アニメキャラ・バトルロワイヤル 作品投下スレ3

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228 ◆79697giSSk :2006/12/29(金) 09:30:29 ID:FOHkfLUB
東天の緋より
2/3後半部「鉛の海〜」以降の本文、および最終位置を以下のとおり修正します。



ついに、鉛の海を行くような橋が尽きた。
向こうには、建物がある。線路が出ている建物なら、知っている。「駅」だ。
電車が来て、魔法を使わなくても遠くまで早く行ける建物だ。
この近くには、多分はやてはいない。それなら電車に乗っていくのがいい。
電車なら、きっと少しは休めるに違いない。
「あ、きっぷ……」
切符。電車に乗るためには、切符を買わなければならない。
「……お金、持ってたっけ……」
荷物はすべて、背中のバッグだ。
「……いいや……」
今は、駅に辿り着くことが大切だ。
欄干から腕を引き剥がし、斧槍を杖に体を起こす。
また、足と杖だけを頼りに、少しずつ前へ這い出して行った。

そして、躓いた。
石でも段差でもない。
しっかり上がりきらなかった爪先が地面を擦り、足首が伸びきる。
体重を支えるはずだった次の一歩が遅れ、体が前につんのめった。
落ちる。
まだ地面についている片足と、両手で寄りかかっているハルバードに体重を預ける。
これでまた、倒れずに歩けるはずだった。
だが、長時間の無理は、体力を予想以上に奪っていた。バランスをとりきれず、ハルバードの石突が、ずれた。
支えるものがなくなったヴィータは、顔から倒れこむ。
立ち上がらなければ。立ち上がって、歩いて、電車に乗って。
でも、体が地面に吸い付いてしまって、体を起こそうとする腕も足も重くて、全然駄目だ。
支えにしようとした斧槍も、腕の中に抱え込んでしまっていて、体を持ち上げる用を成さない。
「……、……や、……」
右腕が伸び、手のひらが地面に触れ、それで動けなくなった。


【F-1橋東岸・1日目 朝】
229 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/29(金) 14:25:02 ID:kJnZHOrl
>>224-227の『30秒の楽園』を破棄します。
皆様、申し訳ありませんでした。
230I wish ◆KpW6w58KSs :2006/12/29(金) 16:16:48 ID:uXhutjVJ

『おはよう! いい朝は迎えられたかな?』
 弱っているぶりぶりざえもんという豚を抱え。
 そして新たに長門有希という少女を乗せ。
 石田ヤマトという少年を運転手とするトラックのその前方に、『奴』が現れた。

「何だ、あれは……!?」
 思わず顔が硬直する。
 不快極まりないその音声は、トラックにいる全員の視線を集めた。
(ゲンナイさんの時と、似てるな……立体映像か……
とすると、これは……放送、って奴……だな)

「記録をした方がいい」
「……あ、そうだったな」
 長門に指摘され、デイパックの中から紙とペンを取り出す。一人がメモするだけで十分かもしれないが、
万一、このメンバーが離散した時を考えるとやはりそれぞれがメモしておくのが妥当だろう。
 勿論動けないぶりぶりざえもんの分もメモしておくのを忘れない。
「そ……こにいた、か……スキだら、け……だぞ……うぐ」
「お前は横になっててくれ。放送は俺達で聞いておく」
「…………仕方、ない……な……そこまで、頼むなら……そうさせて貰お……ぐえ」
 弱々しくも虚勢を張るその姿に、ヤマトの胸が締め付けられた気がした。

 続いて、死亡者の発表になる。
 できるだけ少なくあってくれ、と名簿に印をつけながら願うヤマトの心中とは裏腹に
 ギガゾンビは次々と名簿にある名前を読み上げる。
(……太一は、無事か。良かっ…………)
 いや、良いわけがあるか。19人も人が死んでいるというのに。
 一瞬でも仲間の無事に、死んでいった人達を忘れ喜んだ自分に再び罪悪感が訪れる。
 それに自分は事故とはいえ、人を殺しているのだ。
 今呼ばれていた、19人のうちの一人を。

(……ぶりぶりざえモンは助ける。この女の子も死なせない)
 ヤマトの手が強く握られた。
(ここでだって、元の世界だって、もうあの子や、ウィザーモンやピッコロモンのような犠牲は増やさない。
そして、必ずデジタルワールドに帰る。世界を救うんだ)
 ヤマトの意志は、固くなる。
(そうだろ、太一……)
 視線は窓の外へ投げられた。まだ見ぬ親友を想い──

(そうだ、他の皆は……)
 ぶりぶりざえもんの方を見る──弱々しくギガゾンビの方を向いて、何かを呟いていた。
 放送を聞いているのかも疑わしい……まぁいいか。むしろ、この状態で友人が死んだと知ればどうなるか
分かったものではない。
 続いて長門の方を見る。

 ──明らかに様子がおかしい。顔は、依然として無表情のままだが。
 メモを続けるペンの動きが、明らかに遅くなっている。注意深く見れば僅かに手が震えているようだ。
「……まさか」
231I wish ◆KpW6w58KSs :2006/12/29(金) 16:18:00 ID:uXhutjVJ


 小型トラックに乗り込んだ瞬間。空に前触れもなく仮面の男のホログラムが浮かび上がった。
どうやら、これがあの男の言う第一回目の定刻放送であるらしい。
 となれば、禁止区域とこれまでの死亡者の発表がある。
 長門にとっては、記憶すべき内容とはいえメモを取る必要はなかった。だが、何故か長門はそれを実行した。
 紙が一枚しかないわけでもない。恐らく、これは決して無意味なことではない、と考える。
 ……何故だかは、やはり分からない。またノイズが発生したような気がした。

 禁止区域に続いて、死亡者の発表になった。
 またしても、思考にノイズが発生する。……これが苛立ちという物であるのだろうか。
 そしてその思考のノイズは、いきなり急増することとなる。

──鶴屋さん

 鶴屋──SOS団の名誉顧問であり、朝比奈みくるの同級生。
 天真爛漫な性格故に、誰とでも友好的に接し、また誰からも友好的に見られる。
 長門との会話は多くはなかったものの、少なくとも悪い人物でないとは認識していた。

 その、鶴屋が。
 死んだという。

 その放送の真偽は不明ではあるが、長門が認識する主催者の性格からしてもわざわざ虚偽の放送を行うとは考えにくい。
 となるとすれば、彼女が死んだというのは事実である可能性が大きく──

 この認識が、長門に大きなノイズを生んだ。
 耐えることが出来ぬ量ではないが、今までのノイズよりも大きい──

 これは──?
232I wish ◆KpW6w58KSs :2006/12/29(金) 16:19:33 ID:uXhutjVJ




「あなたが気に掛ける必要はない」
「だが……その、君の……」
「確かに、私の知る人物が一人死んだことは事実。
だからといって必要以上に立ち止まることは出来ない。それはあなたも同じ」
 放送が終わった頃にはノイズは大分収まっていた。相変わらず彼女の表情は変化しない。
「……そうだが……大丈夫、なのか?」
「私は大丈夫。それよりも現状の把握、それに情報交換をしたい」
「…………分かった」


 長門の意志は、固くなる。
 この少年と同行し、あの奇妙な豚の治療をする。
 それから、できれば平行してSOS団のメンバーを探す。

 当初の捜索対象はキョンと涼宮ハルヒ、そして朝倉涼子のみだったはず。
 その対象に、何故か朝比奈みくるに八神太一が加えられた。

 思考に僅かなノイズが発生した。しかし、不快感はない。


 あるいは、それが長門の『願い』であるのかもしれなかった。
233I wish ◆KpW6w58KSs :2006/12/29(金) 16:21:15 ID:uXhutjVJ
【C-6とC-7の境界 1日目・早朝】


【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人をはね殺したことに対する深い罪悪感、精神的疲労。右腕上腕打撲、額から出血
[装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
  RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
  デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
  真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考]
1:病院へ行ってぶりぶりざえもんの治療
2:移動しながら長門にグレーテルのことを説明。
3:街へ行って、どこかにグレーテルを埋葬してやる
4:八神太一、長門有希の友人との合流
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。
    生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
[備考]:ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
     また、参加時期は『荒ぶる海の王 メタルシードラモン』の直前としています。



【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒。激しい嘔吐感
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手)
[道具]:支給品一式 ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー
     クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り四回) パン二つ消費
[思考]
1:吐きそう。すごく吐きそう。むしろ吐きたい。 む、ギガゾンビ!倒s……あqwせdrtfgyふじこ
2:強い者に付く
3:自己の命を最優先
基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
[備考]:黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。
     情報交換により、配給品がブレイブシールドとクローンリキッドごくうと判明しました。

[共通思考]:市街地に向かい、グレーテルを埋葬するのに適当な場所を探す。


【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康、思考に微妙なノイズ
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/タヌ機/S&W M19(6/6)
[思考]
1:ヤマトたちに付き合い、ぶりぶりざえもんの治療。できれば人物の捜索も平行したい
2:SOS団のメンバーを探す/八神太一を探す/朝倉涼子を探す/


[共同アイテム]:ミニミ軽機関銃、おにぎり弁当のゴミ(どちらも後部座席に置いてあります)
234I wish ◆KpW6w58KSs :2006/12/29(金) 16:22:30 ID:uXhutjVJ
[制限]
ブレイブシールド:ウォーグレイモンの盾。強度はある程度下げられている。
          二つに分け、背中に装着できるがアニメと違い空は飛べない。

          ぶりぶりざえもんはサイズが合わなくて装着できませんでした。

クローンリキッドごくう:髪にふりかけ、髪を抜くことで抜いた髪が小さい分身となる。
              ただし分身は本人そのものなので強い味方になるとは限らない。
              制限として一回につき十五人までしか出現しない。五回分あるが
              一回使うと二時間待たない限り、いくらかけても効果がない。

              ぶりぶりざえもんは髪がなかったので使えませんでした。
              それでも一回分無駄遣いしてます。一応今使うと効果はあります。

235Ground Zero  1/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 18:49:09 ID:ZN7Kp9po
ウォルター・C・ドルネーズは死んだ。

そう告げられた所で、セラスにはいまいち実感が湧かなかった。
今まで一度も戦闘の形跡を目にしなかった所為もある。
が、何よりもその理由は、同じ死亡者として宿敵のイカレ神父の名が上がっていた事だ。

アレがくたばるワケねーって。

故に、セラスには放送の内容がイマイチ信用できなかった。
が、必ず嘘であると信じる根拠もない。
要するに、何も判らないのだ。
もどかしい。
しかし、留守番を頼まれた身故、勝手にこのホテルを出ていく訳にもいかない。
第一、アテなど全く無い。

ならば。
セラスがするべき事はただ一つ。
来るべき自分の出番に備え、英気を養う。
セラスはダブル程の大きさのあるシングル用ベッドにダイブすると。

グーーー。

0.95秒で眠りに落ちた。


◇ ◇ ◇


その1時間ほど後。
ホテルの50mほど南の裏道。

「……とりあえず近辺に人影はない、か。おい、みくる、まだ歩けるな?」
「はい、大丈夫です」

見たところ、みくるは少し息が上がっているものの、目立った疲労の色は見えない。
どうやら大丈夫なようだ。

1時間前の放送。
いきなり"鶴屋さん"の名前が呼ばれた時みくるは明らかに動揺していた。
手にしていた紅茶のポットを落としてしまう程に。
しかし、それも一瞬。
放送を聞き終えると即座に『目的地に急ぎましょう』と言った。
この6時間、バトーとみくるの2名がお互い以外に出会った参加者は僅か1名。
対して、その6時間の間に参加者の4分の1が"脱落"している。
放送が真実なら、このままじっとしていても仲間と殺される前に合流できる可能性は高くない。
以前の計画通り、ホテルの屋上から探してこちらから出向いた方が有利。
それ以上に、居ても立ってもいられないのだろうが。
236Ground Zero  2/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 18:52:22 ID:alFf+d17
『朝比奈みくるは無事です。ここには戻りません』との書置を残して二人は喫茶店を出た。
これならゲームに乗った者に見られた所で余計な情報を与えることはない。
ホテルに向かう道すがら見付けた大型ディスカウントショップでめぼしいものを探した。ここで双眼鏡が手に入れば文句は無い。

その戦果:
チョコビ1ダース。
電池数種類。
衣類少々。
洗剤数種類。
有機溶剤。
そして ーーー 暇を持て余したみくるが手動式の玩具自動販売機で引き当てたオモチャのオペラグラス。

役に立ちそうな物は果物ナイフすらなかった。
泣きたくなる。

「でも、洗剤なんて一体何に使うんですか?……あ、洗濯に使うに決まってますよね」

どこまでも呑気なみくるの意見に呆れる。

「んな暇あるか。爆弾の材料にする」
「ば、バクダンですかぁ!き、危険です〜!」

お前の子守の方がよっっっぽど危険だ、と言いたいのをバトーは堪える。既に15人以上が殺され、自身もそのリストに入りかけた事を忘れたのだろうか。
そんなこんなでボケとツッコミを繰り返している内に、目的地のホテルの正面ゲートが見えてきた。

「やっと着きました〜。もうくたくたです〜」
「あ、バカ!」

一旦物陰からホテル内部の様子を伺っていると、ふらふらとみくるが一人でゲートに近付いていった。

「よせ!待ち伏せの危険がある!裏口から入るぞ!」
「だいじょうぶですよ〜」

もう自動扉が開いて、みくるはロビーに侵入している。仕方なくバトーもそれに追随した。
カウンター前の床に座り込んでいる所で捕まえる。

「お前な、仮にもここは殺し合いの舞台なんだぞ。もうちょっと緊張感を持て、緊張感を」

ここは一つ彼女のバトルロワイアルに対する認識を改めて貰おうとしたものの。
二の句が告げれなかった。
みくるは泣いていた。

「ひっく……うぅ……鶴屋さん……いい人で……うぇ……こんな……死んじゃう理由なんて……ぐぅ……いわれなんて……どこにも……ふえぇ」

大丈夫な訳はなかった。
普通の高校生より多少は普通でない経験を重ねているとは言え、彼女もまた基本的にはどこにでも居る10代(?)の女の子に過ぎない。
こんなまともでは無い状況の中で、いつ襲い来るかも判らない脅威に怯えながら、日常での自分を演じることでなんとか耐えてきたのだ。
そこに容赦なく降り注ぐ身内の訃報。
帰るべき日常に、おそらく"鶴屋さん"はもう、いない。

まあ、もう大丈夫か。
ざっと見たところ、ロビー付近に誰かが潜んでいる形跡は無い。
逃走経路を確保した上で50以上ある客室のどれかに身を潜めさせれば、ようやくこの子守からも開放される。そう思って非常階段を先行しようとしたその時。
自動ドアが開かれる音に振り向くと。

そこにメイドが立っていた。


◇ ◇ ◇
237Ground Zero  3/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 18:53:50 ID:alFf+d17


その頃最上階、ロイヤルスイートの浴場。

「あ゛あ゛ーーー。生き返るーーー」

1時間ほどの睡眠を終えたセラスは、彼女の自室ほどもある浴槽を堪能していた。

「そーいや北東の方に温泉があるんだっけー。トグサさん、収穫なかったら行ってみるかなー。どーせアテもないんだし」

大先輩の死を信じられぬが故か、半人前ドラキュリーナはどこまでもお気楽だった。


◇ ◇ ◇


そして、再び階下。
ロビーは戦場と化していた。

「ドッカン……ドカン……ドッカン……ドカン……」
BAOOOOM!BAOOM!BAOOOOM!BAOOM!

「うおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉ!!」
「ひいいいぃぃぃぃいいいいぃぃぃぃ!!」

襲い来る衝撃波から必死で逃げ惑う。

"圧縮空気衝撃波;推定速度変化:限界値突破..推定加速度:不明...要回避"

メイドの左手に取り付けられた、どう見ても玩具にしか見えない大砲。
そこから致命的な超音速波が途切れることなく発射されているのだ。
遮蔽物のカウンターが容赦なく削られて行く。

『もしこれが疑似体験だとしたら、製作者はファンタシィにハマり込んで電脳を硬質化させちまったイカレ野郎にちがいねえ!畜生!泣きたくなってきたぜ!』
「みくるーーゥ!大丈夫かーーァ!」

砲撃の隙を見て敵にカラシニコフを撃ち込みつつ、向こうで伏せて悲鳴を上げているみくるの安否を確認する。

「だいじょーぶじゃありませえぇぇぇん!!」

大丈夫のようだ。
メイドは彼女に向かっては砲撃を撃ち込んでこないが、それでも破片やら跳弾やらが所構わず飛び交っている。
が、幸い一発も当たっていないようだ。その幸運を分けてもらいたいもんだ、こん畜生。

「やめろ!俺は警察だ!じきにこの状況は制圧される!正当防衛で済まされる内に武装を解除しろ!」
「かかわりのないことで」

返事は銃弾と衝撃波。
もうカウンターが持たない。
思考戦車に銃一丁で喧嘩売ってる気分だぜ。
榴弾の雨の中、小銃一丁で突撃。
タイトルはドンキホーテで決定。
238Ground Zero  4/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 18:55:40 ID:alFf+d17
「どーしてこんなことするんですかあ〜!あのお面のひとが最後の一人を約束通り見逃してくれるとは思えません〜!みんなで逃げましょおよお〜!」
「……私は主人とその御家族にこの魂すら捧げた身。訳あって若様が命の危険に晒されておりますれば、一刻も早く元の世界に戻り、御身をお守りせねばなりません。立ち塞がる障害は須く薙ぎ払うまで。見た所貴女もメイドのよう。私の忠義が判らぬ筈が有りますまい」
「ちがいます〜。私メイドさんじゃありません〜。これは無理矢理着せ……」

ぴくり、とメイドの表情が動いた気がした。

「メイドの姿を騙る不届き物め。貴女などにそのエプロンドレスを身に纏うことは許されません」
「ひゃあああぁぁぁぁ〜!」

……なんかさっきよりも砲撃が激しくなったぞ。
しかしみくるが思ったより冷静で安心した。
悲鳴こそ上げているものの、パニクったり余計な行動をとられていない分足手まといとしての負担は致命的にはなっていない。

「おい!聞こえてるかみくる!あのメイドの今の標的は俺だ!俺が次にカウンターから飛び出したらその隙にお前は裏口から逃げろ!いいな!死ぬ気で逃げろ!」

なんとかあのメイドに聞こえないように伝えると、砲撃の直後に遮蔽物を替えるべく、みくるとは反対の方向に飛び出す。
撃ち合いつつも、何とか石柱の影に身を隠し振り向くが、相変わらず少女はさっきの所でその身を伏せていた。

「阿呆ッ!逃げろと言っただろッ!」
「できませえん〜!」
「何故ッ!」
「腰が抜けましたあ〜!」

前言撤回。あいつは足手まといとして致命的だ。泣いていいか?

死に物狂いで一旦カウンターの後ろに戻り、そのままみくるを抱えて奥の石柱の後ろに滑り込む。
加速された視覚野に映し出される9mmパラベラムの死の螺旋がすぐ側を掠めて行く。
ギリギリセーフ。まだ死んじゃいない。奇跡だ。

「バトーさあん〜。わたしじゃどのみち生きて帰れそうもありません〜。わたしを置いて、バトーさんだけでも逃げてください〜」
「心掛けは立派だが、口に出す前に思考と行動を一致させろッ!」

みくるは腕にすがり付いたまま離れようとしない。
……ひょっとしてこいつ俺を殺そうとしてないか?
いや、今までの言動から鑑みるに、単にこいつが超弩級の天然であるだけだろう。
いっそ、殺そうとしてくれた方がなんぼかマシかも知れないが。

なおもメイドが砲撃の合間に右手の拳銃で発砲する。軽量故のリコイルを片手で抑え付けつつ惚れ惚れする位正確で早い射撃。
だが、それだけじゃ無意味だ。必要なのは相手より早く確実にしとめられる距離に入ること!

メイドが狙いを定めるより一瞬早く、石柱から身を乗り出したバトーの射撃が襲いかかる。

「くゥッ!」

下腹、脇腹、右肩、そして銃身に着弾し、グロックが弾き飛ばされる。
身を翻し、メイドも反対側の柱の影に身を隠した。

『やったか!』

そう思いつつ石柱の後ろから様子を伺う。
さしもの、超人じみた筋力を持つあのメイドと言えど、三発も7.62mm弾を食らえば少しは大人しく……。

しかし、バトーが目にしたのは銃創をものともせず悠然と歩み出るメイド・ロベルタの姿。
その右手には新たな大砲。
合わせて二丁の空気砲がバトーに向けられた。

「……嘘だろ?」


◇ ◇ ◇
239Ground Zero  5/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 18:57:59 ID:alFf+d17

欠伸を上げつつセラスが再び寝室に入ろうとしたその時。
人並外れた吸血鬼の聴覚が、防音壁を越えてかすかな爆音をとらえる。
さらに人間の感覚では表現し得ぬ闘争の気配。
トグサが交戦しながらホテルまで戻ってきた可能性もある。
まあ、あの人に限ってそんなヘマはやらかさないだろう。
ちょっと様子を見てくるだけで良い。
その時はセラスもそう考えていた。


そして、階下にセラスが見たものは。
ガンタ○クよろしく両手に付けた見た目玩具の大砲を交互にぶっぱなす、あやしげなメイド服の女と。
更にそれに輪をかけてアヤシゲな面構えをした大男が自動小銃を撃ちまくっている姿だった。

「あのー。これ、どーゆーことでしょー?」
「見て判りませんか?」

メイドが抑揚なしで"ドッカンドッカン"とブキミに呟きながら、砲撃を休めずに言う。

「その男が先に撃ってきたので仕方なく反撃を加えている所です」
「違う!先に撃ってきたのはその女だ!」

大男も撃つ手を休めずに反論する。

「そ、そうです〜。バトーさん悪いひとじゃありません〜」

良く見ると男の隠れているものの三つ隣の柱の影で、これまたメイド服の少女が涙目で頭を抱えて縮こまっている。

『と・言われてもねー』

男の方は見るからにワルそうな面構えだし。顔にメリ込んでるメガネ、スゲーコワいんすけど。て、ゆーか絶対悪役。うちの傭兵団にもあんな悪人面いねーって。
メイドの方もメガネが逆行で光って表情見えなくてコエーよ。まるでどこぞのキチ○イ神父だ。

そのキ○ガイ神父を先刻殺害したのが彼女ともつゆ知らず、セラスはそう評価した。

『でもインテグラ様も
"メイドとは主に遣えあらゆる雑務をこなす、信用されるべき社会的ステータスの一つ"
って言ってたしなー。あ、男を弁護してるのもメイドさんか。でも脅されてるって可能性も。
あー、メイドと言えばこないだお遊びでインテグラ様がマスターまで巻き込んで皆でメイド姿に……。
…………………………。
いや、忘れよう。あんなこと。うん。いますぐ』

状況は何方かというとメイドの方が優勢に見える。
こっちは所々撃たれているだけで大したことないけど(セラスの感覚も大分吸血鬼のそれに毒されてきている)、男の方はもう見るからにズタボロだ。
あっちを援護した方がいいのかな?
つーか、この状況でどっちかに付けって言ったって。
それ、初対面でマスターとキチガ○神父のガチバトル見て、どちらが悪者でしょうって訊くようなもんじゃん。
この状況とあの惨状をダブらせてみる。

"ゲェァハハハハハハハァ!滅ぼしてやるぞモンスター!!"
"HAHAHAHAHAHAHAHA!やってみるがいいヒューマン!!"

マスター。絶対あのひとヒューマンやめてます。
そーいや、あの人外二人ともこのゲームに来てるんだっけ。
このゲームの参加者、ひょっとしてまともなのトグサさんぐらいしかいないんじゃないだろーか?

しつこいようだが、セラスはメイドが先刻その人外の一人の首を撥ねていることなど知る由もない。
実はこの大男がトグサの同僚だとも。
240Ground Zero  6/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 18:59:26 ID:alFf+d17


禍根を残したくない故、迂闊にどちらかの側を援護することが出来ない。
それを見越した上でロベルタは戦闘を継続していた。
この男を片付けてから女二人皆殺しにすれば良いだけの事。

『とはいえ、あの似非メイドの弁護がある分、あちら側に回っても可笑しくないはず……。漁夫の利でも狙うつもりでしょうか?』

答え:バトーの顔が怖いからです。
もしロベルタが眼鏡を外していたら、セラスはバトーの側に回るか一目散に逃げ出すかしていただろう。

定時放送が流れるまで、ロベルタはE-2の橋のたもとで待ち伏せをするつもりでいた。
しかし、すでに参加者の4分の1が犠牲になった事が明るみに出た今、のこのこと表を歩き回るのはゲームに積極的な者ぐらいだろう。
それでは足りない。
このゲームを一刻も早く終わらせるのがロベルタの望み。
その為にはこちらから積極的に出向いて、隠れている者達を狩り出さねばならない。
そして、動き出して1時間足らずでターゲットが3人も捕まった。
大男は厄介な相手ではあるが……。

『まあどのみち、向こうが弾切れになれば後は嬲り殺しです。つけ入られる程の手傷はこれ以上受けません』



一旦カラシニコフを撃ち尽くしてから、バトーは石柱の後ろで残騨を確認する。
30発入りマガジンが残り五つ。
他に武器になりそうな物はない。
絶望的な状況だった。
加えて迷惑な闖入者の存在。
セラスはさっきから非常階段からロビーに出てすぐの所でボケッとつっ立っていた。
はっきり言って邪魔だ。

「おい、そこのお嬢ちゃん!そこにいられるとジャマだ!とっととホテルから出てってくれ!」
「そうは言われましても〜」

セラスはほとほと困り果てた様子だ。

「私もトグ……仲間のひとから留守番を頼まれてて、ここを動く訳にはいかな……あ」

バトーは頭を抱えた。今のでロベルタのターゲットにその"仲間のひと"が加わったのは間違いない。

「御仲間がいらっしゃるのですか。その方をそこの殺人鬼の犠牲にさせる訳には行きませんね。そこの御方、御協力お願い出来ませんか?」

ロベルタが平然と嘘を吐く。
241Ground Zero  7/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 19:00:27 ID:ZN7Kp9po
「あ、あははははは。こーいってはなんですが、オッサンもメイドさんもメチャあやしいもんで、どっちを信用したもんかとー。とくにオッサンの方はいかにもイカツイ感じで」
「……俺、そんなに顔恐いか?」
「うん」
「ええ」
「えーと、……少し」

バトーは戦闘をよそにショックを受けていた。

「……俺、これでもイチオーケーサツなんだけど」
「どう見てもそうは見えませんね」

敵のロベルタにまで全否定されてしまった。

「……本当なんだぞ。知らんだろうが、内務省直属の公安九課って言う……」
「公安九課っ!?」

突然セラスが反応した。
確かトグサはこう言っていなかったか。

『当たり前だろ。俺達九課を巻き込んじまったのが、奴さんの運の尽きさ』

「オジサン、ひょっとしてトグサさんのお仲間ですか!?」
「トグサと一緒なのか!?」

一瞬、沈黙が降りた。
均衡していた場が、明確に一方に傾き始めたのをロベルタは敏感に感じ取る。

沈黙は一瞬だった。

「失礼」

お互いに気をとられたバトーとセラスの間を潜り抜けて。
へたりこんでいたみくるの頭に空気砲を押しつけ羽交締めにする。

「ひ、ひえええ〜」
「全員動くな!」

豹変したロベルタは一喝すると、バトーに向けて空気砲を放つ。
バトーを石柱の影に押し留めつつ、そのままみくるを盾にエレベータへ移動する。
動けないバトーと唖然とするセラスをよそにエレベータの扉は閉ざされた。

