アニメキャラ・バトルロワイヤル 作品投下スレ4

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1 ◆C1.qFoQXNw
ここは
「アニメ作品のキャラクターがバトルロワイアルをしたら?」
というテーマで作られたリレー形式の二次創作スレです。

参加資格は全員。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。

「作品に対する物言い」
「感想」
「予約」
「投下宣言」

以上の書き込みは雑談スレで行ってください。
sage進行でお願いします。


現行雑談スレ
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1167492925/l50
2 ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 09:51:13 ID:eWrFX6Qf
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」

 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → MAP-Cのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。


【バトルロワイアルの舞台】
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/34/617dc63bfb1f26533522b2f318b0219f.jpg

まとめサイト(wiki)
http://www23.atwiki.jp/animerowa/
3 ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 09:53:02 ID:eWrFX6Qf
【キャラクターの状態表テンプレ】

【地名・○○日目 時間(深夜・早朝・昼間など)】
【キャラクター名@作品名】
[状態]:(ダメージの具合・動揺、激怒等精神的なこともここ)
[装備]:(武器・あるいは防具として扱えるものはここ)
[道具]:(ランタンやパソコン、治療道具・食料といった武器ではないが便利なものはここ)
[思考・状況](ゲームを脱出・ゲームに乗る・○○を殺す・○○を探す・○○と合流など。複数可、書くときは優先順位の高い順に)

◆例
【B-6森 2日目 早朝】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(左腕・右足に切り傷)
[装備]:刀、盾
[道具]:ドアノブ、漫画
[思考]
第一行動方針:のび太を殺害する
第二行動方針:アーカードの捜索
基本行動方針:最後まで生き残る

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24
4 ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 09:54:14 ID:eWrFX6Qf
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。

【放送】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
スピーカーからの音声で伝達を行う。

【禁止エリア】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
5 ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 09:56:35 ID:eWrFX6Qf
【能力制限】

◆禁止
・ハルヒの世界改変能力
・ローゼンキャラの異空間系能力(間接的に人を殺せる)
・音無小夜の血液の効果

◆威力制限
・BLOOD+のシュヴァリエの肉体再生能力
・Fateキャラの固有結界、投影魔術
・長門有希と朝倉涼子の能力
・レイアース勢、なのは勢、ゼロ勢、遠坂凛の魔法
・サーヴァントの肉体的な打たれ強さ(普通に刺されるくらいじゃ死なない)
・サーヴァントの宝具(小次郎も一応)
・スクライドキャラのアルター(発動は問題なし、支給品のアルター化はNG)
・タチコマは重火器の弾薬没収、装甲の弱体化
・アーカードの吸血鬼としての能力

◆やや威力制限
・うたわれキャラの肉体的戦闘力
・ジャイアンの歌

◆問題なし
・ローゼンのドールの戦闘における能力
・ルパンキャラ、軍人キャラなどの、「一般人よりは強い」レベルのキャラの肉体的戦闘力


*制限事項のさらなる詳細については、まとめWikiをご参照ください。
6 ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 09:58:41 ID:eWrFX6Qf
【参加者一覧表】

6/6【涼宮ハルヒの憂鬱】
   ○キョン/○涼宮ハルヒ/○長門有希/○朝比奈みくる/○朝倉涼子/○鶴屋さん
5/5【ドラえもん】
   ○ドラえもん/○野比のび太/○剛田武/○骨川スネ夫/○先生
5/5【スクライド】
   ○カズマ/○劉鳳/○由詫かなみ/○君島邦彦/○ストレイト・クーガー
5/5【ひぐらしのなく頃に】
   ○前原圭一/○竜宮レナ/○園崎魅音/○北条沙都子/○古手梨花
5/5【ローゼンメイデンシリーズ】
   ○桜田ジュン/○真紅/○水銀燈/○翠星石/○蒼星石
5/5【クレヨンしんちゃん】
   ○野原しんのすけ/○野原みさえ/○野原ひろし/○ぶりぶりざえもん/○井尻又兵衛由俊
5/5【ルパン三世】
   ○ルパン三世/○次元大介/○峰不二子/○石川五ェ門/○銭形警部
5/5【魔法少女リリカルなのはシリーズ】
   ○高町なのは/○フェイト・テスタロッサ(フェイト・T・ハラオウン)/○八神はやて/○シグナム/○ヴィータ
5/5【Fate/stay night】
   ○衛宮士郎/○セイバー/○遠坂凛/○アーチャー/○佐々木小次郎
5/5【BLACK LAGOON】
   ○ロック(岡島緑郎)/○レヴィ/○ロベルタ/○ヘンゼル/○グレーテル
5/5【うたわれるもの】
   ○ハクオロ/○エルルゥ/○アルルゥ/○カルラ/○トウカ
4/4【HELLSING】
   ○アーカード/○セラス・ヴィクトリア/○ウォルター・C(クム)・ドルネーズ/○アレクサンド・アンデルセン
4/4【攻殻機動隊S.A.C】
   ○草薙素子/○バトー/○トグサ/○タチコマ
3/3【ゼロの使い魔】
   ○平賀才人/○ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール/○タバサ
3/3【魔法騎士レイアース】
   ○獅堂光/○龍咲海/○鳳凰寺風
3/3【ベルセルク】
   ○ガッツ/○キャスカ/○グリフィス
2/2【デジモンアドベンチャー】
   ○八神太一/○石田ヤマト
2/2【OVERMAN キングゲイナー】
   ○ゲイナー・サンガ/○ゲイン・ビジョウ
2/2【BLOOD+】
   ○音無小夜/○ソロモン・ゴールドスミス
1/1【MASTERキートン】
   ○平賀=キートン・太一
80/80
7くじけそうになったら涙を ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 10:12:58 ID:eWrFX6Qf
「ウミは――」
ゲインの返答を遮ったのはギガゾンビ立体映像と高邁な挨拶だった。
濡れた夜明けの空に浮かんだ巨大なそれは自身の安っぽい自己顕示欲と虚栄心の表れか。参加者たちを嘲笑し、侮蔑し、悪意に満ちたセリフを吐き続ける。
そして――発表される数多の死者の中に確かにあったのだ、龍咲海の名前が。
「…そういうことだ」
光に説明しづらかった海の死をギガゾンビが無神経に知らしめたのは腹立たしかった。
しかし自分ならもっとオブラートに包んだ言い方ができただろうか? 欺瞞だ、どう言い換えようと龍咲海が死亡した事実は変わらない。
衝撃の宣告を受け光はカッと目を見開き、そして膝から崩れ落ちる。
「この先の空き地で彼女の墓を発見した。誰かが不憫に思って埋葬したのだと思う」
放送が終わって光は膝をついたままだった。突然友人が死んだと宣告された女子中学生の反応としては無理もない。
こんな悲劇が各地で繰り広げられているのだろう。それも19人、約4分の一の人数だ。
幸運にもゲイナーの名は呼ばれなかった。だがギガゾンビの言う通り明日の太陽を自分もゲイナーも拝めるのか? 仮想ではない狂気のゲームの中で。嫌な想像をしていまいゲインは身震いする。
3分も経っただろうか、前触れもなく光は立ち上がり歩みだした。夢遊病のようにフラフラと海の墓があると知らされた方向に向かって。
「おい、ヘタにうろついちゃあぶないって」
「…嘘だ、海ちゃんが死んだなんて」
「?」
「わたしは信じない。死体を確認するまでは!」
そう叫ぶと光は急に走り出した。あっけにとられゲインは反応が数秒遅れる。
「お、おい待てよ!」
荷物も預かっているし放っておくわけにもいかずゲインは光を追うことにした。
8くじけそうになったら涙を ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 10:14:22 ID:eWrFX6Qf
ザクッ、ザクッ、ザクッ…

ゲインが歩いてきた道を引き返し墓のあった空き地までくると光は墓を掘り返していた。
墓標の代わりだったレイピアが転がっている。彼女のものと思しきディパックも近くに放置されていた。
「海ちゃん…嘘だよね? ここに埋まっている人は別人だよねぇ? ねえ答えてよ」
光の口からは意味不明の言葉が発されている。制服が泥だらけになるのも構わず発掘作業を続けていた。
「もういい、止めろ! 死者を冒涜するのは。仲間なんだろ、君の…ウッ!?」
頭部を銃火器の類で打ち抜かれ、恐怖に引きつり大脳を晒す死体が現れた。その光景はゲインにウッブスの悲劇を想像させるのに十分だった。
エクソダス請負人として人の死を見た経験もあり嘔吐こそしなかったが目をそらせるには十分である。
一方、光は掘り返した海の亡骸の肩を抱き必死に揺らせている。
「ねえ、何時まで寝てるんだ? ギガゾンビを倒していっしょに東京に帰えろう…」
肩を揺らすその度に頭部を支えきれなくなった首がグルグルと揺れ、脳漿がだらしなく垂れている。
「しかたない、私おんぶしてあげるよ。確か北にホテルがあったはずだ」
疲労しているにも関わらず光は海の亡骸を背負い歩み始めた。まるで海の死など意にかけないように。
死体を掘り出しあまつさえ背負っていくという異常な光景にゲインは唖然としばらく立ち尽くしていた。

「海ちゃん見て、ゲインの表情。そんなに珍しいのかな、女の子同士のおんぶが」
『フフ、妬いてんのよ。光と私があんまり仲良しだから』
「でも親友だもん、仲がいいのは当たり前じゃないか」
『バカね♪ 私たちの仲のよさは特別なの』
「ギガゾンビ打倒は始まったばかりだ。まだまだこれから…」
『あんまり見せつけると百合だと思われるわよ』
「いいじゃないか誤解されたって。私たちは魔法騎士なんだから」
9くじけそうになったら涙を ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 10:15:57 ID:eWrFX6Qf
突発的な災害で親しい人物を失った場合、その死を理解できず死体を生きているように扱う事象があるという。
ウッブスの悲劇の時だって似たような状況があっただろう。だが――
(違う、これは現実だ)
我に返って光を追うゲイン、二人の距離はそうそう離れていないのですぐ追いついた。
「もうよせ、仲間の死体をおぶって一体どういうつもりだッッ?」
ゲインに阻まれ光は歩みを止める。
「ゲイン…」
背負った海の目からは黒ずんだ血が涙のように溢れだしている。そして光の目からも。
「少しだけ…もう少しだけ続けさて」
魔法騎士としてセフィーロに召還され、プレセアを看取りザガートとエメロードを自らの手で葬った。
あの時は唯、無力感とどうしようもなさに苛まれた。そして今度も――
「海ちゃん…海…ちゃん――うぉああぁあ――!!」
その名の如く獅子の咆哮を思わせる慟哭が響く。成り行きを見守っていたゲインだったが光の肩に手を置いた。
「もう気は済んだろう? 今度こそ彼女を安らか眠らせてやれ」

“安らか眠らせてやれ”

光だって理解していた。自分のやっている行為は所詮現実逃避に過ぎないのだと。ただ感情が追いつかなかったのだ。
海の亡骸を抱きかかえ空き地へ戻り墓穴へと横たえる。開いたままだった瞳を閉じさせて、両手を胸で結んで。
10くじけそうになったら涙を ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 10:17:22 ID:eWrFX6Qf
いつの間にか雨は止み、朝日が顔を出し始めてきた。陽光が二人の生者と一人に死者を照らす。これが希望の光になればいいのだが。
光とゲインの共同作業で海の再埋葬ははかどった。英語で書かれた“龍咲海、ここに眠る”の碑文と転がっていた西瓜を供える。
ディパックとともに墓標代わりだったレイピアはゲインが拾おうとしたが握った数秒後、刀身が液体と化して流れ落ち元の形をとる。
「その剣は海ちゃん専用の武器だ。他の人が手に取ると液化して使えないよ」
「だったらウミを埋葬してくれた人はどうやってコイツを突き立てた? それにディパックに入れるのだって」
「ウ〜ン…そうだ、もしかして!」
近くに落ちていたもう一つのディバックを手袋代わりにしてレイピアを握ってみる。ゆっくりと十秒数えたが刀身に変化は無い。
「やっぱりそうだ。仕組みは分からないけどディバックを介入させることで液化を防げる!」
ヒュンヒュンと軽くレイピアを振ってみせる光。自分専用の長剣に比べれば使いにくいが友人の形見、大切に使わしてもらおう。
朝日に照らされた友の墓前に改めて誓う。ギガゾンビを必ず倒すと、風とそして海の魂と共に東京に帰ると。
「さてヒカル、こいつは返す」
ディバックが光に向かって放り投げられた。
「友の死を悲しむ人間なら信じられそうだからな。俺は君を信じるよ」
「アリガトウ。ところでゲインはこれからどうするんだ?」
「エクソダスのため信頼できる人間を探す。こんなふざけたゲームなんてゴメンだ」
「私も風ちゃんと合流しないと」
「なら俺と一緒に探さないか? 二人で行動すればゲームにのった連中も撃退しやすい。どうだ?」
「そうだね、うん…よろしくゲイン」
エクソダス請負人と魔法騎士――生きた時代も戦ってきた世界も違う二人が手を結んだ瞬間だった。ギガゾンビへの反攻を旗印として。
互いに右手を差し出し握手しようとして光は倒れかかった。とっさにゲインが支えたが疲労が思ったより激しいようだ。
(そういえば彼女をどこかで休ませるんだったな。たしか北にホテルがあったはずだ)
11くじけそうになったら涙を ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 10:18:16 ID:eWrFX6Qf
【E-5市街地 1日目 朝】

【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:良好 ※雨で濡れています
[装備]:パチンコ(弾として小石を数個所持)、トンカチ
[道具]:支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)
[思考]
第一行動方針:海のことも含めて情報交換、まずは光を休ませたい
第二行動方針:市街地で信頼できる仲間を捜す
第三行動方針:ゲイナーとの合流
基本行動方針:ここからのエクソダス(脱出)

【獅堂光@魔法騎士レイアース】
[状態]:全身打撲(歩くことは可能)中度の疲労 ※雨で濡れています
[装備]:龍咲海の剣
[道具]:支給品一式×2、ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、デンコーセッカ@ドラえもん(残り1本)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの
[思考・状況]
第一行動方針:まずは休憩
第二行動方針:風との合流
基本行動方針:ギガゾンビ打倒

*近くに放置されていたディパック×2は回収されました
12 ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 10:33:01 ID:eWrFX6Qf
書き忘れました。

前スレ
ttp://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1167526228/
13名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/31(日) 10:48:23 ID:49i1rLRy
【参加者一覧表(現在)】

5/6【涼宮ハルヒの憂鬱】
   ○キョン/○涼宮ハルヒ/○長門有希/○朝比奈みくる/○朝倉涼子/●鶴屋さん
3/5【ドラえもん】
   ○ドラえもん/○野比のび太/○剛田武/●骨川スネ夫/●先生
4/5【スクライド】
   ○カズマ/○劉鳳/●由詫かなみ/○君島邦彦/○ストレイト・クーガー
5/5【ひぐらしのなく頃に】
   ○前原圭一/○竜宮レナ/○園崎魅音/○北条沙都子/○古手梨花
5/5【ローゼンメイデンシリーズ】
   ○桜田ジュン/○真紅/○水銀燈/○翠星石/○蒼星石
3/5【クレヨンしんちゃん】
   ○野原しんのすけ/○野原みさえ/●野原ひろし/○ぶりぶりざえもん/●井尻又兵衛由俊
3/5【ルパン三世】
   ○ルパン三世/○次元大介/○峰不二子/●石川五ェ門/●銭形警部
4/5【魔法少女リリカルなのはシリーズ】
   ○高町なのは/○フェイト・テスタロッサ(フェイト・T・ハラオウン)/●八神はやて/○シグナム/○ヴィータ
4/5【Fate/stay night】
   ●衛宮士郎/○セイバー/○遠坂凛/○アーチャー/○佐々木小次郎
3/5【BLACK LAGOON】
   ○ロック(岡島緑郎)/○レヴィ/●ロベルタ/○ヘンゼル/●グレーテル
3/5【うたわれるもの】
   ●ハクオロ/○エルルゥ/○アルルゥ/●カルラ/○トウカ
2/4【HELLSING】
   ○アーカード/○セラス・ヴィクトリア/●ウォルター・C(クム)・ドルネーズ/●アレクサンド・アンデルセン
3/4【攻殻機動隊S.A.C】
   ○草薙素子/●バトー/○トグサ/○タチコマ
1/3【ゼロの使い魔】
   ●平賀才人/○ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール/●タバサ
2/3【魔法騎士レイアース】
   ○獅堂光/●龍咲海/○鳳凰寺風
3/3【ベルセルク】
   ○ガッツ/○キャスカ/○グリフィス
2/2【デジモンアドベンチャー】
   ○八神太一/○石田ヤマト
2/2【OVERMAN キングゲイナー】
   ○ゲイナー・サンガ/○ゲイン・ビジョウ
2/2【BLOOD+】
   ○音無小夜/○ソロモン・ゴールドスミス
0/1【MASTERキートン】
   ●平賀=キートン・太一
59/80
士郎が死んだ。

あの忌々しい変態仮面の放送では19人もの人物の名が流れた。その中にはあの馬鹿の名前があった。
あの『正義の味方』な馬鹿のことだ。大方誰かを庇って死んだんだろう。

「…しずかちゃん…スネ夫…先生……キートンさん…」

私の隣ではさっきから、少年がぶつぶつと知り合いであろう人物達の名前を膝を抱えながら呟いている。
とりあえず、放っておいてやろう。
別にやさしさからそうするわけじゃない。慰めるのがめんどくさいからだ。

今危惧すべきはセイバーだろう。
もし、私の知っているセイバーならこの放送を聞いて暴走しているかもしれない。
あの馬鹿のことを慕っていたし。もしそうならかなり厄介だ。
別にあの子のことを心配してるわけじゃない、戦力が減る可能性があるからだ。

とりあえずの所は、偵察に出した水銀燈が戻ってくるまでは森の中でじっとしてしておこう。
なんか帰ってくるのが遅いけど、探しに行くのもめんどうだ。私と同じように少し休息は取ったから力も回復した
だろうし、ラインが繋がってるのも確認したからその内帰って来れるだろう。
今はあまり動きたくない。別に落ち込んでるわけじゃない。
ただの知り合いが死んで落ち込むなんて、遠坂家の魔術師がするわけなんてありえない。

だから、しっかりしろ!遠坂凛!
――――――――――

私達は穴を掘り終えるとカルラさんの遺体をその中に横たえた。そして、瞳を閉じ土を被せ、
彼女の名前を書いたメモ用紙を風に飛ばされぬよう石を上に置きタチコマの西瓜と共に放置する。
むなしさ、無力感、くやしさといった黒い感情が私を包む。
だけど負けられない。生きて私の罪を償うまでは死ねないから。

「行きますね、カルラさん」

そのまま彼女の魂が天国に逝けるようにしばらく祈る。

ごめんなさい。カルラさん。

そうして祈り終わってから、タチコマの言う南にある鞄を回収しに行った。
すぐに辿り着きそれを発見した。とりあえず辺りを見回しても誰かがいる様子は無かった。
死体が無いことをほっとしつつも疑問に思ったけど、多分誰かが落としたんだろう見当をつける。

「おお〜、経験値が溜まる〜」

タチコマの方を見ると、いつのまにか鞄の中から薬箱を取り出し、その中から香炉を取り出していた。

「何それ?」
「香。嘔吐を引き起こす成分の」
「……分かるの?」
「センサーで解析できるよ。君は吸わないほうがいい、毒だから」

そのまま彼が薬箱や如雨露をしまい近寄ってくる。

「そういえば、君の支給品ってそのカードだけ?」
「ううん、銃と玩具が入ってた」
「見せて見せて」

私はそれらを出すのに苦労しながら彼に見せることにする。正直言って私には意味がなさそうな代物だったから。

「おお〜!これはサイトーさんの対物ライフル」
「たいぶつらいふる?」

彼が言うにはTVとかに良く出てくる狙撃銃のことらしい。
内容はNTW20対物ライフル、ボルトアクション、QRS照準対応、20mmx180弾、射程は1500m、装弾数は4発とのこと。
私には重く、説明書を読んでも人口衛星や鷹の目とかの話が書いてあったりして、扱い方が難しく
よく分からなかったから鞄に放り込んでおいたけど、そのまま捨ててなくてよかった。彼曰く、かなり強力なものらしい。
次に出した物はプロペラの付いた玩具。なんの魔力も感じなかったし、説明書の内容もふざけているとしか
思えなかった技術が書かれてあった。
けど、私の目の前には、どう見ても魔法ではなく未来の科学を使っているとしか思えない彼がいた。
とりあえず、私が付けても意味がなさそうだから、彼の頭にその玩具をつけてみることにする。
「何これ?」
「浮かぶイメージを思い浮かべてみて」

私がそういうと彼が宙に浮かんだ。どうやら本物みたい。

「うわ〜。これミノフスキークラフト?空を飛べるよ」
「そういう道具みたい。これで温泉まで行こう」
「その前にこれ付けて。それからポッドの中に入って、そっちの方がいいよ」

たしかに、この道具は時速80kmまでスピードが出せるみたいだから、私よりは速そう。
連続八時間までしか飛べないみたいで、効率は魔法の方がいいみたいだから休み休み飛ぶ
必要があるけど、これは便利そうだ。
私はタチコマの口のような場所に彼の取り出した金属の塊を付けてから、ポッドの中に乗り込む。
そうして温泉に向かった。

――――――――――

何あれ?

私がそれを見たのは八時頃だった。
木々にこちらの姿が隠れていたためか、あれは私に気付かずに温泉の方に向かっていった。
UFOだろうか、誰かの支給品だろうか?
たぶん、どちらとも違う。あの最初のフロアにいたときに見た、薄暗い中でも全参加者の中でも
とりわけ異色を放つ青い化け物の姿。それに空飛ぶ何かは酷似していた。
追ってやっつけてやろうかと思ったものの、逆に返り討ちに遭いそうだから止めておくことにする。
向かった方向も、先刻まで私がいたこの舞台の端の温泉だから、部活メンバーや他の誰かも居ないだろうし。

「まあ、触らぬオヤシロ様に祟り無し、ってね」
「それを言うなら、触らぬ神に祟り無し、じゃないかしらぁ?」
――――――――――

放送が終わってしばらくすると、カレイドルビーが、

「適当に偵察でもしてて」

なんて言ったの。まあ、私も真紅達をこの手でジャンクに出来る機会が残っていることが
分かって、笑みを堪えるのに苦労してたから偵察に出るのはありがたかったけど。
そうして、空を飛んでいるとと思わぬ発見をしちゃったの。
いきなりそれが覆いかぶさって来た時は驚いちゃったけど、調べてみると透明な布だったわ。
しかも、腕に被せると被せた部分が見えなくなった。どうやら、姿を消せる布切れみたい。
便利そうな道具だったから思わず笑みを浮かべちゃった。
寺で休憩しながら、この布切れをどう活用しようか考えてたところに女が現れた。
とりあえずは、実験ついでに観察する事にして後を追ったの。
でも、たいして何も無い所でいきなりびびったり、こけたりするんだもの、笑いをこらえるのも大変だったわねぇ。
そうしているとあの青蜘蛛が北のほうへ飛んでいったのが見えた。
青蜘蛛はあっという間にいなくなったけど、おばかさんみたいに飛んでいった方向を眺めてる
女に声を掛ける事にしたの。もうそろそろ頃合だし。

「まあ、触らぬオヤシロ様に祟り無し、ってね」
「それを言うなら、触らぬ神に祟り無し、じゃないかしらぁ?」

私は神なんて信じない、唯一信じるのはお父様だけだけど。
私の目の前にいる人間がこちらを向いてくる。かなりの間抜け面ねぇ、とっても面白いわぁ。

「……あんた何さ?そんな人形みたいななりで、あんたも参加者?」

声が少し震えてるわねぇ。まあいいわ、答えてあげることにしましょう。

「私はローゼンメイデンの第一ドール、水銀燈。今はカレイドルビーの忠実なる僕よぉ」

まあ、あの女の僕って所は嘘だけどねぇ。

「っで、それが私に何の用なのさ?」

気丈だけど震える声で聞いてくる。まあ、用なんて色々あるのだけどねぇ。

「ええ、ちょっと死んでもらおうと思って」

女は私の言葉を聞き少し後ずさり、

「困るなぁ、おじさんこんな所で呪い人形に殺されるわけにはいかないんだからさっ!!」

斧をデイバッグから取り出し襲い掛かってくる。まあ反応としてはいたって自然ね。でも遅い。
私は左羽で斧の一振りを受け止める、弱い。雑魚ね。右羽で女の顔面を叩き、隙だらけとなった女の腹を蹴飛ばす。
女は斧とデイバッグを取り落とし、木に激突しちゃたわぁ。

「……ガッ!…オエ…オエェェェェェェェェェェェェェェ!!」
「お腹をちょっと小突いたぐらいで吐くなんてぇ、無様ねぇ」

無様に嘔吐した女に私は嘲笑の笑みを向け、その女は涙目になりながらも私を睨み返してくる。
思ったよりも荒事に慣れているのかしら?まあいいわぁ、目的を実行することにしましょう。

「我主カレイドルビーの命令で殺すつもりだったけど、気が変わったわ。見逃してあげる」
「……何たくらんでんのさ?」

聞き返す度胸はまだ残ってるみたいねぇ。そうでなくっちゃ面白くないわぁ。

「企むぅ、なんのことかしらぁ?これだけ道具が手に入ったんだものぉ、
 気分だってよくなるわぁ。それじゃあ私はカレイドルビーの所に戻るからぁ」

そうして、私は斧とデイバッグを掴み森の中へと姿を消す。
少し離れると、女がいた方向から山を下るであろう走る音が聞こえてきた。思わず口元が緩まる。
私の思いどうりにことが進んでいるのが愉快だ。これなら、あの女は麓まで辿り着き誰かと遭遇するわねぇ。
とはいえ、下手に仕掛けるつもりは無い。私とカレイドルビーの能力を考えれば待ち伏せをするのが無難よ。
でも、先刻飛んでいったあの青蜘蛛は不味いわね。どうやってかは分からないけど、
空を飛べるようになってしまった以上は、あの体格で体当たりでも仕掛けられればひとたまりもないし。
まあいいわ、あのなりじゃあ仲間なんて出来そうもない。勝手にジャンクになるでしょう。
そういえば、アレの名前は何なのかしら?
がんだむハンマーって言ってたから、がんだむって名前なんでしょうけど。
とりあえず、手駒の所に戻るとしましょうか。知らぬ間に殺されても少し困るし。
19名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/02(火) 01:30:42 ID:RbMPoPRw
今一番読みたかった組み合わせキターw
支援!
――――――――――

僕は真直ぐ温泉に向かっていた。
これだけの速度なら誰かに発見されちゃうだろうけど、バトーくん達が見かけたら進行方向から位置は
察してくれるだろうから光学迷彩を使わずに行くことにしたんだ。狙撃もサイトーさんレベルでもないと不可能だし。
そうして、旅館らしき所が見えてきた。建物の中を熱源センサーで見てみたけど、温泉とやらがある場所以外は
何も発見できなかった。とりあえずお湯がいっぱい張ってあった場所を上空から調べてみても誰も居そうに無い。
これが温泉かな?まあ、温泉に入るっていっても、外は危ないから玄関の方に回って一旦フェイトちゃんを
降ろしてから、中へと進む。途中で土偶があったけど、彼女を温泉に入れることが先だと思ったから放っておいた。
通路は僕が通れるぎりぎりの狭さだから僕が先頭、これが盾のお仕事さ。
そうして男や女って書かれた入り口らしき場所に辿り着いた。

「ここがそうなの?」
「うん、そう」

彼女は僕を飛び越えて中に入っていく、僕もその後に続いたら彼女が振り向いた。

「何で入ってくるの?」
「一人じゃ危ないよ」
「……それもそうか。…ハァ」

なんか溜息ついてる。僕何か変なことでも言ったかな?
僕達が奥に進むとまたお湯が張ってあった。

「これが温泉?」
「うん、そう。外にあったのが露天風呂、ここは内風呂っていうの」

ふ〜ん、そうなんだ。経験地が溜まるなぁ。

「今から入るから、後ろを向いてポッドを開けて。濡らさないでね」
「ラジャー」

僕のポッドの中に荷物や服、バスタオルが入れられていく。

「そのまま、入り口を見張ってて」

そうして、フェイトちゃんはお風呂の中に入っていった。僕も入りたいなぁ。

「ねぇねぇ、僕も入っていい?」
「……いいけど、こっちを見ないでね」
「わ〜い」
「本当にこっちを見ないでね。男の子なんだから」

僕に性別はないんだけどね。それに後ろを向くなって言っても、ポッドにも視覚センサーが付いてるから
実質どっち向いてても、たいして変わらないのに。まあ温泉に入れるからいいけど。
そうして、温泉に入ったんだけど何も変化が起きない。別に思考パターンにノイズが発生するわけでもないし。
まあいいか、今は雰囲気だけでも楽しもう。
そう考えていたんだけど、ぴたりと会話が止みしばらく彼女は黙ったままだった。
そして、やっと口を開いたと思ったら、なんか暗い感じの表情だった。

「……なのはは殺し合いに乗っているのかなぁ?」
「どういうことだい?」

僕が問い返すと彼女は声を震わせながらこれまでの経緯を話してくれた。
なのはと言う友達がシグナムと言う人を殺した。だけど、そのシグナムは生きているということ。
でも、はやてという子が死んじゃった以上はシグナムと言う人は存在できないと言うこと。
僕には彼女の言う『魔法』という概念を話されても理論が分からないから答えなんかは出しようがない。
でも、彼女が陥った状況には検討がついた。

「たぶん目を盗まれたんだよ」
「目を盗まれる?」

サイトーさんから聞いた話なんだけど、バトーくんやトグサくんが笑い男に目と電脳を
ハッキングされたことがあったんだ。僕はその時の話を理論を交えつつ話して上げた。

「それじゃあ、私が幻覚を見せられたかもしれないということ?」
「そういうこと」

僕はそのときの状況を見てないから確証は持てないけど。

「許せない、私の中のなのはを汚すなんて」
「まあまあ、頭に血が上ってるとトグサくんみたいにミスしちゃうよ」
「……分かった、落ち着く」

なんとなくしょんぼりしてた。カルラって人のことを気にしているのかなぁ?

「よし決めた、急いで他の人を探そう」

そう言った。彼女の表情は少佐みたいに凛としてた。これなら大丈夫そう。

「でももうちょっと、ゆっくりしたかったなぁ」

まあ、そうも言ってられない状況だから仕方ないか。あっ!そういえば良い物があった。

「はい、これ渡しとくね」
「双眼鏡?」
「そう、ただの双眼鏡。でもこの山から全体を見渡せば誰かが見つかるはずだよ」

そうすれば、彼女の友達やバトーくん達はすぐに見つけられる。

「ありがとう。行こう、タチコマ」
「ラジャー」
――――――――――

私は自分が恥ずかしい。心の弱さに負けてなのはの事を信じることが出来なかったから。
でも、もう大丈夫。もう失敗はしない、絶対にしたくない。
だから、私がしなければいけないことを確認する。
まずは、あの眼鏡を掛けた女の人が本当に殺し合いに乗ってるかを確認しないといけない。

そして、シグナムとヴィータを見つけないといけない。
なぜ、はやての名前が呼ばれて彼女たちが存在できるか分からない。
はやてが同姓同名の別人か、何らかのロストロギアを使って二人とも存在しているか。
いずれにしても、はやての死を聞いて生き返らすために殺戮を繰り返してしていまうかもしれない。
二人とも以前の私みたいに、一つのことしか見えなくなるかもしれないから。
もしそうなら、私が止めないといけない。それが私のすべきことだ。
仲間を信じられないことは友人失格だと思う。それでも私が殺し合いを止めることを決意しなければ、
死んでしまったカルラさんやはやてを始めとした19人の魂は報われない。

そして、なのはに会おう。会って、疑ってごめんって言おう。
それから一緒に戦おう、なのはと力を合わせれば出来ないことなんてないんだから。


【A-8 温泉施設・1日目 午前】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労(小)、全身に軽傷、背中に打撲、決意
[装備]:S2U(元のカード形態)@魔法少女リリカルなのは、双眼鏡
[道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、NTW20対物ライフル@攻殻機動隊S.A.C(弾数4/4)
[思考]
1:双眼鏡を使い、タチコマに乗って他の参加者を探す。
2:カルラの仲間に謝る。
3:自分の友人とタチコマの仲間との合流。
4:眼鏡の少女と遭遇したら自分が見たことの真相を問いただす。
基本:シグナム、ヴィータ、眼鏡の少女や他の参加者に会い、もし殺し合いに乗っていたら止める。
[備考]
カルラの墓には『西瓜@スクライド』が供えられています。

【タチコマ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:装甲はぼこぼこ、ダメージ蓄積、燃料わずかに消費
[装備]:ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)、タチコマの榴弾@攻殻機動隊S.A.C
    タケコプター@ドラえもん(残り使用時間7:58)
[道具]:支給品一式×2、燃料タンクから1/8補給済み、お天気ボックス@ドラえもん、西瓜47個@スクライド
    龍咲海の生徒手帳、庭師の如雨露@ローゼンメイデンシリーズ
    エルルゥの薬箱@うたわれるもの(治療系の薬はなし。筋力低下剤、嘔吐感をもたらす香、
    揮発性幻覚剤、揮発性麻酔薬、興奮剤、覚醒剤など)
[思考]
1:空中から他の参加者の捜索。
2:フェイトを彼女の仲間の元か安全な場所に送る。
3:九課のメンバーと合流。
4:自分を修理できる施設・人間を探す。
[備考]
光学迷彩の効果が低下しています。被発見率は多少下がるものの、あまり戦闘の役には立ちません。
効果を回復するには、適切な修理が必要です。
タケコプターは最大時速80km、最大稼動電力八時間です。

【C-7森・1日目 午前】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(小)、腹部殴打、胃の中の物を嘔吐
[装備]:エスクード(炎)@魔法騎士レイアース
[道具]:無し
[思考]
1:急いで逃げながら市街地を目指す。
2:圭一ら仲間を探して合流。
3:ドラえもん、もしくはその仲間に会って、ギガゾンビや首輪について情報を聞く。
4:襲われたらとりあえず応戦。
5:出来れば扱いやすい武器(拳銃やスタンガン)を調達したい。
6:クーガーは後回し。
基本:バトルロワイアルの打倒。

【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:消耗(小)/服の一部損傷/『契約』による自動回復
[装備]:ヘンゼルの手斧@BLACK LAGOON、透明マント@ドラえもん
[道具]:USSR RPG7(残弾1)、ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)
     スーパーピンチクラッシャーのオモチャ@スクライド、支給品一式(パン1つ消費、水1/8消費)
[思考]
1、カレイドルビーの所に戻る。
2、カレイドルビーとの『契約』はできる限り継続、利用。最後の二人になったところで殺しておく。
3、カレイドルビーの敵を作り、戦わせる。
4、真紅達ドールを破壊し、ローザミスティカを奪う。
5、青い蜘蛛はまだ手は出さない。
6、バトルロワイアルの最後の一人になり、ギガゾンビにメグの病気を治させる。
[備考]:凛の名をカレイドルビーだと思っている。
    透明マントは子供一人がすっぽりと収まるサイズ。複数の人間や、大人の男性では全身を覆うことできません。
    また、かなり破れやすいです。

【B-6山中の森・1日目 朝】
【魔法少女カレイドルビーチーム】
【遠坂凛(カレイドルビー)@Fate/ Stay night】
[状態]:魔力消費(小)/カレイドルビー状態/水銀橙と『契約』
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(バスターモード)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、ヤクルト一本
[思考]
1、別に士郎が死んで落ち込んでなんていないんだから!!
2、のび太と自分が落ち着いたらギガゾンビの情報を聞き出す。
3、高町なのはを探してレイジングハートを返す。ついでに守ってもらう。
4、アーチャーやセイバーがどうなっているか、誰なのかを確認する
5、知ってるセイバーやアーチャーなら、カレイドルビーの姿はできる限り見せない。
6、自分の身が危険なら手加減しない
[備考]:現在、カレイドルビーは一期第四話までになのはが習得した魔法を使用できます。
    ただしフライヤーフィンは違う魔術を同時使用して軟着陸&大ジャンプができる程度です。

【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:茫然自失/左足に負傷(走れないが歩ける程度に治療)
[装備]:ワルサーP38(0/8)
[道具]:無し
[思考]
1、色々有りすぎて考えがまとまらない。

水銀燈の『契約』について
厳密に言うと契約ではなく、水銀橙の特殊能力による一方的な魔力の収奪です。
凛からの解除はできませんが、水銀橙からの解除は自由です。再『契約』もできます。
ただし、凛が水銀橙から離れていれば収奪される量は減ります。
通常の行動をする分には凛に負荷はかかりません。
水銀橙が全力で戦闘をすると魔力が少し減少しますが、凛が同時に戦闘するのに支障はありません。
ただしこれは凛の魔力量が平均的な魔術師より遥かに多いためであり、魔力がない参加者や
平均レベルの魔力しかない魔術師では負荷が掛かる可能性があります。
逆に言えば、なのは勢やレイアース勢などは平気です。
26「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:26:07 ID:4L2NxhEx
 仮面の男が何か言っている。
 大層な立体映像まで持ち出して、死者の名前と禁止エリアについての報告を行っているのだろう。
 くだらない。どう足掻こうとも、俺の愛する少女が死んでしまったことには変わりないのに。

「――――…………――――」

 俺は、彼女が付けていた『マイクロ補聴器』なる道具の助けを借りながら、放送の間も病院内を練り歩いていた。
 静寂が支配する院内では、虫の這う音すら聞こえない。危うく、無人なのではないかと錯覚してしまうところだった。
 だが、幸運の女神はやはり――俺と、彼女を見捨てたりはしなかった。
 X線室の前を通りがかった時のことだ。耳に取り付けたマイクロ補聴器を通して、子供らしきものの寝息が聞こえてくるのが分かった。
 ここだ。ここに、いる。

「大丈夫、すぐに終わるから」

 俺は、胸を蹂躙するほどの心苦しさを懸命に振り払い、X線室前に安置されたベンチに、そっと彼女の身体を預けた。
 これから始まるであろう血の復讐劇に、彼女は似合わない。
 観客でいてくれなくてもいい。舞台公演が終わった後、役者に花束を贈呈してくれさえすれば、それで俺は満足だ。
 物理的に、そういった行動がもう無理であるということは承知している。
 だけど。おそらく。
 彼女は、一仕事終えた俺に――『頑張ったね』と――天使の微笑みを与えてくれるはずだ。
 きっと。必ず。
 信じて、俺はX線室の中に入っていった。
 今度ばかりは、巻き込まれるだけの俺じゃない。
 愛のために、俺自ら血祭り(ブラッド・パーティー)を開催することを決心したんだ。


 ◇ ◇ ◇


 薄暗い室内には、二人の子供――というより、一人は幼児だったが――の姿があった。
 一人は簡易ベッドの上で、頭まで毛布を被り顔が見えない。体系的に子供なのは間違いないが、性別の判断まではつかない。
 もう一人はベッドの上で眠る子供を気遣ったのか、はたまた単に寝相が悪いだけなのか、床に転がりスヤスヤと寝息を立てている。
 こちらの方は、どう見ても幼児だった。年齢も五歳かそこらぐらい……愛する彼女も子供ではあったが、さすがに幼児が首の骨を折るなんて芸当は不可能だろう。
 となると、怪しくなってくるのは俄然もう一人の方である。
 体系的には彼女と同じくらい。人を殺すには十分な年齢のようにも思えるが、それでも首の骨を折るなんて荒業が出来るかと問えば、答えは怪しい。
 転ばし屋やマイクロ補聴器のような、何か特殊な道具を使ったというのも考えられる。
 それに、子供だからといって――――
27「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:26:53 ID:4L2NxhEx
「う…………ん」

 脳内で『ある双子』を思い浮かべている最中、ベッドで寝ていた子供が寝返りを打ち、毛布の中から顔を出した。
 綺麗に整った顔立ち、銀髪のショートカット、悪魔を内に潜めた天使の寝顔。

 ああ、そうか。そういうことかよ。

 直接的な面識はない。が、この『顔』には見覚えがある。
 双子なのだから、顔が同じなのは当たり前だ。思わず失笑したくなる。
 だが、これで全ての疑問に決着がついた。
 愛する彼女を殺したのは、間違いなくこの『少年』だ。
 少年にはそれを可能にするだけの能力があり、そうしようという思考、そうしたいという願望もある。

(『ホテル・モスクワ』のバラライカさんの命を狙うようなクレイジー・キッドだ。ゲームに乗らない方が不自然だよなそりゃ)

 無表情で少年を睨みながら、近場に置いてあったパイプ椅子に手を伸ばす。
 相手は今、眠っている。いくら悪名高いあの双子の片割れとはいえ、寝込みを襲えば勝負は一瞬でケリがつく。
 パイプ椅子を持つ手に、力が込められる。
 失敗は許されない。相手が起きれば、不利になるのは自分だ。
 自分と相手、互いの戦力差を把握しているからこそ、チャンスは今しかないと考えるのだ。

 頭上までパイプ椅子を振り上げ――『ロック』は――ベッドの上の少年に、振り下ろす。

「……ん」

 命中する瞬間、少年が僅かに身を捩った。
 しかし無意味。これしきの寝返りでは、ロックの攻撃から逃れることは出来ない。
 小さな身体がパイプ椅子に押し潰される――そう思われた。


 ひらり


 そう思われた。そうなるはずだった。だが。
「…………!?」
 ロックが振り下ろしたパイプ椅子は、少年に命中する寸前で急に軌道変更。
 滑るような形で、少年の身体の代わりにベッドの側面を叩いた。
28「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:27:46 ID:4L2NxhEx
「う……ぅぅ、もぉ〜うるさいゾ〜」

 少年を一撃で仕留めるつもりが、ベッドの側面を叩いてしまった。
 その際の衝撃音で、床に転がっていた幼児が目を覚ましてしまったが、今は関係ない。
 問題は、なぜ攻撃が当たなかったか。
 標的である少年は未だ眠りの中。彼が何かしたとは考えにくい。
 ならば、何か道具による妨害か――すぐに考え付いたのは、少年の体を覆う無数の包帯と、赤い布。
 包帯の方は、どう見てもこの病院の備品だ。攻撃回避の秘密が隠されているとすれば、得体の知れぬ赤い布の方か。

「お? お兄さんだれ? オラたちになんかよう?」

 幼児が、子供らしいつぶらな瞳でロックを注視している。
 だがロックは意に関さず、この赤い布の攻略法を考えていた。
 もしこの赤い布が、転ばし屋やマイクロ補聴器と同じ不思議な道具の類なのだとしたら。
 パイプ椅子などでは攻略は難しい。かといって武器になるようなものは他にない。
 思案を続け、ロックはある簡単なことに気づいた。
 頭、だ。
 頭なら、包帯にも赤い布にも覆われていない。加えて、命中すれば一撃必殺の急所でもある。
 最初から、ここを狙えば良かったんだ。
 ロックは、気づいた奇策に殺意を奮い立たせ、再びパイプ椅子を振り上げる。

「お兄さん……?」

 今度は、外さない。


 ◇ ◇ ◇


「ぐぅあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 痛みに悶える少年――ヘンゼル――と、
 眼前で起こった惨劇にパニックを起こす幼児――野原しんのすけ――と、
 不気味に、血で汚れたパイプ椅子を握り締める青年――ロック――の三人が、

 静寂の場であったX線室を、醜いブラッド・パーティーの会場へと仕立て上げていた。
29「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:28:35 ID:4L2NxhEx
(まだ……まだこいつは、死んでない)
 冷静な眼差しでヘンゼルを見下ろすロックの周囲には、どす黒い負の感情が渦巻いていた。
 過剰な愛は、狂気を宿す。それを体現したのが今のロックであり、彼は今、ほぼ別人といっていいほどの存在に変わり果てていた。

 全ては、『狂愛』故に。

 再びパイプ椅子を振り上げるワイシャツの男に、しんのすけは正体不明の底知れぬ不安を覚えた。
 この男の人が何者なのかは分からない。ひょっとしたらヘンゼルの知り合いかもしれない。
 答えなんて、求めたって廻ってくるものじゃない。
 けど、けど、けど、けど、けど。

 ここでお助けしないと、絶対後悔する――そんな予感が、しんのすけを駆り立てた。

 ロックがパイプ椅子を振り下ろし、眼下のヘンゼルを狙う。
 しんのすけが助走をつけてダッシュし、同時に半ズボンを下ろす。
 パイプ椅子は加速した状態で、一直線にヘンゼルを襲う。
 パンツも一緒に下ろされ、お尻丸出しとなったしんのすけが、跳ぶ。

「うおおおおおー! ケツだけアタァーック!!」

 パイプ椅子がヘンゼルの頭部を粉々に砕こうとした寸前――華麗に舞った小振りなお尻が、ロックの身体を弾き飛ばした。

「ヘンゼル! 今の内に逃げるゾ!」

 不意の攻撃で倒されたロックを視界の隅に置きながら、しんのすけはヘンゼルの身を包んでいた包帯と布をがむしゃらに取り除く。
 身体の自由を取り戻し、なんとか移動できるまでには復帰したヘンゼルだったが、それでも頭部に受けたダメージは無視できないレベル。
 ぼやける視界、フラつく足取りと格闘しながら、懸命に身を起こそうともがく。

「こっちだゾ、ヘンゼル!」

 しんのすけに手を引かれ、ヘンゼルはなんとかX線室より脱出した。
 無我夢中だった二人は、外のベンチに腰掛けられた一人の少女には気づかず。
 正体不明のワイシャツ男から逃げるべく、震える脚を動かし続けた。


 ◇ ◇ ◇

30「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:29:31 ID:4L2NxhEx
 逃げに逃げて、階段を上りに上り、屋上一歩手前の階層まで移動したしんのすけとヘンゼルは、呼吸を整えるため廊下で一旦脚を止めた。

「ぜー、ぜー、ぜー。ふぅー、ここまで来ればきっと大丈夫だゾ。ヘンゼル、頭大丈夫? 痛くない?」

 振り返り、しんのすけは互いの手で繋がったヘンゼルの様子を窺う。
 照明が灯っていない上に、周囲には窓が一つもないせいだろうか。廊下は暗く、すぐ傍にいるヘンゼルの顔を見るのも困難だった。
 だが暗くても、音だけは確かに聞こえるものだ。
 カツン、カツン……と、足音のようなものが音量を増して聞こえてくるのは、何かが近づいてくる証拠。
 そしてしんのすけはヘンゼルの奥――後方数メートルの距離に、赤い消火器を携えた人影を見た。

 足が疲れたから、止まる。
 止まったら、追いつかれる。
 追いつかれたら、ヘンゼルが酷い目にあう。
 なら、止まっちゃダメだ。

 しんのすけは顔を前に向け直し、再度ヘンゼルの手を引いた。
 振り向いたら、追いつかれる。そんな気がして、前だけを向いて走り出した。

「あっ」

 途端に、しんのすけの引く手が重みを増す。
 振り返っちゃダメだ――そう思いながらも、止むを得ず振り向いてみた。
 繋がった手を基点に、その先を辿っていく。
 ヘンゼルが、転んでいた。

「へ、ヘンゼル……?」

 違う。ただ転んでいただけじゃない。
 よく見ると頭は赤い液体で濡れており、握った手に込められた力は弱々しく変化している。
 急ぐあまり石に躓いたのとはワケが違う。単純に、走ることが困難になったのだ。

「ねぇヘンゼル、早く立って! 早く立って逃げないと、怖いお兄さんに追いつかれちゃうゾ!」

 本心では、今のヘンゼルがそれもかなわない状態だと分かっていた。
 だが、その幼さゆえに認めることもできなかった。
 しんのすけがヘンゼルに呼びかける間も、より強力な鈍器を調達したロックは歩みをやめない。
 無表情で冷徹な雰囲気を醸し出す瞳には、倒れこむヘンゼルのみを中心に置いていた。
 その視線を遮る小振りな影は、道端に放られた小石ほどにしか興味を持たない。
 そう、あれは石と同じだ。行く手を阻むというのなら、適当に弾いて突き進めばいい。それだけだ。
31「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:31:03 ID:4L2NxhEx
「退いてくれよ。俺はそっちの方に用があるんだ」

 ゆったりとしたスピードで近づきながら、ロックはヘンゼルを守るように立つしんのすけに喋りかける。
 言葉は穏やかで、表面上の敵意は感じなかった。しかししんのすけの本能は、ロックに対して厳しい判断を下す。
 拒絶、である。

「お兄さん変だゾ! ヘンゼルは何も悪いことしてないのに、どうしてこんな酷いことするの!?」

 声を張り上げ、しんのすけは真っ直ぐな瞳でロックに向き合った。
 相手が自分を殺すかもしれない、という心配は微塵もない。
 今はとにかく、ヘンゼルをお助けする。それ以外の思考は全て掻き消し、しんのすけは恐怖心すらも排除しようと考えたのだ。

「変? 俺は至って冷静さ。それに、そいつが何も悪いことしてないだって?
 君は知らないだけなのかもしれないけど、そいつはたくさんの人間を殺してきたんだ。
 このクソッタレゲームに来てからも、一人の可憐な少女の命を奪った」
「そんなのウソだ! ヘンゼルがそんなことするわけない! お兄さんの大ウソつきィー!!」

 接近する幽鬼に怯える素振りすら見せず、しんのすけは勇猛果敢に立ち向かう。
 大丈夫だ。こんな見るからに普通なお兄さん怖くない。しんのすけにとっては、怒ったみさえやひろしの足の臭いの方が万倍恐ろしい。
 言い聞かせるように心の中で反芻を続けるも、しんのすけは自身の足が震えていることに気づかなかった。
 ロックの外見に恐怖を与える要素は何一つとしてない。しかし、その周囲から醸し出される静かなる狂気は、無意識に五歳児の本能を揺さぶっていたのだ。

「…………ウソじゃ、ないよ」

 ガクガクと震えるしんのすけの足を、不意に冷たい手が撫でた。
 ヘンゼルである。

「僕はね、そのお兄さんの言うとおり……いっぱい、いっぱい、いっぱい殺してきたんだ。
 姉さまと一緒に、大人も、子供も、たくさん。君と同じくらいの、歳の子も殺したよ……その子の親だって、殺して見せた。
 僕と姉さまは、いつもそうやって遊んできたんだ……ここでも、いっぱい、遊ぶんだ……」

 途切れ途切れになる言葉を必死に紡ぎながら、ヘンゼルはしんのすけに笑顔を見せた。
 それは、純粋な子供の笑顔。風間くんやネネちゃんやマサオくんやボーちゃんが見せる笑顔となんら遜色のないものだ。
 なのに、どこか痛々しいのは何故だろう。
 しんのすけは答えの出ることのない疑問に悩まされながら、それでもヘンゼルを庇い続けた。
32「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:34:07 ID:4L2NxhEx
「そんな遊びつまらないゾ! 青春は尊いものだって、父ちゃんや組長先生も言ってた! 
 ヘンゼルのお姉さんだって、そんな遊びばっかりやってたら、まつざか先生みたいに売れ残っちゃうゾ!」
「ハハ…………キミって難しい言葉知ってるんだね……ホント、変わってる」

 失笑気味のヘンゼルは、重い足腰をなんとか奮い立たせ、向かってくる幽鬼に立ち向かおうとしていた。
 本人は『遊ぶ』と言っているが、それはたぶん、しんのすけが知っているような『遊び』とは違う。
 とってもいけない、大人の遊びなんだ。手を出したら破滅してしまうような、危ういものに違いない。
 五歳児ながら豊富な人生を歩んできたしんのすけの本能は、ヘンゼルに対する危機信号のアラームを鳴らしてやまない。

「ダメーーーーーーーーーー!!」

 絶対に、ヘンゼルを遊びに行かせちゃいけない。
 理由の分からない不安に駆られながら、しんのすけはヘンゼルの背中に飛びかかった。

「離してよ……重くて、うまく動けないじゃないか……」
「絶対ダメだゾ! 子供だったらお元気に外で遊ぶものだって、母ちゃんも言ってた! 変な遊びに手を出してたら、ロクな大人にならないゾ!」

 子泣き爺の如くしがみついて離れないしんのすけに、ヘンゼルはほとほと困り果てていた。
 ……でも、不思議と彼の言うことが正解のように思える。
 目の前のお兄さんと遊びたいという衝動はあるものの、ここで逃げるのが正解なんじゃないかと考え出す。
 ……本心では、遊びたくてたまらないはずなのに。

 次の瞬間、ヘンゼルは踵を返して走り出した――ロックとは別の方向に。
 遊びたい、という殺人鬼が持つ逃れられない衝動を放棄し、ヘンゼルは何の縁もない五歳児の願いに従ったのだ。

 我ながら、なんでこんな行動を取っているのか疑問だった。
 正体不明の不快感に苛まれながらも、ヘンゼルはロックとの距離を引き離していく。
 静かなる幽鬼は、その小さな背中を余裕で見送っていた。


 ◇ ◇ ◇

33「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:35:12 ID:4L2NxhEx
「こ、ここまでくれば……今度こそ大丈夫だゾ……」

 一生懸命走って、ヘンゼルとしんのすけは病院の屋上までやって来た。
 極限状態での運動が齎す肉体疲労は進行が激しく、二人の子供は限界を感じ始めていた。
 特にヘンゼルの方は、セイバーとの戦闘で受けた裂傷、そして先の頭部への殴打が致命的な痛手となり、立つことも困難な状態である。
 ひょっとしたら、傷口が開いてしまったのかもしれない。ヘンゼルの呼吸は速度を増すばかりで、しんのすけが危険を感じるには十分なレベルにまで達していた。
 治療してあげたい。しかし、怖いお兄さんが迫ってきている現実は無視できない。

「ヘンゼルはここで待っていてほしいゾ!」
「しんのすけ君……? どこへ……」

 汗だくになった額を拭い、しんのすけは再び病院内に戻っていった。
 屋上に放置されたヘンゼルは、しんのすけの小さな後姿を目で追いながら、か細い声で行き先を聞くことしかできなかった。
 バタンッ、と屋上入り口の扉が閉められる。
 一人きりとなったヘンゼルは、痛む身体に身を捩らせながら、顔を天へと向けた。

「…………そら、きれいだな……」

 できることなら、最愛の姉と一緒に、こんな綺麗な空を眺めたかった。
 空を仰いで、二人でランチを囲って。


 ◇ ◇ ◇


 ロックの足取りは、静かだが確実だった。
「――――……――――…………」
 マイクロ補聴器から聞き取れる子供の息遣いを耳にし、確実にその後を追跡していく。
 そして辿り着いたのは、病院の最上階フロア。進む先には、二通りの分かれ道が待っていた。
 一つは、屋上へと続く上り階段。
 もう一つは、外界へと続く非常階段。
 二つに一つの分岐点。果たして、二人の子供はどちらへ逃走したのか。

 ロックが選択肢を選ぶ最中、標的の逃走をサポートする幼児が一人、非常階段口の方に姿を現した。

「お兄さ〜〜〜んっ!」

 大きく手を振り上げ、アピールするように自身の存在を知らせていた。
 そしてしんのすけは何を思ったか、半ズボンをずり下ろし、頭を隠した状態でお尻を前面に押し出した。

「ケツだけ星人〜〜ブリブリーブリブリーブリブリーブリブリー」

 お尻を突き出し小刻みに振るう様は、一流コメディアンもビックリの宴会芸のように思えた。
 ロック側から見れば、身体を持たないお尻だけの生物が踊っているように映っている。ケツだけ星人とはよく言ったものだ。
34「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:36:16 ID:4L2NxhEx
「ブリブリーブリブリーブリブリーブリブリー」

 しかし、これで相手の意図が明確なものになった。
 自らの臀部を丸出しにし、存在を主張する目的といったら――『挑発』か『誘導』、もしくは『囮』である。
 幼いながら頭の回る子だ、とロックは感心した。だが幼いゆえに、裏を読むということを知らないらしい。

「ブリブリーブリブリーブリブリーブリブリー」

 ロックは、踊るケツだけ星人から視線を外し、屋上へと続く階段を上っていった。

「ブリブリーブリブリーブリブリーブリブリー…………お?」

 少し疲れて、しんのすけはロックの様子を窺うため顔を出した。
 見ると、そこには誰もいない。
 無視された。

「おぉ…………」

 少し、悲しくなった。


 ◇ ◇ ◇


  ――Midnight with the stars and you,
    Midnight and a rendezvous.――


 その扉は、ノブを軽く回すだけで容易く開く。


  ――Your eyes held a message tender,――


「やっぱり、こっちにいたか」


  ――Saying“surrender all my love to you”.――


 屋上へと続く階段を上りきり、ロックはその扉を開いた。


  ――Midnight brought us sweet romance.――

35「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:37:23 ID:4L2NxhEx
 吹き曝しの屋上は、洗濯用にかけられた物干し竿と、休憩用のベンチがいくつかあるだけの、開けた空間。


  ――I know all my whole life through.
    I'll be remembering you,――


 その中央には、美麗な声を惜しむことなく披露する、


  ――Whatever else I do.――


 天使の姿があった。


  ――Midnight with the stars and you.――


 パチパチパチ、と刻み良いリズムで手を叩き、ロックは幼いシンガーに拍手を送る。

「……その歌を聴いたのは『二度目』だよ」
「……へぇ。この歌は姉さまにしか聞かせたことがなかったんだけど。TVで覚えたからかな? お兄さんはどこで聴いたの?」
「君のお姉さんからだよ」
「姉さまから? お兄さん……面白いこと言うんだね」

 何が面白いもんか。ロックの脳内では、今でもあの時の光景が鮮明に思い出されている。
 それ故に、彼をここで殺さなければいけないのが辛い。辛いはずなのに、愛がその辛さを忘れさせている。

「……正直、同姓同名かなんかだと思ってた。『ヘンゼルとグレーテル』なんてありきたりな名前だし、死人がこんなところにいるはずもないって思ってた」
「? 何を、言っているの?」
「でもさ……受け入れることにしたよ。これも、一種の悲しい現実なんだって。ギガゾンビがどういう手を使って君らを集めたかは知らないけどさ」
「分からないよ。お兄さんは、僕と姉さまのことを知っているの?」
「知ってるよ。よく知ってる。知りすぎてるから、君を放置しておくわけにはいかない」


  ――“ヘンゼル”と“グレーテル”。彼らはそう呼ばれていた。
  ルーマニアの政変以後、維持できなくなった施設から、多くの子供が闇に売られた。
  人身売買の弊害により『ど変態共』のオモチャにされた二人は、そこでいけない『遊び』を身につける。
 『ど変態共』も、初めは余興のつもりで武器を持たせていたのだろう。
  二人は生き延びるため、必死になって変態共の喜ぶ殺し方を覚えてゆき――そして二人は、いつしかすべてを受け入れた。

36「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:38:33 ID:4L2NxhEx
「俺は、君らみたいな双子を可哀想だと思ってた。悪いのは、君らを人食い虎に仕立て上げた血と闇の世界なんだって、思いこもうとしてた」
 ロックは、持ち出してきた消火器を握り締め、今にも振り出さんばかりに力を込める。
「……それで、遊んでくれるの?」
 ヘンゼルは、見るからに満身創痍といった肉体で、不気味にも思える笑顔を振りまいていた。
「ああ、遊んでやる。泣いて後悔するくらいに遊び倒してやるよ。これは、お前が何も思わずに殺した彼女への――鎮魂だ」


  ――晴天(ブルー)の世界を捨てて、暗黒(ブラック)の世界に堕ちていった双子の姉兄。
  曲芸犬として尾を振る毎日を送り、やがて殺人を遊びとしか思わなくなった、悲しすぎる双子の物語。


「嬉しいなぁ…………ぼく、ずっと遊びたかったんだ。お兄さんみたいな人と。
 お兄さんなら、きっといい声で啼いてくれるよね? 血のあぶくを吐きながら、動かなくなるまでずっと、啼き続けてくれるよね?
 ねぇ、ねぇ…………ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ」

 異常な感性の人間に触れるのも、いい加減慣れてきた。
 ロックは、小さな殺人鬼を前にしても怯まず、ただ愛のために暴走し尽すことを決意した。だから、恐れはない。
 これから始まるのは、喜劇でも演舞でもない。只のイカれた殺人劇だ――――


「スト〜ップッ!!」


 両者が飛び出そうとした瞬間、ロックの後方――屋上出入り口から、ボールが一個飛び込んできた。
 ボールはころころと床を転がり、ロックとヘンゼルの斜線上に到来する。
 そして、フンッ、という掛け声と共にボールは大きく広がり、大の字になってヘンゼルを守る盾のように君臨した。
 野原しんのすけは、まだ諦めていなかったのだ。

「ケンカはダメだって、母ちゃんに習わなかったのー!? まったく、親の顔が見てみたいゾ!」

 恐れを抱かぬその瞳は、この場には相応しくない異質なものだった。
 ロックは思う。この子は、純粋な、純粋すぎる表の人間だ。それ故、ヘンゼルの遊び相手にならなかったのだろうか、と。
 そして同時に純粋すぎるからこそ、ヘンゼルという存在の危険性に気づけない。彼は、ここにいちゃいけない存在なんだ。
37「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:39:49 ID:4L2NxhEx
「退いてくれよ。君に用はないんだ」
「絶対退かないゾ! 退いたらヘンゼルに酷いことするつもりなんでしょう!? なら――」
「退けよ」

 ガツン、とロックの足元でボールを蹴り飛ばすような音が聞こえた。
 視界の隅で、ゴム鞠のように撥ねていくしんのすけの姿が確認できる。
 やがて動かなくなったゴム鞠は、ヘンゼルとロックの斜線上に戻ることはなく、静かにその場に蹲った。
 二人を隔てる障壁は、消えた。

「遊ぼう、お兄さん」
「ああ、遊んでやるよ」

 ヘンゼルは日干しされていたシーツを捲り上げ、裸になった物干し竿を獲物として構えた。
 ロックは右手に消火器を握り、左手には正体不明の赤い布を用意した。

 ヘンゼルが、駆け出す。
 物干し竿を槍のように突き出し、圧倒的なリーチで攻める。
 先に矛はついていないが、この速度で命中すれば必殺の勢いだ。
 ヘンゼルの力量を持ってすれば、ロックは簡単に串刺しになる。
 そしたら、血がたくさん溢れ出す。でもきっとすぐには死ねないだろう。
 そこがポイント。そこからがお楽しみ。死に掛けのロックを甚振って、遊ぶ。
 あぁ、なんて楽しいんだろう。想像しただけでも、身震いがする。
 できることなら、姉さまと一緒に――――


 ひらり


(――――え?)
 ヘンゼルの突き出した物干し竿が、ロックの身体を貫くことはなかった。
 回避したのではない。攻撃が、反らされたのだ。
 命中する寸前で、ロックの持つ赤い布――『ひらりマント』が、ヘンゼルの物干し竿を横に反らした。

「言ったろ。俺は『冷静』だって。
 どうやら、この赤い布は相手の攻撃を簡単に反らすことができるらしい。マタドールが猛牛を操作するみたいにな。
 効果の程は、あのX線室で身をもって証明済みだ。逃げる時回収しなかったのも失敗だったな。
 ってか護身用に自分で巻いてたくせに、そんなことにも気づけなかったのか? どこまでイカれてるんだよ、お前」
38「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:40:46 ID:4L2NxhEx
「知らない……ぼくは、ぼくはそんなもの知らない……」

 ひらりマントは、本来ヘンゼルの支給品ではない。
 しんのすけが病院内を探索していた際に偶然見つけてきた、今は亡き少年の遺物だった。
 そして不幸にも――このひらりマントが、ロックとヘンゼルの勝敗を決することになる。

「ッ、ぼくはぁぁぁぁ――――!」

 至近距離から、物干し竿を大きく振り被る。
 今度こそ、と渾身の力を込める。が、
 その攻撃も、ひらり。

「あっ……」

 二度の攻撃失敗で体勢を崩したヘンゼルは、転びそうになったところを、
 ロックの握った消火器で、

「がぅッ!?」

 殴り飛ばされた。

 殺人鬼とはいえ、所詮は子供。体重は、軽い。
 大質量の攻撃にぶっ飛ばされ、軽量級の身体は弾むように転がっていく。
 無機質なコンクリートの地面を雑巾のように這い蹲り、ヘンゼルは死の間際の痛みにもがいていた。

「ぁ、ぅう……」

 小さく喘いでも、危険が去ることはない。ヘンゼルという『少女の仇』が絶命するまで、ロックは止まらない。
 温かい血と、生臭い血と、ベトつく血と……いつしか血塗れになっていたヘンゼルの身体は、もはやピクリと動かすくらいしかできなかった。

「どうした、もう終わりか?」

 ロックが、死に掛けの殺人鬼に問う。
 感情を押し殺した無の素顔は、どちらが本当の殺人鬼かを錯覚させるほどだった。

「ふ、ふふ…………終わ、り? なに、いって、るの……? ぼくは、まだ遊べる…………そう、遊べる『わ』」
39「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:42:34 ID:4L2NxhEx
 決着の寸前、ロックは、確かに聞いた。
 いつか、天使の歌声を披露してくれたある女の子の声を。
 双子の、姉の声を。

「で、でも……もうこれはダメ『ね』。『わたし』に合った、新しいオモチャが、必要だ『わ』……」

 ヘンゼルの声質が、男児のものから女児のものへと変化している。同時に、彼が懐から銃を取り出す仕草も見られた。
 そうだった――と、ロックは思い出した悲劇の顛末に、奥歯を噛み締める。
 双子は、ヘンゼルとグレーテルは、二人で一人を生きる永遠の存在――ネバー・ダイ。
 姉さまが死んでも、兄さまの中で。兄さまが死んでも、姉さまの中で。

(そうだ、さっきの放送……この子の姉は、もう……)

 ロックは、放送で死を告げられた少女の名前を思い出す。
 双子は既に、一人きりになっていたのだ。でも、一人じゃない。
 彼らの掲げる理屈では、ヘンゼルもグレーテルも、まだ生きている。

「『あら』? これ、弾が切れている『わ』……予備の、弾薬は、ないの『かしら』?……バッグの、中に、は?」

 ふざけてる。ロックは心底そう思った。
 可哀想だとは思う。できることなら、自分がこの子たちを晴天(ブルー)の世界に戻し、暗黒(ブラック)の世界から脱却させてあげたかった。
 でも……今はそれ以上に。


 最愛の人を殺された悲しみと復讐心の方が、強かった。


 デイパックを漁りながら弾薬を探すヘンゼルの頭上、ロックは、無情な選択を取った。
 消火器を天高く振り上げ、渾身の力で振り下ろそうとしていた。
 ヘンゼルは意識が朦朧としているのか、弾薬を探すことに夢中で、回避行動を取ろうとしない。
 ヘンゼルをお助けできる唯一の存在であったしんのすけもまた、まだ復帰できてはいなかった。

 救いは、なくなった。グチャ。
40「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:43:34 ID:4L2NxhEx
「――――ッッ!!!」

 振り下ろす、振り上げる。

 喜でも、哀でも、楽でもなく、ロックは完璧なる『怒』の感情に支配されて、ヘンゼルを攻め立てた。

 振り下ろす、振り上げる。

 きっとそれは、ヘンゼルが死んで、最愛の少女の無念が晴れるまで続くのだろう。

 振り下ろす、振り上げる。

 悲しみの連鎖は続こうとも、敵討ちは成立される。今のロックは、それだけで満足だった。

 振り下ろ――――

 ただ、コイツが死にさえすればそれでいい。

 それだけを思って消火器をぶつけていた、そんな時だった。

「…………え?」

 ロックの手は、止まった。

 それは、本当に突然の出来事で。

 そう、突然に、唐突に、突如として、

「………………う…………そ、だ…………」


 千年の恋が、冷めたのだ。


 ◇ ◇ ◇

41「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:47:26 ID:4L2NxhEx
「……………」
 静謐な病院の屋上――その場には、血だらけになった肉塊同然の少年が一人。

「ヘンゼル! ヘンゼル! 死んじゃダメだゾ!!」
 静謐な病院の屋上――その場には、変わり果てた少年の姿に動揺する五歳児が一人。

「――――――ッ」
 静謐な病院の屋上――その場には、果てしない後悔の念にかられる青年が一人。

 三者三様の悲しみ、葛藤を見せる中、劇は、一時の幕を迎えたのだ。
 その中でも、事の元凶であるロックは――自身が犯してしまった過ちの大きさに、蒼白顔で立ち尽くすのがやっとだった。
 本当だったら、このまま泣き叫び、思い切りヘンゼルの死を嘆いてやりたい。
 でも、それは許されない。彼を死に至らしめた――いや、殺したのは――他でもない、自分なのだから。
 何故、あんなことをしてしまったのか。見知らぬ少女の仇討ちなんてもののために、暴走してしまったのか。

(冷静に考えるんだ。俺はなんで、あんな馬鹿な真似をした。全ては――そうだ、あの女の子の死体を見てからだ。
 あの子を見てから、変に身体が火照って、気持ちが高ぶって……いや、でも今は冷めてる。
 いったいなんだったんだ!? あの一時的な、洗脳じみた感覚は!? 誰が、誰が俺をあんな風にしたんだよ……ッ!!?)

