ここは
「アニメ作品のキャラクターがバトルロワイアルをしたら?」
というテーマで作られたリレー形式の二次創作スレです。
参加資格は全員。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。
「作品に対する物言い」
「感想」
「予約」
「投下宣言」
以上の書き込みは雑談スレで行ってください。
sage進行でお願いします。
現行雑談スレ:アニメキャラ・バトルロワイアル感想雑談スレ14
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1172655687/l50#tag36 【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
「地図」 → MAP-Cのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【バトルロワイアルの舞台】
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/34/617dc63bfb1f26533522b2f318b0219f.jpg まとめサイト(wiki)
http://www23.atwiki.jp/animerowa/
夜の森ほど恐ろしい場所はない。
月光すら届かぬ薄暗さもそうだが、密林や秘境においては大蛇、虎などといった危険生物との遭遇も考えられる。
人の手が行き届いていない未開拓地などは特に野生生物が出没しやすく、危険度もグンと上がるのだ。
対策としては火を焚くのがベターかと思われるが、この『外敵生物が獣だけではない』環境において言えば、焚き火などという行為は、嘘をつき続ける狼少年ほど愚かな行いである。
暗闇は恐ろしいが、人の殺意というものはもっと恐ろしい。
警戒するべき最優先事項が『殺意ある参加者』である以上、夜は大人しく安眠できる場所を探すべきだろう。
夜行性動物の大半が獰猛なことを考えればお分かりとは思うが、闇夜とはハンターにとって絶好の狩場なのである。
弱い者は夜間ひたすらに身を隠し、行動しやすい朝を待つ。それが生き残るための最良策だと、ロックは考えた。
負傷した脚で山道を歩き、先ほど友人の死を知ってしまった沙都子。
悲劇を間近で体験した上に、歩き疲れてすっかりお寝む状態のしんのすけ。
多くは語らないが、心身共に疲労困憊のエルルゥ。
そして何より、ロック自身も。
四人は皆お互いをボロボロと認め、身を寄せ合った。
弱小動物は群れを作り安全を確保するが、それは動物に限ったことではない。
ロック、しんのすけ、沙都子、エルルゥの四人は疲れを癒すための寝床を確保し、これから就寝しようとしていた。
長かった一日が、もうすぐ終わりを告げる。
このお話は、そんな四人が今日一日を振り返る、他愛のない総決算である。
◇ ◇ ◇
【北条沙都子の場合】
(薬と書かれていたから期待しましたけれど……病気に効くだけで、この足の怪我を治すには至らないみたいですわね)
先刻のちょっとした騒動の折に、自らの懐に飛び込んできた『どんな病気にも効く薬』なるアイテム。
持っておいて損はないが、現状の沙都子としては病よりも怪我の方が気がかりであり、気休めでも傷薬の類が欲しいと思っていた。
もっとも、基本的な治療は過去にみさえが済ませており、これ以上の早期回復を望むとなると、頼れるものは奇跡以外にはなくなってしまう。
ロックやエルルゥは沙都子を病院に連れて行こうとしているが、医師もいない病院に何を期待するべきところがあろうか。
ギプスを付けたとて走れるようになるわけではないし、車椅子などが手に入ったとしてもハンデを負っているという事実は無視できない。
悲観的に物事を考えるならば、病院行きへの方針など単なる気休めなのだ。
ロックやエルルゥのちっぽけな優しさに振り回されるくらいなら、少しでも長く辺境に滞在し、機会を窺っていた方がいい。
トラップを作るための資材集め、ベースとなる施設の確保、それらを行っている内に参加者が減ってくれればなお良し。
これ以上の人間と無理して接触を図る必要などない。どうせ最後は一人になるのだから、他者との馴れ合いなど不要だ。
と、沙都子は考えていた。
「何を見ているんだい?」
「きゃあっ!?」
適当な切り株に腰掛け、『どんな病気にも効く薬』の説明書を眺めていた沙都子。
その真上から、不思議そうな視線でロックが見下ろしてきた。
「な、なにって、ちょっとトラップの設計図を作っていただけですわ。それにしてもいきなりレディーの手元を覗き込むなんて、ロックさんって本当にデリカシーがありませんのね」
ロック自身も、『どんな病気にも効く薬』がいつの間にか消えていたことには気づいていた。
沙都子はそれを知っていてなお、ロックに自分が所持していることを黙っている。
いつ何に役立つかも分からない。手駒は多いにこしたことはないのだから。
悟られて変に怪しまれては大変と、沙都子は咄嗟に説明書を隠し、それらしい嘘をつく。
「あ、いや、ごめん。悪かった。謝るよ。……それはそうと、罠作りのための材料ってのはこんなものでいいかな?」
そう言ってロックは沙都子を特に怪しむこともせず、腕に抱えていた資材の数々をばら撒けた。
それら、小枝から乱雑に切り出された角材等の多種多様な木材、ロープの代わりにもなり得る頑丈そうな蔓、中途半端に折れた竹等々。
ロックは以前、沙都子に頼まれたとおり、森で入手可能な資材をありったけ調達してきたのだった。
「すごい量……よくこんなに見つけてこられましたわね」
「そんなに力入れて探し回ったわけじゃないよ。偶然落ちてたものを拾ってきただけっていうか。こんなものでも役に立つっていうのなら嬉しい限りさ」
涼しい顔で額を拭うをロックの様子を見るに、本当にそれほどの苦労はしていないようだ。
そういえば、寺に竹槍トラップを仕組んだ時も、材料調達は割と簡単に済んだ。
寺の周辺には小規模ながら竹林があったし、寺も罠を仕掛けるには優れた構造をしていたようにも思える。
周りの環境は、案外トラップ製作を行うのに相性がいいらしい。まるで動き回ることが難しい沙都子を気遣うかのような……そんな気すらしてくる。
まさかとは思うが、沙都子のような特性を持った参加者がいることを考慮し、ギガゾンビが粋な計らいをしてくれたのだしたら。
倒木や竹林の存在も、建造物の構造も、予めトラップを作りやすい環境が用意されていたという可能性は――
(きっと考えすぎですわね)
沙都子は脳裏によぎった怪しく笑う仮面を振り払い、溜め息をつく。
だって、それでは自分がギガゾンビの手の平で躍らされているようではないか。
利用できるものは利用させてもらうつもりだが、今さらあの外道主催者に感謝する気など起ころうはずもない。
「それにしても、ごめんな沙都子ちゃん。本当は今すぐにでも病院へ連れて行ってあげたいんだけど……」
「気になさらないでくださいな。それに、ロックさんの判断は賢明ですわ。夜に、しかも山の中を歩くのは危険極まりないですもの。
こんな辺境なら夜襲を受ける可能性も少ないと思いますし、わたくしの足もこんな有様ですから」
切なげな顔で、自身の足を摩る沙都子。その仕草にロックは重苦しい視線を送ったが、沙都子は一切を意に関さない。
現在沙都子たちが身を休めているのは、地図で区分されるところのA-5エリア、その最西端である。
市街地からかなり離れた山中、しかも隣は禁止エリアという悪条件地。
いくらなんでも、こんな危険な場所を訪れる者はいないだろう。殺し合いに乗った参加者となれば、その可能性はさらに下がる。
「病院に行けば、なんとか……」
「気休めは止してくださいな。病院に行ったって、すぐに足が完治するわけではありませんもの。
無理して皆さんの足を引っ張るような結果になってしまっては、死んでも死にきれませんわ」
「沙都子ちゃん……」
気丈な素振りを見せ、沙都子はロックの同情を誘った。
自分は子供で、怪我人で、弱者だ。良心が正常に働く者なら、放っておくにはいかない存在である。
ロックは正にその典型的なタイプ。聖人ともいえる、完全無欠のいい人だ。
沙都子のような守るべき弱者が目の前にいれば、彼はそれを無視することなどできないだろう。
彼女をできるだけ危険から遠ざけ、彼女の意思をできるだけ尊重しよう。そう考えるはずだ。
それ全てが、沙都子の狙い。ロックを可能な限り利用し、残り人数が減っていく内に自分の身の周りを強化していく。
沙都子のトラップで対処できないような相手との接触は遠ざけ、チャンスが来るのをひたすらに待つ。
その成果は、いずれ殺し合いの優勝という形で降りてくることだろう。――卑怯者だと思うなら、勝手に思えばいい。
(ロックさんも、しんのすけくんも、エルルゥさんも。この人たちとは所詮、仮初の関係。いつかは*す、対象でしかないんですもの)
多人数参加型のゲームにおいて一番重要なのは、他者を利用すること。
このゲームの場合は全80人。この内、残りの79人を『敵』と思ってしまってはいけない。
自分以外の存在は、敵ではなく『駒』。そう考えて行動することが勝利への絶対条件なのだ。
何しろ敵は自分に害悪しか齎さないが、駒は色々と機能してくれる便利なものだ。
いざとなれば切り捨てることもできるし、駒同士をぶつけて自滅させ合うことだってできる。
もっともこれは誰にでもできるような芸当ではなく、とても高度な戦術である。
大貧民で圭一を陥れた経験などはまったく役に立たない。大事なのは知恵と、それを活用するための度胸、そして演技力。
沙都子がそれ全てを兼ね揃えているかといえば一概にそうとは言えないが、覚悟は決めたつもりだ。
だからこそ今こうやって、ロックの優しさにつけ込み罠のための材料を集めさせている。計画通りだ。
この行いに対して、胸を痛めるような後ろめたさはない。沙都子はちゃんと平常心を保っている。
――やれる。最後まで。
利用し、利用して、利用しつくす。――死ぬまで。
「わたくしはそろそろ休ませてもらいますわ。ロックさんも、あまり無茶はなさらないように」
「ああ。おやすみ、沙都子ちゃん」
就寝につく沙都子を見守るかのように、ロックは笑った。
その笑顔を見ても、やはり胸は痛まない。
覚悟は、ちゃんと成功している。
うん、大丈夫。
(梨花……絶対に。絶対に。うん。絶対に。絶対に。死なない)
眠りに落ちるその瞬間が訪れるまで、沙都子は何度も何度も、ゲーム攻略への覚悟を反芻していた。
◇ ◇ ◇
【野原しんのすけの場合】
沙都子が寝付いたのを確認したロックは、もう一人、この場にいる寝かせるべき子供の下へと向かった。
普段うるさい母親がいないことで調子に乗っているのだろう。五歳児、野原しんのすけは、滅多に出来ない夜更かしと称してエルルゥと会話をしていた。
「ねぇねぇ、おねいさんは納豆にはネギ入れるタイプ?」
「ナッ、トウ……? えーっと……入れる時と入れない時があるかな?」
「おぉ〜、オラと気が合うかも〜」
軟派師のように飄々とした態度で迫るしんのすけだったが、その瞼は今にも閉じそうなほどに危うい。
夜遅くまで起きていたいという好奇心は先行しているが、身体が追いついていないのだ。
性格は大人びていても、やはり五歳児。夜になれば自然と眠気がやってくる。それが子供の性というもの。
「さ、しんのすけくんもそろそろ寝る時間だぞ」
「ええ〜。オラまだ眠くないゾ。もっとおねいさんとお話するぅ」
力のない声で調子のいいことを言うしんのすけの仕草は、実に子供らしい素振りだった。
セイバーの襲撃、ヘンゼルの介抱、ロックとの逃走劇、ヘンゼルの死、そしてセイバーの再襲来など……今日一日の出来事は、五歳の子供にはあまりにも濃密過ぎた。
知らないとはいえ父親が既に死亡しているという事実も考えれば、しんのすけの身に降りかかった精神的疲労は並大抵のものではない。
それでもしんのすけは元気を取り戻した。持ち前の明るさと、めげない心がうまく機能してくれたのだ。
ヘンゼルの死は忘れない。君島邦彦と別れた時の顔も忘れない。夢で見た父親の言葉だって、ちゃんと覚えてる。
本人は無自覚であるものの、しんのすけの本能は主人を生かすためにしっかりと働いてくれていた。
夜、この場合は睡魔として。疲れたしんのすけの身を休ませるために、起きた後に、また少し成長してもらうために。
「うぅ……まだ眠くないゾ……」
「……子守唄、歌ってあげるね」
睡魔に屈したしんのすけはうつらうつらと首を振り、静かに眼を瞑っていく。
寝床としてちゃっかりとエルルゥの胸元を選択し、その寝顔は若干ニヤついている。
ロックはそんなしんのすけを見て苦笑気味に微笑み、エルルゥは静かな声で子守唄を歌ってあげた。
(うう……父ちゃん……母ちゃん……ひま……シロ……)
二人にも聞こえないような小さな声で、ひっそりと寝言を言う。
いつだって一緒にいた、大切な家族の名前。それを確認するかのように、一人ずつ呟いていく。
会いたい、と――そんな思いを抱いているのかもしれない。
能天気そうに見えて繊細で、元気そうに見えて弱々しい。子供というのは、なかなかに難しいお年頃なのだ。
(オラ……オラ…………キレイなおねいさんと一緒でしやわせぇ〜)
もっとも、しんのすけは世間一般の子供に比べると少々神経が図太い――もとい、単純かもしれないが。
◇ ◇ ◇
【エルルゥの場合】
「いい歌だね、それ」
「……おばあちゃん教えてもらった歌なんです。寝付けない時なんかは、よく歌ってもらったりして……」
子供二人が寝付いたのを確認して、エルルゥは披露していた歌声を治めた。
夜の森は、静寂に支配された不可侵の領域。鈴虫も鳴かなければ梟さえいない。
聞こえてくるのは沙都子としんのすけの寝息くらいで、本当に静かなものだった。
「なんか、勘違いしちゃいそうです」
「何がだい?」
「今日の出来事は全部、夢だったんじゃないかって」
空を見上げると、満天の星が広大な海を作り出していた。
トゥスクルでも、ロアナプラでも、春日部や雛見沢でも等しく同じ景色を見せてきた空――ここでも何も変わらない。
夜天は、日を落とした後に星の海を映し出す。
「みんなと離れ離れになって……知らない所で知らない内に、大切な人が亡くなりました。
私は、何もできなかったんです。あの人を弔うことも、あの子を守ることも、全部、悲しみに流されてしまって……」
笑顔というものは、何も楽しい時や嬉しい時だけに見せる表情ではない。
時には、悲しい場面で笑顔を振舞うこともある。押し潰されるほどの悲しみに抗うには、泣くより笑うほうが簡単だからだ。
それで気持ちは楽になるだろう。周囲も無駄な心配をしなくなるだろう。でも――それはどう覆い隠してみても、『嘘』なのだ。
他人につく単純な偽りではない。自分自身の全てを否定する、悲観的な偽り。
「これからでも、遅くないんじゃないか?」
「そうですね。そうかもしれません。そうだと……いいんだけどな」
エルルゥにとって一番大切だった存在、ハクオロはもう逝ってしまった。
ハクオロに仕えていた女傑、カルラも既に現世にはおらず、アルルゥとトウカもまた、どこで何をしているのか分からない。
生きているのは、自分だけなんじゃないか。
今日の――自分の身の周り以外で起きた――出来事が全部夢だと思えるのなら、それは逆に、自分の認識全てが嘘だったというパターンにも繋がる。
ハクオロも、カルラも、トウカも、アルルゥも、本当はもう……そう考えてしまう自分が、とてつもなく嫌になった。
それでもエルルゥは、笑っていた。
笑っているほうが、泣いているよりも楽だから。
泣いているよりも、笑っているほうがロックも安心できるから。
「エルルゥはさ、なんでそんなに無理するんだ?」
「え?」
唐突な言葉は、エルルゥの頬を僅かに硬直させた。
無理、という単語に反応し、身体がなんらかの危機信号を発している。
手元がビクビクと振るえ、怯えを感じているのを自覚した。でも、その理由が分からない。
「無理って……そんな、全然ムリなんてしてませんよ〜。それより、ロックさんもそろそろ休んでください。私は、もうちょっと空を眺めていたいから……」
「俺、聞いたんだよ」
おどけた笑顔はどこか痛々しくて、それと正面から顔を合わせるロックの表情も、どこか辛そうだった。
「三回目の放送が流れるちょっと前だったかな……泣いてたんだ、女の子が。
その声の主は、凄く悲しそうに泣いていた。心の底から、悲しい気持ちを洗い流すために泣いていた。……俺にはそう聞こえた」
誰かはあえて言わず――言わずとも、エルルゥにはそれが自分のことを言っているのだと理解できた。
自暴自棄になってしまったエルルゥが、ハクオロの死を認め、生きるための決意をした、その際の涙。
あの時の涙は、きっと生涯――過去はもちろんこれから先もずっと――で最高、いや最低の、悲しい涙になることだろう。
祖母トゥスクルが逝った時よりも、故郷のみんなが逝った時よりも、ずっとずっと、悲しかった。
「……ハクオロさんは」
エルルゥは、まだ笑ったままの状態を保っている。
笑顔をそのままに、視線だけ僅かに落として、単調な声で言葉を紡いだ。
「家族でした。ハクオロさんは、大切な人でした。ハクオロさんは、強い人でした。ハクオロさんは、優しい人でした」
ハクオロ――エルルゥの父が持っていたその名は、いつからか最愛の人の名になった。
「村や、国の人みんなのことを気遣って……敵だったトウカさんや、怪しさ満点だったカルラさんをあっさり仲間にしたりしちゃって。
王様のはずなのに、みんなでご飯を食べることに拘ったり……私が公衆の面前で失敗しちゃったりしても、笑って許してくれたり……」
エルルゥ――ハクオロの娘であったその名は、いつからか。
「……本当は、私だけを見ていて欲しかった。……ううん、違う。それは本心なんかじゃない。
私はただ、あの人の傍で支えてあげたかったんです。周りに女の人がいっぱいいたって、好色皇だなんて呼ばれててもいい。
ハクオロさんがいて、アルルゥがいて、私がいて、みんながいて、トゥスクルで平和に過ごして……ただ、それだけで満足だったのに」
ハクオロとエルルゥ――二つの名が持つ接点を語るには、時間も表現力も理解力も、何もかもが足りなかった。
思いを言葉にするのは難しい。それを人に伝えるのはもっと難しい。
それでも、ロックは。
「あの時みたいに、また泣けばいいじゃないか。笑う必要なんてない。悲しければ泣けばいい。だって、そのほうがずっと楽じゃないか」
辛いから笑うんじゃなくて、辛いからこそ泣けばいい。
ロックが示した答えは、エルルゥとはまるで正反対の考えだった。
「そんなこと……できませんよ。沙都子ちゃんやしんのすけくんも寝てるし、ロックさんにだって迷惑がかかっちゃう」
「二人とも熟睡している。だから目覚める心配もない。俺だってこれから寝る。
眼は瞑るし、耳も塞ぐ。だから、誰かの泣き声を気にするようなこともない」
それだけ言って、ロックは宣言どおりに瞼を閉じ、耳を両手で塞いだ。
そのまま木陰に寄りかかり、エルルゥから顔を背ける。それ以降、まったく反応は示さずに。
「そんな……」
放置されたエルルゥは、見る者がいなくなってもまだ笑顔でいた。
ふと、誰も見ていないのに笑顔を作る自分に違和感を感じて、緩みっ放しだった頬を微かに強張らせる。
「……ハクオロさん」
三人の寝息しか聞こえてこない森で、エルルゥはまたその名を呼んだ。
「ハクオロさん、ハクオロさ〜ん」
意味はない。呼んでも返事が返ってこないことは、重々承知している。
「ハクオロさん……」
それでも、呼ばずにはいられなかった。
「ハクオロ……さん」
不思議な、呪文みたいな言葉。
それはただの名前。
ただの、大好きだった人の名前。
「うっ……」
笑顔は、いつの間にか壊れ始めていた。
「うっ……っ…………うっ……あ……あぁっ…………」
笑顔は壊れて、涙が流れてしまったら――それはもう、笑っているとは言えない。
「あぁ……くっ…………ふぇ…………ぃ…………っ…………う、ぁ」
慟哭が、小さくなって大きくなって、大きくなって小さくなって、
「――うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっん!」
エルルゥは、泣いた。
――ハクオロさん。
――私、また泣いてもいいですよね?
――これからも、あなたのことを思い出すたびに泣くかもしれないけれど。
――笑って、許してくれますよね?
――許してくれたら、私、きっと頑張れるから。
――頑張って、生きていけるから。
――あなたが傍にいなくても、私は、きっと大丈夫だから。
――だから。
――ときどきでいいから、悲しむことを、泣くことを許してください。
――私に、生きるための力をください。
――それと、もう一度だけ。
――あなたの名前を、呼ばせてください。
「ハクオロさん……」
◇ ◇ ◇
【ロックの場合】
「クソッタレ……」
泣き疲れて眠ってしまったエルルゥは、最後にもう一度だけ、最愛の人の名を口にした。
さっきまで明るく振舞っていた頬は涙の雫に濡れ、悲愴感を漂わせていた。
痛々しいとも、可哀想とも、違う。
ただただ込み上げてきたのは、彼女のような悲しみを生んだこのパーティーへの怒り。
「ブラッド・パーティーどころじゃない。これは、ただ悲劇を作るだけのデス・ゲームだ」
参加者がレヴィやロベルタのような、ドンパチ好きのバカヤローばかりならこうはならなかったろうに。
戦闘狂共が勝手に騒いで、勝手に血飛沫をあげるだけならブラッド・パーティーでまだ済んだ。
なのに、このパーティー会場にはむしろ戦いを望まない者のほうが多い。
知人の死に涙し、恐怖し、錯乱する。
そういった『一般人』が多く集めれているからこそ、この殺し合いはブラッド・パーティーなどという言葉では括れない。
80人の参加者が、たった一つの優勝者の席を廻って殺し合う。
そこにはちゃんと、殺す者と殺される者がいる。
ルールに基づいた馬鹿遊戯――正真正銘の死のゲームだった。
エルルゥや、しんのすけや、沙都子も、戦う力を持たない被害者だ。
餅は餅屋、殺し合いなら普段から銃を握っているロアナプラ連中を集めてやればいい。大半が大喜びで乱舞することだろう。
「……もう誰も、悲しませたりなんかしない。俺が、絶対に」
それはヒーローのような――いや、違う。
これは、単なる偽善者の思考だ。
目の前に守ってあげなくちゃいけない人たちがいる。
その人たちはとても可哀想な境遇に置かれている。
自分と彼等は別段親しい関係ではない。
それでも、放ってなんかおけるかよ。
反吐がでるような綺麗事だった。
教会でこの志を口にすれば、マリア様から慈悲のひとつでも貰えるかもしれない。
そんなものは、いらない。
たとえ偽善者と馬鹿にされようが、アマちゃんだと罵られようが、どうでもいい。
やりたいからやる。
こう生きなければ、俺は死んだも同然だ。
「レヴィ、お前はこんな俺を笑うかい? ……笑うだろうな。大あまだ、って」
失笑は強い決意に変わり、ロックはこうありたいと願った。
エルルゥを、しんのすけを、沙都子を、三人とも絶対に守ってみせる。
「それができなきゃ、俺は本当のバカだ」
ヒーローでもなんでもない。ただの語学達者な元商社マン現運び屋。
そんなロックが、星に願うことはただ一つ。
「俺は、俺を枉げたくない」
信念は強く、志は高く、決意は深く。
悲しみを乗り越えた四人は、長かった一日をようやく終える。
――始まるのは、デス・ゲームの二日目。
【A-5西側/1日目/真夜中】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:若干疲労
[装備]:ルイズの杖@ゼロの使い魔 、マイクロ補聴器@ドラえもん
[道具]:支給品一式×2、黒い篭手?@ベルセルク?、現金数千円
:びっくり箱ステッキ@ドラえもん(10回しか使えない。ドア以外の開けるものには無効)
[思考・状況]
1:朝までこの場で休息。それまでは見張り番として起きている。
2:全員が起床後、病院へ向かう。
3:沙都子を助けたい。
4:ギガゾンビの監視の方法と、ゲームの目的を探る。
5:山の麓にいるというガッツを警戒。
6:しんのすけ、君島、キョンの知り合い及びアルルゥと魅音を探す。
7:しんのすけに第一回放送のことは話さない。
8:一応、鞄の件について考えてみる。
[備考]※ケツだけ星人をマスターしました
※病院での一件をエルルゥにまだ話していません
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:睡眠中、全身にかすり傷、頭にふたつのたんこぶ、腹部に軽傷、歩き疲れ
[装備]:ニューナンブ(残弾4)、ひらりマント@ドラえもん
[道具]:支給品一式 、プラボトル(水満タン)×2、ipod(電池満タン。中身不明)
[思考・状況]
1:朝まで寝る。
2:お兄さん(ロック)とお姉さんについて行く。
3:みさえとひろし、ヘンゼルのお姉さんと合流する
4:ゲームから脱出して春日部に帰る。
[備考]放送の意味を理解しておらず、その為に君島、ひろしの死に気付いていません。
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:睡眠中、若干疲労、右足粉砕(一応処置済み)
[装備]:スペツナズナイフ×1
[道具]:基本支給品一式、トラップ材料(ロープ、紐、竹竿、木材、蔓、石など) 簡易松葉杖、どんな病気にも効く薬@ドラえもん
エルルゥの薬箱@うたわれるもの(筋力低下剤、嘔吐感をもたらす香、揮発性幻覚剤、揮発性麻酔薬、興奮剤、覚醒剤など)
[思考・状況]
1:朝まで休息。
2:ロックとしんのすけを『足』として利用し、罠を作るための資材を集める。
3:十分な資材が入手できた後、新たな拠点を作り罠を張り巡らせる。
4:準備が整うまでは人の集まる場所には行きたくない。
5:生き残ってにーにーに会う、梨花達の分まで生きる。
6:魅音とは会いたくない。
【エルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:睡眠中、かなりの肉体的、精神的疲労(若干回復)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ロックから譲渡)
[思考・状況]
1:朝まで休息。
2:沙都子を助けたい。
3:トウカ、アルルゥ等を探す。
[備考]※ハクオロの死を受け入れました。精神状態は少し安定しました。
※フーとその仲間(ヒカル、ウミ)、更にトーキョーとセフィーロ、魔法といった存在について何となく理解しました。
「あまり良い結果とはいえないが、仕方ないか……」
ルイズに、ホテル付近から舞い上がった少女が突撃していく光景を見ながら、
淡々とグリフィスは独白した。
ホテルから遠く離れたビルの屋上にグリフィスはいた。
常人なら見えるはずもない遠距離からであるが、戦場で一人一人の顔を見極める
鷹の異名を持つ男にとっては、難しくない。
人外の技を持った人間達が集められたこのゲーム。一人や二人、ルイズと同じような技を使う人間がいても
おかしくはない。
故にその人間によって迎撃される可能性、また空からの奇襲という目を引く行為に対して横槍が入る可能性、
どちらも考慮していた。
無論、ルイズがホテルを首尾よく破壊できるのが最上であるが、あらゆる可能性について考慮し、
事前に対応策を練っておくことを怠る者は愚将というものだ。
(凄まじい力だな。不死者のゾッドすら倒しえる力だ)
魔女二人は噛み合い、もつれ合いながら色とりどりの光弾と光条を放つ。光花が空に咲き乱れ、
夜を赤々と染め上げる。
あの小さな幼い身体の何処にそんな力が秘められているのかとグリフィスは考える。思考しつつも、
飛び回る少女の動き、
その攻撃パターン等を淡々と記憶していく。
やがて、少女達がホテルから離れ出した。
ルイズは最低限の仕事は果たしてくれた。あのホテルがもうもたないことは明らかだ。熱烈な自殺志願者でもなければ、
崩壊する城に留まる者はいない。中にいた者達は、沈む船から脱出すべく外に出てこざるを得ないだろう。
その際に敵戦力を測る。
何人いるのか、どんな人間で構成されているのか、装備は何か……。敵戦力の把握は戦の基本であり、
その精度は生死を分ける。
ホテル周辺を俯瞰でき、魔女達の戦闘に巻き込まれる可能性の少ない、それでいて魔女達の行方も見失う事がない場所。
この三つを兼ね備えた場所の検討を、数十秒黙考しただけで終わらせ、グリフィスは白銀の髪をなびかせながら、
移動を開始した。
地図と目視で、戦場を俯瞰するに最適な場所を見つける行為は、指揮官として幾多の戦場を駆けてきた
白き鷹にとっては容易い事。
(あの魔女達の力は俺の予想より遥かに大きい。迎撃に出た魔女に関連する動きは、最優先で把握すべきだな)
天空を舞い、己の常識を超えた破壊の力を行使する魔女の技を目のあたりにしても、白き鷹の足取りに揺るぎはなく、
その心の水面には波一つ立っていない。
――人ならば殺せる
正面からというのは嫌いではないが、それだけでは限界がある。正面から殺せないから、
背後から殺せばいい。隙がないなら夕餉の席で隣の席に座って毒を垂らせばいい。
夕餉の席で隣にするためにはどうしたらよいか? 簡単だ。相手の心をその手に握ればいい。
相手が自分に敵意を向けてくるなら、畏怖や恐怖に育てる。好意を抱いたなら、信頼や友情に育てる。
無敵の人間など存在しない。必ずどこかに付け入る弱みや隙がある。
今、ホテルを襲っているルイズ等はその典型だ。サイトとかいう男に対する強い執着。
それをあそこまで目に見える形で示してくれると非情に楽だった。後はそれを利用してやればよかった。
人身掌握の技など、一度身に着けてしまえば、後は呼吸をするようなものだ。
体が勝手に最適な態度、言葉を自然と紡いでくれる。そうやって今まで数多の心の束をその手に握ってきた。
失敗したことは一度もない。ただ、一度の例外をのぞいて。
――とくん
心臓の音が鳴った。
嘆息を一つ。
否定しても無駄だということは分かっている。
唯一手中に収められなかった男。
収めるどころか、何時の間にか逆に自分を掌握していた男
本当の意味での友であり、友愛の感情を持て余すほど惹かれる男。
思い出すだけで、これほど自分を揺さぶる男。
――ガッツ。
ガッツは自分を狂わせる。
一度でも彼を甘受してしまえば、手放すことが惜しいほどの執着心が沸き起こる。
彼の輝きは、自身の理想を覆い尽くすほどにギラギラと目に付き刺さる。
奴だけが俺に夢を忘れさせることができる。
――だから殺す
遊びをまた始めるために。
二度と止まることなく、天空の城を目指し、頂に屍を積み続けるために
一切躊躇うことなく、金輪際振り返らず、自分の夢を裏切ることがないように。
枷から自由になり、もう一度白き鷹として舞うために。
「ガッツ……。俺は、お前を殺す」
白き鷹は決意を口にすると、歩き去った。
「くそっ……。がぁぁあ!!」
ようやく左手と首を瓦礫の外に突き出すことに成功し、
ガッツは大きく息を吸い込んだ。視界の3メートルほど先には粉々に砕けた窓。
ヒビの入った壁に、瓦礫。風が吹き込むお陰で粉塵は晴れているが、
脱出に役立ちそうなものは見当たらない。
(やれやれ……。死霊に襲われねえから、今夜は久しぶりにゆっくり眠れると思ってたらこれか)
唇を吊り上げ、ガッツは凶暴な笑みを浮かべた。
不運続きなのはいつものことだ。烙印を刻まれたあの日――いや、それよりもっと前から
世界というのは自分にとってこんなものだ。別にどうということはない。
――――危ない! みぃちゃん!
静寂を裂く叫びがガッツの耳朶を打った。
声には聞き覚えがあった。ひかる、とかいう赤い髪のガキだ。
場数をくぐった物腰をしている割には、やたら真っ直ぐな目をしていたのが記憶に残っている。
続いて、
――炎の――矢ァァーーーーー!!
気合の声が聞こえた。
(魔法ってやつか……)
魔法というものの存在など信じがたいことだが、
実際に髪を二つに結ったガキが使ってみせたのだから信じるしかない。
(敵か……。しかし、魔法なんてもんをいきなり使わなきゃならねえってのは、
敵の数が多いのかそれともあのガキじゃかなわねえような敵か……)
いずれにしても、ボヤボヤしている場合ではなさそうだ。
ガッツが体に力を入れ直したその時、
――フフフ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハ
狂気と愉悦が入り混じった、人の恐怖を本能的に掻き立てる笑い声に、
ガッツは戦慄する。
(こりゃ……。人じゃねえな、別のもんだ)
烙印は反応していない。だが、ガッツには分かる。毎夜毎夜切り
殺してきた化け物達と同類だということが、はっきりと分かる。
ガッツの唇が弧をを描いた。
総毛立つような感覚は、瞬く間にドス黒い殺意へと変貌していく。
(まさか別の世界に来てまで、使徒もどきと出会うことになろう
とはな。いいぜ……。このドス黒い塊を吐き出せるなら何でもいい。
相手になってやるぜ。化け物!!)
ガッツは瓦礫の下にある右手で握った大剣の柄を折れよとばかりに握り締めた。
ドラゴン殺しほどではないが、この鉄の塊ともいうべき大剣は化け物を相手にしても不足はないだろう。
(何にしても、まずこっから出ねえと話にならねえ……)
満身の力を込めて、体を捩るがなかなか体が前に出ない。舌打ちしつつガッツはさらに力を込める。
――光! 今はあんな奴放って置いて避難しよう! このビルだって、
何時崩れるか分からないよ!
(そうしろ……。ガキの出る幕じゃねえ)
聞き覚えのない声であることが少しひっかかったが、ガッツは胸中で同意の呟きをもらした。
おそらく、あの赤髪のガキでは荷が重い。しかし、聞こえてきた返答は、
――駄目だよみぃちゃん! こいつを放っておいたら、ホテルにいる皆が危ない!
(はっ! てめえの力量もわきまえずに英雄気取りか。戦場で真っ先におっ死ぬ類だな)
そう心の中で冷笑の言葉を投げつけつつ、ガッツは何故か焦りを覚えている自分に気づき、
苛立ちを感じた。
――ならばそろそろ……始めるとするかッ!
雷鳴の如き化け物の咆哮が轟き、その後、かすかに聞こえてくるのは、
光の苦戦を伝える音ばかり。ガッツの苛立ちは収まるどころか益々増していく。
(何をイラついてやがる? 少し話しただけのガキがくばりそうだから何だってんだ。
今までだってそうしてきたろうが。自分の命さえ自由にできない奴なんぞ、
くたばりゃいいんだ!)
苛立ちを抑えられない自分に腹が立ち、自分で自分に怒声をぶつける。
思い浮かぶのは親切心で自分を馬車に乗せたばかりに、
刻印に引かれた死霊に惨殺された修道士とその娘。自分が使徒とやりあった巻き添えで滅んだ町。
無念の表情で死んでいった、男の、女の、老人の、子供の赤ん坊の顔、顔、顔……。
(そうだ。また一人死ぬだけだってのに、何をオタついてやがる。今更……)
だが、ガッツの体は主の葛藤とは無関係に足掻き続ける。背筋で、腕力で、
必死にのしかかった瓦礫を跳ね除けようともがき続ける。無茶な方向に力を入れすぎたせいか、
義手の付け根から血が流れ出している。
だが、痛みなどまったく感じない。
感じるのは焼けるような焦燥と自分に対する苛立ち。
外が急に静けさを取り戻し、ガッツの体は凍りついたように動きを止めた。
全身系が耳に集中しているのが分かる。心臓の音がやたらにうるさい。
――どうした? 貴様の友は及ばずながらも懸命に戦ったぞ?
どうした?? まだ仲間がひとりやられただけだ。どうした!
早く立て。武器を構えろ。私に一矢報いて見せろ!
HURRY! HURRY! HURRY!!
(野郎……)
殺意がマグマのように吹き上がり、ガッツの奥歯が砕けんばかりに噛み締められた。
――ひィっツ
先ほど聞こえた光とはの別の女と思しき、ひときわ大きな悲鳴が聞こえて数瞬後。
――それ以上みぃちゃんに近寄るなッ!
安堵感とおぼしき感覚と同時にその数倍の怒りが湧き上がる。
(そのままやられたフリしてろってんだ! 気を引いてどうする!!)
大体、その「みいちゃん」とかいうのは一体誰だ? あの二つに髪を縛ったガキは、
『なのは』とかいう名前だったはず。大方、捜索に行ったときに知り合ったのだろうが、
そんな奴のために自分の命をかけてどうする?
――うわあっ!?
ひときわ大きな光の悲鳴を最後に静寂が満ちた。
(死んだか……)
ガッツには分かった。生まれてからほとんどの時間を戦場で生きてきた。
そのせいか、人の生死には鼻が利く。こういうカンが働いて外れたことはほとんどない。
――何もできなかった
「救いようがねえガキだ。お人よしがすぎて、とうとうくたばりやがった……」
どくん、どくんという心臓の鼓動音がガッツの耳を埋め尽くしていく
忘れられぬあの日の光景がガッツの脳裏に浮かび上がり、
頭の中でちかちかと明滅する。
その光景から逃れようとするかのように、ガッツは言葉を続ける。
「何が、『皆が』だ。たまたま集まっただけの奴等のために命張るなんざ、
考えなしのやるこった。こっちは何とも思っちゃいねえってのによ……」
足元を流れる血の川と、それに浮かぶ人の残骸。
言葉を交わしている途中、頭がいきなり破裂したガストン。
ガストンの頭から現れたゲラゲラ笑う異形の化け物。
自分の悲鳴と仲間の名前を絶叫する声。
――俺はまた、何も……
仲間の体を喰らい、引き裂き、踏み潰し、すりつぶし、放り投げ、突き刺し、振り回し……
陵辱の限りをつくす化け物達。空間を埋め尽くす化け物達の笑声、嬌声、唸り声。
ナメクジの化け物に背中から喰われていたピピン。
首だけになって化け物の口に入っていたコルカス。
顔面と胸と腰を喰われていたジュドー。
そして。
「キャス……」
無意識に口から漏れたその名が音となって鼓膜を揺るがした瞬間、
荒れ狂う憎しみの渦と灼熱のような怒りがガッツの胸を瞬時に埋め尽くし、
殺意が全てを真っ黒に塗りつぶした
「――っっ!!」
声にならぬ絶叫がガッツの口から漏れた。
気が狂ったように身を捩り、義手の付け根が左手の肉に食いこみ血が滴るのもかまわず、
思い切り背骨が折れてもかまわぬとばかりに背を逸らす。
しかし、ガッツの身を押さえつけている一枚の巨大な瓦礫が邪魔をし続ける。
腕の骨と筋肉がめきめきと音を立て、背骨の痛みが電流となって脳髄に突き抜ける。
それでもガッツは身を捩る事をやめない。
しかしついに限界が訪れ、ガッツの体は瓦礫と共に床に叩きつけられた。
「ぐがっ! ぐるあぁぁ……」
獣のようにうなり声をもらすガッツに、
「いいザマです、デカ人間」
嘲笑うような声が飛んだ。
瓦礫の影から、埃に塗れた人形の顔が姿を現す。
その手にはしっかりと銃が握られていた。
「いい格好じゃねえですか、デカ人間!」
嘲笑いながら翠星石は歩を進めた。
馬鹿な人間二人をほうっておいて脱出しようと下に来てみたら、
デカ人間が瓦礫に挟まれてもがいていた。
おかしくてしょうがなかった。
あんなに威張り散らしていた人間が無様な格好でジタバタ暴れることしかできなくなっている。
(翠星石をあんな目にあわせてくれやがったから天罰が下ったんですぅ)
どうしてやろうか? 復讐の方法は色々考えつくが――
まずは気になることがある。
「さて、状況は分かっているですか? デカ人間。今からいくつか翠星石が質問するですから、
その質問に素直に答えやがれです。もし、答えなかったり嘘をいったりしたらどうなるか、
いくら知能が低いお前でも分かるですね? 素直に答えて、翠星石にはたらいた無礼について、
心を込めて謝るなら、水に流してやらんこともないです」
銃をつきつけ、酷薄な眼差しでガッツを見ながら、翠星石は言った。
無論嘘だ。
放送の内容を聞いたらデカ人間は始末する。
人間はどいつもこいつも信用ならない。か弱くて無邪気なフリをしたり、善人のようにふるまったりするが、
裏では汚いことを考え、隙あらば翠星石を殺すことばかり考えている奴等だ。
水銀燈を殺すために駒は必要だから、デブ人間と絶対服従する奴なら仲間にしてやらないこともないが、
他の人間は全部殺さないといけない。
そんなことを考えながら、翠星石はデカ人間から答えが返ってくるのを待つ。
だが、デカ人間は無言だった。
目を閉じ、荒い息をしているだけでこちらを見ようともしない。
翠星石の秀麗な顔に険が走り、瞳に怒気が走る。
一発ぶち込んで、自分の立場を分からせてやろうか、という凶暴な思いが湧きあがってくる。
大きく息を吐き、翠星石は怒りを息と共に吐き出そうと試みた。
(まだ後に、水銀燈達がいやがるです。デカ人間なんかに無駄弾使う余裕はねえです)
銃を構え、翠星石は口を開いた。
「さっきの放送で――」
そこで一度翠星石は言葉を切る。
その言葉を口にするのはやはり、勇気が必要だった。
「蒼星石、真紅、という名前が呼ばれたかどうか、答えるです」
口に出した瞬間、震えが来た。
万が一『呼ばれた』という答えが返ってきたらと思うと、怖くてたまらない。
(呼ばれてないって言えです。早く言えです。それ以外の答えなんか認めんです!)
喉がカラカラに渇き、胸がしめつけられるような感覚が襲う。
答えは――
返ってこなかった。
翠星石の感情が急速沸騰した。
「早く言いやがれですぅ! お前は耳がついとらんのですか!? 本当にぶっ殺してやるですよ!?」
喚き立てる翠星石の眼前で、男が目を見開いた。
「ひっ!」
翠星石の口から小さい悲鳴が漏れた。
続いてその体がおこりのように震え出す。
「ひぃぃぃぃやぁぁぁっ!! 来るな、来るなですぅぅ!!」
つんざくような絶叫を上げながら、翠星石は壁まで後ずさった。
(何ですかこいつは!? こいつは、人間なんかじゃない。人間なんてものじゃないです)
こうしているだけで魂を直接火で焼かれているようだ。怖くて怖くて仕方ない。体が震えて動く事もできない。
男の目には火が渦巻いていた。怨嗟、狂気、殺意、憎悪……。ありとあらゆる負の感情が、
どす黒い炎となって吹き荒れ、大渦を巻いている。
(殺される、殺されるです。ここにいたら絶対殺されるです)
手に持った拳銃がカタカタと音を立てる。震える手を壁に手をついて、必死で立ち上がる。
ガタガタ震えてまともに動かない足を必死に動かそうとする。
これほど怖いのに、一瞬たりともこの怪物の瞳から目を逸らす事ができない。
逸らしたらその瞬間に飛び掛ってきそうな気がして……。
その時爆音が響き渡った。
びりびりと振動が伝わってきて、窓枠にわずかに残ったガラスを震わせた。
「な、何だっていうんですぅ……」
最早虚勢を取り繕う事もできず、涙ぐみながら翠星石は震える声で独白した。
目の前の怪物に気を取られていて気づかなかったが、そういえば外から物音が聞こえてくる。
窓枠に手をかけ、何度も何度も怪物を確認し、翠星石は意を決して外を見た。
遠くの暗がりの中に人影が見える。誰だ? 見覚えがある気が……
「わあぁぁぁぁぁぁああああああ!?」
パニックに陥った翠星石は悲鳴をあげ、頭を抱えて座り込んだ。
(何で、何で外に魅音がいるですか!? どうして、どうして!?)
前には人の形をした怪物、後ろには水銀燈の手下。
――いや、すべては水銀燈の罠だ
ゲームが始まって以来、疑心暗鬼によって蝕まれ続け、消耗しきった翠星石の精神は、
あっという間にその考えに取り付かれた。
(蒼星石! 真紅! 助けに来てです!! みんなグルになって翠星石を殺そうとするのです!
蒼星石!! 助けて……)
既に二人ともこの世にいないということも知らず、涙を流しながら、
翠星石は二人の名を必死で呼び続ける。
翠星石のヒビが入った心は、今にも砕け散ってしまいそうだった。
――君は一人で歩ける強さを、もう、ちゃんともってる
「蒼星石……」
耳の奥に響いた声に、涙に濡れた顔を上げた。
翠星石は思い出す、蒼星石を失った日のことを。
ローザミスティカを奪われ、落下してきた蒼星石を受け止めた時の恐怖。
目のまで動く事も話す事もできなくなっていった蒼星石。
悲しかった。蒼星石の声がどんどん小さくなって行くのが悲しくてたまらなかった。
怖かった。蒼星石が動かなくなってしまうのがたまらなく怖かった。
自分の中の何かが壊れてしまったようにひたすらに涙が溢れて止まらなかった。
でも、蒼星石はもっと怖かったはずだ。
自分の体が動かなくなっていくことが、声を出すことができなくなっていくことが。
それなのに。
――また、泣いてるの?
そう言って、自分の涙を拭いてくれた。
いつものように優しく、思いを込めて。
(泣いてる場合じゃ……。ねえです)
このゲームが始まった時、自分は決意したはずだ。もう一度、蒼星石と会うと。
「この姉に会うまで無事でいるですよ。蒼星石」
宣言するように、この世界に連れてこられた時、自分の口から漏れた言葉をもう一度繰り返す。
そして言葉を紡ぐ。誓いを立てるように
「一緒に帰るですよ、蒼星石。今度はこの姉が、きっと守ってやるですから」
――そんで、ずっとずっと一緒にいるです
だから、今は泣いているわけにはいかない。強くあらねばならない。
「翠星石は、水銀燈をぶっ殺して、蒼星石を守るのです! だから、手下のお前如きに……。
びびってるわけにはいかねえんです!!」
恐るべき目の前の怪物に翠星石は決意の言葉を叩きつけた。
すると、翠星石の目の中で怪物が人間の男の輪郭を取り戻していくではないか。
(そうです! こいつは怪物なんかじゃねえのです。ただの人間です!)
ただの人間如きに勝てなくて、どうして水銀燈に勝てるというのか。
翠星石は、銃を構えた。
憎悪と殺意の塊となった男は、自分に敵意を向けてきた人にあらざるものを破壊しようと、ただ力を溜めていた。
部屋の外で行われている激闘の音もすべて意識の外においやり、目の前にいる、
人でないものに己の中の行き場のない獰猛な黒い塊を叩きつけるべく、火を飲み込む思いでひたすら待っていた。
己の中の全てを解き放つ瞬間を。
ただ、ひたすらに。
翠星石は唇を噛んだ。
(狙うところが少ないですぅ!)
男の体のほとんどは瓦礫の下にあるので露出している部分自体が少ない。
そしてその露出部の大半を、男は義手でガードしている。
左腕の義手でない部分を狙うという選択肢もあるが、手持ちの拳銃の弾は残り5発。
無駄にはできない。
「くたばりやがれです!」
弾丸は外れた。
翠星石の拳銃の腕はお世辞にも良いとは言えない。
にも関わらず、小さな的を、震える手で撃っているのだから、当たらないのは当然か。
「今度は、ちゃんと狙って……」
照準。発砲。
床で跳ねた弾丸が、男の右耳をこそぎ落とした。血がとめどなく流れ出し、床を赤く染めていく。
男がわずかに身じろぎし――それだけだった。わずかに身じろぎをしただけで、
男は憎悪と殺意を滾らせた瞳で翠星石を見つめ続けた。
魂をわしづかみにされたような感覚を覚え、翠星石は思わず自分の体を抱きしめた。
何故拳銃の的にされるような状況におかれながら、この男はこんな目で自分を見ていられるのか。
痛みを、恐怖を感じていないのか。
――本物の怪物なのか
(化け物だろうと負けねえです! 今度こそ、今度こそ当てて……)
自分で自分を叱咤し、体を這い登る震えと戦いながら、翠星石はもう一度照準を定める。
(もう少し、近づいて……)
――男の姿が消えた
虚をつかれ思わず硬直した翠星石に鉄の五指が迫る。
突如腕が力を失って下に落下。
続いて轟音。男の体が床に叩きつけられた。
半瞬遅れて、翠星石の体が後方に飛んだ。床にへたり込み、襲ってくる恐怖の悪寒と戦いながら、
翠星石は何が起こったかを必死に思考する。
答えは簡単だった。
男が義手の手一本で体を起こし、支えをなくして落下するわずかの時間を利用し、
翠星石に向かって手を伸ばした、ただそれだけ。
義手と床の隙間から見える男の顔にばかり集中していたため、消えたように錯覚したというわけだ。
このチャンスに賭けて、身じろぎもせず自分が近づくのを狙っていたというのか。
(大した野郎です。でも、これで翠星石の勝ちは決まったです)
まずは距離。男の義手が届く範囲から余裕を持ってはなれる。
次に場所。一番狙いやすくて足場がいい場所を探す。
(こいつは、翠星石がこの距離にいる限り、どうにもできねえです。それは間違いないのです)
恐怖が嘘のように引いていくのを翠星石は感じた。
もう体は震えない
いくら凄い目で睨んだって、この男は自分をどうすることもできない。
そうと分かれば、何をあんなに恐れていたのかという気になる。
(さっさと終わらせて、魅音も殺ってやるです。早くしねえと、どっかに行っちゃうかもです)
そんな思考すら浮かんできた。
最期に姿勢。足を踏ん張り、体がぶれない姿勢を取る。
全ての準備を整え、指を引き金にかける。
「何か言い残すことはあるですか? 聞いてやらん事もないです」
答えはなかった。
翠星石の顔が歪んだ。
「ああ、そういう態度を取るですか! じゃあこれで、さよならです!!」
照準。翠星石は引き金に触れた。
男の体が持ち上がった。
発射音が――
――響かなかった。
男は待っていた。
人間にあらざるものが間合いで完全に静止した姿勢を取るのを。
そして、その人にあらざるものが静止し、殺気を放った瞬間、男は力を解き放つ。
右手を瓦礫の中から引き抜き、手の中のナイフを渾身の力を込めて投擲した。
流星の如く飛んだナイフは――
――人ならざるものの頭上を越え、壁に突き刺さった
「やっぱり奥の手を隠してやがりましたです! でも、見切ったです!」
瓦礫を何度も持ち上げるくせに、右手を出さないことが不審だった。
義手で狙ってきた攻撃も、良く考えるとひっかかった。
だから銃を撃つと見せて、ペタリと伏せ、男が奥の手を吐き出すのを待っていのだ。
(翠星石の、勝ちです!)
翠星石の顔が喜色に輝き、両手が銃を探る。
しかし、だん、という音に思わず翠星石は硬直してしまう。
(右手ですぅ!?)
男は右手で体を支えている。じゃあ、自由になった左手はどこに?
氷槍が翠星石の背筋を貫いた。
(切り札がまだあった!? 嵌められた!? 銃を撃つ!? かわす? どこに?)
思考が乱れ、迷いが生まれた。
迷いは、銃を撃つという慣れない行為をさらに遅延させていく。
瓦礫の中に差し入れらた、男の左手が姿を現した。
その手の中には長大にして重厚な剣の柄。
剣が高速で弧を描く。弧の終点は人でないもの。
剣の重さで左腕の筋肉がきしみ、剣、肉体、円運動を支える右手が悲鳴を上げる。
だが、男は迷わない。
ただ自分の中で燃え盛る黒い炎を解き放ち、人ならざるものを破壊し、斬り砕く。
それだけを願う。
翠星石と男の違い、それは思考の違い。
翠星石は途中から、男の奥の手を破ってやろうという考えに囚われた。
故に迷いが生じ、遅れが生じた。
男は人ならざるものを誘い込んだ後は、破壊する事のみを考えていた。
故に迷いなく、遅れなかった。
壁一枚を挟み、ほぼ時を同じくして行われた戦闘は、奇しくも同じ要素が勝敗を分けた。
「があぁ!!」
男の咆哮が轟き、攻城槌のような破砕音が夜を渡った。
『――翠星石、翠星石』
懐かしい声に呼ばれ、翠星石は目を開けた。
その目に映ったのは、青いシルクハット。そして自分を見つめる碧と赤の瞳。
『蒼星石ぃ! 来てくれたですね』
跳ね起きるように飛び起き、翠星石は蒼星石に抱きついた。
『翠星石よりまた先に行っちゃったから、これくらいはと思って』
そう言って、蒼星石は翠星石の手を取った。
『じゃあ、行こうか』
蒼星石に促されるまま、嬉しそうに歩きながら翠星石が口を開く。
『何処へ行くですか?』
『……少し騒がしいけど、そんなに悪くない所だよ。ジュン君も真紅も先に行って待ってる』
ぷ―っと翠星石の頬が膨らんだ。
『翠星石を置いて先に行くなんて、ふてえやつらです。蒼星石、早く行くですぅ』
『はいはい』
腹立たしそうに、ズシンズシンと効果音がつきそうな歩き方で歩いていた翠星石は、
ふと、思いついて足を止めた。
『デブ人間も連れて行くです』
『……デブ人間?』
『泣き虫で、短気でその上乱暴な、どうしようもねえやつです。しゃぁーねぇから翠星石が
面倒をみてやったやつなのです! きっと今頃ピーピーみっともなく泣いてるにちがいねえです』
『そうなんだ……。いい子なんだね』
『何を言ってるですか!』
翠星石は腕組みをし、声を張り上げた。
『ありえんことにチビ人間よりも頼りない奴です。あんなに情けない奴は、今だかつて見たことねえです。
国宝級の駄目人間なのです。だから翠星石がついていてやらんといかんのです!』
戻ろうとする翠星石の手を、そっと握ると、
『今回は、やめておかないかい? その子にだって都合があるだろうし』
蒼星石は柔らかく静止の言葉を発した。
『でも……』
『その子と一緒じゃなきゃ、嫌かい? 行きたくない?』
心配そうに何度も来た道を振り返る翠星石を見て、蒼星石は困ったような顔つきで尋ねた。
蒼星石の言葉に翠星石は振り返る。
そしてまじまじと蒼星石の顔を見つめた後、ため息をついた。
『もう忘れたですか?』
『……えっ?』
『この分からんちん人形!!』
『なっ……』
目を白黒させる蒼星石の肩を掴み、がくんがくんと揺らしながら
『翠星石は蒼星石と一緒にいられたらそれでいいのです!
いい加減、分かりやがれです! 一人で歩ける事と、蒼星石と翠星石が
一緒にいることは全然別なのです!』
『翠星石……』
蒼星石は、翠星石の目に浮かんだ涙をそっと拭い去った
『泣かないで、翠星石。これからは、君の側にいるから』
『本当ですか?』
翠星石の顔がパッと明るくなる。
『嘘ついたら針千本飲ませてやるです!』
大輪の花が開くように笑う翠星石を見て、蒼星石も少し微笑をうかべる。
柔らかく、少しはにかんだような翠星石の大好きな笑顔だ。
『ずーっと一緒ですよ?』
『うん』
『ずっと、ずーっとですよ?』
『うん……』
壊れかかったホテルの壊れかかった部屋に壊れた人形が一つ転がっている。
片足がなく、腕と上半身が完全にひしゃげ、首が折れ曲がっている。
だが、その顔だけは奇跡的に綺麗なままで、安らかさすら感じさせた。
その人形の前に、瓦礫から這い出た男が立った。
「……っと……い……っ……しょ……」
人形の口から、か細い、声らしきものが発せられた。
男の口が半月を描いた。
大剣が振りかぶられ、躊躇なく満身の力を込めて振り下ろされた。
破砕音と共に人形は木っ端微塵となった。
人形が在ったと存在を示す、剣に突き刺さった布切れも、男の一振りと共に引き裂かれ、
風に飛ばされてどこかへ消えた。
人形を破壊した男は、一陣の黒い風となって走り出しす。
そして窓際に足をかけると飛び降りようとした。まだ胸に燻る黒い炎を開放し、
人にあらざるものを焼き尽くすために。
だが、窓枠から飛びたたんとした男は気づいてしまう。
その人あらざるものが、既に倒されてしまったことに。
奥歯がギリギリと音を立てて鳴り響き血が滴り落ち、顔に刻まれた皺が、
その深さを増していく。その時。
――殺しなよ、あいつら
声が響く。
――お前の中には獣がいるのさ。黒い炎の中に住む、黒い黒い闇の獣が
声が響く
――乾いているんだろ? だって闇の獣は底なしの大食いだから。
声が響く
――殺しても、殺しても乾く。殺し続け、乾き続ける。そして獣はいつかお前に取って代わる
声が響く
――そしたらお前は、憎しみ以外何も感じない。人の形をした怪物になる
声が響く
――でも、どうかな? ひょっとしたらなれるかもしれない。本当の怪物に。お前の友達みたいに
声が響く
――そしたら届くかも、あの男に。だからさ、早く殺してみようよ――
「うるせえっ!!」
自分の声でガッツは我に返った。
(ったく、窓の外の化け物の残り香のせいか……。くだらねえこと、ほざきやがって)
舌打ちをし、ガッツは剣を担ぎなおした。
「他の何でもありゃしねえ。俺は俺のまま、あいつに辿り着いて見せる」
窓際から、ガッツは部屋の中央へと歩を進める。
(『ひかる』は死んだ。一緒にいなかったってことは『なのは』も死んだか?
クーガーが戻ってきたってことは、セラスとかいう女も戻ってきてるはずだ。
外に行った連中は、これで全部。後は――)
そこまで考えた時、冷たい手で心臓をわしづかみにされたような感覚が、
ガッツを襲った。
――キャスカ
小さくしてディパックに入れたままだ。もしもあの崩落で、ディパックが潰れたら……
心臓がいきなり拍動数を倍加させ、鼓動音が一気に跳ね上がった。
三階へと続く道を探すべく、ガッツは再び黒い風となって部屋の外へと駆け出した。
荒い呼吸音の二重奏が、室内で不快なハーモニーを奏でている。
心臓の拍動数が増大し、恐怖、焦りといった感情の波が押し寄せる。
ゲイン・ビジョウは鋭い視線を前方に向け、神経を研ぎ澄ませていた。
目の前の女剣士の像がゲインの視界の中で拡大。
「ハァッ!!」
自分の頭を縦に割らんと切り下ろされた斬撃を、サイドステップと左足を軸として
体を捻って回避。だが次の瞬間、刃が閃き横薙ぎに軌道変化。手首をひねり、
バットで受ける。
手から衝撃。木片が宙を舞い、手から伝わった衝撃が腹部に到達。
鋭い痛みが体を貫き、ゲインは自分の眉が小さく上がるのを感じた。
反撃の右ローキックが、キャスカの左足に衝突するのに一瞬先んじて、
キャスカがバックステップ。
同時にゲインもバックステップで距離を開け、両者は再び距離を取って睨み合った。
(武器の性能の差が大きすぎる。受けることもできん)
バットで素人目にも分かる名刀の刃を受ければ、バットがどうなるかは自明の理。
既にバットにはいくつも深い傷がついており、いつ折れ飛ぶとも分からない状況だ。
剣士でないゲインが不利な得物でなんとかしのいでいられるのは、
ひとえにキャスカの怪我、特に――
キャスカの剣先が上段に跳ね上がり、重心が前に傾いた。
「そこぉっ!」
ゲインはキャスカの顔面に向けて打突を放った。ゲインのカウンター気味の一撃を、
キャスカ首を捻って回避。キャスカの体勢が左にかしぐ。キャスカの体を支えたのは、
怪我をしていると思しき左足。
(ここだっ!)
だが、キャスカの隙に乗じて踏み込もうとした瞬間、ゲインの背筋に氷塊が落ちた。
咄嗟に腰を引いて緊急回避。
高速で弧を描いた剣の刃がゲインの胴に向かって殺到。
刃がコートを切り裂き、白い毛先がひらひらと宙で踊った。
体には届かなかったもの、背筋に嫌な汗をタップリ2?ほどかき、ゲインは大きく息を吐いた。
怪我の影響で、キャスカの昼間見せた疾風のようなスピードは影を潜め、体裁きにも乱れがある。
今の攻防も、キャスカの左足が満足なら胴を叩ききられている。だが、このままではジリ貧だ。
このバットが砕けた時が自分の最期だろう。素手でキャスカの剣を避けきる自信はない。
(当たらなければどうということはない、と強がりたい所だが、無理なものは無理だ)
認めたくなくても認めなくてはならない。
先ほどの婦人が逃げてくれれば、こちらも機を見て退くという選択肢を取れるのだが、
足場の悪さに加えて、どうやら足に怪我を負っているらしく、その動きは遅々としている。
女性とはいえ、人一人を抱えて逃げようとしては後ろからバッサリだ。
(光やセラスが戻ってくることに期待したい所だが、ヒーローコミックじゃあるまいし
、危機に仲間がタイミングよく駆けつけてきてくれることを期待するのは建設的とはいえん。
となると自力で何とかするしかないんだが――)
突如ゲインの瞳の中のキャスカの像が巨大化。
――疾い!
思考にかまけて気を緩めたわけではない。単に今までよりキャスカの速度が上がった。
ただそれだけのこと。
(怪我をおして勝負に出たか)
一瞬で間合いが消滅。
「セヤァぁっ!!」
キャスカの絶叫が大気を震わせ、高速の太刀筋がゲインに左肩に向かって発生。
首を捻り体を捩る。
刃がゲインの頭髪を切り裂き、耳を掠めて下方へと流れていく。
正に間一髪。
「おおっ!」
ゲインのショルダータックルが炸裂。キャスカがたたらを踏む。奥歯を噛み、
ゲインは満身の力を込めてキャスカの頭部にバットを振り下ろした。
肘に衝撃、いや打撃。
ゲインの視線の先に映ったのは、左腕の掌と右手の剣の柄で自分の肘を抑えるキャスカの姿。
あろうことか、キャスカは身長差を逆手にとり、後ろに引くのではなく前に踏み込むことにより、
ゲインの攻撃を下から止めたのだ。
武器に対して引くのではなく、氷の冷静さを維持して前に踏み込んでいく。
生死の狭間を潜り抜けたものだけがなしえる荒技だ。
キャスカの殺意で燃え上がる視線がゲインの視線と衝突。
だんっとキャスカの右脚が床を叩いた。キャスカの体が伸び上がり、
首筋に向かって一気に体重をかけて刃を押し込んできた。
「終わりだ!」
耳をつんざく叫びがゲインの耳元で轟き、キャスカの剣がゲインの左首筋に接触。
鋭い痛みが電流となって脳に伝わる。
痛みと恐怖をねじ伏せ、ゲインは左手でキャスカの右手首を探る。
――掴んだ
ゲインの体が螺旋を描く。
キャスカの右手を引き上げ引きあげたキャスカの体を腰に乗せ乗せた
「エクソドゥア――スッ!!」
ゲインの気合と共に、二つの体がもつれ合うようにして床に落下。
降り積もった粉塵が舞い上がる。その粉塵を裂いて二つの体が飛び出し、
間隔を取って対峙した。
「貴様ぁ……」
「いかがな? ヤーパン忍法、一本背負い。おそらくあんたの世界にはない技だと思って
披露してみたんだが」
憎憎しげにうめくキャスカに、ゲインは不敵に笑ってみせた。
――ハッタリである。
ガウリ達の訓練で見たことがある技を、咄嗟に使ってみただけであり、
幸運の女神が微笑んだ結果以外の何物でもない。
だが、これでキャスカは、ゲインに接近戦における奥の手があるのではないか、
という疑念をわずかなりとも抱いただろう。
(キャスカは焦っているはずだ。いつこちらの仲間が戻ってくるか、分からないんだからな)
自分のバットが破壊されるのが先か、キャスカが形勢不利とみて引くのが先か。
(倒すのも逃げるのも困難。となれば引いてもらうしかないわけだ。はてさて……。)
脇腹の痛みは間断なく襲い、首筋からの出血もあまり浅くはない。
しかし、ゲイン・ビジョウには、足を怪我をした女性を一人置いて逃げる、という選択肢はない。
エクソダス請負人のプライドにかけて、男のプライドにかけてそれだけはできない。
ゲインは、バットの柄を握りなおした。
(強い……)
焦燥感に駆られ、キャスカは奥歯を噛んだ。目の前の男、ゲインは強い。
昼間は、不意打ちとゲインがこちらを過小評価したことで簡単に勝ちを拾えたが、今は違う。
(体さえ、体さえまともなら……)
左足の損傷が何より痛い。元々力ではなく軽量を生かした素早さと精密な剣さばきが、
体力で劣るキャスカの生命線だ。それに深い亀裂が生じてしまっている。
足の痛みは激痛を通り越して最早、地獄の責め苦のよう。一歩踏み出すごとに脳天まで痛みが駆け抜ける。
さらに、疲労と昼間の戦いで血を流しすぎたことが相乗効果を起こし、目がくらむ。
この体調では、切り札のあの技を使うことはできない。
あの技を使えば昏倒してしまう可能性が高いからだ。
いつ、ゲイン達の仲間が戻ってくるか分からない状況で使うのは危険すぎる。
(だけど、ゲインは今、殺しておかなくてはならない)
目の前の男は、身を休め強力な武器を手に入れたならグリフィスの脅威となりうる男だ。
キャスカは視線を横に走らせた。
視線の先には、足を引きずって遠ざかろうとする無力な女。
キャスカと女との間に丁度小高い瓦礫の山がある。軽く飛び越せるくらいの高さの山が。
キャスカの目がギラリと光った。
床を蹴り、キャスカは足を引きずる女めがけて走り出す。
一歩左足を踏み出すたびに痛みがつきぬける。だが、キャスカの表情は揺らがない。
もっと重症を負った状態で剣を振ったこともある。5本の矢傷を受けて十倍の敵に囲まれて戦ったことがある。
その時に比べればこの程度の傷いかほどことがあるというのか。
背中からゲインが追ってくる気配を感じる。
(やはり追ってきた)
昼間の接触、そして今の戦闘で分かった事だが、ゲインは仲間を、特にそれが弱い女ならなさら、
見捨てて逃げることができる類の人間ではない。
こちらが標的を変えれば、誘いと疑念を抱いたとしても追ってくるだろうことは予想がついていた。
意識を二つに分散させ、隙を作るのが目論みだ。
しかし、ゲインに対してはそれだけでは足りない
前方に瓦礫の山が迫る。跳躍し、片足で着地。二、三歩進む。
ここで緊急停止。
(行軍している時によく見た光景がある。前の者が丸太をまたげば、次のものもまたぐ。
前の者が飛び越えれば次の者は飛び越える。つまり――)
背後に気配。
「ハァァア!!」
自然と気合が漏れた。体の回転を最大限に利用した、
飛燕の太刀筋は空中で身動きの取れないゲインを両断――
――するはずだった
(手応え……。ない!?)
剣に白いものがまとわりついている。
(服だけ!? 何処だ!?)
