アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ8
弐/1――
舗装された道路、罅割れたコンクリート、倒壊した家屋、血痕。
文明も生活環境もごちゃ混ぜになった街で、リザ・ホークアイとパズーの二人は争いの痕跡を辿った。
「誰が争っていたかはわからないけれど、どうやらここにはもう誰も残っていないようね」
と、銃を構えたリザが、短剣片手に周囲を目配りするパズーに。
「家が一軒、丸ごとぺしゃんこになってる。こんなの、大砲でも使わなきゃ無理だよ」
と、短剣を構えたパズーが、銃片手に周囲を目配りするリザに。
互いに背中合わせで告げ合い、しばらくして警戒の糸は途切れた。
Dボゥイと小早川ゆたかの二人組と別れた後、リザたちはそのまま北上し、この現場に行き着いた。
おそらくは数時間前、この地で戦闘が行われていたのだろう。
路上には血の跡が溜りを作っており、検察して見るとまだそう時間は経っていなかった。
近くで崩れ落ちていた家屋の様子を見るに、ただの殴り合いや銃撃戦ではない。
国家錬金術師クラスの異能者による戦闘か、それに匹敵する兵器を用いた戦闘であったと、軍人であるリザは推測した。
そして気になったのは、道路上にポツンと放置されていた、赤い車。
フロントガラスが破壊されており、車体にもところどころ歪みがあったが、エンジンはまだ動いている。
使えなくなったから乗り捨てられた、というわけではない。
走行中に襲撃され、応戦するために飛び出し、そのままどこかへ……といった具合だろう。
「すごく派手な車だなぁ〜。僕のいた町じゃ、こんなの見たことないよ」
「搭載されている装備から考えて……火災時などにそのまま対応できる、消火用の車みたいね」
パズーが住んでいたスラッグ渓谷にも、リザが暮らしていたアメストリスにも、消防車なるものは世に出回っていなかった。
が、その根底は車だ。ハンドルとペダルの配置や差しっ放しキーから鑑みるに、運転方法はそう変わらないだろう。
リザには運転の心得がある。運転席に座りハンドルの感触を確かめるが、やはりいけそうだ。
そんなリザの様子を見て、パズーはしかめっ面をする。
「おねえさん、その車どうするつもりさ?」
「そうね……警察署に向かうための足にしてもいいし、いざというときは車体全体を盾にすることもできるわ。
持ち主が戻ってくる気配はないし、このまま拝借して――」
「ちょっと待ってよ! それって泥棒じゃないか!」
整然とした態度で語ったところを怒鳴られて、リザはやや驚いた後、冷ややかな視線でパズーを見やった。
「パズー、今は非常時なのよ? 確かに窃盗は罪だけれど、生きるか死ぬかというときに、そんな些事には構っていられない」
「それは……そうだけどさ」
「それにあなた……ここに来る前は、仮にとはいえ空賊とやらの手伝いをしていたそうね。そのことについては?」
「うっ」
リザの現実を見据えた反論にあてられて、パズーは口を噤んだ。
空賊――山賊が山を根城に強盗を働くのと同様に、空を根城にする盗賊がいるという、嘘みたいな現実をリザは先刻知った。
『ねぇおねえさん。ちょっと遅いけど、朝ごはんにしない?』
『は? この一刻も争うときになにを悠長な……』
『でも、食べるもの食べなきゃいざってとき困るよ? それに実は僕、ずっとおなかぺこぺこだったんだ』
支援
発端は、Dボゥイたちと別れた直後のこの会話だった。
人気のない民家にお邪魔し、リザとパズーはそこで一旦、小休止として朝食を取った。
その際、リザはパズーからシータたちのさらに詳細な情報を聞き、その延長として、彼の世界の『空』についても聞かされたのだ。
アメストリスでも実用化には至っていない空の航行方法――飛行船。パズーの住まう国では、それが確立されているというのだ。
しかも話は飛行船だけに留まらず、シータやムスカを交えた争いの発端……ラピュタという『天空に浮かぶ城』まで出てきたから驚きだ。
いや、これはもはや驚きを超越して、疑ってかかるべき御伽話のようにも思えた。
城というからには、かなりの質量を持っているはず。それが宙に浮かぶなど、どのような方法を用いればいいのか検討もつかない。
論理や法則を知らない一般人からは魔法のように捉えられる錬金術でも、それは不可能なことなのだろう。
でなければ、アメストリスでも飛行船くらいならとっくに実用化している。
動力はいったいなんなのか? そもそもパズーの住まう国には錬金術が存在しないとか。しかし科学は発展していて……
と、話に花を咲かせるうちに、ほんの小休止が、予定よりも長い足踏みになってしまった。
パズーの齎した情報は決して無益なものではなかったが、今はなにより、銃器の調達が先だ。ラピュタの謎など後回しで構わない。
しかし、シータという少女に興味が湧いたのも事実。パズーが、どれだけシータを気にかけているのかも。
『約束したんだ。シータを連れて行くって。こんなところで死なせたりなんかしない。するもんか』
少年らしからぬ使命感に燃えた瞳はどこか――リザが慕うある野心家のものに似ていた。
だからなのかもしれない。気が付けばパズーに肩入れし、シータを保護しようという考えさえ生まれ、二人とも死なせたくないと願う自分がいた。
同時に、思う。時期を早くして死亡の報告がなされてしまったエドワード・エルリック、その弟、アルフォンス・エルリック、
同僚であり故郷に妻子を残してきたマース・ヒューズ、そしてロイ・マスタング。
彼らもまた、死なせたくはない人間たちだ。
リザが仲間に対し抱くそれと同じように、パズーもまた、シータやドーラに対する心配を募らせているのだろう。
ましてや、パズーはまだ子供だ。不安を看破できるほど精神が研磨されているとは思いがたい。
国家錬金術師に軍人にほぼ不死であると言っても過言ではない鎧。それらと儚い少女を比較しても、安心でいられるはずなどないのだ。
「……まぁ、慣れないものに触るのはよくないわね。これの所有者が取りに戻ってくる可能性もあるし。早々に切り上げましょう」
屈託なく微笑んで、リザは消防車から身を降ろした。
その、直後。
二人の下に、静寂を突き破る爆音が轟いた。
「今の爆発音は……橋の向こう?」
「見て、おねえさん。煙が上がってる。誰かがあそこで戦ってるんだ」
襲撃者どころか通行人もろくにいない、寂寞とした道路に訪れた、突然の騒音だった。
見ると、西の方角に煙が濛々と立ち上る光景があった。
普段なら火災の一言で済ます惨事だったが、現状を考えれば、あれが自然災害や事故であるはずもなく。
つまりは、何者かによる放火、それもなんらかの爆発物かそれに準じる兵器を用いた可能性が高い。
「行こう、おねえさん。ひょっとしたら、シータが巻き込まれてるかもしれない」
「……いえ。この川沿いに北上し、迂回して警察署に急ぎましょう」
リザは淡白に、パズーの提案を制した。
至って冷静な顔つきで焦り顔の少年を宥め、煙の立ち上る方角に背を向ける。
「どうして! あそこで何かが起こってるのは間違いないんだ。誰かが危険な目に遭ってるのも!
それがもしかしたらシータかもしれないし、おねえさんの知り合いだって可能性もある!」
「私たちの目的は敵の殲滅でも、弱者の救護でもない。そもそも、私たちはそれを可能にするだけの戦力を持ち合わせていない。
今は自分たちの身の周りを固めることが最優先よ」
「そんなの屁理屈だ! シータが誰かに襲われてからじゃ遅いんだよ!」
徹底したリアリストを貫くリザに、まだ幼いパズーは反発するしかなかった。
パズーとシータの繋がりがどれだけ強固なものかは、皮肉にも先ほど、共感を覚えるほどに知ってしまった。
仲間のために命を懸ける、自ら死地に飛び込む、これらの行動は若さだけで片付けられるものではない。
単なる命知らずではなく、『死なないという覚悟』があるからこそ、冒険ができる。
「……たしかに、私の言葉は臆病者の戯言かもしれない。でも、子供のあなたをみすみす死にに行かせるわけには」
「どうしてそんなに難しく考えるのさ!? 困っている人がいたら助ける、悪い奴がいたらやっつける、敵わないようなら逃げる!
