【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
「地図」 → MAP-Cのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【バトルロワイアルの舞台】
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/34/617dc63bfb1f26533522b2f318b0219f.jpg まとめサイト(wiki)
http://www23.atwiki.jp/animerowa/
優位なメスと劣位なオスの歴史
生物:生活能力のあるメスが生活能力のない矮小なオスを養う関係は生態系にはいくらでもある
それで、受精卵ができて、オスの精子が必要なくなる
すると、どのオスも追い出されるか、殺されるか、
メスの体内に吸収されるかのいずれかの運命になる
人類:人間も古代ではメスが優位
一例:アマゾンは狩猟民族で、狩猟の女神アルテミスを信仰していた
女のみの部族であるため子孫を残すためには男が必要である
このため時折捕虜として男を連れ帰ることがあった
捕虜となった男は全裸にされ手枷、足枷がつけられ子作りの道具として多数のアマゾンによって嬲られ精を搾られた
その結果、すぐに発狂するか廃人同然となり、男性機能が役に立たなくなった者から順に絞め殺された
男児が生まれた場合は即、生き埋めにして殺すか、不具として奴隷とする
女児の場合はそのまま戦士に育てた
こうしたメス優位な社会が古代ではごく当たり前であり、男は女に約5500万年間虐げられてきました
メス優位社会は母なる大地(女神崇拝)、自然崇拝が基本です
メス優位がオス優位?になったのは、キリストや仏陀や孔子などの男尊女卑思想登場前後からです
オス優位?社会は父なる天を崇拝、文明マンセーが基本です
ところが、昨今はフェミニスト(女尊男卑思想)によりまたメス優位となってきました
それにつれてメス本来の凶悪性が出てきました(オス優位?な時代ではおとなしくしていただけ、殴られちゃうからね
これらは、妻の夫殺しが年々ハイスピードで激増している事からも分かります
鬼嫁、熟年離婚、女だけ過剰な保護、貢ぐ君、不幸で悲惨な結婚生活、女子にのみ甘い判決、豪華な女子刑務所、金銭搾取、女優遇マスコミ、他多数
女の子は優しい?か弱い?(笑)メスは本来凶悪です。今後、更に男性差別が激しくなっていくでしょう。最終的にオスはメスの奴隷になります
オス優位な仕事場も、今後はどんどんメスに奪われていくでしょう(3k労働や兵役は残してくれるでしょうが・・・
こうして地位も経済力も生活力もやる気も無くしたオスをメスがどのように扱うかは上記を見れば分かります。
男性諸君!恋愛(避妊SEX)は楽しみつつ、不幸で悲惨な結婚生活は回避し、約5500万年間の恨みを晴らそう!
つまらなん。実につまらん。
もはやアーカードが少女に抱く感想は、それのみだった。
恐怖に屈し、反抗の意を捨て、気迫は無に消える。
足掻くという行為を放棄し、死を受け入れてしまった人間ほど愚かなものはない。
目の前で気を失った少女――朝倉涼子は、アーカードにとってはもう死んだも同然だったのだ。
見逃したところで、かつての弓兵のように舞い戻ってくる可能性は無に等しいだろう。
生きることを放棄し、抗うことをやめた存在など、それはもはや価値のない人数合わせの代替物に過ぎない。
残したところで、何の得もない。アーカードは鈍器と化したジャッカルを振り被り、朝倉涼子にトドメを刺そうした。
同時進行で行われていた放送では、禁止エリアと死者の数が発表される。
どうやら、今アーカードがいる場所は午後三時をもって禁止エリアとなるらしい。
戦乱での死を望むアーカードは、このようなゲームを成り立たせるためのつまらないルールで死ぬつもりはない。
この人間をさっさと始末し、早々に他の場所へ移るとしよう――そう結論を出し、ジャッカルを振り下ろそうとした、その時だった。
「絶影!」
アーカードの下に、高速で伸びる触鞭が飛来した。
◇ ◇ ◇
第二回の放送内容について――死者は九人。前回よりもずっと少ない数で済んだのは、喜んでいいことなのだろうか。
幸運はこれだけではなく、真紅、翠星石、蒼星石らドールたちもまた、この度の放送を乗り越えたようである。
ジュンは安堵し、ホッと息をつく――正に、それと同じタイミングだった。
劉鳳と共にホテルへ向かう道中、二人は市街地ド真ん中で赤いコートの男に襲われる少女を発見――ジュンにとっては、発見「してしまった」と言い表した方が適切だろうか――した。
何やら鈍器らしき長物を振り翳し、今にも少女の身体に振り下ろそうとしている。
ジュン自身も「危ない!」と思いはしたが、視界に捉えただけで距離は離れていたし、何をしても間に合いはしないだろうと本能的に悟っていた。
だが、隣を歩くこの男は違う。
背中に絶対正義の信念を背負い、悪を断罪するに適した力と行動力を秘めた、この男なら。
考えるよりも先に、身体が動いた。悪に駆逐されようとしている少女を救うため、瞬時に絶影を発現させ現場に急行する。
本能が『正義』と断定すれば、疑いなくそれに従う。
HOLY所属のアルター能力者、劉鳳とはそういう男だった。
ジュンがパチパチと瞬きを数回済ませる間に、事態は厄介な方へと変わっていった。
気づけば劉鳳は赤コートの男と対峙し、あっという間に一触即発のムードを漂わせている。
戦闘が始まる――ジュンは、ひと目でそう察した。
同時に、胃が痛くなった。
またか? また、巻き込まれるのか……?
いい加減うんざりしたくなるほど、展開は少年を置いて加速し続ける。
「やはり、どこの世にも悪党というものはいるものだな。貴様のような分かりやすい社会不適合者は、もはや希少だと思っていたのだが」
劉鳳、そしてその隣に立つは、彼の持つ自立可動型アルター能力『絶影』。
未知なる存在、未知なる強豪と相対しても、アーカードはまったく変化を見せなかった。すぐには。
初めてアルター能力を見た人間は、大概が驚くか畏怖を示す。
では、人間でない者がアルターを見たら、どんな反応を示すだろうか。
前例がないため明確な返答は出てこない、が、少なくともこの男は、この吸血鬼は。
「……おもしろい!」
アルターを『異』に扱ったりなどはしなかった。
何故ならば、自らこそが絶対的な『異』であるから。
「この私を悪党と、社会不適合者と罵るか! ククク……大したヒューマンだ。期待していいのだろうな?」
「戯言をほざくな毒虫が……ッ! 絶影ッ!!」
アルター能力者、劉鳳。吸血鬼、アーカード。二対の強者に、無駄な会話はいらなかった。
正義と悪、簡単に分類するならそう分かれるだろう。しかし、二者の対立はそんな単純なものではない。
断罪と闘争、二つの目的は不協和音を奏で交わり、すぐに激戦へと昇華する。
高速機動を見せる絶影は容赦なく触鞭を振るっていき、アーカードの笑みを誘う。
弁解、状況分析一切なし。劉鳳は自らの意思でアーカードを悪と断定し、攻撃を続けた。
仮に、アーカードのしていた行為が正当防衛だったとして。
その時は、劉鳳はいったいどうする気なのだろう……ジュンは頭を抱えつつ、遠くから二人の戦いを見守る。
「桜田! お前はその少女を保護しておけ! 俺はこの男を断罪する!」
遠くから劉鳳に声をかけられ、ジュンはビクつきながらも倒れた少女の下へ向かう。
すぐ傍で行われている戦争紛いのスペクタルに高揚を覚えるのは、男の子ゆえの性だろうか。
本当ならすぐにでも逃げ出したいはずなのに、脚は不思議と止まろうとしない。
ひょっとしたら、あの傍迷惑なドールたちの影響かもな。ジュンは失笑しつつ、少女を抱え上げた。
「おい、大丈夫か!? おい!」
気を失っているのか、少女からの返事はない。
いくら声をかけても、結果は同じ。もしかしたら、頭かどこかを打っているのかもしれない。
ジュンは彼女の安全を確保する術を模索し、とりあえずこの場から移動することを選んだ。
劉鳳のアルター、絶影の詳細は先ほどの接触の際に見せてはもらったが、その本質の全てを掴んでいるわけではない。
あの赤コートの男が何者かも分からない以上、戦闘の規模がどこまで拡大するかも不明なのだ。
少女を担ぎ、移動する。ほとんど無我夢中だったためか、彼女が表面的に別人へと成り代わっていたからかは分からない。
とにかくジュンはこの時、少女の顔に若干の違和感を覚えながらも、なんの戸惑いも見せずに避難を実行したのだった。
◇ ◇ ◇
放送が、流れた。
九人の参加者が死んだという事実と、自分の今いる場所がもう間もなく禁止エリアに指定されるという事実と、悪友が死んだという事実を知らせる放送が。
「なに二度も死んでんだよ……君島…………」
彼――カズマの仕事仲間であり友人、君島邦彦は、HOLYの連中から受けた傷が原因で死亡したはずだった。
それがどういうわけかこの殺し合いの場に呼ばれ、参加者の一人として存在していた。死んだはずの人間なのに。
理由や経緯などはどうでもいい。そこにいるというのであれば、とにかく会って話がしたかった。
君島が死んだのは、HOLYの奴らのせいだ。だが彼等を呼び込んだのは、他ならぬカズマ自身が原因。
君島は無茶をするカズマに文句をたれながらも、いつもなんだかんだで付き合ってきてくれた。
掛け替えのない、仲間だった。カズマは、そんな大切な仲間を二度も失っってしまった。
……悔しい。悲しいよりも、悔しい。
自分はひょっとして、一世一代のチャンスを棒に振るってしまったのではないか。
かなみの死にしても君島の死にしても、カズマがもう少し早く行動を起こせていたら。
クーガーのように迅速かつ無駄のない動きが出来ていたら。
二人の死は、防げたのではないだろうか。
「遅ぇよ、俺…………なにもかも、遅い」
そう! お前は遅い! お前はスロウィだ! お前には決定的に速さが足りない!――クーガーがいたら、きっとこんな自分を叱咤していたに違いない。
後悔というものは、いつも後からじわじわとやってくる。ねちっこくてイライラする、どうしようもなくムカツク感情だった。
そんなもの、忘れ去ればいい。話は簡単なはずだった。なのに、カズマにはそれが出来なくて。
結局、こんな気分になった時はいつものように怒ることしか出来ない。
適当にムカツク奴を見つけて、片っ端から殴り飛ばして、大概はそれで気が済むはずだから。
気持ちの整理をつかせるためには、「闘う」ことが一番簡単だった。
この、カズマという男にとっては。
不意に、耳を劈くような轟音が聞こえてきた。
何かが崩れる音――東の方角を見ると、土煙を上げながら幾つかの建物が倒壊する様が見れた。
きっと、どこかの馬鹿がどんちゃん騒ぎでもやっているのだろう。カズマには関係のないことだった。
……関係がないからこそ、ウサ晴らしにはもってこいだ。
「ムカツクな。何もかもがムカツク。ムカついてムカついて、とてもじゃねぇが腹の虫が治まりそうにねぇ」
カズマは歩く。陰湿だが滾り満ちているオーラを漂わせて、騒動の震源地へ。
彼の歩みにより、事態はさらに混乱を深めることになろうとも。
カズマには、まったく関係ない。
◇ ◇ ◇
吸血鬼の高笑いと、コンクリートの砕け散る音が鳴動を繰り返す。
劉鳳対アーカード――アルター能力者と吸血鬼という常軌を逸脱した者同士の対戦カードは、平和そうな市街を一瞬で死の街へと作り変えていった。
「凄まじい。小柄な身体を生かした精密なる高速機動と、二本のウィップを駆使したトリッキーな攻撃……貴様が繰る下僕は実に素晴らしいモノを持っている」
その内拍手でも送るのではないだろうか。そう思えるほどにアーカードは自身の対戦者――劉鳳とその従者である絶影に、賛美を与えた。
虚仮にしているのか、それとも余裕を見せて油断を誘っているのか。
絶影の触鞭を回避しながら笑うアーカードに怒りを覚え、劉鳳は顔を強張らせた。
「やはりお前は社会に必要のない人間だ。故に、俺と絶影が貴様を断罪するッ!」
劉鳳の怒りに同調するかのように、絶影のスピードが加速した。
二本の脚だけを機敏に動かし、撹乱動作も交えつつアーカードに接近していく。
急な接近に一瞬だけ怯んだアーカードの隙を縫い、伸ばした触鞭でその身体を拘束。
身動きの取れなくなったところをそのまま放り投げようと力を込めるが――
「――スピードと攻撃の変則性、この二点の素晴らしさは認めよう。だが、この私を相手にするには決定的に……パワーが足りないようだ!」
拘束状態においても微笑を崩さないアーカード――その笑みは、やはり自信から来る余裕の表れであるようだった。
両腕を縛られているにも関わらず、アーカードはそのままの姿で身体を旋回。絶影ごと螺旋の弧を描き、自身を縛る触鞭を振りほどいた。
反動で吹き飛ばされた絶影が、近くの定食屋に音を立てて突っ込む。吸血鬼の暴慢なる怪力の前では、さすがの絶影といえど抗うことは難しかったか。
しかし、劉鳳は怯まない。それどころかアーカードのように微笑を作ってみせ、迫る吸血鬼に真っ向から立ち向かった。
「お前の下僕は中々におもしろい。肉を砕き、心の蔵を貫くほどのパワーがなかったのは残念だがな。では、主であるお前自身はどうかな――?」
「絶影のスピードを軽視しなかったことは褒めてやろう。だが、あれしきのことで勝ち誇っているようではまだまだだな」
「ほう。ではヒューマン、お前はもっと強いと? それとも、まだ何か私を楽しませてくれる要素を隠し持っているというのか?」
「――俺の同僚には一人、常軌を逸脱して変人とも取れるほどのスピード狂がいてな。その男は、お前のような奴に会うと決まってこう叫ぶ」
「?」
ツカツカと接近してくるアーカードに怯えるでも反抗するでもなく、劉鳳は無駄話をしながらただ悠然に待ち構えた。
明らかに何かを狙っている。アーカードは敵の狙いを察知しながらも、歩むことをやめない。
なにせ、こんなところで終わるようではつまらない。まだ何かあるというのであればそれを見せてみろ、と。
不気味に微笑み、劉鳳の半径4メートル付近まで近づいて――
「貴様には、速さが足りんッッ!!」
「――ッ!?」
突如、アーカードの背後から先ほどとは比較にならないほどの速度で触鞭が伸びてきた。
以前までの鞭のようなしなやかさは失われ、まるで別物のように硬度を増したそれは、形容するなら槍。
復帰した絶影の触鞭は、そのまま鋭さの光る先端を突き出し、アーカードの背中を裂いた。
速度の向上に感嘆の意を示したアーカードは、そのまま跳躍して第二撃に備える。
だが絶影は空中戦にも万能であり、その攻撃速度と命中率は相手が動いていようが衰えることを知らない。
絶影はアーカードの倍以上の跳躍を見せ、体操選手のように美しく腰を捻って上空から触鞭の槍を投下する。
アーカードも身を捩りこれを回避するが、その鋭さは掠っただけでも十分に脅威と成り得た。
絶影の容赦ない攻撃が幸いしてか、アーカードは反撃を見せることなくそのまま近くの住居に落下。
盛大な地響きを立てて、一時的に姿を消失させる。
その間、劉鳳は絶影を傍に呼び戻し、アーカードが再び姿を現すのを待った。
戦況は劉鳳が優勢。まだ決定的なダメージは負わせていないが、今のところアーカードは絶影のスピードに追いつくのがやっとの様子。
仮に相手がまだ実力を隠し持っていたとしても、こちらとて絶影の真の姿が残っている。
敗北の要因は一切存在しない。罪なき少女の命を摘もうとした悪は、劉鳳という正義の下に潰える。
そう信じて疑わなかった。だが、イレギュラーは起こった。
「――衝撃のファーストブリット…………ッ!」
その声を、劉鳳は聞かず。故に、すぐには何が起こったか理解できない。
敵の復帰を待ち構えていた劉鳳の眼前で、突然アーカードの落ちた住居が吹き飛んだ。
爆発の類による衝撃ではない。何か、強引な力で粉砕されたかのような吹き飛び方だった。
周囲の建造物、アスファルトの地面、絶影の眼前、いたるところに木片やコンクリート片が弾け飛び、雨となって降り注ぐ。
そして、その火中から徐々に姿を現していくのは、忘れることの出来ないあの男。
無理やり名前を刻み込まれた、ことあるごとに劉鳳に突っかかってきた、あのアルター使い。
その名は――
「随分と派手にドンパチやらかしてるじゃねぇか。ちょうどいいや、俺も今ムシャクシャしてたところなんだ。水臭いこと言わず俺も仲間に入れ――な!?」
男二人、互いの顔を見つめ合い、驚愕する。
その展開の意外さに、こんなところ出合うという数奇な宿命に。
「お前は!」「テメェは!」
声が重なり、そして闘争心が高ぶりを見せる。
二人の因縁には正義も悪もない。ライバルがぶつかるのに、無駄な理由はいっさい必要ないのだ。
「カズマ!」「劉鳳!」
――出合った瞬間、闘争が生まれる。
今までがそうであった。これからもきっと、それは変わらない。
カズマと劉鳳。その二人は共に宿命を背負い、戦いの中に身を投じる限り、出会い続ける。
たとえ、それが殺し合いの舞台だとしても――
◇ ◇ ◇
適当に見つけた女性向けブティックを避難地としたジュンは、外で轟音が鳴り止まないことに頭を悩ませながらも、静かに少女の覚醒を待った。
少女は未だ眠っている。よほど怖い目にあったのか、それとも相当神経が図太いのか。後者ならば、ぜひ見習いたいほどの寝入りっぷりだった。
冷静に考えて、自分の家が大人気テーマパークのど真ん中に建設されていたとして眠ることが出来るだろうか。
普通なら眠れない。何故なら外では騒音が鳴り響いているから。ジュンは今、正にそんな状況に陥っているのだ。
……思うに、あの遊園地で破壊活動を行っていたのは劉鳳ではないだろうか。
外で起こっている戦闘風景を想像すれば、彼がそれを可能にするだけの力を保有していることは確実だろうし、
何の躊躇もなく自分の信念のみを貫いてアーカードに突っ込んでいた様子を考えれば、衝動的に軽率な行動を取ったとしても不自然ではない。
つくづく、自分は運がないということを自覚させられる。
この殺し合いのゲームを渡り歩いて早半日、ジュンは捜し人(形)であるドールたちはおろか、ろくに良心的な人物と遭遇していない。
行く先行く先戦乱ばかり。せっかくできたと思えた仲間も、根は相当な短気であるらしく、それでいて無鉄砲。
ホテルにいるであろう留守電の主は、もう少しまともな人間であればいいが……ジュンは溜め息をつきながら、再び少女の方を見た。
正に、目を向けたちょうどその時。
念願叶って、少女はゆっくりと瞼を開いていき――
◇ ◇ ◇
『あなたはとても優秀。でももう終わり』
長門有希との対決。それが、朝倉涼子にとっての初めての敗北だった。
煮え切らない状況を急進させるべく使わされた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス朝倉涼子は、
あの日あの時間、涼宮ハルヒにとって大きな存在であったキョンという人間を殺すことにより、強引な事態の改変に挑んだ。
結果は、失敗。
事態の急進を望まなかった長門有希は朝倉涼子の狙いを事前に察知し、妨害。事件は朝倉涼子の消滅をもって終結した。
あの時、朝倉涼子は『死』を恐れただろうか。
答えは否。あの頃の朝倉涼子に死という概念は存在していなかったし、自分の存在を、所詮はバックアップと重んじていなかった。
自分の身を、あくまでも大掛かりな機械の一パーツとして認識し、それ以上の価値を見い出そうとはしない。
朝倉涼子は、その点では実に優秀な存在であった。何よりも彼等との繋がりを重要視していた長門有希とは違い、どこまでも組織に従順。
それ故他者に付けいれられる隙も生じやすく、結果、彼女は情報統合思念体の意思とは別の道を選択してしまった。
蘇った今でも、あの選択が間違っていたとは思わない。これは、単純に自分の否を認めたくないからではなく。
例えば、長門有希の存在をAとしよう。ならば、Bがあるのも当然。この場合のBというのが、朝倉涼子のことである。
情報統合思念体という管轄下に置かれながらも、それらは人間のように独自の個性を持ち、独自の手段を用いる。
そうでなければ、複数のパターンを検証することなどは出来ない。結果が最悪になったとしても、それは運が悪かったとしかいいようがないのだ。
Aが正解でBが間違いだとしても、それは答えが出るまでは分からない事実。もしかしたら、Bが正解でAが間違いだったかもしれなかったのだから。
命運を分けたのは、やはり長門有希との戦いだろうか。あの時、外部から長門有希が介入してくることを予測し切れていれば、朝倉涼子は敗北することはなかったかもしれない。
そしてキョンは死亡し、涼宮ハルヒに莫大な変化が起こり、世界は別の変革を迎えていたかもしれない。
全ては、仮定。仮定ゆえに、知りたい。
Bが正解だった場合のルートを。朝倉涼子がキョンを殺した場合の、世界の動向が見たい。
そのためにも、恐怖という概念は邪魔にしかならない。
しかし、朝倉涼子は既に学習してしまった。簡単に拭いきれないからこその恐怖――それに繋がる有機生命体の終焉、死。
これらが、絶対的なまでに恐ろしい。どうすれば恐怖を、死を回避できるのか。今となってはそればかり考えてしまう。
そこに、優秀だった頃の朝倉涼子の姿はない。
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスは、ただの臆病な情報思念体に成り下がった。
「――おい、大丈夫か!? おい!――」
声が、聞こえる。どこかで聞いたことがあるような、少年の声。
まずは、自己のデータ状況を解析――損傷はあるが、大きな問題はない。まだ、死は訪れていない。
次に、目の前にいるこの声の主――少年のデータをチェック。過去の記憶と照らし合わせる。
結果。該当件数一件。今から約7時間前。対象の名称――野原ひろし。
「……のは、ら…………ひろし…………」
瞼を開いた少女の口から、かつてジュンが自分の存在を偽るために使用した名が毀れる。
そして同時に、少女の顔が見る見る内に青ざめていくのを確認した。
身体はガクガクと震えだし、口は金魚みたいにパクパクと開け閉めが繰り返される。
ジュンはそれを不審に思いながらも、確かに耳にした。どこかで聞いた覚えのある少女の声帯と、「いや、いや」と何かを拒むように怯える彼女の脆弱な吐息を。
「お――」
あまりに異常なその状態を見かねて、ジュンが声をかけようとした、次の瞬間だった。
「嫌ぁああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!」
少女は突然発狂し、力任せにジュンの身体を突き飛ばした。
それは女の子らしからぬ馬鹿力で、ジュンは軽く後方5メートルまで吹っ飛ばされ、尻餅をつく。
その間また耳にした彼女の声と、今までに感じていた違和感が重なり、ジュンは気づいた。
彼女は、目の前でマネキンの後ろに姿を隠した彼女の正体は――
「おまえ…………長門有希!?」
◇ ◇ ◇
この二人に、状況説明や情報交換などの行為は必要ない。
何しろ何回か顔を合わせているにも関わらず、日常会話すらままならない関係なのだ。
このような混乱の舞台で遭遇したとして、悠長に言葉を交わすなどという選択肢は持たない。
まず、拳で語る。この二人に限っては、それが当たり前だった。
「撃滅の、セカンドブリットォォォォォ!!!」
カズマの右肩に備えられた羽のような装飾具――その三枚中の二枚目を消費し、右拳にパワーを宿す。
殴る。ただこの一点のみに重点を置いたカズマの融合装着型アルター能力、『シェルブリット』第一形態。
その爆発力は銃弾をも打ち弾き、大木をも薙ぎ倒す。
分厚いコンクリートの壁をぶち破ることも、容易。
「くっ!!」
正面から襲ってくるカズマの右拳を絶影でガードしつつ、劉鳳は後退。
間に小さなビルが一軒挟まれたが、当然の如くカズマの一撃によって倒壊された。
破片の雨が舞う中、廃墟と化してきた市街地で、因縁の二人がついにまみえる。
「――天下のHOLY隊員様ともあろう奴が、白昼堂々と市街破壊か? はっ、いいご身分だなぁ。えぇおい」
「場の空気も読めない無能なクズが。だから貴様は社会に適応できない毒虫だというのだ、カズマぁ!」
シェルブリットのカズマ、絶影の劉鳳。
この二人の衝突は、もはや必然ともいえた。
顔を合わせれば喧嘩ばかり、常に意見が食い違い、絶対に相容れることがない。
そんな良きライバル同士という風にも思える二人だったが、当人たちにとってはたまったものじゃない。
こいつは嫌いだ。こいつはムカつく。こいつはゆるさねぇ。こいつは邪魔だ。
滾ってくるのは負の感情ばかり。この関係は改悪される余地もなければ、改善される余地は天変地異が起ころうとも絶対にあり得ない。
要するに、カズマと劉鳳はそれだけ仲が悪いのだ。
「抹殺の、ラストブリットォォォ!!!」
「奴を撃ち滅ぼせ、絶影ッッ!!!」
戦闘を始めることに、両者とも異議はない。第三者がそれを唱えたところで、雑音に消えるのがオチだろう。
息を吸うのと同じくらい当たり前に、拳を振るう。それが全て。
最後の羽を消費して繰り出すカズマの拳による突進は、絶影の触鞭で絡め取ることができるほどの勢いではなく。
元より、劉鳳もカズマ相手にそんな小細工を使うつもりはない。
正面から絶影の触鞭を構え、硬質化した槍として突き刺した。
拳と絶影の触鞭が衝突を起こし、周囲の建造物残骸を一片に吹き飛ばす。
ミサイルとミサイルがぶつかり合った、そんな映像をイメージさせる凄まじさだった。
数秒続いた衝突は何の前触れもなく崩れ、同局同士の磁石を反発させたような勢いを伴って両者は距離を取る。
決着は、一度や二度の交差ではつかない。つくはずがないのだ。
「へへっ、さすがにやるじゃねぇか。こうでなくっちゃ面白くねぇ」
「貴様もな。どうやら、以前戦った時よりもだいぶ腕を上げたらしい。だが!」
ガラにもなくカズマを称える劉鳳、そしてその傍に付く絶影に、突如異変が起こった。
まず、両腕を拘束していた機具が弾け解放。次に顔の左半面を覆っていた部分が開き、その容姿を全開にする。
そして小柄だった身体は全体的に角ばりながら拡張されていき、脚は大蛇を思わせるような尾に変化していった。
絶影が隠密機動を得意とする兵士だとするならば、この『真・絶影』は豪快な攻撃を主軸とした重戦士。
しかしそれでいてスピードは絶影を遥かに凌ぐという――劉鳳のアルター、その真の姿がここに君臨した。
「絶影が真の姿を見せた以上、貴様に勝ち目はない。無駄だとは思うが、大人しく降伏した方が身のためだぞ」
「出しやがったなついに。おもしれぇ……俺はそれを待ってたんだ。あの時散々俺を痛めつけてくれた、そいつをよぉ……」
劉鳳が真・絶影を解き放ったのを確認し、カズマの周囲に散乱していた廃棄品の数々が弾け消える。
同時に形成されるは、やはり右腕。右腕全体を覆う篭手のような形状を形作り、右肩には一枚に収束した羽の装飾具が現れた。
「もっとだ! もっと、もっと、もっと輝けェェェェェ!!!」
虹色の流煌が、廃墟を壊しながら照らしていく。
そして、形成は終わりを告げた。カズマが持つアルター能力、その奥に位置する、いわば第二形態。
「貴様、そのアルターは……!」
「こいつとやるのは初めてか? ならしっかり刻んどけ。俺の、カズマの! カズマ様のアルター、シェルブリットを!!」
盛大な雄叫びと共に、カズマの右肩に備えられた羽が回転。生み出された遠心力がそのまま身体を持ち上げ、飛翔する。
「プロペラ……いや、羽虫か!」
「シェルブリットだァァァ!!!」
妙な方法で飛行するカズマを見て、劉鳳は率直に感想を述べた。
同時に、攻撃も行う。もしカズマの新型アルターが飛行能力を身につけただけのものであるというのであれば、真・絶影の敵ではない。
むしろ、身体制御の難しい空中ではただの的に成り下がる恐れすらある。
「――剛なる右拳、伏龍ッ!!」
劉鳳の甲高い命令と共に、真・絶影の右手が本体から離脱。切断面からブースト放射が巻き起こり、加速してカズマに向かっていく。
まるで、というよりも、見たまんまロケットパンチだった。これまでとは根本的なバトルスタイルも違ってくる第二のアルター、『剛なる右拳・伏龍』はその一部にしか過ぎない。
だがしかし、これしきの攻撃ではカズマの虚を突くことはできない。それにロボットなら、既に真・絶影より何倍も大きなヤツを倒した後だ。
空中まで伸びるロケットパンチを右拳で殴り弾き、そのまま加速して劉鳳本体を狙いにいくが、
「――剛なる左拳、臥龍ッ!!」
今度は左手――残された二発目のロケットパンチが飛び、再度カズマを襲う。
さらには迎撃したと思われた一撃目、『剛なる右拳・伏龍』もいつの間にか再動を果たしていた。
二発の拳が、カズマの右拳と衝突を起こす。単純なパワーのぶつかり合いならカズマに分が合ったが、これが二発同時ともなれば話はうまくいかない。
威力は相殺され、飛翔していたカズマの身体は緩やかに降下した。
その間、真・絶影は両腕を引き戻し、次の衝突に供える。
攻撃を繰り返し、体勢を整え、何度もぶつかりあって果てを待つ。
これこそがカズマと劉鳳の戦いであり、二人の真髄だった。
「驚いたぞ。まさか、絶影の攻撃を正面から受けてまともに相殺できるとはな」
「気にいらねぇ。やっぱ気にいらねぇなお前。人を見下したその眼、その仕草、その態度! 全部が気にいらねぇ!」
「知ったことか! 貴様のような奴はアルター能力者の恥! カズマ、貴様がいるから世間はアルター能力者への見方を変えない!」
「ああっ!? そりゃいったいどういう八つ当たりだよ! ムカツク、やっぱムカつくぜあんた!」
カズマは拳を、劉鳳は真・絶影を。
それぞれ構え、三たび戦闘を開始するために準備を整える。
「クククク…………ハァーハッハッハハハハハハハハ!!!」
その時だった――二人の戦意を損なわせるほど不快な高笑いが木霊し、視線を奪われる。
血気盛んな二人の闘争者の瞳が追う先……そこには、瓦礫の山から這い出した赤いコートの吸血鬼、アーカードの姿があった。
「素晴らしい! 実に素晴らしいぞヒューマン! この盤上の遊戯、これまでにも幾人かの人間を見てきたが……
私をここまで高ぶらせ、楽しませたのは諸君等が初めてだ! さぁ、戦いを続けようではないか!
HURRY! HURRY! HURRY! HURRY! HURRY! HURRY! HURRY! HU――」
このゲーム内において、ジョーカー的なまでに圧倒的な存在感を誇る至高の吸血鬼。その名をアーカード。
強きを好み、闘争を好み、人間の抗う様を好む――その再生能力の反則さゆえ、天性のマゾヒストとも捉えられる狂気の怪物は、二者の戦いに巻き込まれながらも依然健在を貫いていた。
暫しの傍観で知り得たアルター能力の性能にも、恐れは湧いてこない。この男にとってはむしろその逆、興奮をそそる材料にしかならなかった。
我、この者たちとの戦いを望む。アーカードは走り、カズマと劉鳳の二人に襲い掛かった。
真の邪魔者が、誰であるかも分からず。
「テメェは……」「貴様は……」
カズマが右拳を、真・絶影が両手を構える。
標的は重なった。矛先はもちろん、この一対一の戦いを邪魔しようとする無粋な吸血鬼に向けて。
「「引っ込んでろオオオオオぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」
シェルブリットの衝撃と、伏龍・臥龍の計三撃がアーカードに命中する。
正面からそれを受け止めたアーカードは衝撃に耐え切れず、廃墟の果てへと派手に吹き飛んでいった。
しばしの間、静寂が訪れる。この静寂は、今度こそ邪魔者がいなくなったという確認のために。
両者構え直し、拳を向け合う。
「さぁ、続きだ。アレの続きをしようぜ」
「望むところだ。今度こそ、二度と俺の前に姿を現さぬよう容赦なく叩き潰す」
邪魔者がいない以上、もはやそれ以上の言葉は必要なく。
同じタイミングで駆け出した両者は、互いのアルターを前に押し出し決戦に躍り出た。
ここで全ての決着をつけるために。この腐れ縁に、終止符を打つために。
戦いは続く――だが、終わりはもう間もなく。そのはずだった。
「カズマァァァァァ!!!」
「劉ゥゥ鳳ォォォォォ!!!」
互いの名を叫びあった次の瞬間、周囲が紅い閃光に包まれなければ。
◇ ◇ ◇
薄暗いブティック内を、少女の甲高い悲鳴が支配していく。
ジュンは、その声に確かに聞き覚えがあった。
あの時の彼女はこのような奇声を上げることなどなかったが、それでも声質はまったく同じ。
服装、髪型、何かに怯える弱々しい表情など……ところどころ変わってはいたものの、今の声を聞いて確信した。
目の前の少女は、長門有希(朝倉涼子)。防波堤でジュンを襲い、遊園地で劉鳳に牙をむいた殺戮者である。
少女の正体に気づいたジュンはまず警戒し、すぐに何か武器になるような物がないか辺りを捜し回る。
しかしここはブティック。見渡す範囲であるものはマネキン、洋服、バッグ等。武器になるようなものなど何もない。
あの時は騙まし討ちが効いたからいいものを、同じ手は二度と通用しないだろう。もしここで襲われたら、ジュンは確実に負ける。
なら外に出て、劉鳳に助けを求めるか――いや、彼とて戦闘中だ。助けを求めてもすぐに応じてくれるかは怪しい。
突然の事態ゆえに混乱と思考を同時に展開しつつ、ジュンは長門有希――彼女の真の名前が朝倉涼子であるという事実を、彼はまだ知らない――の方を見る。
そして、気づいた。彼女がマネキンの影に隠れたまま、いっこうに姿を現さないことに。
……様子がおかしい。怪訝に思いながらも、ジュンはゆっくりと朝倉涼子に歩み寄っていった。
先ほどの恐怖に落とされた表情もそうだが、今の朝倉涼子の姿からは、防波堤で感じた時のような嫌な感覚がしない。
「いや……いや……いやぁぁ……」
よく見ると、彼女の顔は暗く青ざめ、目尻には涙のようなものさえ確認できた。
怯えている。先ほどの赤いコートの男ならともかく、何の力も持たない丸腰のジュンに。
受け入れがたい現実に直面し、ジュンは首を捻った。
目の前の少女は、間違いなく長門有希(朝倉涼子)だ。もうそこは疑わない。
だが、いったいこの変貌振りはなんなのか。考えるが、答えは出ない。
「お、おい……」
「…………ヒィッ!?」
ジュンは見かねて声をかけたが、朝倉涼子はやはり怯えた声しか返さない。
まったく意味不明。これほどまでの恐怖を駆り立てる要因とは、いったいなんなのか。
死、そして恐怖という概念を学習した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスに、ジュンは答えの出ない疑問を抱き続けた。
◇ ◇ ◇
警告。警告。警告。危険が迫っている。
対象、野原ひろし。今から約七時間前、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス朝倉涼子から意識を奪った要注意人物。
警告。警告。警告。再度の接触の可能性有り。
危険。危険。危険。
死亡確率上昇。死亡確率上昇。
警告。警告。警告。
――朝倉涼子の脳内では、ノイズを通り越して、もはや意味不明となった警告音声が延々と鳴り続けていた。
それはまるで壊れたラジオのようで。脳内データベースの中からは野原ひろし(桜田ジュン)との戦闘記録が強引に呼び起こされ、恐怖を駆り立てる。
ハンマー投げ選手のように回転するジュンと、それに打ち払われる朝倉涼子。その後、意識が遮断されたのはまやかしではない。絶対的な事実。
故に、恐怖が全身を蝕む。死への予感が、脳神経を麻痺させる。
身体は自然と震え、眼からは涙も流れた。
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスが、人間でなければ成し得ない行動を、極自然に行っていたのだ。
本来なら、これは情報統合思念体にとっても喜ばしいケースである。が、本人にとってはたまったものではない。
有機生命体の死に対する概念、あんなものは知るべきではなかった。知らなければ、こんな事態には陥らなかったのに。
行動――特に戦闘を行う上では、恐怖という概念は邪魔にしかならない。今、朝倉涼子はそれを身をもって知った。
目の前の少年が怖い。今度もまた、あの時のように意識を奪われてしまうのではないだろうか。
それだけでは飽き足らず、今回は殺害にまで及んでしまうのではないのだろうか。
末には、死が訪れるのではないだろうか。
朝倉涼子は怯え、必死に生存確率を上げる方法を模索した。
一度敗れた相手に絶対的な恐怖心を抱く。放送によれば相手は死んだ人間のはず、その不可解さも恐怖の要因の一つ。
人間でいうところのトラウマ症状に陥った彼女は、それでも生きることを諦めなかったのだ。
理由は単純。『死にたくないから』。
ただこの一念に縛られ、あるべきはずのない動物的本能が朝倉を駆り立てる。
「いや……こっちに、こないでええエェェェェェェェェェェェ!!!」
静かに歩み寄ってきたジュンに対し、朝倉は現在発揮できる精一杯の勇気を持って立ち向かった。
身を隠す盾にしていたマネキン、その二の腕を掴み、力任せに放り投げる。
その行動は、正に死を迫られた動物の本能が成せる業といえた。
朝倉が普通の少女であれば近くにある小物をポイポイ投げるだけで済むだろうが、能力面で秀でてしまっている彼女は、投擲の道具に一番有り得ないものを選択したのだ。
もちろん、ジュンにとってこれは予測外。
まさかマネキンが投げ込まれるとは思ってもみなく、回避もままならないまま、腹からその衝撃を受け止める。
胃が圧迫され、一瞬呼吸が止まった。悶絶するようにその場に崩れ落ち、盛大に咳き込む。
「ごっ、ゴホッ、な、なんだってんだよ……いった――――い!?」
呼吸を整えつつ腹部の痛みに耐える。その間も、朝倉涼子を支配する恐怖という闇は、増長の勢いを衰えない。
何を狂乱したか、朝倉はそこら中にあるマネキンをポイポイ投げ捨て、全てジュンの下に放った。
そのスピード、形容するならメジャーリーガーの豪速球並みである。
連続で当たればそれこそ洒落にならない。ジュンは背筋を凍らせ、無我夢中でマネキンの散弾を避けた。
走り、しゃがみ、飛び、転がり、いくら動き回っても、攻撃の雨は止みそうにない。
人間でいうところの錯乱状態に陥った朝倉は、とにかく目に付いた武器と成り得る物体を投げることに専念し、恐怖から逃れようと必死だった。
錯乱しているため、正確な狙いがつけられていなかったことは不幸中の幸いといえただろうか。
ジュンは死に物狂いでマネキンを回避し続け、視界だけで朝倉涼子の姿を追う。
怯えてはいるものの、どうやらここから逃走するという考えは頭に入っていないらしい。
ブティック内を無造作に動き続け、ジュンへの攻撃をいっこうにやめようとしない。
(む、むちゃくちゃだ――ッ!)
防波堤の時のように、相手の先の行動を予測することがまったくできない。
何をしでかすか分からない危うさを感じつつも、ジュンはこの状況を打破するため攻めに転じる決心をした。
朝倉に習い、周囲に残骸として散らばったマネキン――その片足を拝借し、鈍器代わりとして装備する。
「うらああああああああああああ!!」
ジュンは腹の底から声を出し、朝倉を威嚇しながら突進した。
突然攻防の関係が変化したことにより、朝倉は怯み――というよりも怯え――動きを止める。
不恰好な武器を振り翳してくるジュンに対し、朝倉は怯えた表情にさらなる淀みを見せた。
が、ジュンにとってはそんなことは知ったこっちゃない。
相手が自分を怖がっていようがなんだろうが、マネキンを豪速球並みの威力で放り込まれて黙っていられるだろうか。
過去に襲われた前例もある。今さら言葉で説得しようなんて気はおきない。
ならば逃走はどうか。いいや、ここはそんなことが出来る場面じゃない。諦める方向には進めない。そう、ここは抗う場面だ!
ジュンは意を決し、渾身の力でマネキンの足を振り被る。
狙うのは頭。一撃必殺の急所であり、相手を死に至らしめる可能性も秘めた、危うい箇所。
だが躊躇っている暇はない。ここは多少強引な手段を用いてでも、朝倉を無力化させなければ。
「――なッ!?」
――決意の一撃は、朝倉の腕によっていとも容易く防がれた。
頭に直撃しようとした寸前、朝倉はマネキンの足を握っていたジュンの手首を掴み、それ以上の動きを不可能にさせた。
驚異的な握力の下に腕が硬直し、次第に手元からマネキンの足がポロッと毀れる。
その間朝倉はというと、フー、フー、とやたら荒い息遣いをさせながら、涙ぐんだ瞳でジュンの顔を睨みつけていた。
ジュンは察する。この顔は、まだ何かを狙っている眼だ。
次は何が来る――このまま殴るか、それとも投げ飛ばされるか――どちらにせよ腕を掴まれたままではろくな抵抗ができない――それでも諦めるわけには――!
思考を続ける最中、朝倉はまたしてもジュンにとって予想外な行動を取って見せた。
なんと、ジュンの身体に思い切り抱きついてきたのだ。
「な!? お、おいちょ……ぐぅッ!」
しかしそこからバトル以外の展開に突入することなどはなく。
朝倉はジュンの身体を全身で包み込み、背中に爪を立ててきたのだ。
「フッ、フッ、フッ……」
「ぐ……くっ、そ……!」
ゴリラかと思うほどのパワーに、ジュンは抗うことができなかった。
背中に突き立てられた鋭い爪は、ジュンの服ごと肉を裂き、その半透明な輝きを赤く染める。
ジュンは何とか逃げようと身体を捻るが、荒い息遣いのまま力を込める朝倉には、まったくと言っていいほど通用しない。
朝倉の世間体を全て投げ捨てたかのような荒々しい攻撃は続き、爪の次は己の歯を――ジュンの左首筋に思い切り突き立てた。
別に、実は朝倉が吸血鬼で、唐突に吸血衝動に駆られたというわけではない。
理論は、至って原始的に。爪の歯も、人型を成す自分のパーツの中で、最も鋭さを持った部分を攻撃に使用したに過ぎない。
動物が持つ歯は素晴らしい。さすがに普段の日常から食事という形で鍛えぬかれているだけのことはあり、武器として使うには申し分ないほどの威力を保持していた。
その証拠に、ジュンの左首筋の肉が、朝倉の歯によって容易く食い千切られる。
「痛ッ――イテェェェッ!!」
たまらず叫んだジュンは、痛みから来る底力を駆使してなんとか朝倉を引き剥がすことに成功した。
距離を取り、改めて朝倉の姿を見る。そして、再度認識するのだった。
――この女は、異常だ。
恐怖に駆られながらも、自己の存在を守るため本能的に戦いの道を選択している。
その戦い方から見ても、人間というよりは野生の動物に近い――ある意味では、生まれたての、感情を持ち始めたばかりの生物らしい仕草であった。
「いてぇ……くそ、クソッ! クソッ! チクショウッ!」
傷を負った箇所を摩り、ジュンは改めて現在の危機的状況を受け入れる。
目の前の少女は、もはや防波堤で戦ったあの長門有希(朝倉涼子)とは別人と言ってしまって過言ではない。
生きることに精一杯なあまり、自己の防衛本能が動物的な野生を帯びてきたのだ。
これを進化と呼ぶか退化と呼ぶかは、人によって変わってくるだろう。
どちらにせよ、ジュンにとっては厄介極まりないことだ。なにせ、ここで負ければ間違いなく自分は死ぬ。
……ダメだ。そんなわけにはいかない。
このゲーム会場にはまだ真紅や翠星石、蒼星石たちドールがいる。
いつも自室の窓を突き破り、事あるごとに紅茶とスコーンを要求し、キッチンを魔境に変える。
騒がしいことこの上ない、実に厄介な連中だった。思い出しただけでも頭を抱えたくなるような、それくらいに騒がしい奴等だった。
なのに、不思議と嫌悪感は湧かない。ジュンにとっては、いつの間にかあのドールたちとの日常が当たり前になっていたから。
そうだ。みんな、真紅も翠星石も蒼星石も、あの水銀燈までもが無事でいる。
家に帰れば雛苺が待っているだろうし、騒がしい金糸雀だってやって来るだろう。
それに、それに、家にはまだ、家族が――
「僕は……あいつらを連れて、家に帰るんだ……こんなところで、死ねるかよ……」
マネキンの足をもう一度拾い、朝倉の前に躍り出る。
戦意は失っていない。これは、二度目の賭けだ。
再度の勝負。今度も絶対、モノにする。モノにしてみせる。
「――姉ちゃん一人残して、こんなところで死ねるかよッ!!」
叫んで、ジュンが突攻した。
先ほどまでとは比較にならない、決意に満ちた突撃。
それを前に朝倉涼子は――
「うん、それ無理」
久方ぶりの笑顔を見せ、ジュンにその言葉を送った――
◇ ◇ ◇
次の瞬間、ブティック内の様子は急変を遂げた。
薄暗かった室内は一変して虹色の光を照らし出し、壁という存在は風景と一体化して消失していた。
マネキンの残骸や散り散りになった衣服の群れはまだ転がっていたが、ドアや窓などの出口になるような箇所は全て見当たらない。
ジュンはまるで入り口も出口もない、永遠の迷宮に彷徨い込んでしまったような、そんな感覚に襲われる。
「これは……nのフィールド? 違う……何かが違う……なんなんだよ、この嫌な感じ……」
nのフィールドとは、現実世界と表裏一体をなす異次元空間のこと。
だがあれは、ドールたちや彼女等に付き従う人工精霊の力なしでは入れない領域。
まさか近くに真紅たちがいるのでは、と辺りを探してみたが、姿はない。
代わりに見つけたのは、異次元世界の中心に悠然と立つ、朝倉涼子の姿。
その表情は怯えではなく、不気味な微笑みへと変わっていた。
「人間はさあ、よく『追い込まれることで限界以上の力を発揮する』って言うよね。これ、どう思う?」
朝倉はこれまでの態度を一変させ、何の悪気もないような笑顔を振りまいてジュンに質問をする。
「以前までの私はね、そんなこと絶対にないと思ってた。
だって限界は超えられないからこその限界であって、超えちゃったらそれはもう限界とは呼べないと思うの。
猫に追い詰められた鼠は相手の尻尾に噛み付くくらいのことはしてみせるだろうけど、感情の起伏が激しい人間にはそれは無理な行為。
さっきの私みたいに恐怖に蝕まれたらそこから脱出することなんて不可能だと思うし、危機を認識したところでそれを乗り越えるほどのパワーは出せないはずなの。だって人間には限界があるから」
質問の返答を待たず、朝倉は急に饒舌になり出した。
この唐突な変貌振りにジュンは疑念を抱き、同時に得体の知れぬ危機感を覚えだす。
今の朝倉涼子は見からに大人しい、無害そうな一般女子高生という印象。そのはずなのに。
「でもね、人間は本当に恐ろしくて恐ろしくしょうがなくなると、案外簡単にその恐怖を乗り越えられるものなの。
こういうの、『開き直り』っていうのかな。私はついさっき、それを実感して気づいた。
恐怖なんていう感情は、結局のところ上辺だけのものでしかないのよね。
あなたにだって、過去に敗北したという経験があるからこそ恐怖を抱いたわけで、よく考えてみればそれはまったく無意味なものだったの。
だって、あなたは所詮人間だけど、私は人間じゃあないんだもの。これって、結構大きな差だと思わない?」
訳が分からない。朝倉の会話は急に危ない電波を受信したかのように狂いだし、ジュンの理解を超えた。
それでも、朝倉は喋ることをやめない。これまでの自分を反省するかのごとく、怒涛の勢いで舌を回す。
「普通にやれば、私はあなたなんかには絶対負けない。もちろん、殺されることもない。私はそんな当たり前の事実を、ついさっき学習したのよ。
無我夢中で戦って、恐怖に抗った上で勝ち取った戦果。人間でいうところの、悟りを開いたって感じかな?
長門有希のバックアップにしか過ぎなかった私が、今はこんなにも有機生命体の感情を理解している。これって素晴らしいことだと思わない?」
「しらねぇよ!」
朝倉の言葉攻めに飽き飽きしてきたジュンは、痺れを切らして彼女に突っ込んだ。
が、その脚は二歩ほど駆けたところで止められる。
突如として、気流のように形作られた透明な槍が、ジュンの両足を貫いたのだ。
「グっ……あぁ!」
「無駄。この建物内は既に、私の情報制御下にある。攻撃に必要な物質を創り出すことも容易だし、脱出経路も完全に封鎖したわ。
この世界では能力が制限されているらしくて、分子の構成情報をいじるのにちょっと時間が掛かったけど、なんと私、ここに入った時から既に改変を進めていたみたいなのよね。
たぶん無我夢中だったんだと思う。これも死を逃れたいっていう恐怖心から来る、限界以上の力の発揮ってやつかな?
今の私なら、きっと長門さんでも付け入る隙はないと思う。死にたくないっていう必死な思いが、私に限界以上の力を引き出してくれたんだよ!」
両腕を大きく広げ、今にも羽ばたきそうなポーズを取って歓喜する。
これまでにない満面の笑顔――有機生命体の死の概念を理解し、恐怖を覚え、それを打開する方法も学習した。
今の朝倉涼子なら、間違いなく長門有希と対等――いや、それ以上といって過言ではない。
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス。その存在を超越した一つのパターンが、今ここに。
「こんなところで……こんなところで……死ぬわけには! いかないんだよっ!!」
それでも、ジュンは諦めなかった。
ジュンに対しての恐怖を一切なくした朝倉涼子は、自身の情報制御下に置かれた空間に立つ朝倉涼子は、ただの人間の手に負える代物ではない。
言うなれば――かつてキョンが長門たちを一片にそう称した――『宇宙人』。
侵略をするわけではないとしても、未知の地球外生命体に敵う要素は、何一つとして持ち合わせていなかったのだ。
この、桜田ジュンという有機生命体。
「もう一度言うよ。それ無理♪」
朝倉の微笑む眼前で、ジュンは身体の中心に風穴を開けた。
◇ ◇ ◇
『ジュンくーん、今日のご飯はみんな大好き花丸ハンバーグですよー』
『やったー! ヒナのりの花丸ハンバーグ大好きなのー!』
『こぉら雛苺! その一番でっかいのは翠星石の分なのです! チビチビの雛苺には、こっちの残りっカスで十分なのですぅ』
『まったく……大人気ないよ、翠星石』
『やれやれ……本当に騒がしい姉妹たちだわ。あらジュン、手が付いていないようだけれど、どうかしたのかしら?
ジュン?……ジュ…………ン…………ジ…………ュ…………ン』
一瞬、ほんの一瞬だけ。
みんなが食卓に並び、のりの作った花丸ハンバーグをつついている光景が見えて、すぐに霧散した。
(ヤバッ……走馬灯じゃんこれ……あ……でも……悪く、ない)
ほんの一瞬の幸福。
これもまた、朝倉涼子には知りえない人間の神秘だった。
それはこれから先もずっと、解明されることはないのだろう。
情報制御が施された室内が、静かに崩壊していく。
残ったのは、マネキンの残骸ばかりが乱雑するブティック一軒。
中には、桜田ジュンという名前だった有機生命体の死骸が一体。
外へは、朝倉涼子ただ一人が帰還した。
◇ ◇ ◇
改めて、思う。
人間は素晴らしい。負の感情すらも己の力に変え、無限の進化パターンを持っている。
そして、今まで死という概念すら知らなかった自分が、その人間に近づけたという成果はさらに素晴らしい。
もう長門有希なんて目じゃない。たとえ彼女の邪魔が入ろうとも、今の自分なら容易く彼女を凌駕できる。
不安要素なんて、もうないに等しかった。朝倉涼子は、恐怖の先に自分の新たな可能性を切り開けたから。
「はぁ〜、もうこれはいよいよ、キョンくんに会うのが楽しみになってきたなぁ。
彼を殺したら、涼宮ハルヒはいったいどんな変化を見せるのか……やっと、それが分かりそう。
硬直状態を解くなら早いに越したことはないし、やっぱり善は急げ、だよね」
らんらんという鼻歌が聞こえそうなほどに浮かれ、朝倉涼子は廃墟と化した街をスキップで渡り歩く。
その道中、そう遠くはないところから何かの激突音が聞こえてきた。
そちらの方角を見ると、空中で何かがぶつかり合っている。あれは……人、だろうか。
「あれは……あの時の高次元存在アクセス能力者――劉鳳」
朝倉涼子が死の概念を理解する少し前、アルターという興味深い能力を持った男性と遭遇したことを思い出す。
あの能力には、まだ未知的な部分が多様に詰まっている。逃すのは惜しい、と常々思っていたところだ。
ちょうどいい。いい機会だから、あの情報もここでもらっておこう。
朝倉は戦地へと赴くことを決め、方向を変えた。
そこに、かつてのような恐れはない。
恐れの先には、可能性があることに気づいたから。
その可能性を信じれば、怖くなどない。
――朝倉涼子はまだ気づいていない。その考えが、過信であることを。
――その証拠に、彼女は死という概念を忘れてなどはいない。だから。
「HAHAHAHAHAHAHA!」
「――――!?」
進む朝倉涼子の背後、積もり山となった残骸の中から、赤いコートの男が顔を出した。
「――この私に、引っ込んでいろとは! つくづく……つくづく楽しませてくれるなぁヒューマン!
だが、私を蔑ろにするとはあまりにも愚かではないか? カズマに劉鳳……恐れ知らずというのもまた、面白い」
――この男、この赤いコートの怪人には、見覚えがある。
そうだ、あの時。数時間前に、自分を攻め立てたあの――怪物。
「あっ……あ……あ」
朝倉の身体に、変化が現れた。
迷いなく進んでいたはずの脚は急にストップし、徐々に震えを帯びていく。
声は掠れ、搾り出すこともかなわない。視線は赤いコートの男に釘付けとなり、目を反らすことができなくなっていた。
――おかしい。これは、この感情はいったいなに?