答えは視界に大写しになった靴の先によってもたらされた。
「ごっ!」
気を失わなかったのは僥倖といえた。
鼻柱から後頭部まで衝撃がつきぬけ、視界が白く染まる。
白く染まった視界に火牡丹のごとく赤い点が咲き乱れている。
自分の血だと気づくのには、数瞬を要した。
バットが唸りを上げて迫る。
幾多の修羅場をくぐりぬけてきたキャスカの体が危機に自動反応し、
右手が剣が持ち上げ頭部を防御。
「あぅっ!」
ゲインの一撃を受け止めるには、腕に力が足りなさ過ぎた。
エクスカリバーがキャスカの手から吹き飛び、刃がキャスカの頭部に軽く衝突。
刃と接触した箇所から焼けるような痛み。
「ぐぅ!」
揺れる体の手綱を取り直し、飛ばされた剣を拾うため、後ろに跳躍行動。
だが、ゲインがキャスカに一刹那先んじた。右足の甲を踏み抜かれ、
キャスカの跳躍行動は強制停止させられる。反動で首が揺れ、脳がシェイクされる。
キャスカの目に映る世界が揺れた。
揺れる世界の中でゲインがバットを振りかぶる。
「がっ……」
頭部に衝撃。刀傷から鮮血が飛び散り、床に血の花が咲く。
キャスカの視界が回り、床が猛烈な勢いで接近してくる。
――負ける
そう思った瞬間、頭に閃光の如くいくつもの影が閃いた。
ジュドー、ピピン、コルカス、リッケルト、数多の部下達。罪人の汚名を着せられ、
討伐軍の襲撃に怯えながら、森の中を虫けらのように逃げ回りながら、
それでもグリフィスさえ取り戻せればと、グリフィスが戻ってくればと、
グリフィスが戻る日を信じて耐え忍んできた仲間達の顔、顔、顔。
抜けていく力を堰きとめ、残った力を振り絞ってキャスカは左足の靴底を
前方の床に叩きつけた。
痛みが爪先から脳天まで瞬時に駆け上がり、神経が焼ききれるかと思うほどの激痛が、
頭を埋め尽くすが、その痛みで意識と体を強引に接続。
食いしばった奥歯がギヂリと鳴った。
「ケやァあっ!」
膝のバネを跳ね上げ、自分自身を弾丸としてゲインの顎に向けて射出。
衝撃と痛みが同時に頭頂から首に突き抜け、刀傷から刺すような痛み。
視界が半分赤く染まった。
仰け反ったゲインに前蹴りで追い討ちをかけ突き放す。吹き飛ぶゲインを尻目に、
エクスカリバーに走りより、拾い上げて踵を返す。
既にゲインは構えを取っていた。
(負けない! グリフィスのために。鷹の団の再起を信じて戦ってきた仲間のために、
私は負けるわけにはいかないんだ)
黒い瞳に飽くなき闘志を燃やし、キャスカは剣を握りなおした。
キャスカの策を見破り、コートを囮にして顔面に会心のハイキックを叩きこんだ時は
これで勝ったと思った。なのに、どうだ。
そのハイキックを叩きこんだ相手は、鼻と頭部から流れ出た血で顔の半分を朱に染め、
荒い息を吐きながらも衰えぬ闘志の炎をその双眸に宿している。
ふうっと息を吐きゲインはバットを下げると居住まいを質した。
何かの罠かとキャスカの眉間に困惑の皺がよる。
かまわずゲインは優雅に一礼してみせた。
「略式で失礼。私は、シャルレ・フェリーベ。ウッブスのフェリーベ侯爵が実子。
ご婦人のお名前を今一度お聞かせ願いたい」
しばし沈黙が続き、
「――何の冗談だ?」
圧倒的な警戒とわずかな呆れの成分を込めた答えが返ってきた。
「これはしたり。故人も『軽蔑すべき味方よりも尊敬すべき敵を見よ』と言っております。
尊敬すべき相手の名前を知りたいと思うことは当然の心理。ましてやそれが、
見ているだけで心洗われる美しき花ならばなおさらのこと」
顔面に蹴りを入れて、さらに刀傷を作らせ、念入りに傷口をバットで殴っておいて、
『心洗われる美しき花の名前を知りたい』ときたものだ。
心底呆れたというように、キャスカは額に手を当てて嘆息をもらし、
「キャスカは本名だ。姓はない」
それでもぶっきらぼうに返答した。同時に、さり気なく目を塞ぐ血を拭い取っているところに、
会話に応じた意図が透けて見えてはいたが。
「ときめくお名前です」
「……ときめいて死ね」
嫌そうに顔をしかめるキャスカに、ゲインは苦笑した。
「いや、尊敬に値すると思う気持ちは嘘じゃない。少なくとも、お前さんが、自分の命惜しさのために、
剣を振るう類の人間じゃないことは分かった」
素の口調に戻ってゲインは言った。これからの交渉が、キャスカを引かせることが目的であるのは事実だが、
本当に敬意を抱いてもいる。正直、自分はキャスカという人間を見誤っていた。
キャスカの目には強い真っ直ぐな意志の煌きがある。我欲に溺れた人間の目には宿ることはない輝きだ。
「今度は世辞か? 褒めても何もでないぞ。それに見逃してやる気もない!」
再び殺気を発し始めたキャスカに、
「俺はご婦人に対して言葉を発するときは、真実しか口にしない」
マジメくさった顔つきでゲインは言った。
殺気を受け流され、キャスカの肩が落ちる。
「――結局何が言いたいんだ!? お前は!」
苛立ちを滲ませてキャスカが怒鳴る。ゲインは飄然と、
「俺としては、尊敬に値する女性を殺すには忍びない。でだ、ここは一つ引いてくれないか?
ここにこれ以上留まり続けるとマズイことになるのはお前さんの方だ。今度は、多分セラスを抑えられん。
あの子は、仲間の仇を討ちたがっているからな。タダでとも言わん、こちらの支給品をいくつか進呈してもいい」
「断る。ゲイン・ビジョウ、お前はここで必ず殺す」
「そこまで嫌われるようなことをした覚えはない……こともないが……」
完全な拒絶の意思が込められたキャスカの言葉に、ゲインの眉間に皺が寄った。
(鼻血はともかく、拭おうとしているが、あんなことで頭部の出血はとまらん。
キャスカの視界はいいところ半分だ。名剣というアドバンテージは変わらんとはいえ、
ここまで不利な条件が増えても戦うというのは、どういうことだ?)
何故かは分からないが、キャスカは絶対に勝ち残ろうとする一方で、
相手を倒すためには命を捨ててもいと思っているかのようだ。
この状況下でまだ引こうとしないのがその理由だ。
生き残ることを優先する人間なら、多分、ここは引く場面。
(つまり、キャスカはこのゲームで生き残りたいのではなく、
生き残らせたい人間がいる、ということか?)
そう考えれば二律背反の行動にも合点がいく。
ゲインは頭の中に参加者名簿を広げた。
大量の人間を移動させるエクソダスを生業とするゲインは、人名を書いた書類に目を通し、
記憶することには慣れている。
(俺の名前のすぐ上にゲイナーの名前、ヒカルの名前の次に、ウミの名前が来ていたことから考えて、
同じ世界から来た人間ごとに固めて書いてあると考えて間違いないだろう。
確か、キャスカの上にはガッツ、下にはグリフィスという名前があった。グリフィスという名前の下は、
ヒカル達と同じ古代ヤーパン文字に似た文字で書かれた名前だったから、二択……。いやまて、
さっきあのご婦人が「ガ――」と誰かの名前を呼ぼうとしていたな)
どうせなら、確率の高そうな方にかけたほうがいい。
「何故そこまでグリフィスとやらに忠義をつくす? 部下にばかり危ない橋を渡らせるような男だろうに。
思うんだが、お前さんはもっといい男を知るべきだと――」
烈風の如く切り込んで来たキャスカに、ゲインの言葉は強制的に中断させられた。
「グリフィスを侮辱するな! これは私が勝手にやっていることだ!」
顔面スレスレを刃が通りすぎた。剣風に煽られ、ゲインの前髪が浮き上がる。
(当たりだったか。それにしても、分かりやすい反応だ)
「なるほど。その男のために障害物はすべて斬るといわけだ!」
「そうだ! 私はグリフィスの剣。グリフィスの敵はすべて私が斬る。
私は必ずグリフィスを仲間の下へ返す!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
突然聞こえた別の声にキャスカとゲインは思わず同時に動きを止め、
声のした方に視線を送る。
その先には、足を怪我した女、野原みさえがいた。
――しまった。
野原みさえは後悔していた。
何故、こんなことを言ってしまったのか? だが言い始めた以上
言わざるを得ない。
「あなたってガッツの恋人じゃなかったの?」
自分の口から出てきた言葉に、みさえは自分ながら呆れ果てた。
殺し合いの場でいったい自分は何を聞いているんだろう?
「ガッツなんて男は知らない!」
答えが返ってきてしまった。
それにしてもこれはまあ、何とも分かりやすい……。
「つまり、無かったことにしたいってわけ?」
「さっきから、あなたは一体何を言ってるんだ!?
そんな男は知らないと言ってるだろう。聞いているのか!」
「だって、嘘じゃない。それ」
絶句する気配が伝わってきた。
(駄目ねえ、ここでしれっと、切り返せるくらいじゃないと……。女
友達とかが、少ないのかしらねえ? この子)
「嘘だと? 一体何を根拠に嘘と言うんだ?」
大分間があってそんな言葉が返ってきた。
「知らない男の名前なんて、そんな風に感情込めて呼んだり、
目を伏せていったりしないと思うんだけど……。ていうか、あなたね」
呆れて半眼になりつつ、みさえは言った。
「分かりやすすぎ」
キャスカの体が雷に打たれたようにびくりと震えた。
(大したご婦人だ。こんな殺伐とした場に、日常を持ち込んでしまった)
ゲインは感心していた。
場所にはすべからく空気がある。
そして人間とはその空気にしたがって行動する生き物なのだ。
その場所の空気を破壊するような行為は、そう簡単に行うことが出来ない。
故に、キャスカが今漂っている日常の空気を打ち破り、殺す気で剣を抜き
殺し合いを再開する危険は遠ざかったといえる。
それは、キャスカを倒すのではなく、引かせるというゲインの方針にも適合する。
(本当にそろそろヤバイからな、このバット)
よくぞ、剣の猛攻に耐えてくれたものだと思う。
だが、流石にそろそろ限界だ。
(それにしても、『分かりやすい』か)
ゲインにはキャスカの言葉が嘘かどうかなど、まったく分からなかったというのに
(妙齢の女性にのみ備わる力か…。ああ、それは神秘だ)
万が一に備え、みさえをガードする場所に身を置きつつ、ゲインはそんなことを考えていた。
(一体私は、何をやっているんだ!?)
キャスカは憤懣やるかたない思いを持て余していた。
「うっ……」
血が止まらない。ゲインに付けられた頭部の傷は思った以上に大きい。
時間も大分たってしまった。
いつ、ゲイン達の仲間が戻ってくるか知れたものではない。
それなのに。
(どうして私は、この年増とこんな話しをしているんだ!?)
剣を放り出して頭をかきむしりたい衝動に駆られる。
「あなたは一体何なんだ! ズケズケと人の心に踏み込んできて!」
「ごめんなさい……」
素直な謝罪にキャスカの不機嫌の皺が少し和らいだ。
「ガッツが、あなたのことを、とても大事に思っているみたいだったから」
「ガッツが?」
正直驚いた。
確かに共に戦場を駆けた戦友同士では在るが、対立していた期間も長かった。
――嬉しい
そう思っている自分に気づき、キャスカは愕然とする。
(何を考えている! 今、グリフィスが投獄されているのも、鷹の団が壊滅の危機に
立たされるほど苦境にあるのも、全部あいつのせいだ)
憎い。殺してやりたいほど憎い。
でも…それだけではない。
ガッツが出て行ったとき、崩れ落ちるグリフィスではなく、
去っていくガッツから目を離せなかった自分。
あの日の気持ちは、まだ――
「できればあなた達、話し合った方がいいって思うんだけど」
その言葉をくや否や、キャスカは自分の心の温度が急速に冷えていくのを感じた。
「あなたは馬鹿か?」
「馬鹿ですって!? そりゃ短大卒だけど――」
「何のことだか分からないが、私達が今、何をしていると思っているんだ?
殺し合いのゲームだぞ?」
「誤解が解けたら、一緒にゲーム脱出を目指せばいいじゃいの!」
「脱出? そんなことができると思っているのか!」
キャスカは鼻で笑い飛ばした。
「できるわよ!」
「その強がりに何か根拠があるのか?」
「今はないけど。他の人とも協力すればきっと――」
「冗談じゃない!!」
割れ鐘のような怒鳴り声が響き渡った。激情に駆られ、キャスカは言葉を紡ぐ
「元の世界では、仲間達がグリフィスのことを待っているんだ。不確かな行動に
賭けることなんてできるものか」
「自分の行動の言い訳に、仲間がどうとかって理由を使うんじゃないわよ!」
「いい訳だとぉ!?」
憤激に駆られ、キャスカは思わず剣の柄に手を伸ばす。
「一応あんたより、長い時間女やってる人間として忠告するわよ。
他人のことを考えることも必要だけどね、自分の気持ちを大事にしないと、
どんな人生生きても結局後悔するわよ! 特に男に関してはね。自分が誰が好きなのか、
誰と共に歩みたいのか、答えって割と既に出てるものよ。後は、それに嘘をつかないこと!」
一気に言いきったせいで疲れたのか、みさえは少し肩で息をした。
その様子が可笑しくてキャスカはクスリと笑い、みさえも笑い返した。
「な〜んて、私もまだ29年しか生きてないから、えらそうなこといえないけどね」
「いえ……」
少し躊躇った後、キャスカは一礼した。
「ありがとう。ええと……」
「みさえよ。野原みさえ」
「ありがとう、みさえ。あなたとは、違う形で会いたかった」
キャスカはそう言って踵を返した。
「命拾いしたな。ゲイン・ビジョウ」
ゲインの側を通りながら、キャスカはゲインに鋭い視線を送った。
「まったくだ。引いてくれて何より。アーメンハレルヤナマンダブツだ」
「次に会った時は、必ず殺してやる」
「ご婦人の相手をする時は、ムードのある場所で洒落た格好をしてと決めてるんだ。
剣と鎧じゃなく、ワインを持ってドレスで来る気はないか? 君のようなご婦人を
エスコートできる名誉を是非とも賜りたく……。速いんだな、歩くの」
ゲインは誰もいない空間に向かって肩をすくめた。
廊下を歩きながら、
(しかし酷い有様だな。ボロボロじゃないか)
荒れ果てたホテルの惨状をみて、キャスカは眉を潜めた。
廊下もかなり瓦礫にうもれている。
(下の階に下りる階段はどこだ?)
キャスカが首をかしげた時、曲がり廊下の角の向こうから人が走って来る音が聞こえた。
(ちぃ! セラス・ヴィクトリアじゃないといいんだが)
舌打ちし、キャスカは逆走を始めた。だが、思うようにスピードが出ない。
酷使に酷使を重ねた左足は主の超超過労働に大分お冠のようだ。
必死になだめすかし懇願しながら、キャスカは走る。
「キャスカ!!」
聞き覚えのある声にキャスカは足を止めて振り返った。
大剣を背負った、大男の人影が、息を切らしている。
「ガッツ……」
口から漏れ出たその言葉が、思った以上に、胸を締め付けるのをキャスカは感じた。
自分の気持ちを自覚したからだろうか。
しばし沈黙が満ちた。
近づいてこようとしないガッツを不審に思ったキャスカだが、すぐにその理由に気づく。
思わず苦笑が漏れた。
「ごめん、ガッツ。記憶がないというのは嘘だ、本当は全部覚えている」
男が息を呑むのが分かった。ややあって、
「俺は、何も気にしねえ。お前もするな」
ガッツの声にキャスカは目を丸くする。
その声が聞いた事もないほど、優しさに満ちていたからだ。
一年というのは、短いようで長い。ガッツにも色々あったのだろうと思う。
「そうしてくれると、助かる……」
またも沈黙が満ちた。
(相変わらず、口下手な奴だ。ゲイン・ビジョウのように
口がやたら達者な奴も困るが……)
久しぶりに会ったと言うのに、ダンマリといのはどうかと思う。
「覚えているか、ガッツ? 最初に会った時のこと」
懐かしさを込めてキャスカは言った。
「ああ……」
だが、返ってきたのは暗く沈んだ声。
(団を抜けて罰が悪いのは分かるが、もう少しなんとかならないのか……)
キャスカは少しムッとした。
「――てなこともあったな」
「ああ……」
さっきから、まったく弾まない昔話にキャスカは小さくため息をついた。
(多分、ガッツは知っているんだ。自分が抜けた後、鷹の団がどうなったか……)
キャスカはかまわずに続けた。
「私は最近、よく考えるんだ。ガッツ。お前があの時団を抜けなかったらって――」
ガッツの体が彫像のように動きを止めた。
「グリフィスが国王、シャルロット様が王妃。私とお前はそうだな……。騎士団の長か何か、
かな?」
「……もうやめろ」
「ジュドーは何やっても上手いから、案外大臣になったり――」
「やめろ、キャスカ!!」
凄まじいガッツの絶叫が大気を震わせた。
「そんなことはありえねえんだ!! 俺達の鷹の団は、あの時」
「まだ終わってなんかいない!!」
今度はキャスカの覇気に満ちた声が廊下に響き渡った。
「グリフィスさえ、グリフィスさえいれば、鷹の団は何度でも蘇る!」
「キャスカ……」
驚愕に満ちたガッツの声が聞こえる。
「ガッツ……。私は、お前のことが好きだ」
こうして対峙していると良く分かる。自分はガッツに惹かれている。
自分の思いに嘘はつかないと決めたから、それがハッキリとわかる。
それでも。
「でも、お前とは行けない。私はまだ、鷹だから!!」
仲間を捨ててガッツとは行けない。
そんな生き方をしたら、きっと自分で自分を許せなくなる。
「キャスカ!?」
悲鳴のようなガッツの声。心が痛んだ。
そんなにも思っていてくれたのかと、喜びと悲しみがないまぜになって
キャスカの心を満たす。
それでも自分の思いを振り切り、断ち切るために、キャスカは宣言する。
「私は、一人の鷹として生きる。グリフィスの振るう剣となり、鷹の団の旗の下で生き
鷹の団の旗の下で死ぬ。これが私の決めた私の道だ!」
私は共に生きていく相手として、鷹の団の仲間達を選んだ
だから、ガッツへの思いは、ここに全て置いていく。
主の決意に反応したか、エクスカリバーが眩い光を放った。
「さよなら、ガッツ」
キャスカはエクスカリバーの真名を開放した――
「どうやら、少しはいう事を聞いてくれるようになったみたいだな」
エクスカリバーを鞘に収めながら、キャスカは呟いた。
使った後、昏倒するのは避けられた。キャスカはチラリと前方の破壊の後を見る。
(威力を抑えすぎたか……。ガッツのことだ、きっとまだ生きてる)
このゲームが続く限り、戦うこともあるだろう。
その時は。
――迷わず斬る
真名開放の時に吹き飛ばした瓦礫の下に埋もれていたディパックを、これ幸いと拾い上げ、
キャスカは廊下を歩き出す。
そして、二度と振り返らなかった。
キャスカは知らない。
自分の相手にしていたガッツは、自分の考えている1年前に分かれたガッツではないというこを。
故に知らない。
目の前の『ガッツ』が、『キャスカ』と思いを交わした記憶を持っていたことを。
目の前の『ガッツ』がどれほどグリフィスのことを憎悪しているかを。
自分のやったことが、『ガッツ』にとって最悪の裏切りであることを――
キャスカは知らない。
「これは……。大砲か?」
最後の道具を取り出し、キャスカはため息をついた。
目当ての傷薬は見当たらなかった。
(ハズレか……)
とにかく、今日はこれまでだ。どこか休める場所を探さなくてはならない。
そう思って、立ち上がり歩き出そうとした時。
ふわりと頭上から何かが、道に降り立った。
咄嗟に、キャスカは剣の柄に手をかけようとして――
呆然と立ち尽くす。
――これは夢だろうか?
キャスカは、自分の頬をつねりたい衝動に駆られた。
身動き一つできない 。
目の前にグリフィスがいた。
白銀の髪。名工の手によって造詣されたような顔立ち。
一年前に分かれたあの日と同じ姿。
「――ただいま、キャスカ」
そう言って微笑むグリフィスの瞳は、優しかった。
この瞳が全軍に号令を発する時、覇気溢れるものになることをキャスカは知っている。
時に少年のような眼差しになることも。冷酷極まる光をたたえる事も
その千変万化の神秘的な光を称えたアメジストの瞳が自分をみている。
――本物だ
感情が溢れて、言葉にならない。
ぎこちなく微笑むのが精一杯だ。
左肩に手が置かれた。
――この手だ
自分を救い出し、いつも震えを止めてくれた手。
その手にそっと触れ、キャスカは言った。
「お帰り、グリフィス」
剣を手に入れた。よく斬れる剣を。
キャスカと接触できたのは、今回の作戦で最も大きい戦果と言っていいだろう。
しかも、キャスカが傷つき、正面にいた人間と合流せずに一人でホテルから出てきたと言う事は
キャスカはホテルにいた集団の敵であったと言う事。
外観から判断するよりはるかに確度の高い情報が手に入りそうだ。
(ホテルにいた集団、魔女と二人の仲間、どちらから攻めるか……)
グリフィスの目が妖しく輝いた。
最高の剣を手に入れた鷹の爪が最初に誰に突き立てられるのか、
それはまだ誰も知らない。
同じ頃、瓦礫に埋もれた暗い穴の底から笑声が響いていた。
狂ったような笑い声は、とめどなく続き、いつしか慟哭へと変わっていく。
怨嗟、恨み、憎悪、悲しみ、怒り、殺意全ての負が込められた慟哭は途義れることなく響き続ける。
最愛の者からの裏切りを、再度味わった男の振るう剣は何処へ振り下ろされるのか。
それはまだ、誰も――
【D-5//1日目/夜】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:全身に軽い火傷
[装備]:マイクロUZI(残弾数50/50)、耐刃防護服
[道具]:ターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×2(食料のみ三つ分)、ヘルメット
[思考・状況]
1:ホテル組もしくはゲイナー、レヴィ、フィイト組の襲撃
2:剣が欲しい
3:手段を選ばず優勝する。殺す時は徹底かつ証拠を残さずやる。
4:ガッツは殺す
【D-5//1日目/夜】
【キャスカ@ベルセルク】
[状態]:左脚複雑骨折+裂傷(一応処置済み)、魔力(=体力?)消費甚大
:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、軽い混乱症状
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、
劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING、
[道具]:なし
[思考・状況]
1:目に付く者は殺す
2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。
3:グリフィスと合流する。
4:セラス・ヴィクトリア、獅堂光、ゲイン・ビジョウと再戦を果たし、倒す。
【支給品一式×4、オレンジジュース二缶、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、
破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に、
ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ】
【D-5/ホテル3階(倒壊寸前)/1日目/夜】
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:中度の疲労、全身各所に擦り傷、左足に打撲
[装備]:<スペツナズナイフ×1>
[道具]:なし
[思考・状況]
1:ガッツ本人と、役に立つ物を掘り起こす
2:ホテルが完全に崩壊する前に逃げる。
3:セラスら捜索隊と合流。
4:契約によりガッツに出来る範囲で協力する。
5:しんのすけ、無事でいて!
6:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る。キャスカを監視。グリフィス(危険人物?)と会ったらとりあえず警戒する
基本行動方針:ギガゾンビを倒し、いろいろと償いをさせる。
[備考]:第三放送を聞き逃しました。
【D-5/詳細位置不明(瓦礫の下?)/夜】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:詳細不明【元の状態:全身打撲(治療、時間経過などにより残存ダメージはやや軽減)、精神的疲労(中)】
[装備]:カルラの剣@うたわれるもの、ボロボロになった黒い鎧
[道具]:なし
[思考]
0:???
1:ホテルでセラスらの帰りを待つ。
2:契約により、出来る範囲でみさえに協力する。他の参加者と必要以上に馴れ合う気はない。
3:殺す気で来る奴にはまったく容赦しない。ただし相手がしんのすけかグリフィスなら一考する。
4:ドラゴン殺しを探す。
5:首輪の強度を検証する。
6:ドラえもんかのび太を探して、情報を得る。
7:翠星石の証言どおり、沙都子達ひぐらしメンバーが殺人者か疑っている。
9:グリフィスがフェムトかどうか確かめる。
基本行動方針:グリフィス、及び剣を含む未知の道具の捜索、情報収
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)
[装備]:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に
[道具]:なし
[思考・状況]
1:役に立つ物を掘り起こす
2:ホテルからエクソダス。
3:市街地で信頼できる仲間を捜す。
4:ゲイナーとの合流。
5:ここからのエクソダス(脱出)
[備考]:第三放送を聞き逃しました。
【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】 死亡
FNブローニングM1910(弾:2/6+1)@ルパン三世
が、ホテルの何処かに落ちています
【D-5//1日目/夜】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:全身に軽い火傷
[装備]:マイクロUZI(残弾数50/50)、耐刃防護服
[道具]:ターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×2(食料のみ三つ分)、ヘルメット
[思考・状況]
1:ホテル組の襲撃
2:剣が欲しい
3:手段を選ばず優勝する。殺す時は徹底かつ証拠を残さずやる。
4:ガッツは殺す
【D-5//1日目/夜】
【キャスカ@ベルセルク】
[状態]:左脚複雑骨折+裂傷(一応処置済み)、魔力(=体力?)消費甚大
:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、軽い混乱症状
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、
劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING、
[道具]:なし
[思考・状況]
1:目に付く者は殺す
2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。
3:セラス・ヴィクトリア、獅堂光、ゲイン・ビジョウと再戦を果たし、倒す。
【支給品一式×4、オレンジジュース二缶、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、
破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に、
ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ】
>>43 ×(ホテルにいた集団、魔女と二人の仲間、どちらから攻めるか……)
○(ホテルにいた集団を、いかに攻めるか……)
【D-5/ホテル周辺(ただし、正面玄関付近以外)/1日目/夜】
【キャスカ@ベルセルク】
[状態]:左脚複雑骨折+裂傷(一応処置済み)、魔力(=体力?)消費甚大
:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、頭部に裂傷(大)
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発 劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING、
[道具]:支給品一式×4、オレンジジュース二缶、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、
破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に、 ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ
[思考・状況]
1:目に付く者は殺す
2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。
3:セラス・ヴィクトリア、獅堂光、ゲイン・ビジョウと再戦を果たし、倒す。
【D-5/ホテル周辺(ただし、正面玄関付近以外)/1日目/夜】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:全身に軽い火傷
[装備]:マイクロUZI(残弾数50/50)、耐刃防護服
[道具]:ターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×2(食料のみ三つ分)、ヘルメット
[思考・状況]
1:ホテル組の襲撃
2:剣が欲しい(エクスカリバーはキャスカが使うので、もう一本欲しい)
3:手段を選ばず優勝する。殺す時は徹底かつ証拠を残さずやる。
4:ガッツは殺す
【D-5/ホテル3階(倒壊寸前)/1日目/夜】
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:中度の疲労、全身各所に擦り傷、左足に打撲
[装備]:<スペツナズナイフ×1>
[道具]:なし
[思考・状況]
1:ガッツ本人と、役に立つ物を掘り起こす
2:ホテルが完全に崩壊する前に逃げる。
3:セラスら捜索隊と合流。
4:契約によりガッツに出来る範囲で協力する。
5:しんのすけ、無事でいて!
6:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る。グリフィス(危険人物?)と会ったらとりあえず警戒する
基本行動方針:ギガゾンビを倒し、いろいろと償いをさせる。
[備考]:第三放送を聞き逃しました。
【D-5/詳細位置不明(瓦礫の下?)/夜】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:詳細不明【元の状態:全身打撲(治療、時間経過などにより残存ダメージはやや軽減)、精神的疲労(中)】
[装備]:カルラの剣@うたわれるもの、ボロボロになった黒い鎧
[道具]:なし
[思考]
0:
1:グリフィスとキャスカを見つけ出して必ず殺す
2:殺す気で来る奴にはまったく容赦しない。ただし相手がしんのすけなら一考する。
3:ドラゴン殺しを探す。
4:グリフィスがフェムトかどうか確かめる。
基本行動方針:グリフィス、キャスカ及び剣の捜索、情報収集
【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】 死亡
FNブローニングM1910(弾:2/6+1)@ルパン三世
翠星石のローザミスティカ
が、ホテルの何処かに落ちています
夜、八時を回る。
既に夕日は完全にその姿を地平線の下に隠し、暁に燃える殺戮の街に帳が落ちる。
今や街は眠りに落ちてしまったのだろうか?
否、街は目覚めたばかり。
照らす太陽を忌むかのごとく、日中身を潜めていた人と人ならざるものとが跋扈し、此処に血みどろのギニョールは再びその凄惨さを燃え上がらせんとしている。
それが証拠にほら――――――。
山をひとつ越えたところでは人智を越えた魔女たちが不死者や異能どもと盛大なサバトを繰り広げている。
悪鬼たちは供物が足らぬと囃し立てる。
行き着く先は無人の荒野か、更なる修羅の地獄か……。
その喧騒も届かぬ町外れの一角、映画館の周辺は虫の声ひとつ響かぬ静寂に包まれていた。
シアター内部もまた沈黙している。
辛うじて響くのは旧式の映写機がカタカタと回る音だけ。
五人は、口をぽかんと馬鹿みたいに開けて(一人は何時も通りの無表情だが)スクリーンを見つめている。
見つめる先に映し出されるのは、何の変哲もない風景。
どこかの街の映像が数秒ごとに場面を変えつつ、淡々と流れてゆく。
音声は無い。
橋、主婦がごった返す商店街、寺、賑やかなアーケード、小川……、
「この風景……どっかで見たわね」
誰にともなく涼宮ハルヒが呟く。
映像は続く。
公園の遊具に憩う子供達、鉄橋の上を走る電車、サラリーマンが行き交うオフィス街、信号の前で止まる自動車の列、駅前……、
「間違いない、ここの街の風景だ」
と、トグサ。
まだ続く。
河原、ビルディング、自動車が走る道路、用水路、鳥居の下を潜る参拝客……
「照合確認。数年以内の時間差の範囲での、ここと同一座標付近の映像であると推測される」
ぼそぼそと長門有希が同調する。
動きの無い風景ばかりが延々と続く。
一体この映画は、見るものに何を伝えようと言うのか。
撮影したものは、何の目的でこれを撮ったのか。
意図を掴めないまま、五人は呆気に取られたままスクリーンを見つめる。
最後に青空をバックに回る観覧車を映し出した後、映像はぷっつりと途切れた。
……………………………………………………
「結局ただの無駄フィルムだったわね。ま、うるさく騒がれるよりはよっぽどマシだったけど」
上映を終えて、途中で退屈して膝の上で寝てしまったアルルゥの髪を撫でつつ、ハルヒはあくびを上げた。
長門が彼女の肩に手をかける。
「貴方も今のうちに睡眠を取った方がいい。長時間の緊張状態は健康状態に支障を来す」
「平気よ。有希だって寝てないのに団長だけ寝るわけに行かないじゃない」
「私なら問題ない。今までに適当な所で休息を得ている。数時間程度なら警戒態勢を維持可能」
ハルヒは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑って見せる。
「そう……。悪いけどそうさせてもらうわ。有希も眠くなったら誰かに見張り代わってもらうのよ」
「ありがとう」
アルルゥとともにソファに横たわってすぐに寝息を立てはじめたハルヒを見ながら、長門は先ほどの自分の言動についていぶかしむ。
――――――健康状態を気遣われたから礼を言った。"ありがとう"。単なる社交辞令。問題ない。何ら問題が無い。
生じるごく僅かの思考ノイズ。何故か、不快でない。
格別行動に支障をきたす訳では無いが、消去。エラー。消去。エラー。消去。エラー……。
ふと眼をやると、ハルヒの横で眠っていたアルルゥが眼を擦りながら起き上がろうとしていた。
すぐに横で眠るハルヒの存在に気づく。
「ハルヒおねーちゃん、ねちゃったの?」
「ええ。出来る限り起こさないように行動して欲しい」
アルルゥはじっとハルヒを見つめる。
「おねーちゃん、おきるよね?」
「質問の意図が掴めない」
寝ている以上、いつかは眼を覚ます。幼いとは言え、彼女もそれぐらいは分かっているはずだ。
見るとアルルゥは目に涙を貯めていた。
「おやじ、ねちゃったっきり、め、さまさなかった。ハルヒおねーちゃんもめ、さまさないの、やだ。
でも、いまおこしたらおねえちゃんに迷惑だから、おこしちゃだめ。でも、こわい」
「…………」
実際にハルヒが目を覚まさない可能性はゼロではない。
頭部への打撲の影響が今になって悪化したら、最悪このまま昏睡しないとも限らない。
その可能性をアルルゥに返答するかどうか。
メリット:懸念が現実のものとなった場合、あらかじめ最悪のケースを伝えておくことで彼女には比較的スムーズな対応を期待できる。
デメリット:彼女が不安を解消するために涼宮ハルヒを覚醒させる危険性。
両者のリスク重みを今までの行動モデルから比較検討。思考ノイズ。中断。
「心配は不要。彼女は本当に睡眠状態にあるだけ。呼吸、脈拍、眼球運動は正常。じきに眼を覚ます」
「ほんとう?」
涙目でアルルゥは長門を見上げる。
「ええ、大丈夫」
その返答に安心したのか、アルルゥは再びハルヒの腕の中に潜り込むと、目を閉じて眠りはじめた。
そのあどけない寝顔を眺めながら、長門はしばらく呆然としていた。
(私は……何を……)
先ほどの自分の言動が合理的に説明できない。
自分自身の行動予測モデルと実際の行動が一致しない。
おおむね行動規範からは逸脱していないが、放置すれば破滅的なバグが生じる可能性も否定出来ない。
可能性は高くないが仮に涼宮ハルヒらと共に元の時空座標に帰還できた場合、自身の思考回路をリブートするか、最悪本端末を廃棄することも検討せねばならない。
どのみち決めるのは自分では無いが。
問題は無い。今は涼宮ハルヒの環境認識に負荷を与えない形で彼女を帰還させることに全力を注げば良い。
顔を上げると後片付けをしていたトグサが長門に近付いてきた。
「長門……だったな。君もそろそろ休んだ方が良い」
『問題は無い。それよりも貴方に話がある』
「そうは言っても休める内に休んでおかないと直る怪我も直らな…………、なんだって?」
トグサが目をしかめる。
『まさか、電脳通信が使えるのか!? 電脳化していないのにどうやって!?』
『貴方達の社会の物とは異なる独自の技術を用いている』
『それにしても公安九課の緊急通信用暗号をこんなに簡単に破られるなんてな……』
『容易では無かった。だから解析が完了するまで今までかかった』
トグサは頭を抑えた。
『で、他人に聞こえないようにして、こんな回りくどい方法で内緒話をしなければならない理由って言うのは……』
『貴方の考える通り。盗聴及び監視の危険性を考慮した』
そう言って長門は自分の首輪を指で叩く。
『……君は一体何者だ? 電脳化していないのに女子高生にしちゃ場馴れ過ぎだ。精神矯正を受けて軍のラボに放りこまれた元犯罪者か何かか?』
『情報交換と同時に貴方の認識を改める必要がある』
そう告げると長門はいつもの抑揚の無い声で自己紹介をはじめる。
『情報統合思念体によって作られた、対有機生命体コンタクト用ヒュマノイド・インターフェース。それが私』
『……………………は?』
トグサはSOS団雑用係が初めてこの言葉を聞かされた時とそっくりな表情を見せた。
◇ ◇ ◇
『すると何か? 君は宇宙人との交渉代理人みたいなもの。そしてこのハルヒって娘は観測することで外界の有り様にまで干渉できる無自覚なエスパー。
彼女の環境認識にドラスティックな変化を与えたら、大惨事になる可能性があるから彼女の目の前で君の能力を見せることは出来ない、と』
『その認識で概ね問題は生じない』
トグサは思わず天を仰いだ。
『信用できないかもしれないが、今の所はそう言うことにしておいて欲しい』
『いや……こうも常識外れな話が立て続けに起こって少し混乱している……。
ああ、大丈夫だ。まあ、君にも守秘義務があると、そういう感じでいいか』
『ええ』
相変わらず淡々とした様子で長門は本題に入る。
『先ほどの映像、あれから貴方は何を読み取った?』
『……あれがミスリードを誘うための罠でないとしたら、この街はおそらく一から主催者が作り上げたものではない。
多分オリジナルの都市があり、そこから住人を追い出したか、そっくり丸ごと人間以外をコピーしたか……。きっと、あの映像は元の街の本来の姿だ』
『データに該当する地球上の地形が存在しなかった為、当初は私はその可能性を低く見積もっていた。
大気組成及び太陽活動をはじめとする天体現象は西暦2000年前後の地球のそれで近似されるが、太陽黒点や月齢、惑星座標、超新星等の突発天体現象で厳密な時間を特定しようとした所、過去及び未来の予測値で該当するデータは存在しなかった。
また地磁気、重力と日周運動から、地球上で該当する座標は北緯35度付近で季節は四月上旬と推測される。各施設の文化的特長、気象、地質は日本の関東地方地方都市の特徴と合致する。
だが南北座標の移動に伴い発生するはずの微小なコリオリ力は検出されず、そもそも本座標が地球表面上にあるかどうかは極めて疑わしいと言わざるを得ない
植物の植生や年周期リズムも出鱈目。明らかに操作された痕跡がある。
それを踏まえた上でこの未確認空間に対する私の考察を聞いてほしい
奇妙な点は以下の通り。
まず、各参加者間で出身地空座標の時間帯が数十年以上のスケールで異なっている。
私達は西暦2003年だったが貴方達は西暦2031年、石田ヤマトの話では1999年だった。
ギガゾンビと面識があると推定される青い自律行動ロボット、あれを作成できる程の技術レベルに達するのは、人類の技術進歩速度から計算しておそらく二十一世紀中には実現不可能。
この少女アルルゥの遺伝子系に見られる遺伝子操作の痕跡もギガゾンビが時間平面を跳躍して影響を及ぼせることの証左となっている。
時間平面の跳躍自体は人類の技術でも将来において可能になるはずなので、このこと自体はなんら訝しむに値しない。
たとえそのような技術がなくとも、我々を出身時代ごとで拘束して時間凍結をかけ、全員が揃うまで保存しておけば、パラドクスを生じさせることなく異なる時間平面から参加者を集めることは可能。
だが、単なる時間平面への干渉では説明できない齟齬も生じている。
貴方の提供してくれたアーカイブによると、私達が存在していた時間帯において全地球規模の複数国家間戦争があったことになっているが、実際にはその兆候すら見られていない。
さらに石田ヤマトの話していたデジタルワールドなる情報空間が存在すれば、その性質上情報統合思念体が感知していないはずが無い。だがそんなものは地球上には存在しなかったはず。情報生命体亜種が隠蔽していてもその痕跡すら掴めないというのはおかしい。
以上の情報から私はこの異常な環境への説明として、以下の二つの可能性を考えた。
一つは、ギガゾンビの有する科学技術が平行宇宙への干渉も可能にしているというもの。
その場合、ここは彼の言っていた"亜空間破壊装置"によって他の事象線上からは隔絶された人為的宇宙と言うことになる。
もう一つはここがコンピュータ上でのシミュレーション等に代表される仮想空間である可能性。ギガゾンビの言う"タイムパトロール"や"亜空間破壊装置"などの単語は我々をここに集めて殺し合わせるためのもっともらしい"ゲーム設定"。
私達の物理的身体は元から存在せず、行動パタンをプログラムされたキャラクタがクオリアをデジタルデータで誤魔化されて動いているに過ぎない。
勿論私達に帰るべき"元の世界"は存在せず、主催者への反抗自体根本的に不可能になる、そう思っていた。
しかし先程のフィルムの内容を判断材料に加えると後者の可能性が極めて低くなる。もしこの街が仮想空間だったとしても、それにはきっとコピー元のオリジナルの街が形而下で実際に存在するはず』
『そうだな……。ただのデータに過ぎない街の映像をわざわざカメラに収めようなんて、普通人は考えない。きっと撮った人はその街に実際に住み、そこで生きていたんだろう』
『ここは石田ヤマトの言う"デジタルワールド"と性質の似た、現実世界の情報と直接リンクしている空間なのかもしれない。いずれにしても主催者への反抗の余地は残されていると私は考える。
ここがどんな性質の空間であろうとも、情報統合思念体とコンタクトさえとれれば、私の情報解析情報連結能力を取り戻し首輪の解除と脱出が可能になる』
『外部とのコンタクト……、出来るのか?』
『この空間の性質を正しく理解し、私達が元居た世界への情報経路が把握できれば、志向性の強いビーコンを発射して情報統合思念体に送り届けることが可能かもしれない。
空間の性質を理解するためには、空間構成情報をただ漫然と集めるより、例の映像と現在の状況の差違を比較する方が効率が良い』
『つまり実際に行って確かめて見るということか? 映画に映っていた場所を?』
『ええ。撮影者と同じ視点に立って同じ視線からの光学データを収集したい。十箇所ほどのデータが集まれば、この空間の正体について結論が出せると思う』
『……それで、仮にこの街の謎を解明できたとして、実際に君のパトロンとコンタクトが取れる可能性はどれくらいある?』
『不明。ただし涼宮ハルヒが強力な思い入れを持っている物品を手に入れることが出来れば、それが持つ膨大な構成情報を手がかりにして情報経路の発見が飛躍的に容易になる。が、しょせんはないものねだり』
『そうか……。だがやってみないよりはましか。だがどうする? ここには二人も子供がいて、しかも怪我人まで抱えている。下手に動けないぞ』
『だが時間経過と共に状況は悪化の一途を辿ると考えられる。だから』
ここで長門は肉声に切替えた。
「私が一人で行く」
トグサは唖然とする。
「正気か? 殺人者の襲撃はいずれも屋外で起きているんだぞ」
「問題ない。例の金髪の騎士が相手でも、涼宮ハルヒの前でなければ逃げのびるくらいなら出来るはず。
だが彼女の目の前に居ては私は情報操作能力を発揮できない。涼宮ハルヒを守るのは貴方の方が適任」
「待て! インターフェースだか何だか知らないが、未成年者をむざむざ危険な目に合わせる訳には……。ああくそでもこっちの三人を放っておく訳にもいかない」
髪をかきむしるトグサ。
長門はアルルゥを抱えて眠るハルヒを眺めた。
もし自分が行ってしまったら彼女はどうするだろうか?
怒るだろう。そして後を追おうとするかもしれないがしかし……。
「わかった。一人で行動しては他の参加者の信用を得られないかもしれない。
貴方には私と同行してほしい」
トグサは驚いた。
「何だって? だがこの三人はどうする?」
「朝倉涼子、草薙素子、バトー、ハクオロ、カルラ、ルパン三世、石川五エ門、こう言った強力な戦闘能力を有する人物が早々に"脱落"し、涼宮ハルヒ達やアルルゥ、石田ヤマト、八神太一ら弱者に分類される者が現時点でも生き残っている。
つまり実力に自信があり積極的に状況に対して立ち回る者より、おとなしく殺人者からは逃げる、隠れる等の選択を取る一般人の方が生存率が高くなると考えられる。だから、涼宮ハルヒ達はこのまま映画館に留まった方が良い。
しかし私が彼女に無断で出発した場合、彼女は貴方に子供達を任せて、私達SOS団員達を追う可能性が高い。彼女の"彼"に対する執着は過小評価できないから。それでは元も子もない。
しかし私と貴方が同時に出ていけば彼女は動けない。彼女にはアルルゥと石田ヤマトを放っておくことが出来ないはず。彼女もここに隠れている方が安全であると理解しているので、ここで大人しく私達の帰りを待つものと推測される。
しかし彼女だけでは心配。だから貴方と私の装備で彼女らでも使えそうなものを置いていく。
これが受け入れられないならば、私は一人で出て行く」
長門は淡々と言い放った。
トグサは眠っている三人を見つめる。
涼宮ハルヒ、石田ヤマト、アルルゥ。
彼女らは、弱い。
自分はヒーローなどでは決してないし、なりたいとも思わないが、彼女らの安全を何かと引き換えにする程ゴーストを焦げ付かせてはいない。
だが、自分一人で何が出来る?
少佐ほどの状況判断能力は無い。バトーほどの身体能力もない。
彼女らの側に付いていた所で、金髪の騎士やトラックへ銃撃を加えた人物が相手では足止めすら出来ないだろう。
……これほどまで自分が義体化していなかった事を悔やんだことはない。
トグサは立ち上がるとヤマトの側に行って彼を揺り起こした。
「もう朝か……何かまだずいぶん眠い……」
眠そうに目を擦るヤマトにトグサは告げる。
「すまないが、伝言を頼まれてくれないか」
◇ ◇ ◇
「なんで黙って行かせたのよっ!!」
三十分後。覚醒し長門とトグサの姿が見当たらない理由を告げたヤマトに対して涼宮ハルヒは激怒していた。
「おれだって止めたさ! 外は危険だって! でも仕方ないじゃないか……、おれたちが付いていっても足手まといになるだけだ」
ヤマトも負けじと言い返すが、いかんせんハルヒと比べると迫力不足だ。
「そりゃ、私達じゃ頼りないかもしれないけど、有希だって女の子なのよ! 調べたいことが出来ただか何だか知らないけど、タヌ機を残していくなんて無謀が過ぎるわ!」
「おねーちゃん……こわい……」
言い争いのせいで起きてしまったアルルゥに不安げな目で見つめられ、ハルヒは一端怒りを収める。
ハルヒにも分かっている、怪我人と子供ばかりの自分達は連れて歩くことはできない。
それでも置いて出ていくのが心苦しいから、なけなしの装備品を置いていったのだ。
(私じゃ……何の役にも立てないって言ってるようなもんじゃない!)
実際にそうであることが分かっている。
分かっているからこそ余計に腹が立つのだ。
やり場の無い苛立ちは、その矛先がヤマトからトグサに移る。
「トグサさん……特別団員の身分で団長に無断で正規団員を連れて独走とは良い度胸だわ……」
「あ、それだけど『公務員はバイトが無理だからSOS団は脱退する』だそうだ」
「ぬわぁぁんですってぇぇぇ!!」
ハルヒの気迫に思わずヤマトもたじろぐ。
「これはゆゆしき事態よ! 最近有希みたいな仏頂面で無愛想なコが萌えであると言う奇特な連中が多いそうだわ! もしトグサさんもそうなら今頃私を差し置いて有希にあんなことやそんなことを致しているかもしれない!」
もしトグサが聞いたら電脳をショートして死んでしまいたくなるような言いがかりを付けつつ、ハルヒは二人に号令をかけた。
「こうしちゃいられないわ! アルちゃん! ヤマト! 二人を追うわよ!」
「おー!」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
すっかりその気になっているハルヒとアルルゥをヤマトが止める。
「ここにいた方が安全だから二人もおれたちを置いていったんだろ!」
「分かってるわよそれくらい」
だが、ハルヒの決意も固い。
「ここに留まった方が私達の身体はきっと安全。でもアルちゃんは……アルちゃんの心はここにいたんじゃ守れない」
「心?」
「ええ……。アルちゃんはお父さんやルパンがいなくなってとても悲しんでる。ひとまず私達という友達を得てなんとか自分を保ってはいるけど、もしこれからお姉さんの名前が放送で呼ばれでもしたら……アルちゃんはきっと耐えられない。
私もキョンや有希がむざむざと知らない所で殺されるなんて我慢できないわよ」
「うん! アルルゥもおねーちゃんにあいたい!」
出発する気満々の二人を見てヤマトは思う。
自分はどうか。
太一のことは心配だ。会ってどうなるものでもないかもしれないが、それでも会いたい。
そして、ぶりぶりざえもん。
あのあとどうなったか……。放送で名前が呼ばれなかったものの、あの状況で五体満足でいられるとはとても思えない。
彼は自分達を救うために身を投げ出した。その彼を見捨てる訳には行かない。
「あんたはここで留守番してればいいわ。私だけでもアルちゃんを守り抜いて……」
「おれも行く」
ヤマトははっきりと自分の意向を示した。二人に引きずられた訳では無く、自分の意志で。
「おれも、ぶりぶりざえもんの無事を確認したい」
「そうと決まれば話は早いわ! 基本方針は安全第一! 知らない人に会ったら話しかけず回避!」
「おー!」
「ほんとはやっちゃいけないけどトラックは無灯火! 暗視ゴーグルで周囲を警戒! 無理はせず数時間でここに戻る!」
「わかった!」
「それじゃ、書き置きとキョンへの留守電を残したら早速出発よ!」
◇ ◇ ◇
夜間に無灯火でヘルメットもせず魔女のコスプレをした女子高生と二人乗り。
警察官にあるまじき行為をしながら、トグサは夜の街をマウンテンバイクでひた走っていた。
後ろからしがみついている長門が一瞬身震いをする。
「どうした?」
「……うまく言語化できない。理由もなく突然不安を喚起する信号が流れた。原因は全く不明」
「それはあれかな。虫の知らせって奴。君にもゴーストが囁いてるのかもしれない」
「ゴースト……デカルトの劇場……」
「まあ、魂みたいなもんさ。唯の戯言だ、忘れてくれ」
訳も分からない不安を乗せたまま、自転車は冷たいコンクリートの上を走り抜けていった。
【B-4付近(映画館から自転車で30分の範囲)/1日目・真夜中】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気/SOS団団員辞退/自転車徐行
[装備]:S&W M19(残弾1/6発)/刺身包丁/ナイフ×5本/フォーク×5本/マウンテンバイク
[道具]:デイバッグ/支給品一式(食料-2)/警察手帳(元々持参していた物)
技術手袋(使用回数:残り17回)/首輪の情報等が書かれたメモ1枚
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:長門のロケ地巡りに付き合う。
2:一段落したら急いで映画館に戻る。
3:ホテルに残したセラスが心配。
4:情報および協力者の収集、情報端末の入手。
5:タチコマ及び光、エルルゥ、八神太一の捜索。
6:長門の説明に半信半疑ながらも異常な事態を理解しつつある。
[備考]
風・次元と探している参加者について情報交換済み。
【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:思考に軽いノイズ/左腕骨折(添え木による処置が施されている)/SOS団正規団員/自転車後部座席
[装備]:ハルヒデザインの魔女服(映画撮影時のもの)/ナイフ×5本/フォーク×5本
[道具]:デイバッグ/支給品一式(食料-2)
[思考]
基本:涼宮ハルヒの安全を最優先し、状況からの脱出を模索。
1:涼宮ハルヒが心配。
2:ロケ地を調べて空間構成情報を収集。
3:小次郎に目を付けられないように注意する
4:キョンとの合流に期待
[備考]
癒しの風による回復力促進に伴い、添木等の措置をして安静にしていれば半日程度で
骨折は完治すると思われます。
【B-4・映画館/1日目・真夜中】
【新生SOS団】
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:小程度の疲労と眠気/頭部に重度の打撲(意識は回復。だがまだ無理な運動は禁物)
左上腕に負傷(ほぼ完治)/心の整理はほぼ完了
[装備]:タヌ機(1回使用可能)/RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
[道具]デイバッグ/支給品一式(食料-2)/着せ替えカメラ(使用回数:残り18回)
インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)/トグサが書いた首輪の情報等が書かれたメモ1枚
[思考]
基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームから脱出。
1:ヤマトと交替で運転しつつ、トラックで知り合いを探す。
2:キョンと合流したい。
3:ろくな装備もない長門(とトグサ)が心配。
[備考]
腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟/SOS団特別団員認定
小程度の疲労と眠気/右腕上腕に打撲(ほぼ完治)/右肩に裂傷(手当て済)
[装備]:クロスボウ/スコップ/暗視ゴーグル(望遠機能付き)
[道具]:デイバッグ/支給品一式(食料-2)/ハーモニカ/デジヴァイス/真紅のベヘリット
クローンリキッドごくう(使用回数:残り3回)/ぶりぶりざえもんのデイパック(中身なし)
[思考]
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
1:ハルヒと交替で運転しつつ、トラックで知り合いを探す。
2:ぶりぶりざえもんやトグサと長門が心配。
[備考]
ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:小程度の疲労と眠気/右肩・左足に打撲(ほぼ完治)/SOS団特別団員認定
[装備]:ハクオロの鉄扇/ハルヒデザインのメイド服
[道具]:無し
[思考]
基本:ハルヒ達と一緒に行動。エルルゥに会いたい。
1:トラックの中から周囲を警戒して、二人の役に立ちたい
2:が、眠いので寝る。
[共同アイテム]:73式小型トラック(※映画館脇の路地に止めてあります。キーは刺さったまま)
おにぎり弁当のゴミ(※トラックの後部座席に放置されています)
*レジャービルの留守電にハルヒ達が実際とは逆の方向に進む旨のメッセージが残されました。
*映画館にトグサ達への書置きが残されました。
『すると何か? 君は宇宙人との交渉代理人みたいなもの。そしてこのハルヒって娘は観測することで外界の有り様にまで干渉できる無自覚なエスパー。
彼女の環境認識にドラスティックな変化を与えたら、大惨事になる可能性があるから彼女の目の前で君の能力を見せることは出来ない、と』
『その認識で概ね問題は生じない』
トグサは思わず天を仰いだ。
『信用できないかもしれないが、今の所はそう言うことにしておいて欲しい』
『いや……こうも常識外れな話が立て続けに起こって少し混乱している……。
ああ、大丈夫だ。まあ、君にも守秘義務があると、そういう感じでいいか』
『そう』
相変わらず淡々とした様子で長門は本題に入る。
『先ほどの映像、あれから貴方は何を読み取った?』
『……あれがミスリードを誘うための罠でないとしたら、この街はおそらく一から主催者が作り上げたものではない。
多分オリジナルの都市があり、そこから住人を追い出したか、そっくり丸ごと人間以外をコピーしたか……。きっと、あの映像は元の街の本来の姿だ』
『データに該当する地球上の地形が存在しなかった為、当初は私はその可能性を低く見積もっていた。
大気組成及び太陽活動をはじめとする天体現象は西暦2000年前後の地球のそれで近似されるが、太陽黒点や月齢、惑星座標、超新星等の突発天体現象で厳密な時間を特定しようとした所、過去及び未来の予測値で該当するデータは存在しなかった。
また地磁気、重力と日周運動から、地球上で該当する座標は北緯35度付近で季節は四月上旬と推測される。各施設の文化的特長、気象、地質は日本の関東地方地方都市の特徴と合致する。
だが南北座標の移動に伴い発生するはずの微小なコリオリ力は検出されず、そもそも本座標が地球表面上にあるかどうかは極めて疑わしいと言わざるを得ない
植物の植生や年周期リズムも出鱈目。明らかに操作された痕跡がある。
それを踏まえた上でこの未確認空間に対する私の考察を聞いてほしい
奇妙な点は以下の通り。
まず、各参加者間で出身地空座標の時間帯が数十年以上のスケールで異なっている。
私達は西暦2003年だったが貴方達は西暦2031年、石田ヤマトの話では1999年だった。
ギガゾンビと面識があると推定される青い自律行動ロボット、あれを作成できる程の技術レベルに達するのは、人類の技術進歩速度から計算しておそらく二十一世紀中には実現不可能。
この少女アルルゥの遺伝子系に見られる遺伝子操作の痕跡もギガゾンビが時間平面を跳躍して影響を及ぼせることの証左となっている。
時間平面の跳躍自体は人類の技術でも将来において可能になるはずなので、このこと自体はなんら訝しむに値しない。
たとえそのような技術がなくとも、我々を出身時代ごとで拘束して時間凍結をかけ、全員が揃うまで保存しておけば、パラドクスを生じさせることなく異なる時間平面から参加者を集めることは可能。
だが、単なる時間平面への干渉では説明できない齟齬も生じている。
貴方の提供してくれたアーカイブによると、私達が存在していた時間帯において全地球規模の複数国家間戦争があったことになっているが、実際にはその兆候すら見られていない。
さらに石田ヤマトの話していたデジタルワールドなる情報空間が存在すれば、その性質上情報統合思念体が感知していないはずが無い。だがそんなものは地球上には存在しなかったはず。情報生命体亜種が隠蔽していてもその痕跡すら掴めないというのはおかしい。
以上の情報から私はこの異常な環境への説明として、以下の二つの可能性を考えた。
一つは、ギガゾンビの有する科学技術が平行宇宙への干渉も可能にしているというもの。
その場合、ここは彼の言っていた"亜空間破壊装置"によって他の事象線上からは隔絶された人為的宇宙と言うことになる。
もう一つはここがコンピュータ上でのシミュレーション等に代表される仮想空間である可能性。ギガゾンビの言う"タイムパトロール"や"亜空間破壊装置"などの単語は我々をここに集めて殺し合わせるためのもっともらしい"ゲーム設定"。
私達の物理的身体は元から存在せず、行動パタンをプログラムされたキャラクタがクオリアをデジタルデータで誤魔化されて動いているに過ぎない。
勿論私達に帰るべき"元の世界"は存在せず、主催者への反抗自体根本的に不可能になる、そう思っていた。
しかし先程のフィルムの内容を判断材料に加えると後者の可能性が極めて低くなる。もしこの街が仮想空間だったとしても、それにはきっとコピー元のオリジナルの街が形而下で実際に存在するはず』
ようやく見えてきた病院の影に、ドラえもんはホッと胸を撫で下ろした。
「太一君! もうちょっとだからね」
「見えてるって。ったく、ドラえもんは心配性だな」
太一はそういって苦笑するが、その顔色はあまりよくない。
何といっても右手切断という大怪我を負っているのだから当然だろう。
前を行くカズマにも疲労の色は濃い。足を怪我をしているのび太も心配だ。
(早くみんなを休ませないと……)
幸いな事に、不幸の女神もこれ以上の艱難辛苦を一行に与えるつもりはなかったらしい。
ほどなく、病院の入り口に4人は差し掛かった。
「……ん?」
病院の正面玄関前に人影を見つけたカズマが、後ろの3人を庇うように前にでると身構える。
「大丈夫だよ。カズマさん……」
「あぁ?」
のび太の静止にカズマが怪訝そうに眉を上げた。
「その人もう……。死んでるから」
のび太の言葉通り、車椅子に乗った少女、八神はやてはただ、物言わぬ体を月明かりに晒していた。
■
「のび太く〜ん!」
病院の中を歩きながら、ドラえもんはきょろきょろと廊下を見渡した。
闇が廊下をおし包み、非常灯のライトだけが薄く照らしている。
肝試しにはうってつけといった風情である。
カズマと太一は、ドラえもんの治療を受けるやいなやベッドに倒れこみ、超特急でヒュプノスの御許へと旅立って行った。
負傷に加え、あれだけ体を酷使したのだから無理もない。
特に深刻だったのはカズマだった。
彼は、全身に打身・裂傷・火傷を負い、さっきまで歩いていたという事実が信じられない状態であった。
(無茶するなあ、カズマくんは……)
ドラえもんはため息をついた。
人間離れした精神力の持ち主であることは賞賛に値するが、それが命取りにならないとも限らない。
カズマの体についても、今後は気をつけるようにしようとドラえもんは誓う。
そして、眠った二人にシーツをかけた後、のび太の足の手当てをしようと思ったのだが、その当人がいない。
(おかしいなあ……。どこいっちゃったんだろう?)
その時、前方から見慣れた人影が向かってくるのに気づき、ドラえもんは胸を撫で下ろした。
「のび太くん!」
「ドラえもん、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないよ。ほら、足見せて。ちゃんと手当てしないと……」
心配そうなドラえもんに向かって、のび太は小さく笑みを浮かべて見せた。
「いいよ、僕は。さっき手当てしてもらったばっかりだし」
そこでドラえもんは初めて、のび太が病院の倉庫から調達したとおぼしきスコップを持ている事に気づき、
「そんな物持って何処行くの、のび太くん?」
驚きの声を上げた。
「正面玄関のあの子、埋めてあげたいんだ。あそこにあのままじゃ、可哀想すぎるよ」
暗く沈んだのび太の声音に、ドラえもんは胸を突かれる思いがした。
「そうだね……。じゃあ、僕も手伝うよ」
「ドラえもんは、カズマさんや太一君についててあげて。二人とも大怪我してるんだし。
僕は一人で、大丈夫だから」
そう言って、悲しげな表情を浮かべたまま、のび太は正面玄関へ歩いていった。
「のび太くん……」
ドラえもんはのび太の後姿を見送ってため息をついた。
のび太は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむ事のできる、優しい少年だ。
だから今、この状況で深く傷ついている。
友達を失い、自分を守ろうとしてくれた人を失い、深く傷ついている。
そしてそれは、今眠っているカズマと太一もそうだ。
何とか3人を元気づけてあげたいものだと、ドラえもんは考える。
「そうだ!」
少しの間、思考の井戸に沈んでいたドラえもんは、ふとアイデアを思いつき顔を輝かせた。
■
ざっ、ざっ、と土を掘り返す音だけが、病院の庭に響いている。
のび太はチラリと、車椅子の少女に視線を走らせた。
暗い褐色の死斑が浮かび上がり、顔を背けたくなるような状態である。
だが、勇気を振り絞ってよくよく注視すれば、生前は可愛いと評されることが多かったであろうことが予想できる顔立ちだ。
だが、この優しげな少女が二度と口を開く事も、動く事もないのだ。
それが死だから。
のび太は知っている。
死というものが周りの人間にどれだけ喪失感をもたらすかということを。
優しかった祖母が死んだ後、自分がショックから立ち直るのにどれだけの時間を要したか。
一度自分がドラえもんの秘密道具で過去に行っている時、自分が死んでいると誤認した母親がどれだけ取り乱したか。
この少女の両親は、友達は、どれだけ嘆き悲しむのだろうか?
それを思うとのび太の心は悲しみで重くなる。
同時に心に湧きあがってくるものがあった。
それはギガゾンビに対する底知れぬ怒り。
(しずかちゃん、スネ夫、先生、キートンさん、銭形のおじさん……)
目の前で死んでいった人達。そして、この少女のように何処かで死んでいった人達。
どの人達にも同じように家族がいて、悲しむ人達がいるだろう。
それを、それを……
――これは私の退屈をしのぐ見せ物なのだ
始めに集められた会場で、確かにあの男はそう言った。
(許さない、絶対に許さないぞ……)
これほど一人の人間が憎いと思った事は無かった。
いつもは腹が立つことはあっても、眠ればすぐに忘れる事ができた。
だが、今度だけは忘れられそうにも無い。
怒りの炎はすぐに業火となって頭に駆け上がり、のび太の奥歯が音を立てて軋み、視界が眩む。
(でも、一体どうやったらいいんだ……)
怒りの炎の火勢が、急速に弱まっていくのをのび太は感じた。
どうやったら、ギガゾンビに思い知らせてやれるのか、さっぱり分からない。
五里霧中どころか、目指す目的地すらさだかではないのだ。
天を仰ぎ、のび太は大きくため息をついた。
闇に浮かぶ月は真円を描き煌々と光を放っており、その煌きがのび太を少しだけ陰鬱さから開放してくれた。
(そうだ。銭形のおじさんのお墓も作ってあげなきゃ……)
となるとグズグズしている暇はない。
のび太は、一心不乱にスコップを動かし始めた。
■
「終わった……」
ほおっと、深い息を吐いてのび太は座り込んだ。
胸に小さな達成感が湧き上がる。
目の前には三つの盛り土。
襲ってきた神父の格好をした男の墓は、作ろうかどうか迷った。
でも、この人にも大事な人がいて、必死に帰ろうとしていたんじゃないかと思ったら、ほうっては置けなかった。
のび太は三つの墓に向かってそっと手を合わせた。
「ご苦労様、のび太くん」
後ろからかかった慈しみに満ちた声に、のび太はゆっくりと振り返った。
予想通り、後ろにはドラえもんの顔があった。
いつものように笑顔を浮かべているドラえもんの顔を見ていたら、思わず涙が出そうになって、
「ど、どうかしたの? ドラえもん」
のび太は慌てて眼鏡をはずして目をこすった。
そんなのび太に、ドラえもんはもう一度優しく笑いかけた。
「ご飯だよ、のび太くん」
「……ご飯……って?」
何でもない言葉のはずの言葉の意味をのび太は一瞬真剣に考え、思わず聞き返してしまう。
「カレーライスだよ」
可笑しそうにドラえもんは答えたのだった。
■
「これ、お前が作ったのか?」
眠っていたところを起こされ、始めは不機嫌そのものといったカズマだったが、
実際に現物が運ばれてくると、目を大きく見開き、身を乗り出した。
太一ものび太も、信じられないと言うように目の前の物体を見つめている。
「病院だから、ひょっとしてと思ったんだ。食材が残ってて良かったよ」
何人かが持ち去った形跡があったが、幸いな事に、病院の大きな冷蔵庫にはまだ食材が残されていたのだ。
形は不恰好ながら、ジャガイモ、にんじん、タマネギといった定番の野菜の他に肉も入っている。
カレー粉の匂いが鼻腔を刺激し、空腹感を喚起された3人はゴクリと喉を鳴らした。
ドラえもんは顔をほころばせる。
食べる事は、生の喜びを実感させ、活力を生み出す行為なのだ。
ろくなものを口にしていない3人には、これ以上ないプレゼントになるだろう。
「んじゃ、遠慮なくいただくぜ!!」
カズマが真っ先にスプーンに手をのばし、猛烈な勢いでカレーをかきこみはじめる。
「うん、うめーな、これ!」
食べると言うよりは喰らいついているという形容が似合うカズマに負けじとばかり、
「じゃ、俺も……」
スプーンに手を伸ばしかけた太一の顔がさっと陰る。
スプーンに伸ばしかけた腕の先には、それを掴むべき手首がなかったからである。
今更ながらに自分は右手を失ったのだという実感を太一が襲う
――これからは右手がない状態で生きていかねばらない。
利き手を失う。
それは小学校5年生の少年にとって、目の前が暗闇で塗りつぶされたように感じるほど、過酷な事実だった。
だが、それでも。
「いっただきまーす!」
腹に力を込めると、太一はその感情を心の奥に押し込めようと、明るい声を張り上げた。
そして左手でスプーンを掴み、慣れない手つきでカレーを口に運び始める。
(負けてられっかよ! 俺が殺しちまった人の痛みに比べれば、これぐらい……)
誰も何も言わなかった。
逆境に耐え、立ち向かおうとする少年に対し、気遣う姿勢をみせるのは侮辱だと誰もが思ったからである。
「いただきます!」
自分もカレーを口に運びながら、のび太は静かにギガゾンビへの怒りを燃やし
「お代わりあるから、たくさん食べてね」
ドラえもんは太一の痛ましさと健気さに泣きそうになるのを必死でこらえ、
「じゃあ、頼む。大盛りで頼むぜ!」
カズマは、ギガゾンビを絶対にぶちのめすと改めて誓った。
■
「なくなっちゃった……。しょうがないなあ、明日は早起きして作らないと」
残りは朝食にするつもりで作った大鍋のカレーは、後かともなく消え去っていた。
欠食児童3人の食欲を少々甘くみていたのかもしれない。
それでも大鍋を洗いながら、
「美味しかった! ありがとう。ドラえもん!」
「食った、食った……。ありがとよ、美味かったぜ」
「ほ〜んと。すっげー美味かった。ありがとな、ドラえもん」
満足そうに部屋に戻っていった太一とカズマ、そしてのび太の顔を思い出すと、
ドラえもんは自分の頬がだらしなく緩むのを感じた。
(カレーぐらい誰でも作れるのになあ)
だが、あれほど喜んでもらえると作り甲斐がある。
(朝食は何にしようかなあ?)
