ルール及び制限
●参加者
・各作品から1〜8名、合計71名。見せしめ・主催者を含めると75名
詳細は
>>3にて
●支給品(アニロワに準拠)
・デイバック、食糧、水、コンパス、ランタン、地図、名簿の7種。デイバックには無限の収容力がある。
・ランダム支給品は1〜3個。出典元は問わず。参加者の戦闘力を均一化できるような選択が必要。
●能力制限
・変身系(姿の変化が伴う能力強化。効果時間と発動後の消耗が制限。効果時間の制限は1〜2時間が現在の案)
1)アイテム変身系
変身に必要なアイテムは支給品指定。本来の持ち主が必要なアイテムを得た場合のみ発動。
2)自力変身系
・身体能力人外系
一般人でもギリギリ対応出来る程度にまで能力低下。
・治癒能力系
限りなく制限される。外傷治癒の場合は疲労負荷などの条件で可。
・追加装備系
パワードスーツ、体に装備する類のアイテム。支給品指定。
・カード系(遊戯王カード・ラウズカードなどが対象)
支給品指定。特定のアイテムと併用する事で、モンスター・魔法・罠・効果を実体化。使用後は数時間の充填が必要。
・巨大ロボット系
舞台のどこかに隠されている。戦闘力均一化の問題から2〜3体、操縦者も無差別とする必要があると思われる。
・魔法・必殺技系
全体として威力低下。消耗は大。ただしテンション次第では消耗が先送りにされる場合もあり。
●放送時間
・『6時間おき』というのが現段階での案。『放送無し』の案も有り。
参加者一覧
【リリカル遊戯王GX】
○万丈目 準 ○早乙女 レイ ○ティラノ 剣山 ○ヨハン=アンデルセン ○ジム=クロコダイル
?丸藤 翔 ●フェイト=T=ハラオウン(StS) ○エリオ=モンディアル
【コードギアス 反目のスバル】
○ルルーシュ=ランペルージ ○スバル=ナカジマ ○枢木スザク
【SHINING WIND CROSS LYRICAL】
○キリヤ=カイト ●シーナ=カノン
【魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
○セフィロス ●ザフィーラ ○ディード
【魔法少女リリカルなのは マスカレード】
○天道総司 ○相川始 ○草加雅人 ?フェイト=T=ハラオウン ○クロノ=ハラオウン
○北崎
【宇宙の騎士リリカルBLADE】
○Dボゥイ ○相羽シンヤ
【なの☆すた】
○柊かがみ ○柊つかさ
【魔法少女リリカルなのは Strikers May Cry】
○バージル=ギルバ
【魔道戦屍リリカル・グレイヴ Brother Of Numbers】
?ビヨンド・ザ・グレイヴ ○チンク
【仮面ライダーリリカル龍騎】
○城戸真司 ○浅倉威
【NANOSING】
○アーカード ○ティアナ=ランスター ○ヴィータ ○アレクサンド=アンデルセン ○高町なのは(StS)
【魔法少女リリカルマジンガーK's】
○兜甲児
【リリカルなのはStrikerS+仮面ライダー】
○本郷猛 ?南光太郎 ?キョウキ(桐矢京介) ?志村純一
○矢車想 ○影山瞬 ?シャマル ○月村すずか(StS)
【リリカルなのはFeather】
?鷲崎飛翔 ?ルーシュ・デモン ○グリフィス=ロウラン
【ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】
○ユーノ=スクライア ○ヒビノ=ミライ ○モロボシ=ダン ○高町なのは
【ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE- 〜ミッドチルダ編〜】
○小狼 ○黒鋼
【スーパーリリカル大戦(!?)外伝 魔装機神 THE BELKA OF MAZIKAL】
○リインフォース ●マサキ=アンドー ?シュウ=シラカワ ○ゼンガー=ゾンボルト
【FLAME OF SHADOW STS】
?ウルムナフ・ボルテ・ヒュウガ ?伽藍
【フルメタルまじかる】
○相良宗介
【なのは×終わクロ】
○佐山・御言 ○新庄・運切 ?ブレンヒルト・シルト ○Sf
【魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
○八神はやて(StS) ?ジェットジャガー ○ルーテシア=アルピーノ
【小話メドレー】
○ゲッコー・モリア
【魔法少女リリカルなのはStrikers−砂塵の鎖―】
●緑の悪魔はんた
【エーストライカーズ】
○シグナム
【見せしめ】
●天上院明日香 ●一文字隼人
【主催】
○覇王十代 ○神崎士郎
○=本編で生存を確認 ●=本編で死亡を確認 ?=本編未登場
地図
『各世界の施設が点在するアルハザード』という設定。
A B C D E F G H I J
0丘丘丘丘森川森森森森
1丘丘施丘森川森森森森
2丘丘丘川川丘森森森丘
3施丘丘丘川丘森森丘浜
4丘丘街街街川丘病浜浜
5丘丘街街街丘川丘丘丘
6丘丘街街街丘丘川森森
7丘川丘丘丘山山川森森
8丘川丘丘丘山山川森森
9川丘丘丘丘丘川森森森
丘=平地 街=市街地 川=川 浜=海辺・砂浜
森=森 施=施設 病=病院 山=山岳地帯
D-5=ハカランダがある C-1=アヴァロンがある(格納庫にガウェインが隠されている) C-4=翠屋がある
A-3=工場がある E-5=Devil May Cryがある
5 :
マスカレード:2008/03/17(月) 07:08:56 ID:czI4L8a1
遅ればせながらGJです!
シーナ……(黙祷)
っていうか草加が殺害数トップに……
我ながらなんて嫌なキャラを参戦させてしまったんだとw
まぁ好きなんですが
草加役の人はメビウスやカブトにも出てましたが、その辺の絡みはあるんでしょうかね?
まぁマスカレードではそんな絡みを描写した覚えは無いので無いでしょうけど(ぇ
城戸を復活させる手段……というよりきっかけを思い付いたのはいいけど、その方法はリリカル龍騎という作品的にやってはいけなさそうという……
6 :
マスカレード:2008/03/17(月) 07:46:18 ID:czI4L8a1
おっと……こっちは新スレだったorz
>>1乙です!
>>5 まずはやってみてはどうでしょう?
まずいかどうかは見なければ分かりませんし、ダメならダメで後から修正なり何なりすれば済むでしょうから…
作者同士が話しあえるような空間があればいいんですけどね。
ただ、ネタバレになりかねないから…
パロロワ支援としてはお約束とのことだそうで、何となく作ってみました。
前スレ埋め用に使った方がよかったかもしれませんが、まぁともかく次レスよりどうぞ。
プレシア「クロスSS最強のキャラを見たいかーーーーッ」
覇王「オーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
プレシア「ワシもじゃ ワシもじゃみんな!!」
プレシア「全選手入場!!!」
神崎「全選手入場です!!!!」
―――――――――――――――――――――――――――
怪人殺しは生きていた!! 更なる研鑚を積み改造人間が甦った!!!
仮面ライダー1号!! 本郷猛だァ――――!!!
ゾンビ軍団はすでに我々が完成している!!
魔の三角地帯ゲッコー・モリアだァ――――!!!
発見しだいデュエルしまくってやる!!
デュエルゾンビ3年生 丸藤翔だァッ!!!
腹の探り合いなら我々の腹黒さがものを言う!!
スマートブレインへの復讐者 仮面ライダーカイザ 草加雅人!!!
真の光の巨人を知らしめたい!! ウルトラセブン モロボシ・ダンだァ!!!
ツンデレは双子の姉に取られたが天然なら全階級私のものだ!!
バルサミコ酢 柊つかさだ!!!
血液切れ対策は完璧だ!! 死者蘇生術(ネクロライズ) ビヨンド・ザ・グレイヴ!!!!
全世界の天の道はオレの中にある!!
おばあちゃんが言ってたッ 天道総司!!!
真剣勝負なら絶対に敗けん!!
薩摩示現流のケンカ見せたる 悪を断つ剣 ゼンガー・ゾンボルトだ!!!
ノーライフ・キング(なんでもあり)ならこいつが怖い!!
ヘルシング機関の吸血鬼 アーカードだ!!!
対テロ極秘傭兵組織からボン太くんが上陸だ!! ウルズ7 相良宗介!!!
ルールの無いケンカがしたいからライディーン(超者)になったのだ!!
イーグルのケンカを見せてやる!!鷲崎飛翔!!!
Dead no Aliveとはよく言ったもの!!
達人の奥義が今 実戦でバクハツする!! 緑の悪魔 はんただ―――!!!
片翼の天使こそが宇宙最強の代名詞だ!!
まさかこの男がきてくれるとはッッ セフィロス!!!
巻き込まれたからここまできたッ キャリア一切不明!!!!
リーベリアの心剣(ソウルブレイド)ファイター キリヤ・カイトだ!!!
オレたちは忍最強ではない日本国で最強なのだ!!
御存知黒ぽん 黒鋼!!!
ライダーの本場は今や太陽の石にある!! オレを驚かせる奴はいないのか!!
南光太郎だ!!!
エイメェェェェェンッ説明不要!! 見敵必殺!!! 強力若本!!!
アレクサンド・アンデルセンだ!!!
ハート2「SPIRIT」は正体を隠せてナンボのモン!!! 仮面ライダーカリス!!
ジョーカーの相川始の登場だ!!!
シュウの首はオレのもの 邪魔するやつは思いきり斬り思いきりサイフラッシュ!!
魔装機神サイバスター マサキ・アンドー
羽根を探しにミッドへきたッ!!
玖楼国考古学者 小狼!!!
キックホッパーに更なる磨きをかけ ”地獄兄弟”矢車想が帰ってきたァ!!!
今の自分に死角はないッッ!! テッカマン・ブレードDボゥイ!!!
メイドさんのスカートの秘密が今ベールを脱ぐ!! 独逸UCATから Sfだ!!!
ファンの前でならオレはいつでもゼロ仮面だ!!
黒の騎士団 ルルーシュ・ランペルージ 偽名で登場だ!!!
ツッコミの仕事はどーしたッ 闘士の炎 未だ消えずッ!!
ツンもデレも思いのまま!! 柊かがみだ!!!
特に理由はないッ グランゾンが強いのは当たりまえ!!
DCにはないしょだ!!! ARMAGEDDON!
シュウ・シラカワがきてくれた―――!!!
ノース校で磨いたカードテクニック!!
アカデミアの万丈目サンダー 万丈目準だ!!!
実戦だったらこの人を外せない!! 仮面ライダー王蛇 浅倉威だ!!!
超一流パイロットの超一流の喧嘩だ!! 生で拝んでオドロキやがれッ
光子力研究所のマジンカイザー!! 兜甲児!!!
アニキツンデレスタイルはこの男が完成させた!!
魔界の切り札!! バージル・ギルバだ!!!
白い魔王が帰ってきたッ
どこへ行っていたンだッ 原作主人公ッッ
俺達は君を待っていたッッッ高町なのはの登場だ――――――――ッ
加えて死亡者発生に備え超豪華なリザーバーを4名御用意致しました!
管理局への反目者 スバル・ナカジマ!!
イスカリオテ所属 ヴィータ!!
ザビーの紋章を持つ者!クロノ・ハラオウン!
……ッッ どーやらもう一名は働いたら負けだと思っている様ですが、会場へ連行次第ッ皆様にご紹介致しますッッ
投下終了。
改めて見ると実にカオスなラインナップだなぁ……
ふー、手前の用事が一段落し、やっとこさMy PCの前に帰ってこれたぜー。この喜びを胸に一品作るかなー。
って感じで、改めて見てみたら座標と時間帯がかなり重なってたディード、クロノ、スバルを予約ー。
>>14 楽しみにしてます。
……あ、そうそう。
まとめのお絵かき板にディードの義手の設定画を載せておいたのですが、もう確認されましたか?
あれないと多分片翼本文だけでは想像しづらいと思いまして。
見させて頂きましたよー。左右で三つ指の形がちょっと違うんですね。
しっかしまたでかい腕ですねー。ぶっちゃけ、義碗してる今の方がカッコいいすな。
>>16 >今の方がカッコいい
感謝の極みw
見ての通り、右手が紅蓮弍式、左手がブリッツガンダムのグレイプニールを参考にしておりますので、
右は打撃とひっかき、左はハサミと槍のイメージで使ってくださいませ。
クロロワまとめの関連語句に『ザフィーラ』があって吹いた
自分は何も書かない癖に自分の意見だけ無理やり通そうとする仮面ライダーの人のやり方が気に入らない・・・
作中ずっとRXでブラックには一度しかなってなかったんだからRXでいいと思うのは俺だけだろうか?
そんななら最初から剣崎の方にしとけば良かったんじゃないのかとつくづく思う
文句は毒スレでしてくれ。荒れる可能性があるから
いやいや…真っ当な意見だ…
考えてみりゃ俺にあれこれ言う権利はないよなぁ…なにも書いてないしバトロワも面白そうだからやろうとしてみただけだし…
非常に無責任ですがもうすべてお任せします。
僕はもう…二度とここには姿を現しません。
残ったキャラの解説はいずれ投下します。
そして、私を許してくれとは間違っても言いません。
ふー。やっとこさディード、スバル、クロノ分の話が出来たのですよ。
ちょっと新登場の支給品が微妙かもしれませんが……まぁその辺は後々の評価次第という事で。
んじゃま投下開始、という事でよろしくお願いします。
スバルを取り巻く山林、木漏れ日の様に注ぐ月光がその少年を照らしていた。剣を持ち、衣服を血に濡らした少年を。
……何だろ、見覚えがある様な……?
その顔立ちにスバルは誰かの面影を見る。だが気のせいだったのか、はたまた付き合いが薄い相手だったのか、誰を重ね見たのかは解らなかった。
「あの」
と、少年が声と共に踏み込んできた。それに対してスバルは、
「……!」
後ずさる、という行動で応える。そうする理由は、一重に少年への不審と疑心だ。
「待って下さい! 僕は……」
そんなスバルを少年は追いかけた。手を伸ばしてこちらを掴もうとし、直後、
「皆殺しだああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!!」
憎悪の咆哮が山間に響いた。
「―――っ!?」
込められた狂気に鳥肌がたつ。それは少年も同様だった。2人は足を止めて声のした方向、隣接する山の頂上部を見た。
満月を傍らに掲げる山頂、そこに声の主はいる。
……一体、誰が……?
スバルは固唾を飲み、硬直した。大音の後の静寂、緊迫が山腹に張り詰め、そして爆発した。
「!!」
山頂よりも僅かに下方、その位置で天上方向への破壊が放たれたのだ。遠目にも木々と土砂が、半端ではない質量が舞い上がったのが見て取れる。
「まずい!」
少年が焦りを含んで叫ぶ。声にこそ出さなかったが、スバルもそれは同様だ。
……あれだけの質量が、あの高さから落下したら……!
そうでなくとも、それだけの質量を浮かせる破壊が生じたのだ。その三つが重なって起きる事態は、
「――崩落!!」
上り詰めた所で質量は落下し、再度の轟音を立てて山頂付近に激突した。破壊によって緩んだ地質は再度の打撃によって瓦解し、落下した質量と共に流れ落ちる。
その方向は、自分達のいるこの山だ。
「く……っ!」
迫る怒濤を回避すべくスバルは動いた。足場に魔法陣を出現させ、右の拳を地面に叩き付ける。
「ウイングロード!!」
宣言はスバルが遺伝した先天系魔法の名、空中に架け橋を作る能力だ。蒼の帯が空中へと伸びたのを確認し、スバルはその上を駆ける。
……急げ!
マッハキャリバーがいない為、スバルの移動速度は格段に下がっている。息を切らして走る間も崩落は迫り、やがてスバルがいた場所へと到達した。
「うあっ!」
自然災害の圧倒的な威力に、ウイングロードの基点が呑み込まれた。振動、倒壊、そして消滅、基点部からウィングロードが分解していく。
分解を視界の端に捉えたスバルは離脱を決行、幸いにして高低差も少なく、草の上を数転しただけで着地する事は出来た。
……助かった……
振り返った先で、ウイングロードが完全に消滅する。加えて見れば、今まで自分が立っていた場所は土砂によって完全に埋まっていた。
と、被害を見やった所でスバルは一つの事実を思い出す。
……あの子は、どうなっちゃったんだろ……
自分と対峙していた、剣を片手にした血塗れの少年。彼は崩落から逃れられたのだろうか。
「あ」
思いと共に見回した所で、さした時間もかからずに少年は見つかる。少年は、空中に立っていた。
「…飛行魔法」
それは魔導師にとって、優秀と凡庸を分ける目安。それ単体ならば簡単でも、他の挙動や魔法との同時並行は困難な、ある意味では“基礎にして奥義”とも呼べる技能だ。
……それを、あんな小さな子が……
その事実に、嫉妬を通り越して驚きに至ってしまう。自分や今はいない相棒が、憧れて止まないその技能を、年端もいかない少年が使う事に。
何時しか少年は降下を始め、積もった土砂の上に足をつける。その表情は、緊迫の一色。
「――何者だ」
少年は手に持つ剣を構え、一方へと声を放つ。誰かいるのか? その疑問にスバルは視線を向け、
「……え?」
人影を見た、と言って良いのだろうか。月光に浮き出るその輪郭は、巨大な両腕の人型だった。
「―――ッ―――ッ―――ッ」
巨大な両碗を土砂に突き立て、その人型は唸りを漏らす。
「一体、どうやって……」
そこまで言って、スバルは一つの推測を閃いた。荒唐無稽で、しかし恐らく正しいだろう推測を。
……まさか、土砂に乗ってきたの!?
恐らく咆哮の主もこの人型だろう。そして殺意を持った人型は攻撃手段として、移動手段として崩落を起こした。
「何て無茶苦茶な……」
思わず想到しそうしそうになる無茶だった。とスバルが驚愕する内に、人型は暗がりから土砂によって開けた場所へ進み出た。その姿にスバルは、え? と驚きを零す。
その人型に、見覚えがあったからだ。
「……ナンバーズ12、ディード」
ジェイル・スカリエッティによって制作された戦闘機人、その12号機だ。しかし今の様子を見て、スバルは自分の知るディードと重ねる事が出来なかった。
……そりゃ、あの子とはそんなに交流は無かったけど……
だが、希薄な感情と冷静沈着な性格をした女性だった筈だ。だが今の彼女はまるで獰猛な獣に見える。そもそも自分が知るディードは、あんな腕をしていない。
「……一体、何が…」
ディードの異様にスバルは息を飲む。
「――見つけたぁ」
あたかも頬まで裂けている様な、そんな笑み。狂気と獰猛を混濁させた感情が放たれた。
「奴をぉ……出せぇ……っ」
「だ、誰の事……? 奴って……」
後ずさるスバルにディードはにじり寄り、決まってる、と続ける。
「糞野郎を………セフィロスを、出ああああぁぁぁぁぁぁぁせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっッ!!!」
巨大な両腕を振るい、ディードが疾走した。
●
崩落した土砂の上を駆け、ディードは狙うべき獲物を見定めた。
……タイプゼロ・セカンド……ッ!!
見た事も無い子供がいるが、そちらは後回しだ。勿論逃がすつもりは無いが、かといってタイプゼロ・セカンドより優先する程ではない。
……セフィロスを引っ張り出す、餌ぁ……っ!!
幸先が良い、とディードは思う。このゲームが始まって早々、セフィロスに繋がる参加者と出会えた事は。
「らあああああああああああッ!!」
振り抜くのは左碗、三つ指が環状に並んだ義手だ。三本の尖鋭を窄めれば、それは一本の巨大な槍となる。
「………っ!!」
焦燥と共に避けたタイプゼロ・セカンド。その座標を左腕が抜き、先にあった樹木の腹を貫く。尖鋭と大出力の貫徹により、左腕は肘辺りまで埋まる。
一般的に見れば失策、だが、
「それで避けたつもりかぁっ!!」
作業用アームから転用された義碗は更なる出力を発揮、樹木から引き抜くのではなく、横に抜いて樹木を破った。それによって樹木の上半分が倒れ、木片が散弾の如く飛び散り、
「うあ……ッ!」
中空のタイプゼロ・セカンドを撃った。
細々とした木片群がタイプゼロ・セカンドの柔肌に刺さり、彼女の着地体勢を崩す。山林部から土砂の上へと落ち行く彼女に、ディードは更なる追い打ちをかけた。
右腕で左肩を触れる様な準備態勢、腰を存分に捻り、そして、
「うぅぅぅぅぅぅらああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっッ!!」
さながらホームラン狙いでバットを振るように、高速を持って右腕が振り抜かれた。その射線上にあるのは、体勢を崩したタイプゼロ・セカンドの体躯。
「……が…ッ」
強固にして鈍重、それを慣性のままに振り抜く一撃は強力無比。右腕がタイプゼロ・セカンドを跳ね飛ばし、土砂に叩き付けた。
土砂の上を転がり続けるタイプゼロ・セカンド、それを追ってディードは跳ねる。
「――はッ!!」
両腕を上から振り抜いて地に叩き付け、その反動によってディードは高速を得た。そして横転が止まり、体を軋ませるタイプゼロ・セカンドに向けて、再び腕を叩き付ける。
かに見えた。
「――――――――ぶっ!!?」
だが叩き付けられたのは、ディードの方だった。
中空で構えた直後に感じたのは、顔面に感じた強固で平たい打撃。慣性としては自らその打撃に突っ込んでいるのだ、その威力は一入に加わり、
「がぁああああアァァぁっ!?」
体躯を若干捻りつつ、ディードは打ち返された。
……な、にが……?
鼻腔に流血と粉砕を感じつつ、ディードは着地する。そして視線をタイプゼロ・セカンド、たった今自分が打撃を喰らった地点に向ければ、
「餓鬼ぃ……ッ!!」
優先順位を下と定めた、血塗れの少年が剣を構えていた。察するに、自分の顔面を打ったのはあの剣の腹か。
「そこまでだ!」
少年の凛とした声が山間に響く。
「時空管理局執務官、クロノ=ハラオウンだ! これ以上の戦闘行為を行うつもりなら……僕が相手をする!!」
……クロノ=ハラオウン……?
少年の宣言、その内容にディードは疑問を持つ。直接の面識こそ無いが、クロノ=ハラオウンという人物についてはDr.からある程度知らされていた。
若年にして執務官を勤めた優秀な魔導師、後にフェイト=テスタロッサの義兄となり、大型次元航行艦の提督となった傑物だ。ちなみに二児の父親らしい。
……だが……
今目の前にいるのがそのクロノ=ハラオウンというのか。どう見ても10歳かそこらの子供にしか見えない。それこそ回想した情報の一つ、“若年にして執務官を勤めた優秀な魔導師”の様だ。
……しかも、名乗りも執務官……
どういう事だ、と思う。
まさか、今目の前でクロノ=ハラオウンを名乗った少年は、過去から来たとでも言うのか。
●
どういう事か、とスバルは思う。自分とディードの間に立ち、宣言した少年について。
……クロノ…ハラオウン……?
名前ぐらいなら聞いた事がある。機動六課の後見人の一人で、フェイト隊長の義兄。そして本局でも有数の能力を誇る優秀な人材。
……でも……
そのクロノ=ハラオウンは自分よりも歳上だ。目の前の少年がそのクロノ=ハラオウンと同一人物とは思えない。
「君は……」
「――どぉでもいぃ」
滲み出る怨嗟の呟き、それがスバルの注意をクロノからディードへと移させた。口角と鼻から僅かに血を滴らせる彼女は、巨大な両碗を揺らして立ち上がる。
「お前達が何なのか、は、どぅでもいぃ……」
こちらに向けた双眸は怨嗟一色。そして、
「殺されてくれれば……あいつを見つけ出せれば……どぅでもいぃッ!!」
疾走。
「まだやるつもりか!?」
向かってくるディードに対し、クロノは再度剣を構える。
……駄目…ッ!
それでは抑えられない、とスバルは判断する。先ほどは顔面、不意打ち故にどうにかなったが、敵対者として認知された今、華奢な少年の身体能力で対応出来るとは思えない。
「私がッ!」
ディードを迎え撃つべく、スバルはクロノの脇を抜けて走る。
「いけない……戻って下さいッ!」
走り抜けるスバルの背に少年の声がかけられる。それを無視してスバルは自身の能力を起動させた。
「――IS、発動ッ!!」
叫びと共に起こるのは変色、スバルの双眸が金色へと変ずる。戦闘機人としての覚醒だ。
……振動拳で、ぶちぬくッ!
狙うは自身のインヒューレントスキルによる両碗の粉砕。機械、特に戦闘機人に対して絶大な攻撃力を持つこの能力なら有効だ、とスバルは判断する。
「おぉ………ッ!!」
「らあああああああぁぁァぁぁぁぁッ!!」
叫びの交差は体躯の交差。ディードは左腕を、スバルは右腕を振りかざし、互いを打ち抜こうを疾駆する。
「「―――――――――――――――――――――――っッっ!!!!」」
迫り、到達し、動きは起こり、そして、
「――まぁまぁ」
と、
「ワシの為に争っちゃイヤん」
隻眼の老人に、ディードとスバルの乳が鷲掴みされた。
……あれ?
何だろう、何か変だな、そんな風にスバルは思う。確か自分はディードと決死の一撃を交わそうとして、緊迫の中で疾走した筈なのに。
「ふむふむ」
その筈なのに、
「ほうほう」
一体どうして、
「どちらも中々どうして……」
突然現れた老人に、
「絶品じゃのう!」
乳の品定めをされているだろう。
「い、いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
気がついた時には絶叫、止まっていた右拳を老人の顔面に叩き付けた。この反応はディードも同様だったらしい。叫びこそあげなかったが、止まっていた左腕が老人の後頭部を打つ。
結果は大打撃の挟み撃ち。
「ぶほおおおおおおおおおおおおおッッ!!?」
珍妙な叫びと共に老人が吹っ飛んだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
思わず肺腑の息を使い切り、全力全開で一撃を振り抜いてしまった。両腕で胸部をがっちりと隠し、へたり込んでスバルは息継ぎする。
ふと見やれば、後方ではクロノが頬を赤くして明後日の方向を見ていた。
……な、何だったんだろう……?
否、誰だったのだろう、と言うべきか。突如現れた老人にスバルは疑問を馳せる。そうしてその姿を見ようと吹っ飛んだ方向を見やり、
「…あれ?」
いなかった。影も形も無く、老人の姿はなかった。
「ど、どこに……」
辺りを見回して、
「ふぅむ、随分派手な挨拶じゃのう、お嬢さん」
「――っ!?」
すぐ隣にいた。前触れも無く、気配もなく、余韻も無く、スバルの隣に隻眼の老人はいた。
「あ、あなたは?」
先とは別の意味で、スバルは老人を警戒する。気配も無しに吹っ飛ばされた位置から自分の隣に移る。それを出来る人物が、ただ者である筈は無い。
「ありゃ、忘れちまったかの?」
警戒心を剥き出しにするスバルを、老人は意外そうな表情で見返す。
「わしわし、八竜の虚空。崩や塁とかと一緒に顔見せしたじゃろ?」
●
聞き慣れない単語に、思わずスバルは問い返していた。
「はち、りゅう……? 崩に塁って……人の名前ですか?」
「異な事を言うの、お嬢ちゃん。……確か、スバルちゃんじゃったか?」
ほとほと不思議に思ったのか、虚空なる老人は腕を組んで首をひねった。
「お前さん、烈火やら紅麗やらと一緒におったじゃろうが」
「烈火? 紅麗……? 誰の事ですか?」
「……本気で覚えとらんのか?」
眼帯に覆われていない片目を細め、虚空は思案するようにスバルを見る。
「覚えてないとか、そういうんじゃなくて……本当に、知らないんですけど」
勿論お爺さんの事も、とスバルは付け加え、対する虚空は、ふぅむ、と唸って天を見やった。
「一体全体どうなっておるのか……忘れさせられた? 確かに記憶を操る魔導具もあったが……」
「何をぉ……ごちゃごちゃとぉ……ッ!!」
悪寒。次いで脊髄反射。
「うわ……ッ!」
飛び退いたスバルと虚空、つい先ほどまでいた地点がディードの義碗によって叩き潰された。
「和むなぁ……人のぉ……触ってぇ……糞爺ぃ………ッ!!」
気のせいか殺意が強まってる様な、とスバルは思う。
「死ぃねぇッ!!」
と、ディードは再び迫る。身構えるスバルだったが、
「ふむ、やれやれ」
虚空がそれに先んじた。
「随分と曇った戦い方をするの、お前さん」
「……ッ!!」
突かれた左腕、しかし虚空は跳ねてそれを躱す。
「そんな戦い方じゃ、ワシみたいのは捕まえられんがなぁ」
「黙れ!!」
振られた右腕、それも虚空は空中で身を回して逸らした。
「ほれほれ、ワシはここじゃよ?」
「がああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっッ!!」
乱雑に両の義碗を振るディード。五月雨と言っても良い連撃を、しかし虚空は適切に躱す。
「……すごい」
いつの間にか隣に並んだクロノが呆然と呟く。声にこそ出さなかったが、スバルもまた同様だ。
……やっぱりあの人、ただ者じゃない……
まるで川を流れる木の葉みたいだ、と虚空の体術を表現してスバルは息を飲む。あれ程の体術、格闘派のシグナム副隊長やシスター・シャッハでも出来ないだろう。
「あああああああああああああああああああッっ!!」
そんな中、ディードが痺れを切らしたように吠えた。
「これでッ! 死ねッ!!」
渾身の一撃、そう表現出来る振り抜きが果たされた。果たしてそれは、虚空の胴を捉えた。
「お爺さんッ!!」
身を乗り出したスバル、その先で老人は義碗を受け、
「え」
消えた。
否、消失した訳ではない。花びらにも似た欠片の群へと変じたのだ。赤い様でいて時に金色を放つそれは、
「……火の粉?」
呟いたのはクロノだった。それを切っ掛けにして、変化は起こる。
「――――!!!」
大気に揺らいでいた火の粉が突如として旋回、次第に火力を強め、さながら竜巻となって夜天に渦巻いた。
竜巻はやがてうねり、一つの形を作る。顎を持ち、目を持ち、しかし手足は無い。その姿は、
「蛇…ううん、これは――竜!」
『――左様。これぞ八竜が一角、虚空の姿ぞ』
竜と化した炎、それが放つのは先ほどまで老人だった、虚空の声だった。圧倒的な威圧を宿し、竜の言葉は三人に降り注ぐ。
『さあ、まだ戦うか娘よ。この儂の姿を見て、未だ戦意をまき散らすか……!?』
圧力を向けられたのはディードだった。彼女はへたり込み、呆然と虚空を見上げる。
……戦う、なんて言える筈無いよね……
協力してくれているとはいえ、虚空の威圧はスバルにも及んでいた。息も詰まる緊張を強いられる感覚、それを向けられて、尚も戦闘継続と言える筈は無い。
そう、スバルは思っていた。
「……ぃ」
だが紡がれた言葉は、スバルの予想に反していた。
「………ひ、ぃ」
「――え?」
スバルの見やる先で、ディードが崩れ始めていた。
全身を震わせ、双眸は焦点を結ばず、嗚咽するように喉を痙攣させ、そして、
「火いいいいいいいぃぃぃぃいぃぃぃ嫌ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっッっ!!!?」
「「『――――――!?』」」
それは狂乱だった。火の竜と化した虚空を見て、ディードは狂ったように鳴き叫ぶ。
「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌あっ!!
こないで寄らないで焼かないで御免なさいやめて下さいいぃぃぃぃぃぃッッ!!
腕、うでっ! 燃えるっ! 焼かれる! 灼かれる!! 爛れちゃうよ溶けちゃうよ痛くなっちゃうよぉっ!!
やめてお願いだからもう焼かないでええええええぇぇぇぇぇぇッッ!!!」
……ど、どうしちゃったの!?
その異様にスバルは驚愕する。先ほどまで暴力の限りを尽くしたディードが、これでは一辺して愚図る赤子ではないか。こんな様子を、そうなる理由を、スバルは全く知らない。
「やだやだやだやだやだやだもうやめてぇ!! もうやめてよおぉっッっ!!!」
泥に、涙に、鼻水に、唾液に、そして恐怖に塗れてディードは腕を振り回す。
まるでこの場にいない誰かを振り払うように。
そして、
「……いけない!!」
クロノの叫びは、両腕を上げたまま身を逸らしたディードに向けたもの。
「きえてえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇっ!!」
そのまま地に叩き付けた。
「しまった!!」
危機感がスバルの脳裏を走った。見やるに今の一撃はディードの全力全開、そして彼女の一撃は崩落を引き起こすだけの威力を出せる。
……つまり……!!
スバルが足場の揺らぎを感じた、直後、
「「―――――――――――――――――――――――――――――っッっ!!!」」
スバルとクロノが立つ土砂塗れの大地が、再び崩落した。
【一日目 AM0:40】
【現在地 G-7 山麓】
【ディード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
[参戦時間軸]11話中。自室で寝ていた頃
[状態]健康・憎悪・錯乱・鼻骨骨折
[装備]両腕の義手
[道具]支給品一式、救急箱
[思考・状況]
基本 セフィロスを殺す
1.火嫌っ! 火怖い!! 火消えてよぉ……ッ!!!
[備考]
※主催者から直接送り込まれた、いわばジョーカーです。食糧は他の参加者よりも充実しています
※左の義手からはAMFバリアが外されています
※腕の構造上、手持ち武器を握って使うことができません
※炎熱に対して極度の恐怖心を持っています
●
人為の災害に呑まれつつも、スバルは生存を断念しない。
「ウイングロード!!」
再度発現される、青い架け橋。地を基点にするとまた土砂に砕かれてしまう為、空中にそれを生じさせてスバルは飛び移る。が、
「う、うわ……!」
崩落を足場とした跳躍は不完全だった。ウイングロードの端に手はかかるが慣性を殺し切れず、
……振り落ちる……!?
危機感、瀕死の予感が走る。だがそこに救いの手はあった。
「手はいるかな? お嬢ちゃん」
「お爺さん!」
虚空と名乗り、そして炎の竜に変じた老人が自分を見ている。いつの間にか、ウイングロードに移動したようだ。
彼の助力でスバルはどうにか路上に這い上がる。その際、尻を掴まれた気もするがとりあえず置いておく。スバルの望みは、自身の生存だけではないからだ。
「あの子を……!!」
クロノ=ハラオウンを名乗ったあの子は、どうなってしまったのか。ウイングロードの上からスバルは崩落を見回し、やがて見つけた。
土砂に呑まれつつある、少年を。
「……助けなきゃ!」
望みと共にウイングロードは伸張、流されるクロノに並ぶ。スバルは路上を駆け、クロノへと手を伸ばす。
「掴まって!!」
「……………ッ!!」
伸ばされたスバルの手に、少年もまた手を伸ばす。だが、それは救済を求めた手ではなかった。
「――え」
スバルが握ったのは、少年の手ではなかった。固いその感触は人のそれではなく、器物のそれ。
掴まされたのは、少年の握っていた剣だった。
「ま、待ってよ!」
……私が掴みたいのは、こんなんじゃない!!
しかしクロノは、最早スバルの届かない程に埋もれ、流されている。
……私が掴んでも一緒に引きずり込まれちゃうから? だから君は私の手を掴まないの!?
「これを使ってくれって、君はそう言うの!?」
持たされた剣の意味をスバルは問う。そして見やる先で、少年は答えた。
「――生きて下さい!!!」
土砂に呑まれながらも、死に呑まれながらも、その少年は、確かに笑んでいた。
【クロノ=ハラオウン@マスカレード 死亡】
【一日目 AM0:45】
【現在地 G-7 山麓上空】
【スバル=ナカジマ@反目のスバル】
[参戦時期]STAGE9 C.C.に気絶させられた後
[状態]膝に擦り傷・体のあちこちに木片が刺さっている・ウィングロード発動中
[装備]エスパーダ・ロペラ@リリカルなのはMS
[道具]虚空@FLAME OF SHADOW STS・支給品一式・ランダム支給品0〜2個
[思考・状況]
基本:ルルーシュを探す
1:あの子を…助けられなかった………っ!
2:ルルーシュに会わないと……
[備考]
※名簿はルルーシュの名を見つけた時点で見るのを中断しています。よってフェイト・エリオ以外の六課メンバーの存在を知りません
※「参加者はそれぞれ別の時間から来ているのでは?」という疑念を持ちました
[虚空 思考・状況]
基本:この殺し合いを止めたい
1.極力、自分の攻撃力を使わずに戦闘を止める
2.スバルを支えたい
※まだスバルの体内に宿っていません。宿るまでスバルは虚空の能力を使えません
※参加者の体に宿っていない間、虚空の取れる行動は以下の通り。
@人間形態での独立行動(異常にすばしっこい事を除けば常人並み)
A火竜形態への変身(姿が変わるだけ。特殊能力は使用不可)
B神出鬼没
※G-8山頂付近が削れ、G-7山麓に土砂が積もっています
※崩落による土砂がH-7の川に流れ込みました。この区域のみ川が浅瀬になり、横断出来ます。尚、土砂の中にクロノ=ハラオウン@マスカレードの死体が埋まっています
【火竜】
・扱い/支給品指定。デイバックの中に“力の塊”として収納されている。火竜は、その状態では一切の行動を取る事が出来ない(虚空は例外)
・使用方法/“力の塊”状態の火竜に触れる事。それによって火竜が体内に入り、使用可能となる。その場合、腕に火竜の頭文字が刻まれる
・備考/体内に宿る参加者が死亡した場合、再び“力の塊”状態となって体外に出る。その状態なら別人が宿す事も可能。ただし火竜の記憶は維持
・制限/@能力発動の際に、火竜の頭文字を描く事
Aある程度の体力・精神力を残している事
B使用する度に体力・精神力を消耗する事。度合いは発動する能力の規模に比例
投下終了。
と、まあこんな感じで如何でしょうか?
ディードにトラウマスイッチ付けちゃったり、火竜を支給品にして制限決めちゃったりとか、ちょっとやっちゃった所はありますが。
GJ!
……ってあああああああ!?
そっかぁ、すっかり忘れてた……そうやってトラウマが入る可能性もあったんだぁ……(素直に感心)
……全然駄目じゃん、俺orz
ともあれディードがものすごくこちらのイメージ通りの戦い方ををてくれたことにびっくり。
相変わらずすごいなぁ……
35 :
マスカレード:2008/03/23(日) 17:14:16 ID:ITuANoR6
GJです
ディードこわっ……っていうかザビー死んだーーー!
マスカレード本編からロワまでいいとこ無しだったなぁ……(ぇ
一つ気になったのは、マスカレードにおいてのクロノは17歳なので、スバルよりも年上で、どちらかというとAsラストに近い外見なんですが……
ちゃんとキャラ紹介しておくべきでしたね
>>なのは+ライダーさん
私は別にライダーさんが悪いとは思いませんよ
執筆出来ないからこそ、色んな案を出してこのロワを盛り上げようとした気持ちは伝わって来ましたし……
BLACKかどうかとかも、ライダーさんの意見を取り入れるつもりでしたし、何も間違った事はしてないと思うっていうか
まぁ何が言いたいかっていうと、私は作品も含めてライダーさんの事は好きなので、これからも皆で一緒にやっていきたいなぁと……
なんか色々図々しい事言っちゃいましたけど、目障りな様なら聞き流してください……
>>315 うっかり!! 申し訳ない参考資料を読み違えてました!!!うーあーヤベー……。また修正スレのお世話になっちゃうかなァ……。あそこ殆ど自分の修正案で埋まってるんだよなぁ……どんだけトチってんだよ自分……。
ていうか何だなぁ、自分、殺しまくってんなぁ……。これで3人だよ3人……今このバトロワに参加してる人の中で一番殺してるよ自分……どんだけジェノサイダーやねん……。
せめてクロノ君はこう……カッコいい死様? マーダーが返り討ちにあうとかマーダーに無慈悲に殺されるとか……そういうの以外の死に方にしてみたんですねどね。
>>36 いやいや、自分に比べたらまだマシですよ。
そうとも……自キャラとは言え、あっさりと犬を殺した自分に比べたら……(遠い目)
あー、まともに殺してぇ……
誰かどこかでドンパチ始めてくんないかなぁ……あそこは多分始の到着待たなきゃならないだろうしなぁ……
(端から見ると問題発言)
……あ、バトロワラジオたまってたの思い出した。
38 :
マスカレード:2008/03/30(日) 00:11:13 ID:kGE6COi9
申し訳ありませんが、フェイトと光太郎の予約を一旦破棄させて頂きます。
書ける時間がちゃんと取れるようになれば、今度こそしっかり書こうと思います。
なんかもう無責任なこと言っちゃって本当に申し訳ありませんでした……!
念の為ここにも告知しておくかな……。
クロスロワに参加している作品の一つ、リリカルなのはStrikerS+仮面ライダーが諸事情で抹消される運びとなりました。
それについての議論が出ているので、意欲のある方は専用したらばの議論スレまでお越し下さい。
なのはクロスロワ専用したらば掲示板
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/10906/
現在StS氏のキャラの扱いについて議論スレにて協議中です。
場合によってはこのロワ自体をキャラ選定からやり直すことになるかもしれません。
よければ議論スレにて皆様の意見もお聞かせください。
なのはクロスロワにて、バトロワに参加するリリカルなのは原案キャラを投票で決める事になりました。
このバトロワに意欲のある方は、バトロワに参加して欲しいキャラを、以下のルールの下に投票して頂ければ、と思います。
1.投票するスレは「なのはクロスロワ専用したらば掲示板」の「投票スレ」です
2.参加して欲しいナンバーズと、それ以外のリリカルなのは原案キャラを、それぞれ1人ずつ挙げて下さい
3.尚、
なのは、フェイト、はやて、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、
スバル、ティアナ、キャロ、エリオ、ギンガ、ルーテシア
以上のリリカルなのは原案キャラは、すでに参加が確定しているので投票出来ません
以上の投票でナンバーズは上位3人、それ以外のリリカルなのは原案キャラは上位4人が参加となります。
また上記の投票と平行して、自分のクロス作品キャラを参加させたい職人さんも募集しています。
参加したい職人さんは、参加させたい自分のクロス作品キャラを1〜3人挙げ、「投票スレ」に明記して下さい。
以上の投票・募集を3日後、4月8日(火)06:00まで受け付けています。
OP投下します
「……のは、なのは!」
「ふぇ……クロノ君……?」
暗い室内、栗色の髪を二つに括った少女が知り合いの呼びかけに目を覚ます。
周囲を見回してみるが明かりがほとんどなく、状況がまったくわからない。
イスに座らされているようだが、辛うじてすぐ隣にいたクロノの姿を確認できるだけだ。
とにかく側に行こうと考え――
「え……バインド!?」
身動きが取れず、自分の体がバインドによってイスに縛りつけられていることに気づく。
慌ててそれを破ろうと強引に魔力を込めるが、そのバインドはなのはの魔力を受けてもビクともしない。
「落ち着くんだ、これはただのバインドじゃない。さっきから解除を試みているがどうにもならない」
「だ、だけど、クロノ君でも解けないなんて……」
困惑しながら言葉を続けようとするなのはを遮るように、前方の一人分程度の空間がスポットライトが当てられたかのように明るくなる。
そこに立っていた人物に目を向け、二人は目を見開く。
「「プレセア……!?」」
「「母さん!?」」
部屋のあちこちからいくつもの声が重なる。
その中に、決して重なる訳がないはずの言葉が重なったことになのはは気づく。
「フェイトちゃん……? でも、何で……」
「静かにしてもらえるかしら」
ざわつく部屋の中でプレセアは言うが、その程度でこの混乱が止まるはずもない。
溜息を吐きながら手を一振りした途端、なのは達の首にかけられていたバインドが絞まりだす。
『っ……』
強制的に黙らされ、意識が飛びそうになる直前に解放される。
「状況は理解できたかしら? あなたたちは私に逆らうことはできない」
抵抗したかったが、この状態ではプレシアを睨みつけることしかできない。
その様子を見ながら、プレシアは言葉を続ける。
支援をせざるを得ない!
「これから、あなた達に殺し合いをしてもらうわ」
――時が止まる。
彼女を知らない者は、あまりにも突拍子もない内容に頭がついていかなかったため。
彼女を知っている者は、その言葉が決してふざけて言われていることではないと理解したため。
「これから会場へあなた達を転移させる、そこで最後の一人になるまで殺し合いなさい。
力の無い者にもチャンスをあげる、あなたたちの武装は全て解除して、こちらで用意したいくつかの道具と混ぜてランダムで支給するわ、精々あがきなさい。
それからあなた達に付けているその首輪」
そこでようやく自分の首に何か巻かれているような違和感に気づく。
「全員で逃げ回られても困るわ、24時間一人も死ななければその首輪に仕掛けた爆弾を爆発させる。
それから6時間毎にそれまでに死んだ者の名前と、禁止エリアを伝えるわ。その禁止エリアに入っても首輪は爆発する」
「――っざけんじゃないわよ!」
淡々と告げていくプレシアを、少女の声が遮った。
プレシアがそちらへ目を向けると、先ほどと同じように光が灯り少女の姿を照らし出す。
「アリサちゃん!?」
「なのは!? あんたもいたの!?」
――少し誤解を招いているかもしれないので補足しておこう。
いま少女の……大学生ほどの彼女の名前を呼んだのはユーノと会話していたなのはではない。
彼女は見知らぬ自分の親友と同じ名前である女性から、自分の名前が出てきたことにきょとんとしている。
しかも、彼女とその名前を呼んだ声は不自然なまでに自分とその親友にそっくりだ、偶然の一致と言うにはあまりにも出来過ぎている。
「なのは、何黙って聞いてるのよ! そこのオバサン! さっきから聞いてりゃ好き勝手言って! 殺し合い!? ふざけんじゃないわよ!」
「だ、ダメ、アリサ、刺激しないで……」
「って、フェイトもいるの!? 頭きた! さっさとこの変なの解いて帰しなさいよ!」
またも親友と同じ名前、声の人物の登場になのはは更に混乱する。
隣のクロノも困惑した表情でこちらを見ていて、ただの聞き間違えという思考の逃げ道を塞いでいる。
理解できないこの状況に思考が停止し始め……唐突に起きた爆発音によって我に返る。
何が起きたのか、その音の方向へと目を向け――
『―――――――っ!?』
「アリサちゃん!? アリサちゃん!!!」
何重もの悲鳴が上がり、先ほどのなのはと同じ声の持ち主が必死にアリサへと呼びかける。
だが、その呼びかけへの返答はない。
首から上を爆破された人間に、返事を返せるはずがなかった。
「母さん! 何で……何でアリサを!!」
「判ったかしら、さっき言った条件を満たしたらこうなる……生き延びたければ、最後の一人になるしかないのよ」
フェイトの声が聞こえるが、それを無視してプレシアは喋り続ける。
どうしてこうも冷静なのか、人を殺した直後だというのに表情一つ変えないプレシアになのはは背筋を凍らせる。
今だにやまない悲鳴の中、プレシアが手を振りかざすと同時になのは達の足元に魔方陣が展開される。
「転移魔法!?」
「さぁ、デスゲームの始まりよ」
【一日目 AM0:00】
バトルロワイヤル 開始
【アリサ=バニングス@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡】
<<主催>>
プレシア=テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは
以上、とりあえず仮OPということでー
アリサ…
( ゚д゚)ポカーン
予約は避難所で……良いのかな?
×投票
○予約
3件……か。
明日までにはもうすこしふえるといいなあ。
まだコテの人がほとんど来てないし、もうちょい増えるっしょ
予約していたエネル、シャーリー分が完成だー。
わははははーなのはクロスロワ第1話は自分が頂いたー、という感じで8時に投下させて頂きたく思いマス。
時間だし投下ー。
空の暗さが今が夜であるという事を示す。
何処までも続く夜空、それを遮るものは一つとしてない。雲も星も無く、夜空のみが満面と広がり、満月だけが淡い光彩を滲ませている。
夜とは暗いもの。しかしその中にあって、特に暗い夜と言えた。
そんな暗黒の中でも、ことさら暗い部分がある。
光を貪ろうと、四方に食指を広げたもの共の密集地だ。そこは例え日中であっても薄暗いだろう。ましてや夜中ともなれば、夜空よりも暗い空間を生み出すのは自明の理だ。
もの共の名は樹、密集した空間は森と呼ばれた。
枝という喉が、葉という唇が、そしてそれらが幾重にも重なった深緑の天井が、月光さえも遮る。
雲と星を欠いた空の下、そこにある森もまた、欠落を持つ森だった。
あらゆる存在感が無いのだ。
足音、鳴声、気配。虫でさえも、その存在を感じる事は出来なかった。
まるで箱庭。生き物の住処としてではなく、何か別の目的を果たす為に造られたかのようだ。
それを構成する木々の間を抜けていくと、開けた場所に出た。
小石と砂利で舗装された川だ。水は底が透けて見える程の清涼、光の加減で僅かに夜空を映す。それらが気休め程度に森を二分していた。
その川辺に一つの影が、否、人影がある。
細身の少女であった。
年頃は十代後半。引き締まった長い両脚に、白過ぎる肌と橙色の長髪が日本人に非ざる事を証明する。
どうやら衣服は学生服のようだ。シャツの上にベージュの上着を重ね、長袖の端はミニスカートと同じ黒。首輪の嵌った喉元は襟が囲い、緑のネクタイには金色の刺繍が縫い付けられている。
少女は素足だった。脱がれた靴下は革靴の中に押し込められ、デイバックと共に腰掛けた川縁に揃えてある。カモシカを思わせる両脚は膝辺りまで川水に浸っていた。
僅かに俯いた少女の顔、そこには悲しげな表情がある。眉尻と瞼が下がり、僅かに開いた唇が赤い舌を覗かせた。
川に脚を浸し、悲しげな表情を浮かべる月下の少女は、一つの絵画のようですらある。
静寂が続いた。少女は声も身じろぎも無く、川と枝葉の鳴らす音の中に身を置く。
それがどれ程続いただろうか。呆然とした様に、少女は呟いた。
「…………なんで」
悲しげに、憂鬱げに、
「なんでこんな事になってるんだろう――――」
少女、シャーリー・フェネットは呟いた。
●
シャーリーが覚えている最後の光景は、母の泣き顔だった。
その電話がかかてきたのは、ナリタで黒の騎士団とブリタニア軍が戦ったすぐ後の事だ。
電話に出て幾度か受け答えをして、そして受話器を取り落とす母。どうしたのか、と訪ねた私を見る母の顔。その目尻から零れる一筋の涙。紡がれた言葉は、
――――お父さん、死んだんですって
感情も何もない、空虚な呟きだった。
その時シャーリーは、それがどういう意味なのか理解出来なかった。ただ視界が暗くなって、両脚から力が抜けるのを感じた。
そして再び視界を取り戻した時、自分はあの場所にいた。
「……………ぁ」
プレシアと呼ばれた女性、自分と同様に縛りつけられていた者達、そして殺された女性。思い出した記憶に背筋が震える。
自身を浅く抱き、しかし寒気はシャーリーの体から抜けない。
……死んじゃった……
少し歳上だっただろうか。彼女は、突然殺し合えと言って来たプレシアにつっかかり、首から上を失った。散った金髪は、自分と同じブリタニア人を思わせる。
またなのか、と思う。
ナリタの戦いが起こる前に、自分が巻き込まれたイレブン達の蜂起。河口湖のホテルに閉じ込められ、人質にされたあの事件。
ブリタニア人が殺されるこの状況は、あそこでの出来事を思い起こさせる。
「……またイレブンの、報復なの?」
しかしあのプレシアという女性もまた、ブリタニア人に見えた。
ならばこれは報復活動ではないのか。
「わけ分んないよ」
目元に熱さを感じ、シャーリーは首を埋めた。
「――助けてよ、ルル」
呟いたのは片思いの少年、ルルーシュ・ランペルージの愛称。
成績優秀で、格好も良くて、そのくせ飄々として変な事ばかりして、いつの間にか好きになっていた少年。
彼に助けて欲しかった。
「ルルぅ……」
シャーリーは身を回し、脇に置いたデイバックに手を伸ばした。
既に開かれたデイバックからは、一冊のファイルがはみ出している。それは先ほどシャーリーが手に取った、参加者名簿と銘打たれた物だ。
それを開けば、人名と思しき字の羅列が見開きで広がっていた。中にはシャーリーの名が、そしてルルーシュの名がある。
「ううん、それだけじゃない」
同じ生徒会に所属する友人、カレン・シュタットフェルトとスバル・ナカジマ。
そしてスバルの縁者だろうか、ギンガ・ナカジマという似通った名前もそこにはあった。
「みんな、大丈夫かな」
カレンもスバルも、特にルルーシュは死んで欲しくない者達だ。
助けて欲しい。でもそれ以上に、一緒に生きて帰りたいと思う者達だ。
「泣いてる、かな? 私みたいに」
病弱なカレンは泣いているだろう。スバルもきっと泣いている。妙に小柄な彼女は、どうも自分達よりも年下に思えてしょうがない。
だが、
「……きっとルルは、泣いてないよね」
ルルーシュが泣く所を想像しようとして、思わず笑ってしまった。
あの生意気で傲慢ちきなルルーシュが、死ぬかもしれない場所に送られて、それで泣くだろうか。
「きっと……、ううん、絶対泣いてない」
今頃あのよく回る頭で、生きて帰る方法を捻り出そうとしているだろう。否、もう思いついているかもしれない。
「ルル、すごいもんね」
気がつくと笑みが零れていた。
現金なものだ、とシャーリーは思う。好きな人の事を思うだけで、こうも気が軽くなるなんて。
……ルル……
再度思う、片思いの少年の姿。
その思いに一つの願いが生まれてきた。それは、
「――生きて会いたいよ、ルル」
再会し、そして共に生きて帰りたい、そういう願い。
それを呟いてシャーリーは決意する。その願いを叶えるという決意を。
「泣いてるだけじゃ、私らしくないもんね」
そう、シャーリー・フェネットという人間は、泣いて踞って好きな人の助けを待つだけの女じゃない。
「……私が助けちゃうんだから」
ルルーシュが良いのは顔と頭だけなのだ。運動はてんで駄目な彼には、きっと自分が必要だ。
そう思い、だからこそシャーリーは立ち上がる。
「うん、私、頑張るっ!」
なけなしの意思を掻き集め、シャーリーは自身を奮い立たせた。
友人達と、好きな人と一緒に、生きてここを出る為に。彼等を探すべくシャーリーは面を上げる。
そして、
「あ」
見た。
自分とは川を挟んで対岸に立つ、一人の男を。
「ヤハハ」
上半身を露出した、異様に耳たぶの長い男は笑う。
「こんな近くにいるとは。――女、お前は神に愛されているぞ?」
●
エネルは不機嫌だった。
森林を歩く彼の顔は一見すると無表情、しかしそれは苛立ち故のものだと気配で解る。
……あの女め……
プレシアと名乗った女。彼女の前に引き出されたのは、丁度“限りない大地”に降り立った直後だった。無礼な鉄の船を落とし、問い質してきた白服の女と対峙したその瞬間、エネルの視界は暗転した。
そしてどういうつもりなのか、殺し合え、と命令されてこの大地に放り出された。ご丁寧にも、その命令に従わせる為の首輪までつけられて。
しかも首輪のせいか、はたまたプレシアの小細工なのか、“心網”の具合が悪い。どれだけ神経を集中させても範囲が広がらず、解るのは意識の場所ばかりでその思考を読む事が出来ない。
「……無礼者め」
神に向かって何様だ、エネルはそう思う。
不愉快極まりない状況だ。しかし、全く救いがない訳ではない。その救いを確かめるべく、エネルは大地を踏みしめた。
「ヴァース、だな」
かつて自分が支配していた“神の島”、そこにあった土と全く同じ感触だ。ならばここにある大地、土は本物という事か。
「“限りない大地”とは違う……が、これもまた神の所有物よ」
ならばこれを手に入れる。そして、ここを足がかりにしてあの“限りない大地”を目指す。
それがエネルの定めた目的だった。
そしてその為に、プレシアの命令に乗ってやる事もやぶさかではない。
「だが、覚悟しておくがいいさ」
……全ての者共を裁き、お前が出てきた折りには……貴様にも神罰を下してやる……
参加者、主催者もひっくるめた皆殺し、それがエネルの当面の目的となっていた。
その為にもまず、自分以外の参加者を求める。制限を受けた“心網”だったが、人探し程度ならば問題は無い。尤も、それがどんな者なのかは会わねば解らないが。
そうしてエネルは感知した意識の元へと歩き始め、そして橙色の長髪をした少女と出会った。
「あ」
眼前に広がる川、その彼岸寄りに立つ女がこちらを見て間の抜けた声を漏らす。
「ヤハハ、こんな近くにいるとは。――女、お前は神に愛されているぞ?」
その様子をエネルは笑い、行動に移った。
川縁まで寄ってしゃがみ込み、そして人差し指を川水に差す。
……この程度ならば問題はあるまい……
水に浸った事で脱力を感じるが、指先だけならば微々たるものだ。
不思議そうな顔でこちらを見る女、それにエネルは笑い返した。愚か者に向ける、嘲笑を。
「――“放電”」
瞬間、川が輝いた。
「!!!!?」
ば、という空気の破裂音、そして水面に微細な稲妻が走る。苛烈な閃光が闇夜を裂き、森林を一瞬照らした。その一瞬後には、ぼ、と気化した川水が立ち上る。
超高圧の電気、その熱量によって一帯の川水が蒸発したのだ。
「ヤハハ、死んだか?」
エネルは立ち上がり、白煙の向こうに消えた少女の行く末を思う。
ゴロゴロの実。喰った者にその体を雷に変化する能力を与える、“自然系”系の悪魔の実。
それがエネルの持つ最大の力だった。
「ん〜? いささか威力が低いな」
もう少し威力を上げたつもりだったのだが、これもプレシアによる制限の一環だろうか。
……まあいいさ……
幾度か腕を振って噴煙を払い、彼岸を見やる。
そこには、先ほどの少女が尻をついてこちらを見返していた。
「あ、あぁ、あ……」
「寸前で岸に上がったか? 恐怖を延ばす事も無かろうに、愚かな娘だ」
少女の瞳に宿るその感情に、エネルは満足げに頷く。
……そう、それこそ神の象徴だ……!
人は理解出来ぬもの、圧倒的に強いものを恐れる。その思いは相手を神格化し、神を讃える。
……恐怖こそが神! 最も恐れられる私こそが、神なのだ……!
エネルは川を飛び越え、尻をついたまま後ずさる少女の目前に着地する。そして再びしゃがみ込んで少女を覗き込む。
「ひ……っ」
息を漏らした彼女の顔、それを眼前にしてエネルは笑む。
「怖いか? 女」
問うた直後、エネルの右手が少女の首を掴んだ。
そうして立ち上がれば、少女は首を支点にしたぶら下がり状態。首に発生した痛みと締め付けに苦悶が零れる。
「あ、ぐ……っ!」
「ヤハハハハ! だから先ほどので消えれば良かったものを」
親指を立てて少女の喉元を撫でる。
「解るか? 私は雷なのだ。今この状態で、私が腕を雷に変えれば、どうなるか解るか?」
「…………っ!」
エネルの言葉に少女は息を飲んだ。そして反抗、細腕がエネルの腕を掴む。
しかしそれは無意味だ、とエネルは思う。鍛え上げられたエネルの豪腕は、ほっそりとした少女の腕力でどうにか出来るものではない。
「……っ! っ!! ……っ!!」
少女は必死に抵抗している。エネルの腕を掴み、叩き、掻き、抓り、宙ぶらりんの両脚をばたつかせる。
だが全てが無意味だ。
……神を前にして、人間がどれ程抵抗しようと無意味なのだ……
それでも必死な少女の様子に、エネルは暗い歓び、加虐の楽しみを見出す。圧倒的戦闘力で弱者を嬲る、これもまた神の余裕、たしなみだ。
「さあ死ぬが良い」
「……っっ!!」
首を掴む手に力を込め、より一層締め上げてやる。
そして、その苦しみからかだろうか、はたまた恐怖からだろうか。
「…………ぁ、ゃ……っ」
少女は泣き出した。大粒の涙が頬を伝い、狭まった喉で精一杯の嗚咽を漏らす。
「ヤハハハハハハッ! そう、その表情だ! 神への畏敬を胸に抱いて死ぬがいい!!」
エネルは哄笑し、そして意識を働かせる。自身の右腕を、雷電へと変化させる為に。
「“放……」
言葉と共に、エネルは右腕を変化させようとした。
だがその時、予期せぬ事態が起こる。
「やああぁぁ―――――――っ!!!」
少女がその両脚で、エネルの胸板を蹴り飛ばしたのだ。
●
ある意味それは、当然の事態だったのかもしれない。
誰しも死を目前にすれば、火事場の馬鹿力の一つや二つは発揮するものだ。
その瞬間、シャーリー・フェネットの両脚は水泳で鍛えられた強靭な脚力を発揮し、エネルの胸へと伸びた。
だがそれだけならば、シャーリーが助かる見込みは無かった。
一般人の脚力に必死が加わった程度で揺らぐ、エネルの体ではないのだ。そもそも体を雷に変える事が出来る彼に対して、物理攻撃は自滅を招くだけだ。
しかしこの時、幾つかの事実が奇跡を起こした。
事実その1、制限により、エネルの胴体は雷に変化する事が出来なかった事。
事実その2、エネルはシャーリーの抵抗を、雷に成って自滅させようとしていた事。
事実その3、エネルが立っているのは、小石や砂利が積もる不安定な川辺であった事。
事実その4、エネルの背後には川があり、その水量は蒸発する以前の状態にまで回復していた事。
エネルの身を取り巻く、この4つの事実が要因となって一連の結果が生まれる。
打撃を受け流すつもりだったエネルは、脚にふんばりをかけていなかった。
そこへ、無効化される筈の蹴りが突き刺さった。
エネルは驚きつつも耐えようとした。
しかし足裏は小石と砂利に滑り、体は後方へと倒れる。
そこには水量が回復した川、悪魔の実の能力者にとって弱点である、水溜りへと倒れる。
じゃぼーん。
【1日目 現時刻AM00:18】
【現在地 B-7】
【エネル@小話メドレー】
【状態】脱力、川を流れている
【装備】無し
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本 主催者も含めて皆殺し、この世界を支配する
1.ち、ちからが入らん……
【備考】
※自身の制限に気付きました。
※悪魔の実の能力者の弊害として、水没による極度の脱力状態です。割とピンチです。
※川への放電により、A-7〜B-7の河川に発光現象が発生しました。周囲に参加者がいた場合、気付いた可能性があります。
●
「え、えぇと……?」
予想外の結果にシャーリーは呆然とする。
つい先ほどまで自分を殺そうとしてた半裸の男を、シャーリーは抵抗のあまりに蹴り飛ばした。だがそれで事態が打破出来るとは思っていなかった。むしろ徒労に終わると思っていた。
しかし結果はどうだ。自分は男の手から逃れ、そして川へと倒れ込んだ男は、
「お――――――――――の――――――――――れ――――――――――――――――……………」
妙に脱力した声で、川を流れていった。
……泳げば良いのに……
そうでなくとも、この川は脚がつかない程の深さは無い。ただ立ち上がるだけで、事態は回避出来るのに。
何故それをしないのか、シャーリーには理解出来なかった。
理解出来るのは、自分が死を免れたという事実だけだ。
「た、助かった……」
胸一杯に感じる安堵、思わず全身の力が抜けてシャーリーは川辺にへたり込む。
と、
「…………………………………………じめぇっ?」
何だろうか、内股に冷たさを感じた。いや、太ももの辺りまでそれはある。
まるで何か濡れたような感覚、しかし自分はさっきの男とは違い、川には落ちていない。
では何だろうか、と思い、
「――まさかっ!!」
思い至った予想に、シャーリーはミニスカートをまくり上げた。周囲に人がいないので、はしたなさは取り合えず度外視だ。
そして目に入ったのは、脚の付け根を覆う逆三角形の布。
だがそれはシャーリーの知っている色とは違っていた。白かった筈のそれは、今は水分で黒ずんでいる。そして両の太ももには、やや黄味を帯びた液体が付着していた。
それが何なのか、シャーリーは見当をつけていた。
……わ、わわ、わたしっ、怖過ぎて、し、し、し、しっき……
「ん」
思わず単語の語尾を呟いた直後、周囲の森林に少女の絶叫が響いた。
【1日目 現時刻AM00:20】
【現在地 B-7】
【シャーリー・フェネット@コードギアス 反目のスバル】
【状態】健康、恐慌
【装備】濡れたパンツ
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本 ルルーシュ達と一緒に帰りたい
1.いや――――ッ! 乙女の尊厳が――――――――ッ!!
2.ルルを探さなくちゃ
3.スバルとカレンも探さないと
【備考】
A-7〜B-7にシャーリーの悲鳴が響きました。周囲に参加者がいた場合、気付いた可能性があります。
投下終了。
……第1話なのに微妙に下ネタ……申し訳ない。
エwwwネwwwルwwwお前という奴はwww
『あぁなのロワ初の死者か……』とか思って読んでたらこれですかw
そしてやってしまったシャーリーw
最高に吹かせてもらいました、GJ!