そんなの、当たり前のことじゃないか! やりもしないうちから諦めるなんて、そんなの間違ってるよ!」
理路整然とした論理で武装しても、パズーはことごとくそれを剥がしてしまう。
正義の代弁者でもなく、職務に準じる執行官というわけでもなく、パズーは人間として、目の前の惨事を見過ごせなかった。
その若すぎる勇気にリザは感銘を受け、それでもパズーの主張を肯定することができない。
縁も薄い赤の他人。ただ行き先が同じだっただけ。いずれは別れるつもりだった。なのに、リザはパズーを死なせたくないと思った。
いつの間にか、こんなにも肩入れしてしまっていた。おばさんなどと、数々の失言を浴びせられたこの少年に。
(どうして、私の周りにいる男性は、こうも無謀な挑戦が好きなのかしら)
思い、冷笑した。
その後、パズーとリザの討論は数十分にも及んだ。その末に、
「荷物を」
「え?」
「私の荷物を、あなたのデイパックに移させてもらうわ。穴が空いた荷物を持ち歩いていては、いざというとき対応が遅れるから」
「おば……おねえさん、ッデェ!?」
リザはパズーの熱意についに折れ、西への進路を検討した。たび重なる失言への制裁は、しっかり忘れずに。
この、勇ましくも失礼極まりない少年を、慈愛に満ちた彼女は突き放すことができなかったのだ。
荷物をパズーのデイパックに移す傍ら、リザはなおも騒動の続く西の方角を見やり、息を飲む。
23本のダーツ、一振りの短剣、残弾3発の銃……これらの心許ない手持ちで、どうにかなればいいのだが。
(待っているのは重火器で武装した凶悪犯か、それとも……いえ、争いは避けるべきよね。まったく)
これからやろうとしていることは、破壊者の検挙ではない。状況の確認と、襲われている者の救護だ。
必ずしも戦う必要はない。うまく立ち回ることができれば、誰も傷つけずに場を収拾できるはずだ。
――と、そのときのリザはパズーに感化されたのか、軍人に相応しくない希望的観測を胸に抱いていた。
その背後を、一つの影が追跡していたとも知らずに。
◇ ◇ ◇
壱/1――
男が三人、街中で小躍りする。
鋼の装甲を鎧った女が一人、三人の男を躍らせる。
阿鼻叫喚の宴は、咳き込むほどの粉塵と猛火の熱気に彩られ、さらに加速する。
「おいおいマジやべぇマジやべぇって。なんなのアイツ? なんなんだよオイ!」
「いやぁ〜、厄介なのに目を付けられちゃったねぇ。とりあえずどうする? 逃げる? 戦う?」
「ブッ殺す! ツラ拝まないことにゃどんな奴かもわからないが、あいつは今こう思ってるはずだ。こんな強力な兵器を持ってる俺は――」
「僕としては、安全を確保できればそれでいいんだけどなぁ。相手も無差別になってきてるし、このままじゃここら一帯火の海だね」
「聞けよ! で、問題はどうやってあいつをブッ殺すかだ。さすがの俺もあんなのとは戦り合ったことがねぇ!」
「逃げるにしても隠れるにしても、このまま町を無差別に破壊され続けたら、巻き込まれることは必至だ」
「いや、だからあいつをブッ殺せばそれで済むじゃねぇか! こちとらあのジジイのせいで鬱憤が溜まってんだ。揚げ足取るんじゃねぇよ!」
「ひゃあ顔近い! あと首に手かけるのやめて! ボク死んじゃう!」
「ああもう、あんたら少し静かにしてくれ! 声が聞こえない!」
ブリタニア軍に属する技術者、ロイド・アスプルンド。
マフィア崩れ、ラッド・ルッソ。
魔術師の少年、衛宮士郎。
数分前、ロボットにも似た謎の鎧人間に襲われた彼らは、ろくに自己紹介も終えぬまま、追われる身の上を共通項として一軒の民家に逃げ込んだ。
家の外では、今でもロボットが三人を探し回っている。圧倒的な火力を用いての、市街破壊という方法で。
このまま潜んでいても、いずれは家ごと抹消されてしまうだろう。そこで、素性も知らぬ三者は一時的に手を取り合った。
選択肢は二つ。外敵であるロボットを無力化するか、被害の届かぬ場所まで逃げ切るか。
ラッドは前者、ロイドは後者の選択肢を推したが、どちらも難しく、マイペースな態度とは裏腹に絶望感すら漂いつつあった。
そんな中、士郎は一人指もとのリングにぶつぶつとなにかを呟きかけ、ロイドとラッドの論争を邪魔とさえ言い出した。
「おいおい兄ちゃん、早くも現実逃避か? 死ぬ覚悟を決めたっつっても、男の子ならせめて派手に散ろうぜ!?」
「そんなつもりは毛頭ない。それと、一応俺はあんたに賛成だ。あんな危険な奴、野放しにしておくわけにはいかないからな」
「士郎くんって言ったね? ずいぶんと勇ましいことを言うけど、なにか策でもあるのかい?」
「……ない。けど、俺たち三人と『こいつ』で協力すれば、どうにかできるかもしれない。だから二人とも、俺に力を貸してほしい」
そう言って、士郎は指に嵌めたリングを翳した。
「こいつ? その指輪が勝利の鍵だとでも言うのかい? 魔術礼装とか、興味深いことを言っていたけど……」
『Ja』
「のぅわぁ!?」
ロイドが士郎の嵌めた指輪を小突くと、そこから機械的な音声が聞こえてきた。
大袈裟に驚き仰け反るロイドを尻目に、士郎は先刻知った指輪の正体を説明する。
「こいつの名前はクラールヴィント。シャマルって人の相棒で、厳密に言うと魔術礼装じゃなくてアームドデバイスってものらしい」
「なんなのよ、その魔術とかアームドなんとかってのは。ロボットが出てくるSF展開かと思えば、今度はオカルトか?」
「むむむむむ! いやぁ、ますます興味深い! ぜひ分解……じゃなくて、お話を聞きたいなぁ。自立思考システムでも搭載されているのかい?」
指輪が喋るという、時代的にも技術的にも不可思議な現象を目の当たりにして、しかし二人の反応は楽観的だった。
もっとも、人型の機動兵器に追われている現状を鑑みれば、今さら喋る指輪ごとき驚くほどのものでもないが。
技術者としての欲望全開で士郎に縋るロイドだったが、本人はそれを振り払い、真面目な顔で話を続ける。
「今はお互い、暢気に身の上話をしていられる状況じゃない。あのロボットをなんとかするほうが先決だ」
「それはそうだけど、その指輪が役に立つっていうのかい?」
「ああ。こいつは俺の力になってくれるって言ってる。でも俺たちの力だけじゃ、あいつは止められない。だから――」
「俺たちに手を貸せって? 殺し合いの会場で出会ったばかりの俺たちに、背中を預けろって?
おまえ、ちょっと平和ボケしすぎなんじゃねぇの? 頭イカれてる? それとも、俺は死ぬはずないとでも思ってんのか?」
「んなわけあるか! これは、生き残るための提案だ! 俺は玖我を助けに戻らなきゃいけない……だけど、ここで逃げることもできない!
無理強いはしないさ……俺だって、あんなのを止められる自信はないんだ。でもな、ここで退くわけにはいかないんだよ!」
士郎の言葉は勇敢を越えて、もはや無謀とも言える域だった。
勝算はない。だが逃げない。少しでも勝算を上げるため、赤の他人に協力を求める。まるで馬鹿な思考だ。
が、ロイドは気付いていた。彼をそうまでして無謀に近づけさせるものの正体……それが、衛宮士郎という人間が持つ強い正義感だということを。
彼とは違う。だが根底に鎮座する抗いようのない意思は、死んでしまった彼、枢木スザクのものとまったく同じだ。
あるいは、その意志に共感と懐かしさを覚えたのかもしれない。
そしてラッドも、士郎の発言を無碍に扱ったりはしなかった。言葉よりもまず、その確固たる意志の灯った目に感嘆した。
緩みきった目ではない。この地で最初に出会った高嶺清麿のものよりも、遥かに崇高な眼差し――死ぬ覚悟を決めた目。
自分がいつ死ぬともわからない、安心などありはしない、それを自覚してなお、困難に牙をむく。
ラッドが忌み嫌うタイプとは、明らかに正反対な人間。だからかもしれない。
「ククク……ヒャーハッハァ! こいつぁおもしれぇ。とんだ馬鹿野郎がいたもんだ」
「笑いたきゃ笑えよ。俺は一人でもあいつを止めるから」
「待てよ。誰も協力しないとは言ってねぇ。俺もああいう輩は虫が好かなくてね。ブッ殺すってんなら協力するぜ?」
「まぁ、殺すかどうかはともかくとして、止められるなら確かに止めたいね。このままじゃ被害が増すばかりだ」
士郎の正義馬鹿ぶりに爆笑するラッドと、含み笑いを浮かべながら携帯電話を弄るロイド。
おちょくられている気分でもあったが、二人の言動には、士郎に対する一応の同調が見られた。
と、そんなときだ。ロイドの操作する携帯電話から、突如『ラセーン』という珍妙な機械音が響き、他二名の視線が集まる。
「……ああ、なるほど。タイミングからしてもしやと思ったけど……あの機動兵器の操縦者がわかったよ」
「な、なんだって!?」
思わぬ発言に瞠目する士郎と、「すげぇなオイ。で、どんな奴なんだ?」と血走った目を輝かせるラッド。
二者を前にして、ロイドはやや冷淡な口調でこう告げた。
「……彼女の名前は鴇羽舞衣。なんてことはない、ちょっと顔が怖いだけの女の子だよ」
◇ ◇ ◇
参/1――
カチリ……、カチリ……、カチリ……と、等しく時間を刻み続ける時計の針の音。
それがまるで時限爆弾のカウントダウンのよう。
まるでそんな風に、身体を振るわせるゆたかの耳にそれは届いていた――。
その微音の波を、轟然とした爆発音が突き破る。
「っ!? な、なに?」
Dボゥイとともに訪れた、人気のない静謐な病院。その産婦人科病室内で、小早川ゆたかは轟音を耳にした。
壁際を見やると、外の風景を映し出す小窓が僅かに空いている。おそるおそる覗いてみると、外はもう完全に明るかった。
が、その視線の最奥で――コンクリート色に広がる淡白な市街が、濛々とした煙に包まれているのが見えた。
「誰かが……してる、の?」
殺し合い、とは口に出せなかった。
街を焼き、数十メートルは離れているであろうこの病院に届くほどの音を掻き鳴らして、誰かと誰かが争っている。
本能的に導き出した答えと向き合い、しかしすぐに顔を背ける。目をギュッと瞑り、残酷な現実から逃避した。
