アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ2
「ウ、ウヌゥ……」
会場の一角に停泊する、殺し合いの場には不釣合いなほど豪華に飾り立てられた豪華客船の、医務室のベッドのシーツの上。
「こ……、ここはどこなのだ!き、清麿はどうなったのだ?」
そこから、金髪の、小柄な姿が、飛び起きた。
正直な所、ガッシュはまだ現状を良く理解してはいない。突然、謎の場所に呼び出され、突然、殺し合いをしろと言われ、
そして―――突然、自らの最も信頼するパートナー、高嶺清麿と引き離された。
わかっているのは、そのくらいのものだ。自らを呼び出し、「螺旋王」と名乗った者の正体はおろか、その「螺旋王」に
挑みかかって返り討ちにあった異形も、今自らのいる場所も、高嶺清麿がいる場所も、
「ど、どうなったのだ?どうなっているのだ……?」
何も、わからない。
ガッシュは、焦った。ここに飛ばされる前の記憶によれば、ここは「殺し合い」の場であるらしい。
ガッシュも、戦いを知らないと言うわけではない。これでも、魔界の王候補の一人。高嶺清麿と共に、多くの敵と戦い、多くの仲間と
助け合って、多くの危機を乗り越えてきているのである。
しかし、今までは、仲間がいた。ティオも、キャンチョメもいた。何よりも……、清麿がいた。
「はっ!き、清麿が危ないのだ!」
突然、ハッとしたように立ち上がるガッシュ。螺旋王から、この殺し合いゲームの説明を受けた時まで、清麿が側にいた事を思い
出したのである。
彼のパートナー、清麿は普通の中学生である。いや、頭脳は普通どころか、超が付くほどの大天才であるが、肉体的な能力は
所詮、普通の中学生である。
今までは、二人で力をあわせて困難に立ち向かい、幾多の危機を乗り越えてきたが……それも、清麿の心の力と、ガッシュの術、
その両方があってこそのものである。
今、二人が離れ離れになったこの危機的状況で、もしも凶悪な敵に襲われたら……。
清麿も、ガッシュも、生きてはいられないだろう。
「こうしてはおれぬ、いかなくてはッ……!?」
清麿を死なせたくない―――清麿を探して、必ず助ける。
強い決意を胸に秘め、全速力で走り出すガッシュ。そしてその直後、支給品のディパックに足を取られて、スッ転ぶガッシュ。
「いたたた、そういえば、これを忘れておった……」
これは、たしか螺旋王から渡された、いろんなアイテムの詰まったタカラ箱。よくよく考え直せば、清麿に出会う前に別の悪い
敵に見つかってしまう可能性もある。そうならない為には、このディパックから、何か身を守れる物を出す必要がある。
「この中に……、何か良いものが入っておればよいが……」
祈る様な気持ちで、ディパックの中身を漁るガッシュ。始めに手に触れたものは、フカフカしてやわらかくて、暖かい……
「ネズミ、か?」
……クリクリした丸い目を持って、尻尾の先にフサフサの毛玉を持つネズミのような生き物。とある世界では、「爆弾生物」
との異名を取り、金に目が眩んだ運び屋を何人も爆殺した、歩くA級危険物ポルヴォーラ。それが、ガッシュの前に現れた。
見れば、足に足輪と重りを括り付けられている。これで勝手に歩いて勝手に爆発という事態を防ごうとしているのだろう。
「オヌシも、どこかからこの変な場所に飛ばされたのか?」
しかし、ガッシュは、ポルヴォーラを知らない。だから、この毛だるま生物が、「武器」として支給されたなど、思いも寄らない。
精々、自分と同じように世界のどこかから螺旋王と名乗る男に連れてこられた生き物、としか思ってはいなかった。
人間界ならいざ知らず、この程度の異形なら、彼の故郷の魔界には掃いて捨てるほどいる。
「……」
「……」
「……………………」
だから、この魔物も話が分かる、と思い、話しかけたガッシュであったが……、帰ってきたのは長い沈黙だけ。
「オヌシ、もしかして喋れないのか?」
「……………………」
「……スマヌ、聞いた私が間違っておった」
何を言っても暖簾に腕押し、首をかしげるだけのポルヴォーラは、身を守るのに役に立たないと判断し、デイパック漁りを
再開するガッシュ。やがて、一つの紙包みを取り出し、開けた……までは良かったのだが。
中から出てきたのは、武器でもなければ防具でもない。チョコである。ネオホンコンのとあるお偉いさんが愛したチョコを、
ありったけ集めて袋詰めにしたお菓子セット。平時ならこれを見た子供は大喜びするものであるが、あいにくとガッシュの
身を守るためには、全くもって役に立ちそうもない。
「……、こんなものではどうにもならぬのだ……ハァ……」
ガックリとうなだれるガッシュ。半ば諦めかけた表情でデイパックをひっくり返し、振った。
ゴ ト ッ
すると、一冊の赤い本が、医務室の冷たい床の上に転がり出てきた。魔物の術を使うための本、赤い魔本。ガッシュの本。
ガッシュは、それを見るなり、今にも万歳をしそうな勢いで喜んだが、やがて元のようにうなだれてしまう。
「本があっても、清麿がいないと意味が無いのだ……」
医務室の床に座り込み、しばしの間いじやけるガッシュ。傍らではポルヴォーラが、支給品から引っ張り出した板チョコを
勝手に齧っており、その咀嚼音だけが医務室に響き渡る。
ガタゴトッ!
