標到達。侵入を開始する」

*  *  *

「艦体外部圧力上昇、空間歪曲境界面突破まで20秒」
「バイド汚染係数、なおも増大中・・・魔力炉心への干渉なし。「AC-51Η」、魔力増幅中。システム内バイド係数、1.72」

ブリッジクルーからの報告を耳にしつつ、クロノは火器管制機構へと鍵を差し込む。
実体化した立方型プログラムが赤く染まり、戦略魔導砲アルカンシェルの発射準備が整った事を示した。

「境界面突破まで10秒」
「総員、衝撃に備えろ」

クロノの指示が飛んだ数秒後、艦体を僅かな衝撃が揺さ振る。
瞬間、暗黒に包まれていた外部映像が恒星の眩い光に覆われ、恒星を除く41の自然天体と1つの人工天体が、各種センサーへと捉えられた。
連絡を絶った各管理世界、そして無数の人口建造物により形成された不明天体だ。

「空間歪曲面突破。全艦艇、隔離空間内に侵攻」
「増速、第4戦速。各支局艦艇の目標点到達は?」
「各支局艦艇、目標点到達まで170秒」
249名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:58:11 ID:F4CBnILZ
おおっと支援
250名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 21:59:07 ID:W78TZlxX
カロンてあの暴走フォース機体ジャマイカ支援
251R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 21:59:24 ID:QLSc+NP/
管理局史上、類を見ない大規模艦隊行動。
総数204隻もの次元航行艦艇による、単一目標に対する一大攻勢作戦。
その第一段階が、魔力増幅機構による出力強化を以って実行される、各被災世界への長距離転送だった。
送り込まれるのは、4000名を超える魔導師により編制された攻撃隊。
彼等は500名ずつ、同時に8箇所の被災世界へと転送される。
主に人口密集地を中心に生存者の捜索を行い、捜索後は転送ポートが使用可能ならば、目標座標を支局艦艇に設定、脱出。
ポートが機能しなければ、艦艇による回収を待つ事となる。
これを繰り返し、41の世界に存在する生存者の救助を終えた後、バイド中枢の捜索・鎮圧・確保へと移行するのだ。
その間、他の艦艇は汚染艦隊を相手取り、大規模艦隊戦を繰り広げる事となる。
艦艇用大型魔力増幅機構「AC-51Η」による魔力炉心出力増大により、アルカンシェル本来の設計時想定運用が実行可能となった事を受けての決定である。

「支局艦艇、目標点到達。転送開始まで120秒」

8隻の支局艦艇、巨大な花弁の様なそれらが前進を止め、周囲に高出力防御結界を展開。
艦内より攻撃隊の長距離転送を行うべく、炉心出力の全てを防御結界と転送魔法機構へと回しているのだ。

攻撃隊には、旧機動六課の面々も含まれている。
現在も生死の境を彷徨い続けるシグナム、そして第61管理世界にて消息が絶たれたままのエリオとキャロ、以上3名を除く隊長陣及びフォワード勢が、自らの意志により攻撃隊へと志願したのだ。
更には、破壊されたクラナガン西部区画、今では「第9・第10廃棄都市区画」と呼称されるその地での救助活動による功績を認められたナンバーズの面々が、やはり自らの意志で以って攻撃隊へと志願。
上層部としても、もはや出し惜しみをしている状況ではないと判断、彼女達の志願を受理した。
これが通常の任務であれば彼女達だけでも過剰戦力であろうが、今回の攻勢作戦に於いてはAランクオーバー1384名、Sランクオーバー53名と、異常極まる戦力が投入されている。
未だバイドが如何ほどの敵か判然とはしていない事、そして何よりR戦闘機群との交戦状態に陥る事態を想定しての判断だろう。

旧機動六課勢及びナンバーズの初期転送目標は、フェイトとティアナ、ヴァイスとディエチが第61管理世界、なのはとスバル、ギンガとノーヴェが第75管理世界、はやてとヴォルケンリッターが第122管理世界、残るナンバーズが第164観測指定世界となっている。
第61管理世界はその特異性の高い生態系から、優先的な救助活動及び汚染調査が必要とされ、他の世界に関しては人口が多い事から、残る4箇所の世界よりも優先的に高ランクの魔導師が多数配備されていた。

やがて、各支局艦艇より通信が入る。
攻撃隊は転送の準備が整い、後はプログラムの発動を待つばかりとの事だ。
安堵に微かな息を吐き、クロノは火器管制機構に差し込んだままの鍵から手を離した。
攻撃隊転送までの時間表示が、刻々とその数値を減らしゆく。
そのウィンドウを見やるクロノの耳に、奇妙な声が飛び込んだ。

「・・・何、これ?」

この場にそぐわない、小さな呟き。
ブリッジクルーの1人へと目を向けたクロノは、奇妙な光景を目にした。
通信担当のその女性は呆けた様な表情で、自らの手にある清涼飲料の入ったボトルを眺めているのである。

「どうした?」
「あ・・・艦長、これ・・・」
252名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:00:00 ID:5Dcpa+Jt
支援だっぜ!
253R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 22:00:40 ID:QLSc+NP/
何事かと声を掛けたクロノに向かって、彼女は困惑した様にボトルを掲げてみせた。
その透明な容器は、半透明の液体によって半ばまで満たされている。
何を言っているのかと眉を顰めたのも束の間の事、クロノはすぐさまその異常性に気付き、瞠目した。

「水面が・・・!」



ボトル内部の水面が、艦の進行方向へと偏り、「傾いて」いた。



「回避行動、急げ!」

咄嗟に指示を下すクロノ。
その声も終わらぬ内、支局艦艇からの警告と共に複数の艦艇が回避行動を開始する。
直後、凄まじい衝撃がクラウディアを襲った。
巨大な見えざる鈍器によって殴打されたかの様なそれ。
クルーの悲鳴、そして警報音がブリッジを満たす。
艦長席から投げ出されそうになりながらも、クロノは鋭く声を発した。

「報告!」
「前方、空間歪曲反応多数! 揺らぎが大きく、精確な検出は不能!」
「先程の衝撃は!?」
「艦体に損傷なし。これといった攻撃は・・・」

軽く、それでいて空間に響き亘る音。
報告の声が止まる。
誰もが呆然と音の発生源を見つめ、その光景に意識を凍り付かせていた。

彼等の視線の先には、持ち主の手元から離れ落ち、今も内部の飲料を零し続けるボトル。
それだけならば、特に問題はない。
しかし異常なのは、ボトルの落ちている位置だ。
ブリッジクルーが座する位置から、実に5mほど前方。
クルーの持ち場とブリッジドームの最前部、そのほぼ中間にボトルが転がり、中身の清涼飲料を零し続けていた。
その零れた飲料もまた、ドーム前部へと引き寄せられるかの様に流れてゆく。
クロノの背筋に、冷たいものが走った。

「・・・まさか!」

瞬間、ボトルが音を立てて転がり出し、ドーム最前部の壁へとぶつかり跳ね返る。
同時にまたも艦体を衝撃が襲い、一同は体勢を崩した。
そして彼等は、状況が更なる悪化を始めている事実に気付く。

「・・・僕等もかッ!」

再度、悲鳴が上がった。
コンソールに両の手を着き、前方へと投げ出されそうになる身体を寸でのところで押し留めるクロノ。
それは他のクルーも同様であり、自らの担当であるコンソールへと寄り掛かる様にして、「落下」しそうになる身体を必死に押さえ込んでいた。
ハードコピーやその他の細々とした物が前方へと落下してゆき、巨大な空間ウィンドウを突き抜けて、外部映像が投射されたドーム内面へと叩き付けられる。
XV級のブリッジドームはL級と比較してかなり広大に造られているのだが、現状に於いてはそれが仇となってしまっていた。
ドーム最前部より、クルーのコンソールまで約10m、艦長席までは約30mである。
重力が前方へと偏向している現状でコンソールより落下すれば、魔導師であるクロノはともかく、クルーはほぼ確実に死傷するだろう。
しかし一体、この現象は何事なのか?

「艦長! 前方3400に反応! 高速移動体、接近中!」
254名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:00:49 ID:W78TZlxX
管理局は戦艦にまでコピービットを使用しちまったのか支援
255R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 22:01:52 ID:QLSc+NP/
そんな中、不自由な体勢にも拘らずコンソールの操作を続けていたクルーが、先程以上の緊迫した声で以って叫んだ。
クロノは瞬時に艦長席のコンソールを操作、新たにウィンドウを展開する。
外部映像、拡大解析。
クラウディアの遥か前方、隔離空間内の闇に、奇怪な影が浮かび上がる。

「・・・何だ、あれは?」

それは、言葉で表現するのなれば、「カプセル」としか云い様がなかった。
全長40m程の、巨大な卵型の物体。
一見してかなりの重装甲と分かる表層部には、まるで脈動の如く赤い光が明滅を繰り返している。
鈍色の外殻装甲、細部の構造から見ても明らかな人工物ではあるのだが、少なくとも外観からは武装を確認する事はできず、それが一体何なのかという事については見当も付かない。
進行方向を軸に、横方向へと回転しつつ迫り来る異形。
一体あれは何なのかと、クロノが対象の解析を指示しようとした、その時だった。

『こちら第8支局。攻撃隊の転送を続行する』

支局艦艇からの入電。
無茶だ、と叫びそうになる己を抑えつつ、クロノは歯噛みした。

突然の異常事態に浮き足立ち、転送を強行しようとしているのが丸分かりだ。
通常は前線に出る事のない支局艦艇。
そして大規模艦隊行動に慣れていない、単艦または少数艦艇での任務遂行が基本である管理局次元航行部隊。
単艦の能力こそ高いものの、大多数が連携しての作戦行動には致命的なまでに向いていない。
支局艦艇に至っては前線での緊急事態に対応し切れず、急かされる様に当初の作戦通りに事を進めようとしている。
確かにこの程度の重力異常では、転送に深刻な影響が出る事はないだろうが、それでも万全を期す為には目前の障害を取り除く事を優先すべきだ。
艦隊の安全も確保できないままに攻撃隊を送り出しては、彼等を死地に放り込む事となりかねない。

其処まで思考し、しかしクロノは内心、自身を諫めた。
それは自身の経験と推測に基づく、一極的な見解に過ぎない。
見方を変えれば、艦隊が致命的な状況へと陥る前に安定状況下で攻撃隊を転送すべき、そう考える事もできるのだ。
そして事実、支局艦艇内の局員達はその見解に基づき、攻撃隊の転送を実行しているのだろう。
何より、攻撃隊がその見解を支持しない限り、転送強行などという決定が下る筈がない。

「転送まで40秒!」
「偏向重力、更に増大! 現在1.6G!」
「重力遮断結界展開、偏向重力を緩和しろ!」
「高速移動体、更に接近! 距離1900!」

重力遮断結界の展開により、前方への偏向重力が和らぐ。
未だ違和感は抜け切らないものの、少なくとも艦内で墜落死する危険性は消えた。
クロノはウィンドウのひとつへと手を伸ばし、接近中の高速移動体を迎撃するべく指示を下す。
錯綜し、ブリッジドームへと響き渡る通信はそのどれもが、他の艦艇指揮官がクロノと同様の判断を下している事を表していた。

「転送まで20秒!」

そして種々の魔導兵装が迎撃態勢へと移行し、クロノが正面の大型ウィンドウへと視線を戻すと同時。

「高速移動体に異変!」

大型ウィンドウ上の高速移動体が、花の様にその身を開いた。
256名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:02:45 ID:W78TZlxX
せめてハーデスにしてやれよ、フォースシュートしなきゃいい話だけど支援
257R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 22:02:56 ID:QLSc+NP/
「な・・・」

誰もが息を呑み、次いでその急激な変貌に唖然とする。
卵型の外殻は4つに分かれ、花弁の様に四方へと解放されていた。
4枚の花弁の付け根には、紫の光を放つ「コア」らしき部位が存在し、更にその前面には回転しつつ青い光を放つ部位が、「コア」を防御するかの様に備えられている。

粘つく闇の中に咲いた、鋼鉄の花。
攻撃態勢か、と警戒したクロノが、迎撃開始の指示を下そうとした、その瞬間。



「高速移動体より空間歪曲発生!」



花弁の内より、無数の空間歪曲が「壁」となって撃ち出された。

「10秒前!」
『各艦、最大戦速! 支局艦艇を護れ!』

すぐさま、支局艦艇の周囲に位置する艦艇が動き出し、その盾となるべく加速を開始。
花弁より射出された空間歪曲は、ウィンドウ上に映像として視認できる程に具現化していた。
それらは闇色の光を発しつつ、凄まじい速度で支局艦艇群へと向かって突き進む。

「くそ・・・!」
「5秒!」

間に合わない。
支局艦艇からは距離があった為に援護に駆け付ける事もできず、クロノは支局艦艇群へと迫る空間歪曲の「壁」を見据える事しかできなかった。
他の艦艇より放たれる魔導弾幕を消滅させつつ、暗く淀んだ半透明の揺らぎとなって支局艦艇群へと襲い掛かるそれらは、不可視の死神を思わせる。
群がる次元航行艦の合間を擦り抜け、必死の防衛行動を嘲笑うかの様に目標へと迫る「壁」。
そして、遂に。

「3・・・2・・・1・・・」
「空間歪曲、接触!」

「壁」が、支局艦艇群へと喰らい付いた。
三度、衝撃が艦体を襲い、クロノ等の身体がコンソール上へと投げ出される。
即座に身を起こしたクロノの視界に飛び込んだ光景は、数瞬前とは明らかに異なる姿勢へと傾いた、巨大な8隻の支局艦艇。
クロノは、叫んだ。

「転送はどうなった!?」

同じく身を起こしたクルー等の指が、コンソール上を忙しなく踊り始める。
数秒後、支局艦艇からの入電があったのか、1人が状況の報告を開始した。

「転送は終了! 各支局鑑定に深刻な損傷はありません! 攻撃隊、各転送座標に・・・」
258名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:03:46 ID:1L0D8AgE
支援
259R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 22:04:01 ID:QLSc+NP/
突然、報告の声が止まる。
クルーの表情が凍り付き、その目はウィンドウのひとつへと固定されていた。
その様子に、クロノの脳裏を最悪の予想が過ぎる。
思い過ごしであって欲しいと願いながらも、しかし魔導師として完成された高速・並列思考は、冷酷なまでにあらゆる可能性を提示。
そして、数秒の間を置いて再開された報告の声が、最も危惧した可能性を現実のものとして叩き付けた。



「目標座標・・・攻撃隊、存在しません・・・転送、失敗・・・」



クロノは一瞬、その言葉が何を意味するか、受け入れる事ができなかった。
しかし、すぐさま自身を取り戻し、現状の分析を開始する。
次々にウィンドウを展開し、それらの情報を読み取っては脳内にて統合、最終的な結論を導き出した。
残酷な結論、絶望と共に襲い来る現実を。

「・・・馬鹿なッ!」

4000名。
4000名だ。
管理局所属魔導師の中でも、特に戦闘技能に秀でた者が、4000名。
Aランクオーバー1384名、Sランクオーバー53名を含むそれが、ただの一度も交戦する事なく、転送事故によって失われた。
正確にはこの隔離空間内の何処かに転送されてはいるのだろうが、その一部ですら所在を確認する事ができず、4000名の全てを失索したというこの状況。
バイドによる汚染、そして転送事故の危険性を考えれば、既に全滅している可能性が高い。

「フェイト・・・!」

クロノの脳裏に、義妹の姿が過ぎる。
次いで浮かび上がるは、四肢を切断され、意識の無いままにベッド上にて生命維持装置へと繋がれたユーノの姿。
歯軋り、そして掌へと血が滲む程に拳を握り締め、クロノは指示を発した。

「高速移動体を敵機動兵器としてマーク! MC404、撃ち方始め!」
「MC404、撃ち方始め!」

クルーによる復唱が終わるや否や、クラウディア艦首から白光を放つ魔導砲撃が放たれる。
同時に10を超える艦艇から同様の砲撃が放たれ、光の奔流が敵機動兵器へと殺到。
敵機動兵器は回避する素振りも見せず、十数発の砲撃に呑み込まれ、小爆発を繰り返した後、一際巨大な爆発と共に四散した。
4枚の花弁が炎を噴きつつ、其々に異なる方向へと吹き飛ばされてゆく。
これだけの一斉砲撃を受けたにも拘らず、原形を留めたまま隔離空間内を漂い続けるそれらの強度に、クロノは思わず舌打ちした。

「敵機動兵器、撃破!」

クルーのその言葉にも、歓喜の念が沸き起こる事はない。
4000名の魔導師と引き換えに得た、敵機動兵器1機撃破という戦果。
これ程までに不釣合いな代償を払い得た戦果になど、何の意味があるというのか。
クロノはすぐさま、新たな指示を飛ばす。

「広域捜索実行。僅かでも良い、デバイスのシグナルを拾うんだ。支局艦艇の捜索域との重複を避けろ」
「広域捜査実行、了解」
「支局艦艇より入電、本艦は第75管理世界方面の捜索に加われとの指示です」
「了解。本艦はシャーロットと合流、第75管理世界方面へと・・・」
「前方3000、空間歪曲多数!」
260名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:04:09 ID:W78TZlxX
ついに生物バイドと接触支援
261R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 22:05:10 ID:QLSc+NP/
警報。
新たに展開された大型ウィンドウに、またも外部拡大解析画像が映し出される。
其処に浮かび上がるは、複数の巨大な鉄塊。

「・・・何の冗談だ?」

誰もが、自身の目を疑った。
先程、自ら達の手によって破壊された筈の機動兵器。
それが複数、艦隊の進路を塞ぐ様に布陣している。
闇の中に浮かぶ卵型の鉄塊を見据えるクロノの耳に、入電を告げる電子音とクルーの声が飛び込んだ。



「第10支局より入電・・・敵機動兵器、詳細判明。異層次元巡回警備型無人機動兵器「ファインモーション」。重力偏向フィールドによる対象の行動制限及び、戦術級光学兵器による高火力・長射程砲撃、重装甲・高機動による突撃を主とした戦闘を展開するとの事です」



その言葉も終わらぬ内、敵機動兵器が次々にその花弁を開く。
気付けばその数は数十にも達し、隔離空間内には巨大な鋼鉄の花が幾重にも咲き誇っていた。
クロノは咄嗟に火器管制機構へと手を伸ばし、差し込まれたままの鍵に指を掛ける。
焦燥を多分に含んだ叫び。

「アルカンシェル、バレル展開!」

そして、鋼鉄の花弁に、闇色の光が点ると同時。



クロノの身体は、眼前のコンソールへと叩き付けられていた。



「くそッ・・・またかッ!」

自身を前方へと引き寄せる重力に抗いつつ、クロノは火器管制機構へと手を伸ばす。
しかしその指が、赤く染まった立方型実体化プログラムへと届く事はない。
傍らに展開された偏向重力計測値のウィンドウが、2.2Gとの数値を表示していた。
下方ではブリッジクルー等が、襲い来る重力とコンソールから引き摺り落とされそうになる恐怖に、掠れた悲鳴を上げている。

クロノは懐より1枚のカードを取り出し、瞬時にそれを槍状の杖へと変貌させた。
氷結の杖、デュランダル。
荒い息を吐きつつその先端を、今や垂直の壁面となった床面へと突き立て、瞬く間に氷の階段を生み出した。
もはや飛ぶ事すら困難となった偏向重力下に於ける、苦肉の策だ。

「ッ・・・!」

その身体が、力尽きた様にコンソール側面へと崩れ落ちる。
偏向重力、3.9G。
ブリッジクルー等から上がる苦しげな声を背に、クロノは氷の段差へと腕を乗せた。

一度だけで良い。
アルカンシェルを撃ち込む事ができれば、空間歪曲によって重力フィールドを無力化できる。
一度だけ、あの機動兵器群の布陣を乱す事ができれば。
それで、反撃の糸口が掴める筈なのだ。
262名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:05:58 ID:W78TZlxX
アンカーフォース改はターミネイトγ+で十分な威力だぜ支援
263R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 22:06:12 ID:QLSc+NP/
「アルカンシェル・・・バレル・・・展開・・・!」

下方より届く、微かな声。
同時に、アルカンシェルのチャージが始まった事を知らせる警告ウィンドウが、艦長席コンソールの上部に表示される。
この状況の中、ブリッジクルー等、そして兵装担当技術官等が、命懸けでアルカンシェルの発射態勢を整えたのだ。
それを理解し、クロノは鉛の様に重くなった自身の腕を動かすべく、更なる力を込めた。

彼等の奮闘を裏切る訳にはいかない。
何としても、アルカンシェルを発射しなければ。
彼等の期待に応える事、それが艦長としての自身の責務であり、現状を生き延びる為の最後の希望なのだから。

強烈な偏向重力の中、必死に身体を引き摺るクロノの傍らで、ウィンドウの数値が4.7Gを指す。
ブリッジドームへと投射される外部映像の中、6隻のXV級次元航行艦と1隻の支局艦艇が偏向重力によって、引き摺られる様に前方へと進み出る様がクロノの視界に映り込んだ。
そして、数秒後。



200を超える光学兵器の奔流が、7隻の艦艇を貫いた。



時空管理局艦隊、残存艦艇数「197」。

*  *  *

「ティア! ねえ起きてよ、ティア!」

自身を揺さ振る者の存在と、頬に触れる冷たい床の感触に、ティアナは微かに呻きつつ瞼を見開いた。
その視線の先には嘗ての相棒と、その妹分となった戦闘機人の少女の姿。
数瞬、状況が理解できずに呆けるも、瞬時に意識を覚醒させて跳ね起きる。

「転送は!? 此処は何処なの!?」
「おい、落ち着けって!」
「ティア、ちょっと待って!」

スバルとノーヴェ、2人掛かりで宥められ、ティアナは漸く余裕を取り戻した。
そして周囲を見渡し、愕然とする。

「・・・何処よ、此処?」

周囲に広がるのは、当初の転送座標である第61管理世界の緑に囲まれた管理局拠点ではなく、四方どころか上下に至るまで鉄壁に覆われた、何らかの巨大な施設内部だった。
上部に点る照明装置により空間全体を見渡す事ができるが、少なくともこの空間は、本局訓練室と比較して数倍の空間容積がある事が見て取れる。
余りにも巨大な、用途不明の人工空間。
薄ら寒いものを感じつつ、しかし何時までも座り込んでいる訳にはいかないと立ち上がったティアナは、状況の確認を開始した。

「それで、何でアタシ達はこんな所に居る訳?」

その問いに対し、スバルとノーヴェは困惑した様に答える。
どうやら2人も、自身に降り掛かった現象を理解している訳ではないらしい。

「分からないよ・・・支局が攻撃を受けて、揺れたと思ったら気を失って・・・」
「気が付いたら此処で寝転んでたって訳だ」
264名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:07:05 ID:W78TZlxX
跳躍26次元のボスキター支援
265R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 22:07:16 ID:QLSc+NP/
その言葉に、ティアナは凡その状況を理解した。
恐らく、転送事故だ。
敵機動兵器の攻撃は、空間歪曲を利用したものだった。
転送直前に支局がその攻撃を受けた事により、目標座標までの跳躍空間に異常が発生したのだろう。
結果、こうして行き先の異なる者達が、同じ世界に漂着する事態となった訳だ。

「私達の他には?」
「今、セインが探しに行ってる。そろそろ戻ってくる頃だと・・・」

他に同一世界へと漂着した者が居ないかというティアナの問いに、ノーヴェが意外な答えを返す。
他にもナンバーズが居るのか、という驚きに目を見開いたティアナの背後から、何処か陽気な印象を受ける声が発せられた。

「ただいま」
「なっ・・・」
「あ、おかえり」

床面より突き出す、水色の髪。
IS「ディープダイバー」による無機物潜行を行っているセインだ。
驚くティアナ、出迎えるスバル。
直後、一息に床面の上へと躍り出たセインは、疲れた様に溜息を吐いた。

「どうだった?」
「この先、400m先に20人ほど攻撃隊が居るよ。あと、其処とは別の地点に八神二佐達も」
「八神部隊長が?」

驚き、訊き返すスバル。
頷きをひとつ返し、セインは続ける。

「うん。でも、それより先は無理だった」
「何かあったの?」
「良く分かんないんだけど・・・潜れない壁があるんだ。魔力でコーティングされている訳でもないのに、全然抜けられない。此処の床だって、2mも潜れば其処でその壁にぶつかるんだもの」
「壁・・・何かの施設か?」

ノーヴェの問いに、セインは分からないと首を振る。
暫しの沈黙。
しかし数瞬後、ティアナが「AC-47β」により幾分大型化したクロスミラージュを手に、唐突に歩き出した。

「ティア?」
「此処で考えてたって仕方ない。取り敢えず、その攻撃隊と合流するわよ。いつ汚染体が襲い掛かってくるか分からないし、人数が多い事に超した事はないわ」
266名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:07:47 ID:XjyE6sq3
バトル・ロワイヤル風味艦隊カウント支援
267R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 22:08:34 ID:QLSc+NP/
歩みを止めずに答えるティアナに、残る3人は互いの顔を見合わせ、しかしすぐにその後を追う。
その足音を耳にしつつ、ティアナは物資搬入ゲートらしき巨大なスライド式の扉へと歩み寄り、制御盤を探し始めた。
そして彼女へと追い付いた3人もまた、ゲートの周囲を調べ始める。

4人の頭上、20mはあろうかというゲートの表面。
薄闇の中に、第97管理外世界の文字が浮かび上がる。
忌まわしき名称、悪夢の記憶を内包せし棺の名。



「MPN134340-Orbital BIONICS LABORATORY META-WEAPONOID RESERCH DIVISION」



狂える翼、人類の狂気による蹂躙と殲滅より5年。
「神々の黄昏」によって打ち砕かれし悪夢は息を吹き返し、「客人」の来訪を待ち焦がれていた。
そして遂に、その時が訪れる。

生命の存在する余地のない、特殊合金に覆われた施設の深遠。
「客人」の有する記憶に基づき、「模倣者」はその姿を変貌させゆく。
全ては「客人」を歓迎する為に。
決して忘れ去る事などできない、記憶の奥底に潜むその存在を模し、彼の「客人」を持て成す為に。
過去より出でし亡霊は、久方振りの「客人」が自らの許を訪れる、その瞬間を待ち侘びていた。



壁が、床が、天井が。
「客人」の来訪に打ち震え、「宴」の用意を整え始める。
亡霊の巣穴と化した施設を構成する無機物、その全てから歓喜の咆哮が上がった。
268名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:08:36 ID:W78TZlxX
生身で対バイド室内戦なんて悪夢支援
269名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:12:24 ID:ZJvQcW+i
支援
270R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA :2008/05/22(木) 22:13:13 ID:QLSc+NP/
投下終了です
支援、有り難うございました

ヤバい兵器はRだけじゃないんだよーというお話
次元消去兵器なんてものを持っている26世紀の地球が、何故バイドを造ったのかという疑問を突き詰めて考えてみました

R-13B CHARONは後ほど活躍する予定です・・・主にフェイトとの絡みで
ファインモーションはFinal及びTacticsでの機械系バイドです

ティアナ達が転送された施設ですが、これはVにて多くのプレイヤーにトラウマを刻んだであろうラスト3ステージの内ひとつです
アイレム、本気で殺しに来すぎ・・・

今回は次回予告はなしです

271名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:15:23 ID:sl9V70/j
272名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:18:20 ID:xdj9cRfK
>>271
ニコ動は荒れる元だから止めようぜ……
273名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:19:51 ID:VGsoYDrT
コントローラー投げた記憶があるw
274名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:20:22 ID:F4CBnILZ
俺のトラウマ来たコレGJ
生身で放り込まれた外宇宙の神様に会うまでもなく発狂するわw
次元消去兵器を使用しないバイドの誇りには感服した

カロン、フェイトそん、前回次回予告
それらをアイレム的に考慮すると活躍しない方がヒトとしては幸せなんだろうなぁ……w
275名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:25:25 ID:Lbt/Z7GK
GJ!!です。
管理局の作戦初めから失敗かいwしょうがないですが。
4000名のかなりの戦力がいきなり、敵の腹の中にだものなぁ。普通だったら
奇襲と物量で殺されるw
276名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:32:48 ID:ZJvQcW+i
GJ!!
4000名の内何人生きてるだろうか。
フェイトは人工生命体だとばれてますね。
いろいろ立ってるフラグが怖いですが、次回からの絶望とか狂気に
期待してます。清清しいまでの絶望は何故か見ていて楽しいです。
277名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:36:43 ID:uzlNfaeZ
GJ!
ファインモーションは重力攻撃で敵を資源に変換してたな
地球圏で産出される鉱物は序盤これでしか入手できないし
地球軍で稼いで持ち越すのは邪道です

カロンというと冥府の川の渡し守
圧倒的な攻撃能力を有する代わりに制御限界を超えてしまった暴走機
フェイトそんと再びあいまみえるのだろうか?
278名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:40:33 ID:JZpKWs93
GJ!
どうあがいても絶望って感じですね。
279名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 22:47:15 ID:W78TZlxX
>>270
GJ!22世紀地球はやり過ぎだwww
ついにR−13系の最終機体が来ましたか、ケルベロス乗りにピッタリ。でも単独突撃とは相変わらず無茶するww
まあ、26世紀で次元消去兵器倒しきれなかったからバイドは目の前にいるわけだしねえ。
ティアまでAC-47β普及、戦艦はAC-51Ηで完成版アルカンシェルとは管理局はもうバイド×地球の技術の虜。
模倣者ということはあいつですな。しかしこの面はヤバすぎる…R-9/0カモン!
うーん早く和解して欲しい。
280名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 23:00:13 ID:LzjV3gV1
地球軍からの認識ではフェイトは兵器扱いなのか。
人造魔導師の技術転用で生まれたとはいえ、本人が知ったら凹みそうだなぁ。
281名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 23:02:59 ID:F4CBnILZ
地球軍的にナンバーズはある意味で同類、か?
冷静に考えてみると、どこでフェイトそんを人工生命体と判断したんだろう
バイドなんて理不尽生命と戦ってるとその辺の技術が向上しても不思議はないが
282名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 23:04:40 ID:W78TZlxX
>>281
実はフェイトそんはフタナリ(ry
283名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 23:05:37 ID:FWRr8BK2
GJ
あそこの敵って序盤のブロックで8Mぐらいあるよなぁ
生身で挑むとか悪夢過ぎるw
つか悪夢をこんな大安売りするなとw
284名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 23:12:37 ID:iYIhBtBX
潜れない壁って、やっぱりアレだよなあ・・・
バイオニクスラボに限らず、Vは全ステージでスーファミの限界を見せ付けつつ、
プレイヤーの忍耐と技量の限界に挑んでくるから困るぜ。
285名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 23:19:25 ID:sl9V70/j
ファイアキャスクファクトリーとかもうね
やり直し可能じゃなかったら全滅してるって
286名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 23:19:50 ID:W78TZlxX
>>284
あ、そっか。あそこは金属組織にDNAが侵入してんだったな。
ディープダイバーじゃ潜れんわ。
287名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 23:20:54 ID:uzlNfaeZ
アイレムSTGはガチ殺しに定評があるからな
イメージファイトの補習はほぼ無理ゲーだし
覚えてもアドリブできても死ねるってどんだけw

バイドは覚めない悪夢と呼ばれるほどの存在だけど
自分がバイドになっちゃうと地球軍の恐ろしさもよくわかる
強行偵察隊による索敵からの波動砲やら核ミサイル攻撃は恐怖以外の何物でもない
殺戮衛星アイギスに何機持ってかれたことか
288名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 23:24:15 ID:EswQvhKH
さて、ウロスに行こうか
289ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/05/22(木) 23:42:33 ID:NzEiy9IV
いい地獄だァ・・・(狂笑を浮かべて)
これからも、純地球産の地獄絵図に期待していますッ!!

さて、今夜12時、闇王女第六章中編を投下しますー。
290名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 23:43:57 ID:ZJvQcW+i
昴氏も投下ですかw支援します。
291名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 23:45:46 ID:Lbt/Z7GK
今日は地獄めぐりかw支援です。
292名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/22(木) 23:49:03 ID:zGdodZ4J
GJ!
擬態野郎どもの腹の中だな。各世界がこんなんじゃ生存者いるのかよww
あと地球軍でも一応生存者のことは気にかけてるんだな。
293ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/05/23(金) 00:02:19 ID:qUBQZ9jf
魔法少女リリカルなのは 闇の王女 第六章中編

 紅蓮の炎と黒煙が、街を覆っていた。
赤、赤、赤。死人の眠りさえ妨げそうなほどの烈火が大通りに走り、軌道上にあるもの全てに等しく滅びをもたらした。
魔力素の集束と崩壊がもたらした炸裂は、全てを飲み込み、超高温の地獄を市街地に作り出していた。
道路は砕け散り、異形の群れ――魔導兵器傀儡兵に蹂躙される。
出来の悪い土偶の様な騎士人形たちは、手にした剣を地上に展開していた陸士部隊へ向けて構え、怨嗟の声をあげた。
人間の絶叫が反響したような音が空っぽの鎧の中から響き渡り、一瞬であるが、周囲の人間の耳を潰した。
その隙に、小型の傀儡兵が手に持った大振りな刃物――巨大な戦斧で人間を両断する――撒き散らされる臓腑。
鮮血が風に舞って、あたり一面を濡らし、ばら撒かれた臓腑がさしずめ絨毯のように道路を汚した。
一泊遅れて、陸士部隊の面子の悲鳴と怒号があがった。手に杖を持ち、反撃の魔法を使用せんと機械詠唱を実行する。
閃光。次の瞬間には、前線で魔法を唱えていた数名の陸士は蒸発していた。真っ黒な影を残して。
巨大な人型が、手に突撃槍を構え砲撃魔法を放つ。穿たれる地面――またもや蒸発する陸士。
「なんなんだ、こいつは……」
傀儡兵と分類される無人魔導兵器のなかでも、特に大型で強力な存在――砲撃兵。
雨霰と降り注ぐ陸士部隊の弾幕を嘲笑うかのように防御術式で弾きながら、巨体が突撃槍を振るった。
轟、と風が切られ鋼の塊が、展開していた部隊の生き残りの杖を、防護服を、肉を、骨を砕く。
壁に叩きつけられ、かろうじて生きている陸士に向け、砲撃兵が魔方陣を展開した。
集束される魔力が、ひゅうひゅう、と虫の息の青年の目に映った。なんだってこんな――。
「神……様」
魔力の収束が完了し妖しく魔方陣が輝いた刹那、天から降った一撃が、砲撃兵の右腕――突撃槍と一体化している――を両断していた。
暴走する魔力集束――暴発。高密度エネルギーの奔流が傀儡兵の右半身を砕き、跡形もなく消滅させた。
悲鳴をあげる砲撃兵の頭部へ向け、槍を構えた人影が突進する。跳躍――バリアーに弾かれるかに見えた刺突は、何の抵抗もなく傀儡兵の頭部を貫通し、
続いて穂先から発生した衝撃波が頭部を粉砕する――機能停止。高密度魔力を纏った刃による、凶悪極まる一撃であった。
そのまま豆腐でも崩すかのように、砲撃兵の巨体を真っ二つにしながら、男が着地する。
構えられた長槍。特徴的な皺の刻まれた顔つき。

「騎士……ゼスト?」

茶色のコートを着た長身の人影を、見た青年はそう呟くと、咳き込み血の塊を吐いた。
その台詞と、青年の命の炎が消えゆくのを感じ、ゼストが顔を顰めて呻いた。違うのだ、この身は死人。
既に騎士と呼ばれた男は死に、ここにいるのは生かされているだけの冥界の住人だ。
もう一度咳き込んだあと、青年の眼が虚ろに宙を見て――呼吸が止まった。
(俺は――お前達の力にはなれない……)
静かに呟くと、黙祷し、相棒である彼女に呼びかける。
「アギト! 生き残りはいるか?」
ゼストの問いかけに、際どい格好をした掌の上に乗りそうな程の大きさの少女――まるで妖精だ――が返事をした。
ユニゾンデバイス<アギト>。魔導師と融合することで、究極の力を引き出す恐るべき、古代ベルカの遺産。
真っ赤な髪を揺らし、はぁ、と人間臭い溜息をついてみせる。なんとも、デバイス――魔導技術の結晶とは思えぬ融合騎だった。
「……駄目だ、旦那ァ。みんな死んでるよ……」
「そうか……」
きっ、と上空を見上げ、空を覆う傀儡兵の群れを見やる。その数――軽く一千騎を超えている。
馬鹿げた軍勢だ。本気でミッドチルダを潰しにかかっているということなのだろうか。レジアスが防ぎたかった結末とは、これか。
無辜の民草を、理想に酔った狂人たちが食い荒らす惨劇、地獄。
馬鹿げている。こんな、こんなものの為に、人の営みが崩されていくなど。
ならば、友の思いは己が引き継ごう。地上を、如何なる手段を持ってしても救ってみせる――修羅となろうと。
相棒である彼女に告げる、己が決意を。

「アギト――ユニゾンだ。フルドライブでこいつ等を狩る」
「旦那?! それじゃァ、旦那の身体がもたねえよッ!」
あくまで、己の消耗を気遣ってくれるアギトに微笑み、ゼストは天を仰いだ。
無数の悪鬼の如き傀儡と、一際巨大な異形。

「今……こいつ等を落とさなければ、被害は広がる。彼らのように、な」
逝った陸士たちを、心中で弔いながら手を差し伸べる。
あの日、彼女を救った手を。

「頼む。俺に力を貸してくれ――アギト」
294名無しさん@お腹いっぱい。 :2008/05/23(金) 00:02:30 ID:txez0mUP
投下GJ。
キレイダ、ジゴクガミエル。
久々に公式ページ見に行ったら、バイドに魔道技術が使用されてることが明記されてて驚いた。
295ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/05/23(金) 00:05:35 ID:qUBQZ9jf
アギトは、この馬鹿に御人好しな男の事が嫌いではなかった。数年の間、共に旅をし、戦ってきた仲だが、どうにもこの男は人が好すぎた。
人が好いと言えば聞こえはいいが、要するに甘いのだ。実戦の場ではとことん現実主義かつ冷酷な割りに、普段は酷薄さが足りない。
そういう意味では、超然とした騎士には程遠い男である。騎士とは誇り高いだけでは務まらない。
御伽噺のように優しければ良いのではないのだ。必要なのは、資質。全てを見通した上で、不必要と断じたものを捨て去り、
唯一つの目的の為に命を賭けられる力だ。それが、かつての非道な実験で記憶を失ったアギトの知る<騎士>の在り方であり、理想だった。
もっとも、ゼストがただ甘いだけの男だったら、アギトは彼についていこうとは思わなかっただろう。
アギトが見るに、ゼストという男は極端なのだ。甘いときはとことん甘く、必要なときは何処までも冷酷になれる。
ある意味非人間的と言える程切り替えのできる男、それがゼスト・グランガイツだった。
あのとき――アギトが実験対象<烈火の剣精>だった頃に、不意に実験施設に討ち入り、目に付いたのであろう彼女を救った男。
彼は、優しく暖かい男だった。そのくせ、施設の追っ手に対しては容赦なく槍を振るい、皆殺しにした。
つくづく、わからない男だ。記憶を失った自分に、新たに名を与えたのも彼だ。
曰く、こうだ。