脳が危険信号を発し、本能が逃げろと訴えている。
かつてこの男に追い詰められた時とまるで同じ――そう、これは恐怖という感情に他ならない。
「なん、で……私は……恐怖を克服したはずなのに……」
違う。それは錯覚。
朝倉涼子という存在には、まだ『死』という概念が刻まれている。
無論、死と密接に関係している『恐怖』という概念もまた同様。
それは簡単な話だった。朝倉は自身の力に絶対的な自信を持っており、恐怖を超えた先に力の向上があるということも学んだ。
しかし、それは相手がジュン――自分よりも絶対に弱いという確証があったからこその話。
だがこの男は――吸血鬼であるアーカードは、朝倉の能力を持ってしてもその確証が得られる相手ではない。
故に、恐怖する。確証がない故に、乗り越えた先に勝利が待っているとも断言できない。
故に、恐怖を乗り越えることが出来ない。単純な理屈。
「ほう、まだ生きていたか」
朝倉の存在に気づいたアーカードは、声をかける。
が、そこに彼女を見直したような印象の変化はなく。
道端の小石を見るようなどうでもいい視線を浴びせ、朝倉の恐怖を駆り立てた。
そして同じく、道端の小石を跳ね除けるような他愛もない動作で、朝倉を死に追いやろうと腕を伸ばす。
――その恐怖が再び、朝倉涼子に臨界点を突破させた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
言葉にならない発狂を起こし、途端に朝倉の足場が崩落する。
崩れ落ちる残骸の山を跳び越えながら、アーカードは地下に落ちていく朝倉を見た。
その姿は、失望を通り越して哀れにも思えるほど。
カズマと劉鳳に出会えた高揚感を萎えさせるくらいに、アーカードは気を落とす。
しかし次の瞬間、朝倉涼子が意地を見せた。
「……なに? この臭いは――――」
異変を感じた直後、朝倉と――その周囲一体数百メートルで、閃光が迸った。
一瞬の後、爆発。
「ガス爆発だと!? なかなか知恵の働くヒューマンだ! ――だが!」
ほぼ無意識の内に、朝倉は地下に通っていたガス管を破裂させ、爆発を引き起こしたのだ。
その規模は大きく、いとも簡単にエリア全体を覆っていく。
爆心地に身を置く者はただでは済まない――そう思われたが、逸早く爆発の予兆を察知したアーカードは、常人離れした跳躍をもってこれを空に回避。
爆風は全身を天高く持ち上げ、アーカードの姿を青空に消した。
◇ ◇ ◇
『おーい、カッズマくーん』
――なんだよ、早いじゃねぇかよ君島ぁ。こっちはさっき起きたばっかだぜ。
『ったくしょうがねぇーなお前は。ほら、さっさと行こうぜ』
――ああ、そうだな……。
『カズくん、どっか行っちゃうの? 今日は牧場で働いてくれるって言ってたのに』
――あ、悪いなかなみ。ちょっとした野暮用だ。
『そんなこと言って、いっつも帰ってこないくせに。もう米も野菜も残り少ないんだよ? どうするの?』
――あぁ、いや、だから! なんとかしようと思ってさぁ……。
『甲斐性なしのろくでなしだぁ』
――あぅ……スンマセン。
『仕方ないよかなみちゃん。だってカズマはクズなんだからさっ』
――お、お前に言われたくねぇよ!
『ははっ、ほら早く行こうぜカズマ』
『カズくん牧場ぉ』
――ああもう、分かったつうの! 分かったから二人とも…………
…………目覚めると、身体はひび割れた大地の上に倒れていた。
「…………ああ、夢か。そっか」
泡沫の中で、懐かしい光景を目の当たりにしたような気がする。
それはとても心地が良くて、怒りなんていう感情とは無縁の平和な環境だった。
思い出しても、もう二度と手に入らない。そんな、夢想に消えた思い出。
辺りを見渡すと、そこら中に崩れ散った建物の跡が見えた。
覚えがある。これらは、カズマもしくは劉鳳が破壊した建造物の残骸。
いや、それだけではない。確か劉鳳との戦いの最中――謎の紅い閃光とガス臭い悪臭を感じ、直後に何かが爆発したのだ。
劉鳳の姿はない。戦いの最中に乱入してきた赤いコートの男も。周囲には誰も見当たらなかった。
カズマ一人、闘争の濁りとは無縁の、晴れた青空を見上げる。
手を伸ばせば掴めそうな、そんな気さえして、右腕を上げた。
眩しく照らす太陽を右手の中心に捉え、掴む。
そうして、瞼は自然と閉じていった。
「死んだからムカついて、ムカついたからブン殴って、なんか、もう疲れちまったよ……かなみ、君島……」
眩しすぎる晴天にやられ、カズマはゆっくりと堕ちていった。
夢に。
◇ ◇ ◇
崩壊した大地に、劉鳳が立つ。
「クッ……」
その場に、宿敵であるカズマの姿はない。
因縁の対決に終止符がうたれる。そう確信し始めた間際に起こった、爆発。
恐らく市街全域に通っていたパイプラインを誘爆させ、あのエリア諸共吹き飛ばそうと算段したのだろう。
実行者は、あの赤いコートの男だろうか。何の力もない少女を襲う辺りから見ても、相当な下衆であることが窺えた。
「まさかカズマがあれしきのことで死ぬとは思えんが……桜田は、無事だろうか」
気にかかるのは、苦労を重ねて信頼を築いた、たった一人の仲間。
少女の保護を頼んだものの、本心で言えば、彼はどうにも頼りない。
うまく爆発の範囲外に逃げてくれていればいいのだが……その願いも、すぐに崩れ落ちることになる。
「桜田……ッ!?」
廃墟を歩む、その進路方向に。
まるで障害物の如く、一人の少年の死体が転がっていた。
接近して確認してみると、その少年はまず間違いなく桜田ジュンその人だった。
爆発による衝撃で倒れているだけとも思ったが、腹に空いた風穴を見る限り、どうやら死因は別にあるらしい。
槍――いや、大きさから見るに、柱や鉄骨か何かで腹部を貫かれている。
その傷口があまりにも綺麗な円形を描いていることに疑問を抱いたが、それはすぐに解消されることになった。
「……これは」
劉鳳はジュンの死体の下からはみ出した、一つの物体を発見する。
煤で汚れてはいたが、それはどうやら布でできた何からしい。
形状は輪っか。そしてその中心には、堂々とした筆跡によってこう書かれていた――『団長』と。
「まさか……長門有希が!?」
この腕章には覚えがある。あの時遊園地で遭遇した少女――長門有希(朝倉涼子)が腕に付けていたものだ。
同時に彼女が使っていた不可解な力、意味深な行動理念を思い出し、一つの結論を弾き出す。
(桜田ジュンを殺害し、あのガス爆発を引き起こしたのは……長門有希。
まさか、あの赤いコートの男やカズマと戦闘している最中も……いや、ひょっとしたら桜田と出合った頃から……俺は監視されていたのか?)
影からずっと機を窺っていたのだとしたら。彼女ならやりかねない。
劉鳳は込み上げてきた怒りを手の平に集中させ、朝倉の腕章を力の限り握りつぶした。
「桜田、お前の仇はこの俺が必ず討つ。長門有希、あの赤いコートの男、そして、カズマ! 俺は俺の中にあるルールで、奴等を悪と断定するッ!」
痛みを押して、劉鳳は突き進んだ。
正義は立ち止まれない。決して。
それが間違った見解だったとしても。
◇ ◇ ◇
屈辱を通り越して、これはもはや笑い話の領域に入ることだろう。
ひび割れたビルを根城に、アーカードは薄暗い内部で息を吐く。
カズマに劉鳳――実に面白い人間達だった。
吸血鬼を前に恐れを抱くこともなく、ただ誇りと信念を振り翳して行動する。
そしてもちろん、それに見合った実力を持っていることも評価したい。
「この私を、吸血鬼という存在をあそこまで愚弄したことには、敬意を評すべきだろうな」
クククッ、と笑みを零し、静かに時を待つ。
外は晴天、吸血鬼が行動するのに適した天候ではない。
身体の傷を治癒するのに使う時間は、この日中の間に当てよう。
アーカードは決して浅くはないダメージを負いながらも、未だに余裕の佇まいでそこに存在していた。
◇ ◇ ◇
――します――――に――――。
チカチカと、赤い光が蛍火のように灯っては消え、灯っては消え。
喧しい機械音すら奏で始め、眠りについていた者はたまらず意識を取り戻した。
「……う、……ん」
寝ぼけ眼で身体を動かし、自身を覆っていた瓦礫の数々を払いのける。
何時間ぶりかの日の光。容赦なく照らされる熱線は、少女の瞳を自然に細めていく。
彼女、朝倉涼子は生きていた。
アーカードから逃げ延びるためにとった咄嗟の行動は、自分の身をも危険に晒してしまう非効率的なものだった。
それでも結果的には生を得て、ここに存在している。一か八かの賭けに、彼女は勝利したのだ。
「わたし……生きてる」
高鳴る鼓動、万全の四肢、煤汚れてはいるものの柔らかな皮膚、正常に働いている脳。
生きている。朝倉涼子はまだ、生きている。
誰もいない廃墟に一人立ち、その生をじっくりと噛み締めた。
これはもはや、奇跡と呼んでいいかもしれない。
――思えば、わたしはもうこれで、四度も死を乗り越えたことになる。
一回目は先ほど殺害に成功した少年、野原ひろしに襲われた時。
わたしはあの時、確かに彼に敗北した。でも相手に命を奪うまでの覚悟がなかったのか、わたしは気絶しただけでその場を済ませている。
二回目は、劉鳳に襲い掛かった時。
わたしには、彼に勝てるだけの力があった。今思えば、それを過信しすぎていたのかもしれない。
わたしはまたもや有機生命体に敗北を喫し、死の概念を学習した。ここが、運命の転機だったんだ。
三回目。死を理解し恐れたわたしは、あの赤いコートの男と対峙して――崩壊した。
自己を保つことが出来ない、人間でいうところの精神錯乱に陥ったわたし。
でも結果的にわたしはその恐怖を乗り越え、自己を保つ術を身につけた。
彼、野原ひろしには感謝しなくてはならない。
彼のおかげで、わたしは極めて単純明快な、恐怖の克服方法を学習したのだ。
それはとても簡単なこと。
怖いのは、敵がわたしの命を狙っているから。
ならば、殺されるより先にその敵を殺してしまえばいい。
そうするだけで、わたしは死を免れる。わたしにはそれを実行できるだけの力がある。
四回目は、恐怖の感情こそ消えはしなかったものの、見事に死を克服することに成功した。
どうやらわたしは、窮地に立たされると強くなるタイプらしい。
ようは人間でいうところの、火事場のクソ力というやつだ。
「わたしは……わたしは、『死』の概念を克服したんだ! スゴイ、すごいよわたし! こんなこと、長門有希にだってできないよ!」
もう、もう何も怖くない!
死も、恐怖も、長門有希も、劉鳳も赤いコートの男も!
今のわたしは無敵、無敵の朝倉涼子なんだ!
有機生命体の概念を記録した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス……前代未聞!
わたしは、長門有希でも到達できなかった領域に足を踏み入れたんだわ!
こんなに……こんなに素晴らしいことはない!
――します――アに――――あと―――
これは、情報統合思念体にとっても喜ぶべきこと!
わたしはこのゲームで必ず生きて帰り、この記録を持ち帰らなければならない!
そうと決まったら、グズグズなんてしていられないじゃない!
早く他のみんなを、わたしを殺すかもしれない奴らを先に皆殺しにしなきゃ!
――します――リアに――――あと―――以内――
……なにやら、さっきから外野が騒がしい。
うるさいなぁ……せっかくいい気分だったのに。
ビィービィーいってるアラームみたいな音は、わたしの首筋から聞こえている。
チカチカ赤く光っているのは、これに付いているランプが点滅しているのだろう。
あ、でもこの音って、わたしを目覚めさせてくれた音なんだよね?
だったら、これは目覚まし時計かな?
でも首に目覚まし時計が付いているっていうのも変な話しだし……情報、照合。
分かった。これは、『首輪』。それも、『爆弾』の付いてるとびっきりな危険なやつ。
…………え?
『警告します。禁止区域に抵触しています。あと5秒以内に爆破します』
……えっと、ちょっと待って。これって嘘だよね? 何かの間違いだよね?
『あと4秒――』
違うよね? これ、警告音なんかじゃないよね?
ここが禁止エリアに指定されてて、現在時刻が15時0分26秒だからって、爆発したりしないよね?
『あと3秒――』
じゃあ何? このカウントダウンは、いったい何を数えているの?
あと3秒――あと3秒経過したら、いったい何が起こるっていうの?
『あと2秒――』
分からない。ううん、分かるけど分かりたくない。怖い。それを認めるのは怖い――こわいこわいこわいこわいこわい。
駄目。絶対。あり得ない。冗談。よして。だって。だってだってだってだってだって。おかしいよこれ、おかしいよこれ。
『あと1秒――』
怖い、恐ろしい、死ぬ! 死ぬのはイヤ、イヤ、イヤ! イヤァ! 死にたくない、死にたくない!
ダメ! 助けて! ひどい! こんなのってない! それ無理! それ無理だから、誰か、誰か助け――
ビィィ――――――――――――――――――――――――――――パァン。
>××××年×月×日。
>この日、地球に派遣した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス――パーソナルネーム『朝倉涼子』が謎の復帰を果たした。
>しかし、その消息はすぐに途絶え、後に確認を取ってみたところ、その信号を感知することはできなかった。
>情報伝達の不具合と判断。
>以前どおり『朝倉涼子』は××××年×月×日、急進派の意に同調したところを『長門有希』に粛清され、消去されたものとする。
>変更、特になし。
【E-3・東端の廃墟化した市街地/1日目/日中】
【カズマ@スクライド】
[状態]:睡眠中、疲労大、全身中程度の負傷(打ち身と裂傷が主)
[装備]:なし
[道具]:高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)、かなみのリボン@スクライド、支給品一式
:鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)ボディブレード
[思考・状況]
1:劉鳳をぶっ飛ばす。
2:かなみ・鶴屋を殺害した人物を突き止め、ブチ殺す(ナイフを持っているやつと断定、かなみと鶴屋を殺した犯人は同じだと思っている)。
3:ギガゾンビを完膚無きまでにボコる。邪魔する奴はぶっ飛ばす。
4:なのはが心配。
【E-5・西端の廃墟化した市街地/1日目/日中】
【劉鳳@スクライド】
[状態]:疲労大、全身に中程度の負傷(打ち身と裂傷が主)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式、斬鉄剣@ルパン三世、SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱
:真紅似のビスクドール(目撃証言調達のため、遊園地内のファンシーショップで入手)
[思考・状況]
1:長門有希(朝倉涼子)を見つけ出し、断罪する。
2:カズマと決着をつける。
3:ゲームに乗っていない人たちを保護し、この殺し合いから脱出させる。
4:そのためになるべく彼らと信頼を築く。
5:主催者、マーダーなどといった『悪』をこの手で断罪する。
6:赤いコートの男(アーカード)を見つけ出し、断罪する。
7:老人(ウォルター)を殺した犯人を見つけ出し、断罪する。
8:真紅を捜し、誤解を解く。
9:余裕が出来次第ホテルに向かう。
10:必ず自分の正義を貫く。
[備考]
※朝倉涼子のことを『長門有希』と認識しています。
※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。
※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。
【D-4・南端に位置するビル内/1日目/日中】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:全身に裂傷、中程度の火傷
[装備]:鎖鎌(ある程度、強化済み)、対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾無しのため、鈍器として使用予定)
[道具]:無し
[思考]:
1:夜まで回復に努める。
2:カズマ、劉鳳とはぜひ再戦したい。
【桜田ジュン@ローゼンメイデンシリーズ 死亡】
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】
[残り47人]
※日中の時間帯、E-4ほぼ全域の市街地が、カズマと劉鳳とアーカードの戦闘及び朝倉涼子の引き起こしたガス爆発によって崩壊しました。現在は廃墟と化しています。
※朝倉涼子が死亡したのは15時0分30秒ジャスト(禁止エリア侵入により首輪が爆発)。それまでは瓦礫の山に埋もれ、誰にも発見されていません。
カズマの野郎……見つけ出したら何してやろうか……。
あたしは、あいつをどんな目に遭わせるか考えながら、森の中を歩いていた。
ひとまず目指すのは、地図中央に描かれた市街地だ。
カズマの野郎はそこにいる――あたしはそう予想したのさ。
理由は二つ。
一つは、あいつと同行していたなのはという少女が先行してそちらに向かっていたから。
何だかんだ言って、あいつはあのガキの事を気に掛けていた。……案外、惚れてたのかもな。
……んまぁ、そういうわけだから、あいつが惚れた女の後を追っていく可能性は高かった。
そして、二つ目は……女の勘さ。
――んだって?
だったらどうして、森の中を歩いてるかって?
バーカ。んなことも分かんねぇのかよ。
いいか?
今のあたしの装備はこのイングラムだけだ。しかも残弾にだって限りがある。
限りある残弾を無駄遣いしないためには、目的地に着くまでは人気の少ない森の中をこうやって移動していった方が効率がいいんだよ。
……あ? もし目的地に前の道にカズマがいたら無駄足になるって?
……知るか!!
あたしはあたしのやりたい方法で道を進む。
それでいいだろ!?
『――――――12時間生き延びることが出来た哀れな生存者どもよ、おめでとう』
そして、そんな機嫌が悪かったときだよ。
あのギガなんとかとかいう仮面野郎が放送を始めたのは。
『ククク……ハァーハッハッハ! ヒァハハハハハハッ!』
相変わらずいけ好かない笑い方で奴の放送は終わった。
ありゃ、口先だけで、絶対にタイマンじゃ戦えないチキン野郎の笑い方だ。このあたしが言うんだから間違いない。
……だけど、そんなチキン仮面は二つ面白いことを言ってくれた。
一つはあのメイドが死んだってことだ。
あの殴ろうか撃とうが何食わぬ顔で反撃してくるようなイカれた女でも死ぬことがあるらしい。
是非、それを実行したクレイジーな野郎の顔が見てみたい。
そしてもう一つは…………ぷぷっ。
「ぶわっはっはっはっは!! 馬鹿だ! 馬鹿だあいつ! 禁止エリアに指定されてらぁ!!」
なんでも、あたしが縛り上げたゲイナー坊やのいる場所が何と禁止エリアに指定されることになるらしい。
あんな死んだら絶対後悔するような格好で身動き取れないまま、時間が来たらズガンか。
こりゃ、下手なテレビのコメディショーより数百倍面白いときたもんだ。
あのチキン仮面の野郎、あたしのジョークのツボを知ってるらしい。
放送を聞いてあいつはどうしているだろう。
ガクガク震えてる? ションベンちびって泣いてる? それとも風邪引いて寝込んでるか?
いやいや、あいつの事だから、あたしと同じようにして縄を切ろうとするだろうな。
だけど残念だったな、ゲイナー坊や。
そーいうのにうってつけの手ごろなガラス片は全部遠くに撒いちまったんだよ。
ま、せいぜい頑張って時間までに脱出するこった。
イカれた殺人鬼達が寄り付く前にな。
……ま、あいつだって、黙って爆発するほど馬鹿じゃないだろうがな。
名簿を丸暗記したり、不本意とはいえあたしから一本取ったり……なんかロックと似てるような気がするんだよな。
腕っ節はからきしの癖に、ちょっと頭がいい事を鼻にかけたようにあたしに突っかかってくるようなところとかが。
――そんな奴だからどうせ、今回だって何とかしちまうだろうさ。あたしが何かしなくてもさ。
……って、あたしには元々助ける気なんてないんだからな!
しばらく歩き続けて。
あたしはようやく市街地中央の裏手にあたる場所までたどり着いた。
んで、その小高くなってる場所から市街地を見てみたんだが……何なんだあれは。
一直線に家が吹っ飛んでいたり、その向こうじゃ一区画まるごと吹っ飛んだみたいに煙が立ち込めてて……。
あれか?
どっか頭がイカれた連中が戦車や戦闘機で爆撃したりしたのか?
だったら、そんな奴と会うのはゴメンだね。こんなサブマシンガン一つでどうにかできる相手じゃねぇよ。
せめて、対戦車用のライフルとかランチャーがあればいいんだけどよ。
「まったく……ここにはロアナプラ以上にイカれた野郎が集まってるって事か?」
「ねぇねぇ、ロアナプラってなーに?」
「あぁ? 知らないのか? ロアナプラってのはなぁ――――」
って、待て。
誰だ、今あたしに声を掛けてきたのは?
あたしは声のした背後を振り向いてみた。すると……
「やぁ、こんにちは!!」
……そこには蜘蛛がいやがった。
ぼこぼこの装甲板に覆われた真っ青な蜘蛛が。
「……な、なんだテメェ?」
「僕はタチコマ! 公安九課の思考戦車だよ、よろしく!」
戦車……だと? この青蜘蛛が?
……だが、よく見てみると、その蜘蛛の口にあたる部分ににある突起には何やら物騒なものがついやがる。
こりゃあ、まさか……。
「お前が……戦車だと?」
「うん! ――まぁ、君たちにとってはロボットって言った方が分かりやすいかもしれないけどね!」
「まぁ、んなのはどうでもいい。それよりも……あれをやったのはお前か?」
あたしは見るも無残な住宅街を指差しながら、その青蜘蛛戦車に聞いてやる。
――すると、そいつは前足をその顔の前で横に振る。
「違う違う! 僕達はここに来たばっかりだから知らないよぉ! それに僕達には家を破壊する理由なんてないし」
「僕達、だと?」
「あ、しまっ――」
自分で仲間がいることを口にするたぁ、自称ロボットの癖になんとも馬鹿な蜘蛛だ。
そうかい、そうかい。
こいつはその今どこかに潜んでいる仲間とやらとつるんで、このレヴィ様を陥れようとしているのかい。
「いい度胸だぜ……!」
あたしは、その物騒な口の射程から逃げるべく、その蜘蛛の頭の上に乗っかるとその脳天にイングラムをかざす。
「うわぁっ! う、上に乗るなんて想定外だよ!」
「あたしをなめんなよ。……さぁ、そのお仲間の位置を教えてもらおうか。でないと脳天に9ミリ弾の嵐を食らわs――」
「待ってください!!」
って、何だ何だ!?
今度は蜘蛛の後ろについてた箱みたいなのから人が出てきただと!?
「あ、ダメだよフェイトちゃん! この人は――」
「いいよ、タチコマ。きっとちゃんと話せば分かってくれるはずだよ……」
いきなり出てきた仮装パーティみたな格好をした金髪のガキは、そう言ってあたしの方を見る。
「――私はフェイト。フェイト・T・ハラオウン。私とタチコマにはあなたと戦う意志はありません。ですから、話を聞いてくれますか?」
――ったく、何だってんだよ。
ま、でもタチコマっちゅう戦車野郎はともかく、このフェイトとかいうガキからは、殺気の類は感じたりしない。
だったら、心優しいレヴィ姉さんとしては、ひとまずはこのガキの話を聞いてやってもいいかなって思ったよ。
もしかしたら、カズマの野郎の居場所を知ってるかもしれないしな。
話を聞くに、どうやらこいつらは温泉の方から人を探しながら下山してきたみたいで、カズマには会ってないらしかった。
ったく、使えねぇ。
……いや、そうでもないか。何せ、こいつらが探してるっちゅうお友達の中には、あのなのはっていうガキの名前があったんだから。
そういや、なのはって奴もフェイトって名前を何回か言ってたようないなかったような……。
「あの……あなたは見ませんでしたか。なのはを」
「――あと、トグサ君も!」
そうさ、こいつらはなのはってガキの居場所を知りたがってる。
――だったら、それを利用してやるのがあたし流のやり方だ。
「……あぁ、トグサってのは知らねぇkど、なのはってのは茶髪を二つに分けたガキだろ? ついさっきまで一緒だったぜ」
「――ほ、本当ですか!?」
ほら、掛かった。
あとはこっちに引きずり込むだけだ。
「今は見ての通り別れたがな、どっちの方に行ったかは知ってる」
「お、教えてください! なのはは……どこに行ったんですか!?」
「あぁ、教えてやるさ。……ただし、こっちにもそれ相応の報酬を支払ってもらうがな」
「報、酬……?」
「きっと、情報料をくれって言ってるんだよ。この人は」
そうだぜ、戦車。
あたしはタダで奉仕するほど甘ちゃんじゃない。
ビジネスは常にギブアンドテイク。
こっちが何かしてやってんのに何も得られないなんて話がロアナプラでまかり通る訳がない。
「――そうだな、ひとまずお前らの持ってる武器とデイパックの中身を見せてみな。そん中から何かあたしが欲しいものを貰う。んで、そうしたら情報を教える。これでどうだい、お嬢ちゃん」
そんな条件に、ガキは躊躇う。
そりゃそうだ。ここで生き残る為に必要な武器や道具をとられるかもしれないんだからな。
……だが、それ以上にこいつはそのお友達とやらの居場所を知りたがっている。
だったら、その答えは――
「……分かりました。あなたの要求を飲みます」
そう言って、ガキは二人分のデイパックを差し出す。
Yeah、面白いくらいに思い通りだ。
「オーケイ。それじゃ、ありがたく拝見いたしますよっと」
まず一つ目のバッグを開ける。
すると出てきたのは……得体の知れない箱、女の写真が貼られた手帳、妙に飾られた如雨露、そして……
「何だこりゃ。西瓜か!?」
カバンをひっくり返すと出るわ出るわの大行進。……なんだってんだ、これは。
「お近づきのしるしにお一つどーぞ」
フザけるな。こんなモンもらって…………まぁ、ここじゃ貴重な食料だし一つくらい貰ってもいっか。
「――ったく、下らないもんばっかり持ちやがって…………って、おいおいこれは……」
西瓜を持ち上げたときだった。
その西瓜の山に埋もれていた、あたしが探し求めていたブツが見つかった。
――ベレッタM92F。こいつをカスタムすればカトラスになるっていうあたしにとっちゃ使い勝手のいい拳銃だ。
「こんないいもんを見つけられるとはな。これもあたしの日頃の行いおかげかねぇ」
勿論、これはいただきだ。
さて、大方こっちは調べたから、次は二つ目だ。
……と、早速それっぽい手触りのものを掴んだぞ、と。
「どれどれ、今度はどんな――って、待て待て。こりゃあ……」
バッグから引きずり出すと、それはあたしの背丈くらいはありそうな巨大なライフルだった。
「これ、対戦車用か?」
「NTW20対物ライフル。サイトー君の愛用品だよ。剣菱の新型多脚戦車の装甲だって撃ち抜けるよ」
多脚戦車ってのが何だかはよく分からないが、どうやら対戦車ライフル並みの威力ってことは違いなさそうだ。
こりゃあ、とんだ掘り出し物が見つかったかもなぁ。
――そして、結局あたしはベレッタと対物ライフル、そしてオマケとして西瓜を頂く事にした。
「……それじゃ、約束です。なのはの居場所を聞かせてください」
ま、貰うもんも貰ったしな。
私は、そいつがクーガーとかいう早口野郎の背に乗って市街地の方へ向かっていたことを伝えた。
「……分かりました。ありがとうございます」
すると、ガキは戦車のハッチを開けて、再度その中へ入っていく。
「ま、精々死なないようにしな。あたしみたいに心が広〜〜い連中ばっかりじゃないんだからな、ここにいるのは」
これ以上、こいつらと付き合ってても何も得られない。
あたしはそう判断して、早々にここを離れようと背を向けた……が。
「あ、ま、待ってください」
ガキがあたしを呼び止めてきた。
「……何だ? まだ用があるのかい?」
「えっとその……レヴィはここの南の方から来たんですよね?」
「ん? あぁ、そうだけど」
「それじゃあ、ここから南の……F-8のあたりを通ったりしませんでしたか? どこかに身動きが取れない人がいるらしいんですけど……」
……おいおい、こんなこと聞くなんて、もしかしてアレか?
こいつ、もしあたしがいるって言ったら助けに行くつもりなのか? あのゲイナー坊やを。
あたしは少し考えた末に、とりあえず本当の事を言うことにした。……どうせ、あたしには関係ないしな。
「あぁ、そういえばいたねぇ。まさにF-8のあたりでぐるぐる巻きにされて身動きの取れない坊やが」
「――それ、本当ですか!?」
「これだけいいもんを貰ったんだ。これくらいの情報は嘘なしでサービスしてやったつもりだけど。ま、信じるのも疑うもの勝手だけどよ」
「あなたは……そこまで分かっていて、どうして助けに行かないんですか?」
その目は、あからさまにあたしを非難するような目だった。
ったく、胸糞悪い目つきだ。
「ハッ、何言ってやがる。あたしにはあいつを助ける義理なんかこれっぽちもないんだ。それにテメェの身くらいテメェだけで何とかしろってんだよ」
「そうですか……」
――何だよ、何だよ、その目は。
あたしが何か間違ったこと言ったか?
「行こう、タチコマ。……F-8に」
「いいのかい? なのはちゃんの方は」
「うん。私には誰かが死ぬのを放っては置けない。それになのはだって……私と同じようにすると思うし」
「……分かった。それじゃ、全速前進で行くよ! ポッドの中に入って」
そう言われ、ガキはポッドの中にもぐりこむ。
……そして、ハッチを閉める直前、顔を出すとその目をあたしへと向けた。
「情報をありがとうございました。……それではこれからもご無事で」
「それじゃあね! バイバーイ!!」
ハッチが閉められるのと同時に戦車は進路を南に走り去っていった。
……な、何だってんだ?
あたしが何か間違ったことしたか?
この自分自身が生きるか死ぬか分からない世界で、他人の心配をするってのは馬鹿がすることだろ。
それなのに、何であたしは……あんな下の毛も生え揃っていなさそうなガキに見下されなきゃいけないんだ。
このレヴィ様がどうして……。
ふざけてる、ふざけてる、ふざけてる、ふざけてる…………。
「チクショウ!! 糞ッタレが!」
その瞬間、あたしは気付いたら、あの戦車とその中の小生意気な糞ガキを追っていた。
……どうやら、あのガキにもあたしをイラつかせた事の恐ろしさを教えてやらなきゃいけなくなったみたいだ。
――決して、ゲイナー坊やが心配で追ってるわけじゃないからな。そこ勘違いするなよ!
【D-7/E-7との境界付近 1日目/午後】
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:腹部に軽傷、頭に大きなタンコブ、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、かなりイライラ
[装備]:イングラムM10サブマシンガン、ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)
NTW20対物ライフル@攻殻機動隊S.A.C(弾数3/3)、ぬけ穴ライト@ドラえもん
[道具]:支給品一式、予備弾薬(イングラム用、残弾数不明)、バカルディ(ラム酒)1本@BLACK LAGOON、割れた酒瓶(凶器として使える)
西瓜1個@スクライド
[思考・状況]
1:フェイト……待ちやがれ!
2:ゲイナー坊や? 知らねぇよ!
3:カズマ? 借りは返す!
4:ロック? まぁあいつなら大丈夫だろ
5:気に入らない奴はブッ殺す!
[備考]
※双子の名前は知りません。
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:全身に軽傷、背中に打撲、決意
[装備]:S2U(元のカード形態)@魔法少女リリカルなのは、双眼鏡
[道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、
[思考・状況]
1:F-8に向かい、参加者(ゲイナー)を救出する。
2:1の後に市街地へ向かい、なのはを探す。
3:カルラの仲間に謝る。
4:引き続き双眼鏡を使って自分の友人やタチコマの仲間を探し、合流する。
5:眼鏡の少女と遭遇したら自分が見たことの真相を問いただす。
基本:シグナム、ヴィータ、眼鏡の少女や他の参加者に会い、もし殺し合いに乗っていたら止める。
【タチコマ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:装甲はぼこぼこ、ダメージ蓄積、燃料満タン、爆走中
[装備]:タチコマの榴弾@攻殻機動隊S.A.C
タケコプター@ドラえもん(故障中、残り使用時間6:25)
[道具]:支給品一式×2、燃料タンクから2/8補給済み、お天気ボックス@ドラえもん、西瓜46個@スクライド
龍咲海の生徒手帳、庭師の如雨露@ローゼンメイデンシリーズ
[思考・状況]
1:フェイトの指示に従い、F-8へ急行!
2:フェイトを彼女の仲間の元か安全な場所に送る。
3:トグサと合流。
4:少佐とバトーの遺体を探し、電脳を回収する。
5:自分を修理できる施設・人間を探す。
6:薬箱を落とした場所がそこはかとなく気になる
[備考]
光学迷彩の効果が低下しています。被発見率は多少下がるものの、あまり戦闘の役には立ちません。
効果を回復するには、適切な修理が必要です。
タケコプターは最大時速80km、最大稼動電力八時間、故障はドラえもんにしか直せません。
レヴィの荷物検査の際にエルルゥの薬箱を落とした事に気付きました。
12時間生き延びた――
「えっ!?」
突然の声に風は眼を覚ました。
そしてすぐに気付く。
これは二回目の放送だということを。
「私ったら、今までずっと…メモしなくては」
禁止エリアの確認のために、急いでバッグから地図とペンを取り出し、メモの準備をする。
幸い禁止エリアの時間と場所は聞き逃さずに済んだ。
そして、死者の名前も告げられる。
「…そんな…君島さんが…」
ショックを受けた。
駅で一緒に紅茶を飲んだ男性が既にこの世を去ってしまった。
信じられない。
だが、光の名前が無かったのは幸いだった。
必死で動揺を抑える。
一度深呼吸。
そして、気分を変えるために、自分自身も落ち着かせるために、近くにいる女性に話しかける。
「エルルゥさん。とりあえず紅茶でも…えっ」
気付いた。エルルゥの不在に。
「どうして!?私が寝てる間に…?」
急いで家の中の探し回る。
風呂場、トイレ、リビング、キッチン…どこにも居なかった。
彼女の荷物も消えていた。まさか一人で…
そして風は、彼女の状態を思い出す。
彼女は明らかに冷静さを欠いていた。
最初の放送で好きな人の死が告知されたのだ。
無理も無い。
でも、だからこそ一人にしておくのはとても危険だった。
そして、風は先の放送の内容を思い出した。
――禁止エリアに動けない人が――
「まさかエルルゥさんが、…でもそうでなくても、光さんかもしれませんし、それに…」
風は急いで支度を始める。
まずは家を探索、武器になる物を探した。スパナ一本ではとてもじゃないが頼りない。
探した結果は、思ったより収穫があり、アイスピックとマイナスドライバーと果物ナイフと包丁とフォークが一本ずつ見つかった。
本心では弓矢がほしかったけど、この際贅沢は言えない。
武器を集めると次は目的地。
地図を広げ考える。
B-1は遠すぎる。とてもじゃないが間に合わない。
風は少し考え、一番近い場所であるE-4に決めた。
「光さん、エルルゥさん、どうか無事でいてください」
風は民家を出ると、走り出した。
【D-3/民家 手前/1日目/日中】
【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース】
[状態]:健康、君島の死に僅かに精神的動揺
[装備]:スパナ、果物ナイフ
[道具]:紅茶セット(残り5パック)、猫のきぐるみ、 マイナスドライバー、アイスピック、包丁、フォーク
包帯(残り6mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅)
[思考・状況]
基本:光と合流して、東京へ帰る。
1:光と探す。
2: E-4に向かい、動けない人がいるか捜索する。
3:2で該当者が見つからなかった場合、F-8に向かい、捜索する。
4:自分の武器を取り戻したい
5:黙って消えたエルルゥが心配。
6:もし、人に危害を加える人に出会ったら、出来る範囲で戦う。
[備考]
当初の駅へ向かう予定はキャンセルしました。
歪な笑いと共に、空に浮かんだ虚像が消える。
その後しばらくして、立ち止まっていた三人の人影は歩き出す。
誰も放送を聞いても、歩くのを躊躇おうとはしなかった。
のび太は安堵していた。彼の知っている人物が、今度は誰も死ななかったことに。
9人の死亡者は、彼の知る人物ではない。
知らない他人の事を心配する理由は、今の彼には無かった。
凛はアーチャーのことを考えていた。
真名さえ知らせずに逝ってしまった、赤い弓兵。
今度は彼だったかどうかさえ確認できずに別れる事になってしまった。
彼だったかどうかさえ、もうわからない。それが、少し悲しかった。
それでも、足を止めるわけにはいかない。あの時と同じように。
水銀橙は感嘆していた。自分達姉妹の悪運のよさに。
姉妹全員だけならまだしも、真紅のミーディアムさえ未だに生きている。
……少々、彼女にとっては気に入らない事態である。
真紅たちを殺してローザミスティカを得るには、そのミーディアムには死んでもらった方が容易だからだ。
三者三様の思いを浮かべながら、彼らは歩く。
□□□□□□□□
放送が終わった頃には、もう病院がはっきりと見える位の距離まで近づいていた。
ふう、と溜め息を吐いたのは凛だ。さすがに人一人抱えたまま歩くのは堪えたらしい。
「……確か、あなたはここから逃げてきたのよね?」
「うん」
そうして凛は、傍らにいる少年に呼びかけた。
凛は道中、病院から逃げてきたことをのび太から聞いている。同時に、謎の男の苛烈な襲撃も。
だが……それが、病院行きの上で問題になるとは彼女は思っていなかった。
凛としては、積極的に人殺しを行う輩がそう何時間もここに留まっているとは考えにくいと思ったのだ。
しかし、病院の中に入った途端、レイジングハートからの警告が入る。
『何かいるようです。動く様子はありませんが』
「――何か?」
「……!」
その言葉に、一瞬だがのび太が身を竦ませる。あの襲撃を思い出したのだろう。
凛としても、警戒せざるを得ない。エリアサーチを実行するまでも無く、レイジングハートは何かの存在を探知した……
逆に言えば、それほどの何かがいるということでもある。
だが、水銀橙は怯えた様子もなく声を出した。
「動かないってことは寝てるんじゃなぁい?」
『それにしては魔力の動きが活発です』
水銀橙の言葉を素早くレイジングハートは否定した。何を企んでいるか、分かったものではないからだ。
その反応は正解である。水銀橙のこの発言は、人減らしを行う絶好のチャンスかもしれないと思ってのものだ。
だが、水銀橙の言葉に凛はふと考え込んでおいた。
寝ている、という予想を信じるわけではない。罠の可能性もある。
それ以前に、根本的な問題があるのだ。
それは、のび太達を襲撃した輩と同一人物かどうかも分からないということ。
のび太の話では、その男が使っていたのは未来の道具……魔術ではない。
それだけで魔力がないと判断するのは早計だが、魔力があるという保証もない。
敵か味方か、罠か無防備なだけか……考え方次第でどうとでも取れる。
一つだけ言えること。眠っている女性を抱えている現状では、下手に動くのは命取りだ。
「少なくとも、高町なのはって子じゃないのは確かよね?」
『はい』
再び凛は考え込む。
敢えて確認するべきか、違う場所へ行くべきか……
そこへ声をかけたのは、水銀橙だった。
「じゃあ、私が見てきましょうかぁ?」
相変わらずの不敵な笑みを浮かべたまま、彼女はそう提案する。
単純な善意からの発言でないことは言うまでも無い。
「その女を運ばされるのも嫌だもの。体格が釣りあわなくて面倒だしぃ」
「……まあいいけど。レイジングハート、位置を教えてあげて」
水銀橙の憎まれ口に溜め息を吐きつつ凛は自らの杖に命じる。
だが、レイジングハートは答えない。まるで躊躇っているかのように。
『……』
「どうしたの、レイジングハート?」
『……いえ。
目標はここからまっすぐ南西にいます。高さは一階程度です』
レイジングハートの対応に、水銀橙は少し眉を吊り上げた。
明らかにどこかおかしい対応。警戒しているかのように。
両者の思惑が交差するのに気付かないまま、凛は再び歩き出した。
「じゃ、私達は待合室で待ってるから」
「お姉さん……出ないの?」
「外で人を抱えたまま突っ立ってるのはもっと危険でしょ。
まあ、気持ちは分かるけど」
嫌がるのび太をそうなだめながら、凛はエルルゥを背中から下ろした。寝かせるためだ。
それをくすりと笑い、水銀橙は言われた方向へ向けて歩き出す。
……もっとも、それは凛たちの視界から消えるまでの話。
彼女に、まっすぐ行く気など全く無い。
(ふふ、色々集めるいい機会ねぇ)
これを提案したのはあくまで自らの目的のため。
どうせ遅れれても、その参加者のせいにすればいい。
そう、水銀橙は考えていた。
【D-3病院廊下・1日目 日中】
【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:服の一部損傷/『契約』による自動回復
[装備]:ヘンゼルの手斧@BLACK LAGOON、
[道具]:透明マント@ドラえもん
[思考・状況]
1:何かいる場所へはすぐに向かわず、寄り道して有害性物質を見つける。
2:カレイドルビーとの『契約』はできる限り継続、利用。最後の二人になったところで殺しておく。
3:カレイドルビーの敵を作り、戦わせる。
4:あまりに人が増えるようなら誰か一人殺す。
5:真紅達ドールを破壊し、ローザミスティカを奪う。
6:青い蜘蛛はまだ手は出さない。
[備考]:凛の名をカレイドルビーだと思っている。
透明マントは子供一人がすっぽりと収まるサイズ。複数の人間や、大人の男性では全身を覆うことできません。
また、かなり破れやすいです。
透明マントについては凛にものび太にも話していない。
レイジングハートを少し警戒。
【D-3病院待合室・1日目 日中】
【魔法少女カレイドルビーチーム】
【遠坂凛(カレイドルビー)@Fate/ Stay night】
[状態]:カレイドルビー状態/水銀橙と『契約』/少し疲労/
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(アクセルモード)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式(パン0.5個消費 水1割消費)、ヤクルト一本
[思考]
1:どこか休めそうな部屋に行って、変な耳の子が起きるのと水銀橙を待つ。
2:高町なのはを探してレイジングハートを返す。
3:ドラえもんを探し、詳しい科学技術についての情報を得る。
4:アーチャーやセイバーがどうなっているか、誰なのかを確認する。
5:知ってるセイバーやアーチャーなら、カレイドルビーの姿はできる限り見せない。
6:自分の身が危険なら手加減しない。可能な限りのび太を守る。
[備考]:
緑の髪のポニーテールの女(園崎魅音。名前は知らない)を危険人物と認識。
レイジングハートからの講義は何らかの効果があったかもしれませんが、それらの実践はしていません。
レイジングハートは、シグナム戦で水銀燈がスネ夫をかばうフリをして見捨てたことを知っており、水銀燈を警戒しています。
【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:喪失に対する恐怖/左足に負傷(走れないが歩ける程度に治療)
[装備]:ワルサーP38(0/8)
[道具]:USSR RPG7(残弾1)、ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)
スーパーピンチクラッシャーのオモチャ@スクライド、支給品一式(パン1つ消費、水1/8消費)
[思考]
1:カレイドルビーと共にドラえもん、ジャイアンを探して合流する。
2:なんとかしてしずかの仇を討ちたい。
[備考]:凛の名をカレイドルビーだと思っている。
水銀燈の『契約』について
厳密に言うと契約ではなく、水銀橙の特殊能力による一方的な魔力の収奪です。
凛からの解除はできませんが、水銀橙からの解除は自由です。再『契約』もできます。
ただし、凛が水銀橙から離れていれば収奪される量は減ります。
通常の行動をする分には凛に負荷はかかりません。
水銀橙が全力で戦闘をすると魔力が少し減少しますが、凛が同時に戦闘するのに支障はありません。
ただしこれは凛の魔力量が平均的な魔術師より遥かに多いためであり、魔力がない参加者や
平均レベルの魔力しかない魔術師では負荷が掛かる可能性があります。
逆に言えば、なのは勢やレイアース勢などは平気です。
【エルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:ハクオロの死による重度の虚無感。暗示による強制睡眠(数時間で解除)。
[装備]:なし
[道具]:惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん、五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)、紅茶セット(残り4パック)
[思考・状況]1:睡眠
[備考]※絶望により何をする気もなれない状態ですが、今のところ優勝して願いを叶えるという考えは否定しています。
※フーとその仲間(ヒカル、ウミ)、更にトーキョーとセフィーロ、魔法といった存在について何となく理解しました。
[道具備考]
1:惚れ薬→異性にのみ有効。飲んでから初めて視界に入れた人間を好きになる。効力は長くて一時間程度。(残り六割)
2:たずね人ステッキ→三時間につき一回のみ使用化。一度使用した相手には使えない。死体にも有効。的中率は70パーセント。
自身は騎士で、相手は射手と剣士。
それはまさしく三種三様。一人として同じ者はいない。
時代や国、様々なものを超えて自分たちは向き合っている。
さて。
黒の射手が拳銃を使うのは既に知る通りだ。
そしてこの剣士――日本のサムライという人種だろうか――も危険だ。
手練である事など簡単にわかる。殺気、立ち回り、態度。全てが戦いに生きる者である何よりの証拠。
この状況では二つの存在は脅威だ。恐ろしい畏怖の対象であり、力そのものだ。
いや、だがそれがどうした。ならば自分は人としての生を逸脱した騎士だ。
武器を持ち、人を護るべく人を殺す矛と盾となる強き者だ。何も恐れる事はない。
そんな今の自分の片手は、敵には一体何に見えているだろうか。
人を射抜く槍か。化け物を打ち抜く白木の杭か。
違う。今の自分のこの手はそんな”ちゃちな”ものではない。
今のこの手は、人と化け物を分け隔てなく殺す白銀の”剣”だ。
槍でも杭でもない。貫く為だけのものではない。敵を「斬る」剣なのだ。
意思を纏い、ソロモンは敵の姿を眺めた。
この三つ巴という言葉が良く似合う状況でどう動くかを思案する。
一挙一動に全てが掛かっているという事は本人もよく理解していた。
だからこそ状況を見極める為に、彼は敵を眺めている。
「しかし次元、”兵”をここに誘った事は評価に値するぞ」
「そうかい」
「だからこそ、そなたとも余計に闘いたくなった」
「そうかい……だが今はアイツと戦った方が面白いと思うぞ」
目の前では血を流す射手と未だ余裕のサムライが会話をしている。
彼らは手を組んでいるわけではないだろう。だが状況がどう転ぶかは判らない。
状況が不安定に過ぎる。ここは賢く立ち回るべきか。ならばどうするか。
「私はアサシンのサーヴァント……佐々木小次郎。剣士よ、お主の名は?」
「ソロモン・ゴールドスミス……それと剣士ではありません、騎士です」
突然サムライが名乗り、こちらにもそれを要求してきた。
一応答える事にした。何故なら自分は礼節を重んじる「騎士」だからだ。
戦いを求めるだけの剣士ではない。人や国への愛の為に戦う騎士なのだ。
レイピアを袋にしまう。本来自分は二刀流という戦術は好まない為だ。
いままでは余分な力の消耗を避ける為に、こうして与えられた武器を使っていたが
こうなってしまってはもうそんな事を考える暇は無い。この刃と化した片手で戦うだけだ。
狙うはあの佐々木小次郎と名乗った男。まずは彼を一番に排除せねばならない。
次元は先程の自分の攻撃によって負傷しているし、何より闘う意思を喪失している。
何せこの三者拮抗の状況で次元は少しずつ、そしてさり気無く後ろへと下がっているのだ。
その脚が向かうであろう位置を推測してみると、その近くには圭一がいた。成程、そういう事か。
『圭一君を保護してどさくさで逃亡するか、小次郎に勝利した僕を狙い撃ちにするか……そんなところでしょうか』
先程の小次郎との会話で小次郎の注意を別へと向けさせたのもこの為だろう。
実力を隠し持っているのだろうに、随分とまた狡い事をする。だがおかげで戦闘以外の苦労は無さそうだ。
問題は未だ怪我一つ負っていないこのサムライのみ。今はただ、この敵を倒すしかなくなったという事。
――そうと決まれば話は早い。
突如、ソロモンは人間離れの速度で小次郎に迫った。
だが余裕なのだろうか。小次郎は走るソロモンを見て笑みを浮かべている。
馬鹿な、このまま難なく事が進めば自分の勝利だというのに。それすら楽しいと思っているのだろうか。
ソロモンは怪訝そうにその表情を眺める。その間も距離は詰まっていき、遂に彼は小次郎の懐へと潜り込んだ。
そして呆気なく敵を射殺す為に、遂にその力を放つ。白銀の刃が目にも留まらぬ速度で小次郎に迫っていった。
そう、ソロモンはこうして速度を頼りに敵を切り刻む戦法を最も得意としていた。
研ぎ澄まされた刃を人間離れの速度で振るい、敵自身も気付かぬ内に殺す。
今も昔もその戦いは変わらない。故に小次郎は、この一手で刺し貫かれるはずだった。
――だが、その一撃は漆黒の剣でいとも簡単に防御されていた。
小次郎の得物、その巨大な刀身が盾の如く攻撃を阻んでいたのだ。
馬鹿な、とソロモンは驚愕の表情を浮かべ、仕方なくバックステップで一度後ろに退いた。
笑みを浮かべている小次郎にいとも簡単に防御をされる。正直なところ、衝撃を隠しきれなかった。
やはりこの男、強い。戦いを求め、敵を求めるだけあって只者ではない。
攻撃と退避。相手のその二つの素早い動作すらも、小次郎は余裕の表情で眺めていた。
退避の邪魔をするわけでもなく、ただ眺める。まるで実力を測っているかのごとく眺めるだけ。
まるで相手から剣術の指南を受けているかの様だ。翼主を生徒扱いとはなんと恐ろしいことか。
佐々木小次郎、やはり一筋縄ではいかない。
『いや……え? ”佐々木小次郎”……?』
突然、本当に突然に思い出した。自分はその名を何処かで聞いたことがある。
そうだ、「佐々木小次郎」は日本の歴史や伝承で確かに存在した剣豪だ。
雑学程度でしか知らないが、あの小夜が過ごしていた日本で名を遺している人物だ。
戦乱の時代に生まれ、戦乱の時代で育ち、常識外れの得物で敵を斬り伏せた伝説のサムライ。
敵を容赦無く死へと導く一撃必殺の奥義「秘剣・つばめ返し」とやらを創り出した人物だったと聞く
だが記憶が正しければ、彼は巌流島という場所で宮本武蔵という剣士と戦い、その後にその一生を終えた筈だ。
まさか目の前にいるのは”その”佐々木小次郎なのだろうか。そんなとんでもない相手と戦っているのだろうか。
だが可能性は十分にある。何せあの怪盗アルセーヌ・ルパンの孫とやらまでいるのだ。
この奇妙な空間ではどんな常識外れな相手がいてもおかしくはない。それならばこの強さにも納得はいく。
それに、仮にその仮説が間違っていたとしても、実際にとんでもない強さという事には変わりは無いのだ。
色々と常識外れで規格外。そんなサムライをどう排除するべきだ。
ソロモンは考えるが答えは出ない。そうこうしている内に、遂には小次郎から動いた。
「速度と心意気は良し。気に入ったぞ……往こう!」
さながら銃弾の如く正面から向かってくる。先程までの自分を見ている様だ。
そして小次郎は間合いに入った途端に、巨大な鉄塊というべき刃を薙いで攻撃を仕掛けてきた。
『巨大な剣だというのに……速い!』
ソロモンは小次郎の激しい一撃をバックステップで避けた。風を斬る音が大音量で響く。
こんな物を腕で受け止めようものなら、骨折どころの騒ぎではない。必ず回避せねば。
だが物事を深く考える暇も与えぬままに、更なる攻撃が襲い掛かってきた。
暴力的なまでの闘気と殺意を纏い、小次郎が笑みを浮かべながら豪快に斬撃を放ったのだ。
先程とは違う上から下への軌道。だがやはりソロモンはその攻撃からも全力で退がり、避けた。
と、その瞬間に重大な事に気付いた。
背後に新たな気配――否、殺意を感じたのだ。体が危険だと騒いでいる。
小次郎ではない。それならばまさか次元だろうか。最初の読みが外れてしまったのか。
『違うッ!?』
だが振り向けばその仮説が間違っていたのは明らかだった。
背後にいたのは圭一。彼が大鉈を勢い良く振りかぶっていた。
しまった、忘れていた。注意すべき敵は射手と剣豪だけではなかったのだ。
先程までまるで無抵抗だった所為で、圭一のことを失念していた。
「く……っ!」
何とか大鉈での攻撃から体を逸らすが、如何せん自分は小次郎の動きにのみ集中していた。
回避が間に合わず、不意の攻撃を避けられぬまま背中に刃を受け止める結果となってしまった。
そのおかげで背中は血みどろだ。傷も深く、かなりの痛手だ。
だが不運は更に続く。
いつもならソロモンは――否、シュヴァリエはこの程度の傷は瞬時に治癒出来る。
だが今は何故かそれが不可能。傷の癒える速度が異常なまでに遅いのだ。
『腕を刃へと変化させた時にも感じましたが……やはりいくつかの行動に支障が生じているようですね……』
怪我を治癒出来ない事を知り、ソロモンは更に焦りを見せ始めた。
依然圭一の攻撃は続く。我武者羅に大降りで力に頼るばかりの攻撃だが、怪我をした身では大変だ。
受け流し、受け止め、回避し、これ以上の怪我を防ごうとソロモンは孤独に奮戦する。
しかし流石にこのままでは、疲労を蓄積した挙句に小次郎へ背中と隙を見せているだけだ。
「仕方がありません……!」
それならば、とソロモンは防御姿勢から回避の為の跳躍へとその動作を移した。
後方かかえ込み二回宙返り一回ひねり。通称、月面宙返りと呼ばれる特殊な跳躍法。
「ムーンサルト」という名で有名な高難易度の動作を、怪我を負った状態で瞬時に行ったのだ。
何の前触れもなく高等技術を披露し、見舞う。
それは人を超えた力を持つシュヴァリエだからこそ可能な芸当だ。
『そう、落ち着け……僕には力がある……信頼出来る力がある。
人間が越えられない壁を飛び越えた挙句に破壊出来る存在、それが僕だ』
再確認。自分は人間ではない、紛れも無い翼主だ。
シュヴァリエの女王を護る為の力を有した最強の騎士――それが自分だ。
『人間には不可能な事が出来る僕が負けるはずは無い』
頭を冷やし、ソロモンは圭一の背後へと華麗に着地をした。
これならすぐに終わる。邪魔をする圭一をこのまま切り伏せ、そのまま刺し殺せば良いのだ。
圭一を貫かんと、ソロモンは刃を振るった。
◆
圭一が拙い。
次元がその事実に気付いたのはソロモンの着地する一寸前。
何故拙いのか、そんな事は見れば判る。一目瞭然だ。
『あの野郎……圭一をッ!』
勘が当たったとか、そういうレベルではない。
確実にソロモンは圭一の後ろを取り、殺すつもりだと自分の本能が知らせた。
ならばそんな事をさせるわけには行かない。圭一は保護してみせる。
第六感、本能、全てを信じて次元は圭一へと飛び込んでいく。
その結果、次元はソロモンの攻撃に間に合った。
そう、”攻撃自体には”だ。
「マズッたな……」
不運な事にその救助の手は僅かに間に合わず、無事に保護したとは言えなかった。
圭一の背中には袈裟斬りの傷が生まれ、そこから血が大量に流れていたのだ。
直前に圭一の襟首を掴み、引っ張って退避させたがそれも間に合わなかったのか傷は深かった。
だが、状況の悪化は更に続く。なんと圭一が意識を失っているのだ。
見れば顔も蒼白。頭からの流血は一層酷さを増し、止まる事を知らない。
やられた。こんな状態で大鉈を振り回し、背中からも大量の血を流せば
失血死という事態へと順調に歩を進める結果になるのは明白。最初から止めるべきだった。
圭一自身の体温も徐々に低下している。これではもう彼は助からないだろう。
そして更に拙い事に、ソロモンが先程からこちらを睨みつけていた。
相手の怒りが手に取るように解る。恐らくは排除にかかるだろう。当然であり最悪の展開だ。
次元は苦悩するが、自身が怪我をした所為で激しい運動は期待出来ないであろう事も理解している。
というより、その怪我も悪化してしまった。抉られた脇腹から血が流れ始めており、これでは安静にしなくてはならない。
チェックメイト。完全に詰みだ。辞世の句と戒名を用意しておくべきだった。
『俺も終わったか。最期にソロモンに説教してやりたかったが……ん?』
だがその時、ノーマークだった方向から足音が聞こえた。
まるで獲物を見つけた獣が超スピードで走ってくる様な音――まさか。
「余所見をしている場合か、ソロモン」
この声は佐々木小次郎だ。ああ、そうか。こいつが残っていた。
別にこいつは闘いたいだけで助けに来てくれたわけではないだろうが、こっちは一方的に助かった。
ソロモンが小次郎の攻撃を回避しているその間に
次元は圭一を背中に背負い、ゆっくりと後ろに退避することにした。
蒼星石とレナが死んだあの場所から、ソロモンと小次郎が戦っている場所からゆっくりと離れていく。
小次郎とソロモンを闘わせるという作戦は十分に成功した。圭一の保護は失敗したが、後は自分が退くだけだ。
ここから逃げるだけで良いのだ。逃げて、この場から立ち去れば良いだけなのだ。
だが、それでは自分の気が治まらない。あの男達にはガツンと言ってやりたい。
保護者みたいなことを考えた所為か、足が重くなる。とんだ熱血漢だな、と次元は苦笑した。
「この、死合いとやら……最後まで見届けるか」
◆
敵を刻まんと再び迫る巨大な刃。ソロモンはそれを必死に避けた。
とにかく全力で退避をするが、小次郎は尚も追いつつ攻撃を続けてくる。
横槍が入った所為で、今や闘いは小次郎が優勢になっている。
『圭一君に次元……やはり彼らも視野に入れておくべきでしたね……』
今更後悔しても仕方が無い。自分の落ち度なのだ。
背中からは血が流れ、疲労困憊。不利な状況に立たされている。
痛みを伴う大怪我を負った今、彼らを一気に殺さなくてはならない。
だがいくらシュヴァリエといってもこの複雑な状況を簡単に看破出来るかどうかは怪しい。
かつてシフと言う少年少女に複数人で襲いかかれた際には楽に攻略をしたが、
今回はその比ではないし、状況が状況だ。非常に拙い、本当に拙い。
こうなれば、人の姿を捨てて全身全霊で挑むしか勝利する方法は無い――のだが。
『……やはり無理ですか』
だが、すぐにそれが無理だと知った。
『姿を変えよ』と体に命じるが、その力が発動する事は無かった。
やはりこの世界では、肉体全てを翼主のそれに変化させる事すら出来ないのだ。
敵を掴む強力な脚や敵を噛み砕く牙を生み出せない。あまりにも無慈悲すぎる。
「追いついたぞ」
小次郎に追いつかれ、遂には左肩を切り裂かれてしまった。
その所為か急にバランスを崩し、ソロモンは倒れてしまう。
切り飛ばされはしなかったが痛みで左腕が動かない。
――だがそれなら右手だけで闘えば良いだけだ。
『小次郎、僕はまだ……倒れませんよ……』
ソロモンは立ち上がる。小夜の為に、小夜のために死ぬわけには行かない。
たとえ体の一部を失ったとしても、立ち上がらなければならないのだ。
そうでなければ、解り合えた盟友を殺した意味が無くなってしまう。だから立ち上がる。
しかしこの状況では、完全に不利だ。人間の姿を保ったままの勝利は不可能だろう。
だが自分には片手を刃に変える以外の部分的な変形は不可能だ。どうする、どうすれば。
『いや……あの方法なら……』
小夜のシュヴァリエであるあのハジという男を思い出した。
彼は自分の目の前で、翼主の姿にならないままに腕以外のもう一つの変化をやってのけたのだ。
あれだ、あれに賭けるしかない。常識から逸脱する手段はそれしか残されていない。
自分にそれは出来るだろうか。一瞬不安になる。
いや、だがやはりこれに賭けるしかない。残された手はこれだけだ。
大丈夫、きっと出来る。ハジの様に力を解放してみせる。
絶対に”飛んでみせる”。
――ハジとは、小夜のシュヴァリエの名だ。
彼は一風変わっており、酷く寡黙な男だった。
更には自身がシュヴァリエであることを罪であるかの様に振舞う。
それを受け止めているつもりなのか、左腕は常に翼主のそれに変化させたままだった。
だが変わっていることはそれだけではない。彼は”翼主の形態にならずに”空を飛べるのだ。
人の体を形成したまま蝙蝠に似た翼を背に生やし、飛び立つ事が出来るのだ。
ソロモン自身も空を飛ぶ翼を持った翼主だ。
だがハジの様に翼主の姿にならずに空を飛んだことは無いし試した事も無い。
だがその気になれば、自分もあのシュヴァリエの様に人の姿のままで空を飛ぶことは出来るだろうか。
いや、やってみせる。最初から小夜のシュヴァリエだったあの羨ましい男の様に飛んでみせる。
勝つために、生き残る為に。蒼星石の分まで生き残り、小夜を生き返らせる為に。
一か八かの賭けに出た彼は肉体全てに全力で命じた。
「飛翔せよ」と。
「……それがそなたの秘策か。素晴らしい、そなたはやはり素晴らしいな!」
「お褒めに与り、光栄ですよ……」
そして、賭けに勝った。
ハジの様に完全な翼主の姿にならず、背中から蝙蝠の如き羽を生やして空を飛ぶ。
初めての試みだったが、それは見事に成功した。ソロモンは今まさに人の姿を保ちながら空を飛んでいる。
『ギガゾンビの敷いた翼主形態への変化の抑制……これがぎりぎりのラインでしたか』
ハジと真逆の白い色をした羽を満足そうに眺め、ソロモンは更に空へと上昇した。
そして小次郎の姿に狙いを定める事が出来るぎりぎりの高さで止まり、見下ろす。
後はこれで闘うだけだ。上空からあの男へと、剣を放つしかない。
これは真の最終手段。天空から一直線に舞い降り、速度と力を乗せて敵を貫く。
どうせ連続攻撃を行ったところで、剣は受け止められるだけだろう。一撃で決めるしかない。
もうソロモンにはこの策しかなかった。人間を殺す為にはもうこの策しか残されていなかったのだ。
今のこの瞬間も血が流れ、多大な疲労が蓄積されていく。
時間が無い。これ以上背中から血を流し続ければ圭一の様になる。
深呼吸をし、空を眺めた。蒼星石が着ていたあの色を思い出す。
そうだ、自分は解り合えた盟友を殺した。小夜の為に殺したのだ。
蒼い蒼い空を見つめ、それを再確認したソロモンは小次郎を睨み付けた。
そう、彼を今ここで殺し――そして最後まで生き残るのだ。
『僕が蒼星石とレナさんを殺した事を無駄にしない為に、生き残ってみせる。
待っていてください、小夜。僕が必ずあなたを元の世界へと帰しますから。
そして全てが終わったら……また向こうで会いましょう、蒼星石…………』
ソロモンは空に紅い帯を作りながら、急降下した。
狙うは佐々木小次郎。あの強過ぎた剣豪、唯一人の首だ。
「小夜の為に……佐々木小次郎ッ! あなたを殺すッッ!!」
◆
気付けば、近くにはもう邪魔をする者はいなかった。
天空には背から羽を生やし、右腕の刃を持つ騎士。
地上にはそれを打ち落とさんと構える私という侍のみ。
次元は子供を背負いながらゆっくりとこの場から離れ、見物人と化している。
いや、だがこれで良い。少なくともこれで邪魔者のいない死合いが出来るのだから。
先程水を差したあの子供に対して少しばかり殺意が沸いたが、もうどうでもいい。
死合いが出来る。遂にソロモンと決着をつける事が出来るのだ。特別に許してやろう。
ところでソロモンよ、その「サヤ」というのはそなたの恋人か何かか?