「ウ、ウヌッ!い、今の物音は一体何なのだ?」
静寂を打ち破り、突如別の部屋から、聞こえてくる物音。なにやら硬いもの同士がぶつかる音や、刃物がガチャ付く様な、
耳障りな音が次から次へと漏れ出してくる。
ガッシュは、ポルヴォーラと板チョコ以外の支給品をあわててデイパックの中へとしまいこみ、そろりそろりとドアへと忍び
寄り、耳を鍵穴に押し付け、全神経を集中させて隣の部屋の様子を探った。
「……切る?……〆る!?おおおおお、恐ろしい話が聞こえるのだ……!」
その結果は、最悪。少し音源が遠すぎるため、正確な話は聞き取れないが、切るだの〆るだのと、会話の所々に物騒
極まりない単語が混じっているようだ。
ガッシュは、医務室で震え上がり、あちこち見回して別の出入り口が無いかどうか探すが、あいにく、医務室の出入り口は
一つしかないようだ。それはつまり、ここから逃げ出そうと思えば、必然的に声の聞こえるほうに近づくこととなり……
おそらく、戦っているか殺しの相談でもしているだろう連中の前へと無防備に姿を現さなければならない、という事になる。
あれ?投下宣言あったっけ?
「逃げられぬ……となれば、あやつらが居なくなるまで、ここで待つしかないのか……?」
冷汗まみれの顔でそう呟くガッシュ。しかし、ここで待っていても、助かるとは限らない上、隠れて時間を無駄にすれば
無駄にするほど清麿が危険な目に会う確率が高くなり、無事に出会える確立は下がっていく。
で、あるから、奇襲をしよう。と、ガッシュは考えた。
一気に突っ込んで、驚かせるか何かして隙を作った後、息が続く限り全速で逃走する。それが、ガッシュの考えうる限り、
最良の方法。
「今行くぞ、清麿ッ!」
デイパックを背に背負い、頭にポルヴォーラを乗せて、いざ発進。覚悟を決めて飛び出し、人影が見えたら声を上げる。
首絞めティオもかくやと言わんばかりの形相で、両手を大きく振って全速前進するガッシュ。医務室から少し進み、船の
大広間に出ると、そこには人影が一つ。ガッシュに気が付いた様子で、両腕を構え、迎撃の態勢をとる。
そして、ガッシュと人影が今にもぶつかろうとする瞬間……
「ちょーっと待った待った待ったァァー!爆発するーゥゥ!」
人影と共に大広間に居た一羽のカラスが、大きな叫び声をあげ、大広間は凍りついた。
「……つまり、あたしたちの話し声にびっくりして出てきた、ってワケね。」
騒ぎが一段落し、互いの情報交換を終えた後の大広間。青い髪の少女がガッシュに話しかける。
「そうなのだ。切るとか、〆るとか聞こえてきて驚いたのだ。まさか、こんなことをしているとは、思いもしなかったのだ」
そういって、傍らのテーブルを見つめるガッシュ。そこに用意されていたのは、豪華に飾り付けされたテーブルクロスと、
大きな皿。奇妙な形の反りが入った大きなナイフに、ブリ。まごうこと無きブリ。青の背に、銀の腹を持ち、体の中央には
金のラインが入った息のいいブリが、飾られたテーブルの皿の上で、ビチンビチンと音を立てて跳ねている。
「ま、このお嬢さんとのお近づきのしるしに、ケーキカットならぬブリカットとしゃれ込もうと思ったってワケさ。ちょうど
都合よく、俺のディパックから出てきたもんでね。あ、あとカット用のナイフもね。俺も、探し人はいるんだけど、そいつ
なかなかにしぶとくてね、そー簡単にくたばりゃしないだろうから、今はアレンビーちゃんと親睦を深めるのが先決だと
思ってさ。彼女の話によれば、彼女の探し人も相当タフだっていうし。それに、このブリも早いところ喰ってしまわない
と痛んじまう……etc」
黒いカラスが、青い少女につつつーっと近づいていく。羽ばたきもしないのに宙に浮いているように見えるのは、目の
錯覚なのだろうか。水の入ったワイングラスを傾けながら、アレンビーに向けて話しかけ続けている。
「とりあえず、お互い怪我もしなかったみたいだし、それはよしとしてさ。あんたの話してくれた清麿、だっけ?そのコ、
武芸の心得も無いんでしょ。じゃあ、急いで助けに行ったほうがいいんじゃないの?」
「そ、そうなのだ!急いで欲しいのだ!急がないと清麿が危ないのだ!」
カラスの話をスルーして、ガッシュに語りかけるアレンビー。ガッシュはハッと顔を上げ、力説する。
「それじゃあ急いだほうがよさそうね!荷物を纏めて探しに出ましょ!」
青髪の少女アレンビーは、そう言うなり各自の荷物をチャッチャと纏め始める。
「ガッシュは、私の背に乗って。ポルヴォーラってのは、頭の上でいいよね。ブリは……尻尾掴んで持っていけばいいか、
いざとなったらリボンの代わりとまでは行かなくても、鈍器くらいにはなるだろうし」
あっという間に荷物は片付き、出発の準備が整った。ガッシュを背に乗せ、ポルヴォーラを頭に載せて、ブリを右手に、
火の灯ったカンテラを左手に付かんだアレンビーは、そのまま走り出すと、豪華客船の最上甲板へ、あっという間に
たどり着いき、そこからそのまま陸地目掛けて飛び降りた。
「おーい!あんたどうしてこっちこないんだよー?」
初対面時はあれほど引っ付いてきたのに、ガッシュとの合流直後から常に一定の距離を保ち、一向に近づいて来ようと
しないカラスに、高く飛び上がったままアレンビーは問いかけたが、
「アレンビー!オレはいつでも遠くからお前のことを見守っているよぉーん!」
カアスから返ってきた返事は、これだけ。
「可愛いけど……バカな女」
これが、現時点におけるキールの認識するアレンビー像であった。
【E-3/豪華客船最上甲板上空5m/1日目/深夜】
【機動武闘伝Gガンダム@アレンビー・ビアズリー】
[状態]:健康
[装備]:背中にガッシュ、頭にポルヴォーラ、右手にブリ、左手にランタン
[道具]:支給品一式、ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:生きてる)
爆弾生物ポルヴォーラ@王ドロボウJING
不明支給品1〜3(本人確認済み、少なくともブリよりリーチの長い近接武器は入っていない)
[思考]
基本思考:螺旋王にドモンとダブルゴッドフィンガー!
