……だが残念なことに、凛の決め台詞がドラえもんの目に映るには、まだ少し時間が必要なようだった。
ドラえもんは、うんうんと唸りながら凛の渡したメモとにらめっこをしている。
この様子だと、お互いの情報を交換しきるにはかなりの時間を必要とするのは明らかだった。
――ドラえもんって、本当に未来のロボットなんだろうか? その割にはとぼけていると言うか、鈍臭いと言うか……
頭の中に最新鋭のコンピューターが詰まっているとは、どうしても思えない。
未来の技術とは言えそこまでの力は無いのか、それとも何らかの機能に特化しているのか。
はたまた故障でもしているのか……?
『す、すごいね凛ちゃん。独りでよくここまで……』
『独りじゃないわよ。レイジングハートもいたし。それに、これからはドラえもんもいるんだしね。
……そう。悔しいけれど、私たち一人々々の力だけじゃ、ギガゾンビには勝てないわ。
だから、力を貸して。
3人寄れば文殊の知恵って言うけれど、ここには各分野のエキスパートが揃ってるんだから、
きっと何か名案が浮かぶはずよ。
だから……難しいかも知れないけど、ドラえもんにも協力して欲しいのよ。
参加者の中で一番ギガゾンビに近しい貴方だからこそ、アイツの足元を掬えるかもしれないの』
凛のメモを読むうちにドラえもんの表情が引き締まってゆくことに、凛は僅かに安堵していた。
ドラえもんは自分の持つ重要性と責任を理解し、それを受け止めてくれたのだから。
――大丈夫。彼なら、きっと、力になってくれる。
もし私が駄目でも、彼がきっと他の誰かに伝えてくれる。私が熾した小さな火を。
……って、縁起でも無いわね。
そして、メモを読み終えたドラえもんが決意のこもった目で私を見る。
『う、うん。分かった。頑張ってみるよ!』
『頼むわよ? じゃあ、まずは貴方の“科学”でいうところの時間移動の理念を教えて貰えるかしら?』
『う〜ん、いきなり難しいなぁ。えっと、おおまかに言うとね……』
朝日が、私たちを照らしていた。
でも私たちは、太陽とは別の、小さな、でも力強い光を感じていた。
☆
うっすらと目を開けると、外の光がカーテンの隙間から見えた。もう朝みたいだ。
昨晩はほとんど眠れなかった。いつもなら何処でもすぐに眠れていたのに、どうしても眠ることができなかった。
そして、眠れなかったのは僕だけではなかったようだ。
今、この病室には、僕――野比のび太の他に、3人の人がいる。
水銀燈と、劉鳳さんと、セラスさん。
劉鳳さんとセラスさんが病室に戻って来てから、僕らはほとんど何も喋らない。
なんだか、空気が張り詰めて緊張しているのが僕にも分かる。
お互いがお互いを見張っていると言うか……
これなら、ドラえもんと一緒に見張りに行けば良かったかもしれない。
どうして、みんな仲良くできないんだろう。
「もう朝みたいねぇ。で、貴方は何時まで私のこと睨んでるつもりなのかしら?」
張り詰めた空気の中で、水銀燈が面倒臭そうにそう呟いた。
「……」
それに対して、壁際で座っているセラスさんは黙ったままだ。
セラスさんは、昨晩部屋に戻ってから今までの間、ずうっと水銀燈を睨み続けている。
それはまるで、『少しでもおかしな真似をしたらただじゃおかない!』って言ってるみたいだった。
劉鳳さんは傷が痛むのか、ベッドでずっと横になっていた。
目を閉じて眠っているみたいだけど……この状況で寝られるなんて感心する。
「全くもう、そんな露骨に邪険にしなくてもいいじゃないのぉ。私が貴方達になにかしたぁ?」
返事をしないセラスさんに、水銀燈はゆっくりと喋りだす。
こういうのを“挑発的”って言うのだろうか。
セラスさんの額がピクピクと引きつる。
「何か、ですって? ミオンに――あたしらの仲間に攻撃しといてよく言うよ! あれでもしあの子に何かあったら、ただじゃおかなかった!」
「ふぅん、貴方はあの娘に心底騙されてるのねぇ、お人好しさんなんだから。よくそんなので今まで死ななかったものだわ」
「なッ、まだ言うかッ、この嘘吐きの呪い人形!!」
顔を真っ赤にして怒っているセラスさんだったけれど、水銀燈は全く怯まない。
それどころか、むしろ嬉しそうにすら見えるのは僕の気のせいなんだろうか?
「酷い言われようねぇ。でも、貴方だけには言われたくないわね『嘘吐きの化け物さん』。」
「な、なにをっ……!」
「あら、やっぱり? なんだか普通の人っぽくなかったからカマかけてみたんだけど、図星だったみたいねぇ。
それを黙って私たちに近づくなんて……油断させておいてガブリ、ってつもりだったわけぇ?
ああ、それで一晩中私のこと見てたんだぁ。ああ怖い怖い」
「ち、違うっ! 私はアンタが悪さしないようにって!」
「悪さって何よ? 私は貴方とちがって嘘なんかついていないわよ?
私はただ、自分の身を守るために、“しかたなく”応戦しているだけ。
あなたがあのミオンって娘を信じるのは勝手だけど……私が嘘をついているって言う証拠はあるの?」
「それは、その……無いけど……」
「あきれた! 証拠も無いのに人を嘘吐き呼ばわりしてたのぉ? これはこれは、とんだ名探偵さんねぇ」
「あ、アンタとミオンだったら、どう考えてもミオンの方が信じられるんだよ!」
「はいはい。おばかさんは煩いから、もう黙っていてくれるぅ?」
セラスさんはその後も何か叫んでいたけれど、水銀燈はそれらをまるっきり相手にしなかった。
もう、セラスさんはどうでも良い、という風だった。
セラスさんもただの悪口を言ってるだけみたいだったし……
「全く、騙されるのは勝手だけど、人に迷惑をかけないで欲しいわねぇ。
それより、私はそっちの男の人に用があるんだけど。貴方、ちょっと起こしてくれない?」
「だ、駄目よ! 劉鳳は疲れてるんだからまだ寝かせておかないと……」
そこまで言ったセラスさんの口が、男の人の手で塞がれる。
「いや、もう十分休ませて貰った。奴の相手は俺がする」
目を覚ました劉鳳さんが、体を起こした。
「で、何を俺に聞きたいと言うんだ?」
劉鳳さんが水銀燈を見る。
いや、やっぱり睨みつけている。セラスさんと同じだ。
「……まったく、どうして貴方達はこう刺々しいのかしらねえ?」
「愚問だな。俺達は貴様を敵と認識している。貴様に隙を見せる訳には行かない」
劉鳳さんは、そのとき確かに、はっきりと言った。
水銀燈は敵だ、と。
理由も何も告げずに、ただその結論だけを。
「あらあら野蛮ねぇ。一方的に『お前は俺の敵だ』なんて。私は何にも悪いことなんかしてないのに」
「フン、貴様の言葉など信じるに足りん。貴様は俺達の仲間を攻撃した。それだけで十分だ!」
劉鳳さんはそう言いながら、ゆっくりとベッドから起き上がる。
「ちょ、ちょっと劉鳳、今ここで戦う気なの? のび太君がいるのに……」
そう言ってセラスさんは劉鳳さんをたしなめるが、
一方でセラスさん自身もいつでも戦えるように身構えている。
この人達は、始めるつもりなのかもしれない。
新しい殺し合いを……
でも、対する水銀燈は相変わらず不敵に笑っている。
「全く、こっちは戦う意思が無いって言うのに。そんな私に襲い掛かるんだ?」
水銀燈は微塵も動じずに話続けるが、
もう劉鳳さんは聞いていない。
「俺は、俺の信じる『正義』を貫くだけだ! もう語ることは無いのか? ならば行くぞ! 絶――」
「そうやって、真紅も殺したの?」
「何ッ!?」
劉鳳さんが止まった。
「貴方が真紅の遺体から何か――ローザミスティカを盗ったって言うのは本当だったのね」
「貴様……貴様も真紅を知っているのか?」
「真紅はね……私の妹よ。私が聞きたいって言ったのは、真紅のことなのよ」
「……!」
劉鳳さんの勢いが、目に見えて弱くなっていくようだった。
なんだか顔も青い。
そして、水銀燈の顔からは、いつの間にか笑みが消えていた。
「真紅には……すまないことをした。俺が不甲斐無いばかりに……確かに、俺が殺したのも同然なのかもしれない」
その言葉を聞いたとたんに、水銀燈の目が変わる。
今度は水銀燈が劉鳳さんを睨みつけて、叫んだ。
「その“すまないこと”って言うのは、真紅を見殺しにしたってこと?
遺体はほっといてローザミスティカだけ盗ったってこと?
それとも……真紅を殺して、ローザミスティカを奪ったことなの? 答えなさい!」
それまでとはうって変わって、水銀燈が劉鳳さんを責め立てる。
劉鳳さんは……なんだか歯切れが悪い。何か、やましいことでもあるのだろうか。
「ち、違う! 俺はただ、真紅を保護しようとしただけだ!」
「そして、勢い余って殺しちゃったって言うの!?」
「違う! 保護するために探していたが、見つけたときには真紅はもう既に死んでいたんだ!」
「その割にはちゃっかりローザミスティカを盗んでいったのよね? 真紅のことは置き去りにして」
「あ、あの時は急いでいたから、仕方なく……!」
「下手な言い訳ねぇ。私の言うことは信じない癖に、そんな世迷いごとは信じろっていうの?
貴方達、人の悪口言いふらすんなら、きちんと『証拠』を見せなさいよ。貴方達が嘘吐きじゃないのならね!」
「証拠……ああ、そのとき同行していた人物なら……いや、しかし……」
「なによ、まどろっこしい。嘘ならもっと上手くつきなさいな?」
「嘘ではない! 俺は、確かに峰不二子と一緒だった……!」
そう言った劉鳳さんは、
『しまった』という顔をした。
でも、僕はそれをはっきりと見ていた。
「……不二子って、あの中年に変装してた女?」
「……そうだ。太一少年を殺したと言う女だ」
……え?
……太一くんを殺した女の人……?
その人と、劉鳳さんは、一緒にいた……?
それじゃあ、劉鳳さんとその女の人は……もしかして……
ナカマナンジャナイノ?
「あきれた! 自分の無実を証明してくれるのが人殺しだけですって? そんな言い訳が本当に通じるとでも思っているの!?」
水銀燈の言うことがとてもまっとうに聞こえる。
でも、劉鳳さんは劉鳳さんで開き直っている。
「信じてくれとしか、俺には言えない。水銀燈、お前の妹を護れなかったのは俺の責任だ。すまなかった」
相変わらず横柄なまま、劉鳳さんが水銀燈に頭を下げた。
白々しい。
当然、水銀燈はそんな程度では収まらない。
「茶番、ねぇ。それにね、私が聞きたいのはそんな薄っぺらい謝罪じゃなくて、真紅がどうして死んだか、なのよぉ?
あと、私の他の妹について何か知っていたら教えて欲しいわねぇ。みんな、もう死んじゃったけど。
案外、アンタが皆を殺して回ってるんじゃないのぉ?」
「あんた、黙って聞いてりゃあ!」
セラスさんがいきり立つ。
……セラスさんも、劉鳳さんの仲間なんだろうか。
ということはやっぱり……?
水銀燈は、相変わらずセラスさんを無視し続けたまま話し出す。
「劉鳳、って言ったっけ? あなた、口では『正義』とか『仲間』とか綺麗な言葉を並べてるけど……
そういうのって、口で言うだけじゃなくて行動で示すものなんじゃないのぉ?