「……ッ!あの女の子!」
「おい!」

我に返るや否や、セラスはバトーの制止も聞かずに非常階段へ飛び出した。


◇ ◇ ◇
242Ground Zero  8/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 19:01:56 ID:ZN7Kp9po


怯えるみくるを拘束しつつ、ロベルタはこれからの行動計画を組み立てていた。

『とりあえず、二人が登ってくる内にこの似非メイドを殺して自分は飛び降りるのが得策か……』

ロベルタがみくるの首にかける腕に力を込めようとした瞬間。
エレベータの天井が剥がされた。

「なッ!」
「その女の子を放せッ!」

落下の勢いと共にセラスの拳が振り降ろされる。
かろうじてバックステップで避けるが、人質を突きとばしてしまった。
が、すぐに体勢を立て直し、床にめり込んだ拳を引き抜いているセラスの無防備な顔面に渾身の右ストレートを放つ。が。

「!」

まるで石を殴ったような感触。ゴリラをも昏倒させるロベルタの一撃が殆ど効いていない。
床から手を引き抜き、鼻血を垂らしたセラスが反撃に出る。
神速の回し蹴りは必死でしゃがんだロベルタの頭を掠めてエレベータの壁を吹き飛ばした。
大技の後の隙を狙ってロベルタが反撃せんと顔をあげる。しかし。
常人には関節の構造上不可能なスピードで体勢を立て直したセラスが、すでにロベルタに掴みかかっていた。
そのまま首を掴まれ壁に叩きつけられる。

「どうしてこんなことをッ!みんな助けようと頑張ってる人もいるのにッ!」
「ぐッ!」

ギリギリと万力のように締め付ける右手を振りほどこうと必死に足掻くがびくともしない。
セラスの腹を何度も蹴りあげるが結果は同じだ。
ロベルタの気がふっと遠くなりかけた瞬間。
ポーン、と軽快な音と共にエレベータのドアが開いた。

「なーーーッ!!」

エレベータは屋上の吹きさらしの部分とそのまま繋がっていた。
射角の浅い朝日がエレベータの空間にそのまま射し込んだ。
ビクン!とセラスの身体が揺れると、ロベルタの喉にかかる力が抜けていく。
正に、好機。
一気にロベルタはセラスの手を振りほどくと、彼女の腹に空気砲を当てた。

「しまっーーー!」
「さようなら」

ドカンというロベルタの咆哮とともにセラスは吹き飛ばされ、屋上から消えた。


◇ ◇ ◇
243Ground Zero  9/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 19:03:13 ID:ZN7Kp9po


「くそっ。あのお嬢ちゃん、トグサがどこにいるか一言言ってくれりゃ良いものを」
バトーは非常階段を必死に登っていた。
4階のエレベータ乗り場で確認した所、エレベータは屋上で止まっている。
今はトグサを探している時間は無い。
ロベルタがそのまま屋上で待っていてくれることを祈りつつ屋上への扉を開けて様子を伺う。
ロベルタは、そこにいた。
みくるの足を掴み逆さ吊りにして、今正に屋上から落とさんとしていた。

「思ったより、早かったのですね。金髪のお嬢さんならもう落としましたよ」

バトーがカラシニコフを構える。

「私を撃てばこの娘は落ちて死にます。銃を降ろして頂けませんか」
「……」

両者はお互いに隙がないことを確認した。
一方的な要求は無意味だ。

「オーケイ、こっちがゆっくり銃を床に下ろす。そっちもみくるを降ろしてくれないか。ゆっくりとな」
「承知しました」

バトーがしゃがんで銃を横に向かせている間に、ロベルタもみくるを地面に置く。
バトーの手がカラシニコフから離れると同時に、ロベルタはみくるの足を放した。

「よし、あとは俺が銃からゆっくり離れていくから、あんたはみくるが離れていくのを見逃す。それで良いか?」
「良いでしょう」
「みくるも判ったな」
「は、はい」

バトーがそろそろとカラシニコフから離れる。みくるもゆっくりとロベルタから距離を取り始めた。
そして、バトー、銃、みくる、ロベルタの居る各点が正方形を成すと同時。
ロベルタがバトーに向けて空気砲を構えつつ突進してきた。

「ドッーーー」

遮蔽物の無いこの空間では回避は不可能。

"圧縮空気衝撃波;推定速度変化:限界値突破..推定加速度:限界値突破....回避不能"

バトーの電脳が直撃のダメージを予測し、最も被害が少なく、直後に反撃に移れる姿勢を即座に計算した。
頭を抱え込んで左肩からタックルする形でふんばり、バトーは衝撃に備える。

「ーーーカン」
244Ground Zero  10/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 19:04:40 ID:ZN7Kp9po
衝撃。
すさまじい風圧に全身のフレームがきしみをあげる。
耐える。

"左肩甲フレーム負荷:限界値突破..左腕感覚信号:80%途絶..頚椎フレーム負荷:危険域..両脚部フレーム負荷:危険域.."

ひたすら耐える。
風圧でじりじりとバトーの義体化したボディーが押しやられていく。
そして屋上のへりまで引き摺られた所でようやく爆風が止まった。

バトーが顔を上げた瞬間、詰め寄ってきたロベルタに押し倒される。
"脊柱フレーム負荷:危険域.."
叩きつけられた衝撃を回復する間、運動系機能が一部停止した。
そのまま突き落とそうとロベルタが押しやる腕に力を込める。
ダメージでパワーが出せないバトーはじりじりと押されていく。

「ぐ……」

バトーのボディーの半分が空中に押しやられた、その時。

BABABABABANG!

ロベルタの胸を銃弾が貫通した。
ゆっくりと振り返るとみくるが涙目で硝煙をあげるカラシニコフを構えている。
素人の射撃故ほとんどが無駄弾となったが、至近距離から撃ったことが幸いして何発かが着弾したようだ。

「バ、バトーさん!に、逃げてください!」
「……」

呪詛を吐くでも悲鳴をあげるでもなく。
ロベルタは淡々とみくるに空気砲を向けた。

「ドッーーー」
「させるかあああぁぁぁーーー!」

ダメージ回復他自己保全用プログラムを全て停止してバトーはロベルタに掴みかかった。
そのまま渾身の力で空中に投げ飛ばす。
ロベルタの最期の反撃。
バトーの腕を抱え込む。
そのままもろとも、バトーとロベルタは屋上から投げ出された。

しばし、浮遊。
そして、落下。

『くそっ、レンジャー舐めんな!この程度の高度、屁でもーーー!』

バトーは受身を取るべく体勢を整えようとする。
しかし、姿勢制御系がエラーを出し電脳の命令を受け付けない。

ロベルタもまた生き残るためバトーの腕を放し落下の衝撃に備える。
しかし、風圧と極度の疲労の為、空中で気を失ってしまった。

『ーーー若様ーーー』

炸裂。


◇ ◇ ◇
245Ground Zero  11/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 19:09:25 ID:ZN7Kp9po


バトーはふと目を覚ました。
みくるがそばで泣いている。
かたわらにはロベルタのものらしき死体が散らばっていた。
死んだらしい。
そして、自分もまた長くはないことを悟った。

「みくる」

名を呼ばれてビクッと反応する。

「バ、バトーさあん……」
「少佐……草薙素子に……」
「……?なんて言ったんですか?し、しっかりしてください!」

そう言って、何を伝えるべきか何も考えていなかった事に気付いた。
いや、何も伝えなくて良い。
遺言を受けてセンチになってくれるようなタマじゃない。

「タチコマによろしく頼む。水色の、クモみたいなロボットだ」

代わりにどこまでもナイーブな相棒の名を告げると。

「ガブに……餌を……やら……」

バトーは喋らなくなった。
みくるが何度ゆすっても、喋らなくなった。


◇ ◇ ◇


ガッシャーーーン

「あアッ!わ、若様、申し訳御座いません!」

ラブレス邸のテラス。
ロベルタはガルシアのコーヒーカップをさげようとして、うっかり取り落としてしまった。
あわてて破片を拾おうとするがガルシアにやんわりと止められる。

「ダメだよロベルタ。手を切ってしまう。塵取を持ってこよう」
「も、申し訳御座いません……」

ロベルタはあらためて箒と塵取で割れたカップを回収した。
食器の上げ下げ一つ満足にこなせない様ではメイド長失格だと自分が情けなくなる。

「申し訳、御座いません……」
「もう良いよ、ロベルタ。僕は怒っていない」
「しかし……」
「大丈夫」

ガルシアはにっこりと笑って見せた。
246Ground Zero  12/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 19:10:35 ID:ZN7Kp9po
「家事だって、少しずつ上手くなってるんだ。ロベルタはよくやってくれてるよ。だから自分を責めないで」
「若様……」

本当に……自分はメイド失格だ。主人たちに逆に気を遣われてしまっている。情けないはずなのに、何故かその気遣いが心地良い。

「たまに……不安になるんだ。ロベルタがこの家を出てどこかに行ってしまわないかって。ここではやり甲斐を見付けられないんじゃないかって……。でもロベルタは……ここで必要とされてる。僕達の家族なんだ。だから……」
「ええ、判っています」

ロベルタもつられて微笑んだ。

「大丈夫です。ロベルタは、いつでも若様のお側におりますよ」


【D-5/ホテル周辺/1日目/朝】

【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:メイド服着用、ボロボロ、煤まみれ、何故か無傷
[装備]:AK-47カラシニコフ(0/30)
   石ころ帽子(※[制限]音は気づかれる。怪しまれて注視されると効力を失う)
[道具]:バトーのデイバッグ/支給品一式/AK-47用マガジン(30発×5)/チョコビ13箱/煙草一箱(毒)/爆弾材料各種/電池各種/オモチャのオペラグラス
   紙袋(ロビーに放置)、茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている)
[思考・状況]
1:バトーの死にショック。
2:SOS団メンバーを探して合流する。 
3:鶴屋さんの安否を確かめたい。
4:青ダヌキさんを探し、未来のことについて話し合いたい。

【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]: 気絶、全身打ち身、肋骨にヒビ、日光浴(怪我の回復ができない)
[装備]: エスクード(風)@魔法騎士レイアース
[道具]: 支給品一式 (バヨネットを包むのにメモ半分消費)、バヨネット@ヘルシング、中華包丁、ナイフ×10本、フォーク×10本
[思考・状況]
1:事態の収集をはかる。
2:トグサが戻るまでホテルで待機。
3:アーカード(及び生きていたらウォルター)と合流。
4:ドラえもんと接触し、ギガゾンビの情報を得る。
※ドラえもんを『青いジャック・オー・フロスト』と認識しています。
※道具は最上階のスイートの一室に放置しています。

【ロベルタ@BLACK LAGOON 死亡】
【バトー@攻殻機動隊S.A.C 死亡】

※ロベルタの荷物はほとんどが木端微塵になっています。残りはロベルタの遺体の周囲に散乱。
※ホテルのロビーが壊滅的な被害を受けました。あと一回同規模の戦闘があればホテルが崩壊する恐れがあります。
247武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:11:58 ID:U52Bp+Ax
俺がこの地に来て初めて死というものを直視したのは、もう日が昇り始めていた頃だった。
「これは…………」
「何という無惨な……」
それは図書館に向かう途中の事だった。
周囲の至る所に大砲のようなもので攻撃されたような痕跡が残る中、瓦礫に埋もれるようにして、彼はいた。
身に纏っていたのがスーツであったことから察するに、彼はきっとビジネスマンか何かだったのだろう。
だが、そんな彼も今となっては砕かれた頭を初めとする体中から大量の血を流し、ぴくりとも動かなくなっている。
自慢じゃないが、俺だって他殺体(正確にはあれは死んじゃいなかったが)を見るのはこれが初めてじゃない。
だがこれは、あの夏の合宿で見たものなんかよりも数倍怖い、いわばホラー映画から飛び出してきたような見た目をしていた。
格好悪いと思うかもしれないが、俺は脚がずっと震えていたよ。
……どんなことをしたら、人はこうも惨い死に方をするんだっていうんだ。
「某が不甲斐ないばかりに、このような事に…………」
「トウカさんが悪いんじゃない。悪いのは――」
悪いのはあくまで実行犯、そしてこんな事をするようにけしかけたあのギガゾンビとかいう奴だ――そう言おうとした時だった。

