318 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/27(金) 02:25:05 ID:TPep/qkF
数十分後。
園内のベンチには、項垂れるゲインの姿があった。
「収穫は……なし、か」
リスクを伴った決死のトライ――結果として、ゲインの声に賛同し、姿を現してくれた者はいなかった。
ゲインの意志が届かなかったのか、それとも単に、周囲に人がいなかっただけなのか。
どちらにせよ、ゲインは新たな仲間を見つけることも、殺人鬼に怯える弱者を保護することもできず。
不甲斐ない。なんと不甲斐ない。残った感情は、それだけだった。
時刻は既に10時を回っている。
そろそろ遊園地を出発しなければ、集合時間に遅れてしまう。
(このままゲイナーにどやされるのも敵わんからな。これ以上ここで燻っていても結果は同じだろうし、そろそろ発つか)
ゲインは手に握った拡声器をデイパックに戻し、ベンチから腰を上げた。
元は高校の校舎に置かれていた、ボロボロの拡声器。
傷だらけだったそれは、見た目どおり壊れかけのオンボロだったらしく、しばらく運用してすぐに故障してしまった。
伝家の宝刀はその本懐を発揮することなく、その仕事を終える。
「……機会があれば、またここに来る。今度は仲間も一緒にな。その時は、姿を見せてくれると嬉しいよ」
誰にでもなく、そんな言葉を漏らし、ゲインは中央広場から去っていった。
(ノハラ・シンノスケ……君はいったいどこにいるんだ?)
みさえがゲインに託した、野原家最後の希望。
ゲインのエクソダスは、彼を無事に保護しないことには終われない。
請負人は、一度請け負った仕事は完璧にこなさなければならない。
それがご婦人の頼みともなれば、なおさら――
ゲインは拡声器を使った!
しかし、何も起こらなかった!
【D-4・路上/2日目/午前】
【魔法少女ラジカルレヴィちゃんチーム】
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:上機嫌。脇腹、及び右腕に銃創(応急処置済み)頭にタンコブ(ほぼ全快)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い。
[装備]:ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾15/15 予備残弾31発)、ベレッタM92F(残弾10/15、マガジン15発)
:グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)@魔法少女リリカルなのはA's
[道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、イングラムM10サブマシンガン(残弾13/30 予備弾倉30発 残り2つ)
:グルメテーブルかけ(使用回数:残り16品)@ドラえもん、ぬけ穴ライト@ドラえもん 、テキオー灯@ドラえもん
:バカルディ(ラム酒)×1本、割れた酒瓶(凶器として使える)、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。物事なんでも速攻解決!! 銃で!!
1:病院へ向かいトグサと合流。
2:そのまま病院で待機し、12時を目安にフェイト、ゲインと合流。無理ならE-6の駅前喫茶店へ。
3:見敵必殺ゥでゲイナーの首輪解除に関するお悩みごとを「現実的に」解決する。
4:魔法戦闘の際はやむなくバリアジャケットを着用?
5:カズマとはいつかケジメをつける。
6:機会があればゲインともやり合いたい。
7:ロックに会えたらバリアジャケットの姿はできる限り見せない。
[備考]
※双子の名前は知りません。
※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。
※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:風邪の初期症状、腹部と後頭部と顔面に相当なダメージ(応急処置済み)、頭にたんこぶ(ほぼ全快)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い。
[装備]:コルトガバメント(残弾7/7 予備残弾38発)、トウカの日本刀@うたわれるもの、コンバットナイフ
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料一日分消費)、ロープ、フェイトのメモ、画鋲数個、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
:タチコマのメモリチップ、スタングレネード×2、スパイセットの目玉と耳@ドラえもん、鶴屋さんの首輪、クーガーのサングラス
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。
1:病院へ向かいトグサと合流。
2:そのまま病院で待機し、12時を目安にフェイト、ゲインと合流。無理ならE-6の駅前喫茶店へ。
3:トグサの技術手袋と預けた首輪の部品を使い、計測器を死亡と誤認させる電波発生装置を製作する。
4:3で製作した装置を用い首輪の機能を停止させ、技術手袋で首輪の解除を試みる。
5:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。
【F-3・遊園地西門付近/2日目/昼】
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:右手に火傷(小)、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)、ギガゾンビへの怒り
[装備]:ウィンチェスターM1897(残弾数5/5)、NTW20対物ライフル(弾数3/3)、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に
[道具]:デイパック、支給品一式×14(食料4食分消費)、ウィンチェスターM1897の予備弾(25発)
:9mmパラベラム弾(40発)、ワルサーP38の弾(24発)、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ。カトラスの予備弾はレヴィへ)、
:極細の鋼線 、医療キット(×1)、マッチ一箱、ロウソク2本、スパイセットの目玉と耳@ドラえもん(×2セット)
:ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの
:13mm爆裂鉄鋼弾(21発) デイバッグ(×4) 、レイピア、ハリセン、ボロボロの拡声器(故障中)、望遠鏡、双眼鏡
:蒼星石の亡骸(首輪つき)、リボン、ナイフを背負う紐、ローザミスティカ(蒼)(翠)
:トグサの考察メモ、トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ 、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
:獅堂光の剣@魔法騎士レイアース、鳳凰寺風の弓(矢18本)魔法騎士レイアース、454カスール カスタムオート(残弾:0/7発)
[思考・状況]
基本:ここからのエクソダス(脱出)
1:12時を目安に病院でゲイナー、トグサ等と合流。無理ならE-6の駅前喫茶店へ。
2:しんのすけを見つけ出し、保護する。
3:信頼できる仲間を捜す。
(トグサ、トラック組み、トラック組みの知人を優先し、この内の誰でもいいから接触し、得た知識を伝え、情報交換を行う)
4:エクソダスの計画が露見しないように行動する。
5:場合によっては協力者を募る為に拡声器の使用も……?
6:ギガゾンビを倒す。
[備考]:仲間から聞き逃した第三放送の内容を得ました。
:首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています。
:モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました。
>>323修正
[思考・状況]
基本:ここからのエクソダス(脱出)
1:12時を目安に病院でゲイナー、トグサ等と合流。無理ならE-6の駅前喫茶店へ。
2:しんのすけを見つけ出し、保護する。
3:信頼できる仲間を捜す。
(トグサ、トラック組み、トラック組みの知人を優先し、この内の誰でもいいから接触し、得た知識を伝え、情報交換を行う)
4:エクソダスの計画が露見しないように行動する。
5:ギガゾンビを倒す。
[備考]:仲間から聞き逃した第三放送の内容を得ました。
:首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています。
:モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました。
「……ふぅっ! ここらへんなら問題無さそうだな……」
激戦の続く病院を出てからしばらく。
凛とドラえもんを運んできたトグサは、道路沿いに合った普通の民家よりもやや豪勢な雰囲気の漂う住宅――世間で言うところの豪邸――へと足を踏み入れていた。
そして、彼はその豪邸の一室に入ると、ドラえもんをソファに横にし、次いで凛をベッドの上に寝かせた。
「さて、どうするかね、と」
トグサは目を閉じたままの凛を見ながら、一考する。
セラスと劉鳳が言うには、彼女はあの銀髪の人形に唆されているだけとのことだ。
それは、人形と決別して戦っている姿を目撃したこともあって、限りなく事実に近い話だろう。
だが、彼がそう思っていても目の前の彼女が自分に対して今どのような感情を抱いているかは分からない。
自分が善意でここまで運んできたことなど、運ばれている間ずっと気絶していた彼女が知る由もないだろうし、彼女目掛けて銃弾を撃ち込んだ事実もある。
突然目覚めて、自分の姿を見た瞬間に襲われる――などという可能性も大いにある。
「怪しいとなると、こいつをどうするかも問題になってくるが……」
そう言ってデイパックから取り出したのは、気絶している間も凛が握っていたピンクの柄に金色の金具、赤の宝玉というファンシーな色彩の杖。
トグサは、これこそが自分を追い詰める程の砲撃を放っていた武器と推測していた。
そしてその推測を正しいとするならば、この杖は凛に不用意に使われないように遠ざけておく必要があった。
