アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ10
『――それまでの間、思う存分に闘争を続けるが良い』
どこからともなく聞こえてきた螺旋王ロージェノムの言葉が終わる。
そう、たった今第二回定時放送が終了したのだ。
今まで一触即発の状況に陥っていた二人の青年は睨み合っていたが、放送が始まった事で彼らはメモを取っていた。
勿論、禁止エリアの場所を地図に記しておくためだ。
試した事はないがいくら彼らでも禁止エリアに入れば無事では済まないだろう。
いや、無事に済むわけがない。そうでなければ禁止エリアを設定する意味がない筈だからだ。
ラダムのテックシステムにより、テッカマンとして生きる事を余儀なくされた彼らを。
Dボゥイこと相羽タカヤ、またの名をテッカマンブレード。
Dボゥイの弟にして相羽シンヤ、またの名をテッカマンエビル。
放送が終わり、それぞれ複雑な表情をしている彼らを殺せるくらいでないと、禁止エリアの意味はない。
「ッ! ゆたか!!」
予想以上に多すぎる死者の存在を知り、言いようのない怒りに表情を歪めていたDボゥイ。
ラダムの素体テッカマン選別と同じようなものを感じる、許すことは出来ないロージェノムの行為。
ロージェノムに対する溢れ出す怒りの大きさに、Dボゥイはその時まで思わず忘れていてしまっていた。
以前から危惧していた事態が、一度経験していた出来事がまたやって来たのだという事を。
「そんな…………こんなことって……」
Dボゥイとシンヤの只ならぬ雰囲気に、放送が始まる前から不安そうな表情を浮かべていた少女。
禁止エリアの位置が読みあげられていた時は、彼らと同じようにメモを取っていた少女。
死亡者の発表が行われ、ある一つの名を聞いた時点でメモを落とし、更に彼女にとってもっとも馴染み深い名前が。
その名前が呼ばれた時、声にならないほどの悲しみを知った少女。
陵桜学園高等部一年生、小早川ゆたかがそう言って力なくへたれこんでいた。
只でさえ病気がちで弱弱しいゆたかの身体。
そんなゆたかの身体が余計に弱弱しく、こぢんまりとしたようにDボゥイは見えてしまった。
「嘘だよね…………パズーくん…………」
数時間前に出会い、無邪気に笑っていた少年、パズー。
ゆたかが気を失い、目を覚ました時には既に何処かへ行ってしまったがなんだか友達になれそうな気がした少年。
そんなパズーが死んでしまった事実がゆたかの意識に重く圧し掛かる。
しかし酷な言い方だが、ゆたかはパズーとはほんの少しの交流しか持たなかった仲。
不謹慎ながらもDボゥイはゆたかのショックはそれほど大きくないと思っていた。
勿論、ゆたかが以前に話していた、あの名前を持つ人物の死と較べての話だが。
「…………こなたお姉ちゃん……」
『泉こなた』
確かにゆたかの両耳に入ってきた馴染み深い名前。
これは夢なんだ、そう思ってもあの時感じた、ゆたかの身体の震えはあまりにも現実味を帯びていた。
そう、今も震え続けているゆたかの身体は一向に収まる様子もない。
「ゆたか…………」
Dボゥイがゆたかの名を呼ぶ。
ゆたかを励ますことが出来ない自分を、Dボゥイはとても無力な存在だと悔やむ。
口が達者とは言い難いDボゥイは口を強く噛み締めている。
只、その両眼にはラダムへの憎しみと同じ位の怒りを秘めて。
「Dボゥイさん…………」
そんな時ゆたかがDボゥイの手をそっと握る。
きっと今のゆたかはなにか、自分を支えてくれるものが必要だったのだろう。
こなたが死んだという事実に、震え続ける自分の身体を止めてくれるDボゥイの、暖かい手が今のゆたかにはたまらなく欲しかった。
只、Dボゥイの手を握ってもやっぱり止める事は出来ないものがあった。
放送が終わったときから、いやこなたの名が呼ばれた時からゆたかの頬を流れていた涙は止まる事がなかった。
「なんで……なんで……パズーくんや……お姉ちゃんが…………うぇっ……ひっ……」
頭ではわかっているその後の言葉がとてもゆたかの口から出ようとはしない。
その言葉を言ってしまうと、永遠に涙が出てきてしまうような気がしてしまうから。
そんな涙を流しながら、最後まで喋る事が出来ないゆたかをDボゥイ無言で見つめる。