GJ!
シャーリーかっこいいよシャーリー……と思ったら最後にやらかしちゃってwww
さてと、予約スレではポカやらかしちゃった自分ですが、30分に投下しようと思います。
……予約第一号だと思ったのにorz
ではでは、時間になりましたので。
頼りない月明のみが周囲を照らす薄暗闇の中、灰色のジャングルが広がっていた。
建ち並ぶ巨大なビルの群れ。賑やかな街並みの面影を残したそこは、しかし人っ子1人すらいないまま静まりかえっていた。
夜中という時間帯もあるが、それでもまだこれくらいなら、ネオンも光っているだろうし、車も走っていてもいい頃である。
そしてそれらすらもない無明の街の中、ヴォルケンリッターの湖の癒し手の姿は随分と浮いていた。
「あれがフェイトちゃんのお母さん、プレシア・テスタロッサ……」
歴戦の勇士たるシャマルは、その穏やかな性格の割には冷静に状況を分析する。
この異常自体の中、その様子は逆に異常なものにさえ見えた。
クロノやユーノからは、プレシアは目的のためには自分達以上に手段を選ばない、過激な人間だと聞いている。
しかし同時に、元は聡明な魔導師であるとも聞いている。何の考えもなしに荒事を起こす馬鹿ではないことは、容易に想像できた。
であれば、行動に見合うだけの理由があって人々をここに集め、殺し合いをさせているということか。
(……今のところ、それはどうだっていいか)
首を振りながら、頭の中の思考を払いのける。
今重要なことはそこではない。この殺し合いのふざけたゲームを生き残り、同時に大切な人を救い出すこと――それが考えるべきことだ。
名簿の中には、確かに「八神はやて」の名前があった。自分達守護騎士の守るべき、夜天の主の名が。
「……いいえ」
微かに、目を伏せる。
まぶたの裏に浮かぶ人影は、はやての姿だけではない。
シグナム、ヴィータ、ザフィーラ。長き時を共に過ごしてきた、大切な家族達。
なのは、フェイト、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ……機動六課という同じ屋根の下の、大切な仲間達。
この手の中には、いつの間にか――“こんなにたくさんの守りたい人達ができた”。
今一度、己自身に問い質す。
自分の使命は何だ。
我々守護騎士に課せられた役割とは何だ。
守りたい者達を守れずして、何がヴォルケンリッターか。
「……みんなを守ることくらい、私達にもできるはずよね」
言いながら、シャマルは顔を上げる。
そして、確固たる意志と共に、その一歩を踏み出した。
“全ての仲間達を守り抜くために”。
都心のビル街から少し離れれば、そこは一転して住宅街となる。
それでも街の寂しさは変わらず、いやむしろ、更にそれを増しているようにさえ感じられた。
ヴォルケンリッターの烈火の将は、その中で手にした得物を振り回していた。
身の丈をも凌ぐ巨大な剣を、その勝手を確かめるように振る。刃の広い大剣が、鋭い音と共に空気を切り裂いた。
(あの女……かなり高位の魔導師のようだな)
シグナムは未だ身体に残るバインドの感触を思い返す。
少なくとも、自分と互角のSランクには相当していただろう。あれだけの大魔導師には滅多にお目にはかかれない。
しかし、自分達に殺し合いを要求するとは一体どういう了見なのだろうか。そこだけがどうにも解せなかった。
お互いに顔も知らぬ相手をわざわざ殺そうとするだろうか? そもそも、それならそれでこんなまどろっこしい手段を取るだろうか?
(……今はそれは重要ではないな)
静かに思考を振り払うと、剣を振る手を止めて自身の肩に預ける。
今重要なことはそこではない。この殺し合いのふざけたゲームを生き残り、同時に大切な人を救い出すこと――それが考えるべきことだ。
名簿の中には、確かに「八神はやて」の名前があった。自分達守護騎士の守るべき、夜天の主の名が。
「……いや」
微かに、目を伏せる。
まぶたの裏に浮かぶ人影は、はやての姿だけではない。
ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。主を優勝させるためには互いに果てねばならない、捨て駒達。
なのは、フェイト、ユーノ、クロノ。主を救うための闇の書完成を阻む、倒すべき敵達。
この目の中には、誰一人として――“殺さずに済む者など存在しない”。
今一度、己自身に問い質す。
自分の使命は何だ。
我々守護騎士に課せられた役割とは何だ。
守るべき主君を守れずして、何がヴォルケンリッターか。
「……待っていてください、主はやて。必ず貴方を守り抜いてみせます」
言いながら、シャマルは顔を上げる。
そして、確固たる意志と共に、その一歩を踏み出した。
“全ての敵を打ち倒すために”。
同じ使命を持った同志達。
2人は同じ街の中。
湖の癒し手は東へ歩み。
烈火の将は西へと進む。
全ての命を救うために。
全ての命を奪うために。
数百年の歴史の中では、小さな点にもひとしきり10年という時間。
それがあるかないかの、ほんの小さな違いだけで。2人の騎士の道は分かれてしまった。
枝分かれした2人の道は、二度と交わることはないようにさえ思えた。
【1日目 現時刻AM0:06】
【現在地 F-4】
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状況】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3個
【思考】
基本:はやてを含めた、全ての仲間を守り抜く。
1.まずははやてとの合流が最優先
2.できればヴォルケンリッターの仲間達とも合流したい
【備考】
シグナムが10年前の世界から来ていることに気付いていません。
【現在地 F-3】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
【状況】健康
【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、ランダム支給品0〜2個
【思考】
基本:はやてを優勝させるため、全ての敵を排除する。
1.まずははやてとの合流が最優先
2.できればヴォルケンリッターの仲間達とも合流したい
【備考】
シャマルが10年後の世界から来ていることに気付いていません。
投下終了。
せっかくヴォルケンズが2期・3期どちらからも参加できるということなので、10年の認識の差を利用してみようかと。
……人は変わるもんなんだなぁ……
やらかしたorz
2レス目の「言いながら、シャマルは顔を上げる」は、言うまでもなくシグナムの間違いです。
投下乙
ウホッ!これは良い疑心暗鬼フラグ!
違う時間軸から連れて来られた二人はどうなるのか……GJです!
12時から投下しますー。
愚かだ。
なんと愚かなのだ。
それはあまりにも愚かで、醜悪な行為。
復讐。
報復せんと情念に心を焦がし。
相手の息の根を止めるまで果てることを知らぬ妄執。
狂気に等しい行為に身をやつし、何が得られるというのか―――。
理解などできない。したくもない。
救済―――不可能。
できるのは、哀れな妄執に取り付かれた者に、万民の為に止めを刺すことだけ。
それが、『復讐鬼』高町なのは、『あの』プレシア・テスタロッサであろうと―――。
(殺そう。あの二人を)
それが、己に出来る唯一の解決方法。
何処とも知れぬ土地の、林の生い茂る場所に立てられた神社の境内で、ゼストは座り込み、思考を整えた。
やることは、決まった。
まずは、高町なのはを見つけ出し、殺す。奴は災厄を撒き散らし、無関係な人間を殺害する悪鬼。
こんな馬鹿げた大会に取り込まれる形になるのは癪だが、後々のことを考えれば安いものだ。
あの女は危険すぎる――殺。
次にプレシア・テスタロッサ―――「PT事件」の首謀者。
死んだと聞いていたが――まさかこんなことを企んでいたとは。時空管理局に知れたならば、極刑では済むまい――この身は既に死人。
何を躊躇おうか。
これも、殺。
当面の行動方針を決め終えたゼストは、デイバックの中身を確認した―――まず、見覚えのあるナイフ。
これは―――。
「戦闘機人、か」
気づけば、そうぽつりともらしていた。己の隊を壊滅させ、一度死んだ自分の面倒を見た、銀髪の小柄な少女。
その右目は―――奪ったのだ、この手で。
こみ上げて来る苦いものを感じながら、合計十本の投げナイフ<スティンガー>を握りしめる。
武器としては上々である。
槍が無いのは寂しいが、奇襲や自身の身体能力――ストライカー魔導師として鍛え上げた――と合わせれば、下手な接近戦用の武器よりも強力だ。
ナイフの鞘を腰に巻き、固定。何時でも抜けるようにしておく。
戦闘準備完了。
次に、参加者リストに目をもう一度通す。
高町なのは――二名分。意味不明。
数字の名前――戦闘機人たち。警戒の必要あり。
驚愕―――ルーテシア・アルピーノの名前。高町なのはが保護していたのではなかったのか――疑問符。
部下の忘れ形見――胸に走る鈍痛。
逝った友――レジアスの忠告を聞いていれば、という思い。
決断――できれば保護する――厄介だが高町より先に確保しなければならない。
面倒ごとを背負い込んだ気分。
だが、贖罪―――今こそ罪と向き合うとき。
そのとき、背後から音がした。
扉の開く音。振り返り、腰のナイフを引き抜き、構えた。投擲と刺突の両方に対応できるよう、両手に。
神社の建物――賽銭箱がおいてあるところの前が、中から開け放たれていた。
目を凝らす―――誰もいない。
いや。
漆黒の闇の中を、鮮やかな緑の長髪が揺れた。爛々と輝く瞳――金色に輝くそれが、『あの男』と戦闘機人たちを連想させる。
警戒のレヴェルを引き上げる――狂人と言ってよい科学者、スカリエッティの手先かもしれない。今この場では、巻き込まれたくない相手だ。
年齢―――まだ十代半ば程の少女。
人形の様に整った顔は無表情で、月光の下、神々しくすらあった。
―――魔性を感じる程に―――。
奇妙な白い拘束衣を着た少女は、無感動に真ん丸の月を眺めると、ゼストに視線を移した。
金色の瞳が細められ―――。
「なんだ、お前は?」
無遠慮な声が放たれた――よく通る声だ。
つう、と冷や汗が頬を伝うのを感じながら、ゼストは問い返した。
「そういう君こそなんだ? 一般人には見えんが、な」
少女が、唇の端をつりあげて笑った。小馬鹿にしたような笑みだ。
「それはお互い様だろう。深夜の寺社仏閣で刃物を構えた中年男――くだらない、ワイドショーの種か、都市伝説くらいにしかならないだろうな」
「それもそうだな―――」
ふっ、と笑い、相手が武器を持っていないことを確認し、ナイフを鞘にしまう。
両手を頭の上に上げて何も持っていないことをアピールしながら、話しかける。
「名前は? 俺は、ゼスト・グランガイツだ――」
管理局員では無さそうだと悟り、とりあえず名を言う。
少女の返答――皮肉の聞いた台詞。
「さあな? 名など忘れたし、答える気もない」
「………いい性格をしているな」
微笑み――魅力的な笑み。
「よく言われる―――ところで、ピザはないか?」
「は?」
ゼストの、間抜けな声が、辺りに木霊した。
【1日目 AM00:12】
【現在地A−4 神社境内】
【ゼスト・グランガイツ@魔法少女リリカルなのは 闇の王女】
【状況】健康 、困惑
【装備】チンクの投げナイフ<スティンガー>十本
【道具】支給品一式、ランダム支給品0〜2個
【思考】
1=高町なのはを捜索、抹殺する。
2=プレシアの抹殺。
3=ルーテシアの保護。
【備考】
なのはとルーテシアが『健全な』歴史(Sts)から来たのを知りません。
【C.C.@コードギアス 反目のスバル】
【状況】健康、空腹
【装備】無し
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3個
【思考】
1=ルルーシュたちと合流する。
2=ゼストから上手く情報を聞き出す。
3=ピザの捜索。
【備考】
スバルが『Sts』から来たのを知りません。
投下完了。
なのは危うし!!命の危機だ!!
20分ぐらいから投下します
「どっきりとかだったら、そろそろ出てきてほしいんだけどなー」
小学生と間違えそうなほどに小柄な少女、泉こなたは墓地でデイパックを探りながらポツリと呟いた。
いつものようにかがみやなのは達と帰っていたはずだが、気づいたらコスプレしたおばさんによる語りが始まっていた。
そこまでなら「おお? 何かのイベントに応募してたっけー?」等と笑いながら楽しめただろう。
「……夢、とかじゃないよね」
自分にはめられている首輪にそっと手を触れ、これの爆発によって頭部を失った金髪の少女を思い出す。
あれよりもよほどエグイシーンをゲームやアニメなんかで見慣れている、
だが、あの大量の血が出す匂いは始めてだ、思いだすだけで吐き気がする。
どんなスプラッタ物のイベントだろうと、あんな匂いまで再現することは彼女の経験からいってまずありえない。
「ただのイベントには興味がありません……なんてレベルじゃないよ」
愕然としながら、少しでも気を紛らわせようと某所で有名なセリフをアレンジして呟いてみる……あまり効果はなかった。
こういう時はまず情報の確認だよね、と名簿を見て……動きを止める。
「かがみん、つかさ……」
あの時の会話からなのはとフェイトが居ることは気づいていた。
何故か二人とも二つ名前が書かれているが、大手の雑誌でさえこの手のミスプリントはよくあるためそれは置いておく。
だが、まさかこの二人までいるとは、姉妹で殺し合えという気なのか、あのおばさんは。
「それに、スバルとティアナってゆーちゃんのクラスに転校してきたって子だよね……確かなのはさんの後輩とか」
突然殺し合いの場に送られた平凡な少女、
彼女は震えながらも知り合いを、親友を殺していく。
だが彼女は生きようとしているだけなのだ、そのことは果たして罪なのか?
……冗談じゃない、こんなの三流のシナリオライターだって書きやしない。
「何とかみんなで逃げる方法……あいたっ」
バッグを探る手に何か痛みを感じ、それを慎重に取りだす。
「ナイフ……これ、いわゆる投げナイフって奴だよね?」
直接斬るのではなく、投擲して相手を傷つける武器……無論ネットでの知識だが。
もしもこれが自分に向けられたら――途端に恐ろしくなり、他に何か身を守れそうな物はないかとバッグの探索を再開する。
「カード……? 私も知らないカードゲームとは、珍しい……」
一枚のカードを取り出して呟く。
バスターブレイダーという名前と、モンスターデザインや数値が書かれたそれは間違いなくカードゲームの物だろう。
しかし、ここまで凝った造りをしているのに自分が知らないカードゲームがあるとは……
「あれ?」
一瞬、このカードで戦う人たちの姿が頭に浮かぶ。
本当に自分はこれを知らないのか? それを疑問に思った瞬間、背後から聞こえてきた足跡に慌てて振り向く。
次の瞬間、こなたの目に写されたのは大柄な赤いコートを着た男の姿。
「どうだヒューマン、心躍るいい夜だと思わないか」
「へ?」
突然声をかけられ、思わず間の抜けた声をあげてしまう。
心躍るどころか沈みまくっている、というか殺し合えなどと言われて幸せに感じる人などいるものか。
「さ、最悪の夜だよ、いきなり殺し合えって、訳わかんないし……」
「何を悩む、殺し合う、闘争だ! かかってこいヒューマン! それがこのパーティーのルールだ! HURRY!」
「ひっ!?」
叫びながら尚も近づいてくる男の異常さにようやく気づき、慌てて逃げ出す。
それを見て男――アーカードは酷く失望したかのような表情で軽く跳躍しこなたの目の前に降り立つ。
「うわわっ!?」
「失望したぞ人間、逃げ出すだけの狗の餌か?」
「あ、ああ……」
人間離れしたその動きにこなたは怯え、固まってしまう。
震えるだけのこなたに、アーカードはつまらなそうに片手を振り上げる。
「とっとと死ね、負け犬」
「う、うわぁぁぁぁ!」
その言葉がによって恐怖が突き抜け、こなたは咄嗟に投げナイフを放ってしまう。
本来投げナイフを相手にうまく命中させるにはそれなりの訓練が必要だ、漫画やアニメのように真っ直ぐは飛ばずに回転して刺さるのだから。
だが、運良く――あるいは悪くだろうか――こなたの放ったナイフはアーカードの頭部へと突き刺さった。
「あ、う、嘘……」
殺されるところだった、反撃しなければどうしようもなかった。
だけど、殺すつもりなんてなかった、腕とかに当れば怯むと思っただけだ。
まさか、こんなにあっさりと致命傷を与えられるなんて――
「やるじゃないか、ヒューマン」
「――っ!?」
「そうだ、そうでなくてはな! どうした、これで終わりなどと言うなよ! 次の武器を出せ! なければこの刃を拾いもう一度突き立てろ!! HURRY! HURRY! HURRY!」
アーカードは眉間に深く刺さったナイフをあっさりと抜いてその場に捨てる。
その傷跡はどんどんと塞がっていき、傷がついていたことさえわからないレベルまで元通りになってしまった。
「こ、このぉぉぉぉぉぉ!!!」
余りの光景にパニック状態に陥ったこなたは実力差も考えず殴りかかる。
それをアーカードは満足気に見ながら反撃のため拳を構え……
「飛竜、一閃!!」
二人の間を蛇腹状の剣が飛来し、両者の動きを止める。
その剣は飛んできた方向へと舞い戻っていき、持ち主の手元で普通の剣の形状へと変化した。
「二人とも止まって! 時空管理局所属、スバル=ナカジマです!」
「え……スバルって……」
「ほう……?」
青色の短髪の少女、スバルの呼びかけに二人は同時に疑問の声をあげる。
その反応に多少きょとんとしながら、スバルは呼びかけを続けていく。
「えっと……こんな殺し合い、する必要ありません! 一緒に逃げだす方法を探しましょう!」
「断る」
「なっ……」
「判っているはずだ、止めてみたければ向かって来い! 貴様は狗の餌とは違うはずだろう!」
アーカードの言葉にスバルは困惑する。
戦いを止めない、それはまだいいとしよう。
いや、良くはないが想定の範囲内だ。
しかし、今の言葉はまるで自分を知っているかのようだった、しかしこんな男とは知り合った覚えはない。
不可解な点が多いが――今やるべきことは一つ。
「なら、力づくでも止めてみせる……レヴァンティン、お願い!」
『Ja!』
「そうだ、来い! HURRY! HURRY! HURRY!」
「君、離れてて!」
スバルに言われてこなたは思い出したかのように駆け出してアーカードから離れる。
もはやそちらには興味を無くし、アーカードはスバルが振り下ろすレヴァンティンを左腕で受け止める。
非殺傷設定にしてあるとはいえ、戦闘機人の力で打ち込まれた剣撃には例え吸血鬼といえども耐えきれない、嫌な音を立てながら腕の骨が砕けた。
まさか素手で受け止めてくるとは思わず、スバルは一瞬動きを止めてしまう。
その隙だらけの腹部に右の手刀で貫こうと突き出し、咄嗟に張られたプロテクションを砕くに留まる。
「なんて、無茶苦茶な……え!?」
「どうした? 忘れたのか? 私を止めたければここを狙え、聞いているはずだぞ?」
自らの心臓のあたりを『左手』で指すアーカードにスバルは驚愕の表情を浮かべる。
少しずつではあるが、先ほどと同じように傷を負った直後からその部分が再生していく、「この」スバルにとっては未知の存在であった。
「だ、ダメだよ! こいつ頭にナイフが刺さってもすぐに治っちゃうんだよ!」
「う、嘘、そこまで!?」
少し離れた墓の影からこなたが叫び、スバルはその異常な回復力に驚きを通り越してどこか感心してしまう。
だが、そうなるとまずい、本人が言う通り心臓を破壊すれば流石に回復しないだろうが……殺す以外に止める方法がないということだ。
「一つ聞かせてほしい」
「え?」
「お前は本当にスバル=ナカジマなのか?」
思わぬ問いかけにきょとんとする。
アーカードからしてみれば「この」スバルは最初から奇妙だった。
時空管理局所属、これは間違っているわけではないからいい。
自分に対して型通りの警告しかしてこなかったこと、自分が吸血鬼だと知らないようだということ、どれを取っても不自然なのだ。
彼女は自分を「知っている」はずなのだから。
「どういう意味……? 私を知ってるの?」
「記憶喪失、いや、それは違うか……ふむ、少しわかりかけてきた」
不可解なアーカードの言動にスバルは首を捻るばかりだが、もしかしたらこのまま戦闘を回避できるかもしれないと淡い期待を抱く。
「まぁ、そんなことはどうでもいいな」
「どうしても、止まってくれないの?」
「言ったはずだぞヒューマン、私を止めたくば心の臓を貫けとな!」
戦闘態勢を一向に解こうとしないアーカードに、スバルは一つの決断を下す。
「レヴァンティン、非殺傷モード解除」
『Ja』
人外の相手、更にプロテクションを素手で叩き割るほどの身体能力の相手に手加減などしては敗北を待つだけだ。
――両足を潰して、その間に逃走……これしかない。
いい気がしないのは確かだが、この男ならばきっと問題なく回復するのだろう。
自分に言い聞かせるように考え、真正面から斬りかかっていく。
最初の一撃といい、正直すぎる攻撃に少し呆れながらアーカードは自らを狙う剣を逆に蹴り上げる。
レヴァンティンごと右手が跳ね上げられるが、その勢いを利用し左の拳を放つ、
それを受け止めようとした瞬間、スバルの瞳が金色へと変貌する。
「IS、発動!」
「ぐっ……!」
拳を受け止めたアーカードの右手が軋み、思わず呻く。
スバルのIS、振動破砕は相手を超振動によって内部から破壊する攻撃だ、いかに吸血鬼といえど、完全に防ぐことなどできはしない。
流石のアーカードも体勢を崩し、好機と見てその足へレヴァンティンを振るい――止められる。
「実に素晴らしい、だが、まだ足りんな」
「う、くっ、このぉ!」
スバルは必死に力を込めるが、アーカードの左手に掴まれたレヴァンティンはびくともしない。
そのまま片腕でレヴァンティンごとスバルを投げ飛ばし、近くの墓石を破壊する。
「ぐ……つ、強すぎる……!」
「どうした、それで終わりか!? 『この』スバル=ナカジマは武器を失った程度で戦えなくなる臆病者だったか!?
立ち上がれ! 先ほどの拳を放ってみろ! HURRY! HURRY! HURRY!」
レヴァンティンはスバルから離れた位置に飛ばされてしまっている、振動破砕では両足を潰すのは難しい。
破砕エネルギーをある程度操作できる振動拳が使えれば別なのだろうが――あれはスバル本来のデバイス、マッハキャリバーがなければ扱えない。
アーカードを止める術が見つからず、拳を構えながらも一歩後ろへと退いてしまう。
それが気に食わなかったか、アーカードは大きく一歩踏み込みスバル目がけて疾走しようとする。
「た、たぁぁぁぁ!!」
「む!?」
背後からの叫びに振り返る。
こなたがレヴァンティンを構え、自分へと斬りかかって来ていた、
素人の剣とはいえかわせる距離、体勢ではない、咄嗟に両腕を交差させレヴァンティンを受ける。
殺傷設定のままのそれはわずかに肌を斬り裂くが、こなたの力と技術ではそれが限界だ。
――このままであれば。
「レヴァンティン、カートリッジロード!」
スバルがこなたの持つレヴァンティンへと指示を出し、それに応えて薬莢を二つ吐き出す。
カートリッジの魔力を操る技術などこなたには存在しない、だからその魔力は純粋にレヴァンティンの強化へのみ回される。
結果――
「がっ……!」
レヴァンティンがアーカードの両腕を切断し、更にその体をも浅く斬り裂く。
間近で血が吹き出し、慌ててこなたは湧いてきた吐き気を堪えながら後ろへさがる。
「く、くく……HAHAHAHAHA!! 素晴らしい、素晴らしいぞヒューマン!」
「れ、レバ剣の扱いには定評があるからね! ……ネトゲーでだけど」
「さあ私を貫け! 四肢を切断しろ! 喰らわれたくなければ私を滅びすがいい!!」
さすがにすぐには再生を始めていない両腕はそのままに、体の傷など気にせず硬直したままのこなたへと蹴りを放つ。
その足がこなたの頭部を砕こうとした寸前、スバルのプロテクションがそれを阻む。
「一撃、必倒!」
プロテクションが再び砕かれながらも、その衝撃を堪えながら右手に魔力を集中させていく。
両腕を失い、さらに不安定な体勢で軸足しか残っていないアーカードにそれを防ぐ術はない。
「ディバイン……バスター!!」
スバルの十八番、魔力砲撃を近距離で叩きつける。
アーカードが吹き飛ぶのを最後まで見る前に、スバルはこなたの手を握って走り出す。
「わわっ!?」
「急いで、今のうちに逃げよう!」
二人が去ったすぐ後、アーカードはゆっくりと起き上がる。
こなたに斬られた両腕はようやくくっつきかけていたが、まだ完全に治っているとは言い難い。
――治癒が遅い。
「妙なことをするな……それともこの地下に川でも通っているのか?」
体も重く、プレシアが自らの能力を制限しているのだろうとアーカードは考える。
何故そんなことをするのかはわからないが、それはどうでもいい、思うのは残念だということ。
自らの両腕を斬り捨て、更に吹き飛ばしてみせたあの二人。
この会場にいる他の者も同じような実力者たちばかりなのだろうかと考えるだけで心が躍る。
それ故に、全力で戦えないことが惜しい、惜しすぎる。
自分だけならばまだいい、だが相手も同じように制限がかかっていたなら、それによって全力が見れないとしたらこれほど惜しいことはない。
「だが、いいだろう」
そう、自分がやることは変わりはしない。
「闘争だ! 私を滅ぼしてみろ! ヒューマン達よ!!」
【1日目 現時刻AM00:45】
【現在地 B-6】
【アーカード@NANOSING】
【状態】両腕不調、全身にダメージ中(回復中)
【装備】無し
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本 闘争を楽しむ
1.スバル達を追撃するか思案
【備考】
※スバルがNANOSINGのスバルとは別人であると気が付きました。
「こ、ここまでくれば……」
「つ、疲れたぁ……」
森を抜け、スバルとこなたの二人はその場にへたり込む。
後ろを振り返るがあの男が追ってくる様子はないようだ。
「た、助かった……」
「うう、流石に頭がパニックだよ……ファンタジー世界へいきなり飛ばされる主人公の気持ちがわかる時が来るなんて……」
目の前で行われた現実ではありえないバトルに、こなたの精神は現実逃避を起こしかけている。
その様子を見て、スバルはこの『子供』が魔法とは無縁の世界の住人だということに気づく。
――こんな子にまで殺し合えだなんて……酷過ぎるよ。
「安心して」
「え?」
「さっきは逆に助けてもらっちゃったけど……絶対私が守ってみせるから!」
「わ……ありがとう……なんだか、スバルって本当にアニメのヒーローみたいだね」
「そ、そうかな?」
こなたの言葉に照れながら頬を掻く。
純粋な子供にこう言われるのは悪い気はしない。
――ただ、スバルは気づいていない。
自分が子供だと思っている少女、こなたは自分より年上だということを。
【1日目 現時刻AM00:50】
【現在地 C-7】
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】疲労(中)、混乱
【装備】レヴァンティン
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、ランダム支給品0〜1
【思考】
基本 かがみんやつかさ、なのは達に会いたい
1.スバル……ゆーちゃんのクラスの子とは、違うよねぇ?
2.アーカード(名前は知らない)を警戒
【備考】
※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(中)
【装備】バリアジャケット
【道具】支給品一式、ランダム支給品0〜2
【思考】
基本 殺し合いを止める、できる限り相手を殺さない
1.こなたを守る
2.アーカード(名前は知らない)を警戒
3.六課のメンバーと合流
4.アリサさん……
5.私のこと、何で知ってたんだろう?
【備考】
※こなたを小学生ぐらいの子だと思っています
投下終了
旦那書くのたのしーw
投下乙!
戦いを求める旦那が素敵w
こなた……間一髪助かったなぁ……
スバルとのコンビの今後など気になりました。GJ!
GJ!
どのロワでも旦那は楽しそうだw
そしてこなたスバルコンビ再来、これはwktk!
投下乙です
旦那はやはりこういう所だとイキイキしてるなw
こなスバ、なにげに強そうだなw
皆さんGJっす。
面白い展開ばかりで、もう目が離せませぬわ……
さて、こちらも書き終わりましたので。
何も無いようですし、これよりLとザフィーラの投下に移ります
「……デスゲームですか。
全く、死神より厄介な真似をしてくれますね」
人気が無い軍事基地の一室。
そこで今、一人の参加者が考えをまとめていた。
全世界の警察組織を動かす事が可能である唯一の存在。
世界一の探偵と称される、天才的な頭脳の持ち主……L。
彼は、冷静に己が置かれている状況を受け止めていた。
いきなり殺し合いをしろと言われた時は、流石に肝が冷えたが……彼は、このゲームに乗るつもりは一切なかった。
その逆……ゲームからの脱出、さらには主催者の逮捕を目的に、考えを纏めている最中であった。
(私がこのゲームに参加させられたのは、ユーノさんとの会話を終えた直後。
給湯室を出た時からの記憶は無く、気がつけばあの広場にいた……私を、いや私達を連れ出した方法が魔法なのは明らかだ。
広場でバインドを使った事からも、まず間違いない)
己の首に巻かれている首輪を触りながら、広場での光景を思い出す。
プレシアと呼ばれていたあの主催者らしき女性は、全員をバインド魔法で束縛していた。
名簿に記されている名前は、自分を含めて全部で六十名。
それだけの人数を一人で全員束縛していたとしたら、その魔力は相当なレベルに違いない。
仲間がいるという可能性も勿論あるが……これに関しては、現時点では確認の仕様が無い。
(プレシアがこのゲームを開いた目的は分からない。
だが、これに関しては知る方法がある)
広場でプレシアが姿を現した時。
集められた参加者の内数名は、明らかにプレシアを知っていると思われる反応を見せた。
そして……その中には、自分が知る者の姿が何人かあった。
なのは、フェイト、ユーノ。
己と面識があり、かつプレシアの事を知っているのはこの三人。
また、面識が無い人物としては、クロノと呼ばれた者がプレシアの事を知っていた。
今の所、この四人は確実にプレシアの事を知っている……優先的に接触を図りたい。
そしてこの四人の中でも、出来るならば最優先で会いたい人物は……
(フェイトさんは、プレシアの事を母さんと呼んでいた。
……フェイト=テスタロッサ=ハラオウンと、クロノ=ハラオウン。
同じハラオウンの性を持っていながらも、クロノさんの方にはテスタロッサのミドルネームはない。
そしてあの広場において、クロノさんはプレシアの事を母さんと呼ばずにプレシアと呼び捨てにしていた。
これらの事から察するに、プレシアの本名はプレシア=テスタロッサ。
フェイトさんはハラオウン家の養子であり、あのプレシアの実子。
なのはさん達の反応を見るに、プレシアは過去にも重犯罪を犯している凶悪犯である可能性は高い。
フェイトさんがハラオウン家の養子となったのも、それが理由なのは間違いない。
……彼女は現時点において、プレシアに一番近い人物だ)
プレシアの実子であると思われるフェイト。
彼女は一番プレシアに近い存在……プレシアに関する知識を、参加者の誰よりも持っている筈である。
是非とも接触を果たし、情報を入手したいのだが……
(しかし……彼女との接触には、一つ気がかりがある。
広場での光景、そしてこの名簿の名前……)
フェイトとの接触に当たり、一つだけLには気がかりがあった。
それは、名簿に記された不可解な点……なのは、フェイト、はやての三人の名前が、何故か『二つ』あるという点だった。
一人だけなら印刷ミスと考えられるが、三人と言うのは幾らなんでも妙だ。
つまりこれは、意図的な表記でありミスでも何でもない。
そして……そこに、広場で感じた違和感を合わせれば、全ての辻褄が合う。
(私が広場で確認できたフェイトさんは一人。
しかし、あの時……明らかに、他の誰かがプレシアの事を母さんと呼んでいた。
だが、その他の誰かの声は……紛れも無い、フェイトさんの声だった。
そしてこの名簿……これが意味する事は一つだ。
高町なのは、フェイト=テスタロッサ=ハラオウン、八神はやて……この三人は、文字通り二人いる)
名簿の謎の正体。
それは文字通り、彼女等三人はこの会場に二人いるという事である。
同一人物がいるというのは、普通に考えれば決してありえない事だが、生憎そのありえない事をLは自ら体験している。
自分がいた地球となのは達のいた地球とでは、常識が違っていた……平行世界同士であったのと、同じ原理である。
彼女等三人は、それぞれ平行世界の自分達が存在しているのだ。
(……この事実から察するに、この三人、いや、私が知る全ての参加者は皆、私と出会っていない同一人物である可能性が高い。
私と繋がりを持つ人物が皆無である事は十分ありえる……)
そしてそこから更に考えを広げ、ある仮説を立てる。
この会場に集められた参加者達は、もしや全員が平行世界の類から呼び寄せられたのではなかろうか。
全員というのは流石に言い過ぎかもしれないが、それでもそれなりの人数は高い確立で当てはまっているだろう。
だとすれば……気になるのは、何故そんな真似をしたのか。
(参加者間に誤解を生ませて、戦いを促進させるのが目的か……?
確かにゲームを円滑に進めたいと思うのならば、中々いい手段ではあるが……ッ!!)
Lは推理を途中で中断し、己の支給品―――首輪探知機へと視線を移す。
半径50m以内にある首輪の反応を察知し、それを光点としてモニターに映し出す一種のレーダーである。
その中央部にある光点は、紛れも無い自分自身。
そして……たった今、モニターの隅に一つの光点が出現した。
己の半径50m以内に、何者かが入ってきたのだ……光点の動きから察するに、この基地内を探索している様である。
(ゲームに乗っていない人物であれば、是非とも接触したい。
今の私には、戦力と呼べる戦力は何一つ無い……仲間は必要不可欠。
しかし、もしもゲームに乗っている人物であれば……賭けに出るしかないか)
不運にも、Lには武器になるような支給品は一つも支給されていなかった。
ここで襲われれば一巻の終わり……相手とコンタクトを取るのは、完全に賭けであった。
Lは部屋のドアを僅かに開く……コツコツと、何者かの足音が聞こえてくる。
つまり、相手はこちらの声が聞こえる範囲にいる……Lは迷わず、相手へと言葉をかけた。
「止まってください、そこにいるのは分かっています」
「―――ッ!!」
足音がピタリと止まる。
こちらを警戒し、動きを止めたようである。
Lはそのまま、相手に問いかける。
「安心してください、私はゲームには乗っていません。
それで、あなたはどうなんですか?」
「……俺も同じだ。
このゲームには乗っていない」
「そうですか、なら、次の質問です。
今から読み上げる名前の中に、知っている人の物がありましたら返事をお願いします」
Lは相手の言葉を、すぐには信用しなかった。
ゲームに乗っていないと言っておきながら、油断させて殺しにかかってくるかもしれないからだ。
そこで彼は、ある方法を使って相手がゲームに乗っているかどうかを確かめる事にした。
それは、名簿の名前を読み上げ、それを聞いた相手の反応を見るというものであった。
ゲームに乗っていないであろう人物と親しい間柄にあるようならば、少なくとも白と見て間違いは無い。
まずLは、自分の知人の名前を読み上げていく事にするが……
「八神はやて、ユーノ=スクライア、高町なのは、フェイト=テスタロッサ=ハラオウン……」
「!!
待ってくれ、お前は主はやてを知っているのか!!」
相手はいきなり、一人目……はやての名前に反応した。
それも、彼女の事を主と言った……つまり、彼女とは主従に近い関係にある人物という事になる。
はやては性格上、ゲームに乗るとは到底思えない……ならば。
Lは部屋を出て、廊下に出る。
そして、周囲を見渡し……己に声をかけてきた人物の姿を発見した。
筋骨隆々とした肉体に、それに不似合いな犬耳と尻尾をした男性。
一目見て、それなりの実力者である事が分かる風体をしている。
容姿は異様といえば異様ではあるが、そもそもこんな異様なゲームに放り込まれた時点で、それはどうでもよかった。
「はじめまして、私はLです……失礼な真似をして、すみませんでした」
「俺はザフィーラ、主はやての守護獣だ。
それと謝る必要は無い……状況が状況だ、警戒するのは寧ろ当然だ」
「そう言っていただけると助かります」
相手―――ザフィーラは、Lに対して不快感は抱いていなかった。
寧ろその逆……彼の事をそれなりに評価した。
殺し合いという状況下において、その警戒心は十分な武器になるからだ。
その後、ザフィーラはLに質問を返す。
「それで……お前は、主の知り合いなのか?」
「ええ、はやてさんには色々とお世話になりました。
尤も、私が知るはやてさんは、ですが」
「……?
どういうことだ?」
「それに関しては、今から説明させていただきます。
とりあえず立ち話はなんですから、こちらへどうぞ」
Lは先程まで己がいた部屋へとザフィーラを案内する。
そして、机の上に名簿を広げた後、先程の己の推理をそのまま彼へと聞かせた。
話を聞いた彼の表情に浮かんでいるのは、やはりというべきか、驚愕の意である。
しかし……それは、Lの推理が信じ難いからというだけではなかった。
「……見事なものだ。
よく、名簿の名前だけでそれだけの事が分かったな」
L自身の推理力の高さに、驚いていたからでもあったのだ。
確かに自分も、名簿を見たときには違和感は感じた。
だが、彼ほど深く考えはしなかった……いや、出来なかった。
全くもって、大したものである。
「お褒めいただいて、ありがとうございます……それで、どうでしょうか?
私の知るはやてさんと、あなたの知るはやてさんにズレはありましたか?」
「ああ……お前が主と出会ったという空港火災は、俺にとっては二年前の出来事になる。
だが……」
「私はその空港火災を、ホンの一日前に経験している……決まりですね」
ザフィーラと話を照らし合わせ、Lは己の推理が正しかった事を確認する。
やはりこの会場に集められているのは、様々な異世界・平行世界から呼び寄せられた者達ばかり。
ならば、次に確かめなければならないのは……プレシアについて。
「ザフィーラさん、あなたはプレシアに関して知っていますか?」
「ああ、一応話には聞いている。
俺は直接関わっていた訳ではないから、詳しい事情までは分からないが……」
「分かっている範囲で結構です、教えてください」
「分かった」
ザフィーラは、Lの質問へと答える。
次元犯罪者プレシア=テスタロッサが、強力なロストロギアであるジュエルシードを狙った事。
ジュエルシードの力を使い、アルハザードへと渡ろうとした事。
アルハザードの技術を使って、実の娘であるアリシアの蘇生を試みようとしていた事。
それをなのは達に阻止され、アリシアと共に虚数空間へと落ちていき、その姿を消した事。
己が知っているすべての事について、Lへと説明したのだ。
「成る程……やはり、そうでしたか」
プレシアとフェイトが実の親子であるという推測も、やはり当たっていた。
そうなると……やはり、彼女とは早いうちに合流した方がいい。
情報を聞き出すのは勿論だが、それ以上に……色んな意味で、今の彼女は危険なのだ。
死んだ筈の母親がいきなり目の前に現れ、殺し合いをしろと宣告され……
そして、挙句の果てには親友の一人を目の前で殺された。
ゲームに乗るなんて真似は流石にしないだろうが……まともな精神状態を保つのが、極めて難しい状況にあるのは確実。
「……フェイトさんとは、早急に合流しませんとね。
幸い、私にはこの探知機があります……相手が何者かまでは判別できませんが、付近に誰がいるかは確認が可能です。
他の参加者と比べて、若干ながら他者との接触が容易に行えます。
いきなり危険人物から奇襲を仕掛けられる可能性も、御蔭で大分低くはなりますが……ザフィーラさん。
あなたが知る限りで、参加者の中にゲームに乗っていそうな相手はどれだけいますか?」
「確実に乗っていると断言できるのは、クアットロという戦闘機人だけだ。
他には、乗っているかどうかが分からないというレベルだが……チンク、ディエチの戦闘機人が二人。
ゼストにルーテシアの魔道士二人。
それと……俺以外のヴォルケンリッター全員だ」
「……つまりそれは、そのクアットロという人物以外は全員、一時は管理局側と敵対関係にあった。
そして今は、無事更正したと……そういう事でいいんですか?」
「……概ね当たっている。
ゼストに関しては、こちらが逮捕する前に死亡してしまったから、判別をする事が出来ないのだ。
ちなみにクアットロは、更正の余地無しという事で牢獄行きになっている」
「分かりました。
とりあえず、最初の五人には最大限の注意を払うとして……
ヴォルケンリッターは、ザフィーラさんにお任せします。
もしも乗っていた場合は、あなたが説得する以外に手はありません」
「ああ、分かった」
「さて、それでは次は……いえ、何でもありません」
何でもないと言いつつ、Lはメモ用紙とペンを取り出す。
そして、指で首輪を指差し……それを見て、ザフィーラもその行動の意味を察した。
すぐにL同様、メモ用紙とペンを取り出して答える……プレシアからの盗聴に備えての筆談である。
こんなゲームを態々開催しておきながら、参加者をほったらかしなんて事は絶対にありえない。
確実に、自分達は監視なり盗聴なりをされている……そしてそれに最も適した道具は、首輪である。
『理解が早くて助かります。
下手に主催者に対して情報を漏らしたら、即爆破なんて事になりませんからね』
『ああ……しかし、もし監視されていたらどうする?
筆談も意味がなくなってしまうが……』
『少なくとも、この首輪にはレンズらしきものは取り付けられていませんから、カメラの類は仕掛けられてないでしょう。
外部からの盗撮に関しましては……少なくとも、この部屋は大丈夫です。
私が隅から隅まで、既に調べてあります……尤も、魔法による監視をされているならば、意味はないのですがね。
ですが、それも今は大丈夫でしょう』
監視に関しては、もしも魔力によるものが相手だとすると、防ぐ手段が無い。
しかし、そうではない可能性もあるにはある……いや、寧ろその可能性はかなり高い。
ザフィーラからの話を聞く限り、今のプレシアには協力者がいるとは考えにくい……これは彼女の単独犯行とみていい。
ならば、参加者の管理も彼女が一人で行っていると考えられるが……たった一人で、六十もの参加者を監視できるとは思えない。
監視をするにしても、それこそ戦いの真っ最中といった目立つ舞台に対して行うはず。
魔力を無駄にしない為にも、単なる情報整理をしているだけの自分達に監視は行わないはず……彼はそのまま、筆談を続ける。
『ザフィーラさんの話から察するに……プレシアがこのゲームを開いた目的は、アリシアの蘇生と見て間違いはないでしょうね』
『このゲームを利用して、アルハザードに渡ろうとしているのか。
それとも、このゲーム自体にアリシアを蘇生させる何かがあるのか。
一体、どちらかまでは流石に分からないがな……俺達は生贄というわけか』
プレシアの目的は、かつて同様にアリシアの蘇生。
そう、二人は確信するが……だとすると、一つ引っかかる点がある。
それは……何故、殺し合いなんていうゲームを行わせているのか。
『引っかかりますね……単に命を取りたいのであれば、こんなゲームにする必要がありません。
プレシアは今、参加者の全員をすぐに殺せる状況にあるのですから。
殺し合いという極限状況に私達を追い込んだ事に、何かあるのでしょうか……』
もしも、自分達を単なる生贄として使うのだとしたら、すぐに殺せばいい。
なのにそれをしないという事は、出来ない理由があるという事。
態々、殺し合いというゲームにしたのには何か訳があるに違いないという事である。
その訳が何なのかまでは、流石に分からないが……少なくとも、殺し合いという形には何かしらの意味があるのは確実である。
『まあ、これに関しては今は置いておくとして……今後の活動方針を決めたいと思います。
今の私達に必要なものは、大きく分けて三つ。
まず一つ目に、私達と同じくゲームの阻止が目的である仲間。
二つ目に、プレシアに関しての情報。
そして最期に……この首輪です』
プレシアの野望を阻止する為に必要不可欠なもの。
それは、自分達に着けられている首輪だった。
首輪を解除しない限り、自分達は決してプレシアを止めることは出来ない。
その為にも、まずは首輪を解析する必要があるのだ。
『不運にも、ゲームに乗った人に殺害されてしまった人を見かけましたら、お気の毒ですが首を落とさせていただきます。
また、ゲームに乗っていることが明らかであり、かつ説得も不可能と判断した相手に対しては容赦なく挑むとします。
そうしなければ、首輪の入手は勿論……我々の命が危ないですしね』
殺し合いに乗った相手には、容赦をするつもりは無い。
そうしなければ、自分達は勿論……他の全ての参加者の命が危ないのだ。
二人とも、この事は重々承知している。
『なら、これから何処へ行く?
少なくとも、端にあるこの施設に留まるのは得策ではないぞ』
『ええ、一先ずは街に向かって南下しましょう。
しかし、最も参加者が集中するであろう中央近くは避け、なるべく端の方を回る事にします』
『下手に参加者が集まる場所に向かうと、危険人物と鉢合わせする可能性も高いからか?』
『その通りです……構いませんね』
『ああ、異論は無い』
一先ずの方針は決まった。
二人はここから街へ向けて南下し、他の参加者を探す事にした。
早速荷物を纏め、その場を去ろうとする。
そして、部屋の外へと出た時……Lはザフィーラへと、不意に口を開いた。
「ザフィーラさん」
「どうした?」
「私達の手で、思い知らせてあげるとしましょう。
最後には、正義が必ず勝つという事を」
満面の笑顔で、Lははっきりと告げた。
ザフィーラは勿論、この会話を聞いているであろうプレシアに向けての……完全な宣戦布告を。
【1日目 深夜】
【現在地 A-1】
【L@L change the world after story】
【状況】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式、首輪探知機、ランダム支給品0〜2個(確認済み、少なくとも武器には使えない)
【思考】
基本:プレシアの野望を阻止し、ゲームから帰還する。
ゲームに乗った相手は、説得が不可能ならば容赦しない。
1.ザフィーラと共に街へ向けて南下、他の参加者と接触を図る。
2.機動六課の面々並びにヴィヴィオ、ユーノとの合流。
特にはやてとヴォルケンリッター、フェイトは最優先とする。
3.首輪の入手。
【備考】
・第三話からの参戦です。
・参加者の中には、平行世界から呼び出された者がいる事に気付きました。
・プレシアの目的はアリシアの蘇生であると予想しています。
・盗聴の可能性に気付きました。
また、常時ではないにしろ、監視されている可能性もあると考えています。
・クアットロは確実にゲームに乗っていると判断しています。
・ザフィーラ以外の守護騎士、チンク、ディエチ、ルーテシア、ゼストは、ゲームに乗っている可能性があると判断しています。
※首輪探知機について
首輪の存在を探知する小型のレーダー。
自分の半径50m以内に首輪がある場合、モニターに光点が映し出される。
【ザフィーラ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状況】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3個
【思考】
基本:プレシアの野望を阻止し、ゲームから帰還する。
ゲームに乗った相手は、説得が不可能ならば容赦しない。
1.Lと共に街へ向けて南下、他の参加者と接触を図る。
2.機動六課の面々並びにヴィヴィオ、ユーノとの合流。
特にはやてとヴォルケンリッター、フェイトは最優先とする。
3.首輪の入手。
【備考】
・本編終了後からの参戦です。
・参加者の中には、平行世界から呼び出された者がいる事に気付きました。
・プレシアの目的はアリシアの蘇生であると予想しています。
・盗聴の可能性に気付きました。
また、常時ではないにしろ、監視されている可能性もあると考えています。
・クアットロは確実にゲームに乗っていると判断しています。
・自分以外の守護騎士、チンク、ディエチ、ルーテシア、ゼストは、ゲームに乗っている可能性があると判断しています。
以上です。
……L、少々やりすぎたかもしれません。
投下乙。
Lいきなり謎を解きすぎて笑ったw
ある意味死亡フラグじゃないかこれw
投下乙
ロワ開催理由はアリシア復活で決定か……。
そこまで考えるのには時期尚早だと思うんだけど……
すみません、投下したSSで重大なミスを犯している事に気付きました。
>>112さんの感想で気付きましたが、推敲前のを投下していました。
急いで掲示板に推敲した方のを上げますので、そちらの方をお願いします
Lは脱出要員にはうってつけの人材だな。結構生き残りそう
脱出があるかは別として
>>74 GJ
このコンビはかなり良さそうですね。ナイフをもったゼストもとてもかっこいいです。
>>110 GJ相変わらずLは良い奴ですね。わくわくします。
一時ごろに八神はやてとセフィロス投下します
セフィロスは静かに佇んでいた。
周りには何もなく、ただ荒涼とした平野が闇夜に浮かぶだけである。
彼は周りに誰もいないことを確認すると、意識を内にへと向け始めた。
自分はあの雪の日に八神はやてたちに見送られ、ライフストリームに戻ったはずだ。
自分が生きているということには疑問はない。
いつかはこうして肉体を再び持つことになるであろうことは予見できたし、その心構えもあった。
しかし、ここにいるということには納得が出来なかった。
ライフストリームの粒子となった自分はその本流へと戻り、元の世界で復活するはずだった。
そして母の意志を継ぎ、あの世界の人類を抹殺する。
それなのに自分は何故かここにいる。
まったく予期していなかったライフストリームの本流から外れての再びの蘇生。
彼はその事実に苦笑するだけであった。
しかし、蘇ったならそれでいい。
早急にここいる参加者とやらを皆殺しに、プレシアと名乗る女も殺し、
どうにかして元の世界に帰るだけだ。
あの女は殺しあえと言った。
人の言いなりになって行動するというのは癪だが、どうせやることに変わりない。
バッグの中から武器になりそうものを取り出す。
そこからは見るものを圧倒し、対峙するものを恐怖で竦ませんとする大仰な槍が出てきた。
「ストラーダか……」
そう呟くと同時に胸の内に僅かに湧き上がった感慨は失せた。
彼の思考に歪みはない。彼はいつでもたった一つの意思の元に行動をする。
そして、彼は槍を手に歩き出した。
* * *
夜のせいかひどく冷え込んでいた。
風は強く、それによって煽られた波は容赦なくその身を浜辺に打ちつけていた。
波の音以外聞こえない静かな場所であった。
この場所がどこであるかを探ろうにも、目印となるような建物は目に入らなかった
海以外に目に留まるようなものあるとすれば、それは波打ち際残る白い泡のようなものであっただろう。
波の華と呼ばれるそれは夜において僅かにその存在を主張をしていた。
だが、それが一体何の手がかりになるだろう。
八神はやてはそれを横目に溜息混じりに呟いた。
「一体何なんや」
その言葉と同時に思い至ったのが自分に対する数奇な運命への抗議だった。
下半身不随に始まり、続いて闇の書、仮面ライダー、ミラーモンスター、そして今回の事件だ。
人一人に課せられる試練にしては少し度が過ぎている。
正直、神様がいるのなら余りの体たらくぶりに文句の一つでつけてやりたいぐらいだ。
勿論、そんな呆れとも言える憤りの他にも彼女の内には不安はあった。
どこだか知らない世界にいきなり転送され、知らない人たちと殺し合えだ。
年端のいかない女性にとって、それを平然と受け止めろというのは土台無理な話だろう。
しかし、八神はやてはその少ない年輪で周りの人の支えになれるような強い人間である。
たった一言で現状に対する不満や疑問を胸に押しとどめた。
「さて、何にしてもバッグの中身を確認せなな」
そう言って彼女がまず取り出したのは名簿だった。
月明かりを頼りに目を通す。
すぐさま彼女の目に飛び込んできたのが、見知った名前の数々だった。
高町なのは、フェイト、シグナム、ヴィータ、シャマル、そしてザフィーラ。
他にも自分の知り合いだと判断できる名前があった。
それらを確認すると、彼らが自分と同じくこんな馬鹿げた殺し合いに呼び出されたことに強い憤りを持った。
だけど、そんな気持ちの一方で安堵を覚えている彼女がいた。
殺し合いというのには不向きな人たちではあるけれど、こんな所ではひどく頼りがいがあるのは確かだったからだ。
そんな矛盾するような感情に気づき、八神はやては内心苦笑を浮かべた。
「それにしても何でウチとなのはちゃん、フェイトちゃんたちは二つ名前があるんやろ?同姓同名さんやろか?
いや、こないな狭い空間で同姓同名の人が三人も集まるいうのは考えられへんか。
せやけど、同一人物というのも……ありえへんよな?とも言い切れんのかな?
……あかんな。こればっかりは会ってみな、わからへん」
頭をかかえこんでいるところに、ふと人の気配に気がつき、彼女は目を上げた。
まだ遠くにいるせいか、それが誰かは確認できない。
恐怖と不安がない交ぜになった感情で彼方を凝視する。
あの人はこの殺し合いに乗った人なのだろうか。
そんな疑問を持つ前にはやては風になびく銀髪に目を奪われた。
夜の中でも確かに存在感を放つ銀色。
海より吹き寄せる風により、その長い銀髪をたなびかせていた。
夜空に浮かぶ月はまるでその髪の色を称えるかのように蒼い光を注ぎ、
それを受けて淡く輝くその銀色は夜の暗闇の中で妖しく映えていた。
思わず見とれてしまうほどの綺麗な髪だった。
そしてそんな髪を持つ人を一人、八神はやては知っていた。
「リィンフォース!?ひょっとしてリィンフォースか?」
はやては思わず目を見開き、身体を前に押し出し、駆けた。
しかし逸った気持ちに急な行動せいか、足はもつれ、無様に転がった。
浜辺とはいえ、僅かに痛みが脳に訴えかける。
だけど、今の彼女がそれを気にしていられるだろうか。
目の前にはあのリィンフィースがいるかもしれないのだ。
仕方なかったかもしれない。
他にやりようがなかったのかもしれない。
だけど自分はあの雪の日に分かち難い大切なものを失ってしまったのだ。
それを今になってやっと取り戻せるかもしれない。
その喜びは今いる現状の認識を失わせるのには十分だった。
そしてそれが失態であると気がついたのは、銀髪の人の手にある大きな槍が目に入った時だった。
「リ、リィンフォース?」
そして槍は突きつけられた。
* * *
セフィロスは気の向くままに足を向かわせた。
どうせ皆殺しにするのだから、どこへ向かうと構わない。
そうしてしばらく歩いて目に入ったのが、周りに気を配らず勝手に一人ごちている女だった。
この程度の存在なら放っといても構わないかもしれない。どうせすぐに物言わぬ死体と成り果てるだろう。
しかし不慣れな武器に制限という身体の状況を鑑みれば、支給品である武器を充実させたほうがいい。
彼女が持つバッグには自分の愛刀が入っているかもしれないし、今持っている槍より扱いやすいものが入っているかもしれない。
そういった可能性はセフィロスを動かすには十分だった。
それにあの女はどう見ても非力な存在だ。
今の身体の状態からすれば、それは正に渡りに船だった。
確かにあの女が八神はやてたち同様に魔法を使えるという可能性もある。
だが、あの様子はどうだろう。ろくな戦闘経験を積んでいるとは思えない。
そんな奴が例え魔法を行使しところで問題はない。
セフィロスは悠然と女に向かって歩いていった。
槍を女に向けた瞬間、女の声が聞こえた。
どこか懐かしく、そして聞き覚えのある声だった。
暗がりの中、目を細め、怯える女の顔を見つめる。
その顔も同様に見覚えがあるものだった。
あの雪の日に見た彼女の顔、自分に居場所を与えてくれた女性。
セフィロスは八神はやての顔を思い出していた。
そしてそれと共にセフィロスの手からは自然と力が抜けていった。
「こ、殺さへんの?」
無様に地面を這いつくばっているはやては声を震わせながらも何とか言葉を口にした。
セフィロスはそれに答えず、質問で返した。
「お前の名は何という?」
「八神……はやて、いいます」
セフィロスの記憶にある八神はやてと比べて随分と幼いし、甘さを感じさせる部分が多々にあった。
それにより完全には同一人物とは言い切れない。
もしかしたら彼女を模した何者かもしれない。
だが不思議とセフィロスには彼女を切る気になれなかった。
「そうか」
セフィロスはそう答えると同時に槍をしまい、踵を返した。
それを見て呆然とするはやてだったが、急いで立ち上がり、叫んだ。
「待って!待ってぇな!」
セフィロスの足は止まった。
「あなたは殺し合いに乗ってへんの?それやったら一緒に……」
だが、彼は振り向かず、口も開かなかった。
その沈黙を否定ととった八神はやては急いで言葉を足した。
「ああと、こないな女の子と一緒じゃ不安ですか?足手まといにとかって思ってはります?
そないなことはないですよ。こないな事言うと頭のおかしい子やって思われるかもしれませんけど、
私、実は魔法が使えるんです。戦力的にバッチリです。それにですね、なのはちゃんやフェイトちゃん。
他にもシグナムやヴィータっていう私の守護騎士たちもいます。
みんなこないな殺し合いには乗らんいい人たちやし、
その人たちに出会えれば、こんな殺し合い、すぐさまおさらばやと思います。
それに元の世界に帰るゆうのも時空管理局が責任をもって行います。
せやから殺しあう必要なんてあらへんし、安心しておうち帰れます。
ああと、時空管理局ゆうのは次元の海に存在する幾つもの世界を管理する機関で、
今回のように多次元世界に影響を及ぼす犯罪者を取り締まる警察みたいなとこです」
八神はやては内に沸き起こる不安を取り除くように声を矢継ぎ早に並べ立てた。
自分でも随分と性急やなぁと確認できるほど早口で、そのみっともないともいえる自らの有様を心の中で自嘲した。
これでは何だか命乞いをしているようだし、嘘っぽくも感じてしまう。
それに何よりも相手がちゃんと聞き取れたかどうかが怪しいところだ。
そしてその不安を裏付けるかのように銀髪の男は沈黙を続けていた。
どれほどの時を待っただろうか。
やがてはやてが相手の反応に諦めを感じた頃、男は顔を僅かに振り向かせ、口を開いた。
「私がこの殺し合いに乗っていると言ったら、お前はどうする?」
彼は何を目的としてそんな事を問うてきたのだろうか。
はやては簡単にその答えを導くことが出来た。
恐らくはこんな状況での自分の覚悟を試すためだろう。
彼がこの殺し合いに乗っているのは正直、分からないところもある。
だけど、彼は自分を殺さなかった。それは確かなのだ。
それにそんなことをされないでも自分には覚悟がある。
もうあんな思いをしないためにも、どんなことをもする覚悟が。
「止めます。どうやっても止めさせてもらいます。私はもう大切なもんを失いとうない。
そのためなら、この身体どうなっても構わないと思います」
それが自分の贖罪です。
そう心の中で最後の文句を付け足し、口上を止めた。
言葉の内容には自分でも不安はあった。
彼を止める手段などないし、実際に彼がその槍を振りかぶってきたら自分は間違いなくお陀仏だろう。
魔法は使えるが、デバイスがなければ、そこらの女の子に毛が生えた程度でしかない。
彼が魔法を知らなければ、あるいは自分の言葉は脅しにはなると思う。
だけど彼がデバイスらしきもの持っていることからして、それに保証は与えられない。
そんな不安に押し出されるようにはやては言葉を付け足した。
自分が殺し合いに乗ってないことを伝え、彼の持っているかもしれない殺意を削ぎ、そして自分本来の魅力を伝える言葉を。
少しいたずらな笑みを浮かべて。
「それにこないな可愛い女の子を殺したり、見捨てていくゆうのは、男の風上に置けません。そう思いません?」
八神はやてと名乗る女の言葉を聞いていてセフィロスは確信した。
この女は八神はやてなのだ、と。
八神が何故子供であるのかというのは分からない。
パラレルワールドとやらの八神はやてなのか、昔の八神はやてなのか、クローンなのか、その他にも可能性かは色々とあるだろう。
だが、この女が八神であることに間違いはないようだ。
「そうか」
知らず知らずの内に、そんな言葉を呟いていた自分にセフィロスは驚いた。
「そうです」
はやては彼が返事をくれたことに喜びを隠さず笑顔で答えた。
そして一転して真面目な表情。
「せやから、どうかお願いします。私に力を貸してください」
セフィロスの身体の状態は芳しくなかった。制限とやらのせいだろうか。
あの雪の日のようにとまではいえないが、身体に上手く力が入らない。
この調子ではあの新人たちにも遅れをとるかもしれないし、
何より誰がいるともしれないこの殺し合いに勝ち残ることなど到底望めないだろう。
だから、というわけでない。
「分かった。但し、俺がお前と一緒にいるのはこの下らない催しが終わるまでだ。その後は好きにさせてもらう」
「ほんまですか?」
セフィロスは八神はやての側にいることを選んだ。
セフィロスの頭に過ぎったのははやてのとの約束だった。
雪が降り注ぐあの日、八神はやての傍らで、あの場所で再び会おうとした約束。
私が俺でいられる場所で、と。
そこでようやくセフィロスは振り返り、八神はやてを見つめた。
その瞬間、一際強い風が吹いた。
波打ち際に溜まった波の華はその風によって細かく刻まれ、舞い上がり、二人の周りを漂った。
そして長い銀色の髪を風に孕ませる彼を八神はやては見上げた。
どこかリィンフォースを思い出させる銀色の髪に、物言わぬ悲しい瞳。
それと対峙する八神はやては不思議な気持ちに駆られていた。
まるで失った大切な人を取り戻したかのような感覚。
彼がリィンフォースではないことは、もう既に分かっている。
だけど、彼と一緒にいることに不安は感じなかった。
はやては知らず知らずの内に、その顔を喜びに染めていった。
あの日、泣いていた顔と見比べれば随分とマシなものだ。
セフィロスははやての顔を見てそう思った。
はやてとの約束をこんな形で果たすとは思わなかったが、存外悪くないものだ。
無論、母の意志を忘れることはない。
人類は殺すべき存在だ。
だが、しばらくは「私」ではなく「俺」のままでいていいのかもしれない。
夜に浮かぶ白い華はまるであの日の雪のように静かに二人の間に降り注いでいた。
だけど、そこにいつしかの別れを思わせる悲哀などはなかった。
二人はお互いに見つめあい、そのことを確認した。
やがて静寂を破るかのように波の音が聞こえ始めた。
不躾な風によって起こされる波のけたたましい音は、今がどういった場所であるかを知らせてくれていた。
だが、彼の耳に届く波の音はひどく心地よかった。
【1日目 現時刻 PM00:40】
【現在地 F‐1】
【八神はやて(A's)@仮面ライダーリリカル龍騎】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3個
【思考】
基本 この殺し合いからの脱出
1.目の前の男の人と情報交換
2.仲間たちと合流
【備考】
※セフィロスが自分を知っていることを知りません
【1日目 現時刻 PM00:40】
【現在地 F‐1】
【セフィロス@リリカルなのはStrikerS片翼の天使】
【状態】健康
【装備】ストラーダ
【道具】支給品一式、ランダム支給品0〜2個
【思考】
基本 元の世界に戻って人類抹殺
1.八神はやてと行動を共にする
2.扱いやすい武器が欲しい
【備考】
※目の前の八神はやてが本物の八神はやてであると認識しました
※機動六課でのことを目の前の八神はやてに自ら話すつもりはありませんが、聞かれれば話します
※身体にかかった制限を把握しました
以上です。投下終了しました
投下乙です
なんという綺麗なセフィ……基本思考こえぇぇぇぇ!?
GJ!
