アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ13
暗い。真っ暗などこか。
そのどこかにシャマルは立っている。たった独り、何をするでもなく。
気がついたらここにいた。何でここにいるのか分からない。
見渡しても見えるのはただ闇、闇、闇。手を伸ばしてみても、掴むのは何も無い空間だけ。
ずる ずる
不意に後ろから異質な音が聞こえる。
湿った、何かを引きずるような音。
「だ……誰?」
少し驚いた彼女は反射的に呼びかける。
彼女の声はまるで狭い浴場で大声を出したときのように不自然に響いた。
ずる ずる
不快な反響が消えても返事は戻ってこない。
湿った音はどんどん大きくなってくる。
音の元が少しづつシャマルのもとへ近づいてきている。
(敵……!?)
状況が読めない中、何とかまだまともそうな結論を強引に出して、彼女は身構える。
本当はそうじゃないと心のどこかでは知っているのに、それを理性で強引にねじ伏せて。
足が、震えているのを感じた。
ずる ずる
……んぇぃ…… ………せぃ……
「……何?」
湿った音がする方から、小さな、消えてしまいそうな声が聞こえる。
ささやくようなその声は、どうしてか分からないが、彼女を呼んでいるように思えた。
僅かすぎるその声をしっかりと聞き取るため、シャマルは耳をそばだてる。
ずる ずる
……せんぇぃ…… ………シャマルせんせぃ……
やはりそうだった。
声は、確かに彼女の名前を呼んでいる。シャマルせんせい、シャマルせんせいと。
よく聞くと、その声は一人だけが出してるものではない。
男の子と女の子、二人の声がまるでハモるみたいに重なって聞こえていたのだ。
「エリオ?キャロ?……そこにいるのはエリオとキャロなの?」
彼女はまた、虚空に向かって名前を呼ぶ。
呼びかけていたその声に聞き覚えがあったから。
湿った音は止まり、目の前の暗闇に、薄ぼんやりと男の子の影が見えた。
「エリオ!一体どうしたのこんな……」
姿が見えたことに安心し、シャマルはエリオに一歩近づく。
そのとき、彼女の足裏が何か柔らかいものを踏みつけた。
反射的にそこにあるモノに目を向けた彼女は
びち びち
踏んだものの正体を見て絶句した。
それは、子供の腕だった。
肩の付け根から無理矢理引き剥がされたのだろう。
断面から黒い血管や白い骨がだらしなく垂れ下がり、赤と透明の液をビュルビュルと吐き出している。
白く、綺麗だったのであろう肌にはカビ色の斑点が浮かび、その肉からはかすかに腐った臭いが漂ってくる。
なのに、その腕はなお、靴の下でもぞもぞと指を動かしていた。
まるで、彼女を撫でてみたいとでも言うように。
「ひっ……」
あまりのことにシャマルは後ずさり、思わずエリオの顔を見た。
しかし、本来あるべきところに、エリオの顔はなかった。
本来、エリオの顔があるはずの場所から少し下にキャロの顔があった。
頭の無いエリオが頭だけのキャロを抱えて立っていた。
「っっっっっっっっーーーーーーー!!!」
血の気が引く、とはまさにこのことに違いない。
悲鳴をあげようにも喉が痙攣して声にならない。
エリオの首の切断面は、まるでノコギリか何かで切り取ったかのようにザラザラだった。
心臓がドクンドクンと脈打つたび、肉の中の血管がビクンビクンと反応して僅かな血潮を吹き出す。
その血が滲んで、垂れていく先の体もまた無事ではない。
右腕がなく、全身に酷い火傷を負っていた。
火傷は特に右半身が酷く、腕の付け根の辺りなどは、よく焼いたビーフステーキのような色をしている。
脛、もも、臀部、脇腹などは、ところどころが黒く焦げ、そうでないところはケロイド状に腫れて、膿んでいた。
いつも着ている黒いインナーは皮膚に食い込んで癒着している。
おそらく、剥がせばベタベタとした皮膚組織も一緒に剥がれ、下の血肉を露わにするだろう。
左腕に抱えられているキャロの頭も酷いものだった。
おそらく、どこかに強く擦られたのだろう右の額は、髪の毛ごと皮が剥がれてずるりと抜け落ち、黄色い頭蓋を晒している。
左の眼球は醜く潰れ、その透明な中身が涙のように眼窩から零れていた。
右の顎から頬にかけての皮は捲れ上がっており、皮下の繊維と歯の骨とがだぶついた皮膚の下に見え隠れする。
そんな状況にあってなお、残った右目はシャマルの方を虚ろに睨み、擦り切れた唇はシャマルの名を囁く。
キャロが口を動かすたびに、首の付け根から伸びた脊椎が、生きた魚のようにびちびち跳ねた。
「シャマル先生ぃー」
「せんせーい」
シャマルはそのあまりの光景に吐き気を覚え、思わず膝をつく。
地面に触れた手が、何かべたべたするものに触れた。
「!!?」
彼女が正体を確かめようと手を見ると、そこには赤黒い血糊がべったりと着いていた。
見渡してみれば、そこは一面の血と肉のプールだった。
人間のパーツだったものらしき肉塊がそこかしこに散乱し、赤い飛沫を黒い空間に振りまいている。
おぞましいことに、肉片達は既に原型を留めないほどバラバラにされているにもかかわらず
そのどれもが独立した生き物のように蠢き、這い、こちらへと向かってきていた。
ずるずる、ずるずると湿った音を立てながら。まるでシャマルを求めるように。
肉に張り付いたわずかな布だけが、その正体を示している。
それは、キャロの身体だった。
せりあがってきたものを我慢することができず、シャマルはその場に嘔吐した。
「シャマル先生ぃー」
「せんせーい」
「せんせい、わたしたちの幸運とったんですか?」
「え……?」
キャロがいつも通りのかわいらしい声で問いかけてくる。
シャマルには意味が理解できない。
悪夢じみた空気に呑まれて、まともに頭が回らない。
「とったんですね?」
答えに窮しているうちに、エリオが確認してくる。
エリオとキャロの幸運を、とった。その言葉の意味を噛み締める。
(エリオとキャロは死んでしまった……こんなひどい姿になって、惨たらしく殺されてしまった。
それに比べて私は……?まだ傷ひとつ負わずに、酷い目にも遭わず生きている私は……)
とったかもしれない。
その考えが頭をよぎった瞬間、視界が赤く染まった。
「かえしてー」
「かえしてくださいー」
エリオとキャロと、肉片が飛び掛ってきていた。
エリオは残った左手で白衣を強く引っ張り、キャロの首は蹲った背中の上でぴょンぴょン跳ねた。
キャロの身体だった肉片は、服の隙間から入り込み、そのおぞましい感触はシャマルの肢体を犯す。
「かえしてー」
「かえしてー」
「ぃぃいやぁっ!!」
虚ろに呟く子供達を半狂乱で振りほどき、シャマルは逃げ出した。
彼らが来たのとは反対の方向へ。
よろめきながら体勢を立て直し、さらに速く走り出そうとしたそのとき
「あっ……」
何かにぶつかった。
顔を上げると、そこにはまた見知った顔。
鎖骨から下の無いスバルがシャマルを見下ろしていた。
スバルはやっぱり虚ろな目をこちらに向けると、冷たい声で言った。
「かえして」
と。
「いやああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーー!!!!」
絶叫が闇を切り裂く。
けれど悪夢は消えてくれない。
「かえしてー」
「かえしてー」
「かえしてー」
「あぁ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ……」
シャマルはただ蹲る。
耳を塞ぎ、目を塞いで蹲る。
目の前の恐怖と、罪悪感の前では、彼女にはそれしかできない。
「せんせい、わたし銃で胸を撃たれて死んじゃったんです。
そのあと、死んだ私のところに怖いお兄さんがやってきてわたしのことを爆弾でバラバラに……」
「せんせい、僕は身体をいきなり燃やされて、死ぬほど痛い思いをしました。
炎が僕の身体をこんがり焼いて、いつまで経っても痛みが収まらなくて。
それで、そのあと病院に行ってやっと助かったと思ったら胸に大きな剣を捻じ込まれて……」
「先生、私が死んでどうなったかは知ってますよね?
先生、見ましたもんね……あの人と一緒に」
スバルが抑揚の無い声でそう言い放ったとき、何故か心臓が一際大きく脈打った。
嫌な、予感がした。
「ねぇ、先生?私達が苦しい思いをしてる間、先生は一体、何をしていたの?」
心臓を掴まれた思いがする。
急に息が苦しくなる。
「男か」
「ちがっ……!」
弁解をしようと、目を開けたシャマルの視界に別の見知った顔が飛び込んでくる。
傷だらけの三人はいつの間にか消え去り、そこには悠久の昔から生をともにしてきた仲間達が立っていた。
「シグナム、ヴィータ、ザフィーラ……」
「見損なったぞシャマル。敵の男にうつつを抜かしている間におめおめと仲間を死なすとはな……」
蒼い毛を持つ狼、ザフィーラが吐き捨てるように言う。
「違うっ!違うわっ!私はっ、私はみんなを助けようと……だから、あの男を利用して……」
「黙れ痴れ者がっ!」
赤みがかった髪を後ろで束ねた凛とした女性、シグナムに一喝され、シャマルは二の句を告げなくなる。
彼女を睨みつけるシグナムの目には、燃えるような怒りが宿っていた。
「……利用だと?戯言もいいかげんにするのだな。
敵の傷を癒し、甲斐甲斐しく手料理まで振る舞い、服のはだけた身体を見ては頬を赤らめる……
あれが利用などと……本気で言っているのか貴様はッ!?」
仲間の、普段では考えられない激しい言葉に晒されて、彼女は動揺することしかできない。
ただ、顔を青くし、まるで鉢に閉じ込められた金魚のように口をぱくぱくさせる。
そんなシャマルを見て、黒い帽子を被った少女、ヴィータは溜め息をつく。
「……それでよぅシャマル、てめーはその男とやらを利用して、誰か助けられたのかよ?」
さっき見た三人の姿がシャマルの頭にフラッシュバックする。
爆弾で肉片と貸したキャロ、焼かれた末串刺しにされたエリオ、頭と手首と、足首だけを残して消えてしまったスバル……
「え?どうなんだよシャマル?
