アニメキャラ・バトルロワイヤル 作品投下スレ3

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1名無しさん@お腹いっぱい。
ここは
「アニメ作品のキャラクターがバトルロワイアルをしたら?」
というテーマで作られたリレー形式の二次創作スレです。

参加資格は全員。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。

「作品に対する物言い」
「感想」
「予約」
「投下宣言」

以上の書き込みは雑談スレで行ってください。
sage進行でお願いします。


現行雑談スレ
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1165931390/
(※次スレ移行間近)

2名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 19:48:28 ID:U5NzBHla
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」

 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → MAP-Cのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。


【バトルロワイアルの舞台】
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/34/617dc63bfb1f26533522b2f318b0219f.jpg

まとめサイト(wiki)
http://www23.atwiki.jp/animerowa/
3名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 19:49:14 ID:U5NzBHla
【キャラクターの状態表テンプレ】

【地名・○○日目 時間(深夜・早朝・昼間など)】
【キャラクター名@作品名】
[状態]:(ダメージの具合・動揺、激怒等精神的なこともここ)
[装備]:(武器・あるいは防具として扱えるものはここ)
[道具]:(ランタンやパソコン、治療道具・食料といった武器ではないが便利なものはここ)
[思考・状況](ゲームを脱出・ゲームに乗る・○○を殺す・○○を探す・○○と合流など。複数可、書くときは優先順位の高い順に)

◆例
【B-6森 2日目 早朝】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(左腕・右足に切り傷)
[装備]:刀、盾
[道具]:ドアノブ、漫画
[思考]
第一行動方針:のび太を殺害する
第二行動方針:アーカードの捜索
基本行動方針:最後まで生き残る

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24
4名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 19:49:59 ID:U5NzBHla
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。

【放送】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
スピーカーからの音声で伝達を行う。

【禁止エリア】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
5名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 19:50:50 ID:U5NzBHla
【能力制限】

◆禁止
・ハルヒの世界改変能力
・ローゼンキャラの異空間系能力(間接的に人を殺せる)
・音無小夜の血液の効果

◆威力制限
・BLOOD+のシュヴァリエの肉体再生能力
・Fateキャラの固有結界、投影魔術
・長門有希と朝倉涼子の能力
・レイアース勢、なのは勢、ゼロ勢、遠坂凛の魔法
・サーヴァントの肉体的な打たれ強さ(普通に刺されるくらいじゃ死なない)
・サーヴァントの宝具(小次郎も一応)
・スクライドキャラのアルター(発動は問題なし、支給品のアルター化はNG)
・タチコマは重火器の弾薬没収、装甲の弱体化
・アーカードの吸血鬼としての能力

◆やや威力制限
・うたわれキャラの肉体的戦闘力
・ジャイアンの歌

◆問題なし
・ローゼンのドールの戦闘における能力
・ルパンキャラ、軍人キャラなどの、「一般人よりは強い」レベルのキャラの肉体的戦闘力


*制限事項のさらなる詳細については、まとめWikiをご参照ください。
6名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 19:52:22 ID:U5NzBHla
【参加者一覧表】

6/6【涼宮ハルヒの憂鬱】
   ○キョン/○涼宮ハルヒ/○長門有希/○朝比奈みくる/○朝倉涼子/○鶴屋さん
5/5【ドラえもん】
   ○ドラえもん/○野比のび太/○剛田武/○骨川スネ夫/○先生
5/5【スクライド】
   ○カズマ/○劉鳳/○由詫かなみ/○君島邦彦/○ストレイト・クーガー
5/5【ひぐらしのなく頃に】
   ○前原圭一/○竜宮レナ/○園崎魅音/○北条沙都子/○古手梨花
5/5【ローゼンメイデンシリーズ】
   ○桜田ジュン/○真紅/○水銀燈/○翠星石/○蒼星石
5/5【クレヨンしんちゃん】
   ○野原しんのすけ/○野原みさえ/○野原ひろし/○ぶりぶりざえもん/○井尻又兵衛由俊
5/5【ルパン三世】
   ○ルパン三世/○次元大介/○峰不二子/○石川五ェ門/○銭形警部
5/5【魔法少女リリカルなのはシリーズ】
   ○高町なのは/○フェイト・テスタロッサ(フェイト・T・ハラオウン)/○八神はやて/○シグナム/○ヴィータ
5/5【Fate/stay night】
   ○衛宮士郎/○セイバー/○遠坂凛/○アーチャー/○佐々木小次郎
5/5【BLACK LAGOON】
   ○ロック(岡島緑郎)/○レヴィ/○ロベルタ/○ヘンゼル/○グレーテル
5/5【うたわれるもの】
   ○ハクオロ/○エルルゥ/○アルルゥ/○カルラ/○トウカ
4/4【HELLSING】
   ○アーカード/○セラス・ヴィクトリア/○ウォルター・C(クム)・ドルネーズ/○アレクサンド・アンデルセン
4/4【攻殻機動隊S.A.C】
   ○草薙素子/○バトー/○トグサ/○タチコマ
3/3【ゼロの使い魔】
   ○平賀才人/○ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール/○タバサ
3/3【魔法騎士レイアース】
   ○獅堂光/○龍咲海/○鳳凰寺風
3/3【ベルセルク】
   ○ガッツ/○キャスカ/○グリフィス
2/2【デジモンアドベンチャー】
   ○八神太一/○石田ヤマト
2/2【OVERMAN キングゲイナー】
   ○ゲイナー・サンガ/○ゲイン・ビジョウ
2/2【BLOOD+】
   ○音無小夜/○ソロモン・ゴールドスミス
1/1【MASTERキートン】
   ○平賀=キートン・太一
80/80
7これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:29:13 ID:rJjIriYg
「エルルゥ……聞くけどさ。ここにある液体類は全部安全だよな……?」
「んー。そうですねぇ……。全て薬品類だと思いますから害はないですよ」
「ついでにさ、ちょっと水を分けてもらってもいいか?」
「どうぞー」

 エルルゥは名簿記載に夢中になっていたために、ロックの問い掛けに対して見向きもせずに空返事で答えてしまう。
 了解は得た。ほんの一口。微量に嚥下するだけでよい。不味ければ止めればいいだけのことだ。
 何故こんなにもロックを魅了して離さないのかは疑問に尽きるが、それこそ舌で確認してみれば解決する。

「じゃあ、水を少しと……この瓶に入った液体、何かしらの薬なんだろ?」
「どうぞー。―――え? 瓶……?」

 脳裏の片隅にあった瓶入りの薬。ロックの発した言葉により、エルルゥは正気に返ったように振り返る。 
 彼女が目の当たりにした光景は、今正に禁忌な薬入りの瓶を口許へ傾けたロックの姿。
 既に予断も許さない状況へと差し掛かっている。
 ロックが瓶より滴り落ちる液体薬を口に含んだその瞬間に、エルルゥは焦燥に駆られた様子で飛び掛っていた。  

「―――ダメえええぇぇ!!」
「ぶぼ―――っ!?」

 勢いのままに、たずね人ステッキでロックの横っ面を殴打していた。彼は奇声を上げて吹っ飛んだ。
 視界より消失したロックを意に返さず、重力に導かれるままに彼の手より放れて落下していた瓶―――即ち惚れ薬を見事にキャッチする。
 容器の中身に注目して、彼女は表情を引き攣らせた。

「あ、あわわ……。へ、減ってる……。まさか―――」
「うっ、ぐぅ……い、一体何を……」
 
 エルルゥは数割方消失した液体から目を離し、呻き声を上げたロックへと恐る恐る振り返る。そこには、頬を押さえながら地面に蹲る姿が確かにあった。
 ―――確実に飲まれた。呪いといっても謙遜のない惚れ薬をだ。
 彼女の頬を冷や汗が伝った。
 惚れ薬の解説書によると、最初に視界に入った人物へ狂人的な好意を寄せるのだと言う。
 それは雛鳥の如く、一度でも顔を突き合わせてしまえば数時間限定で嗜好を曲解させてしまうのだ。
 そして、周辺にエルルゥとロック以外の人間は見受けられない。
 痛みに震えるロックから、エルルゥは顔を青褪めて後退る。

「こ、これはもしかして……危険だったりするのかしら」

 幸いなことに、ロックは未だ頭部を俯かせたままで、面を上げる様子がない。
 だが、一度目が合ってしまえば惚れ薬の効果を実証してしまうのではないか。
 エルルゥはこの先起こりうる結果を補完すべく、脳裏で妄想してみる。
8これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:32:06 ID:rJjIriYg
『ダメだ……我慢ならないっ。好きだ! 好きだ!! 愛してる!!』
『こ、困ります……わたしには御傍にいて尽くすべき人が―――』
『それがなんだってんだよ!! その程度の境遇で! 俺の愛を如何にか出来ると思うなよ!!』
『あぁ……。わたしはどうすれば―――』
『むっ、そこにいるのはエルルゥなのか!?』
『え!? は、ハクオロさん! 無事だったんですね……っ』
『君も無事で何よりだ……。ところで、そこの御仁は?』
『あ、いや。その……この人は―――』
『―――将来を越えて来世まで誓い合った永遠の伴侶だ。あんたは元彼だな?』
『も、元彼? 伴侶? 何を言ってるのだ……』
『ち、違いますよハクオロさん!! 伴侶だなんて真っ赤な嘘で―――』
『俺はエルルゥを愛してる! エルルゥも俺を愛してる! 付け入る隙のないっ、言わば相思相愛な真柄だ!!』
『そ、そうなのかエルルゥ?』
『だ、だから違うと―――』
『エルルゥは俺のものだ!! 俺はエルルゥのものだ!! 安心してくれ元彼さん! 彼女は俺が責任をもって生涯大切にする!!』
『そうか、そうだったのか……。すまなかったなエルルゥ。私が気を利かさないばっかりに、君には不憫な思いをさせていたのだな……』
『ちょ、まっ―――』
『妹を送り出す気持ちというのは、存外に寂しいものなのだな……』
『いいや。あんたがいたからこそ、今のエルルゥがあるんだぞ? ありがとう、感謝しているよ』
『……ああ。そういって貰えると救われるよ。こちらこそ礼を言おう。―――エルルゥ、幸せになれよ?』
『そ、そんな……』

 先の妄想、その間実に秒針一振りにも満たなかった。
 饒舌に尽くし難い現実を否定するべく、エルルゥは戦慄した様子で頭を振る。
 有り得ない現実である。だが、ハクオロの鈍感振りを察するに、決して無いとも言えないのが悲しいところだ。
 ロックの行動次第では、自身の一生を作用しかねない可能性が無きにしも非ずと言える気がしてくる。
 大げさな様子ではあるが、エルルゥにとってはある意味死活問題。
 実際に都合良くハクオロが現れることなど有り得はしないが、今の彼女の思考は混乱極まりなく逸脱している状態なのだ。 
 薬師として、傷を負ったロックを放置してもいいのか。はたまた、この場に留まり要らぬ好意を向けられて許容できるのか。
 前者も後者も自業自得だが、どちらも引くに引けない二律背反な矜持なだけに、妄執に囚われた心は躊躇いを生じる。

「―――痛てて……。何なんだ……」
「っ!? ―――ご、ごごご……」

 だが、都合は決してエルルゥに同調してくれる筈もなく、無慈悲な時間は着々と進んでいくのだ。
 ロックが動作する度に、エルルゥは過敏に肩を震わせる。
 早急に方針を固めなければ、このままでは取り返しの付かない事態に陥ってしまう。 
 ―――どうする。どうする。
 考え出すと堂々巡りの禅問答になってしまう。これでは意味がない。
 よって、ヤケを起こして本能に身を委ねることにする。
 ―――すぐさま決めた。
 自分は薬師だ。傷付いた、もとい傷付けた人間を放ってまで体裁を気にするなど薬師として失格。言語道断だ。
 惚れ薬が何だ。彼女の決心を鈍らせる程の代物なのか。―――否、断じて否だ。
 ―――外聞? 体面? それが今この状況に必ずしも必要なものなのか。それも否だ。
 近辺には人間だっていない筈だ。根拠はないが、いないと判断する。
 ともかく揺ぎない決意は既に纏め上り、後は彼女自身が実行するのみだ。
 エルルゥは素早く荷物を掻き集め、軽快に踵を返す。
 この選択が、自分にとって最良最善で至高の選出だと彼女は信じて疑わなかった。
 瞼を閉じて大きく深呼吸。新鮮な空気を肺に満たすことにより、気概を一新して面構えを持ち直す。
 ―――さあ、今こそ自身が信頼すべき躍進の一歩を踏み出すときだ。

「ごめんなさいーーーーい!!」

 ―――逃げた。
9これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:33:54 ID:rJjIriYg
【E-2/1日目/早朝】

【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:健康
[装備]:ルイズの杖@ゼロの使い魔
[道具]:支給品三人分(他武器以外のアイテム2品)・どんな病気にも効く薬@ドラえもん・現金数千円
[思考・状況]
1:混乱
2:アーカードを回避しつつ、レヴィとの合流
[備考]
1:支給品は一つのデイパックへまとめてあります。
2:ロックの水分は喪失。 
3:惚れ薬を微量服用のため、効果発動中。初見の異性に狂想的な好意を寄せる。


【エルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:惚れ薬@ゼロの使い魔・たずね人ステッキ@ドラえもん・五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
     市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)
[思考・状況]
1:自己嫌悪に陥るも、一先ずロックより逃走
2:アーカードより遠ざかる
3:他の参加者と情報交換をし、機を見計らってたずね人ステッキ使用。ハクオロたちの居場所を特定する。
10これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:39:02 ID:rJjIriYg
4:ハクオロ、アルルゥ、カルラ、トウカと合流し、ギガゾンビを倒す。
基本:仲間と合流する
[備考]
1:惚れ薬→異性にのみ有効。飲んでから初めて視界に入れた人間を好きになる。効力は長くて一時間程度。(残り六割)
2:たずね人ステッキ→三時間につき一回のみ使用化。一度使用した相手には使えない。死体にも有効。的中率は70パーセント。
11遠坂凛は魔法少女に憧れない(1/10) ◆2kGkudiwr6 :2006/12/17(日) 03:29:57 ID:pbwktc1w
ホテルの一室。遠坂家当主であり、五大元素使いの魔術師遠坂凛は。
「……つまりあんたはインテリジェントデバイスとかいう種類の杖で、意思を持つ魔術礼装。
 名前はレイジングハート・エクセリオン。マスターは高町なのは。
 とりあえずその子を見つけるまで私に協力する。
 ……で、あんたを使って戦う時は魔法少女みたいに服を着替える必要がある」
『はい。理解していただけましたでしょうか、仮のマスター』
「理解できるわけないでしょうが!?」
手に持った杖に対してキレていた。
赤いノースリーブのドレスに赤いニーソックスに赤い長手袋、
それになぜかネコミミしっぽを生やした魔法少女の格好で。
格好的にも態度的にも学園の優等生の姿は欠片も無い。
ついでに、遠坂の魔術師としての体面もあんまりない。
「なによこれ!? なんでこんな格好なのよ!」
『あなたが考えた「魔法少女らしい格好」を元に変身させたのですが』
「こんな格好、考えるわけないでしょ!」
『思い当たる節はありませんか?』
「ない! ……はず」
ないと言い切れない気がなぜかするのが遠坂凛の悲しさ。
実際、幼い時に喋る杖によって凛はとんでもない格好をしている。
その記憶は消されているが、友達が激減した記憶はきっちりと残っていた。
「と、ともかく! こんな格好、戦闘に向いてるわけ無いでしょうが!」
言葉に詰まった凛は反論先を変えた。
外見的な問題が自分のせいなら、実用的な面を攻めるという腹だ。しかし。
『多少の衝撃や空気抵抗なら問題ありません。戦いの際は着ることをお勧めします』
あっさり言い返された。
「ま、魔力消費は!?」
『あなたの魔力量は平均的な魔導師より遥かに多いようです。
 バリアジャケット程度なら魔力の消耗よりあなたの魔力回復の量の方が圧倒的に多いと思われます』
「う、うう……」
がっくり膝を付く凛。もう反論材料が無い。褒められてなお言い返すのは無理だ。
彼女だって命の危険と恥、どっちを選ぶかといえば後者である。
実際この服が何らかの魔力を纏っているのは彼女にも分かっている。
いつどこから敵が襲ってくるのか分からないのだ、身の安全を考えれば着た方がいいと理解できる。
……例え痛い格好でも。

こうして、ここに一人新たな魔法少女が誕生した。
12遠坂凛は魔法少女に憧れない(2/10) ◆2kGkudiwr6 :2006/12/17(日) 03:31:26 ID:pbwktc1w
まるで蟲毒のような殺し合いの場。
夜の闇が明けつつあっても、数多の闇が存在することに変わりは無い。
遊戯の集まりであるレジャービルもこの場の異常さを知らしめこそすれ、
闇を払うことなどありえない。
証拠に、その付近ではドレスに逆十字を標されたドールが黒い翼を広げている。
「……はぁ、っく、無様、ね」
レジャービルの壁を背もたれにして、水銀橙は呟いた。
その上では自分を吹き飛ばした忌々しい凶器が窓ガラスを突き破っている。
寸前で脱出していなければ自分も一緒にそうなっていたに違いない……
ただし、脱出の代償として左の翼を少し傷めたが。
飛ぶことはまだ可能だろう。だが、翼を畳むことはできない。無様だ。
せめてミーディアムの……めぐのそばに居ればこの傷も、疲れもすぐに完治すると言うのに。

――彼女の生命力を犠牲にして。

「……ふふ。どの道全力で戦闘できない以上、意味ないわねぇ」
そう。だから無様だ。その表情は自嘲の笑み。
水銀橙が全力で戦えば病弱な人間の生命力なんてあっさり底を尽く。
だけど……めぐを殺して得る勝利なんていらない。
なら、この結果も当然か。
ミーディアムなしではスタミナ切れ、組んだ相手は死ぬ寸前の少女。
まともに戦えるわけが無い。真紅だったらとっくにリタイヤしているに決まってる。
……めぐを気にしないで済む分、今の状況の方がましか。
そんなことを、水銀橙は考えていた。
「……眠い」
もう動く気力も無い。考えるのも嫌になって……彼女は目を閉じた。



――それは遠い昔のお話。
人形に命を吹き込むことだけを目指し、千年の時を超えて生きたとさえされる人形師に作られた私の記憶。

お父様が、なぜあのような技術を持っていたのかは知らない。
知る必要もない。私は完璧なドール、アリスになればよかったのだから。
ひとつだけ言えるのは、その技術が人ならざる者として迫害されていたこと。

――ぞっとしない。
――錬金術。
――バカバカしい。
――嘘に決まってる。
――教会に逆らう不届き者のペテン師。

それも、どうでもいいことだ。
私は完璧なドール、アリスになればよかったのだから。
だけど、たまに思ったことはある。

――どうして、私達は動けるのだろう、と。
13遠坂凛は魔法少女に憧れない(3/10) ◆2kGkudiwr6 :2006/12/17(日) 03:32:31 ID:pbwktc1w
    セット
「――Anfang.
 魔力を探して、レイジングハート」
『Area Search』

ふて腐れたような声で呪文を紡ぐのは、魔法少女カレイドルビーこと遠坂凛。
ちなみに表情もふて腐れている。
最終的に凛が考えたのはこういうことだ。
(さっさと持ち主探して、返還しよ。ついでにそいつに守ってもらえばいいわ……)
この杖が強力な魔術礼装なのも事実、だが戦う際はこの格好をしなくてならないのも事実。
結果として、凛はある考えを導き出した。
「この杖の本来の持ち主を味方に付ければいいじゃない。私は逃げ周りましょ」という。
……彼女らしくない超ネガティブ思考である。それだけこの格好が嫌なのだが。
それはともかく、持ち主を見つけるには魔力を持つ存在を片っ端から探すのが一番。
幸い凛は魔力探知の心得があるし、レイジングハートもそのための魔法を知っていた。
『このホテルから西方向に魔力を探知。
 基本的な魔法はこの四時間でだいたい覚えたようですね。流石です』
「……どーも」
さっきの呪文よろしく、ふて腐れた声で凛は答えた。
レイジングハートとしては褒めているのだろうが、
10年間魔術師として生きてきた凛としてはあまり嬉しくない言葉である。
初歩的な魔術を覚えるくらい、凛には当たり前のことだ。
そんな凛の考えを見透かしたのか、レイジングハートは次の課題を出した。

『では、初級の最後くらいの魔法である飛翔魔法に移りましょうか。
 窓から飛び降りて、西にあるレジャービルの屋上へ飛んでみて下さい』
「……へ?」

唖然とする凛。
ちなみに、ここは四階である。普通の人間なら十分死ねる。
「……べ、別に飛び降りなくても、この部屋で試せばいいんじゃ」
『マスターは魔法の経験がなかったにも関わらず二週間もかけないでこれを習得しました。
 優れた魔導師であるあなたならできます。You can fly!』
「…………」
もしかしてあれか、こいつは私を殺す気か。それともスパルタ教育が主義なのか。
本気で凛はどちらかなのか悩んだ。
(いや、もしかすると高町なのはとかいうのが凄いトレーニング馬鹿なのかも……)
ちなみに、これが正解だ。
『どうしました?』
「なんでもない。ともかくやればいいんでしょ」
『Yes』
無茶な要請に溜め息を吐きながら、凛は窓を開けた。
朝焼けの空が凛を拒むかのように風が吹き込み、髪をなびかせる。
一応、これくらいの高さから飛び降りたことはある。ただしアーチャーの補助付きで。
さすがに一人で飛び降りるとなると、様々な魔術を行使しないと無事には済まない。
初めてやる魔術を使うには無茶な高さだ。しかし。
(間違ってる、ってわけでもないわね……)
呪文は自己暗示。発動に大切なのは自分の気持ち。
ならば自分の状況を追い込んでおけば、
できなくてもいいという気持ちが消えて成功しやすくなるという考え方もできなくもない。
実際、凛は士郎がそうやって戦いの中で成長してきた姿を見てきている。
14遠坂凛は魔法少女に憧れない(4/10) ◆2kGkudiwr6 :2006/12/17(日) 03:33:24 ID:pbwktc1w
   セット
「――Anfang」
『Flier fin』
息を吐いて、呪文を紡ぐ。それに呼応して、足元から桃色の羽が生えた。
『フライヤーフィンの構成には成功しました。後は貴女次第です』
「ええ、わかってる」
窓から飛び降りる前に、一つ深呼吸。ついでに、誰も見ていないかどうか確認。
……問題なし。覚悟を決める。飛ぶと言う覚悟と、この格好で外に出ると言う覚悟。
明らかに後者の覚悟の方がどうでもいい覚悟なのは突っ込まないほうがいい。

(私は飛ぶ。飛んでみせる、この羽根で。小さい羽根だけど)
「たぁっ!」

夜空へ向けて飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。羽根が羽ばたき、高度が上がる。
レジャービルへ向けて飛んでいく。
(そう、飛べる。私は飛べ……)
る、と思った瞬間。
――遠坂家の遺伝子、ここぞという時でうっかりするという習性が発動した。

ふと下からドレスの中身が丸見えじゃないかと気になって。
少しドレスを手で抑えて。
結果、姿勢が崩れた。盛大に、がっくりと前のめりに。

「ぁぁあああああああ!?」
落ちた。それも空気抵抗とか流体力学を派手に無視して錐揉み落下。
中途半端に飛んだお陰で姿勢はめちゃくちゃ。
このまま落下すれば地面と盛大なキスをする羽目になる。
「Es ist gros!」
とっさに呪文を紡ぐ凛。紡いだのは身体を軽量化する呪文。
だが、それでもフライヤーフィンで身体を持ち上げるには足りない。
「Es ist klein!」
『…………』
悲鳴のような声で次の呪文。今度は重力制御の呪文だ。
ただし、以前飛び降りた時とは逆に重力を軽くする。
レイジングハートが呆れたようだが凛は気にしない。気にする余裕が無い。
二つの魔術の効果でやっとフライヤーフィンの推力と重力が拮抗し、
凛は何とか無事に地面に軟着陸した。腕を付いて四つんばいで。
「し、死ぬかと思った……」
……脱力した凛に立ち上がる気力は無い。
肉体的には健康だし、複雑な魔術を使った訳ではないので魔力もそれほど減っていない。
だが精神的にかなり疲れていた。
『…………』
「……笑いたければ笑うといいわ」
そう答える凛の表情はかなりヤケ気味である。ついでに、危険な表情だ。
まあ、9歳児が覚えた魔法に失敗したのだから誇りが傷つくのは当然かもしれない。
ここまで来ると、さすがのレイジングハートもフォローに走らざるを得ない。
元々、彼女(?)が原因ということもあったし。
『それより前方を。探知した魔力の持ち主がいるようです』
「ま、まさか見られた? この失態を!?」
『い、いえ。眠っているようですよ。あちらです』
15遠坂凛は魔法少女に憧れない(5/10) ◆RYRQJgpMxQ :2006/12/17(日) 03:34:11 ID:pbwktc1w
レイジングハートの指示した方向を見て、凛も確認した。
レジャービルの壁に何か寄りかかっている。目を凝らさないと確認できないが。
「そうね、落ち込んでる場合じゃないわね、こんなの心の贅肉だわ。
 さっさと魔力の持ち主の確認をしましょう! 今のなし! そうよね!?」
『Yes』
やるべき物を見つけて、凛はさっさと次の行動に移った。強引に。
実際のところ忘れようとしているだけだが、レイジングハートはつっこまない。
というより、つっこむと収集が付かなくなる。
レイジングハートを構えながら凛は前進して……相手の姿を確認した。
「人間……じゃない? 人形?」
『そのようですね』
凛の表情が怪訝な物に変わる。
動力でも切れたか、動き出す様子は無い。服はボロボロ、翼も痛々しく折れていた。
しばらく観察して、凛はやれやれと溜め息を吐いた。
「まさかあんたのマスターじゃないでしょ」
『Yes』
「ふう、とんだ無駄足だったか……馬鹿みたい」
自分の馬鹿らしさに、凛は再び溜め息を吐いた。何のためにこんな格好したんだか。
だが、レイジングハートが警告した。
『いいえ、来たのはある意味正解だったかもしれません』
「どういうこと?」
『首輪が付いています。この人形は、参加者の一人かもしれません』
「……あ」
言われて、凛は気付いた。
人形の首にも、自分に付けられた物と同じ首輪がある。
「参ったわね。人間と同じ扱いをされる人形……イリヤみたいなホムンクルスかしら?
 何か思い当たる節ある?」
『私には理解できませんが、事情を聞くべきでしょう。
 私達の知らない技術を知っているかもしれません。
 それが何かこのゲームに関する知識へ結びつくかも』
「そうするわ」
16遠坂凛は魔法少女に憧れない(6/10) ◆2kGkudiwr6 :2006/12/17(日) 03:35:08 ID:pbwktc1w
「う……」
意識が戻る。
自分の瞼の重さに辟易しながら水銀橙は眼を開けた。
もやのかかったような視界だが、それでもここが建物の中だということと……
「目が覚めた?」
……目の前で変な格好の女が、杖を突きつけているのが水銀橙にも分かった。
言うまでも無く未だ変身中の遠坂凛、その人である。
「……誰」
「か、カレイドルビー」
水銀橙の問いに凛は慌てて偽名を言った。ちなみに、今思いついた偽名だ。
こんな格好をした、なんて広まることは凛にとって末代までの恥である。
もっとも、水銀橙にとってはどうでもいいことだが。
「なんで助けたのかしら?
 この殺し合いの中で参加者を助けるっていうのはおばかさんのやることよぉ?
 それとも、参加者でもないとでも思ったのぉ?」
「知ってるわ。けどあいにく、私の知識だけじゃ理解できないことが多すぎるのよ。
 あんたは何か知らない魔術が使われた人形らしいからこうやって情報を聞こうってわけ。
 それにわざわざ殺し合いに乗ってやるのも馬鹿らしいしね……ただし」
『Buster mode』
「あんたが私を殺るっていうんなら、ここで消えてもらうわよ」
突きつけられた杖がその力を見せ付けるように変形する……
もっとも、凛は見せ付けるためにわざわざ今変形させたのだが。
どんな人間でも、こんな風に形が変わる杖を見ればただの杖でないことに気付くだろう。
魔術の知識がある人物なら尚更。そういう意味で、凛のこの行為は効果的だ。だが……
(……甘いわねぇ)
水銀橙は心の中でそう嘲笑した。
このゲームの中で、こうやって情けをかけているこの行為。
それは既に、甘い。
もっとも……完全に甘いという訳でもないか。少なくとも、実力と覚悟は本物だ。
見知らぬ敵に対しては躊躇無く攻撃できるのだろう……見知らぬ敵には。
……利用できると水銀橙は判断した。
「ふふ……ローゼンメイデンってもの、知ってるぅ?」
「……いきなり何?」
「知識が欲しいんでしょお? だから教えてあげるのよ」
怪訝な顔の凛に、水銀橙は語る。妖艶な悪魔のような表情で。
そして水銀橙は語った。

ローゼンメイデンと呼ばれる人形のこと。
ローザミスティカと呼ばれる核のこと。
アリスゲームと呼ばれる、戦いのことを。

それは、凛にもレイジングハートも知らない、別の神秘。
全てを聞き終わった凛は、思わず考え込んでいた。
「……一種のホムンクルスみたいなものかしら。
 でも、核となる物を奪って強くなるなんて聞いたことない……
 契約のシステムはホムンクルスというより使い魔だし」
『私も分かりかねます。ヴォルケンリッターや夜天の書とは全く別物のようですね』
「じゃあ聞くけど……この殺し合いに何か心当たりは?」
17遠坂凛は魔法少女に憧れない(7/10) ◆2kGkudiwr6 :2006/12/17(日) 03:35:55 ID:pbwktc1w
「あるわけないでしょ? アリスゲームとは似ているけどねぇ。
 ラプラスの魔だったらお遊びで開催するかもしれないけど……
 あいつにここまでの力はないでしょうしぃ」
「……はあ」
三度、凛は溜め息を吐いた。
今まで知らなかったとんでもない錬金術師(と凛は判断した)の存在は知ったが……
だからといってこの殺し合いについて何か分かったわけでもない。
分かったのは、ここには少なくとも三つの世界から参加者が集められ、
ここには少なくとも三つの魔術体系が存在するということだけだ。
凛もレイジングハートも水銀橙も、そういったことを可能にする力を知っている。
だから納得できて……それがどれほどとんでもないことかも分かる。
……ギガゾンビはちゃちな魔術師程度ではなく、魔法使いか何かなのだろう。
そうとしか凛には思えない。
レイジングハートも、相手はSSSクラスの魔導師だと判断していた。
「ほんっとどうしよう……大師夫でも勝てないんじゃないかしら、あいつ」
頭をかいた凛の頭にあるのは、遠坂の先祖に魔術を教えた魔法使いのこと。
平行世界の運営を己が魔法とする彼だが、ギガゾンビのこれは彼の魔法に匹敵する。
珍しく弱気になった凛だが……
「おばかさんねぇ。まず自分が生き残れるかどうか心配したらどうかしらぁ?」
「…………」
馬鹿にするような口調の水銀橙に、凛は口をつぐんだ。
確かに事実ではある。
このゲームをどうにかする手段より、自分の身を守る手段の方が身近な問題だ。
ただ……凛としては、やはり無駄な殺しをする気は無かったし、何より。
「生き残るだけなら問題ないわよ。
 私は魔術師なんだし、強力な魔術礼装だって持ってるんだから」
『Yes』
凛には自信がある。
あの聖杯戦争を生き抜いた自信。遠坂家当主としての自信。
レイジングハートには意地がある。
かつて二つの大事件を収束させた、高町なのはのデバイスとしての意地。
だが、水銀橙は見抜いていた。
「だけど、少し黙り込んだじゃない。
 何より、分かってるでしょぉ? ここには未知の技術がたくさんあるってこと。
 まだ、平気なのかしらぁ」
一人と一本の、未知への恐怖を。
そもそも凛とレイジングハートの組み合わせは、
お互い未知の技術が使われていることを自覚せざるを得ない組み合わせ。
人は、知らないことに安心できるようにはできていない。
凛とレイジングハートの躊躇いを見て取った水銀橙は、自分の話を切り出した。
自分の力を取り戻すために。
「ふふ、でも解消する手段があるわ……私と『契約』なさい」
「……なんですって?」
「私と組めば、ローゼンメイデンという未知の技術については心配ない。でしょお?」
「なんでそんなこと言い出すのよ。あんたに何か得があるわけ?」
「『契約』すれば、スタミナ切れを気にせずに私は戦える。
 現状でも普通に戦えるけど……疲れが溜まらないわけじゃないものねぇ。
 人間と一緒よ、今の状態じゃ」
余裕の表情で言う水銀橙だが、内心は冷や汗ものだ。
現在は人間と一緒どころか人間以下だ。自分の力を癒すためにも、是非『契約』しておきたい。

……もっとも、実はこれから水銀橙が行うのは契約ではないのだが。
18遠坂凛は魔法少女に憧れない(8/10) ◆2kGkudiwr6 :2006/12/17(日) 03:36:44 ID:pbwktc1w
「少なくとも、戦力的には足手まといになりはしないわよ?」
そんな冷や汗と嘘を包み隠して水銀橙は喋る。
凛は相当悩んでいる。
水銀橙としてはさっさと納得して欲しいところだが、文句は言わない。
焦って失敗なんて洒落にならない。このまま放置されれば生き残ることは不可能だ。
『いかがしましょう。
 私としてはマスターと合流することを優先し、放っておきたいのですが……』
「…………っ」
レイジングハートの言葉に水銀橙は聞こえないように歯軋りした。
黙れジャンクめ、お前の意見は聞いていない。
私に必要なのは人間の方だけ、お前はどこへでも消え去ってしまえ。
そんなことを考えたが、やはり表情にも口にも出さなかった。
交渉に必要なのは余裕の表情、それだけだ。
しばらくして、凛は。
「……いいわ、契約しましょう」
そう答えた、『契約』すると。
水銀橙がほくそ笑む。上手くいった。真実を全て言ったわけではない。
矛盾に気付かれる可能性もあったが、凛は気付かなかった。
水銀橙は賭けに勝った。
「ふふ、じゃあ私の言う事に従いなさぁい?」
19遠坂凛は魔法少女に憧れない(9/10) ◆2kGkudiwr6 :2006/12/17(日) 03:37:45 ID:pbwktc1w
折れていた水銀橙の翼が癒えていく。
凛がレイジングハートを向けて、癒しの呪文を行使していた。
魔術師である事を聞いた水銀橙は、『契約』したのだから回復をしてほしいと言ったのだ。
「ふふ、『契約』したかいはあったわねぇ。これが魔術ってやつ?
 こんなおまけもあるなんてさすがってところかしらぁ?」
「馬鹿にしないで。これでも魔力量は普通の魔術師より遥かに多いんだから。
 あんたの『契約』もアーチャーとの契約に比べれば全然負担かかんないし、安いものよ」
凛の言葉に嘘はない。彼女にとって、この『契約』は全く苦にならない。
サーヴァントという神秘に比べれば、こんな人形の使役ぐらい安いものだ。
(にしても、こんな格好で喋る人形と一緒に行動か……
 何か、本当に魔法少女じみてきたわね)
そういう点では『契約』したのを後悔していた。正直、この姿では士郎には会いたくない。
下らない理由だが……それでも『契約』したのは、戦力上昇としては有用だから。
そして何より、彼女は勘違いしていた。
(どうせ裏切られることないし、いいでしょ。使い魔みたいなもんだし)
そう……致命的な勘違いを。

ジュンや真紅達なら気付いただろう。これは、契約ではない。
凛はドールとの契約の証である指輪を付けていない。
当然だ。指輪は水銀橙のミーディアム・めぐが付けている。そして、彼女はここにいない。
水銀橙が凛にやらせた契約の儀式は真っ赤な嘘。意味も無いこと。
だが、水銀橙に魔力が流れ込んでいるのも事実だ。水銀橙は、確かに何かした。
ただし、それは契約ではない。理由は簡単……水銀橙は嘘を吐いていた。

水銀橙の言った嘘は三つ。
まず、「ミーディアムとドールが結ぶ契約は簡単に切れない」ということ。
これは真実ではある。人間との契約が切れることは、アリスゲームを降りるということ。
だが……水銀橙と凛が行った『契約』は違う。
次に、「ミーディアムはドールを束縛できる」ということ。
「力の供給元である以上逆らうのは難しい」とは告げたが……
実際「ミーディアム」とあるようにアドバンテージがあるのはドールの方。
凛はサーヴァント、レイジングハートは使い魔という存在を知っている。
ゆえに、それが災いしてあっさりと騙された。自分達の方にアドバンテージがあるのだと思い込んで。
最後に、「これが契約だ」ということだ。
そもそもこれは契約ではない。ただし水銀橙には特殊能力がある。
「水銀橙は契約しなくても、相手が望む望むまいに関係なく力を奪える」という。
他の姉妹には無い、逆十字を標すドールらしい力だ。
そう、水銀橙と凛が行った『契約』は契約に非ず。
ただ、水銀橙が凛から強引に魔力を奪っているにすぎない。
要するに……『契約』はただ近くにいる理由を作らせるためだけの嘘だ。
指輪による契約を水銀橙が行えば、病人程度ならあっさりと生命力を奪われ死ぬだろう。
それに比べればこの『契約』の負担は確かに安いもの……行動に支障ない程度だ。
もっとも、水銀橙が戦闘できるだけの力はきっちりと貰えるのだが。

(ふふ、おばかさぁん)

とりあえず殺すつもりは、今の水銀橙には無い。
これほど優秀な力の供給元、失うには惜しい。
このゲームが終わるまで、食い物とさせてもらう。ついでに死なない程度に守ってやろう。
ゲームには乗っていないのが残念だが……襲われたら容赦しないと言っていた。
なら、敵を水銀橙が作ってやればいいだけの話。
そして……

(最後には、きっちり死んでもらうわよぉ?
 私のミーディアムは、貴女なんかじゃない)

めぐの所へ、絶対に帰る。
そして自分をこんな所に連れてきたあのいけすかない馬鹿にめぐの病気を治させる。
水銀橙は、そう誓っていた。
20遠坂凛は魔法少女に憧れない(10/10) ◆2kGkudiwr6 :2006/12/17(日) 03:38:47 ID:pbwktc1w
【D-5レジャービル内部の部屋、1日目早朝】
【魔法少女カレイドルビーチーム】
【遠坂凛(カレイドルビー)@Fate/ Stay night】
[状態]:魔力微消費、カレイドルビーに変身中、水銀橙と『契約』
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(バスターモード)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、ヤクルト一本
[思考]1、高町なのはを探してレイジングハートを返す。ついでに守ってもらう。
    2、士郎と合流。ただしカレイドルビーの姿はできる限り見せない。
    3、アーチャーやセイバーがどうなっているか、誰なのかを確認する
    4、知ってるセイバーやアーチャーなら、カレイドルビーの姿は以下略。
    5、自分の身が危険なら手加減しない