もしそうであるなら……その女は外も内もとても美しいのであろうな。
否、そのサヤがもしも恋人でなく家族だったとしても、私のその推測は変わらないであろう。
私には解るのだ。そなたのその想いを私は剣で受け止めたからこそ理解したのだ。
右腕の刃、背の白き羽、背と片腕を切られて尚立ち上がるその力。
その全てがそなたの言うサヤの為の力なのだろう。
そこまでそなたを燃え上がらせる女がいたとは。
私も是非一度、出会ってみたかったものだ。
天高く飛び、一直線に光のように舞い降りる。
これがそなたの「愛の力」というものか。素晴らしい。
ではその愛の力を、私は真正面から受け止めてやろう。
最早小細工は無用。そなたが私を穿つなら、ただそれを受け止めるまで!
全身全霊の”秘剣・燕返し”……そなたに放つぞ!
ソロモン・ゴールドスミスッッ!!
◆
闘いは一瞬で幕を閉じた。
天空から降る一陣の刃が、目を見張るスピードで小次郎に襲い掛る。
地上では竜殺しを構えた小次郎が、それを待ち構えていた。
ソロモンは勢いをそのままに、小次郎に刃を放った。
小次郎は”秘剣・燕返し”を全身全霊で放った。
そしてソロモンの刃は、小次郎の左腕の肘から先を吹き飛ばし、そのまま右手をも切り裂いた。
そして小次郎の放った三種の刃は同時にソロモンへと襲い掛かり、腕と脚、更には体さえも切り裂いた。
差は単純な力と技量のみ。
侍の磨き上げられた剣技が、空をも制した騎士を大地へと墜としたのだ。
ソロモン・ゴールドスミスは天を仰ぐように倒れ、血の海を作り出している。
佐々木小次郎は吹き飛んだ左腕に目もくれず、騎士のその姿を見つめていた。
死合いが、終焉を迎えた。
◆
激しいぶつかり合い。それが終わり、静けさを迎える。
次元はしばらく時間を置き、やっと両者の闘いが終わった事を実感した。
未だに意識が戻らない圭一を背負い、再びあの決闘の場へと次元は戻っていく。
脇腹が痛いし小次郎が自分を襲う可能性もある。だがそれでも自分は行かなければならなかった。
為すべき事を、為す為だ。
「おお、そなたか……終わったぞ。全く、久々に熱くなってしまった」
「そうかい……左腕、吹っ飛んだんだな」
「ああ。すぐにそなたと闘いたかったが仕方が無い……後だ」
「そうかい、そりゃ助かった……」
到着するなり嬉しそうな小次郎の報告を聞く羽目になってしまった。
まあ突然襲われなかっただけマシか。しっかし嬉しそうだなこいつ。
仕方が無いので適当に相槌を打ちながら、圭一を地面に横たえた。
流石に小次郎もこんな相手を狙うとは考えにくい。まあ大丈夫だろう。
そしてそのままソロモンの倒れている方向へと視線を向けた。
血の海の真ん中で仰向けに寝転がっている。
羽も消え、右腕も刃の形ではない人のそれに戻っていた。
そして、偶然にもそのソロモンの倒れている場所はあの因縁の場所だった。
彼が蒼星石とレナを刃で刺し殺した場所。ソロモンはその場所で倒れていたのだ。
近くにはレナの死体がある。更には砕けた蒼星石の体も散らばっている。
自身が殺した相手と共に倒れるとは、皮肉な話だ。
「そういや小次郎……お前、得物は?」
「ああ、あの黒い剣か。ソロモンの刃を秘剣で受け止めるには無理があったのだろう……折れたぞ」
「あれが……? 馬鹿なこと言うなよ、あんな物は相当無茶しねぇと折れないだろうが」
「だから私がその無茶をしたのだ。信じ難いなら見るが良い……あそこにある」
小次郎が指差した先で、刃の中腹から先を無くした大剣が大地で寝そべっていた。
近くには刃のその先が横たわっており、どちらも小次郎からは少し離れた場所に位置していた。
弾き飛ばされた挙句に圧し折れたとは。あの遠目で見た最後の一撃が激しかった事が良くわかる。
「さて……死合いも出来て満足だ。あの男は好きにしろ」
「……そうか、じゃあ好きにさせて貰おうか」
意外にも突然有難い許しが出たので好意に甘える事にする。
足取りこそ少し頼りないが、すぐに次元はソロモンの元へと向かった。
為すべき事――ソロモンとの対話と、場合によっては自分で止めを刺す――を為す為だ。
◆
俺は、何をしていたんだろう。
そうだ……確かソロモンさんに大鉈を振るって、次元さんに護られた。
けれど俺は背中を斬られちまって、それからどうしたんだっけ……。
あ、そっか。俺は……気絶してたのか。
駄目だな、俺。殆ど自滅だ。
次元さんも護ってくれたのに……ごめん。
血をだらだら流しながら激しく動けばそりゃ気絶する。
それに背中からも血が止まらない。俺も終わったな。
レナ……仇、討てなかったよ。
ソロモンさんを倒す事が出来なかった。ギガゾンビにももう……会えないな。
会って一発殴りたかったよ。ソロモンさんやレナを狂わせやがった罰だ、ってな。
でもごめん、レナ。もう俺無理だ。そっちに行くよ……向こうで会えると良いな。
帰りたかったなぁ……雛見沢に……帰りたかったなァ……。
レナと一緒に……皆と一緒に……だって、あそこにいれば幸せだったもんな。
また部活で勝負したかったな……悔しい、悔しいよ俺。
『圭一君』
……え?
『圭一君、レナは大丈夫だから』
突然、目の前にレナが現れた。心なしか半透明だ。
されは幻か? それとも幽霊……いや、もうそんな事はどうでもいい。
レナがいる……レナが会いに来てくれた。こんな俺なんかに……レナが。
『だから圭一君……自分を責めないで』
心地よいレナの声を聞いている内に、力が抜けていく。
拙い、最期にレナに言わなきゃいけない言葉があるってのに。
ありがとう、レナ。俺なんかと一緒にいてくれて……ありがとう!
ありがとう、ありがとう、ありがとう! ありがとう!!
「ありが、とう……レナ」
力を振り絞って声に出す。レナは聞いてくれただろうか。
だがそれを確かめる事も出来ず、俺は瞼を静かに閉じた。
◆
俺はソロモンの顔を覗き込む。
するとこいつが自嘲するような笑みを浮かべている事に気付いた。
よう、ソロモン。そんな表情してるんじゃねぇよ。
「次、元……笑いにでも……来たんですか……」
おいおい、そんなわけあるか。俺はお前と真剣に話しに来ただけだよ。
話しかけた途端に憎まれ口かこの野郎。畜生、そんな笑みを浮かべるなよ。畜生。
なぁ、ソロモン。俺はお前を許さねぇからな。
俺はお前のした事を許さねぇし、忘れねぇ。絶対だからな。
今から謝っても遅いぞ、本気だ。
「……そう、ですか……いいですよ……」
――そう、俺は絶対に許しはしない。仲間を裏切った挙句に殺した事を許しはしない。
だがお前の事はもう憎まない。憎むのはお前を追い詰めたギガゾンビのクソ野郎だ。
だから、俺はお前を嫌いにはならないし、お前の分まで生き残る事にする。
そしてあのギガゾンビとかいう馬鹿を撃ち殺してやる……だから、心配すんな。
俺のこの言葉を静かに聞いているソロモンの顔は、圭一以上に蒼白だった。
まだ立ち上がってどうにかする様なら俺が止めを刺す事も考えてたが、その必要も無いみたいだ。
小次郎の妙な構えから打ち出された妙な技が、ソロモンをしっかりと捉えている。完璧に致命傷だ。
「……ありがとう、ございます」
笑みを浮かべ、ソロモンが礼を言った。
畜生、こいつのこんな弱弱しい「ありがとうございます」なんて聞きたくなかったよ。
いけ好かない気障な奴だったが、一緒にこのゲームをぶち壊してやりたかったぜ。
それなのにお互いになんてザマだ。全く、本当にこのゲームはふざけてるぜ。畜生。
まあいい、まあいいや。もうお前とはお別れだ。
大丈夫、約束通り俺はお前の分まで生き残ってやる。
俺がジイさんになってそっちに逝ったら酌でもしてくれ。
……じゃあな。
回れ右。俺は圭一と小次郎の元へと向かう。
もう俺がソロモンに対してやれる事は全部やりきった。
これから、どうするかな。
◆
『もう、全てを失ってしまった……馬鹿ですね、僕も』
愛する者も、共に歩んだ友も、自分の命すらも失う。
ソロモンはそんな無様な自分を、ただ責め続けていた。
小夜と会う資格を失い、蒼星石やレナの分まで生きる事が出来なかった。
もう自分の周りには何も無い。本当に自分は馬鹿で不器用だった。
『蒼星石、僕は解っています。小夜が喜ぶはずがないとは解っています。
元々愛を拒まれていた身ですし、今更何かをしたところで無意味でしょう。
僕は解っていた……そんな事は最初から解っていた筈だったんですよ』
言い訳は簡単に思い浮かぶが、それは最早無意味。
自分はもう終わりだ。死に誘われるだけ、それだけなのだ。
それが酷く悲しい。覚悟を決めた時に棄てた悔いにも似た感情が押し寄せる。
「小夜……蒼星石……」
呟いても、戻ってくる筈が無い。二人はもうとっくに死んでしまったのだ。
小夜は知らない場所で死んだ。蒼星石に至っては自分自身が殺した。
なんて哀しい話なのだろうか。なんと報われぬ、寂しい話なのだろうか。
――そんな事を考えていると、不意に赤い光が目に入った。
首を傾けてその光に視線を移すと、目と鼻の先で宝石が光っている。
この宝石はそうだ、間違いない。あの”ローザミスティカ”だ。
そう、それは蒼星石から話だけは聞いていた。
紅く光り輝き、彼女達の核となっている宝石。それがこのローザミスティカ。
つまり、蒼星石の命の塊だ。殺してしまった盟友である彼女の命なのだ。
だが、蒼星石のローザミスティカは未だ輝いていた。生きているかの様に、淡い光を放っている。
近くで見るそれはとても綺麗で、とても温かい。まるで優しく語りかけてくれている様だ。
ソロモンはその光に彼女の姿を重ねた。
姉を想い、護りたいと言い、意気投合してくれた少女。
大袈裟な演技に堅くなってしまったり、ばれた瞬間必死に弁明してくれた彼女。
ほんの少しの間だったが、美しい思い出は尽きず浮かんでくる。
『蒼星石……僕は、あなたと解り合えて嬉しかったですよ』
笑みを浮かべ、心中で彼女にそっと思いを伝えた。
紛れも無い本心。一点の穢れも無い感情だ。
出来るなら、小夜と共に在り続けたかった
蒼星石の大切な姉を捜してあげたかった。
盟友と共に騎士となって護るべきものを護りたかった。
そして自分は小夜と蒼星石を護る、強き存在でありたかった。
「最期まで……騎士で、いたかった…………」
最期の呟きは、もう叶う事は無い儚い夢。
その呟きはとても小さく、誰の耳に届く事も無かった。
【B-4・路上/一日目/日中】
【次元大介@ルパン三世】
[状態]:疲労大、深いショック、わき腹にケガ(激しく動くと大出血の恐れあり)
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:6/7)@ヘルシング ズボンとシャツの間に挟んであります
[道具]:支給品一式(水食料一食分消費)、13mm爆裂鉄鋼弾(35発)
[思考・状況]
1:「これからどうすっかなぁ?」
2:『圭一……ソロモン……』
3:殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す
4:ギガゾンビを殺し、ゲームから脱出する
基本:こちらから戦闘する気はないが、向かってくる相手には容赦しない
【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:右臀部に刺し傷(手当て済み)、左腕喪失(肘から先)、右腕に怪我、満足気
[装備]:無し
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:次元と闘いたいが、それは今はお預け。
2:セイバーが治癒し終わるのを待ち、再戦。それまで違う者を相手にして暇を潰す。
3:竜殺しの所持者を見つけ、戦う(?)。
4:物干し竿を見つける。
基本:兵(つわもの)と死合たい。基本的には小者は無視。
※ソロモン、圭一のディパックと装備は死体付近に放置。
※ソロモンの体は人間の形態であり、羽は消えて刃は普通の手へと戻っています。
※蒼星石のローザミスティカは尚も光り輝いています。しかし誰かの元へは向かいません。
※竜殺し@ベルセルクは折れました。エリア内に放置されています。
※佐々木小次郎の左腕(肘から先)もエリア内に放置されています。
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に 死亡】
【ソロモン・ゴールドスミス@BLOOD+ 死亡】
[残り45人]
禁止エリアは13時よりB-1、15時よりE-4、17時よりF-8。
セイバーは真剣に放送内容を聞き、頭に入れる。
ギガゾンビの『殺戮に興奮……』のくだりを聞き、セイバーの眉がわずかに動いた。
セイバーは本当にそうならないように気をつけましょうと、自分に言い聞かせる。
主催者への怒りも、自嘲も自身を動かすほど強くはなかった。
だが次の言葉はセイバーには予想できないものだった。
『身動きが取れないバカ……』
何故、そんなことを話すのだろうか?
セイバーは疑問に思った。
『そして死亡者……』
彼女は次に、先ほど自らが殺めた君島と自分に深手を負わせたヘンゼルの名を聞いた。
思ったより感慨は沸かなかった。
『意外な結末……』
私が残る以外の結末はあってはならないと、彼女は心の中で断じようとする。
男の哄笑が響き渡り、放送は終わった。
「……………………」
断じる事はできなかった。見上げればいつのまにか空は曇っていた。
撃たれた右腕がじくじくと痛んだ。
★★★
いくつもの修羅場を潜り抜けた彼女でも、痛みで顔をしかめざるを得なかった。
鉄線が肉を穿り、銃弾を摘出しようとする。
それほど空気が綺麗ではないが、スタート地点に近いこの場所をセイバーはなんとなく気に入っていた。
ここは映画館。
「ぐッ……!」
血が飛び散り、銃弾が傷跡から手首に落ち、地面に落ちてタタ……と床を鳴らした。
魔力を循環させ、傷口を塞ごうとするが瞬時に治る気配はなく、仕方無しにカーテンの切れ端を腕に巻いた。
今後の戦略は後だ……。
セイバーは汗を拭いながら、初めて参加者名簿を見た。
さっきの死亡者発表で、襲撃した2人の名前の他にアーチャーの名があった。
あの金色の王と同一だったのだろうか?
自分とアサシンを入れれば三人の英霊がいたこととなる。
聖杯戦争とはまったく関係ないと思っていたのに。他にも英霊がいるのだろうか?
自分とアーチャーとの間にある遠坂凛も聖杯戦争と関係のある者なのだろうか?
セイバーの疑問と焦燥は膨れ上がっていく。
見せしめに殺された2人と『身動きの取れない参加者』の放送内容が頭に浮かんできたからだ。
もしこの殺し合いの生き残りも主催者の都合で決められたのなら、自分がどうあがいても望みを
成就させることができないのではないかと。
「……」
セイバーに主催者を倒したい気持ちはない。
君島邦彦を殺める前から……
多分、金髪の少年と一緒にいた男の子を攻撃する前からそうだったに違いない。
失われたカリバーンを手にした時から。
だからこそ彼女の不安は募った。
ここにおいて自分は無敵ではない。ただ力のみで戦えば他の参加者に殺されるに決まっている。
最悪は己が退場することだと思っていた。
それは違った。最悪は誰の願いも叶えられないことだ。
もし主催者を倒せる可能性があれば、その可能性の持ち主はセイバーの障害となる。
優勝による願いが無ければ、最悪を回避するには主催者を倒すほかない。
自分を倒した相手が出たとしよう。
その勝利者が戦闘での消耗が原因で可能性が潰されれば元も子もない。
それ以前に主催者の気まぐれが原因で命を落しても同様だが。
真相はセイバーには確かめようがない。
ないが、このままでは存分に戦うことができない。
勝利者には希望がなければならない。
俯きながらセイバーはあの男の名を呟いた。
「君島邦彦」
彼の目的は主催者打倒だったのだろうか?
自分には活かす事はできないが、彼と同じ志を持つ者同士なら。
「気は進みませんが……」
セイバーは大きく息を吐き、映画館を足早に出た。
★★★
彼の遺体はそのままだった。
彼の遺品も風に吹かれてたが、まだ回収は可能だった。
目を背けたくなったが、あえて視界にいれセイバーは君島の道具の回収を始めた。
逃げたあの2人には殺す時以外では会わない方が良い。
ならばトウカと彼女と一緒にいた男が適任か?
セイバーはそう結論付け道具をデイパックに詰め、この場を後にしようとする。
「…………」
周囲に人がいないのを確認するや、セイバーはスコップを取り出し穴を掘り始めた。
【C-4 森 初日 昼(放送直前)】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:腹三分、全身に裂傷とやけど(動きに問題ない程度まで治癒)、両肩を負傷(全力で動かせば激痛)、右腕に銃創
[装備]:カリバーン、スコップ
[道具]:支給品一式(食糧1/3消費)、
支給品一式×1、コルトM1917(残り3発)、E-6駅・F-1駅の電話番号のメモ、コルトM1917の弾丸(残り6発)、なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん
[思考・状況]
1:君島の支給品+なぐられうさぎと自分の得た情報を、キョン、トウカ(もしくは関係者)に
届けるために病院に行って探す。
戦闘を挑まれなければ、一回だけ戦闘を回避する。
ただし、ロック&しんのすけを除く他の参加者は可能であれば殺す。
2:優勝し、王の選定をやり直させてもらう。1.の後は誰であろうが標的。
3:1.の後、エヴェンクルガのトウカに預けた勝負を果たす。
4:他にサーヴァントがいないかどうか確かめる。
※うさぎは黒焦げで、かつ眉間を割られています。
※君島の遺体は埋葬されました。
訂正です
その勝利者が戦闘での消耗が原因で可能性が潰されれば元も子もない。
↓
その勝利者が戦闘での消耗が原因で、可能性を潰されてしまっては元も子も
ないではないか。
【C-4 森 初日 昼(放送直前)】→【C-4 森 初日 午後】
廃虚と化した街。
年少組がたどり着いた時、E-4の市街地はそれ以外には言い表せないほどに荒れ果てていた。
「…何があったの?」
「でっかい爆発でもあったですか?」
「みい、怖いのですよ、怖いのですよ」
「なんで…こんな」
四者四様の反応。
ただ驚きだけは、共通している。
「爆弾でも使ったのかな」
魅音は呟く。
この荒れ具合、普通に暴れただけで起こるわけない。
巨大な爆弾で吹き飛ばした以外には…
「怖いですよ魅音、ここは逃げるのが一番です」
(爆弾魔なんて、冗談じゃないわ。そんな奴相手にするつもりなんて無い。私は生き残るんだから)
梨花はここを早く離脱したかった。
これだけの爆発を起こす人間が近くにいたら、かなり危険と思ったからだ。
「待てよ。誰か怪我人がいるかもしれないだろ。少しだけ探そうぜ」
武が引き止める。
もし、爆発に巻き込まれて身動きが出来ない状況なら。
そして、それがもし、のび太やドラえもんなら。
特にのび太は要領が悪い。瓦礫に足が挟まって動けない…そんなことは容易に想像できた。
武はそう考えると、怖いから逃げるなんて選択肢は、最初から思いもしなかった。
「デブ人間…しょうがねーやつです。少しだけ探してやりますか」
「みぃは嫌なのです。ガクガクぶるぶるなのですよ。早く逃げた方がいいのですよ」
「梨花…」
怖がる梨花の気持ちは分かる。
でも魅音も武と翠星石の意見に、同調したかった。
圭一やレナや沙都子がもしこの中に、その可能性がある以上ここを無視は出来ない。
魅音は決断する。
「分かった。じゃあ…二十分だけ探して、それからすぐにF-8へ向かおう。梨花も二十分だけだから我慢して」
「…分かったですよ。じゃあ時間が経てばすぐに行くのですよ」
「うん。約束する」
そして、わずか二十分の捜索活動が始まった。
瓦礫の中を全員で探し回る。
視認出来る範囲で散らばっての捜索。
「みい、何も無いですよ」
「こっちも無い。やっぱり外れだったかな」
「本当に何も無いです、デブ人間、そっちはどうですか?」
三人の女子は同じ回答。
時間も捜索開始から十五分を経過し、少し早いが切り上げてF-8に向かおうというところだった。
「こっちも…えっ!?」
武の声が凍りつく。
今までに無い、引きつった声が聞こえた。
この声が、流れを変えた。
「何ですか?潰れた蛙のような声を出しやがって。もしかして…」
軽い口調で翠星石が武の元へ向かう。
そして、武の目線の先へ自分も眼を向ける。
そこには…
腹部に穴を開けた少年、血溜まりの中に横たわる少年、翠星石のマスター、桜田ジュン、その成れの果てがあった。
………
……………
…………………
「えっ!?…なんですか?チビ人間、さっき放送で名前無かったですよね?どうしてです?」
ふらふらとした足取りで翠星石は、ジュンの元へ歩く。
梨花と魅音も慌てて武のほうへ向かい、惨状を見つめる。
「っ!」
「…みぃ」
魅音は声が出なかった。
ここに来て、始めてみる遺体。
殺し合いをしているという実感を改めて、思い知らされた。
梨花は驚いた振りをする。
ここで冷静すぎるのは、かえって後々警戒心をもたれてしまう。
涙声を搾り出す演技をしつつ、無力な小学生を演じ続ける。
「…チビ人間……バカですか…どうして寝てるのです?さあ、立つのですよ…チビ苺でも、こんな時間には寝ないですのに」
「聞いてるですか?翠星石が起こしてやってるですのに…寝てるなんてふてい野郎です」
「そんなだからいつまでも、ちびちびバカにされるのです。翠星石を見習ってシャキッっとしやがれです」
「本当に、引きこもりの駄目人間ですよ、全く…翠星石がいないと、チビ人間は何も出来ないのですから」
「だから…ジュンっ!早くっ! 早く起きるですっ……うっうぅぅ」
物言わぬマスター、桜田ジュンの亡骸に何度も話し続けるが、当然返事は無い。
無情な現実にショックを受け、亡骸にすがり、泣き続ける。
お父様から貰った大事な服が、血で汚れるのも構わずに。
魅音も武も、それを止めることは出来なかった。
だが一人…
(ちっ、禁止エリアまで残り四十分を切ったじゃない。ここからだと、もうそろそろ出ないと危険なのに…)
時間を見ながら、考える。
こんなところで全員揃って死ぬ気など、全く無い。
梨花は考える。
(さっさと諦めさせないと…でも待ちなさい。銃を奪って三人とも殺せば…そうね、あんな精神が不安定な人形なんて、この先邪魔なだけ、
切る時に切るべきだわ。ズルズルと仲間ごっこなんて冗談じゃない、この三枚のカードは用済みだから切り時ね。それにどうやら周りには、
幸いにも私たち以外誰もいないみたいだし、爆弾犯も冷静に考えたら、爆破の際に遠ざかったはず。大体廃墟に何人も来るわけ無い。
しかもここはもうすぐ禁止エリア。私が殺しても、痕跡は残らない。…問題は無い、今こそまさに最高の好機…)
「梨花が行くです、慰めてあげるです」
あくまでも、無邪気な、それでいて芯のある声で申し出る。
「えっ、それなら俺が」
「私だって」
梨花の申し出に、自分も、と二人は名乗り出る。
年上のプライドもあり、黙ってやらせるわけにはいかない。
「武、こういうのは女同士の方が良いのです、それに魅音、ここはみぃに任せてほしいです。お願いですよ」
(邪魔しないで、どうせ殺すんだから)
だが、梨花は冷静に対処する。
説得力を増すように、少しだけ抑えた声で、でも明るさも忘れずに二人の申し出を断る。
この機を逃すつもりは全く無かった。
「…分かったわ。お願いね」
魅音は少し迷ったが、自身ありげな梨花に任せることにする。
それに口下手な自分よりは、上手に説得してくれるだろうという期待もあった。
「任せてなのです…にぱー」
(上手くいったわ。安心して、二人とも頭を撃って苦しめずに殺してあげるから)
梨花は歩き出す。翠星石の元へゆっくりと歩を進める。
――どうして、死んだのです。さっきの放送では名前呼ばれなかったのに――
――そうです。だから、死んだのは最近です。どうして間に合わなかったのですか――
――そういえば…確か、あのチビの女がダダをこねて――
――そして、もう一人の新入りの女も、翠星石に対して銃をほしいとか――
――二人が邪魔しなければ、もっと早くここに来て、翠星石は助けられたです。ジュンを――
――殺すです。人間なんて…人間なんて――
翠星石の中で、何かが吹っ切れた。
(あと少しだわ、まずはスタンガンを当てて、銃を奪って、すぐに射殺、その後後ろの二人も一気に)
馬鹿でかい銃なら無理だったが、小型の銃なら仕留める自身がある。
梨花は成功を確信し、自信を持って歩みを進める。
――誰です、近づいてきたのは?――
翠星石はさりげなく後ろを目配せする、古手梨花だ。
――ちょうどいいです、もう少し近づいたら殺してやるです――
翠星石は銃を強く握りなおす。
後ろの二人には飛び道具は無い、もし反撃があっても銃の方が早い。
絶対に成功する。
梨花は一歩ずつ間合いを詰める。
左手でスタンガンを隠すように構えている。
後ろを向いたままの翠星石が自分の手に届くまで、あと五歩。
梨花は自分の殺意には気付いていない。
きっと成功する。
翠星石は耳を澄ませ、一歩一歩近づいてくるのを感じ取る。
右手は梨花の死角になる位置に置き、そっと銃を構える。
ゆっくりと近づいてくる梨花に、確実に銃弾を当てれる距離まで、あと四歩。
一歩。
二歩。
三歩。
四歩。
――いっ…今です――
翠星石は、一瞬躊躇をする。
だけど落ち着いて、ゆっくりと振り返る。
五歩。
(今ね)
梨花は左手に隠し持ったスタンガンを取り出す。
あとは、予定を実行に移すのみ。
まさにそのとき。
翠星石が振り向いた、銃を構えて。
それは完全なイレギュラー。
梨花は急いで翠星石の右手にスタンガンを伸ばす。
そこから先は、あっという間だった。
『それ』は本当に刹那の出来事。
次の瞬間…
廃墟の街に銃声が響いた。
一発の銃声の後に待つのは完全な無音の世界。
静寂が空間を支配する。
一瞬の静寂が、三人には永遠のように感じられた。
それを打ち消すのは、一人の少女が倒れる音。
「がっ…なん…」
(うそっ…振り向きざまに撃つなんて…不用意に近づきすぎた? でもどうして)
明暗を分けたのは本当に一瞬の差。
背中から、正面の右手へ狙いを変える必要に迫られた梨花と、最初から振り向きざまに引き金を引くだけの翠星石。
その差が二人の生死を左右した。
梨花の腹部は赤く滲んでいる。
燃えるように腹部が熱い。
そしてそこからは絶え間なく、生きている証が流れ続ける。
不意打ちに使うはずのスタンガンは地面に落としてしまう。
自らが使うことはもう無いということが自覚出来た。
「…まさか…こんな形で…繰り…返し…のさんげ…きは…と……め…ら……れ………な……………」
徐々に視界が暗くなっていく。
意識がゆっくり遠ざかるのを感じて、少女はゆっくりと眠りについた。
最期の言葉は、彼女の悲痛な叫びだったのかもしれない。
――…やったです、本当にやったです、ククッ…いい気味です。翠星石はジュンの仇を取ったです――
翠星石は、死に行く少女をただ、見下ろしていた。
魔女のような目で、憎しみを込めて。
「なっ…あんた何をっ!?」
「…翠星石…どうして?」
二人はわけが分からない。
梨花が翠星石の肩を叩くというタイミングで、いきなり振り向きそのまま発砲。
しかも、その梨花もいきなりスタンガンを取り出して攻撃をしようとしていた。
ちょうどカウンターのような形で、梨花が銃弾を浴びて倒れた。
二人の間に何があったというのか。
「許さないです。全部っ、ぜんぶおまえらが悪いです!」
翠星石の眼は、悲しみと怒りが支配していた。
全てを憎む、全てを傷つける。
ただ本能のままに、銃口を向けた。
銃口を向けられ、魅音は事態を正確に認識した。
あの人形が、部活の仲間を殺したことを。
怒りが全身を震わせていた。
「あんた仲間を!殺してやる!!」
魅音はピッケルを振り上げる。
仲間の仇を取る為に。
眼は鬼の形相をしていた。
「殺すのはこっちです、デカ人間!」
だが翠星石は魅音に向け、素早く引き金を引いた。
それは、魅音の肩を射抜く。
「あっ…がっ、うっうううあっ、く」
焼かれているような感覚。
物凄い激痛が魅音の肩に駆け巡る。
あまりの痛みに言葉にならないような声をあげ、肩を押さえうずくまる。
ピッケルは衝撃で落としてしまう。
だが、拾う余裕など無かった。
「く…そぉ」
「ちくしょうです。頭狙ったですのに…銃の扱いは難しいです」
脂汗を浮かべる魅音を、悪魔のような目で、翠星石は見つめていた。
淡々と残酷なことをしゃべり続ける翠星石。
肩から大量の血を流しながら、苦悶の表情を浮かべる魅音。
武はそれを見て、何かせずにはいられなかった。
「くっ、くそおおおおぉおおぉおお!!!!!!」
武は必死でうちわ、風神で翠星石を扇ぐ。
とにかく、ここは一時遠ざける以外に方法はなかった。
力いっぱい、全力で風神を翠星石に向けて煽った。
「…えっ!?…きゃああぁぁあ」
風は強すぎた。
風神が起こした暴風は、翠星石の軽い体を遥か遠くまで吹き飛ばしてしまう。
近くにあった、ジュンと梨花の遺体ごと、遥か彼方へ。
魅音は全てを見た。
撃たれた梨花、銃口を向ける人形の翠星石、撃たれた自分、そして暴風を起こした少年の武。
暴風を起こした?しかも普通のうちわで。
魅音は今までのことを思い返した。
そういえば、翠星石と武は何となく、仲が良い感じがした。
まるで、梨花と自分のように。
激痛に苦しみながらも、必死に頭を回転させた。
そして一つの結論を出した。
…二人はグルであると。
「いやああぁぁあああぁあ」
魅音は全力で逃げ出した。
とてもじゃないが、今の自分では殺される。
だからそうならないように逃げないと駄目だ。
痛む肩に鞭を打ちながら、全力で走り続けた。
武から遠ざかるために。
「魅音姉ちゃん待って!これはっ…違うんだ!」
武は逃げる魅音を追いかけようとするが、出遅れてしまい、諦めた。
仮に今追いついても、多分説得は無理だ。
それに武は、自らが吹き飛ばした翠星石のことも気がかりだった。
ここに来て始めて出会った仲間。
人を殺すような奴じゃない。
武はそう思えてならなかった。
「…くそっ、翠星石。俺が助けてやらないと」
武は走り出した。
翠星石を吹き飛ばした方へ。
漢の顔で、武は翠星石を助けることを誓った。
☆ ☆ ☆
「うっうう。デブ人間め…」
埃を払いながら、翠星石は立ち上がる。
吹き飛ばされてかなり遠くまで来てしまった。
だが、あれだけの衝撃を受けても致命的な傷は無い。
ジュンの遺体が翠星石のクッションとなっていたからだ。
「チビ人間…翠星石を守って…くれたのですか。ありがとうです」
翠星石はジュンに微笑みかけ、珍しく礼をする。
返事をしない相手に、今までに無い笑顔で。
そして、改めて辺りを見回してみると、電柱の影にデイバックを見つける。
翠星石は陰に隠れていた、梨花のバッグを拾い上げる。
「これはあのチビ女のバッグです…この銃…無いよりはマシですね」
「…チビ人間の仇は…ぜってぇ、ぜってぇにとってやるです!」
魔女の顔で、翠星石は復讐を誓った。
☆ ☆ ☆
「許さない、よくも梨花を」
二人の姿が見えない所まで来て、ようやく冷静さを取り戻した。
レジャー用の服を破り、報隊代わりに肩に巻いて一応の止血は済ませる。
だが、右肩は思うように動かない。
痛みも全然引いてくれない。かなりの深手だ。
けど魅音はくじけない。
「…今のままじゃ、仇は取れない。くそっ…とにかく仲間を集めないと」
魅音は考えた。
仲間がほしい。圭ちゃんやレナや沙都子と会いたい。
…でも、F-8に向かうのは難しい。
この傷で、森を長時間歩くのは避けたかった。
「とりあえず…遊園地で人探そう。休む場所あるかもしれないしね」
魅音は思考をめぐらせ、最寄の施設である遊園地を目指すことにした。
レナがお持ち帰りモードでのんきに遊園地で遊んでいることを、ほんの少しだけ期待して。
「梨花、仇はとってあげるから」
毅然とした顔で、魅音は友の仇を誓った。
【D-4・中部 住宅街/1日目 午後】
【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:全身に軽度の打ち身 服の一部がジュンの血で汚れている 強い怒りと悲しみ
[装備]:FNブローニングM1910(弾:5/6+1)@ルパン三世 、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ
[道具]:支給品一式四人分、オレンジジュース二缶 、ロベルタの傘@BLACK LAGOON 、
ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING 、 ビール二缶
[思考・状況]
1:魅音を殺してやるです。
2:チビ人間の仇をとってやるです。誰か分からないから、武器持ってる奴最優先です。
3:デブ人間は状況次第では、助けてやらないこともないです。
4:真紅や蒼星石と合流するです。
基本:蒼星石と共にあることができるよう動く
【D-4・南部 住宅街/1日目 午後】
【剛田武@ドラえもん】
[状態]:健康 仲間の分裂に強い後悔
[装備]:虎竹刀@Fate/ stay night、強力うちわ「風神」@ドラえもん、
[道具]:支給品一式、エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に、
ジャイアンシチュー(2リットルペットボトルに入れてます)@ドラえもん 、
シュールストレミング一缶、缶切り
[思考・状況]
1:急いで翠星石を見つけ、落ち着かせる。梨花の件についての理由も聞きたい。
2:手遅れになる前に、のび太とドラえもんを見つける。
3:逃げた魅音もなんとしても守る。
基本:誰も殺したくない
最終:ギガゾンビをギッタギタのメッタメタにしてやる
【F-4・北部 住宅街/1日目 午後】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(大) 梨花の死に精神的ショック、右肩に銃創(弾は貫通、応急処置済、動作に支障有り)
[装備]:エスクード(炎)@魔法騎士レイアース 、
[道具]:スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着(一部破れている)
[思考・状況]
1:とにかく、武から遠ざかる。(とりあえず、まっすぐ遊園地に向かう)
2:圭一、レナ、沙都子と合流。
3:何とかして、梨花の仇を取る。(剛田武と翠星石を殺す)
4:3に協力してくれる人がいたら仲間にする。
5:危険そうな人物からはすぐに逃げる。
基本:バトルロワイアルの打倒。
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に 死亡】
【年少組 崩壊】
備考:
古手梨花の遺体および、スタンガンがD-4のどこかに飛ばされています。
スタンガンは衝撃で壊れている可能性があります。
桜田ジュンの遺体は翠星石の傍にあります。
どう扱うかは不明です。
魅音の右肩の応急処置は一時的なものです。
激しく動かせば更に出血の可能性があります。
E-4の廃墟にピッケルが放置されています。
雲ひとつ無い青空に仮面の男の哄笑は溶けて消えた。
その足元、真上に昇った太陽に照らされている殺人遊戯の舞台に一人の男の姿があった。
「……ルパンが死んだ?」
空を見上げていた男はあっけにとられた表情で小さく呟いた。
その男は――銭形警部。すでに死んでいるはずの男である。
何故、彼がここにいるのか?
それは――
時間は少々遡る。正午の――二回目の放送が始まるおよそ十五分程前。
目の前を50メートルほど先行するドラえもん達を尾行していた峰不二子は、あるアイデアを閃いた。
予定通りなら、もうすぐ二回目の放送がある。そのことを考えていて閃いたのである。
デイバッグにしまわれたある"支給品"……、それは一回目の放送ですでに用を成さないものと
なったと峰不二子は思っていたが、改めて考えれば逆であった。
――"銭形警部変装セット"
銭形警部が死んだ。
だから、それを使って彼の振りをしても意味は無い。そう彼女は最初考えた。
しかし、閃きによってその考えは反転した。彼が死んでいるからこそこの変装セットは役に立つ。
峰不二子は前を行く一行を見やる。
最初は駅の方へと向かうかと思われたが、そうではなく直接橋を渡って中央側へと向かうようだ。
ならば少しは見失っても問題はない。途中で放送もあるだろうし、橋を渡り終わる前に追いつけるだろう。
今一度一向を確認すると、物陰に入って例の変装セットを取り出す。
おそらくはルパンが使っていたものと同じもの。完全に彼になりきることができる。
一通り変装を終えると、窓ガラスに写る自分の姿を見て彼女(彼?)は満足した。
間違いなく銭形警部に見えることもそうだが、重要なのは首の部分だ。
すっぽりと被ることで髪形もカバーできるマスク型の変装用表皮であったが、これの首にあたる
部分を首輪の上にあててその上からシャツの襟を被せてカモフラージュしている。
これなら、一見して首輪をはめていないように見えるだろう。
死んでいるはずの人間に出合ったら、どう反応するだろうか?
とはいえ、ここでの顔見知りは少ない。自分で死んだ銭形警部を名乗るだけでは意味をなさないだろう。
むしろ、死者の名を語るのは疑いを誘うだけだ。
だが、それが首輪をはめていない死者ならば?
そして――
「首輪を外す方法を見つけた。だからギガゾンビは自分を死んだと勘違いしている」
――こう語れば?
真偽は怪しいかもしれないが、無為に襲い掛かられたりはしないだろう。
必ずこちらの話に食いついてくるはずだ。どんな強者でもこの首輪を外すことはできないだろうから。
ならばそこからは交渉だ。そうなれば手八丁口八丁、こちらのペースである。
嘘の"首輪を外す方法"を餌にあれやこれやと要求すればいい。
そして切り札である嘘は、「自身の安全のために、脱出の算段が立つまでは秘密」とすればいい。
ククッっと窓ガラスに映った銭形警部が彼らしからぬ笑みを浮かべる。
もう一度襟を正すと、ドラえもん達一行を追うべく彼(彼女?)は通りに出た。
橋へと向かう通りを進みながら峰不二子は考える。
この自身に対するセーフティには重大な欠陥がある。
一つはルパンだ。彼は欺けない。最も出会えば即敵対ということはないだろうから説得すれば
よいだけなのだが、その時自身の周りにいる者に疑われるのはまずい。
そして、より気をつけなくてはいけないのが、"本物の銭形警部に出会っている者"である。
銭形警部との付き合いは長い。なので、ルパンや次元ら以外に変装や演技がばれる恐れはない。
だが、彼のここからに来ての動向は全く把握していない。もし、彼が誰かに出会っていた場合――
いや少なくとも殺した者とは出会っているはずだが――そういった相手に出会うのはマズイ。
最後の一つは、今後味方を見つけた後、彼らと銭形警部の死体を発見することだ。
その時点で即座に嘘がばれてしまう。
……考えれば、穴の多い作戦だ。
だが、うまくいけば非常に見返りのある作戦でもある。
リスクは一つの集団と長くいることで高まる。ならば、ある程度のところで見切りをつければよい。
まず一番に接触することになるだろうあの少年少女達。
疲弊しており足も遅い。一緒にいても重りにしかならないだろう。
一通り情報を――特にあの青いタヌキから得られれば殺してしまうのも悪くない。
そうやって人を見つけては、接触し、奪い、殺す。情報と武器を集め自身を守る術を増やす。
ようやく、このゲームに乗る方法が見つかった。
そして、それから間も無く橋もそろそろ見えてくる、そんな所で正午の放送が始まった。
そこで銭形警部に扮している峰不二子はルパンの死を知る。
「……ルパンが死んだ?」
正直、実感の沸かない言葉である。今までそれは何度も聞いたし、そして一度たりとて彼が
死んでいたということもなかった。それに、彼なら……彼になら本当に首輪を外して死んだ振りを
しているということも考えられるからだ。
いや、それともそう思いたいだけなのか?彼女の心中は複雑だった。
ルパンが死んだのか、その真偽はわからない。
そう結論付けると、彼女は止めていた足を動かし橋の方へと動き出した。
【F-2/橋の近く/1日目-日中】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:銭形警部に変装中/健康
[装備]:コルトSAA(装弾数:6発・予備弾12発)/銭形変装セット
[道具]:デイバック/支給品一式(パン×1、水1/10消費)/ダイヤの指輪/
[思考]:
1:ドラえもん達に接触。嘘の情報で彼らを釣って情報を聞き出す。
2:その後、利用価値が見出せなければ殺害するか離脱する。
3:適当な人間を見つけ嘘の情報で釣って利用する。
4:瓦礫に埋もれたデイバッグ(F-1)を後で回収。
5:ルパンが本当に死んでいるか確認したい。
6:ゲームからの脱出。
放送がギガゾンビの狂気染みた笑いとともに終わった時。
トラックを修理していたトグサは、その修理の手を止めて唖然としていた。
「そんな……そんなことが……」
自分はあの時、確かにバトーとセラスが死ぬ瞬間を見たはずだった。
だが、現実としてセラスの名前は呼ばれなかった。
……つまり、まだセラスは生きている。
彼女はそこまで強化された義体だというなのかどうかは分からなかったが、何にせよトグサはまた一つ判断ミスをしてしまったことを痛感した。
そして、更に彼を驚かせたのは――
「少佐……」
草薙素子――彼が少佐と呼ぶ九課のリーダー的存在である女性もまた死んだという事実。
全身を義体化し肉弾戦、頭脳戦の双方においては自分ではとてもかなわないほどの能力を誇る彼女ですら、このゲームにおいては敗者になりうるというようだ。
彼は、その死を悼むとともに、改めてこのバトルロワイアルの恐ろしさを実感した。
「クソッ、俺がこうしてもたついている間にも……!」
何一つ、打開策を講じれない自分に悪態をつきながらも、彼は今自分が出来ること――技術手袋によるトラック修理を再開した。
それが自分が今出来る唯一の事であったから。
「あ、あの……」
そして、そうこう修理していると、背後から声を掛けられた。
その声は、先ほど少女の埋葬に向かわせた少年、石田ヤマトのもの。
「……どうした、終わったのか?」
「は、はい。お墓も作ってきました」
「そうか……。なら、もう少し待っていてくれ。じきにタイヤが直るから、そうしたらハルヒって少女を病院に――」
「え? で、でも……」
何やらヤマト少年の声は、慌てているようなうろたえている様な調子だった。
トグサはその声を訝しげに思うと後ろを振り向く。
「どうした? 何か都合でも悪いのか?」
「いや、その……あのメイド服の女の子がいないんですけど……」
「何っ!?」
メイド服の少女――彼女には自分がハルヒを見ているように命じたはずだった。
だが、振り返ると確かにハルヒのそばには誰もいなかった………………。
◆
――アルルゥ。今名前を呼ばれた人はな、死んでしまったんだ。
父と慕う男の名前が呼ばれたとき、ルパンは確かにアルルゥにそう言った。
そして、今度の放送でその事を告げた男の名前が呼ばれたときも彼女はそれを覚えていた。
――勿論、大丈夫に決まってるわ! あいつはあたしがSOS団の団員にわざわざ任命してあげたのよ!