お前があのヴィラルとかいう男と仲良くすることで、キャロを危機から救えたのか?
あいつと人間狩りなんて馬鹿なことをやってれば、エリオは半身を焼かれずに済むと思ったのか?
こんなクソッタレな殺し合いを始めた奴の部下に取り入って、それでスバルは元の世界に帰れんのかよ?
ええっ!?どうした……答えろよ?」
「わたし……わたし……は」
シャマルには返す言葉が見つからなかった。
彼女はこの右も左も分からない殺し合いの空間の中で、精一杯やってきたつもりだった。
みんなを助けられるように、危険のある他の人たちを排除したり、慣れない交渉ごとに臨んだり……
しかし、結果は知ってのとおり。
キャロも、エリオも、スバルも死んでしまった。
シャマルの打った手が果たして何番目に良い手だったのか、それは分からない。
けれど、それはこんな悲惨な結果が出た後では、論じる意味のないことだ。
「わたし……は、はやて、ちゃんを」
ぐちゃぐちゃに混乱した頭から、やっと出た一言がそれだった。
そうだ。いくら酷い結果になっていたとしても、ここで立ち止まるわけにはいかない。
シャマルには八神はやてを守るという重要な使命があるのだから。
そう、全てはそれを成し遂げるためだ。
敵と手を組んだのも、素性を知らない人を殺したのも。
「だから、わたしは――」
「……ああ、そうだな」
胸のうちを吐き出そうとしたシャマルの言葉は、ザフィーラの横槍によって遮られる。
「お前は、主、はやてを守るべきだった」
「何者にも換えられぬ我らが主を、どんな手段を使っても守り通すべきだった」
「てめーもこのふざけた殺し合いが始まった時に、そう誓ったはずだった」
「この残酷な世界には盾の守護獣も」
「烈火の将も」
「鉄槌の騎士もいねーんだから」
「お前が」
「湖の騎士シャマルが」
「やるしかなかった」
彼女は困惑する。
仲間の言ってることが彼女には分からない。
「だった」?それはどういうことだ?
「螺旋王の手下と手を組んでも」
「敵の男とよしみを結ぼうとも」
「最後にははやてを守ってくれる。あたしたちはそう信じていた」
「キャロが死に」
「エリオが息絶え」
「スバルがこの世から消えても」
「最後には我が主の命を救ってくれると、我々は確信していた」
「だが」
「お前は」
「シャマル……」
体全体が震えていた。
シャマルはだんだんと分かりかけていた。
いや、本当は最初から分かっていたのかもしれない。
何故、こんな悪夢を見るのか。
何故、自分は今こんな思いをしているのか。
そうだ、それは――
「八神はやて」
螺旋王の非情な声がその名前を呼ぶ。
「主、はやてを死なせた」
「何の手も打つことができず、ただ、死なせた」
「おめーしかいなかったのに、死なせた」
『 オ マ エ ハ ハ ヤ テ ヲ コ ロ シ タ ノ ダ 』
彼女は全てを思い出し、もう一度絶叫した。
◆
布団を跳ね除け、シャマルは目覚めた。
全身に粘ついた汗を感じる。体がべたついて気持ちが悪い。
今まで眠っていたとは思えないほどの疲労が肩にのしかかり、呼吸は、荒い。
(ここは……どこ?)
見渡せば、そこは和室。
萌黄色の畳が敷き詰められた六畳の部屋。
四方は白いふすまと押入れ、アルミサッシの引き戸で区切られている。
自分の寝ていた布団と部屋の角に置かれている二つのデイパックの他には何もない、ガランとした部屋だった。
まだ半ば夢見心地の頭で記憶の糸を手繰り寄せる。
中心部への移動、スバルの遺体の発見、謎の男の襲撃、赤マントの男に助けられて……
そこから先は覚えが無い。
自分の置かれている状況に少し困惑していると、突然、庭の方からドスッという音がして、何かが屋根から下りてきた。
驚いて目を向けると、そこには見慣れた顔がいた。
「気がついたか」
引き戸を開けて、ヴィラルが入ってくる。
ああ……足に土つけたままあがっちゃだめですよなどと、ずれた考えがぼんやりと浮かぶ。
彼女の言いたいことはそんなことではないというのに。
かける言葉の定まらぬまま、焦点の合わぬ目で見つめていると、ヴィラルは心配したのか、む、眉根を寄せる。
「大丈夫か?俺のことが分かるか?」
「ヴィラルさん……」
弱弱しくもそう呟き返したシャマルを見てとりあえず安心したのか、ヴィラルは大きく溜め息をつきこれまでの経緯を話し始めた。
「俺達を襲った忌々しいジジイのことは覚えているな?
あの後俺達は……あの場から撤退した。突然割り込んできたあの赤マントの言うとおりにな……
奴らから十分な距離をとったとき……螺旋王の三回目の放送が始まった。
逃げることも忘れ、聞き入っていたお前は放送の途中で、ある名前が呼ばれた途端、意識を失い、倒れた。
お前が寝ていたのはそのせいだ」
「放送……」
霞がかっていたシャマルの意識が静かに、しかし急速に覚醒する。
その名を呼ぶ螺旋王の声が彼女のなかで唐突に甦り、リフレインした。
「はやてちゃん……」
知らず知らず口から名前が漏れ、瞳からは涙が流れる。
ぽたりぽたりと垂れる雫は、白い布団に染みを刻んだ。
「……仲間の中でも、大切なヤツだったんだな、そいつは」
「…………」
沈黙が流れた。
まるで自分の大切な人が死んだときのように、重く、苦しい調子で発せられた問いに、答えは返らない。
しかし、ただ涙を流し続けるシャマルの姿が、何よりの答えだった。
何か言わなくちゃ、とシャマルは必死で頭を働かす。
しかし、何かを言おうとすればするほど、感情が胸に詰まって、言葉にならない。
言葉がないから返せないのではなく、言葉が多すぎて返せない。
それほどまでに、シャマルにとっての八神はやては大きな人物だった。
「…………」
「…………」
シャマルが持っている楽しい記憶のほとんどは、はやてのくれた記憶だった。
闇の書を守る騎士としてひたすらその主に仕え続けてきた半生。
それは言い換えれば血と戦いの半生であった。
知識を蒐集するためリンカーコアを集め、主の敵を屠り、闇の書に害を為すものたちを排除する。
敵を探し、殺すための指示を出し、また、自ら手を下す。
シャマルの人生の前半はそんな記憶ばかりだった。
楽しいとか嬉しいとか、辛いとか切ないとか、そんなことを考える暇も、余裕も、きっかけも与えられない。
機械のような灰色の人生。
そんな道を歩き続け、戦って、戦って、最後に擦り切れて灰になる。
本来ならシャマルは、他の守護騎士たちは皆一様にそんな人生を生きるはずだった。
しかし、現実はそうはならなかった。
何故なら、八神はやてが彼女の主になったから。
はやてはシャマルに、守護騎士たちに人間としての喜びを教えてくれた。
家族を持つ喜び、友を得る喜び、共に暮らし、笑いあう喜び
人の怪我を治して「ありがとう」を言われる喜び、お料理を作る喜び、ドジなミスをして人に笑われる喜び……
これらの喜びは全て、はやてがいなければ知るはずのなかったはずのものだ。
シャマルにとってはやては、主であり、母であり、妹であり、人間としての自分を生み出した救世主でもあった。
それら全てを同時に失ったとき、神ならぬ人に一体何が言えるというのだろう?
「……シャマル」
長い沈黙の末、やっとヴィラルが口を開く。
「……お前はここで隠れていろ」
少し唐突な言葉に、シャマルは一瞬だけ泣くのを忘れ、ヴィラルの方を見る。
「灯りを消してじっと動かずにいれば、まず見つからんはずだ。
その間に俺が全ての敵を叩き伏せ、この実験を終わらせてやる」
一人で?終わらせる?この殺し合いを?
彼は何を言っているのだろう。
先ほども、おさげの老人にこれでもかというほど実力の差を見せつけられたばかりではないか。
彼女は混乱する。
シャマルにはヴィラルの意図が掴めない。
視線から困惑が伝わったのだろうか。
彼はあらためてシャマルの方を向きなおすと、ひどく真面目な顔になり言った。
「……お前はこの戦いで仲間を失いすぎた。
キドウロッカの仲間達がお前にとってどれ程大切だったのか、よく分かった。
お前の心は最早傷だらけだ。そんな気持ちではこれ以上戦いを続けることはできん」
ヴィラルはシャマルの肩をつかむと、まるで幼子に言い聞かせるように穏やかに、しかし決然と語る。
「俺は生憎不器用でな。お前の心をどうこうする術などまるで持ち合わせていない。
だが、俺は戦士だ。戦うことに関しては人一倍の自負がある。
ここからは俺がお前の代わりに戦おう。
お前の仲間を殺した奴らを八つ裂きにし
残ったお前の仲間、ティアナ・ランスターをどんな手を使ってでもここへ連れてきてやる。
だから、シャマル、もう休め。お前はよく頑張った……」
(この人は――)
その優しい言葉を耳にした刹那、彼女には自分がとても醜い生き物のように思えた。
(馬鹿らしい。本当に馬鹿らしいわこんなこと……)
私は何のためにこの優しい男を騙したのだった?
仲間を、主はやてを救うための手駒にするためではなかったか?
もしそうならば、今も騙し続ける意味は何だ?
この真面目な獣人を誑かし、侍らせている私は一体何だ?
仲間を次々と死なせ、大事な主まで死なせてしまったというのに
騙した敵に慰められながらのうのうと生き延びている私は一体何なのだ?