だのに、貴方はさっきから『お前は嘘吐きだ』『お前は敵だ!』とか勝手に決め付けて襲ってこようとするしぃ。
貴方、本当は正義だなんだって言いながら、ただ純粋に暴れたいだけなんじゃないのぉ?
『正義』を言い訳に使っちゃだめよぉ? 暴れん坊さぁん」
そして、水銀燈はわらった。
劉鳳さんとセラスさんを、心底馬鹿にするように。
「貴様ッ!! 俺の正義を愚弄するかッ!!」
「ふざけんなッ!! それ以上言うとぶっ飛ばすよ!!」」
反射的に、2人が水銀燈に詰め寄った。
怒りに震える2人とは対照的に、水銀燈は身じろぎ一つしない。
そして先に水銀燈に掴みかかったのは、セラスさんだった。
水銀燈の胸元を掴むと、小さな水銀燈の体は軽々と持ち上がる。
「自分の嘘を棚に上げて好き勝手言いやがって……訂正しろ!」
セラスさんの目は、赤く、獰猛な獣の目そのものだ。
それでも水銀燈は怯まない。
「なぁに? 反論できなくなったら暴力で解決するのぉ? ホント野蛮ねぇ、あんたたちの『正義』って。
……悪いんだけど、服にシワが付いちゃうから離してくれない?」
「コイツ……!」
セラスさんの空いているほうの手が、強く握りしめられる。
そして、水銀燈の顔面に向かって、
振りぬかれ――
「止めなさい! 何やってるのよ!!」
病室内に、凛さんの声が響いた。
病室の入り口には、見張りに立っていた凛さんとドラえもんの姿があった。
「……!」
セラスさんの拳が、水銀燈の目の前で止まる。
その余勢が、水銀燈の髪を揺らす。
そして、次の瞬間――
「ああ、怖かった……ちょっと凛! もっと早くに助けに来てよぉ……」
今までからは信じられない、とても儚げで弱々しい泣き顔で水銀燈は凛を見た。
「あんたたち2人にならここを任せておけると思ったのに……残念だわ」
凛さんの表情は、とても険しかった。
「……セラス、水銀燈を離して。話はそれからよ」
「何があったの?」
その凛さんの言葉は、この部屋にいる全員に対してのものだった。
間髪いれずに水銀燈が喋りだす。
「聞いてよ凛、この人達、私とお喋りしてたらいきなり怒り出して殴りかかってきたのよぉ」
セラスさんも黙ってはいない
「よくも出任せをいけしゃあしゃあと! コイツはあたし達の仲間と、劉鳳の正義を侮辱したんだ! 劉鳳に謝れ!」
「謝るのはそっちでしょぉ? 証拠も無いのに人のことを『嘘吐き』だの『敵』だの……
それに殴りかかってきたのはあんたじゃないの。私は何もしてないわよぉ?」
「コイツ、まだそんなことをッ!」
反射的に水銀燈に伸びたセラスの手を、途中で凛が止める。
「止めなさい。それ以上やると私が相手になるわよ」
「ちょ、ちょっと! 凛はソイツのことを信じるの!? いい加減騙されてるって気付きなさいよ!!」
「冷静にいまの状況だけを見れば、セラスが水銀燈を殴ろうとしている。それだけよ。
理由が何なのかは知らないけど、それすら知らないまま、目の前で仲間が喧嘩するのを黙って見過ごす訳にはいかないわ」
「だ、だから私たちの言ってる方が……」
「水銀燈の言ってることの方が本当だよ!!」
部屋中の、全ての目が僕を見つめていた。
「の、のび太君、それってどういう……?」
ドラえもんの言葉を最後まで待たずに、僕は話し出す。
「水銀燈は、自分の妹がどうなったのか、どうして死んだのか、それを劉鳳さんに聞いていただけなんだ。
なのに、2人とも水銀燈のことを嘘吐きだ、敵だって決め付けて……
それに水銀燈の妹が死んだのって、劉鳳さんのせいなんでしょ!? 水銀燈が怒るのも当然だよ!!
なのにセラスさんは水銀燈のことを殴ろうとするし……
正しいのは水銀燈だよ! その2人は喧嘩が、殺し合いがしたいだけなんだよ!!」
そう、一気に言い切った。
――そうだ。劉鳳さんとセラスさんより、凛さんと水銀燈の方が信じられる。
凛さんと水銀燈は、昨日はほとんど僕と一緒にいて、怪我を治してくれて、僕のことを護ってくれた。
でも、劉鳳さんとセラスさんは、ついさっき会ったばかりなんだ。
しかも、水銀燈が襲われたミオンっていう人と仲間だって言うし、
それに不二子っていう人とも……!
口の中が乾く。喉がひりひりする。
自分が、肩で息をしていることに気付く。
肺の中の空気が空っぽになったみたいだった。
「の、のび太君、私たちは貴方達のことを思って……」
「じゃあ、なんで嘘吐いてたの!? 化け物だって、なんで黙ってたの!?」
『化け物』という言葉に、セラスさんの表情が陰る。
それと同時に、酷いことを言ってしまったのだという罪悪感で、胸が締め付けられる。
でも、僕は悪くない。悪いのは、嘘を吐いていたセラスさんの方なんだから。
重苦しい空気が病室内に充満していた。
誰も話し出そうとしなかった。
自分の荒い息の音だけが、いやにうるさく聞こえていた。
でも。
「Master!」
何処からともなく聞こえてきた無機質な声が、病室内の静寂を乱した。
そして、レイジングハート――という名の魔法の杖に急かされたように、凛さんが話し出す。
「ありがと、レイジングハート。皆に先に言っとかなきゃならないことがあるから、それを先に言うわ。
――この病院に近づいてくる人間がいます。それも、一人で」
凛さんの言葉に、みんなの表情が強張る。
「一人って、それって……」
「ええ、偽凛のこともあるけど、この時間帯で単独行動をとるような奴は……人を殺して回っている、凶悪な殺人者の可能性が低くない。
新たな獲物を探して徘徊しているのかもしれない」
「さ、殺人者!?」
ドラえもんと、僕が震え上がる。
でも、ううん、それは違う。
僕はもっと前から震えていたんだから。
――だって、僕はずっと、人殺しかも知れない人と一緒にいたんだから……。
凛さんが話を続ける。
「そいつは結構なスピードで、まっすぐここに向かってきてたんだけど、さっきから急にスピードが落ちたわ。
もしかしたら、戦闘の痕跡を見て警戒しているのかもしれない。……油断はできないわよ」
「ちょっとまって、そいつ、もしかしたら敵じゃなくて私たちの仲間かもしれないよ! 集合場所はここなんだし!」
「Master! The target is coming into the enter! (マスター、対象が玄関に到達します!)」
「わかった、セラス。アンタの仲間のことならさっき聞いたから大丈夫。じゃあ、私が玄関で対象と接触します。水銀燈、ついてきて!
非戦闘員と怪我人と頭に血が上ってるアンタはここで待機! でも何かあったら頼むわよ!」
凛さんのテキパキと指示を出していく様子が、緊迫した状況を際立たせていた。
水銀燈を連れて行くのは……やっぱり凛さんも他の2人よりも水銀燈の方を信用しているということなのだろうか。
「じゃあ、行って来るから! でも、危なくなったら私たちのことは放って、逃げて!」
そういい残すと、凛さんは水銀燈を連れて廊下を走りだした。
2人分の足音が、どんどん遠くへ消えてゆく。
そして、病室内はまた、静かになった。
ドクン。
――ちょっとまった。
ドクン。
――今ここにいるのって、
ドクン。
――僕と、ドラえもんと、
ドクン。ドクン。
――劉鳳さんと、セラスさん。
ドクン。ドクン。
――でも、劉鳳さんとセラスさんが、
ドクン。ドクン。ドクン。
――僕の思っているとおりに、人殺しと仲間だったなら。
ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。
――それどころか、人殺しそのものだったなら。
ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。
――こんなところにいたら、殺されてしまうじゃないか!!!!
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン
「ど、ドラえもん、僕たちも行こう!!」
そう叫ぶや否や、僕はドラえもんの手を掴むと、一気に病室の外へ走り出した。
「お、おいのび太君!?」
背中で劉鳳さんが僕を呼ぶ声が聞こえたけれど、気にしない。
「の、のび太君、一体どうしたんだ!?」
ドラえもんが叫ぶけど、あとまわし。
いまは、とにかくあの2人と離れないといけない。それだけを考えていた。
なんだか息が苦しくて、喉を押さえた。
そして、喉を少し引っ掻いた。
★
遠坂凛と水銀燈は、病院玄関の物陰に隠れ、様子を窺っていた。
カズマという異能者が破壊したという病院のロビーは惨憺たる光景ではあったが、瓦礫のせいで死角が多い。
決して油断はできない。
「どう、レイジングハート? 相手は今どの辺りにいる?」
凛がレイジングハートに問いかける。
「Around the entrance door. But I can’t find out exactly.(玄関ドアの周辺と思われます。細かい場所までは分かりません)
そして、レイジングハートは即座に答える。
このやり取りも何度も繰り返すうちに、ずいぶんとスムーズに行われるようになっていた。
これを信頼の賜物、というのは過剰な表現なのだろうか。
「いい、水銀燈、いつかみたいに先制攻撃するのは無しよ。平和的な交渉が第一。一応、万が一には備えておいて欲しいけど」
「分かってるわよぉ、心配いらないわぁ」
水銀燈が答える。こちらもスムーズに意思疎通が図られる。
では、彼女らの信頼は如何ほどのものなのだろうか?
この病院において、凛の水銀燈に対する信頼が大きく揺れているのは、
もはや火を見るよりも明らかな事実である。
だが一方で、凛は水銀燈を完全に敵だと、自分を騙し誑かす獅子身中の虫であると断定できずにいる。
――もし、もっと早く水銀燈のことを凛に打ち明けていれば、凛も素直に聞き入れてくれたのだろうか?
「……来るわよ!!」
凛の体が緊張する。だが――
「そこに誰かいるのか!? 待ってくれ! 俺は敵じゃない! 警官だ!」
ロビーの中に聞きなれない男の声が響き渡った。
「ちょっと、凛どうするつもり?」
「シッ、黙って!」
男の声は続く。
「俺の名前はトグサ! 人を探している! 仲間がこの病院に居るはずなんだ!
こちらから危害を加えるつもりは無い! 話だけでも聞いてくれ!!」
「トグサ? トグサって、セラス達が言ってた仲間の中にいたわよね?」
「確かにね。でも、偽名だってこともあるわよ? ついさっき自分の名前を使われたの忘れたのぉ?」
「うるさいわね、分かってるわよ! でも、タイミングが良すぎる。やっぱり本人の可能性も……」
だが、そんな凛と水銀燈が躊躇するのを見越したかのように、男が先手を打ってきた。
「わかった。ほら、俺が先に姿を出す。ほら、手を上げたぞ。危害は加えない。だから話だけでも聞いてくれ!」
物陰から窺う限り、確かに男は両手を上げて、無防備な姿を晒している。
一見して、敵対心が無いのが見て取れた。
少なくとも、凛にとっては。
凛が、男に呼びかける。
「わかった。私は凛。私も無駄に争うつもりは無いわ。待ってて、今そっちに――」
そう言いながら凛が物陰から姿を現した瞬間だった。
凛は、男の顔が見えなかった。東向きの玄関から差し込む朝日に包まれて、男の顔が光の中に紛れてしまっていたからだ。
でも、男は凛の顔が良く見えたに違いない。
そして、凛が太陽光に目を細めている間に。
男は、凛めがけて発砲した。
その銃声に僅かに遅れ、水銀燈の黒羽が男に襲い掛かる。
そのおかげで、男は次弾を発射する暇なく物陰に退いた。
「ぐッ、やっぱりアイツ、敵だったみたいね……!」
「人の言葉をホイホイ信じるからそうなるのよ。おばかさぁん」
物陰に身を潜めた凛は、痛みに顔を顰めながら右肩に触れる。
大丈夫、バリアジャケットのお陰て貫通はしていない。
でも、右手が痺れる。衝撃を完全には吸収仕切れなかったようだ。
これでは、当たりどころによっては致命的な傷を負ってしまうかもしれない。
「でも、どういうことなの!? あいつは確かにトグサと名乗ったけど……やっぱり偽名だったの?」
「かもねぇ。それとも、あのトグサって奴がもともとそういう危険な奴なのかもしれないわよぉ?