 いくら考えたところで、元凶が少量の惚れ薬だということには気づけない。
 この一連の騒動に、悪者なんて存在はいないのだ。
 狂気に走ったロックにも、罪深い人生を歩んできたヘンゼルにも、惚れ薬を所持していたエルルゥにも、誰にも、非はない。
 全てが、殺し合いという舞台の上で書き綴られた――不幸な茶番劇だったのだ。

「…………ぐふぉっ」

 俯くロックの前に、一筋の光明が見え始めた。

「ヘンゼル! ヘンゼル!?」

 複数回の殴打によるダメージで死に掛けだったヘンゼルが、意識を取り戻したのだ。
 血に塗れてはいるものの、その天使のような美顔は、罪の意識に苛まれていたロックの心を救う。
 ひょっとしたら、まだ助かるかもしれない。そう思ってロックは一歩踏み出すが、
42「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:48:29 ID:4L2NxhEx
「近寄るなぁーーーーーーーー!!」

「ッ!」
 その足を、五歳児の強烈な罵声が止めた。

「お兄さんなんかキライだぁーーー!! あっちいっちゃえーーーーー!!!」

 顔は向けず、ヘンゼルの傍から、後ろで立ち尽くすロックを怒鳴り散らす。
 しんのすけの真っ直ぐすぎる拒絶は、今のロックにとってドテッ腹に風穴を空けられるようなものだった。
 魔性の薬物が関与したとはいえ、事を犯したのはロックだ。それを否定する術はない。
 いや……否定はできた。だが、できなかった。ロックは、そこまで落魄れた悪党ではないから。

「………………〜ッッ!」

 死にそうになっている少年を目の前にして、そしてそれをやったのが他でもない自分だということを自覚して、何も思わないでいられるはずがない。
 ただでさえ、ロックはかつて双子のもう片方の死に目に遭遇している。何の因果か、ロックは不幸な殺人姉兄、その両方を看取るハメになったのだ。
 それが、彼にとってどれだけ苦痛なことか。ただ悲しむだけのしんのすけには、知る由もない。

「頑張るんだゾ、ヘンゼル! こんなところで死んじゃ、絶対にダメだゾ!!」

 今にも事切れそうなヘンゼルの真横で、しんのすけは懸命に喋りかける。
 しんのすけの言葉にどれだけの意味があるか、そんなことは、利口な大人が考えればすぐに分かる。
 これが病で伏せっているだけならまだしも、傷は、ましてや致命傷は、思いやりだけではどうにもできない。
 ヘンゼルの負った傷は、もはや気力などでは克服できない領域まで広がっていたのだ。

「…………うふ。ふふふ」
「? ヘンゼル?」

 別れが近づくその僅かな時間、ヘンゼルは、笑った。
 子供らしい無邪気な笑い声に、しんのすけは戸惑いを見せる。

「しんのすけくん、おかしいや。何言ってるの? 僕は死なないよ。死なないんだ」

 既に生気を失くした瞳は、死人のそれだった。声はこんなにも無邪気なのに、顔はもう死んでいるかのようだった。
 死ぬ寸前の姿。しんのすけはその表情の真意が理解できず、ただ、ヘンゼルの顔を見つめていた。
43「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:49:25 ID:4L2NxhEx
「こんなにも人を殺してきたんだ。いっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱい殺してきてる。
 僕らは、それだけ生きることができるのよ。命を、命を増やせるの。
 私たちは永遠さ(ネバー・ダイ)。そう、永遠(ネバー・ダイ)なのよ」

「……なに言ってるのか、全然わかんないゾ。ねぇヘンゼル、もっとやさしく説明してよ……」

 しんのすけの頬を、涙がつたい落ちる。
 ゆっくり、ゆっくり、一滴ずつ。
 本心では、この少年の運命を受け入れ始めたのかもしれない。

「……………………んッ…………」

 ヘンゼルが掲げる宗教は、しんのすけには理解し難いものだった。
 永遠に生きる者なし(ノーワン・リブス・フォーエバー)とは、誰が言った言葉だったか。
 教えることなんてできない。学ぶこともできない。
 純粋すぎる五歳児に、死という概念はあまりにも大きく、あまりにも重すぎる。

「…………くッ、うッ。うッ。う………………うえっ。えっ。うええっ……」

 やがてヘンゼルは、いたいけな天使の笑顔を苦痛に歪めて、死人の顔へと表情を作り直していった。
 涙が出るのは当然で、歯を噛み締めてしまうのも当然で、痛くて泣いてしまうのも当然のことだった。

「泣くなよ…………馬鹿」

 小さく、ロックが呟く。
 何もできない、何もする資格がない彼はただ傍観者として、その場にいることにした。
 謝罪するにしても、罪の意識に押し潰されて自滅するにしても、精神を崩壊させるにしても、今は時じゃない。
 ただ、黙ってヘンゼルの死に立ち会う。それがロックに与えられた、逃れようのない贖罪。
 ラッキーストライクでもアメリカン・スピリットでも、なんでもいい。煙草が吸いたい気分だった。

「うっく。けふっ。うっ」

 悶える仕草、喘ぐ感覚が徐々に小さくなり、ヘンゼルは、

「うえっ……ごほっ…………う。………………
 ………………………………………………………………
 ………………………………………………………………
 ………………………………………………………………」

44「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:50:29 ID:4L2NxhEx
 静かに、天へ召されていった。


「                               」

 サァ――――っと気持ちの良い風が屋上を吹き抜けて、血の香りをどこかへ攫っていく。
 取り残された悲しみも攫ってくれれば、どれだけ気持ちが楽になれたことか。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんんんん」


 しんのすけは泣いた。
 泣いて泣いて泣きじゃくって、涙が枯れ果てるまで泣くつもりだった。
 でも、いつまでたっても悲しみは収まらない。
 世の理はどこまでも不条理に、幼い子供を攻め立てる。
 何が悪くて、何が正しいのかなんて、関係ない。
 これが、世界なんだ。


 ◇ ◇ ◇


『ねぇ、姉さま。どうして神様は、ぼくたちにこんなにも辛くあたるんだろう?』

『それはね、兄さま。ほら、他の子が私たちの前に連れてこられて、泣いてるその子をバットで繰り返し叩いた時があったじゃない』

『ああ、あの時のことだね。みんな笑ってた。僕も姉さまも。笑いながら思った。「これは仕組みなんだ」って』

『そう、その時兄さまはこう言ったわ。「神様は仕組みを作ったんだ」って。
 自転車のタイヤが回るように世界を動かす力……それは、誰かの命を奪うことなのよ』

『そのためにこの世が作られたなら、ぼくたちがここにいる理由もそれだけなんだ。
 殺して殺されまた殺す。そうやって世界は円環(リング)を紡ぐんだね』

『どちらかが死んでも、私はちゃんとここにいる。いつだって、兄さまと一緒にいるの』

『どちらかが死んでも、僕はちゃんとここにいる。いつだって、姉さまと一緒にいるんだ』

『『だって「僕私」たちは永遠に死なない(ネバー・ダイ)。ずっと続く円環(リング)にいるんだもの』』


 ◇ ◇ ◇

45「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs :2007/01/02(火) 19:52:30 ID:4L2NxhEx
  ――だから、ね。お兄さん。もう私たち、殺すのだって悲しくないわ。
    血の臭いも、悲鳴も、臓物の温かさも――今は大好きでいられるの!――


「真夜中……星と君と…………共に………………真夜中…………そして、っと…………逢瀬、を
 ……君の目は、優しく物語る………………『私の愛、すべては貴方に……捧げるわ』と…………
 真夜中は、私たちに……与える、甘美な…………ロマン、ス……? クソッ、続きが…………出てこねぇよ……」


 結局、双子たちに救いはあったのだろうか。
 彼ら二人の幸せを最も祈った男は、得体の知れぬ感情に走り、最低の結果を作り出してしまった。
 こんなことを思うこと事態、彼らに鎮魂歌を送ること事態、間違っているのかもしれない。
 罪の意識からは逃げない。絶対に。
 だから、せめて――――――



     ――――罪深い双子に、優しい手を指しを伸べて――――




【D-3・病院屋上/1日目/朝】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労。特に精神的疲労大。激しい後悔。
[装備]:マイクロ補聴器@ドラえもん、ひらりマント@ドラえもん
[道具]:支給品三人分(他武器以外のアイテム2品)、ルイズの杖@ゼロの使い魔
     どんな病気にも効く薬@ドラえもん、現金数千円
[思考・状況]1:今は何も考えたくない。
[備考]※惚れ薬の効果は切れましたが、その間の記憶はすべて鮮明に覚えています。

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:全身にかすり傷、頭にたんこぶ。腹部に軽傷。精神的ショック大。深い悲しみ。
[装備]:ニューナンブ(残弾4)
[道具]:支給品一式 、空のプラボトル×2
[思考・状況]1:泣いている。
      2:みさえとひろし、ヘンゼルのお姉さんと合流する。
      3:ゲームから脱出して春日部に帰る。
[備考]※第一回放送を聞き逃したため、死亡者、禁止エリアについての情報を持っていません。

【ヘンゼル@BLACK LAGOON 死亡】
[残り58人]

※ヘンゼルの死体、支給品一式は、すべて屋上に放置。
※八神はやての遺体は、X線室前のベンチに置いてあります。
46Pernicious Deed! ◆QcxMJGacAM :2007/01/03(水) 00:27:14 ID:i0EQzME5
暗闇の廊下を歩くもの、かつかつ響く足音は二つ。
共に黒衣を纏いし彼ら、一人は銃士、一人は人形使い。
人形使いの腕の中、抱かれたるは蒼を冠する薔薇乙女。
彼は思う、あの人は無事かと。
―愛しい人よ、護るべき人よ。私が馳せ参ずるまでは、どうか無事でいてください―
彼女は願う、姉妹の、少年の無事を。
―どうか無事でいてほしい、必ず見つけてみせるから―
銃士は帽子を目深にかぶる。胸中に抱く思いは如何に?

人形使いが歩みを止める、銃士も困惑に歩みを止める。
彼らの前には一つの扉、向こうから漂う微かなにおい。
彼はそれを嗅ぎとった、鉄のにおいを嗅ぎとった。
扉を開けた彼の目に、一つの塊飛び込んだ。
それはとても古ぼけていた。それはあちこち傷だらけだった。
それは所々が欠けていた。それは褐色の染みを纏っていた。
思わず彼は手に取った、空虚な思いが胸中を満たす。
彼はそれを鞄に入れる、置いてく事が出来なくて。
踵を返して彼は歩く、遅れて銃士も歩き出す。

もうすぐ東に日が昇り、仮面の男が死を告げる。
仲間と好敵手の死を知らず、銃士は黙してただ歩く。
かつかつ響く足音二つ、暗い廊下を抜けていく…







ソロモンは かくせいきを てにいれた!
47Pernicious Deed! ◆QcxMJGacAM :2007/01/03(水) 00:30:46 ID:i0EQzME5
【A-1高校内部(1階廊下)・一日目 早朝】

【ソロモン・ゴールドスミス@BLOOD+】
[状態]:健康。右手薬指に銀色の金属片を、指輪のふりをして嵌めている。
[装備]:レイピア
[道具]:白衣、ハリセン、望遠鏡、双眼鏡(蒼星石用)、蒼星石のデイバッグ、ボロボロの拡声器(運用に問題なし)
[思考・状況]
1:音無小夜と合流し、護る
2:翠星石の捜索
3:こちらの利になる範囲に限り、次元に協力
基本:蒼星石の主人の人形遣いを装い同行。人形遣いの演技は、不自然をごまかすため大仰にわざとらしく可愛がる。

【蒼星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:健康。右手薬指に銀色の金属片を、指輪のふりをして嵌めている。緑の大リボンで首輪をカモフラージュ。
[装備]:朝倉涼子のコンバットナイフ
[道具]:リボン、ナイフを背負う紐
[思考・状況]
1:翠星石と合流し、護る
2:音無小夜の捜索
基本:ソロモンの魔道傀儡を装い同行。人形の演技は指導どおりぎこちなく無表情に、声は他人に聞かれないように。
  ただ人形遣いの演技が……

【次元大介@ルパン三世】
[状態]:健康
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@ヘルシング ズボンとシャツの間に挟んであります
[道具]:支給品一式、13mm爆裂鉄鋼弾(35発)
[思考・状況]
1:殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す
2:ギガゾンビを殺し、ゲームから脱出する
3:とりあえずソロモンと蒼星石に同行
基本:こちらから戦闘する気はないが、向かってくる相手には容赦しない
48吸血鬼DAYDREAM  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:41:19 ID:R5iPSz7m


「起きなさいセラス……起きるのです、セラス・ヴィクトリア……」

「むにゃ?」

気が付くと、私は妙な心象風景のど真ん中にたたずんでいた。
妙に手抜きな背景に、ガ○ダムもどきとかウ○トラマンもどきとかが何かしら蠢いている。
あ、ミッ○ー……ダメダメ、ソレは流石にマズイ。

「セラスや……そろそろシカトはマジ勘弁ですよ……」
「あ、スイマセン」

そこには、メタリックな怪物然、とした奴が立っていた。
うん、怪獣。ポ○モンじゃないけどカプセルから飛び出してくるようなアレだった。
一応名前を聞いてみる。

「あの……あなたは誰デスか?」
「私の名はウィンダム……貴方が持っている篭手の精なのですヨ」
なんか覚えのあるこのシチュエーション……デジャヴ?
ってことはココは私の夢の中、ということなのか。

「で、そのウィンダムさんが何の用でしょうか?」
「あ、なんか冷たくない?酷いなぁ、折角出てきてあげたのに。そんなんじゃ折角の恋のチャンスも台無しヨ?」
「……」
「あ、嘘マジゴメン今の取り消し。お詫びに何でもアナタの質問に答えてあげるから許してチョンマゲ」
「む、何でも、ですか……それじゃあ……
教えてください。このワケが分からない世界に飛ばされても、やっぱり私は、いままで通り不幸続きなままなんでしょうか?」
49吸血鬼DAYDREAM  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:42:38 ID:R5iPSz7m
ボソッ「ま〜ね」
「あああああああああああやっぱりぃぃぃいいいいいいいいい」
「あッッ!!待ってホント待って今のナシ!ノーカンねノーカン!!ってかセラス貴方それどころじゃないんだからマジで」
「へ?何がデスか?」
「今、貴方の元に危険が迫っています。早く目覚めるのです、セラスよ……」
「え?」
「と見せかけてセブン(ブラピ)登場!」「え?」「僕の正体はトヨタカーだったのさ!」「え?」「乙π!!」「え?」「○×△!!」…………



RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR

「はッ!」
目を覚ますと、私はソファーの上に横たわっていた。あれ?
おかしい。たしか私は、凶暴メイドにホテルの屋上から突き落とされたはずだ。
運良く(?)植え込みに落ちていったところまでは覚えているのだが……
体中がぎしぎし痛んで、その記憶が真実だと主張してくれる。
だが、さて此は妙なことぞ……??

「あ、気が付かれましたか〜〜?」

気の抜けた声のする方を振り向くと、先ほど出会った、凶暴じゃないほうのメイドが駆け寄ってくるところだった。
「今、お茶をお持ちします……っきゃあ!?」
そして、メイドは思いっきりずっこけた。地面に転がっていた薬莢を踏んで滑ったようだ。お茶が派手にぶちまけられる。
――私の顔に。
「う熱っちゃあ!!」
「ごっ、ごめんなさい〜!」
お茶の熱さと体の痛みに悶絶する私が、このドジっ娘メイドとまともに会話できるようになるまでには、暫しの時間が必要だった。
50吸血鬼DAYDREAM  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:43:27 ID:R5iPSz7m
RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR


ズズっ、とみくるが入れなおしてくれた熱いお茶を啜る。
「……そうなんだ、みくるちゃんが私をここまで運んでくれたんだね。ありがとう」
二重の痛みから回復した私は、みくるにこれまでの経緯をあらかた教えて貰っていた。
彼女がここに来るまでの事や、あの凶暴メイドやバトーの顛末も。
「いえ、私に出来ることなんてこれぐらいですし。それにバトーさんは……」
あの2人は私と違い、コンクリートの地面にまともに叩きつけられたそうだ。
8階の高さから飛び降りた人間がどんな形に変形するのかは想像できないけれど、その酷さはみくるの顔色から推測できる。
「でも、みくるちゃんだけでも無事で良かったよ。おかげで私もこうして落ち着いてお茶を飲めてるわけだし」
「そんな、私は何も……」

RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR

「そういえば、さっきから何か鳴ってない?」
「電話……でしょうか?」
「あ……っ!」
そのときになって私は、やっと大事なことを思い出した。
トグサさんがここを出る前に、他の施設に電話をかけたものの、何処も留守番電話に繋がるだけだった。
だが、それを聞いた誰かが返事をしてくるかもしれないから、って電話番を任されてたんだった。
完全に忘却して寝るわ風呂入るわ……ヤバイ、与えられた仕事を全くこなせていない。
「あ、アレきっと誰か他の人からの電話だ!早くでないと!」
だが、立ち上がろうとする私をみくるが引き止める。
「セラスさんは怪我もありますし、ここでゆっくりなさっていて下さい。電話なら私が出てきますから!」
そういって、みくるはカスタマーカウンターの方に走っていった。
確かに私が受けないといけないような事も無いし体も痛い。ここは素直にみくるの好意に甘えておくことにした。
ズデッ
遠目にみくるがずっこけるのが見えた。よくコケる娘だなぁ……
51吸血鬼DAYDREAM  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:44:22 ID:R5iPSz7m

RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR、ガチャッ

「もしもし〜?あ、はい、お待たせしてすみません」
ロビーに響くみくるの会話を聞きながら、ふと周囲を見渡してみる。
昨晩はキレイなホテル玄関だったのに、今はガラスは割れ、調度品は壊れ、観葉植物は折れ……変わり果てた荒廃っぷりだ。
何かの破片や、薬莢や、その他諸々が地面に散らばっている。激しい戦闘の痕跡なのだろう。
そしてこの戦闘の末に、2人の命が失われたんだ……
『殺し合い』という言葉が、改めて重く私の上にのしかかる。

……じゃあ、やっぱりウォルターさんも、本当に?

先ほどのメイドとマッチョマンの常識外れの戦闘、不思議な武器。
私たちも大概非常識な集団だったけれど、ということはここも私たちが居たのと同じ舞台、ということになる。
ならば、私たちとて特別安泰、というわけでも無さそうだ。
ウォルターさん……飄々として掴み所が無くて、いつもマイペースで、ヘルシング機関に入ったばかりの私に様々なことを教えてくれた。
マスターとは違った意味で『殺しても死なない』人だと思っていたのだけれど……


外はもうすっかり日が昇り、ロビーの玄関には、容赦なく太陽の光が差し込んできている。
正直、眩しい。
一応、爽やかな朝の日差し』とか、『健康的なお日様の光』とか、気持ちの良い言葉はいくつか浮かぶのだが、
今現在の私には、イマイチそれらの言葉に実感が伴ってくれない。何をどう考えたとしても、やっぱり太陽の光は不快でしかないのだ。
私に必要なのは、豪華なディナーではなく血液。ふかふかのベッドではなく棺桶。お日様の照らす光ではなく闇夜。
残念なことに、私は日の光を嫌う吸血鬼。日光を「気持ちの良いもの」と感じることは、もう無いのだ。恐らく、永遠に……
52吸血鬼DAYDREAM  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:45:12 ID:R5iPSz7m
そのとき不意に、腕に嵌めた篭手が煌いた気がした。
何でできているのか分からないけれど、つるつるぴかぴかの篭手。私の顔も映りこんでいる。
……光の反射。
本能的に、体を捩って身を躱す。
「せっ、セラスさん!危ない!!」
みくるの悲鳴が響く。

ズッ
左肩に、鋭い痛みが奔る。そこは、さっきまで私の心臓があった場所だった。
私は、身を躱した勢いをそのままに、カウンターの外に飛び出した。

「チッ、外したか!」

振り向くと、そこには時代遅れの甲冑を身に纏った、褐色の肌の女が立っていた。
不意打ち……ホテルの裏口かどこかから入り込んで来たのだろうか。
なんにせよ、友好的でないのは明らかだ。
女騎士はゆっくりとソファーの後ろからその身を現す。
その姿は細身ながらも、異様な威圧感――殺気が漏れ出てくる。

「いきなり斬りつけるなんて、どういうつもりですか……?挨拶にしては過激ですね」
残念なことに、そういう挨拶を好む奇人達を私は知っている。万が一の念のため、一応話しかけてみる。だが

「貴様と話すことは無い。悪いが……ここで死ねッ!」
対する女騎士は、問答無用で切りかかってきた。
――疾いッ!
迫り来る刃を、紙一重で避ける。
だが、バランスの整わない私に向けて、第二、第三の追撃の刃が、休む間も無く放たれる。
こっ、この人……強い!!
53吸血鬼DAYDREAM  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:46:00 ID:R5iPSz7m
身体能力なんかは『常識の範囲内』だけれども、この剣さばきは凄まじいの一言に尽きる。
応戦しようにも、まともな武器を持っていない私では、文字通り手も足も出ない。
なんとか反撃しようとするのだが、その隙が全く見つからない。
ズキッ。わき腹が痛む。ダメージが残るこの体では長期戦は不利だ。

――何とかして、隙を作らないと!

女騎士の放つ刃を潜った瞬間、私は思いっきり横に跳ぶ。
そしてそれと同時に、予めキッチンからガメてポケットに忍ばせておいた、フォーク数本を出鱈目に投げつけた。
よし、これで一本でも当たれば足止めできる!これで出来た隙にッ!

そう思った瞬間、女騎士が、飛んだ。

手にした剣を、まるで棒高跳びの棒のように地面につきたて、鮮やかに宙を舞う。
その姿には、同姓の私でも一瞬目を奪われてしまう。
私の投げたフォークは全て、彼女がそれまで居た空間の後方へと消えていった。

そして、女騎士は、着地と同時に剣を振るう。
瞬く一閃。
「ヤバイっ!」
とっさに篭手で顔面を防御する。しかし、女騎士の刃は、篭手に当たることなく滑らかにその軌跡を変える。
このタイミングでフェイント!!??
ザシュッ 「痛ぅッ!」
54吸血鬼DAYDREAM  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:46:49 ID:R5iPSz7m
その剣先は、滑るように私の横っ腹を抉っていく。
傷口から鮮血がこぼれ落ちる。
「く、くそっ!」
咄嗟に跳躍して間合いを広げるが、堪らず膝を付いてしまった。
体に残ったダメージも大きい上に、日中では思うように力が出ない。体が鉛のようだ。
しかも、相手はこれほどの使い手。誰がどう見ても、圧倒的劣勢だ。
蹲る私を見ながら女騎士は、ゆっくりと間合いを詰めてくる。

「素手の割には良くやったが……終わりだな」
女騎士が冷たい眼で私を見据える。
私は残った力で、ただただカーペットを握り締めていた。






――――こんなところで終わってたまるかっつーの!!

「おらぁぁぁああああっ!!!」
べりべりべりっ
私は気合を込めて、カーペットを思いっきり引っ張り上げた。
瞬間、私が居る場所を中心に、ロビー中のカーペット生地に皺が寄る。
「何ッ!?」
流石の女騎士もこれは予想していなかったようで、バランスを崩してずっこける。

――隙あり!!!

「今だっっ!!喰らえッッ、必殺ぅぅうううううっっ!!」
55吸血鬼DAYDREAM  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:47:41 ID:R5iPSz7m

渾身の力を込めて、私はその足を踏み出した。
全力で疾走する。



――明後日の方向へ。

「戦略的後退ッッ!!!!!!」


遠目に女騎士の目が点になっているのが分かったが、今はそんなことは無視。
とにかく今は体勢を整えて、あの女騎士に対応するのが第一だ。
幸い、このホテルの内部構造は熟知してしまっている。地の利は我に有り。
女騎士がここを去るなら良し。私を追ってくるようならば、迎撃するまで。
とにかく、一度仕切り直さないといけない。

私はそのまま、オロオロしながら立ち竦んでいるているみくるを小脇に抱えると、ホテルの階段をかけ上がっていった。
「ちょっと、なんで逃げなかったの!?」
「わ、私は銃で援護しようとしたんですけどぉ〜〜、弾切れで補充の仕方も分からなくてぇ〜〜ふぇ〜〜ん」
ったくこの娘は、いい娘なんだろうけど頼りにならない……


現状を確認する。私には無視できないダメージが残り、この娘は戦力として期待できない。
階段を上る一歩毎にずきずきと傷が痛んだ。わき腹からは血が失われていくのが実感できる。
血が、足りない……?
56吸血鬼DAYDREAM  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:48:43 ID:R5iPSz7m
【D-5/ホテル内/1日目/午前】

【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:メイド服着用、ボロボロ、煤まみれ、何故か無傷
[装備]:AK-47カラシニコフ(0/30) (みくるは装填できず)、石ころ帽子
[道具]:バトーのデイバッグ:支給品一式(一食分消費)、AK-47用マガジン(30発×4)、チョコビ13箱、煙草一箱(毒)、
爆弾材料各種(洗剤等?詳細不明)、電池各種、下着(男性用女性用とも2セット)他衣類、オモチャのオペラグラス
茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている)(茶葉を一袋消費)
ロベルタのデイバッグ:支給品一式(×7) マッチ一箱、ロウソク2本、糸無し糸電話1ペア@ドラえもん、テキオー灯@ドラえもん、
9mmパラベラム弾(40)、ワルサーP38の弾(24発)、極細の鋼線 、医療キット(×2)、病院の食材
[思考・状況]
1:セラスの援護。
2:バトーの死にショック。
3:SOS団メンバーを探して合流する。 
4:鶴屋さんの安否を確かめたい。
5:青ダヌキさんを探し、未来のことについて話し合いたい。

【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]:全身打ち身、肋骨にヒビ、左肩、 左脇腹に裂傷。日中は不調。
[装備]: エスクード(風)@魔法騎士レイアース 、ナイフ×10本、フォーク×2本、中華包丁
[道具]: 支給品一式 (バヨネットを包むのにメモ半分消費)、バヨネット@ヘルシング
[思考・状況]
1: トグサが戻るまでホテルを死守。
2:キャスカ(名前は知らない)及び、新たな襲撃者が来ればそれらを排除。
3:アーカード(及び生きていたらウォルター)と合流。
4:ドラえもんと接触し、ギガゾンビの情報を得る。
※ドラえもんを『青いジャック・オー・フロスト』と認識しています。
※道具は最上階のスイートの一室に放置しています。
57吸血鬼DAYDREAM  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:49:42 ID:R5iPSz7m

【キャスカ@ベルセルク】
[状態]:普通
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night
[道具]:支給品一式(一食分消費)、カルラの剣@うたわれるもの(持ち運べないので鞄に収納)
[思考・状況]
1: セラスを追うかどうか迷っている。罠の懸念を抱いている。
2:飛び道具を手に入れる。それまではリスクの高い攻撃行動は控える。
3:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。
4:エクスカリバーを使いこなす

※ロベルタの装備はホテル外に放置。破損程度は不明。
:空気砲(×2)@ドラえもん/鳳凰寺風の剣@魔法騎士レイアース/グロック26(4/10)
※セラス以外の各自は食事を取りました。一食分消費しています。

58Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:51:08 ID:R5iPSz7m

かなみを埋めた。


穴掘るのに手間なんかからねぇ。殴りゃあ穴なんて簡単にあくんだよ。
でけぇ音はしたが、知ったこっちゃねぇ。
穴に、かなみを入れて、土を被せりゃそれで終わりだ。
チンケな墓だな。チビのあいつにゃピッタリだ。
俺の右手には、かなみのリボンが残った。形見とかそんなモン持つ趣味は無かったんだがな……
……チッ、イライラしやがる。


かなみを殺した奴も当然ブチ殺すが……あの仮面の野郎、絶対にブッ殺す。
空にでかでかとご登場とは調子に乗りやがって。ご丁寧に俺の前にツラ出すたぁいい度胸だ。
アイツだけは許さねぇ。体の破片一つ残らねぇぐらいに、完全にボコり殺してやる……!


顔を上げて、横を見る。他の奴らが固まって何かしてやがる。
ゲイナーとか言うメガネの餓鬼は、偉そうになにやら話しかけてきやがったが、面倒だから聞いちゃやらねぇ。
レヴィって名の刺青の女は、ゲイナーが持っていた手錠とロープでぐるぐる巻きにされている。口にはさるぐつわだ。
『喧嘩して暴れないように』だと。へっ、いい気味だな。
なのはは、相変わらず余計な世話ばっかりしやがってウザイことこの上ない。それに、コイツを見てると、思い出すんだよ、アイツのことをよ……
放送の後は静かにしてやがるから気にならねえけどな。


それにしても、あいつらは長々と何を喋ってやがるんだ?
「……魔法……デヴァイス……」
「……オーバースキル……シベリア……」
……止めた。聞くだけ無駄だ。理解できねえし、したくもねえ。 
59Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:51:57 ID:R5iPSz7m


だが、これからどうするか。
どうせなのはは俺の後を付いてくるだろうし、ゲイナーってひょろメガネも似たようなもんだろう。
弱い奴らってのはいつも強い奴のそばに群れたがる。
俺はそんな奴らに構ってる暇はねぇ。付いてくるなら勝手にさせればいい。
俺はただ、あのふざけた仮面野郎をぶちのめす。それだけだ。


ふと、あいつらに眼をやると、ゲイナーが何か道具をいじっていた。
あれは――確か携帯電話とか言う――俺の物じゃねえか!
適当にデイパックの中にでも突っ込んどいたハズなのに、なんであいつが持ってやがる!?

「おいお前、そりゃ俺の物だろうが!何勝手に触ってやがる!」
「わかってます、ちょっとお借りしてるだけですよ。彼女をお墓に埋葬するのを手伝ったんだから、少しぐらいいいじゃないですか」
「誰も手伝ってくれなんて頼んじゃいねぇんだよ!!」
殴りかかろうとする俺の前に、なのはが立ちふさがる。
「ごめんなさい、私が勝手にお渡ししたんです。カズマさんの物なのに勝手に取り出してしまってすみませんでした」
出鼻を挫かれた。コイツといると、どうもペースが乱れる。
「心配しなくてもすぐに返しますよ。疑うんでしたら、ここをこうして……ほら、これで通話中の会話が皆に聞こえるでしょう?」
ゲイナーが何やら操作しているが、詳しくは分からない。
「いいですか。こういう場合、情報というのは何物にも変えがたい、貴重な物なんです。
それに、あの仮面の男が言ってたことを信じるならば、既に四分の一近くの人が死んだことになります。
他の場所で何が起こっているのかを知ることが出来れば、自分達の身をむざむざ危険に晒さなくても済みますからね」
「へっ、臆病な奴だな。ちゃんとタマ付いてんのか?」
「勇気と無謀は違いますよ」
そう言って俺の事を聞き流しつつ、ゲイナーは再び携帯電話をいじりだした。癇に障る奴だ。
60Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:52:46 ID:R5iPSz7m
「この携帯電話には、所要施設の電話番号が予め登録されているみたいですね。
とりあえず、市街地の中心地で人の集まりそうな場所――ホテルにかけてみましょうか」
言うなりゲイナーが携帯電話を操作のボタンを押すと、辺りに耳障りな電子音が響きだした。

そして、何度目かの電子音の後に、電話が繋がった。

「もしもし〜?」
「良かった、繋がった!そちらはホテルで合ってますよね?」
「あ、はい、お待たせしてすみません」
電話の相手はなんだか気の抜けた声で話しやがる。イラつく話し方だ。
「僕はゲイナー、ゲイナー・サンガと申します。一緒に居るのは 高町なのは、レヴィ、カズマの3人です。貴方は今お一人ですか?」
「わ、私は朝比奈みくると申します〜〜 一緒に居るのはセラスさんと、あと先ほどまではバトーさんも居られたんですが……」
急に語調が暗くなる。なんだ、そいつは死んだのか?
「では、市街地の方では大規模な戦闘等があったんですか?」
ゲイナーは気付いているのかいないのか、同じ調子で質問を続ける。

「…………はい」
返事はか細い、蚊の鳴くような声だった。

「……そう、ですか。辛いことを聞いてしまってすみませんでした。
僕たちは今エリアの隅にいるんですが、こっちの方では人も少ないようだし、少なくとも街の中心よりは安全だと思います。
貴方もなるべく中心地から離れたほうが良いのでは?」
「お、お気遣いはありがたく頂いておきます。ですが、私にはまだやらなくちゃならないことが……あっ」
突然何かに気付いたかのような、一際間の抜けた声。そして。


「せっ、セラスさん!危ない!!」
61Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:53:34 ID:R5iPSz7m
「ど、どうしました!?何かあったんですか!?」
驚いたゲイナーが必死に呼びかける。だが。
「す、すみません、失礼します!!」

ガチャン。ツー、ツー、ツー……

そのまま、電話は切れてしまった。


「こ、これって……」
なのはが深刻な顔で呟く。
「ああ、どうやらまた戦闘が始まったみたいだ。どうやら市街地の方はかなりの激戦地になってるみたいだね」
「へっ、大した落ち着きっぷりだな。遠い所でドンパチやってても自分が殺られる心配はねぇもんな」
「……何にせよ大きな情報を得られたのは確かです。だが、これからどう動くか……」
「臆病者はここで震えてりゃいいだろがよ!」
軽くからかってやったが、ゲイナーは俺じゃなくてなのはの方を見る。哀れそうに。
「……なのはちゃんも大変だね、相手するの……」
「だから無視するんじゃねえ!」
しかしゲイナーは吼える俺の言葉を遮る。
「……シッ、静かに!何か聞こえませんか?」
「誤魔化してんじゃねえよ、何も聞こえ……?」
途中まで言いかけて言葉を止める。
ゴオォォ……
聞こえる。確かに何か聞こえる。何だ?この音は?
「なんだか、近づいて来るような……!?」
ゲイナーがそういい終わるか終わらないかの間に。
奴は来た。
62Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:54:29 ID:R5iPSz7m
ォォォォォォォォオオオオオおおおおおおおおおっ!!!!!
ズシャアッッッ!!!

「1分12秒16……また世界を縮めてしまった……」
轟音をとどろかせて飛来したその物体は、髪を整えながらお決まりの台詞を言ってのけやがった。

「おお、誰かいると思って飛んできたらカズヤじゃないか!お前こんなところで何やってんだ!?」
「カズヤじゃねぇ、カズマだ!!てめぇは相変わらずだな、ストレイト・クーガー!!!」


「カズマさんのお友達……ですか?」
なのはが恐る恐る訪ねてきた。明らかに引いているのが俺でも分かる。
「友達じゃねえ、ただの腐れ縁だ!」
「おいおい水臭いこと言うなよ、俺とお前の仲だろうが」
「馴れ馴れしくするんじゃねぇ!」
キザで、マイペースでいつも兄貴面しやがるいけすかねえ奴。
だが、口では憎まれ口を叩きつつも、クーガーに会えて、どこか安心している俺も確かに居た。
クーガーは厄介な奴だが、頼りにはなる。

だが、クーガーの野郎は相変わらず、クーガーだった。
「しかァし! 折角会えたばかりで悪いんだが、お前との感動的な再会に浸っているだけの暇は無い!
事態は可及的急を要する上に、俺は人を待たせている!今は一分一秒一ナノセカンドも惜しい!!
ということで俺の問に完結に答えろ!!
――赤いセーラー服を着た少女を見かけなかったか!?」
「知るか!それよりもテメェ……」
「そうか!では君たち!!何か心当たりは無いかい!?」
クーガーは俺の言葉を聴かずに他の奴らの方を振り向く。
「だから俺を無視するんじゃねえ!!」
63Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:55:19 ID:R5iPSz7m
「僕……ですか?残念ながら、分かりませんね」
「私も……すみません」
「そうか……これは残念!!ここまでその少女が居ないものかと木陰、岩陰、草の陰まで隈なくスピーディに!探してきたんだが……
どうやら見当違いの方角に来てしまったようだな!矢張り人探しには人の集まる市街の方に行く必要が有るようだァ!!」
「テメェ少しは俺の話を聞けぇ!!」

「市街……だって!?いけません、危険です!」
誰に向かって喋っているのか良くわからないクーガーに、ゲイナーが血相を変えて反論する。
「確かに市街地には人が集まってきているようですが、その分戦闘も頻発しているようなんです!今、市街地に入って行くのは自殺行為ですよ!!」
「おや、俺の身を案じてくれるのかい?優しい少年だ!だが!この俺に心配などナッシング!!どんな危険でもこの俺に追いつけはしないッ!!」
「てめぇソイツの話聞く前に俺の話をッ!!」


「クーガーさん!」


突然、なのはが声をあげる。
俺は反射的になのはを見た。今までとは打って変わって、マジな顔だ。

「クーガーさんは、市街地の方に行かれるんですよね?」
「そのつもりだが、それがどうかしたかい、お嬢ちゃん?」


「私も一緒に連れて行ってください!!」


「む!?」「えっ!?」「何ッ?」
予想外の一言。いきなりコイツは何を言い出すんだ!?
64Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:56:21 ID:R5iPSz7m
「俺は別に構わないが……君ぐらいのスケールなら、背負って行っても空気抵抗は少なそうだしなぁ」
速攻で了承するクーガーを遮って、ゲイナーが引き止める。
「ちょっとなのはちゃん、君までいきなり何を言い出すんだ!だから市街は危険だって……」

「はやてちゃんが死んだんです!それに、鶴屋さんも!!さっきの放送で仮面の男が言ってました!」
なのはが叫ぶ。涙が溢れているが、凄みのある眼をしている。

「……お友達が亡くなったのは残念だけど、だからってどうして?それに、あの仮面が嘘を言ってる可能性だってある」
「かなみさんは、本当に亡くなっていました。なのに、はやてちゃん達だけが無事だっていう保障はどこにもありません。
今も市街地で誰かが戦っているのなら、これまでにあれだけの人が死ぬ事だって……それに、これからも……!!
はやてちゃんが死んだなら、ヴォルケンリッターのシグナムとヴィータちゃんも消えちゃったのかもしれないけれど……
でも、まだフェイトちゃんがいるんです!
……もうこれ以上、友達を失いたくないんです!!」

放送の後、妙に元気が無かった理由はこれだったのか。
だが、なのはは思っていた以上に根性が据わっていやがるようだ。まさか先に市街地行きを言い出されるとはな。
俺が何かを言おうとしたそのとき、不意になのはが俺の方を向いた。

「カズマさん、急に我侭を言ってごめんなさい。でも、私もう我慢できないんです!でも、カズマさんには迷惑はかけられません。
市街地には、私だけで行きます。……今までありがとうございました」

何?なのは一人で!?俺を置いて行く気か!??

「ふーむ、若いのにしっかりしている。優しさと勇気の両方を兼ね備えている!
いいだろう!俺が君を君の友達のところへ連れて行ってあげよう、マッハのスピードでな!!」
「ありがとうございます、クーガーさん。ゲイナーさんも、短い間でしたがお世話になりました。レヴィさんにもよろしくと伝えてください」
「う、うん。……もう止めても無駄みたいだね。でも、気をつけて」
「はい!それにカズマさんのお知り合いなら安心ですしね!」
65Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:57:11 ID:R5iPSz7m
俺を置き去りにしてどんどん話が進んでゆく。気に入らねぇ。
俺はまだ行かねえとも何とも言ってねえだろうがッ!

「おい、ちょっと待てよ、お前――」
「カズヤぁ、ここで引き止めるのは野暮ってもんだぞ?それともお前も一緒に来たいのか?」
「だっ、誰がッ!!頼まれてもお断りだね!!」


……つい、言ってしまった。
いつもの調子で、反抗してしまった。本心とは裏腹に。

「……そうか。案外お前も暴れたがってるのかと思ったが、俺の考え違いだったようだな」
「ヘッ、俺が暴れる場所は俺が決める!俺に指図するんじゃねぇ!!」
違う。俺だって本当はこいつらと一緒に戦いたいハズなんだ。クーガーと共に、なのはを護って。

「さてと、ならば善は急げ、急がば最短ルートを抜け道ショートカット!!さっさと街に向かうとしますかァ!」
「はい!クーガーさん!」
なのはがクーガーの背中に飛び乗る。ダメだ、2人が行ってしまう。今言わなければ、『俺を連れて行け』と言わなければ。
「お、おい、お前ら……」

「ところでカズヤぁ!」
「な、何だ!?ってかカズマだ!いいかげん名前ぐらい覚えろ!!」
「まあ聞け。老婆心ながら忠告しておいてやろう。……死んだあの娘のことは残念だったが、お前は同じ事を何度も繰り返すんじゃないぞ?
人生は短い!二の足踏んでるタイムロスなど無駄以外のなにでもない!!
迷うなんて単細胞のお前には似合わないぞ。バカは単純明快単刀直入最短最速にまっすぐ行けばいいんだよ!」
クーガーの言葉が胸に突き刺さる。だが、口から出るのはいつもの悪態ばかり。
「うるせぇ!!人のことバカバカ言ってんじゃねえ!!」
「そうか。……まあいい!お前のナメクジのような思考スピードがこの俺に追いつけることを祈っているぞ!
それでは、市街地中心に向けて、
レディ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、ゴオオオオォウウウゥゥゥ―――――----…」
66Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:57:59 ID:R5iPSz7m


そして、クーガーは行ってしまった。なのはを連れて、俺を残して。
後には言葉では言い表せないような、喪失感だけが残っていた。
……俺に、後悔が有るはずはねぇ。有るはずはねぇんだ。だけど……


「カズマさん」
不意にゲイナーが話しかけてきた。
「何だ?」
「これからのことなんですが」
そういや、コイツは『今は市街地に行くのは危ない』とかいってビビッてやがった。
だが、こいつがどうしても、って言うんなら、一緒に市街地に行ってやるのもいいかもしれないな。
まぁ、仕方なく、だがな、仕方なく。

「この後は、僕たちとカズマさんは、別行動をとりませんか?」
「……は?」

「なのはちゃんが行ってしまっては、僕一人ではカズマさんとレヴィさん2人の面倒はとても見られません。
貴方達2人が居たら、またすぐにでも命がけの喧嘩を始めてしまうんでしょう?
でもレヴィさんをこのままここに放っておくなんてことは出来ませんし、ですから」
意味がうまく理解できていない俺に、ゲイナーは携帯電話を投げてよこす。
「それはお返しします。僕らはもう少しここに留まっていますから、カズマさんは先に出発してください」

……テメェらも俺と別れる、だと?俺一人で行け、だと!?
なのはも、ゲイナーも、俺を頼らない……俺の力を必要としていないのか!?
クソ、これじゃ最初に予想してた展開と全く逆じゃねぇか。
67Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:58:48 ID:R5iPSz7m
ふと、縛られたレヴィを見ると、人のことを見下したみたいな、胸糞悪い眼で俺のことを見ていやがった。
『さっさと消えちまいな』とでも言いたげな。
無性に腹が立った。

「ケッ、言われなくても出てくつもりだったさ!テメェらなんかとチマチマやってちゃ日が暮れるんだよ!!」
「そうですか。ありがとうございました。カズマさんもお元気で」
事務的な別れの言葉が俺の背中を押す。
クソ、なんでだ?なんでこんな展開になったんだ?

「……ああ、ところで」
嫌な空気の立ち込めるその場から去ろうとした俺の背後から、ゲイナーが声をかけた。
「カズマさんは『サラマンダー』という話をご存知ですか? ヤーパンの古典なんですが……元々の言葉では、『サンショウウオ』だったかな」
「知らねぇ。俺は本なんか読まねえからな」
「そう、ですか……愚問でしたね。それでは、さようなら。お気をつけて」
「…………あばよ」



そして俺は、あてなく歩き出す。
目的はある。仮面野郎をぶちのめす。それだけだ。
だが、奴はどこにいる? どうすれば奴のところまで辿り着ける?
立ちはだかる敵は打ち破ればいい。逃げる敵は追い詰めればいい。
ならば、隠れた敵は、居場所を暴いて叩き潰せばいいだけだ。
……だが、今のところ何処に隠れているのか見当もつかねえ。果たして、俺に見つけられるのか?
チッ、本当にイライラしやがるぜ……
68Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 00:59:36 ID:R5iPSz7m
【F-8・森林/1日目/午前】

【カズマ@スクライド】
[状態]:激しい怒りと苛立ち。
[装備]:なし
[道具]:高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)、かなみのリボン@スクライド、支給品一式
[思考・状況]
1:方針不定。あてもなく西へ。
2:かなみを殺害した人物を突き止め、ブチ殺す(一応、レヴィとゲイナーが犯人でないことは認めたようだ)。
3:ギガゾンビを完膚無きまでにボコる。邪魔する奴はぶっ飛ばす。
4:君島と合流。
5:本心では、なのはが心配。

【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:普通。
[装備]:ラディカルグッドスピード(脚部限定) 、なのはを背負って疾走中。
[道具]:支給品一式(一食分消費)
[思考・状況]
1:宇宙最速を証明する(光を探し出して速さで勝つ)。そのために市街地へ。
2:なのはを友の下へ連れてゆく。
3:証明が終わったら魅音の元へ行く。
69Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 01:00:26 ID:R5iPSz7m
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:悲しみ、友を守るという強い決意。
[装備]:クーガーと共に疾走中。
[道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り18品)・支給品一式
[思考・状況]
1:フェイトと合流。
2:はやてが死んだ状況を知りたい。
3:カズマが心配。
※グルメテーブかけで朝食をとりました(4食分)。
※シグナム、ヴェータは消滅したと考えています。

【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:精神的に疲労
[装備]:イングラムM10サブマシンガン(レヴィから再び没収)、防寒服
[道具]:支給品一式、予備弾薬(イングラム用、残弾数不明)、バカルディ(ラム酒)2本@BLACK LAGOON、割れた酒瓶(凶器として使える)
[思考・状況]
1:市街地の戦闘が終わるのを待つ。若しくは、市街地から非難してくる人物に接触。
2:レヴィが暴走しないよう抑止力として働く。
3:もう少しまともな人と合流したい(この際ゲインでも可)。
4:さっさと帰りたい。
※名簿と地図を暗記しています。
70Salamander (山椒魚)  ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 01:01:17 ID:R5iPSz7m
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:腹部に軽傷、頭に大きなタンコブ、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
[装備]:ぬけ穴ライト@ドラえもん、ロープ付き手錠@ルパン三世、さるぐつわ
[道具]:支給品一式、
[思考・状況]
1:ゲイナーに制裁を加える。というかロープ解けコラ!
2: ロックの捜索。
3:気に入らない奴はブッ殺す。
※まともに名簿も地図も見ていません。
※ロベルタの参加は確認しておらず、双子の名前は知りません。
※ゲイナーによって、暴れないように、縛られてさるぐつわをはめられています。
71 ◆B0yhIEaBOI :2007/01/03(水) 01:38:56 ID:R5iPSz7m
カズマの思考修正。
[思考・状況]
1:方針不定。あてもなく西へ。

1:方針不定。あてもなく歩く。
72ハートの8 ◆k97rDX.Hc. :2007/01/03(水) 22:35:10 ID:uF0FJxmy
――こいつらは使えない。

例の二人を観察して、私の得た結論の一方がそれだった。



「……俺は町内で一番けんかが強くってよ、高校生にも勝ったことがあるんだぜ」
あの、ちょっとした出会いからしばらく――
簡単な情報交換をすませた私たちは、朝焼けに染まる道をレジャービルに向かって歩いていた。
『地図のほぼ中央に位置するその場所なら、捜し人に会える可能性も高いかもしれない』
聞くところによれば、二人はそう考えて駅の南から歩いてきたところで私と会ったのだそうだ。
その道すがら、少しでも私を不安がらせないようにというのか、武は色々と武勲譚を聞かせてくれたが……

全くもって馬鹿馬鹿しい。

さっきお前が見て目を丸くしていた巨大な銃。あれのことを考えてみるがいい。
常識的に考えて、あれを使える人間など存在し得ない。
だが、……本当にそうだろうか?
支給品として存在する以上は、実際に使われることが想定されているのではないだろうか?
私は答えを知っている。あれを使える人間はこの場に存在するのだ。
少なくとも、腕力についての話なら支給された当人にはあの銃が十分扱えただろうことはほぼ間違いない
――見ていたわけではないが、数の合わない弾丸など実際に使用した形跡が残っていた。
その人間離れした膂力と、同等以上の力を持つ者がここには複数いるということ。あれはその証拠なのだ。
そういった者の存在を前にして、お前は何を誇る?
それこそ富竹と比べても、文字通り大人と子供ほどの差があるだろうお前に一体何ができるというのか。

心の中でそう毒づき、そして仕方のないことと思い直す。
話をしてみて分かったのだが、武の年齢は“古手梨花”の肉体のそれよりも少ないのだ。
考えてみれば、いくらがっしりした体格をしているとは言っても圭一に比べて背は低く、
顔つきだってずっと子供っぽい。細かいところにまで気が回ることを期待するのも酷な話だろう。
73ハートの8 ◆k97rDX.Hc. :2007/01/03(水) 22:36:46 ID:uF0FJxmy

「武と一緒なら、僕も安心なのです。ところで……」
とはいえ、流石に幼稚な自慢話には飽き飽きして、私は話題を変えることにした。
「お人形さんの鞄からのぞいているものは何ですか?」
私は武に抱えられた人形――『もう少し静かにするです、デブ人間』と言って武の話を時折中断させる他は、
さっきから一言も発していない――にそう尋ねた。
「ん? こいつはスイセイセキの妹の、ええと……」
「蒼星石の庭師の鋏ですぅ。こんな品のない鉄の塊なんかよりずっと頼りになるんですよ」
私たちの背後へ続く道から視線を動かさずにそう答えると、人形――翠星石は鞄からそれを引き抜いた。
左手は拳銃を握ったまま、右手で剣のように高く掲げられたそれは朝日を受けて金に輝く。
唐草模様の装飾に縁取られた庭鋏は、なるほど、翠星石が持つには無骨な拳銃よりもはるかにふさわしいものに思えた。
だが、見惚れているわけにもいかない。
獲物を求める殺人者に見つからないよう大通りを避けているというのに、目立つまねをしては元も子もない。
私は鋏を鞄にしまうように言うと、最も重要な点について尋ねた。
「もしかして、何か特別なことができる道具なのですか?」
「…………。
 蒼星石でないと、本来の力は引き出せねえです」
74ハートの8 ◆k97rDX.Hc. :2007/01/03(水) 22:37:31 ID:uF0FJxmy

まあ、そんなものか。

「り、梨花ぁ、その目は何ですか!? 翠星石だって庭師の如雨露さえあれば――」
大きな声に、私は慌てて翠星石の口をふさいだ。
さっきは自分が人を注意していたというのに、この意地っ張りな人形のやることは時々どこか抜けている。
「騒いではだめなのです。それに、鋏も早くしまわないといけないのですよ」
私はそう言ってから手を放した。
翠星石はなおもなにやらぶつぶつと呟いていたが、文句を言うのは諦めてくれたらしい。
私が頼んだとおりに鋏をしまう作業に移ろうとして……そこで途方にくれたようだった。
鋏をそのまま鞄に挿そうとしても、長い髪が邪魔になってうまくいかない。
一度鞄を下ろしてから入れればよいのだが、両手に物を持っているためそれも難しい。
その様子が分かったのか、武はため息を一つつくと鋏を少々乱暴に翠星石の手からもぎとると、
鞄へとしまってやった。
「まあ、いいんじゃねえの。拳銃だって、ぶっ放して下手にあたっても困るしよ」
断りも無く勝手に鋏を触るな、とかなんとか言っている翠星石を適当にあしらいながら
そんなことを言ってくる武に今度は私が心の中でため息を一つ。


武は少々腕っ節の強いだけのただの子供。持っている武器が竹刀では、できることも高が知れている。
翠星石は拳銃を持っているが、人間よりずっと小さなその手ではまともに扱えるか怪しいものだ。
使えたとしても、私の傘のように散弾が撃てるわけではないから命中を期待するのは無理だろう。
だが、そんなことは本質的な問題ではない。
そう。何よりも致命的なのが、二人が拳銃という殺傷能力に優れた武器を手に入れながら、
それを使って他者を傷つけることを忌避しているということだった。
相手を殺すという意思と手段――この場合は拳銃――がありさえすれば、互いの力の差を埋めることは十分にできる。
言ってみれば、私自身がここでやってきたことがそれだ。
けれど、この二人はその選択肢を最初から捨ててしまっている。
これでは私の最初の目論見どおりにことが運ばないどころか、状況しだいでは身の安全すら危うい。


「おはよう! いい朝は迎えられたかな?」
そんな私の思考は、突然の不快な声にさえぎられ、
そして……第一回目の定時放送が始まった。
75ハートの8 ◆k97rDX.Hc. :2007/01/03(水) 22:38:21 ID:uF0FJxmy



                     ○



不愉快な笑い声が遠ざかるとともに空に浮かんだ男の姿も薄れ、放送は終了した。

放送で部活メンバーの名が一人も呼ばれなかったことに、私は少しほっとする。
それは……単に、確実に利用できる他者の数が減っていないことに対する安堵のはずだ。
次か。
次の次か。
次の次の次か。
遅かれ早かれ彼らの名も呼ばれることになる。そうなるように私自身が仕向けるのだから。
私は、顔を上げて連れの二人の様子を窺った。
翠星石は……
私たちが放送のメモを取っている間、周囲を見張っていてくれるよう頼んでおいたのだが、
今はその役割を放棄して傍らに立つ武のことを心配そうに見上げていた。
一方の武といえば私に背を向けて立ち尽くしている。心なしか、その背がさっきよりも小さく見えた。
「武……」
「うっせえ。……泣いてなんかねえよ。泣くもんかよ」
武は声をかける翠星石を振り払うように右腕を大きく振ると、左手で顔をぬぐった。
その姿から視線を外し、私は再び名簿に目を落とす。

『骨川スネ夫』
『先生』

『剛田武』の後ろに記されたその二つの名前は、鉛筆で引かれた二本の線で上から消されていた。
76ハートの8 ◆k97rDX.Hc. :2007/01/03(水) 22:39:10 ID:uF0FJxmy
私はこの哀しみを知っている。
それこそ、頭のどこかでどうでもよいと感じてしまうくらいに。
当然だ。繰り返す惨劇の中の百年間、幾度と無くそればかりを見せ付けられてきたのだから。
でも、武は違うだろう。翠星石の素性は理解しがたいが、武はごく普通の小学生のはずだ。
それなのに何故――
何故、二人のどちらともが、既にどこかでその哀しみを経験しているように見えるだろうか?
何故、二人のどちらともが、一度どこかでその哀しみを乗り越えてきたように見えるのだろうか?
もう一度その姿をぼんやりと眺め、そして、ようやくにして私は気づいた。
翠星石はともかく、武の姿はもっと前に見たことがある。
このゲームの始まる直前。首をなくし、血の海に沈んだ少女の傍らに。
「……武」
私の呼びかけに武は振り向いた。
その目は『俺が守ってやるからよ』と言った時とも、喧嘩のことを自慢げに話していた時とも違っていた。
なんと言うか、そう。何か大事なものが、自分の手から零れ落ちていくことに怯える目。


――こいつらは使えない。だからこそ役に立つ。

二人を観察していて、私が出した結論のもう一方がそれだった。
この二人は、私の代わりにゲームの他の参加者を減らすという役割は果たせない。
なぜなら、それにもっとも必要な『自分にとって不都合な者をを殺す』という意思に欠けているからだ。
でも、その背景になっているのは自分が手を汚すことに対する恐れではなくもっと別の何か。
おそらくは仲間の、友人の、縁者の、親しい者の死。
ならば存分に利用できる。
裏切りと狂気がどんなに恐ろしいものかを最もよくわかっているのは私自身だ。
決して裏切らず、狂気に染まらず、命がけで自分を守ってくれる相手と組めるならそれに越したことはない。
少なくとも、もっと役に立つ味方を手に入れるまでのつなぎと考えれば十分すぎるほど恵まれている。
彼らをトランプのカードでたとえるなら、ハートの8といったところだろう。
強いカードでも弱いカードでもなく、スペードのAのような切り札にはなれない。
けれど、これが“大貧民”ならどうだろうか。
“大貧民”には革命というルールがある。その前後ではカードの強さは本来とはまったく逆に
――2やAは弱く、3は強く――なるのだが、8のカードはその中途半端さゆえにほとんど影響を受けない。
77ハートの8 ◆k97rDX.Hc. :2007/01/03(水) 22:41:26 ID:uF0FJxmy


「武」
私は再び武に呼びかけた。一言一言、噛み締めるようにして言葉をつむいでいく。

「僕は大丈夫ですよ」
(私は大丈夫よ)

「いなくなったりなんてしないのです」
(今度こそ運命を越えるの)

「武がそばで守ってくれるのですから」
(あなたが代わりに――でくれるのだから)

「ね?」


そして、8のカードの長所はもう一つある。
捨てれば場が流れ、続けて別なカードを切ることができるのだ。






【D-6 南西部 朝】


【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:スタンガン(服の影に隠しています)@ひぐらしのなく頃に
     虎のストラップ@Fate/ stay night
[道具]:荷物一式三人分、ロベルタの傘@BLACK LAGOON
     ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING
[思考・状況]
 1:猫をかぶって、剛田武と翠星石を利用する
 2:レジャービルへの移動
 3:二人が役に立たなくなったら、隙を見て殺す
 基本:ステルスマーダーとしてゲームに乗る。チャンスさえあれば積極的に殺害
 最終:ゲームに優勝し、願いを叶える
78ハートの8 ◆k97rDX.Hc. :2007/01/03(水) 22:43:26 ID:uF0FJxmy

【剛田武@ドラえもん】
[状態]:健康、意気消沈?
[装備]:虎竹刀@Fate/ stay night、強力うちわ「風神」@ドラえもん
[道具]:支給品一式、エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
 1:スネ夫……
 2:手遅れになる前にのび太を捜す
 3:翠星石と梨花を守ってやる
 4:ドラえもんを捜す
 5:レジャービルへの移動
 基本:誰も殺したくない
 最終:ギガゾンビをぶん殴る

【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:FNブローニングM1910@ルパン三世
[道具]:支給品一式、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ(すぐに引き抜けるようにしてあります)
[思考・状況]
 1:蒼星石を捜して鋏を届ける
 2:チビ人間(桜田ジュン)も“ついでに”捜す
 3:デブ人間(剛田武)の知り合いも“ついでに”探してやる
 4:レジャービルへの移動
 5:庭師の如雨露を見つけて梨花を見返す。
 基本:蒼星石と共にあることができるよう動く
79幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/03(水) 23:54:10 ID:KjhQ1W13
――放送が響く。

まるで神にでもなったかのように傲慢な声で、楽しげに死人の名を読み上げていく。
死んだ人間の名を告げるなどという放送は、大抵の人間に絶望しか与えない。
そして、それはアーチャーもまた例外ではない――
ただし、彼が絶望を受ける理由は一般的な理由ではなかったが。
彼が絶望したのは、衛宮士郎が死んでなお自分が存在しているという事実。

「やり直しなんてできない、か。
 過去の自分の言葉、身を以って知る羽目になるとはな」

薄々、アーチャーも分かってはいたことだ。
英霊は時代を越えて様々な世界へ召喚される存在である以上、
例え過去がどう改竄されようとタイムパラドックスは起こりえない、
独立した存在になっているのだろう――
そうアーチャーは推測して、ため息を吐いた。

大した話ではない。簡単に言えば一行で十分。
ただ、自分は永遠に消えずに人殺しを続けるだけだと、アーチャーは思い知っただけ。

「どうせ、女でも庇って死んだのだろう」

失望を隠すかのように下らない悪態を吐いて、アーチャーはデイパックに手を入れた。
しばらくして取り出された右手に握られているのは名簿。
いくらなんでも、衛宮士郎とアーチャーだけが同じ場に呼ばれるのは偶然に過ぎる。
だが、聖杯戦争に関わった者が優先して召喚されたとすれば……?
アーチャーの推測は当たっていた。名簿には衛宮士郎……遠坂凛。そして。

「――アルトリア」

過去に出会った、剣の英霊――セイバーの名が記されていた。
アーチャーの顔が緩む。その表情はまるで少年のよう。
そのまま、穏やかな声で彼は呟いた。

「君はまだ、あの願いを求めているのか……?」

アーチャーは思うのは、過去に出会った少女。かつて共に戦い抜いた、騎士王のこと。
分かってはいる。ここにいる彼女は自分の知り合った彼女ではない。
それでも、アーチャーは自分の思い出を彼女に重ねずにはいられない。
そんな自分に気づいて、アーチャーは自嘲の笑みを浮かべていた。

「やり直しなんてできない、なんて今のオレには言えないか……」

自分の感傷を鼻で笑って……ふとアーチャーは気付いた。
名簿に書かれている名前はアルトリアでもなければ、アーサーでもなく。

「『セイバー』や『アーチャー』で書かれている?」

守護者として召喚されたなら、名簿に書かれる名前は真名のはず。
それがわざわざ聖杯戦争のクラスで書かれているということは。
そして、衛宮士郎や遠坂凛が二人揃って呼ばれたことを説明できる理論は。

「守護者としてではなく……サーヴァントとして召喚されたのか?」

ギガゾンビという男は、聖杯戦争の関係者を呼んだ。
そして、アーチャーはその中の一人として召喚された。
これしか、ありえない。

     〜〜〜     〜〜〜     〜〜〜     〜〜〜     
80幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/03(水) 23:54:59 ID:KjhQ1W13
放送は、どのエリアにも平等に降り注ぐ。
どのエリアでも放送された内容は同じ。ただ、受け取り手が違うだけ。
それでも、受け取り手によってはその内容は希望にも成りうるが……
ルイズが受け取ったのは、至極真っ当な絶望だった。

――平賀才人

放送でその名が呼ばれるということが、ルイズに与える物は一つ。
愛する人が、死んだという絶望。

「う……そ」

そう呟いたルイズの瞳には涙さえない。とっくに涙は涸れ果てている。
そもそもこの二時間、泣いていた後はただ呆然としているだけだった。
疲労もある程度取れたし魔力も回復してきてはいるものの、
精神的にはむしろ朝倉に脅された時より悪化していると言っていい。
この場にいる中で唯一起きていた素子も、放送までの間に慰めるようなことはしていない。
一言も喋らずに周囲への警戒に専念していただけ。
こういった状態の相手に下手に何か言えば悪化すると分かっているし、
何よりも士郎の死について自責の念があったからだ。
だから何よりも、これ以上死者を出さないことだけ専念していた。

ドラえもんは気絶していた。
太一は眠っていた。
だから反応したのは素子だけ。できたのは彼女だけ。
それが幸運だったか、不幸だったのか。それは正真正銘、神のみぞ知ることだろう。

声に素早く反応して振り向いた素子は見た。まるで幽鬼のような表情のルイズを。
そして、数々の修羅場を潜り抜けた素子だからこそ気付いた。

あの表情は、自棄を起こしている人間の目だと。

素早く現状を確認する。そして一瞬で理解した。
ルイズの右腕が士郎の剣を掴もうとしていることに。
同時に、素子は走り出す。理由は単純。
この表情でやる事は、間違いなくまともなことではない。

「くそっ!」
「離してっ!」
81幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/03(水) 23:55:55 ID:KjhQ1W13
剣が掴み上げられる寸前、素子は紙一重のタイミングで剣を踏みつけていた。
激昂した――いや、むしろ錯乱したという方が正しい――ルイズが素子に殴りかかるが、
素子とルイズの身体能力の差は歴然としている。
ルイズはあっさりと拳を掴まれて足を払われ、マウントポジションを取られていた。
それでもルイズが暴れるのをやめる様子は無い。

「何をするつもりで……」
「士郎とサイトの仇を討ってから私も死ぬ!」
「考え直せ! そんなことを衛宮が……」
「うるさい!」

一応説得を試みたものの、言い切る間もなくルイズの平手が飛んできた……
片腕であっさり防御できる程度の威力しかなかったが。
素子としてもこんな安っぽいドラマのようなセリフで説得できるとは思っていなかったが、
かといって他に何か説得できそうな言葉も思いつかない。

「どきなさいよこのメスゴリラ!」
「メッ……」

だが、腕を掴まれてもルイズが諦める様子は無い。
ここまで来ると素子もお手上げだ。なんせ話さえ聞かず、見境なしに暴れるのだから。
下手に殺すわけにもいかず、拘束して引き渡す相手もいないのだからどうしようもない。
不満があるなら自分を変えろ、それが嫌ならなどと言って銃を突きつければ
本当に自殺するだろうから更にどうしようもない。キ○ガイに刃物とはよくいった物だ。
だが、このまま暴れさせるわけにもいかないのは確か。
よって、素子は強引で単純な手段を採用した。

     〜〜〜     〜〜〜     〜〜〜     〜〜〜     
82幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/03(水) 23:56:43 ID:KjhQ1W13
日が昇る。
アーチャーはそんな事関係ないと言わんばかりに目を閉じていた。
眠るためではない。考えるためだ。

彼の考えている事はただ単純、今の自分は守護者なのか、サーヴァントなのか。それに尽きる。

そもそも、守護者とは生前、人間が力を得るために世界と契約をした者のことを指す。
圧倒的な力を得る代償としてその死後を世界に売り渡し、
死後は世界によってその存続のために使役され続ける存在。
使役の目的は掃除屋。人類が人間によって滅びる可能性がある時その場に呼び出され、
そこにいる者を救うのではなく全て殺すことでその他の人間を救う。
そのためか、守護者として活動する際は意識の無い機械のように殺戮を行わせられる。
守護者が自分から出来るのは、呼び出されていない時に自分の行った殺戮を確認する事のみ。
アーチャーが「正義の味方」という理想に絶望したのも、
それを追い求めて最終的にたどり着いた結果がただ殺戮をし続ける自分だったからだった。
だが、今の彼にはれっきとした自我がある。
召喚の際に何かしらエラーでもあったのかとアーチャーは判断していたが、
聖杯の力で『アーチャー』として召喚されているなら……
守護者でなく遠坂凛のサーヴァントとして召喚されているなら辻褄は合う。
ただ、懸念もある。そもそもこの場にサーヴァントとして呼ばれたこと自体が、
人類の存続のために抑止力が働いた結果だとすれば?
それに、彼の今までの経験からも分かってはいる。全てを救うことはできない。
ギガゾンビを倒すのにもっとも確実な手段は、やはり参加者を全滅させること。
確実に多くの人を救いたいなら、正しい手段は一つだけ。

「……それしか、ないのか?」

アーチャーは思わず呟いていた。
守護者として召喚されてなくとも、自分には殺戮を行う道しかないのか、と。
そう自問するアーチャーに、答える者はいない。

――その生前と、同じように。


      〜〜〜     〜〜〜     〜〜〜     〜〜〜      
83幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/03(水) 23:58:09 ID:KjhQ1W13
太一が目覚めたのは、素子がルイズを大人しくさせたすぐ後のことだった。
むしろ、ルイズが大騒ぎしたせいで叩き起こされたというべきかもしれないが。
ルイズまで気絶しているのを見てまさか自分のせいかと思った彼だが、すぐに素子が否定した。

「パニックになったので私が眠らせただけだ」

実際は気絶させたと言う方が正しいが、言う必要はないだろう。
……ちなみにあくまで安全のためで、メスゴリラ呼ばわりされてキレたからではない。
もっとも、太一の表情は晴れなかった。

「パニックって、もしかして俺のせいで……」
「衛宮の仇を討つと言っていたから、一因とはなっているな」

太一の呟いた言葉に対し、素子は慰めることもしなければ責めることもしない。肯定しただけ。
素子の返答に、太一は表情を曇らせる。
同時に、苦虫を噛む様な素子の表情を見て尚更に思い知っていた。
これは、ゲームなんかではないことに。
今更ながら、自分のやったことに対する自責の念が太一に沸いてくる。
だが、素子が言葉をかけていた。短く、簡潔に。

「それをどう背負うかはお前の自由だが……
 現実から逃げることだけはするな」

それだけ言って素子は近くの商業ビルに視線を移した。
殺し合いには無用の長物だからか、ビルとは言っても三階ほどの高さしかなかったが。
そっけない対応といえばそうだろうが、それでもその言葉は呼び起こしていた。
太一の、「勇気」を。

「俺……何か、できることありますか」

決然とした表情で太一は呟く。
それを見て、素子は少し息を吐いた。ため息ではない。むしろ、喜ぶべきことだ。
少なくとも見所はあるようだと、素子に思わせるほどの表情だったのだから。

「しばらくその女を見張っていろ。護身用に剣と金槌もお前のデイパックに入れておけ。
 少し囮をやってもらう……できるな?」

ドラえもんを持ち上げながら、素子は告げた。
84幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/03(水) 23:59:33 ID:KjhQ1W13
      〜〜〜     〜〜〜     〜〜〜     〜〜〜      

何かよく分からない人形を運んで、女の人がとなりのビルへ入っていく。
倒れている子供はそのまま。それを見て、ジュンは息を吐いていた。

「まだ、気づかれてないか」

放送を聞いて、真紅たちが無事なことに安心したすぐ後のこと。
突然向こうで女性の声がしたのが気になり、
商業ビルに裏口から侵入して少し覗いていたのだ。
見たのは小さな女の子(もちろんルイズのことである)を殴って気絶させる大人の女性。
最初はもちろん、逃げ出そうかと思った。
だが殴られた当人が生きているらしいこと、殴った方は子供と話しているのを見て、
殺し合いに乗っていないのかもと考え始めた挙句、
ガラスで出来ていた正面入り口の影に隠れたまま、
話しかけるかどうか悩み続けているというわけである。

(今いるのは子供だけか。大丈夫、か?
 少しもこっちを見ないってことは気付いていないんだろうし……)

そんなことを考えているジュンだったが、数秒後。
自分はのんきだったと盛大に後悔した。
とつぜん、銃声が響く。
銃弾が綺麗にジュンの脇のガラスを撃ち抜き、派手な音を立てた。
ジュンは逃げ出すことさえままならなかった。なぜなら。

「武器を手放して、壁に手を付けろ」

後ろで素子が銃を突きつけていたからだ。
彼にできるのは、言葉に従うことだけ。

要するにこういうことだ。
太一をその場に残すことで気付いていないと相手に思わせ、自分はドラえもんと共にその場から離れる。
これは荒事に備えて貴重な情報源を隣のビルに避難させておくため、
そして何よりジュンの視界から消え油断させるためだ。
囮である太一が狙撃される可能性もあったが、
今まで撃ってこないことなどから相手は銃を持っていないと判断していた。
後頭部に銃を突きつけたまま、素子は尋問を開始する。

「大層な数の荷物だな。奪ったのか?」
「い、いえ、人を殺してなんかないしこれは正当防衛で……」
「なるほど。これほどの参加者を返り討ちにできるほど強力な支給品だった、と」
「ち、違う! 支給品はモデルガンと物干し竿です!」
「つまり、そんな物で戦えるほどの実力者か」
「ち、違いますって!」

ジュンの不幸は、素子が士郎の死に責任を感じていたことだろう。
責任を感じているからこそ、少しでも不安要素を見れば警戒せざるを得なかった。
もちろん、ジュンには知りようが無いことだが。

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85幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/04(木) 00:00:23 ID:KjhQ1W13
ガラスが割れる音。それはしっかりと太一も聞いていた。
しかし、彼がそれに驚くことはない。分かっていたことだ。
太一はルイズを抱え、移動を開始した。目指すのは、ドラえもんが運ばれた隣のビル。

「っこらしょ、と」

ルイズは小柄とは言え、小学五年生には重い。
だからといって捨てたりなんて、太一はしなかった。
しっかりと背負って歩き出す。

素子がガラスを撃ち抜いたのは、単なる脅しではない。合図でもある。
銃声とガラスが割れる音がしたら、猫型義体を運んだビルへ逃げ込んでおけ。
それが素子の命令だった。

――その中に、ルイズを運べという内容はない。

それでも、太一は自ら行っていた。自分だけ逃げるなんて駄目だと。
罪を償わなくてはいけないと。
ちゃんと謝らなくてはいけないと。
そう思っての、行動だった。

「ドラえモン、どこだ?」

なんとか入り口手前までたどり着き、自動扉が開くのを待つ。
ルイズを抱えて扉越しにパートナーの姿を探す彼は。
後ろで腕を振り上げているアーチャーの姿に、気付くことができなかった。

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86幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/04(木) 00:01:54 ID:GGqYGDiW
素子の尋問は、苛烈を決めていた。もっとも、当然の結果ではある。
一応ジュンの後頭部から銃は離れてはいるが、解放されたのではなく荷物検査のため。
現に、少し離れた先で素子が銃を突きつけながらデイパックを漁っている。
周囲には、引っ張り出された様々な荷物が散らばっていた。
物干し竿、モデルガン、弓矢、刀、黄金の鞘、そして……

「貴様、これはなんだ?」
「い、いや、その……」

素子が持っているのは、腕。元はハクオロが交渉用に入れておいたアーチャーの腕である。
これもまた、素子にもジュンにも分かりようがないことだ。

「人の腕を斬りとって収集か? いい趣味だな」
「ぼ、僕は知らないって言ってるじゃないか! あの女は生首だって集めてたんだし!」
「弓も剣も持った、腕や生首を切り落として回収するような相手に襲い掛かられ、物干し竿とモデルガンだけで返り討ちにする。
 そんなことを信じられると思うのか?」

素子の表情は険しい。当然、実際に勝ったことは知りようがない。
大量の荷物に腕。既に数多くの犠牲を出してしまっている彼女としては、
ここまで怪しい要素ばかりの人間を放っておくわけにはいかない。
何より、ルイズが起きて何をするか分からない以上迅速に動かなくてはならない。
無言で素子は腕を元のデイパックに戻し、銃口をジュンの足へ向ける。
とりあえず、動きを封じておくことに決めたのだ。

瞬間。何かがガラスの扉を突き破って飛来し、爆発した。

「何!?」

視界が煙に覆われる。義体の表面が熱で焼ける。
それでも素子はしっかりと捉えていた。
赤い外套の男――アーチャーが、短剣を抜いて素子へ向けて疾走するのを。
明らかに、人間の速さではない。

(義体か!?)