現在、カレイドルビーは一期第四話までになのはが習得した魔法を使用できます。
ただしフライヤーフィンは違う魔術を同時使用して軟着陸&大ジャンプができる程度です。

【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:中程度の消耗、服の一部が破けている、『契約』による自動回復(相手はカレイドルビーという名前だと思っている)
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考]1、カレイドルビーとの『契約』はできる限り継続、利用。最後の二人になったところで殺しておく。
    2、カレイドルビーの敵を作り、戦わせる。
    3、真紅達ドールを破壊し、ローザミスティカを奪う。
    4、バトルロワイアルの最後の一人になり、ギガゾンビにメグの病気を治させる。

『契約』について
厳密に言うと契約ではなく、水銀橙の特殊能力による一方的な魔力の収奪です。
凛からの解除はできませんが、水銀橙からの解除は自由です。再『契約』もできます。
ただし、凛が水銀橙から離れていれば収奪される量は減ります。
通常の行動をする分には凛に負荷はかかりません。
水銀橙が全力で戦闘をすると魔力が少し減少しますが、凛が同時に戦闘するのに支障はありません。
ただしこれは凛の魔力量が平均的な魔術師より遥かに多いためであり、魔力がない参加者や平均レベルの魔力しかない魔術師では負荷が掛かる可能性があります。
逆に言えば、なのは勢やレイアース勢などは平気です。
21名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/17(日) 11:33:41 ID:+ma31X1F
ロックの行動ってさ、怪しい道具が山ほど合るのを眼のあたりにして
更に相手が薬師ってことまで知ってって、「飲んで害はない」って言われたから
あっさりと飲むのは強引に感じるんだが俺だけか?
ロックは「水なら3人分の支給品を持ってる」はずなんだが。
22貪る豚 ◆/1XIgPEeCM :2006/12/17(日) 18:36:09 ID:PmuJNx9/
地図上で言うC-7の北東側の森の中。そこをゆっくりと、本当にゆっくりと走る一台のトラックの姿があった。
このトラックに乗る石田ヤマトは、必要以上に前方に注意を向けながらハンドルを握っていた。
冷や汗が一筋、額から頬へと伝う。二度とあんなことを起こしてはならない。
先刻、自分がやってしまった取り返しのつかないこと。

一人の少女を、轢き殺した。

殺意があったわけではなかった。事故だったのだ。
彼女には、恐らく兄がいた。その兄までもがこの殺し合いに参加させられているのかは分からない。
だが、その少女は運悪く自分に轢き殺されてしまった。それだけは分かる。
自分が、殺したのだ。自分が、この手で。
思い出すたびに深い深い罪悪感に苛まれ、気が狂いそうになる。

でも。
いつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。
既に事切れている彼女のためにできること。それは、彼女を安らかに眠らせてあげることだ。
それくらいしか今のヤマトには思いつかなかったし、できそうになかった。まさか死んで詫びるわけにはいかぬまい。
死ねない。ヤマトは思う。こんなところで死ぬわけにはいかない。
だって、今もきっと自分の帰りを待ってくれている実の弟がいるのだから。
思いついた脱出案を行動に移して大変なことになったけれど。
救いのヒーローとしてギガゾンビを倒すとか言っているぶりぶりざえもんはアテにならないけれど。
太一と合流し、何とかして生きて帰れる方法を探すんだ。

決意を改め、僅かな希望を内に秘め、ヤマトはハンドルを再び強く握り締める。

と、ヤマトはそこであることに気が付いた。
今、ヤマトの操縦するトラックのスピードは、時速20キロに届くか届かないかというところである。
これはトラックを初めて走らせた時よりさらに遅い。あの事故のこともあり、過剰なまでの安全運転になってしまっているのだ。
そう、このスピードではまず間違いなく隣にいるぶりぶりざえもんが何かしら文句を垂れるはずなのだ。
事故を起こす前までは、『もっと速く走れ』だとか、『私の手足がもう少し長ければ私の華麗なドライビングテクニックを……』などとほざいていたというのに。
それがないどころか、ぶりぶりざえもんは運転を再開してから一言も声を発していない。
黙っててくれるのは有り難いが、これだけ静かだとどうにも怪しい。怪しすぎる。
流石のぶりぶりざえもんも、先程の件で意気消沈しているのだろうか。それともまた夢の中に旅立ってしまったのだろうか。
ヤマトは、アクセルにかける足の力をほんの少し緩め、そして片目だけでちらりと助手席の方を見た。

ぶりぶりざえもんは、いなかった。
23貪る豚 ◆/1XIgPEeCM :2006/12/17(日) 18:37:03 ID:PmuJNx9/
ヤマトは咄嗟にブレーキを踏んだ。車体が僅かだがぐらぐらと前後に揺れ、そして止まる。
「ぶりぶりざえモン、どこだ!」
叫びながら車内を見回す。運転に集中しすぎて、周りの変化に気が付かなかったのだ。
だが、その者は思いの外早く見つかった。運転席の左斜め後ろ。もう二度と動かないであろう、横たわる少女の傍にそいつはいた。
「なんだ、私ならここにいるぞ」
何時の間に移動したのだろうか、後部座席にぶりぶりざえもんが座っていた。
偉そうに足を組んでいるが、足が短すぎるがゆえ、その様は酷く滑稽だ。何故か口元に白い物がいくつもくっついている。
「お前、何時の間に後ろに……なにしてるんだよ」
なるべく死体は見ないようにしながら、ヤマトはぶりぶりざえもんに問う。
「見ればわかるだろ。飯だ」
即座に返答される。よくよく見ると、ぶりぶりざえもんの片手には何か丸い物が握られていた。
「飯だと!? さっき食べたばかりじゃないか!」
そうなのだ。既にぶりぶりざえもんはパンを二つも消費してしまっている。
後先考えずばくばく食っていたら、一日も経たぬ内に食料が尽きるのは目に見えている。
「腹が減っては戦ができん、と言うだろう」
決まり文句の如く言うぶりぶりざえもんだが、こいつ、端から戦などする気はないのではないか。
ヤマトはそう思ってならない。
「だからさっき食っただろ!」
「細かいことをガタガタ抜かすな。ほれ、ヤマトも欲しいのか?」
ヤマトの一喝を往なし、ぶりぶりざえもんはその手に握られた物をヤマトの眼前に持ってきた。
ヤマトはそれに見覚えがあった。少なくともこれは元々個々のデイパックに入っていた食料ではない。
白いボールに黒い紙が貼り付けられたようなそれ。ぶりぶりざえもんのすぐ近くに散乱する笹の葉。
ヤマトは、まさかと思った。
「ぶりぶりざえモン、それ……どうした?」
「ん? これか? これはこの子供のバッグの中に入っていたから貰ったものだ。美味そうだったからな」
ヤマトのまさかが、確信へと変わった。
「ま、欲しいと言っても一口もやらぬがな」
ぶりぶりざえもんは言って、それを口へと運ぼうとする。ヤマトの手が反射的に動いた。
24貪る豚 ◆/1XIgPEeCM :2006/12/17(日) 18:38:02 ID:PmuJNx9/
「なっ、なにをする!」
運転席から後部座席の方へ身を乗り出したヤマトの右腕は、鮮やかな軌道を描き、ぶりぶりざえもんの手からおにぎりを掻っ攫った。
「か、返せ! それは私のおにぎりだ! 返せ!」
ジタバタと手足を動かし、怒りと焦りの入り混じった表情で喚くぶりぶりざえもん。まるで迫力はないが。
「説明書を見なかったのか? これは食べたらいけないものだろ」
これ、即ちおにぎりのことだ。
これは今は亡き少女の遺品なのだが、このおにぎり、ただのおにぎりではない。
このおにぎりは細菌が大量に繁殖しており、食べると食中毒を伴う危険性高し。
死亡することは稀だろうが、症状によっては今後の活動状況に大きく支障が生じることとなる。簡単に言ってしまえば毒物なのだ。
ヤマトは少女のデイパックを調べた時に支給品の説明書をしっかり読んでいたので、これを熱知していた。
だが、そんなトラップアイテムを知ってか知らずかこの豚は……。
もし知ってて食べようとしたのなら、よっぽど食い意地が張っているか、チャレンジャーか。あるいは自殺願望でもあるかのどれかか。
いずれにしろ、倒れたりでもしたら自業自得だが。
「案ずるな。たかだか消費期限切れの食品を食べたくらいで腹を壊すほどヤワではない。
 それに、既にもう一つ食べてしまったしな」
途端に落ち着きを取り戻したぶりぶりざえもんはそう言いながら、運転席と助手席の間を潜り抜け、助手席へと舞い戻ってくる。
確かに、今は異常は見られないし、一度地面に落ちたパンをも平気で食べるこいつなら大丈夫かもしれないが……。
「…………」
「さ、それをよこせ」
ぶりぶりざえもんがヤマトの持つおにぎりに視線を向け、言った。しかしヤマトは怪訝そうな顔をして譲らない。
「よこせって言ってんだよ、このタコォ!」
ぶりぶりざえもんの怒号が飛ぶ。その何とも言えない気迫に圧倒され、ヤマトはおずおずとおにぎりを差し出した。
ヤマトの手から瞬時におにぎりがもぎ取られ、ぶりぶりざえもんは無我夢中でおにぎりにかぶりついた。
下品にも米粒がいくらかぽろぽろと零れ落ちる。あっと言う間におにぎりは平らげられてしまった。
「……どうなっても知らないからな」
ヤマトは吐き捨てるように言って、ぶりぶりざえもんから目を離し、ゆっくりとトラックを発進させた。

「やれやれ、私のことなど気にせずに運転していれば良いものを」
「……黙っててくれないか」
またも偉そうなことを口にしたぶりぶりざえもんへと、前方に視線を向けたままのヤマトが言い放つ。
その口調は白眼視そのものだ。
「キ、キサマ、さっきから言わせておけばガキの分際で……!」
ヤマトは相変わらず騒がしいぶりぶりざえもんを無視し、黙々と運転を続ける。
ヤマトのその様子にぶりぶりざえもんは何を思ったか、ふんっと一度鼻息を大きく鳴らすと、どかっとシートに寄り掛かり、押し黙った。

車内に、重苦しい雰囲気が充満し始めていた。

トラックは、まもなくC-7の南西に差し掛かる。
25貪る豚 ◆/1XIgPEeCM :2006/12/17(日) 18:39:03 ID:PmuJNx9/
【C-7森 1日目・黎明】


【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人をはね殺したことに対する深い罪悪感、精神的疲労、ぶりぶりざえモンがうざったい
[装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
    RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
    デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
    真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考]
1:街へ行って、どこかにグレーテルを埋葬してやる
2:八神太一との合流
3:ぶりぶりざえモンはアテにしない
基本:生き残る
[備考]:ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。

【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:健康
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手)
[道具]:支給品一式 (配給品0〜2個:本人は確認済み)パン二つ消費
[思考]
1:ヤマトの運転を補助
2:強い者に付く
3:自己の命を最優先
基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
[備考]:おにぎり弁当を食べました。

[共通思考]:市街地に向かい、グレーテルを埋葬するのに適当な場所を探す。
[共同アイテム]:ミニミ軽機関銃、おにぎり弁当のゴミ(どちらも後部座席に置いてあります)
26暴走特急は親友の夢を見るか ◆lbhhgwAtQE :2006/12/17(日) 21:22:53 ID:lE1Zv2vm
――――――――えー、本日は人間暴走特急にご乗車頂き誠に有難うございます。
            当列車は現在止まれません、そのままお待ちください――――――――

「と、止まれません……って、そんなぁ。だ、誰か止めてぇー!!」
光は相変わらずデンコーセッカの力によって、鉄道高架橋の上をひたすら走っていた。
車や電車の速度はとっくに超えているだろう。
そして、そんな高速状態の中、光はかつてセフィーロを旅していたときに海や風と話していたひと時を思い出していた――。

 ◇

「――っていうわけで、木の周りをぐるぐる走り回っていた虎はいつの間にかバターになっちゃっていたんだって」
「と、虎がバターに!? う、海ちゃん、それ本当!?」
「いや、だからこれは御伽噺なんだって……」
「そうですわ、光さん。虎からバターを作ってしまっては、虎があっという間に絶滅してしまいますわ」
「それもちょっと違うような……」
「でも、それじゃあ本当に虎がずっとぐるぐる回ってたら何になるんだ?」
「どうなる……って、そりゃ目を回して倒れるでしょ」
「いえ、もしかしたら……」
「もしかしたら……どうしたの風?」
「物体は加速しすぎると、空気との摩擦によって加熱して、最終的には燃え尽きてしまうと聞いたことがありますわ」
「「も、燃え尽きる!?」」

 ◇

加速しすぎる――それは、つまりまさに今のような状態であり。
「そ、そんな! あたし、このままじゃ燃えちゃうの!? ま、待ってよ。まだ、海ちゃんにも風ちゃんにも会ってないのに……!!」
こんな所で、そんな事で死んでしまうなんて嫌だ!
光は何とか、足を止めようと足に力を入れた。
「うぉぉぉぉぉ! 止まれぇぇぇ!!!」
足に力を入れた。
「止まってぇぇぇぇ!!」
足に力を……
「お願い、止まってぇぇぇぇ!!」
力を……
「誰か止めてぇぇぇぇ!!」
駄目だった。足が全く言う事を聞かない状態であった。
もう、こうなったら誰かの力を借りないと止まれそうにない――光はそんな状況なのだと把握する。
「そ、そんな! こんな線路の上で人に会えるはずがないし、それn――――ひゃうん!!」
その瞬間、まっすぐ走っていた光は、急にまっすぐ落ちる感覚に襲われた。

――――ドスンッ!!

「あぐっ!!」
そして、頭と体に強い衝撃を受け、意識を闇の中へと落としていった。
27暴走特急は親友の夢を見るか ◆lbhhgwAtQE :2006/12/17(日) 21:24:25 ID:lE1Zv2vm




――光!




       ……誰?




――光ったら!




       ……あたしの名前を呼ぶのは誰?




――光! 起きなさい!




       ……この声は……海、ちゃん?



28暴走特急は親友の夢を見るか ◆lbhhgwAtQE :2006/12/17(日) 21:25:40 ID:lE1Zv2vm
声にいざなわれて目を開けると、そこは真っ白な空間だった。
「あ、あれ? ここは……」
「ようやく目覚めたわね。寝ぼすけさん」
「……う、海ちゃん!?」
目の前にいる青くて長い髪が綺麗な子は、間違いなく親友の海ちゃんだった。
あたしは思わず海ちゃんの元へ駆け出すと抱きついてしまう。
「海ちゃん! 無事だったんだね! よかったぁ」
わずか数時間の離れていただけだったけど、こうして再会出来きたのは本当に嬉しかった。だけど……
「…………」
「海、ちゃん? どうしたの?」
海ちゃんの顔はどこか悲しげだった。
そして、その悲しげな表情のまま、腕を私の背中に回してくる。
「…………ごめんね、光」
……ゴメン?
何で海ちゃんは謝るんだろう。
海ちゃんは別に悪いことなんてこれっぽっちもしてないはずなのに。
「海ちゃん、どうしたの? 何か……いつもと違うよ?」
「いつもと違う、か。……確かにそうかもしれないわね」
どこかさびしげな口調でそう言うと、海ちゃんは背中に回した腕を解き、あたしから離れると今度はその両腕をあたしの両肩に乗せてきた。
そして、その顔にはさっきまでとは違う、何かを決意した顔で語りかけてきた。
「光、私とあなたはここでお別れよ」
「……え?」
お別れ? 一体何を言ってるんだ?
やっと会えたのに、どうして……。
「私はね、そろそろ行かなくちゃいけないの。だけど光はまだこっちに来るべき時じゃない。だからお別れ」
「ど、どうして!? どうして行っちゃダメなんだ? 海ちゃんはあたしが嫌いになったのか!?」
すると、海ちゃんは首を横に大きく振った。そして涙目になって私を見る。
「そんな訳ないじゃない! 私と光、風は親友でしょ! 嫌いになるはずがない!!」
「そ、それじゃあ、どうして!!」
「…………私は光が大好きなの! だから……だからこそ、ここで別れなきゃダメなの!」
言ってる意味が分からない。
好きだからお別れ……なんで……何で!?
「……もうお別れの時間みたい。……それじゃ……さよなら」
海ちゃんが白いもやの向こうへと遠ざかっていく。
「海ちゃん!!」
「光!!! 風と力をあわせてがんばるのよ!! こっちに来たら承知しないんだから!!」
「海ちゃん! 海ちゃん!!」
あたしは走って追いかける。
だけど、その距離は遠ざかるばかりだ。そして、ついに海ちゃんの姿は全然見えなくなってしまって…………。
「海ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
29暴走特急は親友の夢を見るか ◆lbhhgwAtQE :2006/12/17(日) 21:27:19 ID:lE1Zv2vm
「……う、うぅ……海ちゃん……う…………ん?」
遠ざかる海を捕まえようと伸ばした手。
その先で光が見たのは、真っ黒な闇だった。
「……え? あ、あれ?」
さっきまで真っ白な場所にいたのに、今目の前に見えるのは真っ黒い何か。
しかも、自分の体は仰向けになって――つまり寝る姿勢になっている。
つまり、それが指し示すことは……
「い、今のって……夢?」
今までのあれが夢――そう認識した光は、その夢を見る直前のことを思い出していた。
あの時自分は確か……
「……そ、そうだ! あたし、走ってたら穴みたいなところから落ちてそれで――!!」
何が起こったのか思い出した光は体を起こそうとした。
――が、その瞬間。
「――うぅ!? 痛たたたた!!」
光の全身に電撃のように痛みが走った。
そして、痛みに悶え、体のバランスを崩したかと思うと……
「痛たた――え、うわわわっ!!」

――ドスンッ!

……今度は落ちた。
今まで彼女が乗っかっていた“何か”から落ちた。
そして、その落下の衝撃によって光の体には更に痛みが走ってゆく。
「――――――!!!!」
その痛みは最早言葉にならないほどに達しているようで、光の目には星がチカチカと瞬いていた。
彼女は声を出さずに静かに、だがしばらくの間、地面の上を転がり回ることになった。
30暴走特急は親友の夢を見るか ◆lbhhgwAtQE :2006/12/17(日) 21:29:33 ID:lE1Zv2vm

そして転げまわる事、十数分。
ようやく痛みに慣れてきた光は、何とか起き上がり歩けるようになっていた。
「それにしても……まさかあの高さから落ちたなんて……」
光はそう呟きながら、頭上にあった高架橋の橋桁を見る。
高さにしてビル三階分くらい。
……普通に落ちたら、骨の一本でも折れてそうなはずだが、彼女は運が良かった。
彼女が落ちた場所は丁度、駐車場として利用されていて、しかも彼女の落下地点には都合よくワゴン車が停まっており、その屋根をクッション代わりにしたおかげで重傷を負うことがなかったのだ。
もし、落ちた場所に車がなかったら……想像するだけで、光は体をぞっと震わせた。
「でも、時間が大分過ぎちゃったなぁ。海ちゃん、風ちゃん……無事かな」
先ほどのあのような夢を見たせいか、光の中で二人の安否を心配する気持ちは更に強くなっていた。
「そうだ、早く探さなきゃ……っ! 痛つ……」
一歩を踏み出すごとに、鈍い痛みが走る。
……だが、光はそれでも歩みを止めなかった。
親友に会う為に。
「待ってて。今すぐ……今すぐに探してあげるから!!」
東の空が明るくなっていく中。
光は決意を胸に歩き出した。


【E−6 鉄道高架下 1日目 早朝】

【獅堂光@魔法騎士レイアース】
[状態]:全身打撲(歩くことは可能)
[装備]:クラッシュシンバルスタンドを解体したもの(足の部分を先端にする感じで持っています)
[道具]:ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、デンコーセッカ@ドラえもん(残り1本)
[思考・状況]
1.海、風と合流
2.三人揃って島から脱出する
3.可能であればギガゾンビを打倒
[備考]
デンコーセッカの効果は切れました。
光が落ちた穴は、レヴィが『抜け穴ライト』で作った穴で、既に元に戻っています。
31 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/17(日) 21:49:18 ID:lE1Zv2vm
>>30にて修正
[思考・状況] にて

誤:2.三人揃って島から脱出する
    ↓
正:2.三人揃ってこの場所から脱出する

申し訳ありませんでした。
32ある接触 ◆M91lMaewe6 :2006/12/17(日) 23:24:37 ID:X7jQYdsl
オレンジ色の明かりが無数の傷と血で彩られた大剣を煌々と照らす。
佐々木小次郎はこの剣を見て感嘆のため息をついた。
これは間違いなく、歴戦の戦士が扱っていたものと彼は確信する。
そして、この死合いの参加者に支給品の何割かが参加者の本来の持ち物だという推測が浮かんだ。
そうであって欲しいと、彼は心から思う。
本来の武器である長剣、物干し竿を取り戻した上で戦いに赴きたかったのもある。
だが、それ以上にこの大剣の本来の持ち主と出会い、戦う事ができるならどれだけ己を高め、喜びを得ることができるのだろうと、彼の心は躍った。
彼は口元に笑みを浮かべつつも、何者かがここに接近しつつあるのを察知する。
敵で、飛び道具の使い手なら、すぐに火の粉を払わねばとゆったりとした歩調で気配の方へ顔を向ける。
彼の間合いからは相当距離が離れていたが、そこには銀色の甲冑を着た細身の人間の姿が確認できた。
肌に当たる部分は確認しづらかった、なぜなら相手は褐色の肌を持つ女、キャスカだからだ。

南の町へと足を運んでいたキャスカは突如目に入った光景に目を見開く。
川のほとりにいる巨大な剣を手に持った一人の青年。
キャスカは青年を一瞬ガッツかと思った。しかし、その考えはすぐに打ち消す。
なぜなら青年は彼と比べ背は低く、記憶にある限り体格も違っていたからだ。
キャスカは少しずつ、歩を進め青年に近づく。
33ある接触 ◆M91lMaewe6 :2006/12/17(日) 23:26:16 ID:X7jQYdsl
「そなたは何を望む」

接近を悟った小次郎が親しげとも言える口調でキャスカに問いかける。
キャスカは問いに答えなかった。どうやら飛び道具の類は携帯している様子はないと彼女は分析する。
後は、向こうの青年が大剣をどう扱うか等の力量の見極めだ。
体格を見る限り、まともにアレを扱えるかどうか怪しい。
だが、ゲームの主催である仮面の男に食って掛かった者の中には見たことの無い青い動物がいた。
数年前、ガッツとグリフィスが戦い、自らも一目見た怪物『不死者のゾッド』は戦闘し始めのときは、比較的人に近い姿をしていたという。
人外が化けているなら、自分から仕掛けるのは無謀だなとキャスカは自重する。
小次郎は肩をすくめ、瞬時に構えを取った。

「…………ッ!」
キャスカの戦闘本能が警鐘を鳴らし始めた。あの男は間違いなくアレを使いこなせるとキャスカは判断する。
小次郎はゆっくりとした足取りで、キャスカに近づく。
キャスカも覚悟を決め、小次郎に接近しようとする。
小次郎はそれを確認し、足を止める。
34ある接触 ◆M91lMaewe6 :2006/12/17(日) 23:27:08 ID:X7jQYdsl
「くっ……」
キャスカは数歩下がった。このまま進めば命を刈り取られると思ったからだ。
小次郎は瞬時に間合いから離れた少女を見るや、その力量に感嘆した。
思わずキャスカはじりじりと後退をする。
ガッツやグリフィスと同等以上の力量を持つであろう参加者がいる事実を認識せざるを得なかったからだ。
なぜか相手から殺気はあまり感じられない。もしかしたら撤退は可能かもしれない。
そう思ったキャスカであったが、ガッツとグリフィスの顔が浮かび、とっさに自制した。
グリフィスは負けず嫌いだ。目の前の男に見逃す気があっても、彼は勝てるまで逃げようとしないだろう。
ならグリフィスの剣である以上、取るべき行動はとキャスカは己を奮い立たせる。
キャスカは剣を構え、小次郎はそれをみるや一歩踏み込み、彼の視線がキャスカの持つ剣に移った。
キャスカはそんな小次郎の様子を怪訝に思う前に、それを好機と見て弾かれた様に彼に向かって走った。
小次郎は迎え撃たんと一瞬遅れて、構える。
少女はもう目の前だった。疾いと小次郎は思った。
彼は大剣の向きを変え、盾で受けるような構えを取った。
キャスカはその行動を理解できなかったが、攻撃を鈍らせるような真似はしない。
瞬時に突きの軌道は変わり、小次郎のわき腹を斬らんと進む。
35ある接触 ◆M91lMaewe6 :2006/12/17(日) 23:28:39 ID:X7jQYdsl
「!」
キャスカはとっさに横にジャンプしようとした。
がっ……と小次郎の足払いがキャスカの足を掠めた。
体勢が一瞬崩れた。小次郎は大剣を無造作に横に払った。
キャスカは思わず、受けの構えを取ってしまった。
致命的な失敗。キャスカの頭にそれがよぎる。
次に浮かんだのはガッツとグリフィスがはじめて戦ったときの光景だった。
キャスカはとっさに後方へ飛んだ。
大剣がキャスカの剣にぶち当たる、彼女はそれを受け流そうと動く。
この攻撃を凌げたら……!と自分に攻撃命令を出した。
体重もスピードも乗っていないとはいえ、持つ剣では攻撃に耐え切れないのは
彼女自身も半ば確信していたはずだった。
キャスカは地面を手についた、前方へと思い切り剣を突き出した。
黄金の剣は大剣を受け止めることができたのだ。服と肉を裂く感触が伝わった。
36ある接触 ◆M91lMaewe6 :2006/12/17(日) 23:30:47 ID:X7jQYdsl
反撃はすぐに来た。キャスカはすぐに身を仰け反らせ、回避する。
剣を口にくわえ、全力でバク転を続け、大きく後方へと下がり続ける。
彼女は小次郎から遠ざかろうとダッシュしようとするが、いやな予感を感じ取り身構える。

小次郎が大剣を投げつけようとしてるのが見えた。
キャスカは剣を構え、じりじりと後退を始める。
小次郎の右大腿部からは血がにじんでいた。

★★★

少女は草むらに腰を下ろした。息は荒い。
キャスカは小次郎が追ってこないのを確信した。これからの方針を考える。
結局、あの男から逃げざるを得なかった。
悔しい気持ちよりも、安堵する気持ちが強かった。
今の状態でこれ以上、手傷を負わせられないと解ったからだ。
すぐにグリフィスに貢献できなかったのは残念だが、それなりの収穫はあった。
37ある接触 ◆M91lMaewe6 :2006/12/17(日) 23:31:42 ID:X7jQYdsl
手に持っている黄金の剣。あれほどの重量を持つ剣の斬撃に耐えることができたのだ。
ただの剣でない証拠だ。他の参加者の支給品の中にはもっと強力なものがあるかもしれない。
それをうまく使えば、ガッツやさっきの男とも互角以上に渡り合えるかもしれない。
だけどキャスカの方針では参加者を次々襲撃するのは後回しに決めた。
飛び道具が欲しいと思った。ボウガンくらいならキャスカ自身うまく扱えるからだ。
町に行くかは放送を聞いてから決めようかとキャスカは思った。
38ある接触 ◆M91lMaewe6 :2006/12/17(日) 23:33:40 ID:X7jQYdsl
★★★

小次郎はキャスカが姿を消したのを確認すると、川面に近づいた。
手にやった臀部から血は流れているが、深手ではない。
小次郎は思わず笑みを浮かべた。キャスカに逃げられたのを残念とは思わなかった。
技量自体、相当なものでそう易々と殺されはしないだろうと判断してるからだ。
あの女は小次郎自身も知る騎士王が使っていた、黄金の剣を持っていた。
光線を放つあれを警戒して、防御態勢を取ったが、どうやらあの女剣士はそれができなかったようだ。
まあいい……次に会うときがあれば確実に強くなっているだろう。
夜明けも近い、行き先は放送を聞いてから行こうか……。
小次郎は茂みの方に身を潜ませ、治療を始めた。


【C-5・1日目 早朝】

【キャスカ@ベルセルク】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、カルラの剣@うたわれるもの(持ち運べないので鞄に収納しました)
[思考・状況]
1:放送まで休憩する。
2:飛び道具を手に入れる。それまでは能動的な攻撃行動は控える。
3:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。
3:エクスカリバーを使いこなす


【B-5の東部の川のほとり・1日目 早朝】

【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:右臀部に少々の刺し傷。平常心。
[装備]:竜殺し@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1.放送まで手当てをしつつ休憩。
2.兵(つわもの)と仕合たい。基本的には小者は無視。
3.竜殺しの所持者を見つけて、そいつと戦う。
4.物干し竿を見つける。
39現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:06:14 ID:pRM1iolq

後悔っていうのは、いつになっても先に立たないものだ。百年経った未来でさえ。




ついに太一君が走り出した。
駅のすぐそばまで近づいたことで、我慢しきれなくなったのだろう。
「駄目だよ太一君!」
必死に呼び止めようとするものの時すでに遅く、そして太一君は全く止まってくれそうに無い。
仕方が無いので、僕も走って太一君を追いかける。
ああ、危険な人が周りにいませんように……


「遅いぞドラえもん!」
駅の前で止まっていた太一君にはすぐに追いつけたけれど、太一君は相変わらず悪びれる素振りも無い。
やはり、ここできちんと注意しておく必要があるようだ。
「太一君……さっきから何度も言っているけれど、君はあまりにも無謀すぎるよ。
最初に人が2人も殺されたのを見てなかったのかい?このままじゃ次は君の命が危険だ」
「な〜に言ってんだよ、どらえモン!俺こそ何度も言ってるだろ?これは全部ゲームなの、ゲ・エ・ム!
人が死ぬところはちょっとエグかったし、大人向けゲームなのかもしれないけどな。
なんにせよ、俺達はデータなんだから、死んでもリセットすりゃ大丈夫なの!

「いや、その理屈はおかしい」
40現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:07:19 ID:pRM1iolq
「え?」
「誰?」
コン、と頭に硬いものが当たる。

「そのまま動くな。頭に通風孔を増設されたくなければな」

いつの間にか現れた見知らぬ女の人が、僕の頭に銃を突きつけていた。
不安が的中してしまったのだ。ああ、だから言ったのに……


                                    ※

銃を構えたまま、眼前の2人を観察する。
青い狸形義体に、子供が1人。
エネルギー残量のことも考えて光学迷彩は使用せず、障害物を利用して接近したが、特に発見されることも無く容易に接近できた。
予想通りこの2人は戦闘馴れしていない民間人のようだ。
だが、この民間人というのが曲者だ。状況に流され、狂気にほだされ、たやすく外道の道へと堕ちる。
民間人であることは、この者達が無害なオーディエンスである、ということの証明にはならない。
明確な前例も有る。

「ハァ、ハァ、草薙さん、ちょっと待って下さ……い!?」
危険度不確定の民間人が、確定的前例の半民間人を背負ってやってきたようだ。

私達が駅に向かう道中、先の魔力暴走?とやらでルイズが消耗していたため、衛宮がルイズを背負い、私の後を追っていた。
衛宮自身も消耗していたこともあり、私がルイズを持とうと言ったが、
ルイズが拒否した上に衛宮本人の強い希望もあったので、とりあえず任せることにしたのだった。
衛宮にロリコン趣味がある可能性が気になったが、大した問題でもなかろう。 
41現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:08:12 ID:pRM1iolq
「一人で先行するなんて酷いですよ。……で、この状況の説明、してもらえますか?」
「他の参加者が居たから拘束した。それだけだ」
「それだけって……相手は子供じゃないですか!銃を突きつけて脅すだなんてやりすぎですよ!!」
「甘いな。子供でも人は殺せるぞ。なんならお前が背負っている奴にでも聞いてみろ」
ルイズが小さな悲鳴を上げて、顔を隠す。
「……草薙さんは悲観的過ぎます。もっと他人を信用しても……」
「お前が過度に楽天的なだけだ。」
私は埒の明かない衛宮との会話を一方的に切り上げ、子供と青狸の方を向く。

「さて、お前達への尋問がまだだったな」
改めて2人を見る。
青狸はそのボディをさらに青くして震え上がっている。
子供の方は、私を睨み付けている。先ほどの会話から推測するに、これは勇敢なのではなく蛮勇をふるっているだけなのだろう。
とりあえず今は、青狸の方に用がある。

「まあそこまで緊張するな。私はこれでも警官だ。お前達が大人しくしていれば危害を加えるつもりは無い」
「嘘付け!オバサンが警察だなんて証拠がないだろ!!」
……
ピクッ、と、顔面の表情筋を司るナノマシンに電流が奔る。
条件反射で相手に食って掛かる糞餓鬼が……
「……取り敢えず、お前等の支給品を見せて貰おうか。それと青狸、お前はあのギガゾンビとか言う奴と面識があるのか?
奴についての情報を出来るだけ詳しく教えて欲しい」

私がそういった次の瞬間、青狸が急変した。
それまで真っ青だった顔色が真っ赤になり、湯気を上げんばかりの勢いだ。
そしてワナワナと震えながら、いきなりヒステリックに叫びだした。
42現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:08:59 ID:pRM1iolq

「ぼくは、タヌキじゃな〜〜〜〜〜〜い!!」


よく分からないが、うっかり地雷を踏んでしまったようだ。
コイツまで発狂されたのでは情報収集に大きく支障が生じる。なんとか宥めなければ。
「そ、そうか、失礼したな。では……雪ダルマ型の義体だったか?」
「それも違〜〜〜〜〜〜〜う!!!僕は猫型ロボットだ〜〜〜〜!!!」
「む、す、すまん」
火に油だ。どうにも要領を得ない。
兎に角、この自称猫型義体が落ち着くまで待つしかないか……
振り向くと、衛宮がヤレヤレ、といった素振りでこちらを見ている。
今回ばかりは奴に助けを求めた方が無難なのかもしれない。
「……もう分かったからそろそろ落ち着け」
私が猫型義体に語りかけたその時、子供がその元に駆け寄った。


「な、どらえモン、やっぱこいつら悪い奴だろ?銃で脅かして悪口言ってさ。こんな奴ら、俺達でやっつけちゃおうぜ!」
「おい、動くなと言ったのを忘れたのか?」
即座に発砲してやってもよかったが、一応先に警告を挟んでやる。
だが、子供は私の言葉を無視して、猫型義体のデイバッグの中を弄っている。
「貴様、いい加減にしないと――」
「止すんだ太一君!」
猫型義体が子供との射線上に入り、子供を制止しようとその腕を掴む。

その瞬間、ある物に私の目は釘付けになった。
43現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:09:56 ID:pRM1iolq

子供の右手人差し指に絡まった、ピン状の針金。

そして、子供の左手に収まった、球状の物体。


――手榴弾!!何故コイツがそんなものを持っている!?

反射的に銃を構える。しかし猫型義体の大きな頭が邪魔だ。
クッ、直接奪い取るしかないかッ!
地面を蹴り、子供の元へと跳躍する。
だが、子供と接触したのは、猫型義体のほうが先だった。
「駄目だ太一君!!そんな危ない物を出しちゃあ!」
「邪魔するなよどらえモン!」
子供が手榴弾を投げようとするが、猫型義体に阻まれて、手榴弾はあらぬ方向へと飛んでゆく。

――衛宮とルイズの居る方へ。
ガシャン! 猫型義体と子供が交錯し、持っていたランタンを落とした音が響く。
次の瞬間、それまで在った光源が消えた。
その一瞬――瞬きする暇も無いが、十分に致命的なその間――手榴弾を、見失った。
安全ピンは何時外れた?
コン!と、アスファルトに金属塊が落ちる音が響く。
思ったよりも遠い!!
これでは、手榴弾を遠くに投擲するだけの時間が――

――無いッ!!
「全員、伏せろォ―――――――――――ッ!!!」


                                   ド ン 
44現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:10:57 ID:pRM1iolq

                                    ※

「う、う〜ん……」
「大丈夫?」
「え、あ、うん……って、きゃぁっ!」
目を開けたルイズの眼前にあったのは、衛宮士郎の顔。それも、鼻と鼻がぶつかるほどの至近距離。
しかも、体も士郎に抱きしめられるような形で密着している。
そう、まるで私が押し倒されたような形になっている。
それに気付いた瞬間、物凄いスピードで恥ずかしさが体中を駆け巡った。
頭から湯気が立ちそうだ。
最初の時のように、士郎を殴って恥ずかしさを紛らわせたかったが、生憎それすらも出来ないほど、私の体は士郎に強く抱きしめられていた。
「えっと、あ、あの、その、ええと……」
士郎から目をそらそうとするが、顔が近すぎてそれも難しい。

「どこか痛いところある?怪我、無い?」
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、士郎は私のことを心配してくれる。
そういえば、あの少年が何か投げて、それが爆発したんだっけ。
士郎はその爆風から身を挺して私のことを守ってくれたの?
「う、ううん、怪我は無いみたい。あ、ありがとう、士郎……」
「そう、良かった……」
安心した、という風にそう呟いた士郎は、そのまま顔を私の顔に近づける。
え、ええっ!?どういうこと!!??
だ、駄目よ、私には才人が……って違う、才人はそんなんじゃないんだから!
で、でもそんな、いきなりキスとかは絶対駄目なんだから!!
こつん、と額と額がぶつかる。
ちょ、ちょっと、これ以上はダメだったら!ストップストップスト〜〜〜〜〜〜ップ!!  
45現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:12:28 ID:pRM1iolq

そのまま目を閉じて、体を硬直させてしまった私だったけれども、待てど暮らせど、その続きは来なかった。
……これ以上この空気に耐えられない。
「ちょ、ちょっと士郎、どういうつもりなの!?」
返事は無い。士郎の顔は私の顔のすぐ前で止まっている。
「だ、黙ってないで何とか言ってよ!」
それでも返事が無い。というか、士郎に動きが全く無い。
まるで――――
嫌な予感。
「士郎?ちょっと、どうしたの?返事してよ士郎!」
やはり返事が無い。体を揺すってみても応答なし。
これじゃ本当に――――
嫌な予感を振り切るように、なんとか士郎の下から這い出す。
そして、振り向いた士郎の背中を見る。
その背中は、――――
「士郎?ちょっと士郎?じ、冗談でしょ?」


士郎の背中は、爆風でズタズタに引き裂かれていた。
損傷の激しいその背中は、まるで、まるで――――
――死んでいるみたいだった。

「いい加減に返事しなさいよ!士郎!!」
熱いものがこみ上げてくる。
「士郎―――――――――――――――――ッ!!!


                                    ※
46現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:13:20 ID:pRM1iolq
「う〜〜んいててて……」
八神太一が目を覚ます。気付けば、どらえモンが太一の上に覆いかぶさってくれている。
「俺をかばってくれたのか、どらえモン!?サンキュー、どらえモン。でも折角なら進化して欲しかったケド」
「う、うう〜ん」
どうやら、爆風でダメージを受けて気絶しているものの、どらえモンの命に別状は無さそうだ。
それを確かめた後、太一は自分のデイバックから、太一達に残った武器、見せ掛けミサイルを取り出す。
威嚇には使えると思ったからだ。

正直、自分達に配給されたまともな武器はあの手榴弾一個だけだったし、
その状況で銃を持った敵に会ってしまったのはアンラッキーだった。
だけど、なんとかこの場は切り抜けることが出来たみたいだ。
ゲームに乗って殺し合いをする奴が居るなんて、あんまり思ってはいなかったけど、
もしそういう奴が立ちふさがるんなら、俺が全部やっつけてやればいいだけだ。今回みたいに。
やっぱり、ゲームするなら、クリア目指さないといけないよな!
「よ〜し、どらえモンはちょっと待ってろ、後は俺がこいつらに止めを刺してやるからな!」
ミサイルを構える。

パン!

