アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ3
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螺旋王どころか、獣人もガンメンも知らないというジン。格好の特異性から考えれば、
おそらくはこの清麿とラッドという男たちも。
獣人たちの凶暴性、そしてガンメンの打破しようのない強度も、知りはしないのだろう。
あれは、ちょっとやそっと身体能力が優れている程度ではどうにもならない。
ガンメンに対抗できるのはガンメンのみ。それこそグレンラガンのような。
それが叶わずとも、リットナーの男衆を総動員するくらいしなければ、ガンメンは攻略できない。
せめて愛用のライフルがあれば心強いのだが、あいにく今は、たった一人の人間に命を脅かされるのが現実だった。
「……走行中の車に飛び乗って、運転手に襲い掛かり、そのまま車上で剣戟戦ねぇ……クックック。
いいねいいねぇ。アクション俳優もビックリの大胆さじゃねーの。
さぞかし自分は強い、こんなに強い自分は死ぬはずがない、そう思ってるんだろうなぁ……」
「あーヤベ、ゾクゾクっときた」
ヨーコが当人にしか理解しえぬ不安を重ねる中、ジンと清麿の会話を端で聞いていたラッドが、
突如不敵に笑い出した。口元に手を当て、わざとらしく笑声を漏らすその様は、まったくウケて
いない喜劇で一人だけ爆笑している感性の違う観客のようだった。
ヨーコはまだろくに自己紹介も済ませていないラッドに得体の知れぬ不快感を覚えたが、その
不快感の正体はすぐに判明することとなる。
――彼、ラッド・ルッソの感性は、ここにいる誰のものと比べても、ズレすぎているということが。
「よーし、決まりだ! 今からそいつブッ殺しに行こう! そうだそれがいい! 第一号はそいつで決定!」
出会いから数えて、ジンとヨーコに対しラッドが放った第二声が、これだった。
そいつ、即ちジンとヨーコを襲った男、即ち相羽シンヤを、ブッ殺す。ラッドの提案は、ストレートに
ふざけていた。
もっとも、それはヨーコの捉え方にすぎない。言った本人はド真面目であり、ブッ殺すという表現も、
比喩でもなんでもなくそのままの意味である。
「ちょっと待て。今俺たちが一番にやらなきゃいけないのは、脱出するための仲間を集めることだ。
そいつが危険人物なら確かに放っては置けないが、なにも今迎え撃つ必要はないだろ。それに、
殺しは――」
「あぁン? そりゃなんだ、命令か? それともお願いか? 前者だったとしたらそりゃ大きな勘違い
だぜキヨマロォ……。俺はおまえの仲間になってやるとは言ったが、部下になったつもりはねぇ。
俺とおまえは対等だ……従う義理なんかねーわけよ。
それともなにか、おまえは俺の親父か? それとも上司? まさか学校の先生とか言っちゃうん
じゃねぇよなぁー!」
唖然とするヨーコの目の前で、ラッドは清麿の顔面スレスレまで強面を肉薄する。
口調の荒々しさは常のものだが、この男、感情の起伏が驚くほど激しい。
嬉々としてブッ殺しに行こうと提案したかと思えば、今は清麿の些細な異論でお怒りモードだ。
まるでガキ大将……ヨーコはこの時点で、ラッドに対してそんな『甘い認識』を持ち始めていた。
清麿の身体が地面に対してほぼ四十五度、ほとんど押し倒されそうなくらいまで追いつめられると、
ラッドはなんの前触れもなく身を引いた。
そして、今度は『怒』の表情を再び『喜』に戻す。
「あそーだ。いいこと思いついたぞ俺は。キヨマロ、おまえは仲間を作ってここから脱出してぇ。
俺は思う存分殺し回りてぇ――」
一瞬、この男から耳を疑いたくなるような行動理念が聞こえてきたような気がしたが――まさか、幻聴だろう、とヨーコはとりあえず流す。
381 :
調整:2007/10/05(金) 23:25:13 ID:z8Uxx3S7
「両者の言い分を叶えるにはだ……俺が、おまえの、邪魔するヤツを片っ端から殺してけばいい。
ハッ、これで万事解決なんじゃねーの!?」
いや、幻聴などではなかった。 実際に相対するのは初めてだが、このラッドという男。
いわゆる『殺人狂』らしい。
「俺が、そんなヤツはいない、俺の邪魔になるようなヤツは存在しないと言ったら、おまえは誰も殺さないのか?」
「んなわけあるかよ……冷めるぜキヨマロ。おまえの邪魔するヤツってのはつまりだ、この殺し合いに
乗ったヤツ、それ以外にいるか? そういう奴等は総じて『俺が最強』、『俺が生き残る』、『俺が死ぬわけ
ない』、そんなこと考えてるヤツばっかだ。こいつらの話に出てきた男なんてまさにそれよ。自分が死ぬ
はずがないと信じてやがるから、そういう無茶ができる。
こいつら二人とも殺せてねぇってのになぁ――アー、おもしれぇ! さぞ悔しがってんだろうなぁ!