――ちょうど話題に上げようとしていた悪趣味な仮面の男が明るくなりつつあった空に映し出されたのは。

『おはよう! いい朝は迎えられたかな!?』
「な、なんだ、あの面妖な空は!? 幻術か!?」
「いえ、違います。あれは……」
俺も信じがたいが、アレはいわゆる立体映像とかいうSFに出てきそうな技術だ。
――確か、あれはまだ手のひらサイズくらいの映像しか投影できなかったはずなのに、何だあの規格外は。
やっぱり、時空なんとかとかいってたくらいだし、あれも朝比奈さんと同じ未来人だと言うのだろうか。
……朝比奈さん、スマン。あんなのと一括りにしてしまって。
『さて、記念すべき第一回目の定刻放送だ。このギガゾンビ様の声を拝聴できることに感涙しながら聞け』
放送……そういえば、最初の場所にいたときに、あいつが放送がどうしたとか言ってたな。
だとすれば……。
「某に幻術を仕掛けるとは……術士はどこだ? 出て来――むがっ!」
「トウカさん、落ち着いてください! あと刀、また鞘から抜け切れていません」
俺はトウカさんの口を押さえると、放送の内容に注意を傾けた。
『禁止エリアは――7時よりA-4、9時よりH-8、11時よりD-1だ!』
禁止エリア――これを聞き漏らして自爆したら身も蓋もあったものじゃない。
故に、俺はトウカさんの口を塞いだのだ。そこ、他意は無いから注意するように!
ま、でも今回はあまり関係ない場所が指定されたようだった。
とりあえずは一安心……したいところだったのだが、放送の内容はそれだけじゃないようだ。
『そして死亡者だが――』
死亡者――ここにいる男の人以外にもまだ死者がいるのだろうか。
ハルヒや朝比奈さん、長門は無事なのだろうか。
俺は、引き続き注意を放送に耳を傾けることにした。
248武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:13:22 ID:U52Bp+Ax
『――まだ生き残っている61人のうち、何人が明日の日の出を拝めるか分かったものではないのだからな! ワハハハ――』
何とも不快な――古泉なんか、これに比べたら屁でもないような――笑いとともに、放送は終わった。
……死んだのは19人か。
深夜0時からスタートしておよそ6時間……これほどまでに人が死ぬなんて、本当にどうにかしてる。
しかも、その中には鶴屋さん……あの破天荒に明るい先輩の名前もあった。
SOS団の正式な団員じゃなかったが、あの人にも映画や野球大会で色々と世話になった。
そんな少し前まで身近だった人が死んだと聞いて、冷静でいられるほど俺だって場慣れしていない。
こういったのに慣れてるのは、戦争映画か推理小説の主人公だけで十分だ。
だが、そんな俺よりも冷静さを欠いている人が俺の横にいた。
「そんな……カルラ殿、それに聖上まで…………そんな……そんな……」
トウカさんは、放送を聞いてからというものの目を見開きブツブツとうわ言のように、ことばを繰り返していた。
具体的には、カルラという友人、そして聖上……即ち彼女が仕えているハクオロとかいう王様の名前を聞いてから彼女は様子が一変した。
……確かに探していた人が死んだと聞けば、誰だって……俺だって動揺するし、気持ちだって沈む。
だが、トウカさんの場合はそういった気持ちの浮き沈みじゃ言い表せないような状態だったのだ。
そう、言うなれば絶望……生きる希望を無くしたというか――って、うぉ!!
「トウカさん! 何やってるんすか!!」
いつの間にかトウカさんは、その場に正座するとバックから欠けた包丁を取り出していた。
……ここまでくればやることは唯一つだろう。
「某が不甲斐ないばかりにカルラ殿を死なせてしまい、それに何よりも聖上をお守り通す事が出来なかったのだ! この身の未熟さ……死をもって償うしか――!!!」
「だからって切腹は無いでしょう! 切腹は!」
俺はハラキリをさせまいと、包丁を握るトウカさんの腕を掴む――が。
「離してくだされ、キョン殿! 某は……某は取り返しのつかぬ過ちをしてしまったのだ!!」
「ぐほぁっ!!」
掴んでいない片方の腕で俺は思い切り殴り飛ばされた。
親父にも殴ら……いやついさっき自分で自分を殴ったから、このフレーズは使えないのだが――って、そうじゃなくって!
マズい。このままでは、本当にハラキリしてしまう。
えぇい、こうなったら最終手段のわすれろ草で………………くそっ! こういう時に限って、バックの中から思うように取り出せないと来やがった。
「カルラ殿、聖上……叶うならば常世(コトゥアハムル)で再び会えることを――」
欠けた刃が、トウカさんに今まさに突き立てられようとしている。
……こうなったら、最早――!!
「エルルゥ殿、アルルゥ殿、生き延びてくだされ。……では!!」
「させるかぁぁぁ!!!」
「――!!!」
俺はその瞬間、必死の思いでトウカさんに飛びつき、そして包丁を手放させた。
腕を押さえるだけじゃ無駄のようだったから今度は体ごと取り押さえれば、という安直かつ確実な方法。
だが、それは同時に妙齢の女性に覆いかぶさるということでもあり、あまりやりたくはない手だった。
「え、えっと、その……」
「何故だ……何故逝かせてくれぬのだ、キョン殿!!」
俺の真下にいいるトウカさんは初めて怒りをあらわに俺へ叫んできた。
その目には大量の涙を湛えている。
「某は……某はエヴェンクルガの使命を務めることも出来なかった未熟者……! ならば、死を以って償うのは当然――」
「何で……何ですぐに死ぬ死ぬ言うんですか……」
「……え?」
「そんな軽々しく死のうとして……そんな事を、そのハクオロって王様やカルラって友達は望んでいるんですか……?」
249武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:14:26 ID:U52Bp+Ax


カルラ殿は強き武人であった。
今までに見たことも無いような巨大な剣を振り回し、戦場を縦横無尽に駆け巡る様はまさに鬼神というに相応しい。
そして、それと同時に彼女は自由人だった。
城内で所構わず酒を飲み、倉庫から食料を盗んだかと思えば、次の瞬間には寝ていたりと、某には何を考えているのかさっぱりであったが、不思議と嫌悪感は沸かなかった。
……某を幾度と無く騙し、おちょくってはきたというのに……真に不思議な人であった。
やはり、それがカルラ殿の魅力なのだろうか。
だが、そんな彼女も今はもう……。

聖上は真に賢き皇だった。
民の生活をその知恵により向上させ、戦場に来れば陣頭に立って采配を振るい、兵達を鼓舞すべく自らも出陣する。
そして、何より、その人柄と人望の厚さはまさに皇の鑑だった。
……そんな聖上に仕える事が出来た某はこの上ない幸せであった。
そんな聖上であったからこそ、某は全力で聖上を、そしてトゥスクルを守ろうという意志が強く働いたのだと思う。
だが、そんな聖上も今はもう……。

二人はもう……いない。
共に聖上をお守りするはずだったカルラ殿も、守るべきはずの存在であった聖上も。
某が包丁の刃を折ったり、荷物を川に流したり、あのサァバント殿との戦いに苦戦したりして時間を浪費していなければ、もしかしたら助けられたかもしれないというのに。
そう、全ては某が未熟だったが故の失態……取り返しがつかない事なのだ。
ならば、取るべき道は唯一つ。それは――
「この身の未熟さ……死をもって償うしか――!!!」
首一つでどうにかなるようなちっぽけなことではないのは分かっている。
それでも、こうでもしない限り某の心は治まるはずも無く……。
「だからって切腹は無いでしょう! 切腹は!」
キョン殿は必死に止めてくれるが、某はもう決めたのだ。
だから……だから……
「離してくだされ、キョン殿! 某は……某は取り返しのつかぬ過ちをしてしまったのだ!!」
「ぐほぁっ!!」
気遣ってくれるキョン殿を殴ってしまった事は心苦しいが、それでも某は……。
「カルラ殿、聖上……叶うならば常世(コトゥアハムル)で再び会えることを――」
それはおこがましい願いであり、叶わぬことなど百も承知。
「エルルゥ殿、アルルゥ殿、生き延びてくだされ」
そして、あの心優しき姉妹が某の分まで生きながらえてくれることを願いながら、某は再び刃を腹に――
「させるかぁぁぁ!!!」
「――!!!」
刺せなかった。
某はキョン殿にいつの間にか押さえつけられていたのだ。
殿方とはいえ、戦に出たことの無い者にねじ伏せられるとは某もやはり……。
悔しかった。死ねなかったことが。未熟だったことが。
だから、某はキョン殿に無意識のうちに喚き散らしてしまった。なんとも浅ましい姿だろう……。
きっと、こんな姿を見てキョン殿も呆れているだろう。
そう思っていたのに……
「そんな軽々しく死のうとして……そんな事を、そのハクオロって王様やカルラって友達は望んでいるんですか……?」
キョン殿が口にしたのは、そんな言葉だった。
そして、その顔はどこか悲しげだった……。
250武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:16:35 ID:U52Bp+Ax


自分でも在り来たりの陳腐な言葉なのは分かってる。
だが、今の俺にはこの他に言葉が見つからなかった。
自分の表現力の貧しさをこんなときに思い知らされるとは……。
これからは長門みたいにもっと本を読むとしよう、あぁそうしよう。
「あ、あの……俺、死ぬのはまだ早いと思うんですよ。それに、ここで死んだら、残っているトウカさんの仲間は誰が守るんです。だからその……」



――死ぬのはまだ早いと思うんですよ

そういえば、かつて聖上にも同じ事を言われた気がする。
あの時は、騙されているのも知らずに聖上を悪漢ラクシャインと信じ、トゥスクルを戦乱に巻き込んでしまった事で某はひたすらに罪の念に囚われていた。
そして、玉座の間、聖上の目の前で自らの首を差し出そうとしたその時――聖上は止めてくださったのだ。

――死ぬのはまだ早い。貴公にはまだ成すべき事がある。

成すべき事……。
それは、聖上にしてみれば失意のまま謀殺されたオリカカン皇をクッチャ・ケッチャの土に還して差し上げろという意味だったのかもしれない。
だが、某にはそれだけには思えなかった。
某が犯してきた罪を償うために、生を以って成せる事。
それは、聖上に一生仕え、この身を聖上そしてトゥスクルに捧げるということ。

……そうか、某はまた、同じ過ちを繰り返そうとしていたのだな。
某には聖上亡き後もまだ成すべき事が残っている。
キョン殿の言うように、まだ生きているエルルゥ殿とアルルゥ殿を某は命に賭けてもお守りせねばならない。
そして共にトゥスクルへ生きて帰って、ベナウィ殿やウルトリィ殿達と國の安寧に務めなくてはならない。
それに何より、某はこの目の前にいるキョン殿を守り通すとエヴェンクルガの名に於いて誓ったばかりではないか。
某としたことが、そんなことも忘れて命を絶とうとしていたのか……。



……また、薄っぺらいような言葉と並べてしまった。
侍に腹を切るな、まだ死ぬなと言うのは確か生き恥を晒せと言っているのと同等だとどこかの時代劇か何かで言っていた気がする。
それなのに、俺ときたら何を言ってるのやら…………。
「…………ない」
……やっぱり怒っているのだろうか。
だけど、その場合どうすればいいんだ? 素直に切腹させるか? いや、それは流石にマズイな。でも他に方法が――
「キョン殿……かたじけない」
かたじけない……はて、その言葉は確か礼を言うときの言葉であって……ん?
「某、しばしの間、己の使命を忘れてしまっていた故に取り乱してしまった。……真に申し訳ない」
「あ、いや、それなら良かったんですが……」
それは、本当にいきなりだった。
トウカさんはまだ涙の跡が残っているものの、もう顔はすっかり元通りになっていた。
「それで……いつになったらこの体勢から抜け出せるのか、尋ね申したいのだが……」
俺はそう言われて、今更ながら自分が妙齢の女性に対しては失礼極まりない体勢をとっている事を思い出した。
嗚呼、何やってんだか。
251武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:18:22 ID:U52Bp+Ax
トウカさんが復活した後。
俺とトウカさんは二人で、先ほどの男性を埋葬した。
メチャクチャになった店が雑貨屋だったことからスコップが見つかったのが幸いして、土を掘るのはそこまで……いや、実際重労働だった。
人一人を埋めるのに必要な穴を掘るのにこれほど苦労するとは……。
俺はこんなふざけたゲームから出たら、土木作業現場のおじさん達をいつもの十倍尊敬して、感謝しようと思う。
「よし、これでいいか」
とまぁそんな訳で、埋葬も終わると、トウカさんが手近にあった木材をそこに刺した。いわゆる墓代わりというやつだ。
「……こんな質素な形ですまない。本来ならもっと正式に弔わなければならないのだが……」
そうトウカさんがお墓に向かって言っている脇で、俺は男を埋める際にその人の懐から落ちたそれを再び見た。

――平賀=キートン・太一。

手にした名刺には確かにそう書いてあった。
……言われてみれば、死亡者を発表していた時、そんな名前があった気がする。キートンって……この人ハーフだったのか。
職業もビジネスマンではなく大学で講師であったらしい。
普通の高校生の俺が言うのもなんだが、戦闘向きの職に見えないのは確かだ。
それが何で、あんなことになっちまったんだろうな……。
「キョン殿……いかがなされた?」
「あ? あぁ、今行きます」
トウカさんに促されて俺はその場を立ち去ることにした。

……鶴屋さん、それに大学講師の平賀さん。

そっちに行く用事があったら、俺を歓待してくれよ。
いや、本当は行きたくないんだけどさ。



ヒラガ殿を弔ってから、某たちは再び歩みを進めることとした。
その目的地は――
「キョン殿、その“としょかん”という場所に行ってどうするつもりなのです? 確かあそこは火が……」
「ちょっと気になることがありまして。……いや、まさかとは思うんですけどね」
「そうですか。気がかりならば致し方ありません、某はキョン殿の行く地なら何処へでもついていく覚悟ですので、余り気にしないでください」
「どこまでもって……そんな大げさな」
大げさな話などではない。
某は、某の誓いを思い出させてくれたキョン殿を絶対に守り通さねばならないのだ。
そして、それと同時にエルルゥ殿やアルルゥ殿とも合流し、守り通さねばならない。
エヴェンクルガとして、そして聖上に仕えた身として、それは成し遂げなくてはならない。
たとえ、聖上亡き後でもそれは変わらず。
それが、某の出来る聖上への最大の恩返しであり、忠義の証であると見つけたから。

――聖上、カルラ殿。某はお二方の分まで守るべきものを守り通して見せます!
252武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:27:38 ID:U52Bp+Ax






「――って、トウカさん。だからここまでついてこなくっていいですって!」
「いや、某、誓いの元に決してキョン殿を危険な目に遭わす訳には!」
「俺が行こうとしてるのは危険とかそういう場所じゃないんで……」
某は走りながら建物の中へと入ったキョン殿を追いかける……が、そこでようやく気づいた。
キョン殿が行こうとしてしていたのは……厠だった。
「も、申し訳ない! そ、某としたことが、つい!」
「いや、分かったなら別にいいですけど……」