そう信じたかった。
しかし、その事を高らかに言い、彼の無事を確信していた少女も今は目を覚まさないままでいる。
だからこそ、アルルゥは事の真偽を確かめるべく、男が残ったあの橋へと走っていた。
……そして、彼女は橋に到着した時、放送の内容の真偽を目の当たりにすることになった。
「……ルパン?」
至る所でアスファルトが剥がれ、橋の高欄が削れている中、彼は高欄の傍で横たわる男の姿を発見した。
赤いジャケットを着たその男は、そのジャケットと同じ色の液体をその周囲に撒き散らし、目を瞑って動かないまま。
「ルパン……起きる。ハルヒおねーちゃんが倒れた。起きてルパンもハルヒおねーちゃん助ける」
横たわる彼の傍にしゃがみこみ、肩を何度も揺さぶる。
……だが、彼は一向に目を覚まさない。
その理由は、腹部に横一線に走る深い切れ込みを見れば一目瞭然だ。
だが、それでも彼女は男を起こそうとする。
「起きるー! ルパン起きなきゃ嫌ぁー! 起きて、起きてルパンー!!」
彼女の脳裏には浮かぶのは自分を庇って凶刃に倒れた祖母トゥスクル。
そして重傷を負いながらもヤマユラから皇城まで敵國の襲撃を伝え、それから間もなく倒れた頼れるオヤジのテオロ。
二人とも目を瞑ってからは、何度揺さぶっても、何度声を掛けても起きることはなかった。
……彼女には、それが死だということは分かっていた。
だが、理解したくなかったのだ。
それは、この目の前にいる男に対してもそうで……
「ルパン……起きなきゃダメ! ハルヒが怒る! アルルゥも怒る!」
それでも彼は目を覚まさない。
「嫌だ…………ルパン死んじゃ………………イヤ」
戦多き世界から呼び出されたとはいえ、彼女はまだ子供。
子供が見るには、その死は余りにも多すぎ、そして衝撃的すぎた。
「イヤ……ダメ死んじゃ…………ダ……メ……」
彼女は、出るだけ涙を流し尽くすと、糸が切れたようにその場に倒れこんでしまった。
◆
「クソッ! 俺は何をやってたんだ!!」
トグサは修理していたトラックのフレームを叩いた。
放送でセラスが生きていたことや少佐が死んだことを告げられ衝撃を受けていた事。
技術手袋での修理に神経を集中させていた事。
修理の際に出る音により足音が聞こえなかった事。
アルルゥがいなくなったことに気付かなかった理由を挙げろといわれれば、これらが挙げられる。
だが、それらはすべて自分の不注意という過ちの結果という理由に収束される。
トグサは、そんな進歩しない自分に嫌気が差していた。
セラスをほっぽりだし、バトーと少佐の死を防げず、あまつさえ傍にいた少女でさえも見失う――これだけの失態、公安九課ではありえない。
「あ、あの……俺、探してきます」
「いや、ダメだ。君までを見失うわけにはいかない」
「だ、だけど今ならまだそうと遠くには……!」
「ここにはどんな殺人鬼がいるか分からないんだ! 装備もなしに単独行動は危険だ!」
先ほど、一人で少年に離れた場所まで人を埋葬させに行かせた男の言う台詞とは思えない、トグサ自身でもそう思う。
だが、アルルゥを見失ってしまった今、不用意に子供を動かすわけにはいかない。
……しかし、だからといって自身が少年と重傷者を放り出して探しに行くわけにもいかない。
「……おい、私を今カウントしていなかっただろう……」
どうする……どうすればいい。
せめてあと一人、頼れる仲間がいれば、任せられるのだろうが……。
「何か問題が発生したの?」
トグサが悩んでいると不意に、声を掛けられた。
その声は、トラックに追いついた当初自分を威嚇したあの少女のもので……。
「あんた……! 今までどこ行ってたんだ? それにその体……」
ヤマトは久方ぶりに再開した同乗者のボロボロな姿に驚きを隠せないでいた。
だが、長門のほうはというとさも平然を装う。
「少し用があって席をはずしていた。私の体は問題ない。……そちらで何か問題……例えば涼宮ハルヒの容態に何か異変が?」
トグサはヤマト同様に長門の姿に驚きつつ、答える。
「いや、今のところ彼女の方は安定している。依然予断を許さない状態だがな」
「……そう」
「しかし……それよりも本当に大丈夫なのか? 特にその腕……」
傍目にも、その動かされていない長門の左腕には何らかの異変があったことは確かだった。
……だが、それでも長門は顔色一つ変えない。
「問題ないと言っている。大丈b――」
その足元から崩れる瞬間まで、彼女は表情を変えることないままだった。
「お、おいっ! 大丈夫か!?」
倒れた長門にヤマトとトグサが駆け寄る。
「な、何で急に倒れたんだ、こいつ……」
「少し熱がある。……恐らくはさっきの戦闘で無理して動いて疲労したツケがここで来たんだろうな」
「戦闘? ……どういうことですか、トグサさん」
襲撃者、そしてそれを迎撃した長門の話を伏せられていたヤマトが不思議そうな顔をする。
一方、その話をあえて伏せていたトグサはというと、もう隠す必要もないと思ったのか、長門の怪我の状態を見てやりながら、彼にあの時の真実を告げはじめた。
すると、それを聞き終えたヤマトは顔を赤くして怒る。
「何でその事を早く言ってくれなかったんです!」
その反応はトグサにとっては予想の範疇にあるものだ。
逆に言えば、こんな反応を示すだろうから、彼はあの時すぐに話さなかった訳で……。
「……その事については謝る。……しかし、もしあの時その事を知ったとしたら、君はどうしていた?」
「決まっています! 俺も一緒に戦いに――」
「満足な武器もなしに、子供の君が? ……一体どうやって戦うつもりだ?」
トグサの問いに、ヤマトは言葉を詰まらせる。
……ヤマト自身にだって、パートナーもいない現状で自分が何も出来ないことは分かっていた。
だからこそ、トグサの言葉は耳に痛かった。
「相手は遠くから走行する車のタイヤ撃ちぬけるほどの腕の持ち主だ。並大抵の戦力じゃあっという間にやられる。そしてあの長門という少女は、それに対応しうる強化された体を持っていた。……だからこそ俺は行かせた」
「じゃあ、何でトグサさんが一緒に行ってやんなかったんですか? ……刑事さんなら戦えるはずでしょ」
「援護は要らないって言われたよ。……確かに彼女の力を見るに俺程度じゃ足手まといになりそうだった。……それに、彼女から直々に頼まれたんだ。――涼宮ハルヒという少女を頼む、とな」
そう言って視線をハルヒへと向ける。
彼女は相変わらず、眠り姫か白雪姫の如く眠り続けたままだ。
ただその二人と違うのは、目覚めさせるのは王子様のキスなどではなく、適切な救命措置だったが。
「……だが何を言おうと結果として、彼女がこうなるまで見殺しにしていたことには変わりない。その上に不注意のせいで少女を見失ってしまうなんて本当に九課失格かもな……」
今もなお、消えた少女の行方は分からない。
だが、だからといって彼女を探すべくここを離れれば、倒れる少女二人と武器を持たない少年一人を置いていくことになる。
何も出来ない自分に呆れ、自嘲気味に力ない笑みを浮かべるトグサをヤマトはただ見ることしか出来なった。
そして、そんな沈痛な空気の中、声を掛けるものが一人。
「あの……どうなさったんですか?」
突如聞こえた声に驚き、振り返った二人が見たもの。
それは、眼鏡を掛け緑色のブレザーの制服を着た一人の少女だった。
――いや、二人といったほうがいいかもしれない。
何故なら彼女は犬のような特徴的な耳と尻尾を持ったメイド少女を背負っていたのだから。
◆
鳳凰寺風が友を求めて西方から橋に到着したのは、アルルゥが倒れてから間もなく。
彼女は橋に到着するなり、その橋の惨状に唖然としていた。
「……堅牢な橋がこれだけ破壊されるなんて……しかも焦げた跡まであるということはもしかして魔法? まさか光さんの炎の魔法!?」
炎から親友の姿を想像した彼女は不安になりながらも、橋を渡る。
そして、橋の中央部に到達した時、彼女は重なるように倒れる二人の参加者を発見した。
「こ、これは…………!」
下にいたのは長身の中年男性。
腹部に巨大な裂傷があり、そこから溢れた血液はもう一部が凝固していた。
念のためその冷たくなった手首を持ち、脈を取ってみるが、とき既に遅し。
「こんな酷いことを一体誰が…………」
続いてその男の胸の辺りに折り重なるようにうつ伏せになっている小さな少女の方を見る。
少女はメイド服を見ていたが、そのスカートの部分からなにやらふさふさした尻尾のようなものが出ていて……
「尻尾? ……それにこれは!」
目を頭部に移してみると、その耳のあるべき部分には犬のような耳が生えていた。
――フサフサした耳と尻尾。
それは彼女がこの地で新しく出会ったあの少女に類似していて、更に言えばその少女が探していた妹とやらに年頃が近いように見えた。
「まさか……この子がアルルゥさん?」
風は慌てて、彼女の手首を持ち上げる。
すると、それはまだ暖かく、しっかりと脈打っていた。
更に彼女の顔に自分の顔を近づけてみると――
「……すー、すー、すー、うにゅ〜……」
彼女は寝ていた。いや、怪我も殆ど無く本当にただ寝ているだけのようだった。
「でも、一体どうして……」
どうして彼女はこの切り裂かれた死体に折り重なるように、無傷で倒れていたのだろうか。
風にはそれが疑問に思えて仕方が無かった。
――だが、今はそれを考えていても始まらない。
あのエルルゥが探していた妹を見つけてしまった以上、このような目立つ場所に放っておくわけにもいかない。
「せぇの――っと!」
彼女はその眠る少女をおぶるとひとまず安全な場所まで運ぶことにした。
そして、そうやって橋を渡りきり、東へ更に進路を進めている時に彼女は道路脇に横転するトラック、そしてその周囲にいる人々の姿を見つけたのであった。
◆
トグサ達と風が互いに戦意が無い事を確かめ合うのにそれほど時間は掛からなかった。
そして、互いに自己紹介を済ませると、早速話題は風の背負っていた少女アルルゥについてに移ることに。
「その子は俺達も探している最中だったんだ。……どうやって君が見つけたのか話してくれるかい?」
「えぇ、勿論ですわ」
風は、アルルゥを見つけた経緯や背負っていた理由を隠すことなく話した。
トグサはそれを聞いて事情について納得すると同時に、新しい情報を手に入れる。
「なるほど。その橋で何かしらの戦闘があったと……」
「はい。私もその場に立ち合わせたわけではありませんが、あの橋自体の様子やそこで亡くなっていた男性の姿から連想すると恐らくは。それよりも……」
風の視線が、横転するトラック、そして倒れた二人の制服姿の少女へと向く。
「こちらで何があったのか、教えてもらえますか?」
「ああ。……だが、俺もこの場に到着したのは車がこうなった後だ。その前のことは……頼めるかい?」
急に話を振られたヤマトは驚きに変わる。
「は、はい!」
「……おい、だからいい加減……私を無視するな……。私だって語ることくらいは…………」
そして、またも豚は無視された。
トラックが本来、ハルヒの命により橋へと向かっていた事。
そのトラックが何者かの襲撃を受けて横転、ハルヒが重傷を負った事。
トグサが到着すると同時くらいに、長門が襲撃者に応戦すべく出ていった事。
そして、放送後にアルルゥが失踪したが、風に連れられてきて戻ってきた事……。
ヤマトとトグサはそれらを簡潔に説明する。
「……それじゃあ、あの橋で倒れていたのは……」
「ハルヒって人が助けようとしたのは男の方だっていうし、きっとそうだと思います……」
風が橋で見た死体――それは、本来ヤマトらが支援しようとしていた人物だった。
彼女はそれを知って、表情を暗くしながらも更に問いかける。
「それに、その有希さんという方は南の方角へ襲撃した方を迎撃しに行ったと仰っていましたけど、それはもしかして禁止区域に指定されたE-4のあたりでしょうか?」
「それは分かりかねるが……だが、今もあっちで何かが起ってるのは確かのようだな」
トグサは日の差す南の方へと目を向ける。
すると、その方向からは今も絶えず、何かがぶつかり合うような音が聞こえてきている。
「このままでは、いつこっちに戦場が移動、拡大するか分からない。……そうなる前に俺達は車を修理して病院に向かわねばならない」
「ハルヒさんと長門さんの治療、ですね」
「私の腹も…………そろそろスーパーピンチ…………」
「あぁ。特にハルヒという少女は、このままでは動かすこともままならない。……ここにある病院の設備で何とかなればいいのだが」
改めてハルヒを見やると、彼女は依然として目を覚ます気配もなく、顔もやや青白いままだ。
すると、その様子を見た風がトグサに声を掛けた。
「あのトグサさん。その治療ですけど、私がお力になれるかもしれません……」
◆
きっかけは意志だった。
魔操師アルシオーネとの戦いで傷ついた友を助けたい――そんな意志に、セフィーロという世界は応えてくれたのだ。
「……傷を癒す術だと?」
「はい、そうです。私のその力を使えば、ハルヒさんと有希さんの傷を少しでも癒すことが出来ると思います」
そうは説明するものの、トグサの顔はどうにも半信半疑といった表情が浮かんでいる。
確かに、セフィーロに来た事のない人にそのようなことを話しても、疑われるのが関の山かもしれない。
彼女ですら、君島の言ったロストグラウンドやアルター能力の話やエルルゥの言うウィツァルネミテアや亜人の話を当初は信じられなかったのだから。
だが、ここで意外な助け舟が入る。
「トグサさん、風さんに一度賭けてみませんか?」
「ヤマト……」
「俺もここに来る前にいた世界で、色々な不思議なものを見ました。だから……傷を治す力があってもおかしくないと思うんです」
この時の風やトグサに、ヤマトがデジモンワールドというこれまた不思議な世界を旅していた事など知る由もなかったが、その言葉はしっかりとしていた。
「それに、やらないよりやったほうがきっといいはずです」
「確かに……そうだな。それじゃ、その力とやら、見せてもらうかな」
「……分かりました」
トグサに促されると、風は精神を集中させる。
あの時――傷ついた海を助けようと思った時のように。
ここはセフィーロではないが、不思議と力が集まってくるのを感じる。
もしかしたら、ここも意志が力になる世界なのかもしれない――そう思っていると、彼女の脳裏にあの言葉が思い浮かぶ。
そして思い浮かぶが否や、彼女の口は自然とその言葉を紡いでいた。
「――癒しの、風!!」
穏やかな風がその場に吹く。
それは辺り一帯を包み、そして次第に異変が現れる。
「……あれ? 打ち身の痛みが退いていく……」
「確かに疲労感が少し取れたような…………一体どういうことだ?」
「気持ち悪いのは…………治らんぞ…………」
ヤマトやトグサから驚きの声が上がる。
「これが治癒の力だというのか? ――だとしたら」
トグサは横たわる長門に近づくと、体の至る所にあった擦り傷がもう塞がり始めており、折れていた左腕の骨も繋がりつつあることを確認した。
更に今度は昏睡状態だったハルヒの方を見る。
……するとどうだろう。何と彼女は静かに寝息を立て始めたのだ。
「こんな重傷が急激に回復してるだと!?」
頭に巻いていた布を試しに取り去ってみると、確かに出血が治まるどころか長門の擦り傷同様に傷口が塞がりつつあった。
このような急速な治癒は通常ではありえない。――ということは……。
「……如何でしたか? ハルヒさんや有希さんの容態はどうなりましたか?」
トグサが振り返るとそこには様子を伺おうとしている風の姿が。
「あ、あぁ。さっきまでより大分良くなっている。……ありがとう」
「それは良かったですわ」
その微笑む彼女の姿は、トグサやヤマトには天使に見えた。
◆
風のお陰でハルヒの容態は大分回復した。
――だが、それでも彼女が依然目覚めないのは事実であり、病院でより一層適切な処置をするべきであった。
それゆえにトグサはトラックの残りの修理を急ぎ、そしてそれを完了させた。
「本当に一人で大丈夫か?」
「えぇ。どうしても気がかりなので」
運転席に乗り込みキーを回しながら問うトグサに、車外にいる風は毅然と答えた。
曰く、彼女には探すべき人物がいて、その人物が放送で告げられた“動けないでいる参加者”かもしれないということでE-4に向かうつもりのようだ。
E-4方面と言えば、激しい戦闘音が断続的に聞こえていた上に、じきに禁止エリア化する場所だ。
しかも、ついさっき車に乗り込んだ直後あたりにはガス爆発のような巨大な爆発音すらあった。
トグサとしては、そのような危険ばかりを孕んでいる場所に少女を一人向かわせたくはないのが本音だ。
だが、この風という少女の決意は確固としており、彼が何と言おうと向かうであろう事は必至だった。
「すまない。俺が一緒に行ければよかったんだが……」
「心遣いありがとうございます。ですがトグサさんはハルヒさんと長門さん、それに……」
「救いの…………ヒーロー……ぶりぶりざえもんだ……」
「そう、ぶりぶりざえもんさんを治療する為に病院へと向かうことを優先するべきですわ」
「……あぁ。そうだな」
あの横転現場で出会ってしまった以上、見殺しには出来ない。
もうバトーや少佐の時のように死を黙って見過ごすわけにはいかなかったのだ。
「ハルヒさん達をよろしくお願いします。もう誰かがこれ以上亡くなるのは見たくも聞きたくもありませんから……」
失った友の事を思い出したのだろう、悲しげな顔をする風を見て、トグサは決意した。
今度こそ……今度こそミスをせずに少女達を助けてみせる、と。
「分かった。君の力に報いる為にも彼女達は俺が絶対に守ってみせる。……だから君も無事でいてくれ」
「えぇ、勿論ですわ。トグサさん、ヤマトさんもどうかご無事で。……それでは私はそろそろ――」
「――ま、待ってください!」
助手席でぶりぶりざえもんを抱えていたヤマトは、踵を返そうとする風を引き留めると、車を降りて彼女の前へと立った。
そして、長い棒状のもの――鞘に入った一振りの刀を差し出す。
「……丸腰じゃ危険だからその……これを持って行ってください」
「いいんですか? これはあなた方の――」
「構わないさ。もともとの持ち主には俺が説明しておく。それにこっちは車だし武器もまだ残ってるからな」
とは言っても、トラックにあるのはRPGとヤマトのクロスボウ、そして残弾少ない長門の銃くらいであったが。
それでも、徒歩の風を丸腰で行かせるわけにはいかなかった。
「……感謝しますわ。……それでは今度こそ、失礼致します。光さんやエルルゥさんを見つけた時は……お願いしますね」
「あぁ。君も、ホテルに向かう用事がある時はセラスを頼む」
「えぇ。……ではまたいつか」
こうして風はトグサ達に背を向けて歩き出した。目指すは爆心地のE-4。
……それを見送るとトグサはギアを入れ替えペダルを踏み込み、トラックを発進させる。目指すは橋の向こうの病院。
――そして、双方のいなくなったその地に再び静かに風が吹いた。
【D-3 橋付近(南岸) 1日目 日中】
【トラック組(旧SOS団) 運転:トグサ】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:比較的正常
[装備]:73式小型トラック(運転席)
暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本
[道具]:デイバッグ/支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り17回)@ドラえもん
[思考]:
基本:子供達を護りつつ、脱出の手立てを模索
1、病院までの間、警戒しつつトラックを運転
2、情報および協力者の収集、情報端末の入手
3、タチコマ及び光、エルルゥ、八神太一の捜索
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟、右腕上腕に打撲(回復中)、相次ぐ精神的疲労、SOS団特別団員認定
[装備]:クロスボウ、スコップ(元トラックのドア)、73式小型トラック(助手席)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考・状況]
1、トラックに乗りながら周囲を警戒
2、ハルヒとアルルゥにグレーテルのことを説明。
3、八神太一、長門有希の友人との合流
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
[備考]
ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒、激しい嘔吐感、無視されている、なぜか無傷、SOS団非常食扱い?
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手席)
[道具]:支給品一式 ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー
クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り四回) パン二つ消費
[思考・状況]
基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
1.無視するなって言ってんだろうが貴様ら! ……お願いだからこっち向いてください
2.強い者に付く
3.自己の命を最優先
[備考]
黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。
癒しの風による回復はありませんでした。
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:気絶、左上腕に負傷(ほぼ回復)、頭部に重度の打撲(現在回復中)
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
[思考・状況]
基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。
1、気絶
[備考]
腕と頭部には風の包帯が巻かれています。
打撲による傷は回復しつつありますが、もう一段階上の措置をするのが望ましいです。
【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:睡眠、左腕骨折(回復中)、思考にノイズ、SOS団正規団員
[装備]:S&W M19(残弾2/6) 、73式小型トラック(後部座席)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/タヌ機(使用済み)
[思考・状況]:
1、疲労回復の為に休息する
[備考]
放送はトグサ達のもとに戻る前に聞いていました。
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:睡眠、右肩、左足に打撲(回復中)、SOS団特別団員認定
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服、73式小型トラック(後部座席)
[道具]:無し
[思考・状況]
1、精神的ショックと疲労による一時的な睡眠
2、ハルヒ達に同行しつつエルルゥ等の捜索。
[共通思考]:病院へ向かい、ハルヒと長門、ついでにぶりぶりざえもんを治療する。
[共同アイテム]:おにぎり弁当のゴミ(後部座席に置いてあります)
RPG-7弾頭:榴弾×1&スモーク弾×1&照明弾×1、マウンテンバイク (荷台に置いてあります)
【E-4 北東部 1日目 日中(15時よりも前)】
【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース】
[状態]:健康、魔力小消費
[装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+、スパナ、果物ナイフ
[道具]:紅茶セット(残り5パック)、猫のきぐるみ、 マイナスドライバー、アイスピック、包丁、フォーク
包帯(残り3mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅)
[思考・状況]
基本:光と合流して、東京へ帰る。
1:E-4範囲内に動けない人がいるか捜索、結果の如何に関わらず15時までに脱出する。
2:2で該当者が見つからなかった場合、F-8に向かい捜索する。
3:3の後、ホテル方面へ向かい、出来ればセラスと接触したい。
4:消えたエルルゥが気がかり。
5:怪我人を見つけた場合は出来る範囲で助ける。
6:自分の武器を取り戻したい
7:もし、人に危害を加える人に出会ったら、出来る範囲で戦う。
[備考]
・「癒しの風」について
風の魔法である「癒しの風」はいわゆる回復魔法です。
基本的に人間の自然治癒力を高める効果を持っており、傷や疲労の回復を促進します。
ただし、魔法により傷が完治するということはなく、あくまで回復補助に留まります。
よって、切断された部位の接合や死者の蘇生は効果の範疇の外にあることになります。
また、毒やウィルスといった外部のものに起因する状態異常を回復することは不可能です。
しかるべき場所でしかるべき抗生物質を接種してください。
また、発動には魔力と一定の時間を要し、消費した魔力は睡眠等の休憩で微量ずつ回復することができます。
突然だが、皆はスーパーマンという存在を知っているだろうか。
そう。あのアメリカンコミックのキャラクターが青い全身タイツを身に纏い、肩にマントをかけて空を飛ぶ、夢のようなスーパーヒーローの話だ。
多少世代の差があるかもしれないが、まぁ俺と同年代くらいの人間なら名前くらい知っている奴は多いだろうと思う。
で、それは置いといて。
連投になるが、皆はゴジラという存在を知っているだろうか。
そう。あの口から放射線を放ち、毎回強敵と激闘を繰り広げては市街を破壊していく、傍迷惑な大怪獣の話だ。
こちらもスーパーマン同様、名前くらいは知れ渡っていることかと思う。
で、だ。
こんな回りくどい言い回しをして、俺はいったい何を言いたいのかというとだな。
いるんだよ、今そこに。
スーパーマンのように空を飛びまわり、ゴジラのように市街を破壊する――人間が。
「――カズマァァァァァ!!!」
「――劉ゥゥ鳳ォォォォォ!!!」
今の絶叫に近い叫び声をお聞きいただけただろうか。
――時は遡ること数分前。
放送を聴き終えた俺とトウカさんは、ギガゾンビが残した意味深なメッセージの詳細を確かめるべく、一番近いE-4エリアを捜索することにした。
身動きのできなくなった馬鹿がいるとのことだが、そいつはいったいどういった経緯でそうなり、現在どんな状況に陥ってるんだろうな。
誰かに拘束されたまま放置されたのか、はたまた睡眠薬を嗅がされ気絶でもしているのか。
もしくはブービートラップにでも引っかかり、脱出不能の窮地に立たされているのかもしれない。
想像は膨らむが、肝心の答えはそのお馬鹿さんを発見しないことには永遠に見えてこないだろう。
――まぁ、ハルヒや長門がそんなヘマを踏むとは、暗がりを好む蝙蝠がお日様の下を元気に飛び回っている光景を目にしたとしても信じられないが。
万が一、という場合もある。トウカさんの仲間であるエルルゥさんやアルルゥさんは、ハクオロさんの死を知って自暴自棄になっている可能性もあるらしいからな。
ま、このE-4で捜し人が見つかるか否かは運に頼るしかないな。
そう暢気に構えていた俺自身を呪うことになったのは、実に三秒後のことである。
聞こえてきたのはバズーカが発射される音だった。いや、バズーカというのは語弊があるな。
まるでアームストロング砲が発射されたかのようだった、とでも言えばその凄まじさが伝わるだろうか。
とにかく、鼓膜を破らんばかりの怒号は俺とトウカさんの脚を止め、すぐにその視線を音源の先へと誘う。
見えたのは一瞬、六階建てはあろうかという巨大なビルが、一瞬の内に吹き飛ぶ様だった。
ああ確か、この光景は前にも見たことがあるな。
そうだ、小学生の頃に震災の恐ろしさを伝えるための学習ビデオかなんかで見た光景に近しいような気がする。
……思い出したくない例を上げれば、ハルヒの創り出した閉鎖空間に出没する《神人》、あの巨人が一薙ぎでビルを倒壊させた時の光景と酷似していた。
もちろん、この突然の災害に驚かないはずもないだろう。
特にトウカさんは、自分たちの世界のものに比べよっぽど堅牢な構造をした建物が一挙に崩れ去る様を見て衝撃を覚えたのか、ポカンとした表情で空を見上げていた。
混乱の中で動けるのは俺一人という状況、俺は降り注ぐ残骸の雨から逃げるべく、トウカさんの手を引いて走った。
そして、逃げながら状況確認をする内に知った。この市街破壊が、たった二人の人間の手によって齎されたことを。
そして、現在にいたる。
周囲のビルや民家を容赦なくぶっ壊しながら戦う二人は、互いの名を呼び合いながら熱く拳を交わす。
厳密に言うと、一人は右手に大そうな篭手をしており、中にロケットブースターでも仕込んでいるのではないだろうか思うほど不条理な突進力を見せ、
もう一人は何やら大蛇の姿をしたロボットを従えて、ロケットパンチを放つよう命令していた。
……これを拳を交わすとは言わないな。言ってしまったら、全国の拳で友情を語り合う皆様方に失礼だ。
まったく、こんなふざけた漫画みたいなバトルを見せられるとは思ってもみなかった。ある意味カマドウマ退治してた古泉以上だなこりゃ。
本人達は相当熱が入っているのか、遠くから戦闘を観戦する俺たちなどアウトオブ眼中。
いや、まぁ気づかれたら気づかれたで困るのだが、実際俺とトウカさんはどうすればいいんだこの状況。
予定通りこのエリアで身動きの取れない参加者を捜す?
まさか。落石注意と書かれた看板の立っている洞窟を、探検と称してレッツゴーする趣味は俺にはない。
かといって止めに入れる状況でもないだろうこれは。
目の前で起こっているのは、規模はともかくとして、殺し合いというより喧嘩に近い印象を受ける。
ならば当人たちに解決してもらうのが一番の安全策であり、男同士の殴り合いに俺たちが関与する隙間はない。
そうと決まれば、即刻退散。はい撤収撤収。
俺とトウカさんは一先ず戦場から非難すべく、脚を進めた。
距離にして、E-4エリアの北端あたりまで移動した頃だろうか。
「キョン殿……なにか、悪臭を感じぬか?」
不意にトウカさんが脚を止め、何やら不吉なことを言ってのけた。
俺は鼻をすんすんと鳴らし、トウカさんの言う悪臭の正体を掴むべく嗅覚をフル活用。
そして嗅ぎつけたのは、よくキッチンなどで奥様が悩まされるというあの臭い。
「なにか……ガス臭い?」
俺が異変を嗅ぎつけた直後のことだった。
急に背後の世界が真紅に染め上がり、発光。
トウカさんの「危ない、キョン殿――ッ!?」という叫びを聞いたかと思えば、俺の意識はそこでぷっつり途絶えることとなった。
◇ ◇ ◇
大抵の人間は、眠ったり気絶したりしている間は大事な人のことを思い出す。
それは友達だったり、家族だったり、恋人だったり。殺し合いなんて緊張状態の続きっ放しな環境に置かれれば、なおさらのことだろう。
じゃあ俺は、そんな状況に陥った時どうするか?
既に死んでしまった朝比奈さんや鶴屋さんを思い出すか、もしくはただ無事を祈るばかりのハルヒや長門、そしておまけとして朝倉のことでも思うか?
いやいや、俺はそんなワンパターンに引かれた思考回路のレールには乗らないぞ。
漫画や小説、映画なんかでよくある。誰か大切な知人のことを思い、明日のために奮起するというシーンは、それ自体が死亡フラグに繋がるのだ。
戦争映画なんかを例に挙げてみよう。敵地へ向かう最中、急に仲間の一人が「俺……この戦争が終わったら結婚するんだ」なんて言って婚約者の写真の一つでも見せびらかしてみろ。
その仲間の末路がどうなるか、もはやお決まりすぎて読者も納得しないことだろう。
だから俺は、そんな安易な物思いにふけたりはしない。じっくり黙って、ただ目覚めるのを待つばかりさ……
と、もし俺が創作上キャラクターだったとしたら、相当捻くれた心構えをしていたことかと思う。
それでも世の中は結果が重要視される時代なのさ。程なくして俺は、薄暗い部屋の中で目を覚ました。
記憶はある。E-4エリアで男二人の戦いから逃走していた途中、不意に巻き起こった爆発により、俺の身体は空の彼方へ吹き飛んだ。
気を失ったのはその際の衝撃が原因だろうが、不思議とダメージは少ない。
全身は軋むように痛いし、擦り切れたらしい皮膚のあちこちが絆創膏を所望しているが、あいにくそんな便利グッズは用意していない。
具体的にどれくらいの規模の爆発が起こったかは分からんが、意識も確かに生き延びてるんだから、素直に幸運だったと喜ぶことにしよう。
あれ、そう言えばトウカさんはどうした?
暗い部屋の中を見渡してみると、確認できるのはソファ、窓、本棚、デスク、俺以外の人影はなし。
窓の外を覗くと、風景が随分と広く見渡せる。どうやらここは、何階建てかのビル内部らしい。
だとしたら、トウカさんは別の階層にいるのか?
俺はズキズキと痛む身体を、五月蝿い静まりなさいと一蹴し、ドアに手を掛けた。
その時、ふと横を見てしまった。そこに何かがいると、予感がしてしまったから。
ドアノブを回しきる前に、横に置いてあったそれを確認してしまった。
思わず、顔が青ざめる。
俺が見つけてしまったもの。それは、あの平賀さんと同じような――このゲームに敗れ去った、死者の亡骸だった。
ガクッと下がるテンションは吐き気こそ誘わなかったものの、俺の膝を床につかせるには十分な威力だった。
見ると、死んでいるのは丁髷をした髭のおっさん。ご職業はなんだと思いますか、と問われたら間違いなく侍ですと答えるだろう、そんな風貌の人だった。
肩口から斜めに袈裟斬り一閃、残された剣筋の軌跡には、かすかに焼け焦げた跡も確認できる。
犯人の正体は、伝説のファイアソードを使う魔法戦士様か何かだろうか。どこのファンタジックRPGだこのやろう。
唐突な出会いを果たした俺は、冷静になって考え直す。
このお侍様がどなたかはともかくとして、なぜ俺と一緒の部屋に寝ていたのか。
おそらくトウカさんが絡んでいることと思うが、この手の予測がハズレないのはある意味お約束だ。
元いた世界でも、何かおかしなことが起こればそれは必ずと言っていいほどハルヒ絡みだった。それと同じ理屈だ。
「申し訳ない、キョン殿! 某としたことが……目覚めた後のキョン殿への配慮も考えず、この御仁の亡骸を放置してしまうとは……不覚!」
やっぱりというかなんというか。
程なくしてビル内の探索から帰ってきたトウカさんにお侍さんのことを尋ねてみると、真っ先に謝られた。もちろん「某としたことが……」付きでだ。
あの爆発の後――爆心地が遠かったためか爆風に飛ばされるだけで済んだ俺とトウカさんだったが、俺は着地の際の打ち所が悪かったらしく、しばらく気絶していたらしい。
それを見て慌てふためいたトウカさんは、俺を担いで避難できるところ探し回ったそうだ。
だが周囲はあの爆発の影響か――大半はあの男二人組みによるものが大きいが――崩壊、もしくは崩壊寸前の建物ばかりで、やっとのこと見つけたのがこの雑居ビル。
トウカさんも相当混乱していたんだろうな。中に敵がいるとは露とも思わず、休めそうな部屋を探して駆け回ったとのことだ。
その道中、廊下に転がっていたこのお侍さんの遺体に躓いて、俺ごと転んだんだとか。
「不幸な事故とはいえ、死者の眠りを妨げてしまったことには詫びを入れたい」
だから、あとでしっかり供養するために部屋に一旦置いておいたそうだ。俺と同室に。
で、目覚めた事情知らずの俺はアンビリーバボー。現在に至るというわけだ。
以上、説明終わり。
「事情はだいたい飲み込めました。でも、俺たちって確かE-4エリアにいたんですよね? 時計を見る限りじゃもうとっくに四時回ってるんですが……ここはどのへんなんですか?」
「某も無我夢中だった故、明確にどこかは断言できぬが……おそらく、E-4より北に位置するD-4のどこかだと思う」
一つ上のエリアというわけか。首輪が爆発していないところから察しても、だいたいその辺りで間違いないな。
結局、ギガゾンビの言う身動きの取れない参加者の正体は分からず仕舞いになったわけか……。
悔しいが、今の時間じゃどうしようもない。それに非常に残念だが、もしその参加者がE-4にいたのだとしたら、あの爆発に巻き込まれてどの道助からなかったことだろう。
「キョン殿はこのままここで休むといい。某はこの御仁を供養せねばならぬので、申し訳ないが……」
「構いませんよ。こんな廃れたビル、一人でいたって誰も襲ってきやしませんって」
「……かたじけない」
擦り傷だらけの俺を気遣い、トウカさんは一人お侍様の遺体を背負って外に出て行った。
……そして、俺は一人になる。
誰もいない空間の中で、傷だらけの身体を嘗め回すように拝見。ボロボロだった。
朝比奈さんや鶴屋さんも、こんな目にあったのだろうか。
死者のことを思えば思うほど、気持ちがセンチメンタルになってくる。案外ナイーブだな、俺も。
身近にトウカさんのようなうっかり者がいたせいもあるのだろうが、少し気を張りすぎていたかもしれん。
ここらで生き抜きが欲しいところだが……癒しなんて求めてみたところで、どうせ無駄な結果に終わるんだろうな。
と、ソファに寝転がりながら、俺は部屋の隅に置かれたある物に目を奪われる。
それは、三つのデイパックだった。俺のでもトウカさんのものでもない、おそらくはあのお侍様のものだろう。
何故三つもあるのかという点については様々な考察ができるが、あのお侍様の死に顔はとても悪人とは思えなかった。だから、深くは考えない。
俺はソファの上でリラックスモードを貫きながら、デイパックの中身を確認。
そしたら出るわ出るわ、地図に食料、時計にコンパス……サバイバルに於ける基本物資の数々が、どのデイパックにも手付かずの状態で保管されていた。
だが、目ぼしい道具や武器なんかはどこにもない。
誰かが持ち去ったと考えるのが妥当だろうが、食料まで手付かずということは、その人物は生存よりも殺害優先の思考を持っている可能性が高い。
しかしたった一つ、殺し合いには不要と判断されたのか、ブラックカラーの怪しげなノートパソコンが発掘された。
見たこともない機種だな……と俺は訝しげな視線を送りつつ、電源を入れて本体機動。
すぐに浮かび上がってきたのは、ギガゾンビと謎の土偶集団による趣味の悪いデスクトップ画像だった。
自主制作だろうか……? などと心底どうでもいい疑問を抱いた後、俺はインターネットのブラウザを機動させた。
最初に映し出されたスタートページもこれまた趣味が悪い。
『ギガゾンビ様のホームページへようこそ!』と書かれた歓迎文に出来る限りのしかめっ面を浴びせ、俺は適当にページをスクロールさせる。
ホームページに書かれたていたのは、この殺し合いの基本的なルール、詳細なマップ説明、そして随時更新されるらしい現死亡者と禁止エリアの位置。
データベースとしてはこの上なく親切な作りになっていたが、やっている内容が内容なだけに、とても褒められたものじゃない。
とりあえず俺はダーッと文面を流し読みにし、有益な情報がないかチェックするが……成果はなし。
死亡者状況も放送ごとの区切りで更新されているらしく、第一、第二放送で呼ばれた名前以外はリストに挙がっていない。
まあ、万が一放送を聞き逃した場合には使える機能だな。
しかしこのホームページの更新をギガゾンビがやっていると考えると、激しく笑えるのだが。
ギガゾンビのホームページを読み終えた俺は、一つ気になることがあって画面上部のお気に入りアイコンをクリックする。
このパソコン、ネット回線は問題なく繋がっているらしいが、それは果たして他の著名ホームページに対してもいえたことなのだろうか。
早い話が、外部との連絡が取れるかどうか確かめたかったのだ。で、結果だが。
俺が開いたページは、我等が本部『SOS団』の公式ホームページだ。
あのハルヒがデザインした奇妙なロゴマークは健在に輝いており、眩しく俺の瞳を照らす。
……どういうことだ? 問題なく開けてしまったぞ。
ん? いやちょっと待て。
その前に、どうしてSOS団のホームページなんかがこの見知らぬパソコンのお気に入りなんかにブックマークされてるんだ?
このパソコンはSOS団はおろか、お隣のコンピ研のものでもないし、そもそも日本じゃこんな型のパソコンはなさそうだ。だってメーカーのロゴマークがどこにもない。
誰かがお気に入りに登録した?――だとすれば、それは必然的にSOS団のホームページアドレスを知っているハルヒたちの仕業だと考えられる。
だがおかしなことに、履歴を調べてみても俺以外の人間がネットを開いた痕跡は見当たらなかった。
それ加え、俺が知り得る限りのアドレスを入力して他のホームページを片っ端からチェックしてみるが、まったく開くことが出来ない。
結論から言って、まともに開くことが出来たのはギガゾンビのホームページとSOS団のホームページのみだ。
どうしてSOS団のホームページだけが……?
俺は頭を捻り、やがてある事件のことを思い出した。
そう、突如としてコンピ研の部長が消失し、古泉や長門がカマドウマを退治することで解決したあの傍迷惑な事件の話だ。
あのとき異空間に現れたカマドウマの正体は大昔の情報生命体で、ハルヒが作成したロゴマークが原因で蘇ったとのことだったが……ひょっとしたら、あの時のような不思議ハルヒパワーが作用していたりするのか?
見た目では、SOS団のロゴマークに変化は見当たらない。長門辺りが調べれば何か分かりそうな気はするが、素人目ではおかしな点は見つからなかった。
このままトップページを眺めているだけというのも不毛だろう。
俺は試しに、SOS団のメールフォーム宛てにSOSメールを送ってみることにした。
どこかでギガゾンビなる人物に殺し合いをやらされているという現状、朝比奈さんや鶴屋さんが死亡したという事実、その他諸々の記せるだけの情報を詰め込めんだ、救助要請の電信である。
運がよければ古泉あたりが拾ってくれることだろう。
ハルヒにもピンチが迫っていると知れば、『機関』の連中や長門たちの親玉である『情報統合思念体』、『未来人』も動くかもしれん。
かなりの望み薄だが、送れるというのなら送っとけ。
やるべきことをやり終えて、俺がSOS団ホームページからジャンプしようとしたその時だ。
ソファに寝転がりながらという無理な体勢が災いしたのか、俺はうっかり手を滑らせてあらぬ箇所をクリックしてしまう。
それは、SOS団ロゴマークのちょうど中央、『O』マークの穴の部分。
うっかりが呼んだ幸運とでも言おうか。そこは未知の領域への入り口だったらしく、画面は別のページへとジャンプする。
『ツチダマ掲示板へようこそ! ここは、ギガゾンビ様の前では言えない不満や愚痴、バトルロワイアルの進行状況などを極秘裏に扱う秘密の掲示板です』
……SOS団トップページから移動したのは、ツチダマとかいうギガゾンビの手下共が運営する、主人には秘密のいけない掲示板だった。
あらかじめ断っておくが、もちろんSOS団のホームページにこんな掲示板は存在しない。
更新などほぼ無意味、人が訪れることさえ稀なホームページなのだ。掲示板を置くなど、時期尚早もいいとこだろう。
ま、百聞は一見にしかずだ。俺はそのページをスクロールさせ、掲示板を覗いて見る。
728:ツチダマな名無しさん :16:37:05
いや〜まさか朝比奈みくるがあんなに早く脱落するとは思わなかったギガ〜
729:ツチダマな名無しさん :16:52:43
>728
みくるちゃんの脱落は仕方がないギガ〜。ドジっ娘メイドさんに殺し合いなんて所詮無理な話なんだギガ〜
730:ツチダマな名無しさん :17:00:01
そんなことよりあのアオダヌキがとことんまで役に立ってないギガ〜(笑)
731:ツチダマな名無しさん :17:03:57
今極秘に掴んだ情報によると、どうやらE-4のエリアで爆発が起こったみたいギガ〜。誰が死んだかお楽しみギガ〜
732:ツチダマな名無しさん :17:05:35
>731
マジ!?
これは次の放送に送られてくる監視映像から目が放せないギガ〜
……あろうことか、この掲示板の住人連中は朝比奈さんの死亡話他について熱く語り合っていやがった。
しかしなんだ、この某巨大掲示板みたいな作りは。ギガゾンビには極秘というが、カモフラージュのためにSOS団のホームページを使うとは、ハルヒに知れたらお前らただじゃすまないぞ。
とりあえず、このふざけた掲示板を観察して気づいたことが数点ある。
まず一つ。この掲示板は、ギガゾンビの手下であるツチダマという存在(トップページに映っていたあの土偶か?)が秘密裏に立てたものだ。
それがどういうわけか支給品のノートパソコンにブックマークされている。もしかしたら、主催側でなんらかの不手際があったのかもしれない。
それにしても、ご主人様に隠れてこんなストレス発散の娯楽をしているとは。ツチダマという奴等も、相当ギガゾンビにコキ使われているようだ。
奴に対する不満を述べた書き込みも、結構な数をいっている。
次にもう一つ。どうやら、このゲームの内容はギガゾンビたちに監視されているらしい。
だがそれも全員がリアルタイムで把握しているようではなく、少なくともこの掲示板に書き込みをしているツチダマたちは、放送までその全貌が分からないようだ。
おそらく、放送ごとに数体のツチダマが交代し、ビデオカメラか何かで監視を行っている……監視中は掲示板を覗く暇もない、といったところだろうか。
他にも、「○○○がここで死んだのが意外だった」とか、「○○○は絶対最後まで生き残ると思ってたのに」だとか、「ギガゾンビの足は臭い」だとか、
どうにも抽象的な内容ばかりで、具体的にどこでどんな出来事が起こったかはほとんど書き込まれていなかった。
以下、俺が約700レスを読み返して得た情報の数々である。
・『朝比奈みくる』は『キャスカ』という参加者に殺された。
・『朝倉涼子』が『平賀才人』と『ハクオロ』の二人を殺した。
・『朝倉涼子』が『アーカード』に追い詰められたところで第一〜第二放送分が終了した。
・『野比のび太』が幾度となくピンチに陥っているがなかなか死なない。
・『アオダヌキ』と呼称された参加者がやたらと罵倒されている。
大半はギガゾンビへの不満がほとんどで、ゲームの推移についての書き込みは、全体を見るに『野比のび太』と『アオダヌキ』と呼ばれる二人に関することが多い。
話題に上らない参加者も多く、僅かな書き込みの中で判明したことは朝比奈さんを殺害した犯人の名前、そして――朝倉涼子について。
第一放送後の時刻、『朝倉涼子が平賀才人とハクオロの二人を瞬殺して見せたのには驚きだったギガ〜』という書き込みが確認できた。
そして第二放送後の時刻、『朝倉涼子がアーカードに追い詰められ絶体絶命ギガ〜。続きは第三放送後までお預けなんてあんまりギガ〜』という書き込みを確認。
しかし、まさかトウカさんの主であるハクオロ皇があの朝倉に殺されていただなんて……。
しかもその朝倉は、ロックさんが危険だと忠告してくれたアーカードなる吸血鬼に襲われている最中――時間的にもう決着は着いただろうか――らしい。
もちろん、この掲示板自体が俺たちを騙すためのブラフであるという可能性もある。
だが、ここに書かれている内容はどれも妙に真実味があった。
ツチダマとかいう奴等に愛着を持ったわけではないが、なんとなくこいつらはとてつもなく苦労している……そんな漠然とした予感がしたのだ。
俺はこの掲示板の真意を確かめるべく、ある一つの妙案を思いついた。
どうやらこのツチダマ掲示板は、誰でも匿名で参加できる――といってもツチダマだけだろうが――自由な掲示板らしい。
ならば、当然俺にも書き込む権利はあるはずだ。
作戦は簡単。こちらからさり気なく確かめやすい話題を振り、返って来た反応を見てこいつらの言っていることが嘘か本当か見極める。
ようは陽動作戦だ。相手が乗ってくれば俺の勝ち。乗ってこなければ俺の負け。
口での駆け引きならハルヒや古泉の得意分野だが、顔を出さない掲示板でなら俺にも勝機はある。
そう思い、キーボードに指をかけようとしたその時だ。
掲示板に、新規の書き込みが表示された。
732:ツチダマな名無しさん :17:11:29
話は古くなるけど、キョンとかいうヤツが自分の顔を自分でガンガン殴っている光景はいつ見ても笑えるギガ〜
……俺自ら書き込みをする必要はなくなった。
こいつら完全に遊んでやがる。ギガゾンビとはまた違った意味でムカつく奴等だった。
こんな奴等に付き合って無駄にパソコンのバッテリーを消費するのも馬鹿らしい。
俺はSOS団ホームページへと帰還し、さらにスタート地点だったギガゾンビのホームページへと舞い戻る。
何か見落としはないだろうか……と最後の確認をしていると、画面の左端辺りに小さく刻まれた興味深い文字を見つけた。
『管理者専用ページへジャンプ』
そう書かれたアイコンはどうやら別のページへと続いているらしく、俺は迷わずそこをクリックする。
するとどうだろう。現れたのは、細長い枠線とその上部に記されたメッセージ。
なになに……『パスワードを入力してください』。
なるほど。さすがに管理者専用ページと銘打つだけあって、そう簡単には通してくれないってことか。
だがパスワードなどと言われても俺には思い当たる節が何一つなく、適当な文字を入力してみようとも思ったが、もし何か変なことが起きたら嫌なのでやめておいた。
パスワードねぇ……閉鎖空間から脱出する時だったら『白雪姫』というワードが鍵になったが、ここでもハルヒにあんなことをしろいうのなら、俺はギガゾンビに断固抗議を申し立てるつもりだ。
何かヒントはないか、とパソコン内のデータを隈なく探してみるが、有益な情報は何も発見できない。
それどころかムカつくことに、見つかったファイルの数々には『ギガゾンビが教える簡単な人の殺し方』やら『相手に腹の内を読ませない極意』やら『ステルスマーダーの見分け方』などといったタイトルの殺し合い指南書が多く含まれていた。
もちろん俺は、ありがたーい主催者様のご好意を受け取ってこんな馬鹿げた指南書のお世話になるつもりは一切ない。
パソコン内をあらかた調べ終え、時刻は既に第三放送の30分前まで迫っていた。
時が経つというのは早いものだ。窓の外の風景は夕闇を帯びてきており、再び夜へと移行しようとしている。
思えば、今日一日だけで実に十年分くらいの人生経験を積んだような気がする。
朝倉以外の女性に刃物向けられて襲われたのも初めてだし、親しい先輩方の死に憤慨したのも初。
こうやって出口の見えない迷路を彷徨うのは……ま、初めてではないかな。
それにしたってこんな経験、なかなかできるものじゃない。
この壮大なゲームを乗り越えた先には、きっと一回りも二回りも成長したNEWキョンが新生していることだろう。
……そんなもん、クソくらえだ。俺はやっぱり、いつまでも平凡でいたい。
たまに非日常な事件が起こったとしても、長門がいる、古泉がいる、朝比奈さんがいる、どうせハルヒ絡みなんだろ、と心の中で安心していたいわけだ。
そのためにもギガゾンビ、お前のたくらみは絶対阻止してやる。
俺一人じゃどうにもならないかもしれないが、ここにはトウカさんやロックさんという頼もしい仲間がいる。
長門というなんでもありの産物も忘れちゃいけない。そしてなにより、一部では神様的扱いまでされているハルヒがいるんだ。
今度会ったら面と向かって言ってやろう――子分共に陰口叩かれているような小者臭漂う独裁者なんかに、大事は無理なんだよ――ってな。
さて、そろそろトウカさんも戻ってくる頃だろう。パソコン遊びもこの辺にするか。
そう思い、電源を落とそうとした。が、最後のクリックを済ませようとした俺の右人差し指は思わぬところで停止した。
見落としていた――? そもそもさっきこんなのあったか――?
灯台下暗しだろうか。いや、この際理由なんてどうでもいい。
とにかく俺は迂闊なことに、ある重大な見落としをしていたことに気づいたのだ。
パソコン画面の右下隅に注目。バックの画像だけでガランとしたデスクトップに唯一、アイコンが記されていたのだ。
俗に言うトラッシュボックス――つまり『ゴミ箱』だ。俺はまだ、ここをチェックしていなかった。
素早い動作でダブルクリックを行い、ゴミ箱の中を開く。
開かれた中には、一件のテキストファイルが残されていた。
それも開き、文面を確認する。
『射手座の日を越えていけ』
――記されていたのは、たったそれだけ。
まるで長門が残したかのような、簡素な一言だった。
射手座の日……そんな祝日あっただろうか?
星座でいうところの射手座といえば、確か11月23日から12月21日を指していたはずだ。
その間に何かあるのか? というよりも、この世界の日付設定はいったい何月何日になっているんだろうな。
不親切なことにパソコンにカレンダー機能は搭載されておらず、時刻くらいの情報しか与えてはくれない。
まさかこれが管理者ページのパスワードになっているだなんていうご都合展開は……ないだろうな。
考えるなら、パスワードを得るためのヒント。それが妥当だろう。
しかしなんだってこんなものがゴミ箱に放置されているんだ。
単なる削除のし忘れだとしたら、これも主催側の不手際だろうか。
いや、もしかしたら罠という可能性だってある。むしろそっち可能性の方が高いだろう。
だが、不思議と信頼感を得てしまうのは俺が浅はかなだけだろうか。
もしかしたら、これは誰かが遠まわしによこしてくれたメッセージなのでは……そんな気がするのだ。
夢見る少女じゃあるまいし、希望的観測もいいところだ。とは思う。
思うんだが……望みを感じてしまうんだからしょうがないじゃないか。
俺は蓄積された情報の山を脳内で整理しつつ、今度こそパソコンの電源を落とした。
ツチダマ掲示板から窺える他参加者の状況、管理者ページへ繋げるためのパスワード、そして謎のキーワード『射手座の日』。
このノートパソコンは偶然とうっかりが招いた副産物だが、思いがけないキーアイテムになりそうだった。
ただ、俺ではこれを活かしきれないというのが手厳しい。
長門辺りならハッキングの一つでもして管理者ページに無理矢理侵入することもできそうだが……当面は『射手座の日』について頭を悩ませる必要がありそうだ。
「遅れてすまないキョン殿。大事がなかったようでなにより」
直にトウカさんも戻り、俺たちが次の放送までにやれることはもうなくなった。
パソコンについてだが、トウカさんにはあえて喋っていない。
言ってみたところで「ぱーそなるこんぴゅーたー……というのはいったい?」と返されるのは目に見えているし、使い方を伝授しようにも軽く一年くらいは費やしそうだ。
それにこれは俺の勝手なイメージだが、トウカさんは機械の類が物凄く苦手そうに見える。
うっかり水を零してパソコンがおじゃんになってしまったら目も当てられない。もちろんその時は「某としたことが――!」のセリフ付きだ。いや、まったく失礼なことだが。
ハクオロさんについては……そうだな。次の放送で朝倉の名前が呼ばれたら教えることにしよう。
ひょっとしたら朝倉もアーカードとかいう奴に殺されているかもしれんし、先走ってトウカさんが仇討ちにでも向かったら大変だしな。
しかし……朝倉関係含め、この世界は本当にとんでもない創りをしているのだと改めて思い知らされる。
もはや長門一人でもどうにもならんだろうな……これはいよいよ、『射手座の日』の謎を解明する必要があるか。
俺とトウカさんは窓の外から夕闇を眺め、直に映り出されるであろうクソ主催者様の立体映像を待った。
今度はいったい、誰の名前が呼ばれるんだろうな。
【D-4・雑居ビル/1日日/夕方】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:全身各所に擦り傷、ギガゾンビと殺人者に怒り、強い決意
[装備]:バールのようなもの、わすれろ草@ドラえもん、ころばし屋&円硬貨数枚
[道具]:支給品一式×4(食料一食分消費)、キートンの大学の名刺、ロープ、ノートパソコン
[思考・状況]
基本:殺し合いをする気はない、絶対に皆で帰る
1:ビル内に留まり放送を聴く。
2:『射手座の日』に関する情報収集。
3:トウカと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合い及び、ハルヒ達を捜索する。
4:朝倉涼子とアーカードを警戒する。
5:あれ? そういえばカズマってどこかで聞いたような……
[備考]
※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は以下の通りです。
・『朝比奈みくる』は『キャスカ』という参加者に殺された。
・『朝倉涼子』が『平賀才人』と『ハクオロ』の二人を殺した。
・『朝倉涼子』が『アーカード』に追い詰められたところで第一〜第二放送分が終了した。
・『野比のび太』が幾度となくピンチに陥っているがなかなか死なない。
・『アオダヌキ』と呼称された参加者がやたらと罵倒されている。
・SOS団のメールフォームにSOSメールを送りましたが、本人はあまり期待していません。
・『射手座の日を越えていけ』は、管理者ページへ入るためのパスワードを入手するヒントと考えている。
・主催者側による監視が行われている(方法は不明)。
※ギガゾンビのホームページ、SOS団ホームページ、ツチダマ掲示板について
・ギガゾンビのホームページに記載された死亡者状況、禁止エリア状況は、放送ごとに随時更新されます。
・SOS団ホームページには問題なくアクセスでき、メールを送ることも可能です。
・その他、キョンが知り得るホームページには繋がりませんでしたが、例外がSOS団ホームページだけとは限りません。
・ツチダマたちは前回と前々回の放送間、もしくはそれ以前の話題しか書き込みません。
・掲示板の内容はギガゾンビへの愚痴がほとんど。基本的にバトルロワイアルの進行状況に対する具体的な書き込みは少ないです。
・ドラえもん(アオダヌキと呼称)関係の書き込みが多いようです。
・『射手座の日を越えていけ』の『射手座の日』とは、現段階でドラえもんが所持している『"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱』のことを指しています。
キョンはコンピ研と対決した際のゲームタイトルなど忘れているため、この正解にはたどり着いていません。
【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:左手に切り傷、全身各所に擦り傷
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式(食料一食分消費)、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
基本:無用な殺生はしない
1:ビル内に留まり放送を聴く。
2:キョンと共にキョン、君島、しんのすけの知り合い及びエルルゥ達を捜索する
3:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
4:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す
※二人とも食事を取りました。
※井尻又兵衛由俊の遺体は埋葬されました。
錆びた匂いが満ちていた。
太一の矢傷は、驚いたことにもう治りつつあった。普通、あれだけしっかり突き立てば、しばらく出血が止まらないようなものなのに
縛るまでもなく、血が減っている。右手のひらの傷も、同様だった。
太一が特異体質かと問えばそんなことはないという。傷の治りがよくなるひみつ道具など、聞いたこともない。
念のため二人に持ち物の確認を頼んでみたが、結果は変わらなかった。
「レヴァンティンにそんな能力ねーはずだけどな」
「これもただの鞘だ……と、思う」
考えても仕方がない。未来へ帰った時に、調べてみればいい。
秘密道具もろくにない状況では、他に出来ることはないのだ。まったく、お手伝いロボットが聞いてあきれる。
北へ東へ、地図の中心へ歩を進めるうちに、もうもうと煙が立ち昇る一角を見つけた。火事か何かがあったのは間違いない。
戦闘中に響いた遠雷のような地響きがこれなら、爆発があったか。
まだかなり距離はあるが、見えないことはない。何の変哲もない建物の群……だったのだろう。
煙の上がる部分を望むと、黒ずんだ一軒を中心に、何軒かがドアを失ったり窓ガラスを割られたりしているように見えた。
誰かが爆弾を持ち出してきたと考えるのが自然だ。そしてまだ、いるのかもしれない。
「どうする、二人とも?」
「どうするったって……」
太一がきまり悪そうにヴィータに目をやる。
「行こーぜ。誰かいるかもしれないんだろ?」
「……いいのか?」
己と同じ苗字を持つ、彼女の探し人を思ってか、顔色を伺うような太一の声。
まだ煙も消えていない。第一放送前の死者が、つい今しがたの戦場にいるとは考えにくい。
「いいよ」
煙を見つめたまま、ヴィータは答えた。
「いいんだ」
陽はこんなに眩しいのに、風が妙に肌に寒い。
「うん、それじゃあ行こうか」
わざと声を張り上げて、二人を促した。
レヴァンティンの柄頭に手をかけたヴィータが前へ、鞘を握り締めた太一が続く。
「ヴィータちゃん、いきなり襲い掛かっちゃダメだからね」
「わかってるよ」
集団内では一番気が回ると自負しているドラえもんだが、警戒に当たりやすい後ろのポジションは適していても
奇襲に対抗する防衛手段がない。
かと言って、怪我人で生身の戦いの経験もないであろう太一に任せるわけには行かない。
先頭ポジションにもっとも適したヴィータを後ろに置くのは問題外だ。
最終的にはロボットの硬さで防ぐしかないと覚悟を決めた。だが、せめてショックガンか、空気砲。
瞬間接着銃、空気ピストル程度でも、あれば違うはず。
いや、攻撃に使えるようなものでなくていい。
「ドラえもん」
ひらりマントで十分だ。要は、誰にも攻撃を通すことなく、戦い慣れているらしいヴィータが対応できればそれでいい。
「あればいいな」が目の前を、こちらを一顧だにせず通り過ぎて消えていく。
「ドラえもん!」
「ん……」
顔を上げると、既に足を止めていた太一と目が合った。
「あ、ああ。ごめんごめん。どうかしたのかい?」
「あれ……」
指差された方向に、人が倒れていた。
「道端で大の字って、随分とヨユーな奴だな」
少し距離をとって、ヴィータが倒れた青年を観察している。
見たところ、高校生ほどの年だろう。
服のあちこちが擦れて切れ、体にいくつか褐色の筋も見て取れる。
あの煙の発生源に関わりがあると考えて間違いないのではないか。
三人と同じデイバッグが傍らに同じように倒れこんでいた。
「……死んでる……のか?」
「の割にゃー傷が浅いぞ」
だが骨や神経がやられている可能性も、なくはない。
「オレちょっと見てくる」
そろりと太一が前へ出た。念のためか、鞘は握ったままになっている。
1メートル程度の距離まで近づき、忍び足ほどの速さでゆっくりと周りを回る。
青年が起きる気配はない。
鞘を持ち替えて青年に突き出そうとしてみているが、さすがにつつくまでには至らなかった。
続いて視線をデイバッグに移す。
四次元ポケットと同質の処理を施されているため、見た目から何が入っているか判断するのは難しい。
開いて、さらに直接手を入れて見なければわからない。
そっとデイバッグに伸ばした太一の手首が、掴み止められた。
「てめえ何してんだ!」
太一が胸倉を掴まれる。
ヴィータがレヴァンティンの柄を握った。すんでのところで抜くのは思いとどまったが、いつでも飛び出せるように準備している。
自分には、準備するものが何もない。ただ、とにかく太一に危険が迫ったらすぐに頭突きに走れるように肩を怒らせた。
「し、死んでるのかと思ったんだよ!」
「そーかいそりゃ悪かったな死んでなくてよ!」
地面に座ったままながらも、太一に目一杯睨みを聞かせているのは間違いなくさっきまで動くそぶりも見せなかった青年。
虫の居所が悪かったというより、元々気性が荒いのだろう。どう見ても年下の相手にすさまじい剣幕である。
瞬間的に、橙色のトレーナーを着た小太りのガキ大将が思考を過ぎ去る。
既に青年というかガキ大将は立ち上がっていた。身長差で太一が爪先立ちになる。
「んで何だ!? 人様の荷物に手ェつけようなんてフザケたマネしやがって!」
「わるかったよ、あやまる! あやまるから!」
「ああん!?」
子供の口先だけのその場しのぎ、とでも思ったのだろう。腹が立ってたまりませんと言わんばかりに顔が歪んでいく。
何とかして止めなければ。そうそう、こういう場合ジャイアンはどうしていただろう。
何かヒントが見つかれば、と高性能ロボットの頭脳を絞って、記憶を掘り起こす。
「のび太あー! 殴らせろー!」
最悪だ。
「おいお前!」
頭を抱えそうになった隣で、ヴィータが声を張り上げた。
「太一謝ってるだろ! もうそれくらいにしろよ!」
「ンだと!? 何だてめえ!」
一番やっちゃいけないパターンだった。
「ああっ、ヴィータちゃ……」
「お前こそ何なんだよ、いきなりこんなとこで転がってて! どうしたのか気になるのは当たり前だろ!?」
「人の荷物を勝手に取ろうとしてそれか!」
ここでいさかいを起こすのはよくない。会った相手とは、できるだけ協力体制を取れるようにしなければ。
なんとかなだめなければならないのだが。
ともかく声をかけないことには始まらない。
「ああもう、二人ともいい加減にしてよ!」
「うん!?」
「ああ!?」
二人分の三白眼が同時に突き刺さる。思わず腰が引けたが、ここで引き下がってしまっては止められるものも止められない。
「喧嘩なんかしてたって……」
「うるせー!」
「タヌキはすっこんでろ!」
タヌ……?