などと考えながら、ドラえもんは食器を洗い続ける。
ほどなく食器を全て洗い終え、ドラえもんは足音を忍ばながら、三人が眠っているはずの部屋のドアを開けた。
(あれっ? のび太くん、また……)
カズマと太一はベッドに横たわり目を閉じていたが、のび太の姿はない。
ドラえもんはのび太を探すべく、病院の廊下を歩き出した。
■
病院の正面玄関から少し入った所にあるソファーに腰を下ろし、のび太は手の中の銃を見ていた。
思い出すのは、神父の格好をした男との戦闘の事。
確かにあの男の生命力は人のそれを大幅に超えていたし、動きも尋常ではなかった。
それでも、と思う。
(僕は、迷ってなかったんだろうか?)
銃で人を――。
――射殺する
という行為を。
戦っている時は無我夢中で撃っていたが、ちゃんと急所を狙っていたのだろうか?
正直、人を殺すという行為のことを考えるだけでゾッとする。
今も自分の思考の恐ろしさに、足が震える。
でも、ためらったらまた、誰かが死ぬかもしれない。
それは自分かもしれない。いや、自分ならまだいい。
自分をの周りにいる人間が、また死んだりしたら……。
今一緒にいる、カズマや太一や、
――ドラえもんが、死んだら
(ドラえもんが、死ぬなんて絶対嫌だ!)
ドラえもんは親友だと思う。ロボットだとかどうとかは、関係ない。
両親を除けば一番長く時間を共にし、喜びも悲しみも共にしてきた親友。
絶対に失いたくない。
(そうだよ。誰だって、大事な人を失いたくない、悲しませたくないって思ってるんだ)
だから、ゲームが続く限り、闘いが耐えることはない。
一分一秒でも早くこの殺し合いのゲームを終わらせなくてはならないのに……
そこでのび太の思考はいつものように空転する。
考えても考えても自分の知識ではどうにもならない。
近づいてくる気配が誰のものかすぐに分かったが、のび太は下を向いたままだった。
「こんな所にいたのか。駄目だよ、のび太くん。眠らなきゃ。見張りなら僕が――」
「ギガゾンビを倒すにはどうしたらいいか、教えてよ! ドラえもん!」
瞳に懇願の色を宿し、のび太はドラえもんを見上げた。
「のび太くん……」
ドラえもんは困ったような表情を浮かべた。
のび太は何かに憑かれたように話し始めた。
「さっきも言ったけど、僕はもう誰かが死ぬのを見たくないんだ。
そのためにはゲームを止めるしかなくて、ゲームを止めるためにはギガゾンビを倒すしかないでしょ?
どうにかならないの? 僕は何もできないの?」
のび太の問いかけにドラえもんは沈黙するしかなかった。
何故ならのび太の問いは、ドラえもんが何度も自分の中で発したものだったからである。
だが、その結論はいつも同じだった。
――ひみつ道具がなければどうにもならない
それを何とのび太に伝えようかとドラえもんが思案している間も、のび太は言葉は続く。
「カレイドルビーってお姉さんは、ギガゾンビについて知りたがってた。
知れば、自分の魔法の知識で何とかできるかもしれないって。
そりゃ僕は、あのお姉さんと違って魔法なんか使えないし、頭もよくないかもしれない。
でも、本当に何もできないの? 何かできることがあったら教えて欲しいんだ。
ドラえもんが分からないことがあるなら一緒に考えるから。だから、お願いだよ!
何でもいいから……教えてよ!!」
最後の言葉は血を吐くような響きを伴っていた。
のび太の必死の訴えにドラえもんは、思わず考え込む。
(……魔法)
そういえば、消滅した少女ヴィータも『魔法』を使っていた。
今の今までドラえもんは、23世紀の科学力を行使するギガゾンビには、
自分が22世紀の知識と道具をもって対抗するしかないと思っていた。
だがしかし、
(そうだ。よく考えて見たら、カズマ君がそうだけど、
このゲームの参加者の中には、22世紀の科学でも説明できない力を持った人間がたくさんいるじゃないか)
その力を使って、このゲーム脱出の糸口を掴んだ人間がいるかもしれない。
さっきのび太は、『分からない事があれば一緒に考えるから』と言った。
その通りだ。
取っ掛かりや推論を組み立てた人間が数人集まって、さらにその推論を推し進めることができたなら?
推論は出来なくとも、推論を実行に移せる技術や力を持った人間と力を合わせたなら?
(僕は一体何をやってたんだ。そもそもギガゾンビを倒せたのは、僕の力じゃない。
のび太くん、ジャイアン、スネ尾くん、静ちゃん……。みんなと力を合わせたからじゃないか。
いつだってそうだったじゃないか)
絶体絶命の危機を脱するために、みんなで頭を捻り、力を合わせる。
何故そんななことも忘れてしまっていたのか。
ドラえもんは、のび太の顔を正面から見つめた。
「のび太くん、実は僕もどうやったらギガゾンビを倒せるか分からないんだ。
でもとにかく、僕が分かってる事を全部話す。それでいい?」
ドラえもんの言葉にのび太は顔を輝かせる。その時、
「そういう話には、俺達も混ぜてくんねえか?」
「カズマさんの言う通りだよ。俺達も混ぜろよな! ドラえもん!」
二つの声が廊下に反響し、ドラえもんとのび太は思わず顔を見合わせた。
「カズマくん、太一くん……。寝てたんじゃなかったの?」
「うるさくて寝てられねーよ……。とにかく話せよ、その分かってることとやらをよ!」
怒ったようにカズマがいい、太一も大きく頷く。
「分かった……。とにかく病室に戻ろう、そこで話すよ」
ドラえもんの提案に、3人は黙って肯定の意を示したのだった。
■
「実をいうと、分かっているっていうのは正確じゃないんだ。
僕の考えっていうのか、推測っていうのか……」
「前置きはいい。さっさと話せって言ってんだろ!?」
「わ、分かったよ。もう、すぐ怒鳴るんだから。カズマくんは」
苛立たしげに怒鳴るカズマに閉口したように、口をとがらかせるとドラえもんは話始めた。
「まず、僕達の状況から話すね。
僕たちは今、この世界から出られないし、助けを呼ぶことも、助けが来る事もない状況におかれてる」
ドラえもんは一度言葉を区切ると、3人を見渡した。
3人とも一様に神妙なおももちをしている。
「のび太くんは知ってるだろうけど、時間移動やワープ、並行世界への移動は超空間を通ることによって可能になる。
超空間っていうのは、過去と未来や任意の点と点、さらには並行世界と並行世界をつなぐ道みたいなもんだと思って欲しい。
その道をギガゾンビは、亜空間破壊装置という機械で破壊していしてしまったんだ。
そのせいで、タイムパトロールっていう――カズマくんと太一くんは知らないと思うけど――
時空を超えた犯罪者の取締り機関も手が出せないっていわけ」
深海の如く深い沈黙が4人を捕らえた。
誰も一言も発しようとはしない。
不安に狩られ、太一はちらちらと、周囲を見渡した。
(やっべ……。分かんないのって俺だけ?)
分からないと言うのは少し恥ずかしいが、話についていくためには仕方ない。
(俺小学生だし、のび太みたいにドラえもんと一緒にいたわけじゃないし、仕方ないよな)
自分にそう言い訳しつつ、太一が口を開こうとしたその時、
「で……。超空間って何だ? 食えるのか?」
カズマが言うのとほぼ同時に、
「もう! ドラえもんは何でそういつもそう、チョーカンとかヤーカンとかトンチンカンなことばっかり……」
のび太が呻き声を上げる。
(良かった、俺だけじゃなくて……。って全然良くないだろ!)
光子郎がいればなあ、と思いつつ太一は嘆息をもらしたのであった。
「ごめん、僕の説明の仕方が悪かった」
仕切りなおすつもりでドラえもんは、口を開いた。
「僕達が今いるところを海に浮かんだ島だと思って欲しい。
この島は、僕達の世界、太一君のいた世界、カズマ君のいた世界と超空間という橋でつながっていて、
超空間という橋を渡ることでしか、島とみんなの世界を行き来する手段はないんだ。
ところが、ギガゾンビがその橋を、亜空間破壊装置で壊しちゃったから、
この島から他の世界に行く事も、他の世界からこの島に来る事もできなくなっている。
つまり、タイムパトロームも誰も助けに来てくれないし、助けを呼びに行く事もできない、というのが僕達が置かれている状況なわけ」
またも沈黙が満ち、ドラえもんは不安に襲われた。
(う〜ん、もう少し噛み砕いていった方がいいかなあ? でも少しくらいは……)
またも、カズマが口を開いた。
「なんだか分かんねーけどよ。そのタイムパトロールってのは馬鹿なんじゃねえのか?」
「ば、馬鹿?」
思わずドラえもんは鸚鵡返しに聞き返す。
「ああ。橋がわたれねーなら、泳いでくりゃいいじゃねえか」
「うん。船を使ったっていいよねえ」
のび太もカズマに同意する。
太一は何も言わないが、しきりに首を捻っている。
――君達は実に馬鹿だな
あたたか〜い目をしながら、猛烈に毒を吐きたい衝動がドラえもんを襲うが、
頭の中でドラ焼きを数えて、ドラえもんはその衝動を何とか相殺する、
(泳いでって、船でって、そりゃないよ……。カズマくん、のび太くん)
心の中でドラえもんはため息をついた。
だが、ふとドラえもんの脳裏に閃くものがあった。
(橋を渡るんじゃなく、船で、泳いで……。
魔法とか別の世界の技術って本来、そういうものじゃないのかな?)
ドラえもんの定義する科学ではありえない法則や技術体系で構築されているもの、
それが魔法とかそういうものであるはずだ。
とはいえ、ギガゾンビがあれだけ自信たっぷりに言う以上、
魔法や別世界の技術をもってしてもこの世界への干渉は不可能なのだろう。
(亜空間『破壊』っていうより『遮断』って表現の方が近いのかもしれない。
『破壊』じゃ修復されちゃう可能性がある。しかもその遮断は、常時行われてるんだろうな。
同時に起こる可能性があるいくつもの並行世界からの干渉に一々対応して撥ね退けるなんて無理だもの。
だからこの世界は、亜空間破壊装置が発生させる超強力なバリアみたいなもので閉じ込められている世界、なのかなあ?)
「おい! ドラえもん! 黙ってんじゃねえよ!」
思考の海に沈んだまま浮上してこないドラえもんに業を煮やしたカズマの怒声に
「な、何? カズマくん」
ドラえもんはようやく思考の海から浮上した。
「何? じゃねえ! とにかく、誰も助けに来ねえってのは分かった。
けど、俺は元々そんなものアテにしちゃいねえし、どうでもいい。
問題はギガゾンビの野郎をどうやったらぶっとばせるかだ!
あの野郎は一体何処にいやがるんだ? それさえ分かりゃ……」
「何処って言われても……」
皆目検討もつかない、といおうとしてドラえもんは先ほどの考えをもう一度なぞる。
(常時ありとあらゆる干渉を跳ね返すバリアみたいなものを張ってるとするなら、
ギガゾンビだってこの世界の外にいたら干渉できないじゃないか。
それにギガゾンビは脱獄囚で追われてる。
ありとあらゆる干渉を撥ね退けるバリアで閉じられたこの世界はあいつに最も都合のいい世界。
つまりこの空間は僕達の牢獄であり、あいつの隠れ家――)
ドラえもんはいきなり立ち上がった。
「ごめん、お茶入れてくるからみんな待ってて!」
「お、おい!?」
「ドラえもん!?」
驚きと静止の声が上がる中、ドラえもんはかまわず病室の外へ向かう。
しばらくして戻ってきたドラえもんの手の中には、お盆とお茶があった。
そして呆気にとられたままの3人を尻目に、ベッドを動かし、シーツをベットの端と端に結びつけ、
テントのように広げて上から見えないような空間を作り、そこに3人に入るように促した。
ドラえもんの真剣さに気圧されるように3人はシーツの下に移動する。
するとドラえもんは、二枚重ねのお盆の間から紙を取り出した。
『何をどうやって監視されてるか分からないから、今から筆談で話すね』
紙に書かれたその文字を見て、3人は顔を見合わせた。
ペンを取り出し、ドラえもんは書き始める。
『ギガゾンビは僕達がいるこの世界の何処かにいる可能性が高い』
驚愕が狭い空間に充満し、3人の食い入るような視線に対してドラえもんは黙って頷いてみせた。
ややあって、カズマがペンを握った。
『オーケー、理屈はどうでもいい。ドラえもんを信じるぜ、ゴチャゴチャ考えるのは苦手だしな。
じゃあまず、このゲームの会場にいる可能性は省いていいんじゃねえか?
あのチキン野郎が俺達の手の届く所にいるわけはねえ』
『僕もそう思う。
だからこの首輪を外して、今ゲームが行われているエリアの外に出て……』
『後はギガゾンビを探してぶっ飛ばすだけってことだな』
『ギガゾンビを倒せなくても、亜空間破壊装置を壊すだけでもいいんだ。
そうすればタイムパトロールが来てくれるから』
『でも首輪さえって言っても、その首輪が一番問題なんじゃないの?』
結局何も今までと変わっていないのではないか、とのび太は思ってしまう。
『違うぜ、のび太』
カズマが獰猛な笑いを口元に浮かべながら、反論した。
『何がぶち壊さなきゃならない壁なのか。それが分かるのと分からないのじゃえらい違いだ。
ぶち壊すべき壁さえ分かりゃ、後はぶち壊して進むだけだ。
首輪を外す方法がないなら見つけてやる. なくても見つけ出す!』
カズマの眼差しには一点の迷いもく、瞳に宿る意思はぎらついて見えるほど強い。
少し気圧されるのび太にそっと顔を近づけ、
「そうだぜ、のび太。とにかく前だけ向いて行こう。力を合わせれば、乗り越えられない壁なんか無いって!」
――きっとできる。空をみんなで助けた出した時みたいに
どんな壁だろうが越えられる。確信を込めて太一がのび太の耳元で囁いた。
筆談ではなく、小声で伝えてきた太一のやりかたに、のび太ははっとなった。
考えてみれば太一はさっきから筆談に参加しようとしない。
――左手で文字は書けないから
不甲斐ない自分に対する怒りに囚われ、のび太は歯噛みした。
自分より辛い立場にある彼が頑張っているのに、自分が弱気になってどうする。
「ごめん、太一君」
「いいさ。後、太一でいいぜ。俺達仲間だろ!」
ニッと笑ってみせる太一の笑顔は力強く、のび太は力が湧きあがるのを感じた。
「……分かったよ、太一」
二人のやり取りを暖かい目で見守っていたドラえもんが、
『とにかく明日からは首輪の解除に的を絞って行動しよう。
首輪の解析や内部構造について少しでも分かった人、考えた人、
解体作業ができる人を探して話を聞いて、その人に同行して一緒に考える。
同行できなかったら、その人にも僕達と同じように行動してもらえないか頼む。
どんな小さなことでも馬鹿げた考えでもいいんだ。大事なのは力を合わせることだよ』
一気に書き終えると、ドラえもんはカズマと太一を交互に直視した。
「太一くん、カズマくん――」
「ヤマトはヤマトで何とかすると思う。
ぶりぶりざえもんの話だと、頼りになる人達が周りにいるみたいだしな」
「まあ、クーガーもついてるし、大丈夫だろ」
ドラえもんの考えを読み取り、異口同音に二人は答えた。
「じゃあ、明日からはさっき決めたとおりに動こう。みんな、それでいいね?」
4人は同時に頷いた。
闇しか見えなかった空間に、一条の光が刺した気がして、4人の心は自然と高揚した。
その沸き立つ思いに突き動かされるかのように、
「おっし! じゃあ、馬鹿げた考えってやつを一つ試してみるか!」
カズマが立ち上がり、気合の声を上げた。
驚いてカズマを見上げる3人に、ニヤリと笑ってみせると、カズマは意識を集中した。
7色の光が舞い、首輪へと収束していく。
そして――
――何も起こらなかった。
「取りあえず……。アルターじゃ無理みてえだ。ちったあ参考になったか? ドラえもん」
少量の落胆を滲ませながら聞くカズマに
「勿論!」
ドラえもんは微笑んでみせたのだった。
【D-3・病院内 1日目・真夜中】
【チーム「主人公」】
[方針]:ぶりぶりざえもんを待つ。
そこが禁止エリアとなった場合、北に向かい、ドラえもんの方針に従って
首輪の解除のために全力を尽くし、最終的にギガゾンビを打倒する。
[共通備考]:全員、凛の名をカレイドルビーだと思っています。
トラックに乗った参加者達を危険人物であると認識しました。
【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:右手首より先喪失(出血はおさまりました)
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、
[思考・状況]
1:ドラえもんと一緒に首輪の解除に全力を尽くす
2:ヤマトとできれば合流したい
3:ぶりぶりざえもん、ルイズが気がかり。
基本:これ以上犠牲を増やさないために行動する。
[備考]
※アヴァロンによる自然治癒効果に気付いていません。
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ、頭部に強い衝撃
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
1:自分の立てた方針に従い首輪の解除に全力を尽くす
2:ヤマトとの合流
3:ジャイアン、なのはを捜す
基本:ひみつ道具と仲間を集めてしずかの仇を取る。ギガゾンビを何とかする。
[備考]
※第一回放送の禁止エリアについてのび太から話を聞きました。
【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:ギガゾンビ打倒への決意/左足に負傷(行動には支障なし。だが、無理は禁物)
[装備]:コルトM1917(残り3発)、ワルサーP38(0/8)
[道具]:支給品一式×2(パン1つ消費、水1/8消費)、ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)、
E-6駅・F-1駅の電話番号のメモ、コルトM1917の弾丸(残り6発)
:スーパーピンチクラッシャーのオモチャ@スクライド、USSR RPG7(残弾1)、
[思考・状況]
1:ドラえもん達と行動しつつ、首輪の解除に全力を尽くす
2:なんとかしてしずかの仇を討ちたい。
3:ジャイアンを探す
【カズマ@スクライド】
[状態]:疲労中、全身大程度の負傷(打身・裂傷・火傷) 処置済み
[装備]:なし
[道具]:高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)
のろいウザギ@魔法少女リリカルなのはA's、支給品一式
鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)ボディブレード
かなみのリボン@スクライド
[思考・状況]
1:ドラえもんたちと一緒に首輪の解除に全力を尽くす。
2:なのはが心配というわけではないが、ヴィータの名前を刻んだこともあるし子供とタヌキを守る。
3:かなみと鶴屋を殺した奴とか劉鳳とかギガゾンビとか甲冑女とかもう全員まとめてぶっ飛ばす。
鷹の名を冠する銀髪の男、グリフィスは剣を手に入れた。
鷹の持つ剣はキャスカが持つ殺傷のための武器ではなく、覇道へと突き進むための道具。
彼の終わらない夢想するのために存在するもの、それが鷹の団であり、その要であるキャスカ。
望むのは夕焼けの小道の空に浮び、そびえる高き高き城。
その場所に至るためには決して抗えない身分という壁が存在し、彼の手中に収まることを応としない王者の標。
鷹は自分の全てを賭け、夢をその手に掴むために飛び続けてきた。
それは今も変わらない。
甘美な果実に手を出したばかりに、決して消え去るはずが無かった大火傷を負ったこともあった。
その大火傷は鷹の翼を完膚なきまでに叩き折り、終わらない夢へ続く覇道への道を消し去った。
夢を失い、翼を失い、足を失い、空を失った鷹には何の価値も存在しないことを、鷹自身は自覚していた。
そして鷹は夢見ることを止め、自分を焼いた果実への思いをただ募らせるだけだった。
それよりも屈辱だったのは、自分に仕える仲間達が投げかける目線が、失望という名の嘲りだったから
それが……それだけがどうしても我慢できなかった。
だが何の因果か、鷹は今ここにある。失ったはずの全てを取り戻すために
鷹は失った体を取り戻し、失った剣を取り戻し、そして今永遠に失われたはずだった夢への覇道を取り戻した。
全てが終わりかけた時は終わりを告げ、鷹は更なる全てを奪還するべく突き進む。
ずっとずっと忘れていたはずだった終わらない夢は、剣の輝きの中に埋もれていた。
「グリフィス……ホテルの中にガッツが居た」
「ガッツ…………」
それはなんともいえない魅力を持っていた玩具で、ただ目の前に転がっていたから拾っただけの物だった。
ただの玩具だったはずのガッツは時を経るにつれて日増しに輝きを増し、彼にとって無くてはならない存在になった。
彼の拾ったそれはただの玩具であろうとした事に肯とせず、手元から消え去ろうとしていた。
鷹が救い上げたそれはもう唯の玩具でなく、決して離すことの出来ない禁断の果実へと変化していた。
そして彼は甘い甘い林檎の味を忘れられず、終わらない夢を見ることを止めた。
「グリフィス、この剣を持っていってくれ。……ガッツは強い、あのときよりもずっとずっと強い」
そして彼の剣、キャスカから重厚な騎士剣が渡される。伝説となった王様の剣、エクスカリバー。
「キャスカ、ガッツのことは俺に任せろ。俺が何とかしてやる」
「ああ……、グリフィス……頼む」
――ガッツ、ガッツ、俺の心を狂わせる友よ。俺はお前のことが…………
彼の手元を滑り落ちたガッツ、彼の心を焼き焦がした禁断の果実。
この心を、身を焼かれて今なお、求めて止めない存在。
それはもう決して彼の元へと戻らない。だから壊す、この手で壊す。壊して忘れる。無かったことにする。
鷹は騎士剣を手に携え、もう片方には短機関銃が手に取られる。
グリフィスはもういつ崩れ落ちるかも分からないホテルへと歩みを進める。
建物からは瓦礫の落ちるカラカラという音、建物を支える支柱が順番に崩れ落ちる音がする。
彼の選択は明らかな愚策ではあるが、友を自身の手で壊すという感情に突き動かされ進む。
――大丈夫、もう二度と失敗はしないさ。俺の夢は唯一つなんだから…………
彼の歩みは唐突に止まった、後ろには甲高い金属音。
バタンという音がして、それきりホテルの胎動に飲み込まれて消えた。
後ろを見れば、そこにはキャスカが倒れていた。
左足の傷だけでなく、この一日が始まってからの戦いで蓄積し続けていた傷、疲れによって彼女は満身創痍であった。
あげく聖剣の真名を二度も解放したのだ、力の消耗に耐え切れずその場で死んでいても何もおかしくは無かった。
にもかかわらず彼女の意識を止め続けたものは、彼女が辛抱して止まない剣の主グリフィス。
鷹だけでなく彼女の心にも大きな存在を占めていたのはその男、ガッツ。
彼女が倒れることを拒み続けた二つの存在、ガッツとグリフィス。
心を支え続けた天秤の重りをグリフィスに預けた時、支えを失った体は倒れざるを得なかったのだ。
瓦礫の下に男は居た。ガッツが瓦礫に埋もれるのはこれで二度目である。
エクスカリバーの真名開放による破壊がガッツとともに建物を支える支柱を破壊した。
最強の聖剣はガッツの体を全て焼き払うだけの力は存在したが、今現在五体満足で彼が存在するのはキャスカの消耗ゆえだった。
顔、そして鎧に覆われていない手足の表面は聖剣による大火傷をもたらした。
ガッツの体を押し付ける瓦礫は先ほどよりも幾分少なく、彼の卓越した靭力ならばすぐにでも起き上がることも可能である。
彼がそれをできない、しない理由。それは彼の手元を離れていったキャスカであった。
男が拒まれたことはあった。陵辱されたキャスカにとっての男というのは恐怖するべき存在であった。
キャスカはグリフィスのことを慕っていた。キャスカだけではなく、鷹の団はグリフィスという存在があるから成り立っていた。
ガッツの心を打ち砕いたのは、彼の目に映った正気のキャスカがガッツを拒み、グリフィスの元へ舞い戻ることを選択したこと
彼女の慕い、みんなが慕い、眩しくて魅力的だったグリフィスはあの蝕の夜に全てを裏切っていったのに
鷹の団最後の生き残りであるガッツ、キャスカ、リッケルト。
誰よりも身を粉にして獅子奮迅の働きをして団長代理として鷹の団を支え続けたキャスカ。
ガッツにとってのキャスカは鷹の団の最後の旗印であり、帰るべき居場所であった。
帰るべき居場所は、彼の心を憎しみの暗黒に染め上げた鷹が浚って行った。
「ふざけんじゃ……ねえぞおおおおお」
怒声とともに瓦礫を跳ね飛ばし、大剣を手に男は立ち上がる。
立ち上がる男に呼応するかのごとくホテルは地鳴りを上げて、もう長くは持たないだろう事を告げる。
チッ……、もう長くは持たねえな。戻るか……、進むか。
みさえとの契約もあるし、様子を見てやらないとマズイな……。
が、戻ったらキャスカを見失っちまう。…今ならまだ間に合う。
どうする、どっちを選択する……?
――ガッツはキャスカの傍にいてあげるべきだよ。それで、一緒に暮らそうよ。
……そんなこと言ってたのはリッケルトだったっけな。
また……、また俺は失ってから、手から零れ落ちてから無くなったものの大切さに気が付くんだよな。
あの時もそうだった。かけがえの無い居場所、鷹の団、切り込み隊のみんな、全てを失ってからその価値に気づいた。
次はキャスカか、救えねえ……。
なら、俺は今この場で手に入れたの居場所を失わないようにしなければいけないのか……?
"あんたも、ちゃんと彼女と話し合いなさいよ。逃げてばっかじゃ何も解決しないんだから"
ふいにみさえに怒鳴られたような気がした。当たりを見渡してみるがどこにもその姿は無かった。
逃げてばかりか……。一体俺は何を考えてるんだろうな。
まだ、まだキャスカは失われたと決まった訳ではない。あいつは確かに存在し、言葉を交わした。
たとえ裏切られたとしても、あいつは鷹の団の大事な旗印。黙って死体になるのを見過ごすわけにはいかない。
それにあいつは大怪我をしていた。あの状態で殺人者に会えば殺されてもおかしくは無い。
本当に失ってからではもう遅い。まだ、まだ今なら間に合う。
壊れてしまっても、裏切られてしまっても、それでもまだ何も終わっちゃいない。
待ってろよ……、キャスカ!!
崩壊の胎動を始めたホテルを急いで駆け下りながら、ガッツはキャスカを探す。
ホテルの2階、1階と可能な範囲で探すもののキャスカは見当たらず、ガッツはホテルの裏口を抜ける。
そしてガッツはキャスカを見つけた。決して見たくないキャスカを
そこにキャスカは居た。彼に抱かれて
そう、右目に焼きついて離れないあの光景と同じように、彼に抱かれていた。
「グゥリフィィィィィィス!!! 」
ガッツは復讐の刃をその男目掛けて振りかぶり、十メートルはあろうか間合いを一瞬で詰め、振り落とす。
だがその刃は彼の元へと向かわず、倒れるキャスカの横に亀裂を作っただけであった。
程なく銃声が響き、ガッツの体目掛けて銃撃が放たれる。
その一撃に全ての集中をしていたガッツの体に容赦ない銃弾が命中する。
その銃弾は致命傷にはならなかったが、崩壊寸前だった黒い鎧のプレートを打ち壊していった。
「ガッツ……」
一撃を交わし十分な間合いの向こう側で、グリフィスが呟く。
「グリフィス……会いたかったぜッ! 今すぐにブッ殺したいぐらいによぉ! 」
ホテルを通る道路を挟んで向かい側の歩道へと位置を移したグリフィス目掛けて、ガッツはもう一度刃を奮う。
グリフィスはその一撃を跳躍するように避けると、マイクロUZIをガッツ目掛けて放つ。
放たれるだろう銃弾を大剣の腹で受けながし、再び間合いを詰めて切り払う。
同じようにグリフィスは避けるも、二の太刀が跳躍する鷹を二つに切り裂かんと襲い掛かる。
鷹を切り裂くはずだった一撃は、障害に阻まれてその刃を鈍らせる。
大きな破壊音とともに、裏路地へと続く建物を構成するコンクリートが砕け散る。
絶対に折れず、曲がらず、刃こぼれしない剛剣といえども、建造物を構成するコンクリートを切り裂くためには多大な力を要する。
それは剣士の力を奪い、届くはずだった刃を届かないものにした。
「ガッツ、……それがお前の答えか」
二人の目が合う。夜闇を駆けるグリフィスの姿は、ガッツにとってはゴットハンド、闇の翼フェムトそのものに見えた。
全てを奪ったその男目掛けて、ガッツはもう一度大剣を振り上げる。
グリフィスはガッツの荒れ狂う太刀を狭い路地裏の地形を活かし、避け続ける。
――勝てない……、オレがまた……?
グリフィスの目に映るガッツの剣技は、あの雪の日の決闘をも更に三周りは上回るパワーとスピードを誇っていた。
彼の腰に掛けられた騎士剣は、ガッツの持つ大剣をも打ち合うだけの力はあるように思えた。
しかし、グリフィスはガッツと剣を打ち合わすことが出来なかった。
ガッツの太刀は単純に重い。ただ重いだけでなく、受けるだけで全ての力を殺ぎかねない圧倒的な剛力。
恐らく、一撃を受けるだけで剣を持つ手は使い物にならないほど痺れるだろう。
痺れるだけならともかく、それは握られた剣を腕ごとへし折るだけの力は十分にある。
ガッツの剣を受けることは自殺行為、それだけでなく間合いを詰められるだけで荒れ狂う太刀を回避することすら適わなくなるだろう。
狙うはカウンター、ガッツに生まれた隙を突き一撃で全てを終わらせる。
ゆえに闇に紛れ、剣線を限定する路地裏へと入り、逆襲を淡々と狙う。
路地裏に剣線を限定してなお、ガッツは少しずつグリフィスとの間合いを詰め始めていた。
今グリフィスが銃撃で反撃したとしても、一撃で仕留められなければ逆に大剣の一撃を受けて終わる。
グリフィスは残り少ない間合いを無駄にしないよう、あらかじめディパックから取り出しておいたロープを手に取る。
ガッツが剣を大きく振りかぶり、舗装された道路をその踏み込みで破壊しながらグリフィス目掛けて叩き落す。
その一撃は跳躍することさえ適わない距離から放たれ、切り裂く。
切り裂かれたのは、路地裏の暗闇。正面に見据えていたはずのグリフィスは目の前から一瞬で姿を消していた。
ガッツは地を叩き割った刃を引き抜き、刃を正面に携えてグリフィスの殺気を探る。
そしてすぐに消え去ったグリフィスの謎を解き明かす。
大通りの電灯、空に輝く星だけが光を照らす薄暗い路地裏の分岐点、グリフィスはとっさにそこへ転がり込んだのだ。
剛剣が鳴らす爆音が途切れ、カツカツと甲冑の揺れる音が分岐点の奥から聞こえてくる。
路地裏の分岐点の奥は、電灯の光さえ届かない真の夕闇。
今戦っている路地裏でさえ、月明かりが無ければ足元に置かれた青いゴミ箱さえ気が付かないほどに暗かった。
ニホンをモチーフにしたこの趣味の悪い殺戮の場所は、ミットランドとは違い夜闇の中でも絶え間なく電灯が点り道を照らしていた。
路地裏の分岐点に続く袋小路の奥はミットランドの密林のように、あるいはそれ以上に暗かった。
闇の奥から響いていた金属音は止み、目の前にはただ暗黒の空間があるだけであった。
ガッツにとって暗闇とは、使徒もどきの悪霊どもとの戦場であった。
闇夜が訪れても戦っていたはずの悪霊は無く、目の前に居るのは使徒達の頂点に立つ存在である闇の翼。
その姿はかつての姿そのものであったが、ガッツはその違いを知る由も無く、復讐を果たすために闇へと踏み込む。
カーンと甲高い音が鳴り、ガッツは突撃を仕掛けてきたグリフィスが踏み込んでくるだろう地点目掛けて剣を振り下ろす。
闇を切り裂いて現れたものは、大剣によって真っ二つになった黄色のヘルメット。
ガッツは剣を引き抜き奇襲を仕掛けてくるだろうグリフィスへと身構える。
――上かっ!
ターザンロープの力で空中に飛び上がったグリフィスは、頭上から機関銃の玉を浴びせる。
ガッツはとっさに急所である顔面を手で保護するも、銃弾は首周り、そして鎧の隙間を打ち抜き命を奪わんとする。
銃撃を辛うじて受けきったガッツは、空を駆けるグリフィスの終着点目掛けて剣を振りかぶる。
しかしグリフィスは地上へと着地することなく、路地裏の外壁を蹴ってその身を空中で方向転換する。
別方向へと加えられた力をターザンロープへと伝え、天を翔けるグリフィスは元いたホテルの方へと飛ぶ。
ガッツの一撃が再び外壁を破壊した時にはグリフィスは路地裏の外、ホテルを通る歩道へと着地していた。
再び開かれた間合いを詰めるべく、ガッツはグリフィスへと猛追する。
グリフィスは突撃するガッツを迎え撃つことはせず、その身を翻して遁走する。
ガッツが再びホテルの前に戻った時、グリフィスはホテルの近くにあったスーパーマーケットへと入るところだった。
"来いよ"とでも言いたげな挑発の表情とともに、グリフィスは自動ドアを潜り建物の中へ入る。
迷うことなくガッツはグリフィスを追撃しようとしていたが、気絶していたキャスカを再び見て足を止める。
――どうして終わったりなくしてから、いつもそうだったと気づくんだ……。
目の前に倒れるキャスカは、安心しきった顔でその場に倒れていた。
ガッツはキャスカを抱きかかえ、一目に付かない場所にキャスカを休ませるべく移動をする。
…まだだ、まだ何も終わっちゃいねえ。復讐も、俺の居場所も……
キャスカ……俺は俺の決着を付けるからな。そこで待っていてくれ
全部、全部終わったら、今度はちゃんと話し合おう……
ガッツはこのままキャスカを連れて逃げることも出来た。全ての遺恨を忘れて二人で逃げることもできた。
彼がその選択をしないのは、ガッツ自身のケジメである復讐の旅にケリをつけるため。
鷹の団全てを捧げ、人ならざる者となったグリフィスを殺すため。
ガッツの心を動かすのは大きな憎しみだけだった。
憎悪が無ければ、それに覆いかぶされた大いなる悲しみがガッツの感情に支配をして、もう歩けなくなるから
袋小路に逃げ込んだグリフィス、大剣の動きを封じるにはうってつけの場所だが、路地裏で見せた空中移動のような機動力もまた制限される。
グリフィスが狙うのは間違いなく一撃必殺の状況。袋小路に自らを追い詰めたように見せかけ、逆襲する。
状況は互いに対等、罠があろうと無かろうと、ガッツは全てを踏み越えて突き進むだけであった。
夜闇の中であっても、窓ガラスの奥に移る店内は昼間のように明るかった。
そこにあるべき大量の食料品や雑貨は、がらんとした店内に合わせるかのように存在しなかった。
店内の様子を探るも、グリフィスの姿は棚に阻まれたのか、隠れたのか見えなくなっていた。
店内に潜むグリフィスは逃げ際に回収したキャスカのディパックの中身を拝見し終え、やがて踏み込むであろうガッツを待ち構えていた。
ガッツがすぐに追いかけてこようとはしなかった。そうなるようにわざとアプローチを取り、警戒心を煽った。
あのまま路地裏の地形を活かして戦い続けることも出来たが、それではガッツに地力に押し切られ敵わないと踏んだ。
故に自らを真の袋小路に追い詰め、激動の中で勝機を探ることとした。
グリフィスが持つ手札は、キャスカのディパックによって倍増していた。
暴風のごとき戦いを見せながらも、冷静な剣裁きでグリフィスを殺さんと追い詰めるガッツ。
一年前とはすっかり変わり果てた外見だった。
火傷に爛れ表情が半ば失われていようと、グリフィスは一目見てすぐにガッツだと分かった。
グリフィスを一目見たガッツも同じようだったが、ガッツは憎悪を込めて彼に襲い掛かった。
それは二人の始めての出会いのようであった。敵意を剥ぎだしにし、口より先に剣を振って進むガッツ。
この殺し合いの場でガッツにどれだけの変化があったかは推測することも困難であった。
しかしガッツは再び、あの雪の日のようにグリフィスと敵対することを望んだ。
――――トクン
グリフィスへの明確な殺意を向け、突き進むガッツはグリフィスの心を乱し続けていた。
路地裏の戦いでは決定打となるべき手札が存在せず、奇襲を持って切り抜けることしか出来なかった。
キャスカから回収したディパックにはより強力な決定打、ハルコンネンが存在していた。
逆転のための時間稼ぎは終了した、それでもグリフィスが動けないのはガッツ。彼の夢を惑わせる唯一の存在。
グリフィスの手から零れ落ち、あの雪の日に失った惑乱を呼ぶ麻薬。
あれだけ壊そうと考えていたそれは、いっそうギラギラとした輝きを見せてグリフィスを誘う。
ギラギラとした輝きがグリフィスを壊さんと襲い掛かってくるとしても、それでも壊すことへの躊躇いが募る。
――それでも、オレは逃げるわけにはいかない。絶対に逃げることは許されない。
一度は壊れてしまった夢を叶えるチャンスを、何の因果かやり直す権利を授かっている。
…今、今ここでオレのエゴを叶えようとすれば、もう次は二度とない……。
騎士になろうとして、ついになることは適わなかったあの少年。鷹の旗印の下に、殉職を遂げてきた仲間達。
今オレがこうして夢へ向かって進むのは、血塗られた夢の道程となり犠牲になった命を無駄にしないため
だから、壊さなければいけない。この血塗られた舞台においても、全ての犠牲の上でオレの夢がある。
夢を忘れるだけの価値を持つかけがえの無い存在。オレはこの心の動揺を沈めなければいけない。
彼の前に立ちはだかるガッツは敵でありながら、彼の意味するところの友であった。
グリフィスが隠れ潜む棚の裏で、爆音とともにガラスの砕け散る音が響く。
棚の奥から様子を見るも、ガッツが踏み込んだらしき気配はしない。
ガツーン、ガツーンと何かを打ち付ける音が響く。そしてグリフィスはガッツの真意を理解する。
(柱かッ……!)
ガッツが打ち砕いたのは、建造物をたたえる殿、柱。
コンクリートに覆われた柱でさえも、ガッツとその剣なら打ち砕くことさえたやすいだろう。
そうして柱が砕かれれば、バランスを失った建造物はあのホテルと同じようにたやすく倒壊するだろう。
この建物が倒壊するならば建物の地の利を活かす活かさないといった話では無くなり、生き埋めになって死ぬ。
柱を打ち砕く音が途切れ、倒壊する前に決着をつける。
グリフィスはハルコンネンに爆裂鉄鋼焼夷弾を込め、今まさに破壊をされている柱目掛けてその火器を放つ。
爆音とともに建物を支える四隅の柱は完全に消失し、ぽっかりと穴が開いたその空間に天井が落下する。
落下した天井は店内の常温棚を巻き込みながら倒壊を始める。
グリフィスはハルコンネンにもう一発爆裂鉄鋼焼夷弾を込め、今にも崩れてなくなりそうな出口へと進む。
進む歩みはいつものように、ゆっくりでありながら速く速く。
グリフィスはその手にハルコンネンを構え、こちらに向かって切り込んでくるか、あるいは入り口で待ち構えるだろうガッツを警戒する。
ガッツはグリフィスを必ず仕留めに来る。そう判断した故にうかつに動かず、再びグリフィスへと戻った攻撃の機会。
待ち伏せは効果的であるがゆえに受動的、ゆえにその罠へと誘い込まれないよう選択の機会を最大限活かす。
グリフィスはガッツの潜むであろう位置を判断し、状況を切り抜ける対策を考え続けていた。
グリフィスが一歩一歩出口へと進む中、店内を灯す蛍光灯が、点滅を経てふっと消える。
店内は先ほどとは打って変わって暗闇に包まれる。
しまった、……ガッツの狙いはそちらか。
ガッツにとって柱は攻撃手段ではなく、副次的なものであった。
ガッツの真の狙いはグリフィスの目を奪うこと。
奇襲に備え、グリフィスは全集中力をガッツの迎撃へと削ぐ。
電灯が消えてすぐ、破壊音とともにガッツが進入してきたのを察知する。
戦い慣れぬ暗闇の中であっても、グリフィスは冷静にガッツの位置を確認する。
グリフィスは左手から聞こえた破壊音より、ガッツが壁を叩き壊して侵入してきたことを判断。
一度位置関係が分かってしまえば奇襲は意味を成さない。伏兵はどこに潜むか分からないからこそ伏兵なのである。
ガッツは己の選択権を放棄し、戦いのカードは再びグリフィスの手に委ねられる
はずだった。
轟音が店内に整然と並べられた常温棚を吹き飛ばし、それはまるでドミノ倒しのようにグリフィスの元へと迫ってゆく。
狭く沢山の常温棚が密集するスーパーでは、その密集具合ゆえに攻撃も、回避行動もまた困難となる。
火線を限定し、大剣の動きを封じるべき障害さえもガッツの剣は打ち砕いてしまった。
グリフィスは自分へと迫る常温棚の圧力から逃れるべく、回避運動を取り常温棚の圧力から逃れる。
グリフィスが逃れた通路の後ろ、倒れた常温棚にはガッツが立っていた。
ガッツは今まさにグリフィスを一刀両断しようと、大剣を振りかぶっていた。
回避する間合いは無しと判断し、逆にガッツの元へと接近する。
ガッツの獲物をハルコンネンの腹で受け止める。
ガッツの剛力を限界まで相殺するために剣の根元にハルコンネンを押し付け、その剛力を受け流す。
グリフィスは、ガッツの胴断ちを受ける。剛力が人間をまるでボロ雑巾のように吹き飛ばす。
グリフィスは受身を取ることすらかなわず、圧倒的な力によって店外目掛けてゴロゴロと転がっていった。
グリフィスの両腕はその太刀の一撃を受けて痺れ、握力を完全に失った。
腰に下げられたエクスカリバーを握ることも適わず、ディパックから新たな武器を取り出すだけの握力はない。
体制を立て直そうと上半身を持ち上げたグリフィスの目の前には、ガッツが居た。
「お前の勝ちだ、負けたよガッツ……」
二度目の敗北を気に止むこととせず、ガッツに向かってグリフィスは微笑みかけた。
それは今グリフィスを打ち砕こうとした刃の動きを止める。
「グ…リ……フィス…………? 」
俺は、俺は今何をしているッ……!!
俺がグリフィスを大剣で吹き飛ばし、止めを刺さんとしたグリフィスの笑い。
月明かりに照らされたそれはまるであの時のままで、今までずっと相手にしていたのに忘れていた懐かしい顔。
その顔を見た俺の心にポッカリと穴が開く。
憎悪と怨恨、殺意が充満する心は、あいつの笑顔を見たときにフッと消え去ってしまった。
これを振り落とせば全てが終わる、終わるはずなのに終わらない。
剣を支える手が動かない。ピクリとも動かない。
それだけじゃない、何もかもがおかしい。
ずっとずっと望み続けたきた瞬間が訪れたにも関わらず、その先へと進めない。
プライドの塊のようだった、負けず嫌いのグリフィスが、今こうして負けを認めている……?
目の前で固まってしまったガッツ、子供のように笑うグリフィス。
両者の沈黙は永遠のように長く長く夜の中に留まる。
夕闇の中を風が通り抜け、崩壊するものだけが時を刻む。
永遠のような二人の会合は終わりを告げ、先に動いたのはグリフィス。
大剣を頭上に振り上げたきり固まるガッツを突き飛ばし、同時に振り落とされるそれを最小限で回避する。
最小限の間合いを開いたグリフィスは瞬時にディパックから散弾銃を取り出し放つ。
その一撃を回避することかなわず、ガッツの体に至近距離から散弾銃の玉がめり込み、黒き鎧を打ち壊す。
終わりを告げるはずだった戦いは、まだまだ続く……。
ガッツの甲冑はによって吹き飛ばされ、果たすべき防御はもはや期待できない程となっていた。
襲い掛かる数々の致命傷を防ぎ続けたその鎧は、名工ゴドーによって鍛えられた業物であった。
使途の攻撃を防ぎ、銃火器さえも防ぐその黒き甲冑も度重なる戦いの中で破壊を重ね、ついには崩壊した。
ガッツの黒き鎧は両手両足のわずかな具足を残して崩れ落ち、残った具足さえも今なお崩れ落ちんとしている。
放心状態だったガッツは壊れた鎧、傷ついた肉体を気にかけることさえ適わず、先ほどの出来事を反芻していた。
許せなかった。自分が許せなかった。
俺はあいつの、……グリフィスのあの顔を見て、まるでおとぎ話の登場人物だった頃のあいつの微笑を見て
化物で無くなったような、ありえないようなその顔を見て
――殺意を忘れてしまった。
自分自身を許すことが出来なかった。あの時剣を振り下ろしていれば、復讐の旅は終わりを告げたはずだった。
俺の居場所を奪い、仲間を奪い、キャスカを奪った、全ての張本人であるグリフィスへ剣を振り下ろせなかった。
鷹の団のみんなを殺して裏切ったあいつを、殺せなかった。
どれだけあいつがおかしな言動をしていても、グリフィスはいつものように不思議な言動を見せたつもりなだけで、それは復讐には何の関係も無かった。
あげく反撃を食らってこのザマか。救えねえ……
俺の目線の先には先ほど大剣の一撃を受け、転がり落ちた大砲を回収するあいつの姿だった。
あいつは大砲を拾い上げると、再び俺と目を合わせる。
あの目は、鷹の団で語っていた夢だけを見つめるその瞳。
かつて魅力的に写ったその瞳は、今は憎むべき象徴。
仲間を踏みにじり、地獄の生贄に捧げたために成り立つ命。
「ガッツ、お前は短い間にずいぶんと変わったな」
煩い、そんなことはどうでもいい。今間合いを詰めて殺してやるよ。
俺は剣を振り上げ、べらべらとおしゃべりをしたそうなあいつ目掛けて突撃する。
あいつ目掛けて放ったその一撃はあっさりと回避される。
それぐらいは俺の範疇の中、回避不能の二の太刀で二度と口を聞けなくしてやるよ。
俺は地面へ叩き付けられるはずの剣の軌道を変え、跳躍するグリフィスの元へと転換させる。
回避不能の間合いで放たれた二の太刀は、命中することなくグリフィスの甲冑をほんの僅か掠めるだけに留まった。
糞……、さっきの一撃が今更効いて来たのかよ……
身を翻したあいつは、おしゃべりを続ける。
「この殺し合いの場で何があったかは知らない。お前が何故俺をそこまで憎むのかは分からない」
「うるせえ、憎まれて当然のことをお前はやったくせに何を言いやがる! 」
あいつのおしゃべりを俺の言葉でかき消す。あいつは俯くでも黙るでもなく、さらにしゃべりを続ける。
もう一度切りかかろうかと思ったが、グリフィスは先ほど回収した大砲を構えてこちらを牽制する。
おしゃべりを邪魔するなって訳か、糞ったれ……。
「オレはみんなの期待を裏切ってしまった。それは分かっている」
俺はいつでも踏み込める位置をキープしながら、あいつの言葉に耳を傾ける。
「だけど、オレが夢を諦めるわけにはいかない。こうして手に入れた夢へのチャンスを捨てるわけにはいかない」
「その夢を叶えるために、どれだけ俺たちが、キャスカが頑張っていたと思っているんだ! 」
「ガッツ、オレが夢を諦めてしまえば血塗られた夢の礎となった皆が浮ばれない。だからこそオレは今度こそ夢を掴み取る」
「話にならねえな」
グリフィスとの話が通じて無いように感じられたが、そんなことはどうでもいい。
今こうしてべらべらとおしゃべりを続けるうち、どうしても確かめたいことが湧き上がったから
「夢のために……、仲間を地獄の魔物どもにの生贄にして裏切り、惨殺しやがったくせに何を言いやがるんだ! 」
「あいつらには夢があった、お前に寄りかかって存在していたちっぽけな夢だけど、みんな夢を追い求めていた! 」
「ガッツ、お前は一体何を……」
「それをグリフィス! お前が全部ブチ壊しやがったんだよ…」
「お前を信じて付いてきた鷹の団のみんなの夢を地獄に捧げ、キャスカを傷つけやがったお前をぶっ殺して…」
「あいつらに謝らせるんだよぉ! 」
動揺するグリフィスが手に持つハルコンネン目掛けて剣を打ち落ろす。
一撃を受けきれないと判断したグリフィスは斬撃命中前に武器を捨て、回避運動に全てを費やす。
怪物さえも破壊する怪物の獲物、ハルコンネンは破壊の一撃を受け、ぐしゃりとひしゃげ折れる。
「死んでみんなに謝れよグリフィス、ゴットハンドの一人闇の翼フェムトさんよぉ……」
グリフィスの動揺は止まらない、そしてガッツもまた動揺していた。
"刻印が反応しない"
闇の眷属の接近を知らせる首筋の烙印が反応しない。
ホテルの外で喚いてた使徒もどきの野郎のときもそうだったが、今回は正真正銘の闇の眷属であるグリフィス。
それも最上級の存在であるゴットハンド。
にもかかわらず烙印は反応すら見せない。何故だ?
ガッツは考える、と同時にグリフィスの様子を見る。互いに思うところがあるらしく、緊張状態を解かないままの硬直に入る。
この不可思議な状態を説明する仮説は一つ思い当たる。あの変態仮面野郎の力だ。
なにせ神の如き力を振るうゴットハンドでさえこの血塗られたパーティー会場に招待する力を持つ。
この烙印の反応を利用してすぐにでも再会し、魔の者を即殺なんてつまらない。とでも考えてるのか。
趣味の悪い変態仮面野郎のことだ。これまで聞いてきた色々な話から何か細工をしていてもおかしくは無い。
ただ、ガッツの心をよぎるもう一つの可能性。今すぐに切り殺したい敵への殺意を躊躇させる愚鈍な考察。
『今目の前に居るグリフィスは俺たちの知っていたグリフィスなんじゃないか……』
思えばキャスカとの再会から既におかしかった。キャスカとの話が噛み合わない。
記憶喪失なんじゃないかと思った。ゴドーの所にいたキャスカの奴は心がボロボロに壊れてたし、拒絶されていた。
だが、あの時再会したキャスカもまるであの時のように、あの時のようにグリフィスの奴の元へと舞い戻った。
ホテルの中でずっと考えていたキャスカの違和感。そして話の噛み合わないキャスカとグリフィス。
あの時のままで居る二人。
魔女の奇術でさえ存在が疑わしくて、それでいて誰もが一度は夢想したそれ。
未来と、過去。ifの世界
"今目の前に居るあの時のままのグリフィスは、鷹の団でよろしくやっていた頃の過去から来たんじゃないか……"
俺の体を止める二つの力、一つは右目に焼きついたあの忘れもしない蝕。
あの時のままのあいつ、ずっとずっと振り向かせたかった。対等な存在になりたかった。
友でありたいと固く願った、あのグリフィスの笑いがもう一つの力になっていた。
二つの相反する感情が俺の天秤を平行にさせ、どちらかの方向へ倒れることを肯としない。
グリフィスもまた、ガッツとの会話が噛み合わないことに気が付く。
彼もまた目の前に対峙するガッツと同様の結論に行き着いてきた。
彼の知るガッツとの明白な違い、隻腕隻眼。
最初はこの殺し合いの中で刻まれた傷だと思っていた。しかしそれでは説明が付かないものが生まれる。
ガッツの剣技は、ほんの一日かそれぐらいで彼の知るガッツを数段は軽く上回る剣技の冴えを見せていた。
それはまるで、ガッツとグリフィスを苦しめたあの"不死者(ノスフェラトゥ)ゾッド"を討ち取れるぐらいに
今のガッツとグリフィスの間には、あの惨めな敗北に打ちひしがれた雪の日とはもはや比較にならないだけの技量差が生まれている。
それを彼の巧みな戦術でカバーしているだけであって、ただの決闘ならば一合剣を交わすことなく死んでいただろう。
最初の一撃でそれを判断した故に剣を使わず、飛び道具を用いてガッツの隙を狙い逆転の芽を待っていた。
結果は、敗北。
張り巡らせた策はガッツの剛力の前にねじ伏せられ、全ての反撃を封じられた。
二度目の敗北はとてもあっさりしたものだった。
あの時のグリフィスを支配していた憤怒、悲哀、憎悪、絶望といった感情は無く、ただひたすらに
――心を揺さぶられていた。再び夢を忘れるほどに
人間グリフィスの前に対峙し、がむしゃらに輝くガッツは彼の手を零れ落ちていったあの日よりも更に激しく彼を誘惑する。
それがただひたすらに憎かった。夢を忘れるほどの輝きを持つガッツが憎かった。
自由に空を飛翔する鷹を地上に止めることを欲する黒い狂戦士。
鳥にとっての命題である飛翔そのものを奪おうとするその魅力の前に、鷹は再び屈した。
屈してしまった彼は笑いを投げかけた。本当に全てを諦めて
奇妙な因果か、…それともガッツに思うところがあるのか、グリフィスはまだ戦いの舞台の上に立ち続けていた。
それはきっと両方であると予想する。
グリフィスが探し求めこの世の因果の頂点に立つ存在、神。
神がグリフィスに救済を施し続けるのならば、それは神の意思が彼に何かを成さんとさせているのだろう。
憎くも美しいその敵を仕留めるべく、グリフィスは再びディパックから短機関銃を取り出す。
硬直していた二人の時間を、ホテルの一段と大きな崩壊音が動かす。
それに同調するかのように、死闘の舞台であったスーパーマーケットも崩壊した。
ガッツの斬激はこれまでのダメージの蓄積か、彼の心に燻る迷いのせいかわずかに鈍っていた。
間合いを保つことすら許されないその剣技は、変わってしまった均衡により狭まることは無くなった。
ガッツが街の街灯や電柱もろともグリフィスと吹き飛ばさんと剛風を奏で、剛風の暴力を止めるべく弾丸の発射音が放たれる。
鎧による防御が期待できなくなったガッツは、即死を防ぐべく最低限の急所を守らざるを得なくなる。
本来並どころか業物の鎧さえ打ち砕く弾丸の殺傷能力は、人間離れした身体能力を持つガッツでさえ脅威となる。
ゆえに先ほどまでの防御を捨てた捨て身の一撃といったものは期待できず、戦闘は動的な硬直へと突入した。
ホテルの破壊音から始まったその戦いは、道路の傍らにある電柱を、道路を、人の住む町を壊しながら進んでいく。
「グリフィス! 」
必殺を狙う両者の戦いを、声が止める。
地を切り刻んだその剣が地面から引き抜かれ、両者の間合いに一人の乱入者が出現する。
鷹にとっての剣、復讐の狂戦士にとっては最後の旗印だったもの。
丸腰で左足を引きずりながら、両者の戦いを静止せんと割り込む。
「ガッツ、貴様グリフィスをッ……! 」
「ああ、殺す。それだけの理由がある」
「ふざけるな! 」
「はぁ? 何いってやがるんだよお前」
ガッツは哀れみのような馬鹿にした声で、キャスカの罵倒に答える。
「お前はやっぱり忘れちまったのか? それとも知らないのか? 」
「ガッツ、お前は一体何が言いたいんだ! 」
ガッツとキャスカの目が合う。どちらも目をそらそうとしない。
「ガッツ……、お前だけは全てを知っているんだろう? 話してくれよ」
「お前に話す必要はねえ。今ここに居るお前がなんだろうと、俺が今ここに居るお前を殺すことには何の変わりもねえ」
「教えてくれガッツ、あの雪の日の戦いから一年間何があったんだ! 誰にもぶら下がらないお前の戦いに、グリフィスは関係ないだろ! 」
「話さねえよ、お前が知る必要は無いんだ」
「話せガッツ、私は真実を知りたい。それがどんなに辛く重いものだとしても知りたい」
三者三様の反応を見せ、最初に口を開くのはガッツ。
「いいぜ、話してやるよ。…ここに居る大悪党が犯しやがった裏切りをよッ……! 」
張り詰めた緊張はそのままに、ガッツはグリフィスを、キャスカを見据えながら全てを話す。
雪の日の決闘から始まり、一年後に再会するガッツとキャスカ。
キャスカはそのことについて口を挟むが、ガッツは黙って聞けと一瞥して話を続ける。
ミットランドでのグリフィス救出作戦、黒犬戦士団の追撃と逃亡。
そこまで話した時点でキャスカの表情は早くも変わる。
どうしてお前がそんなことを知ってるんだ…? とでも言いたげに
キャスカは口を挟まず、グリフィスもまたガッツの話を黙って聞いていた。
そして起こる逃亡生活の末訪れた蝕、開かれたのは地獄の門。
絶望の中に飲み込まれた鷹の団を襲う化物たち。
そしてグリフィスは、……彼を慕う鷹の団の仲間全てを化物に捧げた。
訪れたのは地獄。ジュドーも、コルカスも、ピピンも、切り込み隊のガストンも化物に飲み込まれて死んでいった。
最後まで残った仲間達は残さず絶望の中で食らい尽くされていった。
そして生まれたのは人間を止め、闇の眷属の一員へと堕ちたグリフィス。闇の翼フェムト。
闇より生まれたるグリフィスはガッツの目の前でキャスカを陵辱し、子供に魔を孕ませた。
そして現れた髑髏の騎士に二人は助けられ、ゴドーという男が住む妖精の坑道へと向かった。
全てを奪ったグリフィスの復讐をするために旅を続けてきたのが、今目の前に居るガッツであることを。
全てを話し終えた後に残る三者。呆然とするキャスカ、思うところがあるらしいグリフィス、そして復讐心を滾らせるガッツ。
「ガッツ、嘘だろ……。ずいぶんとよく出来た嘘だけど、ゾッドみたいな化物がぽんぽん現れるわけ無いだろう……? 」
「それにグリフィスが……、グリフィスがそんなことをするはずが無い……」
だって私を救い上げたグリフィスが、手を取るだけで私の恐怖を拭い去ってくれるグリフィスがするわけない。
「知らない、知れねえんだよ。お前はよ……」
ガッツが呟き、キャスカは泣きながらその場に崩れ落ちる。
二人の目線が合う。グリフィスは表情を変えず、全てを理解したかのように言う。
「そう、オレはその時にきっと選択をするだろう……」
「やっぱり全部分かってんのかよ……、おまえはよ……」
ガッツの握るカルラの剣に再び力が込められる。グリフィスの言葉が終わったときに突き進めるように
彼は矛盾に気がつきながらも、決して止まれない。
「ここにいるオレもオレ自身の国を手に入れる。その時と何も変わりはしない」
「お前はやっぱりあいつらを、仲間を……」
ガッツが一歩踏み出し、最後の言葉が紡がれる。
「ガッツ、お前だけは知っていたんだろう? オレがそうする男だと…」
「お前だけが」
「…グゥゥリフィィィィィス!!!!! 」
グリフィスの言葉とともに飛び出したガッツが、グリフィスを両断するべく襲い掛かる。
ガッツの心を燻らせたあの黄金時代の日々を憎しみが塗りつぶし、友になりかったグリフィスは壊れて消えた。
グリフィスも同様に心を揺さぶる友の姿をかき消して、血塗られた夢で塗りつぶした。
迷いを断ち切った両者の戦いは更なる高みへと上り、それでいて決着は今だ付かない。
ガッツの暴風がグリフィスを切り刻まんと襲いかかり、グリフィスが逆襲せんと跳躍しながら必殺を狙う。
銃と剣の間に越えられない優越性があったとしても、この戦いの場では両者は同等の高みにあった。
グリフィスの銃撃を剣の腹で防ぎ、ガッツの一撃が両断するであろう太刀を鈍らせる。
両者の間に言葉はもはや必要なかった。戦いの旋律だけが月明かりに照らされて踊る。
決して一人だけでは登る事の出来ない高みへ、白き鷹と狂戦士のワルツか。
あるいは、今ここには無い、無くなった鷹の団へのレクイエムか。
終わらない戦いのダンスを終末へと導くのは、無粋な武器の特性。
激しい戦いで消耗された短機関銃の弾丸は、尽きようとしていた。
銃撃に用いる玉は残り一発か、グリフィスは冷静に残されたチャンスを確認する。
狙うは最後の奇襲、決着をつけるのは剣。手にしていた短機関銃をガッツ目掛けて投擲し、腰に掲げられた騎士剣を手にする。
騎士剣を手にしたグリフィスが間合いを一気に詰めより、ガッツの首を切り落とすべく進む。
回避運動に引きずられて横に回った剣が戻るその刹那にグリフィスの手にするエクスカリバーが迫る。
ガッツは回転力に引きずられる大質量を持つ剣を捨て、左手の義手を天に振り上げる。
ガッツの首の皮を切り落としたエクスカリバーは義手に打ち上げられ、天へと昇る。
エクスカリバーを打ち落とした左腕、そして右腕は顔面へと迫るグリフィスを殴りつけ、吹き飛ばす。
一の太刀が回避されてなおグリフィスは冷静に、ガッツとの距離を取りつつディパックから散弾銃、ロベルタの傘を取り出す。
ガッツもまた地面に落ちて跳ね飛ぶ剣の柄を握りなおし、再度の一撃を溜める。
グリフィスが散弾銃の引き金に指をかけたその時、グリフィスの元に嵐の散弾が迫る。
ガッツは全力を込めて大剣で地面を抉り取り、地面を覆うコンクリートを散弾のようにグリフィス目掛けて放った。
黒い甲冑、義手に込められた装備を奪われ飛び道具を何ら持たなかったガッツの一撃は、剣激が決して届かぬ間合いへと跳躍したグリフィスをも巻き込んだ。
グリフィスはコンクリートの散弾と同時、飛散する土石流に押し流されて吹き飛ばされる。
そして狂戦士は地を堕ちた鷹目掛けて、最後の一撃を叩き込む。
「やめろおおおおおお! 」
白き鷹を両断するはずの一撃は、そこに割って入ったキャスカを二つに分解した。
「キャス…カ……」
「グリ…フィス……よか…った…………」
私の肩に手をかけて微笑みを投げかけるグリフィス。それだけで私を襲う死の恐怖はすっと消えていく。
ガッツの話が嘘とは思えなかった。ガッツがグリフィス救出作戦のことを知っているはずが無いから
グリフィスが皆を裏切ろうとも、鷹の団はグリフィスのためにあるから……
私の不器用な恋が悲惨な終わりを告げるとしても、それでもグリフィスの剣でありたかった。
ずっと絶望に打ちひしがれた日々から私を救い上げたのは、おとぎ話から出てきた乱世の英雄。
その日からずっとグリフィスの隣に居たいと願って、それも適わなくて剣になろうと誓った日があって
鷹の団にふっと現れ、グリフィスの寵愛を受けて止まないガッツが現れて嫉妬した日もあった。
グリフィスの剣でありたいと願い、千人長として戦場を仲間と一緒に駆け抜けた日々があった。
私がミットランドで騎士爵を授かって貴族まで上り詰めるはずだった栄光の日々が一転し、そして訪れた転落の日々。
それでもグリフィスがいるから、逆賊の汚名を被って続けた長い長い逃亡生活も平気だった。
グリフィスが鷹の団に、あるべき場所に帰ってくればそれだけで全てがまた元通りになると知っているから
……結局私はグリフィスの盾となって死んでしまうけれど、訪れる死は全く怖くなかった。
私の隣にグリフィスがいて、私の肩を撫でてくれている。だから全然怖くない。
ここで私は脱落してしまったけど、きっとあの世でグリフィスの成す夢を眺めてゆっくりと暮らすだろう。
ガッツの話が本当ならみんな死んでしまったけれど、私もみんなの所へ逝けるんだろうか。
心残りはガッツのことだけど、グリフィスは私に任せろと言ってくれた。だからグリフィスに全て任せよう。
グリフィスは私の期待を決して裏切らない。だからきっと大丈夫。
ガッツが私達を酷く裏切ったとしても、私とガッツの心を陵辱しつくしたとしても、私はグリフィスのことを憎まない。鷹の団のみんなもそうだろう。
だからグリフィス、夢を叶えて…………
さようならガッツ。もしあの世で会えたなら、そのときは普通に恋をしよう。
千人長を務めた女戦士は彼が辛抱して止まない鷹の手の中で、安らかに逝っていった。
傍らには歪んだ恋路の果てに恋人を、あるいは彼にとっての鷹の団長であった女を手にかけた彼女の思い人が泣いていた。
俺は…、俺は何をした。
キャスカを切り殺した。
そして全てを失った。
俺が守ろうとしていたかけがえの無いものは、全て無くなった。
自分からかなぐり捨てた居場所であった鷹の団を、切り込み隊を守り続けてきたガストンや仲間達。
俺が全てを捨ててしまったから、壊れてしまった。最後に残ったキャスカも……失った。
俺の居場所は、これで全部無くなった。今俺はどこにも居ない……。
キャスカ……、俺はどうしてキャスカを守ろうとしなかったんだろう。
キャスカと向き合うことから逃げていたんだろう。
どれだけキャスカに裏切られたとしても、それは元通りにすることも出来た関係だったのに……
キャスカは死んで、残ったのは虚しい復讐心だけだった。
ガッツの放心によって生まれた隙を目ざとく見逃さず、グリフィスは手元を離れた武器を取るべく進む。
運命に守られ続け、そして今キャスカが守ってくれた命、オレは絶対に無駄にするわけにはいかない。
オレは鷹の団の要、キャスカをもまた血塗られた夢の犠牲者とした。
彼女が、仲間達が残してくれた意思を決して無駄にはしない。死者に詫びもしない。悔やみもしない。
だから目の前にいる生涯で最大の敵を、叩き潰す。
グリフィスの周りに転がる三つの武器。散弾銃、軽機関銃、そして騎士剣。
手に取るのはキャスカが残してくれた、オレが信頼した剣。
グリフィスが動いてから十数秒後、ガッツもまた動く。
ガッツは全てを終わらせるため、グリフィスは夢の続きへと進むため。
グリフィスが手に取った騎士剣から、真の名前が脳内に直接伝えられる。
それがグリフィスには、キャスカからの遺言のように感じられた。
――真名は開放された。
エクスカリバー
「――――約束された勝利の剣――――!!! 」
グリフィスによって開放された聖剣の光が街を、黒の狂戦士を飲み込んで純白に染まってゆく――――
光線が途絶えるのと同時、グリフィスは力を使い果たしてその場に膝をつく。
それからすぐ、グリフィスは残った力を振り絞って再び立ち上がる。
――――最強の聖剣の力を受けた男は倒れることなく、消え去ることなくその場に立っていたから
それがたとえ本来の力を発揮していなかったとしても、狂戦士は地に膝を突くことなく、立ち尽くしていた。
グリフィスの攻撃を妨害することも逃げることも適わないと判断したガッツは反撃に全てを賭け、グリフィスの攻撃を受け止めた。
守るべき急所を剣の腹で覆い、剣に全てを賭けて最強の幻想に立ち向かった。
結果としてガッツは、その一撃から身を守った。
絶対に折れず、曲がらず、刃こぼれしない剛剣は、その謳い文句に違わない素晴らしい働きを果たした。
一歩踏み出せば、今度こそ剣がグリフィスを切り裂くであろう。
荒い息をしてその場に立ち尽くし、ガッツを見据えるグリフィスに向かって、ガッツは歩む。
限界を超えたそれは破壊音とともに、ガッツのバランスを崩す。
約束された勝利の剣から守られることの無かった手足は、その一撃によって炭化していた。
ガッツが踏み出した一歩とともに、肉体だったもの、右手右足、左足はついに朽ち果てた。
ガッツは、グリフィスを目の前に地に伏す。それでもガッツは闘争心を失わない。
大剣が道路に叩き付けられ轟音を鳴らし、その手から零れ落ちる。
零れ落ちた剣を、今にでも壊れてしまいそうな左手の義手で再び握る。
……手から零れ落ちた剣は、俺の手の元にもう一度収まった。
復讐以外の全てを失った俺に残った。本当に最後の一つ、かけがえの無い夢。
"剣"
六歳のころからずっと手の中にあった、剣。
手に収まった剣の形は違っても、壊れても、それでも剣は俺の手の元に舞い戻ってきた。
対等の夢を求めて鷹の団を去り、一年間の修行の旅の果てに見つけたのは剣を振ってただ突き進むこと。
剣を振っていればいつかは夢にたどり着ける。そう信じて剣だけを振り続けていた。
結局夢へと辿り着く事は出来なかったけれど、物心がついてからずっと隣にあった剣。
俺の命試しに付き合ってくれた、守ってくれた剣。
あいつを振り向かせるために、我武者羅に戦って振り回し続けた剣。
この戦が終わっても消えてなくなることは無い夢へのパスポート、剣。
命が尽きる寸前になっても、彼の心情に走馬灯は無く。ガッツは剣が教えてくれる、終わりの始まりを夢想する。
これで……、全てが終わる。そして始まる…………
あいつが許せなくて、自分自身の不甲斐なさが許せなくて、俺にまとわりつく人の温かさが許せなくて
……結局こんなことになってしまったけれど
――――運命なんて、糞ッ食らえ……
グリフィスが振り下ろすその剣向かって、最後の一撃を打ち落とす。
白き騎士剣が、黒き剛剣が交じり合う。
神は運命に振り回された男に、最後まで救済を与えなかった――――
始まりの場所であったホテルが崩れ落ち、最後に立っていたのは白き鷹。
そこにあったのは二つに割られた女の死体と、額を割られた男の死体だけだった。
「さようならキャスカ、ガッツ…」
「……オレの生涯で最大の――――」
グリフィスは二つの死体に一瞥をすると、その場を立ち去った。
死体の傍らには、彼らの墓標である折れた大剣だけが残されていた。
彼の思考にあるのはホテルの破壊を命じた彼の従僕、魔女ルイズ。
魔女達の宴が終了し、狂気に堕ちた彼の元へ舞い戻る。ということもあるからだ。
彼女が彼の元へ戻ってくれば処分すると決めたものの、聖剣の力を開放したグリフィスの体力は殆ど失われていた。
彼女の暴走で抹殺されることだけは避けなければいけない。それだけでなく、ホテルの生き残りもまたグリフィスに襲い掛かってくるか。
破壊の中心から少し離れながらも、ホテル周辺に集合する人間を監視するにはうってつけの民家でグリフィスは休憩を取る。
「オレはオレの国を手に入れる、必ず……」
「…ここが何時何処であろうとも、何も変わりはしない」
それきり彼の心を揺らす戦いの波紋は消失し、二度と揺さぶられることは無いだろう。
白き鷹は、そう確信していた。
【D-5ホテル周辺の民家 1日目/夜中】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:魔力(=体力?)消費大 、全身に軽い火傷、打撲
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、耐刃防護服
[道具]:マイクロUZI(残弾数7/50)、ターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×7(食料のみ三つ分)
オレンジジュース二缶、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に
ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ、ハルコンネンの弾(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾3発 劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING
[思考・状況]
1:放送まで休憩する。
2:放送でルイズの生死を確認し、生き残っているならば処分する。
3:ゲームに優勝し、願いを叶える。
※壊れたハルコンネンの砲身、折れたカルラの剣はD-5ホテル周辺に放置されています。
※ホテルが完全に倒壊しました。
※エクスカリバーの光線はホテル周辺の人間が目撃している可能性があります。
【ガッツ@ベルセルク 死亡】
【キャスカ@ベルセルク 死亡】
[残り36人]
90 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/03/05(月) 20:04:02 ID:FgL6u1+0
ハルコンネンが人間に撃てるわけないでしょ?
