ここは
「アニメ作品のキャラクターがバトルロワイアルをしたら?」
というテーマで作られたリレー形式の二次創作スレです。
参加資格は全員。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。
「作品に対する物言い」
「感想」
「予約」
「投下宣言」
以上の書き込みは雑談スレで行ってください。
sage進行でお願いします。
現行雑談スレ:アニメキャラ・バトルロワイアル感想雑談スレ18
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1178169569/l50 【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
「地図」 → MAP-Cのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【バトルロワイアルの舞台】
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/34/617dc63bfb1f26533522b2f318b0219f.jpg まとめサイト(wiki)
http://www23.atwiki.jp/animerowa/
ハルヒタンが北に歩いている...
一応保守
「なんだ、あれは?」
廊下の窓際で、トグサは誰とも無しに小さく呟いた。
彼の視線の先にあるのはただ一つ。会場の北方に突如として現れた巨大な城だった。
「まさか、あれがギガゾンビのアジトなのか?」
言葉と共に脳裏を過ぎるのは、ゲイン・ビジョウのもたらした情報。
ゲインの言っていた亜空間破壊装置に、何らかのトラブルが起こったという事なのだろうか?
何が起こったのかは解らなかったが、事がこちらに有利に動いている事に間違いは無い。
(もっとも、あちらさんも何らかの対策を講じているとは思うが……)
などとトグサが考えている時だった。慌しい足音と共に、廊下の向こうからロックが現れる。
「トグサさん、敵です!」
その言葉に表情を引き締め頷きながら、ロックと共にトグサは駆け出した。
「あの女騎士じゃない?」
病院の裏口へと向け歩を進めながら、トグサはロックから状況の説明を受けていた。
「ええ、黒い甲冑を身に着けた男でした……」
それは現在生存している14人以外の人物。
突然、出現した扉から姿を現した15人目の男は、問答無用でこちらに襲い掛かってきたらしい。
ロックが病院内に駆け込む際には凛とフェイトの二人が相手をしていたらしいが、
こちらを探すのに手間取ったため、今はどういう状況になっているか解らないというのが現状だった。
よもやという考えを頭を振って追い払い、廊下を駆けながらトグサは尋ねる。
「ゲインは? 会議を行った部屋には居なかったのか?」
「ええ、俺が覗いた時には姿はありませんでした」
横を走るロックの返答に、トグサはそのままの速度を維持しながら思案する。
(突然現れた主催者の城に、正体不明の敵。そして、姿を消したゲイン・ビジョウ……問題だけが積み重なるな)
そうしているうちに、二人は放送前に会議をしていた部屋の近くまで来ていた。
「……少しだけ、あの部屋を覗いて行こう。もしかすると、ゲインも戻って来ているかもしれないしな」
トグサのその提案にロックは無言で首肯する。
そして、扉の側に来ると同時にそれを乱暴に開け放ち……トグサはその動きを止めた。
「トグサさん……?」
「その甲冑男が出てきたドアなんだが……もしかしてピンク色じゃなかったか?」
腰に差していた銃を抜き、前方へと銃口を向けながらトグサは問う。
彼の質問に驚きながらも、室内を覗き込んだロックの目に映った物、
それは部屋の中に突然現れた桃色の扉と、そこから出てくる幼稚園児ほどの大きさの土偶だった。
「ロック、お前はゲインを探しながらレントゲン室に向かってくれ……これはギガゾンビの攻撃だ!」
その言葉と同時、トグサの構えたS&W M19から銃弾が放たれた。
☆☆☆
「くっ、しつ……こい、奴等……め!」
銃弾による破壊により、異常を起こした言語機能。そして、移動しようとすると飛来する弾丸。
その状況に苛立ちを覚えながら、ユービックは敵の攻撃を防ぐべく、ベッドの影に隠れていた。
どこでもドアを潜り抜けた瞬間に遭遇した二人組。
彼等との遭遇戦により、ユービックは完全にその場に縛り付けられていた。
(こんな事をしている時間すら惜しいと言うのに……!)
こうしている間にも、自らの王であるグリフィスの生命は削られていっているのだ。
しかし、初弾で破壊された自らの体が、そして移動しようとする度に響く銃撃音がそれを阻んでいる。
あまりの苛立ちに、ユービックはこのまま反撃を行いたいという衝動に駆られていた。
(どうする? 相手はロックとトグサの二人……いや、今はトグサ一人か。奴を沈黙させれば、あるいは……)
しばしの思案の後、ユービックは鼻で笑う。
(愚問だな……この体でどう戦う? それに、協力を求めるべき相手を攻撃してどうする?)
そうとなれば、彼が取れる行動はおのずと狭まってくる。相手を説得するか、この部屋から撤退するかだ。
説得の可能性は早々に捨てた。壊れてしまった言語機能が、目的を阻害するからだ。
手元のノートパソコンを使用しての筆談もこの状況では無謀であったし、何よりそんな事をする時間も惜しかった。
では撤退はどうか。幸い、どこでもドアはまだ近くに出現したままだ。
あれを使用すれば、病院の別の区画へと移動する事ができる。
ただし、ドアを開けるためには飛来する銃弾を何とかしなければならないが。
(リロード時を狙うか? いや、そもそもタイミングが掴めない。
もし成功したとしても、ドアの前へ移動して扉を開くのはいいが、中に飛び込むまでに撃たれるのがオチか)
目的遂行のためには相手に虚を作らなければならない。それも、できるだけ相手に傷害を与えない方法でだ。
(さて、どうする?)
周囲に視線を巡らせながら、ユービックは考える。悩む時間は僅かしかない。
彼が思案している間にも、彼の主に命の危機が迫っているのだ。
(いや……それよりも、どこでもドアが流れ弾で破壊されるのが先か)
ファンシーな色の扉に穿たれた弾痕を見やりながら、ユービックは解決策を模索する。
……やがて、彼の視線は近くにあるテーブルに――正確にはそれに乗せられた物体に合わせられた。
(あれを使えば……いや、分が悪すぎるか?)
少しの躊躇。しかし、彼は自らに許された時間は僅かであることを思い出す。
「分の……悪い、賭け……は嫌い、じゃ、ない」
そう、小さく呟きながら、ユービックは少しでも身を軽くするため手にしていたパソコンを床に置いた。
(すまん、コンラッド。お前の形見は此処に置いていく。だが、後で必ず……必ず回収する。だから今は、許せ)
そして、ユービックはベッドの影から駆け出すと、飛来する弾丸を横目に目前の机上に存在する“銀色の円環”に向けて電撃を放った。
☆☆☆
「ねえ、今、何か聞こえなかった?」
その突然の言葉に、座り込んで作業をしていたゲイナーはそれを中断して顔を上げた。
「何か言いました?」
「気のせいかもしれないけど……今、爆発みたいな音が聞こえた気がしたんだ」
自信が無さそうにそう言うドラえもんに、そうですかと返事を返す。
「作業に集中していて気づきませんでしたけど……もし本当に爆発音なら、何かがあったのかも知れませんね」
そう言いながら立ち上がるゲイナーを押し留めて、ドラえもんはこう言った。
「ぼくが様子を見てくるよ。君はここで作業の続きをしてて」
その言葉に困惑の表情を浮かべながらも、ゲイナーは渋々と頷く。
彼の様子に笑顔で大丈夫と頷きながら、ドラえもんはレントゲン室から出て行った。
「早かったですね」
それから数分もしないうちに、再びレントゲン室の扉が開かれ、ゲイナーは手元から目線を移す。
しかし、そこに立っていたのは青く丸いフォルムの子守ロボットでは無く、白いワイシャツに身を包んだ青年だった。
「無事だったか、ゲイナー……ゲインやドラえもんは居ないのか?」
「ゲインは暫く見かけてませんけど……ドラえもんはさっき音がしたとかで、外に様子を見に行きましたよ」
ゲイナーの答えにロックは苦虫を噛み潰したような顔をする。
(多分、俺と入れ違いでさっきの爆発音――トグサさんか凛達の元へ行ったのか?)
「何かあったんですか?」
ゲイナーの問いに「敵襲だ! 君はここに居ろ!」と答えた後、ロックは再びレントゲン室から飛び出した。
(どっちだ……? いったいどっちに行ったんだ、ドラえもん!)
☆☆☆
「逃げられたか」
様々な物品が乗せられたテーブルの横で、トグサは小さく呟いた。
あの時、ツチダマが影から飛び出すと同時の攻撃で、机上の首輪が爆発したのだ。
爆発の威力は小さかったものの、その様子に気を取られている隙にすでに桃色の扉は姿を消していた。
その場に残されたのは、壁に刻まれた無数の弾痕と爆発の影響で散乱した何枚かの紙。
そして、床の上に放置された壊れかけのノートパソコンだった。
(これは……奴等の物か?)
そのノートパソコンの内容に、少し興味を引かれたものの……
「今はそれ所じゃないな」
トグサは気を取り直したように呟き、徐に踵を返し、その部屋から飛び出した。
(……奴等の目的はおそらく戦力の分断だろう……それなら、次に狙うのはゲイナー達か)
簡潔にそう結論付けると、トグサはその足をレントゲン室へと向ける。
(凛達には悪いが、ゲインが見つかるまで二人だけで頑張って貰うしかないな)
☆☆☆
「あの音は、いったい何処から聞こえたんだろう?」
疑問の言葉を呟きながら、青い猫型ロボットが廊下を歩く。
様子を伺おうと出てきたのはいいものの、爆発音の源が何処だったのかも解らず、ドラえもんは途方にくれていた。
(……外かな?)
そう考えながら耳を澄ます。風に混じって聞こえるのは微かな音。
「やっぱり外みたいだ……まさか、誰かが戦ってるのか?」
表から聞こえた僅かばかりの音。おそらくは戦闘音であろうそれに大きく頷くと、
彼は表へ出るべく病院の出入り口へと足を向け……突如として、彼の歩みが止まる。
「あれは……どこでもドア!?」
廊下に現れた見覚えのある扉――彼も所有していた秘密道具に、ドラえもんは慌てて駆け寄った。
と、不意にその扉が開き、中から見覚えのある姿が現れる。
「お前はギガゾンビの手下の……!」
「誰、かと、思えば……青、ダヌキか」
目前に現れた土人形の言葉に……しかし、ドラえもんはいつもの様に激怒はしない。
ただ静かな、深い深い怒りを込めた瞳で目の前のロボットを睨み付けていた。
体の一部が破壊されたツチダマは、暫く思案するように瞳の光を明滅させていたが、やがて意を決したように言った。
「勘、違い……するな。俺は、敵……じゃ、ない。ギガ、ゾンビを……裏切った」
「!?」
驚愕に目を見開くドラえもんに、ツチダマはたどたどしく……しかし簡潔に状況を説明していく。
自分達がギガゾンビに対し、反乱を起こした経緯。亜空間破壊装置と遠隔爆破装置が破壊された事。
そして、自らの新たなる主がギガゾンビに操られ、ドラえもんの仲間達を襲っている事。
「頼、む……俺を、グリフィス、様……の元へ……あの、方を、お止め……しな、ければ」
ツチダマの願いに、ドラえもんは少し考えた後……ツチダマの体を両手で抱きかかえ、そのまま外へと向けて走り出した。
「俺、を……信じて、くれるのか?」
「そんなの、ぼくにも解らないし、ギガゾンビや君達の事は許せないよよ。
けど、君達にだって、ぼくと同じ、心はあるんだって……そう思ったから」
ドラえもんのその言葉に、瞳を数回点滅させた後。ツチダマはこう言った。
「俺の、名は、ユービック、だ……ドラえもん」
「……うん。行くよ、ユービック!」
17 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/20(日) 23:56:15 ID:ETyHsrwe
【D-3/病院 会議を行った部屋付近の廊下/2日目 日中】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労、SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾3/6発、予備弾薬×14発)
[道具]:デイバッグ、支給品一式、警察手帳、
タチコマのメモリチップ、エクソダス計画書
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護
1:レントゲン室へ行き、ゲイナー達の安全を確保
2:ゲインを見つけたら、レントゲン室を任せて凛達の援護に行く
3:ツチダマの落としていった、ノートパソコンが気になる
4:キョンが来るのを待って、彼から謎のデータを受け取る
5:謎のデータが電脳通信に関するものだったら、それを使ってハックの準備を行う
6:ハルヒか他の人間にロケ地巡りをしてもらうよう頼む
[備考]
※ギガゾンビの城を確認しました
※甲冑姿の男(グリフィス)は主催者側の人間だと考えています
※会議を行った部屋で鶴屋さんの首輪が爆発しました
この爆発によりテーブルが少し破損、更に置いてあったエクソダス計画書とゲインの置手紙が床に散らばりました
また、戦闘及び爆発でテーブルの上にあった道具類が何らかの影響を受けている可能性があります
※会議を行った部屋にコンラッドのノートパソコン(壊れかけ)が放置されています
【D-3/病院 レントゲン室/2日目 日中】
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:疲労蓄積、風邪の初期症状、腹部と後頭部と顔面に打撲(処置済み)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、不安と困惑
[装備]:技術手袋(使用回数:残り14回)、コルトガバメント(残弾7/7、予備残弾×38発)、トウカの日本刀、コンバットナイフ
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料一日分消費)、スタングレネード×2、スパイセットの目玉と耳
クーガーのサングラス、グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)、エクソダス計画書
病院内で見つけた工具箱、解体された首輪、機械の部品多数
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出
1:ドラえもん達が心配
2:首輪解除機の作成
3:エクソダス計画に対し自分のできることをする
4:カズマが戻ってきたらクーガーのサングラスを渡す
5:グラーフアイゼンを誰かふさわしい人に譲る
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています
※基礎的な工学知識を得ました
※ゲイナーの立てた首輪に関する仮説は『Can you feel my soul』を参考の事
21 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/20(日) 23:57:52 ID:ETyHsrwe
【D-3/病院 レントゲン室前廊下/2日目 日中】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:眠気と疲労、鼻を骨折しました(手当て済み)
[装備]:マイクロ補聴器@ドラえもん
[道具]:デイバッグ、支給品一式、現金数千円、エクソダス計画書
[思考]
基本:力を合わせ皆でゲームから脱出する
1:ドラえもんを探してレントゲン室に連れ戻す(会議を行った部屋か裏口に向かう)
2:ゲインを探してレントゲン室に連れて来る
3:凛達やトグサが心配
4:ドラえもんにディスクをキョンへと譲ってもらえるように頼む
5:キョン達に会えたら遠坂凛に対する誤解を解く
6:君島の知り合いと出会えたら彼のことを伝える
[備考]
※しんのすけに両親が死んだことは伏せておきます
※顔写真付き名簿に一通り目を通しています
※参加者は四次元デイバッグに入れないということを確認しています
※ハルヒ、キョン、トウカ、魅音、エルルゥらと詳しい情報交換を行いました
※キョンの持つノートPC内の情報を得て、考察しました
※レヴィの趣味に関して致命的な勘違いをしつつあります
※甲冑姿の男(グリフィス)は主催者側の人間だと考えています
※グリフィスの顔は甲冑姿だったため、確認できていません
【D-3/病院廊下/2日目 日中】
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ(修理によりやや回復)、頭部に強い衝撃、のび太の死による喪失感
[装備]:虎竹刀
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"のゲームCD
[思考]
基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする
1:ユービックを戦闘の起こっている場所へ連れて行く
2:エクソダス計画に対し自分のできることをする
3:ゲイナーを温かい目で見守る
[備考]
※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました
※だいぶ落ち着きましたが、まだかなり落ち込んでいます
※ギガゾンビに対する反乱と、その結末までを簡潔に聞きました(なので、所々正確ではない可能性があります)
※ユービックの話を完全には信じていません
【住職ダマB(ユービック)】
[状態]:中程度のダメージ、言語機能に障害
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:グリフィスを止める。そのためならば、参加者との協力も惜しまない
1:ドラえもんと共に戦闘が起こっている場所へ行き、グリフィスを止める
2:コンラッドのパソコンを回収したい
[備考]
※ギガゾンビの言葉(ツチダマはいつでも爆破できる)がハッタリだと気づいていません
>>1 ハルヒタンが北に歩き続け、家を発見した、扉を開けた。少女が読書している。
ハルヒ「アンタ誰よ?」
長門「長門..結希..」
ハルヒ「何してるの?」
長門「読書...」
>>23状態表の一番最後に以下の文を追加します。
※病院内廊下にどこでもドアが放置されています
支援
どうでもいいが、
>>30の◆FbVNUaeKtI 氏のIDが801
C-4上空。
その制空権をいつ強奪したかは知らないが、奇妙な未確認飛行物体が我が物顔で飛んでいた。
あれは誰だ。鳥か、飛行機か。いや、スーパーマンか。
それとも強欲の渦巻く街の悪を制裁する蝙蝠の姿の英雄か。
違う。この飛行物体はそのどれにも当てはまりはしない。
鳥でも飛行機でもない。その名はカズマ。シェルブリットのカズマだ。
そしてそれを「自分の新しい足だ」と言わんばかりに制御(?)しているのが、二挺拳銃(トゥー・ハンド)のレヴィ。
空を飛んでいるのはこの二人の暴れん坊である。
止まらない男と止まらない女。
この二人の進行は最早誰にも止められることは無い。
「しかし本当にクレイジーだ! メイドインジャパンにここまで有難味を感じる日が来るとはな!」
「俺の生まれはロストグラウンドだ! 大体テメェは俺に乗ってるんじゃなくて「俺に乗せられてる」んだ! 勘違いすんな!」
「おーっと、妙にうるさいエンジンだな。ここが訴訟大国ならお前はリコールされてたところだ」
「うるせぇ、落とすぞ! ……出来る限りスピードアップしてやるから黙ってろッ!」
「いいねぇいいねぇ! ”最高にハイってやつ” だ!」
相も変わらず罵りあうが、それでも二人は仲良く(?)空を飛び続ける。
それは以前の二人ではありえない光景であったが――今となっては不思議ではない。
何せ今は、お互い共通の目的と意思を持っている。しかも、それはとてつもなく強く、固い。
おまけにここまで色々あったが、幸運にも現在は互いの機嫌は良い方だ。
カズマは思うが侭に暴れたことで気分も良好。
レヴィは今現在のこのクレイジーな状態で気持ちが高ぶっている。
そのおかげか、たとえ軽い罵りあいになろうとも相手を蹴落としたくなるような心地になることは無かったのだ。
――だが、この境地に至るまでには本当に色々な事があった。
始まりは突然の邂逅。そしてそれによって生じた真剣勝負。
二度に渡る衝撃の再会。更にそのまま再戦という名の大暴れのおまけ付き。
遂には「仕事」を遂行するエージェントとしての共同戦線。
カズマとレヴィは、そうした時間を積み重ねてここまで来ているのだ。
振り返ってみると、壮絶だ。
『絶対にィィィィィィィィィ!!! 許さねェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!』
『Fuck it all! なんだってんだあのバケモノ野郎は!? 腕に爆薬でも仕込んでんのか!?』
――考え得る限り、最悪の出会い方だった。
『さぁボウヤ、素敵な素敵な血祭り(ブラッド・パーティー)の始まりだ。せいぜい上手にダンスを踊ってくれよ』
『撃滅の――――セカンドブリットォォォォォォォォォ!!!』
――考え得る限り、最悪の開戦だった。
『ケッ、言われなくても出てくつもりだったさ! テメェらなんかとチマチマやってちゃ日が暮れるんだよ!!』
――考え得る限り、最も煮え切らない別れだった。
『よぉ、やっと起きたか大将。随分とご機嫌な頭してるな』
『テメェは――』
――考え得る限り、最も煮え切らない再会だった。
『そこのテメェ、レヴィっつったな! テメェの名前も刻んだからな! さっきの借りはいつかぜってェ返す! 覚えとけ!』
『あーウルセー。腰抜けのボウヤはさっさとどこかへ行っちまえタコ。
もしノコノコとあたしの前に姿見せてみろ。そんときは、今度こそその脳天に鉛弾ブチ込んでやるよ』
――考え得る限り、今までで最も穏やかな別れだった。
『はん、またてめえに会えるとは思わなかったな。いいツラになったじゃねえか』
『そりゃあこっちのセリフだ』
――考え得る限り、今までで最も穏やかな再会だった。
今になって考えると、あまりにもお騒がせだった。もし誰かがこの話を聞けば、とんだ笑い話だと処理されるだろう。
だが本人達にとっては必死に今日までを生きてきた中で生まれた騒動なのであり、当人達にとっては笑えない話である。
だがカズマは思う。
レヴィと組むのも悪くは無い。
気に食わない奴だがなぜか今はそう思えてしまう。
――当然、共闘している状況が故にそう考えないと「やってられない」部分はある。
ほんの少しの心の亀裂が、共闘を強制終了させる火種になりかねないからだ。
だがそういった義務的なものを一切跳ね除けて考えたとしても
カズマはレヴィにこれ以上の反発を起こす気にはならなかった。
やはりあの大暴れが効いたのだろうか。
自分を今突き動かしているほとんどは、固い意志と目的への執念だ。
己を突き通したい。自分の我侭を真っ直ぐと貫き通したい。それだけだったはずだ。
だが今では「レヴィと共に大暴れをしたい」という欲求で動いている部分も少なからずある。
本気で戦った相手だからだろうか。
何故だろう。レヴィには背中を預けてしまっても良いと思い始めている。
腹が立つ言い草ばかりで鬱陶しいだけのこの女が、妙に頼もしく思える。
今なら何でも出来そうな気がしてしまう。
そしてレヴィも思う。
カズマとの共闘もまんざらではないと。
相手は直球馬鹿のオタンコナスベイビーであり、気に食わない相手のはずだ。
だが今は何故だかカズマと共に戦ってみたいという欲求が生まれてしまっている。
敵がどんなクソッタレであろうとも、カズマと共に戦ってみたい。
何故だろう。何故なのだろう。
やはりあの大暴れが効いたのだろうか。
今の自分はあくまで「仕事」をしているだけの筈だった。
さっさと仕事をして帰りたかっただけの筈なのに、今は謎の高揚感が自分を包んでいる。
何故だかカズマを頼もしく思い、彼と共闘をしたいと思い始めている。
本気で戦った相手だからだろうか。
よくは解らない。だがこんな気分もたまには良い。
空を飛ぶなんていう不思議パワーまで持ったこのカズマに、背中を預けたくなるのも悪くは無い。
今なら何でも出来そうな気がしてしまう。
「なぁ、カズマ」
「あ? なんだよ……?」
突然、トーンダウンした声でレヴィが口を開いた。
それに対してカズマは、怪訝そうな表情でその言葉の続きを促く。
「色々、あったな」
感慨深そうに呟いたレヴィに、カズマはその言葉を肯定する。
確かに色々あった。ありすぎて頭がパンクしそうなくらいだった、と思う。
「なんだかんだで気に食わねェ奴の所為で、もう ”残ってる人間も10人とちょっと” 。
本当に色々あった所為で、たった二日で ”こう” なっちまった。
しかもあげくに”あたしらの周りですら” 色々と状況が移り変わっちまってる.
こうなるとここから先に ”まだ何かあっても” おかしくない。いや、”絶対に色々ある” はずだ」
珍しく、真剣な面持ちで語るレヴィ。
だがカズマはそれを見てもそれをからかう事をしなかった。
「そうだな。名前を刻んだ相手が死んだり、何の因果か手前と空飛んでたり……色々あった。
変わらねぇモンもあるが……やっぱり今は色々と変わっちまうことの方が多い。手前の言うとおりだ」
「そこで提案なんだが……」
カズマの親身な答え。それを聞いたレヴィは一旦言葉を止め、右手の人差し指をピンと立てる。
そしてニヤリと邪悪な笑みを浮かべながらはっきりと口にした。
「後でボコりたい奴がいる。手伝ってくれねぇか?」
「……はぁ?」
「だからさっき言っただろ? ”あたしらの周りでも色々移り変わった” し、”これからも色々ある可能性が高い” わけだ」
「なるほど……だからその前にそいつをさっさと殴っておきたいって事か」
カズマの表情がその言葉と共に綻んだ。
それは、久しぶりに見せる「戦い以外での笑顔」だ。
「勝手にやってろって言いてェが……今ならテメェの提案、呑んでやるよ。そいつの名前は?」
「ゲイナーだ。しっかし困ったもんだ。”てめえと一緒に行動してると、やけにあの坊やが殴りたく” なっちまった」
「へぇ……寂しくなったのか?」
「ハッ! 坊やがいないせいであたしが寂しいって? 馬鹿言うなよカズマ。そんな事より約束、頼んだぜ」
「オッケェ、じゃあ刻んだ! それじゃあ……さっさと仕事にカタつけて来ないとなァァァッ!!」
叫びと共に、満面の笑み――そう、それもまた邪悪な――を浮かべながらカズマはスピードを上げた。
「おいおいまだまだスピード出るんじゃねぇか! やっぱクレイジーだぜ!」というレヴィの言葉を風の音で掻き消す程に。
そんな事を考えていた頃だろうか。
二人が突然、”巨大な何か” に出会ったのは。
”巨大な何か”――それは蒼い壁のように見えた。
「ぁあ!?」
「オイオイなんだよあの巨大な蒼いの!」
「俺が知るか!」
蒼く、透明なそれは人の形をしていた。
だがそれは人と言うにはあまりにも大きすぎた。
大きくぶ厚く重く、そして大雑把すぎた。
それはまさに壁だった。
いくら距離が遠いと言えど、そんな巨大な驚愕物体が現れてはひとたまりも無い。
カズマは進行を急停止。空中で静止して様子を見ることにした。
レヴィも黙って――否、何も言えずにカズマの背中でそれを眺める。
だが数秒程そうしていると、巨大な半透明人間は消えてしまった。
「…………」
「…………」
多少の間と静寂。
それを体感した後、二人は口を開いた。
「おい、見たか?」
「ああ、見たよ。あれがアルターなら相当ヤバいだろうな」
カズマとレヴィは半ば呆然としながら呟く。
だがあれを見たのだ。 ”こう” なっても仕方が無いだろう。
「ありゃどう見てもヤバい。あたしの勘と理論が ”全身全霊でそれを呼びかけて” やがる」
二人が見た物――神人と呼ばれてた蒼い巨大な物体――の存在。
そして更に、その巨大な物体が一瞬で姿を消すというおまけ付き。明らかに異常な状況だった。
士気が高揚していた二人の出鼻を挫くには十分だ。
「一瞬で解けやがったのが妙だがな……だが推測は出来る」
「そうか、じゃあ言ってみな」
「簡単だ。ただ一時的に解いたか、それとも使い手が倒れやがったか……とにかくえらい状況だってのは確かだ!」
「そうか。じゃあ急ぐしかねぇな!」
だがそれでも彼らは止まらない。止まるわけには行かない。
止まってはいけなかった。止まるべき状況ではないのだ。
――だが信じられないことに、出鼻を挫く様な出来事は再び起こる。
「……今度は何だ?」
「……ドア?」
カズマ達の真上にに突如、暖色に彩られたドアが出現したのだ。
しかもそのドアは制止するわけでもなく、ゆっくりとカズマ達に向かって落ちていく。
いや、それだけではない。”それ” は突然勢い良く開かれ――そして中からあるものが飛び出してきた。
「土偶!?」
「何だテメェはッ!!」
そう。土偶だ。しかしそれはただの土偶ではない。
ある者に忠誠を誓った特注の土偶――そう、その名は!
「土偶ではない……スラン! 我が名は……俺の名はスランだ!
グリフィス様の為……俗物共は、死ねぇぇぇええぇぇぇぇえぇえええぇぇえっッっっッッ!!」
スランと名乗る満身創痍の土偶。それはなんとカズマに向かって急速落下を行った。
ただそれだけのダイナミックな動きは、動きを止めた相手にぶつける全身全霊の体当たりと化す。
そう、それは即ちカズマ達にとってはまさに回避不可能の奇襲!
「どぅァっ!?」
その奇襲自体は見事に成功した。
カズマの体がスランの体当たりをまともに喰らい、地上へと落ちていく。
だが、それは致命傷には至らなかった。スランの奇襲には速さと――高さが足りなかった。
カズマとレヴィは着地に失敗して屋根に体を打ちつけたものの無傷。
要するに真下にあった住居の屋根に落下しただけで済んだのである。
「よう、クソ土偶野朗! なかなか痛ェ攻撃だった……効いたぜオイ!」
「……いきなりあたしらの上から落ちてくるなんて……良い身分じゃねぇか!」
これ以上無い程眉間に皺を寄せたカズマがスランに対し叫ぶ。
それに一寸遅れて、起き上がったレヴィが罵倒を重ねた。
しかしスランは答えない。体から煙を起こしながらもどこでもドアと共に着地。
中破したドアを一瞥し、カズマとレヴィを見据えていた。
だがやはりそれが気に入らないのがカズマという男だった。
すぐに悪態を重ね、更には前へ前へと進んでいく。
「まぁとにかく俺らを狙ったのは拙かったな……今の俺ら相手じゃ、死ぬぜ!」
「ちょっと待ちなカズマ!」
「ぁあ!?」
突然レヴィが、既に敵を倒す気でいるカズマを制止した。
カズマは一旦動きを停止し、レヴィの行動を待つ。
それを確認したレヴィはスランに対し、尋ねた。
「てめえ……今、グリフィスって言ったよな? グリフィス様の為、って確かに言った」
カズマはそこでやっと気付いた。
目の前の土偶が確かに「グリフィス」という名を叫んだ、その事にだ。
だがそんなカズマの反応を見ず、レヴィは続ける。
「そこで尋ねるが、そのグリフィスって坊やは ”アタシらをどの程度までおちょくる気でいやがる” んだ?
”返答によっちゃあたしはてめえを撃つ” し、返答によっちゃ”そのグリフィスも撃ってやる” よ。だから答えろ、人形野朗」
「答える義務は無い……ただ、お前達は……グリフィス様の礎として死ねばいい、それだけだ……」
ただただ冷たく言い放つスラン。
それは感情が無いかの様であり、それでいて威圧感を放っていた。
しかしそこで大人しく「はいそうですか」と言う二人ではない。
「そうかい。どうやら聞く耳持たないらしいぜ、カズマ」
「そうだな。どうする?」
レヴィは一瞬考えを巡らせた。
だが、それも本当に「一瞬」。すぐに結論は出た。
「時間が惜しい。手早く ”ヤッちまおう” ぜ!」
「オッケェ! その提案、引き受けた!」
「だが ”手早く” だ! 解ってンな!?」
「当然!!」
真っ直ぐとスランを見据えるカズマとレヴィ。
その向こうでは、幾分小さくなった蒼い巨人が姿を現していた。
「おいカズマ、見てみな。あのクレイジーなヤツがまた見えるぜ」
「お……本当だな。あの蒼いの……また出やがったのか」
「さっきのと比べりゃ幾分小さいが……ヤバいな」
「そうだな。ありゃ急げって事だ」
早速巨人の姿を遠目で確認したレヴィとカズマは言葉を交わす。
そしてカズマが拳を突き出し、レヴィがソード・カトラスとイングラムを構えた。
二人の行動は単純な宣戦布告。目の前の敵を斃してやるという明確な意思表示だ。
スランは二人のその姿を眺め、ゆっくりと間合いを取るように後退する。
互いの準備は万全。こうして戦いは呆気なく始まりを告げる。
標的は土偶。戦場は住宅地。
踏みしめるは屋根。見上げれば広がる大空。
――考え得る限り、最も平和な景色だった。
まずは牽制とばかりにレヴィがベレッタを二発。
左手に持ったそれは痛快な音を立て、敵を穿とうと襲い掛かる。
だがスランはそれをどうにか横へ回避した。
「ハッ! あたしの弾をよけるたァ……限界突破にも程があるぜ手前!」
「どけレヴィ! 次は俺の出番ッッだァァァァァアアアアアア!!」
スランの呟きとレヴィの軽口を一切無視し、カズマが跳躍する。
そして「いつもの様に」拳を打ち下ろす。標的は勿論、スランだ。
「シェルブリットォォオオオオオオオオオオオ!!」
だがカズマの攻撃はただの拳での殴打ではない。
シェルブリットの特性は最早説明するまでも無い。
それを知るスランとレヴィは、同じタイミングで各々後退した。
何かが爆発したような音が響いた。
上がる土煙。木材の破片などが降り注ぎ、遂には戦場の一部が崩れ去っていく。
「ハッ! 敵を一匹殴るのに家を何棟ぶち壊してんだ!
やっぱりクールで腹の立つ攻撃だ! ”ずっとそう思ってた” よ!」
カズマが土煙から姿を現すのを待たず、レヴィは再び動く。
住居を構成していた木材の破片の雨を掻い潜りながら
図らずも土煙に身を隠したスランがいるであろう方向を勘で定め、ベレッタを撃った。
――だが当たらなかったらしく、反応は無い。
仕方が無いので様子を見ていると、代わりに土煙からカズマが姿を現した。
住居の倒壊の所為で少し顔を汚した彼は、少々機嫌が悪いようだ。
「よぉカズマ。いい顔になったじゃねぇか」
「テメェがその拳銃でさっさとカタをつけねぇからだろうが」
早速噛み付いてくるカズマに対し、やれやれとばかりにため息をつくレヴィ。
だが今はいがみ合う場面ではない。それくらいはレヴィにも解る。
「いちいちうるせんだよてめえは……ほら行くぞ!」
「……あいよ!」
二人は再びスランに対し攻撃を試みた。
敵は脳天を割られているというこれ以上ない手負い。
状況は状況だが、敵を倒すという点から見れば嬉しい状態だ。
「本ッ当によく避けやがって! ああこのクソ土偶野朗!」
「馬鹿みたいに外してんじゃねぇ! 後は俺に任せてろ! 行くぜオイ!!」
だが、幾度となく二人が攻撃をしようともそれは当たらなかった。
「ああ畜生! もっとだ、もっと輝けェェェ!!」
「ハンッ! 馬鹿はテメェの方じゃねぇか!」
すばしっこくスランは逃走、回避をこなす。
「ぁあ? まだ避けるのか……立ち止まってくれりゃ ”もっと楽に昇天させてやる” ってのに」
「全くだ! ああ腹が立ってきた! 当たれ! 当たれェェェエエエエ!」
何故ここまで避けるのか。何故動けるのか。
疑問を膨らませながらレヴィとカズマはスランに攻撃を仕掛けるが、無意味に終わる。
何故だ。どうして。なんでだよ。ふざけんな。後でボコる。絶対ボコる。っていうか撃つ。風穴開ける。
蜂の巣だ。イライラしてくる。殺してやる。ボコボコにしてやんよ。ちょっとそこ並べ。歯ァ食いしばれ。
様々な口汚い言葉が浮かんでは消え、浮かんでは消える。だが攻撃は当たらず住居を傷つけるだけ。
いたずらに銃弾と力を浪費する消耗戦と化していた。
カズマとレヴィは知らないだろう。
スランがグリフィスに対し恐ろしく忠誠を誓っているという事を。
そして知る由も無いだろう。
スランがその忠誠によって、肉体が精神を凌駕し限界を超えていたという事を。
そして、これは知るべきであった。
スランは最後の時間と力の全てを、時間稼ぎにのみ費やしているという事を。
「大体テメェはなんだ! 何で右手の銃を使わねェんだ!? 両方持ってる意味は何だ!? ただの飾りか!?」
「必殺の武器をバカスカ使うアホはいねぇだろうが! てめえみたいに無尽蔵じゃねぇんだ! もっとスマートに考えろ!」
そして来た。遂にこの時が来てしまった。最悪の時間が二人に訪れる。
スランの事情を知ることもなく、カズマとレヴィは言い争いを始めてしまったのである。
先程は上手く堪えたというのに、それを忘れてしまったかのようだ。
「だからその必殺を当てればいいだろうが!」
「てめえがそれを言うか!? さっきから家を御陀仏にしてる癖によ! おかげでいつまで経っても木材の破片と土煙で視界が晴れねぇんだ!」
元々短気な性格同士。こうならないのが不自然――奇跡であったくらいだ。
こんな事をしている時間の猶予は無いというのに、遂にはお互いに手が出る始末であった。
「ンだと!? ふざけんな! ああ、一瞬でもテメェに期待した俺がバ……」
「そりゃこっちのセリフだ! この甘ったれベイ……」
が、互いに襟首を掴み合ったところでそれは止んだ。
先にある蒼い巨人の姿が脳裏に浮かび、制止させたのだ。
「……あたしらが、こんなことしてる場合じゃなかったな」
「チッ……俺が目的を忘れるなんてな。馬鹿げた話だ」
互いの手が縺れた感情と共に振り解かれる。
”今はこうしている場合ではないのだ” と、二人は必死に自身に言い聞かせた。
個人の甘さで仕事がお釈迦になるなど、馬鹿げ過ぎている。
カズマは腕を回し、レヴィはベレッタの弾倉を予備の物へと取り替えながら仕切り直しを試みた。
「よし、仕切り直しだ……喧嘩は仕事が終わってからにしよう。
それでだ。いいか? 見る限り今の土偶野朗は ”あたしらの攻撃を避けるばかり” だ。
”疑問は浮かぶが、はっきりと解るのは唯一つ”……この状況じゃ時間と弾を ”くっちまう” だけだってことだ。
そこでだ……どうする? なんか言いたいことがあれば……今の寛大なあたしなら聞いてやらないでもない」
土煙が晴れ、スランが再び姿を現す。
だがそれを今は一旦無視し、レヴィはカズマへと相談を持ちかけた。
カズマは殺気立ちながらスランを一瞥し、レヴィの会話に乗る。
「そうだな……敵も必死だ。多分今は互いに時間が惜しい状況なんだろうよ。
しかし解せねぇのが……避けるばっかりで攻撃をしてくる気がしないって所か」
「ああ。あの土偶野朗は必死にあたしらの攻撃を避けるだけ……。
だが、”だからこそあたしらの時間だけが消費されて” やがる。つまりは……」
「なるほど。あいつはただ時間稼ぎをしてるって事か…………気にいらねぇな!」
「今こうして話してるあたしらを攻撃しないのが何よりの証ってヤツさ。
だが落ち着きな。いいか? ”敵が攻撃をしてこない” んだ。それならこっちも柔軟に対応しやすい」
スランが時間稼ぎをしているのは明白だった。
こちらを注意深く観察し、避けることだけに従事する。
彼も手負いの身。限界近い今ではそれだけで精一杯なのだろう。
レヴィとカズマはそれを利用し、小声で相談を開始する。
「一番いいのは相手の動きを止めるって事だ。だがあたしの武器に足止めに有利な物は無い」
「じゃあ俺のシェルブリットで……」
「それも考えたが、足止めに使ってもただいたずらに視界を奪うだけだ」
そう、シェルブリットの強力な拳が住居を倒壊させて土煙や木材の雨を降らせることは立証済みだ。
それではいけない。いくら力が強いといえど、当たらなければ意味は無いのだ。
「だからてめえのその腕は ”とどめ” にしておきたい。だったら方法は一つ。
あたしが足止めをして、手前のそのシェルなんたらで止めを刺すしかない。実に単純、クールな戦法だ」
「そりゃそうだが……で、足止めはどうする?」
「だからそれを今あたしらが必死に思いつこうとしてるんじゃねぇか。本末転倒だコラ」
レヴィは忌々しく呟き、デイバッグを漁った。中には相変わらず妙な道具や様々な銃器がある。
だがどれも強力な足止めにはならないだろう。拳銃でいくら波状攻撃を試みようとも、結局当たらなければ意味は無い。
「大体どうしてテメェの銃が当たらねぇんだよ」
「……体が痛くて照準があわせづらい」
「……バカか?」
「うるせぇ! 大体てめえが墜落しなきゃこんなことには……ん?」
「どうした?」
悪態をつきながらバッグを弄り、レヴィはある物を発見した。
それを掴み、握り締め、確信する。
「カズマ……これなら簡単に行けるぜ」
「へぇ、マジかよ」
「ああ。てめえは暫く様子を見てろ。あたしが ”どう見てもチャンスです” ってくらいの隙を作ってやる。
それまでお茶でも煤ってな。手前は ”ただタイミング良く拳をぶっ放してくれればそれで良い” んだ」
レヴィが右手にイングラムM10サブマシンガン、左手に予備弾倉を持つ。
見れば標的は無駄な体力の消費を避けるためか、もしくはこちらを観察するためか
先程から同じ場所に立っていた様だ。一歩もその場を動いていなかった。
それならそれで都合が良い。
――作戦、開始。
唐突に会話を終え、レヴィがイングラムを右手で放った。
強い反動を引き換えに、多くの弾丸がスランを襲う。
「おお、相変わらず避けてくれるじゃねぇか!」
だがスランはそれすらも避ける。避け続けていた。
ギガゾンビに造られた特別製のツチダマは自身の限界を超えて久しい。
だがレヴィも振動によって再び蓄えられる体の痛みを堪えながら、負けじと射撃を続けていた。
右から左へ、イングラムの射線をずらしながらスランを追っていく。
――カキン
弾が切れた。
だが問題は無い。空になった弾倉を外し予備を入れる。これでまた元通りだ。
しかし、”仕切り直し” ではない。レヴィの策はまだ続くのだ。
その証拠にレヴィは既に他の屋根に飛び移っていたスランに対し、再びイングラムを掃射する。
住宅地に似合わない軽快な音が再び鳴り響き、罪の無い屋根に風穴を開けていく。
それをスランは真っ直ぐに右方向へと移動する事によって回避し、イングラムの弾丸が彼の道なりにそれを追う。
そうしていると、スランは屋根の ”へり” へと到達しようとしていた。
「さぁどうする!? ”Jump or Dead” だ! Go! Go! Go!」
レヴィの急かす様な叫び。それに焚き付けられたか、焦りを覚えたか。
死ぬわけにはいかなかったか、死を恐れてしまったか。
スランは逃走経路を別の屋根に定め、飛び移ろうと跳躍した。
それを確認したレヴィは、待っていたとばかりに不敵な笑みを浮かべてデイバッグに左手を突っ込んだ。
取り出すは必勝への布石。そう、”あの時レヴィの運命を変えた” あの道具だ。
「Too bad.(残念でした)」
スランの着地地点に目掛け、レヴィは光を照射した。
屋根の光が照らされた部分には突然、切り抜いたような穴が出現する。
「何だ、とっ!?」
意表を付かれたとばかりに、スランは叫び声を残して穴へと姿を消してしまった。
そして穴はその役目を終えたと同時に塞がれ、元へと戻る。残ったのはただの屋根だ。
だが、そう――これで終わり。チェックメイトだ。
「今だカズマァァァァアアアアアア!!」
レヴィが叫ぶと、背後から風を切る音がする。それはカズマのシェルブリットが飛行を開始した合図だ。
背中のプロペラを再び回転させ、彼は宙を舞う。行き先はスランの落下した住居の真上である。
「オッケェ……この作戦の締めは、この俺が引き受けた!」
「いいかカズマ! ”標的(ターゲット)は唯一つ(オンリーワン)” だ!
温い坊やじゃねぇんだ! てめえもさっきの陽動を見てたんなら何をすればいいか解るよな!?」
「当たり前だ! それじゃァ……行くぜ!」
カズマの拳が輝く。それは全てを破壊する太陽の色をしていた。
レヴィはその輝きを楽しそうに眺める。死んだような目が珍しく輝いている。
「All right, I'm counting on you.(じゃ、任せたぜ)」
――爆音が轟いた。
それから数十秒後。
周りと同じように倒壊してしまった住居を見下ろすレヴィ。
原形を留めていない家だったものを眺め、笑みを浮かべた。
「カズマぁ! 終わったか!?」
機嫌が元通りになったのか、レヴィは幾分楽しそうな声色で名を呼ぶ。
「おいこら、昼寝でもしてんのか? カズマ!」
「うるせぇよ!」
いつもの様な反発を起こしながら、カズマが瓦礫から姿を現した。
表情を見てみれば、どうやら怪我も懸念事項も無いようだ。
「で、終わったか?」
「ああ、終わったぜ。これが証拠だ」
少しばかり消耗したのかアルターを解除している右手で、カズマは何かを振り投げた。
レヴィはそれを怪訝そうに受け取ったが、その ”何か” を見た瞬間不敵な笑みを浮かべた。
それを見たカズマも、満足感からか同じような笑みを浮かべる。
その ”何か” は――あのツチダマ、スランの残骸だった。
再起不能なまでに破壊された土人形を、カズマが証拠として投げ渡したのだ。
そうしてスランの死を確認したレヴィは、それを後ろへと投げ捨てながら溜息混じりに口を開いた。
「バッチリだぜ、お疲れさん。しっかし手ごわかったな。ああ、腹が立つ」
「だいぶ時間を食っちまった……俺はともかく、テメェは間に合うかよ?」
「また背中に乗せてくれるんなら間に合うだろうな」
「そうかよ。そういう事なら仕方ねェ!」
瓦礫を分解し、カズマは再びシェルブリットを構築し始めた。
カズマの右腕があっという間に太陽の色をした右腕へと変貌を遂げる。
「よし、じゃあ飛び乗れ!」
「OK!」
完成したシェルブリットを早速地面に撃ちつけ、カズマは再び空へと跳躍する。
レヴィはそのカズマへと跳躍。そしてどうにかぎりぎりで背中へと飛びついた。
そして再び二人は急ぐ。目的地は唯一つ、片腕を失った蒼い巨人だ。
「さぁ早く行くぜ!」
「指図すんな……ってオイ、あれ見ろ!」
「どうした?」
「ガキが走ってやがる」
だが突然カズマが何かに気付き、レヴィへと報告をした。
レヴィが目を細めて景色を見下ろすと、確かに走っている少年が見えた。
どうやら彼も、同じ目的地に向かって走っているらしい。
「接触するか?」
「ああ、そうだな。接触したほうがいいだろ」
「オッケェ。じゃあ、万一ギガゾンビの手下だったら困るから準備しとけ」
「いや、大丈夫だろ……よく見りゃあのガキの行き先はあたしらと同じみたいだ。
それにここは当初の目的地に近い領域……ここらへんで保護対象がうろうろしててもおかしくは無い」
「やっぱそうだよな。よし、じゃあ尋ねてみるか」
レヴィの提案を呑んだカズマはすぐに少年目指して飛行を開始した。
勿論シェルブリットは、”どうみても一般人” といった相手に追い付けぬ性能ではない。
すぐに目的は達成され、カズマは少年の真上を取る。そしてストレートに叫んだ。
「おいそこのガキ! ハルヒとキョンってヤツを知らねぇか!?」
突然の邂逅。そして質問。
その謎の連携に驚いたのか、少年が足を止めてこちらを見た。
「突然で悪かったな、坊や。で、あたしらはキョンとハルヒとかってヤツらを探してんだ。
トグサってヤツに頼まれたんだが……何でも良い、知ってる情報を寄越してくれ!
別に知らねぇんだったら知らねぇで良い! まぁテメェが敵だったら容赦しねェが……どうだ?」
レヴィのフォローらしき言葉の羅列。それを聞いた少年は、更に驚いた表情を形作った。
そのことに気付いたレヴィが「まさか何か知っているのか?」更なる問いに移行しようとした刹那。
「トグサ……トグサって人に頼まれたってのは本当ですか!?」
「当たり前だ!」
突然、少年の方からアプローチがかかった。
レヴィはそのアプローチをすぐさま受け取り、叫びで返す。
すると少年は少し考え、そして口を開いた。
「それに貴方達は確かあの……」
「あ?」
「……よし、じゃあ信じて話します! 俺がそのキョンです! ハルヒも向こうに……あの巨人の足元にいると思います!」
「何ッ!?」
今度はレヴィが驚きの表情を浮かべることになった。
まさか確保対象の一人にいきなり出会い、更にもう一人の情報が得られるとは。
しかもキョンの示した方向を見れば、確かに人間が二名。合間見えている。
一人は女子高生。そして、もう一人は……青い服の女性。
レヴィがそこまで確認した瞬間、突然カズマに声をかけられた。
「悪ィ、レヴィ。お前は後でキョンと一緒に追い付いて来い」
「ああ? なんであたしが後手に回らなきゃなんねぇんだよ」
レヴィが怪訝そうに尋ねるが、カズマはいつもの様な悪態で返さなかった。
「――ボコる相手が、出来た」
「……カズマ?」
「いいから背中から降りろ! 早く!」
カズマに急かされ、レヴィは背中から飛び降りた。
一体何があったのかと、レヴィの頭に更なる疑問が浮かぶ。
刹那、カズマが腹の底から吠えた。
「テメェかァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!」
叫びと共に、彼は一気に目的地へと距離を詰める様に飛んでいった。
いや、よく見れば彼の狙いは ”目的地” ではない。
あの涼宮ハルヒと思わしき少女と合間見える、剣を持った女性。
カズマの狙いは、明らかにそれであった。
先行して飛び立っていったカズマを、レヴィは呆れ混じりに眺めていた。
『あたしの提案とは言え……土偶を家ごと潰すなんて事を迷わずやりきった奴だからな。
まぁこんくらいの独断専行をする位の血の気はあるよな……もうちょっとあたしみたいにクールになれよ……』
ロックが聞いたら迷わず突っ込みそうなことを心中で呟いたが、それもすぐに終了。
レヴィは頭を切り替え、キョンに対して口を開いた。
「あー、訳がわからねぇ……つーか、初っ端からあいつに遅れを取るとはな」
「あなたは……それにあの人、どうして……」
「詳しいことは走りながらだ……とにかく急ぐぞ!」
「え? は、はい!」
レヴィがキョンを急かすと、キョンはレヴィの後を付いてまた必死に走り出した。
時間の惜しい今では、そうでもしないと仕事に支障が出てしまう。
だというのに突然、レヴィはキョンに話しかけられた。
「……ところであなたの名前、レヴィさんですよね?」
「なんで知ってんだ?」
ふと、レヴィも沸いた疑問をキョンにぶつける。
すると彼はすぐに答えを返してくれた。
「病院の騒動、見てましたから。あのさっきの男の人と大暴れしてたでしょう?」
「ああ、あれか……だが坊やには関係の無い話だ。今のこの状況じゃ特に意味も無……あ」
「ど、どうしたんですか? 何で急に立ち止まるんですか?」
”病院での騒動、見てましたから”。
その言葉をキョンから聞いたレヴィが不意に立ち止まった。
答えた本人は怪訝そうな表情でそれを眺めており、不気味な静寂が辺りを包む。
そうしていると、レヴィが般若の形相で振り向いた。
「じゃあ、あれ……”見た” んだな?」
「あ、あれって?」
「あれだよ。カズマとやりあってたときの……!」
キョンの襟首を掴み、形相を押さえぬままにレヴィが問う。
明確な暴力。そんなものに縁の無かったキョンは縮み上がる。
そして迫力に負けた彼は、ついつい正直にあの言葉を口にしてしまった。
「ああ、あの魔法少女みたいな変身の事でs」
「それだそれェ! いいからそれを今から全部忘れろォォォオオオオオオ!!」
――ズガン!
【C-4/市街地/2日目-昼】
【カズマ@スクライド】
[状態]:疲労、強い決意、全身に中程度の負傷(処置済)、西瓜臭い、全身に少々の痛み
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、翠星石の首輪、エンジェルモートの制服
[思考]
基本:気にいらねぇモンは叩き潰す、欲しいモンは奪う。もう止まったりはしねぇ、あとは進むだけだ!
1:セイバーを斃す!
2:キョン達、特に涼宮ハルヒを守り、病院へと送り届ける。
3:首輪を外してギガゾンビをぶっとばす。
4:そのためにはレヴィとも協力する。
[備考]
※いろいろ在ったのでグリフィスのことは覚えていません。
※のび太のデイパックを回収しました。
※レヴィに対する評価が少し上がっています。
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:脇腹、及び右腕に銃創(処置済み)、背中に打撲。
頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、疲労、全身に少々の痛み、現在キョンを殴打中。
[装備]:ソード・カトラス(残弾15/15、予備残弾×26発)、ベレッタM92F(残弾15/15)
[道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、イングラムM10サブマシンガン(残弾15/30、予備弾倉30発×1)
グルメテーブルかけ(使用回数:残り16品)、ぬけ穴ライト、テキオー灯、
バカルディ(ラム酒)×1本、割れた酒瓶(凶器として使える)、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。物事なんでも速攻解決!! 銃で!!
1:「キョンが!」「忘れるまで!」「殴るのをやめないッ!」
2:多分いるギガゾンビの手下相手に大暴れする。
3:カズマ、キョンと共にハルヒ達とやらを見つけて病院へと送り届ける。
4:ゲイナーやゲインのエクソダスとやらに協力する。
5:カズマをぶっ飛ばすのは後でいいか。
6:機会があればゲインともやり合いたい。
7:バリアジャケットは絶対もう着ないし、ロックには秘密。秘密を洩らす者がいたら死の制裁を加える。
8:仕事が終わったらカズマに約束を守ってもらう。
[備考]
※双子の名前は知りません。
※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。
※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。
※空を飛んだり暴れたりで気分は上々です。
※カズマに対する評価が少し上がっています。
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労、全身各所に擦り傷、憤りと強い決意、レヴィに殴られ中。
[装備]:バールのようなもの、ニューナンブ(残弾4)
[道具]:なし
[思考]
基本:殺し合いをする気はない、絶対に皆で帰る
1:「あァァァんまりだァァアァ!!」
2:カズマ、レヴィと共にハルヒと合流、絶対に守る。
3:是が非でも、トグサと接触してデーターを検分してもらい、ディスクも手に入れる
4:書き込みしてきた人物と再び接触を図る
5:病院にいるであろう凛には、最大限、警戒を払う。水銀燈の死について考えるのは保留。
[備考]
※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「ミステリックサイン」参照。
※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「仲間を探して」参照。
※ハルヒ、トウカ、魅音、エルルゥ、ロックらと詳しい情報交換を行いました。
※ジョーカー等の情報をかなり信じています。
【C-4南東端・D-4北東端の境界/2日目/日中】
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:頭部に中度の打撲(動くのに問題は無し) 、
かなり疲労、高熱(行動に支障)、自分の能力に対して知覚
[装備]:クローンリキッドごくう(使用回数:残り2回)、
[道具]:デイバック×9、支給品一式×8(食料7食分消費、水1/5消費)、
鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)、
RPG-7×2(スモーク弾×1、照明弾×1)、クロスボウ、タヌ機(1回使用可能)
暗視ゴーグル(望遠機能付き・現在故障中)、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)
ダイヤの指輪、のろいウザギ、ハーモニカ、デジヴァイス、真紅のベヘリット
ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)、E-6駅・F-1駅の電話番号のメモ、
トグサが書いた首輪の情報等が書かれたメモ1枚
【薬局で入手した薬や用具】
鎮痛剤/解熱剤/胃腸薬/下剤/利尿剤/ビタミン剤/滋養強壮薬
抗生物質/治療キット(消毒薬/包帯各種/鋏/テープ/注射器)/虫除けスプレー
※種類別に小分けにしてあります。
着せ替えカメラ(使用回数:残り17回)、コルトSAA(弾数:0/6発-予備弾無し)
コルトM1917(弾数:0/6発-予備弾無し)、スペツナズナイフ×1
簡易松葉杖、どんな病気にも効く薬、AK-47カラシニコフ(0/30)
[思考]
基本:団長として、SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームから脱出するために力を尽くす。
1:セイバーは絶対に許さない
2:病院にいるというトグサと接触し、ドラえもんからディスクを手に入れる
3:書き込みしてきた人物が気になる
4:病院にいるかもしれない凛は最大限に警戒
5:団員の命を危機に陥らせるかもしれない行動は、できるだけ避ける
6:水銀燈がなぜ死んだのか考えるのは保留
[備考]
※腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。
※偽凛がアルルゥの殺害犯だと思っているので、劉鳳とセラスを敵視しなくなりました
※キョン、トウカ、魅音、エルルゥ、ロックらと詳しい情報交換を行いました。
※キョンの持つノートPC内の情報を得て、考察しました
※ジョーカーの情報を信じ始めています
※怒りや憤りなど、ストレスを感じると神人を召還できるようになりました。
他にも参加者などに何らかの影響を及ぼせるかもしれませんがその効果は微弱です。
神人の戦闘力もかなり低くなっています。
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:全身に軽度の裂傷と火傷、頭部に重症(治療済み)、疲労(中)、魔力消費(大)、これ以上無く強い決意、腹三分
[装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+
[道具]:支給品一式×3(食料は通常支給-1)、スコップ
[思考・状況]
基本:参加者を殺す
1:少年達を殺し、その後は休憩を取る。
2:エクスカリバーを手に入れる、必要ならば所持者を殺害する
3:絶対に生き残り、願いを叶えて選定の儀式をやり直す。
【住職ダマA(スラン) 機能停止】
※C-4住宅地の住居のいくつかが倒壊しています
※スランはカズマによって住居ごと吹き飛ばされた為、瓦礫の中に破片が埋まっています
>>73の一部を下記に修正します
そして知る由も無いだろう。
スランがその忠誠によって、肉体が精神を凌駕し限界を超えていたという事を。
↓
そして知る由も無いだろう。
スランは自身のその忠誠によって、精神が肉体を凌駕し限界を超えていたという事を。
真っ赤に染まった路地を走っている。
夕闇に沈み行く街。店仕舞いを始める露店。仕事を終え家路に向かう大人達。ねぐらに帰る鳥の群れ。
みんな、もう先に帰ってしまった。
でも、関係ない。
今からお城を見に行くんだ。
暮に染められた白亜の壁はとてもきれいで。
黄昏に浮かぶ尖塔の影はこの世のものとは思えないほどで。
いつまで眺めても、見飽きることが無い。
そして、いつも思うのだ。
いつか、あれを手に入れて見せるのだと。
自分だけのものにしたいと。
今はまだ、遠くから眺めることしか出来ない。
せめて、その渇望を忘れないために、眼に焼き付けるために、今日も高台へと向かう。
あそこからだと、お城が一番良く見えるのだ。
自分だけが知っている、秘密の場所。
大通りを抜けて、靴屋のところで曲がって、石段を駆け上がり、突き当りの帽子屋を右に。
視界が開ける。
今日は、先客がいた。
見知らぬおばさんが立っていた。
小太りで、エプロンを掛けた、どこにでもいそうなおばさん。
ただ、鹿の角みたいなものが付いた変な面をかぶっている。
「坊や」
おばさんは懐から宝石箱のようなものを取り出した。
「飴は、要らないかい?」
宝石箱の中には、やっぱり宝石が詰まっていた。
自分の眼が輝いているのがわかる。
緑、青、紫、透明、金銀。
色鮮やかに輝いている。
こんなきれいなもの、見たことが無い。
いつも自分が仲間と自慢し合い、奪い合っている宝物、ガラス玉、玩具、ナイフ、といったものが、もう子供じみてつまらないがらくたにしか思えなくなっていた。
「これ、くれるの?」
「ああ、ひとつだけ、ね」
宝石箱の真ん中、一際鮮やかな輝きを放つ赤い宝石に手を伸ばす。
すごい。
まるで、夕日の赤。
目の前の、白亜の城を染める深紅のよう。
摘み上げ、そろそろと唇へと運ぶ。
立ち上る甘美な香りに誘われ、そのまま口の中に放り込んだ。
瞬間、意識が暗転した。
平衡感覚を失い地面に倒れる。
「かぁ……はっ……」
熱い。体中火が点いたみたいに熱い。
痛い。胸がバラバラになりそうなくらい痛い。
涎を垂らしながら必死に身を捩る。
ひとしきり無我夢中に暴れた後、糸が切れたように体が動かなくなる。
「ゲヒッ! ゲヒグヒッ! ゲググゥゲゲゲゲゲァッゲァッゲァッ!
だーまされた騙された!
教えられなかったのかな? 『知らないヒトからモノをもらっちゃいけません』って!
悪い子にはお仕置きさ!