なんというETERNAL BLAZEなセフィロス……
ロワでこういう、泣けるというかあったかいというか、そんな話を読めるとは思わなかった
ミリオンズ・ナイブズ、殺生丸、キャロ・ル・ルシエ、二時から投下します
茶を基調とした制服を身に纏い、鮮やかなピンク色の髪の毛を揺らし、少女――キャロ・ル・ルシエは暗闇の森林をただひたすらに歩いていた。
闇。
それが全てを包み込んでいた。
本来ならば心に安らぎを与えてくれる筈の木々の緑も、今は不安を煽る黒にしか見えない。
歩いても歩いてもあるのは闇ばかり。
バックに入っていたランプを使おうとも考えたが、誰かに見つかると思ったら怖くて使えなかった。
キャロの脳裏には未だに、あの時の光景が映し出されていた。
――弾け飛ぶ首。
――噴出する血液。
まだ少女と言える見た目とは裏腹に、キャロは人並み外れた人生を送ってきた。
部族から追放され、管理局に拾われ、幾多の戦いを経験して、しかしそれでもキャロは折れる事なくここまで生きてきた。
そして、それらを乗り越えることで、相応の実力と精神力を身に着けてきた。
様々な事を乗り越えて身に着けたそれらは嘘じゃないと信じている。
確かにキャロは強い。
だが、それでもなお今回の出来事はキャロの精神を蝕む。
――キャロは初めてだった。
――『死』を見るのが。
――人の首が弾け飛ぶところを見るのが。
――狂ったスプリンクラーの様に血液が噴出するところを見るのが。
――初めてだった。
――初めて直視した人間の『死』。
それが恐怖となり心を包む。
――自分以外の全員が死なないと助からないという状況。
それが絶望となり心を包む。
気を抜いたら涙が零れてしまいそうだった。
このままゲームが終わるまでどこか隅の方に隠れていようか。
そんな弱い考えまで浮かんだ。
――だが、少女は歩いている。少女は前を見続けている。
恐怖心、絶望感を押し殺し、零れそうになる涙押し止め、前に進んでいる。
――掛け替えのない仲間がいるから。
――信頼できる上司がいるから。
――自分を孤独から救ってくれた人がいるから。
――皆と力を合わせれば絶対にこのゲームを止める事が出来る、そう信じているから。
――キャロは前を向き、歩き続ける。
――この殺し合いを止める為、仲間と再会する為、歩き続ける。
キャロは、自らの手に包まれた金色の三角形を握り締める。
それは、自分を救ってくれた人――フェイトさんのデバイス。
あの人だったら絶対に、みんなを救う為に動く筈だから。
怖いけど……怖くてたまらないけど――少女は、延々と続く闇に向かって歩き続ける。
■
歩き始めてどれくらいたっただろうか。
最初は小さく見えたそれも今では天にそびえる程の巨大さを示している。
――ホテル・アグスタ。
最初に自分が居た地点から一番近くにあった施設。
キャロはそこを目指していた。
みんなが何処に居るかは分からないけど、当てもなく歩くよりは出会う可能性は高い。
それに仲間じゃなくても、もしかしたらこのゲームに反抗する人と出会えるかもしれない。
キャロは小さな望みを胸に歩き続けていた。
それから更に数分後、ようやく森が開けている地点が目に入った。
森が開けている、即ち、そこにホテル・アグスタがある。
キャロは僅かに気を高ぶらせ、歩みを早める。
フェイトさん、エリオ君、ティアナさん、スバルさん。
居ると決まった訳ではないのに、みんなの顔が頭に浮かぶ。
どんどんゴールが近付いてくる。
そしてようやく長い長い森を抜けた。
「キャッ!」
――と、同時に地面に埋まっていた石ころに足を引っ掛け、ベチャという音が聞こえそうなほど綺麗に倒れた。
――そして、キャロの真後ろに存在した木々が数十の木片になった。
「え……?」
思わず声がもれる。
――何が起きたのだろう?
――何で、あの木はシグナム副隊長に何回も斬られたみたいになってるのだろう?
魔法ですら有り得ないその現象に、キャロは目を丸くする。
「よく避けたな」
その氷のように冷たい声にキャロの心が粟立つ。
短髪の金髪。
端正な顔。
ティアナさんがよく着ているライダースーツを真っ白に染めた様な服。
そして――刀のように変形した左腕。
それをこちらに向けている。
本能が騒ぎ立てていた。
――この人はゲームにのっている、と。
男の冷酷な瞳を見つめ返しながら、キャロはバルディッシュを握り締めた。
■
男――ナイブズは驚いていた。
踏み潰そうとした虫が予想外の動きで攻撃を避けた事に。
だが、偶然転び、偶然攻撃を回避できただけ。
結果は変わらない。
死ぬまでの時間が数秒延びただけだ。
ナイブズの左腕が振るわれ、肘から延びた刃が少女へと迫る。
狙いは首。
素手の少女じゃ避けることも、防ぐことも、知覚することすら出来ないスピード。
刃が少女の首と胴体を切り裂く――――寸前それは起こった。
『sonic move』
ナイブズの目が見開かれる。
少女が消えた。
まるで瞬間移動をしたかの様に。
そこでナイブズはある考えに至る。
(魔導師か……)
だが動揺はしない。
左腕を振り上げる。
瞬間、刃と化している男の腕が触手の如く伸びた。
それは一瞬で数十メートルという距離を突き進み、木々をなぎ倒す。
そして――
「ア、アァァアッッ!!」
少女が消えた地点から遥か右側の木の影から、少女の叫び声が響いた。
ナイブズは血の付いた腕を戻し、声のした方へ歩み寄る。
少女が消えた地点から遥か右側の木の影から、少女の叫び声が響いた。
ナイブズは血の付いた腕を戻し、声のした方へ歩み寄る。
そこには脇腹から血を流しうずくまっている少女の姿。
先程と服装が変わっているのはバリアジャケットを装着しているからだろう。
「うぅ、バル……ディッシュ!!」
『sonic move』
ガシャンという音と共に、戦斧内にあるリボルバーが回転、再び少女の姿が消える。
――根性はある。
あの傷を負ってまだ逃げ出す力が残っているのだ、ただの素人ではない。
(……だが奴らと比べると話にならん)
左側の森林へと、ナイブズが無造作に刃を振るう。
それだけで数本の木が真っ二つになり、轟音と共に崩れ落ちる。
「クッ……!」
と、同時に斬られた木の影に隠れていた少女が飛び出る。
まだ逃げる気なのか、血を流し続ける脇腹を抑え、必死に足を動かしている。
だがその動きは鈍い。
デバイスの補助があるとはいえ慣れない高速移動魔法の連用、そして軽くはない脇腹の傷。
この二つの要因がキャロの体力を著しく削っていた。
「醜くいものだ」
それでも生き延びようともがくキャロへ、ナイブズは無慈悲に刃を振るう。
刃はバリアジャケット毎、キャロの左太腿を貫く。
「う゛ぁぁぁああ!!」
経験した事のない痛みがキャロを襲う。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い―――……
助けて誰か……
痛みにもがくキャロへ、ナイブズの左腕が振るわれ、バルディッシュがキャロの手から弾き飛ぶ。
「あ……」
思わず漏れた少女の声も意に介さず、ゆっくりとナイブズは近付く。
その眼は何の感情も宿していない。
まるで虫を見るかのように冷たい。
「な、何で……何でこんな殺し合いにのるんですか……」
武器もない、足も動かない。
満身創痍のキャロが問い掛けた。
その問いにナイブズの口が三日月を描く。
「虫を殺すのに理由がいるのか?」
冷徹に、冷酷に、一片の躊躇いすら持たずにナイブズは答えた。
その答えに――その顔に宿る狂気に、キャロは愕然とする。
――この人は今まで出会ったどんな人とも違う。
――この人は全てを壊す。
――止めたい。
無力な少女は心の底から願った。
――この人を止めたい。
だが現実は非情である。
少女の願いは叶わない。
満月を背にナイブズは無言で刃と化した左腕を振り上げる。
それを見ながら少女は今まで出会った沢山の人々を思い出していた。
――あぁ、もう一度会いたかったな。
――いつも一緒にいた飛竜、フリード
――厳しく、そして優しかったなのは隊長、ヴィータ副隊長、シグナム副隊長。
――辛い訓練を共にした二人の仲間、スバルさんとティアナさん。
――自分に暖かい世界を教えてくれた優しい女性、フェイトさん。
――そしてどんな戦いでも一緒に戦った少年、エリオ君。
最後に会いたかった。
でも無理だ。
自分はここで死ぬのだから。
せめて願おう。
みんなが一人も欠けずにこのゲームを脱出できることを。
私はもう無理だけど、みんなは――――
――刃が降り下ろされ、同時にキャロの意識は途切れた。
■
「誰だ、貴様は」
左腕を振り落ろした体勢のままナイブズは顔を上げ、口を開いた。
一本の剣で自分の左腕を止めている男に向けて。
「貴様に名乗る名などない」
月夜に照らされた、透き通るような銀色の髪。
鋭い耳に、顔に走る三本の赤い線。
胴に装備された漆黒の鎧。
そして鎧とは対照的な色彩を放つ毛皮。
男は凛とした態度で立っていた。
「……何故この女を助ける」
ナイブズが大きく後ろに飛び、距離をとる。
その顔には警戒の色を覗かせている。
だが銀髪の男はナイブズの問いに答える事なく、剣をバックの中へと入れ気絶したキャロを抱きかかえる。
そして呟く。
「……貴様は人間ではないな」
その言葉にナイブズは目を見開く。が、それも一瞬の事。
直ぐに元の表情に戻る。
「……当たり前だ。人間如きと一緒にするな。…………そういうお前も人間ではないようだが」
人間ならば有り得ない尖った耳。
そして何より纏っている空気。
明らかに人間とは違う。
ナイブズは続ける。
「お前は良い眼をしている。自分の邪魔をする者は躊躇いなく殺す眼だ」
普段のナイブズからは考えられないほど饒舌に語る。
それは人間ともプラントとも違う、新たな種に出会えた感動か。
「そんな男が何故そのゴミのようなガキを庇う?」
終始、無表情に徹していた男の眉が僅かに動いた。
「…………黙れ」
静かなる覇気が籠もった言葉。
男の鋭くつり上がった眼がナイブズを射抜く。
「そうだ、その眼だ……お前は良いナイフになりそうだ」
だがナイブズはその視線を気にもせず、平然と受け流す。
「……ところでだ。お前はその女をどうする気だ?もはや傷だらけでボロボロ、連れて行っても足手まといになるだけだぞ?」
ナイブズの腕が変化する。
「――そいつを置いてけ、そうすればお前は見逃してやる」
その一言に空気が戦場のそれと化す。
左手を振り上げたナイブズに対し、男はバックへ手を突っ込む。
――どうやら戦う気か。
ナイブズは嘲笑を浮かべる。
――所詮は人間どもに感化された下らん隷下か。
――消えろ。
ナイブズがそう考え、腕を振り下ろそうとした瞬間――――光が世界を支配した。
■
何が起きたのかナイブズは分からなかった。
気付いた時には強烈な光が辺りを包んでいた。
(――目くらましか)
腕で目を庇い、発光が止まるまで耐えると同時に、相手からの攻撃に対処すべく身構える。
だが、何時までたっても攻撃は来なかった。
「ちぃっ!」
ようやく止んだ発光と同時にナイブズは空を見上げる。
そこにはまるで月に向かうかのように天舞う銀髪――脇には女を抱えている。
(逃げを選んだか……それなりに頭は回るらしい……だが)
もはやその姿は遥か彼方、米粒のような大きさになっている。
だがそれでも、ナイブズは迷うことなく左腕を構えた。
(――俺から逃げられると思ったか?)
腕が刃状に変形。
同時に『門』を開く。
交差する『持っていく力』と『持ってくる力』。
その中から『持ってくる力』を選択する。
視認できる程巨大な『門』。
――人二人を殺すには充分すぎる程の『力』を秘めた『門』。
男もこちらの行動に気付いたのか、高度を下げ森の中に姿を消した。
――みすみす的にはならないということか。
――だが、無駄だ。
――エンジェル・アーム。
ナイブズ――プラント自立種のみが持つ事を許された人知を越えた究極の能力。
それは成層圏に存在する衛星さえ刻み落とし、月に巨大なクレーターを作る。
その能力の前では数百メートルなんて距離はあってないようなもの。
隠れた所で意味をなさない。
(――消えて逝け)
――その念と共に数十もの斬撃と化した『力』が放たれた。
■
――何故この小娘を助けようとしたのか。
最強の妖怪の血を引く男――殺生丸は月の浮かぶ空を舞いながら、自らのした不可解な行動について考えていた。
始まりは『音』だった。
自分からそう遠くない場所から轟音が聞こえたのだ。
これだけの轟音を響かせる程の戦闘。
僅かに興味をそそられて、音のした方へ近付いてみた。
そこで見たものは、異形の左腕を振り上げている男。
そして、血だらけで気絶している少女。
――その光景を見た瞬間、反射的に殺生丸の体は動いていた。
――まるで少女を助けるかの様に男の斬撃を受け止めていた。
――そして、男の挑発に受ける事なく、強烈な光を放つと説明書きされていた『すたんぐれねーど』とやらで目を潰し、逃げ出した。
――あの場で戦うことだって出来たはずなのに。
(……何故だ?)
殺生丸の眉間にシワがよる。
人間などという下等な生き物を何故この私が助ける?
高潔なる妖怪――殺生丸は気付いていなかった。
一瞬、少女――キャロ・ル・ルシエの姿が、自分が助けた人間の少女に重なったことを。
現在自分が同行している少女と重なったことを。
いや、気付いていたのかもしれない――だが、殺生丸はそれを認めようとしない。
自分は最強の妖怪だった父の血を引く高貴なる妖怪だ。
そんな自分が人間に対して『情』という感情を持つなど有り得ない。
数秒間何かを考える様な遠い目をした後、殺生丸は頭を振り思考を振り払う。
今はこのような下らない事を考える時ではない。
取り敢えずあの男は撒いた。考えるべきは、これからどのように行動するかだ。
思考を切り替え、最強の妖怪は飛び続ける。心に掛かる靄のような感情を振り払う事が出来ずに。
――と、その時、殺生丸の首筋がゾクリと粟立った。
(何……?)
後方――あの男が居た所から異様な気配を感じた。
その気配の正体を探るべく殺生丸は首をひねり、男が居た方を見る。
そして目に映ったのは、巨大な刃に変貌した左腕をこちらへ向けている男の姿。
そして禍々しい色をした拳ほどの大きさの『門』。
瞬間、殺生丸は舌打ちと共に地面に向け、高度を下げた。
――あの男は、何かを狙っている。この距離で。
地面に降り立った殺生丸は、男との距離を離すべく、人間離れした脚力で地を蹴る。
――あの男はこの距離からでも当てられる技を放つ気だろう。
鉄砕牙の技の一つ『風の傷』のように驚異的な威力と射程を誇る技を。
この時、殺生丸の手に自らが生み出した妖刀・爆砕牙があれば、真っ正面から受けて立ったかもしれない。
だが、今彼の手にあるのは爆砕牙と比べれば明らかに頼りない刀が一振り。
妖怪の中でも最強クラスの力を持つ殺生丸といっても、これでは話にならない。
ならば、出来ることは一つ。
敵の見えない場所へ移動し、兎に角距離をとる。
要するに逃亡。
――次会った時は必ず殺す。
殺生丸はそう胸に誓い、森林を駆ける。
ハンデを抱えるとはいえ、自分に逃げを選択させたのだ。
それが人間ではない存在だとしても到底許せるものではない。
――必ず自分の手でなぶり殺しにしてやる。
噴出しかける殺意を胸に押し込み、殺生丸は駆け続ける。
瞬間、視界が開けた。
鬱蒼とした木々はなくなり、淡い月光が体を照らす。
森を抜けたのだ。
殺生丸がそう認識したとほぼ同時に――後方の威圧感を放っていたそれが爆発した。
――まばたきをする暇すらない。
――不可視の刃は全てを斬り裂いた。
■
ガソリンの不快な臭いが立ち込める中、殺生丸は腕を組み壁に寄りかかり体を休めていた。
いや、殺生丸自体は体を休める必要など無い。
数百メートルを全力で駆けたとはいえ、その体に残る疲労は微々たる物。
まだ休息をとる程ではない。
なら、何故不快な臭いを我慢してまで、この施設――ガソリンスタンドへと立ち寄ったのか。
それは傷だらけの少女――キャロを休ませるため。
キャロは近くのソファをに寝かされている。
苦悶に歪んだ表情をしているが、出血は止まっている。
少なくとも命に関わる程の傷ではないようだ。
月明かりだけのみが照らす部屋にて、殺生丸はこれからの行動方針を考える。
(……取り敢えずは中心地に向かうか)
この限られた空間では、人は中心地に集まり易い。
名簿とやらに載っていたルーテシアやゼストもそこに集まるだろう。
その分、先程の男のような殺し合いにのった輩も出て来るだろうが問題はない。
――殺せば良いのだから。
爆砕牙には遠く及ばないが妖刀と思しき刀もある。
この忌々しい首輪の影響なのか、嗅覚や身体能力に制限がされているみたいだが、それも大した問題にはならない。
だが問題なのは――この小娘。
殺生丸は考える。
この人間の子供を捨て置くか、否か。
――その端正な顔が僅かに歪んだ。
【F-8/ガソリンスタンド内/深夜】
【殺生丸@リリカル殺生丸】
[状態]疲労(小)
[装備]童子切丸@ゲッターロボ昴
[道具]スタングレネード×2、支給品一式×2、不明支給品(0〜1個、確認済み)
[思考]
基本:進んで殺し合いには乗らないが、気に食わない者や立ち向かってくる者と会えば容赦なく殺す。
0:こいつをどうするか……。
1:中心地へ向かう。出来ればルーテシアとゼストと合流したい。
2:今度、あの男(ナイブズ)に会ったら殺す。
[備考]
※自分の嗅覚が制限されているのを知りました。
※ルーテシア、ゼストが自分とは違う世界から来ている事に気付いていません。
【キャロ・ル・ルシエ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]疲労(大)、脇腹に切り傷、左太腿に貫通傷、気絶中
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:殺し合いを止める。殺し合いに乗ってる人がいたら保護する。
0:……………
1:仲間を探し合流する。
[備考]
※取り敢えずキャロの傷は命に関わる程ではありません。
※キャロの支給品一式、不明支給品(1〜2)は殺生丸が持っています。
※バルディッシュはF―9のホテルアグスタの近くに落ちています。
※別の世界からきている仲間がいることに気付いてません。
■
月夜が照らすホテル・アグスタ前。
一人の男――ナイブズが息を切らし、左腕を押さえている。
「何だ……これは……!」
エンジェル・アームを使った直後、突如襲った強烈な疲労。
それがナイブズを苦しめていた。
今まで能力を使って来て、この様な疲労など感じた事はない。
(……この首輪の影響か?)
疲労に霞む頭を押さえ、何とか立ち上がる。
最初から疑問だった。
何故このような殺し合いに、この圧倒的な力を持つ自分を参加させたのか。
自分の能力は、この会場の端から端まで易々と届く。
そのような者を参加させたら起こるのは――殺し合いではなく虐殺だ。
なのに何故参加させた?
答えは今、出た。
能力の制限だ。
どのような原理かは分からないが、プレシアという女はエンジェル・アームの力を大幅に制限している。
先の一撃は確実に奴に届く『力』を込めた、にも関わらず斬撃は消失した。
そう、ナイブズの攻撃は殺生丸には届かなかったのだ。
威力、射程、そして負担の増大。
制限されているとしたら、そんなところか。
忌々しげにナイブズは舌打ちをする。
(予想以上に、あのプレシアとかいう女は力を持っているようだ)
そう考え、ナイブズは歩き始める。
制限があろうとやるべき事は変わらない。
それに――
ナイブズの顔が狂気に歪む。
――この会場には、良いナイフになりそうな奴がいる。
自分からの逃走を成功させた男。
冷たい眼、一目で強者だと感じさせる立ち居振る舞い。
そして何より、人間を下等な生き物と断定している。
少し甘い面もあるが、奴は最高のナイフになる可能性を秘めている。
さらに名簿には載っていた守護騎士達。
奴らも精神的に甘いが、この狂ったゲームを経験すればその甘さも無くなるかもしれない。
願わくば、人殺しとしての血を思い出して欲しい。
ナイブズの笑みが深くなる。
――そしてヴァッシュ・ザ・スタンピード。
奴はこの狂ったゲームに於いても、絶対にその下らない信念を貫こうとする。
このゲームは、あの分からず屋に人間の醜さを理解させるには、打ってつけだ。
上手くいけば覚醒もあるかもしれない。
「ク、ク、ハハ、ハハハハハハハ!!」
堪えきれなくなったのか、ナイブズが高らかな笑い声を上げ始める。
(下らないと思っていたが……なかなか面白くなりそうじゃないか!)
人から見たら狂った様な、男からしてみれば最高の笑顔を浮かべたまま、男は進み続ける。
――ナイフに成りうる存在を探し求めて。
――最高の殺戮を探し求めて。
――自らの野望を達成する為に、男は歩き続ける。
――だが、男は知らない。
自分の疲労が能力の制限のせいだけでは無いことを。
自分の髪に走る一筋の漆黒の意味を。
――男は知らない。
【F-9/西側の林間/深夜】
【ミリオンズ・ナイブズ@リリカルTRIGUNA's】
[状態]疲労(大)
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明支給品(1〜3)
[思考]
基本:出会った参加者は殺す。が、良いナイフ(殺戮者)になりそうな奴は見逃す。良いナイフになりそうな奴でも刃向かえば殺す。
1:中心部へ向かい人を探す。
2:ヴォルケンズ、ヴァッシュは殺さない。
3:制限を解きたい。
4:殺生丸に期待。でも刃向かったら殺す。
[備考]
※エンジェル・アームの制限に気付きました。
※高出力のエンジェル・アームを使うと黒髪化が進行し、多大な疲労に襲われます。
※黒髪化に気付いていません。また、黒髪化による疲労も制限によるものだと考えています。
※はやてとヴォルケンズ達が別世界から来ている事に気付いていません。
※エンジェル・アームによりホテル・アグスタ付近からF-8の平野に向けて500メートルに渡り、木々が切り倒されました。また、木々が倒れた時、周囲に轟音が響き渡りました。
投下終了。
ご支援感謝!
ご指摘あったらお願いします。
や、やった! さすがは殺生丸様!
たとえバトルロワイアルに巻き込まれようとも、平然と幼女だけは救出していく!
そこにしb(ry
要するに、GJでした!
投下乙です!
ナイブズはやっぱりこういう舞台に映えるなあ!
いきなりガチバトルを展開するかと思ったけど……流石殺生丸、幼女を連れることに関してはプロ。良い判断だ!
GJ!!
童子斬丸が真の力を発揮するのが楽しみですw
浅倉威、矢車想、ヴィヴィオ、エネル、
10分後に投下開始しますね
「なのはママー……」
真っ暗闇の森の中に、か細い女の子の声が響く。
今にも泣き出しそうな程に震えた声。助けを求め、最も信頼出来る人の名を呼びながら歩く。
だが、その呼び掛けに返事が返される事は無く、かえって少女を不安にさせるだけだった。
少女……ヴィヴィオは、つい先程まで、母親である高町なのはと激闘を繰り広げていたのだ。
そして、正直言って普通の人間ならば何よりも怖いと感じる筈の、なのはの全力全壊スターライトブレイカーを受け……
気付けば訳のわからない広間にバインドで拘束されていた。
それがたった数分前の出来事。自分が目を覚ました次の瞬間には、目の前で一人の人間の頭が爆ぜた。
いくら「強くなる」と約束したヴィヴィオでも、このような状況に陥って平常心でいられる訳が無かった。
だが、それでも随分と成長した方だ。過去のヴィヴィオなら恐らく、何も出来ずに大声で泣きわめいていた事だろう。
なのはを探す為に、自分から行動を起こす事を選んだヴィヴィオは、子供ながらに立派と言える。
「なのはママー……フェイトママー」
呼び掛けながら、木を掻き分け進む。
ヴィヴィオは気付かなかった。この行動で引き寄せられるのは、なのはやフェイトのような善人だけでは無いという事に。
ヴィヴィオは気付かなかった。ゲームに乗った人間までもが、ヴィヴィオの声に引き寄せられている事に。
◆
「さて……どうしたものか……」
矢車想は考える。
一体このゲームの真意は何だ?
人間同士で殺し合わせて何になる?
非常に合理的な性格の矢車には、利益も無くこんな無意味な戦いを強要する意味がさっぱり解らない。
「プレシアとかいったか……あの女、一体何者なんだ……?」
右手を頬の近くに、左手を右肘に、矢車特有の“考える人”の動きを見せる。
ネオゼクトやワームを掃討する為ならば、矢車は容赦無く相手の命を奪う。
だが、それ以外の人間は矢車にとって護るべき存在だ。理由はどうあれ、プレシアとかいう女の思惑通りにゲームに乗る訳には行かない。
そして何よりも、矢車にとっては「誰かの掌で躍らされる」のがたまらなく悔しいのだ。
ならば、矢車の取る行動は一つ。
「完全作戦……パーフェクトミッションにおいて、プレシアを倒す。」
矢車は、ボソリと呟いた。次に、左腕に装着したザビーブレスを触ろうと……
「……何?」
おかしい。そこに有るべき物が無い。スーツの袖をめくり、もう一度確認する。
が、ザビーブレスの姿はどこにも見当たらない。いつ如何なる場合の敵襲にでも対処出来るように、外した事など無い筈なのに。
「どういうことだ……?」
慌てた矢車は、確認の為全身のポケットをまさぐる。それでも見当たらない。探しても探しても。
ややあって、思い出した。プレシアの言葉を。
――あなたたちの武装は全て解除して、こちらで用意したいくつかの道具と混ぜてランダムで支給するわ――
矢車の頭の中で蘇るプレシアの言葉が、矢車の表情を青ざめさせてゆく。
「何て事だ……! 命よりも大切なザビーゼクターを、あんな奴に……」
ややあって、矢車は力任せに近くの木を殴りつけた。その表情は、悔しさと焦りに歪み。
無理も無い。ZECT本部から支給された大事な大事なザビーブレスを、あんな訳の解らない女に奪われてしまったのだから。
力を失ってしまった矢車にはどうする事も出来ないのだろうか?
いや、そんな事は無い。矢車は仮にもZECTのエリート。一部隊の隊長なのだ。
例えザビーゼクターが無くとも、脱出する方法ならいくらでもある筈だ。
「(そうだ……まずは仲間を集めるんだ)」
ゆっくりと顔を上げる。考えても見れば、いきなりあんな訳の解らない説明を受けて直ぐにゲームに乗る人間がいる筈が無い。
そんなことをしても、自分にとって何の利益も無いからだ。
……と、そこまで考えた矢車はふと、思い出したように首元に手をやった。
「(いや……だがこの首輪がある限り逆らう事も出来ないか……)」
そう……忘れてはならないのが、この首輪の存在。目の前で爆破の瞬間を見せられた以上、迂闊に逆らう訳にも行くまい。
だとすれば、嫌々ながらに人を殺す人間が現れても仕方が無い。
そんな人間が現れた場合は……悪いが、そこでトドメを刺させて貰う。
そんな人間を救出した所でチームの不協和音になるのは目に見えているからだ。
完全なる調和の元に完全なる作戦を遂行する矢車にとって、そんな人間をチームに入れるのは御免被りたい。
「(よし……そうと決まれば、まずは仲間を集めるんだ。そして、機会をみてプレシアに反撃する)」
矢車の頭の中で構築されていく作戦。完全過ぎる。自分が恐ろしくなる程に完全過ぎる。
完璧に完全なパーフェクトミッションのプランを立てた矢車は、デイパックを持ち上げ、歩き始めた。
「ん……?」
しばらく歩いた所で、矢車は立ち止まった。声が聞こえる。小さな小さな、聞き逃してしまいそうな声が。
矢車は立ち止まり、耳を澄ませる。
「……はママー……」
――子供の声……だと?
聞き取れたのは“ママ”という単語、そして声のか細さから、声の主が小さな女の子であろう事は容易に想像がついた。
だが、だとすれば危険過ぎる。ゲームに乗った愚か者が何処に潜んでいるかも解らないこの状況で、あんな大声で動き回るのは自殺行為もいい所だ。
矢車は、大きなため息を落とした後、足速に声の元へと歩き出した。
◆
遠くから、だんだんと近付いてくる足音。
「なのはママ……?」
これだけ呼んだのだ。なのはママが来てくれない筈は無い。ヴィヴィオの表情は、一気に明るくなった。
「なのはママー!」
安心感からか、大声を出しながら足音に向かって疾走するヴィヴィオ。
……だが、そこにいたのは、ヴィヴィオが望んだ相手では無かった。
「なの……はママ……?」
「…………」
相手は明らかに男。それも、身長はかなり高い。なのはと比べれば20cm以上の差がある。
蛇柄のジャケットを羽織り、鉄パイプを引きずったその男は、何も言わずにヴィヴィオを見下ろしている。
「……ガキか……」
「え……?」
ややあって、男は小さくそれだけ言うと、ヴィヴィオから目線を外し、反対の方向へと歩き出した。
なのはでは無いものの、彼はようやく出会えた人間。まだ幼い子供であるヴィヴィオに、再び一人ぼっちになれというのは少々酷だ。
「あ……待ってー」
「……ぁ?」
結果、ヴィヴィオは立ち去ろうとする男を追い掛け、その脚にしがみついた。
この状況で最初に出会えた人間。一人ぼっちで心細かったヴィヴィオが、初めて口を聞いた人間。
そんな人間に着いて行きたくなるのは、幼いヴィヴィオにとって当然の事だった。
「ヴィヴィオも一緒に行く!」
「………………」
男――浅倉威は、ちらっとヴィヴィオの顔を見た後、そのまま無視して歩き出した。
◆
「(ちからが……はいらん……)」
神・エネルは、どんぶらこどんぶらこと、力無く川を流れ続けていた。
「(神である私が……こんなことで……)」
あの女……あの無礼な女に不意打ちを喰らった為に、今の自分はこんな不様な姿を曝してしまっているのだ。
許せん。あの女は絶対に許せん。エネルは、内心であの橙頭の女に憎しみの念を抱いた。
「(あの女……いつか絶対に神の裁きを与えてくれる……!)」
……と、考えるのは自由だが、今の自分にはゴロゴロの実の力を十分に発揮する事が出来ない。
先程の女の蹴りを受ける際に雷化出来なかったのがその証拠だ。それだけでは無い。“ヴァーリー”の威力も間違い無く落ちている。
MAXで何Vまで発揮出来るかも些か疑問だ。
そんな事を考えながらしばらく歩いていると――
「ねーおにーさん、人が流れてるよー」
――声が聞こえて来た。
小さな女の子の声。だが、今のエネルには首を声の方向へと回す力も無く。声を出す力も無い。
だが、それから直ぐにエネルの上半身は水から上がる事が出来た。
「(……何だ……?)」
目を動かし、自分の体を持ち上げている何かに目を向ける。自分の体を持ち上げているのは、蛇柄のジャケットを着た茶髪の男だった。
◆
「――それでね、なのはママはすっごく優しくって、いつもいい子いい子してくれるの!」
「(……戦える奴はいないのか……?)」
ヴィヴィオに付き纏われ、たまらなくウザいと感じながらも、浅倉は戦えそうな人間を探していた。
しかし、歩いても歩いても誰もいない。ようやく人を見付けたと思えば、明らかに戦えなさそうなガキ一人。
まぁこのガキは人の引き付け役にもなるだろうと、着いて来ても無視を続けているが。
「――だからね、ヴィヴィオもなのはママをいい子いい子してあげるの。そしたらなのはママも元気に……あれ?」
「………………」
そこで、さっきから一人で聞いてもいない事を長々と語ってくれるヴィヴィオの声が途切れた。
それに気付いた浅倉は、ゆっくりとヴィヴィオに振り向く。
見ればヴィヴィオは立ち止まり、川に流れる何かを指差していた。
「ねーおにーさん、人が流れてるよー」
浅倉がエネルに気付いたのは、ヴィヴィオに呼び掛けられてからだった。
エネルの筋骨隆々とした肉体を見るや否や、浅倉は不敵に笑い始めた。
「(あいつなら……少しは戦えそうか?)」
浅倉の目的は、戦う事。戦う事こそが、戦う目的なのだ。故に、エネルを助ける。戦う為に。
浅倉は、エネルの体を引っ張り、乱暴に河原へと放り投げた。
「ぐぉっ……!」
「……お前なら、少しくらいは戦えそうだ……」
小さく呻いたエネルに、浅倉は不気味に笑いながら言った。対するエネルは、見るからに浅倉に対して怒っている。
エネルは眉をしかめ、その鋭い眼光で浅倉を睨み付けた。
「少しくらいは……だと?
貴様……口を慎めよ、我は神なるぞ……!」
「ククククク……なら戦え……戦えよ!
神様なら、戦って俺を負かしてみろ……!」
浅倉の笑みを見たエネルもまた、小さく笑い出した。こいつはバカだ とでも言わんばかりに、ニヤニヤと。
だが、目は笑っていない。そのギャップが、余計にエネルの表情を恐ろしく見せる。
「ヤッハハハハ……よかろう。
貴様に、私を助けた事を後悔させて……」
「喧嘩は駄目ーーーっ!」
と、そこで今まで黙っていたヴィヴィオが、二人の会話に割り込んだ。
エネルと浅倉は、二人共ゲームに乗った人間……しかも元の世界では何人もの人間を殺している。
そんな二人に喧嘩をするなと言った所で無駄な事だろうが、ヴィヴィオはまだそれを知らない。
言ってしまえば、ヴィヴィオは今二人の殺人鬼に囲まれているのだ。
ヴィヴィオの声が周囲に響いた後、エネルは一度浅倉から視線を外し、再び不敵な笑みを浮かべた。
「良いのか? ……今の大声で、何者かがこちらに近付いているぞ?」
心網―マントラ―による敵の位置の把握能力。エネルは、こちらに近付いて来る人間がいるとの情報を浅倉に伝えた。
浅倉は頬を吊り上げるような不気味な笑いを見せた後、直ぐに立ち上がり、鉄パイプを構えた。
敵が来るという事実だけ、何となくにだが把握したヴィヴィオも二人の殺人鬼の背後に身を隠す。
ヴィヴィオは知らなかった。
今こちらに向かっている男こそが、真にヴィヴィオを救おうと駆け付けた“仮面ライダー”である事に。
ヴィヴィオは気付かなかった。
今自分が頼っているこの男こそが、自分を囮に利用し、この殺し合いを楽しむ事が目的の“仮面ライダー”である事に。
◆
矢車は、デイパックの中身を確認し、武器になりそうな物を探した。
そして最初に見付けたのが、用途不明のカード型デバイス。
このデバイスにはクロスミラージュという名前があるのだが、矢車そがれを知る筈も無く、すぐにデイパックに戻した。
次に見付けたのが、銀のベルト。矢車の良く知るゼクトバックルだ。
だが、変身前にゼクトバックルを持っていたとしても何の意味も無い。これも正直不必要なアイテムだろう。
矢車はそれをデイパックに戻し、再び歩き始めた。
ちなみにこのゼクトバックル、資格者が使えばホッパーへと変身する事が可能だが、ホッパーの資格条件は絶望。
良い部下達に恵まれ、エリートの地位を持ち、戦果を上げ続ける矢車にとっては無縁のゼクターなのだ。
「武器は何も無い……やはり信じられるのは自分の腕だけか」
矢車はそう呟き、再び歩を進めようとした、その時であった。
――喧嘩は駄目ーーーッ!
「……!?」
突如聞こえた少女の声。間違いない。先程の女の子の声だ。
喧嘩……? 彼女は今、戦いに巻き込まれているのか……?
そう考えた矢車は、直ぐに走り出していた。一人の小さな命を救う為に。
走り続けて数分、木を掻き分け進んだ矢車は、このエリアを流れる河原の近くに出た。
「あれは……」
矢車の視線の先にいるのは三人の人影。
鉄パイプを構え、笑っている男が一人。力無く横たわる半裸の男が一人。
そして脅えた表情で小さく隠れる金髪の女の子が一人。なるほど、矢車はすぐに状況を飲み込んだ。
あの蛇柄の男が半裸の男を襲い、あの少女は戦いに巻き込まれてしまったのだろうと。
これ以上少女に恐ろしい思いをさせる訳には行かない。返答次第では、この男を倒す。矢車はそう決意し、口を開いた。
「ねぇ、君はその女の子をどうするつもり?」
「……ククク……ハハハハハハッ!!」
「な……ッ!?」
聞いた自分がバカだった。男は、質問に答える事なく、鉄パイプを振りかぶり、襲い掛かって来たのだ。
もう間違いない。この男はこの馬鹿げたゲームに乗っている。しかも1番質の悪い、快楽殺人の類だ。
矢車は、振り上げられた鉄パイプをかわし、アウトボクシングスタイルで構える。
「チッ……完全調和を乱す不協和音め……!」
矢車は浅倉と距離を取り、策を考える。相手が長い得物を持っているなら、素手で戦う自分は圧倒的に不利だ。
だが、矢車とてエリート。不利なら不利なりの戦い方がある。矢車は、アウトボクシングスタイルで構えたまま、軽くステップを踏み始めた。
「ッらぁ!!」
「……っ!」
浅倉が振り下ろした鉄パイプを後方に回避、そのまま下に振り切られた鉄パイプを左手で掴むと、矢車は大きく踏み込んだ。
浅倉の顔面に、凄まじい速度での右フックが入る。それも矢車が狙ったのは相手の顎。
自分の掌底で、浅倉の顎を叩き付けたのだ。素手で相手を殴る事の危険性は矢車自身が1番良く分かっている。それ故の行動だ。
対する浅倉は、矢車の攻撃を受けたにも関わらず、不敵な笑みを崩さない。
「……しまっ!?」
「らぁっ!!」
「ぐっ……!?」
気付くべきだった。この男はダメージを恐れていないという事に。
矢車は、再び振り上げられた鉄パイプの一撃を左脇腹に受けてしまう。刹那、体に鈍い痛みが走る。
「こんなもんじゃねぇよなぁ!?」
「チッ……!」
咄嗟に後方へと跳び上がり、再び構える矢車。やはり素手で武器を持った相手に挑むには不利過ぎたか?
嫌な汗が矢車の首筋を這う。
――最初の一撃で落とせなかったか……賭が外れたな。
矢車は構えたまま、自分の甘さを呪った。本来ならば一撃で意識を奪うくらいは出来る筈の打ち込みで、勝利を得られなかった。
相手もまた相当に修羅場を潜って来たのだろう。
――……一度見せたこの手、奴は二度と掛からないだろう……どうする?
思考を巡らせる。鉄パイプを持った相手に対抗するには……どうすればいい?
――初手をかわして……入るしかない!
再び振り下ろされた鉄パイプ。矢車はすんでの所でそれを回避し、再び浅倉の顔面に掌底を打ち込もうと踏み込む。
「……ぐぅッ!?」
いや、踏み込めなかった。先程脇腹に受けた一撃が痛み、シフトウェイトの瞬間に力が抜けてしまったのだ。
結果、矢車の拳には力が全く入らず、容易に浅倉に受け止められてしまう。
そして、再び突き出された鉄パイプ。
「オラァッ!!」
「ぐぁっ……!」
矢車はその直撃を受け、数歩のけ反る。が、浅倉の攻撃は留まる事無く、隙だらけになった矢車に更なる打撃を加える。
地べたに這いつくばった矢車は、荒い息で浅倉を睨み付けた。
「終わりだ……死ねよ」
「…………ッ!」
浅倉は、力一杯矢車へと鉄パイプを振り下ろした。
「神の裁き……エル・トール!」
「「……ッ!?」」
その時だった。鉄パイプが矢車の頭を叩き潰す寸前に、青白い稲妻が駆け抜けたのだ。
空から降ってきたかのようにも見える雷の衝撃に、浅倉と矢車は一気に逆方向へと吹っ飛ばされた。
なんとか立ち上がった矢車と浅倉は、雷の発生点を睨み付ける。
「……やはり少し弱いな。たかが人間二人殺せんとは」
そこにいるのは、背中から太鼓を生やし、異常に長い耳たぶを持った男。先程まで横たわっていた筈の、神・エネルだ。
「ヤハハハ……まぁいい。随分と待たせたなぁ?
感謝しろ、虫けら。私が直々に裁いてやる」
「クックック…………ハハハ……ハハハハハッ……!」
浅倉にはもはや矢車など眼中に無かった。今最も興味を引かれるのは、目の前の神を名乗る男のみ。
鉄パイプを引っ提げ、エネルへと突進する浅倉。
「愚かな……神を愚弄する愚かさ、身を持って知るがいい」
再びエネルの腕が青白く輝き始める。再びさっきの電撃を放つつもりらしい。
「おにーさん! 危ない!!」
物影に隠れていたヴィヴィオは、浅倉のピンチに大声で叫んだ。が、浅倉の突進は止まらない。
ならば、と、ヴィヴィオは慌てて自分の周囲を探り始める。何か武器になるものは無いのか? と。
何でもいい、エネルを止められればそれでいい。なのはと約束したのだ、「強くなる」と。
ここで逃げてばかりでは、その約束も守れない。そんなヴィヴィオが咄嗟に掴んだのは、10cm程の河原の石ころ。
こんなものしか無いのか……と、普通なら思うのだろうが、今のヴィヴィオにそんな贅沢を言っている余裕は無い。
「この……っ!!」
ヴィヴィオは、エネルに向かって力一杯石ころを投げ付けた。あの電撃を放たせない為にも。
「ん……?」
呟くエネル。石が当たった瞬間、一瞬だが光が消えた。
しかし、やった! と思ったのもつかの間。エネルの冷たい視線に睨まれたヴィヴィオは、凍り付いたようにその場で固まってしまった。
「ハハハハハァッ!!」
そんなヴィヴィオの努力を知る由も無く、浅倉はエネルの胴体に鉄パイプを振り下ろす。
鈍い音が響き、エネルの肩付近に鉄パイプが減り込む。
「やはり……雷にはなれんのだな」
「……あ?」
本来のエネルならば、こんな鉄パイプによる一撃など受ける筈も無い。雷になれば済む話だからだ。
だが、その雷に変化することが出来ない。恐らく、変化出来るのは腕や脚、一部の技だけなのだろうと判断。
それならそれで戦いようは有る。エネルは、浅倉の鉄パイプを右手で握り締めた。
「グローム……――」
そして、力を右腕に集中させる。エネルの右腕は再び光り輝き。
「――パドリングッ!」
鉄パイプへと、凄まじいまでの電流が流れた。流された電流により、鉄パイプは凄まじい熱を帯びる。
「ぐぉっ……あぁぁぁああああっ!?」
エネルの電撃により、右手に伝わる激しい痛みと熱。浅倉は咄嗟に手を離した。
見れば、右手の平はまるで火の中に突っ込んだように焼け爛れている。
「ヤッハハ……金では無く鉄というのが残念だが……十分だ」
鉄パイプは、既に原型を留めてはいない。エネルに流された電流により、高熱を帯びたパイプは、エネルの望む形――三股の矛へと変わっていた。
「ヤッハッハ!」
エネルは、作り出した矛で浅倉を突き上げた。これで浅倉の命も終わり……
「ん?」
「ククク……ハハハハ……楽しいなぁ……戦いってのは」
いや、まだだ。体に刺さる寸前に、浅倉はエネルの矛の柄を掴み、動きを止めたのだ。
「ほほう、しぶといな」
「ククク……ッらぁ!!」
浅倉はエネルの矛を下方へといなし、エネルの顔面に重いハイキックを炸裂させた。
「くっ……」
のけ反るエネル。浅倉はエネルから距離を取り、再びニヤニヤと笑い始める。
どうやら浅倉もまだそれほどダメージは受けていない様子だ。
とは言っても、第三者から見れば、この戦いは長引けば明らかに浅倉の敗北となるのは明白。
ヴィヴィオはともかく、矢車にはそれが手に取るように分かった。あの男では奴には勝てない……と。
そう判断した矢車は、直ぐに体勢を立て直し、叫んだ。
「何をしてる! 早く逃げろ!」
「……あ?」
矢車の叫び声に、振り向く浅倉。
「解らないのか! そんな奴と戦っていたら命がいくつあっても足りない!」
「…………チッ」
浅倉は、矢車とエネルを数回見比べた後に、仕方ない と言わんばかりに舌を打ち、走り出した。
確かにこのまま戦うのは辛いと感じたのだろう。エネルとは反対の方向に向かって、浅倉は疾走する。
そんな浅倉を見届けた矢車も、急いでヴィヴィオに駆け寄った。
「早く、逃げるぞ……!」
「嫌っ! 離して!」
「なっ……!?」
ヴィヴィオは矢車の手を払い、矢車から距離を取る。どうやらヴィヴィオは矢車を完全に敵だと思っているらしく、明らかに敵意を表している。
「ヴィヴィオ、おにーさんと一緒になのはママ探すの!!」
「なのは……だと!? 待て……ッ!」
矢車はヴィヴィオを追い掛けようとするが、ヴィヴィオは既に浅倉の立ち去った方向へと走り始めていた。
ふとエネルを見れば、蹴られた頭を抱えながらも、その鋭い眼光でこちらを睨み付けている。
「チッ……仕方ない……!」
あんな化け物に目を付けられては命がいくつあっても足りない。
今から自分とは反対方向に逃げた浅倉を追い掛けていては、間違いなくエネルに追い付かれてしまう。
そう考えた矢車は、不本意ながらも、ヴィヴィオとは反対の方向へと走り出した。
今はただ、エネルから逃れる為に。
ややあって、誰も居なくなった河原で、エネルは一人呟いた。
「ヤッハッハ……なるほど、こういうゲームか。面白いじゃないか……!」
今の戦い。そして逃げ惑う人間共……浅倉・矢車・ヴィヴィオ。一応シャーリーも含めてやってもいい。
ここまで来て、エネルはようやく気付いた。
このゲームは、神である自分が逃げ惑う人間共を追い掛け、殺し、優勝するまでの、言わば狩猟ゲーム。
この戦いに参加する者を皆殺しにし、この国を支配するという考えは元より変わり無い。
ただ変わったのは、支配者になるまでの過程を楽しむという事。歯向かう者はなぶり殺しにし、逃げる者は追い掛けて殲滅する。
それがこのゲームの、エネルなりの捉え方だ。
まさに神の為のゲーム。神のみが楽しめる至高の退屈凌ぎ。
「ヤハハ……ヤーッハハハハハ……!」
ゲームの目的を再確認したエネル。深夜の河原に、そんなエネルの不気味な笑い声が響き渡った。
【1日目 深夜】
【現在地 C-7】
【エネル@小話メドレー】
【状態】しばらく陸に上がった事で回復、蹴られた事による頭痛
【装備】鉄の矛
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本 主催者も含めて皆殺し、この世界を支配する
1.まずは誰から神の裁きを与えてやろうか……
2.やはりあの蛇の男(浅倉)からだろうか
【備考】
※シャーリーを優先して殺すつもりでしたが、どうせ全員殺すので、いつ殺しても同じだと判断しました
※エル・トールの稲妻により、B-7、C-7、C-6で発光現象が発生しました。
【現在地 C-7】
【浅倉威@仮面ライダーリリカル龍騎】
【状態】右手に激しい火傷、疲労(小)
【装備】無し
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本 戦いを楽しむ。戦える奴は全員獲物
1.一先ずエネルからは逃げる
2.他の参加者の引き付け役としてヴィヴィオを利用する
3.ヴィヴィオがウザい
【備考】
※自分からヴィヴィオに危害を加えるつもりはありません
※最終的にはヴィヴィオも見捨てるつもりですが、もしかすると何らかの心変わりがあるかも知れません
【現在地 C-7】
【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本 なのはママや、六課の皆と一緒に脱出する
1.なのはママを探す
2.おにーさん(浅倉)に着いて行く
3.おにーさんはヴィヴィオを守ってくれる
【備考】
※浅倉の事は、襲い掛かって来た矢車から自分を救ってくれたヒーローだと思っています
※浅倉を信頼しており、矢車とエネルを危険視しています。
【現在地 C-7】
【矢車想@仮面ライダーカブト】
【状態】左脇腹に鈍い痛み、疲労(小)
【装備】無し
【道具】支給品一式
ホッパーのゼクトバックル@魔法少女リリカルなのはマスカレード
クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
ランダム支給品0〜1
【思考】
基本 仲間を集め、完全なる作戦でプレシアを倒し、脱出する。
1.一先ずエネルからは逃げる
2.あの女の子(ヴィヴィオ)が心配だ
3.なのはママ……? 高町の事か?
4.とにかく仲間と情報を集めなければ
【備考】
※クロスミラージュの用途に気付いていません
※戦いに乗った者は容赦無く倒すつもりです
※ヴィヴィオの「なのはママ」という発言から、ヴィヴィオが高町なのはと何らかの関係があると考えています
【共通の備考】
※浅倉・ヴィヴィオと矢車がそれぞれどの方向に逃げたかは後続の書き手さんに任せます
※この場にいた全員がエネルの危険性を知りました。
投下終了。
色んな意味で矢車にとって不協和音です
【道具】支給品一式
ホッパーのゼクトバックル@魔法少女リリカルなのはマスカレード
クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
ランダム支給品0〜1
↑矢車の道具は以上で修正お願いします
投下乙です。
矢車……いきなり不吉な物を持ったな……
ヴィヴィオはヴィヴィオで純粋すぎた……これは怖い
ところで、浅倉が持ってた鉄パイプは現地調達した、ってことでいいんでしょうか?
乙
冒頭のヴィヴィオのセリフに胸が締め付けられた
残酷だよな…うん、生き残ってほしい
遅ればせまして申し訳ありません。
エリオ・モンディアル、シェルビー・M・ペンウッド、柊かがみ 投下します
「何……な、何だってのよ」
悪い夢でも見てるようだ。それが、この状況(正確には先程起きた事態)を言い表す、現在自分が思いつく最大限の言葉だった。
自分こと柊かがみは、陵桜高校三年C組に通う、極平凡な……ついついお菓子を食べ過ぎて、体重計の上で後悔をする……所謂普通の女の子だ。
それなのに、何故、こんな場所に居るのだろうか?
普段通り、登校し――季節外れの転校生という、友人の喜びそうな(事実友人、泉こなたは喜んでいた)イベントはあったものの――普段通り、下校した。
そうだ。普段通りの筈だったのだ。普段通り就寝した筈だったのだ。
それなのに、何故自分は今、こんな所……どう見ても屋外なんかに、居るのだろうか?
しかも、いつの間にか……身に覚えのないデイパックなんかを持って。
「………………これ、夢、よね」
そう口に出すと、自分の発した言葉が、よりいっそう真実味無く聞こえた。
それどころか、まるで遥か及ばない何者かが、自分を追ってきている。そんな風にも錯覚された。
寝る前に、あんな本を読んだからだろうか?
帰宅途中に立ち寄った書店(その一言には甚だしいものだが)で、何気なく購入したライトノベル。内容は……SFで、登場人物の中に壁や天井も歩いて追ってくる執拗な追跡者がいた。
『帰宅途中』……そういえば、それには確か、あの転校生達も同行していた。
『あの転校生達』……なのはと、フェイト。
そうだ。彼女達もあの場にいた。
なのはは自分の知らない金髪の友人“アリサちゃん”と、フェイトは変なボンテージファッションの女“母さん”に……。
「!!」
そこまで記憶を遡ると、同時に、かがみの食道を何かが遡った。
突然込み上がるものに顔を歪め、空気を求めかがみは必死に口を開いた。
息……いや、それよりも熱い何かが、食道を通り、口腔を満たし、唇を伝わり、地面に落ち、水音を立てる。
焼け付くような感覚に、何度も口を開閉すると、同時に湿り気のある音が鳴る。
そこまで経って、漸くかがみは気が付いた。ああ、自分は吐瀉しているのだ、と。
何故か? ……それは考えてはいけない。
何故だ? ……それを思い出してはいけない。
何故、考えてはいけない? 何故、思い出してはいけない?
ダメだ。兎に角ダメだ。思い出し――
――ヒトガシンデイタノダ。
「ううっ!!!」
吐いた。また吐いた。もう一度吐いた。
思い返してしまった光景を否定するように、何度なく吐き戻した。
しかし、脳は……記憶はかがみを責め立てる。
人が死んでいた……殺されたのだ、これは紛れもない現実だ、と。
「いや、いや、イヤァァァァァア!!! こなた、こなた、こなた――――ッ!!!」
思い付いた人間……親しい友人の名を呼ぶ、必死に叫ぶが、それに応えは無い。
暗闇に、柊かがみの絶叫が響いた。
◇ ◆ ◇
そこから少し離れた場所に、少年、エリオ・モンディアルは居た。
「……ッ! なんて酷いことを……ッ!」
抱える感情は、怒り。紛れもない憤怒そのものだった。
自分はデジタルワールドに居た。キャロとは離れ離れ、その先でユーノと出会い、炎の街へ向かった……それが何故こんな場所に。
通常ならばそう考えるであろう思考を弾き飛ばす、それほどの心の炎だった。
許せない。許せるわけがない。
目の前であんな行為を行われて、冷静で居られるほどにエリオは非情な存在ではなかった。
怒りで固める拳から骨の軋む音が聞こえようと、エリオの憤激は止む事が無い。
握りしめた爪が肉に食い込み、薄紅の曲線を付ける。そのまま続けばやがて真紅になるであろうが、それは一先ず中断された。
女の悲鳴に、よって。
反射的に飛び出していた。走ると揺れる背中のデイパックが気にはなるが、今は構ってなどいられない。
自分に出来る事があれば……いや、例え自分が及ばなかったとしても、誰かには及ばせはしない――行くしかない!
エリオ・モンディアルはそういう少年……騎士、なのだ。
程なくして、エリオはその音源にたどり着いた。
声の主であろう少女、柊かがみ(エリオは名を知らない)は吐瀉物にまみれ、その場にうずくまっていた。
恐慌状態、というものだろうとエリオは判断。すぐさま声を掛けるか思案の後、話しかける事にした。
「あの……」
「ひ……ッ!」
恐怖と急迫が混じり合った、半ば反射的じみたスピードでかがみは頭を起こした。
暗闇に浮かぶ街灯の薄明かりが、かがみのその目に映る光が紛れもない恐れのそれであると、エリオに伝える。
少女は自分を恐れている、そう速断を下す。
無理もない。あの場で行われた、敬愛する女性が「母」と呼んだ女が行った行動は、異常や異端と呼ばれるそれなのだ。
エリオは多少鍛えがあった。覚悟があった。それでも恐ろしかった。耐え難いものだった。
しかし目の前の人はどうだろうか。鍛えている風にも見えない。極めて一般人然としている……事実、一般人だろう。
そんな人間が、凶行(アレ)に耐えられるものなのか。
答えは否だ。耐えられる筈がない。
恐らくは嘔吐もそれが原因だ――エリオは直観する。
ならば先ずは落ち着かせなくては――エリオは決断する。
「あの……」
「ひぃ……ヤ」
何とかコンタクトを取ろうと一歩を踏み出したエリオだったが、それと同時にかがみの顔の恐色が増した。
「ぼ、僕は……別に怪しいものではありません!」
何とかしなくては、そう思っての一言だったが……直後、エリオは理解し、後悔する。
それは、如何なる人間が発せようとも、瞬く間に怪しい人物と思わせてしまう、まさしく魔法の言葉なのだ、と。
「ひッ……や、やだ……こないで……ッ!!」
「違うんです! 僕は……」
「イヤ……こないで……こないで……ッ!」
服が、靴が、手が、吐露した物体にまみれようとも、柊かがみは後退を止めない。
襲いかかる恐怖という名の怪物から、手足に纏わりつく「シ」という名の触手から、一心不乱に自分……柊かがみという名の生命を遠ざける。
しかし、かがみの願いに反して、恐怖状態の筋肉はなかなかそれを実行しない。
カタカタと余計な緊張をして、後ろへちっとも戻ろうとせず、挙げ句、デイパックの中身を撒いてしまう。
零れ落ち音を立てた二つの直方体形の塊。
『それ』が視界に入るや否や、今までとは打って変わった素早い動きで手に取り、かがみは目の前の少年へと突き出した。
黒き直方体形の塊……即ち、銃を。
「こ……こないで……ッ! お、お願い……だから……ッ」
「クッ……」
エリオは歯噛みする。目の前の女性が手にしたのは、御禁制の質量兵器――銃。対する自分は何もない。
せめてデバイス――バリアジャケットさえ展開できれば……。そう思っても、現実自分の手には何もない。
だが、何もないからと言って、この女性を見捨てるのか? こんな場所に、怯える女性を一人、置き去りにするのか?
――違う!
「僕は……あなたを放っては置けません!
こんな場所にあなたを一人、置いては行けません!」
故に、口にする。自分は関係なくは、ないのだ、と。
「え……」
「だからッ!」
エリオが一歩を踏み出した。
「僕と、話を」
そこで、エリオの言葉はかき消された。一発の銃声によって。
撃つつもりなどなかった。柊かがみは銃の実物なんて見た事はないし、ましてや手に取った事などない。
ならば、人を撃った事なんて決して有り得ない。
ただ、それを握っていれば少しでも恐怖が遠ざかってくれる『かもしれない』と思って、必死に銃を掴んでいた。
だから、撃つつもりなんてなかった。少年が自分に近寄ったことに驚いて、驚いて……、
銃を握り/引き金にかかった指を――しめた/引いた。
――ア……ア…………
崩れ落ちた少年の体。流れ出る体液。
――アア……アアア……
街灯の冷ややかな照明がそれが赤い――血であると証明する。
――アア……アアアア………アアアア
液面に反射した姿を見て、柊かがみは初めて自分が叫んでいるのだ――この声は自分が出しているのだ、と認識した。
◇ ◆ ◇
それからまた若干の距離を置いた場に、シェルビー・M・ペンウッドは居た。
彼は無能だ。しかし、そんな彼にも分かる事はある。
それは、ここが異常な空間である、という事。
ペンウッドは生まれついての家柄と地位だけで生きてきたも同然な男だ。いつも与えられた仕事だけをやって来た。
しかし、その仕事はレジ打ちではない。バーテンダーではない。マイクを持って壇上で「畜生」「畜生」と叫ぶ職業ではない。
彼の仕事は鉄火場、或いはそれに準ずるもの――実際戦地に赴かなかったとしても――だ。
だから分かる。故に気づいた。
今自分が居るこの場こそは、生と死が混じり合い、黒き災禍が渦巻く、死の臭いに満ち溢れる闘争の場である、と。
そう、殺し、殺され、滅ぼし、滅ぼされる――凶骸の宴なのだ。ここは。
あの女も……自分達をこの場に集めたあの女も、「デスゲーム」と、狂った殺し合いだと称していた。
ただの一人しか生き残る事を許さない、狂った殺し合いだと称していた。
なれば、なれば、臆病者の、無能なシェルビー・M・ペンウッドはどうするのか?
決まっている。決まりきっているとも。
あの場には、一切の抵抗を否定され、殺された非力な少女が居た。あの場には、年端も行かない子供達が集められていた。ペンウッドはそれを見ていた。見てしまった。
子供は幼く、どうしようもなく無力だ。あの場に集められた子供達だって本来なら家族と、友達と、恋人と笑いあっている筈だろう。
それを、そんな子供達を、あの場に集めて、あんな場所に閉じ込めて、恐怖を以て、殺人を以て、殺し合え、生き延びたければ、殺し合えと――そう言った。
あの女は、プレシアと呼ばれたあの女は、確かにそう言った。
シェルビー・M・ペンウッドは無能で、臆病者な、ちっぽけな男だ。自分ではコンソールひとつ動かせない、家柄で生きてきたも同然のちっぽけな男だ。
しかし、彼は――シェルビー・M・ペンウッドは男の中の男だった。
「た、確かにわたしは無能で、臆病者だ。でも、私は……卑怯者ではない。わ、私は……こんな殺し合いには乗らない。
そんな頼み事は、どんな理由だって……聞けないね!」
思い胸に、思い言葉に、シェルビー・M・ペンウッドは、断固とした決意を口にした。
それより数十秒、ペンウッドは立ち尽くしていた。
別に、すべきことが分からずに、何もしなかったわけではない。
「な、何も起きない……のか?」
起きるであろう何かを待っていただけだった。
そう、起きるであろう何か――即ち、首輪の爆発を待っていたのだ。
最初に集められた場で、あのプレシアは、「アリサ」と呼ばれた少女を爆殺した。
理由は明らか――「口答えをした」からだろう。
あの少女は、無惨に殺されたあの少女は、恐らく全く以て普通の少女であろう。
吸血鬼でも、王立騎士団でも、法皇庁でも、軍人でも、魔導師でもないただの少女であろう。
そんな、そんなただの――ただの無力な少女を、口答え……『言葉で刃向かった』という理由だけで惨殺した。
それなのだ。あの女……プレシアはそういう女なのだ。
憤った無力な少女を殺す、そんな女なのだ。
あの場で誰よりもしっかりと、誰よりもはっきりと、女へと立ち向かった少女を――勇気ある、無力な少女を見殺しにした。
突然のことで混乱したとか、締め付けられて臆病になったとか、そんな理由で見殺しにした。
それが、ペンウッドには何よりも許せなかった。
自分が、或いは自分が女に拒絶を告げれば良かった。
無能な、どうしようもなく臆病者の自分が代わりになってやれば良かった。代わりになれれば良かった。
では何故なれなかった? ――それは、臆病者だからだ。
「待て、やるならわたしをやれ」と、映画の中の英雄か、それでなくとも言ってやれば良かった。言い放てれば良かった。
しかし、だかしかしそれを口には出来なかった。
自分は無能で臆病者だが、卑怯者ではない。――それは嘘だ。
卑怯者だ。しようのないほどの御し難い卑怯者だ。
勇気ある少女を見殺し、路傍の石に変えたのは、紛れもなく自分シェルビー・M・ペンウッドだ。
代わってあげられれば良かった。今からでも代わりたかった。
叶わぬなら。今後、この場で人を裏切り、屠り、生き血を啜り生き残るくらいならば、自害したかった。
いや、するつもりだった。
どうせ死ぬのならば、自分の他二十四時間誰も死ぬことがないように、そうやって死にたかった。
だから、口にした。少女の、自分の、意志を、決意を。
だが、だが現実に、実際にはシェルビー・M・ペンウッドは死なず、こうして震えを抑えられずに生きながらえている。
刃向かえば、意を反せば殺すのではなかったのか? ――しかし、ペンウッドは生きている。
この事は重要な事だが、差して喜ばしい事ではない。
だが、多少の言動では……『この場に於いては』殺さない、という事なのだろうか。
いや、そもそもに……。
「こ、この場での、行動は……分かる、のか?」
あの女は、プレシアは、こちらを知覚しうる手段を以ているのか?
あの女は魔法が使える。魔法使いだ。魔導師だ。ペンウッドだって魔導師は知っている。どころか、今は共に戦っている。
だから、彼らの『艦』でやっているように、遠く離れた場所を見られる事を知っている。
しかし、幾つだ? それは幾つになる?
ここに集められた人間(言わば、“参加者”)の人数分、二十四時間、或いはそれ以上。そんなものを、ひとりで確認しきれるのか?
不可能だ。ならば、間違いなく『協力者』とやらは存在するだろう。
だが、何人だ? 何人こんな『いかれた殺し合い』に加担する? 加担はするが参加せず、この『いかれた殺し合いの観戦に止まる』?
百人か? 二百人か? そんなに居るわけがない。いる筈がない。
そうならば、監視の目は不自由。だから今、シェルビー・M・ペンウッドは爆殺されなかった。
或いは、「貴様のような無能で臆病者の男には何も出来んよ」と、そう言っているのだろうか?