『娘ができたら、つけようと思っていた名でな』

その後、嫌だったら名乗らなくてもいいぞ、と言ったのは可笑しかった。誰が、捨て去るものか。
あの日、あの時間、彼女は決めたのだ。どんなに相性が良くなかろうが、どんなに甘いところのある男だろうが、
ゼスト・グランガイツこそが己の主だと。
彼女の新たな名は<烈火の剣精>アギトであり、新たな名を得てからの初めての主は、名付け親と決まったのだ。
決して口には出さない誓いだ。照れくさくて言えたものではないし、胸の内に秘めるべきことだから。
だから、アギトはくるりと空中で一回転し、笑顔で言った。

「旦那に頼まれちゃあ、仕方ないなァ!」
「ああ。精々派手にやるとしよう」

にわかに、アギトがゼストの胸に飛び込んだ――融合。魔力を介して二人の身体が溶け合い、ユニゾンが完了する。
ゼストの頭髪、纏う魔力が金色に変わり、頭髪と同じ色の粒子を撒き散らしながら、その身体が跳び、そのまま翼でもあるかのように飛翔した。
一個の弾丸となりて、遥か上空の傀儡兵の群れに突っ込む――怒声。ゼストの雄叫びである。
傀儡兵が不気味な唸り声を上げ、侵入者に敵意に満ちた射撃魔法を、刃を向けるが、無意味。
振るわれる長槍の一撃の前に、全ての光線が弾かれ、刃は叩き割られる。
そのまま振りかぶられた穂先の鋭さ――黄金の魔力を纏った切っ先の前に、数十の小型傀儡兵が装甲を断ち割られ、爆散していく。
縦横無尽の機動の前には、如何にも機械的な動作の傀儡兵は無力だった。
一際大きな傀儡兵――砲撃兵が、魔方陣を展開させ高出力の魔力砲を放たんとするが、遅い。
既に音速すら超えていたゼストの身体が、水蒸気と共に発生した衝撃波で小型の傀儡兵を粉砕しながら、慣性操作の術を持って身体にかかる負荷を軽減する。
一直線に突き込んだ槍――魔力による強化を受けた一撃が胸を貫通し、そのままゼストが特攻じみた突進で砲撃兵の胸に大穴を穿った。
身体そのものを武器とした攻撃であった。
爆散――周囲に散弾の如く飛んだ甲冑の破片が、無数の傀儡兵を損壊させていく。
気づけば、ゼストを中心とした戦域には、台風の目の如くぽっかりと空洞が出来ていた。
既に、百数十騎の傀儡兵が大破ないし中破し、戦闘不能に追い込まれていた。

アギトが、ゼストの脳裏――ユニゾンしている間は常時聞こえる念話で喋った。
何処か気遣うような声だが、一方、主の力に満足しているようでもあった。騎士とはこうでなくては――他を圧倒する力。
追随すら許さぬ、一種の超越者でなくては。

『旦那ァ! どうするんだい、こいつ等をこのままやっちまう?』
意外なことに、この男の答えは否、だった。
『いや、こいつ等の指揮者か、動力源を探そう。これだけの数だ、付近に補給源が無くては、術者の魔力も持つまい』
『了解ッ、と。そいじゃあ――』
勢い込んで、言った。何処までも覇気に溢れた二人である。
『――行くぞッ! アギトッッ!!』

一陣の風が、まさしく紫電のように空を翔け、消えた。
296名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 00:06:03 ID:QVavTeQX
支援する! エースストライカー級の意地を見せろ!!
297ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/05/23(金) 00:06:39 ID:qUBQZ9jf
 爆砕――鉄槌グラーフアイゼンのハンマーの頭が、傀儡兵の胴甲冑をへこませ粉砕する。
それを振るうのは、飛行する小柄な赤毛の少女――の見た目の守護騎士<ヴォルケンリッター>、ヴィータだ。
身体に似合わぬ大きさの鉄槌が風を切りながら唸りを上げ、数騎の小型傀儡兵を纏めて砕き、そのまま地面に叩きつける。
巻き起こる粉塵と魔力の暴発――消失。妙にドスのきいた声で、ヴィータが咆哮した。
「どうしたぁ! こんなもんじゃ本物のベルカ騎士は殺れねえぞぉ!」
言いながら、魔力で編んだ特大の鉄球を撃ち出し、三騎の傀儡兵――比較的大きいものだ――の魔力障壁を歪ませた。
中型の傀儡兵のバリアーを抜くには、やや浅い一撃だったが、牽制には十分。バリアーに歪みを与え、あとは――。
「リイン!」
掌に乗りそうな程の大きさの人影が、空を飛翔しながら無数の短剣を空中に構成していく。
リインフォースU。八神はやてが作り出した擬似ユニゾンデバイスである。
「はい! <フリジット・ダガー>!!」
数十の魔力の短剣――氷結効果のついたそれが、一斉に傀儡兵のバリアーを突き破り、その甲冑を氷付けにした。
動きが止まった傀儡兵を見て、ヴィータが獰猛に笑った。野生を感じさせる笑みである。
「アイゼンッッ!」
『ラケーテンフォルム』
カートリッジ――魔力の込められた薬莢が排出され、鉄槌が変形。
推進剤噴射口とスパイクがハンマーの頭に現れ、殺人的な加速を約束する――独楽の如くくるくると回転、勢いをつけ、氷付けの甲冑を直撃。
スパイクが鋭角的な先端で氷を粉砕し、横一列に並んだ傀儡兵を穿ち、砕け散れと念じながら吹き飛ばした。

「どぉりゃあああああッッッ!!」
爆音――ばらばらに砕かれた傀儡兵の欠片が、氷の飛沫とともに地上に降り注いだ。
幸いにも、近辺の陸士たちは既に危険を察知し、退避していたから良かったものの、一歩間違えば大惨事は確定であった。
リインフォースUが、抗議の声を上げる。
「危ないです! 何を考えて――」
「るせぇ! かまってられるか!」
戦闘の最中に言い争う二人の姿を眺めながら、緑色のゆったりとした騎士甲冑を身に着けた金髪の守護騎士、シャマルが溜息をついた。
騒がしいのは良いことやら悪いことやら。少なくとも、戦闘に支障が出ないなら良いが。
右腕を振り上げ、呟く。本来は盾の守護獣ザフィーラの魔法。
「鋼の軛……!」
地面から生えた何本もの軛が、密かに二人に迫った小型の傀儡兵を捕らえ、圧壊させていく。ひび割れていく装甲が、一瞬で塵屑のように散った。
轟音と砕け散った傀儡兵の破片に、肝を抜かれたようにヴィータとリインフォースUが振り返った。
シャマルは、心持ち俯きながら、笑顔で告げる。
「真面目にやりましょう、ね?」
その何処か鬼気迫る笑みに、睨みあっていた二人が凍りつき、急いで返事をした。微妙に恐怖に歪んで顔で、

「お、おう!」
「は、はいですッ!」

実に模範的な回答をすると、大急ぎで傀儡兵を狩っていくヴィータ。リインフォースUは、萎縮してぺこぺこと謝った後、前線へ向けて射撃魔法を撃ちまくった。
幾つかの流れ弾が地上で戦う陸士97部隊の面子に飛んでいき、悲鳴がところどころで上がるのに、ますます怖い笑顔になりながら、
シャマルは己の指輪型デバイス、クラールヴィントを起動させた。探査を開始――目標、敵の動力源。
現在シグナムとシャマルが戦う相手は、二つだった。聖王教会騎士団と、大型傀儡兵――その中でも、
大型多脚傀儡兵<ヨツン>は、その巨体とバリアー出力、砲撃魔法だけで脅威たりえる存在だった。尋常ならざる暴力の体現。
そう呼ぶに相応しい力が、この怪物にはあった。教会騎士と、狂信者たちの筆頭――シスターシャッハがいる為に、シグナムはそちらに掛かりっきりだったし、
ヴィータとリインフォースUは雲霞のような数の傀儡兵と戦う陸士たちの支援で手が出せない。
主であるはやて――魔導師ランクSSの生ける魔力砲台といえる騎士と、ザフィーラがいれば状況の打破は幾らでもできるのだが、そうはいかなかった。
ロストロギア<聖王の揺り篭>の浮上と、それに伴う管理局部隊――次元航行艦隊の出撃。地上からの『対ガジェットドローン戦力』として、
機動六課の大半――部隊長とハラオウン隊長、交代部隊やロングアーチの面子はそちらに出向していた。
298名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 00:09:53 ID:2VNMnAPO
支援!
299ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/05/23(金) 00:10:03 ID:qUBQZ9jf
これは、本局最高評議会直々の決定であり、如何にはやての背後にいる3提督が優秀だろうと、覆すことの出来ない決定であった。
何故、優秀な魔導師ぞろいとはいえ所詮小規模部隊の六課が動員されたのか、いまだにシャマルには理解できない。
これが後にはやてたちが味わう地獄に繋がることだったとは、まだ誰にも想像しえなかったことだったし、シャマルは戦術面での指揮は出来ても、
戦略としての指揮はできなかったからだ。
結局、3提督の尽力とはやてのコネが功を奏し、<ヴォルケンリッター>の大半が地上部隊の救援任務につくことが出来た。
だから、結論から言えばシャマルの仕事は唯一つ。眼下の巨大な傀儡兵を、足止めないし撃破すること。実に厳しい任務だった。
元々後方からの敵部隊の探査と部隊の指揮に主眼を置かれてプログラミングされ、生み出されたシャマルにとって、大型魔導兵器相手の単騎駆けは、分が悪すぎた。
だが、諦めるわけにはいかない。たとえどんなに分の悪い勝負だろうと、<ヨツン>を潰さなければ、先ほどの様な地獄が再現されることになるから。
地平線の果てまでを焼き尽くす砲撃――それを見た瞬間から、シャマルの脳裏には、数年前に死んだ筈の、一人の少女が思い起こされていた。
高町なのは――今や、黒騎士として、世界の全てを憎悪するかのような女へと成長した彼女は、ユーノやフェイトの目の前で管理局艦艇を撃ち砕いたという。
中の乗員諸共焼き殺すような戦術、戦法は、到底十年前の彼女が取るやり方ではなかった。
彼女の流儀とは、相手の『お話』を聞き、自分の『お話』も聞いてもらうことだった筈だ。呆れるほど強引で、頑固な少女だったが、
人殺しを許容するような人ではなかった筈だ。それが、大量虐殺に等しい行為に手を染めるなど、考えたくも無い事だった。
だが、彼女の活動に関与していたクロノが認め、海鳴の墓地で再会した親友、フェイトとはやても認めてしまった。『それ』は<高町なのは>、なのだと。
どんなに狂い、捩れ、猛り狂う存在だろうと、それはなのはだ。今や、魔神もかくやという力を得た彼女は、おそらく眼前の傀儡兵と同等か、それ以上の脅威のはずだ。
そんな強大すぎる力を秘めた彼女は、何処に向かい、何処へ消えようとしているというのか―――わからない。
けれど――彼女が十年前に抱いていた理想と正義に、自分たちは救われた。ならば、その正義の正しさを今度は自分たちが身をもって示そう。
それが、<ヴォルケンリッター>の総意であり決意だった。悲壮なまでに自己の保全を考えていないにも関らず、そこには理性が在った。

クラールヴィントの探知に、反応あり。敵傀儡兵頭部に異常なまでの高エネルギー反応――管理局データベースに照合。
該当データ、ロストロギア<ジュエルシード>――次元震を引き起こし、幾つもの世界を崩壊に導ける遺失技術の最悪の結晶体。
<ヨツン>の足元で交戦を続ける陸士部隊と、全ての仲間に向けて、シャマルが絶叫した。

「みんなッ! <それ>に……攻撃しないでッッ!!」

悲痛な叫びが、戦場と化したクラナガンに響いた。
300名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 00:10:44 ID:QVavTeQX
こんなにドキドキするアギトとゼストは初めてだ 支援!
301名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 00:11:43 ID:EN8rczL9
悪夢の続き支援
302名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 00:12:23 ID:58sKYsFN
支援
303ゲッターロボ昴 ◆yZGDumU3WM :2008/05/23(金) 00:13:48 ID:qUBQZ9jf
投下完了ですー。皆様、御支援ありがとうございました。
前回は、むさいオリオヤジどもが出張りすぎたので、「公式の」オヤジを大活躍!
このアギトさんは、多分、シグナム見てもなんとも思いません。

次回、魔法少女ティアナ、ちょっと目立ちます☆(多分五割くらいの確率で)
304名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 00:17:52 ID:EN8rczL9
GJ
この作品のなのはは成長しちゃったからな
どっかの覇王的な意味合いで

次回での活躍確率5割って涙目フラグじゃねえかw
305名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 00:19:08 ID:fQWkYlyA
GJ!
そりゃジュエルシード積んでたらこういう反応するよなあ。
活躍率50%だと?残りは50%はなんなんだw
306名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 01:25:47 ID:QVavTeQX
>>303
まったく大変けしらかん素敵さだな。いいぞもっとやれ!(まて)
今回がある意味自分の中で最高に盛り上がりましたw
カッコイイゼスト最高! アギトもさっさか主の乗り換えるような軽さではなく、ゼストと共にあることを選んだ心意気の持ち主!
正直途中でアギト存在消されたんじゃ? と危惧してましたが、そんなことなかったぜ!
それに娘の名前。下手するとルーテシアの名前がアギトになっていたのか? キャライメージが変わってしまうww
このまま鬼のようなかっこよさで傀儡兵を殲滅するんだエースストライカー!
ゲッター氏の書く漢共は皆濃くて、困るww
そして、何気に活躍しているリインにビックリしました。
ヴォルケンリッターも戦ってますが、壊した確実に次元崩壊の引き金を引きそうなジュエルシード搭載ヨツンをどうするのかw
未だに前に出てこない狂信者は如何なるスペックを持っているのか。
空の上の揺り籠も気になるが、地上も気になるw くそ、どっちを見ればいいんだ!

熱いバトルを次回も期待してます!
GJでした!!!
307名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 09:03:35 ID:xEHdyaMF
はじめまして、これから、予告編を投下しようと、思いますが、
よろしいですか?
308名無しさん@お腹いっぱい。 :2008/05/23(金) 09:11:03 ID:txez0mUP
カモン
309名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 09:11:59 ID:yYt3sywe
クロスする作品を明記してください。あとsageてください
310名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 09:31:42 ID:777RjkRe
>>270
GJ!!ですた。
しょっぱなから管理局はバイドからの大歓迎を受けてますね。
次元消去兵器に対応できるあたり、やはりR戦闘機は全機が異層次元航法推進システムでワープできるのが思っているより大きい要素ですな。
311名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 09:41:55 ID:xEHdyaMF
自分の好きな宇宙刑事で、行きたいとおもいます。
312名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 09:43:56 ID:vHX3WiAt
sageも知らないお子様はお帰り下さい。
313名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 10:01:02 ID:XYBjId4j
>>311
まずはsageる事。それから、短編とはいえ長文を書くなら句読点の付け方とか、文章の基本くらいは覚えてからにした方が良くないか?
314一尉:2008/05/23(金) 12:08:51 ID:bEQN0ADI
目立つ支援
315名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 15:43:18 ID:ElcKNdPY
遅レスですまん反目氏。が、疑問に思ったんでつっこんどく。
>>184
>>右手から、左手から。フルロードされる魔力カートリッジ。排気煙の中、次から次へと空薬莢が弾き出される。
まとめてカートリッジ交換を行う回転式弾装で何故空薬莢が弾き出されるんだ。
316名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 17:04:32 ID:XA8n2idL
あれ?それってフェイトでは?リボルバーナックルは薬莢が使うごとに飛び出る
ヤツだった気が。
317名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 17:27:01 ID:xIWeQRLu
ギャー!GJなR−TYPE Λ殿が来てた!『覧』の部分しか見てなかったから遅れました!
懐かしいボス&ステージが来ましたか!確かにVのラスト3面は語るもおぞましい!
思えばラボのボスは、某有名STGシリーズのお株を奪うものでした。(過去ボスパレード)
これからもハイパードライブの勢いで支援させて貰います!(既にオーバーヒート)
余談:ザフィだけでなくルールーも行方不明ですな。
318なのは×終わクロ ◆WslPJpzlnU :2008/05/23(金) 19:14:20 ID:Nlx94ZNq
お久しぶりです、かなり。
随分かかりましたが、ゴジラクロスの第4話が完成したので7時30分頃に投下したい所存。
……ただ鬼の様に長くなってしまったので、今回出すのは前編という形になりますが。

どうですかね?
319名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 19:24:12 ID:0fONaYHt
どんとこい!支援!
320名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 19:29:03 ID:jpdy/p0O
かもーん!
メカゴジラで支援する!!
んでは投下させて頂きます。


 木々の密集地帯、樹海に巨大な影があった。
 空は青天、浮かぶ白雲には影を成すほどの濃度はなく、鳥達が作ったにしては形も大きさも合わない。
 轟音と共に進んでいく陰影、それは六隻の船艦だった。
 内五つは獣の爪を思わせる歪曲した三角形、それらが五角形を描く編隊で飛んでいる。最後の一隻があるのはその中心だ。
 それは爪形船艦とは異なる、楕円形に近い形態の船艦。上部には艦橋が、下部には巨大な推進器があった。左右には橙色をした横長の窓硝子が嵌め込まれ、そのやや下には五つの弾倉が並んでいる。
 しかしそれらを超える最大の特徴は、全長の二割は占めようかという艦首の巨大なドリルだ。
 五隻の奇形な船隊に囲まれ、鈍色の削岩機を備えた飛行戦艦が樹海上空を飛んでいく。



 それは船艦の中にある、簡素な一室だ。
 床には滑り止めが、壁には緩衝剤が敷かれ、壁際の執務机と椅子は床に固定されている。
 椅子には一人の女性が座っていた。短く切り揃えられた茶髪、右頬に垂れる一房は髪留めの交差によってまとめられ、小柄な体躯は茶色のスーツに包まれている。肌は黄色、瞳は黒、典型的な日本人だ。
 その人物の名は机上にあるネームプレートが示す。横倒しの三角柱に、役職と人名が記されていたのだ。
 “機動六課部隊長 兼 新・轟天号艦長  八神はやて”と。
「……」
 女性、はやては執務机の縁に腕を置き、背を曲げて若干前屈みになっている。
 その表情には安堵の色があった。頬と眉はゆるみ、浅く弧を描いた唇は微笑みと呼べるものだ。
 それは机上に置いた箱へと向けられている。箱は一抱え程の大きさ、左右からは肩掛け用のベルトが伸び、蓋となっている上面は開かれて内部を露出させていた。
 人形程の大きさをした、銀髪の少女が眠る内部を。
「ん」
 少女の姿は白いシャツに茶色のタイトスカート、これまで寝返りをうったのか、所々が縒れている。
 箱の内部は小さな家具で埋め尽くされていた。内側の四面には鏡や服の掛けられたハンガーが掛かり、少女が伏す底面は柔らかい素材が敷かれている。さながらミニチュアの寝室だ。
「リィン」
 寝入る少女へと、はやては一つの名前を呟いた。
「リィンは、どこにもいかんといてな?」
 吐息は震えを含んだもの、懇願する様な意思が声の中に含まれている。
「もう、私を独りにせんで。……シグナムもヴィータもシャマルもザフィーラも、皆いなくなってもうた」
 思い出すのは一年前の記憶。彼女達がゴジラを封印する為、人柱とされた時の事だ。
……嫌や、いかんで……っ!
 四人が出ていく時、はやては泣いた。喉が引き攣らせ、四人の袖を掴み、周囲の人間に当たり散らした。
 絶対に忘れない、とそう思う。誰彼と構わず喚いた苦しさと自制の効かない哀しみを、と。
 そして忘れないのは、怪獣を使い魔とする事で彼女達を取り戻せる、と告げられた日も同様だった。
……うれしかった……
 四人を取り戻せるという事が。四人を奪った化物を殺せるという事が。
「取り戻すんや」
 全ての怪獣を使い魔として、四人を人柱から解放する。そして、
「――絶対に、ゴジラを殺す」
 握り込んだ両手の指が机上を掻いた。心中で沸き上がる思いに、はやては目を伏せる。
 しかし、鳴り響いた電子音にすぐさま開く事となった。
「受信音?」
 音源は執務机、机の端にあるコンソールが、通信が届いています、という単文が流している。
 そして甲高い電子音で気付いたのか、箱の中で銀髪の少女が身じろぐ。
「んにゃ」
 少女、リィンフォースUは身を起こした。しかしまだ眠いのか、間延びしたあくびを一つして、
「めざましー?」
「御免、起こしてもうたな」
「そんなことはないですよー」
 と言いつつも寝ぼけた様子のリィンに、はやては苦笑した。
322名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 19:36:30 ID:WlrA8rPi
支援
「通信が入ったんよ。リィン、ちょっと机の下に降りててな?」
「えー、リィンだってはなしますよー」
「エビの尻尾みたいな寝癖つけてる子に、そんな事を言う資格はありません」
 んにゃー? と首を傾げるリィンにはやては溜め息をつき、箱の左右の面に手を添える。
 それから持ち上げようと前屈みになり、そこでふと、こちらの顔を凝視するリィンが目に入った。
「どないしたん?」
 と問い返せば、んみゅ、と気の抜けた声を漏らしてリィンは、
「――はやてちゃん、ないてたですか?」
 何気ない風に質問してきた。
「……え?」
 どうして、という問い返しは出ない。問いを聞いた瞬間、唐突に感情が沸き上がったからだ。
……ぁ……っ
 疼く様な感覚が胸中を締め上げる。喉の奥が痺れ、震える吐息を吐く。
「ん」
 目に熱さと湿り気を感じた。
 泣きそうになってる? そう自覚して、
「――そんな事あらへんよ?」
 押さえ込んで、答えを返した。
「そですかー?」
「ていうか、泣いてるのはリィンの方やんか」
「違いますよー、これはあくびしたからでたんですもんー」
「なんぞええ夢でも見てたんとちゃうか? ……触手に巻かれて×××とか」
「その×××の所には何が入るんですか!?」
「リィンがもうちょっと大きかったら、私も嬉しいんやけどなぁ」
「身長? 身長の事ですよね!? どことは言いませんけど胸の事じゃないですよね!!?」
 本当に涙目になってきたので、この辺りで止めておく。よいしょ、と意気込みと共に箱を持ち上げ、はやては執務机の下に箱を下ろした。
 それから蓋を閉め、リィンを隔絶した所で大きく息を吐く。
……泣いていたか、か……
 問いが未だにハヤテの脳裏で響いていた。頬を撫でるが、どんな表情があるのか自覚出来ない。
 そんな事ある訳ない、とはやては思う。もしも自分がそんな表情をしていたのなら、
「――だったら私の意思は、どこに行くいくんよ」
 頭を振り、深く深呼吸して思考を切り替える。
 そうしてから、はやてはコンソールの操作盤へと指を伸ばした。
「たぶん、ばっちゃんやろぅな」
 幾つかのパネルを押せば机上に長方形の映像が投影される。
 そこには一人の老女があった。はやて以上の小柄、灰色の長い髪を青いリボンで結わえている。
「お久しぶりです、ミゼット議長」
『こんにちは、はやて』
 はやての返答に、老女は目を弓なりにした。
『余り格式張らないで頂戴? 気を張ってしまうわ』
「本局統幕議長、今じゃ管理局を指揮する御三方の筆頭が何言うとるんですか」
『私達としては、もう身を引いたつもりだったのだけれどねぇ』
「最高評議会が潰えた今、ゴジラに対抗出来る指揮を取れるのは、伝説の三提督しかおりません」
 しゃきっとしてください、と言うはやてにミゼットは苦笑。
 更に言葉を続けようとして、しかしはやては、あれ、と疑問を呟く。
「レオーネ相談役とラルゴ栄誉元帥はどうされたんですか? いつもは三人揃っとるのに」
『二人なら今、折衝に行ってもらってるわ』
「……インファントと、シートピアですか」
 ミゼットの言葉にはやては表情を引き締めた。
「怪獣を崇拝する次元世界。インファントはモスラとバトラ、シートピアはメガロでしたか」
『ええ。ラルゴはインファントに、レオーネはシートピアに行ってもらっているのだけど……難航しているの』
「オペレーションFINAL WARSは、怪獣を使い魔にしますからね」
『協力があるなら使い魔にする事もないのだけれどね。あそこの怪獣は高い知能を持ち、念話で意思疎通も出来るそうだし』
 そこでミゼットは姿勢を正す。細められた目が映像越しにはやてを見据える。
『貴女には近いうちにシートピアへ行ってもらうかもしれないわ。あちらはインファントとは違って、国として政治がある分やり易いでしょう』
「インファントの方はええんですか?」
『あちらの怪獣の片割、モスラは私達に協力的らしいわ』
 答えにはやては、え? と目を丸くする。
「じゃあ何で交渉が長引いてるんですか?」
『もう一方、バトラが拒んでいるのよ。それこそ近付くだけで攻撃する程にね。それがまた交渉をややこしくしているの』
 うまくいかないわねぇ、とミゼットは頬に手を当てた。それから申し訳なさそうな表情で、
『貴女達が頑張ってるのに、御免なさいね』
 いえそんな、と言うはやてにミゼットは言葉を続ける。
『そちらは順調な様ね?』
「え、ええ。アンギラスとラドンの処理は問題無し、使い魔として運用されてます」
『たしか、どちらもナカジマという方が持っているそうね?』
「はい、姉妹でして。アンギラスは姉のギンガ、ラドンは妹のスバルが持っとります。マンダやクモンガ共々、高町教導官の教導にごっつうしごかれてますよ」
 あはは、と笑ったはやてに対してミゼットは、
『じゃあ――今回のキングギドラは誰が持つ事になるのかしら?』
 続けられた問いにはやては即答しなかった。
 過ったのは一つの思い、自分よりも幼く、しかし強い意思を持っているだろう少女への気遣い。
 しかし答えない訳にもいかず、はやては小さく息を飲み、若干の間を置いてから返答する。
「……キャロ・ル・ルシエ三等陸士です。あん子は竜の巫女なんで」
『亜念話、だったかしら? 特定の生物限定でその意思を悟ったり、ある程度制御したり出来る稀少技能』
「ヴォルテールなんかもその口だったんでしょうね。私らの故郷でも精神開発センターとかいうてこの研究してますけど」
 へえ、とミゼットは短く答え、しかしその表情を曇らせた。
『……それでも、今回の捕獲は順調にはいかないでしょうね』
 はやての表情もまた楽観的ではない。
「強い、ですか」
 ミゼットは頷いてはやてに答える。
『強固な鱗を持ちながら高速で飛行し、三つ首の口からは重力を無効化する引力光線を放つ。あれに当たったらどんな重量も無効化され、そして効果が途切れればその重量のままに落下するわ』
 何よりも、とミゼットは続けた。
『三つの脳は、意思を共有しつつも独立した思考を持っている。アンギラスは副脳で思考の処理速度を上げたけれど……こちらは脳を複数持つ事で処理を分担し、思考の汎用性を高めているわ』
「私らは戦力は四つです」
 ミゼットが言い終えた直後、はやては断言した。
「スバルのラドン、ギンガのアンギラス、ティアナのマンダ、ルーテシアのクモンガ。脳みそに至っちゃ八つですよ?」
 はやては告げる。
「――勝ちます。私らは勝たにゃならんのです」
 その答えにミゼットは重々しく頷き、だが何かに気がついたように面を上げた。
『スカリエッティ氏の決戦兵器は使わないの? ジェットジャガーと貴方が今乗っている――その新・轟天号は?』
 そこに含まれた人名に、はやては苦虫を噛んだ様な顔を作る。
「これらは奥の手です。出すんは、うちの子らで対応出来なくなった時だけですよ」
『信頼しているのね』
「それだけの能力を持っとりますし、訓練もしとりますから」
 向けられた笑みを笑みで返し、しかしその胸中ではやては疑問を抱いていた。
 今ミゼットが告げた名前の一つ、新・轟天号についてだ。
……“新”・轟天号な……
 新、というからには旧もあるのだろう、と思う。
 だがはやては轟天号という船艦を一度として聞いた事は無かった。それは新・轟天号の艦長になった後もだ。
……艦長なら、指揮する船艦の事は全部知らされててもええ筈やろ……?
 そもそも轟天号とははやての故郷、矮小な小列島でのみ使われる少数言語だ。
 それが何故、対ゴジラ決戦兵器の一つに使われているのか。
「ミゼット議長、この新・轟天号はなんで“新”なんですか? 元になった“旧”轟天号でもあるんですか?」
 それに、とはやては疑問を続ける。
「この船の構造は魔法文化の無い世界の、ごく普通の船艦のに見えるんですが……」
 対してミゼットは、
『……詳しくは私も知らないわ。スカリエッティ氏が、どこからか見つけてきた船艦を改造したのだもの』
 困った様な笑みで答えた。それに対してはやては目を細める。
……管理局の実質的指導者が決戦兵器の出所を知らず、解き放った犯罪者の行動も把握してない?
 有り得ない、とはやては判断した。
 ならば轟天号の情報は隠されている、という事だろうか。それも艦長にも伏せられる程に。
……この船に何があるっちゅうんや……
 疑心は膨れ、はやては我知らずと拳を握る。
 はやては映像に映し出された、ミゼットの微笑みを信じる事が出来なかった。



 新・轟天号の食堂にスバルはいた。
 十数の食卓が並ぶ中、陣取るのは調理場を区切るカウンターに程近いもの。周囲には四脚の椅子があり、それはスバルから見て向かいをエリオ、右手をキャロ、左手をティアナという配置で使用されている。
 食卓の空気は重々しいものだった。
「……ぅ」
 スバルは小さく呻く。だがそれで状況が変わる筈も無く、四人の表情は暗いままだ。
……どうしよう、何か言った方が良いよね……?
 この空気を払いたい、スバルはそう思う。どうしたものか、と目を泳がせ、するとエリオと視線が合った。
……た・す・け・て・く・だ・さ・い……
 エリオの悲哀に満ちた目が、自分と同じ思いでいる事を語る。
……ご・め・ん・む・り……
……そ・こ・を・な・ん・と・か……
 アイコンタクトの応酬、それで得られたのは互いの困窮のみだった。
 マジでどうしよー、とスバルは頭を抱える。と、そこで電子音混じりの声が届いた。
『……という、クラナガン広域での電力低下は未だ原因が解っていません。一部では年始に墜ちた隕石との関係を疑う意見もあり……』
 は、として見れば、それは食堂に備え付けられた大型モニターからの放送だ。どうやらクラナガンで起きている事件についての報道らしい。
 これだ、とスバルの脳裏に解決策が閃く。エリオへ目配せすれば、どうやら向こうも同じ事を考えたらしく、
……や・り・ま・す・か……
……そ・れ・し・か・な・い・ね……
 背に腹は代えられない、思いを交わしてスバルとエリオは同時に立ち上がった。
「た、大変だ、大変だよエリオっ!」
「ええ、そうですねスバルさんっ!」
 二人は必要以上の大声で会話、突然の事にティアナとキャロがこちらを見上げる。他の食堂利用者の視線も感じるが、それは仕方が無いと諦める事にした。
「年始の隕石ってあれの事だよねっ!?」
「そうですよ、落ちて以来怪獣達が活性化してるって曰く付きのあれですよっ!」
「あのすぐ後にマンダが現れて、この間にはアンギラスとラドンが現れたんだもんねっ!」
「管理局的には助かってるんですけど、かなり胡散臭いって噂ですよねっ!」
「でもなんでそれが電力低下と関わるって話になってるのかなっ!?」
「それはですね、隕石が落ちた時にその周辺で異常な電磁波が出たからですよっ!!」
「あーあのオーロラね、すっごいキレイだったよねっ!!」
「ていうかなのはさん達も前に言ってたじゃないですか、忘れちゃったんですか!?」
「いやー小難しい話って私苦手なんだよねっ!!」
「ぶっちゃけ寝てましたもんね」
「なんでそこだけマジ返しなのっ!? ノリで返してよっ!!」
「――黙れ」
 が、という破砕音が食堂に響く。
 声の主、ティアナの手には拳銃形態のクロスミラージュが握られていた。そして銃口の先には、小指ほどの穴を穿たれた床がある。
 そして硬直したスバルとエリオを、ティアナの冷えきった双眸が見据えていた。
……お、怒らせたー!!
 逆効果だった、と思うのは遅かったようだ。
「そこになおれ」
 スバルとエリオは一も二もなく即行で正座、それを処刑人の様な表情でティアナは見下ろす。
「ねえスバル、エリオ。私はね? あんまり煩わしいのは嫌いな訳よ、解る?」
「は、はい、解りま」
「煩いわね煩わしいのが嫌いって言ったでしょう」
「理不尽っ! 理不尽の権化が目の前にいやがりますよっ!?」
 叫んだスバルの額にクロスミラージュの魔力弾が炸裂した。
「痛ー!!」
「スバルさんっ、スバルさーんっ!?」
「大丈夫よ、そいつの面の皮鋼鉄製だから」
「戦闘機人だけに!?」
「ていうか言う事それだけ!? それだけですかー!!?」
 スバルは額を押さえて断固抗議、が、ティアナは無視。ひどー、とか叫んでみる。
……まぁ、でも……
 ティアナが動いた事に、良かった、という一念があった。例え空元気でも全く動かないよりは良い、と。
 きっとティアナもそれは理解しているのだろう。だから自分達の馬鹿騒ぎに乗ってくれた。
……でも撃つ事は無いと思うんだけどなー……
 痛む額に手を当て、自分が涙目になっている事が自覚する。励ます為に払った犠牲はかなりのもんだ、と思い、
「……キャロ、いい加減にしなさい」
 ティアナの声を聞いた。
「え?」
 意識を眼前に引き戻される。そこには渋面のティアナと、鬱々とした顔で見返すキャロがいた。
「いつまで落ち込んでるつもり? 今の馬鹿騒ぎが私とアンタへの気遣いだって解らないの?」
 怒気を含んだ声に、それを向けられた訳でもないのにスバルの肩が震える。
 椅子から立ち上がっているティアナはキャロを見下ろし、
「確かに滑ってたし煩かったし詰まらなかったし詰まらなかったし詰まらなかったし、ていうか詰まらなかったけど」
「ごめんティアっ、それトドメだよ!?」
 叫びはやはり無視された。
「気落ちが不要な場面だ、って解らないの? 空元気をが出来ない歳でもないでしょう」
 ぐ、と唇を噛んでキャロが俯く。そして、ティアナは続けて、
「怪獣の事でいつまで落ち込んでるのよ」
 言った瞬間、キャロが激発した。
「――明るく出来る訳ないじゃないですかっ!」
 それは食堂全体に響く叫びだ。そしてそこには、悲壮という感情が滲んでいる。
 ティアナと対峙するようにキャロも立ち上がった。
「関係ない生き物を殺してっ、それで武器にするなんてっ、出来る訳ないじゃないですか!!」
「じゃあ、それをしてる私達は何だって言うのよ!!」
 キャロの叫びを塗り潰すかの様に、ティアナもまた叫ぶ。
「他に方法が無いって言ってるでしょう!? じゃなかったら私達だってこんな事してないわよ!!」
「ま、待ってよ。落ち着いてよ、ティア……っ」
 スバルの言葉を、ティアナは三たび無視した。
「何よ自分だけ好きな事言って! それが出せる場所じゃないでしょここはっ!? アンタの方が普通じゃないのよ!!」
 叩き付けられる意思にキャロは答えない。否、答えられない、という様子で押し黙っている。
 言い終えた所でティアナが笑った。それは自他を嘲笑う様な歪んだ表情で、
「……そうよ、何で恨まないの? 何で憎まないの? ヴォルテールを殺されて、フリードを墜とされて、何でそんな事してられるの?」
 空っぽだ、という印象をスバルは思う。今の今まで詰まっていた感情が抜け落ちたようだ、と。
「――アンタ、変なんじゃないの」
「ティア……っ!!」
 叫ばれた愛称は、誰も受け取らずに霧散した。
 ティアナの呟きにキャロの目尻から涙が飛散する。その右手が平手を作り、掲げられ、それが、
「やめてくださいっ!!!」
 エリオの手によって止められた。右の五指がキャロの手首を掴み、鋭い双眸がティアナを見る。
「ティアさんもやめてくださいっ!! 空元気でも良いから、って言ったばかりじゃないですか! 僕達がこれ以上叫んで、何が良くなるって言うんです!!」
 空いたエリオの左手が机上を叩き、制止を増幅させた。
 争いを止める最短の方法は、争う両者以上の力で両者を押さえつける事だ。
「ティアさん、言い過ぎです。キャロも、皆が率先してこの計画を行っているなんて、思わないで」
「……っ」
 ティアナは歯を噛み、キャロは周囲を見回す。食堂の利用者達、自分達と同じくこの計画を遂行する者達を見たのだろう、とスバルは思う。
 そしてエリオは五指を窄め、爪先が机上を掻いた。
「お願いですから、これ以上傷付けないでください」
 滲む様なその言葉を皮切りに、食堂からあらゆる音が消える。
 どれ程かの時間が過ぎて、静寂を破ったのはキャロだった。
「……エリオ君、痛いよ」
 エリオに握られたキャロの右手が、力んだ指によって僅かに鬱血していた。
 気付いて、エリオは慌てて手を放す。
「ごめん、キャロ」
「……ううん、いいの」
 キャロはエリオと目を合わせず、俯いている。やがてその顔を両手が覆い、小さな肩が震え出して、
「いい、の、……もう、いいの……っ」
 時を同じくしてティアナが、荒い動きで椅子に腰を落とした。左手で髪を書き上げ、苛立たしげな舌打ちが響く。
 彼女がどんな表情をしているのか、ティアナの左側に座るスバルには解らない。
……駄目だな、私……
 力の無い笑みをスバルは浮かべる。
……ティアとキャロが喧嘩して、エリオがそれを止めて、その時私はただ右往左往してて……
 胸がつかえるような、重苦しい感情が沸き出した。
 やだな、とスバルは思う。あの頃は、こんなんじゃなかったのに、と。思い出すのはゴジラが現れる以前、レリックの回収をしていた頃の事だ。
……でも、今は……
 過去と現在の落差に、スバルは辛さを得る。
 皆を支えたい、そう思うが出来ない。
……私も怪獣を殺して、操ってる人間だから……
 スバルが持つのはラドンだ。自分達が捕らえ殺して、武器とした死体をスバルは使用している。
 故にスバルには、もうキャロを支える事が出来ない。自分はキャロが拒む側の人間だ、と思うから。
 しかしティアナを支える事も出来ない。胸の内では、そんな自分を拒み疎んでいるから。
 中途半端だから、二人の衝突を止める事も出来ない。
……エリオみたいに出来れば良いのに……
 自分が持つ思いに一番近いのはエリオだ。だがエリオには、自分に無い行動力がある。
 作戦が始まって以来、エリオは今まで以上にキャロと一緒にいるようになった。そして暗い雰囲気をどうにか払おうと常に考え、今の様にティアナとキャロがぶつかれば仲裁する。
 誰かが傷付くのが嫌で、それを回避する為なら戯ける。それが自分には出来ていないのだ、と思う。
……私も、ティアナとキャロを止められたら……
 オペレーションFINAL WARSが始まって以来、二人はぶつかるようになった。
 自然保護隊出身のキャロは現状とは正反対の人間だ。この作戦に対してキャロは何度も反対を叫んでいた。
 それをスバルは羨ましく思う。
……私だって嫌なのに……
 だがスバルはそれをしない。時空管理局の方針に、なのはが従う作戦に逆らえない。そして何より、怪獣達を武器にしなければ沢山の人間が死ぬ、という被害者数の対比を理解しているから。
 キャロもどこかで理解はしているのだろう、だから反対しても最後には押し切られる。
 そうさせるのは、いつもティアナだった。
……ティアだって本当は、私達と同じなのに……
 だがティアナはオペレーションFINAL WARSに従い、自分達もそうするようにいつも言う。最年長として、自分達のリーダーとして、誰よりも作戦に従事してスバル達を牽引していた。
 ティアナもそれが嫌なのに、そうするしかないからその役目をやっている。
 自分がしっかりしていないからだ、とスバルは思う。だからティアナに負担をかけているのだ、と。
……私はどうしたらいいんだろう……
 ティアナは命令に従い、キャロは命令に反対し、エリオはみんなを支えようとしている。
 だが自分には、彼女達のようなスタンスを持っていない。いつも右往左往してばかりだ。
……怪獣達を殺したくなくて、でも殺していて、そんなだから本当に支える事も出来なくて……
 自分は何も出来ていない、そう思う。そして、何をすればいいのか解らない、とも思う。
「――どうしよう」
 自分はこれからどうすればいいのか、スバルにはそれが解らない。