(しかし、こんな杖のどこにあんなレーザー顔負けの砲撃を行う機構が取り付けられてるっていうんだ……)
自分に支給された技術手袋といい、ギガゾンビを映し出す巨大ホログラムといい、長門やセラスのような強化義体といい、ここには自分にとって未知のものが多すぎる。
杖から砲撃など、娘の見る魔法少女アニメだけで十分なように思いたかったのだが……
『待ってください』
突如、どこからともなく大人の女性の声が聞こえた。
トグサはその声に驚き、声の出所を探そうとあたりを見渡すが、ここにいる3人以外に人の気配などしない。
……そして、何より声はすぐ間近――そう手元から聞こえてきたわけで……
「まさかこの杖が……?」
『はい、そうです』
「おいおい、一体どんなAI積んだらこんなに流暢に――」
『私の名前はレイジングハート。魔法発動の補助を行うインテリジェントデバイスです。そして彼女、遠坂凛は私の――』
「あ〜、ちょっと待ってくれ!」
トグサがレイジングハートの言葉を遮る。
「俺はこの義体を修理し次第、すぐに病院に戻るつもりなんだ。だから、面と向き合って話を聞いてる暇は無い。……話はこいつを修理しながらの片手間になるが、構わないか?」
『構いません。どうぞ仕事を続けてください』
「そりゃ、どうも、っと」
声の調子から察するに、このレイジングハートという杖には剥き出しの敵意はない。
凛の攻撃手段であるだろう杖がこの様子ならば、まず目覚め一発で砲撃を喰らって死亡という事は無さそうだ。
トグサはそう判断し、レイジングハートをそばの壁に立てかけると、技術手袋をドラえもんに近づけ、彼の修理を開始した。
それから少しして。
修理を続けるトグサは、レイジングハートから今まで彼女が見聞き(?)した情報や魔法の概念についての大まかな説明を聞き終えた。
「なるほどな。要するにお前さんと凛は、その水銀燈っていう人形型の義体にまんまと騙されてたって訳だ」
『はい。悔しいですが事実です』
「となると、最初に俺達を襲った時もきっかけは水銀燈が作ったと考えるのが適当か……」
全てを見てきたという彼女が言うならば、間違いはないだろう。
つまりセラスと劉鳳の仮説は正しかったことになる。
ならば、こちらが凛に敵対する理由はもう完全になくなったという事だ。
「だったら、後はお姫様が目覚めてから、だな」
『大丈夫です。マスターならきっとそんな短気は起こさないはずです。……もし何かあっても私が説得してみせます』
「はは、頼もしいな」
口では笑うが、トグサの目には焦りの表情が浮かんでいた。
とはいっても別に、凛の事について焦っているのではない。
問題は、レインジングハートの話を聞きながら並行して行っていたドラえもんの修理だ。
この修理は、トグサの予想以上に時間を食う作業であった。
それもそのはずで、このドラえもんはトグサがいた時代よりももっと未来、それこそ技術手袋と同じ年代に製造された未知の技術がふんだんに使われたロボットなのだ。
そして、その修理を行うのだから時間が掛かっても仕方がなかった。
(……クソッ。こうしてる間にも劉鳳が窮地に立たされてるのかもしれないっていうのに……)
自分達を逃がすべく水銀燈の前に立ちはだかった少年はあまりに傷つきすぎていた。
あのままでは負けて――死んでしまうかもしれない。
それだけはなんとか避けたいと、彼はただひたすらに早く修理が終ることを祈る。
すると……。
『マスター!』
突如、横から聞こえてきたそんなレイジングハートの声に、彼女が“マスター”と呼ぶ少女の方を振り向く。
するとそこには、ベッドの上で上半身を起こした凛の姿があった。
「う、うぅん……頭がガンガンするぅ…………ってあれ? ……あれ?」
凛はどうやら自分がいる場所がベッドの上であることに違和感を覚えているようで首をせわしなく動かす。
そして、そうして動かしているうちにその視線は、ドラえもんの修理を続けるトグサを捉えることになり――
「やぁ、お目覚めかい?」
とりあえずトグサは、自分なりに親しげな調子でそう声を掛けた。
◆
頭を押さえながら目覚めた凛が目にしたのは、自宅並に豪奢な部屋とその片隅の壁に立てかけてあるレイジングハート、そしてソファの横になるドラえもんとそれに何やら手をかざしている男の姿。
いきなり大量に入る真新しい情報に彼女は思わずこれを夢だと思うが、その頭に僅かに残る鈍痛や身に纏うバリアジャケットがまだ自分が血塗られたゲームに参加中であることを否が応にも教えてくれた。
「……ここはどこ?」
「病院から西に少し行ったところにある民家の一室だ」
「あんたは一体誰なの?」
「俺はトグサ。警察関係者だ。一応参加者ってことになってるが、俺にはまったくそのつもりはない」
凛の問いに、目の前の男――トグサは一つ一つ答えてくれた。
彼女は、彼が先ほどまで対峙していた男であることは既に分かっている。
だが、水銀燈が自分を姦計に陥れようとしていたことが分かった以上、彼がゲームに乗っている一味の一人だという彼女の話の信憑性も限りなくゼロに近いものになった。
そして、それに加えて、自分が意識を失う直前に見た劉鳳と一緒にいる姿と先ほどの彼の言葉や今までの行動を鑑みるに導かれる答えは――
「……それじゃ要するに、私があなたと敵対する理由はもうないわけね」
「ま、そういうことだ」
『流石、マスター。理解が早いですね』
どこかレイジングハートだけは自分を小馬鹿にしているような気がしないでもなかったが、深くは考えない。
「で、病院にいた他の連中はどうしたの?」
「劉鳳は水銀燈の相手をしている。セラスも同様に甲冑の騎士の相手をな。俺はセラスと劉鳳の二人に気絶していた君らを遠くに逃がすように頼まれた」
「……のび太君はどうしたの?」
「彼は……………………殺されたよ。甲冑の騎士に剣で首を刎ねられてね」
のび太が視界に入らなかった時点でしていた嫌な予感は的中した。
しかも最悪な経緯を経て。
「そう……。教えてくれてありがと」
すると凛は、完全に起き上がり床に足をつけると、そのまま壁に立てかけてあったレイジングハートを掴み、そばに置いてあったデイパックを拾い上げる。
トグサはドラえもんの修理をしながら、驚いた表情でそんな彼女の方を向いた。
「お、おいおい。まさかとは思うが、そんな起きたばっかりの体で動くつもりか?」
「……水銀燈とのパスが途絶えたのよ。あいつ、また何か悪巧みを考えてるのかもしれないし確かめに行かないと……」
「待て。だったら俺もついてい――」
「ダメよ。だって、あなたにはそれよりも先にやるべきことがあるでしょ?」
凛は、そう言って未だ気を失ったままで修理を受けている猫型ロボットを一瞥する。
「彼……ドラえもんはあのギガゾンビの持つ科学技術についてを知る最後の生き残り。……いわばギガゾンビに対抗する為の切り札って言っても過言じゃないわ」
「あぁ。それは分かってるさ」
「……だったら、あなたは彼の修理に専念していて。私達は彼という脱出の切り札を手放すわけにはいかないんだから」
確かに凛の言う通りだ。
トグサ自身は現在、ドラえもんの修理中であり、ここから離れるという事はその修理を中断してしまうことになる。
「……どうしても行く気なんだな?」
「水銀燈を今までのさばらせていたのは私の責任だし、それにセイバーの方も気になるしね」
この様子では、無理に止めようとすれば、何をされるか分かったものではないだろう。
トグサは、自分が知り合う人間の度重なる無謀な決断に頭を抱えつつも、最後は頭を縦に振る。
「分かった。……だが、無茶はするなよ。お前もレイジングハートもまだ……」
『大丈夫です。凛は私がコントロールしてみせます』
「――って、ちょっと何であなたが私をコントロールするわけよ! 逆でしょ、逆!」
凛はレインジングハートのそんな言葉に反論する。
だが、トグサからしてみれば、一通り話した中でレイジングハートの聡明さを理解していた為、その言葉はあながち正論に聞こえていた。
「よし、それじゃ頼んだぞ、レイジングハート」
『All right』
「――って、あなたまでっ…………。まぁ、いいわ。それじゃ、彼の事は頼んだわよ」
「任せておいてくれ。俺も修理が終ったらそっちへ向かうからな」
凛はトグサの言葉に頷くと、部屋を飛び出していった。
残るのは、依然気を失ったままのドラえもんとそれを修理するドラえもんのみ……。
「さて、こっちも早めに仕上げないとな」
◆
トグサ達が豪邸にいる頃。
彼らが気にかけていた病院には、満身創痍になりつつもまだその目をギラつかせた少年カズマが到着していた。
「どーなってやがる……。ここで何があった……?」
照明の落ちた薄暗い廊下を歩き、その周囲の無残な光景を見ながらカズマは呟く。
元々、いくつかの戦闘の痕跡のあったこの建物であったが、カズマが最後に見たときよりも明らかにその見た目は外観、室内ともに酷くなっていた。
――それは明らかに、新たな戦闘がここで行われた痕跡。
「クソッ!! 次から次へと俺のいないところでドンパチしやがって…………」
ここで大規模な戦闘があったことが確実である以上、最も気がかりなのはここに残してきた少年とロボットのこと。
二人が戦闘を得意としない弱者であることを彼は知っていたし、それ故にその戦闘に巻き込まれたらひとたまりもないことも分かっていた。
「あいつら一体どこに行きやがっ――――おうわっ!!!」
そして、周囲を警戒しつつそんな二人を探していると、不意に足を滑らせ転倒した。
「――っつつ…………。何だ何だ? 足元が急にヌルヌルしやが……って………………」
尻餅をついたまま、足を滑らせた原因を見ようと床を見たカズマは、そこで気付いた。
床には粘性のある赤い液体が撒き散らされており、その液体の中心には首と胴体の分かれた少年の遺体があることに。
そして、その少年の服装に彼は見覚えがあったわけで……。
「お、おい…………冗談……だよな?」
カズマは、その光景に半信半疑でありつつも起き上がると少年の首の正面へと回り込む。
すると、そこには正真正銘、彼の知る野比のび太の呆然とした表情が張り付いており――――
「く……くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
彼はそのアルター化した拳を目一杯床に叩きつけた。
「チクショウ! お前まで死んじまってどうするんだよ、のび太……」
アルルゥに次ぎ、のび太もまた自分のいないところで死んでいってしまった。
だが、そこで自分の無力さを嘆き、立ち止まっている暇など彼にはない。
――立ち止まっている暇があるなら、のび太やアルルゥ、それにかなみや君島、ヴィータ、太一といった仲間を殺していった連中を叩き潰して、ついでに気に入らないギガゾンビも最終的には潰す!
