アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ12
「ん……」
柊かがみは目を覚ます。
寝ぼけ眼をこすりながら、壁にかけられた時計を確認する。
時計の針が差しているのは6時30分。
あれからだいたい1時間ぐらい寝ていたらしい。
体を伸ばし、ゆっくりと意識を覚醒させる。
そしてかがみの眼の前には一人の少女が倒れている。
少女の名は結城奈緒。さっき散々かがみを切り刻んでくれた人物である。
4つも年下だが生意気極まりない。ゆたかちゃんの爪の垢でも煎じて飲ませたいぐらいだ。
これぐらい静かなら可愛げもあるのだが、とかそんな感想を抱きながらじっと見ていると、
その視線に応える様にしてゆっくりとその目蓋を開けた。
「あ、起こしちゃった?」
「……ひッ!?」
何ともなしに手を伸ばしたら、身体をびくっと震わせて後ずさられた。
その原因は確かにかがみのとった行動なのだが、正直なところちょっと傷つく。
「……怖がらなくても大丈夫よ。もう何もしやしないわよ」
「あ、アンタ……いったい何なのよ」
「何度も言わせないでよ。私の名は柊かがみ……“不死身の柊かがみ”よ」
込み上げる羞恥心を押さえ込んで、わざわざ二つ名をつけて名乗る。
せっかく強い立場にいるのだ。強者を演じておいて損はない。
そこでやっと女の子は思い出したように自分の左目に手を当てた。
「安心しなさい。あんたの左目は無事よ。
……勘違いしないでよね。五体満足のほうが利用価値があるってだけよ」
わざと冷徹に、何でもないことのように振舞う。
どうやらそれは功を奏したようで、奈緒はかがみに対して何も言わず、ただ強く睨みつけるだけにとどまっている。
その視線こそ強気だが、その奥には紛れもない恐怖が映っている。
……まるで木津千里を前にしたかつての自分の様に。
そしてその虚勢を支えているのはきっとあの金ぴかの人の存在なのだろう。
だけど彼はもう――
「フン……ようやく目を覚ましたか小娘ども」
「え……」
姿を現したアルベルトの姿に呆ける女の子。
人間、信じられないことが起きると思考が止まってしまうものなのだ。
そう、アルベルトがここにいるということは金ぴかの人が――彼女の仲間が死んだということ。
けれどアルベルトはそんな感傷などお構い無しに近づくと、その手を少女の眼前に翳す。
「では小娘……貴様の知っていることを洗いざらい吐いてもらおうか。
でなければ……分かっているな?」
* * *
「……なるほどな。あの道化も王を名乗るだけあって眼力は確かだったというわけか」
学校の図書館で手に入れた書物から得た異世界の情報。
“本人が戦う”ということに意味があるという推察。
施設には二種類あり、“当たり”の建物には何らかのヒントがあるのではないかという考察。
そして博物館に弱者の救済措置となる“何か”があるというメッセージ。
それらの情報を手に入れたアルベルトは満足げに頷いた。
正直、予想以上の成果だ。
黄金王は手駒としては最悪だったが、贄としては上物であったらしい。
そしてもう一人の贄――結城奈緒は一通り喋り終わった後、茫洋とした顔つきのまま、部屋の隅でうずくまっている。
よほどあの慢心の王の強さに信頼を置いていたのだろう。
完全に放心状態にあるようだ。
これがBF団であれば情報奪った以上始末するのが普通だが、この少女にはまだまだ働いてもらわねばならない。
「さて、貴様の処分だが……勝者の言うことを聞いてもらおうか。貴様の主の分、ギルガメッシュのまでな」
奈緒の体がビクリと震え、その顔がアルベルトのほうに向けられる。
ギルガメッシュという名を聞いたからだろうか?