何かが破裂する音が響く。
右腕を何かに押されて、ちょっとよろけてしまう。
ミサイルを落とす。

赤い。

「え……血……?俺の……?」

右手から、赤い血が流れ出す。
47現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:14:33 ID:pRM1iolq
「おい」
さっきの悪そうな女が目の前に歩いてくる。そしてそのまま、
ドカッ!
「ぐはっ」
みぞおちを蹴られて、俺は倒れる。
「げほっ、げほっ」
うまく呼吸が出来ない。
女は、そんな俺にお構いなしに、撃たれた右手を踏みつける。
ぐりッ
「ぎゃぁぁぁあぁああっっっ!!痛い痛い痛い痛いいいいぃぃぃいいいっっっ!!!」
痛い。熱い。痛すぎてもう痛いのか何なのか分からなくなるぐらい痛い。

「痛いか!?どうやらお前にも正常に感覚入力がなされているようだな!」
「痛い!痛いから止めろよぉっ、ああああああ痛ええええええええっ!!」
「なら今の内にその感覚を十分に覚えておけ!二度と忘れんようにな!」

ぐいっ、と女が俺の首根っこを掴んで、睨み付ける。
「どうもお前は最初から勘違いしているようだな。この事態がゲームだとか、死んでもリセットすればいいだとか……」
「そ、そうだよ!皆気付いてないみたいだけど、これは全部ゲームだし、死んだって問題ないんだよ!」
ぎゅうっ、と、女が俺の右手を握る。
「ぎゃああぁあぁっ、痛えええっ!」

そのまま、女は仲間のところに俺を引きずっていった。
若い男の人が倒れていて、その横で女の子が泣いている。  
48現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:15:23 ID:pRM1iolq
「自分の仕出かしたことを、自分自身の目でよく見てみろッ!」
そう言って女の人は、俺を地面に投げつける。
顔を上げてよく見てみれば、男の人の体は、手榴弾のせいでボロボロになっていた。
血がそこかしこから流れだしている。
痛そうだった。俺の傷なんかより、ずっと……
「士郎……返事してよ、士郎……」
女の子が泣いている。でも、いくら名前を呼んでも男の人は動かない。

「これ……俺が……」
「少しは自分がしたことが理解できたか?
ならば、最初にお前が言っていたことを訂正してやろう。
我々に『オリジナル』というバックアップが存在すると仮定しても、それを確認する術がないのなら、それは最初から無いのと同義だ。
また、仮に我々が貴様の言うとおりデータだけの存在だったとしても、バックアップの無いデータはリセットしても復元されない。
ただ消滅するだけだ!」

今の今まで、俺達はただのデータの塊なんだと思っていた。
でも、目で見て、耳で聞こえて、頭で考えて……
血が流れていて、痛くて、そして死んだら生き返らないデータなら、それなら……
俺の考えていることを見透かすように、女の人が一括する。


「感覚入力も有る、死は不可逆で、死者の人格を確認することも出来ない。――この状況と現実と、なにが違う!!
これでもまだ、この状況がバーチャルリアリティに過ぎないというのなら――
いっそ私の手で、お前の言う『オリジナル』とやらの元に送ってやろうか!?」


「俺、俺……」
じゃあ、それなら俺は、
この人を……
この人の命を奪ったのは……
49現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:16:14 ID:pRM1iolq

……俺だ。

「俺っ……そんな、こんなことになるなんて、俺、俺……」

俺が、この人を、殺してしまったんだ。

「ご、ごめん……なさい……ごめん、なさい…………」

俺が泣いていいワケ無いのに。俺が悪いのに。でも。でも。

「うっ、うわぁぁぁぁぁぁっっ!!ごめん……ごめんなさいぃぃぃっ!!」

涙が溢れてきた。




                                    ※

草薙素子は、倒れている衛宮の頚動脈を触れる。
……やはり、駄目か。
その傍で泣きじゃくる2人の子供には、爆風によるダメージは見られない。
少年の方の銃創は動脈を外したし、圧迫止血もしてある。今はその処置は後回しだ。
そう判断した私は、少しはなれて倒れている猫型義体に近づいた。
爆風によるダメージは私と同程度にあるようだが、致命的な損傷は見当たらない。
爆風のショックで気絶中、といったところか。
好都合だ。
50現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:17:12 ID:pRM1iolq

「悪いが、今の内にお前の中を覗かせてもらうぞ」

私はそう言い放つと、自分の項からケーブルを延ばし、猫型義体の入力端子に接続した。
そして私は、猫型義体の電脳空間内にダイブする。いつものように。


―――――!!!!


「何ッ!糞ッ!!」
咄嗟にケーブルを引き抜く。
私のゴーストが、必死に警鐘を鳴らしている。


「なんだこれは……見たことも無い種類の攻性防壁に防壁迷路、そしてそのどれもが破格の高性能……
それに、この義体の製造年月日……2112年だと?記述ミスか、それとも……
どちらにせよ、義体の覚醒を待って、直接問質す必要がありそうだな……」

原理不明の技術を駆使する者達。特定不能な時間と空間。矛盾を矛盾として内包しつつも、それでいて自己を保ったこの世界。
謎は謎を呼び、それらを解き明かすためには更なる情報が必要だ。それだけははっきりとしていた。

そして、冷静に次の行動指針を定めた後に、私は改めて周囲の状況を確認した。
負傷3、死亡1。被害は甚大だ。
たった一人の子供の暴走を止められなかったばかりか、徒に被害を拡大してしまった、と考えても差し支えあるまい。


「無様なものだな」
51現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:18:03 ID:pRM1iolq
後悔をさせる隙を与えずに行動し、事態が起こる前に収束させる。
攻性の公安組織の隊長が聞いてあきれる。


ギリィッ、という草薙素子が奥歯を噛締める音は、子供達の泣き声に掻き消されていった。



【F-1駅前・1日目 早朝】
【草薙素子@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:中程度のダメージ 、現状に苛立ち
[装備]:ベレッタ90-Two(弾数16/17)
[道具]: 荷物一式×3、ルールブレイカー@Fate/stay night、トウカの日本刀@うたわれるもの
    水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、もぐらてぶくろ@ドラえもん、バニーガールスーツ@涼宮ハルヒの憂鬱
    獅堂光の剣@魔法騎士レイアース、瞬間乾燥ドライヤー@ドラえもん
[思考]:
1.猫型義体から情報を得る。
2.駅施設の探索。
3.バトー、トグサ、タチコマを探す。
4.首輪を外すための道具や役立ちそうな人物を探したい。
5.朝倉(顔と名前は一致せず)を警戒。
6. ギガゾンビの”制圧”
7.同行者の仲間を探す。
[備考]:参加者全員の容姿と服装を覚えています。ある程度の首輪の機能と構造を理解しました。
   草薙素子の光学迷彩は専用のエネルギーを大きく消費するため、余り多用できません。
   電脳化と全身擬体のため獅堂光の剣を持っても炎上しません。
52現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:18:55 ID:pRM1iolq
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ、気絶
[装備]:無し
[道具]:"THE DAY OF SAGITTARIUS V"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱 、支給品一式
[思考・状況]
1:気絶中
2:ヤマトを含む仲間との合流(特にのび太)
基本:ひみつ道具を集めてしずかの仇をとる。ギガゾンビをなんとかする


【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:右手に銃創、精神的ダメージ大
[装備]:なし
[道具]: ヘルメット、支給品一式
[思考・状況]
1:後悔
基本:ヤマトたちと合流
53現実の定義 Virtual game   ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 00:19:46 ID:pRM1iolq
【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:疲労大。左手中指の爪剥離。精神不安定。
[装備]:グラーフアイゼン(数時間は使用不能)
[道具]:なし
[思考・状況]
1.悲しみ。
2.才人と合流する。
3.魔力回復後にグラーフアイゼンを使いこなす。
4. タバサとも一応会いたい。
5.朝倉に報復。
6.素子に私怨。潜在的な恐怖は存続。

【衛宮士郎@Fate/stay nigh 死亡確認】

※みせかけミサイル@ドラえもん は近くに落ちています。素子はその真贋を知りません。

54修正  ◆B0yhIEaBOI :2006/12/18(月) 01:14:35 ID:pRM1iolq
最後の行に追加

※衛宮の投影した 名も無き剣@Fate/stay nigh は、衛宮の遺体の近くに落ちています。
55「無事でよかった」 ◆tC/hi58lI. :2006/12/18(月) 21:24:36 ID:7rYmlqyk

 子供の体力には、限界がある。

 ましてや、自分を上回る体格の人間を背負っていては。
 瓦礫や割れガラスの散らばった悪路を歩いていては。




 行く手に病院が見え、しんのすけが歓声をあげる。
 「ヘンゼル、もうすぐだゾ!」
 「……待って」
 意識をうっすらと取り戻したヘンゼルが、囁きかける。
 「病院……は、行かないほうがいい……」
 「やせガマンはよくないゾ!」
 「違うよ……」


 辺りに転がっている壊れたマネキン。
 剥がれた舗装の破片の積もりかた。
 大小点々と落ちている、赤いしずく。

 周囲に見える破壊の痕は、明確な方向を持って伸びていた――――行く手の病院の方へと。


 しかし、しんのすけは足を止めない。
 小さな足で踏ん張って、一歩一歩、歯を食いしばりながら歩む。
 「そんなの関係ないゾ! いまはヘンゼルがお大事なんだゾ!」
 しんのすけの視界を遮るようにして、ヘンゼルは瓦礫の一所を指差した。
 「……ほら、ダメだよ」
 「ヘンゼル! 弱気はよくな……」
 「ね……。……そこに、天使さまが、いる……」
 言い返す途中で、それを視認したしんのすけの股座がきゅっと縮み上がった。

 シロがお残ししたエサのお肉にケチャップをかけたような何かが、瓦礫に半ば埋もれて大の字に倒れていた。
砕かれた頭部がこちらを向いている。

 目が、あってしまった。


56「無事でよかった」 ◆tC/hi58lI. :2006/12/18(月) 21:27:18 ID:7rYmlqyk
 しんのすけは裏返った悲鳴をあげて後ずさった。瓦礫に蹴躓き、尻餅をつく。
 ヘンゼルが小さな背中から滑り落ち、瓦礫の上に転がった。開いたままの傷口に舗装の破片が当たり、
苦しそうに顔を歪める。
 ヘンゼルは痛みに耐えながら、しんのすけの肩にしがみついた。
 
 「わかった? ……病院には、行かない方がいいよ」
 「で、でも……戻ったら、さっきのおねいさんがいるゾ!」
 「……」
 「……ヘンゼル、ごめん……」
 しんのすけは、鉛のように重くなった足を持ち上げ――一歩を踏み出す。

 病院の、方向へと。

 「し、心配、いらないゾ……。
 び……病院に行って、もし、さっきのおねいさんみたいなおっかない人がいても、
その時はオラがおにいさんを守る。さっきはおにいさんが助けてくれたんだから、こんどはオラが
おにいさんをお助けする! オラの父ちゃんや母ちゃんだったら、きっとそうするから!」
 「……」
 できれば、駄目だと言いたかった。
 だが、それよりしんのすけの体力が、ヘンゼルの容態がもうもちそうになかった。
 せめて破壊の主が去ったあとであることを祈るしかない。
 ヘンゼルはしんのすけの肩に顎を押し当てて頷いた。
 綺麗な額から滴った脂汗が、しんのすけの服に染みをつくっていた。
 
 「ふんぬ〜〜〜〜〜!! の、野原しんのすけぇェ〜〜……」
 しんのすけは、両足を瓦礫に突き刺すようにして踏ん張りなおす。
 ヘンゼルは再び意識を失ったらしく、しんのすけの肩にかかる重量がずっしりと増す。
それは、命そのものの重みだ。
 それを悟って、しんのすけは奮い立つ。
 オラが、おにいさんをお助けするんだ……!

 「ファイヤ―――――――!!」

 しんのすけも汗だくである。最後の力を振り絞ってヘンゼルを背負いなおし、
病院に向かってよたよたと走っていった。
57「無事でよかった」 ◆tC/hi58lI. :2006/12/18(月) 21:29:22 ID:7rYmlqyk


 「オ、オラ、もうクタクタだゾ〜……」
 ヘンゼルを簡易ベッドの上に寝かせると、しんのすけはリノリウムの床の上にぺしゃんと転がった。

 病院にようやくたどり着き、外と同じく荒らされていたホールを抜け、その先の廊下を曲がった先にある
部屋のひとつに転がり込んだところである。
 その部屋に窓のないことをいぶかしんだが、ランタンで照らすと理由が分かった。
 しんのすけも一度か二度見たことのある、レントゲンの機械が置いてあった。
 おそらくここはX線室なのであろう。
 部屋自体はひどく狭かったが簡易ベッドも一応ひとつ置いてあり、とりあえず二人はここに落ち着くことにした。
 ぐったりしているヘンゼルを、苦労しながらも脱衣籠に入っていた患者服に着せ替えさせ、タオルケットを掛ける。
 それが終わってようやく、しんのすけも休憩である。 

 「パンツまで汗びっしょりで、きもちわる〜……」
 しんのすけも汗でぐっしょりのズボンやパンツを脱ぎ捨てた。
 そしてヘンゼルの枕元にのぼり、ベッド脇にある電灯のスイッチに手を伸ばそうとして、
 「明かりは点けたら駄目!」
 ヘンゼルの鋭い叱責に、慌てて手を引っ込め戻る。
 頭の上をぞうさんに横切られ、ヘンゼルがわずかに顔をしかめた。

 「んもう、真っ暗だとお手当てしにくいゾ〜」
 文句を言いつつ、しんのすけはかいがいしくヘンゼルの世話をする。
 額の汗を拭き、目隠しのカーテンを側に立て掛け、ちょこまかとベッドの周りを動き回ってヘンゼルの顔をのぞきこむ。
 「おケガの具合、どう?」
 ヘンゼルは、答えない。
 ただ、苦しげに顔をしかめるのみ。
 「寒い? 痛い?」
 ヘンゼルは、答えない。
 ただ、蒼ざめた顔で全身を震わせている。
 セイバーに切りつけられた傷口はいまだ開いたままで、手で必死に押さえているのが毛布の隙間から垣間見えた。

 寒くて、痛いんだ。
 しんのすけはそう判断する。
 「待っててね、オラ、マキロンとバンソーコーと毛布とってくるから!」
 言うなり、床に放り投げていたズボンとパンツに再び足を通す。
 「う゛」
 冷たくなった濡れパンツが、股間にしっとりと張り付いた。
58「無事でよかった」 ◆tC/hi58lI. :2006/12/18(月) 21:32:05 ID:7rYmlqyk


 しんのすけは、薄暗い病院の廊下にひとりで飛び出した。


 「お〜……」
 
 誰もいない。
 受付のおねえさんも、白衣のお医者さんも、ベンチにたむろしているおばあさんたちも、本当に誰も居ない。
 ただ、匂いがする。埃っぽさと、消毒液と――――
 「なんだコレ? ヘンなニオイがするゾ……」
 みさえが魚をさばいている時にする生臭さに似た悪臭を気にしながら、しんのすけは廊下の奥の闇へと駆け出した。


 ・

 ・

 ・


 「んもう、だいじなものがすぐに出てこないなんて、みさえよりお片付けのヘタクソな病院だゾ!」
 怒りながら、しんのすけは廊下をまた曲がる。
 病院だけあって部屋はたくさんあったが、ほとんどの部屋が施錠されており、
空いていたのはただの事務室や休憩室ばかりであった。勿論、お目当ての包帯や薬は置いてない。
 しんのすけの焦りはつのるばかりである。
 といっても、その事務室では分厚い漫画雑誌を、休憩室ではお茶菓子をしっかりがめてきたが。

 ランタンを掲げながら、しんのすけは病院内を疾走する。
 部屋を確かめては廊下を右に折れ、左に折れ、また左に折れ――……

 目にとびこんでくる”小児科”のプレート。
 ドアに体当たりする――――開いてる!

 勢いのまま中に転がり込む。
 手から離れたランタンが部屋の奥に転がっていった。
 ランタンは正面奥にある窓と、その下の流しと、横にある棚を照らし出す。
 「あ、あったゾ!」
 しんのすけは床を這い、棚に近寄る。
 灰色のスチール棚には難しい名前の書かれたダンボールと、空の空き瓶と、包帯とガーゼが
きちんと整頓されて詰まっていた。
 「おお、包帯さん見っけたゾ!」
 包帯とガーゼをありったけデイパックに放り込み、しんのすけはさらに探す。
 「マキロン、マキロンはどこ?」
 棚の最下段に押し込まれていたダンボールを開けてみると、円筒形のプラスチックボトルがずらりと出てきた。
 手に持って振ってみると、ちゃぷちゃぷ音がする。透明な液体は消毒液そっくりに見えた。
 「これも持ってくゾ。あとは……」
 ボトルをしまいながら、しんのすけは目に付いたもう二つの物をデイパックに突っ込んだ。デイパックの口には
幾分大きいサイズだったが、しっかりと収納できた。

 「よし! ヘンゼルのところに帰……」
 部屋から出たしんのすけの足が、ぴたりと止まる。



 「……ヘンゼルのいる部屋、どっちだっけ……?」


59「無事でよかった」 ◆tC/hi58lI. :2006/12/18(月) 21:33:29 ID:7rYmlqyk

 「んーと……」
 緑にほの光る非常灯を頼りに、しんのすけは暗い病院内をさまよう。
 「なんだか、こっち違う気がするゾ……?」
 非常灯に頼った結果、ヘンゼルのいるX線室とは全く逆、裏の搬送口の方へと進んでいることにしんのすけはまだ気付かない。
 「うぇえ〜、おまけに、さっきよりヤなニオイ……」
 思わず踵を返したくなるが、今は一刻も早くヘンゼルのもとに戻り、お手当てをしなければならないのである。
 しんのすけはガーゼをひと巻き取り出し、ちょっとちぎって鼻に詰めた。
 「待ってるんだゾ、ヘンゼル」
 鼻声でつぶやき、次の非常灯の見える廊下の角を曲がった。
 さらに深く濃くなる闇と、得体の知れない嫌な予感。
 しんのすけの足は知らず震えていた。 



 そして、ようやく。

 しんのすけは、もういくつ目かも分からない廊下の角を曲がった突き当たりに、四角いドアの輪郭の形に光が洩れているのを見つけた。
 その上には、じっとりとした闇のなか光る「非常口」のランプ。

 「あそこから一回外に出て、それからもう一度さっきの入口に行けば戻れるゾ!」
 しんのすけは駆け出す。
 後ろから何かに追いかけられているように、必死になって走る。

 近づくほどに、足下にくちゃくちゃと何かを踏んづけた。汁気の多い、べたべたして柔らかいものが散らばっているらしい。
ニオイは今にも吐きそうなほど強まっていた。目にもしみて、思わずベソが浮かぶ。
 気持ち悪いのと怖いので、しんのすけは必死にドアに張り付いた。早く外に出たい。
 「ひ、ひらけ――! ゴマ――――!!」
 掛け声とともに踏ん張り、渾身の力でドアを押す。

 ごろっ……
 ドアの材が床を擦る音がして、重い扉が一気に開いた。
 一緒に踏み出した足元がずるっと滑り、しんのすけは前にのめり転んだ。
 「おわぁ!」
 べたん!
 ぶつけた顎に、何かがまつわりつく感触。
 「なんだコレ?」
 手に持ってみると、それは赤い布だった。しかもかなり大きく、しんのすけの股下をくぐって後方にまで丈がある。
 しんのすけはそれを追って何気なく振り返る。
 「お、あ……」


 しんのすけは、見た。

60「無事でよかった」 ◆tC/hi58lI. :2006/12/18(月) 21:34:55 ID:7rYmlqyk


 …………。

 うっすらと目を開けると、しんのすけが上に屈みこんでいた。
 「ヘンゼル、ただいま」
 表情はよく見えない。だけど、何かがおかしい気がする。
 「……な、何してるの?」
 「お手当て〜」
 「…………」
 ヘンゼルは自分の体のありさまを見るなり、ため息をついた。
 包帯やらガーゼやら得体の知れない赤い布やらで、傷の部位はいつの間にか見事にぐるぐる巻きにされていた。
無事な腕までなぜかぐるぐる巻きになっている。
 これじゃ、遊ぶことも――逃げることもできやしない。

 「おにいさん、オラがいない間もご無事でよかったゾ。オラ……」
 「わざわざ取ってきたの、これ?」
 「そうだゾ!」 
 しんのすけは、やけに元気良く答えた。
 「あと、こんなのも持ってきたゾ」
 しんのすけはベッドの下に潜り込み、デイパックから何かを引っ張り出した。
 一瞬、「何だろう?」と期待するが。

 「……毛布……と枕?」
 「そうだゾ!」
 てっきり武器になるものでも拾ってきたのかと思っていたヘンゼルは、拍子抜けする。
 「おにいさん、おケガしてるからゆっくり休まないとダメなんだゾ」
 ヘンゼルの頭の下に枕を押し込みながら、しんのすけは「うんうん」と頷く。
 「……ゆっくり休んでいる暇なんてないよ」
 緊張が緩んだことでどっと疲れが出、しんのすけの呑気さに釘を刺すためにいちいち口を開くのも億劫になってくる。
 「オラが見張りしてるから、心配ご無用だゾ」
 しんのすけが毛布を体にかけてくれる。
 ……寝ろってこと?
 「ダメだよ……。さっきのお姉さんみたいな人が来たらどうするのさ……」
 「その時は、またオラがおにいさんを背負って逃げるゾ!」
 ヘンゼルは、悲しい嘲りを含んだ笑みを向ける。
 「……勇ましいね。君、ほんとうにただの子供?」
 「オラ、ただの子供じゃないゾ。母ちゃんのかわりにひまわりのドウメンだってみれるんだゾ」
 「…………面倒?」
 「そうとも言う〜」
 「……」
 ヘンゼルは毛布を頭まで被った。体を動かしたことで傷が痛む。

61「無事でよかった」 ◆tC/hi58lI. :2006/12/18(月) 21:37:45 ID:7rYmlqyk
 「…………もし誰か来たら、僕はいいから逃げなよ」
 「んもう、そんなこと言うなんておにいさんのいけずゥ〜」
 ヘンゼルは毛布の中で寝返りを打ち、しんのすけに背を向けた。
 「……ああ、そうだ。
 包帯探しに行ってくれてありがとう」
 ヘンゼルにとってはなんの気もない、ただのひと言だった。
 「無事でよかったね」

 しんのすけの表情が凍った。

 何かまずいことを言ってしまった?
 気配で感じ取り、ヘンゼルは毛布から少しだけ顔を出して様子を窺う。
 しんのすけは、太い眉を曲げ、顔をくしゃくしゃにしていた。
 全身を震わせながら、つぶやく。
 「オラ、怖かった……。
 おにいさん、これがバトルロワイヤルなの? だったらオラ、バトルロワイヤルなんて嫌いだゾ……」

 しゃくりあげ、堰を切ったようにしんのすけは泣き出した。
 包帯などを探す途中で、何かを見てきたらしい。
 同情は沸かなかったが、ただその姿に、ヘンゼルは何かを思い出す。



 鈍器を握らされ、カメラの前に立たされていた。
 あの時、自分はこんな風に泣いていたような気がする。



 ……気持ち悪い。
 胸の中がおかしな感じだ。

 胸が――と意識すると、また傷の痛みが蘇った。しかし重く這い寄る疲労が、痛覚すら鈍磨させてゆく。

 しんのすけのしゃくり泣く声を聞きながら、やがてヘンゼルは気絶するように眠りに落ちた。
 しんのすけもいつしか泣きつかれて、ヘンゼルに寄り添うように眠っていた。

 幸いにも、疲れきって無防備に眠る子供たちをおびやかすものは来なかった。



 そして、夜はますます明けてゆく――――

62「無事でよかった」 ◆tC/hi58lI. :2006/12/18(月) 21:38:42 ID:7rYmlqyk
【D-3(病院内、X線室)・1日目 早朝】
【ヘンゼル@BLACK LAGOON】
[状態]:右肩から深い切り傷(最低限の応急手当済)、体力かなり消耗。
     包帯でグルグル巻きにされてて自由に動けない。ちょっとイライラ
     (※服を患者服に着替えさせられました)
[装備]:コルトM1917(残弾なし)
[道具]:支給品一式、コルトM1917の弾丸(残り12発) 、毛布と枕(病院の備品)
     ひらりマント@ドラえもん
[思考・状況]
1:この状態では満足に遊べないから、今は誰にも見つかりたくない
2:不快感の正体を探る(?)
3:(ある程度回復したら)襲ってくる奴をできるだけ「遊ぶ」
4:グレーテル、しんのすけの家族と合流

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:全身にかすり傷、頭にたんこぶ。精神的ショック
(睡眠により、疲労は回復しました)
[装備]:ニューナンブ(残弾4)
[道具]:支給品一式 、空のプラボトル×2
[思考・状況]
1:ヘンゼルの具合が心配
2:みさえとひろし、ヘンゼルのお姉さんと合流する
3:ゲームから脱出して春日部に帰る


[追記]
※ヘンゼルに施されたのは最低限の応急処置のみで、目覚めた後で「なんとか動ける」位までにしか回復しておりません。
※「ひらりマント」は、包帯と一緒にヘンゼルの体に巻きつけられています。

※しんのすけが小児科の診察室で発見したボトルの中身は、「消毒液」ではなく「生理食塩水」です。
すべてヘンゼルの傷口の洗浄に使ってしまったため、今は空のボトルのみです。

※二人とも眠ってしまっているため、誰かに起こされなければそのまま第一放送を聞き逃すおそれがあります。








 誰もいない映画館で、ひとりで映画を見ていた。

 大迫力のスクリーンの中では手に汗握る殺陣あり、涙をしぼる感動の名シーンあり、爆笑のギャグシーンあり、なんでもありだった。
 しんのすけも、ひまわりも、みさえも、ひろしも、みんなが主役だった。
 しんのすけはかっこよく、ひまわりは元気良く、母ちゃんは強く、父ちゃんは男らしく。
 みんなが協力しあって戦い、懸命に何かを目指していた。



 どこかで、リールが回っている。



 「しんのすけ」
 いつの間にか、しんのすけの横にひろしが座っていた。
 「しんのすけ……。無事でよかった」
 父ちゃんもご無事でよかったですな。

 ……父ちゃん、お顔がヘンだゾ?

 スクリーンには、夏のあぜ道を自転車に乗って走る父と子が映っていた。
 子供はだんだん成長し、今のひろしに近づいてゆく。
 場面は次々と変わり、今は若いひろしとみさえが満開の桜並木を歩いている。


 父の大きな手が、しんのすけの頭を撫でた。
 「いいか、しんのすけ」
 ひょいと持ち上げられ、強く抱き締められた。。
 「父ちゃんは、いつでも見守ってる。おまえの心の中にいる。
 ……だからな、泣くんじゃないぞ」


 会社帰りのスーツ姿のまま、夜道を走るひろし。
 みさえに抱かれた赤ん坊が、ひろしの差し出した指をけなげに握る。


 しんのすけを抱き締めたひろしの肩が、くっと震えた。
 「ああ……しんのすけが小学校にあがるところ、見たかったなあ。いつかしんのすけが大人になったら、
一緒に酒を飲みたかったなあ。しんのすけの嫁さんも、見てみたかったなあ。
 そんで、いつかは孫の顔とか……見たかったなあ」
 父ちゃん……泣いてる?

 「ひろし殿、もういいか?」
 「……ああ」
 隣から声がかかり、ひろしは洟を啜りながらしんのすけを離した。
 「しんのすけ」
 振り向くと、鎧甲冑を着込んだお侍さんが立っていた。
 誰?
 知っているのに、誰だか思い出せない。
 「しんのすけ、男ならば大切なものを守り通さねばならぬ。守るためには生きねばならぬ。
 ――生きよ、しんのすけ。
 そなたを命をかけて守ろうとしたものがいる。そなたには守るべきものがある」
 「しんのすけ。みさえとひまわり、シロを頼んだぞ」
 「父ちゃんは?」
 「……父ちゃんはな、先に行くのさ」
 「ずるいぞ父ちゃん!」
 ひろしと又兵衛が笑う。
 しんのすけが一緒になって笑うことの出来ない、どこか寂しい笑顔だった。


 「ほら、映画はまだ続いてるぞ」
 「お?」
 「あっちでまだ父ちゃんも頑張ってる」
 ひろしの指差す先、大画面ではひろしが敵相手に奮戦している。
 「がんばれ父ちゃん! 負けるな父ちゃーん!」


 しんのすけがまた映画に夢中になる横で、ふたりはそっと席を立つ。

 「あれ、お前もこっちなのか?」
 「旅は道連れ、独りでは淋しかろう。あちらでともに酒を酌み交わそうではないか」

 扉を開け、二人は映画館から出て行った。




 スクリーンの中で、まだ映画は続いていた。
 しんのすけが階段を走っているシーンだった。
 何度もつまずき、転び、傷だらけになって鼻血を垂らしながら、それでも懸命に上へと走っていく。
未来のために走っていく。








森林に鳴り響く叫び。
「俺はぁ、絶対にぃ。追いついてみせる!俺が最速の男どぅわぁああ!!!」
一発木に拳を打ち付けた所でようやく我に返る。

振り向くとすぐ隣の木により掛かり、嘔吐を繰り返している魅音の姿が。

もうどれぐらい吐いていたかすら覚えていない、ひょっとすると胃液すら残ってないかもしれない。
とにかくクーガーの速度についていくのはもう限界である、死んだ方がマシだ。
少しだけ楽になって来たところでクーガーがこっちに来る。少しボケてきた脳みそをフル回転させる。
確かにクーガーはあの得体の知れない能力を持ってるから強いし移動も早い。
だけどあの地獄に付き合わされてしまうことを代償と考えると…天秤ではつり合わない?
「すいません、イオンさぁん」
魅音だと突っ込みながら考える、落ち着け…どうやったらクーガーと上手く付き合える…?

カードは四つ。

「拒絶」

「同行」

「殺害」

「離別」

カードは引いたのは、クーガー。
「イオンさん」
「魅音だ!」
すいませぇんと頭を下げる、何回目かやりとり。さっき突っ込んだばかりだというのにまた間違えている。
わざとやっているにしても物凄くイライラする行為だ。
「イオンさん、私は速くあることに人生のすべてを賭けて来ました。でもその道は険しく、途中には大きな壁だって出てきます」
はぁ?と思わず言ってしまうぐらい訳がわからなかった。
「今さっき、私の前に壁が出来ました。だから、俺は。俺は最速である為にあの子を越えなきゃいけないんですよ」
「ちょ、ちょっと!身勝手すぎない!?こっちはあんたの暴走に付き合わされた上ほったらかしにされるって言うの?!」
なんでだろう、離れたい筈なのに。私は何を言ってるんだろう?
「それでも、やらなくちゃいけないんですよ。俺が速いって事を証明したいだけ。それだけなんですけど、俺にはそれしかないんです。
 ここは危険ですから私の支給品はあなたに差し上げますよ。…だから、その代わりと言ってはなんですが彼女を追わせてください」
クーガーがカバンから支給品を取り出してその場に落とす。カランカランと渇いた音を立てる。
そんなのにも目をくれず無意識のうちに怒鳴って反論していた。
「違う!そうじゃない!私が言いたいのは」
「本当は俺と別れたい。違いますか?そりゃあ誰だって吐くような思いを我慢してまで、誰かのそばに居ようなんて思いませんよ」
また心中を見抜かれ、魅音は下を向く。更に声を荒げて言い返す。
「分かったわよ、どこにでも行けばいいじゃない!」
そう言っているのにクーガーは笑っている。どうして笑っているのか、分からない。
「私の速さが有れば五分もいりませんよ、魅音さん。すぐ…戻りますよ。絶対にね」
「魅音だ!」
「合ってるでしょう?」
そこで気がつく、確かに今は間違えずに呼んだ。
物凄く言葉に出せない怒りが込み上げてくるが、それをぶつける気には不思議とならなかった。
「ははは、では行ってきますよ。俺自身の証明の為に」

周囲の物体を抉りとって、また地獄のような速度で駆け出していった。
これで…良かったのに、支給品までもらえたのに。ムカツく。ムカツくという気持ちも有るが寂しい気もする。
ここに来てからすぐクーガーは魔法のように現れて、魔法のように去っていった。
本当に魔法をかけられていたような気分になれる。不思議な感覚だけが残っていた。


男はひたすら速さだけを求めた。
速くある事が彼の生涯を賭けるべきことで。
きっとその精神までもが速さで出来ていた。
これからも、ずっと。永遠に彼は最速の座を求めつづける。


クーガーがおいていった支給品、大きな斧と奇妙な形の篭手。
斧のほうは少し重たかったが、両方とも使えそうなのでとりあえず装備することにした。
「そういえば、カブ以外の支給品。見てなかったな…」
気を紛らわす為になのか、彼女は急にデイパックのなかをごそごそと漁り始めた。
手を伸ばすとまず出てきたのはオモチャ、いわゆる戦隊系のロボットをもしたような感じだが…。
もう一度バッグに手を突っ込む、斧なんかよりももっと恐ろしいかもしれない、金属の感触が伝わる。
「これは…R…PG?」
一緒に付いて来た解説書をチラ見して名前を呼ぶ。先端には大きな爆弾のような物までついている。
何も見なかったようにデイパックの中へ戻す、コイツを食らわせれば…大体の人間ならひとたまりも無いはず。

「でも…もうアレは使えないかな」
一つだけ…オモチャ以下に成り下がってしまった物がある、遠めに映る木に激突したカブ。
その後に確認しに言ったのだが、プレスされたかのようにペシャンコになっていてとても使えそうに無い。
そんな速度が出ていたことを考えてもゾッとするし、これが自分だったらと考えるともっとゾッとする。

「とりあえず、どこに圭ちゃんたちがいるかわかんないし、適当に歩いていくしかないか」
疲労の所為か、その足は温泉の方向へと向かっていた。両手で斧を引き摺りながら、ゆったりとした足取りで。
【C-7 西部・1日目 黎明】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:乗り物酔い、軽い吐き気
[装備]:エスクード(炎)@魔法騎士レイアース、ヘンゼルの手斧@BLACK LAGOON、
[道具]:USSR RPG7(残弾1)、ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)、
    スーパーピンチクラッシャーのオモチャ@スクライド、支給品一式。
[思考・状況]
1:温泉に行って気持ちを落ち着ける。
2:圭一ら仲間を探して合流。
3:襲われたらとりあえず応戦。
4:クーガーとはできるだけもう関わりたくない(?)