そう彼は心に決めていたのだ。
「誰だ……一体誰がやりやがった……」
のび太の首と胴体を廊下の端に寄せながら彼は、その断面を見る。
すると、その断面は骨まで綺麗に切断されており、昨日見た少女の首の断面を切断したようなナイフよりももっと鋭利な刃物で斬られた事が分かる。
そして、これだけ出血している以上、生きている時に切断が行われたことも。
ということは、即ちのび太を殺害した相手は、首を刈る素振りを直前まで見せずに一瞬のうちに凶行に至ったという事になる。
そのような早業を誰もが出来るわけもなく、出来るとするならば恐らくは今は亡きヴィータと共に立ち向かったあの甲冑の剣士くらいの実力を持った人物くらいだろう。
――と、そこまで思考をめぐらせたその時。
――カツン、カツン、カツン…………
彼は背後で聞こえる足音に気づいた。
その足音は、徐々にこちらに近づいている。
当然だが、足音を聞いただけではカズマには、一体どんな人物が近づいているのかは全く分からない。
だが、ここにのび太の死体がある以上、まだここにその犯人がいる可能性は大いに考えられる。
そして、足音の主がその犯人であるならば、カズマが行うべきことは唯一つ。
「――!!!」
そう意気込んで彼は後ろを振り返ってみたが、そこにいたのは太一を殺しヤマトを連れ去った女でも例の甲冑剣士でもなく、長い金髪を二つに分けた小さな少女だった。
「……な、ガキか?」
一瞬気を緩めるカズマであったが、アルター能力者に歳は関係ない上にヴィータのような実例もある。
子供といえど、力量に関して油断は出来ない。
すぐに拳に力を入れなおし、少女を見据える。
「一体どこのどいつは分からねぇが、それ以上近づく前に一つ聞きたいことがある」
「あ、あの私は……」
「つべこべ言う前に答えろ。いいか? まずは――」
すると、その時少女は何かを思いついたような顔になる。
「あの……もしかしてあなたはカズマさん……ですか?」
◆
――学校には誰もいなかった。
それを確認したフェイトは、早々に探索を切り上げ、病院へ向かった。
ゲインやゲイナーらとの合流時間にはまだ早いものの、病院内を先に調べておきたい気持ちがあったのだ。
そうしてフェイトは病院についたわけだが……
「これは……」
彼女もカズマ同様にまずその酷く損壊した外観に呆然とした。
「明らかに人の手で破壊された痕跡だけど……誰か中にいるのかな」
『内部に一人分の生体反応があります』
「一人…………か」
バルディッシュの答えを聞いて、フェイトは病院の内部へと入ってゆく。
これだけ崩壊している以上、内部にいる人間がその破壊に関わっている可能性は大いにある。
しかし、だからといって彼女は逃げるわけにはいかない。
むしろ、何かしらの悪意を以って破壊を行っているのだとすれば、それを止めなければならなかったのだから。
「……どっちの方にいる?」
『この先の廊下を左方に曲がった先約50ヤード、依然その場に留まっています』
バルディッシュの指示に従いながら、薄暗い廊下をフェイトは進む。
――すると、その先にいたのは目をギラつかせた一人の少年であり…………
「ほぉ、お前があの女とゲイナーの仲間だったのか」
「はい。レヴィ達とは12時にここで合流することになっています」
フェイトが出会った少年の身体的特徴は、ゲイナーが教えてくれたカズマという少年の物と一致していた。
それに気付いた彼女は、咄嗟に彼の名を呼び、レヴィとゲイナーの名前を出し、自分の素性を明かした。
その結果、カズマは拳を収め、彼女との会話に応じ、今に至っているのである。
……いや、それだけではカズマは素直に話を聞かなかったかもしれない。
彼が話を聞く気になった最大の理由、それは――
「それにしても、お前があのフェイトだったとはな……」
フェイトがカズマの事を伝え聞いていたように、彼もまた彼女の名前を高町なのはとヴィータというフェイトにとっては亡くなってもなお大切な二人の仲間から伝え聞いていたのだ。
「なのはとカズマさんが一緒だったことはゲイナーから聞きましたが……ヴィータとも一緒だったんですね」
「短い間だったけどな。……あんなちっこい体してるガキの癖に大した奴だったよ」
聞けば、ヴィータはカズマとともにとても強大な力を持つ襲撃者に立ち向かい、そして消えていったのだという。
消えた――という言葉にフェイトは一瞬違和感を持つが、彼女が夜天の書が魔力から作り出したプログラムであり、その体を構成する魔力を全て使い果たしたという事にすぐうに気付いた。
――何故、同じ守護騎士なのに、シグナムとヴィータでこれ程にも異なる道を歩んでしまっただのだろう。
自分の知らないうちに道を違え、それぞれ散っていった二人の事を思い、フェイトは胸を詰まらせる。
すると今度は、カズマがフェイトの髪を束ねる片方のリボンを見ながらそんなフェイトに尋ねる。
「そのリボンをしてるってことは……お前もなのはには会えたんだよな?」
「……はい。これはなのはの大切な形見です」
「………………そうか」
そこまで聞くとカズマは、再びその顔をフェイトへと向ける。
「で、お前はどうするんだ? こんなところまで来て、一体どうする気だ?」
「勿論、なのはやヴィータ、それにカルラさんやタチコマの為にも、私は何としてもこれ以上の犠牲を無くして皆でここを脱出する手立てを探します。その為なら、私は力を使うことも厭いません。……カズマさんも協力してくれませんか?」
レヴィやゲイナーから聞いたところによると、カズマもまた相当の実力の持ち主という。
ならば、協力を仰ぎたいのがフェイトとしての本音だった。
だが……
「俺は誰かに指図されて動くなんてまっぴらだね。俺は俺の好きなようにやるさ」
「そう、ですか……」
フェイトは顔を暗くするが、これ以上言い寄ることもなかった。
そして、そんなフェイトの顔を見ると、カズマは足元に転がる少年の遺体を見やりながら言葉を続けた。
「……ま、でも、お前らがあの仮面ヤローみたいな気に食わない奴らと戦うってんなら、そん時は俺も参加させてもらうぜ。俺にも、太一やアルルゥ……それにこいつの仇を討たなきゃ気がすまないからな。それでいいなら……」
これは、つまり肯定と捉えていいのだろう。
素直でないカズマのそんな態度にフェイトは笑みを浮かべる。
「はい。ありがとうございます、カズマさん」
それから。
カズマはのび太と太一の埋葬すると言い出したことによって、二人は別行動をとる事となった。
本来、フェイトも二人の少年の埋葬を手伝おうと名乗り出たのだが――
「――これは俺の仕事だ。お前はお前のやることを先にやっておけ」
カズマがその申し出を断ったのだ。
既に、彼は毛布に包んだのび太と別の部屋に安置していた太一の遺体を抱え、二人を埋葬すべく外へと出ていってしまっている。
そして、残されたフェイトはといえば――
「……ここで合ってるの?」
『――はい。彼女の体の傍から魔力を関知できます』
彼女は院内捜索中にバルディッシュに告げられた“付近から微弱な魔力の反応がある”との知らせに従い、その発生源を調べに病院のとある地点へと向かっていた。
そこは、既に病院“内部”と言うべきかどうか微妙な――病院の壁を突き破ったその先であり、瓦礫や抉れた樹木に混じって、二人の男女が息絶え倒れていた。
一人は、白と青、そして血の赤に染められた服を身に纏った少年。
もう一人は、白と黒のゴシックドレスをこれまた血の赤に染めた状態で倒れている少女の……人形。
この酷く損壊した人形こそが魔力の発生源らしかったのだ。
「でも何で人形がこんなところに……」
よく見れば人形の首には自分に付けられたのと同じ首輪がついている。
つまりこの人形もまた、参加者の一人ということのようだ。
そして、良く見てみるとそのうつ伏せになった体の下敷きになるように何かが挟まっており――
「これは――!!」
それを拾ったフェイトは酷く驚いた。
なぜなら、それはかつて自分となのはで破壊したはずの融合型デバイス――闇の書だったのだから。
――何故、消滅したはずのデバイスがここにあるのか?
その疑問に関しては答えはすぐに出る。
ギガゾンビが何らかの時空干渉を行い、不正に入手したのだろう。
今疑問なのは、“持ち主であるはずのはやて亡き今、何故転移せずにこの場に存在するのか”という点だった。
守護騎士の件といい、この空間には自分のまだ知りえない未知の技術やまだ使われているらしい。
「でも、こんなものまであるってことは……」
何故、闇の書がこの銀髪の人形の下敷きになっていたのかは分からない。
何故、人形と少年が相打ちになるような形で息絶えているのかも分からない。
ただフェイトが分かっていることはただ一つ。
闇の書が極めて危険なアイテムであるという事だ。
彼女は思い出す。
かつて、はやてを飲み込み暴走を開始した闇の書――正確には闇の書の防御プログラム――の凄まじい魔法の力を。
もし、時空管理局のような組織のバックアップ無しにこの場で融合事故が発生してそのような暴走を起こされたりしたら、手に負えなくなってしまう。
(これを……早くどうにかしないと)
管制人格リィンフォースが応答をしない以上、いつどんな災厄を及ぼすとも分からない。
最悪の場合、ギガゾンビが手を下すまでもなく書が暴走して全滅などというシナリオすらも描かれかねない。
しかし、だからといって自分ひとりであの時の儀式のように完全に破壊できるかどうかも分からない。
そんな危機感を抱きつつ、フェイトはその対処法を見つけるまでの間の処置として、その闇の書を自らのデイパックで保管することにした。
「よぉ、病院の中の捜索はもう終tt――――って、おい。これはどういう……」
カズマがフェイトに声を掛けたのは、まさに闇の書をデイパックにしまっていたその時だった。
◆
「……こんなもんか」
外に出たカズマが病院横の庭で二人の少年の埋葬を終わるまでには、そう時間は掛からなかった。
かなみの時同様の、音を全く気にしない拳を使った穴掘りが時間を大幅に短縮したのだ。
「せっかく俺が墓を作ってやったんだ。二人一緒の穴で狭いとかっちゅう文句は受けつねーからな」
二人を埋めた上に小高い山を作り、その前にはのび太のものと思われるデイパックから取り出したうちわを刺す。
――そんな物言わぬ質素な墓にカズマは一言言うと、その墓に背を向ける。
見てみれば、病院の庭には二人の墓以外にも、いくつかの墓がある。
その内の三つの並んだ墓は、まさに今埋めたのび太がドラえもんとともに作ったものであり……。
「テメーまでここに埋まってちゃ話にならないってんだよ……」
拳を強く握り、カズマは再び悔しさを露にする。
そして、そのイラついた顔で周囲を改めて見渡すと、瓦礫や倒木が散乱する奥の方で金髪の少女を見つけた。
それは、つい先ほど出会ったばかりのフェイトという少女であり、院内を捜索していたはずだった。
「あいつ、何しに外になんか……」
もう院内は調査し終わったのだろうか――埋葬を終え手持ち無沙汰になったカズマはとりあえず彼女の方に近づいて見ることにした。
そして――
「よぉ、病院の中の捜索はもう終tt――――って、おい。これはどういう……」
フェイトに声を掛けていた最中に彼は気づいてしまった。
彼女の傍に転がる二人の死体の存在に。
双方ともに知っている顔であった。
一人は、ドラえもん達と病院へ向かう途中で出会ったいけ好かない喋り方をする人形。――名前は水銀燈だったか。
そして、もう一人はロストグラウンドで幾度となく戦い、そしてこの地でも一度顔を合わせた宿敵の……
「劉鳳だと……!? おい、なんでこいつがこんなところに……」
誰に言うでもなくカズマが呟くと、それを聞いていたフェイトは首を振って答えた。
「私がここに来た時にはもう二人は……。…………この人は劉鳳さんと言うのですか?」
「あぁ。こいつは俺たちの敵、ホーリーの劉鳳。……絶影の劉鳳さ……」
そう言うとカズマは膝をつき、倒れたまま何も言わない劉鳳の髪を掴み、持ち上げる。
「カ、カズマさん!? 何を……」
「おい、劉鳳。こんなところで寝てんじゃねーよ。まだ勝負の決着がついてねーだろ、あぁ? なのに何でこんなところで寝てるんだよ。なんとか言ってみろよ……なぁ!」
カズマは叫ぶが、劉鳳は目を閉じたまま何も答えない。
「お前が何も言わないんじゃ分からねーだろ? テメーがのび太やアルルゥを殺したのかどうかも、お前がどーして寝てたのかもよぉ……」
既にカズマにも分かっている。
劉鳳はもう死んでしまっているのだ。
森の中で倒れていたかなみのように。病院前で見つけた車椅子の少女のように。廊下で見つけたのび太のように。
そして、ダース部隊との戦いの後、共にかなみの元に帰った後の君島のように。
「ふざけんじゃ……ねーよ……」
宿敵である劉鳳の死に対しては、悲しみはこみ上げない。
変わりに湧き出てくるのはもう二度と戦えない、叩き潰せないことへの悔しさと苛立ち。
劉鳳の髪から手を離し、項垂れるカズマをフェイトは呆然と見ているしかできなかった。
……だが、次の瞬間。
『Sir,病院に何者かが近づいてきています』
バルディッシュの声がフェイトの目を覚ました。
「……誰かが来てる?」
『はい。……それも、魔力反応を伴っています』
「魔力……」
その言葉に自分以外の未知の魔導師の存在の可能性を覚え、フェイトは緊張をする。
――だが、カズマは違った。
「上等じゃねぇか。誰が来ようと俺は構わないぜ……。気に入らねぇ奴だったらボコる……ただそれだけなんだからよぉ」
先ほどまでの姿からは一転、立ち上がったカズマはそう言って目をギラつかせると拳を構える。
そう、のび太が死のうと、劉鳳が死のうと、彼の意志は決して変わらない。
相手が誰であれ、今の状況がどうであれ、今の彼のの意志を曲げることは不可能なのだ。
『……距離60ヤード。……そろそろ目視できるはずです!』
「さぁ、誰だ? 誰なんだ? 一体誰が来るってんだぁ?」
緊張の面持ちのフェイトと興奮気味のカズマ。
その二人の前に姿を現したのは――。
◆
「……本当に2人いるのね?」
『間違いありません。2人とも近い位置にいるようで、一方からは魔力の反応もします』
病院に向かいながら、凛は念を押すようにレイジングハートに話していた。
トグサ曰く、自分達が病院を離れた後にそこに残っていたのはセラスとセイバー、そして劉鳳と水銀燈の4人。
ということは、少なくともその内2人は何かしらの理由があってその場からいなくなったということだ。
何らかの理由――それは戦闘の場を移動したのかもしれないし、生存者として反応しないだけかもしれない。
生存者として反応しない――それは即ち死亡してしまったということであり……
「……ダメね。弱い考えなんか持っちゃ」
想像する最悪の事態のイメージを頭から払拭すると、レイジングハートを握る手に力をこめる。
……魔力反応を伴う生存者の反応。
劉鳳とセラスがどうなったかは別としても、それがあるのは確かな事実。
そして、それに該当する参加者として、真っ先に思いつくのは他ならないリィンフォース形態の水銀燈のみ。
その彼女が自分とのパスを断ち、別の参加者といるのだとしたら、考えられる理由は一つ。
――新たなカモを見つけたのだろう。
「パスを断ったかと思ったら……そういうことなのかしらね」
『まだ確定したわけではありませんが、注意することに越したことはありません』
「分かってるって。……さて、もうすぐそこね……」
白塗りの病院の姿が大きくなってゆく。
そして、その病院の横にある庭に二人の参加者はいるのだ。
相手が誰であれ、油断は出来ない。
凛は、静かにその場所へと向かう。
そして――――
◇
Fate。
運命の名を冠し、決して運命に背を向けないと誓った少女が一人。
運命の名を嫌い、その壁を叩き潰そうと意気込む反逆者の少年が一人。
運命の名の元に、いいように翻弄され続けた少女が一人。
三者三様の様相だが、主催に反旗を翻す意志は同じ。
今、その三人が顔を合わせる。
それは運命か、はたまた…………。
【D-3・病院横の庭/2日目/午前】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、魔力消費(中)/バリアジャケット装備
[装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム、残弾4/6)魔法少女リリカルなのはA's、双眼鏡
[道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはA's、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
:ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night、闇の書@魔法少女リリカルなのはA's
[思考・状況]
基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。
1:接近してくる参加者を警戒。
2:病院にてゲイナー、トグサ等との合流を待つ。
3:ゲームの脱出に役立つ参加者と接触する。
4:闇の書への対処法を考える。
5:カルラの仲間やトグサ、桃色の髪の少女の仲間に会えたら謝る。
※その他、共通思考も参照。
[備考]:襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。
:首輪の盗聴器は、ルイズとの空中戦での轟音により故障しているようです。
【カズマ@スクライド】
[状態]:中程度の疲労、全身に重度の負傷(一部処置済)、西瓜臭い
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、翠星石の首輪、エンジェルモートの制服
[思考・状況]
基本:気にいらねぇモンは叩き潰す、欲しいモンは奪う。もう止まったりはしねぇ、あとは進むだけだ!