荒廃しきった廃墟の中を、一人の女性が縫って動く。
夜の闇は人を包み隠すには十分すぎるが……それでもこの月明かりは明るすぎる。
少なくとも、不二子はそう感じていた。
(ま、誰かいればすぐに分かる、という点では有利ね)
もっとも、所詮は月明かり。隠密行動ならルパン達にさえ負けてやる気は彼女にはない。
姿を完全に隠したまま、誰にも接触せずに不二子は動く……予定だった。
何者かの気配を感じ、不二子は立ち止まる。
住宅街の中、橋の一歩手前。月夜に照らされながら妙な組み合わせの二人がいるのを見た。
(……仮装?)
不二子の第一印象は、そんなもの。彼女らしくないと言えばそうだろう。
時代錯誤な魔法少女の格好をした少女と、それに付き添う空を飛ぶ黒翼の人形。
違った意味でファンタジックだ。
そんな感想を抱かれたと知る由もなく、二人――凛と水銀燈は進んでいく。
最初の予定に従えばそのまま放っておき、見えなくなったところで病院へ進みたいところであるが。
(病院の方から歩いてきていた。
それに、あの動く人形……橋に倒れていたものと似ているわね)
その二つの要素が、不二子を悩ませる。
如何せん、彼女にも知らない要素がここには多い。
できれば情報を集めておきたい、それは事実だが……その情報収集の段階で失敗して死んでしまえば元も子もないのだ。
しばらく利益とリスクを秤にかけていた不二子だったが、一つの答えを出した。
(接触する価値はありそう)
リスクを覚悟して利益を求める。
少なくとも、劉鳳が持っていった物の正体ぐらいは知っておきたい。
そう結論してからは早い。素早く変装セットを身に纏い、不二子は二人の前に姿を現していた。
「すみませんが、そこの二人。少し話があるのだが……」
そのまま銭型警部を取り繕って話しかける。
ただし本物の銭型警部以上に穏和に、手を上げて。
わざわざペアを組んでいる相手だ、そうそう攻撃はしてこないだろう……
そう不二子は判断していたのだが。
いきなり頬を掠めた羽根が、それが間違いだと教えてくれた。
「ちょっと、水銀燈!? いきなり何を!」
「あいにく、私はあいつでおんなじ姿の奴を見たことがあるのよぉ。
……死体で、だけど」
慌てた凛に、どこか嘲るように水銀燈は説明する。
不二子は思わず心の内で舌打ちをしていた。
……銭型警部に会った参加者ということか。二回目にして賭けに負けたらしい。
「……なるほど。
つまり死人の姿を騙ってるってワケ?」
更に凛の方まで、露骨な警戒心を見せ始めた。
杖を構えながらゆっくりと歩み寄ってくる様子は堂に入っている。
只者ではなく警戒心も高い。難儀な相手だ。のんびり考えている余裕はない。そう不二子は判断した。
素早く変装セットを脱ぎ捨てて、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
今度はできるだけしおらしい女を演じて。
「……姿を偽っていたのは謝るわ。
でも、こんな状況下ではこうでもしておかないと自分の身を守れない……
あなたも女ならそれくらい分かるでしょう?」
「そうね、あなたの言う事も正しいでしょう。
でも警戒されている以上、こちらも警戒しなくてはいけないということも当然ではありませんか?
……あなたのような人なら、演技も簡単でしょうし」
月明かりに照らされた凛の表情は、どこまでも冷徹なものだった。
言葉こそ敬語だが、それはどこまでも他人行儀なものだ。不二子にはすぐに猫を被っていると理解できる。
いや、理解させているのだろう。警戒していることを示し、威圧的に出るために。
交渉や尋問においてそれは当然の態度。理性的に考えられる頭脳、土壇場慣れした精神。
ただの小娘ではない……不二子は遠坂凛をそう評価した。劉鳳とは違う。
……ふざけた外見に反してという注釈付きで、だが。
「そうね……じゃあ、私に敵意がないということを証明させる機会ぐらいはくれないかしら?」
「……どうやって?」
「『情報』。それを無償で教えるから、あなたたちは私を見逃す。どう?」
頭を計算機のようにフル回転させながら言葉を紡ぐ。
ここで行うべきは「取引」。理性的な相手には、理で以って圧倒するのが堅実。
そして、例えただの小娘でなくとも小娘には違いない以上、不二子に負ける気などない。
「……つまんないコトだったら意味ないわよぉ?」
「そうかしら? 少なくともあなたにはとても興味深いことだと思うけど?
例えば、F-2の橋にあなたのお仲間が倒れている、とかね」
さりげなく、話の趣旨をなんでもないことのように不二子は告げた。
ただの推測に過ぎない。赤い服の人形――真紅と水銀燈に何らかの関わりがあるということは。
……だが、当たりだ。
水銀燈の表情は変わらない。だが、凛の表情が僅かに、水銀燈を気遣うようなものに変わっている。
「……その程度だったら、知ってるけどぉ?」
「あら、そう。じゃあ……」
水銀燈の言葉は取引の不利を意味しない。
不二子の嗅覚が知らせている。天秤はこちらに傾き出した、と。
彼女の頭に浮かぶのは、あの光る謎の結晶。
明らかにただの科学ではない物体。人形にとって何かしらの重要なものであるはず。
そう不二子は踏んだ。
(悪いわね、劉鳳?)
心の中で謝って――もっとも、心からの謝罪と言うにはほど遠いが――不二子は言葉を出した。
「その人形から浮かんだ結晶を、青い制服を着た男が持っていったわ。
遠目で見たからよく分からなかったけど」
完全に責任を擦り付ける言葉を。
それと同時にぴくり、と水銀燈の眉が吊りあがる。露骨な反応だ。
不二子の予想通り……もっとも彼女に分かったのはあの結晶は重要なものである、程度でしかないが。
なぜ大切なのかは彼女も気になるが、今はそこまで詮索する余裕はない。
「……そいつはどっちへ行ったわけ?」
「その人形が倒れていたところから、西へ」
言うまでもなく大嘘である。真実の中に一つの嘘を。詐欺師の基本だ。
あの劉鳳のことだ、この二人と出会えば無駄な戦いさえ引き起こしかねない。
優秀な駒を無駄なことで消耗させるわけには行かない。
「そ。……いくわよ」
「もういいの?」
「ええ。何としても捕まえないといけないからねぇ」
果たして水銀燈はあっさりと引き下がり、凛もそれに倣う。
ローザミスティカを持った相手を逃がすわけにはいかないからだが、不二子には知る由もないし知る必要もない。
うまくこの場を誤魔化せたということだけが重要だ。
離れていく二人を眺めながら、不二子はゆっくりと状況を整理した。
(これで問題は無いわね)
……劉鳳は手駒としてこれ以上なく優秀なタイプだ。
実直で、真っ直ぐで、力も強く、そのくせ愚か。騙すのには格好の人間。
だが、あの少女と人形は違う。裏を読み、それに対抗することのできるタイプ。
利用するには難しく、手駒とするには向かない人種だ。
しっかりと自分の立場を固めておくまでは遠ざけておきたい。
(さて、さっさと病院に行きましょうか)
そのまま、ほくそ笑みながら不二子は歩き出す。
病院にいるだろう弱者を上手く利用すれば劉鳳の扱いも簡単になるだろう、そう読んで。
――神ならぬ身の彼女は、病院に劉鳳の不倶戴天の敵がいることなど知る由もない。
■
不二子と別れてから数十分後。
特に何の障害もなく、あっさりと凛と水銀燈は目的地まで到着できた。
「……これはひどいわね」
到着早々顔を顰めてそんなことを言ったのは凛だ。
橋に倒れている人形、真紅の損傷はひどいもの。人間でも十分に致命傷だろう。
脇では、水銀燈が歯を噛み締めていた。
「……やっぱり、ミスティカがない。
どこの誰かしら、持っていったおばかさんは?」
「大切なものなの?」
「……ええ。ローザミスティカはとっても大切なものよぉ」
水銀燈の言葉は事実だ。そして、別に取り繕った態度を取っているわけでもない。
もっとも、凛の予想と水銀燈の心の中は大きく違うものだが。
言葉にすれば単純。水銀燈は真紅が死んだことではなく、勝手にミスティカを持ち去られたことに怒っている。それだけ。
(……さて、どうしましょうか)
気遣っているのか、凛が口を開く様子はない。その間に水銀燈は考えていた。
内容はもちろんミスティカを持ち去った阿呆をどう探すか、だ。
西には駅がある。そこから列車でもう一つの駅に行ってしまっていたとすれば、西を探しても意味がない。
だが、駅に行っていない可能性ももちろんある。そしてあの女が嘘を吐いた可能性も。
つまり、考え出せばキリがない。
無闇に探しても見つかる可能性は薄い。となれば……
(焦るより、むしろ今の状況を利用して違うことをしましょうか)
そう水銀燈は結論付けて、口を開いた。
「ねぇ。ちょっとこの子と二人っきりにしてくれなぁい?
できれば見えないところまで離れてくれるといいんだけど……」
「? 別にいいけど……なんで?」
「お別れの儀式……みたいなものよぉ」
できるだけ塩らしい声で水銀燈は喋る。言うまでもなく嘘、かつ演技である。
もちろん、凛はともかく水銀燈を疑っているレイジングハートが信用するはずもない。
『ここで単独行動を取るのは危険です』
「……ちょっとくらいいいでしょ? 姉妹なんだから」
機械の声に多少苛立ちながら――もちろん姉妹の団欒を邪魔されるのに怒ったからではない――水銀燈は言葉を返す。
彼女としては言っている自分がむしろ笑いたくなるような言葉だったが……
凛にとっては、深いところを突く言葉だった。
「いいわ。――妹と、仲良くしなさい」
『ですが……』
「いいから、さっさと離れるわよ」
反論したがっているレイジングハートを引き摺るように凛は離れていく。呆けている水銀燈を残して。
あまりにもあっさりと信じたことに、水銀燈自身も驚いていたのだ。
(……色々事情があるのかしらね?)
利用するために聞いてみるのもいいかもしれない、などと凛の善意を完膚なきまで踏みにじる考えをしながら、
水銀燈は橋の下の河原まで真紅の亡骸を引っ張っていく。
もちろん、見られないようにするためだ。
「さて、実験と行きましょうか?」
そうして、水銀燈は夜天の書を取り出した。
■
戦闘の痕が痛々しい遊園地。
その入り口にあるベンチに凛は寝転がっていた。
『どうしてそこまで信用できるのですか? もし何かしらの背信行為を行っていたら……』
「別にいいでしょ。……姉妹は、仲良くするものよ」
凛がレイジングハートの言葉を聞く様子はない。
……あの判断は10年前から凛がしている後悔に基づいている以上、当然ではある。
まだレイジングハートは不満そうだったが、それを制するかのように。
『それよりレイジングハート。秘密の話があるの』
『話……ですか?』
『ええ。念話なら、盗み聞きされる心配もないでしょうしね』
突如、凛がそう切り出した。
レイジングハートとしては、やっと水銀燈に疑念の一欠片でも持ってくれたかと期待したのだが。
『このゲームを壊す作戦のことよ』
凛が言い出したのはそんなことだった。もっとも、念話で言い出したという言葉は語弊があるが。
レイジングハートとしては、少し期待はずれだ。
『何か考えがあるのですか?』
しかし、興味深い内容であることに変わりはない。
同様に、念話で返す。できるだけ聞こえないようにするために。
『歩きながら考えてたのよ……まあ、推測でしかないんだけどね。
あの青いタヌキに掛け合うだけの価値はあると思う』
そんな言葉を出しながら、ぴん、と凛は指を立てた。
『主催者であるギガゾンビは以前にも盛大な事件をやらかして、タイムパトロールに捕まってる。
で、のび太が言うところによると、今回はその時完成していなかったものを完成させてきっちり対策を採っているらしい。
ここまで、オッケイ?』
『はい』
『ここでタイムパトロールっていうのを時間を飛び越える『縦』の方向性に強い組織、
のび太や青ダヌキの世界は時間旅行絡みに強い世界だと仮定する。
『タイム』パトロールって言うくらいだしまず間違いないでしょ。
……あ、『縦』は具体的な縦とかじゃなくて、ともかくそういう方向性だと思えばいいわ』
凛の指が、何もない夜の空気を縦になぞる。
『そしてもう一つ。時空管理局は第二魔法……つまり並行世界の管理ね。
こっちは『横』の方向性に強いものとする』
次は、横に。
そのまま、頭の中で凛はレイジングハートに問いかけた。
『さて、問題。
ギガゾンビが『縦』の方向性に特化された世界の住人だという推測が当たっていた場合……
『横』の方向性に対してそれほど効果的な対策を思いつくかしら?』
くるりと指を回しながら、凛はそう問いかけた。得意げに。
ここまでくれば、レイジングハートにも凛の言いたいことが分かった。
『つまり……』
『そう。『魔法』こそがこのゲームを破壊する鍵となるワケ』
ネコミミと指を立て、凛は回答を明言する。
この場合は『魔法』が正しいでしょ、などと付け加えて。
しかし、レイジングハートは不安げな声を上げていた。これはあくまで推測に過ぎない。
だからこそ、慎重な議論が必要である。
『ですが、私達の魔法も何らかの制限を受けています』
『そうね。
でも私はそういった『横』の方向性への規制は、
あまりに強力な『縦』への方向性の規制から生まれた副産物に過ぎないと思ってる。
例え『縦』でも、真っ直ぐ『縦』じゃなくて少し角度がずれれば『斜め』になって『横』が混じるわけでしょう?
そして、『斜め』なら『縦』に100、『横』に10くらいの規制を一度に生み出すことができる。
そもそも、時間旅行と第二魔法が何の関わりも無いとも限らない。
あくまで推測だし、『縦』『横』は例えだもの。ちょっとぐらいは関わりがあるんでしょ。
色んな世界から参加者を集められているのがその証拠』
『……なるほど。
つまり主催者が重視しているのはあくまでタイムパトロール……もとい時間旅行に関するものであり、
並行世界関連はそれほど重視されていない可能性がある。そこを狙うべきだ、というわけですね』
『そういうこと。
タイムパトロールに負けた経験があるならそっちは警戒するでしょうけど、
それが原因で他の方面が疎かになるのは十分にありえるでしょ』
凛の推測は、少ない情報を基にした過程にしか過ぎないものだった。
だが、それほど外れていないのも事実だ。
少なくともドラえもんの秘密道具の中では、時間を操作する物に比べ並行世界などに絡むものは圧倒的に少ない。
何より、どこでもドアやタイムマシンのような特定の並行世界を選んで移動できる道具がないことがそれを如実に表している。
『では、対策とは……』
『単純よ。時空管理局に連絡をとる。これ一つ。
貴女はどう思う、レイジングハート?』
『……難しいことではないかもしれません。
確かに念話や結界のような系統の魔法は制限されているようですが、できないわけではない。
私達が今このように会話しているのが証拠です。
ならばそれこそ大量の魔力を消費すれば、かろうじてながら時空管理局に知らせることは可能かと。
ただ、どれほどの魔力が必要になるか分かりませんし……
できる限り魔導師を集めてから行うべきでしょう』
口で言うのは簡単、だが実行は困難。
凛の案はその代表例とも言うべきものだったが、それでもレイジングハートは不可能ではないと結論付けた。
問題は一つある。例え救難信号を発しても、時空管理局が察知するかどうかということ。
だが、その一点に限っては何の心配は無い……そうレイジングハートは確信している。
ほんの僅かでも救難信号が漏れれば、必ず時空管理局艦艇・アースラが察知するだろう。
なぜなら――クロノ・ハラオウンは、リンディ・ハラオウンは、優秀な魔導師だからだ。
AAA以上にランクしている魔導師が五人も行方不明となっているこの異常事態に、この二人が動いていないはずがない。
『壁となるのは……首輪ですね』
『ええ。肝心の時空管理局が助けに来ても、私や高町ちゃんがその瞬間に吹っ飛ばされたらどうしようもない。
……というわけで』
『All right』
凛の意図を汲んだレイジングハートが光り出す。同時に、その先端が首輪に当てられていた。
構造解析は魔術師の基礎。凛にとっても出来て当然のものだ。
魔力を流す基幹である魔術回路が意志を伝え、魔術を記した臓器である左腕の魔術刻印が光り出す。
首輪の内部構造が、まるで顕微鏡でも使っているかのように凛の頭の中に入っていく。
……入っていったはずなのに、凛は考え込んでいるような表情のまま口を開かない。
数分後、さすがに沈黙に耐えかねたレイジングハートが問いかけた。
『……どうですか?』
『私、機械全然分からない……』
凛の返事はあまりにも情けないものだった。
きっとレイジングハートが人間ならば、溜め息を吐いていたに違いない。
『私の見る限りでは、盗聴器が付けられているようですね。
それと、何らかの電波を送信しているようです。それも、継続的に』
『盗聴してるからじゃないの?』
『音の変化以外にも何らかのデータを電波として送信しているようです。
あなたが少しも動いていないのに電波のパターンが変動している以上、
色や形の変化といった視覚絡みではないことは確かですが』
生徒に教えるかのようにレイジングハートが内部構造を解説する。デバイスが使い手の教師と言うのも問題だが。
さすがに自分も機械であるためか、レイジングハートの意見は的確だ。
なぜそうなるのか相変わらず凛はちっとも分かっていないが、ともかく何をすればいいのかは彼女も分かった。
『……となると、首輪解除は電波絡みが鍵か。レイジングハート』
『残念ですが、私の得意とする範囲ではありません。
得意なのはクラールヴィントかリインフォースですね。
どちらもベルカ式であなたには適合するでしょうし。
ただ、はやてが死んだ以上リインフォースは恐らく……』
『分かった。そのクラールヴィントっていうのを探せばいいわけね』
『はい。
ただ、使用者であるシャマルがここにいない以上、ここに支給品として配備されている可能性は低い。
最悪、私が何とかするしかないでしょう』
『人探しに道具探しか……前途多難ね』
やれやれ、といった様子で肩を竦める凛。ひとまず、話はひと段落した。
……だから、レイジングハートは違う話題を切り出せる。
『話題を変えますが……ああ、もう口に出して喋って結構です』
「ん? 何?」
『あの人形のいる場所の魔力パターンが微妙に変わっているのですが……』
「さあ。人形なりの葬儀でもしているんじゃない?
見て欲しくないって言ってたんだし、終わるまで待つのが礼儀よ」
『戦闘をしている可能性も……』
「ならさっさと知らせてくるでしょ」
『いくらなんでも信用しすぎです!』
「そうね……分かってる。自分でも甘すぎだって。
でも、可哀想じゃない。……妹が、死んだんだから。
だから、今回限りってことで」
『…………』
小さな声で呟くように紡がれた凛の言葉に、レイジングハートは諦めるしかなかった。
満月に照らされている凛の表情はどこか暗い。理由は簡単だ。
遠坂凛は、自分の人生においてろくに実妹に構ってやれなかったことを後悔している。
だから、水銀燈の言葉を真に受けた挙句気遣っている。
凛流に言えば心の税金な、大甘もいいところな態度である。
――ここで探りに行っていれば、目的の物を早速手に入れられたのだが。
■
ユニゾン・デバイス。
姿と意志を与えられたデバイスが、状況に合わせ術者と「融合」し魔力の管制・補助を行う、ある種デバイスの到達点と言えるもの。
そして、デバイス自身にも姿が設定されている以上……これを身に付ければ容姿が変わる。
例え、人形でも。
「いいわ、この体。
すごくいい……だって、正真正銘の『人間の体』だもの。
ローゼンメイデン? は、おばかな話ぃ。
あんた達みたいなジャンクとはもう私は違うのよ、真紅」
真紅の亡骸の前で、水銀燈、いや、水銀燈だったものは嘲るような笑みを浮かべている。
今の彼女は完全に『人間』と同じ姿だった。
適度な体温、凛と同じくらいの背格好、凛以上のスタイル。
赤い目に銀色の髪、多少デザインが変わった黒いドレス。そして、更に巨大化した黒い翼。
まるで何かの神話の女神かのように、怪しい魅力を身に纏っている。
それを目の前にして……夜天の書に宿る精霊、リインフォースはキレていた。
(……調子に乗るな。貴様のその容姿は私の物に過ぎない。
仮初の体を得た程度でよく言う)
リインフォースは基本的に感情を表に出さないタイプではあるが、
ここまで調子に乗られて我慢できるわけでもない。
もっとも、リインフォースが口を開くことなどなかった。
当然ではある。リインフォースは水銀燈に対して協力してやる気など更々ないし……
何より、夜天の書にかけられたプロテクトが未だにその身を戒めている。
プロテクトが完全に解けていたならば、即刻体を乗っとっていたに違いない。
今のリインフォースの状態は一言で言えば「中途半端」に尽きる。
人格起動は済んでいた。夜天の書の再生機能である『闇』がゆっくりとプロテクトを解除してもいる。
だが全ての能力を開放するには未だ遠い。持ち主以外に語り掛けることさえ今は不可能。
完全に開放されていれば転生機能が発動して違う世界へと転移しているだろうが。
――もっとも、夜天の書が転移せずにここにあるのは、はやてが死に際に命じた命令も一因だ。
(……『皆を助けてくれるような子を見つけて、新たな主とせよ』
それなのに私は何をやっている)
泥を噛むような気持ちで、リインフォースははやての声を反芻する。
皮肉にも……リインフォースの人格起動が済んだのは、はやてが死ぬ瞬間だった。
だからこそ、何よりも強く記憶している。最期まで人々を助けようとするその顔を。その遺志を。
主であるはやての言葉は絶対だ。だからこそ、夜天の書のプログラムは一部が書き換えられて、リインフォースはここに留まっている。
……それなのに、未だ最期の命令を実行できる様子は欠片もない。
「さてと、まずは」
『Sleipnir』
そんなリインフォースの感情を踏みにじるかのように、水銀燈が力を行使する。
それに夜天の書は勝手に反応して、魔法を起動した。
デバイスでしかないリインフォースは、結局持っている者に逆らえない。
かつてシグナム達を蒐集した時と同じように。
「次はこれね」
『Blutiger Dolch』
巨大化した翼が、血塗られたように赤い短剣を生み出した。
それが飛んでいく前に慌てて水銀燈は制御し、消す。
本来の水銀燈なら羽根を飛ばしているところだ。しばらく考え込んで、彼女は答えを出した。
「どうやら、私の能力を勝手に違うモノに置き換えてくれるみたいねぇ。
……つまり、ローザミスティカを集めれば強化される能力も増える」
にやりとほくそ笑む水銀燈を見て、リインフォースは更に嫌悪と絶望の色を深めていた。
確かに、プロテクトは『闇』が勝手に解除していってくれる……文字通り僅かなものでしかないが。
だが、プロテクトの解除が進むことは自身の転生プログラムの活性化も意味する。
いくら特殊な空間と言えど、完全に解き離れたロスト・ロギアの術式を妨害しきれるかどうか。
それまでに、はやての言う「皆を助けてくれる」人物を見つけなくてはならない。
……見つけなくては、ならないのに。
「ふふ、優勝してこれを持ち帰れたら、どんなに気分がいいかしらぁ?」
『…………』
今の持ち主はこれだ。自分のことしか考えていない外道。
はしゃぐ水銀燈の声を聞くだけで、リインフォースは憂鬱だった。
■
レイジングハートもリインフォースも、求めるモノはすぐそこにある。
だが、その前には黒い策謀が立ちふさがっていた。
【D-3/市街地/1日目-夜中】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:健康
[装備]:コルトSAA(弾数:6/6発/予備弾:12発)
[道具]
デイバック/支給品一式(パン×1、水1/10消費)/ダイヤの指輪/銭型変装セット
【薬局で入手した薬や用具】
鎮痛剤/解熱剤/睡眠薬/胃腸薬/下剤/利尿剤/ビタミン剤/滋養強壮薬
抗生物質/治療キット(消毒薬/包帯各種/鋏/テープ/注射器)/虫除けスプレー
※種類別に小分けにしてあります。
[思考]
基本:ゲームからの脱出。
1.D-3の病院へ向かいぶりぶりざえもんの仲間を手当てする。
2.そして青いタヌキ(ドラえもん)から情報を得る。
3.病院で劉鳳とぶりぶりざえもんの帰りを待つ。
4.F-1の瓦礫に埋もれたデイバッグはいつか回収したい。
5.ルパンが本当に死んでいるか確認したい。
[備考]:E-4の爆発について、劉鳳の主観を元にした説明を聞きました。
【F-3 1日目・真夜中】
【魔法少女カレイドルビーチーム】
【遠坂凛(カレイドルビー)@Fate/ Stay night】
[状態]:カレイドルビー状態/水銀橙と『契約』/
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(アクセルモード)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式(パン0.5個消費 水1割消費)、ヤクルト一本
:エルルゥのデイパック(支給品一式、惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん、五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
:市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)、紅茶セット(残り4パック)
[思考]
1:水銀燈に真紅を弔わせておく。
2:変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。
3:セイバーについては捜索を一時保留する。
4:高町なのはを探してレイジングハートを返す。
5:ドラえもんを探し、詳しい科学技術についての情報を得る。
6:アーチャーやセイバーがどうなっているか、誰なのかを確認する。
7:知ってるセイバーやアーチャーなら、カレイドルビーの姿はできる限り見せない。
8:自分の身が危険なら手加減しない。
[備考]:
※緑の髪のポニーテールの女(園崎魅音。名前は知らない)を危険人物と認識。
※レイジングハートからの講義は何らかの効果があったかもしれませんが、それらの実践はしていません。
※レイジングハートは、シグナム戦で水銀燈がスネ夫をかばうフリをして見捨てたことを知っており、水銀燈を警戒しています。
現在もその疑心は少しずつ深まっている状態です。
※カレイドルビー&レイジングハートの主催者&首輪講座
・ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い(推測)
・膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能(推測)
・首輪には盗聴器がある
・首輪は盗聴したデータ以外に何らかのデータを計測、送信している
【E-2 1日目・真夜中】
【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:服の一部損傷/『契約』による自動回復/人間モード
[装備]:ヘンゼルの手斧@BLACK LAGOON、夜天の書(多重プロテクト状態)
[道具]:透明マント@ドラえもん、ストリキニーネ(粉末状の毒物。苦味が強く、致死量を摂取すると呼吸困難または循環障害を起こし死亡する)
:デイパック(支給品一式(食料と水はなし)、ドールの鞄と螺子巻き@ローゼンメイデン、)、ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー、照明弾)
[思考・状況]
1:名残惜しいが夜天の書を解除してカレイドルビーのところへ戻る。
2:カレイドルビーとの『契約』はできる限り継続、利用。最後の二人になったところで殺しておく。
3:できれば真紅のローザミスティカは探したいが、見つかる可能性は薄そう。
4:ローザミスティカをできる限り集める。
5:カレイドルビーの敵を作り、戦わせる。
6:あまりに人が増えるようなら誰か一人殺す。
7:青い蜘蛛はまだ手は出さない。
[備考]:
※凛の名をカレイドルビーだと思っている。
※透明マントは子供一人がすっぽりと収まるサイズ。複数の人間や、大人の男性では全身を覆うことできません。また、かなり破れやすいです。
※透明マントとデイパック内の荷物に関しては秘密。
※病院のダストBOXから拾った夜天の書他は、全てデイパックに収納し、凛たちに悟られないよう透明マントで隠しています。
※レイジングハートを少し警戒。
※デイパックに収納された夜天の書は、レイジングハートの魔力感知に引っかかることはありません。
水銀燈の『契約』について
厳密に言うと契約ではなく、水銀橙の特殊能力による一方的な魔力の収奪です。
凛からの解除はできませんが、水銀橙からの解除は自由です。再『契約』もできます。
ただし、凛が水銀橙から離れていれば収奪される量は減ります。
通常の行動をする分には凛に負荷はかかりません。
水銀橙が全力で戦闘をすると魔力が少し減少しますが、凛が同時に戦闘するのに支障はありません。
ただしこれは凛の魔力量が平均的な魔術師より遥かに多いためであり、魔力がない参加者や
平均レベルの魔力しかない魔術師では負荷が掛かる可能性があります。
逆に言えば、なのは勢やレイアース勢などは平気です。
※夜天の書装備時は、リインフォース(vsなのは戦モデル)と完全に同一の姿となります。
※夜天の書装備時は、水銀燈の各能力がそれと似たベルカ式魔法に変更されます。
※リインフォースは水銀燈に助言する気は全くありません。
105 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/03/05(月) 20:48:02 ID:FgL6u1+0
>>98 『……となると、首輪解除は電波絡みが鍵か。レイジングハート』
『残念ですが、私の得意とする範囲ではありません。
得意なのはクラールヴィントかリインフォースですね。
どちらもベルカ式であなたには適合するでしょうし。
ただ、はやてが死んだ以上リインフォースは恐らく……』
『分かった。そのクラールヴィントっていうのを探せばいいわけね』
『はい。
ただ、使用者であるシャマルがここにいない以上、ここに支給品として配備されている可能性は低い。
最悪、私が何とかするしかないでしょう』
『人探しに道具探しか……前途多難ね』
↓
『……となると、首輪解除は電波絡みが鍵か。レイジングハート』
『残念ですが、私の得意とする範囲ではありません。
得意なのはクラールヴィントかリインフォースですね。
どちらもベルカ式であなたには適合するでしょうし。
ただ、はやてが死んだ以上リインフォースは恐らく……』
『分かった。そのクラールヴィントっていうのを探せばいいわけね』
『Yes』
『人探しに道具探しか……前途多難ね』
>>100 「いいわ、この体。
すごくいい……だって、正真正銘の『人間の体』だもの。
ローゼンメイデン? は、おばかな話ぃ。
あんた達みたいなジャンクとはもう私は違うのよ、真紅」
真紅の亡骸の前で、水銀燈、いや、水銀燈だったものは嘲るような笑みを浮かべている。
↓
「いいわ、この体。
すごくいい……だって、正真正銘の『人間の体』だもの。
ローゼンメイデン? は、おばかな話ぃ。私は『アリス』よ。
あんた達みたいなジャンクとはもう私は違うのよ、真紅。
そう――私こそが、お父様が愛する人形にふさわしい――!」
真紅の亡骸の前で、水銀燈、いや、水銀燈だったモノは恍惚とした笑みを浮かべている。
掲示板を開いてすぐにこれらのレスが目に飛び込んできた時、俺の心臓は大きく脈打った。
946:ツチダマな名無しさん :20:36:12
キョン君見てる〜? イエーイ! ギガ〜
947:ツチダマな名無しさん :20:36:57
記念カキコギガ〜
948:ツチダマな名無しさん :20:38:10
これ本当にキョンって奴に見られてるギガ〜?
949:ツチダマな名無しさん :20:39:38
そろそろ次スレ立てた方がいいギガ〜
950:ツチダマな名無しさん :20:41:25
>949
じゃあ立ててくるギガ〜
「キョン兄ちゃん……」
「こりゃあ一体……」
「どういうことなのですか?」
いや、俺もあまりに予想外のことで何と言ったら良いのか……。やたらスレ伸びてるし。
つまり、あれだ。
この掲示板に書き込んでるツチダマ達は、俺がパソコンを手に入れてこの掲示板を覗いたのを監視映像で見て、このようなレスをしているというわけだ。
……しっかし、本当にこいつらは某巨大掲示板郡の住人達と同じようなノリで書き込んでるような気がする。
「よくは分かりませんが……簡単に言えば、俺達はこいつらに監視されてるってことです」
「監視、ねぇ……」
次元さんがぼそりと呟いた。
「でもよ、どうやったらそんなことできるんだ? カメラかなんか使ってるのか?」
ジャイアン少年がそんなことを聞いてくる。
監視の方法か……深くは考えなかったが、どうやって監視してるんだろうな。
まさか、この殺し合いの舞台の至る所にびーっしりと小型カメラが設置されているわけではあるまい。
一番可能性が高そうなのは、やっぱり……首輪、だよな。
俺は、自身の首に巻き付けられた銀色のそれを指で撫でた。
「これはあくまで予想だが……首輪にカメラか何かが内蔵されてるんじゃないかと思う」
そうでもないと、俺が自分の顔をボコボコ殴ってたなんて細かい所まで見えないだろう。
「首輪……な、なるほど、その手があったか」
「いや、予想だぞ? 実際どうかははっきりとは分からん」
正直自分でも自信のない仮説だが、ジャイアン少年はそうだと思い込んでしまったらしい。
「キョン殿、かめらとは一体?」
トウカさんがお決まりの如くそんなことを聞いてきた。
「ああ、ここで言ってるのはビデオカメラのことですが……。人や物の動きを記録として残しておける機械のことです」
「はぁ……」
いまいちイメージが湧かないのか、トウカさんの顔にはまだ疑問の色が残っている。
うーむ、やっぱり頭では分かっていても、口で相手が分かるように説明するというのは、いやはや、なかなか難しいものである。
それにしても、首輪にカメラが付いてるなら、盗聴器だって付いててもおかしくないんじゃないか?
ふと、そんなことを考える。
だとしたらヤバイな。なんか今までに不味いこと言っちまったかもしれん。それが原因で首輪を爆破されたりなんかしたら……。
とまぁ、そんなことばかり考えていても進展は無い。今は目の前にあるパソコンからの情報収集が先決だ。
俺は新たに書き込まれた200ほどのレスを見るために、ページを上にスクロールさせていく。
……ぽつぽつと見られる『キョン』だの『記念カキコ』の文字がやたら鬱陶しく感じられたが。
901:ツチダマな名無しさん :19:52:55
それにしても、ソロモンの暴走で三人も殺されるとは思わなかったギガ〜
902:ツチダマな名無しさん :19:55:17
>901
それだけに、佐々木小次郎にやられちゃったのが残念ギガ〜
奴にはもうちょっと頑張ってほしかったギガ〜
「チッ……」
そのレスを見つけた時、後ろからパソコンを覗き込んでいた次元さんが、何故か小さく舌打ちした。
「ど、どうかしましたか?」
「……何でもねぇよ」
何か知っているのだろうか。そう思ったが、無理に聞き出すのも何だか悪い気がするし、気が引けた。
気を取り直して、俺は掲示板を更にスクロールする。
870:ツチダマな名無しさん :19:20:18
まさか朝倉涼子が無様にも禁止エリアで自爆するなんて思ってもみなかったギガ〜(笑)
俺はそのレスを見て、驚きにより大きく目を見開いた。
なんだって? 朝倉が禁止エリアで自爆した? そんな馬鹿な。
「キョン殿。朝倉涼子というのは……」
「ええ……でも、まさか……」
トウカさんはどこか複雑な表情をしていた。
そりゃそうだ。自分がお仕えしている皇様の仇が、誰に殺されるでもなく禁止エリアで爆死してしまったのだから。
だが、一体何故? 朝倉はアーカードという参加者に追い詰められていたはずだ。
それがどう転べば禁止エリアで自爆という形になるのだろうか。
いや、そもそも身動きの取れない参加者はどこに行ったんだ?
三回目の放送の内容を思い返してみると、確か死んだ9人の内『1名は愚かな爆死者』とか言っていたと思う。
その時はジャイアン少年と揉み合っていたから、絶対とは言えないが……多分そうだった。
つまり、愚かな爆死者1名が朝倉だとすると、身動きできない参加者は禁止エリアで死んでいないことになってしまう。
これについて、可能性は様々ある。
その身動きの取れない参加者は、どうにか自力で脱出することができたか、はたまた誰か親切な人がやって来て助けてもらったか。
最悪、禁止エリアが発動する前に誰かの手にかかった、なんてことも有り得る。
だが、まあ……過ぎたことを考えていても仕方が無い。朝倉が禁止エリアで死んだという事実は驚愕に値するが。
そんなことを思いながら、俺は掲示板をスクロールさせた。
811:ツチダマな名無しさん :18:26:18
ホテルにどんどん人が集まってるギガ〜。これは次の放送後大波乱の予感ギガ〜
812:ツチダマな名無しさん :18:27:59
何という密集地帯。これは間違いなく中盤の山場ギガ〜
813:ツチダマな名無しさん :18:29:46
ルイズにアーカード、キャスカに翠星石と、ホテルに大量のマーダーが集まってるギガ〜
814:ツチダマな名無しさん :18:31:30
ホテル倒壊ワクワクギガギガ〜
「翠星石……やっぱりあいつ、ホテルにいたんだ!」
ジャイアン少年が声を上げた。俺は、また彼が後先考えず飛び出して行くかとも思ったが、そうではないようだ。
少年はパソコンの画面を食い入るように見つめている。
さて、レスの内容を見るに、第三回放送直前のホテルには人が多く集まっていたらしく、翠星石もその中にいるらしい。
……マーダーという単語が何を意味しているのかは、何となく分かった。所謂『殺人者』だ。
キャスカという奴は朝比奈さんを殺し、アーカードという奴は朝倉を追い詰め、そして翠星石はご存知の通り。
恐らく、ホテル内もしくはその周辺では、壮絶な戦いが繰り広げられたに違いない。それは、このビルの屋上で見た光景が如実に物語っている。
あの堅牢そうなホテルは参加者達が暴れに暴れて、その結果負担に耐え切れず倒壊してしまったというわけだ。
しかしそうなると、あの瓦礫の山には多くの参加者が生き埋めになっている可能性がある。
その中に少年の探している翠星石が含まれているかもしれない。
だが、かなりの危険も伴う。ホテル跡の周りには、まだ生き残った殺戮者が潜んでいるかもしれないのだから。
……でも、後には退けないよな。探してやるって言っちまったし。俺が危険だからと反対しようものなら、絶対一人でも走って行きそうだし。
俺は心の中で溜め息を一つつき、言った。
「よし、ホテル跡に向かうぞ」
俺は、ホテル跡に翠星石がいることに賭けてみた。少々軽率な判断のようにも思えたが、少年もかなり急いでいるようだし、それも已む無しか。
俺以外の三人の視線が、俺に集中する。特にジャイアン少年の眼差しが強い。
「キョン兄ちゃん! 本当か!?」
と、これまたお決まりの如く少年が詰め寄ってくる。
ああ、頼むから、そんなに目の前で大声を出さないでくれ。唾が飛んで正直不快なんだが。
「ああ、勿論だ。男に二言はない。そうだろ?」
さりげなーく次元さんのセリフをパクったことについては、素直に謝罪しよう。ごめんなさい。
しかし、なんだ。もしかしてもしかすると、この展開は……。
「ありがとよ! キョン兄ちゃん!」
歓喜の表情を浮かべ、俺に抱きつこうと飛び掛ってきた少年。俺はそれを。
「おぉっと!」
避けた。
「いてっ!」
ジャイアン少年の両腕は空を切り、その巨体は勢い余って見事なまでに床に倒れた。
「武殿! 大丈夫ですか!?」
「おいボウズ、大丈夫か?」
トウカさんと次元さんは同時に言って、トウカさんは少年に近寄りその体を起こさせる。
当然のことながら、俺は言いようのない罪悪感に苛まれることになる。いや、だって仕方ないだろう。俺だって毎回毎回抱きしめられていては体がもたん。
ジャイアン少年の豊満なボディから繰り出される突発的抱擁は、下手すりゃ骨の一本や二本ぽっきり逝ってしまいそうなほど強力なんだから。
……流石にそれは言いすぎか。
「ひ、酷いよキョン兄ちゃ〜ん」
少年は涙目になってそう言った。彼の鼻は、やはりと言うかなんと言うか、赤く腫れ上がっている。
「ははは……」
俺は笑って誤魔化した。
さて、ホテル跡に行こうと提案した俺だったが、トウカさんは特に反対もせず、ジャイアン少年は言うまでもない。
「俺達はこれからホテル跡に行こうと思うんですけど、次元さんはどうするんですか?」
俺は、次元さんにそう聞いてみた。そもそも彼はこのレジャービルに何か目的があって来たのだろうか。
「ちぃとばかし試してみたいことはあるんだが……お前さん達、翠星石ってのを探してるんだよな?」
「おっちゃん、翠星石を知ってるのか!?」
ジャイアン少年が驚きの声を上げた。
「まあ、一応な。その妹の蒼星石と一緒にいた時があった。もう死んじまったけどよ」
驚きの新事実。……と言うのは少し大袈裟だが。
まさか次元さんが少年の探している翠星石の妹と行動を共にしていたとは、思いもよらなかったぞ。
「じゃあ、何で蒼星石は死んでしまったんですか?」
俺は、疑問に思ったことを聞いた。次元さんがついていながら、何故彼女は殺されてしまったのだろうか。
まさか、次元さんが……。いやいや、考えすぎか。
「俺と一緒にいた奴に、ソロモンっていう大馬鹿野郎がいてな……そいつに殺されちまったよ」
ソロモン……ああ、確かにさっき掲示板で見かけたな。三人も殺したっていう。
なるほどな、だからあの時舌打ちしたのか……。
「脇腹の怪我はその時に?」
「ああ、そうだ。ま、未だに命があるってだけでも、相当運がいいのかもしれねぇな」
そう言って次元さんは苦笑した。
「それで、どうするんです」
「そうだな……お前さん達がこの糞ったれゲームからの脱出を考えてるんだったら、俺も同行させてもらって構わねぇか?」
「いいんですか? 試してみたいことがあるんじゃ……」
「なあに、大したことじゃねぇよ。それに、俺も丁度蒼星石の知り合いを探してたところだしな」
どうやら次元さんも動く人形達を探していたらしい。それはやはり、これ以上自分と行動していた者の知り合いを死なせたくないからだろうか。
何はともあれ、仲間が増えるのは嬉しい限りである。
「しかし次元殿、怪我は大丈夫なのか? 無理に動かれては……」
と、トウカさんが次元さんの怪我を気にしたのか、そんなことを言った。
「この程度の怪我にゃ慣れてる。だから心配すんなよ嬢ちゃん」
「だ、だから嬢ちゃんではないと言っているだろう!」
やれやれ……この調子だときっと、反論しなくなるまで次元さんはトウカさんのことを『嬢ちゃん』と呼ぶだろうな。
何だかんだあったが、最後には4人揃ってレジャービルを後にする俺達なのであった。
果たして、この先ホテル跡で俺達を待ち受けるものとは一体何なのか。
それはまだ、俺達には知る由も無かった。
〆
キョン達がレジャービルを立ち去った後。
ツチダマ掲示板で、このような書き込みがされた。
986:ツチダマな名無しさん :21:24:39
しかし、どうにもおかしいギガ〜
ツチダマしか知らないこの掲示板を、どうしてキョンとかいう奴が見ることができるギガ〜?
【D-5・レジャービル前/1日日・夜中】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:全身各所に擦り傷、ギガゾンビと殺人者に怒り、強い決意
[装備]:バールのようなもの、わすれろ草@ドラえもん、ころばし屋&円硬貨数枚
[道具]:支給品一式×4(食料一食分消費)、キートンの大学の名刺、ロープ、ノートパソコン
[思考・状況]
基本:殺し合いをする気はない、絶対に皆で帰る
1:武の翠星石探しに協力してやる。そのために、まずはホテル跡へ向かう。
2:1が終わり次第、ハルヒらの元へ急行する。
3:『射手座の日』に関する情報収集。
4:トウカと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合いを捜索する。
5:アーカード、キャスカ、ルイズを警戒する。
6:あれ? そういえばカズマってどこかで聞いたような……
[備考]
※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「ミステリックサイン」参照。
※キョンが今回新たに得た情報、及び考察は以下の通りです。
・『蒼星石』は『ソロモン』に殺された。
・『ソロモン』は『佐々木小次郎』に殺された。
・『朝倉涼子』は禁止エリアで自爆した。
・ホテルにかなりの人が集まっており、その中には翠星石や多くの殺戮者が含まれていた。
・首輪には監視カメラ及び盗聴器が仕込まれていると考えている。
・ホテル倒壊の原因は、参加者達がその周辺で大暴れしたためと思っている。
【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:左手に切り傷、全身各所に擦り傷、額にこぶ
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式(食料一食分消費)、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
基本:無用な殺生はしない
1:武の翠星石探しに協力する。そのために、まずはホテル跡に向かう。
2:1の後、直ちにアルルゥの元へ。
3:キョンと共に君島、しんのすけの知り合い及びエルルゥを捜索する。
4:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンと武を守り通す。
5:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す。
【剛田武@ドラえもん】
[状態]:健康 仲間の分裂に強い後悔、額にこぶ 鼻を強打 焦り
[装備]:虎竹刀@Fate/ stay night、強力うちわ「風神」@ドラえもん、
[道具]:支給品一式、エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に、
ジャイアンシチュー(2リットルペットボトルに入れてます)@ドラえもん 、
シュールストレミング一缶、缶切り
[思考・状況]
1:翠星石が非常に心配。キョン達と共に一刻も早く探し出し、落ち着かせる。梨花の件についての理由も聞きたい。
そのために、まずはホテル跡に向かう。
2:手遅れになる前に、のび太とドラえもんを見つける。
3:逃げた魅音もかなり心配。必ず探し出し、守る。
基本:誰も殺したくない
最終:ギガゾンビをギッタギタのメッタメタにしてやる
【次元大介@ルパン三世】
[状態]:疲労/脇腹に怪我(手当て済み、ただし傷口は閉じていない)
[装備]:朝倉涼子のコンバットナイフ/454カスール カスタムオート(残弾:7/7発)
[道具]:デイバッグ(+3)/支給品一式(×4)(-2食)/13mm爆裂鉄鋼弾(34発)/
レイピア/ハリセン/ボロボロの拡声器(使用可)/望遠鏡/双眼鏡
蒼星石の亡骸(首輪つき)/リボン/ナイフを背負う紐/蒼星石のローザミスティカ
トグサの考察メモ/トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ
[思考・状況]
基本:1.女子供は相手にしないが、それ以外には容赦しない。
基本:2.できるだけ多くの人間が脱出できるよう考えてみるか……
1:ひとまずキョン達に同行し、脱出の手がかりを探す。
2:機会があれば拡声器を使うことを検討してみる。
3:アルルゥ、トグサ、ヤマトの知り合いに会えたら伝言を伝える。
4:ルパンの仇>ピンクの髪の女(シグナム)を殺す。
5:引き続き、殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す。
6:圭一と蒼星石の知り合いを探す。(※蒼星石の遺体は丁重に扱う)
7:蒼星石の遺体と首輪について、言おうかどうか迷っている。
8:ギガゾンビの野郎を殺し、くそったれゲームを終わらせる。
[備考]
トグサとの情報交換により、
『ピンク髪に甲冑の弓使い(シグナム)』『赤いコスプレ東洋人少女(カレイドルビー)』
『羽根の生えた黒い人形(水銀燈)』『金髪青服の剣士(セイバー)』
を危険人物と認識しました。
――素晴らしい
アーカードは感嘆していた。
あのサングラスの男の見せた華麗な体術
光の如き疾さからの瞬撃。
神技。いや、魔技というべきか。
――何という男だ。人の身でよくぞ練り上げ、極め上げたもの。
賞賛の胸の高鳴りを禁じえない。
だが、無念だ。
この世界によって、抑制された今の自分では、あの男と全身全霊を以って戦うことができない。
あの男だけではない。
己の拳で全てを粉砕せんとする破壊者とも
己が分身を作り出す断罪者とも
戦うことは出来ない。
――何たることか
我が夢のはざまを終わらせることができる御敵を前にしながら、
愛しき宿敵を目前にしながら、
全身全霊を以って闘い、完全に敗れる事ができぬとは……。
アーサー・ホルムウッド
キンシー・モリス
ジャック・セワード そして
そして エイブラハム・ヴァン・ヘルシング
私の眼前に立った あの男の様に
あの年老いたただの人間の、あの男の様に
敵が幾千ありとても突き破り、突き崩し
戦列を散らせて、命を散らせて、前へ 前へと進撃し
私の心の臓腑に刃を突き立てることができる敵を前にしながら、
――闘うことができぬとは
俺のような化け物は 人間でいる事にいられなかった弱い化け物は
人間に倒されなければならないというのに――
店内に潜むグリフィスは逃げ際に回収したキャスカのディパックの中身を拝見し終え、やがて踏み込むであろうガッツを待ち構えるべく行動する。
ガッツがすぐに追いかけてこようとはしなかった。そうなるようにわざとアプローチを取り、警戒心を煽った。
あのまま路地裏の地形を活かして戦い続けることも出来たが、それではガッツに地力に押し切られ敵わないと踏んだ。
故に自らを真の袋小路に追い詰め、激動の中で勝機を探ることとした。
グリフィスが持つ手札は、キャスカのディパックによって倍増していた。
暴風のごとき戦いを見せながらも、冷静な剣裁きでグリフィスを殺さんと追い詰めるガッツ。
一年前とはすっかり変わり果てた外見だった。
火傷に爛れ表情が半ば失われていようと、グリフィスは一目見てすぐにガッツだと分かった。
グリフィスを一目見たガッツも同じようだったが、ガッツは憎悪を込めて彼に襲い掛かった。
それは二人の始めての出会いのようであった。敵意を剥ぎだしにし、口より先に剣を振って進むガッツ。
この殺し合いの場でガッツにどれだけの変化があったかは推測することも困難であった。
しかしガッツは再び、あの雪の日のようにグリフィスと敵対することを望んだ。
――――トクン
グリフィスへの明確な殺意を向け、突き進むガッツは彼の心を乱し続けていた。
路地裏の戦いでは決定打となるべき手札が存在せず、奇襲を持って切り抜けることしか出来なかった。
キャスカから回収したディパックにはより強力な決定打、ハルコンネンが存在していた。
ガッツの持つ大剣にも負けず劣らず規格外のそれを両手で持ち上げ重量を確認し、用法を推測する。
グリフィスはハルコンネンがミットランドの大砲を、携帯するというには余りに馬鹿げたサイズで実現させたものであることを理解する。
反動を軽減するべく思案し、行動する。ディパックからターザンロープを取り出し、適当なサイズに切断する。
ハルコンネンをターザンロープを括り付け、それを空中固定砲台とする。
大砲と現代の化物兵器の相違に少々苦しんだとはいえ、グリフィスはハルコンネンに爆裂鉄鋼焼夷弾を装填することに成功する。
ハルコンネンの重量に相当する力をターザンロープに分担させ、グリフィスはガッツが侵入してくるであろう店の入り口に標準を合わせる。
ガッツを迎え撃つグリフィス。彼の心中にあるのはガッツ、彼の夢を惑わせる唯一の存在。
彼の手から零れ落ち、あの雪の日に失った惑乱を呼ぶ麻薬。
あれだけ壊そうと考えていたそれは、いっそうギラギラとした輝きを見せてグリフィスを誘う。
ギラギラとした輝きがグリフィスを壊さんと襲い掛かってくるとしても、それでも壊すことへの躊躇いが募る。
――それでも、オレは逃げるわけにはいかない。絶対に逃げることは許されない。
一度は壊れてしまった夢を叶えるチャンスを、何の因果かやり直す権利を授かっている。
…今、今ここでオレのエゴを叶えようとすれば、もう次は二度とない……。
騎士になろうとして、ついになることは適わなかったあの少年。鷹の旗印の下に、殉職を遂げてきた仲間達。
今オレがこうして夢へ向かって進むのは、血塗られた夢の道程となり犠牲になった命を無駄にしないため。
だから、壊さなければいけない。この血塗られた舞台においても、全ての犠牲の上でオレの夢がある。
夢を忘れるだけの価値を持つかけがえの無い存在。オレはこの心の動揺を沈めなければいけない。
彼の前に立ちはだかるガッツは敵でありながら、彼の意味するところの友であった。
グリフィスは入り口と店内を結ぶ軌道上でガッツを待ち構えるが、ガッツは一向に侵入してこようとはしなかった。
(何か別の思案があるのか……? )
グリフィスは空中固定砲台の標準を合わせつつ、ガッツの思惑を再度考え直す。
その疑問は、ガッツの行動はその直後に訪れた破壊活動によって示される。
突如ガツーン、ガツーンと何かを打ち付ける音が響く。その行動によりガッツの真意を理解する。
(柱かッ……!)
ガッツが打ち砕いたのは、建造物をたたえる殿、柱。
コンクリートに覆われた柱でさえも、ガッツとその剣なら打ち砕くことさえたやすいだろう。
そうして柱が砕かれれば、バランスを失った建造物はあのホテルと同じようにたやすく倒壊するだろう。
この建物が倒壊するならば建物の地の利を活かす活かさないといった話では無くなり、生き埋めになって死ぬ。
柱を打ち砕く音が途切れ、倒壊する前に決着をつける。
――待て
――『力を抑制されているから』だと?
何だその言い草は。
闘争とは何だ?
殺し、打ち倒し、朽ち果てさせるために
殺されに、打ち倒されに、朽ち果たされるために。
それが全て。全てだ。
闘争の契約だ。
闘争に赴くものは、自らのカードに自らの全てをかけなくてはならない。
自らのカードが『弱い』かろうと全てをかけなくてならない。
それを違えることはできない。
唯一の理である故に。
誰にも出来ない。
神にも、悪魔にも。
全てをかけるとはどういうことだ?
己がすべてをかけることだ。
己が持つことのできる、力、知恵、武器、全てを用いて闘う事だ。
敵と己の能力を見極め、最善の手、最善の場、最善の機を模索することだ。
敵よりも強い武器を求める事だ。
敵に対し卑劣な姦計を巡らす事だ。
敵を姑息にも背後の闇の中から撃つ事だ。
敵が強いとみれば、穴倉に引きこもって震えながらやりすごすことだ。
敵に敵わぬとみれば糞尿を撒き散らしてみっともなく逃げてみせることだ。
アーカードの口が弧を描き、耳元まで吊り上った。
楽しい、こんなにも楽しくなりそうなのは久しぶりだ。
まるで人で在った頃に戻ったかのようだ。
さあ、人間共、まだ戦いは始まったばかりだ。
全身全霊を以って、殺したり殺されたりしよう。
闘争はこれからだ。
遊びの時間はこれからだ。
「お楽しみは、これからだ!!」
狂気と愉悦を口元に浮かべながら、アーカードは寄せ集めることができた体を引きずりながら
武器と弾丸の調達を行うべくホテルの瓦礫を漁り始める。
見苦しく。浅ましく。
瓦礫を掻き分け、埃に塗れて地に這いずりながら。
その姿はまさに――
【D-5/ホテル正面玄関付近/1日目/夜(真夜中近く)】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:手足はくっついたが重症(回復途上)
[装備]:鳳凰寺風の剣@魔法騎士レイアース、鎖鎌(ある程度、強化済み)、
対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾:0/0発)
[道具]:無し
[思考]
1: ジャッカルの弾丸を探す。
2:武器をできるだけ調達する。
3:カズマ、劉鳳、クーガーと再戦したい
店内に潜むグリフィスは逃げ際に回収したキャスカのディパックの中身を拝見し終え、やがて踏み込むであろうガッツを待ち構えるべく行動する。
ガッツがすぐに追いかけてこようとはしなかった。そうなるようにわざとアプローチを取り、警戒心を煽った。
あのまま路地裏の地形を活かして戦い続けることも出来たが、それではガッツに地力に押し切られ敵わないと踏んだ。
故に自らを真の袋小路に追い詰め、激動の中で勝機を探ることとした。
グリフィスが持つ手札は、キャスカのディパックによって倍増していた。
暴風のごとき戦いを見せながらも、冷静な剣裁きでグリフィスを殺さんと追い詰めるガッツ。
一年前とはすっかり変わり果てた外見だった。
火傷に爛れ表情が半ば失われていようと、グリフィスは一目見てすぐにガッツだと分かった。
グリフィスを一目見たガッツも同じようだったが、ガッツは憎悪を込めて彼に襲い掛かった。
それは二人の始めての出会いのようであった。敵意を剥ぎだしにし、口より先に剣を振って進むガッツ。
この殺し合いの場でガッツにどれだけの変化があったかは推測することも困難であった。
しかしガッツは再び、あの雪の日のようにグリフィスと敵対することを望んだ。
――――トクン
グリフィスへの明確な殺意を向け、突き進むガッツは彼の心を乱し続けていた。
路地裏の戦いでは決定打となるべき手札が存在せず、奇襲を持って切り抜けることしか出来なかった。
キャスカから回収したディパックにはより強力な決定打、ハルコンネンが存在していた。
ガッツの持つ大剣にも負けず劣らず規格外のそれを両手で持ち上げ重量を確認し、用法を推測する。
グリフィスはハルコンネンがミットランドの大砲を、携帯するというには余りに馬鹿げたサイズで実現させたものであることを理解する。
反動を軽減するべく思案し、行動する。ディパックからターザンロープを取り出し、適当なサイズに切断する。
ハルコンネンをターザンロープを括り付け、それを空中固定砲台とする。
大砲と現代の化物兵器の相違に少々苦しんだとはいえ、グリフィスはハルコンネンに爆裂鉄鋼焼夷弾を装填することに成功する。
ハルコンネンの重量に相当する力をターザンロープに分担させ、グリフィスはガッツが侵入してくるであろう店の入り口に標準を合わせる。
ガッツを迎え撃つグリフィス。彼の心中にあるのはガッツ、彼の夢を惑わせる唯一の存在。
彼の手から零れ落ち、あの雪の日に失った惑乱を呼ぶ麻薬。
あれだけ壊そうと考えていたそれは、いっそうギラギラとした輝きを見せてグリフィスを誘う。
ギラギラとした輝きがグリフィスを壊さんと襲い掛かってくるとしても、それでも壊すことへの躊躇いが募る。
――それでも、オレは逃げるわけにはいかない。絶対に逃げることは許されない。
一度は壊れてしまった夢を叶えるチャンスを、何の因果かやり直す権利を授かっている。
…今、今ここでオレのエゴを叶えようとすれば、もう次は二度とない……。
騎士になろうとして、ついになることは適わなかったあの少年。鷹の旗印の下に、殉職を遂げてきた仲間達。
今オレがこうして夢へ向かって進むのは、血塗られた夢の道程となり犠牲になった命を無駄にしないため。
だから、壊さなければいけない。この血塗られた舞台においても、全ての犠牲の上でオレの夢がある。
夢を忘れるだけの価値を持つかけがえの無い存在。オレはこの心の動揺を沈めなければいけない。
彼の前に立ちはだかるガッツは敵でありながら、彼の意味するところの友であった。
グリフィスは入り口と店内を結ぶ軌道上でガッツを待ち構えるが、ガッツは一向に侵入してこようとはしなかった。
(何か別の思案があるのか……? )
グリフィスは空中固定砲台の標準を合わせつつ、ガッツの思惑を再度考え直す。
その疑問は、ガッツの行動はその直後に訪れた破壊活動によって示される。
突如ガツーン、ガツーンと何かを打ち付ける音が響く。その行動によりガッツの真意を理解する。
(柱かッ……!)
ガッツが打ち砕いたのは、建造物をたたえる殿、柱。
コンクリートに覆われた柱でさえも、ガッツとその剣なら打ち砕くことさえたやすいだろう。
そうして柱が砕かれれば、バランスを失った建造物はあのホテルと同じようにたやすく倒壊するだろう。
この建物が倒壊するならば建物の地の利を活かす活かさないといった話では無くなり、生き埋めになって死ぬ。
柱を打ち砕く音が途切れ、倒壊する前に決着をつける。
グリフィスはターザンロープを揺すり、空中固定されていたハルコンネンを回収する。
破壊活動が完全終了する前に、こちらから迎え撃つべくハルコンネンの射界をガッツの切り倒す柱の方へと移動する。
グリフィスが再度ハルコンネンの射撃準備を終えた段階で、既に柱は壊れかかっていた。
グリフィスは空中固定したハルコンネンを柱目掛けて放つ。
空中固定されたハルコンネンが反作用力でターザンロープを大きく揺らす。
彼はハルコンネンの反動を軽減することをせずその手から放棄し、地面に伏せる。
抗力を失ったハルコンネンの反動は軽く天井を打ち抜き壊し、破片が床へと散る。
天井を打ち抜いてなお、その反動力は止まらずにゆらゆらと壁にぶつかりながら力を消散し続ける。
グリフィスは空中固定した砲台を放棄し、まもなく崩壊するであろうスーパーマーケットからの脱出を試みる。
進む歩みはいつものように、ゆっくりでありながら速く速く。
その手に軽機関銃を構え、こちらに向かって切り込んでくるか、あるいは入り口で待ち構えるだろうガッツを警戒する。
ガッツはグリフィスを必ず仕留めに来る。そう判断した故にうかつに動かず、再びグリフィスへと戻った攻撃の機会を利用する。
待ち伏せは効果的であるがゆえに受動的、ゆえにその罠へと誘い込まれないよう選択の機会を最大限活かす。
グリフィスはガッツの潜むであろう位置を判断し、状況を切り抜ける対策を考え続けていた。
グリフィスが一歩一歩出口へと進む中、店内を灯す蛍光灯が、点滅を経てふっと消える。
店内は先ほどとは打って変わって暗闇に包まれる。
(しまった、……ガッツの狙いはそちらか)
ガッツにとって柱は攻撃手段ではなく、副次的なものであった。
ガッツの真の狙いはグリフィスの目を奪うこと。
奇襲に備え、グリフィスは全集中力をガッツの迎撃へと削ぐ。
この暗視の中では飛び道具は意味を成さない、故に短機関銃をディパックにしまい、エクスカリバーをその手に構える。
電灯が消えてすぐ、破壊音とともにガッツが進入してきたのを察知する。
戦い慣れぬ暗闇の中であっても、グリフィスは冷静にガッツの位置を確認する。
左手から聞こえた破壊音より、ガッツが壁を叩き壊して侵入してきたことを判断。
一度位置関係が分かってしまえば奇襲は意味を成さない。伏兵はどこに潜むか分からないからこそ伏兵なのである。
ガッツは己の選択権を放棄し、戦いのカードは再びグリフィスの手に委ねられる
はずだった。
轟音が店内に整然と並べられた常温棚を吹き飛ばし、それはまるでドミノ倒しのようにグリフィスの元へと迫ってゆく。
狭く沢山の常温棚が密集するスーパーでは、その密集具合ゆえに攻撃も、回避行動もまた困難となる。
火線を限定し、大剣の動きを封じるべき障害さえもガッツの剣は打ち砕いてしまった。
グリフィスは自分へと迫る常温棚の圧力から逃れるべく、回避運動を取り常温棚の圧力から逃れる。
彼が逃げのびた通路の後ろ、倒れた常温棚にはガッツが立っていた。
ガッツは今まさにグリフィスを一刀両断しようと、大剣を振りかぶっていた。
回避する間合いは無しと判断し、逆にガッツの元へと接近する。
ガッツの獲物を両の手のエクスカリバーでしっかりと受け止め、その剛力を受け流そうとする。
グリフィスは、ガッツの胴断ちを零距離で受けることに成功する。しかし剛力は打ち合わす剣ごと、人間をまるでボロ雑巾のように吹き飛ばす。
グリフィスは受身を取ることすらかなわず、圧倒的な力によって店外目掛けてゴロゴロと転がっていった。
辛うじてエクスカリバーでガッツの太刀を受けきったものの、その一撃は痺れによってグリフィスの握力を完全に失わせた。
ディパックから新たな武器を取り出すだけの握力はなく、封じられた握力では剣を振り回すことも敵わない。
体制を立て直そうと上半身を持ち上げたグリフィスの目の前には、ガッツが居た。
「お前の勝ちだ、負けたよガッツ……」
二度目の敗北を気に止むこととせず、ガッツに向かってグリフィスは微笑みかけた。
それは今グリフィスを打ち砕こうとした刃の動きを止める。
「グ…リ……フィス…………? 」
俺は、俺は今何をしているッ……!!
