アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ10
暗いトンネルに立ち込める臭いが、天才の鼻を刺激する。
列車がレールの上を走るときに撒き散らすような――鉄がわずかに焦げる時のソレ。
列車の中を掃除するときに湧き出てくるような――土埃が舞う時のソレ。
列車で先日許されざる者へ贄の洗礼として放った――薬莢が飛び出した時のソレ。
職業柄、常人以上の嗅覚を持つ彼にはこの三重奏が少しばかり鬱陶しいようだ。
彼の掻傷からポタリと滴り続ける赤い独奏はすっかり脇に追いやられてしまったらしい。
天才は手探りを交えながら、仲間の知り合い『だった』物の側まで歩いてしゃがみこむ。
そしてネズミを仕留めた猫のように背中を丸めると、それをまじまじと見た。
千切れたコード、破損した電子回路、歪曲して疲労を起こしている金属の断片……
誰がどうみてもゴミの塊だった。『彼』の知り合いが見れば誰もが『彼』だとわかるゴミの塊だった。
天才の観察につられるように、背後から2名が近づいてきた。
片や獣の野良猫はその残骸に天才よりも接近し、片や女の下手人は凶器を抱え、観察し始めた。
生まれて始めて身内の葬式に参列した時のように。感情の向けどころがわからぬ幼児のように。
* * *
* * *
「なんで? 」
声を挙げたのは、ミーに止めを刺した八神はやてだ。
足先から脳天まで……彼女は震えていた。
肢体の微弱なアップダウンが、引き金に掛かった指先と砲身を抱えた腕を遊ばせている。
H&K MP7が彼女の拘束から自由の身になるのも時間の問題だろう。
「……私、な、何をしなひゃぁッ!? 」
はやてが二言目を発しようとしたその時、彼女の体が突き飛ばされる。
彼女が持っていたH&K MP7、支給品一式を入れたディバッグも解き放たれて宙を舞う。
体勢を整えるほどの心的余裕は今の彼女には当然無く、大きく尻餅をつくのは自然なこと。
対して彼女の所持品は彼女の前方に飛び出し、同じく前方にいた一人と一匹の側に中身を吐き出しながら落ちる。
だが八神はやては闇の奥へ進む自分の持ち物にも、尻餅をついた自分の体にも興味を持つことは無かった。
彼女の思考を今もなお奪い続けているのは、ミーの成れの果て。
そして彼女の前に立ち片腕を盾にする自称婚約者、クレア・スタンフィールドと彼の片腕に工具を突き刺す野良猫・マタタビの対峙。
「……本当に刺すつもりは無かった」
「わかるさ。俺が前に出てはやてを庇ったからだろ? 」
「脅し。あくまで問い詰める手段に過ぎなかった」
「それもわかる。俺もそうしようと思ってた」
「納得のいく動機が知りたかっただけだ」
「動機? まるではやてがあいつを……あ〜『ミー』だったか? 始末したような言い草だな」
「死体がある。その死体の死因を引き起こしたと考えられる武器を持っている奴が、間近にいる。疑わねーのか? 」
「疑うさ。『普段』はな。だがそれは有り得ない。なぜなら俺がそう思っているからだ」
クレアの言葉がマタタビの手に、より力を込めさせる。強く握られた工具が、クレアの傷口から更に血を漏らせた。
触発された感情は、友の死に対する怒りなのかズレた持論を語る相手への呆れなのか。
わかっているのは、今のマタタビは知人の死を冷淡にあしらうような現実主義者ではないこと。
仲間との別れが当たり前だった野良猫時代に研がれた牙は、ミーとその仲間たちと出会いで磨耗していた。
傍目から見ればその牙は、ちょっと気難しく義理人情に厚い猫の八重歯に成り下がっていた。
「……成る程その性格だ。どうやらテメーには、他人の気持ちを汲む思いやりってものが」
「あるさ。俺だって人の子だ。同僚が殺されたら同僚を殺した奴を殺す。はやてが殺されたらはやてを殺した奴を殺す」
「この工具、そのまま腕を刺し貫いてやっても拙者は構わんぞ。その前に抜き取れるのならな」
「凶器と考えられる銃も、はやての道具もお前のすぐ側に落ちてるじゃないか。というか、俺がそうさせたんだが」
「だったら余計に引き下がれねえ。お前たちは入り口側。調べている間に逃げられたら冗談じゃない」
「わざわざ証拠品をそっちに渡したんだぜ? 普通ならそれで身の潔白を証明したようなもんだろう」
「『普通』ならな。だが車掌兼殺し屋が素手で猫を殺せないわけがあるまい」