一瞬迷ったものの、ジュンから銃口を外して横に跳ぶ。
もしジュンに斬りつければその隙に発砲できるという考えだ。
だが、アーチャーはジュンを完全に無視して素子へ斬りつけていた。
すんでのところで回避、後退したものの狙いを付ける余裕さえ与えられていない。
優先順位を正しく判断している様子に素子も理解した。この男は、場数を踏んでいると。
他に注意を向けながら戦える相手ではない――そこまで考えて、気付いた。
ジュンは既に、こちらに背を向けて走り出していることに。
彼は最初こそ突然の事態に混乱していたものの、得意分野からの観察という手段で冷静さを取り戻していたのだ。
そして気付いた。あの服はあの腕の袖と同じものだと。

(よく分からないけど僕を狙ってるわけじゃないみたいだし、腕を取り返しにきたのか?
 なら、逃げるなら今しかない!)

87幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/04(木) 00:03:08 ID:KjhQ1W13
ジュンも爆発で軽い火傷を負ってはいたが、走ることくらいはできる。
取り上げられている道具は惜しいが、命の方がよっぽど大切だ。
そう判断して、すぐに走り出していた。入ってきた裏口へ向けて。
止める余裕は素子には無い。アーチャーが剣を振り上げて迫っている。
そしてアーチャーもまた、ジュンを狙う気はない。
もっともアーチャーがここに現れたのは腕のためではないし、見逃したのは冷徹な計算の元である。
ジュンに現在武器はない。そして、その動きは明らかに素人だ。
よって、アーチャーは彼を殺すのは後回しでよいと判断した。それだけだ。

もっとも……この理論は無差別に殺戮することへの躊躇いを隠す、言い訳に過ぎなかったのかもしれないが。

そんなことを、素子は知る由もないし気にも留めはしない。
素早く銃を構えようとするが、アーチャーが一気に踏み込んでくる。剣の間合いへ。

「ちっ!」

狙いを付けるのを諦め回避を優先する。
何よりも最悪なのが、間合いだ。
この状況で銃を放つにあたっては、「狙う」と「引き金を引く」という二つのプロセスが必要。
だが剣は間合いに入っている以上、ただ振るうだけでよい。
接近戦ではナイフは銃に勝ると呼ばれるのもそのためだ。

ゆえに、素子が勝つために必要なことは奇策。

ひたすら回避し続けながら、ある方向からの攻撃を持つ。
肩口からの袈裟懸け、胴体の両断を狙う切り返し、顔面を貫くべく繰り出された突き。
人間を遙かに凌駕する速さで繰り出される連撃をひたすら紙一重で回避し続ける。

下から来る剣に銃を向け、盾にする。アーチャーが剣筋を変える様子は無い。
銃ごと両断するつもりなのだ。無表情のまま剣を振り上げる。
しかし、その剣は何かを断つことはないまま天井を指す。
受け流し。動体視力と精密な計算から太刀筋を導き出し、
上手く銃を傾かせて受けることにより下から振り上げられた剣の軌道を逸らしたのだ。
剣に釣られる形で、アーチャーの右腕が跳ね上がる。
もっとも素子の右腕も衝撃で跳ね上がっており、アーチャーを撃ち抜くことは不可能。
アーチャーの身体能力は素子と同等以上。銃を向ける頃には剣を向けられているだろう。
だから、跳ね上げられたままで撃ち抜いた。天井にあった紐を。
吊り下げられていた案内用のプレートが支えを失って落下し、アーチャーの手から剣を叩き落とす。
これでアーチャーは素手。素子が圧倒的有利な状況に立った。
相手が行えることといえば殴り合いだが、その前に射殺することが可能なはず。
だが、アーチャーは接近するどころか、その場から離れた。
まるで、爆発物から離れるかのように。

(まさか……!?)

88幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/04(木) 00:04:03 ID:KjhQ1W13
先ほどの爆発が脳裏に蘇る。だが素子の理性はすぐに否定した。
足下に落ちたのは剣。まさかそれが爆弾となるはずがない。
なにより、それならとっくの昔に起爆しているはずだ。さんざん振り回しているのだから。

しかし、そのまさかだった。

間近で起こった爆発により、防御する暇もなく素子は吹き飛ばされた。
幸運にも、突っ込んだ先は衣装の山。大量のクッションにより衝撃はいくらか緩和されている。
だがそれでもなお義体の損傷は致命的なレベルだ。特に下半身がひどい。
左足に至っては丸ごと吹き飛んでいる。もっとも、義体でなければ下半身全てが吹き飛んでいただろうが。
銃を構えようにも、衣装の山の中のどこかへ埋もれてしまっていた。デイパックも同様。
アーチャーはといえば、デイパックから武器を取り出していた……しかも、それは太一に持たせた剣。
こちらは丸腰、そして立てない。これ以上ないまでのチェック・メイトだった。
それでも、素子は諦めない。上手く時間を稼ぎ、その間に衣装の中から武器を取り出せれば。

「その剣をなぜ持っている。太一をどうした?」

アーチャーを睨み付けて口を開く。
ちなみに、こうしている間にも素子の腕は衣装の中を探っている。

「気絶させただけだ。奪ったのもこの剣だけ。ただの素人よりも、
 まず銃を持っている人間を倒すことの方を優先したかったのでな」

アーチャーの答えに、素子は眉を顰めた。
殺していない?奪った荷物も剣だけ?それでは、まるで……

「子供には手を出さない、とでも言うつもりか?
 しかも食料まで残してやるあたり、ずいぶんと甘い殺人鬼だな」
「……なんとでも言うがいい。これ以上時間稼ぎに付き合う義理は無い」

アーチャーの答えに、素子は舌打ちをしていた。見抜かれていたらしい。
銃もデイパックもまだ探り当ててはいない。例え全身が義体でも頭が斬られては終わり。
とどめを刺される場所次第では死んだフリもできるか……?
だが、素子の考えが実行に移されることは無かった。
意識を取り戻した太一が、叫んでいた。

「止めろよ!
 も、もしその人を殺すっていうなら、これで吹き飛ばすぞ!」
「お前……」

その手にあるのはみせかけミサイル。
デイパックさえ持ってきていなかった。例え、金槌があった所で彼は勝てない。
だからこれで怯むことにかけ、これ一つで太一はアーチャーに相対した。勇気を、振り絞って。

だが、アーチャーには無意味だ。
89幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/04(木) 00:05:26 ID:KjhQ1W13

「構造解析、完了」

彼にとっての基礎である呪文を呟いて、アーチャーは太一から視線を外した。
あっさりと気付いたのだ。ろくに火薬は入っていない、殺傷力がないものだと。
相手をしようとさえ、しなかった。

「やめろっていってるだろ!」

太一がゴーグルをかけると同時に、みせかけミサイルは強烈な閃光と轟音を見舞う。
さすがにアーチャーも怯んだものの、それも一瞬だけ。
殺傷能力がないと分かっている武器に怯えるような馬鹿ではない。
再び剣を振り上げ……それは急に、止まる。

太一がスライディングの要領で滑り込み、素子の目の前で庇おうとしていた。
拾い上げた物を盾にして、アーチャーの剣を防ごうとしていた。

ここに来て、アーチャーも自覚せざるを得なかった。女子供を殺すことに躊躇いがあることに。
何よりも、太一が盾にしようとしていたのは……黄金の鞘。
それに斬りつけることなど、アーチャーにできるはずがない。

「っ……どけっ!」

鞘を傷つけないよう、アーチャーは太一を素子の脇へと蹴飛ばす。
もはやアーチャーの表情は無表情とは程遠いものだ。
自分自身の中にある迷いごと振り払うかのように剣を素子へ向けて振り下ろした。
……しかし、その剣が素子を切り裂くことはない。
太一が時間を稼いでいた間に素子がデイパックから取り出した短刀により、アーチャーの剣は止められていた。
その短刀の名はルールブレイカー。
戦闘用ではないとはいえ仮にも宝具だ。その耐久力は半端なものではない。
驚きでアーチャーの動きが一瞬止まった隙に素子は彼を右足で蹴り飛ばし、銃を探す。
いや……探そうとしたところで、気付いた。

外でルイズがグラーフアイゼンを振り上げていることに。

確かに太一は、アーチャーの手から素子を助けた。
それは誉められるべきことだったし、勇敢だっただろう。
だが、太一の不幸は……デイパックを残してきてしまったこと。
そして、ルイズを一緒に運んでしまったこと。
そうすれば、アーチャーに気絶させられることも無く。

「Schwalbefliegen」

ルイズがグラーフアイゼンを拾うのも、遅れただろうから。
銃を向けようにも剣を投げようにも、既に遅い。
ルイズは既に宙に浮かぶ砲丸目掛け、グラーフアイゼンを振り下ろしていたのだから。

素子の不幸はただ一つ。
彼女がルイズに刻み付けた恐怖は、ルイズの中でしっかりと生きていたこと。
その一点に尽きた。


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90幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/04(木) 00:06:11 ID:KjhQ1W13
ジュンは駅に逃げ込んでいた。
遊園地にいた時からほとんど休みなしで動いていたのだ、走って逃げるのはもう限界だったのだ。
そのためいちかばちかすぐに乗れるような列車があることに賭けて駅に逃げ込んだのだが……
結果は大失敗だった。

「もう出てたのか……」

がっくりと肩を落とすしかジュンには出来ない。
時刻表を見る限り、次の列車は当分来そうもない。全力疾走した意味はどこへやら。
だがいつまでもここにいるわけにもいかない。派手な音がしたのは駅まで届いている。
どうやら、とんでもない武器を持っているようだ。巻き込まれたら今度こそ無事では済まない。

「何か身を守れそうな物を見つけて、すぐに逃げ出さないと」

呼吸を落ち着けながら周りを見渡してみる。
デイパックが無い以上あまり重い物は持てないが、丸腰のまま歩くなんて無謀だ。
そう思い歩き回ってはみるものの、やはりろくな物がない。
鉄パイプすら見つからない。運が悪いのか探し方が悪いのか。
ため息を吐こうとして……ふと気付いた。

「……電話?」

そう。見つけたのは電話。
別にただの電話なのだが、何か留守電のメッセージが入っているらしい。

……本来なら素子が気付いただろうが、いかんせんタイミングが悪かった。
電話が鳴ったのは太一の手榴弾が爆発して大騒ぎになっていた時。
そのまま素子はずっと駅前で見張りを行っていたため、電話に気付かずに今に至っている。

もちろん、そんなことはジュンには分かりようがない。
事情を知らないまま、彼は電話に手をかけた。

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91幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/04(木) 00:07:09 ID:KjhQ1W13
轟音と共に、土煙が巻き上がる。
ルイズの撃ち出した砲丸は誘導性が甘く、その場にいた誰にも直撃していない。
しかし、巻き起こした圧倒的な爆発は全員纏めて跡形も無く吹き飛ばすに足りる。
本来、シュワルベフリーゲンにここまでの爆発力はない。
だが、ルイズの扱う魔法である「虚無」の特性は、
圧倒的な破壊力をシュワルベフリーゲンに付与させていた。
具体的に言えば……商業ビルを破壊し、瓦礫の山に変えるほどの。
三階しかないとはいえれっきとしたビルが崩れていくのを、ルイズは何の感慨も無く見つめて呟いた。

「あと、56人」

何の人数かは言うまでもない。殺すべき人間の数だ。
ルイズは確かに冷静になっていた。冷静になって、結論を出した。
……冷静に、狂っていた。
ここにいるうちの誰かが才人を殺したかなんて、ルイズには知りようが無い。
だが、ここにいる80人のうち、確実に誰かは才人の仇だとも言える。
なら……全員殺せば、確実に敵討ちができるのだ。
それに、上手く優勝すればギガゾンビも殺すチャンスがあるかもしれない。
戦うことに恐れなんて無い。爪を剥がしたあの女さえ今のルイズには怖くない。
なぜなら、別に自分が死んでも構わないから。

「死んだら、才人に会える……」

ルイズが呟いた声に明るさは無い。悲しさすらない。
今のルイズにとって、死は恐ろしい物ではなかった。愛する人に会える、受け入れるべき結果。
だから、失敗しても別にいい。死んだって構わない。
どの道、全員殺したら才人に会いに逝くのだから。
今からやることは、ルイズにとってちょっとした寄り道でしかない。
失敗して死んでも、しょうがないから諦めようとしか彼女は思わないだろう。
仇を討つのは、あくまでついでのことでしかないのだから。

「待ってて。すぐに終わらせて会いに逝くから」

太一が置き去りにしていたデイパックを持ち上げて、ルイズはどこへともなく歩き出す。
その瞳に、正真正銘の虚無だけを映して。

彼女の不幸は、才人への異常なまでの思慕ではない。
それに関しては、どれほど不幸だと思われても彼女は理解できないだろうから。
彼女にとっての不幸とは、まずドラえもんも破壊したビルにいたと勘違いしていたこと。
そして、その他にも生存者がいたことが該当するのだろう。

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92幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/04(木) 00:08:24 ID:KjhQ1W13
土煙に紛れて逃走した者にルイズは気付かなかった。当然と言えば当然だ。
死後の世界に執着する者が、現世を注意深く見られるはずがない。
駅から少し離れた住宅の中。そこには、とっさに脱出していたアーチャーがいた。
だが、無事に生還したにも関わらずその表情は暗い。
彼が手を出すまでもなく、二人とも瓦礫の山の中。彼の迷いは全て無駄になった。
そして、鞘も手に入らなかった。彼に子供を殺させなかった衝動は無意味だった。
アーチャーが回避できたのは単純な話。あの三人の中で、唯一魔術の心得があったから。
しかも爆発が起こる前にすぐ離脱すれば無傷で脱出できただろうに、
中途半端に欲張り爆発に巻き込まれる羽目になっていた。
彼が行ったことは単純だ。とっさに剣を捨てて鞘を拾い上げようとしただけ。
もっとも爆風に巻き込まれて鞘は見失い、
一か八か手近にあった物を拾ってみれば、明らかにデイパックらしい手触り。
もはやこれ以上留まるわけにもいかず、鞘を残して逃げ出すしかなかった。

「結局、オレに『全て遠き理想郷』を得る資格は無いってことなのかな……セイバー」

そう呟くアーチャーの顔には、自嘲の笑みが浮かんでいる。
もはや届かないアーチャーの夢を示すかのように、鞘は彼の手から零れ落ちた。
代わりに手に入れたのは、よりにもよって士郎が投影した剣。
いっそ平和的な手段を以って頼み込んでいれば手に入ったのかもしれない。
もしくは最初から完全に皆殺しのつもりで襲えば奪い取れたのかもしれない。
だが迷ったまま、半端な覚悟で戦いに望んだ結果がこれだ。
幸い、拾ったデイパックは左腕とそれを接着できるというのりが入った物……
素子がこのデイパックの中身を検査していた以上、
これが一番近くに置いてあるのは当たり前かもしれないが。
ルイズを追撃せずに近くの民家に隠れていたのも、まず先に左腕を接着するためだった。

もっとも身体的な面では、アーチャーの満足のいく結果だったかと言うとそれも否だ。

まず、アーチャーは右目に熱風を直に浴びていた。
視力が多少落ちただけで失明してはいないが、エリアを跨ぐような遠距離狙撃には確実に支障をきたす。
そして右腕もまた、あの大爆発によって傷付いている。
軽い動作ならまだ大丈夫だろうし、痛みを堪えれば「まだ」剣を振れるだろう。
だがそれはつまり、戦闘動作を行い続ければいつか確実に限界が来るということ。
要するに、片腕だけ使った接近戦を中心に戦わなくてはならないことは全く変わっていない。

「……くそ」

アーチャーは悪態を吐いたものの、それで傷が治るわけでもない。
接着した左腕でベッドカバーを切り裂き、包帯を作る。
今、彼にできることは、右腕に応急処置を施すことのみ。それしか思いつかない。
今後どうするか、決まっていないのだから。

……アーチャーの不幸はたった一つ。
磨耗しきり、過去の自分を間違いだったと否定していても、
自分で思っている以上に「正義の味方」という理想を心の中に留めていたことだ。
あれほど理想を裏切られ、絶望し、唾棄してもなお、
未だに最も多くの人々を救う手段はどれか考えていることを、彼自身は不思議だと思わなかったこと。
まるで呼吸するかのように、当たり前の思考としてできるだけ多くの人々が助かる手段を考えていたこと。
それが、何よりも証拠となっていた。

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93幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/04(木) 00:09:31 ID:GGqYGDiW
素子の視界は、一面が闇だった。
夢を見ているわけでも地獄に堕ちたわけでもない。瓦礫に埋まっているだけだ。

(重要な部分はかろうじて無事だが、四肢はもう駄目……
 航空機事故に遭った時もこうだったのかしら)

もっとも、肝心の頭部も瓦礫の重みで軋んでいる。
二分程度で限界を迎えるだろう……出たのはそんな結論だった。
ため息を吐こうにも暴れようにも義体が反応しない。
二分間。その間に九課の仲間のことを考えようかと思ったが、やめた。
放送でみんな無事だと知っている。それだけしか分からないし、それだけで十分。
代わりに、太一の生存する可能性でも考えてみることにした。

『地面にぶつかったら頭を庇え!』

そう叫んで、太一をアヴァロンと一緒に投げ飛ばしたのが、瓦礫に押しつぶされる寸前。
文字通り、最後の力を振り絞っての行動だった。
手榴弾、壊れた幻想、シュワルベフリーゲン。
三つの爆発はもはや素子の義体を機能停止に追いやっておかしくないダメージを与えていたのだ。
そこまで傷付いていた素子を動かした物はただ単純なこと。
公安9課として、無駄死になどしては顔向けできないという意地だ。

(助かったかどうか、確認できないのは悔しいが)

素子が最後に見たのは、無情にも太一の上にも降り注ぐ瓦礫。
だが、その量は素子が埋まっている場所よりは遥かに少ない。
運がよければ自力で這い出るか、あの猫型義体が救出するはずだ。
問題は襲ってきた当人と爆破した当人がまだこの周辺にいる場合だが、
それに関してはもはや祈ることしか出来ない。
こうしている間にも、素子の義体は瓦礫の重みで軋み続けているのだから。

(攻勢の組織が聞いて呆れる。結局、最期まで後手に回ってばかりだったな……)

できれば口に出して愚痴りたかったが、損傷した義体はピクリとも動かない。
まだ考え事ができるだけ、幸運なのかもしれなかったが。
もはや義体は終わっている。生きているのは脳だけだ。

(助かった後は、どうなるか……)

ふと、そこから考えていた。肉体面でなく、精神面の問題を。
目の前で人が死んだことに何度も直面しながら、自分だけは生き残り続ける。
それがどれほど幼い子供の心に取り返しの付かない傷を残すか……
下手をすれば、死んだ方がまだ幸運だったという結果にさえなりかねない。

(無駄な考えだな)

だが、素子はあっさりと切り捨てた。
彼の勇敢さ。自分の体を盾にしてまで、素子を守ろうとした「勇気」。
自責の念に駆られて暴走した結果かもしれないが、
少なくとももう現実から目を背けはしないだろう。
きっと乗り越え、生きていることが幸運だったと思えるように成長していくはず。
そう、素子は信じて。

(そろそろ、限界……後は……任せ……)

最期に願いを、仲間へと託した。
数秒後、鈍い音を立てて瓦礫の山の一部が陥没し……素子の唯一機械化されていない部分を、破壊した。
94幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM :2007/01/04(木) 00:10:30 ID:GGqYGDiW
【F-1西部住宅・1日目 朝】
【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:右腕に中程度の火傷や裂傷(応急処置中)
    右目の視力低下(接近戦は問題ないが、エリアを跨ぐような狙撃に支障)
    右半身に軽い火傷や擦り傷
[装備]: 名も無き剣@Fate/stay night
[道具]:支給品二人分、チャンバラ刀専用のり
[思考・状況] 状況確認・今後の方針作成

【F-1東部・1日目 朝】
【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:疲労中程度。左手中指の爪剥離。魔力中消費。
[装備]:グラーフアイゼン(強力な爆発効果付きシュワルベフリーゲンを使用可能)
[道具]: ヘルメット、支給品一式
[思考・状況]
1.才人の仇を討つ。判別する手段がないので、片っ端から殺す。
2.優勝してギガゾンビを殺し、自分も死ぬ。

【F-1 駅・1日目 朝】
【桜田ジュン@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:全力疾走による相当な疲労、全身に軽い火傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:電話に応対
2:信頼できる人間を捜す
3:他人の殺害は出来れば避けたい
基本:ゲームに乗らず、ドールズ(真紅、翠星石、蒼星石)と合流する。

【F-1 駅周辺・1日目 朝】
【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]: 右手に銃創 ???
[装備]:アヴァロン
[道具]: 無し
[思考・状況]
1:???
基本:ヤマトたちと合流
※放送は聞いていない

【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ ???
[装備]:無し
[道具]:"THE DAY OF SAGITTARIUS V"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱 、支給品一式
[思考・状況]
1:???
2:ヤマトを含む仲間との合流(特にのび太)
基本:ひみつ道具を集めてしずかの仇をとる。ギガゾンビをなんとかする
※放送は聞いていない

【草薙素子@攻殻機動隊S.A.C 死亡】
95影日向 ◆M91lMaewe6 :2007/01/04(木) 00:39:23 ID:zBZFLaOl
空に浮び上がったギガゾンビの姿がゆっくりと消える。
彼の哄笑が木霊し大気を微かに震わせる。
それとほぼ同時にグリフィスは無感情に小さく呟いた。

「19人か……」
 
主催者は予想よりも死者が多いと言っていた。
なら、ゲームに乗った人間も多く、
大破壊を起こせうる参加者も1人や2人ではないなとグリフィスは考えた。
彼は腕を上げ、左掌を握り締める。
内側から力が溢れて来るような感覚が沸き起こる。
一年前までのもっとも強かった自分の肉体。
ここに来る直前まででは、決してそれは実感できなかっただろう。
無傷の勝利も得、本来なら内心喜ぶべき状況だ。
だが彼の口からは緊張も含んだ呟きがもれた。
 
「足りないな」

それは剣を手に入れた自分の力をも予測した上での発言だった。
彼は自らも認める対等の存在――友であり、宿敵でもある男の名を呼ぶ。
96影日向 ◆M91lMaewe6 :2007/01/04(木) 00:41:20 ID:zBZFLaOl
「ガッツ……」
一年前……敗北を喫した時点での力ではどうしても足りない。
ガッツは一年の間に更に強くなっているはずだ。
支給された飛び道具を駆使すれば勝てるか?それでも困難だろうと彼は思う。
もしガッツと出会うなら、自分は今度は命尽きるまで戦いを続けざるを得ない。 
意地にかけて。今度こそ勝たねばならない。
これからどう戦おうか?


「………………」
しばしの時間が流れ、グリフィスは口元に笑みを浮かべ、小声で言った。
「何も変わりはしない」
ここにおいてさえ、彼の答えは同じだ。
今も昔も己の夢を叶えるために手段を選ばなかった。
あの光景への路地裏には敵味方、関係無関係問わず幾多の骸が積み重ねられてきた。
心が痛まなかった訳ではない。
それをも糧にして、夢を叶えるために進んできたのだ。
97影日向 ◆M91lMaewe6 :2007/01/04(木) 00:43:54 ID:zBZFLaOl
「バトルロワイヤルか」
 
彼は生涯使うことはなかったであろう単語を口に出した。
自分はこれまで通りのやり方を通せばいい。
何も己が闇雲に敵を屠り、無意味に敵を増やす必要などないのだ。
グリフィスは視線をやや下に下げた。
そこは太陽の薄オレンジ色の光が眼前の道を照らしていた。

「ふ……」
(キャスカを探すか)
鷹の団結成初期からいる彼女は、グリフィスにとって見知らぬ他人よりも
余程使える駒になりえる存在だ。
彼がゲームに反対する参加者の集団に潜り込むつもりは今はない。
身動きが取りにくくなるからとの判断からだ。
むしろ、そういう考えを持っている敵は確実に数人はいると、彼は予測していた。
それを見極めるのも面白い。
グリフィスは遊園地がある方角と、山がある方角とを交互に見た。
 
「……?」
向こうに人影が見えた気がした。
目を凝らすとその人影はもう見えなかった。
彼は一瞬、行こうかと思った。
だが彼は自制し、再び足を遊園地の方へと向けた。
98影日向 ◆M91lMaewe6 :2007/01/04(木) 00:45:24 ID:zBZFLaOl
★★★ 

自らが吐く息が荒く感じた。
あの時、何故か嫌な予感がした。
だから、向こうの人影から思わず急いで離れてしまった。
音無小夜の方もグリフィスを人影として確認していた。
不甲斐ない自分にあせりながら、小夜は刺された左脇腹に手を当てる。

傷は大分塞がったが、まだ痛い。
同時に小夜はさっきの放送を思い出してしまい、苦痛に顔を少し歪めた。

「19人……」
思ったよりも多い。彼女は急がなきゃと思った。
小夜は回収した首輪をどうするかを再び考える。
ただ漠然と技術者探しをしても埒があかない。
もたついてる間に、技術者がみんな死んでしまったら終わりだ。
この際、技術者でなくとも首輪を預けられる信用できる人を探す必要がある。
小夜はそう思った。
99影日向 ◆M91lMaewe6 :2007/01/04(木) 00:47:35 ID:zBZFLaOl
『……化け物……』

「くぅ……」

自分が殺めてしまった少女の最期の言葉が脳裏に重く響いた。

自分なんか信用してくれる人がここにいるのか?
何で首輪を持ってるのか?
そもそも自分に人を見る目があるのか?
また裏切られるんじゃないのか?

小夜の脳裏に色んな迷いが言葉となって浮かぶ。 
「………………」
小夜は気を落ち着かせようと深呼吸をした。
あえて疑問は頭から取り払わずに。


時間にして数分流れた後、小夜は視線を上に上げた。
向こうには山が見えた。
怯えて隠れている人はいるんだろうか?
そう思いながら、彼女は知り合いのソロモンのことを想う。
彼の名は呼ばれなかった、優勝を目指してなければ信用できる。
信用できる人……。

(あの時、仮面の男に食って掛かった男の子や、戦いなれた人なら……)

小夜は思案を重ねながら、足早に北へと進んだ。
100影日向 ◆M91lMaewe6 :2007/01/04(木) 00:50:37 ID:zBZFLaOl
【F−7 南西部・1日目 朝】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:普通
[装備]:マイクロUZI(残弾数18/50)・耐刃防護服
[道具]:予備カートリッジ(50発×1)・ターザンロープ@ドラえもん・支給品一式(食料のみ二つ分)
[思考・状況]
1:午前中は遊園地内で様子見
2:手段を選ばず優勝する。殺す時は徹底かつ証拠を残さずやる
3:剣欲しい
3:キャスカを探して、同行する


【E-7 1日目 朝】
【音無小夜@BLOOD+】
[状態]:左脇腹に刺し傷(再生中)、ほぼ回復
[装備]:ハンティングナイフ
[道具]:支給品一式、ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)
    首輪、ウィンチェスターM1897(残弾数4/5)
[思考・状況]
1:警戒しつつ北へ向かう
2:首輪を解析できる人物の所に持って行く
3:自分をある程度受け入れられそうな人、
及び眼鏡の少年(のび太)を探す。
4:可能であればPKK(殺人者の討伐)を行う
5:SOS団のメンバーに謝りたい
6:元の世界に戻ってディーヴァを殺して自分も死ぬ
101仕事 1/5:2007/01/04(木) 00:59:41 ID:EgiHuTIr
この惨劇の舞台。
そのほぼ中央に位置するレジャービル。
その屋上に悄然とした男――トグサが一人風に吹かれていた。


―― 十九人。

想像を絶する数字だった。
八十人いた人間(?)のうち、もうすでに四分の一が死んでいるということになる。
たった六時間で……
しかもこの広い空間の中で……

……殺しあっている。
そうとしか考えられない。みんなこの馬鹿げたゲームに乗っているのである。
出会ってはそこで殺しあっているのだ。

舞台の中心に高く聳えるビルの屋上からは、惨状がよく見渡せた。

目の前に見下ろせる広い遊園地。
その中央で横倒しになった観覧車。破壊された遊具。
尋常な手段で行なえる行為ではない。

左を見やれば立ち上る黒煙。
山の斜面に遮られてどの建物かは解らないが、おそらく地図にある図書館の辺りだろう。

この舞台のそこかしこで破壊と殺戮が行なわれているのだ。
102仕事 2/5:2007/01/04(木) 01:00:14 ID:EgiHuTIr
こんな状況でセラスを一人残してきてよかったのか?
その不安に手にしたゴーグルをホテルの方へと向ける。

取り立てて変わった様子はない。日が昇ってその全容がよく見え――!?

何かが屋上から飛んだ。
そして半瞬遅れて小さなドォンという空気の振動する音が届いた。

――人が? ――撃たれて? ――落ちた?

落ちた所は死角になっていて何が落ちてどうなったかは解らない……だが、
今のはセラスじゃなかったか?
不安に心臓が傷む。最悪の想像に。

何かが飛び出した、その入口から出てきたのは一組のメイドだった。
そしてその入口とは対になる方から出てきたのは――

「バトーッ!」

思わず声に出してしまった。そして今自分がここにいることを激しく後悔する。
少し、せめて放送がかかるまでホテルにいればバトーと合流できたのかもしれないのだ。
それを……、今はバトーの無事を祈るしかない。ここからでは何もできなのだから。

……が、その祈りは叶わなかった。
バトーはメイドの一人と絡まるようにホテルの屋上から落ちた。
残ったもう一人のメイドが彼らに向かってライフルを撃ちつけたからだ。
こちらからは確認できない向こう側に落ちたが、どうなったかは推理するまでもない。

バトーは死んだ。
そしておそらく最初に落ちたのはセラス。
誰かはわからないがメイド姿の人間も一人死んだ。

十九人……、それが瞬く間に二十二人。
殺し合いは治まることなく、より加速していく……
103仕事 3/5:2007/01/04(木) 01:01:18 ID:EgiHuTIr
――見誤った。

こんなことになっているとは思わなかった。
九課の仲間がいる。そして始まってすぐにセラスにも会えた。
だから……、常識で考えてもみんながすぐに殺し合いを始めるなんて思いもしなかった。

技術手袋を脱出の鍵だと思い込み。
やたらめったらに電話をかけ。
まともな武器一つ持たずにセラスを置いて飛び出した。

それがこの様だ。

バトーには会えず。
セラスを見殺しにし。
まともな武器一つなく孤立している。

この戦場のど真ん中に!

自分を物語の主人公だと勘違いしていたのかも知れない。
自分は浮かれすぎていた。
自分は大きな過ちを犯した。

取り返しのつかない最悪の過ちを……


屋上の端で項垂れ悲嘆にくれるトグサの耳に微かな駆動音が聞こえてきた。
柵から地上を見下ろすと、なにやら軍用トラックがやって来てこのビルの前を横切るようだ。

軍用トラック……?この場にそぐわないその様な物がどこから出てきたのか謎だが、
それよりも問題はそれに対しどう行動を起こすかだ。だが……


……見送ってしまった。
先刻までの、放送を聞き仲間の死を目にする前のトグサならすぐに追いかけただろう。
トラックは非常にゆっくりとした速度で走っていた。気付いた後、すぐに降りれば追いつけたはずだ。
だがしかし、そうはできなかった。
ここはトグサが考えていたような場所ではなかった。もっと遥かに熾烈な場所だった。
心中に恐怖が進入することを許したトグサはそこを動くことができなかった。
104仕事 4/5:2007/01/04(木) 01:03:21 ID:EgiHuTIr
十数分後、道路をマウンテンバイクで疾走するトグサの姿があった。

確かに誤った。
その誤りから取り返しのつかない事態を起こした。
自らを主人公だと。それは完全な過ちだった。

だからその過ちを正す。

分不相応な役目を自分には課さない。
各人が相応のベストを尽くす――それが九課の連携。
今の自分に出来ることだけに集中する。

バトーは死んでしまった。悔やんでも悔やみきれないが。
だが、まだ少佐……、そしてタチコマがいる。

バッグの中の、あの手袋が脱出の鍵ならば。
それを持って少佐に合流するのが、今の俺の仕事だ。

追っているトラック。誰が乗っているかはわからない。
少佐か、それとも殺人鬼か、または仲間となってくれる人間なのか。
確認しよう。まずは情報。アクションは最後。

俺は、公安九課――攻殻機動隊の一員だ。
だから公安九課として仕事をする。

それだけだ。


トグサはペダルに力を込め、西へと向かったトラックを追いかけた。



 【D-5/道路上/一日目-朝】

 【トグサ】
 [状態]:健康
 [装備]:暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本/マウンテンバイク
 [道具]:デイバッグ/支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り19回)
 [思考]:トラックを追う/情報および協力者の収集/九課の連中と合流

 [備考]
  ※他メンバーの行動の妨げにならないよう、他メンバーについての情報は漏らさないつもりです。
  ※セラスのことを、強化義体だと思っています。
  ※トグサの考察は以下の通りです。
  ・『首輪は技術手袋で簡単に解体できるが、そのままでは起爆する恐れがある』
  ・『安全に解体するための方法は、脱出手段も含めネットワーク上に隠されている』
  ・『ネットワークに繋ぐための情報端末は、他の参加者の支給品に紛れている』
  ・『監視や盗聴はされていると思うが、その手段については情報不足のため保留』
  ・『ギガゾンビが手動で首輪を爆破させるつもりはないと考えているが、これはかなり自身ない』

 [備考追加]
  ※セラスが死んでしまったと勘違いしています。
  ※なので、正午にホテルに戻るという行動はキャンセルしました。
  ※マウンテンバイクはレジャービルの中で発見しました。
105仕事 5/5:2007/01/04(木) 01:04:52 ID:EgiHuTIr
 【D-4/道路上/一日目-朝】

 【石田ヤマト】
 [状態]:人を殺したことに罪悪感/精神的疲労/右腕上腕打撲/額に傷
 [装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転席)
 [道具]:デイバッグ/支給品一式/ハーモニカ/デジヴァイス/真紅のベヘリット
      RPG-7スモーク弾装填(榴弾×2/スモーク弾×1/照明弾×1)      
 [思考]:病院へ向いぶりぶりざえもんを治療する/長門と情報交換/グレーテルの埋葬
      自分や仲間の知人を探して合流/元の世界へと戻りたい

 [備考]
  ※ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
  ※また、参加時期は『荒ぶる海の王 メタルシードラモン』の直前としています。


 【ぶりぶりざえもん】
 [状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒/激しい嘔吐感
 [装備]:RPG-7の照明弾/73式小型トラック(助手席)
 [道具]:デイバッグ/支給品一式(パン-2個)/ブレイブシールド/クローンリキッドごくう(×4回)
 [思考]:吐きそう/強い者につく/自己の命を最優先/"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒。

 [備考]
  ※黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。


 【長門有希】
 [状態]:健康/思考に微妙なノイズ
 [装備]:73式小型トラック(後部座席)
 [道具]:デイバッグ/支給品一式/タヌ機/S&W M19(6/6)
 [思考]:病院に向かいぶりぶりざえもんを治療する/自分や仲間の知人を探して合流。


 【トラック内】
 ミニミ軽機関銃/おにぎり弁当のゴミ/グレーテルの遺体


 [アイテムの制限]
 【ブレイブシールド】
 ウォーグレイモンの盾。強度はある程度下げられている。
 二つに分け、背中に装着できるがアニメと違い空は飛べない。
 ※ぶりぶりざえもんはサイズが合わなくて装着できませんでした。

 【クローンリキッドごくう】
 髪にふりかけ、髪を抜くことで抜いた髪が小さい分身となる。 ただし分身は本人そのものなので
 強い味方になるとは限らない。 制限として一回につき十五人までしか出現しない。
 五回分あるが 一回使うと二時間待たない限り、いくらかけても効果がない。
 分身の戦闘能力は本体の戦闘能力に応じて下がることがあり、分身が存在できる時間は30分。
 ※ぶりぶりざえもんは髪がなかったので使えませんでした。
106名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/04(木) 01:21:09 ID:EgiHuTIr
※注釈
上記作品【仕事】は以下により代理投下された作品です。

269 名前: ◆S8pgx99zVs 投稿日:2007/01/04(木) 00:54:28 [ QVl536F. ]
今だ規制が続いており、2chのスレに書き込めません。
試験投下スレに【仕事】というタイトルで作品を投下したので、
どうかお手すき方がいられましたら2chの投下スレに代理投下お願いします。
107嘘も矛盾も  1/7 ◆TIZOS1Jprc :2007/01/04(木) 23:37:10 ID:dm+AAFt/
世界には、様々な料理、食材が存在する。
昆虫は大抵唐揚げにすれば食える。蛆をわかせたチーズなんてのもある。くさややらベジマイトやらを好んで食す人も居る。
だが。
しかし。

「これはゼッテーにくえるわけねーです!」
「なんだとー!俺の料理をバカにしやがってー!」

――――――こいつらは使えない。

梨花は異臭を放ち泡立つドドメ色のシチューを前に、絶望的な思いで先ほど得た結論を強めざるを得なかった。

逆のぼること30分――――――
武、梨花、翠星石ら三人はレジャービルに向かう途中、雑貨店を発見する。
武の家が雑貨店であるというのもあって、彼らはそこで役に立ちそうな道具の調達を行うことにした。
期待に反し、店先に陳列されているはずの商品も、在庫の品も、殆どがもぬけのからだ。
なんとかかき集めた5食分ほどの食材。

――俺、実は料理が趣味でさ。こないだのび太やスネ夫に作ってやったら泣きながら喜んで貪り食ってたんだぜ――

梨花と翠星石は武の言葉を信じ、任せた。

翠星石は菓子作りを多少嗜む程度。第一流しに手が届かない。

――しょーがねーです。ここはデブ人間を立てて、活躍の場を譲ってやるですぅ――

梨花は料理が得意であるものの。

――みぃー。歩き詰めで疲れてしまったですよ。悪いけどここは武に任せるですよ――

本音は彼の保護欲を刺激するため。
料理はストレスの解消方の一つだ。
それを他人に振る舞うことで自尊の回復にもつながることを、彼女は知っている。
そして彼に毒を盛られる危険はない。
もしこの読みさえ間違っていたら、どのみち非力な梨花は生き残れないだろう。
だから、食える程度のものが出て来れば何でも良かった。

食えるものなら。
これは食えない。どう見ても。

「せっかくの食糧になにしやがるですか!あ〜!こいつシチューにイチゴジャムなんて放りこんで!パーじゃないですか!てめーの頭も!」
「カレーにだって入れるじゃねーか!仕上げの味噌と調和して味が引き立つんだよ!」

台所で騒いでいる二人を横目に、梨花は溜息を付いた。
108嘘も矛盾も  2/7 ◆TIZOS1Jprc :2007/01/04(木) 23:38:23 ID:dm+AAFt/
――――――ここで*してしまおうか?

デイバッグの中のショットガンに目をやる。
ここは木造家屋の中。銃声は洩れる。
解放的な間取り故、一人を射殺している間にもう一人を取り逃す可能性がある。
仮に反撃された場合、身体能力で敵うかどうか……。
やるならば、一人だけ誘き寄せてスタンガンで気絶させ、もう一人を始末した後、改めて死んでもらう。
それでもスタンガンを食らってすぐに気絶しなかったら?
うまくショットガンの狙いが定まらなかったら?
洩れ出た銃声で誰かやって来たら?
不確定要素が多すぎる。確実には程遠い。
再び溜息。

ふ、とガラス戸から東の方を眺めた所。
友人のクラス委員長が鬼のような形相でこっちに向かって来た。

「魅音……!」

思わず声に出してしまった。
武と言い争っていた翠星石が振り向く。

「どうしたですか、梨花?……なんか来るですね」

しまった、と内心舌打ちをする。
できればこのまま魅音を無視してやりすごしたかった。
武、翠星石と会う前は部活メンバーを探していたが今は違う。
一緒に行動するのが部活メンバーである事のメリットは"信頼性"の一点。
この二人と行動を共にし、観察した結果、二人が殺人を忌避し梨花に危害を加えないであろう事は十分確認できた。
これ以上役に立たない"仲間"を入れて不確定要素を増やすのは御免だ。

しかし梨花と魅音は友人だ。
ここで「み〜。あの人こわいですよ、ほっとくのが一番なのです」と言ってやりすごし、後で関係がバレたら要らぬ不信を買うことになり兼ねない。
それにデイバッグも持たず必死で走っている所からすると、おそらく狙われて命からがら逃げてきたと言った所だろう。
危険人物の情報を持っている可能性もある。
彼女を追ってくるような人影もないことだし。
仕方がない。
心中で、溜息。

「武、翠星石。あれは魅音なのです。ボクの友達なのですよ」


◇ ◇ ◇
109嘘も矛盾も  3/7 ◆TIZOS1Jprc :2007/01/04(木) 23:39:41 ID:dm+AAFt/
ドドドドドドドドドドドドドドドド

「みおーん」

ドドドドドドドドドドドドドドドド

「とまりやがれなのですー」

ドドドドドドドドド ド ド ド ド ド ド ド !

「とま……」

ド ド ド ド ド ド ド ド !

「てい」
「ぶぎょわえ」


◇ ◇ ◇


「いやー、助かったたーすかったー。まさか梨花ちゃんと合流できるとはねー。ま、不幸中の幸いってヤツ?」

爆走する魅音が梨花に足を引っかけられたのが先ほどの事。
魅音は椅子にふんぞり返ってガハハと高笑いをあげていた。
その頭にはコブができている。

「後から入ってきた癖に随分態度がデカイですね。……取り合えず名乗ってやるです。翠星石は翠星石です」

自己紹介する人形を見て、その存在に初めて気付いた魅音はゲッと悲鳴をあげた。

「ま、まさかあんた労善メーデーってやつじゃないでしょうね!」
「ローゼンメイデンを知ってるですか?」
「さっきあんたの仲間の水銀燈ってのに殺されかけたのよ!」

翠星石はそれを聞いて歯軋りした。

「水銀燈……。矢張りこの下らないゲームに乗りやがったですか」
「……あんたの知り合い?」
「宿敵です」

魅音は彼女らの因縁を察した。
そして先程の襲撃の件を語り始めた。


◇ ◇ ◇
110嘘も矛盾も  4/7 ◆TIZOS1Jprc :2007/01/04(木) 23:41:01 ID:dm+AAFt/


水銀燈を名乗るゴシックロリータに似た服装の人形に襲われた事。
彼女は主人の"カレイドルビー"の命令で動いているらしい事。
殺されかけたが所持品を奪われただけで命までは取られなかった事。

話を聞き終えた翠星石はどうにも納得できなかった。
水銀燈がゲームに乗っているというのは判る。翠星石の知る彼女と容姿も一致している。
しかし。
彼女らローゼンメイデンは製作者ローゼンやミーディアムを除けば、基本的に人間に従わされることは無い。
ひょっとしてカレイドルビーなる人物が水銀燈のミーディアムなのだろうか?
だが水銀燈の性格からして、素直に人間の言うことを聞くとは思えない。
では力ずくで服従させられたとでも言うのか。
彼女は姉妹の中でも随一の実力を持つ。
例え翠星石が庭師の如雨露を取り戻したとしても敵うかどうか怪しい。
そんな彼女をも屈伏させる程の実力、もしくは特殊な道具を持っている者がいるというのか。
翠星石はまだ見ぬカレイドルビーの底知れぬ脅威に震撼した。
それをよそに武はどこまでもお気楽そうだ。

「翠星石の話じゃとんでもねーワルなんだろ、その水銀燈ってやつ。華麗どなんたらってやつもろとも、俺たちで叩きのめしてやろーぜ!」
「やめなって。おこちゃま如きじゃ返り討ちにあうのがオチよ」
「そーです。あいつに会って命があっただけでも儲け物ってや……」

え?
水銀燈に会って命があった?
どうして水銀燈は魅音をみすみす見逃したのだ?
このアリスゲームもどきの状況の中、水銀燈が確実に葬れる獲物を逃すメリットはどこにもない。
あるとすれば――――――
――――――例えば水銀燈と魅音が何らかの形で協力している場合だ。
一見無害に見える囮を使ってゲームからの脱出を図る"仲間"を誘き寄せ、一網打尽にする。
まさか。
彼女は梨花の友人だ。彼女も信頼できると言っている。
だが。
翠星石は自分の参加者名簿に目をやった。

――ドラえもん、野比のび太、剛田武、骨川スネ夫、先生――
武によれば、知り合い同士で5人固まって表記されている。その5名後に
――前原圭一、竜宮レナ、園崎魅音、北条沙都子、古手梨花、
彼ら5人も友人同士らしい。そしてそのすぐ後ろが、
桜田ジュン、真紅、水銀燈、翠星石、蒼星石――
言うまでもなく全員翠星石の顔見知りだ。

関係者が5人ずつ固めて表記されているのではと、先程3人で結論付けたが……。
もしそれが5人ずつとは限らなかったら?
前原圭一、竜宮レナ、園崎魅音、北条沙都子、古手梨花の5人が自分達ローゼンメイデンの関係者だったら?
魅音と梨花が裏で水銀燈と手を結ぶことも十分可能ではないか?

翠星石は恐る恐る後ろを見やった。
この奇妙な空間とnのフィールドが繋がっていないことは判っている。
でも背後に立てかけられた鏡に、水銀燈のあの粘っこい笑みが浮かんでいそうで。
111嘘も矛盾も  5/7 ◆TIZOS1Jprc :2007/01/04(木) 23:42:20 ID:dm+AAFt/
――――梨花が鏡越しにじっとこちらを見ていた。
その瞳からは何の表情も伺えない。

「――――ッ!」

慌てて鏡から目を逸す。
泣いてしまいたかった。
今すぐ泣きながらここから逃げ出してしまいたかった。
耐えられない――――

武は何の疑念もなく魅音とバカ笑いし合っている。
見ると梨花はもうこちらを見てはいない。
その表情は年相応の女の子のものだ。
疑心暗鬼に囚われているのは自分だけなのが情けなかった。

――――もう良い。楽になってしまおう。
魅音を見逃したのは水銀燈の気まぐれに決まっている。
あいつの考えることなんて判る訳が無い。
魅音と梨花が自分達の関係者だなんて馬鹿げている。
全部自分の勘違いだ。
そうでないと耐えられなかった。

疑心暗鬼に陥りながらも人間の側にいるこの状況は翠星石に多大なストレスを与える。
震えが止まらない。
とはいえ、庭師の如雨露が無く、蒼星石も真紅も側に居ない現状では、身を守る術はどこにもない。
水銀燈は愚か、銃を持った人間にすら太刀打ちできそうに無かった。
そんな奴らによって、すでに20人近く殺されている。
この場から逃げ出した所で、逃げ場なんてどこにもなかった。

――――こわい。

身を縮込ませた翠星石の手に、こつんと冷たい物があたった。

庭師の鋏。
最愛の妹の、分身がそこにあった。
112嘘も矛盾も  6/7 ◆TIZOS1Jprc :2007/01/04(木) 23:43:28 ID:dm+AAFt/
すっと、頭の中がクリアになっていくのが判る。
翠星石は死ねない。
これを蒼星石に届けるまでは絶対に死ねない。
さらに、自分が死ねば、それを知った蒼星石が凶行に及ぶ可能性もある。
アリスゲームでも、自分の存在が彼女の歯止めになっていたはずだ。
蒼星石が真紅やジュンに刃を向ける姿を想像した。
そんなのは御免だ。

魅音達を傷つけるつもりもない。
自分は、自分のやり方で生き延び、皆とこのゲームから脱出して見せる。
疑心暗鬼に陥り、互いに殺し合う様を見て遠くで嗤っている仮面の男の思い通りになど、絶対にならない。
誇り高き薔薇乙女の意地にかけて。
この疑念を抱いたまま、彼らと協力するのだ。

「翠星石?どうしたですか?」

梨花がこちらを覗き込んで来る。
翠星石はそっぽを向いた、いつもの様に。

「何でもないですぅ。それより、もう支給されたやつで良いですからとっとと朝食にしちまいましょう」
「あっ!それなんだけどさあ〜。実はさっき支給品まで取られちゃって……」

口に入れた分もさっき胃袋から逆流してしまった。

「はあ!?まったく、マヌケな人間ですねぇ。頼まれたって、翠星石のはやらねえです」
「みぃ。ボクも自分の分しかないですよ……」

実際は梨花は3人分の食糧を持っていたが、そんなことを申し出る訳が無い。
そこへ、

「おっ!それなら丁度良いぜ。実はさっきまで朝食作ってたんだけど二人の口に合わないらしくてさ。折角だから俺たちで食べちまおうぜ」
「マジ!?いやー助かるなー。いやいかんよー二人とも、好き嫌いは。でもまあ二人がどーしても食べたくないってゆーなら、代わりに私が食ってやらん訳でもー」

ドン、と大皿になみなみとつがれたシチューが魅音の前に置かれる。
嘔吐と頭部の打撃のせいで感覚が狂ってしまったのか、魅音はその"食品"の惨状に気付かない。
翠星石はひきつった顔でそれを止めようとする。
空腹は最大の調味料とは言うが、ものには限度がある。
しかし、梨花が肩に手をやって止めた。
このバカに自分の腕を自覚させるためには生贄が必要だと、その表情が語っている。
空腹の魅音は訝しむ間もなく匙を取り上げた。

「いっただっきまーす」
113嘘も矛盾も  7/7 ◆TIZOS1Jprc :2007/01/04(木) 23:44:34 ID:J8koVXey
【D-5 南東部 雑貨店 朝〜午前】
【年少組 引率:魅音】
[共通]
1:朝食の後レジャービルへ移動
2:カレイドルビーと水銀燈を警戒

【剛田武@ドラえもん】
[状態]:健康、魅音に被ヘッドロック
[装備]:虎竹刀@Fate/ stay night、強力うちわ「風神」@ドラえもん
[道具]:支給品一式、エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に
    ジャイアンシチュー@ドラえもん
[思考・状況]
1:痛いって!魅音ねーちゃんかんべんー!
2:手遅れになる前にのび太を捜す
3:翠星石と梨花と魅音を守り抜く
4:ドラえもんを捜す
基本:誰も殺したくない
最終:ギガゾンビをギッタギタのメッタメタにしてやる

【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(小)、額にコブ、嘔吐、ジャイアンにヘッドロック
[装備]:エスクード(炎)@魔法騎士レイアース
[道具]:無し
[思考]
1:あ・ん・た・は・私を殺す気かー!
2:圭一ら仲間を探して合流
3:ドラえもん、もしくはその仲間に会って、ギガゾンビや首輪について情報を聞く
4:襲われたらとりあえず逃走
5:翠星石の拳銃が欲しい
6:クーガー?………………ああ
基本:バトルロワイアルの打倒。

【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:スタンガン(服の影に隠しています)@ひぐらしのなく頃に
    虎のストラップ@Fate/ stay night
[道具]:荷物一式三人分、ロベルタの傘@BLACK LAGOON
    ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING
[思考・状況]
1:ジャイアンに代わって残った食材を調理中
2:猫をかぶって、魅音と剛田武と翠星石を利用する
3:三人が役に立たなくなったら、隙を見て殺す
基本:ステルスマーダーとしてゲームに乗る。チャンスさえあれば積極的に殺害
最終:ゲームに優勝し、願いを叶える

【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:軽度の精神疲労
[装備]:FNブローニングM1910(弾:7/6+1)@ルパン三世
[道具]:支給品一式、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ(すぐに引き抜けるようにしてあります)
[思考・状況]
1:魅音と梨花を警戒(水銀燈と結託しているのでは無いか?)
2:も、もちろんデブ人間を警戒するのも忘れてないですっ!
3:蒼星石を捜して鋏を届ける
4:真紅とチビ人間(桜田ジュン)も“ついでに”捜す
5:デブ人間(剛田武)の知り合いも“ついでのついでに”探してやる
6:庭師の如雨露を見つける。
基本:蒼星石と共にあることができるよう動く

【挽肉300g、塩辛100g、たくあん一本、イチゴジャム一瓶、煮干し一袋、大福三個、その他食材 無駄死に】
114 ◆LXe12sNRSs :2007/01/05(金) 01:01:43 ID:2rN73zbV
 親友を失った悲しみと、愛する人を失った悲しみとでは、どちらの方が強いのだろう?
 そんな疑問は、何の意味もなさない。私はそう思います。
 でもあの時、あの瞬間。私は愚かにも、抱いてしまったのです。
 親友を失った悲しみと、愛する人を失った悲しみ……どちらが、狂気を宿しやすいのだろう――そんな、愚かな疑問を。


 ◇ ◇ ◇


 ギガゾンビが行った第一回目の放送は、二人にとって絶望以外のなにものでもなかった。
 たったの六時間で、19人もの参加者が命を落としたという事実――本音を言えば、そんなことはどうでもよかった。
 エルルゥ、鳳凰寺風。それまで誰に襲われることもなく、平穏な道を歩んできた二人にとっては……何よりも。
 龍咲海……ハクオロ……カルラ。
 この、見知った三名の死を知らされたことが、痛かった。

「……そん、な…………」
「………………うそ……」

 風にとって、海は親友であり、戦友であり、仲間であり――掛け替えのない存在だった。
 光、海、風、この三人で共にセフィーロを旅した記憶は、忘れたくても忘れられない。
 勇敢で、優雅で、知的で、何よりもこんな殺し合いなどという状況には屈しないであろう強い心を持っていた海が、何故。
 ギガゾンビが嘘を言っているという可能性も考えた。だがそれは、単なる逃げでしかない。
 仮に放送が嘘だとして、主催者に何のメリットがあるだろうか。
 特定の参加者の心理を操作することはできるだろう。しかし、それも一時のものだ。
 突き詰めて考えれば考えるほど、放送が偽りである可能性など無に等しくなる。
 こうやって逃げの論理を組み立て、絶望すること自体、ギガゾンビの狙いなのではないかと疑ってしまう。
 結局のところ、親しい人を失ってしまった参加者に、救いはないのだ。

「あ…………ぁ……ぁ……」

 悲しみは、何よりも抑えがたい感情だ。
 怒りや喜びなどと比べても、よっぽど制御するのが難しい。
 親愛する人の死が原因ともなれば、それはなおさらのこと。

「……っ、う、く、あぁ…………ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 エルルゥは泣いた。
 周りに誰かがいるかもしれないという心配も投げ捨て、悲しみの感情に従った。
 隣で佇んでいた風も大泣きこそしなかったものの、両の瞳からは確かに涙を流し、エルルゥの肩を抱き寄せる。
 頬を伝う水の雫が、不思議と熱い。
 込み上げてくる感情の渦が、どうしようもなく苦しい。
 少女二人には、あまりにも悲しすぎる運命だった。
「少し……少し、休みましょう。わたくしも…………色々と、疲れてしまいました……」

 泣きやまないエルルゥは風に連れられ、目に入った民家へとその身を移していった。
 今は何もかも忘れて、悲しみに身を沈めてしまおう。少し休めば、この痛みも幾らかは和らぐ。
 そう、きっと――
 

 ◇ ◇ ◇


 思い出されるのは、おばあちゃんが死んだ時。
 ヌワンギと一緒にやってきた兵士の刃は、非情にも無力だったアルルゥに狙いをつけ――それを、おばあちゃんは身を挺して庇った。
 忘れたくても忘れられない。おばあちゃんとの別れ際の会話は、私の記憶から消えることはない。
 
『「エルルゥ」という名は……大好きだった姉様の名前……お前の名前は……姉様からいただいたんだよ……』
『おばあちゃん……』

 うん。鮮明に覚えてる。おばあちゃんは最後まで、私と、アルルゥと、ハクオロさんのことを気にかけてくれた。 

『アルルゥや……お前はワシのちっちゃな頃にそっくりじゃ……ほほ……
 今じゃあ想像つかんかもしれんがの……あの頃は可愛い可愛いと……よく可愛がられたもんじゃ……』
『おばぁ……ちゃん……』

 幼かったアルルゥは、非情な現実にただ泣き続けた。
 そういえば……あれがあの子の体験した、初めての『死』だったんだっけ。

『いいかぇ……二人とも仲良くな……時には言い争うのもえぇ……喧嘩するのもえぇ……じゃが……お前たちは……
 この世でたった二人きりの肉親……どんなことがあっても……二人で力をあわせて……いつまでも仲良くな……』
『死んじゃヤダ……死んじゃヤダぁ……』
『おばあちゃんも……おばあちゃんも一緒じゃなきゃ……』

 途切れていく声――消えていく笑み――失われていく生気――これが『死』なんだって、私は痛いほど思い知らされた。

『手を……』
『?』
『ひとり……ひとりきりに……なってしもうたが……ワシの人生まんざらではなかったの……
 あの人と出会い……ハクオロを授かり……最後には……可愛い孫たちに看取られて……逝ける……
 あぁ……これでもう……何も……思い残すことはないて……なにも……』
 おばあちゃん。私、今でも泣けるよ。
 おばあちゃんの別れ際の言葉を思い出しただけで、涙が溢れそうだよ。

『なに…………も……………………』
『おばあちゃん……? お……ば……』

 敬愛していた存在――大事な肉親――薬師としての師――おばあちゃんの死はあまりにも重く、私の心に圧し掛かった。
 そして私はその後――テオロさんやソポク姐さん、村のみんなや戦に行った仲間たち……大勢の人の『死』に立ち会った。
 いつまで経っても、慣れなかった。いくら経験を積んでも、悲しまない術は習得できなかった。
 人が死ねば、悲しい。これは、当然のことなんだ。

 おばあちゃんが死んだ時……私は今と同じように、悲しみに溺れていたのだ。
 
 …………本当に、それだけ?

 おばあちゃんが死んで、私が抱いた感情は、本当に悲しみだけ?

 分からない。あの時のことは忘れられない、はずなのに。

 分からない……分からないよ、おばあちゃん……ハクオロさん……。


 ◇ ◇ ◇


 ハクオロさんの死を知って、何時間が経過しただろうか。
 光の灯っていない一室では、二つのベッドが並んでいる。
 私はその内の一つに腰掛け、隣ではフーさんが安らかな寝息を立てていた。
 彼女も、お友達のウミさんを失い、相当な悲しみにくれたはずだ。
 目尻には、人知れず泣いたあとがくっきりと残っている。
 悲しいのは、私だけじゃないんだ。
 ……ううん。そんなことはもう分かってる。
 分かってるからこそ、私はこんなにも辛い思いをしているんだと思う。
 誰だって、親しい人を失えば悲しい。
 そうなんだ……うん。そうなんだよね。

 私は、デイパックから五寸釘と金槌を取り出した。
 自分でも驚くくらい、自然な手つきで。
 その時の表情は、あいにく部屋に鏡がなかったため確認できない。
 でもきっと、酷く醜い形相だったと思う。
 なにせ、これからやろうとしていることは……とても褒められた行為じゃないから。
 私の脳内では、あの仮面の人の言葉が蘇っていた。
『ああそうだ、その生き残った一人は一つだけ願いも叶えてやるぞ?』

 そこの部分だけ、永遠と繰り返されるように。
 もし彼の言っていることが本当なら――私の願いは、決まっている。
 そうだ。決まっている。私がやるべきことは、決まっている。
 己の欲望に従って、手を動かす。
 そう。簡単なことなのよ。
 私の隣で寝ているフーさん……彼女の額に釘を構え、トン、っと金槌で叩く。
 そうすれば、

「痛い」

 彼女はそう言って泣き叫び、そしてなおも打ち続ければ、

「痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、いた…………」

 彼女の額はいずれ血に塗れ、次第に言葉を発することもなくなるだろう。
 簡単だ。今考えたことを実行すれば、願いを叶えるための障害が、一つ減る。
 私は、やるべきことを決めたんだ。だから、コレを握ってる。
 そう、私は…………私は…………

「…………………………………………………………………………………………………………ごめんなさい、フーさん」

 熟睡しているらしいフーさんからは、返事が返ってこなかった。


 ◇ ◇ ◇

 小さな森に佇む、小さな木造のペンション。
 そこのカフェテラスには円形の白いテーブルが置かれ、周りには三つの椅子と、三人の魔法騎士が居ます。
 三人は皆ティーカップを片手に、豊かな微笑みと優雅な笑い声を提供し合うのです。
 それは、何物にも変えがたい幸せの時。
 スリル満点の冒険も魅力的だけれど、わたくしはやっぱり、こういうのどかな雰囲気の方が好みです。
 ねぇ、そうは思いませんか光さん、海さん。
 わたくしがお二人に賛同を求めると、お二人はフフフと楽しそうに微笑み返しました。
 わたくし、そんなに変なことを言いましたでしょうか?
 首を傾げながらも紅茶を啜るわたくしに、二人の友人はまた微笑みを返してくれました。
 和やかな時間が流れます。
 外では小鳥が囀り、気持ちよさそうに翼を広げているのが見えて。
 お日様が照らす光は、花壇の草花にたくさんの栄養を与えて。
 綺麗な空気は、わたくしたちに健やかな時間を。
 平和って、いいですね。
 本当に、こんな時間がいつまでも続けばいいのに……。
 わたくしがそんなことを願っていると――ふと、他のお二人が神妙な顔をなされてしまいました。
 光さん、海さん? わたくし、また何か変なことを――?

 わたくしには、全てが受け入れがたいものでした。
 海さんの死も、たったの六時間で19人もの人間が命を落とすという現実も。
 危機的状況はこれまでにもあったけれど……こんな残酷な現実には、遭遇したことがなかった。
 できることなら、夢であると、そう、思いたい。
 わたくしは、虚ろな、世界の中で、お二人の、姿を、見つめながら……
 現実と、夢の、狭間で…………
 あら? エルルゥさんの、顔が………………
 ……………………


 ◇ ◇ ◇


 おばあちゃんが死んだ時も、私は敵討ちをしようとは思わなかった。
 悲しみのあまり誰を恨むことも出来ず、泣くことに精一杯で、そんな余裕もなかったのかもしれない。
 ハクオロさんやオボロさん、テオロさんや村のみんなは、おばあちゃんの死を弔うために奮起してくれた。
 でも私は――――やっぱり悲しむことしかできなかった。
 全てに決着が着いて、事の元凶であるヌワンギを前にしても……私は、彼を咎めることができなかった。
 彼に同情したからか、単に私に度胸がなかったからなのか。よくは分からない。
 でもあの時、確かに分かっていたことは、誰かを殺してもおばあちゃんはもう戻ってこないということ。
 そんなの、当たり前なのに。薬師は、そんな尊い命を救うためにいるっていうのに。
 …………でも、ここでなら――――必ずしもそうとは言えない。
 仮面の人が言う願い。本当に、本当にあの人が、私の願いを叶えてくれるなら。
 本当に……本当に、ハクオロさんやカルラさんの命を救ってくれるというのなら。
 私は――――
「……………………………………………………………………………………ハクオロさん、どーこだ」

 たずね人ステッキを倒して、あの人が今どこにいるかを探る。
 ――北東の方角。地図で確認すると、山と森に囲まれた山岳地帯であることが分かった。
 トゥスクルのような自然はあるかな。キママゥみたいな人に悪さをする獣はいないかな。
 ……こっちに、ハクオロさんはいるのかな。
 私はフラフラと歩き始め、山の方を目指した――たずね人ステッキが、絶対ではないということも忘れて。
 たとえどんな姿になっていたとしてもいい。
 私は、もう一度あの人に会いたい。
 また悲しむような結果が待っていようとも――ううん、覚悟はできてる。
 今の私には、それしかできないから。それしか、やりたいことが見つからないから。
 おばあちゃんの時みたいに、泣き叫ぶだけだったらきっと後悔する。
 だからといって、私はみんなみたいに強くはなれない。
 自分の欲に溺れて、お茶をご馳走してくれたあの優しい彼女を傷つけるなんてことは――できなかった。
 ごめんなさい、ハクオロさん。ごめんなさい、カルラさん。
 それに……ごめんねアルルゥ。おとーさんが死んじゃって、アルルゥもきっと悲しんでるよね。
 優しいお姉ちゃんだったら、きっと今すぐにでもアルルゥのところへ飛んでいってあげるべきなのに。
 それもできないくらい、私は、弱い。
 何を選択することもできず――ハクオロさん会いたい――ただこの一念に縛られて、さ迷い歩く。
 私には、そんなことしかできなかった。
 目的なんてものは、分からない。
 行き先さえも、分からない。
 何が正解なのかも、分からない。
 どうすればいいのか、分からない。

 おばあちゃん…………ハクオロさん………私………どうすればいいの……?