怖い。ただ恐れの感情だけを胸に抱きしめて、ゆたかはその場に蹲った。
「――ゆたか!」
そのときだった。ゆたかと同じく異変を聞きつけ舞い戻ってきたDボゥイが、脇目も振らず421号室の門を掻い潜る。
仲間の帰還に安堵したゆたかは、目尻に涙を溜めながら、助けを請うようにその身に縋った。
「Dボゥイさん、あの、すぐ近くで爆発が……」
「ああ、俺も聞いた」
ゆたかとDボゥイの二人は、改めて窓の外を注視する。立ち上る煙の量は、初見のそれより遥かに拡大していた。
そしてまた、爆音が一回、鳴り響く。ゆたかは反射的にDボゥイの身にしがみ付くが、今は気恥ずかしさを感じる余裕もない。
「どんな兵器を支給されたかはしらないが、あの破壊は異常だ。少し探ってくる。君はここで待っていてくれ」
「えっ!?」
Dボゥイの発言を聞き、ゆたかは明らかに狼狽する。
「あ、あの! わたしも……わたしも行きます!」
そして気付くと、無謀極まりない言葉を口走っていた。
当然、Dボゥイは顔を顰め、これに反論する。
「今度ばかりは、君を守れるという保障がない。いや、素直に自信と言ってもいい。
あの破壊は、恐らくは人の手によるものではないだろう。それこそラダムのような、人智外の輩が暴れ回っているかもしれない」
「な、なら、Dボゥイさんも一緒にここで大人しくしてれば……」
「いや、駄目だ。あの規模の戦闘が続けば、いずれはこの病院にも被害が及ぶかもしれない。
万が一の場合すぐに逃げ出せるよう、状況は把握しておくべきだ」
そう断言すると、Dボゥイは踵を返し病室の出入り口へと向かう。
遠ざかっていく大きな背中を見て、ゆたかはたまらずそれを抱き止めた。
「ゆたか?」
「……」
少女に無言のまましがみ付かれ、Dボゥイはやむをえず足を止める。
背中越しに伝わる少女の体温は仄かに暖かく、そして震えていた。
脆弱な小動物のように微動し続けるゆたかを見て、Dボゥイは考えを改める。
「……すまなかった」
「ふぇ?」
唐突に謝られて、ゆたかは情けない声を漏らして返す。
「一緒に行こう。ただし、君はどんなことがあっても俺から離れるな。絶対にだ」
「は、はい!」
市街での戦闘に、ラダムと同等の外道が、あるいは宿敵である愚弟が関与している予感に駆られ、失念していた。
すぐ傍で震えている、守るべき存在。アキやミリィとは生まれも境遇も違う、弱すぎ少女のことを。
ブレードの力を失った今、爆心地に少女を連れて潜入するのは危険かもしれない。
もし敵がラダム獣やテッカマンと同等の力を保持していたとして、現状のDボゥイではゆたかを守りきれはしないだろう。
だが、少女にとっては危険よりもまず、Dボゥイとの別離がなによりの恐怖と成り得た。
それを知り、Dボゥイは少女とともに行く。そこに、なにが待っているかも知らず。
騒動により放置された病室には、口の付けられていないお茶が二組だけ残された。
◇ ◇ ◇
弐/2――
猛火に包まれた被災地を、鋼鉄の少女が練り歩く。
ポイントにして、C-6地区。あの飄々としたアホ面を闇雲に追撃しているうちに、こんなところまでやって来てしまった。
後方、まだ戦火の残る街々を眺め、少女は陶酔する。素晴らしき炎、輝かしき燃焼、破壊。
カグツチもエレメントもなしに、これらをやってのけた力……落手した力の壮大さに、鴇羽舞衣は歓喜した。
「すごい……すごいよコレ! これならもうなにも心配いらない……やれる、やれるやれる!」
自身を覆う鋼をマジマジと眺め、歴戦の愚かな兵士たちと同じように、舞衣は兵器の齎す力に酔い、溺れた。
鉄砲から始まり、核兵器に至るまで。人間という生き物は、己が欲望のままに兵器を生み出し、破滅の道を歩んできた。
どんな世も変わらない。絶対的な力が持つ魅力は、人の心を狂わせる。舞衣のような力を求める者にとっては、なおさらのことだった。
「それにしても、あいつらどこに行ったのよ? まさか逃げられた? それとも、街ごと壊しちゃったかしら?」
これより北の街々は、無造作に乱発したフェルミオン砲によってほぼ廃墟と化している。
規模が規模だ。追っていた男たちが戦火に巻き込まれ、とっくに死んでいる可能性は十分に考えられた。
「そうだとしたら、おかしいったらないわね。でも、そんなんで死なれたら困るのよ……」
表情を窺わせぬ鉄仮面の裏で、舞衣は妖艶に微笑んだ。
激しい憎悪と、奪うことに対する快楽を求めて、進路を再び北に取る。
「そうよ……私は奪う側に回った……力も手に入れた……味わわせてやるのよ……あいつらに……奪われる苦しみを」
スーツ越しから、抑えきれないほどの殺意が滲み出る。
これまでの波乱万丈にして幸薄い半生を恨みながら、北へ、北へ、不気味にローラーを滑らせる。
焦る衝動を抑え、まだ戦火の広がっていない地区を中心に、獲物を捜す。
そして、とある十字路に差し掛かったとき、
「!」
標的は、曲がり角の向こうから姿を現した。
舞衣は熱源を察知したことにより走行をやめ、次にその全姿を確認して、動きを止めた。
曲がり角の奥から現れた人物は、白衣に身を包んだロイド・アスプルンドでも、彼と一緒にいた二人の男でもなく。
薄汚れた帽子を被り、作業着のようなズボンを穿いた――巧海やシモンと同年代くらいの――少年だったのだ。
「なぁアンタ、シータって女の子を知らないか!?」
舞衣の異様な姿に若干驚きつつも、その少年――パズーは、常の元気さを装い声をかけてきた。
対して舞衣は、返事を返すことができない。脳内で巧海の消滅、シモンの失血死、自分が殺した少年の残滓が蘇り、困惑する。
(また――弟と同じくらいの男の子が死ぬ。違う。殺す)
似ている箇所など一点もない。なのになぜか、巧海やシモンの面影が、目の前のパズーに合致していく。
カメラ越しの映像が、潤んだ瞳のせいか歪んで見えた。
「パズーくん! そいつから離れなさい!」
「――ッ!」
数秒、動きを止めていると、パズーに続いて青い軍服を着た女性が飛び出してきた。
その手には銃を持ち、ソルテッカマンの装甲に纏われた舞衣を見て、明らかな敵意を飛ばしている。
反射的に、動いた。右腕のライフルを展開し、銃口を目の前の二人に向ける。
ターゲットは二つ。僅かに揺れるレーザーライフルの照準は、パズーのほうに向けられ、
光の一閃が、放射された。
「え――」
それは少年の脇腹辺りに命中し、貫通する。
本来ならばラダム獣をも粉砕する光線の一撃は、此度の実験仕様に改造されていたため、肉体を完璧に破壊するほどではなかった。
だが、傍から見ればあまりにも鮮烈で、十分すぎるほどの殺傷でもあった。
光線に射抜かれたパズーの体は、ゆっくりと仰向けに倒れていく。
「パズゥゥゥゥゥ!!」
リザは絶叫とともにその身を抱え、反撃としてM500ハンターの弾丸を三発、惜しむことなく放つ。
対象はもちろん、パズーを攻撃したソルテッカマンである。
三発の銃弾はソルテッカマンの右足へと命中。操縦者である舞衣はバランスを崩し、その場に転倒した。
その間、リザは追撃をかけることはせず、負傷したパズーの身を抱え退却する。
ただのきぐるみとは勝手が違うこともあってか、舞衣はなかなか起き上がれず、リザとパズーの二人は無事にその場を逃げ果せた。
しばらくして、舞衣はソルテッカマンの重量維持の難しさを噛み締めながらも、どうにか立ち上がった。
軍服の女と少年の姿は、もうどこにもない。追撃するにしても、どの方角を目指せばいいのかわからなかった。
いや、それよりもまず。立ち上がった舞衣の胸中にはなぜか、あの二人を追おうという気持ちが湧いてこなかった。
「……これで、四人目。私が殺したのは、二人目」
か細い声で言い漏らし、しばしの間立ち尽くす。
前方の路上、灰色のコンクリートの上には、微かに黒ずんだ血痕が残されていた。
量からしてかなりものである。シモンの流したそれよりは少ないが、十分な致死量に思えた。
「どうしてかな……どうして私、落ち込んでるんだろう」
あの二人の関係がどういったものかはわからない。
だが確かな結果として、舞衣はあの金髪の女性から、少年という大切な存在を奪った。
求め、願い、掴み取った結果であるはずなのに……どういうわけか、達成感は欠片もなかった。
それどころか、虚しげな寂寥感すら覚える。認めたくはないが、少し、悲しくなった。
あれが少年ではなかったら、巧海やシモンに重ねようがない、老人や女性だったら違ったのだろうか。
自問しても、答えは見えてこない。
「…………」
空に問いかけることも虚しくなって、またしばらく、舞衣は無言で佇んだ。
誰かから、大切ななにかを奪う――自分がこれまでに受けてきた不幸に対する仕返しとして選んだ道が、霞む。
殺意が霧散し、どうでもよくなってきた。
やっぱり、自分はあそこで死んでおくべきだったのではないだろうか。
そんなことさえ、考え出し――
「――よぉ子猫ちゃん。空なんか眺めてどうした? 休憩だってんなら付き合うぜ。いっちょ踊ってくれや」
銃を構えた白スーツの男の来訪により、また殺意は蘇った。
◇ ◇ ◇
壱/2――
『……彼女の名前は鴇羽舞衣。なんてことはない、ちょっと顔が怖いだけの女の子だよ』
なんでさ。
誰に語りかけるでもなく、士郎はロイドの宣告に対し、心中でそう呟いた。
(鴇羽舞衣……それが、あのロボットみたいなのを動かして、街を破壊していた奴の名前。なんで)
士郎が指に嵌めているリング、クラールヴィントは、元はロイドが学校で舞衣から没収した支給品だ。
ロイドは、『支給品の正式名称を入力することで、支給主の現在地を特定する携帯電話』を用いることにより、
クラールヴィントの本来の支給主――鴇羽舞衣がどこにいるのかを割り出した。
その結果、戦場となっているC-6地区付近を高速で周旋している彼女こそ、彼らを襲ったロボットの正体であると判明した。
敵は優勝に目が眩んだ快楽殺人者でも、支給品の威力に溺れ暴れまわる大馬鹿者でもなく――
(なんでそれが……よりもよって、玖我の知り合いの鴇羽なんだよ!)