(私は最悪の女だ……)
そう結論づけた途端、彼女の中で何かが切れた。
もう、全て終わってしまった。
この後、自分がどれだけ足掻こうが、何も変わることはない。
私は今ある最悪をなされるがままに受け入れるしかないのだ。
そんな絶望と虚無感が後から後から湧いてきて、シャマルの心を塗りつぶしていく。
「放送までには一度戻る。それまでここで大人しくしていろ」
「……はい、分かりました」
消え入りそうな返事を聞いて、ヴィラルは少し心配そうな顔をしたが、すぐに向き直ると引き戸を開けて出て行った。
シャマルは彼がいなくなった後もしばらくはぼんやりと外を見つめて泣いていたが
やがて、腕でごしごしと涙を拭き、よろよろ立ち上がった。
その様は、さながら甦った死人か、幽鬼のようであった。
「……もう、疲れちゃったわ」
うわごとのように呟くと、シャマルはのろのろと外へと向かった。
やつれ果てた彼女の体が夜の闇へと溶け込んでいく。
◆
「おいおいおいおいキヨマロぉ〜お前も案外聞き分けねぇ〜のな」
「いや、聞き分けとかそういう問題じゃないだろ!」
病院のロビーで、清麿はラッドと言い争っていた。
彼はあれからいくらも経たないうちに、プラン1の採用、即ちラッドと共に即時映画館へ向かうことを決めていた。
ジンの件をラッドに相談してみたところ、映画館にはレーダーがあることが判明したためだ。
ジンの位置を逐一把握することが可能ならば、合流の心配をすることもない。
しかし、今後の方針が決まったにもかかわらず彼らは一向に病院を出発しようとしない。
何故か。
「別にいーじゃーん、置いてったてよう!何も殺そうって言ってるわけじゃねえんだしさあ!
ま、別に俺としちゃ殺したっていいんだけどよ!
あんなガキちょびっと首を捻ってやりゃ、絞められたニワトリみてえにイチコロだろうしな。
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハーーーーーーッッッッ!!!」
「馬鹿野郎っ!縁起でもないこと言うんじゃねえ!」
「あ、もしかしてキヨマロ?お前アレか?ロリコンってやつなのか?」
「バッ、ちが、そんなわけないだろ!……ってか、別にオレの齢から考えればあの子が相手でもおかしくなくないか?」
「いやあっー!!やっぱそうかそうだったのかキヨマロォ!!ごめんなー、俺様気がきかねえからさあ!!」
「だから違うって言ってるだろォォォォォォーーーーー!!!!」
「でもよう、いくらお前がロリコンでもよ?残念ながら連れてくワケにはいかねーんだわ。
あのフラップターとかいう機械二人乗りなんだよ。つまり、あいつを乗せると重量オーバーなんだな、これが」
彼らが揉めている原因、それはラッドが殺した相羽シンヤの忘れ形見、小早川ゆたかの処遇だった。
ラッドがゆたかの同行を頑なに拒否している一方、清麿はゆたかの同行を強硬に主張。
主張は平行線のまま、お互い一歩も譲らず
結果、二人はロビーのソファに寝かせたゆたかを挟んで喧々諤々の議論をする羽目になっているのである。
「だからって置いていくわけにはいかないだろ!?
ここは戦場のド真ん中なんだぞ!?
そんなとこに、ただの女の子を放置するなんて、そんな危ない真似ができるか!!」
清麿は口から唾を飛ばしながら叫ぶ。
彼がここまで強くゆたか同行を主張するのには、口に出している以上のワケがある。
清麿は相羽シンヤの死に対して重い責任を感じていた。
確かに、シンヤは自分を危うく殺しかけた相手である。
しかし、だからといって死んで当然の人間だったかと言えば、そうではない。
だが、彼の仲間であるところの殺人鬼、ラッド・ルッソはシンヤの心を弄んだ挙句、無惨に殺してしまった。
この会場に呼ばれて以来、常にラッドの殺人を抑制することを頭に入れて動いてきた清麿にとってこの事実は重い。
たとえ相手が殺し合いに積極的な人間だったとはいえ、もう少し何とかする余地があったのではないか。
そんなことを考えずにはいられない。
だから、その思いが長じて、彼がゆたかに対して罪悪感を覚えてしまうのもまた無理からぬことと言えよう。
清麿は実際に目覚めたゆたかに対し、きちんと真正面から話をし、シンヤの死について告げることを望んでいた。
そのためには、是が非でもゆたかには同行してもらわねばならない。
「おい、俺ァがっかりだぜキヨマロォ?お前ここに来て、今まで何を見てきたんだぁ?アアァン!?
“ただの”女だぁ!?そんなことどーして言えるよ?
この殺し合いに参加してる奴らがどういう奴らか忘れたのかァ?
物騒なビームを出すバケモンに、尋常じゃねえ身体能力のムラサキジジイ!!まさか忘れたなんて言うんじゃねえだろうなあ?
ましてやコイツはあのブラコン野郎と一緒にいたんだぜぇ?
ちったあ、疑ってかかるのが人の道ってモンじゃーねぇ〜のぉ〜?
一緒に映画館に連れてって大暴れ!なんてことになったらどう責任とるんだよォ?
ま、俺は楽しいからそれでもいいけどな。ヒャーーハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
食い下がってくる清麿に対し、ラッドはあくまで飄々と、自分のペースで受け流す。
彼もまた、表に出している事情以外に、腹にイチモツ隠し持ってモノを言っていた。
実のところ、彼はゆたかが危険な能力を持っている可能性は低いと踏んでいた。
先ほどシンヤを出し抜いた際、ゆたかの身体に触ったが、特に鍛えている様子もなく、ごく普通だった。
ならば心配されるのはいわゆる特殊能力の類だが、これもまずないといってよいだろう。
何故なら、ラッドは映画館で明智たちが携帯電話の入力作業をしている間に詳細名簿をチェックし
ヤバそうな能力者の顔と名前をあらかじめ確認しておいたのだから。
ラッドは念のため、もう一度密かに頭の中の危険人物リストを総覧してみるが、そこに目の前の少女の顔はない。
つまり、ゆたかは特殊能力という面からみてもシロということだ。
では、何故そこまで分かっていながら、彼はゆたかの同行を拒否するのだろうか。
実のところ、ラッドがゆたかを同行させたくない理由はその無害さにこそあった。
ラッド・ルッソの目的、それは『自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる』ことだ。
そして、その人間の中には当然、螺旋王も含まれている。
だからこそ、彼は螺旋王打倒を目指す清麿に賛同し、その計画を練る明智に協力している。
彼らの目論見が無事に達成され、自らの拳で螺旋王を嬲り殺すことができるようになるのはラッドにとってとても喜ばしいことである。
そして、それゆえに小早川ゆたかは邪魔になる存在なのだ。
(だってよ?小賢しいだけの羊の群れなんざ、狼に食い散らかされるのが関の山だもんなァ!)
無力な保護対象というのは、ただそこにいるだけで集団全体の機能性を著しく阻害する。
足手まといが増えていいことなど何もない。
ラッドは自らの欲望に忠実な男ではあるが、また同時に利を嗅ぎ分ける嗅覚も鋭い男なのである。
ゆえに、彼はゆたかの同行を望まない。
「確かにこの子が危険人物である可能性もある。それは認める。だが、そうでない可能性だって……」
「戦場で無駄なリスクを冒そうってのは感心しねぇなぁ、キヨマロォ?」
「そりゃ、確かにそうだが……だったら、万が一のためにシーツか何かで拘束しておけば」
「シーツぅ?おいおい、んなモンこいつがもしバケモンだったとしたらぜ〜んぜん役に立たねえぜ?多分。
シーツくらいだったら俺でも破れるしな。バリッ!ってよ」
会話は平行線のまま、夜は更けゆく。
◆
夜闇の中、街灯が照らす都市の街路をシャマルは一人行く。
ふわりふわりと、身体を覚束なく揺らし、その瞳には深い闇色を湛えて。
どこを見るでもなく顔を上げ、どこを目指すでもなく歩く。
その様は、まるで繰りの甘い人形のように不自然、不合理、不安定。
足をとられ転ぶこと数度。
ストッキングには丸い穴が開き、膝には擦り切れた傷がつく。
されど、彼女は気にすることなくゆっくりと往く。
あてども知れぬ、死に場所を探すために。
家を出たとき、まず最初に浮かんだフレーズが『死のう』だった。
考えれば考えるほど、彼女にはその考えが最良のものに思えて仕方がなかった。
(私が生きてる意味なんて、もうどこにもありはしない。
キャロも、エリオも、スバルも死んでしまった。ティアの居場所もさっぱり分からない。
そして……何もできないうちにはやてちゃんを死なせてしまった……
いや、『死なせた』なんて言い方は逃げだわ。
殺したのよ。私が。はやてちゃんを殺したのよ。
私がもたもたしている間に、はやてちゃんはどこの誰かも分からない敵に殺されてしまった。
もし私があの『V』にやられて気絶しなければ、適当なところでヴィラルさんのもとを去ってはやてちゃんを探していれば
はやてちゃんはまだ生きていたかもしれない。また元気に笑いかけてくれたかもしれない。
私が、私が無能だったから。
……シグナムや、ヴィータ、ザフィーラがこのことを聞いたらどう思うだろう?
きっとあの娘たちはすごく悲しむ。悲しんで、泣いて、私を責めるかもしれない。
どちらにしても私は守護騎士失格だ。
それに私は人を殺した。酷いことを言う人だったけど、何にも悪いことをしてないジェレミアさんを串刺しにした。
私は人殺し。だから、もう、時空管理局には戻れない。
なのはちゃんやフェイトちゃんに見せる顔なんてない。
八神家にも時空管理局にもいられない私に生きる居場所なんてもうどこにもない。
生きる居場所がなければもう死ぬしかない。死ぬしかないんだわ。私は。
死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、
死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、
死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、
死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない、死ぬしかない……)
シャマルの頭の中は今や死でいっぱいだった。
(いつ死のうかしら?いや、いつなんて悠長なことを言っている暇なんてないわ。
早く、一刻も早く死なないと。私みたいのがいつまでも生きていちゃいけない。早く死ななきゃ。
どこで死のうかしら?別にどこでもいいんだけど、そう言ってると、なかなか踏ん切りがつかないわ。
ちょうどいい場所があればいいんだけど。
どうやって死のうかしら?どう死んでもいいんだけど、痛そうなのはちょっと勇気がいるわよね。
刃物はないから使うのは銃かしら?私の魔法じゃ死ねないから銃を使うのがやっぱり確実かも。
でも、銃って何だか痛そうよね。でも、いざとなれば……薬なんかもいいかもしれないけどこんなところには……)
破滅的な感情が彼女の中を駆け巡る。
最早、正気の糸は切れ、思考は悲しみの濁流に押し流されてしまっていた。
自分の無価値を心から信じ、生の可能性を自らひき潰す、今のシャマルはそういう生き物だった。
ふらりふらりと、麻薬中毒者のように虚ろな目を揺らしながら、彼女は歩く。
そのくすんだ視線が、自らの正面に白い、一際白い建物を見出した。
理性の欠片を振り絞り、ピントをあわせた彼女に見えたそこは病院。
時空管理局に配属された彼女が一番多く過ごした場所。
人生を終わらせるには、最適なところに思えた。
:失楽園(後編) ◆RwRVJyFBpg:2008/02/28(木) 21:55:03 ID:48bRF7xk0
◆
「あ゛〜あ゛、まったくキヨマロも強情だよな」
赤い虫のように空を飛ぶフラップターに一人跨り、ラッドはやれやれと肩をすくめていた。
病院のロビーでさっきまで続いていた討論は泥沼の延長戦の末、清麿に軍配が上がった。
頑なに主張を曲げない清麿にラッドが降参した形だ。
「『オレがこの子を背負って映画館まで行くから、ラッドは先に帰って報せてくれ』か……
はぁー、そうまでして連れて帰りたいかねぇーあんなガキ。
シロウといいあいつといい、ここにいるヤツラはどっかおかしいぜまったくよォ!」
ラッドは自分のことを棚上げにして一人ごちる。
フラップターに三人は乗れないことを盾にしていたラッドに対し、清麿は自ら分散行動を申し出たのだ。
ラッドとしては、ゆたかの危険性を建前にもう少し粘ってもよかったが
よく考えれば、そうやってこれ以上時間を消費する方が余程無益であることに気がついた。
足手まといが増えるのは気に入らないが、まあ、仕方ない面もある。
「……しっかし、あいつらもしかしてこの後も、あのガキみたいなよわっちい連中を次々連れてくるつもりなのかねぇ?