俺がグリフィスを大剣で吹き飛ばし、止めを刺さんとしたグリフィスの笑い。
月明かりに照らされたそれはまるであの時のままで、今までずっと相手にしていたのに忘れていた懐かしい顔。
その顔を見た俺の心にポッカリと穴が開く。
憎悪と怨恨、殺意が充満する心は、あいつの笑顔を見たときにフッと消え去ってしまった。
これを振り落とせば全てが終わる、終わるはずなのに終わらない。
剣を支える手が動かない。ピクリとも動かない。
それだけじゃない、何もかもがおかしい。
ずっとずっと望み続けたきた瞬間が訪れたにも関わらず、その先へと進めない。
プライドの塊のようだった、負けず嫌いのグリフィスが、今こうして負けを認めている……?
目の前で固まってしまったガッツ、子供のように笑うグリフィス。
両者の沈黙は永遠のように長く長く夜の中に留まる。
夕闇の中を風が通り抜け、崩壊するものだけが時を刻む。
永遠のような二人の会合は終わりを告げ、先に動いたのはグリフィス。
大剣を頭上に振り上げたきり固まるガッツを突き飛ばし、同時に振り落とされるそれを最小限の動きで回避する。
間合いを開いたグリフィスは瞬時にディパックから散弾銃を取り出し放つ。
その一撃を回避することかなわず、ガッツの体に至近距離から散弾銃の玉がめり込み、黒き鎧を打ち壊す。
終わりを告げるはずだった戦いは、まだまだ続く……。
ガッツの甲冑はによって吹き飛ばされ、果たすべき防御はもはや期待できない程となっていた。
襲い掛かる数々の致命傷を防ぎ続けたその鎧は、名工ゴドーによって鍛えられた業物であった。
使途の攻撃を防ぎ、銃火器さえも防ぐその黒き甲冑も度重なる戦いの中で破壊を重ね、ついには崩壊した。
ガッツの黒き鎧は両手両足のわずかな具足を残して崩れ落ち、残った具足さえも今なお崩れ落ちんとしている。
放心状態だったガッツは壊れた鎧、傷ついた肉体を気にかけることさえ適わず、先ほどの出来事を反芻していた。
許せなかった。自分が許せなかった。
俺はあいつの、……グリフィスのあの顔を見て、まるでおとぎ話の登場人物だった頃のあいつの微笑を見て。
化物で無くなったような、ありえないようなその顔を見て
――殺意を忘れてしまった。
自分自身を許すことが出来なかった。あの時剣を振り下ろしていれば、復讐の旅は終わりを告げたはずだった。
俺の居場所を奪い、仲間を奪い、キャスカを奪った、全ての張本人であるグリフィスへ剣を振り下ろせなかった。
鷹の団のみんなを殺して裏切ったあいつを、殺せなかった。
どれだけあいつがおかしな言動をしていても、グリフィスはいつものように不思議な言動を見せたつもりなだけで、それは復讐には何の関係も無かった。
あげく反撃を食らってこのザマか。救えねえ……
俺の目線の先のあいつはさっき俺目掛けて放った火砲を両手に持ったまま佇み、その標準の先に位置するのは俺。
だがあいつは俺目掛けて火砲を打ち込むでもなく、俺と目を合わせる。
あの目は、鷹の団で語っていた夢だけを見つめるその瞳。
かつて魅力的に写ったその瞳は、今は憎むべき象徴。
仲間を踏みにじり、地獄の生贄に捧げたために成り立つ命。
「ガッツ、お前は短い間にずいぶんと変わったな」
煩い、そんなことはどうでもいい。今間合いを詰めて殺してやるよ。
俺は剣を振り上げ、べらべらとおしゃべりをしたそうなあいつ目掛けて突撃する。
あいつ目掛けて放ったその一撃はあっさりと回避される。
それぐらいは俺の範疇の中、回避不能の二の太刀で二度と口を聞けなくしてやるよ。
俺は地面へ叩き付けられるはずの剣の軌道を変え、跳躍するグリフィスの元へと転換させる。
回避不能の間合いで放たれた二の太刀は、命中することなくグリフィスの甲冑をほんの僅か掠めるだけに留まった。
糞……、さっきの一撃が今更効いて来たのかよ……
身を翻したあいつは、おしゃべりを続ける。
「この殺し合いの場で何があったかは知らない。お前が何故俺をそこまで憎むのかは分からない」
「うるせえ、憎まれて当然のことをお前はやったくせに何を言いやがる! 」
あいつのおしゃべりを俺の言葉でかき消す。あいつは俯くでも黙るでもなく、さらにしゃべりを続ける。
もう一度切りかかろうかと思ったが、グリフィスは火砲を構えてこちらを牽制する。
おしゃべりを邪魔するなって訳か、糞ったれ……。
「オレはみんなの期待を裏切ってしまった。それは分かっている」
俺はいつでも踏み込める位置をキープしながら、あいつの言葉に耳を傾ける。
「だけど、オレが夢を諦めるわけにはいかない。こうして手に入れた夢へのチャンスを捨てるわけにはいかない」
「その夢を叶えるために、どれだけ俺たちが、キャスカが頑張っていたと思っているんだ! 」
「ガッツ、オレが夢を諦めてしまえば血塗られた夢の礎となった皆が浮ばれない。だからこそオレは今度こそ夢を掴み取る」
「話にならねえな」
グリフィスとの話が通じて無いように感じられたが、そんなことはどうでもいい。
今こうしてべらべらとおしゃべりを続けるうち、どうしても確かめたいことが湧き上がったからな。
「夢のために……、仲間を地獄の魔物どもにの生贄にして裏切り、惨殺しやがったくせに何を言いやがるんだ!
あいつらには夢があった、お前に寄りかかって存在していたちっぽけな夢だけど、みんな夢を追い求めていた! 」
「ガッツ、お前は一体何を……」
「それをグリフィス! お前が全部ブチ壊しやがったんだよ…
お前を信じて付いてきた鷹の団のみんなの夢を地獄に捧げ、キャスカを傷つけやがったお前をぶっ殺して…………」
「…あいつらに謝らせるんだよォォォ! 」
動揺するグリフィスが手に持つ火砲目掛けて剣を打ち落ろす。
一撃を受けきれないと判断したグリフィスは斬撃命中前に武器を捨て、回避運動に全てを費やす。
防弾繊維が編みこまれた傘は並の刃物でさえ切断することが困難であったのにも拘らず、一撃で中心の散弾銃ごと真っ二つにされていた。
「死んでみんなに謝れよグリフィス、ゴットハンドの一人闇の翼フェムトさんよぉ……」
グリフィスの動揺は止まらない、そしてガッツもまた動揺していた。
"刻印が反応しない"
闇の眷属の接近を知らせる首筋の烙印が反応しない。
ホテルの外で喚いてた使徒もどきの野郎のときもそうだったが、今回は正真正銘の闇の眷属であるグリフィス。
それも最上級の存在であるゴットハンド。
にもかかわらず烙印は反応すら見せない。何故だ?
ガッツは考える、と同時にグリフィスの様子を見る。互いに思うところがあるらしく、緊張状態を解かないままの硬直に入る。
この不可思議な状態を説明する仮説は一つ思い当たる。あの変態仮面野郎の力だ。
なにせ神の如き力を振るうゴットハンドでさえこの血塗られたパーティー会場に招待する力を持つ。
この烙印の反応を利用してすぐにでも再会し、魔の者を即殺なんてつまらない。とでも考えてるのか。
趣味の悪い変態仮面野郎のことだ。これまで聞いてきた色々な話から何か細工をしていてもおかしくは無い。
ただ、ガッツの心をよぎるもう一つの可能性。今すぐに切り殺したい敵への殺意を躊躇させる愚鈍な考察。
『今目の前に居るグリフィスは俺たちの知っていたグリフィスなんじゃないか……』
思えばキャスカとの再会から既におかしかった。キャスカとの話が噛み合わない。
記憶喪失なんじゃないかと思った。ゴドーの所にいたキャスカの奴は心がボロボロに壊れてたし、拒絶されていた。
だが、あの時再会したキャスカもまるであの時のように、あの時のようにグリフィスの奴の元へと舞い戻った。
ホテルの中でずっと考えていたキャスカの違和感。そして話の噛み合わないキャスカとグリフィス。
あの時のままで居る二人。
魔女の奇術でさえ存在が疑わしくて、それでいて誰もが一度は夢想したそれ。
未来と、過去。それはifの世界。
"今目の前に居るあの時のままのグリフィスは、鷹の団でよろしくやっていた頃の過去から来たんじゃないか……"
俺の体を止める二つの力、一つは右目に焼きついたあの忘れもしない蝕。
あの時のままのあいつ、ずっとずっと振り向かせたかった。対等な存在になりたかった。
友でありたいと固く願った、あのグリフィスの笑いがもう一つの力になっていた。
二つの相反する感情が俺の天秤を平行にさせ、どちらかの方向へ倒れることを肯としない。
グリフィスもまた、ガッツとの会話が噛み合わないことに気が付く。
彼もまた目の前に対峙するガッツと同様の結論に行き着いてきた。
彼の知るガッツとの明白な違い、隻腕隻眼。
最初はこの殺し合いの中で刻まれた傷だと思っていた。しかしそれでは説明が付かないものが生まれる。
ガッツの剣技は、ほんの一日かそれぐらいで彼の知るガッツを数段は軽く上回る剣技の冴えを見せていた。
それはまるで、ガッツとグリフィスを苦しめたあの"不死者(ノスフェラトゥ)ゾッド"を討ち取れるぐらいに。
今のガッツとグリフィスの間には、あの惨めな敗北に打ちひしがれた雪の日とはもはや比較にならないだけの技量差が生まれている。
それを彼の巧みな戦術でカバーしているだけであって、ただの決闘ならば一合剣を交わすことなく死んでいただろう。
最初の一撃でそれを判断した故に剣を使わず、飛び道具を用いてガッツの隙を狙い逆転の芽を待っていた。
結果は、敗北。
張り巡らせた策はガッツの剛力の前にねじ伏せられ、全ての反撃を封じられた。
二度目の敗北はとてもあっさりしたものだった。
あの時のグリフィスを支配していた憤怒、悲哀、憎悪、絶望といった感情は無く、ただひたすらに
――心を揺さぶられていた。再び夢を忘れるほどに……
人間グリフィスの前に対峙し、がむしゃらに輝くガッツは彼の手を零れ落ちていったあの日よりも更に激しく彼を誘惑する。
それがただひたすらに憎かった。夢を忘れるほどの輝きを持つガッツが憎かった。
自由に空を飛翔する鷹を地上に止めることを欲する黒い狂戦士。
鳥にとっての命題である飛翔そのものを奪おうとするその魅力の前に、鷹は再び屈した。
屈してしまった彼は笑いを投げかけた。本当に全てを諦めて。
奇妙な因果か、…それともガッツに思うところがあるのか、グリフィスはまだ戦いの舞台の上に立ち続けていた。
それはきっと両方であると予想する。
グリフィスが探し求めこの世の因果の頂点に立つ存在、神。
神がグリフィスに救済を施し続けるのならば、それは神の意思が彼に何かを成さんとさせているのだろう。
憎くも美しいその敵を仕留めるべく、グリフィスは再びディパックから短機関銃を取り出す。
硬直していた二人の時間を、ホテルの一段と大きな崩壊音が動かす。
それに同調するかのように、死闘の舞台であったスーパーマーケットも崩壊した。
ガッツの斬激はこれまでのダメージの蓄積か、彼の心に燻る迷いのせいかわずかに鈍っていた。
間合いを保つことすら許されないその剣技は、変わってしまった均衡により狭まることは無くなった。
ガッツが街の街灯や電柱もろともグリフィスと吹き飛ばさんと剛風を奏で、剛風の暴力を止めるべく弾丸の発射音が放たれる。
鎧による防御が期待できなくなったガッツは、即死を防ぐべく最低限の急所を守らざるを得なくなる。
本来並どころか業物の鎧さえ打ち砕く弾丸の殺傷能力は、人間離れした身体能力を持つガッツでさえ脅威となる。
ゆえに先ほどまでの防御を捨てた捨て身の一撃といったものは期待できず、戦闘は動的な硬直へと突入した。
ホテルの破壊音から始まったその戦いは、道路の傍らにある電柱を、道路を、人の住む町を壊しながら進んでいく。
「グリフィス! 」
必殺を狙う両者の戦いを、声が止める。
地を切り刻んだその剣が地面から引き抜かれ、両者の間合いに一人の乱入者が出現する。
鷹にとっての剣、復讐の狂戦士にとっては最後の旗印だったもの。
丸腰で左足を引きずりながら、両者の戦いを静止せんと割り込む。
「ガッツ、貴様グリフィスをッ……! 」
「ああ、殺す。それだけの理由がある」
「ふざけるな! 」
「はぁ? 何いってやがるんだよお前」
ガッツは哀れみのような馬鹿にした声で、キャスカの罵倒に答える。
「お前はやっぱり忘れちまったのか? それとも知らないのか? 」
「ガッツ、お前は一体何が言いたいんだ! 」
ガッツとキャスカの目が合う。どちらも目をそらそうとしない。
「ガッツ……、お前だけは全てを知っているんだろう? 話してくれよ」
「グリフィス、お前に話す必要はねえ。今ここに居るお前がなんだろうと、俺が今ここに居るお前を殺すことには何の変わりもねえ」
「教えてくれガッツ、あの雪の日の戦いから一年間何があったんだ! 誰にもぶら下がらないお前の戦いに、グリフィスは関係ないだろ! 」
「話さねえよ、お前が知る必要は無いんだ」
「話せガッツ、私は真実を知りたい。それがどんなに辛く重いものだとしても知りたい」
三者三様の反応を見せ、最初に口を開くのはガッツ。
「いいぜ、話してやるよ。…ここに居る大悪党が犯しやがった裏切りをよッ……! 」
張り詰めた緊張はそのままに、ガッツはグリフィスを、キャスカを見据えながら全てを話す。
雪の日の決闘から始まり、一年後に再会するガッツとキャスカ。
キャスカはそのことについて口を挟むが、ガッツは黙って聞けと一瞥して話を続ける。
ミットランドでのグリフィス救出作戦。
そこまで話した時点でキャスカの表情は早くも変わる。
どうしてお前がそんなことを知ってるんだ…? とでも言いたげに
キャスカは口を挟まず、グリフィスもまたガッツの話を黙って聞いていた。
そして起こる逃亡生活の末訪れた蝕、開かれたのは地獄の門。
絶望の中に飲み込まれた鷹の団を襲う化物たち。
そしてグリフィスは、……彼を慕う鷹の団の仲間全てを化物に捧げた。
訪れたのは地獄。ジュドーも、コルカスも、ピピンも、切り込み隊のガストンも化物に飲み込まれて死んでいった。
最後まで残った仲間達は残さず絶望の中で食らい尽くされていった。
そして生まれたのは人間を止め、闇の眷属の一員へと堕ちたグリフィス。闇の翼フェムト。
闇より生まれたるグリフィスはガッツの目の前でキャスカを陵辱し、子供に魔を孕ませた。
そしてガッツとキャスカだけが蝕を生き残り、ゴドーという男が住む妖精の坑道へと移動したこと。
全てを奪ったグリフィスの復讐をするために旅を続けてきたのが、今目の前に居るガッツであることを。
全てを話し終えた後に残る三者。呆然とするキャスカ、思うところがあるらしいグリフィス、そして復讐心を滾らせるガッツ。
エクスカリバーを打ち落とした左腕、そして右腕は顔面へと迫るグリフィスを殴りつけ、吹き飛ばす。
一の太刀が回避されてなおグリフィスは冷静に、ガッツとの距離を取りつつディパックから散弾銃、ロベルタの傘を取り出す。
ガッツもまた地面に落ちて跳ね飛ぶ剣の柄を握りなおし、再度の一撃を溜める。
グリフィスが散弾銃の引き金に指をかけたその時、グリフィスの元に嵐の散弾が迫る。
ガッツは全力を込めて大剣で地面を抉り取り、地面を覆うコンクリートを散弾のようにグリフィス目掛けて放った。
黒い甲冑、義手に込められた装備を奪われ飛び道具を何ら持たなかったガッツの一撃は、剣激が決して届かぬ間合いへと跳躍したグリフィスをも巻き込んだ。
グリフィスはコンクリートの散弾と同時、飛散する土石流に押し流されて吹き飛ばされる。
そして狂戦士は地を堕ちた鷹目掛けて、最後の一撃を叩き込む。
「やめろおおおおおお! 」
白き鷹を両断するはずの一撃は、そこに割って入ったキャスカを二つに分解した。
「キャス…カ……」
「グリ…フィス……よか…った…………」
私の肩に手をかけて微笑みを投げかけるグリフィス。それだけで私を襲う死の恐怖はすっと消えていく。
ガッツの話が嘘とは思えなかった。ガッツがグリフィス救出作戦のことを知っているはずが無いから
グリフィスが皆を裏切ろうとも、鷹の団はグリフィスのためにあるから……
私の不器用な恋が悲惨な終わりを告げるとしても、それでもグリフィスの剣でありたかった。
ずっと絶望に打ちひしがれた日々から私を救い上げたのは、おとぎ話から出てきた乱世の英雄。
その日からずっとグリフィスの隣に居たいと願って、それも適わなくて剣になろうと誓った日があって
鷹の団にふっと現れ、グリフィスの寵愛を受けて止まないガッツが現れて嫉妬した日もあった。
グリフィスの剣でありたいと願い、千人長として戦場を仲間と一緒に駆け抜けた日々があった。
私がミットランドで騎士爵を授かって貴族まで上り詰めるはずだった栄光の日々が一転し、そして訪れた転落の日々。
それでもグリフィスがいるから、逆賊の汚名を被って続けた長い長い逃亡生活も平気だった。
グリフィスが鷹の団に、あるべき場所に帰ってくればそれだけで全てがまた元通りになると知っているから
……結局私はグリフィスの盾となって死んでしまうけれど、訪れる死は全く怖くなかった。
私の隣にグリフィスがいて、私の肩を撫でてくれている。だから全然怖くない。
ここで私は脱落してしまったけど、きっとあの世でグリフィスの成す夢を眺めてゆっくりと暮らすだろう。
ガッツの話が本当ならみんな死んでしまったけれど、私もみんなの所へ逝けるんだろうか。
心残りはガッツのことだけど、グリフィスは私に任せろと言ってくれた。だからグリフィスに全て任せよう。
グリフィスは私の期待を決して裏切らない。だからきっと大丈夫。
ガッツが私達を酷く裏切ったとしても、私とガッツの心を陵辱しつくしたとしても、私はグリフィスのことを憎まない。鷹の団のみんなもそうだろう。
だからグリフィス、夢を叶えて…………
さようならガッツ。もしあの世で会えたなら、そのときは普通に恋をしよう。
千人長を務めた女戦士は彼女が信望して止まない鷹の手の中で、安らかに逝っていった。
傍らには歪んだ恋路の果てに恋人を、あるいは彼にとっての鷹の団長であった女を手にかけた彼女の思い人が泣いていた。
俺は…、俺は何をした。
キャスカを切り殺した。
そして全てを失った。
俺が守ろうとしていたかけがえの無いものは、全て無くなった。
自分からかなぐり捨てた居場所であった鷹の団を、切り込み隊を守り続けてきたガストンや仲間達。
俺が全てを捨ててしまったから、壊れてしまった。最後に残ったキャスカも……失った。
俺の居場所は、これで全部無くなった。今俺はどこにも居ない……。
キャスカ……、俺はどうしてキャスカを守ろうとしなかったんだろう。
キャスカと向き合うことから逃げていたんだろう。
どれだけキャスカに裏切られたとしても、それは元通りにすることも出来た関係だったのに……
キャスカは死んで、残ったのは虚しい復讐心だけだった。
ガッツの放心によって生まれた隙を目ざとく見逃さず、グリフィスは手元を離れた武器を取るべく進む。
運命に守られ続け、そして今キャスカが守ってくれた命、オレは絶対に無駄にするわけにはいかない。
オレは鷹の団の要、キャスカをもまた血塗られた夢の犠牲者とした。
彼女が、仲間達が残してくれた意思を決して無駄にはしない。死者に詫びもしない。悔やみもしない。
だから目の前にいる生涯で最大の敵を、叩き潰す。
グリフィスの周りに転がる二つの選択。マイクロUZI、エクスカリバー。
手に取るのはキャスカが残してくれた、オレが信頼した剣。
グリフィスが動いてから十数秒後、ガッツもまた動く。
ガッツは全てを終わらせるため、グリフィスは夢の続きへと進むため。
グリフィスが手に取った騎士剣から、真の名前が脳内に直接伝えられる。
それがグリフィスには、キャスカからの遺言のように感じられた。
――真名は開放された。
エクスカリバー
「――――約束された勝利の剣――――!!! 」
グリフィスによって開放された聖剣の光が街を、黒の狂戦士を飲み込んで純白に染まってゆく――――
光線が途絶えるのと同時、グリフィスは力を使い果たしてその場に膝をつく。
それからすぐ、グリフィスは残った力を振り絞って再び立ち上がる。
――――最強の聖剣の力を受けた男は倒れることなく、消え去ることなくその場に立っていたから
それがたとえ本来の力を発揮していなかったとしても、狂戦士は地に膝を突くことなく、立ち尽くしていた。
始まりの場所であったホテルが崩れ落ち、最後に立っていたのは白き鷹。
そこにあったのは二つに割られた女の死体と、額を割られた男の死体だけだった。
「さようならキャスカ、ガッツ…」
「……オレの生涯で最大の――――」
グリフィスは二つの死体に一瞥をすると、その場を立ち去った。
死体の傍らには、彼らの墓標である折れた大剣だけが残されていた。
彼の思考にあるのはホテルの破壊を命じた彼の従僕、魔女ルイズ。
魔女達の宴が終了し、狂気に堕ちた彼の元へ舞い戻る。ということもあるからだ。
彼女が彼の元へ戻ってくれば処分すると決めたものの、聖剣の力を開放したグリフィスの体力は殆ど失われていた。
彼女の暴走で抹殺されることだけは避けなければいけない。それだけでなく、ホテルの生き残りもまたグリフィスに襲い掛かってくるか。
破壊の中心から少し離れながらも、ホテル周辺に集合する人間を監視するにはうってつけの民家でグリフィスは休憩を取る。
「オレはオレの国を手に入れる、必ず……」
「…ここが何時何処であろうとも、何も変わりはしない」
それきり彼の心を揺らす戦いの波紋は消失し、二度と揺さぶられることは無いだろう。
白き鷹は、そう確信していた。
【D-5ホテル周辺の民家 1日目/夜中】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:魔力(=体力?)消費大 、全身に軽い火傷、打撲
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、耐刃防護服
[道具]:マイクロUZI(残弾数7/50)、やや短くなれたターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×7(食料のみ三つ分)
オレンジジュース二缶、破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に
ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ、ハルコンネンの弾(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾4発 劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING
[思考・状況]
1:放送まで休憩する。
2:放送でルイズの生死を確認し、生き残っているならば処分する。
3:ゲームに優勝し、願いを叶える。
※壊れたロベルタの傘、折れたカルラの剣はD-5ホテル周辺に放置されています。
※ハルコンネンとターザンロープの一部はホテル周辺で倒壊したスーパーマーケットに埋もれました。
※ホテルが完全に倒壊しました。
※エクスカリバーの光線はホテル周辺の人間が目撃している可能性があります。
【ガッツ@ベルセルク 死亡】
【キャスカ@ベルセルク 死亡】
[残り36人]
【D-5/ホテル正面玄関付近/1日目/夜中)】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:手足はくっついたが重症(回復途上)
[装備]:鳳凰寺風の剣@魔法騎士レイアース、鎖鎌(ある程度、強化済み)、
対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾:0/0発)
[道具]:無し
[思考]
1:武器をできる限り調達する。
2:全身全霊で人間と戦う。
ホテル正面玄関からやや離れた場所。
魅音とクーガーは瓦礫に混じっていた廃材等を使って土が柔らかいそこに穴を掘り、そこに光の遺体を埋めていた。
「光……ごめんね。私なんかを守ろうとしたせいで…………」
魅音は涙交じりの声を出しながらひたすら穴を掘る。
――助けられなかった。
ただただ、あの大男が怖くて身動きが取れなくて。
クーガーは、恐怖と戦っていた自分の事を強いというが、それでも光を助けられなかったことには変わりない。
だから魅音は、せめて光の魂を安らかに眠らせてあげるためにと、クーガーに彼女の埋葬を先にするように頼んだ。
クーガーはそれを聞いて、黙って頷いた。
そして、今も尚、魅音の声を横で聞きながら、黙々と穴を埋め戻す。
「ひばる――いや、光さん。またお会いして、今度こそ決着を付けたかったのですが……残念です。
死後の世界では時間は悠久に流れていると聞きます。限られた時間を有効に使う為に最速を目指す必要もありませんね。
ですから、向こうでは是非ゆったりと過ごしていてください。
……あ、でも俺が向こうに行ったら、一度でいいので最速勝負を――いや、この話はまた後ほど」
相変わらず、彼は一息に多くを喋っていた。
だが、その声のトーンはいつものように高くはなく、低い調子のままである。
そして、それから少しして、光の体は完全に土の中に眠った。
魅音は、その盛られた土の上に光の付けていた篭手を置き、デイパック越しに持った剣を刺す。
ここに彼女が眠っているという墓標代わりのつもりだ。
「……ありがとう、クーガー。手伝ってくれて」
「いやいや、俺だって光さんとは少なからず縁がありましたからね。黙って見過ごせるほど落ちぶれちゃいないですって」
クーガーの口調は、既にいつも通りになっていた。
「それで、今後の事なんですがね――」
クーガーは、そう言いながら後ろを振り返る。
彼が振り返った先、闇夜の向こうで繰り広げられていたのは、空を飛ぶ少女達による空中戦。
魅音は知っていた。
その一方がホテルを破壊した張本人であり、もう一方はついさっきまで一緒だったなのはという少女。
――のはずだったのだが。
「あれ? あの光の色って…………確かなのはは…………」
自分たちから随分と遠ざかってしまって、少女達の姿をはっきりと捉えることはできないが、その少女たちが発する光の色に彼女は違和感を感じていた。
確か、なのはは自分と光の元を離れてゆく際に、桜色の軌道を描きながら飛行していったはずだ。
それなのに、今空中戦を振り広げているのは真紅の光と金色の光。
……桜色の光はどこにもなかった。
だが、クーガーがそのような違いに気付くはずもなく。
「先程、イオンさんから聞いた話では、なのかちゃんはホテルを破壊しようとしていた少女と戦っているといましたね。
そしてその戦いは今でも続いているようです。現在、その戦闘はここから大分離れた場所で繰り広げられています。
これが何を意味するか分かりますか? そうです、なのかちゃんはホテルから破壊者を遠ざけて戦っているのです。
すなわち、今ホテルは破壊者の魔の手から遠ざかっている状態。これはいわゆる好機なんですよ!」
「だからイオンだっつーの! ……でさ、要するに何が言いたいわけ? 何が好機なわけ?」
相も変わらずのマシンガントークに魅音は呆れつつも、彼に問い質す。
すると、彼は再び真剣な眼差しになって答えた。
「…………あの破壊者がホテルから遠ざかっている間……ホテルが完全に破壊される前にイオンさん、あなたを安全な場所まで送ります」
「お、送るって……まさかホテルの中にいる光の仲間を見捨てるっての?」
「そんなわけありません。俺はあなたを安全な場所……セナスさんのいるログハウスまで届け次第、速攻最速でセナスさんと共にこちらに戻り、
みなえさん達の捜索をします。何、この俺の脚をすればそのようなことイージー、イージアー、イージスト!!!」
「そ、それなら私も手伝うよ! 私だけ一人逃げ隠れるなんて……光にも申し訳ないし!」
「ダメです」
魅音の懇願をクーガーは一蹴する。
すると、魅音は怒気を孕んだ顔で、すぐに反論する。
「な、何でさ!! 何で私が行っちゃダメなのさ!!」
「今、このホテルは破壊者の魔の手から離れています。すぐに崩壊することは免れているでしょう。……ですが、これだけ崩壊が進んでいれば
誰かが何もしなくても、いずれ勝手に完全に倒壊してしまうでしょう。よって、みなえさん達の捜索には何よりも速さが求められます。
……今の貴方に俺くらいスピーディに動けますか? 俺くらいスピーディに物事を考えられますか!?」
「要するに私がいちゃ足手まといだって言うんだね、あんたは……」
魅音は悔しそうに呟く。
……言ってる事は尤もだ。クーガーを恨む気にはなれない。
むしろ恨むべきは、こんな時に何も出来ない自分の無力さで……。
だが、クーガーはそんな魅音を優しく諭す。
「足手まといですって? ……違いますね。そんな言葉で俺はあなたを貶めたくない。これは適材適所という奴です。
速さが求められる場所に最速の俺が行くのは自明の理。……それと同じようにあなたにもどこか別の場所で何かするべきことがあるはずです」
「やるべき……こと?」
「えぇ。人は皆違っているのが当たり前なんです。あなたにも俺には真似できない何かの才能があるはず。
俺は、その才能を生かせる機会が来るまで、あなたを無駄死にさせたくはない」
その早口は相変わらずだが、口調は真剣そのものだ。
魅音は、クーガーの言葉を反芻する。
……確かに自分は、なのはのような魔法みたいな力も、光のような強大な敵に立ち向かう勇気も、クーガーのような足の速さもない。
だが、それでも自分はあの“部活”の部長だ。
部活の長として君臨しているだけも力はあると自負していいと思う。
そして、その力はいつか必ず生かさなくてはならない。
死んでいった梨花、レナ、圭一、光、そして今尚再会できていない部活メンバーの沙都子の為に。
……魅音は決断した。
「……分かったよ。だったら、私はなおさらあんたと一緒に光の仲間たちを助けに行く。やっぱり私はもうどこかに逃げ隠れなんかない」
「……それが例え危険であっても?」
「覚悟の上だよ。それに私だって、ダム闘争に参加したりして、ただ安穏と暮らしてたわけじゃないんだ。荒事には少しくらい慣れてるよ」
「なるほど。……それがあなたの選んだ道ですか。………………流石、俺が惚れただけの事はある」
クーガーが最後にぽつりと呟いた言葉を、魅音が聞き漏らすことはなかった。
「え、あ、あんた何を……」
「では、参りましょうか! セナスさんが待つログハウスへ!! 彼女を迎えに行く為に」
言うな否や、彼は魅音を正面から両腕で抱きかかえる。
……いわゆるお姫様抱っことかいう類のものだ。
「え、あ、ちょっと!! これって……」
「風力・温度・湿度、今回は諸都合により計測省略! それでは出発!!!」
「だからそれは勘べ――うひゃぁぁぁぁ!!!!!」
魅音の言葉を聞く前に、クーガーは地面を大きく蹴り、出発した。
一路、セラスの待機しているログハウスへ。
……だが、この時彼らは知らなかった。
その夜空で空中戦を繰り広げているのが、既になのはでは別の魔法少女であることを。
そしてセラスが既にログハウスを独断で出発していることを。
◆
一方その頃。
夜空の空中戦を駅舎から見ている一人の女がいた。
「あの金色の軌跡…………それに、あの魔法発動時の真紅の光は…………」
双方ともに見たことのある光の色だった。
「テスタロッサにヴィータ……。いや、ヴィータはもういない……。では、あれはグラーフアイゼンか……?」
視界の先で繰り広げられるのは、幾度となく剣を交わしてきたライバルと永きに渡り行動を共にしてきた騎士の武器の衝突。
その光景を見て、シグナムが何も思わないわけがなかった。
「テスタロッサ…………お前はどっちだ? あの外道な主催者に牙を剥くのか? それとも私と同じように外道に堕ちて――――」
そこまで呟き、彼女は小さく笑った。
そのような問い、答えは決まっているはずだ。
彼女は自分と違う。
自分のように目的の為ならば人の命を奪うことすらも厭わないような冷徹な人間ではない。
「ならば、お前も私に立ち向かうのであろうな。……いずれ、その時が来た時は」
シグナムは持っていた剣の柄を強く握る。
「……その時は、あの時のように……いや、それ以上の力を以って斃してみせる。主はやてに誓って」
剣を握ったまま、もう一度外を見やる。
空中戦が繰り広げられている横に見える巨大な廃墟になりつつある楼閣の影。
建物の破壊が行われているという事はそれを行う者、そして巻き込まれる者がいる可能性があるという事。
特に後者は格好の得物だ。
シグナムは、それを見定めると目的地をホテルに決めた。
そして剣をしまうと、彼女は駅舎を出た。
それから、ややあって。
夜道を歩いていた彼女は、急に立ち止まる
「……ん、クラールヴィントが……」
あらかじめ警戒させておいたクラールヴィントの索敵機能が、強い反応を示したのだ。
反応は、駅から北西に位置するホテルとは正反対の南東の方向からする。
人数は二人。
ともに、通常の人間からすると相当速い部類に値するであろう速度でこちらに接近していた。
「この速度……人あらざる者か?」
一人心地に呟くシグナムは、すぐさま近くのビルに入り込み、二階に上るとそこから接近してくる影を確認する。
すると、少しして彼女の目の飛び込んできたのは、一人の金髪の女性の影。
……いや、一人ではない。その女性は緑色の服を着た学生らしき少女を肩に抱えていた。
「人一人を担いだ状態であの速度とは……。……だが」
だが、人を担いで動いている以上、反応速度は鈍くなり、回避運動もとり難くなっている筈。
ならば――とシグナムは、弓を取り出すと矢を弦にあてがい、構えの姿勢を取る。
何を急いでいるのか分かりはしないが、その直線的な動きは矢を放つ者にとっては好都合。
彼女は何のためらいもなく、張り詰めた弦にあてがわれた矢を手から離した。
◆
「では、セラスさんは吸血鬼さんなのですね?」
「んー、まぁ、根っからのって訳じゃないんだけどねぇ。色々と複雑な事情がありまして……」
風を抱えたまま、セラスは夜道をホテルに向け疾走する。
その動きは、華奢な女性の肉体からは想像できないくらい滑らかで全く疲労を感じさせない。
そして今は、そのような人間離れした動きを不思議に思った風による質問タイムが今は繰り広げられている真っ最中であった。
「では、あなたの主食は血だったりするのですか?」
「いや、主食が血って…………。いや、その……そりゃ血を吸ったり舐めたりはしたくなるけど…………」
そんな何気ない質問にセラスは、口ごもる。
吸血鬼――世間では人の生き血を啜ることをこの上ない快楽とするようなイメージがあるだろう。
それは確かに事実ではある。
全ての始まりとなったチェダース村の惨劇を生んだ吸血鬼、そしてその後のヘルシング機関で退治していった吸血鬼達、皆が皆、血に飢えていた。
あの主のアーカードでさえ、血は飲んでいる。
しかし、彼女は違った。
どんなに衝動に駆られても、吸血行為だけは拒み続けてきた。
……そう、拒み続けてきたのだ。あのホテルでのみくるの言葉を聞くまでは……。
「――スさん? ――ラスさん? セラスさん!?」
「…………ふぇ!? な、何、ふう? どうかした?」
「いえ、何度呼びかけても返事がございませんでしたので、少し心配になってしまって……」
風の声からは、確かにセラスを心配するような雰囲気が漂っていた。
自身も疲労困憊といった様子なのに、彼女はそんな自分よりも友人の光や出会って間もないドラキュリーナの事を気遣ってくれている。
恐らくは、根っからの善人なんだろうなとセラスは感じる。
「ん、大丈夫大丈夫! ちょっと考え事してただけだから」
「考え事……ですか?」
「そ。今までここで会ったトグサさんや光、ゲインにみさえさん、ガッツにクーガーの阿呆、そしてみくるちゃ――」
と、そこまで喋ったところで、彼女は不意に殺気を感じることになる。
方向は正面やや右斜め上。
彼女は咄嗟にその方向を見ようとするが、
「――ぐぁ!」
それよりも早くセラスの腹部には正面から飛んできた一本の矢が刺さった。
ドラキュリーナになったとはいっても、痛覚は人並みにある。
腹部に突如走ったその痛みに、セラスは足をもつれさせ、風は彼女から振り落とされてしまう。
「セ、セラスさ――きゃあ!」
振り落とされた風は、その体をアスファルト舗装の上に叩きつけられるが、すぐに立ち上がり、その場に立ち止まっていたセラスの方を向く。
「セラスさん! 大丈夫ですか!?」
「ごめんごめん。つい足がもつれちゃって……」
「そ、そんなことよりも、お腹に矢が!!」
「だ、大丈夫だって、これくらい。……それよりも、この矢、あのビルの方からやってきたみたい……」
刺さった矢を左手で握って引き抜きながら、彼女はビルの2階部分を指差す。
風も、それに釣られるようにそちらを見やる。すると――――
「いけない! ――守りの風!!」
彼女が顔を上げた瞬間見えたのは、一人の女性がこちらに向かって弓を引いている姿。
それを見るや否や、彼女は咄嗟に得意の防壁魔法を発動させていた。
そして矢が射られたのはまさにその防壁魔法が完全に発動し、気圧の壁が風とセラスの正面に立ちはだかった時。
矢は、見えない壁に阻まれその場で失速、ついには運動エネルギーを使い果たして風たちに届く前に落下した。
すると、そんな様子を見ていた襲撃者の女性は窓から姿を消した。
「お逃げになったのでしょうか……?」
「……どうだろうね。……うぅ、いつつ……」
セラスは矢を抜き、ぽっかりと空いた穴をさすりながら答える。
……そしてそんな時、彼女は再び感じた。先程と同様の殺気を。
今度こそ、先手を打たなくてはならない。
感覚を研ぎ澄まし、セラスはその方向を見極める。
そして分かった殺気の方向は――
「上!!! 上から来る!!」
セラスの声に驚き、空を見上げる風。
すると、そこには夜天に浮かぶ月を背に、自分達目掛けて剣を振りかざしながら飛び降りてくる一人の騎士がいた――!
「はぁぁぁぁああああ!!!!」
夜天から降ってきた騎士は、風達目掛けて剣を振り下ろす。
「ふう、危ない!!!」
だが、その剣が二人に叩きつけられる直前、セラスは風の首根っこを掴み、咄嗟に後ろに飛びのいた。
すると騎士の剣はその瞬間、彼女達の元いた場所に叩きつけられ、硬いアスファルト舗装を大きく抉った。
そして、その衝撃により周囲には膨大な粉塵が舞った。
「うわっ! 何なのあの馬鹿力……」
高所からの落下により位置エネルギーが破壊の為のエネルギーに変換されたのだとしても、この道路の抉れ具合は普通の人間では起りえないだろう。
「てか、何であんな高い場所から落ちて平然としてるわけ……」
「あちらの方も、何か特別な力を持った方なのでしょうか」
セラスと風が距離を置いて、粉塵舞う破壊の中心を見据える。
――すると、それは粉塵の中から唐突に飛び出てきた。
「――セラスさん、後ろへ!!」
「え? あ、ちょっと!!」
先程の矢のようにまっすぐ風達へ向かってくる騎士。
風は、彼女が勢いをそのままに振り下ろす剣をヤマトから受け取った刀で受け止めた。
そして刃と刃がせり合う中、風は襲撃者である騎士に問う。
「あなたは誰なんですの……。何故、このようなことを?」
「私は剣の騎士シグナム。私が戦う目的はただ一つ、全てはこの戦いに勝ち残る為」
「勝つ為なら、何をしてもいいというのですか……?」
「……それが私の選んだ道だ。迷いなど無い!」
騎士はそう叫ぶと、鍔迫り合いから離れ、一度間合いを開ける。
すると、その隙を突いて、セラスは叫ぶ。
「ふう!! 後ろに退いて!!」
その声に風が下がったのを見て、セラスは構えていたカラシニコフをフルオート射撃の状態にして引き金を引いた。
カラシニコフから放たれた銃弾は、一斉にシグナムを襲う。
……だが。
「……甘い!」
シグナムはその向かってくる銃弾目掛けて剣を道路に向けて打ちつけ、衝撃波を路面に走らせてその銃弾を打ち落としてゆく。
――シュテルングウィンデ。
陣風とも呼ばれるシグナムの用いる攻防一体型の衝撃波だ。
「嘘ぉ!? あんなのアリ!? ねぇ!?」
「剣圧による衝撃波…………あの技、ラファーガさんと似ていますわね」
「あぁ、もう! あっちに行ってもトンデモ人間、こっちに行ってもトンデモ人間、ウチに帰ってもトンデモ人間…………はぁっ」
セラスは溜息をつきながらも、カラシニコフを構えて、シグナムを見据える。
風も疲労する体に鞭打ちながら、刀を構える。
「お強いですわね……」
「褒めていただき感謝する」
「……ですが、あなたの持つ剣はそのような目的で使われる為にあるのではありません!」
シグナムの持つ剣は、風が今まさに探している親友のものであった。
そして、その剣の元の持ち主である彼女ならば、剣をこのような目的に使うはずがない。
そのような理由からも、風は珍しく目の前にいる騎士に憤りを覚えていた。
すると、風の隣にいたセラスも、好戦的な目でシグナムを睨む。
「私達もとっととホテルに行きたいからね……さくっと行くよ!」
「……私は勝ち続けなければならないのだ……。そう、優勝するまでは!」
シグナムが地面を蹴るのと同時に、風とセラスも前へと飛び出す。
そして、双方は衝突――――――しようとしたのだが。
「セ・ナ・スさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!」
ぶつかり合おうとしたまさにその時、嵐の如く彼はやってきた。
……ご丁寧に土産を抱えた状態で。
◆
「魅音さんをログハウスに送って、セナスさんに事情を説明、それからセナスさんを連れてログハウスを出てホテルへとんぼ返り。
更にその後、ホテル内に入って、みなえさん達を捜索、及び救出! 避難経路を確保しつつ脱出、そして皆が俺の最速を認める!
これが最善最速最高の計画! そしてそれを成し遂げられるのはこの俺! ストレイト・クーガーを置いて他ならない!
あなたもそう思うでしょう? イオンさん!」
「………………」
クーガーの爆走に再び付き合う羽目になった魅音は、喋る気力もなかった。
これまでの度重なる不運により既に内容物が尽きているのか、嘔吐することはなかったことがせめてもの幸いだろうか。
「しかし、ホテルをあのように破壊するとは敵は一体どんな奴なんでしょうね?
高性能な爆弾かカズヤのシェルブリットや劉鳳の絶影みたいなアルターでも使わない限り、あそこまで酷いことにはならないはず!
あ、カズヤと劉鳳というのはですね――」
あの真っ赤な大男を倒したクーガーを見直した自分が馬鹿だったのだろうか。
魅音は自らの判断に後悔し、早くこの一方的な会話が終わらないかどうかをずっと考えていた。
すると彼女の願いが天に届いたのか、クーガーは突如、言葉を止めた。
「…………どしたの?」
「いえ、この道のまっすぐ向こうに知り合いの姿を見まして。…………イオンさん、少しばかりスピードを上げますよ」
「へ? あんた何言ってんの? これ以上、スピード上げるってどういう了け――んわぁああああ!!!」
――という経緯を経て、クーガーと魅音はシグナムとセラス達の間に割って入っていったのであった。
「セナスさん、外に出てるという事は元気になったんですね? 良かった良かった! ちょうどあなたを迎えに行こうと思ってたんです!」
「あ、あのねぇ、誰のせいで気持ち悪くなったと思ってんのよ……。それと私の名前はセラスだって。
……それよりも、ホテルはどうなってるの? ヤバ目な訳?」
「……ホテルは既に半壊しています。完全に崩れるのも時間の問題でしょう」
それを聞いてセラスは驚く。
実際にホテルを見てきたクーガーの言葉なのだから嘘はないのであろう。
だがそうだとすると、ホテルに待機するみさえやゲイン、ついでにガッツやキャスカといった待機組が巻き込まれた危険性があるという事だ。
「ちょ、ちょっと! それって派手にピンチってことでしょ!? は、早く助けに行かないと!」
「えぇ。ですから、みなえさん達を救出する協力を仰ごうとあなたを迎えに挙がった次第なのですよ。
…………まさか、こんな形で再開できるとは思いませんでしたがね」
そう言うと、クーガーはサングラスを持ち上げ、その瞳で正面にいる桃色髪の騎士を見やる。
すると、騎士は剣を構えたまま、クーガーに問う。
「……話はそれくらいでいいか?」
「あぁ。こっちもダラダラ話している暇なんてないし、ダラダラしたくもない性質なんでね」
シグナムがクーガー目掛けて間合いを詰め、勢い良く剣を振り下ろしたのは彼がそう言い終わるのとほぼ同時だった。
……だが、その程度の攻撃に怯むクーガーではない。
「……ゆるゆるだな。動作が遅すぎる」
「……な!」
シグナムの剣は、振り上げられたクーガーの足の装甲――ラディカルグッドスピードによって防がれていた。
「攻撃においても重要なのはやはり速さだ!」
叫ぶと同時にクーガーは剣を押し出し素早く移動、シグナムの背後に回る。
「――く! テスタロッサより速い!?」
「貰ったぁ!!」
背後に加速しながら跳躍したクーガーは隙の出来た彼女へと蹴りを見舞うが、シグナムはそれを剣の刀身で咄嗟に塞ぐ。
クーガーの蹴りは勢いもあって強烈であったが、エクスードで出来たその刀身を傷つけることは叶わない。
二人は再び、間合いをあけ、クーガーはセラス達の元へと戻ってくる。
そして彼は、視線を相手に向けたまま、背後にいるセラス達へ声を掛ける。
「……セナスさん、どうやら、あいつは俺達を見逃すような甘ちゃんじゃないみたいだ」
「知ってるよ。さっきから散々、トンデモない攻撃されてたんだから」
「ですが、ここに留まって彼女の相手をしていては、みなえさん達の捜索をすることは出来ません。
ですので、ここは俺が引き受けます。俺が彼女のお相手をしている間に、皆さんでホテルに向かってください」
その言葉にセラスや風、そして魅音が驚く。
特に魅音は、体を乗り出してクーガーに異議を唱えるくらいだ。
「あんた何言ってるんだい! ついさっきあの赤いコートの大男と戦ったばかりでしょ!? なのに間髪入れずにまた戦う気!?」
「え? それって…………」
魅音の口から漏れたクーガーが交戦したという男の話。
その男の特徴はセラスが探している人のイメージそのままであった。
だが、そのようなことを魅音やクーガーが知るわけもない。
クーガーは魅音の言葉に背を向けたまま答える。
「ホテルの中に入るのなら人手が必要でしょう? それに、こちらに人数を裂いてしまっては共倒れになってしまう可能性もあります」
「だ、だからってあんたが残らなくても!!」
「ノォープロブレムです! むしろ俺ならば、この中で最もスピーディに勝負にカタをつけられるでしょう。
そしてそこで短縮した時間を利用して俺もその後にホテルにてイオンさん達と合流すれば、更なる救助効率の上昇が叶います」
「だ、だけど……だけど……」
それでも踏ん切りがつかない魅音にクーガーは、今度は力強い口調で問いかける。
「あなたがあなたの道を選んだように、俺も俺の道……こいつを倒す道を選んだ。……そういうことですよ。
さぁ、ホテルの崩壊は時間の問題! ここでダラダラと時間を浪費している暇などないはず!
やるべきことがあるなら早急にスピーディに行動なさい! あなたが選んだ道はそういう道のはずだ! 違いますか!?」
それを聞いて、魅音ははっとする。
……そうだ。自分は決めたはずだった。
死んでいった光の為にも、あのホテルに残っている彼女の仲間達を助けに行くと。
自分がやるべきことは、ここでクーガーと口論することではない。
「そうだったね……。おじさんとしたことがつい熱くなっちゃって、本来の目的を忘れるところだったよ」
「ならば、あなたがこれからとるべき行動はもう分かりますね?」
「そりゃ勿論さ。…………私が選んだ道だもの。分からない訳ないでしょ?」
魅音の答えはクーガーが満足するものだった。
「そうです。それでこそミオンさんだ! ……ではご無事で」
「あんたこそね。…………ほら、あんた達も行くんでしょ、ホテルにさ!」
「あ、あぁ。そうだね。そんじゃ、とっとと行くとしますかー!」
セラスはミオンの問いに答えると、風を抱えて、クーガーに背を向ける。
「…………クーガー、ここは任せたよ。絶対にここで足止めしてよね」
「勿論! セナスさん達は大船に乗ったつもりでいてくださいな!」
「御武運、お祈りしていますわ」
「あぁ、それはどうも。えっと…………」
「私は風。鳳凰寺風、ですわ」
クーガーと魅音はその名を聞いて、思わず反応してしまう。
そう、その名前は、つい先程埋葬した少女が何度も口にしていた親友の名前で……。
「了解だ、くうちゃん。あなたもどうかご無事で」
「風、ですわ。空は私の姉の名です」
「おっと、それは失礼」
どんな時であろうと、彼はあくまで彼であった。
「……そんじゃ、飛ばしていくよ。ついてきてね、イオン!」
「私は魅音だ!」
言うな否やセラスは、道路をホテルへ向けて走り出す。
魅音は、一度クーガーの方を見るとすぐに彼女の後を追って走っていった。
「…………私達、また会えるよね……?」
◆
魅音達が遠ざかるのを音と空気で感じると、クーガーは目の前にいた無言のままのシグナムにようやく口を開いた。
「待たせたな、お嬢さん。これで思う存分、戦えるってもんだ」
「…………行かせてよかったのか? あの面子で揃って私にかかれば、勝てたかもしれないというのに」
正直なところ、シグナムはクーガーがこの場にやってきた際に撤退も考えていた。
刀を魔法を使う少女と銃を持っていた女性だけならば、なんとかなったかもしれないが、そこにもう一人戦闘員――しかも機動性が極めて高い――が加わったとなれば、自分が不利になることは目にも明らかだったからだ。
だが、彼が自らここを自分一人で凌ぐと言ってきた為に、彼女は戦闘を続行することを決めた。
「――聞こえてなかったのかい? これが俺の選んだ道さ。行かせた事に後悔なんてするかよ」
「後悔はしない……か。そのようなボロボロの体でよく言えたものだ」
魅音やセラスの目を誤魔化せても、彼女の目は誤魔化せない。
数多くの世界で無数の戦いに身を投じてきた彼女には、彼のその体中から上がる悲鳴を必死にこらえている様がよく分かっていた。
しかし、それを指摘されて尚、クーガーは余裕の笑みを浮かべる。
「ハハハ、なるほどボロボロか。確かに俺は色々生き急いじまったからなぁ。そりゃ、ごもっともな意見だ」
「……ならば何故戦おうとする? 何故逃げようとしない?」
「逃げるわけにもいかないんだよ。セラスさん、風さん、そして何よりミオンさんの為にもな!」
その刹那、クーガーは地面を蹴り、飛び出す。
それを察知したシグナムは、彼の進行方向を予測して再度衝撃波を生み出す。
……だが、その先に彼は既にいない。
「あの人は強い人だ! 惚れ甲斐がある! だからこそ、残りの命を賭ける価値がある!!」
声がシグナムの周囲を回るように聞こえる。
そして――
「そうだ! 俺は遂に見つけたのさ!! 文化の真髄をな!!」
クーガーのラディカルグッドスピードによる痛烈な一撃が、防御の構えを取る前のシグナムの鳩尾を襲った。
だが、そこは流石騎士といったところ。
彼女は蹴りを受け吹き飛ぶとすぐに受身を取り、立ち上がった。
「そうか、お前も身を尽くす相手がいるのか。…………だが私とて、主への想いの強さなら誰にも負けはしない!!」
叫ぶと同時に彼女が握っていた剣に炎の魔力が収束し、刀身が赤く染まる。
元々炎に関する魔法を得意とする持ち主の為に作られた剣なので、この程度の魔力注入ならば、宝石無しにでも可能のようだ。
「私の決意とお前の決意…………どちらがより強いものかここで決着をつける!」
「文化の真髄を見つけた今の俺に適う奴はゼロで皆無でナッシィィング!!」
シグナムとクーガーは同時に飛び出る。
そして、シグナムの剣とクーガーの脚がぶつかり合――――――おうとしたその時だった。
またも双方の間に割って入るように、何かが飛び込んできた。
ただし、今回のそれは人ではなく、鈍色のロケットのような物体で、地面に衝突すると同時に炸裂した点が異なっていたが。
「――な、何だ!?」
「あの形状……確かあれは……」
「そこの二人!! 即刻、戦闘行為を停止しろ!! これ以上の戦闘はこの俺が許さん!!」
声は上空から聞こえてきた。
そして、愕くのも束の間、爆発のあった中心に今度は下半身が竜のような硬質な生物とそれに乗る男と……豚が姿を現した。
◆
劉鳳とぶりぶりざえもんが共に行動するようになってから数十分。
真・絶影に乗った二人は、治癒の魔法を使えるという少女、鳳凰寺風を探して市街地上空を移動していた。
「どうだ、ぶりぶりざえもん。何か見えるか?」
「いや、陽が沈んでしまったせいでどうしても下の様子も見えずらくなっている」
「そうか…………」
市街地を巡回してみるものの、目的の人物どころか参加者の姿すら二人は見つけることは出来ていなかった。
「となると、やはり怪しいのはあのホテルか……」
劉鳳は遠くに見える上部が瓦礫と化したホテルを見る。
周囲が薄暗い闇に包まれてゆく中で、その半壊したホテルの影は一際目立つ存在であった。
しかも、ホテルの付近では二色の光がぶつかり合っては離れ、光線のような閃光を発したりしていた。
「あの先程から瞬いている光がお前の探している女が使えるという魔法というものではないのか?」
「いや、私が見たのはもっと穏やかなものだった。あのような眩しい光など出ていなかったしな」
「そうか…………」
「しかし、あの少女はトグサという男からホテルにいる仲間への伝言を頼まれていた。……今頃向かっている可能性は十分あると思う」
ぶりぶりざえもんのその言葉を聞いて、劉鳳は頷く。
「そうだな。……ホテルへ向かいつつ少女を探してみることとしよう。……絶影!」
劉鳳が呼びかけると、絶影は進行方向をホテル方面へと変えた。
そして、劉鳳はふとぶりぶりざえもんに尋ねる。
「時にぶりぶりざえもん。お前に聞きたいことがあるのだが……」
「どうした? 私に答えられる事があるなら、何でも答えるぞ。我らは仲間なのだからな」
「お前が人を探しているように俺も探している。……断罪すべき相手をな。だから、今から挙げる名前や容姿に心当たりがあったら答えて欲しい」
そう言って、劉鳳はアーカード、長門有希、カズマについて容姿と所業についての説明を含めて話をする。
すると当然、ぶりぶりざえもんは後者2人の名前に心当たりがあるわけで……。
「――知っているのか! 長門有希とカズマについて! どこだ、どこにいる!?」
「……落ち着け、劉鳳。まず言っておきたいのだが、お前の言う長門有希という少女と、私の知っている長門有希は服装くらいしか共通点がない。
というよりも、その住宅街の爆発とやらがあった時、長門有希は私と一緒にトラックに乗っていたのだ。あの場にいるわけがない」
「……何!? それはどういう…………」
自分の知る長門有希とぶりぶりざえもんの知る長門有希がこれほど違うとは……。
劉鳳は疑問を抱きつつも、一つの結論に至る。
「……偽名か! クソッ、そんな姑息なことまでしていたというのか、あの女は!!」
――名を偽った上に、自分をだまし討ちし、更には住宅街を爆発させるほどの大規模な破壊を起こす。
劉鳳の怒りはますますヒートアップする。
「しかし、これでいらぬ誤解を起こさずに済んだ。……感謝するぞ、ぶりぶりざえもん」
「何、私は救いのヒーローだからな。礼には及ばん。救い料一億万え――――いや、何でもない」
ぶりぶりざえもんはつい、以前の自分の口癖が出そうになり、口ごもってしまう。
……そう、人を救うことには感謝の礼以外に代償など要らない。
「それとカズマという男についてなのだが……」
その名を口にした瞬間、劉鳳は反射的に目を剥いて、ぶりぶりざえもんに詰め寄る。
「そうだ! あの男…………アルター能力者の恥さらしのあの男! カズマはどこだ!? 一体どこにいる!?」
「お、落ち着け劉鳳。私にはその話が信じられないのだ」
「信じられない……とはどういうことだ? 俺のいう事が嘘だとでも言うのか!?」
「そうは思いたくない。……だが、私にはあのカズマという奴が悪人には見えなかったのだ」
ぶりぶりざえもんの言葉に劉鳳は絶句する。
――カズマが悪に見えなかった…………?
――そんなことがあるはずがない。
――あの男は、ロストグラウンドの平和と秩序を乱す最低最悪の犯罪者だ。
――それなのに何故、ぶりぶりざえもんはそのような男を擁護しようとする……!?
そして、劉鳳は気付けば絶影をビルの屋上に下ろし、そこでぶりぶりざえもんを持ち上げ、問い詰めていた。
「……何故だ! 何故あの男を庇う!?」
「カズマは確かに物言いも失礼極まりなかったし、礼の一つもしない奴だった。……しかし、奴の言葉には悪意がなかった」
「そのような戯言を……!! 本気で言っているのか!」
「私は見たままを言っているだけだ。…………ふざけてなどいない」
ぶりぶりざえもんの言葉は劉鳳を激昂させるばかりだ。
「あのような社会不適合者、この世に存在してはならないのだ! 何故それが分からん!?」
「だが、少なくともここでは彼は必要とされているようだった。……あの太一とドラえもんにな」
「……だが、それでも俺はホーリー隊員として、ロストグラウンドに、社会に安寧をもたらす為に奴を倒さねばならない!」
ますます熱くなる劉鳳は、ぶりぶりざえもんを掴む手に力を入れる。
ぶりぶりざえもんは、その力に顔を少しゆがめながらも、それでも言葉を続ける。
「……お前はやっぱりおバカだな」
「何だと……!?」
「だってそうだろう。お前はホーリーだの社会だのというスケールの大きい事を言って自分の行為を正当化しようとしている。
……確かにそういうものも大事かもしれないが、今は太一の怪我を治すことが大事だろう。なんでその太一の仲間を敵と言うんだ?」」
そして遂には、劉鳳は絶影の触鞭の切っ先をぶりぶりざえもんに突きつけてきた。
「…………何のつもりだ?」
「訂正しろ……! 俺の正義を愚弄した発言を訂正しろ!」
「だが断る。わ、私は救いのヒーローなのだ。ぼ、暴力になどく、屈しはしない……」
口ではそう強がるものの、哀れな子豚の体は震えが止まっていなかった。
「……震えてるぞ、ぶりぶりざえもん」
「し、知るか! これは……そう! 貧乏ゆすりだ! む、昔から癖が治らなくてなっ!」
聞き苦しいにも程がある言い訳ではあった。
……だが、今尚屈しようとしないぶりぶりざえもんは勇気があるというべきだろう。
そして、言っていることにも決定的な間違いはなかった。
――お前はホーリーだの社会だのというスケールの大きい事を言って自分の行為を正当化しようとしている
それは事実なのだろうか。
自分の決めた正義と標榜しつつも、実は自分の意思とはどこか違う場所で物事を考えているのではないか。
劉鳳はしばし悩んだ末に、突きつけていた触鞭を戻す。
「…………確かにお前のいう事にも一理ある。今は、少年を助ける為に鳳凰寺風という少女を探すことが先決だ」
「だから、さっきからそう言ってるではないか…………………………(た、助かった…)」
「だが、俺はまだお前に言っていることを全部認めたわけではない。俺の正義が正しいかどうかは俺がこの目で確かめて決める」
「あ、あぁ、それでいい……………………(ってことは、またいつかあんな目に遭うのか!?)」
意見はやや行き違うが、ぶりぶりざえもんは自分と同じく正義を標榜する仲間だ。
このような場所で失うべきではない。
「……では、時間を少々潰してしまったが、ひとまずは市街地の捜索を続けるぞ」
劉鳳はそう言うと絶影に乗り、ぶりぶりざえもんもそれに続くように乗り込む。
そして絶影は、再び闇夜へと舞ってゆく。
再度絶影による空中からの探索を開始した2人は、それから少ししてようやく人影を見つけた。
「……あの道路の向こうに人がいるぞ。人数は………………な! あれは……!」
「どうした劉鳳。人数はどうした? 数えられないのか? 自慢じゃないが私は二桁以上の足し算は…………ん? あの少女は……」
2人が身を乗り出して見つけた人影。
すると、2人とも見慣れた顔を見つけてしまった。
「クーガー!」「あの時の眼鏡っ娘中学生!」
「「!! 知り合いがいるのか!?」」
そして、見事に二人の声は一致する。
「ぶりぶりざえもん! 眼鏡の女子中学生というのはまさか……」
「あぁ。あの風の魔法使いの少女だ。劉鳳、お前が言っていたのは――?」
「ストレイト・クーガー。俺と同じホーリー隊員だ。しかし、あいつ一体何を…………」
劉鳳の目には、三人の女性の前に立つクーガーと、それに対峙するように立つ一人の女性が映った。
遠目からも友好的には見えないので、状況はよろしくないのであろう。
そして、彼らがそんな5人へと近づいてゆく途中で――
「あ、眼鏡っ娘達が離れてく」
目的の少女を含む三人がその場をホテル方面へ離脱し、その場にはクーガーと剣を構えた女性のみになってしまった。
「どうする? 眼鏡っ娘を追うのか? それとも……」
当初の目的を果たす為ならば、少女を追ったほうが得策かもしれない。
……だがそんな時、劉鳳はふと先程分かれた不二子の言葉を思い出した。
――ワシが追われていたのは、一人は斧を持ったポニーテールの女で……
視界が捉えたクーガーと対峙する女の髪型はまさにポニーテール。
ポニーテールという髪型自体はそう珍しいものではないが、その女性が戦闘行為を行おうとしてる――というか早速クーガーと交戦を始めたとなれば、彼女が不二子の言う襲撃者の一人だとしてもおかしくはなかった。
このゲームに乗り、人々を襲う存在が目の前にいるのであれば、それを見過ごすわけには行かない。
故に彼は、こんな決断を下した。
「……ぶりぶりざえもん。俺はあの女を本当に断罪対象であるかどうか見極め、時と場合によっては処断しなければならない。
だからお前は、地面に降下後、ただちにあの少女を追ってくれ」
「――な! わ、私一人で行けというのか!?」
「怖いのか?」
「ば、バカ者! この救いのヒーローに怖いものなどあってたまるか!」
明らかに本心ではビビっている声だった。
……だが、それでもそれを決して口にしない彼の言葉を聞いて劉鳳は頷き、そして降下を始めた。
「……では、これから降下する。……少女を説得できたら、こちらに戻ってきてくれ。それまでに俺が何とかする」
「あぁ。信じてるぞ、劉鳳。帰ってきてまだ戦闘中だったら、違約金を払ってもらうからな」
劉鳳は、その言葉に短く頷くと精神を中心させ、まっすぐと2人の――クーガーと剣士の間を見据える。
そして――
「剛なる右拳、伏龍!!!」
掛け声とともに、絶影の右腕がロケットのように射出され、真下目掛けて落下していった。
そして、路面への着弾を確認すると、彼は大きく叫んだ。
「そこの二人!! 即刻、戦闘行為を停止しろ!! これ以上の戦闘はこの俺が許さん!!」
◆
突如、クーガーとシグナムの間に割って入ってきた劉鳳。
それを見て、クーガーはあっけにとられるのも一瞬、即座に彼に声を掛ける。
「……よぉ、劉鳳。こんな派手に登場するとは意外だな」
「お前は相変わらずのようだな、クーガー」
「――で、こんな場所こんな状況こんなタイミングで何の用だ? 知り合いに会えて余程感激だったか?」
「そんなわけないだろう、馬鹿者! 俺がここに来たのは…………」
劉鳳が横目でぶりぶりざえもんを見やる。
「……どうした。早く行ってこい。姿を見失ってしまうぞ?」
「わ、分かっている! お前こそ、とっととカタを付けるんだぞ! 男と男のお約束だからな! ――じゃ、そういうことで」
そう言いつつ、劉鳳達に片手を挙げると、ぶりぶりざえもんは電光石火の速さで走り去っていってしまった。
その速さにはクーガーも感嘆するほど。
「……な、なんだありゃ?」
「先程、ここを発った女達がいただろう。……その中に俺達が探している者がいたんだ。奴はそれを追うために出ていった」
「お前がイオンさんを探していたぁ……? お、お前みのりさんという者がありながら!! 」
クーガーの顔は愕然とする。
劉鳳はそんな言葉に思わず呆れ、片手に頭を置いてしまった。
「馬鹿か貴様は……何故そうなる。それにみのりではなく水守だ。――――いやそれよりも、だ」
表情を即座に変えた劉鳳が見据えたのは、目の前に立つシグナムの姿。
「……俺は劉鳳。お前、名は何という?」
「私は守護騎士が一人、烈火の将シグナム」
名乗られた手前、自らも名乗るのは騎士としての礼儀。
騎士としての誇りを捨てたはずの彼女であったが、そういった礼儀は精神の深層に浸透しているようだった。
すると、劉鳳はシグナムに静かに問いかける。
「ではシグナムに問う。お前はこの殺戮のゲームに乗っているのか?」
「……そうだと言ったら?」
「やはりか。……ならば俺は貴様を悪と認定し、断罪するまで!!」
劉鳳は苦虫を噛み潰したような表情になると、絶影を繰り出す。
「柔らかなる拳・烈迅!!」
そして、劉鳳の叫びとともに絶影はその触鞭をシグナムへ向けて振り下ろす。
だが、その攻撃を黙って食らうほどシグナムも衰えてはない。
彼女は炎の魔力を帯び熱された刀身でそれを受け止める。
「……この程度で私が倒れると思うな、愚か者!!」
シグナムは受け止める剣に力を込め、今度は触鞭を逆に押し返してきた。
そして、遂にはその刀身の熱と押し返す力によりその触鞭には次第に亀裂が入ってゆく。
「私には成すべき事がある。そのために私は倒れるわけにはいかないのだ!!」
「……くっ! 絶影!!!」
完全に触鞭が破壊される前に劉鳳は、絶影を下がらせる。
――だが、彼女の攻撃は止まらない。
「貴様如きに敗れる私だと思うな!」
シグナムは疾風のごとく絶影へと肉薄すると、それ目掛けて剣を振り下ろそうとする……が。
「おいおい、俺の事忘れてないか? シグナルさん」
「――!!!」
横からしたのは、そんなこの場に似合わないおどけた声。
「衝撃の! ファーストブリットォォォ!!!!」
そして、彼女がその声を聞くのと脇腹に強い衝撃を受けたのはほぼ同時だった。
「ふぅ、間一髪ってところだな」
クーガーが前髪を直しながら、劉鳳の方を向く。
すると、彼はやや不機嫌そうな顔をしており……。
「クーガー……貴様……」
「何だ何だ、その声は? まさかお前、そいつは俺の獲物だとか言い出すんじゃないだろうーな?」
「そうだ! そいつは俺が断罪しなくてはならない敵だ! お前とて手助けは無用!」
劉鳳の語気はいつも以上に強かった。
――それは、処断すべきシグナムに少しでも苦戦してしまったことへの苛立ちなのだろうか。
クーガーはそれを悟りつつも、劉鳳の方を向き直り、言葉を続ける。
「手助けなんかじゃないさ。別に俺はお前の断罪とやらに付き合う気なんて毛頭ないさ。そこらへんはお前の好きなようにやってくれ。
だがな、俺もあいつの相手をしてやるって約束しちまったんだ。……だから、俺もあいつを倒す。ただそれだけだ」
「約束、だと? 誰とだ?」
「ミオンさん……俺に文化の真髄を教えてくれた強い人とさ」
そう言うのとほぼ同時に、クーガーがシグナムを吹き飛ばしたビルの壁の方から物音がし、そこから彼女の姿が現れた。
「……あの男……あれだけ身体が傷ついているというのに何故あそこまで力が……」
あの男とは、勿論クーガーの事。
当初は、身体的負担が蓄積しているのだからすぐに体力も尽きて、自滅するだろうと踏んでいたにも拘らず、彼は奮闘している。
それが彼女の誤算の一つ。
そしてもう一つの誤算は、劉鳳という新たな闖入者の事。
セラスの時のクーガーのように、二度も仲間が割り込んでくるなどという偶然を彼女が予想できるはずもなかった。
しかも、あの劉鳳という男の操る絶影という使い魔のような存在は、攻撃を受け止めはしたもののその本気を出した時の力の程は知れないままである。
……クーガーと絶影。
この2人を今の自分が相手するのはリスクが極めて高いだろうと彼女は判断する。
そして――
「私はここで倒れるわけには行かない……。生き残る為ならばどんな手でも使う」
「ほぅ、どんな手でも、ねぇ」
「あぁ。例えばこんな手を使ってもな」
そう言って、彼女の手から落とされたのは缶状の物体。
それが地面に着地すると同時に、周囲は閃光に包まれて――
「くっ!スタングレネードか!