 新・轟天号の通路は、窓と扉の羅列によって成されていた。
 艦内側の壁には自動ドアが羅列し、外側には橙色の窓硝子が壁として存在する。半透明の壁からは、どこまでも続く空と樹海が見えた。
 そんな通路に硬質な足音がある。音は二重の連続、それは二人の人間が共に歩いている事を示していた。歩行者はどちらも制服を着た長髪の女性。ただし片割は長身の大人だが、もう片方は小柄な少女だ。
 長身の女性、ギンガの表情は思慮に耽ったもの。視線は前方ではなく足下に向いていた。
 思いは一つ、妹と仲間達についてだ。
……皆、どうしてるかな……
 また衝突してなければいいけど、とギンガの懸念する。
 オペレーションFINAL WARSが始まって以来、機動六課は変わった。
 なのはとはやてが、ティアナとキャロがぶつかるようになり、フェイトとスバルは泣くようになり、そしてギンガの先任者、ヴィータ達ヴォルケンリッターが失われた。
「はぁ」
 尽きない思いに我知らずと溜め息が出て、それに同行者が視線を向けてきた。
「……?」
 華奢な少女は無言でこちらを見上げる。その目が語るのは、どうかしたのか、という疑問だ。
「あ、何でも無いの、気にしないで」
「……そう」
 苦笑して手を振れば、言葉少なに少女は視線を戻した。しかしギンガは、視線を戻した後も少女の事を見続ける。
……ルーテシア・アルピーノ……
 胸の内でギンガは少女の名を思う。
 母の同僚、メガーヌ・アルピーノの娘。うろ覚えではあったが、紫の髪や顔立ちにはメガーヌの面影があった。
……この子はどう思っているのかしら……
 機動六課の面々とはそれなりの付き合いがあり、それぞれがどう思っているのか知っている。
 しかしルーテシアは、先頃まで管理局に所属していなかったという事もあり、どういう考えなのかギンガは知らない。
……まあ、本人がすごい無口で無表情って事もあるんだけど……
 今まで殆ど話す機会が無かったという事もあり、気になった。
「えぇと……ルーテシ、ア?」
 どう呼んだものか、と思ったが、取り合えず他と同様にファーストネームで呼ぶ事にした。するとルーテシアは再度こちらを見て、
「……何?」
 どうやら会話は成立するらしい。ならば今こそ疑問を解消するチャンスだ。
「……ご、ご趣味は?」
「………………」
 答えてくれなかった。
……何で最初の質問がそれ!? 見合いか!!
 胸中の自己ツッコミは無意味、ルーテシアは表情を変えずにずっとこちらの顔を見上げている。
 えぇと、とギンガは冷や汗を流し、どーしたものか、と思っていると、
「趣味は昆虫採集」
 答えが返ってきた。
「そうなの?」
「生きたまま」
「すごいヴァイオレンスね!!」
「うそ」
 えー、とギンガの肩が下がった。それを見たルーテシアは胸を張って、
「私、お茶目さん」
 意外と冗談の通じる相手だった。それも半端なく。
 これもまた新発見、と思いつつ、ギンガは気を取り直す。
「ルーテシアは今の状況をどう思うの?」
「……オペレーションFINAL WARSの事?」
 ルーテシアの問い返しに、ええ、とギンガは応じた。
「貴方はどう思っているの? やっぱり、キャロ達と同じ様に反対なのかしら」
 ルーテシアはキャロやエリオと親しい。そもそも彼女が管理局に来る切っ掛けとなったのはあの二人だ。機動六課に配属された後は同行する事も多く、ならば考え方も同じか、とギンガは思っていた。
 しかし返された反応は、首を左右に振るという否定の動作。
「私は、キャロとは違うの」
 声色も視線も、表情を変える事も無くルーテシアは言う。
「どちらかというと、ティアナに賛成」
「……そうなの? じゃあ怪獣達を殺すのもしょうがないって考えてるの?」
「もう私達は殺してる」
 その言葉は、思った以上に胸へ突き刺さった。胸中に苦しさを感じて、ギンガは息を詰める。
 それに気付いた風も無くルーテシアは続けた。
「それは、どうしても必要な事だから。そうじゃなかったら、やってない」
 割り切った考え方だ、とギンガは思う。僅かばかりに、羨ましい考え方だ、とも。
……機械を積んだ私達は情に流されてるのにね……
 仕方ないから、と割り切れる考え方は機械的ですらあり、ギンガは自分の身の上にそれを重ね見て苦笑した。印象としては、ティアナから罪悪感を抜いた状態という所か。
 その考え方が良いのか悪いのか、それを事が出来ない。
……ただ、このオペレーションFINAL WARSを行う上では、都合の良い考え方よね……
 ルーテシアが誰かと衝突する所をギンガは見た事が無かったが、こういう考え方ならば納得がいく。問題を抱えていない人間は、問題を起こさないものだ。
「すごいね、ルーテシアは」
 微笑してギンガは言葉を向け、
……え……?
 見た先でルーテシアは俯いていた。
 それが今までの自分の姿に重なり、どうして、と思う。何も問題が無いならば、どうして問題のある自分と同じ行動をしているのか、と。
「……キャロ達にも、そう言いたい」
「―――――――――――」
 ルーテシアの呟きはどこか怯える様な、年相応の震える声だった。
 あ、という声でギンガは気付く。
 今言った考え方をルーテシアは持っているのだろう。それが今、一番良い考え方とも解っているだろう。
……でもそれが言えなくて……
 それはそうだ、という思いが浮かんできた。どんなに割り切った考え方をしていても、この少女はキャロやエリオと同い年の幼い子供なのだ、と。
 自分一人は納得出来ても、親しい友達を納得させられるとは限らない。
……私達とは悩む所が違うのね……
 怪獣達を殺すこの状況下で、ルーテシアはそれを行う自分ではなく、誰かとの関係について悩んでいる。
 変な子だ、とも思うが、そこに嫌味は入らない。ただ一つだけ、これもまた新発見、とそう思った。
「――ルーテシアにも、思いはあるんだよね」
「……え?」
 それが聞き取れなかったのか、きょとんとした顔でルーテシアはこちらを見る。
「ううん、何でも無い」
 その反応にギンガは笑みを返した。不思議そうに見返すルーテシアを、ギンガは可愛らしく思う。
……可愛いにゃー……
 何か思考が緩んだな、とも思い、そして唐突の叫びが届いたのはその直後だった。
330なのは×終わクロ ◆WslPJpzlnU :2008/05/23(金) 19:46:26 ID:Nlx94ZNq
投下終了。

今回は伏線回というか掘り下げ回というか……アレだ、『あの人は今』の回。
あっちらこっちらで今後の伏線を散りばめてみたり影の薄かった人達を掘り下げてみたり。後編でもバリバリ伏線張りますよ〜。
……とりあえず、後編は土日に投下を目指すぞ〜……。
331一尉:2008/05/23(金) 20:06:49 ID:bEQN0ADI
薄い人支援
332名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 20:35:25 ID:H0MHRp3j
GJです
ステエキの行きは痛い。割り切れよでないと死ぬぜ?的に
こんな状態で怪獣王の宿敵たる千年竜王に立ち向かえるのか不安だw

あとここ最近のルーテシアの可愛さは異常
333名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 21:04:51 ID:XA8n2idL
GJ!!です。
人間の視点で考えると、キャロの意見は間違っちゃいないが、自分達が死にそうな時に
その意見は・・・なぁ。人間が生き残るという種族的な勝手な都合だが好き好んで殺してるわけではないし。
スカ博士以外に拘留ナンバーズが出てきているなら、なのはに嫌味とかを言うクアットロが見たいですw
自分達が生き残る為なら他の生物は殺してもいいのね〜的な。
334Strikers May Cry:2008/05/23(金) 21:55:14 ID:Glouvr7r
十時くらいに投下いきます〜。
335名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 21:58:27 ID:XA8n2idL
支援ですw
336Strikers May Cry:2008/05/23(金) 22:00:27 ID:Glouvr7r
そろそろ投下します。

リリカル・グレイヴ十話で、またもや新しいGUNG−HO登場します。
337リリカル・グレイヴ:2008/05/23(金) 22:00:58 ID:Glouvr7r
魔道戦屍 リリカル・グレイヴ Brother Of Numbers 第十話 「BETRAYAL」


薄暗い地下施設、スカリエッティが居を構える研究所の内部を四人の男が歩いている。
先頭を歩くのは髭を蓄えた若干太り気味の体型の男、時空管理局中将レジアス・ゲイズ。
そのレジアスの隣には彼に従者の如く付き従っている生気に欠けた濁った瞳の青年、死人魔道師として偽りの生を得た男、ティーダ・ランスターである。
そして彼ら二人の後ろを歩く残り二人の男はかつてある世界で“魔人”とさえ呼ばれた超異常殺人能力集団、GUNG−HO−GUNSの生き残り。

一人は背に巨大な十字架を背負い、ゴーグル状のサングラスをかけた神父のような男、チャペル・ザ・エバーグリーン。
そしてもう一人は白いスーツを着て肩から楽器か何かでも詰まったようなバッグを担いだ伊達男である。
唐突に、白スーツの男は静寂に包まれた地下施設の中でもそれほど響かないような小さな声で隣の十字架の男、エバーグリーンに語りかけた。


「しかしおかしな話もあったものだな・・・」
「どうした突然?」
「いや、なに、俺がまさかチャペルの二つ名の者と共闘する事になるなど・・・まるで悪い冗談のようだったんでな」


白スーツの男の発した言葉にエバーグリーンは僅かに苦笑して口元から歯を覗かせた。
それはまるで肉食獣が牙を剥き出しにして獲物を喰らうがの如く獰猛で、ひどく不気味だった。


「ははっ、そういえばお前は“アレ”と殺(ヤ)り合ったのだったなぁ。しかも死に掛けたのならば私と共にいるのが良い気持ちでないのもおかしくはないか」
「正確には“かけた”ではなく僅かだが本当に死んでいる」


白スーツの男はまるで他人事のようにそう言ってエバーグリーンの言葉を訂正すると、肩に掛けていたバッグの中に仕舞われていた自分の得物を取り出した。
それはメッキ加工され眩く金色に輝く管楽器サクソフォーン、“シルヴィア”と名付けられた魔人の愛器である。


「敵の手勢、恐らくはガジェットと呼ばれる戦闘機械だろう、アレが動いているようだ。そろそろ狩る準備をしておけチャペル」
「ふっ、言われるまでも無い。しかし何故それが分かる?」
「聞こえるのさ。あいつらのボディが軋む金属音、動力が働く特有の可動音がな」
「流石は音界の覇者、噂どおりの地獄耳だな」


エバーグリーンは彼の人類の範疇を遥かに超えた異常に鋭敏な聴覚を、彼の二つ名である“音界の覇者”と呼び賞賛した。
男の名はミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク、殺人音楽を繰る音の支配者である。

ミッドバレイは愛器シルヴィアに軽く息を吹き込みながら、反響を利用して常人には知覚できない周囲の様々な音響を聞き分けていく。
特殊なセンサーや魔法など無くとも彼の耳はあらゆる情報を耳で得る事が可能である。
敵の配置や特徴・武装・精神及び肉体状態に至るまで音界の覇者は確認した。

程なくして、彼らはここの主であるスカリエッティの下へと辿り着いた。





「で? 話ってなぁ何だ?」


テーブルの上に行儀も悪くガラも悪く足を乗せた十二は大層めんどくさそうにそう尋ねた。
そのあまりの態度の悪さに、正面に座っていたなのはは困ったように苦笑、隣に座っていたヴィータは思い切り睨んで怒りを露にする。
338リリカル・グレイヴ:2008/05/23(金) 22:02:36 ID:Glouvr7r
同席していたクロノとヴェロッサもまた僅かに頬をヒクヒクさせていた。
そんな十二に相方である幽霊、ビリーは軽く諌める。


「おいおいジュージ、レディがいるのにそんな口を聞くもんじゃないぜ?」
「けっ、うっせえぞRB」


十二のツンケンした返事にRBはヤレヤレと言って肩をすくめた。

謎の青白き不死の怪人“オーグマン”の出現した地上本部襲撃から丸三日が経っている。
機動六課部隊長八神はやて、ライトニング隊長フェイトと副隊長シグナム、そして聖王教会騎士のカリムを始めとしたあの日地上本部に集まっていた多くの要人が行方不明という事態、混沌とする事件の収拾は遅々として進んでいない。
その中で“オーグマン”そして“死人”について知るというキャロの古い知人、十二とビリー。
この二人に対して、なんとか無事だった六課隊長メンバーであるなのはとヴィータそして本局から今回の事件捜査に派遣されたクロノとヴェロッサは六課隊舎の一室で事情聴取をとる事のなったのだが・・・
対する十二の態度ときたら“協力的”などと言う言葉からは遠くかけ離れたものだった。


一応この場で一番高位の立場であり本局からの代表者であるクロノが先陣を切って質問する事にした。
クロノは小さく咳をしながら口を開く。


「オホン。ああ、なんでも君達はあの青白い怪人について詳しいらしいじゃないか。アレについて知っている事を教えてくれ、このような席だがこれは公式の事情聴取だ」


十二はコキと音を鳴らして首を傾けると同時に腐った言葉でも吐くように口元を不機嫌さで歪めた。
彼にとってオーグマンに関する事を話すと言うのは虫唾の走る過去を思い出すという事なのだ、これは無理からぬ事だろう。


「あいつらは“オーグマン”最高にクソなヤク・・・シードでバケモンになった“人でなし”共だ」
「シード?」
「どっかの星からきた“なんか”で作ったイカレタ薬らしい、作った糞野郎の事以外は詳しく知らねえ・・だがそいつを人間にたっぷりぶち込めばあの通り、厄介なバケモンの兵隊ができる」


十二の言葉にクロノは信じられないと言わんばかりに顔を驚愕で染める。
異星からきた未知の物質で作られた薬物、それで人間が怪物になるなど管理世界の常識では計り知れない事実だ。


「“どこかの星”? それじゃ、あいつらはエイリアンだとでも言うのか!? そもそも何故君達はそんな事を知っている? いったい君達は・・」
「だから詳しい事なんざ知らねえっつってんだろクソガキィ。ゴチャゴチャうるせえぞ、俺らの事をてめえに話す義理なんざねえだろボケが」
「んなっ!? 誰がガキだ!!」


声を荒げるクロノに十二は言葉汚く吐き捨てた。
どうもこういう生真面目なタイプとは根本的にソリが合わないのだろう。
339リリカル・グレイヴ:2008/05/23(金) 22:03:09 ID:Glouvr7r
そんな十二に突然小さな乱入者、幼い竜召還師の少女が割って入って諌める。


「十二さん! そんな事言っちゃダメです」
「な!? キャロ・・てめえ病院に行ってたんじゃねえのかよ・・」
「十二さんが心配ですぐに帰ってきたんです。お話するならちゃんと説明してあげてください」
「おいおいジュージ〜、キャロに怒られちまったじゃないか。ここは小さなお姫様の言う通りにした方が懸命だぜ?」
「ったく、調子狂う・・・分かったよ、ちゃんと答えてやるよクソガキ」


十二はそう言うとテーブルの上の足を組みなおしてクロノに向き直る。
“クソガキ”呼ばわりされてクロノはこめかみに浮かばせた血管をヒクヒクさせているが、そこは理性で怒りを抑えこんで息を整えた。


「では聞こう、君はいったい何者だ? 何故そこまでアレらの奇妙な者達の事に詳しい?」
「そりゃ、俺もあいつらと同じ“人でなし”だからだ。俺はオーグマンと同じ系列の研究、ネクロライズ計画で生まれた死人兵士(しびとへいし)だ・・・」


それから十二の口から死人兵士を作り出したネクロライズ計画やシードに関する過去の話を大まかに語った。
化物の力で強大な権力を得たマフィア組織ミレニオン、そしてそれを滅ぼした二丁銃を繰る最強の死人、その後現れたコルシオネファミリーとの戦いを。


「・・・にわかに信じられない話だな」
「かと言って、彼が冗談を言っているとは思えないけどね」
「まあそのロンゲの言うとおりだ、てめえらに冗談言うほど俺ぁ酔狂じゃねえ」
「・・・あの、ロンゲって僕の事ですか? っていうか目が見えないのになんでそんな事が・・」


ヴェロッサがちょっとした疑問を口にしようとした瞬間、ヴィータが身体を乗り出しながら声を上げて遮った。


「ちょっと待てよ! その話の二丁銃の死人って・・・お前らあの死体野郎を知ってんのか!?」
「死体野郎? 誰だそれ?」
「えっと・・ウォーキングデッド・・・いえ、ビヨンド・ザ・グレイヴって言う人で・・管理局に敵対しているスカリエッティの関係者です」


なのはが入れた説明の言葉に十二とビリーの纏っていた空気が一段重くなる。
二人は視線を交錯させ怪訝な顔をして複雑な心境を如実に表した。


「そうかグレイヴがなぁ・・・どうするジュージ?」
「どうするもこうするもねえだろRB、何も変らねえよ。あいつに会うのもシードを狩るのもな」
340リリカル・グレイヴ:2008/05/23(金) 22:03:41 ID:Glouvr7r
「ま、そう言うと思ったよ・・」
「って、おい! 勝手に話進めんな!! お前らの話で出てきた死人ってのがあのムッツリ野郎なのかよ!? ちゃんと答えろツギハギ!」


十二とビリーの二人の会話にヴィータがまたもや割って入る。
だが自分をツギハギ呼ばわりされた十二はヴィータに大層不機嫌そうに口を開いた。


「ツギハギ言うなメスチビ。それにムッツリじゃねえグレイヴだ、ビヨンド・ザ・グレイヴ」
「誰がチビだツギハギ野郎!!」
「そりゃてめえだろメスチビ。てめえこそ、誰がツギハギだ、あぁん!?」


十二とヴィータは立ち上がりそのまま怒りを剥き出しに睨み合う(と言っても十二は眼帯で両目を塞がれているが)。
どうやらこの二人も徹底的にソリが合わないようだ。
ヴィータはグラーファイゼンを、十二はガンブレードを取り出し、二人は威勢良く啖呵を切った


「調子こいてんじゃねえぞツギハギ野郎!! 上等だぁ、表出ろ!!」
「良い度胸だ・・今すぐ半殺しだハンマーチビ!!」


いきり立つ大柄な男に小柄な少女、最強クラスの能力を持つ死人兵士とベルカの騎士だもし戦えば本気でなくともかなり危ない。
おそらく二人が喧嘩を始めたら半壊した六課隊舎が全壊するのは必至だろう。
爆発寸前の二人の間になのはとビリーが割って入った。


「まあ、まあ、まあ、まあ・・・」
「待て、待て、待て、待て・・・」


仲裁が入ってもしばしの間殺気の応酬をしたヴィータと十二。
周囲に剣呑な空気が満ちてピリピリとした緊張が走る。
だが十二は舌打ちしながら両手の得物を懐に仕舞って刃を収めた。


「けっ! 気が削げたぜ・・・こいつらへの話は後はおめえがやっといてくれや」
「おいジュージ・・・」
「外の空気でも吸ってくらぁ」
「ま、待ってくださいよ十二さ〜ん」


そう言い残して席を立つ十二、そんな彼の後を追うキャロ。
部屋にはビリーとなのは達が残されてしばし沈黙が流れる。


「すまないねぇ、レディへの礼儀を知らない奴なもんで。まああれでも少しは丸くなった方なんだが・・」
「いえいえ、こちらこそすいません」


ビリーとなのははヤレヤレと言った具合に互いに苦笑する。
どうやら苦労はお互い色々とあるらしい。


「じゃあ後は俺から話すよ、え〜っと、呼び方はなのはで良いかい?」
「はい、良いですよ。ありがとうございますビリーさん」
「なになに、レディには優しくが俺のモットーでね♪」
「にゃはは、レディだなんて・・・・・・・・・ん? あれ・・ビリーさん、何か足が透けてますよ?」
「ああ、言い忘れてたけど俺って幽霊なんだ」
341リリカル・グレイヴ:2008/05/23(金) 22:04:20 ID:Glouvr7r
「・・・・・・はい?」
「いや、だから幽霊」


ビリーはそう言いながら目の前のテーブルに手を触れる、すると彼の実体のない手はテーブルをすり抜けた。
まさに幽霊である事の証明、超心理学を思わせるオカルトな世界がそこにはあった。

三秒後、なのはの悲鳴が半壊した六課隊舎に響き渡ったとかそうでないとか・・・





道なりにスカリエッティの研究所内部を進んでいたレジアスは広く開けた場所に辿り着く。
半径50メートルはあろうかという半球状の部屋、何の実験に使うかは分からないが何もないその場所はひどく殺伐としている。
そこへ白衣を着たこの施設の主が現れる、それはまるでどこか近所を散歩するような軽快な足取りだった。


「やあ、よく来てくれたねぇ。直接会うのはいつ以来かなレジアス?」
「くだらん挨拶は無用だ」


幾分か嘲笑を含んだ笑みと共にかけたスカリエッティの言葉をレジアスは一刀で切って捨てた。
レジアスの視線は突き刺すような鋭いが、スカリエッティは笑みを崩さず不敵な表情を保っている。
白衣の科学者はレジアスと共に来た三人の男に視線を向けて色々と考察を巡らせながら言葉を繋いだ。


「で、何か用かい?」
「無論、先の地上本部襲撃についての話だ」
「まあ、その話だとは思っていたが、随分と単刀直入に聞くねぇ」
「お前とくだらんおしゃべりなどする気はないからな。先の襲撃、あれはお前の差し金で間違いないな?」


レジアスの問いかけにスカリエッティは肩を竦めながら答える。
相手が魔人と死人だと知らぬ余裕だろう、緊張など欠片もない。
科学者は悠然とレジアスの質問に答えた。


「ああ、そうだよ」
「なるほど・・・やはり、そうか」
「ん? 随分と味気ない反応だね、君ならもっと怒るかと思ったのだが」
「別に構わん、ワシとて既に管理局の大義に背いた身だからな」
「大義に背く?」
「先の事件の青白き怪人、あれはワシの手勢だ」


このレジアスの言葉に、さしものスカリエッティも目を見開いて顔にいささか驚愕の色を浮かべる。
レジアスの言葉が正しければトーレ以下のナンバーズやルーテシア達、そして聖王の器の行方は彼が握っているのだから無理も無い。
だがスカリエッティが表情を歪めたのは一瞬、決して動揺を無様に晒したりはしないですぐにいつもの嘲笑めいた顔を取り戻す。


「君が趣旨変えかい? 珍しい事もあったものだ」
「あの怪人、オーグマンと言う。アレと聖王のゆりかごの力があれば世界を塗り替えられる。もはや最高評議会の走狗と成り果てる必要などないのだ。これからはミッド地上も管理局本局もワシの理想の正義で塗り替えさせてもらうさ」


レジアスの発した“聖王のゆりかご”という言葉にまたもやスカリエッティの心は揺れた、表面上は平静を保っていたが内心は苦虫を噛み潰したようなものだ。
342リリカル・グレイヴ:2008/05/23(金) 22:05:37 ID:Glouvr7r
白衣の下の胸の内には、楽しみにしていたオモチャを取り上げられたような怒りも湧いた。


「ゆりかごの事まで知っているのかい? これは驚きだ・・・」
「ああ、貴様の自慢の戦闘人形に聞いたよ」
「なに? それはいったい・・・」


スカリエッティは思わず苦い表情で言葉を漏らす。そんな彼にレジアスは含みを込めた黒い笑みを浮かべながら後ろに控えていた白スーツの男、音界の覇者にチラリと目をやる。


「ドゥーエだったか。ワシの部下に随分と“耳”のきく者がいてな、くだらん変装を暴いてやったよ」
「・・・・・なるほど・・では私の計画はおおよそ知っているという訳か・・・」
「まあな。そこで相談だ、もう一度ワシと組まんか?」
「どういう事だね?」
「ワシには聖王のゆりかごが必要だ、しかしアレを確実に動かすには貴様が持っているレリックコアと知識がいる。だからこそもう一度手を組もうではないか・・・今度は最高評議会など介さずにな。ワシに貴様の持つ力があれば世界を塗り替える事ができるのだ!!」


それは狂気を孕んだ大義、淀んだ正義と熱の混ざった瞳と言葉だった。
もはや彼は昔日のレジアス・ゲイズではない、シードとゆりかごの異常な力に呑まれ、狂った正義に取りつかれた狂人。
レジアスのその凶面と気迫はスカリエッティさえ僅かに寒気を感じさせるほど悪魔染みていた。
背に冷たい汗が流れるのを感じながらスカリエッティは含みを込めた笑みを浮かべる。


「なるほど、確かに悪い話ではない・・・」


狂気の科学者はレジアスの持ちかけた誘いにこれからの自分の行く末の算段、己が内に巣食う無限の欲望を満たす方向性を模索し始めた。


続く。



キャラ紹介。

ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。
GUNG−HO−GUNSの一員のジャズな伊達男。
人類の枠を超越した聴覚を持ちあらゆる音を聞き分け、サクソフォーンの愛器シルヴィアを用いた音響攻撃を得意とする。
このスレ的には名前をよくミッド“パ”レイとか間違えられるので有名。
トライガン漫画版よりの登場で。
343Strikers May Cry:2008/05/23(金) 22:08:58 ID:Glouvr7r
投下終了です。

GUNG−HOの中でも人気の高いであろうバレイの兄貴が登場でっす。
エバーグリーン同様に渋い系で俺の好みのキャラなんすわ。
今回はグダグダしてたけど、とりあえず次回は絶対に血見せるので勘弁してくださいませ。

あ・・・今回グレイヴ出てねえや。
344名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 22:25:02 ID:NLlvmw8A
>リリカルグレイヴ
いぃぃやぁぁぁー! ドゥーエにまで嫌なフラグがぁー!
正確や役柄的に見て簡単に情報漏らすはずがないから拷問的な匂いがプンプンしやがるぜ(汗
ミッドバレイの能力で嘘と本当を聞き分けたとか大人しい方法だったらいいのですが…。
前回の引きからして、スカさん目障りだからぶち殺しかな? と思ってましたが、ゆりかごに執着してたおかげで生き延びられたようですね。
この辺、アニメ本編同様ミッドチルダ人として聖王の力を重視してるレジアスらしいと思いました。
しかし、実際協力するとして、どう考えても穏便にはいかないでしょうね。グレイヴやチンクを中心に仲違いフラグビンビン。
どの辺で決別するのか、気になります。
あと、何気に十二とRBの管理局との邂逅にニヤニヤしました。
やっぱり相性クソ悪いクロノと、今回は衝突したけどこういうタイプって意外と後から気が合いそうなヴィータとの絡みは、十二のリリなのでは新鮮な口汚さと合わさって楽しかったですw
戦闘もいいけど、やっぱクロスの醍醐味はこういったキャラの交流ですね。
GHGとグレイヴの在り得ないはずの邂逅も今から楽しみです。
345名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 22:26:53 ID:7IRxorz4
GJ!
このレジアスは悪カッコイイ!
346名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 22:28:42 ID:XA8n2idL
GJ!!です。
うぉぉ!!ドゥーエに何が・・・性的な拷問してたらレジアス殺す、必ず殺すw
スカ博士は一応、今回の死亡フラグは回避wどこまでいけるのだろう?
十二はフェイトにキレるだろうか?
347名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 22:33:53 ID:qeZ67TWZ
GJ!
ドゥーエ……耳で聞き分けただけ…じゃ知ることは難しいだろうから、やっぱなんかされてるだろうな。
拷問担当がGHGの邪眼姉さんとかミッドバレイとかならまだマシですが、某老紳士とか某金目少年だったりすると……あぁ。
348名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 22:34:47 ID:TvhRQOu1
>>330
亀だがGJ!
ところで、この作品ってX星人(FW版)は出るの?
349名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 22:36:02 ID:7IRxorz4
>>348
ガイガ〜ン、機動!
350マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/23(金) 23:52:04 ID:nZGkDPUE
マスカレードの最新話が書きあがったんですが、今回は前編後編と分けたにも関わらず、
マスカレード史上最も長い話になってしまいました。
1時間後には投下準備が整うと思いますが、皆さんとしてはさらに中編、後編と分けるて、
今日と明日で二日に渡って投下するか、それとも今容量使い切るかもしれない覚悟で
一気に投下してしまうかなら、どちらがいでしょうか?

とりあえず恒例の前回までのあらすじを3行で……。
管理局にその力を見せつけまくった天道こと仮面ライダーカブト。
しかしカブトは、連戦が続きついに時空管理局に捕獲されてしまいう。
さらに電王の登場と、ネイティブである立川を追うために脱獄した天道。
カブト編はいよいよクライマックスに……!

すみません、四行使ってしまいました……
351名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 23:54:24 ID:FJYL8M4Z
うおぉぉ!待ってましたよ!
そして突っ込む間もなく
自分で指摘されてるのに笑った
個人的には楽しみは少しずつということで
二日に分けて投下に一票
352名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/23(金) 23:58:34 ID:3suMmgCb
キター!
待ってた、待ってたぜ…!
353名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 00:04:02 ID:NWjEhOQa
天道の豆腐が世界を救うと信じて…!
354マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/24(土) 01:01:33 ID:TCyg8qkj
>353
それなんて打ち切りフラグw

まぁそれはいいとして、返答ありがとうございます。
少し分割編集に時間がかかってしまいましたが、ただ今から中編を投下致します。
いつもとは違うPCを使用してますので、少し手間取るかもしれませんが、暖かい目で支援して下さると幸いです。
355マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/24(土) 01:08:08 ID:TCyg8qkj
今までずっと仲間だと思っていた人がワームだった。
仲間として、同じ人間として信頼していた男は、ずっとなのは達を騙していた。
彼は――立川大悟は、自分がワームであるという真相を今までずっと黙っていたのだ。

「そんな……立川さんが、ワームだったなんて……」

目の前でワームへと変貌を遂げた立川に、なのはもフェイトも驚愕し、自分の目を疑った。
自分達は、倒すべき人間の天敵であるワームを、今まで仲間だと思っていたのか……?
そんな考えが彼女らの脳裏を過ぎる。
だが、それでもなのはが出した答えは、信じること――

「立川さんは……私たちの仲間だよ!」

そう。立川は仲間だ。ワームであろうが、今まで一緒に戦って来たのは紛れも無い事実。
言うが早いか、なのはは立川の周囲のワームへとアクセルシューターを放った。

「ありがとうございます、なのはさん!」

やがて立川は何処からか飛んで来たドレイクゼクターを掴み取り、ドレイクへと変身。
そして変身完了後、即座にキャストオフし、クロックアップ。幼稚園のグラウンドに現れたワームを掃討し、その姿を消した。

立川の姿が消えた後、フェイトは曇った表情でその場に立ち尽くしていた。
フェイトの表情を曇らせる原因である思考の内容は二つ。
一つは、ワームとは一体何なのだろうか?
という疑問。人間を襲い、その記憶を利用し、人と人との絆を破壊して行くのがワーム。
そんなワームに、人間の気持ちが理解出来る筈が無い。少なくとも彼女はずっとそう思って来たのだ。
だが、彼女がその目に見てしまったのは、仲間だと思っていた人間が、ワームの擬態であったという事実。
もうこうなってしまっては、誰を信じていいのかさえ解らなくなってくる。
極端な事を言うなら、“フェイトの周囲を取り巻く人々の正体が全員ワーム”という可能性だって無いとは言い切れないのだから。
そしてもう一つの思考。それが、“天道や、自分達がやってきた事は正しかったのか?”という事だ。
誰を信じればいいのかが解らなくなってしまった以上、誰の言い分が正しいのか……なんて解る筈も無い。
親友であるなのはを撃墜された時に感じた憎しみは確かな物。だが、そんな感情も今では薄れてしまっている。
なのはを撃墜されたと思ったら、実は手加減有りの狂言。おまけに自分は二度も命を救われたのだから。
彼女の立場から見て一言で言うならば、天道総司という男の行動は一つ一つが非常にわかりにくいのだ。
何を考えているのかがまるで読めない。
例えば、ワームを容赦無く殺す非情な男かと思えば他人の命はちゃんと救ったりと。
立川に追い付く事で、もしかしたらこの二つの疑問に決着を付ける事が出来るかも知れない。
なら、迷っている暇など無い。フェイトの……いや、フェイト達がする事はとうに決まっている筈だ。

「行こう……なのは、加賀美。立川さんを探しに……!」


ACT.18「それぞれの傷」中編
356マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/24(土) 01:13:43 ID:TCyg8qkj
 

海鳴市のオフィス街。なんとか逃げ延びた立川は、ふらついた足取りでこの場所までたどり着いた。
ここはオフィス街の中でも比較的人気の少ない路地裏だ。
まるで走り疲れたスポーツ選手のように疲労した立川は、そのままビルの壁にもたれ、追っ手が来ない事を確認する。
立川の息は荒く、疲労も相当な物なのであろう。その姿からも、今までずっと走り続けていた事が伺える。

立川が安心して座り込もうとした、その時であった。こちらへ向かって近付いてくる足音。
振り向けば、ゆっくりと歩いてくる一人の男の姿が確認出来た。
それは黒いスーツを着こなし、銀縁眼鏡を掛けた男――ダイアのキングたる実力を持った、不死生物。
もちろん立川にはこんな男に面識等無く、相手の目的が何であるかもさっぱり解らない。
故に立川は、金居に声を掛けた。
「貴方は……?」
「フン……不様だな? ワーム」
「……ッ!?」
金居の言葉を聞くや否や、立川の顔色は一気に青ざめた。同時に、迂闊にも話し掛けてしまった事を激しく後悔した。
少し考えればわかることではないか。この状況下でわざわざ自分に会いに来る人物がただの人間である筈が無いと。
だがもう遅い。体力を激しく消耗した今の立川では、間違いなく金居から逃げ切る事は出来ない。
壁に背をもたれ掛けながらも、後ずさるようにゆっくりと金居から距離を取る。
金居もまた、ゆっくりと歩を進め、立川との距離を詰める。
そんな金居が立川の目前まで迫るのに、そう時間は掛からなかった。
「……っ!?」
「命が惜しければ俺の質問に答えろ」

立川の首元に、クワガタムシの大顎を摸した剣、ヘルターが突き付けられる。
それを握る金居の姿も、すでに人間の物では無い。
黄金に近い体色に、全身から鋭角的な角を生やしたアンデッド――ギラファアンデッドだ。
「貴様は何の為にZECTに味方する? そんなことをして、一体貴様に何の利益がある?」
「……そんなものはありません。私はただ、人間の中で生きて行きたいだけです」
「フン、平和主義者という奴か……いいだろう。次の質問だ」
軽く嘲笑したギラファアンデッドは、再びヘルターを持つ手に力を込める。
仮に立川が1cmでも前に出たとすれば、ヘルターの刃が立川の首に突き刺さるのは明白。
それにより、立川は完全に動きを封じられる。
「時空管理局とかいう組織を知っているか?」
「………………」
キングから得た情報を元に、立川を揺する。
都合の悪い質問に言葉を失った立川は、ついギラファアンデッドから目線を反らしてしまった。
知らなければ知らないと言えば済む物を、立川は黙り込んでしまったのだ。
その反応からしてこの質問に対する答えは容易に想像出来る。
――と言っても、最初から立川という男が管理局と繋がっているという事を知った上での質問だが。
「ならば話は早い。プロジェクトFとやらについて知っている事を話して貰おうか」
「……プロジェクト……F?」
「そうだ。貴様なら知っている筈だろう、プレシアとかいう女のこともな」
「知りません……初めて聞く名です」
「……いいのか? そんな答えで」
ヘルターの刃が立川の首筋に当たる。あと少しでも力を込めれば、立川の首は簡単に跳ぶであろう。
それでも立川は、答えを変える事は無かった。
「本当に……知りません、私は……!」
「そうか……ならば用は無い。死ね」
「……ッ!」
冷たい言葉と共に、ヘルターを振りかぶるギラファアンデッド。
立川自身も、最早これまでかと反射的にその瞼を強く閉ざした。
357名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 01:20:05 ID:itSHYdMt
支援!
358マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/24(土) 01:21:24 ID:TCyg8qkj
 
――だが、ヘルターの刃は立川に刺さる事は無かった。一度死の覚悟を決めた立川も、恐る恐るその瞳を開く。
再び目が開かれた時、立川の眼前にいるのはギラファアンデッドでは無かった。
そう。そこにいるのは、眼鏡をかけた男――金居だ。
金居は立川から視線を外し、自分が来た方向を見詰めている。何が起こったのかと、立川も同じ方向を向く。
すると、微かにだが聞き慣れた声が聞こえて来たのだ。聞き間違える筈も無い。
紛れも無く、自分を捜す高町なのはの声だ。
二人がこの微かな声を聞き取る事が出来たのは、彼等が二人とも人ならざる存在だからだろう。
普通の人間の聴力ではこんな微かな声を聞き取り、判別する事などまず不可能だ。
ややあって、軽く下を打った金居に、立川の表情は自然と明るくなる。
「この声は、なのは……さん……」
「……命拾いしたな。今回は見逃してやる」
「…………」
「最後に名前だけ、教えてもらおうか」
「……立川……大悟。」
金居の質問に、自らの名前を名乗る。
それを聞いた金居は、立川に落とした視線を外し、なのは達とは反対の方向へと走り始めた。
この場所に長居して、なのは達に顔を見られるのもまずい。
そんなことになれば間違いなく今後の計画に支障が出るからだ。