やだやだ。哀れな子羊ちゃんのお守りなんざ俺ァ、まっぴらごめんだぜ。モーゼってんじゃねえんだからよう」
シンヤを殺し、せっかく上がったテンションに水を差されたのが不快だったのか
ラッドはフラップターを縦横に繰り、無駄にアクロバティックな飛行を繰り返す。
常人なら酔って吐くこと間違いなしの機動を涼しい顔でやり過ごす。
「あ゛ーめんどくせえ、めんどくせえ。いっそのこと役に立たねえボンクラどもは皆、殺しちまおうか?
この期に及んで緩いパンピーが生き残ってるとは思えねえからあんま気は進まねえが
みんなのヒーローってのはもっと気に食わねえ。ってか吐き気がする」
目茶苦茶な飛行を続けながら、事も無げに彼は呟く。
その口調は明日の献立を考えているときのそれとまるで変わらない。
思えばそれもある意味当然のことだ。
ラッド・ルッソは殺人鬼なのだから。
彼は、自分が死ぬなどと微塵も考えていない緩い人間を殺すのを好むが、決してそれしか殺さないというわけではない。
抗争になればどんな敵でも速やかに始末するし、フライング・プッシーフットの事件の時も、乗客は残らず皆殺しにするつもりだった。
とどのつまり、ラッドにとっての『緩い人間』とは肉なのである。
彼は肉食だが、必要とあらばパンも芋も野菜だって食らう。
「あーあ、クソッ、せっかくいい気分だったってのに何かテンション下がってきちまったぜ。
こーゆーときはどうすっかな?やっぱあれか?殺しか?人殺しか?
そーか、そうだよなぁ!!こういう暗い気分の時は頭ゆるゆるのガキでもパァーッとブッ殺してスッキリするのが一番だ!
キヨマロが映画館に着くまでにゃまだ時間もあんだろうし、パッと殺って、サッと帰りゃ問題ねえだろ。
よぉーしっ!!そうと決まれば獲物探しだ!
イキのいいのが見つかんなかったときは……足手まといになりそうな奴殺して我慢するってのもま、アリか」
機体に落ち着きを取り戻し、神をも恐れぬ殺人狂は空を翔る。
自らの飢えを満たすために。
【D-6・上空/一日目/夜中】
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:疲労(小)、左肋骨2本骨折、両拳に裂傷(戦闘には問題なし)
[装備]:超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾3/5)
[道具]:支給品一式×2(一食分消費)、ファイティングナイフ、フラップター@天空の城ラピュタ
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
ニードルガン(残弾10/10)@コードギアス 反逆のルルーシュ 、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
0:下がったテンションを上げるため、誰かしらブチ殺す。できれば緩い奴がいい。
1:獲物の有無にかかわらず、あまり遅くなりすぎないよう映画館に帰る。
2:東方不敗と鴇羽舞衣の所に戻ってぶち殺す。
3:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
4:足手まといがあまり増えるようなら適度に殺す。
5:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
6:覚悟のある人間ばかりなので面白くないから螺旋王もぶっ殺す。
7:シンヤの兄であるDボゥイに興味。死なないと思っているようならブチ殺す。
※フラップターの操縦ができるようになりました。
※明智たちと友好関係を築きました。その際、ゲーム内で出会った人間の詳細をチェックしています。
※詳細名簿の情報をもとに、危険な能力を持つ人間の顔と名前をおおむね記憶しています。
※テンションが上がり続けると何かに目覚めそうな予感がしています。
799 :失楽園(後編) ◆RwRVJyFBpg:2008/02/28(木) 21:56:34 ID:48bRF7xk0
◆
「ない……ない……ない……」
夜の病院、薬品保管庫の中に蠢く影が一つ。
棚という棚に手をやり、何かを探すように手を突っ込んではまさぐり、かき回す。
取り出した薬品のラベルを見ては、顔を引き攣らせ、また新たな容器を探すために手を入れる。
影は何かにとりつかれたようにそんな動作を繰り返し続けていた。
「ない……ないわ……死ねるお薬……どこにも」
シャマルは動揺していた。
いくつかの部屋を探し回ったが、自殺を決行するために最適な毒薬が、どこへ行っても見つからないのだ。
もし、彼女がいつもの冷静さを保っていたならば、螺旋王が殺し合いに有利な道具となる毒薬をあらかじめ排除していた可能性
あるいは、先にここに来た誰かが、毒薬だけを持ち去ってしまっていた可能性に気づくことができただろう。
しかし、残念ながら、今のシャマルにその判断力は望むべくもない。
ゆえに、彼女は白痴のように棚を開け、かき回し、うわ言を呟きながら天国への片道切符を探していた。
その様子は、おもちゃを探す少年のようにひたむきで、犠牲者を探す死神のように不気味だった。
「どうしよう……ない……ないわ」
顔を青くし、頭を抱える。
このままでは死ぬことができない。
せっかくいい場所に巡り会って、いい方法も見つけたというのに、肝心の薬がないなんてあんまりだ。
彼女は思うように行かない状況に苛立ち、バリバリと頭を掻いた。
強く掻くあまり、綺麗な金髪が抜け落ち、はらはらと廊下に舞う。
「どうすれば……どうすれば……」
必死で次の手をシャマルは、手がかりを求めるように周りを見回す。
自分を殺してくれる、自分が死ぬことができる何かを求めて。
血走ったシャマルの目に、ライトアップされた中庭が映った。
「あれだわ」
魂の抜けたような声で呟き、とっさに思いついたプランを確認すると、彼女はすぐさまそれを実行するため走り出した。
800 :失楽園(後編) ◆RwRVJyFBpg:2008/02/28(木) 21:57:32 ID:48bRF7xk0
◇
この病院の中庭は半ば公園のように機能するよう整備されていた。
入院患者たちが座って閑談できるよう、あちこちにベンチが備え付けられ、灰皿も完備。
人工の小川が中庭を周回するように流れ、その周りには色とりどりの花が咲く花壇が腰を据える。
さらには夕涼みする患者に気を使ってか、かなり明るめの照明も据え付けられており
そこは完全に日が没し、夜になった今でも、十分に心地のよい空間だった。
その中央、庭の中でも一際大きな存在感を放つ巨木の前にシャマルは立っている。
手には病室から剥ぎ取ってきたシーツと大きなプラスチックの箱を持って。
彼女はしばらく無表情で木を見つめていたが、やがて決心がついたのか、プラスチックの箱を木の脇に置き、その上に立った。
手頃な高さの枝を見繕うと、シーツを輪の形に結び、括りつける。
輪の大きさを何度か調整し、それが手頃な大きさになったと見るや、シャマルはその輪の中に自分の頭をすっぽり通してしまった。
「あとは、この箱を蹴り出すだけ……それでもう、この世とはさようなら……」
シャマルが思いついた次善の策は、首吊り自殺だった。
首吊りはそのビジュアルの残酷さや、首を絞められて死ぬというイメージなどから
苦痛の伴う死に方のように思われがちだが実はそうではない。
首を吊った場合、吊るために使用している紐が首の動脈を圧迫し、十秒ほどで自殺者の意識を奪うため
実際に感じる苦しみはイメージと比べて相当に軽いものとされている。
柔道の達人の絞め技が一瞬で相手の意識を奪うのと基本的には同じメカニズムである。
医者であるシャマルは当然、そのことを知っていた。
だから、薬での死という最善策が不可能となった今、彼女は次善の策として首吊りを選んだのだ。
「もう、本当、疲れちゃったわ。だから、終わりにしましょう……」
シャマルは箱の上から中庭に生えた芝を見つめながら、これまでの人生を思い出してみる。
初めてはやてに召喚されたあの日。
石田先生の病院へ行った帰り、はやてと買い物に行ったあの日。
ヴィータのゲートボールを見に、みんなで出かけたあの日。
中々日常生活に慣れないシグナムをショッピングに連れ出し、服を着せて回ったあの日。
なのはやフェイトと和解したあの日。
管理局に入り、医務局に配属されたあの日。
怪我を治してあげた局員の人に、ありがとうを言われたあの日。
はやてに六課の話を聞いて、驚いたあの日。
六課に配属されて、自分の部屋をもらったあの日。
キャロとエリオが話す休日の話を笑顔で聞いたあの日。
スバルが訓練で怪我をして、治療にやってきたあの日。
ティアがそれに付き添って、文句を言いながらもずっと傍にいたあの日。
大切な、どれも大切な『あの日』たち。
辛いことも多くあったはずなのに、何故か頭に浮かぶのは楽しかった、嬉しかった思い出ばかりで。
でも、それはもう遠くて、儚くて、ぼんやりとぼやけてしか見えなくて。
マッチ売りの少女が熾した火の中に見える幻影のようで。
知らず知らずのうち、シャマルは泣いていた。
心の底から思う。何がいけなかったのかと。
(ねえ、神様、もしいるならば教えてください。
私はそんなに悪いことをしたでしょうか。
はやてちゃんやシグナムやヴィータ、ザフィーラ、六課のみんなと普通に暮らす。
そのささやかな望みを永遠に絶たれなければいけないほど、私は重い罪を犯したのでしょうか。
わけも分からずこんな恐ろしい殺し合いに参加させられて、わけも分からずみんな死んで。
教えてください神様!一体、私達、何がいけなかったんでしょうか!)