1:接近する参加者を警戒。
2:変装ヤローを見つけ次第ぶっ飛ばす!
3:べ、別にドラえもんが気にかかっていないわけじゃねぇぞ!
4:気にいらねぇ奴はぶっ飛ばす!
5:レヴィにはいずれ借りを返す!
[備考] :いろいろ在ったのでグリフィスのことは覚えていません。
:のび太のデイパックを回収しました。
【D-3・病院横の庭付近/2日目/午前】
【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]:魔力中消費、中程度の疲労、全身に中度の打撲 ※気絶中の休養でやや回復しました。
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(カートリッジ残り三発・修復中、破損の自動修復完了まで数時間必要)@魔法少女リリカルなのは
バリアジャケットアーチャーフォーム(アーチャーの聖骸布+バリアジャケット)
デバイス予備カートリッジ残り28発
[道具]:支給品一式(食料残り1食。水4割消費、残り1本)、ヤクルト一本
エルルゥのデイパック(支給品一式(食料なし)、惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん、
五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)、紅茶セット(残り2パック)
[思考]
基本:レイジングハートのマスターとして、脱出案を練る。
1:庭にいると思われる参加者を警戒。
2:1の参加者が水銀燈ならば、今度こそ倒す。
3:劉鳳、セラスと合流。トグサ&ドラえもんともいずれ。
4:変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。
5:セイバーについては捜索を一時保留する。
6:自分の身が危険なら手加減しない。
[備考]:
※リリカルなのはの魔法知識、ドラえもんの科学知識を学びました。
※水銀燈の正体に気付きました。
[推測]:
ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い(推測)
膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能(推測)
首輪には盗聴器がある
首輪は盗聴したデータ以外に何らかのデータを計測、送信している
[全体備考]
※野比のび太と八神太一が埋葬されました。二人の墓には「風神うちわ@ドラえもん」が刺さっています。
※水銀燈の人間形態は死亡後、自動的に解除された模様です。
◆
一方その頃。
「……ふぅ、ようやく終ったか」
ドラえもんの修理を終えたトグサは、手袋を外し、大きく伸びをしながら時計を見やった。
あの病院からの脱出から既に随分と時間が経過している。
「これで何の収穫も無しだったら、喜劇にもなりゃしないな、本当に……」
そう言いながら、トグサは自らの拳銃に弾を装填しておく。
大分遅れてしまったが、今からでも病院に向かえば凛のサポートは出来るはずだ。
それに劉鳳やセラスの様子も気になる。
トグサとしては少しでも早く、病院に戻りたいところであったが――――
「う、う〜ん…………」
そんな時に限って、予想外の出来事は起るものである。
「あ、あれ、ここは…………のび太君…………ん? あれれ?」
起き上がったそのまん丸ボディのロボットは周囲を見ながら、困惑の表情を浮かべる。
(……やれやれだな)
起きてしまった以上、放置することは出来ない。
彼はドラえもんの方へ向き直ると、面と向かって凛にしたのと同じような言葉を口にした。
「……調子はどうだい? ドラえもん」
◇
そして。
ここでもまた、運命を左右する切り札になりうる男とロボットが再起動しようとしていた。
【D-2・豪邸/2日目・午前】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労。SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾6/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク
[道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、S&W M19の弾丸(28発)、警察手帳(持参していた物)
技術手袋(使用回数:残り15回)@ドラえもん、首輪の情報等が書かれたメモ1枚(内部構造について追記済み)
解体された首輪、フェイトのメモの写し
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:ドラえもんに事情を説明する。
2:1の後、病院へ直行。
3:ハルヒや魅音など、他の人間はどこにいったか探す。
4:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。
5:ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。
6:情報および協力者の収集、情報端末の入手。
7:エルルゥの捜索。
[備考]
※風、次元と探している参加者について情報交換済み。
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ(修理によりやや回復)、頭部に強い衝撃、強化魔術による防御力上昇
[装備]:虎竹刀
[道具]:支給品一式(食料-1)、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする。
1:状況を把握したい。
[備考]
※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました。
※凛とハルヒが戦ってしまったのは勘違いに基づく不幸な事故だと思っています。
偽凛については、判断を保留中。
早速修正いたします。
>>327 誤:残るのは、依然気を失ったままのドラえもんとそれを修理するドラえもんのみ……
↓
正:残るのは、依然気を失ったままのドラえもんとそれを修理するトグサのみ……
>>332 途中より以下のように修正させてもらいます。
「……ここで合ってるの?」
『はい。彼女の体の傍から魔力を関知できます』
彼女は院内捜索中にバルディッシュに告げられた“付近から無視できない量の魔力反応がある”との知らせに従い、その発生源を調べに病院のとある地点へと向かっていた。
そこは、既に病院“内部”と言うべきかどうか微妙な――病院の壁を突き破ったその先であり、瓦礫や抉れた樹木に混じって、二人の男女が息絶え倒れていた。
一人は、白と青、そして血の赤に染められた服を身に纏った少年。
もう一人は、白と黒のゴシックドレスをこれまた血の赤に染めた状態で倒れている少女……を象った人形。
この酷く損壊した人形こそが魔力の発生源らしかったのだ。
「でも何で人形がこんなところに……」
よく見ればその首には自分に付けられたのと同じ首輪がついている。
つまりこの人形――彼女もまた、参加者の一人ということのようだ。
そして、体の上には小さな光が浮いているのを見ると、彼女はそれを手に取ってみる。
「もしかして、これが魔力を出しているの?」
『その通りです。魔力の反応、極めて大です。……それに人形の衣服の中からも同様の反応があります』
「服の中から?」
バルディッシュの報告に訝しげになりつつも、確認したい気持ちが強いフェイトは「ごめんなさい」と一言言って人形のドレスへと手を入れる。
すると、中からは確かに浮いていたのと同様の光が出てきた。
また、その光を見つけるのとほぼ同時に、そのうつ伏せになった体の下敷きになるように何かが挟まっているのを見つけ――
「これは――!!」
それを拾ったフェイトは酷く驚いた。
なぜなら、それはかつて自分となのはで破壊したはずの融合型デバイス――闇の書だったのだから。
――何故、消滅したはずのデバイスがここにあるのか?