【D-8 北部・1日目 黎明】
【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:俺が遅い…?俺がスロウリィ?
[装備]:ラディカルグッドスピード(脚部限定)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:宇宙最速を証明する(光を探し出して速さで勝つ)。
2:証明が終わったら魅音の元へ行く。
70雨は未だ止まず ◆q/26xrKjWg :2006/12/19(火) 23:29:29 ID:weHEuwEi
 ゲイン・ビジョウは市街地を進んでいた。慎重に、ゆっくりと。
 パチンコとトンカチという武装とは程遠い装備では、武装した襲撃者に対抗するのは極めて困難だ。故に慎重を期さなければならない。
 既に局所的な戦闘が始まっている。爆音や銃声、遠方に炎上する建築物までをも確認していた。
(ピープル同士の殺し合い、か)
 名簿に記載されていた80人のうち、自身とゲイナーを除いた78人。それらがどんな人間か、ゲインには分からない。中には殺人を是とする人間もいるかもしれない。そうでない人間がそうでないままであるとも限らない。
 不安。恐怖。怒り。憎しみ。悲しみ。あるいは愛も。そういった感情は、人間の理性を容赦なくすり減らしてゆく。
 そして理性を失った人間は、容易く互いに殺し合うのだ。
 今の自分では、殺し合いを止めることはできまい。自身を守ることだけですら危うい。そもそも、ギガゾンビが首輪の爆弾を破裂させただけで自分の命は尽きる。
 迂闊な行動はできない。
 そのことに歯痒さを覚えるが、かといって絶望するつもりは毛頭ない。
(それでも、必ずいるはずだ。希望を失わない人間が)
 共にエクソダスを目指す仲間が。
 それを探すために、危険があると分かっていてもこの市街地を彷徨っている。戦闘には近付けないとしても。ゲイナーと再会できれば理想的だが、会えずとも彼は彼で自分のやるべきことをやっているはずだ。その点に不安はない。

71雨は未だ止まず ◆q/26xrKjWg :2006/12/19(火) 23:30:42 ID:weHEuwEi
 そして、僅かに残る血の臭いを警戒しながらも、雨の中でゲインが見付けたのは――

   ―― Umi Ryuuzaki sleeps here :1980〜2031 ――

 ――そう刻まれたコンクリートの破片だった。

 空き地。土を掘り返した形跡。突き立てられた青い剣に、西瓜が一つ。意味するところは一つしかない。
 これは墓碑だ。
(ウミ・リューザキ。名簿にあった名前だな)
 彼だか彼女だかを殺した者がわざわざ埋葬したのか、その亡骸を見付けた者が哀れんで埋葬したのか。亡骸が身分を示すものでも持っていたならば、どちらも有り得る。
 絶望を抱いて死んだのか、希望を託して死んだのか。この墓の下で眠るウミ・リューザキは。それもまた、どちらも有り得る。
 どちらなのかを知る由はない。少なくとも、80人が79人に減った――それだけが厳然たる事実。
 装備の足しに剣を持っていこうかとも思ったが、やめた。たとえこのような状況であっても、死者を冒涜するのは気が引けたのだ。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

72雨は未だ止まず ◆q/26xrKjWg :2006/12/19(火) 23:32:08 ID:weHEuwEi
 雨が降ってきたが、それでも獅堂光は歩みを止めなかった。
 身体は悲鳴をあげている。理屈から言えば、どこかで身体を休めて多少なりとも回復するのを待つべきだ。だが、彼女を突き動かすものは理屈ではない。
(……海ちゃん、風ちゃん)
 それは意志だ。
 親友達との再会を求める、光の意志。
 信じる心が力になる――かつて彼女達が冒険を繰り広げたセフィーロという世界は、そういう世界だった。
 ここはセフィーロではない。そしてセフィーロと同じように、信じれば必ず救われる世界でもないだろう。
 それでも、光は信じていた。
(三人で、一緒に帰るんだ。東京に!)
 その願いを叶えられると。叶えてみせると。
 だから、足を前に踏み出すことができる。
 雨に打たれ、身体が冷えてゆくのを感じる。しかし、それ以上に熱い何かか自分の胸の奥にあるのを感じる。
(きっと大丈夫。セフィーロでの悲しい戦いだって、三人一緒に乗り越えられたんだ。ここでだって――)
 彼女の思考は、そこで唐突に途切れた。

73雨は未だ止まず ◆q/26xrKjWg :2006/12/19(火) 23:33:44 ID:weHEuwEi
 自身に何が起こったのか。まずはそれを理解しなければならない。
 光は必死に暴れながら、自分の喉に食い込む太い腕に指を突き立てる。身体の痛みを気にしている余裕はなかった。片腕の自由が効かない。後ろ手に極められている。驚いて武器――といっても単なる鉄の棒だが――も落としてしまったようだ。
 理解できるまでに、とても長い時間を要したような気がする。実際には数瞬でしかないのだろうが。
 涙で視界がぼやける。しかし、関係なかった。前には誰も姿も見えていなかった。
 ここがどういう場所なのかを思い知る。自衛できなければ、親友達と再会する前に自分が死んでしまう。
(そんなのは――嫌だ!)
 思い浮かぶ『言葉』。
 そう。それを言いさえすれば、この危機を覆すことができる。誰よりも彼女自身がそう信じている。
「炎の――」
 だが、光はそこで『言葉』を止めた。
「……手荒な真似をしてすまない。落ち着いて話を聞いてもらえないか?」
 ようやっと、光も気付いたのだ。
 さして強く締め上げられているわけではないことに。混乱して暴れることで、余計に食い込んでいただけだったことに。
 相手にこちらを殺すつもりがないことを悟って、光は安堵の溜息を漏らした。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

74雨は未だ止まず ◆q/26xrKjWg :2006/12/19(火) 23:34:32 ID:weHEuwEi
 見れば、相手はまだ幼さの残る小柄な少女だった。サラよりは下、アナ姫よりは上。微妙な年頃だ。
(見える範囲に武器はない――せいぜい取り落とした鉄の棒ぐらい。服の下に何か隠し持っている様子もない。それに、落ち着きを取り戻してくれたようだ)
 それまでに腕に指を突き立てられたり、向こうずねを散々蹴られたりもしたが、大した問題ではない。
 十分に状況を吟味して、ゲインは対応を決めた。
「俺はゲイン・ビジョウ。君は?」
「私は、光――獅堂光」
「ヒカル、か。これ以上君に危害を加えるつもりはない。しかし――」
 彼女を解放する。さりげなくデイパックを奪いながら。
 ふらふらと自分から離れて咳き込む光は、それに気付いた様子もない。
「――ついうっかり、で殺されたりするわけにもいかない。少し預からせてもらう」
 彼女はこちらを確認するでもなく、濡れた地面にへたり込んでいた。
 張り詰めていた糸が切れたのだろう。
 彼女の足音を聞き咎めた時から、予想はしていた。歩調が一定ではなかった。疲労が激しいのか、あるいは怪我でもしているのか。
「ともかく、どこかで雨宿りをしよう。ヒカルには休息が必要そうだ」
 万全とは言えない状態で、この雨の中を出歩くのは得策ではない。丈夫で体力的にも余裕がある自分とは勝手が違う。無理をさせるべきではない。

75雨は未だ止まず ◆q/26xrKjWg :2006/12/19(火) 23:35:39 ID:weHEuwEi
 だが、彼女は退かなった。
「……そんなこと言っていられないよ。探さないと。海ちゃんと風ちゃんを」
 決然とした意志。それが、雨に濡れた髪の合間から覗く彼女の瞳に宿る。
(悪くない目だ)
 しかしながら、光の無謀を許容するわけにはいかなかった。意志の力というものは確かにある。が、意志だけで全てを解決できるほど世の中は甘くない。
「そんな簡単な話でもないぞ? もし俺がその気になっている奴だったなら、さっきの時点で君は死んで……」
 ――死。
 そう、ゲインは気付いてしまった。残酷な現実に。
「……ウミだって? もしかしてウミ・リューザキのことか?」
「ゲイン、海ちゃんのことを知っているのか!?」
 彼女は気力を振り絞って立ち上がった。そのまま自分に掴みかかってくる。実際に自分を揺り動かすほどの力はなくとも。縋り付くようであったとしても。
 避ける必要はなかった。だからゲインは避けなかった。
 躊躇はある。それでも言わねばならないだろう。だからゲインは口を開いた。
「ウミは――」
 だが、ゲインの言葉は続かなかった。最後まで続ける必要もなくなった。

 ――放送が始まったのだ。
76雨は未だ止まず ◆q/26xrKjWg :2006/12/19(火) 23:36:57 ID:weHEuwEi
【E-5市街地 1日目 早朝】

【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:良好 ※雨で濡れています
[装備]:パチンコ(弾として小石を数個所持)、トンカチ
[道具]:支給品一式、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど) 、光のデイパック
[思考]
第一行動方針:海のことも含めて情報交換、まずは光を休ませたい
第二行動方針:市街地で信頼できる仲間を捜す
第三行動方針:ゲイナーとの合流
基本行動方針:ここからのエクソダス(脱出)

【獅堂光@魔法騎士レイアース】
[状態]:全身打撲(歩くことは可能) ※雨で濡れています
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
第一行動方針:ゲインから海のことを聞きたい!
第二行動方針:海、風との合流
基本行動方針:三人揃ってこの場所から脱出する
補足:可能であればギガゾンビを打倒

※光のデイパックの中身は以下の通りです。
支給品一式、ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、デンコーセッカ@ドラえもん(残り1本)

※クラッシュシンバルスタンドを解体したものは地面に落ちています。

※E-5の雨はまだ降っていますが、朝のうちには止むでしょう(黎明〜朝で4時間)。
77惚れ薬大暴走! ◆jzEmafGgFA :2006/12/20(水) 00:31:11 ID:7IRhqGht
あの子はどこだ?
くそ。早く見つけないと。あんな化け物が一匹だけとは限らない。
もし彼女が別の化け物に出くわせばブラッドパーティーの生け贄になっちまう。
だがどうして逃げた?俺は確かに勝手に水を飲んだけど…。

そこに一つの爆発音が響く。
戦争で使われる手榴弾の音に酷使していた。

誰だ?また化け物か。ここはパニックムービーの世界かよ。
いや。それならシュワルツネッガーばりのマッチョ男が現れるはずだな。
先のコスプレ少女などが出るはずが無い。
いってやるぜ。どうせ化け物が複数なら逃げても意味が無い。

ロックは駆け出す。爆発音の向こうに。
そして音が響いたところに近づくと建物のブラインドを利用し、そこから聞き耳を立てる。

「うっ。しっ士郎…どうし…て」
「そんなっ。僕は…僕は…そんなつもりじゃ」
「………」

女の子?泣き声?
それに少年の怯え気味の声?
爆発音がもし化け物の仕業ならここはとっくに静寂に包まれた死体置き場と化しているはずだ。
相手がネクロフェリアなら快楽を貪る嫌な音が聞こえただろうがそんな音も無い。
それに仮に化け物でも今なら出て行けば助けられる可能性が高い。
くそっ。行くぞ…。
78惚れ薬大暴走! ◆jzEmafGgFA :2006/12/20(水) 00:32:53 ID:7IRhqGht
ロックは建物から姿を出す。
そして目に入ったのは血を流し倒れている男にすがり涙を流す少女。
ありきたりな恋愛ムービーのお涙頂戴劇の光景が眼前で繰り広げられていた。
その隣にはアニメムービーに出てくるような青だぬきが倒れている。
そして茫然自失の少年にスパイムービーにでるような長身の女までいる。
センスの悪いB級ムービーのようなごちゃまぜの光景だ。

「おいっ君達。これは…?」

とりあえず泣いている少女だ。涙を流す少女をほうっておくなど出来ない。

「君…大丈夫か?」

ロックは少女に駆け寄る。
そこで素子はようやく新たな男の存在に気付く。
先の一件が少なからず彼女にも隙を与えていた。
それが運命を変える。

「えっ?……誰?」

「俺はロック…えっ!」

何だ?胸が高鳴る。心臓の鼓動が…止まらない。彼女の顔を見た瞬間。
服装と外見からするに彼女は恐らく西洋の貴族の娘だ。それとも小国のプリンセス?
どっちにしろ運び屋の俺とはまず身分が違う。
だいたいこの場でロミオとジュリエットをやってどうなる?いやこの場合タイタニックの方が近いか?
いや。そんなことじゃない。このブラッドパーティーの真っ最中に恋?
すぐ近くでモンスターがえさを求め彷徨う死地でラブストーリー?
イカレてる。大体俺は日本の女子高生じゃない。何が胸が高鳴るだ。
…でも…駄目だ。抑えられない。
79惚れ薬大暴走! ◆jzEmafGgFA :2006/12/20(水) 00:34:02 ID:7IRhqGht
「ちょっと…どうし…たの?私はルイズよ。…黙ってないで…何か言いなさいよ」
ロックの無言は無意味にルイズを不安にさせる。
素子もわけの分からない男の行動に自分自身次の行動に動くタイミングを掴めずにいた。
そして次のセリフが素子の動き出すタイミングを完全に破壊した。

「君が好きだっ!ここを逃げて結婚しよう。一緒に家族を作ろうっ!」



「…」
「……」
「……………」
「………………………………」
「…………………………………………………えっ!?」
80惚れ薬大暴走! ◆jzEmafGgFA :2006/12/20(水) 00:35:53 ID:7IRhqGht
長すぎる沈黙とその後に出た間の抜けた声。

えっ。こんなところで急に。私が魅力的過ぎる?でも駄目よ。私には才人が。才人以外…。
でもこんな真っ直ぐに?でもどうして。だけど…きゃっ。告白なんて初めて。嬉しいことは嬉しいわ。
そうね。…丁寧に断らないと。貴族として。勇気を出した平民に対する礼儀だわ。

間が抜けた返事をしつつルイズは必死で状況を整理する。
そして必死で断りの言葉を考える。
丁寧な断りの言葉。告白された経験の無いルイズには難しすぎる難題だった。

「えっと…その…」
「ルイズっ!」
「きゃっ」

しかし…
ルイズのそんな思考はなんのその。
ロックはルイズをお姫様抱っこで抱きかかえてしまう。
そして

「ルイズは貰っていきます。じゃあ俺はこれで」
ロックは走り去る。
とても早く。

「えっ…おい待てっ!」
そのやり取りは一瞬だった。
あまりのことに素子は頭が飛んでいた。
この場でプロポーズとその後の奪還劇。
一瞬メロドラマの世界に迷い込んだような錯覚を素子はしてしまった。
それが完全に彼女の反応を1テンポも2テンポも遅らせてしまった。

「はあ……。いったいなんなんだ」
そのため息は今日で一番深かった。
いや、これを越えるため息は生涯無いかもしれない。

「なんだったの?いったい?今のは?」
太一もその衝撃の1シーンは傷の痛みを忘れるには十分すぎた。

青だぬきはまだ気絶していた。
81惚れ薬大暴走! ◆jzEmafGgFA :2006/12/20(水) 00:38:02 ID:7IRhqGht
【F-1駅前・1日目 早朝】
【草薙素子@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:中程度のダメージ 、先ほどの光景に唖然
[装備]:ベレッタ90-Two(弾数16/17)
[道具]: 荷物一式×3、ルールブレイカー@Fate/stay night、トウカの日本刀@うたわれるもの
    水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、もぐらてぶくろ@ドラえもん、バニーガールスーツ@涼宮ハルヒの憂鬱
    獅堂光の剣@魔法騎士レイアース、瞬間乾燥ドライヤー@ドラえもん
[思考]:
1.猫型義体から情報を得る。
2.駅施設の探索。
3.バトー、トグサ、タチコマを探す。
4.ルイズを連れ去った男が気になる。
5.首輪を外すための道具や役立ちそうな人物を探したい。
6.朝倉(顔と名前は一致せず)を警戒。
7. ギガゾンビの”制圧”
8.同行者の仲間を探す。
[備考]:参加者全員の容姿と服装を覚えています。ある程度の首輪の機能と構造を理解しました。
   草薙素子の光学迷彩は専用のエネルギーを大きく消費するため、余り多用できません。
   電脳化と全身擬体のため獅堂光の剣を持っても炎上しません。


【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:右手に銃創も痛みは忘れた、先ほどの光景に唖然。
[装備]:なし
[道具]: ヘルメット、支給品一式
[思考・状況]
1:後悔
2:さっきの何?
基本:ヤマトたちと合流

【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ、気絶
[装備]:無し
[道具]:"THE DAY OF SAGITTARIUS V"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱 、支給品一式
[思考・状況]
1:気絶中
2:ヤマトを含む仲間との合流(特にのび太)
基本:ひみつ道具を集めてしずかの仇をとる。ギガゾンビをなんとかする

※みせかけミサイル@ドラえもん は近くに落ちています。素子はその真贋を知りません。
82惚れ薬大暴走! ◆jzEmafGgFA :2006/12/20(水) 00:39:09 ID:7IRhqGht
「ちょっと。下ろしてよ」
ルイズは自分をお姫様抱っこのまま走り続ける男に非難の声を向ける。
しかし男は決して走る速度を緩めなかった。
「ルイズ。山頂の寺で結婚式だ。二人はいつまでも一緒だ」
そうだ。俺とこの子は恋愛映画の主人公。
誰にも二人は切り裂けない。

「って何勝手に話し進めてるのよー」
少女の声が響いた。
とても高く。切ないほどに高く。


すぐそばまで朝が、第一回放送が忍び寄っていた。


【F-2歩道・1日目 早朝】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:健康 、精神高揚
[装備]:ルイズの杖@ゼロの使い魔
[道具]:支給品三人分(他武器以外のアイテム2品)・どんな病気にも効く薬@ドラえもん・現金数千円
[思考・状況]
1:ルイズと結婚
2:山頂の寺まで走る。
[備考]
1:支給品は一つのデイパックへまとめてあります。
2:ロックの水分は喪失。 
3:惚れ薬を微量服用のため、ルイズを愛しています。効き目は数十分程度ですが切れても記憶は残る。

【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:疲労大。左手中指の爪剥離。精神不安定。
[装備]:グラーフアイゼン(数時間は使用不能)
[道具]:なし
[思考・状況]
1.ロックから逃げたい。
2.突然の出来事に混乱
3.才人と合流する。
4.魔力回復後にグラーフアイゼンを使いこなす。
5. タバサとも一応会いたい。
6.朝倉に報復。
7.素子に私怨。潜在的な恐怖は存続。


※ロックは冷静さを欠きルイズを溺愛したまま走っています。
ルイズの悲鳴はある程度遠くまで響いています。
83嘘と誤解と間違いと(1/11) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 00:06:06 ID:PYBWnBl0
2人の少年は闇の中を歩いていた。
夜空は白々と明け始めている。
だが闇は依然濃い。
夜の帳が降ろされた暗い道は少年達の勇気を削ぎ落とす。
それが頼れる大人達との死別の後ともなれば、尚更の事だった。
「みんな、死んじゃった」
少年のび太は呟く。
「しずかちゃんは殺されて。キートンさんも殺されて。
 あの車椅子の女の子も。……銭形警部だって殺されてしまったんだ」
嘆く。
諦める。
絶望する。
弱音を吐く。
……屈服する。
「結局、ギガゾンビの奴のいう通りなんだ。
 ぼく達、何もできずに苦しんで死ぬんだ」
一度はギガゾンビに対して怒りを胸に刃向かおうとした。
だけど結果はこの有様だ。
のび太はバトルロワイアルにまるで歯が立たなかった。
キートンは殺されて、名も知らぬ車椅子の女の子も殺されて、銭形警部までもが殺された。
どれもこれも目の届かない場所で。
「ぼく達、逃げてばっかりじゃないか」
「…………ちがうよ、のび太」
否定するスネ夫の声だって震えていた。
スネ夫だって何もできない。虚勢を張っていた。
「そうだよ、確かにしずかちゃんも、はやてちゃんも殺された。
 銭形のおじさんだって、きっと殺されちゃったんだ」
だけど。
「でも銭形警部は言ったんだ。
 『逃げろ』って。それと……『君を保護する』って」
だけどスネ夫は、見栄や虚勢を張る事だけは得意だった。

「ボク達、銭形のおじさんを嘘吐きになんてさせないよ。ぜったい、生きのびてやる。
 それがボク達の戦いなんだ!
 生きよう、のび太!
 ギガゾンビなんかの言うとおりになんて……なってたまるもんか!」
だからぼろぼろと泣きながらでもそう言えた。
心がひび割れてたまらないのに、必死に虚勢だけは張って見せた。
その虚勢はいつだって、のび太の心を抉るのだ。

(『逃げろ』……)
のび太はその言葉を頭の中で反芻する。
(『逃げろ』……『逃げろ』……『逃げろ』……)
何度も何度も繰り返す。
(そうだ。キートンさんも、そう言った)

『のび太君は……今のうちに、逃げろ……』

「キートンさん……」
最後に残された命までを使って必死にのび太を逃がした大人。
「銭形さん……」
自らの身を挺して死んでいった、警部さん。
(それから……)
本人から名を聞く間さえ無く殺されてしまった車椅子の女の子。
それにギガゾンビに殺されてしまった、しずかちゃん!
「…………そうだ。ギガゾンビの言いなりになんて、なってやるもんか」
ふと気づけば周囲は明るく照らされていた。
大通りの交差点。
ビルの明かりは消えていたけれど、幾つもの街頭の明かりが広い十字路を照らし出していた。
闇は拭われ――幾つもの影が交錯していた。
84嘘と誤解と間違いと(2/11) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 00:07:28 ID:PYBWnBl0

       *

「それでその杖、本当に頼りになるのぉ?」
「少なくともあなたを見つけたのはこの杖のおかげよ」
『Yes my temporary master(はい、仮マスター)』
「あら、そうなの」
堕天使の様な人形と魔法少女が夜の街角に潜んでいた。
つまり水銀燈と遠坂r……カレイドルビーである。
「レイジングハート、残る距離は?」
『前方20ヤード。明かりの下に出ます』
言葉通り、2人の少年が街頭の明かりの下に姿を現した。

その少年達はボロボロだった。
傷はさほどでもない。せいぜい擦り傷程度だ。
だけども心身共に疲れ果て、今にも野垂れ死んでしまいそう。
デイパックも手放していて、互いに握る掌だけが確かだった。
背の低い方に手を引かれている眼鏡の少年は銃を持っていたけれど。
『眼鏡の少年の銃は弾切れのようです』
「……そう。完全に無防備って事」
「散々な有様ねぇ。警戒する意味なんて無かったじゃない」
彼女達は凛のエリアサーチに引っかかった一般人並魔力の参加者に対し、
念のために様子を見ようと街角に隠れていたのだ。
凛の本音は出来るだけ魔法少女姿を人に見せたくなかったからというのもあるのだが。
「警戒するに越した事は無いわ。今後も出来るだけ隠密行動で行くわよ。
 エリアサーチなんて何発使っても屁でもないもの」
「あら、下品ねぇ」
「…………わ、悪かったわね」
強い魔力を持たない相手は見つけづらく、昼間では視認の方がマシな位だが、
それでも夜間、それも障害物の多い町中では十分に役に立つ。
そして強い魔力を持つ存在なら、同じエリア内に居ればほぼ網羅できる程に範囲が広い。

「それで、あの2人は放っておくのね?」
「ええ。流石に見ず知らずの他人を保護するほどお人好しじゃないわ」
水銀燈を助けたのだって情報収集の為と、戦力になるからだ。
少なくとも自他に対する建前としてはそうだ。
一般人を巻き込まないのは魔術師のルールだが、それ以外の死因までお節介は焼けない。
(士郎の馬鹿じゃないんだし)
馬鹿みたいに正義の味方になろうとする男を思いだす。
あいつはきっといつも通り無茶無謀に突っ走っている。
早く見つけないといけない相手の一人だ。
「とにかく次よ、次! ――Anfang!
 魔力を探して、レイジングハート」
『Area Search』
レイジングハートを使い再びエリアサーチを発動する。
『新しい魔力反応を確認。彼らの後方150ヤードです』
「そう、それじゃそっちを……」
確認に行こう、そう言おうとした時。
『魔力の集中を確認』
「……なんですって?」
凛の表情が強張る。
通りの奥の闇にで微かに、冷たい鏃が星明かりを反射した。

       *
85嘘と誤解と間違いと(3/11) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 00:08:47 ID:PYBWnBl0
(見つけた。……『標的』だ)
左手の中でクラールヴィントの振り子石が薄闇の奥を指す。
所々にある街灯の明かりが、彼らをぼんやりと浮かび上がらせる。
魔力の網に掛かった不幸な2人の少年を。
子供達は見て判るほどに疲弊し、消耗し、力を失っていた。
哀れなほどに弱かった。
例え如何なる武器を持とうとも、今の彼らに力は無かった。
それでも容赦は出来ない。その弱ささえも人を傷つける事が有るのだから。
誰かを失うことを容認できない強すぎる想いが、他の全てを無価値とする事も有るのだから。
「あの父親のように。……そして今の私のように、か」
苦笑し、自嘲する。
(しかし2人、それも少し距離が有るな……どうする?)
相手は無力だ。飛行して突撃し、一気に仕留めるのでも確実だろう。
距離を詰めるまでの間に逃げられたら?
狭いとはいえ感知の網から逃れられる事は無いだろう。
しかし手間取れば自らの姿を他の誰かに見られる危険があった。
(安全を期すか……)
シグナムはまずは弓矢を手に取った。
あの2人は良い友であると見える。
ならば片方の足を止めれば、もう一方も逃げる足を失うはずだ。
騎士として許されぬ外道の戦術。
「…………私は最早、ただの修羅だ」
それでも手は止まらなかった。
確実に射抜けるように、2人が街灯の多い交差点に出るのを待ってから。
魔力を篭めて撃ち放たれた矢は、朝日の上る前の闇を切り裂いて飛んだ。
横に落ちる涙のように。

       *

いきなり酷い衝撃が有って。
目の前が真っ赤になって。
激痛が走った。
「う、うわあああああああああああぁっ!!」
「のび太!?」
何が起きたのかまるで判らなかった。
痛い、というより熱かった。
目の前に地面があって転んだのだと思った。
だけど痛いのは足で、そこを見下ろすと……左足を、矢が貫いていた。
「わ、わあああ!! うわ、あ、あ、あし、あし、が、わあああああぁ!?」
「ヒィッ、の、のび太! しっかりしろ、のび太ぁっ!!」
少年達はどうしようもなく怯えていた。
頼れる大人達はもうどこにも居なくて、2人だけで夜を歩いていた。
誰かに襲われるかも知れないと怯えながら。
現実と化してしまったその恐怖に、もう抗う事なんてできなかった。
のび太は痛みにのたうち回り、スネ夫は無様に泣きついていた。
スネ夫が風を切る音にハッと頭を上げたその時。
スネ夫は確かに闇の奥から自分に向けて飛んでくる二本目の矢と。

夜の闇を切り裂いて現れた魔法少女の背中を見た。

『Wide area Protection』
86嘘と誤解と間違いと(4/11) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 00:09:46 ID:PYBWnBl0
透明な壁が彼らの周囲を覆っていた。
「あらぁ、助けないんじゃなかったのぉ?」
「き、気が変わったのよ!」
ガキンと音を立てて、矢が弾かれ地に落ちる。
薄い膜のような壁は、ヒビこそ入りつつも辛うじてそれを防いでいた。
「気が変わった? どうしてぇ?」
「それよりレイジングハート! この障壁、脆いわよ!?」
『違います、仮マスター』
咄嗟に話を逸らして杖にぶつけた疑問を、杖は静かに否定する。
『魔法攻撃です。矢に魔力が篭められています』
「な……!」
そういえば直前にもレイジングハートがそんな事を言った気がする。
その言葉で否応なしにも連想する男が居た。
弓矢での狙撃、容赦の無い戦術、そして魔術師。
(アーチャー? まさか!?)
一瞬の動揺を、杖は再び否定する。
『魔力パターン近似。ヴォルケンリッターのシグナムと推測されます』
次に動揺が浮かんだのはスネ夫だった。

       *

「レイジングハートだと!?」
シグナムも思わず動揺の声を上げていた。
横合いから飛び出した魔法使いの手に有る物は見間違えようもない。
高町なのはのインテリジェント・デバイス、レイジングハート。
専らシグナムと戦ったのはフェイトとそのデバイスであるバルディッシュだが、
レイジングハートにもシグナムのデータは記録されているはずだ。
更に先ほどの狙撃においてシグナムは、弾道の安定と加速の為に矢に魔力を篭めた。
彼女の必殺技である魔法と同じ要領で、だ。
その結果としてはもちろん……狙撃者の正体に気づかれた可能性がある。
「クッ……失敗したな」
自らを知る者の中にデバイスを入れ忘れていたのは大きなミスだ。
普段は持ち主とセットで行動していたから、今回も纏めて考えてしまった。
だがデバイスはバラバラに支給されている。
こうなる事も考えておくべきだった。
(こうなれば、多少姿を見られるのもやむなしか……)
騎士服姿の女がゲームに乗った事を知られるよりも、
ヴォルケンリッターのシグナムがゲームの乗った事を知られる方が危険だ。
それは主はやてへの疑惑と危険に繋がる。
危険因子は確実に始末しなければならない。
幸い今なら、近くの建物に逃げ込みはしたがすぐに探知で補足できる。
狙撃では無理だが、ならば直接刃を交えれば良いだけの事。
答えは決まった。迷うことは何も無い。
「往くぞ」
シグナムは武器を刀に持ち替え、狙撃を行ったビルの窓から飛び出した。


――修羅が夜天を飛翔する。


       *
87嘘と誤解と間違いと(5/11) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 00:10:51 ID:PYBWnBl0
それはあの静謐な病院で食事を取っていた時の事だった。
はやての作った早すぎる朝食を食べながら、不安を振り払うようにスネ夫はよく喋った。
銭形警部と話した事。ドラえもんの事。友達の事。
自分より年下の少女に、ボクはちっとも怯えてないって見栄を張りたかった。
だけど、友達の話をしていたらどうしてもしずかちゃんの事を思いだしてしまった。
みんなを支えられる強さを持った女の子。のび太が片思いしていた女の子。
失ってしまった、無くしてしまった、大切な一人の友人。
だから話しながらぽろぽろと泣き出してしまった。
だって、例え無事に帰れても、あの楽しい毎日は戻ってこない。
欠けてしまった、壊れてしまった一欠片が、穴となって残ってしまう。
その事に気づいた途端、無性に悲しくてたまらなくなってしまった。
ほっそりと柔らかい手が、そっとスネ夫を抱き締めた。

(ママ……?)
違う。ママの手はもっと大きくて、なのにこの手はそれ以上に力強かった。
そして、ママみたいに優しかった。
「スネ夫にいちゃん、元気だしてな」
顔を上げると、目の前に居たのははやてだった。
歳はスネ夫より幼くて、その背丈は低身長がコンプレックスのスネ夫よりも更に低い位だ。
小さくて、スネ夫の様に健康な体も持っていない。
「泣いてたら、考えが悪い方にばっかり行ってしまうで?」
なのに優しくて、強くて、真摯にスネ夫の事を心配してくれていた。
「……ムリだよ」
だけど挫けてしまいそうになる。
「だってボク達の首には爆弾付きの首輪が付いているんだよ!?
 逆らえばドカンだ! しずちゃんやあの男の人みたいに!
 言いなりになってみんな殺し合わされてるに、どうやれば生きのびれるっていうの!?」
「スネ夫君、まだ希望は有る! 例えば……ルパン達のような!」
「でも銭形のおじさん!
 この首輪はドラえもんと同じ、ううん、それ以上に未来の技術で作られてるんだ!
 そんな物をほんとうに外せるの!? このどこかもわからない所から逃げられるの!?」
「……外せるよ」
答えたのははやてだった。
「みんなの力を合わせたら、絶対外せる。
 わたし達だけやったらどうにもならへんけど、みんなの力を合わせれば、それは絶対や」
はやてはそれを信じていた。信じて、確信して、それを表情に見せていた。
「ど、どうして言い切れるのさ!?」
「そやなー……信じてもらえるかわからへんけど」
はやては苦笑すると。
「わたし、魔法使いなんよ」
そう言ってはやては色々な事を語ってくれた。
ヴォルケンリッターという名の家族の事。友達のなのはやフェイトの事。
以前は闇の書と呼ばれていた夜天の書の事。自分が魔法使いである事。
そして筆談で、首輪に盗聴の機能が有ることと、その内部構造を解析したと書いて見せた。
「といっても今は、もう少ししないと殆ど魔法使えへんのやけどな。
 ……ほんとに足手まといやな。危なくなったら置いていってくれてもかまへん。
 でもこの書が使える用になったら、わたしがスネ夫にいちゃんと銭形さんを護ってあげる。
 うちの子達と一緒に、きっとみんなを護ってあげる。
 約束や」
それはまだ先の事。
今はまだ、八神はやては無力で、歩けもせず、暴力には抗えない。
彼女を護るヴォルケンリッターも側に居らず、解析した首輪の構造を理解出来る者も居ない。
「……はやてちゃんは、どうしてそんなに恐くないの?」
「だって、前向きに考えてたら前に進めるやろ?
 わたし、立ち止まって死んでしまう方が怖いんよ」
だけどそこに有ったのはきっと、希望だったのだろう。だから。
「まもるよ」
希望を手放すまいと思った。
「それなら、ボ、ボクがはやてちゃんをまもるよ! 数時間だけでも!
 だいじょうぶ、ボクにはひらりマントが有るんだ! どんな奴だってへっちゃらさ!」
88嘘と誤解と間違いと(6/11) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 00:11:47 ID:PYBWnBl0
「よく言った、二人とも! だが君達二人はワシが護る。大人に任せたまえ!」
銭形警部が二人の子供を纏めてがっしりと抱き寄せて宣言した。

その言葉。その想い。その決意。その希望。
ほんの短い間だけ、スネ夫達三人の中に有った確かな絆。
スネ夫にのび太の手を引いて闇に飛び込む勇気をくれた、たいせつな想い出。

だけどスネ夫は約束を守れなくて、神父を食い止めているその間に、
八神はやては別の誰かの手で殺されてしまっていて……


(ボクのせいだ)
ヴォルケンリッターのシグナム。
スネ夫とのび太の背後から現れ矢を放った姿も知らない誰か。
(ボクのせいだ。ボクがはやてちゃんをまもれなかったから!)
だから復讐に来たのだ。大切な主の仇を討つ為に。
スネ夫の親友であるのび太を巻き添えにして。
(ボクのせいだ……!!)

「貫通して……硬い骨は避け、確実正確に筋を断ち切ってきてる。なんて精度」
「あらそう。それで私はどの位こうしていればいいのかしらぁ?」
「ンーッ! ンンーーッ!!」
ここは交差点から逃げ込んだ近くの路地から入ったとあるビルの二階、少し広い部屋。
水銀燈が羽根で縛り口を覆っているのび太を、カレイドルビー凛が手早く処置していく。
「千切れた血管や神経の接続に筋と靱帯の再生……かなりの難事だわ。
 士郎を治した時に比べれば楽だけど、あの宝石は今は無いのに……!」
凛の宝石よりも更に強大な魔力を秘めていた遺産の宝石。
かつて遠坂凛はそれを使い、奇跡的に、9割9分死体だった衛宮士郎の蘇生に成功した。
だが今はそれは無い。
『仮マスター、カートリッジシステムを使用しますか?』
「それは……」
レイジングハートの提案に一瞬思案する。
レイジングハートに内臓された、魔力を篭めた弾丸を使用した魔力補強システム。
確かにそれが上手くいけば、ブーストした魔力でこんな傷は一気に治療できる。
「……ダメよ。あなたの中に回復魔術は入ってないじゃない。
 あたしの魔術をあなたで増幅するには魔術の形式にある差異の調整を済まさないと。
 下手をすれば暴発した魔術で患部を逆に傷つけてしまうわ」
遠坂凛の魔術と、レイジングハートが教えられる魔法の構造はそれほど離れていない。
だが即座にそのまま転用出来るほどに近くも無いのだ。
(レイジングハートはあたしの魔術構造はベルカ式に似てるって言ってたわね)
ベルカ式のデバイスなら使いこなせたかもしれないが、レイジングハートはミッドチルダ式だ。
カートリッジシステムはベルカ式を参考に取り付けられた物だが、
あくまでカートリッジシステムの付いたミッドチルダ式デバイスなのである。
すぐにある程度使いこなす自信は有るが、少なくともこんな場面で使うにはリスクが大きすぎる。
「安心なさい、この位あたしに掛かれば一瞬よ!」
だからいつも通り、自分の魔術を発動する。
凛を重い疲労感が襲うが、この程度ならまだ大丈夫だ。
遠坂凛の魔術によってのび太の足の傷は見る見るうちに塞がっていった。
それを見て水銀燈は羽根を離した。
「ぷはぁ! あ、足が、ぼくの、ぼくの足が!?」
「落ち着きなさい! 治ってるはずよ」
「え、ほ、ほんと? ……痛ぅっ!?」
慌てて足を動かそうとしたのび太が痛みに顔を歪める。
「い、痛いよう!」
「しまった、ちょっと粗かったか……でも安心なさい、それも直に治るわ」
「直にぃ? いつまで待つつもりかしらぁ?」
しかし水銀燈はその言葉と痛みに焦る少年を嗤う。
「あの狙撃者、いつまで待ってくれるのかしらねぇ?」
「………………」
89嘘と誤解と間違いと(7/11) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 00:12:36 ID:PYBWnBl0
あの狙撃者、レイジングハートによればヴォルケンリッターのシグナム。
彼女が何故ゲームに乗った、あるいは理由有って二人の子供を狙ったのかは判らない。
そもそもどういう人物なのか?
「レイジングハート。ヴォルケンリッターっていうのはどういう連中なの?」
『夜天の主である八神はやてを主と慕う、夜天の書の守護騎士達です。
 このバトルロワイアルにおいてはヴィータとシグナムの二名が該当します。
 既にお話済ですが、彼らが使用するのがベルカ式の魔法体系です』
「……そのはやてっていう奴とヴォルケンリッターの性格は?」
『八神はやては私のマスター高町なのはの友人でもある穏和な少女です。
 殺し合いに乗る可能性は極めて低いでしょう』
「従者達の方は?」
『基本的には高潔です。ただし八神はやてに関連する事項を最優先するでしょう。
 また、彼女達の生命は八神はやてに依存しています』
冷静なレイジングハートの言葉に加え、震える言葉が更に推測を加速する。
「……ボクのせいなんだ」
スネ夫の震えた声が情報を加算する。。
「きっとボクがはやてちゃんをまもってあげられなかったから。
 約束を守れなかったから、殺しに来たんだ!」
「…………八神はやては、死んでいるの?」
「死んだよ! 殺された!
 ボクとのび太と、銭形のおじさんで怪物と戦ってる間に、だれかに殺されちゃったんだ!
 だから、だから……!!」
辿々しい叫び。だが一つ判ることが有った。
この少年は必死に出来るだけの事はした。それでも八神はやては殺されてしまった。
(このタイミングからして復讐の可能性が一番高いわね。まさか、誤解されている?)
何らかの理由で八神はやての死の原因がこの二人にあると思いこまれた。
その事に怒り狂った彼女の従者が敵討ちの為に迫ってきている。
そう考えるのが最も高い確率に思える。
目まぐるしい状況の中、彼女達は気づかない。
八神はやてに依存しているはずの騎士が生きている事。
その事が騎士達に最大最悪の誤解を生みだしている事に気づかない。
「目的が怨恨だとすると、狙撃失敗で諦めてくれそうにはないわね」
『加えてヴォルケンリッターが得意とするのは近接戦闘です』
「魔法を併用した白兵戦……まずいわね、距離を詰められたらやられる」
凛の表情に焦りが浮かぶ。
魔術師で有りながら肉体を強化しての格闘戦もそこそこ行える遠坂凛だが、
それだってその道のプロには到底敵わない。
「水銀燈、あなたは?」
「戦えなくも無いけど、あまり得意でもないわぁ」
こちらも不機嫌そうな答えが返る。
水銀燈は2時間前後前に妙なロボットの振り回したハンマーに吹き飛ばされた所だ。
庭師の鋏を振るう蒼星石や、妙に良いパンチを持っている真紅とは違う。
羽根による戦闘があらゆる距離に対応できるだけで、白兵戦は専門ではない。
近づけなければ良い話だが、近づかれると苦しいのは事実だった。
「まずい……逃げた方が良いわね。
 あたしのフライヤーフィンとあなたでこの二人を持って飛べば……」
『仮マスターの飛行魔法はまだ安定性に欠けます』
「無茶言わないで欲しいわぁ。私の羽はまだ治りきってないのよ?
 子供だからって人間一人抱えたら、のろのろと飛ぶ事しか出来なくなるじゃない」
子供1人だけなら、スピードを落とさずに高速で逃げられるかもしれない。
だが2人を持って運ぼうとすれば運ぶのがやっと。とても逃げきれる速度ではなくなる。
「だから、なんでこんな子達を助けようとするの? あなたには関係ないでしょうに」
「……幾つか聞きたい事が有るのよ」
「おバカさんねぇ。それで死んじゃったら元も子もないじゃない。
 言っておくけど、私は自分とあなたを優先するわよ?」
「あんたはそれで良いわ、水銀燈。
 とにかく、聞いた話だとベルカ式の魔術は不器用みたいだし、
 エリアサーチを繰り返して隠れながら進めば、逃げきれなくも……」
『ジャミングを確認』
90嘘と誤解と間違いと(8/11) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 00:13:29 ID:PYBWnBl0
息を飲む凛をレイジングハートの報告が畳みかける。
『情報戦型デバイスの力を借りているものと思われます。エリアサーチ不可能』
「……ヤバイ!」
凛が青ざめた次の瞬間、部屋の隅の天井がぶち破られる!
濛々と沸き上がる煙の中で小さくパキッと音がして、何かが砕け散った。
煙の中に浮かぶ影は刃を携えた長身の女。
その殺意は如何なる意思故かこれ以上無いほどに苛烈だった。
説得の余地は無い、そう思わせるのに十分なほどに。
「くっ」「フン……」
凛の指が、水銀燈の羽が煙に浮かぶ乱入者を指し示し、一斉に黒い弾幕が放たれる。
ガンド撃ち、そして水銀燈の黒い羽根。
だが乱入者シグナムはそれを尽く避け、かわし、切り払って凌いで駆け回る。
「なんて速さ……!? だけど!」
部屋の広さには限界が有る。どれだけ速かろうと二人がかりの弾幕は多すぎる。
シグナムはじりじりと部屋の隅へと追いつめられていく。……だが。
凛はシグナムの焦り無い表情と、その手の内にある見覚えの有る宝石を見た。
(まさか……!)
――曰く、遠坂凛の魔術はベルカ式のそれと近似した構造を持つ。
宝石が砕け散り、シグナムの刃に炎が灯る。
「――紫電一閃!」
閃光と爆発が全ての弾幕を吹き消した!