その瞳に僅かながら意思が戻ったのを確かめ、アルベルトは口を開いた。
「良いか? 貴様には今から6時間の間に情報を集めるだけ集めてもらう。
勿論ワシらの名前を出さずに、な。
報告は……そうだな、映画館で聞くとしようか」
つまるところ、命を助ける代わりに別行動をとって情報を集めて来い、というのだ。
だがその作戦には呆けていた奈緒にだってわかるぐらい、大きな穴がある。
「……はぁ? アンタ馬鹿じゃないの? そんな事言われてハイハイ言うこと聞く馬鹿がどこにいるってのよ」
あまりに馬鹿らしい提案に恐怖すら忘れて、いつもの口調で話してしまう奈緒。
それもそうだ。ここで奈緒を解放したところで奈緒が約束を守ることなどありえない。
いや、よっぽど律儀でない限り
だがアルベルトは一層笑みを濃くすると、怪訝な表情のかがみに何かを耳打ちした。
「え!? でも……ああ、そういうことね」
「うむ、貴様にはそれだけの力がある」
かがみは覚悟を決めた顔になるとゆっくり歩を進める。
それだけで奈緒の脳裏に先ほどの光景が再生され、無意識のうちに口を抑える。
かがみは髪を二つに束ねていたリボンを無造作にほどくと、奈緒の左手をとり結び始めた。
「ちょっ……何すんのよ!」
「いいからじっとしてなさい。
……黄昏よりも暗き存在(もの)、血の流れより紅き存在(もの)、時の流れに埋もれし偉大なる汝の名において、我今ここに闇に誓わん。
我等の前に立ち塞がりし全ての愚かなるものに我と汝の力もて、等しく滅びを与えんことを……」
ぶつぶつと感情をこめずに呟きながら、リボンを奈緒の左手に巻きつける。
その不気味さに圧され、奈緒が口を挟むかどうか迷っている隙に左腕に黒いリボンが巻かれてしまう。
「……何の真似よコレ?」
「ねぇ、私が言ったこと覚えてる? 『後であなたから受けた痛みを何倍にもして返す』ってやつ」
忘れるはずが無い。
何故なら未だにその言葉を聞くだけで、自分の意思とは関係なく指先が震えるのだから。
怯えを含んだ奈緒の視線を受け、かがみは笑う。
何てことのない笑みのはずなのに、奈緒の背中からは脂汗が止まらない。
「そのリボンに“呪い”をかけといたから。せいぜい気をつけなさい。
さっきの約束を破ったら、その瞬間にあんたがあたしに与えた痛みが何倍にもなって返って来るから」
「はぁ!!?」
「あ、当然だけど外そうとしても同じことが起きるわよ。
命が惜しかったらそのリボンは大切にしといたほうがいいわよ」
友達との別れ際に『車に気をつけなさいよ』とでも言うかのような気軽な口調。
それが逆に奈緒にとっては空恐ろしいものに感じられ、黒いリボンが毒蛇になったかのような錯覚に陥る。
アルベルトはそんな奈緒の様子を愉快そうに見つめ、玄関のほうを指差す。
つまりは先ほどの『柊かがみの特殊能力』も『リボンに篭められた呪い』もすべてはブラフ。
これ以上ないぐらいに真っ赤な嘘である。
首輪にヒントを得たアルベルトが耳打ちによって授けた策を元にかがみが演じた――ただ、それだけのこと。
「何、急拵えにしては真に迫った演技だったぞ。そうそう嘘だと分かりはすまい」
「……それならいいんだけど……」
さっきの戦闘がトラウマになってしまったのだろう。
かがみから見ても可哀相なぐらい奈緒は怯えていた。
確かにあの様子ならリボンを外すことは出来ないだろう。
だが、それでも確実ではないことぐらいかがみにだって分かる。
何らかのきっかけで真実に気付いたり、あるいは怯えを乗り越えれられれば
不利になってしまうのはどう考えても自分達のほうだ。