しかし、問うても答えは返らない。
神は常に黙して語らず。
夜風に吹かれて、目の前の芝だけが静かに揺れていた。
シャマルは最後に一度、本当に疲れた、と小さな声で呟くと、滑らかに、しかし確実に、箱を、足場を、外した。
ガコンという音がして、華奢な体が宙に浮く。
風が、吹いた。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡】
802 :失楽園(後編) ◆RwRVJyFBpg:2008/02/28(木) 21:59:02 ID:48bRF7xk0
「そんなもの、俺は断じて認めないッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
ガコンという音がして、華奢な体が宙に浮く。
疾風が吹いて、シャマルは一瞬後、地面に尻餅をついていた。
「きゃ!?」
予想外の事態に反射的に目線を上げる。
鉈を構えた獣人が息を切らせて立っていた。
803 :失楽園(後編) ◆RwRVJyFBpg:2008/02/28(木) 22:00:03 ID:48bRF7xk0
◆
「ヴィラルさん……」
追ってきて正解だった。
ヴィラルは今、心の底からそう思っていた。
一人実験を終わらせるべく街に出た彼は、偶然通りかかった四つ辻で真新しいシャマルの臭いを感じ取ったのだ。
今しがた民家に置いてきたはずの彼女の臭いに嫌な予感を覚えた彼はそれを追い、この病院に辿り着いたのである。
彼が中庭の入り口に辿り着いたのは、丁度シャマルが箱を蹴り出し、飛び降りんとしている刹那だった。
彼女が首を吊ろうとしているのだという事実を認識した瞬間、頭より先にまず体が動いていた。
小川を飛び越え、花壇を踏み潰して、ヴィラルは神速をもって木の袂まで辿り着き、鉈でシーツを切断したのだった。
「お前は馬鹿だッ!!大馬鹿だッッ!!」
戸惑うシャマルをヴィラルは一喝する。
その声はあまりにも鋭く響き、木を、花を、大気を揺るがす。
「何故こんな真似をした!?お前が死ねば死んだ仲間が喜ぶとでも思ったのか!!?」
「……どうして、放っておいてくれなかったんですか」
「なにぃ!?」
怒るヴィラルに対し、シャマルの反応はあまりにも冷ややかだった。
まるでまた一つ罪を重ねてしまったとでも言わんばかりに俯き、恨みがましい目で彼のほうを睨む。
その目の中の淀んだ光を見て、ヴィラルは思う。
これが、本当にあのシャマルの目なのかと。
「……私はもう生きていても意味のない生き物なんです。
私に帰るところはもうないし、私の大切な人は死んでしまった。
もう、私の人生に残ってるものなんて、これっぽっちもありはしないんです。
だから、私はもう……」
「帰るところがないだと……?甘ったれたことを言うな!それでも貴様は螺旋王の戦士か!!」
ヴィラルは期待していた。
螺旋王の名を出して煽れば、シャマルが何度か見せたあの持ち前の気丈さを取り戻し
こんな馬鹿な真似は即刻中止してくれると信じていた。
しかし、彼女の反応は期待したものとは程遠いものだった。
シャマルは悲しそうな、それでいて皮肉そうな目を彼に向けると、唇を歪めて薄く笑ったのだ。
「何がおかしい!!?」
「螺旋王の戦士……そうですよね。私、今はそういうことになってるんですもんね。
もうそんな嘘、何の意味もないっていうのに……」
「嘘だと……!?」
ヴィラルは絶句する。
全く予想外のところから殴られたような衝撃が走った。
確かに、はじめのうちは不審にも見えた。
しかし、その誤解は話をするうち、一緒にいるうちに段々と氷解していった筈だった。
だが、それが、まさか。
「……いいわ。どうせもうみんなおしまいなんですもの。
教えてあげますよヴィラルさん。ホントのこと全部ね」
戸惑う彼にシャマルは気持ちの悪いほどに優しくそう前置きすると、真実を語りだした。
時空管理局のこと。
守護騎士のこと。
全てはヴィラルを利用するための嘘だったこと。
真実が語られるたび、ヴィラルの顔色は赤く、ときには青く変じた。
「馬鹿な……お前は、お前は俺を謀ったのかシャマル!?」
「そのとおりよ」
機動六課のこと。
八神はやてのこと。
そしてシャマル自身のこと。
残された謎が明かされるにつれ、興奮していたヴィラルは徐々に落ち着き、今度は逆に寡黙の影が濃くなっていく。
対するシャマルは話が進めば進むほど感情的になっていく。
涙を両目から止め処なく流し、まるで喉の奥につまった感情を投げつけるかのように。
「分かったでしょ!私はどうしようもない大嘘つきなのよ!!
自分の利益のためだけに、ヴィラルさんに嘘をついて!利用して!!
……軽蔑した?軽蔑するわよねこんな最低女……
いいわよ、軽蔑してくれても。どうせ私にはもう何もないんだから!!」
「……………………」
気がつけば、この場の構図は、喚き散らすシャマルの言葉を石のように動かぬヴィラルが受け止める形となっていた。
「……もう答えるのも嫌だって言うの!?
……ううん、そうよね、それが当然よ。当然。
さあ!もう私の戯言を聞くのにもいいかげん飽き飽きしてきたでしょう!?
……そろそろ、殺したら?私のこと」
「……………………」
シャマルの息が切れ、声が枯れても、ヴィラルは動かない。
じっと、燃えるような双眸で彼女の眼を睨みつけ、話に耳を傾ける。
ただ、それだけ。
「……ねぇ、何か一言くらい言い返せないの?
私はあなたを裏切ったのよ?利用して、利用して、その挙句に殺そうとしたのよ?
憎んじゃないの私のこと?引き裂いてやりたいんじゃないの?
だったら、殺して……殺してよ……」
少しずつ、少しずつ叫ぶ勢いが弱くなっていく。
されど、彼女の瞳から流れ出す涙の川だけは、いつまで経ってもその勢いが衰えない。
むしろその流れは時間とともに激しく、荒々しくなっていく気配すら見せている。
「……もう一度聞く」
そんなとき、男はついに沈黙を破った。
「何故、自殺なんて馬鹿な真似をした」
その声は静かだったが、有無を言わせぬ強さと、厳かさを持ち合わせていた。
彼女は眼光に射竦められ、しばらく何も喋れずにいたが、やがて先ほどまでの癇癪を取り戻し、強い調子で叫んだ。
「私なんて生きてる価値がない人間だからよ!
仲間も主も守れずに、自分ひとりだけおめおめ生き残ってる、最悪の騎士だからよ!
そんな私がこれ以上生きてたって、私があの幸せを取り戻せる場所なんて、もうどこにもないのよっ!!」
血走った目を大きく見開き、美しい髪をざんばらに振り乱し、喉を軋ませ訴える。
悲しみを訴える。絶望を訴える。虚無を訴える。
「歯ァ、食いしばれェェェェェェェェェェッッーーーーーーーー!!!!!!!!」
吼えたのはヴィラルだった。
大きく前に一歩を踏みしめ、大地を掴み、その余勢をかって腕を振るう。
それ自身が一つの生き物のように、見事にしなったその腕は円弧を描き――激しく左の頬を打った。
「きゃああっ!!」
強烈な平手打ちがクリーンヒットしたシャマルは吹き飛ばされ、後ろに一回転、木に体を激突させる。
「な……何を」
目を白黒させながら、やっとのことで目線を彼のほうへと向ける。
突然の一撃に理解の方が追いつかない。
「どうして『取り戻す』なんて考える!?何故『掴み取ろう』と考えない!?
お前にあるのは過去だけか!?死んだ主だ、死んだ仲間だ、それが貴様の全てなのかッ!!?」
「ッッッッッ!」
強い言葉が降り注ぐ。しかし、女にも意地がある。
「そうよッ!私にははやてちゃんとの生活が!六課の皆との昨日が全てなのよッ!
それをとったら、私には何にも残らないのよッ!」
「なら、何故お前は俺を助けたッ!!」
「!!?」
「空港で俺が傷に苦しんでいた時、お前は魔法を使って俺を助けた。
だが、あの時、正体がバレるリスクを負ってまでそうする必要はなかったはずだ!
もし、お前に八神はやてとの思い出と、六課の仲間との絆しかないのなら、あそこで殺人者の俺を助ける理由はどこにもないッ!
俺は獣人。人間である八神はやての敵でしかありえないからな!
お前がもし、守護騎士シャマルでしかないというのなら、お前はあそこで俺を殺すべきだった。
主の敵を一人でも減らしておくべきだった。
……だが、お前は俺を助けたッッ!何故だッ!答えろ!シャマルゥッ!!」
「そ、それは……」
根元に屈みこむシャマルの元に、いつの間にかヴィラルが肉薄していた。
獣人特有の牙をむき出しにし、瞳を彼女の魂だけに注いで。
男の咆哮は止まらない。
「教えてやるシャマル!それがお前だ!!
八神はやての騎士でもない、機動六課でもない、お前はお前だッ!癒し手シャマルだ!
それが正真正銘、確かにここにいる『今』のお前だ!
貴様はさっき自分には『昨日』しかないと言ったが、それがそもそもの間違いなんだよッ!!」
だから過去に捕らわれるな!昔の容れ物に縛られるのはもう止めろ!
思い出が全て消えただと!?もうあの日には帰れないだと!?それがどうした!
