アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ11
◇ ◇ ◇
土左衛門(どざえもん)、という言葉がある。
元は江戸時代におけるとある力士を指す言葉であったが、現代では主に、水死体を表す言葉として用いられている。
そして、ここにも土左衛門が一体。
ぷかぷかと水面を漂う、裸に腰布一枚の格好。
バリッとしていた金髪は力なく萎れ、さらに体は縄によって雁字搦めにされている。
と、不意に締まっていた縄が自壊し、波に揺られるままどんどん解かれていく。
しめしめと、土左衛門が蠢き、縄を完全に振りほどいた。
そのまま岸を目指し、躍動感溢れる力強い泳ぎを見せる。
ここまで自立して動ければ、それはもはや土左衛門ではない。
ただの、パンツ一丁の裸男だった。
「がっ、は…………っく、忌々しい…………なんと忌々しいことか…………」
堤防を上る最中、裸男が念の込められた呟きを発する。
それは悔恨と怒りであるらしく、裸男を包む周囲の空気が、どこか淀んで見えた。
「忘れぬぞ、この屈辱…………なぁ、“衝撃”よ!」
肺に溜まった水を吐き出し、血気盛んに叫び散らしたその裸男は――彼の英雄王、ギルガメッシュであった。
とはいえ、現在の彼に王らしき風格は微塵も残されていない。
衣服を含むありとあらゆる財を奪われ、誇りすら汚され、なお生者としてここに立っている事実。
思い出すだけでも忌々しい、数分前の出来事――
『ではな裸王。来世では、“英雄王”などという不釣合いな二つ名を名乗るでないぞ――
――と、言いたいところではあるが、気が変わった。やはり、貴様はこのまま生かしておくとしよう』
と、死を宣告してすぐ撤回するアルベルト。あれには憤慨したが、それから先の言動がさらにギルガメッシュを苛立たせる。
『ただし、紐は繋がん。貴様は、財と臣下を奪われた哀れな裸の王として、ワシに放し飼いにされるのだ。
屈辱か? 屈辱であろうな。プライドが許せぬというのなら、自害でもなんでもすればいい。ワシは止めん。
が、もし貴様が死んだならば――貴様から奪った財、臣下も含め、無に散るであろうことを心得ておくのだな』
放し飼い。アルベルトの見い出したギルガメッシュの活用法は、なんとも馬鹿げたものだった。
おそらく、アルベルトはこう踏んだのだろう――彼奴は口ではああ言っても、自害より報復の道を選ぶ。と。
あえて敗北感を背負ったギルガメッシュを生かすことにより、復讐者を作る。
復讐者と成り果てたギルガメッシュは、当然アルベルトに逆襲を果たすべく、この会場を翻弄することだろう。
そして、互いに生き残っていれば、いつか道は交わる――ただしそれは、螺旋王へ至る道。
アルベルトがあくまでも脱出を目指すのであれば、ギルガメッシュも同じ道を、別の経路で辿るしかない。
アルベルトはギルガメッシュと再会を果たした際、その道中で掴み得た成果を、今度こそ奪う気でいるのだろう。
無理に反発し、殺し合いにでも興じようものならば、今度は螺旋王の思う壺だ。
かといって、ここまでされて自害に及ぶつもりもない。なにせ、あのときのアルベルトは慢心していたのだから。
『ワシに借りを返したくば、慢心を捨て、駆け上ってくることだ。螺旋王へ至る道を、な。
せいぜい足掻けよ裸王。どれ、貴様の行く末を按じ、ワシがまじないをしてやろう』
そう言ってアルベルトは、簀巻き状態のギルガメッシュを担ぎ出し、あろうことか空に向かって放り投げたのである。
『あいにくと力が制限されておるのでなー! 地球の裏側まで届くことはないから安心せーい!』
空を飛ぶ簀巻きに向けた、別れの言葉。思い出すだけでも腹立たしい。
宙に投げ飛ばされ、ほどなくして水面に落下したギルガメッシュは、どうにか自力でここまで泳ぎ着いた。
いくら童心を忘れぬギルガメッシュとて、自身を縄で縛り、魚の真似事を興じた経験などない。
だけに、この仕打ちははらわたが煮えくり返るような思いだった。
「フゥッ…………ハハ…………ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ絶対に許さんぞぉぉ!!」
生き恥を晒すことを強いられた屈辱感、
財と臣下のすべてを奪われた屈辱感、
簀巻きにされ投げ飛ばされた屈辱感、
そしてなにより、この英雄王を『まぐれで』負かし、放し飼いにしたなどと『思い込んで』、慢心している様が、
ギルガメッシュは許せず、決闘に敗れたことも忘れ、生きて借りを返そうという気を持ち始めていた。
「…………が、それにしても『慢心を捨てろ』とは……我に王を辞めよ、という意味か?