【C-4/歩道/1日日/朝】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:色んな事にそろそろ慣れてきた
[装備]:スコップ
[道具]:支給品一式、わすれろ草@ドラえもん、キートンの大学の名刺
[思考・状況]
基本:殺し合いをする気はない
1:火災現場(C-3図書館)に向かう
2:トウカと共に仲間の捜索
3:ハルヒ達との合流
4:朝倉涼子には一応、警戒する
[備考]
キョンはキートンをただの大学講師だと思っています。
トイレタイムはすぐに終わったもとして、現在地は歩道ということにしてください

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:左手に切り傷
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
基本:無用な殺生はしない
1:火災現場(C-3図書館)に向かう
1:キョンと共に仲間の捜索
2:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
3:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す


※C-4状況まとめ
道路から少し離れた場所にキートンが埋葬されました。
残骸である木材を土の上に突き立てられただけの墓なので、誰の墓なのかは端から見ただけでは分かりません。
253武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:31:09 ID:U52Bp+Ax






「――って、トウカさん。だからここまでついてこなくっていいですって!」
「いや、某、誓いの元に決してキョン殿を危険な目に遭わす訳には!」
「俺が行こうとしてるのは危険とかそういう場所じゃないんで……」
某は走りながら建物の中へと入ったキョン殿を追いかける……が、そこでようやく気づいた。
キョン殿が行こうとしてしていたのは……厠だった。
「も、申し訳ない! そ、某としたことが、つい!」
「いや、分かったなら別にいいですけど……」



【C-4/歩道/1日日/朝】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:色んな事にそろそろ慣れてきた
[装備]:スコップ
[道具]:支給品一式、わすれろ草@ドラえもん、キートンの大学の名刺
[思考・状況]
基本:殺し合いをする気はない
1:火災現場(C-3図書館)に向かう
2:トウカと共に仲間の捜索
3:ハルヒ達との合流
4:朝倉涼子には一応、警戒する
[備考]
キョンはキートンをただの大学講師だと思っています。
トイレタイムはすぐに終わったもとして、現在地は歩道ということにしてください

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:左手に切り傷
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
基本:無用な殺生はしない
1:火災現場(C-3図書館)に向かう
1:キョンと共に仲間の捜索
2:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
3:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す


※C-4状況まとめ
道路から少し離れた場所にキートンが埋葬されました。
残骸である木材を土の上に突き立てられただけの墓なので、誰の墓なのかは端から見ただけでは分かりません。
254Unlucky girl ◆/1XIgPEeCM :2006/12/30(土) 00:03:47 ID:hl9NkKHT
「え、なに?」
温泉施設の出口扉を開けてすぐ、園崎魅音が上方を見上げると、空のスクリーンにでかでかと映し出された仮面の男、ギガゾンビの顔があった。
そういえば、と魅音が時計を見ると、針は6時ジャストを刺している。どうやら定時放送の時間らしい。
朝っぱらからあんな男の顔など見たくもないし、声も聞きたくないが、ここは我慢我慢。
確か定時放送では禁止エリアなるものを作るそうで、その禁止エリアに侵入しても首輪が爆破されるとか。
放送を聞き逃すことは即ち死活問題である。これはしっかりと聞いておいた方が良い。

忌々しい笑い声と共に放送は終わった。
魅音は内心驚いていた。
たった6時間で約四分の一ほどの参加者が死んでしまったという事実も勿論だが、何より我ら部活メンバーが全員生き残っていることだ。
圭ちゃんも、レナも、沙都子も梨花ちゃんも。
お子様揃いの(勿論、魅音自身も含まれるのだが)部活メンバーがよく一人も欠けることなく健在であったものだ。
だが、当然のことだと魅音はほくそ笑む。
我が部活によって養われた精神力、忍耐力、観察力、洞察力、その他諸々。
そんな自分達がそう簡単にやられるわけないのだから。
一方、散々自分を振り回した挙句、訳の分からないことを言ってあっと言う間に走り去ってしまった奇妙な髪型のやたらハイテンションな男。
ストレイト・クーガーもまた健在であった。
まあ、あの男なら多分何回ぶっ殺しても死なないんじゃないか。それほどに、あの男は異常だった。
何が彼をあそこまで突き動かすのか。分からない。分かりたくもない。
彼はあの少女にまた会えたのだろうか。会って、そして証明できたのだろうか。
……そんなことはどうでもいい。
とりあえず、自分が知っている人は誰も死んでいないことに安堵する。

……いや、一人いた。

富竹さん……。

毎年雛見沢に遊びに来てくれる、見た目の割には頼りないカメラマン。
彼のことをちょっとからかったりすることもあったけれど、気さくで良い人だから、死なないで欲しかったのに。

今までいた人がいなくなった日常は、果たしていつもの日常と呼べるだろうか。
例え雛見沢に帰ることができたとしても、もう、元には戻らないんじゃないか……?
255Unlucky girl ◆/1XIgPEeCM :2006/12/30(土) 00:04:35 ID:hl9NkKHT
今更そんなこと考えたってしょうがない。
たった一人の人間の死に感傷して、血迷っているようでは部長としての名が廃る。
今は自分がやるべきことをやる。
「COOLになれ、園崎魅音……」
瞑想でもするかのように目を瞑り、家訓か何かのようにその言葉を一度詠唱する。
そして目をパチっと開く。心成しか、スッキリしたような気がした。
「よし! 行こう!」
目指すは山頂。ここからならそう大した距離じゃない。
禁止エリアの位置も今の自分とは無縁と言って良いほどの場所にあるし、かなりアクティブに動いても大丈夫だろう。
放送のメモをデイパックにしまい、魅音はデイパックを担ぎ南西方向に歩き出した。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ

魅音が山道を歩く音だけが周囲に響く。
周りは、木ばかりだった。どこもかしこも木。
木の陰に誰かが隠れていて、自分を襲うチャンスを窺っているのではないか。
連なる木々に日光を遮られ薄暗くなっている道を歩いていると、そんな錯覚にすら陥りそうになるが、勿論近くには誰もいない。
たかだか森の中の一人歩きでビクつくなどガラじゃないが、この状況下では仕方が無い。
終始警戒を忘れずに歩いたものの、結局ここまでの登山道で誰とも出会うことはなかった。

山頂に着いた。
大岩の傍に立てかけられた看板に『山頂』とくっきり書いてあるんだもの、目が腐ってでもいない限り分かる。
山頂は木が無く、ちょっとしたスペースになっており、木製のベンチが二脚安置されている。ここからなら会場を一望できそうだった。
「はぁー、いい眺めー」
その景色を一望しながら、思わず正直な感想を漏らす魅音。
これがこんな糞ゲームの真っ最中じゃなかったら良かったのに、と、魅音は嘆かずにはいられない。
今まで自分が登ってきた道は勿論のこと、南西に広がる市街地も一部は見渡すことができる。
望遠鏡か何かがあれば、もっと遠くまで見渡せるかもしれないが、そんな都合の良い物があるわけなかった。
遥か南西に見えるあの大きな建物は、ホテルか何かだろうか。他にも点のような建物が無数に存在している。
この山は標高何メートルくらいだろう。ふと、そんな疑問が浮かぶ。
400……いや、300メートルも無いかもしれない。分かるわけないけど。
256Unlucky girl ◆/1XIgPEeCM :2006/12/30(土) 00:05:25 ID:hl9NkKHT
「あ、そういえば……」
何かを思い出したように呟いて、デイパックを漁る魅音。
中からは透明な袋に入ったパンが二つ。少し早い気もするが、朝食を摂ることにした。
こんな状況で悠長に朝飯など食ってる場合ではないのかもしれないが、いざ、という時のために栄養はしっかり摂っておかなければならない。
それに、ここは山頂である。態々山頂までやって来る者はそうそういないだろう。食事中に襲われる可能性も低いと踏んだ。
魅音はベンチに腰を下ろすと、袋を開け、まず一口。

……味がない。

そりゃそうだ。
常識的に考えて、殺し合いをさせる参加者達にメロンパンやカレーパンなどと言った贅沢な物を支給するはずがない。
満足な食事にも有り付けない苛立ちにより半分ヤケになった魅音は、その手に持つパンを続けて二口、三口と頬張った。
「むっ!?」
味のないパンを一度に沢山頬張ると、飲み込むのが辛い。今の魅音の状況はまさにそれだった。
慌ててデイパックから水を取り出し、胸をドンドンと叩きながら口から喉へと流し込む。何とか飲み込めたようだ。
「はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」
園崎魅音、パンを喉につまらせ窒息死、なんてことになろうものなら末代までの恥である。
ご老人じゃあるまいし、そんなことはまず有り得ないが、油断大敵とはよく言ったものだ。
結局、パンは一つだけ食べて、もう一つは水と一緒にデイパックに戻すことにした。
空になったパンの袋は、中空にぽっと放ると、風に流されカサカサと音を立ててどこかへと消えていった。
ここにいつまでも留まっていても仕方ないので、魅音はさっさと下山することにした。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ

土を踏みしめる音だ。
山は、登るよりも下りる方がきつい気がする。登った後で疲れている、と言う相乗効果もあるのだろうが。
この山の斜面はさほど急ではないが、それでも少しも疲れないのかと聞かれればそうではない。
相変わらず辺りは鬱蒼と生い茂る木、木、木。
まるで何かを隠そうとするかのように、何本も何本も生えている。
程なくして。
257Unlucky girl ◆/1XIgPEeCM :2006/12/30(土) 00:06:15 ID:hl9NkKHT
「ん? あれは……」
少し開けた場所に出ると、そこには和風な建物が建っていた。
魅音は思った。寺だ。
特徴的な形の灰色の屋根と、古臭そうな雰囲気はまさしく、お寺だ。
地図を開いてみると、確かにB-7とC-7の境界線辺りにそんな物があるようだ。
山頂からはこんなものがあったなんて気付かなかったが、木々の陰に隠れて見えなかったのだろうか。
今まで自分が辿ってきたルートから考えて、恐らくこれがそうなのだろう。
寺があると言うことは、ここは日本のどこかか。それとも中国とかそこらだろうか。
参加者にやけに日本人が多いことと、温泉で見かけた土偶が日本語で喋っていたことを考えると、やっぱりここは日本だろうか。
とりあえずそれはそっとしておいて、と。

魅音は寺の入り口へと近付く。
入り口の前にはご丁寧に看板が立てかけられており、黒墨の達筆で『椎七寺』と書かれていた。
その名前にも、魅音は下らないとしか思わない。C-7と椎七をかけた。ただそれだけのこと。
入り口の引き戸を横方向に引くと、割とあっさりと開いた。漏れ出てきた木と畳の落ち着いた匂いが鼻腔をつく。
中へ入ってみる。

「うわっ、趣味悪っ」
思ったことをぱっと条件反射的に外に出すのはあまり良くないが、他に誰もいないのだからかまわない。
それに、そう言いたくなるのも無理もない。
彼女の目に飛び込んできたのは、畳の上で鎮座する土偶達。それも何十体も。ずらーっと。
この土偶は、あの温泉で見たものと酷似していた。こちらの方はギガギガ鳴くことは無いようなので、一安心する。
しかし、悪趣味だ。
この地では土偶を神聖なものとして崇める仕来りでもあるのか。それともあのギガゾンビとかいう奴の趣味だろうか。
「まさか……祟りとか無いよね?」
顔を引き攣らせて、そう呟く魅音。

オヤシロ様。
そんな単語が魅音の脳裏にフラッシュバックする。

魅音は急にいくつもの土偶の視線が耐えられなくなり、椎七寺から飛び出した。
まだ中に何かしら役に立つようなものがあったかもしれないが、あんな薄気味悪い所には一秒たりとも居たくなかった。
258Unlucky girl ◆/1XIgPEeCM :2006/12/30(土) 00:07:05 ID:hl9NkKHT
「ここまでして収穫無しか。はぁ……」
結局、魅音はここまで誰と遭遇することもなければ、扱いやすそうな武器の一つも見つけることができなかった。
ふと、時計を見ると8時まであと10分前。思ったよりも時間が経っているような、いないような。
こんな調子で大丈夫だろうか。魅音は内心不安で仕方がなかった。
「んー、やっぱり街の方行ってみないと駄目かねぇ?」
地図を見ながら魅音は首を傾げ、溜め息一つ。
やっぱり建物が多い所の方が沢山の人がいるのだろうか。人間だからお家が恋しいのかな?
「とりあえず、そっちに行ってみますか」
思い立ったが吉日。
腰掛けていた丸太から魅音は立ち上がり、デイパックを肩にかけ、そして市街地の方向へ歩き出す。

ザッ、ザッ、ガッ!