1:高嶺清麿を最優先で捜索!
2:ドモン及びジンを捜索!
3:悪いヤツにはビームブリをブチかます!
4:強い人が居たら、ファイトしてみたいと心の片隅では思ってたり……
[備考]
※いきなりキールに口説かれてから今までノンストップなので、名簿の確認はまだ。
※シュバルツと東方不敗は死人と認識。
※キール、ガッシュと情報交換済み
【キール@王ドロボウJING】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING
[思考]
基本思考:とりあえず、さっさと会場から逃げ出す
1:仕方ないので高嶺清麿を探してやる
2:アレンビーと二人でウエディングブリに入刀したい
3:ジンも探さしてやるか
4:ポルヴォーラには近寄りたくないけど、アレンビーが襲われれば駆けつける
5:他にも女性が居たら口説くつもり、野郎には興味なし
[備考]
※いきなりアレンビーを口説いてから今までノンストップなので、名簿の確認はまだ。
※アレンビー、ガッシュと情報交換済み
『警告します。禁止区域に抵触しています。
あと30秒以内に爆破します』
無機質な声が響き渡る、それと平行して放送の声が聞こえる。
「圭一君!」
「レナ、逃げるぞ!」
『――えられた!、 これもひと・・・』
そういうが早く、俺はレナの手を掴み、正反対の方向に向かって一気に走り出す。
その首輪を見ると、首輪のランプが赤緑に点滅している。
放送は今なお続くが、そんな話に耳を傾けている暇は無い。
チクショウ、警告だけしてそのまま爆殺ってか!ありえない、ありえないんだ絶対にッ!
あの屑野郎がこんなことで自分の楽しみを放棄したりはしない、だから絶対に助かるッ!
信じろ、信じるんだ圭一!自分を信じろッ!
『――7時より A-4・・・』
程なくして自分の首の点滅が消え、俺はその場にへたり込む。
助かった・・・。いや、今はそれ所じゃない!一番重要な点を聞き逃しちゃ絶対にマズイッ!
隣のレナをチラッと見る。レナは俺に引き吊られる形で一緒に地面に座り込むことになっていた。
レナの首輪だけが光ったりといったようなおかしいことにはなってはいなかった。
いや、今はまず放送に耳を傾けるべき・・・・・・
『・・・ワハハハ――』
その不快な声とともに、あの仮面の男の立体映像は消え去った。
よかった、みんな無事だ。そうさそうだ、そうだよな。
俺たち部活メンバーが、こんなことで脱落するわけが無い!
あの策士である魅音の奴はこんなことではうろたえる訳がねえ。
沙都子は自慢のトラップワークで飄々と生き延び、梨花ちゃんはにぱー☆と笑いながら他の誰かをファンクラブにしている。
そんな光景が、不謹慎ではあるが浮かんだ。ふいにレナから声がかかる。
「圭一君、みんな・・・みんな無事だったね。」
「ああそうさ、俺たち部活メンバーはこんなことでやられたりはしないからな。」
俺はレナの手を引いて立ち上がり、ズボンについた土を払う。
レナが不意に口を漏らす。
「でも、19人も死んでいる・・・。」
「四分の一か・・・くそっ・・・。」
まだ俺たちはこの殺し合いに巻き込まれてから誰にもあっていない。
だから19人の人間が死んだかと言われて、俺はそれを実感として感じることが出来なかった。
最初の広間には様々な人間が居たことからも、実は俺たち二人以外に誰も居ない。それは無いだろう。
たまたま隣の人間が信頼の出来る仲間だったからこそ、放送を信じないという選択肢が与えられている。
そんな幸運、いや、奇跡に感謝しなくてはいけないのだ。
奇跡、そう、奇跡なんだ。俺たちは出会いも奇跡なら、経過も奇跡だった。
奇跡は間違いなく起きている。それは証明されたんだ。
「なあ、レナ」
「何?圭一君」
「やっぱり、俺たちはツイてる。いや、奇跡はちゃんと起きてたんだ。」
「ただの小学生や中学生の集まりに過ぎないはずの私たち部活メンバーが・・・」
「誰一人欠けることなく残っている。だから俺たち部活メンバーは、絶対にこの悪魔の脚本を打ち破る。」
「圭一君・・・・・・」
レナが相槌を打つ形になる。俺はそのまま話を続ける。
「だから、仲間を探そう、みんなだけじゃない。この馬鹿げた殺し合いを止めさせたいと願う人はきっと居る。
俺たち部活メンバー、そして他の誰かを信じあおう。仲間と一緒にこの惨劇を絶対に止めよう」
「うん、圭一君。レナも、レナも圭一君と一緒に頑張るから・・・」
「さあ、仲間を探そう。信頼しあえる、仲間を探しに行こう。」
レナの手を取り、俺は歩き出す。
ん・・・ちょっと待て圭一、何か忘れてないか・・・・・・
ああっ!放送をメモするのを忘れた!