気付かない? アイツ、前にここ、病院で戦った奴じゃないの?」
「……そういえば、あんな顔してたっけ。武器も銃だった。
それに、アイツいい腕してるわね……初めから肩を狙って撃ってた。あの僅かな間で正確に」
「さしずめ、戦果を上げて根城に戻ってきた、ってところじゃないのぉ?
油断してると、貴方も撃墜マークの一つになっちゃうわよぉ?」
「冗談!」
「……なるほどね。どっかで見た格好だとは思ったワケだわ。でもあの銃の腕は厄介ね。迂闊にここから出られない」
「そうねぇ。どうしたものかしら……」
凛は、ギリッと歯を食いしばる。
「……こんなところで……私は止まってる場合じゃないのよ。」
凛の口から漏れるその言葉は、独り言なのか、それとも凛の決意表明なのか。
「私の熾した火を、絶対消させたりなんかしない……絶対に!」
そして、凛が私――レイジングハートを強く握り締めた。
――さあ、行こう。マイマスター。
そして、その私たちをを嘲笑うかのように、ギガゾンビの姿が空に浮かび上がった。
6度目の放送が響き渡る――
【D-3 病院 2日目・早朝】
遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]:魔力小消費、疲労、水銀燈と『契約』、右肩打撲
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(アクセルモード・全弾再装填済)@魔法少女リリカルなのは
バリアジャケットアーチャーフォーム(アーチャーの聖骸布+バリアジャケット)
デバイス予備カートリッジ残り33発
[道具]:支給品一式(食料残り1食。水4割消費、残り1本)、ヤクルト一本
:エルルゥのデイパック(支給品一式(食料なし)、惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん、
:五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
:市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)、紅茶セット(残り2パック)
[思考]基本:レイジングハートのマスターとして、脱出案を練る。
0:襲撃者(トグサ)の撃退。
1:水銀燈を監視する
2:劉鳳とセラスの治療を続行(だが、2人に僅かな疑惑を持っている。)
3:変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。
4:セイバーについては捜索を一時保留する。
5:リインフォースとその持ち主を止める。
6:自分の身が危険なら手加減しない。
[備考]:
※レイジングハート同様、水銀燈に対して強い疑心を持ち始めました。
ただし、水銀燈を信じたいという気持ちもあり、中途半端な状態です。
※緑の髪のポニーテールの女(園崎魅音)の判断は保留。
※夜天の書の持ち主が水銀燈ではないかと疑い始めています
※リリカルなのはの魔法知識、ドラえもんの科学知識を学びました。
[推測]:
ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い(推測)
膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能(推測)
首輪には盗聴器がある
首輪は盗聴したデータ以外に何らかのデータを計測、送信している
【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:服の一部損傷、消毒液の臭い、魔力小消費、疲労、凛との『契約』による自動回復
[装備]:真紅のローザミスティカ
[道具]: デイパック、支給品一式(食料と水はなし)
ストリキニーネ(粉末状の毒物。苦味が強く、致死量を摂取すると呼吸困難または循環障害を起こし死亡する)
ドールの螺子巻き@ローゼンメイデン、ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー、照明弾
ヘンゼルの手斧@BLACK LAGOON、夜天の書(多重プロテクト状態)
くんくんの人形@ローゼンメイデン、ドールの鞄@ローゼンメイデン 、透明マント@ドラえもん
[思考]基本:魔力補給を考慮して、魔力を持たない強者を最優先で殺す。
1:凛が偽名を使っていたことや見解の相違を最大限利用して仲たがいさせる。
2:チャンスがあれば誰かを殺害。しかし出来る限りリスクは負わない。
3:凛との『契約』はできる限り継続、利用。殺すのは出来る限り後に回す。
4:ローザミスティカをできる限り集める。
5:凛の敵を作り、戦わせる。
6:あまりに人が増えるようなら誰か一人殺す。劉鳳に関しては、戦力にするか始末第一候補とするか思案中
7:青い蜘蛛にはまだ手は出さない。
[備考]:
※透明マントは子供一人がすっぽりと収まるサイズ。複数の人間や、大人の男性では全身を覆うことできません。また、かなり破れやすいです。
※透明マントとデイパック内の荷物に関しては誰に対しても秘密。
※レイジングハートをかなり警戒。
※デイパックに収納された夜天の書は、レイジングハートの魔力感知に引っかかることは無い。
※夜天の書装備時は、リインフォース(vsなのは戦モデル)と完全に同一の姿となります。
※夜天の書装備時は、水銀燈の各能力がそれと似たベルカ式魔法に変更されます。
真紅のローザミスティカを装備したことにより使用魔法が増えました。
※リインフォースは水銀燈に助言する気は全くありません。ただし馬鹿にはします。
※水銀燈の『契約』について:省略
※水銀燈ver.リインフォースの『契約』について
魔力収奪量が上昇しており、相手や場合によっては命に関わります。
※水銀燈の吐いた嘘について。
名前は『遠坂凛』。
病院の近くで襲われ、デイバックを失った。残ったのはドールの鞄とくんくん人形だけ。
一日目は、ずっと逃げたり隠れたりしていた。
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ、頭部に強い衝撃
[装備]:虎竹刀
[道具]:支給品一式(食料-1)、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況] ジャイアンの死にかなり動揺したものの、のび太がいることもあり外見上は落ち着けている。
1:の、のび太くん!?
2:アルルゥを探す
3:自分の立てた方針に従い首輪の解除に全力を尽くす
4:
基本:ひみつ道具と仲間を集めてしずかの仇を取る。ギガゾンビを何とかする。
[備考]
※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました。
※凛とハルヒが戦ってしまったのは勘違いに基づく不幸な事故だと思っています。
偽凛については、アルルゥがどうなっているか分かるまで判断を保留。
【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:ギガゾンビ打倒への決意、左足に負傷(行動には支障なし。だが、無理は禁物
[装備]:強力うちわ「風神」
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、翠星石の首輪、エンジェルモートの制服
[思考・状況] 精神が不安定。疑心暗鬼に陥り始めている
1:劉鳳とセラスから離れたい。
2:ドラえもん達と行動しつつ、首輪の解除に全力を尽くす。
3:なんとかしてしずかの仇を討ちたい。
[備考]
※劉鳳とセラスを殺人者だと思い込んでいる。
※凛もひょっとしたら? と思い始めている。ただし、偽凛は敵だと判断している。
ハルヒへの反感は少し緩和。
【劉鳳@スクライド】
[状態]:全身に重いダメージ、若干の疲労が残る。
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式(-3食)、SOS団腕章『団長』、ビスクドール
[思考]
基本:自分の正義を貫く。
仲間、闘う力のない者を守ることを最優先。
悪の断罪は、守るべき者を守るための手段と認識。
1:のび太とドラえもんを守る(対水銀燈を含む)
2:病院で凛の手当てを受ける。
3:ゲームに乗っていない人達を保護し、ここから開放する。
[備考]
※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。
※朝倉涼子については名前(偽名でなく本名)を知りません。
※凛は信用している
※水銀燈は全く信用していない。自分達を襲った犯人もひょっとしたら? と思っている
ジャイアンの死の原因となった戦闘は自分の行為が原因ではないかと思っています。
【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]:全身打撲、裂傷及び複数の銃創(※ほぼ全快)、
[装備]:対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾:6/6発)、アーカードの首輪
13mm炸裂徹鋼弾×36発、スペツナズナイフ×1、ナイフとフォーク×各10本、中華包丁
銃火器の予備弾セット(各40発ずつ、※Ak-47、.454スカール、
S&W M19を消費。デバイスカートリッジはなし)
[道具]:デイバッグ、支給品一式(×2)(メモ半分消費)(食料-2)、糸無し糸電話
[思考]
基本:トグサに従って脱出を目指す。守るべき人を守る。
0:銃声……!?
1:劉鳳、のび太、ドラえもんの護衛(対水銀燈と他の優勝狙いの参加者)
2:劉鳳のフォロー。
3:食べて休んで回復する。
4:病院を死守し、トグサ達を待つ。
[備考]
※セラスの吸血について:略
※現在セラスは使役される吸血鬼から、一人前の吸血鬼にランクアップしたので
初期状態に比べると若干能力が底上げされています。
※凛を全面的に信用しています。偽凛は敵だと判断。水銀燈は敵だと判断し、要警戒だと思っている
トグサは、改めて自分の武器を握り締める。
銃の残弾は5発、リロードのロスを考えると、乱射するだけの余裕は無い。
一発で無力化しようと試みたのだが……相手の特殊な防弾具と仲間の存在から、失敗に終わってしまった。
――今のが少佐にばれたら、またどやされちまうな。
だが、自嘲気味に口元を緩めるトグサの目は、笑わない。
トグサは、この病院に来るまでに無数の戦闘の痕跡を目にしてきた。
そして、この病院の玄関もまた、盛大に破壊されている。
そして、その戦闘痕は、トグサ仲間のもの――劉鳳やセラスとは、別の何者かによるもののようだった。
ということはつまり、自分の知らない何者かがここで戦闘行為を行った、と見て間違いない。
さらに問題なのは、トグサの仲間……劉鳳たちは先に病院へ向かったはずだし、
ドラえもんとのび太の2人もここに居たはずなのだ。
だが、その病院で待っていたのは、戦闘のあった跡と、かつて自分たちを襲った二人組。
トグサは確信していた。
『俺の仲間は病院でこの2人と出会い、戦闘行為に巻き込まれたのだ』と。
以前にもこの2人組は、問答無用でトグサ達に襲い掛かってきた。
ならば、この2人組みがトグサの仲間と出くわしたなら、どうなるか?
――こいつらに躊躇など無用だ。
なんとかこの2人組を撃退し、仲間の無事を確認しなければならない。
それに、俺が時間を稼げばトウカ達が病院に来るかもしれない。
今俺にすべきことは……ッ!!