ゲヒッ! ゲヒグヒッ! ゲググゥゲゲゲゲゲァッゲァッゲァッ!」
さっきのおばさんはしゃがれた男の声で笑うと、エプロンの中からガサゴソと不気味な人形をいくつか産み落として崩れ去る。
人形は歌うように嘲り笑いながらどこかへと飛んで行った。
残されたのはビクンビクンと痙攣するばかりの自分の体。
さっきとは打って変わって体中が寒い。
痛みも感じない。それどころか体中の感覚自体が消えようとしている。
掠れ行く視界の中で、最後に捉えたのは、はるか遠くそびえるお城。
ああ。
きれいだ。
行かなくちゃ、あそこに。
少し寄り道をしすぎてしまった。
でも、いつか必ず届くことを信じている。
だから、今は倒れてる場合じゃないんだ。
その、来るべき勝利の瞬間のために、オレは――――
■
■
■
「ゲイナー! 無事だったか! ドラえもんはどこだ?」
「……今度は貴方ですか」
ロックが去ってから数分もしないうちに再びの来訪者を迎え、ゲイナーはため息をついた。
どういつもこいつも、じっとしていれば入れ違いにならずにすんだものを。
「ドラえもんは外の様子を見に行くといってちょっと前に出て行きましたよ。
すぐ入れ違いにロックさんがきて、彼もドラえもんを探しに出て行きました」
「入れ違い、か……。ここはみだりに動かず、彼らが戻ってくるのを待って防衛に徹するのが上策かもな」
凛やフェイトには悪いが、自らを守る術を持たないゲイナーを置いて行くのも心配だし、とトグサは胸中で付け加える。
少年のプライドを刺激したくないので口には出さないが。
「ゲイナー、俺はこの近場を見回ってくる。
何かあったら、外に出て大声で助けを呼べ。声が聞こえる範囲にはいるからな」
「ちょっと、待っ……!」
言うが早いかトグサも飛び出して行ってしまう。
止める間もない。
三度も蚊帳の外に置かれてしまった。
少年は苛立ちを持て余し、解体したガラクタを蹴り飛ばして足首を挫いてしまい、痛みのあまり悶絶する羽目になったのだが。
これは今回の話にはあまり関係しないので省略しよう。
■
外から度々爆音が聞こえてくる。
さらに垣間見える電光。
戦場が近い。
「急いで……くr、ドラ、えもん……」
「うん、ぼくも凛ちゃんたちのとこが心配だ」
ユービックを抱えたドラえもんは気を引き締めつつ階段を駆け下りる。
そのまま玄関へと突っ切ろうとした所で、横の廊下から走ってきた何者かと衝突した。
「うわあっ!」
「くっ!」
バランスを崩され両者とも転倒。
「いたたた……。もう〜〜! 誰だい、あぶないなあ!」
「すまない、怪我はないか……ってドラえもん!」
横から飛び出してきたロックはドラえもんを確認するや、詰め寄って肩をつかむ。
「ど、どうしたんだいロック君?」
「詳しい話は後だ。ここは危ないからレントゲン室に……今、何か隠さなかったかい?」
背後を覗き込もうとするロックからユービックを庇いながら、ドラえもんはわざとらしく口笛を吹いて見せた。
「な、なんのことかな〜〜?」
怪しすぎる。
ドラえもんとて徒に疑心を招くようなことはしたくないが、今は時間が惜しい。
ユービックのことを説明するにしても、相手がロックでは先程のようにすんなり休戦協定は結べないだろう。
よって、ドラえもんはひとまずこの場は誤魔化しておく事にした。
だが、世の中そうすんなりと事は運ばない。
怪しんだロックを誤魔化すのに手間取っているうちに、第三者がやってきてしまった。
「ロック! ここは危険だって言ったでしょ! もっと奥に避難しなさ……」
遠坂凛である。
「! こいつはゲインの言っていた主催者側の機械人形!」
彼女に見咎められたことでユービックの存在はあっさりと露見してしまった。
ドラえもんの裏切りを警戒してロックの視線が鋭くなる。
「どう言う事だいドラえもん。何故君がそいつと一緒に……。
それと遠坂さん、君がどうしてここにいるんだ。フェイトちゃんは一緒じゃないのか?」
「いやこれには山よりも深く海よりも高い訳が……。
ああそれと凛ちゃん! 今外の状況はどうなっているんだい?」
「フェイトには今敵を抑えてもらってる。
それよりもドラえもん、この状況についてじっくり話を聞かせてもらおうかしら?」
『じっくり聞いている場合ではありませんマスター。一刻も早くルールブレイカーを回収して戻らなければなりません。
聞いているのですか、マスター?』
……場は混迷を極めていた。
「待t……お前達。ひtまず、話を、聞いて、くr」
■
雷光を纏った少女と漆黒の騎士が激突する。
初撃の速度は互角、しかし打ち合うほどにフェイトの方が徐々に押され始める。
黒衣の男は片手のハンデを背負いつつも、両手剣を軽々と振るっている。
防御に手一杯で、詠唱の隙を与えてもらえない。
それでも何とか一か八かの一撃で聖剣を打ち払うと、開いている左手を伸ばす。
撃ち出すのは、最も使い慣れた電光の槍。
「フォトンランサー!」
『Photon Lancer』
難なく避けられる。
それも予想の内、時間さえ稼げればいい。
そのまま大きく後方に加速して一旦距離を取る。
敵を見据えつつ、リインフォースと手早く会話を交わす。
『敵も機動戦に慣れて来ているな』
「このままじゃ凛が戻ってくるまで持たないかも……」
『必ずしも持久戦に持ち込む必要は無い。倒してしまえば済む話だ』
フェイトは逡巡した。
眼前の黒衣の男と互いに間合いを計っている内に真意を確かめておく。
「倒すって……相手の魔力攻撃耐性はハンパじゃないんだよ。まさか……」
即座に返答が帰ってくる。
『非殺傷設定では埒が明かぬ。敵の生死を考慮せず、全力で臨めば葬ることも可能だ』
つまりは、殺すのも躊躇わないということ。
殺す。
ころす。
あの少女の姿が蘇って来た。
(サイトとぉ……)
殺戮を繰り返し、破壊の限りを尽くし、自らも塵芥となってしまった少女。
(ずっとぉ……)
自分が、殺した。
(い、しょ、にぃ……)
「ダメだよ!」
思わず叫んでいた。
サイトと言うのは、かつて放送で呼ばれた名前。
彼女も大切な人が死んで壊れてしまっただけで、きっと故郷には家族と友達がいる普通の子だったのだろう。
遺された人たちはどう思うか。
あんな死に方をしたと知って、悲しくないはずがない。
あんな殺し方をした自分を、許せるはずがない。
自分がなのはとタチコマを殺した彼女を許せないように。
殺され、殺して、後に残ったのは廃墟だけだった。
あんなことはもう二度とごめんだ。
『しかしあの男とジュエルシードを切り離すには、どの道障壁を破いておく必要がある。奴が機動戦に慣れていない内に本体を叩いた方が効率……』
議論する間を与えず、敵がフェイトに斬りかかる。
魔力を後方に向けてジェットの如く噴出させながら、一気に間合いを詰めて来る。
互いのリーチにそれほどの差がなければ、この手の行動は本来花拳繍腿に過ぎない。
相手が素人ならば虚をついて一息に勝負を決めることも出来ようが、フェイトもまた接近戦に長じている。
接近戦において必要なのは間合いの微調整であって、大雑把なスピードの誇示はかえって命取りになりかねない。
実際フェイトは難なく、敵の斬撃をバルディッシュの刃で受け止めた。
だが、この魔力放出を用いた機動戦における速度は常人のそれの範疇を遥かに凌駕する。
バルディッシュを通して両腕に加えられる容赦のない衝撃。
両者の体格差に加えて、男の獲物は武器の重みで叩き斬る用途で用いられる両手用西洋剣、その重量が加速されたスピードで襲い掛かる。
フェイトはパチコンコ玉の如く軽々と弾き飛ばされてしまう。
そのまま数回地面にバウンドして民家のブロック塀に突っ込む。
轟音を立てて塀が崩れ去った。
巻き上がった土煙が、しばらくして収まる。
フェイトは、無傷だった。
しかしその呼吸は荒い。
『Sir…』
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
バルディッシュを構えて眼前をきと見据える。
同時に黒衣の男が襲いかかった。
再びの加速。
前方からの突撃を、今度は左に避けてやり過ごそうとする。
振り下ろされる剣はそのまま中を斬――――らなかった。
フェイトと交錯した瞬間、男は前方に魔力を逆噴射して己が身に急激な制動を与える。
一瞬で相対速度がゼロに。
そのまま身をよじって剣を右方に振るう。
狙いは、肝臓。
「――――ッ!?」
『Blitz Rush』
倒れ込みながら加速魔法でエクスカリバーのリーチから逃れる。
それでも間に合わず、脇腹が浅く抉られた。
衝撃が内臓に伝播する。
激痛、血が滲む、口の中にイヤな味が。でも、
(平気、このくらい慣れてる。どうってことない!)
そのまま加速して敵から距離をとりつつ詠唱。
差し出される左手を環状魔方陣が覆う。
「プラズマスマッシャー!」
『Plasma Smasher』
電光を伴い、光の奔流が襲い掛かる。
轟雷は男を飲み込み、爆発。しかし、
(手応えがなかった。魔力放出で逸らされたんだ!)
相手の防護の堅牢さを前に絶望的な気分になる。
だが、自分の役目はあくまで時間稼ぎ。
凛は言った、足止めは任せると。
彼女は非情とは正反対の性格をしているが、正しい決断ができる人間だ。
その彼女が判断したのだ、フェイトが残ったほうが効率的だと。
凛が戻ってくるまであの男をここに足止めしておけば……。
(後はきっと彼女たちが何とかしてくれる。ここを乗り切ればもう私は必ずしも必要ない。
だから、大丈夫!)
「アルカス・クルタス・エイギアス――」
詠唱と共に数個のランサースフィアを生成。
無傷の男が、土煙の中から悠然と歩み出て来る。
相手が動き出す前に準備していたフォトンランサーを撃つ! 撃つ! 撃つ!
時間差で次々と襲い来る光槍に阻まれ、男の動きが鈍る。
『何をやっている! なぜ私を使用しない!』
機動力に優れる敵を遠距離で足止めするには、広域攻撃型のリインフォースに頼るのが常道。
しかし、先ほどからずっとフェイトは夜天の書を使用していない。
これでは折角融合した意味がないではないか。
『ごめん。ただでさえベルカ式には慣れてないから……。
あの機動力に対抗するのにデバイスの並列使用は私には荷が重過ぎるよ』
『それ以外にも、何か個人的な理由が有るのではないか?』
『それは……』
僅かな逡巡。
その隙を突いて、残りのランサーを弾き飛ばしつつ、黒衣の男が迫る。
「くッ!」
横に大きく薙ぎ払うのを見切り、ブリッツラッシュで大きく上方へと飛ぶ。
しかし同時に男も魔力を地上に叩きつけて上昇、こちらを上回る速度で追いすがる。
振り切れない。
先ほどの斬撃の勢いを付けて、回転しながら剣が振り上げられる。
(読まれていた!?)
空中で軌道を変えるには魔力の噴射しか方法がない。
ブリッツラッシュの方向を無理矢理変更し、右方へと回避。
交錯は、一瞬。
風を切る音。
左頬の横を白銀が掠める。
きらきらと光を反射しながら、本来の色に戻った少女の髪の房が宙に舞う。
白いリボンと一緒に。
「あ……」
呆けた。
空中で左手を必死に伸ばす。
なくしてはいけないもの。
遺された、親友の残滓を求めて。
『――――――Sir!』
相棒の必死の呼びかけで我に返る。
だが、遅い。
頭上には黒いマントを翼のようにはためかせた男がすぐそこまで迫っていた。
さながら、獲物を急降下で仕留める猛禽。
神速の刃が空間すら切り裂き振り下ろされる。
「――ッ! ラウンドシ――」
間に合わない。
結果、バルディッシュの柄でまともに受けてしまう。
ぶつかり合う聖剣と戦斧。
火花が飛び、バルディッシュが削られて行く。
必死で受け流そうと力を込める。
「うああああああ――――――!!」
金属音をあげて離れる両者。
ようやく剣をやり過ごすことに成功するが、同時にバルディッシュも弾き飛ばされていた。
もう離さないと心に決めた唯一無二の相方が、掌から零れ落ちていく。
「しま――――ッ!」
使い慣れたデバイスが離れ、今フェイトは無防備。
必死に自前で回避魔法を構成するが、焦りもあって一瞬では完成せず。
眼前の敵が、それを逃す道理はなかった。
再び魔力を噴射し、一直線に突き攻撃。
聖剣の切先がフェイトの頭部へと迫る。
「ブリッツアクション!」
トッ。
?
何とか成功した高速移動魔法により、男の姿が遠ざかっていく。
だが、何故か見辛い。
(あ、れ?)
どろりと 熱い水が頬を伝う。
ああ、眼がなくなったのだと気付いたのと、
激痛が遅れてやってきたのと、地面に激突したのが同時だった。
■
「――――つまり」
舞台は再び病院内部。
ロックはユービックの話を総括した。
「そのグリフィスと言う参加者はゲームを破壊するために従順を装って主催者側と接触。
その元で君たちツチダマの境遇を見るに見かねてツチダマ達を率いて施設を乗っ取ろうと画策。
事を起こす直前でギガゾンビに露見して処断され狂戦士に仕立て上げられた、と」
「そう……だ。もtは、我等の為に、涙sてくださる……心優sき、御方。
正気に、戻rば、必ずや……お前tちの、助けに、なrう」
長引く会話に苛立った様にレイジングハートが水を差した。
『マスター、聞くだけ無駄です。どの道ルールブレイカーでジュエルシードを分離する方針に変化はない。
融合デバイスの援護付きとは言え、フェイト一人ではいつまで持つかわかりません。ここは彼らに任せて……』
『判ってるわよ。けどこっちを放置するわけにも行かないでしょう。
下手に立ち回れば"グリフィス"に対応している間に病院の中が全滅という事態もありえるわ』
あくまで慎重な凛は、まずこちらの問題から片付けることに決めた。
「それで私の考えだけど……、正直信用に足る要素は何もないわ。
貴方たちはギガゾンビを裏切ったと言っていたけれど、それは自己申告に過ぎないでしょ?
故障して追い詰められた挙句とっさに付いた嘘でないって証拠はあるの?」
「お前rの……道具が、まtめてある部屋に……我々の、ノーtパソコンが、置いtある。
それから、見rる掲示板に……反逆の、旨を、書き込んで、おいt』
凛はさっきから黙って聞いているロックに意見を求めた。
「貴方はどう思う? できればご自慢の名推理が聞きたいのだけれど」
「……すまない。俺からはなんとも言えないな。相手が人形では人間相手の交渉とは勝手が違う。
仕草も声の抑揚もないから真偽の判断の付けようがない。疑わしい話だとは思うけどね」
同じく黙って聞いていたドラえもんがおずおずといった感じで手を上げた。
「あの……。ひとまずその掲示板を見てから判断するというのでどうかと思うのだけれど……」
「特定の場所に誘導しようという意図があるんだ。罠を疑うべきだろう」
ロックに反論されてドラえもんはうつむいた。
時間も差し迫っている。結論を先延ばしにはできない。
「いいわ、信じてあげる」
『マスター!?』
レイジングハートが不平の声を上げるのを無視して、ただし、と付け加える。
「条件があるわ。
それは貴方にここで死んでもらうこと」
「凛ちゃん!?」
目を白黒させて止めようとするドラえもんを一睨みで沈黙させて、凛はユービックにレイジングハートを突きつけた。
「そのグリフィスと言う男を命を懸けてまで救いたいってのなら、死になさいよ。
それでもいいって言うのなら、グリフィスのことを信用してやってもいいわ。
今まで私たちが殺しあうのを見世物にしてた奴等のことを信じろっていうのだから、それぐらいの対価は当然でしょ?」
レイジングハートに光弾を待機させ、傲然と言い放つ。
ユービックは怯えるでもなく、淡々と答えた。
「そうか……。なら、そうしろ。殺りたいのなら、殺れ。これ以上、グリフィス様のお役に、立tないのは、残念だが……。
その代わり、誓え。必ず。かならず、グリフィs様を救うと!」
「…………」
しばし、沈黙。
ロックは冷静に、ドラえもんはハラハラしながらことの推移を見守っている。
ユービックがそれ以上何も言わない。
凛はレイジングハートを収めると首を振って頭を掻き毟った。
「あー、もう! やめやめ! これじゃまるでこっちが悪役じゃない!
だいたい『必ず救うと誓う』なんて、できるわけないでしょ! そんな条件勝手に持ち出すなんて卑怯よ!」
「では、グリフィs様のことは……」
「そこ、勘違いしないで」
凛はぴしゃりと言い付けた。
「別にあんたたちのことを信用した訳じゃないわ。あんたの事はドラえもんに終始監視してもらうから。
少しでも怪しい真似をしたら即スクラップになってもらうわ」
言うが早いか身を翻す。
「急ぐわよ、大分時間を無駄にしたわ。まずルールブレイカーの回収、急ぐわよ」
走りながらロックが耳打ちしてくる。
「良かったのかい、これで」
「わからないわよ、そんなこと。でも上手くいけば主催者側の情報も手に入る」
少し声のトーンが下がる。
「やっぱり貴方の言う通り、優柔不断かしらね、私」
「まあ、きっとそうなんだろうね。でも、かく言う俺も人の事は言えなかったりする。俺もここに来てからと言うもの失敗してばかりだ。
勘違いで子供を殺してしまったり、君の事もいい加減な推理で悪役扱いしてしまった。
俺より先にハルヒ達が君と接触していたら血を見ることになっていたかもしれない」
そうこうしている内に、会議をした部屋にたどり着く。
「ここだね」
「ええ、ルールブレイカーを回収したら私はドラえもん達とフェイトの所に戻るから、万一に備えてロックはトグサ達と一緒に待機、良いわね」
「わかった、荒事は任せたよ」
ドラえもんがユービックを抱えていないほうの手で、荒らされたテーブルの上から曲がりくねったナイフを取り上げた。
「凛ちゃん、これかい?」
「ええ」
破戒すべき全ての符。
戦いの勝敗を決する切り札がそこにあった。
■
少女が、コンクリートの地面に倒れ伏していた。
酷い有様だった。
片目が抉られ、ツインテールの片方は切り落とされ、全身痣だらけで、脇腹からの出血も止まっていない。
満身創痍。
リインフォースとの融合も解けて、元の金髪と赤い眼に戻り、魔術的防御もなくなっている。
それでも、まだ生きていた。
フェイトは視線だけ上げて敵の姿を追う。
男は止めを刺すでもなく、先刻彼女に切り落とされた左腕を拾い上げていた。
しばし、弄ぶ。
そして、そのまま切断面を左肩の傷口に押し当てた。
毒々しい赤い閃光が走り、断たれた皮膚が癒着する。
繋ぎ終えると、男は調子を確かめるように左手を開いたり握ったりし始めた。
(そんな……。再生、した?)
フェイトが与えたほぼ唯一のダメージも、無為と帰してしまった。
絶望が、彼女を覆う。
力が抜けていく。
結局、自分は何も生み出すことが出来なかった。
でも、
(なのははもういない。母さんもいない。カルラさんもタチコマも死んでしまった。バルディッシュも届かない。
なんだか、もうどうだっていいや)
これ以上生きていたって、待っているのは更なる煉獄。
なのはやはやての死を、家族や友人に伝えなければならない。
のうのうと生き延びた自分がどんな顔をして会えば良いと言うのか。
義務だと考えていた、それを伝えるのが。
でも、出来なかった。
タチコマのことをトグサに謝ろうとしたけれども。
自分の罪に向き合うのが怖くて、結局逃げ出して、凛の方に付いて行ってしまった。
左腕のウォーミングアップを終えた男が今度こそ止めを刺さんとフェイトに近付いてくる。
死が、そこまで迫っていた。
死ぬ。
(死ねば、もう一度会えるかな? なのはや、アリシア達に)
なら、もうそれでいい。
クズとして生まれたものが、塵に還るだけだ。また誰かを殺すよりはずっといい。
残された片方の眼も生気を失う。
足音が、フェイトのすぐ傍で止まった。
少女は、静かに自分の死を受け入れ――――――、
(――――しっかりするんや!――――)
「え?」
男が剣を振り上げたその時。
なつかしい、声が聞こえた。
(――――すぐそばにあるんよ! つこうて!――――)
脇を見遣ると、夜天の書が目の前に落ちていた。
その向こうに、誰かの墓らしき盛り土が見える。
一度は死んだ眼に、涙がこみあがる。
生気と共に。
敵の剣が振り下ろされるまで、もはや幾許も無い。
フェイトは夜天の書を引っ掴むと、転がりながら叫んだ。
命を繋ぐ、言葉を。
「ユニゾン――――イン!」
電光を伴った閃光が走る。
虚を突かれて、少女を頭から両断するはずだった斬撃が空を切った。
リンカーコアが先程よりもずっと強靭に接続されて行くのがわかる。
光に包まれながら、フェイトは跳び上がり右拳を突き出した。
「シュヴァルツェ・ヴィルクング!」
付け焼刃の素人拳法にも関わらず、凛の放ったそれを上回る威力の鉄拳が黒衣の脇腹に吸い込まれる。
男は錐揉み回転しながら吹き飛ばされた。
そのまま民家に突っ込み、爆音を上げて倒壊するそれの下敷きになる。
光の奔流が収まったその後には、様変わりした少女が立っていた。
眼球と髪の色が変化しているのは同じだ。
それと加えてさらに、金に縁取られた白いコートを身に纏っている。
背中には三対の黒い翼、そして頭には新たに白いベレー帽が。
「……死は不可逆。死んだ人の心を確認する方法なんてどこにもない」
フェイトは呟いた。タチコマが彼の上司から学んだと言っていた言葉を。
きっとそれが現実。
さっきの声も、かつて闇の書の中で見た母やアリシアと暮らす夢も、自分の欲望が作った妄想に過ぎない。
勝手に彼女らの心を捏造し、自分に都合の良い言葉を言わせたのだ。
何と言う、浅ましさ。
自分は、彼女らの墓を暴き、冒涜したも同然。
でも。
それでも。
生きていた時の彼女の言葉が、まだ自分の中で生きているなら。
例え捏造されたものであっても、自分の中の彼女が叫ぶ言葉は、きっと自分を導いてくれる!
「私は……信じる」
フェイトは宣言した。
リインフォースに、生きる意志と共に。
「あなたのはやてへの想いを。あなたの中に生きるはやての言葉を!」
『そうか』
リンカーコアを通してリインフォースにもフェイトの想いが流れ込む。
『ならば、今はお前が私の主だ。――――旅の鏡!』
空間通路が開き、何処かへと落下していたバルディッシュがフェイトの手元に取り寄せられた。
『ルールブレイカーは届かぬが、これぐらい近くにあれば制限下でも何とかなる』
「うん、ありがとう」
手を離れた戦斧が、再び輝きを取り戻す。
「行くよ。バルディッシュ! リインフォース!」
『Yes Sir』
『Anfang』
倒壊した民家が再び爆発した。
魔力放出の旋風が竜巻を起こす。
巻き上がる瓦礫の中心に、黒衣の男は無傷で佇んでいた。
(向うは時間がたてばその分動きが良くなる。対してこっちは満身創痍。
これ以上敵に学習させたら、凛一人じゃ太刀打ちできない!)
「一気にけりをつける! リインフォース、お願い!」
フェイトは今まで頼ることの無かった魔導書を掲げた。
「プラズマランサー――――」
『――――Genocide Shift!』
正面後方上下左右。
フェイトの全周囲を魔方陣と光球が取り囲んだ。
鷹の視線がフェイトを捕らえる。
「ファイア!」
光球から一斉に無数の槍が放たれる。
眼前の敵の方向だけでなく、何もないあさっての方向にも満遍なく。
フェイトの周囲が全て槍衾で埋め尽くされた。
だが、それでも黒衣の男に対しては僅かにたじろがせるほどの効果しか持たない。
魔力の盾が男に向けられた全ての光槍を逸らす。
第一波をやり過ごし、男は今度こそ少女に斬り掛らんとして、止まった。
空中で止まっていた。
男が弾き飛ばした槍が。男を掠めた槍が。男を掠めもしなかった、全体の内のほとんどの槍が。
「ターン」
槍が、一斉に方向を変える。
全ての切っ先が、黒衣の男に向けられていた。
「ファイア!」
何百何千。
数えるのも嫌になる位の数の魔力槍が男に襲い掛かる。
そう、狙いはフォトンランサー・ジェノサイドシフトの様な全周囲攻撃ではない。
あくまで対象を一点に絞った、全方向からの多重攻撃。
一寸の逃げ場も無いプラズマランサー版"鉄の処女"による攻撃は回避絶対不能。
だが、一旦術者から全周囲に放たれた無数の槍が別の一点に収束すると言うことは、その際に術者自身もまた槍の雨に晒されることになる。
リインフォースは軌道を制御してフェイトには当てない様にしている。
これだけの数のランサーに対し、一点への誘導ならまだしも、特定の空間は避ける様同時に軌道を制御するのは、至難を通り越して通常ならば不可能と言って差し支えないだろう。
しかも一機のデバイス単体で全ての制御を行っていると聞いたならば、尋常の術者であれば被弾の恐怖の余り発狂するかもしれない。
だが、フェイトは落ち着いていた。
頬のすぐ横を光槍が掠めても身じろぎもせず集中している。
この攻撃は絶対に自分には当たらないと知っているから。
リインフォースはフェイトの為に全力で敵を抑え込んでいる。
与えられた僅かな時間の中、フェイトは集中する。
血路を拓く彼女に報いるために。
制限下でもバルディッシュの性能を最大限引き出すよう、空間特性に合わせてプログラムを再構築。
同時演算で敵の魔力障壁を破るのに最適な侵入角をシミュレート。
「バルディッシュ、カートリッジロード! リミテーションキャンセル!」
『Zamber Form』
コッキングカバーが二回スライド。
カートリッジを二つ同時に燃焼させ、刃に更なる魔力を注ぎ込む。
刃は回転しつつ二つに分かれて鍔を構成。
そこから新たに光電の刃が伸長し、斬馬刀の名に違わぬ巨大な両手剣を成した。
横に一振りするだけで当たり一面に火花が飛び散る。
そのまま魔力刃を正眼に。
バルディッシュ・ザンバーフォーム。
フェイトとバルディッシュの発揮し得る最強の攻撃力だった。
「疾風・迅雷!」
掛け声と共に、フェイトは光槍が飛び交う中、敵に向かって突撃した。
押し寄せる魔力波に反応して、男は槍を打ち払うのを止めてフェイトを迎え討つ。
リーチはバルディッシュの方が優れるものの、速度と剣技は黒い騎士の方が圧倒している。
バルディッシュが振り下ろされるよりも、聖剣が少女を両断するほうが早いのは確実。
だが、フェイトは躊躇わない。
「スプライ――――ッ」
遅い。
黒衣の振るう剣がフェイトの脇腹に吸い込まれる直前、光が爆ぜた。
最後に残ったランサーが、誤差数ミリの制御によりエクスカリバーを直撃したのだ。
剣が大きく弾かれる。
生じたのは僅かな隙だが、彼女たちにはそれで十分!
「ザンバ――――――――ッ!!!!」
一閃。
男を守っていた魔力障壁、防護が尽く切り裂かれ、ジュエルシードが丸裸になった。
(後は、もう一撃魔力ダメージを加えて無力化するだけ!)
体勢を崩された男に対しフェイトは止めの一撃を――――、
「やめろオオオオ――――――!」
(え――――――?)
突然体を襲った電撃に、一瞬身動きが取れなくなる。
意識を取り戻した次の瞬間には、既にフェイトに向けて男は斬撃を放っている。
とっさに受けに使ったバルディッシュが弾き飛ばされ、くるくる回転しながら宙に舞う。
これで限界。
疲弊の余り膝を突いたフェイト目掛けてエクスカリバーが振り下ろされた。
■
不安ではあった。
年恰好が強さと直結しないことはわかっているとは言え、さしもの遠坂凛もアンダーティーンの女の子に前線を任せ自分はバックアップに
回ることに心苦しさを感じてはいたのだ。
だから、フェイトがグリフィスに光剣を振り下ろし、勝敗を決しようとしているのを見たとき素直に思った。
良かった、間に合った、と。
しかし、状況は暗転する。
「やめろオオオオ――――――!」
「え?」
ドラえもんのボディに電撃が走る。
拘束を抜けたユービックは破損をものともせず弾丸のように戦闘中の二人に向かって行った。
最後の一撃を加えようとしているフェイトはそのまま不意打ちを食らう。
どうやら攻撃に集中していたために防御のほうには全く魔力を割いていなかったらしい。
『マスタ――――!』
「駄目、間に合わない!」
武器を飛ばされ、フェイトは膝をつく。
無防備な少女の躯を引き裂かんと聖剣が振り下ろされ――――、
――――腕ごと引き千切れて宙に舞った。
遅れて響く轟音。
銃声がしたほうを振り向くと、はるか遠くで浅黒い肌の男が匐射体勢に入っていた。
脇で突っ立っているイガグリ頭の少年に何か叫んでいる。
「しんのすけ、薬莢に気をつけろ!」
「らっきょう?」
等と言っているのだがこの距離で聞こえるはずもない。
「グリフィス様――――!」
グリフィスは駆け寄ってきたツチダマを左手に持ち替えた剣で両断した。
ユービックの上半身と下半身がお別れするのとほぼ同時に男の左手も爆散する。
何はともあれ、絶好のチャンスであることに間違いは無い。
凛は声の限りに叫んだ。
「ゲイン! こいつには生かして聞かなきゃならないことが山ほどある! 援護をお願い!」
アクセルフィンを全開。既に両手の再生を始めているグリフィスへと吶喊する。
鷹の視線が凛を射抜く。
「Gebuhr, "Raising Heart"!」
『all right』
金色の杖にはめられた赤い宝石に己が魔力を注ぎ込む。
周囲に五個のデイバインスフィアを形成。
「Fixierung, EileSlave!」
『Divin Shooter』
撃ち出されたディバインシューターが弧を描き、グリフィスを襲う。
魔力放出による鎧が砕かれているグリフィスは飛び退いて避けようとするが。
「ライトニングバインド!」
金色の魔方陣が男を拘束する。
それも一瞬。
地面に這い蹲りながら、なおも回収したバルディッシュを向けているフェイトを蹴り飛ばし、反動で横に避ける。
「逃がすか! Kontrolle!」
軌道を変えた光球が次々に直撃し、グリフィスはたたらを踏んだ。
「破戒すべき全ての符――――!」
真名を開放されたルールブレイカーが光る。
凛を迎え撃つべく、再生しかけの腕で振られるエクスカリバーに最後の20mmAPFSDS弾が直撃し、腕をすっぽ抜けて華麗に宙を舞う。
次の瞬間には剥き出しのジュエルシードに短剣が突きたてられていた。
パキパキと音を立てて宝玉が男の身体から離れていく。
同時にグリフィスを覆っていた黒い甲冑も剥がれ落ちていき、後には銀髪に白い甲冑を纏った美男子が残された。
緊張から開放され、凛は溜息をついた。
近くに落ちていた夜天の書を拾い上げる。
管制プログラムが回復したのか、リインフォースが半透明な人型の身体をもって現れた。
長い銀髪に赤い眼球。
凛は元の世界で士郎を慕っていた、バーサーカーのマスターであった少女の姿を連想する。
融合が解けて元の姿に戻ったフェイトがうめいていた。
「フェイトは?」
「無事だが打撲がひどい。肋骨も先程の蹴りで折れている。障害が残る可能性もある。
今は下手に動かさず、ゲインが来るのを待って応急処置する必要があるな」
「そう……」
凛はフェイトの抉られた眼窩を見て歯を食い縛る。
「リインフォース、ジュエルシードの検分をお願い」
「了解したが……お前は何を?」
凛は答えず、上半身だけになったユービックの所に向かった。
「グリフィスさま〜〜! ご無事ですか、グリフィス様――――ッ!グリ……」
這い寄るユービックを、凛は容赦なく踏みにじった。
「少し、頭冷やしてもらおうかしら……」
そのままぐりぐりと地面に捻り込む。
「さっきフェイトがこいつに与えようとしていたのは魔力ダメージ。
非殺傷設定だから最悪でもリンカーコアの異常で魔力が使えなくなる程度の障害しか残らない。
折角上手く事が運びそうだったのを無茶苦茶にして……。
こいつのこと助けたいってのは解るけど、あんた、自分の立場判ってんの?」
『マスター……』
凛もわかっている、これは八つ当たりのようなものだ。
危険だとわかっているユービックを連れて来てしまったのは自分の責任。援護が遅れてフェイトに重傷を負わせたのも自分の責任。
それでも、これぐらいしないとやってられなかった。
振り返るとゲインと知らない少年がドラえもんとフェイトを介抱していた。
「タヌキさん、しっかりしろー!」
「ぼくは……タヌキじゃ、ない……」
どうやらドラえもんは無事のようだ。
一方ゲインは自分の袖を割いてフェイトの傷の止血をしていた。
「全く、無茶ばかりするレディだな君は。折角の美人が台無しじゃないか」
「ごめんなさい……それと、ありがとうございます」
治療はあっちに任せておけばいいだろう。
凛はジュエルシードを覗き込んでいるリインフォースに声を掛けた。
「そっちはどう? まだ使えそうかしら」
「彼女は?」
見かけない顔だったからだろう、ゲインがそっと耳打ちしてくる。
凛は彼女が夜天の書の本体で、物理的身体はここでは持たないことなどを簡潔に説明すると、リインフォースの返答を待った。
振り返ったリインフォースは僅かに渋面を見せた。
ゲインたちにも聞こえる声で答える。
「どうやらこのジュエルシード"もどき"、相当悪趣味な設計が施されているらしい」
「どういうこと?」
「宿主との接続が切れた時点で内部の魔力が自動的に暴走を始める。
後十分足らずでその膨大なエネルギーを無差別に開放し、ここ一帯は次元断層に飲み込まれるだろう」
理解できない顔の男三人をよそに、フェイトの顔が青ざめる。
「解除は出来ないの!」
「今試みているが、おそらく無理だろう。制御のための機能が焼き切られている」
「なあ、それは何か深刻な事態なのか?」
「平たく言うと巨大な時空の歪みに飲み込まれて、ここら一帯バラバラにされた挙句別宇宙に放り込まれるって事よ!」
凛の説明でようやく事の重大さを理解したしんのすけが、ジュエルシードを持って走り出そうとする。
「オラがこんなもの遠くにポイして来る!」
「無駄だ。例えテスタロッサが全力で持ち去ったとしても効果範囲からは逃れられない」
「どどどど・どうしよう! いったいどうすれば!」
慌てふためくドラえもん。
他の四人の顔にも絶望感が浮かんでくる。
リインフォースは静かに目を閉じた。
「皆、聞いてくれないか。何とかする方法が一つだけある」
注目が集まる。
リインフォースはジュエルシードを旅の鏡で自分の近くに取り寄せて見せた。
「本来私は主はやての死と同時に転生機能が作動して転移を始めるはずだった。
だが、この特殊な空間特性が私をこの時空に縛り付けた。」
「いまさら何を言って……」
凛がいぶかしむ。
「いいから聞いて欲しい。そして、その原因であった亜空間破戒装置はもう作動していない。
後は、私の意思次第でいつでも転生を始められる状態だ」
「まさか……」
フェイトの顔がさらに青ざめる。
リインフォースは静かに頷いた。
「ジュエルシードを私の内部に取り込み、もろとも転移を試みる。もはや方法はこれしかあるまい」
「ダメだよ!」
フェイトは叫んだ。
「きっと何とかする方法がある! みんなでそれを考えればいい!」
「時間がもう無い」
凛もゲインも俯いて沈黙している。
フェイトはしゃくりあげ始めた。
「せっかく、わかり合えたのに……。リインフォースのことを信じることができたのに!」
「オラも反対だゾ! オラも美人のおねーさんともっとお話したい! 会ったばかりでお別れなんてあんまりだゾ!」
リインフォースは僅かに微笑んだ。
「すまないな、皆」
「謝ることなんて!」
「良いんだ……。私は今、満足している。主の最期の願いを果たせた。そして、もう二度と聞くことが無いと思っていた主の声を聞くことができた。
フェイト、お前の心の中で」
リインフォースと書の周りを魔方陣が取り囲む。
ゆっくりとその姿が上空に吸い込まれていく。
「世話になったな、遠坂凛、フェイト。こんなことを頼めた義理でもないだろうが、必ずやこのゲームを破壊して脱出を成功させて欲しい。
これで最後になるな。
……ありがとう」
「ちょっと、待ちなさい!」
まばゆい光に包まれて、それが薄れた後には、夜天の書は跡形も無く消え去っていた。
「そんな……」
フェイトは呆然と涙を流す。
他のものたちも俯いていた。
「グリフィス様――――!?」
ユービックの悲鳴で全員我に返った。
見上げるとリインフォースの近くで倒れていたグリフィスの姿が無い。
遠坂凛の姿も。
『どうやら転送の際近くにいたために、時空曲面に巻き込まれたようです』
「なんだって!」
バルディッシュの答えに三人と二体は血相を変える。
「じゃあ、二人は別宇宙に……!」
『いや、近場にいただけだから影響は少ないでしょう。精々強制的に小規模な空間転移をさせられる位です。
転移の規模も数十km以下の範囲に収まるでしょう』
「そう、なら良かった……」
あ、でも進入禁止エリアに飛ばされていたら大変だ。
捜しにいかないと……。
そこまで頭に浮かんだ時点で、疲弊の極みにあったフェイトの意識はぷつりと途切れた。
■
D3エリア北東部。
病院から1kmも離れていない地点に落とされ、遠坂凛は膝をついた。
そしてそのまま口を押さえて倒れ伏す。
「いったい……なんなの……レイジング、ハート?」
『転送酔いかと思われます。転送に慣れていないと時々起こるものです。数十分もすれば完全に回復するでしょう』
「そう……なら、いいけど、それにしたって……これは……」
疲労のせいもあり、そのまま崩れ落ちて意識を失う。
凛を守るべく周囲の警戒を始めたレイジングハートは、突然北方に巨大な魔力反応を検知した。
黒いドーム上の霧がA4エリア付近を覆っている。
『あれは……まさか!』
■
「静かに……なったな」
所変わってレントゲン室。
苛立ちをぶつけるかのように作業に没頭しているゲイナーを脇目に、警戒を続けていたロックが呟いた。
同じく警戒しつつも、会議をした部屋から持ち出した物品を整理しているトグサに声を掛けた。
「一度外に出て見ませんか? 遠坂さん達もゲインも帰りが遅い。状況の確認だけでも行わないと」
「そうだな……。ゲイナー、行こう」
「了解です。もう引き篭もりっきりは飽き飽きですよ」
そのまま廊下に出て、北向きの窓から外の様子を見た三人は絶句した。
「あれは……いったい何の冗談だ?」
■
闇のドームの中心。
濃密な瘴気に包まれて、リインフォースは歯痒い思いをしていた。
そう、まだ危機は去っていない。
(まさか私まで侵食されてしまうとはな……)
ジュエルシードを取り込み転生を始めた直後、内部に蒐集したジュエルシードからの膨大な魔力で闇の書の内部は簡単に飽和してしまった。
溢れ出た汚染された魔力はプログラムの侵食をはじめ、抑圧されていた防衛プログラムの再生が猛烈な勢いで始まってしまった。
(なんとかジュエルシード本体だけは別時空に転送したものの、このままでは暴走した防衛プログラムが無差別な破壊を始めてしまう。
大見得を切っておいてこのザマか……)
何とか侵食を押さえ込んではいるが早くて二時間、持って四時間後には防衛プログラムの暴走が始まるだろう。
だが、こちらからも辛うじて反撃に成功した。
無限再生機能を暴走させたのだ。
これ以降、防衛プログラムはその一部が損傷すれば、その部分を際限なく再生させ続けることになる。
これは機能が元通りに修復されても止まらない。
無駄な再生が続けばいつかは質量が増えすぎ、やがては自壊してしまうだろう。
つまり傷さえ付けて置けば勝手に自滅してくれると言う寸法だった。
(……問題はこちらから発信した情報にレイジングハートやバルディッシュが気付いてくれるかどうか、だ)
ゲームは終盤、殺戮者の数も減ったが、その分皆疲弊している。
(すまないが、後のことは頼む……。フェイト、遠坂凛、それに名も知らぬ勇者達よ……)
■
ギガゾンビの居城、その内部。
謁見の間の王座からずり落ちたギガゾンビは乾いた笑い声を上げていた。
「はは、はははは、ハハハハハハハハ! 助かった! 助かったのだな!」
絨毯に黄色い染みが広がる。
失禁していた。
ジュエルシードに自爆機能を組み込んだのは勿論彼自身、しかしその効果は亜空間破壊装置が正常に作動している状況でしか検証していなかった。
先程装置が全停止した状態で再計算したところ城のバリアでは防ぎきれないことが判った時には恐怖の余り我を失ってしまった。
だが、彼はこうして未だ生きている。
「それにしても……貴重なマーダーも減ってしまったが、新たな脅威が参加者を押し潰さんとしている。
これで全滅させてしまえば全てが丸く収まるわけだ。素晴らしい! これぞ計算通り! 結末に於いて予定調和ながらも、その過程に於いて十全に……!」
高笑いを続けるギガゾンビを尻目に、ツチダマ達には白けた空気が漂っていた。
あれだけの醜態を見せ付けられれば当然のことであるが。
部下達のそんな思いも知らず、フェムトは高笑いを続けるギガゾンビに耳打ちした。
「ギガゾンビ様、住職ダマBの処遇についてですが……。これ以上余計なことを喋られる前に破壊しなくてよろしいのでギガか?」
「どうやってだ?」
「勿論埋め込まれてる爆破装置を使ってギガ」
ギガゾンビはうろたえた。
「ま、まあ私は器が大きいからな! この程度のイレギュラー、主催者らしく見逃してやろうと言うことだ!」
ギガゾンビはわざとらしく話題を変える。
「それにしても……グリフィスはどこに消えたのだ。先程から姿が見えぬようだが」
「ここにいる」
振り返ると。
あちこち血が滲み、煤に塗れてもなお高貴さを失わない男が、
「成る程、オレたちがここの地下に集められた時点で首輪が爆発していないのがおかしいとは思ったが……。
この城には何らかの遮断措置が働いているから、禁止エリア内でも城の中にいる限り首輪は爆発しない。
そうだろう、ギガゾンビ」
嘲るでもなく、怒るでもなく、勝ち誇るでもなく、皮肉るでもなく、
淡々とギガゾンビの首筋に剣を突きつけていた。
■
オレはオレの国を手に入れるため――――――、
生き延びる。
【ギガゾンビの居城/2日目/夕方】
【ギガゾンビ@ドラえもん のび太の日本誕生】
[思考・状況]
1:グ、グリフィス! な、何故ここに……。
2:最後までこのバトルロワイアルを見届ける決心。
3:逃走の準備を進めつつ、午前零時にはこの世界を脱出する。
[備考]
【ホテルダマ(フェムト)】
[思考・状況]
1:ギガゾンビに絶対の忠誠。出来る限りギガゾンビの意志を尊重。
2:残りの裏切り者(ユービック)も断罪したい。
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:全身に軽い火傷、打撲、右腕と左手に重傷
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、耐刃防護服
[道具]:マイクロUZI(残弾数6/50)、やや短くなったターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×6(食料一つ分、ディパック五つ分)
オレンジジュース二缶、破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に
ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ、ハルコンネンの弾(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾4発 劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING
[思考・状況]
基本:生き延び、自分の国を手に入れる。
1:ギガゾンビを殺害、もしくは利用。
[備考]
※暴走中の出来事は全て記憶しています。
※グリフィスは生存者の名前と容姿、特徴についてユービックから話を聞きました。
※ユービックがノートパソコンの入手を目的としている事は知りません。
【D-3・病院裏口/2日目/夕方】
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:大程度のダメージ、頭部に強い衝撃、のび太の死による喪失感
[装備]:虎竹刀
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"のゲームCD
[思考]
基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする
1:病院の中の連中と合流。
2:凛とグリフィスの捜索。
3:エクソダス計画に対し自分のできることをする。
4:ゲイナーを温かい目で見守る。
[備考]
※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました。
※だいぶ落ち着きましたが、まだかなり落ち込んでいます。
※ギガゾンビに対する反乱と、その結末までを簡潔に聞きました(なので、所々正確ではない可能性があります)
※ユービックの話を完全には信じていません。
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:全身にかすり傷、頭にふたつのたんこぶ、腹部に軽傷、
SOS団名誉団員認定、全身が沙都子の血で汚れている
[装備]:なし
[道具]:デイバッグと支給品一式×4(食料-5)、わすれろ草、
キートンの大学の名刺 ロープ、ノートパソコン+ipod(つながっている)
[思考]
基本:皆でここから脱出して、春日部に帰る
1:デイバッグを届ける。
2:病院に向かって助けを呼ぶ。
3:何か出来ることを探したい。
[備考]
※両親の死を知りました。
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:右眼球損失(止血済み)、全身に重度の打撲、肋骨を骨折、右脇腹に裂傷(止血済み)、左側のツインテールなし、魔力スッカラカン、バリアジャケット解除、気絶中
[装備]:バルディッシュ・アサルト(スタンバイフォーム/弾倉内カートリッジなし/予備カートリッジ×12発)
[道具]:デイバッグ、支給品一式、クラールヴィント、西瓜×1個、ローザミスティカ(銀)、エクソダス計画書
[思考]
基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。
1:悲しみ。
2:凛とグリフィスの捜索。
3:後でトグサにタチコマとのことを謝っておく。
4:光球(ローザミスティカ)の正体を凛に尋ねる。
5:遠坂凛と協力して魔法による首輪解除の方法を模索する。
6:ベルカ式魔法についてクラールヴィントと相談してみる。
7:カルラや桃色の髪の少女(ルイズ)の仲間に会えたら謝る。
[備考]
※襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。
※首輪の盗聴器は、ルイズとの空中戦での轟音により故障しているようです。
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:右手に火傷(小)、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)
[装備]:ウィンチェスターM1897(残弾数5/5、予備弾薬×25発)、NTW20対物ライフル(弾数0/3)、悟史のバット
[道具]:デイパック、支給品一式、スパイセットの目玉と耳(×2セット)
トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ、エクソダス計画書
[思考]
基本:ギガゾンビを打倒し、ここからエクソダス(脱出)する。
1:病院に入り、フェイトを預ける。
2:見聞きした情報を整理する(巨人や謎の城について、キョンとハルヒについて等)
3:しんのすけを守り抜く。
4:ユービックを警戒。
5:凛の捜索。
6:皆を率いてエクソダス計画を進行させる。
7:時間に余裕があれば、是非ともトウカと不二子を埋葬しに戻りたい。
[備考]
※仲間から聞き逃した第三放送の内容を得ました。
※首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています。
※モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました。
※亜空間破壊装置が完全に破壊されたのでは、と少なからず考えています。
※この時点では、ゲインは神人が病院へ害をなす可能性を考えています。
【住職ダマB(ユービック)】
[状態]:ダメージ甚大、上半身だけ、言語機能に障害
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:グリフィスを助ける。そのためならば、参加者との協力も惜しまない
1:グリフィスを捜索。
2:コンラッドのパソコンを回収したい。
[備考]
※ギガゾンビの言葉(ツチダマはいつでも爆破できる)はハッタリかもと思いつつあります。
※病院内廊下にどこでもドアが放置されています
【D-3/病院 レントゲン室前の廊下/2日目 夕方】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:眠気と疲労、鼻を骨折しました(手当て済み)
[装備]:マイクロ補聴器@ドラえもん
[道具]:デイバッグ、支給品一式、現金数千円、エクソダス計画書
[思考]
基本:力を合わせ皆でゲームから脱出する。
1:……あれは何だ?
2:外の状況を確認する。
3:凛たちが心配。
4:ユービックを警戒。
5:ドラえもんにディスクをキョンへと譲ってもらえるように頼む。
6:キョン達に会えたら遠坂凛に対する誤解を解く。
7:君島の知り合いと出会えたら彼のことを伝える。
[備考]
※しんのすけに両親が死んだことは伏せておきます。
※顔写真付き名簿に一通り目を通しています。
※参加者は四次元デイバッグに入れないということを確認しています。
※ハルヒ、キョン、トウカ、魅音、エルルゥらと詳しい情報交換を行いました。
※キョンの持つノートPC内の情報を得て、考察しました。
※レヴィの趣味に関して致命的な勘違いをしつつあります。
※ギガゾンビに対する反乱と、その結末までを簡潔に聞きました(なので、所々正確ではない可能性があります)
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労、SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾6/6発、予備弾薬×11発)
[道具]:デイバッグ、支給品一式、警察手帳、
タチコマのメモリチップ、エクソダス計画書、コンラッドのノートパソコン(壊れかけ)
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:あれは一体……。
2:外の状況を確認する。
3:凛たちが 心配。
4:ユービックの置いていったノートパソコンを使うか検討。
5:キョンが来るのを待って、彼から謎のデータを受け取る。
6:謎のデータが電脳通信に関するものだったら、それを使ってハックの準備を行う。
7:ハルヒか他の人間にロケ地巡りをしてもらうよう頼む。
[備考]
※ギガゾンビの城を確認しました
※グリフィスやユービックのことについてロックから伝え聞きました。
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:疲労蓄積、風邪の初期症状、腹部と後頭部と顔面に打撲(処置済み)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、不安と困惑
[装備]:技術手袋(使用回数:残り14回)、コルトガバメント(残弾7/7、予備残弾×38発)、トウカの日本刀、コンバットナイフ
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料一日分消費)、スタングレネード×2、スパイセットの目玉と耳
クーガーのサングラス、グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)、エクソダス計画書
病院内で見つけた工具箱、解体された首輪、機械の部品多数
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出
1:あれは……。
2:外の状況を確認する。
3:ドラえもん達が心配
4:首輪解除機の作成
5:エクソダス計画に対し自分のできることをする
6:カズマが戻ってきたらクーガーのサングラスを渡す
7:グラーフアイゼンを誰かふさわしい人に譲る
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています
※基礎的な工学知識を得ました
※ゲイナーの立てた首輪に関する仮説は『Can you feel my soul』を参考の事
※会議を行った部屋で鶴屋さんの首輪が爆発しました。
この爆発によりテーブルが少し破損、更に置いてあったエクソダス計画書とゲインの置手紙が床に散らばりました。
※会議を行った部屋のテーブルの上にあった道具類はレントゲン室に移され、トグサによってまとめられました。
これらは先の爆発によって損傷している可能性があります。
【D-3北東部/2日目 夕方】
【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]:中程度の疲労、全身に中度の打撲、中程度の魔力消費、転送酔い、気絶中、バリアジャケット装備(アーチャーフォーム)
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(/修復中 ※破損の自動修復完了まで後一、二時間/カートリッジ6/6)
予備カートリッジ×8発、アーチャーの聖骸布
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料残り1食。水4割消費、残り1本)、石化した劉鳳の右腕、エクソダス計画書
[思考]
基本:レイジングハートのマスターとして、脱出案を練る。
1:気持ち悪い……。
2:病院に戻る。
3:セイバーの再襲撃に備えて体力と魔力はある程度温存。
4:ユービックを警戒。
5:フェイトと協力して魔法による首輪解除の方法を模索する。
6:カズマが戻ってきたら劉鳳の腕の話をする。
7:変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。
[備考]:
※リリカルなのはの魔法知識、ドラえもんの科学知識を学びました。
※ギガゾンビに対する反乱と、その結末までを簡潔に聞きました(なので、所々正確ではない可能性があります)
[推測]
※ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い。
※膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能。
※A-4エリアにて闇の書の闇が暴走を開始しました。二〜四時間後に行動を開始します。
全身が、猛烈に重かった。頭が、とんでもなく痛かった。視界が、霧中にいるかのように不確かだった。
それでも、涼宮ハルヒは地に足を着け、顔を正面へと向け、
まばらな木々の間を縫うようにして歩み寄ってくる女を睨み付ける。
射殺そうとするようなハルヒの眼光を受けながらも、その女は怯む素振りすら見せないでいた。
青いドレスのような衣服を纏った金髪の女騎士、セイバーは、悠然とした動きで刀を正眼に構えなおした。
あまりにも自然で、隙の感じられないその動作を見て、ハルヒは確信する。
今自分が相対している女は、確かにトウカの命を奪ってきたのだ、と。
ハルヒがトウカと過ごした時間は、僅かなものだった。
だが、彼女がどれほど真っ直ぐで強い人物だったかということくらいは理解している。
トウカは、アルルゥがあれほど慕っていた人物なのだから。
トウカは、不幸な擦れ違いがあったとはいえ、エルルゥの命を奪った者を許せるような人物なのだから。
そしてトウカは、一応キョンが信頼していた人物だ。悪人のはずがない。
そんなトウカが、死んでいいはずなど、ない。
だから、許せなかった。
佇むセイバーを、トウカの命を奪ったセイバーを、許せるはずがなかった。
ハルヒは下唇を強く噛み締める。
柔らかな唇の感触が前歯に触れるが構わない。ひたすら抵抗を続ける口唇を、ハルヒの歯が圧迫する。
抵抗が陥落するまで、時間はかからなかった。
犬歯の硬く鋭い感触が表皮を引き裂き、血管を千切り、唇を貫く。粘つく鉄の味が、ハルヒの舌に広がった。
痛い。
そう思いながらも、ハルヒはあえてその痛みを強く自覚しするよう努める。
痛みと怒りと憎悪を、ハルヒは強く意識する。そうすることで、消えそうになる自我をなんとか繋ぎ止めていた。
「許さない……」
呟いたハルヒの唇から、血液が零れ落ちる。
「絶対に、許さない……ッ!」
その声がスイッチだったかのように、ハルヒとセイバーに挟まれた巨人が、残った腕を振り上げる。
主の苛立ちを発散しようとするために。
それは、ハルヒ自身も今ひとつ理解できていない能力だ。
唐突過ぎる、あまりにも現実離れしたカミングアウトと、それに伴って発生した自らの能力。
もっと早く気付いていればと、そう悔やんだ、不思議な力。
だからといって、これ以上後悔している暇などない。迷っている余裕などない。
これまで守られてばかりで何もできなかったのだ。それは全て力がないということに起因する。
しかし、今は違う。
正体が何であれ、今のハルヒには力がある。戦うことができる。
誰かに守ってもらうのではなく、誰かを守ってあげられる。仲間の仇を討つことができる。
そのために。
障害は叩き潰す。全力で。
ハルヒの意志を受け取り、力にしたように、巨人が動く。
直後、ハルヒの視界がブレる。
脂汗が頬を伝い、体温が上昇していることにハルヒは気付いた。熱が脳を襲い、意識を焼こうとする。
ブラックアウトしかけた感覚を、ハルヒは唇の傷に歯を食い込ませることで繋ぎ止めた。
セイバーを睨むハルヒの眼光が、鋭さを増す。
瞬間、神人が両の手を振り下ろした。
ハルヒが望むのは、彼女自身の防衛などではない。
彼女が望むのは、突撃。
憎むべき敵を蹴散らす、力の奔流だ。
神人が、振り上げた手を思い切り落とす。たっぷりと力の篭もった一撃は、しかし、騎士王を捉えるには緩慢すぎた。
太い腕が、セイバーの真横に落ちる。
「無駄だと、そう言ったはずですが?」
腕が引き戻されるより早く、セイバーが流れるような動きで、刀を閃かせた。
神人の腕が、更に消失する。
そして、セイバーがハルヒとの距離を一歩ずつ詰めてくる。
ハルヒの脈拍が、速度を増す。肺腑を直接縛り付けられたかのように、息が苦しかった。
立っていることすら、辛い。
それでも、ハルヒは屈しなかった。体を苛む苦しみにも、にじり寄ってくる死の気配にも。
膝を付くことも、セイバーから瞳を逸らすことも、決してしなかった。
「絶対に、許さない……。あんたは、あたしが――」
呪詛のように、ハルヒが呟く。だがセイバーは、力ないその言葉を、意に介さない。
「せめて、楽に死なせてあげましょう」
告げて、セイバーがハルヒに刃を向けようとした、まさにその直後。
空気が、震えた。
◆◆
「テメェかァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!」
野獣の咆哮すら生温いと思わせる絶叫が、大気を突き破って飛んで来る。
反射的にその正体を視認し、それが見覚えのある男だと理解した瞬間、セイバーはバックステップを踏んでいた。
弾丸を思わせる速度で肉薄してくる男が、コンマ1秒前までセイバーがいた地面を、拳で抉った。
膨大な砂塵が、巻き上げられる。その中心に佇む男を見て、セイバーは内心で舌打ちを漏らした。
逆立った赤毛に、金属のような金色の右腕、右肩に歪曲した風車のような物体を持つその男は、その手で砂煙を振り払った。
「てめェ……! 相変わらず好き勝手やってやがるみてェだな、あぁ!?」
恫喝するように、男が、シェルブリットのカズマが口を開く。
無意識に、セイバーは刀を握る手の力を強くしていた。
「迷わないと、そう決意しました。故に、私は立ち止まれない」
「あぁ、そうかよ。いいぜ、それで」
カズマは、その表情に笑みを浮かべる。
微笑みや朗笑とは程遠い、獰猛な笑みを。
得物を前にして舌なめずりする肉食獣を思わせる笑みをセイバーに向けて、言った。
「てめェが迷わねぇなら、心置きなくボコれるってもんだ。てめェに殺られた奴の分までなァ!」
荒々しいカズマの声を耳にしながら、セイバーは深く呼吸をする。
血液が全身に行き渡り、失った魔力が生成されていく。
だが、まだ足りない。
目の前の男と戦い、打ち勝つためには、可能な限り魔力を回復しておく必要がある。
「……私の手によって散っていった者たちの無念を晴らすため、私を倒すと、そう言いたいわけですか?」
だからセイバーは、少しでも時間を稼ぎ、魔力を生成するため、カズマに問いかけた。
するとカズマは、セイバーの言葉を一蹴するようにせせら笑う。
「それもあるけどな。だけど何よりも、気に入らねぇんだよ」
アルターによって武装したカズマの右腕が、セイバーを指した。
当然だと、セイバーは思う。
この世界に召還されてから、多くの業を重ねてきたのだから。
しかし、惑いはもはや断ち切った。
どんなに罵られようとも、どれほどの恥辱を受けようとも、全ては使命を果たすためだ。
怨まれようと、疎まれようと、もう二度と迷わず、振り返らず、前へと進む。
そう、決めた。
立ちはだかるものを全て斬り伏せ、命を奪いつくしてでも、必ず目的を達成すると。
その決意こそが、今、セイバーを動かす行動原理だ。
「ああそうだ、気に入らねェ」
カズマは言葉を重ねながら、自分の首元を親指で指し示す。
殺し合いを宿命付けられた証である首輪が、その先で光っていた。
「こんなチャチなもんで縛りつけて、望みを叶えるなんて餌をぶら下げて、俺を飼い慣らしたつもりでいやがる仮面野郎も!
奴のぶら下げた餌に目が眩んで、言われるがままに動いてやがるてめェも!
だからボコって、そんでもって教えてやる!
欲しいもんは与えてもらうんじゃねェ! 奪い取るもんだってな!!」
カズマは、右腕を顔の前へと翳す。強く握り込まれた拳の向こう、カズマの視線がセイバーを真っ直ぐに捉える。
まだ魔力の生成は充分とはいえない。
だが、これ以上の時間稼ぎは不可能だろうと推測したセイバーが、刀を構えなおした直後、
「Hey! 言うじゃねェか、カズマ」
先ほどカズマが突っ込んできた方角から、女と少年が姿を現した。
黒髪を後頭部で束ねた、上腕に彫り込まれたタトゥーが印象的な女、レヴィは、カズマと同様の笑みをその表情に湛えている。
「あたしも同意見だ。あたしらを見世物にして王様を気取ってやがるあの糞野郎には、鉛弾をくれてやらなきゃならねェよなァ」
レヴィの三白眼と、二挺の拳銃がセイバーへと向けられる。
「こいつはその前哨戦だ。この喧嘩、あたしも混ぜてもらうぜ」
「勝手にしろ。だけどな、足だけは引っ張んじゃねぇぞ」
「それはこっちのセリフだ、坊や」
カズマとレヴィが、一瞬だけ目配せをして、そして、そのどちらもがセイバーを睨みつけた。
戦意の色に染まったその視線を、セイバーも睨み返す。
更に、二人の向こう側にいるハルヒと、彼女の元に走り寄るキョンという少年をも視認した。
敵の数は、四。
対してこちらは、未だ消耗の激しいセイバー一人。圧倒的に状況は不利だといえる。
だが、いや、だからこそ、手を抜くことはできない。
セイバーは鎧を再度編み上げ、呟いた。
「――風王、結界」
刀を取り巻く空気が流動する。風を取り巻いた刀は不可視となり、風の刃が生み出される。
「「さぁ――やろうぜェッ!!」」
カズマとレヴィの咆哮が唱和し、セイバーの鼓膜を震わせる。
強烈な気迫を肌で感じながら、セイバーは思う。
――負けるわけには、いかない。まだ、死ぬわけには。
カズマが拳を地に叩きつけ、跳ぶ。レヴィが駆けながら、トリガーを引く。
未だ佇んでいる、両腕のない巨人の様子をも窺いつつ、セイバーは地を蹴った。
◆◆
世の中にはかくも理不尽なことが待っているものである。
それはもう、普通の高校生として一般的な生活を送っていても理解できる程度には普遍的な、共通認識だと思う。
涼宮ハルヒと出会ってからは、理不尽と遭遇する比率が二次関数的に上昇したが、だからといって慣れるもんじゃない。
“あのこと”を口にしただけで鉄拳が飛んでくるなどと、俺の低い経験値ではとても予測できなかった。
……いいや、そのことはもういい。忘れた。俺はもう忘れたんだ。
レヴィさんが変身なんてできるわけないじゃないか。
未来からやって来た戦うウェイトレスだって変身ヒロインじゃないんだからな。
第一、今はそんな理不尽を嘆いているような余裕なんて欠片もない。
りんご病を患った子どものような真っ赤な顔で、唇からは血液を零し、
肩で息をしながら呆然と佇んでいる涼宮ハルヒが眼前にいるんだからな。
「ハルヒ! 無事か!」
名前を呼んで駆け寄ると、ハルヒは我に返ったようにして俺へと驚きの表情向けた。
「キョン……? あんた、なんで? しんちゃんは……? っていうか、その顔、どうしたのよ……?」
思い出させるな。
「しんのすけ少年は無事だ。安心しろ」
「そう、よかった……」
息も絶え絶えに、安堵の表情を浮かべるハルヒ。それでも、俺の懸念は全く晴れる様子を見せてはくれなかった。
「お前の方はどうなんだ? 大丈夫か?」
ほとんど定例句のようにそう尋ねてしまってから気付く。
どう贔屓目に見ても、大丈夫とは言いがたいということに。
明らかにおかしな顔色に、額に浮かぶ脂汗。
神人を無理矢理使役しようとした反動なのか、無自覚だった能力を意識したことによって、自我がオーバーフローを起こしたのか。
そんなことを考えかけて、俺は頭を振る。
理由なんてどうだっていい。何よりも優先するべきことは、ハルヒを休ませることだ。
戦ってくれている人たちに黙って行くのは心苦しいが、事態は火急を要する。
だから、ハルヒの返答を待たなかった。
「ここはあの人たちに任せて、病院へ戻るぞ」
告げて、俺はハルヒに肩を貸そうと手を伸ばす。
だが、ハルヒは俺の行動を受け入れはしなかった。手で俺を制すると、首を横に振って戦場に目をやった。
つられて、俺もそっちを見る。それが目に入った瞬間、俺は思わず息を呑んでしまった。
「オォォォォラァァァァァッ!!」
カズマさんが叫び、その右腕が敵へと迫っていく。
それを見切ったセイバーが真横に跳ぶ。引力に引かれて落ちていく彼女へと、レヴィさんが銃弾を撃ち込んだ。
しかしセイバーは、中空で身を捻ってそれを回避。不自然な体勢で、地に膝を着ける。
即座に立ち上がり、体勢を立て直そうとした、その直後。
巨大な影が、セイバーを背後から覆った。
神人が、その柱のような足でセイバーを踏み潰そうとしていた。
咄嗟に転がってやり過ごすセイバーを尻目に、俺はハルヒへと向き直る。
下唇を噛み締めるハルヒを見て、血の色に染まったハルヒの犬歯を見て、俺は、ハルヒの唇に刻まれた傷の理由を察した。
「やめろハルヒ! もういい! もう――!」
何とかハルヒを止めなければと思い、焦って口を開く。
しかし、感情に思考が引っ掻き回されて、続きを紡ぐことができない。
それでもなんとか言葉を投げかけようと、語彙の引き出しを片っ端から開けているうち、ハルヒがぽつりと呟いた。
「嫌よ……」
ハルヒの視線は、歯痒さを感じる俺の方ではなく、咆哮と銃声と破砕音が響く方へと向いたままだ。
「あたしは、あの女を許さないって、そう決めたの。だって、あいつは、トウカさんを殺したのよ……」
悲痛なハルヒの声が、俺の胸を強く詰まらせる。
うっかり屋だが、強く、純粋で、真っ直ぐで、頼もしいトウカさんの姿が、声が、仕草が、次々とフラッシュバックしていく。
某としたことがと、慌てて謝るトウカさん。
仕えるべき人物の死を知り、自ら命を絶とうとしたトウカさん。
心配げな表情で、慰めてくれたトウカさん。
常に、俺を守ってくれた、トウカさん。
もう動くことのない、話すことのない、トウカさん。
「あいつが、あいつみたいな奴が、いるから……」
ハルヒの声も、震えていた。
その声が、悲しみの沼に足を踏み入れようとしていた俺を、引き上げる。
怒りが、嘆きが、哀しみが、憎しみが、悔しさが、ぐちゃぐちゃに混ざり合って、ハルヒの声を揺らしていた。
そして感情の塊は、ハルヒの口から激流のように迸る。
「あいつみたいな奴がいるからみんな死んじゃったのよ!!