そして次の一瞬には既に目前にまで迫った騎士が、凛に刃を振り降ろして
91嘘と誤解と間違いと(9/11) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 00:14:28 ID:PYBWnBl0
『Flier fin』

その一瞬だけ前に辛うじて発動した飛行魔法が凛を後方に跳躍させた。
だがここは屋内。当然の事ながらその先に待つのは。壁だ。
「ぐぅっ!!」
頭を庇う間すらなく、凛は壁に向かって勢いよく激突した。
ぐったりと体から力が抜ける。
脳震盪だ。
たった十数秒の間だけ、凛は完全に無力と化した。
バリアジャケットが無ければ頭が割れていたかもしれない。
だがどちらにしろ結末は同じ、無防備と化した彼女に追撃を……

「もうやめてよ!」
スネ夫が叫んだ。
「ボクが悪かったんだ! 悪かったのはボクなんだ! だからもうやめて!
 ごめんなさい! だから、ごめんなさい、ボクが、ボクが悪くて……!」
要領を得ない叫びを上げて、スネ夫は無謀にも駆け出す。
シグナムを止めようと、凛を護ろうと、罪を償おうと駆け出した。
それだけならシグナムにとってはどうという事は無かった。
まずは一瞬で目の前に居るレイジングハートの使い手の魔法少女を始末して、
その後で子供達を無視して黒い羽根を飛ばす人形を撃破、その後で子供二人を殺せば良い。
あるいは魔法少女を始末して、人形と戦うついでに子供達を殺しても良い。
だがスネ夫の目の前に、黒い天使が舞い降りた。
シグナムに向けて腕を広げて、羽を広げて、薄い笑みを浮かべて舞い降りた。

――まるで身を挺して弱き人々を護る聖者のように。

「だ、だめだよ! やめて!」
その姿が銭形と重なって、スネ夫は必死に止めてと叫ぶ。
また悪夢が繰り返されるのか。また自分達を護って誰かが死んでいくのか。
そんな事はイヤだと思って、だけど叫ぶ事しかできない。
その一瞬でシグナムは考えた。
謎の魔法少女は動かない。ダメージが有って動けない。
そして黒い天使人形も、子供を庇って無防備な姿を晒していた。
それならその間に黒い人形の方を始末しても良いだろう。
その後でも魔法少女が起きあがるのには間に合うはずだ。
即断即決。千載一遇の勝機を逃すまいと矛先を変えてシグナムは加速する。
間合いは迫る。元来闘争を好む騎士は唯勝利の為の修羅と化して突き進む。
間合いは迫る。黒い天使は手を広げ羽を広げて待ち受ける。
間合いは迫る。小さな少年は泣いてそれを制止する事しか出来ない。
間合いは、詰まった。

シグナムは誤算していた。
この戦いを制する重要な一点。それは。
92嘘と誤解と間違いと(10/11) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 00:15:17 ID:PYBWnBl0


水銀燈にはスネ夫を護る気などこれっぽっちも無かったという事だ。


一気に振り下ろされた黒い翼は空気を掴み小さな体を瞬時に浮き上がらせる。
刃は虚しく水銀燈の居た場所を素通りする。
そして。

スネ夫の体という肉の塊に埋もれた。

「な……!?」
「ぇ…………?」
「ふふ、おバカさん」
驚愕のデュエットをBGMに水銀燈が背後で唄う。
そして、放たれる無数の黒い羽根が騎士甲冑を突き破りシグナムの背中を抉った。
激痛と共にシグナムは自分が敗北した事を悟った。
騎士甲冑に護られたおかげか、幸運にも自分がまだ生きている事も。
(撤退だ――!)
手の中に握り込んでいた宝石をまた一つ使用する。
解放された魔力がクラールヴィントを経て刀に収束、業火を発する。
スネ夫に刺さったままの刃が業火を、爆炎を解き放つ。
そのまま亡骸を焼き尽くしながら貫通して地面に叩きつけた刃はビルの床を破壊。
生まれた奈落がその上にある一人と一つを呑み込んだ。
轟音が響きわたり粉塵が舞い上がり瓦礫が奈落に吸い込まれるように落ちていった。
――戦いは、決した。

結局シグナムは何も知らずに戦いを終え、最悪の一人を殺した。
主である八神はやてが、この殺し合いの中で僅かな間だけ心を通わせた友を殺した。
何も知らず。何も気づかず。幸福な無知に守られたままに。
病院で誓った約束は一つも守られず。
銭形も、はやても、スネ夫も。
彼ら3人は皆、嘘吐きとなった。

       *

「ぅ……」
「お目覚めかしら、カレイドルビー」
楽しげな水銀燈の声に、凛はゆっくりと目を開く。
(頭がぐらぐらする……)
一体何がどうなったのか。そう、確か自分達は……
「そうだ、あいつは!?」
「撃退したわ」
そう言って水銀燈はくすくすと笑う。
「でも手傷を負わせただけ。急いで逃げなければまた来るわ」
「そう、それじゃ早くここを離れないと。
 撃退は出来ても、あっちは割と武器を使いこなしてるんだから次は危ないわ」
『賢明な判断です』
「そうね。幸いにも足手まといも減ったから、これで逃げきれるわねぇ」
「え……?」
ハッとなり周囲を見回すと視界に映るのは呆然としている眼鏡の少年だけだ。
それより少し背が低い少年の姿は、何処にもなかった。
ただ床に大きな穴が一つ空いていて、その周囲に少し血痕が散っているだけで。
「あの子なら殺されてしまったわよぅ?」
「……そう」
93嘘と誤解と間違いと(11/11) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 00:16:26 ID:PYBWnBl0
ギッと歯を食いしばる。
自分の無力が腹立たしいが、それ以外が生き残っただけでも良しとすべきだ。
そもそもあの少年と自分は何の関係も無いのだから、責任を感じる理由は無い。
……それでも悔やみの感情が無いといえば嘘になるが。
「行くわよ、レイジングハート、水銀燈。
 その子を連れて、飛んでここを離れるわ」
「どこへ行くの? それにどうして連れて行くのかしら? 聞きたい事ってぇ?」
「……その子、最初の会場であの変な男の事を知っていたわ。
 その子が落ち着くまでの時間と根掘り穴掘り聞く時間が欲しい。
 そうね、一度街を離れるわ。良いわね?」
「仕方ないわねぇ」
(いっそ気分転換に温泉に行くのも手かしら)
凛はどこかしら間の抜けた事を考えつつ。
「それじゃ行くわよ、レイジングハート」
『Yes my temporary master(はい、仮マスター)』
空が白々とし始めた早朝。
魔法少女は黒い天使人形と共に、1人の子供を掴んでひっそりと北東へと飛び去った。

       *

(さあ、これであの騎士はどう動くかしら?)
一度街を離れるのは面倒だが、種は撒いた。
あの騎士が殺したあの子供と、この子供を復讐の対象だと誤解しているなら、
もう一人のヴィータという騎士に自分達の悪評を撒いてくれるはずだ。
あるいはそれ以外の、この殺し合いの中で生まれた仲間達にだ。
(そう、カレイドルビーの敵をねぇ)
そうやって敵を増やし、それをカレイドルビーを利用して駆逐する。
今回は後れをとったが、それは彼女の非力さを意味しない。
至近距離の戦闘が苦手なだけで、後衛としては十分な火力が有ると見ている。
(ああそうか。壁も必要になるわねぇ)
もう一枚、利用できる壁が必要になるかもしれない。
後々で始末しやすい単純な性格であれば何より望ましい。
(わざと死なないように加減してあげたんだから、せいぜい騒ぎなさいよぉ? シグナム。
 ふふ、ふふふふふふ………………)
水銀燈は誤算していた。
それはシグナムが復讐の為ではなく、単純にゲームに乗って襲撃していた事だった。


【死亡 骨川スネ夫@ドラえもん】
94嘘と誤解と間違いと(報告) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 00:17:20 ID:PYBWnBl0
【C-6/山中/1日目-早朝】
【魔法少女カレイドルビーチーム】
【遠坂凛(カレイドルビー)@Fate/ Stay night】
[状態]:魔力中消費/カレイドルビー状態/水銀橙と『契約』
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(バスターモード)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、ヤクルト一本
[思考]1、高町なのはを探してレイジングハートを返す。ついでに守ってもらう。
    2、士郎と合流。ただしカレイドルビーの姿はできる限り見せない。
    3、アーチャーやセイバーがどうなっているか、誰なのかを確認する
    4、知ってるセイバーやアーチャーなら、カレイドルビーの姿は以下略。
    5、自分の身が危険なら手加減しない
[備考]:現在、カレイドルビーは一期第四話までになのはが習得した魔法を使用できます。
    ただしフライヤーフィンは違う魔術を同時使用して軟着陸&大ジャンプができる程度です。

【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:中程度の消耗/服の一部損傷/『契約』による自動回復
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考]1、カレイドルビーとの『契約』はできる限り継続、利用。最後の二人になったところで殺しておく。
    2、カレイドルビーの敵を作り、戦わせる。
    3、真紅達ドールを破壊し、ローザミスティカを奪う。
    4、バトルロワイアルの最後の一人になり、ギガゾンビにメグの病気を治させる。
[備考]:凛の名をカレイドルビーだと思っている。

【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:茫然自失/左足に負傷(走れないが歩ける程度に治療)
[装備]:ワルサーP38(0/8)
[道具]:
[思考]:色々有りすぎて考えがまとまらない。

水銀燈の『契約』について
厳密に言うと契約ではなく、水銀橙の特殊能力による一方的な魔力の収奪です。
凛からの解除はできませんが、水銀橙からの解除は自由です。再『契約』もできます。
ただし、凛が水銀橙から離れていれば収奪される量は減ります。
通常の行動をする分には凛に負荷はかかりません。
水銀橙が全力で戦闘をすると魔力が少し減少しますが、凛が同時に戦闘するのに支障はありません。
ただしこれは凛の魔力量が平均的な魔術師より遥かに多いためであり、魔力がない参加者や平均レベルの魔力しかない魔術師では負荷が掛かる可能性があります。
逆に言えば、なのは勢やレイアース勢などは平気です。

【D−4/不明(逃走)/早朝】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:背中を負傷(致命傷には遠い)/騎士甲冑装備
[装備]:ディーヴァの刀(BLOOD+)
   クラールヴィント(極基本的な機能のみ使用可能)(魔法少女リリカルなのはA's)
   凛の宝石×5個(Fate/stay night)
   鳳凰寺風の弓(矢22本)(魔法騎士レイアース)/コルトガバメント
[道具]:支給品一式/ルルゥの斧(BLOOD+)
[思考・状況]1凛と水銀燈(名前は知らない)を捜索して殺害する。出来ればのび太も。
       2はやて、ヴィータ、フェイト、なのは以外の参加者を殺害する。
       3ゲームに乗った事を知られた者は特に重点的に殺害する。
       4危険人物優先だが、あくまで優先。
       5もしも演技でなく絶対に危険でないという確信を得た上で、
        ゲームに乗った事を知られていないという事が起きれば殺さない。
※シグナムは列車が走るとは考えていません。
95魔女は夜明けと共に ◆FbVNUaeKtI :2006/12/21(木) 02:20:06 ID:Gdnrubew
あの女の命が尽きて・・・私が街にたどり着いた頃にはもう、かなりの時間が過ぎていた。
現場から急いで離れたあと、荷物を纏めるのに私は思った以上の時間を費やしてしまったのだ。
(もうすぐ朝ね・・・果たして今日は、いい一日になるのかしら)
まだ薄暗い空を、軽く苦笑しながら一瞥。
そしてすぐに、私の目は元の職務―すなわち、周囲の警戒へと戻る。
森を抜けてすぐの造成地らしき住宅街。
山を背にして高台に建ち並ぶ数件の家屋。その塀を盾に、私はゆっくりと人の姿を探す。
人を集めようと彷徨う者。人を殺そうと彷徨う者。
前者にせよ後者にせよ、こちらが先に見つけるように心がけたい。
運命に打ち勝つためにまず必要なのは、相手に対する知識。情報なのだ。
先手を取り、知識を得、先を読み、自らの領域へと誘い込む。
それは、大切な仲間達との部活で・・・繰り返される日常で学んだこと。
(複雑化する社会において、順境、逆境、いかなる状況においても適応できるよう・・・だったかしら?
 魅音の言う通りになってしまったわね。本人はそんなつもりじゃなかったでしょうけど。くすくす)
ともかく、運命に打ち勝つためには、情報が、先手を取ることが必要なのだ。
そして、こちらの存在に気づかれる事がなければ。
相手を不意打ちで殺すことが出来れば、運命に立ち向かう力を得ることが出来るかもしれない。
(さっきみたいに・・・と言いたいところだけれど)

つい先刻、戦闘直後の不意をついて殺した女。
彼女から手に入れた二つの支給品は、どちらもハズレとしか言いようの無い物だった。
一つは彼女の手にしていた銃・・・これは銃と言っていいのだろうか?
傘でさえ持て余しているのに、それ以上の大きさと威力があるのだ。
明らかに私では扱えない。仮に扱えたとしても、時と場所を考える必要性があった。
そして、もう一つの支給品。鞄のそこから出てきたそれに、私はよく見覚えがあった。
これまた、今の私では扱えない。いや、扱う必要すらない。
この状況では全く使えないその布切れに、少し苛立ちを感じた。
(まあ、ともかく。いま使える道具はスタンガンと・・・この傘くらいのものね)
その傘ですらも不意の戦闘には弱い。体勢も整えずに使うと、私の体格ではどうしても転倒してしまう。
やはり、こちらにアドバンテージがある状況でないと駄目なのだ。
(結局のところ、先手を取らなきゃ生き残れないって事ね)
だからこそ、私は目を皿のようにして参加者を探す。
遠くを走り去る電車。時折聞こえる風の音。そして・・・私は彼を見つけた。
96魔女は夜明けと共に ◆FbVNUaeKtI :2006/12/21(木) 02:20:57 ID:Gdnrubew
その少年は一本の竹刀を手に、近くの通りを歩いていた。
(ずいぶん体格がいいわね・・・圭一くらいの歳かしら)
そんな事を考え、あまりにどうでもいい内容に頭を振る。
私が考えるべきはそんな事じゃない。殺せるか、否かだ。
少年は、周囲を多少確認するものの・・・背後を顧みる事無く、無用心に前進している。
私との体格差から、普通に襲い掛かるのは無謀と判断。
かといって、この位置から撃っても弾は当たりそうにもない。
私は素人なのだ。狙って当てるなんて分が悪すぎる。
だが・・・一人で行動している、それもあんなに無用心な参加者を見逃すのは多少惜しい。それならば・・・

そっと鞄に傘を仕舞い、懐に手をやる。そこにはスタンガンの固い感触。
・・・相手を静かに尾行し、隙を見せたら襲い掛かる。
幸い、彼はまだ私の存在には気づいていない。
ならば、少しの間泳がせて、決定的な隙をみせた時・・・
それは休息の瞬間でも、戦闘の間際でもいい。その瞬間に、狩る。
(尾行は羽入の得意分野なのだけど・・・)
そんな事を考えながら、追跡を開始する。
電信柱に隠れ、塀に隠れ・・・影から彼を観察する。
竹刀を右手に持ち、腰には変なうちわ。そして左腕には、人形。
緑色の服を着けたそれは、愛らしい少女の姿をしていた。
どう見たって彼には似合わないそれに、私は少し眩暈を感じた。
どうやら、相当変わった趣味を持っているらしい。
彼の腕にしっかりと抱えられた少女の人形。
その身体は何故か進行方向と逆、少年の後方へと向けられている。
肩口から上半身を覗かせ、その両腕には悪趣味な事に人形には合わないサイズの銃が抱えられていた。
(レナなら“かぁいい”とか言ってお持ち帰りするのかしら?
 というか、あの拳銃って本物・・・?)
などと考えていると・・・不意に、その左右で色の違う瞳と目が合った気がして・・・
「フリーズ!武器を捨てやがれです!
 そこに隠れてるやつは両手を挙げて“とーこー”しろです!」
それが叫んだのと、私が人形の首にある物に気づいたのは、ほぼ同時だった。
(首輪!?あれも参加者だっていうの?いや、それよりも奴等に気がつかれた!)
声と同時に少年も振り返る。私は軽く服の乱れなどを確認して、おずおずと彼等の前に出て行った。

「みー・・・お人形さんがこわいのです・・・撃たないでほしいのですよ・・・」
97魔女は夜明けと共に ◆FbVNUaeKtI :2006/12/21(木) 02:21:46 ID:Gdnrubew
◆◆◆◇◆◆◆

「みー・・・お人形さんがこわいのです・・・撃たないでほしいのですよ・・・」

そう言って電柱の影から出てきたのは、怯えた目をした女の子だった。
てっきり恐ろしい殺人鬼でもいるんじゃないかと思っていた俺は、少し拍子抜けする。
「そんな事言っても騙されないです!お前は無茶苦茶怪しいです!」
「お、おい、やめろよ。怯えてるじゃねえかよ」
思わず出た制止の言葉に、銃を突きつけているスイセイセキが不満そうに口を尖らせた。
「わりぃな。驚かせるつもりは無かったんだ」
俺がそう言って謝っても、女の子は涙目で“みー”としか言わない。
どうしたらいいのかもわからず言葉に詰まってると、銃を突きつけたままのスイセイセキが言った。
「はやくバッグから武器を出しやがれです!」
その言葉におずおずと鞄を降ろして・・・女の子は鞄から三つの物を取り出した。
それは真っ黒な傘と、黒くて変なひらひらのついた布切れ、そして・・・
「なんだ、こりゃ・・・」
鞄から最後に出てきたのは、大人の背丈よりでっかい銃だった。
あまりのでかさにスイセイセキも目を丸くしている。
「疑って悪かったな。ほら、お前も謝れよ」
俺の言葉に頬膨らませやがる人形。謝る気は無いみたいだ。
「・・・もういいのですか?なら、片づけるのを手伝ってほしいのですよ」
傘を仕舞いながらそういう女の子。俺は慌てて銃を仕舞うのを手伝った。

「本当にすまねえな・・・俺は武。剛田武ってんだ」
「みー。ボクは古手梨花なのですよ」
そう言って、古手は“にぱー”っと笑った。その笑顔が何故か、俺の落ち着きを奪う。
慌てて顔を逸らしながら、俺はスイセイセキに自己紹介するように言った。
「翠星石は翠星石です。けど、翠星石は信じたわけじゃないです!
 後をつけてくるような、“すとーかー”は信用できないです!」
厳しい言葉に、古手の顔が暗くなる。俺はスイセイセキの頭を軽くはたく。
そして、文句を言いまくるそいつを無視しながら古手に声をかけた。
「えっと・・・大丈夫だ。俺は怪しんでねえからよ」
「・・・ごめんなさいなのです・・・すごく怖かったのです。実は・・・」
そう言って、古手は自分が見たものについて話し始めた。
それは人が人を殺す光景。金髪に黒い服の少女が、人を襲っている姿。
そして、古手自身も犬みたいな耳飾をつけた奴に襲われたらしい。
命からがら逃げたしたのだけど、物凄く怖くて、震えが止まらなくて・・・
その後、俺の姿を見つけて、恐る恐る追いかけて・・・
語り終える頃には、古手の顔は真っ青になり、身体はガタガタと震えていた。
その様子に俺は・・・死んじまった、あの女の子の事を思い出す。
この子を元気づけてやりたい・・・
(けど、こういう場合どうすればいんだ?)
俺は悩んで悩んで悩みぬいて、ふとある事を思いついた。
右手に持っていた竹刀。それに付いている、人形を取り外す。そして・・・

「これやるよ。だから、元気だせ・・・その、俺が守ってやるからよ」
98魔女は夜明けと共に ◆FbVNUaeKtI :2006/12/21(木) 02:23:42 ID:Gdnrubew

◆◆◆◇◆◆◆

「これやるよ。だから、元気だせ・・・その、俺が守ってやるからよ」

そう言ってデブ人間がすとーかーに差し出したのは、小さな人形だったです。
ふざけるのも大概にしやがれです!そんな怪しい奴を守ってどうするんです!
だから、デブ人間はお人よしだってんですよ!
さっきだって、翠星石が歩くのが遅いとか言って抱き上げやがって、馬鹿にすんなです!
かわりに翠星石が後ろを見張ってやったんで貸しは無しです!
むしろ、すとーかーを発見したんで、翠星石に貸し1です!

だいたい、すとーかーもすとーかーです。
「かわいい猫さんなのです。武、ありがとうなのです」
じゃねえってんですよ!
確かに、酷い目にあったみたいですけど・・・少しどころか、凄くかわいそうですけど・・・
なに猫人形程度で立ち直ってやがるんですか!
心配した翠星石が馬鹿みたいです!元気になって清々したです!
・・・・・・ともかく、気に入らないんで言ってやるです!

「翠星石は信用したわけじゃないです!
 ・・・けど、デブ人間に免じて信じてやるです。ありがたく思えです!」

◆◆◆◇◆◆◆

「翠星石は信用したわけじゃないです!
 ・・・けど、デブ人間に免じて信じてやるです。ありがたく思えです!」

人形の放ったその言葉に、私は軽く苦笑した。
(まあ、いいわ。とりあえず二人には信用してもらえたみたいだし)
猫の人形を指で弄ぶ。これから、この二人には存分に役に立ってもらおう。
私が生き残るために。私が運命に打ち勝つために。
(・・・使えないようなら、早めに処分しないとね)
サイコロはうまく転がってゆく・・・すこし気分が良くなった私は、手元にあった布切れを・・・
水着と同じくらいの露出度を誇る、その制服を目の前の少年に押し付けることにした。
「ならボクは、これをプレゼントするのですよ。にぱー」
極上の笑顔に少年も笑う。見上げた空は赤く染まっていた。

(果たして今日は、いい一日になるのかしら・・・?くすくす・・・)
99魔女は夜明けと共に ◆FbVNUaeKtI :2006/12/21(木) 02:24:31 ID:Gdnrubew
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:スタンガン(服の影に隠しています)@ひぐらしのなく頃に
     虎のストラップ@Fate/ stay night
[道具]:荷物一式三人分、ロベルタの傘@BLACK LAGOON
     ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾、残弾6発)@HELLSING
[思考・状況]
 1:猫をかぶって、剛田武と翠星石を利用する
 2:二人が役に立たないようなら、隙を見て殺す
 基本:ステルスマーダーとしてゲームに乗る。チャンスさえあれば積極的に殺害
 最終:ゲームに優勝し、願いを叶える

【剛田武@ドラえもん】
[状態]:健康
[装備]:虎竹刀@Fate/ stay night、強力うちわ「風神」@ドラえもん
[道具]:支給品一式、エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
 1:ドラえもん、のび太、スネ夫を捜す
 2:梨花を守ってやる
 基本:誰も殺したくない
 最終:ギガゾンビをぶん殴る

【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:FNブローニングM1910@ルパン三世
[道具]:支給品一式、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ
[思考・状況]
 1:蒼星石を捜して鋏を届ける
 2:チビ人間(桜田ジュン)も“ついでに”捜す
 3:デブ人間(剛田武)の知り合いも“ついでに”探してやる
 基本:蒼星石と共にあることができるよう動く

※カルラの不明支給品を“エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に”に決定しました
※剛田武の不明支給品を“虎竹刀@Fate/ stay night”に決定しました
※翠星石の不明支給品を“FNブローニングM1910(峰不二子の愛銃)@ルパン三世”に決定しました
100 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/21(木) 02:45:05 ID:Gdnrubew
>>99修正
【D-6 E-6との境界付近 早朝】の追加と
剛田武の行動方針2を
2:翠星石と梨花を守ってやる に修正します。
101嘘と誤解と間違いと(報告修正) ◆CSROPR1gog :2006/12/21(木) 14:00:08 ID:qn+yGT2R
>>94の凛の状態表の[思考]を以下のように修正します。

[思考]1、のび太をつれて安全な場所に移動し、落ち着いたらギガゾンビの情報を聞き出す。
   2、高町なのはを探してレイジングハートを返す。ついでに守ってもらう。
   3、士郎と合流。ただしカレイドルビーの姿はできる限り見せない。
   4、アーチャーやセイバーがどうなっているか、誰なのかを確認する
   5、知ってるセイバーやアーチャーなら、カレイドルビーの姿は以下略。
   6、自分の身が危険なら手加減しない
102回天 1/10 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/21(木) 20:10:21 ID:iQUorZMu
ジュンは相変わらず、遊園地から離れる為に防波堤を走っていた。
引きこもり気味である分体力に難があるがそれでも走り続け、そしてふと我に返った。
どれくらい走っただろうかと後ろを振り返いて見てみると、既に遊園地は遥か遠く。
あの殺伐とした喧騒も遠い。無我夢中だった事でまさかこんな遠くまで走っているとは思わなかった。
だが身の安全が保障されていない今、この程度で満足して安心するわけにはいかない。
恐怖を押し殺し、再び走ろうとした。

「……いや、駄目だ……」

が、駄目だった。やはり終わりの無い疾走は多大な疲労をその身に与える。
真紅と翠星石の力を同時に使役した時よりは、あの薔薇園で槐や兎を捜して走っていた時よりは、
その時感じていた疲労に比べれば大した事なんて無い。軽いものだ、その筈なんだ。
そう強がってみるものの、やはり体は正直らしい。緊張の糸が切れた事で体が一気に休息を求め始める。
へばっていたらどうなるか判らない。判ってはいるが、座り込んでしまった。
「真紅に怒られるな……でも、ちょっと休憩したい……本当に……」
もっと運動をしておけばよかった、と潮風に当たりながら後悔する。
防波堤の中央で、少年はしばしの休息を余儀なくされてしまった。


体を休める。何もしない事で安らぎを得る。
図らずも自身の体にとって優しく平穏な時間を与える事が出来た。
その内、する事が無い所為か海を見ながら物思いに耽っていった。
自分の事、過去の事、人形たちの事、それに加え更に沢山の事を思い返す。

自分があのダイレクトメールを受け取ったのはいつだっただろう。
記憶中枢が手抜きの極みに至っていたのか、日付をしっかりと覚えていない。
だがあの時、人工精霊ホーリエ名義の手紙をインチキ業者だと勘違いしなければ、
確実に真紅や翠星石、蒼星石……そしてあの水銀燈にも出会う事は無かっただろう。

家来だとかに勝手に任命されて暫く経った今。
今の自分に、あの時「まきます」と選択したのは本当に正しい事だっただろうか?
という質問を投げかけてみると、自分でも意外だが「正しい事だった」と答えてしまう。
更に言うと、かつての真紅が来たばかりの自分に同じ質問をしたならば、
間違いなく「何故こんな事に巻き込まれなければいけないのか」と文句をたれていただろう。

「あいつらが来て、僕も色々と変わったんだよな……」

認めざるを得ない。というより寧ろ、自分から認めるべきだとさえ思った。
それが果たして「成長」と呼べるものだったのかは自分では判らない。
けれど変わったのは確かだ。自分は変わり、一歩進む事が出来た。
彼女は確かに人形だけれど、それでも確かに恩人だった。

どこにいるのだろうか。
我が桜田家で暴走の極みに達していた彼女達は、今どこにいるのだろうか。
一体、どこに行ってしまったのだろう。
103回天 2/10 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/21(木) 20:11:49 ID:iQUorZMu

更に思い返してみると、記憶の中の彼女達は思い切り騒いでいた。
紅茶を要求したり、苺大福を要求したり、お茶菓子を要求したり、法事茶を要求したり。
ひっぱたいてきたり、硝子を割って進入してきたり、挨拶代わりに鞄で顔面目掛けて体当たりしてきたり。
くんくんの人形で騒いだり、くんくんの番組を見て一緒に緊迫していたり、一緒に食事をしたり。
姉の先導で服の洗濯をしていたり、プレゼントしたオルゴールを皆で聞き惚れたりもしていた。
皆で一緒にクッキーを作った事も、翠星石を元気付ける為に流し素麺をした事もあった。
いや、素麺じゃなかった。実際は姉のミスによって冷麦を流すイベントになっていたんだった。
――本当に、色々とあった。色々な事があり過ぎた。

「何であいつらまで……どうして……」

再び名簿を取り出し、見る。やはり見慣れた名前が書かれてあった。
真紅、水銀燈、翠星石、蒼星石。家で散々騒いでくれたドール達だ。
水銀燈も敵だからこそ不法侵入を犯したりしたし、あれもある意味大暴れだ。
彼女は危険だから保留だとしても、真紅達とは必ず再会しなければならない。

自分が無力だから一人でいたくない、正直に言えばその考えもある。
だがそれだけではない。自分はここで屈したくは無いのだ。
そう、あのアリスゲームの様に、薔薇園での仕組まれた決戦の時の様に。
あの時の様に無力で、何も出来ないままで終わりたくは無いのだ。
かつて真紅や翠星石達と戦ったように、役に立ちたい。彼女達の支えになりたい。
自分は何もかもが一般人以下だろう。頭脳にしても受験に失敗しているし
今更自分が様々な人間と同格に渡り合うことが出来るという大層な自信も無い。
けれど、せめて。せめて真紅達の力になれたなら。
そう思い続ける限り、自分は死んではいけない。彼女達を悲しませたり幻滅されるわけにもいかない。
だからこそどうにかして、殺人以外の方法で生き残らなくては。

その為にも、進もう。

この考えに到達するまでに、どれ位の時間を要したのだろうか。
座り込んで延々と考え込んでいたおかげか、疲労は大幅に回復している。
大丈夫だ、これなら頑張れる。ジュンはゆっくり立ち上がり、自分が向かうべき場所を見た。
そして歩き出す。落ち着いて一歩一歩、疲労をためないように歩き出した。

その先には、あの少女がいるのだが。
104回天 3/10 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/21(木) 20:13:45 ID:iQUorZMu

少女、朝倉涼子は慎重に思案する。

情報統合思念体が応答しない以上、大袈裟には動けない。
だが当然相手がいなければ殺人は出来ない。しかし目立つのは危険。
そうなると注意深く警戒しながら北に回って橋を渡り、街に向かうか。
それとも先程の男達のように防波堤を歩き、そして遊園地に向かうかの二択。

北に回れば人に会う可能性は高いだろう。
だが相手が弱いとは限らないし、多数の人間に出会う可能性がある。
二人ならまだしも、それが三人四人五人となるとややこしくなるのは明白だ
なら防波堤はどうだ。人にあまり会うことも無いだろう。更には一気に近道をすることが出来る。
だが、それを読んで周到に待ち伏せをしている人間もいるかもしれない。
一直線の道での待ち伏せはさぞ効果的な事だろう。策に嵌ると命の保障は出来ない。

ここまで考えて、彼女はこう結論した。
多少危険ではあるが、防波堤を歩いて遊園地側に行く。
結局は涼宮ハルヒ達を捜す為に街へと向かう事に変わりは無い。
ならば、今この状況で濫りに人に会う事は避けるべきだ。
いくら自分が情報統合思念体によって生み出された対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースといっても限界はある。
「確実に優位に立てる」と胸を張って宣言出来る程の状況でないと、多数の人間に会うのは危険だ。

待ち伏せがあるかもしれない可能性と危険性、これは楽観視出来ない。
だがしかし、自分は情報統合思念体によって生み出された
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースであり、人間ではない。
対話し、場合によっては人を排除する力を持つ特殊な存在だ。
だからこそ自分には無駄は無い。有機生命体の持つ幾つかの感覚も排除されているのだ。
無駄なものである様々なもの、痛覚すらも削ぎ落とされた特別な存在。それが自分なのだから。
だからどうにかする。どうにかしてみせる。どうにかしなければならないのだ。


自身の結論を信じた彼女は、チャンバラ刀をしまって防波堤に登り歩き出した。

その先には、あの少年がいるのだが。
105回天 4/10 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/21(木) 20:15:26 ID:iQUorZMu

ジュンは既に防波堤の三分の二を歩き切っていた。
残り三分の一を渡り終えれば遊園地からはおさらばである。少しばかり安心した。
が、その時。

「こんばんは」

少女に出会った。


この少女は誰だ。ジュンは困惑した。
数少ない学校での記憶を辿ったものの、思い当たらない。
という事はつまり、同じ様にここに連れてこられた人間だろう。
「こ、こんばんは……」
とりあえず挨拶をしてみる。すると相手は満面の笑みを浮かべた。

無害そうだ。だが、何か妙な違和感を覚える。この僅かに沸きあがる感情はなんだろうか。
簡単には信用出来ない。状況も状況だし、自分の本能は相手から何かを感じ取っている気がする。
ジュンは思案を巡らす。だが目の前に突然他人が現れた現実を認める事で精一杯になり、それ以上は思考出来ない。
しかしそれでもジュンの頭脳はしっかりと警戒し、慎重に応対を続けるべきと判断した。

ジュンがしばし沈黙をすると、またも少女が言葉を発した。

「あなた、この殺し合いの場……どう思う?」

質問内容は至って簡単だった。言葉通りの意味だろう。
しかし何かが引っかかる。何がかとは言えないが、引っかかる。
「いや、その、馬鹿馬鹿しいと思うよ……こんなの、嫌だ」
だがこのまま気まずい沈黙を作るわけには行かず、言葉通りに受け止めて本心を吐露した。
すると相手はまたにっこりと笑った。そしてまたジュンは違和感を覚える。
「あなた、もしかしてただの学生? だったら安心かも……私も高校生だから」
そう言うと相手は制服を見せびらかすように一回転。セーラー服が風で少し靡く。あの腕章はなんだろうか。
「私の名前は長門有希っていうの。ねえ、良かったらあなたの名前も聞かせて?」
相手はそう言うが、ジュンは警戒を解かない。ここで簡単に名前を教えるわけにはいかなかった。
「野原……ひろし……」
「野原君ね。判ったわ、宜しく野原君」
故に、先程名簿を眺めていた時に見つけた名前を適当に名乗った。
警戒している、と相手に教えている様な状況での偽名の使用。
相手はこの微妙な嘘に気が付いてしまっただろうか。付け入る隙を与えてしまったのだろうか。
不安と恐怖で袋を持つ手が自然と震える。弱みを見せていると判っているのに。
度重なる相手への違和感と不安を抱えたまま、ジュンは警戒していた。
106回天 5/10 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/21(木) 20:22:28 ID:iQUorZMu

防波堤の三分の一を渡り終えたところで他人と出くわすとは。
朝倉は突然の状況に悪態をつきたくなるが、そこは堪える。
落ち着き、自分のペースに持ち込む為に友好的に話しかけた。
「こんばんは」
相手は少し戸惑っている。警戒しているのだろうか。
「こ、こんばんは……」
だが少し不安げに相手は答えてくれた。警戒すると同時に突然の邂逅で混乱しているのだろうか。
それともただ気弱なだけか、もしくは演技か。断言できない、もう少し情報が欲しい。
もう一押し、とばかりに質問を続けた。

「あなた、この殺し合いの場……どう思う?」

この返答によって自分の立ち位置は変わる。逃げる者となるか、追う者となるか。
それが相手が返答する際に起こる挙動一つ一つを探った結果で判断を下す。
しっかりと相手を見据えながら暫く待つと、答えが返ってきた。

「いや、その、馬鹿馬鹿しいと思うよ……こんなの、嫌だ」

朝倉が少年の挙動、態度を観察する。見れば相手は明らかにこの状況で戸惑っている。
そして警戒しているが故であろう、袋を掴んでいる手も少し震えている様だ。くだらない、怯えか。
なるほど、肉体的にも精神的にもただの立派な一般人か。手駒として使えるかどうか不安だ。
「あなた、もしかしてただの学生? だったら安心かも……私も高校生だから」
更に問うものの、今度は答えは帰ってこなかった。ただの一有機生命体なりに考えがあってのことだろうか。
「私の名前は長門有希っていうの。ねえ、良かったらあなたの名前も聞かせて?」
続けざまに質問をし、再び答えを待つ。さぁ、どう来るか。

「野原……ひろし……」

相手はそう名乗った。野原ひろし、ごく普通だ。
「野原ひろし君ね。判ったわ、宜しく」
偽名なのか本名なのかは読み取れない。彼の持つ不安と恐怖に本質がかき消されている様だ。
まぁ良い、注目すべきは警戒している割に中途半端に置かれた間合い。袋を持つ手の震え、隙だらけの立姿。
見れば一般人である事は明白だろう。これで戦いのプロだと言ったらそれは相当のペテン師だ。
こんなくだらない相手に自分は心理戦を挑んだのか。全くもって馬鹿らしい。時間の無駄だった。
「判るわ。やっぱりあなたも一般人よね、そうなんでしょ。安心したわ」
ならばここで一気に自分のペースに引きずり込んでしまおう。あの刀で少年の四肢を切断する為に。
しかし見たところ、相手との距離は七メートル程だ。この刀で一気に決着をつけることは出来るだろうか。
いや、こんな平凡な一有機生命体相手に自分が梃子摺るものか。絶対に出来る。大丈夫、出来る。

「あのね、私もこんな殺し合いは馬鹿げていると思うの。あなたと同感だったわ。
 だってあんな存在に屈するなんて、情報統合思念体にとっては有り得ない事だもの。
 でもね、気付いたのよ。これは考えようによってはチャンスなんじゃないかって」

言葉と共にチャンバラ刀を素早く引きずり出し、右手で構えて体勢を整えた。

「でもね、他の有機生命体を刈り取れなんていう命令の為に私が甦ったのには理由があるはずだと思うの。
 だから私はこの状況を前向きに考える事にしたわ。あなたを利用して、私は私の目的の為に前に進む」

会話の内容などどうでも良い。刀と言う凶器を見せつけ、冗長な言葉を投げかける事によって動揺を誘うだけだ。
キョン君だってそうだった。一般人は目の前であまりにもおかしな事が起こると狼狽え、動揺するものだ。
しかしなんと、相手はこの状況で袋を漁り始めたではないか。予想よりも随分と肝が据わっている。
自分の読みが少しだけ外れた事も含めて少し驚くが、有機生命体ではない自分には問題の無い障害だ。
状況に変化は無く、攻めるには十分と判断。そして約七メートルの距離を一気に縮めようと走り出した。

「だから大人しく……斬らせて」

もう少しで間合いに入る。これで、終わりだ。
107回天 6/10 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/21(木) 20:24:17 ID:iQUorZMu

尋問の如き会話が終了し、沈黙が訪れた。
相手は次の言葉や行動を捜す様に何かを考えている。
同時にジュンも違和感の正体を探っていた。
しかしそれを気にしていないのか気付かないのか、更に相手は話しかけてきた。

「判るわ。やっぱりあなたも一般人よね、そうなんでしょ。安心したわ」

微笑みながら口にする少女。やはり見た目は無害。だが、その表情を見た瞬間ジュンは確信した。
そうだ、彼女から発せられるこの違和感はあれだ。この何とも言えない嫌悪感。その正体。それは……。

『いつ相手を化かそうか、と考えている人間の雰囲気だ……』

心中で呟く。そう、相手の挙動はまさに「他人を馬鹿にしている人間の顔」だ。
見下し、罵り、優位に立とうとする人間が持つ独特な話し方や表情の癖。
それが彼女の持つ独特な雰囲気を構成させていたのだ。
自分には判る。そんな人間を何人も何人も見てきたし、一時は自分だって同じ姿をしていた。
公立中学の生徒を見下していたあの時の自分も、今改めて考えてみると反吐が出る人間だった。
そんなかつての自分と同じ性質のこの女を信頼してはいけない。本能が叫ぶ、理性が忠告する。
だがどうする。どうやって相手を打ち負かす。物干し竿とモデルガンでどうしろと。
だが仕方が無い、運が悪かったのだ。スタート地点を通常よりも後方に下げられた様な状況なのだと認めざるを得ない。
こうなったらこの状況だけで何とかしてやる。しなければならない、するのだ。

袋から物を取り出しやすいようにしっかりと握り締め、位置も調節する。

「あのね、私もこんな殺し合いは馬鹿げていると思うの。あなたと同感だったわ。
 だってあんな存在に屈するなんて、情報統合思念体にとっては有り得ない事だもの。
 でもね、気付いたのよ。これは考えようによってはチャンスなんじゃないかって」

すると相手が何か長話を始めた。正直どうでも良い。どうせ口先だけだろう。
ほら、その証拠に右手に刃物が見える。刀か、なんて物騒なものを持っているんだ。
目の前にある脅威に振るえ、少しばかり狼狽える。だが理性でそれを止めた。
決心したのだ、真紅達に会うと。会わなければならないのだ。隙を見せるわけにはいかない。

「でもね、他の有機生命体を刈り取れなんていう命令の為に私が甦ったのには理由があるはずだと思うの。
 だから私はこの状況を前向きに考える事にしたわ。あなたを利用して、私は私の目的の為に前に進む」

情報統合なんたらとか有機なんとかなんて知るか。どうせ自分を混乱させようとしているのだろう。
ならばその心理戦は大成功だ。正直すっかり混乱している。人の心を揺さぶるのがなんて上手いんだ。
だが死ぬ訳にはいかない。恐怖と混乱をぎりぎりの理性で押さえつけて袋に手を突っ込む。
そのままモデルガンを取り出そうと袋を漁ると、それは案外簡単に見つかった。素早く取り出し両手で構えた。
これで隙を見出してみせる。相手が怯めば物干し竿で何とかする。怯まなかった場合……ああ、もう良い!
自分はここで死にたくは無い。仲間に会って生き延びなければならないのだ。だから今を何とかする。
生きてみせる死んでたまるか真紅達に会うんだ殺されるわけにはいかない生きるんだ今の僕なら出来る。
出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る
出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る!