「あっ!」

ゴッ

木の根に躓いた魅音は、目の前にあった木にしたたか額を打ち付けた。





【C-7森・1日目 朝】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:頭部打撲により意識朦朧 少し疲労
[装備]:エスクード(炎)@魔法騎士レイアース
[道具]:ヘンゼルの手斧@BLACK LAGOON、USSR RPG7(残弾1)、ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)
    スーパーピンチクラッシャーのオモチャ@スクライド、支給品一式(パン×1、水1/8消費)
[思考・状況]
1:市街地を目指す。
2:圭一ら仲間を探して合流。
3:ドラえもん、もしくはその仲間に会って、ギガゾンビや首輪について情報を聞く。
4:襲われたらとりあえず応戦。
5:出来れば扱いやすい武器(拳銃やスタンガン)を調達したい。
6:クーガーは後回し。
基本:バトルロワイアルの打倒。
259リスキィ・ガール ◆pKH1mSw/N6 :2006/12/30(土) 00:25:06 ID:xixxZVu7
古代より、海は恐怖の象徴であった。
特に夜の海は、人間の根源的な恐怖を引きずり出す。
底どころか水面のわずか1cm下ですら見通せない、コールタールの如き深淵が水平線まで広がり、
波音と、時折魚が跳ねる音だけが聞こえる光景を安心できると形容できる性格は、あまり一般的とは言えないだろう。
人間は、そんな海から港を守るために様々な工夫を凝らしてきた。
防波堤もそのうちの一つであり、ローマ帝国期から存在する建築物である。
とはいえ、この殺し合いの世界には守るべき港も、護るべき人々もいないのだが。


とある少年が防波堤を走り去ってから数十分後、防波堤の一部が盛り上がり人影を形作った。
人影は少女の姿をしており、しきりに辺りを見回している。
朝焼けに照らされ始めた海が目の前にあることを認識し、人影は一歩後ずさる。
ガリ、と靴がコンクリートの角を噛み、灰色の粉塵がパラパラと毀れた。
慌てて後ろを振り向いた人影の目に飛び込んできた光景は、やはり海。
そこに至ってようやく認識する。自分が海のど真ん中に取り残されていることに。
「…………ッ!」
たった一人で海の上にいるという恐怖に囚われたのだろうか、人影は全速力で走り始めた。
海に張られた一本道を、一人の少女が駆けていく。


十数分後、少女は防波堤から飛び降りた。
少しだけ安心した少女は息を整えようとしたが、なぜか殆ど疲れていない。
1km近くも走り続けて疲労を起こさないことは異常なのだが、少女にはその理由がわからない。
スピードが常人離れしていたことについては気付いていないようだった。
少女が首を傾げながらも顔を上げると、そこは夢の国。
色とりどりの電飾と、シンボルマークがプリントされた旗が目に付いた。
ちなみにシンボルマークは土偶の形をしており、『ギーガランドへようこそ!』とゴシック体の歓迎文句を謳っている。
近くのガイドセンターに陳列してあるパンフレットを手に取って、パラパラと捲ってみる。
『絶叫マシン“ギーガコースター”! 途中でコースターが分解して、形状記憶セラミックで元に戻るよ!』
『恐怖の屋敷“ギーガマンション”! たくさんのクラヤミ族が住み着いているマンションだよ!(実物ではありません)』
『勇気を振り絞れ!“ギーガ城”! 魔王に囚われたツチダマ姫を助け出すんだ! 見事助け出した勇者には記念メダルをプレゼント!』
少女はパンフレットを閉じた。

ちょうどそのとき、空にホログラムが映し出された。


    ※    ※    ※    ※


曙光に照らされた遊園地で、颯々たる涼風が城旗を揺らす。
なかなかの佳景ではあったが、上空に浮かぶ怪人の映像が全てを台無しにしていた。
時は午前6時。第一放送が終了し、ギガゾンビの映像が消え始める。
高らかな哄笑とともに空が歪み、生贄たちをを見下すかのようなギガゾンビの顔にノイズが入る。
不快な残響だけを残し、やがて映像は霧散した。
その光景を見届け終わった瞬間、劉鳳は手近にあったクレーンキャッチャーに八つ当たりの敵意を向ける。
途端、魔獣に齧られたかのように地面が抉れ、代わりに拘束衣の破壊神が姿を現す。
劉鳳のアルター、絶影である。
絶影の誇る針金状の触腕が哀れな筐体を蹂躙し、景品のぬいぐるみを内臓のようにぶち撒けた。
260リスキィ・ガール ◆pKH1mSw/N6 :2006/12/30(土) 00:26:02 ID:xixxZVu7
「毒虫が……」
やはりだ。やはり力を持ち過ぎた阿呆は碌な事をしない。
救いようのない小物が分不相応の力を持つとこうなる、という良い見本だ。
憤怒の炎を滾らせる劉鳳の横で、直立不動のまま絶影が破壊活動を続けている。
ブラウン管が、レバーが、座椅子が、何かの部品が、まるで埃のように宙を舞う。
遊園地のゲームセンターに破壊の嵐が吹き荒れた。
嵐はいつまで経っても収まらず、もはや使えるゲーム機は一台たりとも残っていない。
ここまで劉鳳を憤らせているのは、ギガゾンビによる無能な暴君まがいの発言だけではない。
19人という死者数の多さが、破壊の嵐を止めさせない。
こんな馬鹿げた殺し合いに乗った人間によって19もの命の灯火が掻き消された。
殺人行為を行った者のうち何人かはおそらく、武器の力に酔い、調子に乗ったならず者だ。
制御できない力は唯の暴力。
最初から殺人のために力を行使する悪は論外だが、無駄な力を持ったために殺人に走った馬鹿もいるだろう。
「社会不適格者どもめ!」
絶影の動きが一層激しくなり、ゲームセンターの外壁までをも微塵切りにする。
構成する部分の殆どを失ったゲームセンターが、緩やかな崩壊を始めた。
一人のアルター使いの怒りが生み出した轟音が辺り一帯に木霊する。


崩れ落ちる建物を背に、少し冷静さを取り戻した劉鳳は歩き出した。
向かう先は人が集まりそうな市街地。目的は真紅という人形の捜索だ。
黎明に出会った一体の人形。
ローゼンメイデン第五ドールと名乗った薔薇使いは、自分にとって致命的な因子になる可能性がある。
己の不注意により勘違いされ、危険人物と認定されてしまったからだ。
あの赤い人形によって悪い噂が流布されれば、無意味な戦闘を行わざるを得ない状況も起こりうるだろう。
その前に、あの人形を捕獲しなければならない。

とはいえ、黎明から探し続けているにも関わらず、未だ足取りは掴めていない。
人形なら同類の中に潜んでいるだろうと推測して、ファンシーショップのビスクドール達を掻き分け、
結局手掛かり一つ見つからなかったときなどは、流石に惨めな気持ちになった。
これだけ探し回って何の痕跡も見当たらないということは、もう園内にはいない可能性が高い。
地図を見ながら捜索場所を絞り込む劉鳳の額には、うっすらと汗が滲んでいた。
警戒色に満ちたガラス球を思い出し、苦虫を噛み潰す。あれは完全に誤解している。
今そこの建物の影からこちらを伺っている少女がいるが、まさにあんな感じだ。
険しい顔で自分を睨みつけ、危険を察知した小動物のように逃げ出すところまで同じだな――――

「――――って、待て!」

どうやら、また破壊活動を見られたらしい。
そして例の如く勘違いされ、危険人物認定もされただろう。
少女が逃げ出した先の通路を曲がると、徐々に遠ざかる後ろ姿が見えた。
その腕には腕章が付けられており、文字が刺繍されているのがわかる。『団長』……どういう意味だろうか?
……仕方がない、緊急手段だ。少々手荒い方法だが、失敗を繰り返すわけにはいかない。

「絶影!」
光線のように伸びる触腕が少女に迫り、その足元にあるタイル張りの歩道を抉る。
足場を破壊され転倒する少女。その頭がコンクリート製の地面にぶつかり、ゴキリと嫌な音を立てた。
(しまった!)
急いで駆け寄り、少女の意識を確かめる。
かなり危険なぶつけ方をしたように見えたが、かろうじて意識は保っているようだ。
少女の瞳孔が開いていないことを視認した後、刺激しないよう慎重に声をかけた。
焦らず、そして油断せずに。
261リスキィ・ガール ◆pKH1mSw/N6 :2006/12/30(土) 00:29:16 ID:xixxZVu7
「いきなり攻撃してすまない。だが、誤解されることはどうしても防ぎたかった」
騙し討ちを警戒しながら、少女を安心させるために説得を試みる。
「対アルター特殊部隊HOLY所属、劉鳳だ。お前を殺すつもりはない、安心しろ」
声をかけられた少女が顔を上げる。その顔は、恐怖というよりは困惑で彩られていた。


「殺す……って、何を言っているの? ここは、どこ? 一体、何が起こっているの?」


    ※    ※    ※    ※


「記憶喪失だと?」
「うん……今まで自分が何をやっていたか、殆ど何も思い出せないの」
遊園地の出口を目指しながら、一組の男女が話し合っている。
男は険しい顔で少女を尋問しており、少女はおどおどした様子で指をいじくっていた。
20分ほどかけて劉鳳が少女から引き出した情報――つまり、少女が覚えていた全て――は、ごく僅かなものだった。
一人の少年と出会い、棒のようなもので殴られた。
気付いたら防波堤の上で倒れていた。
たったそれだけ。
その他のことは自分の名前すら覚えていないという。


(部分健忘というやつか……)
ほんの一部の記憶を残して思い出を全て忘れてしまうという症状を思い出す。
おそらく、その『少年』に殴られたときに記憶を失ったんだろう。
決して絶影で攻撃したときに頭を打ったからではない。
少女が言うには、少年に殴られた際の記憶は断片的に残っているらしく、
記憶の欠片は、自分は刀、少年は銃と棒を持ち、防波堤の上で対峙していたことを教えてくれたという。
その際、少年は『野原ひろし』と名乗り、自分自身は『長門有希』と名乗っていたようだ。
つまり、この少女の名前は『長門有希』ということになる。

「長門、デイパックは持っていないのか?」
武器どころか地図やコンパスすら持っていないことについて尋ねると、少女は首を振った。
野原という少年が刀ごと奪ったことは明白だった。
「狙いは武器か……過ぎた力は秩序を乱し、身を滅ぼすだけだとなぜわからない!」
少女のデイパックを奪い去ったであろう少年は、死んだ。
先程の放送の中で呼ばれた『野原ひろし』の名前が、その事実を雄弁に物語る。
秩序を乱し、人を傷付け、力を誇示するだけの愚か者には当然の末路だ。
防波堤を越えて少年を探すことはしなかった。死体に興味はない。
なお、少女に対する警戒も続けることにした。
記憶喪失の話が虚言である可能性も捨てきれないし、なにより、この状況で人の話を鵜呑みにするのは危険すぎる。


現在二人がいる場所はG-5。破壊されたゲームセンターがあるH-5からちょうど北にあるエリアだ。
少女は絶影による破壊音を聞いて劉鳳に近づいたらしく、破壊行為がもたらした予期せぬ副産物と言える。
だが、劉鳳がゲームセンターを破壊したのは人寄せのためではない。無論、八つ当たりでもない……はずだ。
劉鳳は、絶影の調子がおかしいことに気付いていた。
本来のスピードがなかなか出せない上に、身体にかかる負担も増加している。
観覧車を破壊したときに感じた違和感の正体を解明するためにゲームセンターを破壊してみたが、
どうやら気のせいではなかったらしい。アルター能力を“使いにくい”。
こんなことでは絶影の“真の姿”を開放したときどうなるか、想像もつかない。
262リスキィ・ガール ◆pKH1mSw/N6 :2006/12/30(土) 00:30:18 ID:xixxZVu7
劉鳳が思案に暮れていると、いつの間にか観覧車があった場所まで辿り着いていた。
そう、そこには確かに観覧車があったのだ。
だが今は、四十個ほどのゴンドラが埋葬された物悲しい墓地に過ぎなかった。
砕かれたメリーゴーランドの馬達も悲壮感を漂わせている。
まあ、劉鳳がやったことなのだが。

「真紅という人形にも誤解されてしまったし、少し短絡的過ぎたかな…………ん!?」
劉鳳は、瓦礫の中に不自然な鉄の棒が突き立っていることに気がついた。
まるで墓標のように打ち立てられている鉄に近づいてみると、そこには――――
「……クソッ」
「…………ッ」
鵙の早贄のように串刺しにされた老人の死体が一つ。
後ろで少女の息を飲む音が聞こえるが、気遣っている余裕はない。
素早く辺りを見回し、敵影を探す。血が乾ききっていないため、近くに犯人がいる可能性があるのだ。
「俺は周辺を捜索する。何かあったら大声を上げろ、絶影のスピードならすぐに戻れる」
そう言い残して劉鳳は走り出す。その脇には、既に絶影が構築されていた。


劉鳳がその場を去った後、少女は老人の死体を見下ろした。
口から吐き出された血が執事服をごわごわに歪めている。
少女の視線は、老人の死体から、突き立てられた鉄芯へ……そして観覧車の支柱へと移った。
何発もの銃弾が撃ち込まれた支柱へと近づき、落ちている銃弾を拾い上げる。
先が潰れている銃弾を見つめ、指の先でくるくると回す少女。
やがて、飽きたかのように銃弾を放り投げ、別の瓦礫に目を移す。
そうして少女は、劉鳳が戻ってくるまで瓦礫の中を彷徨っていた。


    ※    ※    ※    ※


「どうやら、近くに犯人はいないようだ。……長門、そのデイパックはどうしたんだ?」
周囲の捜索から戻ってきた劉鳳が尋ねると、少女は困ったような笑顔を作った。
「そこのお爺さんのデイパックみたいなんだけど……勝手に貰っちゃまずかったかな?」
食料は盗られちゃってるみたいだけど、と補足を入れる少女。
劉鳳は少し考え、そして結論を出した。
「いや、問題ないだろう」
物品を収納できるデイパックや、コンパス、地図などの支給品は持っておいたほうがいい。
予期せぬ事態に陥ったとき、選択肢が広がるからだ。
「それと、こんなものも見つけたんだけど」
少女は更に、ロープの切れ端を見せつける。
「このロープの切れ端は、お爺さんの死体の傍に落ちていたわ。そして、あるはずの片割れは見つからなかった。
 つまり、このロープの切断面と一致するロープを持った奴が犯人ということにはならないかしら。
 あ、それと、瓦礫の下から血液パックも見つけたわよ」
すらすらと戦果を語る少女に、劉鳳が感心したように息を吐く。
「抜け目がないな」
「誉めてくれてありがとう。で、これからどうするの?」
その質問に対しては即答した。
「犯人を追うぞ。もう、園外にいる可能性が高い」
「わかったわ」
特に議論することもなく、二人は歩き出す。