ならば、ならばその考えを崩してやろう。それが叶わぬとも、誰かの助けになろう。
それが、シェルビー・M・ペンウッドに託された、「アリサ」という少女からの、仕事なのだ。
そう決意し、立ち上がったペンウッドの耳に、叫び声と銃声が飛び込んで来るのだった。
【一日目 深夜】
【現在地 E‐2】
【シェルビー・M・ペンウッド@NANOSING】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品(未確認1〜3個)
【思考】
基本:自らの仕事を果たす
1.この悲鳴をどうするか
2.殺し合いに乗るつもりはない
【備考】
※少なくとも第四話以降の参戦です
※プレシアは何らかの方法(魔法含む)で自分達、『参加者』の監視をしている。
しかし、それがあまり正確ではないと考察しました
世界はいつも『こんなはずじゃない事』ことばかりだ。
もし、その喉で叫びをあげていなければ、柊かがみは、そんな風な事を口にしているだろう。
悪夢のような場所にいる――『こんなはずじゃない事』。
人が目の前で殺された――『こんなはずじゃない事』。
人を撃ってしまった――『こんなはずじゃない事』。
こんな筈じゃなかった。撃つつもりなんてなかった。そう、声を大にして訴えたかった。
すまない。と、撃ってしまってすまないと、直ぐにでも謝罪と手当てをして上げたかった。
いや、して『上げたかった』などという傲慢ではない。直ぐにでも謝罪と手当てをさせて欲しかった。したかった。
しかし、思いに反して、かがみの体は動かない。
或いは――罪を認める事を、体が拒否しているのか。
罪……自分を気にかけた少年を“射殺した”事。
射殺した……そう、殺、した。命を……未来を奪ったのだ。
自分をこんな場所に一人置いてはいけない――そう言った少年。
優しいだろう。強いだろう。そんな少年の未来を、これからを奪った。
きっとまだまだ出会ってない人や、やりたいこと、友達……いっぱいあっただろう。
それら全てを、この手で奪ったのだ。柊かがみの、この手で。
「ごめんなさい」
気が付けば、口から謝罪の言葉が出ていた。
「ごめんなさい」
謝って、許されるなんて甘い考えは持ってない。
「ごめんなさい」
しかし、それでも言わずにはいられなかった。
「ごめんなさい」
謝らずにはいられなかった。
「ごめんなさい」
許して貰うつもりはなかった、
「ごめんなさい」
ただただ、謝る事しか出来なかった。
「ごめんなさい」
謝罪の言葉を口にしていく内に、
「ごめんなさい」
かがみはある考えに至った。
「ごめんなさい」
それは些か都合のいい考えかもしれない。
「ごめんなさい」
ただの逃げに他ならないかもしれない。
「ごめんなさい」
それでも、かがみにはもう耐えられなかった。
「ごめんなさい」
自分が今、生きている事に。
右手を持ち上げ、米噛と垂直にした。鈍く光るプラスティックの拳銃とは、平行。
指を引き込む。カチリと、トリガーセーフティが解除された。
「ごめんなさい」
「謝る必要なんか……ないッ!」
少年の体が、持ち上がった。引き金を弾く、一瞬前だった。
「僕は……大丈夫です! だから……」
血溜まりから体を起こすエリオの顔色は悪い。当然だ。致命傷にならずとも、至近距離で銃撃を受けたのだ。
それに死には遠い量だが、体からは相当量の出血をしているし、着弾によるショックで気絶していた頭は、こんなに早くの復帰には些か耐え難いだろう。
だがしかし、エリオの瞳に宿る力強き炎は、それを良しとしない。
「だから、あなたは……泣かないで、泣かないで下さい!」
「え……っ!」
手を伸ばし、目尻に触れる。
言われて、かがみは初めて気が付いた。自分の頬を伝わる涙に。
そうしている間に、エリオが一歩踏み出した。
「辛かったんですよね。苦しかったんですよね」
「来な……」
かがみの声が音を成すより先に、エリオの言葉が形を成す。
「あなたの苦しみ全部を、僕がわかることは出来ません。それでも、この場には僕がいて、あなたがいる。分け合う事は出来ます」
「え……」
「だから、分け合いましょう。その苦しみを、悲しみを」
既にエリオとかがみの距離は埋まった。
「僕の名前はエリオ、エリオ・モンディアル。そこから、始めましょう」
「ひ……う、ううっ……」
銃がかがみの手から滑り落ち、音を立てる。
――許してくれるんだ。許されていいんだ。
かがみは、エリオの手を取り、泣いた。
◇ ◆ ◇
「その、エリオ……ありがと」
赤らめた目尻を拭いながら、頬を紅潮させるかがみ。その言葉は、緊張からの解放感からか、はたまたエリオへの安心からか。
「いえ、僕は……グッ」
「エリオッ!」
膝を付いたエリオの胸には暗赤――即ち、出血痕。
「大丈夫……ちょっと吃驚しただけです。もう、大した痛みは……ありません」
「でも……」
改めて、自分のやった事を恐ろしく思った。許されてはいけない、そうも感じる。
そんな様子を見越してか、エリオは優しくかがみの手を握った。
「この位、大丈夫です」
「でも……」
「きっと、大事な血管や臓器は無事です。ほら、もう血も殆ど止まってますから」
「そう……だけど」
そうは言っても、あの出血量だ。手放しではいられない。何か――せめて手当て位は、しないと。
「ちょっと、待ってて……あ」
振り向いた足が蹴りつけたもの――銃が地面を滑った。
忌まわしき、銃。エリオをこんな風にした、原因。自分が使った。
「あ……あ…………」
「――僕が持ちます!」
「え?」
「大丈夫、僕が持ちます」
落ち着ける為だけに言った訳ではない。この場に居るなら、どこかで、いつか、使わなければならなくなるものだ。
それはエリオだって重々承知している。
それでも、“持つ”――“使う”とは言えないのは覚悟が足りないが故か。
「え……あ、うん」
エリオを言葉を受け、一先ずデイパックへと向かう。と、もう一つ何かを落としていた事を思い出した。
案の定、デイパックのそばに墜ちている紫のそれをとりあえずスカートのポケットへと押し込め、デイパックを開く。
「えっと……」
漁ってみるも、かがみの望むような医療品は有りそうもない。
――どこかに、病院があれば手当てして上げられるかな。
地図を広げようとして、かがみは気づいた。細かい事だが大事なことだ。まだ、名前を教えていなかった。
「そう言えば、私の名前をまだ言ってなかったわよね。私の名前は柊――」
“かがみ”……その言葉が、エリオに届く事はなかった。
「なッ……うわああああああ」
エリオ・モンディアルだった体の一部……その血溜まりから湧き現れた紫色の怪物は、目と鼻の先の人間――エリオ・モンディアルに襲いかかった。
怪物……それこそは鏡の世界『ミラーワールド』に生息するミラーモンスター。
ベノスネーカー――仮面ライダー王蛇の契約モンスター――はエリオの作った血溜まりの鏡面から出現、その眼前にいる、エリオを「餌」と認識、襲いかかった。
それがカードデッキの主、柊かがみの望むものでないのだが――最早、ベノスネーカーには関係ない。それ程までに、飢えていた。
突然の襲撃に、不意をつかれ為す術もないエリオは無惨にもミラーワールドに引き込まれ、そのまま咀嚼――文字通り無“残”な最後を遂げる。
急な事態に声も上げられず、茫然とする内に目の前で自分を許してくれた少年――エリオが飲まれていくのを見ていたかがみ。
何があったのか、何が起きたのか……それすら分からず、逃げるようにその場を飛び出した。
かがみに分かる事はただ一つ、
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
自分は、決して許されてはいない――いけないのだ、と。
【エリオ・モンディアル@デジモン・ザ・リリカルS&F 死亡】
【残り人数:59人】
【一日目 深夜】
【現在地 E‐2南部/路上】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】健康、極度の精神不安定
【装備】王蛇のカードデッキ@仮面ライダーリリカル龍騎
【道具】なし
【思考】
1.ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
【備考】
※なの☆すた第一話からの参戦です。
※柊かがみのデイパック(支給品一式、ランダム支給品0〜1)はE-2に放置されています
※柊かがみのランダム支給品、グロック19(15/15+1発)@リリカル・パニックはE-2に放置されています
※エリオ・モンディアルのデイパック(支給品一式、ランダム支給品1〜3)はE-2に放置されています
以上で投下終了です。
期限より遅れてしまいまして、誠に申し訳ございません。
感想、ご指摘等お待ちしています。
GJです
のっけからいきなりエリオーーーーーーーーッ!!!!
って、まぁなんとか助かって安心……
いやぁやっぱりエリオはかっこいいなぁって思ってたら……
エリオーーーーーーーーッ!?
カードデッキとは……意外な伏兵ですね。なんていうか、ホラー見てるみたいなドキドキ感がありました。
えー……前回の投下分の、浅倉の鉄パイプについてなんですが、あれは支給品のつもりでした。
表記のし忘れです。編集の際には、ランダム支給品を一つ減らしておいて貰えると幸いです
投下乙です。
二段構えの死亡策GJでした。
龍騎はあんまり詳しくないんですけど変身してない状態でミラーモンスターは呼び出せる、
というか鏡にかざすとデッキから出て来ちゃうもんなんですか?
出てくるよ
契約者が危機に陥った場合と餌として喰っていいとき、あとは戦わせるのに、だね
鏡みたいに反射するものならどこでも出現可能
>>176 なるほど、サンクスです。
戦わせる事が出来るとなるとデッキ自体が武器みたいな物ですね。
10分後に、ギンガ、インテグラ分を投下します
かつ、かつ、かつ、と。
明かりの落ちた薄暗い映画館の廊下に、靴音だけが響き渡る。
敷かれたレッドカーペットの上で揺れる紫の髪が、一種のコントラストを演出していた。
ギンガ・ナカジマは思案する。
ここに至るまでの、その経緯を。
(見たところ、身体は治っているみたいだけど……)
この狂ったデスゲームに至る直前の記憶は、自らの身体を焦がす灼熱の炎。
地上本部防衛戦の折、自分は3人の戦闘機人によって倒された。
エネルギー弾をぶつけられ、左腕をずたずたに引き裂かれ、全身に刺された爆弾を爆破された。
生きていることがまさに奇跡とも言える、瀕死の重傷だ。
にもかかわらず、いつの間にかバリアジャケットを解かれ、管理局員の制服姿に戻った自分の身体は健康そのもの。
その身に刻まれたダメージは、ことごとく回復させられていた。
あの女――執務官フェイトの亡き母にして、重大な事件犯罪者だと聞く、プレシア・テスタロッサ。
戦闘機人技術に関しては、専門外だったはずの彼女がこの治療を行ったということか。内心でそのスキルに軽く恐怖を覚える。
(そして……ここにある、名前)
手にした名簿を、今一度見直す。
スバル、ティアナ、エリオ、キャロ……フォワード部隊の仲間達。スバルはちょうど席が近かったこともあり、今更驚くことはなかった。
その他にもヴォルケンリッターや、隊長陣の名前もある。
問題なのはその隊長陣――なのは・フェイト・はやての名前が、それぞれに2人分ずつ明記されているということだ。
心当たりがないわけでもない。
この名簿には、クラウディア提督クロノ・ハラオウンの名前がある。24歳という、立派な成人男性だ。
そしてあの場で、自分のすぐ横で隣の少女に耳打ちをしていた、黒髪の少年。恐らく年齢はスバルよりいくらか下といったほどだろう。
面影があったのだ。あの少年には、確かに写真で見たクロノの面影があった。
であれば、少年は紛れもなくクロノ・ハラオウン本人。何らかの方法で、過去から最年少執務官時代のクロノを引っ張ってきた。
(繋がる)
強引な解釈だが、これなら全てが合致する。
この場にいる隊長達は、恐らくそれぞれが過去と現在から連れてこられた者達。
その頃のクロノが当たっていた、PT事件ないし闇の書事件当時の、まだまだ幼い3人娘。
特にPT事件の首謀者であったプレシアこそが、この殺し合いを催しているのだ。可能なことならば、おかしなことではなかった。
(この際……何が有り得ることで、何が有り得ないことかは、度外視しておいた方がいいのかもね)
これだけの人数を気取られることなく拉致し、自分の身体をあっさりと治し、時間移動さえも可能とする大魔導師。
何がたった1人の人間にこれほどまでの力を与えたのかは、推測することすらかなわない。
ただはっきりと分かるのは、プレシア・テスタロッサという人間は、既に自分達魔導師の常識の範疇を逸脱した存在であるということだ。
一体他に何をやらかそうと、もはや不思議でもなかった。
軽く、ため息をつく。
そして再び名簿へと視点を落とし、ある人物の名前をじっと見つめた。
(殺生丸さん……)
ギンガにとっては、思い入れの深い男の名だ。
4年前の空港火災の時、僅かな力しか持たずにいた自分を窮地から救い出した、恐らく次元漂流者の男。
そして過去の廃棄区画での戦闘と先ほどの地上本部戦で、管理局に牙を向いた、妖怪を自称する強者。
記憶の中で、ぱあっとあの美しい銀髪が広がる。彼のことは、未だに分からないことづくしだ。
どうして自分を助けてくれたような男が、犯罪者になど加担するのか。
それら全てをひっくるめて、一度ちゃんと話をして決着をつけねばならないと、常日頃から思い続けてきた。
そして彼もまた、今このゲームに巻き込まれて、この広い会場のどこかにいる。
(全てを聞くのなら……今しかない)
きっ、と。
緑の瞳が、彼女の決心を反映し、厳しい光を宿した。
とはいったものの、この暗闇の中でむやみやたらに動き回るのは危険すぎる。
ブリッツキャリバーもリボルバーナックルもない、本調子で戦えないようなこの状況では、夜の闇は十分すぎるハンデだ。
ひとまずはこの映画館で明るくなるのを待ち、そこから行動を開始しよう。
それまでの間身体を預ける場所を求め、ギンガは適当な劇場の扉を開けた。
「――誰だ?」
「っ!?」
突如として響き渡る、声。
見渡す限りずらりと並んだ入場客席の中、その中心に、誰かが背を向けて腰掛けている。
よく響くはっきりとした声だ。声音からして、恐らく女性だろう。
反射的にギンガは身構えていた。
この部屋の先客がいかなる人物か、今はまだ分からない。殺し合いに乗っていた人間だった場合、戦闘をも覚悟せねばならない。
悠然と、視線の向こうで声の主が立ち上がり、振り返った。
長いブロンドヘアーに、褐色のかかった肌。背筋のぴんとした体躯は、女性の割にはやや長身だ
射抜くような鋭い眼光。冷たく光る眼鏡と一分の隙もなく着込んだ黒いスーツが、一筋縄ではいかない厳格な雰囲気を漂わす。
その両手に、武器はない。ひとまず戦うつもりはないようだ。
戦闘にならないに越したことはない。自身も構えを解くと、戦意がないことを証明するため、自らの名を名乗る。
「時空管理局陸士108部隊所属捜査官、ギンガ・ナカジマ陸曹です」
「ほう」
それを聞いた女の眉が、丸眼鏡の向こうで微かに動いた。
どうやら管理局のことは知っているらしい。であれば、この女性は管理世界の人間であるということか。
その口元に不敵な笑みを浮かべながら、女もまた名を名乗った。
「英国国教騎士団『HELLSING』局長、サー・インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲート・ヘルシングだ」
――英国(イギリス)?
今度はギンガが驚く番だった。
確かイギリスとは、自分達の先祖が暮らしていたという第97管理外世界・地球の国家の名のはずだ。
なのはやはやてはそこの出身だと聞いているが、現在はそれ以外にミッドチルダとの接点はほとんどない。
遥かな昔にその存在は忘れ去られ、今では2人の関係者以外には、魔法を知る者すらいないと言われている。
そんな地球の――それも日本以外の国の人間が、何故管理局の存在を知っているというのだ。
「何を驚いている? 八神はやて課長から聞いてはいないのか? お前の妹の身柄を引き取っている組織だぞ」
今度こそ目を丸くして、ギンガは驚愕した。
この女性は、あたかもそのHELLSINGという機関が、管理局に認知されているように語っている。
しかも、機動六課の長たるはやてと、その部下にして自分の実妹であるスバルの名前を出してきた。
前者はまだ、こちらを信用させるための虚偽とも取れるだろう。
しかし、後者の方は明らかにおかしい。はやてやスバルが管理局員であるということは、名簿には全く書かれていないのだから。
ついでに言うならば、スバルが妹であることを見抜いたのも同じことだ。
名字は一緒であるものの、それだけでは家族であること以上の関係は分からない。逆に姉かもしれないし、母や従姉妹かもしれないのだ。
これらのことから、ギンガは確信した。この女性は間違いなく、管理局と――特に機動六課と繋がりを持っている。
そもそもそれ以前に、目が嘘をついていない。現役捜査官として活躍する彼女だ。それくらいは分かる。
しかしここで、新たな問題が浮上してきた。スバルの所属の件だ。
インテグラル卿と名乗ったこの女の話では、彼女は地球のHELLSINGに移籍しているという。
当然、そんなことは有り得ない。スバルは意識を失う数時間前まで、間違いなく自分と行動を共にしていた。六課の構成員として。
ならばこの認識のずれは一体なんだ。どうやって説明をつける。
それぞれが同じ世界を認識していながら、たった1人の人間に、明らかに異なる認識を持っている。
これは一体――
(――!)
ふと、ひらめいた。
そういうことか。
これならば納得がいく。彼女の知る管理局がHELLSINGという未知の組織と繋がっていることも、スバルの認識のずれも。
クロノやもう1人のなのは達は、歴史を同じくして時間の異なる世界から連れられてきた。
これはその逆だ。
お互いが、「時間を同じくして歴史の異なる世界」から連れられてきたのだ。
「分かりません……多分、私は貴方の知るミッドチルダとは、別のミッドチルダから来た人間だと思いますから」
要するにパラレルワールドだ、と。
ギンガは言った。
「……成る程」
意外にもあっさりとインテグラは信用する。ギンガと同じように、嘘をついていないことを看破していたのだろう。
並行世界。
大まかな形はコピーをしたように同じでありながら、起こった出来事や人間関係が異なっている世界。
ありえたかもしれない可能性を体現した、「IF」が現実として存在を持った世界。それが一般的な捉えられ方だ。
恐らく「インテグラのいる地球」もまた、「スバルの離れたミッドチルダ」同様、ギンガの知る世界とは別物なのだろう。
そう、ここでは有り得ないことなどない。先ほどギンガ自身が、そう定義づけたばかりだった。
ひとまずその問題に決着をつけたギンガは、質問をもう一段階先へと進めることにした。
「インテグラル卿……貴方はこのデスゲームとやらで、どのように行動されるおつもりですか?」
まずはそれを確かめねばならなかった。彼女に対し、どのような反応を取るかを決めるためにも。
もちろん、ギンガの立場は決まっている。この殺し合いを止め、プレシア・テスタロッサを逮捕することだ。
相手もまた同じようにこのゲームに乗っていなかった場合は、協力関係を結ぶことも可能だろう。
だが、その逆――相手が殺す気満々だった場合、インテグラを何としても止めなければならない。
不敵に笑う彼女の様子からは、その心情はまるで読み取れなかった。
「簡単なことだ。あの女が用意したゲームをぶち壊す。この私がこのような立場に置かれたなどと、はなはだ不愉快極まる」
どうやらひとまずも、この女は前者側の人間だったらしい。
いらぬ戦闘を避けられたことに、内心で胸を撫で下ろした。
「そして少なからずとも、お前も私と共通した意見を持っているようだな」
そして次の瞬間、身体をびくりと硬直させた。
驚くギンガの視界の中では、相変わらずインテグラが笑っている。
今までのこの短いやりとりで見抜かれた。できうる限りの警戒をしていたというのに。
どうやらこの女は――インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲート・ヘルシングは、相当な切れ者のようだ。
「魔導師ならば、そこそこに腕は立つのだろう? ならば――」
「もちろんです」
同盟関係はすぐに形成された。
体格からして、それほど抜きん出た戦闘能力を持っているわけではないらしい。
すなわち、インテグラは自身のボディーガードを欲している。
そしてギンガにとってもまた、想定される彼女の器量は魅力的だった。
利害関係は一致だ。
「具体的なプランは?」
ギンガが問いかける。
この優れた器量と根性を兼ねそろえた鉄のごとき女ならば、既に何らかの方針を練っていてもおかしくない。
そう思って確認したのだ。
「アーカードを捜索し、合流する。私と同じくこのゲームに放り込まれた、我がHELLSINGの最大戦力だ」
インテグラが答えた。思ったよりも単純な答えだったのは、その人物がそれだけの実力者ということか。
「アーカード?」
「吸血鬼だよ」
沈黙。
唐突に発せられた単語に対し、ギンガの思考が停止する。
「………………………………は?」
ようやく間抜けな声で返事をすることができたのは、10秒以上の間が空いた後だった。
吸血鬼? バンパイア? ドラキュラ伯爵?
この人は一体何を言っているのだ?
「吸血鬼……ですか?」
恐る恐る尋ねてみる。
「そうだ。にんにくを嫌い、十字架を嫌い、太陽に目をそむけ、しかし人より遥かに強い力を持った、あの生き血を啜るモンスターだ」
聞き間違いじゃなかったらしい。
先ほどまでの警戒が嘘のように、がっくりと肩を落とす。
まさかこの人が、こんな冗談みたいなことを口走るとは思わなかった。
吸血鬼、というのは一体どういうことだ。そんな人外の化け物は、おとぎ話に出てくる空想の産物ではないのか。
「……普通アリなんですか、それ?」
「何を言う。私の世界は、お前の世界とは違う常識のもとに成り立つ世界なのだろうが」
そのインテグラの話を聞いて、ようやくギンガは思い出した。
ここには有り得ないことはないのだと。
それはプレシアだけではなく、参加者にも言えること。パラレルワールドの可能性に気付いた時点で考えるべきだった。
要するに、彼女の世界では全くの絵空事として扱われている吸血鬼の存在が、インテグラの世界では常識なのだ。
物騒な世界だな、と思いつつも、それをぐっと内心に押し留める。
こんなことならば、もっと色々な管理世界を回って視野を広めておけばよかったかもしれない。
「我々HELLSINGは、いわば化け物専門の掃除屋だ。化け物退治の鬼札(ジョーカー)が脆弱な人間では、話にならんだろう」
言われてみればそうかもしれない、とギンガは思う。
化け物というのは本来人間の手に負えないほどの存在だから、わざわざ化け物だと言われて怖れられているのだ。
科学力、軍事力、魔力、エトセトラ……ともかく、人間の力で対処できる人外など、そこらに住んでる熊や狼と変わらない。
であれば、化け物を退治するのに1番効率がいい方法は、化け物を引っ張り出してくることに決まっている。
問題はその化け物が「人の手に負えない」という前提の上に成り立つ存在であることだ。
ということは、彼女の率いるHELLSINGとは、その道理を捻じ曲げるだけの何かを成し遂げられるほどの組織ということか。
「しかし、この鬼札にも問題がある。闘争好きな奴のことだ……早々に合流せねば、好き勝手に参加者を殺して回りかねん」
「そんな危険人物なんですか?」
「そうとも。私の制止命令がない限りはな」
言いながら、インテグラは腰ポケットに右手を突っ込んだ。
取り出されたのは煙草の箱。さすがにこの程度のものは、プレシアも見逃していたようだ。
そこから1本取り出し、火もつけずに口に咥える。ライターもないのにそうする当たり、よほど喫煙習慣が身に染みているのだろう。
「殺していいのは我々に向かってくる奴だけだ。それ以外は私の意地にかけて、何としても死守する」
邪魔者を殺すのは仕方がないこと。
この人ならば言いかねないと、心のどこかで分かってはいたが、それでもギンガの胸はきりきりと痛んだ。
願わくば、誰1人として死なないうちにこのゲームを脱したい。
インテグラの言葉を聞いてもその思考が抜け切らないのは、やはり自分が甘いということなのだろうか。
「で、お前は何か目的はあるのか?」
表情を曇らせた様子にはまるでお構いなしに、インテグラがギンガへと問いかけた。
「あ、はい。えっと、個人的にですが……殺生丸という……その……妖怪を追っています」
我に返ったばかりで少々テンパりながらも、質問に答える。
そしてそれを聞いた瞬間、今度はインテグラが押し黙った。
おおよそこの女性には似合いそうもない、ぽかん、とした表情を浮かべて。
「……妖怪というと、あれか。悪魔の類か?」
「え? あ、はい」
「人心を惑わしたり、天変地異をもたらして、それが仕事とばかりに人間を苛めて回る、あれか?」
「多分……」
「……普通アリなのか、それは?」
アンタが言うのか、それを。
内心でツッコみつつも、先ほどの自分の思考を省みて、それは口には出さずにおく。
どうやら自分にとっては、妖怪が世界に存在することが当たり前になっていたらしい。
いつの間にやらそんなことになっていた思考パターンに、頭を痛めるギンガだった。
「……ともかくだ。優先して捜索すべきは、アーカードとその殺生丸の二名ということか」
インテグラが確認する。
「では、今から行動を開始するとしよう。そちらの都合もあるだろうが、アーカードは待ってはくれん」
言いながら、床に置いた自分のデイバックを持ち上げた。
ギンガもまた、無言で彼女の提案に了承する。
本当は危険な夜間はやりすごしたかったのだが、誰かと行動を共にする以上、ある程度は歩み寄らなければならない。
加えて彼女が捜すアーカードという人物が、闘争に愉悦を求めるような変態であるならばなおさらだ。
話で聞くだけでも分かる。そんな奴を野放しにしていては、何人の死者が出るか分かったものではない。
単に殺人を平気で行う人間と、それを趣味にまでする人間は、明らかに違う。
恐らくそのアーカードは、誰かを殺す快楽のためならば、自身の危険すらも二の次にして、相手を殺しにかかるのだろう。
戦闘趣味の人間など、大概が極端な思考を持った狂人だ。自分の身を守るくらいなら、どれだけ傷ついてでも相手を殺すに違いない。
その点が、危険な時には自らの安全を優先して分別を利かせるであろう殺生丸とは違っていた。
ならば行くしかない。
それがこのインテグラならば手なずけられるという確証があるなら、なおさらだ。
かつ、かつ、かつ、と、姿勢よく歩く彼女の後に続く。
「――ギンガ」
不意に、その足が止まった。
「はい?」
急に名前を呼んだ相手に、応じる。
それを聞いたインテグラは、首だけをギンガの方へと向け――笑った。
火も点いていない太い葉巻を口に咥え、あの不敵な笑顔をまたもギンガに向けた。
「あの女に教育してやろう。貴様らの管理局の……そして我々のHELLSINGの授業料が、いかに高額かをな」
【1日目 現時刻AM00:21】
【現在地 G-8】
【ギンガ・ナカジマ@魔法妖怪リリカル殺生丸】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済)
【思考】
基本 この殺し合いを止め、プレシアを逮捕する
1.アーカードを捜索する
2.殺生丸とは今度こそ話をつけたい
3.できることなら誰も殺したくはない
4.可能ならば、六課の仲間達(特にスバル)とも合流したい
【備考】
・なのは(A's)、フェイト(A's)、はやて(A's)、クロノの4人が、過去から来たことに気付きました。
・一部の参加者はパラレルワールドから来た人間であることに気付きました。
・「このバトルロワイアルにおいて有り得ないことは何一つない」という持論を持ちました。
【現在地 G-8】
【インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲート・ヘルシング@NANOSING】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済)、葉巻のケース
【思考】
基本 この殺し合いを止め、プレシアを叩きのめす
1.アーカードと合流し、指揮下に置く
2.その後は殺生丸の捜索に向かう
3.できることなら犠牲は最小限に留めたいが、向かってくる敵は殺す
4.ギンガ・ナカジマ……なかなかに頭はいい方のようだな
【備考】
・同行しているギンガが、自分の知るミッドチルダに住む人間ではないことを把握しました。
・一部の参加者はパラレルワールドから来た人間であることを把握しました。
・葉巻のケースは元々持ち歩いていたもので、没収漏れとなったようです。
以上。
女性知性派ペア結成ー。
投下乙です。
この二人が組むか……なかなか先が楽しみなチームw
あと、時間はあんま詳しく書かない方が良いって議論されてましたよー
投下乙ー
インテグラとアーカードの邂逅が楽しみです
日付が変わる頃に
なのは、ちんく、かれんを投下します
夜の暗さに拍車をかける鬱蒼と茂る林の中で、
一人の少女の瞳には誰にも負けない意思の輝きが放っていた。
許さない。
意思の輝きと共に発せられるのは、炎のように燃え滾った感情。
それが彼女の心を支配する絶対的な気持ちだった。
人一人を簡単に、それも惨たらしく殺し、
それでも尚飽き足らず娘のフェイトを含めた大勢の人たちに殺し合いをしろという。
その言動は高町なのはが信ずる正義の中に当然納まるはずもなく、
自然とこの殺し合いに対する強烈な叛意を内に養わせていった。
「フェイトちゃんのお母さん。ちゃんとお話したいな」
彼女にとって話し合いというのが何を意味するのかはよく分からない。
だがその言葉は彼女の信念を強固にし、揺るぎ無い力を発揮させることだけは確かだった。
取りあえずの方針を決めると、なのはは辺りの気配を窺いながら、手早く名簿を確認した。
先の会場でも気になったことだが、自分を含め、フェイトとはやての名前が二つあった。
しばらくの間、彼女はその疑問を頭の中で弄んでいたが、
やがて今の段階では結論を出せないことに気がつき、思考をそれから切り離すことにした。
続いて彼女は支給品の武器に目を向けた。
宛がわれたのはデバイスらしきカードにフェイトの車とタグに書かれている車の鍵だった。
フェイトちゃんって車を持っているのかな。
心中でそう呟きながら、彼女はまだ幼い親友のお金の使い道に呆れた。
そして同時に親友とも話し合いの必要性があることに気づかされた。
とはいえ、今の彼女にとってそれは瑣末な問題だろう。
彼女はもう一つの支給品であるカードを手に取った。
「これは……インテリジェント・デバイスかな?あなたのお名前は何ていうの?」
沈黙。なのははほんの少しいたたまれない気持ちを味わった。
「そう、ストレージ・デバイスだね!」
そう言うやいなやなのはは左手に持ったカードを天高く掲げる。
そして自身に内に沸き起こった恥ずかしさを振り払うかのように叫ぶ。
「それじゃあ、お願い!セーット、アーップ!」
そう言ってなのはが言葉を発した途端、暗い夜に柔らかい光が煌々と放たれた。
彼女の服は瞬時に分解され、露になったその裸体にバリアジャケットが身に付けられていった。
そうして白い服を纏ったなのはの手に現れたのが、一本の杖だった。
「これはクロノ君の……デバイス?」
そう言いながらデバイスを仔細に見つめるなのは。
これが執務官クロノ・ハラオウンの持つデバイスなら文句はないだろう。
だが、何分初めて手に持つデバイスだ。
どういった役割を持ち、どういった距離で戦うことを前提にして作られているか
そしてこのデバイスはどれほどの性能を有しているかを確かめてみなければならない。
いつ戦闘が始まるともしれないこんな状況では
そういった確認を早急に行うのは当然のことだろう。
そして彼女は魔法の発動に準備を整える。
唱えるのは、ディバインシューター。
大した魔力消費もなく、使い慣れた魔法だ。
それ故にデバイスがどういったものであるかを知るのにはうってつけだった。
澱みなく魔力は流れ、魔法はついに形を成す。
「シューートッ!」
ピンク色に輝く10にも及ぶ光弾は、木々の間を縫うように進み
50メートルほど先の木にぶつかり、弾けた。
威力は下がっているようにも思えるが、大した問題はないだろう。
結果は良好だった。
魔法の発動に滞りもないミッドチルダ式のデバイス。
レイジングハートみたいに意思のやり取りが出来なくて寂しい思いはするはが
これならきっと自分の全力に耐え切ってくれるだろう。
支給品に何が当てられるか不安だったが、どうやらそれは彼女にとって杞憂のようだった。
無論、パートナーのレイジングハートが手に入らなかったのは彼女にとって残念なことではあったが
差し当たっての不都合はない。
武器も確認した。
この殺し合いにおいて叛意を告げる意気込みも問題ない。
そしてその気持ちをプレシアに見せてやろうと泰然と足を進めて彼女は
――木の根に引っかかりこけた。
にゃはは……
と自分のそそっかしさを自嘲しようとしたところで
弾けるような音共に銃弾が自分の上を駆けていくのを確認した。
考えるまでもなく敵襲だ。
もうこの下らない殺し合いに乗った輩がいるかと思うと、やるせない思いで一杯になる。
だが、仮にも彼女は時空管理局の一員だ。
こんなことで動じることがあってはならない。
彼女はすぐさま木陰に身を隠し、相手に問うた。
「ねえ!どうしてこんなことをするの!?」
相手に声が気こえるように、相手に気持ちが届くようになのはは精一杯叫んだ。
「こんなことをしたら人が死んじゃうんだよ!」
それに対する返答は銃声だった。
「話してくれなければ分からないじゃない!」
そしてまた銃声。
言葉を用いないものに対して、なのははおおよそ容赦というものを知らなかった。
「分かったよ。そっちがそのつもりなら、こっちも全力全壊だよ!
その後、ゆっくりとお話を聞かせもらうからね!約束だよ!」
そう言ってデバイスを再び起動したと同時に爆発音。
自分はいつの間にか砲撃を加えていたのだろうか。
なのはの胸に驚愕が訪れるが、すぐに現状を確認すべく目を向ける。
どうやら銃弾を発射している人のところで起こったようだった。
一体何が起こったのだろうと考えるが、それついての答えを出す間もなく
続けざまに一つ、また一つの爆発音が辺りに響いた。
突如起こった爆発の連続。その疑念になのはの目が開かれる。
そして次の瞬間に強烈な光がなのはの目を覆った。
思考が止まる。
自身の無防備な姿に気がついたのは、その数秒後だった。
急いで警戒態勢をとるが、銃による襲撃者の気配は既になく
それを知らせるかのように無音が鳴り響いていた。
だが、ここで警戒をゆるめるわけにはいかないということをなのはは知っていた。
何故なら先ほどの爆発は襲撃者が他にも一人いる可能性を示していたのだから。
なのははあらゆる攻撃に対応できるように構える。
呼吸をゆっくりと落ち着け、唱えるべき魔法を確認する。
心臓が自然と高鳴る。汗が額を覆う。
いつもとは違う戦闘状況がなのはに緊張を与えていた。
「Alert!」
S2Uの警告声が響くと同時に右横に杖を向ける
そしてすぐさま魔法を発動しようとして、その意を削がれた。
その相手が余りに堂々としており、悠然ともいえる歩調で
ゆっくりとこちらに向かって歩いてきたので、その対応に困ってしまったのだ。
結果として、その逡巡はいい方向に運んでくれた。
爆撃手は殺し合いにのっていなかったのだから。
なのはの予想を裏切り、目の前にあっさりと現れたのは小柄な女の子だった。
見たところ、自分より年上だ。
目を見張るような銀髪で片目に眼帯をしているのがひどく印象的だった。
だけどそれよりも一番目に付いたのは身にまとっているタイトな青色のスーツだろう。
これもバリアジャケットなのだろうか。
そして容姿に似合わない鋭い目つきが剣呑な雰囲気を放っていた。
「無事だったか」
「あの、助けてくれたんですか?ありがとうございます」
「そういうわけではない。ああいった輩がいては妹の身に危険が及ぶと考えての行動だ。
感謝されるいわれはない。結果的にはあいつを逃してしまったしな」
「それでも助けてくれました。えーと、それでこの殺し合いにはのっていないんですよね?」
「当たり前だ!妹がこんなことに参加させられているというのに、優勝など目指せるか!
全く忌々しい!おまけにあんな支給品で人を殺せだと!?ふざけるのも大概にしろ!」
苦虫を潰したような顔で語る彼女の顔には正真正銘の怒りが滲み出ていた。
大切な人を失ってしまうかもしれないという恐れ、そしてそんな状況に追い込んだ人に対する怒り。
目の前の彼女は信用できる。
それがなのはの下した結論だった。
「しかし、お前はどこかで会ったことがあるような感じがするな。名前は?」
「なのはです。高町なのは」
「高町……なのは、だと?」
その名前を聞き、彼女は僅かに狼狽を覚えた。
自分の知っている高町なのはとは随分と様相を異にしているからだ。
全次元において勇名、悪名問わずにその名を馳せる彼女の名前を
偽名として持ち出すには余りにデメリットが大きい。
何故なら名前と共にその顔も広まっているからだ。
そんな簡単にばれるような嘘をつくなど、それこそ馬鹿か狂人のすることだろう。
だが、彼女が馬鹿にも狂人にも見えないし、嘘を言っているようにも見えない。
それならば、彼女は一体何者であるか。
ドクター・スカリエッティの元にいるチンクには容易にその答えが思いついた。
この少女も恐らくはプロジェクトFの遺産なのであろう、と。
高町なのはは優秀といった言葉をそのまま体現したかのような魔導師だ。
なればこそ、ドクター以外にもどこぞの科学者や軍事機関が彼女のクローンを作り、
魔導師について研究をしたり、自軍の戦力の増強を図るというのは簡単に考え付くことだった。
「なるほど。お前が名簿に載っていたもう一人の高町なのはの正体か」
そしてその考えは自然とフェイト、はやてのクローンの存在を喚起させた。
彼女たちがどういった思惑で作られ、どういった行動するか正確なところは分からない。
だが、警戒はすべきなのだろう。
その容姿を使えば、場を混乱に導くのは簡単だ。
このなのはのように子供であるのなら、騙される輩はそう多くは出ないと思うが。
「ふぇ?もう一人の私を知っているんですか?」
チンクの思考を中断するように、なのはが訊ねてきた。
「お前は知らないのか……」
自分がクローンであることを、と心の中で言葉の先を告げた。
チンクにはその事実をなのはに告げることが躊躇われた。
勿論、秘匿すべきほどの情報ではないということは知っていたが、
どうしてもその言葉を言った後の目の前の少女が悲しむ姿を想像してしまい
それが自然と彼女の口を重くさせていたのだ。
これは優しさなのだろうか。
そんな疑問を思い浮かべた瞬間、チンクは頭を横に振って考えを振り払った。
違う。断じて違う。
自分は事実を告げて目の前の高町なのはが取り乱してしまい、
情報を引き出すことに問題が生じることを危惧したのだ。
彼女の気持ちに気を遣ってのことではない。
チンクは自分の考えに保証を加えるべく、なのはをねめつけた。
それを受けて若干怯むなのは。
何かいけないことを聞いてしまったのかと思い、話題を転じることにした。
「えーと、お名前は?あなたのお名前はなんていうんですか?」
不安を胸に恐る恐る聞いてみるが、ちゃんと答えは返ってきてくれた。
「チンクだ」
「チンクさんですか」
「…………どうにも慣れんな。さんなどつけなくていい」
「チンク……」
そうは言われても年上の女性を呼び捨てに出来るほどなのはは不躾でも大胆でもなかった。
しかし、彼女の意に満たない物言いでまた剣呑な雰囲気を呼びこむことも躊躇われた。
そうしていい呼び方がないかとなのはは思案する。
そして思い至ったのが彼女に妹がいるということだった。
「チンクお姉さん」
その言葉を発した途端、射るようになのはに目線を向けていたチンクの顔は突如として横に向けられた。
なのははいきなりのことに疑問に思い、その旨を訊ねようとしたところで
その意は彼女の言葉に遮られた。
「……チンク姉だ」
「はい?」
「姉のことはチンク姉と呼べ。妹はそう呼ぶ」
【1日目 深夜】
【現在地 C−8】
【高町なのは(A's)@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】健康
【装備】S2U
【道具】支給品一式、フェイトの車の鍵
【思考】
基本 プレシアと話し合いをする
1.チンクと話し合いをする
2.殺し合いに乗った人と話し合いをする
3.名簿に載っているもう一人の高町なのは、フェイト、八神はやてと話し合いをする
4.仲間との合流
【備考】
※制限に気がつきました
※フェイトの車(StS第2話で登場)がどこにあるかは知りません
※S2Uがなのはの全力に耐えられるかは分かりません
【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、工具セット、料理セット、ランダム支給品0〜1個
【思考】
基本 妹の保護
1.高町なのはから情報を引き出す
2.妹の身に危険を及ぼすと思われる輩の排除
3.フェイトとはやてのクローンに警戒
4.タイプ・ゼロの捕獲を含め管理局及び機動六課に対してはどう対処しようか
5.クアットロはまあ大丈夫だろう
【備考】
※目の前の高町なのはがクローンであると認識しました
※今のところ高町なのはにクローンだと告げるつもりはありません
※この会場にフェイト、八神はやてのクローンがいると認識しました
※ランダム支給品は全てハズレでした
※料理セットは一人暮らしの人に向けて販売されている簡単な調理器具の一式です
※参戦時期はスバルのISを喰らって、生体ポッドで修理中の時です
* * *
カレン・シュタットフェルトは暗闇の中、無我夢中に走っていた。
気がついたら訳の分からない場所にいて、女性が殺されていた。
それについての答えを出そうと頭をひねるが、
その間もなく次の瞬間にはまた別の場所に放り出されていた。
場面と場面との連結が上手くいかない。
自分が何故、いつここに来たのかが分からない。
自分は一体何をしていたのだろうか。
自分は夢を見ているのだろうか。
殺し合いが始まってすぐのカレンの頭には幾つもの疑問が占めていた。
そして幾らそれに考えを及ばせても答えは決して出なかった。
よく分からないまでも、まずは今自分を取り巻いている状況を確認すべきだろう。
そう思い、カレンは人を、情報を探して歩き始めた。
そうしてしばらく歩いて一人の子供が目に入った。
夜の林の中で一人佇む少女。
多少不審には思ったが僥倖とばかり急いで彼女のところに向かい、話を聞こうとしたら、
彼女はいきなり発光し、変身をした。
訳が分からなかった。
そしていつの間にか手に持った杖で、かどうかは分からないが間髪いれずに射撃。
何もないはずの周囲の空間に光り輝くものが浮かび、それがまるで意思を持ったように襲ってきた。
訳が分からない。
ともかく命の危険を感じたカレンは銃で反撃を試みる。
相手が何かを言っていたような気がするが、それを聞き届けているような余裕はなかった。
既存の武器を超えた超兵器を用い、常識を超えた攻撃を仕掛けてくる少女。
そんな状況を前にしてどうして冷静でいられようか。
そして次にカレンの思考を揺るがしたのは爆発物の投擲だった。
その爆発物が手榴弾やそれに類するものだったなら分かる。
まだ理性を保てていたかもしれない。
だけど実際に爆発したのはスパナ、それに鍋やフライパンといったものだった。
訳が分からない。
逼迫した状況に耐えかねたカレンはバッグの中にあった閃光弾を取り出し、
それを相手の方に放ると、すぐさま逃げ出した。
これが夢というのなら納得がいく。
目の前に繰り広げられる状況が余りに常軌を逸していたからだ。
だけど、この身体に生じた火傷の痛み、走っての疲労が夢だということを否定していた。
そしてそれは同時に絶望を意味していた。
これは現実。
事実とも言えない事実に、尚更カレンには理解が及ばなかった。
それともこれはリフレインのような麻薬がもたらした幻覚の一部なのだろうか。
もう何が何だか分からない。
既に彼女の常識は覆され、その認識は崩壊していた。
自分が何者であるかも分からない。
本当に私はカレンなのか。
本当に私は生きているのか。
それすらも最早疑問の対象だった。
だけど、そんな彼女の中にも一つだけ確かなものは存在していた。
カレンの中に思い浮かぶのはゼロの姿だった。
停滞していた日本の解放戦線に新たな息吹をいれてくれたゼロ。
彼はどんな困難な状況でもそれを覆し、私を導いてくれた。
彼ならばきっと今の自分を救い出してくれるはすだ。
ゼロ、ゼロ、ゼロ。
ゼロに会いたい。
彼女はただひたすらにゼロを求め彷徨った。
【1日目 深夜】
【現在地 D−8】
【カレン・シュタットフェルト@コードギアス 反目のスバル】
【状態】混乱(大)、疲労(小)、身体の幾つかに軽い火傷
【装備】SIG SAUER P226 (13/16)
【道具】支給品一式、手榴弾一式(破片手榴弾、焼夷手榴弾、催涙弾、発煙筒)、ランダム支給品0〜1個
【思考】
基本 ゼロに会って指示を乞う
1. ゼロに会いたい
【備考】
※現状を全く把握していません
※ゼロ以外全ての者に対して疑心暗鬼の状態です
※手榴弾一式の内、閃光弾を消費しました
以上です
投下終了しました
投下乙です。
なんだこの新感覚コンビw
そしてカレン。
お前は素人かw
もちっと、エースパイロットとしての貫禄を見せてくれw
あと、プレシアが生きてることに、なのはがノーリアクションなのは微妙な気が。
多少の反応はあって言いと思う。
それとオープニングで、もう一人の『なのは』や『アリサ』の事も見てる訳だし、それについてももっとリアクションが欲しいなぁ……
>>197 感想ありがとうございます
指摘されたことを考えて書き直してみます
上手くいかなかったら破棄します
>>196 GJ
クローンと認識するというのはおもしろいと思いました。
ただ、そこへ考えが至る前段階として、
自分の知るなのはと相違もあるがよく似たところもあることに気づく描写があるとよりよいかと。
参加キャラの状態表における現在時刻の表記に関して、ルールが以下の様に変わりました。
書き手の皆様は、これをご留意の上で執筆して頂く様お願いします。
時間
キャラの状態表における現在時刻は、並記してある時間に照らし合わせて、以下のうちから適合したものを書き込んでください。
・深夜:0〜2時
・黎明:2〜4時
・早朝:4〜6時
・朝:6〜8時
・午前:8〜10時
・昼:10〜12時
・日中:12〜14時
・午後:14〜16時
・夕方:16〜18時
・夜:18〜20時
・夜中:20〜22時
・真夜中:22〜24時
修正乙です!
カレン、かっけぇええ!
左手吹っ飛ばされても撃ち変えすとか、かっこ良すぎですよ。
そしてチンク、行動が冷静すぎるw
なのはの考察もちゃんと追加されていたし良かったと思います!
GJです!
5分頃から、ルルーシュ&ディエチ分を投下します
夜空。
開けた土地の上で、満天の星が輝いている。黒天の闇の中で、さながら宝石箱をひっくり返したかのように。
どこまでも続く無限の空の下には、極めて限定的な有限の大地。
開けているといっても、極端に広大なわけではない。
少し西の方には街が広がっているし、地図を見れば、少し東には森も広がっている。
そして更にその限りある平原の中で、ぽつんと建った小さな駅。
どこぞの片田舎にでもあるような、小さな小さな古ぼけた駅だ。
(まるで今の俺そのもののようだな、ここは)
少年――ルルーシュは、名簿を片手に苦笑した。
そんな駅のプラットフォーム。暗闇の中に置かれた真っ白なベンチに腰掛け、様々な資料に目を通している。
ここは自分と同じだ。突然この広大なゲームフィールドに放り込まれ、閉じ込められた、ちっぽけな自分そのものだ。
――ルルーシュ・ランペルージはゼロである。
侵略された日本・エリア11を、支配者たる神聖ブリタニア帝国から奪還するために立ち上がった、正義の革命家の名だ。
皇子たる自分と皇女たる妹を捨てた祖国に復讐を誓い、数多の屍で塗り固められた道を進む、冷徹無慈悲な魔王の名だ。
目と足の自由を失いながらも健気に生きている妹ナナリーのため、平和な世界を作ることを目指す、優しい兄の偽名だ。
そのゼロたる彼が、いかにしてこのような殺し合いの場に連れ込まれたのかは、想像するしかない。
他ならぬルルーシュの記憶にもないまま、気付けば椅子に縛り付けられていたのだから。
途切れる直前までの記憶を追想する。
崩落する大地。蹂躙されるナイトメアフレーム。数万にも及ぶ大軍団の怒号。
彼の率いる「黒の騎士団」は、ブリタニア行政府への最終攻撃作戦を敢行していた。
超大国ブリタニアを束ねる皇帝シャルル・ジ・ブリタニアを動かすべく、日本を自らの国へ変えるために。
帝国の植民地1つをまるまる乗っ取り、実の父と直接戦争をするために。
しかし、問題が発生した。戦闘中にナナリーが誘拐されたのだ。
当然ルルーシュは追った。日本の遠洋に位置する孤島、神根島まで足を運んで。
自らの駆るナイトメアを降り、そのナイトメアを見つけた古代遺跡に入った矢先――そこで記憶は途切れた。
(あのタイミングで、俺は何らかの手段によってここに連れ込まれたということか)
僅かに眉をしかめる。
冗談じゃない。これから自分はナナリーを助けに行かねばならないというのに。
今こうしている間に、最愛の妹がどんな目に遭っているか分かったものじゃない。
何としてもナナリーを救出しなければ。でなければ、自分は何のために心を傷つけ、罪を背負い、修羅の道を歩んだというのか。
今すぐにでもこのゲームから抜け出さねばならない。
そのための手段は、既に色々と考えていた。誰かに殺し合いを強制されるというのもまた、癪に障ることだったからだ。
まず、主催者プレシアを倒す――不可。相手が魔法とやらを使う以上、彼女の元へ普通の手段で行くことができるのかは分からない。
飛行機か何かを見つけて逃げる――不可。みすみす参加者を逃がすようなものを、配置することはないだろう。
地図上の客船や、何故かあった騎士団車両を使って逃げる――不可。同様の理由から、燃料の類は抜き取られているはずだ。
それが無理ならば徒歩で逃げる――これも不可。そんなことをしていては体力がもたない。逃げられても、そのままのたれ死ぬ。
ではどうすればいいのか。最も確実にこの場所から抜け出す方法は何だ。
何十回も何百回も考えたが、結局のところ、彼は1つの結論しか見出すことはできなかった。
(……やはり、優勝するしかないか)
他の参加者達を殺し、生き残る。
誰かの理不尽な命令に従うというのは不服極まることだが、他に方法がない以上は仕方がない。
(だが……プレシア・テスタロッサ)
夜空を見上げて、星々を睨んだ。
その先で今も自分達を見ているであろう、あの不愉快な女を見据えて。
(いずれお前もまた、あの見せしめの後を追わせてやる……!)
深い怒りと憎しみと共に。屈辱に震える拳を握り締めて。
このゼロに喧嘩を売ったことを後悔させてやる――ルルーシュは胸に固く誓った。
そして、手にした名簿へと視線を落とす。
他の人間を殺すといえども、何も皆殺しにするというわけではない。
ブリタニアの兵士ならば顔色1つ変えず手にかけるルルーシュだが、そこは優しい普通の少年だ。
何故か共にここへ連れてこられた、友達や仲間を殺すことは躊躇われた。
(まずは……スバル)
初めてこの名簿に目を通した時、1番最初に目に付いた名前――それを発見した時には、一瞬思考が止まっていた。
脳裏に蘇る、あの屈託ない朗らかな笑顔。緑の瞳と青い髪が、鮮やかに闇の中に浮かび上がる。
いつの間にか、最も大切な友となっていた少女だ。
7年来の幼馴染みは、場所を違えれば最悪の敵として立ちふさがる。学校の仲間達には、隠し事ばかりを重ねている。
そんなルルーシュの全ての秘密を知り、それでも味方でいてくれた、唯一の友達――それがスバル・ナカジマ。
自分達の世界においては、彼女は客人だ。
異次元世界からやって来た魔法少女という、冗談もいいところな存在だ。
そんなスバルと彼は出会い、境遇を知り、境遇を知られ、それでも互いに信頼し合い、最後には遠ざけた。
今やルルーシュは完全にゼロとなっていた。学生だったルルーシュ・ランペルージには戻れなくなっていた。
スバルはそれでも、壊れ続ける彼を止めようとしてくれたが、ルルーシュにはこれ以上彼女を巻き込むことは耐えられなかった。
だから、ひとまず安全なフジの政庁跡へと置いてきたのだったが、
(俺が甘かったということか……!)
これは自分のミスだ。
黒の騎士団の一部勢力を残しておけば、それで安心だろうとたかをくくった自分の油断が、結局彼女を巻き込んでしまった。
(スバル……すまない……)
内心で懺悔する。
自分は駄目な男だ。彼女を泣かせ、彼女を遠ざけ、それでも彼女を守ることができなかった。
だからこそ。
それが偽善であったとしても。
(せめてここからは……必ずお前を助け出してみせる)
それだけは譲れなかった。
この狂気と殺意に満ちたデスゲームの中で、それだけは譲れなかった。
(続いて……シャーリー)
ルルーシュはその下の名前――シャーリー・フェネットの名前へと視線を落とした。
途端、その瞳が曇る。
彼女はルルーシュが、犠牲にしてしまった存在だ。
彼が指揮したナリタ山での戦闘は、このクラスメイトの父親を偶然ながらも殺してしまった。
やがてシャーリーは全てを知る。父の死を。殺したのがゼロであることを。ゼロの仮面の下の正体を。
ひょっとしたら、彼女は自分のことを、愛してくれていたのかもしれない。
だからこそ、シャーリーは、素直にルルーシュを殺すという道を選ばなかった。
故にゼロへの殺意とルルーシュへの愛の相克に揺れ、その精神に亀裂を走らせた。
砕けかけたシャーリーの心を救う手立てとしては――彼女の記憶を奪うことしか選べなかった。
(俺は人を巻き込んでばかりだ)
自分が起こした反逆のために、彼女の心は書き換えられた。
ルルーシュ・ランペルージというボーイフレンドを忘れたシャーリーの姿は、自分が犯した罪の証だ。
そう。彼がそれでも歩むのは、彼女のためでもある。出てしまった犠牲が、それこそ無駄に終わらないために。
(だが、君はまだ生きている)
生きている以上は、生き続ける権利がある。
それを守ることもまた、彼女を犠牲にしてしまったルルーシュの責任だった。
(それから……カレン)
3番目の名前は、ことにゼロとしての自分にとって、重要な意味合いを持つ名前だった。
生徒会の友人であるカレン・シュタットフェルトは、同時に黒の騎士団エースパイロットの紅月カレンでもあった。
彼女は優秀だ。ゼロを信頼し、ゼロの期待に応える働きぶりを見せてくれる。
だからこそルルーシュもまた、彼女を優秀な部下として信頼し、自らの親衛隊長に据えていた。
もっともカレンは、頭でっかちのひねくれ者なルルーシュ・ランペルージとはそりが合わなかったようだが。
ともかくも、今後も頼りにできそうな存在ではある。
しかし、彼女との付き合いは、シンジュクで初の戦闘を行った時からの短い関係でしかない。
(もしもの時には、切り捨てるのもやむなしか……)
だからこそルルーシュの思考は、そちらへと傾いていったのだろう。
共に生き残るに越したことはない存在ではあったが、自らの命を賭けるには、少々思い入れが弱かった。
(最後に……C.C.)
あの「共犯者」は、こんな大会においても偽名で登録されているらしい。
正体不明。年齢も人種も、人間であるかさえも知らない。知っているのは傍若無人な性格と、偶然耳にした本名だけ。
そんな不確かな存在でありながら、自身の決起の最大の要因となった少女――それがC.C.だった。
問題なのは、彼女の能力だ。
C.C.は死なない。頭をブチ抜かれようが、身体中を蜂の巣にされようが、すぐにその傷は回復してしまう。
そんな不死身の存在が、殺し合いのゲームの中にいていいものなのだろうか。
いや、プレシアは一部の参加者に制限をかけたと言っていた。
つまり、今ならば殺せるということか。どうにかして再生能力を衰えさせたということか。それにしても程度は――
「……ハハッ」
そこで自らの思考に気付き、ルルーシュは力なく笑った。
(俺はC.C.を殺そうとしてる)
心底呆れ返る心地だった。
どんな時でも共犯者として、共に戦っていこうと契約を持ちかけたのは、他ならぬ自分ではないか。
そんな自分が、相手が化け物じみた身体を持っているということだけで、殺す算段を頭の中で組み立てている。
脆いものだ。
人間の信頼関係など、こうもあっさりと歪んでしまうものなのか。それほどに自分は卑怯な人間だったということか。
(いずれにせよ――、ッ!)
ルルーシュの思考が強制的に打ち切られる。
風に乗って、無音の平野に響く音が聞こえてきた。この駅に、何者かが近づいてきている。
すぐさまルルーシュは立ち上がり、その左目をかっと見開いた。
紫の瞳の中、ぽうと灯る真紅の光は――絶対遵守の力・ギアス。
さながら闇の中を飛翔する不死鳥のごときエンブレムは、人間相手ならば誰にでも1度だけ命令を下すことができる王の力。
自在にオンオフできるようになっていたのは、殺し合いに余計な気遣いを持ち込まないようにとのせめてもの配慮だろうか。
だとしたら、その威力さえも調節されている可能性は多分に考えられる。
一種の洗脳のようなこの能力は、こうしたサバイバルゲームでは比類なき力を発揮する、いわばチートアイテムだ。
「死ね」と一言命じるだけで、あらゆる敵を始末できる。そんなことは、明らかに不公平。
だから今は、このギアスがどれほどまでに使うことができるのかは分からない。
直接的に相手を殺すことができなくなっているだけかもしれないし、あるいは持続時間などにも影響が出ているかもしれない。
それでも、この場に残った2つものだけがあれば、現状ならまだ十分に使える。
このギアスが「相手を従わせるものである」という事実と、不気味に光る外見的特徴があれば。
「弱ったな……」
うんざりした様子で呟きながら、1人の少女が平地を歩いていた。
茶髪のロングヘアーを後ろで黄色いリボンでまとめ、尻尾のように垂れ下げている。
身体に着込んだのは、青系の色を基調としたフィットスーツだ。ところどころ装甲板が当てられたそれは、さながら戦闘服のような意匠。
首元に刻まれた金色の文字は、「]」というギリシャ数字。そして、それはそのまま彼女の名前でもあった。
戦闘機人第10号・ディエチ。主催者プレシアとも関わりのあった科学者ジェイル・スカリエッティの、かつての尖兵だ。
かつての、ということは、要するに今はそうではないということになる。
彼の威信を賭けた、聖王のゆりかごでの攻防戦。スカリエッティは、ナンバーズは、その戦いに敗北した。
ひとまず処分が決定するまでと管理局に回収され、そのまま眠りについた夜。それがディエチの最後の記憶。
(管理局の防衛システムの突破……プレシア・テスタロッサなら、そこまでやれてもおかしくないか)
いわゆる管理世界の中でも、今や最大戦力となっている時空管理局。
かつての自分達スカリエッティ一派ならまだしも、他の武装組織では容易にセキュリティを破ることはかなわない。
しかし、空間魔法技術に関して飛び抜けたものを有していたプレシアの能力ならば、自分を施設から連れ去ってもおかしくない。
だが、問題はそこではなかった。
(クアットロともチンク姉とも無線が繋がらない……)
名簿を見れば、自分の姉妹のうち2人がここに来ていることが分かる。
ならば内蔵された無線機能で意思疎通が図れるはずなのだが、どうにもそれが繋がらないのだ。
(いじられたかな? あたしの身体)
何だか薄ら寒さを感じる。
ともかくもそういうわけで、彼女らと合流するには、どうやら地道に捜すしかないということは分かった。
そしてそんなことを考えているうちに、ディエチは小さな駅にぶち当たる。
いつの間にか近くまで来ていたようだ。妙に小ぢんまりとした古い駅が、すぐ目の前に立っていた。
さてどうするか、とディエチは思案する。
狙撃手という役割を担う彼女の目は、他の戦闘機人よりも比較的高性能なカメラによって作られていた。
故に夜間で戦うというデメリットは、ディエチには存在しない。彼女の千里の目をもってすれば、夜の闇などなきに等しい。
それでも休めるうちに休んでおいたほうがいいかもしれない、とは思う。
結局そのまま、この駅をどう使ったものかと悩んでいたが――
「――こちらを見ろ」
不意にそこへ、よく通る声がかけられた。
「!?」
反射的に身構え、声のする方向へ視線を向ける。
1人の少年が、プラットフォームに立っていた。
闇に紛れるかのような漆黒のマント。髪の色も同じく黒。そしてその左の瞳には、不気味な光が宿っている。
「俺の目を前にしては、どんな奴も俺の命令には逆らえない」
少年は言葉を続ける。
あながちそれは間違いでもなさそうだ。あの瞳の赤い光からは、未知のエネルギーが感知されている。
魔力でも、戦闘機人の動力でも、単純な電力でもない。データバンクには存在しないパターンのエネルギー。
下手に抵抗しては、何やらまずいことになりそうだ。
そう判断すると、ディエチはすっと構えを解いた。
「理解できたみたいだな」
ふっと笑みをこぼすと、少年は――ルルーシュは、左目のギアスを解除した。
「ルルーシュ・ランペルージだ」
「あたしはディエチ」
お互いに名乗る。どちらも名簿の中に確かに存在する名前だ。
「ひとまず、こちらまで来てくれないか?」
ルルーシュが尋ねる。
言われるままにディエチは線路と外部を隔てる低い柵をまたぎ、線路上を横切り、プラットフォームへと向かった。
そして勧められたベンチに腰掛け、ルルーシュと隣り合う形となる。
「お前はこのゲーム、どうするつもりだ?」
話題を切り出したのはルルーシュだった。
プレシアの口馬に乗って殺戮を始めるのか、それとも反抗して不殺の道を行くのか、それとも――
「とりあえず、手段は選んでらんないかな。身内の安全がかかってるし」
「ほぅ、俺と一緒というわけか」
ディエチの思考はルルーシュと同じだった。
この少女は、自分と同じくゲームに巻き込まれた仲間を救うためならば、他の参加者をも殺すつもりでいる。
ならば、共に行動するのも容易い。
戦闘服のような服装を着ているということは、そこそこに腕も立つのだろう。
大半の運動は苦手で、1人では大した戦いもできないルルーシュにとっては、最適なボディーガードだ。
「俺と行動しないか?」
故に、ルルーシュはそう切り出した。
ディエチは一瞬、真剣になって考える。
確かにこの不特定多数が参加するデスゲーム、1人で戦うよりは仲間を持った方が有利だろう。
特に参加者の中には、高町なのはなどのエース級魔導師の姿もある。自分1人だけの力では、どう転んでも倒せない。
それに拒否したところで、この少年には奇妙な力がある。
催眠術の類なのだろうが、あの瞳で命令されれば、自分の自由意志など関係はなくなるらしい。
逆に考えれば、その力を味方につければ、自分にとってかなり有利になる。
「……分かったよ。手を組もう」
「賢明な判断だ」
結果、ひとまずこの場は同盟関係を結ぶことになった。
「お前の身内というのは?」
ルルーシュが次の問いを投げかける。
「ここに名前が載ってる、クアットロとチンク」
ディエチは彼の持っていた名簿を、指でなぞりながら説明した。
それを確認すると、ルルーシュもまた自分の関係者の名前を出す。こちらだけ隠しておくのはフェアではない。それでは信用は得られない。
「タイプゼロの知り合いなんだ」
「タイプゼロ?」
「この、スバル・ナカジマって奴。あたし達戦闘機人の初期型だよ」
事も無げにディエチは言い放った。
その余裕は、彼女らとそのタイプゼロの所属する管理局との決着が、一応訪れたことの表れだろうか。
「そうか」
一方で、うっかりギアスを使うということをしなかったのを、ルルーシュは内心で安堵する。
そもそもギアスとは、人が人に命令を下すための力だ。戦闘機人のような、非人間の身体には通用しないのである。
事実、かつて河口湖のコンベンションホテルで、スバルの正体を確かめるためにギアスを使ったが、彼女はその影響を受けなかった。
そして、このディエチという少女もまた、スバルと同じ戦闘機人なのだという。
先ほどギアスを発動させていたならば、あっさりとネタがバレてやられていただろう。
「なら後は、お互いの装備の確認だな」
言いながら、ルルーシュはデイバックのファスナーを開け、中にあったものを取り出した。
最初に出てきたのは、少々小さなサイズの3つの樽だ。何の変哲もない樽だったが、よく見ると導火線のような紐が出てきている。
恐らくこの中には、着火することで炸裂する爆薬が詰まっているのだろう。
「火をつける手段もある」
続いて取り出したのは、ひどくアンティークな作りのライターだった。
そして最後に出てきたのは、柄に「洞爺湖」と漢字の彫られた、それこそごくごく普通の木刀。
取り回しに不便な大きな爆弾3つと、殺傷能力の低い木刀。
一見するとハズレのような装備だが、彼にとっては十分だ。これだけあれば、彼の頭脳を持ってすればある程度の戦闘はこなせる。
「あたしのは、これ」
ディエチもまた、デイパックから装備を取り出す。
最初に出てきたのは、何やら随分と大きな白銀の拳銃だ。こんな物が人間に扱えるのか、と疑いたくなる。
渡されたディエチが人間よりも優れた力を持った戦闘機人なのだから、ゲーム中に使う分には問題ない。
だが、これも恐らくどこかからプレシアが持ち出したものなのだろうと思うと、頭が痛くなってきた。
彼女には銃に対するリアクションはない。つまり、戦闘機人とは全く赤の他人の持ち物。どんな奴が振り回していたのだろう。
「それから……あとこれも」
しかし、続いて取り出された物を見た瞬間、ルルーシュの目の色は変わっていた。
「ほほぅ、これはこれは」
白い小さな器具が2つ、ディエチの手の中にあったのだ。
ブリタニア軍で用いられていた、イヤホンタイプのインカムだ。この配色は、親友にして宿敵の枢木スザクが使っていたタイプである。
恐らく通信範囲はかなり限られたものであろうことは想像できたが、それでも十分な収穫だった。
少し離れた場所からも意思疎通が行えるということは、作戦の幅を大きく広げることになる。
おまけにこれは自分の世界の物。扱いに困ることもない。
「片方、渡しとくよ」
「ありがとう」
ディエチからそれを受け取ると、感謝の言葉を述べて、早速耳につけた。ディエチもまたルルーシュにならう。
これで今行うべき情報交換は大体完了した。ルルーシュとディエチはこの瞬間をもって、正真正銘の仲間となったのだ。
黒きマントを翻し、ルルーシュは彼方を見やる。
森の中へと続いていく、微妙に錆び付いた鉄道の線路を。
「――このレールは、一体どこへと続いているのか」
そして、不意に口を開いた。
「……どこにも続いてないんじゃないかな?」
訳の分からない言葉に戸惑いつつも、ディエチは率直に答える。
これがどこかの駅に続いていたら、せっかくのゲームの意味がなくなってしまうからだ。
もしそうならば、線路の上を歩いていけば、簡単にフィールドから脱出できてしまう。
つまりこの線路は、フィールドの境界にぷっつりと遮られているはず。
「いや、続いているさ」
しかしルルーシュは言葉を続ける。
「意志があるところにこそ、見えない道は続いている。……俺達の勝利に繋がっている」
そして、振り向いた。
絶対的な自信に満ちた、一種邪悪ささえ漂わせる、大胆不敵な笑みが、そこにはあった。
「このゲーム……必ず俺達が勝つ」
【1日目 深夜】
【現在地 E-7 駅】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反目のスバル】
【状況】健康
【装備】洞爺湖@なの魂、ブリタニア軍特派のインカム@コードギアス 反目のスバル
【道具】支給品一式、小タル爆弾×3@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、インテグラのライター@NANOSING
【思考】
基本:守りたい者を生き残らせるべく、他の参加者を殺す
1.スバル、シャーリー、カレン、C.C.を保護したい
2.可能なら、ディエチの身内(クアットロ、チンク)とも合流する
3.スバル、シャーリー……2人は必ず俺が助け出す!
4.ゲーム終了時にはプレシアに報復する
5.あんなデカイ銃、一体元はどんな奴の持ち物だったんだ……?