「だから大人しく……斬らせて」

いいやお断りだ、やらせないねッ! と強く強く自分に言い聞かせ、前を見据える。
そして真っ直ぐ向かってくる相手の顔を狙い、ジュンはモデルガンの弾を数発撃ち込んだ。
108回天 7/10 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/21(木) 20:26:57 ID:iQUorZMu

音が聞こえた。弾があたった軽い音だ。聴覚がそれを認識する。
その瞬間、なんと女の速度が急激に遅くなった。更には怯むというより、ただの隙だらけの体勢になっている。
冷静になって表情を確かめると、女が「驚きを隠せない」といった表情を浮かべている事に気付いた。
さながら突然の予期せぬ事態に遭遇した人間が、混乱と思考に全意識を集中してしまったかの様だ。
パソコンがフリーズする前兆にも似ている。稼動が重く、動きが鈍くなるその状態に酷似していた。
突然どうしたのだろうか、上手く行き過ぎて別の意味で不安になる。だが相手に隙が出来たのは事実。

好機だ。

モデルガンを足元に放り投げ、今度は物干し竿を取り出した。
四メートルにもなるそれを両手で槍の如く水平に構える。照準は向かってきたあの女の体。
叩き込む場所をしっかりと見定め、竿を勢い良く相手の腹部へと突き出した。

「あ゛ぅッ!!」

放った竿は相手の鳩尾に突撃した。
女は突然の衝撃に耐え切れず、変な声を出して蹲る。
チャンスだ。出来るならそのまま竿で後頭部を強打させたいのだが、
長い棒を持ち上げた挙句に叩き落す様な力は今の自分には備わっていない。
ならば、と彼は賭けに出た。一瞬だけ相手に背中を見せるが、やるしかない。
「これで……ッ!!」
突き出した物干し竿を先程より短めに持って左に振るう。
それと同時に自分自身にも回転を加えた。と言うより、回転運動そのものを行った。

ジュンを中心にして反時計回りに、長針の様に物干し竿が動く。
早い話がハンマー投げの要領だ。違いはその手を離さず、回る回数を一度に抑えるだけ。
勢いと威力を増幅させる為だけの運動。戦いのプロから見れば隙だらけだ。
だがそれこそがジュンの賭け。全てを攻撃に集中させるという厳しすぎる賭けだ。
相手は動かない、というより動く事が出来ないのか。
少しだけ不安を抱きつつ、ジュンはそのまま円運動を続ける。
遂に、その回転運動によってジュンは相手に背中を曝け出した。
無防備で頼りない背中、それを戦いなれているであろう相手に晒す。
しかし、相手は攻撃をしてこない。いつでも攻撃する機会があるだろうに。
動きが無い。攻撃も来ないまま、相手に背中を向ける時間は終わった。
これならいける。ジュンは最後の大勝負に出た。

「終わりだぁッ!!」

野球の打者の如く水平に振るわれた物干し竿。
それは女の側頭部と顎を完璧に捕らえた。
まともに衝撃を受けた女は声を出す事も無く倒れ、
挙句の果てには頭部をそのまま勢い良くアスファルトの地面に打ち付けた。
当たり所が相当悪かったのだろうか、そのまま動かない。意識を失っている様だ。
完全に沈黙し、無力化している。敗北という二文字が良く似合う姿だった。

ジュンは、賭けに勝った。
109回天 8/10 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/21(木) 20:30:38 ID:iQUorZMu

右手を振り上げ、相手の左腕を切断する。
機械的にそれを実行しようと、朝倉は少年に肉薄した。
相変わらず少年は銃を構えている。なかなか肝が据わっているじゃないか、と感心した。
だが自分には銃など関係無い。痛覚すら超越した存在にそんな人間の技術は到底及ばない。

はずだった。

突然奇妙な感覚が走った。生まれて初めての信号が体に走る。何だ。
見ると少年は引き金を引いている。照準は恐らくこちらの顔面だ。
当たる弾が軽い事で、それが殺傷能力を秘めていない事は判った。
いや、それはどうでもいい。それより今、自分は脳にどういう情報を届けた?
この奇妙な嫌悪感は一体何なのだ。伝達された信号は何を示している?
言語で伝えるには齟齬が発生しそうな程に複雑な、この感覚は何なのだ。

朝倉涼子は知らない。
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースは知らない。
今自分が脳に発している警告が、痛覚そのものだという事を。
彼女はそれを他人に与えるばかりだったが故に知らなかったのだ。

痛覚という存在の発生と認識。
ここが長門有希と闘った時とは違う世界である異空間だからこそ起こった現象だ。
「痛覚」という存在とその情報を突然与えられ、朝倉は激しい混乱に襲われる。
そして膨大な数の記憶や情報が彼女の脳を交錯した結果、彼女の動きは勢いを失った。
集中的な頭脳労働を強いられた所為で体が停止する。混乱が混乱を呼ぶ。
今の彼女は隙だらけだった。

「あ゛ぅッ!!」

混乱が解けぬままだというのに、無意識に声が漏れた。
見れば鳩尾に長い棒が突撃している。こんな物を隠し持っていたのか。
先程とは比べ物にならない痛みが体を支配し、敵前にもかかわらず蹲ってしまう。
「こういった、身体が無意識に起こす類の反応は見たことがある」と記憶を遡り、そこでやっと気付いた。
これが有機生命体の言う「痛み」という感覚である、という事に。

突然叩き込まれたその「痛み」に耐えるも、刀を手放さずにいるだけで精一杯だ。
当然だ、自分が痛みを与えた人間もこうした無力化の一途を辿ったのだ。自分でもよく判っている。
しかしまさかこの様なイレギュラーが発生するとは。これでは策の前提と基本が砂のように崩れ去ってしまう。
いっそ出会い頭に手に入れた生首を見せて、更なる動揺を誘うべきだっただろうか。
いや、だがあれは罠等の為に使用したいし、紛失の危険を伴う状況では無闇に使うべきではない。
しかし相手は一般人のはずだ。ならばやはり動揺を誘うべきだったかもしれない。念には念をと言う。
違う、今はそんな事はどうでもいい。寧ろ今は何故この様な痛みを自分の体が感じているのか。
やはり油断して……いや、自分は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースだ。
痛みを感じるというのがそもそもの間違いで、やはりここは生首を見せるべきで……。
混乱が更なる混乱を招く。最早自分が何を後悔し、何に狼狽しているのかすら判らない。
思案がループし、一体何故自分の頭脳がこんな議論をしているかも判らなくなりそうになる。
だがこのまま倒れるわけにはいかないことは確かだ、それだけは理解出来た。だが動けない。
やはりあそこで首を見せて……いや、今考えるべきはその事ではなく……。
「これで……ッ!!」
声が聞こえた。この期に及んでまだ相手は何かをしようとしているのか。
危険を察知した彼女は、状況把握の為に少年を視界に入れようと、その顔を上げた。

「終わりだぁッ!!」

皮肉にも、彼女がその行動を取ったおかげで見事な攻撃が叩き込まれた。
そのまま激しく頭部をアスファルトに打ち付けられる。何が起こったかさえ理解出来なかっただろう。
自分が更なる痛みを感じた事、有機生命体に敗北した事に気付かぬまま、彼女の意識はそこで途絶えた。
110回天 9/10 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/21(木) 20:33:15 ID:iQUorZMu

ジュンは倒れている女の様子を見た。やりすぎただろうか、と不安になったのだ。
確認してみれば、息はしているようだし痙攣も起こっていない。
更には流血もしていない。どうやら死んではいない様だ。
意識が無いだけだと理解すると、ジュンは少し安心した。

しかしゆっくりしている暇は無い。急いで逃げなければ。
所詮、相手を倒したのは一定の状況下が生み出した奇跡のおかげに過ぎない。
とりあえず自分のモデルガンを回収し、物干し竿も急いで袋にしまった。
そして女の支給品をどうするかという答えはすぐに出た様で、無難に刀共々回収しておいた。
素早く相手の持っている荷物を全て回収し、刀は自分の袋へと収納する。これで良い。
そして急いで走り出した。女が目覚めない内に逃げ出さなければ、今までの奇跡が無駄になるのだ。
ジュンは防波堤を西へ西へと疾走する。目指すは防波堤の終わりだ。



そして、それはすぐにフィナーレを迎えた。
殆どを歩きつくしていた所為か、すぐにゴールに辿り着いたのだった。
防波堤の終わり。生きた心地がしなかったあの場所の終わり。そこに到着したのだ。
しかし、ここからだ。ここから更に敵の目を掻い潜っていかなければならない。
「そういえばあの人……何か便利なものを持ってたりしないのかな?」
辺りに誰もいない事、あの女が追ってこない事をしっかりと確認した。よし、大丈夫。
警戒を解かない様努力しつつ、先程奪ってきた袋に両手を突っ込む。すると両手が妙な物に触れた。
もじゃもじゃしている。確かめる必要がある、とすぐさまそれを掴み、そのまま引き抜いた。

なんと右手と左手に一つずつ、計二つの生首が出てきた。
作り物ではない、本当の人間の首だ。しかも一つは損傷している。
「……ッッ!?」
悲鳴が上がりそうだった。再び腰が抜けそうにもなる。
気合で押さえつけようとするが脳は混乱し、嫌悪感に支配される。
そのまま無意識に二つの生首を放り投げてしまった。
首は放物線を描き、海へと落ちていく。だがジュンはそれをただ見守るしかなく。
水の跳ねる音が二度起こった。落ちたのだろう、海に。
「…………」
突然生首が出てきた事にショックを隠せず、未だ言葉が出ない。
放り投げてしまった首の主に申し訳ないと思いつつも、足が震える。
なんてものを見てしまったんだ、自分は。今別の支給品を確かめる気力も失ってしまった。
だがとりあえず先程回収した刀だけでもと思い、それだけは取り出した。他でもない護身用だ。

ここで止まるわけには行かない、歩き出さなければならない。
信用に足る人間がいると良いが……かなり不安になる。
地図によると近くにある建物は駅のみ。何者かが本拠地にしている可能性がある。
もし人がいたとして、こんな自分は誤解されないだろうか。刀まで持っているし、袋も大量に所持しているのだ。
またもや賭けだ。ここで自分はどうするべきだ。様々な思惑を持った人が集まる可能性がある場所に行くか。
もしくはどこか別の……いや、よく考えればこんな世界に「絶対に安全な場所」などある筈は無いだろう。
自分一人ではあまりにも無力。自分が単独で勝利するという奇跡は二度も起きないのだ。

「……行こう、駅に」

自分一人で闘うという無謀より、信頼できる人間が見つかる希望を取った。
元々真紅達を探すつもりだったのだ。リスクばかり考えてどうする。
確かに荷物を沢山持っていたり、刀を持っていれば怪しまれるだろう。
だが正直に話せば誤解は払拭される。そうに決まってる。だからリスクばかり考えるな。
勇気を出せ、前を見て進め。何の為の決意だ。口だけなのか、そうじゃないだろう。
防波堤から降りながらそう自分を精一杯勇気付けると、ジュンは駅の方向へと歩き出した。
これから様々な賭けが自分を待つだろう。だが進まなければならない。
進まなければならないのだ。だから進む、それだけだ。

生きる事は、戦う事なのだから。
111回天 10/10 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/21(木) 20:35:30 ID:iQUorZMu

朝倉涼子は、ジュンが去った後も目覚めない。
意識を失い続けたまま、世界は時を刻み続けている。
いつか眠りから醒めたら、彼女はまずどうするのだろうか。
それ以前に、何事も無かったかの様に立ち上がることが出来るのだろうか。

潮風が髪と制服を靡かせる。
だがやはり、彼女は目覚めなかった。




【H-2 防波堤を降りた所・1日目 早朝】
【桜田ジュン@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:疲労、警戒
[装備]:チャンバラ刀@ドラえもん
[道具]
荷物四人分、物干し竿 ベレッタM92F型モデルガン
弓矢(矢の残数10本)@うたわれるもの
チャンバラ刀専用のり@ドラえもん、オボロの刀(1本)@うたわれるもの
アヴァロン@Fate/Stay night、アーチャーの腕@Fate/Stay night
[思考・状況]
1:F-1にある駅へ向かう
2:信頼できる人間を捜す
3:他人の殺害は出来れば避けたい
基本:ゲームに乗らず、ドールズ(真紅、翠星石、蒼星石)と合流する。


【H-3 防波堤・1日目 早朝】
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:意識不明、肉体(特に頭部)へのダメージ大、精神的に疲弊
[装備]:SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:なし
[思考・状況]
1:不明
基本:自分の行動によって世界と涼宮ハルヒにどんな変化が起こるかを観察する。


※注意
・ハクオロの首と才人の首は、ジュンによって海(防波堤の南側)に投棄されました。
・朝倉涼子は頭部に激しいダメージを受けた為、何らかの後遺症や障害を患っているかもしれません
112「すべての不義に鉄槌を」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/22(金) 01:36:40 ID:k5iys0Dm
 ロザリタ・チスネロス。
 キューバで暗殺訓練を受けたFARC(コロンビア革命軍)の元ゲリラであり、現在誘拐と殺人容疑で国際指名手配中の悪党の名である。
 テグシガルパの米大使館爆破にも関与が疑われている筋金入りのテロリストでもある上、通り名は『フローレンシアの猟犬』という極めて物騒なもの。
 いつか来るであろう革命の朝を信じ、政治家、企業家、反革命思想の教員、もちろん女や子供も関係なく、皆殺しにしてきた。
 革命家として、戦ってきたつもりだった。しかし、いくつもの夜を血で染め上げてきたある日、ロザリタは知ってしまったのだ。

 自分は革命家どころか、マフィアとコカイン畑を守るだけの、只の『番犬』だったことに。

 理想だけでは革命など達成できない――そう謳い続けてきたFARCは、魂を投売りカルテルと手を組んだのだ。
 失望した番犬は軍を抜け、追われる野良犬となった。当てのない旅を続け、生きているのか死んでいるのかも分からないような、無意味な人生を過ごして。

 そんな彼女を拾ったのは、物好きな一人の没落貴族だった。

 ラブレス家十一代目当主ディエゴ・ラブレス。
 ロザリタの亡き父の友人であり、寛大な心と良識を持った人格者だった。

『――出ておいでロザリタ。警察も軍隊も手を引いてくれたようだ』
『……感謝します。セニョール・ディエゴ。でもこれ以上、あなたに危険を負わせることは出来ません。陽の落ち次第屋敷を出ます』
『まあ待ちたまえ、ロザリタ。親友の娘御が遠路はるばる訪れたというのに、夕食も出さずに帰すとなればラブレス家の名誉に関わる。
 それに――どうすれば君にとって一番幸いな道なのか、少々腰を落ち着かせて一緒に考えるのも悪くない。
 山の中を転げまわって逃げるのは、それからでも遅くはないだろう。違うかね?』

 ディエゴは追われる身であったロザリタを無碍に扱うこともせず、警察や軍隊から匿い客人として向かい入れた。
 それどころか、ロザリタに『居場所』と『生きる意味』、そして何より『道』を示してくれた。
 恩人、という言葉などでは括れない。命を投げ出してでも守る価値がある、大切な存在であった。

 故にロザリタは――『ロベルタ』として――ラブレス家に仕える使用人(メイド)となり、ディエゴとその息子、ガルシアのために生きることを誓ったのだ。


 ◇ ◇ ◇

113「すべての不義に鉄槌を」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/22(金) 01:37:37 ID:k5iys0Dm
 川の水面が朝焼けの光に照らされ、優雅なせせらぎと相まって極上の癒しを創り出していた。
 メイド服に三つ編み、丸渕眼鏡をかけた地味な――世間一般では余り見かけない衣装に目を瞑れば――姿をした女性、ロベルタは、橋を渡りながら南へと歩を進めていた。
 端正な小川に目をやれば、ここが殺し合いの舞台であることなど忘れてしまいそうなほど見惚れてしまう。
 ランチボックス片手にガルシア坊ちゃんをピクニックにでも連れ出していたら、どれほど幸せな時間が過ごせたことだろうか。
 くだらなくも夢のある幻想を描きながら、ロベルタは橋を渡りきる。
 向かう先は、多くの参加者が密集すると予測される市街地中心部。事態は火急につき、それ故行動は迅速に行わなければならない。
 美しい自然に心を奪われている暇など、今はないのだ。

 その点、橋の袂で発見した男の死体には、感謝しなくてはなるまい。
 見たところ東洋系、おそらくは日本人だろうか。歳は三十代……外見から判断して、平和を生きる一般人のようだ。
 なんてことはない。力のない弱者が、ただ死んでいるだけ。
 そんなどうしようもない現実が、この世界では罷り通るのだと――それを再確認させてくれただけでも、この死体に一礼するだけの意味はある。
 そして、この場に死体があるということは、近辺にこの男を殺害した者がいるということにも繋がる。
 ただでさえ、バトルロワイアルはまだ始まったばかり。殺害犯もそう遠くには行っていないだろう。
 ロベルタは僅かに警戒心を強め、次なる獲物を捜すため進路を東へ。
 その矢先だった。

「何か御用でしょうか」

 男の死体から、僅か十メートルほど離れた地点。
 ロベルタは自分を見張る気配に気づき、声をかけた。

「……驚いたな。気配は絶ったつもりだったのだが。どうやら只の使用人とはワケが違うらしい」

 物陰からすぐに姿を表したのは、西洋風の騎士甲冑に身を包んだポニーテールの女性。
 彼女の名は、ヴォルケンリッター『烈火の将』シグナム。
 主、八神はやてに仕える紛れもない『騎士』である。

「恨みはない。だが我が主のため――ここで死んでもらおう」

 装備した刀を構え、殺気を放つ。
 ビリビリと伝わる波動には、脚を竦ませ身を震わせるほどの効果があったはずなのだが、数々の死地を渡り歩いてきたロベルタにはそれも通用しない。
 むしろ、この殺気渦巻く空気こそが、ロベルタの得意とするフィールドなのだ。
 ガルシア達の待つラブレス家は確かに居場所ではあるが、猟犬はどう足掻こうとも所詮猟犬。
 牙は?がれようとも、洗練された闘争本能だけは捨てられない。

「あるじ……あなた様にも、仕える主人がおいでで?」
「…………」

 ロベルタの問いに対し、シグナムは沈黙という形で肯定を示した。
 片や使用人、片や騎士。使用人が仕える主が当主であるというのであれば、騎士が仕える主人は、さしずめ姫といったところか。
 共に自分のためではなく、大事な人のために戦うことを選んだ。
 それだけは理解できた。そして、それだけで良かった。
 たとえ、この激突でどちらかの使命が費えようとも――それこそが、この世界の必定なのだと諦めよう。
114「すべての不義に鉄槌を」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/22(金) 01:39:16 ID:k5iys0Dm
「お相手いたしましょう」

 ロベルタ自身も剣を抜き、シグナムに構える。
 言葉はいらない。刃を構え合ったその瞬間に、互いの事情は感じ取った。
 一対一。
 勝者は、一人。
 敗者も、また一人。
 生きるのも――死ぬのも――やはり、一人。


 ◇ ◇ ◇


『ねぇロベルタ、あれはなぁに?』

 ラブレス家邸宅の大広間に、観賞用として掲げられた、数多の銃器と刀剣。
 その物騒な品物の数々に、次期当主であるガルシア・ラブレスが興味を示した。

『これ、でございますか? これは――』
『それに興味がおありかな?』

 ガルシアの傍、純粋無知な質問にどう答えようかと思案していたロベルタの後方から、現当主であるディエゴ・ラブレスが顔を出した。

『それは、初代ラブレスがピサロの遠征隊とともに新大陸へ上陸してから共に歩んだ、武具の数々だ。
 コムネロスの反乱、第一次独立戦争、ヴォリバルの乱……長い歴史の間には、良い時も悪い時もあった』

 優しい瞳で、懐かしそうに語るディエゴの両端。ロベルタとガルシアは、当主の話に静かに耳を傾けた。

『だが――今、こうして飾られ眠りについている武具を見ると、少なくとも今は悪い時代ではない。そう思わないか、ロベルタ?』

 ディエゴは左傍らに立つロベルタの肩に手をやり、身を寄せる。

『栄光の日々は過ぎたが、今ここには、得がたい平穏の日が確かにある』

 ディエゴは右傍らに立つガルシアの肩に手をやり、身を寄せる。

『戦乱の中に育まれたラブレス家の家訓もまた、遠き日のもの――また、それも良し、だ』

 三人身を寄せ合い、幸せな日を過ごした。
 もう一度、取り戻したい。ディエゴが言う、得がたい平穏の日を。
 そのために今一度――ロベルタは、『フローレンシアの猟犬』に舞い戻ろう。


 ◇ ◇ ◇

115「すべての不義に鉄槌を」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/22(金) 01:40:36 ID:k5iys0Dm
「Una vandicion por los vivos.(生者のために施しを)
 Una rama de flor por los muertos.(死者のためには花束を)」

 剣と剣が交わり、衝突の際に発せられる金属音が、川のせせらぎを凌駕していく。
 刀を振るう騎士、剣で受ける使用人、共にうら若き女性二人。
 ダンスを踊るようなステップで攻防を繰り広げる二人の間には、静かなる狂気が不協和音を奏で始めていた。

「Con una espode por la justicla,(正義のために剣を持ち)
 Un castigo de muerta para los malwados.(悪漢共には死の制裁を)」

(――唄っている?)
 剣を合わせながら、シグナムはロベルタが節々で発言している、呪文のような旋律を聞き取っていた。
 声が小さすぎて、その詳細までは分からない。ただ、踊るように剣を振るうロベルタの姿は、

「Acl llegarmos――――(しかして我ら――――)」

 優雅に歌唱する戦乙女の如く――猟犬などとは程遠い、美しすぎる印象を放っていた。

「en elatar de los santos.(聖者の列に加わらん)」

 ――ロベルタが口にしていたのは、ラブレス家の家訓。
 すべての不義に鉄槌を――今のロベルタの所業が他でもない、その不義に該当していることは、端から自覚している。
 別に感傷もなく、特に感想もなく、感情を殺すこともなく、冷徹である必要すらない。
 なぜなら、殺す側にとって殺される側は、どうでもいい人間だから。
 ロベルタが殺した三人……石川五ェ門も、車椅子の少女も、狂乱の神父も、ロベルタにとってはどうでもいい存在だった。
 たとえ、その三人の死で悲しむ者がいようとも。ロベルタは、何も思わない。

(外道であることなど、重々承知しております。
 ですが私は、ラブレス家に帰還するため、御当主様と若様に今一度お会いするためならば、ラブレス家の家訓に背くことも厭いません)

 決心は、固い。
 意志の強さが、ロベルタの剣筋に磨きをかける。

(あのロアナプラでの夜が、銃を握った最後の夜だと、固く信じておりました。
 若様のため――などという綺麗事は申し上げません。これは、只の哀れな狂犬の我侭です)

 ロベルタの剣が、シグナムの刀を打ち払った。


「サンタ・マリアの名に誓い、すべての不義に鉄槌を」

116「すべての不義に鉄槌を」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/22(金) 01:42:20 ID:k5iys0Dm
 頭上から、真っ直ぐな軌道で剣を振り下ろす。
 間合い、太刀筋、双方から見ても、文句なしに一刀両断のタイミングだった。
 相手がシグナム――『剣士』でなければ、勝敗は既に決していたことだろう。

「ハァッ!」

 打ち払われた刀を即座に引き戻し、シグナムはロベルタの剣撃を正面からガードする。
 ガキンッ、という一際大きな金属音が鳴り、二人の間に一定の距離が生まれた。
 互いに間合いの一歩後方。少しでも踏み出せば、仕掛けられる。
 しかしただ闇雲に直進するだけでは、相手のカウンターに阻まれるのがオチ。
 ここぞという時に繰り出すならば、やはり渾身の一撃でなければ意味がない。

(温存している余裕はない。持てる全ての力を出し切らなければ、ここで負け――死ぬ)
 シグナムは残り僅かとなった宝石の魔力をクラールヴィントに通し、必殺の一撃を放とうと刀を振り上げる。

(剣での戦いでは、相手側に分があるようですね。元より、鍔迫り合いなどで時間を浪費するつもりもありません。ならば)
 ロベルタはかつて、刀を持たぬとはいえシグナムと同等かそれ以上の剣客を始末した獲物を取り出し、構える。

「紫電――――」
 騎士の振るう刃が煌き、メイド服の女性を狙う。

「ドッ――――」
 メイド服の懐から黒光りする筒が飛び出し、騎士に銃口を向ける。

 双方、攻撃と攻撃が交わる時。

「――――一閃!」

「――――カン」

 振り下ろされたシグナムの刀は、刀身に炎を纏ってロベルタへと襲い来る。
 ロベルタが放った空気砲の弾は、自身を後方に吹き飛ばしながら衝撃を撒き散らす。

 炎と圧縮された空気圧。
 両者の一撃がぶつかり、破裂し、加熱され、爆散した。
117「すべての不義に鉄槌を」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/22(金) 01:43:24 ID:k5iys0Dm
 爆音が橋を揺らし、川の水を盛大に噴き上げる。
 濛々と立ち上る煙幕の両端、ロベルタとシグナムは、共に万全の状態で君臨していた。

「中々の腕前で」
「そちらもな」

 煙幕が晴れ、闘争者たちは再度顔を合わせる。
 殺気はまだ消えていない。全力も出し切ってはいない。
 まだ、激闘は続く――意地を貫き通せば――そう思われた。

「私、火急の用事があります故、このような茶番は早急に終いにしたい所存でありまして」

 不意に橋上に君臨するメイド、ロベルタが空気砲を収め、そう発言した。

「火急……そう、火急ではあるのですが、『急いては事を仕損じる』、という言葉もあります。
 ただでさえ、この場では一瞬のミスでも死に繋がる故、一度たりとも失態は許されません」

 何を言いたいのか要領を得ないメイドにヤキモキしながら、シグナムは殺気を放ち続ける。
 ロベルタもシグナムの殺気に気づいていないわけではないのだろうが、過剰な反応は見せず、覚束ない手つきでデイパックから一つの道具を取り出した。
 見たところ、新たな武器の類ではないようだ。外見から推測するに、懐中電灯と見て取れるが。
 そう思ったら案の定。ロベルタが取り出した懐中電灯から眩しい光が照らされ、彼女の全身を包み込む。
 何故この場で懐中電灯を? それも自分に光を当ててどうするというのか。
 訝しげに観察するシグナムの視線の向こう、ロベルタは、驚くべき発言と共に一礼した。

「このままあなた様と戦闘を続けるのは懸命ではないと判断いたしまして、戦略的撤退を取らせていただくことにします」

 スカートの恥をちょんと摘み、ロベルタは別れの挨拶を送る。

「では、御機嫌よう」

 発言直後――ロベルタは、川へと飛び込んだ。


 ◇ ◇ ◇

118「すべての不義に鉄槌を」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/22(金) 01:44:42 ID:k5iys0Dm
 あまりにも突拍子のない出来事に、シグナムは数秒、その場で呆然とした。
 あろうことか、メイド服の姿で川に飛び込み逃走を図るとは。
 確かに、あのまま戦いを続ければ、どちらが勝とうとも勝者が消耗するのは確実。
 もっと着実に優勝への道を目指すならば、無理な戦闘は避けて通った方が懸命ではある。
 しかしシグナムには、ロベルタのような行動を取ることが出来ない理由があった。
 主、八神はやてに心配をかけないためにも、自分がゲームに乗っていることを他者に悟られてはならない。
 先の戦闘でも既に、一人の少女に一人の子供、一体の人形と、あろうことかシグナムをよく知るレイジングハートに、そのことが知られてしまった。
 できれば早急に始末したい……水銀燈から受けた傷を押してここに来たのも、ルートの限られた橋の付近なら標的を見つけやすいと判断したからだった。
 だが結果として、シグナムがゲームに乗っている事実を知る者が、また一人増えてしまった。
 名前は明かしていない上、ロベルタから感じ取った印象を見るに、あまりこういったことを他言するようには思えないが。
 それでも、再戦の必要はある。
 単純に戦士としてもそうだが、ロベルタもまた主のために戦っているというのであれば、同じ世界いるはやてにいつ害が及ぶとも限らない。
 だが、やはり。

「『急いては事を仕損じる』、か。正しくその通りだな……」

 痛む背中を押さえながら、シグナムは思う。
 数ヶ月前、まだヴォルケンリッターたちが闇の書の頁蒐集に励んでいた頃。

(思えば、あの時も主はやてを思うがあまり……焦りから失態を生み出し、時空管理局に介入されるという事態を招いてしまった)

 この場合、結果が功を成したかどうかは問題ではない。
 焦る余り失敗した。その一点のみが重要なのだ。

(あのメイドの言うとおり、ここでは一度の失態も許されない。より確実な道を選択し、行動するのが賢明か)

 考えを改め、シグナムは橋の近くの物陰へと消えていく。
 素性を知られたレイジングハート使いも、あのメイドも、いずれは必ず始末する。
 だが、今はまだ深追いはしない。時を待ち、好機を窺うのだった。


 ――シグナムは知らない。
 先程剣を交えたばかりのメイド、ロベルタこそが、守るべきマスター八神はやての仇であることを。

 数分後に流れる放送で、彼女は何を思い、何を嘆くのか。


 ◇ ◇ ◇

119「すべての不義に鉄槌を」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/22(金) 01:46:21 ID:k5iys0Dm
 川に流され数メートル。
 飛び込む前に浴びた『テキオー灯』の効果もあり、ロベルタは落ち着いた呼吸のまま地上へ帰還した。
 とはいえ、さすがにメイド服のまま泳ぐのは難があったか。
 思うように距離は稼げず、時計に目をやると、放送まであと五分と迫っていた。

(第一放送の段階で、功績は三人。多いか少ないかは、第一放送時点で何人死んだかによりますが……決して悪いペースではないはず)

 その上、己の身は五体満足。ダメージもほとんどゼロ。
 上出来だ。このままの調子を維持すれば、順調にことは進む。

(次は市街地を狩場に定めようとも思いましたが……人数が多い内は、乱戦になる確立も高い。
 何者かに漁夫の利を狙われる可能性もあります故……念には念を入れて、一人一人確実に、より安全な方法を取るとしましょう)

 都合よくも、ロベルタが浮上したのは橋のすぐ傍だ。
 ここで張っていれば、誰かしらが通ろうとするはず。
 そこを襲撃し、一撃で仕留めればいい。なんとも単純な狩猟(ハンティング)ではないか。

「一先ずは、放送を聞きながら朝食を取ることにいたしましょう。狩りはまた、次の周期に――」

 シグナムと違い、ロベルタには放送で死を聞いて、心を痛めるような人物はいない。
 ひょっとしたら、それこそが最大の強みなのかもしれない。



【D-3/橋の袂/早朝(放送直前)】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:背中を負傷(致命傷には遠い)/騎士甲冑装備
[装備]:ディーヴァの刀@BLOOD+
     クラールヴィント(極基本的な機能のみ使用可能)@魔法少女リリカルなのはA's
     凛の宝石×4個@Fate/stay night
     鳳凰寺風の弓(矢22本)@魔法騎士レイアース、コルトガバメント
[道具]:支給品一式、ルルゥの斧@BLOOD+
[思考・状況]1、しばらく橋の傍に潜伏。通行人を襲撃する。
       2、凛と水銀燈(名前は知らない)を捜索して殺害する。出来ればのび太も。
       3、いずれロベルタ(名前は知らない)とも決着をつける。
       4、はやて、ヴィータ、フェイト、なのは以外の参加者を殺害する。
       5、ゲームに乗った事を知られた者は特に重点的に殺害する。
       6、危険人物優先だが、あくまで優先。
       7、もしも演技でなく絶対に危険でないという確信を得た上で、 ゲームに乗った事を知られていないという事が起きれば殺さない。
[備考]:シグナムは列車が走るとは考えていません。


【E-2/北東の橋の袂/早朝(放送直前)】
【ロベルタ@BLACK LAGOON】
[状態]:肋骨にヒビ(行動には支障無し)
[装備]:空気砲(×2)@ドラえもん/鳳凰寺風の剣@魔法騎士レイアース/グロック26(10/10)
[道具]:デイバッグ、支給品一式(×7)
     マッチ一箱、ロウソク2本、糸無し糸電話1ペア@ドラえもん、テキオー灯@ドラえもん
     9mmパラベラム弾(50)、ワルサーP38の弾(24発)、極細の鋼線
     医療キット(×2)、病院の食材
[思考・状況]1、放送を聞きながら朝食を取る。
       2、しばらく橋の傍に潜伏。通行人を襲撃する。多人数や状況的に不利な相手の場合は、見逃す。
       3、ゲームに勝利し、ラブレス家へ帰還する。
120史上最大の部活 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/22(金) 02:18:35 ID:mFy7zCVF
クルーガーと半ば喧嘩別れのような形で別れた魅音は一人、コンパスと地図を頼りに“ある場所”を目指し歩いてた。
その場所とは…………
「ここが……」
魅音の目の前にあるもの。
それは、年季の入った木造の和風建築だった。
そして、その建物の入口脇に立て掛けられた看板には見覚えのあるマークとともにこんな文字が書かれていた。

――ようこそエイハチ温泉へ!
――歓迎 参加者ご一行様

「A-8の区画にエイハチ温泉って……まったく安直なネーミングだことで……」
魅音は、看板を見てまずは悪態をつく。
未だにクルーガーと別れたときのイラ立ちを引きずっているのか、彼女は少々なーバスになっているようで、些細なことにも突っかかるようになっていた。
「……ま、中がまともだったらこの際名前なんてどうでもいいけどね」
魅音は自分にそう言い聞かせると、扉の取っ手に手をかける。
そして、それを横に送りガラガラと大きな音を立てて開くと――
「うわっ!」
彼女が驚くのも無理はない。
何せ、開いた瞬間に建物の中の照明が一斉に点いたのだから。
「まったく……一々驚かせないでっての! ……はぁ」
ため息をつきながらも、建物の中へと入っていく魅音。
だが、その時だった。

――パンパカパンパンパーン!!!!

「どひゃあああ!!」
突如鳴り響いたファンファーレに魅音は驚き、その場に尻餅をついてしまった。
「な、何なの突然……」
『ようこそエイハチ温泉へ! ギガ〜』
「ひゃああ!! 今度は何!?」
ファンファーレの次は機械で合成されたような声による歓迎の言葉。
魅音には、もう何が何だか訳が分からない状態だった。
『はるばるこんな最果ての地にやってきてくれてありがとうギガ〜。このエイハチ温泉でその疲れた体をゆっくりと癒してほしいギガ〜』
「どこから声が出て…………って、もしかして……」
彼女の視線が行った先にあったのは、一体の土偶だった。
それは信楽焼のタヌキのごとく、建物入ってすぐの玄関脇に置かれたもので、確かにそこから声がしているように聞こえた。
「でも何で土偶がしゃべって……って、そうかスピーカーから……」
『この建物は見た目は古いけど壁もガラスも防弾仕様でできているから安心して温泉に浸かってほしいギガ〜』
「無人温泉の案内役ってトコ……なの?」
魅音は立ち上がるとその土偶を見下ろす。
「それにしたって、土偶に喋らせるって一体どういう神経してるのよ……まったく……」
『この温泉は24時間無料で開放してるギガ〜。いつでも来てほしいギガ〜』
「そもそも温泉をこんな場所に作る神経ってのがどうかしてるんだよ……」
『ここは温泉設備のほかにもくつろげるスペースもあるので、お客さん達にはそちらも利用してほしいギガ〜』
「………………」
『ちなみにお客さんがここに来た最初のお客さんギガ。おめでとうギガ〜』
「――って、あぁっ、もう! ギガギガうるさいなぁ!」
語尾が癇に障りイラついた彼女は持っていた手斧を振り上げると、それを土偶に叩きつける。
――が、その手斧は土偶の表面で跳ね返されてしまう。
「……!! こ、こいつ……!!」
『そういうわけで音声案内はおしまいギガ〜。それではごゆるりとおくつろぎくださいギガ〜――――プツッ!』
そこまで言うと、土偶は途端に何も喋らなくなった。
まるで最初からただの置物であったかのように。
「……ったく! 黙るならとっとと黙ってほしいんだよね」
土偶を壊せなかったことに気まずくなった魅音は、手持ち無沙汰になった手斧をしまうと土偶から目をそらした。
そして……。
「疲れた……。温泉にでも入ろ」
彼女の足は自然と建物の奥へと向かっていった。
121史上最大の部活 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/22(金) 02:21:02 ID:mFy7zCVF
――カポーン

建物の奥にある女子浴場。
その内風呂の中に魅音は入っていた。
「……あー、疲れが取れるぅぅ……」
オヤジのような声を出して、大きく伸びをする。
その声は彼女一人しかいない浴場内に大きく響き、何度も木霊する。
「はぁ〜、それにしても色々あったなぁ……」
一人心地にそうつぶやくと、魅音はギガゾンビの姿や、富竹さんと名も知らない少女の死、そして自分をここまで疲れさせたあの男の姿を思い浮かべていた。

――こんな夜更けに独りで歩かれては無用心ですよ、お嬢さん!

  ――ハッハッハッ、喋っていると舌を噛みますよ、イオンさん!!

    ――超えて見せる!例えどんな人間であったとしても俺は追いついて見せるぞおお!