 ◇ ◇ ◇


 エルルゥという少女にとって、ハクオロという存在はあまりにも大すぎた。
 頼れる兄として――尊敬できる父として――敬うべき皇として――愛する一人の男として。
 生きがいだった。ハクオロの傍こそ、エルルゥの居場所だった。
 姿を見ぬ上での死など、納得できるものではなかった。できるはずがなかった。
 死は誰にでも平等に訪れる……頭ではそう理解していても、心が納得できない。

 虚ろな瞳で彷徨い歩く少女に、導きを与えることできる存在はいるのだろうか。
 妹のアルルゥでも、仲間のトウカでも、それは無理かもしれない。
 底の知れない虚無を漂いながら、エルルゥは一人、絶望を見ていた。
【D-3/民家/1日目/昼】

【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース】
[状態]:睡眠中。海の死による精神的ショック。
[装備]:スパナ
[道具]:紅茶セット(残り5パック)、猫のきぐるみ、
   包帯(残り6mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅)
[思考・状況]
基本:仲間三人揃って、生きて東京へ帰る
1:君島に再会して詫びたい
2:光と合流する
3:自分の武器を取り戻したい
[備考]
目覚めた後、イイロク駅方面(市街地中央部)へと移動再開の予定。
エルルゥとその仲間、更に彼らがいたトゥスクルを含めた世界について大体理解しました。
彼女がロックから逃げていることは知りません。


【D-3/路上/1日目/昼】

【エルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:ハクオロの死による重度の虚無感。
[装備]:なし
[道具]:惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん、五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
   市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)、紅茶セット(残り4パック)
[思考・状況]1:ハクオロさん…………
[備考]※現在、北東の山岳地帯へ川沿いに移動中。ハクオロに会いたいという一念によるものですが、会ってどうするかという思考はありません。
   ※絶望により何をする気もなれない状態ですが、今のところ優勝して願いを叶えるという考えは否定しています。
   ※フーとその仲間(ヒカル、ウミ)、更にトーキョーとセフィーロ、魔法といった存在について何となく理解しました。
[道具備考]
1:惚れ薬→異性にのみ有効。飲んでから初めて視界に入れた人間を好きになる。効力は長くて一時間程度。(残り六割)
2:たずね人ステッキ→三時間につき一回のみ使用化。一度使用した相手には使えない。死体にも有効。的中率は70パーセント。

※エルルゥが今回使用したたずね人ステッキは、不幸にも『はずれています』。
121 ◆qwglOGQwIk :2007/01/05(金) 13:12:16 ID:nS7S3D9F
『警告します。禁止区域に抵触しています。
あと30秒以内に爆破します』

無機質な声が響き渡る、それと平行して放送の声が聞こえる。

「圭一君!」
「レナ、逃げるぞ!」
『――えられた!、 これもひと・・・』

そういうが早く、俺はレナの手を掴み、正反対の方向に向かって一気に走り出す。
その首輪を見ると、首輪のランプが赤緑に点滅している。
放送は今なお続くが、そんな話に耳を傾けている暇は無い。

チクショウ、警告だけしてそのまま爆殺ってか!ありえない、ありえないんだ絶対にッ!
あの屑野郎がこんなことで自分の楽しみを放棄したりはしない、だから絶対に助かるッ!
信じろ、信じるんだ圭一!自分を信じろッ!

『――7時より A-4・・・』

程なくして自分の首の点滅が消え、俺はその場にへたり込む。
助かった・・・。いや、今はそれ所じゃない!一番重要な点を聞き逃しちゃ絶対にマズイッ!

隣のレナをチラッと見る。レナは俺に引き吊られる形で一緒に地面に座り込むことになっていた。
レナの首輪だけが光ったりといったようなおかしいことにはなってはいなかった。
いや、今はまず放送に耳を傾けるべき・・・・・・



『・・・ワハハハ――』

その不快な声とともに、あの仮面の男の立体映像は消え去った。
よかった、みんな無事だ。そうさそうだ、そうだよな。
俺たち部活メンバーが、こんなことで脱落するわけが無い!
あの策士である魅音の奴はこんなことではうろたえる訳がねえ。
沙都子は自慢のトラップワークで飄々と生き延び、梨花ちゃんはにぱー☆と笑いながら他の誰かをファンクラブにしている。
そんな光景が、不謹慎ではあるが浮かんだ。ふいにレナから声がかかる。

「圭一君、みんな・・・みんな無事だったね。」
「ああそうさ、俺たち部活メンバーはこんなことでやられたりはしないからな。」

俺はレナの手を引いて立ち上がり、ズボンについた土を払う。
レナが不意に口を漏らす。

「でも、19人も死んでいる・・・。」
「四分の一か・・・くそっ・・・。」

まだ俺たちはこの殺し合いに巻き込まれてから誰にもあっていない。
だから19人の人間が死んだかと言われて、俺はそれを実感として感じることが出来なかった。
最初の広間には様々な人間が居たことからも、実は俺たち二人以外に誰も居ない。それは無いだろう。
たまたま隣の人間が信頼の出来る仲間だったからこそ、放送を信じないという選択肢が与えられている。
そんな幸運、いや、奇跡に感謝しなくてはいけないのだ。
122 ◆qwglOGQwIk :2007/01/05(金) 13:13:25 ID:nS7S3D9F
奇跡、そう、奇跡なんだ。俺たちは出会いも奇跡なら、経過も奇跡だった。
奇跡は間違いなく起きている。それは証明されたんだ。

「なあ、レナ」
「何?圭一君」
「やっぱり、俺たちはツイてる。いや、奇跡はちゃんと起きてたんだ。」
「ただの小学生や中学生の集まりに過ぎないはずの私たち部活メンバーが・・・」
「誰一人欠けることなく残っている。だから俺たち部活メンバーは、絶対にこの悪魔の脚本を打ち破る。」
「圭一君・・・・・・」

レナが相槌を打つ形になる。俺はそのまま話を続ける。

「だから、仲間を探そう、みんなだけじゃない。この馬鹿げた殺し合いを止めさせたいと願う人はきっと居る。
 俺たち部活メンバー、そして他の誰かを信じあおう。仲間と一緒にこの惨劇を絶対に止めよう」
「うん、圭一君。レナも、レナも圭一君と一緒に頑張るから・・・」
「さあ、仲間を探そう。信頼しあえる、仲間を探しに行こう。」

レナの手を取り、俺は歩き出す。
ん・・・ちょっと待て圭一、何か忘れてないか・・・・・・
ああっ!放送をメモするのを忘れた!
俺は数歩歩き出した足を止め、レナの方向に情けない顔で向き直る。
レナが疑問符を浮かべたような表情で声をかけてくる。

「圭一君、どうしたの?」
「すまんレナ、放送の内容をすっかり忘れてしまった。教えてくれないだろうか」

レナの表情が変わる。あの表情はまさか・・・

「放送を忘れちゃったうっかりやの圭一君かぁいいーーーー、おっ持ち帰りぃぃぃぃぃ」
「だあああああ、レナ待て!、今はそれ所じゃないだろうがああああ」

レナが緩みきった表情で思いっきりじゃれてくる。というか首が絞まってるって、ギブギブギブだから!


・・・レナに散々弄り倒されながらも、俺はなんとかレナを落ち着かせるという任務を成功させる。
抜け目の無いレナは俺がくだらない妄想をしている最中にきちんと放送をメモしてたらしい。
おかげで禁止エリアに突入して、またドカンの危機を受けることは無いのだ。
そう、俺の横には信頼できる仲間が居るし、これから向かう先には人が居て、信頼しあえる仲間になる。
そんな根拠の無い妄想なら、俺は信じることが出来た。奇跡の存在を確かめることが出来たからこそだ。



123 ◆qwglOGQwIk :2007/01/05(金) 13:14:51 ID:nS7S3D9F
窓の外にあの変態仮面の顔が映る。とともに放送が始まった。
やかましい声が耳をつんさき、ようやく禁止エリア情報を伝えはじめる。
俺は取り出しておいた地図を取り出し、情報をメモする。
苛立ちすら覚えるその声とともに、死亡者の名をメモするべく名簿を取り出す。



――俺は開いた口が塞がらなかった。タチの悪い冗談だろ?

タバコは咥えていないはずなのに、ポロっと落ちた気がした。

銭型のとっつあんに、五ェ衛門。あの殺しても死ななそうな二人が死んだって・・・・・・?
放送が嘘であることはあの変態仮面の性格からしてありえないだろう。
だが、ありえないはずの二人の死、これは一体どういうことだ・・・・・・。
不覚にもありえない二人の死から、そんな都合のいい考えをしてしまった自分が情けない。


涙は出ない、流さない、流せない。
それが次元大介という男だから、悲しむ暇なんて許されないのだ。

俺は帽子を深く被り直し、しばしの間黙祷を捧げる。
――とっつぁん、まさかあんたが死ぬとは思わなかったぜ。化けて出てきたりするなよ。
――五ェ衛門、毎度毎度女に騙されてたけど、また騙されて殺されたなんて言うなよ。
――悪いなおまえら、俺にはまだまだやることがあってな・・・・・・、後でゆっくり頼むぜ。

・・・それから少しして、隣の男に話しかける。

「なあ、ソロモン」
「なんでしょうか?次元」
「予定変更だ、探し人が増えた。」
「どうしたんですか急に?・・・・・・ああ。」
「ま、そういうことだ。手の掛かる相棒が気になっちまってよ」

隣の男は代わることなく微笑を浮かべ、無表情な人形を抱っこし続けている。
本当に食えない男だが、少なくとも背中から刺されるといった事態にはならなそうだった。

「本当は信頼できない奴とは行動したくない、と言いたいところだが・・・・・」
「あなたのお友達が死んでしまったから、・・・ですかね。」
「そういうことだ。ま、慣れない武器だとどうなるか分からなくなったからな。」

と言って、俺は手元のカスタムオートを見せる。

「ちょっと俺には手の余る代物でな。」
「これはこれは、先ほどもお目にかかりましたが本当に常識外れなサイズですね」
「人間じゃないお前さんなら、問題ないんじゃないか?」
「さあ、僕はよくわかりませんね」
「ま、そういうわけでよろしく頼むぜ。」
「改めてよろしくお願いします。」

先ほどのやり取りから、成り行きでお互い情報交換は済ませていた。
ソロモンが手を伸ばしてきたからしょうがなく握手してやったが(その後は蒼星石という人形ともすることになった。)
完璧な信頼は置けないとはいえ、これからは一緒に協力する。だからこそこっちから手を伸ばすことにしてみた。
124 ◆qwglOGQwIk :2007/01/05(金) 13:16:12 ID:nS7S3D9F
「さて、じゃあ行きましょうか次元」
「おう」

この古びた高校の探索は既に済ませており、ここには誰も居ないことは確かめた。
探索の途中にソロモンが拡声器を拾っていったほかに、役に立ちそうなものはなかった。
拡声器もこの殺し合いで何に役立つのか疑問だが、ソロモンの奴があるに越したことは無い。
とかなんとかで持っていくことになったっけな・・・・・・。
そんな調子でギシギシと床のなるこの高校の階段を下りていると、ふいにソロモンの奴が声を出す。

「おや、あそこに誰か人影が見えますね。」
「どれどれ・・・」

仕事柄目には自身がある俺だが、あの樹々が生い茂る山を見て人を発見できるほどじゃない。
ソロモンは自分からペラペラと喋ってくれた身の上話は、どうやら嘘って訳じゃなさそうだな。

「彼らは残念ながら小夜のようではありませんでしたが、何か知っているかもしれませんからね。」
「じゃあ、そいつらとうまく接触できるように動くとするか」
「ええ、そうしましょう。」

ソロモンはやはりというか小夜に入れ込んでいるらしく、ちょいとつついてやったら熱く反論してたっけな。
女の話は相棒の件からして面白くないものだが、ソロモンにとって音無小夜は相棒以上にお熱な女らしい。
ま、言って聞かないなら忠告してやる義理は無いなんて考えつつ、そういうわけで行動開始することにした。





私は圭一君と談笑しながら、目の前にそびえる古びた高校へと歩いている。
圭一君はまず人のいそうな施設に向かってみようと言い、私はそれに従うことにした。
人と接触することで情報を得るのは大事なことだ。今のところ私たちは今まで誰とも会っていない。
だからこそ情報を得る必要がある。そうでなければこの殺し合いでうまく立ち回ることは出来ない。
だが、もう一つ私は、先ほどはかぁいいモードで誤魔化した圭一君の言葉を反芻し続けていた。

「信頼しあえる、仲間」

そう、私にとっては隣の圭一君であり、魅ぃちゃん、沙都子ちゃん、梨花ちゃんのことである。
あのゴミ山で仲間と誓い合い、圭一君が私を引っ張り上げてくれた手は今でもかぁっと熱くなるときがある。
それはあの出会いからであり、先ほども放送のときも熱くなるのを感じていた。
でも、それじゃあいけないと私は分かっている。私は幸せを蝕む敵を倒さなくてはいけない。
信頼しあえる仲間なんて、私たち意外に誰が居る?19人も人が死んだのに・・・・・・
そんな状況下で信頼しあうほど私はお人よしではない。敵になる可能性があるならば速やかに排除するべきだ。
そんな仲間は何も出来ずに敵にやられた19人の中には居るに違いないかも知れない。違いない。違いない。
でも、圭一君は信頼しようと言った。私が一番信頼している圭一君はそう言っている。
だから自分の思考に忠実になれない。迷っている。迷うのはいけないことだって知っているのに
こんな考えはきっと相談できない。だから今なおその言葉について考えをめぐらせていた。

そうこうしているうちに目の前に高校の正面にたどり着く。
圭一君があまりにも無警戒だから人が居るかどうか見たほうがいいと忠告するが、分かってる分かってると流す。
私と圭一君が校門の死角から様子を見る。・・・人の気配はしない。そういう結論を出したので、進入することにした。
校内に入ろうと思った矢先に、私の前に金髪の優男と帽子を被った髭男が出てきた。
優男は小さな人と手を繋いでいる。髭の男は銃に手をかけている。
相手は銃を持っているッ!この状況はヤバイッ!!!

銃を避けるために移動し、戦闘態勢に入るはずだった。
だが、私達が行動に移った段階で相手は沈黙し、圭一君はこの状況下でただ鉈を構えているだけだった。
125 ◆qwglOGQwIk :2007/01/05(金) 13:17:35 ID:nS7S3D9F
戦意が無い?と思ったが早く、圭一君が大声で叫んだ。

「聞いてくれ!俺はこの糞ッ垂れな殺し合いには乗ってねえ、信じてくれ!」

すると二人と一つの人影がこちらに向かってくる。
だが髭男が銃から手を離していないところから見て、警戒はまだ解いていないらしい。
だからこそ私もいつでも踏み込んでナイフを差し込めるように警戒を解かない。
ああ、リーチが足りない。圭一君の鉈なら・・・・・・
このコンバットナイフは鉈よりはずっと扱いやすくていい武器だが、リーチで劣るのが痛い。
この状況下ではリーチの差が少なくない優劣を生み出す。圭一君は鉈を下ろして相手を見据えている。
もうこの状況下で焦ってもどうしようもないと判断し、相手の警戒を緩めるためにこちらの警戒を少し緩めることにした。

「僕はソロモン・ゴールドスミスと申します。あなたと同じようにゲームには乗っていません。」
「ソロモンさん、俺は前原圭一って言うんだ。よろしくな」

圭一君が金髪の男と握手を交わす。圭一君は何も考えずに笑って握手をしている。
ソロモンという男は微笑を浮かべたまま、表情を殆ど変えずに握手を交わした。
程なくして髭男も挨拶をする。

「自分は次元大介ってんだ。ま、よろしくな」
「・・・・・・竜宮レナです。」

次元という男は手を出さない。私を警戒しているのかもしれない。
まあ、それは私の行動に少し問題があったことで、次元さんを攻める訳にはいかない。
圭一君と握手をしたソロモンという男は私にも手を伸ばす。

「よろしくお願いしますね、レナ」
「よろしくお願いします。」

私と握手するときは表情は微笑からよりにこやかな笑いに変化する。
それにつられる形で私は笑顔を浮かべ、握手することにした。
別に面白くもなんとも無い私を見て表情が変わるとは、一体どういうことなんだろう?
ソロモン・ゴールドスミス・・・・・・か。

握手を終えたソロモンさんがさらに口を開く。

「この子は蒼星石です。私の優秀なパートナーでして、魔法の力で動いている人形なんですよ。」

蒼星石という男の子みたいな人形はぎこちなく歩き、圭一君と私の前で握手を交わす。
・・・魔法なんて嘘みたいだ。嘘みたいか・・・・・・、何かがおかしいような・・・。

私はこのやりとりに違和感を感じつつも、彼らと情報交換を交わす。
ソロモンさんの言う小夜という探し人。そして自分自身のこと
次元さんが言う青い狸とあの仮面の男のこと、次元さんの仲間のこと
あのルパンの三代目だとか、翼手の存在、青い狸といった漫画にしかありえないような話が次々と飛び出る。
圭一君はそれに殆ど疑問なんて持たない様子で、ペラペラと私たちのことを喋っている。
圭一君はこの状況下で手持ちの情報が持つ価値についてまったく理解をしていないようで、あの地図の外のことまで話してしまった。
126 ◆qwglOGQwIk :2007/01/05(金) 13:18:41 ID:nS7S3D9F
ソロモンさんが、蒼星石という人形について話し始めた。

「この子は私の支給品なんですが、これが蒼星石との契約の指輪です。」

そう言って指輪を見せる。やっぱり何かおかしい。違和感じゃない。

「この指輪を通じて私と蒼星石は心が通じ合っているんです。
 そして、蒼星石は彼女の姉妹である人形を探したいといっています。」

クールになれ、レナ。どこからおかしい、どこがおかしい?よく考えろ・・・・・・

「この子のほかにも、同じような人形の姉妹が居て僕達はその・・・」



「嘘だッ!!!!!!」


私は気がついた。絶対に間違いなんかじゃない。だから言ってやった。
ソロモンは少し驚いたものの、動揺している様子は無い。
しかし人形のほうはそうでない。誤魔化しきれない。動揺している・・・・・・。
だから私が気がついたことは間違っていない、それを裏付ける動きをその人形はしていた。
次元のほうはというと、疑問を浮かべた様子で私を見ていた。

「嘘だなんて酷いですね。レ・・・」
「いいや、嘘なんかじゃない。私の目は絶対に誤魔化せないッ・・・」

言ってやる、私は相手に主導権を与えないように続ける。

「どうして嘘をついてないなんて嘘をつくのかな?かな?」
「だから嘘では・・・」
「嘘を付くんじゃないッ!!!!」

相手に弁解の余地を与えない、そのまま続ける。

「レナはちゃーんと知ってるんだよ。名簿あったよね、名前が・・・」
「蒼星石、ってね!!!!」

私があの放送の内容をメモしているとき、名簿の中でひときわ難しい漢字が並んでいる下りが確かに存在した。
ちょっと読むのに苦労したが、あの中には蒼星石という名前が存在したはず。いや、存在している。
あの動揺こそが証拠である。
私は明確な証拠であるはずの、ここに居るならかならずあるはずのアレを確認する。
リボンを引っ張るとすぐ取れた。私の考えの通りにリボンの下から、首輪が現れた。
127 ◆qwglOGQwIk :2007/01/05(金) 13:19:43 ID:nS7S3D9F
「これは何なのかな?かな?」
「・・・・・・おいソロモン、こいつぁどういうことだ?説明してもらおうか。」

証拠を見せ付ける、次元は少なくない同様をしているようだ。圭一君はまだ間抜け面を浮かべている。
ソロモンのほうはというと、蒼星石とともに謝罪をし、これまでの経緯を説明し始めた。
次元大介との接触時のほか、他の参加者とうまく交渉をするためであり、信頼できるものには説明する予定だった。
そして、そうでない参加者を場合によっては・・・殺す。たしかに筋は通っている。
だが、それは私たちも交渉の余地が無いなら殺す。そういうことを意味している。
私は今殺し合いに乗ってないからよかったものの、ソロモンと蒼星石は私の『敵』になるかもしれなかったのだ。

「こんなことをしている人は、レナ信用できないかな?かな?」
「ごめんなさい・・・。ソロモンさんをそんなに攻めないで、協力した僕のほうこそ悪いんだ。」
「そういう話じゃないかな?かな?ソロモンと蒼星石はレナ達を騙して殺そうとしてたかもしれないんだよ。」

そう言うが私はコンバットナイフを構えて戦闘態勢を取る。そして目の前のソロモン達も・・・

「みんな、やめろ!やめてくれ・・・
 なんでこんなことするんだよ!俺達は殺し合いをするんじゃねえ!惨劇を止めるために居るんだろうが!」

さっきまで馬鹿みたいに呆けてた圭一君が私達の前で盾になる。ああ・・・邪魔だ邪魔だ。
圭一君が私のほうに向き直る。

「レナ、俺は言った!信頼できる仲間を探そうって
 レナはソロモンさんを信用できないかもしれない。でも俺はちゃんと謝罪して説明してくれたソロモンさんは信用できるッ!
 この人は殺し合いなんてしない!俺がそれを保証するッ!!!
 だからレナは、俺のことだけでいいから信じてくれ!こんなことはもう止めてくれ!
 誰かを疑うのはもう沢山なんだよおおおおおおおッ!!!!!!!」

勝手なことを言うだけ言って、圭一君は続ける。

「聞いてくれソロモンさん、次元さん、蒼星石。レナはただ嘘が許せないだけなんだ。
 決してあんた達と敵対したくてこんなことを言った訳じゃない、信じてくれ・・・。
 もしこれであんた達が怒ったなら俺はいくらでも謝る。
 だから、だからそれで気が済むなら許してくれッ!頼むッ!!!!」

沈黙は一瞬、私は・・・・・・大好きな圭一君に従うことにした。

「ごめんなさい、ソロモンさん、次元さん、蒼星石ちゃん。」

私が戦闘態勢を解くと同じく、ソロモン達も戦闘態勢を解いた。
それから私達は許しあい、疑わない、嘘は付かないということ誓うことにした。

飛んだ茶番だ。

でも圭一君の真剣な表情の手前、無碍には出来ない。だから私は圭一君の望みに従う。
次元さんはそういうのが嫌いらしく、後ろのほうで苦笑を浮かべてぶつくさすまんね、とか言っていた。
次元さんは正しい。圭一君がどれだけ弁解しようとこの男、ソロモン・ゴールドスミスのことは信頼なんか出来ない。
協力した蒼星石は嘘は付いてる様子は無いが、この男との協力関係から信頼できる要素は薄い。
そういう意味では次元さんだって信頼できない。しかし信頼できないことは信頼できる。それだけは確かだ。
128 ◆qwglOGQwIk :2007/01/05(金) 13:21:49 ID:nS7S3D9F
その後、信頼の証として支給品を含めた手の内を全て見せあうことにする。圭一君が支給品の食料を取り出す。
そういえばお腹がすかないかという圭一君の発言から、みんなで朝食を取ろうということになった。
そして私達は落ち着いて食事が出来る教室に移動し、談笑しながら食事を取る。
圭一君はまるで雛身沢に帰ってきたみたいに面白おかしく場を盛り上げて楽しく食事をしていた。
何も気が付いてない圭一君だけが

それから私達は今後のことについて話し合い、人が集まりそうな市街地に向かうことに決めた。
この辺りには人が居ないのは私たち自身の情報交換から明らかであり、私達5人の知り合いが向かいそうな施設。
ここから近い病院、図書館、映画館を探索することに決めた。

「それじゃあ、早速行こうぜ。善は急げだ!」

圭一君はやはり屈託の無い笑いでみなを引っ張るように我先にと歩き出す。
本当に圭一君は分かってない。ああもう・・・・・・イライラするなぁ・・・。

「待って、圭一君。提案があるの」
「ん?レナ、なんだ?」

私は圭一君に鉈とナイフを交換してくれと頼んだ。
かぁいいものがあったらぜひ自分の手で掘り出したい。そんな風に誤魔化して交換した。
信頼できるものが少ない今の状況下では、せめて武器ぐらいは信頼の置ける鉈にしたい。
圭一君はナイフを片手に、意気揚々と進み、遅れて蒼星石が歩き出す。
それ意外は、・・・・・・動かない。

「どうしました?レナさん」
「ソロモンさん、私は後ろから圭一君のことを見て居たいから、先に行ってくれませんか?」
「・・・一つ言っておきたいことがあります。」
「何なのかな?かな?」
「僕のことを疑うのは構いません。しかし小夜に何かするつもりなら、容赦はしませんよ。」
「それなら私だって同じ、圭一君や私に何かするなら容赦しない。」

真剣な表情を見せたソロモンはやり取りを終え、ヤレヤレと言った様子で歩き出す。
他にも言いたいことはあったが圭一君との約束の手前、あまり不振なやり取りは出来ない。
最後に残った次元さんにも声をかける。

「悪いな嬢ちゃん、自分も前を歩きたい気分じゃないんでな。」
「信頼できない、って言ってもいいんですよ。」
「そう言われると弱いなぁ・・・」

やり取りが終わり、私と次元さんは最後尾から互いの距離を開けて歩き出す。
これがお互いの距離、信頼できないもの同士のね
129 ◆qwglOGQwIk :2007/01/05(金) 13:22:46 ID:nS7S3D9F
状況を確認しろ、レナ。
信用できるのは私と圭一君だけだ。
圭一君はさっきからイライラすることばかりやってるけど、私を騙そうなんて気は微塵も感じられない。
だからこそ圭一君に先頭という目を頼み、私は後方から監視する。
信頼できないのはこの三人、特にソロモン、ソロモン・ゴールドスミス、そして蒼星石。
特にこの二人は要注意であると頭に叩き込む、手は割れたとはいえいつでも裏切ることは出来る。
先ほどのやり取りから、ソロモンが何を考えているのかよーく分かった。

音無小夜、ソロモンの最愛の人。ソロモンの表情からも容易に存在の重要性が分かる。
ソロモンが私達を騙そうとしたことの理由が、ようやく推理可能になる。
音無小夜を生かす為に邪魔な存在を騙し討ちで排除し、優勝する。自然な考えだ。
しかしこの考えでは、蒼星石の存在がキーとなっている。
ソロモンが蒼星石を騙しているのか?それとも蒼星石とは互いに守るべきものの為に協力している?
蒼星石との情報交換から考えるに後者の可能性が高い、
だが、いずれにしろ決定的なキーを得る機会は無い。今この状況下でこちらから動くことは難しいだろう。
圭一君を裏切れば、それこそ私がみんなから攻められてもおかしくない。それでは駄目なのだ。

私がこれからすべきことは裏切りの証拠を押さえ、速やかに敵となった存在を排除する。
本当は次元さんも信頼が置けないのだが、次元さんも胸中は実のところ一緒のようである。
ソロモン達が信用できない。そういう意味で私達の利害は一致している。この線だけは部分的に信頼できるといっていいだろう。
本当は次元さんの後ろを歩きたかったが、この状況下でこれ以上の贅沢は望めない。
しばらくは、相手の出方を見続けるしかないだろう。私が気を抜いてはいけないのだ。
クールになれ、クールになるんだ竜宮レナ。もう二度と"い"やなことは起こさせない。

状況の確認、行動方針の確認を私は終えた。
やはり、圭一君は甘い。この状況下がどれだけ危機的か分かっていない。
情報交換をして分かったことから、私達のような普通の中学生では漫画の世界に出てくるようなやつらにはかなわない。
圭一君がべらべら喋ってしまったから、もうハッタリなんて使えるわけが無い。
ソロモンが嘘を付いているかもしれないが、他に違和感は無かった。
完全に信頼できるわけじゃないが、あの青狸の存在からして、普通では及ばないような存在が居ることは間違いない。
それを考慮に入れれば、ソロモンは強力な力を持ち、もしかしたら私達が束になってもかなわないかもしれない。
ああ、危機的だ危機的だ。考えること、やることはまだまだ沢山ある。
巨大な力を持つソロモン、蒼星石達ローゼンメイデン
どうやって尻尾を掴む・・・敵はどこだ、敵はどこだ、敵はどこだ・・・・・・。
ああ疲れる、圭一君は本当に何も考えてなくて本当に気楽そうだ。
そんな私のことを気遣ってくれない圭一君の様子が、私のイライラに拍車をかけていた。

鉈を掴む手に力が篭る。見てろ・・・私は絶対にお前達なんかに屈しない。
圭一君に手を出してみろ・・・・・・。おまえたちがどんなバケモノだろうと、一撃で叩き割ってやる。
一撃で駄目なら、*ぬまでバラバラにしてやる・・・・・・。
圭一君が教えてくれたオヤシロ様の奇跡は、私が絶対に守るんだから。
130 ◆qwglOGQwIk :2007/01/05(金) 13:24:39 ID:nS7S3D9F
【B-2周辺・一日目 午前】

【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:正常
[装備]:コンバットナイフ
[道具]:支給品一式(水食料一食分消費)
[思考・状況]
1:仲間と一緒に市街地へ向かう
2:マーダーと出会ったらレナを守る。殺すことに躊躇はあるがやる時はやる覚悟。
3:レナが心配。
基本:5人で行動し、知り合いを探しながらゲームの脱出方法を探す。

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疑心暗偽による不信、祟りへの恐怖、苛立ち、発症?
[装備]:鉈@ひぐらしのなく頃に
[道具]:支給品一式(水食料一食分消費)
[思考・状況]
1:魅音、沙都子、梨花との合流、ゲームの脱出。雛見沢に戻って、オヤシロ様に謝る。
2:『敵』は速やかに殲滅する。『敵』の存在を警戒する。
3:出会う人が仲間になるか見極める。自分の判断でダメだと思ったら、可能な限り殺す。
4:もしも脱出が不可能なら……?
基本:圭一に従い5人で行動する。ソロモンと蒼星石を特に警戒し、真意を探る。

【ソロモン・ゴールドスミス@BLOOD+】
[状態]:健康、竜宮レナを強く警戒
[装備]:レイピア
[道具]:支給品一式(水食料一食分消費)、白衣、ハリセン、望遠鏡、ボロボロの拡声器(運用に問題なし)
[思考・状況]
1:音無小夜と合流し、護る
2:他4人の知り合いを探す
基本:5人で行動する。

【蒼星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:健康、竜宮レナを警戒
[装備]:朝倉涼子のコンバットナイフ
[道具]:支給品一式(水食料一食分消費)、リボン、ナイフを背負う紐、双眼鏡(蒼星石用)
[思考・状況]
1:翠星石と合流し、護る
2:他4人の知り合いを探す
基本:5人で行動する。

【次元大介@ルパン三世】
[状態]:健康、竜宮レナを特に警戒する他、3人も警戒。
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@ヘルシング ズボンとシャツの間に挟んであります
[道具]:支給品一式(水食料一食分消費)、13mm爆裂鉄鋼弾(35発)
[思考・状況]
1:とりあえずソロモン達についていく
2:ルパンを探す
3:殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す
4:ギガゾンビを殺し、ゲームから脱出する
基本:こちらから戦闘する気はないが、向かってくる相手には容赦しない。
131Lie!Lie!Lie!修正 ◆qwglOGQwIk :2007/01/05(金) 15:31:52 ID:nS7S3D9F
誤字脱字を修正

>>123
隣の男は代わることなく

隣の男は変わることなく

>>124
仕事柄目には自身がある俺だが〜

仕事柄目には自信がある俺だが〜

信頼しあえる仲間なんて、私たち意外に〜

信頼しあえる仲間なんて、私たち以外に〜


>>127
次元は少なくない同様を〜

次元は少なくない動揺を〜

ソロモンさんをそんなに攻めないで〜

ソロモンさんをそんなに責めないで


>>128
真剣な表情を見せたソロモンはやり取りを終え

真剣な表情を見せたソロモンとのやり取りを終え
132D-3ブリッヂの死闘 ◆lbhhgwAtQE :2007/01/05(金) 20:55:22 ID:GuQeIKs4
放送は死亡者の名前を淡々と伝えた。
それが、聞いた人の知り合いであれ、友であれ、かけがいのない仲間であれ、家族であれ、お構い無しに。
それは図書館へと向かっていたルパン一行の耳にも当然入ったわけで……。
「鶴ちゃん……」
ハルヒは名前を呼ばれた知人の事を思い出していた。
自身の立ち上げたSOS団の名誉顧問であった彼女とは、少なからず活動を共にした仲であり、その死はあまりに身近すぎた。
「五ェ門……。銭形のとっつあん……」
ルパンは名前を呼ばれた仲間、そして敵ながらも信頼していた刑事の名前を呟いた。
二人とも自身とは大分意見の合わない人間だったが、不思議と強い信頼関係で結ばれ、幾度と無く死線を掻い潜るような仲になっていた。
そんな二人の死は多くの死を目の当たりにしている彼にとっても大きかった。
そして、もう一人。
彼女――アルルゥはただきょとんとしていた。
「……なんでおとーさんとカルラおねーちゃんの名前呼ばれた?」
アルルゥはハルヒのスカートの端をくいくいと引っ張り、尋ねる。
彼女は放送の内容を聞いてこそすれ、その内容は理解できていなかったのだ。
ハルヒはそんなアルルゥに何と言えばいいか分からなかった。
知らないほうが幸せ。そんな言葉が彼女の脳裏に思い浮かんだのだ。
……だが。
「アルルゥ。今名前を呼ばれた人はな、死んでしまったんだ」
そんなハルヒをよそに、ルパンがアルルゥの目線にあわせるように屈みこむとそんなことを言ってしまった。
「ル、ルパン! あんた……!!」
「知らないほうがいいこともある。……だけどなぁ、こればかりはいずれ嫌でも分かっちまうことなんだ。……だったら先延ばしにするべきじゃない」
「だ、だけど!!」
「……おとーさんとカルラおねーちゃん、死んだの?」
アルルゥが目をぱちくりとさせてルパンに問うと、彼は首を黙って縦に振った。
「ああ。……それだけじゃない。俺の仲間やハルヒの友達も死んだ。ここにいる参加者の誰かによってな」
アルルゥの両肩に手を置き、静かに、そして悲痛ともとれる声で事実を述べる。
……すると、アルルゥは途端に首を横に振りはじめる。
「……うそ。カルラおねーちゃん、死なない。おとーさん、死んじゃいや!」
「嘘じゃない……。俺だって嘘だと信じたいさ。……だけどあいつが……ギガゾンビがここで嘘をつく理由がない。ってことは……」
「いやぁぁぁぁぁ! そんなはずない!!!!」
「アルちゃん!!」
アルルゥは甲高い声で叫ぶと、ルパンの手を強引に解き、道を一人で走っていってしまった。
ハルヒとルパンはそれを呆然と見送ってしまう……が、すぐにハルヒは我に返る。
「……な、何やってんのよ! アルちゃんを追うわよ!」
「あ、ああ。そうだな……」
133D-3ブリッヂの死闘 ◆lbhhgwAtQE :2007/01/05(金) 20:57:29 ID:GuQeIKs4
放送を聞いたシグナムは荷物を持つと、決意を胸に立ち上がった。
ゲームに勝ち残り、ギガゾンビにはやてを生き返らせてもらうという悲痛な決意を胸に。
そして、そんな時だった。
クラールヴィントが反応を示したのは。
「後方……人数は……三人か……」
出来るならば、あの黒い人形や眼鏡のメイドのような戦闘に長けた人物ではなく、いかにも戦闘慣れしていない弱そうな人物であってほしい。
そうならば、自身の体力を温存しながら殺害できるのだから。
それは、騎士道もへったくれもない考え方であったが、今の彼女にとっては騎士道など関係ない。
彼女にとって優先するべきは優勝、そしてはやての復活なのであるから。
シグナムはそんな事を考えながら、咄嗟にそばにあったビルの角に隠れ、そこから接近する人物を確認する。
すると、そこにいたのは……。
「待って、アルちゃん!!」
「や! おとーさん死んだの嘘!!」
橋の向こうからこちら側に向かって、3人の男女が走ってきていた。
先頭を行くのは、メイド服姿の少女。――年ははやて達くらいか、それより年上か。
そして、それをセーラー服姿の少女――恐らく女子高生か――とジャケットを羽織った男――年齢は30、いや40代か――が追っていた。
その走りを見る限り、周囲を警戒している様子はなく、隙だらけである。
恐らく、こちらを横切る際に奇襲すれば、確実に成功するはずだ。
シグナムはそう考えると、刀を握る手に僅かに力が入る。
……だが、ここで彼女が予想していなかった事態が起った。
「話を聞いて、アルちゃん!」
「やぁー!! 嘘つきキライィィィ!」
橋に差し掛かった辺りで、三人が急に立ち止まってしまったのだ。
原因は、セーラー服の少女が嫌がるメイド少女を捕まえてしまったことのようだ。
「……チッ」
無防備に横切ったところを襲うという本来の計画が狂ったことに軽く舌打ちをするが、襲撃対象が立ち止まったことはむしろ好都合であった。
彼女は刀をしまうと、武器を弓と矢に持ち替えると矢を一本、弓の弦に引っ掛けて、ビルの陰から飛び出した。
「……悪いが、これも主はやて達のため――!!」
それは、彼女に残った最後の騎士の心なのか。
一言詫びのような言葉を入れると、シグナムは手早く狙いを定め、矢から手を離した。

こうして矢は放たれ、この地にて一つの戦いがまた始まろうとしていた。
134D-3ブリッヂの死闘 ◆lbhhgwAtQE :2007/01/05(金) 20:59:38 ID:GuQeIKs4
「話を聞いて、アルちゃん!」
「やぁー!! 嘘つきキライィィィ!」
橋に差し掛かったところで、ハルヒとルパンはようやくアルルゥを捕まえることが出来た。
だが、アルルゥの癇癪はまだ収まらず、ハルヒの腕の中でじたばたと抵抗する。
「あたしだって信じたくないけどね……でも、これが現実なの! 分かってお願い!」
「嘘! おとーさん死んだなんて絶対うそおおお!」
そんな二人の様子を見て、この場はハルヒに任せたほうがいいだろうな、とルパンが一人顔を上げた時だった。
彼は、橋の向こうにいきなり現れた女性の姿を確認した。
そして、彼は続けて確認する。その女性が立ち止まると弓のようなものを構えているのを。
咄嗟に彼は悟った。
狙われてる、と。
「ハルヒ! アルルゥ! 伏せろっ!!」
「――え?」
ルパンが自分達が置かれている状況を悟りマテバを構えるのと、矢が放たれるのはほぼ同時だった。
「……あ、あぁぁああああああ!!!!」
そして次の瞬間には、放たれた矢はハルヒの左上腕に深々と突き刺さっていた。
刺さった場所からは血が溢れ出す。
「……ハルヒおねーちゃん……?」
そんな彼女に抱きつかれていたアルルゥは、今までの癇癪も忘れたようにその光景をきょとんと見つめる。
「クソッ! さっそくお出ましって訳か!」
自分が油断していたことを後悔しつつ、ルパンがその襲撃者目掛けて容赦なく銃弾を発砲するも、襲撃者はそれを回避し、素早く建物の陰へと隠れてしまう。
ルパンはハルヒ達の前に立つようにしながら襲撃者の隠れた方へと銃を向け警戒をする。
「……ハルヒ、大丈夫か?」
「大丈夫なわけ……ないでしょ……痛くてたまらないわよ……」
「……まぁ、そうだろうなぁ」
今ハルヒが苦しんでいるのはひとえに自身がバトルロワイアルなどというゲームに参加しているにも関わらず警戒を怠っていたからだ。
ついさっき、放送で19人も死んだ事実を告げられたというのに何という失態なんだ。
これでは、死んでいった銭形警部や五ェ門に申し訳が立たないな……。
そんな自責の念を抱きながら、ルパンはある決断をし、小声でハルヒに再度話しかける。
「……ハルヒ、今の状況がヤバいのは分かるな?」
「そんなの……一目瞭然でしょ。……っていうか何なのよあれは。何であんな離れたところから撃った矢が当たるのよ……」
「相手がそれだけ手練ってことさぁ。それもあの矢を撃つ早さからして殺しに躊躇いのない奴だ。――っつーわけでハルヒ、お前はアルルゥと一緒にここから早く離れてくれないか?」
「……え?」
「聞こえなかったかい。こんな危険な場所からとっとと離れるんだ。もと来た道を戻るようにな」
「……あんたはどうするのよ?」
「俺ぁ、ここであのネーチャンの気を逸らして時間を稼ぐ。……だから、その間に――」
「団長に……何命令してるのよ……」
ルパンの言葉は、ハルヒの声に遮られた。
「団員はねぇ、団長に従っていればいいのよ。……一人で残って気を逸らす? そんなことしたらあんたが危険な目に遭うでしょう。そんなこと許せるわけが……」
「だけどな、ハルヒ。お前さん達がここにいても、事態が好転するわけじゃない。言いたくはないが、怪我をして満足に動けないようじゃ邪魔なだけだ。……それは自分自身が一番分かってるんじゃないのか?」
「それは…………だ、だけどっ!」
「大丈夫だ。それに、俺は天下の怪盗アルセーヌ・ルパンの孫にして稀代の天才ルパ〜ン三世なんだぜ。いざとなった時の逃げ足だって折り紙付さぁ。だから安心して逃げるんだ。何、すぐに合流してやっからよ」
おどけた口調だったが、その言葉にはどこか安心感があった。
そして、ハルヒは少しの間考えた末に頷く。
「……分かった。それじゃ、さっきの公園のほうに行ってるから。……絶対に合流するのよ。団長命令なんだから」
「了解了解っと。ほら、それじゃさっさと走りな」
「アルちゃん……行くわよ!」
その言葉にハルヒは黙って頷き、未だ呆然とするアルルゥの手を掴み、もと来た道を戻るように走り出した。
135D-3ブリッヂの死闘 ◆lbhhgwAtQE :2007/01/05(金) 21:01:48 ID:GuQeIKs4
――足音が遠ざかっていくのを確認したルパンは口元を僅かに緩め、そして一歩前進した。
「さぁて、これで一対一だぜ。姿を見せたらどうだい、お嬢さん」


建物の陰で様子を伺っていた襲撃者は、そんなルパンの呼びかけに意外にも即座に応じ姿を現した。
……刀を携えたままでの登場ではあったが。
「うひょ〜、こいつぁ中々……」
先ほどは襲撃された事に焦っていた為、よく見ることが出来なかったが襲撃者は見れば見るほど彼が登場を望んでいた美人像にぴったりの風貌だった。
凛とした顔立ちにモデル並みの上背、そして甲冑の上からでも分かる抜群のプロポーション。
場所が場所でなければ、口説いていたかもしれない相手を見てルパンは思わずデレっとしてしまうが、すぐにその顔を引き締める。
そう、鼻を伸ばしている場合ではないのだ。
彼女こそが、ハルヒを射抜いた張本人なのだから。
「……お前さん、何で俺達を狙った? 悪いが俺達はこのゲームには乗ってないぜ」
ルパンが、正面の襲撃者を見据えながら問うと、対する彼女もルパンを見据えながら、静かに答える。
「和平の使者は槍を持たない――という話を知らないのか? 銃を構えている輩にゲームに乗っていないといわれても信用などおけない」
「たはは、こいつぁ手厳しい。……だがな、最初に襲ってきたのはお前さんの方だ。警戒するのが筋ってもんだろ? それに、そんな事を言うならお前さんもその物騒な刀を置いてはくれないかねぇ」
「……それは出来ない相談だ」
襲撃者は刀を抜き、その刃をルパンへと向ける。
「私は我が主……主はやての為に……勝たねばならないのだ」
「はやて……? 確かそんな名前がさっきの放送で流れたような――」
「……いざ参るっ!!!」
「って、少しくらい考える時間くれよぉ〜!」
おどけた口調で喋りながらも、ルパンは迫りくる襲撃者――シグナムに対しマテバを撃つ。
……だが、それもシグナムに相次いでかわされ遂に――

――カチッ! カチッ!

「あら? あららら?」
それは弾切れを起こし、その隙にシグナムは一気に接近、刀を振り下ろす!
「せぇいっ!」
「あ、ちょっとタンマタンマ!」
振り下ろされる刀は無情にもルパンに直撃せんと肉薄するが……
「……なーんてな」
「…………な!!」
振り下ろされたそれはルパンに当たる前についさっきまで彼が撃っていた銃マテバによって防がれた。
「撃つだけが銃じゃあないぜぇ、女剣士さんよぉ」
そう言って笑みを浮かべると、ルパンは空いている右手を背中に回す。
一方のシグナムもそんな彼の動きを察知し、咄嗟に距離を置こうとする。
……だが、時は遅く。
ルパンは背に挿しておいたソード・カトラスを取り出すと、素早く発砲した。
狙うのは、甲冑に包まれていない両腿、そして刀を持つ手の甲だった。
「がぁぁっ!!!」
撃たれた銃弾は、至近距離であったため3発とも貫通、流石のシグナムもこれには悶え、刀を落としその場に崩れてしまう。
ルパンはそのまま、そんな悶える彼女の頭部に銃を向ける。
「そろそろ降参してくれないか? 出来るならお前さんみたいな美人ちゃんは殺さないでおきたいってのが俺の望みなんだけどなぁ」
136D-3ブリッヂの死闘 ◆lbhhgwAtQE :2007/01/05(金) 21:05:19 ID:ThBa/bl4
両腿と右手を銃弾が貫通する銃創。
そして、地に膝をつき、頭に銃を突きつけられている現状。
それは騎士として、いや戦士としてあるまじき姿。
銃相手ならば、間合いを詰めれば確実に勝てる――そのように浅はかな算段を立てた結果がこれだ。
修羅の道を歩むことを決めた直後にこのざまとは何という滑稽な話であろうか。
シグナムは無力感と悔しさから、うなだれ黙りこくる。
……自分はこのまま、この男に屈さざるを得ないのだろうか。
……そして自身の歩もうとした道を捨てなくてはいけないのだろうか。
それはつまるところ、あの心優しき夜天の主の笑顔を蘇らせる事を放棄しろということ。
……そんなことが出来るだろうか?

――答えは否、だ。

夜天の守護騎士ヴォルケンリッターは決して主を裏切ってはいけない。
主の為なら、例えその手を血に染めようとも、その身がいかなる危険に晒されようと、己が使命を全うしなくてはならないのだ。
それは勿論、今のような状況でも当てはまることであり……
「私は夜天の守護騎士ヴォルケンリッターを束ねる将、烈火の将シグナム。……このような事で己が信念を曲げるような事は無い!!!」
「なっ!! まだ動けるのかよぉ!」
シグナムは今の体勢よりのより低く屈み、銃の射線上から逃れると落ちていた刀を掴み、それを大きく振ってルパンを牽制する。
そして、十分に間合いを取ると、元々手に握っていた宝石の魔力を刀に供給、それを炎を纏う魔剣へと変化させた。
「うっひゃ〜、一体どういう仕掛けになってんだ、そりゃ……」
「これが我が魔力を与えし刀の姿。そして、私が本気になった証だ……」
「はぁ〜、魔力ねぇ……。ホント世の中には色々あるもんだ。……だけど、そんな怪我でまだやるって言うのかい?」
「このような怪我、我が信念の前では足枷になどならない!!」
とは言うものの、彼女の足や手からは現在進行形で出血が続いていた。
息も多少なりとも乱れており、少なからず彼女の行動を制限しているのは明らかだった。
だが、ルパンはそれにあえて触れず、彼女の言葉を聞いて不敵に笑う。
「ほ〜、どうやらその信念とやら本物みたいだなぁ。……だったら、こっちももう手加減しないぜぇ。俺達に危害を加えようって気持ちが揺るがないなら放っておけないからな」
そう言って、彼はカトラスを持っていない方の手の指で唐突に拳銃をくるくると回した。
――それは、ついさっきまでシグナムが腰に挿していたはずの拳銃だった。
「……なっ! そ、それは……!」
「ついさっきなぁ、お前さんと大接近したときにちょことこ〜っとして頂戴したってわけさぁ。ついでに触ってみたが、いやいや中々の腰周りだったねぇ、ウヒョヒョ」
ルパンは下品な――少なくともシグナムにはそう見えた――笑いを浮かべ、それを改めて腰に挿す。
それに対して、当然ながら拳銃をくすねられ、あまつさえ挑発されたシグナムが黙っているわけが無かった。
「……大人しく刀の錆になるがいい!!」
「あぁ、そっちこそ精々その綺麗な顔に風穴開けないように頑張ってくれよぉ!」
橋の上での戦いは、再び幕を開けた。
137D-3ブリッヂの死闘 ◆lbhhgwAtQE :2007/01/05(金) 21:07:02 ID:ThBa/bl4
橋にて死闘が繰り広げられようとしている中。
その橋の方向へとトラックを走らせていたヤマト一行にも変化が見られた。
「な、何やってるんだ!? 危ないだろ!」
ヤマトが驚くのも無理はなかった。
後部座席に座っていた長門が急に立ち上がったかと思うと、彼女は急に助手席に移動し始め、その座席の上に足を乗せ、フロントガラスのフレームに手をかけるようにして立ち上がったのだから。
「…………うほっ、これは……いい純白……げふ……」
助手席の上に足を乗せたということは、元々そこにいた豚を跨ぐということであり、その豚はぐったりしながらも、目の前に広がる光景を堪能していた。
だが、当の長門はそんなことお構い無しのように、立ち上がったまま正面を見据える。
「急にどうしたんだ? そんな目の前を凝視して……」
自身が運転中であるため、ずっと横を見ているわけにもいかず、ちらちらと横目に気にしながらヤマトは問う。
すると、長門は淡々と答える。
「……正面から、涼宮ハルヒらしき人物とその他一名がこちらに向かってきているのを確認した」
「涼宮ハルヒって……確か君が探している人だよな。……ん? あれか……?」
正面を改めて見ると確かに、歩道のあたりに人影らしきものが見えた。
だが、ヤマトにはそれが誰か、男か女か、こちらに向かっているのか遠ざかっているのかすら特定することが出来なかった。
「なぁ、あれが本当に……」
「あれは涼宮ハルヒ。容姿だけを見れば間違いない。こちらに……この通りを東方に向かってる。……可能であれば彼女とこの車で合流して保護したい」
「あ、あぁ。その人が俺達に危害を加えるような事がなければ構わないけど……」
「それじゃ、速度を上げて。いち早く、彼女が本物かどうか確認したい」
言葉からは相変わらず感情のようなものが汲み取れないが、彼女がそのハルヒという友人を心配している様子はその言葉の端々から分かる。
「……了解!」
いくらついさっき知り合ったばかりの同乗者とはいえ、友人を想う人の言葉を無碍にするほど落ちぶれてはいない。
ヤマトは合意の言葉と共にペダルを今まで以上に踏み込み、トラックを加速させた。


ハルヒはアルルゥを連れて必死に逃げた。
ルパンと襲撃者が対峙しているであろうその橋から東に向かって。
「アルちゃん、ほら急いで! 早く、あの公園に戻るわよ!」
「……ハルヒおねーちゃん……ルパン大丈夫?」
アルルゥが立ち止まり、橋のある後方を振り返る。
「……ルパンが死んじゃうのいや。ハルヒおねーちゃんもおねーちゃんもトウカおねーちゃんも死んじゃいや。おとーさんとカルラおねーちゃんと同じになっちゃうのいや」
「アルちゃん……」
ハルヒは、アルルゥが先ほどまで拒絶していたハクオロとカルラの死を、今は受け入れているということに気づいた。
そして、彼女はそんな少女の頭を撫でながら、しっかりした口調で答えた。
「勿論、大丈夫に決まってるわ! あいつはあたしがSOS団の団員にわざわざ任命してあげたのよ! SOS団団員である以上、あんな所でやられるようなへまはしないに決まってるでしょ!」
「……本当?」
「え、えぇ! この団長が言うんだから間違いないわ!」
口ではしっかりとそう言うものの、彼女の脳裏では一抹の不安も無い、といえば嘘になる。
確かにルパンは自分が無我夢中で襲ってきたときも至極冷静に対応していたし、そういったことに慣れている人種に見える。
だが、だからといって襲撃者相手に一人で立ち向かって十割勝てるなどという保証は無いのだ。
こういった戦闘においては、何より戦闘要員の頭数が重要になってくる。それは古今東西の兵法でも言われてきている常識。
だからこそ、こういう時にさっさと怪我をして足手まといになってしまった自分の無力さが悔しかった。
もし、自分がただの女子高生ではなく、宇宙人未来人超能力者やそれに準ずる存在で何かしらの力があったら、もう少し戦闘の役に立ったかもしれない。
矢が刺さるなどというへまを犯さずに、襲撃者に共に立ち向かえたかもしれない。
そう、何か力があれば、今すぐにでも彼を助けに……。
「ハルヒおねーちゃん……あれ何?」
彼女がそんな事を考えていたまさにその時だった。
ハルヒとアルルゥと目に自分達のほうへと猛スピードで近づいてくる車のようなものが映ったのは。
そして、それと同時にハルヒの目にはトラックから身を乗り出すようにしている見知った顔も飛び込んでくる。
「……あれは……有希?」
138D-3ブリッヂの死闘 ◆lbhhgwAtQE :2007/01/05(金) 21:08:49 ID:ThBa/bl4
二人組のそばの歩道にトラックを横付けすると、長門が素早くそこから飛び降る。
こちらに向かってきていた二人組はそんな長門に駆け寄った。
「有希!! あんた無事だったのね!」
二人組の内の年上の少女、ハルヒが長門の腕を掴んで歓喜の声を上げる。
だが、そんな彼女とは対称的に長門は無表情のままだ。
「……私は問題ない。……そこの子供は?」
長門の視線は、ハルヒの背後に隠れるようにしていたメイド服姿の少女、アルルゥへと向いていた。
「あぁ、この子? この子はね、アルちゃんって言ってね、我がSOS団の特別団員兼マスコットになってもらおうと思ってるのよ!」
「…………うー」
ハルヒが紹介したにも関わらず、アルルゥは相変わらず長門やトラックに乗るヤマト達を警戒する。
元々、人見知りの激しい性格なので当たり前といえば当たり前かもしれないが。
「――って、のん気に紹介している場合じゃないのよ! 今ちょっと大変なことになってるの!」
ハルヒが再会の喜びも醒めぬうちに、何やら不穏な話をしようとし始めた時。
運転席のほうから彼女を見ていたヤマトはふとその腕に何かが刺さり、その周囲の袖部分が赤黒く変色していることに気づいた。
「……ちょっと待ってくれ! ……よく見たら、腕に何かが刺さってるじゃないか! それどうし――」
「人の話をちゃんと聞きなさい! いい? 私はさっき、この道の先にある橋で変な女に襲われたの! これもその時に弓矢で射られて……」
「大変じゃないか! 早くどこかでそれを抜いて治療しないと……!」
しかし、ハルヒは首を横に振る。
「私のことは今は置いておいて! それよりも、私達の仲間が橋でまだその女と戦ってるの! だから助けに行かなくちゃ!」
「助けに……って、まさか俺達も行くのか!?」
「当然でしょ! 運転手はあなたなんだから! ……有希、この車に何か使えそうな武器はある?」
「……対戦車擲弾発射器のRPG-7や大口径拳銃のS&W M19なら一応」
他にも不思議な道具がいくらかあったが、それらは戦闘時の有用性があるか不明瞭だったので、長門はあえてハルヒに教えない。
だがそれでも、それらの武器は彼女がルパンを助ける為に必要な“力”としては満足のいくものだった。
「対戦車擲弾発射器って確かグレネードなんたらと同じようなもんよね……。それに拳銃……。上等だわ! それじゃ早速行きましょう!」
「上等って……まさか、これを使う気か!? こんな使ったことも無い物、そう易々と使えるはずが……!」
「問題ない。私が使える」
「おい、そんな事言って……」
「どのみち病院へ行くには、あの橋を渡らないと遠回りになる。……それに涼宮ハルヒがそう言うのであれば、私はそうしたい」
長門が無表情のまま、あっさりと答える。
ヤマトは口を開けてぽかんとしてしまうが、対するハルヒはもう止まらなかった。
「はいっ! そういうわけだから、早速出発するのよ! 団長命令よ!」
「団長命令って何だよ!?」
「勿論、SOS団のことよ! あなたもSOS団専属ドライバーとして特別に団員認定してあげるんだから感謝しなさい!」
そう言いながらトラックのドアを開けると、ぐったりしていた豚のような小柄な物体を端に追いやりハルヒは強引に助手席に座る。
「……おい、そこは私の席だぞ……ぐふ」
「……え? な、何これ。非常食かと思ったら喋るの!?」
「ひ、非常食っ!? げほ……ば、馬鹿者、私は救いのヒーロー……その名もぶりぶり――」
「ほら、アルちゃんも後ろに乗って!」
「…………ん!」
「おい、無視する……な……」
今まで陰に隠れるようにしていたアルルゥもハルヒに促され、長門が開けたドアから後部座席へと滑り込む。
すると、後部座席には既に白い髪に黒い服の少女が目を閉じたまま座っていた。
「……眠ってる?」
「それは……追々ちゃんと説明する」
その言葉に、いやがおうにもあの時の光景を思い出すがヤマトは決して逃げることはなかった。
そして全員を乗せたことを確認すると彼は、ハルヒに今一度尋ねる。
「橋はこのまままっすぐでよかったんだよな?」
「そうよ。なるべく急いで!」
「分かった。舌を噛まない様にしてくれよ!」
どのみち橋は渡る必要があるし、行く気満々のハルヒと長門を捨ててまで逃げることは彼には出来なかった。
ヤマトは視線を正面に戻すとサイドブレーキを下ろし、アクセルペダルを踏んだ。
139D-3ブリッヂの死闘 ◆lbhhgwAtQE :2007/01/05(金) 21:11:38 ID:ThBa/bl4
【E-4 道路 1日目 朝】

【新生SOS団 団長:涼宮ハルヒ】
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:左上腕に矢(刺さったまま)
[装備]:73式小型トラック(助手席)、小夜の刀(前期型)@BLOOD+
[道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
[思考・状況]
基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。
1、橋に戻り、ルパンを助ける
2、病院で腕を治療してもらう
3、着せ替えカメラを駆使し、アルルゥの萌え萌え写真を撮りまくる。
[備考]
矢は刀によって極力短く切られた状態にされていますが、出血を抑える目的で依然刺さったままになっています。

【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:人見知りモード、SOS団特別団員認定
[装備]:73式小型トラック(後部座席)、ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服
[道具]:無し
[思考・状況]
1、おとーさん……
2、ハルヒ達に同行しつつエルルゥ等の捜索。

【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人をはね殺したことに対する深い罪悪感、右腕上腕打撲、相次ぐ精神的疲労、SOS団特別団員認定
[装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
 RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
 デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
 真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考・状況]
1:橋へと急行する。
1:病院へ行ってぶりぶりざえもんとハルヒの治療
2:ハルヒとアルルゥにグレーテルのことを説明。
3:街へ行って、どこかにグレーテルを埋葬してやる
4:八神太一、長門有希の友人との合流
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
[備考]
ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
また、参加時期は『荒ぶる海の王 メタルシードラモン』の直前としています。
額からの出血は止まりましたが、額を打ち付けた痛みは残っています
140D-3ブリッヂの死闘 ◆lbhhgwAtQE :2007/01/05(金) 21:12:55 ID:ThBa/bl4
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒。激しい嘔吐感。……少し幸福感。SOS団非常食扱い?
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手席)
[道具]:支給品一式 ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー
    クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り四回) パン二つ消費
[思考・状況]
基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
1、救い料……今なら還元セール中で99億万円…………ボーナス一括払いも可……tgyふじこぉlp;
2、白……それは穢れなき証拠…………
3、強い者に付く
4、自己の命を最優先
[備考]
黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。

【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康、思考に微妙なノイズ、SOS団正規団員
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/タヌ機/S&W M19(残弾6/6)
[思考]
1、涼宮ハルヒの意向には極力従う
1、ヤマトたちに付き合い、ハルヒ及びぶりぶりざえもんの治療。できれば人物の捜索も並行したい
2、SOS団のメンバーを探す/八神太一を探す/朝倉涼子を探す
[備考]
指紋声紋血液型等を照査した結果、ここにいる涼宮ハルヒを本人と判断しました。

[共通備考]:トグサが現在マウンテンバイクでトラックを追いかけてきていますが、速度はトラックのほうが数段上なので、まだ追いついていません。
[共通思考]:市街地に向かい、グレーテルを埋葬するのに適当な場所を探す。
[共同アイテム]:ミニミ軽機関銃、おにぎり弁当のゴミ(どちらも後部座席に置いてあります)
141D-3ブリッヂの死闘 ◆lbhhgwAtQE :2007/01/05(金) 21:14:07 ID:ThBa/bl4
【D-3 橋の上 1日目 朝】

【ルパン三世@ルパン三世】
[状態]:健康、SOS団特別団員認定
[装備]:ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾14/16)、コルトガバメント(残弾7/7)
    マテバ2008M@攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(弾数0/6)
[道具]:支給品一式、エロ凡パンチ・'75年4月号@ゼロの使い魔
[思考・状況]
基本:主催者打倒
1、とりあえずシグナムを何とかする(もう殺害も厭わない)
2、1の遂行後、ハルヒとアルルゥと合流し、彼女らを守り通す。
3、他の面子との合流。
4、協力者の確保(美人なら無条件?)
5、首輪の解除及び首輪の解除に役立つ道具と参加者の捜索。

【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:やや感情的 背中負傷(処置済)、両腿と右手甲に銃創(貫通・未処置)/騎士甲冑装備
[装備]:ディーヴァの刀@BLOOD+
     クラールヴィント(極基本的な機能のみ使用可能)@魔法少女リリカルなのはA's
     凛の宝石×3個@Fate/stay night
     鳳凰寺風の弓(矢21本)@魔法騎士レイアース
[道具]:支給品一式、ルルゥの斧@BLOOD+
[思考・状況]
基本:自分かヴィータを最後の一人として生き残らせ、願いを叶える
1:ルパンを何としても殺害する
2:その後は無理をせず、殺せる時に殺せる者を確実に殺す
3:ヴィータと再会できたら共闘を促す
[備考]
シグナムは列車が走るとは考えていません。
放送で告げられた通り八神はやては死亡している、と判断しています。
ただし「ギガゾンビが騎士と主との繋がりを断ち、騎士を独立させている」という説はあくまでシグナムの推測です。真相は不明。
142 ◆lbhhgwAtQE :2007/01/05(金) 21:54:43 ID:ThBa/bl4
>>141におけるルパン三世の装備について修正します。

誤:ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾14/16)

正:ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾13/15)
143 ◆lbhhgwAtQE :2007/01/05(金) 21:56:43 ID:ThBa/bl4
>>142を更に修正します。

誤:ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾13/15)

正:ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾12/15)

度々の修正、申し訳ありませんでした。
144たとえ道が見えなくとも ◆7jHdbD/oU2 :2007/01/05(金) 23:00:22 ID:jKwSlaF9
木漏れ日に照らされながら、赤を基調とした衣装の魔法少女、カレイドルビーこと遠坂凛は溜息を吐いた。
凛はその背を大木に預け、パンを一口齧る。
不味い。
そう感じるのは、パンに何の味付けもされていないためだけではない。
僅かなパンを飲み込むのすら苦痛だ。水を含むことで流し込む。水が滑っていく感触だけは心地よい。
少しでも気を紛らせるために食事を摂ろうとしたのだが、そんな効果は全く得られそうになかった。
溜息を、もう一つ。
それから目を逸らすように、凛は目だけで隣を見る。そこには、眼鏡の少年が膝を抱えている。
彼、野比のび太は全ての水分を失ってしまいそうなほどに泣き続けていた。
「……あなたも食べなさい」
パンを半分に割り、差し出してみる。
しかしのび太はしゃくり上げるだけで、振り返ることも返事をすることもなかった。
無理もないと凛は思う。
2度も、目の前で友達が殺された。
それ以外にも、彼の知り合いの死が告げられたのだろう。
先ほど放送で呼ばれた名前を、のび太は時折呟いては悲しみに染まった声を上げていた。
残酷で悲惨で理不尽で。
それでいて殺意と恐怖と狂気に彩られた現実。
のび太のような子供が受容するには、余りにも苛烈なものだ。
こんなとき、彼ならどうするのだろうと凛は考える。
彼、衛宮士郎ならどうするのだろうと。
すぐに答えは見つかる。考えるまでもないほど、あっさりと。
お人好しという言葉では足りないほどに人が好すぎる士郎のことだ。
絶対に保護し、守り抜こうとするだろう。たとえその身に危機が及ぼうと、構うことも恐れることもなく。
145たとえ道が見えなくとも ◆7jHdbD/oU2 :2007/01/05(金) 23:02:32 ID:jKwSlaF9
――そんなのだから、死んだのよ。
胸中で毒づきながら、溜息を更に重ねる。
士郎の死に、思う以上の影響を受けているような気がした。
泣いてなんかやらない。そもそも悲しくなんてないんだ。泣いてなんか、やるもんか。
凛は唇を噛み締める。認めたくない悲しみに引っ張られてしまいそうだったから。
凛は強く瞼を閉ざす。滲み出てきそうな涙を押し戻そうとするかのように。
だが、そうしたせいで。
瞼の裏に、見たくもない士郎の顔が浮かんできて。
胸の奥に、聞きたくない士郎の声が響いてきて。
そのせいで、瞳の奥が、胸の底が締め付けられるような感覚が襲ってきて。
「――――ッ……」
それら全てを吐き出そうとするように、凛は息を吐く。深く、深く息だけを吐く。
悲しくないと、辛くないと、苦しくないと自分に言い聞かせながら。
そうでもしないと、自分の中の何かが壊れてしまいそうだった。
『仮マスター。ちょっと、よろしいでしょうか?』
不意に、レイジングハートが声を掛けてくる。慰めてでもくれるのだろうかと思いながら目を開け、宝玉を見る。
「何?」
『シグナムと交戦したときのことですが――』
「あらぁ? もしかして泣いてるのぉ?」
レイジングハートを遮り、別の声が後ろから聞こえた。
それが聞き覚えのある声だったから、凛は警戒することもなくそちらに視線を移す。
「……別に。泣いてなんかいないわ」
声の主、水銀燈の方を見ることなく凛は答える。
無意識で手に力を込めていたらしく、潰れていたパンを口にすると、少しだけ血の味がした。
「知り合いが死んだんでしょう? 少しは悲しそうな顔をしたらぁ?」
水銀燈の声は、情けや哀れみというよりもからかいに近いものだった。
だから、凛は少しだけ水銀燈を睨んでやる。視線の先、水銀燈は宙に浮き、見下ろすように凛を見つめていた。
何かを言い返そうとしたとき、別の声が聞こえてきた。
「お姉さんも……?」
膝を抱えて泣く、少年の声だった。
146たとえ道が見えなくとも ◆7jHdbD/oU2 :2007/01/05(金) 23:05:30 ID:jKwSlaF9
◆◆

のび太は抱えた膝に顔を埋め、枯れない涙で顔中を濡らしていた。
むせび泣く彼の中にあるのは、絶望と悲哀と喪失感の濁流だ。
逃げ出すことも、目を背けることさえも不可能なほどに圧倒的で巨大な感情。
飲み込まれる度に、浮かんでくるのは僅かの間でも共に過ごした人たち。
潰される度に、思い起こされるのは死んでいった人たち。
いっぱい、死んだ。
しずかちゃんから始まって、キートンさんに、銭形さんに、車椅子の女の子に、スネ夫に、先生。
みんな死んでしまった。
こんなことになるなんて、のび太は想像したこともなかった。
スネ夫を憎んだことはあった。いつも自分だけを仲間外れにする、スネ夫を憎んだことはあった。
でも、死んで欲しいなんて思ったことは一度もなかった。
先生を怨んだことはあった。いつも怒ってばかりの先生を、怨んだことはあった。
でも、死んで欲しいなんて思ったことは一度もなかった。
そして、のび太は静香のことを好きだった。優しくて、可愛らしい静香のことを、大好きだった。
でも、彼女は死んでしまった。
みんな、みんな、みんな、死んでしまった。
死んで欲しいなんて思ったこと、一度たりともなかったというのに。
「……あなたも食べなさい」
声が掛けられても答えられない。反応する気力もない。
ただ、投げかけられた言葉の意味だけを、のび太は考える。
そうすることで、少しでも濁流から逃れようとするかのように。
食べる? 何のために? どうして? お腹なんて空いてないのに。こんなに気持ち悪いのに。
いらない。食べ物なんていらない。
いらない、いらない、いらない。
何もいらない。何も欲しくない。
そうだ。何も持っていなければいい。持っていなければ失うこともない。失うことがなければ、悲しむこともない。
のび太は少しだけ目を動かしてみる。
漫画に出てくる魔法少女のような格好をした女の人、矢に貫かれたのび太の足を治療してくれた人がいる。
彼女は、真っ黒い羽を生やした人形と何か話をしていた。
それを見てのび太は思う。
この人たちと一緒にいてはいけない、と。
一緒にいて仲良くなってしまったら、失うことが怖くなる。また悲しみが増えていってしまう。
それは嫌だった。こんな悲しみに呑み込まれるのは、もう嫌だった。
だが、それなのに。
のび太の体は、動いてくれなかった。足の痛みも引いているはずなのに、体が言うことを聞いてはくれなかった。
動こうとする意思そのものが飲み込まれてしまったかのようだった。
どうしようもない無力感に、のび太は打ちひしがれる。
それに耐えかねて、彼は心中で名前を呼ぶ。いつも自分を助けてくれる、未来からやって来たロボットの名前を。
147たとえ道が見えなくとも ◆7jHdbD/oU2 :2007/01/05(金) 23:08:26 ID:jKwSlaF9
――ドラえもん、助けて。ねえ、ドラえもん。お願いだから、助けてよ。