【備考】
・ギアスに何らかの制限がかかっている可能性に気付きました。また、ギアスのオンオフは可能になっています。
・スバルがStS本編から来ていることに気付いていません。
・シャーリーが父の死を聞いた直後から来ていることに気付いていません。
・救出する人間の優先順位を、スバル>シャーリー>C.C.>カレンと無意識にランク付けしています。
・ブリタニア軍特派のインカムはディエチからもらった物です。
【ディエチ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状況】健康
【装備】カスール@NANOSING、ブリタニア軍特派のインカム@コードギアス 反目のスバル
【道具】支給品一式
【思考】
基本:ナンバーズの仲間と共に生きて帰る
1.クアットロ、チンクと合流したい
2.可能なら、ルルーシュの身内(スバル、シャーリー、カレン、C.C.)も保護する
3.向かってくる敵は基本的には殺す
4.タイプゼロの回収は……今はもう意味ないか
【備考】
・ゆりかご攻防戦直後からの参戦です。未だ更生プログラムの話は持ちかけられていません。
・チンクがJS事件の最中から来ていることに気付いていません。
投下終了。
……なんかラストがインテグラのネタと被ってたかもしれない。
ルルーシュを書くのは久しぶりなので、上手く書けてるかどうかも心配……
GJです、ルルっぽさ抜群だと思いますよー、微妙にヘタレ分がでてるとことかw
ディエチはナンバーズ同士での戦いになりかねないか……
それ以上にスバルに「誰?」と言われて凹むルルが思い浮かんでしかたないっw
>>210 それみたいww
反目さんのところの主役なんだし、スバルはこっちでよかったとおもうんだけどなー・・・
いまさら言っても遅いけど(
50分ぐらいから投下します
アパートのに寄りかかるように金髪の少女が佇んでいた。
その少女、フェイト=T=ハラオウンを今構成しているのは、戸惑いと混乱、この言葉だけだ。
虚数空間に落ち、死亡したと思っていた母が生きていた、それは嬉しい。どうやって生き延びたのかは分からないが、素直に喜べた。
だが、何故殺し合いなど、あの母が冗談など言わないことは誰よりもよく知っている。
それに、母に歯向かい首輪を爆破……殺された人についても考えるべき点は多い。
アリサという自分の親友と同じ名前の少女、それに応えていたなのはと――自分と同じ名前、同じ声の女性。
名簿を見てみれば確かに自分の名前が二つある。
気になるのはなのはとはやての名前も二つあるということだが、こちらは今一わからない。
「この人も、母さんって言っていた……」
どういう事なのか、一つだけ思い当たることがあった。
「母さん、また、同じ事を……?」
アリシアのクローンとして生み出された自分、
ならば、他にも自分と似た人間がいてもおかしくはない。
そしてそれは、自分はもう母にとっていらない存在であるということ。
「っ……」
一度はなのは達の支えもあって立ち直った、いや、母が死んだ以上立ち直るしかなかった。
新しい家族を得た自分を、母はどう思っているのだろうか?
「……違う、そうじゃない」
答えなどわかっている「何とも思っていない」のだ。
そんなことはずっと前から、それこそジュエルシードを集めている頃から知っていたことのはずだ。
だが、それでもこの事実は心を傷つけていく。
「なのは……クロノ、お兄ちゃん……」
違う、ダメだ、震えて助けを待っているだけでは何にもならない。
頭では理解している、もう一度話さなくてはならないと、今度こそ母の過ちを止めなければならないと。
だが、足が震える、心が恐怖する、また拒絶されるのではないかと脳が逃げようとする。
「……あっ」
気づけばその場に座り込んでしまっていた。
ダメだ、立ち上がれ――立ったところで何もできやしない。
こんな殺し合い、止めないと――無理だよ、私に母さんに逆らう勇気なんてない。
違う、今度こそ止めないといけないんだ――私一人でそんなことできる訳がない。
でも、このままじゃ、なのは達も――デバイスもない自分がいたって、足手まといになるだけじゃない。
別の自分が、弱い自分が動こうとする体を止める――本当に動こうと思ってるの?
「違う! 動かないと、動かなきゃダメなんだ!」
「あの……大丈夫?」
「え?」
アパートの一室でデイバックを調べながら少女、早乙女レイは考える。
自分はマルタンを正気に戻そうと、十代やなのは達と共に対峙していたはずだった。
背後からはデュエルゾンビと化したフェイトたちが迫り、絶体絶命の状態……のはずが次の瞬間にはあの殺戮劇だ。
「っ……」
人の首が吹き飛ぶ凄惨な光景を思い出し、思わず口元を押さえる
誰かが死ぬ瞬間を見ることなど初めてだ、デュエルゾンビ達と化した者の何人かは死んでゾンビとなったらしいが、その瞬間を見ていないのなら同じこと。
吐き気を必死で堪える、こんなことで無駄に体力を使うわけにはいかない。
なにしろ――これから人を殺すのだから。
「十代様、待ってて……!」
レイとてまだ幼い少女だ、こんな殺し合いを本気で乗る人がいるとは思えない。
だが――自分は知っている、殺し合いをする、しないといった思考など超えてしまっている者がいることを。
フェイト、エリオ、万丈目。
この三人はデュエルゾンビと化し、ただ戦いを求めるだけの存在となっている。
そして三人に襲われた者も、やらなければやられると思い殺し合いに乗ってしまいかねない。
なのは達は心配するまでもないし、明日香はあれで割り切れる部分がある、命の危険に見舞われたら身を守ることを優先するだろう。
だが十代は違う、彼はきっと限界ギリギリまで相手を正気に戻すことを優先する。
けれど、その限界は自分達が思っているより遥かに早いのだ、それはあの少女が殺されたことで理解した。
このまま彼が誰か殺し合いに乗った者と出会ったら、間違いなく殺されてしまうだろう。
「そうなる前に……」
殺し合いに乗った人間を自分が殺す、そうするしかない。
人を殺すなど、やりたくもないし考えたくも無い、
だが、それ以上に十代が殺されるという事を恐れていた。
そうだ、何も罪の無い人まで殺すわけではない、殺人鬼を、犯罪者を殺すんだ、罪を感じる必要はない。
何度も言い聞かせるように呟き、銃を持って部屋を出る。
「あ、そういえば……」
名簿になのはやフェイトの名前が二つあることを思い出す。
それに最初の部屋、あの時殺された彼女と話していた「フェイト」は正気だったように思える。
「同姓同名の人? でも、声まで似てるなんて……」
考えてはみるが、いくら頭を悩ませても答えが出てこない。
「……会ってみれば、わかるよね」
危険だが、それしか方法はないだろう。
再び歩き始めるが、すぐに誰かがいることに気づき慌てて物陰に隠れる。
そっと様子を窺うが、何やら悩んでいる……というより怯えているようでこちらに気づく気配はない。
見れば自分より年下のようだ、どこかで見たような雰囲気を感じるが、あの様子では人殺しなどまずしないだろう。
とりあえず接触してみようと近づこうとした瞬間、その少女は叫びだした。
「違う! 動かないと、動かなきゃダメなんだ!」
「あの……大丈夫?」
「え?」
話しかけるとようやくこちらに気づいたようで顔を上げる、
と先ほどの独り言と言うには大きすぎる叫びを聞かれたことに気づいたのだろう、頬が朱く染まる。
「あ、その、えと、私……」
「――っ!? 私は早乙女レイ、貴方は……もしかして、フェイト、さん……?」
「え!? どうして、私の事を……」
声を聞いてもしやと思ったが、まさか本当に予想通りだっただったとは。
しかしそうなるとどう言う事なのか、目の前の少女は子供の頃のフェイトとでも言うのか?
確かにそれなら正気なのは当然だが……異世界というのは知っているが、魔法は時間まで遡ることが可能なのだろうか。
「あの……?」
「あ……ご、ごめん、ちょっと考え事を」
さて、どうするべきか。
魔法についてはよく知らない、本当に時間に関する魔法があるかもしれない。
ならばこの少女は過去のフェイトということになりえる、
そうすると自分の知っているフェイトについてどう説明するべきか、未来のあなたは殺人鬼になってるから殺します。とでも言えと?
「フェイトさ……ちゃん、殺し合いには乗ってないんだよね、どうするか、決めてる?」
――言える訳がないだろう。
こんな子供に、そんな残酷なことを伝えられるほどレイは強くない。
出来る限り知られないようにしたかった。
「……いえ、なのは達……友達と合流したいですけど」
「そっか……」
友達の名前がなのは、ますます過去のフェイトである可能性が高まってきた。
しかしどうする、自分と一緒にいてはいずれデュエルゾンビと化したフェイトと出会うことになりかねない。
だからといって、自分よりも幼い子を一人置いておくのも気が引ける。
……まあ、魔法が使えるのだったら自分よりずっと強いのだろうけど。
「……さて、どうしようかな」
【一日目 深夜】
【現在地 E‐2南部/路上】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】健康、不安、戸惑い、混乱
【装備】無し
【道具】支給品一式、 不明支給品1〜3(デバイスは無い)
【思考】
基本:なのは達との合流
1、レイと会話
2、殺し合いを止める
3、プレシアともう一度話したい……けど
【備考】
※魔法少女リリカルなのはA'sサウンドステージ3以降の参戦です。
※もう一人のフェイトを、自分と同じアリシアのクローン体だと思っています。
※なのはとはやても一人はクローンなのではと思っています。
【早乙女レイ@リリカル遊戯王GX】
【状態】健康
【装備】ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃6/6@リリカルTRIGUNA’s
【道具】支給品一式、不明支給品1〜2
【思考】
基本:十代を守る
1、連れて行くべき、かなぁ
2、殺し合いに乗っている者を殺害する
3、フェイト(StS)、エリオ、万丈目を強く警戒
【備考】
※リリカル遊戯王GX10話から参戦です。
※フェイト(A's)が過去から来たフェイトだと思っています。
※フェイト(StS)、エリオ、万丈目がデュエルゾンビになっていると思っています。
【デュエルゾンビについて】
ユベルの力によってただひたすら戦いを求めるのみの存在
会話、だまし討ちなど多少の思考能力はある模様
このロワ内ではまず出ません。
投下終了です
最後の注釈はレイがどういう考えをフェイトたちに持っているのか、ということで
GJ!
……なんですけど、支給品が被ってます。
幼なのは、カレン、チンクの話の修正版で、ヴァッシュの銃は既にカレンに渡ってます。
>>219 う、すみません、見落としです。
後で修正スレに修正しておきます、ご指摘ありがとうございます。
レイの装備品を修正してきました
後現在地が
【現在地 G‐4/アパート前】
の間違えです
……何やってんだ俺orz
保守
過疎
したらば然りここ然り流石に過疎が酷過ぎる。
何でもいいからこのロワの感想雑談とか、設定についての話とかで盛り上げないか?
ここで言うのはスレチかも知れないけど、今のままじゃ過疎過ぎて新規も誰も参加しなさそう……。
兎に角誰も居ないと落ちそうで不安でならないんだ、うん。
>>224 ごめんね、来週辺りになって時間取れたら、また予約取るからね……
取り敢えず現在予約されてんのに期待。
延長期間が三日だとしたら今日投下だし。
>>224 wktkして待ってるんだぜ!
そうだな、それじゃあこのロワで一番期待、好きなキャラを言おうか
遅れまして……
アレクサンド・アンデルセン、アンジール・ヒューレー、クアットロ投下します
暗き空、白き月、張り詰めた気配、漂う死の匂い……その中に、彼らはいた。
【Channel 1st】
月を眺める男。オールバックの黒髪、妖しく輝く青眼。
既に亡き男。人格のコピー。作り物の体。
その名を、アンジール・ヒューレーと云った。
「ここは……?」
自分は確か、セフィロスを引きつけていた筈。それが何時の間にこんな場所に?
答えは、恐らく「プレシア」と呼ばれた女に攫われたから、だろう。
そして、その場景を思い出し、アンジールは歯噛みする。
少女を一人、爆殺した。
今はスカエリッティという犯罪者と行動を共にしている。『夢』や『剣』と共に託してきたつもりだが、アンジールには未だ『誇り』はある。
あのような行為を赦しておけるわけがなかった。
「プレシア……ッ」
不快感を露わにした声。
いきなり殺し合いをしろ、その為に人を集めた……そんな心境は、全く以て理解不能だ。
しかしとて、備えは必要。そばに置いてあったデイパックを拾い上げ、中身を取り出す。
そして名簿を広げ、アンジールは声を上げた。
「クアットロ、チンク、ディエチ……!?」
驚愕――無理もない。
ここにあったのは、アンジールが守ると誓った「妹達」の名なのだ。
「ク……」
それなのに、むざむざとこんな場所まで連れて来させてしまった。こんな殺し合いの場に。
彼女達は強い。ただの人間や、管理局の魔導師に遅れをとるとは思えない。
しかし、それだけでは拙いのだ。この場には、より凄まじい存在がいる。そう、
「セフィロス……」
かつての良き友人、クラス1stのソルジャー、そして、ディエチの腕を切った男。
そんなセフィロスと、彼女達が出会ったらどうなるかは想像に難くない。
そしてプレシアは、「デス・ゲーム」と言った。そんなゲームはワンサイド・ゲームではならない。
あくまでも、均衡足らずとも、最低限、同等の戦力は用意するべき。
ならば、自分やセフィロスに並ぶ人間がいるのも必然。
そんな人間と、「妹達」が出会ったなら、ほぼ確実に殺されるだろう。
そうさせてはならない。
この手にかかるは命。ならば、
「俺が……守り抜く」
それが、アンジール・ヒューレーの、この場での目標。
決意を胸に、デイパックから刀を引き抜くアンジール。
その耳に、聞き覚えのある声が届いた。
【Channel No.4】
月を見上げる少女。茶髪、眼鏡、メガネ姉――メガ姉こと、クアットロ。
やがて視線は手元の紙――名簿へ。
「ゼロファースト、ゼロセカンド、ルーお嬢様に、陛下。チンクちゃんにディエチちゃん……ふぅん」
月明かりは眼鏡に反射され、瞳は伺えない。しかし、口は確かに『笑み』を形成している。
開始のセレモニー。勝手に呼び出され、拘束されたのは遺憾だったが、無力な命を蹂躙したそれは、堪らなく愉快だった。
プレシア・テスタロッサ――中々な催しごとだ。ただし、こんな時でなければ。
「お祭りにお祭りは重ねちゃいけないのにねぇ〜〜〜」
特殊部隊襲撃、「聖王の器の確保」、地上本部の制圧――大事な祭りごとの直前なのだ。こんな余分は困る。
それに、聖王の器までこの場に集められてしまっている。何事かあってはそれこそ一大事だ。
ただし、逆に言えば、この場で確保出来る可能性がある。自分達は三人。そこまで広くはないこのフィールド。手分けをすれば……。
「と、あーらら……通信はできないのぉ」
内蔵された通信機による通信は不可能。まあ、考えれば当然か。
参加者同士で連絡を取り合われては困るというものだ。
『参加者』。
「ふふふふっ」
自然と笑みが浮かぶ。
この場での弱者は何人いるだろう? デバイスを奪われた魔導師は? 魔法も知らないただの人間は?
対する自分達は戦闘機人だ。固有武装を奪われようと、その身に宿るISは健在だ。
そんな状況で、遅れを取るだろうか?
とは言っても、実際何が起こるか分からないので、慎重を期すべきだ。そう、特に戦わすして勝つ為に。
この場に管理局員のような人間は何人いるだろうか。即ち、弱者の保護に出る人間は。
この場に弱き人間は何人いるだろうか。即ち、徒党を組む人間は。
そんな人間の中に入り、内から崩壊させることは、どれだけ愉快なことだろうか。
それに、そんな人間と組んだ方が、「聖王の器」と巡り会う可能性は高いだろう。
これで、行動の方針は決定した。後は誰かにコンタクトを取るだけ。
例えそれが「ゲーム」に乗った存在だろうと、問題はない。それならそれで、襲われたことにして、更なる庇護を求めれば良いだけなのだ。
そうして、クアットロは接触を開始した。
【Channel 13th】
月をねめつける男。月光を反射し、闇に浮かび上がる丸眼鏡。左手が顔を押さえており、表情は分からない。
神父、アレクサンド・アンデルセン。
「…………」
無言だが、それは何よりも有言だった。
即ち――怒り。
呼びつけて、殺し合いをしろと言われた。
よりにもよって、教皇庁に、第十三課に、この自分に。
「巫山戯るなよ……薄汚い売女(ベイベロン)。法皇の命令のつもりか?
売女(きさま)が、魔導師(きさま)が、異教徒(きさま)のようなものが?」
そんな舐めくさった真似をされて、ハイそうですか、なんて具合に殺し合いをするほど、アンデルセンは信心の薄い人間ではなかった。
やるとしては自分達十三課、引いては法皇の為。それは変わりない。
その為ならば、異教徒共に手を貸す命令も致し方ないことだと考えている。
この場での自分の役目は、一刻も早くここを抜け出し、法皇の下へ帰ること。
必要とあらば、異教徒共と手を組むことも辞さない。
……もっとも、相対して殺意を押さえていられるかは別問題だが。
そんな風に、とりあえずの行動の方針は決定した。
ならば一先ずの装備の確認。
あんな売女から配られたものを使うのは屈辱的なことだが、利用出来るものは、全て利用しなくてはならない。
この場から脱出するために。
「グラーフアイゼンか」
アンデルセンの支給品の一つ目は鉄の伯爵・グラーフアイゼン。
使用者は闇の書の守護騎士ヴィータ。アンデルセンの元・同僚、とでも言うべきか。
デバイスを取り上げられたヴィータはどうしているか、とも思うがまあいい。アンデルセンはグラーフアイゼンに力――法術用――を通わせ、起動させる。
攻撃には向かないが、起動程度になら流用は出来た。
「これは……弾薬」
2つ目では、デバイスのカートリッジ、9mmルガー弾など各種弾薬が30発程詰め合わせになっている。
その中からカートリッジを抜き出し、アイゼンへと装填した。
他に、支給品は確認出来ない。どうやらこの2つだけのようだ。
武器の確認が住んだアンデルセンは、次に地図、そして名簿を広げた。
しかし、突然の来訪者により、それは中断する。
■
月光の下、二人の非人間が出会う。
一人目――戦闘機人、クアットロから声をかけた。
言いだしは極めて一般的なものだった。殺し合いに乗っているかどうかとか、真っ当な人間が口にすること。
別に目の前の男に危険を感じなかったし、騙すなら武装がないほうが良い――そんな理由で、クアットロは武器を持たなかった。
ISだってある、たかが人間ごときに遅れを取るようなことはない――自身への自信、それ故の慢心。
しかし、そんなクアットロの問いかけに答えず、男は月を見るばかり。
流石に不審に思ったクアットロが行動に移るより先に、男は言った。「今夜は月が綺麗だな」、と。
そして男はデバイスを構えた。月明かりに十字の影を作るそれは、見覚えがあるものだ。
それから男は、「我々の神を侮辱した貴様らに容赦はせんよ」、と口にする。
初対面の筈だが――と言う言葉が浮かぶより早く、クアットロの体が宙を浮いていた。
落下、それから衝撃。そこで漸く認識する。自分は、目の前の男に殴り飛ばされたのだ、と。
倒れ伏すクアットロに、ゆっくりと男が近づく。その過程で男は話す。
何故、クアットロの事を知っているのかを。
曰わく、貴様らに付いての報告は電話で受けた。曰わく、マクスウェルから容姿の説明を聞いた……etcetc。
どれも全くクアットロの身に覚えのない話だが、男に嘘をついている様子はない。
そうしてクアットロの元に辿り着いた男は、四文字の言葉を口にしながらデバイスを振り下ろし――銀色の大きな魚に受け止められた。
この場に乱入したもう一人の男。こちらも声をかけてきた。どうやらこの男もクアットロのことを知っているようだ。
正直わけが分からないが、この男から害意は感じられない。話を合わせておいた方が良さそうだ。
急に襲いかかられただの、知らない相手だのと説明――殆ど事実――その間も切り結ぶ二人。
どちらも戦闘機人に勝るとも劣らない――勝っているのでは、とさえ感じる動き。
しかし、二人とも顔が苦い。まるで本調子では――本調子を発揮できないとでも言うような。
そうして幾たびの応酬ののち、大魚使いはクアットロに襲い掛かった男を跳ね飛ばし、何やら呪文を唱えて、襲い掛かった男を凍結。
それから男は手を取り、クアットロを抱えるとお姫様抱っこでその場から離脱した。
「クアットロ……すまない。遅くなって」
そう告げるアンジールに知る由はない。
目の前クアットロは、自分の知る存在でないと言うことを。
【一日目 深夜】
【現在地 F-5】
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】健康、消耗中
【装備】レイトウ本マグロ@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【道具】支給品一式、ランダム支給品(確認済み:0〜2品)
【思考】
基本:妹達(クアットロ、チンク、ディエチ)を守る
1.チンクとディエチを保護する
2.セフィロス……
【備考】
※第七話終了〜第八話、からの参戦です
※クアットロが自らの知る者でないと気付いていません
※制限に気が付きました
【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】左腕に大ダメージ
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品(確認済:1〜3品)
【思考】
基本:この場から脱出する
1.目の前の人間に話を合わせる
2.他のナンバーズともコンタクトをとる
3.聖王の器の確保
【備考】
※地上本局襲撃以前からの参戦です
「次は殺す、必ず殺す」
凍結から脱出したアンデルセン。
憎々しげに、月夜にひとりごちた。
【一日目 深夜】
【現在地 F-5】
【アレクサンド・アンデルセン@NANOSING】
【状態】健康、消耗中、ダメージ中(回復中)
【装備】グラーフアイゼン(3/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、各種弾薬(各30発)、カートリッジ(27/30)
【思考】
基本:この場から脱出する。売女(プレシア)の言うとおりにするつもりはない
1.最後の大隊は鏖
2.異教徒共と化け物共については一先ず保留。ただし殺意を抑えられるか……?
3.脱出に必要な情報を集める
【備考】
※第九話以降の参戦です
※制限に気が付きました
※クアットロが魔法少女リリカルなのはStrikerSからの参戦とは気付いていません
※グラーフアイゼンはアンデルセンを警戒しています
以上で投下終了です。遅滞の上の作品で、申し訳ありません
GJ! ずっと楽しみにしてましたよ、ええ!
アンジール……半ば予想していたとはいえ、これはクアットロに利用される流れだろうか?
五分後に八神はやてを投下します
地上本部レジアス・ゲイスの部屋に転送されて以来
八神はやては彼の椅子に座りながら冷静に状況を分析していた。
彼女の知っていることによれば、
プレシア・テスタロッサはジュエル・シードの力によって
アルハザードを目指して、虚数空間に落ちたとの事であった。
その目的は事故で亡くした娘のアリシアを蘇らすためにあったという。
その知識をもって今の状況を見るに、プレシアがアルハザードへ到達した公算は高い、と
八神はやてはそう結論付けた。
確かにアルハザードを目指した目的であるアリシアの存在は確認できなかった。
それ故アルハザード到達は確定的ではない。
だが、現実としてプレシアは魔導師では不可能と呼ばれた虚数空間からの帰還を果たし
誰にと気づかれることなく、多くの優秀な魔導師を拉致し、閉じ込めることに成功している。
これは最早一介の魔導師というレベルを超えている。
それは何を意味しているか。
八神はやてはその答えを思い浮かべて、
心の底から愉悦が溢れかえるのを抑えることが出来なかった。
それは即ちプレシア・テスタロッサは
アルハザードないしはそれに近似した技術を手に入れたということを意味するからだ。
人によってはこのような場所に呼び出されるのは甚だ不本意なことであろう。
今まで住んでいた空間とは切り離され、いきなり人を殺せというのだから当然だ。
しかし、八神はやてにとっては違った。
これは彼女にって紛れもなくチャンスだった。
既存の枠組みを遥かに超えた先進的な技術
人の想像も及びつかない夢のような未知の技術
それが今、目の前に体現されていて、それでいて手の届くところにある。
この技術を使えば、オペレーションFINAL WARSという遅々として進まない作戦よりも早くゴジラを倒し、
守護騎士たちを助けることができるかもしれないのだ。
だからこそ八神はやては笑みを抑えることが出来なかった。
ならば、彼女の目指すところはどこにあるかは、自然と決まってくる。
プレシア・テスタロッサの持つ全ての技術を手に入れること。
それが今の状況を分析し導き出した己の目標であった。
では、どうやってプレシアからこの未知なる技術を貰うか。
彼女の頭を悩ませたのは、自分の圧倒的な不利な立場であった。
自分のデバイスを奪われた挙句に死を内包した首輪を括られている。
これをどうにかしなければ、プレシアの前に立っても意味がない。
自分の命を相手に握られていては、譲歩が絶えず自分に強いられ、
要求できる範囲が自ずと決まってしまう。
話を通すには彼女と対等な立場に立たなければならない。
即ち、彼女に抗し得る戦力の確保だ。
こちらの主張を聞かなければ、自分の身にも危険が及ぶと理解させ、相手からの譲歩を導き出す下地を作る。
それでやっと同じテーブルに座って話し合いというものが出来るだろう。
無論、それでも話しが通じないというのであれば、
確保した戦力を投入するだけだ。
首輪の解除に大魔導師プレシアとの戦い。
これから展開される事態を思い浮かべて、余りの難易度の高さに
八神はやては内心苦笑を浮かべた。
一つ手を間違えば、自分が死ぬという状況だ。
取れる選択の少なさや、考える時間がないという焦慮は苛立ちに近い感情で沸いて出る。
だけど、彼女はこの程度では挫けることなど出来なかった。
あらゆる魔法が利かず、アルカンシェルを数十発受けて平然としているゴジラを目の当たりした時と比べて今はどうか。
ゴジラを封じるべく自分の半身とも呼べる大切な存在を投げ出さぜるを得なかった時と比べて今はどうか。
今はゴジラが与えるほど絶望的な状況ではないのだ。
そして彼女は自然と守護騎士、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの四人を思い浮かべた。
彼女たちはゴジラの動きを封じるべく結界魔法妖星ゴラスの媒介となった。
彼女にとっての大切な存在は、世界を救うために、
夜天の主を救うために文字通り人柱となったのだ。
だからこそ、八神はやての決意は岩より固くなる。
彼女たちを助けるにはなるべく早い方がいい。
彼女たちは今も妖星ゴラスによって磨耗を続けているのだ。
彼女たちを死なせないためにも
彼女たちの負担を少しでも減らすためにも
最短距離をつっぱっしって、プレシアの元に到達しなければならない。
その為には何をすべきか。
首輪を解除できる技術者とプレシアと戦える力の確保
それを阻害するゲームに乗ったものの排除。
そして……足枷となるであろう弱者の排除。
八神はやては目を瞑り、沈痛な表情で奥歯を噛み締めた。
本来ならば守らなければならない命を摘む。
それは例えゴジラを倒すことによって何億の人が助かると言い聞かせたところで
罪悪感が減じるわけではない。
寧ろ、そういった言葉は自らの卑小さを際立てさせ
余計に惨めに、そして自己嫌悪に陥らせる。
だけど、八神はやてはそれを振り切るように目を開け、口を開いた。
「それでもや。それでも目の前の命より大切なもんがあるんや。
恨んでくれてもええ。私はこれから恨まれて当然のことをする。
せやけど、あの子らを放っとくわけにいかん。
無事に終わったら償いもする。せやから…………ごめんな」
またこの部屋で一つの正義が狂奔する。
【1日目 深夜】
【現在地 E−5 地上本部内 レジアスの部屋】
【八神はやて(sts)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3個
【思考】
基本 プレシアの持っている技術を手に入れる
1.首輪を解除できる人を探す
2.プレシアに対抗する戦力の確保
3.以上の道のりを邪魔する存在の排除
【備考】
※参戦時期は第一話でなのは、フェイトと口喧嘩した後です
※名簿はまだ確認してません
以上です
投下終了しました
GJ!
はやてはやっぱりマーダーの道を進むか…。
まだ名簿は見てないってことは、もしかしたらヴォルケンと合流することで
対主催になるかもしれませんね。
今後の心境の変化に期待です。
気のせいか…はやてからそこはかとなく暴走マーダーの香りがするw
また危険な対主催が……。
このはやてなら間違いなく何かしてくれる気がするぜ。
これからの活躍に期待w
GJでした!
GJです
はやてはやっぱりいい味出してるなぁw
こういうキャラもロワの醍醐味だと思う
なのはやフェイトもそれぞれ別の世界から来てるし、邂逅が楽しみです
とりあえず保守しておく
もうちょっと感想があってもいいんじゃないかって思う。
感想書いた一人として、何か寂しい…
>>240 ぶっちゃけはやて一人で他の参加者を倒せるとは到底思えないんだが
はやて舐めんな。
デバイス持たせりゃ、不意打ち広域攻撃でポイント稼ぎまくりだぜw
そうなるとはやてが誰と組むかも重要に……
>>248 残念ながら、それはできるけどできない事なんだぜw
約束通り投下しに来たよー
>>225だよー(ぇ
というわけで、弁慶とアグモンの分を投下します。
宵闇の中を、のっしのっしと歩く影があった。
2メートルにも及ぶかと思われるほどの巨体は、人間の男である。
男臭い厳つい顔立ちのてっぺんは、1本の髪の毛もない禿頭。
ぱっと見ただけでは肥満にすら見えるその身体は、全身是筋肉の塊。
地上本部特務部隊の一員にして、鋼鉄の巨人・ネオゲッターロボのパイロット――武蔵坊弁慶である。
「まぁったく、一体何がどうなってやがるんだぁ?」
不機嫌そうにぼやきながら、弁慶は市街地を進んでいく。
人っ子1人どころか、彼以外にはまるで生物の気配の存在しない、不気味なゴーストタウン。
しかしながら、弁慶はそれにも――突き詰めれば、この状況そのものにすら、おくびも恐怖を抱いていないようだった。
「いきなり殺し合いをしろなんて、馬鹿馬鹿しいこと言いやがって」
それが癖であるのか、はたまた単純に頭がいい方ではないからなのか、いちいち心の声を口に出す。
かつては名の知れた山賊として、暴力と欲望の限りを尽くしたといえど、今の弁慶はこれでも立派な僧侶だ。
喧嘩っぱやい性格がなりを潜めたとは到底言いがたいものの、不必要な殺生は好まない。
殺していいのは、例えば鬼などの自分達を脅かすものであり、こうした私欲のための殺人は、到底受け入れられるものではなかった。
「とりあえず、あのプレシアってぇ女は一発とっちめてやらねぇとな!」
人攫いをした上に、こんなふざけたデスゲームを自分達に強要した極悪人。
ばしん、と右拳で左の平手を音高く殴ると、弁慶は意気込んだ。
「……あれ?」
と、不意にその険しい表情が緩む。
さながら風船から空気が勢いよく抜けたような、劇的なまでの変化。
「でも……どうやってやりゃあいいんだ?」
思いっきり怪訝そうな表情を浮かべて、弁慶は首を傾げた。
人間離れした強靭な肉体を持つ破戒僧は、武器さえあれば魔導師とも渡り合えると自負している。
しかし、問題はどうやってプレシアの元へと到達するかだ。
あの椅子に座らされていた時、最後に見たのは転移魔法の光だった。
彼女が待ち受けている場所は、このフィールドとはまるきり別の場所と考えられる。
そんな場所へ、魔法に関してはまるで門外漢な弁慶は、一体どうやって行くことができると言うのだろう。
加えて言えば、首にかけられた爆弾の存在もある。たとえ相対できたとしても、立ち向かった瞬間に爆破されるかもしれない。
力ずくでもどうしても外すことができなかったこれを着けた状態で、一体どうやって戦えばいいのだろう。
考えれば考えるほど頭がこんがらがっていき、弁慶の表情が徐々に苦虫を噛み潰したようなものになっていく。
「……あーやめやめ! まぁ何とかなるだろ、うん!」
思いっきり頭を振ると、弁慶は脳内から思考を外に放り出した。この男、頭は思いっきり悪い部類に入るらしい。
そして、デイバックから名簿を取り出すと、そこに目を通す。
「しっかし、スバルやティアナがいるのは当然として……なんで隼人の奴はいねぇんだろうな」
名簿の中には、つい先ほどまで一緒にネオゲッターに乗っていた、2人の少女の名前がある。
それらのことから、彼はゲッターごとこの場所へと送られて、そこから下ろされてあの椅子に座らされていたのだと思っていた。
しかし、スバルの駆る一号機に同席していた盟友・隼人の名前はどこにもない。
ゲッターごと転送されたのならば、どこかにいるはずなのだが……と、弁慶は頭をひねっていた。
「まぁ、アイツならどうにか生き残ってるだろ」
心配することの方がおかしい、といった様子で呟く。
何だかんだいって、あの隼人が敵の手にかかった様子が、弁慶にはどうしても想像することができなかった。
旧ゲッターチームの中でも唯一頭が切れ、おまけに腕っ節もしぶとさも一級品ときた、あのパーフェクトな超人は、きっとどこかで生きている。
それに彼ならば、下手に心配をかけようものなら、「余計なお世話だ」と鼻で笑うだろう。
故に、この場は彼のことを、全面的に信頼することにした。
「それに、むしろ問題なのはこっちの方なんだよなぁ……」
言いながら、弁慶はデイバックの中を覗く。
目に入ったのは、いくつかの食料品。あらかじめプレシアから支給されていた命綱だ。
「……足りねぇよなぁ、これじゃ……」
大食漢の弁慶は、がっくりとした様子でため息をついた。
「あーもう、どうなってるんだよぉ!?」
少年のような声が、無人の街中に響き渡る。
しかし、その容貌は、人間の少年のそれとは大きく異なっていた。
まず、身体が黄色い。グローブのようにして腕につけた赤いベルト以外は、全身鮮やかな黄色だ。
続いて、顔が人間じゃない。長い顎と鋭い牙は、どこからどう見ても爬虫類の顔立ちである。
さらに、尻尾もある。そんなに長い方でもないが、尻の部分からひょっこりと尻尾が顔を出している。
どう考えても人間には見えず、むしろ恐竜の子供といった様子の外見だった。
この人語を話す奇妙な爬虫類もどきは、名をアグモンと言う。
ミッドチルダと繋がったサイバー世界・デジタルワールドに住む、データの塊のような存在。通称デジタルモンスター。
それがアグモンの正体だった。
「姉御ともはぐれちゃったし……ああ、心配だ……フリードはちゃんとついてるのかな?」
せわしなく早口で呟くのには、それなりのわけがある。
そもそもアグモンは、先ほどまで彼のパートナー――キャロ・ル・ルシエと共にジャングルを歩いている真っ最中だった。
しかしその道中で、長旅の疲れが祟ったキャロは、高熱を出して倒れてしまったのである。
そこからフリードに案内されて、彼女を休めさせることのできる洞窟へと向かっていたのだが、
不意に意識が途絶えてしまい、気付けばあの場所で椅子に座らされていたのだ。
つまり、アグモンからすれば、キャロは病気で倒れたまま、この広大な殺し合いのフィールドに放り出されたということになる。
「とにかく急いで姉御を捜さないと……あー、でもどこにいるんだろ?」
精神年齢の幼いアグモンにとっては、このデスゲームよりも、重要なのはパートナーの方らしい。
パニック寸前になりかけた彼には、この異常な状況にまで神経を向けることはできなかった。
「えーと……こっちだ! 何となくこっち!」
慌てていたアグモンだったが、ここでとりあえずの行く先を決めて、ゴーストタウンを走り出す。
根拠なんて特にない。ただ、どこへ行っていいのか分からないが故に、当てずっぽうに頼っていた。
そんな何となくで選んだ道を、アグモンはひたすらに走っていく。
そして。
「……お?」
野太い声を漏らした、その男と出くわした。
(何だぁ、コイツ?)
(何だろ、この人?)
弁慶とアグモンがそれぞれに抱いた第一印象は、大体似通った感じだった。
(トカゲか何かか? にしても、二本足で立つなんざ、ずいぶんとまぁ器用な奴だな……)
デジタルモンスターの存在など知る由もない弁慶にとっては、アグモンは完全に珍獣も同然である。
見たところワニのような顎を有していたが、その割には手足は妙に発達しているし、身体も黄色い。
首から下の構造は、むしろ鬼に近いと言っても過言ではなかった。
(すっごい筋肉……身体も大きいし、レオモンとかワーガルルモンみたいだ)
人間などキャロ以外にロクに見たことがないアグモンにとっては、弁慶はまさに異様な筋肉ダルマ。
華奢で小柄な彼女の姿形からは、大きくかけ離れた屈強な肉体。
それこそ、前述の強力な獣人デジモン達にすら匹敵するような、極めて強靭な印象を受けた。
(この人も参加者なんだ)
そして、首輪に気付いたアグモンは、とりあえず弁慶と対話を行おうとし、
首輪に気付かないが故に、アグモンをそこらの動物か何かだと思っていた弁慶は、
(……食えるのかな、コイツ?)
【1日目 深夜】
【現在地 D-2】
【武蔵坊弁慶@ゲッターロボ昴】
【状況】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3個(確認済み)
【思考】
基本:殺し合いを止め、プレシアを打倒する(どうやって戦うかは考えていない)
1.スバル、ティアナと合流
2.このトカゲみたいな奴(=アグモン)を捕獲して、食料にする
3.隼人は多分大丈夫だろう
【備考】
・5話終了後からの参戦です。
・自分とスバル、ティアナ、隼人の4人は、ネオゲッターロボごとここに送り込まれたのだと思い込んでいます。
また、隼人がどうして参加者の中にいないのかという疑問を持っていました。
・隼人がこのゲームに関わっていないことを知りません。
・アグモンがゲーム参加者であるということに気付いていません。
【アグモン@デジモン・ザ・リリカルS&F】
【状況】健康・焦燥
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3個(未確認)
【思考】
基本:熱を出して倒れたキャロと合流する
1.目の前の男(=弁慶)と対話を行う
2.やっぱりフリードもここにいるのかな? 姉御を守ってくれているといいけど……
【備考】
・2話で、フリードと共にキャロを洞窟へと運んでいる最中からの参戦です。
・キャロが病気で倒れていると思い込んでいます。
・このゲームそのものに関しては、気が回っていないようです。
投下終了。
……あー、短い。思ったよりも短い。畜生orz
GJ。この発想弁慶らしいですね。あと、気付いたらアグモン意外とピンチかも…。
GJでした!
弁慶、凄いやつだw
クロノ、投下します
まずクロノが思ったことは、時期が悪いということだった。
今、第97管理外世界で闇の書事件が起こっている最中だ。
そんな中で執務官である自分になのはやフェイトといった第一線の魔導師が
突如としていなくなれば、管理局は混乱をきたすであろう。
無論、その程度で管理局自体がどうこうなるとは彼とて思わなかったが、
闇の書の守護騎士たち相手ではそういった足踏みが致命的となる恐れがある。
そしてその間隙を縫って遠からず闇の書は完成し、暴走。
その結果、第97管理外世界は闇の書によって侵蝕されてしまう。
そのことを想像すると、自然と父の無念がクロノの心を満たした。
それを晴らす機会がやっと訪れたのにこの様だ。
そのやりきれなさが彼にはひどく歯がゆかった。
だが、ここでどうあがいてもしょうがない。
クロノはリンディ、グレアム両提督に自分の思いを託すことにした。
闇の書から思考を切り捨て、今を注視する。
名簿をざっと読み流しながらも、やはりプレシアの存在に驚嘆を隠すことは出来なかった。
彼女が虚数空間に落ちたことは確認されている。
故にそれをもって管理局は彼女を帰還不可能とみなして、死んだものと認識している。
そしてそれについてはクロノも同様の見解だった。
だが、現実として彼女の姿は確かに彼の目に映りこんだ。
果たして人は虚数空間から帰ることは可能なのか。
それに対しての答えとして思いついた最も簡便なものが、アルハザード到達であった。
彼女がそこを目指して自ら虚数空間に身を投げ込んだのだから、そういった話も有り得なくはない。
そしてそこに辿り着いたのなら、そこの技術を用いて帰還も可能となるだろう。
だが、アルハザードというそんな御伽噺にも似た話を俄かにクロノは信じられなかった。
そもそも虚数空間に落ちたぐらいで、簡単にアルハザードに到着できるなら
忘れられた都などという風に伝説化されずに、他の人の手によって既に発見されていることだろう。
それがないのだから、やはりアルハザードは人の想像の産物以上には思えなかった。
では、アルハザード以外にも虚数空間からの脱出は可能だろうか。
未知の管理外世界による救出という可能性も彼の頭をもたげたが
管理局ですら未だ確立できていない航行技術を、他の世界が持っているとも思えなかった。
またそれほどの技術を持っているのなら、真っ先に管理局の存在に気がつき、接触を図ってくるだろう。
虚数空間航行技術など数多の世界を統括管理する管理局ですら持ち得ない技術だ。
それを上手く扱えば、莫大な利権が生まれ出るはず。それをみすみす見逃す手はない。
そしてひとたび交渉がもたれたなら、それを執務官である自分が知らないはずがない。
よって、これもアルハザード同様に可能性は低いように思えた。
それならば、あのプレシアは何であろうか。
クロノが下した結論は、もっと現実に即したものであった。
つまりあのプレシアの姿は変身魔法か、幻術魔法によるものではないかということだ。
確かにプレシアの姿をあの場所で模す有用性というものは余り見出せないが、
魔法によって彼女の姿を似せるという方が、虚数空間から帰ったというよりは
遥かに現実的で説得力もあり、クロノにもその方が納得がいった。
では、あのプレシアの姿を真似るものは何者だろうか。
それについては情報が不足しているゆえ、クロノにも結論は出せなかった。
だが、何者か正確なところは分からないが、その外延は幾らかは分かるところがあった。
相手は管理局に気づかれずに大勢の魔導師を拉致するということを成し遂げている。
その犯罪の規模から考えて個人の能力では無理だろう。組織だって行動が予想される。
また犯罪手段の不可解さから何らかのロストロギアの不法所持及び不正使用の可能性が窺える。
それを用いたとすれば、このような事態を作り出すことにさしたる問題はないだろう。
総合するに目の前の状況と対峙すべき相手は闇の書のように至って最悪だ。
だけど、それは絶望すべきことではない。
これだけ次元に干渉した犯罪ならば、もう管理局はこの事に気がつき、動き出していることだろう。
いずれ管理局が救援にやってくる。
それにこんな状況とはいえ、たった一つの僥倖があることをクロノは知った。
名簿を見ていて確認したシグナムとヴィータという名前。
これは確か先日なのはとフェイトたちが戦った闇の書の守護騎士たちの名前だったはず。
彼女らがこの場所にいるのなら、闇の書の主もここにいるかもしれない。
その可能性は彼の心を俄かに躍らせた。
自分を含め、なのはやフェイトとといった優秀な魔導師がここに呼ばれていることからして、
参加者の選定基準に魔力が高いことが挙げられる。
だとすれば、闇の書の主に選ばれるほどのものなら
ここに呼ばれる可能性も自然と高くなるだろう。
ずっと探していた闇の書の主がこの狭い空間内にいるのだ。
それはクロノにとって願ってもないことだった。
そして、クロノは苦笑を漏らす。
犯罪者のおかげで第97管理外世界は救われたのだ、と。
別に感謝をするわけではないが、一つの憂いがなくなったことは確かだった。
おかげで全神経を使って闇の書の主の捜索とこの問題に取り組める。
だが、と思い、クロノは名簿にある一つの名前を睨みつけた。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
彼が何故ここに呼ばれているのかが分からなかった。
確かに彼はハンデを加えていたとはいえ、自分に魔法で一撃を加えた。
そして鍛えればきっと立派な魔導師にはなりうるだろう。
だけど、現段階においては訓練士にも劣る魔導師だ。
魔力の高さが選定基準ならここに呼ばれるのはおかしい。
ひょっとして自分たちがここに呼ばれる際に巻き込まれてしまったのだろうか。
その思いに至ると、自然とクロノの心の内に自責の念が募った。
やはり早急に元の世界に帰すべきだったのだろう。
妙な情に絆されて、なのはの側にいることを許してしまった自分の判断が悔やまれた。
魔法がなくても彼が強いということはクロノ自身知っているが、
それでもこんな状況で生きていけるかというと不安になった。
やはり早急に彼を保護したい。
自分には彼を無事に元の世界に返す責任があるのだから……。
そして名簿から投げかけられる懸念事項はまだあった。
高町なのはとフェイトの名前が二つあるということだ。
片方は自分の知る二人なのだとクロノは思った。
先の会場で実際に本人の姿を自身の目で確認している。
勿論、彼女たちのことも心配ではあるが、仮にも彼女たちは管理局員だ。
そして何より彼女たちの芯の強さをクロノは理解していた。
故に彼女たちに対して差し迫るほどの懸念というものはなかった。
彼にもっと確かな形で不安を与えたのは自分の知らないなのはとフェイトの存在だった。
その二人も先の場所で見たから、その二人がいるということに確信は持てた。
では、彼女たちは一体何者だろうか。
これも恐らくあのプレシア同様に変身、幻術魔法の類なのだろう。
目的は参加者の攪乱といったところだろうか。
外見では知り合いを謀ることが出来るだろうし、彼女たちを知らない人にとっても、
先の会場の出来事を見ていれば、自然と情を移して警戒を緩めてしまう。
そして彼女たちが魔法による存在だとしたら
「プレシア」の意図を汲んだものであり、このゲームとやらの促進剤となる可能性がある。
だとしたら、危険極まりない存在だ。
それを防ぐためには彼女たちの早急な確保と拘束が求められる。
また八神はやてという名前も気になった。
なのはたちと同様に二つ名前が記されていることから彼女たちと何かしら共通点があるはず。
魔力の高さ、戦闘能力の高さ、管理局員……と言ったところだろうか。
もしかしたらなのはたちの知り合いかも知れない。
どちらにしても彼女との接触、もしくは拘束が必要となってくるだろう。
クロノは名簿に一通り目を通し、それを覚えると、彼は他の支給品に目を向けることにした。
そして宛がわれた武器の説明書を読み、その内容に間違いがないか確認するため
念の為もう一度ゆっくり読み直して、クロノはやっとこの世界に来て初めての言葉を漏らした。
「くそっ……」
それは消えそうなくらい小さな声だった。
だが、間違いなくその中に彼の言い様のない怒りが含まれていた。
支給品の説明書には「龍騎のカードデッキ」と記されていた。
その内容には契約モンスターに食料として人間を捧げること
それを拒むような類のことをしたら、自身を襲うということが書かれていた。
首輪に加えて、このような支給品が自分以外の参加者に配られていると考えるとクロノの心には怒りが湧いた。
これではこのゲームに消極的な人たちも、自分の身を守るために他の参加者を襲わざるを得ない。
ゲームを進める上では如才ないの一言ではあるが、褒める気にもなれなかった。
このような代物があっては今度の行動も慎重を期さなければならない。
ヴァッシュを含め、犯罪被害者を保護しようにも、これがあっては話しにならない。
これでは逆に自分が相手の命を脅かすこととなってしまうのだから。
となると、まず自分がしなければならないことは、この契約モンスターを倒すことだ。
だが、それに対しても問題はある。
モンスターを簡単に倒せるようなものなら、こんなものは支給されないだろう。
それでは人を殺しうる武器になり得ないのだから。
そして逆に強すぎても、殺しを一方的にしてしまい、ゲームバランスを崩してしまう可能性がある。
恐らくは守護騎士たちと同等の強さといったところか。
守護騎士と同じ強さなら、何とかなるかもしれないが、無手で挑むのは無謀というものだろう。
これに代わる武器、デバイスの入手が最優先だ。
魔導師が多数呼ばれているのだから、その武器でもあるデバイスも支給されている可能性がある。
一刻も早く他の参加者と接触をしてデバイスを預かりたい。
一刻も早く……そう、時間がないのだ。
説明書には12時間に一人生きた人間を喰わせることとある。
最後にこのモンスターとやらが、人間を食べたのはいつか。
ここに送る直前に人を食べさせたという律儀ともいえる行為を、当然クロノは期待していなかった。
となると、次の瞬間にもモンスターが大口を開けてやってくる可能性があるわけだ。
故にモンスターに対抗する準備をするために迅速な行動が求められる。
そしてクロノは自分の考えの一助とも成り得るもう一つの支給品、拡声器を取りだした。
これを使えば、より早く他の参加者との連絡が取れるだろう。
そして上手くいけば、デバイスの入手に加えて、仲間との合流も図れる。
勿論、拡声器を使えば、ゲームに乗ったものを引き寄せる可能性があるだろう。
このデスゲームという会場で自分の位置を他人に知らせるというのは自分の命を危険に晒す愚策ともいえるものだ。
それくらいクロノも分かっている。
だが、クロノの並列思考はそれとは別にもう一つの回答を導き出していた。
即ち短時間ながらもゲームに乗ったものを自分に引き付けられる、と。
それならその分、他の参加者の安全は保証されるし、そこに自分がやらない理由などない。
自分ならどんな相手に対してもそう遅れをとることはないだろう。
安易というわけではないが、執務官であるという自負が彼にそう思わせた。
それに最後の手段ではあるが、彼の手にはカードデッキがある。
無論、クロノには躊躇いがある。
これは殺し合いをするために配られたものだ。
絶対といって非殺傷設定など組み込まれていないだろう。
つまり容易に人を殺しうるものだ。
そんな物を例えゲームに乗ったものに対しても向けていいものなのか。
時空管理局執務官という責任ある立場が、彼の心に疑問を投げつけた。
だけど、その答えが出るまでこのままジッとして徒に時間を浪費するのも無駄に思えた。
時間が経てば経つほどモンスターによって自分の身に危険が迫るし、
また他の参加者同士の戦いで命を落とすものが増える可能性があるのだ。
他者との接触、ゲームに乗ったものとの衝突を恐れているわけにはいかない。
そしてクロノはその瞳に決然とした輝きを灯し、拡声器のスイッチを押した。
「僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。
この声が聞こえるものは、どうか聞いて欲しい。
あの女、プレシアと名乗る者の言いなりになって、殺し合いをするのは、どうか止めてもらいたい。
皆、いきなりこのような状況に陥って不安になっていると思う。
人の死を見せ付けられ、いつの間にか首輪をされ、閉鎖空間に閉じ込められたのだからそれも当然だ。
皆、自分の死に怯えていると思う。
だけど、どうか安心してもらいたい。
既に時空管理局はこの事態に気がつき、僕たちを助けるべく動き出している。
そして、僕以外にもこの空間には管理局員が何人もいる。
彼らは殺し合いなどせずに、きっと皆の助けになってくれるはずだ。
だから、人を殺すという軽挙なことは止めてもらいたい。
僕たちは助かるのだ。
僕は今、地図で言うD−5の学校にいる。
この声が聞こえるもの、不安に怯えるものは、どうか僕のところに来てもらいたい。
繰り返す。
僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ――」
夜の帳に木霊する自分の声を聞きながらクロノは拡声器を下ろした。
果たしてこれでよかったのだろうか。一抹の不安が残った。
拡声器を使ったことは勿論、その放送内容にも疑問はあった。
闇の書の主に守護騎士たち、そして「プレシア」の意図を汲んだ可能性のある存在。
この場で危険な人物はたくさんいる。
それらを伝えて周りに注意を呼びかけることも出来た。
だけど、クロノはそれをしなかった。
彼らが危険というのもまだ現段階では不確かな情報の元に推測したことに過ぎない。
事実とは異なる可能性があるのだ。
下手に警戒心を煽り、参加者同士で疑心暗鬼に陥らせることはないとクロノは思った。
だが、推測したことが事実だった場合はどうなるか……。
仮定に仮定を重ねた不確かな「事実」が、クロノの心を責めさいなんだ。
【現在地 D−4 学校屋上】
【クロノ・ハラオウン@リリカルTRIGUNA's】
【状態】健康 、軽い苛立ち
【装備】拡声器@現実
【道具】支給品一式、龍騎のカードデッキ@仮面ライダーリリカル龍騎、ランダム支給品0〜1個
【思考】
基本 ゲームの主催者と闇の書の主の逮捕、ヴァッシュを元の世界へ送還
1.デバイスの入手
2.契約モンスターの退治
3.闇の書の主の捜索
4.大なのはと大フェイト、八神はやての拘束と事情聴取
5.仲間との合流
【備考】
※プレシア・テスタロッサは偽者だと思っています
※例外があるにしろ、この空間にいるメンバーは総じて魔力が高いと思っています
※大なのは、大フェイト、そして片方の八神はやてがゲーム主催者と何かしらの関係があると思っています。
※片方の八神はやては管理局員だと思っています
※ヴァッシュは自分のせいでこの殺し合いに巻き込まれたと思っています
※カードデッキを使うのに躊躇いがあります
※闇の書の主が八神はやてとは知りません
※参戦時期は七話終了後です
※クロノの声はD−5を中心に辺りに響きました
以上です
投下終了しました
GJでした!
クロノは性格的に対主催以外になりようがないが、
闇の書関係でいい感じでかき回してくれそうだw
投下おつかれです
拡声器きたか…
…どうなる。
間違い発見。
D5じゃねえや。
クロノのセリフと備考のところ
D5じゃなくてD4です
GJゥ!
ここで出たか拡声器……クロノの行動は吉とでるか凶とでるか。
先が楽しみで仕方がないw
もう一度GJ!
死亡フラグキター!
いや、龍騎になれるならそう簡単には死なないか……?
精神描写など、素晴らしい文章でした
GJです!
この調子で盛り上がっていくといいなと思いつつGJ!
色々と解釈の仕方が新しいなぁ
この行動が今後どう繋がるのかに期待!
えー……もうすぐ投下準備が完了します。
10分後くらいから投下開始しますが、今回は異様に長いので、支援など頂けると幸いです。
状態表抜きで20レス超えという……
「――ったく、やってくれるじゃんプレシアの奴」
薄暗い通路で呟く少年が一人。
ぽつりぽつりと灯る通路の明かりに、真っ赤なジャケットが照らされる。
左手に持った携帯電話をパカパカと開閉しながら、不機嫌そうな表情で歩を進める。
事実少年――キングは今現在、非情に不機嫌であった。
理由は至って簡単だ。
そもそもキングは、自分達“アンデッド”だけの神聖なるゲーム――バトルファイトを人間達に邪魔されただけでも十分にやる気が削げていた。
そこへ来て、今まで記憶喪失の哀れな女だと思っていたプレシアによって、突然こんなゲームに呼び出されたのだ。
結果、キングのやる気はさらに削げ落ちることとなった。
そもそもキングには、人間同士での殺し合いに、アンデッドである自分を収集する意味が解らなかった。
たかが人間如きが、最強のカテゴリーキングと自負する自分に勝てる訳が無いのだから。
自分がキングと名乗るのも、自分が誰にも負けない最強の存在であるという確かな自信があるからだ。
彼――キングの本当の名前は、コーカサスビートルアンデッド。
この世界における全てのコーカサスオオカブトムシと、その種族であるカブトムシ達の始祖たる不死生物。
……そう。“不死”なのだ。それこそが彼の自信を裏付けする事実。
彼らアンデッドは、いかなる傷を負おうとも、いかに痛め付けられようと、絶対に死ぬ事が無ければ消滅させる事も不可能。
故にアンデッドは、ラウズカードに封印する事でしか対応する術がないのだ。
そして、彼らアンデッドを封印出来るのは、人間達がジョーカーを真似て造った“ライダーシステム”のみ。
もちろんキングは仮面ライダーなんかに負けるつもりは毛頭無いが、それでも仮面ライダーが居なければ自分には傷一つ付ける事は不可能。
そこで何かに気付いたキングは、ふとデイバックを下ろし、中身を確認し始めた。
「このゲーム、仮面ライダーいんのかなぁ」
言いながら取り出したものは、一枚の紙。このゲームの参加者を印した名簿だ。
周囲が薄暗い為に、普通に考えれば文字は見えにくい筈だが、キングにはそんな心配はいらない。
何故ならば、彼は“カブトムシ”だからだ。
今でこそ人間の姿を借りてはいるが、本質はカブトムシ以外の何者でも無い。
夜行性のカブトムシの始祖である為に、暗い場所での視力は常人のそれを遥かに上回っている。
もちろん、甘いジュースなんかもキングの大好物だ。
「――って、おいおいジョーカーもいんの!?」
名簿を読み進めて行くうちに、とある名前を発見。一気にキングの非情が和らいだ。
そう。ざっと目を通し、真っ先に確認した名前は、“相川始”――ジョーカー。
自分と同じアンデッドで有りながら、どの生物の始祖にもあたらない、言わば“ジョーカー”。
ジョーカーが勝ち残る事は、そのまま全ての生命の絶滅を意味する。
今回のゲームでもジョーカーとして収集されたのかな?
等と想像しながら、不敵な笑みを浮かべるキング。
面白い事になりそうだと、少しだけゲームに興味が湧いて来る。
キングの笑顔はまだ終わらない。続けて名簿に知った名前を確認。
「へぇ、ギラファもいるんだ」
ギラファ――またの名を金居。
自分と同じくカテゴリーキングの称号を持つ、不死生物――ギラファアンデッドだ。
一応仲間ではあるが、心配する必要は無いだろうと、キングは名簿をデイバックにしまい込んだ。
「ま、せいぜい頑張りなよ」
ここには居ないギラファ――金居に、一言だけメッセージを零す。
また会えた時は、一緒に何か面白いことをやらかそうねと、心の中で微笑む。
さて、一通り名簿の確認が終わった事で、キングの機嫌はすっかり上機嫌となっていた。
ジョーカーやギラファがこのゲームに参加しているというのならば、仮面ライダーが参加している可能性だって十分にある。
ならば、キングの目的は今までと何ら変わりは無い。
「全部目茶苦茶にブチ壊してやるよ、プレシア」
そう。全て滅茶苦茶にし、何もかも破滅へと導くことこそが、キングの楽しみ。
別に戦いの結末なんかはどうでもいい。自分が勝とうが負けようが、それすら興味が無い。
とにかく面白ければそれでいいので。それ上でゲームを滅茶苦茶に出来れば、最高だ。
クスクスと笑いながら、どこかで聞いているであろうプレシアに対し、キングは言った。
その目に宿るは、無邪気な輝き。
例えるならば、小さな子供が抱くような“純粋な悪意”だ。
別に勝ち残る事には何の興味も無い。だが、負けるつもりも無い。
願わくば、プレシアが仕組んだこのデスゲームを、“目茶苦茶”に引っ掻き回し、全てを破滅に導く。
別にその行動に利益がある訳では無い。
ただ単に、それが“面白い”から。
だが、キングは戦い自体が好きな方では無い。故に自ら手を汚すつもりは無い。
手を汚さずに、全てを壊すのだ。
例えば“人間関係”を。
例えば他人の“精神”を。
例えば他人の“命”を。
そして、プレシアの仕組んだこのゲーム“そのもの”を。
死という概念を持たないが故に、キングは自分の命を何とも思ってはいない。
自分の命を大切に出来ない者に、他人の命の重みなど理解出来る筈も無かった。
行動方針を決めたキングが、再びデイバックを担ぎ、歩を進めようと足を踏み
――――出さなかった。
「ん?」
何か――おそらく人間の女の声――が聞こえる。
アンデッドであるキングは、やはり人間よりも遥かに高い聴力を有しており、その僅かな声を聞き逃しはしなかった。
踏み出そうとした足を止め、耳を済ませる。
「……でも目の…………命より大切な…………
恨んで…………ええ……………恨まれ………
……………………いかん……………―――」
途切れ途切れにだが、確かに聞こえる。恐らく若い女の声であろう。
言っている事は完全には把握出来なかったが、聞き取った単語から、恐らく“誰かを恨んでいる”のであろう。
「……面白そうじゃん」
一言呟くと、子供のような純粋な微笑みを浮かべ、キングはゆっくりと歩き始めた。
―――いや、その純粋な微笑みの裏に潜んでいるのは、まさに悪戯っ子の如き、純粋な悪意であった。
◆
八神はやての行動は、既に決まっていた。
ゴジラを殺し、大切な家族達を救う。その為に、プレシアの持つ技術を手に入れる。
その為に必要なのは、プレシアに太刀打ちするだけの戦力の確保。
第一に考えるのは、この首に装着された首輪を無効化し、解除する事が可能な人物。もしくは、それを可能にする道具。
第二に、大魔導師プレシアに対抗する為に必要な、デバイス――武器類。
そして、願わくば自分の居た世界で、自分達の意のままに動いてくれた“使い魔”に準ずる存在が欲しい。
だが、先程確認したデイバックの中には彼女が求めた物は何一つ入ってはいない。
入っていたのは、戦闘には役立たなそうな物ばかり。
プレシアにしても、“家族を失った八神はやてがプレシアの技術を狙う”
……という考えに至る事は想像済みだということだろうか?
そんなはやての推測が、今の自分は無力なのだとかえって実感させる。
だが、まだ諦めるには早い。自分に戦う力が無いのなら、手に入れれば良いだけの事。
誰かを倒してデイバックを奪うか?
―――否。それを実行に移す為にはある程度の戦力が必要だ。
そもそも戦力が無いから困っているのだ。それが出来れば苦労は無いだろう。
ならばどうする?
暫し思考を巡らし、一つの結論に至った。
「(先ずは誰かと合流するしかない……)」
そうだ。力が無いのならば、何者かに合流しなければ話にならない。
始めに出会った相手が使える人間であればそのまま利用する。
自分の親友達のような“お人よしタイプ”ならば―――
自分は何の戦力を持たないと話せば直ぐに信用して仲間に入れて貰えるだろう。
卑怯と言われても仕方がないが、それしか方法は無いのだ。
そうと決まれば、一分一秒が惜しく感じてくる。妖星ゴラスから、一刻も早くヴォルケンリッターを救いたいのだ。
決意を固め、レジアスの部屋から立ち去ろうと、足を進める。
はやては、気付かなかった。自分がいつのまにか、強く歯軋りをしていた事に。
決意を固めようが、心の奥ではこんなゲームを許せる筈が無かった。
ましてや自分が、人の良いなのはやフェイトと言った人々を利用しようとしていると考えれば、それだけで罪悪感が込み上げて来る。
心の中で深く謝罪を続ける。
そんな事に意味が無いということは、はやて自身がよく分かっている。
だが、それでもはやての歩みは止まらなかった。
彼女には、“絶対に譲れない物”があるのだから。
「(みんな……待っててな……私が、今すぐに……!)」
今この瞬間にも妖星ゴラスによって消耗を続けている家族達に向けたメッセージを、強く念じた。
はやてが、この部屋を出ようとドアの前に立った―――その時だった。
はやてが開けるまでもなく、外側からドアが開かれたのだ。
「……ッ!?」
「……あぁ、やっぱこの部屋からだったんだ。声が聞こえるの」
はやての目の前に現れたのは、片手に持った携帯電話をパカパカと開け閉めして遊ぶ茶髪の男。
いかにも最近の若者といった風貌の男――キングに、はやては咄嗟に身構えた。
こんな境遇で初めて出会った相手を信頼出来る筈が無い。
信頼しなくとも、相手が利用出来る人間かどうかを判断するまで、迂闊に接触するのは避けたい。
故にはやては、警戒心剥き出しに、目の前のキングを睨み付けた。
「あんたは一体、何者や?」
「……ご、ごめんなさい! 打たないで!!
声が聞こえたから、来てみただけなんだ……!」
はやてに問われたキングは、両腕を上げ、頭を隠すようにしゃがみ込んだ。
それを見たはやては、小さく口元を吊り上げる。
確信した。こいつは戦闘能力を持たない、ただの若者だと。
派手な外見で着飾ってはいるが、だからこそ心は臆病なのだろう。
恐らくはやての険しい表情にビックリし、今こうして自分の身を守る為に頭を隠して縮こまっているのだろう。
ならばこの男をどうする?
――決まっている。先程決めた目的の為、男には悪いがデイバックは寄越して貰う。
こんな明らかに年下にしか見えない少年からデイバックを奪うのは流石に気が引けるが、素直に渡せば命だけは助けてやってもいい。
デイバッグさえ奪えば、後は放って置いても、支給品を何一つ持たない少年が出来る事等たかが知れているからだ。
だからはやてはキングの腕を掴み、少し声のトーンを落として言った。
「安心し、打ったりせぇへん。だからそのデイバックを――」
「痛い」
「え……ッ!?」
はやてがその言葉を言い切る事は無かった。
つい先程まで情けない表情で泣いていた少年が、今度は怒気を込めた表情ではやてを睨み、手をかざした。
刹那、はやての体は数メートル後方へと吹っ飛び、レジアスの部屋の床に強く尻餅をついてしまった。
「(な、何や……一体今、何が起こった……!?)」
一先ず自分に怪我が無い事を確認すると、ゆっくり立ち上がって周囲を見渡す。
だが特に変わった物は存在しない。
―――いや、一つ変わった者が存在する。
はやての視線の先、はやてを見下して笑う茶髪の少年。
先程までの情けない表情は何処へ行ったのかと突っ込みたくなる程の笑顔で、自分を見下しているのだ。
先程まで泣いていた男が、突然ここまで明るくなれるだろうか?