帰れないのなら先に進めッ!!過去を見ずに『今』を見ろッ!!そして『明日』を掴み取れッ!!」
ヴィラルは瞳を、シャマルの魂だけを見つめて叫ぶ。
鼻と鼻が触れそうな距離で、彼は命を燃やして叫ぶ。
ヴィラルはただ嫌だった。
彼を助けてくれた優しい女性が悲しい顔をするのがただただ嫌だった。
彼女がもう一度生きるためなら何でもできると、心の底からそう思った。
強く強く、何よりも強く想い、そのための言葉を心の海から引きずり出した。
そしてそのことが、彼の体に奇跡を起す。
命の螺旋が彼の中で、いや、彼の外でも回り始めた。
緑の閃光がヴィラルの身体を包み込み、その光は天に向かって立ち昇る。
回る回る緑の螺旋。
螺旋王の改造か、螺旋遺伝子の気まぐれか、それとも、この世界の特殊さゆえか。
理由は誰にも分からない。
しかし、それでも螺旋は回る。
緑の光に包まれたヴィラルを、シャマルは呆然と見つめていた。
シャマルの頭の中で、ヴィラルの放った言葉が回る。
『今』、『明日』、そして『昨日』。
思い出の断片と、緑の光がぶつかり合って、彼女の頭はグルグル回る。
「……分かりません。そんなこといきなり言われても。私には……いきなり……」
シャマルは守護騎士としての生き方しか知らない。
プログラムとして何千年の経験を積んできたが、彼女の知っている生き方はそれしかない。
それをいきなり捕らわれるなと言われたところで、どうしてよいやら分からない。
飛び立ちたい、けれどどうやって飛べばよいかが分からない。
静かに、男は手を差し伸べた。
「……ヴィラルさん?」
「シャマル、俺と来い」
「……えええっ!!!???」
「『明日』が分からないなら、とりあえず、俺の明日がお前の『明日』だ。
どこに行けば、何を目指せばいいのかもし分からないというのなら、まずは俺について来い。
それからゆっくり探せばいい。お前の『明日』はいつもお前の前にあるんだからな」
シャマルは迷う。
ヴィラルと行くということは、一度投げ出した修羅の道にまた戻ること。
これからも人を殺し続け、もしかしたらティアの命をも奪って、それでも未来を目指す道。
ゆえに迷う。
いいのかと。自分にそんなことが許されるのかと。
他人を踏みつけてまで『明日』を目指していいものなのかと。
緑の光の中、ヴィラルはなお彼女の瞳を射抜き、強く言葉を投げかけ続ける。
彼女の迷いを見透かすように。
「戦え!シャマルッ!!
道が分からぬのなら、『明日』を目指してよいか分からないなら、まず戦え!!
戦いに敗れたのならお前の道は所詮そこまでだったということ!諦めるのは負けてからでいい!!
だから戦わずに逃げるような真似はよせ!死ぬなッッ!!シャマルッッ!!」
「ヴィラルさん……」
ヴィラルはもう一度手を伸ばす。
その口元は、穏やかに、優しく笑っていた。
「歯ァ、食いしばれェェェェェェェェェェッッーーーーーーーー!!!!!!!!」
吼えたのはヴィラルだった。
大きく前に一歩を踏みしめ、大地を掴み、その余勢をかって腕を振るう。
それ自身が一つの生き物のように、見事にしなったその腕は円弧を描き――激しく左の頬を打った。
「きゃああっ!!」
強烈な平手打ちがクリーンヒットしたシャマルは吹き飛ばされ、後ろに一回転、木に体を激突させる。
「な……何を」
目を白黒させながら、やっとのことで目線を彼のほうへと向ける。
突然の一撃に理解の方が追いつかない。
「どうして『取り戻す』なんて考える!?何故『掴み取ろう』と考えない!?
お前にあるのは過去だけか!?死んだ主だ、死んだ仲間だ、それが貴様の全てなのかッ!!?」
「ッッッッッ!」
強い言葉が降り注ぐ。しかし、女にも意地がある。
「そうよッ!私にははやてちゃんとの生活が!六課の皆との昨日が全てなのよッ!
それをとったら、私には何にも残らないのよッ!」
「なら、何故お前は俺を助けたッ!!」
「!!?」
「空港で俺が傷に苦しんでいた時、お前は魔法を使って俺を助けた。
だが、あの時、正体がバレるリスクを負ってまでそうする必要はなかったはずだ!
もし、お前に八神はやてとの思い出と、六課の仲間との絆しかないのなら、あそこで殺人者の俺を助ける理由はどこにもないッ!
俺は獣人。人間である八神はやての敵でしかありえないからな!
お前がもし、守護騎士シャマルでしかないというのなら、お前はあそこで俺を殺すべきだった。
主の敵を一人でも減らしておくべきだった。
……だが、お前は俺を助けたッッ!何故だッ!答えろ!シャマルゥッ!!」
「そ、それは……」
根元に屈みこむシャマルの元に、いつの間にかヴィラルが肉薄していた。
獣人特有の牙をむき出しにし、瞳を彼女の魂だけに注いで。
男の咆哮は止まらない。
「教えてやるシャマル!それがお前だ!!
八神はやての騎士でもない、機動六課でもない、お前はお前だッ!癒し手シャマルだ!
それが正真正銘、確かにここにいる『今』のお前だ!
貴様はさっき自分には『昨日』しかないと言ったが、それがそもそもの間違いなんだよッ!!」
だから過去に捕らわれるな!昔の容れ物に縛られるのはもう止めろ!
思い出が全て消えただと!?もうあの日には帰れないだと!?それがどうした!
帰れないのなら先に進めッ!!過去を見ずに『今』を見ろッ!!そして『明日』を掴み取れッ!!」
「私は獣人ではありません。もし仮に私達が運良く生き残れたとしても……」
「安心しろ。お前のことは三日三晩喰らいついてでも螺旋王に認めさせてやる」
「いつかは獣人であるあなたと戦う日が来るかもしれない……それでも……?」
「構わん。そうなったらいつでも正面から相手してやる」
「…………私、もしかしたら螺旋王の命を……」
「復讐もまた道だ。そうなったなら、まず俺を相手にすることになるだろうがな」
「でも……」
「心配するな!!」
「俺を誰だと思っている!!?
都の戦士は……いや、戦士ヴィラルは、一度守ると誓った女は何があっても守り通す。
信じろ……お前の仲間がいくら死のうと、俺だけは最後までお前の傍にいる。
俺達の道が、ぶつからない限りな」
ヴィラルは親指を立てて自分を指し、不敵な笑みを浮かべて宣言する。
その様がどうにもおかしくて、シャマルの顔に、久方ぶりの花が咲いた。
切れた涙が照明の光を反射して、巨木の下に一瞬、小さな虹がかかる。
その虹のゲートをくぐって女は立ち上がり、優しく強く男の手を取った。
(……ごめんなさい、はやてちゃん。ごめんなさい、みんな。
私、多分、あなた達を裏切ります。
私、この人の言うことに賭けてみたいんです。
守護騎士でもない、機動六課でもない。
そんな私が、ただのシャマルがもし本当にいるのなら、その姿をこの目で見てみたいんです。
許してくれとは言いません。むしろ、罰を与えに来てください。
そしたら私は戦います。力の限り、私のできる精一杯で戦います。
そうして戦って、戦って、戦い抜いて……
もし、私が罰に打ち勝つことができたなら、そのときは、私の『明日』は許されるでしょうか、神様)
自らの意志で、自らの道を歩み始めた女の瞳には、男と同じ、螺旋の炎が灯っていた――――
ヴィラルは瞳を、シャマルの魂だけを見つめて叫ぶ。
鼻と鼻が触れそうな距離で、彼は命を燃やして叫ぶ。
ヴィラルはただ嫌だった。
彼を助けてくれた優しい女性が悲しい顔をするのがただただ嫌だった。
彼女がもう一度生きるためなら何でもできると、心の底からそう思った。
強く強く、何よりも強く想い、そのための言葉を心の海から引きずり出した。
そしてそのことが、彼の体に奇跡を起す。
命の螺旋が彼の中で、いや、彼の外でも回り始めた。
緑の閃光がヴィラルの身体を包み込み、その光は天に向かって立ち昇る。
回る回る緑の螺旋。
螺旋王の改造か、螺旋遺伝子の気まぐれか、それとも、この世界の特殊さゆえか。
理由は誰にも分からない。
しかし、それでも螺旋は回る。
緑の光に包まれたヴィラルを、シャマルは呆然と見つめていた。
シャマルの頭の中で、ヴィラルの放った言葉が回る。
『今』、『明日』、そして『昨日』。
思い出の断片と、緑の光がぶつかり合って、彼女の頭はグルグル回る。
「……分かりません。そんなこといきなり言われても。私には……いきなり……」
シャマルは守護騎士としての生き方しか知らない。
プログラムとして何千年の経験を積んできたが、彼女の知っている生き方はそれしかない。
それをいきなり捕らわれるなと言われたところで、どうしてよいやら分からない。
飛び立ちたい、けれどどうやって飛べばよいかが分からない。
静かに、男は手を差し伸べた。
「……ヴィラルさん?」
「シャマル、俺と来い」
「……えええっ!!!???」
「『明日』が分からないなら、とりあえず、俺の明日がお前の『明日』だ。
どこに行けば、何を目指せばいいのかもし分からないというのなら、まずは俺について来い。
それからゆっくり探せばいい。お前の『明日』はいつもお前の前にあるんだからな」
シャマルは迷う。
ヴィラルと行くということは、一度投げ出した修羅の道にまた戻ること。
これからも人を殺し続け、もしかしたらティアの命をも奪って、それでも未来を目指す道。
ゆえに迷う。
いいのかと。自分にそんなことが許されるのかと。
他人を踏みつけてまで『明日』を目指していいものなのかと。
緑の光の中、ヴィラルはなお彼女の瞳を射抜き、強く言葉を投げかけ続ける。
彼女の迷いを見透かすように。
「戦え!シャマルッ!!
道が分からぬのなら、『明日』を目指してよいか分からないなら、まず戦え!!
戦いに敗れたのならお前の道は所詮そこまでだったということ!諦めるのは負けてからでいい!!
だから戦わずに逃げるような真似はよせ!死ぬなッッ!!シャマルッッ!!」
「ヴィラルさん……」
ヴィラルはもう一度手を伸ばす。
その口元は、穏やかに、優しく笑っていた。
「私は獣人ではありません。もし仮に私達が運良く生き残れたとしても……」
「安心しろ。お前のことは三日三晩喰らいついてでも螺旋王に認めさせてやる」
「いつかは獣人であるあなたと戦う日が来るかもしれない……それでも……?」
「構わん。そうなったらいつでも正面から相手してやる」
「…………私、もしかしたら螺旋王の命を……」
「復讐もまた道だ。そうなったなら、まず俺を相手にすることになるだろうがな」
「でも……」
「心配するな!!」
「俺を誰だと思っている!!?