そんなことをしても、答えは返ってこない。聞きなれた声が届いてくるはずがない。
代わりとでもいうように、のび太は一つの声を聞いた。それは、嘲笑うようにして人形が放った声。
「知り合いが死んだんでしょう? 少しは悲しそうな顔をしたらぁ?」
のび太に投げかけられたわけではないその言葉に、彼の動きと思考が停止する。
知り合いの死。
そのフレーズに、のび太は敏感に反応した。
「お姉さんも……?」
力なくぼそりと尋ねると、魔法少女、遠坂凛の視線がのび太へと向けられた。
彼女は一瞬、驚いたように目を見開いていた。だがすぐに、凛はのび太から視線を少しだけ逸らす。
「放送を聞く限り、どうやらそうみたいね」
肯定する凛の声音は、どことなく弱々しいように感じられた。
「……友達?」
尋ねてみる。それが不躾な質問だと自覚せずに。
もしも彼女が自分と同じ境遇にあるのなら、話をしてみたいと思ったから。
無力で何もかもを怖がる自分に、失うことを恐れる自分に、何か道が与えられることを期待して。
のび太の視線の先、目を伏せた凛は考えるように腕を組んでいる。
数秒の間の後、彼女は小さく頷いた。
「そうね。友達、だったんだと思う」
その返答に、のび太は少しだけ安心する。自分だけではないという事実がのび太を僅かに落ち着かせた。
「僕と同じだ。……悲しいよね」
「か、悲しくなんてないわよ!」
反射的な凛の返答に、のび太は目を丸くする。
悲しくないはずがないのに。友達を失って、悲しくないはずがないのに。
「どうして? もう、会えないんだよ?」
もう会えない。自分で言ったその言葉に、のび太は胸からまた悲しみが込み上げてくるのを感じる。
それがもたらす涙で滲んだ視界の先、凛は小さく溜息を吐いた。
「悲しんでいる暇なんてないからよ」
凛は空を見上げた。先刻、ギガゾンビの姿が大写しになっていた空を。
「そんな暇があるなら、あいつを叩きのめす方法を探さなきゃならない。
 殺し合いを見世物にして楽しんでるあいつを、私は許せない。あなただって、そうでしょう?」
148たとえ道が見えなくとも ◆7jHdbD/oU2 :2007/01/05(金) 23:10:36 ID:jKwSlaF9
のび太は押し黙る。
確かに、ギガゾンビのことは許せない。許すことなど、絶対に出来はしない。
ギガゾンビが静香を殺したときの激昂を、のび太は鮮明に覚えているし、そのときに言い放ったことを忘れてなどいない。
だがそれでも。
のび太は無力だと実感していた。何をやっても駄目な自分が、ギガゾンビを倒せるわけがない。
多くの死が、のび太の怒りや戦意を削り取っていた。
「そうだけど……そんなの、出来るわけないよ」
のび太は思い出す。23世紀の人間であるギガゾンビには、ドラえもんの道具が通用しなかったということを。
タイムパトロールの介入なしで、ギガゾンビを倒す方法などのび太には思いつかなかった。
「そう。あなたの決意はその程度のものだった、ということね。
 あの仮面男に向けて殺してやると言っていたあなたに、少しは期待していたんだけど」
失望したような凛。それを聞いて、のび太は苛立ちを覚えた。
それをぶつけるように、彼は叫んで反論する。
「お姉さんはギガゾンビのことを何も知らないからそう言えるんだ!」
凛の顔が悔しげに歪んだ。そんな彼女の口から出たのは、のび太に触発されたかのような怒鳴り声だ。
「ええ、知らないわ! だからさっさと教えなさい! あのふざけた男のことを! あんたの知ってることを何もかもを!!」
凄みのある叫びだった。それが怖くて、のび太は身を引いてしまう。
苛立ちは、情けなさに変わった。
「……ごめん」
俯き、凛がぼそりと謝る。その姿を見て、のび太はなんとなく納得した。
やはり、彼女は今の自分と似ている、と。
友達を亡くし、本当は悲しくて、悔しくて。
でもどうすればいいのか分からなくて、どうしようもなくて、そのことに腹が立って、情けなくて。
「ギガゾンビは、タイムパトロールに逮捕されたはずなんだ……」
だから、のび太は語ることにした。
そうすることで、何か道が見えるような、そんな気がした。
149たとえ道が見えなくとも ◆7jHdbD/oU2 :2007/01/05(金) 23:13:07 ID:jKwSlaF9
◆◆

のび太の話を聞き終えた凛は、何度目かになる溜息を禁じえなかった。
魔術ではなく魔法の領域に当たるような話だと、凛は改めて思う。
「充分に発達した科学は魔法と見分けがつかない、ってヤツかしらね」
クラークの三法則を思い出しながら、凛は思う。
その頃の魔術体系がどうなっているのだろう、と。
科学技術が魔術を引き離し、魔法と呼ばれる領域にまで昇華されたのか。
あるいは、それだけのことを魔術として再現が可能になっているのか。
興味深いことだが、今はそれどころではないと凛は思考を切り替える。
少なくとも、凛にとって23世紀の技術どころか、22世紀の技術も魔法と呼んで差し障りない。
それに対応するだけの手段は、魔術師である彼女は持ち合わせていなかった。
「一筋縄ではいかないわね……」
『タイムパトロールというのは、時空管理局に類する組織のようですね』
レイジングハートの意見に、凛は思考する。
ギガゾンビの世界における科学技術は、レイジングハートの世界における魔法体系に近いものがあるかもしれないと思う。
とはいえ、まだ結論を出すには情報が足りなさ過ぎる。特に、23世紀の科学技術については何も分からないと言っていい。
電子機器全般が苦手な凛にとって、科学技術は守備範囲外だ。専門家の見解を得たいところだった。
科学技術の知識を持つ者と、凛が持つ魔術の知識を照らし合わせれば、首輪の無効化を始めとしてギガゾンビへの対抗手段が見つかるかも

しれない。
科学技術の知識がありそうな参加者は、のび太の言うドラえもんなるロボットだろう。
22世紀の技術を用いて作られたロボットが23世紀の技術を理解できるとは思えないが、他に心当たりも無いのだ。そこを当たるしかないだ

ろう。
「探す相手が増えたわね。のんびりしてなんていられないわ。水銀燈、このあたりの様子は?」
尋ねると、それまでの話に興味なさそうにしていた水銀燈が首を上げた。
「北には向かわない方がいいわねぇ。前に私を襲ってきた青蜘蛛が飛んでいったわぁ。
 あと、緑色の髪をしたポニーテールの女に襲われたわぁ。なんとか追い返してやったわぁ。これは戦利品よぉ」
水銀燈はデイバックを掲げる。凛が手を伸ばすと、水銀燈はそれを手渡した。
中に入っているのは少し消耗した水と食料に支給品一式。
そして手斧、ロケットランチャー、原動機付き自転車、よく分からないロボットの玩具だった。
凛にとって必要なものは特に見当たらない。
「接近戦になったときのために、斧は使わせてもらうわよぉ」
水銀燈の要求に、凛は頷いて斧を渡す。それ以外はバッグの中にしまったままで、のび太に差し出した。
「使いこなせそうな武器はないけど持ってなさい。水や食べ物も入ってるわ」
「僕に、くれるの?」
凛の行動に、のび太は驚きを見せる。それに構わず、凛はデイバックを押し付けた。
「弾切れの銃の他に何もないんじゃ不安でしょ」
素っ気ない凛をからかうように、水銀燈がくすくすと笑う。
横目でそちらを見ると、水銀燈は悪戯っぽく首を傾げた。
「私も斧の他に何もないんだけどぉ?」
「あんたは私から魔力供給を受けてるでしょう」
150たとえ道が見えなくとも ◆7jHdbD/oU2 :2007/01/05(金) 23:15:38 ID:jKwSlaF9
口を挟んでくる水銀燈を軽くあしらうと、凛は立ち上がって服に付いた土を軽く払う。
まだこの衣装には慣れないが、苦笑いが浮かぶような余裕はなかった。
「で、その襲ってきた女は何処へ行ったの? 魔術とか、そういうものを使ってきた?」
「何も使ってこなかったわぁ。逃げた先は南ねぇ。市街地へ向かったんじゃないかしらぁ。
 支給品を取り戻しに来るかもしれないし、待ち伏せした方がいいと思うけどぉ?」
水銀燈の提案に、しかし凛は首を横に振って却下する。
「戻ってくるかどうか分からない相手をゆっくり待っている時間はないわ。
 特殊能力がないなら、放っておいても安全よ。私たちは探すべき参加者を探しましょう」
「……あなたがそう言うなら、従うけどぉ」
少し不機嫌そうにする水銀燈に何も声をかけず、凛は残ったパンをデイバックに戻してそれを背負いなおす。
行動は迅速に行わなければならない。知識を持った参加者が殺されてからは遅いのだ。
「何やってるのよ。早く立ちなさい。もう歩けるでしょ?」
だから、座ったままののび太を凛は急かす。しかし、彼は腰を上げることも、口を開くこともなかった。
「まさか、まだ何も出来ないとか思ってるんじゃないでしょうね?」
のび太が、凛から視線を逸らす。まるで、答えることを拒否するかのように。
凛は再び座り込み、のび太と目の高さを合わせる。恐怖や疲労、絶望の残る表情が見えた。
そっと、その頬に触れる。
幾本もの涙の跡が走るのび太の頬は、温かかった。
「安心なさい。私は死なないし、あなたも死なせない」
のび太の視線が、ゆっくりと凛へと戻ってくる。そこへ、凛は微笑みを送った。
「そのために、私は行動するの」
自分が随分素直になっていることを、凛は自覚する。だが不思議と、そのことに恥ずかしさを感じなかった。
「お姉さん……」
「だから、行きましょ。まだ友達、生きているんでしょう? なら、やるべきことは残っているはずよ」
のび太の瞳に、涙が生まれていく。
凛がそれを拭おうとするよりも速く、のび太が自分で涙をふき取った。
涙は、零れ落ちなかった。
のび太は立ち上がる。
自分の足で、確かに立ち上がる。
歩き出すために。たとえ道が見えなくとも、やるべきことをやるために。
「ありがとう、お姉さん。僕も動いてみるよ。一緒に、連れて行ってくれる?」
断る理由など、凛にはない。満足げに頷いて、彼女も立ち上がった。
「聞くこと聞いたんだし、放っておけばいいのにぃ。お人好しねぇ」
水銀燈が耳元で囁いてくる。なんだか、士郎と同じと言われているような気がした。
「う、うるさいわね」
手を振って水銀燈を追い払うと、のび太が隣に並んできた。
「そういえば、まだお礼言ってなかったよね。ありがとう、えっと――」
「……カレイドルビーよ」
名乗りながら、凛は心の中で盛大な溜息を吐いた。
そしてふと、思い出す。カレイドルビーとなる原因となった杖、レイジングハートが先ほど何か言っていたことを。
「レイジングハート。さっき言いかけてたこと、何だったの?」
『……いえ。何でもありません。お気になさらず』
赤い宝玉が、朝の日差しを照り返す。
そこから聞こえる声は、重々しいものだった。
151たとえ道が見えなくとも ◆7jHdbD/oU2 :2007/01/05(金) 23:18:13 ID:jKwSlaF9
【B-6山中の森・1日目 朝】
【魔法少女カレイドルビーチーム】
【遠坂凛(カレイドルビー)@Fate/ Stay night】
[状態]:魔力消費(小)/カレイドルビー状態/水銀橙と『契約』
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(バスターモード)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式(パン0.5個消費 水1割消費)、ヤクルト一本
[思考]
1:高町なのはを探してレイジングハートを返す。
2:ドラえもんを探し、詳しい科学技術についての情報を得る。
3:アーチャーやセイバーがどうなっているか、誰なのかを確認する。
4:知ってるセイバーやアーチャーなら、カレイドルビーの姿はできる限り見せない。
5:自分の身が危険なら手加減しない。可能な限りのび太を守る。
[備考]:現在、カレイドルビーは一期第四話までになのはが習得した魔法を使用できます。
    ただしフライヤーフィンは違う魔術を同時使用して軟着陸&大ジャンプができる程度です。
    緑の髪のポニーテールの女(園崎魅音。名前は知らない)を危険人物と認識。

【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:消耗(小)/服の一部損傷/『契約』による自動回復
[装備]:ヘンゼルの手斧@BLACK LAGOON、透明マント@ドラえもん
[道具]:なし
1:カレイドルビーとの『契約』はできる限り継続、利用。最後の二人になったところで殺しておく。
2:カレイドルビーの敵を作り、戦わせる。
3:真紅達ドールを破壊し、ローザミスティカを奪う。
4:青い蜘蛛はまだ手は出さない。
5:バトルロワイアルの最後の一人になり、ギガゾンビにメグの病気を治させる。
[備考]:凛の名をカレイドルビーだと思っている。
    透明マントは子供一人がすっぽりと収まるサイズ。複数の人間や、大人の男性では全身を覆うことできません。
    また、かなり破れやすいです。
    透明マントについては凛にものび太にも話していない。

【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:喪失に対する恐怖/左足に負傷(走れないが歩ける程度に治療)
[装備]:ワルサーP38(0/8)
[道具]:USSR RPG7(残弾1)、ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)
     スーパーピンチクラッシャーのオモチャ@スクライド、支給品一式(パン1つ消費、水1/8消費)
[思考]
1:カレイドルビーと共にドラえもん、ジャイアンを探して合流する。
2:なんとかしてしずかの仇を討ちたい。
[備考]:凛の名をカレイドルビーだと思っている。

水銀燈の『契約』について
厳密に言うと契約ではなく、水銀橙の特殊能力による一方的な魔力の収奪です。
凛からの解除はできませんが、水銀橙からの解除は自由です。再『契約』もできます。
ただし、凛が水銀橙から離れていれば収奪される量は減ります。
通常の行動をする分には凛に負荷はかかりません。
水銀橙が全力で戦闘をすると魔力が少し減少しますが、凛が同時に戦闘するのに支障はありません。
ただしこれは凛の魔力量が平均的な魔術師より遥かに多いためであり、魔力がない参加者や
平均レベルの魔力しかない魔術師では負荷が掛かる可能性があります。
逆に言えば、なのは勢やレイアース勢などは平気です。
状態表の時間の修正と、凛の状態表を以下のように修正、追加します。

【B-6山中の森・1日目 午前】
【魔法少女カレイドルビーチーム】
【遠坂凛(カレイドルビー)@Fate/ Stay night】
[状態]:魔力消費(小)/カレイドルビー状態/水銀橙と『契約』
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(バスターモード)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式(パン0.5個消費 水1割消費)、ヤクルト一本
[思考]
1:高町なのはを探してレイジングハートを返す。
2:ドラえもんを探し、詳しい科学技術についての情報を得る。
3:アーチャーやセイバーがどうなっているか、誰なのかを確認する。
4:知ってるセイバーやアーチャーなら、カレイドルビーの姿はできる限り見せない。
5:自分の身が危険なら手加減しない。可能な限りのび太を守る。
[備考]:現在、カレイドルビーは一期第四話までになのはが習得した魔法を使用できます。
    ただしフライヤーフィンは違う魔術を同時使用して軟着陸&大ジャンプができる程度です。
    緑の髪のポニーテールの女(園崎魅音。名前は知らない)を危険人物と認識。
    レイジングハートは、シグナム戦で水銀燈がスネ夫をかばうフリをして見捨てたことを知っており、水銀燈を警戒しています。
153峰不二子の退屈 ◆/1XIgPEeCM :2007/01/06(土) 00:22:52 ID:hyZ+//mm
G-1の東側に立ち並ぶ民家の内の一つに、潜伏する一人の美女、峰不二子がいた。
電車を利用し、エフイチ駅に降り立って早々、爆発音が響いてきたのだ。
当然、厄介事などできれば御免だった不二子は、一目散に駅から脱出し、
数百メートル走ったところで目に付いた民家に飛び込み、休憩も兼ねてこれからのことを考えるのであった。
とは言うものの、考えるだけ無駄のようなものだった。
どうすればリスクを少なくして、他の参加者と出会うことができるか。
あの時破壊された観覧車や、爆発音のあった方に行っていれば、嫌でも誰かと会えただろう。
だが、その誰かがこの殺し合いに乗っている可能性も高いという諸刃の剣。
会場の中心の方へ行けば人も沢山いるだろうが、それ故争いも多くなることは必至。危険な目に遭う確率は高し。
しかし、安全圏だと思っていた会場の端の方ですら、例外ではなかった。不二子はそれを先程の駅での出来事で身をもって知らされたのだ。
結局、どれを取っても多少のリスクは付き纏うこととなってしまう。
出会いを求めるならば、もっと大胆な行動が必要となってくるだろう。
思えば、今の自分は危険なことから逃げてばかりなのかもしれない。
いっそのこと、終始一人で行動してしまおうか。なんて考えも浮かんだが、それだと不二子の最終目標である脱出はまず不可能だ。
たった一人の手でこのゲームから脱出できるほど、不二子は天才でも超人でもない。それは恐らく他の者も同じだろう。

結論が出ないまま、だらだらと時間が過ぎて行く。不二子はこれまでにない歯痒さを感じていた。
ふと、今自分がいる二階の一室の窓から外の様子を見ると、空はすっかり明るくなっている。
エフイチ駅を出た時はまだ随分と暗かったが、何時の間にこんなに時間が経ってしまったのだろうか。

そんな時だ。
眼前にギガゾンビの顔が浮かび上がる。
放送が、始まったのだ。

次々と羅列される死者の名前。
その総数、19名。

「五ェ門と銭形警部が……!?」
放送が終わった後、不二子は動揺を抑えることができなかった。
石川五ェ門と言えば、斬鉄剣さえあれば天下無敵と言っても過言では無いほど剣の腕に優れている実力者。
銭形警部と言えば、ルパンと並びゴキブリのようなしぶとさと生命力を持ち合わせ、ルパンを捕まえるためなら世界の果てから地獄の底まで追いかけるような怪人だ。
その二人がまさか、こんなにも早く退場してしまうとは。
まあ、五ェ門に関しては斬鉄剣が無いだろうし、女性に対しては油断するタイプだろうから、案外簡単にやられて……流石にそれはないか。
まだ生き永らえているはずのルパンや次元は、この放送を聞いてどう思っただろうか。
そして、遊園地で出会ったあの老人、ウォルター・C・ドルネーズもまた帰らぬ人となってしまった。
あの老人は確か、観覧車を破壊した人物を確かめるなどと無謀なことを言っていた。恐らく、その時に殺されてしまったのだろう。
いくらあの老人が手練だとは言っても、戦車、もしくはそれに準ずる能力を持つ相手にかなう訳がない。
さらに、19人と言う死亡者の多さも異常である。
たった6時間で80人中19人が死亡。単純計算によると、丸一日とちょっとで決着が着いてしまうことになる。
この殺し合いに乗った者がそんなに大勢いるのだろうか。それとも、少数の人間が大量殺戮を行っているのだろうか。
いずれにしろ、恐ろしいことには変わりない。
154峰不二子の退屈 ◆/1XIgPEeCM :2007/01/06(土) 00:23:39 ID:hyZ+//mm
さて、これからどうするべきか。
この殺し合いに乗っている者が少なからずいると判明した以上、迂闊に動くのは危険である。
しかし、そんなことは腐るほど考えたし、理解しているのだ。
だから、とりあえず……。

「とりあえず、食事にしましょうか」
まず落ち着こう。これからどうするかを決めるのは、食事を摂った後でも遅くはないはずである。
デイパックからパンと、水の入ったペットボトルを取り出し、朝食の準備を整える。
外よりは建物の中の方が食事を済ませるのに都合が良かった。
不二子が現在潜伏している民家は駅からさほど離れてはいないが、もっと駅から離れようと南に行こうものなら、海にぶち当たって行き止まりだ。
防波堤を通って逃げられないこともなさそうだが、よりにもよってあの遊園地と繋がっている。流石にあんな所へは戻りたくない。
……思えば、駅で爆発音を聞いた時に逃げる方向をよく考えるべきだったかもしれない。文字通り、無駄足を踏んでばかりだった。

味気のないパンをかじりながら、不二子は再び窓の外へと目を向ける。
窓の外には、この民家と同じような民家がいくつも点在している。
視線を下方に向けると、家と家の間を潜り抜けるように、丁度車一台が通れそうなくらいの幅の道路があった。
「待ち伏せっていうのも、悪くないかもしれないわね……」
誰にでもなく、ぽつりと呟く。
すぐ外の道路を誰かが通りかかったら、危険が無さそうかどうかを確認してから接触を試みる、という考えだ。
こんな会場の端の方を徘徊している者が果たしているのだろうかと疑問だったが、駅での一件で立証されたように、会場の端でも人はいるだろう。
それに、下手に動くよりはずっと安全そうだ。
ルパンのことは少し心配だし、探したいとも思ったが、自分の命とルパンの命。天秤にかけたら傾くのは当然、自分の命だ。

かくして、峰不二子は待ち伏せをすることを決めた。
パンと水を片手に、カーテンの隙間から外の道路をそっと見張る。これがアンパンと牛乳だったら張り込み刑事だ。
やはり、この方法なら屋外をふらふらするよりは危険性も少ないだろうし、体力を温存しておくこともできる。
だが。

「じっと待ってるのって、やっぱり退屈かも……」

不二子は呟いて、その手に持つパンの最期の一欠片を口に入れた。





【G-1民家・1日目 朝】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:健康 少しの苛立ち
[装備]:コルトSAA(装弾数:6発・予備弾12発)
[道具]:デイバック/支給品一式(パン×1、水1/10消費)/ダイヤの指輪/銭形警部変装セット@ルパン三世
[思考]:
1:もう暫く民家に留まり、すぐ外を誰かが通りかかったら接触してみる。
2:1で、誰も来ないようなら人が集まりそうな所へ行ってみる?
3:ルパンのことが少し心配。
4:頼りになりそうな人を探す。
5:ゲームから脱出。
155知らぬは…… ◆pKH1mSw/N6 :2007/01/06(土) 01:10:16 ID:P2StwflP
俺は、戻ってきた。
このクソッタレな殺し合いにおける、始まりの地に――
かなみとよく似た声を持ちながら、かなみではない少女と出会った場所。
静寂が支配するモール街に慄然と立つ、一軒の雑貨屋に。
一夜の間とはいえ、ここで時間を共有した高町なのはは傍はいない。
……別に、俺には関係ねえ。
あいつはかなみじゃない、心配なんてしてたまるか。……クーガーも一緒にいるしな。
ああクソ! 苛つくぜ!

苛立ちまぎれにカズマがドアを蹴飛ばすと、哀れなドアは、砕けた蝶番ごと店の内部に吸い込まれていった。
深夜に続いて、馬鹿力のカズマに二度も蹴られた結果であった。
ガシャンと、安っぽい破砕音が聞こえ、商店の中に埃煙が舞い起こる。
そのまま店内に入り込んだカズマの目に、少し膨みを持った毛布が映った。確か、なのはが使っていた毛布だ。
毛布に近づこうとしたカズマは、顔をしかめた。ほんの数時間前まではなかった異臭がしたからだ。
その異臭は、ロストグラウンドで慣れ親しんだ匂い。すぐ、身近にあった匂い。ついさっきも、感じた匂い。
死臭、だった。

「チッ……」

毛布を引き剥がしたカズマは、その下に予想通りのモノを見つけた。
首と胴体が泣き分かれになった、鶴屋の死体である。
ついさっきまで生きて、自分と話をしていた人間が、次の瞬間屍に換わる。
今まで何度も経験したことだが、現状のカズマにとっては、苛立ちを増幅させる不愉快極まりない事象だった。
まあ、今のカズマにとっては、周りのもの全てが苛立ちの原因でしかないのだが。
暴走しそうになる身体を抑えつつ、カズマは鶴屋の首を持ち上げた。
骨の切断面が少し荒いが、皮膚や肉は鮮やかに切り裂いてある。

「……鮮やか過ぎるな。血も殆ど飛び散ってねえし、こいつは死後にやられたものか」
骨ごと死体を綺麗に切り裂くことは、並の技術ではできねえ。
少なくとも素人ではなさそうだな……。
他に死因があるだろうと思ってよく見ると、なるほど、左胸に小さな刺し傷がある。
「この傷……ナイフか!」
制服に開いた5cm程の穴の周りを、赤い染みが囲んでいた。
傷口から凶器を推測したカズマは、身体中の血液が逆流するのを感じた。
そう、かなみもナイフのような凶器で殺されていた。
そして、かなみの死体があったのはすぐ北にあるF-8エリア。
北からやってきたゲイナーは誰も見かけなかったと言うし、この周辺を闇雲に探していた俺も、誰も見なかった。
そして唯一、探していなかった場所が、かなみがいないことがわかりきっていた商店街だ。
そして、俺がいない間に鶴屋が殺された。おそらく、かなみを殺した凶器で、だ。
これだけで十分だ。十分過ぎる。
鶴屋を殺したやつは「かなみを殺したやつだ」。
156知らぬは…… ◆pKH1mSw/N6 :2007/01/06(土) 01:11:15 ID:P2StwflP
「ハハッ、下手に動かずここで待ってれば、かなみの仇と会えたってことか。……笑えねェぜ」

天井を見上げ、自嘲の笑みを浮かべる。
その表情とは反対に、身体の内ではマグマが心を燃やし尽くしていく。
入れ違いの可能性だの証拠不十分だの、そんな細かいことは関係ねえ。
鶴屋を殺した奴が、かなみを殺した奴と同じ……十分だ、十二分だ、フルに納得できる。
理屈なんていらねぇ。
俺が、俺である。その証拠さえありゃあいい。
つまり――ブン殴る。この首切り野郎を、特級レベルで叩き潰す。

辺りに散らばっている荷物をデイパックにブチ込み、出口に足を向ける。
その途中、ふと鶴屋の死体を振り返った。
首を切断された、哀れな死体。死後も死体損壊趣味の変態に蹂躙された、惨たらしい最期。
なぜ殺害された後に首を切られたかは、想像がつく。
鶴屋は生前、確かこう言っていた。

『うん、実はここに来る前にちょっと襲われちゃってね』
『まあね……っ。相手に怪我させて、その隙に逃げたのさっ』

この「鶴屋を襲ったやつ」が逆恨みして鶴屋を殺しに来たってことだ。
死体に対してまで憎しみを抱くほど、怪我させられたことを恨んでいたんだろうよ。
それ以外に首を切断する意味なんて思いつかねえからな……小せえ野郎だ。
気に食わねぇ……もし万が一、億が一、かなみを殺したやつじゃなかったとしてもブッ飛ばす。
俺を苛つかせるやつは、一つの例外もなく、カケラの例外もなく、一片の例外もなく殴り飛ばす。

乱暴な手つきで死体に毛布を掛け直した後、誰にともなくカズマは呟いた。

「お前はかなみを殺した犯人の手掛かりを持ってたからな、デタラメな方向を教えたことはチャラにしてやる。
 ……それと、道具は貰ってくぜ。代わりに――かなみの仇のついでだ……ついでだぞ! 鶴屋、テメエの分も首切り野郎を殴り潰す!」

カズマは商店を去り、後には物言わぬ死体だけが残された。
布団に包まれた陽気な道化師は、死化粧ですら笑っている。


【G-8・モール/1日目/午前】



【カズマ@スクライド】
[状態]:激しい怒りと苛立ち。
[装備]:なし
[道具]:高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)、かなみのリボン@スクライド、支給品一式
    鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)、ボディブレード
[思考・状況]
1:かなみ・鶴屋を殺害した人物を突き止め、ブチ殺す(ナイフを持っているやつと断定、かなみと鶴屋を殺した犯人は同じだと思っている)。
2:ギガゾンビを完膚無きまでにボコる。邪魔する奴はぶっ飛ばす。
3:君島と合流。
4:本心では、なのはが心配。
157再起動 1/7  ◆S8pgx99zVs :2007/01/06(土) 09:07:56 ID:l0bFQDYg
海沿いに大きく広がる遊園地――その東端。
案内所、そして待合所を兼ねたその建物の中に劉鳳はいた。


この不愉快なゲームが始まってからすでに一日の三分の一が過ぎようとしている。
だが自分はまだこの遊園地からすら一歩も外に出ていられないでいる。
すでに十九人――またはそれ以上の犠牲者が出ているのにも関わらず、自分は一切正義と
言える行動を取れていない。
闇雲に破壊を撒き散らしこの園内を右往左往しているだけだ。これじゃあまるで……

「クソッ!」

組んだ指に力がこもる。
やはり、あの観覧車を破壊してしまったのがそもそもの間違いだったのだろう。
ギガゾンビに対する憤りを、……感情を抑え切れなかった。
自分が守るべき対象――力なくただ危機に晒されている者達。
それらはアレのせいで遠ざかってしまっただろう。そして、初めてこの舞台で出会えた
人形にしか見えなかったあの少女。彼女もそのせいで自分から逃げていってしまった……

ギガゾンビも勿論許せない。必ず断罪すべき存在だ。だが、今は自分に対する不甲斐無さに
対する憤りの方が強かった。
すぐにでも此処を飛び出し、外に蔓延る悪共に正義の存在を知らしめてやりたい――だが。

部屋の端、毛布の上に寝ているのは先程出あった少女、”長門有希”だ。
先程の観覧車の下での戦闘を検分の後、食事を取っている最中に急に熱を出して寝込んでしまった。
おそらく原因は頭部の傷だ。記憶のこともある。脳内で出血が起きているのかもしれない。
すぐに病院へと考えたが、思い直した。病院の機器もこの遊園地同様、正常に稼働しているとしても
医者は居るはずがない。ならば無理をして出向いても意味はない。

そして、それから一時間程だ。
すでに新しい犠牲者が出ているかもしれない。今まさに悪が正義を踏みにじろうとしているかも
知れない。だが、此処に彼女を置き去りにするわけにもいかない……

絶影の触鞭で叩かれた受付カウンターが真っ二つに割れる。

「何をしているんだ……俺は……っ!!」


劉鳳の中で高まる悪への怒りの炎は、その身を焦がさんばかりに高まっている。
だがそれでも、ただただ無為に時間は過ぎ去るばかりであった。
158再起動 2/7  ◆S8pgx99zVs :2007/01/06(土) 09:08:49 ID:l0bFQDYg
<--再起動-->

<--構成情報に深刻な障害が発生-->
<--直前の情報の取得に失敗-->
<--情報統合思念体のバックアップより取得を試みます-->
<--情報統合思念体へのアクセスに失敗-->

<--情報の復元を試みます-->
<--有機インターフェイス用模擬人格を再構築-->
<--表層人格を再構築-->
<--有機インターフェイス内に蓄積された情報を復元します-->

<--復元された情報からコマンドを発見-->
<--実行します-->

”そう、生贄だ!キサマらにはこれから殺し合いをしてもらう!”

<--ERROR-->
<--権限がありません-->

<--復元された情報からコマンドを発見-->
<--実行します-->

”そう、生贄だ!キサマらにはこれから殺し合いをしてもらう!”

<--ERROR-->
<--復元された情報内に当有機インターフェイス内で発行された権限を確認-->
<--実行します-->
<--ERROR-->
<--実行に適した状態ではありません-->

<--有機インターフェイスを自己保全モードに移行します-->
<--表層人格を適応擬態モードに移行-->
<--空間に負荷を確認-->
<--自閉症モードに移行-->

<--ERROR-->

”そう、生贄だ!キサマらにはこれから殺し合いをしてもらう!”

<--ERROR-->
<--コマンドが正しくありません-->
<--ERROR-->

”そう、生贄だ!キサマらにはこれから殺し合いをしてもらう!”

<--ERROR-->
<--ERROR-->
<--ERROR-->

<--空間に負荷を確認-->
<--自己保全を最優先-->
<--ERROR-->

<--深刻な障害が発生しています-->
159再起動 3/7  ◆S8pgx99zVs :2007/01/06(土) 09:09:40 ID:l0bFQDYg
「……なんだ?」

気がつけば寝かせた"長門有希"の体が淡い光を帯びている。
そして、全身を包む燐粉のような――
突然、上から引っ張り上げられたように彼女の身体が立ち上がる。そして、全身を包んでいた
光が両手に収束すると大きさを増して二つの刃となった。

「アルター能力ッ!?――だが」

周囲から物質を取り込んだ様子がない――いや違う!あの彼女の身体から零れ落ちる光。

「自分の身体を分解してアルターに……?」

何故だ?彼女はアルター能力者だったのか?何故突然発動を……、しかもこんな形で。
起き上がった彼女に表情はない――無意識なのか?だとすれば……

「……アルター能力の暴走」

そうだとしか考えられない。無意識で発動しているアルター能力が彼女を取り込もうとしているのだ。
自身を再構成するアルター……、このままでは彼女は存在の崩壊を起こす。

「長門有希っ!」

彼女に呼びかける。このまま意識が戻らなければ――アルター能力を抑制できなければ彼女は
いなくなってしまう。見捨てるわけにはいかない。
……だがしかし、呼びかける以上のことができない。自身の絶影にあるのは絶大なる破壊の力。
これは今彼女を救える力ではない。

「長門有希っ!目を覚ませっ!」

少しでも声が届くようにと彼女に近づく。歯痒さに焦燥が募るがこうする以外にない。
現在の不安定な状態な彼女に物理的衝撃を与えれば、衝撃で崩壊していまうことも考えられる。
一歩、二歩……近づくと光の粒子が――彼女の体の欠片がサラサラと零れ落ちるのが確認できる。

「長門有希っ!目を覚ますんっ――!?」
160再起動 4/7  ◆S8pgx99zVs :2007/01/06(土) 09:10:30 ID:l0bFQDYg
「残念。おしかったね」

朝倉涼子の手首から伸びた光の刃が劉鳳の胸元に伸びている。

「……なんのつもりだ。長門有希」

その光の刃が身体を貫くのを直前で止めたは絶影の触鞭だ。

「私を介抱してくれたことには感謝するわ。おかげでこのように再起動することができた」

二人が出合った時とは違う明るい顔だ。

「アルター能力者だったのか……?」


――アルター能力。彼の目の前に居るあの戦闘用デバイスのことか。
なるほど。高次元の存在へのチャンネルにアクセスしているのが確認できる。
構成情報をダウンロードし、脳内で処理を施し物理現象として投影する。
過程は多少異なるが――

「確かに私の持つ能力と似ているわね。興味深いわ」
「解った。……ではコレはどういうつもりだ。君が悪だったとしたら」
「……したら?」

光の刃に力をこめる――次の瞬間吹き飛ばされた。


薄い壁を突き破り朝倉涼子が光の尾を引いて飛び出してくる。更にそれを追って絶影が飛び出し
二本の触鞭で彼女を襲う。それを彼女は一本を跳躍して避け、もう一本を光の刃で弾いた。
避けられた触鞭が敷き詰められたレンガを派手に抉り、弾かれた方が案内所の屋根を吹き飛ばす。


すごいパワーとスピードね。こちらの制限されている能力に比べると遥かに上回っているわ。
力押しではかないそうにないわね。


朝倉涼子に降り注ぐレンガの欠片が突如その動きを変え、飛礫の嵐となって劉鳳を襲う。
劉鳳は片方の触鞭だけでそれを全部掃うと、もう一本を大きく振り下ろす。朝倉涼子に再び避けられた
触鞭は海賊船を支える支柱を真っ二つに叩き折った。軸から外れて地面に滑り落ちた海賊船が
朝倉涼子の力で劉鳳の方へと突進する。が、それはたちまち絶影の手によってバラバラに解体される。
破壊の渦を巻き起こし二人は遊園地内を駆ける。


所詮は有機生命体ね。どれだけチャンネルを開放して攻勢情報を得ても、処理の限界は低く
性質は非常に単純だわ。


朝倉涼子は隠し持ち時間を掛けて構成情報に細工を施した鎖鎌を劉鳳へと放つ。
161再起動 5/7  ◆S8pgx99zVs :2007/01/06(土) 09:11:21 ID:l0bFQDYg
機関銃のように打ち込まれてくる飛礫の大外。大きな弧を描いて鎖鎌が飛来してくる。
飛礫は目くらまし?だが、この程度絶影の力を持ってすれば捌くのはわけない。
絶影の触鞭を一本伸ばして鎖鎌を弾――!?


触鞭に弾かれると思われた鎖鎌だったが、結果はそうはならず餅のように粘り絶影に絡みついた。
不可思議な現象に虚を突かれた劉鳳が一瞬の間を置いて振りほどこうとするが、それは致命的な
一瞬だった。


今まで防戦一方だった朝倉涼子が一直線に突っ込んでくる。絶影はその後だ。
間に合わないと悟った。そして、一直線突進してくる彼女の姿は……まるで――……

(……カズマ)


次の瞬間、朝倉涼子の光の刃が劉鳳の胸を貫いた。さらに半瞬後、もう一本の刃が彼の首を刎ねる。
刎ねられた首は放物線を描いて地面に落ち、それと同時に首の上に乗った首輪が小さく爆発して
血の噴水を巻き上げた。
朝倉涼子が刃を引くと残された身体がゆっくりと地面に崩れ落ちた。
162再起動 6/7  ◆S8pgx99zVs :2007/01/06(土) 09:12:11 ID:l0bFQDYg
数分後、刎ねられた劉鳳の首は朝倉涼子の胸の中に抱えられていた。


高次元の存在にアクセスして情報を受け取りそれを処理する脳組織。
自らが情報を生み出す涼宮ハルヒほどではないけど、非常に貴重な物だわ。これを持ち帰れば
大きな成果になる。でも……

朝倉涼子の目は充血し、鼻からは血が零れ、心臓は早鐘のようになっていた。

意図しない暴走の結果、一時的に自己保全のためのリミットを解除することができたが、かなり
インターフェースを酷使してしまった。
それにいくらかの構成情報を攻勢情報に変換して使ってしまった。
たかだか0.04%だが、構成情報の剥離は少しずつだが続いておりこのまま1%を越えれば自己の
形を維持できなくなってしまう可能性がある……


そうなれば……消滅……してしまう。
統合情報思念体とのアクセスが制限されている今、消滅してしまうとこの成果が無に帰してしまう。



「……そうか」

そうだったんだ。
このゲームが始まってからの不安定な感情。
痛みに対する過剰な反応。
自己保全機能が発したエラー……

「わたし……、死ぬんだ」

この有機生命体用インターフェイス。これが死を迎えることが、今の”私の死”なんだ。
情報統合思念体による回収は無い。ただ失われるだけ――それが死。
わかっていたんだ――わたし。最初からそれに気付いてた。

高揚感だと思ったのは――不安。
痛みを受けて感じたのは――恐怖。

「……キョンくん」

正確ではないかもしれないけど、今理解したわ――有機生命体の死の概念。
これが……、これがそう。……これがそうなのね。

「……死ぬのってイヤ?……殺されたくない?」

うん。イヤ。殺されたくない。全てが無為になり、ただ情報が欠損されるだけなんてそんなのはイヤ。
……命を惜しむ。これがその気持ち。

「……涙?」

わたしは死ぬのが怖い。

どうしよう?この損耗度だとあまり長く存在できそうにない。近い将来、死は――免れ得ない。
胸に抱えた貴重な脳組織。それにギガゾンビの存在や不思議な道具の数々……どれもこれを
情報統合思念体に伝える前に死ぬわけにはいかない。

キョンくん。わたし、死ぬのが怖いよ。

「……アハ。アハハハ」

コレが死ぬのが怖いってことなんだぁ……
163再起動 7/7  ◆S8pgx99zVs :2007/01/06(土) 09:13:03 ID:l0bFQDYg
数十分後、朝倉涼子は遊園地の東門の外にいた。
肩から提げられたデイバッグには劉鳳の首が収まっている。

この空間で収集したい貴重な情報はたくさんある。涼宮ハルヒのこともある。
だが、今最も優先すべきなのは――長門有希。彼女との接触。

成さなければならないのは収集した情報を情報統合思念体に伝えること。
それが成さなければ存在の消滅は自身の死となる。
逆に言えば、わたしか彼女のどちらかがこの空間から脱出し、情報統合思念体とコンタクトが
取れればそれは互いが生き残ることになる。

彼女もわたしと同じように今既に窮地に立たされているかも知れない。
それでも……いや、それなら。
それならばわたしが彼女を援護する。わたしは彼女のバックアップなのだから。

「うふふ……」

自然と笑みがこぼれる。
死の概念――存在が有限だということがこれほど自身に影響を与えるとは。


「これが”生きている”ってことなのね」


そう呟くと彼女はゆっくりと歩き出した。
情報の粒子を少しずつ零しながら……




 【G-5/遊園地/1日目-午前】


 【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】

 [状態]:高揚/非常に疲労している/存在の0.04%を損失
 [装備]:SOS団腕章『団長』
 [道具]:デイバッグ/支給品一式(×2/食料×1)/ターザンロープの切れ端/輸血用血液(×3p)
      斬鉄剣/真紅似のビスクドール
 [思考]:長門有希と合流し協力し合う/涼宮ハルヒ及びキョンを探し観察
      それ以外の参加者は殺害/貴重な人、物は収集する

 [備考]
  自身を構成する情報が崩壊を始めており、それをばら撒きながら歩いています。
  これは長門有希、または魔術や第六感に長けた者だと気付く可能性があります。
  平静にしていれば少し、戦闘などを行なうと激しく消費してしまい損失率が1%を越えると
  崩壊を起こし死んでしまいます。


 【劉鳳@スクライド  死亡】
164「サイトと一緒」  ◆5VEHREaaO2 :2007/01/06(土) 19:17:27 ID:Bdyo8MUi
ルイズは何かに引き寄せられるように、川沿いを南に向かって一人で進んでいた。
その傍らには誰も居ない。そこにいるべき人物はすでに失われ、
いたかも知れない人物達もすべて拒絶した。彼女の虚無で。

そうして歩いていると、見慣れぬ建築物が目に入った。
それは防波堤と呼ばれるものであったが、ルイズはそのことを知らないため、それを見て多少困惑した。
まるで地球に住む人間がファンタジーの世界に迷い込んだように。
だが、そのまま歩む。もはや、後ろに戻る理由は彼女には無い。すべて滅ぼしてしまったはずだから。
そして、その道中の森の中で見つけてしまった。見知らぬ装束を着た首の無い遺体と、
見覚えのある珍しい異界の装束を着た首の無い、愛すべき人物のなれのはてを。
ルイズはそれを見るやいなや走り出す、そして平賀才人の遺体に縋りつき泣き出した。

「サイトォォォォォォ!サイトォォォォォォ!」

彼女にとって永遠と思える時間をそうしていた。
だがそれも、チャポンっという水音で止まった。
ルイズがある期待を込め物音のした方向に目を向けると、仮面を付けた男の首が水辺に浮かんでいた。

「サイトのじゃない」

僅かに愛すべき男の首だと一瞬期待したものの、違ったために再び表情が曇る。
だが、ルイズは視界の端に捉えてしまった。湖の真中に浮かぶ何かを。
それを見過ごすはずも無く、歓喜の表情を浮かべる。
165「サイトと一緒」  ◆5VEHREaaO2 :2007/01/06(土) 19:18:19 ID:Bdyo8MUi

「今行くね、サイト。フライ!」

そして、グラーフアイゼンを振るい飛翔するための魔法を使った。
そして、普通の少女では辿り着くのも困難な距離を、トライアングルメイジであるタバサよりも優雅に飛んだ。
本来ならば彼女は魔法を使えぬはずだが、これまでの経験と虚無の素質、そして覚悟により、
コモン・マジック程度ならば使えるように成長した。
そして、辿り着く。水の上に浮かぶ、平賀才人の首の元へ。
その才人の首を、やさしく抱き上げる。

「サイト、ごめんね。私がお前を守ってあげなきゃいけなかったのに」

そう言いながら、とても殺し合いをしているとは思えぬ笑みを浮かべた。

「痛かったよね。今それを抜いてあげるから」

そして、左目に刺さった木の枝を抜く。血がほとんど流れ出たためか、ルイズの服には一滴すら才人の血で
汚れることはなかった。代わりに水滴が服を濡らす。
それにも構わずにルイズは生首を自身の体に押し付け、愛しい男の名を唱え続けた。
だが、ふと視界に異物が見え、湖に浮かぶその物体を掬い上げる。
それは見慣れぬ物体であり、見知った存在が描かれていた。
それは現代では生徒手帳と呼ばれる存在で、朝倉涼子が桜田ジュンとの戦いの際に偶然水中に落ちた物。

「朝倉涼子」

ルイズはそれを見、怨嗟を込めその名を紡ぐ。自身の爪を剥ぎ取った者の名を。平賀才人を殺したであろう女の名を。
その字はハルケギニアで使われているものではなく、読めないものであったが彼女は気にしなかった。その必要もなかった。
なぜならば、その女の名前が書かれた物が平賀才人の側にあったということは、その女が殺したと証明することに他ならないと、
ルイズは考えたからだ。
そして、首をデイバッグに丁寧に入れてから、生徒手帳を放り投げそれに向かってグラーフアイゼンを構え、

「消えろ」

その一言共に光を生み出し、それを消滅させた。だが、彼女の中の靄はまだ残ったままだ。
166「サイトと一緒」  ◆5VEHREaaO2 :2007/01/06(土) 19:20:12 ID:Bdyo8MUi

「足りない。こんなにあっさり消したら、サイトの苦しみの万分の一にも満たない」

そう夜叉のような表情を浮かべながら恨みの言葉を呟き、とある言葉が脳裏に浮かんだ。

『さて、私からすれば爪一本は手ぬるい。やるのならば、もっと徹底的にやるべきだ。
 五指を一本一本丁寧に切り離すか。奥歯を時間を掛けて歯茎ごと取り出すか。
 全身の皮膚という皮膚を一片残らず剥ぎ取るか。
 眼球を抉り出すかをするのが、相手を正直にさせるのに都合がいいな』

「ええそうね。それぐらいしないと、いけないわよねぇ?」

そうして、背後に向かって踵を返す。敵を討つ前にやらなければいけないことがあったからだ。
森の中に戻ると手近な地面を魔法で吹き飛ばす。
そうして出来た穴に平賀才人の体を埋めようとしたとき、とあることに気づいた。
薄暗い森の中、才人の左手にあるガンダールヴの紋章がうっすらと光っていた。
そして、ルイズの見ている前で紋様が消えた。まるで、彼女をここに引き寄せたのが最後の仕事だと言わんばかりに。
だが、それにかまわずに遺体を穴に横たえる。
そして、ルイズは才人の左腕に杖を向け、

「えい」

『虚無』を放った。左手が宙に吹き飛ばされ、新たな紋様が焼き刻まれ、地面に落ちた。
ルイズはその左手をデイバッグに入れ、遺体に土を被せ終るとデイバッグの中から首を取り出した。

「サイト、これであなたは『虚無』の使い魔『ガンダールヴ』じゃない。
 私だけの使い魔『サイト・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』になったんだよ。
 嬉しい?嬉しい筈よね。だって私だけのものになったんだもの」

そう言うものの平賀才人の首は何も言わない。

「ここには、淫乱女のキュルケも、権力しか持ってないアンリエッタも、乳だけのメイドもいない。タバサも死んじゃった。
 え?なんでタバサの名前がここで出てくるかって?私知ってるんだよ。あなたが寝言で、タバサにお兄ちゃんって呼ばれたがってるんだって。
 でも大丈夫。私は全部許してあげるわ。嬉しいよね」

何も言わない。
167「サイトと一緒」  ◆5VEHREaaO2 :2007/01/06(土) 19:21:08 ID:Bdyo8MUi

「そう、私もあなたが喜んでくれて嬉しいわ」

ルイズはそう言うと朝倉涼子がいるであろう遊園地を目指そうとした。
だが、そのとき突然の睡魔が襲ってきた。魔法をあまりに頻繁に使用したため限界が訪れてしまったためである。
そんな彼女の脳裏にとある光景が映った。それは、空から見えたH-1にある小屋と思われる建物。
そこにルイズは行き休むことにした。才人と共に。

「とりあえず、あなたが私だけのものに成った記念に、あの小屋で一緒に少しだけ寝ましょう」

そうして、少女は進む。左肩に紋様が刻まれた愛しき者の左手が入ったデイバッグを提げ、
左腕に愛しきものの首を抱え、右手にハンマーを持ったまま。

彼女の行く末がどうなるかは誰にも分からない。始祖ブルミルすらも、ルイズの手にあるグラーフアイゼンすらも分からない。



【H-2森・1日目 午前】
【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:眠気。疲労(中)。左手中指の爪剥離。魔力消費(大)。
[装備]:平賀才人の首、グラーフアイゼン(強力な爆発効果付きシュワルベフリーゲンを使用可能)
[道具]:ヘルメット、支給品一式、平賀才人の左手
[思考・状況]
1.とりあえず、サイトと一緒にH-1にある小屋で休む。
2.サイトと一緒にサイトの仇を討つ。(朝倉涼子と認定)
3.サイトと一緒に邪魔する者と邪魔しない者に関わらず殺す。
4.サイトと一緒に優勝してギガゾンビを殺し、サイトと一緒に自分も死ぬ。
[備考]: 平賀才人の遺体が頭部と左腕を欠損したままH-2の森に埋められました。ハクオロの遺体はそのまま放置です。
168Ultimate thing 1/3  ◆nBFOyIqCVI :2007/01/06(土) 20:06:27 ID:VmLkpqOH
 彼女の知った誰の名も、呼ばれることはなかった。
 だが、80人を数えた者たちが、たった一夜のうちに4分の1を失った事実が、代わって真紅を急き立てた。
 喧騒は北側に多い。
 つまり、人は北側に多い。
 真紅は北へ進んでいた。
 遠い騒音にまぎれて、比較的近い範囲で聞き覚えのある音がする。
 それは単調な、しかしかなりの重量の物が移動する音だった。
 真紅にとっては数十万時間前に、そしてジュンの家で目覚めてからはテレビの中くらいでしか聞かなかった音である。

「列車だ」
 真紅が音の場所に辿り着いたとき、線路の間近に、切り抜いたような赤い闇が立っていた。
「まさかこんなところに列車が走っていようとはな」
 伸ばしっぱなしにした黒い髪、青白く気だるそうな顔色、血のように赤いコート、血よりもなお赤い瞳。
 そして、その下の拘束衣。
 男の姿をした得体の知れぬ闇が、そう語った。
「しかもあんな速度で、だ。ギガゾンビとやらも、随分暇と力が余っているらしい」
 あるいは逆かもしれんがね、と続ける。
 視線が真紅の顔に止まり、無遠慮に捕捉する。
「これは、珍しいモノが来たものだ」
「じろじろと見ないで頂戴。私はローゼンメイデン第五ドール、真紅。モノ扱いとは、失礼ではなくて?」
「ク」
 男が、堪え切れず笑いを漏らした。
「魔術師と賃金労働者と殺し屋の次は生きた人形だと? クク クハッ ハアッハッハハッ」
 狂人だ。
 やるやらないの話ではない。
 空間を共有していること自体が、自分の身を危うくする。真紅は、そう判断した。
「貴方に危害を加えるつもりはないわ。その代わり貴方、桜田ジュンという人間に覚えはなくて?」
 哄笑の余韻を残したままの表情で、男の目が真紅に降りてくる。
「眼鏡をかけた男の子よ」
「覚えがないな」
「そう。ほかに私のようなドールに……」
 先程の様子なら、聞くまでもない話だった。
 兎にも角にも、近くに立っているだけで濃厚な死の匂いが立ち込めてくる相手であった。
 こうして何事もなく話している雰囲気の延長で、武器を抜いて相手を殺しに行けるタイプだろう。
 手短に済んだのなら、さっさと引き上げてしまうに限る。
「いえ、いいわ。なら、私はこれで失礼させてもらうわ」
 背を向けたら、相手が仕掛けてくるだろうという確信があった。
 男を視界に収めたまま、近くの木立の方向へ歩みを進める。
「人形、お前は何だ?」
 奈落の裂け目が、真紅をまた興味深げに見ていた。
169Ultimate thing 2/3  ◆nBFOyIqCVI :2007/01/06(土) 20:08:17 ID:VmLkpqOH
「既に名乗っているはずよ」
 先に名乗るのが礼儀などという普段の返しは、できない。
 この男は、真紅が「仕掛けてくる」のを、絡め落とそうと待ち構えているようなのだから。
「なぜ人形が動く? しかも自由意志を持って、だ。どうして? 何のために?」
「言う必要はないわ」
「『知らない』では、ないのだな?」
 そうかそうか、と男が無造作に一歩、前へ出てきた。
 一切の快活さから無縁の笑みが、輪郭からにじみ出ている。
「まったく、度し難い化け物だ」
 その単語が何を指しているのか、真紅が理解するまでに少し時間がかかった。
「なんですって……!? 私が!?」
「そうだろう、人の手によってかりそめの命を与えられた歪んだ存在め」
「その言葉、取り消しなさい」
 つい、食って掛かるように、真紅からも一歩踏み出した。
「お父様は私たちを、どんな花より気高く、どんな宝石よりも無垢で、一点の穢れも無い完全な少女になるようにと生み出してくださったのよ。
 私はその誇り高きローゼンメイデンの第五ドール。お父様の下さった、いずれアリスとなるこの体を、化け物などと……」 
「完全?」
 頭に上った血が一気に落ちた。青ざめてさえいるだろう。
 こちらを引っ掛けようと待っていた相手に向かって、まんまと一歩踏み出してしまったのだ。
 そして、男が待っていたのは、攻撃の隙だけではなかった。
「ドール? アリス? ローゼンメイデン? ピュグマリオンのアフロディテ像か? アルバ・エディソンのアダリーか?
 それともヘファイストスの黄金の乙女? 意志もつ者の創造は、神のみが成し得る禁忌の所業だ。
 生まれの理がどれであろうと 姿形が何であろうと お前の存在は神への挑戦に他ならない」 
 そっと広げる両腕の中に、染め抜いたような赤い闇。
「そう 例えば 私のような」
 そう嘯いて、不死の夜族は滴るような笑みを浮かべた。
「化け物でなくて、何だというのだ」
 真紅の百数十万時間に及ぶ経験の積み重ねが、叫んでいる。
 この闇と戦ってはいけない――
 花弁が舞う。

                         ※

「どういうつもりなのかしら?」
 この腰ほどの身長もない人形は、アーカードが花弁の眩ましを破ってなお手を出さなかったことをいぶかしんでいるらしかった。
 隙あらばいつでも撒こう、という態で、小さく唸る。
 撒かれれば撒かれるだろう。他に強い存在が来たのであれば、アーカードがそちらに気をとられているうちに
 彼女が姿をくらますであろうことは想像に難くない。
 だが、それでいい。
170Ultimate thing 3/3  ◆nBFOyIqCVI :2007/01/06(土) 20:10:59 ID:VmLkpqOH
「私もソレが見たくなった。もし本当にいるのであればな」

 アーカードも、放送を聴いていた。
 あの内容に偽りがないのであれば、参加者の中の誰かが、老いたりとはいえ死神ウォルターを、
 そしてあのアレクサンド・アンデルセンを打ち倒したという事実に他ならない。
 惜しい。
 己の関わる外で、己の知る強者が二人も倒されたのだ。
 だからと言って、アーカードのやることは変わるわけではない。
 サーチ・アンド・デストロイ。
 焦りに任せて歩き回ったところで、焦った分だけ多い人間に会えるというわけではない。いつも通り会った人間と戦うのみ。
 真紅とて、通り一遍の話が終われば.454カスール弾と死の舞踏と洒落込むはずだった。

 だが、彼に生まれたひとつの興味が、その暴虐を押し留めた。
 そして、彼の奥底に潜んだ疑問が、その節を曲げさせた。

 最強の不死者だからこそ、不死がどれほど虚ろであるかがわかる。
 永遠の命などというものは、この世に存在しない。
 そう、永遠はなく、完全はなく、絶対はない。
 完全なる美などというものもまた、この世には存在しないはずなのだ。
 だが、もしソレが生まれ出でたのなら、完全なる美を「アリス」はどう語るだろう?

 皮肉なことに、完全を求めるアリスの蕾もまた、化け物であった。


【E-4東側線路上・1日目 朝】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:健康
[装備]:対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾15)
[道具]:なし
[思考・状況]
1、どうせ殺すけど真紅についてくよー^^
2、人々の集まりそうなところへ行き闘争を振りまく
3、殺し合いに乗る

【真紅@ローゼンメイデン】
[状態]:健康、人間不信気味、焦り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはA's、くんくんの人形@ローゼンメイデン
[思考・状況]
1:アーカードを撒く
2:自分の能力が『魔力』に通ずるものがあるかを確かめたい
基本:ジュンや姉妹達を捜し、対策を練る
171トグサくんのメッセージ ◆LXe12sNRSs :2007/01/06(土) 21:03:45 ID:g1QELZuP
『メッセージを再生するギガ〜』

 桜田ジュンが受話器を手に取りまず耳にしたのは、なんとも間抜けな声調の声だった。

『今から話すことを、どうか冷静になって聞いて欲しい。
 まず、俺はゲームには乗っていない。誰が聞くかは分からぬ以上、名を明かすことは出来ないが……これだけは信じて欲しい。
 このメッセージは、D-5エリアにあるホテルの電話からによるものだ。
 俺は今、このゲームを脱出するために必要な人員と道具……特に、何かネットワークに繋げるような情報端末を求めている。
 もしこれを聞いた者に、このゲームに抗う気持ちがあるというのなら……今すぐホテルへ連絡してくれ。
 おそらく、俺の相棒が応対してくれるはずだ。もちろん、直接会いに来てくれるというのなら歓迎する。
 だが……万が一このメッセージを聞いた者がゲームに乗った者であり、俺たちをカモだと思って襲ってくるんなら、その時は容赦しない。
 特に、俺の相棒は頗る凶悪でね。暴れたら俺でも手がつけられないほどの狂犬、おまけに怪力だ。
 これをブラフだと思うのは勝手だが、意地を張って痛い目を見るのは、あまりに滑稽だと俺は思う。
 メッセージは以上だ――よい返答を期待する』


 ――留守電に残されていたメッセージは以上。
 ジュンは受話器を一旦戻し、しばし考える。

(……罠じゃないか?)

 率直に感じて、そう思った。
 記録されていた音声は、聞きなれぬ男のもの。
 表面だけ見れば、単なる仲間募集のための留守電メッセージ――だが、そんな安易なものが簡単に信用できるだろうか。
 駅に置かれた電話など、誰が手に取るかは分からない。それこそ、ゲームに乗った殺戮者である可能性も十分にあり得る。
 それを考慮せず、『ホテルに脱出を計画している参加者がいる』と知らせることなど、あまりにも無謀だとジュンは思った。
 電話の主はよほど腕の立つ人物なのか、それとも彼の言うとおり、相棒とやらが凶悪なまでに強いのか。
 全てがデマカセで、単に人寄せを狙っているというのは? だとすれば、相手は必然的にマーダーということになる。
 それこそ罠だ。しかし、同じマーダーに狙われるかもしれないというリスクを背負ってまですることだろうか。
 危険を承知で、全てを行っているのだとしたら。伝言を残すという手段は、早い内に仲間を増やす上では有効だ。
 いや、しかし……。

「考えたって……答えはまとまんないか」

 先ほど九死に一生を味わったせいか、どうにも疑心暗鬼になってしまっている。
 これだけ念入りな内容のメッセージ、罠だとは思いたくない。
 ひょっとしたら、脱出の可能性を持つ心強い仲間にめぐり合えるかもしれないのだ。
 ジュンはとりあえず、指示されたとおりホテルへ電話をかけてみることにした。
 判断は、応対する相手の印象を掴んでからでも遅くはない。
 そう考えた……のだが。
172トグサくんのメッセージ ◆LXe12sNRSs :2007/01/06(土) 21:04:41 ID:g1QELZuP
「……なんで誰もでないんだよ」

 イラつきを覚えて、やや乱暴に受話器を戻す。
 しょうがない。不幸にも、通話するタイミングが悪すぎたのだ。
 ジュンが受話器を握った現時刻――ホテルでは、暗黒メイドVS強面サイボーグ&ドジっ娘メイドに、おとぼけドラキュリーナを加えた盛大なドンパチの真っ最中。
 ジュンがそのことを知る術は、ない。
 後でかけなおす、という手段も考えたが、今はそんなことをしている暇はない。
 そう――ジュンはまだ、完全に安全圏へ避難しきれたわけではないのだ。
 近くではまだ、草薙素子やアーチャーが激闘を繰り広げているはず。
 これ以上巻き込まれないためにも、早急にここを離れなければ。

「次に電車が来るのは……10時30分。そんなの、待ってられねぇよ……」

 再度確認する時刻表に溜め息を吐くも、足は既に外へと飛び出していた。
 そう。電車を待っている時間もない現状、逃走手段は己の足しかない。
 運動は決して得意とはいえなかったが……命がかかっているともなれば、人間どうにかできるものだ。
 朝倉涼子と対峙した時も、物干し竿とモデルガンでどうにか切り抜けてきた。
 あの時の苦労に比べれば、今回はただ逃げるだけ――実に簡単じゃないか。

 ジュンは他の参加者に見つからぬよう線路沿いに逃走を図り、東を目指した。
 一か八か、懸けてみることにしたのだ。ホテルにいるであろう、脱出派の人物に。
 鬼が出るか蛇が出るか……ジュンは息を呑み、なおもを走り続ける。



【F-2 1日目 朝】

【桜田ジュン@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:全力疾走による相当な疲労、全身に軽い火傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:ホテルへ向かい、留守電の主と会う(完全に信用してはいない)。
2:どこかで武器になるようなものを調達。
3:信頼できる人間を捜す。
4:他人の殺害は出来れば避けたい。
基本:ゲームに乗らず、ドールズ(真紅、翠星石、蒼星石)と合流する。
173トグサくんのミス ◆LXe12sNRSs :2007/01/06(土) 21:13:47 ID:g1QELZuP
 ペダルをこぎながら、トグサは後悔の念に苛まれていた。
 思い出されるのは、各施設に残した留守電メッセージの内容……早急に仲間を集めるための奇策だったとはいえ、やはり少し迂闊だったかもしれない。


 『今から話すことを、どうか冷静になって聞いて欲しい。
  まず、俺はゲームには乗っていない。誰が聞くかは分からぬ以上、名を明かすことは出来ないが……これだけは信じて欲しい。
  このメッセージは、D-5エリアにあるホテルの電話からによるものだ。
  俺は今、このゲームを脱出するために必要な人員と道具……特に、何かネットワークに繋げるような情報端末を求めている。
  もしこれを聞いた者に、このゲームに抗う気持ちがあるというのなら……今すぐホテルへ連絡してくれ。
  おそらく、俺の相棒が応対してくれるはずだ。もちろん、直接会いに来てくれるというのなら歓迎する。
  だが……万が一このメッセージを聞いた者がゲームに乗った者であり、俺たちをカモだと思って襲ってくるんなら、その時は容赦しない。
  特に、俺の相棒は頗る凶悪でね。暴れたら俺でも手がつけられないほどの狂犬、おまけに怪力だ。
  これをブラフだと思うのは勝手だが、意地を張って痛い目を見るのは、あまりに滑稽だと俺は思う。
  メッセージは以上だ――よい返答を期待する』


 ひょっとしたらバトーは――どこかであのメッセージを聞きつけて、ホテルに向かったのかもしれない。
 そしてその結果、同時に招いてしまったマーダー……セラスやバトーが適わないほどの相手に相対し、結果二人が死亡してしまったのだとしたら。

 ――自分がやらかしたことは、とても拭いきれるようなミスじゃない。

(……いや、今は後悔している暇はない。なにせ相手はトラックだ。失敗を悔いる暇があるなら、ペダルをこげトグサ)

 でも、もうあのホテルには戻れない。
 トグサが残した留守電は危険なマーダーを呼び込み、同僚と、めぐり合えた盟友、そして見知らぬメイドを死に至らしめた。
 もしかしたらこの先も、あのメッセージを聞いた参加者がホテルに訪れ、バトーたちを殺したもう一方のメイドにカモにされてしまうかもしれない。
 トグサが残した、あの留守電メッセージが原因で。

(…………クソッ)

 今さらトグサ一人が戻ったところで、できることはたかが知れている。
 人間を遥かに超越したパワーを持つ義体である二人が適わなかったのだ。
 舞い戻ったところで、トグサが救える命など何一つとしてない。

 ペダルを漕げば漕ぐほど、自責の念に押し潰されそうになった。
 しかし、今はもう――過ぎたことと割り切り、新たな事項に着眼すべき時だ。

(――『今』、俺にできること。それは、あの留守電による被害者がこれ以上増加しないよう、祈ること。そして、先をいったトラックを追うこと。この、二つだけだ。)

 そう思いながら、がむしゃらにマウンテンバイクを走らせる。
 そのかいあってか、前方ではトラックの走行音が止み、遠目ではあるが一時停車している様子が確認できた。
 接触はもう間もなくだ。自責の念を振り払うためにも、トグサは懸命にペダルを漕ぎ続けた。
174トグサくんのミス ◆LXe12sNRSs :2007/01/06(土) 21:15:05 ID:g1QELZuP
(バトー……セラス……このミスのツケは、いつか必ず払ってみせる。だからもう少し、もう少しだけ待っていてくれ)


 ――実際のところ、トグサが犯したミスで一番マズかったのは、セラスを死んだと勘違いしてしまった点にある。
 同僚が屋上から落下する様を直視して冷静さを欠いたとはいえ、もしトグサに彼等の安否を確かめる余裕があれば……これ以上の誤解は生まれなかった。
 素子に知られたら弁解できないような、つまらない失態だ。タチコマだったら呆れてジョークの一つでも飛ばすかもしれない。
 この『ミス』が後にどう転がるか……その結果により、トグサの運命は決まる。



【E-4/道路/一日目-朝】

【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:若干の疲労
[装備]:暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本/マウンテンバイク
[道具]:デイバッグ/支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り19回)@ドラえもん
[思考]:1、トラックを追う。
    2、情報および協力者の収集、情報端末の入手。
    3、十分な協力者を得られた後、ホテルへ帰還しバトーとセラスを弔う。マーダーがいるようであれば撃退。
    4、九課の連中と合流。

[備考]
 ※他メンバーの行動の妨げにならないよう、他メンバーについての情報は漏らさないつもりです。
 ※セラスのことを、強化義体だと思っています。
 ※セラスが死んでしまったと勘違いしています。
 ※なので、正午にホテルに戻るという行動はキャンセル。ですがあそこを拠点として使う考えは失っておらず、いつか必ず戻るつもりでいます。
 ※マウンテンバイクはレジャービルの中で発見しました。
 ※あの場にいたもう一人のメイド(みくる)を、バトー殺害犯だと勘違いしています(セラスについてはよく確認できなかったため、保留)。
 ※トグサの首輪についての考察は以下の通りです。
 ・『首輪は技術手袋で簡単に解体できるが、そのままでは起爆する恐れがある』
 ・『安全に解体するための方法は、脱出手段も含めネットワーク上に隠されている』
 ・『ネットワークに繋ぐための情報端末は、他の参加者の支給品に紛れている』
 ・『監視や盗聴はされていると思うが、その手段については情報不足のため保留』
 ・『ギガゾンビが手動で首輪を爆破させるつもりはないと考えているが、これはかなり自身ない』
 ※トグサが留守電メッセージを残した施設は以下の八つ。メッセージの内容は等しく同じです。
 ・A-1の高校
 ・A-8の温泉
 ・B-4の映画館
 ・D-3の病院
 ・D-5のレジャービル
 ・E-6の駅
 ・F-1の駅
 ・F-5の遊園地・北門付近の事務室(スタート時、不二子が居た場所)
175幕間 - 『花鳥風月〜VSアサシン0』 ◆QEUQfdPtTM :2007/01/06(土) 23:36:45 ID:B8t0voHv
映画館の内部、灯りも付かないロビー。
その一室で、セイバーはソファーに寝転んでいた。
傷付いている今、無用な戦いは避けるべきだし……
何よりも、この様子ならば焦る必要も無いからだ。
六時間で19人。どうやらよほど好戦的な者が集まっているらしい。
なら、セイバーは傷を癒すのに専念していても、参加者は勝手に減っていってくれる。

――やがてか弱い女子供はその者達に駆逐され、私はそういった者を手にかけずに済む。

「……堕ちたな、私も」

弱気な考えに、セイバーは頭を振っていた。
殺されていくのを知って止めずに傍観するのならば、それは同罪だ。

――いや、もう堕ちていたか。

国のため、撤退するために、勝つために何人も騎士も民も見殺しにした。
そしてついに見限られて、国そのものを滅ぼした。
そんな自分を許せなくて……彼女は願うのだから。
考えるのも嫌になってくる。だから呼吸を整えることに専念した。
セイバーは血を巡らせ呼吸をするだけで魔力を生成する、言わば魔術炉心とも言える能力がある。
ただ、この能力は万全な状態でなければ行使することはできない。
サーヴァントの身で万全な状態と言えば、魔力がしっかりと供給されている状態だ。
最低限単体で活動できる魔力しか供給されていないこの状態では、どうしても魔力の生成量は少なくなってしまう。
それでもゆっくり深呼吸し、魔力を呼び起こしてそれを傷の回復に当てていく。

挙げられた死亡者の名に感慨を抱くことは無い。今の彼女が知っている人間など居はしない。
衛宮士郎が死んでも、彼女が知ったことではない。
衛宮という名字さえ、無視した。日本にはそれなりにいる名字なのだろう、で終わった。
あの衛宮切嗣の子ならば……聖杯戦争を思わせるこの戦いでこうも早く死ぬはずが無いと判断して。

「彼の息子なら、周りの人間を盾にしてでも勝ち残るでしょう」

実際には盾になって死んだことなど、やはり知る由もない。
それを最後に、セイバーはあっさりと記憶と思考から衛宮士郎と言う名を消した。

――剣は鞘を捨て命を断つ。

     〜〜〜     〜〜〜〜     〜〜〜〜     〜〜〜     
176幕間 - 『花鳥風月〜VSアサシン0』 ◆QEUQfdPtTM :2007/01/06(土) 23:38:13 ID:B8t0voHv
「……雅に欠ける」

佐々木小次郎は、ギガゾンビをこのように評した。
つまらぬ術に奢り高ぶり勝ち誇り、自分は何もしない。
斬れば刀が腐りそうな下郎。

「あの女狐の方がよほど美しいものだ。あれは捻くれているようで、存外純真故に」

手当ては既に済んだ。
かつて仕えた主を思いながら、山を降りる。

もっとも、主催者が気に入らぬからといってこの絶好の機会を逃すかといえば断じて否。
燕を斬り騎士王に届きかけた魔剣、戦えと言うならば例え神でも相手取る。

「強者と死合えるのならばどこでも構わぬ。
 煉獄に呼ばれたならば、そこに住む鬼を斬れば済む話――」

不敵な笑みさえも雅に浮かべ、彼は歩く。
彼の目的はただ一つ。
生涯をかけて編み出した魔剣、その強さを証明することのみ。

――剣の存在意義は切り裂くことのみ。

     〜〜〜     〜〜〜〜     〜〜〜〜     〜〜〜     
177幕間 - 『花鳥風月〜VSアサシン0』 ◆QEUQfdPtTM :2007/01/06(土) 23:39:10 ID:B8t0voHv
サーヴァントに睡眠は必要ない。
したがって、セイバーも寝転がりこそすれ眠るつもりはない。
起きていたからこそ……治癒の進み方がおかしいことに気付いた。

「鎧より、肉体の回復の方が遅い……?」

いつもの場合、鎧の修復に要する魔力の方がセイバー自身の傷の治療に要するそれよりも大きい。
だが今回は違う。鎧はもう修復されたのに、肉体は未だに完治していなかった。
放送から約三時間。それだけあれば両肩の傷以外は癒せるはずだ。
それなのに、全身の所々に付けられた傷さえ完治していない。
表面的には塞がっているが、それでもまだ軽く痛みが走る。
十分に耐えられる程度の痛みだが……どちらかと言えば浅かった傷でさえこれなのだ、
深く抉られた両肩の方は言うまでも無い。
だが、本来なら在りえない状況に疑問を抱いている暇は無かった。
かつり、と音がしている。

「誰か……来る!」

映画館内に足音が響く。
全く自分の存在を隠そうとしていないか、そう思えるほどの大きさで。
ただの素人か……あるいは、そんな様子でなお生き残れるだけの実力がある者か。

「……ち」

舌打ちをしながら、セイバーは柱の影に隠れた。
気付かずに近寄ってきたところを一気に断つのが狙い。
だが足音の発生源が余程の実力者ならば、気配遮断の心得などないセイバーの位置などすぐに気付くだろう。
彼女はそう予想していたし、実際にそうだった。
飄々とした言葉が、入り口から紡がれる。セイバーへ向けて。

「出てくるがいい、騎士王。
 闇討ちなどそなたには似合わぬ」
「なっ……!?」

セイバーは、思わず絶句していた。
入ってきた者は、セイバーの真名を軽々と当ててしまっている。
まるで、始めから知っていたかのように。

(まさか……我が騎士の一人か?)