「クソっ、皆、無事でいてくれよ……!?」
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾5/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク
[道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、S&W M19の弾丸(34発)、警察手帳(持参していた物)
技術手袋(使用回数:残り16回)@ドラえもん、首輪の情報等が書かれたメモ1枚(内部構造について追記済み)
解体された首輪、フェイトのメモの写し
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:以前襲撃してきた「2人組」を撃退。その上で病院内に仲間がいないか探索。
2:病院にて@ドラえもん、のび太、劉鳳、セラス、ジャイアンと合流。カズマの行動についての経緯を問い質す。
Aハルヒとアルルゥがいるかを確認。いないようなら彼女らを捜索。
3:病院に人が集まったら、改めて詳しい情報交換を行う。
4:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。
5:ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。
6:情報および協力者の収集、情報端末の入手。
7:エルルゥの捜索。
[備考]
※風、次元と探している参加者について情報交換済み。
>>192 以下の二行は不要。
「……なるほどね。どっかで見た格好だとは思ったワケだわ。でもあの銃の腕は厄介ね。迂闊にここから出られない」
「そうねぇ。どうしたものかしら……」
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾5/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク
[道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、S&W M19の弾丸(34発)、警察手帳(持参していた物)
技術手袋(使用回数:残り16回)@ドラえもん、首輪の情報等が書かれたメモ1枚(内部構造について追記済み)
解体された首輪、フェイトのメモの写し
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:以前襲撃してきた「2人組」を撃退。その上で病院内に仲間がいないか探索。
2:病院にて@ドラえもん、のび太、劉鳳、セラス、ジャイアンと合流。カズマの行動についての経緯を問い質す。
Aハルヒとアルルゥがいるかを確認。いないようなら彼女らを捜索。
3:病院に人が集まったら、改めて詳しい情報交換を行う。
4:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。
5:ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。
6:情報および協力者の収集、情報端末の入手。
7:エルルゥの捜索。
[備考]
※風、次元と探している参加者について情報交換済み。
トグサは、改めて自分の武器を握り締める。
銃の残弾は5発、リロードのロスを考えると、乱射するだけの余裕は無い。
一発で無力化しようと試みたのだが……相手の特殊な防弾具と仲間の存在から、失敗に終わってしまった。
――今のが少佐にばれたら、またどやされちまうな。
だが、自嘲気味に口元を緩めるトグサの目は、笑わない。
トグサは、この病院に来るまでに無数の戦闘の痕跡を目にしてきた。
そして、この病院の玄関もまた、盛大に破壊されている。
そして、その戦闘痕は、トグサ仲間のもの――劉鳳やセラスとは、別の何者かによるもののようだった。
ということはつまり、自分の知らない何者かがここで戦闘行為を行った、と見て間違いない。
さらに問題なのは、トグサの仲間……劉鳳たちは先に病院へ向かったはずだし、
ドラえもんとのび太の2人もここに居たはずなのだ。
だが、その病院で待っていたのは、戦闘のあった跡と、かつて自分たちを襲った二人組。
トグサは確信していた。
『俺の仲間は病院でこの2人と出会い、戦闘行為に巻き込まれたのだ』と。
以前にもこの2人組は、問答無用でトグサ達に襲い掛かってきた。
ならば、この2人組みがトグサの仲間と出くわしたなら、どうなるか?
――こいつらに躊躇など無用だ。
なんとかこの2人組を撃退し、仲間の無事を確認しなければならない。
それに、俺が時間を稼げばトウカ達が病院に来るかもしれない。
今俺にすべきことは……ッ!!
「クソっ、皆、無事でいてくれよ……!?」
夜明け前。
夜空に浮かぶ漆黒の雲は、徐々にその色合いを変え始めていた。
やがて、太陽が山間から顔を出し、世界は変貌を始める。
光線が山の稜線に沿って空を分断し、空は一面の茜色に染まってゆく。
朝が来たのだ。
生きとし生けるものが目覚め、行動を始める朝が。
登ってゆく太陽は、命の輝きと温もりを、見るものに感じさせる。
だが、赤い太陽を背に浮かび上がった黒い影は、集められた者達にとって、真逆の存在だった。
悪鬼が読みあげる死者の名。それは、悲劇と絶望の象徴。
もう十分だ。
聞きたくない。耳を塞ぎたい、
だが、生者達は不安を募らせ、怒りに身を震わせながらも、耳をすまさずにはいられない。
どうかもうこれ以上はと、頼りにならぬ神に祈りながら、固唾を呑んで待ち続ける。
▼ ▼ ▼
グゥゥウッッツド、モォォオニィィィングッッ!!
清清しい朝だな、畜生諸君!!
昨夜は、良い寝心地であったろう!? 古来から、下等な人間にとって他人の不幸は蜜の味だ。
他人の血肉を喰らい、屍を枕にして眠った、野蛮極まる劣等人種諸君は、さぞかし良い夢が見られたことだろう。
最っ高にハイ! という気分なのではないのか!?
さあ、遠慮はいらん。
特別に許可を与えてやるから、私を拝め!
貴様等に、極上の快楽を味わう機会を作ってやったのは、この私なのだからな!
私に対する感謝の念を忘れることなく、殺し合いに励むように!!
――では、これから禁止エリアを発表する!
食用豚より細胞の少ない貴様等の脳味噌ではもう限界だろうから、1ついいことを教えてやろう。
覚えきれないときは、『紙に書いて』覚えるものなのだ。
知らなかったろう?
愚劣極まる貴様等をみかねて、このギガゾンビ様がわざわざ知識を分けてやったのだ。
必ず実行するのだぞ!!
クークックッククックック…………。
では発表する。
禁止エリアは――
7時より H-7
9時より A-7
11時より B-6
――だ!
そして死亡者だが――
剛田武
ぶりぶりざえもん
次元大介
シグナム
アルルゥ
グリフィス
石田ヤマト
――以上7名!
フフフ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
一夜で21人!! 残りわずか22人!!
やりおった! やりおったな、貴様等!!
嬉しいか? 楽しいか?
この血に飢えた殺人鬼どもめ!!
何? 嬉しくて楽しくてたまりませんだと?
そうであろう、そうであろう。
貴様等の本性が鬼畜の類でなければありえぬ数だからな。
かまわん! いっっ向にかまわん! ここに貴様等を縛るものは、何も無い!!
衝動を飲み込むな! 解き放て!!
本能の赴くままに行動し、欲望のままに、ぶちまけるがいい!!
斬り殺せ! 撃ち殺せ! 殴り殺せ! 蹴り殺せ! 刺し殺せ! 焼き殺せ! 潰し殺せ!
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!
奪い合って、憎み合って、裏切り合って、欺き合って、狂い合って、喰い合って――
死ねっ!!
アーハッハッハッハ!! ヒィィィィハッハァ―――――ッツ!!
▼ ▼ ▼
けたたましい狂笑を残し、影は消え失せた。
影が消えた後も太陽は登り続ける。
強さを増した光が世界を満たしていく。
そして――
デスゲームの1日が始まる。
死者の名前を告げ哄笑を空に響かせて、ギガゾンビは日が昇ったばかりの薄紫の中に消えた。
その足元には女――峰不二子が一人。
木陰へと身を潜め、今しがた得た情報を手持ちの地図やメモへと書き込み考え込んでいる。
――次元大介が死んだ……か。
ギガゾンビによって読み上げられた七人の死者。その中に彼の名前があった。これでルパン一味は
自分を残して全員が死んだことになる。
だが、感傷はない。むしろ、自分を知る人間が減ってありがたいぐらいだ。
思ったとすれば、ルパン一味がこんな事態に巻き込まれ最後を迎えたということに意外性を感じた
ぐらいだが、それは今考えることではない。今必要なのは己の身を守るための情報だ。
峰不二子は次元大介と死んだ仲間達のことを頭から振るい出し、思考を進める。
――ぶりぶりざえもん。
劉鳳と分かれる直前に合流し、彼と同行していたはずの喋る豚。
豚が死んだと言うのは峰不二子にとって重要な問題ではない。重要なのは同行しているはずの劉鳳だ。
誰かに襲われた結果、豚だけが死んでしまったのだろうか? まさか劉鳳が殺したということはないだろう。
ともかく、彼は今一番会いたくない人物である。
どこかで襲われたのならまだ病院には辿り着いてはいないかもしれない。だが、もし着いていたなら
確実に自分は彼の言う”断罪”の対象となっているだろう。だが、どちらなのかは判らない……。
峰不二子は俯き小さな溜息をついた。
どうしてあんな化物に追われるはめになるのか。しかも化物は劉鳳だけではない。カズマという男もだ。
拳銃では歯が立たないだろう。かといって、デイバッグの中の二本のRPGでもそれは難しそうだ。
威力は申し分ないが、そもそも彼らに当てることはできないだろう。それに使えば非常に目立つ。
今の自分の方針上、無闇に人を集めたりしたくはない。これを使うのは最後の最後だ。
ともかく彼らから逃げ続けて自滅や相討ちを待つしかない。そう結論付けて峰不二子は思考を次へと進めた。
――アルルゥ……、それと石田ヤマト
ヤマトというのは自分が病院から連れ去った少年の名前だ。同じくその場で撃ち殺した少年が彼を
そう読んでいた。
そして、ヤマトという少年がアルルゥ、ハルヒという名前は口にしていたことを覚えている。
具体的に誰を指すかは解らないが、あそこにいた二人の少女の名前であることは想像に難くない。
だとすれば、あの後あそこでまた何かの騒動があったということだろうか……?
カズマという化物は自分を追ってきていたから、あそこには少年少女しか残っていなかったことになる。
もし襲われればひとたまりもないだろう。
だからといって、自分もそこへ戻ろうなどとは思えない。先の劉鳳やカズマが戻って来ている可能性も
あるし、何より彼らの荷物は自分がすでに全部頂戴したのだ。メリットがない。
それに、橋を渡り病院の方へと向かった三人組。あれと会う可能性もある。
見逃した……、ではなく手を出せなかったあの三人組。
一人は獣のような耳をした剣士。もう一人はライフルを構えた少女。そして学生服の少年。
彼女達はその次に襲った者達とは逆に周囲を警戒しており、結果こちらの存在を気取られた。
無理に襲えば返り討ちにあっていただろう。
もしかしたら、アルルゥという少女を殺したのは彼女達かも知れない。なら尚更病院へ行くと言う選択は
考えられない。
病院――西へと向かう選択肢は消えた。ならば逆に東はどうか……?
これも考えられない。先刻、奇襲したあの二人組。その特に女の方。あんなトリガーハッピーと
やりあうのはもうゴメンだ。
ああいう自らの命を顧みない人間を相手にしていたのでは、こちらが上手であっても命が危ない。
幸い傷を負わせることには成功した。ならば他の人間に特攻して自滅するのを待った方が得策だ。
あの女と忌々しい少年。二人の急いだ足取りからどこか東の方へ目的があったであろうことが解る。
それが人か物かは知れないが、無理に追って藪から蛇を出すこともない。
西も東も消えた。ならば次は南はどうか……?
南端に広がる遊園地――そういえばそこが出発地点でもあった――は、隠れる場所には適さない。
では、南西の橋を経て孤立した場所へ向かうのはどうか……?
そこなら申し分ないように思える。それに駅前の崩れたビルにいくつかの荷物が埋まっていることも
知っているのだ。
……だが、残念ながらそれも諦めざるを得ない。なぜなら、病院へと向かう途中で出会った少女と
人形の二人組――彼女達にそちらへと大切な物を持った劉鳳が去ったと言ってしまっている。
こんなことならば、正直に劉鳳を追わせておけばよかったが、今更言っても後の祭りにすぎない。
ここに来てからつき続けている嘘――自らの処世術。それが今の自分を窮地に追い込んでいる。
だがしかし、ここまできたら毒皿で行くしかない。泥を啜っても生き残れば勝ちなのだ。死んでしまえば
奇麗事もプライドも何もない。
南へ向かうという選択肢も消えた。ならば北か? それともやはりここに留まるか?