俺は数歩歩き出した足を止め、レナの方向に情けない顔で向き直る。
レナが疑問符を浮かべたような表情で声をかけてくる。
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:健康、おでこに少々擦り傷
[装備]:赤い魔本@金色のガッシュベル!!
[道具]:支給品一式、ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム
[思考]
基本思考:螺旋王を見つけ出してバオウ・ザケルガ!
1:なんとしてでも高嶺清麿と再開する
2:ジンとドモンを探す
3:ブリ喰いたい
[備考]
※色々あったので名簿の確認はまだ。
※魔本が清麿以外にも読める可能性は全く考えていない
※キール、アレンビーと情報交換済み
「圭一君、どうしたの?」
「すまんレナ、放送の内容をすっかり忘れてしまった。教えてくれないだろうか」
レナの表情が変わる。あの表情はまさか・・・
「放送を忘れちゃったうっかりやの圭一君かぁいいーーーー、おっ持ち帰りぃぃぃぃぃ」
「だあああああ、レナ待て!、今はそれ所じゃないだろうがああああ」
レナが緩みきった表情で思いっきりじゃれてくる。というか首が絞まってるって、ギブギブギブだから!
・・・レナに散々弄り倒されながらも、俺はなんとかレナを落ち着かせるという任務を成功させる。
抜け目の無いレナは俺がくだらない妄想をしている最中にきちんと放送をメモしてたらしい。
おかげで禁止エリアに突入して、またドカンの危機を受けることは無いのだ。
そう、俺の横には信頼できる仲間が居るし、これから向かう先には人が居て、信頼しあえる仲間になる。
そんな根拠の無い妄想なら、俺は信じることが出来た。奇跡の存在を確かめることが出来たからこそだ。
窓の外にあの変態仮面の顔が映る。とともに放送が始まった。
やかましい声が耳をつんさき、ようやく禁止エリア情報を伝えはじめる。
俺は取り出しておいた地図を取り出し、情報をメモする。
苛立ちすら覚えるその声とともに、死亡者の名をメモするべく名簿を取り出す。
「圭一君、どうしたの?」
「すまんレナ、放送の内容をすっかり忘れてしまった。教えてくれないだろうか」
レナの表情が変わる。あの表情はまさか・・・
「放送を忘れちゃったうっかりやの圭一君かぁいいーーーー、おっ持ち帰りぃぃぃぃぃ」
「だあああああ、レナ待て!、今はそれ所じゃないだろうがああああ」
レナが緩みきった表情で思いっきりじゃれてくる。というか首が絞まってるって、ギブギブギブだから!
・・・レナに散々弄り倒されながらも、俺はなんとかレナを落ち着かせるという任務を成功させる。
抜け目の無いレナは俺がくだらない妄想をしている最中にきちんと放送をメモしてたらしい。
おかげで禁止エリアに突入して、またドカンの危機を受けることは無いのだ。
そう、俺の横には信頼できる仲間が居るし、これから向かう先には人が居て、信頼しあえる仲間になる。
そんな根拠の無い妄想なら、俺は信じることが出来た。奇跡の存在を確かめることが出来たからこそだ。
窓の外にあの変態仮面の顔が映る。とともに放送が始まった。
やかましい声が耳をつんさき、ようやく禁止エリア情報を伝えはじめる。
俺は取り出しておいた地図を取り出し、情報をメモする。
苛立ちすら覚えるその声とともに、死亡者の名をメモするべく名簿を取り出す。
――俺は開いた口が塞がらなかった。タチの悪い冗談だろ?
タバコは咥えていないはずなのに、ポロっと落ちた気がした。
銭型のとっつあんに、五ェ衛門。あの殺しても死ななそうな二人が死んだって・・・・・・?