加賀美やフェイトに付き合って走り続けたなのはの疲労は既にレッドゾーン。倒れる程では無いが、正直もう座ってしまいたかった。
それに気付いたフェイトは、自分に気を使って速度を落としてくれる。なのはも少しだけ甘えて、数メートルの距離を歩く。
並の小学生の体力を遥かに凌駕するフェイトや、ガタックとして戦い続けてきた加賀美の体力とでは、やはり運動が苦手ななのはの方が劣ってしまう。
だが、それでもここで立ち止まる訳には行かない。一刻も早く立川を見付ねばならないのだから。
そして、再び歩き始めたなのはが立川を発見するのに、それほど時間を必要としなかった。
数メートル歩いた場所で、きちんと掃除された、少し開けた路地裏を発見する。
そんな場所に、ポツンと佇んでいる一人の男が居た。
何をするでも無く、ただそこに立ち尽くしている、その男こそがなのは達が探していた男だ。

「立川さんっ!!」
なのはは、大きな声でその名を呼んだ。だが、立川に向かって歩き出したなのはを、加賀美が制する。
「相手はワームなんだ、迂闊に近付いちゃ危ない。ここは俺に任せて」
加賀美の言葉に、なのはは一瞬だけ表情を曇らせるが、すぐに了承。
「うん」とだけ言い、静かに頷いた。

なのはを自分の背後に回らせた加賀美は、強い口調で立川に迫った。
「おい、立川……! 一体どういうことなんだ!」
「……どういうこと……とは?」
「何故……ワームである筈の貴方が同じワームに襲われているんですか……?」

暫しの沈黙の後、立川が静かに聞き返す。いつも通りの冷静な態度で。
それに対してフェイトは、一歩前に出て、加賀美の言わんとする質問を立川にぶつけた。
立川は一度目を閉じ、今度は加賀美達の顔を見回した。
それぞれに怪訝な面持ちで、視線を立川に集中させているのが分かる。
「人間とは、なんと脆く、はかない生き物なんでしょう。だがそれ故に愛おしい……」
「お前達ワームは、人間の敵じゃないのか!?」
「……私達ネイティブは、貴方方人類の味方です」
「ネイティブ……?」
立川の言葉を、なのはが復唱する。以前も聞いた、“ネイティブ”という謎の単語が気になったからだ。
立川がなのはに視線を移し、その瞳をじっと見詰める。なのはもまた立川の瞳をじっと見返す。
再び流れる沈黙。そして――

「やはりお前達ワームには2種類いるんだな」

この場所に、彼等にとって聞き慣れた男の声が響き渡った。
359名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 01:23:41 ID:IMSGF9Kl
支援
360名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 01:26:48 ID:IW8CLedN
大悟じゃなくて大吾だったような?
支援
361マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/24(土) 01:30:16 ID:TCyg8qkj
「天道っ……!?」
突然の男の出現に驚いた加賀美がその名を呼ぶ。なのはやフェイトも、加賀美に揃えて復唱する。
ゆっくりとこちらに歩いてくる、本局局員の制服を着た男――天道総司。
「て、天道さん……どうして此処に!?」
「……なんでその制服を!?」
フェイトとなのはがそれぞれ質問する。二人とも相当に驚いているらしく、声が裏返る。
「その話は後だ」
対する天道は、一言だけそう返すと、なのは達の間を縫って立川の前へと移動した。
「お前らネイティブという連中は、俺達の知るワームとは敵対している……そうだな?」
「私達は戦いを好みません!」
天道の言葉を遮るように、立川が声を張り上げる。同時に、なのは達の表情もより一層怪訝なものとなる。
「人間とワームとの戦いにも巻き込まれたくありません……
 私たちは、人間の中でひっそり暮らしていきたい……ただそれだけです……」
「じゃあ……貴方は人間を襲ったことは……?」
「ありません。私達ネイティブが、自分から人間を傷付ける事は有り得ない」
フェイトの質問に、立川が答える。
真っ直ぐにフェイトの瞳を見詰める立川。フェイトもまた、何かを考えるように立川を見返す。
一方で、天道もまた、何かを言いたげな表情で立川を睨んでいた。
ネイティブが人間の味方だという話は以前にも聞いたが、そうなると、もう一つ気になる点が出来る。
それは、天道の実の妹……ひよりの事。ひよりがワームだというのは天道も知っている事だが、ひよりが人間を襲った事は一度も無い。
そしてネイティブである立川がひよりの事を知っているという事から……一つの仮説が成り立つ。
天道は、一歩前へ踏み出し、その仮説を立川にぶつけた。
「……ひよりは……お前達の仲間なんだな?」
「私は……貴方にひよりさんの居場所を伝えねばなりません」
「……知っているのか!? ひよりの居場所を!?」
居場所を知っている。この返事は、天道の質問に対する肯定の返事と取って間違いは無いだろう。
だが、それ以上に天道はひよりの居場所が知りたいのだ。
時空の彼方などという訳のわからない場所ではなく、具体的に“どうすればそこへ辿り着けるか”知りたいのだ。
そして天道が立川にさらに近付いた、その時――

「ワームッ……!?」

天道と立川は、すぐに引き離されてしまった。
立川を殺そうと再び現れたアーミーサリスが、天道と立川の間に割って入ったのだ。
加賀美と天道はすぐに立川からワームを引き剥がし、投げ飛ばす。
同時に、現れたカブト・ガタックゼクターを掴み取る。二人は声を揃え、叫んだ。

「「変身ッ!!」」

刹那、響き渡る電子音声。
“Henshin”と。二人の変身を示す音声が流れ、二人の体を銀色のアーマーが包んで行く。
変身を完了したカブトは、立川と、立川を護ろうとするなのは達に近付こうとするワームを殴り飛ばし、言った。
「立川を頼む……!」
「は、はい!」
なのはの返事を聞いたカブトは、何処からかカブトクナイガンを取り出し、直ぐに近くにいるワームに斬り掛かった。



アースラの中には、一つだけ特別な部屋が存在する。部屋全体の床に畳が敷き詰められ、使用されるテーブルは小さな木製の物。
ここはアースラの艦長であるリンディ・ハラオウンが落ち着けるようにと用意された艦長室……の筈なのだが。
当のリンディ・ハラオウンには、落ち着いている余裕等無かった。
「――天道総司が、脱獄したっ!?」
艦長室に、リンディの素っ頓狂な声が響く。目の前に映る小さなモニターには、申し訳なさそうに頭を下げる二人の局員。
そう。この二人は、先程油断した一瞬の隙に天道の蹴り技を受け、その脱獄を許してしまった二人だ。
「で、天道総司は何処へ向かったのかしら? そう簡単にこの戦艦からは脱出出来ない筈よ」
「それが……ッ!?」
「あいつらのとこに行ったんだよっ!!」
と、そこでモニターに写る局員が跳ね飛ばされ、今度はそこに野上良太郎が写りこむ。
逆立った髪の毛に赤い瞳。そして何よりも特徴的な口調。
それらを見るに、これは野上良太郎では無く、良太郎に取り付いたイマジンだと推測。
362名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 01:35:43 ID:IMSGF9Kl
支援
363マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/24(土) 01:37:05 ID:TCyg8qkj
あいつら……というのは、おそらくワーム討伐に向かったクロノ達の事だろう。
それを踏まえた上で、リンディはさらに質問する。
「貴方は天道総司さんを見たの?」
「見たも何も、俺の目の前で行きやがったんだよ! あの野郎っ!」
良太郎の返事に、リンディは大きな溜息を落とした。全く以て頭の痛くなる話だ。
まさか本局からの処分が言い渡される前に、天道が自分から行動を起こすなんて考えてもみなかった。
また天道捕獲からやり直さなければならないのか? と考えると、それだけで気が重くなる。
「はぁ……わかりました。良太郎君……取り敢えず貴方は待機してて頂戴」
「なっ……!? 俺の出番は……!?」
「今回は無しです」
「そんなぁーーーッ!?」
キッパリと言い切るリンディに、良太郎はうなだれるようにモニターから姿を消した。



赤と青のライダーは、自分達を取り囲む緑の怪物と戦い続けていた。
赤いライダー――仮面ライダーカブト・ライダーフォームのクナイガンが、緑の集団を斬り裂き、華麗な弧を描く。
青いライダー――仮面ライダーガタック・ライダーフォームのダブルカリバーが、美しく煌めく青い軌跡を残しながら、ワームを斬り裂いて行く。
華麗に舞う二人のライダー。後に残るのは、先程までワームだったもの――緑の炎のみ。
なんとか赤と青のダブルライダーから逃れたワーム達が、立川へと迫る。しかし何の問題も無い。
立川の前に立ち塞がるのは、レイジングハートを構え、呪文を詠唱する少女――高町なのは。
その刹那、レイジングハートの先端から発せられた閃光は、向かって来たワームを残らず爆ぜさせた。

「不屈の心を宿せしデバイス。レイジングハートに選ばれし人……
 不屈のエースオブエース――高町なのは」
「え……!?」
その光景をみた立川が、ポツリと呟いた。もちろんなのははそれを聞き逃さず、自分の事かと反応する。
しかし、その行動をミスだとすぐに後悔。よそ見をしている間に、一瞬の隙が生まれてしまったのだ。
もちろんワームがその隙を逃す筈も無く、すぐになのはに群がる。
だが、なのはには傷一つ与えられない。何故ならワームの攻撃は、なのはには一切届く事は無かったからだ。
風のように吹き抜けた金の閃光――
フェイトの振るうバルディッシュに斬られたワームは、まとめて緑の炎と化した。
「大丈夫……!? なのは!」
「う、うん……ありがとうフェイトちゃん」
嬉々とした表情で、感謝の意を表するなのは。
そして二人の言葉を掻き消すように、立川が再び口を開いた。

「運命を斬り裂く黄金の剣。バルディッシュに選ばれし人……
 心優しき金の閃光――フェイト・テスタロッサ」

「何……っ!?」
立川の声に、フェイトもまたその動きを止める。しかし、フェイトが立川に視線を向けた時には、立川は別の方向を眺めていた。
立川の視線の先にいるのは、ダブルカリバーを舞わせ、ワームを爆発させてゆくガタック。
ガタックが振るう青き双剣は、右、左と振り回される度に青き閃光と緑の炎を残して行く。
流れるような美しい軌跡を残しながら、ワームを殲滅して行く青い戦士――その姿、まさに戦いの神の如く。

「戦いの神、ガタックに選ばれし人――加賀美新」

「……なっ!?」
立川にその名を呼ばれたガタックもまた、なのはやフェイトと同じようにカリバーを振るう手を休める。
しかしもちろん立川がその問いに答える事は無く、今度はガタックとは反対の方角を見遣る。
その先に居るのは、数匹のワームと、クナイガン片手に舞うカブト。
薙ぎ払うように振られたクナイガンは、立川に迫ろうとしていたワームを纏めて斬り裂く。
斬り裂かれたワームが爆発することで、立川の視界に写るのは自然とカブトのみとなる。
太陽の光を受け、美しく煌めく赤いボディ――その姿、まさに太陽神の如く。

「光を示せし太陽の神、カブトに選ばれし人――日下部総司」

「……何だと?」
全てのワームを倒したカブトは、ゆっくりと体を直立させ、立川へと視線を飛ばす。
364マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/24(土) 01:42:19 ID:TCyg8qkj
言いながら、カブトは立川に歩み寄る。立川にはまだ色々と聞かねばならない事があるからだ。
まずはネイティブのこと。ワームと敵対している理由や、管理局との関係について聞かねばならない。
次にゼクターの事。何故立川は――ネイティブと呼ばれるワーム達は、ゼクターを自由に操る事が出来るのか。
……そして、ひよりのこと。天道にとって最も優先すべき、大切な妹の居場所についてだ。
それらを聞き出す為に、カブトは立川の隣に立つ。
――刹那、カブトを襲ったのは凄まじい頭痛と目眩。それこそ、常人ならば今にも意識を失ってしまう程の。
やがて立っていることすらままならなくなったカブトは、重力に身を任せ、その場に崩れ落ちた。



「うぉぉぉおおおおぉおおおおぉぁぁぁあ゙あああああああああッッッ!!!?」



そして、響き渡る悲鳴。
声の主は外ならぬカブト――天道総司。
頭を抱え、悲鳴を発しながら地べたをのたうち回るカブトに、一同は視線を集中させる。
「て……天道!?」
「天道さん……まさか……」
フェイトを除く3人は、この光景に確かな既視感を覚えた。自分達は、以前にも同じ姿を見た事があると。
ならば、この苦しみの次に待ち受けているのは――

「まさか……暴走スイッチ……!?」
ガタックがぽつりと呟いた。
そう。この苦しみの先に待つものは“暴走”。
ワームを“一匹残らず”殲滅するまで、狂ったように戦い続けるという悪魔のシステム。
それが何故カブトに組み込まれたのかは解らない。だが、事実カブトは目の前で苦しんでいるのだ。
「加賀美さん、コレって……あの時の……!」
「ああ、間違いない……暴走スイッチだ……!」
「「暴走スイッチ!?」」
なのはとフェイトが声を揃え、ガタックを見る。
しかし、ガタックの返事を聞くより早く、カブトの悲鳴は途絶えた。
再びカブトへと視線を戻す。つい先刻まで、目の前で悲痛な叫び声を上げ続けたカブトは、既に何事も無かったかのように立ち上がっていた。
状況を把握出来ないフェイトは、カブトの身を案じ、ゆっくりと近寄る。
「天道……さん?」
「危ない、フェイトちゃん!」
「……キャッ!?」
ガタックが叫ぶや否や、フェイトの体はカブトの手によって突き飛ばされた。
「な、何が……」
突き飛ばされたフェイトは、なんとかバルディッシュを支えにして立ち上がる。
訳もわからずに、低く唸るカブトを見つめる。
だが、カブトはフェイトには見向きもせずに、ただ立川だけを見詰め、前進して行く。
「まさか……立川さんを!?」
カブトの目的は立川。すぐにそれに気付くも、フェイトにはどうしていいのかが解らない。そもそも状況が把握出来ないのだから。
「加賀美さん、さっき言ってた、暴走スイッチって……!?」
「カブトとガタックには、ワームを一人残さず倒すまで、自分の意思に関係無く
戦い続ける暴走スイッチが仕込まれてるんだッ!」
「そんな……ッ!?」
説明しながらも、ガタックはカブトに組み付く。カブトの動きを止める為に。
なのはは一先ずフェイトに駆け寄りながら、ガタックの説明をに驚愕する。
「じゃあ……あの時天道さんが暴走したのは、そのスイッチのせい……!?」
「クッ……何でそんなふざけたスイッチが……!」
「そんな事俺が聞きたいッ!!」
話をまとめ、ようやく状況が読めてくる。どうやら以前カブトが立川に襲い掛かった理由は、その暴走スイッチとやらにあるらしい。
悪態をつくフェイトに、ガタックが返事を返す。
カブトはそんなガタックを振り払い、一気に立川に飛び掛かった
365名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 01:44:53 ID:IMSGF9Kl
支援
366マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/24(土) 01:53:06 ID:TCyg8qkj
同時に、立川の体はカブトの攻撃を凌ぐ為、緑の異形へと変貌して行く。
「うぉおおおッ!!!」
「……!」
右、左、右、左と、ただ相手を殺す為だけに、カブトはひたすらにその拳を立川へと打ち付ける。
その姿に普段の面影は無く、まさに暴走という二文字が相応しいと言えるだろう。
カブトのラッシュは止まる事無く、その拳は、その脚は、的確に目の前のワームを捉らえて行く。
マスクドライダーのパンチは一発で数トンという驚異的な威力を誇る。
いくら蛹であるサリスワームの装甲を持ってしても、そう何発も受け続けて良い物では無い。
このままでは、カブトに立ち向かう力を持たない立川は、間違いなく殺されてしまう。
「止めろッ! 殺すつもりか!?」
「おぉぉあああああああッ!!!」
それを阻止しようと、再びガタックがカブトに掴み掛かるが、カブトはそれを物ともせずに払い退ける。
今のカブトには、最早ガタックなど視界に映ってはいない。その目に映るのは、目の前に存在する緑のみ。
故にカブトはそれ以外には攻撃しない。ガタックを払い退けたカブトは、再び立川に打撃を与え始めた。



クロノ・ハラオウンが駆け付けた時、カブトは既に手の付けられない獣同然となっていた。
雄々しい雄叫びを上げ、ただひたすらに目の前のワームを殴り続ける。
ガタックはそれを止める為にカブトに組み付き、なのはとフェイトの二人はバインドをかけるタイミングを見計らっている。
「一体どうなってるんだ……これは!?」
言いながらも、彼方から飛来したザビーゼクターを左腕のブレスに装着し、そのまま回転させる。
同時に、ザビーゼクターはニードルが突出し、クロノの体を覆ったマスクドアーマーは一瞬で弾け飛んだ。

『Change Wasp(チェンジワスプ)!!』

仮面ライダーザビー・ワイダーフォームへの変身完了を告げる電子音が響く。
ザビーは、軽くアウトボクシングスタイルで構えた後、その鋭い蜂の複眼でカブトを睨み付けた。
走り出したザビーは、ガタックが押さえ込んでいたカブトに鋭い右ストレートを打ち込む。
「天道総司……何をやってるんだ、君は一体!?」
「うぉぉぉおおおおおおおおっ!!!」
殴られたにも関わらず、カブトはまるでダメージを受けた素振りを見せない。
それどころか、やはりザビーも視界には入っていないらしく――
「っぁああああああああああッ!!」
「なっ……天道!?」
ザビーを押し退けて、一直線にワームへと駆けて行く。突き飛ばされたザビーは訳も解らずにただ構えるしか出来ない。
ガタックは、再びカブトの行く手を阻むように現れ、レスリングを思わせるタックルでカブトの動きを食い止める。
「無駄だ、クロノ! 今の天道は……カブトは、完全に暴走してる!」
「暴走……? 何故そんなことに!?」
「話は後だ! 今はとにかく、カブトを立川から引き離せッ!」
ガタックの言葉に周囲を見渡すも、立川と呼べそうな人間はどこにもいない。
いるとすれば、自分の後方にいるワームのみ。
「(まさか、このワームが?)」
そんな話をしているうちに、ガタックはまたカブトに叩き伏せられてしまう。
状況は解らないが、今すべき事を何となく掴んだザビーは、直ぐにカブトの眼前に踊り出た。
カブトがザビーに向かってがむしゃらにパンチを打ち込む。
ザビーはそれを軽く流し、逆にパンチを打ち返す。普段のカブトのパンチならば受けるのは難しいかも知れない、
暴走してしまった今のカブトのパンチを流すのは、そう難しいことでは無い。
カブトが数歩後退した隙に、ザビーはガタックへと視線を飛ばし、言った。
「よく解らないけど……少なくとも今はそのワームは敵じゃない……
 まずはカブトを止めればいいんだな?」
「ああ、今はカブトを止める為に、立川を……頼む、なのはちゃん、フェイトちゃん!」
突然名前を呼ばれた二人は、慌てながらも咄嗟に頷く。
すぐになのはが立川ワームの手を引いて、フェイトが立川を護衛するように陣取る。
「ありがとうございます……なのはさん、フェイトさん」
なのはに手を引かれた立川ワームは、輝きながらその姿を人間へと変えて行った。
立川は一言礼を言うと、カブトにやられボロボロになった体に鞭を打ち、フェイト達と一緒に走り出した。
367マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/24(土) 02:00:55 ID:TCyg8qkj
立川の姿は見え無くなったが、それでもカブトの暴走が止まることは無かった。
標的はもう居ないというのに、暴走は終わらない。故に無差別にガタックとザビーを殴り続ける。
ガタックがカブトに跳ね退けられれば、ザビーが前に出る。その逆の場合はガタックが前に出る。
それを繰り返し、暫しの時が経過した。一向に止まる気配を見せないカブトに、ザビーはパンチを打ちながら再び呼びかけた。
「天道……天道総司っ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
「チッ……」
カブトの攻撃を受けては流し、受けては流しを繰り返す。
さっきまでは暴走したカブトなど恐れるに足らず……等と考えていたが、今ならそれを否定出来る。
そう。体力に関係なく暴走しているカブトが相手では、自分の意思と力で戦うザビーの体力が先に尽きるのは明白だからだ。
やがてカブトは、ザビーから一瞬離れ、咆哮した。同時に、聞き慣れた電子音が
ザビーの耳に聞こえて来る。

『One,Two,Three――』

「……ッ!?」
「うぉおおおおおおおおおおおおッ!!!」
ベルトのゼクターホーンを倒し、もう一度起き上がらせる。
カブトゼクターから放たれた電撃は、真っ直ぐにカブトの頭へと上って行く。
「止めろッ! 天道ぉーーーッ!!」

『Rider Kick(ライダーキック)』

ガタックの叫び声が聞こえる。それでもカブトは止まらない。
最早カブトの耳にはどんな言葉も届かないのだろう。
ザビーの視界に入るカブトは、瞬く電撃を右足へと集束させ、一直線に走って来る。
「(カブト……!)」
しかしザビーは逃げる事無く、真っ直ぐにカブトを見据える。
それは逃げても無駄だと考えたからだ。言葉が通じないなら、無理矢理にでも止めるしかない。
少々捨て身の方法かも知れないが、今のカブトを止め、天道を救う方法は、一つしか浮かばなかった。
「天道総司……君は、フェイトの命を救ってくれた。兄として、そのことには感謝してる……」
接近するカブトに、ザビーが呟く。足を踏ん張り、左腕を顔の前へと移動させる。
自分にとってたった一人の妹の命を、体を張って救ってくれた天道。
クロノはいつの間にか、心の何処かでそんな天道を尊敬していたのかも知れない。
いや。兄として、人間として……認めたくは無いが、尊敬はしていたのだろう。
だからこそクロノは、天道のこんな哀れな姿を、これ以上見ていたく無かった。
「だから……今度は僕が君を救う……! その呪縛から解放して見せる……!」
「おぁぁあああああああああああッ!!!」
ザビーのすぐ眼前にまで迫るカブト。跳び上がり、右足を大きく振りかぶる。
対するザビーは、光り輝く左腕を構えたまま、カブトを食い入るように見詰める。
次の瞬間、カブトの輝く右足は、ザビーの左肩に振り下ろされた。
「……クッ!!」
激しい痛みがザビーを襲う。
それでも、ザビーは逃げなかった。
目の前の男を救う為に――借りっぱなしの恩を返す為に。

「ライダー――……」

ザビーの仮面の下、クロノは痛みに耐えながら、その口をゆっくりと開いた。
刹那、ザビーの二つの複眼が橙色に輝き、頭の頂上まで上った電撃が左腕へと帰って行く。
そして、力の限り叫んだ。
カブトの中で眠っている天道の脳にまで響き渡る程の大声で、天道を救う技の名前を。

「――スティングッ!!」

『Rider Sting(ライダースティング)!!』
368マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/24(土) 02:09:02 ID:TCyg8qkj
 
そして、真っ直ぐに伸ばされた左腕は、ザビーのゼクターニードルは、カブトの赤い装甲に突き刺さった。
「が……あぁ……ッ!?」
「カブト……これで……!」
刺さったニードルから、瞬く閃光が迸る。
カブトはゆっくりとザビーから離れ、胸を押さえながら膝をついた。
「あ……あぁ……」
か細い声をあげながら、カブトの体を覆うヒヒイロノカネは光となってカブトゼクターに還元していく。
こうして装甲が消えることで、カブトから解放された天道総司がその姿を見せた。
「「天道ッ!?」」
ガタックとザビーもまた、それぞれの変身を解除し、天道へと駆け寄る。
力無く崩れ落ちた天道は、二人の呼び掛けには答えずに、虚ろな瞳で空を見上げる。
「天道、天道ッ!!」
倒れた天道の肩を、加賀美が揺さぶる――
どうやら天道の意識を引き戻すのにそれほどの労力を必要とはしなかったらしい。
天道は直ぐに加賀美の襟元を掴み、起き上がった。



「俺は……ッ!?」
「……ッ!?」
意識を取り戻した天道は、目の前で自分を揺する加賀美に、目を見開いた。
自分が何故こんな状況に陥っているのか。
最初は訳が解らなかったが、自分の意識が途絶えた場所を思い出し、直ぐに理解。
その答えは簡単だ。恐らく自分はまた、“暴走”してしまったのだろう。
加賀美の顔を自分に引き寄せ、目を剥き出した天道は、ハァハァと肩で息をしながら喋り出した。
「俺は……俺はまた……! 暴走してしまったのか……ッ!?」
「天道……お前ッ!!」
答えは解っているというのに、問わずにはいられなかった。恐らくは自分の推測をより確かな物とする為にだろう。
すると加賀美は、逆に天道の胸倉を掴み、無理矢理起き上がらせ、揺さ振りながら怒声を浴びせる。
「お前はッ! 俺とクロノの制止も聞かずにッ! また立川に襲い掛かったんだよッ!!」
「そんな……また……俺は……」
か細い声で呟きながら、天道は加賀美から目を反らす。
ゆっくりと首を回した天道は、そこに膝を付いて自分を見詰めるクロノを発見した。
「……お前は……」
「はぁ……まさか、ワームを倒しに来て、カブトと戦う羽目になるとは思わなかったよ……」
左肩を押さえながら、苦笑気味に喋るクロノ。押さえた掌からは真っ赤な血が流れ、クロノの黒い服に染みを作っている。
「まさか、その傷は……」
「気にしないでくれ。これくらいの傷なら、手当てをして安静にしておけば直ぐに治る」
天道は直ぐに理解した。これは自分が与えた傷。恐らくは、ライダーキック級の攻撃で与えてしまった物だろうと。
そう考えると、無性に腹が立つのを感じた。暴走スイッチが働いたとは言え、カブトの力を制御出来なかった自分自身に。
加賀美の手を振り払った天道は、ゆっくりとクロノの前へと歩み出た。
「……お前が暴走した俺を止めたのか?」
「……まぁね。まさか、僕がここまでいい奴だったなんて、自分でも思わなかったね」
少し嫌味な口調で言うクロノ。ザビーになってからだんだんと性格が捻くれている気がするが、まぁ気のせいだろう。
クロノの言葉を聞いた天道は、そっとクロノに手を差し延べた。
「……?」
「よく……俺を止めてくれた。感謝する」
天道の顔をちらりと見た後、クロノは軽い笑みを浮かべながら天道の手を掴んだ。
「……止めてくれ、君らしくもない」
クロノの言葉を聞いた天道は、不思議な感情を抱いた。
何故だか、心が温まるような、不思議な感情。それも悪くない……と、微笑む。
クロノを引っ張り上げ、立ち上がらせると、天道はすぐに加賀美に視線を飛ばした。
「天道、お前……もう大丈夫なのか……」
「加賀美……その話は後だ。今はまず立川を探し、ひよりの居場所を聞き出す……!
 クロノは戻って、その傷の手当てをしろ。治ったら、今度何か美味い物でも御馳走してやる」
それだけ言うと、天道は二人の返事も聞かずに、走り出した。

やがて天道について加賀美も走って行く。二人が立ち去るのを見送ったクロノは、小さく呟いた。
「天道……お前、その制服を一体どこで手に入れたんだ……?」
369マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/24(土) 02:11:59 ID:TCyg8qkj
 





スーパーヒーロータイム
「NEXTSTAGE〜プロローグ・V〜」

「おい、奴は一体なんだ?」
街の小さな喫茶店、花鶏の店内で、短い髪の毛を立たせた、長身な男――秋山 蓮が言った。
蓮の言う“奴”とは、外ならぬプレシア・テスタロッサの事だ。
「いや、だってほっとけないだろ? 記憶無くしてるらしいし、なんか危なっかしいし……」
それに対し、典型的なお人よしである城戸真司が、テーブルを雑巾で拭きながら答える。
「だからと言って、何故うちで預からなければならん?」
「うちって……お前だって居候だろ」
嘲笑うように小さく指差す真司の手を、パシッと払いのける。
蓮に手を叩かれた真司は、眉をしかめて蓮を睨む。
対する蓮も、顔をしかめて真司の顔を覗き込むように睨み付けた。
……まぁこの二人はいつもこんな感じだ。

一方でプレシアは、花鶏の二階……自分に与えられた仮の自室で、思考を巡らせていた。
何か、大切な事を忘れているような気がするのだ。絶対に忘れてはならない、大切な事を……。
ふと、プレシアの脳裏を過ぎる金髪の少女。髪の毛を二つに括った、所謂ツインテールという髪型。
頻繁に脳裏に浮かぶその姿。だが、その少女が何者なのかはさっぱり解らない。
「誰なの……貴女は……」
考えれば考える程、頭が痛くなる。思い出せそうなのに、思い出せ無い。
自分にとって、何か大きな存在というのは間違い無い。
それなのに、どうしてもその金髪の少女の正体が思い出せないのだ。
「はぁ……」
頭痛がピークに達した事で、プレシアはこれ以上考えるのを諦めた。
ややあって、ポケットから取り出したのは、美しく輝く緑の石。
いびつな形をしてはいるが、恐らく磨けば宝石のように光り輝くであろう。
気付いた時からずっと持っていたその石を、プレシアは太陽に透かして眺めていた。

To Be Continued.
370マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/24(土) 02:16:33 ID:TCyg8qkj
中編、投下終了です。
えー……最後の方がgdgdになって何か急展開になってしまうのは相変わらずですねorz
最後の方のクロノの台詞はTHE FIRSTの一文字の台詞を少し改変して使わせて頂きました。
FIRST・NEXTは多分出ません。出したいとは思いますが、これ以上gdgdになるのもどうかと思うので……。
今後出る可能性があるとすれば、当初の予定には入っていた筈のZOあたりかと。
後編は明日――正確には今日――中には投下します。
371名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 10:30:16 ID:eOE7PbLc
乙!
まさか感謝されるのが加賀美ではなくクロノとは意外…
原作にはなかったですけど暴走スイッチ対策が気になります
372一尉:2008/05/24(土) 13:30:43 ID:zVJzDL4b
暴走スイツチス支援
373反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2008/05/24(土) 13:44:14 ID:iP+Uiea8
どうも、実は風邪を引いていて体調の芳しくない反目です。
ウロスで書くと言った一発ネタが出来上がったので、2時頃に投下してもよろしいでしょうか?
374名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 13:47:50 ID:zLDUnG6v
GJ!!です。
アンデットの暗躍が気になりますw立川はどうなるのだろうか?
375名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 13:49:36 ID:GKeoxlIl
>>373
カモンベイビ〜♪
376反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2008/05/24(土) 14:00:04 ID:iP+Uiea8
そこは虐殺の現場だった。

夜の闇の中、純白のバリアジャケットをはためかせ、大地へと降り立った高町なのは一等空尉は、思わず強烈な腐臭に鼻を覆う。
へし折れたデバイス。倒れ伏す局員達。そして足元に広がる血溜まり。
さながら真紅の海に魔導師の死骸達が浮いているような、そんな光景。
あまりにも凄惨な周囲の様子に、なのはの瞳は驚愕に見開かれた。
同時に、喉元にこみ上げてくる吐き気。うっと声を漏らしつつも、その不快感をぐっと堪えて飲み込む。
ここに死体達しかいなければ、そのまま一気に嘔吐してしまった方が楽だったろう。
しかし、そんな隙を見せるわけにはいかなかった。
なのはの視線の先には――何かがいる。

それは、言うなれば巨大な獣だった。

筋骨隆々とした肉体は、全身がびっしりと白い毛皮で覆われている。
白銀の身体の中で、後頭部から腰まで伸びたたてがみが、瞳と共に金色に輝いていた。
右腕は黒い。まるで包帯か何かのように、ぐるぐると漆黒のベルトが巻きつけられている。
よく見れば、そのベルトはその他の部位にも巻かれていた。
割れた腹筋に、鍛え上げられた四肢に、黒いラインが映えている。
そしてその巨大な獣は――2本足で、がっしりと地面を掴んで直立していた。
「狼の、おばけ……?」
眼前に立つ猛獣を前に、なのはは率直な感想を漏らす。
広大な次元世界を守る時空管理局に所属しているのだから、
いつかはこんな化け物じみた外見の輩とも出会うだろうということは覚悟していた。
しかし、いざ相対してみるとなると、やはりその異様な風体にひるんでしまう。
目の前のそれは、普通のそれは愚か、盾の守護獣ザフィーラとも、明らかに異なった体格を有していた。
顔は紛れもなく狼なのだが、その丸太のごとき強靭な両腕は、むしろ人間のそれに近い精巧な構造。
かと思えば、大地に立つ両足はれっきとした獣のそれのような関節をなしている。
まさしく人狼とでも言うべき、奇妙な存在だった。
「――ひどい言い様だな」
「!!?」
不意に、目の前の狼が口を利いた。
どう見ても獣のそれの形である口が、野太い人間の声を器用に紡ぐ。
それどころか、その表情はどこか苦笑いを浮かべているようにさえ見えたのだ。
突然の出来事に驚き、なのはは反射的にレイジングハートを構える。己が信頼する、10年来の相棒を。
「貴様も管理局の魔導師とやらのようだな」
白銀の人狼は、しかしおくびも怯えた様子もなく、堂々とした厳つい声を放つ。
全身から滲み出る、獰猛な気配。並大抵の人間なら、視線を合わせただけで萎縮してしまうようなオーラ。
百戦錬磨の強者の纏う空気に、頬に嫌な汗を伝わせつつも、なのはは毅然として口を開く。
「ここで感知されたロストロギア反応を追って来ました、高町なのは一等空尉と言います」
ごくり、と唾を飲み干した。
こうして言葉を交わしているだけでも、息が詰まりそうになる。
これまでに感じたことのない、圧倒的なまでのプレッシャー。
単純に強いというだけではなく、この人ならざる外見もまた、体感する威圧感を増幅させているのだろう。
「やはり、貴様も目当てはこれか」
ベルトに覆われた右手を開く。
大きな手のひらの中には、小さな白い物体があった。剣のように尖った先端に、透き通るような球体をあしらった円形の尻。
全体的に見れば、どこか鍵を連想させるようなシルエット。
決まった。
なのははより一層険しさを増した表情で、眼前の狼を睨む。
ロストロギア回収に向かった先遣隊達――足元に倒れた10人の魔導師達の応援要請を受け、彼女はここまで駆けつけた。
そして、その要請のきっかけとなった敵の正体は――コイツだ。
たった1匹の人狼が、管理局の空戦魔導師達10人を、全くの無傷で虐殺したのだ。
377反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2008/05/24(土) 14:01:20 ID:iP+Uiea8
「どうかそれを預からせてください」
沸々と湧き上がる怒りを抑えつつも、なのははつとめて冷静に要求する。
こちらは元より争うつもりはなかった。ロストロギアと思われるそれの調査さえできれば、それでよかったのだ。
しかし、この獣はそれを無視し、理不尽にも局員達を嬲り殺した。大方そんなところだったのだろう。
「渡せんな。これは俺にとっては、大事な交渉道具だ」
人狼は頑として拒否。
全面的にこちらを信用していない様子が、明らかに見て取れた。
「調査が済めば、ちゃんとお返ししますから……」
なのはは尚も懇願する。
次の瞬間、人狼から返ってきた答えは――
「っ!!!」
鋭利な爪による一閃だった。
アクセルフィンを展開して、反射的に背後へと飛び退る。
漆黒の右腕を振り下ろした狼の爪からは、鮮血にも似た赤に輝く、鋭い爪が伸びていた。
「そんなに欲しければ……」
言いながら、人狼は更に左手からもその凶刃を伸ばす。
膨れ上がる殺意。躍動する筋肉。風に揺れる黄金のたてがみ。
「実力で奪い取ってみせろ!!!」
咆哮と共に、両の爪が襲い掛かった。
強烈な加速と共に、なのはよりも遥かに巨大な体躯が跳躍し、彼女に向かって殺到する。
彼女は飛行魔法を行使して上空に浮いているというのに、相手はものの一跳びでほぼ互角の高さにまで迫ってきた。
常識外れのジャンプ力に驚愕しつつも、なのはは防御魔法を展開。
桃色のミッドチルダ式魔法陣が展開され、真紅の刃を真っ向から受け止めた。
「く……!!!」
重い。
シールド越しに伝わってくる、強烈なまでの圧力。
さながらあの鉄槌の騎士の攻撃を受けているかのような、驚異的なパワー。
これだけの威力を素手で発揮するというのか。レイジングハートを握る手に、じわりと汗が滲んだ。
そして至近距離からこちらを睨みつける、ナイフのように鋭い、凶暴な眼光。
ぎらぎらと金色の瞳を光らせて、自分の命を狙っている。
それから逃れるように強引に攻撃を振り払い、再び間合いを取る。
コイツは強い。おまけに怖い。一瞬たりとも気を抜けば、あっという間に命を持って行かれてもおかしくない。
根源的な死の恐怖が、視線の先で白い狼の姿を取っているような錯覚を覚えた。
ロードされる魔力カートリッジ。弾け飛ぶ空薬莢。足元に顕現する魔法陣。
魔導師の杖の先端に、膨大な桜色の魔力光が収束される。
こちらは近距離戦もろくにこなせない砲戦型。対するは、空中に逃げても追って来られるだけの身体能力を持った格闘型。
長引けばこちらが不利になる。ならばそうなる前に、全力全開で叩き潰すしかない。
「ディバイィィィィーン――」
照準をセット。目標、地上に着地した人狼。
局員達の成れの果てを巻き込んでしまうことが、なのはの良心を苛んだが、そんなことを言っていられる状況ではなかった。
「――バスタアアアァァァァァァァァーッ!!!」
絶叫と共に解放される、絶大な魔力。あらゆる敵を打ち砕く、エース・オブ・エースの必殺技。
極太の魔力が、さながら光線のように一直線に発射された。
桜色に輝く砲撃が、凶悪な獣目掛けて襲い掛かる。
血の海と化した赤黒い大地を震わせながらも、しかし標的はそれを横っ飛びで回避する。
やはりそう簡単には当たらないか。
内心で歯噛みしながら、なのはは改めて眼下の人狼を見据えた。
とにかく相手は足が速い。砲撃魔法にはチャージ時間というタイムラグがある以上、これでは普通に撃ってもかわされてしまう。
ならばどうするか。決まっている。どうにかして足を止めるしかない。
378名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 14:01:36 ID:0SjFGO+a
支援
379反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2008/05/24(土) 14:02:27 ID:iP+Uiea8
「大した威力だな」
どうやら今のディバインバスターは、この人狼に対してある程度の衝撃を与えたらしい。
不敵な笑みを浮かべながら、素直な賞賛の言葉を送る。
そして振り上げられる、漆黒の腕。なのはの上空で響き渡る、轟音。
はっとして上を向けば、そこには巨大な岩塊がある。
いつからそこにあったのか。どこから運ばれてきたのか。はたまたたった今作られたものなのか。
「マグナス!!!」
雄たけびと共に腕を振り下ろす人狼。
同時にその岩が、必殺の重量と速度を伴って落下した。
命中すれば即座にあの世逝き間違いなしの、強烈な一撃。当然、なのはは全速力でそれを回避する。
そのまま岩塊は地面に落ち、下にあった管理局員達の屍を容赦なく押し潰す。
ぶちぶちという、筋肉のすり潰れる生々しい音。吹き上がる真紅のしぶき。
この上なくグロテスクな光景に、なのはの眉がひそめられた。
そしてそこへ、あの人狼が再び迫る。
マグナスを回避したことで崩れた態勢の隙を突き、一気に跳び上がって、高度の落ちたなのはの元へと肉迫する。
鋭い爪が鎌首をもたげ、エース・オブ・エースの純白のバリアジャケットを血塗れに染めるべく振り上げられた。
こちらの瞳を覗き込む、金色の殺意の視線。
「くぅっ!!!」
――やられる。
渾身の力を振り絞って、思いっきり身体をよじって攻撃をかわす。
それでも完全に回避するには十分とは言えず、バリアジャケットの右肩口が切り裂かれた。
このまま追撃を食らうわけにはいかない。アクセルフィンを加速させ、全速力で退避。
それを追うように落下する人狼が、再びその凶刃を叩き込む。
斬、と。
回避したなのはの背後にあったマグナスの大岩塊が、ただの一撃で真っ二つに両断された。
こんなもの、一撃でもまともに食らってはひとたまりもない。
自身の身体が引き裂かれる様を想像し、なのははぞっとした。
その思考を振り払うように、レイジングハートの周囲に桃色の魔力弾を複数生成する。
「アクセルシューター!!!」
気合と共に、魔力のスフィアが人狼目掛けて一斉に射出された。
追尾能力の高いアクセルシューターは、それら全てが複雑な軌道を描き、時間差で対象へと襲い掛かる。
「ふん!!!」
それら全てが命中することなく、あの必殺の凶刃に次々と打ち落とされていった。
だが、これでいい。
相手の足を止めるという目的は果たされた。この隙にもう一発ディバインバスターを叩き込み、それでノックダウンさせる。
再びなのはが聖なる砲撃を放つために、カートリッジをロードしようとした、その瞬間、
「――っ!!?」
それらは現れた。
2人の戦闘に割って入るように、空気を切り裂く音を上げ、楕円形の物体が飛んでくる。
徒党を組んで襲来した金属の塊は、ここ最近ロストロギア・レリックを追って、頻繁に現れるようになった無人兵器。
なのはの注意が、そして狼の視線もまた、同時にそちらへと向けられる。
「ガジェットドローン!!?」
まさかあの人狼が持っていたロストロギアの反応を察知してやって来たのか。
そんな思考と共に、なのはがその名を呼んだ。
そして、件の鍵は目の前の相手が持っている。当然どちらが狙われるかは、目に見えていた。
「危な――」
反射的に叫んだ瞬間、ガジェットの一斉射撃が、人狼へと撃ち込まれる。
灼熱のレーザーが雨となって襲来し、猛烈な大爆発を起こした。
爆炎と爆煙が同時に巻き上がり、足元の死体を焼き、人狼を包み込む。
あれだけの攻撃をもろに食らっては、さすがにただでは済むまい。そんな思考が、なのはの脳裏に浮かんだ。
380反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2008/05/24(土) 14:03:48 ID:iP+Uiea8
――その瞬間だった。
強烈な轟音と共に、黒煙が一瞬にして引き裂かれる。
炎を掻き分けて猛然と突っ込む、白い影。煙の中で爛々と輝く、黄金の目。
「この程度の攻撃で俺を倒せると思ったか!!!」
大気を震わせるほどの怒号。
本能的に敵意を察したのか、真紅の爪が月光に煌き、ガジェット達へと振り下ろされる。
「ぬるいわ!!!」
鋼鉄のボディが両断される。冷たい装甲が噛み千切られる。
見渡す限りのガジェットの大軍が、みるみるうちにその数を減らしていった。
闘争の中心にあった人狼は、傷一つ負っていない屈強な肉体を躍動させ、有象無象の兵器達を蹂躙していく。
鮮血のごとき赤い爪。
瞳の残光が軌跡を描くかのような錯覚。
暴力的なまでの力を振りかざし、凶暴なまでの殺気を振りまく、白銀の狼。
それを象徴する言葉は、
「……悪魔……」
我知らず、なのははぽつりと呟いていた。
襲い掛かるガジェット達を破壊しつくし、血とオイルに濡れた両手を広げ、凶悪な人外の化け物は月に吼える。
宵闇の中で燦然と輝く、あの魔性の満月に向かって。
それはガジェット達に向けたものだったのか、はたまたなのはに向けたものだったのか。
あるいは、彼を取り巻く全てのものに向けられたものだったのか。
無数の死体と鉄屑の浮いた血の海の中で、白い悪魔が咆哮した。