朝倉さんも鶴屋さんもみくるちゃんも有希も!
ルパンにヤマト、アルちゃんだって! みんな、あいつみたいな奴のせいで……!!」
ハルヒの視線が、俺の方へと向く。
その目が潤んでいるのは、体に強い負荷がかかっているせいだけではないだろう。
こんなハルヒを見ることになるとは、思わなかった。
「あいつをこのまま放っておいたら、もっと多くの人が殺される。もっと、もっとたくさんの悲しみが作られる!
だからあたしは、あいつを許さないッ! あの人たちだけに任せて退くなんて、絶対に嫌ッ!」
息を荒くしながらまくし立てるハルヒに、何か反論をしようと口を開きかける。
しかし結局、まともな反論は見つからず、出たのは溜息だけだった。
やれやれ。
俺は思わず額に手を当て、小さくうな垂れる。
こうすることにも、もはや慣れてしまった。
ハルヒが絶対という熟語を持ち出した以上、絶対にその信念を曲げやしない。
こいつに振り回され続けた、いや、今だって振り回されているこの俺が言うんだ。間違いないね。
迷惑だと思うことも何度かあった。止めてやりたいことも何度かあった。
だが、そう思いながらも、心底嫌だと思ったことは一度だってなかったんだ。
それどころかむしろ、ハルヒの無茶苦茶に付き合うのは悪くなんてなかったさ。
当然、今このときだってな。
「……そうだな。今回ばかりはお前と同意見だ。付き合うぜ、ハルヒ」
微笑みながら言うと、ハルヒの表情から激情が抜け落ちた。
予想外の反応だったのか、理解できないものを見つめる子どものようにハルヒは呆ける。
しかし、それはすぐに、新たな表情によって上書きされた。
取って代わるようにして浮かんできたのは、よく見慣れた、不敵な笑みだった。
それが、とんでもなく頼もしい。
「珍しく、素直ね。でもまぁ、手間が省けて助かるわ。それじゃあ――行くわよッ!!」
ハルヒが、手を振りかざす。
すると、神人が吼えるように身を仰け反らせた。
巨大な足が、一歩を踏み出す。
その瞬間、ハルヒの体がぐらりと揺らいだ。
倒れそうになるその体を、俺は慌てて両手を伸ばして支える。
おいおい、マジかよ。
異常な高さのハルヒの体温に、俺は内心でそんなことを呟いていた。
「無理だけはするなよハルヒ! お前に何かがあったら、長門にも朝比奈さんにも古泉にも、申し訳が立たん!」
「そんなことくらい、分かってるわよ! あんたは黙ってあたしを支えてなさい!」
苦しげな息遣いだってのに、ハルヒが怒鳴ってくる。
そんないつも通りの反応に、心配よりも安堵を感じた。
だから、俺の体に自然と力が入り、表情には笑みが生まれる。
「ああ、支えててやる! だから、安心しろ!」
俺は正真正銘の一般人だ。
宇宙人でも未来人でも超能力者でもないし、ピンチに発動する特殊能力なんてご都合主義的なものも備えていない。
喧嘩が強いわけでも、銃や剣を扱えるわけでも、特別頭が回るわけでもない。
そんな俺にも、できるんだよ。
こうやって、ハルヒを支えることくらいはな。
キスした女を支えて、守るくらいはやってやるさ。
何があろうと、絶対にな。
◆◆
「シェルブリットォォォォォォォォォォッ!!」
太陽を背景に、カズマが吼える。
右肩のプロペラが高速回転し、空気を切り裂きながら生むのは、爆発的な推進力だ。
大気が悲鳴を上げているような唸りを置き去りにして、カズマの拳がセイバーへと肉薄する。
小細工も何もない、暴力的な逆風を連想させる突撃を回避するため、セイバーは跳躍した。
直後、見境のない破砕音が二つ、重なって轟いた。
一つはカズマによって地面が砕かれた音。
もう一つは、神人が大地を蹴り上げた音だった。
巨大な足が、それ自身よりも太い木を、土砂もろとも吹き飛ばす。
セイバーの体躯を遥かに上回る巨木が、宙を舞い、影を投げ落とす。
一瞬の静止の後、それは落下を開始した。
圧倒的な質量を持つその速度は重力を味方につけ、その速度を増す。
瞬く間にセイバーの落下速度を越えた巨木は、枝葉を擦り合わせながら、セイバーとの距離をみるみる詰めていく。
――着地するよりも先に、追いつかれる。
そう予測したセイバーは、不可視の刀を力任せに振り上げた。
風が、巨木に触れる。
軋みが耳に届き、刀を握る手に重みが乗ってくる。
その重量と抵抗が、腕に痛みを与えてきた。
だがセイバーはそれらに屈しないよう、両腕と奥歯に込める力を強くする。
そして、振り抜く。
軋みが、裂音に飲み込まれた。
見えざる刃を視点として巨木が両断され、無数の木片を降らせながら落ちていく。
裂けた巨木の半分を足がかりにして、セイバーは再度重力に逆らって跳んだ。
そうやって宙へと躍り出た瞬間、木が接地する轟音に交じって銃声が数発響いてくる。
音を捉えても、銃弾を見切るには時間が足りない。
回避が、間に合わない。
そう判じたとほぼ同時に、セイバーは右腿に熱を感じた。
異物が皮膚と肉を抉り取っていく痛みに、セイバーは表情を歪める。
だが、勢いは削がれない。
致命傷には至らない一撃だ。取るに足らない。
セイバーはそう思考し、刀を振りかぶる。
宙を駆けるセイバーの正面に存在する、青い巨人に向けて。
敵戦力の中、最も切り崩しやすいのは巨人だとセイバーは判断していた。
愚鈍な巨人に攻撃を回避される可能性など万に一つもありえない。更に両手を失った状態では防御することも不可能。
風王結界を纏わない刀で、腕を容易く斬り飛ばせたのだ。
風の加護を受けた今の状態なら、先の巨木のように両断するのは容易だと、そう推測する。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
気迫を解き放つかのような叫び声を上げ、刀を全力で振り下ろす。
見えざる切っ先が正確に、巨人の肩口へと迫っていく。
直撃まで、時間はかからない。
確かな手応えが刃から柄へ、柄から小手を通じて伝わってくる。
そのまま、斬り裂く。
手応えを撥ね退け、正面から斬り裂こうと、セイバーは更なる力を込める。
刃が、食い込む。
目に見えぬ刀がその存在を誇示するように、巨人に亀裂が刻まれていく。
クレバスのような亀裂が横腹にまで到達しようとしたとき、巨人が動きを見せた。
巨人は腰を捻り、暴れるように上半身を揺り動かす。
亀裂が広がることもお構いなしに、巨人は身を捩る。
巨体が暴れるたび、周囲の木がへし折られ、なぎ倒される。
敵を振り落とそうとするその動きに、セイバーは逆らわなかった。
否、逆らえなかった。
くず折れる木を突き破り、広がった枝の群れをぶち破り、激音を放ちながら、輝く拳が突貫してきていたからだ。
セイバーは、揺れ動く巨人を蹴って跳躍する。
巨人が生み出す振動を利用して、セイバーは飛距離を稼ぐ。
迫撃するカズマの拳が、勢いをそのままにセイバーの前を通過した。
空気が破られる音が遠ざかり、カズマの体が空へと昇っていく。
――その背中から、何かが落下した。
「やっちまいな! レヴィ!」
落下ではなく、降下だと気が付いたのは、頭上からそんな声が聞こえてからだった。
「言われるまでもねェ!」
二挺の銃を構えたレヴィが、黒髪をはためかせて降下してくる。
その鋭い目でセイバーを捕捉したレヴィは、唇の端を吊り上げて、嗤った。
「ソード・カトラスの銃撃、しっかりと味わいやがれッ!!」
銃声が、連続する。
体を反らしても、降り注ぐ弾を回避するのはほぼ不可能だ。
故に、セイバーは自らを庇うようにして刀を引き寄せた。
連射された銃弾が、風に捕われ、飲み込まれ、散りゆく。
それでも全てを捌き切れず、ソード・カトラスから吐き出された銃弾の数発は、セイバーの右腕を薙ぎ払った。
右腕が、鮮血で染まる。それとほぼ同時に、セイバーの足が地に着いた。
腿以上の痛みに歯噛みしながらも、刀を握る手に力を入れなおす。
そのとき、左前方にレヴィが、右前方にカズマが着地した。
真正面には、右肩から横腹までを裂かれながらも佇む巨人の姿があり、
その向こうには涼宮ハルヒと、彼女を支えるキョンがいる。
荒い呼吸を繰り返しながら、注意深く彼らを観察し、セイバーは思う。
このまま戦い続ければ、敗北は必至だ、と。
消耗した状態でこれだけの数を相手にするのは、流石に無理がある。
だが、やられるわけにはいかない。
まだ責務を果たしてはいないのだ。命を散らせるには、早過ぎる。
セイバーは素早く敵の様子を窺い、撤退するために最適な手段をシミュレートする。
拳を向けてくるシェルブリットのカズマに、銃口を向けてくるトゥーハンドのレヴィ。
単に彼らに背を向けるだけでは、とても逃げ切れるとは思えない。
何らかの形で隙を作り、包囲網を突破する必要がある。
敵陣で孤立した際に取るべき行動を、セイバーは思考する。
考え付くのは、セオリー通りの戦術。即ち、戦力の最も低い箇所の一点突破だ。
だが、それでも逃げ切れるかどうかは微妙だと思わざるを得ない。
レヴィの銃撃によって退路を狭められれば、カズマが凄まじい突進力、加速力を以って追撃をかけてくるだろう。
巨人がその体を壁として使うなら、それを越える瞬間に狙い撃ちにされることも考えられる。
何らかの形で、足止めをしなければならない。
そのための策を、瞬時に練り上げて。
セイバーは、胸中で自嘲した。
閃いた策は余りに卑劣で、騎士道に背くようなものだったからだ。
しかし、それ以外の手段を思いつけなかった。考えている時間も、ない。
もはや堕ちるところまで堕ちた身だ。
もはやこの手は血塗られ、この身は返り血を浴び過ぎている。
あらゆる汚名を、恥辱を被ってでも、責務を果たすために。
そのために、セイバーは、迷わない。
決して、迷わない。
全ては民のため、国のため。
外道の名を、甘んじて受けよう。
策は決まった。気構えもできた。
あとはそれに従い、動くだけだ。
迷いさえなければ、道さえ分かれば。
体は、動く。
そう決意した瞬間、不意に、巨人の姿がぐらりと揺らぐ。
巨体を構成する青の色が、急激に薄れ始めた。
それに伴い、巨人が放つ無機質な存在感が急速に霧消していく。
「おいハルヒ! しっかりしろ!」
巨人のマスターを支える少年の、不安げな叫びがセイバーの耳へと届いた。
そして、巨人の姿が空気に溶けて、消失する。
見逃せない、チャンスだった。
セイバーの足が強く地を蹴り、小柄な体が跳ぶ。
後ろではなく正面へと、セイバーが駆ける。
それに合わせて動く、二つの人影。
さながら野獣のようなカズマとレヴィを捕捉しつつ、セイバーはデイバックからスコップを取り出し、左手に握り締めた。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
空を背にしたカズマが、宙で一転する。
その身がセイバーへと向いた、その直後、空気が爆ぜるような爆音が響き渡る。
カズマが滑空し、激走とも呼べる速度で大気の壁をぶち抜きながら、突っ込んでくる。
「そいつは何のジョークだ? お砂遊びでもするつもりかァ!?」
レヴィが、セイバーと併走する。
近接武器のアウトレンジで、二挺の銃を構えたまま、疾走する。
レヴィの手にある銃が、セイバーの命を削り取ろうと銃弾をばら撒いてくる。
左右からの、挟撃。
それに足を取られることなく、止められることなく、セイバーはただ前へと駆け続ける。
そうしながら、彼女は両手を振りかざす。あたかも、奏者たちを導く指揮者が、タクトを振り上げるかのような優雅さで。
セイバーの頭上で一瞬、風を纏いし刀とスコップが交差する。
そして。
「風王――結界ッ!!」
凛とした叫びと共に、セイバーは両手を左右へと振り下ろした。
瞬間、セイバーの両側の空気がたわみ、曲がり、急激な動きを見せる。
風が甲高い鳴き声を上げながら、指揮通りの協奏曲を奏でた。
右の風は、刀を覆っていた刃の開放だ。
風の刃は荒れ狂う激風となり、カズマの拳へと正面からぶつかっていく。
左の風は、スコップの推進力とするものだ。
セイバーの手から放たれたスコップが風の後押しを受け、レヴィの銃弾を弾き飛ばして進んでいく。
それらを見送ることすらせず、セイバーはひたすらに猛進する。
「こんなもんじゃ! 俺を止めらねぇッ!!」
「Shit! なんつー曲芸しやがンだッ!!」
双方で声が聞こえるが、セイバーは振り返らない。
まだだ。
この程度で足止めができるような相手なら、既に仕留め終えている。
セイバーは、編み上げたばかりの鎧を再度魔力に転換する。
転換した魔力を用い、もう一度風を生み出した。
セイバーの背後に、突風が生まれる。それに後押しされて、セイバーは急加速した。
その身で空を切り、地を滑り、セイバーは刀を振り上げた。
涼宮ハルヒを庇うように立つ、キョンに向けて。
◆◆
女騎士、セイバーはとんでもなく強かった。
漫画の中でしか見たことのないような能力を使って暴れまわるカズマさんと、
映画のようなガンアクションを繰り広げるレヴィさん。
更にハルヒが呼び出した、これまた常識外れな神人。
それだけを一度に相手にしているというのに、的確な立ち回りで戦い抜いている。
トウカさんと戦って、かなりの疲労があるはずなのに、だ。
そのとんでもない力に不安を覚えたのか、ハルヒは傷を受けた神人を修復しようと念じ続けていたんだが……。
結果として、その行動は失敗に終わった。
神人の修復どころか、ハルヒ自身の意識は途絶え、神人は消えてしまった。
古泉の話では、ハルヒが眠っていようがあいつは平気で暴れまわれるはずなんだが、とにかく消えてしまったことは事実だ。
そして、そんなことすら俺には些事でしかない。
重要なのは、ハルヒが意識を失したということだ。
だから俺は、気を失ったハルヒの額に触れる。
相変わらずハルヒの体温は高く、滅茶苦茶汗をかいてるが、まだ絶望する時間じゃない。
胸は小さく上下しているし、口からは吐息を零している。
ハルヒはまだ、生きているんだ。
俺は急いでハルヒを背負おうとする。そのとき、俺は風を感じた。
こちらへと向かってくる、突風を。
セイバーが滑るようにして、俺たちの方へと突っ込んできていた。
鋭い眼光でこちらを捉え、剣気を撒き散らし、威圧感を放ち、真っ直ぐに向かってくる。
土煙を上げながらのスピードは、自動車よりもずっと速い。
当然、ハルヒを背負って逃げるなんて器用な真似は、できそうになかった。
ならば。
ハルヒを救って逃げることができないのなら。
やるべきことは、動くべき行動は、決まっている。
俺は、咄嗟に前へ出ていた。
迷わずに、ハルヒの前へと。
恐れずに、セイバーの前へと。
足を、踏み出した。
そんな俺に構うことなく、セイバーは刀を振りかざす。その刀身に、太陽光が反射して、やけに眩しく映った。
その眩さに目を閉ざしそうになるが、俺は瞼に力を入れてその動きを止める。
迫ってくる女騎士を見据えながら、俺は思う。
全力疾走をすれば、逃げられるのかもしれない。
思い切り横へ転がっていけば、助かるのかもしれない。
だけどな。
そんなこと、できるわけがないだろ?
俺の後ろには、我らがSOS団の団長が。
――涼宮ハルヒが、いるんだからな。
刀身が、翻る。
それを受け止めようと、バールのようなものを翳すが、それはあっさりと両断されて。
そして。
剣閃が、走った。
左上から、右下へ。
冷たく硬い、金属特有の質感が肌を破っていく。
それに数秒遅れて、激痛が駆け抜けた。
痛む箇所を、見下ろす。
カッターシャツが、大量の血液を吸って染色されていた。
血が、抜ける。全身に力が、入らない。
仰向けに倒れこみながら、俺は後ろに目を向けた。
見えたのは、木々の向こうに遠ざかっていくセイバーの姿だった。
そのまま、俺は寝そべることになる。
気が遠くなりそうな痛みは、俺から力を奪っていく。
やけに寒く、空が狭い。
口の中が異常に粘つき、息が苦しい。
震えそうなほど寒いのに、やたらと喉が渇いている。
もう、立ち上がれそうになかった。
死ぬんだろうなと、漠然と理解する。
一般的な生活を送っていた俺が、まさかこんな死に方をするなんて想像もできなかった。
もっと平凡に年を重ね、老衰で死ぬんだろうなと、そう思っていた。
本当に、世の中は理不尽だ。
それでも、俺は。
後悔なんて、してないぜ。
◆◆
「あの女ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
キョンを斬り、離れていくセイバーに向けて、カズマが咆哮する。
風の壁をシェルブリットでぶち抜き、着地する暇も惜しんでセイバーへと迫撃をかけたが、間に合わなかった。
カズマの足元には、鮮血に染まった少年が一人、仰向けに横たわっている。
その姿を一瞥し、セイバーが消えた方向へと跳ぼうとした、その直前に。
「く、は……ッ」
カズマの耳が、キョンの口から漏れる微かな呻き声を捉えた。
「おい! まだ、生きてるのか!?」
尋ねたカズマの声に、キョンは薄く瞳を開ける。
「ハルヒ、は……?」
弱々しい掠れた声に応えるよう、カズマはキョンの側で気を失ったままのハルヒを見る。
苦しげな表情だが、確かに呼吸をする少女には、傷一つ見受けられなかった。
「気絶してるだけだ。唇以外に怪我はねェ」
「そう、ですか」
キョンが、心からの安堵を浮かべる。
耐え難いほどの激痛に苦しんでいるはずなのに、そんな素振りを欠片も見せはしない。
ハルヒが無事だったならば、他の苦痛など何でもないと、そう告げるように。
「ハルヒに、伝えて……もらえますか?」
キョンの口が、言葉を紡ぐ。
小さく、それでも確かな声が、流れる。
「俺の平穏な日常は、お前のせいで滅茶苦茶になっちまった。
訳の分からん出来事に巻き込まれて、お前の我侭に振り回されてばかりで、付き合ってられんと、何度も思った」
そこで言葉を切って、キョンは深く、大きく息を吸った。
「だけど、そんな毎日が、悪くはなかった。楽しかった。
――そう、伝えてください」
「ふざけんな! 言いたいことがあんなら、テメェの口で言いやがれ!」
身を乗り出して恫喝するカズマに、キョンは、困ったように笑むだけだった。
カズマにも、分かっていた。
キョンがハルヒと話をすることは、もう不可能だということくらい。
そして不可能だということを、キョン自身が察しているということくらい。
分かっていた。
だから、それ以上の言葉が続かない。続けられない。
やり場のない感情が、カズマの中で荒れ狂う。
それに突き動かされるように、カズマは拳を、手近な木へと叩きつけた。
木が折れ、吹き飛んでも、カズマの気分が晴れはしない。
「……おい、カズマ」
「あぁ? あんだよ!?」
そんな状態だというのに声をかけてきたレヴィに、カズマは八つ当たり気味に返事をして振り返る。
そうやってレヴィの姿を認めた瞬間、カズマは目を見開いた。
レヴィの左上腕から、血液が滴り落ちていたからだ。
「お前、その傷……」
レヴィの左腕の皮膚は裂かれ、肉が削られ、上腕の筋肉が露出し、空気に触れている。
右腕のタトゥーとは違った無造作な模様が、血液で描かれていた。
「あたしとしたことが掠っちまった。痛ェよ。糞ッタレ」
右手の親指で、レヴィは背後を指す。
その先には、先端が赤黒く染まったスコップが転がっていた。
「それよりも、だ。おかしいと思わねェか?」
「あぁ? 何がだよ?」
レヴィは、大きく溜息を吐いた。
頭を横に振って、哀れむような視線をカズマに向ける。
「少しは頭使えよカズマ。いいか? さっきあの女は、とんでもねぇスピードでこいつ――キョンへ突っ込んで行ったんだ。
お前がナントカブリットで突っ込むみてぇにな。そんなスピードが乗った剣で斬られたってのに。
なんで、こいつはまだ喋れるんだ? あいつくらいの腕があれば、一発で首を撥ねることくらいできるだろ」
カズマは、押し黙る。
たまたま急所を外した。スピードに翻弄されて剣筋がずれた。
そう考えることもできなくはないが、それでは腑に落ちなかった。
「推測だけどな」
カズマが答えを出そうとする前に、レヴィがそう前置きをして、続ける。
「わざと一撃で殺さなかったんだ。
そうすりゃ、今、こうやってるみたいに、あたしらの意識はキョンに向くと踏んだんだろうな。
その間に逃げりゃ、あたしらと距離を取ることや、追われる前に身を隠すことだってできる。
要するに、あの女はこいつを使って、あたしらを足止めしようとしていやがるンだ」
まくし立てると、レヴィは小さく鼻を鳴らした。
「全く、気に入らねェ」
レヴィが、そう吐き捨てる。
「……ああ、そうだな。マジで気に入らねェよ」
答え、カズマは、右の拳を左手に打ちつけた。
随分コケにしやがってと、カズマは思う。
もともと腹の立つ相手だった。
その想いが、薪をくべられた炎のように逆巻いていく。
下らない小細工を弄して、足を止められると判断したセイバーを、燃やし尽くそうというように。
カズマの激情が、熱量を増していく。
「最ッ高にムカつくぜあの女。もう次はねェ。次なんて、与えねェ。
ボコってやる。徹底的に、ボコボコにしてやる……ッ!」
カズマの奥歯が、鈍い音を立てる。
怒りに震える表情で、カズマは木々の向こう、セイバーの消えた方角を睨み付けた。
「追うんだな、カズマ?」
「たりめェだ。追いついて、見つけて、分からせてやる。こんな小細工で俺から逃げ切ることなんざ、できねェってな」
宣言して、カズマはキョンを見下ろす。
キョンの虚ろな視線と、戦意に満ちたカズマの視線が、交差した。
「悪ぃな、キョン。お前を病院には連れて行けそうにはねェ。だがな、お前のことは確かに刻んだ!」
握った拳を、キョンの頭上へと翳す。
するとキョンは、首を縦に振ってみせた。
続いて、カズマはレヴィへと視線を移す。
彼女は口の片端だけを持ち上げ、不敵な笑みを浮かべていた。
「行ってこい、行ってこいよカズマ。思いっきり、あの女をぶっ飛ばして来い」
意外なその言葉に、カズマは眉を上げる。
「あ? お前は来ねぇのか?」
「正直暴れ足りないがな。あたしは運び屋だ。予定通り、涼宮ハルヒを病院まで運んで行く。
今回ばかりは、てめぇに任せてやるよ。
それとも何だ? レヴェッカ姐さんにも来て欲しいってか?」
レヴィの返答を、カズマは鼻で笑って一蹴した。
「下らねぇ冗談だ。来ねぇんなら遠慮なく、行かせてもらうぜ」
言いながら、カズマが、左手をレヴィに掲げる。
応えるように、レヴィが、右手をカズマへと掲げる。
「俺が戻るまでにくたばってんじゃねぇぞ!」
「ハッ、みっともなく負けて帰って来ンなよ!」
互いに軽口を叩き合い、掲げた腕を打ち合わせる。
そのことに、カズマは奇妙な快さを感じた。
こいつになら背中を預けてもいいか、などと思い、そして。
広大な夕空へと、カズマは跳躍した。
目指す場所は、敵のいる場所。
大気を割り、地を砕き、カズマは跳ぶ。
刻んだ多くの名を、その肩に背負いながら。
カズマは突き進む。
自らの意地を拳に乗せて、叩きつけるために。
荒ぶる魂をそのままに、カズマは駆け続ける。
どこまでも、真っ直ぐに。
◆◆
「本当、クレイジーな野郎だぜ」
嫌いじゃねェけどな、と小声で付け加え、レヴィは、散々な顔色で眠る涼宮ハルヒに手を伸ばした。
左腕を動かすと、傷口が痛みを訴えてくる。
そっとしてくれと言われているようだが、構わずレヴィはハルヒを背負うため、手を動かした。
やれやれ、このあたしがガキのお守りかよ。
そう思いながらも、レヴィは自分が行かなかったことを後悔してはいなかった。
セイバーの目的が撤退、あるいは回復のための時間稼ぎなら、カズマ単身で向かわせたほうがいい。
認めたくはないが、レヴィを乗せたままだと移動速度が落ちるのは事実だった。
だがカズマを行かせた理由は、それだけではない。
レヴィは、セイバーを発見したときのカズマを思い出す。
『――ボコる相手が、出来た』
そう言うや否や、絶叫を上げてぶっ飛んで行ったカズマ。
あのときは独断先行の理由が分からなかったが、セイバーと戦っていたカズマを見ていて、大体の察しはついた。
あの女は、カズマの敵なのだ。
詳しくは知らないし、知るつもりもない。
因縁を尋ねる気もないし、知りたいとも思わない。
だが、分かる。
明確で剥き出しな敵意を、カズマはばら撒きながら戦っていたのだから。
カズマの言う通り、気に入らない女だったとレヴィは思う。
だから先ほどはカズマに加勢したし、もし今、目の前にセイバーが現れたら、レヴィは迷わず銃を構えただろう。
とはいえ、レヴィにはセイバーとの因縁などほとんどない。
それならば、セイバーとやり合うのはカズマの方が相応しい。
いくらバトルマニアのレヴィとはいえ、仇敵との決着に乱入し、水を差そうととするほどレヴィは無粋ではなかった。
それに、だ。
――まぁ、あいつなら大丈夫だろ。
などと考えてしまう程度には、レヴィはカズマのことを買っていた。
そんなことを考えながら、レヴィはハルヒを背に乗せる。
そして、もはやほとんど動かないキョンを、見やった。
「ハルヒを……よろしく、お願いします……」
囁くような小声を、レヴィは確かに聞いた。
だから、右手を上げて、答えてやることにする。
「オーライ、オーライだ。だがな、連れて行けるのはこいつだけだ。
助からねェ奴を引っ張って行くほど、あたしゃサービス精神旺盛じゃないんでな」
こくりと、キョンの首が動く。そして、その口が何かを言おうと、開閉する。
しかし、それは音にはならなくて。
空気を揺らすことは、できなくて。
そして、その少年は、動かなくなった。
そのことを確認すると、レヴィはそこから目を離す。
彼女にとって、もはやそれは“かつて人であったモノ”でしかない。
特別な感慨も、感傷もなく、ただニューナンブだけを拾い上げると、無造作にデイバックへ投げ込み、歩き出した。
振り返る素振りも、立ち止まる雰囲気もなく。
レヴィは、歩いていく。
背中に、気が滅入りそうな体温を感じながら。
死んだ人間に、物と成り果てた存在に興味などない。
だが、そいつが生きていた頃に告げた言葉くらいは、意思くらいは果たしてやろうとレヴィは感じていた。
「……ヌルくなっちまったな、あたしも」
呟いたとき、ロックの勝ち誇ったような表情が何故か浮かんだ。
次にロックに会ったとき、とりあえず殴っておこうと心に決めて。
レヴィは、歩いていく。
涼宮ハルヒを、病院へと送り届けるために。
涼宮ハルヒへ、キョンの言葉を、伝えてやろうとするために。
【C-4北西/2日目-夕方】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:全身に軽度の裂傷と火傷、頭部に重症(治療済み)、右腿、右腕に銃創
疲労(大)、魔力消費(極大)、これ以上無く強い決意、やや空腹
[装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+
[道具]:支給品一式×3(食料は通常支給-1)
[思考・状況]
基本:参加者を殺す
1:カズマたちから逃亡し、休息を取る。
2:エクスカリバーを手に入れる、必要ならば所持者を殺害する
3:絶対に生き残り、願いを叶えて選定の儀式をやり直す。
【C-4森林部東/2日目-夕方】
【カズマ@スクライド】
[状態]:疲労(やや大)、強い決意、全身に中程度の負傷(処置済)、西瓜臭い、全身に少々の痛み
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、翠星石の首輪、エンジェルモートの制服
[思考]
基本:気にいらねぇモンは叩き潰す、欲しいモンは奪う。もう止まったりはしねぇ、あとは進むだけだ!
1:セイバーを追い、見つけ、徹底的にボコる。
2:セイバーをボコった後、病院へ戻る。
3:首輪を外してギガゾンビをぶっとばす。
4:そのためにはレヴィとも協力する。
[備考]
※いろいろ在ったのでグリフィスのことは覚えていません。
※のび太のデイパックを回収しました。
※レヴィに対する評価が少し上がっています。
【D-4森林部北/2日目/夕方】
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:脇腹、及び右腕に銃創(処置済み)、背中に打撲、左腕に裂傷。
頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、疲労(やや大)、全身に少々の痛み
[装備]:ソード・カトラス(残弾6/15、予備残弾×26発)、ベレッタM92F(残弾8/15)
[道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、イングラムM10サブマシンガン(残弾15/30、予備弾倉30発×1)
グルメテーブルかけ(使用回数:残り16品)、ぬけ穴ライト、テキオー灯、
バカルディ(ラム酒)×1本、割れた酒瓶(凶器として使える)、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。物事なんでも速攻解決!! 銃で!!
1:涼宮ハルヒを病院へ送り届け、ハルヒが目を覚ましたらキョンの伝言を伝える。
2:多分いるギガゾンビの手下相手に大暴れする。
3:ゲイナーやゲインのエクソダスとやらに協力する。
4:カズマをぶっ飛ばすのは後でいいか。
5:機会があればゲインともやり合いたい。
6:バリアジャケットは絶対もう着ないし、ロックには秘密。秘密を洩らす者がいたら死の制裁を加える。
7:仕事が終わったらカズマに約束を守ってもらう。
[備考]
※双子の名前は知りません。
※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。
※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。
※空を飛んだり暴れたりで気分は上々です。
※カズマに対する評価が少し上がっています。
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:頭部に中度の打撲(動くのに問題は無し) 、気絶、
疲労(極大)、高熱、下唇裂傷。自分の能力に対して知覚 。レヴィに背負われている。
[装備]:クローンリキッドごくう(使用回数:残り2回)、
[道具]:デイバック×9、支給品一式×8(食料7食分消費、水1/5消費)、
鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)、
RPG-7×2(スモーク弾×1、照明弾×1)、クロスボウ、タヌ機(1回使用可能)
暗視ゴーグル(望遠機能付き・現在故障中)、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)
ダイヤの指輪、のろいウザギ、ハーモニカ、デジヴァイス、真紅のベヘリット
ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)、E-6駅・F-1駅の電話番号のメモ、
トグサが書いた首輪の情報等が書かれたメモ1枚
【薬局で入手した薬や用具】
鎮痛剤/解熱剤/胃腸薬/下剤/利尿剤/ビタミン剤/滋養強壮薬
抗生物質/治療キット(消毒薬/包帯各種/鋏/テープ/注射器)/虫除けスプレー
※種類別に小分けにしてあります。
着せ替えカメラ(使用回数:残り17回)、コルトSAA(弾数:0/6発-予備弾無し)
コルトM1917(弾数:0/6発-予備弾無し)、スペツナズナイフ×1
簡易松葉杖、どんな病気にも効く薬、AK-47カラシニコフ(0/30)
[思考]
基本:団長として、SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームから脱出するために力を尽くす。
1:気絶中
2:セイバーは絶対に許さない
3:病院にいるというトグサと接触し、ドラえもんからディスクを手に入れる
4:書き込みしてきた人物が気になる
5:病院にいるかもしれない凛は最大限に警戒
6:団員の命を危機に陥らせるかもしれない行動は、できるだけ避ける
7:水銀燈がなぜ死んだのか考えるのは保留
[備考]
※腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。
※偽凛がアルルゥの殺害犯だと思っているので、劉鳳とセラスを敵視しなくなりました
※キョン、トウカ、魅音、エルルゥ、ロックらと詳しい情報交換を行いました。
※キョンの持つノートPC内の情報を得て、考察しました
※ジョーカーの情報を信じ始めています
※怒りや憤りなど、ストレスを感じると神人を召還できるようになりました。
他にも参加者などに何らかの影響を及ぼせるかもしれませんがその効果は微弱です。
神人の戦闘力もかなり低くなっています。
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】
とある辺境の世界に佇む小さな国に、首輪を付けた一人の王様がいました。
若くして最高峰の地位に立った王は、決して首輪を外そうとはしません。否、外せないのです。
国民は誰しもが疑問に思いました。
ねぇ、お母さん、この国の王様は、どうして首輪をしているの?
しっ! そんなこと二度と口にしてはいけないよ。
王様の趣味である、魔女に呪いをかけられた、実は首を保護するための防具である。
想像は噂を生み出し、他国へも伝わります。
ミッドランドという国に、首輪で繋がれた王がいるらしいぞ。
興味を持った他国の王は、その国に軍隊を送り込みます。
首輪をした王を討ち取れば、その国が手に入る。
首輪とは本来、拘束具の役割を持っています。そして王はそれを嵌めている。
そんな王が治める国が、強いはずもない。他国に住む多くの王はそう考えたのです。
しかし、首輪をした王は慌てたりはしません。
侵略にやってきた軍勢を自らが選んだ精鋭で打ち倒し、国の平和を守ります。
侵略行為は、何度も何度も繰り返されました。
けれども、首輪をした王が敗北することは、一度もありませんでした。
強い。あの王は強すぎる。首輪で繋がれた王が、なぜあれほどまでに強いのか。
ひょっとしたら、首輪をしているからこそ強いのでは?
なるほど。その発想はなかった。
いつしか王の首輪は強者の証であると認定され、誰もがその強さに取り入ろうとしました。
友好的な国はこころよく受け入れ、悪だくみをする国には制裁を与えます。
王の統制は完璧でした。この王の下でなら、平和に日々を過ごせる。誰もがそう思いました。
しかし、新たな敵は唐突にやってきたのです。
その敵は国を脅かす敵のみにあらず、人類すべての敵と言えました。
当然、皆は一致団結し、首輪で繋がれた王の下に集います。
王は伝説の聖剣を旗印に、各国の精鋭たちを率います。
戦は続きます。どちらかが滅び、朽ち果てるまで。
その渦中、王は首下の輪を摩りながら、こう呟くのです。
オレは、オレの――
◇ ◇ ◇
王の名はギガゾンビ。彼は今、命を握られている!
「グ、グリフィス! な、なぜここに……」
「なぜ、だと? それは監視者である貴様が一番よく分かっていることだろう。
原理などはオレが知るところではないが……ここにいるのは間違いなく、貴様が刺客として送り込んだ男だ。
多くの犠牲を生んでの死、捨て駒になるよう仕向けた男が……舞い戻ってきたのさ」
ギガゾンビが根城とする北端の城にて、前代未聞のイレギュラーが発生していた。
一度は死に、主催側となって蘇り、そして再び前線へ送り込まれ、そして今度こそ死ぬはずだった男。
その男が死線を乗り越え、再び反旗を翻しに来た。
今度は謀略などというまどろっこしいやり方ではない。首筋に剣を突き立てるという、明確な攻撃行為を持っての反逆である。
闇の書の転移、暴走の前兆、そして、鷹の来襲。
連続した異常事態に遅れをとったギガゾンビは、今、完全に後ろを取られたのだった。
周囲のツチダマたちも監視の仕事どころではなく、上座で行われている寸劇に息を呑んだ。
(ここで……死ぬ!? この、ギガゾンビ様が――?)
そう、寸劇になるはずだった。
ギガゾンビも己のピンチを自覚し、戦慄した。出しつくしたと思われた尿はまた勢いよく漏れ出し、身はツンドラのように凍りついた。
このまま首を狩り飛ばされる。あのアンデルセンや野比のび太のように、ザンッ、ドサッ、コロコロ……と。
誰しもがそう思った。当人であるギガゾンビも、配下のツチダマたちも。
――しかし、一秒、二秒と時が経過しても、剣はまだ振るわれない。
(……?)
その場にいた全員が、息を呑んだまま疑問符を浮かべる。
静寂が舞う空間の中で、疲労に苛まれたグリフィスの呼気のみが音を立てていた。
(なぜだ……なぜ、グリフィスは私を殺さない? この期に及んで、まだ何かを企んでいるというのか……ハッ、もしや!)
限界の綱渡りを強いられているこの現状で、ギガゾンビはグリフィスが自分を手にかけない理由に気づいた。
(こやつの首には、まだ首輪が嵌められている。奴は、あの首輪が爆破されることを懸念しているのだ。
ジュエルシードもどきの暴走のさなか、爆破装置が破壊されたことを知らぬのか、それともスペアがあるかもと警戒しているのかは知らんが……これはチャンスだ。
奴がまだ首輪の爆破を恐れているというのであれば、挽回の余地はある。余地はあるぞぉ……)
幸いなことに、冷や汗塗れの素顔は仮面に覆われていて、グリフィスには覗かれていない。
あとは呼吸を落ち着け、毅然な言動を心がければ、ポーカーフェイスを貫ける。冷静沈着なギガゾンビ様を演じることが可能だ。
ここは心理戦が展開する場面。精神と精神の綱引き勝負になる。
ギガゾンビは死の恐怖を強引に捻じ伏せ、やや上ずった声でグリフィスに反論し始める。
「ふ、ふっ……ふは、フハハハハハハハハ〜! グリフィスよ、貴様、恐れているな!?
表面上では刃を突き立てつつも、内心では血迷ったことをしたと後悔しているのだろう!?
なにしろ貴様の首輪はまだ有効。下手に私を傷つけ、首が跳ね飛ぶのはおまえのほう――」
発言する途中で、視界が揺れた。
ギガゾンビが大見得切って大笑する中で、グリフィスの剣が動いたのだ。
縦に真っ直ぐな軌跡を描いた仮面が、分断されて地に落ちる。
奥から覗いたのは、絶句するギガゾンビの素顔。血の気が引き、真っ青になった、みすぼらしい表情だった。
(く、クールだ、KOOLになれギガゾンビ! これは脅しにすぎない! これしきのことで動じるな、飲まれるな、怖気づくな!!)
心に念じ、ギガゾンビはすぐに強張った表情を作りなおした。
僅かでも恐れを表情に出しては駄目だ。鉄仮面だ。ポーカーフェイスを心がけろ……何度も何度も言い聞かせ、次の言葉を探す。
「な、なるほどなるほど! ずいぶん強気に打って出るじゃないかグリフィス君。
分かっているぞ。今のは警告、私が首輪を爆破させるより先に、その剣で首を跳ね飛ばせると言いたいのだろう?
だが残念だったな。君に私を殺すことはできんよ。
なぜならば、その首輪は私の心音が途絶えると同じに爆発する仕掛けになっているからさ!
もし私を殺せば、君も含め全参加者の首輪が一斉に爆ぜることとなるだろう!
おっと、それだけじゃないぞ!? 爆ぜるのは首輪だけじゃない――おまえらツチダマどもの身体もだ!」
「ぎ、ギガ!?」
事態を見守っていたツチダマ群から、驚きと不安によるどよめきが湧く。
もちろん、これらの仕掛けはすべてハッタリだ。ギガゾンビの死と首輪の爆破に、同調システムなどない。
ツチダマの爆破に関しては、咄嗟に思いついた予防線である。
薄情な奴らのこと、逆転した形勢を見てまたグリフィス側に寝返るとも限らない。
だがギガゾンビの死が自分たちの死に繋がっていると知れば、安易に態度を変えたりはしないだろう。
これらの後付設定は、命の保守と裏切りの防止、二つの意味をかけ備えている。
利口なグリフィスと現金なツチダマたちなら、間違いなく鵜呑みにするはずだ。
咄嗟にこれだけのハッタリをかませるとは、さすがギガゾンビ様!――などど、心中で自分を褒め称えながら、顔面にもぎこちない笑顔を作りだしていた。
この場に転移してから今に至るまで、グリフィスがまったく表情を変化させていないことにも気づかずに。
「さぁ、跪けグリフィス! さすれば寛大なギガゾンビ様だ、もう一度チャンスを与えてやらないことも――」
「なに勘違いしているんだ」
機械音声のような無機質な声とともに、聖剣の煌きが三日月を描いた。
柳が風で靡くかのような、しなやかな動作で振るわれた剣。その一瞬の薙ぎに、傍観者たちは何が起きたか理解できなかった。
(――え?)
ギガゾンビが顔を俯けて、視線を足元に向ける。
時の流れに取り残された瞳は、失くしものを求めるようにそれを見つめた。
足元に、鼻が落ちている。
「ぎぃぃぃっやあああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!? は、はな……鼻! わ、わたしの鼻ガァァ〜!」
不意の一閃により、ギガゾンビの鼻は顔面から断裂されていた。
やや遅れてやってきた痛みに声が荒げ、醜い悲鳴が木霊する。
体裁を気にしている余裕などない。もはや気丈に振舞える状況ではなくなったのだ。
目尻と唇の間から噴出する血に、卒倒しそうだった。手で押さえても、血は泉のように湧き出てくる。
ギガゾンビは顎の先までを真紅に染め、舌全体で鉄の味を味わった。
「オレがおまえを殺せないと、本気でそう思っているのか? おまえを見逃してまでオレが死を恐れるなどと――本気でそう思っているのか?」
グリフィスの抑揚のない声からは、まったくの覇気が感じられない。しつこい宗教勧誘をあしらうような、冷たい声調だった。
それゆえに、奥底に潜む怒りが計り知れない。感情を出さぬ瞳の色が、やたらと濃く見える。
この攻撃に、野心や復讐心などといった感情はないのだろう。
グリフィスはもう、ギガゾンビを殺すことしか考えていない――そう思わせるほどに。
「お、おまえは王になりたいのだろう!? 自分の国を手に入れたいのだろう!? ならば――ヒィッ!?」
腰を抜かし床にへたり込んだギガゾンビの手元に目がけて、エクスカリバーの剣先が振り落とされる。
切っ先がギガゾンビの親指を捉え、弾け飛ぶ。八神太一の右手首や佐々木小次郎の左腕のように、勢いよく。
また、耳障りな悲鳴が反響した。最高峰に位置する血塗れの玉座、周囲のツチダマによる視線、それはまるで、公開処刑のようだった。
グリフィスは表情を変えない。ギガゾンビのもがく様を楽しむでも不快に感じるでもなく、ただ冷徹な瞳のままで、静かに観察していた。
「オレは、オレの国を手に入れる。唯一無二の、オレの国だ。偽りの王に与えられた地位などに、価値はない」
死にたくない、死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくない――と、ギガゾンビはかつての朝倉涼子や峰不二子のように、口には出せぬ懇願を念じ続けていた。
観衆のツチダマたちは助けてくれない。ギガゾンビと同じように、恐怖に食われ、身を震わせていた。
グリフィスの背後に感じる、得体の知れぬ何かに怯え、助けに入れずにいたのだ。
そうして誰も救いに入れぬまま、またエクスカリバーが振るわれる。
鋭利なナイフでチーズを切り分けるかのごとく、いとも簡単にギガゾンビの頭部から片耳がカットされた。
鼻と、指と、耳と、噴血する三つの口を塞ごうとするも、二本の腕では追いつかない。
なにをしたいのかよくわからない動きを見せ、老体が小躍りする。
その滑稽な姿を眺めつつ、グリフィスは手首を僅かに振った。
それだけで、握られたエクスカリバーは弧を描く。切っ先がギガゾンビの瞼に突き刺さり、くるんと回った。
たこ焼がひっくり返るみたいに、眼球が裏返る。そして、零れ落ちる。後を追って血も零れる。
噴血口は鼻、指、耳、眼の四つになった。痛覚は四方から脳細胞を攻め立て、また絶叫を呼び起こす。
小鳥がやめてと囀ったところで、鷹は捕食をやめはしない。この光景は、大空の理と一緒だった。
さて、この老人、次はどうなるだろうか?
平賀才人のように解体されるか――
ガッツのように額を割られるか――
トウカのように心臓を貫かれるか――
次元大介のように串刺しにされるか――
君島邦彦のように喉元を射抜かれるか――
シグナムのように足を斬り離されるか――
キャスカのように真っ二つにされるか――
アルルゥのように全身各所を刺されるか――
八神はやてのように首の骨を折られるか――
蒼星石のようにバラバラに破砕されるか――
ハクオロのように首を跳ね飛ばされるか――
ソロモンのように各部位を斬り裂かれるか――
桜田ジュンのように腹に風穴を開けられるか――
獅堂光のように頭部をグチャグチャにされるか――
野原みさえやタバサのように全部グチャグチャにされるか――
執行者であるグリフィスの瞳からは、なにも感じ取れない。
ギガゾンビがよく口にしていた専門用語、『マーダー』というのは、こういう者のことを言うのだろう、と誰もが思った。
公開処刑は続く。誰にも止める権限はない。度胸すらありはしない。
逆らえば殺される恐怖空間に、怨嗟の念と悲痛な叫びが木霊し、血の臭いが蔓延する。
酷いものだった。地獄と一言で片付けてしまうのは簡単だが、惨劇が起こるのはあの世ではない。他でもない現世のみだ。
よく、楽しい時間はすぐに終わってしまうという。
ならば逆に位置する苦しい時間は、どう感じるだろうか。
これもまた逆だ。苦しければ苦しいほど、時の流れは遅く、永遠のように感じる。
安楽など訪れはしない。現世に留まり続けるかぎり、苦痛から逃れることは不可能なのだ。
それは、創作上の殺戮劇に感銘し、この舞台を仕立て上げたギガゾンビ自身が一番よく理解している。
泣き喚いたところで、どうとなるわけではない。死ぬまで苦しむ。それだけだ。
なら、いっそ死んだほうが楽になれるかもしれない。それもまた、一つの解決策といえよう。
しかし、それにも苦痛は伴う。なにより、苦しみから逃れる代償として、生を含めたすべてを失うことになる。
ギガゾンビに、自ら命を絶つような勇気はなかった。
「戦場に、観覧席は存在しない」
グリフィスは頭上高く剣を振り上げ、ギガゾンビを見下ろした。
「退席しろ、ギガゾンビ」
そして、そのまま振り下ろした。
今度は、命を刈り取るために。
◇ ◇ ◇
身体に電流が走った。
その光景を、目の当たりにした瞬間に。
身は竦んでいた。
助けたい、という思いとは裏腹に。
それでも助けたい、と思った。
死なせるわけにはいかなかったから。
救出を望んだ、彼だけが気づけた。
惨劇の裏で、執行者が疲弊していることに。
救い出せるかもしれない。
執行者から、剣を奪うことはできなくとも。
執行者を、殺すことはできなくとも。
執行者を、排除することは可能かもしれない。
だがそれは、主人への反逆になるやもしれない。
勇気が必要だった。
命を投げ出す勇気と、主人に逆らう勇気。
彼は、その勇気を欲した。
勇気は、彼の呼びかけに応えた。
彼は、勇気を手に入れた。
執行者の、一瞬の隙をついて。
彼は、走り出した。
躊躇することなく、彼だけが動けた。
彼だけが、唯一その異質な空気に抗えた。
「退席しろ、ギガゾンビ――」
「するのはキサマだ、グリフィスッ!!!」
――その瞬間、惨劇の場のもっとも近くにいたツチダマ、フェムトが駆け出した。
勢いのままに、全身を弾丸にしてグリフィスに飛びかかる。
渾身の体当たり、そしてまさかの奇襲により、虚をつかれるグリフィス。
真っ直ぐに振り下ろそうとしたエクスカリバーの軌道を変えるが、時すでに遅し。
フェムトの身体はグリフィスの懐に入り込み、そのままぶつかった。
思わぬ反撃――が、衝撃は軽い。
グリフィスの身体は横に傾き、少し倒れるくらいに思われた。
倒れたところで、瞬時に立て直せば問題ない。これくらいでは、反撃にもなりはしない。
だが、フェムトにとってはその些細な衝撃だけで十分だった。
フェムトの目的は、グリフィスを殺すことではない。ギガゾンビを救い出すことだ。
そのためには、グリフィスの身体を少し横倒しにするだけで事足りる。
重力の赴くままに身体が傾けば、あとはその先にある『旅の扉』がやってくれる。
「――ッ!?」
グリフィスの凍てついていた瞳が、ギョッと見開かれる。
身が倒れるその先に、扉の形をした異空間の入り口が開いていたからだ。
いつの間に――答えを導き出す暇もなく、グリフィスは扉の向こうに放り込まれた。
パタンッ、と戸が閉まり、扉はそのまま消失した。
――執行者だった男が姿を消し、静寂が場を包む。
残されたのは傍観者であった数体のツチダマたちと、呻きながらこの事態に混乱するギガゾンビ、そして執行者を追い出し主を救うことに成功した、フェムトだけだった。
◇ ◇ ◇
「医療班! 今すぐギガゾンビ様を医務室へ搬送しろ!」
「あ、アイアイサーギガー!」
「もしギガゾンビ様の身になにかがあれば、我々の身が木っ端微塵になることを忘れるな!」
「ヒィ〜! ギガガガガガ〜」
フェムトの号令により、それまで神妙にしていたツチダマたちが、慌しく活動を再開する。
ある者は監視の任に戻り、ある者はフェムトの命令に従って、ギガゾンビの応急処置に取りかかった。
「おお……ふぇ、むと……フェム、トぉ……」
「ご安心くださいギガゾンビ様。あなたの御身を傷つける輩は、このフェムトが排除しました。もう安心です。
怪我のほうも、23世紀が誇る最新鋭の医療器具で治療すれば、きっとよくなります。ですからご心配なさらずに……」
「グリフィスは……あの、男は……どこにいったのだぁ……?」
すっかり恐怖に食われてしまったのか、それとも未だグリフィスの残像を映しているのか、ギガゾンビの声は震えていた。
フェムトはそんな主の無様な姿に嘆き、憤慨し、心の底から哀れんだ。
鼻と親指一本、右耳と左眼球の損失。人体を持たぬフェムトにも分かる。それらのパーツを失うことが、どれだけ深刻なことか。
この損失は、この先のギガゾンビの人生においても多大なダメージと成り得る。
支えてあげなければ、とフェムトは思った。
ギガゾンビの命を守ることは、誰よりも親を慕う彼ができる、唯一の生き方でもあった。
他のツチダマたちが観衆と化した中で、フェムトだけが動けたのだ。その意味はとても大きい。
「……大丈夫です。グリフィスの奴は、『絶対に戻ってこれない場所』へ放り込んでやりました。
もうギガゾンビ様の前に姿を現すこともありません。永遠にです。
貴重なマーダーを独断で消してしまったことは遺憾ですが、もとよりあのような死にかけ、ギガゾンビ様の御命と天秤にかければ――」
「…………よい」
フェムトの親身な思いに答えたのか、単に命を拾えた幸運に安堵しただけなのかは分からない。
ギガゾンビは穏やかな声でそう呟き、我が子を思う親のような優しい手つきで、フェムトの頭を撫でてやった。
フェムトにとっては、それが至上の喜びであり、なにものにも変えがたい褒美となった。
ギガゾンビの搬送作業が終わり、治療が始まる。
本当なら自ら治療に当たりたいフェムトだったが、彼には一つ、重要な仕事が残されていた。
時計を見ると、時刻はもう間もなく午後六時を迎えようとしていた――第七回目の放送準備に取りかからなければならない。
「――我が声を聞く全ツチダマに告げるギガ! 緊急事態につき、次の放送はこのフェムトが執り行う!
監視班は死亡者のリストアップと、現生存者の数をもう一度洗いなおせ! 闇の書からも目を放すな!」
ギガゾンビがこの世界に滞在していられるのも、あと六時間ほど。もしかしたら、これが最後の放送になるやもしれない。
バトルロワイアルの完結は、もう目前まで迫っているのだ。
精霊王が没頭したこの一大イベント、今さら破綻させるわけにはいかない。
フェムトはピンチヒッターとして王者の席につき、ギガゾンビが戻ってくるまで、この戦を取り仕切ることを決意した。
グリフィスを飲み込んだ旅の扉――どこでもドアは、ただの扉ではない。
ギガゾンビが各参加者を拉致する際に用いた、特別などこでもドアである。
ゆえに、あの扉は参加者達の故郷――拉致した世界、そして時間と繋がっている。
ならば、グリフィスはどこに消えたのか。
◇ ◇ ◇
……どうして終わったりなくしたりしてから、いつもそうだと気がつくんだろう。
……でももしやり直しができるとしたら、彼はきっと――
(ここ、は……)
遠くで、仲間の声が聞こえる。
自分の名を必死に叫ぶ、屈強な戦友たちの姿が見える。
疲労で垂れ下がった腕は、まだ繋がっていた。剣もまだ握っている。
――グリフィス? あれは、グリフィスなのか?
――間違いない! だがあの姿は……?
――帰ってきた。あれは、俺たちのグリフィスだ!
(懐かしい……なにも、かもが。オレは……帰って、きたのか……?)
手元には、宝剣の姿しかない。ベヘリットは、既にこの世界には存在していなかった。
馬が迫る。蹄が草原を叩く音が聞こえる。
馬と併走して、己の足で疾走してくる男の姿もあった。
肩を並べ、剣の向きを揃え、憎まれた、これから憎まれるはずだった友が、駆け寄ってくる。
――グリフィス!!
(今、おまえに触れられたら。今、おまえに肩を掴まれたら。オレは二度と、オレは二度と……!)
変わってしまった因果律は、もうどうにもならない。
鷹は鷹のまま、宝剣と首輪と未知の文明、そして元の身体だけを手土産に、ここに帰ってきた。
(二度と、おまえを……………………)
ここが、グリフィスの居場所だった。
グリフィスの居場所は、ここにしかなかった。
◇ ◇ ◇
「……フィス……グリフィス…………グリフィス!」
「――ッ!」
懐かしい呼び声を耳にして、グリフィスはハッと我に返った。
反応して隣を向くと、そこには呆れた顔で息をつく友の姿があった。
「ったく、大将がなに呆けてやがんだ。これから戦が始まるってのによ」
「あ、ああ。すまない、ガッツ。少し……昔のことを思い出していたんだ……」
空は快晴だった。雲ひとつない蒼穹が、やけに眩しく映った。
天気が良好でも、これから起こることは変わらない。
今日は戦の日。それも、全人類の存亡を懸けた、大事な決戦の日だった。
爽風の走る草原で、鷹の軍勢が列を引いている。
剣や斧、突撃槍やマイクロUZIで武装した、人間側の精鋭。
いずれも勇敢な戦士たち。ともに戦場を駆け抜けてきた、勇猛なる同胞諸君だ。
そして、背中を預けるこの男も。
「しかしなガッツ。オレは仮にも王の位につく男だぞ? それを無理やり前線に引っ張り出したのは、おまえじゃないか」
「なに言ってやがる。傭兵時代から、テメェが前線に出張ってくるのは性分みてぇなもんだったろうが」
「ああ、そうかもな……玉座に座って欠伸をするだけの人生は退屈すぎる。それに、おまえはいつだって切り込み隊長だった」
「老けたかグリフィス? まだ昔を語る歳じゃねぇだろ……それに、だ。今日の敵は、俺たちにとっても因縁の相手だからな……」
地平線の先から、『魔』が押し寄せてくる。
広がっていた青空が闇に侵食されていき、淀んだ空気を形成していく。
違う未来、違う運命では、グリフィスはあちら側の住人になるはずだった。
だが今は、今立っているこの場所は――グリフィスにとって、掛け替えのない場所だった。
狂った因果律は人類に鷹という希望を齎し、魔の眷族を震え上がらせた。
絶望はもうない。鷹が舞い上がるたびに、空は明るく照らされる。
この決戦を終えた後も、きっとそうなることだろう。
「お目見えだぜ」
魔の軍勢の先陣として降り立ったのは、身の丈5メートルはあろうかという巨大な怪物だった。
異形の象徴ともいえる翼と角を生やし、皮膚を覆う体毛の隙間から、殺気があふれ出している。
ただの兵士ならば、腰を抜かすような魔人の姿。
その姿を前にしても、グリフィスとガッツの二人は怖気づくことはなかった。
「よう、久しぶりだな――不死の(ノスフェラトゥ)ゾット」
「噂は聞いているぞ……『首輪の王』よ! 因果律を捻じ曲げ、我らの祝福から逃れた愚かな男め……」
「分かっているだろうゾット。もはやこの世界に覇王の卵は存在しない。あれはあそこに置いてきた。
ここにいるのは、闇の翼ではない。白き鷹だ」
数年前から自身の首に嵌ったままの輪を摩りつつ、グリフィスは笑った。
あの二日間に渡る戦は、グリフィスに多大なる変化を齎した。
その成果は運命すらも変え、彼に王の座を与えたのである。
老兵や反逆者、狂愛の魔女と電光の魔女、仮初の仲間たち、切り捨てた二人の友。すべて無駄ではなかった。
言うなれば、これはグリフィスにとって、『やり直した人生』なのである。
グリフィスにとって、あの惨劇はただの殺し合いなどではなかった。
運命を改変するための、儀式だったのだ。
「さぁ、戦を始めようか」
歯車が食い違おうとも、機械はすぐに順応し、物語は展開していく。
鷹が握る黄金の剣は、必勝の名を冠さす惨劇帰りの手土産だ。
あの場から持ち帰った力、再び手にした対等な存在、新たな人生。
グリフィスは、これまでにないくらい満ち足りていた。
エクス
「――約束された」
首輪の王。
世界最強の騎士王にして、異界からの生還者。
魔に堕ちなかった鷹は再び飛翔し、そして。
カリバー
「勝利の剣――!!」
――――オレは、オレの国を手に入れた。
【ギガゾンビの居城/2日目/夕方(放送直前)】
【ギガゾンビ@ドラえもん のび太の日本誕生】
[状態]:鼻、右親指、右耳、左眼球欠損
[思考・状況]
1:集中治療中。
2:最後までこのバトルロワイアルを見届ける決心。
3:逃走の準備を進めつつ、午前零時にはこの世界を脱出する。
[備考]
※23世紀の技術による治療を受けている最中です。この怪我により死亡することはありません。
【ホテルダマ(フェムト)】
[思考・状況]
1:ギガゾンビの代わりに放送を行う。
2:ギガゾンビが復帰するまで、代わりにバトルロワイアルの運営を取り仕切る。
3:ギガゾンビに絶対の忠誠。出来る限りギガゾンビの意志を尊重。
4:残りの裏切り者(ユービック)も断罪したい。
【グリフィス@ベルセルク 送還】
[残り12人]
感想スレで指摘して頂いた通り、レヴィの持ち物にニューナンブが抜けていましたので修正します。
レヴィの道具欄を、以下のようにしてください。
[道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、イングラムM10サブマシンガン(残弾15/30、予備弾倉30発×1)
グルメテーブルかけ(使用回数:残り16品)、ぬけ穴ライト、テキオー灯、ニューナンブ(残弾4)
バカルディ(ラム酒)×1本、割れた酒瓶(凶器として使える)、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
――夢を。
夢を、見ていました。
違う時から呼び出されたのなら、こうはなっていなかったのかもしれない。
けれど、今、そんなことは知りようがないこと。
こうして出会ってしまった。だから戻れない。
全ては前に歩くために。
全ては今までのことを清算するために。
目的は正反対。だから対峙する。しなくてはならない。
そう思っているはず――あなたも!