北へ――つまり山間の中へと進むにあたって懸案事項となるのが、件のカズマという存在だ。
彼はヤマトを押し込んだ禁止エリア(A-4)の前で自分を見失っている。ならば、そこから山の中へと
自分が逃げたと推測することは容易だろうし、今頃山中を跳び回っている可能性もある。
――だが。
不確定だが、彼が自分を認識していない可能性もある。あの時はマスクこそ脱いでいたがまだ
銭型警部の衣装を着ていたし、月明かりはあっても暗かった。
――それに。
今回新たに追加された禁止エリア。その中の二つであるA-7とB-6が山間を二つに割り、さらに
禁止エリアで囲まれたA-6を死に地にしている。分断されている東側は端に接しているということもあり、
さらに一つか二つ禁止エリアに指定されれば閉じ込められてしまうという状況だ。
山中は勾配もあり移動に時間がかかる。こんな状況で好き好んで入り込んでくる物好きはいない。
――逆に言えば人を避けるには絶好というわけだ。
先に挙げたようなリスクもあるが、市街地を劉鳳や他の化物に追われながら逃げ回るよりかは
遥かにましだ。自分が取り得る手段はもう少ない。ならばここは降りの一手に限る。
峰不二子はもたれていた樹から背中を浮かせると、山頂の方へと向けて足を進めた。
すでに禁止エリアに指定されているC-5の南側を回り込み、東へと峰不二子は足を進める。
「……あれは」
峰不二子の眼下に見えるのは倒壊し、瓦礫の山となったホテルの成れの果てだ。
改めてこの殺し合いに自分が加わることの馬鹿馬鹿しさを確認すると、溜息一つを残して彼女は
さらに山の中へと歩を進めた。
まだ陽の届かない薄暗い木々の間を進みながら峰不二子は考える。ある一つの賭けについて。
もう間もなく禁止エリアに囲まれて死に地と化すA-6。そこに入ってしまうという手がある。
もちろん普通に考えればそれは自分を追い詰めることに他ならないが、自分にはある情報がある。
『禁止エリアに入ってから首輪が爆発するまでには30秒の猶予がある』
荷物に紛れていたメモに書かれた真偽不明の情報だが、もしそれが本当ならば禁止エリアと
禁止エリアの触れ合う角の部分なら、その30秒で抜けられるかもしれない。
……どうするか?
禁止エリアに囲まれた中に逃げ込む――大きなメリットがある手ではあったが、山の低い部分を
北上し、川に沿って進路を北東に変える頃には、峰不二子はその考えを捨てていた。
一つに、A-7とB-6が触れ合う角には、現在沿って歩いている川が流れていること。
一つに、市街地の中ならともかく自然の地形である山の中ではエリアの境界が判別しにくいこと。
一つに、そもそもメモに書かれていた情報が信用できないこと。逆に罠の可能性もありうる。
そしてなにより、彼女は温泉に入りたかったのだ。
先程の戦闘で少年にかけられたチリソースは全身に付着しており、その刺激――いやそれよりもその
匂いが彼女を不快にさせていた。
そんな時に、向かう先に温泉があるというなら彼女ならずともそこへ行こうとするのは無理もないだろう。
とはいっても慎重な峰不二子である。彼女は真っ直ぐに温泉に向かうなどという真似はせず、まずは
禁止エリアに指定されているA-7エリア――その北東の端に腰を落ち着けた。
すぐに向かっては、もしかしたら篭っていた人間と鉢合わせするかもしれないからだ。
陽光を反射する水面の傍ら、片手に時計。もう片手で粘る髪を弄りながら峰不二子はゆっくりと時が
過ぎるのを待っている……。
【A-7(北東の端)/2日目・午前】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:顔面及び全身に激辛のチリソースが付着、テキオー灯の効果持続中
[装備]:コルトSAA(弾数:6/6発-予備弾6発) 、コルトM1917(弾数:6/6発-予備弾無し)
[道具]:
デイバック×8、支給品一式×7(食料6食分消費、水1/5消費)、
鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)、
RPG-7×2(榴弾×3、スモーク弾×2、照明弾×1)、クロスボウ、タヌ機(1回使用可能)
暗視ゴーグル(望遠機能付き・現在故障中)、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)
ダイヤの指輪、のろいウザギ、ハーモニカ、デジヴァイス、真紅のベヘリット
ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)、E-6駅・F-1駅の電話番号のメモ、
トグサが書いた首輪の情報等が書かれたメモ1枚
【薬局で入手した薬や用具】
鎮痛剤/解熱剤/胃腸薬/下剤/利尿剤/ビタミン剤/滋養強壮薬
抗生物質/治療キット(消毒薬/包帯各種/鋏/テープ/注射器)/虫除けスプレー
※種類別に小分けにしてあります。
[思考]
基本:最後まで生き残って優勝する。安全を最優先。利用できるものはなんでも利用する。
1:9時直前までA-7エリアで粘り、それから温泉へと向かう。
2:温泉に着いたら身体と服に付着したチリソースを洗い流し、くつろぐ。
3:次の放送まで身体を休め、次の手を考える。
4:弱っている者や確実に自分より弱いと思える人間を見つけたら殺害する。(それでも慎重に)
5:すでに出会っている人間とは極力接触を持たないようにする。
※劉鳳、水銀燈、凛、ハルヒ、のび太、ドラえもん、カズマ、レヴィ、ゲイナー
6:劉鳳やカズマなどの人間離れした連中とはやりあわない。
7:F-1の瓦礫に埋もれたデイバッグはいつか回収したい。
[備考]
※E-4の爆発について、劉鳳の主観を元にした説明を聞きました。
※「なくても見つけ出す!」にて、ドラえもんたちがしていた会話の一部始終を盗聴していました。
※着せ替えカメラの効果が解除され、元の格好に戻っています。
映画館を出たカズマはこれから自分が追う人間のことを考えていた。
(あいつの逃走ルートで山は無い。
トラックがねえのに山まで行くのは労力の無駄だ。ああゆう狡い野郎が無駄を好むはずもねえ)
こういう事は相方の仕事であるが、眼の前で死んだ二人の仲間の仇を討つためにも、便利屋として動いてた彼の経験を働かせている。
(橋も無い。
待ち伏せされてたら逃げ場もねえし、あいつにとっちゃリスクが高すぎる場所だ。これで北と南西もない
だとするとあいつが行ったのは限定された南方面。
ぶっ壊された遊園地には変人ぐらいしか出ねぇだろうから、ある意味危ねえ、これも無し)
誘拐犯の行動を考えると、見た中では殆どが自分の命を優先していた。
となると消去法で考えていけば少々苦しいが、納得できる理由はカズマにも思いつく。
「考えられるのは南東・・・!」
カズマは珍しく頭を使って考え(合っているかは別として)、相手の進路を絞り市街地を通り、森を通り南方へと移動し始めた。
その足取りは一歩一歩重い。疲れが手伝って体が思うように動かないからだ。
まるで全身が泥沼に埋まってしまったようなダルさ。だというのにたぎる闘志が眠ることを許さない地獄。
それでも何とかD-4の小川まで移動したとき、頭上の闇は薄まっていた。
が、意思とは反しここにきて、体が前のめりに倒れこんでしまう。
映画館での僅かな休憩で隠れていた疲れが溢れ出したのか、今更レヴィによる攻撃の影響か。それとも小川を見た瞬間気が緩んだのか。
いずれにせよ足は震え、自由が利くのは両腕だけだ。
(・・・情けねえ)
動かない体に右の拳で鞭を入れようとした矢先、放送が始まった。
赤子のようにわめき散らし、狂った仮面は消えた。
カズマは忌々しい放送を聴き、理解した。
豚で、恩着せがましかったが、憎めないぶりぶりざえもん。
顔も声も違うのに、どこか自分の家族に似た少女。アルルゥ。
短い付き合いだったが知った一人と一匹が
鶴屋のように、君島のように、兄貴のように、なのはのように、
――――――かなみのように
俺の知らない所で死んじまった。
結局この放送の前からギガゾンビをぶちのめすって夢物語は、誘拐犯が出端を挫いてくれたけどよ…
「だけどよ・・・今はそんなことでなよってる暇はねぇーんだよっ!!」
それでもカズマは折れず、瞳は一層輝きを増し、魂を燃やし続ける。
ギガゾンビが最も嫌悪するその瞳で、夢物語を掴み取るまでは。
「刻んでやるよ!ぶりぶりざえもん、アルルゥ!!」
激情に身を任せ吼えた。
天を仰げば薄い黒は消え、青のみが広がっていた。
次に考えたのは病院で何かが起きていること。
思い出すのは鶴屋の死。
もしかしたらあの変装ヤローは俺を撒いたことを確認して、再び病院に戻ったのではないか?
いや病院とは行かないまでも、付近で救援目的でやってきた非戦闘員を狩って、どっかの猪野郎にでも吹き込んでいるんじゃねぇのか…!
(劉鳳・・・!)
脳裏に浮かぶのは絶影でドラえもんを、のび太を、そしてアルルゥを痛めつける劉鳳の姿。
湧き上がってくるものはあくまで仮定の、躍らされている劉鳳に対する怒り。しかしカズマにとっては充分説得力のあるイメージだ。
夢でも見たネイティブアルター狩りの時のように、こちらの事情を理解しようともせずに狩る宿敵の姿を想像するのは容易だった。
「はっ…だったら尚更こんな所で呑気に寝てる場合じゃねえな…」
気がつけば足の震えは治まっていた。
カズマは立ち上がる。何かが起きた病院へ戻るために。
もう何も考える必要は無い
俺がやるか、死ぬかだ
病院でドラえもん達と自分の帰りを待っていたアルルゥ。
死んだ。
太一の怪我を治すために動いていたぶりぶりざえもん。
死んだ。
死の運命とは強く生きた彼らにそうであったように、皆が共有するもの。
それは俺にもあてはまるのか?
カズマは急ぐ中で最後に自分に問いかけ、すぐに否定する。
俺は認めない。
自分には逃れられない死の運命。だが逃げるなんて柄にも無い。それなら真っ向からぶつかり合って破壊するまでと考えているからこそ、足掻き抗い続ける。
「証明したいんじゃねぇ…するんだよ!」
もう減速はしない。余計なタイムロスは拳の勢いを僅かにでも弱め軽くする。
だからアクセル全快ブレーキ破壊。
クーガーでさえも舌を巻くような速さで、ありったけの力を込めたこの拳を
ギガゾンビに
邪魔する奴に
死を掲示する運命に叩きつけてやる
ロストグラウンドでは、邪魔をする奴はだれかれ構わずぶちのめした。
それはこの舞台でも変わらず、運命だろうと例外ではない。
斯くして彼は運命に喧嘩を売り、病院へ向かう。
刻んだ名前、想いによって創られた一本道。
青年は現実を踏みしめ、果てしない未来へと手を伸ばす
その果てに待っているのは運命か、それとも―――
【D-4/2日目/午前】
【カズマ@スクライド】
[状態]:中程度の疲労、全身に重度の負傷(一部処置済)、西瓜臭い
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:気にいらねぇモンは叩き潰す、欲しいモンは奪う。もう止まったりはしねぇ、あとは進むだけだ!
1:病院の近くで変装ヤローを見つけ次第ぶっ飛ばす!
2:ドラえもんやのび太とは一旦合流。
3:気にいらねぇ奴はぶっ飛ばす!
4:レヴィにはいずれ借りを返す!
[備考]
いろいろ在ったのでグリフィスのことは覚えていません。
「そうやって、真紅も殺したの?」
「何ッ!?」
水銀燈が呟いた一言で、劉鳳さんが止まった。
劉鳳さんが真紅を殺した……? あれ……?
「貴方が真紅の遺体から何か――ローザミスティカを盗ったって言うのは本当だったのね」
「貴様……貴様も真紅を知っているのか?」
「真紅はね……私の妹よ。私が聞きたいって言ったのは、真紅のことなのよ」
「……!」
水銀燈が喋るにつれて、劉鳳さんの勢いが目に見えて弱くなっていくようだった。なんだか顔も青い。
よっぽど劉鳳さんが話したくないことなんだろうな、と思った。
そう思いながらも、僕は記憶を掘り返す。
確か……真紅って、ドラえもん達と一緒にいたんだよね?