――ただの、女子高生だったのだ。
情報によれば、彼女も玖我なつきと同じくHiMEと呼ばれる異能者であるらしかった。
だが、それだけだ。殺戮や市街破壊に及ぶ危険性など、微塵も持ち合わせていない。
実際に会ったことはなくとも、士郎はなつきからの情報によって、勝手にそう判断していた。
HiMEの事情は知らない。だけど、魔術師でもない同世代の女の子が、ロボットを駆り街を破壊するなどありえない、と。
(悪い玖我、少し遅れる。お願いだから、俺が助けに行くまでもってくれ。その代わり、おまえの友達は)
まだ破壊の及んでいない、比較的平和な街路のど真ん中。士郎は武器となる剣を投影し、来るべきときに備える。
曰く、中国古代の呉の刀工によって作られた夫婦剣、かつての赤い弓兵が用いた双剣を、少女を止めるための得物として選択した。
そして、
「クラールヴィント、頼む」
『Ja』
士郎が声を発し、クラールヴィントがそれを返して、全身は光に包まれた。
清風を思わせる緑色の輝き。その奥に形成されていくのは、赤い外套。
士郎が得意とする投影魔術ではなく、クラールヴィントの機能を用いての、変身。
鴇羽舞衣を止めるための戦い。そのための武装が今、完了した。
◇ ◇ ◇
弐/3――
それは、天空に浮かぶ城を廻るを御伽話。
竜の巣と呼ばれる嵐雲の中で、今は亡き少年の父は、天空の城を見た。
周囲からすれば、信じがたい話だった。城が空に浮かぶなど、妄言としか思えない。
そんな世間の評価を受け、嘘つき呼ばわりされた少年の父は、やはり間違ってなどいなかったのだ。
パズーは見た。竜の巣を抜けた先、広大な天空に浮かぶ、ラピュタという名の巨城を。
あの瞬間、少年の夢であった天空の城――ラピュタの発見は果たされた。
だがその頃にはもう、少年は新たな目的を胸に抱いていた。
あの日スラッグ渓谷の銀鉱で働いていた少年の下に降って来た、シータの助けになるという目的が。
ムスカの野望はまだ終わっていない。シータは狙われている。飛行石やラピュタも。
力にならなければ、いや力になりたい。少年は願い、殺し合いという窮地に立たされても、その指針を忘れなかった。
こんなことは早く終わらせよう。そしてシータを連れて帰るんだ。
ラピュタへ、もう一度――
「……ズー! パズー!……」
(……誰だい? シータ……じゃない……おかみさん……でもない……ああ、なんだ)
深い闇の中で、パズーはラピュタの光景を思い出していた。
シータと一緒にタイガーモス号に乗り込み、竜の巣を越えて、やっと見つけたラピュタ。
降り立とうとして、しかしその寸前で、二人は螺旋王の下に連れて来られた。
まだ、なにも終わっちゃいない。シータを連れて、もう一度ラピュタへ――
「パズー! しっかりしなさい、パズー! くっ……駄目だわっ、血が、止まらない!」
目を開いたパズーの視界に飛び込んできたのは、青い、どこまでも青く続く、快晴の空だった。
こんな青空は、久しく見ていなかった気がする。見つめれば、シータが降って来た日を思い出す。
こんなに空が綺麗な日は、きっといいことが起こる。そんな予感がした。
「止血が……追いつかない! パズー、私の声が聞こえる? いい、気をしっかり持つのよ!」
親方、おかみさん、マッジ、ポムじいさん……鉱山町のみんなは元気にしているだろうか。
それに、ドーラ一家のみんなも。急に大黒柱が消えて、戸惑ったりはしていないだろうか。
ドーラおばさんは……なぜだろう、こんな状況下でも、たくましくやっていそうな気がする。
ムスカは……どうなっただろうか。ここでも、シータや飛行石を求め歩いているのだろうか。
シータは……シータは、どこにいるのだろうか。
「! パズー……喋れるの? 意識があるなら、私の手を強く握って! 生きて! あなたには、やり残したことがあるのでしょう!」
そうだ……ぼくには……まだ……やり残したことが……ある……。
ようやく……見つけたんだ……シータと……一緒に……ラピュタを……。
「……おばさん……」
あ……間違えた……おねえさんだった……ごめん……でも……。
「……ラピュタはあった。父さんの言っていたことは、嘘じゃなかったんだ」
それが、少年の最後の言葉だった。
◇ ◇ ◇
壱/3――
白いスーツが、笑う。鋼の乙女が、猛る。
それぞれ異なる銃器を持ち合い、奇声を上げながら盛大なパーティーを繰り広げる。
片方は楽しげに、片方は怒りながら、相手の命を奪うべく、殺し合う。
「ヒャッハァ! やべぇって、破壊力だけでなく推進力もハンパねぇって! どこで売ってんのそれ? ねぇどこで売ってんのよそれ!」
入り組んだ市街地を舞台に、超伝導ライフルで地球連合軍の最新鋭兵器・ソルテッカマンに対抗する男――ラッド・ルッソ。
マフィアの肩書きを背負い、ある特定の人間に対して熱烈な殺意を抱く狂人ではあったが、彼は一応はただの人間である。
テッカマンのような超人でも、ラダム獣のような化け物でも、HiMEのような異能者でも、ましてや不死者などでもない。
なのに彼は、ライフル一丁でソルテッカマンを装備した舞衣と渡り合っている。それも、心底楽しそうに。
「まったくスゲーもんを作るとこがあったもんだ! 作ったのは米軍か!?
今年死んだっていうトーマス・エジソンの遺作かなんかか!? 無理矢理作らせたのか!?
しかし、いったいどこと戦争するつもりだったんだろうなぁ! 全世界を相手に喧嘩でも売る気だったのかね!」
舞衣が纏うソルテッカマンは、言ってみれば鉄の鎧だ。ならば、ナイフも拳も意味を成さない。接近戦は不利と考えた。
都合のいいことに、向こうも接近戦を良しとはしていない。
ラッドと舞衣は互いが視認できる距離を保ちつつ、隠れ、狙い、撃ち、避け、移動してを繰り返していた。
決定的なのは、防御力の差。舞衣は全身が一つの兵器であるため、多少の被弾はものともしないが、対するラッドは生身。
フェルミオン砲の直撃を受ければ悪くて蒸発、良くて丸焦げ。レーザーライフルでも、致命傷は避けられない。
つまり、いずれかの攻撃に一発でも当たればゲームオーバーは必至。
それを自覚してなお、ラッドはスリルを満喫するかのように、狂気的な笑顔で舞衣に挑みかかった。
「だんだんパターンが掴めてきたぜ! テメェが主力にしてんのは、右腕のちいせぇヤツと、背中のでけぇヤツ、計二つ!
ちいせぇほうはスピードもあって射程もそこそこだが、距離がありゃまぁ避けられる! だがでけぇほうはやべぇ!
当たりゃ一撃で死ぬ! 避けるしかねぇ! けどよ、そのでけぇほうにも欠点はあるみてぇだなッ!」
民家の庭先に逃げ込んだラッドが、自らの居場所を知らしめるかのように大声を発する。
当然、舞衣はそれを聞き逃さない。足を止め、背部のフェルミオン砲を展開。照準を前方の民家に定める。
フェルミオン砲発射。レーザーライフルのそれよりも数段は大きい破壊の閃光が、家を燃やす。
爆砕音が鳴り響くも、耳障りな挑発は、それでやみはしなかった。
「威力はスゲェ! 認めるよ! だけどな、そのでけぇのを撃つには、溜めがいる!
ちいせぇほうみたいに走りながら撃つことはできねぇ! 必ず一旦止まる! そこが丸分かりなんだよぉ!」
ラッドの声は舞衣の前方から轟き、声量の変化に合わせて左方に傾くと、その姿はいつの間にか、横合いの路地先にあった。
すぐさま超伝導ライフルが発射され、装甲に命中するが、僅かな反動だけでダメージはない。
舞衣は欠点を指摘されながらも、展開したままのフェルミオン砲をラッドに向ける。
たしかに、フェルミオン砲には背部パッチを展開し、射撃体勢に入るまでの僅かなタイムロスがあった。
だが、それも一時のものだ。一度このように展開してしまえば、連射は容易。
螺旋王の改造によってその速度は低下していたが、生身の人間を相手にするのに支障はない。
「あーヤダヤダ! スゲェ武器を手に入れた奴ってのは、どうしてこう馬鹿になるのかね、っとぉ!」
フェルミオン砲の銃口を向けられ、それでもラッドは怯まず、舞衣の脚部目掛けて超電導ライフルを撃つ。撃つ。撃つ。
立て続けに命中した弾丸は舞衣の右脚部へと命中し、体勢を崩させた。
舞衣の右肩が下がり、フェルミオン砲の銃口が明後日の方向に向く。
放たれた衝撃がラッドの数十メートル横を通り過ぎ、爆風が金髪を靡かせた。
避けるのではなく、相手の体勢を崩すことによって照準を外させる。
少しでも手元が狂ったり、目測が外れれば、直撃コース必至の狂った戦法。
それを平然とやってのけて、ラッドは狂気的な笑顔のままだった。
膝を折り、残りカートリッジの少ないフェルミオン砲を一発無駄にしてしまった。
舞衣はソルテッカマンの火力に酔い、だというのに翻弄されている現状を嘆き、内部で舌打ちした。
巧海やシモンのときに感じた悲しみをパズーに重ね、彼を射抜いたことに対して覚えた後悔など、当に忘れていた。
皮肉なことに、ラッドの挑戦が舞衣を鬼に戻したのだ。一時的な迷いを吹き飛ばすほど、彼の行いは舞衣の怒髪天を突いた。
「しかしやべぇな、弾の残り数が心許なくなってきやがった! このままじゃジリ貧だ!
そういうあんたはどうなのよ? さっきからバンバン撃ってんのにも、残数とかあんの? ええ、マイちゃんよぉ!?」
「――ッ!?」
ふと、面識のないはずの男に本名を呼びかけられ、舞衣は驚きのあまり静止した。
ソルテッカマンを装備してからは、誰にも素顔を晒していない。操縦者が舞衣である事実など、これを齎した老人しか知り得ないはずだった。
「そこでだ! 名残惜しいが、俺は一時退却させてもらうぜ! なぁに心配すんな!
いざというときテメェを殺すのは俺の仕事だ! そんときにまた会おうぜ! じゃ、後は頼むわ!」
舞衣が疑問で動けなくなっている間、ラッドは調子のいいことを言って背中を向けた。
まさか、本当に逃げようと言うのか。舞衣は残り少ないレーザーライフルをその背に向けて放とうとするが、
間を、赤い外套を着込んだ男が遮った。
◇ ◇ ◇
壱/4――
『なるほど! 電話もできる上に探知機にもなる、その上こんなにも小型とは、スゲェ発明品があったもんだ!