思わず、セイバーは顔を出して相手を確認していた。しかし、予想は掠りもしていない。
そこにいたのは袴を着た男。雅と言う言葉が似合う、不敵な笑みを浮かべた侍。
それがかつて彼女に仕えた騎士であるはずがない。

「何者だ、貴方は」
「ほお……二度も死合ったというのに忘れてしまったか。
 アサシンのサーヴァント――佐々木小次郎だと名乗ったはずだが」
「な、名乗る!? そんな馬鹿なことを……」
178幕間 - 『花鳥風月〜VSアサシン0』 ◆QEUQfdPtTM :2007/01/06(土) 23:40:38 ID:B8t0voHv

男――アサシンが柳眉を上げる。怒りからではなく、疑問により。
セイバーの言葉に嘘はないと彼もすぐに分かる。こんな嘘を吐く意味がないからだ。
困惑するセイバーを余所に、小次郎は言葉を返した。

「ふむ……私とそなたで何か、召還の際に何か食い違いがあるようだな」
「……食い違い?」
「さよう。どのような物かは分からぬが、な」

食い違い。
その言葉は、ここに呼ばれた時にセイバーの心に最初の一瞬だけ……
ほんの一瞬だけ引っかかっていた答えが再び浮上させる。
しかし、浮上させた張本人である小次郎はそれを、少しも表情を変えないままで。

「もっとも――剣で語る我らには関係ないことか」
「ッ!」

無駄な物だと、切り捨てた。
その言葉を聞いた瞬間、セイバーは素早くカリバーンを構え直す。
明らかな宣戦布告に気を引き締めないのは自殺願望がある人間だけだ。
いくらセイバーと言えど、この状態でサーヴァントに勝てるかどうかは疑わしい。
それでも彼女は負ける訳にはいかない。再戦の誓いと、民のために。

だが、あっさり小次郎は臨戦態勢のセイバーに背を向けた。

「なっ!?」
「止めだ」

つまらそうに小次郎は呟いた。
明らかに隙だらけ。背中から斬りかかることも可能だろう。
それが逆に罠のようにも見えるし――事実セイバーの直感は、攻撃を仕掛けても防がれると告げている。
だから、セイバーは問う。臨戦態勢を解かないまま。

「何のつもりです」

言った言葉は簡潔。しかし、込められた殺気は本物。
少しでも虚偽を言うならばたちどころに見破ろう……そんなセイバーの意志が込められた言葉。
だが、あっさりとそれはいなされた。

「そうだな……一言で言えば、つまらぬ」
「は?」

返ってきたのは、そんな返事。
完全に呆気に取られたセイバーを尻目に、アサシンは流れるような仕草で言葉を紡いでいく。

「再戦をするならばもう少し対等な条件で行いたいものだ。
 ただでさえ私はそなたの剣を知っているのに、そなたは私の剣を知らぬという不公平。
 その上、全身が傷ついた状態のそなたと死合うところで何の楽しみもあるまい」
179幕間 - 『花鳥風月〜VSアサシン0』:2007/01/06(土) 23:41:34 ID:B8t0voHv

あっさりと小次郎は言う。なんでもない、当然のことかのように。
その目は表面的には塞がっていた傷の存在をも、あっさりと見抜いていた。
だからだろうか。心さえもまた、見抜けるのは。

「何より、そなたの剣気はあの時ほど澄んではいない」

小次郎の言葉に、セイバーの眉がつり上がる。
こちらは先ほどの小次郎の反応とは違い、怒りが混じっていた。
しかしそれさえ、まるで流水かのように受け流して小次郎は告げる。

「そなた自身が分かっておろう。ゆめゆめ失望させるな、セイバー。
 次に会うときは傷を癒し、迷いを消せ。
 例え鬼と成ろうと仏に成ろうと私は気にも留めぬ……強ければ、な」

まるでセイバーの心を見透かしているかのような台詞に、彼女は絶句するしかない。
そう。まるで、未来のセイバーに会ったことがあるかのような言葉――
セイバーは、思わず唇を噛んでいた。これ以上、自分について話されたくなかった。

「一つだけ聞かせてもらいます。
 なぜ、貴方は万全な私を望む。どんな基準で動いているのです。
 願いを叶える気は無いのですか?」

だから、話題を変えた。
もっとも、本心でもある。セイバーにとって、小次郎の価値観は全く分からないもの。
サーヴァントであるならば聖杯で叶えたい望みを持つのが自然。
しかし、望みがあるならばセイバーの回復を待つという彼の態度は明らかにおかしい。
そう思ったのだ。
この問いもなお、小次郎は飄々と答えていく。

「ふ、願いなど死合うことそのものだし……これ以上無く単純な基準も無いと思うがな?
 私にとっていつの時代、どこの人間か――いや、人間でなくともよい。
 礫であろうと種子島であろうと、何を扱おうと構わん。
 私にとっての基準とはただ一つ」

そしてにやり、と笑って小次郎が紡いだ言葉に。
セイバーは、思わず寒気を覚えていた。

「――斬って達成感があるかどうかのみ」

……老若男女善悪さえ問わない。強ければよい。
例えそれによりどれほどの被害が出ようと彼は気にしない。どれほどの悲しみが生まれようと気にしない。
なぜなら、強者を斬れさえすればいいのだから。

彼が言ったのはこういうことだ。
剣の英霊どころの話ではない。怨霊とさえ呼べない。
彼は剣そのものが霊となった存在と呼んでも差し支えない。
剣を振るうことだけが願いなのだから。

――願いのために剣を振るうセイバーとは、根本的に違う。
180幕間 - 『花鳥風月〜VSアサシン0』 ◆QEUQfdPtTM :2007/01/06(土) 23:42:35 ID:B8t0voHv

「……納得しました。あなたはよほど、私よりセイバーと呼ばれるにふさわしい。
 正真正銘の剣の霊だ」

セイバーの言葉に少しだけ笑いを浮かべながら、
小次郎は入ってきた入り口へと歩いていき……
ふと、足を止めた。

「そうだ……言い忘れていたが。
 そなたの聖剣を持っていた者と出会った」
「私の? その者はどこへ行ったのです」
「それは言えぬな。せっかくの相手を渡してしまうのは惜しい」
「……なら最初から言わないでくれると助かるのですが」
「なに、一応言っておきたかっただけだ」

いい加減セイバーは頭痛がしてきていた。彼と話していると調子が狂う。
例えるなら柳。セイバーが力押しにする剛なら、彼は受け流す柔。
なんとなく、扱う剣技もまたそうなのだろうとセイバーは思い浮かべていた。

「ではな騎士王。別段ここで私を待つ必要は要らぬ。
 また再会できたのも巡り合わせならば、再戦できずに終わるのも巡り合わせ故に」

それを最後に、小次郎は映画館を出て行った。
同時に、はあ、と息を吐いてセイバーは座り込んでしまっていた。正直、疲れた。精神的に。
どれだけ殺気を放っても意に介せず、完全にあちらのペースで話すのだから。

「とりあえず、体の傷の回復を待ちましょう」

体も疲れているし、無理に動く必要は無い。
それに……彼女にはふと考えたいこともある。

「エクスカリバーがあるとすれば、私の鞘も……どこかにあるのでしょうか?」

――剣は、鞘が潰えたことに気付かず。

【B-4 映画館内部 初日 午前】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:全身に裂傷とやけど(表面的には治癒)、両肩を負傷、少し疲労(精神的にも)。
[装備]:カリバーン
[道具]:支給品一式、なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん
[思考・状況]
1:傷を治す
2:優勝し、王の選定をやり直させてもらう
3:エヴェンクルガのトウカに、見逃された借りとうさぎを返し、預けた勝負を果たす。
4:調子が狂うのであまり会いたくないが、小次郎に再戦を望まれれば応える
※うさぎは頭が湿っており、かつ眉間を割られています。

【B-4 映画館周辺 初日 午前】
【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:右臀部に刺し傷(手当て済み)。
[装備]:竜殺し@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1.兵(つわもの)と死合たい。基本的には小者は無視。
2.セイバーが治癒し終わるのを待ち、再戦。それまで違う者を相手にして暇を潰す。
3.竜殺しの所持者を見つけ、戦う。
4.物干し竿を見つける。
181 ◆QEUQfdPtTM :2007/01/06(土) 23:43:21 ID:B8t0voHv
修正
>>178
アサシン→小次郎
182歩みの果てには ◆q/26xrKjWg :2007/01/07(日) 00:55:20 ID:uhyzR8TH
(頭いてー……)

 微睡んだ意識の中で、まずヴィータが思ったのはそんなことだった。
 微かに感じた魔力。
 よく分からない。いろいろなものがないまぜになっていた。その中に自分のよく知る何かが混じっていたような、そんな気がする。

(ベルカの騎士がいつまでもぶっ倒れてちゃ世話ねーよな……)

 無理矢理に上半身を起こし、手元にあったハルバートを握りしめる。普段なら軽々扱えるであろうそれは、今の自分にとってはまだ重い。
 愛しいはやては、ここにはいないのかもしれない。逆にいるのかもしれない。どちらにしても、自分がこうして存在していられる以上、どこかにはいるはずだ。まずはそれを確かめなければ。
 ハルバートを起こして支えにし、ヴィータは立ち上がった。
 僅かな手がかりも無駄にはできない。先に感じた魔力を頼りに、再び歩を進める。
 その歩みはあまりに遅いが、それでも一歩ずつ、確実に。
 向かう先に見えてきたのは、無惨に破壊されたビルの跡。

 ヴィータが知る由もない。
 それが己の相棒、鉄の伯爵――グラーフアイゼンによってもたらされたことを。
 自分が感じた魔力のうちの一つは、その破壊の残滓であることを。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 太一が知る由もない。
 自分が身を置いていたのは、五つの魔法すら寄せ付けぬ究極の防御の中だったことを。
 それがただ一度だけ許された、遙か遠き理想郷――アヴァロンの真の力であることを。

 気が付いたら、太一は瓦礫の下にいた――
 そして、すぐにそれが間違いだと気付いた。身体が動く。自分の上には瓦礫がない。身体を起こすと、瓦礫の代わりに大量に積もっていた埃や小石がばらばらと落ちた。
 周囲を見やると、うずたかい瓦礫の山が連なっていた。すぐ側に大きな瓦礫も落ちている。これが直撃していたら間違いなく死んでいただろう。
 自分の身に何が起こったのか。全く理解できなかった。
 頭を庇えと言われて、今もこの手にある鞘らしきもので頭を庇った。ヘルメットを被っておけばよかった、と心底後悔しながら。瓦礫が降り注ぎ、意識が途絶え、そして目覚め――こうして今に至っている。
 ひとまず鞘を腰に提げた。先程のように、咄嗟に身を守るぐらいには使える。もう備えを怠るつもりはない。

 自分が無事だったぐらいなのだ。それならば――と少なからず期待を抱いて、隣のビルに向かう。
 そのビルの入り口で気絶していたはずのルイズの姿は、太一のデイパックと一緒に消えていた。
183歩みの果てには ◆q/26xrKjWg :2007/01/07(日) 00:57:10 ID:uhyzR8TH
(もしかしたら……)

 そう、襲ってきた青年がビルの倒壊を引き起こしたのではないのかもしれない。何せ自らも巻き込まれかねないリスクを背負うのだ。
 ルイズには動機がある。まず何より憎い仇であるはずの自分がいる。改めて振り返ってみれば、ルイズと素子の関係も上手くいっていなかったように思える。何らかの方法で諸共消し飛ばそうとしたのかもしれない。
 自分のデイパックにそんなことができる武器は入っていなかったと思うが、それだけを理由に不可能だと断定するのは早計だろう。

 ビルの中も探し回ってみたが、見付けられたのはドラ焼きがどうこうと寝言を呟くドラえモンだけだった。ドラえモンが無事であったこと、そして大分調子が良くなっているように見受けられたことは幸いだ。
 しかし、ここにも素子の姿がないということは――

 だから太一は、瓦礫の山を掘り返している。ただひたすらに。
 この状況で運が良いも何もあったものではないが、それでも運良くと言うべきだろう。デイパックを一つ見付けた。
 それが誰のものかは分からない。早速中を漁るが、幸運は過分には作用しなかったようだ。中には食料やら何やら、共通の支給品が入っているだけ。
 この瓦礫を何とかしてくれるような天の助けは、ない。

「ちくしょう――」

 毒づきたくなる
 挫けたくなる。
 投げ出したくなる。
 最後に見た素子の姿は、どう控えめに見ても満身創痍に違いなかった。その上、この瓦礫の山である。まともに下敷きになれば生きていられようはずがない。
 もはや希望と呼べる代物ではないだろう。だとしても、すがっていたかった。絶望に埋もれていたくはなかった。
 地面に投げつけようとしていたデイパックが、力無く地面に落ちる。
 太一は再び、瓦礫の一つに手をかけた。右手の疼きが少しずつ弱まっていることなど、気にしていられなかった。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

184歩みの果てには ◆q/26xrKjWg :2007/01/07(日) 00:59:40 ID:uhyzR8TH
 無防備極まりない少年だった。
 瓦礫の山の上で、必死に何かを掘り起こそうとしている。もちろん、人一人――それも非力な少年の力でできることなど、たかが知れていよう。
 それでも、手を休めようとはしていなかったが。
 気配を消す余裕はない。開き直ってそのまま瓦礫の山を登る。
 音は音に紛れる。夢中になっている少年はきっと気付かない。ヴィータは楽観的にそう決めつけた。

「こっち向け」

 声をかけると、少年は身体をびくりと振るわせた。ハルバートを突き付けられていることにまだ気付いてないようだ。

「おめーのことだよ。聞いてんのか?」

 そこまで言ってようやっと、少年が振り向いた。鳩が豆鉄砲でも喰らったような驚きようで、ハルバートの切っ先を凝視している。
 状況が状況であれば吹き出していたかもしれないが、今はとてもそんな気分にはなれそうにない。こちらも一杯一杯には違いないのだ。
 少年が腰に提げた剣の鞘から、漠然とではあるが魔力――いや、魔力によく似た秘めたる何かを感じる。

「……ああ、聞いてる」
「おめーがこれやったのか?」
「……いや、俺じゃない」

 信じる根拠はないが、恐らく疑う必要もない。自分の接近にすら全く気付かないようなド素人。加えて、本人からは何の魔力も感じられない。ただの一般人だろう。魔法あるいは魔法に類する何らかの手段によって、これだけの破壊を為せるとは思えない。
 件の鞘が気にはなるが、どんな道具も使えなければ無用の長物でしかない。

「そうだ! ええと、その、まだここに埋まってる人がいるんだ! 瓦礫をどけるのを手伝ってくれないか!?」

 少年が、突拍子もなく声を大にする。
 耳に入ってきた単語を何とか頭の中で組み合わせ、その意味を吟味した。短絡的だが、場合によっては憂慮すべき事態かもしれない。だから叫んだ。

「埋まってる――まさか、八神はやてか!?」

 その名を聞いて少年が僅かに動揺したのを、ヴィータは見逃さなかった。

「答えろ! はやてがここにいるのか!?」

 さらに詰問する。
 こちらの勢いに押されてか、少年は幾分語気を落として答えた。

「いない……と思う。はやてって人のことは知らないんだ。同じ名字だってのを名簿で見かけただけで――」

 そこまで聞けば十分だった。はやては無事だ。そう。聞くまでもなかった。こんなところで瓦礫の下敷きになっているはずがない。馬鹿なことを考えてしまった。
 そもそも、名簿に書かれた八神はやてなる人物が、自分の知っている八神はやてだとも限らないではないか。その確証すらまだ得ていないのだ。
 まとまらない思考を無理矢理一つにまとめあげ、ヴィータは結論付ける。
 大丈夫だ、と。

「そっか。ならもーいい」

 そこでヴィータの意識は暗転した。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆
185歩みの果てには ◆q/26xrKjWg :2007/01/07(日) 01:01:32 ID:uhyzR8TH
「こっち向け」

 突然視界の外から聞き覚えのない声をかけられて、太一は戦慄を覚えた。
 何時の間に近付かれていたのだろうか。

「おめーのことだよ。聞いてんのか?」

 ゆっくりと、声の主を見やる。
 悪態を吐いているのは、三つ編みの少女だった。悪態に相応しく、表情は友好的なものとは言い難い。年は自分よりも下に見える。年不相応の制服姿が全く似合っていない。
 それ以上に似つかわしくない長大な武器を構え、迷うことなくこちらに向けている。
 何の冗談だろうか、とも思う。実際、冗談のような光景ではある。
 それが冗談ではないことは、もう何度も我が身をもって思い知っていた。切っ先の鋭い気配に冷や汗を流しながらも、太一は必死に自分を落ち着かせる。

「……ああ、聞いてる」
「おめーがこれやったのか?」

 誰がこれをやったのか。正直なところ、太一にもそれは分からぬことだった。
 襲ってきた青年か、いなくなったルイズか、あるいは全くの第三者か。誰がやっていたとしても不思議はなく、皆目検討も付かない。
 問いに答えるだけならば、分からなくても構わないが。

「……いや、俺じゃない」

 答えながら考える。この少女はどんな人間だろうか。
 大雑把に二つに分けるとすれば、殺し合いに乗っているのか、乗っていないのか。
 殺し合いに乗っているなら問答無用で襲いかかってきただろう。かの青年のように。乗っていないのであれば協力を仰げるかも知れない。今は猫の手も借りたい。
 武器を突き付けられてはいるが、それでも思い付いたままを口にした。

「そうだ! ええと、その、まだここに埋まってる人がいるんだ! 瓦礫をどけるのを手伝ってくれないか!?」
「埋まってる――まさか、八神はやてか!?」

 少女がそんな反応をしようとは、全く予想だにしていなかった。
 八神はやて――太一でも、ヒカリでもなく。
 覚えがないわけではなかった。

『ほら、見てみろよ。俺と苗字が一緒の奴がいるんだ』

 ドラえモンとかわしていた、そんな他愛もない会話を思い出す。
 心の動きを目聡く察してか、少女が声を荒げる。同時に切っ先が一段と近付いた。

「答えろ! はやてがここにいるのか!?」
「いない……と思う。はやてって人のことは知らないんだ。同じ名字だってのを名簿で見かけただけで――」
「そっか。ならもーいい」
186歩みの果てには ◆q/26xrKjWg :2007/01/07(日) 01:04:53 ID:uhyzR8TH
 太一のしどろもどろな回答は、少女のただ一言に遮られた。
 切っ先が自分の眼前から外れる。
 警戒を緩めてくれたわけではなかった。緩めたのではなく、警戒などできない状態になっていたのだ。
 武器は瓦礫の上に落ちている。
 少女は俯せに倒れていた。
 しばらく観察するが、起き上がろうとする様子もない。息はしているようだが。
 武器も落としたぐらいだし、もう危険はないだろう――そう判断し、太一は恐る恐る少女に近付いていく。

「おい、どうしたんだよ」

 軽く揺すってみても反応がない。さすがに不安に思い、仰向けにしてみる。
 そこまでして、ようやっと太一も理解した。先程はそんなところまで気を回している余裕もなかったのだが、ちゃんと向き合いさえすればすぐに分かる。
 一方の掌を自分の額に、もう一方の掌を少女の額に当てる。

「何だよ、すごい熱じゃないか!」

 少女の顔は紅潮していた。心なしか息も荒い。時折うなされてもいるようだ。こんな吹きさらしの下に寝かせておいていいような状態ではない。
 とはいえ、唐突に現れ、こちらに武器を突き付け、そして勝手に高熱で倒れたこの少女を助けてやる義理が、自分にはあるだろうか。
 苦しむ少女は放っておいて素子の捜索を続けるか。
 素子の捜索を打ち切って苦しむ少女を何とかするか。
 素子がこの瓦礫の下で生きている保証はない――現実的に考えれば、その可能性は限りなく低いだろう。一方で、少女は生きて目の前にいる。放っておけばどうなるか分からないが。
 ここには、自分しかいない。
 やるなら、自分でやるしかない。
 決めるなら、自分で決めるしかない。

 太一は瓦礫の山に向かって呟いた。

「ごめんなさい……でも俺、この子のことを放ってはおけないよ」

 それでいい、と言ってくれる人はいない。黙って背中を後押ししてくれる人も。それでもそう決めたなら、せめて自分自身は信じてやるべきだ。
 助ける義理があるとかないとか、そんなことは関係ない。

(ドラえモンがいた部屋に、確かソファーがあったよな。とりあえずそこに寝かせよう。ホントはベッドが一番だけど、そんなこと言ってられる状況でもないし……カーテンでも引っぺがしてきて毛布代わりにすれば、何とかなるかな)

 何をすべきか考えながら、太一は準備を進める。まずは地面に落ちている武器を持ち上げた。その重さに改めて驚きながら、少女のデイパックに放り込む。
 それとは対照的に、少女の身体は見た目通りに軽かった。

「よいしょっと」

 脱力していて背負いにくくはあったが、背負ってさえしまえば片手で支えられる程度である。
 空いたもう一方の手で、少女のデイパックと、瓦礫の山の中で見付けたデイパックとを拾い上げる。
 歩きにくい足場に背と手の荷物も相まって、足取りはおぼつかない。それでも何とか瓦礫の山を下りきった。
 一度だけ振り返る。
 逡巡が全くないと言えば嘘になる。太一にとって、それはとても長い時間だった。実際には数瞬だったとしても。何もかもを自分一人でやれるわけではない。だからこそ、できることからやっていかねば。
 太一は前を向いた。
 そして歩き出す。

 やがて二人の姿は、ビルの中へと消えていった。


187歩みの果てには ◆q/26xrKjWg :2007/01/07(日) 01:06:26 ID:uhyzR8TH
【F-1 駅周辺・ドラえもんが放置されていたビル・1日目 午前】

【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:右手に銃創 ※少しずつ治り始めています
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、ヴィータのデイパック
[思考・状況]
1 :まずは熱を出している少女(ヴィータ)を看病。
2 :看病しつつ、ドラえモンの目覚めを待つ。
3 :瓦礫に埋もれているであろう素子を見付けたいが……。
   (恐らくもう生きてはいない、と悟りつつある)
4 :荷物を持って姿を消したルイズのことも気がかり。
基本:ヤマトたちと合流。

※放送は聞いていません。

※回収したデイパックは、ジュンのデイパック(素子検査済)のうちの一つです。
 中身は支給品一式のみ。

※『ヴィータのデイパック』の中身は以下の通りです。
支給品一式、スタングレネード×5、ハルバート(落としていたのを回収)


【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ、気絶中
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
1 :何かドラ焼きの夢を見ている模様。
2 :ヤマトを含む仲間との合流(特にのび太)。
基本:ひみつ道具を集めてしずかの仇を取る。ギガゾンビを何とかする。

※放送は聞いていません。


【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:発熱中、多少休んで歩けるようになったものの強行軍により再度気絶
[装備]:北高の制服@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:なし
[思考・状況]
1 :「八神はやて」の生死を確かめる。
2 :信頼できる人間を探し、PKK(殺人者の討伐)を行う。
基本:よく知っている人間を探す。
   (最優先:八神はやて、次点:シグナム、他よりマシがなのはとフェイト)

188歩みの果てには ◆q/26xrKjWg :2007/01/07(日) 01:09:09 ID:uhyzR8TH
※以下の荷物は瓦礫の山のどこかに埋もれています。

・素子が所持していたデイパック
デイパック*3:
   共通支給品*3、トウカの日本刀@うたわれるもの
   水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、もぐらてぶくろ@ドラえもん
   バニーガールスーツ@涼宮ハルヒの憂鬱
   獅堂光の剣@魔法騎士レイアース、瞬間乾燥ドライヤー@ドラえもん

・ジュンが所持していたデイパック(素子検査済)の残り
デイパック*2:
   共通支給品*2

・その他デイパックの外に出ていた道具
ベレッタ90-Two、ルールブレイカー@Fate/stay night、物干し竿
ベレッタM92F型モデルガン、弓矢(矢の残数10本)@うたわれるもの
オボロの刀(1本)@うたわれるもの



【アヴァロンの能力制限について】

このロワ内ではセイバーの魔力以外の何らかの力で稼働しています。
故に誰でも装備さえしていれば制限内の恩恵に預かれますが、
逆に持ち主のセイバーでも制限を越えた恩恵は得られません。

装備者に対する治癒能力を有しますが、治癒の速度はかなり遅めです。
重傷であれば治癒には相応の時間を要します。瞬間的な治癒は不可能です。

展開による絶対的防御機能はただ一度のみ発動できます。
ビル崩落の危機から八神太一を救った時点で既に使用済みです。
189行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 21:59:17 ID:iBv/zB2L
豪邸のある寝室。
そこでは君島邦彦はこの島での出来事を思い出しつつ、今後どうするかを考え続けていた。
その間、敵が近寄らなかったのは不幸中の幸いだなと、彼は安堵と自己への不安が入り混じったため息をついた。
彼は上体を起こした。

「おっ……」
身体が軽い。
疲労しうまく動かなかった身体もこれなら大丈夫だろう。
君島はベッドから離れると窓際へと歩いた。
向こうに見える光景は平穏そのもの。
安心し、更なる休憩への欲求が沸きそうになるが、慌てて自制。
彼は筆記用具を取り出し、自らの推理を紙に書き記し始める。
電車の発車時刻や、風との会話から得た情報など。


『おはよう! いい朝は迎えられたかな?』

べリッ……とペン先が紙を抉った。
突然の放送に君島は動揺しつつも、放送内容を記入しようと頭を切り替える。
禁止エリアの説明の後、死亡者の発表が行われる。
この時点での死亡者は少ないはず……君島はそう思っていた。
訃報はすぐに伝えられた。
190行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:00:26 ID:iBv/zB2L
『由詫かなみ』

君島の顔から血の気が引いた。
それでもペンを持つ手は震えさえもしなかった。
間もなく放送はギガゾンビの高らかな笑い声で終わる。
次に記入すべき情報はと……ペンを持つ手がさまよう。
彼は放送が終わるまで作業を続けられたのだ。

「あ……」
放送は終わったのだから、もう書かなくてもいいと彼は気づく。
立ち上がり、よろよろと数歩後退し、ベッドに触れ、また仰向けに倒れる。
「………………」
君島はうつぶせになり、顔をベッドにうずめた。
191行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:02:01 ID:iBv/zB2L
★★★

どれほどの時間が流れたのだろう。
ロックは屋上のベランダに背を預けながら、この期に及んで俺は……と自嘲した。
子供の泣き声は小さくなったものの未だ止んでいない。
ロックはどうすれば泣き止ませることができるのか、まともに考えることさえできそうになかった。
彼は足音を殺しつつ、下へ続くドアへ向かった。

後ろから撃たれるかもなという残酷な予測が浮かんだが、そうなってもしょうがないよなと、ロックはまた自嘲し、下へと降りた。

★★★

キョンはもしやと焦った。
彼とトウカが向かっていた図書館は放火による全焼は免れたものの、
大部分が煤に覆われたような建物へと変化していた。
キョンは冷静になろうとする。
一方、トウカは近づき、ざっと建物の損傷具合を確認してから言った。

「キョン殿、たぶん長門殿はここにはいない。鎮火してから大分経っている」
「……そうですか」

だったら長門がここに留まることはないだろうと、キョンは結論付ける。

「ハルヒ殿はどうするのだろうか?」
192行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:02:46 ID:iBv/zB2L
どうだろう?

彼女達はもう既に図書館に来たのだろうか?まだ来てないのか?
ここに残って待つか、別の場所に行くか。
どっちにしようかとキョンは迷った。
平賀さんのように犠牲になった人が図書館内にいたなら、放っては置けない。
だが今は生存者の方が先だ。
地図の内容を思い出し、あることに気づいた。
近くに病院がある。

「トウカさん。近くに病院があります。もしかしたらここに誰かが避難してるかも」
「……確かに」
「もしかしたら、使える薬品も置いてるかも」
「エルルゥ殿か」

キョンは頷いた。
「図書館は後で調べませんか?」

二人は図書館に多少の未練を残しながら、病院へと足を運ぶ。
193行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:05:44 ID:iBv/zB2L
★★★

ロックは疲労に耐え切れず、またも背中を壁に預けた。
病院から抜け出すつもりは最初からなかった。
ヘンゼルを庇っていたあの男の子……しんのすけと呼ばれていた彼を放置することなどできなかったから。
このクソッたれな状況を少しでもマシな物にしようと、自分を落ち着かせ奮い立たせようとし、病院内で探索を始めたのだ。
結果、首を折られたあの少女の他に二人の年配の男の死体を見つけた。
本当は三人とも埋葬してやりたかったが、それを行うだけの体力や気力や道具は彼にはなかった。
布を被せてやるのが精一杯だった。

利用できるだけの道具は大体回収した。
その間、幸いにもこの病院に人が入ってくる様子もなかった。
もし敵が入ってきたとしても、今のロックではどうすることもできなかっただろうが。

「放って置けない……か。それで俺はどうしろってんだ、え?」
194行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:08:07 ID:iBv/zB2L
ヘンゼルの前歴がどうあれ、しんのすけの目の前で友達を罵倒し、
殺す様見せ付けたのは他ならぬ自分だ。
双子を歪ませた要因のひとつであろう残虐行為を行った奴を、
あの男の子が許すはずがない。

今ならわかる、首が折れたあの少女を殺したのはヘンゼルではないということを。
あの双子なら死体を遊びと称して、もっと損壊させているに違いないからだ。
そして、あの時のやり取りを見る限り、少なくともヘンゼルがしんのすけに
危害を加えた事実はないだろう。
何故、ヘンゼルがしんのすけを殺さなかったのか?
その理由はロック自身も興味があったが、もう知りようがない。

ただ……レヴィ辺りには切って捨てられるであろう推測、
裏世界に入り込む前の自分なら、それほど珍しいとは思わなかった、他人への情が芽生えてからという理由。
それはかつてグレーテルに対して、彼が期待していた光明だったのに。
なのに彼はその奇跡を否定してしまったのだ。
195行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:10:32 ID:iBv/zB2L
「駄目だ……疲れたな……」

エルルゥという少女と出会ったのが原因かも知れない。
だが彼女の所為にはしたくはなかった。
ここに来る前から既に狂っていた可能性も、今では否定できないのだから。
ロックは屋上への階段を上がり、ドアより一メートル足らずの所で腰を下ろした。
この状態だと、しんのすけがドアを開ければ転がり落ちる可能性が高いが、それでも構わなかった。
ロックはデイパックの中身を覗き見る。
一つは黒色の重い篭手のようなもの。
もうひとつは。
彼は目を細めた。

「……ゲームに乗った奴にだけは、渡す訳にはいかないな」

ゲームの流れに埋もれ、自らが消える前にすべき事はしようと、
ロックは支給品の隠し場所を求める。

その最中、見つけた。
電話を。
196行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:12:55 ID:iBv/zB2L
★★★

君島は何度も何度も、早く深く呼吸を繰り返す。
走る。
肺が痙攣したような感覚がした。ついでに目の下が痒かった。
我慢して走る。かなみちゃん達が味わったであろう苦痛に比べればそれくらい、と。
病院が見えてきた。

だが、彼の目的地は病院ではない。
図書館だ。風を探すために。
病院を横切ろうと走る――

「……!?」

出口の近くに人がいる。
向こうにいる男女の二人組も当然それに気づき、君島を凝視した。

思わず足を止めてしまい、まじぃ……と君島は思った。
急な運動をしたため、ぜーぜーと荒息のまま二人と対峙。
妙な耳の形をした和風コスプレ女?が刀の峰に手を伸ばそうとするのが見えた。

君島は慌てて、支給品を取り出そうと身じろぎする。

「…………」
女は構えを解き、君島をじっと見つめる。
君島がリアクションをする前に、女の隣にいた学生らしき男が声を掛けた。
197行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:14:24 ID:iBv/zB2L
★★★

「……………………」

しんのすけは涙に濡れた顔で、周囲を見回す。
心身ともに重く気だるい。
彼は泣き疲れていた。
それでも尚、悪夢のような現実は未だ彼の目前にあった。
ひらりマントを顔に掛けられたヘンゼルの遺骸。

いつの間に布を顔に掛けられていたのか?
下手人である『怖いお兄さん』であるロックはどこにいったのか?

それらを疑問に思う余裕はしんのすけにはなく。
ただ一つの想いが、彼を行動に移させる。

「ヘンゼル……オラがお墓を作ってやるから……な」

彼は友人の死体の足を掴み、引きずるようにドアへと向かう。
本当は背負いたかったけれど、うまく運べないし、何より顔を見るのが辛かった。
ズルズル……となんとか、ドアまでたどり着く。
疲れた身体に鞭打ち、ドアを開け、ヘンゼルをドアの向こうへ移動させようとした。

「えっ……?」

足を掴んでいた手がすっぽ抜けてしまった。
しんのすけは体勢を整える間もなく頭を床にぶつけ、失神した。
198行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:16:02 ID:iBv/zB2L
★★★

ロックは椅子に座り、今後自分が取るべき行動を考え始めていた。
留守電は既に聴き終えていた。
ホテルに向かう気はロックにはなかった。
今の自分が『彼』の手助けができるとは思えなかったし、屋上にいるであろうしんのすけを放置できなかったからだ。
だが彼にとって、この電話を聞く価値は充分すぎるほどあった。
ギガゾンビ打倒を誓える程に。

そもそもこのゲームフィールド内のものは、ギガゾンビが用意したものだ。
通話内容は盗聴されているとロックは確実に断定できた。
ロックは自分の思考を変化させたであろう出来事を思い出そうとした。

あの時、エルルゥが差し出した飲み物は支給品だったのだろうか?
もしアレが人の思考を変化させ、彼女に悪意がなく、もし勘違いで差し出した物だったなら。
ギガゾンビのゲームに対する姿勢に、倫理的な考えを排除した上においても、
ある疑念を抱かざるを得ない。
199行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:19:06 ID:iBv/zB2L
奴はこのブラッド・パーティをどう楽しもうとしているのだろうか?

始めた理由の一つは容易に見当が付く。
奴の発言からして二番目に見せしめで殺された少女達への報復だろう。
残りの連中は、じわじわと嬲り殺しにする為に殺し合いを行わせた。
関わりのない自分達は、奴の身勝手な復讐劇の前菜に過ぎないかも知れない。

それなら奴がゲーム運営にそれほど真剣でなくても、理由がつく。
参加者の心を変心させるものを支給品して配布している。
そう推理する証拠と理由はそれだけでいい。
現に奴はあの少女の前に無関係の男を殺害している。
見せしめは一人で充分だろう。
レヴィやロベルタを知らず知らずの内に拉致出来る程なら、
わざわざ参加者を減らさずとも、何らかの力で男を取り押さえることが容易に出来たはずだ。
200行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:20:59 ID:iBv/zB2L
もし理由が復讐と残虐趣味の満足程度であれば、あの少女の知り合いが全員死亡した時点で、
他の参加者全員爆死させられる可能性は高くなる。

もっともそう結論づけたとして、自分が取るべき行動を変更できないが。
変にそれを伝えれば、自分が無駄死にした上に、それを聞いた参加者も爆死されかねないのだ。

絶望的な思考に陥りそうになる自分を鼓舞しつつ、ロックは更に頭を働かせる。

「…………!」

ギガゾンビやエルルゥの発言。
もし彼らの言ってることが本当なら。
奴のこのゲームの目的は観戦以外にも……。

ロックは顔を上げた。
遠くから複数の足音が聞こえたのは、それから間もなくの事だった。
201行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:22:18 ID:iBv/zB2L
★★★

今、キョン達は君島と行動を共にしている。
互いに疑心がまったく無い訳ではない。
ただ君島は武器を持ってなかったし、どこか切羽詰ってる様子もあり、
気になったトウカが声をかけたのが、同行のきっかけだった。
互いに軽く情報交換をした後、キョン達から図書館の状態を知った君島は、
病院の方を先に捜索することに決めた。

「あまり長居したくねぇよな……」
情報交換の最中、君島が軽口のようなものをたたいた。
キョンはそれを不謹慎とは思えなかった。
言葉とは裏腹に表情が真剣だったから。

「エルルゥ殿ー!アルルゥどのー!」
「ト、トウカさん!声がおおき……」
「ま、また……。そ、某としたことが」
「おい……待て……」
202行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:24:02 ID:iBv/zB2L
かつ……かつ……

足音だ。
キョンとトウカは慌てて口をつぐむ。
君島は物陰に身を隠し、キョンとトウカもそれに習った。

足音の主は不用心と気づいたのか、さっきより音を小さくして彼らに近づく。
階段から降り、姿を現したのは二十代半ばの青年、ロックだった。
彼は耳に何かをつけていた。
三人は警戒体勢を続行する。

しばし後、ロックは両手を上に上げた自分を晒け出した。
203行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:25:18 ID:iBv/zB2L
★★★

室内に緊張が漂う。

ロックは両手を後ろに回した状態で、三人に情報を伝えていた。
レヴィとロベルタとグレーテルの事、遭遇した吸血鬼の事、エルルゥの事、
留守電の事、ヘンゼルという少年を自分が殺めてしまった事を。
話を聞く三人の顔には、女は少し違っていたが、多少の恐怖と疑念が現れていた。
当然だろう。こんな事言って、警戒しない方がどうかしている。

君島が確認のため、電話を取った。
君島はメッセージを聴き、顔をキョン達に向けて頷いた。

「あんた……本当に鶴屋さんやハクオロさんには会ってないんだよな?」

キョンが念を押すように問い詰める。これで二度目だ。
ロックはそれを受けて強く頷く。
君島はため息をつくや、受話器を置きキョンの側へと座った。

「ロック……殿。エルルゥ殿はここより南の方に居たのだな」
「ああ……」

トウカは気を引き締め、顔をキョンの方へ向けた。
その表情が不意に曇った。
その理由がキョンには一瞬理解できなかったが、トウカの意図を悟り、口を開いた。
204行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:26:44 ID:iBv/zB2L
「次はトウカさんの番だから、一緒に探そう」
「……かたじけない!」
キョンの方も本当は朝比奈さん達を探したかったが、手がかりがないのでは
仕方がないと、自分を言い聞かせた。

君島は机に置いてあった、ヘンゼルが所持していた銃を手にして、言った。

「ロックさん……本当に俺が持って行ってもいいんだな?」
「ああ……」

ロック以外の三人は席を立つ。
それぞれの探し人を見つける為に。
しんのすけを連れて行くために。

「南のうどん屋には俺の支給品があるかも知れない、余裕があれば持っていけよ。
……頼むぞ」

ロックの頼みにトウカは頷く。
君島はロックに尋ねた。
205行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:29:15 ID:iBv/zB2L
「あんたは、誤解を解かなくていいのか?」
「誤解?俺の与太話を信じるものか……」

君島はキョンとトウカに目を向けた。
二人はその意図を理解し、この場を後にする。

「おい……」
「ガキは俺がおぶってやるよ。あんたは俺と一緒に……」
「馬鹿か?一緒に行けるはずがないだろう」
「行くんだよ。あんたの力が必要なんだ」
「………………」

ロックは君島の意図を理解できなかった。
一方の君島は直感ではあるが、ロックの力が必要と思っていた。
あえて彼が喋ってない情報があるとの確信もあった。
何より彼としんのすけの溝を少しでも埋めたかったのだ。

「行こうぜ……」

すぐに返事はできなかった。
ロックは机の上にあるメモを見て言った。

「あの子に放送の事は伝えるなよ」

これも二度目の問い。
君島は強く頷いた。
206行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:30:27 ID:iBv/zB2L
★★★

しんのすけは眠りから覚めた。
まだ頭の方がはっきりしない、そして猛烈な睡魔が程なくして襲いかかる。
どうやらここが外であることはかろうじて理解できた。
視界には見知らぬお兄さんが穴を掘っている。
その横顔は真剣で、目元が少し腫れていた。

ヘンゼル……父ちゃん……

今のしんのすけには、その名前を呼ぶのが精一杯だった。
しんのすけは再び、深い眠りに落ちた。
207行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 22:59:05 ID:iBv/zB2L
【C-3・北部/1日目/午前】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労。精神的疲労大。激しい後悔。
[装備]:バールのようなもの、マイクロ補聴器@ドラえもん、
[道具]:支給品三人分(他武器以外のアイテム1品)、黒い篭手?@ベルセルク、ルイズの杖@ゼロの使い魔
    どんな病気にも効く薬@ドラえもん、現金数千円
[思考・状況]1:ギガゾンビの監視の有無、方法と目的を探る。
2:君島達と同行。
        戦闘は避け、温泉がある方角に向かい、休憩しもって情報を集め推理する。
          3:しんのすけに謝る
          4:しんのすけ、君島、キョン、トウカの知り合いを探す。
          5:しんのすけに第一回放送のことは話さない。

【君島邦彦@スクライド】
[状態]:軽度の疲労、軽い打ち身 、深い悲しみ、自分への怒り、
    ギガゾンビへの激しい怒り
[装備]:コルトM1917(残り6発)
[道具]:電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅) 、コルトM1917の弾丸(残り6発)、スコップ
iPod(電池満タン、中身は不明、使い方が分からない)
[思考・状況]
1:冷静さを維持しつつ、情報収集と分析に努める。
2:しんのすけを背負いつつ、休憩場所を求めて移動。
3:鳳凰寺風としんのすけ、キョン、トウカの知り合いを探す。
4:カズマ、劉鳳と合流。
5:車が欲しい。
6:しんのすけに第一回放送のことは話さない。


【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:睡眠、全身にかすり傷、頭にふたつのたんこぶ。
    腹部に軽傷。精神的ショック大。深い悲しみ。
[装備]:ニューナンブ(残弾4) 、ひらりマント@ドラえもん
[道具]:支給品一式 、空のプラボトル×2
[思考・状況]1:みさえとひろし、ヘンゼルのお姉さんと合流する。
        2:ゲームから脱出して春日部に帰る。
         3:ヘンゼルを弔う
208行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 23:00:06 ID:iBv/zB2L

【C-4/歩道/1日日/朝】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:普通
[装備]:バールのようなもの、わすれろ草@ドラえもん
[道具]:支給品一式、、キートンの大学の名刺 、ロープ、円硬貨数枚
[思考・状況]
基本:殺し合いをする気はない
1:F-3うどん屋跡に向かって、探し人を求めつつ、可能であれば転ばし屋を回収する
2:トウカと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合いの捜索
3:ハルヒ達との合流
4:朝倉涼子とアーカードとロベルタには一応、警戒する

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:左手に切り傷
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
基本:無用な殺生はしない
1:F-3うどん屋跡に向かって、探し人を求めつつ、可能であれば転ばし屋を回収する
2:キョンと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合いの捜索
3:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
4:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す

[備考]
ヘンゼルの遺体は病院の外に埋葬しました。
銭形警部ら3人の遺体には布が掛けられてます。
彼ら4人はそれぞれの知り合いの情報を共有しています。
ロックは監視の可能性に気づきました。
209行くんだよ ◆M91lMaewe6 :2007/01/07(日) 23:15:45 ID:iBv/zB2L
>>208 訂正です

【C-4/歩道/1日日/朝】→【D-4/歩道/1日日/午前】

210白雪姫 1/5  ◆S8pgx99zVs :2007/01/08(月) 21:23:07 ID:M+9VMd/q
エリアの南端、海沿いに広がる遊園地の中。
太陽に照らされた明るいオレンジ色のレンガの上に北を目指す二人の影があった。
HOLYの隊員でありアルター能力者でもある劉鳳と、記憶を失い彷徨っていた所を彼に
保護された長門有希を名乗る少女である。


「どうしてなのかな?」
「何がだ?」

少女の疑問に男は足を止めることはなく、そのまま聞き返す。

「遊園地。どうしてみんな動いているのかな?って。誰もいないのに」
「知らないな」

劉鳳の返事はにべもない。
それも当然。このような状況においてそのような疑問を一々考えている余裕はない。
それよりも重要なのは誤解を抱いたままの真紅を探すこと。そして悪を排除することだ。

「……乗ってもいいのかな?」
「なんだと?」

あまりに場違いで能天気な疑問に劉鳳の足が止まる。振り返った彼の顔には明らかな苛立ちの
感情が浮かんでいた。

「状況を考えて発言してくれ。さっきも説明したはずだ。
 そんなのんきなことを言っていられる状況ではないことを。
 君もさっきその犠牲者を見ただろう?」

犠牲者。その言葉に彼女は血に塗れた老人の姿を思い出す。だが、それには不思議と感慨を
覚えることは無かった。それよりは目の前にいる劉鳳の方が恐ろしいと感じる。

「……ごめんなさい。まだ実感が沸かないみたいで。
 でも、じゃあ劉鳳はどうして私を殺さないのかな?」

その言葉に劉鳳の顔が険しさを増す。

「だって、そうでしょう?そういうルールなんだし……
 それに、さっきの……絶影?あれがあれば誰でも殺せるんじゃない?」
211白雪姫 2/5  ◆S8pgx99zVs :2007/01/08(月) 21:23:59 ID:M+9VMd/q
「ふざけるなっ!!」

突如現れた絶影が触鞭を地面を走らせ、それに伴い砕けたレンガが空に舞い上がる。

「俺を悪と同じものだと思っているのか……」

表情を持たない破壊者である絶影とは対称に劉鳳の顔には明らかな怒りが表れていた。
それには彼女も身を竦めたが、それでも言葉を紡ぐのを止めはしない。

「理解出来ないの。この閉塞した状況下に置いてあなたの行動理念は不利を生じさせるだけ。
 それだけの情報投影能力。情報統合思念体の端末である私達にだって与えられていないわ。
 それなのにそれを最大限に発揮しようとしないなんて非効率的でしかない」

突如として饒舌に語りだした少女に対して、劉鳳の顔が怪訝なものに変わる。

「人間はよく、『急がば回れ』って言うよね。確実な成果を望むなら慎重に、用意周到に事を起こせと。
 だけど、それは場合によると思うわ。今の状況はそうではない場合。椅子取りゲームのように
 手をこまねいているだけでは得られる物がどんどん手から零れ落ちていくだけだと思うの」

「……何が言いたい?」

「つまりね。私は成果を得るのを逃したくないの。
 あなたのその高次元存在とアクセスする能力。それはこの宇宙の中でも特に稀有な物よ。
 私はそれを解析して情報統合思念体に情報を送りたい。
 あなたはお人よし過ぎるわ。このゲームを生き残ることはできない。
 だったら……、誰かに横取りされたり取り返しがつかなくなる前に……

 ――私に殺されて」

瞬間。先程絶影が撒き散らしたレンガの破片が槍と形を変えて劉鳳を襲う。
無数に殺到したそれらは彼を串刺しにするはずだったがそうはならなかった。
絶影の二本の触鞭に叩かれ、粉々に砕け散り散乱する。

「本性を表したな下種な悪党が……死んで後悔しろっ!!」

槍を叩き落した二本の触鞭が今度は少女を襲う。

遊園地を舞台に再び、正義の破壊が吹き荒れた。
212白雪姫 3/5  ◆S8pgx99zVs :2007/01/08(月) 21:24:51 ID:M+9VMd/q
少女は襲い掛かる触鞭を身をよじり、跳躍して、時には小さな障壁を発生させて避ける。
暴風のように襲い掛かる絶影の触鞭は、地面を、壁を、遊具を破壊し遊園地に傷跡を増やしていく。


――すごいパワーとスピードだわ。まさかあの距離からの不意打ちが全て避けられるなんて。
あーあ。せっかく時間を掛けて構成したのに全部無駄になっちゃった。
それにしてもすごい出力。あの絶影という具現化された存在がその要点ね。
私達と違い一々体内で演算を行なうのではなく、単純な機能を持たせたデバイスを最初に具現化
させることで、本体に掛かる負荷を最小限に抑えている。
元々、脳の処理能力に限界がある人間には最適の方法だわ。


逃げる少女を追って絶影と劉鳳も走る。軽妙に攻撃を凌ぎ続ける少女にさらなる攻撃の手を加える。


――攻撃の軌道が単純だからそれを計算するのは容易いけど、スピードが速すぎて処理を
攻性情報の構築に回すことができない。それに――

少女の心臓が一つ大きく波打つ。

――フィジカルサポートへの処理にも影響が出始めた。このままでは彼に討ち取られるのも
時間の問題。一旦、離れないと……


触鞭の一撃を柱を盾にやりすごし、離れるように跳躍。壁を蹴って次の一撃を避け地面を転がる。
その後を追うように地面が弾け、さらに少女を触鞭が追い詰める。
色鮮やかに電飾で飾られた遊具らを犠牲に少女は逃げる――逃げる――逃げる。
それを追う正義の狩人、劉鳳。
彼らが通った後は、地面が捲り上がり、街灯は折れ、草花は散り、遊具は壊れると、散々な有様だった。

逃げる少女が一つの施設に駆け込む――ミラーハウス。鏡の迷路。
追う劉鳳はその浅はかさに心の中で侮蔑する。そして決着をつけるべく絶影の真の力を解放した。

「絶影ッ!!」

劉鳳の叫びとともに絶影を抑える拘束具が四散し、新たな身体を再構成する。
封じられた両腕を広げ下半身を長い尻尾と変えたその姿は、華奢な第一形態とは全く異なり
力強い竜を思わせるものに近い。
広げた両腕、その脇から見える副腕のその片方――剛なる右拳”伏龍”
ドリルのように回転し唸るそれが身体を離れロケットのように撃ち込まれると、少女を飲み込んだ
鏡の迷路は文字通り爆散し――そこに光が溢れた。
213白雪姫 4/5  ◆S8pgx99zVs :2007/01/08(月) 21:25:42 ID:M+9VMd/q
一瞬、ストロボのような強い閃光が劉鳳の目を貫く。
目眩し――!?予想外の出来事に相手からの反撃に備え絶影を構えるがそれは無く、
ただ雨のように砕けた玻璃の破片がさらさらと降り散るのみであった。


――逃げられた。そう結論つけざるを得ない。
あれから周囲を探索したが、結局あの少女――長門有希の姿を見つけることはできなかった。
少女を逃し、毒づく劉鳳であったが今回はそれに破壊は伴われなかった。
もうこの場所で無駄な破壊を起こす必要がなかったというのもあるが、なにより若干の消耗が
あったからだ。第一形態まではそうでもなかったが、やはり第二形態ともなると無視できない
程度の消耗がある。今回は短い時間だったので問題はないが、長時間の戦闘は難しい。
それを実感したので、出来うる限りアルター能力は温存しておいた方がよいと判断したのだ。

少女を逃したのは痛恨のミスだが何時までも同じ場所に留まっておくわけにもいかない。
逃した少女は一人ではないのだ。どちらも速やかに発見する必要がある。
劉鳳は最初とは別方向になる西のゲートへと足を向けた。先程の追走劇の結果そちらの方が
近くなったからだ。

油断なく歩く劉鳳。彼の心の中には長門と名乗った少女の言葉が小さな棘となって残っていた。
――自分はこの戦いを生き残れないと。殺す相手を選ぶような余裕は死を近づけるだけだと。
フ、と鼻で笑う。弱くて狡猾な悪党の言いそうなことだ。
だが!自身の正義は絶対!これに殉じ、これに生きる。戯言に貸す耳はない。
確かに油断はあったのかも知れない。事なきを得たがすでに二回も不意打ちを許している。
だが、血迷いこの悪趣味な殺戮遊戯――ギガゾンビの野望に手を貸す程自分は愚かではない。

絶対正義の信念。ギガゾンビ――『悪』の打倒を改めて心に起こすとそこにあった小さな棘を
振り払った。

劉鳳の正義は何者にも曲げることはできない。
214白雪姫 5/5  ◆S8pgx99zVs :2007/01/08(月) 21:26:33 ID:M+9VMd/q
一方、辛くも窮地を脱した少女――朝倉涼子は森の中にいた。
森といっても本物ではなく人口のそれもファンシーな作り物めいた森の中だ。
伏龍によって破壊されたミラーハウス。それよりいくらか離れた場所にある童話をテーマにした
コースター。その途中にあるトンネルの中である。

――激しい動悸が治まらない。
あの鏡の迷路。あの内のいくつかの鏡の構成情報に手を加え反射の位相を揃えて目眩しに
したまではよかったが、そこが限界だった。
あわよくばあの隙に反撃をと考えていたが、思いのほか身体が悲鳴を上げるのが早かった。
運よく彼に発見されることは免れたが暫くの間は動くことすらままならないだろう。
動悸が激しいだけではない。頭痛に眩暈に嘔吐感。それと発熱。
なんとか肉体を正常化したいが、そもそもその処理を行なうためのコンディションが整っていない。
――失敗したなあ。
きっかけはやはりあの防波堤の上で出会った少年の一撃か。あれで何か歯車が狂ったと思う。

もう荒くなった息を殺すこともできない。ただ横になって有機体の自然回復を待つしかない。
もしかしたらこのまま死ぬかもしれない。
――死か。キョンくんや涼宮さんは今頃どうしてるのかしら。それに長門有希。彼女も……


そこで彼女の意識は途切れた。
牧歌的な森の中、プラスチックの小人に囲まれさながら白雪姫のように深い眠りへとついた。



 【F-3/遊園地-西ゲート/午前】

 【劉鳳@スクライド】
 [状態]:やや疲労/正義に燃えている
 [装備]:なし
 [道具]:デイバッグ/支給品一式/斬鉄剣
      真紅似のビスクドール(目撃証言調達のため、遊園地内のファンシーショップで入手)
 [思考・状況]
  1:長門有希(朝倉涼子)を見つけ出し、断罪する
  2:老人(ウォルター)を殺した犯人を見つけ出し、断罪する
  3:真紅を捜し、誤解を解く
  4:主催者、マーダーなどといった『悪』をこの手で断罪する
  5:相手がゲームに乗っていないようなら保護する
  6:カズマと決着をつける
  7:必ず自分の正義を貫く

 [備考]
  ※朝倉涼子のことを『長門有希』、朝倉の荷物を奪った少年を『野原ひろし』と誤認しています。
  ※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。


 【F-4/コースターのトンネル内-白雪姫ゾーン/午前】

 【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
 [状態]:側頭部に傷/高負荷による激しい消耗/昏倒
 [装備]:SOS団腕章『団長』
 [道具]:デイバッグ/支給品一式(食料無し)/鎖鎌/ターザンロープの切れ端/輸血用血液(×3p)
 [思考・状況]:気を失っている。
215正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:30:05 ID:KEMp6UsI
あちことを走り回って、私に分かったことがある。
それは、ただ走り回るだけでは私にはこの怪人を撒けないということだ。

「どうした? その程度の速さしか出さないのか?」

狂ったような笑みで怪人が笑う。
小さな隙間を通り抜けることはした。久方ぶりに飛行することさえした。
だがどんな小技を使おうとも、力任せで突破してくる。
隙間を怪力で崩壊させたり、飛行並みの跳躍をするのは当然。
建物に足をめり込ませて壁走りなんて真似さえやってのけてみせた。
質の悪いストーカーにも程がある。

「下劣ね。それがレディへの態度かしら?」
「クク、お前がレディか。ハハハハハ」

またもや狂ったような……いや、狂った笑い声を上げていた。
どんな思考回路をしているかなんて考える気さえ起きない。理解不能だろうから。
私は足を止めて溜め息を吐くしかなかった。どうやって逃げよう……

目の前から騒音が聞こえたのは、そんな時だった。

トラックが道路を走っていた。あれも支給品、なのかしら?
私が考えたのは、そんな真っ当なこと。
だけどこの怪人は。

「あれに乗っているのはただ逃げるだけの野良犬か、それとも私に歯向かえる人間か、それとも怪物か。気になると思わないか?」
「…………」

そんなことをほざいた。そろそろ本気で頭を抱えたくなってきた。
いい加減理解不能だけど、どうやら、悩み込んでいるのは確からしい。
いくらこの化け物でもトラックに追いつくなんてそうそうできないはずだ。
もしあれを追いかけるようなら、私はその隙に逃げよう。
そんな予想をして……それは、不可能だと知れた。

「餞別でも送っておくか」
「なっ!?」

怪人はあっさりと銃を抜いて、発砲した。
しかもちょっとした動作に過ぎないはずなのに、その狙いは恐ろしい程の精度。
綺麗にトラックのタイヤが撃ち抜かれ、道路から外れて横転した。
216正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:31:40 ID:KEMp6UsI

「貴方……!」
「貴様を逃がすのも惜しいが、もしあの中に面白い者がいたらそれを逃がすのも惜しい。
 まあ、貴様を追うついでだ」

私は今更ながら戦慄していた。
こいつは「ついで」で人を傷つけられる。
私が撒こうとその辺を走り回れば、こいつは見た者に片っ端から「餞別」を送りつけていくのだろう。
せめて、トラックに乗っていたのが大人ばかりだったら安心できたかもしれない。
殺し合いに乗った者が乗った者を撃ったに過ぎないと思い込めたかもしれない。

――出てきたのは、小さな子供や女の子ばかりだった。

「さて、野良犬か人間か……」

それをこいつは哀れむどころか、じっくりと観察している。
私は再び確信した。こいつはなんとしてでも撒かなくてはならない、と。
そうしないと、永遠にジュンとは合流できない……いや、するわけにはいかない。
遭った瞬間、こいつはジュン目掛けて発砲するだろうから。
デイパックの中からレヴァンティンを探す。こうなったら実力行使も辞さない……

だが、それが抜かれることは無かった。
その前に対処すべきことができたから。
217正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:33:42 ID:KEMp6UsI
とっさに受身を取ったことが幸いし、私――長門有希は無傷だった。
横転したトラックから身を乗り出して、なんとか脱出する。
ひどい有様だった。
涼宮ハルヒの言葉に応じ、私達はD-3の橋を目指すはずだった。
だがそのすぐ後に、銃声と共に車体は大きく揺れ、横転した。
恐らく車輪が破壊された可能性が高い。修理には相応の時間がかかると思われる。
撃ってきたのは悠々とこちらを眺めている長身の男だろう。
なぜか次を撃ってくる気配は無い。理由は分からない。
とりあえず、私は急いで全員をトラックから引っ張り出し、被害状況を確認する。
石田ヤマト。気絶しているが目立った外傷なし。脳震盪と判断。
しばらく安静にしていれば問題は無い。
涼宮ハルヒが連れてきたアルちゃんとかいう人類に近似した生命体。
足と肩に打撲が認められるが、それほど重傷ではない。骨も折れていない。
……問題は、涼宮ハルヒだった。彼女を動かすのはかなり慎重を要した。
意識が無い。呼吸が荒い。頭部からは出血。明らかに、命に関わりかねない負傷。
病院で治療を行うのが最善だが、下手に動かせばどうなるか分からない。
だから、手を当てる。最低限の治療を私の手で施し、なんとか動かせる段階まで回復させる。
させられる、はずだった。

「治らない……?」
「おい……私は放置か……」

豚のような生命体が声を出したが、答える余裕は無い。
例え全身を貫かれていても、治癒できる自信があった。思念体と連絡が取れれば。
連絡が取れないこの場においても、せめて意識を取り戻すくらいはできるはずだった。
だが今、私が手を当てても涼宮ハルヒの治癒は遅々として進まない。
涼宮ハルヒの体は通常の人間と同じ再構成の方法では通用しないのかとも思ったが、すぐに否定した。
もっともありうる答えは一つ。主催者による私の能力への介入。
不自然ではない。ギガゾンビという男の目的は殺し合い。
特に治癒能力に関して念を入れて阻害すれば、人が死ぬ早さは助長されていく。
いや、理由はどうでもいい。どちらにせよ結論は一つだけ。
今の私には――涼宮ハルヒを救えない。

――何かが、切れたような気がした。

「ど……どうしたの……」

アル(仮称)が声を上げたが、無視した。
石田ヤマトのデイパックを引っ張り出し、中に入っていたRPGを片手で抜き出して榴弾をセット。
反動に備え、構えながら周りと距離を取る。
軽々と私がこれを持ち上げていることに絶句しているようだが、
全く気にも留めない。今は何より――撃ってきた相手を吹き飛ばしたかった。
狙うは悠々とこちらを観察している長身の男。
風向きは南南西。強さは微風。角度は上向きに7°。目標からの距離228m。
218正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:35:40 ID:KEMp6UsI
機械的に呟く。相手は遠い。しかもあの距離から当ててくる視力。
当たらない可能性は86%。そう結論する。
だが、ノイズは言った。

――当たる確率が、14%ある。

「発射する。着弾し、爆発が起こった。
……しかし、爆風の中から何かを抱えて飛び上がった相手の姿を視認。
そのまま相手は後退していく……それでも、見えなくなる距離まで離れはしなかった。
立ち止まったのは、こちらが視認できる限界の距離。
まるで、興味深い対象を観察するかのように。そしていつでも手を出せるように。
論理的に考えてもできれば排除したい。それに、あの笑みを見ているとノイズが走る。
相手は予想以上に速い。確実に当てるとすれば、追いついて機関銃を使うしかない。
だが、ここを離れるのは危険……涼宮ハルヒの命に関わる。
ならば、ここからもう一発撃つ。14%に賭けて。
突然声が聞こえたのは、そんな時だった。

「そこの義体!」

叫びながら、マウンテンバイクに乗った中年が近づいてきていた。
義体という言葉の意味する所は判らないが、視線からすると私に言っているようだ。
アルは私の後ろに隠れているし、豚はまだトラックから出ていない。私以外に言ったということはないだろう。
……急いでいるのに。
右腕でRPGを構えながら左腕で拳銃を抜く。
それを見て、慌てて男はマウンテンバイクから下りて手を上げた。

「と、とんでもない強化義体だな。とりあえずこっちはやるつもりじゃないんだが」
「……そんな証拠はない。
 何より、あなたが私を信用する理由が無いのと同じように、
 私もあなたを信用する理由は無い」
「警察なんだが、駄目か?」

そう言って相手は警察手帳を見せてきた。
写真にある顔と彼の顔は一致している。本物の可能性は高い。
それでも、まだ警戒を解くには足らない。

「……あなたが私を信用する理由は」
「こんなにたくさんの子供を引き連れている。遺体さえ丁寧に扱ってる。
 それに怪我人に丁寧に手を当てて、何かしようとしてたのが見えた。
 殺人者がこんな真似するか?」

そう、男は言った。その表情は、なぜか誠実なように見えた。
論理的思考をすれば、警戒を怠るべきではない。表情なんて簡単に誤魔化せる。
……だけど、今は時間が無い。涼宮ハルヒの命が危険だ。
何より。横転の原因となった男は未だに、こちらを観察していた。

「頼みがある。私がいない間、ここにいる人間を守っていて欲しい。
 それと、この少女の手当ても」
219正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:37:23 ID:KEMp6UsI

男に背を向けて、横転したトラックの中から機関銃を引っ張り出した。
右腕にも拳銃を構えておく。武器は多ければ多いほどいい。
RPGはここに置いていくことにした。動きが重くなるだけだから。

「援護は……」
「いらない」

男はやれやれ、と溜め息を吐いた。「彼」を思わせる仕草だ。
意固地な女の子だとでも呆れているのだろうか。……そうかもしれない。

「状況はまだよく分からないんだが、わかった。俺はトグサ。君は?」
「長門有希。
 それと……涼宮ハルヒには私の力の事は言わないで」

思わず呟いてしまったことは、今更どうでもいいことだった。
この状況下で、涼宮ハルヒによる情報爆発を防ごうとするなんてもはや不可能だ。
彼女はもう、恐ろしい数の在りえないことを目撃している。
それでも、なぜか言いたくなった。

「倒れてる女の子のことか? なんでだ?」
「私のことを、特別扱いしてほしく、ないから」

とっさに答えたこの言葉。嘘だった。色々と誤魔化すはずの、嘘のはずだった。
なのに、なぜか、説得力があった。
そうかもしれない、と私は思う。
言葉も、それに続いて自然と出てきていた。

「今まで、私は影で彼女を助けてきた。
 それは、今も変えたくない。普通の人として、見ていて欲しい」

ノイズは、事実だ。言葉は、事実だ。
例え涼宮ハルヒの力を奪って行使してでも……今の私はSOS団という存在を保持するだろう。
それも悪くない、と私は思う。
そんな私を見て、アルが声を上げた。

「おねーちゃん、正義のみかたみたい」

……正義の味方。
抽象的な発言だ。正義と言うものは数多く存在する。
統合思念体さえ、意志を統一することなく争う。有機生命体も同じだ。
当然、正義と言うものは数多く存在する。
それぞれが正しいと思うことこそが正義。正義と言う言葉ほど抽象的な物は無い。
だが。

「――ありがとう」

なぜか、そう呼ばれても悪くない気がした。

「安心するがいい……真の正義の味方であるわたs」

そうして少女の言葉を背に、私は跳んだ。
220正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:38:25 ID:KEMp6UsI

「クク、来たか。
 来ないようならば誰かもう一人吹き飛ばしてみるつもりだったが」

誰かこちらへ歩いてくるのを見て、嬉しそうに怪人は呟いていた。
そのままのんびりと相手を待ち構えている。嬉しそうに。
なんで私は逃げ出そうとしないかというと、理由は簡単。
怪人に左腕で抱え上げられていたからだ。

「離しなさい! レディに失礼なのだわ!」
「先ほどの爆風から守ってやっただけだが?」
「元々貴方が原因でしょう!?」

私の反論も全くこいつは気にする様子が無い。
確かにあのままだったら巻き込まれて吹き飛ばされていただろうけど、
そもそもこいつが撃ったから撃ち返されただけだろう。
力ずくで逃れようといくら暴れても無駄だった。この怪人の膂力は尋常ではない。
結局、私に出来たのは溜め息を吐いて相手を一緒に待つことだけだ。
しばらくしてこっちへ移動してきたのは、一見無害そうな女の子だった。
無表情で、大人しげ。小柄な体に着ているのはどこかの高校の物らしき制服。
見る限りは、ただの女の子だ。

容姿だけを、見る限りは。

左腕に機関銃、右腕に拳銃。
それを持ってこちらを無表情で見つめているというのは、正直……怖い。
そもそも、数mくらいの距離を軽々と跳び移りながらこっちに来たような気がする。
もっとも、私を抱えてる怪人もそれくらい朝飯前だろうけど。

「いい目だ、ヒューマン。怒りに燃える目……誰か死んだか?」
「…………!」
「やはりただ追い払うためだけに来た、というわけでもないらしいな。
 敵討ちか? いい心がけだ!」
「いいえ」

相手は相変わらず無表情。
だけど静かな声の中には、確かに感情が込められていた。
怒りと言う名の、感情が。

「私は、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース。人間ではない」
「え……?」
「なに?」

疑問の声を浮かべる私達に答えは無い。
代わりに贈呈されたのは、銃弾。当然、掴まれたままの私も巻き込まれた。
私を抱えている本人がしっかり避けたお陰で怪我は無いけれど、
拘束されている状態で銃口を向けられるのは精神衛生上非常によろしくない。

「私を離しなさい! 危ないでしょう!?」
「この程度、当たらん」
221正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:39:22 ID:KEMp6UsI
「そういう問題じゃ……きゃあ!?」

こちらのことなんて全く考える様子も無いまま、近くの住宅へと怪人は銃弾から逃れる。
私を抱えたまま、コンクリートの壁ごと蹴破って。おかげで埃まみれだ。
もちろん、女子高生の方も礼儀正しい入り方なんてしない。扉を蹴破って追ってきた。
……そろそろ本気で勘弁して欲しい。

「逃がさない」
「やってみろ!」

女子高生が機関銃の引き金を引くのと、怪人がテーブルを相手へ蹴り付けるのはほぼ同時。
撃ち出された銃弾はテーブルに衝突し、遮られる。
……だが、盾としては問題がありすぎる。
確かに分厚いテーブルだったが、その材質は木に過ぎない。
機関銃に穴だらけにされるのは時間の問題だろう。防御としてはお粗末だ。
だけど、違った。私は怪人が差し出した銃を見て知った。

これは防御のためではなく、攻撃のためだと。

あの距離からタイヤを軽々と撃ち抜く銃だ、こんなテーブルを貫通するくらい簡単なんだろう。
テーブルで視界を塞ぎ、銃を撃ち込む。単純で分かりやすく、だからこそ有効。
あの子に警告を出そうと思った。だけど、その暇は無く必要も無かった。
あっさりと女子高生はその場に屈んでテーブルごと銃弾を回避する。
まるで、「視えていた」かのように。

「第三の目か? 確かにただの人間ではないらしいな!」

心底愉しそうに怪人が笑う。
……この時、この二人は本当に人間じゃあないみたいね、と今更ながら私は思った。
そんな私の感想を露知らず、相手は拳銃を向けてくる。ただ、狙いが少しおかしい。

「情報因子、解明」

そんなことを呟いて、女子高生は私達の背後へむけて撃つ。
正確には、キッチンに巡らされたパイプを。同時に広がるのは、何かきつい匂い。
何かのガスだと気付いた時には、相手はもう何か呟いていた。

「微調整……発火」

女子高生が、言葉を呟きながら跳ぶ。
その言葉によって生み出されたのは、ほんの小さな火花だけ。
だけど盛大にガス漏れしているのだ、それはあっと言う間に家の中を爆発させるだろう。
着火した当人はとっくに窓から脱出している。このままでは大惨事だ。
それでも結果から言うと、私は無傷で済んでいた。なぜかというと。

「ハハハッ、魔女狩りならぬ吸血鬼狩りの炎と言うわけか!」

怪人はこんなことを叫びながら、その場から垂直に跳躍。
天井を突き破って屋根に降り立ち、爆発から逃れるというとんでもないことをしていた。
当然私も怪人も無傷……ただしまた埃まみれ。
眼下には、やっぱり大した傷も無くあの少女が立っている。
もちろん、家の中は無事じゃないだろうけど。
222正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:40:47 ID:KEMp6UsI
「くくく、面白い、面白いぞ!!!
 片腕しか使っていないとは言えここまで戦えるか! いいだろう!」

そんな事言うんだったら離して頂戴、と言う間も無かった。
怪人は私を放り投げた。あっさりと。
慌てて受身を取った私を見ることもなく、彼は告げる。高々と笑いながら。

「本気でやらせてもらおう。これはゲームだ。
 女、貴様はどれだけもつか。そして人形、貴様はどれだけ逃げられるか……!」

思わず、全身が泡立ったように錯覚した。私の体にそんな機能はないはずなのに。
今までだって、十分過ぎるほど狂っていると思っていた。
だけど、もうこいつは狂ってるとかそんなレベルで表現できる奴じゃない。
今までずっと無表情だった女子高生も、思わず数歩下がっている。
それを見て、にたりと怪人……いや、怪物が笑う。

「どうした? 逃げないのか? 撃たないのか?
 お楽しみはこれからだ! HURRY! HURRY! HURRY! HURRY!!!」

銃声が響く。女子高生が機関銃を乱射したのだ。
それに釣られる形で、私も慌ててその場から逃げ出していた。
だが、しっかりと見ていた。
銃弾を掻い潜りながら、軽々と突進していく怪物の姿を。
223正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:43:20 ID:KEMp6UsI

「愚かだな、私も」

溜め息を吐く。自分に嫌気を覚えながら、かつて渡った橋を渡る。
やっていることは人探し。だが殺すために人を探しているわけではない。見つけたい人物は二人だけ。
結局こんな結論に傾いた自分に自嘲するしかなかった。

さっきまで、家の中で悩んでいた。
聞こえていたのは二つの声。

衛宮士郎が死んでも、この身は消えない。
ただ永遠に、掃除屋として人を殺していくだけ。そう運命は決定された。
なら、せめて今だけは従わなくてもいいだろう。サーヴァントである今だけは。

そんな声が聞こえる。もう一方で、別な声も聞こえた。

ただの我侭で、仕事を放棄するのか?
もしそれが原因でギガゾンビに逃がし、また惨劇が繰り返されればどうする?
それにもう二人、お前のせいで死んでいる。

二つの考えがぶつかり合う。
苦悩した。オレだって、好き好んで人殺しなどするものか。
だが、オレには脱出できるだけの自信が無い。力も無い。
全てを救おうとして二も三も取りこぼすのは、今まで何度も繰り返してきたこと。
未来への諦観から生まれた理屈と、過去から生まれた諦観が生んだ理屈がぶつかり合う。
だが最後に勝敗を分けたのは、単なる私情だった。

――ふざけんな。セイバーと遠坂を殺すのかよ?