いくら多くの情報が欲しいからと言って奈緒を解き放つのはリスクが高すぎる。
まるで何かに焦っているようにかがみには見えた。
と、そこまで考えてかがみはその原因に思い当たった。
簡単な話だ。自分の気絶中に何があったかを考えれば答えはおのずと姿を現す。
何故ならば彼が今まで自分から口にした名前は、たった一つしかないのだから。
「……アルベルト、もしかしてさっきの放送で……戴宗って人は……その……」
「フン、貴様には関係の無いことだ」
「ちょっと何よその言い草! せっかく人が心配してるってのに……!」
あまりにも完全な拒絶にカチンと来た。
だがそんなかがみの態度を一笑に付すかのように、アルベルトは葉巻に火を点し、一服する。
「……小娘に心配されるほどこの衝撃のアルベルト落ちぶれてはおらんわ。
どうせワシらの目的は変わらん。貴様が螺旋王を喰えばすべては解決することだからな」
先程以上に強烈な意志の篭った瞳でかがみを見下ろす。
「ヤツが死んだというのなら、生き返らせればいい。
貴様が螺旋王さえ食えば覆水は盆に返るのだ」
当たり前のことのように言うアルベルト。
だが、かがみの18年間染み付いた常識は抵抗を試みる。
「その……ホントに死んだ人を生き返らせることってできるの?
螺旋王が嘘ついてる可能性だってあるんでしょ」
かがみの読むライトノベルでは大抵の場合、“死者復活”は最大の禁忌として扱われる。
それは倫理的な配慮や物語上の制約もあるだろうが、困難極まりないことはれっきとした事実だ。
だがそんなかがみの疑念をアルベルトは切って捨てる。
「それはない。少なくともヤツが最初から嘘をついていない限り、“死者蘇生”……もしくはそれに類するものは可能だ」
その言葉に込められたのは絶大なる確信。
それもそのはず。何故ならばアルベルトの知る戴宗は上海で一度死んでいるからだ。
螺旋王が最初から嘘をついている可能性も無いわけではないが、
そんな自分以外に大して効果があるとは思えない嘘をつくメリットが見当たらない。
それに、だ。
「それに、真偽がどうあれ貴様もワシもこの道を駆け抜ける他はない……違うか?」
そう言われては、かがみは納得する他ない。
そう、すでに賽は投げられた後。
自分たちは下り坂を駆け下りているのだ。
止まれば奈落へ向かって一直線に転がり落ちるほどのスピードで。
最後まで走りきってゴールするしか、自分たちの道は残されていない。
「……それもそうね。
じゃあ、これからの行動を確認するけど……後で映画館に行く以外は今までと変わらないでいいのね?」
「いや、もう一つ変わることがある。
これからは強者に対してこちらから積極的に打って出るつもりだ」
そう断言したアルベルトに驚きの目を向けるかがみ。
その目は物語る。それでは先程話し合ったことと矛盾するのではないか?、と
だからアルベルトはそれに答える。言葉を持って。
「我らは誰よりも早く螺旋王の下へ辿り着かねばならん。
そう――『誰よりも早く』、だ。万が一……誰かが螺旋王を打倒してからでは遅いのだ。
そうなる前に力あるものをワシの手で間引いておく、ただそれだけのことよ」
一見理にかなっているロジック。
だがかがみはどうしても後付けのような違和感を拭えなかった。
もしかして戴宗という人が死んだことでヤケになってるのだろうか?
いや、そんな短絡的な思考はこの男らしくない。
それだったら別の目的があるといったほうがまだ納得が……
「!!」
それは偶然の閃き。
かがみの脳裏に浮かんできたのは一つの答え。
(アルベルトはもしかして……強い奴と戦いたがってる?)