―――否。はやては気付いた。さっきの泣き顔は全て演技だったのだろうと。
はやては、食い入るような瞳でキングを睨み付けた。
◆
「(クソッ……時間が無いのに……こんなことしてる場合じゃないのに……ッ!)」
漆黒の闇に包まれた市街地を駆け抜ける、一人の少女がいた。
彼女こそ、八神はやてに仕える、ヴォルケンリッターの一人。
鉄槌の騎士、ヴィータ。
彼女は急いでいた。闇の書によって蝕まれた主、はやてを救う為。
自分達の存在を維持する為、既にいつ死んでも可笑しくは無い状況にまで悪化し
てしまったはやてを救う為。
絶対に救う、そう決めたのだ。
ヴィータがはやての為、ここまで必死になれるのにはいくつかの理由があった。
それはもちろん、主を護る守護騎士・ヴォルケンリッターの役目としてもある。
だが、使命や役目等では無い、それよりももっと大きな理由がある。
それは、はやてが大切な大切な“家族”だから。
はやてと過ごすようになってから、ヴィータは夢のような毎日を送っていた。
初めて人として扱われ、初めてヴォルケンリッターとしての使命以外の楽しみを見付ける事が出来た。
近所のじーさんばーさんとゲートボールで遊び、夕方になったら帰る。
待っているのは、暖かい笑顔と、温かい食事。
確かに管理局や魔導生物達との戦いは楽な物では無かった。
だが、それでもはやてや、他の皆と過ごす毎日は、夢のような毎日であった。
―――いや、もしかすると本当に夢だったのかも知れない。
はやて達と過ごした毎日が夢で、このデスゲームが現実かも知れない。
だとすれば、いつあの幸せな夢は覚めてしまったのか。
「(そうだ……あたしはまた……管理局の奴らと戦って……)」
ヴィータにとって、最も新しい記憶が蘇る。
それは自分達のベルカ式を真似たデバイス――
レイジングハートエクセリオンを携え、復活した“高町なんとか”との戦い。
一度倒した相手に、敗れる訳がないと。ヴィータもそう思っていた。
結果、負けこそしなかったものの、勝利もしなかった。
思い出すだけでも腹立たしい。
本来ならば、圧倒的に自分の有利だった筈が、あの強化デバイスの砲撃に、食いつかれてしまった。
ただでさえ時間が無いというのに……!
それだけでも、ヴィータの精神はかなり不安定になる筈だった。
だが、それに拍車を掛けるような出来事が立て続けて起こったのだ。
自分は確かに戦闘終了後、闇の書が放った砲撃魔法から逃れる為に、ザフィーラ達と共に逃げた筈だ。
それなのに、気付いた時には、訳の解らない場所に拘束され――
その上首輪爆発という、趣味の悪いスプラッタショーを見せ付けられた。
死んだ女は自分の知らない人物であったが、それでも目の前で魔力も持たない一般人が殺されるのは、見て楽しい物では無かった。
さて、その際気になった事が一つ。
あの女の首が爆ぜた際に、声を上げた少女……あれは“高町なんとか”では無かったか? という疑問だ。
人数が多過ぎた事と、室内が薄暗かったという二つの要因により確証は無いが、あの声には確かな聞き覚えがあった。
あの憎たらしい声は、間違いなく“高町なんとか”の声。……のはずだ、多分。
故に、ヴィータは転送された後、直ぐに名簿を確認した。
しかし、名簿を確認した際にヴィータが目撃した名前は、そんな疑問を一気に吹き飛ばすだけの威力があった。
そう。そこに見付けた名前は―――
「(はやて……ッ!)」
今の自分にとって最も大切な、護るべき存在―――八神はやて。
何故か同じ名前が二つ存在したが、この際そんなことは問題では無い。はやてが参加させられたとあっては、ヴィータとしても黙っている訳には行かない。
それから、自分を省いた残りのヴォルケンリッター達の名前も発見。いずれも大切な家族に変わりは無い。
だが、だからこそヴィータは急いでいた。
ヴォルケンリッターの3人ならば、心配せずともそう簡単に負けはしないだろう。
だが、はやてはどうだ?
答えは簡単に想像がつく。そう、生き残れる訳が無いのだ。
足すらまともに動かせないはやてが、こんなデスゲームに参加させられて、助かる訳が無い。
すずかのように優しい人間と、一番最初に出会えたのならば何とか……等と考えもしたが、その考えも直ぐに振り払った。
このデスゲームにおいてそんな都合の良い人間がそう簡単に見付かるとは到底思えなかったからだ。
ましてや管理局員なんかは論外だ。もう少しで闇の書が完成するというのに、そ
の前にはやてを拘束されてしまっては話にならない。
結果、ヴォルケンリッター以外の人間など、今のヴィータには信用出来る訳もなく―――
「(はやて……待ってろよ、今すぐ……あたしが……!)」
奇しくもヴィータは、もう一つの時間軸から来た八神はやてと同じ事を、その心に強く念じていた。
支給された道具のうち、武器として使えそうなものは、自分の身長よりも長い槍型のデバイスのみ。
ヴィータは主を護る鉄槌の騎士として、八神はやてを救う為、槍を片手に走り続ける。
◆
ビルが立ち並ぶ市街地を歩く、赤き龍がいた。
全身の体食は真紅。
筋肉質な手からは鋭い爪が伸びており、ワニのような大きな口にもまた、鋭い牙が生えそろっていた。
この奇妙な生物こそが、デジタルワールドで生まれ育った、デジモンと呼ばれる種族の生物。名前はギルモン。
ヴィヴィオをパートナーとして選んだ、爬虫類型デジモンだ。
ギルモンには、何故自分がこんな訳の解らないコンクリートジャングルに要るのかが、理解出来なかった。
「えーっと……僕は確かぁ……」
自分の記憶を辿る。思い出せるのは、キャロやアグモンと出会い、トータモンに襲撃された事。
その際にヴィヴィオによってデジソウルをチャージされた自分はグラウモンへと進化。
見事にトータモンを倒した―――筈だった。
「それがどうしてこんなことになったんだろう……」
しかし、ギルモンからはそれ以降の記憶が途絶えていた。
気付いた時には、あの広間に拉致られていたのだ。
そして見せ付けられた、一人の少女の死。
もちろん人間が死ぬ瞬間を見るのは始めて。
それに死んだ女の子だってギルモンの知らない人間だった。
それでも、あの黒い髪の女が一方的に命を弄んだ悪い奴だと言うことは、幼いギルモンにも解った。
そしてあの女が自分達に強要したのは、この狭い空間の中で互いに殺し合え、という事。
もちろん、いきなり他人を殺せ等と言う命令に従うギルモンでは無かった。
「あんな奴の言うこと、聞くもんか……! 早くヴィヴィオちゃんを探して、こんなとこから出ていかなきゃ!」
ギルモンは、声高らかにそう宣言した。
まずは一人では戦う力を持たないであろうヴィヴィオと合流し、一緒にこの空間から脱出する。
ヴィヴィオも参加しているかどうかは、今のギルモンには調べようが無いが、ギルモンは勝手にヴィヴィオもいるものと決め付けた。
あながち間違いでは無いが。
◆
「なんだ……コレ……」
走りながら、ヴィータは呟いた。
ポケットの中で輝く小さな端末を取り出し、その画面を見詰める。
支給品を漁った際にデイバックから出て来た赤と緑の端末だ。
一応役に立つかも知れないとポケットに入れておいたのだが―――
走れば走る程にその輝きは増して行った。
「何なんだよ、コレは……!」
まるでこの機械に走る方向まで決められたかのように、ヴィータは何かに吸い寄せられるかのように走り続ける。
そして、最後の角を曲がったヴィータが見付けたのは。
「……赤い……恐竜……?」
「……女の、子?」
小さな小さな赤い恐竜。
だがヴィータが今まで見て来たような生物達とは、雰囲気がまるで違っていた。
かわいらしい大きな瞳に、とても強そうには見えない小さな体。
魔導生物の幼態かとも思ったが―――いや、そんなことはもうどうでもいい。
はやてを護る為、この恐竜のリンカーコアも頂く。
現在闇の書は手元に存在しないが、時が来れば自然と現れるだろう。
ヴィータは、赤き騎士甲冑を身に纏い、跳躍した。
とりあえずボコボコにしてリンカーコアを引き出す。弱っちそうだが、少しでもページが増やせるのなら細かい事は気にしない。
ヴィータは直ぐに飛び上がり、支給された槍をギルモンへと振り下ろした。
「でやぁぁああああッ!!!」
「うわわわ……っ!?」
が、回避される。紙一重の所でギルモンが横方向へとずっこけるような形で、ヴィータの攻撃をかわしたのだ。
アイゼンなら外さないのに……と、使い慣れないデバイスに舌打ちするヴィータ。
そんなヴィータに向かって、目の前の恐竜が口を開いた。
「い、いきなり何するんだよぉっ!?」
「……あ?」
その突然の事態に、ヴィータの思考が一瞬停止した。
恐竜が、喋った……?
こんな明らかに知性を持たなさそうな恐竜型の生き物が喋るのを見たのは、これが始めてだった。
キョトンとした表情で槍を構えるヴィータ。
慌てた表情でヴィータを睨む恐竜――ギルモン。
ヴィータのポケットの中で、赤と緑の小さな端末―――デジヴァイスicは、輝き続けていた。
◆
レジアス・ゲイズの部屋で、二人の男女が向かい合っていた。
レジアスのデスクに腰掛け、はやてへと笑いかける男―――キング。
はやてもまた警戒した表情で、終始キングからは目を離さない。
―――最悪や。いきなりこんな相手と当たるなんて……
はやての表情は自然と曇る。
最初に当たった相手が、変な念力を使う相手。それも、ふざけた演技で自分をからかうような人間だ。
正直言って、相当に質の悪いタイプだと、はやては判断した。
「――へぇ〜、じゃあ君は、家族を護る為に戦うんだ?」
「……そうや。だから、私は……こんなとこで死ぬ訳にはいかへん」
キングの質問に簡単に答えながら、ヴォルケンリッターやゴジラの話を聞かせる。
キングも興味津々といった感じに、身を乗り出している。
が、ここで不自然な事が一つ。
―――この男は、ゴジラを知らん……
そう。キングは、あれだけ猛威を奮った大怪獣・ゴジラを知らないというのだ。
普通に考えればそんな事は有り得ない。ゴジラによって一体何万……いや、何億という数の人間が死んだことか。
それこそ数え切れない程の、膨大な数の人間が死んで行ったのだ。
そのゴジラを知らないという事からも、容易に一つの答えが想像出来る。
そう。“キングは、この世界の人間ではない”という事だ。
どの管理外世界かは知らないが、ゴジラの被害の全く及ばない世界の住人なのだろう。
そう考える事で、さっきの念力にも納得が行く。
「だから……私の邪魔をするつもりなら、あんたから―――」
「ちょ……!? ちょっと待ってよ、僕は君と戦うつもりなんか無いって!!」
「何やて……?」
はやての言葉を遮り、キングが声を張った。
といってもすぐに信頼出来る筈もなく――
はやてははやてで、依然として警戒した表情を崩さないままに、キングを睨み付けていた。
◆
―――参ったなぁ……この子、完全に僕のこと警戒しちゃってるよ……
キングは後悔していた。はやてをびっくりさせようと思って、無駄にあんな念力を見せてしまった事を。
あの意味の無い念力によって、自分は想像以上に消耗した上に、はやてには必要以上に警戒されてしまった。
とりあえず念力の使用は控えよう……等と考えながらも、はやてとの話を進める。
ゴジラやヴォルケンリッター等と、色々と興味深い内容の話ではあったが、まずはやてから信用を得なければ話にならない。
「もう……さっきのは謝るからさぁ、そんな怒った顔しないでよ。
僕が悪かったって、ほら、この通り」
「…………」
一応頭を下げるが、はやては依然として警戒の表情を崩さない。
もういっそアンデッドに変身して斬り殺しちゃおうか……なんて考えが浮かぶが、キングは何とかその衝動を抑えた。
殺そうと思えばいつだって殺せるのだ。ならばもっと面白い物を見てからでも遅くは無いだろう。
「……あんたは何が目的なんや……?」
「え……僕?」
「そうや。私にだけ色々喋らせるのは不公平やろ?
相手に信じて貰お思うたら、自分の目的も明かすのが筋ってもんや」
「う、うーん……ま、それもそうだね」
この女、こっちが下手に出てればだんだん調子に乗って来たな……
等と考えつつも、キングは自分のデイバックを漁り始めた。
ある程度漁った所で、一つだけめぼしい物を見付けたキングは、それを取り出し、
それ以外を――自分のデイバックを、丸ごとはやての足元に投げた。
「あげるよ、それ」
「な……!? なんでや? これは生き残る為に必要な――」
「アハハハ、僕それいらないもん。なんてったって、僕が誰よりも“一番”強いんだからね」
不可解な表情でキングを睨むはやてを尻目に、キングは先程取り出した一本のベルトを見せびらかす。
一緒に着いて来た説明書に軽く目を通したキングは、ベルトを手で振り回しながら言った。
「でも僕さ、あのプレシアっておばさんの言いなりに戦うつもりなんて無いんだよね」
「じゃあ……どうするっていうんよ?」
「全部目茶苦茶にするのさ。このプレシアのふざけたバトルファイトも、ここに来た仮面ライダー達も、全部ね」
「仮面……ライダー?」
はやての言葉から、やはりこいつは仮面ライダーを知らないという事が伺える。
仮面ライダーとは、人々の平和を守るために、無償で悪い奴らと戦う仮面の戦士達……
などと、キングはざっと仮面ライダーの説明をすると、振り回していた銀色のベルトをはやてに見せ付け、言った。
「―――で、これがカブトのベルトって訳。僕はカブトの他に参加者達に支給されたライダーシステムを集める。
あいつらが変身出来ない間に守りたい物が傷付けられて、それで悔しがるとこが見たいんだ。」
「……悪趣味な」
「アハハ、だからライダーシステム以外のアイテムは全部君にあげる。それでいいでしょ?」
呆れた表情で自分を見つめるはやてに、けらけらと笑いながら返すキング。
自分の子孫であるカブトムシをモチーフにしたライダーのベルト――
仮面ライダーカブトのライダーベルトを手にぶら下げながら、キングは考える。
説明書によれば、カブトに変身する為には、カブトゼクターとやらに選ばれねばならないらしい。
―――どうせ僕にはカブトの資格は無い。なら……
キングが考えることは非情に単純。自分が使えないなら、現在の資格者を殺して、その資格を奪い取るまで。
……いや、このベルトでそいつを揺すって遊ぶのもいいかも知れない。
そんなことを考えるだけで、キングの表情はほころぶ。
まだ見ぬカブトを蹂躙するのが、楽しみで仕方が無いのだ。
この男、相当に質が悪い。
やがてキングはレジアスのデスクからぴょんと飛び降り、自分のデイバックを漁るはやてに視線を送った。
「……ねぇはやて、君面白そうだからさ、力貸してあげるよ」
「何やて……?」
「プレシアの技術を使って、ゴジラってのに復讐するんでしょ?」
またしても不可解な表情で自分を見つめるはやてに、キングは優しく笑いかける。
と言っても、キングにとってはただ面白そうな展開になるのが楽しみなだけだが。
返事に躊躇っているのか、はやては依然自分を見詰めている―――
と、その時であった。
「……ッ!?」
「ん……?」
レジアスの部屋の、ガラス張りの窓から、赤い炎が爆ぜるのが見えた。
光自体は小さなものであったが、時間は深夜。漆黒の闇の中で唯一輝く光を、二人が見逃す訳は無く。
距離はここから歩いて5分程度の場所だろう。
生憎光が納まった為に、正確な場所までは掴めないが、近い事には間違いない。
―――さぁ、どう出る? 八神はやて
口元で笑みを浮かべるキング。
それを知ってか知らずか、はやては今も光った位置を睨んでいる。
恐らく悩んでいるのだろう。無視するべきか、行くべきか。
だが、はやてにとっては悩み事かも知れないが、キングにとってはそうではない。
―――面白い事が起こるかもしれない。
あの小さな輝きは、されどキングの興味を引くには十分な輝きであった。
「じゃあさ、君はここで待っててよ。ちょっと僕が見て来てあげる」
「……そうやね。わざわざ私が自分の身を危険に晒すまでも無い。お願いするわ、キング」
キングは思った。
この女も相当に性格が悪いなと。
……いや、元々はこんな性格では無かったのかも知れないが、キングはそれを知る由も無い。
これがもし“お願い”では無く“命令”であったならば、キングはこの女を軽く
念力で吹っ飛ばしてから行こうと思っていたが、どうやらその必要は無いらしい。
キングは、直ぐにレジアスの部屋から出て行った。
◆
「もう、話を聞いてってば……! 僕は戦うつもりは無いんだってばぁ!」
「(チッ……何なんだよこのトカゲ野郎は……!)」
ヴィータが再び槍を振るうが、ギルモンは頭を抱えてしゃがみ込み、それを回避する。
どうやらこの赤い龍、それなりに戦闘経験はあるらしい。
でなければ使い慣れないデバイスとはいえ、ヴィータの攻撃をここまでかわせるとは到底思えない。
だが、それ以前にヴィータには不可解な事が一つあった。
それは、“何故こいつは反撃して来ない?”という疑問。
これではまるで自分が弱い者虐めをしているようだ。
ギルモンの言葉をまるで聞いていないヴィータには、それが不可解で仕方がなかった。
◆
ギルモンは今、非情に困っていた。戦いたくなんて無いのに、目の前の女の子は無条件に襲い掛かって来る。
それもギルモンにはこの女の子が、何かに強要されて戦っているように見えたのだ。
―――それはあながち間違いでは無い。
目の前の少女は実際、誰かを守る為、望まない戦いを強いられているのだ。
―――話を聞いてくれないのなら……!
優しいギルモンにはもう、これ以上苦しそうな女の子の表情を見るのが辛かった。
こうなったら、仕方が無い。
再び槍で突撃してくるヴィータ。
ギルモンはそれを上空に飛び上がって回避し、口を大きく開けた。
同時に、赤き炎がギルモンの体内から湧き起こる。
ギルモンの必殺技、“ファイアボール”だ。
もちろん当てるつもりは無い。話を聞いて貰う為に、ヴィータが簡単に回避出来そうな軌道に向けて、火炎弾を放った。
口から放たれた炎は真っ直ぐにヴィータへと向かって行くが、ヴィータはギルモンの予想通り、簡単にそれを回避。
ギルモンの放った炎――ファイアボールは、ヴィータに回避された事により、アスファルトを爆ぜさせた。
爆音が響き、アスファルトに小さな小さなクレーターが出来る。
「あ……あれ……?」
その時、異変が起こった。
空中でファイアボールを放ったギルモンの体から力が抜け、地面に吸い寄せられる。
―――なんで……?
ギルモンは気付かなかった。
プレシアによって装着されたこの首輪は、技の消費をさらに促進させるという事に。
受け身を取る事に失敗したギルモンは、硬いアスファルトに激突し、声にならない鳴咽を漏らした。
それはヴィータに取っては十分な隙。
飛び上がったヴィータは、直ぐに倒れたギルモンの元へと着地した。
「てこずらせやがって……あたしの勝ちだ……!」
「うぅ……ここまでか……ごめんよ……ヴィヴィオちゃん……」
ヴィータが冷たく輝く槍をギルモンの喉元に突き付ける。
ギルモンは最早これまでかと、ヴィヴィオを守る事も出来ずに逝ってしまう事を、小さく謝罪した。
―――あれ?
だが、ギルモンの喉元に、槍が突き刺さる事は無かった。
◆
「―――あたしの勝ちだ……!」
ヴィータは、ギルモンの喉元へと槍を突き付けた。後はこの腕に少しでも力を込
めれば、ギルモンは絶命するであろう。
「うぅ……ごめんよ……ヴィヴィオちゃん……」
「……ッ!?」
何故だ? 手が動かない。あと一息だと言うのに。
―――あたしの目的は何だ? リンカーコアを奪う事じゃなかったのか……?
ヴィータはようやく気付いた。
“どうやって”リンカーコアを奪うんだ? 奪う手段は、今どこにある?
その時になれば出てくると思っていた闇の書は、一向に出てくる気配を見せない。
それどころか、一滴の涙を流すギルモンを見ていると、完全に自分が悪者としか思えなかったのだ。
今までとは訳が違う。ろくな知性を持たない魔導生物では無く、この恐竜は自分の意思を見せたのだ。
リンカーコアを奪えないのなら、はやてを優勝させる為にこの恐竜を殺すか?
果たしてはやては、そんな犠牲の上に成り立つ優勝で、喜んでくれるのか?
一度決めた決意が、揺るぎ始める。
その時であった。ヴィータのポケットの中で、赤と緑の―――ヴィヴィオのデジヴァイスが、眩ゆく輝いたのは。
「うわっ……!?」
「この光は……まさか!!」
あまりの眩ゆさに、ヴィータはバランスを崩してしまった。
その隙にギルモンも起き上がり、ヴィータへと接近する。
ヴィータは構わずポケットからデジヴァイスを取り出し、その画面を食い入るように見詰めた。
「な、何だよ……コレ!?」
「やっぱり……! ヴィヴィオちゃんのデジヴァイスだ!!」
ギルモンがヴィータに近づく事で、ゆっくりとデジヴァイスの光は納まってゆく。
何が何だか訳が解らないままに、ヴィータはデジヴァイスを握りしめた。
「ねぇ、このデジヴァイスを何処で手に入れたの……!?」
「んなこと知るかよ……! あたしのデイバックに入ってたんだよ……!」
慌てながらも、デジヴァイスをギルモンに見せる。だが、それ以上は何も起こらない。
光る事も無ければ、何かが現れることも、画面の表示が変わる事も。
しかし、ギルモンにはそれで十分だったのだろう。
嬉々としてヴィータの腕を掴んだギルモンは、嬉しそうに言った。
「決めたっ! 僕、しばらく君と一緒にいるよ!」
「は、はぁ!? 勝手に決めんじゃねぇ! あたしにはやることがあるんだよ!?」
ヴィータは、ギルモンの手を振り払い、デジヴァイスを押し付ける。
はやてを救わねばならないというのに、こんな所で油を売っている暇があるものか。
――しかし、ギルモンは引き下がらない。ヴィータの腕を引っ張り、無理矢理にでも話を聞かせようとする。
「僕だって、ヴィヴィオちゃんを助けなきゃならないんだ。それまで一緒にいようよ」
「ふざけんな! なんであたしがお前みたいな変な恐竜と一緒に居てやらなきゃなんねーんだ!?」
「変な恐竜なんかじゃないよ! 僕にはギルモンって名前があるんだ!」
「知るかそんなもん! あたしははやてを助けなきゃなんねーんだ、足手まといなんだよ!」
胸を張って名乗るギルモンであったが、ヴィータは聞く耳を持たない。
守るべき物があるとは言え、二人共精神面はまだまだ子供。
先程まで戦っていた事等忘れたかのような漫才を繰り広げる。
◆
ギルモンとヴィータのやり取りを、静観する男――キング。
物影から、ギルモンがヴィータの腕を引く瞬間を、携帯電話のシャッターに納める。
携帯電話からは“ピロリン”とふざけた音が鳴り、その画面にはギルモンがヴィータの腕を引く画像が写し出された。
それは状況を知らない者が見れば、ヴィータの腕を凶暴な巨大トカゲが引きちぎろうとしているようにも見えた。
小さく笑いながら携帯電話をポケットにしまったキングは、次に冷酷な視線でヴィータ達を見詰めた。
―――何だよ、もう終わり?
どうやら、これ以上は二人の戦いは進展しないらしい。
つまらない。つまらなさすぎる。そんな面白く無い結末は、キングの望む物では無かった。
故にキングは、額から一降りの巨大な剣を抜き取った。
剣の名は“オールオーバー”。全てを斬り裂く、強力にして絶対的な力を誇る破壊剣。
キングの姿は、黄金に近い体色をした、全てのカブトムシの祖たる生物へと変わっていた。
右手に持つは、破壊剣“オールオーバー”。
左手に持つは、どんな攻撃をも無効化する強固な盾、“ソリッドシールド”。
キングは――コーカサスビートルアンデッドは、ゆっくりとヴィータ達の元へと歩を進めた。
◆
「……ちょっと待て、ギルモン」
「え……?」
さっきまで大声を張り上げていたヴィータが、突然大人しくなった。
何が起こったのかと、ギルモンも吊られてヴィータの視線の先を見る。
――そこに居るのは、僅かな光を反射して輝く、黄金の怪人。
「何だろう……? デジモンかなぁ?」
「何だかわかんねぇけど……味方って訳じゃなさそうだな……」
ゆっくりと歩いて来る、黄金の怪人――コーカサスビートルアンデッド。
カブトムシのように立派な角を頭部に生やしたそいつは、透き通るような蒼い瞳で自分達を見詰めていた。
「おい、何なんだテメーは! 」
ヴィータが声を張り上げるが、コーカサスはまるで聞く耳を持たずに、迫り来る。
やがてコーカサスは走り出し、一気にヴィータとの間合いを詰め、その剣――オールオーバーを力強く振るった。
「ぐっ……!?」
「な……っ!?」
ヴィータが咄嗟に槍を構えた事で、オールオーバーは防がれる。
本来ならば、例えどんな物質であろうと一刀の元に両断するオールオーバーであるが、制限下では防ぎ切るのもそう難しくは無い。
吹っ飛んだヴィータに駆け寄ろうと、ギルモンが立ち上がる―――が、名前が解らない。
「え、えーっと……」
「ヴィータだッ! 鉄槌の騎士、ヴィータ!!」
困った顔で狼狽するギルモンに気付いたのか、ヴィータは名前を名乗り、すぐに飛び上がった。
挑発的に構えるコーカサスに一泡吹かせようと、上空から槍を振り下ろす。
「なっ……!?」
だが、槍がコーカサスの頭に届く事は無かった。
コーカサスの腕に装着されたソリッドシールドと同型の盾が、ヴィータの攻撃に対して、自動的に現れたのだ。
それによりヴィータは弾き返され、さらにコーカサスが横一線に振るうオールオーバーの一撃を受けた。
「チッ……!」
オールオーバーが激突する瞬間、直ぐにアイゼンの時と同じ要領で障壁を展開。
横に振り抜かれたオールオーバーの一撃を受け止めるが、衝撃は緩和出来ず、ヴィータ自身の体も吹っ飛ばされる。
破られた障壁は粉々に砕けるが、どうやらヴィータ本人への直撃だけは防げたらしい。
これがもしそのまま振りぬかれていたならば、ヴィータの体は二つに分かれていたことだろう。
「ぐぁっ……!」
「ヴィータちゃん!!」
地面に激突したヴィータに、ギルモンが駆け寄る。
オールオーバーの攻撃を受けた左肩からは血が流れ出し、ギルモンが心配そうに見詰める。
「ヴィータちゃん、早くデジソウルをチャージして!」
「あん? なんだそりゃ!?」
「デジヴァイスだよ、さっきの機械ーっ!」
急かされたヴィータは、慌ててポケットからデジヴァイスを取り出す。
が、先程のような輝きは放たれず、もちろんデジソウルのチャージ等論外。
「何でだよ!」と、ギルモンが苛立ちの表情を浮かべる。
そう。このバトルロワイアルにおいて、ギルモンは……いや、全てのデジモンは、進化を封じられているのだ。
故にギルモンはグラウモンへの進化は不可能。
それに気付かないギルモンは、とにかくヴィータを守ろうと、コーカサスの行く手を阻むように立つ。
ヴィータの視線が、自分の背中へと真っ直ぐに向けられているのが解る。
―――負けられない! 僕はヴィヴィオちゃんを助けなきゃならないんだ……!
ギルモンの口内で、赤い炎が渦巻く。
それに反応し、ヴィータのデジヴァイスが小さく光った。
そして―――
「ファイアボールッ!!」
ギルモンが、灼熱の如き火炎弾を、コーカサスへと放った!
だが、やはりギルモンの炎はコーカサスに届く前に現れたソリッドシールドに阻まれる。
しかし、ギルモンはめげない。
すぐにファイアボールの再チャージに入り、コーカサスを食い入るように睨む。
先程、ヴィータに放った時と比べれば、ファイアボールを放つ際の疲労は減少していた。
それはヴィータがデジヴァイスを握りしめていることも、少なからず関係しているのだろう。
「ファイアボールッ!!」
再び放たれた火炎弾。
だが、コーカサスには届かない。ソリッドシールドに防がれてしまうのだ。
ソリッドシールドに阻まれた炎は、その威力を失い、光を失っていく。
それでも、ギルモンは諦めない。何度でも、何度でも、ファイアボールを放ち続ける。
ヴィータを守る為、ヴィヴィオを守る為、ギルモンはその気持ちを火炎弾に乗せ、放ち続ける。
「お、おい……ギルモン!」
「ヴィータちゃん、守りたい人がいるんでしょ!? こんなとこで、終われないんでしょ!?
僕は戦うよ! 例え今は効かなくっても、いつかはあの盾だって……!」
言いながら、ファイアボールを放ち続ける。
対するコーカサスもまた、動かずにただただ攻撃を防ぎ続ける。
本人は挑発……というよりも一種のゲームのつもりなのだろうが。
コーカサスは気付かなかった。
およそ150tまでの攻撃を、完全に無効化するソリッドシールドと言えど、制限下ではその防御力も絶対では無いという事に。
ややあって、いい加減に腹が立って来たのか、コーカサスがギルモンに向かって歩き始めた。
だが、ギルモンは攻撃を止めようとはしない。
何度撃っても防がれるファイアボールを、何発も何発も、自動的に現れるソリッドシールドへとぶつけ続ける!
やがて、ギルモンの眼前にまで迫ったコーカサスは、オールオーバーを大きく振りかぶった。
だが、攻撃体制に入ったのは、コーカサスだけでは無い。ギルモンもまた、口内に灼熱の炎を蓄える。
そして―――
「……ファイアボールッ!!」
「な……ッ!?」
コーカサスがオールオーバーを振り下ろす前に、ソリッドシールドに亀裂が入った。
驚愕するコーカサスを尻目に、「今だ!」と、ヴィータが飛び出した。
「でぇやぁぁぁああああああッ!!!」
「チッ……!」
突撃したヴィータが、槍を一気に振り下ろす。
コーカサスがヴィータに反応するよりも早く、ソリッドシールドが自動的に発動し、ヴィータの槍を受け止めた。
槍がシールドにブチ当たり、今回も今までと何ら変わらない虚しい金属音が響く。
―――いや、その後に、続けてもう一つの音が響いた。
パキィィィンッ!
「な……ッ!? 嘘だろ!?」
「やったぁっ!!」
ヴィータの槍を受け止めた変わりに、コーカサスを守るソリッドシールドが、甲高い音を立てて砕けたのだ。
その一瞬の隙をついて、ギルモンが再びファイアボールを放つ。
しかし、今度はソリッドシールドは発動せず、ギルモンが放った火炎弾は、そのままコーカサスの黄金の装甲を焼いた。
キングはすぐにギルモンを潰そうと、その思い足を動かすが――
今度は、再び背後から現れたヴィータが、槍を薙ぎ払うように振るった。
「……二度目は無いよッ!」
しかし、再び復活したソリッドシールドが、ヴィータの攻撃を防ぐ。
ヴィータは舌を打ちながら後退し、着地。コーカサスを睨み付ける。
ギルモンとヴィータが視線を合わせ、コーカサスを食い入るように見詰める。
◆
「(僕の盾が……破られたッ!?)」
ヴィータの振り下ろす槍の一太刀は、コーカサスを守るソリッドシールドを、粉々に砕いた。
驚愕するキング。
左腕のソリッドシールド本体が砕かれた訳では無い為に、またすぐに生成する事は出来るが、それでも一瞬の隙は生まれる。
ふと横を見れば、さっきの赤い恐竜が、大口を開けて構えていた。口内に輝く赤き光は、まさしく灼熱の炎。
コーカサスが身構えるが、時既に遅く。
ギルモンが放った炎は、コーカサスの脇腹を焼いていた。
―――チッ……これくらい何ともないけど……!
コーカサスが直ぐにギルモンに向き直る。この程度の傷はかすり傷にもならない。
――が、それでもキングである自分を気付けるコイツは許し難い。
オールオーバーを振り上げて、ギルモンに迫るが―――
「っらぁっ!!!」
「……二度目は無いよッ!」
背後から迫り来るヴィータ。
再び回復させたソリッドシールドで、ヴィータの槍を受け止める。
すぐにヴィータは後方へと跳びはね、着地。ギルモンと二人で自分を睨んでいるのが解る。
―――何だよ、そんな目で見るなよ……!
コーカサスは、二人の視線に苛立ちを感じながら、オールオーバーを構え直した。
だが、それは戦闘の構えでは無い。
それとは真逆の―――戦闘の意思放棄だ。
面白く無くなった。この戦いを続ける気が失せたのだ。
やがてコーカサスは踵を返し、元来た道へと引き返した。
されど、まだ人間の姿には戻らない。
何故なら、一度怪人としての姿を見せた相手には、人間の姿は見せない方が有利に事を運べると思ったから。
無駄に手の内をさらす必要も無い。
だから、もうこいつらはどうでもいい。飽きたから、とっととはやての元へと戻ろう。
そう考えたのだ。
「逃げるのかッ!?」
背後から、ギルモンの怒声が聞こえる。
―――逃げる? 冗談じゃない。逃がしてあげるんだよ
コーカサスはそう思ったが、口には出さなかった。
ギルモンは解っていないようだが、恐らくヴィータはその事に気付いているだろう。
そして何よりも、わざわざ自分が声を発するのが面倒だった。
◆
―――遅い。キング、遅すぎる。一体何をやってんねん
八神はやては、キングの帰還が遅い事に苛立ちを感じ、自ら地上本部の外へと歩き出した。
戦いが長引いているのかも知れないと考えるが、それならそれでキングがどのように戦うのかに興味がある。
あそこまで自信満々に“最強”と言い張るからには、よっぽどの自信があるのだろう。
もしこれでキングが弱ければ、はやての“駒”としては必要無い。はやては“強い駒”だけを求めているのだ。
キングからデイバッグを貰ったお陰で、自分の武器も確保出来た。
これ以上戦力の解らない相手の下手に回る必要も無い。
地上本部のエントランスを出たはやては、先程レジアスの部屋から見えた光に向かって真っ直ぐに歩く。
記憶通りならば、もうすぐ先程の光源にたどり着く筈だが―――
「ん?」
ややあって、目の前から、赤いジャケットを羽織った男が歩いて来るのが見えた。
―――キング……?
うっすらとしか見えないが……あんな派手な外見の男はそうは居ない。
はやては、飄々としたキングの表情にため息を付きながらも、キングへと歩み寄った。
「キング、何やったん? さっきの光は」
「あぁ、うん。はい、こんな感じだったよ」
「……?」
キングは、顔色一つ変えずに、開いた携帯電話をはやてへと投げ渡した。
慌ててそれをキャッチしたはやては、画面に標示された画像に視線を移す。
―――――ッ!?
刹那、絶句した。
そこに写されていた画像は、赤い巨大なトカゲが、最悪の家族の腕をギリギリと引っ張っている様子。
「な……そんな……アホな……
嘘や……ヴィー……タ?」
「ん? どうしたの?」
携帯を握るはやての手が、わなわなと振るえる。最早、キングの声など、はやてには届いて居なかった。
「ヴィータは今、このすぐ近くにおる! 急がな……ヴィータが危ない!!」…と。
それを見たはやてがこう考えるのは当然の事だろう。何しろ、デバイスはプレシアにより奪われてしまったのだ。
それは先程までの自分も例外ではない。力を持たないヴィータが、こんな怪獣と戦うのは危険過ぎる。
事実、はやての元居た世界には未知の怪獣達がうようよといるのだ。
この赤い怪獣が、凶悪な怪獣でないと誰が断言出来る。
支援
更に支援なんだぜ!
故に、はやては走った。
キングが来た道を、全速力で走った。
ヴィータに会える。ヴィータは生きてた。今、ヴィータを助けられるのは自分だけだ。
その一心で、駆け抜けたはやての目に映ったのは、赤い龍と共に座り込むヴィータの姿。
へなへなと座り込んでいるヴィータに向かい合う形で、ギルモンが立っている。
見るからに凶暴そうな鋭いツメが、はやての家族――ヴィータに近づく度に、はやての心は急かされる。
だがそれよりも、今のはやてには、ようやく再び出会うことの出来たヴィータに対する喜びの方が先走っていた。
「あ……あぁ……夢やない……ヴィータ……ヴィータ……っ!!」
はやての瞳から、大粒の涙が零れる。ヴィータは、確かに目の前にいるのだ。
まだこちらには気付いていないが、ヴィータは確かに生きている。
そして、次にはやての目に入ったのは―――血だ。
ヴィータの腕を流れる血。キングのオールオーバーにより切り裂かれた、大きな傷だ。
「ヴィータ……血が……ッ!?」
「あぁ、あれ君の家族だったんだ? 結構ヤバいよ
さっきあの赤い恐竜に、随分と痛め付けられてたみたいだからさ」
口を塞いでヴィータを見詰めるはやての肩を、後ろから現れたキングが叩く。
先程の画像からも、あの赤い怪獣がヴィータの方を斬り付けたのだろうと推測。
この状況から見ても、そう判断するのは当然のことだった。
もちろんキングの言葉に何の疑いも感じないはやては、あの赤い怪獣が全て悪いのだと勝手に判断。
だが、キングの言葉は全くの出任せ。
キングは、自分が与えた傷を“ギルモンにやられた傷”だと思い込ませるつもりなのだ。
実際、疲労により座り込んだヴィータと、その目の前に立つ無傷の赤い恐竜という構図は、どう見てもヴィータが被害者にしか見えはしない。
拳を握り締めるはやて。沸き起こる殺意。
ようやく出会えた大切な大切な家族を、あんな怪獣に殺されてたまるものか。
はやては、キングから受け取ったデイパックの中から、二刀のグリップを取り出した。
ジェイル・スカリエッティが生み出したナンバーズが12番――ディードの愛用武器。
はやてが握りしめたグリップからは、桜色に光輝く刀身が飛び出した。
やがてその光はガラスのように硬質化されてゆき―――
はやては、刀――いや、ツインブレイズを構え、走り出した。
そんなはやてを見詰めるキングが浮かべる表情は、これ以上無いという程の笑み。
だが、はやては気付かない。
完全に頭に血が昇ったはやてにとって、最早キングの表情などどうでもいいことだった。
◆
「あのさ……ギルモン……」
「何ぃ? ヴィータちゃん」
顔を伏せるヴィータに、ギルモンが笑顔で答える。よく見れば中々に可愛らしい表情だ。
一つの戦いを共に乗り越えたヴィータには、自然とギルモンに対する愛着が湧いていた。
ヴィータ自身はそんなこと認めようとはしないだろうが、先程までのギルモンへの失礼な行動は謝ってやろう……程度には考えていた。
妙な気恥しさから、ヴィータはギルモンの顔を直視出来なかった。
故に俯きながら言葉を紡ぎだす。
「さっきは……あんがとな」
「ぇ……? いきなりどうしたんだよー?」
「誰かを守りたいってお前の気持ち……よく解ったよ……」
誰かを……大切な誰かを守りたいという気持ち。
ギルモンの熱い思いは、ヴィータの中のなにかを揺さぶった。
そうだ。誰かを守るために戦っているのは自分だけじゃない。
もしも、今の自分からはやてを取り上げられたら、自分はどうするだろうか?
きっと、凄まじい悲しみと、そして怒りに包まれる筈だ。
それは、ヴィヴィオという少女を守りたいと云った、このギルモンに取っても同じ筈。
はやてを守るのは当然の事だが、その為に誰かの大切な人を殺していいなんて、ヴィータには思えなかった。
だから、闇の書とかは関係無しに、今はまずはやてを探して、ゲームに乗った奴らから守り抜く。
ヴィヴィオって奴がどんな奴かは知らないが、どうせ守るなら、そいつも一緒に守ってやるのも悪くは無い。
そんなことを考えるヴィータは、依然俯いたまま。
「だからさ……しばらくは、一緒に居てやらねーことも無いっ」
少し恥ずかしげに言うヴィータ。
きっとギルモンも喜んでいるのだろうと思うと、顔を上げるのがさらに気恥ずかしかった。
―――だが、いくら待とうが、ギルモンからの返事は帰って来ない。
こんなことを言うこっちだって、それなりに恥ずかしいのだ。
黙ってるんなら、さっきのも全部撤回してやろうかと、ヴィータは少しばかり苛立ち君に顔をあげた。
「何だよ、なんとか言えよ……ギルモ―――ッ!?」
「ヴィータ……ちゃん……逃げ……て……」
「な……」
―――おかしい。何だこれは?
ヴィータの思考が、完全にストップする。
―――何で……ギルモンの体から“こんなもん”が生えてんだよ……!?
ギルモンの胸を突き破って伸びる、二刀の刀。桜色の刃を濡らす、ギルモンの赤い体液。
刀――ツインブレイズから滴り落ちた血の雫が、ヴィータの足元を黒く染める。
ヴィータには、何が何だか解らない。
このピンクのソードも、ギルモンがその体から生み出した秘密武器なんじゃないか……とも考えた。
「お、おい……ギルモン……?」
「ヴィ……タちゃん……ごめん……ね……
……ヴィヴィ……ちゃ……を……お願…………―――」
「お、おい……何言ってんだよ……ギルモン?」
依然訳のわからないヴィータは、悪い冗談かと、ギルモンに声をかけ続ける。
だが、いくら待とうが、やはり返事は帰ってこない。それっきりギルモンは喋らなくなったのだ。
目を閉じたギルモンは、まるで糸が切れたようにドッサリと崩れ落ち、赤い体から流れ出る血が、赤黒い血溜まりを作った。
―――な……んだよ……何なんだよ……これ!? 嘘だろ……!?
ヴィータが、震えた手で崩れ落ちたギルモンの顔を撫でる。
だが、ギルモンはぴくりとも動かない。
「なぁ……ギルモン……嘘だろ……?
何とか言えよ……おい、ギルモンッ!!」
目尻に小さな涙を浮かべながら、ヴィータがギルモンを揺さぶる。
だが、いくら揺さぶっても。いくら叫んでも。
ギルモンは動かない。ギルモンは喋らない。
「ヴィータ……会いたかった……ヴィータ……!
やっと……やっと私が助けに来れた……!」
赤い液体を滴らせた刀を振るい、茶髪の女が言う。
だが、ヴィータの頭には、最早何も入っては来なかった。
ゆっくりと顔を上げ、涙で霞んだ目に、茶髪の女を捉えた。
込み上げてくるどす黒い感情に、ヴィータの体が震える。
気付けばヴィータの手には、再び起動した槍状のデバイスが握られていた。
「テメェ…………」
「ヴィータ……私や、はやてや! やっと迎え……―――」
「――黙れッ!!!」
周囲の空気を震わすヴィータの怒声に、はやてがびくっと固まる。
―――こんな奴がはやてだと……? ふざけんじゃねえ……
涙を拭い、立ち上がるヴィータ。槍を構え、目の前の女を睨み付ける。
―――はやてはなぁ……どんなことがあっても……誰かを傷つけるような真似はしねぇ……!
目の前の女は、ヴィータの最悪の人物――八神はやての名を語る。
それがヴィータの怒りをさらに燃やした。
そして、目の前の女に槍を突き付ける。
―――テメェなんかが……テメェなんかがはやての名前を語るんじゃねぇ!!
そうだ。確かに声は似ているかもしれないが、目の前の女は、はやてとは似ても似つかない。
まず普通に立っている時点で有り得ないのだ。
ヴィータの知っているはやては、車椅子が無ければ移動も出来ないというのに。
いや、それよりも一番に、こんなに簡単に誰かを殺せる“人間”が、ヴィータの大好きな八神はやて等とは、思いたく無かった。
――いや、人間などという呼び方は似合わない。こいつは紛れもない、“悪魔”だ!
ギルモンがどんな悪いことをした? 出会ってからそう時間はたってないけど、あいつはずっと、誰かを守るために必死だった。
そんなギルモンが、何故殺されなければならない?
「ギルモンを殺して……はやての名を語って……
お前だけは……お前だけは……絶対に許さねぇッ!!!」
「な、何言うてんねん……ヴィータ……?」
この期に及んで、まだはやての振りを続ける女に、ヴィータは堪え切れない怒りを感じた。
手にした槍を、強く握りしめる。こいつだけは、こいつだけは許さない。
――絶対に、あたしがブッ倒す……!
◆
―――何や? 何を言うてんねん……ヴィータ?
はやてには、訳が解らなかった。
ようやく再会出来たのに……ようやくゴラスに消えた家族と再会できたのに……
今だってこうして助けたのに、何故そんな酷いことを言われなければならない?
―――まさか……私のこと……忘れたん?
そんなこと、信じたくは無かった。
だが、目の前のヴィータは今こうして、自分に槍を突き付けているのだ。
あり得ない。はやての知っているヴィータは、こんなことをする子では無い。
多少我がままではあるが、真っ直ぐな、良い子だった筈だ。
ぐるぐると思考を巡らせる。考えれば考えるほどに訳がわからなくなる。頭が痛くなる。
そんな中、先程まで自分の背後にいた筈のキングが、ひょっこりと顔を出した。
「あ! わかった……!」
「……キング……?」
背後から歩いて来るキングに、はやてが視線を合わせる。
いつになく真剣な表情のキングは、ヴィータへと冷たい視線を下ろしたまま、言った。
「この女の子、もしかして偽物なんじゃない?」
「偽……物?」
「うんうん。だってさ、有り得ないじゃんか?
君の家族達は今もゴラスとやらの中にいるんだろ?」
キングの言葉に、はやては思考を巡らす。
そうだ。翌々考えても見ろ、ゴジラから人々を……
自分を守るために人柱になったヴィータが、こんなところに居ること自体が不自然ではないか。
―――偽物? ヴィータが偽物? そっか……だからか……
だが、このヴィータが偽物だとすれば。それならば全てに納得が行く。
ヴィータが自分を忘れてしまった事にも、自分に向かって槍を構えている事にも。
―――こいつは……偽物……ヴィータの姿を使った、偽物……!
ただでさえ錯乱していたはやてに、まともな考えが出来る筈も無く。
はやてはキングの言うままに、ヴィータを偽物だと判断した。
さしずめヴィータの名を語る、プレシアに生み出されたクローンか何かであろう、と。
ならば話は早い。
目の前のヴィータもどきは、はやての心を踏みにじったどころか、
体を張ってゴジラを食い止めてくれている筈のヴィータさえをも侮辱した。
―――なんや……ヴィータとちゃうんや……敵、なんやね
はやては、再びツインブレイズを構え直し、目の前のヴィータの姿をした“敵”を、鋭く睨み付けた。
「あんたは……ヴィータを侮辱したあんたは、私が倒す……」
◆
―――やっべー、面白過ぎるだろ、これ!
キングは、その冷静な表情の下で、それこそ腹筋が痛くなる程に爆笑していた。
そもそもキングは、この世界のバトルファイトについて、一つの予測を立てていた。
ゴジラとかいう聞き覚えの無い大怪獣や、はやての仮面ライダーを知らないという言葉。
普通に考えればこんなことはまずあり得ない。
故にそれぞれが別の世界から連れて来られたのだろうという事は、簡単に想像が着いていたのだ。
キングの推理が正しければ、恐らく目の前のヴィータは偽物などでは無い。正真正銘の本物なのだろう。
ただ、別の世界から来たが故に、どういう訳か記憶の食い違いが生じているのだろうと判断。
もしかしたら時間軸が違うのかも知れない。
もしかしたら全くのパラレルワールドかも知れない。
それはキングの知るところではないが、それだけ解ればキングにもやりようはあった。
この状況で、精神的に混乱したはやてを焚き付けること等、簡単な事だ。
調度勝手に暴走したはやてがあの赤い龍を刺してくれたし、これで相手にも戦う準備が整う。
―――家族同士の絆……か。面白い面白い、どうなるか見物だなぁ
キングの心からは、笑いが耐えなかった。
こんなに面白い茶番を開始早々見られるなんて、キングにとってはプレシアに感謝したいくらいだった。
もうこれ以上自分が手出しする必要は無いだろう。
邪魔にならないようにはやて達から距離を取ったキングは、携帯電話を取り出し、血溜まりを作るギルモンへとレンズを向けた。
ズーム機能を使い、血を流し倒れたギルモンを、画面一杯に写し出す。
「残念だったね、でも最期の言葉は、ちょっとイカしてたよ♪」
ピロリンと、携帯電話の明るいシャッター音が鳴る。
携帯のメモリーに力尽きたギルモンの画像を保存。
同時に、キングの笑い声が小さく漏れる。
また面白い写真が撮れた。そのうちネットにでも流してやろうかな、などと考える
―――“ついに発見!赤い恐竜!”……なんていいかもね。
そんな考えが、キングをさらに笑顔にする。
こらえ切れずに少し大きな笑い声を漏らしてしまうが、問題はない。
どうせはやて達には聞こえない。
完全に二人の世界に入ったはやて達には、最早外界のどんな言葉も聞こえないだろう。
まるで子供のように純粋な悪意は、決して止まる事は無かった。
【1日目 深夜】
【現在地 E−5 地上本部付近】
【キング@魔法少女リリカルなのはマスカレード】
【状態】健康、非常に上機嫌
【装備】無し
【道具】カブトのライダーベルト@魔法少女リリカルなのはマスカレード
キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのはマスカレード
【思考】基本 この戦いを全て滅茶苦茶にする
1.面白そうだから、はやてとヴィータの戦いを見物する
2.カブトの資格者を見つけたら、ゲームでも持ちかける。でも、飽きたら殺す
3.面白そうだから、当面ははやてに協力してやる
4.とにかく面白いことを探す
【備考】
※先ほどの戦いで、何となく自分に制限が掛けられている事に気がつきました
※ゴジラにも少し興味を持っています
※携帯電話は没収漏れです。写メ・ムービー以外の全ての機能は停止しています。
※携帯には相川始がカリスに変身する瞬間の動画等が保存されています。
※キングの携帯に外部から連絡出来るのは主催側のみです。
【八神はやて(sts)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】健康
【装備】ツインブレイズ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、ランダム支給品1〜3個(武器では無い)
ランダム支給品1〜2個(キングから貰いました)
【思考】基本 プレシアの持っている技術を手に入れる
1.目の前のヴィータの偽物を倒す
2.キングを一人目の駒として利用する
3.首輪を解除できる人を探す
4.プレシアに対抗する戦力の確保
5.以上の道のりを邪魔する存在の排除
【備考】
※参戦時期は第一話でなのは、フェイトと口喧嘩した後です
※名簿はまだ確認してません
※このゲームに参加しているヴォルケンリッターは全員、プレシアが用意した偽物だと思っています
※ツインブレイズはキングから受け取ったデイバッグに入っていました
※キングのことは、ただの念力が使えるだけの少年だと思っています
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】疲労(小)、左肩に大きな切り傷
【装備】ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F
ランダム支給品0〜1(武器では無い)
【思考】 基本 はやてを救って、元の世界に帰る
1.ギルモォォォォォンッ!!!
2.目の前にいる、はやての名を語る女(八神はやてStS)をブチのめす
3.ヴィヴィオって奴を見付けた場合は、ギルモンの代わりに守ってやる
【備考】
※はやて(StS)を、はやて(A's)の偽物だと思っています
※デジヴァイスには、一時的に仮パートナーとして選ばれたのかも知れません。
※なのは達のデバイスが強化されたあたりからの参戦です
◆
「……モン……! ギルモン……!
なぁ……嘘だろ…………何とか言えよ……」
微かに聞こえる声に、ギルモンはゆっくりと、されど他人からは解らない程に薄く、瞼を開いた。
自分を揺さぶって泣いている少女は、さっき出会ったばかりの少女――ヴィータだ。
だが、何故泣いているのだろう? あの強そうなカブトムシの敵を倒せたていうのに。
何か悲しいことでもあったのかな?
泣き顔なんて見たくはなかった。出来る事なら笑顔でいて欲しかった。
故にギルモンは、ヴィータを励ましたい一心で、声を絞り出した。
―――ヴィータちゃん……? 何で泣いてるの……? ねぇ、そんなに悲しい顔しないでよ
自分を揺さ振るヴィータに、ギルモンはそう返した……気がした。
だが、どういう訳か、自分の声は聞こえない。なんでだろう?
頭上に疑問を浮かべる。
だが、疑問と同時に、睡魔がじわじわと襲いかかってくる。
ギルモンには、もうそんな細かい事はどうでも良く思えてきた。
『ギルちゃん、ギルちゃん!』
―――んー……誰ぇ?
ギルモンは、どこかから聞こえる声に再び、うっすらと目を開けた。
正直言って、まだ眠かった。もっと眠っていたかった。
それでも自分を呼び起こす声に、瞼を擦りながらもなんとか目を開ける。
『あ、ヴィヴィオちゃん、おはよー』
『もう、ギルちゃんったら、もうお昼だよー!』
目の前にいるのは、緑と紅の綺麗な瞳を持った少女。
掛け替えの無い大切な家族―――ヴィヴィオだ。
『うーん……もうお昼なの……?』
『外、もうこんなに明るいんだよー? ギルちゃん寝過ぎだよー』
―――そんなこと言ったって、疲れてるんだよぉ。
心の中で愚痴を漏らしながら、ギルモンはゆっくりと起き上がる。
そしてヴィヴィオに手を引かれながら、うとうとした両の目を擦る。
――あれ? 僕、どうしてこんなに疲れてるんだっけ……?
暫しの間、ギルモンは座り込んで考える。
何か、凄い経験をしたような気がするけど……うーん、思い出せないや。
何だか、誰かと一緒に凄く強い奴と戦ったような……
『ギルちゃん何してるのー? お昼ご飯覚めちゃうよー』
『あー、待ってヴィヴィオちゃーん』
ヴィヴィオに呼ばれた、ギルモンは、ヴィヴィオ達と共に暮らしていた洞窟の奥へと掛けて行く。
温かい食事。家族皆で囲む食卓に、ギルモンは幸せで、幸せで、胸が一杯だった。
願わくば、こんな平和な日常がいつまでも続けばいいな……
そんな事を思いながら、ギルモンは食事を頬張る。
家族で一緒に食べられる食事がこんなにも美味しいだなんて、今始めて気づいた気がした。
ギルモンは、ひしひしと、家族の絆のありがたみを、胸に刻んだ。
ギルモンの目の前にちょこんと座ったヴィヴィオは、可愛らしく小さなスプーンを口へと運んでいる。
『おいしいね、ヴィヴィオちゃん♪』
『うんっ、美味しいね、ギルちゃん♪』
ギルモンの声に、ヴィヴィオが返す。
その声の中には、一切の悲しみが存在しない。こんなに幸せな日々を送れたことに、感謝の気持ちで一杯だった。
そんなギルモンの顔は――いや、ギルモンだけではない。
一緒に食卓を囲むヴィヴィオの顔にも、これ以上無い程に幸せな笑顔が浮かんでいた。
もうこれ以上、ギルモンはこの幸せを、脅かされる必要は無い。
願わくば、いつまでも……いつまでも、こうして居られますように。
ギルモンは屈託の無い笑顔を浮かべながら、ヴィヴィオにほほ笑み掛けた。
その生を全うしたギルモンは、きっと新たなデジタマへと帰り、再びデジタルワールドに生まれるのであろう。
それはギルモンとしてでは無いかも知れない。
次はどんなデジモンになれるのか、それは誰にも解らない。
ギルモンの未来は、無限に広がっているのだ。
だが、ギルモンの想いは――願いは、決して消える事は無い。
ギルモンの心は、きっとこれからもヴィータと……そしてヴィヴィオを守り続けるであろう。
ヴィータのポケットの中に輝くテジヴァイスは、今もギルモンの想いを乗せ、小さな輝きを放ち続けていた。
【ギルモン@デジモン・ザ・リリカルS&F 死亡】
【残り58人】
投下終了です
こんな無駄に長い駄文に支援を下さった皆様に感謝!
感想、指摘などあれば、よろしくお願いします
少しだけ修正です
【八神はやて(sts)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】健康、怒り
【装備】ツインブレイズ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、ランダム支給品1〜3個(武器では無い)
ランダム支給品1〜2個(キングから貰いました)
【思考】基本 プレシアの持っている技術を手に入れる
1.目の前のヴィータの偽物を倒す
2.キングを一人目の駒として利用する
3.首輪を解除できる人を探す
4.プレシアに対抗する戦力の確保
5.以上の道のりを邪魔する存在の排除
【備考】
※参戦時期は第一話でなのは、フェイトと口喧嘩した後です
※名簿はまだ確認してません
※このゲームに参加しているヴォルケンリッターは全員、プレシアが用意した偽物だと思っています
※ツインブレイズはキングから受け取ったデイバッグに入っていました
※キングのことは、ただの念力が使えるだけの少年だと思っています
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】疲労(小)、左肩に大きな切り傷、激しい怒りと悲しみ
【装備】ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F
ランダム支給品0〜1(武器では無い)
【思考】 基本 はやてを救って、元の世界に帰る
1.ギルモォォォォォンッ!!!
2.目の前にいる、はやての名を語る女(八神はやてStS)をブチのめす
3.ヴィヴィオって奴を見付けた場合は、ギルモンの代わりに守ってやる
【備考】
※はやて(StS)を、はやて(A's)の偽物だと思っています
※デジヴァイスには、一時的に仮パートナーとして選ばれたのかも知れません。
※なのは達のデバイスが強化されたあたりからの参戦です
ちょwキング怖ぇw
何という鬼畜っぷりw
しかし、はやてとヴィータがぶつかるとは……完璧に予想の斜め上を行かれましたよw
そしてギルモン……カッコ良かったぜ……最初から最後までヴィヴィオの事を想い、死んでいく……。
最後のシーンでは軽く涙が……。
いや、本当に素晴らしい作品でした!
GJ!!
感想ありがとうございます!
さて、今更ながら再びミス発見ですorz
>>304 目の前の女は、ヴィータの最悪の人物――八神はやての名を語る。
↓
目の前の女は、ヴィータの最愛の人物――八神はやての名を語る。
>>311 『ギルちゃん何してるのー? お昼ご飯覚めちゃうよー』
↓
『ギルちゃん何してるのー? お昼ご飯冷めちゃうよー』
最後に、状態表に以下の文を書き忘れてました↓
【共通の備考】
※E−5 地上本部付近には、ギルモンの死体が放置されています。
※E−5 地上本部付近にギルモンのデイバックが放置されています。中身は不明。
GJ!
これは良い疑心暗鬼w
仮面ライダーは未見だったけどキングのキャラが良すぎるw
俄然興味湧いてきましたよ。
ヴィータとはやても良い感じですし、これは先が楽しみだw
もう一丁GJ!!