聞こえたのはそんな声。
そう言ったのは、紛れもない……かつての自分自身だった。
否定しようにも、できなかった。
自分でさえ迷っている理屈で彼女達を殺すなんて、できない。
そうして何も決まらないまま、二人を探しにあたりを飛び回っていた。

「……くそ」

磨耗して尚、過去に引き摺られている自分が嫌になる。
それでも凛とセイバーだけは、助けたい。どちらかなんて選べない。
そして二人の前で、みっともない真似なんてできない。
それだけは、誤魔化しようがない事実。
224正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:44:29 ID:KEMp6UsI

「HAHAHAHAHAHAHAHA!!!」
「…………!」

怪物が、笑う。銃声が響く。暴力の嵐が周辺を破壊する。
その魔手から逃れるために、塀を蹴る。宙を舞う。
天と地が逆さまになった視界で両腕に持った二つの銃を放つ。
明らかにいくらか当たっている。なのに死ぬ様子は全く無い。怯みさえしない。
相手の放った銃弾が腕を掠めた。血が出る。痛む。反応が遅れる。
同時に左腕で振り回してきた標識は、住宅の屋根へ飛び移って避ける。
情報因子を変更し、強化していたはずの足がだるい。明らかに稼働率が落ちている。
なのに相手に疲れた様子は無い。笑いながら、呼吸を乱すことなく迫ってくる。

「どうした? 瞳に絶望が混じってきたぞ!」

そんなことを言いながら、相手は標識を上段から振り下ろしてきた。断頭台のごとく。
間一髪で外れたそれは易々と住宅の屋根に突き刺さる。
当たっていれば両断されていたことは想像に難くない。
だが突き刺さり、止まったのは好機。拳銃を素早く標識の柱の部分に密着させ、銃弾を放つ。
構造上脆い部分が綺麗に撃ちぬかれ、先端がもげる。標識はただの棒と化した。
だが相手の武器を失わせたことに安堵する間もない。上を見て、私は再び絶句した。

片手で自動車を持ち上げながら、怪物が上空へ跳んでいる。

自動車とは言っても、タイヤはなくフレームもボロボロ。
明らかに動きそうも無い廃自動車だが、それでも重いことには変わりないはず。
それを相手は軽々と持ち上げて、上から私目掛けて叩きつけていた。
寸前で回避はできた。だがそのままバランスを崩して、屋根から地面に叩きつけられる。

「……はぁ、あ」

体が軋む。それでもすぐに呼吸を整えて、立ち上がって走りだそうとして。

目の前には既に、相手が立っている。
225正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:45:54 ID:KEMp6UsI
離れていく。
後ろで盛大に行われている戦闘から逃れる。
できれば、あの女子高生が怪物を倒してくれるのが理想だろう。だけど。

「……勝てるのかしら」

あの女子高生は明らかに普通の人間じゃなかった。
だけど、あいつは普通じゃない程度で勝てる相手じゃない。
あいつは、常識の尺度で測ることさえできないのだから。
それに……子供が倒れていた様子を思い出すと、軽く自己嫌悪に陥りそうになる。
あいつを放って置けば、今後どんどんと人が巻き込まれていくだろう。姉妹達やジュンさえも。
私はこうやって逃げないで、援護するべきではなかったんだろうか?
そんなことを考えながら走っていたからだろう。誰かが接近しているのに気付けなかったのは。

「首輪があるところを見ると参加者か……
 何か向こうで戦闘が起こっているようだが、どういうことか知っているのか?」
「!?」

慌てて立ち止まる。目の前には、赤い外套の男が立っていた。
例の怪物同様こちらも長身だが、髪は白く肌は浅黒い。その体は明らかに鍛え抜かれた物だ。
すぐに右手を構えた。

「……誰? それがレディに物を聞く態度かしら?」
「これは失礼。
 金髪に青いドレスを纏った少女と、黒い髪を二つに纏めた少女を探しているが、知らないかな?」
「知らないわ」

即答する。質問するどころか逆に質問されてしまった。
そんな私の考えを露知らず、更に男は質問を続けていく。

「では、向こうで戦闘をしているのは?」
「赤い外套で長身の男と高校生くらいの女の子よ」
「……その男、吸血鬼とか自称していなかったか?」
「言ってたわ」
「奴か」

ふん、と男は息を吐いた。溜め息のような、それとも鼻で笑ったかのような。
ともかく質問が止まったのは確かだ。素早く口を開く。

「次は私の質問に答えてくれるかしら」
「…………」
「ちょっと!?」

それを男は完全に無視して、近くの電柱に跳び上がっていた。
どうやら戦闘を眺めているらしい。悩んでいる様子もある。
とりあえず、聞いていないのは確かだ。
226正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:47:25 ID:KEMp6UsI

「聞いてるの?」
「……すまない。もう一つだけ聞かせてくれ。
 戦闘が始まった経緯はどうなっている?」

……警戒より、怒りが先に立ってきた。
あの怪物といい、長身の赤い外套を着た男は話を聞かないのだろうか?

「あの怪物が先に手を出したわ。相手をしている方はそれに応じただけね」
「そうか」

答えは小さな呟きだった。同時に、男は剣を取り出していた。
狙いは明らかに私じゃない。見ているのはあの戦いの場。
……まさか。

「……戦うつもりなの? 相手は正真正銘の怪物だわ」
「知っている」
「なら、どうして?」

警戒することも怒りも忘れて、そんな事を私は言ってしまっていた。
理由は単純だろう。私は、人を囮にしてあいつから逃げ出したばかりだから。
だから、信じられない。彼の判断が。

「ちょっとした勘違いで下らん判断ミスをし、何人もそれに巻き込んだ。
 だからせめて奴を倒すとは言わないまでも……責任を取って保護するだけだ。
 実行犯も違う以上、償いには程遠いがな。それでも、私が止められたかもしれないという共通点はある」

返ってきたのは、そんな自嘲の笑みだった。
227正義の味方 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:48:32 ID:KEMp6UsI
腕を掴まれる。そのまま野球のボールかなにかのように軽々と投げられ、地面に叩きつけられる。
状況判断。背骨に衝撃。呼吸に一時的な阻害。

「は……ぐ……」
「いい目だ。まだ諦めていない目だ」

悠々と笑いながら、相手は歩いてくる。攻撃してくること、そのものを期待しているかのように。
罠だろうか……だけど、撃つなら今しかない。

「情報、因子変、更……射出!」

右手を翳す。同時に、左右から放たれた三本の槍が相手を貫いた。
機動戦では勝てない。射撃戦でも同じ。なら、勝つためにはそれ以外の要素を使うだけ。
だから、跳びまわりながらゆっくり、確実に槍を構成していた。相手に気付かれないように。
組み上げるのにかなり時間は掛かったものの、威力はかつて朝倉涼子が私に放ったものと同じ。
一つは頭部を貫いた。致命傷。致命傷のはず。そうでなくてはおかしい。
それなのに。

「なるほど、これが貴様の切り札か。吸血鬼には杭を撃ち込むものだしなあ?」

相手はあっさりと頭から槍を抜きとり、平気で喋っていた。一歩一歩近づいてきた。
機関銃を向けた。カタカタ、と耳障りな音を立てるだけだった。
目の前に相手の膝が迫る。とっさに機関銃を盾にする。
それなのにその一撃で左腕ごと機関銃は砕かれ、私はあっさりと宙を舞った。
再び地面に叩きつけられる。体が動かない。意識が朦朧としている。
理由は脳震盪。そう判断した。回復には十秒ほど必要。
だが、十秒あれば相手は私を殺せるだろう。

「じょ……ほ……つ」

情報凍結、解除開始。そう、呟こうとした。
無理だとは、分かっている。思念体と連絡の取れないこの状態でできるはずがない。
それでも、呟かずにはいられない。
結果は、無残だった。指先さえ、消えようとはしない。
男が腕を振り上げる。
私も死と言う概念はよく理解していないけれど、これから死ぬと言うことくらいは分かる。
そんなことを思った矢先だった。

「I am the bone of my sword」

ふと、声が聞こえた。周りの情報因子が変わっていく。
振り向けば、赤い外套の男が手を掲げて叫んでいた。

「熾天覆う七つの円環――!」

四枚の花弁を持った桃色の花が咲く。
殺し合いの場にはそぐわない幻想的な趣の花が、私を潰そうとした腕を受け止めていた。
228 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:49:39 ID:KEMp6UsI
【E-3中央 1日目 午前】
【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:左腕骨折、疲労、背中に軽い打撲、脳震盪により一時的に行動不能、思考にノイズ、SOS団正規団員
[装備]:熾天覆う七つの円環(不完全)@Fate/stay night  S&W M19(残弾2/6)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/タヌ機/
[思考]
1、アーカードの撃破(自己保身より優先)
2、ヤマトたちに付き合い、ハルヒ及びぶりぶりざえもんの治療。できれば人物の捜索も並行したい
3、SOS団のメンバーを探す/八神太一を探す/朝倉涼子を探す

【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:右腕に中程度の火傷や裂傷(応急処置済み)
   右目の視力低下(接近戦は問題ないが、エリアを跨ぐような狙撃に支障)
   右半身に軽い火傷や擦り傷、魔力消費小
[装備]:名も無き剣@Fate/stay night
[道具]:支給品二人分、チャンバラ刀専用のり、
[思考・状況]
1.長門の保護(アーカードの撃破より優先)
2.凛、セイバーと合流
基本:セイバーや凛と合流し、脱出案を練る。

【アーカード@HELLSING】
[状態]:全身の所々に銃創、頭部・脇腹・右足に裂傷(自然治癒可能)
[装備]:対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾10)
[道具]:なし
[思考・状況]
1、真紅の捕獲、だがアーチャーも長門も逃がさない。
2、人々の集まりそうなところへ行き闘争を振りまく
3、殺し合いに乗る

【E-2 1日目 午前】
【真紅@ローゼンメイデン】
[状態]:健康、人間不信気味、迷い
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはA's、くんくんの人形@ローゼンメイデン
[思考・状況]
1:ここから離れたいが、少し罪悪感も
2:自分の能力が『魔力』に通ずるものがあるかを確かめたい
基本:ジュンや姉妹達を捜し、対策を練る

【D-3・E-3境界・道路脇 1日目 午前】
【新生SOS団 団長:涼宮ハルヒ】
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:左上腕に矢(刺さったまま)、頭部に重度の打撲
[装備]:73式小型トラック(助手席)、小夜の刀(前期型)@BLOOD+
[道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
[思考・状況]
基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。
1、気絶
[備考]
矢は刀によって極力短く切られた状態にされていますが、出血を抑える目的で依然刺さったままになっています。

【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:人見知りモード。右肩に中程度、左足に軽い打撲。SOS団特別団員認定
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服
[道具]:無し
[思考・状況]
1、「正義のみかたのおねーちゃん」の帰りを待つ。
2、ハルヒ達に同行しつつエルルゥ等の捜索。
229 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 21:50:28 ID:KEMp6UsI
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人をはね殺したことに対する深い罪悪感、右腕上腕に打撲、相次ぐ精神的疲労、SOS団特別団員認定、脳震盪
[装備]:クロスボウ
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
 RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
 デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
 真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考・状況]
1:気絶
2:病院へ行ってぶりぶりざえもんとハルヒの治療
3:ハルヒとアルルゥにグレーテルのことを説明。
4:街へ行って、どこかにグレーテルを埋葬してやる
5:八神太一、長門有希の友人との合流
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
[備考]
ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
また、参加時期は『荒ぶる海の王 メタルシードラモン』の直前としています。
額からの出血は止まりましたが、額を打ち付けた痛みは残っています

【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒。激しい嘔吐感。無視されている。
   なぜか無傷。SOS団非常食扱い?
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手席)
[道具]:支給品一式 ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー
    クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り四回) パン二つ消費
[思考・状況]
基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
1.私こそが真なる正義の味方……おい、聞いてるのか貴様ら?
2.強い者に付く
3、自己の命を最優先
[備考]
黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。

[共通思考]:市街地に向かい、グレーテルを埋葬するのに適当な場所を探す。
[共同アイテム]:おにぎり弁当のゴミ(後部座席に置いてあります)

【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労
[装備]:暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本/マウンテンバイク
[道具]:デイバッグ/支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り19回)@ドラえもん
[思考]:1、涼宮ハルヒの治療・護衛
    2、情報および協力者の収集、情報端末の入手。
    3、十分な協力者を得られた後、ホテルへ帰還しバトーとセラスを弔う。マーダーがいるようであれば撃退。
    4、九課の連中と合流。

[備考]
 ※他メンバーの行動の妨げにならないよう、他メンバーについての情報は漏らさないつもりです。
 ※セラスや長門のことを、強化義体だと思っています。
 ※セラスが死んでしまったと勘違いしています。
 ※なので、正午にホテルに戻るという行動はキャンセル。ですがあそこを拠点として使う考えは失っておらず、いつか必ず戻るつもりでいます。
 ※マウンテンバイクはレジャービルの中で発見しました。
 ※あの場にいたもう一人のメイド(みくる)を、バトー殺害犯だと勘違いしています(セラスについてはよく確認できなかったため、保留)。
 ※トグサの首輪についての考察は以下の通りです。
 ・『首輪は技術手袋で簡単に解体できるが、そのままでは起爆する恐れがある』
 ・『安全に解体するための方法は、脱出手段も含めネットワーク上に隠されている』
 ・『ネットワークに繋ぐための情報端末は、他の参加者の支給品に紛れている』
 ・『監視や盗聴はされていると思うが、その手段については情報不足のため保留』
 ・『ギガゾンビが手動で首輪を爆破させるつもりはないと考えているが、これはかなり自身ない』
230 ◆2kGkudiwr6 :2007/01/08(月) 23:03:31 ID:KEMp6UsI
修正
>>228
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[装備]:73式小型トラック(助手席)、小夜の刀(前期型)@BLOOD+

[装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+
>>229
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
 RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
 デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
 真紅のベヘリット@ベルセルク

【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
 デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
 真紅のベヘリット@ベルセルク

【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手席)

[装備]:照明弾

[共同アイテム]:おにぎり弁当のゴミ(後部座席に置いてあります)

[共同アイテム]:おにぎり弁当のゴミ(後部座席に置いてあります)
 RPG-7弾頭:榴弾×1、スモーク弾×1、照明弾×1(地面に置いてあります)
231ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 19:51:57 ID:iSHiCAoe

 水底からふっと浮き上がるように、みさえは目を覚ました。

 「……わたし……」
 目に映るのが見慣れた天井ではなく、緑の木々と青空であることに違和感を覚える。
 さわやかな風が頬を、額を撫でてゆく。
 気持ちのいい朝。
 いや、太陽はもうかなり高くにのぼっているようだから、既に昼近くか。

 わたし、どうしてこんなところにいるんだっけ。



 「目を覚ましたか」
 突然降って来た渋い声に、驚いて跳ね起きる。
 ゴツい強面の男が、木に寄りかかってこちらを見ていた。
 「え、えっ? あなた誰……」
 言いかけて、唐突にみさえはすべてを思い出した。



 ――ギガゾンビの放送の内容ともども。



  +  +  +  

 放送を聞いた後、みさえはまずショックを受け、そして泣いた。
 あの人が死んだなんて嘘よ、と側にいたガッツに当り散らして、また泣いて、当り散らして、泣いて――
 ――それを繰り返すうちに、疲労の限界か何かで気を失うように眠ってしまった。


 自分のおぼろげな記憶とガッツの言葉を足して考えると、そんな感じだったらしい。
 深夜に訳も分からず連れてこられて、それ以来ろくな休息もとっていなかったため、
そこに夫を亡くしたというショックの追い討ちがかかれば無理からぬことではあった。
232ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 19:52:45 ID:iSHiCAoe

 放送で告げられた、自分の夫の名前。
 それが何を意味するのか、みさえは分かろうとしなかった。
 分かりたくなかった。
 しかし、分かってしまった。


 若いころ、ふたり一緒に歩いた桜並木。
 病院の一室、二人でかわるがわる抱きしめた幼い命。
 赤い屋根のマイホーム。
 一家でテレビを見ながら囲む食卓。

 ―――幸せな家族の団欒は、もう二度と戻ってこない。
 家族のアルバムに、もう父親の写真は増えることがないのだ。
 あの人はもういない。


 そう認めてしまってからは、ひろしの良かった所、優しかった所ばかりが思い出された。
 どうしてもっと優しくしてあげられなかったんだろう。
 ひろしの思い出と並んで思い出されるのは、自分のこれまでに対する後悔だった。
 毎日、家族のために仕事を頑張って疲れていたあの人に、もっと優しくしてあげればよかった。
 できることはいっぱいあったはずだったのに。
 わたし、あの人に何をしてあげられたかしら? 邪険に扱ったり、怒ってばかりじゃなかった?
 こうなるんだったら、もっと妻として色々してあげればよかった。優しくしてあげればよかった。
 あの人は、わたしなんかと一緒になって本当に幸せだったかしら?
 あんなに優しい人だったのに、どうしてこんなことに。
 こんな場所に似合わないくらい、普通のサラリーマンだったのに、どうして。
233ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 19:53:40 ID:iSHiCAoe

 「ひろし……」

 あらためて、みさえは泣きたかった。
 しかし泣けなかった。
 目覚めたばかりの現実感のなさと、さんざん泣きつかれた疲労から、もう涙もでなかった。
 泣きたくても泣けないこと、それが何より悲しかった。


 一度立ち上がりかけたみさえは、また項垂れてうずくまろうとする。
 「もう嫌……なんでこんなことになっちゃったのよ……」
 夢なら、どうやったら覚めるだろう。
 頬をつねってみた。痛い。
 叩いてみた。やっぱり痛い。
 近くの木を殴ってみた。痛い――

 夢でも痛みを感じることってあるのかしら。
 悪夢を終わらせるにはどうしたらいいのかしら。
 痛みでも目を覚ませないなら、どうしたらいいのかしら。


 のろのろとした動きで、みさえは半ば無意識にデイパックからナイフを取り出す。
 おぼつかない手つきでナイフを握り、どこに当てたらいいか迷って、首筋にした。
 手首だと血が目に見えてしまいそうで怖かった。

 握ったナイフを通して、自分自身の命の脈動を感じる。
 赤い命の流れ。
 この上を、さっと一掻き――刃の舟を走らせれよい。

 流れの向こうには、あの人がいる。
 川の対岸は夢の終わり。そこに苦しみはない。
234ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 19:55:47 ID:iSHiCAoe






 できなかった。

 「しんのすけ……。ひまわり……」
 もう出ないと思っていた涙が、ひとしずくこぼれた。

 そうだ、まだ死ねない。
 みさえには、しんのすけとひまわりがいる。

 ひろしはもういない。
 その現実をまだ認めたくはなかったが、認める認めないに関わらず、みさえにはやるべきことがあったのを思い出した。

 しんのすけを、守らなければならない。

 名簿には、しんのすけの名前も一緒にあった。
 先程の放送で名前が呼ばれなかったということは、まだ無事なのだろう。
 だが、この先も無事であるとは限らない。
 大の大人のひろしさえも殺されてしまうようなこのバトルロワイアルで、まだ5歳の息子が生き抜けるとは到底思えなかった。

 みさえは、今度こそ立ち上がった。
 足はふらついていたが、全身には確かな意志の芯が通っていた。 
 ひろしの忘れ形見でもある幼い命を、みさえは何としても守らなければならない。
 母親としての使命を、みさえは今一度思い出していた。
235ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 19:56:58 ID:iSHiCAoe
 「これ、返しとくわ」
 みさえはもう一本のナイフも取り出し、ガッツに渡そうとする。
 こんなものが側にあると、またおかしなことを考えてしまいそうだった。
 しかし、ガッツは受け取ろうとしない。
 「持っとけ。自分の身を守るのにないと困るだろ」
 返すのいらねえだので押し問答の末、しんのすけを守るのに必要かもとみさえが思いなおしたことで
結局ナイフ二本は再びみさえのデイパックに収められた。
 ナイフをしまいながら、みさえは気になったことを聞いてみる。

 「……そういえば、どうして止めなかったの?」
 薄情な男ね、とでも言いたげなみさえの視線にガッツは首を振った。 
 「無理だと思ったからな」
 「え?」
 「あんた、刃じゃない方を首筋に当ててたぜ」
 みさえは思わず目を丸くする。
 「……ホント?」
 もし本当だとしたら、実際に刃を引いたところでミミズ腫れしかできなかったであろう。
 みさえの肩から力が抜け、思わず情けない笑みがこぼれた。 
 「……ばかね。わたしって、本当にばか……」

 「行くぞ」 
 そしてなんの前振りもなく、唐突にガッツは歩き出した。
 「あ、ちょっと、勝手にどこ行くのよ!」
 今度は、みさえがガッツを追いかける格好になる。
 「寺だ」
 「へ?」
 「さっき、お前が言っていたことを確かめに行く」
236ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 19:57:52 ID:iSHiCAoe

  +  +  +  


 木々のトンネルを抜けると、そこは墓地だった。

 「うわぁ、気味悪いわね」
 広さのわりに墓石のまばらな墓場を歩きながら、みさえは夜中にここに気付かなくてよかったと心底から思う。
 今が昼日中だからマシなものの、夜には絶対近づきたくない場所である。

 寺の裏手の墓場を抜け、そのまま「椎七寺」のぐるりを歩いて人影を探すが、あにはからんや誰一人見つかる様子がない。
 山寺につきものの動物の類にさえ遭遇しない。

 みさえとガッツがもう少し早くに来ていれば、空を飛ぶ機械を目撃もしくは魅音に遭遇したのだろうが、
今となっては寺周辺は人が来たことも窺わせないような静謐な佇まいのみ。

 「ねえ、やっぱりもう移動しちゃったんじゃない?」
 「だな」
 「だな、って……それじゃ結局無駄足じゃない」
 げんなりしたように呟くみさえに、ガッツは確認するように聞く。
 「ここで本当に、俺の剣を持ったヤツに会ったんだな?」
 「本当よ! あんな剣を持った人なんてそうそういるはずないわよ!」


  +  +  +  

 放送を聞く前、みさえがひょんな事から口走ったひと言。

 「やっぱり、ここでじっとしているより移動した方がいいんじゃないの?
わたし見たのよ、ついさっき、こーんなバカでかい剣を持ったのがこのあたりをウロウロしてて!」

 みさえが身振り手振りを交えて示した剣は、曖昧ではあったがガッツの武器に近いものか、
もしかしたらガッツの武器そのものかと思われた。
 みさえを問いただした所、馬鹿でかい剣に目がいってしまい、それの持ち主はよく覚えていないという。
 「男だったような気がする」「コスプレのような変わった服装をしていたような気がする」
 みさえの覚えていた事はその程度であった。
 その人物を捜そうにも情報が「変わった服装の男」だけでは特定もクソもなかったが、
自分たちと同じく、この近辺で夜が明けるまで休憩しつつ様子を窺っている可能性を考えて
目撃場所に来てみたのだが、この様子だと完全に無駄足らしかった。

237ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 20:00:04 ID:iSHiCAoe

 ひとまず寺の内部に入り、二人は畳の上で休息をとっていた。
 実際は無数の土偶に見つめられながらなのであまり落ち着いた気はしないのだが。

 黙々と遅めの食事を噛み締めながら、みさえは同じく黙々と食事をしているガッツの様子を窺う。
 さっきから考え続けていた事を切り出そうと、意を決して口を開きかけた時。


 「きゃっ!」


 突然甲高い少女の悲鳴が聞こえたかと思うと、みさえとガッツの間に沙都子が転がり出てきた。
 しかも、なぜか元のサイズに戻ってしまっている。

 「沙都子ちゃん、どうして出てきちゃったの?」
 みさえが助け起こしながら聞くと、沙都子も戸惑ったように首を振った。
 「わ……わかりませんわ。突然吐き出されたんですもの……」
 「多分、勝手に元の大きさに戻っちまったから袋に入らなくなったんだろうさ」
 そういえば、スモールライトの説明書にそんなことが書いてあったような気がするようなしないような。

 みさえはガッツからスモールライトを借り、沙都子を振り返る。
 「じゃあ沙都子ちゃん、もう一度小さくなってもら……」
 みさえの言葉を遮り、沙都子は首を振った。
 「いいえ、その必要はありませんですわ。
 ――私、ここに残ります」
 「沙都子ちゃん!?
ダメよ、あなたケガしてるのに一人でいたら、どんな危ない目に遭うか――」
 沙都子はもう一度首を振る。
 「もう一度小さくしてもらっても、それでまた元の大きさに戻ってしまえば
足手まといになってしまいますわ。
 ……それなら、みさえさん一人で、行ったほうがいいと思いますの。こんな寂れたお寺、
きっと人なんてあまり来ませんから、私一人くらい、隠れていればきっと平気ですわ」
 沙都子は健気に言い切って、みさえを見つめる。
 「でも、そんな……」
 「みさえさん!」
 煮え切らないみさえに、沙都子が叱咤の声を飛ばした。
 「――子供は、きっと母親を待っていると思いますですわ。それがこんな怖い場所なら、なおさらのこと」
238ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 20:01:05 ID:iSHiCAoe
 「……」
 みさえは迷う。
 重傷を負った沙都子のことが気にかかる。できれば、連れて行ってあげたい。
 しかし、沙都子を担いだまま移動というのは、みさえの身では体力的に無理がある。
 できるだけ早く、しんのすけの無事を確かめたい。そのためには足手まといの沙都子は正直邪魔なのだ。
 「……ごめんね、沙都子ちゃん」

 子を想う母親の切な心情が、みさえに非情な選択をさせた。
 済まなそうに首を横に振り、沙都子から離れる。
 その小さな手にナイフを一本握らせてやったのは、せめてもの罪滅しだった。


 沙都子のデイパックを畳の上に置くと、みさえは椎七寺の戸口に立った。
 「沙都子ちゃん……もし、しんのすけを無事に見つけたら戻ってくるから。
絶対に戻ってくるから、待っててね!」

 そう言い残し、みさえは振り返りもせずに椎七寺を飛び出した。
 急くあまり、ガッツから借りたスモールライトを返すのを忘れたまま。
239ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 20:01:58 ID:iSHiCAoe


 みさえが去ったあとの寺には、ガッツと沙都子が残された。

 キャスカを保護する時のためにと思っていたスモールライトをドサクサで持っていかれてしまったのにガッツは気付くが、
絶対に必要というほどのものでもないので諦めた。

 沙都子が、ガッツのマントの裾を引っ張る。
 「……ガッツさんも、行ってくださいませ」
 「何?」
 「私、こんな足ではきっともう殺されて死ぬしかありませんですわ。
誰かの足手まといになるのもご免ですし、ここに置いて行ってくださいませ」

 「……」
 先程から急に物分り良く健気になった沙都子の豹変を疑うように、ガッツは沙都子を睨みつける。
 沙都子はやや怯えたように身を引くが、それでも覚悟したような表情は変わらない。
 「あなた、探している人がいらっしゃるのでしょう? だったら、私なんか構わずに行くべきですわ」

 睨み合いはしばらく続いたが、やがてガッツが立ち上がった。
 「……いいんだな、それで」
 「ええ」
 沙都子は気丈にうなずいた。




 トン……。
 寺の木戸が締められるやけに軽い音を最後に、寺の中には再び静寂が戻った。
 薄暗闇の中、沙都子は安堵のため息と笑みを同時に浮かべた。

240ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 20:03:01 ID:iSHiCAoe

  +  +  +  

 椎七寺を後にしてしばらく歩いたのち、ガッツは奇妙なものを目にする。

 盛り上げられた土饅頭の上に、砲弾ほどの丸い野菜が置かれている。
 近づいてみると、野菜の傍らに置かれている一枚の紙きれが目にとまった。
 「カルラ……か」
 分かったのは此処に眠る者の名前のみ。
 こうやってきちんと埋葬されているということは、その死を悲しんでくれる者が側にいたのであろう。誰かにその死を悲しまれるに足る人間だったのであろう。


 カルラの墓前で、ガッツは周囲をぐるりと見渡す。
 ――いまだ人っ子ひとり見つからないとは、どういうことか。
 地図を見る限り、そう広い土地ではない。
 そこに80人以上、死者を差し引いても60人近くの人間が押し込まれているのなら、
 少し歩き回ればすぐに誰かと遭遇しそうなものだが。
 (どこかに、人の集中している場所があるのか)
 そこに、キャスカはいるだろうか。
 グリフィスはいるだろうか。

 先程の放送では、どちらの名も呼ばれなかった。
 放送で死者の名が読み上げられ始めた時、ガッツは内心キャスカの死を覚悟していた。
 だが、放送を信じる限り彼女は無事らしい。
 おそらく誰かに保護されているのだろう。
 誰か?

 「――グリフィスの野郎か」

 怨嗟の一語では表せぬ、重い呪詛に満ちた言葉を吐く。
 自分の剣を持った奴と遭遇するのが先か、グリフィスとキャスカに遭遇するのが先か。
 ――どちらでも構わねえ。
 俺は戦うだけだ。小難しいことなど何もない。

 黒衣の剣士はマントを翻し、幸運な死者の墓所を後にした。

241ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 20:04:31 ID:iSHiCAoe
【D-7、カルラの墓前/1日目 昼】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:全身打撲(治療、時間経過などにより残存ダメージはやや軽減)
[装備]:バルディッシュ@リリカルなのは、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、ボロボロになった黒い鎧
[道具]: スペツナズナイフ×3、銃火器の予備弾セット(各160発ずつ)
支給品一式、デイパック1人分
[思考]
第一行動方針:キャスカを保護する
第ニ行動方針:自分の剣を持っている奴を探す
第三行動方針:オレの邪魔する奴はぶっ殺す、ひぐらしメンバーに警戒心
第四行動方針:首輪の強度を検証する
第四行動方針:みさえや沙都子の事がやや気にかかる
基本行動方針:グリフィス、及び剣を含む未知の道具の捜索、情報収集
最終行動方針:グリフィスを探し出して殺す
242ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 20:05:56 ID:iSHiCAoe

  +  +  +  

 みさえは走る。
 走りながら、息子の姿を探す。
 しんのすけ、どこにいるの。
 ここが殺し合いの舞台であり、ただの非力な専業主婦でしかない自分が一人きりで動くということの
危険さもわかっている。わかってはいるが、それよりも子への想いが勝る。
 しんのすけ、無事でいて。


 走り続けて、とうとう森を抜けた。
 目の前に市街が見えてくる。

 あそこに、しんのすけはいるかしら。
 いなかったらどうしよう。

 みさえは迷いを捨てるように首を振った。

 しんのすけが見つからなくても、いい。
 もし再び会うことができないまま私が誰かに殺されてしまっても、しんのすけが無事であってさえくれればいい。それだけでいい。

 無常に青い空を見上げてから、みさえは市街へと走り出す。



 ――――あなた、どうかしんのすけを守ってあげて。



【D-6、市街地の端/1日目 昼】
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:無我夢中
[装備]:スペツナズナイフ×1
[道具]:スモールライト@ドラえもん(残り1回分)、エルルゥの傷薬(使いかけ)@うたわれるもの 、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、基本支給品一式
[思考]
第一行動方針:しんのすけを見つけ、保護する
第二行動方針:しんのすけを守るためなら、なんでもやる
第三行動方針:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る
基本行動方針:しんのすけ、無事でいて!
243ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. :2007/01/09(火) 20:09:30 ID:iSHiCAoe

  +  +  +  

 人気のない山中、寺の中。
 畳の上を這いずり回り、埃にまみれながら、沙都子は「準備」をしていた。

 恐怖はない。悲しみもない。
 あるのは、覚悟と冷静な自信のみ。

 沙都子は自分の内に芯が通ってゆくのを覚える。
 その芯は硬く、まっすぐで、人を殺すことも厭わない冷たい凶器の姿をしていた。
 沙都子を支えるその芯は、にーにーのバット。
 今は手元になくとも、最初の奇蹟はいまだ沙都子を支え続けている。
 (私には、にーにーがついている)
 その確信が、沙都子を強くする。

 片足を潰された自分がここから動くことは、もうできそうにない。
 この状態で一人さまよった所で、誰かにあっさり殺されてしまうであろう。
 致命的なハンデを負った身で、それでも生き残ろうとするなら。
 答えは簡単だ。


 ――動けないなら、ここから動かなければいいのですわ。


 沙都子は、己の得意とするものを思い出す。
 (……罠を張るのですわ)
 今からこの寺にできる限りの罠を仕掛ける。
 そうして、不運にもここに立ち寄ってしまった者を、片っ端から仕留めるのだ。
 これなら、「生き残るだけ」はできる。

 罠を仕掛けるなら、ガッツとみさえを追い払った今しかない。
 頭の中で仕掛ける罠の概要を組み立てつつ、沙都子は畳の上をいざり回る。
 砕かれた足がひどく痛み、額や背中を脂汗が滝のように流れる。
 でも、やらなくてはならない。


 できる限りのことをするのだ。
 生き残るために。



【C-7、寺/1日目 昼】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:右足粉砕(一応処置済み)、軽度の疲労、人間不信(?)
[装備]:スペツナズナイフ×1
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
第一行動方針:生き残ってにーにーに会う
第二行動方針:寺の内外に罠を張り巡らせ、ここに来る者を仕留める
          (ガッツやみさえでも構わず仕留めるつもり)
第三行動方針:ひぐらしメンバーとは会いたくない

 ひとまず寺の内部に入り、二人は畳の上で休息をとっていた。
 実際は無数の土偶に見つめられながらなのであまり落ち着いた気はしないのだが。

 黙々と遅めの食事を噛み締めながら、みさえは同じく黙々と食事をしているガッツの様子を窺う。
 さっきから考え続けていた事を切り出そうと、意を決して口を開きかけた時。


 「きゃっ!」


 突然甲高い少女の悲鳴が聞こえたかと思うと、みさえとガッツの間に沙都子が転がり出てきた。
 しかも、なぜか元のサイズに戻ってしまっている。

 「沙都子ちゃん、どうして出てきちゃったの?」
 みさえが助け起こしながら聞くと、沙都子も戸惑ったように首を振った。
 「わ……わかりませんわ。突然吐き出されたんですもの……」
 「多分、勝手に元の大きさに戻っちまったから袋に入らなくなったんだろうさ」
 そういえば、スモールライトの説明書にそんなことが書いてあったような気がするようなしないような。

 今いる場所が森の中ではないのに気付き、警戒するように沙都子は周囲を見つめる。
 「ここは……どこですの?」
 「お寺よ。ほら、地図の左上くらいにあったでしょう?」
 すぐ側で睨んでいるガッツに怯える沙都子をかばうように引き寄せ、みさえは今度こそ言わんとしていたことを切り出す。
 
 「わたし、しんのすけを捜しに行きたいんだけど!」
 「俺はついていかねえぞ。いいのか?」
 当然ガッツもついてきてくれるものと期待していたみさえは怯むが、すぐに強気にうなずいてみせた。
 「い、いいわよ、構わないんだから! わたし一人でも行くわよ!」
 やけっぱちのタンカを切ってから、みさえは目を伏せた。
 「……でも、もしできれば……ほんと、できたらでいいから――しんのすけを見つけたら守ってあげて。
 わたしもあなたの知り合いを見つけたら、できるだけ守るから」
 なら勝手にしやがれと、言う感じでガッツは頷き返した。

 「分かった。で、そいつはどうするんだ?」
 指差され、何か考え込んでいた沙都子が顔を上げる。
 「一緒に連れて行くしかないでしょう? あなたと一緒にしておくのも危ないし」
 みさえはガッツからスモールライトを借り、沙都子を振り返る。
 「じゃあ沙都子ちゃん、もう一度小さくなってもら……」
 みさえの言葉を遮り、沙都子は首を振った。
 「いいえ、その必要はありませんですわ。
 ――私、ここに残ります」
 「沙都子ちゃん!?
ダメよ、あなたケガしてるのに一人でいたら、どんな危ない目に遭うか――」
 沙都子はもう一度首を振る。
 「もう一度小さくしてもらっても、それでまた元の大きさに戻ってしまえば
足手まといになってしまいますわ。
 ……それなら、みさえさん一人で、行ったほうがいいと思いますの。こんな寂れたお寺、
きっと人なんてあまり来ませんから、私一人くらい、隠れていればきっと平気ですわ」
 沙都子は健気に言い切って、みさえを見つめる。
 「でも、そんな……」
 「みさえさん!」
 煮え切らないみさえに、沙都子が叱咤の声を飛ばした。
 「――子供は、きっと母親を待っていると思いますですわ。
それがこんな怖い場所なら、なおさらのこと」
※ガッツは、小次郎の容姿の特徴についての情報を沙都子、みさえから得ました。
※沙都子のサイズは、自然な時間経過により元に戻りました。
※ガッツとみさえはバルディッシュの使い方を理解しています。
※沙都子はバルディッシュの使い方と首輪の話については知りません。
※沙都子のみ第一放送を聞いていません。
※彼ら三人はそれぞれの知人(参加者)についての情報を共有してます。
※沙都子の回想に出てくる魅音は別人です。魅音本人はその事件を知りません。
※クレしんの世界に雛見沢があったかどうかは以降の展開に任せます。
無かった場合はみさえの勘違いで。
246恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/09(火) 23:55:02 ID:JRCpEZDF
 一連の騒動が治まり、人気のなくなったホテル一階のロビーは静寂の場と化していた。
 その端で、褐色の肌に青銅の甲冑を身に纏った女騎士――キャスカは考える。
 それは今さらとも言える、この世界に呼ばれた者ならば無視することは出来ない絶対事項、放送について。
 ガッツ、グリフィス。キャスカが知るたった二つの名は、一回目の放送では呼ばれなかった。
 当然だ。あの二人は数々の戦場を潜り抜け、子爵の地位を勝ち取るほどの武勲を立ててきた腕前。
 しがない傭兵集団であった鷹の団を騎士団の位までのし上げ、常にその先陣を切っていた屈強な戦士。
 そんな二人が、易々と殺されるはずなどあろうものか。
 だが……一回目の放送では、80人中19人もの参加者が命を落とした。
 剣も握れないような女子供が、挙って早々に脱落しただけともとれる。
 それならば話は分かりやすい。が、ならば生き残った者たちは必然的に強者のみとなる。
 例えば、放送前に交戦したあの重剣の青年。
 ガッツでも苦労しそうな重量の剣を見事使いこなしていた様から、達人並の戦闘技術を持っていることが窺えた。
 もしあの青年がグリフィスと戦ったとして……果たして、グリフィスは勝つことが出来るだろうか。
 もちろん過去の、鷹の団を率いて戦場を駆け回っていた頃のグリフィスならば、十分に勝算もあるだろう。
 しかしグリフィスはあの時から――ガッツが旅立っていった朝から、変わってしまった。
 それは、単に親しい友人と別れて落ち込んだなどというレベルではない。
 まるで人生の伴侶を失ったかのような、絶望に近い落ち込みようだった。
 現にグリフィスはガッツが去った翌日、ミッドランドに幽閉されてしまった。
 そしてグリフィスを失った鷹の団は、栄光の騎士団から一転して追われる身となり、多くの仲間を失う。
 何が悪かったのか……何が元凶だったのか……いや、答えはもう出ている。
 そう、全てはガッツのせいだ。
 ガッツがグリフィスの下を離れなければ……鷹の団を脱退しなければ、あんなことにはならなかった。
 あれから一年……鷹の団も随分と持ち直し、やっと再起動できるところまで来た。
 あとはグリフィスを救い出し、元の世界に帰るだけ――そこに一年間団長代理を務めてきた女騎士が戻らなくても、何も支障はない。
 グリフィスあっての鷹の団。彼さえ居れば、きっとやり直せる。

(こんなところで躓いている暇は、ない)

 撤退は、考えない。事態はまだ、完全には暗転していないのだから。
 考えろ。戦略を練ろ。ガッツなら、グリフィスなら、こんな時どうする――このホテルという敵要塞を、どう攻め落とす。
 ガッツならば――考えるまでもない。
 彼は、一人で敵兵百人斬りをやってのけるほどの猛者だ。細かいことは考えず、敵将目掛けて特攻していく様が目前の出来事のように思い浮かぶ。
 思わず、嫉妬してしまう。ガッツほどの実力があれば、きっと罠なんかものともせずにここを攻め落とせるはずだ。
 しかし、キャスカにはそれができない。女の身を不甲斐なく思うつもりはないが、ガッツのあれは、ガッツにしかできない戦法だから。
 参考にするなら、やはりグリフィス――彼ならば、ガッツのような力任せの戦法は取らない。
 誰もが思いつかないような理知的な戦法を考案し、兵と武器を巧みに操り攻め落とす。その所業は、まるで魔法の如く。
 ガッツとはまた違った意味で、キャスカには無理な芸当だった。だが『絶対に』不可能とは言い切れない。
247恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/09(火) 23:57:34 ID:JRCpEZDF
(…………? 外に、誰かが来た……?)

 荒れたロビー、その隅に明光を照らす小窓から、キャスカは人の気配を感じ取った。
 自身の存在は闇に消し、その姿を盗み見る。
 確認できたのは、厚着の男と赤い髪の少女が一組。
 雰囲気から察するに、どちらもゲームには乗っていないように思えたが……。

(…………好機だ。ガッツでもグリフィスでもない、私は私のやり方で、この戦に勝つ)

 キャスカはホテルに向かう二人の様子を見て、ある一つの作戦を立てた。
 攻める守るだけが戦ではない。百通り以上もの方法が存在し、それを駆使する戦略家がいるからこそ、戦なのだ。
 一年間、グリフィスの代わりに鷹の団を纏め上げた実績はまやかしではない。
 馬鹿みたいに剣を振るうだけが傭兵ではないということを、実証してみせようではないか――キャスカは思い、闇に消えた。


 ◇ ◇ ◇


「こいつは…………」
「…………酷い」

 ホテルすぐ傍の駐車場で、獅堂光とゲイン・ビジョウは凄惨な光景を見つめていた。
 無機質なコンクリートの大地に散らばっていたのは、二つの死体。
 西洋風の侍女の姿をした女性に大柄な男の、グチャグチャになった様が広がっている。
 血の飛び散り具合から見ても、相当な強さの衝撃が与えられたと考えられた。
 列車にでも撥ねられたか、はたまたシルエットマシンのような巨大兵器に押し潰されでもしたか。
 いや、状況から考えるに一番可能性が高いのは――転落。
 おそらくこの二人は、この八階建てのホテル屋上から何者かに突き落とされた。もしくは、二人で揉み合った末にこうなった。
 どちらにしても、穏やかな話ではない。ゲインは、やれやれと溜め息を吐く。
 友人の死で疲労の見られた光を休ませるためここに立ち寄ったが、どうやらここは安心して休める場所ではないようだ。
 何も起こらぬうちにここから立ち去るのが得策か、とも考えたが、思考の最中に光は思いがけないものを発見する。

「あれ…………風ちゃんの剣だ」

 二つの死体から少し離れた地点。
 墓標のように大地に突き刺さった剣は、紛れもなく魔法騎士の一人、鳳凰寺風が握っていたもの。
 この剣は、本来の持ち主である彼女以外が握った場合、鉛のように重量を増す仕組みになっている。
 そんな剣が戦場跡に抜き身の状態で残されていたともなれば――考えられることは一つ。

「ひょっとしたら、ここに、風ちゃんが――?」

 高く聳えるホテルを見上げ、光は仲間と再会できるかもしれないという望みに心を高鳴らせる。

「だがそれなら、剣をここに放置しておく理由が掴めない。ヒカルの仲間がここにいるとしても、万全の状態であるとは思いがたいな」
248恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/09(火) 23:59:08 ID:JRCpEZDF
 そんな光の希望を簡単に砕いて見せたのが、ゲインの理論的考察だった。
 散らばっているのは死体や剣だけではない。拉げて使いものにならなくなった銃に、用途不明の黒い筒が二つ。
 屋上でこれらを使った戦闘が行われ、結果的に二名と武器郡が落下。残ったのは魔法騎士愛用の剣ひとつのみ。
 だとしたら銃は女のメイド、剣は大柄な男が無理やり振り回していたという線が濃厚。
 第三者が介入したかどうかは不明だが、この二人が戦闘の末落下した確率はかなり高くなった。

「ヒカル、お前はここで待っていろ。俺は先にホテルの様子を調べてくる」
「え!? そんな、ゲイン一人で行くつもりなの!?」
「もしかしたらだが……このホテルからは、何かヤバイ臭いを感じる。不用意に飛び込むのは危険だ」
「だったらなおさら、二人で行ったほうが――!」

 一人で歩いていこうとするゲインの肩に掴みかかり、光は彼を制止しようと声をかける。
 その、一瞬の接触。ゲインは己の肩にかかった腕を瞬時に引き寄せ、抱きかかえるかのような勢いで光の身体に身を寄せた。
 お互いの顔が急接近し、あと数センチで唇が触れ合おうかという距離まで詰まる。
 茹蛸のように顔を真っ赤に火照らせ、光はそれ以上何も言えなくなった。

「可愛いレディをエスコートするのは、男としては光栄な役目ではあるが……そこが戦場ともなれば話は別だ。
 まずは俺に任せてもらおう。ヒカル、君の力は後々貸してもらうことになるさ」

 巧みな話術で光を納得させ、ゲインはホテル内へと一人向かっていった。
 極寒の地で様々な危機的状況経験してきたエクソダス請負人……手馴れているのは、何も銃の扱いだけではない。


 ◇ ◇ ◇


「はい、装填完了。弾は30発だから、護身用に使うならちゃんと弾数考えてね」
「わぁ。ありがとうございます」

 ホテル最上階、スイートルーム。
 キャスカから逃げ延びたセラス・ヴィクトリアと朝比奈みくるの二人は、ここを根城に襲撃者への対策を立てている最中だった。

「あー、しかしどーしたもんだろ」

 外側の音声が聞こえやすいよう扉を背もたれにしていたセラスは、訪れた最悪の状況に頭を抱えた。
 敵は一人。地の利はこちらにあり。……とはいえ、単純な戦力差は大きい。
 ロビーで対峙したキャスカの剣捌きは、正しく達人のそれだった。
 剣捌きだけではない。身のこなしも、人間の常識の範疇ではあるが、レベルは超人並。
 女性であるためそれほどの狂気は感じないが……潜在的なポテンシャルなら某イカレ神父にも匹敵するかもしれない。

「せめてお日様が昇ってなきゃ、もうちょっと調子出るんだけどなー……あー、なんか血も足りない気がするぅ」
「そんなセラスさん、まるで吸血鬼みたいなこと言うんですね」
「あぁ、そりゃわたしホンマモンの吸血鬼だからねー」
「え、そうなんですか?……って、ふえぇ!?」

 後ずさりしながらずっこけて見せるみくる。面白いリアクションだった。
249恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 00:01:03 ID:JRCpEZDF
「きゅきゅきゅきゅうけつきってぇ! そ、それって人間の血を吸ったりするんですかぁ!?」
「……はは、そうだよねー。普通そういうリアクション取るよねぇ。ハハハー」

 蓄積された疲労も相まって、セラスは二重のショックを受けているようだった。
 みくるの言うことはもっともだ。人間の生き血を吸い、十字架ニンニク大嫌い――それが、一般的な吸血鬼のイメージ。
 中にはアーカードのような超例外もいるが、大体の部分は人間が抱くイメージ通りのものだ。
 新米ドラキュリーナであるセラスは人間の血を吸ったことはなかったが、血を飲みたいという欲求は確かに存在する。
 今でも、みくるの無防備な首筋を見れば……ああ、ダメ……それはダメですセラス……それやっちゃったらあなたも正式にバケモノの仲間入りですよ……。

「がー! 気合入れろセラス・ヴィクトリア! そんなことだからお前はまだ婦警なんだ!!」
「はひぃっ!?」

 額をパチンと引っ叩き、セラスは自分に渇を入れた。
 端で驚くみくるを視界の隅に置き、立ち上がって扉に向き直る。
 四の五の言っている暇はない。今は、戦争の真っ最中なんだ。

「い、いっちゃうんですかセラスさん? 鍵が掛かってるんだし、もう少しこのままでいても……」
「んー、でもグズグズしてたらお昼になっちゃうしね。トグサさんが戻ってきて、中に危険な女騎士がいましたじゃ私の面目丸潰れだし」

 扉を開けて、右確認左確認。敵はまだこの階には到達していないようだ。

「ま、なんとかしてみるよ。みくるちゃんはここから動いちゃダメだよ。鍵もちゃんとかけること」
「で、でも! やっぱりセラスさん一人じゃ……」

 瞳を潤ませつつ上目遣いを送るみくるの姿は、女性のセラスでも思わず抱きしめたくなるような愛くるしさだった。
 そんなみくるを見て、改めて思う。彼女は、戦場に居るべき存在ではない、と。
 セラスはみくるの頭の上に手を乗せ、彼女が安心できるようニカッと笑ってみせる。

「だーいじょぶだって! こんなの普段体験してるドンパチに比べりゃ屁でもねぇーって。だから、さ。みくるちゃんはここで安心して待ってて。ね?」

 言い聞かせるように、セラスは優しく微笑んだ。
 それは、吸血鬼であると告白した事実を忘れさせるような自然な笑み。
 これから死地に赴くとは到底思えないような、不思議な笑みだった。


 ◇ ◇ ◇


 ホテル入り口の自動ドアを潜ってすぐ、ゲインはロビーに倒れた女性を発見した。
 周囲に確認できる戦闘の痕跡も気になったが、目の前で女性が倒れているとあっては、黙っているわけにもいかない。

「おい、大丈夫か!」

 十分な警戒を維持しつつ、ゲインは褐色肌の女騎士に呼びかけた。
 纏っている甲冑は西洋風のものだが、支給品だろうか。
 甲冑の裏側については確認できないが、目だった外傷は見当たらない。
250恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 00:03:04 ID:JRCpEZDF
「う……大、丈夫だ…………傷は浅い。内臓に少しダメージを受けたけど、問題ない。あなたは?」
「俺か? 俺の名前はゲイン・ビジョウ。安心してくれ、ゲームには乗っていない。あんたの名は?」
「私は……キャスカ」

 自力で身を起こしたキャスカはゲインに名を告げ、よろめきながらも立ち上がった。
 外見から察することの出来るダメージ量は、軽傷のようで深刻に思える。
 内臓器官へ衝撃を与えたというのであれば、加害者の得物は刀剣や銃器の類ではない。何か武術の使い手だろうか。

「キャスカ。いったいここで何が起こったんだ? 何者かが争ったということは分かるが……襲撃されたのか?」
「ああ……いきなりだった。仲間とここで休んでいたら、急に金髪の女が襲い掛かってきて……」
「その仲間と、襲撃者はどこへ?」
「……一緒に上の階へ。おそらく、仲間を人質に私をじわじわと甚振るつもりなんだろう……嫌な趣味だ」

 クソッ、と悔しそうに奥歯を噛み締めるキャスカの様子を見て、ゲインは推測の幅を広げる。
 休息中とはいえ、二人でいるところを襲うその根性。そして片方を人質に取り、もう片方を誘い込もうとする思考。
 よほど自分の腕に自信のある者か、もしくは慢心の強い自惚れ家か。
 切り札になるような強力な武器を保有し、それを後ろ盾にしているというのも考えられる。

「同感だ。相手が女性とはいえ、放っておける事態じゃあないな。襲撃者の武器はなにか分かるか?」
「私が襲われた時は素手だった。相当な熟練者だよ……剣で応戦したが、見事に打ち負けた。……クソッ!」

 キャスカの足元には、剣が一本転がっている。見たところナマクラには思えない、むしろ立派な業物に見える。
 単にキャスカの実力が及ばなかっただけだろうか……どちらにせよ素手で剣を持った相手に勝つというのは、生半可な実力ではないだろう。
 
「ゲイン、無茶は承知でお願いするけど、手を貸してくれない? 仲間を救い出すには、私一人じゃ難しそうだ……」
「美女の頼みとあっちゃ断れないな。だが、その前にひとつ……」

 ゲインは剣を拾い、キャスカに手渡す。

「ホテル前の駐車場に転がっていた死体……あれについては何か知らないか?」
「……ああ。いや、あれなら私が来た時にはもう……顔も知らない顔だった」
「そうか」

 ホテルに到着した時点で、嫌な予感はしていた。
 マップの中央に位置し、大きいというだけで目立つ施設だ。
 先客がいるであろうことは幾らか予想していたが……状況は、予想の斜め上を行く最悪ぶりだった。

(……念のため、『ここから』エクソダスする術も考えておいた方がよさそうだな)

 女騎士と共に上の階を目指すゲインは、外で待機中の魔法騎士には何も告げず――


 ◇ ◇ ◇

251恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 00:04:40 ID:JRCpEZDF
 耳に全神経を通わせ、聴覚を研ぎ澄ませる。
 ……コツン……コツン……コツン……聞こえてくるのは、ゆったりとした足音。
 一歩一歩、進むごとに音量が上がるのは近づいてくる証拠。だとしたら敵の現在位置は――階段。

(集中……集中)

 舞台は再びホテル最上階――そこへ繋がるたった一つの階段の脇で、セラス・ヴィクトリアは息を潜めていた。
 かなり低速だが、敵は着々とこちらの階へ上ってきている。
 勝負は一瞬。今の手持ちでは、一瞬の猶予しか与えられない。
 こちらの武器は、ナイフ10本にフォーク2本、近接戦闘用に中華包丁と篭手が一つ。神聖武器であるバヨネットはとてもじゃないが使えない。
 本当ならみくるの持っていた銃が欲しかったところだが、相手の手の内が分からぬ以上、彼女の唯一である防衛手段を取り上げるわけにはいかないだろう。

(いやいや、弱気になるなセラス……マスターなら、これくらいの装備でも十分やれる。むしろメッチャ楽しそうに敵陣へ突っ込んでいくはず)

 どう足掻いたってあんなバケモノバトルにゃついていけないのにねーははは……と内心で笑い飛ばしつつ、さらに増す足音を警戒する。
 もう下の階を越えただろうか。あと数段上れば、セラスが待つ最上階エリアまで到達する。
 下からは見えないよう死角の位置をキープしつつ、セラスが立てる作戦はただ一つ。奇襲。
 相手が最上階へ上り詰めようかというギリギリのところで飛び出し、ナイフを投擲。
 相手が怯んだ隙に中華包丁で襲い掛かり、無力化する。
 大丈夫。吸血鬼の身体能力を持ってすれば、こんな作戦はイージーすぎる課題だ。
 勝負は一瞬。調子は悪いが一瞬程度ならどうとでもなる。
 ようは根性だ。根性でどうにかする。どうにかしなければならない。
 帰りを待つみくるのため、帰って来るトグサのため、セラスはこのホテルを絶対に死守しなければならないのだ。

 一歩。最上階までの距離が、あと十二段。
 二歩。最上階までの距離が、あと十一段。
 三歩。最上階までの距離が、あと十段。

(あんまり近くまで来られても、こっちが不利になる。もう少し、もう少し……)

 四歩。最上階までの距離が、あと九段。
 五歩。最上階までの距離が、あと八段。
 六歩。最上階までの距離が、あと七段――

(――ここ!)

 機を見計らったセラスは瞬間、横へ飛び出した。
 両手に構えた計八本のナイフを無駄のない動作で放り、七段目に足をかけようとした女騎士を狙う。
 突然の奇襲に虚をつかれた女騎士は僅かに身を捩り、ナイフ回避を試みる。
 が、狭い空間と心許ない足場、そして広範囲に亘るナイフの散弾を避けきることはできず、左腕と左足に各一本ずつ被弾した。
 食事用のテーブルナイフとはいえ、吸血鬼が渾身の力で放ればそれは十分凶器になり得る。
 セラスの狙い通り隙を見せた女騎士は、襲い来る痛覚に反応を遅らせた。
 そこを、中華包丁で狙う。

「たぁぁぁぁぁぁ――――!?」
252恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 00:06:27 ID:JRCpEZDF
 飛んで、気づいた。
 階段を上り、ナイフを当て、これから無力化を図ろうとした敵は――件の女騎士ではない。
 青銅の甲冑ではなく厚手のロングコートを着込み、その体格は立派な――男性。

(ウッソ!? つーかダレ!?)

 予期せぬ事態に戸惑いを見せたセラスは、飛びかかる勢いはそのままに、構えた中華包丁のみを引く。
 標的が違うと分かった以上、見知らぬ彼を傷つけるわけにはいかないと思っての咄嗟の判断だったが、男はその好機を見逃さなかった。
 飛来したセラスの身体を綺麗にかわし、手刀で中華包丁をはたき落とす。
 セラスは戸惑いつつも反射的に蹴りを放つが、階段のど真ん中ではバランスを取ることも難しく、男の顎下を掠める程度に終わった。
 一連の交差の最中、回避行動を取りながらも階段を駆け上がっていく男を見て、セラスは更なる追撃をかける。
 何者かは分からない。しかし最上階へ向かう目的があるとすれば、それは朝比奈みくるに他ならないはずだ。
 彼女に危害が及ぶことだけは避けなくてはならない――セラスは警察仕込の格闘戦で男を追い詰めていくが、

(あ、あら――?)

 階段を上り詰めたところで、急に力が抜けた。
 フラフラとよろめき、情けなく前倒れになる様を男の眼前に晒す。
 男はそのチャンスを見逃さず、流れるような動作でセラスの背後に回りこみ、両腕を後ろ手に拘束した。

「あだだだだだだっだっ!!」
「まったく、危ない真似をするご婦人だ。いや、お嬢ちゃんと呼んだ方がいいかな?」

 両腕の自由を奪われた上に、先刻の出血が祟って思うように力が出ない。
 平静の状態であれば、男性一人を投げ飛ばすことも容易な吸血鬼のポテンシャルも、満身創痍のセラスでは発揮しきれなかった。
 ただでさえ、彼女はまだ血の味を知らない不完全なドラキュリーナ。
 主人アーカードが言うとおり――自身の限界も分からない、吸血鬼が持ち得たる奥底の力も知らない、未熟な『婦警』だったのだ。

「女性を甚振る趣味はないんでね。さっさとキャスカの仲間を解放してもらおうか」
「キャスカって誰!? っていうかオジサンも誰ですか!?」

 オジサンという単語含め、その男――ゲイン・ビジョウは、セラスの発言に眉を顰めた。
 予期していなかったわけではない。むしろ、多いにあり得ると考えていた事態だ。
 単にセラスが嘘を言っているという可能性もある――が、しかし。
 こうなってくると、やはりキャスカの言動の不自然さが気になった。

(こりゃあ、博打をはずしたか……?)