都の戦士は……いや、戦士ヴィラルは、一度守ると誓った女は何があっても守り通す。
信じろ……お前の仲間がいくら死のうと、俺だけは最後までお前の傍にいる。
俺達の道が、ぶつからない限りな」
ヴィラルは親指を立てて自分を指し、不敵な笑みを浮かべて宣言する。
その様がどうにもおかしくて、シャマルの顔に、久方ぶりの花が咲いた。
切れた涙が照明の光を反射して、巨木の下に一瞬、小さな虹がかかる。
その虹のゲートをくぐって女は立ち上がり、優しく強く男の手を取った。
(……ごめんなさい、はやてちゃん。ごめんなさい、みんな。
私、多分、あなた達を裏切ります。
私、この人の言うことに賭けてみたいんです。
守護騎士でもない、機動六課でもない。
そんな私が、ただのシャマルがもし本当にいるのなら、その姿をこの目で見てみたいんです。
許してくれとは言いません。むしろ、罰を与えに来てください。
そしたら私は戦います。力の限り、私のできる精一杯で戦います。
そうして戦って、戦って、戦い抜いて……
もし、私が罰に打ち勝つことができたなら、そのときは、私の『明日』は許されるでしょうか、神様)
自らの意志で、自らの道を歩み始めた女の瞳には、男と同じ、螺旋の炎が灯っていた――――
【D-6/病院中庭/1日目/夜中】
【チーム:Joker&New Joker】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:全身に中ダメージ、脇腹・額に傷跡(ほぼ完治・微かな痛み)、左肩に裂傷、螺旋力覚醒
[装備]:大鉈@現実、短剣×2
[道具]:支給品一式、モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと4秒連射可能、ロケット弾は一発)、
S&W M38(弾数1/5)、S&W M38の予備弾数20発、エンフィールドNO.2(弾数0/6)、短剣×9本、水鉄砲、銀玉鉄砲(銀玉×60発)、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、タロットカード@金田一少年の事件簿、USBフラッシュメモリ@現実、鉄の手枷@現実
[思考]
基本:シャマルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝する。
0: シャマルと共に進む
1:道がぶつからない限りシャマルを守り抜く。その為にも、クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
2:蛇女(静留)に味わわされた屈辱を晴らしたい。
3:『クルクル』と『ケンモチ』との決着をつける。
※二アが参加している事に気づきました。
※機動六課メンバーについて正しく認識し直しました。
※なのは世界の魔法について簡単に理解しました。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
※本来は覚醒しないはずの螺旋力が覚醒しました。他参加者の覚醒とは様々な部分で異なる可能性があります。
【[備考]
螺旋王による改造を受けています。
@睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
A身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。 単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康、強い決意、螺旋力覚醒
[装備]:ワルサーWA2000(3/6)@現実 、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式×3(地図一枚損失)、ワルサーWA2000用箱型弾倉x3、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、ゼオンのマント@金色のガッシュベル!!、魔鏡のかけら@金色のガッシュベル!!
暗視スコープ、首輪(クロ)、単眼鏡、マース・ヒューズの肉片サンプル
[思考]
基本1:守護騎士でもない、機動六課でもない、ただのシャマルとして生きる道を探す
基本2:1のための道が分かるまで、ヴィラルと共に最後の二人になり、螺旋王を説得して二人で優勝することを目指す。
0:ヴィラルと共に進む
1:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
2:優勝した後に螺旋王を殺す?
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。また、宝具という名称を知りません。
※魔力に何かしらの制限が掛けられている可能性に気付きました。
※魔鏡のかけらを何らかの魔力増幅アイテムと認識しましたが、
どうやって使用する物なのか、また全部で何枚存在しているのかはまだ理解していません。
◆
(で、オレは一体どうしたらイインダ……?)
高峰清麿は気まずかった。
それはもう、何と表現してよいやらさっぱりわからないくらいに気まずかった。
中庭に面した窓の一つから、一部始終を覗いていた清麿にとって、目の前の状況はあまりにも気まず過ぎた。
病院に潜伏していた謎の侵入者がいきなり中庭で首を吊り始めたときは、相当焦ったが
まさか、それが今の今まで延々と続く悪夢のプレリュードだとは、さすがの清麿も見抜けなかった。
男の乱入、痴話喧嘩、告白、仲直りという砂を吐きそうな最強コンボに、清麿の自制心は何度決壊しそうになったか分からない。
(フフフ……お前ら、今はワールド フォー アスな気分でさぞハッピーなんだろうが
その幸せは毎日のオレのカルシウム満点生活に支えられてたことを忘れるなよ?
正直、オレがもう少しストレスに弱い人間だったら、半狂乱で中庭に特攻して短機関銃を撃ちまくってるところだぜ……)
ヴィラルとシャマルにとって幸運なことに高峰清麿は空気の読める男だった。
(とはいえどうしたもんか……
話を聞いてる限り、あの二人はどうやら殺し合いに乗った人間らしい。
そうと分かれば、こんなところからは一刻も早く脱出したいが……)
清麿は肩越しに振り向き、ロビーのソファに目を遣る。
柔らかいソファーの上で静かないびきを立てている眠り姫は、どうやらまだ全然、起きる気がないらしい。
(あの子を抱えて気づかれないように逃げる……できるか?)
彼の首筋を一筋の汗が撫でる。
正直言って、かなり危険な橋になることは間違いない。
だが、うまくやり過ごせれば、収穫は大きい。
シャマルという女が話した時空管理局の話、螺旋王の直接の手下であるヴィラルの存在、そしてあの緑に渦巻く光。
情報としてはどれも価値のあるものばかり。
持って帰ることができれば脱出に向けて、有益な糧になるに違いない。
ここは何としてでも切り抜けねばならない。
(くそっ、こんなときにラッドがいてくれれば……タイミングが悪過ぎだ!!)
清麿は一人心の中で悪態をつくと、肝心な時に空気が読めない神様を少しだけ呪った。
【D-6/総合病院エントランス/1日目/夜中】
【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、疲労(中)、精神疲労(中)、苦悩
[装備]:イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)
[道具]:支給品一式(水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル!!、
無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん、清麿の右耳
首輪(エド)、首輪(エリオ/解体済み)、首輪(アニタ)、清麿のネームシール、
各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
[思考]
基本方針:螺旋王を打倒して、ゲームから脱出する
0:何とか目の前の二人をやり過ごし、ゆたかを背負って映画館に向かう
1:ゆたかが目覚めたら、シンヤのことについてきちんと話をする
2:脱出方法の研究をする(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
3:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない(有用な情報が得られそうな場合は例外)
4:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
5:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。
[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説@】【仮説A】【仮説B】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:気絶、疲労(中)、心労(大)
[装備]:COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:デイバック、支給品一式、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]
鴇羽舞衣のマフラー@舞-HiME、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mm NATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
基本:元の日常へと戻れるようがんばってみる
0: ……Dボゥイさん……、……シンヤさん……。
1:Dボゥイと合流する
2:シンヤとの約束を守り、彼が自分から参加者を襲わないように気をつける
3:当面はシンヤと行動する
[備考]
※コアドリルがただのアクセサリーではないということに気がつきました
※今のところシンヤとの約束を破るつもりはありません(シンヤの事を他の参加者に必要以上は言わない、テッククリスタルを持つ参加者に譲ってくれるように交渉する)
※螺旋力覚醒
『…ミナ、起きてください…カミナ!』
「む、ぐ…んんぅ」
カミナの意識を呼び覚ましたのは、電子音声による必死の呼びかけ。
なんともいえない嫌な気分と疼痛とに表情を歪まされながら起きあがり、思い出す。
どうして自分が気絶していたのか。誰にそうさせられたのか。
「ちっ、くそぉ…てめぇ、ドモン!」
『目が覚めましたか。ではお静かに願います』
「やいクロミラ、ドモンのヤロォどこに行きやがった」
『私はお静かに願うと言ったのです、カミナ』
立つなり殺気立ち、ぶっ飛ばすべきアンチクショウの姿を求めるカミナは
クロスミラージュをきりきりとつかみ上げるが、返ってきたのは負けじの剣幕。
声を荒げているわけではないが、問答無用の命令形を頭から浴びせてきたことは、
人ならぬインテリジェント・デバイスにしてみれば剣幕と表現する以外にないだろう。
「ン、だとォ?」
『私が何のために貴方を起こしたのか、わからないのですか?
モノレールが来る時間であり、同時に放送の時間でもあるのですよ』
「それがど…」
『Mr,ドモンはこのモノレールに乗った先の駅で待っていると言いました。
この返答では不足でしょうか?』
言うこと言うこと、完璧に先手を取られる形となったカミナは気が抜けて黙り込むしかなかった。
そして、こんな場合に言うべき言葉も、ほぼ無意識に心得ている。
「あ…いや、不足じゃねぇよ。 …すまねぇ」
『まもなく放送です。そこに座ってください』
言われるがままに座った。
それから少しの沈黙。のち、放送…
************************************
『まずいことになりました』
螺旋王の部下とおぼしき耳障りな声を聞き届け、
到着していたモノレールに乗り込んで後、
最初に口を開いたのはクロスミラージュの方からであった。
『螺旋王の流す放送が事実であるという前提に立てばの話ですが』
「もったいつけんな。言えよ」
カミナは近場の壁を蹴りながらも、表面上は冷静を保つ。
そんな前提は聞く耳持たないところだが、
男を賭けた誓いの手前、うるせえ、と一蹴するわけにもいかない。
が、それも、続く言葉の前では大して長く続かなかった。
『マスターの古くからの友人…貴方風に言えば、相棒にあたる人間が死にました』
「…ん、だと?」
『スバル・ナカジマです。陸士訓練校の頃からマスターとはコンビでした』
気がついたらカミナは、座席を思い切り蹴り飛ばしていた。
蹴った自分の足の方が痛いことも気にならなかった。
相棒が死んだという。
カミナ自身にとって、その言葉が意味する人物はたった一人、シモンのみ。
そのシモンは、とっくの昔に放送で名前を呼ばれて…そのような与太話を信じてたまるか!