放送が嘘であることはあの変態仮面の性格からしてありえないだろう。
だが、ありえないはずの二人の死、これは一体どういうことだ・・・・・・。
不覚にもありえない二人の死から、そんな都合のいい考えをしてしまった自分が情けない。
涙は出ない、流さない、流せない。
それが次元大介という男だから、悲しむ暇なんて許されないのだ。
俺は帽子を深く被り直し、しばしの間黙祷を捧げる。
――とっつぁん、まさかあんたが死ぬとは思わなかったぜ。化けて出てきたりするなよ。
――五ェ衛門、毎度毎度女に騙されてたけど、また騙されて殺されたなんて言うなよ。
――悪いなおまえら、俺にはまだまだやることがあってな・・・・・・、後でゆっくり頼むぜ。
・・・それから少しして、隣の男に話しかける。
「なあ、ソロモン」
「なんでしょうか?次元」
「予定変更だ、探し人が増えた。」
「どうしたんですか急に?・・・・・・ああ。」
「ま、そういうことだ。手の掛かる相棒が気になっちまってよ」
隣の男は変わることなく微笑を浮かべ、無表情な人形を抱っこし続けている。
本当に食えない男だが、少なくとも背中から刺されるといった事態にはならなそうだった。
「本当は信頼できない奴とは行動したくない、と言いたいところだが・・・・・」
「あなたのお友達が死んでしまったから、・・・ですかね。」
「そういうことだ。ま、慣れない武器だとどうなるか分からなくなったからな。」
と言って、俺は手元のカスタムオートを見せる。
「ちょっと俺には手の余る代物でな。」
「これはこれは、先ほどもお目にかかりましたが本当に常識外れなサイズですね」
「人間じゃないお前さんなら、問題ないんじゃないか?」
「さあ、僕はよくわかりませんね」
「ま、そういうわけでよろしく頼むぜ。」
「改めてよろしくお願いします。」
先ほどのやり取りから、成り行きでお互い情報交換は済ませていた。
ソロモンが手を伸ばしてきたからしょうがなく握手してやったが(その後は蒼星石という人形ともすることになった。)
完璧な信頼は置けないとはいえ、これからは一緒に協力する。だからこそこっちから手を伸ばすことにしてみた。
「さて、じゃあ行きましょうか次元」
「おう」
この古びた高校の探索は既に済ませており、ここには誰も居ないことは確かめた。
探索の途中にソロモンが拡声器を拾っていったほかに、役に立ちそうなものはなかった。
拡声器もこの殺し合いで何に役立つのか疑問だが、ソロモンの奴があるに越したことは無い。
とかなんとかで持っていくことになったっけな・・・・・・。
そんな調子でギシギシと床のなるこの高校の階段を下りていると、ふいにソロモンの奴が声を出す。
「おや、あそこに誰か人影が見えますね。」
「どれどれ・・・」
仕事柄目には自信がある俺だが、あの樹々が生い茂る山を見て人を発見できるほどじゃない。
ソロモンは自分からペラペラと喋ってくれた身の上話は、どうやら嘘って訳じゃなさそうだな。
「彼らは残念ながら小夜のようではありませんでしたが、何か知っているかもしれませんからね。」
「じゃあ、そいつらとうまく接触できるように動くとするか」
「ええ、そうしましょう。」
ソロモンはやはりというか小夜に入れ込んでいるらしく、ちょいとつついてやったら熱く反論してたっけな。
女の話は相棒の件からして面白くないものだが、ソロモンにとって音無小夜は相棒以上にお熱な女らしい。
ま、言って聞かないなら忠告してやる義理は無いなんて考えつつ、そういうわけで行動開始することに
私は圭一君と談笑しながら、目の前にそびえる古びた高校へと歩いている。
圭一君はまず人のいそうな施設に向かってみようと言い、私はそれに従うことにした。
人と接触することで情報を得るのは大事なことだ。今のところ私たちは今まで誰とも会っていない。
だからこそ情報を得る必要がある。そうでなければこの殺し合いでうまく立ち回ることは出来ない。
だが、もう一つ私は、先ほどはかぁいいモードで誤魔化した圭一君の言葉を反芻し続けていた。
「信頼しあえる、仲間」
そう、私にとっては隣の圭一君であり、魅ぃちゃん、沙都子ちゃん、梨花ちゃんのことである。
あのゴミ山で仲間と誓い合い、圭一君が私を引っ張り上げてくれた手は今でもかぁっと熱くなるときがある。
それはあの出会いからであり、先ほども放送のときも熱くなるのを感じていた。
でも、それじゃあいけないと私は分かっている。私は幸せを蝕む敵を倒さなくてはいけない。
信頼しあえる仲間なんて、私たち以外に誰が居る?19人も人が死んだのに・・・・・・
そんな状況下で信頼しあうほど私はお人よしではない。敵になる可能性があるならば速やかに排除するべきだ。
そんな仲間は何も出来ずに敵にやられた19人の中には居るに違いないかも知れない。違いない。違いない。
でも、圭一君は信頼しようと言った。私が一番信頼している圭一君はそう言っている。
だから自分の思考に忠実になれない。迷っている。迷うのはいけないことだって知っているのに
こんな考えはきっと相談できない。だから今なおその言葉について考えをめぐらせていた。
そうこうしているうちに目の前に高校の正面にたどり着く。
圭一君があまりにも無警戒だから人が居るかどうか見たほうがいいと忠告するが、分かってる分かってると流す。
私と圭一君が校門の死角から様子を見る。・・・人の気配はしない。そういう結論を出したので、進入することにした。
校内に入ろうと思った矢先に、私の前に金髪の優男と帽子を被った髭男が出てきた。
優男は小さな人と手を繋いでいる。髭の男は銃に手をかけている。
相手は銃を持っているッ!この状況はヤバイッ!!!