「良くわかってるじゃないか。俺ならこの状況でもお前を口封じする事は可能だろう」
「……拙者には貴様かあの女のどちらかがミーを壊した、と妄信するつもりはない。
まずこのトンネルにいるという事実にすら、何ら説明がつかないんだからな」
「ああ、このトンネルは確か地図に載っていたな。そもそも俺は一度ここにいたんだ。温泉からそう遠くない距離にあった」
「距離の問題じゃない。拙者たちはいつからここにいた? そしてミーは何故死なねばならなかったんだ?」
「死んだのは間違いなくこのトンネル内だな。超絶な俺の鼻が曲がりそうだ」
「第三者の介入は考えられん。拙者たちの隙をつけるのなら最初に狙うのは女のはやてか猫の拙者、そして人間の貴様だ」
「俺たちの事を知っている第三者なら、殺すのに一番手間がかかりそうなミーを始末するのは余計に変だしな。
俺は殺られるわけがないし、この俺がはやてをむざむざ見殺しにするはずがない。だから殺されるとしたらお前だ」
「そうだ、だからこそはやてが犯人、もしくはお前との共犯と考えたほうが筋が通る。
はやての事を一番よく知っているのは、他ならぬ連れてきたお前だ」
「このトンネルにいつのまにか俺たちがいたのも彼女の仕業か? それはどう説明をつける? 」
「種がわかれば……唯一絶対の強者のクレア様なら努力して出来る、じゃないのか」
マタタビの言葉がクレアの腕に力を込めさせる。刺さった工具が、傷口から更に血を吐き出させた。
してやったり顔のマタタビに対する彼の感情は侮蔑なのか。否、彼は笑っていた。
原因は自分が天才だったことを一瞬だとしても忘れていたことへの自嘲なのか。
それ以前に、突然トンネルに飛ばされた自分の境遇か、それともフィアンセ(予定)の凶行の嫌疑による混乱か……。
天才の思考を考察するにはあまりにも不毛な論理だが、重要な事項ではないのでここで割愛する。
わかっていることは今のはやてが、クレアが、マタタビがミーの死に準じた行動をしていること。
そして、掛けられていた呪詛の命令のままに行動していないということ。
「はやて! 」
「……は、へ」
「今すぐこのトンネルから出るんだ」
「え、え、え!? 」
「なに、すぐ終わる。血生臭い真似はしないさ。君は人殺しをするような女じゃないからな」
クレアはにこやかな表情で首を後ろに回し、腑抜けていたはやてに呼びかける。
その笑顔は新婚夫婦が朝に『行ってきます』のキスを交わしそうなほど穏やかなものだった。
その笑顔が彼女の瞳にどのように映ったのかはわからない。
しかし鶴の一声のように、はやては光のさす方へ駆け出した。ただひたすら、真っ直ぐに。
「……出鼻をくじかれたな。クレア、貴様が共犯だとしても、武器を振るう意欲がすっかり萎えてしまった」
「悪く思わないでくれよ。はやてを庇いながら俺がお前と一戦交えて勝利するのはわけないが、
それだとはやてか俺がミーを始末したという嘘の事実を認めたことになる」
「どこまでも自分本位な野郎だ。結局自分の思うがまましか信じてねぇだけだろうが」
「そうさ。強者だからな。この世界が俺の思い通りにならないはずがない」
「これだけ判断材料が揃っていても、はやてが直接的にも間接的にも全くの白だと思っているのか? 」
「……証拠も推理もクソくらえだ。俺が無実だと言っている。彼女は白さ」
「そうかい、じゃあこれからテメーをじっくり尋問させてもらおうか」
マタタビはクレアの腕から工具を抜き取り、はやての持ち物を一つにまとめあげる。
勿論、クレアへの警戒を怠らぬまま。時計の秒針よりもゆっくりと。
「好きにしろよ。だがなマタタビ俺は……いや、俺たちは絶対にやっていない」
「あーへいへいわかったから、とっととはやてを連れ戻してきてくれ。
そのかわりもう一回拙者をハめやがったらただじゃおかないからな」
「好きにしろよ。あ、そうそう。これは返してもらうぜ」
クレアが右と左のそれぞれの手で何かを見せびらかす。
マタタビはそれがついさっきまで自分の手元にあった物だと気づき、ハッとする。
H&K MP7、そしてフライング・プッシーフットの制服がいつのまにかクレアの手元に移動していたからだ。
「……いつの間にくすねやがった! 」
「はやてを迎えに行くのに手ぶらはアレだろう? 服も乾いたしな。
ほら、他の荷物は預けといてやるよ。それにこれは元々彼女が持ってたもんだ」
「あーわかったわかった! 今のが最後のチャンスだからな!