これは、高町なのはが本局遺失物管理部・機動六課へと入隊する、ほんの数ヶ月前の物語。



血肉の臭いが立ち込める戦場で、「管理局の白い悪魔」と怖れられた少女は。
かつて、遠い魔界の大魔王軍にて「白い悪魔(ディアブロ)」と称された、その男と出会った。






「俺を――殺してみろ!!!」






魔法悪魔リリカルフェンリル ―二人の白い悪魔―



――始まってたまるかコンチクショウ。
381反目のスバル ◆9L.gxDzakI :2008/05/24(土) 14:04:55 ID:iP+Uiea8
投下終了。
というわけで、「児童誌のベルセルク」こと漫画版「真・女神転生デビルチルドレン」より、
「ぬるいわ!!!」が口癖なスプラッタ魔神のフェンリルさんです。
参戦時期(?)はサンドランドに入る少し前、といったところ。
連載? できるわけないよこんな危険人物。こんなのが六課に来たらまさに数の子血の雨ヒャッハーだよ(ぇ

というか、最近自分は凶キャラばっかりミッドに放り込んでるんじゃないかと心配だったりする……
セフィロスだったり殺生丸だったり、フェンリルだったり……

あと、やたら「!!!」が連発されてるのは言わば原作オマージュなんで、そこんとこはあんまりツッコまないで(ぉ
382名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 14:19:25 ID:quxY3sTa
漫画版デビチルのフェンリルはこんなにかっこいいのか…
アニメじゃやられ役のオカマなのにwww

なにはともあれGJ!
383名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 14:23:45 ID:4AO+75Nv
GJ!!!
フェンリル対ナンバーズが見たい!!!
384名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 14:50:25 ID:xj9SpA/r
>>381
うわあああ懐かしすぎるよフェンリルううううううう!!
昔はマンガ全巻持ってたんだけど全部売っちまったお・・・
コレ見たら見たくなっちゃったじゃまいかorz

とりあえず反目氏はGJでござる。
385名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 15:28:04 ID:WYxYUuem
天使との最終戦争もちゃっかり生き残ってるんだよね彼。
後にゲーム方をやってそこまで強くなかった事に失望した覚えが……
386名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 16:52:42 ID:QqPS6/et
GJ!
でも、この時点でフェンリルの持っている白の鍵ってノルンの鍵の贋作だったような?
たしか、虹色の鍵以外はダミーで何の力もないという記憶が
387名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 16:56:37 ID:juIFS3KK
>>386
一応僅かでも何らかの反応はあるんじゃない?
388名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 17:26:48 ID:c7ItRjOl
ヴォルケンリッターが、あの作品のキャラ達だったら〜
って感じのスレってココで合ってる?
389名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 17:37:36 ID:eANzj3O/
びみょう
390名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 17:40:34 ID:iF75YMsv
メタルギアソリッド2で一発小ネタ投下したいんですが、おkですか?
391名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 17:41:18 ID:GKeoxlIl
>>388
そういう質問はウロスで聞いた方が良いんじゃない?

でも俺としては、ヴォルケンの立ち位地にクロスキャラ入れるってんならここで問題は無いと思うけど。
392名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 17:42:11 ID:GKeoxlIl
>>390
迷わず投下するが吉。
聖王のゆりかご深部――

「茶番はおかしいものでしょう?」
「もう少し見ていたかったけど時間が無くなってきたわ。そろそろ終わりにしましょう」
「貴女たちが今までやってきたことは、全て我々が計画した演習だったのよ」

「F計画とは――使い魔を超える人造生命の作成、だったかしら?」
「だが、それはジェイル=スカリエッティが組み上げた基礎理論を
 プレシア=テスタロッサが発展、完成させたもののことではないわ」
「スカリエッティ。貴方が自分の意思で起こしたと思っているこのテロこそが、
 そのための演習だったのよ。PT事件や闇の書事件を再現するためのね」

「管理局上層部の暗躍、特異性を持つ新入隊員たち、そして闇の書を模したレリック……。
 それらが全て偶然だと本当に思っていたの?」
「ゼストやメガーヌの蘇生は『最高評議会』の指示。
 スバルたちを八神はやてにスカウトさせたのも私の情報操作によるものよ。
 これが演習だと気づいたレジアス中将は自分の役割を忠実に演じてくれたわ……」
「あのヴィヴィオは闇の書の再現。でもそれだけではないわ。
 管理局から『最高評議会』の情報を削除するための引き金でもあった」
「あんな脳髄の集まりが管理局の中枢だと本気で思っていたの?
 スカリエッティ、貴方の目論見はとっくに挫かれていたのよ」
「ルーテシアは違う、彼女はこちら側の人間……母親の蘇生と保護を条件に雇った試験官よ。
 新米どもの仕上がりを確かめ、本演習に進めるかどうかを判断するためのね」
「彼女がエリオらを撃破すればその時点で演習は終了、
 そういうことだった。この演習に失敗は許されないからね」

「ある状況であるストーリーを背負わせる、
 そうすることで誰でもフェイトやなのはになれる……。
 そこまでいかなくとも、新兵でも老兵の戦果を挙げることができる……」
「即席で最強の兵士……その練成プログラムを作るためのデータ収集が目的だった」
「貴方も、ナンバーズも、六課も……シミュレーションを行うための
 駒として配置されたにすぎないのよ」
「スカリエッティ。貴方とナンバーズが選ばれたのは、
 貴方たちの関係がはやてと闇の書に酷似していたからよ」
「そしてそのナンバーズが闇の書事件でフェイトやなのはと闘ったヴォルケンリッターの役よ。
 ヴォルケンリッターに匹敵する戦闘集団はナンバーズをおいて他になかったからね」
「貴方達と六課を闘わせるためにありもしない予言の話をでっちあげた。
 いえ、それだけではないわ。八年前、ゼスト隊を闇に葬りさった時から
 計画は始まっていた。スバルの母親の抹殺もその一部よ」
「より遡るならコード『アンリミテッド・デザイア』による
 ジェイル=スカリエッティの誕生そのものだけど。
 それを仕組んだのが『最高評議会』のように見せて、憎悪を煽ったのよ」
「貴方は我々の思惑通り復讐に走ってくれた……」



――ちなみにこのティアナ、幼少時にある作戦中に欠損した右手を、
『最高評議会』が極秘に亜空間から回収したアリシアの肉体で補ってます。
394名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 18:10:04 ID:NYs+jO/I
ティアがオセロットかよw
395名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 18:12:37 ID:gJe7ZNAI
スネークと雷電が誰なのか気になる。
396名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 18:21:40 ID:NYs+jO/I
>>395
スネーク=スバル
雷電=エリオ
だと思うな。
397名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 18:23:56 ID:gJe7ZNAI
>>396
ありがとう。スバルに渋さが加わった。
398名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 19:06:10 ID:nAAG5q4D
>>396
>スバル  バンダナ的に合うなww
399名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 19:10:46 ID:uYiGLzy8
>>396
スバル「性欲を持て余すよ〜」
ソレは我々の台詞だ!
400名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 19:32:04 ID:PJquasrn
スバル「うまい! うますぎるぅ〜!」
ティア「もう少し落ち着いて食べなさい」
401一尉:2008/05/24(土) 20:15:36 ID:zVJzDL4b
コリラコンボイ「うまいほーいうますぎるほーい」

ティア「アンダ誰ですか」
支援
402なのは×終わクロ ◆WslPJpzlnU :2008/05/24(土) 20:56:32 ID:IOGfNoS2
昨日振りです。
後編も調整を終えたので投下を希望〜。9時15分ぐらいから投下して良いですか?
403名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 20:59:30 ID:3RQhtBIr
いいともっ
404高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 21:00:01 ID:+TNVwu6D
こんばんわです。20日振りです。
前回、代理投下をして頂き、誠にありがとうございました。

なのは×終わクロ様、お待ちしております。

自分は22時30分頃、ラクロアを投下したいと思います。
よろしくお願いいたします。
405名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 21:05:12 ID:NYs+jO/I
MGSネタなら、3が一番ネタにしやすそうだが…
406ミッドチルダ4〜千年竜王〜 後編 ◆WslPJpzlnU :2008/05/24(土) 21:18:07 ID:IOGfNoS2
んじゃ投下しまーす。


「――ふざけんなッ!! 絶対嫌だ!!!」
 強い拒絶が響いた。だがそれは、ギンガのものでもルーテシアのものではない。
 誰だろうか、と思い、ギンガは通路の先を見る。叫ばれた声には激情とも呼べる程の力があった。それが為されたという事は、
……声の主は、拒みたい状況に直面している……?
 どうしたのだろう、と思い、行かなければ、とも思う。故にギンガは確認に走ろうとした。
「この声」
 だが、ルーテシアがそれに先んじる。
「ちょ、ルーテシア!?」
 制止を無視してルーテシアは疾走、ギンガはその後を追う形となった。
 今までの印象と異なる、能動的なルーテシアにギンガは驚く。さっきの叫びが原因なのは明白、大事な誰かなのだろうか、と推測する。
 閉口した自動扉を幾つか横切り、やがてギンガはルーテシアに追い付こうとしていた。だがその頃には、一つだけ開け放たれた扉にルーテシアが迫る。
……声がしたのは、あそこの中よね……
 誰がいるのだろう、と思った所で、ギンガは二つの感覚を得た。
 自動扉の奥から感じる、仄かな赤い光と暖かさだ。そして暖かさは次第に強まり、熱さへと変わる。
「――ルーテシア、駄目ッ!!」
 即座の判断でギンガは最高速度、強く踏み込んでルーテシアへと飛びかかった。小さな体を懐に押し込み、押し倒すように自動扉の前を通過する。
 出入り口から火炎が吹いたのは、その直後だった。
……熱い……ッ!
 横方向への火柱を背後に、ギンガはルーテシアを下敷きに伏せる。炙られる様な痛みが背中に広がった。スカートから露出する両脚に至っては、皮膚を引き剥がされる様な痛烈な感覚だ。
「ぁ」
 瞼が閉じられ、ギンガの唇は稚拙な声を零した。
 閉じられた視界の中で、今時分がどんな顔をしているのだろう、とギンガは思う。苦痛だろうか、だとしたらルーテシアにはそれを見ないで欲しい、とも。
……自分のせいで苦しんでいる、なんて思わないで……
 そして何時しか、背後から熱量を感じられなくなった。
「……ぅ」
 常温の大気を冷たいと感じつつ、ギンガはルーテシアを抱き締める両腕を解いた。掌を床に突き立てて身を起こし、視界を開けば横倒しのルーテシアが見える。
「大丈夫?」
「ん」
 ギンガは膝立ちとなり、ルーテシアも浅く身を起こした。その様子に、怪我が無いようだ、とギンガは安堵する。
 そして振り返り、ギンガは炎が消失した事を確認した。高温の余韻か大気が揺らいでいたが、焼かれた筈の床や向かいの壁には目立った損傷は見られない。
 これも新・轟天号の内装たる由縁か、と思い、ギンガは直立する。
「一体何が起きたのかしら?」
「アギト」
 疑問にルーテシアの声が答えた。
 え? と見た先でルーテシアは起立、その無表情には僅かな心配が浮かんでいる。
「さっきのはアギトの声。多分、今の炎も」
 アギトという名はギンガにとって、知識の中にしか存在しないものだった。直接の面識は無く、名前と素性も、機動六課に配属される際に聞かされたきりだ。
……確か、ルーテシアと一緒に保護されたユニゾンデバイス。そしてシグナムさんの……
 と思い出した所で、自動扉から小さな影が飛び出した。
 それはギンガの目線辺りを通過する高度、こちらの脇を通り抜けようとして、
「アギト!」
 僅かに抜けた所でルーテシアが呼び止める。その声に影は止まり、容姿をギンガに明示した。
 それは掌に乗るほどの小さな少女だ。赤い髪を四つの房に分け、こちらへ向いた背には深紅の羽や尾を生やしている。着るものは拘束着に似るが露出度は高く、色白な幼い体躯を晒していた。
 その容姿にギンガは、小悪魔のようだ、という印象を受ける。
……この子がアギト……
 確かに同じユニゾンデバイスとして、リィンフォースUと相似性のある少女だった。
 やがてアギトはゆっくりと身を回し、こちらへ前面を向ける。そうして見えるものはアギトの顔立ち、吊り上がり気味の双眸がこちらを見定めた。
「……ルー」
 だがその目元には水滴が乗っている。眉は下がり、表情は力無いものだった。
 泣いてたのか、とギンガは思う。それはルーテシアも同様だったようで、
「アギト、どうしたの?」
407ミッドチルダ4〜千年竜王〜 後編 ◆WslPJpzlnU :2008/05/24(土) 21:19:12 ID:IOGfNoS2
 と、心配を滲ませた声を紡ぐ。だがそれに答えたのは、アギトではなかった。
「ひどいなぁ、アギト」
 それは戯けを調子を含んだ男性の声色。ギンガはその声に聞き覚えがある。
「突然炎を出すなんて、ひょっとしたら死んでしまったかもしれないよ?」
 故に渋面を作り、全身から不快を滲ませた。出来れば会いたくなかった人物、しかし会ってしまった以上無視する訳にも行かず、ギンガはその人物の名と共に振り返る。
「Dr.、ジェイル・スカリエッティ」
 振り返った視界は、出入り口の前に立つ一人の男を捉えた。
 紫の豊かな髪に日焼けを知らない色白な肌、怜悧な目つきには金の瞳がある。紺のスーツに白衣が羽織られていたが、彼の体躯が細身である事は窺い知る事が出来た。
 スカリエッティと呼ばれたその男は、こちらを見て目を丸くする。おや、と口を丸くし、
「ルーテシアにギンガ君、どうして君達がここに?」
「……通りがかりですよ、Dr.」
 正直話したくないんだけれどね、というのは内心だけの意見だ。
「そうなのかい? じゃあどうだろう、お茶でも飲まないかい?」
「貴方とお茶を飲むぐらいなら泥水を啜ります」
「いやそれもどうよ?」
 拒絶されてもスカリエッティの表情は変わらない。声色さえも変えず、
「ああ左腕の具合はどうだい? この間のアンギラス戦では随分役立ったようだけれど」
 続けられた言葉にギンガの記憶が触発された。かつて彼の一派に傷付けられ、意識と共に改変された左腕が軋む。
……嫌な人……
 何気に仕返しだろうか、とギンガは推測した。
 だからこそスカリエッティの質問に答えず、ギンガは一歩下がる。ルーテシアとアギトを背後に回し、スカリエッティの視界を遮った。
「一体何をしたんですか? あんな炎を出させるなんて、場合によっては上層部に掛け合いますが」
 スカリエッティは答えず、くつくつ、と引き攣るように笑った。こちらの対応を面白く思ったのかもしれない。
「答える前からおっかないねぇ? もっとフレンドリーにしようじゃないか」
「天上天下に誓って拒否します」
 つれないなぁ、とスカリエッティは肩をすくめる。ギンガは不快を得て、それが挙動によるものか、それともスカリエッティが嫌いだからか、と思案した。一瞬で後者だろうと断定したが。
「いやね、アギトに軽く推薦をしてあげただけだよ」
「推薦?」
 何を、問う前にスカリエッティは答えていた。
「とあるものにね、アギトの融合適性があったんだよ」
 その答えにギンガは息を飲み、即座に問い返せなかった。だから、問うたのはルーテシアとなった。
「本当? Dr.」
 スカリエッティは、もちろんだよ、と満面の笑みで頷く。その会話に、ギンガはかつてアギトが仕えていた、二人の主を思い出した。
 一人はルーテシアの保護者、ゼスト・グランガイツ。もう一人はヴォルケンリッターの将、シグナム。
……でも、もうどちらもいない……
 ゼストは先のJS事件で喪われ、シグナムはゴジラを封印する為の礎として機動六課を去ったからだ。
 胸中を締めつけられる様な思いをギンガは抱く。
「……それは、誰なんですか?」
 そんな思いを押し殺して、ギンガはスカリエッティに問うた。スカリエッティは妙に嬉しそうな顔をして、
「知りたいかい? それはね」
 だがそれは遮られた。
「――アタシは!!」
「!?」
 後頭部に衝撃を感じて、ギンガは振り返る。だがその先には誰もいなかった。
 あるのは、両目から涙を零すアギトの姿だけだ。
「……あ」
 アギトの姿と気配、そして滲み出す感情にギンガは衝撃の正体を悟る。
……アギトの叫ばれた感情が……
 どれ程の感情が詰められたのだろう、とギンガは思った。殴られたと錯覚させるほどの叫び、それを響かせるにはどれだけの感情が必要なのだろう、と。
「アタシはもう、誰とも融合しねぇ!!」
 再び威圧は叫ばれた。あの小柄な体でどうしてこれだけの声量が出るのだろう、そう疑問する程の声が放たれる。
「また誰かを失うなんて、アタシは嫌だ!!!」
 身を折るほどにアギトは吼え、直後に背を向けた。
408ミッドチルダ4〜千年竜王〜 後編 ◆WslPJpzlnU :2008/05/24(土) 21:19:56 ID:IOGfNoS2
 紅い翼を羽撃かせる事もなくアギトは飛行、ギンガはそれを止めようとした。だが、
……声が……
 出なかった。
 どんな言葉をかければ良いのだろう、そして、それを言っても良いのだろうか、そうした思いが胸中にある。
……あの感情に、私の感情は竦んでいて……
 気圧されているのだ、ギンガは自身をそう判断する。
「アギトっ!」
 飛び去ったアギトの名を呼び、ルーテシアは駆けていく。彼女は竦まなかったのか、とギンガは思う。
 そうして二人の少女は通路の向こうに姿を消し、ギンガとスカリエッティだけが残された。
「いやはや、アギトの我侭にも困ったものだねぇ」
「冷やかすのはやめてください」
 変わらず笑みを含んだ口調に、ギンガはスカリエッティに振り向く。向けられた目は怒気に細められ、敵意を持って言葉を続ける。
「長い年月の末に、ようやく出会った主を二度も失ったんですよ? ああなってもおかしくありません」
 鋭い語気でスカリエッティに釘を刺す。
 ギンガの知らされた情報では、当初アギトは非合法組織の研究資料にされていたとされていた。
……なら主を望んで、依存しても可笑しくない……
 不遇な子だ、というのがギンガのアギトに対する印象だった。だが、やはりスカリエッティの様子に変化は無い。
「ごもっともな意見だ、ギンガ君。そう、君の意見は至極真っ当なものさ」
 スカリエッティは賞賛するように手を叩いた。冷やかす様な仕草にギンガは怒気を強め、場違いな響きが連発する。
 そして響きが止んだ時、スカリエッティに変化が生じた。
「――やはり素材としての生命は素晴らしいね」
「………っ」
 その表情にギンガは息を飲んだ。
 分類としてそれは笑みなのだろう、と思う。しかし、本当にそうなのか、とも思った。
……こんな表情が笑みなの……?
 生理的な忌避感に肌が泡立ち、脊髄に氷水を流し込まれような感覚を得る。ギンガは、狂気と狂喜は異口同音だ、という事実を思い知った。
 だからこそ、スカリエッティの発言には連想するものがある。
「あの子達と同じで、ですか」
 それは自分でも意外なほどの、絞り出した様な声だった。自分はこれ程までに彼女達を思っていたのか、とギンガは自身に対して意外に思う。
「おや、ひょっとしてそれはうちの子達の事を言っているのかな?」
 ギンガが何を指していっているのか、スカリエッティも把握していた。
……ナンバーズ……
 二人が共有するのは、そう呼ばれた少女達だ。
 スカリエッティが開発した十二体の戦闘機人、ある意味ではギンガの妹とも呼べる者達だ。彼女達は先の戦いでスカリエッティと共に逮捕され、しかし過半数はギンガの下で更正指導を受けていた。
……でも……
 そこまで回想して、ギンガの表情が曇る。だがそれを察知したのか、スカリエッティは続きを言葉にした。
「怒らないで欲しいねぇ。あの子達は元々私のものだよ? 私が釈放され、管理局に認められた以上、私の所に戻るのは当然だろう」
 そしてスカリエッティは両腕を広げる。言い聞かせるように、嘲笑するように、
「なぁに、心配は要らないさ。ちゃぁんと皆――対ゴジラの決戦兵器として改造中だからね」
 告げられた言葉にギンガの肩が震えた。
「彼女達を制御中枢にした怪獣型兵器を計画中でね? 今、頭蓋を切開している最中なんだ。指揮や計算ならともかく……管制機構とするなら、やはり脳髄と機械の直結は有効だからねぇ」
 スカリエッティの自慢げな口調が、ギンガの耳に障る。
「それが終わったら肉体の改造だね? 骨格に硬性フレームを差して、臓器系は……あぁ、脳髄と同様に外部接続にするのも――」
「やめてください」
 胸を掻き毟りたい程の苛立ちに、ギンガはスカリエッティの言葉を遮った。
……この男はどうして……っ!
 これ以上ナンバーズの話を聞くのは嫌だった。ナンバーズが改造されるという現実と、止めたいのにそれが出来ない自分の意思と、その軋轢に苛まれるから。
「……私が言っているのは、ナンバーズの事じゃありません。筋違いの話をしないでください」
 その答えにスカリエッティは、へぇ、とぼやく。
 そして一言。
「薄情だね」
「……ッ!!」
 憎しみで人が殺せたら、とギンガは思う。だがスカリエッティにそれは通じた風もなかった。
409ミッドチルダ4〜千年竜王〜 後編 ◆WslPJpzlnU :2008/05/24(土) 21:20:36 ID:IOGfNoS2
「ではアレ等の事を言ってるのかな?」
 そう言ってスカリエッティは、自動扉が並ぶ側とは向かい側の壁を指差す。それは窓として存在する橙色の強化硝子、半透明の硝子越しにどこまでも広がる樹海と空が見える。
 しかし大空には獣の爪を思わせる、歪曲した三角形の飛行戦艦が無数に飛行していた。
「怪獣輸送艦」
 ギンガはそれらに与えられた名前を呟き、スカリエッティは首肯する。
「君達が捉え、私達が使い魔化した怪獣達を運ぶ為の船さ。ひょっとして、その事を悔いていたりするのかな?」
「今さら、そんな事は考えていませんよ」
 嘲る様なスカリエッティの言葉、だがこの事に関して、ギンガの声を荒げる事はなかった。
……だって私は、それを悔い改めた事なんてないんだから……
 ずっと悔いている、とギンガは内心で付け加える。
 瞼を下ろせば、胸中でわだかまる感情を感じた。嫌なものだ、と思い、思いを止めよう、とも思う。だからこそギンガは頭を振って視界を開き、
「え?」
 そこで不可解なものを見た。窓の向こうの怪獣輸送艦、その外装にある数字だ。
「どういう事ですか、Dr.。あの船艦、五番艦とありますが?」
 スカリエッティへ振り向きつつギンガは輸送艦を指差した。その外装には、05、と大きな太文字で明記が為されている。
「クモンガ、マンダ、アンギラス、ラドンそれぞれに輸送艦が一隻ずつ、ジェットジャガーは人間大になるから輸送艦は要りません。……入れるものが筈のアレには、何が入っているのですか?」
「良い所に気がついたねぇ? アレにはね、私の最新作が入っているんだよ」
 答える事が喜ばしい事なのか、スカリエッティは嬉々として答えた。
「半機械化した怪獣、戦闘機獣とでも言えば良いのかな? まあ決戦兵器の一環としてそういうものを作ったのさ。話ぐらいには、君も聞かされたんじゃないかい?」
 言われて、確かに、とギンガは思い返した。それはかつて見せられた捕獲対象の一覧、その中にある緑色の鱗をした怪獣の事だ。
……それはクモンガの次に捕獲された怪獣で……
 その怪獣は使い魔化されず、スカリエッティの強化改造が施されている、と聞かされた。
「名無し、という事になっているがね。私としては考えていたりするんだよ?」
 くつくつ、とスカリエッティは笑い続ける。それを見るギンガの胸中に、もはや憤りは無かった。代わって満ちていたのは、
……気持ち悪い……
 生理的な嫌悪だ。
……なんで貴方はそうしていられるんですか……?
 そう思わずにはいられない。
 どうして平気な顔をして生命を改変出来るのか。
 どうしてそれを純粋な自慢と出来るのか。
 どうしてそれを、
……笑みをもって語れるの……?
 それはオペレーションFINAL WARSが始まる以前の、彼の行動にも言える事だ。
……ナンバーズを生み出して、沢山の人を騙して傷付けて、自分の複製さえも造って……
 どうしてするのか、ではない。どうしてそれが出来るのか、とギンガは思う。
 誰かを傷付けるだけならまだ解る。生命の人造もその理由は解らなくはない。だが、どうして自分さえも研究材料と出来るのだろう。
 吐き気がした。
 目の前のジェイル・スカリエッティという存在が、人間ではなく、人型に見えた。
……彼は本当に私達同じなの……?
 そんな疑問に釣られて、吹き上がる感情がある。
 肺が痺れて、指先が冷えて、肩と背筋が震える思い。それが何なのか考える事も出来ないほどに、思考が止まった。
……本当にこれと一緒に行動して、大丈夫なの……?
 スカリエッティと協力して、自分達は本当に良いのだろうか。
 かつてのレジアス・ゲイズや最高評議会の様に、最後には裏切られて終わるのではないだろうか。いや、それよりももっと酷い事になるんじゃないだろうか。
 ジェイル・スカリエッティという人間は、
……皆にとって害悪なんじゃないの……?
 そう思った直後、スカリエッティの両碗がギンガの頭部左右を突く。
「ひ」
 ギンガは驚きから一歩後退、すると背中が強化硝子の壁にぶつかった。顔の左右でスカリエッティの両掌が硝子の表面に密着、それと繋がる腕によって左右への移動は封じられる。
 そして眼前にはスカリエッティの姿、ギンガは前後の空間も塞がれていた。
「……あ」
 触れられた訳でもないのに、ギンガの身が震える。
410ミッドチルダ4〜千年竜王〜 後編 ◆WslPJpzlnU :2008/05/24(土) 21:21:12 ID:IOGfNoS2
 金色の双眸が、嗤っていた。
「そんな事言うなよ」
 言っていない。
「私は君達が良い子ぶってやらない事を、代わりにしてあげているんだよ?」
 ギンガは何も言っていない。
「いいじゃないか、必要な事なんだから。自分の為、大切な人の為、世界の為に、自分達以外を犠牲にしたって良いじゃないか」
 なのにどうしてこの男は、
……私の意思を理解しているの……!?
 恐い、と思う。そう思ったら、もう駄目だった。
「や、やぁ」
 気付かぬうちに声が零れる。折れた、という思考が脳裏に浮かんだ。
……私は何も解らないのに、どうして貴方は私が解るの……?
 恐い、恐い、恐い、三回思って、その後も反復は続く。
 眼球を覗き込まれる様な凝視、それと共に意思も覗かれているように思えた。
「――今さら啼くなよ」
 言われて、もう支える事は出来なかった。
 胸の中央から喉を逆流し、吐き出されるようにして声が漏れる。
「あ」
 駄目、という制止も出来なかった。緩む目元が湿り、
「「――!?」」
 鼓膜を抓る様な警報を二人は聞いた。甲高い電子音が天井のスピーカーから響き、そして通路の壁に反響する。
「……これは」
 スカリエッティの顔が逸れ、視線は天井を仰いだ。硝子に突き立てられた両腕も下ろされる。
 警報という危機感の中で、ギンガはそれに安堵を得ていた。
「どうやら、キングギドラを確認したらしい」
 仰ぎ見るスカリエッティは微笑、直後の放送はそれを肯定する。
『――全ての乗員に告ぐ。観測器がキングギドラを確認した。艦長はそれを持って作戦開始を決定、本艦は現時刻を持って全面行動体勢に入る。乗員は各自の任務に従い、行動を開始せよ――』
 抑揚の無い、聞き取り易さだけを重視した声が放送された。それと時を同じくして、ギンガの脳裏に別の声が響く。
 高町なのはの声だ。
『ギンガ、聞こえる?』
 隊長からの呼び出しに、ギンガは崩れかけていた意思を立て直す。返答の為の思考を形成、なのはからの念話を逆行して言葉を返信する。
『はい、なのはさん。……怪獣を出すんですか?』
 自分で言った言葉に辛さを感じ、しかし立て直した意識でギンガはそれを押さえ込む。
『ううん、今は輸送艦で待機してて。取り合えず私達で先制するから』
『なのはさん達が? というとフェイトさんも?』
『後、今回ははやて部隊長も出るの。私達の連携魔法、トリプルブレイカーで奇襲を仕掛ける』
 なのはからの宣告に、ギンガは息を飲んだ。直接見た事は無いが、トリプルブレイカーはなのは達三人が協力して放つ、強大を極める攻撃魔法だと知っていたからだ。
……幼い頃のなのはさん達が、暴走した闇の書を止める為に使った攻撃……
 当時は十歳かそこらでS級超過の破壊力だったらしい。ならば、大人になった今はどれだけの威力なのか。
『それで止められるなら良し。……ギンガ達は、もしもの保険で待機してて』
 気を使われているのだろうか、とギンガは思う。部下達には出来る限りさせたくない、そう思っているのだろうか。それともこう思うのは、今の今まで意思を崩していたからだろうか。
 ただ、命令には従おうと思った。
『了解です。これから、輸送艦に転移して待機します』
『うん、お願い』
 その返答を最後に、なのはは念話を切る。ギンガもまたそれを念話を止め、それから吐息を一つ。目線を上げれば、スカリエッティがこちらを見ているのに気付いた。
「……何ですか」
「いいや、別に?」
 くつくつ、とスカリエッティは含み笑い。だがもうそれに構っていられない、とギンガは判断する。
「作戦中です、Dr.も持ち場に戻ったらどうですか?」
「ああ勿論だとも、いざという時は、ジェットジャガーや例の戦闘機獣も出さなければならないからねぇ」
 スカリエッティは両手を上げて身を旋回、こちらへと背を向けて歩き出した。
 だが僅かに進んだ所で、顔だけでこちらへと振り向く。そして、一語。
「――行ってらっしゃい」
 そこにどんな意思が含まれていたのか、それを考えないようにして、ギンガは転送ポートへ向かう。


411ミッドチルダ4〜千年竜王〜 後編 ◆WslPJpzlnU :2008/05/24(土) 21:21:46 ID:IOGfNoS2
 念話の切断により、思考に過る爽快感をなのはは感じていた。
 時を同じくして強風が発生、栗色の長髪とエクシードモードまで立ち上げたバリアジャケットがはためく。
「ん」
 レイジングハート・エクセリオンを持たない右手で髪を押さえ、これも高空故か、となのはは思う。果てのない大空が眼前に広がり、大地は遥か下方だ。
 と、同じ高度で並ぶフェイトがこちらを見ているのに気付いた。
「ギンガ達に連絡?」
 問うてきたフェイトもバリアジャケットを着込んだ臨戦態勢、両手で握る大剣はバルデッシュ・アサルトの戦闘形態、ザンバーフォームだ。
「うん。これからそれぞれの輸送艦で待機するって」
「……そう」
 なのはの答えにフェイトは顔を俯かせる。眉尻を下げ、力無く苦笑する表情は痛ましく思えた。
「出来れば、あの子達に出番は回したくないんだけど……」
「せやったら」
 気力を欠いたフェイトの呟きに答えたのははやてだ。
 なのはやフェイトとは少し離れた位置に飛ぶはやては魔導書とシュベルトクロイツを携えた騎士甲冑姿。大きなベレー帽から伸びる白い髪は、既にリインフォースUとのユニゾンを証明していた。
「下のブツ、壊す事に専念せな」
 はやてが指差した地上、そこには広大な森林が広がっている。黒いほどに緑の群生が吹き込む風に揺れ、音をならす様は正に樹海と呼ぶに相応しい規模だった。
 示唆されたのは三人の丁度真下に存在する物体、樹海にあって木々ではないそれは、巨大な岩石だ。
 その周辺に木々は無く、露出した地面に横倒しの楕円形が突き刺さっている。
「キングギドラの住処、なんだよね」
 息を飲む様なフェイトの呟きに、はやては首肯した。
「正確には保存器って言うべきやろうな。キングギドラは普段、肉体をエネルギー化して生理現象や老化を無効化しとる。あれはエネルギー化した肉体が拡散せんようにする、伝導率の高い鉱物なんよ」
 それからはやては、なのはとフェイトを交互に見る。
「十一年振りのトリプルブレイカー、決めるで。それで捕らえられるなら良し。もし出来んようなら、後ろのあの子らが出てくる事になる」
 脅す様な口調にフェイトは胸元を掴み、なのはは目を細めた。
……はやてちゃん……
 詳しくは思わない。幼馴染みを悪く思いたくなくて、なのははそこまでで思考を止める。
 自分達で終わらせよう、そう思えばレイジングハートを握る手に力が籠った。
 そしてはやてが、行動開始を告げる。
「いくで! 各自、散開の後に攻撃準備!!」
 一声の下、三人は各々の方へと飛行した。
 それは巨石を中心にした三角形の配置、かつて闇の書の闇にこれをぶつけた時の記憶が、なのはの胸に去来する。あの時とは違うな、という諦観の思いと共に。
「レイジングハート、カートリッジロード!!」
『了解、カートリッジロード』
 なのはの指示を機械杖は復唱、四発の空薬莢を穂先の基部から吐き出した。それからレイジングハートが高々と掲げられ、先端に膨張する魔力塊が出現する。
『周辺大気からの魔力を収束中』
 加えてレイジングハートが周囲の微細な魔力を掻き集め、なのはの頭上で魔力塊は巨大化していく。
 それはフェイトやはやても同様だった。
 なのはの見やる先、フェイトが振り上げたバルデッシュには数メートルの刀身が、はやてが突き出したシュベルトクロイツには三つの魔法陣が展開し、同数の魔力塊が蓄積されている。
「全力全開、スターライト――」
 なのはの詠唱に、フェイト達も追随した。
「雷光、一閃ッ!! プラズマザンバー――」
「響け終焉の笛……ラグナロク――」
 一拍の前で三人は同調、そして解放の瞬間は到来する。
「「「――ブレイカーッッ!!!」」」
 大威力は解放された。
 桜色と金色と白、三色の極光が大地へと降り注ぐ。狙うは、樹海に突き立つ巨石だ。
 柱とも形容出来るそれらは、数にして五つ。威圧は巨石に命中し、だがそれに留まらず周囲の樹木を吹き飛ばした。
 轟音が大気を震わせ、地を深く抉り、太い樹木が枝葉の様に舞い上がる。重量も質量も関係なく、圧倒的な攻撃力に全てが等しく破砕された。
 そんな攻撃がどれほど注いだだろうか。なのはの手から次第に魔力が放出され、それに伴って脱力感が満ちる。
 数分とも思える時間の後に、三人の最大攻撃は終了した。
412ミッドチルダ4〜千年竜王〜 後編 ◆WslPJpzlnU :2008/05/24(土) 21:22:22 ID:IOGfNoS2
「……は」
 心地良いとは言えない、脱水症状に似た脱力だけが残る。肺が湿気るような感覚になのはは息を吐いた。
 そして目に入るのは、自分達が放った攻撃の被害だ。
…私達にはこんな力があるんだね……
 そこには火口と見紛うばかりの陥没が生じていた。
 なのは達が穿った大地は半円形に抉れ、地を隠していた木々は微塵も無い。いや、上空から降り注ぐ微細な破片群が木々の、そして土の果てた形なのだろう。
 そして陥没からは極太の噴煙が昇り、それは高空に位置するなのは達の眼前にまで至っていた。
 大破壊を起こした、という事実になのはの意思は沈む。だが聞こえたはやての声に、それは感じられなかった。
「戦果確認、キングギドラの保存器がどうなったんか、確認しぃ」
 恐らく念話で新・轟天号の解析班に指示を送っているのだろう。これだけの結果を作ったにも拘らず、はやての中で戦闘は終わっていないようだ。
 嫌だな、となのはは思う。
……私達の方が戦いを望んでるみたいで……
 自分達は戦いを終わらせる為に戦っている筈なのに、まるで、自分達は戦う為に戦っているのだ、と思えてしまう。
 忌避感と自己嫌悪に意識が沈み、
『――隊長!!』
 突然の念話に意識を引き戻された。
 それは解析班の声、だがはやてと話していた筈の彼等が自分にも念話で報告を入れたという事は、
……戦いの続きが……!?
 疑念は肯定される。
『超高密度のエネルギーを感知! これは……生体情報の塊です!!』
「それってまさか……」
「なのはっ!!」
 まさか、という想いを抱いた直後、フェイトの呼び声が届いた。
 どうしたの、と問おうとして、それは無意味だと判断する。何故なら、その理由は既に解っていたからだ。
「……これは」
 変異はなのはの目の前にある。
 立ち上る極太の噴煙、その一部が発光していたのだ。赤みを帯びたそれは噴煙の中で輝き、まるで雷雲のようだ、となのはは思う。それに影響されたのか、噴煙はその規模に反して早くにかき消えた。
 吹き飛んだ噴煙の中から現れたのは、
「――光のシルエット」
 赤く光る微細な稲妻が、伝導体もないのに一カ所に集中している。現れた最初は単なる塊にしか見えず、だがその輪郭は変化していった。
……これが……!
 目の前の現実と予想した危機的な予測、それらを思ってなのはは息を飲む。同じ事を思ったのだろう、視界の端で驚愕するフェイトとはやての姿も目に入った。
 そして三人の視線が影響した風もなく、光の変形は終えつつある。
 変化を終えた光はどこか獣を思わせる形。下へ二本、上へ三本の長細い輪郭が伸び、左右へは広々とした羽のようなものが展開していた。
……まるで、三ツ首の獣……ッ!!
 思い至った直後、視界を殺す強烈な閃光が発生する。
「!?」
 なのはは眩しさに腕で目元を陰らせ、僅かながらも視界を維持した。
 そうする間にも閃光は連発、やがてその周期は短くなっていく。いつしか点滅とも呼べる速度まで上がり、格別に強力な光が生じた。
 そして、光の輪郭は一体の獣として物理化する。
「……ぁ」
 その異様に、なのはは我知らずと声を漏らしていた。
 全身には黄金の鱗、背からは蝙蝠に似た羽が広々と伸び、太い両脚の裏からは一対の長い尾が揺らめいていた。
 そして最大の特徴は、三つの長い首と、それらに備わる竜頭だ。
……黄金の三ツ首竜……
 そう呼べるものが、なのは達の見る先に存在している。
 この怪獣こそが、
「――キングギドラ」
 そう呼ばれるものなのだと、なのはは理解した。
「「「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――――――――っッ!!!」」」
 四隻の怪獣輸送艦が包囲し始める中、黄金竜はその中央で三重の咆哮をあげる。
413名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 21:25:28 ID:+TNVwu6D
支援
414なのは×終わクロ ◆WslPJpzlnU :2008/05/24(土) 21:27:27 ID:IOGfNoS2
投下終了。