ところでよ、俺ぁそのマイとか言う女が動かしてるロボットにちょっとばかし見覚えがあるんだが、どう思う?
いや、実を言うと今の今まで忘れてたんだがな! あんなスゲェもんだとは思わなかったしよ!』
数分前、舞衣打倒のための算段中にラッドが零した言葉を思い出す。
(やれやれまったく……出来すぎているというか、まるで螺旋王がこうなるよう仕組んだような配置だねぇ。
まさか、ラッドくんにこんなものが支給されていて、しかもそれを僕が使うことになるとは……。
だいたい、気分じゃなかったから使わなかった、マニュアルを読むのも面倒だった、なんて……あぁもったいない!
あのまま死蔵品にならなかったから良かったものを、こんなお宝を今の今まで忘れてたなんて、考えられない!)
右腕を動かす。問題はない。
左腕を動かす。問題はない。
脚部も、正常に駆動した。
(こういうのは得意じゃないんだけどなぁ……どちらかというとセシルくんの領分だよ、これは。
スザクくんならもっと上手く扱えるんだろうねぇ。なにせ彼は、最高のパーツだったから)
それは、1934年のアメリカからやって来たラッドにとっては、とても理解の追いつくものではなかった。
よもや、これが動くなど……ましてや武器になるなど、デイパックを覗いたときは思いもしなかったのである。
舞衣との相対でラッドが死蔵していたそれを思い出したのは、不幸中の幸いと言えようか。
(僕としては、彼が持っていた飛行機で逃げるって案が良かったんだけど……あれは良くて二人乗りだしねぇ。
そもそも、ああなってしまった士郎くんは僕一人じゃ止められない。根底は違うけど、その苦労はスザクくんで経験済みだ)
最低限ではあるが、準備は整った。螺旋王の調整に感謝するべきだろうか。
(ソルテッカマンねぇ……舞衣くんのアレはパワーこそ及ばないが、総合的なスペックならKFを凌ぐものがある。
まぁ、それでも僕のランスロットには到底敵わないんだけどねぇ〜! そして、フェルミオンか。これもなかなか……)
未知なる技術の片鱗を前に、欲望を混ぜて笑う。
時刻は、襲撃を受けてから1時間余りが経ち、11時を回っていた。
第二回目の放送も、もう間もなく訪れるだろう。
その頃には片付いていることを祈りたい。
◇ ◇ ◇
壱/5――
かつて、遠坂凛という魔術師の少女に仕えた弓兵がいた。
キリストの聖遺物に由来する聖骸布を元にした、一級の概念武装――それとよく似た赤い外套を纏い、立つ。
しかし違った。彼が着込むその外套は、かつての弓兵が纏っていたような概念武装ではない。
その名称をバリアジャケット――魔力で生成した防護服を身に纏う、魔法の一種。
魔術ではなく、魔法。その相違箇所は多いが、魔力という根底は大きくは変わらない。
それは魔術師である衛宮士郎が、クラールヴィントを通しバリアジャケットを展開した事実が証明している。
両手には、投影魔術によって精製した干将莫耶。武器として、使い慣れたものを選択した。
そして向かい合うは、鋼鉄の異形で武装した、鴇羽舞衣という名の少女。
二振りの短剣を彼女に向け、再度確認する。
彼女は敵ではない。助けるべきただの女の子だと――
「やめろ、鴇羽っ!」
レーザーライフルの射線上を遮るように現れた士郎は、そのままの勢いで舞衣に突進する。
左手の刃を一振り、舞衣の重厚な右腕に穿ち、狙いをラッドの背中から外す。
予想外の乱入者、そして予想外の言葉に怯み、舞衣は士郎の接近を許してしまった。
「ッ……なんで、私の名前を?」
ソルテッカマンのマスク越しに、舞衣の驚嘆の声が響く。
やはり、あの携帯電話によるロイドの推測は当たっていた。
学校でロイドを襲った鴇羽舞衣が、隠し持っていた装備で逆襲に訪れた――と。
「玖我さ! 玖我なつき! その子が君のことを教えてくれたんだ!」
「――ッ!」
なつきの名前を出した途端、舞衣はソルテッカマンの稼働を再開し、士郎へ銃口を向ける。
しかし、士郎は臆さず。低い姿勢で舞衣に挑みかかり、接近戦を貫いた。
「君は玖我の友達なんだろう!? だったら、こんなところで馬鹿やってる場合じゃない!」
頑健すぎる装甲に刃を打ち鳴らし、士郎は舞衣に言葉を投げることをやめない。
士郎の目的は、舞衣の殲滅でも鎮圧でもなく、説得だった。
彼女が自らの意志で戦意を収め、ともになつきの救援に向かってくれればベスト。
叶わぬときは……力ずくで捻じ伏せる。しかしそれは、士郎にとっての最終手段だった。
「あいつ、今ピンチなんだよ! 早く行ってやらないと、殺されちまうかもしれない! だから――」
「……私と、玖我さんが……トモダチ? ……はっ、なに言ってんのよ……ああおかしい、ちゃんちゃらおかしいわッ!」
友達の危機を知れば、頭を冷やしてくれるだろう――士郎は常の性格どおり、そんな甘い考えで舞衣と相対した。
が、違う。鴇羽舞衣と玖我なつきの二人では――連れて来られた時期のせいもあって――互いへの印象が、まるで違った。
蝕の祭が終わり、舞衣を友人と見做していた玖我なつきと――
蝕の祭の最中で、なつきを含むすべてのHiMEは敵だと思い始めていた鴇羽舞衣とでは――
精神的余裕に、天と地ほどの差があった。
「敵よ、全員! 大切なものを守るためには、誰かを蹴落とすしかない! 私は、その大切なものすら失った!
だから、もう、私は――奪うだけなのよッ!!」
舞衣は叫び、背部パッチを右腕の砲身に連結、フェルミオン砲の発射態勢に入る。
「こ……のっ、おお馬鹿やろぉぉぉぉぉ!!」
それに合わせ、士郎も走り出した。突きつけられた銃口にも怯まず、真っ直ぐ、正面に。
いくらバリアジャケットを展開しているとはいえ、フェルミオン砲の極大的な破壊を防げるほどの効果はない。
当たれば蒸発は必至の場面で、士郎はしかし、退かなかった。
二つの刃が、左右から挟み込むような形で砲身を穿ち、銃口を上空に逸らす。
舞衣はそれにパワーで抗おうとするが、上がった砲身はなかなか下がらない。
ソルテッカマンの馬力に一介の魔術師である士郎が対抗しているのは、意地の成せる業としか言いようがなかった。
「っ、このぉ!」
舞衣はやむをえず、そのままの体勢でフェルミオン砲を発射。
天高くフェルミオンの閃光が迸り、士郎は衝撃の余波を受けて、大きく吹き飛ばされた。
また一発、貴重なカートリッジを無駄にしてしまったが、泣き言は言っていられない。
アスファルトを転がり蹲った士郎、その体がまだ再起し切れていないのを確認し、脚部のローラーを滑らせる。
火器に頼りすぎたのが失敗だった。ソルテッカマン本来のパワーを持ってすれば、接近戦でも十分に戦える。
そうだ。しかも舞衣は既に、なんの装備にも頼らず一人の少年を殺している。
そうだ。人殺しは難しいことではない。大抵の人間ならば、二本のアームを打ち下ろすだけで終わる。
そうだ。舞衣は奪うだけだ。なつきの窮地も関係ない。それを助けようとしている士郎の意志も関係ない。
そうだ、そうだ、そうだ、そうだった――!
「死ねぇぇぇぇぇ!」
意識せず、舞衣は醜い形相で叫んでいた。
機械的な走行音に混じって、怨嗟の声を響かせて、
それがまた、レーザーの照射される音に掻き消えて、
不快な声が、舞衣の進行を止めた。
「ざぁ〜んねんでしたー!」
◇ ◇ ◇
弐/4――
血は止まった。呼吸も落ち着いた。意識も戻った。
これで助かる――しばらく安静にして、然るべきところで処置を施せば――
――――助かる――――はずだった。
「パズー……」
刹那の瞬きに抱いた淡い希望。それが無残に、音を立てて崩れ落ちていくのがわかる。
リザの目の前に横たわるパズーの体。その顔面に、墓標のように突き立てられた一振りの剣。
元気だった笑顔は、出血による蒼白状態でも明るく見せようとしていたパズーの顔は、
今は血に染まり、なにも見えなくなってしまった。
「あ、あ、あ」
嗚咽を漏らし、涙を流し、涎を垂らし、リザは悲劇に直面した。
荒ぶる精神状態を懸命に押さえつけようとして、しかしどうにもできない。
希望から絶望への急転直下が、彼女の身を苛んだ。
ジャンパーを着た長身の男は、そんな有り体のリザを見てなにも喋らず、黙ってパズーの顔面から剣を引き抜く。
赤く濡れた刀身をそのままに、今度はその刃を、パズーの首へと振り下ろした。
一刀では足りず、二度三度、繰り返して振り下ろした。
女性ならば目を背けたくなるような光景だった。
しかしリザは、硬直して瞼すら下ろすことができなかった。
やがて、パズーの頭部は首から切断され、男はその境目から一つの金属片を拾い上げた。
輪。それは、『Pazu』と名の書かれた銀色の輪。血塗れた首輪。パズーの首から採取された、輪。
男はパズーの首輪をデイパックにしまうと、満足げな顔でその場を立ち去ろうとした。
その後姿を目で追って、リザは声を絞り出す。
「……っ! どぉしてぇ!?」
歩みを止めた男が、振り向き様に答える。
「どうして……? おかしなことを聞くね。いや、虫ケラ同然の人間の知能としては、至極真っ当な疑問か。
教えてあげるよ。これは殺し合いで、俺は首輪を欲して、その子供は死に掛けだった。ただそれだけのことさ」
罪悪感など欠片もない、微かな笑みすら浮かべた男の態度が気に入らず、リザは本能のままに銃を向けた。
「……急いでいるんだ。借りを返さなきゃいけない人間もいるし、瑣末事には構っていられない。
あるいは放置しておくのも滑稽かと思ったんだが……そんなに死にたいのかい?」
男はリザの向ける銃口を恐れず、一振りの剣で殺意に応えた。
残酷すぎた少年の終わり。その衝撃がリザの整然とした精神を乱し、弾なしの銃を構えさせた。
涙はまだ零れ続けている。パズーの死を克服できないまま、リザは男の殺意を買った。
男は近づき――しかし咄嗟に飛び退いて、リザの下から去っていった。
そして、フェルミオンの衝撃がリザを襲い――相羽シンヤもそれに巻き込まれた。
パズーの意に同調し、彼を先行させ、謎の鎧に撃たれ、逃げ、火急ゆえ道端で彼を治療して、そこに男が現れて――現在に至る。
リザの失敗は、いったいどの部分にあったのか。
ただパズーへの申し訳なさを募らせて、
リザの意識は、闇に消えた。
【パズー@天空の城ラピュタ 死亡】
【残り62人】
◇ ◇ ◇
壱/6――
咄嗟に放ったレーザーの一撃が、上手く舞衣の進行を止めてくれた。
いやはや、僕の射撃の腕前も捨てたもんじゃないなぁ……と自画自賛し、ロイドは家屋の屋根から飛び降りる。
着地の際、ガシャン、と機械的な音が鳴った。
「ご無沙汰でしたぁ〜! ありゃありゃ、ずいぶんと好き勝手やってくれたものだねぇ。
僕はイレヴンへの差別意識はないとは言ったが、ここがブリタニアなら君は極刑ものだよぉ?