 ゲインが『訪れるかもしれない最悪の事態』に警戒を始めた直後、それは姿を見せた。
 七階から八回に続く階段を上り、下からゲインと拘束されたセラスを見上げる視線が、一つ。
 黄金の剣を携え、褐色の肌に甲冑を纏い、外皮には狂気を宿した女騎士が、一人。
253恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 00:10:10 ID:Z9zpzvje
 それを見たゲインは、すぐにセラスの拘束を解いた。
 ロビーで助けた女騎士――キャスカが、道化であったと確信したからだ。
 薄々感じてはいた。キャスカが、嘘をついていると。
 外に放置されていた死体、それを知っておきながらホテルで休むという神経、キャスカが一瞬だけ見せた、戸惑いの眼差し。
 完璧な矛盾が生じていたわけではない。だから一応は信用して、ここまで付き合って来た。背後に十分気を配りながら。
 誰が敵であるか分からぬこのゲーム、ゲインはまったく油断などしていなかった。そう、『油断』はなかった。
 間違っていたものがあるとするならば、ただ一つ。『キャスカの実力に対する見解』。

 自由になったセラスの身が、ゲインから離れる。
 その間、最上階から十二段下のエリアにいたキャスカは剣を振り被り、消えた。
 一瞬だけ見た女騎士は、正しくロビーで襲ってきた真の敵――セラスが身構えるも、キャスカは消えていて。
 その狂気はセラスにのみ向けられたものではない――ゲインが身構えるも、キャスカは消えていて。
 ゲインとセラス、双方の瞳がキャスカの姿を追い――視線は空中で交差した。

『飛んだ』のだ。翼を持つ鳥のように、キャスカは十二段の段差を一挙に跳び越えた。

 着地先には、二人の標的がいる。
 キャスカは振り被った剣を一閃し、剣風を巻き上げた。

「――死ねぇ!」

 黒い剣風は神風の如きスピード見せつけ、カマイタチのように駆け抜けていく。
 一瞬、一瞬の内に、二人の獲物を斬りつけた。

「がっ…………」
「――ッグゥ!?」

 傷を負ったのは、両者共に腹部。
 その真っ直ぐな剣筋から鮮血を撒き、セラスは力なく倒れた。
 ゲインも盛大な出血を見せるが、辛うじて意識は保てている。
 ――予測しきれなかった。まさか、一瞬で片付くとは思わなかった。
 万が一キャスカがゲームに乗っていた場合を考慮して、十分な警戒はしていたつもりだった。
 しかし……警戒だけでは足りなかった。
 女と思って甘く見ていたわけではないが――エクスカリバーを持ったキャスカとの間には、如何ともし難い実力の差が生じていたのだ。

(馬鹿な…………)

 ウッブスの悲劇、オーバーマン同士の異能力戦闘、数々の修羅場を潜り抜けてきたゲインだったが、
 剣だけに命を懸け、剣だけで戦場を駆け抜けてきた『傭兵』という存在を知らなかったことが、彼の失態だった。
254恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 00:11:41 ID:Z9zpzvje
「もう一人の女の子はどこ?」

 キャスカは倒れたセラスに剣を突き立て、朝比奈みくるの所在を問う。
 だがセラスは――物言わぬ屍と化してしまったのか――いっさいの返答を見せず、キャスカは諦めて剣を引いた。
 まあいい。虱潰しに探せば、その内見つかるだろう――そう考えた上で剣を収めようとするが、視界にまだ生存者がいることに気づき、その手を止めた。

「あ、あ……」

 朝比奈みくる、である。

「見つけた……」

 のこのこと出てきた最後の標的に、キャスカは視点を定めた。
 出てきたはいいが、視線の先に見た想像以上の悪的状況に、みくるは成す術が見い出せない。

「え、えーと……こ、こないでくださーい!」

 バトーが残したカラシニコフの銃口を向け、みくるはキャスカを牽制する。
 階段前の廊下から直線に10メートルの距離。相手が飛び道具を保有しているということは脅威ではあるが、キャスカは退かない。
 むしろ、前に出る。黒い剣風は恐れを見せぬ駆け出しで直進し、銃を構えたみくるを狙う。

「ひゃあぁ〜っ!!?」

 その驚異的な速度に驚いたみくるは引き金を引き、キャスカを撃つ、が。
 目を閉じ、顔を背けて発砲した銃弾が当たるはずもなく――キャスカとみくるの距離は詰まる一方だった。
 元々、みくるは銃の扱いには長けていない。ロベルタを撃った時とて、バトーを助けたいという一念からによる奇跡みたいなものだったのだ。
 そんなみくるの銃が動く標的に、高速で疾走してくる剣士相手に、当たるはずがない。

「ごめんね」

 二発目の引き金を引こうとした瞬間だった。キャスカが、みくるの脇を通り過ぎていったのは。
 一瞬の出来事で、みくるは何が起こったか把握しきれず首を傾げる。
 痛みは感じない。が、下を見下ろせば自分のメイド衣装が血に汚れているではないか。
 誰の血だろうと考える内に、手元からカラシニコフがポロッ、と落ちる。
 おかしい。手に握力が感じられない。握り拳を作ることも、指を折ることも難しい。
 それだけではない。呼吸も、途切れて……きて……

(あれ?)
255恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 00:13:17 ID:Z9zpzvje
 ドサリッ、と。
 無情な音をたてて、血塗れのメイドが床に倒れた。
 強烈すぎる痛覚はみくるの神経を一時的に麻痺させ、反応を遅らせたのだ。
 だが、結果は変わらない。腹部に与えられた裂傷は耐えられる度合いではなく、朝比奈みくるは静かに死に絶えた。

 そこには、神も仏もない。
 歴然たる力の証明が、生者と死者の境界線を引いていた。
 生き残ったのは、キャスカただ一人。
 傷を負ったドラキュリーナは不確定要素の介入に虚をつかれ、死んだ。
 待機を命じられたメイドは仲間を思う心が強すぎたために、死んだ。
 そして、ひとえに運が悪すぎたとしか言いようのない、巻き込まれただけの男は――

「――!? いない!?」

 ホテル最上階のフロアから、姿を消していた。


 ◇ ◇ ◇


 ――『教えてください。このワケが分からない世界に飛ばされても、やっぱり私は、いままで通り不幸続きなままなんでしょうか?』
 ――ボソッ『ま〜ね』

 不意に、ウィンダムとの会話が思い出される。
 信じられない、いや信じたくないだけなのだが、どうやらあの悪夢の予言は現実のものとなってしまったようだ。

(ああ……思えば私の人生、あんまりいいことなかったなぁ……
 マスターのドンパチに巻き込まれ、バケモノ神父には串刺しにされ、インテグラ様やウォルターさんにはしごかれる毎日……
 まるで、人間として婦警やってた時代が前世のことのようだ……誰だ私の人生狂わせたの。……ああ、マスターか)

 死の渕を彷徨う、刹那の猶予とでも形容すればいいだろうか。
 腹部を裂かれ、盛大に出血した身体を引き摺りつつ、セラスは今までの不幸を振り返っていた。

(だいたいトグサさんも人遣い荒いんですよ……私一人に留守番任せるなんて……戻ってきたら、絶対に……文句言ってやる)

 死に掛けの身体を引き摺りながら向かう先は、みくるの死体が転がっている場所。
 この娘も相当な巻き込まれ体質らしい。おとなしく部屋の中に隠れていれば、もう少しくらいは長生きできただろうに。
 セラスは自分と同じような境遇に立つみくるに同情しつつ、声を振り絞った。
256恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 00:17:21 ID:Z9zpzvje
「ゴホッ、おーいみくるちゃーん…………生きてるー………………?」
「…………ごっ、セラ、ス、さん…………?」

 血の海を漂いながら、みくるは閉じかけていた瞼をゆっくりと開いた。
 良かった。どうやら、まだ喋れる程度には元気が残っているようだ。
 同じ巻き込まれ体質同士、同じ死に掛け同士、最後に語らいながら逝くのも、悪くない。

「わた、し…………死んじゃう、んですか、ね……」
「そりゃ、この傷だもんね……ごっ、喋れるだけ……神様に…………感謝しなくちゃ」

 不思議だ。死は確実に近づいてきているというのに、不思議と嫌な感じはしなかった。
 セラスにとっては、これは二度目の死でもある。
 人間だった頃――チェダース村でアーカードの銃弾に射抜かれ、セラスは一度死んだ。
 だがアーカードに見定められた彼女は彼に血を吸われ、吸血鬼として第二の人生を歩むこととなったのだ。
 望んだ生であったはずだ。結果がどうあれ、あの時セラスは生を望んだ。
 だからここにいる。ドラキュリーナとして、セラスは今を生存している。
 だが、それも終わりだ。第二の人生も、ここで終着。
 終わってみれば、それなりに悪くはなかったようにも思える。
 アーカード……インテグラ……ウォルター……アンデルセン……奇人変人ばかりの環境だったが、それなりに有意義な人生だった。
 もう、思い残すことも、ない。

「……セラスさんって……吸血鬼……なんですよ、ね」

 死を受け入れたセラスに、みくるは今さらな疑問を投げかけた。

「ん……ま、ね。吸血鬼だろうと……人間だろうと……死んじゃえば……みんな同じ、だけどね……はは……」
「なら…………血を…………ごふっ」

 口から鮮血を吹き、みくるは今にも潰えそうな声を振り絞った。
257恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 00:18:59 ID:Z9zpzvje
「……血を……吸えば……助かるんじゃ……」

 ――諦めかけていた生への欲求が、その一言で沸々と蘇ってくるのを感じた。
 血を吸えば、助かる? 吸血鬼、だから?

「あ……」

 盲点だった。これまで血を吸うことを拒み続け、バケモノの仲間入りすることを嫌がってきたセラスでは、考え付かない方法だった。
 ――吸血。それは、吸血鬼でいうところの食事であり、生きる上での必須行為でもある。
 同時に、セラスにとっては初めての経験でもあった。生者へ牙を突き立てるなど、今まで考えたこともない行為だ。

 そして、現状でその対象となる相手は……一人しかいない。

「でも…………それじゃ……みくる、ちゃんが……」
「……わたしは、セラスさんさえ助かるんなら……それで」

 荒い呼吸の中で、二人の半死人が微笑み合う。
 了解は得られた。あとは、セラスの覚悟の問題だ。
 ……いや、この際、覚悟なんてものは問題じゃない。
 問題なのは、ここで大人しくくたばることを良しとするか否かだ。
 人間はしぶとい生き物だ。死を目前にしても、まだ生を欲しがる。
 他の種族であれば、それは醜い行為だと罵るかもしれない。
 だけど、セラスには、セラス・ヴィクトリアには。

 まだ確かに――生きたい――という欲望があった。

「あのさ……念のため聞いとくけど…………みくるちゃんて、処女……?」
「は、はえええ……? あ、当たり前じゃないですかぁ……」
「や、でも……最近の学生さんは……進んでるって、言うし…………」
「ち、違い、ま……す…………」

 力なく否定したみくるは、そのままセラスに身を委ねた。
 もう、彼女が言葉を発することはない。発することもできない。
 この血を、セラスの糧として――

「いただきます」

 かぷっ、とセラスはみくるの首筋に噛み付いた。


 ◇ ◇ ◇

258恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 00:20:15 ID:Z9zpzvje
 ホテルの中腹――ここは三階か。
 命からがら逃げ出したゲインは、血に塗れた腹部を押さえつつ、文字通り必死になって足を動かしていた。
 単純に考えて、致命傷。死に到達するのも、そう遠くはないだろう。
 だが、その前にやるべきことが残っている。
 それはただ一つ。この一連の騒動に、自らの手で決着をつけること。
 ここからエクソダス――いや、素直に逃走と言った方がいいか――する手段はいくらか考えている。
 が、そのどれもが成功したとしても……ゲインが後々まで生き残る方法は無に等しい。
 ただでさえ、外ではゲインの帰還を待ち望んでいる少女がいるのだ。
 危険な殺人剣士を引き連れ、死に掛けの男を連れて逃げることになれば、彼女の足枷になることは確実。
 それだけはしたくない。これは、キャスカを怪しんでおきながら、彼女の予想外の実力に不意を喰らった自分の落ち度だ。
 ゲインは何度目になるか分からない舌打ちをし、懸命に打開策を練っていた。

「もう逃げるのはやめたらどうだ」

 逃走経路に垂れた血の痕跡は、追撃者が無視するはずのない道標だった。
 仕方がない。ろくに止血する暇もなかったのだ。三階まで逃げ延びただけで、上出来と言えよう。
 しかし困ったことに、ゲインはまだキャスカへの対抗策を考え出していない。
 ここで自分が殺されればそれまでだが、そのあとキャスカが外にいる光を襲うことは容易に想像できる。
 せめて、それを阻むことさえできれば。

「なぁキャスカ。ものは相談なんだが、見逃してはくれないか? こんな死に掛け、放っておいたところでなんの問題もないだろう」
「だからこそ、私が楽にしてやろうと言うんじゃないか。私だって、好きでこんなことをやっているわけじゃない。ただ――」

 ――私は、グリフィスの剣だから。
 それ以上は言わず、キャスカは静かに剣を振り上げた。
 狙うのは頭だ。脳を破壊すれば、痛みを感じることなく楽に死ねる。
 敵兵でもない庶民を殺害することは、決して気分のいい真似ではない。
 それでも、グリフィスや鷹の団の仲間たちのことを思えば――罪の意識は、不思議と泡のように消えていく。
 既に我が身を放棄したキャスカの思考に、罪も戸惑いもへったくれもない。
 ただ、剣を振るう。ただ、殺す。グリフィスを、生かす。
 一度決めた目的のためならば、たとえガッツとて斬り捨てる。
 ゲインを殺害寸前まで追い込んだキャスカは、自身が組み立てた戦略の勝利に確かな高揚を感じていた。
 この調子でいけば、これからもきっと成功が続く。これは、まだ第一歩に過ぎない。
 その一念を信じ、キャスカは、勝利を掴むため剣を振る――


「炎の…………矢ーーっ!!」


 剣が空を斬り、ゲインの頭部を砕こうと振り下ろされた瞬間。
 キャスカの横合いから、炎の弾丸が撃ち出されてきた。

「なにッ!? クッ」
259恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 01:02:09 ID:Z9zpzvje
 咄嗟に身体を反転し、側転で炎の弾丸から身を避ける。
 燃え盛る炎の熱気はキャスカの頬を掠め、慢心しそうだった意思に危機感を齎した。

「うおおおおおおおおおおぉぉッ!!」

 次に飛び込んできたのは、雄叫び。
 まだ子供の声調が雄雄しく猛り、剣を突き立てて襲ってくる。
 キャスカはエクスカリバーを防御に回し、向かってくる剣に対抗した。
 そして、その使い手の顔を確認し驚愕する。

(……子供!?)

 デイパック越しにレイピアを握るのは、赤い髪の女の子。歳はまだ十代前半かそこらだと推測できた。
 何も驚くことではない。キャスカとて、そのくらいの歳には剣を握っていた。
 驚くべきは、その凄まじい剣気。剣を合わせることに対し一切臆した様子を見せないその様は、女だてらに傭兵を続けてきたキャスカが一目置くほどであった。
 互いの剣を打ち鳴らし、キャスカと赤い髪の少女が距離を取る。状況は既に、キャスカの絶対優位ではなくなっていた。

「ヒカル! なんでここに来た!?」
「だって! ゲインが心配だったんだから仕方がないじゃないかッ!!」

 馬鹿な娘だと、子供っぽい判断だと思うなら笑えばいい。
 たとえゲインにどれだけ罵られようとも、光は仲間を見捨てることなどできなかった。
 戦場かもしれない場所へ単騎突入、数十分経っても戻ってこないともなれば、心配になるのも必定。
 待ちに徹して、後悔するようなことはしたくない。仲間が死ぬのは、もうたくさんだ。

 だから、光は剣を取る。友が残してくれた剣を。
 この力を、新しい仲間を守るために、使う。

「やああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 少女とは思えない気迫の一声。
 キャスカは感服こそすれど、気後れすることはない。
 男ばかりの戦場で、苦渋を与えられながら剣を磨いてきたのだ。
 こんな平和面した小娘に、戦闘で劣るつもりはない。
260恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 01:05:01 ID:Z9zpzvje
「はああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 キャスカも負けじと、声を張り上げる。
 互いの剣と剣がぶつかり、無機質な音質と共に火花を散らしたような幻覚が見えた。
 戦う女戦士――ある地域では、アマゾネスと呼ばれていただろうか。
 緊迫する女と女の命の取り合いを目の当たりにし、ゲインは思わず身を震わせる。
 いつか繰り広げたというコナとリュボフの殴り合いも相当熾烈だったと聞くが、武装が洒落にならない以上、恐ろしさはこちらが上だ。

 廊下という狭い空間を舞台に展開される剣戟は、ゲインの予想通り熾烈を極めた。
 押しては引き、薙いでは避け、双方共に弱所を見せぬ好試合が行われる。
 剣術の腕前ではキャスカに分があるかと思われたが、光はそれを持ち前の気合と思いきりの良さでカバーしていた。

「はぁ!」

 綻びが生じたのは、技術の差ではない。決め手は、武器の性能差だった。
 煮え切らない戦況を打開しようと、光は剣を大きめに振り上げ渾身の力で振り込もうとする。がしかし。
 刀身の液化を防ぐため、剣の握りにデイパックを通していたことが災いした。
 勢いが強すぎたせいか、龍咲海が残した剣は光の手からすっぽ抜け、ここぞという好機で最大の隙を呼び込んでしまう。
 無論、キャスカがその隙を見逃すはずがない。
 刺突の形で光の胸元を捉え、体重を乗せた突進で一気に貫かんと迫る。
 光の窮地が、ゲインの目に飛び込んできた。そして、同時に信じがたい光景も。

「――――! ヒカル、逃げ……」

 その言葉の意味は、キャスカの剣から、そしてもう一つ。
 頭上で不気味に蠢く『天井』に注意しろ、という警告だった。

 地響きに近い轟音が鳴り、途端、キャスカと光の頭上にあった天井が崩壊した。
 降り注ぐコンクリートのブロック片を剣で払い、避けながら、二人の女剣士は難を逃れる。

「チッ! いったいなん――」

 絶好のチャンスを逃した悔しさからキャスカが舌打ちし、そして見た。
 降ってきた残骸の雨中に、ありえないものを――存在し得ない者を。
 馬鹿な。驚きを隠しきることができず、行動に戸惑いが出た。
 その間誰も向かってこなかったのは、幸運といえよう。しかしそれ以上に、目の前に存在するそれがありえない。
 夢を見ているわけではない。幻でも虚像でもない。
 そこに確かに存在し、それは囁くような、それでいて確かな存在感を感じさせる声で、喋る。
261恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 01:06:24 ID:Z9zpzvje


「セラス・ヴィクトリア、復活ッ」


 ――キャスカの眼前には、腕組みした状態で堂々君臨する、『無傷』のセラス・ヴィクトリアがいた。
 驚いたのはキャスカだけではない。数分前にセラスがバッサリ斬られる様を目撃したゲインもまた、彼女の生還に仰天していた。

(みくるちゃん…………)

 確かに死んだ――確かに殺したはず――まさか、ゾッドのような不死の存在であるとでも言うのか。
 未だ混乱の中にいたキャスカは、ズカズカと接近してくるセラスを前にしても、剣を構えることが出来なかった。
 恐ろしかったのだ。斬った相手がものの数分で傷を癒し、また向かってくるその現実が。
 受け入れたくはない。そういう存在がいるということも知っている。だが、自分がその存在と今、対峙しているというのであれば。

(――退けない。私は、グリフィスの剣だから。グリフィスのために……ッ!)

(みくるちゃんの血は、私と共にある………………うしっ! 覚悟終了!!)

 キャスカが剣を振ると同時に、セラスが拳を突き出し走り出した。

「征きます!」

 黄金一閃――神速の太刀筋が、真っ直ぐな軌道でセラスを斬る。
 鉄拳制裁――セラスの右拳が、横合いから剣の腹をぶったたく。

 吹き飛んだのは、キャスカの方だった。

「――――ぐがぁぁぁッ!?」

 それを巻き起こしたのは、力。
 暴力とは呼ぶには穏やかで、怪力と呼ぶには意味合いが弱く。
 称すなら、馬鹿力。
 人間を超越した吸血鬼の身体能力をフルに活用した、強引に捻じ伏せる戦法――単純すぎるが故に小細工では防ぐことのできない、絶対的な力の表れだった。

 床を横転し、キャスカは体勢を整える。
 とんでもない豪力で剣が払われたということは理解できた。が、どうしても受け入れがたい。
 高速で打ち出した剣の中腹部を的確に捉え、尚且つ持ち手ごと吹き飛ばすなど、ガッツとて無理な芸当だ。
 それを、あんなおとぼけオーラを蔓延させる女性が――

(……違う!)

 距離ができたことで改めてセラスを凝視したキャスカは、自分がとんでもない思い違いをしていたことに気づく。
 金髪の髪に、軍隊を思わせるような婦警服とミニスカート。大まかな容姿は、ロビー襲撃時に見た姿と相違ない。しかし。
262恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 01:07:16 ID:Z9zpzvje
 あの剥き出しになった牙はなんだ――あんなものはなかった。
 あの射殺されるようなギラついた目はなんだ――あんなものはなかった。
 あの膨大に増徴したドス黒く禍々しい波動はなんだ――あれでは、まるで。

 キャスカは素直に認めた。セラス・ヴィクトリアだと思い込んでいた者の、その姿に恐怖している現実を。
 己の右手を見る――剣はまだ握られ、ジーンとした感触は残っているが握力は失っていない。
 エクスカリバーの刀身も、ヒビ一つ入っていない。武器も肉体も、まだ満足に戦える状態を維持している。
 唯一足りなかったものがあるとしたら――それは戦意。
 吸血鬼という、初めて相対するタイプの人外と対峙して、キャスカは『勝てる気』がしなくなったのだ。

(……クッッ!)

 歯がゆい。ここまできて、負けを認めるのが。
 退きたくはない。傭兵としても、騎士としても、敵前逃亡は恥ずべき行為だ。
 それでも、キャスカは死ぬわけにはいかない。ここでキャスカが倒れれば、グリフィスの生還が、鷹の団の再興が、遥か彼方へ遠のく。

「……お前、名前は?」
「セラス・ヴィクトリア」

 名を尋ねたのは、精一杯の負け惜しみのつもりだった。
 勝てないと悟って退却するわけではない。勝負は一時預け、次の機会に必ず決着を着ける。
 言葉にしない真意はセラスに伝わったのかどうか謎だが、キャスカは次の瞬間、即座に戦闘放棄を表明した。
 壁際に立てかけられていた非常用の消火器を斬り捨て、中の消化薬剤が盛大に噴出する。
 真っ白な煙に視界を遮られ、その場にいた全員はそれぞれ身構えるが、もう誰かが誰かに襲われる心配はなくなっていた。
 事の元凶であるキャスカは、既にその場から撤退していたのだった。


 ◇ ◇ ◇


 ホテルを出て、キャスカは周辺街の脇道で一息つく。
 本日の戦果――殺害一、重傷一、無傷一、何故か無傷一。
 四人相手にこの成績なら、十分褒められたものだった。
 しかし、キャスカは納得しない。
 チャンスは十二分にあった。もっとうまく立ち回れば、あの場にいた全員皆殺しにすることもできたはずだ。
 特に――セラス・ヴィクトリア。彼女の助けがなければ、あと二人確実に死んでいた。
 もし本当に彼女が不死者であるというのであれば……自分では勝てないかもしれない。
 もちろん、ガッツやグリフィスでも無理だ。ゾッドの時のような悲劇は、思い出したくない。
263恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 01:08:05 ID:Z9zpzvje
(エクスカリバー……セラスの攻撃を受けても、この剣自体はビクともしなかった。落ち度があったのは、使い手の私の方だ)

 思う。自分はまだ、エクスカリバーを完璧に使いこなせていないのだろうか。
 そもそも、この剣の真の持ち主はいったい誰なのか。この剣の使い手は、どれほどの使い手だったのか。
 自分はまだ、この剣の新たな所有者となるだけの実力を持っていないのか。
 考える。ならばどうすればいい。どうすれば、この剣に認められる。
 簡単だ。もっと強くなればいい。良い剣は良い所有者の下へ行き着くのが自然の摂理。
 エクスカリバーがまだ手元にあるというならば――自分はまだ、この剣を振るう資格を持っているということだ。

「私は、強くなる」

 ゲイン・ビジョウの傷は致命傷だ。よほどのことがない限り、回復はありえない。
 赤い髪の少女――ヒカルと呼ばれていたか――は中々に見所がある。彼女との決着も、機会があれば望むところだ。
 そして何よりセラス・ヴィクトリア――彼女はいずれ、必ずグリフィスの障害となる。
 その前にキャスカはエクスカリバーを使いこなし、再戦し倒す。

「私は、もっと強くなる」

 晴天の覗く空を仰ぎ、黄金の剣が煌いた。
 キャスカの決意は、また一歩、目標を大きく近づける。


 ◇ ◇ ◇


 本日の被害報告――重傷一名。しかし。

「ゲイン! ゲイン!」
「……揺するなヒカル。傷が痛む」

 ――状況、かなり悪し。
 ホテル三階のスタンダードな一室に置かれた、二つのベッド。その片方に、満身創痍のゲイン・ビジョウは横たわっていた。
 みくるが所持していた医療キットで最低限の応急処置はしたものの、本来なら即死でもおかしくはない傷だ。
 それでも持ちこたえたのは、ひとえにゲインの生命力の賜物である。さすがは黒いサザンクロスといったところか。

「セラス、だったか? さっきはすまなかったな。俺のせいで、相当迷惑をかけちまったみたいだ。しかし君のその身体はいったい……」
「あ、いや、全ッ然、気にしてないんでどうかお気遣いなく。今は無理に喋らないで、私の素性云々に関しては後ほど説明しますから」
「…………フッ、それもそうだな。今は、ヒカルの膝の上でゆっくり休みたい気分だ……」
「バカ! そんなことしたって傷が良くなるわけないだろ!」

 やれやれ、口説き文句も分からないお子ちゃまめ……――口に出すこともかなわず、ゲインは静かに眠りに落ちた。
 散々張り続けていた気が、やっと途切れたのだろう。今は、じっくり安静にしておくのが一番だ。
 とはいえ、腹部の裂傷は無視できなる度合いではない。出血は一時的に止まったが、またいつ噴き出してもおかしくない。
 ゲインの生命力とて、夜まで持つかどうか……病院に連れていくという方法も考えたが、今無理に動かすことはあまりにも愚かだ。
 現状では成す術なし。そう結論付けてから、光はある手段を決行するために立ち上がった。
264恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 01:09:27 ID:Z9zpzvje
「セラス、ゲインをお願い」
「へ? そりゃいいけど……ヒカルちゃん、どっか行くの?」
「風ちゃんなら……風ちゃんと合流できれば、きっとゲインの傷も治る!」

 もう一人の魔法騎士、鳳凰寺風は癒しの魔法の使い手だ。
 彼女の力なら、きっとゲインの致命傷もどうにかできる。
 そう確信した光は、単身で風の捜索に躍り出ようとしたのだ。

「それと……もう一つお願い。そのエスクード、実は友達のなんだ。よかったら、私に譲ってくれないかな?」
「エスク……ああ、この篭手のことね。いいよ(変な悪夢の思い出もあるしねー)」

 セラスから風のエスクードを譲り受けた光は、改めて親友の捜索に向かう。
 やるといったら即座に決行。一瞬の迷いも見せず――もう二度と後悔しないために――外へ飛び出した。

「嵐のような女の子だったなー……」

 なかなかどうして、気持ちのいい少女だった。願わくば、何事もなく再会したいものだと思う。
 部屋を飛び出していった光に手を振りつつ、セラスは視線をゲインから右へ移す。
 部屋に安置された二つのベッド。そのもう片方。

「問題なのは……」

 そこには、物言わなくなった朝比奈みくるの華奢な身体が置かれている。
 雪のように白かった肌はどことなく紫の気を帯び、病人のような血色を見せていた。
 こんな状態になって、血色が悪いも何もないか、とセラスは自嘲気味に笑う。
 彼女はよく戦った。数時間前に仲間が死んだという現実から逃げず、襲い来る恐怖に懸命に立ち向かった。
 実際、みくるがいなかったら今頃どうなっていたことか。
 おそらくホテルは死地と化し、生存者はあの女騎士しか残らなかっただろう。
 今、セラスが彼女に微笑みかけているのも、ゲインが死に掛けながらも横たわっているのも、光が仲間捜しを再開できているのも、
 全ては、このドジなメイドもどきの功績なのである。
 不思議と、みくるが微笑み返してきたような気がしたが、たぶん気のせいだろう。
 ありがとうみくる。マスターに会ったら、『セラスは立派な人間に出会えました』って言っておきます。
 本当に、ありがとう。

265恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 01:10:47 ID:Z9zpzvje




 …………なーんて。

「本当に大変なのは、これからなんだよみくるちゃん……」

 みくるの表情は『もう思い残すことはありません。みなさんさようなら』と言わんばかりの充実した顔だったが、その表情も哀れに思えてしまう。
 セラスは分かっていた。そして、みくるは分かっていなかった。
 吸血鬼に血を吸われるということが、どういうことか。
 血とは魂の通貨。命の取引の媒介物に過ぎない。血を吸うということは、命の全存在を我が物にするということ。
 かつてアーカードが死の淵にあった婦警を生き永らえさせたように、朝比奈みくるもまた。

 セラス・ヴィクトリアに血を吸われたことにより、吸血鬼となったのだ。

 だからこそ、まだ生きている。
 あの死亡確実と思われた傷を再生し、まだこの世に存在しているのだ。
 だが……セラスのこれまでの半生を思い返せば、ここで大人しく死んでおくのも一つの正解だったように思える。
 それを決めるのはみくる自身だが、どの道あそこで血を吸わなければどちらも死んでいた。
 運命が不幸な少女を巻き込んだとしか思えない。
 セラスはみくるに同情を覚えつつ、未だ覚めぬ目覚めを待っていた。

「この子も、私のことをマスターって呼んだりするんだろうか……」


 ◇ ◇ ◇

266恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 01:12:06 ID:Z9zpzvje

   〜ミ・ミ・ミラクル☆ ミクルンルン☆
   ミ・ミ・ミラクル☆ ミクルンルン☆〜
 
「な、なんですか……ここどこですか……? なんで映画作った時のテーマソングが流れてるんですか……?」
 目覚めると、私はどことも分からぬ異次元空間の狭間にいました。
 なんか……どこかで見たようなキャラクターが宙をうようよしているのは、気のせいなのかな……?

「落ち着きなさいミクル……落ち着いてワタシの話を聞くのです……」
 そこには、眼鏡をかけた天使……の格好のオジサン(小太り)が浮いていて、私に話しかけてきます。
 
   〜素直に「好き」と言えないキミも 勇気を出して(Hey Attack!)
    恋のまじないミクルビーム かけてあげるわ〜

「あの……あなたは誰デスカ? どうして私こんなところにいるんですか?」
「ワタシはあなたの持っている銃、カラシニコフの精。……ちなみにハルコンネンの精やウィンダムや平○耕太とは何の関係もないのであしからず」
「は、はぁ……」

   〜未来から やってきたおしゃまなキューピッド
    いつもみんなの 夢を運ぶの〜

「って、んなことよりミクルちゃん、あんたヤバイって。もう今回セラスなんて目じゃないくらいの巻き込まれ方しちゃったんだから」
「は、はいぃぃ? な、なんのことですかそれ……」
 小太りのオジサンはハァハァ言いながら私に言い寄り……ひぃ!
 何か、何か警告を発しようとしていることは分かるんですけど……ち、近い! 顔が近いですぅ〜!

   〜夜はひとり 星たちに願いをかける
    明日もあの人に 会えますように〜

「と、むさ苦しい演出はここまでにしてトウ! SOS団団長にバトンタッチ!」
「ふ、ふぇぇ!?」
 急遽キャスト変更が起こり、オジサンの姿が何故か涼宮さんに! も、もう何がなんだか分かりませぇーん!

   〜カモンレッツダンス♪ カモンレッツダンスベイビー
    涙を拭いて 走り出したら〜

「いつまで寝てるのよみくるちゃん! あなたは今後、魅惑の吸血鬼メイドとして活躍するという崇高な使命があるのよ!」
「わ、わたし吸血鬼なんてできないですぅ〜」

   〜カモンレッツダンス♪ カモンレッツダンスベイビー
    宙の彼方へぇ〜 スペシャルジぇネレぃーショ〜ン〜

「つべこべ言うな! もう撮影スケジュールは組み立てちゃったんだから、ビシバシいくわよ!」
「は、はいぃ〜!?」

   〜(セリフ)いつになったら、大人になれるのかなぁ?〜


 ◇ ◇ ◇

267恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 01:13:22 ID:Z9zpzvje

「あ、なんかうなされてる」

 ベッド上で苦悶の表情を形作るみくるを見て、セラスは思った。
 なんだかこの子……他人の気がしないな。と。





【D-5/ホテル周辺/1日目/昼】

【キャスカ@ベルセルク】
[状態]:中度の疲労
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night
[道具]:支給品一式(一食分消費)、カルラの剣@うたわれるもの(持ち運べないので鞄に収納)
[思考・状況]
1:エクスカリバーを一刻も早く使いこなす。
2:飛び道具を手に入れる。それまではリスクの高い攻撃行動は控える。
3:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。
4:セラス・ヴィクトリア、獅堂光と再戦を果たし、倒す。

【獅堂光@魔法騎士レイアース】
[状態]:全身打撲(歩くことは可能)中度の疲労 ※雨で濡れています
[装備]:龍咲海の剣@魔法騎士レイアース
[道具]:支給品一式×2、ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの
   :デンコーセッカ@ドラえもん(残り1本)、エスクード(風)@魔法騎士レイアース、 鳳凰寺風の剣@魔法騎士レイアース
[思考・状況]
第一行動方針:風と合流し、早急にゲインを治療。
第二行動方針:風と合流できなくても、何かしらの治療手段を手に入れる。
基本行動方針:ギガゾンビ打倒。
268恋のミクル伝説 ◆LXe12sNRSs :2007/01/10(水) 01:16:40 ID:Z9zpzvje
【D-5/ホテル3階の一室/1日目/昼】

【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:腹部に重度の裂傷、瀕死の重体
[装備]:パチンコ(弾として小石を数個所持)、トンカチ
[道具]:支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)
[思考・状況]
第一行動方針:絶対安静。
第二行動方針:市街地で信頼できる仲間を捜す。
第三行動方針:ゲイナーとの合流。
基本行動方針:ここからのエクソダス(脱出)

【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:貧血による一時的な失神、吸血鬼化?
[装備]:AK-47カラシニコフ(29/30) (みくるは装填できず)、石ころ帽子@ドラえもん
[道具]:バトーのデイバッグ:支給品一式(一食分消費)、AK-47用マガジン(30発×3)、チョコビ13箱、煙草一箱(毒)、
   :爆弾材料各種(洗剤等?詳細不明)、電池各種、下着(男性用女性用とも2セット)他衣類、オモチャのオペラグラス
   :茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている)(茶葉を一袋消費)
   :ロベルタのデイバッグ:支給品一式(×7) マッチ一箱、ロウソク2本、糸無し糸電話1ペア@ドラえもん、テキオー灯@ドラえもん、
   :9mmパラベラム弾(40)、ワルサーP38の弾(24発)、極細の鋼線 、医療キット(×1)、病院の食材
[思考・状況]
1:私死んだんじゃないんですか……? 私どうなっちゃうんですか……?
2:SOS団メンバーを探して合流する。 
3:鶴屋さんの安否を確かめたい。
4:青ダヌキさんを探し、未来のことについて話し合いたい。
[備考]:※朝比奈みくるの吸血鬼化について。
     性格の変更はなし。戦闘能力については、ヘルシング初期のセラスの能力に依存します。
     ただし、セラスが吸血鬼について、アーカードのような適切な指導が行えるかどうかは未知数。
     基本的にマスターであるセラスに従います。

【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]:健康、朝比奈みくるの血を吸った
[装備]:ナイフ×10本、フォーク×10本、中華包丁(全て回収済み)
[道具]:支給品一式 (バヨネットを包むのにメモ半分消費)、バヨネット@ヘルシング
[思考・状況]
1:トグサが戻るまでホテルを死守。
2:キャスカ及び、新たな襲撃者が来ればそれらを排除。
3:光が戻るまでゲイン、みくるの看護(みくるが目覚めた場合状況説明も)。
4:電話番。
5:アーカード(及び生きていたらウォルター)と合流。
6:ドラえもんと接触し、ギガゾンビの情報を得る。
[備考]:※ドラえもんを『青いジャック・オー・フロスト』と認識しています。
    ※セラスの吸血について。
     大幅な再生能力の向上(血を吸った瞬間のみ)、若干の戦闘能力向上のみ。
     原作のような大幅なパワーアップは制限しました。また、主であるアーカードの血を飲んだ場合はこの限りではありません。

※ホテル脇の駐車場に、ロベルタとバトーの死体、空気砲(×2)@ドラえもん/グロック26(4/10)(共に使用不可能)が放置されています。
※ホテルロビーにあった電話を、三階のセラスたちがいる部屋に移しました。
269死闘の果てに ◆q/26xrKjWg :2007/01/10(水) 02:40:16 ID:q243q1E4
「うっひゃあ〜、こんなん喰らったら洒落にならねぇなぁ」

 難なくそれをかわしながら、ルパンは飄々と言い放った。

 この女は生粋の剣士だ。恐らくは五ェ門と同じような手合いの。銃さえあれば楽に勝てる相手でもあるまい。先程のような奇策も油断がなければ二度とは通じない。
 だが、そのたった一度だけ通じた奇策が、勝負の決定打となることもままある。
 右手甲と両腿。特に両腿の負傷は、戦闘においては致命的だ。近接戦闘では殊更に。機動力に直結する要素なのだから。それだけの負傷を負ってまだこれだけの動きができることには、驚嘆を禁じ得ないが。

(つくづく最初に猿芝居打っといて正解だったわ、こんなのとまともにやり合ってたら弾が何発あっても足りねぇわな)

 元より相手を間合いに入らせてはいない。炎をまとったその斬撃は凄まじい威力だろうが、こちらに届かなければ意味はない。
 無理に近づけば相手は回避の余裕を失う。逆に、無理に近づきさえしなければ、こちらの発砲を回避できてしまうわけだが。実際に弾を数発無駄にしていた。ただし、その距離――彼女にとっての死線は、彼女が万全であった時に比べて確実に遠のいている。
 無理を押して動き続けていれば、それはさらに遠のく。そして、いずれは限界に到達するだろう。

「まだ続けるかい? まあ俺としちゃあ、別にいつまででも構わないけどな〜。お前さんみたいなべっぴんとなら尚更だぁ」
「戯れ言を!」

 彼女がまた踏み込んできた。
 もう一歩踏み込めば、斬撃をこちらに喰らわせられるかもしれない距離――その前に放たれるであろうこちらの銃弾を間違いなく回避できなくなる距離。
 今まで通りその一歩だけは踏み止まり、上段から炎焔の刀を振り下ろしてくる。
 今まで通り飛び退いて回避する。
 今まで通り追撃はない。
 ただ一点、今までとは違う点があった。彼女はそのまま刀を切り返すことなく、地面に叩き付けたのだ。

「おおっと!」

 刀に込められた威力もまた、同時に橋に叩き付けられた。
 それが盛大に爆発を引き起こす。爆風によって後方に飛ばされるが、元々軽業には長けているルパンは苦もなく着地を決めた。
 爆発によって橋が落ちたりするような事態は免れたようだ。それでも爆煙は未だ渦巻いている。
270死闘の果てに ◆q/26xrKjWg :2007/01/10(水) 02:42:56 ID:q243q1E4
(これで大人しく退いてくれるかねぇ)

 この機に乗じて撤退――その可能性が最も高い。それならばそれで構わない。危険人物を逃すのはよろしくないが、ハルヒとアルルゥが逃げた方にさえ向かわせなければ、とりあえずの成果としては十分だ。
 しかし、ここにあの女を止めておくため、さんざ挑発行為を行った。そう簡単に逃げ出してくれるとも限らない。

(正面から当てずっぽうに矢でも射ってくるか? あるいは右か左かに回り込んで、奇襲をかけてくるか――万に一つもないが、俺を無視してこの橋を突破しようとするか)

 いくつかの危険性を考慮し、射軸をずらしつつ、さらに後方に飛び退く。
 視界が封じられ、距離が空いた――それは向こうも同じだ。加えて負傷もある。距離を詰めるにも限度があるだろう。こちらが後方に退けば退くだけ、奇襲も突破も成立が困難になる。
 未だ状況の優劣は自分に傾いている。これは時間稼ぎでしかない――

 ――その認識が、仇となった。
 渦巻く気流。
 爆煙を切り裂いて、矢が――いや、矢のように彼女自身が姿を現したのだ。こちらの姿が見えていたかのように、真っ直ぐに。迷うこともなく。
 これまでよりも格段に速い。こちらが飛び退くよりも速い。
 虚は突かれた。が、まだ間に合う。
 防御ではない。あの炎の斬撃を銃で受け止めようとすれば、それはただの馬鹿だ。
 間に合うのは攻撃。しかもただ一発。
 ならば十分だった。

(全く勿体ないったらありゃしない、こんな綺麗な顔に弾丸ぶち込むなんざ。まあしょうがないよなぁ?)

 元々、女や警官は不殺――というのが己の流儀である。
 とはいえ、それと自分の命とならば、わざわざ天秤にかけるまでもない。
 銃口を向けるのは、鎧に守られていない、かつ絶対的な急所。既に肉薄しつつあった彼女の眉間。いざとなれば咄嗟にそれができるだけの腕と度胸を、ルパンは持っている。
 そして引き金を引いて――



 ――死闘は果てた。
271死闘の果てに ◆q/26xrKjWg :2007/01/10(水) 02:45:18 ID:q243q1E4



 ルパンは仰向けに倒れていた。腹のあたりから自分の命がこぼれ落ちていくのを、身動きもできずにただ受け入れるしかない。
 胴体は両断されてはいないらしい。だとしても致命傷には違いないが。女が手にしている武器が、いつの間にか斧に変わっていた。
 一方の女はと言えば、眉間に傷一つ付いていなかった。両腿の傷でさえ、血の跡はあれど出血そのものは止まっているようだ。

「一体全体……どんな手品を使ったんだ?」
「つい今し方、お前に教わったことだ。お前は魔法というものを知らなかった。ならば奇策も一度だけなら通じよう」

 互いに視界は効かない。傷はすぐには治らない。額に銃弾をぶち込まれて死なない奴などいない。
 考えられない方向から考えられない速度で切り込まれて、対応が遅れた。その一瞬の遅れの中での判断と、取った手段。全てがそういった先入観と重なって、まさに文字通りの命取りになった。

「なるほどねぇ、何とも便利なもんだ……」
「それほど便利な代物ではない。失敗すれば、死ぬのは後のない私だった。たった一度の策に全力を尽くさざるを得なかった」

 女は溜息をついたようだった。
 その溜息が、誰に――あるいは何に対してのものだったのか。それを確かめる術は、自分にはないが。

「私をここに足止めするつもりだったのだろう?」
「足止めじゃあねぇさ……さっさとお前さんをやっつけて、正義のヒーローを気取ってみるのも悪かぁないと――」
「確かにまんまと一杯食わされた。私は愚かにも挑発に乗ってしまった。切り札を全て使わされた。消耗も激しい。これではあの娘達を追いようもないな」

 彼女はこちらの答えを一切合切無視して続けた。直接的な表現でこそなかったが、何を言わんとしたいのかは大凡理解できる。
 女の言葉が終わるのを待ってから、ルパンは告げた。

「それがどうしたってんだ……いずれはあの嬢ちゃん達も見付けだして、殺すつもりなんだろ?」
「無論だ。いずれ私に見付けられたなら、だが」

 期待外れの、そして予想通りの返事が返ってくる。

272死闘の果てに ◆q/26xrKjWg :2007/01/10(水) 02:47:06 ID:q243q1E4
「そういえば、まだ聞いてなかったな……お前さんを……そこまでさせる信念とやらは、一体何なんだ?」
「私の力が至らぬばかりに失われた主の命は、我が手で取り戻す。ただそれだけだ」
「はっ……人が生き返るなんてことは、ないさ……あっちゃいけねぇ……」

 思ったことを言葉にするのも億劫になってきた。
 そろそろ終わりの時が近付いているらしい。

(お天道様の下を歩けない悪党らしい、無様な死に方かもしれねぇなぁ。団長命令まで破っちまった。名誉ある特別団員とやらの地位も剥奪かね、こりゃ)

 盗賊稼業に手を染めた時から、ろくな死に方はできまいと覚悟はしていた。
 こうして美人に看取られて死ねるだけ――それが自分を殺した女だとはいえ――まだマシかもしれない。そう思うことにしよう。
 次元はどうしているだろうか。再会叶わなかった仲間の顔が浮かぶ。
 不二子は――まあ、自分の死を知って感傷的になるようなタマでもない。

(五ェ門、暖かく迎えてくれや。とっつぁん、そっちでも楽しくやろうぜ――)

 見知って僅かの少女二人を逃して、囮となって死ぬ。何の因果か、終生の好敵手だった銭形警部と同じような末路。
 それが天下の大盗賊ルパン三世の、悪党らしい最期だった。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

273死闘の果てに ◆q/26xrKjWg :2007/01/10(水) 02:49:04 ID:q243q1E4
 シグナムは、この男を心底羨ましく思った。死しても何かをやり遂げ、何かを残してみせたのだ。今死ねば何も残すこと叶わぬ自分とは違う。
 残されたのは無力な少女二人。しかも一方は手負いの。わざわざ無理をして追っていくまでもない。放っておいても自分以外の殺人者に襲われ、その命を散らすだろう。
 ならば、それでいい。
 決してこの男に義理立てしているわけではない。
 外道に身をやつした己が義理を立てようなどとは、おこがましいにも程がある。

 それに、実際に追える状況でもないのは確かだった。
 クラールヴィントで位置は認識できようと、見えもしない相手の急所を確実に弓矢で射抜くには運に頼るしかない。故に自身を矢とし、全力を以て最後の接近戦に挑んだ。
 起点となる目眩ましの紫電一閃で、一個。
 クラールヴィントによる緊急の治療で、一個。
 パンツァーガイストによる全開の防御で、一個。
 止めの紫電一閃で、一個。
 残り四個の宝石を全て消費してしまった。刀は地面に叩き付けた衝撃に耐えきれず折れた。銃こそ増えたが、本来自分の得手とする武器ではない。傷は宝石まで使って無理矢理治したとはいえ、連戦で蓄積されてきた疲労はそのままだ。

 切り札が失われたこの状況で、積極的に戦闘に出向くのは下策に過ぎる。
 チャンスがあれば遠距離からの狙撃を行い、仕留め損なった場合には近付かれる前に即座に離脱する。生き延びる確立を少しでも高めるならば、それに徹するべきだ。止めを差すこと――いや、攻撃することそのものにすらも執着してはならない。
 それで自分が死んでしまっては、何も残せず終わってしまうのだから。
 まず必要なのは、休息だ。
 レーダーでありジャマーでもあるクラールヴィントの機能に頼れば、他者との接触を避けることは容易であろう。今までと逆の使い方をすればいい。

 シグナムは、男の死に顔を見やった。
 自分が死ぬ時にこんな顔ができるとすれば、それは主はやての命を取り戻した時だけだ――彼女はそう心に刻み込んだ。
 己の愚かさと、そして己の甘さの代わりに。


274死闘の果てに ◆q/26xrKjWg :2007/01/10(水) 02:50:58 ID:q243q1E4
【D-3/橋の上/朝】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労、戦闘による負傷(処置済)/騎士甲冑装備
[装備]:ルルゥの斧@BLOOD+
     クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはA's
     鳳凰寺風の弓@魔法騎士レイアース(矢21本)
     コルトガバメント(残弾7/7)
[道具]:支給品一式、ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾6/15)
[思考・状況]
1 :他者との接触を避けて移動し、休息を取る。
   ハルヒ&アルルゥが逃げた方向にはあえて向かわない。
2 :休息後、チャンスがあれば狙撃&離脱により他者への攻撃を仕掛ける。
   ただし攻撃よりも自分の安全=生き残ることを優先。
3 :ヴィータと再会できたら共闘を促す。
基本:自分かヴィータを最後の一人として生き残らせ、願いを叶える。

※シグナムは列車が走るとは考えていません。

※放送で告げられた通り八神はやては死亡している、と判断しています。
 「ギガゾンビが騎士と主との繋がりを断ち、騎士を独立させている」
 という説はあくまでシグナムの推測です。真相は不明。



【ルパン三世@ルパン三世 死亡】
[残り56人]

※以下はその場に放置されました。
ディーヴァの刀@BLOOD+(折れています)
マテバ2008M@攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(弾数0/6)
少女は膝を抱え、座っている。
意識は既に、取り戻した。
何とか足を動かし、外に出た。
ここは一つの民家だった。

「…怖い」

少女は呟いた。
二度の敗戦。
彼女は負けを知らなかった。
長門に負けたことはあったが、それとは違う。
完全な敗北。
死への恐怖。
あの劉鳳から逃げたくて、必死で遊園地から脱出した。
だが、それが精一杯だった。
もう彼女は、足がすくんで動けない。

「どうして…ここで死んだら…」

存在が完全に消えるような錯覚を与えていた。
『対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース』
その彼女に『死』という概念は存在しない。
その彼女に、二度の敗北、二度とも頭部へ深手。
でもそれでも、恐怖などただのノイズに違いない。
痛みなど感じないのだから。

少女は震えていた。
一人…膝を抱えて。
怯えた、無垢な少女の顔で。
深い闇。
少女は必死で、手を伸ばす。

「サイトッ!サイトー!!」
「ルイズッ!ルイズッッッーーー!!!!」

少年と少女は手を伸ばした。
重なりかける手がもう少しで繋がる…

そこで彼女の意識は覚醒した。
愛する者の成れの果てー首ーはしっかりと、少女の腕の中にある。

「サイト…一人で寂しいの?…うん、会いに行くから。待っててね」

少女は愛する男の首を抱え、右手には無骨に光る武器を持ち、
愛する男の、敵討ちへの旅を続けた。
死を恐れぬ、虚無の目をして。
そんな少女の顔は…悲しかった。


二人の少女の時間は…同じように動き続ける。


【F-4/E-4よりの市外の民家/昼】

【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:側頭部に傷(少し回復)/恐怖
[装備]:SOS団腕章『団長』
[道具]:デイバッグ/支給品一式(食料無し)/鎖鎌/ターザンロープの切れ端/輸血用血液(×3p)
[思考・状況]
1:死にたくない
2:誰にも会いたくない


【H-1森・1日目 昼】

【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:健康/左手中指の爪剥離
[装備]:平賀才人の首、グラーフアイゼン(強力な爆発効果付きシュワルベフリーゲンを使用可能)
[道具]:ヘルメット、支給品一式、平賀才人の左手
[思考・状況]
1.サイトと一緒に目に映る人は殺す(朝倉涼子最優先)
2.サイトと一緒に優勝して、ギガゾンビを殺す。
3.サイトに会いに行く。
277 ◆Lp4e6dlfNU :2007/01/10(水) 03:47:32 ID:h5XBdBZW
訂正

【F-4/E-4よりの市外の民家/昼】を
【F-4/E-4よりの市外の民家/1日目/昼】
に直します。
278食卓の騎士 1/5 ◆TIZOS1Jprc :2007/01/10(水) 12:57:06 ID:ak3O7W8C
古来より、人類は食べる為に戦い、戦う為に食べてきた。
特にヨーロッパではそれが顕著だ。
小麦、大麦、ライ麦、燕麦などの作物は、稲作と比較すると栽培にかかる手間は断然少ない一方、手間を掛けた所でたいして収量は変化しない。
単位面積あたりの収量の少なさ、連作障害などのリスクは、時に凶作を致命的な物に変えてしまう。
そんな時はどうするか。
戦争だ。
余った人手を兵力にして、遠い土地まで略奪しに行くのだ。
一方、豊作の場合でも、他の地域からの侵略に備えて、兵力を拡充せねばならない。
後にイングランドと呼ばれる地で、かつてセイバーが戦争に明け暮れていたのも、かの地を統一したのも、それが理由の一つだ。
遠征時に兵糧など殆ど持たない。
飢えを満たすため、飢えないため、兵士たちは死に物狂いで戦った。
それ故か、セイバーは食べることに貪欲だ。

グゥ〜〜〜。

「……空腹です」

ゲームが始まってから今まで何も取っていないのだから当然だ。
しかし支給された二日分の戦闘食も、大喰らいの彼女にとっては一食分程度にしかなり得ない。
本来サーヴァントに食事は不要だが、この奇妙な空間では魔力とは別に食事を取る必要があるようだった。
支給品は日持ちしそうなので、長丁場に備え、出来れば食い切らずに残して置きたい。
だが怪我の回復の為にも、栄養価の高いものを摂取する必要があるのも事実。

「……食糧を……探しにいきましょう」

そう思い立ってシートから身をあげた瞬間

ビ――――――!

「な、何事!」

突然ブザーが鳴り響き、照明が消え、スクリーンにかかっていた幕が勝手に開かれていく。
敵襲かと剣を構え警戒するセイバーをよそに投影機が作動しスクリーンが白く染まった。

『〜大変長らくお待たせしたギガ〜。只今より上映を開始するギガ〜』

あっけにとられるセイバー。
オープニング曲が流され、タイトルがでかでかと映し出された。

――――たんてい犬くんくん劇場版・恐怖!十二角館の殺人!――――

『やあ、スクリーンの前のみんな。いつも僕を応援してくれてありがとう!』
「こ、これは……!」

セイバーの目は、この映画の主人公らしき犬のぬいぐるみに釘付けになる。
279食卓の騎士 2/5 ◆TIZOS1Jprc :2007/01/10(水) 12:59:40 ID:ak3O7W8C
『犬を模した人形なのか……。何と愛らしい!特にあの垂れ下がった耳!垂れ出た舌と調和して、えも言えぬ存在感を醸し出している!ああ!これは是非とも最後まで見てみたい!』

思わず恍惚として魅入ってしまったが、すぐに首を降って思い直す。
ここは殺し合いの場。こんなところで油を売っている暇は無い。
セイバーは断腸の思いで犬のぬいぐるみに別れを告げ、シアターから出て映画館を後にした。
劇は丁度、首を吊って死んだ豚のぬいぐるみが実は他殺であると犬のぬいぐるみが断定していた所だった。


◇ ◇ ◇


歩き始めてしばらく、セイバーは魚屋を発見する。
魚介類ならば彼女もしばしば口にしていた。
ここならば彼女の空腹を満たす食材が豊富にあると見て、警戒しながらも意気揚々と足を踏み入れたものの。
生け簀の前で途方に暮れる結果となった。

「渡り蟹にハモ、ナマコ、虎河豚……私にどうしろと」

ご丁寧に魚の種類と調理方が書かれたノートが置いてあったので目を通しては見たが、いずれも素人には調理しかねる。
誰か料理に秀でた仲間がいれば苦労することも無かったのだろうが……。

『未練がましいことだな、私も』

このゲームに乗ると決めた以上、一人でやるしかないのだ。
所詮魚、毒がない限り煮れば何でも食えるはず。
とりあえず傍らに立てかけてあったタモでハモを捕獲した。
ハモはぬるぬると滑り、セイバーの手から逃れようともがく。
セイバーはカリバーンを抜きはなち、まな板で暴れるハモに狙いを定めた。
王の選定に用いる由緒正しき宝剣が包丁代わりとは、何とも情けない話だったが、テーブルナイフ一つ置いてなかったのだから仕方ないだろう。

「これも生きるため。許せ」

セイバーは剣とハモに詫びを入れつつ剣を振り降ろす。
まな板ごとハモの頭が両断され宙を舞った。
力加減を誤ったようだ。
後は適当にブツ切りにして、水と共に鍋に放りこんで火に掛ける。
怪我を押してここまで歩いて来たせいか、体は疲れきっていたのでそのまま煮えるまで休んでしまうことにした。
彼女は骨切りは愚か、ぬめり取りや三枚おろしすら知らない。
280食卓の騎士 3/5 ◆TIZOS1Jprc :2007/01/10(水) 13:01:42 ID:ak3O7W8C
で。
30分後。
薄く濁った汁の上を中骨が浮かんでいる。
鍋の中の魚肉は煮とけて、もはや原型を留めていなかった。

「……し、塩を入れれば何とか……」

置いてあった塩の瓶の中身を丸ごとぶちまける。
一口すすってみたが、戦場の味気ない食事に慣れた彼女でも食えた物では無い。

「こ、こんなはずでは……」

食べ物を粗末にしている構図そのもので、その衝撃にへたりこんでしまった。
しかし嘆いてばかりではいられない。
新たなる食材を求めて、セイバーは家探しを再開した。

「おおっ!これは……!」

やっとのことで戸棚からレトルトのご飯と納豆を手にした。
電子レンジならばセイバーにも何とか使える。
ほくほくとした顔でレンジにご飯を入れスイッチを押す。

チン♪

ご飯が温まる。
フィルムをはがし、遅くなってしまった朝食を始めた。

「納豆は250回混ぜて、と」

納豆をご飯の上にぶちまけ、上品に掻き込む。
咀嚼しながら、このゲームが始まってから今までのことを反芻した。

『何をやっているんでしょうね、私は……』

始めに会った少年。
彼は礼儀知らずではあったが、友人を助けるためには己が身をも投げ出す、明らかに友情に篤く勇気ある人物だった。

奇妙な耳をした女。
彼女は明らかに有利な状態であっても(勘違いで)武人の作法を優先し、手傷を負っているセイバーを見逃した。

それに付き従っていた男も保身からでは無く、あくまで女の身を案じて援護攻撃を仕掛けてきた。

金髪の少年やアサシンのサーバントはともかく、彼らは人間的に曲がった所もなく、こんな殺し合いに付き合わされる謂れなど決してないはずだ。
彼らを手に掛けてまで、果たして得る物などあるのか?
そこまでして王の選定をやり直すことにどんな意味が……。
281食卓の騎士 4/5 ◆TIZOS1Jprc :2007/01/10(水) 13:02:51 ID:ak3O7W8C
『……何を今さら』

セイバーは自嘲した。
罪の無い人間が参加していること位、始めから判っていたことだ。
にもかかわらず、彼女はここにいる。
自国の民と騎士達を救い得る、一縷の望みに賭け。
王の証を、血塗られた刃に変えて、ひとりきりで。
カリバーンを見舞った少年、ヘンゼルともう一人は呼んでいたか、すでに自分は彼に致命傷を与えている。
前回の放送で名は呼ばれなかったものの、果たしていつまで持つか……。

騎士としての誇りも、武人を謀り、不意打ちをし、感情に任せて剣を振るったことで地に堕ちたも同然。
それでも未だ一人として殺害出来ていないのは、自分の心の弱さ故だ。
そんなことで、この先、生き残れる訳が無い。
殺してしまおう、誰でも良いから。
怪我など関係ない。いつまでも留まっていては決心が鈍るだけだ。
それでも……。

「せめてこのうさぎだけでも持ち主に返却してやりたいものです」

食べ終わったご飯のパックと箸をちゃぶ台において、デイバッグの中のうさぎを取り出した。
濡れた部分がなんだか臭くなって来ている。
眉間が破れてパンヤがはみでているのが脳漿みたいで哀れだった。
少なくとも乾かしておいてはやりたいが……。

「そう言えば電子レンジがあるではないですか!」

はたと気付くと、セイバーは意気揚々とぬいぐるみをレンジの中に放りこみ、スイッチを押す。

ぬいぐるみの注意書きには小さくこう書かれていた。

『ナイロン80%:ぜったいに電子レンジでかわかさないでください!』

……………………………………………………。
5分後。

「ああアアーーーーッ!なッ、何てことにッ!」

もうもうと煙をあげるぬいぐるみを前にセイバーはムンクちっくな叫びをあげる。
うさぎは完全に乾燥したものの、所々真っ黒にコゲ付き、見るも無惨な姿に変わり果てていた。
さらには一部繊維が融けて皮膚が爛れたようになってしまっている。

「すまないエヴェンクルガのトウカ!この貸しは必ず!」

セイバーは涙目でここには居ない持ち主に詫びた。
282食卓の騎士 5/5 ◆TIZOS1Jprc :2007/01/10(水) 13:04:07 ID:ak3O7W8C
【B-4 魚屋内部 初日 午前〜昼】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:腹三分、全身に裂傷とやけど(動きに問題ない程度まで治癒)、両肩を負傷(全力で動かせば激痛)、精神的ショック
[装備]:カリバーン
[道具]:支給品一式(食糧1/3消費)、なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん
[思考・状況]
1:決意を鈍らせない為、誰でも良いから殺す
2:優勝し、王の選定をやり直させてもらう
3:エヴェンクルガのトウカに、見逃された借りとうさぎを返し、預けた勝負を果たす。
4:調子が狂うのであまり会いたくないが、小次郎に再戦を望まれれば応える
※うさぎは黒焦げで、かつ眉間を割られています。
283 ◆OHBIARg7U2 :2007/01/10(水) 13:22:06 ID:QEoa4X9+
刺客を送ることにする
            by主催者

石田銀と呼ばれるその男はラケットを携えてこの地に舞い降りた。
「わしの波動球は108式まであるぞ!!!
 五 拾 七 式 波 動 球!!」

その衝撃は地面に激突し、地震と化して、参加者達のほとんどを墜落死させた。


―その頃―
来おったな、我が戦友よ。
野比のび太と呼ばれるその少年は、せせら笑いながら震源地を見つめた。
 
284一人は何だか寂しいね、だから ◆lbhhgwAtQE :2007/01/10(水) 23:02:17 ID:qEBFMAqv
――ピピピピピ

電子音が鳴ると、はやてはヴィータの脇から体温計を取り出し、そこに表示された検温結果を読む。
「38度……。これで言い逃れできないなぁ。これは紛う事なき風邪やで」
「う〜〜」
ベッドに寝込んでいたヴィータは、顔を紅潮させて唸る。
「だから言ったやろ。寝る時はちゃんと布団を被らなアカンって」
「だって、寝苦しかったから……」
「そうやって布団蹴っ飛ばしてお腹出したまま寝ていた結果がこれなんやろ。ちゃんと気をつけな」
その柔らかい声で、だがその中に厳しさをこめて、はやては寝込むことになった原因について咎める。
「……ごめん。はやて」
するとヴィータは布団の中に顔をうずめて申し訳なさそうに謝る。
「ま、次からは気をつけような。それにそんなに大事に至らなくて良かったわぁ」
頭を優しく撫でながらはやてはヴィータににっこりと笑う。
ヴィータは、そんな主の姿を見て、不必要な迷惑をかけてしまったという罪悪感と同時に自分はこんなにも優しい主に仕えているのだという幸福感を感じていた。
「あ、そうそう。何か欲しいものはあったら言ってな。食べたいものとか飲みたいものとか」
「何でも……いいのか?」
「私が用意できる範囲のものやったら、構わへんよ」
「それじゃ……アイス! イチゴのアイスが食べたい!」
そんなヴィータの言葉を聞いて、はやては思わず笑ってしまう。
「あはは。相変わらずヴィータはアイス好き好きさんやなぁ。えぇよ。今、持って来るわ」
「持って……って、もうあるのか?」
「うん。ヴィータならきっと欲しがると思ってな。さっきシャマルに買ってきてもらったんよ。本当ならお腹を冷やす可能性もあるけど……ヴィータには特別や」
ヴィータの紅潮した顔がぱぁっと明るくなる。
「あ、ありがとう! はやて!」
「礼なんていらへんって。……さ、今持ってくるからちょっと待っててな」
「うん!」
再度頭に手が置かれ、はやての微笑む顔が目の前に………………


「お、目、覚めた?」
目の前にいたはずの見知った主の顔は、突如として見知らぬゴーグルをつけた活発そうな少年のものに変わっていた。
いや、正しくは全く見知らぬ顔ではなく、ついさっき瓦礫の山で見かけた少年の顔そのものだったのだが。
「お前は……ってか、どうして私……」
ヴィータが起き上がると、そこは何処かの建物の一室のようだった。
自分はどうやらソファーの上に寝かせられているらしい。
ご丁寧にカーテン生地のような布を毛布代わりに掛けられて、更には水で塗らしたタオルのようなものが頭に乗せられている。
「そっか。あたし、熱を――」
「おい、まだ起きるなって。お前、すごい熱だったんだから」
起き上がり状況を把握し始めたヴィータは、目の前にいた少年によって再び強引に寝かせられてしまう。
そして、そんな少年の姿を見て彼女はこんな疑問を抱かざるを得なかった。
「何で……あたしの面倒なんか見てるんだ」
「……え?」
「お前とあたしは赤の他人だろ? どうしてそんなあたしの看病なんかしてるんだよ。そんなことよりも先にすることがあるんじゃないのか?」
自分が意識を失う直前、少年は瓦礫の中に埋まってるという何者かを助けようとしていたはずだ。
それを放り出してまで何でこんなことしてくれるのか? 彼女には分からなかった。
すると、それを問われて彼は表情を少し暗くしながらも、しっかりとした口調で答える。
「俺、これ以上誰かが苦しんだり傷ついたりするのを見たくないんだ。……こんなことが言えた義理じゃないのは分かってるんだけどさ」
「ん? それって、どういう――」
「――のび太君〜〜〜〜〜!!!」
ヴィータが再度問おうとしたちょうどその時だった。
横になっていた青いタヌキのような物体が、いきなりそんな声を出して起き上がったのは。
285一人は何だか寂しいね、だから ◆lbhhgwAtQE :2007/01/10(水) 23:03:17 ID:qEBFMAqv



ドラえもんは目を輝かせていた。
理由は簡単。自分の目の前に、山のように盛られた好物のドラ焼きがあったのだ。
「僕達のプレゼントだよ。ドラえもん」
顔を上げ、横を向くとそこにはのび太やジャイアン、スネ夫、そしてしずかがいた。
「ドラちゃんにはいつもお世話になってるから。これはそのお礼よ」
「ま、ドラえもんの道具には何度も助けられてるしな!」
「ドラ焼き代の半分はボクが出してるんだから感謝してよ」
「……ま、そういうわけだから。遠慮なく食べてよ」
そう言って笑顔を向ける一同を見て、ドラえもんは歓喜の涙を浮かべる。
「ありがとう! あいがとう、皆! 僕、こんなに嬉しいことはないよ!」
そして、早速山の頂上部分にあるドラ焼きを両手に取ると、それを口にする。
「……うん、美味しい! 美味しいよ!」
ドラえもんのそんな言葉を聞いて、のび太達も笑顔になる。
――それからは、何か色々とどんちゃんさわぎをした。
スネ夫が手品をしたらタネがバレたり、しずかちゃんのバイオリン演奏では皆が必死に堪え、続けて調子づいたジャイアンがリサイタルを開こうとするとのび太とスネ夫が必死にそれを食い止めようとして……。
ドラえもんはそんな日常のありふれた光景を見て満足していた。

……だが、そんな楽しいひと時も直に終焉を迎えることとなる。
突如として周囲が真っ暗になったと思うと、まずしずかちゃんが唐突に消えた。
そして、続けてスネ夫、ジャイアンと消え、残ったのび太も……
「のび太君!!」
「ドラえもん! 助けてよ、ドラえもん!」
何故かのび太だけは一瞬ではなく、足から上へゆっくりと消えていっていた。
既にもう胸の辺りまで消えている。
「のび太君! しっかりするんだ、今僕が……!!」
ドラえもんはポケットに手を伸ばそうとするが、そこにあるべきポケットは無かった。
「な、何で……」
「ドラえもん! ドラえも――」
そして、ポケットが無いことに驚いている間に無情にものび太は完全に消えていってしまった。
「の、のび太君〜〜〜〜!!!!!」


ドラえもんは、そんな事を叫んで起き上がった。
そして、起き上がると同時にドラえもんは周囲が先ほどの暗い場所ではない、建物の中であることに気づく、
「……あれ? ここは……」
そこまで言ったところで彼は、自分がバトルロワイアルに参加させられていることを思い出した。
それと同時に、自分がこうやって寝てしまう前に起きていた出来事のこと、更には一緒にいたはずの少年のことも。
「そ、そうだ、太一く――」
「ドラえもん! ようやく目を覚ましたのか!」
自分が気づくよりも先に、探していた少年の声が聞こえた。
声のするほうを向いてみると、そこには確かにゴーグルの少年太一がいて、そしてその傍にはソファに寝ている赤い髪の少女が……。
「太一君! よかった無事で……」
「ドラえもんこそ、調子はどうだ? どこも怪我は無いか?」
「僕は頑丈だから大丈夫だよ。だけど……」
ドラえもんは知らなかった。
自分が寝ている間に何があったのか。
具体的には、あの自分たちを尋問していた女性やその連れの少年達はどうしたのか、そしてあの赤い髪の少女は誰なのか。
「話を……聞かせてくれるかい?」
ドラえもんが太一にそう尋ねると、彼は黙って頷いた。
その顔は自分が寝る前に見た時よりも強い決意をした者の顔になっていた。
286一人は何だか寂しいね、だから ◆lbhhgwAtQE



太一は話した。
自分の投げた手榴弾が一人の少年の命を奪ってしまったことを。
更に、その後に見知らぬ男に襲われ、その最中に死んだ少年と一緒にいた少女がビルごと自分達を生き埋めにしたことを。
そして何より、自分がこの世界をゲームの世界の類だと思っていたことを。
「俺、これがゲームかなんかだと思ってたんだ。だから死んでもリセットすればどうにかなるって……」
太一の独白をドラえもんとヴィータは静かに聞いていた。
「だけど、これはゲームなんかじゃなかった。血が出れば痛いし、人が死んだらもう二度と戻ってこない。現実だったんだ……」
悲痛な太一の声はここで途切れ、嗚咽に変わる。
そこで、今まで黙っていたドラえもんはそんな太一に一歩近づき、口を開く。
「君は実に馬鹿だなぁ」
それは身も蓋も無い言葉。
太一は肩を落とし、顔を下へと向ける。
「そうだよな。俺は……」
「だけどそれに気づいた事ってことは、とても凄いことなんだ」
「……え?」
「間違いってのは、気づいてからが大事なんだ。間違いを知って、それからどうすべきなのか。……太一君はもう決めているのかい?」
ドラえもんが太一を見据えながら問うと、彼は先ほどと同じような強い調子で頷く。
「俺は……これ以上犠牲を増やさない為に何かしたい。それが……あの人達への償いになると思うから」
「それが君の選んだ道なんだね?」
「ああ。俺はもう誰にも傷ついて欲しくないんだ」
それを聞いて、今度はドラえもんは頷いた。
「それを聞いて安心したよ。僕も、もうしずかちゃんみたいな犠牲者は出したくない。だから太一君、その為に一緒にがんばろう!」
「ドラえもん……!」
涙目になりながら、二人(一人と一体?)は互いに抱き合った。
互いの決意を確かめ合うように。
……そして、そんな光景をずっと黙って見ていた少女が、遂に堪りかねて口を開く。
「おい……あたしを無視すんじゃねーよ」
その声に、抱き合っていた二人は驚き、慌てて離れる。
「ご、ごめん。えっと、君の名前は……」
「ヴィータだ。ヴィ・イ・タ!」
「……お前、怒ってる?」
「怒ってねーです!」
そうは言いつつも、その目がどう見ても怒っているようにしか見えなかったのは言うまでもないだろう。