40分からゼスト、C.C.分を投下します
――何故、こんな物が都合よく自分の持ち物の中にあったのだろう。
虫の音すらならぬ静寂の暗闇の中、石畳に軽く腰掛けたゼストは、微かに呆れたような表情でため息をついていた。
少し離れた場所では、同様に1人の少女が座っている。
エメラルドのごとき緑髪は、この宵闇の暗さの中でも、負けずに優美な輝きを放っていた。
まるで絹の糸のように、冷たい風にゆらゆらと揺れている。
人形のように綺麗な黄金の瞳は、手にしたもの――赤色やら黄色やらの乗った断片を見つめていた。
白く細い指が、それを口の中へと運び、ゆっくりと入れる。黄色いもの――熱々にとろけたチーズが微かに糸を引いた。
そう。彼女が食べているものは、
「なかなか用意がいいじゃないか」
ピザだ。
だれがどう見ようと、紛れもなくピザだった。トマトソースやチーズの乗ったそれは、いわゆるマルゲリータ・ピザ。
「オリーブだけが綺麗さっぱりなくなっているのが、また妙な話だがな」
言いながら、少女はまた手にしたピザの一切れに噛り付く。
もう気が付いているだろう。彼女が食べているこのイタリア料理は、横に座っているゼストの持ち物だったものだ。
数分前に彼女らは、この淡い月光が照らす神社の中で出会った。
空腹で、おまけに三度の普通の飯より三度のピザを好むような偏食家の少女は、出会い頭にピザを要求する。
この状況で、しかも武器を構えていた正体不明の男にそんなことをよく頼めるものだとは思うが、生憎と彼女は普通の人間ではない。
彼女は落ち着いていた。そう、それこそ、図太いと言われるような領域に達するほどに、性根が座っていたのだ。
とはいえ、急にそんなことを頼まれたゼストはたまったものではなかった。
何でそんな物をわざわざ要求したのかは理解できなかったし、こんな所にピザがあるはずもない。
そして腹が減っているのなら、何か適当なおにぎりでも1つ渡してやろうと思って、
デイバックに手を突っ込んだ矢先に――自分の持ち物の中に、あまりに都合のよすぎる代物を発見し、今に至ったのだ。
「……まぁ、今はこれくらいでいいだろう」
12分の1にカットされた一片をたいらげると、少女はピザの箱を閉じる。
そしてあつかましくも、自分のデイバックの中にそれを突っ込もうとして、
「おい」
ゼストに止められた。
「不満か?」
「当たり前だ」
不機嫌そうにゼストが呟く。
何故こんなものが自分に支給されていたのかは分からないが、一応そのピザ一枚分、彼は他の人間よりも食料面で優位に立っていたのだ。
そのピザを他人に奪われては、たまったものではない。
「まぁいい」
そちらもそちらで不機嫌そうに頬を膨らませながら、少女は自分とゼストの間にピザの箱を置いた。
微妙に奥行きの広かった石畳の段は、幅広なピザもどうにかこうにか支えられている。
「私も、色々と聞きたいことがあるからな」
少女はゼストに本題を切り出した。
元々危険を冒してまで彼に接触したのには、それなりの理由がある。
ピザだけを欲してるのなら、不意打ちで殺して持ち物をあさってしまえばよかったのだから。
彼女が欲しているのは、情報。
戦場――ことさらこうしたサバイバルゲームの中では、フィールドに隠れた敵の情報が物を言う。
たとえば、得意とする戦闘スタイル。たとえば、使われると苦手な戦法。
このデスゲームの中で生き残るには、1人でも多くの情報を知っておくに越したことはなかった。
「この場にいる参加者の中で、お前が知っているのは誰だ?」
故に、その情報を得るために、少女は問いかける。
そしてゼストもまた、彼女に対して、同様の念を抱いていた。
戦う人間の情報は何としても欲しい。ここで答えておけば、ギブアンドテイクということで相手から聞き出すこともできるだろう。
何より、自分は相手に対して恩を売っている。マルゲリータピザ12分の1の恩を。
(それに、元より情報を知られて困る仲間など……この場にはいないからな)
故に、ゼストは要求に応じた。
再びデイバックに手を入れ、そこから支給された名簿を取り出す。
ごつい指先でその上をなぞりながら、ゼストは己が知りうる参加者の名前を少女に伝えた。
まず、高町なのは。名簿の中でも1番上に名前の載っていた、許されざる復讐鬼の名前。
続く、管理局の魔導師達。フェイト、はやて、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、ギンガ、クロノ、etc……
これらの人間とは直接刃を交えたことはないので、スカリエッティから与えられた情報のみを伝えることになるだろう。
そして、そのスカリエッティが従える戦闘機人達。クアットロ、チンク、ディエチ、そして――スバル。
その名前を聞いた時に、少女は微かにその瞳を見開いた。
「スバル・ナカジマなら、私も知っているぞ」
知り合いがかぶったのだ。
この名前の人間ならば、彼女も知っている。直接姿を見たことだってある。人ならざる身体を持った、蒼髪の少女だ。
「知っているのか?」
ゼストの声音に、微かな警戒の色が宿る。
その金の瞳――スカリエッティと、一部の戦闘機人に見られる共通の特徴だ――に、彼は漠然とある予想を立てていた。
根拠はない。同じ色の目をしていたからといって、あのスカリエッティに関与しているのでは、というのは因縁もいいところだ。
しかし、その不確かな推測は、僅かにその色を濃厚にする。
この少女はスバルを知っている。スカリエッティの13番目の配下を――亡き部下から取りあげた娘を知っている。
ということは、彼女はまた、同時にあの狂気の科学者とも繋がりを持っていてもおかしくない。
そう判断していたのだが、
「ああ。少し前から、ルルーシュの学校に転校してきた」
この言葉には目を丸くするしかなかった。
「………………………、なんだって?」
一拍の間の後、ゼストはそれこそ思いっきり呆けたような表情をして、何とかそれだけを問いかける。
学校、とは一体どういうことだ。あの少女は、スカリエッティの戦闘員として戦っているのではないのか。
それが何故、そんな血生臭い戦いとは一切無縁の健全な学び舎に通う必要があるのだろう。
いやそもそも、そんな話は聞かされていない。大体、つい最近までナンバーズの中に混ざっているのを見ている。
そんな少女が急に学校などと、にわかには信じられるわけがなかった。
「何かおかしなことを言ったか?」
少女は怪訝そうにして、ゼストの顔を覗き込んでいる。
この様子からして、嘘はついていない。それは間違いないし、大体この嘘は明らかにつくメリットがない。
ならば少なくとも彼女の中では、スバル・ナカジマは健全な女子学生ということになっているのだろう。
これ以上追求しても頭がこんがらがりそうだったので、そこで考えるのを打ち切った。
「……まぁ、いい。それで……そのルルーシュというのが、お前の知っている人間なんだな?」
名簿に視線を落としながら、ゼストは少女に問いかける。
そこには間違いなく、そのファーストネームを持った参加者が明記されていた。ルルーシュ・ランペルージという名前だ。
「ああ。一応、『共犯者』といったところかな? 私にとっては大事な男さ」
口元に余裕を持った笑みを浮かべながら、彼女は言った。
共犯者、という独特な言い回しに、ゼストはその太い眉をひそめる。
要するに、この少女は犯罪者ということなのだろうか。もしもスカリエッティに関わっていたのならば、その線も有り得る。
だが、その「といったところ」という微妙なニュアンスは一体何なのだ。
共犯者とはただの言葉遊びで、本当は犯罪者ではないのかもしれない。つくづく、度し難い娘だとゼストは思う。
「契約したからな……私はルルーシュには、何としても生きていてもらわねばならない」
そんな内心などお構いなしに、少女は言葉を続けていく。
「まぁ逆に言えば、それ以外は生きようと死のうと、極論私が殺すことになろうと、知ったことではないということだがな」
微かな笑みを、その上等な人形のような綺麗な顔に貼り付けながら。
苦虫を噛み潰したような表情を、ゼストは我知らず浮かべていた。
嫌な娘だ。未だ若いというのに、殺すという言葉をこんなに平然と言い放っている。
「救いようのない奴だな」
嫌悪感を隠そうともせずに、ゼストが呟いた。
「それもよく言われることさ」
少女はそれでも、余裕な表情を崩すことはなかった。
同じ金色の瞳で笑うスカリエッティともまた違う、何か。底抜けの闇のように深い何かを、ゼストは感じ取っていた。
「それで? お前の今後の行動方針はどうなんだ?」
そして彼女は、今度はゼストに問いかける。
ここまでのギブアンドテイクというスタンスからすれば、当然の流れだった。
この緑髪の少女だけが、特定の情報をオープンにするのもフェアではない。当然彼女にも知る権利はあるはずだ。
「先ほど教えた高町なのは……俺は、今までずっと奴を追ってきた」
故に、ゼストもまたその目的を口にする。
「殺すために」
それだけは譲れない、彼の生きる目的だ。たとえこのような異常にさらされても、である。
彼が知る高町なのはは、さながら聖人君子のように謳われたエース・オブ・エースではない。
かつての栄光と安寧から叩き落とされ、身体と心を蝕まれ、悪鬼と成り果てた復讐者だ。
自身を改造したジェイル・スカリエッティに報いるためならば、あらゆる犠牲も厭わぬ狂人。
復讐を追い求める限り、その存在そのものが人々を脅かすことになる阿修羅。
そんな化け物を退治すること。
本来生きることなど許されるはずもない身体を、それでも突き動かさんとする、自らが己に課した使命。
「それだけか?」
ゼストの言葉を、少女は淡々とした口ぶりで聞き返す。
「後はプレシアの打倒と、可能ならば、ルーテシア・アルピーノという少女の保護……今浮かぶのはそれだけだ」
彼の脳裏に浮かぶのは、2人の女性の姿だ。
1人はこのゲームの首謀者――プレシア・テスタロッサ。
己の欲望に他者を巻き込み、蹂躙するという点では、この死んだはずの犯罪者もなのはと同罪だった。
故に、同じ罰を下す。自らの手によって再び死を与える。
そして、もう1人はメガーヌ・アルピーノ――ルーテシアの母たる女性だった。
生前首都防衛隊の一翼を担っていた自分の部下だ。娘に受け継がれたアスクレピオスを操る召喚魔導師だ。
そして、ゼストが愛した女性でもあった。
闇の王女に寄り添うルーテシアは、父親こそ知らないが、大切な女を母とする、言わば忘れ形見だった。
右手は高町なのはとプレシア・テスタロッサを殺すために。
左手に携えた力でルーテシア・アルピーノを救う。
相反する2つの目的を、しかしゼストは、己の身一つで成し遂げようとしていた。
「……では、私の行動をとやかく言われることもなさそうだな」
全てを聞き遂げた少女が呟く。
「ついてくるとでも言うのか?」
「か弱い女の子に、戦いなどできるはずもないだろう。それに私の武器は、どうやら私の手には余るようなんでな……」
言いながら、少女はエメラルドの糸を揺らしながら、デイバックをごそごそと漁った。
やがて、そこから何かが取り出される。
暗闇の中に眩く映える、白銀のフォルムを有したそれは――
「ブリッツキャリバー、だったか」
ゼストにも見覚えのある、インテリジェントデバイスの姿だった。
少女が抱える雷神の具足は、待機状態を解かれたデバイスモードとなっている。
もう1人の部下クイント・ナカジマの娘にして、もう1人のタイプゼロ――ギンガ・ナカジマが用いる、鋼鉄の装具。
なるほど確かに、これをこの少女が使いこなせるはずはない。デバイスはあくまで魔導師の武器だ。
「その様子からして、お前にはこれが使えるようだな」
「そしてお前は、このナイフを欲しているというわけか」
「分かりきったことだろう?」
少女はまたも妖しげな笑みを浮かべる。
全てが万事、ギブアンドテイクで一貫していた。互いに同じ種類の情報を提供し、互いの欲する武器を交換し合う。
それが暗黙の了解のもとに成り立った、一種の「契約」。
鋭い投擲ナイフは、男の手から少女のもとへ。
白銀のデバイスは、少女の手から男のもとへ。
契約はここになされた。
ゼストは受け取ったブリッツキャリバーに、そのスペックを提示させる。
同じ近代ベルカ式デバイスとはいえ、彼の有した槍とは大きく異なる業物だ。
カートリッジシステムが搭載されていないのもそうだが、普段使い慣れた物との相違点は探せば膨大に見つかることだろう。
故に、その情報を得ておかねばならなかった。これが彼の生命線なのだから。
(デバイスのファイナルリミッターが、解除されている……?)
そして、スペックノートをせわしなく読み上げていた瞳が、ある一点でピタリと止まった。
(ギア・エクセリオン……A.C.Sだと?)
表示された結果に対する驚きは、少女がスバルの身の上を語った時にも匹敵する。
こんな機能がブリッツキャリバーに搭載されているという報告は、今までに聞いたことがなかった。
Accelerate Charge System――瞬間突撃システム。その通称をA.C.Sと言う。
その名の通り、魔導師の瞬間的な加速力を、爆発的に増大させるシステムの名称だ。
かつてあのなのはが、白きエースとして名声を上げていた時から用いていたと言えば、その性能もかくやといったところだろう。
しかし、このシステムには危険も大きい。
レイジングハートがこれを併用するエクセリオンモードは、膨大な量の魔力を一気に消耗する諸刃の剣だった。
実装された闇の書事件が解決した後には、その身体負担もなくなるよう改良されたと聞くが、
果たして自身のデバイスのフルドライブさえ持て余す、不安定な人造魔導師の身体を持ったゼストが、同じように耐えられるかどうか。
(だが……もし、あの復讐人と相まみえることがあれば)
しかし、ゼストは落ち着いた様子で軽く瞳を閉じる。
(使うだろうな)
彼は躊躇いもなく使うだろう。
己の命が果てることを微塵も怖れることなく、雷神の具足の禁断の力を解放するだろう。
ゼスト・グランガイツは――自身の命さえも、使命のためには投げうることも辞さなかった。
ブリッツキャリバーを待機状態にし、首にかけると、石畳から立ち上がろうとする。
「ちょっと待て」
そしてそれを少女が制した。
「何だ」
「まだピザの対価を払っていなかったからな」
言いながら、少女はその手の細指を伸ばす。
雪のように真っ白な指先が、すっとゼストの厳つい顔の額へ向かい、そっと触れた。
しばし、世界の時は止まる。
夜風の音色さえもこの時ばかりは押し黙り、虫の声など聞こえるはずもなく、完全なる沈黙が宵闇を満たした。
一拍の間。その後に、しかし少女は困ったような表情を浮かべ、すぐにその指を離す。
「何だったんだ?」
特に身体に変わった様子は見受けられない。ならば目の前の少女は一体何をした。
ゼストが怪訝そうな表情を浮かべて問いかけた。
「いや……忘れろ」
一方の少女は、そんな素っ気無い言葉で応じた。
これ以上聞いても無駄だと判断すると、ゼストはその腰を上げ、神社の石畳を降りていく。
後にはその美麗な髪を揺らして、白装束を纏った少女がついて歩いていった。
そこで、ふと気が付いたゼストは、彼女の方へと振り返る。
「それで、結局お前のことは何と呼べばいいんだ?」
そして問いかけた。
名前を忘れ、思い出しても語るつもりがないのならばそれでもいい。しかし、仮の呼び方ぐらいは決めておいてもいいだろう。
でなければ、共に行動するのには何かと不便だ。
それに、ゼストは名乗ったというのにそんな風では、これまでのギブアンドテイクの法則にも反している。
少女はしばし沈黙した後、立ち止まった彼を追い抜くようにして歩いていくと、
「……名簿いわく、C.C.だとさ」
と、これまた素っ気無く返した。
【1日目 深夜】
【現在地A-4 神社境内】
【ゼスト・グランガイツ@魔法少女リリカルなのは 闇の王女】
【状況】健康
【装備】ブリッツキャリバー(待機状態)@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具】オリーブ抜きのピザ(11/12サイズ)@魔法少女リリカルなのはStylish、支給品一式
【思考】
基本:高町なのはを捜索、抹殺する
1.プレシアの抹殺
2.ルーテシアの保護
3.ひとまずC.C.と行動を共にする
4.C.C.という通称……イニシャルか何かか?
5.なのはと戦うことになれば、ギア・エクセリオンの発動も辞さない
【備考】
・なのはとルーテシアが『健全な』歴史(StS)から来たのを知りません。
・C.C.との協力関係は、ギブアンドテイクという暗黙の了解の上に成り立っています。
・ブリッツキャリバーは、十話での殺生丸戦後からの出典です。
原作とは異なり、ファイナルリミッターが解除され、ギア・エクセリオンが使用可能となっています。
・ギア・エクセリオンがゼストにかける負担の程度は、未だ明らかになっていません。
ゼスト自身は、自分のデバイスのフルドライブ同様、自身の命を削る可能性もあると推測しています。
C.C.と名乗った少女は、少々の困惑を己が内に秘めていた。
先ほど彼女がゼストの額に触れた時――あの時C.C.は、ピザの対価として彼に「ギアス」を提供しようとしたのだ。
ギアス。
それは一言で言うならば王の力。能力者の特性に合わせた、超常的な威力を発揮する力。
たとえば、彼女が契約したルルーシュ・ランペルージが、相手にあらゆる命令を実行させる絶対遵守の力を持つように。
たとえば、かつて彼女と共にあったマオという名の男が、心の声を聞き取ることのできる読心の力を持っていたように。
しかし、その能力を与えようとしたC.C.には、一切の手ごたえが返ってこなかったのだ。
人間の脳へのアクセスを可能とする――そんな彼女の力が、今は使えなくなっている。
ギアスを人に与えることができない。対象にショックイメージを見せるなどの精神干渉もできない。
加えて言うならば、「Cの世界」との交信手段も閉ざされている。
「魔女」と謳われたC.C.の能力が、残らずその効力を失っていたのだ。
ということは、あるいは不死身なまでの再生能力も制限されているのだろうか。
そもそも考えてみれば、この殺し合いのゲームの中で、死なない人間がいるというのも不公平な話だった。
(ようやく、死ねるということかな)
ふと、そんなことを思う。
数百年に渡る長い期間、延々と生き続け、そして死に続けたこの身体。
ここならば、そんな虚しい連鎖からも解き放たれ、人並みに死ねるのだろうか。
(……いや、今はまだ)
首を振り、その思考を払いのける。
今はまだ、死ぬことは許されない。ルルーシュとの契約がある。いつまでもずっと傍にいる、と。
かつてならそれでよかったかもしれないが、今は自分1人の都合で、勝手に死ぬことが許される身体ではないのだ。
C.C.は顔を上げ、けろりとした様子で歩き出す。
(さて……ピザの対価は、どうやって払おうか?)
高町なのはは闇の王女である。
ルルーシュは黒き魔王である。
片や、自らの全てを奪った狂気の科学者に。
片や、母の命と妹の自由を奪った実の父に。
いずれも暗き心を漆黒の鎧で武装し、全てを巻き込み復讐を誓った王だった。
白き魔女は魔王と添い遂げるために。
死人騎士は王女に引導を渡すために。
共に並び、2人はそれぞれの王を追い求める。
【C.C.@コードギアス 反目のスバル】
【状況】健康
【装備】スティンガー×10@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ランダム支給品0〜2個(確認済み)
【思考】
基本:ルルーシュたちと合流する
1.ひとまずゼストに身を守ってもらう
2.向かってくる者は基本的には殺す
3.ピザの対価を払う方法を考える
【備考】
・スバルが『StS』から来たのを知りません。
・ゼストとの協力関係は、ギブアンドテイクという暗黙の了解の上に成り立っています。
・「ギアス提供」「精神干渉」「Cの世界との交信」が不可能となっていることに気付きました。
・再生能力も制限されている可能性があると考えました。
黒なのはとルルーシュってなんか似てない?
というわけで投下終了です。
投下乙です!
C.Cとゼスト……これまた面白そうな二人組だw
GJ!!
なんというか、ゼストの勘違いの先に在るものが怖いw
ようやく書き終えたぜ……。
あとは推敲するだけなので今晩の八時くらいには投下できると思います。
初投下の身で、長い間お待たせして本当に申し訳ありませんでした。
それでは投下を始めます。
僅かな街灯しか存在しない薄暗い市街地を、一人の男が歩いていた。
男は、ド派手な金髪をド派手に逆立てド派手な赤色のコートを羽織るという、目立つ事が死に繋がるこの場に於いて自殺行為としか思えない恰好をしている。
だが、男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードはそんな事を気にも止めず、ただ悲しみを顔に宿し前方の暗闇に向け足を動かす。
ヴァッシュの脳内を占領するのは、先ほど起きた凄惨な出来事。
彼女は、自分が良く知っている少女と同じ名を持ち、とても似た雰囲気を纏っていた不思議な少女だった。
誰もが混乱するあの場に於いて唯一反抗の意を示した勇気溢れる少女だった。
だがその少女は殺された。
プレシアと名乗った女によりその前途ある未来は閉ざされてしまった。
あの時、僅かでもプレシアの気を引くことが出来れば、あのバインドを破壊できるくらいの力があれば、あの『アリサ』は助かったかもしれない。
あの時何も出来なかった、無力な自分が許せない。
ヴァッシュの頬を後悔の涙が伝う。
「なんで……!」
食いしばった歯の間から後悔の念が漏れる。
握り締めている拳が抑えきれない悔しさに震える。
管理局の入隊も果たし、過去を捨てて平穏な毎日を送ろうと思っていたのに。
争いなんて起きない平和な日常が送れると思っていたのに。
士郎さんと最高の酒を酌み交わしていた筈なのに。
――気が付けば殺し合い。
今までの長い人生でも聞いた事すら無いほどの最低最悪のゲーム。
確実に人が死に、確実に悲しみと絶望を産むゲーム。
何故殺し合う?
何故こんな事をする?
もう嫌だ。
人が死ぬのは沢山だ。
なら、どうする?
この殺し合いの中、自分はどうするのだ?
男は自問する。
そして自答する。
「絶対に止めてやる、こんなゲーム……!」
百と何十年間貫き通してきた信念に、再び決意の火を灯す。
止めてやる。
この狂ったゲームを。
そして笑って唱えてやる。
『ラブアンドピース』を。
男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは自らの決意を誇示するかの様に右手を振り上げた。
絶望と狂気しか生み出さないこのゲームでも、自分の信念を押し貫く事を、決意する。
◇
それから数分後、ヴァッシュは街灯の下へと移動し、デイバックの中身を確認していた。
(出来れば銃とか入ってたら良いんだけど……)
戦闘を止める為には武器があった方がずっと良い。
一応ヴァッシュ自身も魔法を使えるものの、それは戦闘には全く役立たないレベル。
正直、魔法を武器に戦うくらいだったら素手の方が些かマシだ。
銃が入っている事を願いながら、ヴァッシュはバックの中を漁り続ける。
(お、これは?)
すると、デイバックをかき回している指が固い何かに触れた。
形からするに拳銃か。
ヴァッシュは自分の幸運に感謝しつつ、それを掴み一気にデイバックから引き出し――
「お、重ッ!」
――そして、同時にその銃の余りの重量に目を見開いた。
手に握られているのは、黒に染められた巨大な拳銃。
いや、巨大というのも生温い。
もはや、その大きさは拳銃の域を越えている。
百と数十年の間、銃が支配する世界で旅して来たヴァッシュでさえ、こんな規格外の拳銃など見たことない。
「……こんな銃、誰が使うんだ……?」
当然の疑問を口に出しながら、両手に渾身の力を込め銃を構えた。
やっぱり重い。
両手で持ってでさえ構えるのがやっと。
「流石にこれは使えないな……」
銃が入ってたのは嬉しいが、流石に重すぎる。
明らかに自分の手には余る銃だ。
ヴァッシュは小さくため息をつき、その化け物銃をデイバックの中へと突っ込んだ。
苦い顔をしながら、再度デイバッグを漁るヴァッシュ。
次に取り出したのは日本に住む人間なら一度は見た事がある鉄の棒、金属バットであった。
他にも何かないか、バックを漁るが、出てくるのは食料や地図などばかり。
どうやら支給品はこの二つだけらしい。
大きく肩を落とし、ヴァッシュがその手に金属バットを握る。
頼りない武器だが、無いよりはずっとマシだ。
真っ赤な外套を棚引かせ、ヴァッシュは大きな決意を胸に歩き始めようとし――
「お前の名はヴァッシュ・ザ・スタンピードだな?」
――透き通る様な銀色の髪を持つ一人の男に呼び止められた。
「そうだけど……何で僕の名前を?」
怪訝そうにヴァッシュが問う。
「そうか」
男はヴァッシュの問いに答える事なく、何かに納得した様に頷く。
瞬間、光と共に男の手に一振りの巨大な槍が現れた。
そして驚愕に目を見開くヴァッシュへと、槍を突き付け男は口を開く。
「ならば、死ね」
「は?」
ヴァッシュが、ポカンと開いた口から一言呟いたと同時に、高速の刺突が放たれた。
――時は僅かに遡る。
「へぇ〜セフィロスさんも管理局員やったんか」
「ついこの間に除隊したがな」
流れる海の音に重なる様に男女の会話が、夜の砂浜にて響いた。
少女は車椅子に座りながら、銀髪の男はそれを押しながら会話は続いていく。
「それにしても、その上司さんは酷いなぁ……次元漂流者を隊の戦力に加えるな
んて」
「……そうだな」
『その上司とは十年後のお前の事なんだがな』
口から出掛けた言葉を飲み込み銀髪の男――セフィロスは地図の中心部へと向けて歩を進める。
彼女達が中心部を目指す理由は単純にして明快。
その方が人に遭遇する確率が高くなるからだ。
仲間、または殺し合いに乗っていない人と出会い、協力関係を得る。
殺し合いの場面に遭遇すれば止める。
それが、数分前に少女が語った行動方針であった。
元々車椅子の少女がこの様なゲームで優勝する事など夢のまた夢。
戦闘などに巻き込まれた日には何もすることすら出来ずに、殺されてしまうだろう。
だが、それでも少女は砂糖菓子の様に甘い理想を語った。
共にいる剣士は否定も肯定もせずにそれに従う。
奇妙な二人組は驚くほど円滑にその行動方針を決めた。
歩き始めて何分経っただろうか、剣士が少女へと一言告げた。
それは支給品の確認をしておけとの事。
もしかしたらデバイスが入っている可能性もある。
セフィロスに車椅子を押してもらいながら、早速デイバックを漁る。
まず出て来たのは一本の傘。
傘と一緒に出て来た説明書きによると、その傘は銃撃を易々と防げる程の防御力を持ち、また中に設置された機構により魔力弾も撃てるらしい。
はやては、その強力な武器をセフィロスへ譲ろうとしたが、セフィロスはそれを断る。
「自分にはこの長槍の方が合う」と、頑なにその傘を受け取ろうとはしなかった。
結局傘は、はやてが装備する事になった。
次に出て来たのは数枚の紙。
――これが二人と、ある男の運命を大きく変える事となる。
その紙には、満面の笑みを浮かべた一人の男がデカデカと写し出されていた。
その下には11桁の数字と英語で書かれた男のらしき名前。
「ヴァ……ヴァッシュ・ザ……スタンピード、って読むんかな、これ?」
「さあな」
はやての問いにセフィロスは関心なげに答えた。
「なんや、無愛想やなぁ……」
その無愛想な態度に頬を膨らましつつ、その紙に目を通していく。
英語が読めないのでおぼろ気にしか分からないが、どうやらコレは手配書らしい。
その事を理解した瞬間、はやての肌が粟立った。
日本でもたまに見掛ける手配書。
凶悪な犯罪者――連続殺人犯やテロリストを捕まえる為、民間に協力を求める貼り紙。
この紙もそれと同じような物なんだろう。
ただ、この紙に載っている男は文字通り、桁が違った。
十個の0の後に6が一つ。
(600億!?)
その数字が示す事は一つ。
この写真の男がそれ程の懸賞を賭けられる凶悪な犯罪者だということ。
僅かに震える指で先程見た参加者名簿を取り出すはやて。
名簿にはしっかりと書いてあった、『ヴァッシュ・ザ・スタンピード』と。
「そんな……」
愕然とした呟きがはやての口から漏れる。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
桁違いの懸賞金から見るに凶悪な犯罪者に違いない。
それこそ、人を殺しても何とも思わない様な非道な人間なのかもしれない。
そんな男がこの様な、殺し合いに参加している。
何が起こるのかなんて考えなくても分かる。
「どうするつもりだ」
思考に没頭するはやてへと静かにセフィロスが問う。
「どうって……」
「もしこの男に遭遇した場合、お前はどうするのか聞いているのだ」
そう言うセフィロスの瞳に、試す様な色が映し出さしている事に、はやては気付いた。
さっきまでの寡黙ぶりとは打って変わり、セフィロスは口を動かし続ける。
「600億……成る程相当な実力者なのだろう、もしかしたらデバイスを持ったお前をも遥かに上回る実力を有しているのかもしれない。
……そんな犯罪者相手にお前は何を選択し、どう行動する?」
語り終えたセフィロスは口を閉じ、真っ直ぐにはやてを見つめる。
二人を包む沈黙。
数秒の後、少女がゆっくりと口を開いた。
「止めます。止めてみせます」
その瞳に迷いは無い。
先程の草原で見せた瞳と変わらない、強固な決意が見えた。
「どうやってだ」
だが剣士の詰問は止まらない。
「言っただろう。
もしこの男がお前や私をも超える実力を持っていたらどうする?
説得に応じない場合はどうする?
その様な絶対的な力を持った悪をどう止める?」
その言葉に少女は口を閉じる。答える事が出来ない。
唇を噛み、俯き、答えを探す。
セフィロスの言ってる事が余りに正しいから、少女は答えを返せない。
確かにそうだ。
どんな人でも話せば分かる。
そう思っていた。
だが、凶悪な――それこそこの殺し合いに巻き込まれる前から殺人をしていた者には話が通じるのか?
こちらが言うことなど聞く耳を持たずに襲いかかってくるんじゃないのか?
そしたら自分はどうする?
立ち上がることすら出来ない無力な自分はどうするのだ?
「……問答の時間は終わりだな」
「え……?」
思考の迷路に迷い込んだ少女が答えを導き出すより早く、セフィロスが声を上げた。
何時の間にか周辺の風景が変わっている。
どうやら、思考に没頭している内に市街地にたどり着いたらしい。
セフィロスは木の影へと車椅子を進め、自身も隠れる。
「ど、どうしたんや?」
「あそこの街灯の下を見ろ」
木から顔を半分だけ覗かせ、セフィロスが指差す方向を見る。
そこに居るのは金髪のトンガリ頭をした男。
それは手に握られた紙に載っている写真と全く同じ顔をした男。
「ヴァ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード……」
何という偶然か。
手配書の男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードがそこには居た。
支給品の確認をしているのか、ヴァッシュはデイバックに手を突っ込んでいる。
「……お前はここで隠れていろ」
セフィロスはそう言い、側に建っていた小綺麗な喫茶店にはやてを押し込む。
「セフィロスさんはどうするんです?」
「奴を殺す」
左手に付けられた腕時計を掲げ、淡々とセフィロスは告げる。
「な……!何やて!?」
「これだけの賞金首だぞ?奴が殺し合いに乗っている可能性は高い」
「でも、話し合ってからでも遅くは――「何故、その言葉を信じる事が出来る?」
はやての制止の言葉を遮る様に放たれるセフィロスの言葉。
その言葉に含まれた冷たさにはやては口を噤む。
「殺し合いに乗ってないという言葉など誰にでも、それこそ殺人鬼にでも言える。
そう言い近付き、油断したところを襲ってくるかもしれない」
次々と紡がれるセフィロスの言葉。
それは純粋な少女の理想が如何に甘いかを指摘していく。
「加えて奴は600億の賞金を賭けられた凶悪な犯罪者。そんな男の言動を信じろというのは到底無理な事だ」
「でも……だからって!」
それでもはやては食い下る。
そんなはやてにセフィロスは呆れた様な瞳を向け、言った。
「なら、お前はどうする?俺を止めるか?無理だな。
今のお前は無力だ。理想を語るのならそれ相応の実力を持ってからにしろ」
「駄目や!セフィロス!」
必死に叫ばれる制止の言葉に耳を貸す事なくセフィロスは、出口へと向かっていく。
「理想を語るのは構わない。だが、どうすればその甘い理想を叶える事が出来るのかも考えろ」
最後にそう呟くとセフィロスは扉を押し開け、人間台風の元へと進んでいった。
――こうして平和を愛するガンマンは最強の剣士から命を狙われる事となる。
◇
「…………やるな」
刺突を放った姿勢のままセフィロスが口を開く。
その顔には僅かな驚きと喜びが浮かんでいた。
対するヴァッシュは、自分の胸から数センチのところにある刃を信じられない物を見るかの様に見詰めていた。
「流石は600億……そう簡単に殺られはしないか」
長槍を引き、ゆっくりと構えを取るセフィロス。
その眼に宿る明確な殺意がヴァッシュを真っ直ぐに射抜く。
対するヴァッシュは、未だ驚愕に顔を染めたままセフィロスを見やる。
手に握るバットを構える事すらしない。
「呆けてる暇はないぞ」
セフィロスが踏み込み、申し訳程度に開いていた間合いが消える。
そのスピードにヴァッシュの顔が引き締まる。その人間離れした反射神経で横薙の一閃に反応。
手に握られたバットを掲げ、迎撃した。
だが、ヴァッシュの本領は銃があってこそ。
不慣れな武器で最強のソルジャーの一撃を防ぎきれる訳もなく、大きく姿勢を崩される。
その隙に放たれるは神速の回し蹴り。
何とか避けようと体を捻るも間に合わない。
それは吸い込まれるかの様にヴァッシュの脇腹へと命中し、真紅に包まれたその体を大きく弾き飛ばした。
「ガァッ!」
獣の様な呻きと共に、ヴァッシュの体が街灯と激突する。
鈍い衝撃がヴァッシュの体を駆け巡った。
「……こんなものか」
そう呟くセフィロスの顔には失望が浮かんでいる。
反射神経や身体能力はなかなかだが、ただそれだけ。
明らかに武器を使いこなせていない。
これなら、烈火の騎士達の方が手応えがあった。
失望を振るい落とすかの様にストラーダを回し、ヴァッシュの首筋に狙いを定める。
ふと、セフィロスの脳裏に車椅子の少女の姿が映し出された。
こいつを殺したらあいつはどんな眼で私を見るのか。
奴は純粋すぎる。
自分と出逢った時の奴も相当に甘かったが、今の奴はそれ以上に甘い。
全てを救うなどという事はどんな力を持った戦士にも叶う事のない夢だ。
ましてや今の奴はデバイスも無く、脚も動かない状態。
理想を語る前にどう生き延びる事を考えるべきなのに、それでも奴は理想を語る。
セフィロスは知っていた。
その理想が何時か少女を殺すだろうことを。
だからセフィロスは少女に見せ付ける。
醜悪な現実を。
だからセフィロスは動いた。
現実を教える為に。
全てを救うなどという事は不可能だと教える為に。
止めを指すべくセフィロスが一歩近付く。
あと一歩近付けば完璧に自分の距離。
瞬きをする間も与えず、奴の首をかっ切る事が出来る。
――だがその一歩を踏み出す前に、ヴァッシュが脇腹を抑え、立ち上がった。
その瞳には、先程までの呆けた様なモノとは違い、セフィロスでさえ戦慄を覚え
るかの様な光が宿っている。
(本気という訳か)
警戒と共に手の中の長槍をヴァッシュへと突き付けるセフィロス。
対するヴァッシュもバットを構え、右足を大きく下げる。
各々の構えのまま、二人は動きを止めた。
互いに隙を探すかの様な硬直。
だがその硬直も長く続く事はなかった。
先手を取ったのはセフィロス。
ヴァッシュの首へと最短距離を神速の刺突が駆ける。
が、それに相対する様にヴァッシュの体が動き、最小限の動きで回避される。
避けたと同時に、ヴァッシュは体を捻り、金属バットを思い切り振りかぶる。
だが、その動きもセフィロスと比較すると圧倒的に遅い。
ヴァッシュが金属バットを振りかぶり終えた時には、セフィロスはバットの届く範囲の遥か外に体を置いていた。
(やはり、大した実力ではないな……)
空振りした際の隙に斬りかかろうと両足に力を溜め、刺突の構えへと移行するセフィロス。
――だがその時、セフィロスの目が見開かれる。
目前に迫る銀色の鉄の棒。
男が握っていた金属バットが、届く筈のない金属バットが視界を埋め尽くしていた。
銀色に覆われる視界の隅には素手の状態のヴァッシュ。
(まさか――唯一の武器を投げたのか?)
驚愕に包まれながらも反射的にセフィロスの体が動く。
流れる様な動作で飛来するそれを弾き、ヴァッシュを睨む。
「……何故武器を捨てる?」
確かに不意はつかれたが、そんな攻撃が通るほど甘い相手ではないと分かっている筈だ。
なのに何故?
セフィロスの問いにヴァッシュは飄々とした笑みを返し、口を開く。
「捨てた訳じゃないよ。……これからが僕の本気さ」
そう言うとヴァッシュはデイバックの中へと手を突っ込む。
瞬間、セフィロスが駆けた。
ヴァッシュの自信満々な表情と言動から何をしようとしているかは分かる。
恐らくは強力な武器を取り出すつもりだろう。
だが――
(させん。その前に斬り捨てる)
ストラーダがうねりを上げ、未だデイバックへと手を入れた状態のヴァッシュへと迫る。
コンマ五秒も必要ない。
その刃はヴァッシュを貫いた。
――と、思われた瞬間、セフィロスの動きが変化した。
直線に走る長槍を制御し、何かを防ぐかのように構える。
彼の視線の先にあるのは虚ろな黒穴――ヴァッシュが持つ巨大な拳銃の銃口。
(早い――!)
そう思考すると同時に轟音、そして強烈な衝撃がセフィロスを襲った。
◇
「なに!?何なの、あの人!?
何で、何もしてないのに襲われなくちゃいけないのぉ!」
全力疾走。
ヴァッシュは悲痛な叫び声を上げてながら、物凄いスピードで夜の市街地を駆けていた。
あの時、ヴァッシュは早撃ちでセフィロスの持つ長槍を撃ち、弾き飛ばす事に成功した。
だが、14kgにも及ぶ拳銃による無理な早撃ち。
予想以上の衝撃に痺れる両腕。
追撃の一発を放つ事は不可能だと考え、ヴァッシュはその場から全力で逃走した。
「ま、撒いたかな……?」
肩で息をしながらヴァッシュが首を回し、周りを見渡す。
暗くて良く分からないが、人の気配は無い。
どうやらこの逃亡劇は成功に終わったらしい。
ヴァッシュは大きく息をつき、その場にヘタレこむ。
「やっぱ殺し合いに乗ってたんだよなぁ、あの人……」
ため息と共にヴァッシュが呟く。
あの人は相当な実力を持っていた。
今までの長い人生でもあれだけの実力者とは戦った事が無い。
とてもじゃないが銃が無くては太刀打ちできないだろう。
でも、あの人が殺し合いに乗っている限り絶対に止めなくてはいけない……相当キツそうけど。
「はぁ……喉乾いた……」
ヴァッシュは深い深いため息をつくと、肩に掛けられているバッグに手を突っ込みキンキンに冷えたペットボトルを取り出した。
陰鬱な気持ちを流し落とすかの様に水を喉へと運んでいく。
「さて、どうしようかな…………ん?」
その時、ヴァッシュは一枚の紙が地面に落ちている事に気付いた。
水を取り出した時にでも落としてしまったのか。
ヴァッシュは腰を屈め、それを拾う。
数秒後ヴァッシュは気付く。
それがこのゲームの参加者達の名前が書かれた紙だという事に。
数十秒後、ヴァッシュは気付く。
その紙に大切な仲間の名、そして仇敵の名が載っている事に。
何時まで経ってもヴァッシュは気付かない。
その仲間達が自分とは違う世界から集められた事に。
【F-2/市街地西部/深夜】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
[状態]疲労(小)、脇腹にダメージ(小)、両腕に痺れ(しばらくの間銃を撃
つ事が出来ません)
[装備]ジャッカル@NANOSHING
[道具]基本支給品一式。
[思考]
基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
0:何、この紙?
1:拾った紙を読む。
2:誰か殺し合いに乗ってない人と会いたい。あと、まともな銃が欲しい。
3:銀髪の剣士(セフィロス)を警戒。今度会ったら止める。
[備考]
※第八話終了後からの参戦です。
※義手の通信装置は機能が止められています。
※制限に気付いていません。
◇
「逃げられた……か」
未だ痺れを訴える右腕で落ちているストラーダと、ヴァッシュが投げた金属バットを拾い、セフィロスが呟いた。
その表情には、無表情なセフィロスには珍しい事に悔しげな色が浮かんでいる。
(ヴァッシュ・ザ・スタンピードか……)
はやてが居る筈の喫茶店へと足を向けながら、セフィロスは考える。
最後に見せた早撃ち。
それは今までの不甲斐ない戦い振りからは想像も出来ないほど凄まじいモノだっ
た。
まるで何処ぞの奇術の如くその手に巨大な拳銃が現れ、自分を狙っていた。
あと一瞬、反応が遅れていたら銃弾が直撃していただろう。
「……面白い」
小さくセフィロスが呟いた。
「…………何を言ってるんだ、俺は」
直後、自嘲的にそう言うとセフィロスは小さく喉を鳴らす。
僅かにだがその顔が微笑んでいる事に気付く者は、残念な事に居なかった。
【F-2/市街地・中央部/深夜】
【セフィロス@リリカルなのはStrikerS片翼の天使】
[状態]疲労(極小)、
[装備]ストラーダ@リリカルなのはStrikerS
[道具]基本支給品一式、不明支給品(0〜2個)、金属バット@現実。
[思考]
基本:元の世界に戻り人類抹殺。
この場に於いては、はやてに従う。
1:八神はやての元に戻る。
2:扱い易い武器が欲しい。
3:ヴァッシュに借りを返す。
[備考]
※目の前の八神はやてが本物の八神はやてであるとを認識しました。
※機動六課でのことを目の前の八神はやてに自ら言う気はありませんが、聞かれ
れば答えます。
※身体にかかった制限を把握しました。
◇
喫茶店・翠屋の中にて、はやては考える。
その内容は先程のセフィロスの問いについて。
『理想を語るのは構わない……だが、どうすればその甘い理想を叶える事が出来るのかも考えろ』
セフィロスの淡々とした言葉が何回も何回も頭の中で再生される。
今の自分は立ち上がる事すら出来ない無力な存在。
最初に出会ったのがセフィロスだから良かったものの、もし声を掛けたのが冷酷な犯罪者だったら無慈悲に首をへし折られていたのかもしれない。
そんな私がどうやってこの殺し合いを止める?
セフィロスでさえ止める事の出来ない自分がどうやって殺し合いを止める?
……幾ら考えても答えは出ない。
「私は…………弱い」
悲しげな少女の呟きが無人の喫茶店に響いた。
【F-2/喫茶店・翠屋/深夜】
【八神はやて(A's)@仮面ライダーリリカル龍騎】
[状態]健康
[装備]神楽の傘@なの魂
[道具]ヴァッシュの手配書×三枚@リリカルTRIGUNA's
[思考]
基本:この殺し合いからの脱出。
0:私は……。
1:セフィロスが戻って来るのを待つ
2:仲間との合流。
3:セフィロスと共に殺し合いを止める。
4:ヴァッシュを警戒。
5:デバイスを手に入れたい。
[備考]
※セフィロスが自分のことを知っていることを知りません。
※セフィロスが言った事に悩んでいます。
取り敢えず投下完了です。
ご指摘あったら、もうバシバシ突っ込んでやって下さい。
GJ!
ヴァッシュは、やっぱりトラブルメーカーw
初っ端からセフィロスに狙われるとかw
苦悩のはやても良い感じでした!
投下乙
ですが、リリカル龍騎のはやては歩けたような気が…
少なくとも車椅子に乗っているような描写はなかったはず
投下乙です!ヴァッシュにジャッカル…なんというヤンキンアワーズw
アーカードといい、ヴァッシュといい、赤いコートの男は危険人物ですね(色々な意味で)
えー、向こうでも言ったのですが、今回のSSを破棄します。
修正も考えたんですが、修正に掛ける時間が上手く取れない、自分のミスで長期間キャラ占領をするのは忍びない、といった理由から破棄を選択しました。
またその内、このロワで書けたらと思っています。
それでは。
保守
本当に過疎が酷いな
この程度、ロワでは日常茶飯事の事。
ユーノとルーテシア、投下します
デュエルアカデミアの裏手にある路地の奥まった所で、
淡い緑色をした光が突如として空間に描き出され、そして消えていった。
「転移魔法もダメか」
落胆ともいえる声を発した主は無限書庫司書長ユーノ・スクライアだった。
彼はこの場所に転送されて以来、念話を始めとした幾つかの魔法を試していたが、
そのいずれも芳しい結果を迎えていなかった。
その連綿とした事実にユーノの心に次第にやるせなさが募っていった。
だけど、彼にはそれで挫けることが出来るだけの時間と心の余裕もなかった。
彼の内にいる高町なのはは決して笑顔を見せることなく佇んでいたのだから。
その悲しい様は先の出来事を思い浮かべれば当然の事だった。
一刻も早くなのはに会いたい。
何にも増して、その思いは焦燥となって彼の胸を焼いた。
彼女は親友であるアリサを目の前で殺されたのだ。
それでどうして彼女が大丈夫などと言えよう。
確かに彼女は強い。何かを失うということでは決して歩みを止めることはないだろう。
恐らくは今も彼女はアリサの死を胸にしまいこみ、次の犠牲者を出すまいと奔放しているはずだ。
そうして自分に襲い掛かる悲しみや怒りを無視して、自分の身体を無理につき動かしている。
なまじ責任感が人一倍強く、そして誰よりも人の悲しみに敏感な人間なだけに、
彼女は自分の本当の気持ちを無視して、他人の為に無理をしてしまう。
誰よりも近くにいたユーノはその事を知っていた。
だけど、同時にそれが生み出す結果を彼は知っていた。
「違う、それじゃダメなんだよ、なのは」
ユーノの脳裏に思い浮かぶのは度重なる無理によって生じた撃墜事故だった。
彼女はそれによって、後の人生に支障をきたしかねない重大な怪我を負った。
結果的に大事に至らなかったが、だからといってまた無理をしていいという話ではない。
確かに人を救うという行為は高尚なものだ。そこには人として尊ぶべきものがある。
だけど、それによって当の本人が救われないようでは話にならない。本末転倒というものだ。
死んだアリサだってなのはが無理をして、取り返しのつかないことになったら悲しむし
何より生きているみんなだってそんな姿を見たくない。
彼女はいつもそういった大事なことを忘れていた。
「何でも一人で背負うものじゃないんだよ、なのは。一緒に背負っていこう。
どんなに辛いことだって、悲しい事だって、一人より二人の方が楽だ」
意識せずに自然と漏れた言葉だった。
だけど、そこには彼の思いに満ちたものがあった。
その思いがどんな言葉に所以されるかは彼自身正確なところを図りかねていたが
彼女の支えになってやりたいという彼の気持ちは誰に負けることなく存在していた。
それに大切な友人が死んだという事実は、ただ耐えてばかりいれいいというものではない。
鬱積した感情はやがては自分の精神を蝕み、身体に変調をきたしてしまう。
死は悲しいことであるし、それは泣いてもいいことなのだ。
《だから、僕がなのはが泣いていられる時間を作ってあげる。
僕がなのはの側にいて、なのはの周りの人を助けてあげる。
そうすれば僅かな時間にしろ、自分の気持ちと向き合えれるはすだ》
ユーノはその言葉と共に決意を固めた。
そして、ユーノは心の内に積もったやるせなさを払拭し、
自分の意志を貫くべく再び魔法を発動。
だけど、ユーノの決意とは裏腹に願いは聞き届けられることはなかった。
思わず壁を叩きつける。
御大層な決意を掲げながらも、結果は相変わらずだ。
プレシアに対してより、大切な人の為に何も出来ない無様な自分に怒りが湧いた。
だが、このままあがいていても現状を打開を出来ない。
無力感に打ちひしがれながらも、ユーノは何とか冷静になろうと努めた。
そしてユーノはゆっくりと息を落ち着けて、この状況について考えまとめ始めた。
魔法が発動しない、魔法を発動させない、ということを考えて
彼の頭に真っ先に思い浮かんだのはジャミングだった。
本来ならジャミングは通信や探知魔法を阻害するもので
その他の魔法の発動を邪魔をするものではないが
現状を省みるにあらゆる魔法に対して妨害がなされていると考えてよい。
無論、全ての魔法自体が発動出来ないわけではないが
どうしても魔力の働きに困難が生じてしまう。
やはり魔法に対して無差別にジャミングがかけられているのだろう。
では、どこからジャミングをかけているか。
それに対して思いついた答えが、この空間を構築しているであろう結界だった。
普通なら魔導師本人がジャミングをかけるものだが、
結界の外からそれをするのは結界に阻まれて無理というものだろう。
また結果内にひっそりと隠れて、プレシア本人がジャミングを発しているというのもいかにも馬鹿げたものだった。
殺し合いを強要する人間が参加者と同じフィールドに立っているなど狂っているとしかいいようがない。
参加者にに見つかったら、間違いないく彼女にとっていい結果にはならないのだから。
恐らくは結界の術式に魔法の発動を阻害するプログラムを組み込み、結界を構築したのだろう。
だけど、ここまで巨大な結界を更に複雑なものとして維持するのには莫大な魔力が必要だ。
ただでさえ時空管理局の捜査から免れるために探知防壁を使い、また他者の参入を防ぐための封時結界
参加者の逃亡を防ぐための強装結界を複合的に用いていると思われるだから、
消費する魔力などは考えただけで頭が痛くなるものだ。
それを幾らあのプレシア――本物かどうか疑わしいところもあるが――とはいえ、
一人によってまかなっていると思えなかった。
魔力炉を用いているという考えもあるが、そんな巨大なものを管理局から隠し通せるとは思えないし、
また隠すにしても、新たな魔力炉を用いた強固な結界が必要となってくるだろう。
ロストロギアによって魔力を補完している可能性もあるが、
それこそ魔力炉よりも、その反応を隠し通すことは難しいし、
ロストロギアは常に暴走という危険性を孕んでいる以上、
このようないつ終わるとも知れないゲームで長時間使用するのは余り考えられない。
よって、その線も薄いだろう。
だとしたら、結界以外による手段によってジャミングをしていることになる。
そうしてしばらく思案して、ユーノはゆっくりと自分の首に巻きつけられている首輪を摩った。
結界以外にプレシアが現段階で参加者に干渉しているものは首輪しかない。
恐らく首輪にジャミングに関する機械装置が取り付けられているのだろう。
その方が魔力消費の観点からいっても妥当なことだった。
そしてそれはユーノにとって喜ぶべきものだった。
何故なら彼は首輪を外せるかもしれない方法を一つ知っていたのだから。
それは変身魔法。
己が身を小さくし、小さな動物へと姿を変えれば、
人間である状態で巻かれた首輪は自然と外れることになるだろう。
無論、変身魔法を発動しないという可能性もあるが、ここで試してみない理由もない。
ユーノは逸る気持ちを抑えながら変身魔法を唱えた。
幾らか魔力の流れに滞りを感じたが、無事にそれは発動。
見る見るうちに彼の身体は小さくなり、愛らしいフェレットへと姿を変えていった。
だが変身した後も、その結果とは裏腹に彼の顔は喜びに染め上げられることはなかった。
何故ならフェレットとなったその姿にもしっかりと首輪は巻きついていたのだから。
しばし茫然としながらがも、彼はこの事実に対する考えをまとめた。
「そういえば服を着ていても、それが元のままってわけじゃなかったしね」
自分が過去に行った変身魔法を思い出し、
その時身に付けていた衣服がどうなったかを思い返してみて、ユーノは納得をした。
俄かに現れた首輪を外せる、なのはに会えるという明るい未来ばかりに目を向けていて
肝心なところで盲目でいた。
ユーノは自分の浅慮に消沈した。
だが、先も述べたようにユーノはここで挫けることなど出来なかった。
魔法の行使が失敗するのならば、次は自分の足で彼女を探すだけだ。
バッグの中から地図を取り出し、なのはが行きそうなところを考える。
だけど彼女が明確な目的場所を定め、そこへ向かうところがユーノには想像できなかった。
確かに地図上には、なのはが行きそうなところがたくさんあった。
アリサとの想い出がある学校、家族との安寧がある翠屋。
傷心しているなのはは自然とそういった場所を求めるかもしれない。
また管理局の建物と思われる地上本部に行って、仲間との合流を図ろうとする可能性もあったし、
将来設立を考えていると言っていた機動六課の建物に疑問を持ち、それを調べようとする可能性もあった。
そして怪我人がいるであろう病院へ向かい、その人たちを守るという選択肢も彼女にはあるだろう。
それ以外にも無限書庫司書長である自分と関連がありそうな図書館へ足を向けてくれるかもしれない。
だが、ユーノは一通りの答えを思い浮かべてから、溜息を漏らした。
そのどれもが正解である可能性を秘めながらも、答えとして明瞭なものは何一つなかったからだ。
どこへ向かっていようと、彼女の目の前の戦闘が起きれば、
彼女は何を投げ打ってもその戦いを止めにはいるだろう。
常に他人を第一に考える彼女の性格だから、それは当然だ。
そしてそんな彼女だから、自然と自分の目的地も疎かになってしまう。
それ故に彼女の視点に立って彼女の行き先を考えるというのは、この場合では余り得策なことではなかった。
だが彼女が争いを止めるべく頑張るとすれば、戦闘が頻発しそうな場所に赴けば、彼女と会える確率は増すだろう。
それは自分の身を危険に晒す行為であるが、なのはの為を思えば、そんな事は問題ではない。
とはいえ、疑問も残る。
このような状況で誰もが危険と思うようなところに足を向ける人はいるだろうかということだ。
戦える力があるにせよ、ないにせよ、後方支援もままならず、
ろくに休息ができないであろうこの場所で長く生き残るには、
出来るだけ消耗を抑えるのが得策だ。
恐らく戦いに慣れている人たちや性格に状況を判断を出来る人たちの活動は消極的になるだろう。
そういった中で戦闘が起きそうな場所を特定するのは難しい。
だが、全く戦いをしないというのでは
ゲームに反旗を翻すものに結束するだけの時間的余裕を与えてしまう。
そうなってしまってはゲームに乗ったものにとって、余り良い結果にはならない。
故に全く戦闘が起きないという可能性もなかった。
しかし、だからといって戦闘がどこで起こるかというのも
今のユーノには分からなかった。
なのはの支えになってやりたい。
そんな思いを叶えられない現実を惨めに思い、彼はまた一つ溜息を漏らした。
そうして自分の不甲斐なさに頭を抱え込んでいると、彼の耳にふと水の流れる音が聞こえてきた。
どうやら今まで考え事に夢中で気づかなかったらしい。
地図を改めて見て見ると、川が記載されてあることに気がついた。
なのはを見つけるための手段と目的地が判然としない今はせめて地図に書かれていることが
本当かどうか確かめてみることが目的のための有意な第一歩かもしれない。
そう思ったユーノは、川の流れる音がする方に足を向けることにした。
そうして歩き出そうとして、すぐに彼は人の気配があることに気づいた。
ユーノは足を止めて、慎重に辺りを窺った。
すると、まるで自分の存在を示すかのように物音が川の方から続いた。
間違いなく人がいる。ユーノは矢庭に緊張した。
向こうにはゲームに乗った人がいるかもしれないのだ。
戦闘補助を得意とする彼にとって、真正面から敵と対峙するのは危険だ。
ここは大人しく逃げた方がいいのかもしれない。
だけど、ユーノは首を振って、その考えを追い払った。
向こうにいるのが、なのはだという可能性もあるのだ。
もしそうであったらなら、みすみす彼女に会えるというチャンスを逃してしまい、
彼女のためにと掲げた決意と違えることになってしまう。
危険があるとはいえ、やはり確認しに行くべきなのだろう。
ユーノは荷物を置き、気づかれぬようにとフェレットの姿のまま、
急ぎながらも忍び足で向かっていった。
やがて川の流れがはっきりと聞こえるようになり、
彼の目にもその様が見れるのではないかというところで
突如として彼の思考は驚きの声と共に真っ白に染め上げられた。
「いっ!?」
この殺し合いという状況の中で、いきなり声を上げて自らの居場所を知らせるといのは愚かな行為だ。
挙句、何故か彼は自分の手で自ら目を塞ぐというの行動に出たのだからそれは尚更だった。
だけど、それはある意味しょうがないことだったのかもしれない。
何故なら彼の目に映ったのは、僅か10歳ばかりのあられもない少女の裸だったのだから。
余りに予想外の光景にユーノは思考を奪われ、呆然となった。
人の死を連想させるはずの陰鬱なこの場で、
それとは全く関係ない場面と遭遇してしまったのだから、それも当然といえるだろう。
だけど、彼も幾つもの戦闘を経験してきた魔導師であり、また幼いなのはを常から見守ってきた優しい人間だ。
すぐさま意識を取り戻し、彼女が自分に危険な行為に及ばないように、
そしてこの場で裸という無防備な女の子から目を離す危険性を考慮して、
しっかりと指の間に隙間を作り、その間から彼女が安全かどうかを彼は見守ることにした。
女の子はそんなユーノの思惑など知る由もなく、彼の存在に気がつくと
何の警戒もなしに裸のまま無言で彼の方に歩いてきた。
殺し合いという状況の中での他の参加者へ恐怖のせいだろうか、
それともユーノの心の内のどこかに後ろめたさがあったせいがろうか
彼はそんな彼女を見て、思わず逃げだしたい気持ちに駆られた。
しかしここで逃げたら、本当に覗きにきただけと誤解されるのではないだろうか。
自らの命の危険より、そんな事態を恐れて、彼は二の足を踏んでいた。
そしてその動揺が隙となり、何をする間もなく裸体の女の子にがっちりと
ユーノはその身体を掴まれることになった。
異様な緊張がユーノの身体を覆った。
これから自分は糾弾されるのだろうか。
未来の無様な自分の姿が思い浮かべられたが、
一向に彼女はそれらしい行動を起こすことはなかった。
その様子を見てユーノは安心すると同時に彼女がゲーム消極的であると判断した。
そしてユーノは彼女が裸であることから、何かしらの戦闘に巻き込まれたのでは危惧し
彼女の身体に傷がないか丹念に観察をすることにした。
藤色の長く伸びた髪が目に付いた。
そしてそれは調和するかのように真っ白な肢体の上に添えられていた。
僅かに膨らみ始めた胸は、しとやかに女性であることを主張し
何故か水に濡れ、肌に一段と瑞々しさを加えていたその身体は
少女という年齢には不似合いは艶かしさを持っていた。
月の光が優しく彼女に降り注いでいた。
その光を受けて、彼女の白い肌は蒼く写し出され、身体に散りばめられた水滴は
まるで宝石のように月の光を反射させ、輝いていた。
何とも綺麗な身体だった。
夜であるはずなのに、その肌は傷一つなく、しっとりとなめらかに存在していることを
ユーノにはっきっりと知らせていた。
喉をゴクリと鳴らせながら、ユーノは検分を終えた。
彼女が傷を負うことなく、綺麗なことでいるのに彼は満足感を覚えた。
そして心優しい彼は念のために彼女の容態を窺おうと顔を上げて、
彼の目は少女の感情の灯さない瞳とぶつかった。
その瞬間、音のない時間が流れた。
そしてそこにトリルのように少女のユーノを冷たく見据える目が添えられた。
その冷酷な視線はユーノの心の内にあった女の子の裸を見てしまったという事実を
罪悪感として加速度的に膨れ上がらせ、苛烈な勢いをもって彼を咎め始めた。
そして尚も遠慮なくもたらされる彼女の侮蔑ともとれる視線に耐えかねたユーノは慌てて弁解を始めた。
「い、いや、違うんだ。僕は決してそんなつもりで見ていたわけじゃなくて、
ただこんなところで女の子が裸でいるだなんて、危ないなって思って、
だからそんなやましい思いで、君を見ていたわけじゃなくて、
ただ純粋に君の事を心配して……いや、そうじゃなく、物音がしたから
何だろうと思って来てみたら、君が裸でいて……本当だよ!
本当にそんなつもりじゃなかったんだ!」
その言葉を聞いても、彼女からは何も反応がなかった。
ただ黙ってユーノを見つめるだけ。
それはまるでお前は変態だと烙印を押しているような仮借ないものだった。
「あはは……は」
逼迫した状況に耐えかねたユーノは取り合えず笑ってみた。
笑顔は人に良い印象を与えるといういつか読んだ本の記憶を元にユーノはそれを忠実に実行。
それでもって彼は自分に与えられたであろう不当な印象を拭おうとした。
だけど、残念ながら彼女の様子には、それに呼応したような変化の兆しは見られなかった。
こういう場合では幾ら事故とはいえ、謝ったほうがいいのだろうか。
ユーノにそういった考えがちらついた頃、ようやく女の子は口を開いてくれた。
「あなたも参加者なの?」
ユーノの首に巻きつけられた首輪を見ながら女の子は訊ねた。
ユーノは思っていた展開と違うことに、安堵を覚えた。
それこそユーノは自分は変態だと罵られ、蛇蝎の如く弾劾されるものかと思っていた。
だけど、実際には彼は不当な裁判を免れ、告訴されることなく勝利を得たのだ。
それには当初こそ呆けてしまったものの、やがて目の当たりに事実に気がつくと
彼はに言いようのない喜び感じ取った。
「え、うん!そうだよ!……君もだよね?」
喜びのせいだろうかか、デスゲームの最中だというのに、彼の言葉は随分と弾んだものだった。
少女はそんな調子外れともいえるユーノの質問に対して僅かに頷くだけで答えた。
「名前は何ていうの?」
ユーノは軽快に質問を重ねる。
「ルーテシア・アルピーノ……あなたは?」
「僕はユーノ。ユーノ・スクライア」
名前を聞き終えると、ルーテシアは何故かユーノを地面に下ろし、荷物のところへと向かっていった。
彼女は何をしたかったのだろうか。
彼女のいきなりの行動に疑問を感じたが、彼女がそこで服を着始めたのでユーノは納得した。
折角、ゲームに乗っていないであろう参加者に会えたのに、名前だけの情報交換では幾らか寂しいものがある。
置き去りにされたユーノは慌てて彼女の後を追いかけていった。
そして彼女のところまで追いすがると、ユーノは一番に疑問に思ったことを訊ねた。
「ねえ、その、何で裸なの?」
「……川に落ちた」
「どうして?」
「川の上に転送された」
淡々とユーノの質問に答えながら、彼女はバッグの中から取り出した服を着ていった。
だけどその様子を見ていたユーノはまた次第に顔を赤く染めていった。
「な、何でそんな格好を?」
「バッグの中に入ってた。これしか他に服がない」
服を着終えた彼女はバニーガールの格好でユーノと向き合っていた。
ご丁寧にウサギの耳まで頭に取り付け、それを僅かに揺らせながら佇む彼女の姿は
その小さな身体もあいまってか、思わず愛玩してしまいたくなるような可愛さがあった。
愛らしいその姿はユーノの心にも幾らかの動揺を与えたが、
彼は必死に大人としての矜持を揺り起こし、その衝動に耐え抜いた。
そして彼女を戒めるべく、一人の大人としての意見を彼女に与えることにした。
「ねぇ、ルーテシア。その、人前で女の子が着替えたり、裸でいたりしちゃダメだよ」
「どうして?」
「だって僕は……」
だって僕は男だよ。
ルーテシアの何の他意もない疑問に、そんな答えを心の中で思い浮かべ、
思わず口から出して、彼女に注意を与えてしまいたくなったのを彼は何とか我慢した。
こんな状況でどうしてそんなことが彼女に言えようか。
自分が人間であることを隠し、わざわざ動物の姿に変身して裸の女の子に忍び寄る。
それは自分が変態であると自ら彼女に告げるようなものだった。
それでは折角、無罪を勝ち取ったのに、再び裁判を受けることになってしまう。
もうユーノは被告人席に立ち、彼女の裁判官のような冷酷な目を受けるのは嫌だった。
とはいえ、このまま人であることを押し隠し、動物のままでいるのも
自分が変態であると自ら言外に認めているような気がして、愉快な気分ではいられなかった。
一体、僕はどうするべきなのだろうか。
自分が人間であると告げるべきか、告げざるべきか。
二つの答えを前に今までにないほどの激しい葛藤を心の中で続け、
今までにないほどの並列思考を重ねに重ね
ユーノはようやく彼女に向けて自らの在り方を示した。
「だって僕は…………オスだよ」
ユーノは人の尊厳を捨て、全てを隠し通すことにした。
確かに動物という擬態を続けるのは、これからのルーテシアとのやり取りや
他の参加者との接触の際に情報の齟齬を招き、困難な状況を引き起こしてしまうかもしれない。
そして何よりも年端もいかない少女に対して欺瞞を続ける自分のことを情けなく感じた。
だけどそれでもユーノにとっては、少女から変態と罵られるよりも遥かにマシに思えた。
肝心のルーテシアはこの言葉をどう取ってくれるだろうか。
嘘がばれたのではないかという不安と
自分の言葉を信じてくれたのではないかという期待をない交ぜにした瞳で
ユーノはルーテシアの双眸を見つめた。
だけど、ユーノの言葉、瞳には彼女は何の感慨も示さず
二人の間にはただ沈黙が流れるだけであった。
ひょっとしてばれているのだろう。
絶え間ない沈黙は、ユーノの心にのしかかり、最悪な結果をユーノに予想させた。
もしそうであったら、自分は変態の上に卑怯者の烙印を押されてしまう。
そんな沈黙が与えるプレッシャーにユーノは押し潰され、
もう一杯一杯になった彼は目の前の問題から逃げ去ることにした。
即ち、話題転換である。
「ほ……他にバッグの中には何が入っていたの?」
随分と強引な話の振り方だとユーノも自覚できたが、
それでもあの空気の中にいるよりも、居心地はマシになった。
ルーテシアはというと、ユーノの質問に口で答えることなく、
実際にバッグの中に手を入れることで答えを示していった。
地図に食料、ランタン、名簿を一つずつ取り出していき、
丁寧にユーノの前に並べたてた。
そして水色の水晶をかたどったようなデバイスが現れた。
「名簿に……デバイス?」
そういえば自分の荷物を地図以外に確認していなかったな、と
自分の迂闊を呪いながらも彼女の支給品である名簿とデバイスが、
どんなものであるかを訊ねようとしたところで、
彼の頭はまた別な感情に塗り替えられた。
「ジュエルシード!?」
ルーテシアが最後に取り出しのは蒼い宝石。それは間違いなくジュエルシードだった。
なのはと出会うきっかけとなったもの、なのはとの想い出を綴ってくれたもの。
それには温かい思いでも含まれていたが、
同時にPT事件という悲しく、忌まわしい出来事を起こしたものであった。
「ジュエルシード?」
ルーテシアは無垢な声で質問をした。
「うん、ジュエルシード。次元干渉型のエネルギー結晶体。
僕が発掘したロストロギアだよ」
彼はそう言いながら、近くでジュエルシードを観察した。
「間違いない。ジュエルシードだ。封印処理はされているみたいだけど……」
封印処理されているとはいえ、ユーノには懸念があった。
殺し合いというこの状況。
ジュエルシードをもって戦闘に陥れば、それをきっかけとして封印が解けてしまう可能性がある。
そうすればそれを手に持つ者を取り込んで、いつぞやのように暴走してしまうし、
下手をすれば次元断層を引き起こし、その場にいる者を虚数空間に放り込んでしまう。
ジュエルシードの回収に従事していた彼は誰よりもその危険性を知っていた。
ジュエルシードが支給品として配られたのなら、ルーテシアの他にも配られたものがいるかもしれない。
もしそうなら発掘者として回収する義務があるだろう。
そして暴走を防ぐためにも、それによる被害者を出さないためにも
回収を急がなければならない。
だけど、ルーテシアのこともある。
ジュエルシードは危険なものだ。
当然、回収する立場にあるものにもそれが及ぶ。
なのはの時は、自分が怪我をしてしまい、止む無く彼女に助けを求めてしまったが
今回はそのような状態にはない。
当然、一人で行うべきなのだろう。
しかし、彼女をこの場で一人放っておくというのも躊躇ってしまうことであった。
実際に先ほどの会場でアリサが殺されたのだ。
死という存在はこの場所では、いつもよりも近くにある。
そんな所に女の子一人を捨て置いていくことなど出来はしない。
確かにジュエルシードの回収は危険を伴うが
それでも自分が近くにいれば、幾らかは彼女を守ってやることが出来るし
その方が殺し合いという場で一人でいるよりも安全ではないかと思えた。
勿論、なのはのことは依然として心配であった。
ここに来てから、真っ先に思い浮かんだのが彼女のことだ。
彼女の支えになってやるという決意は、今も確かな形で彼の中にある。
だけど、それでもルーテシアを放っておくことなど出来なかった。
ここで彼女を蔑ろにし、ジュエルシードを無視して、なのはのためにと銘を打って行動をしても
それは結局余計に彼女に心配と悲しみの重りを加えるだけになってしまう。
高町なのはは誰かの犠牲に上に自分が助かることは望んでいない。
だからこそ、今は自分に出来ることをしなければならないのだ。
《ごめんね、なのは。必ず君のところに行く。だから、ほんの少しだけ待っていて》
ユーノは心の中でなのに断りを入れると、ルーテシアに目を向けた。
思い出すのはなのはと出会った時のこと。
あの時もジュエルシードによって、彼女との絆が生まれた。
これもなのはの時のように自分にとって大切な出会いの一つなのだろうか。
心のどこからか湧き上がる思いを胸にユーノは彼女に訊ねた。
「ジュエルシードの回収、手伝ってくれませんか?」
また流れる沈黙。
彼女はほんの少し考え、その質問に答えてくれた。
「うん、別にいいよ。ユーノのこと、嫌いじゃないし」
相変わらず感情の見えない顔で、彼女はあの時のなのはのように明るい笑顔は見せてくれなかった。
その事にユーノは少し寂しさを覚えた。
だけど、彼女の言葉の内には人の為に何かをするという優しさが垣間見ることが出来た。
それに気がついたユーノはルーテシアに対して微笑を零さずにはいられなかった。
「ユーノの支給品は何?」
ユーノの感慨を無視して唐突に疑問の声がかけられた。
それに対してユーノは少し前のことを思い出しながら答える。
「ん、僕の?僕のバッグは向こうの方に置いてあるんだ」
ルーテシアはその言葉を聞くと、ユーノの指差す方に黙って歩き出した。
慌てて自分を追いかけるユーノを尻目に
彼女はロストロギアという言葉を聞いて、一つの可能性を考えていた。
ひょっとしてこのゲームの参加者に支給品という形でレリックが渡されているのではないか。
生体ポッドで眠る母を蘇らせ、自分に感情を与えてくれるナンバー]Tのレリックがここにあるのではないか。
彼女はそのことを考えて、ほんの僅かに頬を緩ませた。
【1日目 深夜】
【現在地 H−7 川原 】
【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】健康、フェレットに変身中
【装備】なし
【道具】なし
【思考】
基本 なのはの支えになる
1.名簿と支給品の確認
2.ルーテシアの保護
3.ジュエルシードの回収
4.首輪の解除
【備考】
※JS事件に関連したことは何も知りません
※名簿はまだ確認してません
※ユーノの支給品はG―7のデュエルアカデミアの裏手にある路地に放置されています
※プレシアの存在に少し疑問を持っています
【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【装備】バニースーツ@魔法少女リリカルなのはStrikers−砂塵の鎖―
【道具】支給品一式、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは
【思考】
基本 ナンバー]Tのレリックの捜索
1.ユーノの支給品の確認
2.ジュエルシードの回収を手伝う
【備考】
※参戦時期はゆりかご決戦前です
※名簿はまだ確認してません
※ユーノが人間であることを知りません
以上です
投下終了しました
投下乙!