拙者が馬鹿だったって事で勘弁しておいてやるからさっさといっちまえ! 」
「じゃ、俺ははやての所に行ってくる。まだ遠くには行っていないはずだからな――」
* * *
支援
元来たトンネルの入り口に向かって一人の女が走っている。彼女の名は八神はやて。
彼女が走っている理由は、彼女自身にもよくわかっていなかった。
と、いうよりも今の彼女には何から何までが理解不能だった。
自分が温泉にいたまでの事は覚えている。自分以外に誰があそこにいたのかも覚えている。
だが、その後の記憶が無い。
気がつけばトンネルの中にいて、クレアとマタタビがいてミーの残骸があって、自分は弾切れの銃を持っていた。
そして目の前にいる猫と男が押し問答を始めて、自分はトンネルから出るよう指示された。
だが、それでも今の自分は――この走っている自分の体の動きを、はやてはまだ把握していないのだ。
自分はこれからどうすればいいのか、何をすべきなのか。それすらちゃんと思考されていなかった。
それは、クレアの言葉が突き刺さっているからなのかもしれない。
――君は人殺しをするような女じゃないからな――
頭の中で色々な過去の情景が小麦粉入りカレーのようにグチャグチャと混ざり合う。
自分がやってしまった過ち。悲痛に悶える少年。あざ笑う神父。割り切って蓋をしたはずの過去が脳幹を濡らす。
そして浮かび上がる、無邪気なサイボーグを自分が崩してゆく妄想。
幼きころから死線は味わっていたはずなのに、身に覚えが無いような有るような……曖昧な『悪しき行為』。
そう、まるでそれはかつて自分が起こしてしまった……
「あかん! 私は何をしとるんや。大事なのは今や! まだ、全てがそうと決まったわけやない! 」
だがはやては『狸』だ。助けを待つのに疲れる日々を送る、古城のお姫様ではない。
いつまでも腐っていくつもりは毛頭無いらしい。彼女は立ち直り改めて考え始めたようだ。
自分の状況を整理する為に、常闇に煌く明晰な頭を使って。
(私はそもそも全部がわかっとらん。ミーに覚えが無いことをヤッたとは考えたくない。
戻るべきや! 2人とこ戻て、なんとかして身の潔白を訴えるべきやろ!
もし犯人が私ら以外の人やったら、トンネルにいたのも何かの魔法やもしれへん。とりあえず2人の所へ――)
ふと、はやては立ち止まった。
定理の証明法を閃いた数学者のように、妙案を閃いた策士のように、体の背筋をピンと伸ばして両目を大きく開いた。
そして両目は、まるで充血したかように緋色に染まってゆく。彼女の眼球の黒も白も、まるでフィルターを被せたようだ。
「せや」
はやては突然ぐるりと体を捻らせ、トンネル内を走りだし、そのまま入り口から飛び出した。
そしてすかさず右手を額にかざして、この世界の中心部を見つめながら、A-7からH-7まで伸びる道路の上を走り出した。
その瞳から読み取れる感情は無垢。覚悟を決めて思考停止させた尖兵のソレではなく、単純思考で出来た電脳人形の眼だった。
「エリア中心部に行かな」
【G-7路上/一日目/日中】
【八神はやて@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康、強い決意、上下の下着無し(下はタイツのみ着用)ギアス
[装備]:無し
[道具]:
[思考] 基本思考:力の無いものを救い、最終的にロージェノムを逮捕する。
1:『エリア中心部に行き、他の参加者に接触し、使えそうならば我々の仲間に誘う。我々に害を為すようなら排除する』
2:突然の事態の困惑。ミー殺しの無実をマタタビとクレアに伝えたい。
3:クレアの求婚に困惑。変な気持ち。でも人殺しをしてしまったので、クレアへの良心の呵責。
4:慎二の知り合いを探し出して、彼を殺した事を謝罪する。
5:読子達にデイパックを返したい
[備考]
※ムスカを危険人物と認識しました
※シータ、ドーラの容姿を覚えました。
※モノレールに乗るのは危険だと考えています。
※言峰については、量りかねています。
* * *
はやてに遅れること少し。
トンネルを抜けようとしている人物がいた。
多くを語る必要は無い。その人物は言うまでもなく、先ほどマタタビと一緒にいたクレアだ。