■
「……どこ行きやがった」
民家の屋根の上。
首を動かして周囲を見渡しながら、カズマが唸る。
周りにセイバーの姿はないし、見えない。
しかし――カズマはそれを「逃げ切られた」と思ったのではなく、「近くに隠れた」と判断していた。
一見、この判断は相当無茶があるものに思えるかもしれない。
だが、地理的に考えればそれなりに理は通っている。
最初、カズマ達がセイバーと戦っていたエリアはC-4。
すぐ東には禁止エリアがあり、南や北も同様にすぐ禁止エリアにぶつかる場所だ。
当然、移動するにあたっては自然とルートが制限されることになる。
互いの移動する速さは大して変わらない以上、追えばいいだけのカズマが有利になるのは自然なこと。
したがって相手の姿が見えなくなった原因は逃げ切られた可能性よりも、
どこかに隠れられた可能性の方が高い、というわけだ。
……もっとも、カズマはそこまで考えて結論を出したわけではない。
もともと理屈で考えるなんて、彼の性ではないのだ。
ただこの辺りにいそうだと思ったから、見渡しているだけ。
理性的な理由はない。強いて言うならば、勘。
ロストグラウンドでネイティブアルターとして生きた彼の第六感が、
彼の体に警報を鳴らしている、それだけだ。
――しかし、カズマにとっては十分信用に足る、理由。
「――――」
決心したかのように、カズマは視点を固定した。
今彼がいるのは、ちょうどB-4の南端。そしてそのど真ん中だ。
正確に言えば、B-4の中心から約200m程度南に行った場所ということになる。
そして、ここは隠れ場所には困らない。
点在する民家、映画館、そして森。
この場合、カズマにとって気を付けるべきなのは二つ。
一つは自分が奇襲を受けること。もう一つは、隠れたまま逃げ切られることだ。
もっとも、カズマの注意はほとんど後者に対して向けられていた。
相手が襲い掛かってくるなら上等……むしろ御の字。
ちんたら下らない駆け引きをやっているより、ただ喧嘩をするほうが単純でわかりやすい。
彼はそういう性格だ。
つまり――まるでかくれんぼのような今の状態は彼にとって好ましいものではない、ということでもある。
「森か……それとも建物か」
位置を変えないまま周囲を見渡し、苦い顔でカズマは周りを見渡した。
いくらカズマでも、高いところにいたほうが探すのに好都合だということくらいわかる。
そして、建物と建物の間を移動するには、一度外に出なくてはならないということもだ。
更に、時刻は夕方。日は落ちてきている。ただ待ち続けるだけでは追われる側が有利になるばかり。
とはいえ、焦って下手な行動をすれば、その隙を突かれる可能性も十分すぎるほどにあるのだが。
「……めんどくせえ。片っ端からぶっ潰すだけだ」
そう吐き捨てて、カズマは屋根から飛び降りた。
そのまま、跳躍。着地した先は、森のはずれ。山と平地の境界のように置かれた木々。
迷いも逡巡もなく、着地と同時に拳を突きつける。
彼にとっては、動きがないということほどかったるいことはない。
ならば、自分自身が動くだけ。
敵が見つからないというのなら、強引にでも引きずり出す!
「シェルブリット――バースト!」
肩から噴射音を響かせながら、カズマは地にその拳を叩き付けた。
それは木の根ごと、などという生易しいレベルではない。
衝撃は大地を抉り、亀裂を入れ――周囲の地面一帯さえも吹き飛ばす。
土煙が巻き上がり、木片が散らばっていく。
もしセイバーがすぐそばにいたのなら、ただでは済むまい。
仮に離れていたとしても、この威力はなんらかの回避・防御行動を取らせて余りある。
森に、いたのなら。
それほどの一撃ならば、当然隙も大きく。
映画館に潜んでいたセイバーにとっては、奇襲のタイミングとしてこれ以上なく有効だ。
影に潜んでいたセイバーが土煙に紛れて一瞬にして跳躍し、刀を振り上げる。
それでも、カズマはとっさに右腕をセイバーへと向けて伸ばした。
カズマのアルターは、銃弾も軽々とはじき返す盾でもある。
しかし、そんなことはセイバーの前には無意味。
関節などを見切った剣筋が、一瞬で肩から腕を切り離す。
そこまでされて、やっと振り返ったカズマの表情は。
「――来やがったな」
にやりと、笑っていた。
そのまままったく怯む様子も見せず、カズマは後ろへと跳び、距離を取る。
予定通りだと言わんばかりに。
「なっ!?」
セイバーに、その表情を訝しがる余裕などない。
そうしている間に切り落とされた右腕が霧散し――再び、カズマの体に元通り生えたのだから。
アルターの再構成を利用した、右腕の再生。
右腕そのものをアルターと化すカズマだからこそできる、裏技的な方法だ。
そして、予想外の反応は――行動の停止、つまり隙を生む。
その時間、アルターを構成するのには十分に過ぎる!
「もういっちょお!
シェルブリット! バァァァァアアアアアストォォォオオオオオ!!!」
肩のプロペラが再び回転する。
勢いを付けられた拳が、セイバーへと叩きつけられる!
回避など間に合うはずもない。拳は軽々とセイバーを吹き飛ばした。
受身を取って着地したセイバーの兜は砕け……そして、その口からは血が流れている。
……だが、それだけ。戦闘不能になるほどのダメージを受けた様子はない。
すばやく刀で受け流した。とっさに後ろに跳んだ。どちらもしっかりとした説得力がある。
アルターを構成する時間もまた、セイバーに姿勢を立て直させるには十分な時間だったのだから。
だが――本当の理由はただ一つ。
「威力が落ちていますね」
「……うっせぇよ」
苦々しい顔でセイバーに言葉を返すカズマの右腕が伝えているのは、鋭い痛み。
再構成したシェルブリットもまた、今までのものに比べ明らかに色彩が鈍い。
威力に関しては言うまでもないだろう。
カズマには、セイバーのような治癒能力も自然回復させる道具もない。
今までの戦闘のダメージと疲労が、ここに来て顕在化していた。
腕を強引な方法で再生したツケは、相当に高い。
しかし――
「何発でも撃ってやるさ。
てめえは俺の前に立ちふさがった。何度も邪魔をしやがった。
なら――ぶっ飛ばして前に進むだけだ!」
それでもなお正面から喧嘩を売るのが、トリーズナーだ。
「…………」
「てめえがどんな考えを持って殺し合いに乗ったかは知らねえ。
だが、どうせろくでもねえだろうし……」
「――私のせいで失われたものを、返してあげたい」
「……何ィ?」
言葉を辛辣にぶつけていくカズマに、ただセイバーはぽつりと返した。
まるで、小雨が葉を濡らすように、静かに。
「ここに来る前に犯してきた罪を、清算する。
例え泥を舐めてでも。あるいはあの男の首元に剣を突きつけてでも。
……貴方にもあるでしょう。私に殺された仲間が生き返ればいい、と思ったことが。
私を憎く思っている以上は」
優勝を譲る気など毛頭ありませんが、と言い添えて。
剣の向きも表情も変えぬまま、セイバーはそう告げる。
それに対して、カズマは怒ることもなく、笑うこともなく。
ただ、目を閉じた。
「――そうか。ありがとよ。
おかげで、俺はお前とは絶対にウマが合わねえってわかった。
例え今の言葉を聞いても聞かなかったとしても、俺のやることは変わらねえ」
そうして。
彼は、代わりに口を開く。
「俺は後悔なんかしねえ。後ろは向かねえ。
そんなことをしてる暇があったら――」
次に開かれたのは、目。
アルターを使っていなければろくに見えないようになった、右目。
それが、射るようにセイバーを見つめて。
「前に進むだけだッ!」
言葉もまた、放たれた。
「一生相容れませんね、私と貴方は」
「当然だ。
俺はてめえみたいに偉そうでもねえし、背負ってるもんも違え。
俺はただのネイティブアルター。名字もねえ、ただのカズマだ。
けどよ。俺にも誇れるものがある。だから……」
カズマの右腕が、突きつけられる。
肩のプロペラが、唸りを上げる。
その両目が、しっかりとセイバーを見据えている。
「てめえが俺の壁になった以上は!
シェルブリットのカズマの、唯一の誇りで……この拳で!
てめえに、反逆する!!!」
「……いいでしょう。我が名はアーサー、称号は騎士王。
20年程度とは言え、ブリテンから敵を討ち払い続けた身……」
セイバーが、刀を掲げる。
それが纏うのは、風王結界。
魔力が巻き起こす、不可視の竜巻。
「剣を以って、反逆者を鎮圧する!」
風と闘気と、決着の気配を巻き起こし。
王と反逆者は、ここに対峙した。
■
自分で決めたことを、曲げられない気持ち。
宿命から、誇りから――逃げたくない、気持ち。
それは、どっちにもあったから。
だから――これで最後の、本気の勝負を今ここで。
――自分の力、全てを賭けて!
■
路上を王と反逆者が舞う。夕日に照らされながら。
逸れた拳が民家に当たり、その建築材を粉々に粉砕する。
避けられた刀が、地を断つ。電信柱ごと。
顔面を狙った一撃がセイバーの髪を揺らし、
刃がカズマの頬を掠め、筋を作る。
アルターと不可視の刀が、火花を散らす。
闘いは苛烈を極めていた。
しかし――不可視というアドバンテージはここでも健在だ。
再び、カズマの右腕が切り落とされた。
「それが――どぉしたあああああああああ!!!」
それでも、カズマは意に介さない。あくまで盾として使われたからこそ、右腕が斬りおとされたのに過ぎない。
再々構成。腕が再びカズマの右腕に装着され、アルターがその腕に纏われる。
時間がないことと疲労から、第一形態のシェルブリットだったが……
「兄貴譲りの!
衝撃の、ファーストブリットオオオオオオオ!」
それでも、吹き飛ばすのには十分。
セイバーの体を映画館へと叩き込む――カズマの左肩に突き刺さっていた、刀ごと。
一瞬のうちに、斬り返されていたのだ。
「ぐ……これくらいで!」
シェルブリットを地で叩きつけ、宙へと飛び上がる。
目的地はもちろん、映画館。内部へと吹き飛ばされた相手を追撃する!
その顔を夕日と鮮血で紅く染めながら、カズマは突進していく。
しかし、相手の立ち直りは予想以上に早かった。
待ち受けていたのは、血を拭いながらも得物を携えてしっかりと立つセイバーの姿。
突進してくる相手を不可視の刀で切り裂かんとする見え透いた待ち伏せ。それならば。
「へ、見えなくたってよ……てめえを叩けば勝ちだろうがァ!!!」
「――舐めるなッ!」
視線が交錯する。
夕日が洩れこみ薄暗い電灯が照らす映画館内部、
金属のぶつかり合いより激しい火花を両者の視線が散らす――!
「撃滅の! セカンドブリットォォォオオオオオオ!」
宙から地へ。重力の助けを借り、カズマが急降下する。
猪突猛進という言葉が似合うが――この猪は並みの猪ではない。
戦いのセンスは野生の獣を越え、その力は車を軽々とひっくり返す。
そして、その勘は理屈を介することなく勝つための戦術を生む!
「!?」
セイバーは回避するために相手の軌道の目算を付け……目を見張った。
カズマが狙っていたのはセイバーがいた地点よりも少し手前。
何も床に拳を叩きつけられ、陥没し、歪んでいく。
その下にあるのは地下道だ。地面に空洞がある以上、他の地面に比べて脆い。
穴が開かないまでも亀裂が走り、床が揺れる。
巻き込まれるのを嫌って、セイバーは更に後ろへと跳んでいく。
しかし、カズマの狙いは床ではない。彼の狙いは、そんな低いところにありはしない。
そもそも、カズマは地下道を知らなかったのだから。
床をシェルブリットで砕いた以上は、破片が周囲に散らばる。
重量のない、塵や埃と同じくらいの大きさの破片はどうなるか?
当然、空気を漂う。これほどの破壊だ、それらは一時的とはいえ視界を遮るほどに多い。
だが、この煙はセイバーにとっての目潰しになるがカズマにとってはそうではない。
ただ一点。風に包まれ、破片や煙を払う物が有る!
「へ、見えたぜ! はっきりとなあ!」
覆われた視界の中でカズマが睨むのはただ一点。
明らかに風を生み出し、微細に塵芥を動かしている不可視の刀、ただ一つ!
「抹殺の!
ラストブリットォオオオオオオ!!!」
吹き上げた破片を片端から吹き飛ばしながら、シェルブリットが迫る。
あくまで一回限りの目くらましだ、先手さえ取れれば後は構わない。
黄金の腕が不可視の刀とぶつかり合う。
火花をあげ、軋ませながら押し込んでいく。
しかし、カズマ自身も気付かざるを得なかった。
まっすぐ、正面からぶつかれていないことに。
――そう。カズマが目測としていたのは、あくまで不可視の刀にすぎないのだ。
相手の姿はおぼろげにしか見ていなかったのは、カズマも同じだ。
故に、シェルブリットの狙いは僅かにずれており……それが、セイバーを衝撃を受け流すための素地となる。
きん、と金属音が走り、刀が飛んでいった。
「……っ!」
「く――!」
互いの歯軋りが響く。
刀は折れなかったものの、セイバーの手から離れ。
カズマの拳は、刀を弾き飛ばしたもののセイバーに当たらず逸れた。
攻め切れず、防ぎきれず。強いて言うならば痛みわけの状態。
セイバーに武器はなく、カズマのアルターは弾切れ。
それでもなお、両方が追撃を選んだ。
「…………」
「……のヤロォ!」
セイバーは鉄骨の破片を蹴り上げてその手に掴み、風王結界を纏わせ即席の剣とする。
カズマは弾切れのシェルブリットで殴りかかる。
シェルブリット第一形態が三発限り、というのは見ればだいたい分かること。
そもそもセイバーはカズマとの交戦経験がある。気付くには十分だ。
だからこそ、彼女はここは押し切るべきと判断した。
そして、カズマは弾切れになったからといってわざわざ退くような性格ではない。
カズマの髪を、不可視の剣が掠めていく。
ただでさえ薄暗い映画館の中を、透明な刃と毛髪が舞う。
更に頭部から胴体への返し。
だがそれはカズマの右腕とぶつかり、同時に金属で覆われた正拳が突き出された。
相手の得物を弾き返す防御と脳震盪を狙う攻撃を同時に行う行動。
しかし、それはセイバーの髪を少し巻き上げるだけだ。
スウェーバックによる最小限の回避を用い、カズマの腕が伸びきる限界ギリギリでセイバーは拳を回避したのだ。
そのまま反撃に移ろうとした瞬間……セイバーの脛に、痛みが走った。
「……っ!?」
「誰が殴るだけしかしねえっつったよ!」
直撃したのは、カズマの下段蹴り。
英霊とは言ってもこの場においてはほとんど人間だ、流石に痛む。
続いて繰り出されたのは、左ストレート。しかし、それは赤く染まった。
カズマ自身の鮮血によって。
「ぐあ……!」
「ただの棒でも風王結界を纏った以上、右腕以外で受ければ斬られるということを忘れないことです!」
不可視なはずのセイバーの得物もまた、返り血で赤く染まっていた。
誰の血かは言うまでもない。
カズマは痛みで目を剥きながら、それでも。
「へ……おかげで、てめえの得物が丸見えだぜ!」
「強がりをっ!」
再び、右腕を突きだした。今度は周囲の空気ごとかき混ぜるラリアット。
セイバーは得物を叩きつけて、力ずくでそれに対抗した。
何度も上がるのは火花と金属音。
大技は互いに撃ち出さず、通常の攻撃で以って戦う。
――刀を拾いに行くにせよアルターを再構成するにせよ、ある程度の時間が必要である。
そして、二人は逃げてその時間を確保するのではなく、
近接戦闘で相手を圧倒して隙を生み、大技をぶつける前段階とすることを選んだ。
逆に言えば……この戦闘が終わるときが、決着へ向けてのカウントを一気に進めるということだ。
セイバーが身を屈めて腕を得物ごと横に構えた。払いと言うよりは突きに近い。
相手のラリアットを回避し、その勢いを利用して刃をぶつける。カウンターの要領だ。
勢いあまったカズマの腕はセイバーの頭上を通り過ぎかけて……突如、振り下ろされた。
反射的に、相手の動きを見切ったのだ。これならセイバーの攻撃が届くこともない。
それでもセイバーはとっさに前転し、回避。めきりと床に亀裂が走る。
しかし体勢を立て直すより早く、カズマの後ろ蹴りが突き出され……セイバーの頬を掠めた。
舌打ちをしながらカズマが振り向こうとした、瞬間。
セイバーが片手で、カズマの足を掴んだ。
そのまま、足を刈り取るべく得物を振り下ろす。
だが結論から言えば、この攻撃は足を両断するには至らなかった。
理由は三つ。得物が完璧ではなかったこと。
次に、体勢が十分ではなかったこと。
そしてもう一つ……カズマが素早く、バク転の要領で体を持ち上げたこと!
腕を地面につけて足を天へと向ける動き。当然、セイバーもそのまま足とともに持ち上げられる。
そのままカズマはオーバーヘッドキックのように足を動かし、セイバーを投げ飛ばした。
セイバーが壁に叩きつけられるのを確認し、カズマは素早く右腕を突き出す。
言うまでもなく、アルターを再構成し弾を補充する……もしくはシェルブリット第二形態へと移行するためだ。
相手が体勢を立て直せていれば前者、立て直せていなければ後者。
距離が短いためどの道一回は確実に攻撃を受けてしまうが……
一回までならば、セイバーの攻撃は受けられる。
今セイバーが使っている武器とも呼べない武器ではシェルブリットは断てない。
腕でその斬撃を防ぎ、シェルブリットの反撃で決着を付ければいいだけの話。
相手の姿勢を確認するため、カズマはセイバーへと視線を向け……
彼女の顔が勝利を確信しているのと、武器が変わっているのに、気付いた。
そう。セイバーが吹き飛ばされた、否。
吹き飛ばされたと見せかけて、自分から跳んだ先は……
「はあっ!」
セイバーが再び距離を詰める。腕をかざして防御したものの、何の意味もありはしない。
アルターを再構成しようと隙だらけのカズマを、セイバーは再び拾い上げた刀で以って一閃した。
ころりと黒い床の上に、金属に覆われたカズマの右手が転がり落ちる。
そう、セイバーが移動した先。
それは、刀が弾き飛ばされた場所。
強烈な一閃はカズマの右手を斬りとばすに留まらず、カズマの体そのものを弾き飛ばし、
近くにあった椅子に叩きつけた。
この隙を見逃すような彼女ではない。
夕日の赤と電灯の黄に照らされながら、風を集束させていく!
「風王――」
風が、竜巻と化す。
これもまた、大技。威力が高いが故に、隙も大きい。
だが、カズマがその隙の間にできたのは、立ち上がることだけだった。
「――結界!」
気合いと共に、セイバーが刀を振り下ろす。
竜巻と化した風龍が、主の求めに応じて唸りを上げ、カズマの首目掛けて踊りかかる。
風王結界による遠距離攻撃は、純粋な魔力攻撃だ。
そしてそれが風のカタチをなしている以上、その弾速は極めて早い。銃弾など、比ではない。
防ぐとすれば風王結界の威力を上回る何かで相殺するか防ぐか、
それとも撃つ前の隙を一瞬で距離を詰めて攻撃することで突くか。
シェルブリットを撃ち切ったカズマには、どちらもすることができない。
だが、カズマは防御も、回避もせず。
それどころかその右腕を隠し、あえて、自らの身で風王結界を受けた。
顔面をただ左腕で覆っただけ。そんなちゃちなガードで受けきれるような攻撃ではない。
風がカズマの身を斬り刻んでいく。足はゆれ、鮮血は奔り、左腕が飛ぶ。
強力な旋風はそれで止まるどころかセイバーの視界をも覆い隠し……カズマの背後の壁にぶつかって映画館さえ揺らす。
故に風王結界を飛ばしたセイバーには、見えなかった。
全身を切り刻まれ左腕を失い、血を噴き出しながらも立っているカズマの姿が。
――アルターの再構成を済ませ、再生した右手を突き出しているその姿が!
そう。
魔力を取り込んだアルターは、その構成が促進される――!
「見せて、やる……これが、俺の。
ヴィータ、譲りの」
呟くような声はセイバーには届かない。けれど、その体に悪寒が走る。
右腕を隠したのは、腕を傷つけないため。手の傷をこれ以上を悪化させないため。
再生するアルターにダメージを受けることで、再構成を遅らせないため。
そうして、一瞬でも早く攻撃に移り、大技を撃ち出した相手の隙を突くため!
自らの身をも盾にして……相手の大技を真正面から耐え切ったカズマが、叫んで腕を振り上げる!
「鉄槌の!
シェルブリットだああああああああああああああああああああ!!!」
そう、防げないと言うのなら。
その攻撃を耐え切って、追撃される前に相手をぶっ倒してやればいいだけだ。
煙を突き破って、カズマが突進する。
弾丸……いや、大砲という表現さえも、この攻撃の前では生ぬるい。
セイバーにはほとんどいきなり現れたかのようにしか見えなかっただろう。
それでも、とっさに刀で防御できたのはさすが剣の英霊というべきか。
しかし、必殺の意志を籠めたカズマのこの攻撃を防ぐには、甘すぎる。
刀は数瞬で折れ――いや粉砕され、更にセイバーの胴体に拳を叩きつける!
「おおおおぉぉるぁあああああああ!」
「――ぐ、ぐ……!」
そしてそれでもなお、カズマはセイバーと密着したまま突進していく。
止まる気はない。壁にぶつかっても、だ。壁をぶち破り、自分の力が続く限り突き進む!
壁に叩きつけられる寸前、セイバーは歯を食いしばり、念じた。
薄れる意識と圧倒的なスピードの両面から白く飛んでいく風景の中。
口から血を吐き、意識を飛ばされかけながら、それでも。
壁に叩きつけられる寸前。かろうじてセイバーは魔力噴射で体をずらし、拳から逃れて倒れこむ。
それでもカズマは止まらず、シェルブリットは壁に直撃した。
相手が回避したと分かって、カズマは勢いを増すのを止めても……今までの圧倒的な速さがなくなるわけではない。
圧倒的なまでの速度で突進していたカズマが止まるまでには、数秒を要し。
やっと止まったときには、開けた穴に腕をめり込ませながらもたれかかり。
そして――その間に壁に入った亀裂は一瞬にして視界一杯に広がっていた。
「……!?」
「な、なんだ……!?」
セイバーとカズマに動きはない。むしろ動けない。
それぞれ自分の大技を使い、相手の必殺技を直に受けた身。立ち直るには時間が足りない。
しかし、崩壊の予兆は待つことを知らない。
そうしている間にも亀裂は走る。柱は崩れ出し、天井は落ち始める。
立ち上がろうとしたセイバーの前に映写機が落下し、
壁から手を離したカズマの頭に破片が直撃する。
原因は言うまでもない。
二人が巻き起こした衝撃に、耐え切れなかったから。
そして、結末も言うまでもない。
音を響かせ、破片を飛び散らせ。
映画館は……無残にも倒壊した。
■
映画館に、今までの面影はない。
完膚なきまで崩壊したそれは、今となってはただの瓦礫の山。
何も音を発せず、何も見せず。
ただ、夕日に照らされながら、その痕を見せるのみ。
しかし……瓦礫の一部が、突如ゆれ始めた。
ゆっくりと、確実に。
そうして、その瓦礫が崩れ落ちて。中から二つの背中が同時に姿を現した。
誰か、などというのは言うまでもない。
そのまま、二人は息を吐きながら体を持ち上げていく。
痙攣しながら、ゆっくりと。何秒も、何十秒もかけて。
立ち上がったのもまた、ほぼ同時。
セイバーの手に、風王結界はない。刀さえない。
カズマの腕は、生身だった。アルターは粉砕され、構築することもできない。
「いい、加減、諦めやが、れ、てめえ……」
「それは、こち、らの、セリフ、です」
互いの言葉は不明瞭。疲れも傷も限界。それでも、どちらも諦めようとはしない。
ふらつきながら、カズマが歩き出した。本人は走っているつもりだろう。
しかし、その速さはかなみのそれよりも遅かった。
それでも、カズマはセイバーの傍まで歩み寄り、拳を振り上げる。
アルターも技法も糞もない、市井の喧嘩でよく見るデタラメな攻撃だ。
隙だらけのそんな攻撃を、今のセイバーは防げない。
なんの変哲もないただの拳を、何もすることができずに擦り傷だらけのその顔に受けた。
「……っあああ!」
わずかな魔力を振り絞って、セイバーが拳を返す。
明らかに鈍い攻撃。その辺の女子高生が殴っても大して変わらない。
それでも、カズマはそれを顔面にあっさりと受けて……見事なまでにふらついた。
なんとか姿勢を立て直し、息を吐きながら足を振り上げる。
カズマの回し蹴り――というには不恰好すぎるが――はセイバーに直撃し、
それでも、セイバーは転びそうになりながらその足を掴んで、投げ飛ばした。
受け身を取ることもできず、瓦礫の山からカズマが転がり落ちる。
それを追おうとして……セイバーはその場に倒れこんだ。
痛みで顔を歪ませながらも、セイバーは何とか立ち上がって姿勢を直し、ジャンプした。
そのままカズマの上に着地し、踏みつける。一回に留まらず、何度も。
本能的に、カズマは肺の空気や口の中の血を吐き出していた。
ただでさえ夕日で赤い地面が、違う赤に染まっていく。
「……ご、のぉ!」
「うっ……!?」
痙攣しながらも、カズマはとっさに手を振る。その中にあったのは砂。
兜がないセイバーには、目潰しとして十分すぎる……もっとも、鎧もほとんどが砕けているが。
セイバーがふらついている隙に起き上がったカズマは、そのまま肘を相手の胸へと叩きつけた。
今度はセイバーが血を吐く番だ。しかしカズマは止まらずに頭突きをかまし、更にタックルを仕掛けて一緒に倒れこんだ。
肘と膝を揺らしながらも、なんとかカズマはセイバーの上に馬乗りになろうとして……
股間を蹴り上げられ、耐え切れずに悶絶する。
その隙にセイバーは相手を振り払い、這いながら距離を取った。
「あ……く、ああああああ!」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」
もう、完全にどちらも土まみれだ。
着衣はボロボロ、体は傷だらけ、立ち上がるのにさえ時間が必要。
ボクシングだったらとっくの昔にタオルが投入されている。
それでも、二人は何とか立とうとする。勝つために。
「気に、いら、ねえんだよ……」
そのさなか。
突然、カズマが声を上げた。
疲れと負傷で、普段の声よりそれは遥かに小さく。
本人の意識もかなり白濁していたけれど。
「てめえの、その、後ろ向きな、姿勢が、気にいらねえ!」
口の中に溜まった血を吐きながら、カズマは言葉を吐き出した。
自分の中に溜まった敵意をも、吐き出すように。
それに帰ってきたのは、セイバーの敵意を籠めた視線。
敵意と敵意は、空気を漂いながら夕日に照らされつつ相殺しあう。
「やり直しなんて、望むかよ!
ましてや、あんなヤローに、与えられるモン、なら、尚更だッ!
悔しくても、すげえむかつく過去でも!
むかつくヤローに与えられる、やり直しなんか、望むか!」
「だから、相容れないと、いったんです。
自分のやったことに、責任くらい持たないで、何が王か!」
「それで、てめえはどうする!
後ろの、責任、取るために、立ち止まっている間に、また、責任増えてんだろうが!」
「私は、本来なら、とうに、終わった人間です。
いつもいる、のは、聖杯が、ある場所。
死んでは、目的を果たせなくなっては。違う、時代、違う、場所に、蘇る。呼び出される。
先に進むことなど、許されては、いないし、できもしない!」
「できる、できないが、問題じゃ、ねえ!
やるんだよ!!!」
「人間と、英霊の、違いも、知らないで……!」
そう吐き捨てて、セイバーは平手でカズマを殴りつけた。
小気味いい音がして、カズマの顔の向きが強引に横を向かされる。
ふらつきながらもカズマは歯を食いしばり、セイバーの顔を殴り返した。
後退するセイバーを追おうとして……カズマは数秒掛けて、一歩を踏み出す。
そうして繰り出したカズマの次の拳は、セイバーのエルボーブロックに阻まれた。
カズマの拳からめきりと嫌な音がする。たまらずカズマは後退した。
しかしセイバーもブロック越しの衝撃にふらついて、後退する。
なんとか二人が体勢を立て直して、ただ佇むこと数秒。
両者の間に、ふわりと風が吹いた。
それが合図かのように、カズマは拳を掲げる。
風で舞っていた木の葉や砂が消え去り、霧散し……カズマの右手に集う。
かろうじて右手にだけ、シェルブリットが再構成されていく!
そして、セイバーはぼろぼろになっていた鎧の残骸の一部を剥ぎ取った。
まるでナイフのように尖った形をそれを掲げ、セイバーは目を閉じる。
残った魔力を振り絞り……風王結界を覆わせる!
「てめ、えの……」
「私、の――」
そうして、二人は目を見開いた。
最後の力を振り絞って、腕を振り上げて走り出す。
普段のそれよりはずっと遅いけれど……これが、今の二人の全力疾走だ。
「負けだあああああああああああああああああああ!」
「――勝ちだァァァァァァァァァァッ!!!」
そのまま、振り下ろされたそれは。
綺麗に。
互いの心臓を、直撃した。
音はない。ただ、風が舞う。
時が止まったかのように、二人は動かない。
そうして、しばらくしてやっと、動き出す。
男と女と言う区別もなく。
反逆者と騎士王と言う区別もなく。
それぞれの誇りの、区別さえなく。
ただ、二人は――何も言わず、何もせずに倒れ伏す。
その表情は、まるで。夢を、見ているようで――
二人は、動かない。
風が撫でても、動かない。
瓦礫が転がって音を立てていっても。
夕日に照らされ、赤いまま。ただ、寝転んだまま。
■
そうして、寝転んだまま、たっぷり一分が立った頃だろうか。
突如……夕日を背に、動く影が現れた。
それは、たった一つだけ。
もがく様に、痙攣するように動きながら、それでもしっかりと起き上がり。
たっぷり数分掛けて、立ち上がった。
夕日の、黒い影で顔を隠したそれは。
「……どう、だ」
高々と、天へ。
自分の力を誇示するかのように、拳を掲げた。
木々が、またもざわめく。
風が、髪を吹き上がる。
夕日が、ほんの少しだけ角度を変え、その顔を赤く照らす。
その顔は……。
「テンカウントは、とっくに、すぎてる、ぜ。
セイバー、さんよお」
紛れもない、カズマの顔だった。
その顔は、表現しづらい表情だ。
痛みに歪んでいるのか。
勝利の実感に喜んでいるのか。
今までのことを思い返し、寂寥感を味わっているのか。
自分の強さを、感嘆しているのか。
傷だらけ、痣だらけの顔では、判別しようがない。
ただ夕日と鮮血で赤く染まり、何らかの表情を取っているということが分かるだけ。
それでも、一つだけ言えることがある。
彼は、死にさえ反逆したのだ。
「俺の……勝ちって、ワケ……だ」
そうして、自分の勝利を、しっかりと見届けて。
カズマは。その場に、倒れこんだ。
真実、力尽きて。自分の因縁に、ケリを付けて。
「眠ぃ、な。
……ゆめ、でも。見るか……」
■
■
あれから何度、転生を繰り返しただろうか。
何度、様々な場所に聖杯を得るために呼び出されたのだろうか。
数回、数十回、数百回。
数え切れないほどの数、表現できない長い探求の旅。
その間に悲劇の具体的な記憶は薄れて磨耗して、罪の意識だけが肥大化した。まるで、悪夢のように。
そうして、ただ必死に聖杯だけを望むようになって。
その最後に――彼女は呼び出された。
「……問おう」
右手には風に包まれた聖剣。仮とはいえど英霊として登録されている以上、召還される彼女の姿はいつも一定だ。
……けれど、精神は違う。
自分でやり直したいという気持ちは、自分はふさわしくないという考えになって。
そして、心の隅に、どこかで聞いた言葉を無意識のうちに『刻んで』。
素顔を見せて、目を見開いて。少女は赤毛の少年の前に凛と立つ。
「貴方が、私のマスターか」
――そうして。あるべき物語が、やっと始まる。
【To be continued 『Fate/stay night』】
■
夢を。
夢を見ていたんです。
とても烈しく、荒々しく、雄雄しい夢を。
ああ――私達は見続けていたんです。
――ひたすらに!
【カズマ@スクライド 死亡】
■
その病院はまさに静寂と喧騒と繰り返していた。
少女少年と刑事が出会った。
神父とメイドが攻めてきた。
安らぎを求めた幼い少年二人がやってきた。
少年たちは錯乱した男に襲われた。
右手を失った少年の傷と心を癒した。
魔性の女に場を乱された。
主催に反旗を翻した者達が集まった。
黒い人形の策略と騎士の猛襲により、疑心暗鬼が蔓延し、血の雨が降り注いだ。
そして、再三反旗を翻した者達の拠点になった。
しかし、今度は鎧の剣士によって襲われて……。
……そして今。剣士を退けたそこには、再び静寂が戻っていた。
◆
「あの球体は何だ? あんなの最初からあったか?」
「いいえ、あんなの見た記憶ありませんよ。それに、見たことないって言ったら、あの城みたいな建物も……」
「どうなってる!? 一体何が……」
陽が沈み始め、朱くなる気配を見せつつある北の空の向こうに見える謎の建造物と黒い半円状の球体。
レントゲン室前にいた男達の目にはそんな奇妙な二つのモノが映っていた。
「ついさっきまで見えてなかったはずなのに……。まさかとは思いますが、例の襲撃者とやらが来たのが影響してるのでは?」
ゲイナーは大人二人にそう提案するが、二人の顔には困惑の表情が浮かぶ。
「そう言われても、こっちはただの元商社勤めの運び屋だぜ? あんな奇怪な現象について一人で講釈できるはずないだろ」
「あれがホログラムではなく、現実に存在しているものなのだとしたら、俺にも何とも言えないな」
「……あー、もう! これだから大人は!」
ゲイナーが苛立ち、頭を掻き毟る。
すると、そのゲイナーの耳にこちらに向かって走ってくる足音が聞こえてくる。
それは、当然のようにロックやトグサにも聞こえているわけで、三人は同じように音のする方向を向く。
そこで彼らが見たのはこちらに近づいてくる見慣れた褐色肌の男と自称猫型ロボット、そして……
「しんのすけ君!!」
ロックが褐色肌の男の横を駆ける少年へと声を掛ける。
すると、少年のそれに応えるように速度を上げ、ロックの名を叫びながら駆け寄る。
「ほっほ〜い、ロックおにいさ〜〜ん!!!」
自分達の仲間であり、生存者の中で最も最年少であろう少年が無事であることにロックは安堵の表情を浮かべる。
一方のゲイナーとトグサも突然失踪した褐色肌の男ゲインの帰還に安堵の様子だ。
「ゲイン! お前今までどこに……」
「あのですねぇ、勝手に消えてもらってはこっちとしても困るわけで…………」
そこまで口にしたところでゲインに声を掛けた二人、そしてロックは気付いてしまった。
ゲインが背負っていた金髪の少女の惨状に。
「何があった? 敵襲があったとは聞いていたが……」
「……話はフェイトに手当てしながらでいいか」
ゲインの静かな一言に対しては、何の反論もなかった。
――言い換えれば、それほど少女の容態は芳しくないように、その場にいた一同には見えたのだ。
――レントゲン室内。
フェイトの応急措置はゲインやトグサによって行われた。
彼女の傷は子供のやんちゃで済まされるレベルを遠に越えていて、重傷箇所も複数あったが、ここが病院でありそれらに処置する為の薬品や道具が豊富にあったのが不幸中の幸いかもしれない。
彼らや、ロック、ドラえもん、しんのすけらの助力により、なんとかその措置は終った。
「……ふぅ、これで大方は終ったか」
「骨も折れてるみたいだし、本当はちゃんと医者に診てもらって、しかるべき措置をとるべきなんだろうがな……」
包帯を至る箇所に巻かれ横たわるフェイトの姿は、痛々しくみえる。
「フェイトちゃん……しっかりするんだよ」
「そうだゾ! 気合でファイヤー、だゾ!!」
ドラえもんとしんのすけが目を閉じたままの少女を横から励ます。
後は、彼女自身の回復力に託す他なかった。
そして、そんな少年少女を横目に、ゲインらは治療中から交わしていた情報をまとめ、今後の方針について話し合っていた。
「……さて、と。今の俺たちがすべき事は大きく分けて二つだ。まず一つは……」
そう言いつつ、ゲインが指差したのはエクソダス計画書に書かれた一文。
――2).その発信すべき電波を特定するためにトグサがギガゾンビのCPUへと進入(ダイブ)する。
―― ※その前提として、キョンと合流しノートPCを受け取る必要がある。
「シンノスケのお陰で、ようやくこれを行うための道具が来たわけだからな。まずはこいつをしないと首輪に関しちゃ何も始まらない」
「――ということは、俺の出番ってわけだな」
トグサが顔を上げ、真剣な面持ちになる。
この作業は、首輪に用いられている電波(?)を特定する為に必要なこと。
つまり、自分の行動如何でエクソダスの進行が左右されるということだ。
そう考えると、あまりに責任の大きい仕事である。
……だが、他の九課のメンバーが皆逝ってしまった今、電脳通信やダイブが出来るのは自分しかいない。
やるしかないのだ。
「長門の遺志、キョン少年やしんのすけ少年の努力を無駄にはしない。……任せてくれ」
「何か分かり次第、僕も組み立て作業に移れるようにしとかないと、ですね」
トグサの横にいたゲイナーが技術手袋を片手に言葉を紡ぐ。
彼もまた、技術手袋による首輪の解除装置を作ることを己の使命とし、それに責任を感じていたのだ。
それを見て、ゲインはそんな使命を帯びた少年の頭をくしゃくしゃにする。
「よし、そっちは任せたぞチャンプ!」
「わ、分かりましたから、手を離してください!」
ゲイナーに言われてようやく手を彼の頭から離すと、ゲインは話を続行する。
「……まぁ、そっちの用事はそういうことで決まりだ。そして、あともう一つのやるべきことは……」
「キョン達の捜索だな?」
ゲインが言い出す前にロックが口を開いた。
「しんのすけ君の証言を基に考えると、ハルヒはあのセイバーっていう剣士に襲われてて、キョンもそこに向かってるっていう話だったな」
「あぁ。あいつらを迎えにいったレヴィとカズマって少年がその事に気付いて、そっちに救援に向かってる可能性は大きいが、
それにしても、この時間になっても戻ってこないとなると正直心配だ。それに、リンが消えたってのも気になる。
そっちの捜索もする意味でもここは一つ、おr――――」
「俺に行かせてくれないか?」
ロックは、ここで再びゲインの言葉に被せるように名乗りを挙げた。
「俺に……キョン達と凛の捜索を任せてくれないか?」
その言葉には、ゲインだけでなくトグサやゲイナーも驚いた。
何しろ、彼はこのメンバーの中では一般人に部類される人間。
ロアナプラという世界でも屈指の危険地帯に住居を構えてはいるものの、武器の扱いに関しては素人の……どちらかというと頭脳労働担当の男だったのだから。
「ロック……お前、本気か?」
「あぁ」
「外にはまだセイバーがいるし、俺が見た半透明の巨人やらグリフィスとか言う力を暴走させた奴が潜んでるかもしれないんだぞ?」
「それでも、キョン達は俺の仲間だから。エルルゥの墓前で結束を誓った大事な仲間だからな……」
思えば、セイバーに彼らが襲われたのは、あの時、自分の判断で彼らを民家に戻らせたのが原因だったのかもしれない。
確かに、当時はそのような事を予知できるわけはなかったし、病院には危険視していた凛がいて、むしろ病院行きの方が危険であった。
だから、全て自分の責任というわけではない……のだが魅音や沙都子、果てはトウカの死を知った今、彼はせめて自ら動いて、まだ生きているであろうキョンとハルヒを探し出したかった。
――全てが手遅れになる前に。
「それに、今お前がここからまた抜けたら、病院を守る戦力が減るだろう、ゲイン?」
「それはそうかもしれないが……」
フェイトが深手を負い、凛がどこかへ消えた今、戦力になりうる人材は狙撃手のゲインと刑事のトグサのみ。
ゲイナーも銃は一応扱えるが、それでも自分の身を守るので精一杯だろう。
またいつ、例のグリフィスという狂戦士が襲ってくるやもしれない状況では、これ以上人材を裂きたくないのが現実だ。
「俺は、確かに銃で人撃ったりしたことはないけど、荒事の中で死なないように立ち回ることには慣れてる。ようするに運がいいってことなんだけどさ」
ロックは決心したような面持ちになると、ゲイン達の顔を見る。
「俺だって馬鹿じゃない。無茶はしないつもりだ。……だから、頼む。行かせてくれ」
「本当にそれでいいんだな?」
そんなゲインの問いに、彼は無言で頷く。
「……分かった。なら、その仕事、ロックに任せよう」
「ゲインさん!? それ、本気でs――――」
「ただし! 成果が出なくても6時を境にして一度捜索は切り上げて、こっちに戻って来てくれ。……日が暮れてからの単独行動は冗談抜きで危険だからな」
「了解だ」
ゲイナーが何か言おうとするのを塞ぐように二人は頷きあう。
トグサも、彼らの様子を見て、止めようとはしない。
すると、ロックは立ち上がり、今度は部屋の片隅へと――元々テーブルに置いてあった道具が集められた場所へと向かった。
そして彼は、その道具の山の中から何やらステッキのようなものを取り出す。
「これがここにあるのも、因果なもんだ……」
それは、かつて行動を共にした獣耳の少女が、人を探すのに使っていた道具。
初めて出会った時、自分が彼女にその探していた人と勘違いされたのも今となっては遠い記憶……。
彼はそれを片手に部屋を出ようとドアの方へと向かう。
だが、そんな彼のスラックスの裾を引っ張る者がいた。
「お兄さん、ハルヒお姉さん達をお助けに行くの? だったらオラも行く!!」
彼を止めたのは、このメンバーの中で最も最年少の少年だった。
「しんのすけ君……。気持ちは嬉しいけど、今外に出るのは危険だ。だから――」
「やだ! オラも……オラもお姉さん達をお助けしたいんだゾ!! 魅音お姉さんやトウカお姉さん、エルルゥお姉さんにサトちゃんの分までオラも頑張りたいんだゾ!!!」
しんのすけは、真剣な眼差しでロックを見つめる。
その瞳に、確かな強さを秘めながら。
「………………」
ロックは知っている。
既に自分が隠してきた事実がゲインによって少年に明かされたことを。
しかしそれでも、少年の目にはあの混乱を治めたときと同じ強い意志が映っていた。
「ねぇ、一緒にハルヒお姉ちゃん達をお助けしようよ。オラ……二人をモミジオロシになんか出来ないんだゾ」
「それを言うなら、『見殺しになんか出来ない』だろ?」
年相応な言葉の間違いを訂正してやりながらロックは、ゲイン達の方を見る。
「止めたいのは山々だが……この状況だと止めたほうが悪者になりそうだ」
「シンノスケがここまで意固地になってるのを無理矢理諦めさせるのは、お前が外へ出るのを諦めさせるくらい難しいだろうな」
「ちょっと! あなた達、本気でこの子まで外に出るのを――――」
「……その子は絶対に守ってくれよ。そうでないとミサエに叱られちまう」
「勿論だ。絶対に守り通してみせる」
そう言ってロックは、道具の置かれている場所から何やらマントのようなものを持ってくると、それをしんのすけに持たせる。
「あれ? これって確かヘンゼルに被せていた……」
「いざって時はそれを体から被るんだ。攻撃を弾いてくれるはずだから」
かつて自分としんのすけが対峙した時。
自分がヘンゼルの攻撃を回避するのに用いた道具をしんのすけに手渡すとは何という因果か。
――そう自虐気味に苦笑すると、ロックは今度こそ部屋を出るべくドアのノブへ手を回す。
すると。
「待ってください、ロックさん!」
またも、それを止める少年の声が。
「あなた、確か何も武器を持っていませんでしたよね?」
自分に近づいてきたゲイナーがそう尋ねてくるので、ロックは首を縦に振る。
すると、彼はロックへと一丁の自動拳銃を手渡してきた。
「これ、護身用として貸します。いざって時は――」
「でも、これは君のだろう? それに俺は銃なんて……」
「でももヘチマもありません! 子供を連れて外へ出るのに丸腰のままだなんて、僕には考えられません!!」
そんなゲイナーの剣幕にたじろぎつつも、ロックはそれを受け取る。
「……あ、ありがとう。それじゃ、行ってくるよ」
「いってきま〜す!」
「絶対に戻ってきてくださいよ? 無茶はしないで下さいよ!?」
ゲイナーの小言を背に、ロックは部屋を出た。
◆
そして、それからすぐ。
病院正面玄関前に出た二人は、ふとそこで立ち止まった。
「さて、と」
ロックは、持っていたステッキを地面に立てる。
「涼宮ハルヒは、どこにいる?」
探すべき対象は凛も含めて三人。
その内、最も急を要するであろうは、セイバーに襲われている最中だったというハルヒ。
考えたくない可能性も脳裏をよぎるが、そんなことを考える暇があったら捜索を行ったほうがいい。
そう考えながら手を離したステッキは…………
「お〜、あっちに向かって倒れたゾ〜」
「東……か」
このステッキの元の所持者と出会った当初は、この靴占いにも似た道具を眉唾物と思っていたが、今はこれだけが頼りの綱。
「……よし、行くぞ、しんのすけ君」
「ぶ、ラジャー!!」
ロックはステッキの倒れた方角を信じて、しんのすけとともに仲間捜索の第一歩を踏み出した。
◆
「……ロックさん達、行きましたね」
「あぁ。後はもう、彼に任せるしかない。こちらにはこちらで、やるべき仕事を終らそう」
「えぇ。分かってますよ」
ゲイナーはそう言うと、ノートパソコンを開いて電源を入れる。
そして、起動するまでの短い時間に彼はパソコンに接続していたi-podを外し、トグサに渡す。
「これ、貴方宛の何かが入ってるんですよね? 今のうちに調べておいてもらえますか?」
「そうだな。調べてみるとするよ」
トグサは、ケーブルが付いたままのi-podを手にするとそのケーブルの先端を自らの項へと接続する。
すると途端に、その音楽端末の中の情報がトグサの中に入ってくる。
無数の音楽データ、顔写真つきの名簿のようなデータ、そして…………
――『製作者(U):長門有希 コメント(M):9課へ』
(これを……俺たちに残したっていうんだな、長門)
トグサは、長門の顔を思い出しながら、データを開く。
すると、まず最初に、やはり彼が元々予想していたような電脳通信の制限解除に関するプログラムを見つけた。
彼はそれを自身にインストールしながら、更にその内部のデータを確認しようとするが……
そこで彼は、想像をはるかに凌駕する情報量を持ったプログラムらしきものを見つけてしまった。
(な、何だこれは……!? 馬鹿な……!)
それは、簡単に言えば情報ネットワーク内に設置された攻性防壁を突破する為の……いわゆるハッキングの為のプログラムだった。
しかも、とびきり難解な……トグサ達の時代では理解できない硬さを持った防壁を突破する為の。
それ故に、そのプログラム自体も相当何回で複雑なものになっている。
(こんな化け物染みたプログラム……長門が作ったとでもいうのか?)
その圧倒的な情報量に気圧されながらも、トグサはプログラムを隅々まで調べる。
すると、そのプログラムを構成する文字列の最後に、何やらプログラムとは違うメモのようなものが見つかった。
彼はそのメモについて調べようとするが――――
「ちょ、ちょっと待ってよ! まさかそんな体でどこかに行くつもりかい!?」
突如、フェイトの傍にいたはずのドラえもんが声を上げた。
トグサはプログラムを調べるのを一時中断し、声のするほうを見る。
パソコンを調べていたゲイナーも、集められた道具を点検していたゲインもトグサと同様にする。
すると、そこにはレントゲン室のドアへと這うように向かっていた上半身だけのツチダマと、ドラえもんの姿があった。
「用jを思いdしてな……外に行kねばならnくなtt」
「そんな体じゃ無茶だよ! ……だったら僕が一緒に行くよ」
ユービックは、負傷したフェイトをここへと運ぶ際に、彼女と一緒に運ばれてきた。
下手に動かれないようにという、監視の意図をもとに。
そして、そんな彼が動き出そうとしていたのだ。
ゲインは、ユービックを抱えて歩き出そうとしているドラえもんを止める。
「ちょい待った、ドラえもん。出る前にこいつに一つ訊きたいことがある」
彼はドラえもんの手に持つそれを見ながら言葉を続ける。
「……まさか何か企んでたりしてないだろうな?」
今まで主催者サイドに立っていたツチダマを見てきたゲインにとっては、やはり目の前のそれは警戒すべき存在であった。
彼は、ユービックのもとへと歩み寄ると、そう尋ねる。
「……グリフィス様のくb輪をなんtか出来るk能性持つおmえ達に、何かsるつもりはない」
「なるほどねぇ。そのグリフィスとやらを助けられる可能性のある俺達を迂闊には殺せない、ってか。……んで、その用事ってのは、俺達にも何か有益だったりするのか?」
「恐らkは……」
ゲインは思考する。
そのグリフィスを思う心は、下半身を犠牲にしてまで彼を守ろうとしたところからも想像はつく。
そしてそれ故に、例の反逆とやらの話も事実であり、このツチダマが協力者になりうる可能性も高い。
だが、その一方でそう簡単に主催者が作り出したロボットを信じきることもできない。
そこで、彼が下した決断は……
「分かった。なら、その用事とやらに俺も同行する。それでいいか?」
「問dい…………無い……」
「そうか。……というわけだから、ドラえもん。お前さんはここに残っても……」
だが、ドラえもんは首を横に振る。
「うぅん。僕も少し外に用事があったから……一緒に行きます」
「……そうか。なら、こっちはお前達二人に任せるか」
ゲインはそう言って、トグサとゲイナーを見ると二人は頷く。
「大丈夫だ。こっちは俺達でなんとかなるはずだ。フェイトの事も、な」
「ですけど、またあの時みたいに勝手に遠くに行かないで下さいよ?」
「お前こそ、俺がいないからってヘマするなよ?」
笑って返すゲインに、ゲイナーは怒りながら反論するが、彼はそれを流しながらドラえもんへと声を掛ける。
「そんじゃ、行くとしますか。そのツチダマとやらの用事に」
◆
レントゲン室を出た二人は、ユービックの指示する方向へと歩きはじめる。
「そこをひだr……」
「うん、分かった。左だね?」
指示されるまま廊下を曲がる。
すると、その曲がった先にあるものを見て、二人は思わず立ち止まってしまった。
「何でこんな場所にドアが……」
「これは……どこでもドアじゃないか!」
そこでようやくドラえもんは思い出す。
ここは、彼とユービックがどこでもドアを通じて、初めて出会った場所だった。
「ねぇ、ユービック。もしかして、用事って……」
「そうd……。いつまdもこれをそnままにし……ておkわけにmいか……ないt思ってn」
それは、失踪したグリフィスを探すのに使えるであろう重要なアイテム。
みすみす放置しておくには勿体無いものだった。
だが、一人そのドアの重要性を今ひとつ理解していない男がいた。
「なぁ、ドラえもん。どこでもドアっつーのは一体……」
「う、うん。どこでもドアってのはね……」
ドラえもんが、どこでもドアについての説明をすると、ゲインは納得したように頷く。
「なるほど。ってことは、首輪をどうにかしたら、こいつを使えばギガゾンビの居る場所に一気に行って奴を叩くことも……」
「そrは無rだ」
ゲインの発案をユービックはあっさりと却下する。
「あの城とsの周囲一帯nは大規模な空間歪曲制限が掛けrれていr……。だkら、ドアでの移動h不可能だ……。まぁ、プrイベートロックの拡大版t考えて……貰って構wな……い」
「プライベートロック……」
プライベートロックとは、どこでもドアでの移動を制限できる機能だ。
これを使えば、トイレや風呂場といった立ち入られては困る場所に入られずに済む。
しかし、これはドラえもんの知る範疇では個室にのみ有効な機能のはずだった。
一つの建造物とその周辺一帯などといった漠然とした範囲に有効なロックなどまだ開発が進んでいないはずなのに……。
しかし、ここで彼はとある事実を思い出す。
そう、ギガゾンビのいた時代は――
「一世紀分の技術の差……ってことか」
「sういうkとだ。……それに、お前達nはまだグリフィスsまを…………探してもらわnくてはなrないんだ。早mった…………m似はよして欲しい……」
ドラえもんとユービックがそんな会話をしていると、やや置いてけぼりを食らっていたゲインは一人、そのドアに手を掛けた。
「だが、どちらにしても、こいつが何かと使えそうな道具だってことには変わりないよな。……だったら、これは俺たちで保管しておく。いいな?」
「……あぁ」
ユービックの返事を聞くと、ゲインはそのドアを持ち上げ、デイパックへとしまった。
どこでもドアを回収した後。
今度はドラえもんの用事を済ますべく、一行は病院の外、庭にあたる部分に来ていた。
そして、そのドラえもんの用事とは…………
「のび太君……太一君…………」
今は亡き親友達の名を呟くドラえもんの足元には、まさにその親友達の眠る墓があった。
カズマから病院を出る前に、ここに墓があることを伝えられていたのだ。
それは、先程のグリフィスとの戦いで奇跡的に被害を被らなかったらしく、盛られた土の上に刺さる風神うちわもそのままだった。
「ごめんよ。僕がもっとしっかりしてれば……もっと強かったら、君達を死なせずに済んだのに……」
ドジで頭が悪く、すぐに道具に頼ろうとしていたのび太。
やんちゃで、色々と無茶な事をすぐにしようとする太一。
二人とも、どちらかといえば“手の掛かる”子供だった。
それこそ、頭を悩ましそうなほども。
……だが、それでも。
のび太には誰にも負けない優しさ、太一には誰にも負けない勇気があった。
死んでいい人間であるはずが無かった。
「君を立派な大人にするって約束だったのにね……。ヤマト君とあわせてあげる約束だったのにね……」
ドラえもんは涙を流しながら、悔しそうに呟く。
子供を守れない子守りロボットなんて、とんだお笑い種だ。
本来ならスクラップ級の失態だろう。
それは、彼自身が一番分かっているつもりだった。
――そして、だからこそ彼は決意していた。
「……僕は絶対にここにいる皆と一緒に脱出する為に頑張るよ。そしてギガゾンビに一発入れてやるんだ! それがせめてもの罪滅ぼしだから!」
トグサやゲインといった大人達は勿論、カズマやゲイナー、フェイト、果てはしんのすけまでがエクソダスの為に何か動いている。
この状況で、22世紀のロボットが仲間の死にいつまでもクヨクヨしていて何もしていないでいいのだろうか?