……ここで俺がこいつら殺したら、そいつ、もっと悔しがるかな?」
テンション定まらぬラッドの視線が、狂気の念に固定され、ヨーコに向く。
ヨーコは不覚にも、ゾクッ――としてしまった。 ガンメンから感じるそれではない。体感したことのないような、新種の恐怖……『人間の狂人』が放つ殺気だった。
蛇に睨まれた蛙のように竦むヨーコと、今にもやらかしかねないラッド、両者が数秒睨み――
合うかと思われたが、間に小柄な影が割って入る。
その人物こそが、この異質な談合の場で、唯一ラッドの狂気に干渉されない――自由すぎる
少年だった。
「あ? なにおまえ? ナイト気取り?」
「ナイトね……そりゃ見当違いかな。ほら、俺って誰にも縛られない存在だからさ」
そうだ。このジンという少年は、いきなり拉致され殺し合いを強要されても、他参加者の襲撃に
遭っても、まったく自己のペースを乱さなかった。
そして今も、ラッドという危険極まりない狂人と相対してなお平静を保っている。
「あー……もしかしてアレ? 俺ツエーから、女の前で格好つけても平気なくらいツエーから、こんなところで殺されるはずねーとか思ってる?
そうか、そうだよなぁ。見た目からしてゆるそうなツラしてんもんなぁ。
一秒後に自分がタコ殴りにされてて、二秒後にその痛みに悶絶してて、三秒後にショック死してる未来なんて信じられねぇよなぁ。
俺ぁよ……そういうヤツを殺すのが大好きなんだ。『自分は安全だ』と信じてやまない、どこぞの田舎貴族みたいに緩みきったヤツ。
そんな奴等がよ、いきなり命の淵に立たされるんだ。想像してみろ、ゾクゾクするだろ!?
どんな顔すると思う!? どんな命乞いすると思う!? 知りてぇよなぁ〜俺も知りてぇ! だから、死ね!」
言って即刻、ラッドはジンに向かって拳を突き出した。
情け無用の右ストレート。手加減などという文字は、この男の辞書には存在しない。出会ったばかりでも、それくらいはわかる。
息を飲む暇もなく、目を背ける暇もなく、それでもヨーコは咄嗟に身を引いてしまい、
ジンは、ラッドに殴られぶっ飛ばされた。数メートルほど。
「――なッ!?」
命中したのは顔面。軌道は地面に対して並行だったが、なぜかジンは、一発のパンチで宙高く舞い、後方のヨーコすら飛び越え、数分前に埋もれていた衣料店の中に逆戻り。
突き破られたショーウインドウが、またもやジンの体を店内のマネキンたちの下へと誘う。
盛大な物音を立てて店内の床を転がり、そしてジンは、再び女性物の服に塗れた。
思わず声を漏らすほど、不自然かつ大胆なぶっ飛ばされ方だった。ラッドのパンチの威力がそんなにも強烈だったのかと言えば、そうではない。
あれはどう見ても、ジンがわざと大袈裟にぶっ飛ばされてみた。そうとしか捉えられない。
それは傍観者であったヨーコと清麿、ジンを殴ったラッド自身も、皆同じ見解だった。
衣料店から音がやみ、三者がしばし呆然とし、ほどなくしてジンが這い出てきた。
その有様は、以前のようなミイラ状態ではなかったものの、見るからにヨロヨロで、パンチ効いてますよーと主張しているようなものだった。
「ってて……メチャクチャ痛いね、これ。こんなん何度も食らってたら本当に死んじゃう。もうカンベ……ってあれ?」
飄々とした態度で舞い戻るジンだったが、周りのリアクションは薄い。
それどころか、ラッドの凶悪な面相はさらに凍てつき、清麿の顔は微かに青ざめていた。