水のせせらぎと、そよぐ風の音が鼓膜を優しく刺激し、時折吹く強い風がそれに絶妙なアクセントを添える。
背中に触れるのは、硬い凹凸。対照的に、胸から下腹部にかけての前面には、温かく柔らかな、どこか懐かしい感触が……。
……感触? いや、自分はたしか死んだはずでは……。
「……ん、うぅ……ハッ!」
目を開くと、そこには紛うことなき現世の風景が映し出された。
空はいつの間にか薄明るくなっている。つがいの小さな鳥が、視界を横切ってひよひよと囀りながら通り過ぎていった。
固い地面に触れた右の手を、そっと握ってみる。小石である。見回すと、掌に収まる程度の石が無数に転がっていた。
どうやらあの後、川の流れに乗って岸に打ち上げられたらしい。つまるところ、身投げは失敗に終わったのだ。
溜息を吐こうと深く息を吸ったそのとき、横隔膜に強い抵抗を覚えた。
そういえば、先ほどから腹部に圧力を感じる。早い話、体の上に重石が乗っかっているようだ。
謎の重石を除けるため、左手をゆっくりと腹のほうへ動かす。すると、指先に柔らかい何かが触れた。
これは一体何なのか。真相を確かめるべく、頭を持ち上げて恐る恐る腹の上を見遣る。
目線の先に現れたもの。それはうら若い女性の肢体であった。自分の体に折り重なるように、俯けに覆い被さっているのだ。
そして左手が握り締めたそれは、彼女の豊満な……。
「ななな、なんですかこのベタなシチュエーションは―――っ!!
……ではなくて、どうして彼女がここに居るんですか―――っ!!」
「んっ……」
糸色の絶叫を聴き、カレンが目を覚ました。
「え?」
不味いと思ったときには遅く、糸色の全身は金縛りに遭ったかのようにぴくりとも動かなくなる。
当然ながら、乳房を掴んだ左手も微動だにしない。糸色は『セオリー通り』という一方通行の袋小路に迷い込んでしまったのだ。
カレンは小さな呻きを上げながら、釈然としない様子でしょぼつく目を擦っている。
ここで脳が覚醒してきたのか、状況確認を始めたようだ。鞄がちゃんと背負われているのに安堵の息を吐き、
ずぶ濡れになった髪や服に眉を顰め、自分が置かれている状況を認識して、あっと驚きの声を漏らすと、徐々に顔色が変わり……。
目が合った。
「ごごごごめんなさいぃ! こ、これは不可抗力なんです、慰謝料は払いますから訴えないでくださぁいっ!!」
カレンの下からするりと這い出し、石に仮面をぶつけながら糸色は必死に土下座をし始めた。
「すすすすみません、圧し掛かってしまって。重かったですよね? 重かったですよねぇっ!?」
カレンは慌てて立ち上がり、九〇度より深く腰を折って、何度もペコペコと頭を下げる。
ん? この感覚……デジャヴ?
>>153 >>149 ムダな改行が多すぎます