――答えは否だ。
だからこそ、ドラえもんは二人の墓前に来て、その迷いを断ち切ろうと思ったのだ。
「よし! 頑張るぞ〜!! えい、えい、おー!」
暮れはじめた空に拳を突き上げるのは、あの時のような大勢ではなく、彼一人だけ。
だが、彼の目にはうっすらと、今はいない仲間達の拳が見えていた……。
ドラえもんが拳を突き上げている丁度同じ頃。
ゲインとユービックとは、少し離れた場所で彼を待っていた。
そして、彼は泣きながら拳を突き上げる彼を見ながらふと、コンラッドの死に際し涙を流した新しい主の事を思い出す。
部下の死を悼み、涙を流す主が素晴らしいのであれば、その死を部下の涙を以って悼まれる主もまた素晴らしいのだろう。
自分にもし涙を流す機能があるならば、グリフィスが死に際した場合は確実に号泣するに違いないのだから。
「あいつh……いい主人に…………恵mれた……みtいだn」
ユービックは、ドラえもんの姿を見て素直にそう呟く。
「主人の死n対しt、あれだけの涙をなgすとは……yほどいい主人だったに違いnい」
「いや、それは違うだろう」
だが、そんなユービックの言葉にゲインが横槍を入れる。
「……なzだ? お前nは、あの涙g嘘のもnであるようn見えるのk」
「そうじゃない。あいつとのび太っていう少年が相当な信頼関係で結ばれてるのは確かだろうよ。……だがな、それは主従関係に基づいてる訳じゃないだろうってことさ」
「……? dはどういう関kいだというのd」
「わからないのか? …………ああいうのを“友達”っていうんだよ。尤も、あいつらの場合は“親友”って言うべきかもしれないがな」
◆
i-podの中に入っていたプログラムに残されたメッセージ。
それは、このような書き出しから始まっていた。
―― YUKI.N > このメッセージを見つけた公安九課の人間へ。
YUKI.N、つまり長門有希はプログラムの内容についてこの書き出し以降、簡潔に説明をしてくれていた。
そして、その内容を更に手短に言うならば……
(なるほど。23世紀の攻性防壁に対するハッキングプログラムか。そりゃ、馬鹿みたいに複雑になるわけだ)
レントゲン室に残り、メッセージを読み終えたトグサは、ようやくそのプログラムの意味を把握した。
ドラえもんを製作したよりも更に未来のネットワーク世界。
それがどれほど進歩しているかトグサには予想も出来なかったが、攻性防壁は自分のいる世界の数倍、いや数十倍性能が向上しているようだった。
これがそんな防壁を突破する為のプログラムだというのなら、トグサが信じられないほど複雑でも納得はいく。
(見たこともない防壁相手に、見たこともないプログラム抱えて侵入か。……こりゃ、気合入れなおさないとな)
トグサは、緊張を顔に浮かべる。
しかも、緊張する理由はそれだけではない。
長門からのメッセージには更に、こう残されていた。
YUKI.N > この世界の防壁は一度侵入されると、自動的にその侵入経路に対して対抗するプログラムを構築する機能を持つ。
YUKI.N > 故に、本プログラムは一回限りしか使えない。注意されたし。
一度限り、失敗を許されないハッキング。
そのようなことを先に言われたら、自分の世界でのハックですら身構えてしまうだろう。
……だが、尻込みをしている場合ではない。
これは、自分にしか出来ない、エクソダスの根幹に関わることなのだから。
それに……
(俺は、仮にも公安九課の人間だ。こんなことで失敗してたら少佐やバトーに笑われちまう。それにタチコマにだって……)
トグサは、i-podの内部の調査を止めると、ポケットの中に入れていたメモリチップを取り出す。
(タチコマ……お前の力、借りさせてもらうぞ)
そう頭の中で呟き、メモリチップに向けていた視線を今度はゲイナーへ向ける。
すると、彼は何やらその液晶画面を見続けたまま、何やら作業をしていた。
トグサは、何をしているのか気になり、それを背後から覗くと、そのノートパソコンに映っていたのは……。
「な、何だこれ?」
それは、まさしくゲーム画面であった。
何やら、軽快なBGMもスピーカーからも流れている。
「なぁ、もしかしてこれが……」
「そうです。ドラえもんから受け取った例の“THE DAY OF SAGITTARIUS III”ですよ」
「こりゃ、一体何のゲームなんだ?」
「見ての通り、宇宙艦隊を操って、自分の軍を勝利に導くシミュレーションゲームです」
キーボードを叩きながら、ゲイナーは説明する。
「クリア条件は単純ですが、索敵やら敵の行動予測やらそこそこ頭を使わせるみたいですね」
「……で、君はその……クリアできそうなのか?」
トグサにそう尋ねられ、ゲイナーはキーボードを叩く手を止める。
そして、トグサへと振り返る。
「僕は仮にもゲームチャンプですよ? 格闘系以外でも、ゲーム全般には慣れてるつもりです」
「そ、そうか……。それは頼もしいな……」
「このパソコンには『射手座の日を越えていけ』と残されてたんです。だったら、この“射手座の日”を越える――即ち全クリアしてみる価値はあるはずですよ」
そう言うと、ゲイナーはすぐに画面へ視線を戻し、タイピングを再開する。
「大丈夫です。コツさえ掴めば、意外と簡単ですから。全クリアまでにそう時間は掛からない筈です」
「分かった。なら、それは君に任せ――――」
妙に自身あり気なゲイナーにゲームの件を一任しようとしたその時だった。
「う、うぅん…………」
背後から聞こえてきたのは、まだ幼さを残す少女の声。
そして、そんな声が出せるのはこの部屋でただ一人。
「あ、あれ……私…………あぐぅっ!!」
そう、フェイトが意識を取り戻していたのだ。
420 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 23:15:31 ID:xIv9oqV8
422 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 23:16:41 ID:mGOSPeWT
◆
――……ありがとう
心優しい闇の書の管制人格――リィンフォースは、そう言ってその身を偽ジュエルシード暴走を止める為の犠牲にして消えていった。
フェイトが意識を失い倒れたのは、まさにその直後。
彼女は、その意識を失う間際、こう思った。
あぁ、この怪我じゃ助からないかもなぁ……と。
しかし、そんな彼女の予想は見事に外れたわけで……。
「そう、ですか。ロックさん達が外に仲間を探しに……」
目を覚ましたフェイトは、トグサとゲイナーから自分が倒れてからの事を色々と聞いた。
そして、その中で自分がゲインやトグサらから手当てを受けたことも知った。
よく見れば、体の至る所、そして右目の周りには包帯巻かれ、肋骨の辺りは何か硬いもので固定されている。
「……すみません。手間を掛けさせてしまって」
あくまで謙虚な性格の彼女らしいそんな謝罪に、トグサとゲイナーは揃って首を横に振る。
「君は一人であそこまで頑張ってくれたんだ。そんな謝ることはないさ」
「そうだよ。それに元はといえば、ゲインさんが肝心な時にここにいなかったせいでもあるんだから」
「でも、私みたいな怪我人が増えちゃったら、やっぱり脱出の時に――――いっ!!!」
腕を伸ばそうとしたフェイトは、その瞬間走った激痛に顔を歪める。
それを見て、トグサが彼女の腕を下ろさせる。
「君のダメージは見た目以上に危険なものだ。……今はゆっくり休んで少しでも体力を回復してくれ。それが君に出来ることのはずだから」
「はい、すみません……」
「だから、謝らなくていいというのに……」
呆れたようにトグサは微笑みながら、彼女の体にタオルケットを被せる。
すると、彼女はトグサの顔を見ながら、ふとあることを思い出した。
「あ、あのトグサさん!」
「ん? どうしたんだい? そんなに大きな声を出さなくても――」
「そ、その……私、あなたに言い忘れていた事があるんです」
「言い忘れていた?」
フェイトは頷く。
言い忘れていた事。
それは、この地で出会った彼の仲間とその死のことであり……。
「あの……私を庇ったせいでタチコマは死んでしまったみたいなものなので、いつか謝っておかなくちゃと思っていて、その…………」
フェイトの言葉を、トグサは静かに聞いていた。
「謝ったからどうにかなる問題ではないのは分かっています。ですが言わせてください。…………ごめんなさい」
そして、その謝罪の言葉が出ると、彼はその口をゆっくりと開き始める。
「あいつは俺たちと同じ九課のメンバーだ。……だから、自分が誰かの為に犠牲になることは覚悟していたはずだ。勿論、俺も他の仲間達がそういう事態に陥る覚悟はしていた」
「で、でも……」
「それに、あの時タチコマが体張って守った君は、脱出の為に色々と頑張ってくれている。……それは、決してあいつの死は無駄なんかじゃなかったって事だろう?」
トグサにそう問われて、フェイトは考える。
カルラ、なのは、そしてタチコマ……。
その身を犠牲にしていった者達の死は、自分を何度も失意の底に落とした。
だが、その度に自分は起き上がったはずだ。
これ以上の争いを止める為に、彼女達の死を無意味にしない為に。
「タチコマの……他の皆の死を私は無駄にはしたくありません。……ううん、無駄にしちゃいけないんです」
「その答えを聞けたなら、もう俺に謝る必要なんてない。タチコマもきっと、九課の一員として胸を張れるさ。それに――」
トグサは、ポケットから例のメモリチップを取り出すと言葉を続ける。
「あいつには、ここであともう一頑張りしてもらう必要があるみたいだ。九課の一員として、な」
「そう、ですね……」
カルラの死を知った自分を励ましてくれ、ルイズの攻撃から身を庇ってくれたタチコマが、今またこうして自分を助けてくれようとしている。
(本当に君には助けてもらってばかりだね……。ありがとう、タチコマ)
フェイトは、トグサの掌の上のチップに向けて感謝の意を向ける。
すると、そんなタイミングで部屋のドアが大きく開かれた。
「悪い、少し遅くなっちまった。……って、フェイト……目が覚めたのか!」
部屋の中に入ってきたのは、ユービックの用事に付き合っていたゲイン達だった――。
◆
ゲインは、目を覚ましたフェイトの方へ歩み寄ると、彼女の傍にいたトグサへ声を掛ける。
「容態の方はどうなんだ?」
「大丈夫です。動くくらいな――――」
「意識はしっかりしてるみたいだが、これだけ怪我してるんだ。ひとまず安静にさせておくべきだろう」
『トグサ氏に同意です。それに安静にしていないと魔力の回復もままなりません』
フェイトの声に被せるようにトグサ、そしてフェイトの傍に横たわっていたバルディッシュが答える。
「そうか……。しかしまぁ、意識がしっかりしてるってことはいいことだ。とりあえずは一安心だな」
「……で、お前達の方はどうだったんだ? 用事は滞りなく済ませてきたのか?」
「まあな。確かにこっちにもそこそこ有益な用事だったよ」
確かに、どこでもドアの件については有益だっただろう。
そして、他にも――
「あ、ゲイナー君。そっちは敵がまだいるはずだよ、きっと」
「え? うわっ、ほ、本当だ!!」
「そうそう、そっちそっち! あ、左舷方向から攻撃だよ!」
「わ、分かっています! 少し静かにしてくださいって!」
「……ず、随分と元気になったみたいだな、ドラえもん」
「心の整理がついたんだろうよ。何にせよ、頼もしいことさ」
ゲイナーのゲームを横から見ながら、色々とアドバイスをするドラえもんを見ながら、ゲインは微笑む。
ギガゾンビについて、そして彼が持つ科学技術について最も良く知る存在の精神的な復活は、彼らにとって有益のはずだ。
「お、そうだそうだ。用事に行ったついでに、外に少し出たんだが、その時にこんなのを拾ったよ」
ゲインは、そう言いつつコートのポケットの中から、とあるものを取り出す。
それは、端から見れば何やら土に汚れた白い布に過ぎなかっただろう。
だが、“彼女”にとっては、それは特別な意味を持っていた。
「こ、これ……! もしかして……」
「どうも見覚えがある色の髪が周りに散らばってたから、もしかしてと思って拾ったが、やっぱりそうか」
外でドラえもんを待っている間。
ゲインは、例の巨人が出ていないか、黒いドームに異変はないかなど周囲の状況を確認していた。
そして、その時、彼はふと見つけたのだ。
――その長い金髪が散らばる中に見えた白いリボンを。
「髪はご婦人の命だってのに、酷いことしやがるよ本当に」
彼はリボンをフェイトにそれを手渡す。
「あ、あの……これ……」
「ご婦人を鮮やかに彩る装飾品をそのままにしては、ゲイン・ビジョウの名が廃るからな。……束ねるべき髪がもう無いかもしれないが、受け取ってもらえますかな?」
「あ、ありがとう……ありがとうございます、ゲイン…………」
リボンを手に取った彼女は、それを握り締めたまま涙を流す。
「なのは…………」
再びその手に戻ってきた親友の形見。
それは、まるで長きに渡り会っていなかった友との再会にも似ていて…………。
リボンを握り締めていたフェイトは、いつしか安堵したのか再び眠りに落ちていた。
穏やかな表情でその寝顔を見やると、ゲインは厳しい顔になりトグサに向き直る。
「それで、そっちの方はどうなんだ? ゲイナーはどうやら見た感じ、例の『射手座の日』とやらをやってるようだが……」
「お前の言う通りだ。ゲイナーにはあれを任せている。何でもゲームには慣れてるってことのようだ」
「そりゃそうさ。あいつは、俺達の世界じゃゲームチャンプってことで名が通ってるからな」
再度ゲイナーを見やると、先程と変わらずドラえもんのおせっかいな助言を副音声にして、ゲームを必死にプレイしていた。
「んで、お前の方はどうなんだ? 何か収穫は?」
「勿論あるさ。このi-podという音楽端末の内部を調べていたらだな……」
トグサは、例の攻性防壁の突破に関するプログラムについて簡略に説明する。
その一回限りという使用回数や、タチコマのメモリチップに関する話も含めて。
「なるほど。要するに中々に厳しい作戦になりそうってことか」
「あぁ。きちんとした下準備が必要になりそうだ」
「ま、どっちにしても今はゲイナーがパソコンを使ってるから、ちょうどその下準備とやらや、覚悟を決める時間になりそうだな」
「そうだ、パソコンといえば……」
トグサが何かを思い出したかのように自らのデイパックから、外装が破損しているパソコンを取り出す。
「色々あって言い忘れていたが、例のツチダマが落としていったパソコンを実は回収してい――――」
「そ、そrはっっ!!!」
もう一つのパソコンをゲインに見せていると、いきなり驚いた声が聞こえてきた。
「sれはコンrッドの形見…………!」
「形見って……お前の仲間のか?」
「kンラッドは、wれらとおnじ道を歩mいたが故に、最初にギガzンビに粛清sれた同志……! それhそのコンラッドが使っていtものなnだ。ゆzってくr、たのm!」
「そう言われてもな……まだ、お前を完全に信用できたわけではないしよ」
下手にパソコンを使って何かをされても困るだけだ。
ゲインとトグサは必然的にユービックを警戒する。
だが、ユービックはそれでもパソコンをその手に戻そうと必死だった。
「なr、俺の中に保zんされtいる視覚デーtをそのパsコンで調べるgいい! そうすれば、俺が嘘wついていnいと……分かるはzだ! そして、いmの俺に、助けてくrる他のなk間がいないことmな!」
視覚のデータを見せるという事は、一連のグリフィスとツチダマ達の反逆とその結末を見せるという事。
自分の言葉を真実だと知らせるためには、ユービックにはもはやこの手段しか残されていなかった。
もし、この申し出に乗ってくれなかった場合、自分の手元に仲間の形見が戻ってくることは決して叶わなくなってしまう。
これは一種の賭けであった。
そして、話を持ちかけられたゲイン達は…………。
「そこまで言うのなら、試しに調べてみるとしようか。……それでいいか、ゲイン?」
「そうだな。もしこいつの言ってる事が本当なら、城や空間の歪みの件も納得がいく」
……どうやらユービックは、この賭けに勝ったようだ。
これで、ノートパソコンは返ってくる。
言ってる事を信じてくれ、グリフィス捜索にも本腰を入れてくれるかもしれない。
「ただ、もし何かをやらかそうっていうつもりなら……分かってるな?」
「……sん配するな……。そんなkとは……ない」
銃をちらつかされてなお、気丈に振舞いながらユービックは思う。
一度敵に回した人間との信頼関係の構築が、こうも難しいとは、と。
――陽が沈もうとしている中、病院内は静寂に包まれていた。
【D-3・病院内レントゲン室/2日目・夕方】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労(休息中により回復傾向)、SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾6/6発、予備弾薬×11発)
[道具]:デイバッグ、支給品一式、警察手帳、i-pod
タチコマのメモリチップ、エクソダス計画書、コンラッドのノートパソコン(壊れかけ)
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:ユービックの視覚データをパソコンで調べる。
2:ハックに備える。
3:フェイトを保護する。
4:凛達が心配。
5:ハルヒか他の人間にロケ地巡りをしてもらうよう頼む。
[備考]
※ギガゾンビの城を確認しました
※グリフィスやユービックのことについてロックから伝え聞きました。
※まだ、ユービックに対しては疑心を持っています。
※i-podの中身は、電脳通信制限解除のプログラムとハッキングに必要な攻性防壁突破プログラムでした。
※前記のうち、後者を使用できるは一回限りと思われます。
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:右手に火傷(小)、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)
[装備]:ウィンチェスターM1897(残弾数5/5、予備弾薬×25発)、NTW20対物ライフル(弾数0/3)、悟史のバット
[道具]:デイパック、支給品一式、スパイセットの目玉と耳(×2セット) 、どこでもドア
トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ、エクソダス計画書
[思考]
基本:ギガゾンビを打倒し、ここからエクソダス(脱出)する。
1:ユービックの視覚データをトグサと共に調べる。
2:フェイトを看病する。
4:ユービックを警戒。
5:皆を率いてエクソダス計画を進行させる。
6:時間に余裕があれば、是非ともトウカと不二子を埋葬しに戻りたい。
[備考]
※仲間から聞き逃した第三放送の内容を得ました。
※首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています。
※モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました。
※ユービックの情報を疑いながらも、亜空間破壊装置が完全に破壊された可能性が大きいと考えています。
※この時点では、ゲインは神人が病院へ害をなす可能性を考えています。
※どこでもドアを使用してのギガゾンビ城周辺(α-5のエリア一帯)への侵入は不可能です。
【住職ダマB(ユービック)】
[状態]:ダメージ甚大、上半身だけ、言語機能に障害
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:グリフィスを助ける。そのためならば、参加者との協力も惜しまない
1:グリフィスを捜索
2:1を達成するために、協力者とひとまず信頼を構築したい
2:コンラッドのパソコンを回収したい。
[備考]
※ギガゾンビの言葉(ツチダマはいつでも爆破できる)はハッタリかもと思いつつあります。
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:疲労蓄積、風邪の初期症状、腹部と後頭部と顔面に打撲(処置済み)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
[装備]:技術手袋(使用回数:残り14回)、トウカの日本刀、コンバットナイフ
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料一日分消費)
ノートパソコン+"THE DAY OF SAGITTARIUS III"のゲームCD(ディスクが挿入されている)
スタングレネード×2、スパイセットの目玉と耳
クーガーのサングラス、グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)、エクソダス計画書
病院内で見つけた工具箱、解体された首輪、機械の部品多数
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出
1:“THE DAY OF SAGITTARIUS III”を必ずクリアしてみせる。ゲームチャンプの名に掛けて!
2:ドラえもん、静かにして欲しいなぁ……。
3:凛達が心配
4:首輪解除機の作成
5:ユービックを警戒
6:カズマが戻ってきたらクーガーのサングラスを渡す
7:グラーフアイゼンを誰かふさわしい人に譲る
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています
※基礎的な工学知識を得ました。
※ゲイナーの立てた首輪に関する仮説は『Can you feel my soul』を参考の事
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:大程度のダメージ、頭部に強い衝撃、強い決意
[装備]:虎竹刀
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)
[思考]
基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする
1:ゲイナーを温かい目で見守る。声援つきで。
2:凛とグリフィスの捜索。
[備考]
※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました。
※ギガゾンビに対する反乱と、その結末までを簡潔に聞きました(なので、所々正確ではない可能性があります)
※ユービックの話を完全には信じていません。
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:右眼球損失(止血済み)、全身に重度の打撲、肋骨を骨折(措置済み)、右脇腹に裂傷(止血済み)、左側のツインテールなし、魔力スッカラカン、バリアジャケット解除、睡眠中
[装備]:バルディッシュ・アサルト(スタンバイフォーム/弾倉内カートリッジなし/予備カートリッジ×12発)、なのはのリボン
[道具]:デイバッグ、支給品一式、クラールヴィント、西瓜×1個、ローザミスティカ(銀)、エクソダス計画書
[思考]
基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。
1:体を直すためにも休息。
2:凛とグリフィスの捜索。
3:光球(ローザミスティカ)の正体を凛に尋ねる。
4:遠坂凛と協力して魔法による首輪解除の方法を模索する。
5:ベルカ式魔法についてクラールヴィントと相談してみる。
6:カルラや桃色の髪の少女(ルイズ)の仲間に会えたら謝る。
[備考]
※襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。
※首輪の盗聴器は、ルイズとの空中戦での轟音により故障しているようです。
◆◆◆
一方その頃。
病院を離れ、仲間の捜索に向かっていたロック達いえば……。
「うぼぁっっ!!!!」
殴られていた。
それも見知った仲間にグーで、しかも本気で。
「再会して早々、あんまりじゃないか、レヴィ……」
「悪ィな。こうしないとなんか気が済まなくてよ」
殴られ吹き飛ばされた体を起こしたロックに、レヴィは悪びれもない態度をとる。
この二人、ロックとレヴィが再会を果たしたのは、先程彼が言ったようにまさに殴られる直前。
つまり、彼は出会い頭に殴られたという事だ。
殴られた身にとっては、まさに理不尽の一言だろう。
「まぁ、そんなことどうでもいいじゃねぇか。ロアナプラじゃ日常茶飯事だろ?」
「あのなぁ、そういう問題じゃ…………いや、確かに今は、それよりも聞きたいことがある、か」
「心配しなくても、こいつは生きてるぜ?」
ロックの視線が、自分の背後にいる少女へと移ったのを見て、レヴィは答える。
すると、ロックはひとまず安堵したような表情を浮かべ、さらに矢継ぎ早に質問をしようとする。
「他にも聞きたいことがあってな、その――――」
「待った待った。……質問はお前だけが出来るわけじゃないんだ。あたしにだって、聞きたいことはある」
レヴィはロックの質問を遮ると視線を、彼の隣に居る小さな少年へと移す。
「今度はあたしの番だ。……説明してもらおうか。何でお前がこんなところほっつき歩いているのかを。ついでにそのガキのこともよ」
「俺か? 俺は……」
ロックは、自分がセイバーに襲われたというハルヒとキョン、更にはそれを迎えに行ったまま帰ってこないレヴィとカズマを探し来たことを説明する。
横に居るしんのすけのことも紹介しつつ。
「なぁるほど。ってことは、こいつが例のもう一人のガキってやつかい」
「オラ、野原しんのすけ、5歳! ちょっとシャイな幼稚園児だゾ。お姉さん、キレイだから以後スエナガクよろしくおねがいします、だゾ!」
「しんのすけ、な。オーライだボーイ」
差し出された小さな手を握り返しながら、レヴィはロックの顔を見やる。
「しかし、それにしても心配のしすぎだぜテメェらは。あたしは天下の運び屋ラグーン商会の一員なんだぜ? 多少遅れようが言われた仕事はやり遂げるに決まってるだろうが」
「あぁ。疑ったりして悪かったよ。……だけど」
彼の視線は再度レヴィの背後へ。
「あと一人……キョンはどうした? それにお前と一緒に出てったカズマは何処に……」
それは、先程彼がしようとした質問。
そう、ここには、彼が探していた二人の少年がいなかったのだ。
いるのは、女性二人のみ。
「レヴィ……途中でカズマと分かれたのか? それで――」
「違うぜロック。あたしはずっとあいつと一緒だったよ。もっと言えば、そのキョンっていう男とも途中から合流した」
ならば、何故今ここにはその二人がいないのか?
ロックの脳裏では、最悪のシナリオが構築される。
一番考えたくないシナリオが……。
「それじゃ、どうして……」
そう言いながら、ロックの顔を汗が伝う。
そして、次にレヴィが発した言葉は……………………。
レヴィの言葉を聞いて、駆けつけた戦闘の現場。
そこは、つい先刻まで剣の英霊とシェルブリット使い、二挺拳銃(トゥーハンド)、神人使いらが激しい戦闘を繰り広げていた場所。
だが、レヴィ達が去り、セイバーが逃走、それをカズマが追いかけていった今、そこは動いているものは何もなかった。
あるのは、夕陽に照らされる薙ぎ倒された木々と抉れた大地、そして……。
「まさか、トウカに続いてお前までこんなことになるなんてな……」
ロックの足元には、既に物言わぬ骸と化してしまった男子学生キョンの姿があった。
「レヴィから聞いたよ。ハルヒを庇ったんだってな。……男の中の男だよ、お前は」
だが、返事は返ってこない。
聞こえるのは、隣にいるしんのすけの何かを堪えるような声だけ。
「お兄さん……死んじゃうなんて酷いゾ……。お兄さんが死んじゃったら、ハルヒお姉さんはきっと悲しむゾ…………」
ロックは、そんな少年の言葉を聞きながら思う。
大切な人に先立たれてしまった人の気持ちの事を。
ハクオロを失ったエルルゥとトウカや、圭一を失った魅音と沙都子、そして両親を失ったしんのすけ……。
今回の一件で、誰もが望まぬ哀しみを無理矢理、背負わされきた。
――それは決して許されぬこと。
ロックは、こんなことを無理強いする主催者へ改めて怒りを露にした。
(ギガゾンビ……お前には死すら生温い気がしてきたよ)
暮れなずむ空を睨むと、ロックはしんのすけの肩に手を置く。
「……そろそろ、キョンを埋めてやろう。いつまでもここにいたら夜になる」
「うん…………」
幸い、ここは地面が抉れている箇所が多いので、埋葬にはそう時間は掛からないはず。
ならば、埋葬してすぐに病院に向かえば、放送の始まる頃かその少し後くらいには戻れるだろう。
ロックは、埋葬の準備をしながら今後の行動を考えてゆく。
――全ては、このゲームを完膚なきまでに破壊するために。
【C-4・森林部/2日目・夕方】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:眠気と疲労、まやもや鼻を骨折しました(今度は手当てなし)
[装備]:コルトガバメント(残弾7/7、予備残弾×38発)、マイクロ補聴器
[道具]:デイバッグ、支給品一式、現金数千円、たずね人ステッキ(次の使用まであと2時間程度)、エクソダス計画書
[思考]
基本:力を合わせ皆でゲームから脱出する。出来ることならギガゾンビに一泡吹かせたい。
1:キョンの埋葬を済ませる。
2:1を終え次第、速やかに病院へ戻る。
3:2を済ませるまで、しんのすけを守り抜く。
4:君島の知り合いと出会えたら彼のことを伝える。
[備考]
※顔写真付き名簿に一通り目を通しています。
※参加者は四次元デイバッグに入れないということを確認しています。
※ハルヒ、キョン、トウカ、魅音、エルルゥらと詳しい情報交換を行いました。
※キョンの持つノートPC内の情報を得て、考察しました。
※レヴィの趣味に関して致命的な勘違いをしつつあります。
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:全身にかすり傷、頭にふたつのたんこぶ、腹部に軽傷、
SOS団名誉団員認定、全身が沙都子の血で汚れている、悲しみ
[装備]:ひらりマント
[道具]:デイバッグと支給品一式×4(食料-5)、わすれろ草、
キートンの大学の名刺 ロープ
[思考]
基本:皆でここから脱出して、春日部に帰る
1:キョンを埋葬する。
2:ロックに付き従う。
3:何か出来ることを探したい。
[備考]
※両親の死を知りました。
◆◆◆
ロック達と別れてからもレヴィは、ハルヒを背負ってひたすらに歩いた。
運び屋としての仕事を全うするために。
「――ったく、ロックも相変わらずだぜ。……人を埋めた所で何か貰える訳ないのによ」
自分は葬儀屋ではない。
誰かを埋めたり、祈りを捧げても、一銭の利益にもならない。
そういう仕事は、エダやヨランダのような教会の連中に任せておけばいいのだ。
……本来ならば。
「ま、あいつらしいっちゃあいつらしいけどな」
しかし、レヴィはロックがそういう男であることを知っていた。
それはもう、自分との意見の違いで銃を持ち出す喧嘩をするほどに。
むしろ、そうでなくてはロックはロック足りえないくらいだった。
そして、だからこそ彼とその同行者がキョンの元へ行くのを止めなかった。
(精々、ヘマすんなよ……)
頼りない仕事仲間に向けて、そんなメッセージを送るレヴィ。
彼女の目の前には、ようやく目的地である建物の姿が間近に見えてきていた。
「……ふぅ、ようやくか。ほらお客さん、そろそろ到着すっぞ」
背後で目を閉じたままの少女に声を掛けるが、返事は無い。
「はぁ、熟睡たぁいいご身分だこって」
レヴィはそんな悪態をつきながらも、病院へと着実に近づいてゆく。
自分達と同じく、病院へ戻ろうとしている少女の事など露知らず。
◆
遠坂凛が意識を取り戻して十数分経過した頃。
「……つまり、リィンフォースはまだ生きてるってことなのね?」
『正確に言えば、今活動を始めようとしているのは闇の書の中でも防衛プログラムと呼ばれる箇所。……それも、膨大な魔力を取り込んで暴走しようとしています』
「膨大な魔力……あのジュエルシードとかいう宝石を取り込んだから……かしらね」
『恐らくその通りでしょう。放置しておけば、いずれ本格的に暴走してしまうはずです』
転送酔いから回復した彼女は、レイジングハートと言葉を交わしながら病院へと足を向けていた。
突然、あの場から消えてしまった自分の事を皆が不思議がっているだろうから。
「……で、例のグリフィスとかいう剣士はどこに行ったか分かる? もしかして私みたいに病院の近くにまた転送されたなんてことは――」
『今のところ、それらしき反応はありません。ただ……』
「ただ……どうしたの?」
『いえ、このすぐ近くで、肉薄して病院方向へ移動する二人分の参加者の反応があるようです』
「に、肉薄ねぇ……」
二人で行動しているという事は、グリフィスやセイバーといった単独でゲームに乗っている可能性は低い。
つまり逆に言えば、病院に向かっているのは自分達の仲間である可能性が高い。
「まぁ、いいわ。とにかく今はとりあえず病院に急ぎましょう。その二人ってのも顔見ないと分からないわけだし」
『了解ですマスター』
レイジングハートの返事を聞くと、凛は駆け出す。
……彼女がレヴィ達と鉢合わせになるのは、すぐ先の事であった。
――夕陽に暮れなずむ静謐な病院。
――様々な思いを胸に抱えた人々が集まりゆくそこは、今度こそ団結の場になるのか、それとも……。
【D-4・病院付近/2日目・夕方】
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:脇腹、及び右腕に銃創(処置済み)、背中に打撲、左腕に裂傷。
頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、疲労(やや大)、全身に少々の痛み
[装備]:ソード・カトラス(残弾6/15、予備残弾×26発)、ベレッタM92F(残弾8/15)
[道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、イングラムM10サブマシンガン(残弾15/30、予備弾倉30発×1)
グルメテーブルかけ(使用回数:残り16品)、ぬけ穴ライト、テキオー灯、ニューナンブ(残弾4)
バカルディ(ラム酒)×1本、割れた酒瓶(凶器として使える)、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。物事なんでも速攻解決!! 銃で!!
1:涼宮ハルヒを病院へ送り届け、ハルヒが目を覚ましたらキョンの伝言を伝える。
2:多分いるギガゾンビの手下相手に大暴れする。
3:ゲイナーやゲインのエクソダスとやらに協力する。
4:カズマをぶっ飛ばすのは後でいいか。
5:機会があればゲインともやり合いたい。
6:バリアジャケットは絶対もう着ないし、ロックには秘密。秘密を洩らす者がいたら死の制裁を加える。
7:仕事が終わったらカズマに約束を守ってもらう。
[備考]
※双子の名前は知りません。
※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。
※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。
※空を飛んだり暴れたりで気分は上々です。
※カズマに対する評価が少し上がっています。
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:頭部に中度の打撲(動くのに問題は無し) 、気絶、
疲労(極大)、高熱、下唇裂傷。自分の能力に対して知覚 。レヴィに背負われている。
[装備]:クローンリキッドごくう(使用回数:残り2回)、
[道具]:デイバック×9、支給品一式×8(食料7食分消費、水1/5消費)、
鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)、
RPG-7×2(スモーク弾×1、照明弾×1)、クロスボウ、タヌ機(1回使用可能)
暗視ゴーグル(望遠機能付き・現在故障中)、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)
ダイヤの指輪、のろいウザギ、ハーモニカ、デジヴァイス、真紅のベヘリット
ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)、E-6駅・F-1駅の電話番号のメモ、
トグサが書いた首輪の情報等が書かれたメモ1枚
【薬局で入手した薬や用具】
鎮痛剤/解熱剤/胃腸薬/下剤/利尿剤/ビタミン剤/滋養強壮薬
抗生物質/治療キット(消毒薬/包帯各種/鋏/テープ/注射器)/虫除けスプレー
※種類別に小分けにしてあります。
着せ替えカメラ(使用回数:残り17回)、コルトSAA(弾数:0/6発-予備弾無し)
コルトM1917(弾数:0/6発-予備弾無し)、スペツナズナイフ×1
簡易松葉杖、どんな病気にも効く薬、AK-47カラシニコフ(0/30)
[思考]
基本:団長として、SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームから脱出するために力を尽くす。
1:気絶中
2:セイバーは絶対に許さない
3:病院にいるというトグサと接触し、ドラえもんからディスクを手に入れる
4:書き込みしてきた人物が気になる
5:病院にいるかもしれない凛は最大限に警戒
6:団員の命を危機に陥らせるかもしれない行動は、できるだけ避ける
7:水銀燈がなぜ死んだのか考えるのは保留
[備考]
※腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。
※偽凛がアルルゥの殺害犯だと思っているので、劉鳳とセラスを敵視しなくなりました
※キョン、トウカ、魅音、エルルゥ、ロックらと詳しい情報交換を行いました。
※キョンの持つノートPC内の情報を得て、考察しました
※ジョーカーの情報を信じ始めています
※怒りや憤りなど、ストレスを感じると神人を召還できるようになりました。
他にも参加者などに何らかの影響を及ぼせるかもしれませんがその効果は微弱です。
神人の戦闘力もかなり低くなっています。
【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]:中程度の疲労、全身に中度の打撲、中程度の魔力消費、バリアジャケット装備(アーチャーフォーム)
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(/修復中 ※破損の自動修復完了まで後一、二時間/カートリッジ6/6)
予備カートリッジ×8発、アーチャーの聖骸布
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料残り1食。水4割消費、残り1本)、石化した劉鳳の右腕、エクソダス計画書
[思考]
基本:レイジングハートのマスターとして、脱出案を練る。
1:病院に戻る。
2:セイバーの再襲撃に備えて体力と魔力はある程度温存。
3:ユービックを警戒。
4:フェイトと協力して魔法による首輪解除の方法を模索する。
5:闇の書の暴走を食い止めたい。
6:カズマが戻ってきたら劉鳳の腕の話をする。
7:変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。
[備考]:
※リリカルなのはの魔法知識、ドラえもんの科学知識を学びました。
※ギガゾンビに対する反乱と、その結末までを簡潔に聞きました(なので、所々正確ではない可能性があります)
※闇の書の防衛プログラムの暴走について学びました。
※この時点ではまだレヴィ達とは合流できていません。
[推測]
※ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い。
※膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能。
あたしは自分がどこか特別な人間のように思ってた。
家族といるの楽しかった。
自分の通う学校の自分のクラスは世界のどこよりも面白い人間が集まっていると思っていた。
でも、そうじゃないんだって、ある時気付いたてしまった。
あたしが世界で一番楽しいと思っているクラスの出来事も、日本のどこの学校でもありふれたものでしかない。
そう気付いたとき、あたしは急にあたしの周りの世界が色あせたみたいに感じた。
あたしのやってることの全部は普通の日常なんだと思うと、途端に何もかもがつまらなくなった。
あたしは抵抗した。できるだけ違う道を行こうとしてみた。
あたしなりに努力してみた。訴えてみた。足掻いてみた
けれど何も変わらなかった。何も起こらなかった。
そうやってるうちに高校生になった。
高校なら何かが変わるかと思った。
でも、高校に入っても何も変わらなくて。結局全てが平凡に見えて。
あたしの世界は灰色のままだった。
――SOS団を作るまでは。
ううん、違う。
――あいつと、会うまでは。
■
「……うっ」
頭に響く鈍痛に、涼宮ハルヒは思わず呻き声をもらした。
体が熱い。視界がぼやけて、状況が分からない。
息が苦しくて、頭も回らない。
(ここは……。あたし……何、を……)
混濁する意識をハッキリさせようと、ハルヒは頭を振った。
「――ようやくお目覚めかい? お姫さんよ」
突然耳元で響いた聞き慣れない声に、ハルヒの意識は急速に覚醒に向かう。
「……あ、あんた……誰?」
だが、エンジンのかかりきらない頭ではその問いを発するので精一杯だった。
鼻を鳴らす音がし、
「はっ! 危ねぇ所を救った上にここまでつれてきてやった恩人に対する第一声がそれたぁ泣かせてくれるぜ。
ジャパニーズは礼儀正しいって聞いてたんだが……。あたしの勘違いだったみてぇだな」
悪態と皮肉の成分が含有された声が響いた。
(……危ない所……救って……)
鈍痛と熱さを苦労して意識の隅に押しやりながら、ハルヒは必死で思考を巡らした。
(……あの金髪、セイバーに襲われて、しんちゃんと分断されて……トウカさんが……足止めに残って……。
なのにあの女が現れて……その後――)
思考が乱れいくつもの顔が、声が、頭の中で明滅する
(この人……キョンと一緒に……)
間違いない。
ラフな格好とショートの黒髪、確かにキョンと一緒にこっちへ走ってきた――。
――キョンは?
総毛立つような感覚がハルヒを襲い、その感覚に追いたてられるようにハルヒは叫んだ。
「ねえ! あいつは! キョンは!? 」
一呼吸あって、
「……いてぇよ」
不機嫌極まる声音が返ってきた。
ハルヒははっとして手をみやった。包帯が巻かれた箇所を握ってしまっている。
慌てて手を放し、
「ごめんなさい! 謝る、謝るわ! だから、だから教えて! あいつは……。キョンはどこ!?」
みっともなく声がひっくり返っているのが分かる。
でも抑えることなんか出来ない。
心臓が耳元にでも移動したんじゃないかと思うくらいうるさくて、変な汗が吹き出てくる。
喉がカラカラだ。
――どうして答えてくれないの?
ハルヒの心の壁を恐怖が這い登った。
全身が勝手に震えだし、心臓が万力で締め上げられたように痛む。
「お願い! 答えて!! 答えなさいよ!!」
悲鳴のような声が赤く染まりつつある無人の町に響き渡った。
はあっと大きなため息が聞えた。
「そんなに知りたきゃ教えてやる。とりあえず、あたしの背中から降りな。そんだけ喋れりゃ歩けんだろ」
言われるままにハルヒは黒髪の女性の背中から滑り降りた。
足がついた瞬間、視界が回転しそうになり、ハルヒはたたらを踏んだ。
身体に力が入らない。
頭痛は治まらないし、体が熱くて熱くてたまらない。
それでもハルヒは必死に目に力を込め、レヴィに視線を送った。
そんなハルヒの様子に、レヴィは思わず髪をクシャクシャと掻き回した。
(っとによぉ……。着いてからにすりゃあ良かったぜ)
ここで事実を告げれば面倒くさいことになるのは間違いなさそうだ。
どう見てもこの制服姿の少女は、人死に慣れているタイプには見えない。
(その上、この取り乱し方からすっと……。まあ、答えは一つっきゃねえか)
場末の映画館なら、優しい大人がヒロインを労わりながら沈痛な面持ちで告げる場面だろう。
音楽もさぞかし物悲しく流れ、悲劇の場を演出するに違いない。
だが目の前の少女にとっては不幸なことに、場を演出する音楽は風だけ。そして告げる大人は自分だ。
――ハルヒを……よろしく、お願いします……
ワリィな、とレヴィは記憶の中の死に行く少年に向かって言葉を返した。
(あたしに慰める役割なんか期待されても困るぜ。あたしゃただの運び屋だ。
中華料理屋でパスタ頼んでも出てきやしねえことを、あの世で勉強するんだな)
心の中で悪態をつき、レヴィは口を開いた――。
■
「――レヴィさん!」
レヴィは黙って声のした方に顔を向けた。
一人の長髪黒髪の少女が走り寄ってくる。
「おめーか……。何やってんだ? こんなとこで」
レヴィは顔をしかめた。
凛の格好はこういっては何だが、あまりまともとはいえない。
ありていに言えばボロボロだ。
顔は煤け、目には疲労の光が宿っている。
「その、まぁ……色々、あったのよ。レヴィさんこそ――」
「スト〜ップ! まず、てめぇからだ。
人に物を聞くときは、まず自分からだとママに教わらなかったのか?」
凛は首をかしげた。
(なんか違うような気がするんだけど……)
とはいえ、別に抗弁する必要もないし、くだらない言い争いをする気もない。
凛が先に経緯を話すと、レヴィも口を開いた。
「――ってわけだ」
レヴィが話し終えるのと同時に、凛の形のよい眉がひそめられた。
「じゃあ今、カズマさんは単独でセイバーを追ってるのね?」
凛の声は石のようで、その表情には暗いものがありありと浮かんでいた。
何故か面白くないものを感じ、
「まぁ、確かにあの女はバケモンだがな…。カズマの野郎もそれなりのもんだ。
ンな簡単に負けるヤツじゃねえぜ、あいつはよ!」
乱暴に言い捨て、
(何であたしが、こんなこと言わなきゃならねーんだ?)
レヴィは思い切り舌打ちした。
――俺が戻るまでにくたばってんじゃねぇぞ!
不敵なカズマの顔がレヴィの脳裏をよぎった。
(さっさと片付けてさっさと戻ってきやがれ! 一発殴ってやっからよ!)
自分の弁護料としては破格の安さだ、と思う。
レヴィは小さく口元を歪めた。
「……あの」
きょろきょろと辺りを見回しながら、凛が物問いたげな視線を向けてくる。
「あん?」
「その……。レヴィさんが連れてきた……。ハルヒはどこに?」
レヴィの口から嘆息が漏れた。
面倒くさそうに、レヴィは無言で一点を指し示した。
息を呑む気配がし、
「……え?」
聞こえてきた凛の呻くような声に、レヴィはもう一度嘆息した。
「キョンっつのうが死んだって教えてやったら、あーなっちまった……。
おめぇ、なんとかできねぇか? 同じジャパニーズで、同じくれぇの歳だろ?」
「無理よ……私、そういうの苦手だし……。それに私、ハルヒにはまだ疑われたままだと思うし……」
凛は目を伏せた。
(そういや、ロックの野郎も始めはこいつのこと疑ってやがったんだっけか?)
クソっとレヴィは地面の石を蹴り飛ばした。
(かったりぃな……。クソっ!!)
何故こうも次々と問題ばかりが起きるのか。
レヴィは苛立たしげな視線を後ろに向けた。
その先には、空虚な瞳で民家の壁にもたれかかる涼宮ハルヒの姿があった。
459 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/05(火) 10:24:03 ID:2hKM4Xez
■
何も聞えない。何も感じない。
無音の世界に囚われたようにすら感じる。
――死んだ。
キョンが死んだ。
レヴィという女の発した音が鼓膜を震わせ脳がその意味を認識した瞬間、
世界が真っ白になり音が消えた。
――嘘だ。
そう怒鳴って生死を確かめに駆け出すところなのかもしれない。
或いはひたすら号泣するところなのかも。
涙が流れない。
ただ何処かに大きな穴が開いて、そこから何もかも抜けていく、そんな感じがする……のだと思う。
――分からない。
何も分からない。分かりたくない。
だって。
キョンがこの世にいないことを認めてしまったら。
ようやく色と音を取り戻した世界が、世界を形作るピースが壊れてしまったと認めたら――。
「おい! いつまで呆けてんだ!!」
大声と共に身体を引き摺り上げられた。
レヴィと名乗った女の怒ったような顔が間近にみえる。
「おらっ! 行くぞ!」
前に引っ張られた。
――どこへいくんだろう?
そんな疑問が頭をかすめるが、ハルヒは引っ張られるままに歩き始めた。
何もかもどうでもよかった。
何も考えたくなかった。
しかしハルヒの空虚の瞳の中にある人間の像が形作られた時、
ハルヒの心に炎が生まれた。漆黒の炎が。
――遠坂凛。
殺意。
そんな名で呼ばれる漆黒の炎は瞬く間にハルヒの心を覆い尽くした。
(こいつは、アルちゃんを殺した!)
水銀燈という人形とグルになってアルルゥを殺した。
足手まといがいると生き残るのが難しくなるから、という理由で殺した。
――こんなヤツがいるから。
(みんな死んでいくのよ……)
遠坂凛がたじろいだようにこっちを見ている。
(何よ? その理不尽だと言わんばかりの目は!?)
身体を蝕んでいた疲労も、体にこもった熱も、気にならない。
「おい? どうした?
耳元で声がする。ハルヒは掴まれた手を振り払った。
「離れてて! あの女は、敵よ!!」
「はぁ? 何を言ってやがん――」
「あいつは、アルちゃんを殺した! だからあいつは、私の敵!!」
ハルヒの絶叫が大気を震わせた。
「待って! それは誤解よ!」
「黙れ!!」
この期に及んで言い逃れをするか。
ハルヒの心の炎は猛烈にその火勢を強めていく。
――今の自分には力がある。
あの桃色の髪の女に襲われた時はアルルゥの手を引いて逃げることしかできなかった。
映画館では戦力外と評価され、長門有希とトグサにおいていかれた。
病院ではあの女にまったく歯が立たなかった。
エルルゥが撃たれた時、ただ立ち尽くしてたいだけだった。
セイバーに襲われた時、トウカを援護することはできなかった。
でも今は違う。今の自分には――
――そう? 本当にそう?
心の中に沸き起こったそんな問いが、一時殺意の炎を吹き払った。
――じゃあどうして、キョンは死んだの?
震えだそうとする体を抑えつけようとするように、
ハルヒは左肩を右手掴んで握り締めた。
(うるさい! うるさい!)
――今度こそ。
今度こそは守ってみせる。
生き残った仲間を守ってみせる。
アルルゥのように、ヤマトのように、トウカのように――キョンのように。
(殺させたり、しない!!)
そのためなら、命なんか惜しくない。
漆黒の炎がハルヒの双眸から噴出した。
――殺意が、全てを、塗りつぶしていく。
「あんたは……。あんただけはぁぁぁっ!!」
ハルヒの怒りを体現するように巨人が空間からぬっと姿を現した。
青い巨人、ハルヒの世界の人間達が神人と呼んだそれは、腕を振り上げた――。
■
「なっ!?」
驚愕の槍が凛の心を貫いていた。
いきなり襲いかかってこられたという事実に。
そしてハルヒの力に。
『protection』
何とか発動させることができた盾は――。
あっさりと砕け、無音の拳が凛の視界を埋め尽くす。
咄嗟に地を蹴り、転がって緊急回避。
一刹那遅れて巨人の拳が、一刹那前に凛がいた場所激突。
爆風と砂煙が来た。
「くっ……」
顔を覆いながら、凛は戦慄する。
(結構な、威力ね……)
砂煙を引き裂いて巨人がぬっと姿を現した。
意識を集中。
『Protection Powered』
凛の作り出した桃色の力場と巨人の拳が激突。
「くっ……」
凛は奥歯を噛んだ。
巨人の拳と凛の作り出した力場の接触面から粒子が飛び散る。
なんとか相殺に持ち込め――。
怖気が凛の背筋を駆け抜けた。
『Flier fin』
効果の発動と巨人がもう片方の手を振り下ろすのはほぼ同時。
一刹那の差で凛が競り勝った。
無音の拳が地面に突き刺さり、爆風が発生。
その煙を肝を冷やしながら眼下に見下ろし、凛は距離をとって着地した。
「チョコまかと……。逃げんなっ!!」
ハルヒの怒声と共に、巨人がゆらりとこちらを向いた。
(どうする……)
こういっては何だが、ハルヒを無力化するのはそう難しくない。
ハルヒの一挙一動からは、まだまだ「戸惑い」が見られる。
明らかに能力を使いこなしてもいない。絶対的に錬度が足りていない。
とはいえ、あの巨人の力自体はなかなかものだ。
(勝つは易く、傷つけずに無力化するは難し、か)
凛の顔に苦渋の皺が刻まれた。
――何を迷うことがある。
相手がこちらの話を聞かずに、攻撃を仕掛けてきているのだ。
反撃してもそれは正当防衛の範疇だ。
凛の冷徹な部分はそう言っていた。
けれど――。
「レヴィさん!」」
凛は我関せずとばかりに離れた場所に突っ立っているレヴィに声を飛ばした。
「……ヨハネ伝第四章、第3節を知ってっか?
厄介ごとを押し付けるなこのアマ、だ。
てめぇの不始末のケリはてめぇでつけな! あたしゃ、疲れてんだ」
「そのつもりよ!」
小さく笑い、
「レヴィさん、ちょっとお願い!」
凛はレイジングハートをレヴィに投げ渡した。
弧を描いてとんだレイジングハートはレヴィの手の中に納まり、
当然の如くバリアジャケットが解除され、凛はアーサーのジャケットを纏っただけの姿になる。
『マ、マスタ――っ!?』
気でも狂ったかといわんばかりにレイジングハートが声をあげた。
冷静沈着なレイジングハートらしからぬ語調に凛は苦笑した。
凛の行動に意表をつかれたらしく、ハルヒも顔をしかめて立ち尽くしている。
柔らかな黒髪をかきあげ、
「昔から言うでしょ? 和平の使者は槍を持たないって」
『それはただの小話です!!』
「……誤用をじさないという心意気ぐらい理解しなさいよ」
半眼になってぼやくように凛は言った。
『気持ちは分かりますがあまりにも危険――』
「口を閉じなさい。レイジングハート」
凛然とした声が響いた。
その声に圧されるようにレイジングハートは沈黙を強いられてしまう。
相棒たる杖に向かって小さく笑いかけた後、凛はハルヒの顔を真っ向から見た。
その視線には清冽さがあり、ハルヒは思わずたじろぐ。
「何のつもりよ……」
「私に戦闘の意思はない、ってことよ」
「あんたにはなくても、あたしにはあるわ!
あたしは、あんたを……。絶対に許さない!!」
くろぐろとした殺意の込められた怒号にわずかに顔をしかめつつも、
「さっきも言ったけど、誤解よ!
私はあなたのいうアルちゃん――。アルルゥって子を殺してない!
殺して回る奴以外と戦う気も、ないわ!」
きっぱりと凛はいった。
「……それを信じろってわけ? となると何?
あの人形を使って参加者を襲わせたりもしてないって言いたいわけ?」
「ええ!」
「ふざけんなっ!!」
巨人が音もなく歩み寄ってくる。
心臓の拍動数が急激に増えたのを凛は感じた。
あれの力は先ほどみたばかり。
――攻撃をうければ、最悪死ぬ。
「あんたの言う事なんか……。信じるもんですか!」
魅音の言っていた事と目の前の女、どっちを信じるかなんて考えるまでもない。
「……どうやったら信じてもらえるのかしら?」
「何をどうやったって……。信じないって言ってるのよ!!」
横殴りに振るわれた巨大な拳が凛を吹き飛ばした。
■
「ぐっ……はっ!」
背後から突き抜けた衝撃で肺から全ての空気を吐き出してしまい、
叩きつけられたブロック塀をずるずるとすべり落ちながら、凛は大きく咳き込んだ。
せきこんだ瞬間肋骨とあばらと背骨あたりから激痛が走った。
頭からも痛みが間断なく襲ってくる。
(聖骸布がなかったら……。どうなったことや、ら?)
視界が朱に染まっている。どうやら頭部から派手に出血しているらしい。
(けど……。叩き潰そうとしないところをみると、手加減はして――)
急に視界が翳った。
「ふべっ!」
衝撃は上から来た。
(やって……くれるわね……)
潰れたカエルの格好そのままに地面に横たわりながら、凛は凄絶な笑みを浮かべた。
――死ねる
このままもらい続ければ十分に死ねる威力が巨人の拳にはある。
手加減はあるようだが、無抵抗な相手に暴力を振るう忌避感からする無意識レベルのものだろう。
傷ついた肋骨とアバラは損傷の度合いを増し、ひっきりなしに痛み喚きたてている。
地面と熱烈な接吻をかわしたせいで唇は裂け、呼吸するたびに鼻から痛みが走る。
口の中と鼻が血で溢れかえっているせいですごく息苦しい。
ペッと地面に血の塊を吐き捨て、凛は立ち上がった――否。立ち上がろうとして崩れ落ちた。
(いっ……っ……ぁ……)
どうやら肋骨とあばらが派手にヒビが入ってしまっているらしい。
動こうとしただけで意識が吹っ飛びそうになる。
(立て! 立つのよ!)
超過労働にストライキを起こすからだの各部を宥めすかし、怒声を浴びせ、ようやく凛は立ち上がった。
「何よあんた……。何のつもりよ!?」
喚き声が聞えた。
真っ赤に染まった視界の中で黒髪の少女が顔をゆがめている。
「……参加者を殺して回る奴以外とは戦わない、って言ったでしょ」
「うるさいっ!!」
今度は正面から来た。
浮遊感が数瞬あった後、路肩の電柱に激突。
悪質ドライバーを狩る路上のトップマーダー電柱の破壊力は凄まじかった。
左肩から焼ききれんばかりの痛覚という名の高圧電流が、凛の脳の回路を焼き焦がした
猛烈な衝撃が左肩から来た。
痛みに意識が飛び、すぐに地面と激突した痛みで現実に引き摺り戻された。
(砕けてる、かな?……左肩)
左肩が燃えるように熱くて、動かそうと意識するだけでのた打ち回りたいほどの痛みが走る。
さっきからずっと息が苦しい。鼻が折れているせいだ
脇腹も異様に痛い。アバラはほほ全滅だろう。
――顔が熱い。
アスファルトの余熱で地面と接している頬が熱い。
全身から発せられる痛みのせいで朦朧としながら、凛はぼんやりとそんなことを思った。
「騙され……ないわよ……」
聞えてきた声は弱弱しかった。
苦笑しようとして、顔面と胸部から走った激痛に顔をしかめた。
「抵抗しなさいよ!」
「それ、は出来ない、相談ね……」
頭と鼻から流れてくる血が口に入って喋りにくい。
血を吐き出し、吐き出ししながら凛は言葉を紡いでいく。
「……え?」
「あんたを、叩きのし、たら……。あの子、アルルゥっていうあの子が、きっと……」
――悲しむ。
ドラえもんの話では、あの獣耳の子はいたくハルヒに懐いており、
心配そうに眠っているハルヒの側を行ったりきたりしていたという。
間接的に命を奪っておいてその子の大事な人まで、どうにかしたら申し訳が立たなさ過ぎる、
アルルゥという子の無残な姿が瞼の裏に蘇り、凛は思わず顔をしかめた。
全身を紫色に変色させ、顔は苦悶で歪み、口は黒い異臭を放つ変色した血で一杯だった。
何よりも目。時間がたちすぎたせいで、白濁してしまっていた目が酷かった。
あまりにも無残なので閉じさせようとしても、死後硬直のせいで閉じてくれなかった。
ティッシュペーパーを瞼の間に押し込んでようやく閉じさせることができた。
それでも。
列挙すればきりがないほど無残な有様であってすら、
生前は愛らしい子であったことがよくよく注視すれば分かった。
あれほどいとけなく、愛らしい子を無残極まる姿にさせてしまった。
その上自分は――。
(フェイト……)
凛の奥歯が軋みを上げた。
フェイトは片目を失った。
戦術的に正しかった。能力的にみてフェイトが適任だった。
反論ならいくらでもできる。
――でも子供だ。
いくら大人びているといっても、あんなに小さな子を死地に置いて自分は戦線離脱したのだ。
(許されない、わよねぇ……。私も少しくらい、痛い目に、合わないと……)
この程度で許されるははずもないが、それでも万分の一でも味わっておかなくては、
(私の気が、すまないのよ!)
震える膝を伸ばし、身体を起こそうとして――。また崩れた。
黒髪がばっと散らばり、血が地面を染め、地面に火牡丹が一斉に咲き乱れた。
「私はあなたと戦わない。残った人達の誰とも戦わ、ない……。
それぐらいしか、私に出来ることは、ないから。
私のせいで死んだあの子に、償う方法が思い、つかないから……。
あなた、の気持ちは分かるけど、私のこと信じて、欲しいんだけど、な」
顔面を朱に染め、痛みと呼吸困難で顔をゆがめながら、凛は必死に語りかけた。
■
――どうして?
ハルヒの頭はその言葉で埋め尽くされていた。
遠坂凛は悪党だ。魅音の、仲間の証言からして間違いない。
遠坂凛は殺人者だ。アルルゥを殺した許せない相手だ。
それは間違いない。
――間違いないはずなのに。
自分の頭で描く遠坂凛の人物像と、目の前の遠坂凛がまったく一致しない。
すぐに馬脚を現すと思ったのに、凛は抵抗もせず、されるがままだ。
レヴィがいるゆえの芝居だと考えても、幾ら何でもダメージを受けすぎているように思える。
ハルヒの心に迷いが生まれた。
次の一撃を振るうべきか否か、ハルヒは躊躇して立ち尽くす。
「HEY! なぶるのも大概にしとけ!
そろそろトドメさしてやんな。早くヤっちまわねぇと、日が暮れちまうぜ!」
声が響いた。露天でホットシュリンプを注文する時に発するような声が。
思わず総毛だつものを感じて、ハルヒはレヴィに視線を向けた。
驚愕で揺らめくハルヒの瞳とは対照的に、レヴィの闇色の瞳にはまったく揺らぎがなかった。
『レヴィ嬢!! ですから私のマスターは水銀燈とに騙されていただけだと何度も――』
「だとしても、だ」
レヴィは淡々とレイジングハートの叫びを遮った。
「このガキがあの調子じゃ、遅かれ早かれドンパチが始まる。
これからお手手つないで脱出しようってんだぜ? そりゃまずい。どう考えてもノープロブレムじゃあねえ。
あたしゃ、他のやつに足を引っ張られて死ぬのは真っ平だね」
絶句するレイジングハートに向かい、レヴィは唇を吊り上げて見せた。
「おい! な〜にやってんだ!」
ハルヒの体がビクリと震えた。
「とっととヤっちまえ! そうすりゃ晴れてお前もロストバージン、オトナの仲間入りってわけだ」
ククっと暗い笑いを漏らし、
「あのリンってのは分かっちゃいねーようだが、お前は分かってるみてぇだな。
金と力がありゃ天下泰平。金はどうかしらねーが、お前は力を手に入れた。
後は度胸だけってなもんだ。ムカせてくれる野郎は片っ端からヤっちまえば、気分は上々。
この世はこともなし、だ」
「違う!!」
甲高い悲鳴が大気を震わせた。
474 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/05(火) 10:38:54 ID:gqbwdYU3
478 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/05(火) 10:44:35 ID:gqbwdYU3
479 :
代理投下:2007/06/05(火) 10:45:41 ID:s8fJV1Zw
甲高い悲鳴が大気を震わせた。
「私は……。私は、そんなんじゃない!」
「そんなんじゃありませんだぁ〜!?」
ひとしきり嬌声が響き、唐突にやんだ。
「じゃあ何だ?」
地の底から響いているのかと思えるほど暗い声だった。
気圧されながらも、ハルヒは口を開いた。
「私は……守ろうと……」
「ああん? 誰から、誰を守るってぇ?」
沈黙の川が二人の間に横たわった。
ややあって、
「あの女から……みんなを……」
「あのなあ……。テレビ伝道師かよ、てめーは」
呆れたというように片手をふりふり、
「自分も信じきれちゃいねーことを、語ってんじゃねーよ、タコ」
――自分も信じきれてない。
レヴィの言葉は弾丸となってハルヒの心を射抜いた。
開いた穴に迷いがどっと流れ込んでくる。
誰も殺されなくてすむように、もう悲しみが生まれないように、命を賭けようと思った。
戦おうと思った。今度こそやり遂げようと思った。
敵を倒してみんなを守ろうと思った。
――それなのに、どうして。
(どうしてこうなるのよ……)
さっきあの杖が叫んだ通り悪いのは全て水銀燈で、遠坂凛は騙されていただけなのか?
遠坂凛がさっき言ったことは本当なのか?
――多分、本当。
ハルヒの理性はそう言っていた。
思考がそう判断していた。
恐怖と絶望がハルヒの心を満たしていく。
(また、私……間違っちゃったわけ?)
ヤマトとアルルゥを死に追いやった時のように。
キョンに無理を言って引き止めて、彼を死に追いやったように。
がくん、とハルヒの膝が落ちた。
巨人がゆらめき、姿を消していく。
(分かって、くれ、た……)
巨人が完全に姿を消すのと、同時に張り詰めたものが切れた。
糸が切れた人形のように、凛は地面に倒れ込んだ。
480 :
代理投下:2007/06/05(火) 10:47:37 ID:s8fJV1Zw
『……分かっていたのですか? レヴィ嬢』
「あん?」
『ハルヒ嬢がマスターを殺す事ができないとを、です。
そして、心に迷いを抱えていることを。だからあんな煽るようなことを――』
レヴィは肩をすくめた。
「分かるわけねーだろ、んなこと」
『なっ……』
絶句するレイジングハートに向かって皮肉げに笑ってみせ、
「おら、帰んな! お前さんのご主人様のとこへよ」
凛に向かってレイジングハートを放り投げ、レヴィは壁にもたれかかった。
ハルヒが武装解除して説得しようとしている凛を殺さないだろうと考えた事に、
根拠らしきものがないではなかった。
(何たって、生者の町の住人だからなあ)
ハルヒの町に行ったことはないが、日本というのは何処もかしこもいつぞやの町のような所だと聞いている。
ロックや最後まで越えるフリをしていただけだった眼鏡の少女のことを考えるに、
生者の町にどっぷり浸かって生きてきた人間は、そんなに簡単に分水嶺を越えることはないだろう。
それが根拠といえば根拠だった。
だから一応揺さぶってみたのだが――。
(結果オーライってやつだな。
まぁ仮に越えちまったとしても、あたしの知ったこっちゃねえけどな)
遠坂凛を病院に連れて行くという仕事は受けていない。死んだ所でそれはそれだ。
(それにしても……。クレイジーな奴だぜ)
命に関わるほどボコボコにされながら、それでも意地を張り続けるとは。
(ジャパーニーズってのは、たまに妙なのがいやがるよなぁ……)
普段はホワイトカラーのように言動をするクセに、土壇場では意地を張り通すロックに、
迷わずに金髪女の前に出たあのどっからどうみても一般人のガキ。
――誇りはねぇのか。
耳の奥に聞き覚えのある声が蘇った。
(誇りねぇ……。するってぇとアレもそうなのか?)
凛の行動も『誇り』とやらに関わることだっただろうか?
そんなことを考えながら、レヴィは凛の方に視線を移した。
視線の先では、凛が地面を這いずりながら、放り投げられた杖、レイジングハートに手を伸ばしていた。
481 :
代理投下:2007/06/05(火) 10:50:22 ID:s8fJV1Zw
■
「心配、かけた、わね。レイジ、ング……ハート」
息も絶え絶えという形容詞がふさわしい調子で凛が言う。
『会話よりまず、傷の手当を』
レイジングハートの返答に怒りが込められているように感じられたのは、おそらく凛だけではないだろう。
「はいはい……」
言われるままに凛は傷を治療していく。
一発、二発、とカートリッジが白煙を噴いて杖から射出されて転がっていく。
セイバーとの闘いのために温存しておくはずだった魔力とカートリッジを派手に消費し、身体はボロボロ。
合理的に考えれば、というのもアホらしい、
どう考えても自分のやったことは、ウルトラスーパーミラクル馬鹿のやることだ。
――だというのに。
体の各部から走るキリで突き刺すような痛みに耐えながら、それでも凛は微笑を浮かべた
「我ながら不思議なんだけど……。悪くない気分なのよ」
――悪くない。
今の気分は悪くない。
ややあって、
『あたなは私にとって、今までで一番最低で――最高のマスターです』
凛は、もう一度笑った。
482 :
代理投下:2007/06/05(火) 10:51:22 ID:s8fJV1Zw
■
――そんな私達に掛かれば首輪なんてイチコロよ!
この世界で始めてあった男、ルパンに向かって自分は確かそういった。
この世界に来るまでは、大抵のことは何とかなると思っていた。
ましてや、SOS団のみんなでかかればできない事はない。
そう、思っていた。
それなのに何もできなくて。思い知らされるのは自分の無力さばかりで。
SOS団の団員達も、新団員達も、次々と死んでいって。
力を手に入れたと思ったのに。
結局無力で。結局間違ってしまって。
(おかしいわよ……。こんなの)
幾らなんでも上手くいかなすぎる。
(そうよ……。おかしいのよ、ここは……)
この世界はおかしい。
間違いばかり犯してしまう世界。
どう考えても死ぬ理由なんか何一つない人たちが次々と死んでいく世界。
こんな世界に連れてこられたせいで、何もかも失ってしまった。
仲間も。友達も。
――キョンまで。
(世界がおかしいのが、全部悪いのよ)
この間違った世界にいる限り、自分は間違い続けてしまう。
否、自分だけではない。
みんなが理不尽な目にあって、間違った結末を迎えてしまう。
この狂った世界で起こったことなんか受け入れちゃいけない。
――認めてはいけない。
この世界で起こったことは、起きてはならないことなのだから。
(お願い……)
涼宮ハルヒは願った。心の底から。
間違いが正された世界、これ以上間違いをおかさなくてすむ世界の存在を。
その願いは魂の絶叫だった。
その絶叫は、音もなく空間に響き渡り――。
世界が生まれた。
483 :
代理投下:2007/06/05(火) 10:52:18 ID:s8fJV1Zw
■
「……なんだこりゃ?」
レヴィはうめいた。
その世界は、静謐と灰色に満たされていた
あたりから一切の音が消えている。
風の音がしない。夕日に照らされて赤く染まっていた空が、木々が、灰褐色に色を変えている。
というより――。
「太陽が……ありやがらねぇ……」
沈まんとしていた太陽が消滅している。
レヴィの声は掠れていた。
せわしなく辺りを見回しながら、レヴィは狂おしい視線を凛に向けた。
「……こ、固有結界……?」
凛の表情にも驚愕があり、キョロキョロと周囲を見渡しては、
体を動かすたびに傷が疼くらしく顔をしかめている。
(アイツもわかってやがらねぇのか……)
厄介なことになった。
レヴィが思い切り舌打ちしたその時。
「……そっか……やっぱりあの夢……」
響いた声はどこかほごらかで、少女の瞳に浮かんでいるのは歓喜だった。
「おい! てめぇ、何か知ってんのか!?」
レヴィは思わず怒声を発した。
「ええ! 勿論よ!」
レヴィの怒声に反応してハルヒが振り返った。
先ほどまでとはうってかわって、その瞳には生気と自信が満ちていた。
「この世界は、あたしが作ったんだもの!