――戦闘狂。
戦いに何らかの価値を見出すものたち。
かがみの読む小説には、しばしばそれに類するキャラクターが登場する。
アルベルトの真意がそうであると考えれば、先程のギルガメッシュへの挑発的な言動も、
敵を作る可能性のある奈緒を解き放とうとしているのも理屈が通る。
事実、黄金の王との戦いに向かう時のアルベルトは生き生きとしていたように思う。
その視線の先にいるアルベルトは泰然と葉巻をふかすと、衝撃波を使いそれを消滅させた。
「……休みすぎたな。では、そろそろ行くぞ」
かがみも続くようにして立ち上がろうとして……そしてやっと気づくことが出来た。
自分が今、どういう格好をしているかに。
「ちょ、ちょっと待って! その……せめて着替えさせて!」
いかに不死者といえど着ている服までは再生の論理の外にある。
先ほどまでは必死だったから気にしていなかったものの、
奈緒の放った攻撃によって胸とかお尻とか年頃の少女として結構際どい所が破れている。
傷自体は再生するため、服の破れた箇所からは白い肌が見え隠れしている。
この格好で他人に会えば“そういう趣味の人”と誤解されてしまう可能性は大だ。
その状態でもしもゆたかとでも再会するはめになったとしたら――死ねる。
不死者といえども死ねる。というかむしろいっそ殺せ。
「……服ならばそのクローゼットにでも入っているだろう。
ワシは先でもう一服しておるからさっさと着替えろ」
顔を赤くしたり青くしたりと忙しいかがみを見ていたアルベルトは
深いため息をつきながら家から出る。
「とにかく適当なトレーナーとか動きやすいものを――」
だが、クローゼットを開けたかがみは思わず絶句した。
「……なんだこれは」
クローゼットの中に入っていたのは明らかに民家にそぐわないような服装の数々。
婦人警官用の服、ナース服にバニースーツ……いわゆる“コスプレ衣装”としか呼べない代物の数々だった。
「……どんな人が住んでたのか考えたくないわね」
その用途を考えると正直袖を通したくないが、背に腹は変えられない。
まさかこんな場所で、しかも殺し合いの最中にコスプレをすることになるとは思わなかった。
そして数々の衣装の中からかがみが選んだのは一番まともだと思われる真っ赤なチャイナドレス。
傍にあった姿見に全身を映してみて失笑する。
こなたならともかく、普段なら絶対にやらないような格好だ。
そういえば後輩の子が言ってたっけ。
『コスチュームプレイは魂マデそのキャラになりきるのが“コツ”ネ!』
だとかなんだとか。
ああ、だったらいっそのことなりきってみせようか。
一匹の化物に。そう、異能者"不死身の柊かがみ"に。
なら思い切って髪形も変えてみるか。
……いっそのこと、ポニーテールとかどうだろう。
『お姉ちゃんは……う〜んその〜……』
『かがみのポニーテール、武士みたいでオトコマエ〜』
2人にそう笑われたのが遥か昔のことのようだ。
――でも決して過去だけのものにはしない。螺旋王の力で、私は全てを取り戻す。
普段の自分ならやらない、友人に似合わないと笑われた髪型。
二度と迷わないという決意と今までの“柊かがみ”に対する決別を形にするように、
妹の形見のバンダナをリボン代わりに髪を結う。
今後のことを考えて予備の服を2、3着ディパックに詰め、家を出てアルベルトのもとへ。。
先程までと衣装を変えたかがみを見て、アルベルトは愉快そうに口の端を吊り上げる。
「ほう……馬子にも衣装ではないが、中々どうして似合っておるではないか」
褒められるとは思っていなかったのか、頬を赤らめ『あ、ありがと』と小声で返すかがみ。
だがアルベルトが真面目な顔つきになったのを見て、同様に表情を引き締める。
「では今度こそ行くぞ不死身の。ワシらには一刻の猶予も無いのだからな」
「わかってる。急ぎましょ」
夕日はほとんど沈み、上空には白い月と星が出始めている。
星に願いを、ではないがかがみは願う。
次に出会う奴らはどうか素直に協力してくれますように、と。