その疑問に関しては答えはすぐに出る。
ギガゾンビが何らかの時空干渉を行い、不正に入手したのだろう。
今疑問なのは、“持ち主であるはずのはやて亡き今、何故転移せずにこの場に存在するのか”という点だった。
守護騎士の件といい、この空間には自分のまだ知りえない未知の技術やまだ使われているらしい。
「でも、こんなものまであるってことは……」
何故、闇の書がこの銀髪の人形の下敷きになっていたのかは分からない。
何故、人形と少年が相打ちになるような形で息絶えているのかも分からない。
ただフェイトが分かっていることはただ一つ。
闇の書が極めて危険なアイテムであるという事だ。
彼女は思い出す。
かつて、はやてを飲み込み暴走を開始した闇の書――正確には闇の書の防御プログラム――の凄まじい魔法の力を。
もし、時空管理局のような組織のバックアップ無しにこの場で融合事故が発生してそのような暴走を起こされたりしたら、手に負えなくなってしまう。
(これを……早くどうにかしないと)
管制人格リィンフォースが応答をしない以上、いつどんな災厄を及ぼすとも分からない。
最悪の場合、ギガゾンビが手を下すまでもなく書が暴走して全滅などというシナリオすらも描かれかねない。
しかし、だからといって自分ひとりであの時の儀式のように完全に破壊できるかどうかも分からない。
そんな危機感を抱きつつ、フェイトはその対処法を見つけるまでの間の処置として、その闇の書を、正体不明の魔力の塊である光球ともども自らのデイパックで保管することにした。
「よぉ、病院の中の捜索はもう終tt――――って、おい。これはどういう……」
カズマがフェイトに声を掛けたのは、まさにそんな2種類のアイテムをデイパックにしまっていたその時だった。
>>341の修正にあわせ、フェイトの状態表も修正します。
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、魔力消費(中)/バリアジャケット装備
[装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム、残弾4/6)魔法少女リリカルなのはA's、双眼鏡
[道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはA's、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
:ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night、闇の書@魔法少女リリカルなのはA's
:ローザミスティカ(真紅、水銀燈)@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。
1:接近してくる参加者を警戒。
2:病院にてゲイナー、トグサ等との合流を待つ。
3:ゲームの脱出に役立つ参加者と接触する。
4:闇の書への対処法を考える。
5:カルラの仲間やトグサ、桃色の髪の少女の仲間に会えたら謝る。
6:人形から入手した光球の正体について知りたい。
[備考]:襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。
:首輪の盗聴器は、ルイズとの空中戦での轟音により故障しているようです。
度々申し訳ありません。
真紅のローザミスティカはもう消費されていましたねorz
以下のように再修正します。
>>341の一部
「もしかして、これが魔力を出しているの?」
『その通りです。魔力の反応、極めて大です。……それに体の下からも大きな反応があります』
「服の下から?」
バルディッシュの報告に訝しげになりつつも、確認したい気持ちが強いフェイトは「ごめんなさい」と一言言って人形の体をゆっくり持ち上げる。
すると、そのうつ伏せになった体の下敷きになるように何かが挟まっているのを見つけ――
>>342の状態表
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、魔力消費(中)/バリアジャケット装備
[装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム、残弾4/6)魔法少女リリカルなのはA's、双眼鏡
[道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはA's、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
:ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night、闇の書@魔法少女リリカルなのはA's
:ローザミスティカ(水銀燈)@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。
1:接近してくる参加者を警戒。
2:病院にてゲイナー、トグサ等との合流を待つ。
3:ゲームの脱出に役立つ参加者と接触する。
4:闇の書への対処法を考える。
5:カルラの仲間やトグサ、桃色の髪の少女の仲間に会えたら謝る。
6:人形から入手した光球の正体について知りたい。
[備考]:襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。
:首輪の盗聴器は、ルイズとの空中戦での轟音により故障しているようです。
その姿を一言で現すならば――それは、まさに『異形』だった。
それには、人として不可欠な要素……頭部が欠損している。
頭があると予想される部分は肌色の丘陵と一つの孔と……そして、未発達な突起物が見え隠れしていた。
だというのにそれは、あらぬ場所から生やした手足をばたつかせながら、走るのだ。
器用に、すばしこく。
その光景に生きながらに居合わせた人間には、ただただ狼狽し悲鳴を上げることしか許されないのである。
そして、それは、鳴いた。
「ケツだけ星人〜〜〜〜!!!」
「きゃあ〜〜〜〜〜ッ!! お、お下品ですわよしんのすけさん!! 早くパンツをお履きになって!!」
「あはははははは!! 何ソレ!? しんちゃんの得意技? しんちゃんも中々の芸達者だねぇ」
「うん! これぞ野原家流奥義、ケツだけ星人の舞〜! 因みにロックさんにも伝授したよ」
「う゛……そっちは流石に見たくはないなあ……」
「し、しんのすけさんの馬鹿〜〜! 思い出したくない記憶が〜〜!!!」
「もう、ダメだゾサトちゃん、お馬鹿って言う人がお馬鹿なんだってみさえも言ってたゾ!」
今、私たちは三人で民家に戻り、病院へ行ったロックさん達の帰りを待っていた。
病院には水銀燈や遠坂凛が居るワケで。
でも、仲間の仲間だった人達も居るワケで。
ロックさんたちが無事に帰ってきてくれる保障も無いし、もしものことを考えていると胸が潰れそうになる。
でも、今の私たちに出来ることといえば、ただ彼らの無事を祈って待っていることだけ。
ただ、彼らが無事に帰ってきたときに、笑顔で迎えてあげる事だけ。
だから、私は思う。今は無理してでも笑っておく時なんだって。
でも、なんだかうっかりすると、今自分が最悪の殺し合いの中に居て、仲間の多くが既に死んでしまっていることを忘れそうになる。
……ううん、忘れたりはしない。絶対に。
でも、ここで皆のことを思ってくよくよしていたって、何も進歩が無いと思う。
過去の過ちに立ち止まってるのは、弱いこと。
それを乗り越えて前に進むのが、強いこと。
ちょっと陳腐だけど、結局はそういう単純なことを地道に繰り返していけるのが、本当の強さなんじゃないのかな、と私は思う。
しんちゃんは、まだ薬が残ってるみたいで時々ふらつくけど、それでも元気一杯にはしゃいでくれる。
沙都子も、そんなしんちゃんに普段通りの笑顔を見せる。
ついさっき、ここで仲間が死んだなんて思えないほどに……いや、違う。
みんな、そのことを忘れてなんていない。むしろ、逆だろう。
黙っていれば、彼女の事ばかり考えて、自分の罪を悔やみ、沈んでいってしまいそうになる。
自分が落ち込めば、周りの二人もつられて落ち込んでしまうに決まっている。
そして何より、彼女は自分の為に皆が落ち込むことを嫌うはずだ。
それが嫌だから、私たちは笑う。
皆がお互いを信じて……それが、あの人の遺言だから……。
ひとしきり笑いあった私たちだが、私は流石に気を緩めすぎている気が少ししてきた。
「ねえ、沙都子、私が言うのもなんだけど。私たちちょっと騒ぎすぎじゃない? これで他の危ない人にでも見つかったら……」
「い、言われてみればそうですわね。迂闊ですわ。でも……魅音さん、アレはちゃんと用意なさったんでしょう?」
「ああ、言われたとおりにちゃんと作ったよ。でも、あんな簡単なので大丈夫なのかなあ……?」
「お〜〜っほっほっほっ、魅音さん、この私を誰と心得ておられまして?
私はトラップマスター・沙都子なのですわよ!? 私のトラップに抜かりはございませんわ!!」
私が沙都子に作らされたのは、簡単な警報装置。
ありあわせの紐や木片で作ったもので、この小屋に近付くものそれに触れると、音が鳴って私たちに知らせてくれるというものだ。
「でも油断は禁物だよ沙都子。私たちじゃ応戦するなんてもっての他だしね。もし誰か来ても、一目散に逃げ出さなきゃ」
「そうですわね……私が足手まといになるのが口惜しいですわ……でも、もしもの時は私を……!」
途中まで言いかけた沙都子の口を、私が抑える。
「沙都子、その先を言っちゃダメだよ。私たちは仲間だ。見捨てたりなんかしない。
ハルヒたちと別れるときに約束したろ? 皆で脱出するんだって。自分だけ先に諦めちゃうのは、約束破りだよ?」
「そうだゾ。お約束守れない子は母ちゃんにグリグリされるんだゾ!」
「あ……御免なさい。……そうですわよね。私だけ諦めるなんていけませんわよね」
そう言った直後は落ち込む沙都子だったけれど、 すぐに元気を取り戻す。
「まあ、私にとっては足一本なんてちょうど良いハンデですわ!
そこいらの運動不足な成人男性ぐらいなら、ケンケンで追い抜いて差し上げますのことよー!」
沙都子は、明らかに無理をしていた。私でもわかるくらいに。
きっと、自分がしてしまった罪を悔いて、でも沙都子なりにそれを贖おうとしているんだと思う。
沙都子は、私たちに気遣われ、私たちの負担になることを嫌っているんだ。
だから、無理にでも明るく振舞って、逆に私たちを元気付けようとしているんだろう。
……強くなったね、沙都子。
ここに来てからというもの、沙都子にはいくつもの不幸が降り注いできている。
いきなり殺し合いの場に放り込まれ、足を砕かれ、仲間を殺され、そして自分の責任で人が死に……
……アレ? でもソレって私も似たようなもんじゃない?
で、それってしんちゃんにも当てはまっちゃうんじゃ……?
「はは、なんだ、みんな一緒じゃん……」
「魅音さん? どうなされたのかしら?」
「なんか変なものでも食べた?」
突然笑い出した私を、二人が不思議そうに眺める。
なんと言うことはない。だが、その時はすごく大きな発見をした気になってしまった。
この子達も、私も同じ。
この子達も、私も……強い。強くなれた。
独りで悩んでた時は、何が強さなのか、どうしたら強くなれるのかなんて全然分からなかったけれど、
仲間がいれば、何のことは無い。ただの些細な問題に見えてしまう。
それは、簡単な事だったのかもしれない。
ただ、仲間と共に悩んで、苦しんで、それでも仲間を信じる。たったそれだけのことだったのかもしれない。
「ごめん、何でもないよ。ただ、二人とも強いなあ、大人だなあ、って思っただけだよ」
「? 本当に変な魅音さんですわね」
「オラはひまわりのお兄さんだから、大人なのは当たり前だゾ! お寿司だってワサビ入り食べられるんだゾ!」
「へえ、しんちゃんはお兄さんなのか〜」
「うん、一児と一犬のお兄さんなのさぁ〜! ところで、おねーさんは兄弟とかいるの?」
「ああ、詩音、っていう双子の妹がいるよ。顔は同じだけど、性格は私と違っておっかないんだから!」
「ふ〜ん、なるほど〜。じゃ、サトちゃんには兄弟とかいるの?」
――!! しまった! それは沙都子に言っちゃあ……!!