「おっ光が見えてきたな……本日2度目の脱出だ。はやてはどこに行ったんだ……? 」
……物事には『始まり』と『終わり』が存在する。
形あるものには崩壊があるように、生きるものには死があるように。
そして、物事には『始まり』と『終わり』について何かしらの『ルール』がある。
これからあることについて唐突に語る事をを許していただきたい。
『エリア中心部に行き、他の参加者に接触し、使えそうならば我々の仲間に誘う。我々に害を為すようなら排除する』
絶対的能力による制約にも『始まり』と『終わり』はあるという事を。
では、このルールの『終わり』とは何なのか。
八神はやて、クレア・スタンフィールド、マタタビが起こしたこれまでの行動は、
『エリア中心部に向かう途中でミーと半ば強引に呼び止められ接触。彼の忠告を“害”とみなし排除した』ことだ。
つまり、上記のルールを『一通りこなした』、と考えられる。
だから彼らは制約から解放されたのではないか。制約中での行動を全て忘れさり、正気に戻ったのではなかろうか。
全てはルルーシュ・ランルページが宣告した命令が一息だったから。
『エリア中心部に行く』『他の参加者に接触する』『使えそうかどうかを判断する』が別個の命令としては成立していなかったのだ。
ルルーシュ本人の真意はわからない。
だが、命令を下していた当時の彼が酷く憎しみに染まり一時の感情で激昂していたのは事実。
彼にとっては、命令の細分化的判断はさほど重要ではない、という意識がどこかにあったのかもしれない。
そもそも、この点において螺旋王による何らかの介入があったのかもしれない。
また、ギアスという能力には、その利便性と応用性に富む能力ゆえにしばしば効果への『ひずみ』が生じる。
それはギアスをかけられた本人に命令を効かないという意味ではない。
ギアスを掛けられた者がギアスによる命令をこなした後の反応がまちまちであるということだ。
『死ね』『殺せ』という、生死を持ってでしか完結しえない命令ならばまだしも、
『喋るな』『アイツを自分のところを差し出せ』『真実を話せ』『生きろ』といった抽象的な命令をかけられた者は、
命令をこなした後に、正気に戻り我に返るのだ。
ようするに今回ギアスにかけられた2人と一匹は、後者だった。
つまり先に述べた条件をこなせばいつでも本来の彼らに戻れるということだ。
だが、これは『終わり』ではない。
「……ん〜こりゃはやての奴、トンネルの外まで行っちまったのか。行くとしたら温泉か? 」
この場合、ギアスの命令をこなした彼らが一度本来の彼らに戻ったとしても、何らかの条件を満たせばギアスはまた発動するのだ。
一度、一連の行動をこなしまた正気に戻ったとしても、また何らかの条件を満たせば再度ギアスの命令をこなす為に動く。
あくまでギアス自体が解除されたわけではないのである。
「応援で温泉にいた奴らを連れてこようとしているのかもしれない。 まぁいい。急いで温泉に向かい彼女をつれ戻さ――」
そしてその再発動、つまり『始まり』の条件とは、
“誰かに会う為に自分が目星をつけた目的地に行こう”という一連の思考をした時ではないだろうか。
「そうだった、俺はやらなければならない事があったんだ」
……これはむしろ『終わりが無いのが終わり』と言うべきである。
勿論ギアスにかけられている間の彼らの記憶は残ることがないので、本人達が気づくことはない。
まるで夢遊病患者のように、彼らは自らが引き起こし続ける現実を受け入れるしかないのだ。
その呪縛には治療の余地はあるかもしれないが、ギアス自体の解除、という完治に到達する可能性は極めて低い。
だが、最も注意すべきはギアスによる全ての命令がこの可能性に当てはまることは、断じて無いということだ。
あくまで今回、ルルーシュ・ランルページが温泉で2人と一匹にかけたギアスへの、可能性のみに特化して述べたと考えてほしい。
「エリア中心部に行かないとな」
【H-7トンネル入り口/一日目/日中】
【クレア・スタンフィールド@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:疲労(少)、右腕負傷、自分への絶対的な自信 、ギアス
[装備]:フライング・プッシーフットの制服(下着無し)