>>82 すみません、コピペが終わったようなので早く投下しようと焦ってしまい、宣言を忘れてしまいました、ごめんなさい。
銃を避けるために移動し、戦闘態勢に入るはずだった。
だが、私達が行動に移った段階で相手は沈黙し、圭一君はこの状況下でただ鉈を構えているだけだった。
戦意が無い?と思ったが早く、圭一君が大声で叫んだ。
「聞いてくれ!俺はこの糞ッ垂れな殺し合いには乗ってねえ、信じてくれ!」
すると二人と一つの人影がこちらに向かってくる。
だが髭男が銃から手を離していないところから見て、警戒はまだ解いていないらしい。
だからこそ私もいつでも踏み込んでナイフを差し込めるように警戒を解かない。
ああ、リーチが足りない。圭一君の鉈なら・・・・・・
このコンバットナイフは鉈よりはずっと扱いやすくていい武器だが、リーチで劣るのが痛い。
この状況下ではリーチの差が少なくない優劣を生み出す。圭一君は鉈を下ろして相手を見据えている。
もうこの状況下で焦ってもどうしようもないと判断し、相手の警戒を緩めるためにこちらの警戒を少し緩めることにした。
「僕はソロモン・ゴールドスミスと申します。あなたと同じようにゲームには乗っていません。」
「ソロモンさん、俺は前原圭一って言うんだ。よろしくな」
圭一君が金髪の男と握手を交わす。圭一君は何も考えずに笑って握手をしている。
ソロモンという男は微笑を浮かべたまま、表情を殆ど変えずに握手を交わした。
程なくして髭男も挨拶をする。
「自分は次元大介ってんだ。ま、よろしくな」
「・・・・・・竜宮レナです。」
次元という男は手を出さない。私を警戒しているのかもしれない。
まあ、それは私の行動に少し問題があったことで、次元さんを攻める訳にはいかない。
圭一君と握手をしたソロモンという男は私にも手を伸ばす。
「よろしくお願いしますね、レナ」
「よろしくお願いします。」
私と握手するときは表情は微笑からよりにこやかな笑いに変化する。
それにつられる形で私は笑顔を浮かべ、握手することにした。
別に面白くもなんとも無い私を見て表情が変わるとは、一体どういうことなんだろう?
ソロモン・ゴールドスミス・・・・・・か。
握手を終えたソロモンさんがさらに口を開く。
「この子は蒼星石です。私の優秀なパートナーでして、魔法の力で動いている人形なんですよ。」
蒼星石という男の子みたいな人形はぎこちなく歩き、圭一君と私の前で握手を交わす。
・・・魔法なんて嘘みたいだ。嘘みたいか・・・・・・、何かがおかしいような・・・。
私はこのやりとりに違和感を感じつつも、彼らと情報交換を交わす。
ソロモンさんの言う小夜という探し人。そして自分自身のこと
次元さんが言う青い狸とあの仮面の男のこと、次元さんの仲間のこと
あのルパンの三代目だとか、翼手の存在、青い狸といった漫画にしかありえないような話が次々と飛び出る。
圭一君はそれに殆ど疑問なんて持たない様子で、ペラペラと私たちのことを喋っている。
圭一君はこの状況下で手持ちの情報が持つ価値についてまったく理解をしていないようで、あの地図の外のことまで話してしまった。
ソロモンさんが、蒼星石という人形について話し始めた。
「この子は私の支給品なんですが、これが蒼星石との契約の指輪です。」
そう言って指輪を見せる。やっぱり何かおかしい。違和感じゃない。
「この指輪を通じて私と蒼星石は心が通じ合っているんです。
そして、蒼星石は彼女の姉妹である人形を探したいといっています。」
クールになれ、レナ。どこからおかしい、どこがおかしい?よく考えろ・・・・・・
「この子のほかにも、同じような人形の姉妹が居て僕達はその・・・」
「嘘だッ!!!!!!」
私は気がついた。絶対に間違いなんかじゃない。だから言ってやった。
ソロモンは少し驚いたものの、動揺している様子は無い。
しかし人形のほうはそうでない。誤魔化しきれない。動揺している・・・・・・。
だから私が気がついたことは間違っていない、それを裏付ける動きをその人形はしていた。
次元のほうはというと、疑問を浮かべた様子で私を見ていた。
「嘘だなんて酷いですね。レ・・・」
「いいや、嘘だよ。私の目は絶対に誤魔化せないッ・・・」
言ってやる、私は相手に主導権を与えないように続ける。
「どうして嘘をついてないなんて嘘をつくのかな?かな?」
「だから嘘では・・・」
「嘘を付くんじゃないッ!!!!」
相手に弁解の余地を与えない、そのまま続ける。
「レナはちゃーんと知ってるんだよ。名簿あったよね、名前が・・・」
「蒼星石、ってね!!!!」
私があの放送の内容をメモしているとき、名簿の中でひときわ難しい漢字が並んでいる下りが確かに存在した。
ちょっと読むのに苦労したが、あの中には蒼星石という名前が存在したはず。いや、存在している。
あの動揺こそが証拠である。
私は明確な証拠であるはずの、ここに居るならかならずあるはずのアレを確認する。
リボンを引っ張るとすぐ取れた。私の考えの通りにリボンの下から、首輪が現れた。
「これは何なのかな?かな?」
「・・・・・・おいソロモン、こいつぁどういうことだ?説明してもらおうか。」
証拠を見せ付ける、次元は少なくない動揺をしているようだ。圭一君はまだ間抜け面を浮かべている。
ソロモンのほうはというと、蒼星石とともに謝罪をし、これまでの経緯を説明し始めた。
次元大介との接触時のほか、他の参加者とうまく交渉をするためであり、信頼できるものには説明する予定だった。
そして、そうでない参加者を場合によっては・・・殺す。たしかに筋は通っている。
だが、それは私たちも交渉の余地が無いなら殺す。そういうことを意味している。
私は今殺し合いに乗ってないからよかったものの、ソロモンと蒼星石は私の『敵』になるかもしれなかったのだ。
「こんなことをしている人は、レナ信用できないかな?かな?」
「ごめんなさい・・・。ソロモンさんをそんなに攻めないで、協力した僕のほうこそ悪いんだ。」
「そういう話じゃないかな?かな?ソロモンと蒼星石はレナ達を騙して殺そうとしてたかもしれないんだよ。」
そう言うが私はコンバットナイフを構えて戦闘態勢を取る。そして目の前のソロモン達も・・・
「みんな、やめろ!やめてくれ・・・
なんでこんなことするんだよ!俺達は殺し合いをするんじゃねえ!惨劇を止めるために居るんだろうが!」
さっきまで馬鹿みたいに呆けてた圭一君が私達の前で盾になる。ああ・・・邪魔だ邪魔だ。
圭一君が私のほうに向き直る。
「レナ、俺は言った!信頼できる仲間を探そうって
レナはソロモンさんを信用できないかもしれない。でも俺はちゃんと謝罪して説明してくれたソロモンさんは信用できるッ!