      ――魅音さん。すぐ…戻りますよ。絶対にね

        ――ははは、では行ってきますよ。俺自身の証明の為に

出会った時から騒々しく、暴走気味で、そして人の話を聞こうとしなかったあの男。
殺し合いという名のゲームは始まってからの彼女は、その男に振り回されっぱなしだった。
しかし、それだけ騒がしかったが故にいなくなると、どこかぽっかりと胸に穴が開いたような気がして……。
「…………って、どうしてあんなヤツの事を思い出してるのよ、私!!」
魅音は己の頬を両手でぴしゃりと叩くと、湯船の中に顔を沈める。
「落ち着け、園崎魅音。もっCOOLになるんだ……。そんなことよりも先に考えることがあるだろ……」
そして、顔を上げるとその勢いで立ち上がる。
「よし! 頭の整理終わり! さっさと上がって今後について考えるとしますか!!」
彼女はそんな決意を胸に湯船から上がり、更衣室へと帰っていった。

……以上で入浴シーンは終わりである。
122史上最大の部活 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/22(金) 02:23:11 ID:mFy7zCVF
「バトルロワイアル、か……。まったく、あのギガゾンビってヤツも本当に胸糞悪いゲームを考えたもんだよ」
浴場の隣、いわゆる休憩場と呼ばれている広いスペースの中央。
温泉につかってリフレッシュした魅音は、そこでテーブルの上に地図を広げて今後の行動について考えながらぼやいていた。

ゲームというのは本来、皆で楽しくやるべきものだ。
それこそ、自分達が日々行っている“部活”のように。
確かに、彼女たちの“部活”で行うゲームはお遊び感覚では到底勝てない。
駆け引きや心理戦を駆使してこそ勝利が得られ、それが出来なかった敗者には容赦ない罰ゲームが待っている。
――部活とはそれほど厳しいものであるのだが、それでも彼ら彼女らは自らの意志で、楽しみながらそれを遊んでいる。
それに比べて、このバトルロワイアルは何だ。
誰の賛同も得ずに、勝手にギガゾンビの号令の下に強制的に行われている。
こんなゲームは、部活をいつも主催している側である魅音にとっては邪道であり、行われている状況を許せるものではなかった。
故に、彼女が選んだ道は唯一つ。
それが“この胸糞悪いゲームの破壊、そして脱出”であった。

「ゲームの打倒、か。部活のテーマにしては史上最大クラスかもねぇ、くくく……」
部活開始以来の史上最大のテーマ。
――そう考えると、魅音の中では自然とやる気が高まってきていた。
そして、それと同時に、この活動をともに行うのにふさわしい面々の顔を彼女は思い浮かべた。
あのそれぞれが輝いている素晴らしき部活メンバーの顔を。
やはり合流するのなら信頼の置ける彼らだろう。決して得体の知れない人の名前を間違えるような男ではなくて。
……だが。
「だけど……問題はそこからだよねぇ」

例え部活メンバーと合流したとしても、それだけでは彼女の目指す目標――即ちバトルロワイアルという名のゲームの終了は望めない。
見知った仲間で集まったところで、何も策もなしに下手に脱出しようとすれば、首につけられた首輪が富竹さんよろしく自分たちの命を容易く奪われるのが関の山だ。
魅音だって、そんな屈辱的な死に方はしたくないに決まっている。
だからこそ脱出の為には、首輪を、更に言えば首輪をつけた張本人であるギガゾンビをどうにかする必要があるのは明らかだった。
そして、どうにかする為に今彼女ができることといえば……

「やっぱり……あの青いダルマみたいなやつと話す必要がありそうね……」
魅音の脳裏に思い浮かんだのは、最初に皆が集められたあの場所でギガゾンビの名前を叫んだ青い雪ダルマのような物体とその仲間と思われる子供達。
ギガゾンビの正体を知っている彼らと会って情報を収集することがゲームからの脱出の為の第一歩であると彼女は悟るが……。
「――って、そんなの分かったところで、どこにその青ダルマがいるか分からないとどうにもならないんだよねぇ……」
地図を見て恨めしげに魅音はぼやく。
舞台になっている四キロメートル四方の区画。
しかも、そこはただ平坦な平原だけが広がっているのではなく、建物もあればアップダウンも森林も含まれる複雑な地形になっている。
そこから特定の人物を探すのは相当困難を極めるだろう。
「それに今は夜。こんな暗がりの中で目当ての人に会えるなんてよっぽどの幸運の持ち主くらいだって……」
だが、彼女は知らなかった。
既にその“よっぽどの幸運の持ち主”である部活メンバーの二人が合流していたことに。
「動くにしても、明るくなるのを待ったほうが良さそうだねぇ……。迂闊に動いてもするのは損だけって相場は決まってるし」
日の出が近づくのとともに動くことを決めた魅音。
そして、その出発後の最初の目的地として彼女が選んだのは……
「とりあえず今ここで何が起っているのかを一望したいところだけど、それができる場所といえば……ここか」
指を差した先は現在地から比較的近い場所に表示されていた“山頂”という地点。
山頂ならば、町や含めた麓の様子が一望できるだろうという推測からの決定だ。

――日の出が近くなった頃に温泉を出発。目指す先は山頂。その目的は状況の確認。

落ち着きを取り戻した彼女が至ったのは、そんな結論だった。
123史上最大の部活 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/22(金) 02:25:56 ID:mFy7zCVF
空がうっすらと色づき始めた頃。
魅音は温泉の玄関にて、荷物を再確認し、出発の準備をしていた。
現在彼女が所持する物の内、武器といえそうなのは手斧とロケットランチャーのみ。
近接、遠距離の双方の武器が揃っているということになるが、どちらも扱う上で少々癖が強い上に、サイズが大きいので携行していると自らが殺戮者だと勘違いされそうな代物だ。
そんなわけで、魅音はそれらをデイパックに戻すことにした。
「……はぁ。どうせなら拳銃とかあれば良かったんだけどねぇ」
ボヤきながら、温泉に入るということで外してあった篭手を装着する。
――これが彼女唯一の装備だ。
「ま、誰も傷つけないで済めばそれでいいんだけどね」
そうは言うものの、彼女はそれが理想に過ぎないことを知っている。
あれだけ人がいたのだ。
多少なりとも、ゲームに参加するという頭のネジが外れかかっている酔狂な連中がいるのは明らかだ。
そして、そんな輩を相手にした時にまで理想を掲げられるほど、魅音は博愛主義、理想主義者ではない。
もし必要とあらば……。
「状況の確認に圭ちゃん達との合流、青ダルマからの情報収集、それに扱いやすい武器の調達……か。やることが多すぎておじさんてんてこ舞いだよ、こりゃ」
しかし、これも部活の為、ゲーム打倒の為なのだ。
部活の部長として、魅音のやる気は最高潮に達していた。
「よっしゃ、それじゃ行きますか!」
魅音はそんな掛け声とともに意気揚々と温泉のドアを開ける。

――そして、ギガゾンビの顔が空に映し出され、放送が始まったのはまさにそんな時だった。


【A-8 温泉施設玄関・1日目 早朝(放送直前)】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:リフレッシュ やる気十分
[装備]:エスクード(炎)@魔法騎士レイアース
[道具]:ヘンゼルの手斧@BLACK LAGOON、USSR RPG7(残弾1)、ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)、
   スーパーピンチクラッシャーのオモチャ@スクライド、支給品一式。
[思考・状況]
基本:バトルロワイアルの打倒
1:山頂に行って、麓の様子を確認する。
2:圭一ら仲間を探して合流。
3:ドラえもん、もしくはその仲間に会って、ギガゾンビや首輪について情報を聞く
4:襲われたらとりあえず応戦。
5:出来れば扱いやすい武器(拳銃やスタンガン)を調達したい
6:クーガー? そんなのあとあと!

<温泉について>
・名称はエイハチ温泉、無人温泉施設です。24時間営業です。
・温泉の入口には来客案内用の土偶が置かれています。ギガギガ言います(音声はギーガ鉄道と同じ)
・来訪時のファンファーレは、一人目の来客であった魅音限定のサービスです。
・施設の外装はガラスも含めて防弾仕様になっています(ただし、強力な魔法やロケットランチャーが命中すれば壊れるかも)
・男湯と女湯に分かれていて、内風呂があります(露天風呂については以後の書き手さんにお任せ)
・なお、魅音来訪と同時に施設の照明が自動的に点りました。現在は廊下と玄関に電気が点っています。
・他の照明はスイッチを押すことでオンオフ操作できます。

>>120冒頭の訂正  「クルーガー」→「クーガー」 クーガーファンの皆さん申し訳ありませんでしたorz
124Unknown to Death. Nor known to Life ◆2kGkudiwr6 :2006/12/22(金) 17:00:33 ID:6Y3p2uCL
「――投影、完了」

 やる事が粗方終わり、私は一息吐いた。
地面に散らばるのは3組の干将莫耶。
本来なら二十七本投影しても汗の一つも出ないが……どうもここでは魔力の通りが悪い。消費も所要時間もいつもより大きい。干将莫耶の投影に2,3秒、消費魔力も倍。
投影を行う際に必要となる設計図をあらかじめ待機させておくことで所要時間は短縮できるが、身体に負担が掛かる。
ゆえに、投影はあらかじめ行っておくべきだと判断した。
あらかじめ右手に白い短剣・陰剣莫耶を携え、黒い短剣・陽剣干将はベルトに挟む。
残り二組の干将莫耶はデイパックへ。
片腕となったのは痛いが……それでも戦いようはある。
疲労も取れてきた。偵察ならばこなせるだろう。
目指すは北西。先ほど聞こえた、大音量の源。
そう決めると同時に、荷物を片付けて私は跳躍した。
125Unknown to Death. Nor known to Life ◆2kGkudiwr6 :2006/12/22(金) 17:02:12 ID:6Y3p2uCL
電柱や家屋の屋根を飛び移って移動する。最終的に降り立ったのは商店街の屋根。
そこにあったのはひどい破壊の痕だ。
見る限り、強力な魔術行使と強大な爆発が行われたらしい。
そしてその中で、悠々と歩いている男が一人。
気配で分かる……奴は明らかに人外の者。
何よりも、特になにかしているわけでもないのに傷だらけの体が少しずつ癒えている。
まともな人間ではない、というのは誰にでも分かるだろう。
長年戦い抜いてきた私にはその正体が簡単に分かった。
「復元呪詛……吸血鬼か」
復元呪詛とは、吸血鬼が持ち合わせる再生能力。
私は何度か吸血鬼と戦ったことがある。ゆえに、その特性も実戦の中で知っていた。
しかもそろそろ日が昇ると言うのに気に介することもなく行動している辺り、
日光を克服したかなり高いランクの吸血鬼で間違いないだろう。
そして……

「ほう……見抜いたのか」

それほどの吸血鬼なら、私に気付かないはずがない。
警戒しながら莫耶を構える。どうやら、かなり手こずることになりそうだ。
奴の得物は銃……だが、何か他に特殊能力を持っている可能性もある。
吸血鬼である以上固有結界……あるいは空想具現化か。
もっとも、私の切り札同様に制限されている可能性が高いが。
しかし奴は私とは違う反応を見せた。警戒するどころか……笑っていた。
笑って、言葉を告げた。

「ならばお前は何だ? 殺し屋か?
 人のために吸血鬼を倒す正義の味方か?」

吸血鬼が告げた言葉。それが、私の心を少しだけ削る。
苛立ちに後押しされる形で、私は言い返した。

「……ただの掃除屋だ」

それが、引き金となった。
奴が銃を向ける。こちらは隻腕、しかも得物は剣。
まともに戦っては無事で済まない。よって、商店街の設備を利用するしかないだろう。
周りを見やりながら屋根の上を疾走、状況を探る。

――BANG!

銃声が響く。足元で建築材が爆ぜる。
とっさに回避していなければ足に穴が開いていたに違いない……
だが、喜んでいる暇は無い。

――BANG!

「どうした!? 逃げ回るだけかヒューマン!」
素早く屋根から飛び降りた。いや、そうせざるを得なかった。
予想以上に狙いが正確だ。最初こそ接近を試みようと走っていたが、回避するために距離を取らざるを得ない。
126Unknown to Death. Nor known to Life ◆2kGkudiwr6 :2006/12/22(金) 17:03:34 ID:6Y3p2uCL
そうしなければ、やられる。
「……ならば!」
奴が銃を向ける。近くにあった電信柱に隠れ、盾にした。
銃弾が直撃した電信柱に亀裂が入る……やはり、ただの銃にしては威力が高すぎる。
だが、好都合。
「せいっ!」
右腕を素早く振るった。亀裂が入っていた電信柱は私の斬撃でも容易く両断された。
そのまま狙い通り、奴へ向かって倒れ込む。
……もっとも、奴に驚きは無い。当然だ。
吸血鬼の身体能力ならこの程度の攻撃、回避は容易。
故に、握っていた莫耶を「左から」切り返しの要領で投擲する。
電信柱が右から倒れ込み、左からは莫耶。時間差と速度差を利用した挟み撃ち。
どちらに回避しようとダメージは免れない。

――そう、回避するだけならば。

奴は莫耶の方を回避した。莫耶はそのままあらぬ方向へと飛んで行く。
電信柱はどうしたか?簡単だ。
左腕で倒れ込んできた電信柱を軽々と受け止めたのだ。
奴がニヤリと笑う。相対する私は無表情のまま。だが……

にやりと笑いたいのは、こちらも同じ。

奴の背後。そこでは、投擲した莫耶がブーメランのように戻ってきていた。
私の腰のベルトにある干将に引き寄せられたのだ。
これが干将莫耶が夫婦剣足る由縁。互いに引かれ合う固い絆。
しかし。
奴は振り向くことさえせずに腕だけを後ろに向け、軽々と莫耶を撃ち落とした。
「……ちっ」
思わず舌打ちする。
予知能力の類ではないだろう……ただ身体能力が圧倒的に優れている、それだけだ。
ただそれだけで、後ろから飛来する凶器に気付き、反応してみせた。
「なかなか考えているじゃあないか、ヒューマン」
「…………」

そのまま、銃を向けることもなく奴は笑っていた。楽しくて仕方が無いと言うように。
先ほどまで起こっていた騒音。そしてこの態度。
ならば、答えは一つだけ。

「どうやら貴様は殺し合いに乗ったようだな、吸血鬼」
「だからどうした?
 今更そんなことを確認してどうする?」

奴の視線が告げている。早く違う武器を取り出せと。俺を殺してみせろと。
だが……私は後ろに跳んで距離を取った。
戦う気をなくした、と言わんばかりに。
奴の表情が、変わる。

「……何のつもりだ」
「貴様はゲームに乗っている。ならば、私と貴様がここで戦う必要はあるまい」
127Unknown to Death. Nor known to Life ◆2kGkudiwr6 :2006/12/22(金) 17:04:32 ID:6Y3p2uCL

簡単な理屈だ。
私の目的は参加者の全滅。ならばこの吸血鬼と戦う必要性はない。
参加者を殺してくれる吸血鬼は放っておき、私は違う参加者を殺す。
無駄に消耗することも無い、実に合理的で利口なやり方だ。
そもそも、私がここに来たのは偵察のためなのだから。

……だが、奴は納得しなかったらしい。

「戦わずに逃げる、ということか?」
「私の目的は勝利であり、戦いではない」
そう断言する。
私にとって最悪のパターンは「中途半端に一部の参加者が脱出を目指した結果、全員が首を吹き飛ばされること」。
それすればもう誰もギガゾンビを止められず、より多くの数の人間が犠牲になる。
それだけは、絶対に出来ない。
そうならないためにこの吸血鬼の存在は有益だ。参加者を殺していってくれるのだから。
弱ったところで私がとどめを刺せばよい。奴も私に対して同じことが言えるはずだ。
もし生存を望むのならばこの手段がもっとも良い。

……しかし、奴は違った。

「お前はつまらないな、ヒューマン」

吸血鬼はそう告げた。
そこに愉悦はない。あるのは怒りと……呆れだった。
「なによりもまず、その目だ。
 その目は現実に負けた目だ。諦め、屈した敗者の目だ。つまらん」
「…………」
反論はない。する必要も無い。事実だ。
ここに在るのは夢を追い求め、それが間違いだと知って絶望するだけの残骸だ。
正義の味方を目指し……そんな物はないと気付いた愚者。
銃口が向く。素早く干将を盾にした。衝撃で剣が折れると同時に、奴は罵倒する。
「抗おうと思わないのか、ヒューマン!? 貴様は犬の餌にも成り得ない屑か!」
奴は本気で激怒していた……だから、少しだけ応えた。
奴の激情に、『俺』が持っていた行動理念を少しだけ告げるという形で。
「……抗ったさ。誰も彼も守ろうと、現実に抗ってひたすら理想を追い続けた。
 そうして理想を追い続けたオレが最後に見たのは、人を殺し続ける無限地獄に過ぎなかったがな!」
「なら大人しく死ね! 諦めているだけなら貴様はただの死人だ!」
奴の意志を体現するかのごとく銃が火を噴く。頬を銃弾が掠めた。
攻撃から逃れると同時に、オレは言い返した。
「あいにく、とうに死んだ身だ……理想を抱いて溺死した!
 死してなお終わることのない地獄を見せられる気持ちが、
 不老不死を体現する貴様らに分かるのか、吸血鬼!?」
「……何?」
奴がオレの言葉に興味を持ったようだが、これ以上応える義理は無い。
後は相手の狙いを外すべく、立ち並ぶ建築物の合間を無言で走る。

――オレは親父の理想を継いで、走り続けた。そして見たのは。
128Unknown to Death. Nor known to Life ◆2kGkudiwr6 :2006/12/22(金) 17:05:20 ID:6Y3p2uCL

追ってきた相手を視認した瞬間、デイパックから莫耶を取り出し投擲した。
奴が飛んできた剣へ銃口を向ける。その狙いは恐ろしく正確だ。
だが、それは予測済み。このままでは撃ち落とされるのはこちらも分かっている。

ブロークン・ファンタズム
「壊れた幻想」

――最後に見たのは……壊れた、愚かな自分のユメ。
――最後に残ったのは、人類の存続のために人を殺し続ける一人の英霊。

だから撃ち落される前に投げた莫耶を爆発させた。
螺旋剣による爆発に比べれば小規模……だが、それでも熱は十分だ。
そう、あらかじめ仕掛けておいた物に引火させるには。
電信柱が倒れたことで電線が千切れ、ショートしている。狙いはこれだ。

「――――」

奴が叫んだようだが、オレにはよく聞こえなかったし聞く気もない。
『壊れた幻想』による爆発に電線が発火、更に大規模な火災を発生させた。
もはやその勢いは爆発に近い。声が聞こえなくて自然だろう。
それでも、奴は死ぬまい。いや、恐らくこれでも傷を負ってさえいない。
そもそもまともに当たってはいないのだから。
あくまで、さきほどの攻撃は電気を使った爆発を誘発させるのを優先していた。
ダメージを与えるには爆発地点が遠すぎる。
当然といえば当然の結果だ。逃げることだけが目的なのだから。
屋根へ飛び上がりながら置き土産として更に干将を取り出して投擲、爆発。
煙が視界を覆い、嗅覚を鈍らせる。更なる爆発音は耳鳴りを起こすだろう。
そのまま住宅の屋根を跳び移って奴から離れ、橋の欄干へと跳び上がる。
しばらくしても奴が追ってくる様子は無い。見失ったか……興味を無くしたか。
「……後者だろうな」
思わず、そう吐き捨てていた。そう判断した理由は簡単だ。

背後では炎の中であの吸血鬼が五体満足のまま、完全に失望した目つきで睨みつけていた。

さきほどの爆発で負った傷はほとんどないのだろう。
だが、見失っていた数秒の間に距離が離れてしまい、もはや追いつけない。
銃で追撃しようにも跳んで移動するオレには当たりづらいし……
何よりも、奴はオレの姿勢を見て戦う価値さえないと判断したのだろう。
お互い無傷。武器を浪費し、周囲の物を破壊しただけ。
そしてせっかくのチャンスにオレは追撃ではなく撤退を選んだ。
奴にとってそれは恐らく失望するしかないこと。

――だが、オレが付き合う義理はない。

奴の視線に全く動じることなく橋を渡り切り、休めそうな住宅を目指す。
とりあえず、今必要なのは休息だ。新たな剣も投影しておく必要があるだろう。
一番近いところにあった住宅の中に誰もいないのを確認し、入り込んだ。
どうやらベッドや椅子といった物は置いてあるらしい。休むのには支障ない。
とりあえず、ベッドに座り込んで……
129Unknown to Death. Nor known to Life ◆2kGkudiwr6 :2006/12/22(金) 17:06:41 ID:6Y3p2uCL
(もし衛宮士郎なら、きっと奴の望んだような戦いを見せていたのだろうが)
ふと、そんなことを思った。
奴なら命を懸けてあの吸血鬼を止めようとしただろう。人々を助ける正義の味方として、例え死んでも。
多くの人間を、脱出させるために。

だが、それは無意味。
全てを助けようとして、二も三も取りこぼしていく結果を生むだけ。
中途半端にギガゾンビを警戒させ、奴を取り逃し新たな犠牲者を生む。だけ
ゆえに、オレは違う道を取る。

この殺し合いの参加者という一を切り捨て。
この殺し合いに参加せずに済んだ十を助ける。

過程はどうあれ……結果を見ればこの方が正しい。だから、この道を選ぶ。
『俺』が目指した正義の味方はそんなものでしかなかった。
……無様なものだ。最終的に得た答えがこれか。それでも、
「……せめて、切り捨てることになる一が二や三にならないように」
ギガゾンビによってこの殺し合いが再び開かれないように……
こうやって戦うことしかオレにはできない。
脱出なんて夢物語は望めない。みんな助かるなんて望めない。有り得ないことだから、望めない。
それが正義の味方になると誓って知った現実。
愚かな理想を追い求めたオレが知った、ユメは夢に過ぎないという現実。
それこそが真理だからこそ――正義の味方を目指した少年は剣(てつ)の心で殺戮者になるしかなかったのだから。

そう、過去の自分を少しだけ慨嘆したオレは……空にギガゾンビの顔が映し出されているのを見た。

【F-2 線路脇・1日目 早朝】
【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:疲労、左腕喪失、魔力微消費
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、干将×1、莫耶×1
[思考・状況]
1:休息。
2:参加者を「効率良く」殲滅する(ゲームに乗った者は放置。乗らない者を最優先)
3:ギガゾンビの抹殺

【F-3 商店街・1日目 早朝】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:体中に軽度の火傷(自然治癒可能)
[装備]:対化物戦闘用13mn拳銃ジャッカル(残弾15)
[道具]:なし
[思考・状況]
1、赤い外套の男に失望
2、人々の集まりそうなところへ行き闘争を振りまく
3、殺し合いに乗る

※電信柱が倒れたことで、F-3一帯が停電を起こしています。
また、現在F-3の一部で火事が起きています。
130Unknown to Death. Nor known to Life ◆2kGkudiwr6 :2006/12/22(金) 17:45:03 ID:6Y3p2uCL
修正します。
>>129
生む。だけ

生むだけ。
131井の中のふたり ◆M91lMaewe6 :2006/12/22(金) 23:37:28 ID:GHsEiXUG
俺が目を開けると、さっきと変わらない夜の風景がそこにあった。
見張りを終えた俺はすぐに寝付き、すぐに目が覚めてしまったようだ。
俺はさっきまでのレナを思い出した。あまり大丈夫そうには見えなかった。

俺もそうだったけどあいつも出会った時、かなり殺気立ってたような気がする。
俺よりも……あいつが休んだほうが良いんじゃないかと思う。
……もう少し横になれば、起きてレナと見張りを交代できるくらいにはなれるよな。
そう考えながら、俺は支給品のことを考える。
レナの鉈とコンバットナイフ。
武器は武器だが正直言って、心細い。
もし他の参加者の支給品の中に銃器があるとする。
*し合いに乗った奴がそんなのを持ってたら、俺とレナは太刀打ちできないだろう。
……闇討ちして、怪しい奴から奪う手を思い浮かべそうになるがやめる。
最初からこんなんじゃ、協力して脱出なんてできっこない。表に出てしまう。
それに……できれば銃なんて使いたくない。
俺は雛見沢に来る前の忌まわしき過去を思い出し、ため息をついた。

魅音達とそれ以外の参加者を味方につける。これは脱出する必要条件だろう。
だけどそう簡単にうまくいくとは思えない。
俺達もそうだが、向こうも他人を易々と信用しないだろう。
俺達と他の参加者に共通する、明るい材料がほしい。

俺はそれを探すべく、ゲーム開始時のギガゾンビのルール説明を思い出した。
132井の中のふたり ◆M91lMaewe6 :2006/12/22(金) 23:39:44 ID:GHsEiXUG
★★★

案の定、レナは緊張した様子だった。
俺はわざと物音をたて、小声でレナに話しかけた。
「おい……レナ……」
「……け、圭一くん、まだ早いよ」
「見張り、代わろうぜ」
レナはきょとんとした表情で目をぱちくりさせた。
「お前、俺より疲れてるだろ?放送になったら起こしてやるから」
「え?どうして?駄目だよ」
思った通りの反応だった。
俺はそんなレナを見てしょうがないなと思いつつ言った。
「だったら一緒に起きてようぜ。俺、また疲れたら寝るからさ」
「…………う、うん、分かった」
レナは迷っていたが、渋々そう答えた。
俺は少し距離を取りつつ、レナの背後を守る形で座り込む。

「…………」
「…………」

俺達は一言も発しないまま、ただ時間が流れていくのを感じ取る。
俺はさっき浮かんだ策をいつレナに言おうかと、タイミングを見計らっていた。
レナから話しかけてくる様子はない。
首輪への恐怖を抑えつつ、多分時間にして2.30分位経ってからレナに話を持ちかけた。
133井の中のふたり ◆M91lMaewe6 :2006/12/22(金) 23:45:55 ID:GHsEiXUG
★★★

放送前後の方針を決めた俺達は少しずつ、北へと進む。
上を見上げると、空が少し明るくなったような気がした。もうすぐ、放送か?
「圭一くん……本当に……」
「……ああ」
レナは気が進まない様子だった。
俺も逆の立場だったら反対してたかも知れない。
だが、力も武器も貧弱な俺達が生き残るには色んなものが必要だ。
俺はこれから試す。地図の外に出たら、どうなるかを。
即、首輪を爆破されるかも知れないとレナは危惧してるようだ。
その点については俺は大丈夫だと思う。
わざわざ、これだけ大がかりな舞台を用意したんだ。
あの時に奴に食って掛かった人達はともかく、余程のことがない限り、
他の参加者相手に自ら手を下すことはないだろう。
万が一の心配もあって、それも怖いが……その為の確認だ。
爆破されないなら、奴のゲームに対する姿勢もある程度分かるし、
奴の居場所も地図の外の可能性が高くなる。
他の参加者も試してるかもしれないが、俺とレナがその情報を得るだけでも有益になる。
そう信じたい。
俺はレナを手で制し、前へ進む。
雛見沢に来る前の俺とは違うという証明のための前進でもある。
「…………」
背後にレナの息が聞こえた。俺が声をかける前にレナは言った。
「私も……一緒にいくよ」
俺は犠牲になるとしたら俺一人でいいと、止めようとする。
レナは俺を追い越すと前へどんどんと進んだ。
俺はあわてて追いかけた。
一瞬、空が光ったような気がした。

そして放送が始まった。


『警告します。禁止区域に抵触しています。
 あと30秒以内に爆破します』
134井の中のふたり ◆M91lMaewe6 :2006/12/22(金) 23:48:02 ID:GHsEiXUG
【A-2森・北部 初日 早朝】

【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:正常。
[装備]:鉈@ひぐらしのなく頃に
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:魅音、沙都子、梨花との合流、ゲームの脱出。
2:高校へ向かい、人が出るのを確認してから中に入る。情報収集。
3:マーダーと出会ったらレナを守る。殺すことに躊躇はあるがやる時はやる覚悟。
4:仲間になりそうだったら様子を見た上で判断する。
5:レナが心配。

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:比較的正常。祟りへの恐怖。
[装備]:コンバットナイフ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:魅音、沙都子、梨花との合流、ゲームの脱出。雛見沢に戻って、オヤシロ様に謝る。
2:圭一の方針に従う。
3:マーダーと出会ったら容赦なし。どちらかというと武器は圭一が持ってる鉈がいい。
4:仲間になりそうだったらは圭一の判断に従う。
でも自分の判断でダメだと思ったら可能であれば殺す。
5:もしも脱出が不可能なら……?
135Is he a knight? 1/3 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/23(土) 00:08:28 ID:/UsT0Qxn
「くそっ、いったいどこに行ったんだ」
謝罪の言葉と共に姿を消した少女を捜して、俺はビル街を駆けていた。
何故、彼女が俺を殴ったうえに逃げ出したのか。
俺は何か、エルルゥの気に触ることをしてしまったのだろうか?
皆目見当もつかないが、あの無力そうな少女を放っておくのも寝覚めが悪かった。
しかし・・・声がしてからすぐに顔を上げたのにも関わらず、少女の姿は既に無く。
足の速さが尋常じゃないのか、建物の中に隠れてしまったのか・・・
俺はエルルゥの姿を完全に見失っていた。
(しょうがない、とりあえず彼女の事は後回しに・・・)
と、周囲を見渡していた俺の眼にある物が飛び込んでくる。
それは、ビル群の中でも一際目を引く白く大きな建物・・・どうやら病院らしい。
もしかすると、何か役に立つ道具があるかもしれない。それに・・・
(たしか、薬剤師って言ってたよな彼女・・・行ってみるか)
俺はしばらくの思案の後、病院に向かい歩き始めた。

(あれは・・・)
目的地まで後少しのところで、俺は思わず立ち止まった。
爆発でもあったのか、正面玄関のガラスが完膚なきほどに吹き飛んでいる。
どうやら、何らかの戦闘行為が行われたようだ。
今は静寂に包まれているものの、飛び散ったガラス片がここで起こった事の凄まじさを物語っていた。
さすがに、エルルゥもここには入り込んじゃいないだろうが・・・
何が起こったのか、確認するだけでも悪くは無いだろう。
(それに、生存者がいるかもしれないしな)
だが、さすがにこんな状態の場所から入るのは気が引けた。
俺はゆっくりと踵を返すと、その足で建物の裏へと回る。


そして、俺は・・・天使に出会った。

136Is he a knight? 2/3 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/23(土) 00:09:35 ID:/UsT0Qxn
まだ、薄暗い中に唯一光る非常灯。その即席のスポットライトに照らされて、彼女はいた。
真っ白な光に照らされる、小さく華奢な身体。少女が身を預ける車椅子にゆっくりと近づく。
その愛らしい顔は、何が起こったのかわからないといった表情であらぬ方向を見つめていた。
「あ・・・ああ・・・」
何処からともなく、奇妙な音が響く。
それが自分の声だと気づいた頃には、俺は彼女の冷たくなった身体に顔をうずめ、涙を流しながら絶叫していた。
どうしよもない愛しさと悲しみと絶望と。それら全てが一緒くたになったものが胸の内から溢れ出す。
(どうして・・・どうして、こんな・・・)
それは水面に映る月のように、手で掬っても指の間から零れて消える。
ひとしきり泣いて、泣いて、泣いて・・・震える俺の頭に、不意に冷たいものが触れる。
それは、少女の手。もちろん、彼女の意思が動かしたわけではない。
俺が乱暴に揺さぶってしまったせいで、彼女の手がずれただけでしかない。
けれども・・・俺には彼女の声が聞こえた気がした。

「わかったよ・・・俺はもう、君を誰にも傷つけさせはしない」

そう呟いて、少女の右手に口付けをする。
俺はその瞼を静かに下ろし、そのまま彼女の小さな身体を背負った。
少女の身体の軽さと冷たさに再び涙がこぼれる。
それを袖口で拭いながら、俺は開いたままの裏口をじっと見つめた。
・・・ここに、この娘を殺した奴が居るのだろうか・・・もし、居るのならば・・・
「殺す・・・殺してやる・・・」
胸中の怒りや憎しみを、呪詛の言葉に―殺意に変えて空気に触れさせる。
彼女の体温を背中に感じる。彼女の身体が俺の中の熱を受け止める。
『熱くなったら駄目だよ』
そう言われたように感じて、笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ・・・大丈夫」
彼女の言う通りだ。こんなときこそ冷静にならなければいけない。
相手の戦力もわからないのに、無策に突っ込むのは愚かな事だ。
いつの間にか取り落としていた杖を拾い上げ、俺は被りを振って冷静さを取り戻す。
そして、少女の声援を胸に、俺は病院内へと一歩づつ踏み込んでいった。
大丈夫だ。彼女と心が繋がっているかぎり、俺は負けはしない。
万が一、彼女との繋がりを壊すような奴がいても、排除すれば良いだけだ。

「安心してね。すぐに終わらせて・・・それから、ずっと一緒に居てあげるから」

・・・すっかり明るくなった空に男の姿が見えた気がしたが、微塵の興味もわかなかった。
137Is he a knight? 3/3 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/23(土) 00:10:31 ID:/UsT0Qxn
【D-3病院裏口 1日目 早朝(放送直前)】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:精神的・肉体的に少しの疲労
     はやてを殺した物に対する怒りがあるが、判断力などは冷静?
[装備]:ルイズの杖@ゼロの使い魔、八神はやての遺体
[道具]:支給品三人分(他武器以外のアイテム2品)
     どんな病気にも効く薬@ドラえもん、現金数千円
[思考・状況]
 1:少女(八神はやて)を殺した者を殺す
 2:少女と繋がりを裂こうとする者を殺す
 3:少女を傷つけそうな者を殺す
 最終:1〜3の目的を全て果たし、少女とずっと一緒に居る
※『ずっと一緒に居る』の解釈は後の書き手さんにお任せします
※はやての遺体を背負っています。
 車椅子は裏口に放置、マイクロ補聴器@ドラえもんははやての遺体が装備したままです
※惚れ薬の効果は数十分できれます
138 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/23(土) 00:39:37 ID:/UsT0Qxn
Is he a knight ? に修正を入れます
まず>>136の1行目の最初を
>まだ薄暗い搬入口に、唯一光る常夜灯。

に修正。また同レスの18行目を
>俺は彼女の顔に手をかけて、瞼を静かに下ろす。そしてそのまま、その小さな身体を背負った。

に修正。最後に>>137の[思考・状況]の2を
>2:少女との繋がりを裂こうとする者を殺す

に修正します。ご迷惑をおかけします。
139「過ぎ去った日常」  ◆5VEHREaaO2 :2006/12/23(土) 10:21:47 ID:nYfASF3h
あの二人があの少女を探しに出て数十分が経った。
冷静に考えて、あんな乱暴そうな男と関わるよりもSOS団のメンバーを探すほうが先である。
自分がいなかった時のフォローは、なのはがするだろう。
そう考え、このエリアから逃げ出すことにし、何か役立つ物が無いかを探すことにした。


「ん、もう……大した物がないなぁ」
だが、見つかった物は家具を始めとした雑貨のみであり到底殺し合いに使えそうな物はない。
幸いにも巾着袋があったので血に濡れたデイバックの中身をそれに入れ替え、デイバックはゴミ箱に捨てる。
そして、ここから離れるために店を出ようとした。だが足を止める。
壊れた戸の向こうに街灯に照らされる人影が見えたからだ。
静かに入り口から離れ、カーテンの隙間から窓の外の様子を観察することにする。
鶴屋の目に入ったのは、この家に向かって真直ぐ歩いてくる銃を担いだ、自分と同程度の年齢と思われる女の姿。
裏口から逃げようと思ったが踏みとどまる。
あの女が殺し合いに乗っているのならSOS団のメンバーが危険である。
なら物陰に隠れ、相手が中に入ってきてから刺し殺せばいい。
幸いこの建物には、隠れられそうな場所ならいくらでもあり、自分と同じ年頃の女ならそれで何とかなる。
そう考え、身を隠し息を潜めながら期を窺う。



だが、僅かに想定外のことが起こった。




「……私は殺し合いに乗っていない」
外から凛とした落ち着いた女の声が聞こえてきた。
だが、黙ることにする。下手な対応をすれば死ぬ可能性は低くはない。
「できればそこから出てきて」
沈黙を保つ。
「分かったわ、武器は捨てる」
複数の何かを置く音がした。
「これで丸腰よ」
140「過ぎ去った日常」  ◆5VEHREaaO2 :2006/12/23(土) 10:23:00 ID:nYfASF3h
窓から外を見てみる。銃や荷物が女の周りに落ちていた。
とりあえず、会話をしても大丈夫そうではある。
向こうが殺し合いに乗っていたとしても、いくらなんでも映画みたいに散弾銃を蹴り上げて、
すぐさま射撃体勢に移るなどという行動は成功しないだろう。
「あ〜、悪いねぇ。本当にそうならっさ、ゆっくりと体を回してくれないかな?」
向こうは少しばかり逡巡したものの、言われたとおり体を回転させる。常に此方に視線を絶やさなかったが、
見る限りでは、どうやら武器はこれ以上持っていないらしい。
僅かながらに御人好しそうな部分も相手から感じ取り、利用できるかと思い姿を現すことにする。
「あたしは鶴屋っさ、一緒に協力しないかい?」




そうして女を招き入れ、さきほどと同じように情報交換をしながら信用を得られるよう
談笑することにした。銃を持つ人間は利用価値があり、手元に置いてじっくりと信頼を得たい。
その際には先ほどの失態を犯さぬよう、血を隠すために袖を折って短くしておいた。



「でさぁ、そこでハルにゃんは代役を勤め上げたんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「まあ、悪い子達じゃないっさ」
「なら、早く見つけてあげたいね」
会話を続け、向こうは興味深くこちらの話を聞いている。向こうは小夜という名前ということ以外は、
大して情報を得られなかったものの、何故か学校関係の話に関心があるようで、
主な話題をそれに集中させた。その結果、警戒心は大きく削がれたようだ。
そして、気になっていた話題に移ることにする。
「そういえば、小夜ってさ。どっちの方角から来たんだい?」
「何でそんなことを聞くの?」
「いやぁ…っさ、あたしは北から来たから、みくる達を探すのに別の方角に行こうかなって思ってっさ」
「そうなの、私はH-7からG-7を通ってここに来たんだけど…」
「ってことはその辺りには、みんながいないってことだね。めがっさありがとう」
それは、あの二人が先ほど自分が教えた西の方向に行かずに、かなみの死体を発見した可能性が高いということである。
ならば、一刻も早くここから離れたい。自分が殺し合いに乗ったと知られることでSOS団のメンバーに
危険が及ぶ可能性もあるが、男の支給品がもし銃ならば正面から挑まれればナイフではとうてい勝てはしない。



141「過ぎ去った日常」  ◆5VEHREaaO2 :2006/12/23(土) 10:23:56 ID:nYfASF3h


そう、銃ならば



「……オホ!ゴホ!ゴホ!ゴホ!」
「どうしたの?」
小夜はいきなり咳をした自分にに心配そうに声を掛けてくる。
「ゴホ!ゴホ!いや、ちょっと持病を患っていて……ゴホ!ゴホ!ゴホ!ゴホ!」
「大丈夫?」
「だ、ゴホ!ゴホ!ゴホ!だいじょゴホ!ゴホ!ゴホ!」
「ちょっと診せて」
小夜が武器や荷物から離れ、口に左手を当て咳を抑える自分の顔を覗き込んでくる。