「……作っただぁ?」
昨日から色々常識ハズレの代物を見てきた。
だが、幾らなんでもあまりにもぶっ飛びすぎている。
苛立たしげに髪をかき混ぜながら、レヴィは改めて辺りを注視した。
(そういや、似てやがんな……)
町並みは日本に似ている。
ハルヒが自分の町に似せるように世界を作ったのだとしたら――。
「あぁっ!! クソっ!!」
腹立たしそうにレヴィは地面を蹴飛ばし、鋭い視線をハルヒに叩きつけた。
「オーライ、分かった」
考えるのは得意分野ではないし、なにをどうしたかなどこの際どうでもいい。
肝心なことは一つ。
「あたしらを閉じ込めてどうする気だ?」
ハルヒが、ムッとしたように腕組みをした。
「閉じ込めてなんかいないわよ! 失礼しちゃうわね!」
レヴィの目が細められ、眼光に殺気が宿り始めた。
(ンだぁ? このガキは)
いきなり分けのわからない所に自分達を引き込んでおいて、まるで悪びれている様子がない。
浮かれたような目付きが大いに気に入らない。
「じゃあ、とっと出しやがれ! こんなトコでぐずぐずしてる暇なんぞ――」
「ちょっと待って!」
「あぁ!?」
ハルヒに遮られ、レヴィはハルヒを遠慮仮借なく睨みつけた。
しかしハルヒは、レヴィに反応することなく、一点を見つめている。
レヴィの額に困惑と怒りの皺が刻まれた。
(このあたしをシカトこくたぁ、いい度胸じゃねえか)
状況の不可解さに対する苛立ちとハルヒの不遜ともいえる態度によって、
レヴィの心は既にメルトダウン寸前であった。
485 :
代理投下:2007/06/05(火) 10:54:06 ID:s8fJV1Zw
思わず手が腰のソードカトラスに伸びる。
「えっ……?」
凛が発した頓狂な声が、レヴィの行為を中断させた。
胸に込み上げる激情を一度ねじ伏せ、レヴィは凛の視線の先へと目線を移した。
レヴィの瞳が拡大した
(ロック? さっきのガキも)
薄い膜の向こうに沈痛な面持ちでロック達が歩いているのが見える。
「おい、ロック!!」
反射的にレヴィ叫んでいた。
眉間に刻まれたレヴィの困惑の皺が深さを増した。
二人ともまったく反応しない。声が届かない距離ではないのに。
「ロック! ふざけてんじゃねえぞ!」
駆け寄りながら怒鳴る。
ロックは勿論、しんのすけとかいいう子供もまったくリアクションをしない。
「ちょっと待っ――」
「るっせぇっ!!」
ハルヒの静止を跳ね除け、レヴィは透明な壁をぶち割らんと思い切り拳を叩きつけた。
悪寒がレヴィの身体を走り抜けた。
異様極まる今までに味わったことのない、違和感そのものといった感覚が腕からつたわってくる。
(かまうか!)
レヴィは違和感を踏みにじった。
透明な壁の向こうに自分の手がつきぬけ、ロックの服を掴んでいる。
ロックが幽霊でも見たような顔でこっちをみている。
「おらっ!!」
力任せに引っ張った。
一瞬の間があって、
「うわぁっ!!」
「な、なんだぁ?」
「でぇ……」
二つの混乱に満ちた声音と一つの悪態が空間に響いた。
数秒ほど時が流れ、
「……重ぇ」
不愉快さを圧縮しきった唸り声とほぼ同時に、
「わ、悪い!」
「おねぇさん、ゴメンね」
レヴィの体の上に覆いかぶさってしまったロックが顔面蒼白で身を起こし、飄々としんのすけが立ち上がった。
無言で思い切りロックを殴りつけた後、レヴィはハルヒに視線を戻した。
「慌てすぎよ! ロックとしんちゃんは、ちゃんと招待するつもりだったのに」
無言でレヴィはカトラスを弄った。
レヴィの瞳には、凍てつくような殺意すら浮かび始めていた。
――殺すか?
ナチュラルにそんな思考が浮かんでくる。
486 :
代理投下:2007/06/05(火) 10:55:18 ID:s8fJV1Zw
レヴィの危険極まる雰囲気を察したロックは痛みをこらえて立ち上がり、ハルヒに視線を注いだ。
(……どうしたんだ?)
ロックは自分の眉の角度が急激にあがるのを感じた。
――浮かれきっている。
ありていに言ってそう見える。
この状況下において――ましてやついさっきキョンを失ったばかりだというのに――
この表情はなんだ?
自分の心の水面が泡立つのをロックは感じた。
(なるほど……。これじゃレヴィがイラつくのも無理ないな)
あまりにもハルヒの顔は場違いすぎる。
その上、この異質な空間が水面の揺らめきをとめるどころか、さらに大きなものに変えていく。
「ようこそ! 歓迎するわ! ロック、しんちゃん」
胸を張ってハルヒが言った。
内心の揺れを表に出さないようにと努力しながら、
「歓迎するってのはどういう意味だい? ハルヒちゃん。君はこの場所について何か――」
「作ったんだとよ……。このガキが」
妙に淡々とした声がロックの鼓膜を震わせた。
こういうレヴィの方が危険だということを、経験上ロックは知っていた。
そのことに怖気と焦りを覚えはする。
けれど、今回はレヴィの発した声音より内容に対する驚きがまさった。
「ハルヒちゃんが!? この世界を!?」
「ええ、そうよ!」
ハルヒには、嘘をいっているようなそぶりは微塵もなかった。
「驚いたな……」
どんな表情を浮かべていいのか分からず、ロックはようやくそれだけを言った。
いつからこんなことが出来るようになったのかとか。の力はどんな力なのか。
色々と聞きたいことはある。混乱もしている。
だが、取り敢えずしなければならないことは分かっている。
「なんと言うか、興味深いと思うし色々聞きたいとも思うんだけどね、
全ては病院に入って他の人たちと合流して――」
ロックは首輪をトントンと叩いた
「コレをなんとかしてからだ」
こんな世界でノンビリしている暇はない。
一分一秒でも早く首輪を外し、ギガゾンビを倒すか助けを呼ぶかして、
この糞タレな世界から脱出すること。
それが死んでいった者達に報いることだ。
今、一番やらなくてはならないことだ。
(どうしちまったんだ? 一体)
ハルヒの顔からは、今朝感じた眩いばかりの決意が、死者に対する悲しみが、
自分の責に対する悔恨が、ギガゾンビに対する怒りすら感じられない。
ただ浮かれている。
新しい玩具をもらって、玩具以外には目に入らずにはしゃぎまわる子供のように。
(どうしちまったんだ? 本当に)
心の中に込み上げてくる苛立ちを吐息と共に吐き出そうとしながら、
「とにかく病院へ急ごう。病院にいる人達もやきもきしてるに違いないんだ」
ゲインには6時には戻ると約束したのに、このままでは6時をすぎてしまう。
「平気よ!」
「……何が平気なんだい?」
自分の頬が引きつるのをロックは感じた。
「だってこの場所、時間の進み方ゆっくりにしてあるもの。
ここで何時間すごしても、外では数分も立ってないわ」
沈黙が満ちた。
(ちょっと待て……。ちょっと待ってくれ……)
頭痛のようなものを感じて、ロックは額に手を当てた。
490 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:02:16 ID:vt0EWjXn
――ありえない。
幾ら何でも突拍子もなさすぎる。
ロックはこういう非常識なことに対して、自分遥かに知識を有しているであろう凛に視線を送り――
ズタボロなその姿を見て硬直した。
異常事態の連続で今の今まで気づかなかったが、どうみてもかなりの大怪我だ。
「凛!? 君、一体どうしたんだ?」
「色々あったのよ」
顔をしかめつつも、なんでもないという風に手を振りながら、凛が答えてくる。
「色々って……」
「今はそんなことにかかずらってる時じゃないでしょ!」
ロックの問いを圧殺し、凛は言葉を続けた。
「彼女の言ってること本当よ。固有結界……簡単に言うと術者の意のままになる世界のことだけど、
この中では基本的に何でも術者の思うがままだから」
――この世界が固有結界だとしたらだけど。
と、凛は心の中で続けた。
自分の知識を無理矢理当てはめればというだけだ。
この世界がそもそも固有結界といえるものなのかどうかすら、分からない。
そこまで無茶が効くものかどうなのかも。
けれど、レヴィという女性もロックという女性も程度の差はあれど混乱し、
冷静さを欠いているようにみえる。
これ以上彼らの精神の均衡を乱すようなことは言いたくなかった。
それにしても、仮に固有結果だとして、長時間これほどの規模の空間を制御するとは、
一体どれだけの魔力を――。
「魔力とかで維持してるわけじゃないもの。
作っちゃえばこの世界って維持しなくてもいいみたい」
思わず凛はハルヒをねめつけた。
「私の心を、読んだわね……」
歯をかみ鳴らす凛とは対照的に、
「少しだけよ少し。人のプライバシーに立ち入る気なんてないわ」
得意そうにハルヒが言う。
<マスター。落ち着いてください>
レイジングハートが念話で語りかけてくる。
<分かってるわよ>
舌打ちしながら凛は念話で応じた。
ハルヒのあの浮わつきぶりと周りの見えてなさ加減からして、
自分の力の総量とその使い方を完璧に把握しているようには、とてもみえない。
(漫画じゃないのよ、まったく)
いきなり『覚醒』した、としか考えられない。
――危うい。
核爆弾の連射装置をマニュアルも読まずに操作しているようなものだ。
――とにかく、静観するしかない。
下手に刺激して暴走されてはたまらない。
歯噛みしつつ、凛はハルヒを睨んだ。
491 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:04:09 ID:vt0EWjXn
「……う〜ん、オラ何がなんだか分かんないゾ〜」
それまで黙って話を聞いていたしんのすけが、我慢できずに戸惑いの言葉を発したその時、
レヴィが頭をふりふり前に出た。
「オーライ……。
てめぇがガリヤラの湖上を歩く男並のトリックスターだってのは、よぉく分かった。
分かったからさっさとここから出しな。んでとっとと、病院に行くぞ。
てめえをつれていかねぇ限り、あたしの仕事は終わらねぇんだ」
レヴィは吐き捨てた。
――終わったらそのニヤけたツラに容赦なくブチ込んでやる。
レヴィがプッツンするラインの瀬戸際で踏みとどまっているのは、「仕事」として受けたからだ。
裏の世界での「信用」は表のそれよりも重い。
身に染みこんだ慣習がレヴィの激発を何とか押しとどめていた。
(けど、そろそろ持ちそうにねぇなあ)
苛立ちのままに、レヴィはソードカトラスを手の中でクルリと回した。
「その必要はないわ!」
レヴィの視線が鋭さを増した。
「戻らなくたっていいじゃない! 戻ったって何にもいいことなんか何かないもの!」
レヴィは無言で銃を構えた。
(足に一発。それで大人しくなんだろ)
泣こうが喚こうが引き摺っていって、病院に放り込む。
それで仕事は終わりだ。
「れ、レヴィ!!」
「うるせぇ!」
レヴィの声からは彼女の憤怒の重層が露出していた。
――こんな糞ッタレのメスガキのために。
自分は戦ったのか。
カズマの野郎は金髪に突っ込んだのか。
――あのガキは死んだのか。
(浮かばれねぇぜ、あの小僧も)
感謝しろなどとトチ狂ったことを言うつもりはないが、自分達の行いに泥水をぶちまけられた気分だ。
イラつく。死ぬほどカンに触る。
「よせっ!」
「離しな! ロック。このガキだきゃぁ!」
「暴力で解決できねぇこともあるって、前に言ったろうがよ!」
ロックの燃えるような視線とレヴィの殺意で凍りついた視線が虚空で激突した。
そのまま両者はにらみ合い、レヴィの方から不承不承といった風に視線をそらした。
レヴィの凍りついた視線にわずかに熱が戻るのを見て取り、ロックは視線をハルヒに戻した。
(落ち着け……)
頭に登りかけた血を覚ますように、短く息を二、三回吐き出し、
「ハルヒちゃん、気持ちは分か……。いや、分かるわけないけど……」
ロックは必死で言葉を紡ごうとするが、語調は弱まっていき、やがて途切れた。
――どうすりゃいいんだ。
それがロックの偽らざる気持ちだった。
493 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:05:46 ID:vt0EWjXn
ハルヒは逃げようとしている。
状況を受け入れようとせず、逃避しようとしている。
涼宮ハルヒは弱い少女ではない。にもかかわらずこの有様だ。
彼女は壊れかけている。必死に自分を守ろうと自分で作った世界に逃げ込んでしまおうとしている。
(何を言えばいい? 逃げずにちゃんと向き合え? 悲しみを乗り越えろ? ……陳腐すぎるぜ)
今彼女に必要なのは、一緒に泣いて悲しみを分かち合ってくれる人間だ。
しかしそれができる人間達は皆、死んでしまっている。
そう。
皆、死んだ。
ロックの苦悩の皺が深くなり、陰影をつくった。
数の問題ではないかもしれないが、おそらくここに来てもっとも多くの喪失を味わったのは彼女だろう。
傷ついていないはずがない。心が血を流していないはずはない。
それでも彼女が前を向いて歩き続けることができたのは、
(キョン、お前のお陰だったんだな)
あの少年は、涼宮ハルヒの心を支える支柱だったのだ。
――俺は、無力だ。
誰も守れない。何一つ悲しみを止められていない。
(だけど、諦めるわけにはいかないよな……。エルルゥ、君のためにも)
彼女の墓前で誓ったのだ。悲しみを止めるために努力すると。
(力を、貸してくれ……)
死んでいったあの子の優しさが、あの包み込むような暖かさが10分の1でも自分にあれば、と思う。
「……キョン君は、その……満足して死んでいったと、思う。だから、その……」
言葉に出して自身の言葉の陳腐さとありきたりさに、ロックは半分絶望しかけた。
その時。
「キョンが死んだのは……私のせいよ」
「それは違う! 悪いのは君じゃない!
あの女騎士とそもそもこんな馬鹿げたことを計画したギガゾンビの野郎だ!」
思わずロックは叫んでいた。
「でもっ!!」
絶叫でロックの言葉は遮られた。
先ほどまでの明るさはどこかに消し飛び、その表情には深い影があった。
「あたしがあの時キョンと一緒に逃げてたら、キョンは死なずにすんだ!
だからキョンが死んだのは、あたしのせい……」
そういってハルヒは一度目を伏せ、すぐに傲然と顔を引き起こした。
「間違いはたださなくちゃならないわ! 正されなくちゃならない……。
そうよ……。キョンが死ぬなんて間違ってるもの。キョンだけじゃないわ!
みくるちゃんも、有希も、鶴屋さん、アルちゃんも、ヤマトも、ルパンも、トウカさん、
魅音も、沙都子ちゃん……」
何かに憑かれたようにハルヒは死者の名前を挙げていく。
――なんという数か。
今更ながらにその場にいる者達は失われた人間の多さに愕然とする。
読み上げられる名に痛みを感じ、あるいは別の名前を思い浮かべて顔をゆがめた。
「みんな、みんな……。こんなとこで死ぬような人達じゃなかった。
こんな所で死んでいい人達じゃなかった! 間違いなのよ! ここで起きたことは全部!」
「ウザってぇぞ、てめえ!!」
ハルヒの絶叫に倍するレヴィの怒号が轟いた。
「駄々こねてりゃ、死人が生き返んのか!? くたばっちまった奴等はそこで終わりだ。
死んじまえばただのモノに成り下がって墓の下で虫に食われるしかねえ!
四の五の言ったところで誰にもそれを覆すことなんざ――」
「できる! できるわ! 今のあたしになら!!」
495 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:07:03 ID:vt0EWjXn
大気の粒子が動きを止めたように感じられた。
全員が耳を疑い、そしてハルヒの言葉の意味を理解すると同時に同じ結論に至った。
――狂ったか?
この世界はハルヒの思い通りになるらしいが、幾らなんでもそれは……。
悲しみの、或いは哀れみのこもった目でみつめられても、ハルヒはひるまなかった。
「本当よ! できるんだってば!
みんな生きてて、ちゃんど幸せに暮らしてる世界をあたしなら作れる!」
――お前は神様みたいなもんで、何でも自由にできる力があるんだとよ。
キョンは確かにそう言った。
――あれは新たな世界を作るための儀式みたいなもんで、お前がやったことなんだそうだ。
その通りだった。
いつかみた夢――。否。あれは夢じゃなかった。
いつかと同じようにまた、『世界』を作ることが出来た。
――お前が遊びたいって言ったから未来人も宇宙人も超能力者もいる。
自分が強く望めば、きっとみんな生き返る。
生き返ってそれぞれが絶望と悲しみに満ちた死ではなく、幸せな未来を掴むことができる。
そうあるべきだ。そうでなくてはならない。
「だから、戻る必要なんかないのよ! だってそうでしょ!?
元の世界に戻ったって、間違いは正されないままで、みんな……死んだままなのよ!?」
ハルヒは、目の前の人間達を順繰りに見渡した。
――どうして?
ハルヒの心に苛立ちの風が吹き荒れ始めた。
皆、表情はそれぞれだが、喜んでいるような顔は一つもない
(そりゃ、信じられないのも無理ないけど……)
でも、自分にはできるのだ。
死んでいったみんなを生き返らせられることが。
間違いを正す事が。誰も泣かなくてすむ、幸せな世界を作ることが。
苛立ちを胸の井戸に沈めながら、ハルヒは辛抱強く返事を待った。
しかし、
「ほ〜う、てめぇが夢の世界をつくってくださるってわけか?
そいつぁ、ありがてぇや。嬉しすぎて涙がでらぁ!」
ようやく返ってきた答えは嘲笑に満ちていた。
カッとハルヒの頭に血が上った。
「できるって言ってんでしょ!? 何で分からないのよ!!」
「ああそうかい」
わざとらしくレヴィは大きく肩をすくめた。
「仮にてめぇにンな芸当ができるとしても、だ。あたしゃそんな世界はゴメンだぜ。
てめぇみたいな甘えきった小便タレの作る世界なんざ、反吐がでるぜ!!」
「ああっ!! そうっ!!」
歯を軋らせてハルヒは叫んだ。
「アンタなんかこっちだってゴメンよ!
ここまで運んできてくれたお礼に、団員でもないアンタを特別に入れてあげようと思ったけど、
やっぱりやめるわ!」
「てめぇっ!!」
レヴィの体から怒気と殺気が迸った。
「何様のつも――」
「動くな!!」
レヴィの殺意が弾丸となって射出されるのに半瞬先んじて、ハルヒの絶叫が轟いた。
499 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:08:31 ID:vt0EWjXn
「……なっ」
レヴィは目を見開いた。
体が動かせない。不可視の枷でも嵌められたかのようだ。
「少し、大人しくしてなさい!」
「ざけんな、糞ガキ!」
「うるさい! 少し黙ってなさいよ!!」
はき捨てるように言って、ハルヒはレヴィからぷいっとレヴィから逸らした。
胸に満ちた怒りを吐き出そうと荒い呼吸を繰り返すハルヒに、
「せっかくのお誘いだけど、辞退させていただくわ」
眉根を寄せ、ハルヒは遠坂凛をに視線を送った。
「……あんたもなの?」
「ええ」
凛の即答に、ハルヒは髪を乱暴にかき回した。
「どうしてなの!? アルちゃんだって生き返るっていってるじゃない!」
その問いには答えず、
「……質問に質問で返して悪いとは思うんだけど、聞いていい?」
ハルヒは無言で先を促した。
「この首輪、今すぐ外してみてくれない?」
首輪を指差しながら凛が言うと、ハルヒの瞳が揺れた。
「そっ……」
絶句するハルヒを見て、やっぱり、と凛は小さく息を吐いた。
「……気にしないで。できたらもうけものだと思っただけだから」
「ち、違うわよ!! 今はなんていうか、良く分からないからできないだけで……。
きっとできるようになるわよ!」
凛は淡々とした視線をハルヒに注いだ。
ハルヒの場合、『知った』ことが逆に働いていると凛は推測していた。
(時間を遅くするとか、心を読むとか、イメージしやすいことには強いみたいだけど……。
イメージすることに知識が必要なことは難しいみたいね)
――何たる偏った力か。
半分呆れながらも、凛は同時に納得もしていた。
感覚的にやっていたことを、意識して行うことは難しい。
天性のカンでバットを振っていたスラッガーほど、
一度スランプに陥るとなかなか抜け出せなくなるのと似たようなものだ。
自分でいうのもなんだが、天才と呼ばれるこの遠坂凛でさえ、
魔力というものを使いこなせるようになるのに10年かかったのだ。
それよりも遥かに大きな「世界を創造」できるという力を制御しきるのには、どれほどの歳月がいるのやら。
「……もういいわよ! 信じないっていうんなら! ……後になって後悔しても遅いんだから!」
凛の視線を馬鹿にされたと取って、癇癪を起こした子供のようにハルヒは喚いた。
もういい。仲間でもない人間に信じてもらおうと思った自分が馬鹿だった。
ハルヒは、ロックに半ば祈るような気持ちで視線を向けた。
――どうして?
ハルヒは自分の体がこわばるのを感じた。
ロックの目には怒りがあった。悲しみの色に混じって確かに怒りの色があった。
(何で? どうしてそんな目するのよ!?)
さっぱり分からない。
――自分は間違っているのか?
慌ててハルヒは頭を振った。
(そんなことないわ。絶対そんなことない!
生き返る本人だって、みんなだって大事な人が生き返った方が嬉しいに決まってるもの!)
――なのにどうしてみんな、ちっとも嬉しそうじゃないの?
503 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:10:12 ID:vt0EWjXn
ハルヒの心の水面に生じた波紋はいつしか波へと変わっていた。
焦燥と苛立ちの風に煽られ、その波は頭へと変わり、ハルヒの心の壁へと幾度なく押し寄せる。
揺れる心のままにせわしなく視線をさ迷わせていたハルヒの視線が一点に吸い寄せられた。
(しんちゃんまで……)
少年の黒い瞳にも喜びはなかった。
悲しそうに、でもどこか厳しい面持ちでこらを見つめていて――。
――まてよ?
ハルヒはハタと膝を打った。
考えてみればしんのすけはまだ、父と母が死んだのをしらないはずだ。
知っていたらこんなに平静でいられるはずがない。
しっかりしているとはいえ、しんのすけはまだ子供なのだから。
(辛いことだけど……。ちゃんと教えてあげた方がいいわね)
ハルヒは息を吸い込んだ。
「しんちゃん――」
「ハルヒお姉さん! オラ、父ちゃんや母ちゃんと一緒にいたいけど……。
いいよ、生き返らせてもらわなくて」
声は震えていたが、少年の声音には強い意志が宿っていた。
ハルヒは息を呑んだ。
「しんちゃん……知って、たの?」
コクンとしんのすけは小さく頷いた。
「……どうして、なの?」
「オラ……。父ちゃんと母ちゃんに会いたいけど、
ひまもきっと、父ちゃんと母ちゃんがいなかったら泣くと思うけど……」
しんのすけの顔が歪んだ。
激しい痛みに耐えるように顔を大きく歪め、唇を震わせながら、しんのすけは言葉を紡いでいく。
「それでも……。お姉さんに、生き返らせてもらうのは、何か違う気がするんだゾ。
よく分かんないけど……。
お姉さんが作るっていってる世界にいるオラの父ちゃんと母ちゃんはきっと……」
しんのすけは顔を上げてハルヒを見た。
どこまでも真っ直ぐなその瞳に射抜かれ、ハルヒは硬直する。
「本物のオラの父ちゃんと母ちゃんじゃないって、思うから!!」
「本物よっ!! 言ってるじゃない! あたしは生き返らせることができるのよ!!」
ひび割れひっくり返った声でハルヒは絶叫した。
「死んだ人は生き返ったりしないよ!! お姉さんだって知ってるはずだゾ!!」
「だからっ!! あたしの作る世界では生き返るのよ!! 何で分からないのよ!!」
恐怖と絶望に駆られはハルヒは声を張り上げた。
505 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:11:18 ID:vt0EWjXn
――認めるわけにはいかない。
二度と生き返ることはないと認めてしまったら。
生き返る人間が本物でないと認めてしまったら。
――間違いを正せない事になる。
――みんなを。キョンを、永遠に失ってしまう。
「父ちゃん、オラに言ったんだゾ。父ちゃんはオラの心の中にいるって。
だから……オラ……」
「分かんない!! 全然分かんない!!
生きてた方がいいに決まってるのに……。何でみんな、そんな、風に……」
いつしかハルヒの声には嗚咽が混じり始めていた。
悲しくないのか。辛くはないのか。
仲間が、短い間とはいえ心を通わせた仲間が生き返って欲しいとおもわないのか。
(あたしは嫌……)
――嫌だ。
みんなが死んだままなんて、絶対に嫌だ。
「……もう、いいわ……」
力なく虚ろな声を響かせ、ハルヒは立ち上がった。
「あたしと逆方向に進めば帰れるようにしておくから、勝手に……。勝手に帰りなさいよっ!!」
悲鳴じみた声で叫び、ハルヒは踵を返した。
「……どこへ行くんだ?」
「関係、ないでしょ……」
ロックの問いかけをハルヒは切り捨てた。
ついてくる気がないならそれでいい。ついてこなくてかまわない。
仲間が死んだままでも構わないと考える奴等なんか、大事な人が死んだままでも構わないと考える奴等なんか――。
(あたしの世界にはいらないわ)
こんな奴等なんかほっておいて、仲間達と楽しく生きられる世界を作ろう。
ハルヒは足を速めたのだった。
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱 バトルロワイアルのフィールドから消失】
[残り 9人]
【D-4・病院付近/2日目・夕方(放送直前)】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:眠気と疲労、まやもや鼻を骨折しました(今度は手当てなし)
[装備]:コルトガバメント(残弾7/7、予備残弾×38発)、マイクロ補聴器
[道具]:デイバッグ、支給品一式、現金数千円、たずね人ステッキ(次の使用まであと2時間程度)、エクソダス計画書
[思考]
基本:力を合わせ皆でゲームから脱出する。出来ることならギガゾンビに一泡吹かせたい。
1:速やかに病院へ戻る。
2:君島の知り合いと出会えたら彼のことを伝える。
[備考]
※顔写真付き名簿に一通り目を通しています。
※参加者は四次元デイバッグに入れないということを確認しています。
※ハルヒ、キョン、トウカ、魅音、エルルゥらと詳しい情報交換を行いました。
※キョンの持つノートPC内の情報を得て、考察しました。
※レヴィの趣味に関して致命的な勘違いをしつつあります。
508 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:12:41 ID:vt0EWjXn
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:脇腹、及び右腕に銃創(処置済み)、背中に打撲、左腕に裂傷。
頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、疲労(やや大)、全身に少々の痛み
[装備]:ソード・カトラス(残弾6/15、予備残弾×26発)、ベレッタM92F(残弾8/15)
[道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、イングラムM10サブマシンガン(残弾15/30、予備弾倉30発×1)
グルメテーブルかけ(使用回数:残り16品……………………
「逃げるのか!?」
二つの声が重なった。
一つはどこか甲高い声。一つは押し殺した低い声。
だが、その二つの声は抑えきれぬ怒気を秘めているという点では共通していた。
思わず振り返るハルヒに、まずしんのすけが抑えきれぬ激情を叩きつけた。
「お姉さんがいったんだゾ!! みんなで元の世界に帰ろうって!!
そんで、オラ達みんなで一緒にエルルゥお姉さんとお約束したのに! なのに逃げるのか!?
キョンお兄さんが死んで悲しいからって、辛いからって、逃げちゃうのか!?
ロックお兄さんだって、トウカお姉さんだって、キョンお兄さんだって、
魅音お姉さんだって、さとちゃんだって、みんな……。
みんな、辛かったけど、悲しかったけど、我慢してお約束したんだゾ!!
約束したから……。トウカお姉さんも、キョンお兄さんも、さとちゃんも、魅音お姉さんも、
痛くても……あんなに血だらけに、なっても……」
しんのすけの頬を涙がつたった。
――大丈夫……しんのすけさんは、大丈夫……
苦痛の呻きをもらしながらも優しい声で励ましてくれた、自分を守ってくれた、北条沙都子。
――殺させは……しない。
深い傷を何箇所も負い血を流しながらも、戦って戦って死んでいった園崎魅音。
無残な有様で息絶えながらも、満足そうな笑顔を浮かべていたトウカ、そしてキョン。
彼らの顔が次々としんのすけの頭に蘇ってくる。
「みんな、最後まで頑張ったんだゾ!!」
彼らの命に報いるためにも、前に進まなくてはならない。
元の世界に帰らなくてはならない。
それなのに。
「なのに、なのに……。言い出したお姉さんが逃げるのか!?
今更逃げるなんて、許さないゾっ!!」
燃え盛る怒気を瞳に宿し、しんのすけは吼えた。
しんのすけが言い終えるのを待って、ロックが口を開いた。
「君の人生だ、好きにしたらいい。どう生きようと君の自由だ。
それをどういういうつもりはないよ……」
ロックは一度言葉を切った。
(エルルゥのようにやるのは、やっぱり無理か)
彼女の優しさも包容力も持ち合わせていない自分に、彼女と同じことをやるのは無理だ。
――俺にできるのは、ぶつかることだけだ。
それしかできない。
510 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:13:33 ID:vt0EWjXn
できるだけ怒りを吐き出そうと息を吐く。
「けどよ……」
だが、次に発せられたロックの声音には、隠しきれぬ怒りが染み出していた。
「君はさっき『間違いだ』といったな。それだけは、取り消していけ
君に、みんなの生き様を『間違いだ』と断じる資格なんかありゃしない。
否定すんな……。一度でも俺達の上に立った奴が、仲間だったやつが、仲間の生き様を否定する……。
俺にはそれが、我慢できねぇ!!」
ロックの咆哮が静謐な空間を震わせた。
何も言う事ができなかった。
一言も発する事ができず、歩き去ることもできずハルヒはただ立ち尽くしていた。
二人の言葉は矢ととなってハルヒの心をぶち抜き、彼女をその場に縫いとめていた。
――逃げるな。
しんのすけの言葉は、全ての欺瞞をぶち抜いていた。
どんなに言葉を取り繕っても、自分のやろうとしていることは逃避でしかないと見抜かれてしまった。
――否定するな。
彼らの死をなかったことにしてしまうことは、彼らの生き様を、想いを、踏みにじること。
なかったことにしてしまえば、彼らの生き様は、想いは、消えてしまう。
確かに理不尽としか思えない死に方もある。
けれど。
けれど彼らは、人を殺す道を選ばなかった。
ギガゾンビの思惑にのらず、苦難の道を行く道を選んだ。
悲しみと痛みに耐え、人元の世界へ帰ろうして戦った。戦い続けた
悪魔の誘惑に負けてしまった者達と、そして挫けそうになる己が心と。
確かにつれてこられたこと自体は理不尽極まりない。
けれど彼らはそれぞれの誇りを、譲れないものを貫いて死んでいったのだ。
中途で道は途絶えたが、彼らの生き様を間違っていると断じる事などだれにもできない。
――誰にもさせない。
――あたしが、させない。
自然と心と奥底から浮かび上がって思いに、ハルヒは打ちのめされた。
そして愕然とした。
じゃあ、自分がただしたいと思ったこととは何なのだ?
「……私が弱くて、馬鹿でだったから……。あたしのせいで……」
無意識に口から言葉が飛び出していた。
またもハルヒは愕然とする。
――正したいのは結局、自分の間違いだ。
「誰かがそう、君に言ったのかい?」
響いたロックの声は先ほどとは打って変わって優しかった。
「そんなこと言うわけないじゃない! みんな、みんな優しいから……」
「キョン君は満足そうな顔をしてたよ……」
熱いものが込み上げてきて、ハルヒはしゃくりあげた。
「本当に満足そうな顔をしてた。彼は満足だったんだと思う。
大事な人を守る事ができて、ね」
「でも……。でも……」
ハルヒの嗚咽は止まらなかった。
512 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:14:33 ID:vt0EWjXn
キョンが満足して死んでいったとしても、やっぱり許せそうにない。
自分を。自分の間違いを。
「――なんていうか、今のあなったって」
それまで黙っていた凛が口を開いた。
「似てるわ……。私の知ってる子に」
どこか独白するように凛は言葉を紡いでいく。
「その子は、ある国の王様だった。その子は必死で他国から国を守ろうとしたわ。
けど、時代が悪かったせいだと私なんかは思うんだけど……。
結局その子の国は滅んでしまった」
唐突とも言える話の内容に、ハルヒは思わず顔を上げてしまう。
チラリとハルヒをみやり、
「その子は後悔したわ。それこそ死ぬほど後悔して――。一つの決断をしたの」
凛は正面からハルヒを見据えた。
「その決断っていうのは、サーヴァントという存在になってという願いをかなえること。
その願いとは、『なかったことにする』こと。
歴史を捻じ曲げて、自分が『王になったならなかった』世界を作ること。
全ては守るために。王として民を。国を守るために……」
「ちょっと待ってくれ! 凛、今君はサーヴァントって言ったけど……」
ロックが驚愕の声をあげた。
凛は首肯してみせた。
「そうよ。その子の名前は……。セイバー。あの金髪の騎士よ」
ハルヒの瞳が一気にその大きさを増し、見る見るうちにその体が小刻みに震え始めた。
(……嘘)
よりにもよってあの金髪の騎士と。キョンを殺したあの女と同じことを自分は……。
ハルヒの反応に、凛は一瞬躊躇するような表情を浮かべたが、かまわずに続けた。
「そんな余裕はなかったかもしれないけど……。
あなた達からみて、セイバーは心の底から自分のやってることが正しいと思ってやってるように、見えた?」
――見えなかった。
ハルヒの脳裏にセイバーの姿が浮かんだ。
彼女は強く、威圧感も覇気も兼ね備えていた。
けれど。
――私は武士でもなければ騎士でもない。王だ。それも愚鈍な
彼女はどこか自嘲しているようだった。どこか迷っているように見えた。
迷っていなければ、そもそもトウカや自分達と問答したりするまい。
凛の言葉は続く。
「セイバーは馬鹿だって思うのよ、私。だってそうでしょ? 守る守るって……。
自分だって本当は守ってもらいたがってたくせに……。意地張っちゃって。
ていうか、セイバーにはいたはずなよ!
彼女のことを守ろうとしてた人が! 彼女を守ろうとして死んでいった人が!
彼女が気付こうとしなかっただけで、ね」
しゃべっているうちに腹が立ってきたのか、凛の声は大きさを増していく。
「王になる歴史を捻じ曲げちゃったら、そういう人の生の意味は、思いは、どこへいくわけ!?
その人達からしてみれば、失礼極まりないって思わない!?
それなのに二言目には、私は愚鈍だ、愚か者だって……。
じゃあその愚か者を気に入っちゃったり、人肌ぬいでやろうと思ったりした人間は何なのよ!?
ウルトラ馬鹿者ってこと!?」
そこまで一気に言って、感情的になりすぎたことに気付き、凛はきまり悪げに咳払いをした。
516 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:15:51 ID:vt0EWjXn
「後悔は誰だってするし、過ちを後悔してそれを繰り返さないようにするのは大事だけど……。
きっと……。否定はしちゃいけないのよ。
自分の歩んできた道が間違いだったってて思っちゃ駄目なんだ、って思う。
一緒に歩んだ人のためにも。
歩みをとめさせられてしまった、私達が置き去りにするしかなかった人達のためにも……」
凛は柔らかい微笑を唇の端に浮かべた。
「なんて……。実は人の受け売りだったりするんだけど、ね」
凛の言葉はその優しい笑顔と共にハルヒの心にしみ込んでいった。
セイバーと同じだと遠まわしに言われた事を怒る気にはなれなかった。
だって、自分は危うくその騎士と同じ間違いを犯すところだったのだから――
唐突に、何の前触れもなく、世界が軋んだ。
それは異様な光景だった。
ダークグレー一色に染まった天頂に亀裂が入り、亀裂は瞬く間に世界を覆いつくしていく。
網の目は細かさを増し、蜘蛛の巣状に成長していく。
(これで、いいのよね? みんな)
ハルヒは心の中で呟いた。
最後にまた、今まで一番大きな間違いを犯してしまうところだった。
ほうっとハルヒはため息をついた。
その間も世界はひび割れていく。網の目は細かさをまし、既に黒い湾曲に近くなっている。
(よく、こんなの作れたもんね……)
もう一度作れといわれても無理だ。
何となくは分かるのだが、細かいところがどうにも掴めない。
当分の間、ヘタをすればもう二度と同じような空間を作るのは無理だ。
――無理。
その瞬間、ハルヒの心を恐怖の大波が襲った。
恐怖の大波はまたたく間に堰を打ち壊し、ハルヒの心を濁流で埋め尽くした。
「やっぱり駄目!! 待って!!」
あらん限りの声でハルヒは叫んだ。
やっぱり駄目だ。怖い。怖くてたまらない。
「ハルヒちゃん!?」
「……ごめんなさい」
ハルヒは喉から声を絞り出した。
「でも、やっぱり嫌なの! 一人で……。あたし一人で元の世界に帰ったって……。
あんな、何にもない、つまんない世界に戻ったって……意味なんかないもの!!」
帰ったところで待っているのは、鶴屋さんが、朝比奈みくるが、長門有希が、キョンがいない世界だ。
つまらい、灰色の世界。
やっぱり怖い。やっぱり逃げ出したい。戻りたくな――。
「舐めたこと言ってんじゃねぇっ!!」
519 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:16:40 ID:vt0EWjXn
その声が耳に届くのと右頬に衝撃を感じて吹き飛ばされるのは、ほとんど同時だった。
中を飛んで、ハルヒの身体は地面を転がった。
耳鳴りがする。頬が痛いを通り越して熱い。
「れ、レヴィ……」
ロックの声がひび割れて聞こえた。
「……やっと自由になれたぜ」
テールライトの如く顔を赤く染め、レヴィは肩をいからしてハルヒに歩み寄った。
ハルヒに『黙れ』といわれた瞬間口が利けなくなり、身体は動かせないまま。
そのまま長時間放置され、レヴィの怒りは頂点を越えてとうに噴火していたのである。
レヴィの形相の凄まじさに、ロックも凛も口を差し挟むことができない。
ハルヒの胸倉を掴んで引き起こし、
「今のは、このあたしを身動きとれねーようにした分……」
怒りを極限まで圧縮して詰め込んだような声が耳元でした――ハルヒがそう思った瞬間。
ハルヒは左頬に痛みを感じた。
先ほどよりは加減されていたが、それでも強烈だった。
またも地面に叩きつけられ、気が遠くなった。視界が凄まじい勢いで旋回している。
「そんでこれは……」
また引き起こされた。
意識が朦朧として、体がどの変にあるのかも分からない。
「クソ舐めたことほざいてあたしを激しくムカつかせた分だ!!」
きいんといって、聞えなくなっているにも関わらず、その怒号はちゃんと聞き取れた。
鼻から頭の裏側に衝撃がつきぬけ、ハルヒは意識を失った。
523 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:17:31 ID:vt0EWjXn
■
「……大丈夫?」
目を覚ますとそこには、心配そうな顔をした凛の顔があった。
「一応手当てはしておいたけど……。
悪いわね、完全に治してあげられなくて。カートリッジをこれ以上――」
凛の言葉を聞き流、しハルヒは慌ててあたりを見回した。
ハルヒの視線の先には、世界があった。
音のある、夕陽で染まった世界が。
ペタリとハルヒは力なく地面に座り込んだ。
「ハルヒちゃん……。大丈――」
「やぁっと、起きたかっ!!」
心配そうに近寄ろうとするロックを押しのけ、レヴィが歩み寄ってくる。
レヴィの姿に誘発されるように鼻と両頬から激痛が走り、ハルヒは顔をしかめた。
セーラー服の胸元が真っ赤だ。大方、鼻血と唇によるものだろう。
異様に身体も重い。さっきまで、疲れをほとんど感じなかったのに。
絶望がハルヒを捕えた。
(戻ってきちゃったんだ……。あたし)
灰色の世界に。
――キョンのいない世界に。
「ンで、ちったぁ、反省したか!?」
恨めしげにハルヒはレヴィを見上げた。
「何の、ことよ……」
レヴィの眉の角度が急激に上がった。
「そぉか……。どうやら、まだお仕置きってやつがたらねえよう――」
「レヴィ、落ち着け!!」
「レヴィさん、落ち着いてってば!!」
「お、おねーさん! 暴力はいけないんだゾ!!」
流石にこれ以上女の子が殴られるのを見たくはない。
ロック、凛、しんのすけは一斉に声をそろえ、制止しようとレヴィに飛びついた。
「……わーったよ! ったく……」
舌打ちして、レヴィは3人を振りほどいた。
それでも怒りが収まらないらしく、レヴィは傲然とハルヒを見下ろし、口を開いた。
「あたしはなぁ!
てめぇみたいに世の中を甘く見てるヤツを見ると、ムカついてしょうがねえんだよ!」
「別に甘く見てなんか、いないわよ!」
ハルヒは痛みを堪えて怒鳴り返した。
空間内で拘束したまま放置してしまったのは確かに悪かったと思うが、三発も殴られれば腹も立つ。
「あぁん? 世界がどうこうとかさかんに言ってたのはてめぇじゃなかったか?」
「そ、それは、そうだけど……」
ハルヒが口ごもると、レヴィはぐいっとハルヒに顔を近づけ、
「HEY! 耳かっぽじってよぉく、聞きな」
ドスの利いた声でレヴィは続けた。
「てめぇがどんなお気楽極楽なところで育ったかはしらねーがな……。
世の中なんざ、ちょいと裏にまわりゃ糞溜めだ。
神だの愛だのはいつでも品切れと相場は決まってやがる。
この世はハリウッド映画みてえなハッピーエンド至上主義で回ってやしねえんだよ」
527 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:20:04 ID:vt0EWjXn
「レヴィ、あのな……」
ロックは宥めるうように言った。
貧民街で育ってきたレヴィには、日本で恵まれた暮らしをしながら文句を言っているハルヒがカンに触るのは分かる。
(けど、それを言ってもしょうがないんだ)
アフリカの難民に比べればマシだから自分の生活を幸せだと思えと説教した所で、
納得できる日本人などいやしない。
ため息混じりに続けようとして、聞えてきた内容にロックは言葉を飲み込んだ。
「どんな暮らしをしてようがなぁ、イラつくことも辛れぇこともあんだよ。
イタ公の作るマカロニ料理の大皿なんか目じゃねえくらいにな!
けどな、だからって泣き寝入りして文句垂れてばっかいるんじゃねぇ!!
イラつくんだよ、てめぇの言い草を聞いてっと!!」
「泣き寝入りなんかしてないわよ!
あたしは……。あたしはSOS団をつくって……」
ハルヒの声は急速に弱まっていった。
「……何だかしらねーが、そんなら元の世界でそれをやりゃいいじゃねえか」
「もう、無理よ……。みんな、みんな死んで……」
「アホか、てめーは!」
胸倉を掴まれ、ハルヒの身体は強引に立ち上がらされた。
目と鼻の先にレヴィの顔がある。
「つまりてめえはようやく、世の中がクソ溜めだってことを頭じゃなく心で理解できたんじゃねーか。
問題はこっからだろう? 違うか?
さて……。世の中はクソ溜め、味方はいなくなっちまった。
確かに世ははこともなし、と言う気にはなれねえだろうさ。
けどな、それでもてめぇの生き方決めるのは、てめぇ自身だろうが!!
代官が悪党で税金はクソ重い! けど強すぎてとても手はだせそうにねえ!
そんときにロビンフッドやんのか酒場でくだまいて生きんのかは、てめぇの胸先三寸だってことだ!」
言うだけ言って、レヴィは乱暴にハルヒを突き飛ばした。
そして言うことは言ったというように、さっさと歩き去っていく。
(言い方ってもんがあるだろうに……。それにしても、まさかレヴィがな……)
苦笑しつつ、ロックは頭をかいた。
「……分かってるわよ、そんなこと」
食いしばったハルヒの歯が音を立てた。
「けど……。また古泉君と一から始めるのかと思ったら、
ちょっと、たまんないなって思っただけよ!」
自分を叱咤するように言ってハルヒは立ち上がった。
すると、
「大丈夫だよ! お姉さんにはキョン兄ちゃんがついてるから!」
うんうんと頷きながらしんのすけが言った。
「えっ……?」
意味がわからず、ハルヒは小さく首をかしげた。
「オラの父ちゃんが夢の中で言ってたゾ。いつでも見守ってるって!
キョンお兄さんもきっとオラの父ちゃんと一緒に、ハルヒお姉ちゃん緒のことちゃんと見てるよ!」
ハルヒの瞳が潤んだ。
目元を拭い、ハルヒはしんのすけの頭に手を伸ばした。
優しく頭をなでてやりながら、
「そう、かもね……。でもあいつ……。根性が足りないから、どうかしら……」
言葉に出した瞬間、涙が溢れた。
(……見守ってるんでしょ? 根性なしって言われたのが悔しいなら、夢にくらいできなさいよ!)
――会いたい。
夢でもいいから会いたい。会って伝えたい。
530 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:20:56 ID:vt0EWjXn
(言いそびれちゃった……。あいつに、大事な一言……)
短いけれど大事な一言を。
もう永遠に伝えることはできない。
それがたまらなく、悲しい。
ハルヒがもう一度乱暴に目元を拭ったその時。
「――おい、忘れてたけどよ。あのキョンとかいう奴からお前に伝言だ」
ハルヒは泣き濡れた顔を上げた。
やたらと心臓がうるさい。
全神経を耳に集中させたハルヒが見つめる先で、レヴィはしばらく頭をひねっていたが、
やがて思い出したらしく口を開いた。
「……『お前といた毎日は、悪くはなかった。楽しかった』だとよ」
――楽しかった。
ハルヒの表情が崩れた。
(何よ……。いつもいつも面倒くさそうな顔、してたくせに……。
それならもっと日ごろから楽しそうな顔しなさいっていうのよ、馬鹿キョン!
あんたがいつあんな顔してるから、言い損なったんじゃない……)
涙が枯れるなんて、嘘だ。
昨日から何度泣いたか分からない。
さっき泣いたばっかりだ。
それなのにどうしようもなく、涙は流れてしまう。涙は溢れてしまう。
涙が滲む目でハルヒは天を仰いだ。
夕陽の紅が滲んで目に痛い。
大きく息を吸い込み、
「あたしも……。あたしも楽しかったわよ!!
でもそれなら、楽しかったんなら、人が寝てる間に勝手に死んでんじゃないわよっ!!
この……馬鹿キョン!!」
ハルヒは地面に崩れ落ち、嗚咽を響かせた。
これからは一人だけど、あんたの分まで笑ってやるわ。
あんたがいた時と同じくらい――。
ううん。あんたがあの世で悔しがるくらい、楽しく過ごしてやるんだから。
ちゃんと、見てなさいよ。
ハルヒはもう一度天を仰いだ。
――ありがとう。あの時、一緒に走り出してくれて。
――今まで一緒に走ってくれて。
――あたし――だったわ、あんたのこと。
少女は心の中で、そっといえなかった言葉を、呟いた。
534 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:23:00 ID:vt0EWjXn
【D-4・病院付近/2日目・夕方(放送直前)】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:眠気と疲労、まやもや鼻を骨折しました(今度は手当てなし)
[装備]:コルトガバメント(残弾7/7、予備残弾×38発)、マイクロ補聴器
[道具]:デイバッグ、支給品一式、現金数千円、たずね人ステッキ(次の使用まであと2時間程度)、エクソダス計画書
[思考]
基本:力を合わせ皆でゲームから脱出する。出来ることならギガゾンビに一泡吹かせたい。
1:速やかに病院へ戻る。
2:君島の知り合いと出会えたら彼のことを伝える。
[備考]
※顔写真付き名簿に一通り目を通しています。
※参加者は四次元デイバッグに入れないということを確認しています。
※ハルヒ、キョン、トウカ、魅音、エルルゥらと詳しい情報交換を行いました。
※キョンの持つノートPC内の情報を得て、考察しました。
※レヴィの趣味に関して致命的な勘違いをしつつあります。
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:全身にかすり傷、頭にふたつのたんこぶ、腹部に軽傷、
SOS団名誉団員認定、全身が沙都子の血で汚れている、悲しみ
[装備]:ひらりマント
[道具]:デイバッグと支給品一式×4(食料-5)、わすれろ草、
キートンの大学の名刺 ロープ
[思考]
基本:皆でここから脱出して、春日部に帰る
1:何か出来ることを探したい。
[備考]
※両親の死を知りました。
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:脇腹、及び右腕に銃創(処置済み)、背中に打撲、左腕に裂傷。
頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、疲労(やや大)、全身に少々の痛み
[装備]:ソード・カトラス(残弾6/15、予備残弾×26発)、ベレッタM92F(残弾8/15)
[道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、イングラムM10サブマシンガン(残弾15/30、予備弾倉30発×1)
グルメテーブルかけ(使用回数:残り16品)、ぬけ穴ライト、テキオー灯、ニューナンブ(残弾4)
バカルディ(ラム酒)×1本、割れた酒瓶(凶器として使える)、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。物事なんでも速攻解決!! 銃で!!
1:涼宮ハルヒを病院へ送り届ける。
2:ゲイナーやゲインのエクソダスとやらに協力する。
4:カズマをぶっ飛ばすのは後でいいか。
5:機会があればゲインともやり合いたい。
6:バリアジャケットは絶対もう着ないし、ロックには秘密。秘密を洩らす者がいたら死の制裁を加える。
7:仕事が終わったらカズマに約束を守ってもらう。
[備考]
※双子の名前は知りません。
※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。
※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。
※空を飛んだり暴れたりで気分は上々です。
※カズマに対する評価が少し上がっています。
537 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:24:03 ID:vt0EWjXn
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:頭部に中度の打撲(動くのに問題は無し) 、鼻にヒビ。頬に打撲
疲労(大)、高熱、下唇裂傷。自分の能力に対して知覚
[装備]:クローンリキッドごくう(使用回数:残り2回)、
[道具]:デイバック×9、支給品一式×8(食料7食分消費、水1/5消費)、
鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)、
RPG-7×2(スモーク弾×1、照明弾×1)、クロスボウ、タヌ機(1回使用可能)
暗視ゴーグル(望遠機能付き・現在故障中)、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)
ダイヤの指輪、のろいウザギ、ハーモニカ、デジヴァイス、真紅のベヘリット
ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)、E-6駅・F-1駅の電話番号のメモ、
トグサが書いた首輪の情報等が書かれたメモ1枚
【薬局で入手した薬や用具】
鎮痛剤/解熱剤/胃腸薬/下剤/利尿剤/ビタミン剤/滋養強壮薬
抗生物質/治療キット(消毒薬/包帯各種/鋏/テープ/注射器)/虫除けスプレー
※種類別に小分けにしてあります。
着せ替えカメラ(使用回数:残り17回)、コルトSAA(弾数:0/6発-予備弾無し)
コルトM1917(弾数:0/6発-予備弾無し)、スペツナズナイフ×1
簡易松葉杖、どんな病気にも効く薬、AK-47カラシニコフ(0/30)
[思考]
基本:団長として、SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームから脱出するために力を尽くす。
1:病院に行く
2:病院にいるというトグサと接触し、ドラえもんからディスクを手に入れる
3:書き込みしてきた人物が気になる
[備考]
※腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。
※キョン、トウカ、魅音、エルルゥ、ロックらと詳しい情報交換を行いました。
※キョンの持つノートPC内の情報を得て、考察しました
※ジョーカーの情報を信じ始めています
※怒りや憤りなど、ストレスを感じると神人を召還できるようになりました。
他にも参加者などに何らかの影響を及ぼせるかもしれませんがその効果は微弱です。
神人の戦闘力もかなり低くなっています。 閉鎖空間はもう作れません。
【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]:中程度の疲労、全身に打撲、大程度の魔力消費、バリアジャケット装備(アーチャーフォーム)
頭部に裂傷。唇に裂傷。アバラ骨折(処置済み)、肋骨にヒビ(処置済み) 左肩を骨折
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(/修復中 ※破損の自動修復完了まで後一、二時間/カートリッジ2/6)
予備カートリッジ×8発、アーチャーの聖骸布
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料残り1食。水4割消費、残り1本)、石化した劉鳳の右腕、エクソダス計画書
[思考]
基本:レイジングハートのマスターとして、脱出案を練る。
1:病院に戻る。
2:セイバーの再襲撃に備えて体力と魔力はある程度温存。
3:ユービックを警戒。
4:フェイトと協力して魔法による首輪解除の方法を模索する。
5:闇の書の暴走を食い止めたい。
6:カズマが戻ってきたら劉鳳の腕の話をする。
7:変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。
[備考]:
※リリカルなのはの魔法知識、ドラえもんの科学知識を学びました。
※ギガゾンビに対する反乱と、その結末までを簡潔に聞きました(なので、所々正確ではない可能性があります)
※闇の書の防衛プログラムの暴走について学びました。
※この時点ではまだレヴィ達とは合流できていません。
[推測]
※ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い。
※膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能。
539 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:31:15 ID:vt0EWjXn
沈み行く日が再び、殺し合いのフィールドすべてを赤く染め上げ始めている。
血で満たされたような世界を空に浮かぶ城の窓から見下ろしながら、フェムトは思考の井戸に沈んでいた。
殺し合いに乗った最後の一人、セイバーは倒れた。
残った者達は、一致団結して自分に牙を向こうとしている者達ばかり。
これは、首輪の音声データとスパイセットから送られた情報を何度も洗いなおしたのだから間違いない。
さらにまずいことが一つ。
裏切り者のユービックこと住職ダマBのせいで、起爆装置が破壊されたことを参加者達が知ってしまったことだ。
彼らは悠々と首輪の解除にいそしみ始めることだろう。
――どうする?
内心の苦悩を映すかのように、ユービックの眼が激しく瞬いた。
ここが禁止エリアの中にある以上、我らの造物主、父たるたるギガゾンビに彼らは辿り着けない。
禁止エリアに入れば首輪がドォクァンだからだ。
そう。首輪が彼らの首輪にはまっている限り、主の優位は揺るがない。
――首輪がはまっている限りは。
(支給された物をフル活用しても首輪を外すことはできない、これは間違いない)
――だが、引っかかる。
ツチダマ達掲示板に何故かアクセスできるようになっていたというノートPC。微妙にタイトルが変わっていたというゲームCD。
アテでもあるような言動を繰り返す参加者達。
ユービックの目の明滅がさらに間隔を狭めた。
(タイムパトロールや時空管理局の仕業……ではないな)
彼らの仕業だとするならあまりにも悠長すぎる。
彼らが時空の狭間にあるここを突き止め、亜空間破壊装置のバリアを打ち破って内部に干渉する術を思いついたのなら、とっくの昔に彼らはここに押し寄せてきているだろう。
(そうなっていないということは、やはりただのミスか?)
所詮はハズレ支給品として用意された一群である、
用意する際に自分より能力も忠誠度も劣るツチダマ達が、設定を適当に行ったり、タイトルの記入を間違えた可能性は十分に考えられる。
(だが、万が一ということがあるからな)
ユービックはホログラムのスイッチに手を伸ばした。
これから自分がやろうとしていることは、父たるギガゾンビが嫌う独断専行だ。
しかし、父を危機から守るのも、動けぬ時はそれを支えるのも、子であるものの務め。
フェムとの眼光にどこか恍惚としたものが混じっているように感じたのは、光の加減のせいであったろうか?
(お守りします……ギガゾンビ様……)
父の命が守られるなら、仮にその父から怒りをかって破壊されようとも悔いはない。
540 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:32:29 ID:vt0EWjXn
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あぁ〜。テステス。
今の今まで生き残った人殺し諸君、まずはおめでとうと言わせてもらおう。
この私が送ってやった粋でいなせなプレゼントは気にいってもらえたかな?
な〜にぃ〜? ひっじょーに素晴らしすぎて一同感涙に咽んでいる、とな? そうだろう、そうだろう。
ゴールはすぐそこだというのに、へたり込んでしまいそうになっとる貴様らのために、
この私がわざわざカンフル剤を送ってやったのだ。存分に感謝したまえ!
これで24時間殺し合いができるようになっただろう?
……ップ……ククク……。
いや失礼。
では早速禁止エリアの発表する……と、言いたい所だが、
今から貴様らに悲しい悲しい話をしなくてはならない。
この6時間の間に新たに生まれた死亡者は――
キョン
カズマ
セイバー
トウカ
グリフィス
――以上4名!!
たったの4名なのだ!!
何をやっとるのだ、貴様ら……。
いかん!。そんなことではいかんのだ。じ つ に いかん!
日中からダラダラするような生活をしている人間はろくなものではない。
せっかくこの私がプレゼントまで送ってやったというのにこのザマではなぁ……。
そこで、だ。
これからは、一時間に2人以上死者が出ない場合、即、このフィールド全てを禁止エリアとものとする!
私とてこんなことはしたくない。ダンチョーの思いなのだ。
だがなぁ、小ざかしくも首輪を外そうとしてみたり、亜空間破壊装置を破壊しようとしてみたり……。
そんな無駄なことばかりに労力を費やす、馬鹿を極めているとしか思えない者が多すぎるのだよ。
何度も同じことを言わせるな!
1度でいい事を何度も言わなけりゃあいかんのは、貴様らの脳が腐っとる証拠だ!
私は無駄なことは大嫌いだ! 何故なら無駄だからだ!! 無駄無駄無駄ぁっ!!
い〜かぁ? 耳をかっぽじってよく聞け!! そしてその便所のネズミの痰ほどの大きさしかない脳味噌によく刻め!
貴様らに許されているのは、私を楽しませる為に死ぬか、私を楽しませる為に殺し続けるか、なのだ!
死ぬのが嫌なら、舞台を盛り上げるために励め! ハッスルしまくれ!!
さあ、その持っている銃で隣にいるドタマをぶち抜け! 持っているナイフで抉れ! 鈍器でなぐりつけろ!
貴様ら無価値だ! この世でもっとも劣った生き物だ! 殺さなければ生きている価値はない!!
ウヒッ、ウァハハハハハハ、ヒャーハハハッハハハッ!!!
541 :
代理投下2:2007/06/05(火) 11:34:04 ID:vt0EWjXn
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
スイッチを切り、フェムトは大きく息を吐いた。
ギガゾンビの言動パターンは記憶している。音声の変換も上手く行った。
(さて、どうでる?)
有希生命体である人間達は自分達ツチダマより遥かに命に対する執着は強い。
この放送によって彼らの中に亀裂が生まれ、殺しあってくれれば最高なのだが。
(まあ、そうならなかった時のことも考えておくべきだろうがな)
参加者達の情報収集、城の防衛体制の再構築、ツチダマ達の武装強化、闇の書への対策――。
どれもが重要事項であり、主であるギガゾンビの命に直結する。
間違いは許されない。
人間流にいうなら、喉がヒリつくような、とでも形容すべき感覚がフェムトを襲った
――戦場に、観覧席は存在しない
フェムトの頭の中に、闇の鷹の言葉が響いた。
だがしかし。
(ギガゾンビ様を、戦場に立たせなど……せぬ!)
観覧席で物語の完結を見届けることこそ、主の望み。
その主の望みをかなえることこが、自分の存在意義。
(ギガゾンビ様……。あなた様の悲願、必ずこのフェムトが!)
フェムトは誓いを新たにすると、防衛体制に関する方策を練り始めた。
――TP到着予想時刻まで、後6時間。
>>467 ×アーサーの
○アーチャーの
>>537 ※この時点ではまだレヴィ達とは合流できていません。
を削除。
「ユービック、紳士とは何か、紳士とはどうあるべきか、おまえさんは知っているか?」
「g、ギガ……」
半壊状態の喋る土偶に、ゲインは向かい合って延々説教を垂れていた。
「紳士とはご婦人を慈しみ、敬愛の意を持って真摯に接する男のことをいう。
そこに下心が混在することは許されない。ひとえに、愛だよ。
男たる者、紳士であれ。紳士たる者、男であれ。俺の言いたいことが分かるか?