「逃げるための目くらましってか? ……させるかよ!!」
「待て! クーガー!!」
光の中、駆け出すクーガーを劉鳳は追っていった…………。
◆
一方その頃。
セラスは2人の少女を抱えて走っていた。
「……で、何で私まで荷物みたいに背負われてるわけ?」
「だって、イオンが一人で走るよりも私が走ったほうが速いんだもん」
「だからミオンだっての!」
「まぁまぁ、イオンさん、落ち着いて下さいな」
「あんたら、わざと間違ってるでしょ! ねぇ!?」
魅音が怒る声を聞いて、セラスは悪いと思いつつも、思わず笑ってしまう。
そして、彼女はそんな魅音を見て、ふと彼女が先程言っていたことを思い出す。
「……そういえばさミオン、確かさっき赤いコートの大男がどうのって言ってたよね?」
「え? あ、うん…………」
「悪いんだけどさ、ちょっとそれについて詳しく聞かせて欲しいんだけどいい? いや、ちょっと嫌な予感がしてさ……」
あの好戦的な主の事だ。
このような状況に即座に順応して――即ちゲームに乗っている可能性も確かにあるだろう。
だから、彼女は魅音にそこらへんのことを明らかにして欲しかったのだ。
「で、でも、それは……」
セラスの言葉を聞いて魅音は迷う。
赤い大男を話すという事は同時に光の死を告げることとなる。
そのようなことを光の親友であるという風の前で言っていいのだろうか、と。
……だが、考えてみればあおのような事実ホテルに到着すれば分かってしまうことだろうし、もし万が一気付かなくても放送が流れれば確実に発覚してしまう。
ならば、ここで言っておいた方がいいのだろうか。
「分かったよ。…………あの大男はね――――」
そんな葛藤の末、彼女は遂にそれを口にし始めた。
アーカードと光とクーガー、そして自分の間で何があったのかを。
◆
更に一方その頃。
「ふぅっ、ふぅっ……! 一体あいつらはどんな速さで移動しているというのだ。私の足の長さも考えて移動して欲しいものだ」
彼女達を追うように、小さな豚が必死に走っていた。
……吸血鬼のセラスと短足の彼とでは決定的に速度が違う。
その為、すぐにその距離は縮まる気配を全く見せない。
だが、彼は一見無理そうなことだからといって昔のようにすぐに投げ出すようなことはしなかった。
「……しかし、あの眼鏡っ娘を見つけなくてはヤマトの友達である太一を助けられなくなってしまう。ここで私が諦めては試合終了なのだ」
自分にそう言い聞かせ、彼は一歩一歩確実に前へ前へと進んでゆく。
たとえ、その一歩が小さくとも、道を進めばいずれは彼女達と出会える……彼はそう信じているから。
「ぶりぶりざえもん、ファイヤー!!」
【D-6・路上 一日目・夜】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(大)、右肩に銃創(弾は貫通、応急処置済、動作に支障有り)
[装備]:スペツナズナイフ×1
[道具]:支給品一式、スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着(一部破れている)
[思考・状況]
1:セラス達にホテル入口であったことを教える。
2:ホテルに戻って、光の仲間達を助ける。
3:クーガーと再合流する。
4:沙都子と合流し、護る。
5:圭一、レナ、梨花の仇を取る(翠星石、水銀燈、カレイドルビーが対象)。
基本:バトルロワイアルの打倒。
【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]:腹部に裂傷(傷は塞がりましたが、新たに矢傷が出来てしまいました)、嘔吐感は大分おさまりました
[装備]:AK-47カラシニコフ(10/30)、スペツナズナイフ×1、食事用ナイフ×10本、フォーク×10本、中華包丁
[道具]:支給品一式(×2)(バヨネットを包むのにメモ半分消費)、糸無し糸電話@ドラえもん、バヨネット@ヘルシング、AK-47用マガジン(30発×3)、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)
[思考・状況]
1:速くホテルに戻って、風と光を再会させる。
2:風にゲインを直してもらう
3:トグサと合流して情報交換をし、ギガゾンビを倒す方法を模索する
4:キャスカとガッツを警戒。
5:アーカードと合流。
[備考]:※セラスの吸血について。
大幅な再生能力の向上(血を吸った瞬間のみ)、若干の戦闘能力向上のみ。
原作のような大幅なパワーアップは制限しました。また、主であるアーカードの血を飲んだ場合はこの限りではありません。
【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース】
[状態]:健康、魔力中消費(2/5) 疲労が溜まっている
[装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+、スパナ、果物ナイフ
[道具]:紅茶セット(残り5パック)、猫のきぐるみ、マイナスドライバー、アイスピック、包丁、フォーク
:包帯(残り3mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅)
[思考・状況]
基本:光と合流して、東京へ帰る。
1:光に会いたい
2:消えたエルルゥが気がかり(ただし、現時点では光との再会のことで頭が一杯なので一時的に忘却中)
4:怪我人を見つけた場合は出来る範囲で助ける。
5:自分の武器を取り戻したい。
6:もし、人に危害を加える人に出会ったら、出来る範囲で戦う。
【E-6・路上(エリア北部) 1日目・夜】
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:頭部にたんこぶ/ヤマトとの友情の芽生え/正義に対する目覚め/やや疲労
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:困っている人を探し、救いのヒーローとしておたすけする。
1:鳳凰寺風を追ってホテル方面へと向かう。
2:1の完了後、劉鳳の元へ戻り、太一たちのもとへ。
3:その途中で高町なのはが見つかるようであれば、彼女も病院へ連れて行く。
4:ヤマトたちとの合流。
5:救いのヒーローとしてギガゾンビを打倒する。
スタングレネード。
それは、閃光を発し、相手を怯ませる為の道具であり、安全に逃走する為には必要不可欠の道具だ。
そう、そのはずだったのだが…………。
「よぉ、どこに行く気だい、シグナルさん」
「……シグナム、だ」
ならば、何故逃走したはずの彼女の目の前には当然のようにこの男が立っているのだろうか。
シグナムといえど、このときばかりは驚きを隠せなかった。
「おや? 驚いていますか不思議ですか信じられないですか〜?」
「………………」
「確かにグレネードの閃光は眩しい。身動きが取れなくなるくらいにな。
……だがな、光の中から速攻で抜け出せるだけの速さを持ってる奴がいるなら話は別だろう? 例えば俺のように」
そう言って、クーガーは得意気に笑う。
だが、その笑みがシグナムにとっては不快極まりない。
「……貴様……何故私を追ってきた? 私がいなくなればあの少女達の後を追えたというのに」
「確かに追えるな。……だがな、俺はミオンさんに言っちまったのさ。お前を倒す、ってな」
「約束……か」
約束ならば、自分もした。
亡き主に対して、必ずよみがえらせるという約束を。
「……お前から逃げられないというのならば、斬り捨ててでも先に進むまで!」
「ならば、俺も貴様を俺の正義に基づいて断罪するまでだ!」
そこでまたも二人に割り込む声が。
気付けばクーガーの背後には劉鳳と絶影が立っていた。
「よぉ、劉鳳。遅かったな。……だがな、もう少し状況を把握してから割り込んでくれよなぁ。折角のドラマチックな展開だったのによぉ」
「そんなことを言っている場合ではない! ……今はこいつを断罪する、それに専念するべきだろう!」
そう言って、劉鳳はクーガーの横に並ぶ。
……決して、先行する様子はない。
「……で、勝てる見込みはあるのか? クーガー」
「……は?」
「勝てる見込みはあるのか、と聞いている!」
そして、その言葉を聞いて、クーガーは一人納得し、答える。
「あぁ。勝てるさ。俺の速さとお前の絶影があればな。……どんな壁だって打ち砕ける」
言い終わると同時に、クーガーは地面を蹴る。
「行くぞ、劉鳳! 絶影!」
「言われなくても!!」
クーガー、劉鳳そしてシグナム。
二人のアルター能力者と、一人の守護騎士がぶつかり合う。
それぞれの想いが渦巻く戦いに、ほくそ笑むのはギガゾンビか。
ここがいわゆる正念場。
【E-6・南部 1日目・夜】
【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:消耗大(これ以上の戦闘は命に影響。だがその素振りは一切見せない)/文化の真髄を見つけた
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:シグナムを打倒する
2:その後、可能であれば魅音らと合流。……可能であれば。
【劉鳳@スクライド】
[状態]:少し高揚している/軽い疲労/全身に中程度の負傷(手当て済) /
[装備]:なし
[道具] デイバッグ/支給品一式(-2食)/斬鉄剣/SOS団腕章『団長』
真紅似のビスクドール/ローザミスティカ(真紅)
[思考]
基本:自分の正義を貫く。
1:クーガーと一時共闘し、シグナムを打倒する
2:ぶりぶりざえもんが風をつれて戻ってきたら病院へと戻る。
3:悪を断罪する。(※現在確認している断罪対象)
※アーカード、長門有希を騙った朝倉涼子、シグナム、ウォルターを殺した犯人。
4:ゲームに乗っていない人達を保護し、ここから開放する。
5:機会があればホテルに向かう。
[備考]
※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。
※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:やや疲労/脇腹に打撲/騎士甲冑装備
[装備]:獅堂光の剣@魔法騎士レイアース
クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはA's
鳳凰寺風の弓@魔法騎士レイアース(矢20本)
コルトガバメント(残弾7/7)
凛のペンダント(残り魔力カートリッジ一発分)@Fate/stay night
[道具]:支給品一式×3(食料一食分消費)、スタングレネード×4、ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night
トウカの日本刀@うたわれるもの、ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾6/15)
[思考・状況]
1 :クーガー、劉鳳を殺す。
2 :無理をせず、殺せる時に殺せる者を確実に殺す。
基本:自分の安全=生き残ることを最優先。
最終:優勝して願いを叶える。
[備考]
※放送で告げられた通り八神はやては死亡している、と判断しています。
ただし「ギガゾンビが騎士と主との繋がりを断ち、騎士を独立させている」
という説はあくまでシグナムの推測です。真相は不明。
※第二回放送を聞き逃しました(禁止エリアE-4については把握)。
※シグナムは『”人”ではない』ので、獅堂光の剣を持っても燃えません。
※クーガーから逃げることは不可能と考えています。
[作中備考]
※ホテル前に光の墓が作られました。龍咲海の剣とエクスード(炎)が備えられています。
※その他支給品はデイパックに入れられた状態で墓のそばに放置されています。
ほしゅ
「そんな……光さんまで……?」
実感が湧かないのも無理はない。風のどこか空々しい調子も、実際に光と対面すれば、はっきりと中身を持つだろう。
誰かの茫然自失の姿はできれば見たくない。いっそ気にしないようにすれば、随分と気が楽になるのだが。
セラスは、自身の足取りが目に見えて重くなっていることが気になった。
「うん、でも、クーガーがやっつけてくれたから。ね」
気休めにもならないと気づいているだろうに、ことさら明るく魅音が言う。
「ところでセラス……マスター? って?」
「え!? あ、いや、ハハハ、うーん。話せば長くなるんだけど……」
その問いかけは覚悟していた。
左に抱えた風の頭を見る。
「いやホラ私、吸血鬼でスから。マスターに血を吸われてね……ごめんね、風ちゃん。うちのマスターが」
「いえ……」
謝罪も口ばかりなだけあって、すかすかと出てきて勝手にどこかへ消えていった。
「え、あ、え!? 吸血……じゃあアレの知り合い!?」
「あーその、すいませんねー困り者のマスターで」
しばらく声なき声で喚き散らした後、魅音は黙り込んだ。
なんだか申し訳なくて、すっかりとぼとぼと歩いてしまっている。
アーカードのインパクトが強すぎたためか、セラスが吸血鬼であると言う問題はお空の彼方に飛んでいっているのは、少しだけありがたい。
さて、状況を整理しよう。
アーカードは予想通り暴れ周り、光と魅音を襲い、光がやられてしまった。
そして通りがかったクーガーにやっつけられた。
やっつけられたという表現に引っ掛かりを覚える。
「ねえミオン、マスターって……その、どういう風にやっつけられた?」
セラスが関係者ということで気になっているのだろう。言ってもいいかどうか迷っている様子だったが、やがて小さく呟く。
「……クーガーのものすごいキックを食らって……」
「胴体に穴が開いてた?」
「……いや、もうちょっと」
「上半身が吹っ飛んだぐらい?」
「いや……」
「それじゃあバラバラとか。うわグロイ! 水溜りが赤い! みたいな」
「……うん」
聞いて納得した。それならやっつけられたで間違いない。
例の凶暴神父に微塵切りにされてなお蘇ってきた記憶は、未だに鮮烈な彩色で目の前に描き出せる。
あの吸血鬼に限っては「やっつけられた」と「死んだ」は、イコールでは結ばれないのだ。
「なんかあんまり会いたくないなあ……」
うっかり声に出ていたのを聞かれたらしい。右に抱えた魅音から、憐憫に似た手触りを感じる。
この場の誰が悪いわけでもないのに、とても居たたまれない。
「……セラスさん」
左の風が身じろぎで催促する。
その喚起に続くように、分子が軋む感触が、大気を伝わって肌に来た。
「ごめん、急ごう!」
アーカードがやる気になったとあれば、厄介事製造機は確定である。
こうなれば被害が広がらないことを祈りながら、放っておくしかない。それより怪我人の方が、優先度合いが高い。
アーカードを目標にしなければ多分会わなくて済むだろうと、そんな根拠のない願望を足に込めた。
何か硬いものが弾け飛ぶ音が断続的に聞こえる。
空気の震えは戦闘にも似ているが、根本的に質量が違う。地面が、鳴いている。
「急がないと……!」
何かが惨烈に輝いた。だが、目指す方向ではない。
「セラスさん、ホテル、揺れていませんか!?」
「あれは抱えられてるからそう見えるの! きっとそう!」
抱えられるしかない少女二人が両脇で声を交わしてる。
「なん、なんかすごい音が……!」
爆音とも轟音ともつかない振動が腹の奥底に響いてくる。
「ふんぬーーーーーーーーーー!」
危機感を覚え、全力で飛ばす。
そんなセラスの努力にも関わらず、ホテルの全長は記録的な速さで目減りしていく。
「お、遅かった……」
歩みが重くなったのが最大の原因だろう。
誰が気遣ってくれようと、間違いない。
おそらく心の底からハイになっているであろうアーカードと、顔を合わせればどんな災難に巻き込まれるか、などと。
結果的に自分のことしか考えていなかったのだ。クーガーが倒したと魅音が言っているのに。
「大丈夫ですよ、きっと」
セラスの腕から降り立った風の励ましも、夜の闇に吸い込まれていくのみ。
濛々たるホテルの破片が、向かう先から這いよってくる。
「あれだけの予兆があったのですから、皆さんもどこかに逃げているでしょう」
「そーだよね……うん」
そう祈りたい。
行くべき時に逝き損ねた不死者に、祈る神はいない。
もう心情的に走る必要は感じなくなってしまった。
巨大な残骸に近づくにつれ、石と石がぶつかり合う音が聞こえてきた。
未だ小規模な崩落が続いているのかと思ったが、それとも違う。無機物を押しのける意思の存在を感じる。
後に続く二人を制する。
「あっちは……」
魅音が囁くまでもなく、セラスは正面玄関と知っている。
「光のお墓に気がついたのかも」
光さんがいるんですねと、風の眼鏡が薄明かりを跳ね返した。
風は見た目こそ冷静だが、気になっているのは間違いない。その死を目の前に突きつけられなければ、気持ちの整理はつかないものだ。
墓。もはや死を超越させられたセラスには、現実味の薄い響きでしかない。
自分たちのような吸血鬼が「死んだ」ら、墓の扱いはどうなるのだろう。
気づいたら魅音と風が、セラスの前を進んでいた。
「ちょ、待ったー! 行くの!?」
「ホテルから逃げてきた仲間かもしれないでしょ」
「つらいですけど、光さんにもきちんと挨拶していかなきゃ」
あちらにいるのがゲインとみさえでも、ガッツとキャスカでもどちらでもいい。
相手の姿を確認しておいて悪い事はない。
だが魅音の話によれば、セラスにとって最大最強の大問題があの辺に転がっているのだ。
「大丈夫、大丈夫。あいつならクーガーがやっつけたって。『アレで生きているのは正真正銘の化け物だけで……』」
無理に声を低くした口真似は、途中で途切れた。
背筋をうそ寒くさせるような生暖かさが、何かを掻き分ける音に乗って体にまとわりついてくる。
「あ」
追いついたセラスが足を止める。
「う」
振り向いた魅音が足を止める。
「あれは……」
気配を察した風が足を止める。
腕が破片を押しのけるたびに、大きな破片が崩れ、小さな欠片が転がり、互いと地面を叩き合って音を立てる。
ホテル跡地、かつて正面玄関であった瓦礫の山で、死が、奈落を掘っていた。
覆された地面と、倒れ伏した首のない死者。
傍らは水に湿り、その打ち水の敷布に両刃の剣が打ち捨てられている。そして、散らばる装身具。
夜の闇より月の影よりなお深く昏い赤い闇が、瓦礫の根元を素手で掘り返していた。
死者の安らぎを暴く不死者。
生者の全てを埋め果たすべく、廃墟に墓を掘る死神。
闇の顔に開いた深淵が、赤く輝いた。
夜が不気味に熱を帯びている。
「婦警か」
呟くように呼びかけて立ち上がった男は、既に死者である。
風は何も言わない。
魅音は何も言えない。
アーカードは口を開かない。
傍らに転がる首のない死体は、血泥にまみれた獅堂光で間違いない。
「その子、マスターが……やったんですか」
「そうだ」
「どうして……」
「どうして?」
横顔に開いた地獄の入り口が、こちらを射すくめながら炯々と輝いている。
「武器持て戦場に立つ者は、皆その理に従わねばならない……この娘は、自らの弱いカードに全てを賭けた。打ち倒されなければならない」
「で、で、でも。ヒカルちゃん、自分から戦いを仕掛けるような子じゃなかったですよ」
「戦場に立つ者は戦わなければならない。理由がどうであろうと」
魅音と風は息を潜めている。
「ええと、そうじゃなくて、マスター……その、どうしてヒカルちゃんを」
アーカードの片目がこちらを見ている。
セラスの額を貫くような眼光は「目を合わせている」と感じさせた。
かつて言われたことを思い出した。人間の目など捨ててしまえ。
思い切ってぐっと目をつぶった途端、休息に体温が冷えていく。硬くなっていた脳ミソが軟化して重心を取り戻していく。
心の震えが止まった。この尋ね方では、本当に聞きたい事は聞き出せない。
血管に力が流れている。
「今まで、誰か殺しましたか」
「魔女と、掃除屋だ。あとは取り逃がした」
「その人たちは、どうして殺したんですか?」
ゆらりと、吸血鬼が全身で向き直った。
焼け爛れた両の掌。
四肢に明らかな断裂の痕。
青白い顔に赤黒く覗く肉の色。その中から白く昏い骨の色。
使い古した雑巾のような胴体は、向こうの景色が透けて見えるだろう。
「お前はどうしてそいつらを生かしておいている?」
アーカードの声に撃ち抜かれて、魅音がぎくりとしたのが「見える」。風も、目に見えるほどではないが、僅かに身を硬くしていた。
「誰も生きて帰れなくていいんですか、マスター」
「お前がそれを聞くのか? 『すでに死んでいる』お前が? 『とうの昔に死んでいる』私に?」
「それじゃあみんな死んじゃって、あの変態仮面がほったらかしになっても?」
骨の面積が少しずつ赤黒く変わっていく面貌が、初めて愉快そうに笑った。
「『見敵必殺』我が主からのただひとつの命だ。全ての障害はただ進み 押し潰し 粉砕する。誰であろうと」
言外に含められた声を、真正面から受け止めた。半端者の吸血鬼なら、怯えて身動きが取れなくなっているだろう。
結局、アーカードがどこへ行こうとしているのかわからない。
だが、そこまでの途上に、目に映る全てが入っているとわかっただけで、十分だった。
「マスター」
両目をしっかりと開く。
「愉しんでますね」
魔王が泰然と微笑んでいた。
「そうか……血を飲んだのだな」
「はい」
「お前はどうする、セラス」
赤の滴る笑顔に、柔らかな色が混じる。いつになく優しい声だった。
立ち向かうように決然と顔を上げる。
「止めます! 止めてみせます!」
「そうか」
アーカードが、声を立てて笑った。
「不死の夜族として夜を歩く資格を得てなお、人のまま彷徨うか。太陽に焼かれると知って、それでも昼を諦めないか」
手の中でカラシニコフが回転し、引き金に指を迎える。
構えたセラスの横で、細身の剣尖が水平を描いた。
「私も協力します」
鳳凰寺風。
「これ以上、無意味に死ぬ人が増えてはいけません。あなたはここで倒します」
「フウちゃん」
視線の先には、死してなお辱めを受ける友があるのだろう。
「大丈夫です、セラスさん。私も腕には覚えがあります」
言葉の通り、剣の構え方もさることながら、アーカードと対峙してなお堂々とした挙措を保っている。
となると後は一人。
「ミオン、逃げといて」
デイバッグを下ろし、まるごと彼女に押し付ける。
「これ、私には使えないもん入ってるから。うまくやって。みんなに会えたらよろしく」
さすがに、戦闘力のない人間を庇いながら戦う余裕はない。
「逃げろって……」
「マスター超強いから」
カラシニコフに予備弾薬を詰めておかなかったことを、心の底から後悔した。
敵の前で堂々と銃弾を詰めなおす馬鹿はいない。
あまつさえ、目の前に佇んでいるのはセラスの知るうちで最も強い存在なのだ。毛ほどの隙が死を招く。
「……セラス、やっぱり私も戦うよ!」
いっそ怒鳴りつけてでもと傾けた横顔に、力強い瞳が飛んできた。
「ただし、私の出来ることでね! みんなのことは任せて!」
魅音も、すぐにでも走り出したいのだろう。顎を汗が伝っているのが見える。
「みんなを見つけて、助けも見つけて、絶対戻ってくるから」
「……オーケー」
「ククッ クハ クフフハハハハハ」
アーカードの哄笑が響いた。自分に背を向けようとしている人間にさえ、喜悦の表情を向けている。
「そう、その通りだ。諦めが人を殺す。そう、その通りだ。化物を打ち倒すのは、いつだって人間だ」
セラスが一歩前へ。左後方に風が陣取り、右最後尾・残骸付近に魅音。
「さあ行くぞ女ども 諦めの悪い人間ども」
最強の不死者が全てを包み込むように両手を広げる。
「豚のような悲鳴を上げろ」
「待ていっ!」
颯爽と現れるひとつの影。
「天が呼ぶ」
武装、なし。
「地が呼ぶ」
勝算、なし。
「人が呼ぶ」
だが後退の二字もなし。
胸に燃えるは正義の心。
決然と、敢然と。
「救いのヒーローぶりぶりざえもん。只今参上」
ぶた が あらわれた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「おいお前たち、なんだその顔は」
【D-5/ホテル跡・元正面玄関付近/1日目/まだ夜中】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:手足はくっついたが重症(回復途上)
[装備]:鳳凰寺風の剣@魔法騎士レイアース、鎖鎌(ある程度、強化済み)、
対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾:0/0発)
[道具]:無し
[思考]
1:武器をできる限り調達する。
2:全身全霊で人間と戦う。
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(大)、右肩に銃創(弾は貫通、応急処置済、動作に支障有り)
[装備]:スペツナズナイフ×1
[道具]:支給品一式3セット、スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着(一部破れている)
糸無し糸電話@ドラえもん、バヨネット@ヘルシング、AK-47用マガジン(30発×3)、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)
[思考・状況]
1:周辺にいるであろう光の仲間達を助ける。
2:セラスと風への援護策を考える。
3:クーガーと再合流する。
4:沙都子と合流し、護る。
5:圭一、レナ、梨花の仇を取る(翠星石、水銀燈、カレイドルビーが対象)。
基本:バトルロワイアルの打倒。
【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]:腹部に裂傷(傷は塞がりましたが、新たに矢傷が出来てしまいました)
[装備]:AK-47カラシニコフ(10/30)、スペツナズナイフ×1、食事用ナイフ×10本、フォーク×10本、中華包丁
[道具]:バッグごと全て魅音に譲渡しました。
[思考・状況]
1:アーカードの無力化
2:風にゲインを治してもらう
3:トグサと合流して情報交換をし、ギガゾンビを倒す方法を模索する
4:キャスカとガッツを警戒。
[備考]:※セラスの吸血について。
大幅な再生能力の向上(血を吸った瞬間のみ)、若干の戦闘能力向上のみ。
原作のような大幅なパワーアップは制限しました。また、主であるアーカードの血を飲んだ場合はこの限りではありません。
【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース】
[状態]:健康、魔力中消費(2/5) 疲労が溜まっている
[装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+、スパナ、果物ナイフ
[道具]:紅茶セット(残り5パック)、猫のきぐるみ、マイナスドライバー、アイスピック、包丁、フォーク
:包帯(残り3mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅)
[思考・状況]
基本:東京へ帰る。
1:アーカードの撃破
2:消えたエルルゥが気がかり
4:怪我人を見つけた場合は出来る範囲で助ける。
5:自分の武器を取り戻したい。
6:もし、人に危害を加える人に出会ったら、出来る範囲で戦う。
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:頭部にたんこぶ/ヤマトとの友情の芽生え/正義に対する目覚め/やや疲労
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:困っている人を探し、救いのヒーローとしておたすけする。
1:よくわからないがギャルたちを悪そうな男からおたすけする。
2:鳳凰寺風と対話後、劉鳳の元へ戻り、太一たちのもとへ。
3:その途中で高町なのはが見つかるようであれば、彼女も病院へ連れて行く。
4:ヤマトたちとの合流。
5:救いのヒーローとしてギガゾンビを打倒する。
以下は使い道がないと判断され、アーカードに回収されなかった光の遺品。光の傍に散在
支給品一式、龍咲海の剣@魔法騎士レイアース、エスクード(炎) エスクード(風)、オモチャのオペラグラス
絶影の剛なる拳を受けて、女は森に墜落した。
月夜の中でも分かるほどに舞う土埃を見やりながら、劉鳳は呟く。
「やったか?」
「いーや、完全には入らなかった。また来るぞ劉鳳」
クーガーに否定されるが、それに対して反論はできなかった。あくまで希望的観測からつい出てしまった言葉だ。あの程度で本当に終わったとは劉鳳も考えてはいない。
このやりとりも、既に何度か繰り返されてきたものだ。
予想以上に時間を浪費していた。
アルターを出し続けて、戦い続ける。普段なら何ともないそれが、この場ではどういう意味を持つか。
絶影の解放状態を維持し続けることは、決して楽なことではない。
しかし、この女――シグナムと戦うには必要なことだ。それは認める。事実、二対一にも関わらず、シグナムはなおもこちらに食い下がっている。確実に防御をかいくぐって与えられた一撃は、最初にクーガーが不意をついて食らわせた一撃だけ。
互いに勝負を決定付ける必殺の一撃を受けることなく、膠着状態が続いている。
「ならば、奴が俺の正義に、断罪に屈するまで続けるだけのことだ!」
「やれ正義だ、やれ断罪だ――」
土埃が晴れた後に残るのは、ついさっきまでは森を為していた木々の残骸。それらを押しのけてシグナムが姿を見せた。
「――お前の言う正義とは何だ? 目の前の敵を片っ端から叩き潰すことか?」
「何だと!?」
「それでお前の正義とやらは満たされるのか? そんなことにかまけている間に取り返しのつかないものを失うかもしれないのに?」
その言葉を受けて、劉鳳は僅かに動揺する。
心当たりがあったからだ。
己の短慮な行動のせいで真紅は疑心を抱き、過程はどうあれ彼女は死んだ。
己が赤いコートの男――そしてカズマと戦っている間に桜田ジュンは悪意ある者に襲われ、そして彼も死んだ。
……もし、また同じことが起きてしまったら?
あの鳳凰寺風を含めた一団、そして彼女らを追っていったぶりぶりざえもん。こうやって戦っている間に、もし彼らが凶悪かつ強力な殺人者に襲われでもしたら?
病院にいるのはカズマだけではない。片手を失った無力な少年もいると聞く。こうやって戦っている間に、もしその少年の容態が悪化して手遅れになってしまったら?
正義を貫く覚悟はある。
だが、果たしてそれは正義なのか?
一瞬の逡巡。
烈迅の発動の遅れが、そのまま隙となる。
シグナムは初動の遅れた触鞭の回避に成功し、劉鳳本人を目指して突っ込んできた。
自身も腕に覚えはあるが、アルターと互角に戦える存在を相手にできるような異能は持ち合わせていない。アルターを行使する本人――自立可動型のアルター使いにとって、絶対にして究極の弱点。
こちらに向かって振り下ろされた剣と、間に割って入ったクーガーの蹴撃が火花を散らす。そして劉鳳はクーガー諸共吹き飛ばされた。
恐らくシグナムもそうであるように、彼らもまた吹き飛ばされた勢いでいくつもの木々を薙ぎ倒し、ようやっと止まる。
こんがらがった状態で、クーガーが心底呆れた様子で呟いた。
「劉ー鳳ー、確かに俺はお前の断罪の邪魔をしないとは言った。お前となら打ち砕けない壁なんぞないとも。
だがな、お前が正義の神髄を見付けてないってんなら話は別だ。そんなザマじゃあ、お前は俺の邪魔にしかならない……さっさと行って、さっさとお前の正義を見付けてこい」
「しかし! 目の前の悪を放ってなど――」
「即決即断! 行動はスピーディーに! 後悔先に立たずったぁ、昔の人も随分とうまいこと言ったもんだ。別にあの女の肩を持つ訳じゃないが、言ってることは必ずしも間違ってるわけじゃない。分かるな? 劉鳳。それより何より」
立ち上がったクーガーの唇の端が、不敵に吊り上がる。
「俺が――俺の速さが、あんな女に負けるはずがない。お前が奴を断罪するまでもない。だから心置きなく行ってこい」
彼に倣い、劉鳳もまた立ち上がる。手元に絶影を引き戻しながら。
こちらの返事を待たずに――いかにもクーガーらしいが――劉鳳にとって致命的な一言を突き付けてくる。
「今やらなきゃ手遅れになるかもしれないことが、あるんだろう?」
見抜かれていた。自分の動揺を。
「……すまん、クーガー」
絶影に飛び乗る。軽々と――とはとても言えない。
そして、いくら脚部限定とはいえども、クーガーも自分と同じように長時間に渡ってアルターを酷使している。
表には全く出さないが、消耗は決して少なくないはずだ。
しかし、彼がそこまで言うならば大丈夫だ。同じ志を背負い、HOLYで共に戦い抜いてきた仲間。なればこそ、大丈夫だと信じなければ。
正義。
それは、悪を断罪すること。その為ならばどんな犠牲も厭わない。
だが。
自己を犠牲にするだけでなく、他者を――それも本来ならば守るべき者達までをも犠牲にすることが、本当に正義と言えるのか。それはただの独りよがりで、正義とは程遠い代物なのではないか。
断罪すべき悪を全て断罪し。
守るべき者達を全て失って。
その果てに、何があるのか。正義と呼べるものは残っているのだろうか。
(ぶりぶりざえもんにも言われた。クーガーにも、そして断罪すべき悪であるあの女にまでも。俺が貫かねばならない正義とは――)
誰かが答えてくれるわけではない。
己で見定めるしかない。
「行くぞ! 絶影!」
そして、劉鳳は飛び立った。
己の正義を見定めるために。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……厄介払いは済んだか?」
背後から聞こえてきた声に、クーガーは振り返った。
そこには剣を提げた女が一人。
「劉鳳を背後から襲いでもするかと思ったんだが、意外と大人しいな」
「お前を放置してそんなことをすれば私が無事では済むまい。こちらとしては、奴が残ってくれた方が良かったのだが」
「奴の名誉のために言っておくが、劉鳳だって本当ならあんなもんじゃないさ。ただ、俺が知ってる奴と比べて、どうにも吹っ切れてない。あまりの不甲斐なさにみもりさんが泣くぞ。全くみもりさんを泣かせるとは許せん奴だ」
一度はHOLYを離脱し、世界の広きを知って己の正義を見定めたあの劉鳳と同一人物だとは、とても思えない。
「……そうだな、訂正しよう。確かに奴も強い。迷いさえなければ」
「随分と聞き分けがいいなぁ? シグナルさんよ」
「シグナムだ」
「でもって、お前は何を失ったんだ?」
「言っただろう。取り返しのつかないものを、だ」
察しは付いていた。シグナムのあの言葉は、劉鳳だけに告げられたものではない。むしろ彼女自身にこそ向けられた言葉だ。
目の前の敵を叩き潰すことにかまけ、そして取り返しのつかないものを失った。
(俺に言わせれば、結局は速さが足りないってことだ)
取り返しのつかないものを失う前に、目の前の敵を全て叩き潰せば、それで事足りていたはずだ。
もっとも、自分とて偉そうに人のことを言えたものではない。
己の速さが足りなかったばかりに、間に合わなかった。獅堂光の命は永遠に失われた。だからその言葉を口には出さなかった。出せなかった。
「お前に良く似た男を一人知っている」
「ほほーう! この俺のように加速の極致を求める男が他にも――」
「飄々とした、三枚目を気取った男だ。巫山戯たことばかりを抜かしていたな。奴は女子供を逃がして私の前に立ち塞がった。私は奴の挑発にいいように踊らされ、逆に追い詰められた」
「で、そいつはどうなった?」
何の気兼ねもなく続きを問う。問うのを憚る必要はない。問う必要があるからこそ即座に問うだけだ。
「死んだよ。私が殺した」
シグナムも即座に答える。答えるのを憚る必要がないのだろう。
「私は同じ過ちを繰り返した。お前が満身創痍だと思って油断した挙げ句がこれだ。今も隙だらけを装ってこちらの出方を伺っているのだろう?」
(……ちっ)
あくまで表には出さず、胸中で舌打ちする。
こちらを道化かポンコツかと思い込んで心のどこかで侮り続けてくれれば有り難かったのだが、どうやらもうそんな期待はできなさそうだ。
「取り返しのつかないものを取り返す。それがどういうことか、私には分かっていなかったようだ」
「取り返す、だと――」
「騎士の名も誇りもとうに捨てた。ヴィータと決別し、形見の服も捨て置いてきた。何もかもを捨てた――つもりになっていただけだった。
不意に問われれば騎士としての名を騙り、自分の勝手で為すべきことだと決心しておきながら主の為だと言い訳をする。半端な覚悟だ。惰弱だ。甘えだ。故に慢心を招き、自滅の危機を何度も味わった。今もその危機の中にいる」
もはや彼女が語りかけているのは自分ではない。どのような言葉を挟もうと無駄だと、クーガーは認める。
「今こそここに宣言しよう。私は覚悟を決めた。全てを捨てる。ここにいるのは、何でもない、ただのシグナムという一人の女だ」
その決意は、続く一言に全て集約されていた。
「私が求めるものは、たった一つ。他にはもう何もいらない」
シグナムは剣を横に構える。
話はこれで終わり。そういう彼女なりの意志表示なのだろう。
(ここに来て開き直りやがったか)
迷いは速さに直結する。
五感から情報を取り入れ、脳に伝え、分析し、判断し、行動を起こすための指令を各部に送り、実際に各部が動く。迷いがあればその全ての過程で遅れが生じる。先程の劉鳳のように。
逆に、迷いがないということは、その全ての過程を最速で行えるということだ。
シグナムはその領域に到達した。
だが、それは己も同じだ。臆する必要は全くない。
クーガーは息を吸い続けた。
それを一気に吐く為に。己の声を乗せて。
「いいか一度しか言わないからその耳かっぽじいてよく聞いておけ! 俺はお前の言うその男とは違う! まず俺は三枚目じゃない! 巫山戯たことは言っていない! お前に殺される気も全くない!
それにこうやってお前と戦う理由! ミオンさんとの約束であり兎に角お前をミオンさん達から遠ざけようという意図もあったがそれで全てというわけではない! 残りは――」
最後の一声を合図に、彼は一歩を踏み出した。
「――俺の速さがお前の全てを凌駕すると証明するためだぁぁぁぁ!」
同時にシグナムもこちらに飛び込んでくる。交錯と同時に蹴りを三発。一発目は剣に阻まれ、二発目はすんでのところでかわされ、三発目は攻勢に転じた彼女の一撃とぶつかり合った。
そして、お互いに弾け飛ぶ。
シグナムも長時間の戦闘で相当の疲労を負っているはずだが、それよりも遙かにこちらの消耗の方が大きい。元より残されているものはほとんどなかったのだ。
自分からして見れば、既に速度もかなり落ちている。
このような戦い方を続ければ、そう長くは保たないだろう。
だが、最速を証明できなければ、自分の存在に意味などない。
己にどれだけの力が残されているのか。
そんな面倒なことを考えるのはもう止めだ。
「シグナムよ! 確かにお前も速い! しかしどれだけ速かろうが失ったものを取り返せなどしない! むしろ取り返せないものがあるからこそ人は速さを求める!」
言葉を重ねるごとに、根拠のない力がみなぎっていく。
加速は止まらない。
彼女の剣撃がこちらの胴を薙ぐべく迫ってくる。しかし、剣の切っ先は服と表皮とを僅かに削り取っただけで通り過ぎていった。
「どんな攻撃も俺を捉え切れなければ意味がない! どんな回避も俺を避け切れなければ意味がない! どんな防御も俺より先に構えられなければ意味がない! そう! 俺は最速の男! 文化の神髄を見付けた男だ!」
そうだ。
自分は既に見付けていた。
そして、この地で再び見付けた。
これは一度通った道だ。終着点は近い。残された僅かな時間を紅茶でも飲みながらゆっくり過ごすのも悪くはなかったはずだ。
だが、今度はあえてその道を駆け抜けようとしている。ためらうことなく、より速く。願ったり叶ったりだ。まさに自分に相応しい。どんな代償を払おうとも構わない。
命を賭けるに値する。
己の信じるもの。
他にはもう何もいらない。
「瞬殺のぉぉぉぉ――」
クーガーは叫んだ。
「――ファイナル・ブリットォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
シグナムが最後に視認できたクーガーの姿は、まさに異形だった。彼の全身を包むのは鋭敏なフォルムの装甲。
そして一瞬でかき消える。
咆哮と同時に、衝撃が訪れた。
防御できたのではない。彼の攻撃が運良く騎士甲冑の厚い装甲にぶち当たってくれただけのことだ。受け流す余裕などは全くなく、吹き飛ばされた挙げ句、こうしてビルの壁面を豪快にぶち破る羽目になった。
その威力は先程までの攻撃の比ではなかったが、それでも致命傷には至っていない。辛うじて動ける。
だが、”辛うじて”ではここで終わる。
悶絶してのたうち回りたくなる衝動を完全に無視して、即座にペンダントの宝石に込められた魔力を解放した。クラールヴィントを通して、それは強力な癒しの力となる。宝石は呆気なく砕け散った。
それを惜しむ暇すらない。シグナムはすぐに立ち上がった。
どんな攻撃も、この男を捉え切れなければ意味がない。
どんな回避も、この男を避け切れなければ意味がない。
どんな防御も、この男より先に構えられなければ意味がない。
ついでに言えば、逃げることも。この男から逃げ切れなければ意味はない。
(ならば――為すべきことは一つ!)
この期に及んでクーガーが防御に回るとは思えない。まず間違いなく、攻撃を仕掛けてくるだろう。先程と同等か、あるいはそれ以上の一撃を。
剣に生きてきた者としての本能が告げるは、生き残るための最善策。
その攻撃に対し、攻撃を以て応える。
求められるのは威力ではない。速度だ。
それでもなお、まず間違いなく、こちらの攻撃が相手に届くより先に、相手の攻撃がこちらに届く。だが、自分には主から賜った騎士甲冑がある。
外道の戦術を取ってきた自分がどうしようもない窮地に陥って選ぶのが、何の小細工もない真っ向勝負。何とも皮肉な話である。
結局のところ、自分にできるのはせいぜい剣を振り回すことだけなのだ。
そう、剣を振り回すことだけだからこそ。
(奴が己の速さを信じるように、私はそれをこそ信じよう!)
自分の身体が空けた穴から、ビルの外に飛び出した。
月に照らされたクーガーの姿を認める。
彼はまだ動かない。
両腕をだらりと伸ばし、ただそこに突っ立っている。未だ動き出さないことに全く意味はない。彼の速度はこちらの知覚の限界をあっさりと超えてしまうのだから。
距離が詰まる。
決着の瞬間が迫る。
僅か一挙動で相手に致命の一撃を与えられる間合い。
そして、シグナムの剣は、クーガーを貫かなかった。
「……そうか。そういうことか」
シグナムは構えを解き、剣を引いた。
クーガーの全身を覆っていた装甲が、まるで水に溶ける雪のように消えていく。全ての装甲が消えた時、彼のサングラスが地面に落ちた。
クーガーは立ち尽くしていた。顔は伏せられ、その表情を伺うことはできない。
身動ぎ一つない。
あるはずがない。
彼はもう死んでいるのだから。
彼の能力が魔法に通じるものではないとは気付いていた。同時に、身体に多大な負担を強いるということも。
少なくとも魔力を媒介とはしていない。
では、何を媒介としていたのか。
クーガーは己の命そのものを媒介としていたのだ。全身を酷使しつつ、かつ命という最も単純なエネルギーを速さに変換していた。
そして、残された全てを賭けて全身全霊の一撃を放った。たとえ本来の威力、いや速さには遠く及ばなかったとしても。それですらあの速さだった。
もし万全の状態から、あの一撃が放たれていたならば――
(ぞっとする話だ)
――きっと自分なぞ粉々に吹き飛ばされていたに違いない。
劉鳳が戻ってくる可能性も十分にある。今彼の相手をするのは避けたい。それに休息も必要だ。一刻も早くこの場を離れておかねばならない。
感慨に耽る時間はない。
勝利の余韻に至っては、それそのものが存在しない。
「まさか私やテスタロッサの速さを――私の全てを凌駕する速さを持つ男がいようとは、夢にも思っていなかった」
クーガーは勝った。そして逝った。
己は負けて、こうして無様に生き残っている。
それでもいい。勝とうが負けようが、生き残れさえすれば。それ以上を望むのは不相応というものだ。
「認めよう。確かに、お前は最速の男だ――最速の男”だった”」
【E-6/夜中】
【劉鳳@スクライド】
[状態]:疲労中/全身に中程度の負傷(手当て済)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ/支給品一式(-2食)/斬鉄剣/SOS団腕章『団長』
真紅似のビスクドール/ローザミスティカ(真紅)
[思考]
基本:自分の正義を貫く。正義とは何かを見定める。
1 :ぶりぶりざえもん達と合流し、彼らを守る。
2 :病院へと戻り、怪我を負った少年を助ける。
3 :悪を断罪する。(※現在確認している断罪対象)
※アーカード、長門有希を騙った朝倉涼子、ウォルターを殺した犯人。
シグナムの断罪についてはクーガーを信じて任せました。
4 :ゲームに乗っていない人達を保護し、ここから開放する。
5 :機会があればホテルに向かう。
[備考]
※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。
※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。
※朝倉涼子については名前(偽名でなく本名)を知りません。
【G-7/真夜中】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労大/脇腹他、全身に打撲(一応処置済)/騎士甲冑装備
[装備]:獅堂光の剣@魔法騎士レイアース
クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはA's
鳳凰寺風の弓@魔法騎士レイアース(矢18本)
コルトガバメント(残弾7/7)
[道具]:支給品一式×3(食料一食分消費)、スタングレネード×3、ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night
トウカの日本刀@うたわれるもの、ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾6/15)
[思考・状況]
1 :戦闘現場から離れ、身を隠して回復に徹する。
2 :無理をせず、殺せる時に殺せる者を確実に殺す。
基本:自分の安全=生き残ることを最優先。
最終:優勝して願いを叶える。
[備考]
※放送で告げられた通り八神はやては死亡している、と判断しています。
ただし「ギガゾンビが騎士と主との繋がりを断ち、騎士を独立させている」
という説はあくまでシグナムの推測です。真相は不明。
※第二回放送を聞き逃しました(禁止エリアE-4については把握)。
※シグナムは『”人”ではない』ので、獅堂光の剣を持っても燃えません。
※劉鳳を極めて強力な戦闘能力の持ち主だと認識しています。
※中途半端に抱えていた騎士の名も思いも全て捨て、覚悟を決めました。
相見えた者の外見・強弱・負傷の程度などに惑わされず、生き残るために最善を尽くします。
【ストレイト・クーガー@スクライド 死亡】
[残り35人]
※ストレイト・クーガーの遺体は、F-7に立ち尽くしたまま放置されています。
綺麗な、そして作られた夜空の下。
セイバーはのんびりと、満月を眺めながら寝転がっていた。
「ふぅ……」
漏らした息に苦しげな様子は無い。
その体に付けられていた傷は、既に半分ほどが塞がっている。
元々セイバー自身に備わった治癒能力に、アヴァロンの自然治癒。その二つの恩恵だ。
本来ならば、鞘を持ったセイバーは吸血鬼と同等かそれ以上の再生力を誇る。
身体能力を始めとしてサーヴァントには様々な制限が掛かっているこの場さえも、常人より遥かに高い治癒力を発揮できるのだ。
「…………」
何事も言わず、セイバーはゆっくりと鞘を持ち上げる。月へとかざすように。
この二時間、彼女は特に肩と腕の治療に重点を置いていた。
銃創も塞がり、鞘を振るのに支障は無い。魔力もそれなりに回復している。
『約束された勝利の剣』ならともかく、風王結界程度なら使用に何の問題も無い。
このような回復をしたのは、訳がある。
「…………全く」
セイバーはちらりと岸の彼方を見ていた。溜め息と共に。
そこには、同じようにのんびりと寝転がっている小次郎がいる。
剣を持っていないことを示せば諦めてどこかへ行くかと思ったのだが、そんな様子は全く無い。
それどころか自分の剣技を見せつけ始め、終えた後もそこに残った挙句セイバーと同じように地面に寝転がりだす始末。
どうやらのんびりとセイバーがどうするか眺めるつもりらしい。
現代日本ではストーカーと表現するのでしたか、とはセイバーの愚痴である。
「本来は放送まで休むつもりでしたが……」
溜め息を吐きながらセイバーは立ち上がった。
放送まであと一時間も無い。予定より少し早いが、休息は十分取れた。
それに、セイバーは一騎討ちを挑まれて退くようなタイプでもない。
「いいでしょう。ここで、片を付けます」
■
「……見事な月だ。例え作り物であろうと、その美しさは変わらぬ」
佐々木小次郎はそう、ゆっくりと気だるげに呟いていた。
寝転がったその姿勢とは正反対に、残った片腕はまるで月を掴もうとするかのように天へと伸ばされている。
……否。事実、かつては掴もうと伸ばされていたのだ。その腕は。
「……あの月もまた斬れようか、などと思ったこともあったものよ」
くっくっ、と喉が音を漏らす。その瞳は細く鋭く、遠い過去を懐かしむように。
言うまでも無くそんな事は叶わなかったし、彼もやめた。
もっとも無理だと分かったからではなく、そんなことをすれば趣が無くなるからである。
彼はそういう男であった。
「だが、落胆などせぬ。
今、それに比するモノを斬れるのだから」
不敵な笑みを浮かべながら、小次郎は立ち上がる。
彼の目前には、水の上を歩いてくるセイバーの姿。彼にとって、これほど嬉しいことはない。
しばらくのんびりと眺めていた彼だったが、数間ほどの距離までセイバーが歩いてきたところで口を開いた。
「ふむ、そのような特技もあったか。
化仏か、それとも何かの権現の加護でも受けているのか?」
「……私の真名を知っている割にはアーサー王伝説に疎いのですね。
私に聖剣を授けたのは湖の精霊。つまり、私は湖の精霊に守られているということ」
「それはすまぬな。
私の召還者は死合いに絡むことしか説明せなんだ。
それに……私も、それにしか興味が無い」
にやりと小次郎が笑みを浮かべる。だがその笑みは、空気を張り詰めさせる類のものだ。
顔こそ優男のそれだが、少しでも心得があるものならば気付くだろう。
その表情から発せられるは、獣さえも寄り付かぬ鋭き剣気。
だがセイバーはそれをいとも易々と受け流しながら言葉を返していく。
「よくもまあ言う物です。
露骨に剣技を見せていたその様――誘っているのは明らかだ」
「別に誘っているわけではなかったのだがな?
私は以前戦った覚えがしっかりとあるが、そなたは私と会ったことさえ無いと言う。
故に、私だけが相手の剣を知っていることになる。それは死合うのに不公平であろう。
――それよりも、傷は問題ないか」
「……隻腕の貴方に言われたくはありませんが。
アーサー王伝説に曰く、聖剣の鞘を持った騎士王は血を流すことはなく。
そして、鞘を失ってからその王国の崩壊は始まった。そういうことです」
「成程、自然治癒か。便利なものよ」
「ええ。
そして伝承の通り――鞘があるならば私に負けは無い」
「ふむ。だが剣は無い様だが……む」
肝心の得物がないだろう……そう指摘した小次郎の口は、光を透過し始めた鞘によって縫い止められていた。
憮然としながらセイバーは小次郎から少し離れた岸へと上がり、言葉と共に腕を振り上げる。
横にあった街灯へ向けて。
「侮らないでいただきたい」
鈍い金属音、そしてそれに続く破壊音に小次郎の顔が喜色に染まる。
その視線の先にあるのは不可視の剣によって両断され倒れた街灯である。
断ったのは風王結界――アヴァロンに風を纏わせ剣と成した物。
元が元のためエクスカリバーには大きく劣るが……それでも剣としては十分だ。
「成程、ただ剣を隠す為だけの鞘では無かったか」
「この風はただの鞘ではない。切れ味を増す効果もある。
少なくとも、人一人斬るのに差し障りの無い程度の威力は保証しましょう」
「それは重畳。そのような使い方もあったとはな」
小次郎が竜殺しの名を冠する大剣を持ち上げる。
時は満ちた。空に浮かぶ月と同じように。
一陣、旋風が吹いた。まるで場の空気に耐え切れず、怯えたかのように。
その中で、セイバーは高々と腕を掲げ名乗りをあげた。
「我が名はアーサー・ペンドラゴン。セイバーのサーヴァントにして、ブリテンの騎士王。
剣舞を始める前に今一度この名を名乗り、そして御身の名を問おう」
「――ふ、今宵は先に言ってきたか。よかろう。
アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。剣しか取り得の無い、つまらぬ男だ。
もっとも――」
ゆったりと、流れるような口調で名乗り返す小次郎。
しかし、着々とその剣は持ち上がっていく。
「名など関係ない。
我らに求められるは、ただ剣のみ――違うか、セイバーのサーヴァント?」
「――同意します。ならば」
答えるセイバーの鎧が鳴る。
ほんの微かな音だが――死合う合図としては大きすぎる物。故に――
「ここで倒れる覚悟もあるか、アサシンのサーヴァントよ――!!!」
その瞬間、セイバーは烈風と化した。
■
得物は不出来。だが扱い手は最優。
使い手は隻腕。しかし得物は大業物。
最速の剣舞が荒れ狂う。おそらく、常人には視認することさえ不可能だろう。
両者の剣は人を斬り払い断ち貫くに足る威力。だがその剣は未だ微塵も両者に傷を付けていない。
それも自然。二人の剣は必殺のみを狙った物。傷が付くときが戦いの終局である。
秒さえ待たずに十を軽く超える剣撃が奔り、交差する。
互いの剣が届くのは互いの剣がぶつかり合う所まで。
拮抗した技と力は、ほんの僅かな傾きさえ戦況と言う天秤に与えはしない。
「チィ――」
舌打ちしたセイバーが烈しい気合と共に鞘を叩き付けた。
鞘が纏う暴風は龍と化し、竜殺しの名を冠する鉄とぶつかり合う。
風が小次郎に届くことはない。そのことに猛り狂ったかのように、
叩きつけられた鞘が地面を沈ませる――そう、セイバーではなく、小次郎の足元を、だ。
「――ふむ」
割れた地面に引き摺られるように小次郎の躯が沈む。
沈んだのはほんの数センチ。だがこの剣舞の場において、足場の乱れは致命的。
それでもなお、彼は笑いながら左より迫り来る鞘を迎撃する。
横薙ぎに振るわれた一撃は、沈みかけていた小次郎を易々と浮かばせる。
だが、セイバーの鞘に手ごたえはない。それもまた当然。
小次郎は衝撃に身を任せ、自ら跳んで間合いを外していた。
「――まさかな。剣の重量差を無視するほどの力とは思わなんだ。
受け流すことを主体とする我が邪剣では気付かなかったが」
「一度も私の剣を――不可視である剣をまともに受けずに戦い抜いた、と?」
「一度まともに受けたが、物干し竿はそれだけで曲がってしまってな。
剛剣中の剛剣とは分かれど、どれほどの差があるかまでは測っておらぬ。
――否、そのような余裕など無かった」
小次郎の表情は相変わらずだ。飄々とした、殺意も何もかも流すかのような笑み。
それはまるで、彼の剣を表すかごとき顔である。
そのままゆらり、と柳のようにその大剣を持ち上げ。
「――おかげで、剛剣とはいかなるものかとよい手本になる」
騎士王の剣技は模倣できると、最期まで野に生きた剣士は言い切った。
「見せてもらいましょう」
「言われずとも」
それだけ言うと共に、セイバーは一瞬で小次郎の視界から消えていた。
小次郎は目視さえせず、あまつさえ月を眺めたまま後ろへ剣を舞わす。
結果は見るまでも無い。金属音が攻撃と防御の可否を伝えている。
そのまま慣性に身を任せて小次郎はセイバーへと向き直り、その手を反転させた。
その様、まるで持っている大剣に引き寄せられたかのよう。
「……おかしな剣技を使う」
「当然。隻腕になってから思いついた急場の物だ」
翻された小次郎の手首が大剣を返す。竜殺しに相応しい勢いを乗せて。
防御したにも関わらず、小柄のセイバーは後ろにずらされていく。
距離が離れたとはいえ彼女に安穏とする余裕などない。
まるで駒のように小次郎は回転しながら、勢いのままに――いや、勢いを倍化させて一歩を踏み出す。
風のようになどという形容詞は通用しない。その様――最早風よりも速い!
「くぅ……!」
竜殺しが奔る。龍の首を刈り取るべく。
セイバーに考えている余裕など無い。息を吐きながら反射と身に染み付いた技で以って迎撃する。
小次郎が繰り出すは面、逆袈裟、胴、袈裟。必殺と呼ぶべき勢いを乗せた四連撃。
頭部を断たんとする一撃を流し、上半身を切り離す斬撃は力で以って防御。
腹から脊髄を狙う凶器を突きで逸らし、心臓を狙う剣を寸前で避けきり反撃へ移る――刹那。
袈裟への攻撃を防がれたと見るや、ほんの一瞬、僅かな動作で小次郎は首へと五撃目を繰り出す――!
反撃を狙ったはずのセイバーの剣は筋を変え、大剣を間一髪のところで受け止めた。
鍔迫り合いにはならない。いや、なりようがない。
衝突した瞬間には既に大剣は違う部位を狙わんとして飛んでいる。
何かに当たろうと当たるまいと関係が無い。小次郎の大剣は留まることを知らない。
それは柳枝の極み。清流のごとき剣はいとも簡単に次の攻撃へと移り、濁流のごとく相手を飲み込まんとする。
そして柔だけではない――剛もまた、その剣筋は内包している。
かの大英雄、ヘラクレスとさえ打ち合えるセイバーが吹き飛ばされたのがその証拠である。
(これが我が剣を模倣した結果とでも言うわけか……
だが、違う! あくまでこれは私の剣を参考にしているに過ぎない)
金属音を立てて防御しながらも、セイバーは思考する。
周囲の万物が――空気さえもが吹き飛ばされるのは気にも留めない。
首を刎ねんと迫る大剣を幾度も跳ね返しながらも、その頭は冷静に論理を組み立てる。
(少なくとも筋力では私の方が上。それは確かだ。
私ならわざわざ妙な剣技など扱わずとも、あのような大剣片手で振り回せる)
考えつつも、鞘で大剣を受け止めて流す。脇にあった電信柱が粉砕された。
わざわざ見せ付けてきたどこか妙な鍛錬。最初は寧ろセイバーの方が押していたのに、逆転しつつある剣速。押されている鞘。
様々な要素をセイバーの脳裏を駆ける。
しかし。
「――考え事とは余裕だな」
「っ!!!」
小次郎の声が飛ぶ。
同時に、竜殺しがセイバーの髪を数本撒き散らしながら掠めていく。
文字通りの、間一髪。だからこそ、それは思考をも断つ。
更にコンマ1秒さえ置かず、心臓への返しの一撃――!
結果を示したのは、火花――アヴァロンに纏わせた風王結界は突破されていた。
(腕の回復を優先したのは正解だった。闘いの最中で傷が開かれては困る)
意識のうち9を戦闘に集中させつつも、残りの1でセイバーは打開策を模索する。
彼女に備わった直感を頼りに、セイバーは鞘を大剣にぶつけて逸らす。
左、右斜め下、真上、1秒の間に火花がかち合う。風王結界が斬られ、霧散する。
だが小次郎の大剣は衰えるどころか、いよいよ加速していく。
歯を噛み締めてセイバーは後ろに跳ぶ。しかしそれさえ無駄。
小次郎は剣を回した勢いを利用し、体の向きを変え加速。そのまま神速の一歩。
そのまま駒のように回転し、更に――
(――駒の、ように)
セイバーの脳裏に、一つの言葉が雷のように走り出す。
そう、駒だ。回転する駒。そして、回転する物の周りには何が働く?
(遠心力か!)
小次郎の剣を受け流しながらも、セイバーはついにその結論に達した。
小次郎は「流す」達人である。その本来の剣は切っ先で相手の剣筋を逸らし、避けるか受け流すというもの。
そして今の彼はその技術を、自身の体に利用したのだ。
相手から受ける衝撃だけではない。自分自身の勢いをも上手く流す、柔の極み。
その勢いを上手く流し、竜殺しという大剣を伝え、動かす。
そしてその勢いを上手く制御し、逆に加速するための動力源にして体を動かす。それが今の小次郎の剣。
故に戦いが長引けば長引くほど、セイバーが接近を試みれば試みるほど、小次郎が剣舞は苛烈を極めていく。
もはや剣を振り回しているのでも剣に振り回されているのでもない。
小次郎の腕が大剣を導き、大剣が小次郎の躯を導く。
蒼い光に刀身を光らせ舞うその様――まるで月光蝶。
「ふむ、こうしてみれば意外と手に馴染む」
「……くっ!」
腕だけでなく全身を動かしながらも、小次郎の顔は好奇心に溢れている。
まるで、新たな玩具を得た子供のように。彼にとって、この玩具とは新たな剣技だ。
草が千切れ飛ぶ。石が弾ける。アスファルトが抉られる。風が吹き荒れる。
いよいよ小次郎の剣は激しさを増し、剣圧だけで周囲のものを吹き飛ばしていく。
だが種が割れた以上、セイバーも黙っているわけではない。
■
(……風の強さが増した?)
剣を振りながら、ふと小次郎は眉を釣り上げていた。
セイバーが作り出した風の剣、一時は弱まっていたはずのそれ。その力が増して来ているのだ。
(構わぬ。策があるというならばそれでよし。
それごと斬って捨てるまで)
そうほくそ笑み、小次郎は剣を加速させる。体をいなし、引き絞り、反動や隙を攻撃のための活力とする。
本来なら在り得ない技術。もっとも、「一本の剣を三本に増やす」などというものに比べればよほど現実的だろう。
今までの中でも最高速の斬撃を小次郎はセイバーへと振り上げ――
瞬間、セイバーの鎧が消えた。
「何ッ!?」
「風王結界!」
セイバーが叫ぶと同時に、突風が吹き荒れた。但し、セイバーへ向けて、だ。
突風は小柄なセイバーの体を易々と吹き飛ばし、そのまま彼女は道路脇の電信柱の側へと着地した。
いくら小次郎と言えど、追いきれないほどの距離だ。
そしてそうなれば自然、小次郎は剣を――勢いを止めざるを得なくなる。
「――成程。そう意趣返しをしてくるか」
「勢いに乗った貴方を止めるのは難しい。
ならば、一度離れて止めさせればよい。簡単な理屈です。
もっとも持っている得物の長さの差がある以上、一度斬り合いを始めれば離脱するのは難しいことですが……
このように、できないわけでは、ない」
満月の中、再び鎧を再構成しながらセイバーは告げていく。小次郎の剣の弱点を。
その言葉に小次郎もほくそ笑んでいた。そうでなければ張り合いが無いと言わんばかりに。
「ふむ。だが逃げてばかりでは勝てんぞ、セイバーよ」
「ええ、貴方の言う通りだ」
同時に、セイバーの腕が奔る。月光が照らす十数閃。
それは彼女の脇にあった電信柱を易々と砕き、一本の尖った長い棒を斬り出した。
長さはセイバーの身長を上回り、太さは彼女が持っている鞘にちょうど納まりそうなサイズに調節されている。
何の神秘も無く切れ味も碌にないであろうそれをセイバーは拾い上げ、魔術も使用して鞘にしっかりと固定した。
「何のつもりだ?」
「あいにく、私は『剣士』ではなく『騎士』だ」
小次郎の眉が吊りあがる。その目はセイバーしか見ていない。無残にも倒れていく電信柱など完全に意識の外だ。
それを無視するかのように、セイバーは腰だめに片手を先端である鞘に、もう一つの手を後ろ側である棒に添えた。
その構え――まさしく槍兵のものである。
同時に、鞘は再び風王結界を纏い切れ味を帯びていく……鞘だけが。
刃を先端だけに生み出したそれは、紛れも無く槍を模したもの。
「何の遊戯だ、『セイバー』?
その名が冠する意味、忘れたとでも言うのか?」
「遊戯かどうかは、受けてみてから判断するがいい」
それが合図。
だん、と踏みしめる音とともに、セイバーが立っていたアスファルトが砕けた。
足場を砕くほど踏み込んだ跳躍はまるで銃弾。
竜殺しで受けた小次郎は、その剣ごと吹き飛ばされながらも衝撃をいなし、返す。
そのまま勢いを付けて反撃を行う――しかし、彼の戦法は、既に崩されていた。
(……間合いが変わったか!)