声にならない、溜息にも似た唸りを漏らしつつ、カミナは蹴った。
蹴って座席を滅茶苦茶に叩き壊す。
『カミナ、やめてください、カミナ、気を静めてください』
クロスミラージュの声が届いた頃には、ひとつの座席が蹴りで穴だらけと化していた。
八つ当たりで暴れるなど、男らしさのカケラもない。
だが、でなければこの怒り、どこに持っていけというのだろうか。
「くそっ、たれが」
『カミナ、この話は続けると、さらに貴方の神経を逆撫ですることになりますが』
「さっさと続けな。この俺様がムカッ腹を必死でこらえてる間によ。
今しか聞かねぇ、早くしな」
『申し訳ありません』
「謝ってんじゃねえ、テメェはなんにも悪くねぇーだろが!
いらねぇことにウジウジ気ィ回してねぇで、ほら、話せよ」
壊した座席の隣にどっかと腰を下ろし足を組む。
男の約束とは、決して違えられることのないものだ。
カミナは、聞いた。
クロミラのマスター、ティアナから見て親分である八神はやてまでもが死んだこと。
あと、生き残っているのは医者であるシャマルだけ。
シャマルが殺し合いに乗っている可能性があることをティアナが知らないにしても、
誰がどう見ても『キドウロッカ』一味は壊滅だった。
下手をするともう、ティアナに残されたものは何ひとつないのではないか。
ただでさえ、キャロの死で精神的にやられていたところにこの仕打ちである。
絶望して全てを投げ出し、壊れてしまったとしても、誰にも攻められはしない…
「クロミラよぉ…」
『カミナ?』
カミナはおもむろに立ち上がり、
手にしたクロスミラージュを握り締める。
呼びかけてくる声を無視して車内の中ほどに立ち。
「歯ぁ、食いしばれぇ!」
『な…』
驚くほどあっさりと、カミナは約束を違えた。
腕を振りかぶり、手中のものを下に向かって叩きつける。
メンコとなったクロスミラージュは、ぺちんといい音を立てた。
『何をするのですか、カミナ』
「うるせぇ」
拾い上げたクロスミラージュをぎしぎしと握り、
真正面からにらみすえる。
カミナの胸に燃え盛るのは、どうしようもない怒り。
外側に向かいたくて仕方ないのに、内に封じられるしかない溶鉱炉の灼熱。
ふとしたきっかけを見つけたそれは、あふれて外に噴出したのだ。
「テメェ、相棒を信じてねぇのかよ。
命預けた相棒を、まるで信じてねぇってのかよ」
『そのようなことは言っていません。客観的事実を述べたまでです。
マスターは依然、心身共に危険な状態にあると』
「キャッ、カン、テキ、事実…そうかよ。
そいつを信じるお前からしてみりゃ、俺の相棒もよぉ…シモンもよぉ、死んでるって言いてぇのかもなぁ…だがよぉ!」
クロスミラージュを今度は壁に投げつけ、カミナは吼える。
「あいつは俺の相棒で、俺はあいつの相棒で、相棒同士に全部を賭けてグレン団の旗を立ち上げた!
どこのどいつがなんと言おうが、あいつを信じることだけはッ…あいつの背中を信じることだけはッ…
ぜッ…てェに、やめてやらねぇんだよぉぉぉ―――――ッ!!」
そして殴った。
壁の広告枠にはまっていたクロスミラージュに、拳骨がめり込み音を立てた。
背後の壁面がへこみ、外装の一部が破れる。
時間が止まったように一瞬釘付けとなったクロスミラージュが、はらりと地面に横たわったところに、
カミナはなんとか声を落ち着けて、問う。
「クロミラよ。
お前の言うキャッカンテキ事実とかいうのはよ、
テメェの相棒を見限っちまってまで信じるようなモンなのか?
俺にゃ、さっぱりわかんねぇんだけどよ…」
『……私がマスターを見限ることなど、ありえません』
「言うじゃねえか」
『私もまた知っているのです。マスターのもろい弱さも、ひたむきな強さも。
だから、共に戦うために手の携え方だけを考えるのです』
…なんだ。そういうことかよ。
瞬間、湯に落とした氷が溶けていくようにみるみる理解できてしまった。
この平たいヤツは、こいつなりのやり方で相棒を信じているじゃないか。
信じているから、悪い予想もできるんじゃないか。
そこで一緒に戦うことを考えていられるんじゃないか。
答えを聞けたカミナは、殴ったことがふいにバカらしくなった。
とんだ大マヌケもいいところである。
俺が殴りたかったのは、こいつじゃない。
むしろ、俺の中で言いたいことも言えずにくすぶっている何かだ。(シモンの死を受け入れることで解消される)
あのムカつくドモンが殴ろうとしたのも、今思えばそれだったのだろう。
「すまねえ、お前を殴るのはスジ違いってやつだったな」
『謝罪を受け入れます』
「に、してもよぉ…薄っぺらなクセに硬ぇじゃねぇーか、お前。
殴った手の方が痛くなるなんざ、こいつぁビックリだ」
『私はマスターの相棒であり武器です。柔(やわ)ではありません』
「へっ、口の減らねぇ板ッキレだな。
いいこと思いついた。お前、『鉄のクロミラ』に改名しろ」
『…よくわかりませんが、全力全開でごめんこうむります』
************************************
話している間、いつの間にか発車していたモノレールがF−5駅に到達したのもまた、いつの間にかであった。
一連のやりとりの後、一人と一枚は互いの相棒について話し込んでおり、それは駅に降りた後も続行された。
ドモンが自分で先に行って待っていると言った以上、何があってもここには戻ってくるはずだと踏んでのことである。
せっかちなカミナは行動したがったが、これといって当てがあるわけでもなし。
クロスミラージュを説得するだけの材料は持ちえず、駅員詰め所で結局は時間を潰すこととなった。
シモンのことを何も知らないクロスミラージュに当たり散らしてしまった引け目もまた理由のひとつ。
とはいえ、それにしても限度というものはある。
「遅ぇ…遅いにもほどがあんぞ」
『先ほども言いましたが、彼の反応は付近に認められません』
しびれをきらしたカミナは詰め所を発ち、付近をうろつき始める。
手中のクロスミラージュも、もう咎めはしない。
「テメェで言ったことをテメェで守らねぇヤツぁ男じゃねえ」
『Mr,ドモンはそのようなタイプの人間ではないでしょう』
「…だよなぁ」
『どこかで何かが起こって、それに巻き込まれた可能性があります』
もう、それしか考えられなかった。
あれほどの強さを持ってしても戻って来られない、
もしくは戻って来ないのだから、並々ならぬ事態だろう。
カミナとしては、やられっぱなしのまま黙っている趣味はないから、
このままドモンにいなくなられてはたまらない。
『助けの手が必要かもしれませんね』
「誰が助けになんか行くかよ。
俺はあいつによ、いつまでも待たせてんじゃねぇぞパンチをお見舞いしに行くんだよ」
『では急ぎましょう。高い所から見回せば何かわかるかもしれません』
そのアドバイスに従って駅ビルに入り、エレベーターと非常階段を使用。
最上階からフェンス越しに周囲を見回したカミナはすぐに異変を察知する。
「なんだありゃあ?」
『大規模な火災ですね』
川向こうの街の一角で、不自然な光の集合が目に映った。
街の夜景はカミナにとっても絶景であったが、
高層建築物の合間に見える黄色い光は、逆に見慣れた性質のものであり、
ゆえに、周囲の風景から明らかに浮いていると見てとれた。
そしてそれを何というか、クロスミラージュもよく知っていたというわけだ。
『ですが、逆方向も気になります』
「おうおう、あんなのを前に何を気にするって…んだ、こりゃあ」
言われるがままに反対側を向いたカミナは、やはり不自然を見た。
街の夜景を彩る多数の光が、一カ所だけ…それもかなりの範囲で、ごっそりと抜け落ちているのだ。
さらに、高い建物に上ったからこそわかったことだが、その周辺部だけ、高い建物がまったくない。
それもやはり、周囲から見るに、明らかに浮いた景色であった。
『ほぼ間違いなく、あの中心部で何かが爆発した跡です』
「あんな範囲を…ぶっ飛ばすだと? ガンメンでもなきゃ無理だぞ」
そこまで言って、カミナはひとつの可能性に行き当たる。
まさか、だったが、もとからありえないとは考えていなかった。
あんな破壊ができるケタ外れの武器といったら、
ヴィラルのガンメンが最初の戦いで使った、光を飛ばしてくるアレか、
そうでなければ、これから乗っ取る予定であった、大砲つきの巨大ガンメンか。
だがカミナは知っている。そんなガンメンどもですら目ではない、大グレン団の最終兵器を。
それはすなわち、自分と相棒、ふたつでひとつに合体し無敵となる…
「グレン、ラガン…まさか、あそこに」
『知っているのですか、カミナ』
「ああ、だがよ」
カミナは身をひるがえし、来た道を戻り始める。
どこに向かうかは、すでに決まった。
『カミナ、どこへ』
「たった今、火事が起こってるのはあっちだ。
だったらよ、ドモンの野郎もそっちにいるとは思わねぇか?」
『その可能性は高いでしょう』
「文句はねぇな、んじゃ行くぜ!」
夜はまだ、始まったばかり。
たった今に下されたカミナの決断は、再び彼に朝日を見せるのか。
そんなことは、もちろんカミナの気にするところではなかった。
【F-5/F-5駅・駅ビル/一日目/夜】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(中)、体力消耗(中)、
全身に青痣、左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る)、服は生渇き
[装備]:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式(食料なし)、ベリーなメロン(3個)@金色のガッシュベル!!(?)、
クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4:1/4)
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。
1:なんだか知らねぇが、火事場に突っ込む!
2:グレンラガン…もしかしたら、あそこ(E-6)に?
3:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
[備考]
※E-6にグレンラガンがあるのではと思っています。
※ビクトリームをガンメンに似た何かだと認識しています。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンとヨーコの死に対しては半信半疑の状態です。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。ですが内容はすべてクロスミラージュが記録しています。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※クロスミラージュはシモンについて、カミナから多数の情報を得ました。