少女の持つデイパックの中で、申告しなかったもう一つの拾遺物――鈍く光る鎖鎌が、ジャラリと無機質な音を立てた。
263リスキィ・ガール ◆pKH1mSw/N6 :2006/12/30(土) 00:32:37 ID:xixxZVu7
【G-5遊園地・1日目 朝】
【劉鳳@スクライド】
[状態]:健康、『悪』に対する一時的な激昂、自分の迂闊さへの怒り
[装備]: なし
[道具]:支給品一式、斬鉄剣、真紅似のビスクドール(目撃証言調達のため、遊園地内のファンシーショップで入手)
[思考・状況]
1:老人(ウォルター)を殺した犯人を見つけ出し、断罪する
2:真紅を捜し、誤解を解く
3:主催者、マーダーなどといった『悪』をこの手で断罪する
4:相手がゲームに乗っていないようなら保護する
5:カズマと決着をつける
6:必ず自分の正義を貫く
[補足]:朝倉のことを『長門有希』、朝倉の荷物を奪った少年を『野原ひろし』と誤認しています。


【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:精神的にやや疲弊  不明
[装備]:SOS団腕章『団長』
[道具]:支給品一式(ウォルターのもの、食料はなし)、鎖鎌(劉鳳には隠してある)、ターザンロープの切れ端、輸血用血液パック×3
[思考・状況]
1:不明
基本:自分の行動によって世界と涼宮ハルヒにどんな変化が起こるかを観察する。ゲームの円滑化のために参加者を減らす。

[補足]:朝倉はジュンの攻撃によって一時的に『記憶の混濁による混乱』状態に陥り、絶影の攻撃により次の段階に移行しました。
    1.完全な記憶喪失、2.記憶の混濁の続行、3.記憶は復活し、嘘をついている、のいずれかです。
    2,3の状態の場合は、劉鳳を利用しようと考えています。
    1の状態の場合、頭に強い衝撃を受けると記憶が復活する可能性があります。
    2の状態の場合、時間経過とともに記憶は元に戻ります。
264 ◆pKH1mSw/N6 :2006/12/30(土) 01:06:13 ID:xixxZVu7
>>263の朝倉の状態表を

【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:精神的にやや疲弊  不明
[装備]:SOS団腕章『団長』
[道具]:支給品一式(ウォルターのもの、食料はなし)、鎖鎌(劉鳳には隠してある)、ターザンロープの切れ端、輸血用血液パック×3
[思考・状況]
1:不明

に変更します。
265-目的- -選択- -未来- 1/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:34:24 ID:14C7G1wB
目の前の少女の様子が、放送を終えた直後からおかしくなっている。
きっと放送で友達の名前が呼ばれたりしたんだろう。流石の僕もそれは予測出来た。

きっと大切な人だったんだろう。
彼女の動きは完全に止まっている。
まるでコンピューターが不慮の事故で起動不可になったようだ。

そんな彼女を戻す為に僕はどうするべきだろう。
話しかけるのが一番かな、やっぱり。うん、そうしよう。

そうと決まれば「善は急げ」だ。彼女を元気付けないと。
悲しませる状況をなんとかしたいって、自分で言ったばかりなんだから。
266-目的- -選択- -未来- 2/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:37:00 ID:14C7G1wB


『八神はやて』

ホログラムからのこの音声を聞いた瞬間、私の何かが崩れ去った気がした。
糸が切れたみたいにその場に座り込んで、放送で聞いたその名前を反復する。

「はやて……八神、はや……て……」

はやてが、死んだ。
この事実を容赦なく突きつけられた私は、呆然としていた。
信じられない。信じたくない。死んだなんてを考えたくなかった。
なのはみたいに優しく素敵で、優しく微笑んでいた大切な友達。
そんな彼女が死んだ現実を突きつけられ、私は絶望を感じて――


――そして放送が終わった。
なのはやシグナム、ヴィータは名前を呼ばれなかったみたいだ。
そこは少しでも安堵するべきだったんだろう。
いや、それ以前にどこか矛盾している事もあったはずだ。
でも今の私には、それを考えたりするゆとりは無かった。

19人。そんな数の死があって、そしてはやても死んだ。
この現実が突きつけられたままで、なのは達の名前が呼ばれなかったことに安堵出来なかった。
それにカルラさんは目の前で死んでしまって、放送で名前を呼ばれてしまった。
私の所為で死んでしまったんだ……喜べるわけない。

「大丈夫かい?」

タチコマが話しかけてきた。

「何かあったんだろうけど、元気だしなよ。ね?」

元気付けてくれているのか、明るい声で話しかけてくれてる。
でも、今の私に気遣ってくれていたんだとしても無駄だ。
はやてが死んで、ショックで体が動いてくれないんだから……。

ただただ呆然とする私の涙は枯れていて、もう自分の両目からは何も流れはしなかった。
やっぱり私は駄目だ。このまま何も出来なくなって朽ちていくのがお似合いなんだ。
カルラさんやはやての代わりに、なんでこんな馬鹿な私が死ななかったんだろう。
私なんか、駄目なのに。私なんか、私なんか……。

「やっぱり、私が死んじゃえば良かったんだ……っ」

こんな私が生きる資格なんて……ない。
結局私は、タチコマに会ったばかりのときと同じ考えを繰り返すばかりだった。
それもこれも私が駄目だからだ。やっぱり私は……私は……。
267-目的- -選択- -未来- 3/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:39:29 ID:14C7G1wB

「いや、その理屈はおかしい」

心が沈んでいく中。突然、タチコマからはっきりと否定された。
そうやって否定してくれるのは嬉しい。でも、私が言ったことは真実だ。
私が悪い事には変わりは無い。全く、変わりは無い。

「おかしくないよ……私はこんなに小さい人間で、何も出来ないから……」

そうだ、私は何も出来ない。無力なんだ。
それどころか迷惑ばかりかけて、足手まといで……私は、

「何も出来ないだって? それは”絶対にノウ”だね。出来る事は沢山あると思うよ?
 信じられないなら君の話を基にいくつか項目を挙げようか。まずこの人を埋葬することが出来る。
 そして君の友人を捜索することも出来る。それどころかその「魔法」という要素によって、
 友人や赤の他人を救済出来る可能性も発生してる。それが無理でもこの状況を打破する為の情報収集だって、
 襲い来る敵を魔法によって排除する事だって出来る。僕と共に手を組んで共闘することも出来るしね。
 ほら、選択肢は沢山あるよ。君が出来ることは非常に多い。だからその理屈はおかしい、僕はそう言ったんだよ」

突然私の反論を打ち切って、捲くし立てる様にタチコマはそう言ってくれた。
なんで、どうしてさっき会ったばかりの私なんかにそこまでしてくれるんだろう。
私なんかにこんなことを言ってくれるのは、どうしてなんだろう。

「選択肢は多いんだし、僕は出来る範囲で手助けしたい。だから、元気出して欲しいな」

……そうか。やっぱり私を元気付けてくれようとしているんだ。
自分だって危険なのに、それを無視して私なんかに構ってくれてるんだ。
やっぱり、私は迷惑かけてるんだ。ごめんタチコマ、私のことはもう良いよ。私はもう……。

「あのさ、この世界に温泉があるみたいなんだけど」

……は?

「うん、だからさ。ここは二人で温泉にいこうよ。
 君も心をリラックスさせた方が良いだろうしね。うん、決定」

突然で強引なタチコマの言葉に、私は戸惑った。
いや、どうして突然温泉? 温泉なんてあったっけ?

「うん、地図で見たから間違いないよ。場所はここから北東だね。
 これに入ると気持ちよくなってリラックスするって聞いたことがあるんだ。
 とりあえず一旦そこで落ち着いて、それからこれからの予定を決めようよ」

気遣ってくれているのか、タチコマはそう言った。
正直強引で驚いたけど、気遣ってくれるのは本当に嬉しい。
でも温泉になんかに行けば、タチコマのしたい事を後回しにしてしまう。
私なんか放っておいて、自分の仲間を捜せば良いのに……。

「気にしない気にしない。それじゃまず、この女の人を埋葬しよう。
 僕も手伝うからさ。それから一緒に温泉に行こう。それから……」

タチコマは言葉を続ける。
私はあっけに取られたのもあって、黙ってそれを聞いていた。

「それから、何が出来るかを一緒に考えよう。
 君にもやるべき事があるんだから、それを整理するべきだよ。
 だから、死んだほうが良かったなんて言っちゃ駄目だ。ダメ、絶対」
268-目的- -選択- -未来- 4/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:42:28 ID:14C7G1wB



自分が死ねばよかった。その言葉は間違ってる、と僕は思った。
思ったから、だからはっきりと言った。ちょっとはっきり過ぎたかもしれないけど。

でも、彼女に悲観的になって欲しくは無かったんだよ。

それにこのままじゃネガティブになっていくままだ。
僕は急な作戦――話題のすり替えまで行った。
だって、悲観的になって欲しくなかったんだもの。

多少強引だったけど、こうして僕は彼女に可能性を与えようとした。
こんな状況でも彼女の居場所を与えてあげたいと、そう思ったんだ。
例えばトグサ君なら、きっとそう考えるよね?
人間ならきっと、そう思うよね?
269-目的- -選択- -未来- 5/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:45:31 ID:14C7G1wB



「……そう、だ」

一緒に考えよう、そうタチコマが言ってくれた時だった。
私は呟きを漏らしながら、自分が最初に何をしたかったのかを思い出した。
そうだ、私はなのはを捜さなければいけない。会って、真相を確かめなきゃいけないんだ。
それにカルラさんだって埋葬しないといけない。私が殺したも同然なんだ、私がやらなきゃ。
私はやっと、目の前の現実と向き合うことが出来る気がした。

そうだ。タチコマと私は、出会って放送を一緒に聞いただけの関係だ。
それなのにタチコマは、放送が終わった瞬間から今までずっと私と話してくれた。
駄目になっていた私に、タチコマが優しい言葉をかけ続けてくれた。
私なんかに構っている時間は無いはずなのに、言葉をかけてくれていた。

『僕は涙腺なんてないからその意味がよくわからないけど……キミを泣かせてしまうこの現状をなんとかしたいって、思う』

放送が始まる直前、こんなことを私に言ってくれた。
グチグチと腐っていた私に、言ってくれたんだ。
私を元気付けてくれる為に。私が歩き出せるようにする為に。
だから私はタチコマの言葉で全てを思い出したんだ。思い出せたんだ。

「ごめん……ありがとう……ありが、とう……っ!」

枯れていたはずの涙がまた溢れ出した。
タチコマの優しい言葉が、私の心に広がっていく。
嗚咽しながら、でも力を振り絞って私はタチコマに礼を言った。

「どういたしまして」

タチコマの優しげなその返答を聞き、私はやっと立ち上がった。
カルラさんを埋葬する為だ。そうだ、ここで燻る訳には行かないんだ。
タチコマの言うとおりだ。私は私の出来る事をやるしかないんだ。
なのはを捜して、それから私は……私は、なのはを……見つけたら……。

ここで気付いた。タチコマの言うとおりだと悟った。
今は落ち着かないといけないという事に、今のままじゃ自分は駄目だという事に。
タチコマには悪いけど、今は落ち着いてゆっくりと考える時間が欲しい。

『うん、温泉にいこうよ。リラックスした方が良いだろうしね』

温泉、か……行ってみるのも、良いかもしれない。
ああ、そうか。タチコマは私がこんな醜態を晒す事を読んでたのか。
ありがとう、タチコマ。本当にありがとう……。

私は涙を拭い、カルラさんへと視線を向けた。
埋葬する為に。自分の業を、正面から受け入れる為に。
270-目的- -選択- -未来- 6/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:49:22 ID:14C7G1wB



僕も多少強引だったかな。全体的に焦ってたかも。
彼女に行き着く暇も与えずに話しすぎちゃったかもしれない。
終わった後でそう反省したけれど、でも同時に結果オーライだとも思った。
彼女は僕の言葉で元気を取り戻してくれたようだ。なら、それで良いんだ。

見れば彼女は、任務を遂行する時の少佐達みたいに何かを覚悟したようだ。
僕の言葉で彼女がそんな心情になったのならば、それはとても嬉しい。
でもやっぱり強引だったかも。次からは気をつけないとね、反省反省。

けれど彼女が元気を出してくれた様で何よりだ、本当に良かった。
やっぱり言葉は無力じゃないよ。凄いよ言葉、本当に凄い。
でもこれからが大事だ。これだけで満足しちゃいけないんだ。
目指すは有言実行――これからも僕は彼女を悲しませないようにしないと。


さて、そろそろ僕のすべき事も把握しておこう。
要点を整理すると、こうかな。

まずは南側にあったデイバッグを回収する。
それから彼女に頼んで榴弾を装填してもらう。
その後は温泉に行って彼女にはゆっくりとしてもらおう。
それを終えてから、彼女の仲間を捜す。または彼女を安全な場所に解放する。
ついでに僕を修理できる可能性や要因が発生したらチェックしておく。

以上。すべき事、ここまで。

九課の皆さんには申し訳ないけど、ここは一つ後回しだ。
まぁ少佐達のことだ、こんなところでそう簡単にはリタイアしないだろうしね。
僕は僕で、勝手にやるべきことをやらせてもらうよ。


あ、温泉の場所をもう一度確認しておこうかな。
実は僕自身も楽しみなんだよね。どんな感じなんだろ。
271-目的- -選択- -未来- 7/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:50:55 ID:14C7G1wB
【D-7 森林・1日目 朝】

【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労中、全身に軽傷、背中に打撲、決意
[装備]:S2U(元のカード形態)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム残数不明、西瓜1個@スクライド
[思考]
1:カルラを埋葬、彼女の仲間に謝る
2:タチコマの誘いに乗り、温泉に行って自分を落ち着かせる
3:シグナム、ヴィータとも合流
基本:なのはに会い、もし暴走していたら止める。
[備考]
タヌ機による混乱は治まったものの、なのはがシグナムを殺した疑惑はまだ残っています。