ゆたかのとても小さな、今の彼女の様子を表しているような小さな手を優しく握り返す。
不器用で無骨なDボゥイにはそれしか今のゆたかにやれることはないからだ。
(お姉ちゃん…………なんで……なんで………………どうして…………ひどいよ……)
止まる様子を見せない涙を流し続け、ボロボロの顔でゆたかはあの夢の事を思い出す。
目を覚ましたときはおぼろげにしか覚えていなかったあの夢の鮮明な記憶が蘇る。
『ううん、ケンカはしなかったな。
でも、ここで“終わり”だと思うと残念かなって』
あの時こなたが言っていた言葉が何度も、何度もゆたかの頭の中で再生される。
あの夢でこなたが言っていた言葉の意味が、今のゆたかにはハッキリとわかってしまった。
認めたくはない、たとえ自分の虚弱体質が治ると餌を釣られても絶対に認めたくはない事が。
そう、こなたは死んでしまったという事。
その事実がゆたかの胸に深く突き刺さる。
その傷はゆたかの小さな胸にはあまりに大きすぎた。
『あ、そうそう。お父さんに伝えといて。“『俺より先にいくな』って約束守れなくてごめん”って』
(ひどいよ…………そんなこと…………叔父さんに言えないよ……そんなひどいこと…………私には言えないよ…………)
いつもこなたを可愛がり、ゆたかにもまるで娘のように接してくれた泉そうじろう。
彼はきっとこなたや自分を探しているに違いない。
きっと碌に寝ずもせずに愛する娘の無事を祈りながら。
もし自分が無事にこの殺し合いから脱出出来た時、自分はそんなそうじろうに対して何か言うことが出来るだろうか?
きっと涙が溢れ、何も出来るはずもない。
精々その場で泣き崩れ、只惨めに泣き続ける事しか出来ない。
そんな自分に、あまりに残酷な事を頼んだこなたの事をゆたかは恨まずにはいられない。
『もっと沢山話したかったよ。もっと色々遊びたかったよ。もっとずっと一緒にいたかったよ。
でもさ……私はここまでっぽいや』
(私だって…………私だってもっとしたかったよ…………お姉ちゃんが大学生になっても、私が社会人になっても…………ずっとお姉ちゃんと笑い合いたかった…………それなのになんで………なんで……)
そんな時ふと、こなたとの思い出がゆたかの頭の中で浮かんでくる。
音楽を聴いていた時、つい気分が良くなり好きな歌手の真似をして歌っていたのを、こなたに見られ、ちょっとからかわれたあの日。
みんなで浴衣を着て花火を見に行って、調子が悪くなったけどとても楽しかった夏のあの日。
そして体育館の舞台の上で、一生懸命に練習したチアリーディングをみんなで成功させた。文化祭のあの日。
そんな心地よい思い出が今では遠い昔の出来事のように思えてしまう現実が、ゆたかにとってはとても悲しかった。
これからももっと重ねていく筈だった思い出のページに、写るべき人がもう居なくなってしまったから。
「ゆたか…………聞いてくれ」
そんな時、身体を震わせながら自分の手を握り、俯きながら涙を流すゆたかにDボゥイが声をかける。
Dボゥイの声を聞いて、思わずゆたかは顔を上げる。
何故ならDボゥイの声が優しかったから。
今まで聞いたどんなDボゥイの言葉よりも、優しくゆたかには聞こえたから。
「君は俺が必ず守り抜く……どんな壁が待っていようとも打ち貫いてみせる……
だから安心して俺に全てを任せてくれ。絶対にだ……絶対に守ってみせるから」
Dボゥイの優しい声がボロボロになったゆたかの心に響く。
そのボロボロになった心の傷跡による痛みが、次第に和らいでいくのをゆたかは感じる。
そのあまりにも心地よい言葉に。
腰を落とし低くなったDボゥイの視線と、彼の言葉の意味に若干の疑問を覚えたゆたかの視線が合う。
そしてゆたかに握られた手とは、反対の手で彼女の頭をDボゥイは優しく撫でる。
Dボゥイのその行動にゆたかは驚きを覚えると同時に、彼女の頬にほんのりと熱が生じる。
飼い犬が大好きな飼い主に撫でられたらこんな気分がするのかな?そんな呑気な事を思えてしまう程に今のゆたかにとって、Dボゥイの優しさはたまらなく嬉しかった。
ずっとこうやって撫で続けて貰えたら……そんな事をゆたかは真剣に願う。
「だから許してくれ……俺は今からやらなければいけない事がある……すまない」
(えっ……?)