[道具]:セラミックス製包丁@現実 、H&K MP7(0/40)+予備弾40発@現実、バスタオル
[思考] 基本:脱出のために行動する 、という俺の行動が脱出に繋がる。はやてと結婚する。
1:『エリア中心部に行き、他の参加者に接触し、使えそうならば我々の仲間に誘う。我々に害を為すようなら排除する』
2:はやてをマタタビのいるトンネルに連れ戻し、彼女のミー殺しへの無実を証明する。
3:自分たちがトンネル内にいたことに疑問。
4:モノレールとやらに乗ってみたい。名簿に載っているのが乗客なら保護したい。
5:はやての返事を待つ。
* * *
「……お前の支給品は拙者が預かっておく」
トンネル内で一人壁を背にして座り込むマタタビは知人『だったもの』に話しかけた。
その知人は、これまで日常と非日常の境目を共に生きてきた一人。
『仲間』というには程遠く、どっちかと言えば厄介事を持ち込んで自分を巻き込んでくる、はた迷惑な『隣人』だった。
だがそれは知り合ってから充分に年月が流れ、その上でマタタビがなんとなく感じたこと。
共通する敵の為に一緒に戦ったこともあるし、トラブルを一緒に解決したこともあった。
そしてその場には……いつもクロがいた。
そもそもマタタビとクロを引き合わせたのは他ならぬミーとその仲間であるコタロー&剛万太郎博士である。
どんなにマイペースで自分勝手に生きていたマタタビでも、
野垂れ死ぬところを一食一般の恩義で救ってもらった時の義理をマタタビが忘れることは無かった。
気が向けばいつでもクロと戦える。
クロが居候をしている家で大工稼業に勤しむことが出来る。
気がつけばクロの家で居候させてもらっている。
五月蝿くても、彼を仲間だと言って信じてくれる同胞が集まってくる。
彼がその全てを得たのは、ミーたちと出会ったから。
全ては――『平穏』だった。
螺旋王によって集められたこの状況も、言うなれば日常だとマタタビは割り切っていた。
大したことでは無い言わんばかりに、クロとミーが好き勝手して、滅茶苦茶にして、自分を時折巻き込んで、全てを終わらせる。
それが、マタタビがこれまで考えていた率直なイメージだった。
だが、そうではなかった。
「何故だ……第二回放送で決まった禁止エリア!? キッドが死亡!? もうとっくに昼は過ぎているだと!? それに……! 」
彼を巻き込む2つの台風は、すでにこの世から消えていた。
平穏を提供した知人は目の前で果てていて、唯一無二のライバルはどことも知れぬ場所で死んでいた。
「なぜキッドの奴が持っていたはずの“コレ”がここにあるんだ……」
マタタビはクレアの鞄から取り出したビンを睨む。
中に入っている目の玉が、標本のように中で揺れている。
この目玉の持ち主はマタタビであったが、現在の所有者はクロだった。
遡ること数年、ささいな事で縺れたクロがマタタビの目玉をえぐり取ってしまった。
マタタビは目を諦めたが、クロはその目玉をこっそり回収し、大切に保管していた。そして彼はある日マタタビにこう言ったのだ。
――この目玉、返して欲しいか? ヘヘッ返して欲しけりゃ自分の手でオイラから奪ってみろよ――
だがそれ以来、取り替えそうと思っても、マタタビは未だにクロからこの目玉を取り返せてはいなかった。
それが、今ここにある。クレア・スタンフィールドのディバッグの中に入っている。
「クレア……! 」
目玉との有り得ない再会に、マタタビは考える。
クレアがこれを持っているということは、彼がクロと会ったことがあるということだ。しかし彼はその事をマタタビに話さなかった。
クレアがクロに何かをした、とは考えにくい。
クレアが奪ったのなら置き去りにするはずがないし、捨てているだろう。
クロがクレアに目玉を託したのならば話すはずだし、後から温泉にやってきたミーと知り合ったのならば、なおのこと。
マタタビがクレアと出会ったのは第一回放送が流れた直後であり、そのころはクロはまだ死んでいなかった。
覚えの無い走り書きを信用するのは不本意だが、クロが第一回放送と第二回放送の間で死んだとしたらクレアにはアリバイがある。
席を外す時があっとはいえ……。
「……ヤれたとしてもクレアにキッドを殺す時間があっただろうか?