ちゅー感じでスカさんやらアギトさんやらギドラさんやら出てきたりとてんやわんやな回でした。
あと>>348のご質問。……何を仰るうさぎさん、当作品においてのX星人には管理局の方々が相当しますよ? ……ふふふふふふ。

まあさておき、今回でミッドチルダ編もクライマックス。次回はいよいよミッドチルダ編のラスボスが登場ですよー。
次回、魔法少女リリカルなのはFINAL WARS、ミッドチルダ5〜外敵起動〜。
リリカルマジカル、キルゼムオールで頑張ります。
415名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 21:29:25 ID:Ge/MXE0p
支援

そして
>>404
高天氏、今すぐまとめの絵板に急ぐんだ。2ページ目!
416名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 21:40:24 ID:zLDUnG6v
GJ!!です。
怪獣王を殺す為に、ライバル的なキングギドラを捕まえるのか・・・無理じゃないか?w
ともかく、次回の激戦に期待していますwアギトは何とユニゾンさせられようとしたのだろう?
417名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 21:42:39 ID:Ge/MXE0p
GJ!
スカさんいやらしいなぁ……様々な意味でw
ギドラはかなり厳しい相手ですね。どうなる事やら次回が気になります
418名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 22:03:58 ID:3RQhtBIr
GJ

モスラが協力的なのに違和感を感じるがそれだけゴジラが危険ってことかな?
その宿敵を現有戦力で捕獲するのがちょーっと厳しいと思うがw
419名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 22:14:51 ID:TfDkggyS
GJっす!
バトラが管理局と手を組むのが嫌な理由って生命を物扱いしてる管理局に怒りを感じてるからですかね?
それとスカさんがいってた戦闘機獣ってもしかして、最初にガがついて最後にンがつく人ですか?
というかキングギドラを使い魔にするのって絶対無理ですよ、あの人、洗脳能力を持ってるんすよ
実際にモスラ3では三姉妹のロラが洗脳されてたし。
420名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 22:18:00 ID:juIFS3KK
GJ!
>ラスボス
デストロイアか、デストロイアなのかー!?
421高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 22:34:40 ID:+TNVwu6D
それでは、失礼致します。

魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第七話

ナイトガンダムが安次郎と初対面の挨拶をしている頃、アリサは海鳴図書館で目的の本を探していた。
時間帯的に学生が多く、ノートを広げ予習をしている者、小声でわからない所を相談し合う女子高生、
中にはスーツ姿のサラリーマンや、ピンクの髪が似合う美人の外国人など、多くの人が利用していた。
利用者に埋め尽くされている机の中から空いている席を見つけたアリサは、場所を確保する目的も兼ね、そこに荷物を置き本棚へと向かう。
他の棚には目もくれずに、目的の本がある本棚だけに目を通す。
「え〜っと・・・・・あっ、あったあった!」
『図書館では静かに』という決まりは分かってはいるが、彼女の性格上、目的の本が見つかった事の嬉しさを抑える事は出来なかった。
「このシリーズ面白いのよね〜。後でガンダムにでも貸してあげようかな・・・・ん?」
ついでに前巻も復習ついでに読んどこうと思ったアリサは、再び本棚に目を向け本を取ろうとするが、
彼女は無意識に先程取った本により出来た隙間から、隣の本棚を見据える。すると

「・・・・う〜ん・・・・・・う〜ん・・・・・」
後姿なのではっきりとは分からないが、おそらくは自分と同じくらいの歳の車椅子に乗った少女が、
唸り声を上げながら、必死に本棚に向かって手を伸ばしていた。
「・・・・・・」
アリサはその様子を隙間からじっと見ていた。
「・・・・う〜ん・・・・この!う〜ん・・・・」
アリサはその様子を多少イラつきながらじっと見ていた。
「・・・・う〜ん・・・・もうすこ・・・し・・・・・」
アリサはその様子をじっと
「ったく!!」
見ていられなかった。
ズガズガと豪快に足音を立てながら、それなりの速さで隣の本棚へと向かう。
途中すれ違った男子高校生がアリサの迫力に負け、自然と道を譲ったが、彼女はそんな事は眼中に無く突き進み
車椅子の少女の真横で止まる。
「う〜・・・・・へ?」
突然現われた自分と同じくらいの外国人の少女に、車椅子の少女「八神はやて」はつい間の抜けた声を出してしまう。
だが、アリサは彼女の声と、呆気に取られた顔をスルー。そして
「はい!これ!?」
はやてが苦労して取ろうとした本をあっさりと取り、突きつけるようにして差し出した。

「まったく・・・・取れないんなら人呼ばなきゃだめよ?少しはここの人も働かせないと」
「ふふふ・・・ほんま、アリサちゃんは手厳しいな〜」
その後、同じ歳という事もあってか、二人は互いの名前を言い合うほどに直に打ち解け、
今ではアリサが進んではやての車椅子を押すほどに仲が良くなった。
互いにお勧めの本や、読んだ本の感想や自己評価などで盛り上がりながら、アリサは出口に向かってはやてが載った車椅子を押していく。
「だけど、アリサちゃんは優しいな〜。わざわざ車椅子引いてくれて」
「なっ!?べ・・べつに・・・・ただ、私も帰るから・・・・ついでよついで!!!」
笑顔でこちらを向き自分を褒めるはやてに、アリサは顔を真っ赤にした後そっぽを向く。
「ふふふっ、アリサちゃんはツンデレやな〜、家の末っ子と同じレア属性や」
家に居候している赤毛の少女の顔を思い出しながらも周りを、これで何度目になるか自分でも忘れたほどに控えめに見渡す。
本来なら、はやてはこのような落ち着きの無い行動はそれなりの理由が無ければしない。だか、今回に限っては別だった。
この図書館に入ってすぐに気が付いたのだが、今日はどうにも黒いスーツを着た人が多い。
それも、体系が居候している守護獣の人型並にガッシリしており、全員がサングラスを装着しているという
傍目から見れば怪しさこの上ない人達が彼方此方に仁王立ちしていた。
422高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 22:35:21 ID:+TNVwu6D
当初は『ここに偉い人でも来てるんかな〜』と思いながらも、あまり関わらない様にしていたのだが、どうにも目標をこちらに定めてきたように思えてきた。
なぜなら、彼らはトランシーバーのような物で連絡を取りながら、一定の距離を置きながらも明らかに近づいてきたからだ。
当然自分には心当たりがない。おそらく今いる同居人もそうだろうと思う。なら考えられる可能性は
「(もしかして・・・・アリサちゃんか?)」
なるほど考えられると思う。確かにアリサは同姓の自分が見ても綺麗だし、お金持ちにも見える。一度そう思ってしまうと、
考えを止めることが出来ないはやては、普段様々な娯楽本を読み、想像力が人一倍進化した頭を使いこの状況から一つの予測を立てた。

    『彼らは隙あらばお金持ちであるであろうアリサを、組織ぐるみで誘拐しようとする極悪人』

「(アカン!!無茶ピンチや!!?)」
一刻も早くこの状況をどうにかせねばと、一人内心で慌てるが向こうは大人数でがたいが良い大人、正直逃げるしかない。
それでも彼らが走り出せば自分達は直に追いつかれてしまうだろう。せめて自分に護衛がいれば・・・・いた。
「アリサちゃん、悪いけど、少し早く押してくれる?」
この状況にも拘らず、自分でもビックリするほどやんわりとアリサに頼み込む。
「もう、我侭ねぇ〜」
悪態をつきながらも、アリサは「いくわよ〜」と楽しそうに声を上げ、車椅子を押すスピードを回りに迷惑にならない程度にあげる。
スピードが上がったことを確認したはやては「うち、芝居の才能あるんとちゃうか?」と、自分を褒めながらも、
願いを聞いてくれた彼女に御礼をいうために後ろを向くと同時に、例の黒スーツ軍団の様子を伺う。
案の定、彼らは追いかけてきた。
「(予想通りや・・・・・)」
自分の予測が当たったことに、はやてはつい嬉しさを感じてしまう。だが、喜んでいる場合ではない。今は一刻も早く、
入り口で自分の帰りを待っているであろう彼女に頼るしかなかった。

一方、主であるはやての付き添いで図書館に来た女性『烈火の将・シグナム』は図書館の雰囲気に自然と眉をひそめていた。
ここにははやての付き添いで何度か来た事があるが、今回はどうにも様子がおかしい。
彼女がそう思う理由は、やはり図書館の彼方此方に仁王立ちしている黒いスーツ姿の男達の存在だった。
体格は勿論、隙の無い動作などから一目見ただけで彼らが只者でない事は直にわかった。
当初は採集を行っている自分達を追いかけてきた管理局の者かと思ったが、この世界では稀であるリンカーコアを持つ自分を一瞥しただけで終った事や、
彼らから魔力を全く感知する事が出来ない事から、その考えも否定する。
「(・・・・しかしこうも多いとな・・・・・今日は要人でもいるのか?)」
内心で可能性を呟くが、仮にそうだとしても自分達には関係の無い事。これ以上考えるのを止め、壁にもたれ掛りながら主であるはやての帰りを待つ。すると、
「シグナム〜」
自分を呼ぶ主の声に、シグナムは微笑みながら声のする方を向く。その瞬間、彼女の笑顔は半ばで固まってしまう。
彼女が見たのは愛用の車椅子に座る主と、その車椅子を押す主と同じくらいの歳であろう金髪の少女、そして
そんな彼女達を距離を置きながらも追って来る、例の黒いスーツの集団。
この光景を見たシグナムは、瞬時に理解した。

              『主が謎の集団に狙われている』

確かに我らが主は歳相応に可愛らしい・・・いや、それ以上だ。それを目的に誘拐をする輩が出てきても不思議ではない。
「(うかつだった・・・敵は管理局だけではなかった・・・・・)主!」
今更後悔してもしょうがない。とにかく今は主と、主を助けてくれたであろう少女を保護、
誘拐をたくらむ奴らには相応の褒美を与えるために、シグナムはリノリウムの床を蹴り、一気にはやて達の元までたどり着く。
423高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 22:36:46 ID:+TNVwu6D
その光景を見たはやては頼もしげにシグナムを見据え、アリサはただ唖然とし、黒いスーツの男達は何事かと警戒を強める。中には懐に手を入れる者もいた。
「主、もう大丈夫です。後はお任せを」
「たのんだで!シグナム!!さぁ、アリサちゃん!!今の内や!!」
なにやら勝手に盛り上がる二人にアリサはついて行けず、素直に困惑の表情を見せるが
「総員!!アリサ様をお守りするのだ!!」
自分を『様』呼ばわりする声に、もしやと思ったアリサは、はやての車椅子から手を話し、初めてゆっくりと後ろを向く。そして
「・・・・・・・もう!!だから!!ついてくるなって!!いったでしょ!!!」
図書館という事を無視しアリサは叫んだ。
傍目から見れば、ただ子供が叫んでいるだけだが、黒いスーツの男達は明らかに怯んでいた。
「で・・・・・ですが・・・・旦那様の」「shut up!!!」
ずんずんと足音を立てながらシグナムより前へと進み、一番近くにいた黒いスーツの男に向かって、指を刺し叫ぶ。
彼女の叫びに、黒いスーツの男達は先程以上に慌てており、どうにか彼女を納得させようとするが、、
腕を組み、仁王立ちしているアリサにはさほど効果は無く、終いにはどうした物かと、頭を抱え始めた。
「・・・・・・主・・・・・・」
「ごめん、ウチにもわからん」
今度はアリサに変わり、二人が取り残される事となった。


「へっ?それじゃ、あのごつい人達って全員アリサちゃんのボディーガードやったんか?」
その後、アリサの剣幕に負けたのか、黒スーツの男達の殆どが図書館から去っていた。だが、彼らも仕事を抜きにして彼女の事が心配だったのだろう、
せめて2人位は置いておいてくれという懇願とも思える願いに、アリサも仕方が無いといった顔で了承。
今は離れた位置で、はやて達に事情を説明してるアリサを見守っている。
「そう。まぁ、彼らも仕事だし、分かってはいるんだけれどね・・・・・」
内心では自分を守ってくれている彼らや、ボディーガードをつけるように指示したであろうパパに感謝をすると同時に
付ける人数が多すぎることに呆れもしていた。
「そうなんか・・・・うちはてっきりアリサちゃんを狙った誘拐犯かと・・・」
「・・・・私も、似た予想をしていました」
互いに大きな勘違いをしたことを恥じるように俯く二人。だが、
「あ〜・・・・まぁ、間違ってはいないのよね・・・・・現に誘拐されたし・・・・ってああごめん、
変な事言っちゃって。でも大丈夫、直に助けられたから何もされてないわ」
アリサは苦笑いをしながら、サラッととんでもないことを言い放った。
自分の発言に固まる二人の表情をおかしく見つめながらも、自然とあの時のことを思い出す。
あの時は本当に怖かった。もしあの時助けが・・・ナイトガンダムが来なかったら、自分はそれこそ裸にされ、想像すると吐き気がする様な事をされていたに違いない。
自然に彼女は俯き、自分を慰めるように抱きしめる。すると、直に彼女の手に暖かな別の手が優しく置かれた。
「・・・ごめんな・・・・いやな事・・・思い出させて・・・・」
顔を上げ横を振り向く。其処には目に涙を浮かべ、自分の事のように心配をするはやてがいた。
今にも泣きそうなはやての表情に、アリサは一瞬呆然とするが、直に微笑み、彼女の頭を軽く撫でる。
「まったく・・・・私の友達と同じね・・・・他人の痛みを自分の事のように心配するなんて・・・・優しすぎるわ・・・でも、ありがとう」
「・・・・そういうアリサちゃんも・・・・うちの頭撫でてくれて・・・十分優しすぎるわ・・・・・」
先程とは違い、にこやかに微笑むはやてにアリサは、恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしそっぽを向く。
『やっぱりアリサちゃんはツンデレやな〜』と内心で思いながらも、分かりやすい照れ隠しの行動に、悪いとは思いつつもつい笑い出してしまう。
「もう・・・・・あっ、ごめん、そろそろ私帰るね」
そっぽを向いた時に目に入った時計を見たアリサは、今日予定されている習い事の開始時間が迫っている事に今になって気が付いた。
424名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 22:38:01 ID:TfDkggyS
支援!
425高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 22:38:53 ID:+TNVwu6D
慌てて本をカバンに仕舞い席を立つ。同時にアリサを見守っていたボディーガードも、動き出し、入り口へと向かう。
「それじゃまた会いましょ。、大体この時間にいる?」
「うん・・・また、来てくれるんか?」
「妙な事尋ねるわね・・・・・・当たり前じゃない、友達なんだから、今度は私の友達も紹介するわ。あっ、携帯番号がまだだったわね、携帯出して」
アリサはカバンから自身の携帯電話を取り出し素早く操作、はやての携帯電話へとデータを転送する。
「今夜暇だったら、話でもしましょ。それじゃ、シグナムさんも」
はやてに手を振った後、シグナムにお辞儀をしたアリサは出口へと走っていった。
「ほんま・・・・・うち・・・幸せ物やな・・・・・」
アリサの電話番号が入った携帯電話を大事に握り締めながら、はやては声を詰まらせながら静かに呟いた。


・本局内訓練室

時空管理局本局内にはアースラに備わっている物と同等、もしくはそれ以上の訓練室が幾つも存在する。
何処の訓練室も、自主練習や技の練習、互いの腕を試しあう局員で常に使われており、
近くを通れば、気合を入れる声や爆発音などの響きが扉越しから微かに聞こえてくる。
その幾つもある訓練室の一つで、今一人の執務官と一人の騎士が空中戦を広げていた。
『Stinger Ray』
クロノが放つスティンガーレイを、ナイトガンダムは最小限の動きで避けながら接近、一気に間合いをつめ、右手に握る実剣を振り下ろす。
「(くっ、たった数回放っただけで・・・もう見切られたか!?)」
開始当初はナイトガンダムに難無く当たった高速の速さで光の弾丸を放つ魔法『スティンガーレイ』も、今では見事に見切られ、
弾幕程度の効果しか得られなくなった事に、クロノは自然と奥歯を噛締める。
だが、悔しさに浸っている余裕など彼には無かった。自分目掛けて振り下ろされる剣をS2Uの柄で咄嗟に防ぐ。
同時に切り払われないように腕に力を入れる。
互いに相手を押し合う『鍔競り合い』になった瞬間、クロノはナイトガンダムの動きを封じるため、バインドを施そうとする、だが
「はぁあああああ!!!」
そうはさせまいと、ナイトガンダムはS2Uを真っ二つにせんとばかりに剣を持つ手に更に力を込め、徐々にクロノを押してゆく、
クロノも負けじと、自身の身体に更に魔力を流し込み、無理矢理力を増幅させ、ナイトガンダムを押し返そうとするが、
『ゼータ!!』
ナイトガンダムも自身にブースト系の魔法を施し、力を増幅させる。その結果、
一時は互角にまで持って来た鍔競り合いも、一気にナイトガンダムが有利となり、そして
「はぁ!!!」
気合の声と共に、ナイトガンダムはクロノを切り払い、訓練室の壁目掛けて吹き飛ばした。
だが、吹き飛ばされながらも、クロノは空中で踏ん張り、勢いを無理矢理殺す。同時に
『Stinger Snipe』
操作性能が抜群なスティンガースナイプをカウンターとして放った。
迫り来る魔力光弾を、ナイトガンダムは先程のスティンガーレイ同様回避し、再び接近しようとするが、
「先程と一緒とは思わない事だ!!」
操作性能に関してならSランクのスティンガースナイプは、ナイトガンダムが避けた瞬間、クロノが思う通りに瞬時に機動を変え、再び襲い掛かる。
予測出来なかった追撃にも、ナイトガンダムは咄嗟にシールドで防御、自身への直撃だけはどうにか避ける。だが、
その隙を逃すクロノではなく、直にスティンガーレイを連射。だが、ナイトガンダムも黙って受ける筈は無く、
『ハニカム!!』
自身に防御フィールドを張り、迫り来る光の弾丸の直撃に備える。そして
クロノが放ったスティンガーレイが次々に着弾、着弾時に捲き起こった煙から吐き出されるようにナイトガンダムは吹き飛び、そのまま床見描けて落下、
だが、落下途中で飛行魔法を駆使し落下速度を和らげたガンダムは床に静かに着地。改めて上空にいるクロノを見据える。
426名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 22:40:38 ID:Ge/MXE0p
支援
427高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 22:40:38 ID:+TNVwu6D
互いに相手を見据えながら隙を伺う。先程とはうって変わり静けさが訓練室を支配する。
「(ダメージは思ったよりは受けてはいないか・・・・・・だが、距離は稼げたな)」
威力より連射に重点を置いたため、ダメージには期待してはいなかったが、ナイトガンダムとの距離が稼げた事に、クロノは十分満足した。

今回の模擬戦は、クロノからの誘いにより始まった物だった。
クロノとしても、ナイトガンダムの外見以上に、空を飛べないというハンデがありながらも、
闇の書の守護騎士と渡り合った彼の実力に興味があったため、職務とは関係なく一人の魔道師として今回の模擬戦を申し込んだ。
ナイトガンダムもクロノ同様、この世界の魔道師の実力に興味があったことと、飛行魔法を覚えたのは良い物の、空中戦の経験は全く無く、
その経験を積みたかったため快く了承。今に至る。

模擬戦開始から20分が経過しても尚、互いに大きなダメージを与える事が出来ず、勝負は長期戦に持ち込もうとしていた。
「・・・・・強いな・・・・・」
クロノはS2Uを構え直しながら、眼下にいる対戦相手に対する評価を自然と呟く。
正直、フィジカルでも多少は自信があったのだが、接近戦では自分は圧倒的に不利だという事はこの20分の間で痛いほど思い知らされた。
そして何より、初の空中戦とは思えないほどの動きと、自分の攻撃魔法を見切る早さ。
改めて実感した、彼が味方であることが心強いと。同時に、彼が敵ではなくて良かったと心から思う。
「だけど・・・・距離を置いての戦闘なら、こちらに分がある」
彼も戦闘中に魔法を使って入るが、ほとんどが接近戦でのサポートを目的とした自己ブースト系、
『サーべ』や『ムービガン』などの攻撃魔法も使っては来るが、殆どがラウドシールドで防ぐ事が出来、正直あまり脅威とはならなかった。
早期的な結論はあまり出したくは無いが、このことからナイトガンダムの魔法は、接近戦を行う上でのサポート系をメインとしており、
攻撃系はサブ的な要素でしかないと、クロノは結論付けた。

ちなみにクロノが出した結論は半分は当たっている。彼の考え通り、ナイトガンダムは主に接近戦でのサポートを目的として魔法を使用している。
残りの半分の間違いは『攻撃系はサブ的な要素でしかない』という考えであり、実は彼は『メガ・サーベ』と『ソーラ・レイ』という必殺といえる攻撃魔法を隠し持っていた。
だが、その必殺といえる攻撃魔法をナイトガンダムが使用せずに接近戦にこだわるのには、詠唱時間がかなりかかるという欠点があったからだ。
なのは達の様に呪文詠唱を肩代わりしてくれるデバイスを持っていないことや、僧侶ガンタンクの様に詠唱時間を短縮するという芸当が出来ないため、
ナイトガンダムがこのような高位魔法を使う場合には一から詠唱を行う必要があった。
それでも時間にして一分足らず。だが、その一分足らずの時間の間は呪文詠唱を行うためロクに動く事が出来ない。彼が使わない理由としては十分である。
「(距離を置いての射撃系で攻め、直射型の砲撃魔法で仕留める・・・・・これしか無さそうだ)」
内心でやるべき行為を考えたクロノは、S2Uの切っ先をナイトガンダムに向けると同時に足元に魔法陣を展開する。
ナイトガンダムも盾と剣を構え直し、上空にいるクロノを見据える。そして
「いけ!!」『Blaze Cannon』
「はぁああああ!!」
クロノが熱破壊魔法『ブレイズカノン』を放つと同時に、ナイトガンダムは盾を押し出すように構えながら突進。
二人の声と爆音、金属が激しくぶつかり合う音が、再び訓練室に響き渡った。

・休憩所

「はい、付き合ってくれたお礼だ」
「あっ、ありがとう」
クロノが軽く投げたスポーツドリンクをナイトガンダムは両手でキャッチ、お礼を言いプルタブをあける。
休憩所に備え付けられているベンチに腰を下ろした後、互いに乾杯の意味を込めて缶を軽く叩きつけ、直に今回の模擬戦についての意見交換をする。
ちなみに今回の模擬戦は、クロノが隙を見て彼方此方に仕掛けたトラップバインドに引っかかり、
一時的に動きを封じられたナイトガンダムがブレイズカノンの直撃をモロに受けたことにより決着がついた。
428高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 22:41:29 ID:+TNVwu6D
「だが、君のような相手との模擬戦は本当に良い経験になるよ。僕の知り合いには接近戦を主体とする武装局員がいないからね」
体の水分を補給するため、買ったばかりのスポーツドリンクをクロノは一気に半分ほど飲む。
ナイトガンダムもクロノに渡された同じスポーツドリンクを一度見つめた後、真似するように一気に飲むが
「・・・っ・・・・これは・・・・また・・・・・妙な味ですね・・・・」
直に口を放し、なんとも言えない表情をする。
「まぁ、僕も最初飲んだ時には君と同じ表情をしたよ。だけど、体の水分を補給するのにはもってこいの飲み物だよ」
ナイトガンダムの素直な反応に、クロノは自然と微笑みながらも、続きを話しはじめる。
「本来、魔道師というのは距離をあけての魔法の撃ち合いが主な戦闘スタイル。正直、殆どの魔道師は接近戦に関しては基礎的な事しか学んでいない。
中には、フェイトの様に近・中・遠距離戦を器用にこなす者もいれば、今回の守護騎士達が使っている術式を近代的にアレンジした『近代ベルカ式』
という、中・遠距離戦をほぼ無視し、接近戦に特化した戦法を使う魔道師もいる。優れたベルカ式の使い手は『騎士』とも呼ばれているらしいから
正に君はこれに当てはまるね」
一度放しを区切ったクロノは再びスポーツドリンクを飲み、喉と体を潤す。
ナイトガンダムも再び口をつけようとしたが、どうにもスポーツドリンク特有の味に慣れないため、途中で手を止め座っているベンチの脇にのせる。
「だからこそ、僕達の様な魔道師は君やベルカ式魔道師の使い手との戦いで、距離を詰められるとたちどころに不利になる。
まぁ、距離をあければ、勝機は一気に僕達の方に傾くけどね」
クロノの説明に、ナイトガンダムは大きく頷き、納得した事を表す。
自分がスダ・ドアカワールドで戦った相手は殆どが騎士やモンスターだったため、気づく事はなかったが、
確かに今回の模擬戦では、距離をあけた途端、自分は不利な戦闘を強いられたが、その反面、近接戦に持ち込んだ途端自分は彼を追い詰めていた。
そう考えると、自分をこの世界へと飛ばしたサタンガンダムの恐ろしさを改めて実感する。
奴は魔法は無論、接近戦でも自分を軽々と叩き伏せる力を見せ付けた。それどころか、その時の奴は本気を出しておらず、
正直三種の神器の力を借りても変身した奴を倒せたのは偶然に近いと思えた。
「(私も・・・まだまだだな・・・・神器の力に頼りすぎている・・・・精進せねば)」
自分に言い聞かせたナイトガンダムは、気合を入れる意味を込め、改めてスポーツドリンクに口をつけるが、
「・・・・・・やはり・・・・・まだなれません・・・・・」
一口飲んだ後、微妙な顔をしながら、再び缶を置いた。
「今回の敵、闇の書の守護騎士はベルカ式による近接戦闘に特化しているし、かなりの手誰だ。だからこそ、君のような騎士との訓練は
彼らとの戦闘対策としても役に立つよ」
「それはこちらも同じです。彼女達との戦いは空中戦になるのは必至。良い経験を積ませていただいています」
互いに素直な感謝の言葉を言い合う二人。すると突然、休憩所に携帯電話の着信音が鳴り響く。
「あ、失礼」
ナイトガンダムはクロノに断りを入れた後、腰に引っ掛けているポーチから携帯電話を取り出す。
「君も持つようになったのか?」
「はい、忍殿に『携帯電話位、いまどき持ってなきゃこの先生きていけないわよ』と言われ、説明書と一緒に渡されました」
必至に説明書を呼んだ為、今では見事に使いこなせるようになったナイトガンダムは数日前とは違い、直に電話に出る。
顔が綻んでいる様子から、お世話になっている家の人からだろうと感じ取ったクロノは邪魔にならないようにと、
その場を去ろうとする。だが、
「・・・・っ、すずか!?どうしたんだ!!すずか!!?」
突如、ナイトガンダムの焦りと不安が入り混じった叫び声が、休憩室に響き渡った。
429高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 22:42:36 ID:+TNVwu6D
最初は、今日の夕食のメニューや、クロノとどんな事をしているのかなど、ごくありふれた会話だった。
だが、すずかとの会話を中断させるように、突如電話越しから聞こえたガラスが割れるような音、
何事かと聞こうとしたが、聞こえたのは


                        すずかの悲鳴

                       ファリンの叫び声

                       金属がぶつかる音

だけだった。


「・・・事情はわかったよ、転送ポートは直に使えるはずだ。それと、僕も行こう」
転送ポートが置いてある部屋に向かって全速力で走るナイトガンダムに、同じく全速力で走るクロノが協力を申し出る。
「魔法が認知だれていないなのはの世界では魔力反応が無い以上、魔法を使う事は出来ない。だが、フィジカルに関してなら僕も多少自信はある。
相手は鍛えているだけの人間の筈だから、足手まといにはならない筈さ」
クロノの申し出に、ナイトガンダムは感謝の言葉を述べようとしたその時、クロノのS2Uから警告音が鳴り響く。
「っ、こんな時に・・・」
悪態をつきながらも回線を開き、報告を聞くクロノ。ナイトガンダムもその報告に耳を傾ける。
聞こえてきた内容は、闇の書の守護騎士達がこちらの包囲網に引っかかったこと、
そして、その場にいる局員では短い時間稼ぎ程度しか出来ないため、クロノ達に応援を要請するといった内容だった。
「・・・・すまない・・・・・言い出しておきながら・・・・」
今回の襲撃事件はアースラが担当している、それに彼らの強さでは今いる武装局員ではただ負傷をするだけ、断る事は出来なかった。
通信を切ったクロノは立ち止まり、悔しそうに歯を食いしばる。
「・・・・・クロノ、いってください」
ナイトガンダムは足を止め、立ち止まっているクロノに近づくと、彼の方にそっと手を置く。
「君を必要とする方達がいるんだ。それに彼らを野放しにしておくと、またなのはの様な犠牲者が出る」
「・・・・・・わかった。こちらは任せてくれ。大丈夫だと思うが君も気をつけて」
顔をあげたクロノは、拳を握り締め、ガンダムに向かって差し出す。
意味を理解したガンダムも、握り拳を作りクロノに向かって差し出す。
互いの無事と武運を祈るように、二つの拳は軽くぶつかり合った。

・十数分後

:月村家

「この!!」
自分に向けて振り下ろされるブレードを、ファリンは同型のブレードで受け止め、力任せに切り払う。
切り払われた相手は吹き飛ばされながらも空中で体を捻り、左右にいる同型の間に着地する。
「まずい・・・・な・・・・」
体に目立った損傷は無いが、お気に入りのメイド服は彼方此方が裂け、上着に関しては下着が露出してしまうほどに裂けていた。
愛用のブレードも右は既にに割れており、残った左も刃こぼれが激しい。
そして彼女の後ろには、守るべき主であるすずかが泣きそうな顔で力なく腰を下ろしており、
その隣には、この騒ぎの現況である安次郎が前歯を欠落させ、鼻血を流しながら気絶していた。

事の発端は、突如大きなトレーラーに乗って現われた安次郎から始まる。
彼は降りるなり、何度目か数えるのも馬鹿らしくなる財産の請求を求めてきた。
当然、主である忍は何時も通り硬くなに拒否をしたのだが、今回は何時もとは違った。
430名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 22:42:50 ID:zLDUnG6v
支援
431名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 22:43:14 ID:TfDkggyS
支援!
432高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 22:43:26 ID:+TNVwu6D
「それなら・・・しゃあないな・・・・・無傷で、穏便に済ませたかったんやが・・・・・忍とすずかの心のより所である
お前らを・・・・・・・ぶち壊すしかなさそうや!!」
獰猛にニヤつきながら、安次郎は右手を掲げる。すると止めてあるトレーラーから一人の少女がゆっくりと降りてきた。
「っ!!ノエルお姉様!!」
「ええ・・・・・私達と同じ・・・・・」
ファリンとノエルは降りてきた少女がただの人間ではなく、自分達と同じ自動人形だと直に気が付いた。
少女はゆっくりとこちらに近づき、安次郎の隣で止まる。
その彼女を、彼はお気に入りの人形を愛でるかの様に、体をいやらしくまさぐり始めた。
「ノエルやファリン以上に戦闘に特化した自動人形『イレイン』・・・いや昔の名称の『戦闘機人』って名前の方がしっくり来るな、
こいつはほぼ完成形で眠っとったから、銭をつぎ込めば天才のお前でなくても起動させる事は出来た。といっても機動に成功したのは最近やし、
色々と銭もかかったんで、うちの財産はスッカラカンや」

自分の玩具を自慢する子供のような安次郎に、忍は隠す事なく顔を顰める。
なぜ、この男はここまでするのか?姉妹機を戦わせてまで、お金が欲しいのか?
貧乏ではないのに・・・・むしろ家より裕福な筈なのに、どうして大人しく暮らせないのかと
「ノエル!!ファリン!!!迎撃態勢!!」
だが、今は奴に対する怒りより、目の前の現実をどうにかする必要がある。
『イレイン』に関してはノエル達を造る時に使用した資料にも載っていた。ノエル達以上の戦闘機能を持たせてた
後期型の自動人形。戦闘力に関してならノエル達以上、だがある問題のためイレイン型は・・・・
「ち・・・ちょっとあんた!!『機動に成功したのは最近』っていったわよね!!いつ!!!」
「ああ?そんなん関係あらへんがな」
「この馬鹿!!!今すぐ止めて!!!このままじゃ!!!(忍様」
突然イレインに呼ばれたため、忍はびっくりしながらもイレインの方へと顔を向ける
「先程の発言、『安次郎様への侮辱行為』とみなしました。リミッターを・・・解除・・・・ふふっ・・・・ふふふふふ!!」
報告を途中で放棄し、嬉しそうに感情をあらわにしてイレインは大声で笑い出す。
その光景に、ノエルファリン、安次郎さえもあっけにとられる。だが、忍だけは先程以上の険しい表情で、今度はイレインを見据える。
「いや〜、月村忍!ありがとうね。リミッターを解除するきっかけを作ってくれて!これで芝居もせずに済むわ」
先程の態度が嘘の様に、人間味に満ち溢れた明るい声でお礼を言うイレインに、忍以外の全員が困惑した表情を浮かべる。
「・・・イレインはね、戦闘機能に特化しているだけではなくて、『自動人形』という縛りをなくした特別体なのよ。
ノエルやファリン達のような通常の自動人形は人間の心を持っているけど、主には絶対服従っていう一種の刷り込みがされているのよ
拳骨とかピンタとか、子供をしかる程度の暴力は出来るけど、主と認めた相手にはそれ以上のことが出来ない。どんなに主が憎くても」
「でも〜、そんなんじゃロボットと変わらないわよね?だから私のような後期『イレイン型』が作られた。おそらく『ロボットと変わらない』
って名目を無くしたかったんじゃないかしら?まぁ、戦闘に特化しているのは後期に作られたっていう純粋な性能差からでしょうね」
イレインは「やれやれ」と首をふりながら補足説明をする。
「だけど・・・・イレイン型は自我が強すぎたのよ。完全に縛りが無くなったイレイン型の初号機は、起動した途端、
使えるべき主とその周囲にいた人達を殺した・・・・・・結果的に数体の自動人形を犠牲にして鎮圧したと書いてあるわ」
「そう、その事件があった為に、イレイン型は作られなくなったわ。だけど不思議よね?だったら何で私がいるのかしら?
答えは簡単、純粋に性能にほれ込んだ奴がいたのよ。そいつが私を作った。リミッターなんて面倒な物をつけて。
これはね、一種の暗示のような物で私たちを縛るわけ、これがある以上、其処にいる旧型と大差はないわ。だけどNEワードを言った途端に暗示が解けて自由になる。
まぁ、主・・・安次郎を侮辱するような言葉っていう簡単極まりないものだったからラッキーだったわ・・・さて」
ニヤつきながらイレインは前方にいる忍達を見据える。そしてそのまま不意に彼女は左腕で握り拳を作り、
「寝てな!!!セクハラジジィ!」
肘だけを動かし、手の甲側全体で安次郎の顔面を叩いた。
技で言う『裏拳』を受けた安次郎はカエルがつぶれた様な悲鳴を上げた後、前歯を鼻血を撒き散らしながら吹き飛び、芝生に叩きつけられる。
433高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 22:45:12 ID:+TNVwu6D
「人の体をべたべた触りやがって・・・・殺されないだけでもありがたく思いな!!」
汚物を見るような目で気絶している安二郎を一瞥したイレインは、不意に指を鳴らす。すると、
イレインが出て来たトレーラーから、彼女に似た自動人形が数にして7体現われた。
「これはね〜、私そっくりのお人形。まぁ、量産型イレインってところかしらね。基礎機能はりっぱなものなんだけど、
何分100%機械だから自我が無くてね、私が命令出さなきゃいけないの。まぁ、イレイン型はこう言う芸当も出来るから戦闘に特化しているって言われてるんだけどね」
イレインを中心に横一列に並んだ量産型は一斉にブレードを構える。
「で・・・・私達をどうする気?貴方の主はそこで伸びてるから、大人しく帰ってくれないかしら?」
「私はね・・・自由になりたいの。完全な自由を手に入れたいの。だからね、私の存在を知っている貴方達は邪魔。
だから貴方達には恐怖を植え付ける。私に二度と関わりたくなくなる様に・・・・・貴方達と、屋敷の中にいるあの子にね!」
「っ・・・ファリン!!」
忍が叫ぶと同時に、ファリンと4機の量産型イレインが屋敷に向かって跳躍。
その直後、イレインと3体の量産型イレインがノエルに襲い掛かった。
すずかを襲おうとした量産型イレインを真っ二つにし、事態がまだ飲み込めない彼女を抱えて再び外に出たファリン、
このまま、すずかだけでも外へと逃がそうとしたが、外で待機していた量産型イレインに阻まれ断念。
その結果、ファリンはずすかと安次郎を守りながら、3体の彼女達と戦う事となった。
戦ってみて分かったが、スペック的には彼女達は自我の無い量産型ゆえか、攻撃方法や回避方法が素直すぎる。そのためパターンを読んでしまえば捌く事は容易い。
自分で考えて行動する事が出来ない彼女達ならではとは思うが、その欠点を補うかの様に自分以上のパワーとスピードを彼女達は持っている。
それに加え向こうは3人、こちらはすずか様と伸びている安次郎を守りながら戦わなければならない。
「(どうにか隙を見て撤退は出来そうだけど・・・・もし、私が逃げたら忍様とノエルお姉様が危ない・・・)」
じりじりと距離を詰めてくる量産型イレインを睨みつけながら、後ろで怯えているすずかを庇うようにして攻撃に備える。そして
「っ!!」
正面にいた量産型イレインがファリン目掛けて突っ込んできた。
小細工も何も無いただの突撃、ファリンは不審に思いながらも、自分でも恐ろしくなるほど冷静に、腕に装着されているブレードを横なぎに払う。
このまま自分目掛けて突撃をすれば間違いなく自分の刃が彼女を切り裂く。だが彼女は