そして、女の人と戦って、死んだんだ……ってドラえもん達は言ってたはずだ。
劉鳳さんが殺したっていうのは……違うんじゃないのかな??
でも、それなら劉鳳さんもちゃんと『違う』って言えばいいのに……
そう思う僕に答えるように、劉鳳さんが話し出した。
「真紅には……すまないことをした。俺が不甲斐無いばかりに……確かに、俺が殺したのも同然なのかもしれない」
でも、その言葉を聞いたとたんに、水銀燈の目が変わる。
今度は水銀燈が劉鳳さんを睨みつけて、叫んだ。
「その“すまないこと”って言うのは、真紅を見殺しにしたってこと?
遺体はほっといてローザミスティカだけ盗ったってこと?
それとも……真紅を殺して、ローザミスティカを奪ったことなの? 答えなさい!」
それまでとはうって変わって、水銀燈が劉鳳さんを責め立てる。
劉鳳さんは……なんだか歯切れが悪い。何か、やましいことでもあるのだろうか?
「ち、違う! 俺はただ、真紅を保護しようとしただけだ!」
「そして、勢い余って殺しちゃったって言うの!?」
「違う! 保護するために探していたが、見つけたときには真紅はもう既に死んでいたんだ!」
「その割にはちゃっかりローザミスティカを盗んでいったのよね? 真紅のことは置き去りにして」
「あ、あの時は急いでいたから、仕方なく……!」
「下手な言い訳ねぇ。私の言うことは信じない癖に、そんな世迷いごとは信じろっていうの?
貴方達、人の悪口言いふらすんなら、きちんと『証拠』を見せなさいよ。貴方達が嘘吐きじゃないのならね!」
「証拠……ああ、そのとき同行していた人物なら……いや、しかし……」
「なによ、まどろっこしい。嘘ならもっと上手くつきなさいな?」
嘘……じゃない。きっと、これは誤解なんだ。僕はそう信じたい
劉鳳さんも水銀燈も、きっと勘違いをしているだけなんだ。
水銀燈はきっと、真紅が死んだことが悲しくて、こんなに怒ってるんだ。
劉鳳さんも、真紅を守れなくて悲しいだけなんだ。
劉鳳さん……ジャイアンとも一緒だったんだし、きっと劉鳳さんが人殺しだなんて、何かの間違いに決まってる。
誰かが嘘を言って、誰かが誰かを騙そうとして……そんなの、もう嫌だ。
きっと、ほんのわずかな行き違いなんだ。大切なパズルの1ピースが抜けているだけなんだ。
きっと、その一枚がきちんとはまれば、みんな仲良く協力できるはずなんだ……!
「水銀燈、ちょっと待って……」
でも、そう言いかけた僕の言葉は劉鳳さんの一言に掻き消された。
「嘘ではない! 俺は、確かに峰不二子と一緒だった……!」
そう言った劉鳳さんは、
『しまった』という顔をした。
僕は、それをはっきりと見ていた。
「不二子? ……それって……」
「……そうだ。太一少年を殺したと言う女だ」
その言葉を聞いた瞬間に、僕の劉鳳さんを庇う言葉は、のどの奥へと飲み込まれていった。
……え?
……太一くんを殺した女の人……?
その人と、劉鳳さんは、一緒にいた……?
それじゃあ、劉鳳さんとその女の人は……もしかして……
ナカマナンジャナイノ?
バラバラだったパズルのピースが合わさると、それまでとは全く違った答えが浮かび上がる。まさにそんな感覚だった。
そうだ。太一君を殺した女の人……その人が、真紅を殺した人だとしたら?
それなら、ドラえもん達の言ったこと、水銀燈の言うことも間違っていない。
それに、それでなくても劉鳳さんの周りには危険な人が集まっている。
人殺しの女の人、化け物? のセラスさん。水銀燈を襲ったミオンって人と、その仲間。ハルヒさんもそうかもしれない。
じゃあ、ジャイアンは? ジャイアンもまさか!?
……そうかもしれない。ジャイアンはいつも僕を苛めていたし、なんでも力ずくだったし……
それとも、ジャイアンもこの人達に騙されていたのかもしれない。
そう、ついさっきまでの僕みたいに。
「あきれた! 自分の無実を証明してくれるのが人殺しだけですって? そんな言い訳が本当に通じるとでも思っているの!?」
そうしてみると。なんだか水銀燈の言うことがとてもまっとうに聞こえる。
でも、劉鳳さんは劉鳳さんで開き直っている。
「信じてくれとしか、俺には言えない。水銀燈、お前の妹を護れなかったのは俺の責任だ。すまなかった」
相変わらず横柄なまま、劉鳳さんが水銀燈に頭を下げた。
白々しい。
当然、水銀燈はそんな程度では収まらない。
「それにねぇ、私が聞きたいのはそんな薄っぺらい謝罪じゃなくて、真紅がどうして死んだか、なのよぉ?
あと、私の他の妹について何か知っていたら教えて欲しいわねぇ。みんな、もう死んじゃったけど。
案外、アンタが皆を殺して回ってるんじゃないのぉ?」
「あんた、黙って聞いてりゃあ!」
セラスさんがいきり立つ。
……セラスさんも、劉鳳さんの仲間……。
ということはやっぱり、水銀燈が言ってることは、本当なの……?
でも、水銀燈はセラスさんを無視し続けたまま話し出す。
「劉鳳、って言ったっけ? あなた、口では『正義』とか『仲間』とか綺麗な言葉を並べてるけど……
そういうのって、口で言うだけじゃなくて行動で示すものなんじゃないのぉ?
だのに、貴方はさっきから『お前は嘘吐きだ』『お前は敵だ!』とか勝手に決め付けて襲ってこようとするしぃ。
貴方、本当は正義だなんだって言いながら、ただ純粋に暴れたいだけなんじゃないのぉ?
『正義』を言い訳に使っちゃだめよぉ? 暴れん坊さぁん」
そして、水銀燈はわらった。
劉鳳さんとセラスさんを、心底馬鹿にするように。
そのとき、僕には水銀燈の声が聞こえた気がした。
『貴方たちの嘘はお見通しよ』って。
「貴様ッ!! 俺の正義を愚弄するかッ!!」
「ふざけんなッ!! それ以上言うとぶっ飛ばすよ!!」」
反射的に、2人が水銀燈に詰め寄った。
怒りに震える2人とは対照的に、水銀燈は身じろぎ一つしない。
そして先に水銀燈に掴みかかったのは、セラスさんだった。
水銀燈の胸元を掴むと、小さな水銀燈の体は軽々と持ち上がる。
「自分の嘘を棚に上げて好き勝手言いやがって……訂正しろ!」
セラスさんの目は、赤く、獰猛な獣の目そのものだ。
それでも水銀燈は怯まない。
「なぁに? 反論できなくなったら暴力で解決するのぉ? ホント野蛮ねぇ、あんたたちの『正義』って。
……悪いんだけど、服にシワが付いちゃうから離してくれない?」
「コイツ……!」
セラスさんの空いているほうの手が、強く握りしめられる。
そして、水銀燈の顔面に向かって、
振りぬかれ――
「止めなさい! 何やってるのよ!!」
病室内に、凛さんの声が響いた。
病室の入り口には、見張りに立っていた凛さんとドラえもんの姿があった。
「……!」
セラスさんの拳が、水銀燈の目の前で止まる。
その余勢が、水銀燈の髪を揺らす。
そして、次の瞬間――
「ああ、怖かった……ちょっと凛! もっと早くに助けに来てよぉ……」
今までからは信じられない、とても儚げで弱々しい泣き顔で水銀燈は凛を見た。
「あんたたち2人にならここを任せておけると思ったのに……残念だわ」
凛さんの表情は、とても険しかった。
「……セラス、水銀燈を離して。話はそれからよ」
「何があったの?」
その凛さんの言葉は、この部屋にいる全員に対してのものだった。
凛さんは、喧嘩を始めた2人に怒っているようだった。
間髪いれずに水銀燈が喋りだす。
「聞いてよ凛、この人達、私とお喋りしてたらいきなり怒り出して殴りかかってきたのよぉ」
セラスさんも黙ってはいない
「よくも出任せをいけしゃあしゃあと! コイツはあたし達の仲間と、劉鳳の正義を侮辱したんだ! 劉鳳に謝れ!」
「謝るのはそっちでしょぉ? 証拠も無いのに人のことを『嘘吐き』だの『敵』だの……
それに殴りかかってきたのはあんたじゃないの。私は何もしてないわよぉ?」
「コイツ、まだそんなことをッ!」
反射的に水銀燈に伸びたセラスさんの手を、途中で凛が止める。
「止めなさい。それ以上やると私が相手になるわよ」
「ちょ、ちょっと! 凛はソイツのことを信じるの!? いい加減騙されてるって気付きなさいよ!!」
「冷静にいまの状況だけを見れば、セラスが水銀燈を殴ろうとしている。それだけよ。
理由が何なのかは知らないけど、それすら知らないままに目の前で仲間が喧嘩するのを黙って見過ごす訳にはいかないわ」
「だ、だから私たちの言ってる方が……」
「水銀燈の言ってることの方が本当だよ!!」
部屋中の、全ての目が僕を見つめていた。
「の、のび太君、それってどういう……?」
ドラえもんの言葉を最後まで待たずに、僕は話し出す。
「水銀燈は、自分の妹がどうなったのか、どうして死んだのか、それを劉鳳さんに聞いていただけなんだ。
なのに、2人とも水銀燈のことを嘘吐きだ、敵だって決め付けて……
それに水銀燈の妹が死んだのって、劉鳳さんのせいなんでしょ!? 水銀燈が怒るのも当然だよ!!
なのにセラスさんは水銀燈のことを殴ろうとするし……
正しいのは水銀燈だよ! その2人は喧嘩が、殺し合いがしたいだけなんだよ!!」
そう、一気に言い切った。
――そうだ。劉鳳さんとセラスさんより、凛さんと水銀燈の方が信じられる。
凛さんと水銀燈は、昨日はほとんど僕と一緒にいて、怪我を治してくれて、僕のことを護ってくれた。
でも、劉鳳さんとセラスさんは、ついさっき会ったばかりなんだ。
しかも、水銀燈が襲われたミオンっていう人と仲間だって言うし、
それに不二子っていう人とも……!