あれ? 反応が薄い。もしかして僕が誰だかわからないとか?」
「……ロイド・アスプルンド」
「ぴんぽ〜ん。だいせーかい!」
常の飄々とした態度で構えるロイド。舞衣は彼の登場に立ち尽くし、呆然としていた。
予期していなかったわけではない。ラッド、士郎と続き、二人と戦う発端となったロイドが出て来ないのは、腑に落ちないものがあった。
予想外だったのは、その姿だ。
「おや、僕がブリタニア軍技術部主任のロイド・アスプルンドであると知りながら、まだ混乱しているみたいだねぇ。
なんならそんなものは脱ぎ捨てて、裸で話し合ってみる? や、女性に対してこの言い回しは失礼だったかな?」
舞衣を包むその鎧が緑ならば、ロイドのそれは青。
細部のデザインこそ異なるが、その全体像は、舞衣の着込むそれと明らかに同種だった。
「カラーがホワイトなら、白兜とでも名乗れたんだけどねぇ。まぁ僕はあの俗称が嫌いなんだけれど。
それにこの機体の構造はとても魅力的だけれど、僕のランスロットには到底及ばない!」
舞衣のソルテッカマン一号機に対し、ロイドが切り札として用意してきた決戦兵器は――
「それでも一応呼称を作っておこうか! そうだね、プリン伯爵とでもお呼びください!」
――ソルテッカマン二号機。ラッドの最後の支給品にして、舞衣が操縦するそれの後継機だった。
(って!)
絶対だと思っていた力。その同格が現れたことに唖然としてしまった舞衣が、ロイドの進撃により我を取り戻す。
ロイドは射撃武器を用いず、脚部のローラーを滑らせ、舞衣目掛けて真っ直ぐ推進しきたのだった。
すぐさまレーザーライフルで迎撃しようとするが、弾数の残り少なさが脳裏を過ぎり、躊躇した。
その間、我が身を両腕で覆いつつ攻め寄ったロイドが、舞衣の機体に取り付き、なおも推進する。
――ソルテッカマン二号機による舞衣の拘束。ここに至るまでの全てが、ロイドら三人の立てた作戦だった。
まず、長距離射撃の可能なラッドが先駆となり、相手の弾数と体力を消耗させ、後続の安全度を上げる。
次いで、バリアジャケットで武装した士郎が接近戦を展開。本人の意向により舞衣に説得を試みる。
その時点で事態が収拾できればオールオーケー。もし駄目ならば、第三手。
同じくソルテッカマンで武装したロイドが、舞衣を力ずくで拘束し、戦闘をやめさせる。
殲滅ではなく抑止――敵の正体が鴇羽舞衣であると知った士郎が提案し、全員の支給品を考慮した上でロイドが組み立てた、平和的解決策だった。
「つーかまーえた! 残りのエネルギーも少ないんでしょう? 今謝ればみんな許してくれるよ?」
「誰が!」
「強情だなぁ。野蛮なことはしたくないんだけど、お仕置きが必要かねぇ」
ロイドの二号機が舞衣の一号機に抱きつき、完全に身動きを封じた。
軍人ではあるが、ロイドは軟弱な技術者だ。殺意を持った女子高生相手に挑めば、敗戦は必至。
だが、技術者には技術者なりの戦い方がある。武器――この場合はソルテッカマンのスペックを理解し、活用する。
捕縛が目的ならば、操縦者がロイドであろうと達成は容易。動かし方さえ把握できれば、それで十分なのだ。
そもそも、こんな素敵なもの(舞衣のソルテッカマン)を傷つけるなんてとんでもない! 破壊するぐらいなら分解して……
と、本人の職業病も加味されて、なおのこと作戦の遂行に対する熱意は燃えた。
「貴重な研究材料を傷つけたくはないし、悪いこと言わないからこのまま降伏――ってあらぁー!?」
舞衣を抱えたまま推進するロイドだったが、不意にその進行が止まった。
足元がキュルキュルと音を立て、二者が踏みとどまる。見ると、舞衣の脚部ローラーが前進しようと回っていた。
互いに押し合う状態になり、しばし均衡する。その間も、舞衣は拘束から逃れるためアームの駆動系に力を込める。
「無駄だって! マシンの操縦はそんな力任せでどうにかなるものじゃない! 大人しくしなさい!」
「うるさいっ! 私は……私はああああああああ!!」
鉄仮面越しだというのにも関わらず、舞衣の怒気は普段前線に立たぬロイドを竦み上がらせた。
その結果、舞衣を縛る二本のアームが微かに緩み、一気に振り解かれた。
「!?」
飄々とした口を利く暇もなく、ロイドは後方に仰け反った。
しかし舞衣はその隙を見逃さず、ロイドの胸元目掛け、文字通りの鉄拳を振り翳す。
同時に、脚部ローラーを回転させ、推進。
鉄拳で押し出し、推進し、苛烈な勢いでロイドを前方に追いやる。
「わああああああああああああああああ!」
周囲一帯に喚き散らしながら、舞衣はロイドを殴りながら前へ前へと驀進していった。
「痛い! 痛い! 痛い!」
衝撃から逃れるため、脚部ローラーを後進させてしまったのがロイドの間違い。
二号機の肢体は転倒を許さぬまま、むしろ勢いづいて後退させられ、胸元のフレームが歪んでいく。
「やめ、やべ、やめてー!? ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなざっ!?」
舌を噛んだ。が、ふざけているのではない。
殴打の衝撃による純粋な痛みと、舞衣の鬼気迫る迫力に圧倒されて、ロイドは早くも弱腰になっていた。
だが、それでいて常の冷静さは崩さない。状況を打開するため戦略を練るが――
「がふんっ!?」
後頭部を強打し、組み立て前の思考材料が全て吹っ飛ぶ。
舞衣に後方まで殴り飛ばされ、背後にはいつの間にか、ビルという名の巨大な壁が迫っていた。
退路を断たれたロイドは半ばヤケ気味に、鉄拳を翳す舞衣の機体にしがみ付く。
ゼロ距離ならば殴られる心配もない。と考え実行に至った、苦肉の策である。
しかし、戦闘本能むき出しとなった舞衣には、それすらも通用しない。
「こいつ……離れなさいよおおおおおおおお!!」
右腕の砲身を持ち上げ、背部のパーツと連結。フェルミオン砲を展開する。
銃口は標的の急所を捉えていたとは言いがたいが、この距離ならばさして関係はない。
至近距離からの発射で、ロイドの体を吹き飛ばすつもりだった。
「なっ――よしなさい! こんな密接した状態でそんなもの発射したら――」
「っさい! 殺す、あんたはここでえええええ!」
チャージが始まり、チャージが終わる。
改造されているとはいえ、フェルミオン砲の発射速度はそれほど遅くはない。
想定外ばかりの事態が続く前線での戦闘に戸惑い、ロイドはあたふたと思考の海を泳ぐ。
(至近距離からのフェルミオン砲!? 馬鹿な、そんな真似をしたら、
いくら装甲があるとはいえどうなるかわかったもんじゃない! 僕のほうもフェルミオン砲を撃って相殺する!?
それこそ愚行だ! だって、相殺できるような物質かどうかもわかっていないんだから!
だいたい僕はフェルミオンという物質に関して数パーセントしか理解していない。
それも憶測と推論が混じった割合だ、ギャンブル性が高すぎる! ああ、だから正面きって戦うなんて柄じゃなかったんだ!
スザクくんやセシルくんならこんなときどうするの!? 誰か、誰か教えてください!!)