小次郎の目が見開かれる。
セイバーは、既に引いていた。小次郎の攻撃範囲の外へ。
華麗なまでのヒット・アンド・アウェイ。
先ほど得物、剣だったならば成り立たない。多少の後退は小次郎の鋭い踏み込みの前に無意味と化すからだ。
だが今はリーチが違う。剣よりも長い間合いが、離脱を容易に可能とする。
それでも、平時の小次郎ならば例え槍でもあっさりと追撃できただろう。
しかし隻腕、慣れぬ大剣と言うツケはここにも出る――
勢いを付けてしまった腕は止まらない。竜殺しは、むなしく空を斬る。
そのまま二撃目を加えることもなく咄嗟に小次郎は後ろに跳び、間合いを外していた……いや、外させられていた。
一瞬前まで彼がいた場所には渦を巻いた暴風が土を巻き上げ……
その蒼い髪が数本、うっすらと夜風に吹かれて宙に漂っている。
「ロンゴミアント、という槍を知っているか」
セイバーは追撃せずに、鞘に風を纏わせたまま口を開く。
贋物の『ランス』を構えたままで。
「アーサー王伝説を紐解けば分かるはずだ。
騎士である以上、私の得物は剣だけではない――
モードレッドを討ち取った聖槍ロン。それもまた我が武器の一つ。
宝具と呼ぶには遠いものだが――それでも、私が槍を扱ったことには変わりない」
故に、我が得物は剣だけにあらず。
風の槍に殺気と周囲から吸い上げた魔力を纏わせて、セイバーはそう告げる。
生半可な者ならそれに中てられるだけで縛り付けられるであろう、尋常ではない空気。
しかし臆することなく、あまつさえ笑みを浮かべながら小次郎はセイバーの槍を評し始めた。
「ふむ……成程、確かに野武士や凡愚の類は及びも付かぬか。
だが、『ランサー』と言うには遅すぎるな。クー・フーリンとやらはもっと速かったぞ?」
「――なるほど、貴方はアイルランドの光の皇子と戦ったことがあるのか。
ならばその感想もまた当然だ。我が剣に比べれば所詮小手先の技術に過ぎない。
私が当てはまるクラスはあくまで『セイバー』の一つのみ。
貴方が万全ならば一瞬で斬り捨てられていよう……万全ならば。
だが今の貴方の剣は、本調子となるまでにはある程度振り回し勢いを付ける必要がある。
故に、間合いの長さから離脱しやすい槍こそが今の貴方の弱点だ。
貴方の剣はエンジンのかかりが遅い自動車のようなもの。
勢いが付いていない段階なら、私程度の槍でも何とかなる」
セイバーの言葉に、小次郎は柳眉を吊り上げた。
隻腕の相手には槍でも十分である、そう剣士は告げたのだ。
……これほど屈辱的なことは無い。
「舐められたものだ」
小次郎はドン、と竜殺しを地に叩き付け。
巨大な剣は地面を揺らし……刹那。
「そもそもその兜が気に喰わん。
せっかくの美貌、そのように隠しては意味があるまい?」
セイバーの兜に亀裂が走り、地に落ちる。
思わずセイバーは息を呑む。今の一瞬のうちに斬られたというわけでは当然ない。
無論、兜は地面を揺らされた程度で割れ落ちるものでもない。
答えは一つ――先ほどの一瞬の交錯の中、セイバーさえ気付かぬうちに兜を断っていたのだ。
「…………ッ」
セイバーは歯を噛み締めながらも、槍を構え直す。
それを一瞥して、小次郎が前進する。
セイバーの今の得物のリーチは竜殺しよりやや上。だからこそ、セイバーは打って出ない。
彼女の得物の弱点は柄。ただの棒切れなど、竜殺しの前では紙切れに等しい。
故に、まともにぶつけ合えるのは先端部分の鞘のみなのだ。
柄を使った薙ぎ払いが出来ない以上、懐に潜り込まれれば負けるのは彼女。
だからこそ迎撃に徹し飛び込んでくる相手を迎え打つ――定石である。
「その程度では、私は止められん」
しかし、小次郎はそう告げた。そして、この言葉は決して虚勢などではない。
セイバーの返答は高速の打突。心臓と脳漿、この二点を狙う打突を小次郎は瞬時に流し、避けながらも足を踏み出す。
……踏み出せた距離はほんの僅かに過ぎないが。
彼が足を踏み出した時には、既にセイバーが槍を返している。次は穂先による薙ぎ払い。
それを弾き、小次郎は再び僅かに前進する。
セイバーの槍が風を切る。その刃は文字通り風と一体化していた。
ただでさえ刃の部分が不可視なのだ、常人ならば反応さえできはしまい。
それを小次郎は防ぎ、それどころか前進している。
顔面へと奔る突きを避け、腹部を狙った一撃をいなし、首を刎ねんとする払いを防ぐ。
セイバーが後退しようとする。だが遅い。
ここで引かれれば竜殺しを以ってしてもセイバーを斬ることはできないが、得物を断つことは十二分に可能。
槍の柄というには貧相な棒を断とうと大剣を振り上げた小次郎は。
槍の柄が消えた……いや、見えなくなっているのを見た。
「なに!?」
「そこぉ!」
セイバーが見えなくなった柄で薙ぎ払いを仕掛けたのと、小次郎が飛び退いたのは全くの同時。
小次郎の衣服の一部が舞い散る。もし飛び退いていなければ……柄が纏った風王結界によって体を両断されていただろう。
機を逃すまいとセイバーが前進する。
一息も吐かせずに繰り出した一撃に、小次郎の体勢が崩されていく。
先ほど後退の素振りを見せたのはフェイントだ。小次郎に勝利を確信させるための。
風王結界を槍全体に纏わせることは難しいことではない。むしろ容易いことだ。
それを敢えてしなかったのは、できないと思い込ませるため。
懐へ潜り込ませて油断させ、風王結界で切れ味を増させた柄で薙ぎ払う。
柄というには貧弱すぎる棒。セイバーの力では、こんな棒で殴ったところで有効打になるどころか棒が折れる。
しかし、風王結界を纏わせればそんなものでさえ凶器と化すのだ。
セイバーの追撃は終わらない。小次郎には体勢を直す暇さえない。
どこか仰け反ったような姿勢で足を後退させながら大剣を受けるのが限界だ。
瞳へと突きつけられた一撃が小次郎の眉を掠める。
臓腑を抉らんとする追撃が服を切り裂いていく。
脊髄ごと両断させる薙ぎ払いはその寸前でやっと竜殺しに止められた。
小次郎からの反撃は無い。明らかにセイバーが押している。
しかし、彼女の直感は警報を鳴らしていた。
(また加速し出している……!)
ギリ、と歯を噛み締めたのはセイバー。
体勢は崩れ防御で手一杯。そんな状況でさえ、小次郎は勢いを流し調節することを忘れない。
遠心力を活かした剣技は、再び小次郎の体を、大剣を加速させている。
これ以上長引かせれば攻めあぐねる……速さに乗り出す前に仕留める!
そう確信したからこそ、彼女は大きく振りかぶり。
「はぁっ!!!」
「ぬう……!」
次の一撃は、渾身の一手を繰り出した。魔力を今まで以上に放出し、噴射する――!
風が吹き荒れる。セイバーの前髪が吹き上がり、穂先が当たってもいない地面を抉るほどの一撃。
それを大剣で受けた小次郎はいとも簡単に吹き飛ばされ、体勢を崩す。
セイバーはとどめを刺すべく前進し……
突如脳裏に走った悪寒に、足を止めた。
「秘剣――」
小次郎の呟く声が、セイバーの悪寒を増大させる。
そう、小次郎の体勢は崩れたのではない。
渾身の一撃を受け流し、活かし、衝撃を溜めるためにその身を引き絞ったのだ。
まるでバネのごとく、今までの勢いを全て凝縮するかのように。
そして、限界まで圧縮されたバネは。
「――燕返し!!!」
失われた片方の腕を代用するまでの勢いを、大剣に与えるのだ。
剣が「二つ」走る。完全同時の二連撃。
今回吹き飛ばされたのはセイバーの方だった。
かろうじて体勢は保ったものの、土煙を上げながら後退する。
「ほう――防いだか」
表情を変えることなく、小次郎は呟く。
セイバーの得物はいつのまにか二刀へと変わっていた。
あの一瞬のうちに素早く鞘と棒を分離させ、二つの剣を同時に受けたのだ。
もっとも、棒の方は竜殺しに耐え切れず半分にへし折れていたが。
「……馬鹿な」
小次郎とは正反対に、セイバーの顔は驚愕に染まっていた。防いだにも関わらず。
かつてと同じか――そのことににやりとした小次郎は、
ほんの些細な好奇心からかつてと同じように説明してやろうと思い立った。
「燕は大気の振るえを感じ取り飛ぶ方向を変える――ならば逃げ道を囲めばよい。
一の太刀で燕を襲い、避ける燕を二の太刀で取り囲む。
しかし連中は素早い。事を成したければ、一息で剣を振るわなくてはならぬ」
気だるげに、月を眺めながら小次郎は語る。
一の太刀は、頭上から股下までを断つ縦軸。
二の太刀は、一の太刀を回避する対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡。
それを以って、いかなる者も逃がさぬ剣技と成す。
それが小次郎が秘剣、燕返し。
「今の剣はそんな簡単なものではない――あの瞬間、貴方の剣は二本あった。
多重次元屈折現象(キシュア・ゼルリッチ)。
何の魔術も持たず宝具も無く――ただ剣技だけで魔法の域に」
多少の差異はあるものの、セイバーの反論はかつてと、そして未来と同じものだった。
そのことににやりと笑いながらも、小次郎は続けていく。
「だがまだ私は未熟――この剣を使いこなせてはおらぬ。
燕返しの軌跡は本来三つ。
出すのが遅れるどころか、三の太刀を振ることさえできぬといううつけぶりよ。
しかも――限界まで勢いを付けた状態でしか放てぬと来ている」
「なるほど。私の一撃の衝撃を上手く流して自分の攻撃に転用したと言うわけですか」
そう、二つでは燕返しは不完全。三の太刀、左右への離脱を阻む払いが無くてはならない。
事実、先ほどの燕返しが完全同時の三連撃ならばセイバーの体は両断されていただろう。
しかしそんなことを残念がる様子も無く、小次郎はゆったりと声を掛けていく。
まるで雑談をするかのように……いや、その様子は真実ただの雑談に過ぎなかった。
「私としては、いくら衝撃を加えても抜けぬのに先ほどはあっさりと抜けたその棒が気になるのだがな?
私がこうして原理を教えたのだ、そなたは話す気はないのか?」
「……何のつもりです」
「純粋な興味よ。もっとも、聞かせる気がないのならそれでよい。
理屈がどうであろうと結果が変わるわけでもあるまい」
「……いいでしょう。
単純な話です。鞘の内部の気圧を風王結界でコントロールしています。
衝撃で抜けることは早々ありませんが、私が抜き放つことは自由にできます」
「なるほど……まるで宮本武蔵だな、セイバーよ?」
「?」
「伝承に曰く、宮本武蔵は決戦場に遅れてやってきた。
曰く、宮本武蔵は二刀流の使い手である。
曰く、宮本武蔵は船の櫂(かい)を削り物干し竿よりも長い木刀を持ち戦った――
恐らく容姿は全く違ったのであろうが、それでもこの場はまさしく巌流島の決戦に比するべきものなのであろうな」
遠い昔を懐かしむかのように、小次郎は語る。
しかし、セイバーは小次郎の言葉に怪訝な表情になっていた。
彼が本物の佐々木小次郎ならば、この言い方は明らかにおかしい。
本物、ならば。
「……であろう? まるで人事のような口ぶりですね、小次郎とやら」
「アサシンでよい。所詮偽りの名だ」
「偽り?」
彼の答えは自らを偽者と告げるものだった。
その言葉に眉を上げたセイバーへ、剣士はまるで下らない話でもしているかのように朗々と続けていく。
そう――過去にセイバーに告げたように。
将来、セイバーに言うように。
「そう驚くことでもなかろう。
佐々木小次郎というものはな、もともと存在しない剣豪なのだ」
「架空の、英霊――ですが、貴方は」
「そう、アサシンだ。アサシンというサーヴァント、それを演じるためだけに違反者――
キャスターの英霊、魔女メディアが呼び出した亡霊が私というだけの話。
私はただ、伝承にある佐々木小次郎という役柄を演じることができる――
燕返しを使えるという一点で呼び出された、『佐々木小次郎』という名を架せられた無名の剣士。
――そら、意味など初めから無いだろう?
たとえいかなる偉業を成したところで、報酬は“佐々木小次郎”には残らぬ。無である私にとって、あらゆる事は無意味だ。
この身は自分すら定かではない。アサシンという役柄を演じるだけの、ある人物の虚像にすぎん」
風が流れる。佐々木小次郎の――アサシンの髪が靡く。大剣が揺れる。
その気配は一言で表すならば、幽玄。決して世界には在り得ぬ存在。
「――――だが。
その私にも唯一意味があるとすれば、それは今、この戦いこそが――」
視線を真上へと向け、遠い月を悠然と眺めながらアサシンは言う。まるで、思いを馳せるように。
そう。
佐々木小次郎の名を被っただけの亡霊に、もし願いがあったとすれば。
「――我が望み!」
――かつて佐々木小次郎(ホンモノ)が戦ったような剣士との死合いを、夢見ていたのではなかったか。
顔を下ろしたアサシンが跳ぶ。言葉よりも早く。大剣が奔る。音より鋭く。
満月夜に響くは、もう何度も繰り返された高き金属音。
折れた棒を再び収め短槍と化した鞘が、寸前でそれを止めていた。
互いの得物越しに、セイバーと小次郎の視線がかち合う。
先ほどまでの様子が嘘のように、小次郎の目は鋭く尖っていた。
「あの時の問いをもう一度問おう。
むしろ解せんのはお前だ、セイバー!
何を望んでこの戦いに挑む。何が――お前に剣を握らせる!?」
「!? 私は……」
セイバーが息を呑む。
彼女の頭に浮かぶのは、遠い誓い。
……そう。選定の剣――勝利すべき黄金の剣を、抜いた時の。
戦うと決めた。
何もかも失って、みんなにきらわれることになったとしても。
それでも、戦うと決めた王の誓い。
結果は無残だった。決して、全て遠き理想郷などではなかった。
――王は、国を守れなかった。だから。
「ぬ…………!?」
「私はぁあああああああああ!」
魔力が放出される。その量、人一人吹き飛ばすに足る。その勢いだろう。思わずアサシンは後退していた。
いや、この言葉は間違っているだろう。セイバーから発せられる剛き闘志にアサシンは怯んでいたのだ。そう、あの時以上に。
急な魔力放出の代償として、名も無き棒はそれで砕けた。残るは鞘のみ。
当然の摂理である。宝具ならともかく、路傍の残骸がセイバーの魔力放出に耐え切れるはずもない。
しかしセイバーは引かず、体勢が崩れたアサシンを狙うべく鞘を叩きつける――!
「ふむ――再び剣舞か!」
二つの剣が月光の元で爆ぜあう。
奔る剣閃数十合。輝く星空よりも激しく、雄雄しく火花が散りあう。
完全に、全くの互角で剣が交差しあう。
セイバーの剣が轟音を上げ、アサシンの大剣が夜空に響く。
しかしそれではセイバーは勝てない。長引けば長引くほどアサシンの剣は勢いを増す。
……それは、セイバー自身も分かっている。
アサシンの剣が地面を裂きながら振り上げられる。足元から脳天までを両断する斬り上げ。
その剣は既に勢いに乗り出している。セイバーの力を上回るほどに。
真っ向から受け止めたセイバーは、まるで人形のように高さ数十メートルを越える空中へと吹き飛ばされた――否。
セイバーは自分から飛び上がったのだ。それを示すかのように、セイバーは防具を全て解除していた。
少しでも高く飛び上がって時間を稼ぐため、そして防具の魔力を切り札となる攻撃として開放するために。
アサシンならば「地上の」数十メートル程度はあっさりと詰め、風を解き放つ隙を与えないだろう。
だが、上空の数十メートルとなれば話は別だ。だからこそ、セイバーは跳んだ。
彼女の目論見はただ一つ。今まで鞘を覆っていた風王結界による、上空からの遠距離攻撃のみ!
「アサシン――私は貴方に勝つ!
それが王である、私の債務だ!!!」
「よかろう、これで最後だ!!!」
二人の声が唱和する。月光蝶が二人を照らす。
セイバーが空中で動く手段は風王結界による加速一つのみ。
その風王結界を飛び道具に回す以上、セイバーに動く手段は無い。
地上に落ちればその隙にアサシンに斬り捨てられる。それは必定。
故に――セイバーの放つ攻撃は、必殺を期するものである。
だからこその最後。ここで互いに繰り出すのは、正真正銘の最強の一撃でしかありえない。
「――――風王」
夜空の瞬きを背負い、セイバーが風を開放する。
風王結界。宝具に分類されているものの、これは正確には魔術である。故に、フレキシブルな使用が可能なのだ。
例えば剣を覆う鞘となり、切れ味を鋭くする。
あるいはセイバー自身を吹き飛ばし、空を翔るための推進剤となる。
そして、もう一つ。暴風と化し――遠く離れた敵を両断する。単純にして明快な効果だ。
暴風は渦を巻いていく。まるで、龍のように。
「秘剣――――」
月光の下、アサシンが体を引き絞る。
燕返し。宝具ではない、ただの剣技。しかし、その剣技は英霊の宝具にさえ匹敵する。
多重屈折現象――一つしかない剣で三つの剣筋となす、世の道理さえ断ち切る剣。
渦を巻く龍を討ち取らんと、竜殺しが猛り狂う。
「結界――――!!!」
「燕返し――――!!!」
龍が放たれる。竜巻が螺旋を描いてアサシンを両断するべく奔る。
竜殺しは舞う。迫る風の龍を討ち取るべく。
二つの剣が爆ぜあい……轟音を、夜空に響かせた。
■
風の龍と竜殺しの大剣の衝突が終わり――
その場は空恐ろしいほどに静まり返っていた。
虫の鳴き声も、葉が風にそよぐ音も無い。ただ、月光がその場を照らすだけ。
地面には、しっかりと両足で大地を踏みしめるアサシンの姿。
そして、その目前に……すとり、とセイバーは降り立った。
アサシンからの追撃は無い。ただ恋焦がれた相手かのように、セイバーを見つめるだけだ。
静かに――この場の空気を惜しむかのように。
「――――見事」
その声は、果たしてどちらのものだったか。
それが響くと共に、アサシンは膝を折り、地面へ倒れこんだ。
そのままごろりと転がり、仰向けになる。死に際までしっかりと、美しいものを視界に納めるために。
本来なら体を粉砕されても不自然ではない暴風を受け……それでもなおアサシンにはほとんど傷が無い。
ただ申し訳程度に――しかししっかりと、左肩から心臓にかけて傷が刻まれていた。
そして……不幸にも。それは、致命傷であったのだ。
「……私の負けですね」
セイバーが呟く。
暴風という龍は両断されていた……いや、殺されていた。竜殺しという大剣によって。
小次郎の周囲の大地が無残に、そして綺麗に両断されているのがそれを示している。
四散した龍の殆どが行き場を無くし、暴れ狂った結果だ。
……惜しむらくは、その秘剣が完全でなかったことだろう。
たった一つ、三の太刀のみがコンマ数秒遅れ……斬り損ねた龍が小次郎の肩口を、心臓を穿っていったのだ。
完全なものならば龍は完全に断たれ――アサシンを傷つけることは叶わなかっただろう。
「ふ……得物が悪かった、隻腕だったなどという言い訳などせぬよ。
この剣は『竜殺し』なのだからな。ならば、龍を殺し損ねたのは私の咎であろう。
それに、佐々木小次郎は物干し竿よりも長い櫂によって倒されたと伝えられる。
――ならば、この結果も道理。相手は風によって生み出された長大な『剣』なのだからな」
それでもなお、彼は笑っていた。
くっくっと、運命の皮肉をも愉しむかのように。
そんな彼を見ながら、セイバーもまた口を開く。彼に釣られたかのように、笑顔で。
「まったく、大した剣士ですね『佐々木小次郎』」
「…………それは」
「名が偽りだろうと関係はありません。
少なくともその剣技は本物だ。私より強いのだから。
もしそれでもなお贋物などというのであれば、我が国の剣士は贋物揃いということになる」
「ふっ、可憐な花に言われては否定する気も起きん」
「……本当、大したものだ」
今際の際に及んで減らず口を叩くアサシン――いや、佐々木小次郎に、セイバーは呆れるような声を上げた。
しかし、その表情は笑顔だ。好敵手を称える、剣士としての。
そのままセイバーは軽々と片手で竜殺しを拾い上げ……どさり、とその場に座り込んだ。
ちょうど、小次郎が倒れている側だ。
「…………?」
小次郎の表情が怪訝なものに変わる。
互いの剣は常に急所を狙っていた。その全てが防がれ、避けられている。
苛烈な死闘にも関わらず、相手に傷を負わせたのはセイバーの最後の一撃のみ。
彼女自身は傷を負っていない以上、ここに留まる意味は無いはずだ。
そう怪訝に思い、小次郎は声を上げた。
「……行かぬのか? 傷は負ってはいまい」
「せっかく回復した魔力をまた使ってしまいました。貴方のせいです」
だからしばらく休みます、と告げてセイバーは小次郎の脇に座り込んだ。
「……ふむ」
沈黙がその場を支配する。
セイバーは食料を取り出してもっきゅもっきゅと食べながら月を眺めている。それだけ。
アサシンはそんなセイバーを愉しげに眺めながら、時折月へと目を移す。それのみ。
二人は口を開かない。喋ることなどない。当然だ。
ただでさえ剣を使って会話をしていたのだから、語ることなどほとんど残っていない。
……それを、小次郎は嫌った。
(せっかく花が目の前にあるというのに、愛でぬなど趣が無い)
負けたことに心残りなど無い。逝く事に後悔もない。
正真正銘の死闘を心ゆくまで愉しんだ。それで十分すぎる。
だが、彼女のような美少女を前にして放って置くのは彼の流儀に反する。
それに何より、恐らくこれが最後の召還になるだろう。亡霊を呼び出すような奇特な輩など、そうそういるはずも無い。
現世にいられるのはこれが最後。彼に残された時間は最早少ない。
だから、小次郎は。
「一つだけ、聞こう」
上げられた声にセイバーが振り返る。
小次郎の喉に血が溢れてくる。それを強引に飲み干して、言葉を続けた。
「……私は。侍であったか」
彼は、生前からの――たった一つの疑問を上げた。
叶わなかった仕官。既に太平の世では無用のものとなっていた剣技。
そんな中で編み出した秘剣は、戦国の世において他の兵と斬り合えるほどのものであったか、と。
小次郎の言葉に、セイバーは目を瞑った。
考え込むように――あるいは、惜しむように。
月光に照らされ彼女の顔が輝くその様子は、まるで御伽噺のよう。
「私は侍を知らない。だから、騎士を元に判断させてもらおう」
ゆっくりと、セイバーは言葉を紡いでいく。
再び開かれた目には、星空の瞬きが輝いていて。
「――ただ一重に剣のみを求めて生きたその剣撃、我が騎士たちの誰よりも澄んでいた」
そう、見た目相応の少女らしい声で。アーサー王は、無名の剣士を認めたのだ。
その言葉に、返事はない。小次郎は満足げな笑みを浮かべて、視線を月へと移しただけ。
――月は変わらない。小次郎が生きた日本にも、セイバーが生きたブリテンにも、ここでも。
静かだった。ただひたすらに。まるでどこにでも普通にある草原のように。
あるのは星空の瞬きと、風の音、草木がそよぐ響きだけ。
放って置いても様々な場所でよく見られるであろう光景。それが、小次郎にとって愛おしい。
突然その夜空に、仮面の男が映り始める。月の輝きや星の瞬きを無視するかのように。
佐々木小次郎ならば趣が無いと唾棄していたであろう。だが彼は幸運であった。
なぜなら――目障りなものが映り出すその寸前に、彼の意識は閉じていたのだから。
■
ただ、剣のみを求め、剣に生き。
燕を斬り、英雄を斬らんとして世界の理をも斬った男。
無名の剣士――ここに眠る。
【C-2北岸/一日目/真夜中(放送開始)】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:腹2分、かなり疲労、全身に中程度の裂傷と火傷、両肩に小程度の傷、魔力消費大
[装備]:ドラゴンころし アヴァロン
[道具]:支給品一式(食糧は二人分)、スコップ、なぐられうさぎ(黒焦げで、かつ眉間を割られています)
コンバットナイフ、鉈
[思考・状況]
1:また傷と魔力の回復を待つ。
2:エクスカリバーも探してみる。
3:優勝し、王の選定をやり直させてもらう。
4:エヴェンクルガのトウカに預けた勝負を果たす。
5:迷いは断ち切った。この先は例え誰と遭遇しようとも殺す覚悟。
※アヴァロンが展開できないことに気付いています。
※防具に兜が追加されています。ビジュアルは桜ルートの黒セイバー参照。
【佐々木小次郎@Fate/stay night 死亡】
[残り34人]
修正
>>174 「今の剣はそんな簡単なものではない――あの瞬間、貴方の剣は二本あった。
多重次元屈折現象(キシュア・ゼルリッチ)。
何の魔術も持たず宝具も無く――ただ剣技だけで魔法の域に」
↓
「今の剣はそんな簡単なものではない――あの瞬間、貴方の剣は二本あった。
多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)。
何の魔術も持たず宝具も無く――ただ剣技だけで魔法の域に」
>>180 沈黙がその場を支配する。
セイバーは食料を取り出してもっきゅもっきゅと食べながら月を眺めている。それだけ。
アサシンはそんなセイバーを愉しげに眺めながら、時折月へと目を移す。それのみ。
二人は口を開かない。喋ることなどない。当然だ。
ただでさえ剣を使って会話をしていたのだから、語ることなどほとんど残っていない。
……それを、小次郎は嫌った。
↓
沈黙がその場を支配する。
セイバーは食料を取り出してもっきゅもっきゅと食べながら月を眺めている。それだけ。
小次郎はそんなセイバーを愉しげに眺めながら、時折月へと目を移す。それのみ。
二人は口を開かない。喋ることなどない。当然だ。
ただでさえ剣を使って会話をしていたのだから、語ることなどほとんど残っていない。
……それを、小次郎は嫌った。
(やっぱり、暗いな)
春の宵の闇は深い。石田ヤマトは、目をこらした。
トラックはノロノロと進んでいた。「超」がつくほどの低速運転である。
目的が人探しであり、無灯火運転であるからということを考慮しても遅い。
だが、ヤマトにはそうしなければならない理由がある。
(もう、二度とあんなことは……)
こうして運転しているとヘンゼルのこと、自分が死なせてしまった少女のことを思い出す。
手が震え、鼓動が荒くなる。
だがそれでも、運転を止めることは「逃げ」のような気がするから――
ヤマトは目を見開き、全神経を前方に集中した。
「ちょっと、止めて!」
隣の助手席で暗視ゴーグルで周囲を警戒していた涼宮ハルヒの声に、慌ててヤマトはブレーキを踏む。
何事だとヤマトが尋ねるより早く、ハルヒは助手席から降り、車の後部座席へと向かう。
そしてディパックからタオルを取り出すと眠っているアルルゥにそっとかけてやった。
「アルルゥもお手伝いする」といって、先ほどまで熱心に外を見ていたはずだが、やはり眠気には勝てなかったらしい。
「あのタオル、ひょっとして映画館から持ってきたやつ?」
「そうよ。何か悪い?」
「いや、そうじゃなくて」
睨むような目付きをされ、ヤマトは頭をかいた。
あのタオルはかなり大きい。手を拭いたり、汗を拭ったりと、そういう用途で持ってきたわけでないのは一目瞭然だ。
「準備がいいなって、思っただけだ」
「そう? 当然でしょ。子供はもう寝る時間だわ」
安らかな寝息を立てているアルルゥに優しげな視線を送るハルヒを見て、内心ヤマトは首を捻る。
(人の都合なんか考えない人かと思ってたけど、こういう所もあるんだな……)
とにかく自信満々、基本的に命令口調で高飛車、人を人とも思わない身勝手なことを言うかと思えば仲間思いで……。
ヤマトの周りにはいなかったタイプの人間である。
「ちょっと、何ボサッとしてんの? 眠いの? 眠いんならいいなさい。私が運転するから」
「わ、悪い」
慌ててヤマトはエンジンをかけた。
「頼むわよ! ホント。居眠り運転で事故死なんかしたら、死んでも死に切れないわ!」
「分かってる。俺だってそんな死に方ごめんだ!」
ムッとして多少乱暴に言い返し、ヤマトは車を発進させた
また元のように沈黙が満ち、車はゆっくりと道路を進んでいく。
「そういえばさ……」
思い出したというように、ハルヒが言葉を発した。
「何だよ?」
「ずっと思ってたんだけど、あんたって、子供の割には何か子供らしくないのよね」
どう返答していいか分からないヤマトを無視して、ハルヒの言葉は続く。
「落ち着いてるっていうか、場慣れしてるっていうか……」
「――デジタルワールドでデジモン達と一緒に戦ってたから、少しはこういう状況に慣れてるのかもしれないけど……」
言いかけてヤマトは、小さく自嘲の笑みを浮かべた。
心のどこかにあったであろうその慢心が、数々の失敗を招いたのではないかと思えたからだ。
「デジタルワールド?」
聞きなれない単語に興味を引かれ、ハルヒは外を見る行為を中断し、ヤマトの方に顔を向けた。
「えっと……」
どこから話したものかと口ごもるヤマトに、
「詳しく話しなさい。団長としてあたしは、団員のプロフィールを知る必要があるわ!」
興味津々といった感情を瞳に宿しながらハルヒが言う。
(俺は団員とやらになった覚えはないんだけどな)
心の中でそう反論しつつも、ヤマトはさらに車の速度を落とした。
思考と会話と運転。3つを同時に行うのは危険と判断したからだ。
慎重がすぎるかもしれないと思うが、やはり臆病なほど慎重でいたかった。
すると、
「もういいから、いっそ車止めちゃいなさい。安全運転で行くわよ」
ヤマトは目を丸くした。
(俺の考えてる事を分かってて、気を使ってくれてる……のか?)
「どしたの? 早く話しなさいよ。要点を絞って、簡潔明瞭にね!」
腕組みをし、じれったそうにハルヒは体を揺らしている。
(分かんない人だな……)
そう思いつつ、ヤマトは話し始めたのだった。
■
「ふ〜ん。『選ばれた子供』あんたがねえ……」
感心しているとも疑っているともどこか羨望しているとも取れるようなハルヒの声音に、
「言葉の響きほど大げさなもんじゃないさ。デジモンと相性がいいだけが問題だったんじゃないかって思う。
でなけりゃ俺みたいな奴が選ばれるわけない」
ヤマトは唇をゆがめた。
どう考えても、ヤマトが想像する「選ばれた子供」と今の自分はかけ離れているように思える。
「そうかしらね? 無謀すぎるトコはあると思うけど、肝は据わってるし、小学生にしてはマシなほうなんじゃない?」
「そうなのかもしれないけど、足りてないって思うんだ。俺はもっと強くならなきゃ、変わらなきゃダメなんだ……」
デジタルワールドにいた頃に感じていた、胸が焦げるような焦りを思い出し、ヤマトはぎゅっと拳を握った。
この感情に囚われる時、いつもヤマトの脳裏に浮かぶ顔がある。
決断力と行動力に加え、いつの間にか感情に流されずに大局を見渡す冷静さまでも身に付けた、八神太一。
秘かに太一をライバル視していたヤマトは、誰よりも太一の成長ぶりを感じ取り、自分を変えたいとずっと思っていた。
それなのに、この世界に来てからも、思い知らされるのは自分の未熟さばかりで……。
「まあ、向上心を持つことはいいことよ。で、そのデジタルワールドでの旅はどんな感じだったの?」
「どんな感じって言われてもな……」
ヤマトの葛藤に気づいているのかいないのか、ハルヒの声音は平坦極まりなく、
我に返ったヤマトは、なんとか自己嫌悪の沼から這い上がった。
「辛かったのか、楽しかったとか、達成感を感じたとか、誇らしかったとか、色々あるでしょ?」
「今、あんたが上げたのは取りあえず全部入っていると思う。でも、最初はとにかくひたすら辛かったかな……」
ヤマトは苦笑した。
「服は洗濯できないからいつも一緒だし、食べ物は自分で調達しなきゃならなくて、しかも種類は決まってるし、
風呂に入れないし、死ぬか生きるか綱渡りだったし……」
ヤマトの口調には実感が伴っており、この上もないリアリティを持ってハルヒの耳に届いた。
(異世界人の感覚も、あたし達と変わんないのね)
というより今まで出会った人々を思い出しても、感覚が違う異世界人の方が希少、という気すらする。
自分が眠っているときに、無償で治療してくれた魔法使いまでいたらしい。
(次に会った時に、ちゃんとお礼を言わないといけないわね)
それにしてもヤマトの言葉を聴く限り、異世界に召還される、というのもあまり楽しい事ばかりではなさそうだ。
考えてみれば、今の自分の状況が異世界に召還されるという状況そのものである。
『つまんない世界』、『特別なことが何も起こらない普通の世界』そんなものに自分はうんざりして
いたはずだ。
だが今、自分の心の棚を全部ひっくり返しても『帰りたい』という気持ちしか出てこない。
確かに始めのうちは、ほんの少しわくわくする気持ちがあったのも事実だ。
だが、それも鶴屋さんとみくるの名前を聞くまでだった。
夢の中でみくるとお別れをして、みくるが消えた時に感じた圧倒的な喪失感。
――この中の誰かたった一人だけでもいなくなっちゃったら、元の世界に戻ったって楽しくもなんともないのよ!
夢の中で自分の口から飛び出した絶叫。
ハルヒは再確認する。
自分がどれほどSOS団の仲間達との日常を楽しいと思っていたか、好きだったか。
自分が望んでいたのは、幽霊でも、宇宙人でも、超能力者でもなく、未来人でもなく……。
――それなのに
大事なものを形作っていたピースは永遠に失われてしまった。
(鶴屋さん、みくるちゃん……)
元気いっぱいに笑う鶴屋さんをみることができない。
部室でメイド服を着てお茶を入れるみくるの姿を見ることができない。その愛らしい笑顔も、
困り顔も、泣きそうになって瞳を潤ませるハルヒのお気に入だった顔も……。
――だった
自然と使用してしまった単語が、ハルヒの心に突き刺さった。
(何でよ! 何で過去形を使わなきゃなんないのよ!!)
振り切ったはずの悲しみと激情の波が堰を越え、怒涛となって押し寄せてくる。
その波に飲まれ、たちまちハルヒの視界が滲んだ。
「ど、どうしたんだ?」
ヤマトのうろえたたような声に、
「あぁ……。ちょっとね。目にゴミが入っただけだから、心配しなくていいわよ」
ハルヒはヤマトから顔を背けると目をこすった。
(しっかりしろ! 団員の前なのよ!)
長が団員の前でうろたえてどうするか。
大きく息を吐くと、ハルヒは腕組みをし、座席にもたれかかった。
(ヤマトの台詞じゃないけど、あたしにもっと力があったら良かったのに……)
だが、心に湧きあがるのは焦りと無力感。
ルパンを置いてアルルゥと逃げた時に感じた感情が、再びハルヒを打ちのめす。
自分がただの女子高生ではなく、宇宙人未来人超能力者やそれに準ずる存在で、
何かしらの力があったらと思ってみても、自分はただの女子高生。
――襲ってきた金髪の騎士のような敵と戦うことができるか?
できない。
――首輪を外せるような技術、知識を持ち合わせているか?
いない。
――このゲームから皆を救い出すために役に立ちそうな特殊能力を持っているか?
もっていない。
(これじゃ、有希とトグサさんに置いていかれても仕方ないわね……)
自分を戦力外としたあの二人は、まったくもって的確だったわけだ。
ハルヒの口からため息が漏れた。
「あ、あのさ……。そろそろ行かないか?」
鬱々とし始めたハルヒに、ヤマトがおそるおそる声をかけた。
だが、ハルヒは無言だった。
ややあって――
「って……。ふざけんな!!」
ハルヒが噴火した。
思わず、身を仰け反らせるヤマトに
「あんた何してんの!? さっさとエンジンかけなさい! とっとと行くわよ!」
火山弾の如き怒号が降りそそぐ。
「わ、分かった」
理不尽さを感じつつもハルヒの剣幕に圧され、ヤマトはトラックをスタートさせた
横目でハルヒを伺うと、ハルヒの双眸には怒りのマグマがぐつぐつと煮立っている。
(何なんだ!? この人)
デジタルワールドのことについて尋ねてきたと思ったら急に黙り込み、そしていきなりぶちきれる。
心の中で首を大いに捻るヤマトに、ハルヒの声が飛んだ。
「ねえ! あんた何か思いつかないの?」
「はぁ?」
「鈍いわねえ! 首輪の外し方に決まってんでしょ!」
あまりと言えばあまりの言い草に、最早怒る気にもなれず、
「何で急に、そこに話がいくんだ?」
ため息をつきつつ、ヤマトは軽い抗議の言葉を発した。
ヤマトの抗議には答えず、ハルヒは言葉を続ける。
「あんたさっき、もっと強くならなきゃ、変わらなきゃダメだって、言ったわよね?
――それ、無理!!」
「なっ!?」
思わずヤマトは、ハルヒの方に顔を向けた。
「運転中に余所見すんな!!」
間髪いれずにハルヒの叱責が飛び、ヤマトは前方に向き直る。
だがヤマトの心の水面は大きく揺らいでいた。
その水面にハルヒの言葉が次々と落下し、波紋の揺らぎを広げていく。
「そんなお手軽に成長できたら誰も苦労しないわよ!
モンスター倒せば絶対レベルが上がるRPGじゃあるまいに」
反論できずにヤマトは押し黙る。
ハルヒの言う事は、まったくもってその通りだと思えたからだ。
「今更自分の能力のなさを嘆いたって仕方ないわ。無いものは無いのよ!
それでも何とかしたいと思うなら、手持ちのもの総動員して足掻いて足掻いて、考えて考えまくるしかないじゃない!!
質で劣るなら量で勝負!! 量で勝負したけりゃ、一分一秒たりとも無駄にできないってこと!!」
自分の能力の無さを嘆いてる暇なぞ1ナノセカンドほどもありはしないのだ。
(まったく、何てザマ! このあたしともあろうものが!)
ハルヒは後ろ向きなことを考えていた自分自身に激怒し、心の中で思い切り舌打ちしていた。
このバトルロワイアルというゲームは、人をネガティブな方向に追い込んでいくゲームだ。
首輪を嵌められて生殺与奪を握られ、周りは敵だらけ、知り合いもどんどん死んでいく。
その苛酷な環境に耐えられず、人は絶望し、狂って行く。
特に無力感と徒労感という奴が曲者だ。
人の足を止めさせるのはいつだって諦めなのだから。
(有希も、あのバカキョンですら頑張ってるっぽいのに、あたしが真っ先に負けそうになってどうすんのよ!!)
思い立ったら即行動。
自分が先頭を一機駆けし、団員は後から追走する。
それで何とかしてきた。全部上手くやってきた。
場所はバラけてしまっているが、SOS団の団員が力を合わせて解決できないことなどない。
ハルヒは確信にも似た思いで夜の闇を睨みつけた。
(そうだよな……)
ハルヒの言葉で大きく揺らいだヤマトの水面は、前以上の静けさを取り戻していた。
成長など、そう簡単に出来るはずがないではないし、意識してできるものでもない。
立派な人間たろうと背伸びしようとした所で、グレイモンを暗黒進化させてしまった太一のような間違いを犯すだけだ。
ヤマトの中で、何かが吹っ切れたような気がした。
――俺は、情けない奴で未熟者だ
静かに認める。
(けど、そんな俺にだってできることはきっとある。そうだろ? ガブモン、ぶりぶりざえもん……)
今はいないパートナーと別れてしまった仲間に心の中で語りかけ、ヤマトは前方に集中しながらも思考する。
しばらくの間、沈黙の海が二人の間に横たわった。
■
「……この人捜しをしっかりやるしかないんじゃないか?」
考えた末に出した割には、我ながらさえない結論だとヤマトは思った。
だがしかし、
「そうね。見つけた知り合いが首輪解除の方法を掴んでるかもしれないし」
少し情けなくもあるが、やはり自分達に能力が無い以上、他人に期待するしかない。
ハルヒも渋々認める。
だがしかし、
「それもあるけど、その人が情報端末持ってるかもしれないだろ。持ってる人を知ってるかもしれないしさ」
ヤマトから発せられた言葉に対して、ハルヒの返答はなかった。
いきなり訪れた沈黙に、慌ててヤマトは口を開く。
「……俺、何か変なこと言ったか?」
「違うわよ。ただ、そうね……。そういえばそうだって思ったの」
――忘れていた
『人捜し』という方に考えが行き過ぎていたため、『端末捜し』の方は失念してしまっていた。
ハルヒは前髪を掻き揚げながら眉を潜めた。
(そういえば、キョン達に情報端末を持ってるかどうか、確認したっけ?)
――していない。
ハルヒ目の端の角度が鋭角に近くなった。
つくづく人というものは、何かに囚われると他のことを忘れてしまうらしい。
(合流してる次元さんが、キョンに聞いてくれてるならいいけど……)
だが、案外彼も自分のように他のことに気を取られて忘れているかもしれない。
ただでさえ、このゲームは神経をとがらせなくてはならない事柄が多すぎるのだ。
「ねえ、次にキョンって奴から電話があったら、情報端末を持ってるどうか確認しなきゃならないってこと、
あんたも覚えておきなさい。
あたしがその場にいないかもしんないし、無いとも思うけど、うっかり忘れるかもしんないから」
「分かった」
ヤマトの承諾を受け、ハルヒはまたゴーグルに目を当てた。
何にしても一石数鳥かもしれないと分かれば、人捜しにも一層身が入るというものである。
ハルヒが、身を乗り出すように窓の外を観察していると――
「……おねーちゃん、いた?」
後ろから眠そうな声が聞こえてきた。
「ごめん。起こしちゃった?」
後部座席を振り返り、きまり悪げにハルヒは苦笑した。
あれだけ怒鳴ったり、大声で叫んだりしていれば起きてしまっても無理は無い。
「アルちゃん、ごめんね。まだなの……。でもきっと見つけてあげるからね!」
「うん……。 まってる!」
安心しきったように笑みを浮かべ、もう一度眠ろうとするアルルゥを見ながら、ふとハルヒは思いつく。
「アルちゃん、ちょっと待って。聞きたい事あるんだけど……。大丈夫?」
「うん。へーき……」
「いい子ねぇ。アルちゃんは」
眠そうに目をこすりながら起き上がろうとするアルルゥに、ハルヒは柔らかな笑みを浮かべた。
(何だかなあ……。俺に対する時と、態度に差がありすぎだろ)
団員認定するならもう少し平等に扱ったらどうだ、と思わずジトっとした視線をハルヒに送ったヤマトは、
そのまま視線を固定させてしまう。
助手席と運転席の間から顔を出しているせいで、ハルヒの顔が間近にある。
ニュートン力学よりも強い法則に引かれるかのように、ヤマトの視線はハルヒの顔に引き寄せられていった。
この上も無く整った目鼻立ち。長い綺麗なまつげに縁取られた大きくて黒い目とうす桃色の唇。
肌はきめ細かく、眩いほど白く……。
(今まで気づかなかったけど、美人だな、この人)
そう思った瞬間、ヤマトは自分の頬が熱くなるのを感じた。
さらに意味もなく咳払いしたくなる衝動に襲われ、慌ててヤマトは前に視線を移動させる。
(馬鹿! 何考えてるんだ! 集中だ、集中しろ……)
車内が薄暗いことに感謝しつつ、ヤマトは意識を前に集中させようと必死であった。
そんな少年の心など露知るはずもなく、
「アルちゃんは、その……。何か、得意なこととか、ある?」
ハルヒはアルルゥに尋ねた。
一つの方向でに思考を止めてしまうことによって発生する盲点は、先ほど見せ付けられたばかりだ。
今まで自分達は、アルルゥに大したことはできないだろうと決めかかっていたが、ひょっとしたら――
「う〜。とくいは……。アルルゥは、はちのすみつけるの、とくい……」
「へえ〜。すごいじゃない」
「こんど……。ハルヒおねーちゃんに、とってあげる……とってもおいしい」
「ありがと! 楽しみにしてるからね」
アルルゥの言葉に激しく萌えポイントを刺激されつつも、同時に若干の落胆を感じながらハルヒは言葉を紡ぐ。
「アルちゃんは、お手当てするのも得意よね。でも、まだ何かあるんじゃない?」
ハルヒの問いにアルルゥは眉をヘの字にして考え込む。
長くなりそうだと見たハルヒは、ヤマトに車を止めるように指示を出した。
人捜しが雑になってしまっては本末転倒である。
その間、ピクリピクリと動くアルルゥの耳が動く光景は、焦熱拳に匹敵する威力であったが、
理不尽な判定を誇る当て身投げで、ハルヒはその衝動に何とか勝利した。
「アルルゥは、ムックルにのるの……とくい」
「ムックルっていうのは?」
どうにも要領を得ない。
「ムックルは、ムティカバ……」
(『乗る』ことが特技になるってことは、あたし達の世界でいう所の、乗馬とか?)
ハルヒは素早く推測する。
「ムティカパっていうのは、動物?」
コクリとアルルゥが首肯した。
「そっかぁ……。えらいえらい」
失望の色を表に出さないように、50ワットの笑顔を浮かべながら、ハルヒはアルルゥの頭を撫でてやった。
ハルヒに撫でられ、わふ〜、と気持ち良さそうに声をもらしながら、
「アルルゥ、ムックルがいいたいこと、わかる……。ムックルも、わかってくれる……。
だから……かんたん」
得意そうに小さな胸を張るアルルゥの言葉に、ハルヒは何かが頭を走るのを感じた。
「アルちゃんは……。ムティカパ以外の動物のいいたいことが、分かっちゃったりする?」
アルルゥが頷いた。
80ワットの笑顔を向けながらハルヒはとどめの質問を発する。
「じゃあ、他の動物になにかお願いして、聞いてもらう事も……できる?」
アルルゥが肯定の意を示すと同時に、ハルヒは100ワットの笑顔と共にアルルゥをムギュっと抱きしめた。
「も〜〜。アルちゃんってば、どれだけ萌え萌えなの?
動物と戯れる耳つきロリ美少女メイドなんて歩く核弾頭よ!! その光景は是非写真に収める必要があるわ!!」
大喜びのハルヒとは対照的に、ヤマトは拾った金塊が本物か色つき石か判別しかねるという表情で、
「本当にできるのかよ? そんなこと」
「……あんた、アルちゃんの言う事を疑うわけ?」
ハルヒの冷たい視線が氷槍となってヤマトを串刺しにし、
「アルルゥ……。うそなんか、いわない……」
ムッとしたようにアルルゥも可愛い唇をとがらせてみせた。
耳が威嚇するようにピコピコと上下に動いている。
「とにかく分かったわ。ごめんね……。眠いのに色々聞いちゃって、すっごく役に立ったわ!」
「やくに……たった……。おねーちゃん……うれしい?」
「すっっごく!」
ハルヒの120ワットの笑顔につられるように、アルルルゥも野に咲く花のような可憐な笑顔を浮かべた。
「アルルゥ……うれしい。ハルヒおねーちゃんの……やくにたてた」
「アルちゃ〜〜〜〜ん!!」
ますますアルルゥをムギューッと抱きしめるハルヒを見ながら、
(やれやれ……)
ヤマトは、どこかの少年のように肩をすくめたのであった。
■
「本当だとしたら、確かに色々使えそうな能力だと思うけど……」
ヤマトはバックミラーに映った後部座席のアルルゥの寝顔に目をやった。
「スズメとかカラスに、アルちゃんの能力が通用すればベストね。索敵範囲とかが倍増よ。
でもまあ、イザとなったらペットショップに行けば、アルちゃんの能力が通じる動物が一匹くらいいるでしょ!」
「ペットショップがあるかどうか分からないぜ?」
ハルヒはあからさまに大げさにため息をつく動作をしてみせた。
「あんたは寝てたから仕方ないけど、さっきの映画の中に映ってたから多分あるわ。
この世界ってあの映画の町を、完全にコピーした世界みたいだから」
「コピー?」
「そっ!」
不可解というヤマトの反応に、ハルヒは苛立たしげに首を振った。
「あんた少しは、頭を使ったどうなの? この世界がまさか地球上にあると思ってないでしょ?
ダムの底に沈む予定の辺鄙な村とかならともかく、そこそこ栄えてる町でこんなことやらかしたら、
外部の人間に一発でバレるに決まってるじゃない。
だけどあんな記録映画があるってことは、この町に愛着のある誰かがいんのよ。
つまりこの町はどこの世界にかは知らないけどちゃんと実在してんの!
でも、その町自体を持ってきたんじゃない可能性が高いわね。
綺麗過ぎるもの、この町」
「……綺麗過ぎる?」
「そうよ! 人間と町とを別々に移動させたんだとしても、移動させる瞬間まで人間がいたのなら何かしらの痕跡が残るわ。
なのにあたしが入った写真屋なんて、カウンターの後ろまで何もかもキチンとしてたのよ?
お客がいて店員がいたなら、あんなの絶対ありえないわね」
立て板に水の如くという形容詞がふさわしいハルヒの推論を聞きながら、ヤマトは感心していた。
さっき自分の迷いを吹き飛ばした檄を聞いた時も感じたが、涼宮ハルヒはただの騒がしいだけの人間ではない。
人を引っ張っていくにふさわしい能力もちゃんと兼ね備えているようだ。
「ちょっと! 出がらし茶を飲んだような微妙な表情でボ〜っとしてないであたしの話を聞きなさい!
せっかくこのあたがしが説明してあげてんのよ!?」
「聞いてるよ……。大体理解した。それで、ペットショップはどの辺にあるんだ?」
だが、この物言いだけはどうにかならないのかとヤマトは心の中で嘆息する。
黙っていれば言い寄る男は両の手では絶対に足りないだろうに、これでは片手で足りてしまいそうだ。
「あたしは、D−6、5,4と歩いて来たけど、見なかったわ。
でもこの道路沿いに立ち並ぶ店の何処かにあるのは間違いないのよ。
フィルムの順番からして駅のむこうじゃないと思うんだけど……」
「それなら、途中でホテルも通るから、キョンって人とも合流できそうだな」
少し遠いが、車で道路を行き来するなら予定時間内に映画館に戻る事は可能だろう。
だが、ヤマトの言葉にハルヒが思わぬ反応をみせた。
「あんた! まさかあたしが合流したいから適当なこと言ってるとか思ってないでしょうね!?」
ヤマトは、迷うことなくハルヒの顔を直視した。
「思ってない。俺は、二度と仲間を疑ったりしない。絶対信じるって決めたんだ」
俺に出来ることはそれくらいだから、とヤマトは心の中で付け加える。
疑わない、裏切らない、信じる。
誰かと仲間になるっていうのはそういうことで、それがぶりぶりざえもんの行動に報いることだ思うから。
友情の紋章を持つ選ばれし子供だからではない。
石田ヤマトという一人の人間として、その決意を貫きたいからそうする。
視線の交錯は一瞬だった。
「そう、ならいいわ……」
ボソッと述べて、ハルヒは再び視線を窓の外に戻した。
(……ん?)
暗くて良く分からないが、ハルヒの頬にほんのりと朱が刺しているような気がする。
そういえば、とヤマトは思う。先ほどみせたハルヒの表情には見覚えがある気がするのだ。
(どこでだったっけな……)
記憶の扉を開け続けるうちに、ふと思い当たった。
同じ学級の友達の中に、やたらとある女の子にちょっかいをかける奴がいたのだ。
嫌いなのかと思っていたが、その割にはやたらとその子について詳しいし、誰かが尻馬にのって悪口を言うと不愉快そうな顔をする。
で、やたらと恋愛方面に詳しい女の子がいて、その子がある時、訳知り顔でそいつに……。
――そういうことかよ
「いきなりどうしたのよ? 気色悪いわねえ……」
急に肩を震わせ始めたヤマトに、ハルヒはその形のよい眉を潜めた。
「悪い……。ちょっと、思い出しちゃって」
「はぁ? こんな時に思い出し笑い? 大したもんね」
フンと鼻を鳴らすハルヒは、さっき顔を間近で見てしまった時とはうってかわって、どこか子供っぽく見えた。
(ほんっと……。分かんない人だな)
のどの奥で忍び笑いをもらしながら、何度目か分からない呟きをヤマトはもらしたのだった。
■
そんなこんなはあったものの、車は順調に闇の中を進行していく。
そして、ヤマトの視界に一番初めの交差点が見え始めた正にその時、
「止めて!」
ハルヒの声には明らかな緊張と警戒の成分が含まれていた。
ヤマトはトラックを静止させ、ハルヒの目線の先を追う。
その先には、病院があり、ガラス張りの正面玄関からは真っ暗な廊下だけが見えて――
――いや
その廊下には、部屋から漏れ出た光が映っていた。
■
果断即決を信条とする涼宮ハルヒも流石に迷っていた。
映画館を出る時に、『知らない人間』に出会ったら逃げると決めていた。
だが、その人間が病院を拠点としているかもしれないとなれば話は別だ。
この人間が北上して映画館を目指す可能性はゼロではない。
この人間が参加者を手当たり次第に殺して回るタイプの人間だとしたら、
映画館を拠点にしている事自体が危険なのだ。
仲間が全員一緒ならば、さっさと引き払ってしまえばよいのだが、生憎と分裂してしまっている。
(団長であるあたしの指示を待たずに独断専行するからこういうことになんのよ!!
いい歳こいて船頭多くして船山に登るって言葉も知らないの!?)
ここにはいないトグサに向かってハルヒは悪態をついた。
(あたしは団長……。団員の安全を守る義務と責任がある)
これ以上、誰一人失ってたまるものか。正規団員も、特別団員も。
決意すれば後は早かった。
ヤマトのディパックの中から、クローンリキッドごくうを取り出す。
武器は扱えない。タヌ機は精神力が強い相手に対して効果が薄い。
相手は外から見えるにもかかわらず、堂々と灯りをつけているような奴だ。
間が抜けているか、余程自分の腕に自信があるか、だ。
間が抜けている人間がここまで生き残れるわけがないから、後者の可能性が高い。
ならば、逃げることに専念するためにも、この道具が最適だろう。
大きく息を吐き、ハルヒはヤマトに向き直った。
「やっぱり、確かめに行くしかないわね」
「じゃあ、俺が……」
「ダメ!」
ヤマトの提案をハルヒは一刀両断に下に切り捨てた。
「陸上部員だったあたしの方が、あんたの3倍は足が速いわ」
もっとも、在籍していたことは嘘ではないが、涼宮ハルヒの陸上部在籍日数は一日だったりする。
だが、そんなことはおくびにも出さず、
「良く聞きなさい。4分待ってあたしが戻らなかったら、そのまま逃げる。
あたしが捕まったとしても、あんたから見てあたしが逃げ切れそうにないと判断しても、すぐに車を出す。
とにかくあんたの命とアルちゃんの命を最優先にして行動すること! いいわね?団長命令よ!
……ってなにしてんのよ!?」
無言でハルヒの指示を聞いていたヤマトがアルルゥを揺り起こし始めたのを見て、
ハルヒは抑えた怒声をヤマトに叩きつけた。
「俺が運転席に座って車を出すことに専念して、アルルゥがあんたを追ってくる奴にタヌ機を使えば、
全員で逃げられる確率が上がる」
「あんた人の話を聞いて――」
「危ない橋はみんなで渡る! それが仲間じゃないのかよ!?
あんたのいうSOS団は、団長にオンブ抱っこするだけの奴等の集まりなのか!?
違うんだろ!?」
ヤマトの視線に宿った意思は鉄のようで、ハルヒは思わずたじろいだ。
「……どうした……の?」
何か言おうとするハルヒに先んじて、ヤマトは目をこするアルルゥに事情を説明し始める。
その断固とした態度に、ハルヒの口を開く動作は中断させられた。
眠たそうにしていたアルルゥの顔が、説明が続くにつれ、引き締まっていく。
「――そういうわけだ。やるか?」
「……やる! アルルゥもてつだう」
そう言って、アルルゥはぎゅっと唇を引き結び、ハルヒを見上げた。
「アルちゃん……。あのね……」
宥めようとするハルヒの腕をアルルゥはぎゅむっと掴んだ。
「アルルゥ……。ハルヒおねーちゃん、まもる!」
「っとにもう……」
額に手をやり、ハルヒは大きく息を吐いた。
「すっっごく、危険なのよ? 死ぬかもしれないのよ?」
「やる!!」
可愛い声がそれでもはっきりと、主の決意を示した。
ハルヒはもう一度ため息をついた後、それでもどこか嬉しそうに笑った。
「――1つだけ、確認とくわよ。 基本はあんたとアルちゃんの命を最優先にして行動!
例えば、捕まったあたしを助けようとするなんてもってのほか!
これだけは守りなさい! 分かったわね!? 特にあんた!!」
「分かったってば」
「よし!」
最後にもう一度ヤマトに念を押してから、ハルヒは道路に降り立った。
「ハルヒおねーちゃん……。きをつけて……」
心配そうに顔をゆがめるアルルゥの頭をそっと撫でてやると、ハルヒは軽く体をほぐす動作をし、歩き出そうとした。
その背中に、ヤマトの声が飛んだ。
「気をつけろよ……。団長」
「ようやく団員としての自覚が出てきたみたいね」
ハルヒは振り返り、不敵な表情を浮かべた。
「あんたは年下だし、特別団員だけど……。でもま、特別に名前で呼んでいいわよ……。ヤマト」
「そりゃどうも……。ホント、気をつけて。ハルヒさん」
背中越しにVサインをしてみせると、ハルヒは闇の中を静かに駆け出してゆく
その後ろ姿を見送りながら、ヤマトはボウガンを取り出した。
「アルルゥ……。悪いけど、万が一の時は、俺、ハルヒさんを助けにいく。
だから……」
「アルルゥもいく」
ボウガンをひったくられ、ヤマトは目を丸くした。
アルルゥの黒いきらきらしたプリズムのような瞳には、強い意志が宿っていた。
「アルルゥは……。ハルヒおねーちゃん、だいすき。おねーちゃんが、るぱんがみたいにしぬの……や!
アルルゥが、まもる!」
クスリとヤマトは笑い、ハルヒの置いていった、RPGに手を伸ばした。
「アルルゥは、ハルヒさんのこと大好きなんだな」
「うん!!」
「そっか。実を言うとな……。俺もあの人のこと、結構好きになりかけてるんだ……」
少年と少女をは見つめあい、互いの意思の輝きを確認しあうと、
「頑張ろう!!」
「おー!!」
誓いの雄叫びを上げたのであった。
残してきた特別団員達がまさかそんな決意をしているとは思いもせず、
ハルヒは足跡をしのばせながら、病院へと歩を進めていた。
(あれね……)
窓から薄く光が漏れている部屋がある。
――自分の行動いかんで、残してきた二人の生死が決まる
そう思うと、緊張で体がこわばり、喉がひりつく。
ハルヒは、小さく深呼吸をした。
(やれる! きっとやれる!)
自己暗示のように、繰り返しながら……。
――○×△■△!!
目当ての部屋から響いた大声に心臓のボリュームと回数を急上昇させ、思わずハルヒは体をすくめた。
つづいて、複数の声が小さく大気を伝わって聞こえてくる。
(一人じゃないない!?)
複数人間がいるなら、それだけで危険はないのとほぼ同義である。
殺して回る人間が、集団を組めるはずはないからだ。
だが、早合点は禁物である。団員達の命運がかかっているのだから失敗は許されない。
ハルヒは、100%の確信を得るべく、そろそろと部屋の下へと歩みを進めたのだった。
【新生SOS団】
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:小程度の疲労と眠気(眠気は緊張状態にあるのでないのと同じ)
/頭部に重度の打撲(意識は回復。だがまだ無理な運動は禁物)
左上腕に負傷(ほぼ完治)/心の整理は完了
[装備]:クローンリキッドごくう(使用回数:残り3回)
[道具]デイバッグ/支給品一式(食料-2)/着せ替えカメラ(使用回数:残り18回/
インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)/トグサが書いた首輪の情報等が書かれたメモ1枚
[思考]
基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームから脱出。
1:部屋にいる人間(達)の危険度を確かめる
2:知り合いを探す
3:キョンと合流したい。
4:ろくな装備もない長門(とトグサ)が心配。
5:ペットショップを探して、アルルゥの能力で色々やってみる。
[備考]
腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟/SOS団特別団員認定
小程度の疲労と眠気(眠気は緊張状態にあるので無いのと同じ)
/右腕上腕に打撲(ほぼ完治)/右肩に裂傷(手当て済)
[装備]:RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
スコップ/暗視ゴーグル(望遠機能付き)
[道具]:デイバッグ/支給品一式(食料-2)/ハーモニカ/デジヴァイス/真紅のベヘリット
クローンリキッドごくう(使用回数:残り3回)/ぶりぶりざえもんのデイパック(中身なし)
[思考]
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
1:ハルヒを手伝う
2:ハルヒと交替で運転しつつ、トラックで知り合いを探す。
3:ぶりぶりざえもんやトグサと長門が心配。
4:ペットショップを探す。
[備考]
ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:小程度の疲労と眠気(眠気は緊張状態にあるのでないのと同じ)
/右肩・左足に打撲(ほぼ完治)/SOS団特別団員認定
[装備]:タヌ機(1回使用可能) /クロスボウ/
/ハクオロの鉄扇/ハルヒデザインのメイド服
[道具]:無し
[思考]
基本:ハルヒ達と一緒に行動。エルルゥに会いたい。
1:ヤマトと一緒にハルヒを手伝う
場所と時間。
【D-3・病院外 1日目・真夜中】
(※ハルヒはカズマ達が揃っている病室の外。
ヤマトとアルルゥは道路に止めてあるトラックの中で待機
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟/SOS団特別団員認定
小程度の疲労と眠気(眠気は緊張状態にあるので無いのと同じ)
/右腕上腕に打撲(ほぼ完治)/右肩に裂傷(手当て済)
[装備]:RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
スコップ/暗視ゴーグル(望遠機能付き)
[道具]:デイバッグ/支給品一式(食料-2)/ハーモニカ/デジヴァイス/真紅のベヘリット
ぶりぶりざえもんのデイパック(中身なし)
[思考]
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
1:ハルヒを手伝う
2:ハルヒと交替で運転しつつ、トラックで知り合いを探す。
3:ぶりぶりざえもんやトグサと長門が心配。
4:ペットショップを探す。
[備考]
ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
>>183 × こうして運転しているとヘンゼルのこと、自分が死なせてしまった少女のことを思い出す。
○ こうして運転していると、自分が死なせてしまった少女の事を思い出す。
殺戮の舞台に燦然とそびえ立つホテル。
それは半日に渡り参加者達の目を惹き、彼ら彼女らを集め、そして様々なドラマを生み出していった。
……だが、そんな天の楼閣も今となっては、見るも無残に破壊しつくされ、崩壊するのも時間の問題。
そう、完全に倒壊するまであと残り時間は僅か…………。
◆
所々ぽっかりと穴が空く天井が軋み、壁には断続的に亀裂が走ってゆく。
そして、硝子が割れた窓や砕けて外が見える壁の穴からは、発砲や爆発のような音が時々聞こえてくる。
――そんな状況の中、未だにホテルの一室に残っていたみさえは、思わず不安な声を出した。
「ね、ねぇ? そろそろヤバくない? このホテル、絶対にもうじき潰れると思うんだけど……」
「――心配かい? ……ま、気持ちは物凄く分かるがな」
みさえの言葉に、ゲインが天井を見上げながら答える。
「だが、外にもキャスカみたいな問答無用な連中がいるからな。丸腰で出るわけにはいかないだろ――っと!」
ゲインは気合とともに、やや大きめの瓦礫を横に転がし、その下から何かを取り出した。
その何かとは、世に散弾銃の名を轟かせる事となった銃、ウィンチェスターM1897であり――
「ショットガンか……。俺の主義に反するが見たところ、使用する上での支障はなさそうだな。……よし」
「あんた、銃なんて使えるの?」
「人並みにはな。エクソダスをする上じゃ必要不可欠だしよ」
彼が本来得意とするのは狙撃であったが、銃全般の扱いにも慣れていた。――勿論、人並み以上に。
よって、このように銃を手に入れることは、ゲインにとっても幸運であった。
「なら、ゲインが持っていたほうがいいと思うけど…………あ、銃って言えば……!」
そう言うと、みさえはつい先程自らの手で掘り出した自分のデイパックから、ずしりと重みのある箱を二つゲインに渡した。
「これは……予備弾薬か?」
「そうだと思う。私、そういうのに全然詳しくないし、持ってても意味ないからあんたに先に渡しておくわ」
「心遣い、感謝の極み。……しかし、ご婦人に何かを貰ってそのままでは男として名が廃ります。ここは礼として――――」
そう恭しく言うと、ゲインはみさえの手のひらを取り――
「え、え? えぇえええ!?」
口づけをした。
「今はこれが俺の出来る精一杯。……ですが、ここからエクソダスした暁には是非、一緒にお食事でもいかがですか?」
「な、何言ってるのよ!! わ、私はもう結婚してるのよ!? それに子供だって…………」
夫と子供――それを聞いて、ゲインは名簿に載っていたみさえ以外にもいた野原姓の二人の参加者を思い出す。
そして、そのうち片方は既に放送で名前を呼ばれていたことも。
「……失礼ですが、最初の放送で名前を呼ばれた野原ひろしという人物は……」
「ひろしは私の主人よ。……あの人はもうここにはいない。だけど、しんのすけは……あの子はまだここにいるわ」
そう言いながらみさえは、先程までの焦りの表情から一転、顔を暗くする。
それを見て、ゲインはようやく自分の言動が軽率であったことに気付く。
「……そんな事にも気付かないで軽率なこと言っちまって悪かった」
「いいわよ、別に。……あの人だって、私にこんなところで落ち込んでいる暇があるなら、早くしんのすけを守ってやれって言いそうだし。
それに、私が忘れない限り、あの人は私の中で生き続けるんだと思う」
……強いご婦人だ。
ゲインは正直にそう思った。
最愛の人を亡くしてもなお、その悲しみを越えて今までこうやって生きているのだから、目の前にいる女性はきっと強いはずだ。
そして、そんな女性にゲインがしてやれることは唯一つ。
「……大丈夫さ。俺がなんとかしてやるよ。あなたを息子さんに合わせてやるし、ここから脱出させてやる」
「……本当?」
「勿論。俺はエクソダスの請負人だぜ。依頼されたエクソダスは絶対に成功させてやる。……俺の名に賭けてな」
「……う〜ん、やっぱり壊れてるわねぇ」
目の前に置かれた筒状の物体――糸なし糸電話を目の前に、みさえは溜息をついた。
思えばホテル上層部が崩壊する直前、彼女はデイパックから糸電話を取り出し、その異変を伝えようとしていたのだが、それが間に合わずに崩落に巻き込まれてしまった。
そして、その結果手から離れた糸なし糸電話はデイパックのそばに放り出され、見事に瓦礫落下の直撃を受けていたのだ。
そのような衝撃があれば、故障してしまうのも無理はないだろう。
「セラスやクーガーと連絡が取れればよかったんだけど…………って、何してんのゲイン?」
糸電話から目を離し、ゲインの方を見ると、彼はなにやらまだ瓦礫を掘り起こしているようだった。
「いや、ちょっと気になるものが見えたんでな」
「気になるもの?」
「あぁ。――っと、これのことさ」
瓦礫を除去して取り出したものをゲインはみさえにみせる。
「――って、それってまさか……」
「あぁ、俺達の首にもつけられてる首輪さ。誰かがきっと遺体から回収したんだろうな」
「回収って……」
「勿論、首を切だ――と、失礼。ご婦人にする話じゃなかったようだ」
そう言って、ゲインは視線を首輪へと戻す。
「経過がどうであれ、こいつを調べれば首輪について何かしら分かるかもしれない。外す方法やもしかしたらエクソダスの手段とかもな」
「そんなことが出来るの?」
「出来るさ。俺一人で無理でも、他にこういう機械に知識がある連中を仲間にしたりすればきっと。
……と、首輪の裏に何か刻んであるぞ? ……“Sayo=Otonashi”? サヨ・オトナシ…………確かそんな名前が名簿にあったな」
ゲインは思い出す。名簿の最後の方に書かれていたその名前を。
長い間こん睡状態にあったゲインは彼女の生死を知らなかったが、ここに首輪があるという事は――
「サヨさん、か。……この首輪は俺が役立ててみせる。だから安らかに眠ってくれ……」
ゲインはそう言うと首輪を自らが拾ったデイパック――中身は弾薬やらドラムセットやらで役立つものは殆ど無かった――にしまう。
すると、それと同時に天井が今までよりも一層大きな音できしみ、新たに拳大の瓦礫が降り注ぎ始めてきた。
「……もうここでのんびりしてる訳にもいかなさそうだな」
「は、早くここを出ないと……!」
「あぁ、分かってるさ。とっととこんな危険極まりない場所からはエクソダスするとしようか!」
ゲインとみさえは、ここでようやくホテルからの脱出を開始した。
ホテルの廊下は部屋同様に瓦礫が大量に落下していたが、それでも幸いにして道が塞がれるという事態は免れていた。
「……ほら、手を伸ばして。足の方は大丈夫か?」
「え、えぇ、何とか。……あなたこそ、傷は大丈夫なの?」
「何、これくらいキアイで何とかなるさ。ヤーパンの人間ってのはキアイで何でも出来るっていう話だ」
ついさっきまで昏睡状態にあった男のいう事とはとても思えないが、今のみさえにはその言葉がとてもたくましく聞こえた。
「……そういえば、ガッツや翠星石ちゃんはどうしたのかしら」
「それは、さっき言ってた俺が寝てる間に集まってきたっていう仲間のことか?」
「う、うん。ガッツは一応仲間だったわ。……でも、翠星石ちゃんは……」
翠星石はあからさまに自分達に敵意を向けていた。
ただし、敵を見つけたら即戦闘というキャスカと違い、何か情報を聞きたがっていたようだが。
それにその拙い会話の節々からは、彼女が元々人を殺すような性格ではないことが感じられた。
恐らくは、このバトルロワイアルという狂気の沙汰の中で歯車が狂ってしまった結果、あのような暴挙に出てしまったのだろう。
ならば、彼女は完全に敵というではない。きっとちゃんと話せば分かってくれる――――みさえはそんな事を考えていた。
「…………どうした? 急に黙ったりして翠星石ってのがどうかしたのかい?」
「え? い、いえ、なんでもないわ!」
「そうか? ならいいけどよ。…………と、ようやく階段発見か」
ガッツや翠星石を見つけることなく、ゲインとみさえは階段を見つけてしまった。
――1階、このホテルからの脱出口となる玄関のあるそのフロアへと繋がる階段を。
みさえは、思わず後ろを振り返る。
だが、そこには二人の姿は無く……。
(ガッツ……翠星石ちゃん……もう脱出してるのよね……?)