口の中が乾く。喉がひりひりする。
自分が、肩で息をしていることに気付く。
肺の中の空気が空っぽになったみたいだった。
「の、のび太君、私たちは貴方達のことを思って……」
「じゃあ、なんで嘘吐いてたの!? 化け物だって、なんで黙ってたの!?」
『化け物』という言葉に、セラスさんの表情が陰る。
それと同時に、酷いことを言ってしまったのだという罪悪感で、胸が締め付けられる。
でも、僕は悪くない。悪いのは、嘘を吐いていたセラスさんの方なんだから。
重苦しい空気が病室内に充満していた。
誰も話し出そうとしなかった。
自分の荒い息の音だけが、いやにうるさく聞こえていた。
でも。
「Master!」
何処からともなく聞こえてきた無機質な声が、病室内の静寂を乱した。
そして、レイジングハート――という名の魔法の杖に急かされたように、凛さんが話し出す。
「ありがと、レイジングハート。皆に先に言っとかなきゃならないことがあるから、それを先に言うわ。
――この病院に近づいてくる人間がいます。それも、一人で」
凛さんの言葉に、みんなの表情が強張る。
「一人って、それって……」
「ええ、偽凛のこともあるけど、この時間帯で単独行動をとるような奴は……人を殺して回っている、凶悪な殺人者の可能性が低くない。
新たな獲物を探して徘徊しているのかもしれない」
「さ、殺人者!?」
ドラえもんと、僕が震え上がる。
でも、ううん、それは違う。
僕はもっと前から震えていたんだから。
――だって、僕はずっと、人殺しかも知れない人と一緒にいたんだから……。
凛さんが話を続ける。
「そいつは結構なスピードでまっすぐここに向かってきてたんだけど、さっきから急にスピードが落ちたわ。
もしかしたら、戦闘の痕跡を見て警戒しているのかもしれない。……油断はできないわよ」
「ちょっとまって、そいつ、もしかしたら敵じゃなくて私たちの仲間かもしれないよ! 私達の集合場所はここなんだし!」
「そうだ! それに敵が襲ってくるというならば、この俺がッ!」
「待って!」
今にも病室の外へ飛び出そうとする2人を凛さんが呼び止める。
「劉鳳、アンタは怪我人でしょ。……悪いけど戦闘になったら足手纏いよ。
セラスもここに残って。劉鳳とドラえもん、のび太を任せるから。もしものときは皆を守って頂戴」
「で、でもっ、私達の仲間なら、私達が行ったほうが……! それに、凛一人だけだと危険かもしれないしっ!」
それでも食い下がるセラスさんにも、凛さんは譲らない。
「大丈夫よ。アンタ達の仲間の情報なら、既に教えてもらってる。
それに……一人で心配なら、水銀燈も連れて行くわ。いいわね、水銀燈?」
「わたしはいいけどぉ?」
「ちょ、ちょっと! そいつなんて連れて行ったら余計にややこしいことに……」
「今の頭に血が上ってるアンタを連れて行くよりはまだマシよ」
セラスさんの不満も、凛さんが一蹴した。
そうだ。凛さんの言うとおりだ。
人殺しの仲間なんて連れて行ったら、凛さん達の方が危なくなってしまうに違いない。
「Master! The target is coming into the enter! (マスター、対象が玄関に到達します!)」
「わかった、レイジングハート。セラス……水銀燈と何があったのかは知らないけど、話は後でちゃんと聞くからね。
じゃあ、私が玄関で対象と接触します。行くわよ水銀燈! 病室の皆は、何かあったら頼むわよ!」
凛さんのテキパキと指示を出していく様子が、改めて緊迫した状況を際立たせていた。
でも、水銀燈を連れて行くのは……やっぱり凛さんも他の2人よりも水銀燈の方を信用しているということなのだろうか?
凛さんにも早く教えてあげないと。この2人が危険だって言うことを。
「じゃあ、行って来るから! でも、危なくなったら私たちのことは放って、逃げて!」
そういい残すと、凛さんは水銀燈を連れて廊下を走りだした。
2人分の足音が、どんどん遠くへ消えてゆく。
以上の各レスを差し替え。
のび太の状態表を修正。
[備考]
※劉鳳とセラス、及びその仲間を殺人者だと思い込んでいる。
※凛のことも疑っているが、他の人よりは信頼している。ただし、偽凛は敵だと判断している。
【D-3・病院裏口/2日目/午後】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、中程度の魔力消費、バリアジャケット装備(ソニックフォーム)、リインフォースと融合中
[装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム/弾倉内カートリッジ残り3/予備カートリッジ×12発)
夜天の書(消耗中、回復まで時間が必要/多重プロテクト)
[道具]:デイバッグ、支給品一式、クラールヴィント、西瓜×1個、ローザミスティカ(銀)、エクソダス計画書
[思考]
基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。
1:目の前の人物(グリフィス)を足止めor倒してジュエルシード回収。
2:後でトグサにタチコマとのことを謝っておく。
3:光球(ローザミスティカ)の正体を凛に尋ねる。
4:遠坂凛と協力して魔法による首輪解除の方法を模索する。
5:ベルカ式魔法についてクラールヴィントと相談してみる。
6:念のためリインフォースの動向には注意を向けておく。
7:カルラや桃色の髪の少女(ルイズ)の仲間に会えたら謝る。
[備考]
※襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。
※首輪の盗聴器は、ルイズとの空中戦での轟音により故障しているようです。
※リインフォースを装備してもそれほど容姿は変わりません。はやて同様、髪と瞳の色が変わる程度です。
【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]:中程度の疲労、全身に中度の打撲、中程度の魔力消費、バリアジャケット装備(アーチャーフォーム)
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(/修復中 ※破損の自動修復完了まで数時間必要/カートリッジ三発消費)
予備カートリッジ×11発、アーチャーの聖骸布
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料残り1食。水4割消費、残り1本)、石化した劉鳳の右腕、エクソダス計画書
[思考]
基本:レイジングハートのマスターとして、脱出案を練る。
1:ルールブレイカーを回収。
2:セイバーの再襲撃に備えて体力と魔力はある程度温存。
3:フェイトと協力して魔法による首輪解除の方法を模索する。
4:ベルカ式魔法についてリインフォースと相談してみる。
5:カズマが戻ってきたら劉鳳の腕の話をする。
6:変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。
[備考]:
※リリカルなのはの魔法知識、ドラえもんの科学知識を学びました。
※リインフォースを装備してもそれほど容姿は変わりません。はやて同様、髪と瞳の色が変わる程度です。
[推測]
※ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い。
※膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能。
その為にジュエルシードを入手する。
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:魔力暴走、全身に軽い火傷、打撲、左腕が肩口から落ちた、自我崩壊
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、耐刃防護服、ジュエルシードもどき、フェムトの甲冑@ベルセルク
[道具]:マイクロUZI(残弾数6/50)、やや短くなったターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×6(食料一つ分、ディパック五つ分)
オレンジジュース二缶、破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に
ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ、ハルコンネンの弾(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾4発 劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING
[思考・状況]
基本:殺す。
1:目に付く存在を殺す。
[備考]
※グリフィスは生存者の名前と容姿、特徴についてユービックから話を聞きました。
※A-8エリア全域、及びA-8周辺エリアはスパイセットで監視しています。
※スラン及びユービックがノートパソコンの入手を目的としている事は知りません。
[ジュエルシードの暴走について]
※グリフィスは現在自我を失っており、己の戦闘本能に従って行動しています。
剣術などの身体に染み付いた技能は例外として、デイパックにしまった銃を使うなど、頭を使った戦法は取ることは出来ません。
『約束された勝利の剣』は使用可能ですが、直前で既に一回使っているため、これ以上の乱用は自己崩壊の恐れがあります。
なんらかの形でジュエルシードの機能を停止させれば、グリフィスの自我も元に戻ります。
また、このジュエルシードは『もどき』のため、これ以上の変化(外見の変貌など)が起こることはありません。
※常に全身から魔力を垂れ流しています。純粋魔力弾の射撃はそれに相殺されるためまず通用しません。
また、それを利用した高速機動の方法を学習しつつあります(よって、動作の効率化によって更に強くなることも考えられます)。
修正版です。
◆
上空から、真下を見据える視線がある。
(……私達が、勝つ為です)
黒鉄の戦斧を右手に掴む。金髪を風に流した彼女は迷いを振り払い、ただ一言を呟いた。
「―――ユニゾン・イン」
金髪が、青白い燐光を放つ稲妻じみた白へと転ずる。
同時、眼下の黒衣に向けて動力降下。
自由落下に背の四翼と四肢のフィンを加えたその速度が、音速の壁を打ち破った。
右手一本で構えた戦斧が紙を引き裂く音を立て、水蒸気の霧を曳く。
『Load cartridge』
リボルバーが回転、定位置に移動したカートリッジが強烈な衝撃を受け圧縮魔力を解放する。
選択する魔法は一つ。術式構造は極めて単純、刀身に魔力を乗せるだけだ。
射程距離を切り捨て一撃の威力に特化した、ベルカ式の基礎にして真髄たる魔法。
それはヴォルケンリッター烈火の将が振るった魔焔の一閃。
だが、刃が纏うのは緋桜色の焔ではない。
鋭角を以って天をも穿つ黄金の色。
雷だ。
叫ぶ。その技の名を。かつて己の武器を断ち切った、その名を。
「――――――紫電、一閃!」
振り下ろした。
直撃―――ではない。敵の回避の方が一瞬だけ早い。
だが劫雷の余波が、その鎧たる魔力を吹き飛ばす。
そして、フェイトの左手にはあるものが握られている。
雷によって編まれ、しかし幅広の刃と鍔を備えたそれは一振りの長剣。
サンダーブレイド。
速度はフェイトが手に入れた。
敵の防御を剥ぎ取ったのはバルディッシュ。
ならば―――それを解き放つのが、彼女の持つ役割だ。
『リインフォース、蒼穹を渡る祝福の風。そして今は―――』
彼女の独白。それもまた決意を告げるようで。
『―――雷の元へと集う風の名だ……!』
応えるように、彼と彼女が声を挙げた。
「疾風、迅雷……!」
風を纏った雷の刃、それが得るのは加速ではない。
『Jet Zamber』
光を放つ切先が雷鳴を上げて伸長し、黒衣の腕を、左肩から切り落とす。
「今です!」
「ええ!」
フェイトの声に応え、凛は駆け出した。黒衣の横を飛翔によって抜け、病院へと飛び込んで行く。
優秀な猟犬は得物を逃さない。鎧の男はそれを追おうと足裏から魔力を放ち加速。
「追わせない……!」
だが、残像さえも残さず正面に回り込んだフェイトが、その進撃を停めさせる。
「私達の役目は足止め、だね……やるよ、バルディッシュ、リインフォース!」
『Yes,sir.』
バルディッシュがコアを明滅させ、応えた。
『ああ、それが私の贖いであり―――』
リインフォースもまた、
『―――そして何より、私の主が望んだことだ』
迫り来る刃を見据え、肯定の言葉を放った。
あ
あたしは自分がどこか特別な人間のように思ってた。
家族といるの楽しかった。
自分の通う学校の自分のクラスは世界のどこよりも面白い人間が集まっていると思っていた。
でも、そうじゃないんだって、ある時気付いたてしまった。
あたしが世界で一番楽しいと思っているクラスの出来事も、日本のどこの学校でもありふれたものでしかない。
そう気付いたとき、あたしは急にあたしの周りの世界が色あせたみたいに感じた。
あたしのやってることの全部は普通の日常なんだと思うと、途端に何もかもがつまらなくなった。
あたしは抵抗した。できるだけ違う道を行こうとしてみた。
あたしなりに努力してみた。訴えてみた。足掻いてみた
けれど何も変わらなかった。何も起こらなかった。
そうやってるうちに高校生になった。
高校なら何かが変わるかと思った。
でも、高校に入っても何も変わらなくて。結局全てが平凡に見えて。
あたしの世界は灰色のままだった。
――SOS団を作るまでは。
ううん、違う。
――あいつと、会うまでは。
■
「……うっ」
頭に響く鈍痛に、涼宮ハルヒは思わず呻き声をもらした。
体が熱い。視界がぼやけて、状況が分からない。
息が苦しくて、頭も回らない。
(ここは……。あたし……何、を……)
混濁する意識をハッキリさせようと、ハルヒは頭を振った。
「――ようやくお目覚めかい? お姫さんよ」
突然耳元で響いた聞き慣れない声に、ハルヒの意識は急速に覚醒に向かう。
「……あ、あんた……誰?」
だが、エンジンのかかりきらない頭ではその問いを発するので精一杯だった。
鼻を鳴らす音がし、
「はっ! 危ねぇ所を救った上にここまでつれてきてやった恩人に対する第一声がそれたぁ泣かせてくれるぜ。
ジャパニーズは礼儀正しいって聞いてたんだが……。あたしの勘違いだったみてぇだな」
悪態と皮肉の成分が含有された声が響いた。
(……危ない所……救って……)
鈍痛と熱さを苦労して意識の隅に押しやりながら、ハルヒは必死で思考を巡らした。
(……あの金髪、セイバーに襲われて、しんちゃんと分断されて……トウカさんが……足止めに残って……。
なのにあの女が現れて……その後――)
思考が乱れいくつもの顔が、声が、頭の中で明滅する
(この人……キョンと一緒に……)
間違いない。
ラフな格好とショートの黒髪、確かにキョンと一緒にこっちへ走ってきた――。
――キョンは?