ふん、思いあがるなよ“衝撃”。捨てはせん、が、次に貴様と相対せしときは――慢心せず、しかし王として、殺してやる」
“雑種”ではなく、しかし“アルベルト”までは届かず、“衝撃”という二つ名に対し宣戦を布告する。
彼は知らない。アルベルトがギルガメッシュの力量を惜しみ、また宿敵に焦がれていたことを。
風が吹いた。
「――――っへぶし!」
波が凪ぎ、岸に置かれたヨットの帆が揺れ、ギルガメッシュは寒そうにくしゃみをした。
――財、依然腰布一枚。
【E-4/ヨットハーバー/1日目-夕方(放送開始)】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、全裸(腰布一枚)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。【乖離剣エア】【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
0:……寒いな。
1:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
2:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
3:出会えば衛宮士郎を殺す。具体的な目的地のキーワードは【高速道路】【河川】 。
4:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
5:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
6:慢心を捨てる――――?
※地図の端と上空に何か細工があると考えています。
※腰布の詳細はご想像にお任せします。
※自殺用ロープ@さよなら絶望先生は、海に流されました。
※アルベルトがギルガメッシュの生存をかがみや奈緒に黙ったままでいるかは不明。
※D-3路上に、シェスカの全蔵書@鋼の錬金術師が数冊(内数冊は破損)放置されています。
※ほとんど入れ違いだったため、アルベルトもかがみもアレンビーの姿は確認していません。
「……人の気配はしないな」
『ええ、そのようですね』
ドモンとカミナ、そしてクロスミラージュはG-1エリアの駅の出入り口にいた。
あれからG-4からG-1までの沿岸を捜索した彼らだが、とうとうティアナを見つけることが出来なかったのだ。
『もしかしたらですが、マスターは目を覚ましてG-1の駅に向かった可能性もあります』
一通り探し終えたところでクロスミラージュがそう提案し、彼らは駅に向かうことになった。
ひょっとしたら、ティアナが正気に戻ってクロスミラージュと合流するために駅を利用するかもしれない。
そうでなくとも、他の参加者たちとも接触できる可能性もあると考えたのだ。
途中、カミナにモノレールを説明するためにクロスミラージュが再び異文化交流に頭を悩ませた以外は何事も無く――今に至る
「空振りってわけか」
『どうやら、マスターは南側の沿岸には漂着していないようですね』
「しかし、どうする?お前たちが溺れたという時間からもうかなりの時間が経っているんだろ。
もし目を覚ましているなら、一箇所に留まっているとは考えにくいんじゃないか?」
確かにドモンの言う通りだと、クロスミラージュは考える。
さらにティアナの精神状態は、正気に戻ってないとしたら極めて不安定な状態のはずだ。
どんな行動に出るのか、まったくといっていいほど予想が出来ない。
――最悪でも、海を眺めて落ち込んでいてくれればいいのですが。
「おうおう、それがどうしたって言うんだ」
返事のないクロスミラージュに対し、カミナが安心させるように笑いかける。
ビシッと親指を立て、引き締まった自分の胸を指す。
「約束してやっただろう、俺が必ず会わせてやるって」
『……カミナ』
「俺様を誰だと思っていやがる。ちったぁ安心しろ」
まったく根拠の無い慰めだったが、クロスミラージュは不思議と安心した。
ここに放送で仲間の名前を呼ばれても、仲間の無事を信じて疑わない男がいるのだ。
ならば自分も、仲間の無事を信じないでどうするというのだ。
■
G-1駅は、クロスミラージュの知っているD-4駅と似通った造りをしていた。
大まかな構造は違うが、自販機などの共通する部分は多い。
そしてその共通する部分である駅員の詰め所の中に、カミナたちはいた。
D-4駅と同様に存在したデスクの上に、カミナはデイパックから地図を取り出してデスクの上に広げる。