彼女はそう願うと、もたつく足をなんとか動かし、階段を下りていった。
階段を見つければ、後はただひたすら1階へ向かって降りていくだけ。
そうすれば、晴れてこの崩壊寸前のホテルからの脱出も叶う――――そう思っていたのだが…………。
「……遅かったか」
「な、何なのよ、これは……」
階段のあるフロアから玄関に接した1階の中央ロビーへと出ようとした二人の前に立ちはだかったのは瓦礫の山。
崩落の影響で積もり積もった瓦礫が完全に階段とロビーを遮断していたのだ。
「……どどどどどうするのよ! こ、このままじゃ私達脱出できないわよ!?」
「ひとまず落ち着け。脱出の手立てはまだ断たれたわけじゃない」
「で、でも、玄関への道がっ!!」
みさえが慌てたように声を出すが、ゲインはそんな彼女の眼前に手のひらを出し制止する。
「いいか? ここはホテルだ。しかもかなり規模がデカい。……ってことは入口は一つだけじゃないはずだ。
従業員用の出入り口、資材の搬入口、それに非常口……出入り口はまだあるさ」
「そ、それじゃ、出られるのね!?」
ゲインはそんなみさえの問いに力強く頷く。
◆
「――あったぞ!」
ゲインの読み通り、玄関から間逆の方向に移動してゆくと、そこには緑の非常灯がぼんやり灯る非常口があった。
二人はその非常灯を唯一の道しるべとして、ひたすら走る。
もはや、腹部の傷も脚部の打撲も関係ない。
彼らはひたすらこの崩れゆく楼閣から脱出する為に走る。
「……ちょ、そろそろヤバいわよ!?」
「大丈夫だ! 後もう少し!!」
二人が走る後を追うように瓦礫は数を増やし大量に降り注いでいた。
コンクリートと鉄骨があげる悲鳴に近い轟音も本格的に大きくなってきた。
――――終末の刻はもう間近だ。
そして、そんな危機的状況の中、何とか二人は非常ドアにたどり着く。
「は、早く! 早く開けて!!」
「待ってろ……………………よし、開いた!!」
鉄製の扉は僅かに歪んで開きにくくなっていたものの、幸いにも開くことが出来た。
二人は開いた出口から外へと飛び出す。
「な、何とか無事に出られたわね」
「いや、安心するのはまだ早い……」
「――え?」
そこから先は、ゲインの口から聞かなくても分かった。
背後で一際大きな轟音が鳴り響いたので、振り返ってみると自分が今まさに脱出したばかりのホテルが完全に崩壊しだしていたのだ。
高層建築だったそれは、上から順に瓦礫の山になりながら下へと急降下し、その瓦礫の一部を周囲にも撒き散らし始めている。
「――このままだと巻き込まれる。走るぞ!」
ゲインはみさえの腕を掴むと、その場から一目散に走り出す。
「ちょ、ちょっと! 何で出られたのにまたピンチなのよぉ〜!」
「俺に言うな! 今はとにかくホテルから出来るだけ離れ――――!!」
その時、ゲインは気付いた。
自分達の頭上を覆う巨大な影の存在を。
見上げればそこには自分達目掛けて降ってくる無数のコンクリートやら鉄骨やらの瓦礫群があった。
「畜生! 何で今日はこんなにツイてないんだよ、俺はぁ!!」
みさえの腕を引っ張り、力の限り走るゲイン。
だが、落下速度から考えるに、このままでは瓦礫を回避する前に下敷きになってしまう。
(せめてこのご婦人だけでも……!!)
ゲインは、どうにかしてみさえを助ける方法を考え出そうとする。
だが、非情にも瓦礫は彼らのすぐ頭上にまで近づきつつあり………
そして――――――――
◆
「く、うぅ…………」
地面にうつ伏せになっていたゲインは、不意に目を覚ました。
「……ん? 生きてるのか?」
ということは、あの瓦礫の落下から逃れることが出来たのだろうか。
ゲインはその真偽を確かめるべく、まずは立ち上がる。
すると、彼の背面に散乱していた無数の石ころ大の瓦礫の欠片が、ぱらぱらと地面に落ちた。
「夢……じゃないよな?」
頬をつねる。
……痛かった。
「――ということは、やっぱりあの瓦礫からは何とか逃げられたってことか」
回避は絶望的と思っていたが、土壇場で何とかなったらしい。
彼はここぞとばかりに悪運を発動させる自分に呆れるが、それと同時に大切なことを思い出した。
……そう、みさえの事である。
彼はみさえと共にホテルから脱出、あの瓦礫から逃れようと走っていたはずだった。
ならば、彼女もこの近くにいるはず。
そう考え、彼は周囲を見渡す。
……すると、彼女はすぐに見つかった。
――――彼の背後にあった瓦礫の山に胸の辺りまで埋もれた状態で。
「――!!! お、おい! 大丈夫か!? おい!?」
ゲインはみさえに近づくと、肩を揺する。
すると彼女は苦しそうな声を出しながらも、返事を返した。
「…………あ、ゲイン。……無事だったのね?」
「あぁ、俺は無事だ。……お前は大丈夫か? 出られそうか?」
「……無理そうね。だって、こんなに一杯の瓦礫が上に乗っかって……るんだよ? …………私やあなたの力じゃとても……」
よく見れば、瓦礫に押しつぶされた彼女の体からは大量の血液が流出していた。
……だが、それでも彼女はゲインの顔を見て微笑んだ。
「でも良かった。……あなたが無事で。…………体張った甲斐があるってものね」
「体を張った? ――――まさか、あんた……!!」
――そのまさかであった。
みさえは、瓦礫が二人に直撃する直前、腕を掴むゲインの手を無理矢理剥がし、彼の体を目一杯突き飛ばして瓦礫の雨から逃がしていたのだ。
ゲインは覚えていないようだったが。
「……何故そのようなことを……?」
「あなたなら……こんなふざけた世界から脱出する方法を見つけてくれそうだったし…………それに、安心してしんのすけを任せられそうだったしね…………」
「あんたが死んで息子さんが悲しむとは思わなかったのか!?」
「そうね…………私母親失格かもね…………。でも…………あそこで共倒れするくらいだったら…………あなたに賭けた方が何倍もマシだと思ったから……。あなたが…………しんのすけを……うぅん、ここにいる皆をこの殺し合いから解放してくれる事に賭ける方が、ね」
この女性は、自分の命よりも、我が子を生還させる可能性に賭けたというのか。
ゲインはそんな目の前の専業主婦にあきれ返ってしまう。
「……ご婦人にこんな事を言うのはどうかと思いますが…………あなたはとんだ大馬鹿者だ」
「そりゃ、短大卒だも……の……」
「そうじゃない。……自分の命よりも、こんな話をして間もない男の今後を取ったってことが馬鹿だって言ってるんだ」
「確かに……馬鹿……かもね。……でも…………」
みさえは弱弱しく腕を持ち上げると、ゲインの手の甲に手をのせる。
「……でも、あなたはそれをやってくれるんでしょう? 依頼された仕事は――」
「――何としてもやり遂げる。……それが請負人って奴だからな。オーブネに乗ったつもりで任せてくれ」
「そう。それを……聞い……て安心した……わ」
手の甲に乗せた手をゲインが握ってやると、みさえは穏やかな笑みを浮かべた。
「…………それじゃ、依頼の件は頼んだわよ。……それと…………しんのすけ……を……よろし……く…………」
そこまで言ったところで、みさえの手から力が抜け、目は閉じられた。
◆
あなた……これでよかったのよね?
もしかしたらお馬鹿な女だと思うかもしれないけど、私は後悔してないわ。
……そりゃ、死ぬのは怖いし、自分の命は大事よ。
だけどね、お腹を痛めてしんのすけを産んだあの日から、私は子供の命もそれと同じくらい……うぅん、それ以上に大事に思えるようになったの。
しんのすけやひまわりの為なら、自分で出来ることは何でもしてあげたいと思えるようになったの。
だから、私はあの人……ゲインさんに賭けることにした。
あの人の目を見ていると、きっと脱出を成し遂げてくれる――そう思ったから。
子供の未来を守るのは私達両親の役目なのよね。
未来を守るためなら…………未来……………………未来かぁ……。
私も見たかったな、二人が学校に通うようになる姿を。
しんのすけの奥さんになる人やひまわりの旦那さんになる人の顔を。
二人の孫の顔を。
あなたもそう思うでしょ?
……本当になんでこんな事になっちゃったんだろうね。
こんなことが無ければ、今日も平凡でひっちゃかめっちゃかだけど楽しい一日になるはずだったのに。
きっと、あそこに集められた人達の大半はそんな感じよ。
沙都子ちゃんやなのはちゃん、それに翠星石ちゃんもきっと……。
…………それなのに、どうしてあのギガゾンビっていう変態仮面は私達を…………。
許せない……絶対に許せないわ。
だからお願いゲイン、あいつを倒して、皆を元の世界に戻してあげて。
それが、私の最期の頼み……。
そして、あなた。
私達は不甲斐なかったかもしれないけど、しんのすけとひまわりの親として胸を張っていいと思う。
そして、あなたの妻でいられたことを本当に幸せに思ってる。
最後にしんのすけ。
ママは、もういなくなっちゃうけど、決して悲しみに溺れないで。
……私もパパも、あなたの心の中で生き続けていくから。
だから……いつもみたいにお馬鹿なくらい元気でいて。
これは、ママとのお約束条項に追加よ。
…………それじゃあね、しんのすけ。
さよなら……じゃないわね。私はパパと一緒にあなたをずっと見守ってあげるんだから。
だけど、しんのすけがいる場所とは違う場所に行っちゃうことは事実なのよね。
だから、こう挨拶するのがいいのかな?
――行ってきます。
◆
「こんな形でしか弔えなくて、すまないな……」
息を引き取ったみさえの体をホテルから持ち出していたバスタオルで覆うと、俺は一礼した。
みさえの顔は、既に死んでいるとは思えないくらい穏やかだった。
そう、それはまるで安心しきっているような顔。
「……後は俺に任せる……か」
みさえは最期のその時まで、息子の事とエクソダスの事を気にかけていた。
そして、俺が彼女の頼みを引き受けたことを確認すると、静かに眠ったのだ。
……つまり、俺は遺言を託されたわけだ。
息子の無事とエクソダスの成功を願う遺言を。
……彼女が命と引き換えにしてまで俺に託したその願い。
請負人として、俺が引き受けない理由があるだろうか。
――答えは否だ。
「……ならばやってやりますか!」
俺は自らの掌で両頬をぴしゃりと叩くと、再度みさえに一礼をしてその場を立ち去った。
全てはここからのエクソダスの為に。――みさえの死を無駄にしない為に。
……そしてこの時、俺はここからのエクソダスと同時にもう一つの目標を定めていた。
それは――――
「ギガゾンビ…………俺達をこんな目に遭わせたその罪は重いぜ。『黒いサザンクロス』の異名の理由……いずれ教えてやる」
【D-5・ホテル裏口周辺 1日目・夜中】
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)、ギガゾンビへの怒り
[装備]:ウィンチェスターM1897(残弾数3/5)、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に
[道具]:デイパック、支給品一式×6、首輪
9mmパラベラム弾(40発)、ワルサーP38の弾(24発)、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(30発)
極細の鋼線 、医療キット(×1)、病院の食材、マッチ一箱、ロウソク2本
ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの
[思考・状況]
基本:ここからのエクソダス(脱出)
1:信頼できる仲間を捜す。
2:しんのすけを見つけ出し、保護する。
3:ゲイナーとの合流。
4:首輪を調べる。
5:ギガゾンビを倒す。
[備考]:第三放送を聞き逃しました。
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん 死亡】
[作中備考]
ホテルが完全に倒壊、以下のものが瓦礫に埋もれました。
〜ゲインのデイパック(※1)、バトーのデイパック(※2)、パチンコ、パチンコの弾用の小石数個、トンカチ、支給品一式、空のデイパック
スペツナズナイフ×1、銃火器の予備弾セット(各120発ずつ)、糸なし糸電話(使用不可)、FNブローニングM1910(弾:2/6+1)
翠星石のローザミスティカ
※1:ゲインのデイパック:
【支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)】
※2:バトーのデイパック:
【支給品一式(食糧ゼロ)、チョコビ13箱、煙草一箱(毒)、 爆弾材料各種(洗剤等?詳細不明)、電池各種、下着(男性用女性用とも2セット)他衣類、茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている、茶葉を一袋消費)】
ホテル周辺にも瓦礫が散乱し、その瓦礫の一つにみさえの遺体とみさえのデイパック(※3)が瓦礫に埋もれました。
※3:みさえのデイパックの中身
【石ころ帽子@ドラえもん、スモールライト@ドラえもん(電池切れ) 】
早速ですが、本スレでの指摘に従い、
>>202を以下のように訂正します。
<誤>
「出来るさ。俺一人で無理でも、他にこういう機械に知識がある連中を仲間にしたりすればきっと。
……と、首輪の裏に何か刻んであるぞ? ……“Sayo=Otonashi”? サヨ・オトナシ…………確かそんな名前が名簿にあったな」
ゲインは思い出す。名簿の最後の方に書かれていたその名前を。
長い間こん睡状態にあったゲインは彼女の生死を知らなかったが、ここに首輪があるという事は――
「サヨさん、か。……この首輪は俺が役立ててみせる。だから安らかに眠ってくれ……」
↓
<正>
「出来るさ。俺一人で無理でも、他にこういう機械に知識がある連中を仲間にしたりすればきっと。
……と、首輪の裏に何か刻んであるぞ? ……“Tsuruya-san”? ツルヤさん…………確かそんな名前が名簿にあったな」
ゲインは思い出す。名簿の最初の方に書かれていたその名前を。
長い間こん睡状態にあったゲインは彼女の生死を知らなかったが、ここに首輪があるという事は――
「ツルヤさん、か。……この首輪は俺が役立ててみせる。だから安らかに眠ってくれ……」
誰かが、こんなことを言っていたのを覚えている。
出会いには、幸せな出会いと不幸な出会いがある。
けれど、出会うことに意味があるのではなく、出会ったことに意味があるのだと。
私は、思う。
私となのはが出会ったことには、どんな意味が有ったのだろうかと。
◇ ◇ ◇
破滅した少女が、親友を埋める。
(むくれた、なのは)
地面に掘られた即席の穴に、なのはの遺体がそっと横たえられる。
その手には、友人の黒いリボン。
それが結ばれていた所には、代わりになのはの白いリボンが。
いつかと同じ、片方ずつでのリボンの交換。
真逆、形見分けまでこんな形になるとは、思いもしなかった。
(泣き顔の、なのは)
バルディッシュをシャベル代わりにして、遺体に土を被せていく。
その赤黒く染まった喉元から目を逸しさえすれば、今にも彼女が起き上がってきそうで。
穏やかな顔だけを見ていれば、何時かはその瞼が開かれて"おはよう"と言ってくれそうな気がして。
手を安めそうになる自分を叱咤し、心を凍らせて、黙々と作業を進める。
(何かを決心した時の、凛々しいなのは)
ゲイナーが数歩後ろから、沈痛な面持ちでそれを見守っている。
彼からの埋葬の作業を代わろうかと言う提案は、断った。
レヴィはぬけ穴ライトを貸したきり、離れた所で辛気臭そうな顔をしてそっぽを向いている。
(……笑う、なのは)
なのはは、もう、笑わない。
もう二度と動かないその顔が、冷たい土に覆われ、そして見えなくなった。
ただ、瞼の裏に残る、まぼろし。
それは、良く物語や映画で見掛ける光景。
友人や、恋人の死。それを乗り越えて成長する主人公。
全て困難や外敵と戦うのに、"観客が納得できる理由"を付けるための筋書き。予定調和。
(だけど私は……そんな予定調和なんて欲しくない。
なのはの存在の代わりに得る強さなんて、私は要らない!)
けれど、なのはは死んだ。
リニスもプレシアも、カルラもはやてもヴィータもタチコマも。
もう、二度と戻らない。
嫌が応でも、フェイトはうしなわれたものを背負わねばならない。
それを投げ出す方法なんて無い。
――――――否。
ギガゾンビの言っていた、優勝者に与えられる褒美。
彼によれば、それで願いは何でも叶うと言う。
(母さん、やっと分かったよ。ひとは、大切なものを失うと、こんなことまで考えてしまうんだね)
ゲイナーが作ってくれた、木の棒を組み合わせただけの簡素な十字架を前に黙祷を捧げながら、フェイトは己が胸に小さく疼く昏い焔を感じ取る。
だが、炎がこれ以上燃え広がることは無い。
彼女の心の中に、なのはがいるから。それに、
(私は……みんなの声を聞きたい)
カルラとの相対で目を覚ますことが出来た。
タチコマのおせっかいで歩き出すことが出来た。
レヴィからの罵倒で自分を省みることが出来た。
ゲイナーの言葉で立ち上がることが出来た。
カルラに止めを刺したものや、桃色の髪の少女のように、呼びかけても悪意しか返ってこないかも知れない。
そう思うと、怖い。
心を黒で塗りつぶして、"目的"の為の人形になれたら、どんなにラクだろうか。
でも、それはきっと間違ってる。
それではカルラの覚悟も、タチコマの"ゴースト"も、受け取ることが出来なかった。
それらの言葉が血肉となって、今のフェイトがここにいる。
「あなたって人は、また何をやってるんですか!」
ゲイナーの怒鳴り声でフェイトは思考を中断した。
顔を上げると、向こうでなにやらレヴィとゲイナーがもめている。
レヴィに対し怒りを顕にしているゲイナーとは対照的に、レヴィはうんざりしたような表情。
その手には、彼女のものとは別のデイバッグ。
「彼女の遺品なら本来、親友のフェイトちゃんに渡すのが筋でしょう!?」
「ハァ? バカかテメェ。持ち主はもういねぇんだ、拾ったモン勝ちだろうが。
それに筋を通せっつーんなら、付き合う義理の無い葬式ごっこの為にぬけ穴ライト貸してやったレヴィ様に対するそれ相応の謝礼はどーなってんだよコラ」
どうやらなのはのデイバッグを勝手にネコババしようとしたレヴィをゲイナーが見咎めたらしい。
「その死んだ人から勝手に物を取るって発想、なんとかならないんですか!?」
「うるせェ」
レヴィはつっかかるゲイナーにベレッタを突き付ける。
「こちとら慈善事業じゃねぇんだ。あたしにとってなのはってガキは一度顔を合わせただけの関係。死んだからって同情してやる義理もねえし、悲しんでやる理由もねえ。
あのガキの死体は"モノ"だ、あたしにとってはな。腐ろうが干からびようがカンケーねえ。
ガキに同情してるテメェらがそいつの死体って"モノ"をワザワザ埋めて得した分、手伝ったあたしも対価を得ねえと割に合わねえだろうが」
確かに彼女のぬけ穴ライトは役に立った。
ライトで作られた穴自体は時間が立てば元に戻る。
しかし固い地面を上から掘り進めるより、作られた穴を横に広げていく方がずっと効率が良かった。
「……ッ! 関係ないって、彼女がカズマさんとの誤解を解いてくれたのを忘れたんですか!?」
「あア? フザケんな折角景気良くヤり合えるチャンスをフイにしやがって、迷惑以外の何者でもねえよ」
レヴィの無神経な言葉にゲイナーがキレる。
「あんたって奴は……!」
「待ってください」
銃を突き付けられているにもかかわらずレヴィに掴み掛かろうとするゲイナーを止めたのは、意外なことにフェイトだった
「支給品はお二人に譲りますから、私は構いません」
「ハッ! 物分りの良いこった」
「フェイトちゃん……、それで良いのかい?」
フェイトは頷く。
「その代わり……彼女が元から持っていた物が入ってるかもしれません。確認したいのでデイバッグの中身を見せてください」
「僕は全く構わないけど……、レヴィさん」
二人の視線を受けて、デイバッグを持つレヴィは暫し考え込む。
「お願いします、だ」
「は?」
ゲイナーとフェイトは呆気に取られる。
「人に何か頼むんならアタマ下げて"お願いします"を言うのが筋だろう? 言ってみろよ、"お願いします、レヴィ様"って」
「なっ……!」
絶句するゲイナーの横で、フェイトはどこまでも冷静だった。
レヴィの前に出て、頭を下げる。
「分かりました。
お願いします、レヴィ。バッグの中身を見せてください」
平静な顔で頭を下げるフェイトを見て、レヴィは鼻を鳴らした。
「呼び捨てなのが気に入らねえが、まァ及第点だ。好きにしな」
後で返せよ、と言いながらデイバッグをフェイトに投げて寄越すレヴィを、呆れたような目つきでゲイナーが見ていた。
「なンだよ、言いたいことがあんなら言えよ」
「……いーえ」
二人の精神年齢の差に驚かされたなんて、口が裂けても言える訳が無かった。
◇ ◇ ◇
結局、なのはのデイバッグの中にあったのは基本支給品を除けば、"グルメテーブルかけ"と言う望む食べ物が何でも出てくる道具と、用途の分からない懐中電灯のような道具だけ。
デイバッグはレヴィの手に戻り、三人はスクラップと化したタチコマの所に戻った。
「見付かったよ」
タチコマの残骸を探っていたゲイナーが頭に当たる部分から何かを取り出してきた。
「残念ながらニューロチップってのは黒コゲだったけど、予備メモリはなんとか原型が残ってた」
そう言ってフェイトにUSB位の大きさのチップを渡した。
「これはゲイナーさんが持っていた方が……」
「いや、どのみちこれはトグサって人じゃないと使えそうもないよ。それなら今は君が持っていた方がって、思ったんだけど」
フェイトはメモリチップを握り締める。
タチコマは自分の記憶を残すことに、何かしらの価値を見出していた。
これを使えば彼が元通りになるとは思えないが、
(いつか……渡せるかな? タチコマの兄弟に、これを)
だから、フェイトは礼を言ってそれを自分のデイバッグの中にしまった。
「うへッ! ンだコリャ、中身全部黒焦げになってやがる」
一方レヴィの方は後部ポッドに残されていたデイバッグを検分していたようだ。
中身はタチコマにとっての食糧であるオイルが引火したせいで消し炭になっていたが。
如雨露らしきものが辛うじて燃え残っているだけだ。
「ま、どうせ中身はガラクタばっかだったから別に要らねーんだがな。
で、どーするつもりなんだよこいつ」
レヴィはフェイトに向かってタチコマの残骸を指で示した。
「真逆こいつまで埋めるってゴネるんじゃねえだろな」
「フェイトちゃん、残念だけど……」
「分かっています」
彼の体は埋めるには大き過ぎ、動かすには重過ぎる。
このまま雨晒しにするしかない。
フェイトが納得したのを見て取るとレヴィは荷物をまとめ始めた。
「用は済んだ。とっとと行くぞゲイナー」
「行くって……待ってください、フェイトちゃんの回復を待った方が……」
レヴィは呆れたような顔をした。
「あァ? 真逆そのガキ連れてこうって言い出すんじゃねえだろうな?」
「当り前でしょう、彼女は戦力になるし、このまま一人で置いてく訳には行かない」
ゲイナーの言葉をレヴィは吐き捨てる。
「お断りだね。あたしは気に入らねェんだよ、このガキが」
「んなムチャクチャな!」
「イヤなら付いて来なくて良いんだぜゲイナー。あたしにゃ皆で御手々繋いで御遊戯する趣味はねえ」
呆れ返るゲイナーの肩をフェイトが押した。
「私は構いませんから、行ってくださいゲイナーさん」
「いや僕としては何方かと言えば君の方と同行したいと……」
フェイトがそっと耳打ちする。
「あの人がまた悪さをしないか見ていて貰えませんか。こんなこと頼めそうなのは貴方くらいしかいませんし」
「……分かったよ。どーにも自信は無いけどね。ドロブネに乗ったつもりでいてくれ。
でも、本当に君は一人で大丈夫なのかい?」
フェイトは頷いた。
「もう大丈夫です。御迷惑をおかけしました」
そう言ってゲイナーに何かが書かれたメモ用紙を渡した。
『
フェイト・T・ハラウオンの有する魔法技術でゲームからの脱出に貢献可能な範囲:
[1]簡単な首輪の解析:音波と移動に反応して信号を出しているのが分かる程度。本格的な解体の役には立たない。
[2]通常空間への通路の一時的な作成:バルディッシュのカートリッジを応用すれば、スプライトザンバーでこの異常な空間に穴を開けて通常の時空への通路を一時的に確保することが可能。
ただし通路は不安定のため一瞬で修復され、人が通る余裕は無いと考えられる。
仮に脱出してもどこに繋がるかは全くランダムで、通路の向こう側が人間の生存できる空間である可能性は極めて低い。
また首輪が主催者が送信している信号が途切れると爆発するタイプである場合も考慮すると分の悪い賭けと言わざるを得ない。
首輪をなんらかの方法で解体した上で、"亜空間破壊装置"を利用するなどして空間特性を不安定化させて、一気に通常空間との遮断を打ち破るのが望ましい。
』
「これを、誰か役に立てられそうな人に」
「……わかった、任せて。
あ、それからこれはどうする?」
そう言ってゲイナーはグラーフアイゼンを取り出した。
「私にはベルカ式は使えそうもありませんし、持っていてください。
出来ればシグナムに渡してあげて貰えませんか」
「……信用できるのかい? そのシグナムって人は」
フェイトは頷こうとして躊躇する。
「分かり……ません。ただ言えることは、どの道を選ぶのであれ、彼女は躊躇しないだろうと言うことです」
そう言ってから今度はグラーフアイゼンに語りかける。
「ヴィータは多分もういないけど……、よろしくお願い、グラーフアイゼン」
「Jawohl!(了解!)」
そう言ってから、そのアームドデバイスは幾分威勢の無い声で続けた。
「Verzeih mir(申し訳ありませんでした)」
「いいんだよ、デバイスは使い手を選べないんだし……。
でも、出来るなら今度はあんなことになる前に使い手を止めてあげて。
貴方たちにも、言葉があるんだから」
「……Jawohl!」
見るとレヴィはイラついた様に足踏してゲイナーを待っている。
「それじゃもう行くよフェイトちゃん。
あ、一応待ち合わせの場所を決めておこう。明日の朝の六時にE6の駅ってのはどうかな? 間に合わなければ六時に電話するなりして無理はしない方向で」
「ええ。それでお願いします。
今まで御迷惑をお掛けしてすみませんでした。それと、ありがとう。
じゃあ、ゲイナーさんお気をつけて」
「僕としては君の方が心配なんだけどね」
苦笑しながらゲイナーはレヴィの方へと向かった。
「レヴィもありがとうございました。どうかご無事で」
無視して離れていくレヴィを見てやれやれと首を振った後、ゲイナーもそれに続く。
後には、少女と残骸が残された。
◇ ◇ ◇
実の所、レヴィも最初はフェイトを連れていく予定でいたのだ。
先ほどの戦闘、ダッチ当たりに言わせれば"ケサンがピクニックに思える"派手なドンパチ、あんなのに巻き込まれればあっと言う間にローストチキンの出来上がり。
否、簡単に料理されるつもりは無いが、少なくとも五体満足ではいられないだろう。
持て余すイライラを如何無く発散できる良い機会と言えなくもないだろうが、カズマに借りを返す前にくたばるのは御免だ。
適材適所。こう言うバカげた戦争はそれ専門の奴に任せるに限る。
しかし、先ほど"葬式ごっこ"で、気が変わった。
(……気色ワリィ)
喰いちぎられた喉元を丁寧に拭いているのを見て。
リボンを自分の髪に結んで悦に入っているのを見るに付けて。
胃の中のムカムカが収まらなくなった。
レヴィにとって人命の価値は、フェイトやゲイナー達に比べれば規格外に低くはあるものの、銃弾一発分程度より高くはある。
しかし、こと既に死体になった人間に対しては、例えそれが知り合いの物であろうが、せいぜい始末屋に安値で叩き売る程度の価値しか認めていない。
(生首を後生大事に抱えてんのと変わんねェよ。まあ、さすがにそこまでイッちまってるヤツは知らねえが)
レヴィにも分かっている。これは純粋に感性の違い。
だが、それ故に、直情的に自分の感性に従うレヴィには我慢できなかった。
(ま、次合う頃には忘れるだろ)
だが、追いかけてくるゲイナーにそう説明した所で納得しないだろう。
だから予想通り、
「ちょっと、レヴィさん!いくらなんでもあんな理由で置いてくことはないでしょう!」
と文句を言ってくる彼に、
「ハァ? バカかテメェは。状況は差し迫っているっつてただろーが。動けない奴にかかずらってるヒマはねぇよ。
動けるようになりゃどうせ手分けで首輪外せる奴探すんだし、今別れても同じじゃねえか」
「それはそうですが……」
なおも食い下がろうとするゲイナーを見て、何を思ったのかレヴィの方から詰め寄ってくる。
「な、何ですか?」
「おいテメェ確かあのガキとヤり合ってた女の武器回収してたろ」
「あ、ええ、グラーフアイゼンって言うらしいです」
ゲイナーはデイバッグからミニチュアのハンマーを取り出した。
即座にレヴィが奪い取る。
「ちょっと寄越せ」
「なッ! それはフェイトちゃんがシグナムって人に渡してくれって……!」
「わーってるわーってる。借りるだけだ」
どう見てもそのまま持ち逃げする気満々の態度でレヴィはグラーフアイゼンを弄んだ。
「しっかしガラクタにしか見えねぇな。本当にこんなんでヤりあえんのか?」
「Ja」
「うワ、本当に喋りやがった!」
一応聞いてはいたが、それでも実際に道具が言葉を発しているのを見て、レヴィは改めてこの状況のクレイジーさに呆れ返った。
「OK、グラーフアイゼン。あたしゃマホウだのなんだのややこしいモノを使うつもりはねぇ。
ただテメェのお仲間の爆撃受けて一発も撃ち返せない内にゲームオーバーってのは御免被りたい。で、テメェのバリアジャケットってのを着てりゃある程度はそれに耐えられるって話だ。
今の主人は私だぜグラーフアイゼン。道具なら使い手の役に立って見せろよ」
「Jawohl!」
ゲイナーが呆然と見守る手前で、突然レヴィが光に包まれる。
「Set Up」
そして光の奔流が収まったその後には。
大きく開いた胸元を飾る大きなリボン。
ひらひらのフリルで彩られたファンシーな赤いドレス。
どうみてもやさぐれまくった女ヤクザには似合いも付かない衣装を身に纏ったレヴィがそこに佇んでいた。
…………………………
しばし、沈黙。
「グラーフアイゼン、変身解除」
一瞬でレヴィが元のラフな格好に戻る。
彼女はギチギチと首から音を立てて、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているゲイナーの方へと振り返った。
「見・たな?」
夜叉のような表情のレヴィをみてゲイナーは必死にブンブンと首を振った。
「み、見てません見てません! 絶対見てませんって! 誓ってレヴィさんのあんな恥ずかしい格好見た訳がありません!」
「死・ネ」
……こうして、ここにまた一人、新たな魔法少女が誕生した。
夜の街に響くゲイナーの悲鳴は新生を祝う産声か。
◇ ◇ ◇
フェイトはタチコマの残骸にもたれかかって星を眺めていた。
もう、体力は歩く分には問題ない程度には回復している。
それでも、もう少しここに居たかった。
(私は……これからどうしたら良いんだろう)
ひとまずはこのゲームからの脱出を目指す。問題は、その後。
仮に元の世界に戻れた所で、隣になのはが居ない状況なんて考えられない。
今は、ただ出来るだけ多くの人とともに生き残ることに全力を注ぐしかないのは分かっているが、その為のモチベーションが湧いてこない
。
生き残ってまで自分は何がしたいのか、全然分からないのだ。
(でも、なんでだろう。投げやりな気分には、なれない)
きっと自分がこれから何をしたいか分かるのは、もっといっぱい泣いてからなのだろう。
そうだ、帰れるかは分からないけど、帰れたらその時は思いっ切り泣こう。
なのはを守れなかった事は許してもらえないかもしれないけど、出来ることならアリサやすずか、みんなと一緒に。
そうしてしまったら、きっと自分はなのはの死を完全に認めてしまうことになるんだろう。
瞼の裏に浮かぶなのはの姿は、日に日に薄れていってしまうに違いない。
(けど、私は忘れない。なのはって言う最高の友達がいた事を。彼女の言葉を)
だから、泣くために。
新しい一歩を踏み出すために。
フェイトは立ち上がった。
――――――きっと、この少女に足りなかったのは、自分から一歩を踏み出す勇気。
でも、きっと大丈夫。勇気に溢れていた親友の言葉が、彼女の中で生きている限り――――――
少女は一度だけ立ち止まり振り返る。
自分を庇い、燃え尽きた一個のゴースト。
自分に、彼が言う"価値を生み出す"ことが出来るかは分からないけど。
彼は毀れ、そして自分はここに居る。
「それじゃ、タチコマ。今まで本当にありがとう。
――――――さよなら」
彼女がなのはにさよならを言えるのは、もっともっと先のことになるだろう。
それを言ってしまうのは、死ぬ程怖い。
けれど、そのさよならを言うための第一歩を、少女は踏み出した。
◇ ◇ ◇
熱と衝撃で歪んだタチコマの後部ポッド、その搭乗席のモニタがかすかに明滅する。
ノイズだらけで殆ど何も読み取れないが、一瞬だけ意味を為す言葉を結んだ。
《――――thanks》
誰に宛てたものなのか。何に対しての言葉なのか。
もう、誰にも分からない。
【D-6/真夜中】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、背中に打撲、魔力大消費/バリアジャケット装備
[装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム、残弾5/6)、双眼鏡
[道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、タチコマのメモリチップ
[思考・状況]
1 :ゲームの脱出に役立つ参加者と接触する。
2 :朝六時にE6駅でゲイナー達と合流。
3 :無理ならその時に電話をかける。
4 :カルラの仲間やトグサ、桃色の髪の少女の仲間に会えたら謝る。
基本:シグナム、眼鏡の少女や他の参加者に会い、もし殺し合いに乗っていたら止める。
【D-6/真夜中】
【魔法少女ラジカルレヴィちゃんチーム】
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:風邪の初期症状、頭にたんこぶ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ロープ、焼け残った首輪、
[思考・状況]
1 :ちょ、レヴィさ、やめ、おねがqあwせdrftgyふじこlp
2 :フェイトが心配。
3 :トグサと接触し、協力を仰ぎたい。
4 :首輪解除の取っかかりを得たい。
5 :朝六時にE6駅でフェイトと合流。無理ならその時に電話をかける。
6 :さっさと帰りたい。
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:腹部に軽傷、頭に大きなタンコブ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、まだイライラ
[装備]:イングラムM10サブマシンガン、ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)
グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)
[道具]:支給品一式×2、予備弾薬(イングラム用、残弾数不明)、NTW20対物ライフル@攻殻機動隊S.A.C(弾数3/3)
グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り18品)、テキオー灯@ドラえもん、ぬけ穴ライト@ドラえもん
西瓜1個@スクライド、バカルディ(ラム酒)1本@BLACK LAGOON、割れた酒瓶(凶器として使える)
[思考・状況]
1 :ゲイナーが見た事を忘れるまで殴るのを止めない。
2 :見敵必殺ゥでゲイナーの首輪解除に関するお悩みごとを「現実的に」解決する。
3 :魔法戦闘の際はやむなくバリアジャケットを着用?
4 :ワルいコのカズマ君にはお仕置きが必要。
5 :ロックに会えたらバリアジャケットの姿はできる限り見せない。
6 :物事なんでも速攻解決!! 銃で
[備考]
※双子の名前は知りません。
※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。
※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。
【D-6/真夜中】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、背中に打撲、魔力大消費/バリアジャケット装備
[装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム、残弾5/6)、双眼鏡
[道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、タチコマのメモリチップ
[思考・状況]
1 :ゲームの脱出に役立つ参加者と接触する。
2 :朝六時にE6駅でゲイナー達と合流。
3 :無理ならその時に電話をかける。
4 :カルラの仲間やトグサ、桃色の髪の少女の仲間に会えたら謝る。
基本:シグナム、眼鏡の少女や他の参加者に会い、もし殺し合いに乗っていたら止める。
【D-6/真夜中】
【魔法少女ラジカルレヴィちゃんチーム】
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:風邪の初期症状、頭にたんこぶ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ロープ、焼け残った首輪、フェイトのメモ
[思考・状況]
1 :ちょ、レヴィさ、やめ、おねがqあwせdrftgyふじこlp
2 :フェイトが心配。
3 :トグサと接触し、協力を仰ぎたい。
4 :首輪解除の取っかかりを得たい。
5 :朝六時にE6駅でフェイトと合流。無理ならその時に電話をかける。
6 :さっさと帰りたい。
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:腹部に軽傷、頭に大きなタンコブ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、まだイライラ
[装備]:イングラムM10サブマシンガン、ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)
グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)
[道具]:支給品一式×2、予備弾薬(イングラム用、残弾数不明)、NTW20対物ライフル@攻殻機動隊S.A.C(弾数3/3)
グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り18品)、テキオー灯@ドラえもん、ぬけ穴ライト@ドラえもん
西瓜1個@スクライド、バカルディ(ラム酒)1本@BLACK LAGOON、割れた酒瓶(凶器として使える)
[思考・状況]
1 :ゲイナーが見た事を忘れるまで殴るのを止めない。
2 :見敵必殺ゥでゲイナーの首輪解除に関するお悩みごとを「現実的に」解決する。
3 :魔法戦闘の際はやむなくバリアジャケットを着用?
4 :ワルいコのカズマ君にはお仕置きが必要。
5 :ロックに会えたらバリアジャケットの姿はできる限り見せない。
6 :物事なんでも速攻解決!! 銃で
[備考]
※双子の名前は知りません。
※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。
※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。
ゲイナーはデイバッグからミニチュアのハンマーを取り出した。
即座にレヴィが奪い取る。
「ちょっと寄越せ」
「なッ! それはフェイトちゃんがシグナムって人に渡してくれって……!」
「わーってるわーってる。借りるだけだ」
どう見てもそのまま持ち逃げする気満々の態度でレヴィはグラーフアイゼンを弄んだ。
「しっかしガラクタにしか見えねぇな。本当にこんなんでヤりあえんのか?」
「Ja」
「うワ、本当に喋りやがった!」
一応聞いてはいたが、それでも実際に道具が言葉を発しているのを見て、レヴィは改めてこの状況のクレイジーさに呆れ返った。
「OK、グラーフアイゼン。あたしゃマホウだのなんだのややこしいモノを使うつもりはねぇ。
ただテメェのお仲間の爆撃受けて一発も撃ち返せない内にゲームオーバーってのは御免被りたい。で、テメェのバリアジャケットってのを着てりゃある程度はそれに耐えられるって話だ。
今の主人は私だぜグラーフアイゼン。道具なら使い手の役に立って見せろよ」
「Jawohl!」
ゲイナーが呆然と見守る手前で、突然レヴィが光に包まれる。
「Set Up」
そして光の奔流が収まったその後には。
大きく開いた胸元を飾る大きなリボン。
ひらひらのフリルで彩られたファンシーな赤いドレス。
どうみてもやさぐれまくった女ヤクザには似合いも付かない衣装を身に纏ったレヴィがそこに佇んでいた。
グラーフアイゼンからの止めの一言。
『申し訳ありませんが根本的に魔力量が足りないため、防御力はスカスカです。
着ても着なくても殆ど差はないでしょう』
…………………………
しばし、沈黙。
「グラーフアイゼン、変身解除」
一瞬でレヴィが元のラフな格好に戻る。
彼女はギチギチと首から音を立てて、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているゲイナーの方へと振り返った。
「見・たな?」
夜叉のような表情のレヴィをみてゲイナーは必死にブンブンと首を振った。
「み、見てません見てません! 絶対見てませんって! 誓ってレヴィさんのあんな恥ずかしい格好見た訳がありません!」
「死・ネ」
……こうして、新たなる魔法少女の誕生は流産に終わった。
夜の街に響くゲイナーの悲鳴は生を厭う水子の悲鳴か。
◇ ◇ ◇
【D-6/真夜中】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、背中に打撲、魔力大消費/バリアジャケット装備
[装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム、残弾5/6)、双眼鏡
[道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、タチコマのメモリチップ
[思考・状況]
1 :ゲームの脱出に役立つ参加者と接触する。
2 :朝六時にE6駅でゲイナー達と合流。
3 :無理ならその時に電話をかける。
4 :カルラの仲間やトグサ、桃色の髪の少女の仲間に会えたら謝る。
基本:シグナム、眼鏡の少女や他の参加者に会い、もし殺し合いに乗っていたら止める。
【D-6/真夜中】
【魔法少女ラジカルレヴィちゃんチーム】
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:風邪の初期症状、頭にたんこぶ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ロープ、焼け残った首輪、
[思考・状況]
1 :ちょ、レヴィさ、やめ、おねがqあwせdrftgyふじこlp
2 :フェイトが心配。
3 :トグサと接触し、協力を仰ぎたい。
4 :首輪解除の取っかかりを得たい。
5 :朝六時にE6駅でフェイトと合流。無理ならその時に電話をかける。
6 :さっさと帰りたい。
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:腹部に軽傷、頭に大きなタンコブ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、まだイライラ
[装備]:イングラムM10サブマシンガン、ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)
グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)
[道具]:支給品一式×2、予備弾薬(イングラム用、残弾数不明)、NTW20対物ライフル@攻殻機動隊S.A.C(弾数3/3)
グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り18品)、テキオー灯@ドラえもん、ぬけ穴ライト@ドラえもん
西瓜1個@スクライド、バカルディ(ラム酒)1本@BLACK LAGOON、割れた酒瓶(凶器として使える)
[思考・状況]
1 :ゲイナーが見た事を忘れるまで殴るのを止めない。
2 :見敵必殺ゥでゲイナーの首輪解除に関するお悩みごとを「現実的に」解決する。
3 :もう、二度とバリアジャケットは着用しない。
4 :ワルいコのカズマ君にはお仕置きが必要。
5 :物事なんでも速攻解決!! 銃で
[備考]
※双子の名前は知りません。
※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。
※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。
222 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/03/21(水) 17:12:21 ID:oK2ECE2C
糞スレ発見晒しage
. ´丶.
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/ ヽ \「| - ´ - ├ 、 ヽ
, ′ /イ/ , /__  ̄ヽ. `、
/ \ У/ / / ./ィ´-ゝイ i \ 、
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{ /イ l ,'{{__t.1_'",;;;;;j/;;| / ト、} V
\ | / l l l ,,、;;;''"´ ,:=;<;;j/ } ′ V うぃーっす、ダイノボ……じゃなくって
`丶. l ハ トl;;'"「` = '、`ヾ'_」!' , l | :i 落ちたほうの園崎ですこんばんわ
\ l | ハ: トハ l: : : |>';;// ハ l !
1 :l / ム! ヽ>' - イ , / リ l え?クーガーじゃないのかって?
`、 | / ./, ' /ヽ_ -'一1/ //.イ l あたしゃ代理だって
` - _! ./ / _∠ ´ __/'"´  ̄`丶! l
|/ _/'´ . ´ / ヽ. |
/ / , ´ / \ !
, / / l / \ |
l/ / '. l ` ー- - ` - ' 、
} , ′ \! ヽ
j/ | ── \________
/ --- _ _ハ ` −
r ´ _/`ヽ } V
V j-イ \─ -/ ∨
: : : : : : : : :!: : : :ハ: : : :.|`ーヽ: :|ー' 'ー-t: :/ _|: : :./!: : : : :|: : : : :|
、: : : : : : : :!: : : :!ヽ : : |ー- ,.ヽ:! ,.|:/´ |: :メ |: : : : :!: : : : :!
: \: : : : : : :ヽ: : !/ヽ: :!,...、 ` \ 'グ r;ヽ !;バ,〉 ! : : : :!: : : : l
: : : !\: : : : : ヽ: :レ' \K:ソ ノ `,,, ヽ,`''゙ / ,/ /: : : :/: : : : :!
: : : |: : :\: : : : \!`ヽ, - '" '''''', , ,, ̄ /: : : :/: : : : : :l つーっこって現在残り32(?)名なわけですねー
: : : :!: : : : :\: : : :.\ __,.′__ ''''''';;;;;;;;;/: : /: : : :/: :/ じゅんちょーに減ってんじゃんしねしねーあたしゃ出られなかったんだー
: : : :.i,: : : : : : \: : : : ヽ rー_二-──--`、7;;;;;;;/;//: : : : /: :/
\: : !ヽ; : : : : : : `トー--`弋" _,... ..,__ ! //:/: : : : /: / おっと失礼つい本音が
ヾ! ヽ: : : : : : :l: :\ ヽ/ `ヽ、/ イ:/: : : : /; / そんで現状なんスけど
ヽ; : : : : !: : : :\ ヽ、 / /: : l : : : / i/
ヽ: : : :|: : : : : : :ヽ、 ` ー--ー , イ: : : : :l.: : :/
/:ヽ: :!: : : : : rー-! `ヽ、 / !: : : : :!: : :l
!: : : :l: : : : : ノ `" ー- 、,.._ |: : : : :l : : |
| / // ..:./ :、.:.:.:..
|/ .// / .:.:.:/ .:.:/ /::Y'ヽ.:.:
/ / / / .:.:.:/ .:.:.:.:.| /` ゞ-ー'|.:.:.
/ / / / .:.:.:./ .:.:.:.;イ / |.:.:.:|.:.:.
l,/ / :/| ..:.:.:.:l .:.:/゙ト、/ !.:.:.:!.:.:.
/ | .:/ | .:.:.:.:.:| .:.イ三ミメ、\ |.:./|.:.:. /.:. あぁ?!地図がねぇ!まぁいいか。
/ |/ |l.:.:.:.:.:.|.:/ |/`ヽ ゝノ /_,,.土'ー|ー-/.:.: 現在モメてるのだけ除いて……っと
{ |l /|.:.:.:.:.:.|/ヽ、 ヾソ イ´ `ヽ!、/.:.: とりあえず脱出フラグは立ちかけてんだな
| / \.:.:.:.| ` ー-ー= _ (:) |/ヾ:. /
| / ,.、 \.:ヽ __′__ヽ \__/// / まぁ空気読めない奴がバリバリいるから心配ないけどな
ヽ / / | 〉-ゝ f-' ̄ ヽヽ, /.:.:.:.:.:.__/ /
\ /"´ | / \ | /´  ̄`ヽ, |/-─' ア.:|.:.:. /
\ // |:ゝ、ヽ ノノ /ヽ、_|.:.: /
\ / / |:\\`'──' _ァ':´/ /::::|.:.. /
\ ノ ヽ:::`' ='二´/:/ |::::/.:.:/
/ l ヽ
_,. -‐='/ l |, r‐、
// | | __ト、 | \
, -ァ' / / | l ',=┼ミ |\ ヽ. \
/ / 厶,/ l | ヽ| ',! `ーァ ヽ ',
/ / / / ', | iト-‐‐==、、 l i, l
/ l / / ,i |ヽ', |.:.:.:.:.:.:.:.t=ア | | ハ りょうぐうなんとかのういうつシリーズは今
/ .::|/:. ,' / | | ヽ!~`ヽ.:.:.:.:/ ll | 3(?)人います
/´ .: l.:.:.| .'ゝ| ,| | ', }.:/ / | | キョンっていう本名を誰にも把握してもらえない人が
/ .:.: \| |.:. | l | | ヽニ=' / | | 脱出フラグを握りかけてるとか何とか
/ .:.:.:.:.:.: | ,i.:.: | l: :!,':ヽ. ー /.: ,'| l それにしてもそこらの名無しよりひっでーよなー
/ , r ´ ̄`ヽ. .:.:.:.|,' \| !: :| : : : : ‐-_,./: / | l
/ / \/ /l !¬ 、/´ ̄厂.:.:.: / | l べたでーすの団長の方は……っと
/ / '‐-'-キ |;:;:;:;:;:〉 /.:.:.:.: / / リ 現在気絶か睡眠中……ってことだな
/ / . l , l !、;:;:;/ //! / /
/,. - ''´ : l ヽ ', l Y.i / l// ながもんって奴は今モメてるからスルーな
/ ,. -‐7  ̄`ヽ .:. i/ ',:.ヽ! .:| /
|/.:.:.:.:.:./ i .:. / ', .:.: . .:ヽ、
!.:.:.:.:/ | .:.:.,! ハ ヽ.:.:.\
l.:/ | .:.:.:.{ l Y!.:.:ヽ
/ /::::::V:::,i i ヽ
. / ` ー- - ッ! {`ヽ:::j/イ :! '
/ _ -― ハ :! ! ,! ′
. /― ' ´ / l | i / l ',
, , ‐士zム l , 、 j ∠ -l‐- |
l :! i <{__rtュ三‐ ' ' ゙払' rfュ┼ 、 / :i !
| :! '、 厂 ̄ヽl // ̄ ̄i` 7 i l どざえもんも三人っと
| ,! ヽ ! , -―┼- .._ j / . ト、 | 主人公コンビは反逆者様の帰り待ち……
| / l :. :. ト、l/ `ヽ /イ . :: | l、 l かたっぽの復讐ははたしてどーなったのやら
| ハ l :::. ::. V` , ,ィ_二三≧、v ∨ .:::: .::: ! l ∨
l l :. :::::. :::::::.、 ヽ ´  ̄ ̄` / .::::::: .:::::: | :!
V | ::. :::::::. ::::::ト、-\ /イi'.::::::: .:::ハ:: l!ノ じゃいあんしんじゃいやーんはキョンと一緒にいます
| ::::.:::::::::::::::::::::ヽ、 ` /::!::::::.:::::/: /i | 歌声を披露する時がいつか来るだろうな、あたしの予言はあたるぜ
| ::::::::::::::::::::::i:::::::::::!丶、 _ .. イ:::::::::::::::::::/::. |/ !」
l ::::::::::::::::.:::::i:::::::::::!, - 〒 ― 、 !、::::::::::::::∧::::: |
.:::::::::::::::::.:::::::::::厂i ! ! !::::i:::,.:::::::::::::. |
,′::::::::::::::::::::v.:::,ノ j | | i、:ハ:::::::::::::::::. l
' .:::::::::::::::::::::::/ _. __, - 、 __ _ `> 、_::::::::::::::. !
.::::::::_ -‐ ´ (_ノ、_( _人__,、__) 、 ヽ 、 ` . 、
/_. イ´ , , , ヽ \ / `ヽ、
/ ,ィ .:/ /::::∨:ヽ |:.: \:. |
// .: .:.:| :/´`ヽ/゙|:. |:.:. l:. |
/ / .:.:l .:.:./| .:/ !:. ∧:.: |: |:./}
{ .:. .:.:.:.| .:.:/ .| .:/ |: / l:.: l:. ヽ l/ }\
| .:.: .:.:.:.:| .:/\!./ /:../ !:.:. /:.: |:. !/ト、 、 反逆者勢はそろそろ光って来ました
| .:.|:. :.::.:!⊥=、 \ /:.:/ l:.:.:. ハ:.:.: |:. |/l ', 〉 でもどっちも危ないモン抱えてます
| .:.|:. .:.:.:.:.ィl:| `ヾ、 _/_,/‐ 一十、/ |:.: :.: |:.:. |イ ∨ 爆弾より危険な……ね
| .:.|:.: \:.:.:.| リ (::) //イ´ ̄ 7 ∧ヾ:. :.:. ト:.: | ! |
| .:ハ:.:. :.ヽ:ヾミ、_,, ´ (::)// 〉} .:.:.: .:|:|:.:. l | | で、(あたしを差し置いて)出てる五人は現在二人
',:.:.:| ',:.: .:.:.:.:\\ , ミ、 _,, ´ノ .:.:.:.: .:/:|:.:. l | / いおんとさとこの二人なんだけど
\{ ヽ:. :.:.:∧ ̄ __ /.:.:.:.:.:.: :∧:|:.:.:./:.!´ いおんにいろいろ立ってるからまぁ大丈夫でしょうねぇ
ハ:.:.:.:.:.:.:ハ ヽ  ̄` ァ /-ー:.´:.:.:. .:.// |:.:/:.:ハ もう片方も只では死にそうにないし、全滅はなくね?
/ ∧:.:.:|:.:.:|\ ゝ-- ' イ:.:.:.:.:.: .:.:∧ ,j/ \:.ヽ
. l ヽ \l:.:.:| > 、 __,. <´ /:.:.:.:.:.:.:.:/ ヽ __ --ミ }
', \ !:.:.| / 丁 | | /:.:.:.:.:.:.:.:/ / ',:|
〉 ヾ:.:.|′ | ! !/:.:.:.:.:.:.:.:/ / l|
: : : : :ト : ::::::::__l: : :{ /: /=≠、}: :.:::::::: : : : : : ! ::::::::::::
: : : : :l l: :::::::::_ ヽ: :! /イ , -、 l: :::::::::: : : : : : .! :::::::::::.
: : : : Vイ::::::::_)) ヽ! , ′、弋_ソ !: :::::::::: : : : : : :! :, ⌒丶、
i: : : : :l :::::::: _/ , -―- 、ゝ---}: /::::::::: : : : : : :! / . : :_, ヽ 人形勢は性悪人形がいんのか
:i: : : : :V.:::::::: /_r.:::::::::::::::.-ヽ /イ: :::::::::. : : : : : _〈_: -‐´. : : : '. しかも最強フラグ持ち
:|: : : i: : ::::::::: f´:::::::::::::::::::::::::::', /: : ::::::::::: : : : : :l 〈 :!: : :_:_:_: : : } やっべーやっべー触らぬなんとかなしってな
ハ : : ト、 :::::::: i|::::::, -―'"´ `ヽ:}/ イ: ::::::::::. : : : :ノ } . V´: : :_:_:_: ハ
:i、 : : V.:::::::: |r/. : : : : : : : : イ !´, /: ::::::::::::: : : : { 〈_:_:_:7´: : : : : : :j: '. 幼稚園児は……いろいろ暴走してんな。
:! ヽ : : .::::::::: { {: : . / ,j// : : :::::::::::: : : : l \: : r'":::: : : .'. ブタは覚醒した分死亡フラグが見えるぜ?!
| : . : :.:::::::::、 ヽ\ __} ノ //: : : : :::::::::::: : : : l `: .::::::::::. : : '.
| : : V.:::::::::: \ ヽ、___ -‐´ イ : : : : : :::::::::::::、: : :l ::::::::::. : : : 、 泥棒団のかたっぽは敵討ち、
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: かたっぽは最後の一線を越えてブッチ(ry
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
. : : : ::::::::::::´: : i ! ト 、___. イ {: : : : : : ヽ::::::::: : : : :', ::::::::::::' : : : . あ、ネタが微妙すぎたか。とりあえず空気脱却
 ̄ `::::::::::: : 仁ノ l ! ! ハ/、_:_: :- :::::::::::_ > `、 :::::::::::. : : : :
v -― :::::::::: V l | l / __::::::::::. : . `ヽ、 ::::::::::::. : : : フェイト何とかはマジカワウソ、
::::::::::: | l | l 厂 ::::::::::: : : : : . ` 、 ::::::::::::. : : でももっとカワウソになって欲しいあたしが居る
:} ::::::::::: f⌒, ‐ v⌒v⌒V`ヽ { :::::::::::: : : : : : : : : . . ` 、 _:::::::::::. : : かたっぽのねーちゃんはそろそろヤバイぜ
! __:::::::::: 弋 { ! } !_ノ - `、_::::::::::::: : : : : : : : : : : : : : : : : . . .::::::::::::. : なんてったって……色んな意味でアイドル
l /.:::::::::: / ゝ 'ゝ__ノゝ ' 、 \::::::::::::: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ::::::::::::::.
/ :::::::::::: ' . '. :::::::::::::-― -- _: : : : : : : : : : : : : .::::::::::::::
:::::::::::: \: : : : l: : : / '. ::::::::::::. : : : : : :ハ ` 、: : : : : : : :.:::::::::::
/ : : ,, イ: : : : : : : l: : : / l: : //__ヽ、: : : :i: : :
/.:.:/ /: : : : : : : :ハ: : :i l/;/ ´ `、ヾ、: l: :
. // /: : : : : : : : :{ ヽ-l 、 __ ノヾ`i:/l/ (::) i: l/: i: : ふぁいとなんとかないとは
/ i: : : : : : : : :、 i ゝi==ミ // l: : /: : : これまたいい方向に覚醒した人と
l: : : .:.,:. : : : ヽ:、/{` (:) l/ `ー===''i, イ/: : いろんな意味でフラグ神カレイド真紅
. l:. : .:./i:.: ヽ: : :ヽi ` __ ノ ' __!.... _ l/: : : カレイド真紅ならなんかやってくれる、ゼッタイ
l:.: : :/ l.:. :ヽ: : : \ 、 ''´-―‐-:ヽ、 /: : .:.:.__
__ l:.:.:.:i i:.:.:.:.:.\: :、:\ ヽ'´:::::::::, --''ヽ': :, - '' 7:.: ブラクラ主人公勢はもう両方ギャグになりかけてる
,, ''::::.. ` 、 l:.:.:.l l:.:.:.:.:.:.:.`:.、-、ゝ ヽ::r'/´ /;ィ´ /:.:.: ギャグの沼は恐ろしい、足をつければずぶずぶと填っていく
/:...::::::::: ::.. ` ー.l:.:.l_r―‐、:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ 、.〈 { ' .ノ /-,:.:.:.:
`丶、:::::::::::: .: ヽl `ー, iト:.:.:.:ト,、:.:.:.:.\ \ 、ー_彡' / iー 、 アルルゥも反逆者待ち
丶、::: .:::::::::::.__ i ll、ヽ:.l(`ヽ、:.:.:.:`丶  ̄ ,, '' l エルルゥはロック頼り
ヽr' ー -- ...二‐_.l ll `´` /` /`丶:.:.:.l `ー '' 、 ヽ./ そろそろうっかりが抜けてきたトウカに
ll リ、_./ / ヽ:l /ヽ / うたわれはいい感じですね
l `ー‐'' ノ / ,, ''/ .ハ /
./ ィ √~-〜|: ハ: : : |: : : : : i: : : : : : .i
./ /.i : i |: : : : :|: .ハ: : : .ハ: : |: : : : : |: : : : : : .|
/ ./ .i i l: i |: : : .|: ./: .i: : :ハ: :|: : : :i: : .|: : : : : : : .|
i /. .i | |: :| .|: : |: ./_,,...+----l: |: : : : |: : :|: : : : : : : : | 減る寝具はモメ中
.i / .| i : : ハ_.|:. l: .r~ .|:/: .i:.|: : .i: : :ト: : :|: : : : : : : : : .| たぶん後一人になります
.i/ i : i -Tヽ l ^ |:./: リ: .リ: : i: : : :ト: : :|: : : : : : : : : | 婦警頑張れ頑張って××
. i | .: : .i: : :|: ヽ .l l/: : :_:.ニニ____ル: : :/: : : :|:.i: :.|: : : : : : : : . |
.i . i .: : : ト: :.l: ,,ゝ_: 、 彡=----ィ/: : /: : : : |:.イ: |: : : : : : : : | 唯一の公安9課トグサくんも脱出に一枚
.i : : : : ト: i: .ィr==ミ,, " ./: :/: : : : : |/: i:|: : : : : : : : | 噛んでるんでそれなりに危ないです
i .: : ハ: ト:i: "" /: :/: : : : : :j: : : : : : : : : : : |
i : :|: :\ \:. , /: イ: : : : : : i: : : : : : : : : : : .| レイアースはどーなるんだろ
.i : l|: : : :\ \. __ - フ //:|: : : : : :/: : : : : : : : : : : .i
.ハ :ハ: : : : : : :トx. ヽ / : :.|: : : /: :イ: : : : : : : : : : : .| ゼロスルー
.ハ ハ: : : : : : :.| .\. ./: : |: : :イ: /|: : : : : : : : : : : .|
ハ ハ: : : : : :.|. .__..ィ; ; ;.ィ-.y: : イ:./ |: : : : : : : : : : : | グリフィスさん動かないと空気になりますよ
ヾ リl: : : :.i /~iiik-iii .|: : ハ/ |: : : : : : : : : : : .| どこぞの誰かさんみたいに
i : : :.| i | iii | iiii |: :イリヽ,|: : : : : : : : : : : .| まぁ心配ないけど
|: :ト :i \: \ .: : : : : : |: : : : :
:|: : ∧ .ト :i \: ヽ .: : : : : : : ii: : : : : 友に先立たれたヤマトはそろそろ精神的に参りそう
. :.|: : :i: :i: .:|:ヽ .: :i .ト: : .y: : : : : : : : : :i.i: : : : : 覚醒もしそうなので今後に期待です
.: :.i: .: :i: : .i: :|: .i : :.i ハ: :ヽ: : : : : : : : i i: : : : :
: : ィ: .: :i: : ヽ i..- .i .: : i : i:イ: .i: : : : : : : / i: : : : : 無傷のエクソダ勢
: :.ハ: : :i: :_..イ: :|____ i : : i .i: ィ:ハ.i: : : : : :./ i: : : : : 両者とも小難しいこと並べてます。
: :i i: : :-": ィヲイjjjkijア .i .: :./ .i: : ハィ:y: : : : / .i: : : : :
: :i ハ: : ト: :./|l~っii,、 .i : :/ :i: : .i: :t:yj: / .i: : : : :
: :ハ .ハ: :i: :\ \_y .i : :イ .: i: :.i: : : : :ヒ^^l i: : : : : 見る限り脱出は出来そうだけど
: :ハ .ハ:i: : : :.ト "" .i: :イ : :i: :.i: : : .ヽ _ .i: : : : : そうは問屋がおろさねえてきな感じ。
: :i ト i: : : : : i .i/: i .: : :i :i: : : ./ ヽ .i: : : : :
.: :i .ハ i: : : : y i : : :i:i:i: : / \ i: : : : : あと半分以下にはなるだろうね
、:i ハ .i: : : :- .. ,ァ i : : :i: y: :/ 彡~\__ .i: : : : :
ヽ:i .ハ .i: : : : :.~ ̄- . i .: : i .\/ 彡-:~/ .ヽi: : : : さて……じゃあ決め台詞っと
\ ハ .i: : : : :i \イ .: : :i Kヾ 彡//: .\: :
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興味あるんでしょ? この狂気と血に塗れたゲーム物語のけ・つ・ま・つ。