「荷物取ろうとしたんじゃねーっての! 心配して見に行ったぐらいでいちいちうるせーな!」
「どう見ても取ろうとしてたじゃねえか! 心配してたのは俺が起きねえかどうかだろてめえいい加減にしろ!」
青年が何か投げ捨てたようだったが、もう構うものか。ネコ型をタヌキと間違えるなんて、侮辱にも程がある。
「ダレがタヌキだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「てめえだクソダルマ! 鏡とか知らねえのか!」
「ダ・ダ、ダ……ダルマと言ったな〜〜〜〜〜〜! 僕は22世紀のネコ型ロボットだぞ! タヌキでもダルマでもないやい!」
「あーもう横からうっせーな! 大体前から思ってたけど、お前どう見てもタヌキだろ!」
「ヴィ……ヴィータちゃんまで! うううううううううう僕の自尊心がボロボロだ! なんて人だきみたちは!
そんなに僕をコケにして楽しいのか! 鬼! アクマ! 取り消せ! 今すぐ取り消せーっ!」
「あ、あのさ……」
「ああ? ヴィータぁ?」
「あたしの名前だ! 文句あるか!」
「僕にあやまる気はないっていうんだね! きみたちがそこまで礼儀のなってない人間だとは思わなかった! まったく親の顔が見てみたい!」
『いねェよそんなモン!』
「……ケッ。どっかで聞いたことあると思ったぜ。なのはがぼろっと言ってたんだ……てめえ、なのはを知ってんのか?」
「なのは!? なのはの知り合いだったら最初っからそう言えよ!」
「ッてめえに言う義理がねえだろ! なんでわざわざ俺がなのはの話を!」
「ンだとこのー!」
「二人で勝手に意気投合してるんじゃない! 僕の話も聞けー!」
「なあ! みんな!」
ふと無理やり張り上げた声が聞こえて、そちらの方を見る。
顔を土まみれにした太一が、むくれた表情で肩を怒らせて立っている。
「……あれ。太一、どーしたんだその顔」
「何してんだお前……ああ、荷物のことはもういい。気に入らねえけど忘れてやらあ」
よくわからないが、いつの間にか丸く収まっているらしい。
だが、そうけろりとした顔をされるのも、なんとなく腑に落ちない。元はといえば、この二人の喧嘩が原因だったのに。
しかし確かに、腹を立ててばかりでも仕方がない。後できっちり問い詰めることにして、この場はひとまず忘れることにしよう。
「なんなんだ、アレ」
「俺に聞くなよ」
それで何なんだお前ら、と青年がふてくされた表情でぶらぶらと立っている。
そりゃこっちのセリフだ、と腕組みをして身長差を埋めようと突っ張るヴィータ。
火にかけたやかんのような空気はどこへやら。
「まったく、二人ともセキニンってもんがないんだから。ねえ太一くん」
ため息をついて見上げると、擦り傷を土埃でコーティングしたものすごい顔で睨みつけられた。
場所は特に移らない。カズマが倒れていた場所で、物陰にこころもち身を隠すようにした以外は、基本的に屋外であった。
建物の散在はあるが、見通しは悪くない。誰かが来たら気づくだろう。
それと、シグナムもまだ近くにいるはずなのだ。
「そこ、もうすぐ禁止エリアなんだけどさ、誰か動けなさそうな人、見なかった?」
「ああ……そういやあの仮面、ンなこと言ってたような気がすんな」
建物に寄りかかったカズマからは、いねえと思うけどな、と気のない答えが返ってくる。
視線の集中を浴びて、申し訳程度に砕けて煤けた一角に顔を向けた。
「少なくとも、身動き取れないようなドジがいる気配はなかったぜ」
「おい、こっち見てしゃべれよ」
「いいじゃねえか別に」
鬱陶しげにヴィータの方向を払う。
うなり声が聞こえた気がしたが、構わず話を続けよう。
「で、なんであんなとこに倒れてたんだい?」
「ん、まあ、色々あってな」
きまり悪げにあさってのほうを向く。
「色々って何だよ」
閉じたままの右目ではヴィータを見られないのか、左目でも視界に移るように首を傾けた。
「前から気に食わねえ奴がいたから、ここらでボコってやろうと思って喧嘩仕掛けてたら、なんか建物が爆発して吹っ飛ばされたんだよ」
「うわ、何だそりゃ」
「ンだコラ」
ほうっておくとすぐ額をぶつけ合わせそうなヴィータに、多くを喋らせるのは得策ではない。
「ボコ……って、カズマ兄ちゃんそれ、その人……」
太一が意図した内容に気づいたらしく、カズマの顔が不機嫌そうにしわを増やす。
動物的な勘とでも言うのだろうか。まったくのバカでもないらしい。
「気に入らねえからブッ飛ばす。生き延びようがくたばろうが、知ったことか。それよりてめえ、俺が人殺しに見えるってのか」
「あ、いや、そういうわけじゃないけど」
「状況が状況だからさ、みんな不安なんだよ」
「そ、そうそう。うん」
また胸倉を掴み上げるかと思いきや、それ以上追及する気はなかったのか、面白くなさそうな顔でまたあらぬ方へ目線を移していた。
「ところでカズマ、爆はつ」
「呼び捨てにすんじゃねえ」
「……カズマくん、爆発の原因なんかわかる?」
「知るか」
それはそうだ。
「まー爆弾とかじゃあなさそうだな」
「なんだお前、わかるのか?」
「まあな。爆弾の爆発ってのあ何度か見たことがある」
答えたカズマの瞳の焦点が、ここではないどこかへ離れていった。
「おい、どうした?」
「……いや、何でもねえ」
すぐに表情は消えた。聞いて教えてくれるような相手でもない。
「で、相手の人は?」
「知らねえな。吹っ飛ばされてそのままだったからな」
カズマがこの通りなら、カズマと喧嘩できるような相手が重傷で動けないということもないだろう。
そもそも「前から」気に食わねえ奴、なのだ。カズマと同類と考えるのが妥当で、そうなるとうかつな遭遇はまた面倒なことになる。
「じゃあ、もうすぐ禁止指定だし、そこの探索はしなくていいね」
そう締めくくると、子供二人は頷いて応えた。
「んじゃああたしの質問だ。なのはは今どうしてる?」
カズマはうんざりしている様子だが、聞けることは聞いておくに越したことはない。
彼には悪いが、途中で打ち切ろうとしたらまたヴィータに挑発してもらえばいいだろう。
「さあな。森の方にいたときに別れたっきりなんでね」
「どこへ行くって?」
「市街地っつってた。行くのか?」
「当たり前だろ!」
ヴィータの目元の陰が晴れている。
「あ、なのはだけか? フェイトは?」
「誰だそいつ」
「えっと……金色の髪をこうやって」
と、ヴィータは両手を握ってこめかみのところへ持ってくる。
「頭の横でふたつ束ねた、なのはぐらいの子なんだけど」
と、その動作をカズマはなんだか複雑な表情で見ていた。ゆっくりと首を振る。
「いや、知らねえ」
「そっか……でも、なのははいるんだな!?」
「今言ったばっかりだろ」
「ああ、そっか……」
目に輝きを取り戻したヴィータにいささか引き気味のカズマが、ふいと視線を泳がせた際にこちらの姿が目に留まったらしい。
「おい」
「ん? なんだいカズマくん」
「さっきからずっと気になってたんだけどよ、お前何なんだ?」
無神経な言い草に、多少気分を害さないでもなかったが、まあ確かにドラえもんは22世紀の人間でなければ縁のないフォルムだろう。
「誰かのアルターか何かか?」
「アルター? なんだそれ」
「知らねえなら別にいい」
「なんだよ……」
何か違う心当たりがあるらしい。
「それじゃあ改めまして。ぼくドラえもんです。22世紀のネコ型ロボッ」
「ネコだあ?」
言い終わる前に、カズマの疑問符が挙がってきた。
太一が目を見開いて振り返る。
「ちょっと待ってええええええ!」
「あん!? ど、どうしたんだよ!」
ヴィータが弾かれたように立ち上がる。
叫びはカズマに当てていたようだが、その意図が届く前に、カズマは次の言葉を口に載せている。
「やっぱどう見てもタヌ
※
「ひどいぞみんな! 放せー!」
強硬な主張もなんのその。
「大変なことになるから、もうその話はやめよう」
「うん」
「カズマ兄ちゃんも。いいよね」
「わーったよ」
三者三様にうんざりした顔で座っている。まるで、ドラえもんが一番悪いとでも言いたげな口ぶりだった。
悪いのは自分ではなく、自分をネコだと認めないあの不良の方なのに、どうしてこんな仕打ちに遭うのだろうか。
「こんな不完全な四次元バッグに体が全部入ったら、もう戻ってこられないんだぞー! わかってるのかー!」
具体的には、デイバッグに首だけ出して無理やり押し込められている。
ヌメヌメともサラサラともつかない肌触りが気持ち悪い。首から下が一体どこへ飛んでいるのか、考えたくもない。
「もうしばらくほっとこうぜ」
「うん……ごめんな、ドラえもん」
辛うじて太一がすまなそうな顔を見せたきり、もう騒いでも喚いてもこちらを見ようともしない。
「カズマ兄ちゃんは、誰か探してる人とかいるの」
「ん」
そう尋ねられた顔に、ひびが割れた。
「……ナイフを持ったガタイのいい奴だ。心当たりねえか」
「? なんだ、それだけか?」
「ああ。知ってるのか知らねえのか」
「オレ、女の人なら、知ってる」
「なんだと!?」
カズマが跳ね起きた。両腕が、逃がすまいと太一をがっちり固定する。
「誰だ! どこへ行った!? 今どこにいる!」
「お、おい、やめろよ!」
ヴィータが飛びつくが、腕力と身長の差は揺るがしようがない。ぶら下がるのが関の山だった。
「で……でもナイフ持ってるかどうかは知らないし……!」
言わなければ代わりに殺すと言わんばかりの剣幕に、太一は必死に対抗する。
「その人、もう死んじまった……」
腕が止まる。
「オレとドラえもんを助けるためにさ……」
動かない。
ちらと目尻で見ると、刃物の先のような表情のまま、カズマは止まっていた。
ヴィータを跳ね飛ばし、舌打ちをして太一を放り投げる。
「なんなんだよお前!」
悪態をつきながら、ヴィータが着地。
「なあ、カズマ兄ちゃん。そいつ……見つけたら、どうするんだ」
「さあな……どうすっかな。少なくとも」
また、遥か遠くを見た。
「ただじゃおかねえ」
触れるもの全てを切り裂く視線。焦りと苛立ちと怨念で粗く研がれた敵意が、少しだけ身をもたげたように見えた。
誰か死んだのだろう。
そう、ヴィータにとっての八神はやてのような誰かが。
また、面白くなさそうに壁に背を預けていた。
「おい、お前」
「なんだよ」
そうでなければ、この向こう気の強い少女が、口を開けば衝突必至の相手の前に立つ理由がない。
「いっしょに行こう。なのはの友達なら、放っておくわけにはいかねーからな」
「いいよ俺は」
「よくねーよ。いくぞ、ほら」
少女の右手が突き出される。
歩くのを手伝ってやるからついてこい、と言うように。
手袋に包まれたその白い手を、カズマはしばらく睨みつけていた。
「わかったよ、行きゃいいんだろ行きゃ」
両手をズボンのポケットに突っ込み、カズマは寄りかかっていた壁から背を離した。
二人並んで、地図の中心部付近――市街地へ向けて歩き出す。
昼下がりの太陽が、歩き出す二人の影をくっきりと描き出して……文字通り手も足も出ない自分はついていくことができない。
置いていく気か。
「こらー! ぼくを出せー! 離せー! 解放しろー!」
「ドラえもんは落ち着いてからな……」
太一が自分の入ったデイバッグをそっと手に取って、このまま運ぶつもりなのか持ち上げ、
「うわっ、重!? あ痛ッ!」
腕の傷が開いたか、そのまま投げ落とされた。
痛いはこっちのセリフだ。
【E-2東部 1日目・午後】
方針:市街地へなのはを探しに行く
【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:右腕の矢傷(処置済・アヴァロンの効果で時間とともに小回復)
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、ドラえもん(首出し)
[思考・状況]
ヤマトやルイズも気がかり。
基本:これ以上犠牲を増やさないために行動する。
[備考]
※アヴァロンによる自然治癒効果に気付いていません。
※第一回放送の禁止エリアはヴィータが忘れていたのでまだ知りません
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ、袋入り
[装備]:無し
[道具]:支給品一式×2、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
基本:ひみつ道具と仲間を集めてしずかの仇を取る。ギガゾンビを何とかする。
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:発熱(経過良好)、疲労/騎士甲冑装備
[装備]:レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはA's(残弾2/3)北高の制服@涼宮ハルヒの憂鬱(騎士甲冑解除時)
[道具]:なし
[思考・状況]
自分が信じるはやての想いに従い、シグナムや殺人者を止める。
[備考]
※第一回放送は一部の死者の名のみ、第二放送は聞き逃しています。
【カズマ@スクライド】
[状態]:中疲労、全身中程度の負傷(打身・裂傷)
[装備]:なし
[道具]:高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)、かなみのリボン@スクライド、支給品一式
:鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)ボディブレード
[思考・状況]
1:なのはが心配というわけではないが、子供たちとタヌキをつれて市街地へ。
2:かなみと鶴屋を殺した奴とか劉鳳とかギガゾンビとかもう全員まとめてぶっ飛ばす。
>>82-86の修正部分です。
◆
きっかけは意志だった。
魔操師アルシオーネとの戦いで傷ついた友を助けたい――そんな意志に、セフィーロという世界は応えてくれたのだ。
「……傷を癒す術だと?」
「はい、そうです。私のその力を使えば、ハルヒさんと有希さんの傷を少しでも癒すことが出来ると思います」
そうは説明するものの、トグサの顔はどうにも半信半疑といった表情が浮かんでいる。
確かに、セフィーロに来た事のない人にそのようなことを話しても、疑われるのが関の山かもしれない。
彼女ですら、君島の言ったロストグラウンドやアルター能力の話やエルルゥの言うウィツァルネミテアや亜人の話を当初は信じられなかったのだから。
だが、ここで意外な助け舟が入る。
「トグサさん、風さんに一度賭けてみませんか?」
「ヤマト……」
「俺もここに来る前にいた世界で、色々な不思議なものを見ました。だから……傷を治す力があってもおかしくないと思うんです」
この時の風やトグサに、ヤマトがデジモンワールドというこれまた不思議な世界を旅していた事など知る由もなかったが、その言葉はしっかりとしていた。
「それに、やらないよりやったほうがきっといいはずです」
「確かに……そうだな。それじゃ、その力とやら、見せてもらうかな」
「……分かりました」
トグサに促されると、風は精神を集中させる。
あの時――傷ついた海を助けようと思った時のように。
ここはセフィーロではないが、不思議と力が集まってくるのを感じる。
もしかしたら、ここも意志が力になる世界なのかもしれない――そう思っていると、彼女の脳裏にあの言葉が思い浮かぶ。
そして思い浮かぶが否や、彼女の口は自然とその言葉を紡いでいた。
「――癒しの、風!!」
穏やかな風がその場に吹く。
それはトラックの横転する周囲を包み、そして次第に異変が現れる。
「……あれ? 打ち身の痛みが急に退いていく……」
「気持ち悪いのは…………治らんぞ…………」
軽い打撲や擦り傷が治っていくのを見てヤマトが驚きの声を上げる。
「こ、これが魔法だというのか? ――だとしたら」
トグサは横たわる長門に近づくと、体の至る所にあった擦り傷がもう塞がり始めていた。左腕のほうは見た目だけでは分からなかったが。
「信じられない……が、現実として回復してるのか。……じゃあ、こっちも……」
更に今度は昏睡状態だったハルヒの横に跪き、様子を見る。
まず腕の布を取り去ると、矢が刺さり腕に空いた穴は少しずつ塞がりつつある。
そして次に頭に巻いていた布を取り去ってみると……確かに出血は治まっていた。表層の傷も治りつつあるように見える。
……だが、頭部へのダメージはその程度では治ったとはいえない。
頭には脳という人間の生命の根幹を司る器官がある以上、もっと設備の揃った場所でしっかりとした検査のもとに治療法を見つけない限り、本来は治るわけがないのだ。
「……如何でしたか? ハルヒさんや有希さんの容態は良くなりましたか?」
振り返るとそこには様子を伺おうとしている風の姿が。
トグサはやや複雑そうな顔をしながら答える。
「確かに、表層の怪我は大分治ってきてる。……だが、骨や脳に関しては何とも言えないってところかな。病院での検査次第ってことかもしれない」
「すみません、力が及ばなくて…………」
「いや、傷が治りつつあるということは、体内の治癒力が高まっているということかもしれない。……だとすればきっと良くなってるはずだ」
「……そう言ってもらえると嬉しいですわ」
そう言うと、僅かながら風の顔に笑みが浮かぶ。
やはり女の子は笑顔が一番だ――――トグサは先に逝ってしまったあの上司の笑顔はどのようなものなのかと想像しながら思った。
◆
風の治癒の魔法は確かにある程度の負傷の回復を実現した。
――だが、それでもハルヒが依然意識不明なのは事実であり、病院でより適切な処置をするべきであることには変わりない。
それゆえにトグサはトラックの残りの修理を急ぎ、そしてそれを完了させた。
「本当に一人で大丈夫か?」
「えぇ。どうしても気がかりなので」
運転席に乗り込みキーを回しながら問うトグサに、車外にいる風は毅然と答えた。
曰く、彼女には探すべき人物がいて、その人物が放送で告げられた“動けないでいる参加者”かもしれないということでE-4に向かうつもりのようだ。
E-4方面と言えば、激しい戦闘音が断続的に聞こえていた上に、じきに禁止エリア化する場所だ。
しかも、ついさっき車に乗り込んだ直後あたりにはガス爆発のような巨大な爆発音すらあった。
トグサとしては、そのような危険ばかりを孕んでいる場所に少女を一人向かわせたくはないのが本音だ。
だが、この風という少女の決意は確固としており、彼が何と言おうと向かうのは必至であろう。
「すまない。俺が一緒に行ければよかったんだが……」
「心遣いありがとうございます。ですがトグサさんはハルヒさんと長門さん、それに……」
「救いの…………ヒーロー……ぶりぶりざえもんだ……」
「そう、ぶりぶりざえもんさんを治療する為に病院へと向かうことを優先するべきですわ」
「……あぁ。そうだな」
あの横転現場で出会ってしまった以上、見殺しには出来ない。
もうバトーや少佐の時のように死を黙って見過ごすわけにはいかなかったのだ。
「ハルヒさん達をよろしくお願いします。もう誰かがこれ以上亡くなるのは見たくも聞きたくもありませんから……」
失った友の事を思い出したのだろう、悲しげな顔をする風を見て、トグサは決意した。
今度こそ……今度こそミスをせずに少女達を助けてみせる、と。
「分かった。君の力に報いる為にも彼女達は俺が絶対に守ってみせる。……だから君も無事でいてくれ」
「えぇ、勿論ですわ。トグサさん、ヤマトさんもどうかご無事で。……それでは私はそろそろ――」
「――ま、待ってください!」
助手席でぶりぶりざえもんを抱えていたヤマトは、踵を返そうとする風を引き留めると、車を降りて彼女の前へと立った。
そして、長い棒状のもの――鞘に入った一振りの刀を差し出す。
「……丸腰じゃ危険だからその……これを持って行ってください」
「いいんですか? これはあなた方の――」
「構わないさ。もともとの持ち主には俺が説明しておく。それにこっちは車だし武器もまだ残ってるからな」
とは言っても、トラックにあるのはRPGとヤマトのクロスボウ、そして残弾少ない長門の銃くらいであったが。
それでも、徒歩の風を丸腰で行かせるわけにはいかなかった。
「……感謝しますわ。……それでは今度こそ、失礼致します。光さんやエルルゥさんを見つけた時は……お願いしますね」
「あぁ。君も、ホテルに向かう用事がある時はセラスを頼む」
「えぇ。……ではまたいつか」
こうして風はトグサ達に背を向けて歩き出した。目指すは爆心地のE-4。
……それを見送るとトグサはギアを入れ替えペダルを踏み込み、トラックを発進させる。目指すは橋の向こうの病院。
――そして、双方のいなくなったその地に再び静かに風が吹いた。
【D-3・橋付近(南岸) 1日目・午後】
【トラック組(旧SOS団) 運転:トグサ】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:比較的正常、若干の疲労
[装備]:73式小型トラック(運転席)
暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本
[道具]:デイバッグ/支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り17回)@ドラえもん
[思考]:
基本:子供達を護りつつ、脱出の手立てを模索
1、病院までの間、警戒しつつトラックを運転
2、情報および協力者の収集、情報端末の入手
3、タチコマ及び光、エルルゥ、八神太一の捜索
[備考]
風と探している参加者について情報交換しました。
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟、右腕上腕に打撲(回復中)、相次ぐ精神的疲労、SOS団特別団員認定
[装備]:クロスボウ、スコップ(元トラックのドア)、73式小型トラック(助手席)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考・状況]
1、トラックに乗りながら周囲を警戒
2、ハルヒとアルルゥにグレーテルのことを説明。
3、八神太一、長門有希の友人との合流
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
[備考]
ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒、激しい嘔吐感、無視されている、なぜか無傷、SOS団非常食扱い?
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手席)
[道具]:支給品一式 ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー
クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り四回) パン二つ消費
[思考・状況]
基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
1.無視するなって言ってんだろうが貴様ら! ……お願いだからこっち向いてください
2.強い者に付く
3.自己の命を最優先
[備考]
黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。
癒しの風による回復はありませんでした。
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:意識不明、左上腕に負傷(傷は塞がりつつある)、頭部に重度の打撲(出血は止まる。現在回復中)
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
[思考・状況]
基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。
1、気絶
[備考]
腕と頭部にはトグサの服の切れ端に代わり、風の包帯が巻かれています。
癒しの風を受けたものの意識不明の重体という状態は変化ありません。
あえて変化を挙げるならば、「動かすだけで危険」だった状態から、「動かす程度なら大丈夫」な状態に移行した程度です。
【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労に伴う睡眠、左腕骨折、思考にノイズ、SOS団正規団員
[装備]:S&W M19(残弾2/6) 、73式小型トラック(後部座席)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/タヌ機(1回使用可能)
[思考・状況]:
1、疲労回復の為に休息する
[備考]
放送はトグサ達のもとに戻る前に聞いていました。
癒しの風による回復力促進に伴い、添木等の措置をして安静にしていれば半日程度で骨折は完治すると思われます。
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:諸理由に伴う睡眠、右肩・左足に打撲(回復中)、SOS団特別団員認定
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服、73式小型トラック(後部座席)
[道具]:無し
[思考・状況]
1、精神的ショックと疲労による一時的な睡眠
[共通思考]:病院へ向かい、ハルヒと長門、ついでにぶりぶりざえもんを治療する。
[共同アイテム]:おにぎり弁当のゴミ(後部座席に置いてあります)
RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)、マウンテンバイク (荷台に置いてあります)
【E-4 北東部 1日目 午後(15時よりも前)】
【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース】
[状態]:健康、魔力中消費(1/2)
[装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+、スパナ、果物ナイフ
[道具]:紅茶セット(残り5パック)、猫のきぐるみ、 マイナスドライバー、アイスピック、包丁、フォーク
包帯(残り3mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅)
[思考・状況]
基本:光と合流して、東京へ帰る。
1:E-4範囲内に動けない人がいるか捜索、結果の如何に関わらず15時までに脱出する。
2:2で該当者が見つからなかった場合、F-8に向かい捜索する。
3:3の後、ホテル方面へ向かい、出来ればセラスと接触したい。
4:消えたエルルゥが気がかり。
5:怪我人を見つけた場合は出来る範囲で助ける。
6:自分の武器を取り戻したい
7:もし、人に危害を加える人に出会ったら、出来る範囲で戦う。
[備考]
・「癒しの風」について
風の魔法である「癒しの風」はいわゆる回復魔法です。
基本的に人間の自然治癒力を高める効果を持っており、傷や疲労の回復を促進します。
ただし、魔法により傷が完治するということはなく、あくまで回復の補助をするだけに留まります。
よって、切断された部位の接合や死者の蘇生は効果の範疇の外にあることになります。
また、病気や食中毒、疲労を回復することは不可能です。
また、発動には魔力と一定の時間を要し、対象が一箇所に固まっていた場合はそこにいた全員に効果があります。
消費した魔力は睡眠等の休憩で回復することができます。
ギガゾンビの声が途絶えてから、数刻ほどの後。
グリフィスはいまだ、遊園地内で体を休めていた。
「身動きの取れない者、か」
先程の放送で死者の名や禁止区域と共に告げられた、動けない状態にある参加者の存在。
足に怪我を負ったのか、意識を失ってしまっているのか・・・
どちらの理由にしろ、その人物を目指して他の参加者達が集まる可能性は高い。
自分のように仲間を探す者や博愛精神にあふれた者、そして殺し合いに乗った者までも。
現に先程、遊園地の北―おそらくは放送で言っていたE-4の方向から、巨大な爆発音等が響いた。
そのような場所に、策も無く手馴れた武器も無い状態で赴くつもりは、
たとえ、そこにキャスカやガッツが居るのだとしても、グリフィスにはなかった。
さて、この二回目の放送により参加者の大移動・・・・・・特に禁止エリアへと向かう動きが起こるはずだ。
つまり北方にE-4、東方にF-8がある遊園地近辺は、そこを目指す者が通過する可能性が高い。
さらに、今しがたの大砲を使用したような数度の爆発音。
命を捨てようと考えないかぎり、その音を聞いたものはE-4方面に行くのを避けようとするはずだ。
西に行くにしろ東に行くにしろ、今しがた爆発の起こった場所を大きく迂回しようとすると、
山側を越えてゆくか海岸線側を抜ける可能性が必然的に高くなる。
ならば、ここで他の参加者を待ち伏せたほうが効率がいい。
ではどこで待ち伏せる?
西門や北門はE-4に近すぎる。あの爆発を起こした者が現れては本末転倒だ。
やはりF-8側に近い東門か、もしくは南の防波堤で西方の島からの来訪者を待つか。
しばらく悩んだ末に、南方へと足を向ける。
一応、防波堤を確認し、誰も居ないようならば東門へむかう事にしたのだ。
『おそらく誰も居ないだろうがな』というグリフィスの考えをよそに。
防波堤の上を歩く少女の姿を彼が発見したのは、海岸に到着後、すぐの事だった。
そして待ち続ける事、一時間。
「ようやくの到着か」
桃色の髪をした少女が防波堤を渡りきり現れる。
年は十代前半だろうか。黒い外套を羽織ったその少女は、
まるで大切な物を守るように――実際、彼女にとっては大切なのだろうが――男の首を抱きかかえていた。
掛け替えのない者。愛する者の死に、精神が耐えられなかったか。
狂気しか感じないその様は、グリフィスにとっては珍しくも無い光景だった。
それよりも目を引いたのはもう一方。少女が反対の手に握り締めた、無骨な武具。
『戦槌か。少し小さいが・・・・・・無いよりはましか』
思案は一瞬。銃を構えながら、建物の影からその身を曝けだす。
そして、首にしきりに話しかけながら歩く、鉄槌を持った少女に声をかけた。
「少し尋ねたい事がある」
突然の言葉に驚き、振り向く少女。少し浮かせかけた槌をグリフィスは手で制する。
「女を一人探している。褐色の肌に黒い・・・」
「知らない」
そっけない言葉に軽く苦笑すると、その態度が気に障ったのか、幾分硬化した語調で少女は言葉を続けた。
「朝倉涼子って女を知ってる?」
「悪いが、知らないな」
「そう・・・」
しばらくの沈黙の後、少女が再び口を開く。
「じゃあ、死になさい」
言葉と共に、少女の目前に鉄球が現れる。
危険を感じたグリフィスが引き金を引くのと、中空に浮いたそれが動き始めたのは、ほぼ同時だった。
広大な遊園地に今日、幾度目かの爆裂音が響く。
繰り返されるその震えを間近に感じながら、グリフィスは銃を片手に駆ける。
放たれた鉄球はUZIの弾幕を使い防いだものの、その初撃は彼の皮膚を炙り、両耳の聴力を低下させていた。
新たに起こった爆発により、空気が震える。
『その一撃一撃が砲弾並の威力か・・・あの、“不死のゾッド”に負けず劣らずの化け物だな』
心中でそう呟きながらも、グリフィスの顔には笑みが浮かぶ。
「おもしろい、実におもしろいな、ここは!」
煙の向こうに気配を感じ、叫びと共に銃弾を放つ。
連射された鋼鉄は黒煙を貫き、穴を穿ち、その向こうに居る者へと襲い掛かった。
「フライ!」
しかし、その弾丸は敢え無くかわされる。少女が中空へと飛翔したのだ。
「ほう、空まで飛べるのか・・・」
呟きは、少女にまで届くことなく消える。
飛来してくる少女に、グリフィスは後退しながら銃撃を加えていく。
が、同じく放たれた鉄の砲弾により、その弾丸は爆炎と共に対消滅した。
そして、それに続けて、薬莢の排出が軽い音を残して停止する。
舌打ちと共に再び駆ける。彼の笑みはいまだ、消えていなかった。
やがて、その進行方向に一棟の建物が現れる。
グリフィスはそれが何の建物かを確認する事もなく、その内へと飛び込んでいった。
銀髪の男が建造物に逃げ込むのを確認し、ルイズは静かに建物の入り口近くに降り立った。
どうやら、ここは何らかの施設らしい。
出入り口にはドレス姿の娘と共に、“白雪姫のコースター”と大きく書かれた看板が下げられている。
「どうする、サイト?」
建物の扉をじっと見つめながら、ルイズは愛しい少年に問いかけた。
・・・無論、返事はない。けれども、彼女にはその返事が聞こえた気がした。
「そうだよね、深追いはしないんだったよね」
少年の身をひしと抱きしめながら、小さく呟く。
彼女の目的はあくまでも、朝倉涼子だ。こんな所で、時間を費やす必要は無い。
おそらく、この中で待ち伏せしているのだろうあの男に、無駄に付き合う必要も無いのだ。
「・・・これごと壊しちゃおっか。朝に壊した建物みたいに」
ルイズは再度の問いかけ・・・呟きと共に手にした鉄槌を振るう。
現れた鉄球は、まるで砲弾のようにドレスを着た娘へと襲い掛かった。
数分、いや数秒もしないうちに、一階建ての建物は瓦礫の山へと姿を変えた。
「じゃ、行こうか、サイト」
腕の中の少年に声をかけて、ルイズはその場を離れようと身を翻し・・・
「フライ!」
叫びと同時に飛翔、背後から子供ほどの大きさをした物体――小人が飛来し、地面に打ち付けられる。
振り返りざまに、瓦礫の上に出現した者へ向けてシュワルベフリーゲンを放つ。
高速で虚空を走る鋼鉄が、唸りをあげて頂上の人影――白雪姫の人形を襲い、無残な姿へと変える。
ルイズの表情が驚きに変わると同時、その真下にある穴――コースターの入り口から男が現れた。
男は手にした長い紐状の何かを、空中に居る彼女へと向けてを投げつける。
先端に人形の腕を巻きつけたそれは、少女の身体へと絡みつき、そして宙空の一点でその端を静止させた。
「残念だったな、ここでは俺も空を飛べる」
言葉と同時に、グリフィスは飛ぶ。目指すは手前に見える小さな広場。
その中心へと降り立ち、そのままロープを引く。
そして、空中に固定された端が外れると同時、少女の身を地面へと引き擦り落とす。
「ガッ!」
地面に叩きつけられた衝撃に、少女から悲鳴が上がった。
手にしていたものはすべて飛び散り、その表情は絶望へと変わる。
だが、グリフィスはまだ、その手を緩めない。
勢いをつけてターザンロープを振り回すと、遠心力を乗せたまま樹木へと叩きつけた。
全身を襲う二度目の衝撃に、少女はかっと目を見開き・・・そして、そのまま意識を失った。
「終わったか。だが・・・これでは、予定を変更せざるを得ないな」
焼け野原と化し、黒煙の上がる遊園地を見ながら、小さく呟く。
そして、しばらくの思案の後・・・グリフィスは、少女の落とした荷物を拾い集め始めた。
「う・・・あ・・・?」
かすかな肌寒さを感じ目を覚ます。
ルイズの目の前には、オレンジに染まった天井があった。
横たわっていたソファーから起き上がり、周囲を見回す。
そこは夕日の差し込む、狭い部屋だった。もちろん、学院の自分の部屋ではない。
もしかすると、すべて悪い夢だったのかもしれない。
そんな淡い期待が裏切られ、視線を落とす。
「っ!」
そして彼女はようやく、肌寒さを感じた理由に気が付いた。
身につけていたはずのマントとブラウスが消えていた。
スカートは身につけているものの、上半身は申し訳程度に巻きついた白い布地だけ。
露出した肩が部屋の空気に直接あたり、ルイズは身を震わせた。
「どうやら、気が付いたようだな」
部屋の片隅から、突如として響いた声に慌てて振り返る。
そこには、笑みを浮かべた銀髪の男が居た。
「ころす!ころしてや・・・」
思わずあげた怒声は、身体を貫く痛みに妨げられる。
自らの身を抱きしめ苦しむルイズに、男の言葉が届く。
「無理に動かさないほうがいいぞ。骨は折れていないが、全身を打撲している」
楽しそうにそう言いながら、男は足元の鞄を開ける。
そして、その中から水を取り出すと、ルイズにむかって投げてよこす。
目の前に落ちたそれを見ることもせず、少女は男に向けて叫んだ。
「サイトはどこ? サイトを返して!」
「・・・ああ、“彼”なら俺が大切に預かっている」
言葉と共に、男は鞄を指し示す。
その姿を見ると同時に、ルイズは立ち上がり・・・痛みに声を上げ、再びうずくまる。
そんな彼女の様子を見つめながら、男は手にした物を投げる。
ルイズの目前に落ちたもの、それは緋色の鉄槌。
それを即座に拾い上げ、ふら付きながら構える。
そして、目の前の男に向かってシュワルベフリーゲンを放とうとして・・・
男が、鞄を胸元にまで持ち上げている事に気が付いた。
持ち上げていた鉄槌が、地面へと落ちる。座り込んだルイズに向かい、男が言葉を紡いだ。
「交換条件だ、俺の物として働け」
男の――グリフィスの笑みはいまだ、消えていなかった。
【G-5店舗内/1日目/夕方】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:全身に軽い火傷
[装備]:マイクロUZI(残弾数50/50)、耐刃防護服
[道具]:ターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×2(食料のみ三つ分)
平賀才人の首、平賀才人の左手、ヘルメット
[思考・状況]
1:ルイズを利用し優勝を目指す
2:やっぱり剣が欲しい
3:手段を選ばず優勝する。殺す時は徹底かつ証拠を残さずやる
4:キャスカを探して、協力させる。
5:ガッツ……
【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:全身打撲(応急処置済み)、左手中指の爪剥離
[装備]:グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはA's
(強力な爆発効果付きシュワルベフリーゲンを使用可能)
[道具]:なし
[思考・状況]
1:グリフィスに従う
2:グリフィスが隙を見せたらサイトを奪い返した後に殺す
3:朝倉涼子を殺す
4:3のために、朝倉涼子の情報を集める
5:サイトと一緒に優勝して、ギガゾンビを殺す。 手段は問わない
6:サイトに会いに行く
(冗談じゃないわ、何なのよあれは!)
橋のたもとで銭形警部――の格好をした峰不二子が目撃した光景は、あまりにセンセーショナルだった。
うずくまっている少年。少年の下にいる青いタヌキ。地に伏せる少女。ここまではまあ良しとしよう。
少年少女達に襲いかかっていた、斧を携えた女。これもままある。
問題は次だ。
その女に襲いかかった呪いの殺人人形――とても信じられないが、小型のロボットか何かだろうか――人形のような何か。
一見すれば、赤い服を身に纏った値打ちもののアンティークドールのようにも見える。それが、巨大な剣を持って宙に浮かびながら女と戦っていたのである。目にも留まらぬスピードで。時折薔薇の花吹雪なぞを女に見舞いながら。
女の方も女の方で、その速度に全くひけを取らず、互角の戦いを繰り広げていた。
観覧車を破壊できるような戦車が支給されたとしても、もはや不思議は全くない。銃程度では相手にもならないような巫山戯た存在が参加者の中に混じっているのだ。
恐らくは人形が漁夫の利を狙って、勝利を収めつつあった女に対して不意打ちを仕掛けてきたのであろう。
ここはそういう場だ。いつもどこかで殺し合いが起きている。
そして、敗残者が皆殺しの憂き目に遭うことも間違いあるまい。
あの場に残っていれば、自分も皆殺しの対象に加わりかねなかった。
だから不二子は、混乱の隙に乗じて橋を渡り、東へと歩を進めていた。
首輪の解除方法。
疑似餌としてこれ以上は望めないが、絶対にこれに引っかからない魚が二匹いる。端から対象とは考えていない外道だ。
快楽殺人者と、勝利を目指して人殺しに励む者。
前者にとっては、首輪を解除する意味がない。
殺人さえできればいいのであって、首輪のあるなしだとかどうとか、そんなことは一切合切関係ないからだ。交渉を持ち掛けた途端にこちらが殺されかねない。
後者にとっては、首輪を解除されては逆に困るのだ。
勝者になって願いを叶えるためには――正直本当に願いが叶えられるものかどうかは眉唾ものだが――この殺し合いのルールが維持された上で、最後の一人として生き残らなければならない。
ルールを覆す首輪の解除は、むしろ障害として阻止しようとするだろう。
(そういう場合は三十六計逃げるに敷かず、よね)
青いタヌキから情報を引き出す機会を逸したのは惜しいが、それでも命に代えられるほどの価値はないと断言できる。心中してやる義理も価値も、欠片もない。
ビルに置き去りにされていたデイパックは、ほとぼりが醒めた頃にでも改めて取りに行けばいい。橋を通らずとも、駅には電車で行くことができる。
運は自分に向いている。
遊園地での一件。
駅での一件。
橋での一件。
三度もの危機を、自身が危機に見舞われることなく回避しているのだから――
そして、それは唐突に訪れた。
「すみません、話を聞いていただけませんか?」
瞬間、体中からどっと汗が噴き出た。嫌な汗が。
恐らくは四度目の危機。
周囲にはそれなりに気を配っていた。そう簡単に背後を取られるはずがない。それこそルパンのような希代の大盗賊相手でもない限りは。
「こちらもできる限り手荒な真似はしたくありません。冷静に聞いてください」
背中越しに聞こえたのは、随分と若い男の声だった。
声の位置から距離を推測するに、刃物はおろか長物でも届かない。となれば、相手がこちらに向けているのは射撃武器だろう。弓矢か、あるいは銃か。
「私はHOLYに所属する劉鳳と言います。HOLYとはアルター能力者だけで構成された特殊部隊で、警察機関HOLDに属しています。故に、私はこの殺し合いには乗っていません。むしろ惨劇を阻止すべき立場にあります」
聞き覚えのない単語が頻出しているが、それらについて必要以上の考察をしているような余裕はない。
状況は非常に悪い。
劣勢の将棋盤をいきなり目の前に突き付けられたようなものだ。
しかし、まだ詰まれてはおらず、王以外に駒が全くないわけでもない。盤上には、こちらの駒も僅かではあるが残されている。
まず一点。この声の主が銭形警部とは遭遇していないであろうこと。
もう一点。少なくともすぐにこちらを殺すつもりがないこと。
後者については、未だ予断は許されない。
こちらと同じように、無害もしくは有用を装って他者に近付き、情報を引き出して用済みになれば始末しようと企てているのかもしれない。
もちろん単純なお人好しである可能性もあるが、それに賭けるのはあまりに楽観的に過ぎる。本性を見極める必要がある。
とはいえ、できることは少ない。
その中から最も正しい選択肢を選び続けなければならない。
不二子は両手を上げて敵意がないことを示しつつ、ゆっくりと振り返った。
そこに立っていたのは、一人の青年だった。
不二子からすればまだ青臭いガキでしかない。そのガキが、何の武器も持たず、離れたところでただ突っ立っている。
あまりの無防備さに不二子は思わず気が抜けそうになる――が、思い留まった。
この態度が自信の現れであることは間違いない。自信に根拠があるかどうかは、現時点ではどうにも判断は付かない。根拠がないと断定することもできない。
アルター能力とやらが、銃にも勝るものであるという可能性があるのだから。
こちらの思惑などつゆ知らず、青年は淡々と続けた。まるで演劇の通し稽古でもしているかのように。
「この辺りを何人かの危険人物が徘徊しています」
(それが貴方じゃないことを心から祈ってるわ)
そんなことを胸中で毒づきつつも、不二子は大人しく青年の話を聞く。
「何者かに追われていたとお見受けし、失礼ながら声をかけました。それは長髪の女子学生か、赤いコートの男ではありませんでしたか?」
幸いにして、危険人物の情報は先程仕入れたばかりだ。ここは正直に答えておくのが得策だろう。
「いや、ワシが追われていたのは、一人は斧を持ったポニーテールの女で。もう一人は説明しづらいんだが、何かこう、ぱーっと薔薇の花びらに囲まれてな。おたおたしているうちに、その中から赤い服を着た人形が――」
「赤い服の人形だと!」
そんな怒声と共に、突然胸ぐらを掴まれた。
あっという間に間合いを詰められたことにも驚嘆を禁じ得ないが、それより何より変化があまりに急すぎる。行動に合わせて態度まで豹変している。
「しかも薔薇の花びら!? その人形、西洋のビスクドールのような出で立ちではなかったか!?」
最悪の事態に備えつつ――懐には銃が忍ばせてある――声を詰まらせながらも不二子は答えた。
「あ、ああ、言われてみれば、確かにそうだったかも――」
「そうか……私にあらぬ疑いを抱いたほどだ、疑心暗鬼に囚われて魔道に堕ちることも十分に考えられる。もしそれが本当ならば、桜田には悪いがいずれは真紅も断罪せねばならんな」
ようやっと解放され、ごほごほと咳き込みながら――咳き込む振りをしながら、不二子は一人納得していた。
あの冷静な対応は、予想していた通り全て演技だった。
そして、本性は予想とは全く異なっていた。
こいつは真性の正義馬鹿だ。銭形警部のようなタイプとはまた別の。悪を滅することに恍惚さえ感じていそうだ。先の発言からしても、滅すべき悪が増えそうでむしろ喜んでいるように思える。
加えて、ちょっとしたことですぐに熱くなる激情家。
これほど御しやすい相手もそうそういない。
駒が次々と手元に戻ってくる。内心では笑いが止まらなかった。少しでも気を抜けば、思わず笑みがこぼれてしまいそうなほどに。
こちらが青年にとっての悪とならない限りは、危険を及ぼされることはない。逆に保護してくれるだろう。
同じ正義を志す同志とまで認められれば、惜しみない協力すら得られるに違いない。
まずは、青年から出来うる限りの情報を入手する。特にアルター能力とやらについて。それが確固たる能力――あの女やら人形やらに匹敵するような――であれば、利用価値は極めて高い。
無償かつ強力なボディガードを手に入れられるのだから。
その為の第一歩として、赤い服の人形という共通の情報をこちらから提示できたのは大きい。以後のこちらの言葉に、勝手に真実味を付与して受け取ってくれる。
そして、ここでまた一つの選択肢が発生する。
このまま銭形警部の姿を利用するか、それとも本来の自分の姿に戻るか。
銭形警部の姿における最大のメリットは、首輪の解除方法を餌にできることだ。
この無駄に明後日の方向へ正義感を燃やす青年にとって、目下最大の悪であろうギガゾンビ。それを打倒――いや、断罪するためには必ず必要な情報なのだから。
警部という立場もまた、青年の共感を得やすいかもしれない。幸いにして本物と全く区別のつかない身分証もある。
問題は、銭形警部と面識のある者と遭遇してしまう可能性をどうしても排除できないことだ。まずは次元。生きていればルパン。あとは、この舞台の中で銭形警部と何らかの接触を持った者達。
しかし、もし策がバレそうになったとしても万策尽きるわけではない。逃げおおせさえすれば、不二子の姿で再度接触を試みることもできる。
一方で、最初から本来の自分の姿を晒す最大のメリットは、その安定性にある。
何故変装していたかという理由も、こんな場所で女の身一つでは怖くて支給品の変装道具を使って男装していたとかどうとか、今ならいくらでも説明のしようがある。
信頼できる人に思えたので正直に話したと言えば、青年も気を良くするだろう。
ただし、色気を武器として使えないことには注意しなければならない。下手をすると売女呼ばわりされた挙げ句に断罪されかねない。
まあ色気だけが武器ではない。なれば、か弱い女性を演じて保護欲をかき立ててやるだけのことだ。か弱さの中にも聡明さや芯の強さをうまく演出できれば尚よい。
不二子の姿でも、ただの保護対象ではなく、もう一歩進んだ同志ともなれるはずだ。
(さて、どうやってこの坊やを籠絡してあげようかしら?)
銭形か、不二子か。
どちらを選んだとしても、それが最良の選択であることには違いない。今までと同じように。自分にはその確信がある。
不二子が持つ希代の悪女としての勘は、ますます冴え渡っていった。
【F-4〜5境界/北部道路上/午後】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:銭形警部に変装中/健康
[装備]:コルトSAA(装弾数:6発・予備弾12発)、銭形変装セット
[道具]:デイバック、支給品一式(パン×1、水1/10消費)、ダイヤの指輪
[思考・状況]:
1:青年からより多くの情報を引き出す。
2:青年のアルター能力が有用なら口八丁で騙し利用する。
(銭形の姿と不二子の姿、どちらを使うべきか吟味)
3:F-1の瓦礫に埋もれたデイバッグを後で回収。
4:ルパンが本当に死んでいるか確認したい。
5:ゲームからの脱出。
[備考]
※E-2の戦闘について、少年少女達(ドラ、ヴィータ、太一)は全滅、
女(シグナム)か人形(真紅)のどちらかが勝ち残ったと判断しています。
【劉鳳@スクライド】
[状態]:中程度の疲労、全身に中程度の負傷(打ち身と裂傷が主)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式、斬鉄剣@ルパン三世、SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱
:真紅似のビスクドール(目撃証言調達のため、遊園地内のファンシーショップで入手)
[思考・状況]
1:男(銭形警部の変装をした不二子)が悪かどうかを見定める。
2:長門有希(朝倉涼子)を見つけ出し、断罪する。
3:カズマと決着をつける。
4:ゲームに乗っていない人たちを保護し、この殺し合いから脱出させる。
5:そのためになるべく彼らと信頼を築く。
6:主催者、マーダーなどといった『悪』をこの手で断罪する。
7:赤いコートの男(アーカード)を見つけ出し、断罪する。
8:老人(ウォルター)を殺した犯人を見つけ出し、断罪する。
9:男の発言が真なら、真紅とポニーテールの女(シグナム)を見つけ出し、断罪する。
10:余裕が出来次第ホテルに向かう。
11:必ず自分の正義を貫く。
[備考]
※朝倉涼子のことを『長門有希』と認識しています。
※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。
※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。
※真紅の特徴が一致したことから、男を信用する方向に傾きつつあります。
無色透明の川の水が北から南へと流れていく。
水流は地図の外から始まっているようだ。
次元はわき腹を水で浸しながら、さっきまで小次郎がいた方を見た。
人影は無かった。彼は再び、川の流れを見て思った。
(地図の外ね)
圭一と出会った時、首輪の情報を喋る彼を同行者のレナは嫌そうに見ていた。
次元は考えた、レナはあの時点でもう手遅れだったんだなと。
あの戦いの時、圭一にはレナを止められる大きな自信があった。
気絶させる以上の攻撃手段でなければ、彼女を止められなかったに違いないと考えた次元でさえも、惨劇を回避できると思ったほどの力強さを感じた。
圭一が思った通りの彼女なら成功したに違いない。
それが失敗したのは小次郎とソロモンの邪魔もあるが、それ以前にレナが説得などに耳を貸せない状態でゲームに参加させられたからだ。
「あの野郎……」
証拠は?と言われると出せる材料が無く詰まってしまうし、元から主催者に公平さなど欠片も期待していない。
だが次元の勘がゲームのルール以外においても、惨劇の火種がいくつか仕組まれ、最初から何人かは優勝などできない状況で参加させられてると教えたのだ。
(クソッ……病院に行きてぇ所だが……)
シャツを破いて作った包帯を腹に巻きつつ、次元は自らの治療場所をどこにしようかと考える。
病院はゲームに乗った参加者にとって、絶好の狩場だ。
ゲームに乗っていない参加者を助けてやりたいのは山々だが、自分ではまともに戦えない上、かえって警戒される。
それでも針と糸、消毒できるもの、ギプス代わりのものが欲しい。
次元は川から目を逸らし、北を見た。何メートルか進めば地図の外だ。
首輪の事は話半分に聞いていた。
よって次元には真偽を確かめる気はあの時はなかった。
だが失敗したとはいえ、圭一はレナを命がけで助けようとしたのは紛れも無い真実。
大した情報とは思えなかった。それを知るあの4人もいない。
自分より情報を掴んでいたかも知れなかった、ルパン達仲間もいない。
(グダグダ嘆いても始まらんな)
それでも次元は口元に笑みを浮かべた。
彼はしっかりとした足取りで北へ向かって歩き出した。
★★★
橋を渡り終え小次郎は前方を何気なしに見、自分の状態と所持品を頭に思い浮かべた。
左腕の切断面と右腕には自らの服の切れ端を巻いて止血してある。
彼のデイパックには圭一達の遺品がいくつか納められていた。
彼の視線の先はB−1エリア。
(危険区域か……仮面の男が言っていたな)
今は静養が優先と思いつつも、身動きの取れないバカとやらが手練であればと期待する。
彼は笑みを浮かべながら、慎重に前方へ進んだ。
★★★
一時間はとうに過ぎただろう。次元は草むらに身を潜めつつ、首輪爆破も敵の襲撃もなかった幸運に微かに安堵のため息をつく。
緊張もあるが、だいぶ疲労が取れてきたように思える。
(大した奴だったぜ、圭一)
言ったとおりだった。首輪爆破には30秒間の猶予があった。
ギガゾンビが何の対応も取っていない事から、別にバレても問題の無い情報だろう。
それを自覚しつつも情報に間違いが無かったこと事実が次元には少し嬉しかった。
(お次は……っと)
次元は気配を消し、足音を忍ばせながらB−4へと進む。
A−4に20数秒間進入するために、ソロモン達の元へ向かう為に。
★★★
B−1に収穫はなかった。
校舎内で改めて治療を終えた小次郎は食事を取りながら、今後の方針を考える。
片腕では奥義を使うことはもうできない。
かと言って、この機会を放棄するつもりは無い。
小次郎は残った参加者の事を考えた。
ここに至って生き残っている参加者は、誰もが只者ではあるまい。
参加前は無力であっても、今は明らかに強くなっている者もいるに違いない。
(ならば私も……それに習うまで)
仮面男の機嫌取りするつもりはない。
歯ごたえのある相手と戦う、それが望み。
次の放送が終わる頃には、参加者のほとんどが小者ではなく敵という対等の相手だ。
ハンデを自覚しつつ、サシの勝負以外においても勝者を目指すべく、次の戦いに備えて小次郎は休憩を続けた。
★★★
「埋葬してやれなくて、すまねえな……」
ソロモン達の遺体を草むらに移動し終えた、次元は謝罪の言葉を口にする。
蒼星石の首輪を回収したかったが、今は諦めた。
次元は情報をメモしつつ、思案する。
太陽はすでに赤く染まっている。
(30秒ルールをいかにうまく伝え、いかに活かすか……)
次元はメモをし終えると、どこに行こうかと考えた。
【A-5・北部/一日目/夕方】
【次元大介@ルパン三世】
[状態]:疲労(小)、ショック、わき腹にケガ(激しく動き過ぎると大出血の恐れあり・一応手当て済み)
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@ヘルシング ズボンとシャツの間に挟んであります
[道具]:支給品一式(水食料一食分消費)、13mm爆裂鉄鋼弾(34発) 、首輪の情報等が書かれたメモ2枚
[思考・状況]
1:どこに行こうか?
2:殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す
3:圭一と蒼星石の知り合いを探す
4:怪我の治療ができる場所(できれば病院以外)を探す。
5:ギガゾンビを殺し、ゲームから脱出する。
6:仲間を見つけられたら、首輪を回収する。
基本:こちらから戦闘する気はないが、向かってくる相手には容赦しない
【A-2・校舎内/一日目/夕方】
【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(小)右臀部に刺し傷(ほぼ完治)、左腕喪失(肘から先)、右腕に怪我、満足気
[装備]:レイピア、鉈
[道具]:ドラゴンころし、リボン、ナイフを背負う紐、双眼鏡(蒼星石用)、ハリセン、望遠鏡、ボロボロの拡声器(運用に問題なし) 、蒼星石のローザミスティカ、支給品一式4人分(水食料二食分消費)
[思考・状況]
1:日が落ちるまで、校舎内で休憩
2:とりあえず優勝を目指す
3:セイバーが治癒し終わるのを待ち、再戦。
4:ドラゴンころしの所持者を見つけ、戦う。
5:物干し竿を見つける。
基本:兵(つわもの)と死合たい。戦闘不能と判断した者は無視。
※次元は禁止エリア内でも爆破まで30秒の猶予があることに気づきました。
※ソロモン、圭一、レナ、蒼星石のディパックは放置されています。彼らの死体は草むらに隠されてます。
※リボン、ナイフを背負う紐、双眼鏡(蒼星石用)、ハリセン、
ンバットナイフ2本は放置されています。
※蒼星石のローザミスティカは尚も光り輝いています。しかし誰かの元へは向かいません。
※佐々木小次郎の左腕(肘から先)もエリア内に放置されています。
訂正です。
※リボン、ナイフを背負う紐、双眼鏡(蒼星石用)、ハリセン、
ンバットナイフ2本は放置されています。
↓
※コンバットナイフ2本は放置されています。
追記
※ナイフ2本はB−3の橋を渡った所で放置されてます。
次元はそれに気づいていません。
密室に、女が三人固まっている。
そのうち二人はティーンエイジにすら達していないような、年端も行かぬ少女。
もう一人もどこにでもいそうな主婦然とした三十歳位の女だ。
いずれの顔にも、緊張感はない。
もし、ここに自動小銃ででも武装した者が乱入し、その引き金を引けばどうなるだろうか?
抵抗する間もなく、全滅するだろう。
そして、彼女たちはここがそんなことが起こり得る場所だということを忘れていた。
電光表示版が"3"を表示す。
ぽーん、と軽快な音を立ててエレベータの扉が開く。
男が一人、待ち構えていた。
「9秒04……」
男は……その紅い髪を尖らせた奇妙な男は、エレベータの前で珍妙なポーズを決めた状態でみさえ、光、なのはの三人を待ち構えていた。
「また一つ世界を縮めた……。何と言うスピード。俺は間違いなく宇宙最速……」
どうやら三人が乗り込むと同時に非常階段を駆け上がって、一人先行していたらしい。
エレベータと競争するつもりで。
「「ガキみたい」」
みさえと光の言葉が同時に突き刺さり、クーガーはぴしり、と音を立てて石化する。
彼の価値観の全てが否定されてしまった。
「おい、てめえら。勝手に先行するんじゃねえよ」
ガッツが遅れて階段を登って来る。彼が見慣れないエレベータを前に戸惑っている間に女三人でさっさと上にあがってしまったからだ。
『三階で待ってるわよ』
『みさえさん、クーガーさんとガッツさんがまだ……』
ポチッ
『上へ参るギガ〜』
以上、回想終了。待ち伏せがあるかもと止める暇もなかった。
「あんた、もってたあのデカい剣はどうしたの?」
「あんなモン狭い室内で振り回せるか。それよりここで敵が待ち伏せしてたらどうするつもりだったんだ、お前等」
「いいじゃん、疲れてるんだし。それに急ぐんでしょう?」
「そう! 急いでいるなら早い方が便利! 快適! 有効!」
石化していたクーガーが割り込んでくる。
流石宇宙最速の男クーガー。回復するのも早い。
「それよりもひばるちゃん、約束の件は覚えてるんだろうね?」
「ひかるだ」
「わかってるってひばるちゃん。そんなことより!皆の探し人を見付けてくれば、
約束通りこの俺と宇宙最速の座をかけた勝負の決着を付けるんだよ!」
「だからあれはヘンな道具のせいだって……」
二人の話をまとめるとこういうことらしい。
『クーガーが人探しのために物凄いスピードで走っていた』
『たまたまその進路上に居合わせた光がうっかりデンコーセッカなる道具を暴発させて、クーガーを上回るスピードで逃げ出した』
『スピードのみに価値を見出すクーガーは自分より速い者の存在に我慢が出来ないので光に再挑戦したい』
『……………………………………………………。
……アホか』
それが光、みさえ、ガッツの感想だった。
つまりこういうことか?こいつは己の自己満足の為に貴重な支給品を使いきってくれと、そう頼んでいるわけか?この殺し合いの真っ最中に?
こいつはバカだ。真性の。
結局、彼の能力、ラディカルグッドスピードの力を借りる代わりに、ある程度状況が落ち着いたところで彼との勝負に応じてやるということに落ち着いたらしい。
光もどちらかと言えば、売られたケンカは買うタイプ。
しかし、この状況でなりふり構わず何の利にもならないバトルを繰り広げるて消耗するような余裕はない。というかそんなことするバカはクーガー以外いない……多分。
勝負に応じてやらないことには、協力を得る所か光を誘拐しかねない。
つくづく先が思いやられる。
「ところで私があの道具を使った時、クーガーの後ろに誰かいたよーな気がしたんだけど」
「ああイオンさんのことか」
「イオンさん?」
「ええ。美しくかつなかなかに気丈で仲間想いなお嬢さんだった……」
「え? じゃ、じゃあその人は今どこ?」
「ハッハッハッ、何を言っているんだい。最速を目指すのに余計なデッドウェイトは足枷となるだけ。ウェイトアミニッウハサムッ。あの地点に置いて来たに決まってるじゃないか」
バシ――――――――ン!
クラッシュシンバルで思いっきり殴られていた。
「バカなッ!? この俺の回避が0.03秒も遅れたッ!? 真逆君ッ俺の思考を読んで……」
「クーガーのバカッ! 女の子一人置いてきぼりにしてどうするつもりなんだッ!」
「いやはや俺としても痛い所を。しかし心配はナ――――ッシング!俺の支給品を全て差し上げておいた!俺の見込んだ女性だ、きっとうまくやってるに違いない!」
崩れた髪型を瞬時に直しながら言いきる。その自信は一体どこから出てくるのだろう。
「あ、あのクーガーさん」
「なんだいなのかちゃん?」
「……そ、その支給品って何だったんですか?それがあんまり役に立たない物だったら心配ですし……」
「うーん。ビミョーなラインだね。斧とヘンな形をした篭手だったかな」
「……篭手?」
「ああ、赤い宝石がはめられていて炎を模したようなデザインの……」
「私のエスクードじゃん……」
光は頭を抱えた。どうやら彼女にとって大事な物だったらしい。
「と、とにかく部屋に入りましょう! 早く怪我した人の治療をしないといけませんし!」
「そ、そうだね!ゲインとセラスが待ってるし!」
光は305号室の前に立つと呼び鈴を押した。
◇ ◇ ◇
セラスは元警察官だ。
訓練の一環として、初歩的な応急処置の実習は受けている。
しかし吸血鬼となってヘルシング機関に配属されてからは、その再生能力ゆえに無用の長物となって、以降全くおさらいしていない。
いまさらながら、まじめに復習しておけばよかったと瀕死で呻くゲインを前に後悔する。
セラスに出来ることといえば、ガーゼと共に包帯を巻いて、時々上から傷口を氷水で冷やす事くらい。
止血しようにも、動脈がどこか判らない。
あとは縄梯子などといった非常脱出用の道具の位置を確認する事程度しか出来ない。
セラス自身の傷もいつもと比べると回復が遅い。
放っておけば直るだろうと一切処置をしていないが、自分の怪我にもなんらかの措置が必要かもしれない。
再び傷口を冷やすために氷を取りに冷凍庫に向かおうとした時、部屋の呼び鈴が鳴った。
足音を忍ばせて扉の前まで寄り、ドアスコープを覗く。
一時間ほど前に別れたばかりの少女が立っていた。
本人だとは思うけど、まあ一応確認。
『誰だ』
「セラス! 光だよ! 治療が出来る人を連れてきた!」
ガチャガチャと音を立ててながら鍵とチェーンを外し、少女を招き入れる。
「ヒカルちゃん! よく無事で……で、後ろの人達は?」
「セラス、話は後でするよ。それより早くゲインを!」
光に続いてぞろぞろと人が入ってくる。
紅い髪を逆立てた伊達男を先頭に、主婦っぽい東洋人の女、光よりもさらに幼そうなツインテールの髪型の女の子、そして前のマッチョマンよりもイカツイ顔をした隻眼の大男……。
?
隻眼の男が持つ装飾が施された剣に既視感を覚える。
しかし、またずいぶんと人が増えた物だ。
「自己紹介は後回しにするとして。で、治療できる人ってのは?」
「俺が薬を持ってる」
大男が背負っていた三つのデイバックを下ろして、その内の一つの中を探る。
始めに出て来たのが剣と言うにはあまりにも大きすぎな鉄塊。
そして次に出て来たのは人形だった。
背丈20cm足らずの褐色の肌の女で甲冑を着て……。
「あのー。この人形と良く似た人をさっき見たよーな気がするんですが」
「人形じゃねえよ。おまえの仲間を斬り殺した本人だ。ヘンな道具で一時的に小さくしてある」
「え。じゃ、じゃあどうしてこんな奴を」
「俺の仲間だ」
次の瞬間、セラスは彼に向かって襲いかかっていた。
光が止める間もなく、前に立つ三人をすり抜けて掴みかかろうとしたその時、セラスの体が宙に浮き、床に叩きつけられた。
「やれやれ、せっかちなお嬢さんだ。嫌いじゃないがね、そう言うの」
見上げると伊達男がセラスの上で足四の字固めをかけている。
力を込めても起き上がれない。
常人離れしたパワーを持つ吸血鬼が完全に押さえ込まれていた。
「糞ッ! はなせッ!」
「待ってセラス! そいつは怪我してる!」
よく見ると確かに小さくなった女の左脚があらぬ方向に折れ曲がっていた。
「でもッ! そいつはみくるちゃんとゲインさんを!」
光以外の女二人はおろおろするばかり。
女を持つ隻眼の男が溜息をつく。
「おまえはそいつをどうするつもりだ?」
簡単には起き上がれそうにないので、セラスは取り合えず自分の殲滅対象に男が入っているかどうかを確認した。
「守る」
抹殺確定。セラスは渾身の力で伊達男ごと宙に跳び上がると、その勢いで彼を天井に叩きつける。
天井に人形の穴が開いて、伊達男は四階に投げ出された。
そのまま一気に隻眼の男に向けて必殺の右ストレートを……。
「待って!」
三十歳位の女が男の前に立ちはだかる。
顔面を殴り飛ばす寸前でセラスは止まった。
「……どいてください。あなたもそいつの仲間なんですか?」
「協力者よ、男の方の。女の方がここで何をしたか知らないけど、彼はゲームに乗ってないと証言するわ」
場が膠着状態に陥る。
セラスに拳を納めるつもりはない。
隻眼の男もうかつに動けないので、いまだに女を抱えたままで居る。
しかし、それも数秒の間。
おずおずと言った感じで女の子が割って入った。
「あの……セラスさん……でしたよね?わたしたちがここに来たのはゲインさんを治療するためと、もうひとつ、E4エリアが閉鎖される前にみんなの探してる人を確認しあおうっていうためなんです」
「協力してるって事?」
「はい。手分けして探すのに人手が必要ですから。この男の人には、殺し合いに乗っちゃったこの女の人を小さくして無力化する道具を借りる代わりに、人探しに協力してもらっているんです」
「……」
ゆっくりとセラスは拳を下ろした。
褐色の肌の女と隻眼の男を睨み付ける。
「別にお前達を信用した訳じゃない」
「ああ、お互い様だ」
「さあ!話がまとまった所で迅速に本題に移ろう!E4閉鎖までもうすぐ一時間!時は金なり!タイムイズマネー!」
いつのまにか四階に投げ飛ばしたはずの伊達男が戻ってきている。
どうやって戻ってきたか気にはなったが、セラスは一応謝っておく。
「あの〜〜。すみません、さっきは投げつけちゃって」
「ハッハッハッ!ノープロブレムだよお嬢さん! この神速の男にかかればどのようなダメージであろうとたちどころに回復!」
「は、はぁ……」
またヘンな人だと、セラスは思った。
◇ ◇ ◇
大男の持っていた傷薬は素晴らしい効果をあげたと言えるだろう。
腹部からの出血は止まり、左手足の切り傷に至っては殆ど塞がってしまった。
だが、外傷を塞いだだけであって、体内の損傷には余り効いていない。
顔の血色も依然悪いまま。
放っておけば感染症の恐れもある。
出来れば光の友人である風の能力の助けが欲しいところだ。
ゲインの治療と全員の自己紹介を終えた後、皆はそう結論付ける。
「OK! ひばるちゃんの友達くーちゃんにみなえさんの御子息じんのすけとセナスさんの仲間ノグサそしてなのかちゃんの友達のフェムトちゃんをここに集めてくれば良い訳だ!
ハハハハ! その程度宇宙最速たるこの俺にかかれば朝飯前! いや今だったら昼飯前!
みなさんがゆっくりランチを楽しんである間にラディカル・グッドスピードで縦横無尽右往左往東奔西走南船北馬に一っ走りして疾風迅雷一朝一夕電光石火速戦即決で全員の雁首そろえてみせよう!
それではストレイト・クーガー今から早速行って参り……」
「待て」
ガッツに足を引っかけられ華麗に転倒する。
即座に起き上がった、同時に崩された髪型を直しながら。
「待て!? この俺に待てと!? 止まれと!? それは無理だナッツ駄目だ不可能だ! 何故なら俺は決して止まれない男!
マグロが何故泳ぎつづけるか判るか!? 泳いでいないと酸欠になるばかりか水深を維持できないからだ! 沈むのが嫌なら泳ぎ続けるしかない! そう俺は……!」
「……誰かこいつを黙らせろ」
「バルディッシュ、お願い」
"Yes Sir!"
なのはの手にあった金色の宝石が黒い戦斧の様な形状に変化する
"Assault Form"
「レストリクトロック!」
斧から放たれた光の輪がクーガーを拘束する。
「ノォォォォォォ――――――――ウ! オーブストラクショ――――ン!!」
バルディッシュに付いていた説明書はデタラメではなかったらしい。
クーガーさんごめんなさいと謝るなのはを尻目に今後の予定を確認する。
中心に地図を広げ、五人で車座に座る。
時計を見ながらセラスが言う
「十二時には戻ってくると言っていたトグサさんはいまだ音信不通。しかし彼の名前は正午の死亡者発表で呼ばれなかった……」
「そいつがホテルを襲撃したメイドとグルでないと仮定すると、仮面の野郎が言っていた"身動きの取れない参加者"がそいつである可能性は高い……」
「みんなで脱出するためにも、彼が持っている"技術手袋"は何としても回収しないといけないわね」
ガッツとみさえもあいの手を打つ。
「たとえそれがトグサって人じゃなくても私達で助けないと」
「他人の心配なんてしてる余裕ねえぞ」
「でもフェイトちゃんや風さん、しんのすけ君もその人を助けに向かっているかもしれません。動けないのが本人の可能性もあります」
光となのはからも積極意見。
B1エリアはもう封鎖されているが残りの二つならまだ間に合う。
「トグサさんは私にここを動くなと言っていたから、少なくとも誰かはここに残しておきたいけど……」
「先ほどの術でこのガキが戦力になることが判った。俺とクーガー、光、セラスを加えて戦えそうなのはキャスカを除いて五人。時間も迫っているしE4方面とF8方面の探索組を二組と居残り組の計三組に別れる」
「どう人数を振り分けるんだ?」
光が尋ねる。
いつのまにかこの場のガッツがまとめ役になっていた。セラスも渋々と言った感じでそれに合わせている。
頼りになりそうな大人はガッツを除けばセラスとみさえくらい。
みさえは非常事態には慣れていないし、セラスは集団の上に立って指揮した経験がない。
「俺以外の戦力四人を二人ずつ、探索組と居残り組に割り振る。みさえはホテルに残れ。俺は単独で別の方に探索に出る」
それを聞いた四人は戸惑う。
「ここに残すのはみさえさんとあとひとりにして、探索組を二人二組にした方が良いんじゃないですか?」
「いや、俺一人の方が都合が良い。この中では俺が一番信用されてないし、俺もお前達を信用してねえ」
「待ってよガッツ、一人で出歩くのは危険だ。動けない人を襲おうとする奴だっているかもしれない」
「相手の身動きが取れないからってわざわざ出向いて止め刺す奴なんざ、実力もたかが知れてる。それに何方かと言えばホテルの方が危険だ。
崩落する危険性もある上に、六時間の間に二回も強力な実力者の襲撃を受けている。デカくて目立つから集合場所として使われることが読まれてるんだよ」
彼の言うことに一理がある。
E4エリアの閉鎖まで後一時間ほどとなった今、余計な議論で時間を浪費する訳には行かない。
「待って」
声をあげたみさえに注目が集まる。
「ホテルにはガッツ、あんたが残りなさい。探索組は残りの四人を振り分けるといいわ」
「おい……」
「ちょ、ちょっと待ってみさえさん!」
ガッツに対する不信が残っているセラスがクローゼットの上に置かれているキャスカを指さしながら反論する。
「この女の仲間と一緒になんてゲイナーさんを置いていけないよ!」
「それにホテルに残る方が危険って言うなら、探索組を減らしてでもホテルの戦力を増強した方が……!」
「駄目よ」
光の意見も聞き入れない。
「あなたにとって風ちゃんって子が大切なのと同じ。わたしは一刻も早くしんのすけを見付けて守ってやりたい。でもそれは私が死んでしまったら元も子もないわ。それにわたしだけだったら、きっとこの状況でしんのすけを守り通せない。
だから怪我人を守れるギリギリの妥協点までホテルの防衛を絞って、残りは全て探索に当てたいとそう言っているのよ」
「ガッツさんはそれでいいんですか?」
「こいつは私に借りがあるからいいのよ」
「……」
みさえはガッツとキャスカを見比べた。
「それにゲームに乗ったって言うこの女の人を止められるのは、たぶん彼だけよ」
「おい、俺はまだ認めて……」
「あんたも、ちゃんと彼女と話し合いなさいよ。逃げてばっかじゃ何も解決しないんだから」
「おい……」
この中で一番ガッツと信頼関係があるのはおそらくみさえだろう。
ガッツの仲間であるらしいキャスカと、いまだに意識を回復していないゲインを一緒にしておくのは気がかりだが、これ以上問題が少ない組合せはセラスらには考え付かない。
ガッツもあきらめた。いずれにせよいつかはキャスカと向き合わねばならないのだ。
「……他にもゲームからの脱出に役立ちそうな奴を知ってたら、ここで言っとくといい。誰か心当たりはないか?」
とりあえず使えそうな道具を交換しながら最後に声をかけておく。トランシーバーの機能を持っているらしい糸電話に似た道具と、銃器類の弾薬、予備の支給品をデイバックに仕舞いながらセラスが考える。
「あの真っ青なジャック・オー・フロストならなんか知ってるんじゃないかな」
「ジャック・オー・フロスト?」
「ああ、そういえばいましたよね、お面のひとに話しかけてた雪ダルマみたいな……ひと?それともロボットかなぁ?」
と、テキオー灯を貰ったなのは。
「雪ダルマかなぁ、あれ。私にはパンダに見えたよ」
スペツナズナイフとオペラグラスを受け取りながら光がそう反論する。
「ドジョウじゃないかしら?」
と、もう一方の糸電話と石ころ帽子を手に取ったみさえ。
ああでもないこうでもないと参加者の一人らしき青い何かの正体について議論になる。
「あのー、みなさーん。そろそろ俺動いてもよろしいでしょーかー」
魔法で拘束されたクーガーの存在は完全に忘れ去られていた。
【D-5/ホテル3階の一室/1日目/日中〜午後】
[共有道具]:
バトーのデイバッグ:支給品一式(食糧ゼロ)、チョコビ13箱、煙草一箱(毒)、
爆弾材料各種(洗剤等?詳細不明)、電池各種、下着(男性用女性用とも2セット)他衣類
茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている)(茶葉を一袋消費)
ロベルタのデイバッグ:支給品一式(×6) マッチ一箱、ロウソク2本、
9mmパラベラム弾(40)、ワルサーP38の弾(24発)、極細の鋼線 、医療キット(×1)、病院の食材
ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:全身打撲(治療、時間経過などにより残存ダメージはやや軽減)
精神的疲労(小)
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、ハンティングナイフ、ボロボロになった黒い鎧
[道具]:カルラの剣@うたわれるもの、スペツナズナイフ×1、銃火器の予備弾セット(各120発ずつ)
首輪、支給品一式、デイバック2人分
[思考]
1:ホテルでセラスらの帰りを待つ。
2:契約により、出来る範囲でみさえに協力する。
他の参加者と必要以上に馴れ合う気はない。
3:まだ本物かどうかの確証が得られてないが、キャスカを一応保護するつもり。
キャスカに対して警戒、恐怖心あり。
4:殺す気で来る奴にはまったく容赦しない。
ただし相手がしんのすけかグリフィスなら一考する。
5:ドラゴンころしを探す
6:首輪の強度を検証する。
7:ドラえもんかのび太を探して、情報を得る。
8:沙都子の事がやや気にかかる 。
9:グリフィスがフェムトかどうか確かめる。
基本行動方針:グリフィス、及び剣を含む未知の道具の捜索、情報収集
最終行動方針:ギガゾンビを脅迫してゴッド・ハンドを召還させる。
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)、峠は越した
[装備]:パチンコ(弾として小石を数個所持)、トンカチ
[道具]:支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)
[思考・状況]
1:まだ安静にすべき。
2:市街地で信頼できる仲間を捜す。
3:ゲイナーとの合流。
4:ここからのエクソダス(脱出)
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:スペツナズナイフ×1、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、ウィンチェスターM1897(残弾数3/5)
[道具]:基本支給品一式、糸無し糸電話@ドラえもん、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)、石ころ帽子@ドラえもん、スモールライト@ドラえもん(電池切れ)
[思考]
1:本心では居ても立ってもいられない。
2:ホテルでセラスらの帰りを待つ。
3:契約によりガッツに出来る範囲で協力する。
4:しんのすけ、無事でいて!
5:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る 。キャスカを監視。グリフィス(危険人物?)と会ったらとりあえず警戒する
基本行動方針:ギガゾンビを倒し、いろいろと償いをさせる。
【キャスカ@ベルセルク】
[状態]:気絶、左脚複雑骨折+裂傷(一応処置済み)、魔力(=体力?)消費甚大 、
10分の1サイズ、鼻血(鼻穴に布を突っ込んで処置している)、両手を縛られている。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(一食分消費)
[思考・状況]
1:不明
2:混乱
3:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。
4:グリフィスと合流する。
5:セラス・ヴィクトリア、獅堂光と再戦を果たし、倒す。
【D-5/ホテル】
【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]:腹部に裂傷(傷は塞がりましたが、痛みはまだ残っています)、日中は少し不調
[装備]:AK-47カラシニコフ(29/30)、スペツナズナイフ×1、食事用ナイフ×10本、フォーク×10本、中華包丁
[道具]:支給品一式(×2)(バヨネットを包むのにメモ半分消費)、糸無し糸電話@ドラえもん、バヨネット@ヘルシング、AK-47用マガジン(30発×3)、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)
[思考・状況]
1:二手に別れE4かF8を捜索。その後一旦ホテルに帰還。
2:時々糸無し糸電話でみさえと連絡をとる。
3:キャスカとガッツを警戒。
4:ゲインが心配。
5:アーカードと合流。
[備考]:※セラスの吸血について。
大幅な再生能力の向上(血を吸った瞬間のみ)、若干の戦闘能力向上のみ。
原作のような大幅なパワーアップは制限しました。また、主であるアーカードの血を飲んだ場合はこの限りではありません。
【獅堂光@魔法騎士レイアース】
[状態]:全身打撲(歩くことは可能)軽度の疲労 ※服が少し湿っている
[装備]: 龍咲海の剣@魔法騎士レイアース
[道具]:鳳凰寺風の剣@魔法騎士レイアース、エスクード(風)@魔法騎士レイアース、スペツナズナイフ×1、支給品一式(×2)、デンコーセッカ@ドラえもん(残り1本)、オモチャのオペラグラス
[思考・状況]
1:二手に別れE4かF8を捜索。その後一旦ホテルに帰還。
2:風と合流。
3:キャスカを警戒。
4:ゲインとみさえが心配。
5:状況が落ち着いたら、面倒だがクーガーの挑戦に応じてやる。
基本:ギガゾンビ打倒。
【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:二手に別れE4かF8を捜索。その後一旦ホテルに帰還。
2:そのあと宇宙最速を証明する為に光と勝負さしてくださいおながいします。
3:なのはを友の下へ連れてゆく。
4:証明が終わったら魅音の元へ行く。
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:健康、悲しみ、友を守るという強い決意
[装備]:バルディッシュ・アサルト@リリカルなのは
[道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り18品)、テキオー灯@ドラえもん、支給品一式
[思考・状況]
1:二手に別れE4かF8を捜索。その後一旦ホテルに帰還。
2:フェイトと合流。 フェイトにバルディッシュを届けたい。
3:はやてが死んだ状況を知りたい。
4:カズマが心配。
[備考]
シグナム、ヴィータは消滅したと考えています。
*エルルゥの傷薬@うたわれるもの を使いきりました
*捜索対象にドラえもん、フェイト、トグサ、しんのすけ、風、(魅音)、技術手袋、スモールライト用の電池などです。
*情報交換は短時間に終わったので他の知り合いの情報は満足に行き渡っていない可能性があります。
*キャスカ以外で今まで食糧を消費した者はバトーのデイバックから食糧を補給しました。
午後五時。
新たな発表まで残り一時間。
グリフィスとルイズは未だに、店舗内に留まっていた。
ルイズが満足に動けなければ、どの道利用も出来ない。
一時間もしたら、行動に支障が無い程度には痛みも引くはずだ。
次の放送を目処に、終わり次第出発すれば良い。
既に互いの名前だけは紹介しあったが、その後は彼女は暇つぶしといって名簿を見ている。
名前が載っているだけの紙。
暇つぶしになるのか、疑問ではあったが紙一枚では何も出来ないだろう。
なにやら、難しい顔で考え事をしているらしいが関係ない。
こっちには、鞄の中に彼女の大事な『彼』が入っているのだから。
「ねえ、あんたキャスカ以外にも知り合いいるでしょ」
不意に質問が飛んでくる。
それは図星でグリフィスも少しだけ驚く。
「…その通りだ。ガッツという参加者がもう一人の俺の知り合いだ。そいつは…俺の手で殺さなくてはいけない人物だ」
ガッツ…か。あいつはどこに居るのだろうか。
俺の最高の友…だからこそ…
「そう、そのガッツの外見は?あとキャスカの外見も教えなさい」
…ふっ、物思いにふける暇すら与えないか。
まあいい、どの道協力させるのに探し人の外見は知ってもらわないと困る。
「ガッツは…君の持っていた首と同じ肌の色だ、髪と眼は黒色で…髪は短髪。キャスカは褐色の肌に眼と髪は同じく黒。
髪はショートだ」
丁寧に説明したつもりだ。
まあ…もう少し細かい説明も必要だっただろうか。
「服装も教えなさい。あと体つきも、丁寧によ」
やはり説明不足だったらしい。
…だが真面目に協力するつもりか、よほど『彼』の首が大事に見える。
その割には、偉そうな姿勢は崩さないが。
服装とむやみに長い名前でも感じたか、やはり貴族のお嬢様か。シャルロットとはまるで違うが。
「ガッツは大柄の男だよ。筋肉で引き締まった体をしている。キャスカは小柄だ。だが良い体つきをしている。
どちらも…甲冑を着ている可能性があるが、はっきりは分からない」
注文どおりに説明してみせた。
これで満足だろうか。
「じゃあ次よ、朝倉涼子は知っている?腕に『団長』と書かれた腕章をしてたわ」
まだ続くらしい。
「いいや、会ってないな」
「そう…じゃあキョン、長門有希、涼宮ハルヒ、シグナム、ヴィータ、遠坂凛、セイバー、以上の中で知ってる人を全て言いなさい」
返答すると、思ったらまたすぐに新しい問いかけか。立場が逆転してしまったようだ、女性としてはキャスカとも、また他の女性とも違う。
性格的には、自分の知らないくらいの、かなりのじゃじゃ馬だ。
「聞いた事が無い名前ばかりだ」
そう答えるが、改めて不思議に思う。
自分とキャスカとガッツの位置から名簿は知り合いが近くに位置されていると思っていた。
だが、彼女が聞いた名前は最初の朝倉涼子にして、違う。位置が遠すぎる。
名簿の位置が知り合いと関係していると言うのは勘違いか?
確認を取ろうか少し迷った。
だが追求することは無いだろう。
探し人など個人の自由。詮索することは無い。
もしかしたら、雑談をして隙を狙っているだけなのか?
だとしたら甘い考えだ。
「…そう、ありがとう」
「待て。どうして俺の知り合いがキャスカ以外にいると分かった?」
向こうは一方的に話を切り上げようとするがそうは行かない。
こっちの質問にも答えてもらおう。
どうして分かったんだ?
「別に大したこと無いわ。ただ私は他に二人知り合いが参加してたからそう思っただけ」
それだけ簡潔に答えると、彼女はソファーにふんぞり返るようにもたれ掛かる。
右手で顔を抑えて酷く疲れているようだ。
さっきのはただの思いつきか?
…まああれこれと考えるのは体力の無駄だ。
相手の少女を再度観察といこう。
…本来であれば女の悦びを教えるのだが、まるでそのような気が起こらない。
上半身を見たときに感じたが、本当に地平線のような身体だった。
あれでは、どうしようもない。
…何もすることが無い。
だが…こうして何もせずに座っていると、過去のことを思い出す。
キャスカとの…そしてガッツとの日々を。
何度も剣を交えた、だが一番記憶に残るのは去り行くガッツを引き止めるべく挑んだ、雪の中での戦い。
あの時、俺はガッツを殺す覚悟で最初の一撃に賭けた。結果は…完敗だった。
それが今思えば、全ての始まりだったのかもな。…いや、それよりもっと前。
ガッツと出会った時に、全てが始まったのかもしれない。
そして俺は、ガッツに敗れた後は…雨の夜にシャルロットに…
「…ねえ、実はいろいろ考えたけど…ガッツって人多分、知ってるわ」
「なんだと」
回想に浸っている状況ではなくなったな。
あまり思い出したくないところに入ろうとしていたので、正直助かった。
しかし…何を言い出すかと思えば…
この女…ガッツを知ってるだと。
やはり…生かしておいて正解だった。
これほど早く利用できるとは。
「…前の放送後に待ち合わせしてたの。次の放送で会おうって…ここから近いし案内してあげる」
…待て、やはり調子が良すぎる。
警戒するべきか…でも本当ならどうする。
それに先ほどの放送と違い、個人間でのやりとり。人だかりが出来る可能性は低い。
「だから…私の荷物を返しなさい」
…やはりそうか、見え透いた嘘だな。
分かってはいたが、少しがっかりだ。
「悪いが無理だ。もし言葉が本当ならそのときに考えてやろう。案内が先だ」
これで嘘なら、謝るだろう。
くだらない小細工をする。
「分かったわ。じゃあ案内してあげる」
即答で答えると、彼女はすぐに立ち上がる。
…本当なのか?それとも引っ込みが付かないだけか?
半信半疑ながら、グリフィスはついていくことにした。
彼女が動けるなら、あそこに留まる必要は無い。
この際、言葉が嘘でも本当でも、さほど関係は無い。
行動の開始が少し早くなっただけ。
こっちには…『彼』の首がある。
爆撃は無理だ。
グリフィスはルイズに案内を任せ、歩いていく。
十五分は歩き続けた。
でもまだつかない。
南下しているために、中心部からは先ほどよりさらに遠ざかっている。
…ここは地図の端。ここで待ち合わせなど…いや、ガッツなら待ち合わせに目立つ建物や中心部は避けるか…だが。
場所は大きな紳士服売り場の近く。
外にもマネキンがスーツを着ているディスプレイがいくつも置かれている。
もっとも、グリフィスはマネキンやスーツなどには関心は無い。
…嘘だな。冷静に考えれば分かることだ。今までの移動には方向性が感じられない。
嘘をついて、引っ込みが付かなくなったんだろう。ここは俺から切り出してやらないと駄目か。
「女、嘘だろ。ガッツに会ったのは…まあいい、許してやる。だからこれからは俺のためにはたら…」
「ここよ」
女が足を止めた。
ここが待ち合わせ?
「ここに来るはずだわ。放送まであと二十分ぐらいだし、すぐに来るはずよ」
自信満々な口調で答えている。
その言葉から嘘は感じ取れない。
…本当にガッツと?
グリフィスの心は震えていた。
ガッツと再会出来る。
喜びと、そして憎しみがいろいろ混ざった複雑な心境で。
彼女に隙を見せないよう、最低限の気は使うが、心は既にガッツに向いていた。
すると…その期待に答える様に…黒髪の大柄の男と黒髪の褐色の女が並んで歩いてくるのが見えた。
「ガッツ…キャスカ…」
グリフィスは二人を見つけた。
予想に反して、キャスカも現れたのだ。
遠くで顔はよく見えないが、何となくだが二人と感じた。
先ほどルイズに説明したのと、ほぼ同じ姿で現れたせいもあるだろうか。
根拠も無く、そう感じていた。
「ガッツ、キャスカ!」
グリフィスは二人の名前を呼ぶ。
過去に鷹の団として戦った戦友の名を。
そして最高の友であり、最も憎らしいガッツの名を。
かつて窮地を救い、自分を慕うキャスカの名を。
だが、二人は背を向けて曲がり角に消えていく。
「ガッツ!?」
なぜだ!
どうして逃げる?
グリフィスは追いかける。
ここまで案内した女を無視して、姿を消した曲がり角へ向かい走る。
鞄とUZIはしっかりと握り締めたまま。
「ガッツ!」
どうして逃げる?
そう言いたかったが言葉が出ない。
二人は俺を無視するように、腕を組んで仲良さそうに歩いていた。
「キャスカ?…ガッツ?」
俺は少し混乱してしまう。
何が何だか分からない。
思わず二人に手を伸ばすが…陽炎のように消え去った。
「…幻覚?」
俺は一言呟くと、額を押さえる。
疲れているのか、あのような幻覚を見るとは。
体中に嫌な汗をかいてしまい、嫌な感じになってしまった。
「…ふう……待て。」
ため息をひとつ、落ち着くと冷静に考える。
彼女が指定した場所で幻覚。まさか…あの女!
まさかと思いつつも彼女の元へ戻ると…彼女は自分に対し戦槌を向けていた。
「…」
黙って鞄を胸元に上げる。
だが、彼女は戦槌を下げない、狂ったのか?それとも…
戦場では、急に狂うことは決して珍しいことではない。
それが、場慣れしてない女ではなおさらだ。
何より、眼がおかしい。視線があやふやだ。それに大事そうな『彼』を掲げたに関わらず表情が変わらない。
やむなく、バッグから先ほど使用したロープを取り出すと鞄は後ろへ投げる。
首があるから攻撃されないという、甘い考えを捨てるためだ。
狂者相手では、目の前の戦いのみに集中しなくては足下を救われる危険がある。
殺すことに集中しなくては駄目だ。
「…死ね」
銃口を向ける。
すると、先ほどと同じように宙に逃げる。無駄だ。
俺はロープを投げる。当然それは簡単に足に絡みつく。
先ほどと全く同じ展開になった。
「今度は一切手加減無しだ」
俺は女を全力で地面に叩きつける。
先ほどより、何か重い気がした。
空を飛ぼうと強く抵抗しているのだろうか…だが無意味だ。
自分のかつての友の幻影を作り出した嫌疑による、憎しみも入っていたのかもしれない。
そのまま、全力で振り回す。
遠心力をつけて、向かい側の赤レンガの頑丈そうな建物に勢い良く叩き付けた。
そしてそのまま、気を失ったであろう女に向かっていった。
「残念だが…トドメだ。狂ったものは邪魔なだけだからな」
ガッツとキャスカの幻影で若干苛立ったのもあるかもしれない。
利用出来ないのは残念だが仕方ない、確実に殺さなくては。
銃弾は節約したいが…わずかに感情的になっているのかもしれないな。
俺は気を失った女の顔面に向けて、至近距離から銃弾を三発撃ち込んだ。
そしてまた一人、この舞台から退場していった。
急がないと駄目だわ。
ルイズは焦っていた。
次の放送まで、あと一時間を切っている。
もし、放送で男の探し人の名が呼ばれたら。
すると何が起こるかなんて、想像も出来ない。
狂い、自分を殺す恐れがある。
いや、それならルイズは喜ぶだろう。
サイトに会いに行けるのだから。
でも、殺さないかもしれない。
サイトに危害を加えたら…
それは死ぬよりも辛い。
その可能性を削除するためにも、一時間以内にグリフィスを殺す必要に迫られていた。
…隙が無い。
あれからグリフィスの行動を注意深く観察したが、隙を見せる気配は無い。
このままでは、一時間はすぐに過ぎてしまう。
落ち着いて、落ち着くのよルイズ。
自分に言い聞かす。そして、気分を紛らわすために先ほど受け取った名簿を見る。
何か現状を打開するヒントがあるかもしれない。
あいつの名前はグリフィス、探し人はキャスカ…二つ並んでいるわ。私とサイトとタバサも三人並んでいる。
そういえば、あの朝倉も長門とキョンと涼宮ハルヒと朝比奈みくると鶴屋は殺すなって…この五人も朝倉と並んでいる。
朝倉涼子の知り合いなら…ちゃんと殺さないと。そうね、苦しめて殺さないと。
じゃあ士郎の前後のシグナムとヴィータと遠坂凛とセイバーは士郎の仲間?…それなら殺すことは無いわね。
サイトが私のところに戻れたのは、私を助けた士郎のおかげだし。
…何脱線してるの?いいルイズ。考えるの、作戦を、サイトを助ける方法を。隙が無いなら作ればいいだけじゃない。
とりあえず…グリフィスの仲間も一人じゃない可能性がある。少なくとも私はサイトとタバサが。朝倉は他に五人もいたならもしかしたら…
いいえっ、そうじゃない。ここは自信を持って聞き出さなくては優位に立つのよ!主導権を握らないと。
「ねえ、あんたキャスカ以外にも知り合いいるでしょ」
自信を持って、それでいて素っ気無く話す。
「…その通りだ。ガッツという参加者がもう一人の俺の知り合いだ。そいつは…俺の手で殺さなくてはいけない人物だ」
予想以上に食いついてきた。
話し方からして、殺すといいながらも、それは微妙な関係なのは間違いない。
それに僅かだけど、口調に変化があった。
チャンス。今のうちに聞き出さないと。
「そう、そのガッツの外見は?あとキャスカの外見も教えなさい」
急いで聞き出す。
わずかにでも変化があった直後に、情報を掘り出さないと。
少しだけ目上目線で話す。相手にしゃべる必要があるように思わせないと。
「ガッツは…君の持っていた首と同じ肌の色だ、髪と眼は黒色で…髪は短髪。キャスカは褐色の肌に眼と髪は同じく黒。
髪はショートだ」
少し迷ってたけど、やっぱり話した。
これは更に聞き出さないと。
「服装も教えなさい、あと体つきも。丁寧によ」
あくまでも落ち着いて、それでいて凛とした声で。
自分の方があなたより上、と思い込ませるように。
精神的優位に立たないと情報は来ない。
ルイズは焦りを隠しつつ質問を重ねる。
「ガッツは大柄の男だよ。筋肉で引き締まった体をしている。キャスカは小柄だ。だが良い体つきをしている。
どちらも…甲冑を着ている可能性があるが、はっきりは分からない」
服装も聞き出せた。
でもこれ以上、会話の流れからグリフィスの情報を聞き出すのは難しい。
不信がられては意味が無いし…グリフィスの情報は諦めて、一応確認に朝倉も聞き出さないと。
「じゃあ次よ、朝倉涼子は知っている?腕に『団長』と書かれた腕章をしてたわ」
これは期待してない。
ただ、会話の流れで話しただけ。
私にも、あなたを利用する意思があるというだけの為のただのカモフラージュ。
「いいや、会ってないな」
「そう…じゃあキョン、長門有希、涼宮ハルヒ、シグナム、ヴィータ、遠坂凛、セイバー、以上の中で知ってる人を全て言いなさい」
予想通りの答えならすぐに質問を続ける。
最初のグリフィスに対する詮索を隠すために、他の質問も多くした方がいい。
「聞いた事が無い名前ばかりだ」
予想通りの返答。
期待してなかったわ。
「…そう、ありがとう」
「待て。どうして俺の知り合いがキャスカ以外にいると分かった?」
どうしてそっちも質問を返すの?
…まあいいわ。ここは返した方が無難ね。
幸い確信に迫るところじゃない。
「別に大したこと無いわ。ただ私は他に二人知り合いが参加してたからそう思っただけ」
正直な問い。
嘘を付く必要はここではあまりない。
私は、これ以上会話を続ける意思は無いという意思表示のために、ソファーに強くもたれ掛かる。
そして右手で顔を押さえる、表情が読まれないようにするのと疲れたという演技の二重の意味を込めて。
…予想通り会話は続かない。今のうちに早く作戦を練らないと。
どうする…言葉では揺さぶったけど、それだけじゃ意味が無い。
隙を作ってバッグを奪っても、戦闘になればすぐに奪い返される。
まずは自発的に、バッグを手から離す状況を作れなければ、そのためには強い動揺を与えなければ。
でも言葉攻めで怒らせては駄目。逆上して、何をするか分からない。
あくまでも、八つ当たり的行動をさせないように。手段としては…もう一度自分との戦いに集中させる状況を…
駄目だわ。さっきも考えたけど…まともにやったら絶対に勝てない。それに私は攻撃出来ないのが読めれている。
せめて…待って、あったわ。アルビオンとの戦争で使った作戦なら。
イリュージョンを使えばきっと…いいえ、きっとじゃなくて絶対に上手く行くようにしないと。
ルイズは自分に言い聞かせる。
そうよ!それにもし…万が一失敗してもエクスプロージョンで自爆すればいい。
そうすれば、私もサイトも塵になるけど…一緒だから怖くないよね。
…これで、失敗の恐怖で緊張して本当に失敗、なんて可能性は消えた。
それなら、後は相手が乗るか一か八かよ。
用意するのはガッツとキャスカの幻影ね。
ガッツは…私が前にアルバイトした店の店長の体に、サイトの髪型の単発を想像してそれを合成。
キャスカは…キュルケの体に、あの巨乳メイドの顔を髪だけ少し短くして合成。
服装は、トリステインの軍の甲冑。
大丈夫…後は…でも待って。
ルイズは考える。
ここでやるのは難しい。
策を思案して間を空けたせいで、グリフィスは冷静さを取り戻している。
それにもし、幻影を見ただけでバッグを手放さなかったら。
その可能性は高い、その可能性を考慮したうえで、後続の作戦も作る必要がある。
最初に考えた…私との戦いに集中させるのも作戦に混ぜたら…いいかもしれない。
知り合いの幻影で心を乱させて、その後で…そのためには一応フェイクがいるわね。
それに…やっぱり私が攻撃するそぶりは必要。これは本当に賭けだわ。命を懸けた…
成功率を高めるためにも、一度場所を移動させた方がいいわね。
よし!一番動揺する言葉を使って…
「…ねえ、実はいろいろ考えたけど…ガッツって人多分、知ってるわ」
「なんだと」
口調が変わった?これは上手く行く!
「…前の放送後に待ち合わせしてたの。次の放送で会おうって…ここから近いし案内してあげる」
少し無理があると思う。
だから、あえてこう付け足さないと。
「だから…私の荷物を返しなさい」
これでさっきの言葉は嘘と思うはず。
「悪いが無理だ。もし言葉が本当ならそのときに考えてやろう。案内が先だ」
やっぱり嘘と思った。
しかも、挑発で返した。最初のわずかの取り乱しを隠すように。
思い通りだわ。
「分かったわ。じゃあ案内してあげる」
だからすぐに返さないと。
これで相手は乗ってくるはず。
仕掛けは完璧。
私は元気に立ち上がる。
まだ少し痛いけど…十分動ける。
グリフィスは予想通り後ろについてきた。
歩き続ける。
とにかく歩き続ける。
引っ込みが付かないだけ、という可能性も作ったから焦らしの他に苛立ちの効果もあるはず。
冷静さをわずかにでも、ほんの少しでも奪うために。
どんな些細なことでもやってやる、成功率を上げるために。
サイトを助けるためなら。
しばらく歩くとちょうどよく、紳士服専門店があった。店外にも商品がマネキンに着られた状態で無数に置かれている。
ここなら、最後のフェイクを使うにはうってつけだった。
サイトが影でサポートしてくれているに違いないと、ルイズは思った。
「女、嘘だろ。ガッツに会ったのは…まあいい、許してやる。だから俺のためにはたら…」
「ここよ」
最高の場所と最高のタイミングで、グリフィスが声を挙げた。
焦りと苛立ちを少しだけ見せた、グリフィスの言葉をさえぎるタイミングも外さなかった。
ルイズは思った。優しいサイトが守ってくれてると、だから…失敗出来ないと。
「ここに来るはずだわ。放送まであと二十分ぐらいだし、すぐに来るはずよ」
しっかりと自信満々な口調で会話の最後を締める。後は、集中!幻影を作らないと。
強く強く集中。
男は私のことなんて視界に入ってない。
好都合。幻影に集中。
思い出しなさい、キュルケの肌の色、メイドの髪の色。
思い出しなさい、あのアルバイトをした店の店長を。
ルイズは強く集中して、『虚無』を発動させた。
『虚無』の初歩の初歩の一つ『幻影(イリュージョン)』により作り出した幻影を手前の建物の影に作り出す。
顔は夕日と影で見えないよう、位置を調整して。
後は、グリフィスにその姿が見える位置まで歩かせるだけだ。
「ガッツ…キャスカ!?」
引っかかった!?
ばれてない…よね。
「ガッツ、キャスカ!」
心配をよそに声をかけている。
でも、顔を見つめられ続けると危険ね。
とりあえず…
二人の幻影は背を向けて去っていく。
「ガッツ!?」
作戦通りに、グリフィスは幻影を追いかけていった。
今のうちに…
ルイズは急いで、無数にディスプレイされているマネキンを一つ道の中央に置いた。
「イル・アール・デス」
錬金を掛ける。
ある程度の衝撃にも耐えるようにマネキンの材質を丈夫な石に変える。
それを済ませると、ルイズは急いで物陰に隠れる。
そしてガッツとキャスカの幻影を消して、自分の幻影を石と化したマネキンに重ねる。
戦槌と構えて、狂ったような眼をさせた自分自身の幻影を。
幻影を消したらほとんどすぐに、グリフィスは戻ってきた。
しかも、真っ先に私自身の幻影に視線を向ける。
あと少し…
「…」
予想通り、サイトの首が入ったバッグを掲げた。
でも無視。あえて表情は全く変えない。
本当に狂ったか、それとも自分には「サイト」そんな大事では無いと、思わせるように。
心苦しいけど、全てはサイトを助けるため。
「…死ね」
少しの沈黙の後、グリフィスはバッグからロープを取り出すと、バッグは後ろに捨てた。
遂にサイトがあの男の手から離れた。
嬉しい…あとは最後の締めね。
サイト、見ててっ!
私は銃口が幻影に向くと同時に、レビテーションを掛けマネキンを浮き上がらせる。
幻影もマネキンとずれないように、位置の微調整を繰り返して。
「今度は一切手加減無しだ」
するとさっきと同じロープで同じような攻撃。
私はマネキンの動きと幻影の動きを重ねるように精神を集中する。
幸い、一度地面に打ち付けた後は、規則的に振り回すだけ。
表情の変化さえ忘れなければ調整は簡単。
だけど、流れが変わる。
そのまま建物にぶつけるつもり?