クロスミラージュを地図の隣に置き、これまたD-4駅と同様にあったソファにドカっと座った。
「クロミラ、こんな所でどうするんだ?ティアナを探しに行くなら、道草食ってるわけにゃいかないだろ」
『いえ、別に何もしないわけではありません。
私たちがモノレールを利用するためには、18:00まで待たねばなりません。
その待ち時間を利用して、それぞれが持つ情報を交換しようと思うのです』
「……そうだな。考えてみれば、俺たちはまだこの会場に来てから何をしていたかを話し合っていない」
詰め所の壁に背を預けていたドモンが同意する。
ドモンは既に何人かの参加者たちと接触し、ファイトをしている。
その中の何人かは、ひょっとしたらカミナやクロスミラージュの知り合いだという可能性もある。
――傷の男のことも、何か知っているかもしれんしな。
『ではまず、私からお話しますね』
■
クロスミラージュは話し合った情報を整理しながら、チカチカと赤い発光部を光らせる。
それぞれの知り合いを初めとして、危険人物の情報など様々な情報が集まった。
その中に、幾つか引っかかる事があった。
『カミナ、Mr.ドモン。もう一度、不可思議な移動をした時のことを話してもらっていいでしょうか』
「おう、いいぜ」
カミナはソファから立ち上がり地図の東側――森林になっている所に指を落とした。
それから指を地図から離し、今度は西側――海になっている所に指を落とす。
「俺が居たのは、森の中だったはずなんだ。
ところがちょっくら走ってたら、いきなり海の中だ」
「俺もカミナと似たようなものだ。
少なくとも近くに高速道路や川のある所にいたんだが、気がついたら森の中だ」
今度はドモンが地図の北側――本人が言ったように高速道路と川がある周辺に指を置く。
そして地図から指を離し南側――森になっている所に指を落とした。
『……単純に考えるなら、会場の端と端は繋がっているということになりますね』
「単純もなにも、間違いないだろう」
当たり前のように、ドモンが言う。
その横でカミナがなるほどと納得していることから、彼らの中ではもう決定事項なのだろう。
かというクロスミラージュも、実はそれほど疑ってはいない。
『しかし、そうなりますと』
「そうなると?」
『……マスターがどこに流れ着いたのやら』
あー、と。困った感じの声がカミナから漏れる。
もしティアナが西側の端まで流されていた場合、東側の森の中に移動したことになる。
溺死の心配は無くなるが、合流することを考えると余計に捜索する範囲が広がったことになる。
『……マスターとの合流を後回しにして、Mr.明智との合流を優先するべきかもしれませんね』
「あん?クロミラ……てめぇ、それでいいのか」
『あまりにも捜索する範囲が広すぎます。Mr.明智と合流して、人手の確保を』
ガンッ、とデスクに置かれたクロスミラージュの真横から、強い音が響く。
怒りの形相を浮かべたカミナが、デスクを拳で強く叩きつけたからだ。
■
何故怒っているのか、正直なところカミナ自身よく分かっていなかった。
クロスミラージュがティアナとの合流を後回しにすると言った時に、急激に怒りが沸いてきたのだ。
『……どうしたのですか、カミナ?』
「分かんね」
『……カミナ、落ち着いて下さい』
「分かんねぇ、分かんねぇんだけどよ。クロミラ、お前本当にそれでいいのか!?」
理由の分からない怒りに任せて、カミナはクロスミラージュを怒鳴りつける。
何が言いたいのかなど自分でも分かっていないが、喋らなければ気が済まなかった。
「お前の『ますたー』、あーっと俺で言うと弟分がな!どっかでピンチになっているかもしれないってわけだ!
なのにお前は、後回しにするだと!捜索する範囲が広いだと!
男ならな!草の根分けてでも自分の女ぐらい探し出せってんだ!」
カミナは喋りきって荒くなった息を整え、それからやっと自分が叫んだ内容を理解した。
そして自分が唐突に怒りだした理由を、なんとなくだが分かってしまった。
――なんだよ、おい。
――つまり何か、俺は自分で見たものしか信じないとか言いながら。
――シモンとヨーコが死んだってことを、信じまってるのか?
『……カミナ』
「うるせぇ!」
弱気になる心を叱咤するように、カミナは怒鳴った。
デスクから拳を離し、八つ当たりに近くの壁に拳を叩く。
コンクリートの壁は、特に音を立てるでもなくそのままだ。
「おい」
「……うるせぇって言ってるだろ!」
「歯を食いしばれ」
sienn
これって削除依頼だろ
どういう意味だ?