【タチコマ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:装甲はぼこぼこ、ダメージ蓄積、燃料わずかに消費
[装備]:ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)
[道具]:支給品一式、燃料タンクから1/8補給済み、お天気ボックス@ドラえもん、西瓜48個@スクライド
  タチコマの榴弾@攻殻機動隊S.A.C、双眼鏡、龍咲海の生徒手帳
[思考]
1:D7南部のデイバッグを回収。
2:榴弾を装填してもらう。
3:温泉にフェイトを連れて行って落ち着かせる。
4:フェイトを彼女の仲間の元か安全な場所に送る。
5:九課のメンバーと合流。
6:自分を修理できる施設・人間を探す
[備考]
光学迷彩の効果が低下しています。被発見率は多少下がるものの、あまり戦闘の役には立ちません。
効果を回復するには、適切な修理が必要です。
272最悪をも下回る ◆q/26xrKjWg :2006/12/31(日) 02:17:57 ID:U/zmze/l
 主と騎士の関係は、極めて単純だ。
 騎士は主に仕える。主は騎士を騎士たらしめる。

 主なき騎士など存在し得ない。
 主の死の報が嘘なのか。それとも有り得ないことが起きているのか。

(ヴィータなら、その辺りで難しいことを考えるのは止めるだろうな)

 では、彼女――シグナムはどうか。
 彼女はもう一歩踏み込んだことを考えていた。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 煽動を目的として、ギガゾンビが嘘の情報を流すことはできる。
 そもそも参加者全員が同じ内容の放送を聞いているとも限らない。ギガゾンビがその気になれば、全体の状況を把握した上で、個々の参加者に最も効果的な放送を行うことすらも可能なはずだ。疑おうと思えばきりがない。
 しかし、綻ぶ嘘では煽動の用を為さない。状況の指向性ならばある程度の操作もできようが、全ての参加者の動向を完全に制御できるわけではない以上、嘘が嘘であると証明されてしまう可能性が残る。
 それ以前に、放送でのあの喜びよう。ギガゾンビの思惑通りに状況が進行していると見るべきだ。
 ふざけた話だが、ギガゾンビにとってこれは余興。禁止エリアも、猛獣と兎が同居する檻をじわりじわりと狭めるように設定されている。放っておいても勝手に進む折角の余興を、己の無粋な真似で台無しにしたりはしないだろう。

 では、有り得ないことが起きているのか。
 それならば既に起きている。
 異なる体系にある者、あるいは物。ベルカ式だとかミッドチルダ式だとか、そういった違いではない。類似こそ多少はあれど根本的な部分においては全く異質。それらが一同に介して殺し合いの舞台に立っている。
 そんな舞台を実現させている。

 だとすれば――

(我等ベルカの騎士と主との繋がりを断ち、主に依存する守護騎士プログラムに過ぎない我等の存在を独立させることも可能なのではないか?)

 ――それは推測でしかない。だが、ギガゾンビが嘘を吐いているという楽観的な考えよりは、よほど信憑性がある。
 認めたくはないが、それでも認めなければならない。

(……主はやては、死んだ)

 放送で告げられた通りに。
273最悪をも下回る ◆q/26xrKjWg :2006/12/31(日) 02:24:06 ID:U/zmze/l
 泣き、叫び、喚くことが許される状況であれば、そうしたに違いない。シグナムは己の感情を必死に抑えていた。
 制御しきれるはずもないが。
 握った拳は震えていた。爪が掌に食い込んでいる。痛みはなかった。痛みを感じていないだけかもしれない。

 主の身に降りかかるであろう危険を一つでも多く、少しでも早く排除することに全力を注いできた。騎士としての名も、武人としての誇りも、何もかもをかなぐり捨てて、自らを外道に貶めようとも。
 その決意は全て無意味となった。
 守るべき主を失い、共に逝くべき自分達は、まだここにいる。
 最悪をも下回る事態。

(最悪をも下回る事態だ……我等に何の手も残されていなければ。だが、手はある。我等にできることはたった一つしかないが、それでも手はある)

 この余興を勝ち抜き、ただ一人の生き残りとなること。一つだけ願いを叶えてやる――ギガゾンビはそう言っていた。
 ギガゾンビを信用しているのではない。
 ギガゾンビの過度の自尊心が確かなものであると信じているだけだ。願いを叶えると言った以上、興を削ぎさえしなければ願いは叶えられるはずだ。
 たった一人の大切な人を生き返らせたい。その為なら他の全てを厭わない。
 ギガゾンビのような奴ならば、いかにも喜びそうな願いだろう。

(私かヴィータが生き残り、願いを叶える。主はやてがそんなことを望むはずもないが、それでも我等の勝手でやるべきことだ。
 ヴィータと再会して共闘できればいいのだが。勝ち抜くことが目的でありながら、互いに全幅の信頼を置ける仲間がいる――それは大きなアドバンテージになる。
 強いて問題を挙げるとすれば、ヴィータの出方か……)

 主の為にと闇の書の蒐集を決意した時にも、主の未来を血で汚すようなことはしないと高らかに宣言していた。そんなヴィータが主の命を取るか、それとも主の心を取るか。選択の結果によっては、自分とは相容れないかもしれない。
 万が一共闘を拒まれたら、どうするか。
 こちらの邪魔は絶対にさせない。ただし、ヴィータを殺すつもりは全くない。
 過程はさておき、最終的に自分かヴィータのどちらかが生き残ればいい。その可能性をわざわざ己の手で低くするような行為は避けるべきだ。
 それに――罪なき者をも皆殺しにして願いを叶えるつもりはなくとも、結果として一つだけ願いが叶えられる立場になれば、ヴィータとて自分と同じことを望むに違いない。

(どうであれ、生き残りが我等二人だけになった場合には、私が全ての咎を背負って自害する。それでいい。差し当たっての問題は、それまでにどう障害を排除していくか)
274最悪をも下回る ◆q/26xrKjWg :2006/12/31(日) 02:26:42 ID:U/zmze/l
 レイジングハートを使用していた魔法使いに、黒い天使人形。ただの人間でありながら自分と拮抗する実力を有していたメイド。どれも相当の猛者には違いなく、またそれで猛者が全てだとも思えない。

 加えて、あのフェイトやなのはまで敵に回すことになる。
 二人ともまだ生きている。主が無事であれば、間違いなく主の脱出を手助けしてくれていたであろう、主の親友達。
 味方ならば心強いことこの上ない。しかし、敵に回せば最凶の魔導師達。
 シグナムは既に経験していた。その両方ともを。

(もう焦る必要は皆無だ。
 宝石は残り四つ。慎重に慎重を期せ。どのような者が相手であっても、どのような状況にあっても。
 殺せる時に殺せる者を確実に殺し、可能であれば物資を奪う。魔法に通じる何かが得られれば有り難い。
 消耗を強いる戦いは極力避ける。猛者は猛者同士で潰しあってもらえばいい。ただし、いざという場合には一切の出し惜しみは不要。
 生き残ることを最優先に考えろ)

 将として、己に課すべき使命を羅列する。
 いつの間にか、拳の震えは止まっていた。ゆっくりと、何かを確かめるように手を開き――また閉じる。確かに痛みを感じる。掌だけでなく背中にも。

 幸いにも、背中の傷は表面を浅く削られただけで済んでいる。致命傷には遠く、戦闘を含む当面の行動にも支障はないだろう。先の戦闘でも大丈夫だった。
 だが、これからの長丁場を考えれば話は別だ。放置しておくべきではない。
 意を決してクラールヴィントに己が魔力を通す。
 傷の疼きまでは取れない。多少の時間を要してようやっと塞がっただけのようだ。元より回復魔法を得手とはしないシグナムでは、クラールヴィント自体の機能に頼ったところでこの程度。
 宝石でも使えば多少は違うかもしれないが、限られた切り札をこのような軽傷で浪費するつもりはなかった。

(シャマルならば、あっという間に跡形もなく完治――なのだろうがな。贅沢は言っていられん。出血による体力の低下を防げれば、それで十分だ)

 続いて、食料として支給されていたパンをちぎっては口に放り込む。咀嚼も程々に無理矢理水で流し込む。
 不味い。
 どうしようもなく不味い。
 昔ならばそんなことは思いもしなかっただろう。だが今は違う。自分は知ってしまったのだ。食欲を誘う芳香漂う食卓を。暖かい団らんの一時を。

(私はそれを守れなかった。だから取り戻す。その席に加わる資格はとうに失ってしまったが……それでも、せめて取り戻してみせる)

 為すべきことはもう見定めた。
 主の死を悼むことはしない。悼む必要すらない。
 いずれ主の死はなかったことになるのだから。
275最悪をも下回る ◆q/26xrKjWg :2006/12/31(日) 02:28:28 ID:U/zmze/l
【D-3/橋の袂/朝(放送後)】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:背中負傷(処置済)/騎士甲冑装備
[装備]:ディーヴァの刀@BLOOD+
    クラールヴィント(極基本的な機能のみ使用可能)@魔法少女リリカルなのはA's
    凛の宝石×4個@Fate/stay night
    鳳凰寺風の弓(矢22本)@魔法騎士レイアース、コルトガバメント
[道具]:支給品一式、ルルゥの斧@BLOOD+
[思考・状況]
第一行動方針:無理はせず、殺せる時に殺せる者を確実に殺す
第二行動方針:ヴィータと再会できたら共闘を促す
基本行動方針:自分かヴィータを最後の一人として生き残らせ、願いを叶える

※シグナムは列車が走るとは考えていません。

※放送で告げられた通り八神はやては死亡している、と判断しています。
 ただし「ギガゾンビが騎士と主との繋がりを断ち、騎士を独立させている」
 という説はあくまでシグナムの推測です。真相は不明。


【クラールヴィントによる回復の効果について】

 回復魔法を不得手とするシグナムが自身の魔力のみでクラールヴィントによる回復を試みた場合、多少の時間を要した上で表面的な傷の治療しかできません。他の回復魔法が不得手の魔導師、あるいはそれに準ずる能力者でも同様です。
 魔力を何らかの外的要因でブーストするか、あるいは元々回復魔法を得手とする者が使用すれば、効果や回復速度についてある程度の向上が期待できます。
276くじけそうになったら涙を ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 09:33:28 ID:eWrFX6Qf
「ウミは――」
ゲインの返答を遮ったのはギガゾンビ立体映像と高邁な挨拶だった。
濡れた夜明けの空に浮かんだ巨大なそれは自身の安っぽい自己顕示欲と虚栄心の表れか。参加者たちを嘲笑し、侮蔑し、悪意に満ちたセリフを吐き続ける。
そして――発表される数多の死者の中に確かにあったのだ、龍咲海の名前が。
「…そういうことだ」
光に説明しづらかった海の死をギガゾンビが無神経に知らしめたのは腹立たしかった。
しかし自分ならもっとオブラートに包んだ言い方ができただろうか? 欺瞞だ、どう言い換えようと龍咲海が死亡した事実は変わらない。
衝撃の宣告を受け光はカッと目を見開き、そして膝から崩れ落ちる。
「この先の空き地で彼女の墓を発見した。誰かが不憫に思って埋葬したのだと思う」
放送が終わって光は膝をついたままだった。突然友人が死んだと宣告された女子中学生の反応としては無理もない。
こんな悲劇が各地で繰り広げられているのだろう。それも19人、約4分の一の人数だ。
幸運にもゲイナーの名は呼ばれなかった。だがギガゾンビの言う通り明日の太陽を自分もゲイナーも拝めるのか? 仮想ではない狂気のゲームの中で。嫌な想像をしていまいゲインは身震いする。
3分も経っただろうか、前触れもなく光は立ち上がり歩みだした。夢遊病のようにフラフラと海の墓があると知らされた方向に向かって。
「おい、ヘタにうろついちゃあぶないって」
「…嘘だ、海ちゃんが死んだなんて」
「?」
「わたしは信じない。死体を確認するまでは!」
そう叫ぶと光は急に走り出した。あっけにとられゲインは反応が数秒遅れる。
「お、おい待てよ!」
荷物も預かっているし放っておくわけにもいかずゲインは光を追うことにした。
277くじけそうになったら涙を ◆C1.qFoQXNw
ザクッ、ザクッ、ザクッ…

ゲインが歩いてきた道を引き返し墓のあった空き地までくると光は墓を掘り返していた。
墓標の代わりだったレイピアが転がっている。彼女のものと思しきディパックも近くに放置されていた。
「海ちゃん…嘘だよね? ここに埋まっている人は別人だよねぇ? ねえ答えてよ」
光の口からは意味不明の言葉が発されている。制服が泥だらけになるのも構わず発掘作業を続けていた。
「もういい、止めろ! 死者を冒涜するのは。仲間なんだろ、君の…ウッ!?」
頭部を銃火器の類で打ち抜かれ、恐怖に引きつり大脳を晒す死体が現れた。その光景はゲインにウッブスの悲劇を想像させるのに十分だった。
エクソダス請負人として人の死を見た経験もあり嘔吐こそしなかったが目をそらせるには十分である。
一方、光は掘り返した海の亡骸の肩を抱き必死に揺らせている。
「ねえ、何時まで寝てるんだ? ギガゾンビを倒していっしょに東京に帰えろう…」
肩を揺らすその度に頭部を支えきれなくなった首がグルグルと揺れ、脳漿がだらしなく垂れている。
「しかたない、私おんぶしてあげるよ。確か北にホテルがあったはずだ」
疲労しているにも関わらず光は海の亡骸を背負い歩み始めた。まるで海の死など意にかけないように。
死体を掘り出しあまつさえ背負っていくという異常な光景にゲインは唖然としばらく立ち尽くしていた。

「海ちゃん見て、ゲインの表情。そんなに珍しいのかな、女の子同士のおんぶが」
『フフ、妬いてんのよ。光と私があんまり仲良しだから』
「でも親友だもん、仲がいいのは当たり前じゃないか」
『バカね♪ 私たちの仲のよさは特別なの』
「ギガゾンビ打倒は始まったばかりだ。まだまだこれから…」
『あんまり見せつけると百合だと思われるわよ』
「いいじゃないか誤解されたって。私たちは魔法騎士なんだから」