つまりだな――覗きはいけない。ましてや、盗撮なんてのは極刑ものだ。そこんとこ分かるか?」
「はi……ホnト、もu教えg身に染mます、はい……」
いつになくしゅんとしているユービックを、正面から見据えるゲイン。
その背後には、怒り狂った鬼が見え隠れしているようにも思えた。
ゲインの言う紳士道がどういったものなのか、トグサにも分からなくはない。
何しろユービック……の友、コンラッドのやらかしたことは、男として――妻子持ちという身の上にある以上は、最悪と評すしかない。
視線を横に促し、トグサは静かに寝息を立てている少女のほうを見やる。
フェイトが寝ていて本当によかった。まだ子供とはいえ、もしこの事実を知れば、ショックは大きいだろう。
やれやれ、と溜め息をつき、今度はゲイナーのほうを確認する。
そこには、高速でキーをタイプする眼鏡の少年と、ハイテンションで踊る猫型ロボットの姿があった。
あちらもあちらで白熱しているらしい。もうすぐ放送が訪れるというのに、片や説教、片やゲーム、これで本当にいいのだろうか。
――ここで事態の説明をしておこう。
トグサとゲインは、ギガゾンビに反逆したツチダマ、ユービックの意を買い、その視覚データのチェックに躍り出た。
彼の視覚情報にはグリフィスという男が数多のツチダマを先導する様子や、ギガゾンビ城の内部映像などが記録されており、信憑性も高かった。
これならば、ユービックも皆から信頼を得ることができるだろう――そう思ってしまったのが甘かった。
視覚データをコンラッドのパソコンで閲覧する際、トグサたちは見つけてはいけないものを見つけてしまったのだ。
そう、コンラッド秘蔵のお宝映像……湯気立ち上る温泉に、裸身の幼女数名が浸かる姿である。
キャプチャと動画に分かれ保存されていた画像データは、どう見ても合法ではあるまい。
盗撮画像の中にはすぐ側で寝ている少女、フェイトのものもあり、トグサもまさか、こんなところで同僚の生前の姿を拝むとは思わなかった。
これに激怒したのがゲインだ。女性を愛してやまない彼の心情としては、隠れてご婦人の裸を覗く輩が、心底許せなかったのだろう。
ゲインのこの心情のおかげで、信頼を得るところであったユービックの好感度も大幅ダウンである。
ユービックは叱られながら嘆いた。心の奥底で、「あんンの盗撮魔がぁぁぁぁぁ!」と憤慨していた。
トグサもそんなユービックの不幸に同調したのか、裏切りについてはほとんど信用してやろうという気になり始めていた。
ともあれ、今はハックの準備を進めつつ、ゲイナーのプレイ結果を待つばかりだ。
敵方の、幼女の盗撮画像が納められているパソコンで代用する気にはなれなかったし、『射手座の日』がどんな恩恵を生んでくれるとも限らない。
今はゲインの説教を片耳に、ゲイナーの動向を暖かく見守ろう……ちなみに、ロックの「あの映像」はコンラッドが不要と判断したのか、データには残っていなかった。
◇ ◇ ◇
《The Day of Sagittarius 3》
3ってなんだ3って。1や2はあったのか。
僕、ゲイナー・サンガはそんな瑣末なことを思いつつ、件のゲームをプレイしていた。
ゲームタイトル、『射手座の日』。
なんともいい感じにキメようとしてかえって意味不明になってる感が否めないが、問題視すべきは中身なので気にしないことにする。
舞台は宇宙。とある恒星系を舞台にした領地争いをテーマにした、戦略系シミュレーションのようだった。
対立しているのは、二つの星間国家。一つはいわゆるプレイヤー側で、僕はこれを勝たせればいいわけだ。
僕は自軍の艦隊に<ゲイナー帝国>と名づけ、プレイを開始した。
ちなみに、名称が帝国となっているのはデフォルトで、他に変えようがなかった。僕は独裁的なやりかたはあんまり好きじゃないんだけどな……。
まぁ、ぼやいても始まるまい。僕はこの<ゲイナー帝国>を操作し、敵国、<コンピ研連合>を打ち滅ぼせばいいわけだ。
そうすれば晴れてゲームクリア。領地争いといっても、その場に話し合いという選択は存在しない。
勝てば官軍、撃滅あるのみ。製作者はどんな野蛮人なんだろうか。しかし、なんとも単純なクリア条件だった。
スタート時点では、画面はほぼ真っ暗である。モニタの下部で青く輝いている光点が、我が<ゲイナー帝国>の艦隊ユニットだ。
ユニット数は計5つ。一ユニットあたりに宇宙戦艦が一万五千隻ほど内包されているから総数七万五千、それプラス各艦隊にくっついている補給艦部隊。
それらを操作して同数の<コンピ研連合>を撃破すれば勝利条件クリアだが、それぞれの艦隊にはボスとなる旗艦が存在しており、それを撃沈されたら即刻負けとなる。
妙なこだわりを感じさせるところは、索敵システムを導入しているところだろうか。
ご丁寧なMAPは用意されておらず、敵の居場所もまず索敵艇を派遣し、マッピングを済ませなければ明かされないらしい。
闇雲に進軍させては、暗がりから襲撃される危険性があるわけだ。これはリアルなオーバーマン戦にも通じている。
明暗を分けるのは、やはりこの索敵システムなのだろう。すみやかに敵の位置を把握し、先の行動を予測した者が勝利者となる。
対人戦ならともかく、これはCPU戦だ。このゲームコンピュータがどれだけの性能を誇っているかは未知数だが……正直、<コンピ研連合>なんて名前からは脅威を感じない。
システム面から見れば、攻略性のない駄ゲーに思えるが……唯一僕向けなところを挙げるとするならば、ターン制でなくリアルタイム制であるところだろうか。
これは対人戦なら結構盛り上がりそうだ。シンシア相手ならやりがいもあったろうけど……と、そろそろ始めようかな。
プレイ開始前に、お互いの艦隊紹介一覧が表示された。
と言っても、分かるのは各艦隊の名称と旗艦がどれかということだけであり、大して攻略の役に立ったりはしない。
<コンピ研連合>のユニット名は、旗艦を筆頭に<ディエス・イラエ><イクイノックス><ルペルカリア><ブラインドネス><ムスペルヘイム>なる小洒落たパーソナルネームがついていたけれど、正直どうでもいい。
それに対する<ゲイナー帝国>は、<A艦隊><B艦隊><C艦隊><D艦隊><E艦隊>という適当ぶりである。だからネーミングなんてどうでもいいんだって。
ともあれ、「射手座の日を越えていけ」の謎を解き明かすための戦争は、開戦のファンファーレを鳴らした――
「ふっふっふ、有象無象がこぞってやられに来たか……我が<コンピ研連合>の戦力、あまく見ないでもらおうか!」
開戦とともに表示されたメッセージウインドウに、そんなセリフが書き込まれていた。
どうやら、<コンピ研連合>の大ボスたる人物らしい。顔グラフィックまで用意されているあたり、なかなか侮れない。
まず僕は索敵艇を派遣し、敵の位置を掴むべく陣を形成していく。
この手のゲームは基本が大事だ。奇抜な戦略は身を滅ぼしかねない。地味? 文句言わないでくださいよ。
次第に視野が広がっていき、やがて敵の第一陣、<イクイノックス>が姿を現した。
と思ったら、他の艦隊も次々に姿を現してくるから驚いた。
戦力を小出しにするような消極的な戦法は好かないらしい。旗艦のみを下げ、正面からぶつかるというCPUにしては豪気な戦略だ。単純ともいう。
こちらは旗艦を含めた5ユニット、すべてで迎え撃つ構えである。
基本的に、戦争は数で決まる。決定的な火力の差がない以上、こういったゲームでは特に物量がものを言う。
「敵は鶴翼陣形で僕らを誘い込むつもりか」
敵部隊は姿を見せたものの、あちらから攻撃にはうってこない。
防御陣を敷き、そこから包囲網を形成する算段なのだろう。見え透いた手だ。
こういったカウンター狙いの輩を相手にする場合、自ら突っ込んでいっては駄目だ。
専守防衛につとめ、端から防御陣を切り崩していくという戦法が打倒だろう。
だが、それじゃあ駄目だ。
僕が戦うべき真の敵は、<コンピ研連合>ではない。時間である。
残りの人数が減少した今、ギガゾンビ側がどういった手段を持って殺し合いにメスをかけてくるか分からない。
迅速に情報を入手し、首輪を外す必要がある。そのためにも、スピーディにこのゲームをクリアしなくてはならないんだ。
ならば取るべき戦法は決まっている――速攻だ。
自軍を動かし、敵の陣に踏み込んでいく。もちろん相手の罠に引っかからないよう、考えた隊列でだ。
すると敵軍は<イクイノックス>のみを残し、他の3艦隊は後退し始め、索敵範囲の届いていない闇の中へと消えていく。
<イクイノックス>を囮にし、その隙に包囲網を形成するつもりか。そうはいくか。
こちらは進軍しつもも索敵艇を派遣し、周囲の警戒を怠らない。
攻撃と防御を両立させ、確実に<イクイノックス>を追い詰めていく。他の敵が救援に駆けつける様子はない。
このまま<イクイノックス>を捨て駒にするつもりか? そんなことを考え出したときだ。
「あ、ゲイナー君。そっちは敵がまだいるはずだよ、きっと」
「え? うわっ、ほ、本当だ!!」
端で観戦していたドラえもんの声が響き、僕はその異変に気づいた。
<イクイノックス>以外の3艦隊が、僕の艦隊を取り囲んでいる――!? 馬鹿な、ありえない!
前方に追い詰めていた<イクイノックス>を囮に、左方に<ルペルカリア>、右方に<ブラインドネス>、後方に<ムスペルヘイム>が、いつの間にか部隊を展開させていた。
索敵しきれていなかった範囲を移動して、僕を囲んだのか――いや、だとしても早すぎる。
こちらの索敵艇よりも速く動き、気づかれずに四方に艦隊を移動させるなんて、それこそワープでもしなければ不可能だ。
とにかく応戦しかあるまい。僕は左舷と右舷から繰り出される挟撃に弾幕を張るが、前と後ろからも、矢継ぎ早に攻撃が仕掛けられる。
マズイ、これじゃタコ殴り状態だ。時間を気にするあまり、少し迂闊に進軍しすぎたか。
だが、僕だってゲームチャンプとしての意地がある。この程度の逆境、簡単に打開し……ドラえもんうるさい!
敵もなかなかに慎重らしく、こちらに反撃の術があると知ると、深追いせず即座に撤退していった。
すぐさま索敵艇を出すものの、相手は速度に特化しているらしく、艦影を捉えることができない。
まんまと逃げられてしまったわけだ。退けた、と言えないところがなんとも悔しい。
どうやら敵の作戦は一撃離脱を信条としたヒット&アウェイらしく、このままでは長期戦になるのも覚悟しなければならなかった。
CPUのくせに、なんて姑息な手を使うのだろうか。このゲームの製作者は、どれだけ陰湿な性格をしているんだ。
短期決戦が望めないからといって、焦ってしまっては敵の思う壺だ。いかなるときとて、将は冷静沈着でいなくちゃならないんだから。
その後も<コンピ研連合>は現れては消え、現れては消えを繰り返し、こちらのダメージを蓄積していった。
索敵艇で相手の位置が分からなくなったのは、CPU戦ゆえのご都合なのか。だとしたらベリーハードにもほどがある。
このままではイライラの溜まる一方だ。プレイヤーにストレスを与えるゲームはクソゲーだ、と思いつつも、僕はノートPCを投げ出したりはしない。
隣を見る。ドラえもんも劣勢だということが分かっているのか、不安げな表情をしていた。
自軍の状態を確認する――要となる旗艦はほぼ無傷であるものの、それを防衛する4艦隊の被害は甚大だ。
もし4艦隊のどれか一つでも切り崩されれば、敵はここぞとばかりに攻め入ってくるだろう。そうなればゲームオーバー、敗戦は必至。
コンティニューは可能だろうが、やり直している暇なんてない。焦るつもりはないが、求めるべきは速さなのだ。
チャンスは一度きり。チャンプとしての誇りと、みんなの命運をかけて、僕はこのゲームをクリアしてみせる!
(ゲイナーくん、がんばって。ぼくはうるさいって怒られちゃったから、暖かい目で応援しているよ。じーっ……)
ドラえもんの視線が鬱陶しい。まるで砂場で遊ぶ子供を身守るかのような、母親みたいに暖かい目だ。
そういえば、子守ロボットとか言ってたっけ。応援してくれるのはありがたいけど、それで戦況が変わるわけじゃないのが心苦しい。
ドラえもんの視線に答えるべく、僕は一度艦隊を後退させた。策を練り直すためである。
僕が目指すのは、タイムレコードを更新するくらいのスピードクリアだ。そのためにはどんな戦略が最適か、今一度考えてみる。
相手の作戦がチマチマしたヒット&アウェイだと分かった以上、強引に攻め込んでのスピードクリアは難しいと思われる。
ただ、それは定石で考えた場合だ。盲点は、このゲームの本質たる部分……『旗艦を撃沈すれば勝利』、というルールに潜んでいた。
相手の攻め手は旗艦以外の4艦隊。残りの一隻は、未だに雲隠れを決め込んでいる。
他四つが攻めに回っているということはつまり、旗艦の守りが手薄、どころかまったくないのも同意。
旗艦さえ発見できれば、一気に集中砲火を浴びせられるわけだ。
僕はMAPの隅で索敵艇を派遣することのみに従事し、敵旗艦の発見に勤しんだ。
すると敵は焦りを見せたのか、再び攻撃を仕掛けてきた。
――かかったな! これが僕の狙いさ!
そう、索敵に夢中になっていると見せかけ、相手が攻め込んでくるのを待つ。罠を仕掛けたのだ。
敵が今やられて一番困るのは、旗艦を発見されることだ。
当然、索敵を大々的に展開すれば、それを嫌がり阻止しようと踏み込んでくる。そこを討つ。そういうわけだ。
四方で囲う陣形は相変わらずだったが、襲ってくるタイミングさえつかめれば、いくらかはやりようがある。
僕は全艦隊を左方に向かわせ、敵艦<ルペルカリア>に突っ込んでいった。
包囲網を抜ける最善の方法。それは、一点突破。
局地的に戦況を見れば、5対1。外野からの攻撃はあるが、僕が負ける要因は何一つない。
結果として、<ルペルカリア>は自軍の総攻撃を受け沈黙した。それをスイッチに、他の3艦隊も闇に消える。
無茶をしたが、これでジリ貧だった戦況は打開できた。
こちらの<D艦隊>と<E艦隊>が撃沈寸前の深手を負ったが、単純な戦力差でいえばこれで5体4。数ではこっちが有利だ。
問題は、<コンピ研連合>の次の動きである。ユニットを一つ失った今、3艦隊でヒット&アウェイを継続するか、それとも旗艦も攻めに転じるか。
……なんて。
数分後、真面目に敵の行動を先読みしようとしていた自分が、どれだけあさはかだったか思い知らされることになる。
「なんなんだこれは……」
思わず、そんな力ない声が漏れてしまう。
ユニットを一つ失った<コンピ研連合>の次なる戦略。それは、予想だにしないものだった。
意外なことに、敵は正面から姿を現したのだ。敵ユニットの一つ、<ブラインドネス>が、単身……を、『20に分けて』。
最初に説明したが、一つのユニットは一万五千隻の宇宙戦艦+補給艦によって形成されている。
ダメージを受けるごとに、その総数が減っていくという寸法だ。
そして僕は、このゲームのマニュアルに載っていたあるシステムのことを思い出す。
それは、『分艦隊』と呼ばれるものだった。
概要はこうだ。一つのユニットを最大20のユニットに分散し、それぞれを索敵や囮、壁に利用する。分身みたいなものだ。
当然、個々の戦力はガクンと落ちるし、なにより複数のユニットを同時に操作しなければならないというデメリットがある。
5つのユニットを同時に駆使するだけでも高難易度だというのに、それをさらに増やすなど、あまりに馬鹿げている。
いくら僕がゲームチャンプとはいえ、専門はあくまでもコントローラだ。パソコンのタイピングがそこまで上手いわけではない。
だからこそ、熟練者向けのシステムである『分艦隊』は、戦略の視野に入れていなかった。
しかし、まさかそれを敵が仕掛けてくるとは思わなかった。
考えてもみて欲しい。『分艦隊』最大のデメリットは、操作難度が上がるという部分にある。
だが、僕が相手にしているのは現実の人間ではなく、CPUだ。
彼らはキーボードを叩くなんていう原始的な方法は取らない。要するに、操作難度の上昇という弊害は関係ないのだ。
ノーリスクで『分艦隊』のメリットを利用できるなんて、そんなの反則じゃないか。製作者はユーザーをなめてるのか!
クレームを言っても、それが製作者側に届くことはない。所詮は素人の自作品、ゲームバランスは滅茶苦茶というわけか。
僕は20に分散した<ブラインドネス>と正面からやりあいつつ、ついに<D艦隊>と<E艦隊>を撃沈されてしまった。
敵の<ブラインドネス>を示す光点は、まだ8つほど残っている。数的にも絶対的不利に陥ってしまった。
不幸は続くもので、僕が<ブラインドネス>群の相手に躍起になっていると、後方から<イクイノックス>、<ムスペルヘイム>が攻め込んできていた。
別に気づかなかったわけではない。今回は<ルペルカリア>を落としたことによりできた余裕で、完璧な索敵を済ませている。
敵が隠れたまま歩み寄る隙間なんてなかったはずなんだ……そうして不信感を募らせていた僕は、ついに見てしまった。
前方の<ブラインドネス>の光点がパッと消え、
いつの間にか後方、敵二艦隊の側に合流している姿を。
……つまり、だ。
敵は冗談でもなんでもなく、文字通り『ワープ』なるマニュアルにもないインチキ能力を使い、戦っていたと。
索敵から逃れ、四方を上手く取り囲めていたのも、すべてはこのワープ能力によるものだと。
デメリットを処分した『分艦隊』に、行為自体が反則的である『ワープ』。
<コンピ研連合>は、僕ら<ゲイナー帝国>が持ち得ない絶対的な力を保持していた。
「ふっ、フフフフフ……」
「げ、ゲイナーくん……?」
意識せず、笑みが漏れた。傍らでドラえもんが心配そうに見つめている。
やられた。完敗だよ。こんなふざけたCPUを搭載しているゲーム、クリアできるはずがない。
何が射手座の日を越えていけ、だ。無理に決まってますよこんなの。
僕は<C艦隊>が撃沈されたところで手を休め――そのままノートパソコンを閉じようかどうか考えた。
クリアできないゲームに、可能性なんて残されていない。早いところトグサさんに席を譲ってしまおう。
みんなは落胆するかもしれないけれど、幸い、ipod内のデータを持ってハッキングすれば、首輪の構造データは入手できそうだし。
「こんなゲーム、クリアする必要なんてないよ」
ドラえもんにも聞こえないほど小さな声で、ぼそっと呟いた。
だってそうでしょう? ギガゾンビの居場所は、ユービックがくれた情報で分かったし、首輪の電波特定はトグサさん任せでどうにかなる。
ひみつ道具の専門家であるドラえもんもいるし、首輪解除のための装置作成は何も心配ない。
今さら、このゲームをクリアすることになんの意味があるのか? 答えなんて決まってる。意味なんてないんだよ。
トグサさんとドラえもんがいる。首輪は解除できる。
レヴィさんやフェイトちゃんがいる。首輪さえ外せれば、ギガゾンビが二人に敵うはずもない。
それに比べて僕なんて、特別役に立つわけでもない。
キングゲイナーがあるならまだしも、それ以外はみんな、ゲームが得意というところくらいしか見てないじゃないか。
ゲインみたいな狙撃の腕前があるわけじゃないから、銃を持ったって意味はない。
ボクシングだって、ゲインとやりあったら秒殺されるような弱さだ。
そんな僕に、何ができるっていうんだ。
僕に残されているものなんて、何もないじゃないか……!
「いや、その理屈はおかしい」
…………え?
「ゲイナーくん、君は自分が何もできない役立たずの能無しだと卑下しているみたいだけど、そんなことはないんだよ」
無意識の内に、思っていたことを言葉に出してしまったらしい。
ドラえもんは淀みのない真っ直ぐな瞳で、僕を正面から見据えていた。
「これは僕の友達の話なんだけどね、その子は勉強が駄目でテストも零点ばかり、ケンカも弱けりゃ野球もヘタクソ、
泳げない上によくママに叱られる。友達に泣かされることなんてしょっちゅうだし、家出したって一日で戻ってくるようなヤツなんだ。
そんなヤツでもね、いいところはたくさんあったよ。
男の子のくせにあやとりが得意だし、射撃の腕前はそこらのガンマンよりすごいんだ。
ひみつ道具を使わせたら天才だし、3秒で昼寝ができる人間なんて、世界中探したってそいつしかいない」
真摯に友達の話をするドラえもんの目尻には、涙が浮かんでいた。
眼差しは真剣なまま、僕の目を見つめている。涙を流しつつも、感情は泣きはしなかったのだ。
僕だって鈍感じゃない。ドラえもんのいう友達なる人物が、彼にとってどんな存在なのかは分かるし、その末路がどうなったのかも聞いている。
心は涙を流しているというのに、ドラえもんは泣かないんだ。もう、うつむいたりあきらめたりすることはできないから。
「ゲイナー」
僕とドラえもんの側に、トグサさんが歩み寄ってくる。
「おまえ、ウチのタチコマと一緒に行動してたんだろう? なら知ってるんじゃないか、九課の習わしを」
「九課……」
思い出す。タチコマの中でマニュアルを頭に入れながら聞いていた、公安九課という組織のことを。
『我々の間にチームプレイなどという都合のいい言い訳は存在しない。 必要なのはスタンドプレーの結果として生じるチームワークだけだ』
――それはたしか、公安九課のボスなる人物のセリフだったろうか。
あのとき、タチコマが自分の仲間よりもまず、フェイトの友達の捜索を優先したのは、その教えによるところが大きかったはずだ。
各々が信頼していたから、だからこそ公安九課は成り立っていた――そんな話を、あの場で聞いたような気がする。
「でも、僕の取り得はみんなの手助けなんか……」
「ゲイナー」
無意識に漏れた憤りは、眠っていたフェイトちゃんすら起こしてしまっていたらしい。
苦しそうに上半身を起こし、失われていないほうの目で、優しげにこちらを見つめる姿があった。
「ゲイナー、あのとき言ったじゃないですか。
足手まといだけど、守ってくれって言ってるようなものだけど、一緒に連れて行って欲しいって。
私は、あのときの言葉をまだ覚えてますよ。ゲイナーは私が守るし、これからだって一緒です。
それに、『エクソダス』って言葉、ゲイナーが教えてくれたんですよ」
思い出す。レヴィさんに半裸で放置され、そこをフェイトちゃんとタチコマに助けてもらった。
あのときから僕は、自分が役立たずだと自覚していた。みんなの迷惑になるかもしれない――だけど、僕は二人とともに行く道を選んだ。
――最後の最後まで自分からは何もしないのであれば、それは死んでいるのと同じだ。
今を思えば、ゲインのこの言葉に反感しようとしていただけなのかもしれない。
でも、僕はまだ生きてる。タチコマやなのはちゃんはもういないけど、僕はまだ生きてるんだ。
「――エクソダス、か。まさか、ゲイナー少年の口からそんな言葉出るとはね」
「ゲイン、おまえは何か、ゲイナーに一言ないのか?」
「……ないな。なにせ、俺の知っているゲイナー・サンガはゲームチャンプだ。
ゲイナーがクリアできないゲームがあるとしたら、それは誰にもクリアすることができない仕様なんだろう」
他の面々に対して、ゲインの態度は素っ気なかった。
そのどこか余裕ぶった、大人の態度が気にいらない。
「ゲインさん」
「ん?」
「頬、殴ってください」
「はぁ!?」
大人なんて、不条理な存在なんだ。そんなの、今に始まったことじゃないじゃないか。
「気でも狂ったかゲイナー?」
「いいから、一発ガツンとやってください」
このゲイン・ビジョウという人にしたって、とんでもない大人であることは変わりない。
女垂らしでフェイトちゃんみたいな子供にまで色目を使う。僕を子供と馬鹿にする。簡単に嘘をつく。
たぶん、この先も好きにはなれない。だけど、それがゲイン・ビジョウという人なんだと思う。
「まぁ、野郎を殴り飛ばすくらいなんでもないが……手加減はしないぞ」
「やってください」
立ち上がり、ゲインさんの前に歩み寄る。
そして、頬面に容赦ない拳が飛び込んでくる。
痛い。だけど、目が覚める。
「これで満足か?」
「痛ぅ……と、トグサさんも、やってください」
「おいおい、俺もかよ」
「あなたも鬱憤が溜まってるでしょう? ここいらで吐き捨ててみたらどうです!?」
半ばヤケ気味に、僕はトグサさんに迫った。
トグサさんは若干躊躇したような顔を作りながらも、ゲインさんに「やっちまえ」と支援され、拳を振るった。
衝撃で身体がよろめく。この人もなんだかんだで、加減を知らない人だ。
痛い。だけど、目が覚める。
「ぐっ……ふぇ、フェイトちゃんも」
「え、私もですか?」
フェイトちゃんがおっかなびっくりした表情で、不恰好に身構える。
正直、このときの僕の顔は、相当変な顔だったと思う。
女の子に殴ってくれと迫るなんて、そりゃ普通に考えれば怖い。
でも、そんなことはどうでもいい。フェイトちゃんの僕に対する好感度が下がったって、構いやしない。
フェイトちゃんはかなり迷った末に、僕の頬を平手でぺチンとはたいてくれた。
あんまり痛くはなかったけれど、それでも目は覚めた。
「最後は……ドラえもん」
「よ、よ〜し!」
ドラえもんも僕の一連の奇行の意味を分かってくれたのか、手加減する素振りは見せなかった。
丸っこい手で、僕の頬を思い切り抉る。今まで以上の衝撃に耐え切れず、身体が尻餅をついた。
それでも、ドラえもん本来のパワーを考えれば、軽い。さすが子守ロボット、無意識の内に手加減してくれたのだろうか。
とにかく、これで四人分。レヴィさんの分も含めれば、僕はこの殺し合いの場で、計五人もの参加者にタコ殴りされたわけである。
それでも、僕はまだ生きている。
「まったく……みんなでお手本みたいな説教並べて、そんなに僕に期待してるんですか?」
ぶつぶつ呟きながらも、僕はノートパソコンの前に舞い戻る。
傍目から見たら、亡霊みたいな空気を纏っていたように思えるだろう。
なんてカッコ悪い。
カッコ悪いけど、もうなんか……いいや。
「ドラえもん、痛覚って素晴らしいと思わないかい? 痛みは人の脳を刺激し、他の感覚を一時的に麻痺させてしまう。
ここに来てもう一日半が経つけど、僕は今までろくに睡眠を取っていない。正直かなり眠かったんだ。
だけど、ここまで持ち堪えることができた。それはひとえに、定期的にレヴィさんに殴られていたおかげだと思うんだ。
――つまり、僕はみんなに殴られたからこそ、ここまで生き延びることができたんだよ!」
「な、なんだっ――――え、えぇぇぇぇぇ……?」
ドラえもんがエラーコードを出したような顔をしている。理解不能と言いたいのだろう。
大丈夫。僕だって自分が何を言っているのかよく分かっていない。テンションに身を任せている状態だ。
それでも、今の僕に眠気がないことは事実だ。頭は今までにないくらいスッキリしているし、気持ちは高ぶっている。
今なら、何をしてもうまくいくような――そんな予感がする。
「敵の数が多い? なら、片っ端から撃墜していけばいいだけじゃないか!
ワープがなんだ! 相手の転移先を読むことくらい、この僕ができないとでも!?
それしきの戦法で僕に膝をつけさせようなんて、あまいんだよォォォォォォォ!!!」
吼えた。
腹の底から声を出して、パソコン内の<コンピ研連合>を威嚇した。
「知ってるかトグサ? 内向的な性格の子供ほど、いざキレたら手がつけられないそうだ」
「子持ちの身の上としては、頭の痛くなる話題だな……今度時間ができたら、
年頃の女の子の扱い方を教えてくれないか? 将来、娘が反抗期になったときの参考にしたいんでね」
「ご婦人の話題というなら喜んで」
周囲の目など気にしない。僕は叫びながら、キーボードを壊さん勢いでタイプを続ける。
指の動きがいつにもまして軽快だ。間接に油を差したかのような錯覚を覚える。
「いける、これならいけるぞ――!」
今一度、戦況を整理しよう。
こちらの戦力は二つ。旗艦である<A艦隊>と、ボロボロの<B艦隊>のみ。
対する<コンピ研連合>は、8つに分かれた<ブラインドネス>と、<イクイノックス>に<ムスペルヘイム>、そしてまだ見ぬ旗艦<ディエス・イラエ>。
この不利な戦況も、今なら簡単に打開できるような気がしてくるから不思議だ。
眠気が去り、高揚している僕の脳内には、次々と状況打破のためのアイディアが湧きあがってくる。
さぁ、考えろゲイナー・サンガ。どうするどうする――おまえならどうする!?
「これが勝利の鍵だァァァ――!!」
コントロールキーとF4キーを同時押し。テンキーで数を指定。そうして、僕は敵と同様に『分艦隊』を発動させた。
対象は<B艦隊>、それを限界値である20にまで分散し、一斉に索敵艇を出させる。
ゲームはもはや終盤、暴かれていないMAPはほんの一握り。この状況下、20もの艦隊で索敵を行えばどうなるか。
残された闇は瞬く間に晴れていき、隠れていた敵旗艦――<ディエス・イラエ>がついに姿を見せた。
「ゲイナーくん、敵の親玉が!」
「分かってる!」
索敵命令を出していた分艦隊に片っ端から突撃命令を出す。もちろん、標的は<ディエス・イラエ>一点集中だ。
タイピングが追いつかず、いくつかの分艦隊はまだ健在の<イクイノックス>等に落とされたが、振り返りはしない。
ここまできたらあとは力押しだ。残った全勢力、すべてで<ディエス・イラエ>を潰しにかかる。
次々と沈艦していく<B艦隊>だが、どうにか20の内の4つが<ディエス・イラエ>のもとに到達した。
一斉に攻撃開始。こんどは我が<ゲイナー帝国>が、四方から集中砲火を浴びせる!
分艦隊を使ったため個々の火力は弱まっているが、敵側からすれば、旗艦が袋叩きにされている状態だ。静観していられるはずがない。
定石に従うなら、近くの味方部隊を救援に回す。シンプルながらもこれがベストのはずだ。
だけど、<コンピ研連合>はそんなちゃちな手は使わない。使う必要がないのだ。
「あっ! 敵の親玉が消えた!?」
ドラえもんの驚きとともに、包囲していた<ディエス・イラエ>が突然消失する。
攻撃対象を失い動きを止めた<B艦隊>は、その隙を突かれ<イクイノックス>、<ムスペルヘイム>、<ブラインドネス>の残党に襲撃される。
僕の頼みの綱であった<B艦隊>は、一つも残らず殲滅されてしまった。
「ど、どうするのさゲイナーくん! これじゃあもう……」
「慌てすぎだよ、ドラえもん。これも狙いの内さ」
動揺するドラえもんに、僕は冷静に切り替えした。
「いいかいドラえもん、まず、敵の親玉である<ディエス・イラエ>はどこへ消えたと思う?」
「え? それはさっきから使ってるインチキワープを使って……MAPの別の場所に逃げたんじゃないの?」
「正解。だけどこの画面上のMAPを見てほしい。表示されている敵艦隊は、<イクイノックス>等攻撃部隊だけだ。
さて、ここでもう一度問題。敵の旗艦、<ディエス・イラエ>はどこに消えたのか……分かるかい?」
ドラえもんが首を捻る。が、すぐにハッとした表情で「分かった!」と告げた。
――そう、すべては計算の内だったんだ。
どんなに精巧で姑息なCPUでも、プログラムである以上、パターン性というものを持っている。
この、<コンピ研連合>が持っているパターンは――『ピンチになるとワープを多用する』。
僕はみんなに殴られスッキリした脳で、やっとそのパターンに気づいたんだ。
だからこそ、あんな無茶な奇襲を仕掛けた。相手の旗艦を、わざとワープさせるために。
さっきから相手が使っているワープだけど、これにもある法則がある。
それは、『索敵艇が行き届いていない未開範囲に出現する』というものだ。
相手はワープというインチキ能力をカモフラージュするため、初めは必ずこちらの視界範囲外に出現し、そこから姿を現す。
あたかも正規ルートを使い、高速移動でそこに回り込んだと錯覚させるためだ。
一見便利そうなワープ能力。だが、これは終盤になるにつれ、思わぬデメリットを呼び込んでしまう。
「敵は、必ずこちらが視認できていない範囲にワープする。だけどドラえもん、今、MAP上で視認できていない箇所はいくつある?」
「――ここだけだ!」
そう言って、ドラえもんがMAP左上隅の黒円を指し示した。
――これが、ワープ多様の落とし穴。
僕がこのゲームをプレイし始めて早数十分。
基本に沿い索敵行動を怠らなかったおかげで、MAPの全域は余すことなくライトアップされていた。
唯一残っている場所があるとすれば、ドラえもんが指し示した黒円の範囲。ここだけが、まだ『索敵していない場所』なのである。
何も見落としていたわけではない。<B艦隊>に分艦隊の指定をし、一斉索敵をする際に、わざとここだけ残すよう仕向けたのだ。
「敵旗艦がワープを使って逃げ帰る場所――そこを、この一部分に限定させるためにね!」
<ディエス・イラエ>が転移したであろう黒円の範囲。そのすぐ側では、我が旗艦、<A艦隊>が攻撃態勢で待ち構えていた。
分艦隊させた<B艦隊>、その狙いは一斉索敵のためだけではない。
<ディエス・イラエ>のワープを見越し、ワープ後即座に対応できるよう、<A艦隊>をここまで移動させるための囮にしたのだ。
「なるほど。他所で味方を派手に騒がせておいて、本命は敵組織のアジトで張り込むと……案外、刑事の素質があるんじゃないか?」
「すごい……なんだか、ゲイナーが輝いて見える」
「決めちまえ、ゲイナー」
「ゲイナーくん!」
「これで……とどめだァァァァァ!!!」
待機していた<A艦隊>に、攻撃を指示。
全弾、黒円の中にいるであろう<ディエス・イラエ>へ叩き込む。
爆発SEが連続して鳴り響き、そしてメッセージウインドが開かれた。
「こ、コンピュータ研に栄光あれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
片手にワイングラスを持った<コンピ研連合>総統の玉砕グラフィックが表示され、断末魔の叫びとともに消えていった。
ちょろいファンファーレが鳴り響き、モニタに輝かしい文字が表示されてゲームは終わる。
『You Win!』
◇ ◇ ◇
エンディングBGMが流れ、スタッフロールが映し出されている。
こんなものまで用意しているなら、素人作成のゲームにしては上出来だろう。
そして、
「……やった?」
この画面に到達したということはつまり――僕は、《The Day of Sagittarius 3》をクリアした。
「――いぃぃやっっっほおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぅぅぅぅぅ!!!」
跳びはね、側にいたドラえもんとハイタッチを交わす。
感極まるとはこのことだ。ついに、ついに僕は……僕の仕事をやり遂げた!
「やった! やったよドラえもん!!」
「うん! うん! 君はやればできるヤツなんだよゲイナーくん!」
無邪気に喜び合う僕とドラえもんの様子を見て、ゲインさんとトグサさんはやれやれと微笑を浮かべている。
まったくこの二人は、どこまでも大人な対応をしてくれる。
フェイトちゃんはパチパチと拍手をしており、心の底から僕の健闘を称えてくれているようだ。素直に嬉しい。
――しかして、これで僕はノートパソコンに残されていたメッセージどおり、射手座の日を乗り越えたことになる。
このエンディング終わった後、いったいどんな結果が待っているのか――僕は座して見守った。
他四名の視線もパソコンのモニタに集中し、興味ゼロのスタッフロールに「さっさと終われ」と訴えかける。
エンディングをスキップできないのがこうも苦痛だったことはない。
しかしながら、クリアしてこんなに感動を覚えたゲームもこれが初だ。
もし無事に帰ることができたら、ぜひシンシアと一緒にこのゲームで対人戦をやりたい。
彼女ならどんな奇抜な戦略を立てるか、想像するだけでも楽し――と、そんなことを考えていたら、やっとスタッフロールが終了した。
画面がブラックアウトする。
変化を待ちながら、今の内にまばたきを済ませておく。
そして――――
EMIRI.K>あ、繋がった。
黒背景の画面に表示されたのは、ゴシック体の簡素な文字列だった。
「EMIRI.K…………エミリ? 何者だ?」
みんなの口から、疑問符交じりの言葉が漏れる。
エミリ……イニシャルE.K.……少なくとも、参加者名簿には載っていなかった名前だ。
全員がそのエミリなるメッセージ主の正体を訝しげつつ、モニタ上に綴られていく字を見やった。
EMIRI.K>突然ごめんなさい。ですが、時間がないので簡潔に説明させてもらいます。
まず、私はあなたがたの味方です。これから約五分間の間、可能な範囲であなたがたの入力した質問にお答えします。
なるべく急いでください。このDISCを通じて交信ができるのは、僅かな時間のみです。
――戸惑ったり迷っている暇は与えられない。
僕はこのとき、本能的にそう感じながらも、すぐには指を動かすことができなかった。
そしてそんな僕らに追い討ちをかけるかのように――七回目の放送が始まった。
【D-3・病院内レントゲン室/2日目・夕方(放送開始)】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労(休息中により回復傾向)、SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾6/6発、予備弾薬×11発)
[道具]:デイバッグ、支給品一式、警察手帳、i-pod
タチコマのメモリチップ、エクソダス計画書、コンラッドのノートパソコン(壊れかけ)
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:エミリ……何者だ?
2:ハックに備える。
3:フェイトを保護する。
4:凛達が心配。
5:ハルヒか他の人間にロケ地巡りをしてもらうよう頼む(ギガゾンビの居場所が確定すれば不要)。
[備考]
※ギガゾンビの城を確認しました
※グリフィスやユービックのことについてロックから伝え聞きました。
※ユービックに対する疑心はまだありますが、視覚データ確認に伴いだいぶ薄れました。
※i-podの中身は、電脳通信制限解除のプログラムとハッキングに必要な攻性防壁突破プログラムでした。
※前記のうち、後者を使用できるは一回限りと思われます。
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:右手に火傷(小)、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)
[装備]:ウィンチェスターM1897(残弾数5/5、予備弾薬×25発)、NTW20対物ライフル(弾数0/3)、悟史のバット
[道具]:デイパック、支給品一式、スパイセットの目玉と耳(×2セット) 、どこでもドア
トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ、エクソダス計画書
[思考]
基本:ギガゾンビを打倒し、ここからエクソダス(脱出)する。
1:エミリ……そんな名のご婦人もいたようないなかったような……。
2:フェイトを看病する。
4:ユービックを警戒。
5:皆を率いてエクソダス計画を進行させる。
6:時間に余裕があれば、是非ともトウカと不二子を埋葬しに戻りたい。
[備考]
※仲間から聞き逃した第三放送の内容を得ました。
※首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています。
※モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました。
※ユービックのことを一応は信用はしましたが、別の嫌悪感を抱き始めています。
※この時点では、ゲインは神人が病院へ害をなす可能性を考えています。
※どこでもドアを使用してのギガゾンビ城周辺(α-5のエリア一帯)への侵入は不可能です。
【住職ダマB(ユービック)】
[状態]:ダメージ甚大、上半身だけ、言語機能に障害
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:グリフィスを助ける。そのためならば、参加者との協力も惜しまない
1:グリフィスを捜索
2:1を達成するために、協力者とひとまず信頼を構築したい
3:コンラッドのパソコン返してくれないかな……。
[備考]
※ギガゾンビの言葉(ツチダマはいつでも爆破できる)はハッタリかもと思いつつあります。
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:疲労蓄積、風邪の初期症状、腹部と後頭部と顔面に打撲(処置済み)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
[装備]:技術手袋(使用回数:残り14回)、トウカの日本刀、コンバットナイフ
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料一日分消費)
ノートパソコン+"THE DAY OF SAGITTARIUS III"のゲームCD(ディスクが挿入されている)
スタングレネード×2、スパイセットの目玉と耳
クーガーのサングラス、グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)、エクソダス計画書
病院内で見つけた工具箱、解体された首輪、機械の部品多数
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出
1:これはいったい……って、放送が!?
2:凛達が心配
3:首輪解除機の作成
4:ユービックを警戒
5:カズマが戻ってきたらクーガーのサングラスを渡す
6:グラーフアイゼンを誰かふさわしい人に譲る
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています
※基礎的な工学知識を得ました。
※ゲイナーの立てた首輪に関する仮説は『Can you feel my soul』を参考の事
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:大程度のダメージ、頭部に強い衝撃、強い決意
[装備]:虎竹刀
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)
[思考]
基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする
1:このメッセージを送っている人物は、いったい何者なんだ?
2:凛とグリフィスの捜索。
[備考]
※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました。
※ギガゾンビに対する反乱と、その結末までを簡潔に聞きました(なので、所々正確ではない可能性があります)
※ユービックの話を完全には信じていません。
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:右眼球損失(止血済み)、全身に重度の打撲、肋骨を骨折(措置済み)、右脇腹に裂傷(止血済み)、左側のツインテールなし、魔力スッカラカン、バリアジャケット解除
[装備]:バルディッシュ・アサルト(スタンバイフォーム/弾倉内カートリッジなし/予備カートリッジ×12発)、なのはのリボン
[道具]:デイバッグ、支給品一式、クラールヴィント、西瓜×1個、ローザミスティカ(銀)、エクソダス計画書
[思考]
基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。
1:体を直すためにも休息……だけど、これを見届けてから。
2:凛とグリフィスの捜索。
3:光球(ローザミスティカ)の正体を凛に尋ねる。
4:遠坂凛と協力して魔法による首輪解除の方法を模索する。
5:ベルカ式魔法についてクラールヴィントと相談してみる。
6:カルラや桃色の髪の少女(ルイズ)の仲間に会えたら謝る。
[備考]
※襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。
※首輪の盗聴器は、ルイズとの空中戦での轟音により故障しているようです。
※『EMIRI.K』の正体は長門と同じ情報統合思念体である『喜緑 江美里』です。
今から約五分間、彼女と交信、(可能な範囲で)情報のやり取りを行うことができます。
【17:54】 「紅の魔術師と、紅の従者」
西日を受ける建物は茜色に染まり、その西日が射す空の向こうは藍色。
夜の帳が落ちる、その直前にだけ見れる不思議な赤と青のコントラスト。
そんな風景の中を往くのは、疲弊した五人の人間達だ。
先頭から――遠坂凛、レヴィと涼宮ハルヒ、野原しんのすけ、最後尾にロック。
誰の足取りも重い。
急がねばならない。それぞれにその理由がある。――それでも彼女らの足取りは重かった。
先頭を行く遠坂凛は、アスファルの上を引き摺る自身の足から、視線を通りの先へと持ち上げた。
この簡単な動作だけでも億劫に感じる。それほどまでに、死線を越えたばかりの彼女の身体は疲弊していた。
半眼の先にあるのは戻るべき場所である病院だ。もう目と鼻の先だが、そこがとても遠く感じられる。
” ……マスター? ”
遠坂凛に声をかけるのは、その彼女の手の中から零れ落ちそうになっていた一本の杖だ。
「ごめん、レイジングハート。ちょっと気が抜けてた……」
言いながら遠坂凛はレイジングハートを手の中に握りなおす。
” いえ、マスター。それよりも、やはりもう少し回復した方が…… ”
一本の杖は主人を気遣うが……、
「駄目よ。只でさえカートリッジは足りてないんだから。
戻ったらフェイトにも使ってあげないとだし。カズマもセイバーと戦ったとしたら無傷ですむはずがないわ」
従僕の願いに首を振る。しかし、杖が心配しているのはそんなことではない。
「それに。……アルルゥも、他の死んでいった人達も、それに水銀燈だって。みんな苦しみと戦っていたのよ」
遠坂凛にはどこか自罰的なところがある。そこが杖の最も心配するところだった。
先の涼宮ハルヒに対する説得行為にしても、他にやりようがいくらでもあったはずである。
それを、彼女は最も自分が傷つく方法を、それを躊躇いもなく選択した。その選択は美しいが――間違いだ。
今更その間違いを正したいとは杖も思ってはいない。しかし、それでも――、
” マスター ”
後一つ通りを超えれば目的とする場所へと辿り着く。進むことに集中していた遠坂凛に、再び杖が声をかけた。
「何、レイジングハート? 小言だったら……」
杖の言葉に遠坂凛は顔を向けることもしないが……、
” ……マスター。もう二度と私を手放さないと約束してください ”
その強い言葉に歩みを止めた。そして、今度はじっと手の中の杖を見る。
杖に表情はない。だが、それを見ればそれが何を考えているのか遠坂凛にも理解することができた。
遠坂凛はフ……と、息を吐く。
「心配ばかりさせて、私は悪いご主人様ね。……さっきはごめんなさい。レイジングハート」
自分が傷つけば他の人は傷つかない――そんなわけがない。
そんなわけがないということは、先に相対した彼女を見れば、そして自分の生きてきた道程を辿れば解るはずなのに……。
だから、ここから先は――、
「最後までずっと一緒よ。レイジングハート」
” Yes. My Master. ”
遠坂凛はレイジングハートと繋がる手を再び強く結びなおした。
【17:59】 「終わりのはじまり」
「往来のど真ん中で玩具とぶつぶつおしゃべりなんかしてっと、ジャンキーと間違われるぞ」
立ち止まった遠坂凛に声をかけるのはレヴィだ。
そしてその肩には、ぐったりとした涼宮ハルヒがもたれかかっている。
「彼女。大丈夫なの……?」
遠坂凛が心配するのは、目を瞑り苦しげな表情で俯いている涼宮ハルヒだ。
「さぁね。大人しくなったと思いきや。途端にコレだ。まるで、飲み比べした次の日の朝みてーによ」
――二日酔い。それは言いえて妙だなと遠坂凛は思った。
彼女には世界を改変する能力――もしくはそれに類する能力が宿っていた。
そして、おそらくはそれまで無意識に振るっていたその能力を、彼女はついさっき自覚したのだ。
しかしそれはあまりに人の手には余る力だ。どう見ても彼女の――いや、人間のキャパティシーを超えている。
結果、能力に振り回され――いわば彼女は今、「能力酔い」の状態にあると言えるだろう。
(……酔っている。それぐらいで済んでいて御の字かもね)
下手をすれば彼女自身の存在が崩壊しかねない。そんな類の能力だ。
うまく使いこなせれば、この世界からの脱出も容易になるであろう魅力的な力だが、それは期待できない。
まだ未熟な能力者が過ぎたる力で己を滅ぼさぬよう、まずは能力を「使わない」ことから指導しなければ……。
「ヘイ! 遂にはおしゃべりさえもできなくなったのか?」
遠坂凛の思考を中断させたのは、再びかけられたレヴィの声だった。
そうだった。今は移動中だったと遠坂凛は思い出す。考え事に耽っている場合ではない。
「ごめんなさい。…………ええと?」
遠坂凛の前に立つレヴィは上を――空に顔を向けていた。その後ろのロックとしんのすけもだ。
「時間だぜ。三文の徳にもならないクソ下らねー説法のな」
天に唾吐く姿勢で吐き出されたレヴィの言葉に、遠坂凛も倣って藍色の空を見上げた。
その藍色の空に、七度ギガゾンビがその姿を現す。
それまでと同じ様に、生き残った少ない人間達に向け、嘲り、侮蔑し、挑発する。
そして、短い放送を何時もの通りに哄笑で締めくくると、再びその姿を空の向こうへと隠し消え去った。
遠坂凛、レヴィ、ロック。三人の顔が一様に青褪める。
仲間であったカズマの死にではない。もちろんそれを聞いた時にも彼女達は衝撃を受けたが――、
「……不味い。危惧していた中でも最悪の展開だ」
ロックの口から絶望を含んだ言葉がこぼれる。
ギガゾンビが、自らグリフィスを差し向けたこと、そして亜空間破壊装置の存在を公言した。
そして、一時間以内に二人以上の死者が出なければ全員を殺すという宣言。
「戻るぞっ!!」
言うが早いかレヴィは涼宮ハルヒを背負って走り出す。
他の三人も疲れを忘れてそれを追った。
最悪の展開――つまりは、ギガゾンビ側の手札が先に尽きたのだ。
【18:00】 「喜緑江美里」
遠坂凛達が広い空へと目を向けていたのと同時刻。
逆に、トグサ達は病院のレントゲン室の中、目の前の狭いディスプレイの中へと目を奪われていた。
EMIRI.K>
突然ごめんなさい。ですが、時間がないので簡潔に説明させてもらいます。
まず、私はあなたがたの味方です。これから約五分間の間、可能な範囲であなたがたの入力した質問にお答えします。
なるべく急いでください。このDISCを通じて交信ができるのは、僅かな時間のみです。
突然、真っ黒なディスプレイの上に現れた文章。
ノートPCの前に座るゲイナーも、その後ろに立つトグサ、ゲイン、ドラえもん。
そして離れた位置でベッドに横たわるフェイト。さらにユービック。その内の誰も即座には対応できなかった。
なによりも、その正体と意図が掴めない。そして同時に、聞き逃せない定時放送も始まっている。
「トグサとゲイナーはそっちを頼んだ! 放送は俺とドラえもんで聞き取る」
咄嗟に判断したのはゲインだ。二兎追うものはなんとやら……、下手に手間取ればどちらとも取りこぼしかねない。
「分かった。よろしく頼む」
反応よく返事をしたトグサではあったが、通信の向こう側にいる者に尋ねる言葉までは浮かばなかった。
長門有希が指定したゲームをクリアした特典だ。それがマイナス要素であるはずはなかったが……。
EMIRI.K>
失礼ですが先に質問させていただきます。そちらに長門有希。または朝倉涼子という人物はいますか?
返ってこない反応にしびれを切らしたのか、向こう側から質問が出てきた。
――長門有希。そして朝倉涼子。その中にある二人の人物名を見てトグサは向こう側の正体を察する。
固まるゲイナーの脇から手を伸ばすと、キーボードに回答を打ち込んだ。
->
今はいない。すでに二人とも死亡している。だが彼女達の事情は聞いている。
君もその仲間なんだな?
回答。そしてそこに加えた質問。向こう側の返答は一瞬だった。
EMIRI.K>
はい。喜緑江美里といいます。
彼女達とは所属が異なりますが、同種であり、その目的は同じであると思っていただいてかまいません。
すでに通信開始から一分を過ぎている。トグサは素早く簡潔に質問を打ち込んだ。
->
涼宮ハルヒの奪還が目的だな?
それに対しては返答も簡潔だった。
EMIRI.K>
はい。
トグサはキーボードを叩き、短い時間で問答を繰り返す。
周りの人間はその内容を理解することができない様子だったが、それに対応する余裕までは彼になかった。
ただ、残された時間に追われながら無言でキーボードを叩くだけだ。
->
涼宮ハルヒは健在だ。彼女を救い出すというのなら、ついでに俺達も――とお願いしていいのか?
EMIRI.K>
はい。
こちら側では、そちらで何があったのか把握できていませんが、
友好的であるなら、あなたをそちらからこちらへと移動させることにやぶさかではありません。
->
ハルヒを含めてこちらには十数人いるが、それでもかまわないか?
EMIRI.K>
こちら側が提示する条件を満たしていただければ。
->
できることならする。
トグサは条件が提示されるまでの一瞬を息を詰めて待った。
射手座の日をクリアした特典。それは何よりも欲しがっていたこの空間からの脱出手段だった。
どのような条件が突きつけられるのか? どうやって自分達は救い出されるのか……、
EMIRI.K>
条件1. 涼宮ハルヒの生命の保守。
条件2. 通信に使用している端末機器の保全。
条件3. 長門有希。または朝倉涼子どちらかの遺体の確保。
三つ目の条件にトグサの眉根が寄った。一つ目と二つ目は解る。だが……、
->
条件3はなんだ? 彼女達も回収したいということか?
EMIRI.K>
いいえ。涼宮ハルヒと貴方達の脱出に必要なのです。
脱出に必要な構成情報を受け止めるキャパティシーは、残念ながらそちらの端末にはありません。
なので、彼女達のどちらかの身体を再活性化して、そちら側の受信機とする必要があるのです。
そうしなければ、残念ながら人を通すほどの経路を開くことが出来ません。
なるほど……とは、納得することはできなかった。
トグサが長門有希から直接聞いた情報統合思念体――そして、彼女達TFEI端末の情報。
判るのは彼女達が人類とは一線を画したレベルの能力を持っていること。
そして、まるで九課の少佐が電脳世界でそうするように、現実を情報で改竄できるということだけだ。
解らないことを一々説明してもらう時間はない。
トグサは技術的な疑問は頭から振り払い、実務的な部分だけに質問を繰り返した。
->
それで、それが実行できるまでにどれぐらい時間が掛かる?
EMIRI.K>
こちらからそちらへと再接続するのに、数時間。
さらにその後、そちらで経路を開く作業に、数時間。
未確定な要素を考慮した上で、おおよそ四時間から六時間の間に完了する可能性が高いです。
(四時間から六時間を推定……か)
トグサは唇を噛んだ。
これを聞いたのが今日の昼ごろであれば、彼は小躍りでもしたかも知れないが、すでにギガゾンビ側からの
いくつかの介入が確認されている以上、最低でも四時間というのは果てしなく長かった。
脱出の話が出た時は、これがゴールまでスキップできる隠しルートかと予感したが、やはり現実は甘くない。
だがそれでも、せっかく垂れてきた蜘蛛の糸を無下にするようなことはしない。
元々、彼等が立てたエクソダス計画では、全ての懸念事項をクリアした後の帰還方法については白紙だったのだ。
->
わかった。そちらの条件を守れるよう努力する。
EMIRI.K
ご協力を感謝します。
再アクセスはこの端末を使用しますので、電源を落とさないようお願いします。
そして、もう時間は終わりだと彼女は問答を終えた。
通信を終えたノートPCのディスプレイには、今の対話がログとして残っているだけだ。
トグサは一つ息を吐くと、この事案を仲間と検討するために振り返った。だが……、
「……どうした? 放送で何かあったのか?」
放送を聞いていたゲインの顔は暗く、眉間に皺が寄っている。
もしかして仲間が。まさかハルヒが……と、最悪のパターンがトグサの脳裏によぎったが、現実はさらにその上。
考えられる内で最も最悪の状況へと陥っていた。
「……ああ。不味いことになった」
【18:07】 「最悪のパターン」
トグサがゲインから放送の内容を聞き終わって絶句すると同時に、狭い室内に遠坂凛達がなだれ込んできた。
再会した仲間の暗い顔を見れば、互いに状況を把握していることが解る。
だが、さらに言葉を紡いで互いの認識を交えれば、それすらもまだ甘かったと言うことが解った。
ゲインが語る。グリフィス離反の顛末。
レヴィが語る。ツチダマの――ギガゾンビ側の積極的な介入行為。
遠坂凛の語る。リインフォースの失敗と闇の書の暴走。
そこにフェイトが付け加え語る。ジュエルシードと闇の書の脅威。
離反したグリフィスによる亜空間破壊装置の破壊。それに伴うギガゾンビ城の出現。
そして、グリフィスの暴走の結果を受け、新たに暴走を開始した闇の書。
さらにカズマと相討ったであろうセイバーの死による、積極的な企画推進者の不在。
――亜空間破壊装置の機能停止。――ギガゾンビの居場所の特定。――敵性存在の駆逐。
そのどれもは、予め立てられていたエクソダス計画にあったことで、一つ一つを見れば喜ばしいことではあるが……。
「……順番がまずい。よりにもよって首輪が最後になるなんて」
言葉を洩らしたのはロックだ。
元々、彼の発言を受けてエクソダス計画はそれぞれの作業を同時、または短い時間差で進める予定であった。
それは、今現在のような状況に陥ることを避けるためだ。
「よくも悪くも、グリフィスとやらの行動が裏目に出たな」
次に発言したのはゲインだ。
彼はユービックの持ってきたノートPCから、グリフィスがどう動いたかを把握している。
グリフィスの行動は、エクソダス請負人である彼にとっても予測の範疇を大きく外れるものであった。
ギガゾンビに取り入る人間がいたとしても、まさかさらに内部から反乱を起こすなどということを仕出かす人間がいるとは……だ。
しかも、一週間二週間と潜入工作を行ったのではなく、たった半日程度である。
そんな人間が現れるなどとは予想できるはずもない。
「闇の書の暴走は向こうも予定外のはず。早く切り上げたいんでしょうね。この殺し合いを」
ゲインに続けて発言したのは遠坂凛。
闇の書の暴走は、先のグリフィスの暴走を受けてのもではあるが、リインフォースがジュエルシードを
取り込むなどとはさすがにギガゾンビも予想はしていなかったはずだ。
そして、その闇の書はギガゾンビの居城の真近くにある。
運がなければ、暴走を開始した闇の書の被害を真っ先に受けるのはギガゾンビ本人になるだろう。
「不幸中の幸いは、事ここに至ってもまだギガゾンビがこのゲームを中断する気がないってことだ」
四番目の発言者はトグサだった。
ギガゾンビがその気になれば、全員の首輪を予告無しに爆発させこの場から去るのは容易なはずだ。
だが、ギガゾンビの中の、このゲームに対する執着がその決断を先延ばしにしている。
与えられた時間は一時間……いや、すでにもうそれよりも短い時間だ。
「……で、どうすんだ。ギガゾンビの野郎はすでに盤の端に手をかけてやがる。
こっちがわざと詰みの位置に駒を指さなきゃ、この盤を引っくり返すってな」
ソードカトラスのトリガーの重さを確認しながらレヴィが言い放つ。
時間の猶予もなければ、打つ手もない。八方塞の状況だ。
ロワナプラから来たレヴィがここでトリガーを引かないのは、ただ単純にギガゾンビが信用できないからであって
仲間だ、正義だ、道徳だ……といった価値観からではない。
例え最後の一人になれたとしても、まともに生かして帰して貰えるとは思えない。願いについては言わずもがなだ。
しかし、だからといって座して死を待つほど諦めのいいレヴィでもなかった。
「首輪を外す機械の方は間に合いませんか……?」
ベッドから横になった姿勢のままで問うのはフェイトだ。
首輪解除装置――正確に言えば、首輪の働きを止めるための擬似信号を送る装置。
エクソダス計画の中でも最も最優先で進められるべきファクターで、全員がその経過には注目していた。
それが完成すれば、ここにいる全員は晴れてギガゾンビの用意した盤の上から解放されるのである。
だが――、
「それは……」
問いかけられたゲイナーは返事を返せない。そしてそれが返答になった。
もちろん、彼も作業に必要な準備は進めていた。だが、肝心の電波の特定はこれからの予定だったし、
それからさらに出来上がった物を試験する必要もあった。
さすがに、命そのものに関わることをぶっつけ本番……というわけにはいかない。
よしんば、そういう不確定な要素を無視して進めたとしても、一時間足らずの時間では完了できないだろう。
「ないんだったら……、あたしが、時間を作って……」
弱々しい声は、ソファに横たえられたハルヒのものだった。
身体を起こすが、熱のせいか顔は紅潮し視線も定かではないように見受けられる。
彼女の能力――神のごとく思いのまま現実を改変する力。
それを目の当たりにしたものは知っている。彼女にはそれが出来うるのだと。
そして、それと同時にその力が非常に不安定で、彼女に負担を強いるものでもあることを……。
「ダメだぞお姉さん。ご気分のワルい時は横になってないと」
脱力し再び横へとなったハルヒの元に駆けつけたのは、野原しんのすけだ。
小さい体でベッドの脇に置かれていた予備の毛布を運び、ハルヒの体にへと被せる。
かけられた毛布の暖かさか、それともしんのすけの心の温かさにか、再び彼女はまどろみに落ちた。
一歩前に出る者がいた。このゲームの生き残り。その十番目――ドラえもんである。
「ボ、ボクが死ねば。ボクが死ねば、もしかしたらギガゾンビはもう終わりにするかもしれない」
ギガゾンビがもうゲームを諦めかけていると言うのなら、もしかしたら恨みのある自分が死ねば諦めるのでは?
それがドラえもんの意見であり、決心だった――が、それはレヴィによって一蹴された。
「馬鹿かオメーは。その終わりって時に、ギガゾンビがあたし達を生かしたままにするわけねーじゃねーか」
「もう、終わりだな……」
誰が言ったかは定かではない。しかし、それは誰でもよかった。
集まったゲームの参加者である十人と一体のツチダマは、口を利かず一人、もう一人とレントゲン室を去った。
【18:13】 「終着に向けて」
「ええい! まだ原因が特定できないのかっ!」
ギガゾンビの居城――その最奥に位置する司令室。そこに一体のツチダマの怒声が響いていた。
主であるギガゾンビにフェムトと名付けられ、主に代わり舞台の進行役を勤めている者のである。
彼が苛立っているのは、放送を開始する直前にあった一部の参加者の一時的な消失。
その原因が特定できていないことにであった。
「多分。通信機器の一時的な故障ではないかと推測されるギガ〜」
「亜空間破壊装置がなくなったせいで、亜空間から電波に干渉する波が漏れているのかも知れないギガー」
「闇の書も怪しいギガよ。周囲で異常な数値のエネルギーが観測されているギガ」
各種観測モニターに張り付いた、三体のオペレートツチダマからの返事は暢気なもの――つまりは
消失現象は一時的な機器の不調であると、そう結論付けていたが、フェムトはそれに納得しなかった。
スパイセットより送られる情報から、一時たりとも目を離さなかった彼だけは見ていたのだ。
参加者達が忽然と消える瞬間を。それは決して機器のトラブルによるものではないと断言できた。
「専門の班を作って、この情報を解析させろ」
フェムトは、その瞬間が収められたフィルムを近くのオペレートツチダマへと手渡す。
その後の様子から、あの消失が参加者達の意図したものではないことは推測できる。
だが、万が一グリフィスの様なイレギュラーな決着を繰り返せば。しかもそれが生存者の内の半分にも上れば、
彼の主であるギガゾンビを大いに失望させることとなるだろう。
そして、惜しいなどと思ったことはないが、主に尽くすための命も奪われてしまうに違いない。
「ギガゾンビ様の容態は?」
フェムトは、その忠誠を誓う主の様子をまた別のオペレートツチダマに尋ねた。
そのツチダマは、ギガゾンビが休息する部屋の映像と主のメディカルイメージを見ながら返答する。
「肉体の欠損及び裂傷についてはすでに完治済みギガッ。ただ、心労の値が危険値にまで及んでいたので
今は安眠誘導装置でお眠りになっていただいているギガッ」
フェムトはその答えに満足すると、先程の三体のオペレートツチダマに再び声をかけた。
ギガゾンビが開催したバトルロワイアル。それも終了まで後一日の四分の一を残すのみとなった。
参加者達がいくつもの問題に直面しているのと同時に、運営側にも危惧すべき問題が多々ある。
一つは暴走を始めている闇の書について、
「ジュエルシードから流出したエネルギーは、すでに闇の書を起動させるに必要な値を超過しているギガ」
「これならいつ活動を開始してもおかしくない。と言うか、すでにいくつかの兆候が見られているギガー」
「ちなみに、この城の防衛システムでは活動を開始した闇の書の攻撃に耐えることは、
できて精々一時間未満と試算されているギガ〜」
そしてもう一つは、近い内に到来が予想されるTPについてだ。
「幸いなことに、周辺領域内にはまだTPの存在は確認出来ていないギガー」
「波も穏やかで、絶好の時空間跳躍日和と言えるギガ」
「タイムマシンへの積み込み作業も、予定の45%を消化。0時までに脱出の準備は十分整うギガ〜」
闇の書に関してはよくない知らせだったが、脱出の手筈が順調であることにフェムトは安堵した。
だが、次の発言が再びフェムトのセラミックで出来た身体に緊張を走らせた。
「生き残った参加者達が動き始めたギガよ〜」
先の放送を終えた後、雑務に追われスパイセットから送られるデータの監視を他のツチダマに任せていたフェムトは、
その言葉を聞くと急いで監視システムの元へと戻った。
「あいつらはどうした? 殺しあうことになったのか?」
生き残った参加者達がどう動くのか。他にも問題はあるが、やはりこれが一番大きな懸念事項であった。
「一度、全員集合したギガけど、お通夜みたいな雰囲気だったギガね〜。
でもって、その後いくつかのグループに分かれて離れているギガよ」
そしてさらにそのツチダマは、彼らがどういった組み合わせで分かれたのか。そこで何をしているのかを伝えた。
得られた情報に、フェムトは取りあえず満足した。
いきなり殺しあうなどとは元から期待してなかったし、まずは彼らの一致団結を崩すことができたというのなら御の字だと。
爆破を予告した時間までは残り三十分と少し。遠からず、主であるギガゾンビが渇望していたものが見られるに違いない。
クク……と、フェムトは一人笑いをこぼした。
彼の主はこの企画の終了時刻を0時に設定したが、もしかしたら後一時間も立たない内に全ては終わるかもしれない。
もしそうなれば、闇の書もTPも出し抜き完全に成功という形をもってここから去ることができるだろう。
(――完全勝利だ!)