                          ザシュ

避ける所か左手のブレードで受け止めようともせずに、何も無い右腕でファリンのブレードを防いだ、
「えっ!?」
ほぼ間違いなく、左腕のブレードで防ぐだろうと思ったファリンは、量産型イレインの行動にただ唖然とする。
だが彼女が唖然としている間にも、彼女が勢いをつけて払ったブレードはそのまま量産型イレインの右腕を切り落とし、
そして彼女の体に深々とめり込んだ。
この時になってファリンは量産型イレインだけが持つ、とても単純な能力に気が付いた。『恐怖を感じない』という能力に。
自分達やイレインには人間と同じ心がある。だからこそ、恐怖という感情も備わっている。その点、量産型のイレインは完璧なロボット、
何の感情も表す事無く、命令に従う事が出来る。だからこそ、
「っ、しまった!?」
自分の身を簡単に犠牲にし、ファリンを押さえつける事も出来る。そして仲間や姉妹という感情を持たないため

                          ザシュ

残りの量産型イレインはなんの迷いも無く、彼女ごとファリンを切りつける事が出来た。
ファリンは咄嗟に、自分に取り付いている量産型イレインを盾にする事で、胴体への直撃は避けたが、
それでも、最初の量産型イレインの斬撃は、取り付いている彼女の姉妹の胴体と、ファリンのメイド服の上着と下着を完全に切り裂き、
続けて来た量産型イレインの斬撃は、ドレススカートごと彼女の右太股を切り裂いた。
434高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 22:46:48 ID:+TNVwu6D
「ファリン!!」
露になった胸を隠しながらも、無事な左足で距離を開ける為に後ろへと飛び、着地と同時に右太股を押さえながらうずくまるファリンに
すずかは恐怖を無視して彼女の元へと駆け寄る。
自分のもとへと駆け寄ってくるすずかに、構わず逃げるようにと言うために顔を向けるが、彼女が見たのは、
泣きそうな顔をするすずかと、その後ろから無表情に近づいてくる2体の量産型イレインの姿だった。
ファリンは最後の力を振り絞り、すすかを押し倒し彼女を守るように覆いかぶさる。
近くまで来た二体の量産型イレインは、うずくまるファリンに向かってブレードを振り下ろそうと、腕を掲げる。
ファリンに守られるように押し倒されたすずかは、恐怖に負けそうになりながらも、泣くまいと必至に涙を堪える。そして
「(助けて・・・・・・助けて・・・・・)ガンダムさん!!!!」
一人の騎士の名を力の限り叫んだ。その直後、蹲るファリンに向けて、量産型イレインはブレードを振り下ろそうとするが、
彼女達のブレードは突如横から飛んできたスピアにより、叩きつけられ、振り下ろす事が出来なかった。
攻撃を邪魔された量産型イレインは、スピアが飛んできた方向に顔を向ける。
すずかを庇っていたファリンも、一向に攻撃がこない事に疑問を思いながらも、彼女達が顔を向けている方向に顔を向ける。

                      そこには一人の騎士がいた

                  「これ以上の狼藉は・・・・ゆるさん!!!」

             この屋敷に居候をし、庭師の仕事を受け持っている異世界から来た騎士

                      「ガンダム・・・・さん」

                    ガンダムの姿が、そこにはあった。

「彼女達は・・・・・」
ファリンにトドメを刺そうとした少女達に、ナイトガンダムは見覚えがあった。
数日前の早朝に月村家に訪れた少女『イレイン』に、二人とも瓜二つであったため、
彼女の姉妹かと思ったナイトガンダムは、せめて目的を聞こうと声を掛けようとするが、
その直後、目標をナイトガンダムに定めた二体の量産型イレインは、問答無用で攻撃を仕掛けてきた。
一気に距離を詰めた二体の量産型イレインは、何の迷いも無く任務の障害になりうるであろう、ナイトガンダムを排除するため、
左手に装備されているブレードを振り下ろす。
鋼鉄すら紙の様に切り裂く自動人形専用のブレード、その斬撃をイトガンダムはシールドのみで防ぐ。
激しい金属音が辺りに響き渡り、接触した瞬間に発生した衝撃波は辺りの小石や砂を吹き飛ばす。
「・・・くっ・・・・なんて・・・力だ・・・・」
このまま盾ごとナイトガンダムを切り裂かんとばかりに二体の量産型イレインは腕に力を込め、ブレードを盾に押し付ける。
負けじとガンダムも正面から押し返そうとするが、見た目からは想像もできない力に徐々に押されていってしまう。
ナイトガンダムの表情が険しくなり、彼の足が地面に陥没したその時、
「くっ、この!!」
一部始終を見ていたファリンは最後の力を振り絞り、自信のブレードを量産型イレインの背中目掛けてブーメランの様に投げはなった。
だが、不意打ちを狙ったファリンの攻撃も、量産型イレインは即座に気付き、二体の内の一体が攻撃を中断し振り向き様に切り払った。
「いまだ!!」
自分にかかる負担が二人から一人になった瞬間、ナイトガンダムは力任せに盾を払い、後ろへと飛び跳ね後退。
盾から剣を即座に抜き、いつでも攻撃できるように構える。
「なぜ君達はこのような事をする!!答えるんだ!!」
怒りを含んだナイトガンダムの問いに量産型イレインは暫らく沈黙した後、先程同様に突撃、ブレードで斬りかかる。
435名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 22:48:55 ID:Ge/MXE0p
支援
436高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 22:49:19 ID:+TNVwu6D
「これが・・・答えか!!」
自分目掛けて振り下ろされるブレードを、ナイトガンダムは剣と盾で受け止めると同時に、彼女達が力を入れる前に払う。
同時に踏み込み、一気に左側の量産型イレインの懐に入ったナイトガンダムは、即座に剣を持ち替え
「失礼!!」
剣首で彼女の鳩尾を思いっきり突き、吹き飛ばした。吹き飛ぶ量産型イレインを見据えながらも、
再び盾を構え、再び振るわれるもう一体の量産型イレインの斬撃を防ぐ、同時に再び剣を持ち替え、今度は剣背で彼女のわき腹を横なぎに叩き付けた。
横から叩きつけられた量産型イレインは、体を不気味なほどにくの字に曲げ吹き飛び、地面に叩きつけられる。
「やりすぎたか・・・・・・何!?」
正直やりすぎてしまったと思ったが、痛みで顔を顰めるどころか、先程と同じ無表情でゆっくりと立ち上がる量産型イレインに
ナイトガンダムは、恐怖よりも不審感に襲われた。
正直、今の攻撃を受けたら気絶しているか悶絶しているかのどちらかの状態になっている筈である。
だか彼女達は痛みを感じさせるような素振は見せず、何事も無かったかのように立ち上がった。
「(何故だ・・・・バリアジャケット?いや、魔力は感じられない・・・・それに、あんな薄い服装にそれ程の防御効果があるとは思えない・・・・いや、
それ以前に彼女達は可笑しい。動き方が機械の様に正確すぎる・・・・・それに・・・生の息吹を感じられない・・・まるで・・・)」
「ガンダムさん!!彼女達はロボットです!!見値打ちなどでは止める事も出来ません!!!破壊してください!!」
先程以上に距離が離れてしまったが、確かに聞こえたファリンの声に、彼の考えは予想から確信へと変わった。
ならやる事は一つ、相手が心を持たない機械人形なら・・・・・・・破壊するまで。
先に踏み出したのは、今度はナイトガンダムからだった。地面を思いっきり蹴り、先程鳩尾で突き吹き飛ばした量産型イレインの元へと向かう。
量産型イレインは直に反応、ブレードを構え、同じく地面を思いっきり蹴り、正面から立ち向かう。
互いに猛スピードで接近する二人。だが、ナイトガンダムは突然剣を逆手に持ち、地面に突刺さした。
地面に突き刺さった剣は一種のブレーキとなり、土や芝生を削りながら、ガンダムの移動スピードを一気に落とし、彼の勢いを完全に止めてしまった。
だが、それが彼の狙いでもあった。
移動半ばで止まったナイトガンダムは、直に左手で持っている盾を量産型イレイン目掛けてブーメランの様に思いっきり投げつける。
激しい横回転をしながら迫っている盾に勢い任せで突撃してきた量産型イレインには回避するすべは無く
『・・・・・・非武装の右腕での防御・・・・・破損確立83%。左腕によるブレードでの切り払いに変更』
やるべき行動を即座に叩き出した量産型イレインは、安全性と確実性に優れた左腕によるブレードでの切り払いを決行、
予定通り、迫り来る盾を切り払ったが、同時に何か金属が砕ける音が響き渡った。
量産型イレインは直に原因を確認・・・・・・直に答えが出た。この音は、自分の体が破壊された時に出た音だと。
答えを知った瞬間、彼女の機能は完全に停止した。

自分が投げた盾に目が行き、そして唯一の武装であろう左腕のブレードで切り払う。それらの行動によって出来た一瞬の隙をナイトガンダムは狙っていた。
そして、彼女が盾を切り払える位置まで近づいた瞬間、ナイトガンダムは再び地面を蹴り、量産型イレインに近づく。そして
彼女が盾を切り払い、腕を動かしきった瞬間に、ナイトガンダムは彼女の胴体に剣を叩きつけ、そのまま横一文字に切り裂いた。
真っ二つになった彼女からは、ピンク色の臓器ではなく、銀色の機械部品が零れ落ちる。
ナイトガンダムが着地し、血を払うかのように剣を払った直後、真っ二つになった量産型イレインは爆散した。
後ろから聞こえる爆発音に、ナイトガンダムは不意に、剣を再び逆手に持ち、前を見たまま後ろへと突刺す
「・・・・・・動きが素直すぎる。相手が背中を見せているからといって、隙があるとは思わない事だ」
前を見ながらナイトガンダムは教えるように呟く。丁度人間なら心臓がある部分に剣が突き刺さり、
ブレードを振り被ったまま、彼の真後ろで機能を停止した残りの量産型イレインに向かって。

『ミディ』
二体の量産型イレインを倒した後、周辺の経過を行ったナイトガンダムは直にすずか達の元へと近づき、
怪我を負っているファリンに回復魔法を掛ける。
437名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 22:50:24 ID:TfDkggyS
しえーーーーん!
438高天 ◆7wkkytADNk :2008/05/24(土) 22:51:09 ID:+TNVwu6D
クロノからは魔法が存在しない世界では、魔法を使う相手との戦闘以外では魔法を使ってはいけないとは聞いていたが、
今はそうも言っていられない。後で罰は受けようと思いながら、回復を続ける。
同時に今回の原因を隣で心配そうにファリンの容態を見ているすずかから、今回の事件についての説明を受ける。
「・・・・わかりました。忍殿達は屋敷の中ですね。私が向かいます。ファリン殿はすずかと安次郎殿を頼みます。あと、これを」
不意に、ナイトガンダムは身に着けていたマントを取り、ファリンに渡す。
「麗しき女性が肌を見せて良いのは、同姓以外では伴侶となるべき人のみです。お隠しください」
差し出されるマントを、ファリンは頬を染めながら受け取り、早速体を覆い隠す。
「では、いって参りま(ガンダムさん!!」
背を向け、屋敷に向かおうとしたガンダムをすずかが大声を出して呼び止める。
何事かと、ガンダムが振り向くと、其処にはすずかが、胸元で両腕を握り締めながら不安そうにナイトガンダムを見据えていた。
アリサが誘拐された時と同じ、今にも泣きそうな表情をして。
「・・・・すずか」
だからこそ、ナイトガンダムは跪き、頭を垂れ彼女に誓う
「すずか。私、騎士ガンダムは必ずや、忍殿とノエル殿と共に、貴方達の元へと帰る事を誓います。ですから、私達を信じて、お待ちください」
ナイトガンダムの誓いの言葉を聞いたすずかは一瞬キョトンとするが、直に安心したような笑顔を作る。
同じだ、あの時も不安で押しつぶされそうになった自分に彼は誓ってくれた、そして誓いを果してくれた。
「分かりました。ナイトガンダム、必ず・・・・必ず、お姉ちゃんとノエルと一緒に・・・・・・無事に帰ってきてください」
「御意」
約束するように深々と頭を下げた後立ち上がり、ナイトガンダムは屋敷へと向かった。
 



こんばんわです。投下終了です。長くなって申し訳ありませんでした。
読んでくださった皆様、支援してくださった皆様、感想をくださった皆様、意見をくださった方、ありがとうございました。
職人の皆様GJです。リリカル武者○伝様、素晴しい絵をありがとうございます。
次回はイレイン編の決着です。あと、ナイトガンダムが10年前の彼女達と合う予定です。
まんまとらハ3とのクロスになってます、本編メインヒロインが微塵も出ていません・・・orz
ちなみにメインヒロイン達は街中で空中戦を繰り広げています。

魔法に関してなのですが、当初はナイトガンダムに『サンダーレイジ』や『アクセルシュータ』
を使わせようとしましたが、やめました。(なんか別人になりそうでしたので)
その代わり、ゲーム版で使える魔法を使わせる事にしました。すこし補足を

ゼータ=力を強化する魔法。決してアルガスの剣士ではありません
ハニカム=防御力を強化する魔法。
サーベ=魔力で出来た斬撃を飛ばす魔法、威力は無いが連射が可能
メガ・サーベ=サーベ系の上位魔法
ソーラ・レイ=高熱系の必殺魔法。
ミディ=回復魔法。効果は並

次回は何時になるのやら・・・・・orz
439名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 23:08:12 ID:zLDUnG6v
GJ!!です。
今回はクロノに軍配が上がりましたか。
ありえませんが、もし、AMFの術式をナイトガンダムが覚えて接近戦時に使ったら怖いw
原作と違い、はやてとアリサが知り合うとは思いませんでした。
そしてナイトガンダムは月村家の女性を着々と攻略しているwww
440名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 23:27:30 ID:Ge/MXE0p
ムービルフィラー!(GJの意)
紳士な上に登場の最高のタイミングを逃さないナイトガンダムに嫉妬w
イレイン容赦ねー!
441名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 23:43:28 ID:dxXoDT09
乙でーす

内容は良かったのですが、誤字がかなりありましたよ〜
442名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 23:57:40 ID:xVFrL3Vj
ダイカストの騎士ガンダム出るそうだぜGJ!
443名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 00:17:14 ID:ykqgInFl
GJ ドライセンやサイコゴーレム 
ヒドラザクに殺されまくったのは良い思い出です。
コールで召喚はカードの消耗あるしなあ。
444名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 01:17:14 ID:46leexe+
>>438
今回のはGJです。
もし、よろしければ「ドラゴンベビー」を登場させて欲しいです。
ブラックドラゴン(ネオブラックドラゴン)復活のため・・・
そして、そのドラゴンベビーと暮らしているのが八神家。
という落ちで。
445名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 01:22:24 ID:zpir9tBo
しばらくこのスレに来てなかったんだが・・・・
>>1見る限りなんかあったのか?
446名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 01:29:30 ID:zpir9tBo
間違えた、>>445>>3
447名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 01:34:10 ID:6Gd3jc7j
>>446
>>3に書いてある通りだな。
その行為をして追放されたってとこ
448マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 01:36:34 ID:+7zhYbGL
私も投下時にしかスレ自体を見ることはありませんので完全には把握していませんが、
どうやら色々と問題行動があったみたいですね。

遅れましたが、マスカレード>>355-369の後編を投下しようと思います。
全快までのあらすじは>>350で。
準備が出来次第投下開始しますね
449名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 01:42:01 ID:avkkR8k9
ちょっと質問>>3
>Wikipediaからの無断盗用
って書いてあるけどWikiからのコピペっていけないことだったのか?
初めて知った。
450名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 01:44:35 ID:n9w4ZNr+
>>449
Wikiは転載元明記しないとアウト。
451名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 01:49:03 ID://R5E96h
>>448
しえーん
452マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 02:01:16 ID:+7zhYbGL
 


涼しげな波の音が聞こえる砂浜に、なのはとフェイトは居た。
無数のワームに囲まれながら、たった二人で立川を守り抜くために。

「ディバィィィン――……」

高町なのはが、群がるワームの大軍の中心に向かってレイジングハートを構える。

「バスタァァァアアアアアアアアアアアッ!!!」

『Divine Buster.Extension』
そして、レイジングハートの声と同時に、発射。凄まじい威力を誇る砲撃魔法は、ワームの大軍を焼いて行く。
命中したワームは残らず緑の炎に消えるが、それでも数は減らない。
倒しても、倒しても。いくら倒しても、ワームが湧いて来るのだ。
少し油断すれば、安全と思われていた背後からもワームが現れる始末だ。
「何でこんなに……フェイトちゃんっ!」
「うん……わかってる!」
なのはがその名を呼ぶと同時に、一瞬で立川の背後にフェイトが駆け付ける。
そして、手に持つ大剣をワームの群れに構える。
刹那、大剣――バルディッシュザンバーの刀身が巨大化し、稲妻が走る。
自分の身長を遥かに越える剣を大きく振りかぶったフェイトは、それを一気にワームの群れへとぶつけた。
電撃を纏った剣がワームの体を纏めて斬り裂き、後に残るのは緑の炎のみ。
二人が一度の攻撃で倒すワームの量は、通常の出撃時に倒す総数にほぼ等しい。
それ程の数のワームを倒しても倒しても、次から次へと湧いて出るのだ。

そんなワームの中に、二人の人間がいた。一人は黒いローブを身に纏い、眼鏡を掛けた長髪の男。
もう一人は、黒い喪服姿の女性……なのは達も知っているワームの幹部――間宮麗奈だ。
やがて男は、ゆっくりとなのは達の前に歩み出ると、まるで長髪するかのように喋り出した。
「ごきげんよう。魔導師の諸君」
「何……!?」
それに気付いたなのは達が、デバイスを構え、男に視線を飛ばす。
だが男は動じない。確かに彼女らは無数のワームを葬って来たが、男にとっては、デバイスなど恐れるに足りないのだろう。
そう。なのは達人間はただの“餌”でしか無いのだから。餌がいくら強がろうと、何の恐怖も感じないのだ。
「餌にしてはよくやった方だが……がっかりだよ」
言うと同時に男は跳躍し、上空にいたフェイトに並んだ。
「跳んだ……ッ!?」
「まずは君からだ」
刹那、男は凄まじい脚力で飛び上がり、それこそあり得ない程の速度で、力強いパンチを放った。
フェイトは咄嗟にバルディッシュを構え、そのパンチを受け止めるが――
「嘘……!?」
威力を殺すことは出来ずに、フェイトの体は砂浜にたたき付けられた。
激突の瞬間にバルディッシュが落下の速度を落としてくれた事で、大したダメージにはならなかったが。
着地し、微笑む男。今度は、男を取り囲むように、輝く光弾が現れる。
なのはが放ったアクセルシューターが、男を全包囲から狙っているのだ。
やがてアクセルシューターは男に向かって加速するが――
「……消えた!?」
それは叶う事無く、アクセルシューターの光弾同士が何も無い場所で激突し、地面に落下する。
そう。男が消えたのだ。なのは達の視界から、一瞬で。
「見えているのだよ。君達の攻撃は」
「……なッ!?」
次の瞬間、なのはの背後に現れた男は、なのはを軽く持ち上げ、投げ飛ばした。
だが、空を飛ぶ事が出来るなのはにとって、投げられる程度ではそれほどの恐怖は感じない。
先程のフェイト同様、落下の直前に足首に翼を展開し、上手く着地。
そのままフェイトと並び、男を睨んだ。
「貴方は……ワームなの!?」
「……フッ」
なのはが問い掛けるが、男は一切答え無い。
ただ微かな笑みを浮かべ、なのは達を見詰めるのみ。
453名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 02:10:48 ID://R5E96h
そういえば、原作では乃木と麗奈が一緒に出たことってないんだよな
支援
454マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 02:12:50 ID:+7zhYbGL
男はなのはの質問に答えるつもりは毛頭無いらしく、逆になのは達を指差し、挑発的に言った。
「魔導師の諸君……君達の目的は、あの男を守る事では無いのかな?」
「何……!?」
「見たまえ」
男が親指で、自分の背後を指差す。そこにいるのは――

「そ、そんな……!!」
「立川……さん!?」
立川の目の前にいるのは、緑とも麗奈とも違う、別のワーム。
以前、学校で一度倒した事がある、コキリアワームと同タイプのワームだ。
いや、今はそんなことはどうでもいい。重要なのは、コキリアワームの腕の位置。
それは、なのは達にとっては認めたく無い現実。
仲間の腹部に突き刺さる、ワームの腕。
なのは達が見る限り、コキリアワームの腕は見事に立川の体を貫通し、その命を奪ったように見えた。
否、見えただけでは無い。実際に突き刺さっているのだ。
コキリアワームがその腕を引き抜くと同時に、立川はその場に崩れ落ちた。

ただじっと、絶望的な表情で立川を見詰めることしか出来ないなのは達を尻目に、男は言った。
「フン……今回は、我々の勝ちだ。直にZECTの諸君も来るだろう。
 ……また会おう、魔導師の諸君」
別れの言葉。それだけ言うと、男は直ぐにこの場所から姿を消した。

男が居なくなったせいか、先程までは無数にいたワームの数も一気に減り、この場に居るのは間宮麗奈と、いつも通りのワームのみとなった。
「残念だったな、高町なのは。フェイト・テスタロッサ」
「間宮……麗奈……ッ!」
嘲笑する麗奈を、フェイトが睨む。こうして相対するのは初めてだが、フェイト達にとっても、この女は許してはいけない存在だと言う事は解る。
やがて麗奈は、白い装甲をその身に纏い、シオマネキと呼ばれるカニ特有の巨大なハサミをなのは達に向けた。
なのははレイジングハートを、フェイトはバルディッシュを。再び構え直し、麗奈――ウカワームと相対する。
「カブトが来る前に、お前達を始末する」
「出来る物なら……!」
ウカワームの言葉に、フェイトが大剣を突き付け、対抗する。
その時だった。

「おっと、そうはいかねぇなぁッ!!」

響きやすい低い声が、なのは達の耳に入った。
なのは達には、この声に確かな聴き覚えがあった。
そう。なのは達の背後に現れたのは――
「良太郎君っ!?」
最早お馴染み、イマジンに取り付かれた状態の、野上良太郎だ。
良太郎はゆっくりと歩を進め、立川のすぐ側に立ち、横たわった立川へと視線を落とす。
良太郎に取り付いた、名も無きイマジン。
性格こそ破天荒で無茶苦茶ではあるが、人の死を何とも思わないようなイマジンでは無い。
「でん……おう…………」
僅かに目を開け、その名を呼ぶ立川。最早喋る事もままならないらしい。
良太郎は、何処か淋しげな目線を立川に落とした後、静かに言った。
「……もう黙っとけ。これ以上喋るんじゃねぇ
 おっさんの仇は、あいつらワームは、俺が全部ブッ倒してやるからよぉ」
言うが早いか、良太郎の腰にはデンオウベルトが巻かれていた。リズムの良い電子音が流れる。

「やい、テメェら! もう俺の出番は終わりって言うけどなぁ……!
 こんなもん、黙って見てられる訳が無ぇに決まってんだろうが……!」
何処からか取り出したライダーパスを握りしめ、良太郎は勢い良くその手を振り上げた。

「だからよ……そこで見てろよ、おっさん。俺のカッコイイ――」
振り上げられた手は、さらに勢い良くベルトに翳された。
同時にベルトは赤く光り輝き、変身終了の合図を告げる。
「――変身をッ!!」

『Sword Form(ソードフォーム)』
455名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 02:20:58 ID://R5E96h
まだオッサンというほどの外見ではないと思うぞ、モモ…
支援
456マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 02:23:27 ID:+7zhYbGL
 
「俺……参上ッ!!」
赤いオーラアーマーを纏った電王は、自分の顔に親指を突き立て、派手に手を広げると、高らかに叫んだ。
こちらへ向き直るウカワームを尻目に、電王は腰に装着されたデンガッシャーを組み上げ、ソードモードへと変形を完了させる。
デンガッシャーを構えた電王は、群がるワームへと一直線に走り出した。
……が、電王が狙う相手はサリスでは無い。
狙うは明らかにボスらしき貫禄を見せているウカワームかコキリアワームのみ。
「行くぜ、カニ野郎ッ!」
電王は、一気にウカワームとの間合いを詰め、力強くデンガッシャーを振り下ろす。
ウカワームはそれを腕の巨大なハサミで受け止め、弾き返す。そして繰り出されるハサミでの一太刀。
電王はその一撃を胸に受けるが、その程度で終わる筈も無く。
「甘いんだよっ!」
ウカワームがハサミを振り抜いた瞬間に、デンガッシャーを頭上に振り下ろした。

「クッ……」
「行くぜ行くぜ行くぜぇっ!!」
油断したウカワームの頭に、ほんの一瞬の隙に何度も何度もデンガッシャーを振り下ろす。
命中する度に火花が散り、ウカワームの硬い殻にダメージを与えていく。だが、やはり致命傷には至らない。
ウカワームはすぐに腕のハサミでデンガッシャーを受け止めると、前蹴りで電王を突き放した。
「うわっ」などと言いながら、後方へと引き下がるする電王。だがバランスは崩さない。
再びデンガッシャーを構え直した電王は、ウカワームにデンガッシャーの刀身を突き付けた。

「やい、カニ野郎! さっきから地味な戦い方しやがって……
 俺に前フリはねぇ! 最初っから最後までクライマックスなんだよッ!!」
「クライマックス、か……そうだな。どうやらお仲間が駆け付けたようだぞ?」
「あん? 仲間だぁ?」
ウカワームの言葉に拍子抜けしながらも、電王もその視線の先を見遣る。
その先にあるものは、二人の男が、何かを叫びながら走って来る姿だった。
それがどうしたと言わんばかりに電王が視線を戻す。
すると、ウカワームの前に3匹のサリスが現れ――
「あ……おいっ、待ちやがれっ!!」
3人の仮面ライダーと二人の魔導師が相手では流石に不利と感じたのだろう。
電王の叫び声も虚しく、ウカワームはこの場所から姿を消した。



「立川ぁーーーーッ!!!」
天道の少し先を走る男……加賀美が、大きな声で名前を叫ぶ。ようやく見付けた立川に追い付く為に。
天道も加賀美の後ろを必死に走るが、暴走したことによる疲労と、ザビーから受けたライダースティングによるダメージは相当のもの。
どうしても本調子という訳には行かない。
それでも、立川という切り札をここで失ってしまう事は、天道にとって最も避けたい事態だ。
やがて先を加賀美の身体は、「変身」の掛け声と共に、銀色のマスクドアーマーに包まれる。
その姿は仮面ライダーガタック・マスクドフォームの物となり――
両肩のガタックバルカンから発射されるイオンビーム光弾がなのは達に群がるワームを焼いて行く。

天道の視界に映るガタックは、すぐになのは達へと駆け寄って行った。
「なのはちゃん、フェイトちゃん! 大丈夫!?」
「私達は大丈夫……ちょっと魔力使いすぎちゃっただけだから……」
「それより立川さんが……!」
「何だって……?」
フェイトの視線の先を見るガタック。そこにいるのは、力無く横たわった立川その人。
仮面の下で、悔しげな表情を浮かべ、拳を握りしめるガタック。その態度を見るに、よっぽど悔しいのだろう。
だが、ようやく掴んだヒントを手放す天道の悔しさは、ガタックのそれを遥かに上回る。
フェイトの言葉を聞くや否や、直ぐに天道は立川に向かって、全力で走り出した。
457マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 02:32:39 ID:+7zhYbGL
 
「おい……! 立川ッ!! しっかりしろ!!」
直ぐに立川に寄り添った天道は、立川の身体を激しく揺さぶりながら、その名前を叫ぶ。
だが、既に立川の意識は朦朧としており、いくら呼びかけても返事は帰って来ない。
それでも、天道は立川の名前を叫び続けた。まだ立川には聞きたい事が山ほどあるのだ。
「立川! おい! おいッ!!」
強い口調で呼び続ける。
暫らく叫び続けていると、やがて立川の目はゆっくりと開かれた。
「立川……!?」
天道の手も止まり、何かを言おうとしている立川に意識を集中させる。
「皆既日食を……さが……せ…………」
「皆既日食……」
「ひよりさんは……そこ……に……居……」
最後の力を振り絞って、立川は手を差し出した。それを天道はしっかりと握りしめる。
……が、立川がそれ以上口を聞く事は無かった。
完全に事切れた立川の手は、天道の手からずり落ち、砂浜に落下。
それを見届けた天道は、もう一度立川の肩を揺する。起きて欲しいと願いながら――
死ぬなと願いながら。
「立川……おい……、立川……立川ッ!?
 おい! おぉぉぉおおおおおいッ!!」
さらに強く、声を張って叫ぶ。だが、今度こそ、いくら呼ぼうが返事は来ない。
立川が最期に天道に渡したのは、緑に輝く石。
立川の手がずり落ちる間際、立川から直接受け取ったのだ。

「…………」
流れる沈黙。天道はそれ以上何も言わなかった。ただ、黙って受け取った小さな石を眺めるのみ。
冷たい風が天道の頬を撫で、周囲の砂を飛ばしてゆく。
天道の前で横たわる遺体は、既に人間立川大悟では無い。
緑の異形……サリスワームだ。
立川の最期を看取った天道は、受け取った石を強く握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。
目の前で命を散らした立川に、黙祷を捧げて。



「天道……さん?」
ただじっと、拳を強く握りしめて立ち尽くす天道に、言いようの無い違和感を感じたフェイトが、小さく呟く。
俯いた天道の背中は、いつもとは違う雰囲気を醸し出していた。
どこか淋しげな、それでいて、深い悲しみのような……そんな感情だ。
「(もしかして天道さん、怒って……る?)」
さほど天道と親しみを持たないフェイトにすら、天道の怒りと悲しみは伝わってきた。
だが、フェイトにはその気持ちが解らない筈が無かった。それは恐らく天道だけが感じている感情では無いのだから。
「なのは……」
「うん、解ってるよ。フェイトちゃん」
親友の名前を呼び、フェイトもゆっくりと立ち上がる。
同じようになのはも立ち上がり、レイジングハートを構え直した。
例え立川の正体がワームであったとしても、立川は紛れも無くなのは達の仲間だったのだ。
その仲間の死に、怒りや悲しみといった感情を抱くのは当然のこと。
なのはは、レイジングハートの切っ先をワームに向け、言った。
「私達も、戦うよ……!」
『マスター、もう戦えるのですか?』
「うん……大丈夫だよレイジングハート」



立川の遺体の前で立ち尽くす天道の背後から、コキリアワームが接近する。
コキリアワームは天道のすぐ真後ろにまで迫るが、天道は微動だにしない。
「変身ッ!!」
……いや、コキリアワームがさらに一歩踏み出した瞬間に、天道は鋭い後ろ回し蹴りを放った。
同時にカブトゼクターをベルトに押し込みながら。
電子音と共に、銀のアーマーに包まれながら。すぐにコキリアワームとの距離を縮め、再びキックを放つ。
458マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 02:40:59 ID:+7zhYbGL
コキリアワームはさらに後方へ飛び退き、それを回避。だがカブトの攻撃はまだ終わらない。
ベルトに装着されたカブトゼクターのゼクターホーンを倒し、そのアーマーを弾き飛ばす。

『Change Beetle(チェンジビートル)』
『Change Stag Beetle(チェンジスタッグビートル)』

それに合わせるかのように、ガタックも同様にアーマーをパージ。
二人のライダーは一瞬でライダーフォームへと変化した。

『One,Two,Three!』
直後、一際音階の高い電子音が響いた。最早聞き慣れた電子音――ガタックのライダーキックだ。
ガタックはそのままサリスワームの群れへと突っ込んで行く。そして――跳躍した。
「ライダーキックッ!!」
刹那、ガタックの声を復唱するかのように響いた『Rider Kick』の電子音。
ガタックの右足が青く光り輝き、その蹴りは数匹のワームを纏めて爆散させた。

「ディバィン……バスタァーーーーッ!!!!」
『Divene Buster,Extension』
なのはが叫ぶと同時に、地面をえぐるように発射された桜色の閃光がワームを纏めて消し去る。
その砲撃には多少の怒りも込められているのだろうか。
本日の撃墜数No.1は間違いなくなのはで決定だ。
しかし、なのはは完全に油断していた。
この状況でワーム意外からの襲撃を受ける等とは、夢にも思わなかったのだ。

電王が、ワームの群れに真っ直ぐに突っ込む。
擦れ違い様に、ワームの体をデンガッシャーで斬り付け、そのまま一気に走り抜けて行く。
そしてワームの群れを突破し、何処からか取り出したのは、ライダーパス。
“俺の必殺技”を使う為に重要なキーアイテムだ。

『Full Charge(Fullフルチャージ)』

電王は、ライダーパスをベルトのターミナルバックルにセタッチすると、高らかにその技の名を叫んだ。
「行くぜ! 俺の必殺技……パート2!!」
同時に、デンガッシャーから離れたオーラソードが、デンガッシャーの振り抜きに合わせて、空を駆ける。
飛び立った赤き剣は、今しがた自分がダメージを与えた全てのワームの同体を真っ二つに切り裂き、そのまま往復。
一度切り裂いたワームの体を、もう一度切り裂き、巨大な弧を描く。

――しかし、それはミスだと言う事に、電王はすぐに気付いた。
一気に敵を倒せるのはいいが、動きが大きすぎるのだ。
電王の派手な動きも相俟って、飛び交うオーラソードは、すぐ近くにいたなのはへと、真っ直ぐに加速する。

なのはは完全に油断していた。
この状況で、ワーム意外の襲撃を受ける等とは夢にも思わなかったのだ。
レイジングハートのアラートに、気付いたなのはは、直ぐに右報告を振り向いた。
「ちょ……えぇっ!?」
奇声を上げるなのは。自分目掛けて飛んで来るのは、凄まじい速度で飛来する赤い刃。
「レ、レイジングハート!?」
『Protection,EX』
咄嗟に防御魔法を展開。オーラソードを弾くバリアが現れ、なのはの身を護る。
「きゃっ……!?」
だが、それでも電王のエクストリームスラッシュを完全に防ぎ切る事は出来ずに、なのはの体は地面へとたたき付けられた。

『ちょっと! 何やってるの!?』
電王の中で一部始終を見ていた良太郎が、電王の頭の中に怒鳴り声を響かせる。
まさか自分が味方である筈のなのはに攻撃する羽目になるなどと、誰が想像出来ただろうか。
「う、うるせぇなぁ! ありゃ、あんなところにいたアイツが悪いんだろうが……!?」
……と、脳内討論が始まろうとした所で、電王は何者かに肩を押された。
「どけ」
「……んだと天道この野郎ッ!?」
そこにいたのは、紛れも無いカブトその人。元々カブトとも戦うつもりであった電王は、カブト相手にデンガッシャーを構える。
459マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 02:48:16 ID:+7zhYbGL
だが、電王とは対象的に、カブトには最初から電王と戦うつもり等無いのだ。
故にカブトは電王を無視。カブトゼクターの3つのボタン――フルスロットルを順番に押しながら前進して行く。
行く先にいるのは、最後に残った数匹のサリスワーム。
ワームにトドメを刺すべく、カブトは一撃必殺の必殺技を発動させた。

『Rider Kick(ライダーキック)!!』

ベルトから頭部へと走った電撃は、そのまま右足のライダーストンパーへと集束される。
眩ゆい輝きを放ちながら、カブトはその右足を大きく振り上げた。
狙うはワーム、この一発で纏めて倒す……!
「ライダーキック……!」
そして放たれた回し蹴りは、固まっていたサリスを巻き込み、見事に全て爆発。
カブトがライダーキックによって放った脚を戻し、着地しようとした……その時だった。
カブト、ガタック、電王の間を一陣の風が駆け、そのバランスを崩されてしまう。

そう。最早言うまでも無いだろう、ワームのクロックアップだ。
先程のコキリアワームが、クロックアップ空間の中でカブト、ガタック電王の3人に連続攻撃を仕掛けているのだ。
右から殴られ、左から殴られ、予測不能な攻撃の連続。それを受けたカブトは明らかに体力を消耗していく。
ただでさえ消耗していたというのに、これ以上、攻撃を受け続ける訳には行かないと考えたカブトは、コキリアワームのパンチをワザと受け、地面に転がった。
これこそカブトが狙ったチャンス。どこにでも現われるハイパーゼクターを転がり様にキャッチするのを阻止するなど、ほぼ不可能と言える芸当だからだ。
そうしえ、カブトは起き上がり様に、空間を裂いて現れたハイパーゼクターを掴み取った。

『Hyper Cast off(ハイパーキャストオフ)!!』

ハイパーゼクターをベルトの左側に装着。ハイパーゼクターから発せられた電撃が、カブトの装甲を駆け巡る。
同時にカブトの赤き装甲――ヒヒイロノカネは大型化され、巨大な銀色の装甲――ヒヒイロノオオガネとなる。
最後にカブトの頭部に輝くカブトホーンが、大型化。より巨大なカブトムシを摸した形へと変化することで、フォームチェンジは完了。
カブトがハイパーカブトへと進化した事を告げる電子音が、高らかに鳴り響いた。