それにこの血まみれの人間の女モノの下着は……!? 」
マタタビは自らの記憶を思い出す作業にかかる。
クレアが最初に戻ってきたとき、彼は『彼女』を引き連れていた。
それから、席を外す度に『彼女』が側にいた。
結婚しようだの愛するだの浮ついた言葉が飛びかい、彼女が公衆の面前で醜態を晒していたのは記憶に新しい。
だが、あの時に怪しい素振りはなかった。つまりクレアにクロを殺す機会はない。
ということは消去法で残るは彼女だけ。彼女がクレアに罪をなすりつける為に、
自分の目玉をクレアに渡した(プレゼントと称するか、こっそりバッグにいれたか)と考えるべきだろう。
そもそも、彼女がクレアと出会う前にどこで何をしていたのかはわからないのだから。
そして今、彼がはやてのバッグから発見した血に染まる赤い下着。
これらから考えても、良からぬ発想はいくらでも可能だ。
「……いや待て。あの書置きは確かにキッドの字だった」
マタタビが最初に彼女に話しかけたとき、彼女はクロの書置きを自分に見せてきた。
それは紛れもないクロの字。つまり、クロがはやてを信頼していたことは間違いない。
「では……キッドにあの書置きを書かせた後、隙を突いて殺害したとしたらどうだろうか」
彼女が隙を突いてミーを殺したのだとしたら、この考えは一応の筋が通る。
クロを殺せる実力者ならば、ミーを殺することも不可能ではない。
クロからまんまと『お墨付き』をいただいて、虚言をふりまけばマタタビとミーの始末も容易である。
クレアを手玉に取っているのをふまえれば、有り得なくはない。
「だが……引っかかる……」
マタタビは頭を掻き毟る。
やはり自分達がいきなりトンネルにいた事に説明がつかないからだ。
まるで時がふっ飛ばんだような感覚。魔法でも使わない限りこんな事は無理であり、不可能。
この謎への糸口を見つけなければ、これまでの思考は所詮机上の空論だった。
「やはり会って話を聞いてみないことにはな、そろそろクレアが戻ってくるだろうが、待ってられん。拙者も行くか――」
マタタビは荷物を急ぎ足でかき集めると、ダッシュでトンネルを走り始める。
しかし、突然彼は走るのを止めてしまった。そして彼はその場に立ち尽くす。
ただ、ただ、空ろに。まるでその名の通りの植物に酔いしれたかのように。
そして彼は、呟いた。
【H-8トンネル内/一日目/日中】
【マタタビ@サイボーグクロちゃん】
[状態]:健康、ギアス
[装備]:大工道具一式@サイボーグクロちゃん、マタタビのマント@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式×5(マタタビ、はやて、クレア、読子、ミー)食料:缶詰
メカブリ@金色のガッシュベル!!(バッテリー残り95%) 、トリモチ銃@サイボーグクロちゃん、
マタタビの目玉入り瓶@サイボーグクロちゃん、拡声器@現実、世界の絶品食材詰め合わせ@現実、
レイン・ミカムラ着用のネオドイツのマスク@機動武闘伝Gガンダム 、アニメ店長の帽子@らき☆すた
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、血に染まったはやての下着(上下)
[思考]:
1:『エリア中心部に行き、他の参加者に接触し、使えそうならば我々の仲間に誘う。我々に害を為すようなら排除する』
2:強い憤り。はやて・クレアから2人の関係、特にはやてにはクロとミーの死について必ず真意を問い質す。
3:リザを待てないので、リザと接触したい。
4:暇があれば武装を作る。
【ギアス“エリア中心部に行き、他の参加者に接触し、使えそうならば我々の仲間に誘う。我々に害を為すようなら排除する”】
1:一連の命令をこなすと正気に戻る。
2:しかし"誰かに会う為に、(本人が目星をつけた)目的地に行こう”という一連の思考をした時に再びギアスが発動する。
3:その他の情報は不明