だがそんなゆたかの淡い望みは無常にも砕け散る。
そう、Dボゥイが腰を上げ、ゆたかから手を離し、歩き出してしまったからだ。
ゆたかに握られた手さえも優しく振りほどいて。
「でぃ、Dボゥイさん!」
思わずゆたかもDボゥイの後を追って駆け出す。
何故だかゆたかは走り出さなければならないと思った。
もっと自分の頭を撫でて優しさを、勇気を与えてほしいと思う気持ちは当然あるが、その事だけがゆたかの身体を突き動かしたわけではない。
Dボゥイがどこか自分の知らない遠い所に行ってしまうような気がしたから。
ゆたかにそこまで感じさせるほど、Dボゥイの背中は悲しそうなものに見えたからだ。
まるで何かを必死に隠しているかのような様子で。
「来るな! ゆたかッ! 来るんじゃないッ!!」
そんなゆたかにDボゥイは振り向きもせず、Dボゥイが吼える。
先程の優しい声とは違い、あまりにも攻撃的な声にゆたかは思わず立ち止まってしまう。
Dボゥイに何を聞きたい事があるのに、彼の変貌に押され、ゆたかはとても口を開けない。
嫌な胸騒ぎを先程から覚えているゆたかはDボゥイが止まる事を切実に願う
だが、現実はまたしても非常にもゆたかの願いを断ち切ってしまう。
Dボゥイは歩みを止めようとはしない。
「待たせたな……シンヤ」
Dボゥイが口を開く。
その両眼に見える感情は憎悪、悲しみなど様々なものが入り乱れている。
「構わないよ兄さん。兄さんのこの世への別れを邪魔する程、無粋な真似はしないさ」
そう答えるのは今まで一言も口を開かなかったシンヤ。
彼の両眼に見える感情はどす黒く、見るものに恐怖を与える程にDボゥイとの闘いへの欲求、そして勝利しかない。
シンヤは既に右腕にこの殺し合いで支給された、カリバーンを握りDボゥイを待っている。
ゆたかの話に出てきたパズーに最後のとどめを刺した張本人だが、彼はそんな事には微塵にも興味は示していない。
だから彼はDボゥイに今までどうしていたのか? などとは聞く必要もなければ、そんな事にも興味はない。
彼の関心、望みはもっと別のところにあるからだ。
「そうだな……なら、始めるぞシンヤ……」
対するDボゥイもシンヤに今までの彼の行動を聞こうとはしない。
Dボゥイもシンヤと同じで、これから彼らが行おうとしている事に較べれば他の事はあまりにも些細な事だから。
勿論、ゆたかを守ると言った事は彼女を安心させようという思いからついた嘘ではない。
これからDボゥイが行おうとしている事が終われば、最早彼の最大の目的は達成出来たと言えるからだ。
そしてDボゥイはデイパックからテッカマンアックスのテックランサーを取り出し、右腕に携える。
「そうだね。俺はこの時を待っていたんだよ兄さん! だからさ……」
そう、それは兄弟喧嘩とはとても言えない行為。
そしてDボゥイとシンヤにとってどんな事よりも優先させなければならない宿命。
Dボゥイとシンヤの表情に更なる歪みがハッキリと浮き彫りになる。
その二人をゆたかは只、震えながら見守る事しか出来ない。
「いくぞシンヤッ!!」 「いくぞ兄さんッ!!」
今、この殺し合いで初めてテッカマン同士の闘いが始まった。
愛する父、相羽孝三によってラダムの支配を逃れ、ラダムに己の父、兄、弟、師匠、未来の義姉、同僚を奪われた復讐の化身、テッカマンブレード。
あまりにも優秀すぎる己の兄を尊敬すると同時に抱いていたコンプレックスをラダムにより増長され、兄を超えるためにラダムのテッカマンとして生まれ変わった悪魔の化身、テッカマンエビル。
彼ら二人の最早宿命ともいえる闘いが。
只、普段とは違いテックセットを行わずに。溢れ出る感情を隠す仮面を付けずに。
◇ ◆ ◇