自分はギガゾンビ様から与えられた使命を完璧に遂行している。
そう確信すると、フェムトは再びその機械の身体に取り付けられたスピーカーから静かな笑いをこぼした。
【18:24】 「終着に向けて!」
レントゲン室より離れたトグサは、あの部屋よりいくつか通路を隔てた場所にあるリネン室の中にいた。
薄暗く狭い部屋の中、床に腰を下ろし作業に没頭している。
彼の傍らにはノートPC、そして目の前にはツチダマの中の反逆者――ユービックがいる。
”……どうだ?”
”問題はない”
繋がった電脳通信に互いが満足し頷く。
トグサの手には技術手袋が嵌っており、ユービックにはそれまでになかった孔とスロットが増設され、
彼らはトグサのうなじから伸びた線により結線されている。
”よし。じゃあ、作業に入る。もう少しだけ協力してくれ”
トグサは技術手袋を床の上に置くとノートPCへと向き直った。
そこには先程の喜緑江美里との対話とは別に、もう一つのウィンドウが開いている。
そこに表示されているログは、レントゲン室で交わされた――本当の会話の内容だ。
いかにしてギガゾンビの裏をかくか、どうやって首輪をはずすのか、またその他の問題をいかにしてクリアするか。
短い時間しかなかったが、彼らは話し合った。エクソダス計画を立てたあの時のように、再び。
そして、それぞれに課せられた仕事をするために動き出したのだ。
彼らのうちの誰かが「もう、終わりだ……」と呟いた。
そう。彼らはもうこれを終わらせるつもりだ。――自らの勝利をもって。
今まで生き残った十人。
――涼宮ハルヒ、ドラえもん、フェイト、遠坂凛、野原しんのすけ、ロック、レヴィ、トグサ、ゲイナー、ゲイン。
何故ここにいるのか。どうやって生き残ったのか。何を失い、何を得て、この先何を求めるのか。
それは、それぞれに、言葉通り十人十色に違う。何もかもが、ありとあらゆるものに違いがある十人だ。
しかし、それでも共通項を見つけるならば――、
それは――屈しないということだ。
家族や仲間、想い人……、それらを失った時、または戦いに傷ついた時。もう何度も膝を折ってきた。
この熾烈な二日足らずの間に、一度ならず彼らは屈した。だからこそ――、
だからこそ。彼らはもう屈しないのだ。
力及ばないことがあるかもしれない。でもそれでももう屈しはしない。
彼ら十人にはそれぞれに背負ったものがある。または、背中の後ろに置いて来たものがある。
それらのために進む。前へと進めだけだ。ただ、全力で。それぞれの十人が。
(ギガゾンビとその僕。リインフォースと闇の書。TPに情報統合思念体。――そして俺達。
最も優秀なスタンドプレーを演じられた者が、この事件の勝敗を左右しそうだな。
そして、まずは俺だ――)
トグサは静かに両眼を閉じると、未だ未知の23世紀の電子の海へと飛び込んだ――。
【18:25】 「魔力と魔力と魔力と魔力……?」
「これが、水銀燈のローザミスティカ……?」
遠坂凛とフェイト、涼宮ハルヒの三人の少女はレントゲン室から離れずその場に留まっていた。
後の二人は動きたくても身体の不調がそれを許さなかったからだが、遠坂凛は違う。
この後に予定されている闇の書との一戦に向けて、そこに集められていた支給品の中から
使えるものがないかを探しているのだ。
今、遠坂凛の手の上には一つの光を纏った宝石が乗せられている。そして傍らには同じ物がさらに二つ。
最初の一つは、フェイトが水銀燈の亡骸から直接発見した物。
後の二つはゲインが集めた荷物の中に紛れていたものだ。
荷物の中に別の人形の亡骸があったことから、おそらくそれはその人形の物だったろうとも推測できた。
「……どうですか凛さん。魔力としては十分なものだと思うのですが、使えそうですか?」
ベッドの上からのフェイトの問いに、遠坂凛はふぅむと唸る。
それが極めて大きな魔力を持っているのは分かる。問題はそこに込められた魔力が使えるかだが……。
遠坂凛の世界の魔力。フェイトの世界の魔力。若干の違いはあったものの、それは許容範囲内であった。
それは魔力の操作に長けた遠坂凛だっただからこそとも言える。
して、水銀燈の世界の魔力――ローザミスティカはどうだろうか?
魔力の性質としては一番異質だと思える。遠坂凛が水銀燈から聞いている情報からだと、
ローザミスティカは単純な魔力の塊ではなく――各薔薇乙女のためにカスタマイズされたもので、
それぞれに固有の能力が与えられ、また統合することでその能力を併用できるようにもなるという。
そして、薔薇乙女は契約者より魔力を得る。
つまり、ローザミスティカはエネルギーと言うよりも、データという側面が強い。しかも専用のコード付きのだ。
「……体内に取り込めば、それなりに魔力として働くとは思うけど。
それがどれくらいの量になるか、そしてデバイスに通るかは、やってみないとなんとも言えないわ。
彼女達が有していた固有の能力については期待しないほうがいいと思う」
そういう慎重な判断を遠坂凛は下した。
感触としては、ゼロの状態から一気に全快の状態まで回復しても余りある量が期待できるが、過信は禁物だ。
「そう言えば、コレもどうにかならないかって思っていたのよね」
そう言いながら遠坂凛が自分の鞄から取り出したのは、石化した劉鳳の腕だ。
「リインフォースは同じアルター使いなら……って言ったんだけど」
残念ながら、その同じアルター使いであるカズマは先程の放送で名前を呼ばれてしまった。
初見であったフェイトはそれが何かを尋ねるが、遠坂凛の答えを聞くと目を丸くして絶句した。
「あ、いや。……まぁ、彼には悪いと思ったんだけど、その、カートリッジもないしね」
改めて考えても非常識なことだが、今は藁にも縋りたい状態である。使えるものは使うのが遠坂凛の信条だ。
とは言え、彼女の手にも余る物でもあるのだが……。
「……起爆式を仕込んで、いや、……直接。……駄目かな」
遠坂凛を見るフェイトの顔色は、その容態のせいか心なしか青い。
石化しているとはいえ、人の腕を手に独り言を呟くのだからやはり他から見れば不気味だ。
ふむ……と、溜息をつくと遠坂凛は手にしていた劉鳳の腕を鞄に仕舞い込んだ。
彼女が考えていたのは、魔力にできないのなら、いっそ直接爆弾とすることはできないかということだ。
その発想は、彼女がよく知る紅衣の男が得意とする「壊れた幻想」からのものである。
劉鳳の腕に起爆式を仕込み、魔力の連鎖的な解放により爆弾とする。それは可能かと言うことなのだが……、
そもそも劉鳳の腕に閉じ込められた力――それを遠坂凛はよく解っていない。
爆薬の正体が判らなければ、挿すべき信管の種類もまた判らないということになる。
と、言うことで遠坂凛は劉鳳の腕に対する処置を保留にした。破棄しないのはやはりもったいないからだ。
そして、今度はレントゲン室の片隅、邪魔にならない位置に集められている支給品へと手を出した。
それから一分も経たない内に、狭い室内に凛の大声が響き渡った。
横になってまどろんでいたフェイトとハルヒも、その声に何がと慌てて身体を起こす。
「……こ、こんなものがあったんなら、誰か教えてくれてもよかったのに」
遠坂凛が支給品の山から見つけ出したのは、予備弾薬セット。
そして、その中に混ざっていた四十発もの魔力の篭ったカートリッジだった。
【18:27】 「潜行」
トグサがダイブして、まず最初に辿り着いたのは、あのツチダマ掲示板が置かれていたサーバだ。
テキスト形式の掲示板と、僅かな管理システムだけが置かれていただけのサーバ。
どれほどの物かと思っていたが――、
”とんでもない容量だな……。さすがに二世紀以上も先だと、常識が通用しない”
ダイブしたトグサの目の前にあるのは、視覚化された大容量の、それも九課の電脳システムを
まるごと展開したとしてもそれが数十は入るであろう、広大な電子の箱だった。
”だが、都合がいい”
トグサは早速、自らに課せられた仕事に取り掛かる。
彼に課せられた仕事は、メインコンピュータに進入してデータベースから首輪に関する情報を抜き出す――ではない。
それではもう間に合わない。なので、難度が跳ね上がるがより短時間で済み、また効果的な方法を取る事になった。
首輪のシステムの根幹を成すもの、それは電波だ。ゲイナーや他の検証によりそれは判明している。
今までのやり方は、それを首輪の側から解決するというものだった。そして、新しい方法はその逆。
つまり、操作する権利を持つギガゾンビ側のシステムを――落とす。少なくとも通信システムを……ということである。
”再起動完了〜♪ ……って、トグサ君じゃないかぁ”
ユービックに差し込まれた、タチコマのバックアップメモリからのデータ転送が終了し、そこにタチコマのAIが現れた。
さらにトグサからのコマンドによってタチコマは複製され、その声が電子の世界にリフレインする。
一瞬にして領域内に数十機のタチコマが現れ、それらはトグサの号令の元に幾何学模様の陣を組んだ。
”トグサ君、おひさしぶり〜♪” ”ここはどこぉ? もしかして天国だったり” ”広〜い。けどなんにもないねぇ”
”死んだ後も仕事だんなてAI使いが荒いなぁ” ”タチコマは滅びぬ! 何度でも蘇るサ!”
”ところでフェイトちゃんは〜?” ”あ、そうだ。フェイトちゃん” ”ボクも気になる” ”どうなったんだろう?”
あっと言う間に空間内がフェイトちゃんコールに満たされた。
相変わらずなところにトグサは苦笑するが、仕事に関しては任せられる連中だ。
フェイトの無事と、後三十分で仕事を終えないと、彼女と残った全員が死ぬことを教えてタチコマ達を震えさせると、
トグサはタチコマ達にコマンドを送ってそれぞれに仕事を宛がった。
トグサの命令が届くと、たちまちタチコマ達は電子の海に散らばる。
まずは、サーバの中にハッキングに必要なシステムが組まれ始めた。言うならばこれは橋頭堡だ。
トグサの電脳にも例のノートPCにも、スペックと容量の両面から見て、これから行われるハッキングには力不足だ。
なので、初手として本格的な侵攻を行うための礎が、サーバの中に電子の砦として築き上げられていく。
”ここと同様のシステムを他にも発見しました〜。数は6。生きているのは3です”
斥候の役割を課していたタチコマ達が戻ってくる。
――数は6。おそらくは、このサーバの本来の使用目的は亜空間破壊装置の制御、観測なのであろう。
そうトグサは推測した。そうでなければ、こういったコンピュータを別途用意している理由が説明できない。
攻めるにあたり砦の数は多いに越したことはない。トグサは戻ってきたタチコマに再び命令を与えた。
”一台は独立解析機。もう一台はおとりに使う。多層防壁迷路を組んでデコイアレイを展開しろ”
らじゃ〜♪ とおどけた返事をしてタチコマ達は再び散会する。
時間は少ない。そして敵の能力は未知数。その上でトグサが選んだ戦略は奇襲だ。
選んだというよりはそれ以外に方法がなかったとも言える。時間が無く、敵の実力が未知数である以上
最大戦力による一撃――これに賭けるしかなかった。言い換えればカミカゼとも言える。
”ウィルスアレイ及び、システムデータ、その他全データの展開終了しました”
同サーバ内で作業を行っていたタチコマから報告が入る。
宛がっていた仕事は長門有希が人知れず用意していたデータの解凍作業だ。
”展開が終了したら各データを解析。用途別にリスト化して、各所に配分。更新できるものはそうさせろ”
は〜い♪ と声を合わせて返すとタチコマ達は早速新しい作業に取り掛かる。
長門有希が用意したのは城を落とすための武器だ。それによって、トグサ達は武装する。
それらは、自分達が知るものより遥かに高度な技術によって組上げられているものだったが、
九課へと宛先があったとおり、トグサ達が使うシステムに適合させられており、使用には問題なかった。
”コレ見て見て♪” ”構造解析〜♪ 構造解析〜♪” ”うわ〜、こんなのありえないね”
まるで新しい玩具を与えてもらった子供のようにタチコマ達がはしゃぐ。
21世紀の技術レベルから見れば、与えられた物はまさに超兵器だ。はしゃぐのも無理はない。
こうして、トグサの仕事――ギガゾンビ城への電脳を介した侵攻は動き出した。
【18:39】 「兵共が夢の後――出立」
トグサが今の道へと至る出発点となったのが此処だった。
セラスと出会い、一時は拳を交わしまた共に戦ったのが此処だった。
獅堂光が、ガッツが、クーガーが、高町なのはが、キャスカが、さらに幾人も、幾人も、幾人もが此処に辿り着いた。
ある者は通り過ぎ、またある者は戦い、そしてまたある者は此処で死んだ。
野原みさえが死んだのも此処だった。
――そして、ゲイン・ビジョウがエクソダスの、その最初の一歩を踏み出したのが此処だった。
ゲイン・ビジョウは灰色の中に立っている。
彼が最初に此処を訪れた時、此処には地味ではあるが気品を感じさせる彩があった。
だが、今は灰色だ。簡単には語りつくせぬほど色々なことが此処であったが、やはりもう灰一色だ。
本当に様々なことがあったのだ。ならば、此処の風景はもっと雄弁でもいい。そう思っても、そこは残酷なほど灰色だった。
――唯一点、灰色でない場所がある。
ゲインの目の前、すでに命を――生命の彩を失った者達が眠る墓。そこだけは灰がよけられ赤い地面をあらわにしている。
ゲイン・ビジョウ、ロック、そして野原しんのすけの三人は、最初はホテルが建っていたその跡地にいる。
目的はトグサが交信した相手――喜緑江美里が求めた条件の一つであるTFEI端末、つまりは長門有希の遺体の回収だった。
もう一人のTFEI端末である、朝倉涼子がどこで死んだのかは誰も知らなかったので、必然的にこちらが選択されることになる。
そしてそれはもう成されていた。ゲインの目の前にある墓の一つは暴かれ空虚な穴を晒している。
彼女の遺体は、病院から乗って来た救急車の中だ。そしてその運転席にはロックがいた。
残りの一人、野原しんのすけはゲインの隣、野原みさえ――母親の墓の前に立っている。
ゲインはそれを見て想う。野原みさえを――彼の依頼人を。彼にエクソダスと息子の命を託した母親を。
彼女を埋葬してくれたのは、今は亡きキョン、トウカ、園崎魅音の三人だという。
救うことが出来なかった三人。彼らが倒れた場所には、未だ野ざらしのままの者もいる。
ならば、今度は自分達が彼らを弔うのが道理だろう。
今はまだできないが……、全てが終われば必ずそうしよう。そう、ゲインはそれを固く心の中で誓った。
しんのすけの前にあるのは、赤い土を盛った小さな山だ。
この下に自分の母親が眠っているとしんのすけは聞かされた。ゲインが言ったのだから本当だ。
目の前にかーちゃんがいる。そのかーちゃんに向かい、しんのすけは一人語りかけ始めた。
「……オラ、オラもう、お寝坊はしないゾ。朝ごはんだって残さないし、お片付けだってする。
おやつも食べすぎたりしないし、TVもがまんする。毎日、ちゃんと歯みがきをして寝る。
幼稚園にも毎朝バスに乗って行くし、ひまわりの面倒だって忘れない。
おりこうにするし、シロの世話だって絶対忘れない。
……いっぱい、食べて、勉強して、イイ学校に行って、……とーちゃんみたいなとーちゃんよりすごい男になる!
ひまわりだって、かーちゃんみたいなかーちゃん以上のイイ女になる!
だから……、だから!
かーちゃんは心配しなくていいゾ! 全然心配しなくてイイ!
オラも、ひまわりも……大丈夫、だから。心配しなくても大丈夫だからっ!
だから、かーちゃんは、……そこで、寝ててもいいゾ。
オラ……、もう……、かーちゃんに面倒、見てもらわなくても……大丈夫だから。
だから、ずっと、そこで寝ててもいい……」
赤色の地面にポタリ、ポタリと雫が落ちた。ポタリ、ポタリととめどなく落ちた。大粒の雫がいくつも落ちた。
肩が、膝が、握り締めた拳が、噛み締めた歯が、なにより心が震えていた。でも、我慢した。
――しんのすけは男の子だから。
「オラ……、お仕事が、あるから……、もう行くゾ。
みんなで、しなくちゃならないことがあるから……。
遅くなるかもだけど、帰ってくるから。
絶対! 絶対! 絶対! 絶対! 帰ってくるからっ!」
だから……、だから……、
「 ――行ってきます 」
【18:36】 「雪、無音、窓辺にて。」
広大な電脳の海の中、一人トグサはそこに漂っていた。
その眼下にあるのは、巨大な電子の城だ。
円形に配置されたデータを、さらに円環状に並べた電子の曼荼羅。
さらにその曼荼羅が積み重なり、うねりを持った螺旋を描いて巨大な電子の塔となっている。
そして、高さの異なる電子の塔が幾重にも並び立つ異形――それがギガゾンビの城だった。
”全くデタラメだな。デカトンケイル級をも遥かに超えているじゃないか”
トグサは一人ごちる。
彼我の戦力差は比べるべくもない。だが、だかと言って諦めるわけにもいかなかった。
攻城戦は戦力差だけが全てではない。いかに開城させるかの勝負だ。開きさえすれば攻める方が有利になる。
ギガゾンビの城に繋がる三つのサーバ。そこから城に向けて何かが送られていた。
未だ生きている、亜空間破壊装置の状態情報を取得する監視システム。
そこに、その情報に偽装した結合型ウィルスをタチコマ達が今せっせと流している。
”進捗は?”
”現在89%まで送信完了しています。終了までは後72秒かかる予定となってます”
”完了するまで気取られるなよ。隠密性を優先だ”
”らじゃ♪”
トグサの中に緊張が高まる。後一分ほどで戦争が始まり、それは十数分後には決着しているだろう。
勝てば、彼らは首輪の呪縛から解放される。逆に負ければ、その場で全員が命を失うだろう。双肩にかかった責任は重い。
”タチコマ#036から#059までは、俺の電脳防壁設定が正しく機能しているかを常に検証”
”了解しました。120毎秒回数でチェックします”
”タチコマ#60から#156までは、ハッキングが始まったらレベル6でこちら側の走査と記録を開始。
時限式、結合式のウィルスを含んだ文字列が書き込まれていないか監視しろ”
”アイサー。全タチコマ、一丸となって取り組みま〜す”
”対逆探知措置、対迎撃措置スタンバイ”
”もうやってる。……今のイシカワさんの真似ですけど、似てました♪”
ウィルスを送信しているタチコマから連絡が入る。――送信完了まで、後10秒、……9秒、……8秒、……。
”まずはデコイを先行させるぞ。相手の攻性防壁には気をつけろ”
”は〜い♪”
電脳空間中のトグサの周辺に、姿を隠していた無数のタチコマが姿を現す。その数――六千騎。
残り……7秒、……6秒、……5秒、……4秒。
……3秒、……2秒。
……1秒。
”送信完了しました。起動します”
長門有希が用意した一種のウィルスが、ギガゾンビの城の中で結合し起動する。
その様は、電脳内での現象を視覚化しているトグサに、ある自然現象を思い起こさせた。
それは――、
”……雪?”
トグサの目の前。音も、星の光もない、電脳の真っ暗な空。そこに、淡く白い雪が降っていた。
【18:39】 「不正アクセス」
ギガゾンビの居城。それだけでなく、殺戮遊戯の盤上の全てを管理するためにある司令室。
そのバトルロワイアルの中枢である司令室に、けたたましいレッドアラームが鳴り響いていた。
「ウ、ウィンドゥの中に雪が降っているギガ!?」
「第二フレームまでにウィルス汚染を確認。さらにメインシステムに四千以上のアクセスを確認ギガ〜」
「表層の防壁迷路が機能不全を起こして、全く役に立ってないギガッ!」
「ま、まずいギガー! レベル4までのセキュリティシステムを再起動しなおしギガー!」
「未知のウィルスを16種類確認。4種は中和中。1種は対処完了。……の、残りは対応できないギガァ!」
「お、汚染されたシステムをシャットダウン……て、コマンドを受け付けませんって出てるギガよ!?」
突然のハッキング行為に、司令室の中は混迷を極めていた。
各オペレートツチダマ達が、それぞれに対抗手段を講じてはいるが、後手後手に回って相手側に押されている。
総司令代行であるフェムトも、自分のデスクで事の成り行きを見てはいるが……、
「い、一体どこからだ……? 誰がこんなことをしているっ!」
ハッキング行為を受けるなどという、全く想定外の出来事に動揺していた。
ギガゾンビ城及び、ギガゾンビへの直接、間接的なアクセス。それは絶対出来ないはずだった。
特に電波による進入、それに対しては事前に入念な対策を施している。
電波に限らず、参加者達の通信や探知に関する能力は、問題を起こさないレベルまで抑制してある。
それは支給品に関しても同じだ。参加者達はせいぜい会場内の電話回線程度しか使えないはずなのだ。
「アクセスポイントを確認。て、敵は……アレ? 亜空間破壊装置の管理システムから進入して来てるギガ?」
「敵は遊園地。モール。温泉に残ったシステムを乗っ取って使用しているギガー」
「敵は内部! 敵は内部にいるギガ〜!」
オペレートツチダマの報告にフェムトは会場内MAPに目を移す。だが……、
「……A-8、G-5、G-8、……い、いないぞ。アイツらはそこにはいない」
亜空間破壊装置管理システム。その近くに参加者達は近づいていない。
ならば遠隔操作か? しかし、先に確認した通り参加者にそれができるわけがない。
しかしTPなどの外部勢力の仕業とも思えない。接近すれば判るし、こんなまだるっこしい手を使う相手ではない。
(誰が!? 誰が!? どうやって!? どうすればこんなことが!? ……まさかっ!)
自問するフェムトの脳裏に、ある一つの懸案事項が浮かび上がった。
ツチダマ達が、娯楽と暇つぶしのために電脳の片隅に作り上げた掲示板。そこへの不可解なアクセス。
(――あのノートPC!)
フェムトは確信した。この進入騒ぎはあのノートPCからのものに違いない。
そしてフェムトは記憶を辿る。あのノートPCは今どこにある――?
レントゲン室を出て廊下を歩くトグサ。その手にあった。そして、もう片方の腕には――ユービック!?
(アイツか!? あの裏切り者の仕業なのか?)
どうやって、あの裏切り者が侵入コードとウィルスを用意したのか?
それに加え、トグサの電脳に施されていた制限をどうやって解除したのか?
それはフェムトにも想像がつかなかったが、敵の正体を捕らえることはできた。
「侵入者はトグサと裏切り者のユービックだっ! 攻性防壁を放って、あいつらの電脳を焼き払ってしまえ!」
その号令に、守勢だったギガゾンビ側が、一気に攻勢へと反転した。
【18:40】 「ドラえもんと眼鏡の少年」
「僕のやっていたことって、なんだったんでしょうね……」
レントゲン室でのやり取りの後、手持ち無沙汰だったゲイナーとドラえもんは、ただ徒然と病院内を徘徊していた。
この行動も、別に全く意味のない行動というわけでもない。
ギガゾンビ側に、出来るだけ仲間割れしてるように見せかけれるようにと言う、ゲインの提案だ。
「……なんだったって、何が?」
ゲイナーの発言の意図が汲めず、ドラえもんはゲイナーへとそれを聞きなおした。
彼はその問いに、少し憮然とした顔で返答する。
「大人はずるいって話しですよ。……首輪を外す役目は僕にあったはずだったんです」
ああ、とドラえもんは納得した。確かにゲイナーの気持ちは分からないでもない。
「ゲイナー君」
ドラえもんは前を歩くゲイナーを呼び止め、そして語りだした。
「僕はね。ゲイナー君はとてもみんなを助けていると思うよ。
そりゃあ君は強くなければ、魔法も使えない。
でもね、君がいなければみんなもここにはいなかったと思う。
君がフェイトちゃんと出会ったから、トグサさんと出会ったから、ゲインさんと出会ったから、
だから僕たちはここにいるんだと思う」
それはそうかもですけど、と言うゲイナーにドラえもんは続けて語る。
「僕もトグサさんも他のみんなも、ゲイナー君が頑張っているのを知っている。
それはすごく助けられるんだ。僕たちも頑張らなくっちゃって。
こんな状況だもん。本当は誰だって投げ出したいという気持ちがあると思う。
でもね、他に頑張っている人を見ると、そんな気持ちに勝つことができるんだ。
それにね。ゲイナー君は自分だけしかできない事をしたじゃないか。
君があのゲームをクリアしたことで、みんなが帰れるかもしれないんだ。すごいよ」
ドラえもんの言葉にゲイナーの顔が赤くなる。
「それは持ち上げすぎですよ。……でも、ありがとうございます」
「ううん。僕のほうこそ、今まで何もできなくて……」
うなだれるドラえもんに近づくと、ゲイナーはその丸い手をそっと取った。
「何言ってるんですか。ドラえもんは、今僕を助けてくれたじゃないですか。おあいこですよ」
「ゲイナー君……」
ドラえもんの目に涙が浮かぶ。そして、改めてドラえもんは目の前の眼鏡の少年をいい子だなと思った。
「こんなところにいたのか。探したぞ」
廊下の真ん中で手を取り合う二人に声をかけたのは、ツチダマのユービックだ。
半分しかなかった身体は、つぎはぎの見える不恰好な姿ではあったが、ある程度修復されていた。
「身体を修理してもらったのか。おめでとうユービック」
「で、僕たちにどんな用ですか?」
ドラえもんとゲイナーの二人は、そのツチダマが仲間であるユービックであると確認すると、そこに駆け寄った。
「いや、ほとんどは自分で修理したのだ。暇だったのでな。それと用事があるのはゲイナーにだ」
「僕にですか?」
いぶかしむゲイナーに、ユービックはトグサより預かった修理手袋を差し出した。
「トグサが、もう好きに使ってもよいと。ゲイナーに自分の仕事をさせろと言っていた。
これは、お前が一番うまく使えるだろうからと」
「ドラえもん!」
「うん!」
受け取った技術手袋を握り締めると、ゲイナーはドラえもんの手を引いて走った。
ゲイナーの、彼の仕事場へと向かって。
【18:41】 「恐慌」
フェムトの下した号令に、守勢だったギガゾンビ側が、一気に攻勢へと反転した…………のだが、
「走査反応を逆探知――完了! 敵の位置を補足したギガ!」
「攻性防壁を展開〜。流入させるギガ〜……って、あら?」
「……まずいっ! トラップされたギガー! ぎ、逆流して――――――ギガァンッ!」
短い悲鳴、そして乾いた破裂音と共に一体のオペレートツチダマが椅子から落ちた。
床の上にセラミックの破片を散らし、焼き付いた基盤から薄い煙を立てて動かなくなる。
そのツチダマは、流した攻性防壁を逆に流し返され、電脳を破壊されたのだ。
流し込まれた攻性防壁をデコイと防壁を使ってトラップ。相手側が即応できないようにデータを改竄して逆流させる。
トグサの上司である草薙素子が得意とする戦術で、それはAI級と呼ばれるほどの処理速度があって初めて成し得るものだ。
今それを模倣したトグサ自身にはその能力はない。だが、その代わりに彼には長門有希の残した高度なシステムがあった。
……ともかくとして、警報の鳴り止まない司令室に、また新たな混乱が発生していた。
仲間の一人を破壊された恐慌状態に陥ったオペレートツチダマが、結線を解除し持ち場を離れ始めている。
もちろん、そんなことをすればどうなるかは火を見るより明らかなので、フェムトは離れないよう指示するのだが、
「み、みんな殺されるギガ〜! あいつらきっと宇宙人ギガ〜!」
「ハッキングされて機械が爆発するなんて、漫画と映画の中だけの話と思ってたギガ!」
「もうギガたちはおしまいギガよ〜」
「う、うわぁ。お城が揺れているギガァ!」
「もしかして、この世の終わりが来たギガッ?」
加えて発生する異常事態。ギガゾンビ城に低く重い音が鳴り響いていた。地震か? それとも敵の攻撃を受けているのか?
一人コンソールの前に残ったフェムトは、素早くキーを叩きその原因を探る。そして、それは程なく発見できた。
「か、隔壁が……!」
城内を映す監視カメラに、次々と閉じていく隔壁の映像が流れている。
抵抗が弱まったことで、敵の侵攻が城内のシステムを乗っ取りつつあるのだ。
フェムトは各システムに自閉のコマンドを送るが、彼一人ではまさに焼け石に水で、その勢いを止めることはできない。
(どうする……どうする……どうする!?)
コンソールの前を右往左往するフェムト。もし彼が人間だったら、その顔は真っ青だっただろう。
そして、そんな彼にさらに追い討ちの一撃が加えられた。
警報とは別種のけたたましい電子音と共に、モニターの一角にその情報が伝えられる。
それを見たツチダマ達、そしてフェムトに駄目押しの衝撃が走った。
「亜空間内に巨大な船影が現れているギガ!」
「まずいギガよ! 近すぎるギガよ!」
「は、早く探査波動を止めないと、見つかっちゃうギガ〜!」
司令室に限らず、城内の全ての場所においても混乱が発生し始めていた。
元より、事の流れに押されやすいツチダマ達だ。混乱は簡単に伝播し、それはもう恐慌にまで発展しそうな勢いである。
そんな中、一人その恐怖と戦っているツチダマがいた――フェムトである。
彼自身の性能は、その他のツチダマとなんら変わる所はない。
違うのは、主からパーソナルネームを貰っているということと、司令官と言う独自の役割を持たされている所だ。
故に、十把一絡げに扱われ、また彼ら自身もそう振舞う名無しのツチダマとフェムトは違った。
フェムトは思考する。他のツチダマとの安易な同期は取らず、彼自身の電脳で。
事態は最悪の展開と言える。――生存者達、闇の書、そしてタイムパトロール。
もはやバトルロワイアルは終了したのか――?
「違うッ!――まだ、終わりじゃあないッ!」
フェムトの手から電光が放たれ――そして、彼の目の前は闇に包まれた。
【18:44】 「CALL!!」
「……ッ。あー、クソッ! 痛ぇな畜生……」
あのレントゲン室での静かな話し合いの後、レヴィは一人、エクソダス計画を立てたあの大部屋へと戻っていた。
そして、あの時自分が寝ていたベッドの上に再び戻り、今はセイバーに斬られた左腕の手当てをしている。
白いシーツの上に血を溢しながら、乱雑ながらも的確に傷口へと針を通している。
ラグーン商会の女ガンマン。仕事は荷運びだけではないし、彼女はアルバイトも多く常日頃から生傷は耐えない。
して、その傷を治すのに彼女が病院へと足を運ぶかと言うと、答えは――ノーだ。
裏の世界の医者は高い。かといって表を歩ける素性でもないし、もちろん健康保険なんかを払っているわけがない。
結果、傷は治るまで放っておくか、自分で適当に手当てするか――となる。
なので、専門知識はなくとも彼女なりにではあるが、手当てのコツは掴んでいた。
深い斬り傷を、取りあえず端まで縫うと、レヴィは糸を結びシーツの端で腕を汚す血を拭った。
そして、用意しておいた包帯を傷口の上にグルグルと巻きつけると、最後にそれをきつく縛る。
「取りあえず、一丁完了……と」
手当てを終えた左腕をレヴィは上下させる。
動かすたびに鋭い痛みが走るが、彼女にとっては銃さえ握れればそれでよかった。
むしろ、全店休業を要求する疲れた身体に対する、よい気付けになるぐらいだと思ったぐらいである。
一息つくと、レヴィは壁に掛けられた時計を見て、後十分と少しで放送から一時間になるのを確認した。
その時、自分が生きているかどうかは、別の場所で仕事をしているトグサ次第だ。
十人もの命をBETしたこの大博打、しかも一点賭け。
はたしてその結果は――、とレヴィがそこまで考えたところで部屋の中に入ってくる者があった。
「傷の具合はどう、レヴィ?」
入ってきたのは、魔術師である遠坂凛。レヴィから見ればプッツン野郎のジャパニーズだ。
どうもこうも、と答えるレヴィの元へと駆け寄ると、遠坂凛はその傷を魔術で治すということを提案した。
レヴィの顔が変な形に歪む。そして鼻から息を噴出すと、彼女は一気に捲くし立てた。
「テメー、さっきはできねえって言ったじゃねえかッ!!
あたしが今、どんだけ痛い思いしてテメーの身体で裁縫ごっごしてたのか解ってんのかッ!?」
「ご、御免なさいね……。でも、さっきカートリッジが見つかったから」
「遅い! 遅い! 遅すぎだぜ! 日本人は時間に厳しいんじゃなかったのかよ?」
「し、しょうがないじゃない! フェイトだってハルヒだって治療しないといけなかったんだから。
それとも何? 私の治療は必要ないってわけッ!?」
う……、レヴィの顔が歪む。実際の話、本当は左腕だけでなく、全身のどこもが痛むのだ。
「鉛玉意外なら、貰えるもんはなんでも貰うって主義なんだ。……施しを受けるよジャパニーズ」
「そんな言い方は止しなさいよ。…………じゃ、身体を見せて」
と、遠坂凛が腕を上げるレヴィの身体に手を伸ばした時――、
――ピ、と小さな電子音が聞こえた。
生存競争遊戯の盤の上、
生き残った十人の、十の首輪が――ピ、と音を鳴らした。
【18:56】 「十人(+α)、再び」
キィンという澄んだ音を立て、リノウリウムの床に二つに割れた銀色の環が落ちた。
溜めていた空気を大きく口から吐き出すと、トグサは閉じていた両目を開いた。
ノートPCのディスプレイを覗けば、その中で勝利の凱歌を歌うタチコマ達の姿が見える。
「……まさか、ここまで出来るとはな」
言いながら、トグサは床に手を伸ばし首輪だった物を広いあげる。
ここに集まっていた者達を縛っていた首輪は機能を失い、遂に彼らをその縛から解放したのだ。
元々、向こうからの電波を止められればとハッキングを仕掛けた訳だが、それがこんなにもうまくいき
しかも、首輪そのものを解除できるコマンドを得ることができようとは……。
トグサは、それ――首輪を解除できるコマンドの存在を疑っていたが、存在したということは
案外、ギガゾンビもゲームのルールに限ればフェアな人間だったのかも知れない。
――と、もう片方の手で外れた首輪の痕をさすりながら、トグサは思った。
ともかく、命を賭してノートPCを託したキョン。死してなお働きを見せたタチコマ。
そして、全てのお膳立てをしてくれた長門有希。さらには仲間達。
彼らの助けを得て、遂にトグサ達は一つの――首輪という大きな問題をクリアしたのだ。
「お疲れ様」
トグサが戸口を見ると、いつの間にかロックがそこに戻ってきていた。
彼が放り投げる水の入ったペットボトルを受け取ると、トグサはそれを開き喉を潤す。
「そちらの方の首尾は?」
「ラグーン商会は荷運びが専門。抜かりはないさ」
トグサとロックは並んで廊下を進む。仲間達と再び合流するためだ。
「ずいぶんとうまくいったみたいだね」
「ああ。怖いぐらいにな。
後は、ギガゾンビの首根っこを押さえて、脱出の算段が整うまで待てばいい」
言いながら扉を潜る。戻ってきたのはあのエクソダス計画を立てた大部屋だ。
そこにはすでに彼らの仲間達が集まっており、
入ってきたこの一時間の最大の功労者を、彼らそれぞれの言葉や仕草で褒め称えた。
壁に掛けられた時計が指し示す時刻はちょうど十九時。
このバトルロワイアル終着までの六時間。その最初の一時間を彼らは勝ち抜いた。
【19:16】 「魔法少女×3」
陽も完全に落ち、通り抜ける風が少し肌寒い病院の屋上。
その屋上の端、南北に流れる河に浮かんだ闇の書、そしてその奥に見えるギガゾンビの城が
よく見えるその場所に、三人の魔法少女(?)が立っていた。
真っ赤な聖骸布を吹き抜ける風に任せているのは、――遠坂凛。
降ろした髪で、失った右目を隠しているのは、――フェイト・T・ハラオウン。
そして、遠坂凛が目を背けるほどの派手な衣装に身を包むのが、――涼宮ハルヒだ。
その時――つまりは、闇の書の始動に向け、彼女達はこの屋上で待機している。
「フェイト。その髪型も似合うわね」
「ありがとう、凛。そして、ありがとうございますハルヒ」
「なーに、いいのよ。お礼を言われるほどのことでもないわ。
可愛く萌える少女を、常に萌える状態に保ち、より高みを目指せさせるのも、SOS団団長の仕事だから」
ハルヒの言葉に苦笑するフェイトの、金色の髪――グリフィスによってツインテールの片方を落とされたそれは、
今は襟足をうなじに合わせたショートカットとなっている。
傷つき失われた右目を覆うように前髪は下ろされ、残ったツインテールからサイドの部分だけを残して、
それを頬の横に垂れる三つ編みにしている。その先端を結っているのは、彼女の親友であるなのはのリボンだ。
遠坂凛の治療を受けた後、ハルヒがフェイトの姿に見かねて、器用に鋏を振るった結果だった。
「で、あんたのソレはなんなわけ……」
遠坂凛が指摘するのは、ハルヒの纏う派手でアニメチックな衣装だ。
桃色を基調に金色のラインが引かれているデザインは、遠坂凛が記憶から抹消したいと願うカレイドルビーのそれに似ている。
だが、カレイドルビーの衣装に比べると、ハルヒの衣装は胸元は大胆に開きスカートはより短く扇情的だ。
花の様に開いたフレアスカートの端からは、幾重にも重なったレースのペチコートが覗いている。
そして、亜麻色の髪の毛は後ろで一つに纏められ、小さなポニーテイルになっていた。
「バランスの問題よ。あたしだけ一人制服なんておかしいし、なによりずるいわ」
ハルヒの理屈に、遠坂凛の顔は理解できないといった表情だ。
華麗に変身――などというのはフェイトの様な子供だけに許されるもの。そう彼女は思っている。
「……で、その衣装はどこから取り出したわけ? まさか、無駄に力を振るったんじゃないでしょうね」
衣装のデザインはともかくとして、ハルヒが力を使ったと言うなら、それは遠坂凛にとっては見過ごせない所だ。
「違うって。これは着せ替えカメラを使ったのよ。ドラえもんの世界の道具」
言いながら、ハルヒは衣装の端を摘まむ、
「これはね。みくるちゃんのために用意しておいたの。……彼女に着せてあげようと思って」
その言葉に遠坂凛とフェイトの二人はかける言葉を失った。
彼女達も此処で失った掛替えのない人や仲間達がいるが、数で言えば――勿論、それは比べるものではないが、
ハルヒが一番多く親しい人を失っている。何せ彼女は世界を作り変えようとしたほどの悲しみを受けたのだから。
「なーに暗くなってんのよ。もうすぐコレも終わりでしょう。だったら気合入れないと!
それよりもさ、アレちょーだいよ。ア・レ♪」
沈黙は破ったのはハルヒだ。そして、殊更に明るく振舞うと遠坂凛に向けて手を突き出す。
その様子は、待ちわびたプレゼントをねだる子供の様に幼く明るい。
「本気のつもり……なの?」
「今は猫の手でも借りたい……でしょ?」
遠坂凛はうーん、と唸るがハルヒの言うことも正しい――いや、この場合は困った時の神頼みと言い直すべきだろうか?
渋々ながらも鞄に手を突っ込み、遠坂凛は取り出したソレをハルヒの手の上へと置いた。
ハルヒの手の上にあるのは、翠星石のローザミスティカとグラーフアイゼンだ。
同様に、遠坂凛の手には水銀燈のローザミスティカとレイジングハート。
フェイトの手には、蒼星石のローザミスティカとバルディッシュ・アサルト。
三人の少女の手に、三種のローザミスティカと三種のデバイスがあった。
「取りあえず私からいくから、フェイトとハルヒはちょっと待ちなさい」
言いながら遠坂凛は水銀燈のローザミスティカを胸元へと寄せる。
そして、一度深呼吸すると、その因縁深い相手が残したそれを自身の中へと押し込んだ。
遠坂凛の全身に薔薇乙女の力が循環し、魔力が満ちる。そして、その影響か、纏うバリアジャケットが若干闇色に染まる。
「……うん。いけるわね、大丈夫。レイジングハートの方はどう? いけそう?」
” All right. 問題ありませんマスター。出力も安定しています ”
杖の返答に満足すると、遠坂凛はフェイトにも同じ様にすることを促した。
そして――、
「……すごい。バルディッシュはどう?」
” No problem sir! ”
剪定の鋏を得物とする薔薇乙女の力がそれにも宿ったのか、バルディッシュの刃が蒼い燐光を帯びた。
そして――、
「次は私の番ね。さぁ、出てきなさいっ!!」
ハルヒが指を鳴らすと――瞬間、屋上の縁より光を纏う巨人が頭を現した。そしてそれは立ち上がると共に高さを増す。
そしてハルヒが放り投げたグラーフアイゼンを片手に受ける。その鎚は、神人からすれば豆粒のような大きさだが、
続けて投げ込まれた翠星石のローザミスティカを取り込むと、その大きさを神人が持つに相応しいまでに増した。
「大したものね……」
遠坂凛は無制限とも言えるハルヒの能力に感心した。
短い時間で彼女がハルヒに指導したのは、「魔力が流れるとデバイスが働く」――それだけだ。
全く理屈にもなっていないが、むしろこの方がよい。想えば実現する力に対し、複雑な理屈はむしろ足枷にしかならない。
ハルヒに対しては、とにかく簡単に考えること――と、徹底して注意している。
神人の扱いに対してもそうだ。余計な事を考えず、玩具のラジコンを操作しているぐらいのつもりであれと、言い含めた。
そして、今は扱い方のよくわからない他の事に対しては一切考えるなと。
「ハルヒ。さっきも言ったけど……」
「わかってるってば。
ここで神人を動かす。それ以外には何もしない。で、疲れたらそれもやめる――でしょ?」
「私達の役割は闇の書を倒すことじゃなくて、あくまで引き付けて足止めすることだから……、それを忘れないで」
それだけを言い残すと、遠坂凛とフェイトは屋上の床を蹴って、夜の空のより暗い場所へと飛び去った。
【B-4/河川上空/2日目・夜】
【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]:疲労、全身に打撲痕、魔力全快、バリアジャケット装備(アーチャーフォーム+銀)
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(カートリッジ-6/6)※自己修復中、後一時間程度で終了
予備カートリッジ×21発、アーチャーの聖骸布
[道具]:デイバッグと支給品(食料残り1食分、水残り1本と6割)、石化した劉鳳の右腕、エクソダス計画書
[思考]:
基本:レイジングハートのマスターとして、脱出を目指す
1:闇の書に応対し、脱出までの間その場に引き止めておく
2:ハルヒが暴走しないか、気にかける
3:できれば、リインフォースを救い出したい
[備考]:
※リリカルなのはの世界の魔法、薔薇乙女とアリスゲーム、ドラえもんの世界の科学――の知識があります
※闇の書の防衛プログラムとその暴走――の知識があります
※ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い――と推測しています
※膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能――と推測しています
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:軽度の疲労、全身に打撲痕、右脇腹に傷跡、右眼球喪失、魔力全快、バリアジャケット
※髪型が変わりました。全体的にはショート、前髪で右目を隠して、右サイドにおさげを垂らしています
[装備]:バルディッシュ・アサルト(カートリッジ-6/6)、なのはのリボン
[道具]:デイバッグと支給品一式、予備カートリッジ×22発、クラールヴィント、西瓜、エクソダス計画書
[思考]:
基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す
1:闇の書に応対し、脱出までの間その場に引き止めておく
2:涼宮ハルヒが無茶をしないか心配
3:事が終わったら、タチコマ(AI)ともう一度話をしてみたい
【19:22】 「涼宮ハルヒの憂鬱」
遠坂凛とフェイト、その二人が魔法の力で闇の書に向けて飛び立ち、病院の屋上から離れると
ハルヒはその場でコンクリートの床へとへたり込んだ。口からは熱い息が漏れる。
秋に咲く桜の花。連続するホームラン。エトセトラ、エトセトラ……。
何故、こんなにもあからさまなのにそれに気付けなかったのか――それをハルヒは理解していた。
キョンにより気付かされた神の如き力。
それはすさまじいものだという実感が、すでにハルヒにはある。
少し、ほんの少し意識を寄せるだけで、何もかもをが手に取るように解る。
何処に何があるのか、例え目の届かないところでも。風の動き、空気の振動、分子の振動、電子の振動。
そして、この病院の片隅。そこにある一つのつぼみに”咲け”と想えば――花を咲かせることができた。
「…………ッう!」
激しい痛みにうずくまり頭を抑える。
普通の人間にも、周囲の情報を感じ取る五感というものがある。
――視覚。聴覚。触覚。味覚。聴覚。
細かく分類すれば、さらに――温覚。冷覚。痛覚。運動覚。圧覚。振動覚。内臓覚。平行覚。等々……。
だが、それらを意識するのはそれらが特に強い刺激を受けたか、もしくは変化があった時だけだ。
普段からそれらを全て意識していることなどない。
――口の中の味。肌に触れる空気の感触。自分自身の体温。
そんなものを普段から意識していれば――脳で処理していればどうなるか。
処理能力が追いつかなくなってオーバーヒート、そして遂にはダウン。または機能衝突が起きて――狂う。
神の力を何故ハルヒ自身が自覚できなかったのか? その答えは今出ている――耐え切れないからだ。
人間の脳は、人間の中の感覚だけですら全てを同時に処理することはできない。それが、――世界などとは。
「……まったく。やっかいな事を教えてくれたわねキョンったら」
口の端から垂れる涎を拭うと、ハルヒは再び立ち上がりコンクリートの床を踏みしめる。
それに呼応するかのように、神人も姿勢を正した。そして、一歩、一歩と踏みしめて闇の書へと向けて歩きだした。
「世界を大いに盛り上げる……か。
まさか――だけど、いいわ。この涼宮ハルヒ様が直々に盛り上げてやろうじゃない。
でも、その前に自分の世界に帰らないとね。神様が迷子だなんて笑い話にもならないわ」
【D-3/病院・屋上/2日目・夜】
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:頭痛、微熱、頭部に打撲痕
[装備]:なし
[道具]:デイバッグと支給品一式
クローンリキッドごくう(使用回数:残り2回)、タヌ機(1回使用可能)
インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)、高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)
着せ替えカメラ(使用回数:残り16回)、どんな病気にも効く薬
トグサが書いた首輪の情報等が書かれたメモ1枚
[思考]
基本:元の世界へと帰る
1:神人を操作して闇の書と戦う
※神人の操作以外については出来る限り控える
[備考]
※神の如し力について認識しています
※神人の力は、ハルヒ自身の体調とシンクロしてその力が強弱します
※閉鎖空間を作るつもりはもうありません
【C-3/市街地/2日目・夜】
【神人@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:体長30メートルほどの大きさ、ローザミスティカ(翠)の魔力を取り込んでいる
[装備]:ローザミスティカ(翠)、グラーフアイゼン・ギガントフォルム(カートリッジ-0/0)
※神人(涼宮ハルヒ)自体にグラーフアイゼンを操る力(魔力)はありません
※ローザミスティカの魔力を使い切ると、グラーフアイゼンは待機状態へと戻ります
※神人の力は、ハルヒ自身の体調とシンクロしてその力が強弱します
【19:19】 「SHOOTER」
舞台の中央を南北に走る道路。そこを一台の救急車が、やや緩やかな速度で北へと進んでいた。
その車には一見して分かるおかしな所があった。天井に人が立っているのである――勿論、それはレヴィだ。
この時、レヴィのご機嫌のボルテージはここに来てより、最高潮に達していた。
不愉快な首輪が外れたということもある。これから行うカチコミに興奮しているということもある。
また、遠坂凛が見つけた予備弾薬セットの中から、レヴィの銃に合致する、大量の9mmパラベラム弾が
見つかったということもある。
余談であり、参加者達が知る由もないが、銃の種類に応じてそれぞれの弾丸が一定数用意されていた。
9mmパラベラム弾に関しては、六種の拳銃がそれに対応していたため、弾だけを見れば他の六倍もあったということだ。
――で、何故レヴィが上機嫌なのか? それは彼女の手の中に、いつもの一対の拳銃が握られているからだ。
ソードカトラス。――何故、二丁目のそれが出てきたかと言うと、答えは簡単――技術手袋だ。
ゲイナーが持っていたそれを彼女が奪い、そして持っていたベレッタをソードカトラスへと改造した。
元々、ソードカトラスはベレッタを改造したものだし、得意の得物の解体組み立てならレヴィは目を瞑っていてでもできる。
かくして、彼女はまるで魔法をかけられた灰被りのように浮き足立っていた。
「南瓜の馬車をとばせ、溝鼠の御者ッ!! さっさと行かねえと、舞踏会に遅れちまうぞッ!!」
ハイテンションではしゃぐお姫様の下、運転席とその隣の助手席にはロックとゲインがいる。
「ご機嫌麗しゅう……だな。ロック」
「とんでもない事にならなければいいんだけどね」
ゲインの言葉に、ハンドルを握るロックは苦笑した。
ハイテンションになった時のレヴィは無敵だ。だが、こうなるとかならず派手(やっかい)な事になる。
巻き込まれ役のロックとしては、今の心境は、天気予報で台風が近づいているニュースを聞いた時のものに近かった。
そのロックのそしてゲインの前まで、フロントガラスは全て破られガラスが落とされている。
そして空いたそこから突き出しているのは、ゲインのNTW20対物ライフルだ。
レヴィが天井の上にいるのも、馬鹿と煙は……ということではない。ギガゾンビ側の応戦を警戒してのことだ。
軽口を聞きながらも、ゲインはその鷹の目を思わせる鋭い眼光で、何時でも応戦できるよう周囲を睥睨している。
すでに臨戦態勢に入っている大人達の後ろ、救急車後部のスペースには子供たちがいた。
「おおー、近くで見るとすごーくでかーい」
運転席の隙間から前方を見ていたしんのすけが声を出す。大きいと言ったのは河の真ん中に鎮座する闇の書の結界だ。
そして、しんのすけの後ろでは、それを緊張した面持ちでドラえもんが見つめている。
巨大で、そしてあまりにも禍々しい姿。魔力を持たなくとも感じる威圧感。それがもたらす緊張に、鉄棒を持つ手に力が篭る。
その、ドラえもんが持っている鉄棒は、ゲイナーが技術手袋を用いて作ったスタンロッドだ。
病院内で見つけた非常用発電機の部品から組み立てた物で、持ち手の部分に小さなディーゼル発電機を内臓しており、
燃料の補給で長く使えるようにという工夫がなされている。……最も、そのせいで結構な重量になってしまったのだが。
そのゲイナーお手製のスタンロッド(発電式)は、銃を扱うのが苦手なドラえもんとロックの手に渡っている。
そして、そんな仕事をしたゲイナーは、今はツチダマのユービックと一緒になって、コンラッドの持ってきたノートPCを修復していた。
「これで……、完成ですよ」
「うむ。では少し貸してくれ」
修復され新品同様になったノートPCに、ユービックが身体から伸ばしたコードを接続する。
すると、そこにトグサの顔と、トグサがギガゾンビのコンピュータのデータベースから得た城内の見取り図などが現れた。
電脳通信を経て、病院に残ったトグサから、――ユービック――ノートPCと言う経路で情報の線が繋がったのだ。
「無事に繋がったようでなによりだ。こちらからは解析が済み次第、有益な情報をそちらに送るつもりだ」
ノートPCのスピーカーから、トグサの声が聞こえる。電脳を持たないゲイナーは、キーボードで彼に感謝の意を返した。
「ああ。そちらもうまくやってくれ。俺はここから最大限のサポートさせてもらう。
そちらから連絡がある時は、ユービックに伝えてくれ。彼となら瞬時に繋がることが可能だ」
――では、お互いにいい仕事をしよう。そう残してトグサからの通信は終わった。
ウィンドウの表示が待機に変わると、ゲイナーはすぐさまノートPCのキーボードを叩き、トグサの送ってきた情報を呼び出した。
まず得られたのはギガゾンビ城内の見取り図とセキュリティシステムの概要だ。
敵が現れれば、これを悠長に見ている暇はないだろう。
到着までの時間は短い。ゲイナーはそれを頭に叩き込むべく、精神を集中し自分の世界へと没頭し始めた。
そして、通信を終えて手持ち無沙汰になったユービックに、ゲインが前を向いたまま声を掛ける。
「どこでもドアを使って、ツチダマ達がトグサに奇襲を仕掛ける……本当にそれはないんだな?」
それは、ギガゾンビ城に討ち込むに当たって最も危険視された要素だ。
敵の戦力を抑え、喜緑江美里からの通信――すなわち脱出経路の確保――それを待つトグサの重要度は極めて高い。
当初は、トグサのガードとして何人か人間を残すかと話し合われたが、
唯でさえ乏しい戦力を分散させるのは愚策であり、そして自分一人なら守りきれるというトグサの主張と
ユービックの言う、どこでもドアはもう他にないはずだという情報によって、今の配置が決定された。
ユービックはその情報を、今またここで繰り返して話す。
「元々、持ち出すことのできた23世紀の道具は少ない。ギガゾンビは時間犯罪者だからな。近寄ることすら困難だった。
我々ツチダマも、23世紀ではなく、ロボット工学についてはより高度な他の世界で作られたのだ。
結果、我々は自我とそれを判断する力を得ることができた。グリフィス様に仕えるのも、お前達に協力するのもそのおかげだ。
……それでだ。言ったとおりどこでもドアの数も少なかった。そして、それは我ら亜空間破壊装置監視要員が
交代する時にしか使われていない。
その後、偶然にもグリフィス様に仕えることになった私を含む最初の四体のツチダマは、
その時にどこでもドアを占有することに成功した。……だからもうどこでもドアはないはずだ」
ふむ、とゲインは改めて納得した。最も、最初に納得していなければこうはなっていない。
と、その時ガンガンと天井を叩く音が車内に響いた。勿論、それはその上にいるレヴィの仕業だ。
「お出迎えが見えたぜ! 熱烈大歓迎だ!」
「ああ。気付いているさ。……みんな、耳を塞いでおけよ!」
言うが早いか、ゲインの構える対物ライフルが車内に轟音を響かせ火を噴いた。
視界の奥、車内からは米粒程度にしか見えない一体のツチダマが、放たれた弾丸に貫かれ爆ぜる。
それを機に、向かう道路の先にわらわらと無数のツチダマ達が現れる。
車上のレヴィが構えるソードカトラスではまだ遠い位置だ。だが、時機にそうでもなくなる。
「ダンスホールにゃまだ遠い……。けど、あたしは踊る場所を選らばねえ……、いいぜ。かかってきな!」
一瞬で、両手のソードカトラスが八つの残光を夜の空間に残した。次の瞬間、八体のツチダマが地面に転がる。
――さぁ、野郎共ッ! ショータイムだッ!
【B-4/路上・救急車/2日目・夜】
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:脇腹と右腕に銃創、左腕に傷跡、やや疲労、ハイテンション
[装備]:ソードカトラス×2 (残弾11/15、11/15-予備弾薬×261発)
[道具]:デイバッグと支給品一式
イングラムM10サブマシンガン (残弾30/30-予備弾薬×30発)
グルメテーブルかけ(使用回数:残り16品)、ぬけ穴ライト、テキオー灯
バカルディ(ラム酒)×1本、割れた酒瓶(凶器として使える)、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。物事なんでも速攻解決!! 銃で!!
1:とにかく撃ちたい。撃ちまくりたい!
2:向かってくるヤツは容赦せず撃つ!
3:逃げるヤツも容赦せず撃つ!
4:もちろん、バリアジャケットのことを言触らかすヤツも撃つ! これは念入りに撃つ!
5:機会があればゲインとやり合いたい
[備考]
※双子の名前は知りません
※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました
※テキオー灯の効果は知りません
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:眠気と疲労、鼻を骨折(手当て済み)
[装備]:ゲイナー製スタンロッド (電気100%、軽油2回分)、マイクロ補聴器
[道具]:デイバッグと支給品一式、現金数千円、たずね人ステッキ、エクソダス計画書
[思考]:
基本:力を合わせ皆でゲームから脱出する。出来ることならギガゾンビに一泡吹かせたい
1:皆を乗せた救急車をギガゾンビ城まで運転する
2:しんのすけ、ゲイナー、ドラえもん、ユービックを守る
3:ギガゾンビを見つける
[備考]
※顔写真付き名簿に一通り目を通しています
※参加者は四次元デイバッグに入れないということを確認しています
※ハルヒ、キョン、トウカ、魅音、エルルゥらと詳しい情報交換を行いました
※キョンの持つノートPC内の情報を得て、考察しました
※レヴィの趣味に関して致命的な勘違いをしつつあります
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:右手に火傷(小)、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)
[装備]:NTW20対物ライフル(弾数2/3-予備弾薬×37)
ウィンチェスターM1897 (弾数5/5-予備弾薬×105発)
454カスール カスタムオート (残弾:7/7発-予備弾薬×94発)
RPG-7×2(榴弾×80発、スモーク弾×81発、照明弾×81発)
悟史のバット
[道具]:デイバッグと支給品一式、スパイセットの目玉と耳(×2セット) 、どこでもドア
トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ、エクソダス計画書
[思考]
基本:ギガゾンビを打倒し、ここからエクソダス(脱出)する
1:進路を阻むツチダマを除外する
2:重火器を用いて、ギガゾンビ城突入を援護
3:ギガゾンビを探し出し、捕まえる
4:事が終われば、トウカと不二子の遺体を埋葬しに戻る
[備考]
※首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています
※モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました
※ユービックのことを一応は信用はしましたが、別の嫌悪感を抱き始めています
※どこでもドアを使用してのギガゾンビ城周辺(α-5のエリア一帯)への侵入は不可能です
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:全身にかすり傷、頭にふたつのたんこぶ、腹部に軽傷、
SOS団名誉団員認定、全身が沙都子の血で汚れている、強い決心
[装備]:ひらりマント
[道具]:デイバッグと支給品一式×4(食料5食分消費)
わすれろ草、キートンの名刺(大学)、ロープ
[思考]
基本:皆でここから脱出して、春日部に帰る
1:みんなのお手伝いをする
2:ギガゾンビを見つける
3:全部終わったら、かーちゃんに報告する
[備考]
※両親の死を知りました
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:大程度のダメージ、頭部に強い衝撃、強い決意
[装備]:ゲイナー製スタンロッド (電気100%、軽油2回分)
[道具]:デイバッグと支給品一式(食料1食分消費) 、虎竹刀
[思考]
基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする
1:しんのすけとゲイナーを守る
2:ギガゾンビを見つけて捕まえる
[備考]
※Fateの世界の魔術、リリカルなのはの世界の魔法――の知識があります
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:疲労蓄積、風邪の初期症状、腹部と後頭部と顔面に打撲(処置済み)
[装備]:AK-47カラシニコフ (弾数:30/30-予備弾薬×10発)、トウカの日本刀、コンバットナイフ
[道具]:デイバッグと支給品一式(食料1食分消費)、技術手袋(使用回数:残り9回)
スタングレネード×2、スパイセットの目玉と耳、クーガーのサングラス、エクソダス計画書
病院内で見つけた工具箱、解体された首輪、機械の部品多数、ノートPC(ユービック)
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出
1:トグサから送ってもらったデータを暗記
2:そのデータを他の仲間に伝える
3:次の通信を待つ
4:自分の身は自分で守る
[備考]
※名簿と地図を暗記しています
※リリカルなのはの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています
※基礎的な工学知識を得ました
【住職ダマB(ユービック)】
[状態]:一応修復済み(下半身はつぎはぎ)、電脳通信可能、孔を増設、タチコマのメモリを挿しています
[装備]:なし ※手の先から電撃を放てる
[道具]:なし
[思考]:
基本:グリフィスの仇を討つ。そのために参加者達に協力する
1:トグサと通信して、トグサの意をみんなに伝える
2:トグサから得た情報をゲイナーのPCに転送する
3:ギガゾンビを探す
[備考]
※ギガゾンビの言葉(ツチダマはいつでも爆破できる)はハッタリかもと思っています
ト、 ノレ、 ノL_)ヽ、_
L._ } ヽノ `'´ `'ー、)、
ヽ、`¨} `'ー、 ト、 `ー、
ヽー-ーヽ、ヽ. ヽ | ヽ ノi しイ
ヽ ヽヘヘヘヽ } ヽル'´/ |
}ヽ、 ヽ ヽレへ、__ノ彡 |
ヽ. ヽ._ ッ''⌒>'^''^'7 l"¨ >彡 |
ヽ 7′/ ノ / . -‐‐、 `j/ |
'、ーヽ、/ ∠=、_ l メ-'" ̄ ̄` >'′ |
ヽ、/ /| rーrqヽ |/ ‐'''Tワヽ レルへ. / エンディングへの道も悪かないなァ
レル、| ー‐ノ ー-‐'′ r'^' ノ
l, 、 ,イ-rイ そう思うだろ?アンタもォォ・・・!
ハ 、`_ ' |^''く
__,. -| ヽ ヽ... 二ヲ . |: `'ー 、_
_,. -‐''"____,,/ :|' 、___,,. イ ,イ .イ_ ̄`ヽ
/ッフ''" ∠_ :ト、 // < ̄⌒} ヽ ヽ
/=''''" ""  ̄フ ゝ`''ー--‐''´ / .イ⌒'''ーへ、_ └-、 〉