全神経を幻影とマネキンを重ねることに注ぎ込む。
表情の変化も忘れない、ばれる可能性を確実に排除する。
すると、勢いをつけて向かいの赤レンガの建物にマネキンをぶつけた。
錬金をかけていなければ粉々になって失敗に終わっていたかもしれない。
強化しておいたのは正解だったわ。
「残念だが…トドメだ。狂ったものは邪魔なだけだからな」
グリフィスは私の幻影に銃口を向けている。
まだ幻影と気付いていない。
やっと…終わりだわ。
私は銃声に重ねるように小さい声で呪文を唱える
「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ」
これで十分。最後まで詠唱しては、力を使い果たしてしまう。
それにこれだけでも、人一人なら簡単に消し飛ぶ。
大丈夫よ。あなたの友達のガッツとキャスカも…すぐに送ってあげるから。
私は無防備なグリフィスの背中に『爆発(エクスプロージョン)』を放った。
大きな爆発音。
あの赤レンガの建物は、表面がほとんど吹き飛んでしまっている。
グリフィスの持っていたロープの切れ端や銃の欠片が足下にあるが、私には関係ない。
私は急いでかばんを拾い、すぐに開けて…サイトを助け出した。
「ごめん、ごめんねサイト。寂しかったよね、怖かった?でも助けてくれたよね。もう絶対に離さないから、ずっと…ずっと一緒よ!」
謝ると、サイトに私はキスをする。
エッチな子って思われても良い、舌も絡めて濃厚なキスをする。
さっきまで離れ離れだったんだから、もっと熱いキスがしたい。
サイトの唇を思う存分味わいたい。
私の唇の味を、もっと味あわせてあげたい。
…でも、いつまでもここには居られない。
爆発音を聞きつけて、私とサイトの仲を引き裂く人が現れるかもしれない。
急いで離れないと。
それに…休みたい、魔法を使いすぎたかもしれない。
ルイズはサイトの首を大事に左腕に抱えると、黒い外套を翻し颯爽と歩き出した。
ピンクの長髪を風になびかせて歩く…その姿は悲しいほど美しかった。
オレンジの夕日に染まる空をバックに、ギガゾンビの幻影が映し出された。
【H-5 市街地/1日目/夕方(放送直前)】
【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:全身打撲(応急処置済み) 左手中指の爪剥離 魔力消費大 精神疲労大
[装備]:グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはA's (強力な爆発効果付きシュワルベフリーゲンを使用可能)
平賀才人の首
[道具]:支給品一式×2(食料のみ三つ分)
平賀才人の左手、ヘルメット
[思考・状況]
1:放送確認後、サイトと一緒に落ち着く場所で休む。
2:朝倉涼子を殺す。
3:キョンと涼宮ハルヒと長門有希を殺す。
4:ガッツとキャスカを殺す。
5:2と3と4を実行するために情報を集める。
6:他の参加者を邪魔する物から優先的に殺す(ただし、ヴィータ、シグナム、遠坂凛、セイバーは士郎の仲間なら殺さない)
7:サイトと一緒に優勝して、ギガゾンビを殺す。 手段は問わない
8:サイトに会いに行く
基本行動方針
サイトと一緒に行動する。
【グリフィス@ベルセルク 死亡】
マイクロUZI(残弾数47/50)、耐刃防護服、ターザンロープ、は粉々となり、使用不可能です。
グリフィスの遺体は粉々になり、判別不可能です。
放送直前にH-5で爆発がしました。
周囲一マスには音が響いています。
予防策、とでも言えば聞こえはいいかもしれない。
勝者は一人――それが、この殺人劇に課せられた絶対的なルール。
覆す方法があるとすれば、それはルールを取り決めた張本人を倒すしかない。
セイバーは考える。君島邦彦には、それが可能だったのだろうかと。
主催者を打倒し、複数人で帰還。望みが叶うかもしれないという欲を捨て、何よりも仲間同士の命を重んじた選択。
セイバーには、守りたいという存在がいない。だからこそ、主催者を倒すという意欲も湧いてこなかったのだろうか。
託された君島邦彦の遺品――これは、セイバーが持つには相応しくない。
もし、セイバーがどこかで朽ちるような運命にあったとしたら。
この荷物は、そして君島邦彦の意思は、こんなところで燻っていることを許されない。
だから、この時ばかりは君島邦彦の意思を継ぎ――彼の意思を託すに値する参加者を捜した。
それにはきっと、罪から逃れるための弔い代わり、という意味も含まれていたのだろう。
たとえセイバーが優勝できなかったとしても、勝利者達が栄光を逃さないために。
そして、病院内で出合ったのは眼鏡の少年。
この少年の顔には見覚えがある。たしか、ゲームの開幕時に主催者に食って掛かった少年だ。
彼はセイバーと顔を合わせると大そう驚いた表情を見せ、おどおどした態度で足を止める――が、その瞳には何かをやろうという強い意思が感じられた。
この少年なら、問題ない。
セイバーは決断し、少年に声をかけた。
「何も言わず、これを受け取ってください」
差し出したデイパックは少年の胸の中に納まり、彼は戸惑いを見せる。
これで、君島邦彦への弔いは終わった。
ほぼ自己満足のようなものであったが、それでも構わない。あとは元通り、自身の目的のために優勝を目指すのみだ。
「……待って、ねぇ待ってお姉さん!」
立ち去ろうと背を向けたセイバーに、少年が声を掛けた。
だがセイバーに耳を貸す気はない。次に会えば、彼とて斬り伏せるべき敵となる。
馴れ合いなどもってのほか。この度の行動は、ただ志半ばで散っていった君島邦彦への償いにすぎない。
「友達が……仲間がピンチなんだ! お願い、助けてよぉ!!」
少年が泣きそうな声でそう言わなければ、きっと足を止めることもなかったのだろう。
◇ ◇ ◇
――刻は遡り――
一階に位置する小さな病室。
その室内には、男が二人と女が三人いた。
順に名を上げると、トグサ、石田ヤマト、涼宮ハルヒ、長門有希、アルルゥ。
入り口のドアに取り付けられた小窓からその光景を覗く彼女は、そんな詳細な情報までは知らないのだが。
(ふふふ……来客があったからみたいだから覗いてみれば、思ったより団体さんみたいねぇ)
重傷人を担いで病院に駆け込んだトグサたちは、院内の様子確認を後回しにし、真っ先にハルヒたちの治療に専念した。
そのため、この院内に複数名の先客がいることは知らない。
ギガゾンビに復讐心を燃やす少年がいることも、変わったコスチュームの魔術師がいることも、アルルゥの実の姉がいるということも。
もちろん部屋の外から、密かに優勝を狙う暗黒人形――水銀燈が見ているということも、知らない。
室内の様子を窺いながら、水銀燈は来客たちへの処遇を考える。
程度は分からないが、怪我人と思しき人間が三人……その内の一人は、先ほど拾ったジャンク紛いの女に似ていた。
それを心配そうな目で看病するのは、大人の男が一人と子供の男が一人。
人数は多いが、戦力的には大したことがないようだ。相手の武器にもよるが、隙を突けば水銀燈一人でも十分に壊滅させられる。
(カレイドルビーにこれ以上お荷物を背負われるのも考え物だしぃ……気づかれない内に、一人か二人減らしておくのも手ねぇ)
もし彼等がカレイドルビーと合流を果たせば、怪我人込みの大集団が生まれてしまう。
自身の行動が制限されることを恐れる水銀燈は、これ以上の仲間が増えることを良しとしない。
ならば、絆が生まれる前に手を打つ必要がある。
数時間院内を駆け回って手に入れた毒物を利用するべきか。それとも物陰から奇襲を仕掛けるべきか。
偵察に出てから経過した時間を考えると、そろそろカレイドルビーが心配して様子を見に来る可能性がある。
水銀燈に策を練る時間はあまり残されていない。どれがベストの判断か……早急に決定しなければ。
「はぁー、すっきりした……」
カレイドルビーに嘘の情報を伝え、彼等との接触を遠ざけるという方法もアリだ。
五人もの大集団、ゲームに乗っている者はいないだろうとは思うが、水銀燈と同じタイプの策略家が潜んでいるとも限らない。
「まったくヤマトたちめ。散々わたしを無視した挙句、病院に着いたら薬を渡しただけでトイレに放置とは。どこまで薄情者なのだ」
騙まし討ちの方法を考えるのは得意ではあったが、水銀燈は多種多様な状況を経験してきたわけではない。
このような場合、どういった選択がベストなのか……考えを纏めるには時間を要す。意識を集中させてもすぐには決断できないものだ。
「おい、そこの人形。悪代官みたいな薄気味悪い笑顔浮かべてるお前だ。お前もそう思わんか? まったく、あいつらときたらどこまでも自分たちのことばかり……」
ひょっとしたら、彼等五人以外にもまだメンバーが潜んでいるかもしれない。
水銀燈と擦れ違いになり、今は院内を探索中――しかもその間にカレイドルビーらと接触していたりしたら。
そのケースを考えると、下手に手を出すのは危険だろうか……
「って、貴様までわたしを無視するなバカモノが!」
――怒鳴られて、さすがに気づいた。
彼女の名誉のために説明させてもらうが、決して思案に夢中だったため注意力を欠いていたわけではない。
相手が人間ではなかったというのもあるかもしれないが、一番の理由は警戒する必要がない、というオーラが全身に纏わりついていたからだろうか。
とにかく水銀燈は、意図せずその存在と目を合わせることになる。
病室の向かいに位置するトイレから出てきた、ブタと。
「……」
「おいコラ。なんとか言ったらどうだ」
ブタだ。贔屓目なしで見てもブタだ。どう見てもブタだ。ブタ以外の何者でもない。
はっきり言って、自我を持った人形よりもあり得ない。ブタが二足歩行で、しかも偉ぶった態度で話しかけてくるなど。
水銀燈は考える……このブタも病室内にいる奴等の仲間、いや家畜だろうか。そもそも参加者なのか否か……夜に出合った青い蜘蛛のような例もあるが……。
「あなた、お名前は?」
「わたしを知らんのか? ふん、いいだろう教えてやる。わたしの名前はぶりぶりざえもん。人呼んで救いのヒーローだ」
「……ぷ」
思わず、笑みが零れてしまった。
画策した謀略が成功した光景をイメージするような、悪っぽい笑いではない。純粋に可笑しさからくる笑いだ。
だってブタが……ぷぷっ……おっと失礼。でも…………ぷぷぷっ。
「おいコラ貴様。今笑っただろう? このわたしを馬鹿にしただろう? おい!」
「……ぷっ……そ、そんなことは……ないわよぉ……ぷくくっ…………こぶたさぁん」
「ブヒィーッ!!」
水銀燈の小馬鹿にしたような笑みが気に障ったのか、ぶりぶりざえもんと名乗ったブタは顔から湯気を出して怒り出した。
どうやら典型的なお馬鹿さん――自己を高く見定め、その割には誇りがなく、挑発にも乗りやすい性格をしているようだ。
利用するには逸材と言えるタイプ。水銀燈は一瞬で閃き、翼を広げた。
「うふふ。こっちにいらっしゃい、こぶたさぁん。遊んであげるわぁ」
「人をブタブタと……わたしを愚弄するのもいいかげんにしろよ貴様!」
カンカンに怒ったぶりぶりざえもんは我を忘れ、そのまま水銀燈の飛び去った方へ走り出す。
◇ ◇ ◇
(ふん、相手は所詮人形。いくらなんでも、このわたしが人形などに負けるはずなかろう。
どうやら奴はヤマトたちの様子を覗き見して何か企んでいたようだし、ここらであいつらに恩を売っておくのも悪くはない。
何より、あの人形はわたしを笑いやがった。……許さん。ギタギタのメタメタにしてやらねば)
――以上が、数分前までのぶりぶりざえもんの思考である。
何よりも自分を大切にし、強い者には絶対に逆らわない彼だが、自分よりも弱い者には容赦しない。
常識的に考えて、人形とブタ、どっちが戦闘能力的に優位と言えようか。
ふざけた比較だという意見は至極もっとも。だがこのゲームには喋る人形や喋るブタが参加しているのだから仕方がない。
真面目に考察して、意思を持たない人形が動物であるブタに敵うはずはないが……
「ぶ、ぶぶぶぶぶぶぶブヒィー!?」
――彼、ぶりぶりざえもんが現在陥っている状況を簡単に説明しよう。
まず、さっきまで追い回していたはずの人形に逆に追われている。
立場が逆転した一番の理由は、人形を助けるため加勢に現れた可笑しな格好の女性。
その女性も水銀燈同様、ぶりぶりざえもんの姿を見てブタブタうるさかったので、
「貴様、鏡で自分の姿を見たことがあるのかこのヘンタイ」
と言ってやったら向こうが一言、
「殺ス」
と言って杖からビームみたいなのをぶっ放してきた。
力の差を見せ付けられたのである。相手を怒らせてしまった以上、今さら尾を振ってみても安全は保障されない。
だから冷静にこう判断した。
逃げなきゃ焼ブタにされる。いやん。
◇ ◇ ◇
短足のクセに妙に逃げ足が早いのは、天性のセンスなのだろうか。
逃げるブタを追いながら、遠坂凛ことカレイドルビー――もはや『カレイドルビーこと遠坂凛』とは言いがたい――は複雑な表情を作っていた。
帰りの遅い水銀燈を心配していたら、何故かブタに追われながら舞い戻ってきた。
事情を聞いてみると、どうやらあのブタはゲームに乗っているらしく、しかも複数名の参加者と同盟関係を結んでいるらしい。
こんなブタが殺し合いを……? そもそもブタと同盟結ぶってそれどんな人間よ……。
と疑問にも思ったが、相手が挑発――お察しの通り、コスチュームに関することである――してきたので、試しに程度の低い攻撃魔法を放ってみた。
そうしたら、わき目も振らずに逃げ出したというわけだ。
自分のレベルも考えずに殺し合いに乗ったただの馬鹿ならば、放っておいたところで問題はない。
しかし水銀燈の言うことを信じるならば、あのブタには同盟を結んだ仲間があと五人いる。
レイジングハートにも確認を取ってみたところ、確かにこの建物内にあと五人、参加者の反応があるそうだ。
ブタはともかく、その五人が実力者であるならばマズイ。仲間が出てくる前にどうにかブタを捕獲したいところだが……
「ねぇちょっと水銀燈。そういえば、例の魔力反応は確認できたの?」
「ああ、あれ? 確認してみたけど、女の子の死体が転がってたわよぉ」
水銀燈から得た情報を加え、さらに考えてみる。
のび太の話では、数時間前この病院は虐殺劇の舞台となり、それなりの死者も出たらしい。
あのブタはその時の殺戮者と関係があるのだろうか……もしのび太の知り合いを殺した輩がまだ近辺にいるのだとしたら、なおさら放っては置けない。
『…………』
カレイドルビーはせかせかとした動きで逃げるブタを追い、その手中では物言わぬ杖が人形に対してさらなる疑心を抱き始めていた。
◇ ◇ ◇
一匹のブタを欠いた病院の一室。その中のベッドに寝かされた一人の少女が今、ゆっくりと覚醒の時を迎えようとしていた。
「…………」
憂鬱そうな顔を浮かべ、涼宮ハルヒは消失させていた意識を退屈とは縁遠い現世へと帰還させた。
まず視界に映ったのは、正面。確認できたのは二人の男性だった。
小学生くらいと思しき金髪の少年は、たしかSOS団の運転手として、特別団員に任命した人物のはずである。
初見のもう一人は、ルパンよりも若干若い大人の男性。外見を注視してみるが、ルパンやアルルゥの知り合いとは無関係そうだ。
次に、右隣のベッドを見る。そこでは、ハルヒ自身がデザインしたメイド服を着たままの犬耳少女……アルルゥがすやすや眠っていた。
そして左隣を向く。確認できたのは、逸早く覚醒を済ませハルヒの回復を待っていた、SOS団正規団員、長門有希の姿だった。
「……おはよう有希」
「おはよう」
目覚めたハルヒは、溜め息を吐くでも動揺するでもなく、惚けた声で傍らの長門にそう囁いた。
「どうやら、峠は無事に越えたみたいだな」
「……頭がガンガンするわ。脳がグラグラ揺れてるっていうか……なんだか気持ち悪い」
「意識は回復した。でも、無理は禁物」
風にかけられた治癒魔法がうまく機能してくれたようだ。
全快とまではいかなくても、意識があるのとないのとでは大きく違う。
トグサにヤマト、そして長門も、皆ハルヒの目覚めに安堵の笑みを見せていた。
「……ねぇ、有希」
「?」
「……みくるちゃんの名前、呼ばれた?」
目覚めた直後、ハルヒが一番に訪ねたのは、それだった。
夢の中で起こった一件を信用するわけではない。あのカラシニコフの精とかいうのも胡散臭かった。
しかし、本能は告げ、理解していたのだ。あの夢が予知夢とか正夢とか、そういう類のものであることを。
「……呼ばれた」
「そう」
重苦しいムードが漂うも、ハルヒは決して俯こうとはしなかった。
色々と機転の利く彼女である。この場にルパンがいない理由も、心の底では気づいているのだろう。
「……さて、一番の重傷人も目覚めてくれたようだし、ヤマト、長門。この場を預けていいか?」
「別に構いませんけど、トグサさんはどこへ?」
「電話だ。そろそろ、ホテルで待機しているはずのセラスに連絡してやらないといけないからな」
立ち上がり、トグサは入り口のドアに迫った。
第二放送時点において、屋上から落下し死亡したかと思われたセラスの生存が確認できた。
本当はすぐにでも帰還したかったところだが、怪我人をヤマト一人に任せ放っていくこともできまい。
病院に着いてからも、内部に関してはまだ調査が済んでいなかった。
ひょっとしたら何か有益な情報が転がっているかもしれないし、何者かが潜んでいないとも限らない。
ヤマト一人に任せて内部探索に向かうのは気が引けたが、長門とハルヒが目覚めれば大丈夫だろう。
そう判断し、トグサが退室しようとした正にその時。
「――おい貴様ら! 和やかに談笑しとらんで早くわたしを助けんか!!」
姿を消していたぶりぶりざえもんが、何やら汗だくになって戻ってきた。
見ると、病院中をフルマラソンでもしてきたかのように息を切らし、身体と釣り合わないデカさの頭部を上下させている。
いったい何があったのかとトグサが尋ねようとするが、
「――! 危ないっ!」
「ぶひー!?」
――前の廊下を黒羽の散弾が通り過ぎ、咄嗟にぶりぶりざえもんを室内に引っ込めた。
言及を後回しにし、まずは部屋の外の様子を確認する。
ひょっこりと出した顔から覗けたのは、堕天使のような漆黒の翼を広げた人形サイズの少女。
そしてその隣で杖を構えているのは、アニメキャラクターか何かのコスチュームを着込んだ少女。
一見して、あり得ない組み合わせにも見えた。
訝しげに観察の視線を送るトグサだったが、冷静な考察を練る時間は与えられず、黒翼の人形が容赦なく羽の雨を送り込んでくる。
羽、といってもその鋭さは投擲ナイフに迫るものがあり、命中すれば皮膚が裂けることは間違いないだろう。
「おい、ぶりぶりざえもん! あいつらいったい何者なんだ!?」
「知らん! トイレから出てきたらいきなり襲われたのだ!」
ヤマトに問い詰められ、被害者ぶった弁解をするぶりぶりざえもんだったが、もちろん大嘘である。
騒動の種を撒いたのは他でもないぶりぶりざえもんであり、彼を追っていた二人組――少なくとも、カレイドルビーの方に交戦の意思はない。
しかし、その意思も自己中心主義のブタと画策する人形の二人に妨害されている現状。トグサたちに伝わる術はなかった。
◇ ◇ ◇
「――ちょっと水銀燈! なんでいきなり攻撃を仕掛けるのよ!?」
「あまいわねぇ。相手はゲームに乗っている可能性があるのよ、それも五人。
先手をうってこちらの力を見せ付ければ、不利と感じて逃げ出してくれるかもしれないじゃなぁい」
トグサたちの姿を確認する暇もなく、水銀燈は五人+一匹が潜んでいる病室の前を攻撃した。
カレイドルビーは軽率な行動と見るかもしれないが、彼女もある程度は現実主義者である。
徹底したリアリストを貫けば、今の関係が崩れることはない……あとは、向こうがどう出るか。
「攻撃を続けるわよ」
水銀燈は、相手側が反撃してこれないよう、黒羽による弾幕を張る。
部屋から一歩でも出れば蜂の巣となる状況。逆上して反撃してくれば、カレイドルビーと共にそれを撃退するまで。
戦況を不利と見て窓から脱出を図ろうものなら、カレイドルビーの敵がさらに世に広まるだけだ。
どちらに転んでもおいしい。最悪は集団の中に水銀燈、カレイドルビーの二人がかりでも敵わないような手足れが混じっていることだが、それはまずないだろう。
群れとは、基本的に弱者同士が形成する組織だ。サバンナの草食動物しかり、戦う意思のないもの同士で馴れ合う真紅たちしかり。
自分が発案した計画の素晴らしさにほくそ笑んで見せるが、集団の方に注意がいっているカレイドルビーは、その表情を見ることがない。
◇ ◇ ◇
人形の企みなど露知らず、トグサたちはカレイドルビーと水銀燈の二人をゲームに乗った参加者として捉え始めていた。
何しろ、会話や警告もなしにいきなり襲ってきたのだ。ぶりぶりざえもんの証言と合わせても、他に捉えようがない。
おそらく、初めから病院内に潜伏し、機会を窺っていたに違いない。ハルヒと長門が目覚める前に襲撃をかけられなかったのは、幸いだったと言えようか。
「どうしますかトグサさん? 武器はそこそこあるし、相手が二人ならなんとか……」
「応戦はなしだ。幸運にも脱出経路と逃げる足は揃ってるしな。長門、ハルヒの方は動かせそうか?」
「問題ない。激しい運動は困難。だけど私が運べば」
「そうか。なら長門はハルヒを頼む。ヤマトはぶりぶりざえもん、俺はアルルゥを担いで窓から脱出。外に出たら一目散にトラックへ向かうぞ」
脱出作戦の旨を伝え、トグサは長門の荷物から拝借した銃を構える。
銃口の向かう先は、黒羽がマシンガンに迫る勢いで降り注いでいる室外。
反撃し、その隙に逃走するのかと思われたが、トグサの狙いは他にあった。
銃弾が放たれる。黒羽の嵐をくぐり抜け、屈折のない直線的な軌道で向かった先は――廊下の隅に置かれた、赤い器具。
カン、という軽い音がした後、芯を打ち抜かれたそれは弾け、内部に溜まっていたものを盛大に吐き出した。
即ち――白煙。
「――! 非常用の消火器を撃ち抜いて煙幕を!?」
「考えたわねぇ」
トグサの銃が撃ち抜いたのは、廊下に設置されていた非常用の消火器。
舞い散った白煙を目くらましに使い、その隙に窓から脱出する作戦だった。
病室の窓を開き、トグサたち全員が外に出る。
トグサは未だ熟睡中のアルルゥを、長門は繊細かつ慎重な動作でハルヒを、ヤマトは乱暴にぶりぶりざえもんのパンツを掴み、それぞれを確認し合う。
「よし、全員外に出たな! 急ぐぞ!」
「おいコラ、ヤマト! パンツを掴むな、おケツが見えてしまうではないか!」
パンツが半脱げ状態になっているぶりぶりざえもんの文句は雑音として処理し、トグサたちはトラックを目指した。
トラックが停めてあるのは病院の正面玄関。ここからでは病院をぐるりと半周する必要があり、つまらないことに時間を割いている暇はなかった。
善は急げと走り出す各々だったが、その歩みはすぐに止められざるをえなくなる。
病室から数メートルばかり距離を稼いだあたり。
気品溢れる物腰と荘厳な面持ちで、その女性はトグサたちの行く手を遮った。
誰もが足を止め、その姿を確認する。
視覚が捉えたイメージを簡潔に述べるなら――『騎士』。
西洋風の鎧を身に纏い、両刃剣を右手に携えたその姿は、正しく女騎士と呼ぶに相応しい品格だった。
「あなた方に恨みはありませんが……我が悲願のため、ここで潰えてもらいます」
突如として現れたその女騎士は、逃走経路を塞ぐ障害であり敵。
トグサたちは全員その窮地を理解し、心中で舌打ちをした。
◇ ◇ ◇
何も慈善事業をしにきたわけではない。
あの眼鏡の少年にそこまでの義理はないし、恩を売る価値もなかった。
だからセイバーは彼の、のび太の願いを単なる情報と捉え、戦地に赴いたのだ。
カレイドルビーなるおかしな格好の女性が、人形と一緒に敵の下へ向かっていった。
二人をどうか助けてやって欲しい。それが、のび太がセイバーに託した願い。
情報どおり、目の前には逃走途中の参加者が五人と一匹。しかもその内一人は怪我人、一人は気絶中。
セイバーはこれを好機と捉え、彼等とめぐり合わせてくれたのび太に感謝した。
優勝し、王の選定をやり直す――この殺戮は、その野望への大きな躍進に繋がるだろう。
迷いや戸惑いは、もうない。
情けや良心は、君島邦彦の意思と共にのび太へ託した。
あとはただ、目の前の敵を斬り伏せるのみ――
◇ ◇ ◇
突如として立ち塞がった女騎士に、トグサたちは戸惑いを見せた。
相手が一言の警告と、牽制となる初撃の一閃を放たなければ、次の二撃目で長門の身体は真っ二つになっていたことだろう。
大集団の中、セイバーが一人目の標的として捉えたのは、ハルヒを背負った長門有希。
ハルヒの容態が未だ予断を許さない現状、刺激を与えぬよう長門は人間離れした精密かつ慎重な動作で回避行動を取るが、その配慮が足枷となり本来の機動力が発揮できない。
(――攻撃力、機動力、技術力、共に高水準。現状での交戦は不利。
――加えて、涼宮ハルヒの意識が健在なままでは私自身の力が発揮できない。
――彼女に私の正体を知られるわけにはいかない。別の対応策を考えるべき。
――彼女に一時的に眠ってもらう策を考案。
――だが涼宮ハルヒの容態は回復したばかり。下手に手を加えるのは危険と判断。
――ならば、あの幻覚作用を引き起こす精神誘導装置を使い、相手の足止めを考案。
――そのためには涼宮ハルヒをどこかに降ろし、そして尚且つデイパックからタヌ機を取り出し、起動させるまでの時間が必要。
――必要時間の計算を……)
「長門、避けろォ――!」
(――!)
思考を続ける中、棒立ち状態にあった長門の正面を、袈裟斬りの一閃が飛ぶ。
トグサの警告を耳にし咄嗟の回避を取るが、無理な体勢での動きはハルヒの身体を揺さぶった。
(――緊急回避に成功。だが、涼宮ハルヒに若干の負荷が掛かった。
――思考速度に誤差が見られる。
――どうやら先の戦闘の影響により、情報処理能力に狂いが生じた模様。
――これ以上の戦闘は危険と判断。早急に撤退すべき)
長門とて、アーカードとの戦闘で相当な力を消費した。
ハルヒほどではないとはいえ、情報統合思念体とのコンタクトが取れない現状では、ちょっとした消耗でも窮地に繋がる。
つまり、まだ本調子ではないのだ。
(――この場は涼宮ハルヒの命を最優先。
――最悪、誰かを囮にしてでも彼女の命を守りとお……)
「……ッ!」
一瞬、脳内に走った不穏なノイズを振り払い、長門は逃走に全力を注いだ。
この場の保護対象はトグサ、石田ヤマト、アルルゥ、ぶりぶりざえもんの四名。涼宮ハルヒはその中の最優先すべき存在にすぎない。
一を守るために全をかなぐり捨てるのは、このゲームに肯定したことと同義。
長門はノイズが鬩ぎ合う脳内状況を的確に処理しつつ、最善策を模索する。
その一瞬に、隙が生じた。
「はあぁぁっ!」
咆哮一声、セイバーの剣が長門を襲撃する。
今度の一撃は、セイバーにとっても渾身の一撃。回避に徹していた長門だったが、それでも避けきることは困難だと判断した。
最悪、片腕あたりを犠牲にしてでもハルヒの命を守る覚悟で臨んだ。現状の長門では、セイバーほどの相手に満足に対応することはできない。
カリバーンの剣筋が長門の身体を裂こうとしたその時だった。
不意の衝撃が長門の右半身に伝わり、ハルヒごと左方向へ大きく揺さぶられる。
結果としてその衝撃が幸を呼び、長門はセイバーの剣から完璧な回避を取ることに成功した。
直後に分析する。長門の身体に衝撃を与えたのは、ヤマトの体当たりによるもの。
そして、彼は長門の身体を突き飛ばし剣から遠ざけた代わりに、自身を身代わりにしたのだということを理解した。
「……グッ!」
「ヤマト!」
剣はヤマトの肩口を斬り裂き、鮮血を溢れさせるほどの傷を与えていた。
「自ら割って入るとは……その勇敢な行いには敬意を表しますが、些か無謀ではありませんか?」
「そんなことはないさ。それどころか、たった今アンタを倒すいい作戦を思いついたばかりだ」
足を止め、セイバーはヤマトへ剣先を翳す。
ヤマトは肩口を押さえ、苦悶の表情を作りながらも、正面からセイバーを見据えて立ち向かった。
「トグサさん! ここは俺とぶりぶりざえもんが引き受けます! みんなは先にトラックへ向かってください!」
「馬鹿を言うな! 死にに行くようなものだぞ!?」
ヤマトの急な提案に、トグサはすぐさま異議を唱える。
「俺だって、ガブモンたちと一緒に修羅場は何度も潜ってきたんだ! これしきのことで……死んだりなんかするかよ!!」
だがヤマトはそれをゴリ押しで通し、セイバーの前から一歩も退こうとはしなかった。
トグサにもその強い意思は伝わったのか、自分の不甲斐なさを奥歯で噛み締め、その場はヤマトに託すことにした。
もちろん、このまま彼を放置するつもりはない。彼が時間を稼いでくれることを信じ、自分はすぐさまトラックでヤマトを迎えにくればいい。そう割り切ったのだ。
「ヤマト、あまり無茶はするなよ!」
「はいっ!」
ヤマトと半ば強制的に付き合うことになったぶりぶりざえもんを残し、他の面々は一目散にトラックへと駆け出していった。
◇ ◇ ◇
改めて、ヤマトとセイバーが対峙する。セイバーもヤマトの強い意志を察したのか、無理にトグサたちを追おうとはせず、この勇敢な少年と一対一の対決に臨むつもりだった。
「おい! なんで貴様の作戦とやらにこのわたしが付き合わされなければならんのだ! イヤだ、わたしは逃げるぞ離せコラ!」
「騒ぐな! 救いのヒーローなんだろお前!」
「バカモノ! 今は無期限特別休暇中だ!」
ヤマトの手に掴まれながらジタバタともがくぶりぶりざえもんだったが、時既に遅し。
セイバーは臨戦態勢を整え、いつでも仕掛けられる状態で待機していた。
今、無様に後姿を見せようものなら、即刻斬り捨てられることは間違いなし。
その剣気を肌で感じたぶりぶりざえもんは、観念したのかぐぐぐ……と唸るだけで文句は垂れなくなった。
「ぶりぶりざえもん……お前の支給品、使わせてもらうぞ!」
ぶりぶりざえもんを掴んでいた手を開き、ポケットにしまってあった小瓶を取り出す。
中身は少量の液体。ヤマトはそれを自身の頭部に振り掛けると、髪の毛を抜いて何本か息で吹き飛ばす。
すると摩訶不思議なことに、地上に散布した一本一本の毛が、それぞれヤマトとまったく同じ容姿を持つ個体を形成していった。
その数オリジナルを合わせ計16体。16人の石田ヤマトが、セイバーを取り囲むかのように出現したのだ。
ひみつ道具名『クローンリキッドごくう』。もしもの時のためにぶりぶりざえもんの荷物から拝借しておいた、ヤマトの切り札である。
「分身とは……なかなか面白い真似をしてくれますね」
「コラ! それはわたしが持っていた道具ではないか! 返せ! 今すぐ!」
「「「「「「「「「「「「「「「「どうせお前じゃ使えないだろ! それより来るぞ!」」」」」」」」」」」」」」」」
セイバーは数攻めにも大した畏怖は示さず、正面から剣を振るっていく。
その動きは神速と言っても決して過言でなく、あっという間にヤマトの分身が一体、一薙ぎで切り伏せられた。
しかし、その程度では怯まない。
もとより、ヤマトは時間稼ぎの目的でこの場に留まったのだ。セイバーを倒す術は考えていない。
この圧倒的な数の分身を利用し、オリジナル本体はトラックへと向かう。シンプルかつ効果的な作戦だった。
誤算があったとすれば、ヤマトのセイバーに対する見解だろうか。
ガブモンらと共にデジタルワールドを駆け抜けてきた経験は、確かにこの戦闘においても生きている。
驚異的な力を持つデジモンとは何度も対峙してきたし、それを何度も打ち破ってきた実績もある。
だが、逆を言えば『デジモンでもない人間が猛威を振るう様』というのは、初めて見る光景でもあった。
「――!」
驚愕の声も出せないまま、一人、二人、三人と、ヤマトの分身が次々と薙ぎ払われていく。
セイバーの迷いのない高速の太刀筋はヤマトの常識を軽く凌駕し、実力の差をはっきりと見せ付けていた。
加えて、クローンリキッドごくうにより生成した分身の耐久度は決して過信できるものではなく、逆に、もしオリジナルがあんな風に斬られたら……と不安を駆り立てさえまでした。
自分と同じ姿をした分身が次々に斬られ、死んでいく。予想以上の光景を目の当たりにし焦りが生じたのか、ヤマトは逃走の足を速めた。
その焦りを、セイバーは見逃さなかった。群集の中で、一人不自然に戦地を離れようとする姿がある。
「あれが……本体!」
セイバーは確信し、跳躍。分身たちを乗り越え、一目散にオリジナルのヤマトを狙った。
「クソッ、バレた!」
正体のバレたヤマトは、形振り構わず全力で走った。
追走してくるセイバーは残った分身たちで足止めさせるが、そのどれもが紙くずのように斬り払われる。
だが、距離は十分に稼げた。このまま走り抜けば、セイバーが追いつくよりも先にトグサたちの乗るトラックと合流できる。
そう信じてやまなかったヤマトだったが、ここにきて、あの不安要素がまたしてもやらかしてくれた。
「ふぎゃん!」
妙な声がしたと思い一瞬だけ振り向いてみると――ヤマトの後ろを追走してきたはずのぶりぶりざえもんが、石に躓いて転んでいた。
(あの馬鹿……ッ!)
舌打ちするよりも早く、ヤマトは踵を返して元来た道を引き返していた。
ぶりぶりざえもんとの距離は七歩ほど。ぶりぶりざえもんとセイバーとの距離は十六歩ほど。
余裕はある。ただし、それはヤマトとセイバーの脚力を同等と捉えた場合の計算だ。
セイバーよりも早くぶりぶりざえもんを拾い、再び方向転換。そこから徐々に加速していき、トップスピードに乗るまでに縮まる距離は――ほぼ絶望的だった。
それでも、ヤマトは止まらない。頭では警告が鳴り響くも、本能は停止命令を下さない。
見捨てることが、できなかったのだ。あんなブタでも。
現実は時に残酷で、少年の予想の遥か上をいく。
ぶりぶりざえもんの下へ到着し、ヤマトはそれを拾い上げた。
続けて方向転換、すぐさま逃走を再開しようとするが、ヤマトは見てしまった。
ヤマトを遥かに凌ぐスピードを発揮し、あと数歩で剣が届きそうな間合いまでセイバーが接近してきている――そんな酷い現実を。
このままでは、振り返って背中を見せた瞬間に斬られる。
その瞬間、たったの零コンマ一秒が、永遠のように長く感じられた。
死ぬ。脳が知らせた自身の未来は、覆しようのない確定事項であると認めざるを得ない。
もう、諦めてしまおうか。ヤマトの本能の片隅で、そんな囁きが聞こえてきた。
だが、心は。
ガブモンとの戦いの記憶や、タケルとの兄弟の絆が刻まれたヤマトの心は。
それを、拒否――
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
叫ぶと同時に、肩に下げていたデイパックを振り翳す。
開かれた口から数多の荷物が飛び出し、セイバーを襲う。
(無駄な足掻きを……!)
思い、セイバーは降り注がれる食料やペットボトルの弾幕を斬って払う。
直進する意思に陰りは見えず、あと少しでヤマトとぶりぶりざえもんまで剣が届こうとした。
寸前だった。
「なっ……」
間抜けな声が漏れ、目を疑い、反射的に足を止める。
急ブレーキをかけたセイバーの眼前に突っ込んできたのは、ヤマトのデイパックに収まっていたあるアイテム。
それは、盾だった。盾と言っても、戦士が防御に用いることで知られる一般的なものではない。
例えるならば、巨人が使うような……人間にとっては、盾というよりも壁と表した方が的確なサイズだった。
武装名『ブレイブシールド』。デジモンの中でもずば抜けた戦闘力を誇る究極体――ウォーグレイモン専用の巨大盾である。
その盾が、障壁となって立ち塞がった。それも勢いを増した状態で。
衝突すればダメージを受けることは必至。セイバーは即座にカリバーンを構え直し、ブレイブシールド正面に捉えた。
「ハァッ!」
一閃。
一太刀で斬り伏せるつもりで放った一撃だったが、堅牢なブレイブシールドは僅かな傷を作っただけに留まり、勢いを相殺されその場に堕ちた。
ズシン、と重量感を漂わせる音が響き、一時の静寂を作る。
その間にセイバーは息を繋ぎ、盾の影に隠れた標的たちを確認しようとする。
が、既に影はなし――そしてその直後に、トラックのエンジン音がすぐ身近まで迫っていたことに気づいた。
◇ ◇ ◇
「早く乗れ、ヤマト!」
急停止したトラックを眼前に捉え、ぶりぶりざえもんを抱えたヤマトは最後の猛ダッシュを見せた。
一気に跳躍し、荷台に飛び移る。ヤマトが乗車したことを確認した運転手トグサはペダルを踏み、トラックを加速させた。
「……なぜだ」
荷台の上で息を切らしつつ、ぶりぶりざえもんはヤマトに問いかける。
「なぜって……お前の荷物を勝手にぶち撒けたことか? 怒るなよ、あの時は無我夢中だったんだからさ。
それに、お前のデイパックじゃなきゃあの盾は出てこなかったしな。結果オーライじゃないか」
「違う。わたしが言いたいのはそういうことではない。……なぜ、あの場でわたしを助けたのかと聞きたいんだ」
その質問に、ヤマトは戸惑いの表情を浮かべた。
ぶりぶりざえもんの顔を窺ってみるが、どうやら本人にふざけるつもりはないらしい。
心の底からヤマトの行いを謎に感じ、違和感を抱いている真面目な瞳を向けていた。
そんなぶりぶりざえもんを見て、思わず笑いが零れた。
ああ、そうか。こいつは、このブタは、今までそんな当たり前なことも知らなかったのか、と。
「何がおかしい」
「いや、なに……気にしないでくれ。それよりも、質問に答えるよ。
……それは、お前が『仲間』だからさ。大切な仲間だから、見捨てることができなかった。簡単な理由だろ?」
「仲間……」
さも当たり前のように笑みを浮かべるヤマトに対し、ぶりぶりざえもんは考え込むような面持ちでその言葉を呟いた。
仲間――不思議と、心地の良い響きだった。
それまで仲間なんていう概念を知らなかったぶりぶりざえもんにとっては、呪文みたいに神秘的な言葉で、自分を仲間だと言ってくれたヤマトが、急に心強く思えてきて。
『ぶりぶりざえもんは、困ってる人をおたすけする救いのヒーローなんだゾ』
(仲間……困ってる人をおたすけする……救いの、ヒーロー)
自身の存在意義について、思いなおす。
そもそも、救いのヒーローとはなんなのか。救いのヒーローを名乗る自分は、いったい何者なのか。
それは学術的にも難しすぎるテーマであり、答えなんてそう簡単に見い出せるものではない。
でも、なんとなく。
仲間であるヤマトに触れて、分かったような気がする。
救いのヒーローとは、どんな者のことをいうのか。
「――!」
思いつめたように口を閉ざしたぶりぶりざえもんの後方から、突然物音が聞こえてきた。
何か、トラックの荷台に重たいものが積み込まれたような、重量感ある音が――
「……そんな」
ヤマトと共に振り向き、そして愕然とした。
トラックの荷台には、ブルーカラーを基調とした騎士甲冑を装備する女性――セイバーの姿があった。
信じられないことだったが、トラックがトップスピードに乗る前に追いつき、この荷台に飛び移ってきたのだ。
「これまでの健闘は認めましょう。ですが、もう終わりです」
その無表情は冷酷さをひき立て、ヤマトに恐怖の念を抱かせた。
運転席のトグサは、このまま振り落としてやろうかとステアリングを握る手に力を込めるが、それではヤマトまで落下してしまう。
後部座席の長門は、ただただ隣にいるハルヒを気遣いつつ、ここからでは何も手出しできないという現実に絶望を感じていた。
助手席に座るアルルゥは、一連の騒動でやっと眠りから覚醒したのか、ふわぁ〜っと能天気な欠伸を上げて周りをキョロキョロ見渡す。
そして、ぶりぶりざえもんは。
「ヤマト、メシはちゃんと朝昼晩三食食べろよ」
「は?」
唐突に、母親みたいなことを言われて目を白黒させる。
「寝る前にはちゃんと歯を磨け。宿題も忘れるな。ゲームは一日一時間までだ」
「おい、こんな時に何言って……」
あまりのピンチに精神が狂い出したのだろうか、とヤマトはぶりぶりざえもんの身体に手を伸ばそうとするが、あっけなく振り払われた。
蹄が手の甲を叩き、ジンジンと熱くする。不意の痛みと熱に、ヤマトは怒りを覚えた。
何するんだ――キッと見つめたそのブタ顔は、今までに見たこともないような勇敢な瞳を浮かべていた。
「ヤマト、強く生きろよ」
言って、直後にぶりぶりざえもんが視界から消えた。
その姿を捜し、目で追う――小柄で機敏な二頭身の影は、セイバーの剣撃の間をすり抜けて、ロケットのように宙を舞う。
本当に、ロケットみたいだった。自身の身体をめいいっぱい尖らせて、セイバーに渾身の体当たりをお見舞いしたのだ。
してやったり――微笑むブタの顔はどこか儚げで、頼もしく見えた。
「ぶ――」
ヤマトが手を伸ばす。だが、ぶりぶりざえもんにその手を掴む術は残されていない。
全速力を出していたトラック上、ブタが見せた意地の一撃はセイバーの身体を地面に突き飛ばし、転がりながら遠ざかっていった。
「……ッ」
何も掴めなかった手の平が、虚しく開いて閉じる。
トラックは止まらなかった。止められなかった。運転手は、年長者として皆を危険に晒すような真似を行うことが出来なかったのだ。
ただ虚しさだけが残る。遠ざかっていく背中が、やたらと大きく見えた。
本当は、俺の腰にも届かないはずなのに――
「――ぶりぶりざえもおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんッッッ!!!」
ヤマトの悲痛な叫びは、地に落ちたブタの耳へと確かに届いていた。
◇ ◇ ◇
「……何故、あのような真似を?」
「なぜ……だろうな。わたしにもよく分からん。だが不思議と、ヤマトたちをおたすけせねば、そう思ったのだ」
病院周辺の路上で、セイバーとぶりぶりざえもんは遠ざかっていくトラックを眺めていた。
セイバーにもうトラックを追う意思はない。最高加速に乗った以上、いくらサーヴァントの機動力でもあれに追いつくのは無理があるだろう。
それに、そんな行動は目の前のブタが良しとしないはずだ。
「勇敢なのですね、あなたは」
「ふん、あたりまえだ」
眼前に刃を向けられても、ぶりぶりざえもんは動じなかった。
いつもなら足元から竦みあがり、相手に媚を売るか逃げ出すかしているはずなのに。
何が自分を変えたのか。そんなことはどうでもいい。
今は変わった理由よりも、変われた自分に何ができるかを考える時だ。
「一つだけ問いたい。あなたの、名は?」
セイバーの問いに対し、いつもより誇らしげに返答することができたのは、気のせいだろうか。
「このわたしを知らんのか? ――わたしの名は、ぶりぶりざえもん。人呼んで救いのヒーローだ」
◇ ◇ ◇
全てが終わった後、カレイドルビーは病院で起こった一連の騒動とその結末、生じた問題について整理していた。
場所は病院の正面玄関。傍らには水銀燈とのび太、レイジングハート。そして――車椅子に乗ったまま絶命している、八神はやて。
X線室前にて発見した彼女こそ、ヴォルケンリッター烈火の将シグナムの主にして夜天の書の魔導師である。
レイジングハートが感知したのはどうやらこの少女だったらしく、絶命しているにも関わらずまだ微力な魔力反応が残っているようだった。
しかしレイジングハートはどこか煮え切らないようなことを述べ、
『最初に魔力反応を感知した時には、もっと動きが活発だったように思えるのですが……』
何やら納得のいかない風に押し黙ってしまった。
レイジングハートが何が細かいことで悩んでいるようにも思えたが、カレイドルビーとしてはそれどころではない。
事態はさらに深刻化を増し、問題はなおも蓄積されているのだ。
まず第一に、逃走した集団とそれを追撃した謎の存在について。
集団が消火器を破裂させて逃走した後、カレイドルビーは水銀燈と二手に別れ、彼等を追う作戦に出た。
カレイドルビーは病院内を通り正面玄関から。水銀燈は病室の窓から彼等を直接追跡。
そしてその間、水銀燈の話によると、集団が見知らぬ誰かに襲われていたらしいのだ。
その人物は鎧を着込んだ西洋騎士のような風貌で、騒動の間際に病院を訪れ、のび太に一人分の荷物を託し去って行こうとしたとのこと。
カレイドルビーの身を案じたのび太は、見ず知らずのその騎士に救援を求め、素直に救援に応じてくれたらしい。
だが当の救援対象だったカレイドルビーには姿を見せず、集団をどうしたのかさえ分からぬまま消えてしまった。
水銀燈の証言によると、見失うまでは誰一人死ぬことなく追走劇を繰り広げていたとのことらしいが。
さすらいのヒーロー、とでも呼べばいいだろうか。
目的は不明だが、カレイドルビーには、のび太と水銀燈が述べる騎士の風貌に心当たりがあった。
「セイバー……」
あの衛宮士郎のサーヴァントであるセイバー……もはや彼女しか思いつかなかった。
名簿に記載されていたセイバーがカレイドルビーの知るところのセイバーだったとして、彼女は士郎亡きこの世界で何を目的としているのか。
見ず知らずののび太に荷物を授けたり、助けを求められてそれに答えたり、はっきり言って行動理念が不可解すぎる。
まさか、本気でさすらいのヒーローを気取っているわけでもあるまい。
真相を確かめるためにも、カレイドルビーは一度セイバーに接触する必要があった。
そして、捜し人はもう一人。
のび太がカレイドルビーを心配して待合室を抜け、セイバーと接触している間に、あの変な耳の少女がいなくなっていたらしいのだ。
暗示が解ける頃合を忘れ、あのブタに手を焼いてしまったのはカレイドルビーのミス。
ともあれ、あの少女を放っておくことも出来ない。
ゲームに乗っているかもしれないブタの一派がどこへ向かったかも分からない現状、あんな危うい少女がほっつき歩いていたらどうなることか。
しかも少女の荷物はカレイドルビーが預かっていたため、今の彼女はまるっきり無防備な状態ということになる。
リアリストを貫く水銀燈は、もう放っておきましょうよ、と言うが、ここまできて引き下がることもできまい。
「決まったわ。この周辺であの変な耳の女の子と、助けてくれた騎士の女性……おそらくはセイバーを捜すわよ」
「トラックで逃げていった奴等はどうするのよぉ」
「追撃はなしよ。今追ってもメリットはないし。それより今はセイバーを捜さないと……」
『知り合いにその姿を見られてもよろしいのですか?』
「う、うっさいわね! もうそんなこと言ってられる状況でもないでしょ!」
多少は免疫がついたのか、それとも開き直ったのか、自身のコスチュームに関して深く考えることはもうやめたらしい。
もしかしたら……セイバーはこのコスチュームを警戒して、カレイドルビーが遠坂凛であるということに気づかなかったのだろうか。
「……まさかっ」
「? どうしたのお姉さん?」
「なんでもないわよ! それより、ちゃんとした治療は済ませたんだから、今度はキビキビ歩くのよ!」
「ああ、待ってよ〜」
足が治癒したばかりののび太を先導し、カレイドルビーはイライラした顔つきのまま進んでいった。
その上空で、性悪人形がほくそ笑んでいることも知らずに。
◇ ◇ ◇
(うまくいったわぁ。カレイドルビーはあのブタたちを敵と認識してるみたいだし、色々と戦利品も手に入ったし、いいこと尽くめじゃないのぉ)
集団との接触を阻むという水銀燈の策略は、まんまと成功に終わったわけだった。
途中、謎の騎士による介入にはヒヤヒヤさせられたが、特に事が荒立たなかったようで何より。
それどころか、あの騎士には感謝しなくてはならない。彼と金髪の少年が争ってくれたおかげで、思わぬ戦利品を手に入れることが出来たのだから。
(色々と揃ってきたしぃ……そろそろ新しい計画を考えるのも手ねぇ。それに……あの『本』がいったいなんなのかも確かめなくっちゃ)
微笑む水銀燈のデイパックの中で、ある書物が不気味に鳴動を繰り返していた。
【C-3/1日目/夕方】
【トラック組(旧SOS団) 運転:トグサ】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:若干の疲労、自分の不甲斐なさへの怒り
[装備]:73式小型トラック(運転席)
:S&W M19(残弾1/6)、暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本
[道具]:デイバッグ/支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り17回)@ドラえもん
[思考]:
基本:子供達を護りつつ、脱出の手立てを模索
1、進路を北へ。安全地域まで逃走する。
2、情報および協力者の収集、情報端末の入手。
3、タチコマ及び光、エルルゥ、八神太一の捜索。
[備考]
風と探している参加者について情報交換しました。
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟、重度の疲労、右腕上腕に打撲(ほぼ完治)、右肩に裂傷、SOS団特別団員認定
[装備]:クロスボウ、スコップ(元トラックのドア)、73式小型トラック(荷台)
[道具]:支給品一式、ハーモニカ@デジモンアドベンチャー、デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、
:クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り3回)、真紅のベヘリット@ベルセルク、ぶりぶりざえもんのデイパック(中身なし)
[思考・状況]
1、ぶりぶりざえもん…………
2、ハルヒとアルルゥにグレーテルのことを説明。
3、八神太一、長門有希の友人との合流。
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
[備考]
ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:頭部に重度の打撲(意識は回復。だがまだ無理な運動は禁物)、左上腕に負傷(ほぼ完治)、回復直後による疲労感
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
[思考・状況]
基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。
1、事態が落ち着いた後、眠っていた間の情報整理。
[備考]
腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。
【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:左腕骨折(添え木による処置が施されている)、思考にノイズ(活性化中?)、SOS団正規団員
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/タヌ機(1回使用可能)
[思考・状況]:
1、涼宮ハルヒの安全を最優先。
[備考]
癒しの風による回復力促進に伴い、添木等の措置をして安静にしていれば半日程度で骨折は完治すると思われます。
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:右肩・左足に打撲(ほぼ完治)、状況が掴めていない、SOS団特別団員認定
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服、73式小型トラック(助手席)
[道具]:無し
[思考・状況]
1、んー?
[共通思考]:病院から遠ざかる。進路は北へ。
[共同アイテム]:おにぎり弁当のゴミ(後部座席に置いてあります)
RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)、マウンテンバイク (荷台に置いてあります)
【D-3・病院周辺/1日目/夕方】
【魔法少女カレイドルビーチーム】
【遠坂凛(カレイドルビー)@Fate/ Stay night】
[状態]:カレイドルビー状態/水銀橙と『契約』/少し疲労
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(アクセルモード)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式(パン0.5個消費 水1割消費)、ヤクルト一本
:エルルゥのデイパック(支給品一式、惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん、五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
:市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)、紅茶セット(残り4パック)
[思考]
1:セイバー及び変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。
2:高町なのはを探してレイジングハートを返す。
3:ドラえもんを探し、詳しい科学技術についての情報を得る。
4:アーチャーやセイバーがどうなっているか、誰なのかを確認する。
5:知ってるセイバーやアーチャーなら、カレイドルビーの姿はできる限り見せない。
6:自分の身が危険なら手加減しない。可能な限りのび太を守る。
[備考]: ※緑の髪のポニーテールの女(園崎魅音。名前は知らない)を危険人物と認識。
※レイジングハートからの講義は何らかの効果があったかもしれませんが、それらの実践はしていません。
※レイジングハートは、シグナム戦で水銀燈がスネ夫をかばうフリをして見捨てたことを知っており、水銀燈を警戒しています。
また、今回の一件によりを水銀燈に対する疑心をさらに強めました。
【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:服の一部損傷/『契約』による自動回復
[装備]:ヘンゼルの手斧@BLACK LAGOON、
[道具]:透明マント@ドラえもん、ストリキニーネ(粉末状の毒物。苦味が強く、致死量を摂取すると呼吸困難または循環障害を起こし死亡する)
:デイパック(支給品一式(食料と水はなし)、ドールの鞄と螺子巻き@ローゼンメイデン、夜天の書(多重プロテクト状態)、ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー、照明弾)
[思考・状況]
1:新たな策を練る。
2:カレイドルビーとの『契約』はできる限り継続、利用。最後の二人になったところで殺しておく。
3:カレイドルビーの敵を作り、戦わせる。
4:あまりに人が増えるようなら誰か一人殺す。
5:真紅達ドールを破壊し、ローザミスティカを奪う。
6:青い蜘蛛はまだ手は出さない。
[備考]:※凛の名をカレイドルビーだと思っている。
※透明マントは子供一人がすっぽりと収まるサイズ。複数の人間や、大人の男性では全身を覆うことできません。また、かなり破れやすいです。
※透明マントとデイパック内の荷物に関しては秘密。
※病院のダストBOXから夜天の書他を、セイバーとヤマトの戦闘跡から幾つか荷物を回収しました。
全てデイパックに収納し、凛たちに悟られないよう透明マントで隠しています。
※レイジングハートを少し警戒。
※デイパックに収納された夜天の書は、レイジングハートの魔力感知に引っかかることはありません。
【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:喪失に対する恐怖/左足に負傷(行動には支障なし。だが、無理は禁物)
[装備]:コルトM1917(残り3発)、ワルサーP38(0/8)
[道具]:支給品一式×2(パン1つ消費、水1/8消費)、ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)、E-6駅・F-1駅の電話番号のメモ、コルトM1917の弾丸(残り6発)
:スーパーピンチクラッシャーのオモチャ@スクライド、USSR RPG7(残弾1)、
[思考]
1:カレイドルビーと共にドラえもん、ジャイアンを探して合流する。
2:なんとかしてしずかの仇を討ちたい。
[備考]:凛の名をカレイドルビーだと思っている。
水銀燈の『契約』について
厳密に言うと契約ではなく、水銀橙の特殊能力による一方的な魔力の収奪です。
凛からの解除はできませんが、水銀橙からの解除は自由です。再『契約』もできます。
ただし、凛が水銀橙から離れていれば収奪される量は減ります。
通常の行動をする分には凛に負荷はかかりません。
水銀橙が全力で戦闘をすると魔力が少し減少しますが、凛が同時に戦闘するのに支障はありません。
ただしこれは凛の魔力量が平均的な魔術師より遥かに多いためであり、魔力がない参加者や
平均レベルの魔力しかない魔術師では負荷が掛かる可能性があります。
逆に言えば、なのは勢やレイアース勢などは平気です。
【D-4・川沿い/1日目/午後】
【エルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:ハクオロの死による重度の虚無感。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]1:ハクオロさん……(たずねびとステッキが示した方向の記憶を頼りに、川沿いを歩く)
[備考]※絶望により何をする気もなれない状態ですが、今のところ優勝して願いを叶えるという考えは否定しています。
※フーとその仲間(ヒカル、ウミ)、更にトーキョーとセフィーロ、魔法といった存在について何となく理解しました。
※病院裏のダストBOXにあまったデイパック×5が残されています。
※ヤマトがぶち撒けたぶりぶりざえもんの荷物はほとんど水銀燈が回収しましたが、食料と水は斬り刻まれていたため回収不能と判断し放置しています。
※八神はやての遺体は病院の正面玄関前に移動。
寂れた家屋が放つ材木の香りは、薄汚れた負の感情を洗い流してくれるほどに風情があった。
廊下を進むごとに、ギシ、ギシ、と床が軋む。
老朽化が進んでいるのだろう。言い方は悪いが、おんぼろ屋敷と呼ぶに相応しい場所だった。
セイバーが一歩足を進めるごとに、日本家屋に似つかわしくない鎧の重低音が響く。
手甲の付けられた左手で襖を開けると、なんとも言いがたい違和感を感じられた。
だが、騎士たる彼女の優美な佇まいは畳部屋に見事に調和し、見た目の違和感を和らげる。
右手に握られたカリバーンを視界に入れなければ、の話だが。
「どうやら、目が覚めたようですね」
セイバーが眼下の畳――正しくは、眼下にある畳の上に立つ存在――に声をかける。
その呼びかけにより、今までの間眠っていたことを自覚したそれは、怪訝そうな眼差しでセイバーを見上げる。
「――なぜ、わたしはまだ生きているのだ?」
畳の上に立つブタ、ぶりぶりざえもんはそう尋ねた。
自分はたしか、ヤマトたちを逃がすためにトラックから飛び降り、目の前の女騎士に葬られたはずでは……?