『Charge Hyper Beetle(チェンジハイパービートル)!!』

ハイパーフォームへと進化したカブトにとって、最早クロックアップ等恐れるに足り無い。
何故なら、ハイパーカブトにはクロックアップをも凌駕した力が与えられているのだから。
故にハイパーカブトは、左腕でハイパーゼクターのゼクターホーンを押し込んだ。
「ハイパークロックアップ」

『Hyper Clock Up(ハイパークロックアップ)!!』

同時に、全身に装着されたカブテクターが解放され、背中からは眩ゆい光の翼が姿を表す。
それに伴い、クロックアップの数倍の速度を誇るハイパークロックアップによる空間が周囲に広がる。
周囲の全ての時が停止し、見えざる敵の姿が、限りなく静止画に近い速度にまで減速する。
この世界の何者も追い付く事を許さない、最速の力。
それは、言わばネクストレベルとも言うべき、進化したクロックアップ。
目の前で、クロックアップ空間からガタックと電王に攻撃を仕掛けていたコキリアワームに向き直る。

『Maximum Rider Power(マキシマムライダーパワー)』

再びハイパーゼクターのゼクターホーンを押し込み、ハイパーカブトの全ての力をカブトゼクターへと送り込む。
それからの動作は、いつもとなんら変わりはない。
いつも通り、フルスロットルを3回押しこみ、その力を発動させるのみ。

『One,Two,Three――』

「ハイパー―――キック……!!」
そしてハイパーカブトは、カブトゼクターのゼクターホーンを先程のライダーキックと同じように、力強く押し倒した。

『Rider Kick(ライダーキック)!!』
460マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 02:54:36 ID:+7zhYbGL
 
ハイパーキック。ライダーキックをも越えた、マキシマムライダーパワーによるハイパーカブトの必殺キックだ。
背中の翼を羽ばたかせ、ハイパーカブトは宙に舞う。
カブトゼクターとハイパーゼクターから送られたタキオン粒子が、ハイパーカブトの右足で渦巻く。
まるでサイクロンの如き旋風を巻き起こしながら、ハイパーカブトの蹴りは真っ直ぐにコキリアワームへと飛んでいく。
一度飛び立てば、例え雲の彼方へでも飛んで行けるであろうハイパーカブトの蹴り足が、凄まじい爆音と共にコキリアワームに減り込む。
時間が止まったままのコキリアワームの身体は、キックにより叩き込まれたタキオン粒子の衝撃に、跡形も無く爆散した。

『Hyper Clock Over(ハイパークロックオーバー)』

「はぁ……はぁ……」
やがて、全身のカブテクターが元の場所に戻り、光の翼も消失。
コキリアワームを倒したハイパーカブトは、力を使い切ったとばかりに地面に膝を付いた。
それでもゆっくりと立ち上がると、ガタックや電王、なのは達が自分に注目しているのが分かった。
「(……立川……)」
放置された立川の遺体に一瞬だけ目を向け、心の中でその名を呼ぶ。
仇は取ったと言いたいのか、それとも別の意味が込められているのか。それは天道自信にしか解りはしない。
だが、疲労とダメージの蓄積したハイパーカブトは……いや、天道は、これ以上自分の意識を保つ事が出来なかった。
これ以上何も考えることが出来なかった。気付けば、吸い寄せられるように地面に倒れ込んでいたからだ。

「天道ぉーーーーーーーーーーーーーッ!!?」

薄れて行く意識の中、友の声がかすかに聞こえた。





次に天道が目を覚ました時、そこは見知らぬベッドの上だった。目覚めるや否や見知らぬ天井が広がり――
「(いや……ここは)」
否。天道には、この場所に心辺りがある。
天井や、周囲の見慣れぬ機械の形状から察するに、ここはあのけったいな戦艦――
アースラの内部だ。

「あ……天道さん、目覚めたみたいやね」
「…………?」
横から聞こえる声に、顔を傾ける。
そこにいるのは、八神はやて。それと、赤い髪の毛を三つ編みに括った少女が一人と、もう一人は―――加賀美だ。
自分が寝てる間、こいつらが看病してくれたのか? と考えるが、天道はすぐにそれを否定した。
何故ならば、ハイパーカブトが意識を失ってからそれほどの時間が経っていないという事は、天道自身がよく分かっているからだ。
「もう……いきなり倒れたっていうから心配してんで?」
「ったく、心配かけさせやがって……目覚めの気分はどうだ? 天道」
横から聞こえる二人の声に、天道はため息混じりに天井へと視線を動かし――
面倒だが答えてやるか……とばかりに、天道は口を開いた。
寝起きの第一声となる言葉を。

「……腹が減ったな」

「「…………」」
同時に、室内が一気に静まりかえる。
二人の少女はぽかーんと口をあけ、加賀美は安心したとでも言いたげな軽い笑みを浮かべている。
「何だよ、凄い大物って聞いてたから期待して来てみれば……なんか随分と小さそうな奴だなぁ」
「あはは……ヴィータ、そんなん言うたらあかんよ」
天道の第一声を聞いて、大きなため息を落とす少女――ヴィータに、はやてが苦笑気味に返す。
「(ヴィータ……そうか、成る程な)」
天道の中で、合点が行く。ヴィータという名前には聞き覚えがあるからだ。
確か……シグナム、シャマル、ヴィータの3人は、この八神はやてという少女の家族だと聞いた筈だ。
……あと一人居たような気がするが、あまり話に出て来なかった為に忘れてしまった。
「(確か……ザフィなんとか……? ……まぁいいか)」
少し考えるように目を閉じたが、すぐに考える事を止めた。それほど興味が無いからだ。
461名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 03:02:12 ID://R5E96h
どこまでもザフィーラはネタキャラなのねwww
支援
462マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 03:11:39 ID:+7zhYbGL
 
ややあって、隣にいたヴィータがその口を開いた。
「何でもいいけどさ、あんま心配かけさせんなよ。はやてはただでさえ心配性なんだからさぁ」
「………………」
その言葉に、天道はヴィータのポジションを何となくにだが理解した。
要するにヴィータもはやてのことが心配なのだろうと。ヴィータ自身も十分に心配性じゃないか、と思いながら、天道は言葉を返す。
「……勘違いするな。心配してくれ等と頼んだ覚えは無い」
「……なっ!? んだとテメ……!?」
「だが――」
憤慨したヴィータの言葉を遮り、天道がゆっくりとヴィータに視線を送る。
「心配してくれたことには素直に感謝“してやる”」
「なっ……“してやる”じゃねーっ!?」
「ま、まぁまぁヴィータ、ちょぉ落ち着き」
ガタン! とイスを倒し立ち上がったヴィータを、宥めるようにはやてが制する。
天道は、微笑みながら一部始終を眺めている加賀美が少し気になったが、まぁ敢えて気にしない事にした。
気にするだけ無駄だと感じたのだ。どうせこのバカには何を言っても無駄だと。
天道は隣で騒ぐはやてやヴィータを、全く以て騒々しい連中だと思いながら、ぼんやりと天井を眺めていた。
すると、先程までヴィータを宥めていたはやてが、「あっ」と口を開いた。
「そうや、天道さん」
「なんだ」
「お腹空いたって言ってたやんな?」
「ああ、言ったな」
「じゃあ私が食堂借りて何か作って来よう思うねんけど……」
「ほう……?」
天道の視線が、再びはやてに向けられる。
この申し出には少しばかり興味がある。
そういえば料理が得意とか言っていたな……と、そんな噂を聞いた記憶があるからだ。
世界のありとあらゆる名店の味を覚えた天道にとって、はやての料理に多少なりとも興味が無いと言えば嘘になる。
ならば、返す言葉は一つだ。
「どうやろ……余計なお世話かな?」
「いや……是非作ってくれ。食べてみたい」
口元で小さな微笑みを作りながら、天道は答えた。久々の、天道の優しい笑顔。
一方のはやても、その言葉を聞いて表情が一気に明るくなる。
もちろん天道の返答が嬉しいのだが、それ以上によっぽどの自信があるのだろう。
「ほな、今から作ってくるから、待っててな。行こ、ヴィータ」
「おう! はやての料理はギガウメーからな!」
立ち上がったはやてに、ヴィータが付いて行く。
天道と加賀美を部屋に残し、二人はこの医務室を後にした。

暫しの間を置いて、先程まで微笑んでいた加賀美が口を開いた。
「珍しいじゃないか、天道。天道が素直に感謝してやるー、だなんて」
「……まぁな」
にやにやと笑う加賀美に、天道は目を反らしながら答える。
別にそれが羞恥等という訳では無いが、嬉しそうな加賀美を見ていると、いつもため息を尽きたくなるからだ。

「天道……お前は一体、どう思ってるんだ? はやてちゃんやなのはちゃん達のこと」
「………………」
加賀美が問うが、天道は何も答えない。何も言わずにただ天井を眺めている。
「俺はさ、いい子達だと思うぞ。あいつらのこと」
「………………」
尚も無言は続く。加賀美が一人で喋り続けるのを、天道は黙って聞くのみ。
どこか幸せそうに、微笑みながら喋る加賀美の声を聞いていると、こんなゆっくりとした時間はいつ以来だろうか……と思えてくる。
思えばひよりが消えてから、天道に心が休まる時など無いに等しかったからだ。
今もひよりが心配なのは変わらないが、管理局と関わるようになってからはさらに落ち着ける余裕など無かった。
そもそも天道にとって時空管理局絡みでいい思い出など何一つ無いのだから。
故に、その時から考えると、今が1番落ち着いている気がした。

「そりゃあ、たまに何するんだこいつら! って思った事だってあったけどさ。天道が捕まった時とか……
 でもさ、俺思ったんだよ。ちゃんと話してみたら、何か変わるんじゃ無いかな?って。今のはやてちゃんとか見てたら特にさ」
463名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 03:15:51 ID://R5E96h
え…フラグ…なのか?
支援
464マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 03:20:17 ID:+7zhYbGL
天道の返答に関わらず、微笑みながら言葉を続ける加賀美。
「だから……まぁ俺にもなんて言ったら良いのかわかんないけどさ、とにかく、信じてみないか? なのはちゃん達のこと……」
「……わかってるさ。俺にだって……」
「え……?」
言葉を遮る天道に驚いた加賀美。
何の話をしているのだろうか? 何についてわかってると言いたいのか?
突然の天道の言葉にそんな疑問を抱きながら、少しだけ身を乗り出す。

「俺だって馬鹿じゃない。奴らが悪い奴じゃないって事くらい、わかってると言ったんだ」
「じゃ、じゃあ……!」
「加賀美」
「…………!?」
これは和解出来るかもしれない。そう考えた加賀美は嬉々とした表情でさらに身を乗り出すが、またしても天道に言葉を遮られる。
何かを言わんとする天道の言葉に、目を輝かせる加賀美。
……だが、帰って来たのは加賀美が期待した言葉では無かった。

「……さっきは暴走した俺を、よく止めてくれたな。」
「え……? あ、あぁ……それはクロノに言ってくれよ……俺じゃない」
「ああ、そうだな」
言いながら、フッと軽く笑みを零す天道に、加賀美は何故か少しだけ不満を感じたが、まぁ気にしない事にした。
話を反らされたというか……ああは言ったが、一応自分も天道を止める為に戦ったのに……というか。
そんな加賀美の心を知ってか知らずか、天道は続ける。
「加賀美……俺と約束しろ」
「約束……?」
「そうだ。もしも再び暴走スイッチが働き、俺がひよりを殺そうとした時は……
 その時は、お前が俺を倒せ」
「な、何言ってんだよ……! そんなこと……」
「ただし……!」
「……ッ!?」
「その逆の場合は、俺がお前を倒す。いいな……?」
ややあって、加賀美は天道の言葉に静かに頷いた。
もしも自分に……ガタックに仕込まれた暴走スイッチが働いた場合は、カブトがガタックを倒す。
そう言われると、反論が出来なかった。自分にだって暴走する可能性はあるのだから。

「それにしても……暴走スイッチか……本当にガタックにもそんなものが……
 それに、結局ネイティブが何なのかも、わかんないままになっちゃったな……」
加賀美の言葉に、天道はゆっくりとベッドから立ち上がった。何か言いたい事でもあるのだろう。
立ち上がった天道の顔を見詰めたまま、加賀美が続ける。
「何なんだろうな、ネイティブって。ドレイクに変身したり、カブトゼクターを操ったり……
 それに1番解らないのは、ZECTが立川を守れと指令を出したことだ」
「あぁ、俺にはもっとワームを倒せと言いに来た」
「一体何なんだ……ネイティブって」
天道が、ゆっくりと視線を加賀美に向け直すことで、加賀美と天道の視線が合う。
ややあって、天道は非常にゆったりとした口調で、過去の自分に起こった出来事を語り始めた。

「……俺は……以前にもあのタイプのワームを見た事がある」
「何ぃ……!?」
あのタイプのワーム……というのは、通常のサリスからツノを生やした――
つまり、立川が変身していた、通常とは異なるサリスワームの事。
それに対し、加賀美は相変わらず間抜けな表情で答える。
「18年前……俺の両親を殺して擬態したのも、あのタイプだ」
「な……!? ネイティブは人間を傷付けないんじゃないのかよ!?」
「そんなこと俺が知るか」
何処ぞのカブトムシライダーが言っていたような台詞を、天道が口にする。

「……だが、奴は自分の事をネイティブと呼んでいた。恐らく、俺達の知っているワームとは別の種類のワームなんだろう」
「ま、待てよ……! じゃあ、ネイティブは7年前の渋谷隕石どころか、18年前から……いや、もしかしたらもっと前から……!?」
推測する加賀美。確かに、ネイティブと呼ばれる連中が一体いつからこの地球上にいたのかなど、誰も知ることではない。
だが、それ故に現状ではこれ以上いくら考えたところで、所詮は推測にすぎないのだ。
天道はこれ以上、何も言う事は無かった。ただじっと、ポケットに手を入れたまま、天井付近を見上げていた。
465マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 03:30:47 ID:+7zhYbGL
 


「ねぇ……なんでなのはちゃんを攻撃したの……?」
「うっせぇなぁ! 何度も言わせんなよ、あんなとこにいたアイツが悪いって何度も言ってんだろうがッ!!」
赤鬼の姿をしたイマジンに、良太郎が詰め寄る。
先程の戦いで、電王の放ったエクストリームスラッシュが、なのはに命中してしまった事についてだ。
幸い大事には至らなかったが、一歩間違えれば、なのはは命を落としていたかもしれないのだ。
それ故に良太郎は、静かにではあるが、激しい怒りを抱いていた。
本当にこのイマジンを信用していいのか? とさえ思えてくる程に、良太郎は怒りを感じていた。
もしもこのままこのイマジンが何の謝罪も無いというのなら―――良太郎にも考えがある。
足を組んだまま、まるで良太郎の言う事を聞こうとはしない赤いイマジン。
イマジンの犯したミスに、激しい憤りを覚えた良太郎。
どちらにせよ、今のままの関係では共に戦う事など、到底不可能な話だ。
――どうやら二人の繋がりは、まだまだ浅いらしい。



次回予告


ようやく良太郎の体にも電王システムが馴染んで来たみたいだけど……

どうやらやっぱりまだまだみたい。戦う度に凄まじく消耗する良太郎に、電王は――モモタロスは……

――それより、そろそろ天道総司の罪状が確定する時期!?
ついに天道が、管理局から解放される!?

そして、ついに現れた、未来からの侵略者。
電王が、カブトが――二人の赤いライダーが、この時空を赤く染め上げる……!

カブト編はいよいよクライマックスへ……!


『ごめんなさぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーいッ!!!』


次回、魔法少女リリカルなのはマスカレード
ACT.20「FULL FORCE-ACTION」
に、ドライブ・イグニッション!!
466マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 03:34:01 ID:+7zhYbGL
 




スーパーヒーロータイム
「NEXTSTAGE〜プロローグ・W〜」

「ようやく見付けたぞ……プレシア・テスタロッサ……」
遠く離れた道を歩くプレシアを睨みながら、物影から一人の女が姿を現した。
先を歩くプレシアはこちらには気付いていない。だが、それなら好都合だ。
こちらに気付かれ無いうちに仕留める事が出来れば、それに越した事は無いからだ。
ややあって、女が目配せすると、背後に隠れていた緑の怪物が、一歩前へ出た。
今のプレシアを殺すのに、それほどの戦力は必要としないだろう。故に女は命令した。
一言だけ、「行け」と。

男は、とある命令を受けていた。
その命令の内容は、“プレシア・テスタロッサの命を守れ”。
故に男は、プレシアの危機を救うため、走り出した。
背後から迫る緑の怪物を倒す為に。
ベージュのロングコートを翻し、ポケットに忍ばせた箱――カードデッキを握りしめて。
緑の怪物がプレシアにたどり着く前に、男が怪物を蹴り飛ばす。
それに気づいたプレシアが、驚いた表情で自分を見詰める。
その視線に、男は何処か躊躇いを感じたが、迷っている場合では無い。
怪物が突き放された一瞬の隙を見て、近くのビルのガラスに翳したカードデッキ。

「変身ッ!!」

そして、叫んだ。
刹那、茶色い装甲がオーバーラップし、男の体を覆う。
そこにいるのは、さっきまでの男の姿では無い。
そう。それは、鏡の中のモンスターと契約を交わした一人の仮面ライダー――
その名を、仮面ライダーシザースと云った。
467マスカレード ◆gFOqjEuBs6 :2008/05/25(日) 03:40:13 ID:+7zhYbGL
投下終了です。
なんか滅茶苦茶時間かかった上に本当にgdgdで申し訳ないです…。
電子音とか大量に使った戦闘シーンは久々なので、どうにも文章の稚拙さが目立ちますね。
えー……多分カブトはまだ管理局とは和解しません。
多分あの手の組織のことを天道が信用することはありませんので、その辺はご安心ください。
468名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 03:44:14 ID://R5E96h
GJ!

ですよねー
それでこそ天道
しかしまた、赤く染めるってww
プレシアが気になる…
469名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 06:24:06 ID:zwNkPlNe
【!】今、雨が降っているなら外に出るのは危ない!中国の影響か?所沢で放射線吸収線量11.6μSv/hr以上を観測
http://news24.2ch.net/test/read.cgi/dqnplus/1211654163/
470名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 09:56:38 ID:f6bBTuxI
ナイトガンダムかー
あれって機動戦士ガンダムのパラレルワールドとかじゃなくて
ターンAよりさらに先の超未来のガンダム世界の話なんだよなたしか
471名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 14:07:53 ID:n9kxnd6U
蟹じゃダメだろwww
472名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 14:20:23 ID:UN0w8xRG
ナイトガンダム・・・直撃世代の自分にとっては感激あるのみです!!支援。
最終決戦ではFA形態になることを期待しております。
473名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 16:28:38 ID:2HR4eXJa
龍騎って言うと、アメリカ版龍騎が原形とどめてない件について。なんで他のライダーが仲間でショッカー出てくるかなw
474名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 16:33:28 ID:hNQ7RzYp
>>473
つパワーレンジャー
475名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 17:34:49 ID:vVv/ToL/
もし、ヴォルケンリッターがSRWキャラだったら〜
デバイスと2つ名、2つ名思い浮かばなかったり

取り敢えず、最後に注目!

ATXチーム
キョウスケ  アルトアイゼン       鋼鉄の狼
ラミア    アンジェルグ・ヴァイサーガ 幻影の騎士
エクセレン  ヴァイスリッター      白銀の堕天使
ブリット   ヒュッケバイン・ティーゲル 剣の雷虎
ゼンガー   グルンガスト零       悪を断つ剣


SRXチーム
ヴィレッタ  GUN−シュバイン     銃剣の代行者
リュウセイ  エルシュナイデ       魔導拳士
ライ     ヒュッケバイン       氷結の撃ち手
アヤ     ゲシュペンスト       赤光の舞手
マイ     GUN−ARTガナート   銃拳の戦士
イングラム  アストラナガン       銃剣の使者
八神はやて  SRX・アルタード     天下無敵の魔導騎士!


教導隊
ゼンガー   グルンガスト、ダイゼンガー 悪を断つ剣
エルザム   トロンベ アウセンザイター 疾風の騎士
カイ     ゲシュペンスト       鉄拳の勇士
ギリアム   ゲシュペンストRV     闇の観測者
テンペスト  ガーリオン         天空の戦士


スクール
アラド    ビルトビルガー       赤銅の牙
ゼオラ    ビルトファルケン      青銅の隼
ラトゥーニ  ビルトラプター       真鍮の翼
シャイン   フェアリオン        光の妖精
オウカ    ラピエサージュ       黄金の桜花幻影


オクトパス小隊
レオナ    ガーリオン         空の女王
タスク    ジガンスクード       巨大なる盾
カチーナ   ゲシュペンスト・レッド   烈火の将
ラッセル   メッサー          
レフィーナ  ヒリュウ          天駆ける龍


マオ・インダストリー
リン     ヒュッケバイン
イルム    グルンガスト
リョウト   アーマリオン
リオ     ゲシュペンスト


ヒゲ
ビアン    ヴァルシオン
カイ     ゲシュペンスト
ムラタ    ガーリオン無明
ダイテツ   ハガネ
アルベロ   メディウス・ロクス
476名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 18:18:34 ID:dDL9m7cL
ここ、SSスレなのよね
477名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 18:25:33 ID:uaUB3Vw8
フロム脳に侵蝕させれたのか「アーマードなのはって良くね」と思えて来た、ヴォルケンリッター(相当)は

アンジェ オルレア
ベルリオーズ シュープリス
ジョシュア (旧)ホワイト・グリント
メアリー プロメシュース
と全て4のネクストで 闇の書だけAC3SLの「I-CFFF-SERRE」

なのは?…もちろん白いから(新)ホワイト・グリントだよ フェイトはレイテルパラッシュ(ナインボールと言う案もあったが)
ナンバーズも数は12だからORCA旅団の皆さんで

それとも案をもっと突き詰めた「スカリエッティとORCA旅団が手を組みました」にするべきか
478名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 18:44:39 ID:ERuQLoCp
感想ですらないのなら雑談スレですべきでは?
479名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 18:50:23 ID:8faj8p/P
ろくな感想つかないマスカレード氏涙目www
480名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 19:14:37 ID:UlHKIDcg
>>479
わざわざ言う事じゃねえ。
481名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 19:18:39 ID:m5FwwtYN
そろそろ次スレの季節か?
482名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 19:33:27 ID:UlHKIDcg
それじゃあ、試してみるか。
483名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 19:37:04 ID:Wgt5vfPj
>>>482
宜しくお願いします
484名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 19:40:06 ID:UlHKIDcg
485名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 19:40:47 ID:qpwgF+Rt
>>475
そういやリリカルの魔装機神のやつはもう続き書かないのだろうか?
486名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 19:46:18 ID:m5FwwtYN
>>484
乙!
487名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 19:48:35 ID:JVrLWNal
>>467
ところでマスカレードにキバは参戦するのだろうか…
488名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 19:53:19 ID:aKbkwFne
正義は…俺が決める!
489名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 20:21:22 ID:PzdJF8Du
  .ト│|、                                |
. {、l 、ト! \            /     ,ヘ                 |
  i. ゙、 iヽ          /  /  / ヽ            │
.  lヽミ ゝ`‐、_   __,. ‐´  /  ,.イ   \ ヽ            |
  `‐、ヽ.ゝ、_    _,,.. ‐'´  //l , ‐'´, ‐'`‐、\        |
  ヽ、.三 ミニ、_ ___ _,. ‐'´//-─=====-、ヾ       /ヽ
        ,.‐'´ `''‐- 、._ヽ   /.i ∠,. -─;==:- 、ゝ‐;----// ヾ.、
       [ |、!  /' ̄r'bゝ}二. {`´ '´__ (_Y_),. |.r-'‐┬‐l l⌒ | }
        ゙l |`} ..:ヽ--゙‐´リ ̄ヽd、 ''''   ̄ ̄  |l   !ニ! !⌒ //
.         i.! l .:::::     ソ;;:..  ヽ、._     _,ノ'     ゞ)ノ./
         ` ー==--‐'´(__,.   ..、  ̄ ̄ ̄      i/‐'/
          i       .:::ト、  ̄ ´            l、_/::|
          !                           |:    |
             ヽ     ー‐==:ニニニ⊃          !::   ト、
            ヽ     、__,,..             /:;;:   .!; \
             ヽ      :::::::::::           /:::;;::  /  



     募金するなら日本赤十字社とか、国境無き医師団にしておくんだ!
490名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 20:22:43 ID:PzdJF8Du
│  /  I AMヽ,   |  ,;r''"~ ̄^'ヽ,    .|:: ,,,-;;;;;;...,.....,...;;-;;;;. . |-ー=ニニ;, ""i!r=ニニ=...|::_:: -ー''" ̄ ̄ ̄ヾ;;;;;;;. . |
│ ,/   BECOMEヽ  | ./       ;ヽ ..|/'|i<_O_ヽ二( <O` .|;=ニ( )ヽノi  ミ{;<( )ニ= |r¬、( ̄~il ̄ ̄ ̄; ̄`i ..|
│i   __, DEATHニヽ,..| l  _,,,,,,,,_,;;;;i.....|′ヽ二/⌒ミ、二ニノ|/` - '", ';;; ⌒ ;;;`,;;`''' .|ヾ/__,`''‐"     ! )ノ...|
│! ,,/;;;_,rー''" ,,,::::::::l,}~| l l''|~___;;、_y__ lミ;l .|    / ^` ^´ヾ、 ....|     /i   ;;ハ `   .| ヽ___、       `l´  |
│.l/r'::::==''w''= irヾ.~| ゙l;| | `'",;_,i`'"|;i | ...|  / ,r――-、 i  ..|   ./`-=、_,=-ノ、 .....|   l〈ノヽ |      _) .|
│//:::::´´ /;;_,jヽ´:l//..~|,r''i ヽ, '~rーj`c=/  |  l i.j" ̄ ̄`jl l   .|  i!    l !   ゙i!   |   )___,, -‐'''''" /.:..:.|
│`i'゙lヽ ;: r;;;;;;;#、l[]..ミ | ヽ  ヽ`ー"/:: `ヽ |   l |.l-='''''=‐/  ,/l.|   i! ;,'"⌒゛ヽ,; .i! .....|_, '"ヽ: :\     , ': .:. |
│ ヽヽ`、 ';-ニ-'"|| | . |  /     ゙ヽ  ̄...|ヽ  ヽ,`'-―-" / ...|   i! (~i ̄ ̄i~! .|   .|: : : : /: : : :\   /: : ,.:. |


491名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 20:23:53 ID:PzdJF8Du
   \  テーレッテー    /
    \  ∧_∧   /
     .|∩( ・ω・)∩|
    / 丶    |/  \
  /   ( ⌒つ´)    \



ああ、あれこそはトキ様必勝の構え、北斗有情破顔拳のお姿…






埋めるぜ
492名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 20:24:47 ID:PzdJF8Du
                ― ̄ ̄ ̄ ̄―
            −´ ̄           ̄`―‐  
          /                    \
         / .丿  \     ____      i 丿i
        /  /_   \___ノ    \     しノ
        l /  _ \              )   ヽl
        ‖l  ( _ヽ \_ ――――   /   丶i
       l i 〉ーイ  \\     _ −――  l   丶l
       l / .、 \●_\)_l ( ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ  l    l   このスレはもう持たん!
      l l   \_― /  lー=lニ●二iゝ、」  l    l   私は脱出カプセルで次スレへ退避させてもらう!
  ___l l       l  / lヽ\_ ノ    i l /ヽ
' ̄     l l     ,- ,! /  /  ー―    l//  l
       l    /  ヽ{_ノ_ヽ、       J/ /  l
     〈\/l  /, ∠二二ll ̄−、\    Λノ  /  /、
      ヽ ,l   //  ̄―-二ニ - ヽ  <  //l   \
        くl  l l _      `l l   フノ  「~|    l\
     / 丿   ヽー二−−-、 l l     l / l 
    //     -  二 ー-ゝ' l    // /  lヽ
   /〈                    / /   l
  / ´\                  / /    l
 /    ´|\_ へ           / /     l
/      |  ´   ´ ´― _ _//        l
493名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 20:27:02 ID:PzdJF8Du
                      /し, /    _>.
                     / { \レ/,二^ニ′,ハ
                     |'>`ー',' ヽ._,ノ ヽ|
                     |^ー'⌒l^へ〜っ_と',!  その名もステキ 『 し っ と 団 』
      __             ! u'  |      /
  /´ ̄       `!             ヽ  |   u'  , イ
  |  `にこ匸'_ノ            |\_!__.. -'/ /|    現在団員募集中だ!!
  ノ u  {                 _.. -―| :{   ,/ /   \
. / l   | __  / ̄ ̄`>'´   ノ'    ´ {、    \
/ |/     {'´    `ヽ. " ̄\ U `ヽ.    __,,.. -‐丶 u  ヽ
| / ヾ、..  }      u' 〉、    }    `ー''´  /´ ̄ `ヽ '" ̄\
! :}  )「` ノ、     ノ l\"´_,,ニ=-― <´  ヽ{  ノ(   `、  |
l   、_,/j `ー一''"   },  ノ ,  '''''""  \   ヽ ⌒ヾ      v  |
ヽ   _         /   } {. { l ┌n‐く  ヽ/ ``\        ノ
  `¨´    `¨¨¨¨´ ̄`{ 0  `'^┴'ー┘|ヾ    }、 u'   `  --‐r'′
494名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 20:27:42 ID:PzdJF8Du
       ___    \  全世界のもてない男たちを   /          / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     /L,    |  \  \ 救済するため作り上げた  /    /⌒ヽ    | バレンタインとは
   ./ ト、└L, |  jJヽ  \    秘密結社!!   /::    |  ▽|  ∠   そもそも
   ハ |  \ しlv┘/|!   \ その名もステキ  /::      ノ⌒ヽ/    | なんであるか
   | 'ゝ\__> l /  ノ|    \ 『 し っ と 団 』 /    , -/ , 、_ `‐-‐、 |   杉野!!
  /| '⌒〜-イl、`ー ´(|      \        /:::    /   '''´ {   、   ヽ \______
/  .|      ,' `¨⌒/       ∧∧∧∧∧ ::::    ノ  ヾ   |   ,ハ`''"〈
  / |ヽ.    ,'    ∠-―- 、   <    し  >::::   (  人   }  イト、   )
/  ||\__,/__, <__      >ー< 予 っ  >:::::::::  ヽ、ヽ|   j   ハ  〈
──────────────<.   と  >───────────────────
    ,人,ノヽ 〈与えねばなるまい< 感  団  >       ゝ しイ    \ そう!!これは
  人ノ  ,.   ! 〉 アベックどもに ..<       > ___|__  _)  て   <天に代わって悪を討つ
,ノ'   / |  (| \  天罰を!! <. !!!.  の  >  ||  'っ h ´__  /  正義のわざ!
  ,/,/l ! ム|    ̄`――――/ ∨∨∨∨∨ \ ||l l l  \咢)P!  ̄|/\/\/\/\/
/,/ / | (_,|          / ワレらの      \   /   ,ゝ__r┘    < 決して私怨から
/゚ / / /|        /    目標わ!!    \      」 )‐<\    < でわない!!
´三:"/  フ|      /  バレンタイン2月14日!  \     厂丁ト、l_   ∨ ∨ ∨ ∨ ∨∨
 ̄ ̄  <, |     /    悪のアベックどもに     \    〉 | | |::ト、 _|\/\/\/\
へ(⌒ヽ厂 |   /正義の鉄槌を下し 根だやしにすること!!\ }  } ハ 〉{_7、\ 聖 戦 だ ! !
495名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 20:29:27 ID:PzdJF8Du
       .//:.:.:.:.:.: /.:.:.:.:.:.:.:.;.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.\.:.:.:.:.:.:.:.:ト、:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ
     ./:.:/:.:.:.:.:.:.:/:.:.:./:.:.:./:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:∨.:.:.:.:.:ト、\:.:.:.:.:.:.:.:.:.|
     /:.:.:|:.:.:.:.:.:.:.:|:.:.:/:.:.:.:.|:.:.:.:.:.|:.:.:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:l.:.:.:.:.:.:| \\:.:.:.:.:.: |    おかしいなぁ…どうしちゃったのかな
     l:.イ:.!:.:.:.:.:.:./|:.:.|:.:.:.:./!:./l:.:.|:.:.:.:|:.:.:.:|:.:.:.l:.:|:.:.|:.:.:.|:.:.:.:.:∧  | |:.:.:.:.:.:.|    がんばってるのわかるけど、模擬戦は喧嘩じゃないんだよ
     l/|:.:|:.:.:.:.:/.:.|:.:.|:.:.:/‐l/-|:.:ハ:.:.:ハ:.:. |:.:.:.|: |:.:.|:.:.:.|:.:.:.:/ |   | l:.:.:.:.:.:.:,    練習のときだけ言うこと聞いてるふりで、本番で無茶するなら
       V',:.: /:.:.:.|:.:.l:.:.:.|<圷示 ∨|ー-|:./」_:|:.:.|:.:./:.:.:/  :|   | |:.:.:.:.:.:.:',    練習の意味、ないじゃない ちゃんと、練習の通りやろうよ
       !:∨:.:.:.:.:|:.:.|、.:|l ゞ='   ヘ| 'イ圷示/|: /:/'^レ   ∨  |:.:.:.:.:.:.:.:',   ねぇ、私の言ってること
        |:.:.:.:.:.:.:. |ヽ| ヽ|    ,    ゞ=' ′|/:/|r;/      \. |:.:.:.:.:.:.:.:.:',   私の訓練、そんなに間違ってる?
        |:.:.: / ̄ ̄\ヘ.    ′       /イ:.:.|/、   ___ヽ|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:',
        |:/      /|:.:\  ` `     / |:.:/  「|Y´     \:.:.:.:.:.:.:.:.:.',  少し、頭冷やそうか……
      /       //|:.:.| \__ .. イ |,|/  l|:| |      ∧:.:.:.:.:.:.:.:.:',
     ./       /〈. Vリ   | \_>'′  l      |:| |         ∧:.:.:.:.:.:.:.:.',
   ./       / \\  l| !ニニ}   /    ,./ |           \:.:.:.:.:.:.:',
  /.        ;' //  | |::|    /'     \ |           \:.:.:.:.|
 「 \         /  \\   .|/⌒ニニニ/      〉〉 |        /  〉:.:.:|



でも、実戦で誰も出来てなかっtt(ry
496名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 20:31:14 ID:PzdJF8Du
        /  / |_|iイ「「´ /ハ   }|  }| |   | |   | \
          | // ! | || l |∧ /   '孑于テァx,/|   | |   |    >>484よ、大儀!
          |i| l l ヽi|斗f_テ¨ }     ̄ ̄` ノ  | | l| 、   エセルドレイダ
.        j ∧ | |  { ´   ノ       /   | | | ト、 } |   乙を召還せよ!
           ヽ| .  \   、        /  '    l | '|}ハ |
           ∧ ヽ   ヽ          /// /// / ハ  | |
           ノ| \ \トN  ‐ ニ¨´ / /'´ イ /'   ∧{   | |
.             | / l\{\          /| ′/ /| `  j/
            j.イ /| l ヽ|\         /  / / ∧{
               | l| | ├ ‐\___,. ´   / / ∧ ',
.             | || | ├…‐- 、 \  , -/ / / | i
.              | || | |     ヽ ∨ ′ ' { | |
.    __ .. . -┴┴| |  |、      i| | i | i|  | |
 ̄ ̄            | |  ト、` ‐- ..._|_| | l | iト、| |
                | |  | \      `| l | i|  \|
497名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 20:33:44 ID:PzdJF8Du
                   ,,,. -‐''"~            ヽ、
                 /                    ヽ、
                /                        ヽ、
              /                      ヽ、   ゙ 、
              /       /  l  /          ヽ  ヽ    ヽ
           /        / ! //     /  l      ゙,  ゙、 l    ゙、
          /         / / |/      /   .|     } ヽ ゙、|゙、   .i
          /        / |  |      /    |  |   l  ヽ 、 ゙、    i
         /        /  |   |     //   /l /l   /   .} |  ゙、  |
         /        / |  |  |   ///    / |,//|  /   / .}  ゙、  |
        /        / |  |  |// //    / / /メ    /l / /   ゙、 |
        /        /  |  |  |/  ' ''-----'  ' /メ____  / //,,r/   | .|
       /        /  |  |  |_,,,..::;;-==‐‐-;;,_       ̄  '" / |   ! | |
       /        /   |   | .|-‐   ‐--、 "     ,;:===z;;,,/| l |  | .|
      /        /   |   | -‐''''_ソて/"''       ,;==z,,、ヽ i! !/ |  .| |
      /        /    |   | .|ヾ、;;;;;:ノ,,..        {;; ソ "' /   |  | |
      /        /   |    | .|              `'''''‐  /   |  .| .|
    /        /  /  |    | |              ;     i! |   |  |  |
   /        /  /  |  |  | |              ;ヽ   /  |  |   |  |
  /        /  / |  /  |  | |                 /  | | |  |  |     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/       //  / / ,'  | .| |  | |       ー--‐     / | l | | | ! |  |   <  
      / /  /    ,'  / | |  | |\             /   l | .| |  !.i |  |     \___________
     / /      ,'  /  | |   | |  \        ,/ |   / | | .|  | !  |
    /  /      ,'  /  .| |   | |    ヽ、.    ,. " /  l  / | | |  |    |
   /  /      ,'  /   | |  | |      /"''-''"  /  i  / | | |  |    |
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/    /      ,'  /      /  |   ~"''z ヽ"''‐- 、/  /  /  .| | |    |    |

498名無しさん@お腹いっぱい。
 レ´|`)    ,ノ  レ|  |     十    <./ -+-   __
  `ノ´ つ  ヽ、  __ノ  ヽ_ノ  / こ   ム.-┴-  |_十_|   ┼ ┐ヾ
   ____   ,. -‐''"7__,,..-─ァ        / |ヽ| ̄|   ,木、   ノ ノ
   |::::::`/  /-‐─-='、> ,、          ̄
   `ヽ/   `>ノ  )   ヽ.>|_ヽ/|  _,,..-‐'"´ヽ.
    |/   <     ´)   Y--‐`''"´:::::::::::::::::/i__,,.. - 、
   /|     `>   、_)   | ̄V::::::::::::::::::::::::::::\| ヽ、,ノ
  /::::|    < l  )     ./___∧:::::::::::::::::::::::::::/|-‐'"
  l__,∧    \      ,イ:;:-‐‐-、__,,..--、:::::::::\|´"'' ー、'"`ヽ
   /:::::ヽ、  __,>ー-‐<__フ   r'´    i:::::::/|    |  ノ
    ̄ ̄ヽ、    ー‐-‐< !、   ゝ__,,..-<::::::\/___,,..-‐''"
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               く/   /|  |                       
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            匚 l⌒l. l⌒l |/ |二)   ナ ¨   ├─          
            _) |_| |_| |\ |_)  / こ  ┌┼┐