この人は殺し合いなんてしない!俺がそれを保証するッ!!!
だからレナは、俺のことだけでいいから信じてくれ!こんなことはもう止めてくれ!
誰かを疑うのはもう沢山なんだよおおおおおおおッ!!!!!!!」
勝手なことを言うだけ言って、圭一君は続ける。
「聞いてくれソロモンさん、次元さん、蒼星石。レナはただ嘘が許せないだけなんだ。
決してあんた達と敵対したくてこんなことを言った訳じゃない、信じてくれ・・・。
もしこれであんた達が怒ったなら俺はいくらでも謝る。
だから、だからそれで気が済むなら許してくれッ!頼むッ!!!!」
沈黙は一瞬、私は・・・・・・大好きな圭一君に従うことにした。
「ごめんなさい、ソロモンさん、次元さん、蒼星石ちゃん。」
私が戦闘態勢を解くと同じく、ソロモン達も戦闘態勢を解いた。
それから私達は許しあい、疑わない、嘘は付かないということ誓うことにした。
飛んだ茶番だ。
でも圭一君の真剣な表情の手前、無碍には出来ない。だから私は圭一君の望みに従う。
次元さんはそういうのが嫌いらしく、後ろのほうで苦笑を浮かべてぶつくさすまんね、とか言っていた。
次元さんは正しい。圭一君がどれだけ弁解しようとこの男、ソロモン・ゴールドスミスのことは信頼なんか出来ない。
協力した蒼星石は嘘は付いてる様子は無いが、この男との協力関係から信頼できる要素は薄い。
そういう意味では次元さんだって信頼できない。しかし信頼できないことは信頼できる。それだけは確かだ。
その後、信頼の証として支給品を含めた手の内を全て見せあうことにする。圭一君が支給品の食料を取り出す。
そういえばお腹がすかないかという圭一君の発言から、みんなで朝食を取ろうということになった。
そして私達は落ち着いて食事が出来る教室に移動し、談笑しながら食事を取る。
圭一君はまるで雛身沢に帰ってきたみたいに面白おかしく場を盛り上げて楽しく食事をしていた。
何も気が付いてない圭一君だけが
それから私達は今後のことについて話し合い、人が集まりそうな市街地に向かうことに決めた。
この辺りには人が居ないのは私たち自身の情報交換から明らかであり、私達5人の知り合いが向かいそうな施設。
ここから近い病院、図書館、映画館を探索することに決めた。
「それじゃあ、早速行こうぜ。善は急げだ!」
圭一君はやはり屈託の無い笑いでみなを引っ張るように我先にと歩き出す。
本当に圭一君は分かってない。ああもう・・・・・・イライラするなぁ・・・。
「待って、圭一君。提案があるの」
「ん?レナ、なんだ?」
私は圭一君に鉈とナイフを交換してくれと頼んだ。
かぁいいものがあったらぜひ自分の手で掘り出したい。そんな風に誤魔化して交換した。
信頼できるものが少ない今の状況下では、せめて武器ぐらいは信頼の置ける鉈にしたい。
圭一君はナイフを片手に、意気揚々と進み、遅れて蒼星石が歩き出す。
それ意外は、・・・・・・動かない。
「どうしました?レナさん」
「ソロモンさん、私は後ろから圭一君のことを見て居たいから、先に行ってくれませんか?」
「・・・一つ言っておきたいことがあります。」
「何なのかな?かな?」
「僕のことを疑うのは構いません。しかし小夜に何かするつもりなら、容赦はしませんよ。」
「それなら私だって同じ、圭一君や私に何かするなら容赦しない。」
真剣な表情を見せたソロモンはやり取りを終え、ヤレヤレと言った様子で歩き出す。
他にも言いたいことはあったが圭一君との約束の手前、あまり不振なやり取りは出来ない。
最後に残った次元さんにも声をかける。
「悪いな嬢ちゃん、自分も前を歩きたい気分じゃないんでな。」
「信頼できない、って言ってもいいんですよ。」
「そう言われると弱いなぁ・・・」
やり取りが終わり、私と次元さんは最後尾から互いの距離を開けて歩き出す。
これがお互いの距離、信頼できないもの同士のね
状況を確認しろ、レナ。
信用できるのは私と圭一君だけだ。
圭一君はさっきからイライラすることばかりやってるけど、私を騙そうなんて気は微塵も感じられない。
だからこそ圭一君に先頭という目を頼み、私は後方から監視する。
信頼できないのはこの三人、特にソロモン、ソロモン・ゴールドスミス、そして蒼星石。
特にこの二人は要注意であると頭に叩き込む、手は割れたとはいえいつでも裏切ることは出来る。
先ほどのやり取りから、ソロモンが何を考えているのかよーく分かった。
音無小夜、ソロモンの最愛の人。ソロモンの表情からも容易に存在の重要性が分かる。
ソロモンが私達を騙そうとしたことの理由が、ようやく推理可能になる。
音無小夜を生かす為に邪魔な存在を騙し討ちで排除し、優勝する。自然な考えだ。
しかしこの考えでは、蒼星石の存在がキーとなっている。
ソロモンが蒼星石を騙しているのか?それとも蒼星石とは互いに守るべきものの為に協力している?