いや、むしろ溺れていたのかもしれない。
未知の物質、フェルミオン。それが生み出す破壊の方程式。
技術者だからこそわかる恐怖にロイドは混乱を極め、本能のままに舞衣の身から離れた。
舞衣がフェルミオン砲の照準を、ロイドに向け修正。
ロイドも咄嗟にフェルミオン砲を展開し、両者、銃口を向け合う。
溜めに溜めた引き金を、舞衣は満を持して絞った。
ロイドもやや遅れて、正面に迫る光に撃つ。
フェルミオンの輝きがぶつかり合い、爆ぜた。
◇ ◇ ◇
壱/7――
フェルミオンとは、言ってしまえば反物質粒子を元にした破壊のためのエネルギーである。
その性質はロイドの危惧どおり危険極まりなく、人間の手には余る代物だ。
本来ラダム獣の殲滅に用いられるフェルミオン砲を、ソルテッカマン同士で撃ち合うなど、前代未聞だった。
その末の惨事が、数件のビルを巻き込むほどの大爆発であり、震源地となった二人のソルテッカマンは、
「……し、死ぬかと、思った」
ロイド・アスプルンドのほうは、どうにか生きていた。
「ロイドさん!」
「おーい、生きてるかー!?」
焼け爛れた市街地跡、そこにうつ伏せのまま蹲るロイドがいた。
士郎とラッドの二人はフラップターを駆り、ロイドの下に降下する。
「おいおいひでぇなこりゃ! 脚イッちゃってんじゃねぇか!」
「痛いですすごく……涙……出てます」
ソルテッカマン自体はまだ健在だったが、衝撃により露出した頭部には流血の跡が見られた。
それ以上に悲惨なのが、脚部。ロイドの片脚はソルテッカマンの装甲ごとぺしゃんこに拉げ、再起不能に陥っていた。
ロイド自身は息も絶え絶えで、普段の余裕が窺えない。重傷だった。
「ロイドさん……鴇羽は?」
「さて……運がよければ僕と同じように、装甲に守られて、生きてるかも、だけど……」
「ってロイドさん、今は黙って! このままじゃいけない……すぐに治療を――」
「オイオイオイ! やっこさん生きてやがんぞ!」
士郎がロイドの容態に血相を変える傍ら、ラッドの口から悪報が届いた。
振り返るとそこには、残骸の中、膝立ちでフェルミオン砲を展開しているソルテッカマンが一機。
照準はもちろん、士郎たち三名に向けられていた。
「鴇羽……おまえ! まだこんなこと続けるってのかよ!?」
「言っても無駄だろ。最初の予定どおりだ……シロウが説得して、ロイドが力ずくで、それでも駄目なら俺が殺す。
残念だったなぁ。作戦通りなんだわ。わかるかマイちゃん? おまえはここで死ぬんだよ!」
「いけない!」
超伝導ライフルを構え殺気を放つラッド。その寸でのところで、ロイドが待ったをかけた。
青ざめた顔で、ラッドに忠言を下す。
「撃っちゃいけない……おそらく撃てば、彼女の機体から零れ出ているフェルミオンに反応して……爆発する。
逃げ……るんだ。すぐに撃ってこないところを見ると、彼女の意識はたぶんまだ完全じゃない……隙があるうちに早く」
ロイドの言葉を聞き、二人は舞衣のほうを見やる。
幾つか装甲が外れ、制服が露出している。自壊寸前なのだろう。
「チッ、銃が駄目ってんなら、殴り殺しゃいいじゃねぇか!」
「なにを馬鹿なこと言ってるんだ! ロイドさんの言うとおり、今は逃げよう!」
「あの飛行機を……運転できるのは君だけだ……頼むよ、ラッドくん」
士郎とロイドの二人は、一人反対したラッドを制する。
普段ならば、テンションの高ぶった彼にこれらの進言はまるで意味を成さない。
が、今は状況が状況だ。ラッドは殺人狂ではあるが、短絡的な命知らずではない。
殺したい奴は他にもいる。ジャンパーに、おさげジジイに、ハゲジジイに、そしてなにより元の世界に置いてきた婚約者が、ラッドに殺されるのを待っている。
対して、舞衣はラッドが熱意を燃やすほど殺してやりたいタイプではなかった。
「だぁー畜生! わぁったよ、マイちゃんは後のお楽しみに取って置くよ! 今はこっから離れるぞ!」
天秤にかけて、ラッドは退却を受け入れた。
舞衣は怒声も発さず、黙々と砲身が安定するよう努めている。
「さぁ、ロイドさんも速――く!?」
ラッドがフラップターを起動させ、士郎はそれに乗り込むべくロイドの身を引っ張り――そこで気付く。
「……無駄さ、士郎くん。人型だからってなめちゃいけない。これだけの代物だ、重量だって、並外れてる」
ソルテッカマンを着込んだロイドの体は、とても士郎の力で持ち運べる重量ではなかった。
たとえラッドと二人がかりだとしても、数十分はかかる。引きずることすら叶わない。
「だったらロイドさん、早くそれを脱いで!」
「だから無駄だって。拉げて……脱げなくなってる。脚なんて、もう感覚ないし……」
見ると、ロイドの目は力なく沈みかけ、顔はいっそう青ざめていた。
出血がまだ続いている。士郎は唇を噛み締め、再度舞衣に向きなおった。
「鴇羽! もうやめろ! こんなことしたって、なにも意味はない! 殺し合いなんかしちゃいけないんだよッ!」
血迷ったかのように、再び舞衣に説得の言葉を投げかけた。
◇ ◇ ◇
壱/8――
霞む視界の奥で少年が必死に呼びかけている。
自らの理想を言葉にして、若さという原動力に乗せて、他者にぶつけている。
誰かに似ていた。無防備な後姿が、誰かのそれと被った。
(ああ、スザクくんか。彼ならまぁ、この場面でもこうしただろうね。やっぱり、彼は似ていたんだ)
自身が最高のパーツと評した少年を思い出し、笑う。
矛盾を抱えた正義感という、共通の概念を持ち合わせた衛宮士郎に対し、叫ぶ。
「自重しろ! 衛宮士郎!」
死に掛けの弱々しい声でも、いつもの飄々とした口調でも、なかった。
「君の理想は立派だ。だがそれは、現実を受け入れず駄々捏ねるだけで掴める理想なのかい?」
今にも泣きそうな、それでいて悔しそうな顔をする少年を、厳しく叱咤する。
「君は軍人ではないし、彼とも違う。だけど君が正義の側に立とうとするなら――生きて、理想を貫くことだ」
理想に準じて命を投げ出すのでは、なにも変わらないし変えられない。
「わかったら行きなさい。行って、君が信じるべきことをやればいい。あと、もう一つ」
常のような、憎たらしくもどこか温情に満ちた笑顔を作り、
「命を捨てて理想を貫くなんて、そんな矛盾は抱えちゃいけない。矛盾は君を殺すよ。ふふふ……だから、行きなさい」
士郎がフラップターの下に駆け出したのを見て、満足した。
「……さて、最後の言葉はなににしようかな。未練がましくプリン食べたいとか? ああ、相羽くんにも謝る必要があるか。
天国なんて信じちゃいないけど、ひょっとしたらスザクくんやアニタくんに会う機会もある、かな?
セシルくん……ランスロットの調整、よろしく頼むよ。アッシュフォードのお嬢様は……悲しんでくれるかな?
……おやおや、僕ってば、未練タラタラじゃないか。死にたくないなぁ……今からでもやめてくれないかなぁ、舞衣ちゃん」
羽ばたき飛行機が、飛び去っていく音が聞こえる。
一秒か十秒か、一分以上の時が流れたかもしれない。
しばらくして閃光は奔り、ロイドの身は熱気に包まれた。
「それではみなさん、さよ〜なら〜♪」
これは、誰の耳に届くこともなく。
ひょっとしたら、空耳だったのかもしれない。
【C-6中央部/市街地跡/1日目-昼(放送直前)】
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:フラップター(+レガートの金属糸@トライガン)@天空の城ラピュタ
[道具]:支給品一式×2、ファイティングナイフ、超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾5/5)
ニードルガン(残弾10/10)@コードギアス 反逆のルルーシュ、携帯電話、閃光弾×1
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
0:後味悪ぃな畜生!
1:東方不敗を探してぶち殺す。
2:鴇羽舞衣を殺す。
3:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
4:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
※フラップターの操縦ができるようになりました。
※ソルテッカマンを着込む際、ロイドの荷物を預かりました。
【携帯電話】
@全参加者の画像データ閲覧可能。
A地図にのっている特定の場所への電話番号が記録されている(どの施設の番号が登録されているのかは不明)。
全参加者の現在位置表示システム搭載。ただしパスワード解除必須。現在判明したのはロイドと舞衣の位置のみ。
パスワードは参加者に最初に支給されていたランダムアイテムの『正式名称』。複数回答の可能性あり?