総毛立つような感覚がハルヒを襲い、その感覚に追いたてられるようにハルヒは叫んだ。
「ねえ! あいつは! キョンは!? 」
一呼吸あって、
「……いてぇよ」
不機嫌極まる声音が返ってきた。
ハルヒははっとして手をみやった。包帯が巻かれた箇所を握ってしまっている。
慌てて手を放し、
「ごめんなさい! 謝る、謝るわ! だから、だから教えて! あいつは……。キョンはどこ!?」
みっともなく声がひっくり返っているのが分かる。
でも抑えることなんか出来ない。
心臓が耳元にでも移動したんじゃないかと思うくらいうるさくて、変な汗が吹き出てくる。
喉がカラカラだ。
――どうして答えてくれないの?
ハルヒの心の壁を恐怖が這い登った。
全身が勝手に震えだし、心臓が万力で締め上げられたように痛む。
「お願い! 答えて!! 答えなさいよ!!」
悲鳴のような声が赤く染まりつつある無人の町に響き渡った。
はあっと大きなため息が聞えた。
「そんなに知りたきゃ教えてやる。とりあえず、あたしの背中から降りな。そんだけ喋れりゃ歩けんだろ」
言われるままにハルヒは黒髪の女性の背中から滑り降りた。
足がついた瞬間、視界が回転しそうになり、ハルヒはたたらを踏んだ。
身体に力が入らない。
頭痛は治まらないし、体が熱くて熱くてたまらない。
それでもハルヒは必死に目に力を込め、レヴィに視線を送った。
そんなハルヒの様子に、レヴィは思わず髪をクシャクシャと掻き回した。
(っとによぉ……。着いてからにすりゃあ良かったぜ)
ここで事実を告げれば面倒くさいことになるのは間違いなさそうだ。
どう見てもこの制服姿の少女は、人死に慣れているタイプには見えない。
(その上、この取り乱し方からすっと……。まあ、答えは一つっきゃねえか)
場末の映画館なら、優しい大人がヒロインを労わりながら沈痛な面持ちで告げる場面だろう。
音楽もさぞかし物悲しく流れ、悲劇の場を演出するに違いない。
だが目の前の少女にとっては不幸なことに、場を演出する音楽は風だけ。そして告げる大人は自分だ。
――ハルヒを……よろしく、お願いします……
ワリィな、とレヴィは記憶の中の死に行く少年に向かって言葉を返した。
(あたしに慰める役割なんか期待されても困るぜ。あたしゃただの運び屋だ。
中華料理屋でパスタ頼んでも出てきやしねえことを、あの世で勉強するんだな)
心の中で悪態をつき、レヴィは口を開いた――。
■
「――レヴィさん!」
レヴィは黙って声のした方に顔を向けた。
「おめーか……。何やってんだ? こんなとこで」
レヴィは顔をしかめた。
凛の格好はこういっては何だが、あまりまともとはいえない。
ありていに言えばボロボロだ。
顔は煤け、目には疲労の光が宿っている。
「その、まぁ……色々、あったのよ。レヴィさんこそ――」
「スト〜ップ! まず、てめぇからだ。
人に物を聞くときは、まず自分からだとママに教わらなかったのか?」
凛は首をかしげた。
(なんか違うような気がするんだけど……)
とはいえ、別に抗弁する必要もないし、くだらない言い争いをする気もない。
凛が先に経緯を話すと、レヴィも口を開いた。
「――ってわけだ」
レヴィが話し終えるのと同時に、凛の形のよい眉がひそめられた。
「じゃあ今、カズマさんは単独でセイバーを追ってるのね?」
凛の声は石のようで、その表情には暗いものがありありと浮かんでいた。
何故か面白くないものを感じ、
「まぁ、確かにあの女はバケモンだがな…。カズマの野郎もそれなりのもんだ。
ンな簡単に負けるヤツじゃねえぜ、あいつはよ!」
乱暴に言い捨て、
(何であたしが、こんなこと言わなきゃならねーんだ?)
レヴィは思い切り舌打ちした。
――俺が戻るまでにくたばってんじゃねぇぞ!
不敵なカズマの顔がレヴィの脳裏をよぎった。
(さっさと片付けてさっさと戻ってきやがれ! 一発殴ってやっからよ!)
自分の弁護料としては破格の安さだ、と思う。
レヴィは小さく口元を歪めた。
「……あの」
きょろきょろと辺りを見回しながら、凛が物問いたげな視線を向けてくる。
「あん?」
「その……。レヴィさんが連れてきた……。ハルヒはどこに?」
レヴィの口から嘆息が漏れた。
面倒くさそうに、レヴィは無言で一点を指し示した。
息を呑む気配がし、
「……え?」
聞こえてきた凛の呻くような声に、レヴィはもう一度嘆息した。
「キョンっつのうが死んだって教えてやったら、あーなっちまった……。
おめぇ、なんとかできねぇか? 同じジャパニーズで、同じくれぇの歳だろ?」
「無理よ……私、そういうの苦手だし……。それに私、ハルヒにはまだ疑われたままだと思うし……」
凛は目を伏せた。
(そういや、ロックの野郎も始めはこいつのこと疑ってやがったんだっけか?)
クソっとレヴィは地面の石を蹴り飛ばした。
(かったりぃな……。クソっ!!)
何故こうも次々と問題ばかりが起きるのか。
レヴィは苛立たしげな視線を後ろに向けた。
その先には、空虚な瞳で民家の壁にもたれかかる涼宮ハルヒの姿があった。
■
何も聞えない。何も感じない。
無音の世界に囚われたようにすら感じる。
――死んだ。
キョンが死んだ。
レヴィという女の発した音が鼓膜を震わせ脳がその意味を認識した瞬間、
世界が真っ白になり音が消えた。
――嘘だ。
そう怒鳴って生死を確かめに駆け出すところなのかもしれない。
或いはひたすら号泣するところなのかも。
涙が流れない。
ただ何処かに大きな穴が開いて、そこから何もかも抜けていく、そんな感じがする……のだと思う。
――分からない。
何も分からない。分かりたくない。
だって。
キョンがこの世にいないことを認めてしまったら。
ようやく色と音を取り戻した世界が、世界を形作るピースが壊れてしまったと認めたら――。
「おい! いつまで呆けてんだ!!」
大声と共に身体を引き摺り上げられた。
レヴィと名乗った女の怒ったような顔が間近にみえる。
「おらっ! 行くぞ!」
前に引っ張られた。
――どこへいくんだろう?
そんな疑問が頭をかすめるが、ハルヒは引っ張られるままに歩き始めた。
何もかもどうでもよかった。
何も考えたくなかった。
しかしハルヒの空虚の瞳の中にある人間の像が形作られた時、
ハルヒの心に炎が生まれた。漆黒の炎が。
――遠坂凛。
殺意。
そんな名で呼ばれる漆黒の炎は瞬く間にハルヒの心を覆い尽くした。
(こいつは、アルちゃんを殺した!)
水銀燈という人形とグルになってアルルゥを殺した。
足手まといがいると生き残るのが難しから、という理由で殺した。
――こんなヤツがいるから。
(みんな死んでいくのよ……)
遠坂凛がたじろいだようにこっちを見ている。
(何よ? その理不尽だと言わんばかりの目は!?)
身体を蝕んでいた疲労も、体にこもった熱も、気にならない。
「おい? どうした?
耳元で声がする。ハルヒは掴まれた手を振り払った。
「離れてて! あの女は、敵よ!!」
「はぁ? 何を言ってやがん――」
「あいつは、アルちゃんを殺した! だからあいつは、私の敵!!」
ハルヒの絶叫が大気を震わせた。
「待って! それは誤解よ!」
「黙れ!!」
この期に及んで言い逃れをするか。
ハルヒの心の炎は猛烈にその火勢を強めていく。
――今の自分には力がある。
あの桃色の髪の女に襲われた時はアルルゥの手を引いて逃げることしかできなかった。
映画館では戦力外と評価され、長門有希とトグサにおいていかれた。
病院ではあの女にまったく歯が立たなかった。
エルルゥが撃たれた時、ただ立ち尽くしてたいだけだった。
セイバーに襲われた時、トウカを援護することはできなかった。
でも今は違う。今の自分には――
――そう? 本当にそう?
心の中に沸き起こったそんな問いが、一時殺意の炎を吹き払った。
――じゃあどうして、キョンは死んだの?
震えだそうとする体を抑えつけようとするように、
ハルヒは左肩を右手掴んで握り締めた。
(うるさい! うるさい!)
――今度こそ。
今度こそは守ってみせる。
生き残った仲間を守ってみせる。
アルルゥのように、ヤマトのように、トウカのように――キョンのように。
(殺させたり、しない!!)
そのためなら、命なんか惜しくない。
漆黒の炎がハルヒの双眸から噴出した。
――殺意が、全てを、塗りつぶしていく。
「あんたは……。あんただけはぁぁぁっ!!」
ハルヒの怒りを体現するように巨人が空間からぬっと姿を現した。
青い巨人、ハルヒの世界の人間達が神人と呼んだそれは、腕を振り上げた――。
■
「なっ!?」
驚愕の槍が凛の心を貫いていた。
いきなり襲いかかってこられたという事実に。
そしてハルヒの力に。
『protection』
何とか発動させることができた盾は――。
あっさりと砕け、無音の拳が凛の視界を埋め尽くす。
咄嗟に地を蹴り、転がって緊急回避。
一刹那遅れて巨人の拳が、一刹那前に凛がいた場所激突。
爆風と砂煙が来た。
「くっ……」
顔を覆いながら、凛は戦慄する。
(結構な、威力ね……)
砂煙を引き裂いて巨人がぬっと姿を現した。
意識を集中。
『Protection Powered』
凛の作り出した桃色の力場と巨人の拳が激突。
「くっ……」
凛は奥歯を噛んだ。
巨人の拳と凛の作り出した力場の接触面から粒子が飛び散る。
なんとか相殺に持ち込め――。
怖気が凛の背筋を駆け抜けた。
『Flier fin』
効果の発動と巨人がもう片方の手を振り下ろすのはほぼ同時。
一刹那の差で凛が競り勝った。
無音の拳が地面に突き刺さり、爆風が発生。
その煙を肝を冷やしながら眼下に見下ろし、凛は距離をとって着地した。
「チョコまかと……。逃げんなっ!!」
ハルヒの怒声と共に、巨人がゆらりとこちらを向いた。
(どうする……)
こういっては何だが、ハルヒを無力化するのはそう難しくない。
ハルヒの一挙一動からは、まだまだ「戸惑い」が見られる。
明らかに能力を使いこなしてもいない。絶対的に錬度が足りていない。
とはいえ、あの巨人の力自体はなかなかものだ。
(勝つは易く、傷つけずに無力化するは難し、か)
凛の顔に苦渋の皺が刻まれた。
――何を迷うことがある。
相手がこちらの話を聞かずに、攻撃を仕掛けてきているのだ。
反撃してもそれは正当防衛の範疇だ。
凛の冷徹な部分はそう言っていた。
けれど――。
「レヴィさん!」」
凛は我関せずとばかりに離れた場所に突っ立っているレヴィに声を飛ばした。