蒼星石との情報交換から考えるに後者の可能性が高い、
だが、いずれにしろ決定的なキーを得る機会は無い。今この状況下でこちらから動くことは難しいだろう。
圭一君を裏切れば、それこそ私がみんなから攻められてもおかしくない。それでは駄目なのだ。
私がこれからすべきことは裏切りの証拠を押さえ、速やかに敵となった存在を排除する。
本当は次元さんも信頼が置けないのだが、次元さんも胸中は実のところ一緒のようである。
ソロモン達が信用できない。そういう意味で私達の利害は一致している。この線だけは部分的に信頼できるといっていいだろう。
本当は次元さんの後ろを歩きたかったが、この状況下でこれ以上の贅沢は望めない。
しばらくは、相手の出方を見続けるしかないだろう。私が気を抜いてはいけないのだ。
クールになれ、クールになるんだ竜宮レナ。もう二度と"い"やなことは起こさせない。
状況の確認、行動方針の確認を私は終えた。
やはり、圭一君は甘い。この状況下がどれだけ危機的か分かっていない。
情報交換をして分かったことから、私達のような普通の中学生では漫画の世界に出てくるようなやつらにはかなわない。
圭一君がべらべら喋ってしまったから、もうハッタリなんて使えるわけが無い。
ソロモンが嘘を付いているかもしれないが、他に違和感は無かった。
完全に信頼できるわけじゃないが、あの青狸の存在からして、普通では及ばないような存在が居ることは間違いない。
それを考慮に入れれば、ソロモンは強力な力を持ち、もしかしたら私達が束になってもかなわないかもしれない。
ああ、危機的だ危機的だ。考えること、やることはまだまだ沢山ある。
巨大な力を持つソロモン、蒼星石達ローゼンメイデン
どうやって尻尾を掴む・・・敵はどこだ、敵はどこだ、敵はどこだ・・・・・・。
ああ疲れる、圭一君は本当に何も考えてなくて本当に気楽そうだ。
そんな私のことを気遣ってくれない圭一君の様子が、私のイライラに拍車をかけていた。
鉈を掴む手に力が篭る。見てろ・・・私は絶対にお前達なんかに屈しない。
圭一君に手を出してみろ・・・・・・。おまえたちがどんなバケモノだろうと、一撃で叩き割ってやる。
一撃で駄目なら、*ぬまでバラバラにしてやる・・・・・・。
圭一君が教えてくれたオヤシロ様の奇跡は、私が絶対に守るんだから。
「……ミス・ヴァリエール! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」
教員の怒鳴り声に刺激され、ルイズは机に突っ伏していたその身をがばっと引き起こした。
涎の垂れた口元を拭おうともせず、ぼやけた頭を振って周囲の光景を確認する。
そこは、無数の椅子や机と黒板の置かれた教室内。タバサやキュルケ、ギーシュやモンモランシーといった級友の姿が窺える。
……どうやら、こともあろうに授業中に居眠りをしてしまったらしい。
恥ずかしさに口を噤みながら、ルイズはクラスメイトたちの笑い声を浴びせられて顔を赤面させる。
その笑いの渦中に、やたらと聞き慣れた男の声が混じっていた。
異変を感じ取るように訝しげな顔で横を向くと、隣の席には黒い短髪に平凡な様相を構えた、平民の少年がいた。
「ルイズは相変わらずドジだな。迂闊者っていうかさ」
「な、なんでアンタがここにいるのよ!」
「いちゃ悪いかよ。俺はルイズの使い魔だぞ」
「いちゃ悪いのよ! アンタは私の使い魔で平民! ここは貴族の学び舎よ! 犬は外で洗濯でもしてなさいよ!」
晒してしまった失態からくる恥ずかしさを怒りに変えて、まるでその少年が全ての元凶であるかのようにルイズは非難を浴びせた。
少年はちぇっ、と言い捨て、素直に教室を退出していく。
そうなのだ。使い魔は主人の命令には逆らえない。
召喚された時点でその主従関係は絶対であり、例外が生まれることはないのだ。
「だから、アンタはこの私に絶対服従でいなければいけないの! 分かった!?」
「はいはい分かりましたよ御主人様。俺は平民であって使い魔、ルイズは貴族であって主人。近いようで遠い関係だよなコレ」
場所を寄宿舎の外に移し、少年は洗濯をしながらあーあと空に向けて溜め息を吐く。
その横顔を見て、ルイズは自分の頬が薄紅色に染まっていることも気づかずこう発言した。
「で、でもまぁアンタも使い魔にしちゃ結構やるほうだし、そんなに遠くはないんじゃないかしら」
「? 遠くないってなにが?」
「だ、だからその…………カ、カ、カカカカンケイ…………とか」
「カンケリ? ルイズ、カンケリがしたいのか? つーかこの世界にもカンケリなんて遊びあるんだ……」
「な、なななななななななな違うわよ耳腐ってんじゃないのこのバカ犬!」
「イタっ、イタタタタ!? 耳引っ張るなよ!」