それ以外の機能に関しては詳細不明。
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、腹部、頭部を強打、左肩に未処置の銃創、軽い貧血
[装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、バリアジャケット
[道具]:なし
[思考]
0:ちくしょう……
1:玖我を助けに戻る。
2:舞衣に殺人をやめさせたい。
3:イリヤの保護。
4:できる限り悪人でも救いたい(改心させたい)が、やむを得ない場合は――
5:18:00に図書館へ行く
※投影した剣は放っておいても30分ほどで消えます。
真名解放などをした場合は、その瞬間に消えます。
※本編終了後から参戦。
※チェスに軽度の不信感を持っています
※なつきの仮説を何処まで信用しているかは不明
【ロイド・アスプルンド@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】
【残り61人】
◇ ◇ ◇
壱/9――
舞衣が放った最後のフェルミオン砲は、ロイドの機体から漏れていたフェルミオン粒子に反応を起こし、大規模な爆発を起こした。
反動で吹き飛ばされた彼女は、倒壊した家屋の中に叩き込まれ、そのまま気を失った。
大切なものを奪う――かつては死にたいとさえ思っていた少女は、歪んだ方法で生きる意志を手に入れた。
それに操られるがまま、過ちを繰り返し、それでも運命は、彼女に死を許さなかった。
本当、イラつく。
自らの境遇に悪態をついて、それでも舞衣は生きて奪うほうを選択した。
【C-6中央部/市街地跡/1日目-昼(放送直前)】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:精神崩壊、気絶、疲労(大)、全身各所に擦り傷と切り傷
[装備]:ソルテッカマン一号機@宇宙の騎士テッカマンブレード
機体状況:ほぼ全壊、エネルギー10%、フェルミオン砲0/12 レーザーライフル1/20
[道具]:支給品一式
[思考]:かなり短絡的になっています。
1:大切なものを奪う側に回る(=皆殺し)。
2:もう二度と、大切なものは作らない。
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※エレメントが呼び出せなくなりました。舞衣が心を開いたら再度使用可能になります。
※静留にHIMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※瓦礫の山に埋もれているため、簡単には発見されません。
◇ ◇ ◇
弐/5――
全ての戦いに決着がついた後、その男は遅れてやって来た。
「――英霊か、はたまたあのおっさんの言ってたエキスパートって奴か……どっちにしろえらい化け物がいたもんだ」
蒼き槍兵――ランサーは、騒ぎを聞きつけ戦地跡に訪れた。
崩壊した大地、破壊しつくされた住居郡を見て、他人事のように頭を掻く。
誰かは知らないが、派手な殺し合いをしていた輩がいる。思うところはそれだけで、収獲がなさそうだと判断すると、その地を後にしようとした。
ランサーが求めるもの。それは愛用するゲイ・ボルグであり、あるいはその情報源となる参加者だ。
ここで誰かが争っていたとして、情報の得られなさそうな殺戮者や、死体には用はない。
生きた参加者ならば、まぁ接触する意味はある。そういう意味では、なんとも微妙な発見だった。
「……」
無言で立つランサーの眼下には、一人の女性が転がっていた。
軍服を纏い、軍靴を履き、そのいたるところに血痕を宿した……金髪の女性。
橋で襲撃するかどうか迷った女、そしてエリオに致命傷を与えた男の、おそらくは同僚。
言うなれば、敵になるやもしれぬ女。それが、気を失って目の前に転がっている。
「軍人ってのは、決まって口が堅いもんだがな」
試しに鉄槍で小突いてみるが、反応はない。重傷というわけではなかったが、かなり疲弊しているようだ。
ランサーは女の身を小脇に抱え、乱暴に運び出した。
「まぁ、こいつが本当にあの男の仲間だとしたら……いろいろ恨みもある」
慈愛が働いたわけではない。ランサーは冷徹な憎悪を持って、眠る女に接した。
労わるべき患者ではなく、単なる情報源として。
【C-6南部/市街地跡/1日目-昼(放送直前)】
【ランサー@Fate/stay night】
[状態]:疲労(中)、強い決意
[装備]:鉄槍(折ったポール+アサシンナイフ@さよなら絶望先生×1本)
[道具]:デイバック×2、支給品一式×4、ヴァッシュの手配書、防水性の紙×10、
不明支給品0〜2個(槍・デバイスは無い)、偽・螺旋剣@Fate/stay night、暗視双眼鏡
M500ハンター(0/5)@現実、ダーツ@現実(残り23本)、タロットカード@金田一少年の事件簿、USBフラッシュメモリ@現実
泉そうじろうのデジタルカメラ・説明書付@らき☆すた(※マタタビの勇姿(後ろ姿)を撮ったデータが一枚入っています)
[思考]
基本:このゲームに乗った者、そして管理している者との戦いを愉しませてもらう
1:女(リザ)を病院に運び、軍服の男(ロイ)等について尋問する
2:どこかにあるかもしれないゲイ・ボルグを探す
3:↑のために他の参加者を探して接触する
4:言峰、ギルガメッシュ、ヴァッシュと出会えれば、それぞれに借りを返す
5:衝撃のアルベルトと出会えれば戴宗からの言伝(一時的な休戦の申し込み)を伝える
6:エリオの知り合いと出会えたら事の経緯を伝える
7:日が暮れたら、戴宗と合流するため一旦温泉へと向う
最終:エリオの遺志を尊重し、螺旋王を討ち倒して彼の仲間を元の世界へと帰す
[備考]
※エリオ、戴宗と情報交換をして、それぞれの世界についての知識を得ました
【リザ・ホークアイ@鋼の錬金術師】
[状態]:気絶、疲労(大)、精神的ショック、全身各所に擦り傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考] 基本:ここから脱出する。殺し合いをするつもりはない
0:……
1:北上し、警察署で更なる銃器を調達する
2:ロイ・マスタング大佐、マース・ヒューズ中佐、エルリック兄弟(アル)を探し合流する
3:2日目の0時頃に温泉へと戻り、マタタビに協力を要請する
4:トンネルで見た化物を警戒す
5:ゆたかを心配
※リザ・ホークアイの参加時期はアニメ15話辺り。彼女の時間軸では、マース・ヒューズはまだ存命しています
※トンネルで出会った人物より、『線路の影をなぞる者(レイルトレーサー)』の名前を聞きましたが、
それが名簿に記載されていないことにまだ気づいていません
※マタタビと情報交換をしてません。また、マタタビを合成獣の一種だと考えています
※Dボゥイとゆたかの知り合いについての情報を得ました。
※穴の空いたデイパックは、めぐみの消防車の運転席に放置。
※ルールブレイカー@Fate/stay nightは、パズーの遺体とともにC-6のどこかに放置。
◇ ◇ ◇
参/3――
全ての戦いに決着がついた後、その二人は遅れてやって来た。
「ひどい……街がめちゃめちゃ」
「……卑劣な」
その破壊が、ソルテッカマンによって齎されたものなどとは露とも思わず、Dボゥイは憤る。
ゆたかも、テレビなどで見た震災の映像を思い出しながら、珍しい光景にただただ息を飲んだ。
二人もまたランサーと同じく、騒音に引き付けられやって来た者。
騒乱に直接関わることはなかったが、惨事の大きさは、容易に想像ができた。
粉々に砕け転びやすくなったアスファルトを踏みしめながら、二人は破壊された街々を行く。
「あっ、あれ見てください」
そのとき、Dボゥイの背中に縋るように歩くゆたかの瞳に、微動する瓦礫の山が映った。
何者かが埋もれていると直感したDボゥイは、ゆたかの身を長身で隠し、声を発した。
「誰かいるのか!? 返事ができるようなら――」
瓦礫の山に向かって――Dボゥイは、すぐさま異変に気付いた。
埋もれているのが騒乱の被害者であるならば、助ける余地はある。
だが加害者であるならば、それなりの戦力を持った危険人物であるのは必至。
前者ならともかく、後者なら即座に対応しなければならない。ゆたかを守るための最善策を。
そしてその異変の正体は――どうやら後者のほうであるようだった。
瓦礫の山が、崩れる。中から、人が出てきた。
「……やあ、久しぶりだね。兄さん」
埃に塗れた姿は、どこか狂気染みたオーラを纏う青年で――顔つきは、どこかDボゥイに似ていた。
「シンヤ……」
強張った形相で、Dボゥイは埋もれていた男をねめつける。
「Dボゥイ……さん?」
この二人の因縁などまったく知らないゆたかは、ただ首を傾げることしかできなかった――
――その胸に、得体の知れぬ不安を抱えて。
放送が、流れた。
【C-6南西部/市街地跡/一日目/昼(放送開始)】
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:左肩から背中の中心までに裂傷(傷は塞がったが痛みは若干残っている)、全身打撲(中)、貧血(中)
[装備]:テッカマンアックスのテックランサー(斧) @宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:デイバック、支給品一式、月の石のかけら(2個)@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本:テッカマンエビル(相羽シンヤ)を殺す
1:シンヤに対処。ただしゆたかの安全を最優先
2:病院に戻り、二人分の代えの服や薬品、治療のための道具を集める
3:病院に戻ったら、一度食事と休憩をすませる
4:次の目的地を定め、速やかに病院を離れる
5:信頼できる人物にゆたかを預けたい……だが(?)
6:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:疲労(小)、心労(中)
[装備]:COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:デイバック、支給品一式、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]
鴇羽舞衣のマフラー@舞-HiME、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mm NATO弾)
M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
基本:元の日常へと戻れるようがんばってみる
0:なんだろう、この不安は?
1:Dボゥイが帰ってきたら、一緒に食事と休憩をすませる
2:Dボゥイの指示にしたがって行動する
[備考]
※コアドリルがただのアクセサリーではないということに気がつきました
※夢の内容は今のところぼんやりとしか覚えていません
【相羽シンヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:全身各所に擦り傷
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、ファウードの回復液(残り700ml)@金色のガッシュベル!!、首輪(パズー)
[思考]
1:まずは兄さんに“挨拶”
2:ロイドの下に首輪を持っていく。
3:制限の解除。入手した首輪をロイドに解析させ、とりあえず首輪を外してみる。
4:テッククリスタルの入手。
5:Dボゥイの捜索、及び殺害。
※B-6の一部、C-6のほぼ全域が崩壊しました。一部まだ火災が続いてる場所もあり、煙が昇っています。
やだ。
『くだらん』
それが結論だ。
地図の枠に沿って位相差ゲートがあるのかどうか。
そのようなオーバーテクノロジーが存在するのかしないのか。
この枠の外へ踏み出せば何が起こるのか、起こらないのか。
あの女が不可思議な技を使うのか使わないのか。
今、あの女が何処にいるのか。
生きているのか、死んでいるのか。
その全てが、自分にとっては取るに足らない、下らない問題なのだと再確認する。
科学的な検証は物理学者がすれば良い。
理解不能な事象を無理に理解しようとする必要も無い。
可能性は、可能性として留め置けば良い。
あの女が生きているなら、見つけ出して殺せば良い。
怪しい技を使うのならば、使わせる前に殺せば良い。
自分の知らない情報を知っているなら、吐かせれば良い。
そう、全ては極めて単純なことである。
俺が今、思い悩む必要など、無い。
そして、目に見えない境界線へと向けていたその眼を、街の方へと向け直す。
その視線の先では、この閉じた世界に囲われた、虫けらの如き人間共が、殺し合いをしているのだろう。
そう、是は極めて簡単な状況だ。
俺は、前に進む。
障害は、排除する。
邪魔をするものは、殺す。
そして、俺は、俺自身が行きたい場所に行き、成りたい物になる。
ただそれだけの事だ。
それは、何時だろうが、何処だろうが、変わることなど無いだろう。
これまでも、そしてこれからも。
まどろっこしい真似などする必要はない。
進み、奪い、屠る。
虱潰しに。
ただ、それだけだ。
毒蛇は、人を呑み、他の蛇を呑み、そして、龍をも呑み込む。
そして、獲物を求めて、前へと進みだした。
@ @ @ @ @ @
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/ ィ/ ヾ,,、 }
lノ、i゙, , _,.r'`ゝ、r-、 |
ゝ,、( o) ̄'v'6,l i
ヽソ.  ̄ ,r'、 ノ ぶっちゃけ、したらばがこのスレを荒らしてるんじゃないか
', -‐'` ノ ヾr、._
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゙ フヾ゙,r''´,r/ /
_,,r'ヽ',~,r''/__/
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