そう思った瞬間に、いつの間にか近づいていたドモンの拳がカミナの顔面を捉えていた。
カミナの体が軽く浮き、詰所の床を転がる。
『Mr.ドモン!』
「安心しろ、軽く活を入れただけだ」
ドモンはたいした事ではないといった涼しげな表情で、カミナを見据える。
カミナの方は、何のコメディか。転がった結果、逆立ちのような格好で壁に背中を預けていた。
「テメェ!何しやがる!」
「言っただろ、軽く活を入れてやっただけだとな」
「この野郎っ、今のでさっきの借りは無しだ!」
カミナは逆立ちのような姿勢から素早く体勢を立て直し、拳を握り込んだ。
対するドモンも、好戦的な笑みを浮かべて構える。
「貸し借り無し!そんで俺はテメェがムカつくからぶん殴る!」
「面白い!やってみろ!」
カミナが突っ込み、ドモンがそれを迎撃する。
戦うのに適しているとは言いがたい詰め所の中で、こうして戦いの火蓋が切って落とされた。
■
クロスミラージュは急激な展開についていけず、ポツンと取り残されていた。
カミナとドモンは暴れに暴れ、今や詰め所の内部は見るも無残な状態だ。
そんな中でクロスミラージュが置かれているデスクは、二人が気をつけているのか奇跡的に無傷で済んでいる。
『……どうしましょう』
クロスミラージュはカミナの強がりに安心し、するべき配慮を忘れていた自分を悔やんでいた。
カミナを怒らせたのは、間違いなくクロスミラージュの不用意な言葉だろう。
一度自分は解体してもらった方がいいのではないかと、クロスミラージュは真剣に悩んでいた。
「威勢はいいが、守りが甘いな!」
「うるせぇってんだろ!大人しく殴らせろ!」
クロスミラージュの目の前で、相も変わらずカミナとドモンが殴り合っている。
見る限りカミナも頑張ってはいるが、ドモンの方が優勢のようだ。
カミナの身体には無数の青あざが出来ているが、ドモンの方は綺麗なものだ。
――お互い殺す気ではないようですし、折を見計らって止めに入れば……!?
そう考えた矢先に、クロスミラージュの思考はフリーズすることになった。
ぶちキレたカミナが、デイパックから剣を取り出したからだ。
『カミナ!流石にそれは』
「ふむ、ならば俺は」
ドモンは特に動揺するでもなく軽く足を動かし、足元に転がっていた『紅い槍』を手元まで蹴り上げて手にする。
――デイパックに入っていたはずのその槍が、なんで床に転がってるんですか!
どうやらクロスミラージュが考え込んでいる間に、既にただの喧嘩ではなくなっていたようだった。
「これを使わせてもらおう」
ドモンの言葉にカミナの返答はなく、カミナはただ剣を鋭く構える。
ドモンは槍を三振りほどして調子を確かめ、同様に鋭く構えた。
いつの間にか、詰所には緊迫した空気が漂っていた。
『二人とも、そろそろいい加減に!』
「人のモンをっ!」
クロスミラージュの静止を切欠に、動いたのはカミナだった。
素早く踏み込み、左肩の痛みを堪えて上段から袈裟懸けに剣を叩き込もうとする。
「勝手に使ってるんじゃねぇっ斬りぃぃぃ!」
「甘いな!」
クロスミラージュは自分の見たものが信じられず、思わず自己診断プログラムを走らせた。
間違いなくカミナより後に動いたはずのドモンが、カミナより素早く踏み込んでいたのだ。
ドモンはカミナを見上げるような低い位置に入り込み、紅い槍をカミナの顔元に向けて槍を突きつける。
『カミナ!避けて下さい!』
回避は不可能だと思ったが、叫ばずにはいられなかった。
そして次の瞬間、クロスミラージュは自分の見たものが信じられなかった。
「なぁっ!」
『……信じられません』
カンッ、と乾いた音がして、カミナの持っていた剣が手から弾き飛ばされていた。
ドモンはあの体勢から、まるでビリヤードの玉を突くように紅い槍でカミナの剣の柄を突いたのだ。
カミナの剣を振り下ろすタイミングに合わせ、しかも異常なスピードで正確に剣の柄を突いた離れ業。
間違いなく、常人の出来るものではない。
「っ!そんなんでな!」