アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ3
現在地はD−7のちょうどど真ん中あたりだろうか。
近くに自然公園があるためか、もしくはここも自然公園の一部なのか、そこは森といっていいほど
緑に恵まれていた。 当然のように、遮蔽物になりえる木は大量に存在した。
木々の間に滑り込み、二人はひとまずの安息を得る。
「Dボゥイさん、あの人、なんで」 「静かに」
ゆたかは震えていた。
何が起きたかはよく分からなかったが、問答無用に殺されそうになった。それだけは理解できた。
そして理解できなかった。なぜこうも簡単に人を殺そうとするのかが。
そのことを問おうとしたのか、それとも慰めてほしかったのか、ゆたかが口を開いたその瞬間のことだ。
カマイタチが、近くの木の枝を切り裂いた。
「そういえば、まだ名乗っていなかったね」
ゆたかは恐怖した。 口を開いたならば、自分たちの潜んでいる場所が知られたなら、
あったというまに切り刻まれてしまうのではないか。 どうしてか、悪い方向にばかり想像が広がってしまう。
そんなゆたかの様子を知ってか知らずか、ヒィッツカラルドは今さらな自己紹介を始めた。
「私の名は素晴らしきヒィッツカラルド、君たちの仲人だ。冥土の土産にでも覚えてくれたまえ」
パチンっと指を鳴らす音が響き、今度は近くの木が輪切りになった。 遮蔽物に意味は無いと、暗に言っているのだ。
Dボゥイはゆたかを低く伏せさせて、問う。
「何で俺たちを襲う!」 「それは本気で言っているのかね?」
ヒィッツカラルドは小馬鹿にしたように答えた。殺し合いに乗っている。そいうことなのだろう。
「お前は、殺戮と破壊を楽しむというのか!」
「ああ!楽しくてしょうがないよ!」
パチン、パチンと次々に右手の指を鳴らす。そのたびに木は削られ、枝葉は切り落とされた。
「・・・・・・そうか、お前も、ラダムと、同じか」
ゆたかは思わず顔を上げ、Dボゥイを見た。
そこには怒りや憎しみ、悲しみや後悔、様々な感情が込められていた。
――理不尽に、全てを奪っていく悪魔。貴様はそれと同じだ!
ゆたかには、Dボゥイが、自分を優しく抱きしめてくれた青年が、まったく別の生き物に見えた。
ゆたかは知らない。全てを奪われて復讐に身を焦がす人間を、彼女は見たことが無かったのだ。
Dボゥイがゆたかに告げる。
「俺があの男の相手をしている間に、君は逃げろ」
一人ぼっちになった気がした。この場所には、もう怖い生き物しかいないような気がした。
ゆたかは怖くて肯くことしかできなかった。
■
「なるほど、孔明の気持ちが少しは分かった気がするよ」
ヒィッツカラルドは愉快だった。適当な罠をはったら、愚かな獲物はみごとに食らいついてきたのだ。
ヒィッツカラルドは『左手』をポケットから取り出し、親指と中指を合わせる。
ヒィッツカラルドは、二人と出会ってから今まで右手でしかカマイタチを打ち出さなかった。
たまたま思いついたことだった。弱者をいたぶるための罠として。
獲物はもう逃げられないところまで来ていた。
Dボゥイはヒィッツカラルドが左手を出したのを見ると、即座に次の行動に移った。
デイパックに突っ込んでいた手には、テッカマンアックスのテックランサー――片刃のハルバードが握られていた。
人の手に余るこいつをデイパックから抜き出し、そのままの勢いでヒィッツカラルドに叩きつけるつもりであったがもう猶予はない。 距離は足りない。しかし、まだ手はある。
「食らえ!」
Dボゥイはデイパックからアックスのテックランサーを抜き出し、そのままヒィッツカラルドに向けてハンマー投げのように投擲した。
大きく重いそれはそれほど遠くには飛ばない。しかしヒィッツカラルドまでには充分届いた。
「残念だったね」
届くには、届いたのだ。
しかしそれはヒィッツカラルドには滑稽なほど遅く鈍く、紙一重で避けるには充分すぎたのだ。
ヒィッツカラルドが投擲でバランスを崩したDボゥイに向けて指を鳴らす。
とっさに身をよじったものの、今度は避けることはできなかった。
「・・・・・・ふむ」
ヒィッツカラルドはDボゥイの捨て身の攻撃を紙一重で避けたものの、不満げだった。
足元にはヒィッツカラルドの支給品が転がっている。投擲でデイパックを切り裂かれたのだ。
その中には月の石も含まれており、残念なことに三つほど瓶が割れていた。
本来ならば、彼にこのようなミスはない。
しかし螺旋王が施した制限が、ヒィッツカラルドの見切りを乱したのだ。
――まあいい、もともと私には必要ないものばかりだ。
デイパックもこいつらから奪い取ればいいだけの話。
そう結論付けたが、ヒィッツカラルドは月の石を一つ拾いスーツの内ポケットに入れる。
少々、もったいない気がしたのだ。どうせすぐに効果が消えるのなら、有効に使った方がいいだろう。
気を取り直し、ヒィッツカラルドはDボゥイに止めを刺すために近づく。
あと少しといったところで、ヒィッツカラルドの前に一人の少女が立ちふさがった。
小早川ゆたかだった。