「し、しんちゃん! 沙都子は――」
「ええ、悟史という名前の兄がひとりおりますわ」
「えっ!?」
沙都子にとっての悟史は人に触れて欲しくないタブーなのだと、私は理解していた。
だけど、そのときの沙都子は、さも当たり前のように悟史のことを口にした。
「ふーん。そのおにーさんは何してるおにーさんなの?」
そんなこととは露も知らないしんちゃんは、沙都子のタブーをどんどんと侵してゆく。
私はただハラハラしながら二人を見守ることしかできない。
「にーにーは……今は、とても遠いところにいますの。どこに居るのか分からないくらい、遠いところに。
でも……きっと生きていますわ。今もどこかで」
沙都子の声が、少しづつ震えだす。
「へー。でも、なんで遠くに行っちゃったの? サトちゃん放っておいてどこかに行くなんて、酷いおにーさんだなあ!」
「酷いのは、にーにーではなくて、私なの!!」
急に声を荒げた沙都子に、しんちゃんはあとずさる。
沙都子は……話を止めない。
「にーにーは、いつも私を庇ってくれた。意地悪な継母から私のことを守ってくれた。
それを私は……それが当たり前であるかのように思ってしまった。
にーにーが私を守ってくれて当然だと思って、にーにーに甘えてしまった。
それでもにーにーは私のために、辛いことも苦しいことも全部全部我慢して、耐えてきてくれた。
なのに私は……自分のことしか考えていなくて……。
だからとうとう、にーにーはいなくなってしまった」
「サトちゃん……」
沙都子はもう、しんちゃんを見ていない。
沙都子が話している相手は……沙都子自身だ。
「にーにーが居なくなって、はじめて私は気付いた。
私はなんて酷い妹だったのだろうって。これじゃにーにーがいなくなるのも当たり前だって。
にーにーがいなくなったのは、きっと私のせいなんだって……」
沙都子の目から、一筋の涙が零れ落ちる。
「だから、私は決めた。
にーにーがいなくても、ひとりでもちゃんと出来るようになろうって。
にーにーに守って貰えなくても、ひとりでも頑張れるようになろうって。
そして、いつかにーにーが帰ってきたときに、見せてあげるの。
沙都子はこんなに大きくなったよって。沙都子はこんなに強くなったよって。
だから、私は頑張らなくちゃいけなかったの。強くならなくちゃならなかったの。
そうしないと、いつまでもにーにーが帰って来れなくなってしまうから……」
「沙都子……」
沙都子の声を聞いているのが、辛かった。
悟史くんの辛さも、沙都子のつらさも、十分に分かっていたはずなのに……それでも辛かった。
「でも……私は罪を犯してしまった。人を死なせてしまった。
自分が生き残るためなら、他の皆が死んでしまっても良いって、本気で思ってしまった。
そんな、そんな悪い子、にーにーが好きなはず無いって、分かってたのに……」
「サトちゃんは悪くないゾ! 悪いのはあの変態仮面のおじさんだゾ!」
沙都子にいたたまれなくなったのか、しんちゃんが沙都子を慰める。
そのしんちゃんを見ながら、沙都子は……笑った。
見ていると胸が張り裂けてしまいそうな切ない笑顔で、笑った。
「ありがとう、しんのすけさん。
でも、悪いのは私。どんなにあの仮面の男が悪い状況を作っても、実際に悪い事をしたのは私。
だから……私は、自分の罪を償わないといけない。
私が死なせてしまったあの人のためにできることを、あの人の代わりにしてあげないといけない。
そうしないと、にーにーは……私に会ってなんてくれない。
でも、私がちゃんと罪を償って、今までどおり、いいえ、いままで以上にいい子にしていれば、もしかしたらにーにーも許してくれるかもしれない。
ううん、そうするしかありませんの。にーにーに認めてもらうには。
それを教えてくれたのが……しんのすけさん、あなたでしたのよ。
本当に、本当にありがとう、しんのすけさん」
「おお! なんだかわからないけど褒められた〜! えっへん、どういたまして〜」
しんちゃんは沙都子の話を理解できたのか出来なかったのか、誇らしげに照れている。
でも、私はそのしんちゃんの姿をはっきりとは見られなかった。
私の目も、涙で滲んでいたのだから。
沙都子の言葉は、私の胸にも深く突き刺さっていた。
だって、私も沙都子と同じ。
多くの人達に守られて、その彼らに何も返せなくて。
私はただ守られるだけで。そして、私を守って何人もの人が死んでいって。
それどころか、私自身の手で罪無き人を殺してしまって。
罪に汚れているのは、私の方だ。
でも、うん、わかってる。
罪を犯しても、それをただ悔やんでいたんじゃ意味が無い。
その罪を少しでも贖おうとしないと、意味が無いんだ。
どんなに罵声を浴びせられても、泥を投げかけられても、私は前に進まないといけない。
そして、大丈夫。
私には、私たちには、一緒に歩いていける仲間がいるんだから。
「あれ? おねえさんどうしたの? 拾い食いしておなか壊した?」
俯いている私に気付いたしんちゃんが、心配そうに話かけてくれる。
「はは、ちょっと目にゴミが入っちゃってね。私は大丈夫だよ。ありがとう、しんちゃん」
「おやおや、なんだかオラ、モテモテ〜? ふっ、オラも罪なお子様だぜ〜」
しんちゃんを見ていると、思わずクスリと笑ってしまう。
この子を見ていると、殺し合いなんてのが心底馬鹿らしく思えてしまうから不思議なものだ。
でも、このしんのすけって子は、案外すごい子供なのかもしれない。
なにせ、もう既に何人もの人間を救って来ているんだから。
「え〜っと、でさあ、何の話だったかなあ……ああ、そうだ。実際に誰かが来た時にどうするか、って話だ」
みんな、というか私と沙都子が落ち着いた頃合を見計らって、私は話を元に戻す。
「沙都子は移動に難アリだし、銃は二丁あるけど私しか使える人がいない。
だから……基本は『隠れてやり過ごす』ってトコかな。
ただ、仕掛けたトラップが心配なんだよな……アレってさ、ここに人がいますよ〜って目印にもなるんじゃないの?」
そんな私の心配にも、沙都子は自信満々だ。
「ご心配には及びませんわ! 魅音さんが私の言った通りにトラップを仕掛けたのなら、
そしてトラップにかかったのが危険人物なら、かなりの確率で『隣の民家』に入るはずですわ。 そういう風に仕掛けましたから。
だから、トラップに誰かがかかり、私たちがその音を聞いたら……一目散に逃げ出せば良いのですわ。
そうすれば、危険人物はこの民家一帯に釘付け。その間に私たちはみんなと合流して……という算段ですわ。いかがかしら?」
「へえ、やるね沙都子! じゃあ、人が来たら取りあえずは逃げの一手だね。沙都子は私がおぶるとして……しんちゃん、走れる?」
「うん! オラ、かけっこは得意だゾ!」
しんちゃんはぴょんぴょん飛び跳ねてみせてくれる。うん、薬の影響ももうなさそうだ。
「よし……とりあえずはこれで万全だね。後はみんなが帰ってくるのを待つだけか」
そう思うと、少し肩の力が抜けた。
……と、イテテ。そういや右肩怪我してたんだっけ。
病院に行ったついでに、薬とか調達してくれてると助かるんだけどなあ……
先ほどの喧騒から落ち着いた室内は、心地よい朝の空気で満たされている。
窓の隙間から風に運ばれてくる音に耳を傾けると、奇妙な既視感――既聴感というべきか――を感じてしまう。
……ああ、分かった。この音は。
――ひぐらしの鳴く声だ。
こんな世界の果てでも、ひぐらしは同じ声で鳴いている。
このまま目を閉じれば、ここが雛見沢だと簡単に錯覚してしまいそうだ。
ああ、このまま目を開ければ、いつの間にか本当の雛見沢に帰っていた、なんてことは無いだろうか?
そんな、淡い、でも、今までに何度も繰り返した妄想を厭きもせず抱きながら、私はゆっくりと目を開ける。
目の前には、小さな二人の仲間。
はは、現実だって、そんなに捨てたもんじゃないよね。
「つか、自分で言っておいてなんだけど、ここには多分だれも来ないと思うよ。
人に会いたいならもっと市街地の真ん中の方に行くだろうし、会いたくないならもっと隅っこで隠れてるだろうし。
万が一誰か近づいてきても、沙都子のトラップが教えてくれるしね。
ま、気楽にのんびりしますかね〜」
私がそう呟いたまさにその瞬間だった。
静寂が破られる。
それも予想外の大轟音で。
――どごおおおおおおおおおおおおん!!!!!!!
民家全体が震える。
「きゃあっ!」
「うわあ、何、何!?」
うろたえる私たちの元に、大量の土煙が吹き付ける。
これは……爆発、それも近い!
恐らく、台所のあった近辺から生じた爆風だ。
でも何故!? 事故? それともまさか……何者かの襲撃!? 爆弾!!??
しかし、それを考える時間はさほどは確保できそうも無い。
そんな私の自問に答えるかのように、第二の異変が到来する。
今度は派手な音は響かなかったが、その代わりに、黒々とした煙が部屋中、いや、この建物全体に立ち込める。
「ごほっ、ごほっ、魅音さん、これって……!?」
「わ、分からないよ! でも、まさか……!」
敵襲……それは考えにくい。
私たちがこの民家に来る時も、トラップを仕掛けるときだって、これ以上ないくらいに周りを警戒していたハズだ。
そんな私たちを、トラップの圏内よりもさらに遠方から、しかも幾つかある民家の中で、『この民家』だけを集中的に攻撃するなんて……
ありえない。それこそ、全てを見透かすような魔法でも使わない限り。
でも、現実はそんな言い訳を聞いてくれそうも無い。
「事故でも敵の攻撃でも、ここに留まってちゃ危険だ! まずは脱出するよ!!」
そう言って沙都子を抱えて駆け出そうとした瞬間に、第三の異変が到来する。
それは、一つ目の異変と同じく、大轟音と、激しい衝撃。
そして、そこで私の意識は途絶えた。
◆
峰不二子は、ぼんやりと川のせせらぎを眺めていた。
時刻は、もうすぐ不二子の設定した時間――9時にさしかかろうとしていた。
9時になれば、不二子が今いるこの地域も禁止地域になってしまう。
つまり、不二子がこのままここでのんびりしていれば、いずれ彼女の首輪の爆弾が起動し、起爆するのだ。
そう、不二子が嘗て利用した、あの少年のように。
――それもいいかもね。
「フフッ」
そう心の中で呟いた不二子はしかし、自分のジョークに堪えきれずに破顔する。
なにせ、不二子にはそんな気持ちは毛頭無いのだ。
不二子は、自分に得があることなら、そしてここで生き延びるためならどんなことでもするだろう。
他人を騙し、幼子を殺し、善人を踏み台にして――そう、実際にそうしてきたのだから。
不二子はただなにげなく、そんな自分にも嘘をついてみたくなっただけなのだ。
時の移ろいに身を浸し、世の無常を憂う……
――駄目。やっぱりこういうのは柄じゃないわ。さて、さっさと温泉にいくとしますか。
誰に見られたわけでも、聞かれたわけでも無かったが、なんとも気恥ずかしそうに頭を掻いて不二子は立ち上がる。
だがそこで、不二子は初めて気付いた。
本当に、自分を見ている者がいることに。
黒い、巨鳥――鷹。
それが、不二子が感じた、その男の第一印象だった。
男はその全身を、漆黒のプロテクターのようなもので覆っていた。
まるで中世の騎士――いや、それよりももっと幻想的な――悪魔、とでも言うのが適切なのだろうか?
悪魔……いや、そんな分かりやすいものでもない。
もっと曖昧で、複雑で、簡潔な何か……。
そう、『言葉では言い表しにくい』という言葉が、その男に最も相応しい。
ただ、その目だけは……今までに見たことが無い程に、深く、深く……
「失礼。お声を掛ける機会を伺っていたのですが、驚かせてしまいましたか?」
男を凝視したまま言葉を失っていた不二子に、男が話しかけてきた。
その外見のにしては、礼儀正しく、知性に溢れる声で。
いや、それは寧ろ外見通りと言うべきなのだろうか。
「貴方……誰?」
「ああ、これは失礼しました。私のなはグリフィスと申します、ミス不二子」
「――えッ!?」
グリフィスと名乗るその男の挨拶が余りにも自然だったので、不二子の反応が一瞬遅れる。
この男は、私のことを不二子、と呼んだ。不二子とは初対面であるはずなのにも関わらず。
そして、そんな不二子の驚きすらも予想通りと言わんばかりに、グリフィスの言葉は滑らかに続く。
「驚かせてしまって申し訳ありません。ですが、これも当然のこと。
何故なら私は貴方のことならなんだって分かるのですから。お待ちしておりましたよ、峰不二子」
――この男は、一体何を言っているんだ?