記憶を辿るが、どうやらその内容は錯覚であったらしい。
実際、ぶりぶりざえもんの身体は頭部に大きめのたんこぶができているだけで、致命傷と言えるような傷はなかった。
「私があなたを殺さなかった。それだけのことです」
「そんなことは見れば分かる。わたしが訊きたいのは、なぜ殺さなかった、ということなのだ――ハッ!? さては貴様もしや!」
ぶりぶりざえもんが脳天に大きなビックリマークを描き、大袈裟なリアクションを見せる。
「わたしに惚れたな!?」
「違います」
セイバーはぶりぶりざえもんの戯言を一蹴し、真面目な面持ちに剣気を含めて相対した。
鋭く尖った、突き刺さるような剣気――だがそれは、無差別な殺気とは違う。
何の意図を持っているのか、ますます分からなくなるような、そんな顔をしていた。
「――君島邦彦という男がいました」
セイバーが唐突に口にした名前は、もちろんぶりぶりざえもんの聞き及ぶ名ではない。
誰だそれは、と返すと、セイバーは畳部屋の端――縁側に立ち、夕日に染まった紅空を見上げる。
「仲間を助けるために己の身を投げ出し、私に殺された哀れな男の名です」
「……」
ぶりぶりざえもんは珍しく何も言わず、ただ黙ってセイバーの次の言葉を待った。
「その男は、主催者を打倒し大多数の参加者同士で生還をすることを望んでいました。
何か信頼できる策があったのか、それとも無謀な賭けに興じていただけなのかは分かりません。
しかし彼は仲間が窮地に立たされた時――自身を生け贄とし、希望を他の仲間に託して、この世を去る決意をしたのです」
淡々と述べるセイバーの口元は、何の感慨も得ていないようでいて何故か、どこか寂しそうな気もした。
それを感じても、ぶりぶりざえもんにかける言葉はない。
唾をごくりと飲み込み、沈黙を貫きながら君島邦彦という愚か者の話を聞いていた。
「結果は案の定。彼は力を持っていなかったために死にました。
強大な主催者に立ち向かおうという意思、仲間を思う心、感嘆に値する戦士の気概を持っていた。
だが、力がなければ意味はない。ここで生き抜くことも、主催者に反逆することも敵わない。
意思だけでは、どうにもならないのです」
…………ひとたびの沈黙。
これで言いたいことを言い終えたわけではないだろうが、セイバーはそこで急に口を噤んだ。
まだ迷いがあるのか、もしくは何かに悩んでいるのか。それは分からない。
分からないからこそ、ぶりぶりざえもんは思ったことをそのまま尋ねてみる。
「お前は、その男を殺したことを後悔しているのか?」
再び、沈黙。だが、此度の沈黙は本当に一瞬の出来事に終わった。
「――いいえ」
口にしたのは、もう迷わないという確たる証拠。
ケジメをつけるためにも、セイバーは言葉を紡がなければならない。
聞かせねばならないのだ。君島邦彦と同じ位置に立つ、このぶりぶりざえもんに。
「ぶりぶりざえもん」
名を呼び、お互いが顔を見合わせる。
手に握ったカリバーンを突きつけ、セイバーはぶりぶりざえもんの反応を待った。
ぶりぶりざえもんに怯えの表情はない。今のセイバーは自分を襲わないという、不思議な安堵を感じていたからだ。
「あなたは君島邦彦と同じ、強い意志を持った参加者だ。仲間を思う優しい心も持っている。
しかし、あなたは弱い。私がここで剣を振れば、あなたは一太刀のもとに死に至るでしょう。
もし私がここであなたを殺さなくても、力亡き者はいずれ死ぬ。あなたも、あなたの仲間も。
その現実を理解して尚、あなたは、諦めないでいられますか?」
セイバーの言葉を正面から全て受け止め、ぶりぶりざえもんは返答できずにいた。
――いや、その表情は既に答えを出している。
「ぶりぶりざえもん」
だから、これを最後の問いにしよう。セイバーは選定の剣を握る手に力を込めた。
「――問おう。あなたには、これからも主催者に反逆し牙を突き立て続けるという『意思』があるか?」
返答を待つ。
答えは、やがて。
フッ、という鼻息と。
キザっぽい笑みに重ねて。
「何度も言わせるな。わたしの名はぶりぶりざえもん。人呼んで『救いのヒーロー』だ」
――答えは、確認した。
セイバーは剣を収め、もはや何も言わず。
(これを、最後の迷いとしよう――)
王の選定をやり直す。そのために、この世界で希望を掴もうとしている数多の民を犠牲にする。
それこそが、王としては相応しくない選択なのかもしれない。だからこそ、祖国は滅んでしまったのかもしれない。
それでも、セイバーには、アーサー王には、守りたかった民がある。
チャンスは十二分に与えた。この世界の住人たちが勝つか、哀れな王が勝つか。
あとはただ、全力で勝負に挑むのみだ。
セイバーは振り返ることなく、その場を後にした。
小さくなっていく騎士王の背中を見つめ、ぶりぶりざえもんは感慨にふける。
心の中に沸き立つ新しい衝動、その確かな芽生えを感じて。
「……たまには、良いおこないもするものだな」
そのブタは、もう淀んだブタなどではなかった。
ある男児が思い描いた、想像のままの『救いのヒーロー』だった。
【D-2/一日目/夕方】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:腹三分、中程度の疲労、全身に裂傷と火傷(動きに問題ない程度まで治癒)、両肩を負傷(全力で動かせば激痛)、右腕に銃創
[装備]:カリバーン@Fate/ Stay night
[道具]:支給品一式(食糧1/3消費)、スコップ、なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん (黒焦げで、かつ眉間を割られています)
[思考・状況]
1:優勝し、王の選定をやり直させてもらう。
2:エヴェンクルガのトウカに預けた勝負を果たす。
3:他にサーヴァントがいないかどうか確かめる。
4:迷いは断ち切った。この先は例え誰と遭遇しようとも殺す覚悟。
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:頭部にたんこぶ、ヤマトとの友情の芽生え(?)、正義に対する目覚め(?)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1.困っている人を探し、救いのヒーローとしておたすけする。
2.ヤマトたちとの合流。
3.救いのヒーローとしてギガゾンビを打倒する。
こんなはずじゃなかった。
今までの冒険だったら、どんなにヤバくなっても最後はみんなで力を合わせりゃなんとかなった。
俺達はそうやって、恐竜ハンターや独裁者、ロボットの軍団みたいな強い奴らを倒してきたんだ。
ギガゾンビだって……まぁタイムパトロールが大体は何とかしちまったけどよ、俺達が動かなきゃどうなってたか分からなかったんだぜ?
……とにかく、そういう訳だったんだ。
……だけど、今回は違った。
脱獄して、俺達に再び姿を見せたギガゾンビはいきなりしずかちゃんを殺しやがった。
しかも、俺達を離れ離れにしてこんなところに放り出しやがって……そして直にスネ夫や先生も誰かの手に掛かって……。
だから俺は心に決めたんだ。
翠星石や梨花ちゃん、それに魅音姉ちゃんを守ってみせる。
そして心の友ののび太とドラえもんを絶対見つけ出して、そんでもって力を合わせてギガゾンビをギッタギタのメッタメタにしてやるってな。
……それなのに。
それなのによぉ……。
――まさか…こんな形で…繰り…返し…のさんげ…きは…と……め…ら……れ………な……………
――許さないです。全部っ、ぜんぶおまえらが悪いです!
――あんた仲間を! 殺してやる!!
ちくしょう!
何であんなことになっちまったんだよ!
俺達は仲間だったんだろ……! なのに……何で……何で…………。
梨花ちゃん……守れなくって本当にごめんな……。
魅音姉ちゃん……無事でいてくれよ……。
翠星石……お前に一体何があったんだよ……。
魅音姉ちゃんも気になるけど、今は翠星石を何としても見つけ出して、話を聞かなくちゃいけない。
何であんなことをしちまったのか――ってな。
俺は自分にそう言い聞かせて、灰色のビルの中へと入っていった。
「おーい、翠星石ー!!! いるかー!? いるなら返事しろー!!!」
薄暗いビルの中に俺の声がこだまする。
「翠星石ー!!! さっきのこと怒ってるなら謝るからよー!! だから出て来いよー!!」
……だけど、いつまで経っても返事は聞こえてこない。
やっぱ、こんなところにあいつはいないか……。
俺はそう思いつつも、やっぱり気になって、すぐ傍にあったドアを開けてみた。すると――
「うわっ!!」
ドアを開けて入った中には、凄い瓦礫の山があった。
いや、それだけじゃなかった。その瓦礫の山の上には…………焼け焦げた何かがあった。
何か? 違うな。
そいつには手足みたいなのがついていて、頭みたいのも当然ついていた。
そんでもって、その頭みたいな部分には見間違えるわけがないあの変な髪型がへばりついてた。
そう、これは…………。
「ス、スネ夫ォォォォォ!!!!!!」
……これは、俺の心の友の成れの果てだった。
――ジャイア〜ン、今日ボクんちこない? 新しいゲーム買ったんだ!
――や、やっぱりジャイアンの歌は最高だな〜、あ、あはは……。
――さっすがジャイアン! よっ、この日本一!
あいつは……スネ夫は俺の心の友だ。
ちょっとお調子者だったかもしれないけど、憎めない奴だった。
……こんな酷い死に方をしていいような奴じゃなかったんだよ……!
「ちくしょう……スネ夫……スネ夫……」
俺はスネ夫の手を握る。
……当たり前だったが、もう冷たい。
スネ夫が死んでたのは放送で聞いてたけど、だけど……こんな死に方はないだろ……。
悔しくてたまんない。
スネ夫をこんなにした奴が許せない。
もし見つけたらギッタギタのメッタメタにしてやりてぇ。
……翠星石もそんな気分だったのか?
あのジュンとかいう兄ちゃんが死んでるのを見て、殺した奴が許せなくなって、それで訳分からなくなって梨花ちゃんや魅音姉ちゃんを…………。
だったら尚更早くあいつを見つけて、止めないとな。
……このまんまだとあいつ、また何かするかもしれないからな。
それに、確かにスネ夫を殺した奴も許せねぇけど、一番悪いのはあのギガゾンビの野郎なんだ。
あいつを倒さないとこんなふざけたゲームから出られないんだよ。
翠星石の妹や仲間だって、死んじまうかもしれない。
だから翠星石……さっさと姿を見せてくれよ………………。
それから少しして。
俺は、スネ夫の体にはビルの窓についていたカーテンを引き剥がしたやつを掛けてやった。
……本当はちゃんと埋めてやるべきなんだろうけど、道具もないし俺一人じゃ時間が掛かりすぎる。
もしかしたら、そうやっている間に翠星石がまた何かをするかもしれないし……だからせめてもの気持ちだ。
「そんじゃ、俺はそろそろ行くからな」
そして俺は、何も言わないスネ夫に背を向けて、部屋を後にした。
……スネ夫、俺はお前の分まで生きてやる。
そんでもって、お前の分までギガゾンビをメッタメタにしてやっからな。
そして、そうこう街を探しているうちに空はオレンジ色になってきた。……もう夕方かぁ。
結局、翠星石は見つからなかった。
……俺の足も歩きっぱなしで痺れだしてきている。
だけど、ここで足を止めるわけにはいかないんだ。
翠星石を探す為にも……もう二度とあんなことを起こさせない為にも…………。
するとその時だった。
正面向こうにあったビルの中に何かが入っていくのを俺は見た。
「……まさか翠星石!?」
本当は遠かったからそれが何かも分からなかったし、確信なんて無かったけど、あそこに誰かいるのは確かだ。
誰かがいるなら、もしかしたら翠星石や魅音姉ちゃんと出会っているかもしれない。
だったら、そいつの話を聞くだけでも意味はあると思う。
だから俺は急いでそのビルに向かって走った。
そして、ビルに到着してその中に入ると、俺はまた中にいるかもしれない翠星石に向かってこう叫んだ。
◆
「お〜〜い、翠星石〜〜〜!!! いるか〜〜〜!! いたら返事しろ〜〜〜!!」
◆
……気のせいだろうか?
放送を待っていた俺の耳には確かにそんな声が聞こえてきた。
声の方向は部屋の外……廊下だ。
「キョン殿……今の声は……」
よかった。どうやらストレスから来る幻聴ではないようだ。
――いや、いいのか?
「トウカさんも聞きましたか。聞いた感じじゃまだ子供っぽいような声ですけど……」
「子供……。このような場所に幼き子までもを放るとはおのれギガゾンビめ……」
トウカさんが何だか怒っているようだった。
ま、確かに子供なんかにまで殺し合いをやらせようとする神経がどうかしてるとは思うけど……。
「誰かいないのか〜〜〜? 返事してくれ〜〜〜!!!」
どうやら、声の主はこのビルにいる人間を探しているようだ。
声がだんだん近づいてくる。
「声からして、向こうは一人みたいですね」
「一人……幼き子がこのような場所で一人でいるなど危険極まりない! 今すぐに保護しなければ――」
「え? あ、ちょっとトウカさん!?」
確かに言ってることは確かだけど、だからってそんな安易に飛び出したら……!!
「キョン殿はしばしお待ちを! 子の保護なら某一人で十分です」
「いや、そうじゃなくって……!!」
「では、行って参りまする」
ドアを開けて、トウカさんは出て行く。
……ちょっと待て。相手がどんな人間か分からないのに油断して出たら――!!
「どわぁぁぁ!」
「ふぁあああ!!!」
――って、言ってるそばから何か叫び声がしてるし!! しかもついでに何か倒れる音がしたような……。
俺は慌てて、トウカさんを追って部屋を出る。
「トウカさん! どうしま――」
俺の言葉は最後まで続くことなかった。
何故なら、部屋を出てすぐに俺の目には、廊下の角で重なるように倒れるトウカさんと見ず知らずの少年の夕陽で照らされた姿が飛び込んだからだ。
……トウカさん、だから急に飛び出たら危ないって何度も言ったのに。
さて、ここで状況を整理しよう。
まず、トウカさんが部屋に戻ってきて余り経たない内に、いきなり廊下の方から声がしてきた。
相手は子供。そして恐らく一人。
そんな子供を放っておけないということでトウカさんがいきなり声のする廊下へと飛び出した。
そして、廊下を走っていたトウカさんは、その角で突如飛び出してきた少年と正面衝突。
こうして二人は、ともに床に頭をぶつけて揃ってこぶを作ったという訳だ。
「某としたことが……面目ない」
トウカさんが耳をしゅんとさせながら、聞きなれたフレーズを口にする。
……本当にこの人は凄い人なのかうっかり者なのか分からなくなってきた。
そして、目をその横に向けるとこぶのできたところに濡れタオルを当てている少年がいた。
「……大丈夫か、こぶの方は」
「うん。ありがとよ、えっと……」
「キョンだ。キョンでいい」
本当は本名もあるんだけどな……まぁ、今はこれでいいや。
「某はエヴェンクルガのトウカと申す者。以後よろしく頼む」
「俺は剛田武。皆からはジャイアンって言われてたよ。よろしくな、キョン兄ちゃん、それにトウカ姉ちゃん」
ジャイアン――見るからにガキ大将なこの少年にはぴったりかもな。
妹がいたりしたら、ジャイ子とかってあだ名を付けられそうだが。
って待て。剛田武って確かどこかで……。
――――そうだ、名簿だ!
さっき掲示板に書き込まれてた名前を確認するときに見た名簿の中で『野比のび太』のすぐ隣に書かれていたのが確か『剛田武』……!!
ってことは、この少年、のび太って少年と何かしらの関係がある可能性がある。
……一度、確認とってみるか。
「……なぁ、君ってもしかして、野比のび太って参加者と知り合――」
「――!!! 兄ちゃん、のび太のこと知ってるのか!? そ、それじゃドラえもんは!?」
「い、いや、どっちも見たことはないけど、名簿で君の近くに名前が書かれてあったから……。友達か?」
「あぁ。……俺の心の友だよ」
名前を聞いた瞬間の変わり様。
……恐らくは、本当に仲のいい連中なのだろう。
だったら尚更今は、その『のび太』とやらが何度も危険な目に遭ってきたなんて言って刺激しない方が良いか。
――と、そんなわけで今は別の話題を振ることにする。
「……なぁ、そういえばさっき、スイセイセキとか言ってたけど、それも知り合いなのか?」
「スイセイセキ……そ、そうだ! 俺、翠星石を探してるんだけど、兄ちゃん達見てないか!?」
「いや、だからそのスイセイセキってのは何なんだ?」
「だから翠星石ってのは――」
どうやら、スイセイセキ――翠星石っていうのは参加者の一人の事らしい(名簿で確認したら確かにいた)。
緑色の服を着ている小さな女の子で……動く人形だという。
一昔前の俺だったら、動く人形と聞いてもテレビの見すぎだと一蹴しただろうが、SOS団を通じて不思議体験をしまくった今の俺なら何とか信じることが出来る。
まぁ、こっちに来てもコスプレ侍やスーパーマンバトルを見てきた訳だしな。
……だけど、俺とトウカさんは未だそのような不思議人形を実際には目にしていない。
俺がそのことを告げると、ジャイアン少年は肩を落とした。
「……そうか。くそぅ、どこに行ったんだよ、翠星石……」
そして、そんな少年に俺は問いかけた。
「……なぁ、お前はどうしてその翠星石ってのを探してるんだ? ……何かあったのか?」
それは二人の名簿での距離が余りにも離れていたということから始まった推測。
まず、このジャイアン少年と翠星石という人形とやらは俺とトウカさんのように、ここで初めて知り合った仲だという可能性が高い。
ここで知り合った人物のパターンは大きく分けて3種類だ。
1つ目は俺とトウカさんのように、行動を供にしている同行者。
2つ目はロックさんや君島のように、顔を合わせて互いの意見を交換しつつも、行動を別にした人物。
そして3つ目はあの西洋甲冑の金髪騎士のような襲撃者……。
この落ち込んでいる様子からして襲撃者を探しているということはありえない。
また、元々行動を別にすると決めていた人物ならば、こんなに無理に探そうとはしないはず。
……ということは考えられる結論は、翠星石が元は同行者であったということ。
そして、同行者だった人物が今はいないということはつまり何かがあったということだ。
そう、離れ離れにするような何か――例えばさっき俺達が巻き込まれたガス爆発のような大きな出来事が……。
……って、こんな時になんでこんな推理が出来るんだ俺。
あの孤島での時だってこんなに頭が働かなかったというのに。
だが、推測出来てしまったものは仕方が無い。
今後の為にも少しでも参加者の情報が欲しかった俺は、迷わずこう尋ねていた。
◆
「……なぁ、お前はどうしてその翠星石ってのを探してるんだ? ……何かあったのか?」
◆
キョン兄ちゃんに言われて、俺はあの時の事を思い出した。
あの思い出したくもない出来事を。
……だけど、キョン兄ちゃんとトウカ姉ちゃんは俺の手当てをしてくれた。
ここで黙っていたら、恩返しになりゃしない。
そんなの男の俺がすることじゃねぇ。
……だから、俺は言うことにした。
あの時、何が起こって、どうして俺が翠星石を探すことになったのかを。
「あ、あのよ、実は……」
そして、俺が全部話そうとしたそんな時だったんだ。
あのギガゾンビのヤローの声が外からしてきたのはよ……。
【D-4・雑居ビル 1日日・夕方(放送直前)】
【剛田武@ドラえもん】
[状態]:健康 仲間の分裂に強い後悔、額にこぶ
[装備]:虎竹刀@Fate/ stay night、強力うちわ「風神」@ドラえもん、
[道具]:支給品一式、エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に、
ジャイアンシチュー(2リットルペットボトルに入れてます)@ドラえもん 、
シュールストレミング一缶、缶切り
[思考・状況]
1:キョン達に何があったかを話す。
2:急いで翠星石を見つけ、落ち着かせる。梨花の件についての理由も聞きたい。
3:手遅れになる前に、のび太とドラえもんを見つける。
4:逃げた魅音もなんとしても守る。
基本:誰も殺したくない
最終:ギガゾンビをギッタギタのメッタメタにしてやる
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:全身各所に擦り傷、ギガゾンビと殺人者に怒り、強い決意
[装備]:バールのようなもの、わすれろ草@ドラえもん、ころばし屋&円硬貨数枚
[道具]:支給品一式×4(食料一食分消費)、キートンの大学の名刺、ロープ、ノートパソコン
[思考・状況]
基本:殺し合いをする気はない、絶対に皆で帰る
1:ジャイアンから事の顛末を……って、こんな時に放送かよ
2:『射手座の日』に関する情報収集。
3:トウカと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合い及び、ハルヒ達を捜索する。
4:朝倉涼子とアーカードを警戒する。
5:あれ? そういえばカズマってどこかで聞いたような……
[備考]
※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「ミステリックサイン」参照ということで
【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:左手に切り傷、全身各所に擦り傷、額にこぶ
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式(食料一食分消費)、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
基本:無用な殺生はしない
1:ビル内に留まり放送を聴く。
2:キョンと共にキョン、君島、しんのすけの知り合い及びエルルゥ達を捜索する
3:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
4:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す
(間に合わなかった……)
もう少しでロープが切れそうなところまで来たというのに、ゲイナーが想定していた中でも最悪の事態が訪れてしまった。
目の前にいるのは、青い蜘蛛のお化けのようなシルエット・マシン――のような何か。随分と小型だが、ぼこぼこになった装甲板がこれまで潜り抜けてきたであろう戦闘の激しさを物語っている。
こちらに向けられているのは中央にある巨大な砲口と、右手にある機関銃の銃口。どちらも一瞬で容易く自分の命を奪える代物だ。
(こんな支給品もあるのか。この分だったらキングゲイナーも誰かに支給されてたりするのかな)
酒臭いまま、ひん剥かれて下着姿にされ、縛られ、猿ぐつわまでされて、命乞いも恨み言も吐けぬまま死ぬというのに、何故か冷静にそんなことまで考えていた。
それは要するに、生きるということを諦めていない証なのかもしれない。
砲口ないしは銃口から弾が放たれて、それが自分に当たるまでは死なない。だからゲイナーは決して小さなガラス片を取り落とさず、ロープを切る作業を淡々と続けていた。
そして。
「要救助者はっけーん!」
そんな言葉をかけられて、ガラス片を落とした。思わず肩をコケさせながら。
「こんにちは! 君が放送で言われてた『身動きの取れない参加者』かい? いやー災難だったねー。でも僕が来たからにはもう大丈夫だよ。あ、僕は公安九課の思考戦車タチコマ! 今後ともよろしくね!」
両手の身振り手振りで器用にコミカルなジェスチャーをこなしつつ、随分と子供じみた口調でそんなことを矢継ぎ早に語りかけてくるその機械を前にして、ゲイナーは固まってしまった。
(操縦してるのは、もしかして子供?)
それにしてはやけに動作が滑らかだ。やっていることはおふざけだが、高度な操縦技術が必要に違いない。
(いや、公安九課? それに思考戦車って何だ?)
思考戦車のタチコマ。確かにこれはそう名乗った。タチコマという名前が名簿にあったのは当然覚えている。
考える戦車。
思い当たる節はある。意志を持つオーバーマンが存在していたように、この機械にもまた意志があるのではないか。意志があり自立している機械だからこそ、この殺し合いに参加者として呼ばれてしまったのではないか。
どこが首で、どこに首輪がついているのか想像も付かないが。
「タチコマ。驚いているみたいだから、そのぐらいにしてね」
「はーい」
蜘蛛のお腹の部分にあたる大きな箱から、また別の声が聞こえてくる。その声にタチコマとやらは素直に従ったようだ。
箱が開く。
出てきたのは、黒いマントに黒いレオタードという、レヴィとはまた違った意味でトンチキな格好の、長い金髪を二つに束ねた少女――
その特徴に合致する人物の名前を、ゲイナーは知っていた。
彼女の行動は素早く、そして的確であった。
酒臭さが残っている上にほぼ全裸という近寄りがたい状況の自分に対して、嫌がる素振りも見せずに駆け寄って拘束を解いてくれた。
そして、周囲に脱ぎ散らかされていた服をこちらに手渡しつつ、こう指示した。
『急いで服を着てください。私達のように、北や西からここに向かっている人が他にもいるかもしれません。それが友好的な相手とは限りませんから』
その落ち着き振りは、もはや聡明の域に達していると言っても過言ではない。その年格好にはあまりに不釣り合いなほどに。
ともあれ結果として、無事にF-8からの脱出に成功したのである。
「ありがとう、お陰で助かったよ。僕はゲイナー・サンガ。君達は――タチコマと、フェイトちゃん?」
「お礼ならフェイトちゃんに言ってあげてね。本当ならもっと急ぎの用事があったのに、君のことを聞いて助けに行こうって言ってくれたんだから――って、あれ?」
タチコマとフェイトは、きょとんとした様子で目を合わせた。
タチコマの方には目や顔があるわけではない。
しかし、しばらく観察していて、前面部の球体のようなものが目のような役割を果たしているセンサーだろうと推測はできていた。
それに、顔の表情というものがない分、オーバーアクション気味の身振り手振りや口調で補っている。
「あの……どうして私の名前を?」
さすがに警戒の気を帯びた口調で、フェイトが尋ねてきた。
嘘偽りを言う必要はない。
「君のことはなのはちゃんから聞いてる。彼女とは、ほんの少しの間だったけど一緒にいたんだ」
「貴方も、なのはと一緒にいたんですか!?」
フェイトがこちらに詰め寄ってくることも、既に想定済みだ。なのはにフェイトのことを知っていると言えば、恐らく同じような反応をしただろうから。
ゲイナーは要点を絞って説明する。『も』という部分が気にはなりつつも。
自分とレヴィ、そしてなのはとカズマとの遭遇。一人の少女の遺体から生じた誤解と、戦い。その顛末。
なのはと行った互いの世界についての情報交換。
ただひたすらに速さを求める男、クーガーの闖入。
友を探す為にクーガーと共に市街地へ向かうことを選んだ、なのはの決意。
そして最後に、あのような無様な姿で放置された経緯。
「そうか。君達、よりにもよってあのレヴィさんと会ってたのか……」
静かな怒りを滲ませるフェイトの様子を見ながら、ゲイナーはげんなりと呟いた。
「あの人、許せません。こんな酷いことをした張本人だったなんて」
「でもまあ、なのはちゃんの情報は本当だったみたいだね。ゲイナー君の言ってることとも一致してるし。情報料取られたけど、これじゃ詐欺罪には問えないなぁ。でも監禁罪とかは適用されるね」
元は自分が持っていたサブマシンガンに加え、二人が持っていたという拳銃に対物ライフル。それらを手に入れたレヴィを、水を得た魚と称する気にはなれなかった。何とかに刃物、もとい銃器である。
しかし、レヴィが自分の情報を喋っていなければ、まず間違いなく二人は市街地に直行していたはずだ。
どんな気まぐれだか知らないが、その点だけは感謝してもいい。
「こんなことされた当人の僕が言うのもなんだけど、レヴィさんにも本当に酷い悪意があったわけじゃないと思うんだ。とにかく仕返しがしたかっただけで、そこまで深くは考えてなかったんじゃないかな」
目の前のフェイトは九歳の少女。一方のレヴィはもう大人だが、精神年齢だけで言えばフェイトと完全に逆転している。大人の姿をした子供なんて、質が悪いにも程がある。
「案外、遠巻きにこっちの様子を伺って『ダッセェ、あんなガキに助けられてやがる!』とか言って笑ってそうだよ――あ、ええっと、これはあくまで彼女ならそう思うだろうってことで……」
わたわたと取り繕うこちらの様子を見て、フェイトはくすりと笑みを漏らしたようだった。
「私達はこれから市街地に向かいます。ゲイナーさんは?」
「僕は――」
二人を前にして、考える。
窮地を脱出できたら温泉とやらで身体を暖めるというのも悪くないと思っていた。市街地での行動は危険を伴うのが分かり切っていたから、ずっと避けてきた。
「――どうすればここからエクソダスできるか、考えてた」
「「エクソダス?」」
その言葉の意味を二人が知っているはずもない。それでもあえてこの言葉を使った自分に驚きながらも、二言目で補足を加えた。
「平たく言えば、みんなでここを脱出してさっさと帰ろうってことかな。でも、生憎僕には君達が持っているような他の人を助けられる力はおろか、自衛の力すらない。せいぜい使い物になるのはココぐらいだよ」
自分のこめかみを指さしながら、ゲイナーは続ける。
「足手まといだけど守ってくれって言ってるようなものだし、随分と虫のいい話だと自分でも思う。それでもよければ、君達に同行させてくれないかな?」
参加者が確実に数を減じている現状。
この殺し合いから脱出するならば、首輪の解除という難題からは逃れられない。死者が出るたびに、その難題を突破できる可能性もまた減っているのだ。
もうそろそろ、ある程度の危険は覚悟の上で動き出さねばならない。
ゲインの言ではないが、最後の最後まで自分からは何もしないのであれば、それは死んでいるのと同じだ。
何より、これは好機だ。好機を逸するわけにはいかない。
自分の知っている世界においては夢物語である魔法と、自分の知っている世界とは異なる発展を遂げている科学。
この二人がどこまでそのことを意識しているかは分からないが、どちらも首輪の解除において鍵となり得る可能性を持っている。両者を合わせ、協力し、発展させることができれば、さらに可能性を高められるかもしれない。
「……分かりました。それなら、貴方がタチコマに乗ってください」
「いいの? フェイトちゃん」
「私はゲイナーさんのことを信じようと思う。なのはが信用して話をした人だから。タチコマはイヤ?」
「そんなことはないよー。要救助者の保護だって僕のお仕事だしね」
声だけ聞けば、子供と、その子供をあやす母親のようなやりとりである。
割り込むことにばつの悪さを感じつつも、ゲイナーは切り出した。
「ええと、同行させてくれとは言ったけど、さすがにそれは申し訳ないような……」
「私なら大丈夫です。なのは達に比べれば軽装甲ですけど、簡単に的になるつもりはありませんから」
フェイトが取り出した一枚のカードが、無骨な杖へとその姿を変える。
「もしかして、それがデバイス?」
「はい。これは私の義兄が使っていたものです。私のバルディッシュも、もしかしたらどこかにあるかもしれません」
デバイスを手にしてバリアジャケットを身に纏った魔導師とやらは、生身でありながらシルエット・マシン――いや、下手をすればオーバーマンにも匹敵する程の戦闘力を持っている。
なのはから聞いた話を全て鵜呑みにするとすれば、そうだ。多少の誇張はあるだろうと踏んでいたが、実のところは彼女が言っていたままなのかもしれない。
「じゃあ、ごめん。お言葉に甘えさせてもらうよ」
九歳の少女よりも弱いどころか、気まで遣われている。
今の自分の立場を改めて認識させられつつも、ゲイナーはタチコマの後部ポットへと向かった。
(すごい……これは)
ゲイナーは素直に感嘆を覚えた。少々窮屈ではあるが。
己の既知とは全く異なる技術体系。その集大成。
初めてキングゲイナーのコクピットに乗り込んだ時と同じような高揚感を、そこ――タチコマの後部ポッドの中で覚えた。
思わずぼーっとしてしまったためか、鼻が垂れるがままになっている。
ふと我に返り、それを一気にすすった。
「どうしたの? 風邪でも引いちゃった?」
タチコマの心配そうな声がポッドの中に響く。
「それはまあ、いくら昼間とはいえ数時間も素っ裸だったからね」
「なら、もうちょっと暖かくするよ」
「ありがとう」
相手が戦車に搭載された疑似人格だとは思えないぐらいの、自然なやりとりである。
「そうだ。これ、僕が操縦できたりするのかな」
「え? そうだなー。電脳化されてない君じゃあネットワークへのダイブとかは無理だろうけど、操縦だけなら何とかなるかもね。でもそんなに簡単じゃないよ? そもそも僕のAIで自立可動できるから、君が何かする必要はないし」
「それでも。いざという時に、僕にも何かできるかもしれない。こう見えても、この手のことは得意なんだ」
「しょうがないなぁ。じゃあこれ、マニュアルね」
目前のモニターに、目的のものが表示される。
もちろん、いきなり操縦を任せてもらえるとは思っていない。
今の自分は、たまたまなのはのことを知っていた哀れで無力な要救助者だ。この二人にゲイナー・サンガという一人前の人物として認められるには、もっと信頼を積み重ねていく必要がある。
活用できるのは、自分の頭。そしてもう一つ。チャンプとしての腕だ。
こんな場所でキングゲイナーもなく、後者を振るうチャンスはまずないだろうと思っていた。そんな中で僅かでも可能性が与えられたならば、すべからく活かさなければ。
まずはこのマニュアルを頭に叩き込む。
いずれタチコマと協力体制が築けた時に、自分が補助に回ってその性能を最大限に引き出せるように。
「ところでタチコマ、他にもいろいろと聞いておきたいことが――」
貪欲に情報を集めることも忘れない。
ゲイナーなりの、この殺し合いに対する静かな戦いは続いてゆく。
【G-8/幹線道路上/夕方】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:全身に軽傷、背中に打撲、決意
[装備]:S2U(デバイス形態)@魔法少女リリカルなのは、双眼鏡
[道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド
[思考・状況]
1 :市街地に向かい、なのはの捜索を行う。
2 :カルラの仲間に謝る。
3 :なのは以外の友人、タチコマの仲間の捜索も並行して行う。
4 :眼鏡の少女と遭遇したら自分が見たことの真相を問いただす。
基本:シグナム、ヴィータ、眼鏡の少女や他の参加者に会い、もし殺し合いに乗っていたら止める。
[備考]
※タチコマに合わせて超低空飛行で飛んでいます。
【タチコマ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:装甲はぼこぼこ、ダメージ蓄積、燃料を若干消費、走行中
[装備]:タチコマの榴弾@攻殻機動隊S.A.C
タケコプター@ドラえもん(故障中、残り使用時間6:25)
[道具]:支給品一式×2、燃料タンクから2/8補給済み、お天気ボックス@ドラえもん、西瓜46個@スクライド
龍咲海の生徒手帳、庭師の如雨露@ローゼンメイデンシリーズ
[思考・状況]
1 :フェイトの指示に従い、市街地に向かう。
2 :フェイトを彼女の仲間の元か安全な場所に送る。
3 :トグサと合流。
4 :少佐とバトーの遺体を探し、電脳を回収する。
5 :自分を修理できる施設・人間を探す。
6 :後部ポッドのゲイナーに操作マニュアルを見せる。
7 :薬箱を落とした場所がそこはかとなく気になる。
[備考]
※光学迷彩の効果が低下しています。被発見率は多少下がるものの、あまり戦闘の役には立ちません。
効果を回復するには、適切な修理が必要です。
※タケコプターは最大時速80km、最大稼動電力8時間、故障はドラえもんにしか直せません。
※レヴィの荷物検査の際にエルルゥの薬箱を落とした事に気付きました。
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:風邪の初期症状、頭にたんこぶ、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ロープ、さるぐつわ
[思考・状況]
1 :フェイトのなのは捜索に同行させてもらう。
2 :タチコマの後部ポッドで暖を取る。
3 :タチコマの操作マニュアルを頭に叩き込む。
4 :タチコマと情報交換を行う。
5 :二人の信頼を得て、首輪解除手段の取っかかりを掴む。
6 :さっさと帰りたい。
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。
また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。
※服は全て着ました。
※タチコマの後部ポットの中にいます。
(ま、お人好しのガキ達に助けられて幸運だったな)
フェイトというガキと、タチコマという戦車野郎。
どうやらゲイナーは、それなりに両者からの信用を得ることができたらしい。
まあ仮にも自分と裏のかき合いを繰り広げたゲイナーなら、彼女達のようなお人好しを相手に交渉を行うのは簡単なことだろう。
自分はゲイナーがどのあたりに放置されているかを知っていた。その一方で、フェイト達はF-8に到着してからエリア全域をくまなく捜索しなければならなかった。
いくら移動速度に差があるとはいえ、それを差し引けば追いつくことは十分に可能だった。だから実行した。ただそれだけのことだ。
相手に気取られぬよう相応に距離を置いて尾行しているため、話し声は聞こえない。
だが動向から見るに、どうやら市街地へ向かうらしい。
それはそうだ。本来フェイトは、友人であるなのはを探しに市街地に向かいたくてたまらなかったはずなのだから。
そして、チキンのゲイナーも今回ばかりはそれに同行せざるを得ない。
何の因果か、三人――正確には二人と一機――が持っていたまともな武装は、ほぼ全て自分の手元にある。
身を守れる武装は、それこそあの戦車自身ぐらいしか残されていない。せっかく目の前に頼れそうな伝手があるのに、何も持たずに単独で行動することを選ぶほどゲイナーも馬鹿ではないだろう。
そして実際に同行を望み、それを相手に承諾させたのだ。
(ゲイナー坊やも上手くやったもんだねぇ。ガキの代わりに比較的安全な戦車の中ってのも不甲斐ない話だけどな。普通逆だろ、逆)
ともあれ、ゲイナーにはこれで借りを返せた。返しすぎることもなかった。借りた分をきっちり返したのだから、この件はこれで終わりでいい。
一方で、自分へ侮蔑の視線を投げかけたフェイトへの仕置きを考える。
(そうだ、ろくに隠す気もないケツを赤くなるまでペンペンぶっ叩いてやるのがいい。きっとガキらしくわんわん泣いて許しを請うに違いねぇ)
大人を相手に調子に乗ると、どういう目に遭うか。
無様な姿を晒したゲイナーと同じように、いずれは散々思い知らせてやらなければ。
それよりも、まだ大きな借りを返さなければならない相手がいる。
巫山戯た能力で好き勝手やってくれたカズマ。
こんなブラッドパーティーを開催していい気になっている悪趣味仮面野郎。
まずはカズマだ。
恐らくなのはを探して市街地を傍若無人に歩き回っていることだろう。結果としてこの集団の後をついていく羽目にはなるが、まあ致し方ない。
(このレヴィ様をコケにした輩には、必ず思い知らせてやる。覚悟しとけよ)
……その後、黒いマントをたなびかせながら戦車と同じぐらいの速度で飛び去っていくフェイトの姿を見てレヴィの開いた口がしばらく塞がらなかったのは、また別の話。
【G-8/北端/夕方】
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:腹部に軽傷、頭に大きなタンコブ、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、相変わらずイライラ
[装備]:イングラムM10サブマシンガン、ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)
NTW20対物ライフル@攻殻機動隊S.A.C(弾数3/3)、ぬけ穴ライト@ドラえもん
[道具]:支給品一式、予備弾薬(イングラム用、残弾数不明)、バカルディ(ラム酒)1本@BLACK LAGOON、割れた酒瓶(凶器として使える)
西瓜1個@スクライド
[思考・状況]
1 :今度は空を飛ぶだぁ!? お前らそんなんアリかコラ! 置いてくな!
2 :カズマ? 借りは返す!
3 :ロック? まぁあいつなら大丈夫だろ。
4 :気に入らない奴はブッ殺す!
[備考]
※双子の名前は知りません。
歩みを進めるたびに左肩に巻いた布を血が染めた。応急処置だけでは激しい運動は傷に触る。
翠星石の突然の裏切り――実際は限りなく過剰防衛に近い正当防衛なのだが――で友人を殺害された魅音は逃避する。
『お持ち帰り』モードのレナがいるかも知れないという淡い期待に賭けて。
だが魅音のほんの僅かな期待は絶望によって覆えされた。破壊された遊具の数々、花々が咲き乱れていたであろう花壇は無残に荒らされ、アスファルトは広範囲に渡ってズタズタに切り裂かれている。
相当な実力者、しかも暴れっぷりから人間ですら無いかもしれない何者か戦闘を行った証明だ。仮にレナがここにいたとしても逃げるか巻き込まれたか、どちらにしろ人探しどころではない。
「ううぅ、痛い…痛い、いたぃよう…」
肩を銃撃された上必死に走って逃げてきたのだ。興奮状態が醒めアドレナリンが止まると激痛が魅音に襲いかかった。
左手に温かい水っ気が感じられる。強行軍で肩から血液が噴出し始めたのだ。振り返ると今まで歩いてきた道には流血の跡が点々と続いている。
「私、このまま死んじゃうのかな…梨花の仇も討てずに」
急に立ちくらみを覚え花壇の側のベンチに身体を横たえて休む。考えてみればこの世界に放り込まれてからロクに睡眠をとっていないではないか。
いつの間にか双眸が閉じられ左肩を押さえたまま魅音は気を失った。
そして――時系列はやや遡る。
二人の魔法少女、獅堂光と高町なのは絶句した。
瓦礫、残骸、剥き出しの水道管、セメントと焦げた臭いetc…。
「…なんて酷い」
「一体どんな手段を使ったらこうなるんだ…?」
放送直後、E−4エリアで大爆発があったと後に複数の人間が証言している。
空爆後の東京かドレスデンかという程の被害。倒壊家屋多数、辛うじて残った建物も爆発直後だけに燻っている。
放送ではここE−4とF−8、距離的に捜索は不可能だがB−1のどかに『身動きの取れなくなった人物』がいるという。
それはもしかしたら今だ再会できない自分の仲間かもしれない、近場ということもあって二人はクーガーの同行申し入れを断り15:00より禁止エリアになるE−4へ『身動きの取れなくなった人物』の捜索に脚を踏み入れた。
しかし望みは薄いだろう。爆発は放送後であったから仮に『身動きの取れなくなった人物』がいたならば今頃は…。
あまりの光景に目的も忘れて二人は立ちすくんでしまった。
「光さん、とにかく探しましょう。」
「ウン、そうだね」
なのはの言葉で光は我に返るが見渡す限り周囲は瓦礫の山ばかり。手近な倒壊家屋を捜索するが人の痕跡さえ発見できなかった。
二人は視認できる距離を保ちながら捜索している。手分けして探せば効率がいいのだろうがマーダー集中が件年されそれはできない。
結局大した成果も無く時間だけが刻々と過ぎていくだけであった。
時間が迫っている。禁止エリアになるまであと30分弱といったところであろうか。
「どうしましょう、後30分ぐらいしか」
「後10分だけ、10分だけ捜索したら脱出しよう」
何の成果も挙げられず諦めが二人の胸の内を漂いだしている。
結局ここではなかったのではないか? 他の2ヶ所のどちらかで『身動きの取れなくなった人物』はとっくに誰かが救出しているのではないか? 希望的観測が浮かび始めた、廃屋を捜索中のそんな時だった。
パァン
不意に乾いた音が廃墟に木霊した。世界の衝撃映像を集めたテレビ番組でよく聞く音だ。
「今の銃声!?」
光が振り向いて聞こえたか、という視線をなのはに送った。彼女も首を縦に振って聞こえたとジェスチャーする
本物を銃声をナマで聞くのは初めてだが距離は意外と遠いのではないかと想像する。
無鉄砲にも光は駆け出そうとするがなのはに引っ張られ止められた。
「待ってください光さん、相手は銃を持っているんですよ!」
「でもこのままじゃ…!」
「確か光さん、望遠鏡のようなものをもっていらしたのでは? 一旦確認してからの方が」
指摘されてディパックを漁ったところ出てきたのはオモチャのオペラグラスだった。
パァン
取り出した瞬間にもう一発。間違いない、西方向へ走ってもすぐには届かない距離。
急いで覗いたオペラグラスが映したのは廃墟を舞台に行われる悲劇だった。
舞台上の役者は5人、緑色の少女が拳銃を握っており足元に銃撃されたと思しき少女と少年が倒れている。その視線の先には肩を撃たれた少女がうずくまっており、ややは離れた場所に少年が立ち尽くしていた。
緑色の少女が三度目の銃撃を放とうとした刹那、少年が巨大な団扇のようなもので扇いで緑色の少女を吹き飛ばす。少年の介入で命を拾った少女は肩を押さえ一目散に南の方向へと駆け出していった。
惨劇後少年は去っていく二人の少女を交互に振り返ると自分が吹き飛ばした少女の方向へと走っていく。
距離的にも時間的にも介入の機会は無かったかも知れない。
しかしあの少年のように行動し注意を一瞬逸らせるだけでも十分効果があったはずではないか。
今から何を言っても仕方か無い、どう選択をしていたとしても初めに撃たれた少女を助ける事はできなかったのだ。
こうして悲劇の舞台には誰もいなくなった――観客二人を除いては。
少女は即死だったようだ。腹部を紅く染め驚愕の表情で果てている。少年は腹部を丸く抉り取られ死後やや時間が経っていたがこちらもまた即死だったろう。
もうすぐ禁止エリアになる場所で固まっているところからあの4人は放送を聞いてやって来た仲間同士だったのだろうか? 仲間割れが死因、しかも誰も立ち入らない所で躯を晒してはこの少女も浮かばれないだろう。
「なのはちゃん、禁止エリアになるまでどのくらい?」
「えっと、あと20分くらいです」
「ちょっと帰るのは遅くなるけど、いいかな?」
「私は構いませんがどうし…」
続く言葉は必要なかった。躯と化した少女を“再び”背負い光は南へと歩き出したからだ。
「まず禁止エリアを脱出しこの子たちを埋葬できる場所を探そう。可能なら負傷した子も保護する。重いだろうけどなのはちゃんは男の子の方を運んで」
「あ、はい。ちょっと待ってください、ちょうどいい物が」
なのはも埋葬に必要だろうと転がっていたピッケルをしまうと少年の遺体を背負い光を追う。
剣道で鍛えた光を違って小さいとはいえ少年の、しかも遺体を背負っていくのは相当キツかったが気力で我慢する。
肩を撃たれた少女が逃げ去った方向は遊園地があったはず。逃げ込むには絶好の場所だがそれはマーダーが潜むにも都合のいい場所でもある。
早く彼女を保護しなければ――海やゲインの二の舞は決して繰り返えさせはしない、思いを強く抱き光は脚を速める。
唯一生き残っているはずのフェイトに会うためになのはも歩む。友の武器バルディッシュ・アサルトを抱いて。
二人の魔女少女が瓦礫の山を駆け抜けたしばらく後、E−4は禁止エリアとなったが直後消えた者がいた事は誰にも気づかれなかった。
一体どれ程の使い手が暴れたらこうなるのだろう。
E−4に負けず劣らず破壊の限りを尽くされた遊園地、賑やかだったであろうかつての面影は欠片も感じられない。
光となのはが魅音を発見するのにそう時間はかからなかった。不幸中の幸い、彼女の流した血が居場所を教えてくれたのだ。
「ハア、フゥ…!? 見てください、あそこ」
なのはの指さす方にに花壇のベンチで横になる魅音がいた。ここまで走ってきたのか傷口から出血している。
近づいてそっと手首に触れてみると温かい、脈もある。どうやら間に合ったようだ。
応急処置のため梨花の遺体から布を失敬して手当てに使った。後は感染症に気をつければいい。
ホッとするのもつかの間、光は見覚えのある物体を発見した。真紅の輝きを放つ魔法騎士の武具、過酷な試練を乗り越えた証。
(これってエスクードじゃないか!? …という事この人がクーガーの言ってたイオンちゃん?)
何時のかにか魅音そっちのけでエスクードに触れたままの自分に気づくが、彼女の呻きで光はあわてて我に返る。
「うう、あなたたちは…」
「あ、まだ動かないほうがいいよ。ええと、イオンちゃん、だっけ?」
「魅音よ」
「そうだったっけか(クーガーって本当に人の名前覚えないだな)。私は獅堂光、あの子が高町なのはちゃん。」
「園崎魅音よ。よろしく――」
魅音の視線が少女と少年の死体に釘づけになった。そういえば彼らの埋葬するのものも目的だったはずだ。
「実は君たちが撃たれるところが遠くから見えて…その、ゴメン、助けられなくて」
「いいのよ、気にしないで。それよりも」
視線は梨花の遺体に向けたまま軽く嗚咽を漏らす。
「お墓、作るの手伝うから…」
低くブロックを積んだだけの花壇では埋葬するには浅く、やむなく瓦礫も使って土饅頭の墓を2つ作った。
折れた鉄筋で瓦礫に梨花とジュンの名を刻み、最後に荒らされなかった花を墓前に手向けた。
ピッケルを振るいながら光は思う。海を埋葬した人物もこんな気持ちだったのだろうか。理不尽な末路に対するせめてもの慰めのつもりなのかと。
既に30人余の人間が死んでいる事実、受け入れていたつもりだったが余りにも重過ぎた。
結局『身動きの取れなくなった人物』の発見は叶わなかったが怪我人を保護できたのは行幸だろう。このままでは死ぬはず人間を助ける事ができたのだから。
魅音を護衛し2人の少女たちはホテルを目指した。怪我人を抱えつつ禁止エリアを迂回するため放送まで帰還できるかどうか微妙なところである。
道中光はどうしても魅音の左手が気になってしまう。周囲を警戒しつつもそこばかりに視線がいく。
エスクードの篭手は本来の持ち主である魔法騎士以外が所有しても無用の長物なのだ。なんとか説明して譲ってもらうか手持ちの支給品と交換してもらいたかったがまだ交渉できる雰囲気ではない事くらいは分かっている。
「さっきから気してるみたいだけどコレ、ほしいの?」
何の前触れも無く魅音が確信を突いてきた。しかも光の鼻先に現物を突き出して。
「いや、その…何ていうか、もともと私のというか」
ズバリ指摘されてしどろもどろする光。
「私の頼みを聞いてくれるなら譲ってあげてもいいんだけど」
「私にできる事なら。一体何をすればいいんだ?」
エスクードが包んだ拳に力が入りワナワナと震えた。
「翠星石と剛田武、この二人を倒して梨花の仇を討って頂戴…!」
【F−4・北部 遊園地北口付近/1日目 夕方】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(大) 梨花の死に精神的ショック、右肩に銃創(弾は貫通、応急処置済、動作に支障有り)
[装備]:エスクード(炎)@魔法騎士レイアース 、
[道具]:スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着(一部破れている)
[思考・状況]
1:とりあえず光、なのはとホテルへ向かう
2:圭一、レナ、沙都子と合流。
3:何とかして、梨花の仇を取る。(剛田武と翠星石を殺す)
4:3に協力してくれる人がいたら仲間にする。
5:危険そうな人物からはすぐに逃げる。
基本:バトルロワイアルの打倒。
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:健康、悲しみ、友を守るという強い決意 やや疲労
[装備]:バルディッシュ・アサルト@リリカルなのは
[道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り18品)、テキオー灯@ドラえもん、支給品一式
[思考・状況]
1:一旦ホテルに帰還。
2:フェイトと合流。 フェイトにバルディッシュを届けたい。
3:はやてが死んだ状況を知りたい。
4:カズマが心配。
[備考]
シグナム、ヴィータは消滅したと考えています。
【獅堂光@魔法騎士レイアース】
[状態]:全身打撲(歩くことは可能)軽度の疲労 ※服が少し湿っている
[装備]: 龍咲海の剣@魔法騎士レイアース
[道具]:鳳凰寺風の剣@魔法騎士レイアース、エスクード(風)@魔法騎士レイアース、スペツナズナイフ×1、支給品一式(×2)、デンコーセッカ@ドラえもん(残り1本)、オモチャのオペラグラス
[思考・状況]
1:一旦ホテルに帰還。
2:風と合流。
3:キャスカを警戒。
4:ゲインとみさえが心配。
5:状況が落ち着いたら、面倒だがクーガーの挑戦に応じてやる。
6:まず魅音から翠星石と剛田武の情報を聞く
基本:ギガゾンビ打倒。
※古手梨花、桜田ジュンの遺体はF−4遊園地の花壇に埋葬されました。
やれやれ。
せっかく利用価値があると思ったのにどういうことだ。
さっきは、戦闘で活躍を見せたと言うのに…
『サイトを返して』
としか言ってこない。
ただの生首で一体何をやりたいのか?
ここが戦場なら、いや戦場なのだが既にこんな奴死んでいるはずだ。
まあ、あの爆破で焼き野原を作り上げて生き延びたんだろう。
映画でよく言う『あいつが通った後には、何も残らない、まさに死神だ!』というのを地で行くものが出るとは驚きだ。
全く愉快な世界と言うか何というか。
だが…なんだ、いきなり例の武器をこっちに向けるではないか。
おいおい。さっきは大事そうなのにもう心変わりか。『女心と秋の空』とか言うが、本当にそうなのか。
まあ一応…掲げておくか。
「お嬢様。いけませんよ、この鞄の中にはあなたの大事な…」
「いい。ここ一面を吹き飛ばす。私もサイトも塵になって消えるの」
ホワイ、なぜ?
自爆宣言…グラウンドゼロを本当にやるつもりか。
爆破テロは聞いたことはあるが、利用しようとした人間に自爆されて巻き込まれるとは間抜けすぎるぞ。
きっと放送で『利用しようと捕らえたら、自爆されて巻き込まれたバカがいるぞ』と流されて、大笑いされてしまう。
もし自分の名前を出されてみろ。
キャスカもガッツも大笑いしてしまうだろう。最悪だ。
『鷹の団史上最も間抜けな団長』
等という汚名を着せられてたまるか。
だが、かといって素直に返却してもだ。
結局俺は爆破されてしまう。
どうせ俺は死ぬではないか。
どうする、どうすんの俺!
……
いかん。何を取り乱している。クールに考えよう。KOOLになれグリフィス。
とりあえずだ。自爆は駄目だ。説得しよう。
しかし…相手があの状態では話術は難しい。
なら…譲歩するしかないな。
「OK。分かった。即了承。とりあえず首は返す、すぐ返す。だからなっ、その物騒なの下げろ。OK?」
これなら大丈夫。左手だけでも持ってれば当面はセーフ。
「いいの、ありがとう」
「どういたしまして、マドモアゼル」
少しワルノリしすぎたか。
まあいい。
俺は自爆に巻き込まれる気はない。
放送が終われば、戦争にレッツゴーだ。
ガッツ、キャスカ、待っていろ!
頭上には放送の合図となるギガゾンビの幻影が映し出された。
【G-5店舗内/1日目/夕方】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:全身に軽い火傷 、思考に乱れ
[装備]:マイクロUZI(残弾数50/50)、耐刃防護服
[道具]:ターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×2(食料のみ三つ分 パン一個、水一割消費)
平賀才人の左手、ヘルメット
[思考・状況]
1:ルイズを利用し優勝を目指す
2:やっぱり剣が欲しい
3:手段を選ばず優勝する。殺す時は徹底かつ証拠を残さずやる
4:キャスカを探して、協力させる。
5:ガッツ……
【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:全身打撲(応急処置済み)、左手中指の爪剥離
[装備]:グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはA's (強力な爆発効果付きシュワルベフリーゲンを使用可能)
平賀才人の首、
[道具]:なし
[思考・状況]
1:グリフィスに従う
2:グリフィスが隙を見せたらサイトの左手も奪い返した後に殺す
3:朝倉涼子を殺す
4:3のために、朝倉涼子の情報を集める
5:サイトと一緒に優勝して、ギガゾンビを殺す。 手段は問わない
6:サイトに会いに行く
備考
二人は食事を取りました。