ユーノ・・・またお前は・・・
というか人の尊厳をそんな簡単に捨てるなw
まさに 淫 獣 !
保守
完全に過疎ったなぁと思いつつ。
このままじゃ何にも展開しないし、何か手を打った方がよくないか?
各所で作者をもう一回募るなり、何か対策を練るなり。
個人的には同じ作者での連続キャラ使用禁止ってのがかなり作者に縛りかけてる気がする。
いくらリレーって言っても人が居なくて予約も進展も無しじゃ話にならないしさ
その辺りも含めてもう一回議論し直した方が良くないか?
書き手のルールなんかも色々と
自己りれーが許されるのなら
実際に書くかどうか分かりませんれど
ネタはありますね
それはそれとして
柊つかさと遊戯十代、投下します
月は明るく夜を照らしていた。
その蒼い光は人影もなく、照明の一つも点いていない不気味な街に優しく降り注ぎ、
静寂と恐怖の交じり合う暗い世界に明るい色取りを加えていた。
思わず見とれてしまう。
そんなな幻想的な光景だった。
こういった場所にいたら、世界の美しさに目を奪われ、人の死など忘れてしまうかもしれない。
ビルの群れを分かつ大通りは、そんな恩恵に浴していた。
だけど、そんな所とは縁遠い場所に彼女はいた。
通りから外れた薄暗い路地裏にあるゴミ箱の陰。
そんな掃き溜めと称されそうな汚い場所に
柊つかさは身体を丸めるようにして隠れていた。
「お姉ちゃん、こなちゃん、ゆきちゃん……」
不安に怯える中、彼女は必死の思いで大切な人たちの名前を綴り、
目の前に起こった現実によって崩壊しかけた自分の意識を保とうとした。
これは現実じゃないんだよね、夢なんだよね。
確かに目の前で人が殺されたし、自分に人を殺せとも言われた。
だけどそんなことはどう見ても、出来の悪い冗談にしか彼女には思えなかった。
ただ普通に生活していた自分が、どうしてこんなことに巻き込まれるのか。
その疑問に対する明確な答えが、夢以外に見つからなかった。
だから、こんなことは夢でしかないのだ。
思い出すのはいつも学校の風景、友達との会話
学校の教室で繰り広げられる日常。
ただ何となく毎日を過ごす日々は、代わり映えもしない生活だった。
でも平凡ではあったけれど、自分では胸をはって幸せといえる、そんな光景だった。
そしてそれが自分を取り巻く世界であり、自分のいるべき場所なのだ。
間違ってもここでじゃない。
自分の世界に思いを馳せ、あるべき世界に身を委ねる。
そうしていると、不思議と恐怖はなくなり、落ち着いてくる自分がいた。
それに、今、見ているものは夢であり、いずれ醒めることになる。
それなら怖がる必要はどこにもない。
一気に緊張から解放された彼女は、それまでの心労も相まってか眠気を感じた。
夢の中で寝るっていうのも、変だよね。
そんな事を思いながらも、彼女はゆっくりと船を漕ぎ始めた。
このまま寝て、起きれば、またいつもの生活が戻ってくる。
夢の中を歩き回るよりも、彼女にとってはそっちの方が魅力的だった。
* * *
それからどれくらい経った頃だろうか。
ゴミ箱の陰に隠れ、寝息を立てるつかさの顔にランタンの明かりが照らされた。
「おい、起きろ、起きろって。こんな所で寝てちゃ危ないぜ」
「んぅ〜」
赤いジャケットを羽織った少年が呼びかける。
だけど、すっかり寝入っている彼女にとって、
それは遠くから聞こえる儚い声でしかない。
彼女はその声を無視し、構わず自分の欲望を優先させた。
幾ら呼びかけても、碌な返事がない。
その様子に痺れを切らした少年は、彼女の肩を揺り動かし、耳元で叫んだ。
「おーきーろー!」
今度は遠くからではなく、間近から届けらる声。
それには別世界にいる彼女の意識も呼び起こされることとなった。
「ふぇ……お姉ちゃん?もう朝〜?」
寝ぼけ眼を擦りながら、彼女は暢気に訊ねた。
だけど、目の前に人物が、姉とはかけ離れていて
おまけに周りの風景も自分の部屋とは違っているときている。
それから得られる結論は決まっている。
まだ夢を見ているんだ。
「……おやすみなさい」
彼女はまた瞳を閉じた。
「だから、起きろって!」
埒が明かない判断した少年は彼女の頬を軽くはたきながら、呼びかけた。
「ここで寝たら死ぬぞー!」
盛んに呼びかけられる声の近くでは、流石に彼女も寝られなかった。
ゆっくりと身体を起こし、彼女はけだるそうに目を開けた。
「やっと起きたか。こんな所で寝てちゃ、本当に危ないぜ」
「あの、誰ですか?」
ゆっくりと覚醒していく意識の中でも、
警告を促す人物が自分の知り合いではないことに気がついた。
「俺は遊城十代。君の名前は?」
「はぁ、あの、柊つかさです」
「そっか。つかささんは何でこんな所で寝てたんだ?」
「ん〜、何だか急に眠くなってきちゃって……」
「本当に危なっかしいな〜。最初に見つけたのが、俺で良かったぜ」
「あの、危ないって何でですか?」
「ひょっとして見ていなかったのか」
十代はつかさに事のあらましを説明し始めた。
こんな所に一人でいては危険だ。
それを悟らして、もう少し危機感を持って行動を自重してもらいたい。
そこまで考えてかどうかはしらないが、十代は隠し立てせずに教えた。
成るほど、確かに彼の言うことは、彼の心配を肯定するような内容だった。
だけど、彼女にとってそれは全て否定した現実の亡骸だった。
「でも、これって夢なんですよね?」
まるでそれが真実であるかのように純粋に疑問に持ち、訊ねた。
何の屈託もない瞳が十代に向けられる。
それにはほんの少しだけ十代も呆気にとられた。
「いや、つかささん。否定したくなる気持ちは何となく分かるけれど、これは現実だと思うぜ」
人の死、首輪、殺す、殺される。
くどくどと説明を加える十代を彼女は見据えていた。
彼の言っていることは嘘に違いない。
それが彼女の見解だった。
だってもし彼の言っていることが本当だとしたら、
自分は誰かを殺さなければならないだろうし、
また自分は誰かに殺されることになってしまう。
そんなことはどっちも嫌だった。
だから、彼は嘘を言っていているに違いないのだ。
少女は自分の世界を守るべく頑なに少年の言っていることを否定した。
「ああ、そうそう、つかささん。つかささんのバッグだろう、これ?
向こうの通りに落ちていたよ。隠れるんだったら、自分の持ち物を
ちゃんと持っていかなきゃ」
そう言って手渡される荷物は確かな質量を持って、彼女の手にのっかった。
そこにほんの少しの疑問が生じる。
夢の中ってこんなリアルだったっけ、と。
それでも今までの非現実的なものを肯定する気にはなれなかった。
それに大体こんな可愛げのないバッグを買った覚えなど彼女にはなかった。
自分のではない。
やはり彼は嘘を言っているのだろう。
その事に確信を深めつつ、手渡されたバッグを返そうとしたら
それを遮るように十代は話しかけてきた。
「つかささん。つかささんの知り合いは、この中にいたか?」
「知り合い?」
「ああ、名簿が中に入っているだろう?見てみなよ」
「え、あ、うん。でも、このバッグ、私のじゃないよ」
「そうなの?じゃ、つかささんは、何を支給されていた?」
「……支給?」
「バッグを渡されていただろう?」
つかさは黙って首を振る。
「じゃあ、やっぱりこのバッグはつかささんのだよ。ほら!」
押し付けられるバッグを、されるがままに彼女は受け取った。
そして彼に名簿を確認するように促される。
何となくそれを見てしまうと悪いことが起きるような気が彼女にはした。
でも、同時にそれを見なければいけないという気も彼女の中にあった。
二つの相反する気持ちの中、やがて彼女は名簿を見ることにした。
だってこれは夢なのだから。
それが自分を動かした理由だった。
例え悪いことが起きたとしても、それは全て夢であり、本当のことではない。
それなら、どんなことが起きても大丈夫だろう。
彼女はその手をバッグの中にいれて、名簿を取り出した。
十代が持つランタンの明かりを頼りに彼女は目を通す。
柊かがみ、泉こなた、それに加えて転校生で、
自分の新たな友達となってくれた高町なのはとフェイトの名前があった。
自分の大切な人たちがここにいる。
その事実に突き当たると、彼女の内奥は衝撃に震えた。
そしてそれは自分の出したこの状況に対する結論を揺り動かした。
目に見えて動揺する彼女の目に、ふと十代の足元でランタンの光を受けて不気味に輝く剣が映った。
その視線に気がついた十代は、それを辿りバヨネットを手にした。
「ああ、これ?一応、なんつーか、自衛の為に。
勿論、俺は人を殺したりなんかはしないし、こんなゲームになんかは乗っていないぜ」
彼女は彼の言うことなど全く聞いていなかった。
ただ無骨な剣の厳かな主張に気おされていた。
これは現実だという無常な剣の声に。
だけど、彼女はすぐにそれを否定した。
これは夢だよ、夢。だって夢じゃなかったら……。
その仮定を考え、大切な彼女たちの死をイメージしてしまった。
途端に悲しみが痛いほどに胸を刺す。言いようのない辛さだった。
夢でも嫌だよ。
掛け替えのない人たちの死は、それが想像の中の出来事でも
現実のような重さをもって、彼女の瞳から涙を押し出した。
いきなりの涙に十代は戸惑い、訳も分からず罪悪感を覚えた。
「え!?その、何で?……いや、ごめん」
女の子が涙を流す。
余り遭遇したことのない場面であるだけに、その対応の仕方が彼には分からなかった。
それでも何かをしないよりはマシかなと思い、取り合えず謝ることにした。
だけど、そんなことで全てが解決できるはずもない。
十代はあわてふためきながらも、この状況を何とかすべく
彼女を慰めるなり、励ますなりしてやろうと彼女に近寄ろうとしたが
それは彼女は震える小さな手が前に突き出されたことによって中断された。
彼女は混乱していた。
自分が体験していることがよく分からなくなっていた。
これが夢なのか現実なのかというのは分からない。
大切な人たちの死は、夢であってほしいと思いながらも
現実だったら、取り返しのつかないことになってしまうという不安もあった。
だけど、自分がそれを心配して行動するというのは
この夢を現実として捉えることになってしまう。
そうなったら、きっと夢は現実になってしまう。
訳の分からない考えは、否定できない重みをもって彼女にのしかかった。
彼が来なければ、夢を夢と思えていた。
そしてきっと夢は夢で済んだはず。
それなのに彼が来て、それを壊してしまった。
ままならない状況での彼女の苛立ちは、怒りとなって十代に向けられた。
理不尽な怒りではあったけれど、彼女にとってそれは正当なもののように思えた。
だけど、非力な彼女にその怒りを体現させる手段などなかったし、
人を傷つけたことのない彼女にそれをする心構えもなかった。
だから、彼女は突きつけられる事実を手で阻み、逃げることにした。
そして彼女は突如として振り返り、走り出した。
突然のことに呆気に取られる十代を後にして走る彼女だったが、すぐにその幕は下ろされることになった。
運動を得意としていない彼女あることに加えて、心身が乱れた状態でのランニングだ。
自然と足取りは覚束なくなってしまう。
彼女はその勢いのまま、受け身を取る暇もなく、顔を地面にぶつけながら盛大にこけた。
勝手に走り出し、勝手にこけて、勝手に怪我をする。
馬鹿としか言いようがない。
一笑に付してやりたいものだ。
だけど、涙をとめどなく流し、鼻血を垂らす少女は、滑稽というより哀れな姿だった。
そんな姿を見て十代も同情を禁じ得なかった。
「えーと、その、大丈夫か?」
何だか気まずさを感じながらも、声をかけた。
何故だか分からないが、女の子が泣いていて、怯えていて、怪我をしている。
男以前に人として、放っておけはしないだろう。
だけど、それも拒絶の意を示された。
「いや!来ないで!」
切実な響きを持つ声が叫びとなって彼女の口から出た。
その迫力に思わず十代の足も止まってしまう。
何でこんなことになっているのか。
十代は頭を掻きながら、自分の行動を思い返した。
だけど、彼女をこんな様子になるまでに追い込んだような覚えはなかった。
とはいえ、自分が来るまでは暢気に寝ていたのだから、やはり彼女の変化の原因は自分にあるのだろう。
「えーと、なんつーか、その、ごめん」
何が悪いかも分からないが、取りえず自分が悪いのだろうと思い、彼は再び謝ることにした。
余り真摯な態度とは言えないし、それでは本当の意味で謝罪の意は相手に伝わらないだろう。
だけど、そんな懸念は今回は必要なかった。
何故なら、彼女の耳には彼の声など届いていなかったのだから。
彼女の頭にはあったのは、彼が突きつける事実から逃げることだけ。
彼が立ち止まったのを契機に、彼女は精一杯の勇気を振り絞って立ち上がり
鼻から出る血の痛みを我慢して、また逃げ出した。
その様子を黙って見つめる十代。
恐らく初めて接するタイプの女の子であり、意志の疎通が上手くいかない人。
そんな人とのやり取りに幾らかの面倒さを感じ、咄嗟に彼女を追いかけるのをやめた。
でも、こんな所で放っておけないよなぁ。
理性が良心となって呼びかける。
今の状況における危険性を一応理解していただけに、その言葉には説得力があった。
十代は軽く嘆息すると、急いでバヨネットを手に持ち、追いかけた。
「おい、つかささん、待てよー!」
【1日目 深夜】
【現在地 H−5】
【遊城 十代@リリカル遊戯王GX】
【状態】健康
【装備】ランタン、バヨネット@NANOSING
【道具】支給品一式、ランダム支給品0〜2個
【思考】
基本 殺し合いには乗らない
1.つかさを追いかける
【備考】
※つかさの対応に苦慮してます
武器をに手に持って追いかけてくる人がいる。
その異様な出来事にさっきまでのやり取りなどは、つかさの頭の中から吹き飛ばされた。
きっと自分は殺されてしまうのだ。
心の奥底から泉のように湧き出る恐怖心は
絶え間なく続く状況の不可思議さによって混乱していたつかさの意識の中で
確かな存在感を放ち、その考えに正当性を与えようとしていた。
彼は自分を殺す。
それは確信に近い形となって徐々に彼女を蝕んでいった。
《お姉ちゃん、みんな、助けて……!》
つかさは涙と鼻血を振りまきながら、必死になって逃げた。
【1日目 深夜】
【現在地 H−5】
【柊つかさ@なの☆すた】
【状態】混乱、鼻血出血
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3個
【思考】
基本 日常に帰りたい
1.十代から逃げる
2.家族や友達に会いたい
【備考】
※夢か現実かはまだ区別がついていません
※十代が自分を殺すと思っています
以上です
投下終了しました
GJ!
混乱して暴走するつかさがいい味出してます!
にしても今回、柊姉妹はどっちも暴走かw
らきすた勢でまともなのは図太い性格のこなただけw
3人は無事合流出来るのか……
GJ!
次に会った奴に確実に誤解を与えることになるな、これ・・・
アレックス、シグナム、ティアナ投下します
グリーンの部屋のドアを開け、彼との邂逅を得ようとしていた。
――その筈だった。だが、
「ここは……何処だ……?」
いきなり見知らぬ場所に連れてこられての拘束/高町なのはの友人らしき人物の死/そして殺しあえ。
その次の瞬間には、また違う場所へ。
チェシャキャットのイタズラだろうか――否/動機が不明。
またヴァイオレット/マーチヘア/バロールの魔眼のように幻覚を見せる能力を有していない。
それに向こうもこちらの情報を欲しがっていたと思われる。
そのチャンスを見逃すほど、グリーンも愚かではない。
二つ目の可能性――管理局――先の戦闘で見せたARMSの能力を恐れての強行。
それも否――もう一つのARMS/キース・レッドの存在に対抗するために自分は有用。
また処分を考えての行動にしても目的達成には迂遠すぎる。
三つ目の可能性――管理局の敵対勢力/列車上にいたサイボーグ。
動機/目的/いずれも不明。だが、前者の二つよりは可能性が高い。
彼らについて、顎を手に当て考える。
――思考は空白を維持――情報が不足。
より詳しい情報/あの場で主催者らしい女と接していた高町なのはとフェイト・T・ハラオウンに会う必要がある。
と、いつの間にか手に持っていたバッグに気がつく。
恐らくはあの女/プレシアの仕業――意図が不明。
確認のために中を開ける。
食料/水/ランタン/時計/筆記用具/コンパス/地図/名簿/車の鍵/そしてカードが数枚。
これで殺しあえというのか。思わず失笑が漏れる。
だが、自分にはARMS/人を殺すには十分なものがある。問題はないのだろう。
中にあった地図を広げ、この場を形成しているであろう地形を覚える。戦略や戦術において地理の把握は必要不可欠。
今後、どう行動するにしても、覚えておいて損はない。
続いて名簿に目を移す。
その内容に目が開く――キース・レッドの名前を確認。
このゲームの主催者/レッドを含む組織との等号が崩れる――それともレッドは廃棄処分にされたのか。
――だが、これは好都合かもしれない。
首輪が爆発したところで、コアが大丈夫な限り、その傷はARMSの能力によって再生される。
よって、死を脅迫材料にして、行動を強要するのは無意味。
しかし、未だ全容を把握出来ぬミッドチルダの科学技術に魔法技術。
もしかしたら首輪だけによってARMSを殺すことが可能なのかもしれない。
その確認のためにもレッドの首輪を、彼が生きている状態で破壊することが必要となってくる。
そこまで考えて、一度名簿から目を離す。
そしてこれからの行動の指針を考える。
闘争は自分のプログラムの核/己の存在意義/故に殺し合いに忌避はない。
だがキース・ブラックの呪縛/戦闘生命としての生は終わりを告げた。
今更、また他人にその呪いの戒め/戦闘の強要をされる謂れはない。
今は自分の意志で闘いを選び、自分の道を歩いていくと決めたのだ。
――それが管理局に入局した理由。
ならば、この闘争を管理局の勝利として終わらせるのが自分の道/自分の闘い――そして自分の意志。
まずは六課のメンバーと合流して、情報を纏めるべきか。
立体駐車場に並んでいる数台の車に順々にバッグの中に入っていた鍵を指していく。
――やがてジープを思わせる車に鍵がはまる。
軽快なエンジン音、スムーズなハンドリング、安定したホールディング――悪くない支給品だ。
目的地/機動六課隊舎へ向かう。
他のメンバーが向かっている可能性、彼らがいなくとも何かの情報/武器がある可能性。
――それらを考慮しての判断。
だが、思いの外、すぐに機動六課のメンバーとの再会を果たす。
車を出して数分後、車のライトに照らされた後ろに束ねられたピンク色の長い髪/
それと調和するようにあしらわれた騎士甲冑/右手に持つ剣/機動六課所属ライトニング02副隊長/烈火の騎士/シグナム。
ジープを降りて歩み寄る。
「シグナム、無事だったか?」
同じ職場の仲間を案じての発言――だが彼女の顔に浮かぶ微かな疑問/眉間に皺が寄る。
「……お前は私を知っているのか?」
質問の意図が不明/何かの冗談だろうか。
「知っているも何も同じ機動六課のメンバーだろう」
その言葉によって彼女の表情が正される。
自分の存在をちゃんと認識してくれたのだろう。
――だが、返ってきた彼女の言葉は自分の予想とは、またかけ離れたもの。
「お前のことは知らん。悪いが記憶にはない。
……だが、例え本当にお前とは知り合いであったとしても、私のやることには変わりはないはだろう」
どういうことだ――その疑問を口にする前に彼女が剣を構え、それを振りかぶり、迫ってくる。
「死ねっ!」
彼女の手には不似合いな大きな剣が、激昂の言葉と共に振り下ろされる。
切るという言葉は生易しく、正に破壊の体現/衝撃と共に破砕されるアスファルト。
それを跳んでかわし、確認のために問う。
「お前は本当にシグナムか?」
「……ああ、私は烈火の騎士、シグナム。だからこそ、お前には死んでもらう」
再び振るわれる大剣/明確な殺意を含み、命を摘まんと迫ってくる。
理由は分からないが、彼女はこのゲームに乗ったようだ――故にこちらも戦闘態勢に移行する。
それと同時に死と破壊を内包する剣が目前に迫らんとする。
だが、その迫力とは裏腹にそれは存外に見切りやすい。
その大きさゆえの初動の遅れ/その重さゆえの二撃目/斬り返しの遅れ。
――容易にかわすことが出来る。
加えて、先の模擬戦において愛剣/レヴァンティンを持つ彼女との対峙。
それと比べれば、遜色は明らか。
隙を見つけ、そこに蹴りを入れ、更に怯んだ隙に起動したARMSの腕を叩き込む。
しかし、流石はシグナムといったところか――致命傷は避ける。
そこに驚きはないが、一つに気にかかる点――ARMSを起動した瞬間、シグナムが見せた表情/驚愕/戸惑い
――そこに生まれる疑問。
「本当に俺を知らないのか?」
返答は沈黙――恐らくは肯定を意味。
より詳しい情報を望むが、今の彼女からそれを得るのは難しいだろう。
それならば情報は惜しいが、他の管理局員に被害が及ぶ前にシグナムを殺すことが得策か。
滲み出たその殺意に呼応するように、彼女は剣を手に襲い掛かる。
だが、それは無意味。
シグナムの能力/戦い方は既に知っている。
反対にシグナムはアレックス/シルバー/ARMSの能力/戦い方を知らない。
それは戦闘における一つ一つの判断速度に差をもたらし、時間の経過と共に二人の優劣をより明らかにしていく。
そして再びシグナム身に刻まれるARMSの爪痕――出血と共に堪らず片膝をつく。
それを悠然と見据え、左腕に力を込め、ブリューナクの槍/荷電粒子砲の発射態勢に入る。
しかし、心に感じる躊躇い――眼前にいるのは間違いなくシグナム/管理局員。
故に確認のために最後に問う。
「お前は管理局員ではないのだな?」
シグナムは瞑目し、その答えを考える。
騎士としての矜持/命の重さ/使命感を天秤に載せながら……。
そして紡がれる言葉。
「……お前ほど強さを持っているものと出会っていれば、覚えている。
出来ればレヴァンティンを持って、お前と戦いたかったがな……」
答えは否定――それならば容赦する必要はない。
細められるシグナムの双眸からは、諦観とも取れる言葉とは反対に、折れることのない意志が見受けられる。
だが、それがどうしたことか。
ブリューナクの槍/焦点温度数万度――触れずとも、その熱と衝撃の余波だけで殺害は可能――必死は免れられない。
だが、光の槍はARMSからは放たれず、代わりに横合いから女性の甲高い声と共に
幾つもの固まりとなった光弾がアレックスに襲い掛かる。
「クロスファイヤー、シュートォッ!」
舌打ち一つ/発射プロセスを中断――急いで被弾圏内から離れる。
しかし誘導制御を受けた高密度の魔法弾にその対処法は無意味――距離を取って尚、威力を損なうことはなく、対象を狙う。
仕方なくARMSの腕を盾代わりに使用――衝撃と共に訪れる倦怠感/疲労/非殺傷設定の魔力弾の効果。
その射手は橙色の髪/ツインテール/手に持つ銃/機動六課スターズ03/ティアナ・ランスター。
彼女はこちらに銃を向けながらシグナムとの間に立った。
■
「大丈夫ですか?シグナム副隊長?」
支給されたデバイス、アンカーガンを油断なく構えながら、
シグナムのもとに歩み寄る。
「……ああ、すまん……助かった」
その一言は決死の覚悟で舞台に降り立ったティアナの心を沸き立たせ、喜ばせた。
シグナムを圧倒する存在。その前では間違いなく自分の実力などたかが知れている。
もしかしたら、シグナムの助けになるどころか、足手まといになってしまうかもしれない。
そういった不安は六課での経験、執務官補佐としての働きを経て尚、感じるものだった。
だけど、現状は予断を許さない。
その緊迫した状況は大切な仲間を失いたくないという一念により軽挙とも言われる行動に移させた。
私の行動は余計なものだったかもしれない――シグナムの元に近づきながらも、感じる僅かな不安。
だけど、それを綺麗に取り払ってくれるかのようにかけられる感謝の言葉。
自分の行動は正しかったのだ。
――知らず知らずの内に頬が緩んでしまう。
とはいえ、いつまでも喜悦に浸り、油断をしている暇などはない。
表情に緊張を与え、アンカーガンを握る手に力を込める。
2対1になったからといって、相手が大人しくなる理由にはならない。
「私は時空管理局執務官補佐、ティアナ・ランスター。あなたを傷害及び殺人未遂の現行犯で逮捕します」
ハラオウン執務官の元で働き、身についた口上。
犯罪者に対して、ましてこの状況において、どの程度効果があるかもしれないけれど、
ある程度は脅しになる――そう思っての行動。
だけど、返ってきた彼の言葉は余りに予想とはかけはなれたものだった。
「俺は時空管理局機動六課所属、アレックスだ。このゲームには乗っていない」
耳に届けられる言葉は余りに馬鹿げたものだった。
よりにもよって自分がかつて所属し、既に解散してしまった部隊名を名乗りあげる。
その明白すぎる嘘は、思わず笑ってしまいたくなるものだった。
だけど、その滑稽な嘘に不思議と笑いは込み上げてこなかった。
代わりに感じたのは、かつてないほどの怒り。
犯罪者が、それも今、目の前で尊敬すべきシグナム副隊長の命を奪おうとしたものが、
自分が信じた正義を体現し、尊敬と愛着を感じていた部隊の名を騙る。
それは自分の過ごした思いを汚し、自分が築き上げた大切なもの全てを侮辱するようなものだった。
故に相手がどんなに自分を超える強さをもっていても、それは決して許せるものではない。
「ふざけんじゃないわよっ!!あんたなんかにっ……!」
我先にと口から飛び出す怒号。彼にぶつけられる怒りの言葉。
だけど最後までそれを吐き出す前に、中断を余儀なくされる。
胸に違和感――そこには何故かシグナムが持っていた剣が生えていた。
「……な……ん……?」
さっきまでの勢いが嘘のように言葉が生み出せない――何故だろう?
だけど、言葉の意が伝わったのか、後ろにいるシグナムは答えてくれた。
「すまない……主のためだ」
耳に入る言葉に何故か納得。
意味が分からないが、彼女がここまですることなら仕方ないことなのかもしれない。
だけど、胸を貫く剣を見つめていても、何故か死の実感は湧かなかった。
胸に痛みはない――それが原因かもしれない。
そして、自分の気持ちを裏付けるもう一つの理由
《やっぱりシグナム副隊長が人を殺すなんて出来ないよね》
そう考えて安心
――六課で過ごしたみんなとの日々が走馬灯のように映し出され、
その辛くとも楽しかった思い出が自分の考えにまた保証を加える。
やはり自分が感じた死の懸念は間違い。
シグナム副隊長に殺されたかと思ったなんて話したら、また彼女に殴られてしまうかもしれない。
そんな未来を思い浮かべて、ほんの少しの微笑を漏らす。
そして振り向き一瞬でもシグナム副隊長を疑ったことを謝ろうとするが、何故か身体が動かない。
彼女に殴られるという恐怖により身体が竦んでしまったのだろうか。
こんなことを知られたら、スバルはおろかエリオやキャロにまで笑われてしまうかもしれない。
そんな未来はごめんごうむりたい。
だから身体が動けるようにと、気を引き締め、
更に深呼吸をして身体を落ち着けてみようとするが、何故か息を吸うことができない。
代わりに自分でも驚くくらいの血を口から吐き出される。
《あれ?何で?》
心に浮かぶ疑問。それに対しての答えを思い浮かべようとするが、
内臓が擦れるこそばゆい感触――剣が引き抜かれていく感覚がそれを邪魔をする。
《何なのよ、こんな時に!》
思わず悪態を吐く。
人が必死になって考えようとしている時に、横槍を入れてくるのはスバルに決まっている。
また彼女が暇を持て余して、私のところにやってきたんだろう。
全く傍迷惑な子だ。
いい加減きつく言ってやらなければいけないかもしれない。
そう思いはするが、目に映るのはスバルではなく、近づいてくる地面の姿。
訳が分からない。取り合えず、受け身を取ろうと手を伸ばそうとするが、その暇もなく顔から着地。
痛い、と心の中で叫ぼうとするが、痛みなどなかった。
何なのだろう。状況に理解が及びつかない。
ひょっとしたら、夢を見ているのかもしれない。
この所、訓練づけだったし、疲れがたまっていたのだろう。そのせいかもしれない。
そういえばスバルにも早朝に、深夜にと、訓練をつき合わせてしまった。彼女もきっと疲れていることだろう。
今度の休みの日に、訓練のお礼として、いつものお店でアイスクリームでも奢ってやるとするか。
そうすればきっとスバルのことだ。喜んでくれるに違いない。
それにこんなに訓練ばっかしていたら、またなのはさんに怒られてしまう。
あの時は怖かったなぁ。まあ、でも自分が悪かったのだし、仕方ないか。
だけど、あれがきっかけでなのはさんともっと深く知リあえて仲良くなった。
情けなくはあるけれど、私の大切な掛け替えのない思い出……。
でも、何か変だなぁ。なのはさんに怒られたのは無茶な訓練して、模擬戦をやった後で、今じゃない。
あれ…………?今っていつだ?
なのはさんに怒られて…………そう、ゆりかごでJS事件の決着がついて、それから六課が解散して……、
確か……フェイトさんの……補佐として働いていたはず。
その後は……八神特別捜査官に……呼び出されて、久しぶりに……えーと、六課の終結と喜んで…………それから……なんだっけ?
……ダメだ……。今は眠い。考えがうまく纏まらない……。
今日はゆっくり寝て、また明日考えることにしよう…………。
時間はまだたくさんある…………………………………………………………………………………………………………。
【ティアナ・ランスター@リリカル遊戯王GX 死亡】
■
現れたのは同じ機動六課メンバー/ティアナ・ランスター。
同じ管理局員と思った以上に早く会えるというのは好都合だが、状況が芳しくない。
恐らくシグナムと対峙している自分を敵と誤認。
また入局して浅い自分よりかはシグナムの方が信頼がある――それは自明。
――故に誤解による戦闘を避けるために、ARMSを解除し、彼女に伝える。
「俺は時空管理局機動六課所属、アレックスだ。このゲームには乗っていない」
だがこの言葉を受けて、彼女の顔は怒りに染まる。
「ふざけんじゃないわよっ!!あんたなんかにっ……!」
言葉の中断――彼女の胸に刺さるシグナムのバスターソード
それと共にもたらされる結論――ランスター二等陸士の死
「すまない……主のためだ」
微かに届けられるシグナムの言葉を思考。
今までの彼女の言動を思い返し、主と呼称していた人物を思い出す。
――そして導き出す答え。
「……八神はやてのためか?」
この返答も沈黙。
だが、険しさを増す彼女の瞳は紛れもない肯定を示す。
動機が分かれば説得の道筋は立てやすい。彼女の行動を改めることが出来るかもしれない。
しかし、同時に疑問/自分にそれが可能か?
八神はやてとの付き合いの浅い自分に彼女を語る資格はない。
それにシグナムはもう仲間であり、部下であったランスター二等陸士を殺した。
後戻りは出来ないだろう。
――故に説得ではなく、自分の認める強者としての会話を続ける。
「……何故殺した?」
幾重にも意味を込めた質問。
「……愚問だな。元より主以外は全て殺すつもりでいた。それが守護騎士である私の役目だ。
私の躊躇いや逡巡によって、主に危険が及ぶことは避けねばならない。
相手がお前のようなものやこの女のような管理局員であるというのならば、事は尚更だ。
主の命に比べれば、私の騎士としての誇りなど、何と軽いことか……」
饒舌とも言える回答/ランスター二等陸士の支給品を確認するための時間稼ぎ/阻止は可能
――だが、彼女の言葉/思いの方が気になる。
言い終えると同時にシグナムはティアナが持っていたバッグから新たな刀を取り出す。
そしてその剣先をこちらに向け、不敵に笑う。
「レヴァンティンとはいかなかったが、これならお前にも遅れをとることはないだろう」
バスターソードと同じく規格外の武器。
しかし、それよりは彼女に馴染む剣/長大な日本刀
状況は最悪/仲間の死/仲間との戦闘
だが、目の前の彼女との闘いに喜ぶ自分がいる。
それを意識しながら再びARMS/マッドハッターを起動。
「いいだろう。俺もお前とは決着をつけたいと思っていたところだ」
【1日目 深夜】
【現在地 F−3】
【アレックス@ARMSクロス『シルバー』】
【状態】健康 、疲労(小)
【装備】なし
【道具】支給品一式、はやての車@魔法少女リリカルなのはStrikerS、サバイブ"烈火"のカード@仮面ライダーリリカル龍騎、
ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
基本 この殺し合いを管理局の勝利という形で終わらせる
1.シグナムの排除
2.1の後、機動六課隊舎へ向かう
3.六課メンバーとの合流
4.キース・レッドの首輪の破壊
【備考】
※シグナムに多少の違和感を覚えています
※キース・レッド、管理局員以外の生死には余り興味がありません
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】疲労(小)、胸に裂傷(我慢できる痛みです)
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式×2、バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、ランダム支給品0〜3個
【思考】
基本 はやてを優勝させるため、全ての敵を排除する
1.アレックスの排除
2.はやてとの合流
3.ヴォルケンリッターの仲間達との合流
【備考】
※アレックスとティアナとのやり取りに多少の違和感を覚えていますが、さして重大なこととは思っていません
【支給品情報】
※アンカーガン@魔法少女リリカルなのはStrikerSはF−3にあるティアナの死体が手にしています
GJ!
ティアがまさかこんな早くに退場するとは……w
そしてシグナムがセフィロスとアンジール、2人のクラス1stの剣を確保。
あとはジェネシスの剣だけだ!w
GJ!
フォワードがもう2人か…
スバルはアーカードに殺されそうだし、やばいな。
殺生丸といっしょのキャロ以外死にそうだ(
ハヤテのごとくとのクロスあり?
……え?
>>391 だが、キャロも結構ボロボロな罠。
まぁ、最初に出会ったのがナイブズじゃあな……。
何にせよ、殺生丸GJだなw
L、ザフィーラ投下します
先も見渡せないような暗闇の中を男が二人、肩を並べながら歩いている。
一人は目にクマを作り、猫背の野暮ったい男、
もう一人は険しい瞳を携え、頑健な身体つきをした男。
正反対とも言える二人は同じ道を、幾時間と共に歩き、
お互いの情報のやり取りを行っていた。
「それでどこに向かっているんだったか?」
声にも逞しさを滲ませる男、ザフィーラは確認するかのようにもう一人の男、Lに訊ねた。
Lはその大きな瞳を上目遣いにして、ゆっくりと答える。
「ええ、地図に載っている黒の騎士団専用車両というところです」
「乗り物の確保か」
「ええ、始終足で歩き回っていては、体力の消耗が危ぶまれます。それでは判断力の低下に繋がりますし、
いざという時に何かの問題が生じる可能性もあります。また止む無く戦闘に陥った場合でも、車があるとないとでは
取れる選択肢の数が違ってきます。それに何より……歩いてばかりというのは面倒くさいですから」
最後の言葉に僅かに顔をしかめるザフィーラ。
しかし、些細なことで事を荒立てる必要はない。
口から出ようとした言葉を飲み込み、目的地を見据える。
「どうやら、見えてきたようだな」
「ええ、そのようです」
一見、港にある倉庫を思わせるような黒の騎士団専用車両。
そこに到着した二人は首輪探知機で人がいないかを確認すると、早速、中に入り車両を検めることにした。
二人の目に入ったのは装甲車を思わせるような大型のトレーラーだった。
トレーラーには何か大掛かりなものを乗せるようなスペースがあり、
それだけでもこの車両が特別に作られたものであることが窺えた。
そしてどうやら長期に渡る運用、任務を考慮されてか、居住空間もある程度確保されていた。
だけど何よりLを喜ばせたのは、トレーラーに設置された機械設備だった。
「思ったより良い物を拾えましたね」
「何かに役立ちそうか?」
「ええ、この設備を使えば、地図に記載されてある他の施設と通信が取れるようになっているみたいです。
それにここにある解析装置は首輪の解析にも役立ってくれそうです」
「そうか」
届けられる朗報にザフィーラの固い顔も緩む。
「ええ、それとです」
「なんだ?」
「このコンピューターのOSは私のいた地球のもとのは違いますし、またミッドチルダのものでもありません。
しかし、使われている言語は私がいた地球のもの。つまりそれは……」
「……平行世界か」
「ええ、どうやら間違いないようですね」
「ふむ……それはいいとして、これからどうする?」
「予定通りこのまま南下していこうと思います」
「しかし、多くの参加者は中央に集まるのではないか?
確かに危険かもしれないが、このままずっとその可能性を危惧して、問題を捨て置いておくというわけにもいくまい」
「ええ、確かにその通りです。私もここに来るまで、そのことを考えていましたが、
その問題に関しても無事に解消されました」
「ほう」
「ザフィーラさんの仰る通り、多くの人が中央に集まるでしょう。
知り合いを求めて、情報を求めて……。ですから、私たちが行く必要はないのです」
「……通信装置か」
「理解が早くて助かります。他の人が情報を集めに行っているところに私たちがわざわざ出向くのは単なる時間の無駄です」
「しかし無事に連絡が取れたとしても、相手が情報をくれるとは限らないぞ」
「その点に関しては大丈夫だと思います。私たちがこれから集める情報は首輪です。
勿論、それと並行して進めるべきことは、たくさんありますが、差しあたってはそれです。
誰もこんなもを付けられて喜ぶ人なんていませんからね。それが自分の命に関わっているというのなら尚更です。
その首輪に関する情報を持っているなら、是非聞きたいというのが人情でしょう」
「成るほど、取引するということか」
「ええ」
「悪くない考えだ……」
賛意を示す言葉とは裏腹に、ザフィーラの顔は晴れない。
それを眺めながら、Lは口を開く。
「……八神さんのことですか?」
「ああ」
Lに言い当てられた懸念に素直に頷く。多くの人間が中央に集まっているというのなら
その中にザフィーラの主である八神はやてがいてもおかしくはない。
そしてもし彼女がそこにいるのなら、直ぐにでも向かって合流を図りたいと思うのは、
彼女の守護騎士であるのならば、当然のことだろう。
ザフィーラは早速その意をLに伝え、自分一人でもそこへ向かおうと思った。
しかし彼の口が開きかけたところで、それは先に発せられたLの言葉によって遮られることになった。
「私のいた世界とザフィーラさんの世界の八神さんでは、同一人物とは言えないし、違っている部分があるかもしれません。
ですが、私の知っている八神さんは、自分の意志を貫く強さと先を見渡すことが出来る聡明さを合わせ持っていました。
そんな八神さんですから、危険を回避出来るだけの判断力と行動力、そして冷静さを有しているはずです。
恐らくですが、彼女はどこか安全な場所に隠れて仲間との連絡できる手段を模索していることでしょう。危険はないはずです。
ザフィーラさんの知る八神さんはどうでうすか?状況に混乱してすぐに死ぬようなマヌケなのですか?」
Lの嘲りとも言える言葉が言い終わるや否や、鍛えられたザフィーラの手は轟然とLの襟を掴んだ。
そして息苦しさに喘ぐLを無視して、殺さんばかりの勢いでLを睨みつけた。
「主への侮辱は許さん! そして我が主はそのような輩ではない!
主は誰よりも心優しき人物だ。それに主は機動六課という部隊を指揮し、次元世界を揺るがすほどの大事件を解決に導いた。
そんな主だ。我等守護騎士のためにも、友人や部下たちのためにも無茶をすることはあっても、決して軽率な行動は取らない!」
「……っ! でしたら、信用すべきです、あなたの主を。そして、今は私たちが出来ることに全力で力を注ぐべきです。
あなたなら分かるでしょう?この殺し合いは、ただ側にいてその人を守ってあげればいいという話ではありません。
それだけではこれに終わりはないですし、本当の意味で守るということも出来ません。
仲間と自分を信じ、それぞれ役割をこなす。それが皆を救い、このゲームを攻略するための要なのです」
Lはザフィーラの腕を解きながら、何とか説得を試みる。
ザフィーラの視線は決して緩まることはなかったが、
Lも譲れるものがないのか、敢然とそれを受けて、意志ある瞳を返した。
そしてそのまま睨み合い、沈黙の中、お互いの出方を窺う。
が、幾らかの時間が経過した頃、ザフィーラの手と肩から力が抜けていくのがLの目に確認できた。
ザフィーラの表情に変化は見られなかったが、反論はないし、どうやら納得はしてくれたらしい。
その事を確認すると、Lはザフィーラに気づかれぬようにゆっくりと安堵の息を吐いた。
「……それで具体的にはどこへ行くんだ?」
心の整理を付けたのか、話の筋を戻すザフィーラ。
「私が気になっているところは今のところ二つあります」
「二つ?」
「駅と船です」
Lの言葉を受けて、しばらく地図を眺めていたザフィーラだったが
やがて得心したように呟いた。
「…………成るほど、そういうことか」
「ええ、その通りです。電車、船。地図を見る限り、それを使って行くところなど存在しない。
それなのに何故わざわざそんなものが置いてあるのか」
「確かに疑問だな」
「ええ、必要もないものを作る馬鹿はいません。それが船や駅といった大掛かりなものであるならば尚更です。
置かざるを得なかった……という結論に持っていくのは現段階では暴論でしかありませんが、
もしかしたら、私たちがいるこの空間に関するヒントが隠されているかもしれません」
「それが分かれば、ここからの……」
その先の言葉は伏せるザフィーラ。
しかし、意味は伝わったのか、Lはしかと首を縦に振った。
「分かった。しかし、これらに関することを調べ終わるまで、通信は全く使わないのか?
敵ではなく仲間との連絡が取れるかもしれないのだぞ?」
「いえ、途中にある施設には通信を呼びかけてみます。また首輪を探すということも疎かにするつもりはありません。
このまま南下は続けますが、これからの状況によっては行動、選択を変えることがあるかもしれません。
勿論、八神さんと連絡がつけば、彼女との合流を最優先に動きます。
要は臨機応変に、というわけですね。尤も向かうべき道は一つですが」
「なるほど、L、大体分かった。それなら時間を無駄にするわけにもいかん。早速行こう」
「ええ、行きましょう」
ザフィーラの呼びかけに、決意を込めた言葉を返すL。
しかし、その言葉とは裏腹に二人は動こうとはしなかった。
そのまま黙って訝しげに見詰め合う二人。
どれほどの時間が経過したか、やがてザフィーラは気がついたように口を開いた。
「俺は車の運転など出来ないぞ……」
ザフィーラの顔を黙って見つめるL。
しかし彼の台詞に今まで以上に目を開かせるLがそこにはいた。
【1日目 黎明】
【現在地 C−3 黒の騎士団専用車両車庫内】
【L@L change the world after story】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、首輪探知機、ランダム支給品0〜2個(確認済み、少なくとも武器には使えない)
【思考】
基本 プレシアの野望を阻止し、ゲームから帰還する。
ゲームに乗った相手は、説得が不可能ならば容赦しない。
1.通信を行いながら南下し、船を調べる。その後は駅を調べにいく
2.誰かと連絡がついたら、その人と情報交換、味方であるなら合流
3.首輪を入手したら、トレーラーの設備を使って解析
【備考】
※第三話からの参戦です
※参加者の中には、平行世界から呼び出された者がいる事に気付きました
※盗聴の可能性に気付きました。
また、常時ではないにしろ、監視されている可能性もあると考えています
※クアットロは確実にゲームに乗っていると判断しています
※ザフィーラ以外の守護騎士、チンク、ディエチ、ルーテシア、ゼストは、ゲームに乗っている可能性があると判断しています
※黒の騎士団専用車両にあったのは、特派ヘッドトレーラー@コードギアス 反目のスバル でした
※車の運転が出来るかどうかというのは、次の書き手さんに任せます
【ザフィーラ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状況】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3個
【思考】
基本:プレシアの野望を阻止し、ゲームから帰還する。
ゲームに乗った相手は、説得が不可能ならば容赦しない
1.Lと共に行動を共にする
2.機動六課の面々並びにヴィヴィオ、ユーノとの合流。
特にはやてとヴォルケンリッター、フェイトは最優先とする
3.首輪の入手
【備考】
※本編終了後からの参戦です
※参加者の中には、平行世界から呼び出された者がいる事に気付きました
※盗聴の可能性に気付きました。
また、常時ではないにしろ、監視されている可能性もあると考えています
※クアットロは確実にゲームに乗っていると判断しています
※自分以外の守護騎士、チンク、ディエチ、ルーテシア、ゼストは、ゲームに乗っている可能性があると判断しています
【特派ヘッドトレーラー@コードギアス 反目のスバル】
特別派遣嚮導技術部の移動基地。ランスロット専用の大型トレーラー。
ランスロットの稼動準備だけでなく各方面よりのデータの収集と総合分析が出来る。
また長期の生活を出来るだけの設備がある模様。
以上です。投下終了しました。
GJ!
トレーラーか……これはチーム結成フラグか?
アニロワ2ndの消防車的扱いになったりしてなw
修正箇所発見
× 尤も向かうべき道は一つですが
○ 尤も辿り着くべき所は一つですが
× Lと共に行動を共にする
○ Lと行動を共にする
雑な出来ですいません
GJ!
なんか良い感じのチームだw
数少ない考察チームとして頑張ってくれ!
アレクサンド・アンデルセン、ヴァッシュ・ザ・スタンピード投下します
「なんなんだ、コレは……!」
真っ赤のコート、では無く薄緑色のエプロンを身に纏った男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードが、物音一つしない静寂なる市街地にて小さく呟きを吐いた。
その表情は苦汁の色に染まり、悔しげに唇を噛み締めている。
その心に渦巻くは、悲しみと憤り。
――目の前で一人の少女が殺された。
アリサという名の、まるで自分の知る同名の少女を、そのまま成長させたような少女。
自分は声を上げる事も出来ずに、そのアリサが殺された瞬間を見ていた。
悔しい。
あの時、何もする事が出来なかった自分が、許せない。
(すまない……本当に、すまない)
ふとすれば、零れそうになる涙を必死に押し止め、ヴァッシュは前を向く。
――これ以上誰も殺させない。
それが、死んでしまった『アリサ』へのせめてもの償い。
狂気の殺し合いの中でも、折れる事の無い信念を掲げ、人間台風は突き進む。
目の前で人が殺された事に気を取られ、男は気付いていない。
――『アリサ』が殺されたあの時、高町なのはが、管理局の仲間達が、あの場に居た事を。
――そして、もう一人の『高町なのは』が居た事を。
――自分の宿敵が居た事を。
何も知ずに、ヴァッシュはあの場にいた全ての人を救う為に歩き始める。
□
男は歩き続けていた。
端から見たら殺し合いに乗っているとしか見えないほど凶悪な形相で、アンデルセンはただひたすらに売女が飛んでいった方向に足を動かし続けていた。
「気にくわねぇな……」
もう何度呟いたか分からない言葉が、無意識の内に口から出る。
男は苛立っていた。
訳の分からないこの状況に。
扱い難い武器に。
自分の一撃を冷凍魚で受け止め、売女を抱え逃げていった男に。
何もかもに苛ついていた。
そして、取り分け彼を苛立たせていること、それは――。
「何で誰も居やがらねぇ」
――無人の市街地。
歩けど、歩けど、誰とも遭遇しない。
糞ったれの売女も、狂った化け物も、プロテスタントの牝豚も、誰も居ない。
今にも暴れ出しそうになる身体を、必死に理性で繋ぎ止めているにも関わらず、だ。
眼前に敵を放置して何がイスカリオテだ!
貴様は神罰地上代行者なのだろう!
気兼ねするな!
異教徒共を殺し尽くせ!
殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!
本能が、圧倒的な力で理性の扉を叩く。
だが、ここで本能の赴くままに行動したらあの腐れ売女の言いなりになったも同然。
理性に根付くプライドがそれを許さない。
結果、本能と理性に挟まれ、男の苛立ちは増大していく。
「……殺す……殺してやるぞ!この俺が、アレクサンド・アンデルセンが!直々に殺してやる!プレシア・テスタロッサ!」
この怒り、苛立ちの矛先を主催者に向ける事により、体の中を渦巻く憤怒を抑えようと努める。
そうしなければ、例え人と出会ったとしてもその場で殺してしまう。
「全ては神の赴くがままに……Amen」
アンデルセンは歩き続ける。
膨れ上がる殺意を押し止め、苛立ちに握られた手から血を滴り落としながらも、
この殺し合いから脱出する為に、ただひたすらに歩き続ける。
数十分ほど歩いただろうか。
彼の目にある一件の建物が映った。
闇の中に浮かぶピンク色の十一文字のアルファベットが、その店の名を示す。
「悪魔は泣かない……はっ、下らん」
そのネオンを鼻で笑い、男は遠慮など欠片も見せずに店内へと続く扉に手をかける。
もしかしたら脱出に使える物が有るかもしれない。
僅かな望みを胸に男はその店に足を踏み入れた。
「ストップ、君は殺し合いに乗っているのかい?」
――だが、待ち構えていた物は、脱出への道を切り開く道具では無く銀色と漆黒の双銃。
その双銃の持ち主は真紅のコートを纏っている。
その姿は、あの宿敵とも言える吸血鬼に被って見えた。
反射的に殴り掛かりそうになる体を、理性を総動員させ抑え込む。
俯き、視界から男の姿を外し大きく深呼吸。
選択肢は二つ。
この男と協力するか。
それとも本能に従い塵に帰すか。
先の発言からするに、この男が殺し合いに乗っているは考え難いが……さて、どうするか。
数秒の沈黙。
アンデルセンは顔を上げる。
彼が選択した答えは――
□
――遡ること十数分前。
人間台風ことヴァッシュ・ザ・スタンピードは、『Devil May Cry』内にある、椅子に腰掛けていた。
恐らく支給品の確認でも行っていたのであろう。
目の前の机には食料やら水やらの基本支給品の数々、そして二丁の拳銃が転がっている。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードは最強のガンマンとしても名を知られている。
そんな男が銃を支給されたのだ、少しは喜んでも良さそうな物だが、男の顔には喜びとは正反対の、暗い色が浮かんでいた。
「何で……」
ヴァッシュの手に握られている一枚の紙――参加者名簿。
その紙にはヴァッシュを愕然とさせるには充分な人物達が、記載されていた。
――高町なのは
――フェイト・T・ハラオウン
――ユーノ・スクライア
――クロノ・ハラオウン
――ミリオンズ・ナイブズ
自分に平穏な世界を与えてくれた少女の名前。
管理局の仲間達の名前。
そして、自分の兄弟にして全ての人間を憎む男の名前。
――止めなくては。
ナイブズは絶対にゲームに乗る。
喜々として他の参加者を殺して回るだろう。
絶対に許せない。
「止めてやる、絶対に」
そう言葉にするヴァッシュの姿は、先程とは変わっていた。
薄緑色のエプロンの代わりに身に付けられている真紅のコート――机上の双銃と
同じ持ち主のコート。
それは、自分が使っていたコートと同じ『決意』の色に染められている。
ヴァッシュは、二丁の拳銃を背中のホルスターに差し込み、支給品をバックへと詰め直す。
「誰も殺させないぞ、ナイブズ……!」
そう言い立ち上がるヴァッシュ。
扉へと近付こうとし――――寸前、一人の男が入って来た。
そして、今現在。
ヴァッシュは、二丁の拳銃を目の前の男へと突きつけている。
何故か、男は自分の問いに答えず、俯いたまま動かない。
「……あのー、出来れば答えが欲しいんだけど……」
その言葉をヴァッシュが口にしたと同時に、男が顔を上げた。
「……私はこの殺し合いに乗っていません」
男は柔和な笑みを携え、ヴァッシュへと語り掛けた。
その答えにヴァッシュはホッと胸を撫で下ろし、銃をホルスターへと戻す。
「いやーすみませんね、いきなり銃なんか向けちゃって。僕の名前はヴァッシュ・ザ・スタンピード、よろしく」
「いえいえ、此方こそ返事が遅れてしまいまして……。私はアレクサンド・アンデルセンと申します」
ヴァッシュの差し出す手を握り、アンデルセンが人の良さそうな笑みを浮かべる。
その笑みを見て、ヴァッシュの心の中に喜びが芽生えた。
こんなゲームの中でも殺し合いに乗らず、協力を求める人がいる。
そうさ、みんなで協力すればこんなゲーム脱出できるんだ。
こんな絶望の中にでも生まれる希望。
ヴァッシュの胸にはただただ、喜びが満ちていた。
□
「……私はこの殺し合いに乗っていません」
殺意を押し殺しアンデルセンは顔を上げた。
その心に渦巻くどす黒い殺意とは裏腹に、顔には柔らかな笑みが浮かんでいる。
これが彼の選択した道――『他人と協力し、ゲームから脱出する』。
確かに殺意は沸く。
だが、ここでコイツを殺せば自分で自分を止める事が出来なくなる。
確信できる。
殺意に身を任せ、化け物を、異教徒共を、売女を、全てを殺し尽くすだろう。
それではあの売女、プレシア・テスタッロサの思うがままだ。
ならばどうする、どうすればこの殺意を収められる。
考え抜いた末アンデルセンは行き着いた。
――イスカリオテの自分としてでは無く、孤児院を営む『優しい神父』としての
自分として男に接しよう。
そうすれば、多少なりとも殺意は紛れるかもしれない。
それは気休め程度のアイディアだったが、思いの外、効果を挙げていた。
「いやーすみませんね、いきなり銃なんか向けちゃって。僕の名前はヴァッシュ・ザ・スタンピード、よろしく」
「いえいえ、此方こそ返事が遅れてしまいまして……。私はアレクサンド・アンデルセンと申します」
朗らかな笑みで差し出された手を握る。
大丈夫だ。
殺意は抑え込められている。
「それではヴァッシュさん、軽く情報交換でもしませんか?今の私達には圧倒的に情報が足りなすぎる」
「うん、そうだね。んじゃ、まずは僕から――」
それからヴァッシュは語った。
元の世界で、自分が管理局という組織に属している事。
この殺し合いに自分の大切な仲間が参加している事。
ナイブズという超危険な男がこの殺し合いに参加している事。
自分の知る全てを話した。
ヴァッシュの話をアンデルセンは黙って聞き、全てを語り終えたヴァッシュにポツリと一言告げた。
「管理局……あなたが……?」
「まぁ、見習いみたいなもんだけどね」
ヴァッシュの答えに、アンデルセンは顎を抑え何かを考え込む。
その冷静な態度に首を傾げるヴァッシュ。
自分が管理局――異世界の話を聞いた時は心底驚いたものだ。
だが、目の前の男は驚愕を微塵も見せない。
「あれ?もしかして、管理局の事知ってた?」
「ええ、仕事上……ちょっとした関係がありまして」
「へぇ、そうなのか……って、管理局の事知ってるの!?
どんな仕事してんのさ!?」
物凄い勢いでアンデルセンに詰め寄るヴァッシュ。
その顔には驚愕が映し出されている。
「いえ、大した事はしてませんよ。ある組織で化け物の排除をしているだけです」
そんなヴァッシュとは対照的に、アンデルセンが淡々と語る。
「はぁ、化け物の排除…………は?化け物の排除?」
「はい、化け物の排除です」
――それからアンデルセンは、自身の事を語り始める。
「イスカリオテ……吸血鬼……英国国教騎士団・HELLSING……そして、アーカード……ですか……」
「アーカード、そしてHELLSING局長・ヘルシング卿はこの殺し合いに参加していますね」
「でも、アーカードって吸血鬼は、HELLSINGって組織の兵隊なんだろ?
殺し合いに乗るっていうのは……」
「いや、奴は戦闘を心の底から好んでいる、言うなれば戦闘狂です。ヘルシング卿からの制止が無い限り、まず間違い無く殺し合いに乗るでしょう。
そして、その戦闘力は絶大。
素手で人を紙切れの様に切り裂き、人知を越えた威力の銃を雨霰と放ち、吸血鬼すら圧倒する吸血鬼。
それがアーカードです」
「マジすか……」
饒舌に、そして何処か愉しげに語るアンデルセン。
その信じられない様な話に茫然とするヴァッシュ。
沈黙が二人を包む。
「……止めよう」
沈黙が場を支配してからから、何秒経ったのか。ヴァッシュがポツリと呟いた。
「アーカードを、いや、ナイブズも、殺し合いに乗ってる全ての人を、止めるんだ。
そうしなくちゃ、本当にこのゲームは誰かが優勝して終了する。
そんなのは…………駄目だ!」
それは夢物語とさえ言える程の、甘い甘い理想。
だが男は、一片の迷いも見せずにそれを語る。
――誰も殺さない、殺させない。
百年以上、貫いてきた信念は、この場に於いても変わる事なくヴァッシュを支えていた。
だが――
「…………どうやってだ?」
「え?」
――その理想に、漆黒の神父が立ちふさがる。
そこには凄まじい形相でヴァッシュを睨むアンデルセンの姿が有った。
「貴様がどう足掻こうと、この首輪を外さない限り殺し合いは止まらないぞ。
首輪は外せるのか?
その確率は?
千に一つか?万に一つか?億か?兆か?それとも京か?」
神父の言葉は、このゲームの本質を射抜いていた。
もしヴァッシュが殺し合いに乗っている全ての人間を止めたとしても、首輪がある限りゲームは終わらない。
それどころか、殺し合いに乗る人間が居なくなった時点で首輪を爆破される可能性だって考えられる。
「貴様はどうする気だ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード」
神父は演技をする事すら忘れ、甘過ぎる理想を掲げる男へと問いた。
□
正直に言えば、目の前の男を殺害する事すら考えた。
脱出の方法を探すと言うのならまだしも、男が語ったのは糞甘い、偽善の塊。
殺し合いを止める?
この狂ったゲームの中で、あのアーカードを、異教徒共を、自身が語った化け物を止めるだと?
――嘗めるのもいい加減にしろ。
「……なら、どうやってこの殺し合いを終了させる気だ?」
「え?」
気付いた時には、声を上げていた。
「貴様がどう足掻こうと、この首輪を外さない限り殺し合いは止まらないぞ。
首輪は外せるのか?
その確率は?
千に一つか?万に一つか?億か?兆か?それとも京か?」
優しい神父を演ずる事など忘却の彼方、憤りを吐露するかの様に男へと問い掛ける。
男は驚いた様な、それでいて苦悩の表情を見せ、俯く。
――アンデルセンは決めていた。
返答によっては目の前の偽善者を殺す事を。
人間の範疇を越えた握力が鉄槌を締め付ける。
長い長い沈黙。
そして――男は顔を上げた。
「それが……首輪を外せる確率が、たとえ那由他の彼方でも、僕はその可能性に賭けたい」
男の返答がアンデルセンの鼓膜を叩いた、その瞬間アンデルセンは鉄槌を振り抜いていた。
一切の躊躇いも無いその一撃は、男の顔面を潰れたトマトへと変貌させるのには充分。
だが、男の手に何時の間にか握られていた双銃がそれを防いだ。
「甘い!甘い!甘過ぎる!
この戦乱を犠牲無しで終わらせられると思っているのか!?
断言しよう!貴様のその思想が被害を大きくする、必ずだ!」
叫びと共に放たれたアンデルセンの蹴撃が、ヴァッシュを吹き飛ばし、部屋の片隅に設置されているビリヤード台を粉砕した。
「俺はこの戦場を脱け出す。
その時、異教徒共が、化け物共が、何人死のうが何十人死のうが、知ったこっち
ゃねぇ。
脱出が不可能だというのなら、参加者を全滅させてでも法皇の元へと帰る。
貴様の糞甘い理想よりはよっぽど現実味のある答えだとは思わないか!」
ビリヤード台だった物に埋もれるヴァッシュへと、アンデルセンは歩み寄り、再度鉄槌を振り上げる。
「Amen」
呟きは祈りの言葉。
鉄槌が電灯に照らされ闇に妖しげに煌めく。
まるで時間が静止したかの様に両者とも動かない。
だが、それも一瞬。
鉄槌が風を切り、触れる物全てを粉砕する。
鈍く巨大な音が響き渡った。
「……何で当てないんだ?」
その時、何者かが声を上げた。
今、この場にあるのは狂信者と一つの死体だけ。
だが、その声は明らかに神父の声とは違う。
「……何故、避けない?」
投げ掛けられた質問を無視し、神父は声の主に問う。
その視線は振り下ろされた鉄槌の方に向けられている。
「いや、質問を質問で返されても……」
再び謎の声。
その声の発生源はヴァッシュ・ザ・スタンピードの死体――いや、ヴァッ
シュ・ザ・スタンピードは生きている。
その鉄槌はヴァッシュの顔面の僅か数センチ横に命中、ヴァッシュには当たっていない。
「黙れ、早く答えろ」
鉄槌をヴァッシュの喉元へと突き付け、神父が命ずる。
ため息と冷や汗を流し、俯いたままヴァッシュは語り始めた。
「……君が何と言おうと、俺は殺し合いを止める為に動く。
それが俺の生き方だから。それしか俺は生き方を知らないから。
でも、もし、僕の行動が絶対に間違ってると思うのなら――」
ヴァッシュはそこで言葉を切り、顔を上げる。
「――僕を殺してでも止めてくれ」
真っ直ぐにアンデルセンの瞳を見つめ、ヴァッシュは言葉を放った。
ヴァッシュの答えにアンデルセンは何もアクションを起こさない。
先程の様に怒りに身を任せ鉄槌を振るう事も、強烈な蹴りを放つ事もせずに、鉄槌を突き付けた姿勢のまま動かない。
「……アンデルセン?」
「……………クッ、ハハハハハハハハハハハハ!!
『殺してでも止めてくれ』だと!殺しを生業とするイスカリオテの前で、この俺
の前で!
その言葉を吐くか!」
狂った様に笑い声を上げながら、アンデルセンはヴァッシュの胸倉を掴み上げた。
吐息すらかかり兼ねない距離に、二人の顔が接近する。
「良いだろう、気に入った。お前と行動してやるよ」
先程と打って変わり呟くかの様に、だがその分冷徹さを増した口調でアンデルセンが語り、手を離す。
その口から出た言葉は、協力を意味する言葉。
ヴァッシュの眼が見開かれていく。
「本当かい、アンデルセン!協力してくれるのか!?」
「勘違いするなよ。
首輪の解除が不可能だと思ったら、真っ先に俺がお前を殺す。
そして、会場の奴らを皆殺しにしてでもゲームから脱け出す。分かったな」
「ああ、それでも良い!必ず会場から脱け出る方法を探してみせる!」
神父の殺意が籠もった言葉を意に介さず、歓喜の表情を見せるヴァッシュ。
「聖堂騎士」
「殺し屋」
「銃剣」
「首斬判事」
「天使の塵」
様々な異名、断罪集団の中でも一際異質な存在、神父・アンデルセン。
「人間台風」
「最強のガンマン」
「600億$$の男」
「時の外に居る者」
「人型プラント」
誰よりも人間を尊び、人の死を、争いを嫌う最強のトラブルメーカー、ヴァッシュ。
――二人の男が描く、歪曲の限りを尽くした同盟。
その同盟はこの殺し合いにどれだけ影響を与えるのか、それとも、何者にも影響を与える事無く消滅するのか――それは誰にも分からない。
「あ、そうだ。出発する前に一つ」
「なんだ」
「他の人と話す場合は、最初みたく丁寧に優しく、ね。……多分みんなビビって警戒しちゃうから」
「…………分かりました、これで良いですか、ヴァッシュさん?」
「う、うん、完璧だよ……(この人は多重人格か……?)」
――二人は歩き始めた。