知るはずの無い私の名前を知っていて、それどころか私の全てを知っている?
……馬鹿らしい。
この男はただ私の名前を知っているだけ。まあ、それでも不思議なことではあるが。
私の全てを知るだなんて、そんなの私の心でも読まない限りは……
そのとき、グリフィスの目を見た不二子の背筋に、ぞくりと悪寒が走る。
――ま、まさか?
「フフ、貴方が疑うのも無理はありません。貴方程の聡明な方ならば、私を疑うのも当然のこと。
どこかで名前を知る機会があっただけ――そうお思いでしょうが、そうではないのです」
グリフィスの言葉には、絶対的な自信と確信が満ち溢れている。
――で、でも、この男が知っているのは名前だけ。それじゃあ証拠には……!
「ええ、そうですね。名前だけでは、私が貴方のことを全て知っているという証拠にはならない。
ですが……何を言えば、貴方は私の言葉を信じてくれるのか。これは少々難しい問題ですね」
グリフィスは、不二子の言葉を待たずに話を続けていく。
実際、不二子はほとんど言葉を口にはしていない。
だというのに、この場では明らかに『会話』が成立しているのだ。
「例えば……貴方は仲間の死を大して意にも介さず、それどころかそれを如何に利用するかに苦心する冷静さを持っている。
また、自身の目的の為には、例え相手が力を持たない子供でも容赦はしない意思の力を持っている。
それも、最初は少し迷っておられたようですが……貴方はもう覚悟をお決めになっているようだ。
まったく、貴方の強さには感服するばかりです」
「――!?」
グリフィスがさも当たり前であるかのように口にする言葉の一つ一つに、不二子の心は激しく揺れる。
「そして、貴方の目的は……単純明快。『最後の一人になること』……そうでしょう?
その為には他の強者には潰しあって欲しい。だから自分は彼らが潰し合っている間の避難と、
先ほど浴びた刺激物を洗い落とすためにC-8地区にある温泉を目指していた……。
とはいえ、こちらの都合で恐縮ですが、温泉には何人たりとも近づかせるワケには行かないのですがね。
……どうです? 少しは私のことを信じていただけましたか?」
――どういうこと!?
このグリフィスという男は、まるで見てきたかの様に私の全てを正確に言い当てていく。
ありえない。何かトリックがあるはずなんだ。
例えば……そう、この男は、ずっと私に気付かれること無く私を観察し続けてきたとしたら?
……いいえ。それはありえない。私が今まで監視されていることに気付かないなんてありえないし、
そもそも車を使ったり禁止地区を横切ったりする移動についてこれるはずが無い。それも私に気付かれること無く。
では何故……?
やはり、この男は……私の心を読む能力がある……?
「フフ、やっと私のことを信じてくれる気になってくれましたか。ですから――」
そう言いながら、グリフィスは懐から一丁の軽機関銃を取り出し、その銃口を不二子に向ける。
「不意打ちで私を倒そう、などという無駄な考えはお捨てになるべきですね」
不二子の体が――グリフィスに見えないように拳銃を取り出そうとする右腕が、びくりと震える。
――ああ、駄目だ。この男には、全て読まれている。
どういう理屈か、どんな魔法を使っているのかは分からないが、確実に分かることが一つある。
……この男は私よりも一枚も二枚も上手で、私はこの男の掌の上で踊らされているだけなのだ。
だが、一つだけ分からないことがある。
「一つ、質問してもいいかしら? ……といっても、私が喋らなくても貴方にはお見通しなのかも知れないけどね。
貴方の目的は何? 殺し合いがしたいなら、その力でさっさと私を殺してしまえば良いのに、貴方はそうしない。
貴方は……一体、何がしたいの?」
不二子の問いかけに、グリフィスの口元がにやりと歪む。
『笑う』という所作の根源は、獣が獲物に牙を剥く動作に由来するという話を、不二子はその身を持って実感する。
「素晴らしい。貴方はやはり私が見込んだ通りの方だ。私が貴方に望むこと、それは……
単刀直入に申し上げれば、私に協力して欲しいのです」
「協力……? 手下になれ、っていうの? この私に?」
「いえ、あくまで協力です。上下関係の無い対等な……ね」
「対等? 何を言ってるのよ。協力だなんだって言っておきながら、どうせ最後には始末されるんでしょ?
アンタに顎で使われて、その挙句にはいさようならだなんて、まっぴら御免よ!
それとも私自身が目当てなのかしら? それなら話は別なんだけど」
心を読まれているかもしれない、という不安と焦りに、不二子は追い詰められていた。
普段ならば決して口には出さない思案や姦計をもが、不二子の口から滑り落ちてゆく。
――この男には、チンケな小細工は通用しない。下手に動こうにもコイツの考えが読めない。それどころか逆に……
どうする? どうすればいいの!?
対するグリフィスは、不二子と対照的に静かに言葉を紡ぎだす。
「いえ、私には貴方を殺すつもりはありませんよ。私には貴方を殺しても何のメリットも無い」
「何言ってるのよ! 最後の一人になるためだったら、アンタはいずれ私を……!」
「いいえ。そんなことをする必要はないのです。冷静になれば貴方にもわかるはずですよ」
グリフィスは、極めて優しく、そう言った。
「なにしろ私はもう既に死んでいるのですから」
「……えっ?」
「私の名前……どこかで聞いた覚えはありませんか?」
「な、グリフィスなんて聞いたこと…………あっ!」
「思い出していただけたようですね。そうです。私の名前は先の放送で既に呼ばれているのですよ。
勿論、私が死者の名前を偽り騙っているわけではこざいません。貴方と違って、ね」
――思い出した。確かにグリフィスってのは、さっきの放送で呼ばれた名前だ。
私としたことが、最初に名乗った時に気付けなかったとは……
でも、一体どういうつもりなのだろうか? わざわざ死者として読み上げられたばかりの名前を名乗るだなんて。
そのうえ、自分でそのことを暴露するなんて……全く意図が読めない。
本当にこの男が幽霊の類ならば……寧ろ、その方が全てを上手く説明できるのではあるまいか?
……馬鹿な。ありえない。
でも……
不二子の思考が、オーバーヒート寸前にまで加熱してゆく。
不二子が常人よりも遥かに知恵が回ることは、自他共が認める、まごう事無き事実である。
だが、だからこそ、不二子の混乱は加速する。
不二子しか知るはずの無い事実を語る、死者の名を名乗る男。
その、不二子の理解を超えた存在そのものに対して、不二子は徐々にある感情を芽生えさせてゆく。
……恐怖を。
死霊の濡れた唇が、ゆっくりと動きだす。
「これは、少し混乱させてしまったかもしれませんね。
勿論、私は肉体的には生きていますよ。御覧の通りね。この首の装置もまだ動いている。
ですが、私は社会的には、つまりこの殺し合いゲームの上では、既に死んだと判断されているのですよ。
つまり、私はもう既にこのゲームの盤上から一歩外に踏み出している。
だから、私は貴方を殺す必要は全く無い。
もし最後に貴方と私の二人が生き残ったのなら、その時は貴方の優勝でこのゲームの幕が閉じるだけのことです」
「死んだと判断って……ギガゾンビのミスってこと?」
「いいえ。ギガゾンビ様は一切のミスなど犯しておられません。寧ろ賢明なご判断を幾つもなされておいでだ。
その一つが……私を徴用したことなのですよ」
「徴用……? それってつまり……ギガゾンビとアンタが手を組んだ、ってこと!?」
「御明察です。実は、このゲームを根底から破壊しようと目論む輩が居りましてね。
そういった不貞の輩を懲らしめる役を買って出たのが、この私だったのですよ。
そして、ギガゾンビ様は私の申し出を受け入れ、私にこの特別な役目をお与えになったのです」
――成程。それならまだ、納得できる。
この男は、ただギガゾンビの命令を遂行することだけが目的なのだ。
だから、私たちがどこで殺し合おうが、誰が最後に生き残ろうが、どうでもいいのだ。
むしろ心配なのは、その殺し合いがちゃんと行われるかどうか。
「だから、私は貴方にとって都合が良いのね。私は最後の一人になるのが望み。
その為に、参加者を殺し、不和をバラ撒いてきた実績も十分……ってワケね」
「ご理解が早くて助かります。
そして、ご理解が早い貴方ならば、貴方には私達――ギガゾンビ様に、言いたいことがあるはずですね?」
「ええ、その通り」
不二子の顔に、久方ぶりに笑顔が戻る。
「私も、貴方達の仲間に入れて下さらないかしら?」
「貴方は本当に期待を裏切らない方だ」
グリフィスも、不二子に笑みで答える。だが。
「しかし、残念ながら、今はまだ貴方の願いを聞き入れることは叶いませんね」
「あら、つれないわね。でも、“今はまだ”ってことは、いずれは考えてくれる、ってことなのかしら?
それが貴方の言う協力、ってのに関係してるのね?」
「ええ。その通りです。私にはどうしても手が離せない用件を抱えておりましてね。
ですから、貴方には他の地区の参加者同士の殺し合いを促進させて戴きたい。
具体的に言えば……C-4地区にある民家と、C-3地区にある病院。
この二箇所が、殺し合いを是としない集団の拠点となっています。
ですから、それらを何らかの形で崩壊させてやって欲しいのですよ。
無論、手段は問いません。物理的、精神的、そのどちらでも、お好きなように」
「……なによ。結局、私にも殺し合いを真面目にしろ、って言いたいわけ?」
「いえいえ、何も貴方が直接手を下す必要は有りません。結果的に人が死ねば、何でも良いのです。
それこそ、貴方のもっている爆発物でも使えば、彼らは動揺し、その結果思わぬ事態が生じるかもしれない。それだけでいいのですよ。
私は、参加者達が殺し合いを放棄して、みんなで仲良く脱出を図る……という状況を好ましく思わないのでしてね。
その為なら……限りはありますが、私の知る情報を貴方に教えてもいい。
それが、“協力”ですよ」
――やっと分かりやすくなってきた。
つまり、コイツはただの現場監督で、ゲームにおける審判のようなもの。
そして、私がルール通りにゲームをすれば、贔屓目の判定をしてくれる……って事なのだ。
「情報以外に、私に援助なんかはしてくれないの? 強力な武器とかがあると助かるんだけど」
「残念ながら、私にそこまでの権限はございません。それに、貴方はもう既に幾つも強力な武器を持っているじゃありませんか」
「あら、ホントに何でもお見通しなのね。まあいいわ。それなら、くれるって言う情報ぐらいは奮発してよね?」
「ええ、出来得る限りに」
――やっと、やっと運が向いてきた。やっぱり私の悪運も捨てたもんじゃない。
ここまで裏目ばかりだったけれど、ここに来て主催者陣営に取り入れるのは僥倖に尽きる。
ここで新たな情報を得られるだけでも私にとってはプラスだし、なにより主催サイドの人間と接触できたのはなにより大きい。
これでコイツの言う通りに動いて適当に恩を売っておけば、後々になってからこいつらに取り入る際には絶対に役に立つ。
それに、もしもの時には、参加者をコイツに押し付けて、主催者側に駆逐してもらうのも悪くない。
脱出を図ってる連中には、こいつらの存在そのものが、私にとってのこの上ない交渉材料になり得るんだから……
その時の不二子は、浮かれていた。やっと自分の持ち味を生かせる状況になったことに、舞い上がっていた。
だが、それも長くは続かなかった。
不二子は、うっかり見てしまったのだから。
グリフィスの目を。
――!!! 見られてる……読まれてる!?
そのグリフィスの目は、先ほどと同じく深く、そして、冥い。
先ほどまでと同じく、神秘的で、吸い込まれそうで……だが、それを見て生まれる感情は唯一つ。
……恐怖。
「断っておきますが、ここで私と会い、話した内容は、一切他言無用でお願いします。
我々の存在を触れ回るのは勿論、今更になって脱出派陣営に寝返る、というのも許しません。
もし、それを破って我々に仇成すと判断された時は……貴方の首にあるそれが、貴方の罪を罰してくれるでしょう」
いつの間にかグリフィスの声は、今までとは全く違う声になっていた。
威圧感と有無を言わせぬ迫力が言葉の間から溢れ出し、不二子の心臓を握りつぶしてゆく。
不二子の心拍数が上がり、不二子の息が、乱れる。
――駄目だ。取り入るとか、利用するとか、そんな次元の話じゃない。
コイツは危険だ。これ以上関わっちゃいけない。そう私の本能が叫んでる。
今は、今はとにかく早くコイツから離れるべきだ!
「わ、分かってるわよ! それよりさっさとその“脱出派の拠点”とやらの場所を教えなさいよ!
さっさと仕事済ませてくるから、アンタはちゃんとギガゾンビに私のこと伝えておいてよ!?」
「ええ。それは貴方の働きしだいです。」
そう言って微笑むグリフィスの顔も、今の不二子にとっては凶暴な獣の威嚇にしか見えない。
――嫌だ。食べられるのは、死ぬのは嫌だ。
「コンラッド! いるか!?」
「ここにギガ〜」
グリフィスの呼び声と共に、一体の土偶が姿を現す。
「コンラッド、ミス不二子を例の民家にご案内しろ。どこでもドアを使っても構わん。
その間に、出来る限りの情報を伝えて差し上げろ。無論、お前に許されている範囲内でな」
「御意ギガ〜」
するとコンラッドと呼ばれた土偶は、どこからともなく巨大な一枚の扉を取り出した。
「どこでもドア〜! このドアを使えば、どんなところでも一瞬で行けるギガ〜。
では、まずは……って、ちょっとアンタ、人の話は最後まで〜〜!」
コンラッドの言葉が終わるよりも前に、不二子はドアに飛び込んでいた。
一分一秒でも早く、グリフィスの視線が届かない場所に逃げたかったからだ。
獣に追われる、兎のように。
◆
「……というワケなんだギガ。分かったギガ?」
「…………」
「ちょっと? ダマの話をちゃんと聞いてたギガ!?」
「え、ああ、御免なさい。一応聞いてたわよ。結局、あの家と病院をどうにかすればいい、ってことでしょ?」
「その通りだギガ。因みにダマの調査によれば、今あの民家にはたいした奴は居ないハズギガ。
つうことで、健闘を祈るギガ。オマエが死ぬのはダマにとっても損失ギガ〜」
そう言いながら、コンラッドは再びドアを取り出して、そのドアを開ける。
しかし土偶は扉をくぐる時に、一言ぼそりと呟いた。
「オマエはダマが監視しているギガ。くれぐれもおかしなことをしないようにギガ」
コンラッドの去った後も、暫くの間不二子は思考の渦から抜け出せなかった。
――つい今しがた私が体験したことは……一体なんだったのか?
あの男が言った言葉――ギガゾンビに取り入って、私に殺し合いを助長させる――その言葉だけなら理解できる。
だが、あの男……あの男そのものについてはどうだろう。
あの男は一体何だったのか?
私の事を仔細に渡って知り尽くし、私の思考を全て読みきって……。
いや、思考をただ読んでいるだけならまだ良い。寧ろ、私の思考を完全に把握し、コントロールされたかのようにすら思えてしまう。
あの時の私は……私の思考は、感情は、果たして本当に私のものだったのか?
私の精神が、あの男に操られ、弄ばれ、捻じ曲げられていたのではないのだろうか?
――私は、これまでにいろんな化け物共を目にしてきた。
鋼鉄を切り裂く化け物。数km先の米粒を打ち抜く化け物。あらゆるものを盗み出す化け物。
残虐な殺戮人形を操る化け物に、全てを粉砕する拳を持った化け物。
だが、そんな化け物共など、恐れるには値しない。
道具は、使うものなのだから。それを恐れるなんて、ナンセンス。
ただ強さを誇るだけの猛獣なんて、飼いならしてしまえばどうということはない。
だが……あの男は道具ではなく、道具を使う側の存在だ。
今までにも、そういった側に立とうとする者は沢山いた。
だが、そのどれもがそうと気付かぬうちに私に使われ、飼いならされていった。
でも、あの男には……それが出来ない。いや、そういう問題ではない。
あれは、道具でも、獣でもない。もっと恐ろしい何かだ。
死霊。あの男は自分のことをそう例えた。
実体を持たず、人の心に入り込み、内側から食い殺すゴースト……まさに、あの男はそれだ。
歯向かえない。既に死んだ人間を殺すことなんて、出来るはずがない。
ただ、その存在を恐れ、逃げ隠れるだけ……それだけが、生きた人間に出来ることじゃないのか。
――いや……そもそも私は、本当にまだ生きているのか?
知らないうちに、あの死霊に食い殺されてしまっているんじゃないのだろうか……?
不二子の心は、グリフィスから離れた今もまだ、グリフィスに侵食され続けている。
グリフィスにつけられた傷から染み込んだ毒が、不二子の心を蝕み続けている。
そして、それはいずれ不二子の心を丸ごと飲み込んでしまう。そんな確信が、不二子にはあった。
――逃げなければいけない。
――でも、どこへ?
――どこでもいい。出来ればこの殺戮ゲームの外へ。
――でも、どうやって?
――簡単なこと。さっさとこのゲームを終わらせてしまえばいい。
――グリフィスは、確かに私に言った。“協力”だと。私を殺す理由など無いのだと。
そしてギガゾンビにしても、自分の望みどおりの働きをする者ならば、わざわざ殺す必要も無いはずだ。
ならば、私のすることは――他の参加者を殺すこと。
いいえ、何も私が手を下す必要は無い。それはグリフィスも言っていたこと。
殺し合いを、させればいい。そして、弱りきった最後の一人を、私が殺してしまえばいい。
そう、最初から考えていた、単純明快なその答えで十分だ。
そうすれば、私はあの男から逃れることが出来る。晴れて自由の身になれる。
だけど……出来るならば、早く自由になりたいものだ。
不二子は、目下に目を下ろす。木々の隙間から、何件かの民家の屋根が顔を覗かせている。
土偶の言うことが正しいならば、あの中の一軒が脱出派の拠点になっているということになる。
この殺人ゲームからの脱出。それは、余りにも狭い道だ。
それが成功する確率など、どう考えても低すぎる。
だが、その気になってしまった頭の弱い人達がそのことに気付き、絶望するまでには、なかなかの時間がかかるだろう。
――無駄な時間だ。
そんな時間の浪費をしている間に、一人でも多くの人間を殺してくれれば、それだけこのゲームが終わるのが早まるというのに。
そんなことにも気付かず、いや、寧ろそのことから目をそらし、自分は時間が経つのをただただ隠れて待っている。
私が一刻も早くこのゲームを終わらせようと躍起になっているのに、そいつらはダラダラと時間を浪費しているだけ。
……なんて迷惑な。
そいつらがいなくなれば、私がここから逃げ出せるのも早まるというのに。
そもそもそんな受身の弱虫が最後まで生き残れるとでも考えているのだろうか?
ああ、だったら早いうちに引導を渡してあげるのも、良いかもしれない。
そいつらにとっても、真面目に殺し合いをしている人達にとっても。
不二子は自分の苛立ちと、その怒りがただの八つ当たりであることを、本当は自覚していた。
グリフィスに感じた恐怖を、他者に対する怒りで誤魔化しているだけなのだ。
だが、不二子はそれでも良いのだと考えていた。
少なくとも、グリフィスの恐怖から少しでも気が逸らせる。
そして、どっちにしろこれからする行動は同じ。ならば、すこしでも良い気分になれた方が良い。
不二子は、デイパックを空ける。
その中には、彼女が今までに掠め取ってきた、様々な道具が入っていた。
そのうちに幾つかは使い方の分からない道具ではあったが、使い道の明確な、有用な物も数多く入っている。
不二子はそのうちの一つを取り出し、それを肩に担ぐ。
――さあ、さっさと仕事を片付けるとしますか。
不二子が引き金を引くと、轟音と共にRPG-7の弾頭は、民家の一角に飛び込んでいった。
――ドオォォン
爆音が響き渡る。
だが不二子はそれにも動じず、第二、第三の砲撃を加えていく。
向うからの反撃が無いように、煙幕弾も射出しておく。反撃で自分が死んでしまったら身も蓋も無い。
――ドオォォン
不二子の放った砲撃は、全て狙い通りの民家に着弾していった。
だが、不二子は何の達成感も得られなかった。
標的となる人間を確認したわけでもなく、ただ言われるがままに民家を砲撃しただけなのだから、当然といえば当然なのだが。
そして、すべきことを終えてしまうと、行き場の無くなった感情がまたその鎌首を擡げだす。
それは、不意に不二子の脳裏を掠めた、一つの疑問であった。
しかしその疑問の真意は、不二子を大きく動揺させる。
――これで、グリフィスは許してくれるのか?
「許す!? 何言ってるのよ! これは対等な協力関係、ただのギブ&テイクなのよ!? 私がなんであの男に許しを請わないといけないのよ!」
だが、不二子は理解している。
グリフィスと不二子との力の差を。両者の間の、力関係を。
グリフィスは主催側の人間であり、底の見えない力を持ち、不二子はそれに恐怖している。
明らかに、グリフィスが絶対的な優位に立っているのだ。
協力などといっても、実際はグリフィスが齎した情報に従って、不二子が命令を遂行しているに過ぎない。
それを不二子が是としているのは、要はグリフィスを恐れているからなのだ。
『私はこんなに役に立つんだから、殺さないでくれますよね?』
不二子の行動を意訳すれば、そう言い換えることが出来てしまうのだ。
――でも、それじゃ……私があの男のことを、逆らえないほど心底恐れてるみたいじゃないの!!
その通り。
グリフィスの命令に従ったのだって、要は彼グリフィスが怖かったから。
そして、結局不二子はグリフィスの掌の上で踊るのだ。
最後の一人になるその時まで。