ドス





そんな音と共に、右側にある巾着袋の中から抜き出されたナイフが小夜の左脇腹に突き刺さる。


もし、カズマやなのはと接触することになれば、そのときにナイフ一本では負ける可能性は
低くはない。だが、銃一丁でもあれば心強い。小夜を利用することも考えたが、逆にカズマが武器を
何一つ持っていない場合は銃を持った小夜を敵に廻してしまう可能性がある。
片方が生き残って自分がけしかけたと気づけば自分のみならず、SOS団も危険に晒してしまう。
それに、物事が思惑どうり運ばない現状では小夜にカズマを殺させるように状況を用意する余裕も無い。
ならば答えは単純、敵は自分の手で消せばいい。
そう判断し、小夜を殺し銃を奪い取ることを決意する。
方法としては古典的だが演技力には自信がある、うまく行けばもうけもの、隙がなければ彼女と共に一旦ここから
離れ再度チャンスを待てばいい。



その結果、ナイフは隙だらけの小夜に刺さった。






142「過ぎ去った日常」  ◆5VEHREaaO2 :2006/12/23(土) 10:24:42 ID:nYfASF3h

そうして刺したナイフに力を入れ、捻ろうとしたとき




右手を小夜の両手に握られた。
構わずに捻ろうとしたがまるで万力に掴まれたようにびくともせず、逆にナイフから手を離されてしまう。
「この!?」
「……どうして…」
哀れんでいるのか悲しんでいるのか、とてもナイフで刺されているとは思えない表情で問いかけてくる。
その表情に苛立ちながら、左手でボディブレードを掴み、それを小夜の両腕に叩きつける。
一瞬力が緩み、その隙に腕を振り払い散弾銃を掴み、店の外に逃げ出す。



そして、店からある程度離れ、追ってこようとしているのなら撃ち殺してやろうと思い、後ろを振りかえる。






僅か数メートルほど離れたところに、左手で腹を押さえ、右手にナイフを持った、紅い瞳の女がいた。



「……なんでさ」
明らかに常識を超える事態である。全力疾走の人間を相手にして
腹にナイフが刺された女が追いつけるはずが無い。インチキだ。

「こんなことはもう止めて、あなたは友達のことが大切なんでしょう!だから殺し合いなんか…」
瞳以外は先ほどと変わらぬ表情で、腹を押さえたまま女が諭してくる。
「大切だよ、だからあの子達が生き延びられるように、あの子達以外の全員を殺すのさ」
「無茶苦茶よ!あなたの友達だけでいったい何が……」
「うっさい!無茶苦茶なのはお前だ!化け物!!」
そのまま、感情に任せて引き金を引く。矛盾を打ち消すために、矛盾した存在でしかない女を排除するために。

143「過ぎ去った日常」  ◆5VEHREaaO2 :2006/12/23(土) 10:25:39 ID:nYfASF3h

だが、向こうは右に飛び、あっさりと無数の散弾を回避した。
反動に押されながらも立て続けに弾丸を放とうとする。だが、その瞬間に左胸が熱くなり
銃を取りこぼすのにもかまわずに胸を両手で押さえてしまった。
何が起こったのかと思い見ると、左胸にはナイフが、
先刻まで小夜が握っていたはずのかなみのハンティングナイフが、何時の間にか突き刺さっていた。
小夜が投げたであろう、それの刺さる瞬間が見えなかった。
「ふ…普通…こん…な…げ……かい……?」
そのまま、地面に倒れ、傷口や口から血を零す。
急速に意識が消えていくのを感じながら、何故か高校生活の思い出が脳裏に蘇える。
それはSOS団と関わった日々のこと、それらは朝比奈みくるに誘われた野球大会から始まり、
クリスマスイブの鍋パーティで終わった今までの日々。
(それをあたしは守りたかっただけなのに、なんでこんなことになっちゃったのさ?)
目の前に化け物がやってくる。だが、指一本動かすことができない。殺すことすらできない。
「……何か言い残すことは?」
その問いかけに弱々しくもはっきりとした声で答えてやった。





「SOS団の……ために…死んで……化け物……」




視界が真っ暗になる。


144「過ぎ去った日常」  ◆5VEHREaaO2 :2006/12/23(土) 10:27:28 ID:nYfASF3h

「……痛い……」

彼女を殺して一時間経った。
その間は傷の再生に努めることにしたが、眠りの日が近いためか再生が遅くその間は動けずにいた。
とりあえず、移動することにする。それぐらいには回復し、また遺体を隠したとしても、
この状況を説明する自信がなかったからだ。
殺すしかないと思ってしまったが、それでも彼女は普通の人でしかなかった。
そして、歩き出そうとしたところで遺体と目が合う。

『……化け物……』

彼女の言葉が脳裏に思い起こされる。
自分は化け物だ。だからこそ血の匂いを嗅ぎつけ、男の誰かを捜す声を無視し、そこで鶴屋を発見した。
だが、間違いであって欲しかった。彼女と会話しているときには、女子高生『音無小夜』に戻っていた。
自分の運命を忘れたわけではない、それでも彼女との会話は楽しかった。
だから、信じたかった。まるで友達のように接してくれる彼女を。
だが、刺されてしまった。心臓は外れていたので致命傷ではなかったが
それよりも、また裏切られたというショックの方が大きかった。
自分の人生は裏切りの連続であったから……


だが、それでも人を信じたい。翼手と知っていても、ディーヴァを倒すために
自分が死なせてしまった人達や支えてきてくれた人達のためにも。


再び目の前の彼女を見つめ、とある覚悟をする。これは既に血にまみれた自分が、やらなければいけないことだから。
そうして遺体に近寄り仰向けにし、首にナイフを当てる。
「……ごめんなさい」
その一言共にナイフを動かし、首を切り外す。
血を被ることは覚悟していたが、思っていたよりも血は吹き出なかった。
そして、取り外した首輪をじっくりと見る。
見た感じでは金属で出来た輪に見え、耳に当てると微かに機械音がする。
結論、自分ではどうしようもない。
だが、ジュリア・シルヴァスタインやルイスのような技術を持っている人物に渡せば
なんとかなるかもしれない。


145「過ぎ去った日常」  ◆5VEHREaaO2 :2006/12/23(土) 10:28:30 ID:nYfASF3h


――――――本当に?また騙されてしまうんじゃないの?





不吉な考えを押し出すために頭を振るう。
自分やハジの二人だけで戦っていく限界はすでに学んだ。ならば協力者の存在は必要である。
とりあえずは首輪をデイパックに入れてから、
遺体を店の中に運び毛布に包む。野晒しではあまりにも哀れだから。
「ごめん、もし貴女の友達に会ったら守ってあげるから」
そして謝ろう、自分がもう少し器用なら死は避けられただろうから。
とりあえずはここ以外の場所で休息したい、怪我を推して戦闘はしたくない。


そうしてナイフに付いた血を別の毛布で拭い、朝日を背に受けながらその場から移動する。




元の世界に返り、ディーヴァと共に滅びるために。



146「過ぎ去った日常」  ◆5VEHREaaO2 :2006/12/23(土) 10:29:37 ID:nYfASF3h

【F-8 初日 早朝】
【音無小夜@BLOOD+】
[状態]:左脇腹に刺し傷(再生中)、なんとか歩ける程度には回復
[装備]:ハンティングナイフ
[道具]:支給品一式、ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)
     首輪、ウィンチェスターM1897(残弾数4/5)
[思考・状況]
1:この場から離れ、別の休めそうな場所を探す
2:首輪を解析できる人物の元に持って行く
3:まずはPKK(殺人者の討伐)を行う
4:SOS団のメンバーに謝りたい
5:元の世界に戻ってディーヴァを殺して自分も死ぬ
[備考]:鶴屋さんの遺体は毛布に包まれて店内に置かれています。
     鶴屋さんの荷物やボディブレードは店内に置いてあります。
     荷物が入った袋は巾着袋で、中身は支給品一式と予備の食料と水です。

【鶴屋さん@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】

【残り61名】
147brave heart ◆KpW6w58KSs :2006/12/23(土) 12:50:10 ID:V6nDgmKj
 ソファの前のテレビ。
 いつも食事を採っていたテーブル。
 母親が料理をするキッチン。
「……ここは……俺の、家か?」
 目覚めると、──いつから意識を失っていたのか分からないが──そこは八神太一の自宅であった。
「俺……元の世界に戻ってきたのか?」
 頭に鈍い痛みが走る。それでも、元の世界へ戻れたという希望から太一はすぐに家の中を走り始める。
 しかし、何か様子がおかしい。 外を見る限り、現在は夜が空ける頃のはずだ。
この家だったら、現在はデジタルワールドへ行った太一を除けば家族全員が寝静まっているはず。

「ヒカリー! 母さん、父さーん!」
 返事はない。寝ているのであれば当然だが。
 しかし返事だけではないのだ。人の気配すらも感じられない。
 二段ベッドのある子供部屋に行っても、ヒカリはいなかった。
 両親の寝室に行っても、布団すらなかった。

「……外に行ったのか?」
 まさか、こんな時間に。
 それでも、どの道いるとすればそこしかない。
 ひょっとしたら天気が悪いだけで、今は夕方なのかもしれない。
 いつの間にか走っていた太一は、玄関に辿り着くやいなや、飛びつくようにドアを開けようとする。
「開かない……どうなってるんだ!?」
 押しても引っ張っても、まったくドアが動く気配がない。
 鍵がかかっているというよりは、ドアの置物に取っ手ついてるものを動かしている。そんな感覚だった。
 第一、鍵はかかっていなかった。

「……一さん」
 ふと、聞き覚えのある声がした。
 このか細い声は……自分のよく知っている……
「ヒカリか!?」
 焦り、躓きそうになりながらも、必死で体を声のする方に運ぶ。
 やはり人の影はない。だが、先刻までの無人の気配はなかった。
「太一……さん」
 声はテレビからのものだった。いつの間にか、砂嵐が映し出されている。
148brave heart ◆KpW6w58KSs :2006/12/23(土) 12:51:51 ID:V6nDgmKj
「ヒカリ……? ヒカリなのか?」
「私は……ヒカ……では……あ……せん」
 ノイズに紛れて、妹に良く似た声が響いてくる。しかしハッキリと聞き取るができない。
「お前は何者だ? ヒカリに何をした!?」
「……落ち……いて下さ……太一さ……」
 だんだんとノイズが少なくなってくる。それと同時に──

「うわぁ!? ……ゆ、床が!」
 床が徐々に黒く染まっていく。まるで、何かに侵食されるかのように。
 『それ』は床から、やがて壁へと走り、最終的にテレビ画面と太一を残して全てを侵食してしまった。
 太一はそこに呆然と立ち尽くす。いや、立っているのかどうかすら分からない。……そもそも、何が起こっているのか。
 いつしか、テレビの画面はだんだんと収縮していき、夜空の星のように輝くものと化していった。
「異次元の磁場により、長く留まることができません。手短に用件だけ済まそうと思います」
 今度は声がハッキリと聞こえる。まるで、頭に響いてくるような声だ。

「お前は何々だ? ……いや、俺は一体……」
「私が何者かは、今は話すことができません。この声は貴方とコンタクトを取るために、
貴方に最も近い人の声を借りさせて頂きました」
 右も左も、正面の光以外には何も見えない。だが、不思議と恐怖は感じられない。
 こいつの言うことは、信用してもいいのだろうか。しかし、信用しないとして、どうしろって……

「貴方は今、精神だけの状態でここにいます。簡単に言うと、眠って夢を見ているのです」
 夢を見ている……? ……眠って?
 そこで、太一の顔が急に曇った。
 ……そうだ……俺は……
 ……デジタルワールドのことを……ゲームだって思って…………
 人を……

 殺したんだ。

 ……俺が。

 死んでも大丈夫なんて思わなければ。
 ドラえモンの言うことを、もっとちゃんと聞いていれば。
 あの女の人を、もっと信用していれば。
 ……手榴弾なんて使わなければ。

 でも、もう戻らない。
 あの男の人は、もう死んでしまった。
 傍で泣いていた女の子は俺をどう思うだろう。やっぱり恨んでいるのだろうか。
 
 そうだよ。……俺はそれだけ酷いことをした。デビモンや、エテモンよりも悪いことを、した……
 俺が………
149brave heart ◆KpW6w58KSs :2006/12/23(土) 12:52:57 ID:V6nDgmKj
「そのことで、あなたと会わせたい方がいます」
 声とともに光がさらに収縮していき、いつしか見えなくなった。
 しかし太一はそれを見ていなかった。……のだが……

「タイチ」
 聞き覚えにある声だ。ヒカリとは違う。でも。
 つい昨日まで、ずっと聞いていた気がする。……当然だ。ずっと一緒にいたんだ。
 一緒に旅をしてきた……
「アグモン…………いや……コロモン……?」
 桃色の、まるっこい体。頭から生える、ヒラヒラとした触覚。大きめの口に、ひっそりと除かせる小さいキバ。
 見間違えようがない。アグモンに進化して、すっかり見なくなったけど。こいつは……

「コロモン……」
 でも、顔が上がらない。目を合わせたくない。
 こんなことをした俺に、コロモンとパートナーでいる資格なんて……

「ぷぅっ!」
「……痛ってぇっ!?」
 頭に弾けるような痛み。……コロモンのはいた泡のようだ。
「何す……」
「ねぇタイチ。いつまで下を向いてるつもりなの?」
 いつもの陽気とは違う。重さが入った、落ち着いたような声。
 自然と顔が上がる。そして目が合う。

「ボク……そんな風に逃げてるタイチは知らないよ。ボクがついてきたのは、いつだって元気で、前に進んでいるタイチだった」
 コロモンが、哀しそうな顔をしている。
「……でも、俺は」
「タイチは……取り返しのない間違いをしちゃった。それで、ショックで……後悔して……」

「それで、どうするの?」
「…………え?」
「人を殺しちゃって、ショックだから、このまま何もしないつもり? あの女の子に仇を取られるとか、そんなつもりなの?」

「それでタイチは本当にいいの? 元の世界に、デジタルワールドに、タイチの帰りを待つ人がいるのに」

「それでタイチは、あの人達が満足すると思うの?」
 コロモンが、その大きな目で真摯に見つめてくる。
「違……でも、どうすりゃ……」
150brave heart ◆KpW6w58KSs :2006/12/23(土) 12:54:16 ID:V6nDgmKj
「立って何かをしようよ。すぐに立てとかは言わないよ。
出来ることをしよう。あの男の人のために。女の子のために。……みんなのために」
胸に、響いてくる。コロモンの言葉が。

「……なんて……ボク、偉そうに言っちゃったけど…………
 でも、タイチはここで何もしないで……死んじゃうべきじゃないと思うんだ」

「そうだよ。ヤマトだって頑張ってるんだ。このゲームを終わらせるために」
「謝って済むことではないけれど、せめて行動で示しましょう。立ち止まっているだけでは始まらないわ」
「あんま上手いことは言えへんけど、罪を背負ってでも前に進むっちゅうのも大切なことなんやで」
「それでも今は泣いていいと思うけどね、オイラは。それで一杯泣いたらさ、やっぱりそのまま眠るんじゃなくてさぁ」
「生きるのよ。もうこれ以上の犠牲は増やしてはならないわ。転んで、倒れても起き上がり続けるの」
「ダイジョブだよ。キミなら出来る。勇気を持って、そして逃げないで……諦めないで」

「タイチ。ボクはずっと待ってるよ。タイチが戻ってくるのを。
頑張って。タイチならきっと……」

声が遠くなっていく。周りのデジモン達の姿が消え……そして、コロモンの姿も薄くなっていく。

「ま、待ってくれ! コロモン! おい、行くな! コロモーン!!」


誰もいなくなった空間に、罪を背負った少年が一人。
その目は何処を見つめるか──



いつの間にか、命を少女のために捧げた男の亡骸の傍で少年が一人、意識を失っている。
その少年の胸に、太陽を模った紋章が微かに輝き、やがて意識を取り戻すのは。

もう少し、先の話である。
151brave heart ◆KpW6w58KSs :2006/12/23(土) 12:55:05 ID:V6nDgmKj
【F-1駅前・1日目 早朝】
【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:右手に銃創、精神的ダメージ大  気絶中(眠っている?)
[装備]:なし
[道具]: ヘルメット、支給品一式
[思考・状況]
1:気絶中(眠っている?)
2:夢で見たコロモン達の言葉を反芻、そして……
基本:ヤマトたちと合流
152 ◆5VEHREaaO2 :2006/12/23(土) 16:58:25 ID:nYfASF3h
過ぎ去った日常修正

【F-8 初日 早朝】 のF-8をG-8に修正します。
153回天(修正) 1/12 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/23(土) 21:02:16 ID:7Lgf5Yik
ジュンは相変わらず、遊園地から離れる為に防波堤を走っていた。
引きこもり気味である分体力に難があるがそれでも走り続け、そしてふと我に返った。
どれくらい走っただろうかと後ろを振り返いて見てみると、既に遊園地は遥か遠く。
あの殺伐とした喧騒も遠い。無我夢中だった事でまさかこんな遠くまで走っているとは思わなかった。
だが身の安全が保障されていない今、この程度で満足して安心するわけにはいかない。
恐怖を押し殺し、再び走ろうとした。

「……いや、駄目だ……」

が、駄目だった。やはり終わりの無い疾走は多大な疲労をその身に与える。
真紅と翠星石の力を同時に使役した時よりは、あの薔薇園で槐や兎を捜して走っていた時よりは、
その時感じていた疲労に比べれば大した事なんて無い。軽いものだ、その筈なんだ。
そう強がってみるものの、やはり体は正直らしい。緊張の糸が切れた事で体が一気に休息を求め始める。
へばっていたらどうなるか判らない。判ってはいるが、座り込んでしまった。
「真紅に怒られるな……でも、ちょっと休憩したい……本当に……」
もっと運動をしておけばよかった、と潮風に当たりながら後悔する。
防波堤の中央で、少年はしばしの休息を余儀なくされてしまった。


体を休める。何もしない事で安らぎを得る。
図らずも自身の体にとって優しく平穏な時間を与える事が出来た。
その内、する事が無い所為か海を見ながら物思いに耽っていった。
自分の事、過去の事、人形たちの事、それに加え更に沢山の事を思い返す。

自分があのダイレクトメールを受け取ったのはいつだっただろう。
記憶中枢が手抜きの極みに至っていたのか、日付をしっかりと覚えていない。
だがあの時、人工精霊ホーリエ名義の手紙をインチキ業者だと勘違いしなければ、
確実に真紅や翠星石、蒼星石……そしてあの水銀燈にも出会う事は無かっただろう。

家来だとかに勝手に任命されて暫く経った今。
今の自分に、あの時「まきます」と選択したのは本当に正しい事だっただろうか?
という質問を投げかけてみると、自分でも意外だが「正しい事だった」と答えてしまう。
更に言うと、かつての真紅が来たばかりの自分に同じ質問をしたならば、
間違いなく「何故こんな事に巻き込まれなければいけないのか」と文句をたれていただろう。

「あいつらが来て、僕も色々と変わったんだよな……」

認めざるを得ない。というより寧ろ、自分から認めるべきだとさえ思った。
それが果たして「成長」と呼べるものだったのかは自分では判らない。
けれど変わったのは確かだ。自分は変わり、一歩進む事が出来た。
彼女は確かに人形だけれど、それでも確かに恩人だった。

どこにいるのだろうか。
我が桜田家で暴走の極みに達していた彼女達は、今どこにいるのだろうか。
一体、どこに行ってしまったのだろう。
154回天(修正) 2/12 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/23(土) 21:03:57 ID:7Lgf5Yik
更に思い返してみると、記憶の中の彼女達は思い切り騒いでいた。
紅茶を要求したり、苺大福を要求したり、お茶菓子を要求したり、法事茶を要求したり。
ひっぱたいてきたり、硝子を割って進入してきたり、挨拶代わりに鞄で顔面目掛けて体当たりしてきたり。
くんくんの人形で騒いだり、くんくんの番組を見て一緒に緊迫していたり、一緒に食事をしたり。
姉の先導で服の洗濯をしていたり、プレゼントしたオルゴールを皆で聞き惚れたりもしていた。
皆で一緒にクッキーを作った事も、翠星石を元気付ける為に流し素麺をした事もあった。
いや、素麺じゃなかった。実際は姉のミスによって冷麦を流すイベントになっていたんだった。
――本当に、色々とあった。色々な事があり過ぎた。

「何であいつらまで……どうして……」

再び名簿を取り出し、見る。やはり見慣れた名前が書かれてあった。
真紅、水銀燈、翠星石、蒼星石。家で散々騒いでくれたドール達だ。
水銀燈も敵だからこそ不法侵入を犯したりしたし、あれもある意味大暴れだ。
彼女は危険だから保留だとしても、真紅達とは必ず再会しなければならない。

自分が無力だから一人でいたくない、正直に言えばその考えもある。
だがそれだけではない。自分はここで屈したくは無いのだ。
そう、あのアリスゲームの様に、薔薇園での仕組まれた決戦の時の様に。
あの時の様に無力で、何も出来ないままで終わりたくは無いのだ。
かつて真紅や翠星石達と戦ったように、役に立ちたい。彼女達の支えになりたい。
自分は何もかもが一般人以下だろう。頭脳にしても受験に失敗しているし
今更自分が様々な人間と同格に渡り合うことが出来るという大層な自信も無い。
けれど、せめて。せめて真紅達の力になれたなら。
そう思い続ける限り、自分は死んではいけない。彼女達を悲しませたり幻滅されるわけにもいかない。
だからこそどうにかして、殺人以外の方法で生き残らなくては。

その為にも、進もう。

この考えに到達するまでに、どれ位の時間を要したのだろうか。
座り込んで延々と考え込んでいたおかげか、疲労は大幅に回復している。
大丈夫だ、これなら頑張れる。ジュンはゆっくり立ち上がり、自分が向かうべき場所を見た。
そして歩き出す。落ち着いて一歩一歩、疲労をためないように歩き出した。

その先には、あの少女がいるのだが。
155回天(修正) 3/12 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/23(土) 21:05:34 ID:7Lgf5Yik

少女、朝倉涼子は慎重に思案する。

情報統合思念体が応答しない以上、大袈裟には動けない。
だが当然相手がいなければ殺人は出来ない。しかし目立つのは危険。
そうなると注意深く警戒しながら北に回って橋を渡り、街に向かうか。
それとも先程の男達のように防波堤を歩き、そして遊園地に向かうかの二択。

北に回れば辺りが明るくなってきた事も手伝って、人に会う可能性は高いだろう。
だが相手が弱いとは限らないし、多数の人間に出会う可能性も十分にある。
二人ならまだしも、それが三人四人五人となるとややこしくなるのは明白だ
ならば防波堤はどうだ。人にあまり会うことも無いだろう。更には一気に近道をすることが出来る。
だが、それを読んで周到に待ち伏せをしている人間もいるかもしれない。
一直線の道での待ち伏せはさぞ効果的な事だろう。策に嵌ると命の保障は出来ない。

ここまで考えて、彼女はこう結論した。
多少危険ではあるが、防波堤を歩いて遊園地側に行く。
結局は涼宮ハルヒ達を捜す為に街へと向かう事に変わりは無い。
ならば、今この状況で濫りに人に会う事は避けるべきだ。
いくら自分が情報統合思念体によって生み出された
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースといっても限界はある。
「確実に優位に立てる」と胸を張って宣言出来る程の状況でないと、多数の人間に会うのは危険だ。

待ち伏せがあるかもしれない可能性と危険性、これは楽観視出来ない。
だがしかし、自分は情報統合思念体によって生み出された
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースであり、人間ではない。
対話し、場合によっては人を排除する力を持つ特殊な存在。それが自分なのだから。
だからどうにかする。どうにかしてみせる。どうにかしなければならないのだ。


自身の結論を信じた彼女は、チャンバラ刀をしまって防波堤に登り歩き出した。

その先には、あの少年がいるのだが。
156回天(修正) 4/12 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/23(土) 21:06:59 ID:7Lgf5Yik

ジュンは既に防波堤の三分の二を歩き切っていた。
残り三分の一を渡り終えれば遊園地からはおさらばである。少しばかり安心した。
が、その時。

「こんばんは」

少女に出会った。


この少女は誰だ。ジュンは困惑した。
数少ない学校での記憶を辿ったものの、思い当たらない。
という事はつまり、同じ様にここに連れてこられた人間だろう。
「こ、こんばんは……」
とりあえず挨拶をしてみる。すると相手は満面の笑みを浮かべた。

無害そうだ。だが、何か妙な違和感を覚える。この僅かに沸きあがる感情はなんだろうか。
簡単には信用出来ない。状況も状況だし、自分の本能は相手から何かを感じ取っている気がする。
ジュンは思案を巡らす。だが目の前に突然他人が現れた現実を認める事で精一杯になり、それ以上は思考出来ない。
しかしそれでもジュンの頭脳はしっかりと警戒し、慎重に応対を続けるべきと判断した。

ジュンがしばし沈黙をすると、またも少女が言葉を発した。

「あなた、この殺し合いの場……どう思う?」

質問内容は至って簡単だった。言葉通りの意味だろう。
しかし何かが引っかかる。何がかとは言えないが、引っかかる。
「いや、その、馬鹿馬鹿しいと思うよ……こんなの、嫌だ」
だがこのまま気まずい沈黙を作るわけには行かず、言葉通りに受け止めて本心を吐露した。
すると相手はまたにっこりと笑った。そしてまたジュンは違和感を覚える。
「あなた、もしかしてただの学生? だったら安心かも……私も高校生だから」
そう言うと相手は制服を見せびらかすように一回転。セーラー服が風で少し靡く。あの腕章はなんだろうか。
「私の名前は長門有希っていうの。ねえ、良かったらあなたの名前も聞かせて?」
相手はそう言うが、ジュンは警戒を解かない。ここで簡単に名前を教えるわけにはいかなかった。
「野原……ひろし……」
「野原君ね。判ったわ、宜しく野原君」
故に、先程名簿を眺めていた時に見つけた名前を適当に名乗った。
警戒している、と相手に教えている様な状況での偽名の使用。
相手はこの微妙な嘘に気が付いてしまっただろうか。付け入る隙を与えてしまったのだろうか。
不安と恐怖で袋を持つ手が自然と震える。弱みを見せていると判っているのに。
度重なる相手への違和感と不安を抱えたまま、ジュンは警戒していた。
157回天(修正) 5/12 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/23(土) 21:08:10 ID:7Lgf5Yik

防波堤の三分の一を渡り終えたところで他人と出くわすとは。
朝倉は突然の状況に悪態をつきたくなるが、そこは堪える。
落ち着き、自分のペースに持ち込む為に友好的に話しかけた。
「こんばんは」
相手は少し戸惑っている。警戒しているのだろうか。
「こ、こんばんは……」
だが少し不安げに相手は答えてくれた。警戒すると同時に突然の邂逅で混乱しているのだろうか。
それともただ気弱なだけか、もしくは演技か。断言できない、もう少し情報が欲しい。
もう一押し、とばかりに質問を続けた。

「あなた、この殺し合いの場……どう思う?」

この返答によって自分の立ち位置は変わる。逃げる者となるか、追う者となるか。
それが相手が返答する際に起こる挙動一つ一つを探った結果で判断を下す。
しっかりと相手を見据えながら暫く待つと、答えが返ってきた。

「いや、その、馬鹿馬鹿しいと思うよ……こんなの、嫌だ」

朝倉が少年の挙動、態度を観察する。見れば相手は明らかにこの状況で戸惑っている。
そして警戒しているが故であろう、袋を掴んでいる手も少し震えている様だ。くだらない、怯えか。
なるほど、肉体的にも精神的にもただの立派な一般人か。手駒として使えるかどうか不安だ。
「あなた、もしかしてただの学生? だったら安心かも……私も高校生だから」
更に問うものの、今度は答えは帰ってこなかった。ただの一有機生命体なりに考えがあってのことだろうか。
「私の名前は長門有希っていうの。ねえ、良かったらあなたの名前も聞かせて?」
続けざまに質問をし、再び答えを待つ。さぁ、どう来るか。

「野原……ひろし……」

相手はそう名乗った。野原ひろし、ごく普通だ。
「野原ひろし君ね。判ったわ、宜しく」
偽名なのか本名なのかは読み取れない。彼の持つ不安と恐怖に本質がかき消されている様だ。
まぁ良い、注目すべきは警戒している割に中途半端に置かれた間合い。袋を持つ手の震え、隙だらけの立姿。
見れば一般人である事は明白だろう。これで戦いのプロだと言ったらそれは相当のペテン師だ。
こんなくだらない相手に自分は心理戦を挑んだのか。全くもって馬鹿らしい。時間の無駄だった。
「判るわ。やっぱりあなたも一般人よね、そうなんでしょ。安心したわ」
ならばここで一気に自分のペースに引きずり込んでしまおう。あの刀で少年の四肢を切断する為に。
しかし見たところ、相手との距離は十五メートル程と意外に離れている。一気に決着をつけることは出来るだろうか。
いや、こんな平凡な一有機生命体相手に自分が梃子摺るものか。絶対に出来る。大丈夫、出来る。

「あのね、私もこんな殺し合いは馬鹿げていると思うの。あなたと同感だったわ。
 だってあんな存在に屈するなんて、情報統合思念体にとっては有り得ない事だもの。
 でもね、気付いたのよ。これは考えようによってはチャンスなんじゃないかって」

言葉と共にチャンバラ刀を素早く引きずり出し、右手で構えて体勢を整えた。

「でもね、他の有機生命体を刈り取れなんていう命令の為に私が甦ったのには理由があるはずだと思うの。
 だから私はこの状況を前向きに考える事にしたわ。あなたを利用して、私は私の目的の為に前に進む」

会話の内容などどうでも良い。刀と言う凶器を見せつけ、冗長な言葉を投げかける事によって動揺を誘うだけだ。
キョン君だってそうだった。一般人は目の前であまりにもおかしな事が起こると狼狽え、動揺するものだ。
しかしなんと、相手はこの状況で袋を漁り始めたではないか。予想よりも随分と肝が据わっている。
自分の読みが少しだけ外れた事も含めて少し驚くが、有機生命体ではない自分には問題の無い障害だ。
状況に変化は無く、攻めるには十分と判断。そして約十五メートルの距離を一気に縮めようと走り出した。

「だから大人しく……斬らせて」

間合いまでもうすぐ。これで、終わりだ。
158回天(修正) 6/12 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/23(土) 21:10:47 ID:7Lgf5Yik

尋問の如き会話が終了し、沈黙が訪れた。
相手は次の言葉や行動を捜す様に何かを考えている。
同時にジュンも違和感の正体を探っていた。
しかしそれを気にしていないのか気付かないのか、更に相手は話しかけてきた。

「判るわ。やっぱりあなたも一般人よね、そうなんでしょ。安心したわ」

微笑みながら口にする少女。やはり見た目は無害。だが、その表情を見た瞬間ジュンは確信した。
そうだ、彼女から発せられるこの違和感はあれだ。この何とも言えない嫌悪感。その正体。それは……。

『いつ相手を化かそうか、と考えている人間の雰囲気だ……』

心中で回答を呟く。そう、相手の挙動はまさに「他人を馬鹿にしている人間の顔」だ。
見下し、罵り、優位に立とうとする人間が持つ独特な話し方や表情の癖。
それが彼女の持つ独特な雰囲気を構成させていたのだ。
自分には判る。そんな人間を何人も何人も見てきたし、一時は自分だって同じ姿をしていた。
公立中学の生徒を見下していたあの時の自分も、今改めて考えてみると反吐が出る人間だった。
そんなかつての自分と同じ性質のこの女を信頼してはいけない。本能が叫ぶ、理性が忠告する。
だがどうする。どうやって相手を打ち負かす。物干し竿とモデルガンでどうしろと。
だが仕方が無い、運が悪かったのだ。スタート地点を通常よりも後方に下げられた様な状況なのだと認めざるを得ない。
こうなったらこの状況だけで何とかしてやる。しなければならない、するのだ。ジュンは策を構築し始める。

袋から物を取り出しやすいようにしっかりと握り締め、位置も調節する。
「あのね、私もこんな殺し合いは馬鹿げていると思うの。あなたと同感だったわ。
 だってあんな存在に屈するなんて、情報統合思念体にとっては有り得ない事だもの。
 でもね、気付いたのよ。これは考えようによってはチャンスなんじゃないかって」

すると相手が何か長話を始めた。正直どうでも良い。どうせ口先だけだろう。
ほら、その証拠に右手に刃物が見える。刀か、なんて物騒なものを持っているんだ。
目の前にある脅威に振るえ、少しばかり狼狽える。だが理性でそれを止めた。
決心したのだ、真紅達に会うと。会わなければならないのだ。隙を見せるわけにはいかない。

「でもね、他の有機生命体を刈り取れなんていう命令の為に私が甦ったのには理由があるはずだと思うの。
 だから私はこの状況を前向きに考える事にしたわ。あなたを利用して、私は私の目的の為に前に進む」

情報統合なんたらとか有機なんとかなんて知るか。どうせ自分を混乱させようとしているのだろう。
ならばその心理戦は大成功だ。正直すっかり混乱している。人の心を揺さぶるのがなんて上手いんだ。
だが死ぬ訳にはいかない。恐怖と混乱をぎりぎりの理性で押さえつけて袋に手を突っ込む。
そのままモデルガンを取り出そうと袋を漁ると、それは案外簡単に見つかった。素早く取り出し片手で持つ。
これで隙を見出してみせる。相手が怯めば物干し竿で何とかする。怯まなかった場合……ああ、もう良い!
自分はここで死にたくは無い。仲間に会って生き延びなければならないのだ。だから今を何とかする。
生きてみせる死んでたまるか真紅達に会うんだ殺されるわけにはいかない生きるんだ今の僕なら出来る。
出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る
出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る出来る!

「だから大人しく……斬らせて」

いいやお断りだ、やらせないねッ! と強く強く自分に言い聞かせ、前を見据える。
そして真っ直ぐ向かってくる相手の顔に照準を合わせ、モデルガンを両手で構えた。
159回天(修正) 7/12 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/23(土) 21:12:02 ID:7Lgf5Yik

肉薄する為に、朝倉は相手の懐へと疾走する。
チャンバラ刀で肉体を切り裂き、有利な展開へと運ぶ為だ。
こんな一有機生命体に反撃など出来るはずが無い。そう考え、猪突猛進に進む。
だがそれが誤りだとでもいう様な事態が、彼女の前で起こった。

「……ッ!?」

突然、目の前に純粋な「人を殺す為の物」が現れた。
少年が両手で銃を構えている。あの袋から取り出したのか。
しかし最初の会話から読み取れた相手の心理は、戦いへの恐怖と不安だけだった筈。
だがそれを払拭するかの如く、目の前には拳銃がある。現実にそこに存在している。

流石に頭部等を狙われると、情報制御を行う余裕を保ち続ける事が出来るとは思えない。
一直線に肉薄する作戦を急いで切り替え、脳内で変換し、回り込もうと判断した。
だが曲線を描いて大きく曲がるのでは軌道を読まれて照準に追われるだけ。更には道も細く危険だ。
ならば、と彼女は直線的に高速で曲がる方法を取った。斜め四十五度程、それだけで状況は変わる。
そしてそれを実行した瞬間に彼女は一つの致命的な動作を起こす事になった。
ヒトの姿をした朝倉涼子は、ヒトが必須とする動作をその行動の内に無意識に組み込んだ。

全力疾走からの直線的な軌道修正を行う為、無意識に短くブレーキをかけたのだ。

曲がる為に。速度を保ちながら曲がる、その為にブレーキをかけた。
その瞬間、現実的な考えを基に行動を取っていた彼女は困惑を促される事となった。
無意識にブレーキをかけて軌道修正、そして走り出そうとしたまさにその瞬間。
相手が何かをこちらに投擲したのである。

見ればそれはなんと、先程まで警戒していた存在であるあの拳銃そのものだった。
馬鹿な、何故これほどまでに強力な得物を投げてきたのか。朝倉は混乱した。
現実の尺度で物を考えれば、明らかにこの策はおかしい。相手が何を考えているのか判らない。
しかも忌々しい事に、推測したところではこの軌道そのままで飛んでくると自分の顔に当たってしまう。
この合理的なのか自棄なのか判らない策は一体何なのだ、心中で毒づきながらそれを回避した。
その時、無意識に体が大きく揺れた。体勢が一瞬で不安定になった。
当然だ、ブレーキをかけた瞬間の回避行動は肉体へと負担を強いるのだから。

思考の混乱と物体を避けるという行為。その二つの要因が交わった刹那に、
朝倉の脳内で判断を誤りそうになる不安がその支配圏を着々と広げていく。
だがそれを払拭する為、理解しようとする朝倉。だが不安と混乱は幾重にも重なっていく。
思考によってその一切を排除しようとした彼女は、意識を体から思考へと移行した。

何故拳銃を投棄するのか。素直に撃てば良いだろう、怖くなったのだろうか。
どういう理屈で、どういう理論で、どういう戦法を期待して投げたのだ。
判らない、現実の尺度では理解出来ない。不安だ。

不安要素の一切を排除し、理解する事によって朝倉は不安を取り除こうとする。
皮肉にもその潔癖なまでの思慮深さによって、彼女の動きは完全に停止した。
160回天(修正) 8/12 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/23(土) 21:13:56 ID:7Lgf5Yik

ジュンの取った行動。それは相手の混乱を誘う為の一世一代の大嘘だった。
早朝と言えども辺りはまだほんの僅かに暗い。その状況でモデルガンを構え、
相手を視覚的に怯ませる事を狙うという魂胆だったのだ。
相手の肉薄を止める術が無く、物干し竿を容易く振る事も出来ない自分。
心理戦を選んだジュンは、相手をしっかりと見据えて何も見逃さぬよう注意を払う。
『頼む、騙されてくれ! 一瞬だけ怯むだけで良いんだ!』
心中で神にも祈る勢いで叫んだ。そう、この嘘に掛かっているのだ。
生も死も何もかもが決まる瞬間を、自分で生み出す。だがジュンは何も言わない。
覚悟の名の下に汗一つ浮かび上がらせる事も無く、ただ無言で拳銃を構えた。

その瞬間、女が反応した。
見れば相手の表情が驚愕のそれに変化している。どうやら騙されてくれたらしい。
だが相手は走行をやめない。まさか撃てないとたかを括っているのだろうか。
もしも行動の全てを読まれていたら、確実に自分は死ぬのだが。

『いや、来た!!』

だが銃口の軌道上に据え続けて重圧を与え続けた結果、相手が大きく動きを変えた。
そう、一瞬相手の速度が急激に下がったのだ。いや、一瞬の停止と言うべきか。
相手の動きの一つ一つを凝視し、ジュンは突如起こった相手の行動と動作の理由を推測する。
弾丸の軌道上からの退避を目的とし、スピードを維持したままで急激に曲がろうとした為に起こったブレーキ。
その動作を行った上で更に素早く走り出そうとした為に起こる、片足を後方へ蹴り出す際のタイムラグ。
恐らくそれがこの減速の正体だ。集中力を維持し、相手の動作をしっかりと観察したおかげで理解できた。
好機だ。このチャンスを逃さぬ為に、ジュンは駄目押しの一撃を放った。
急激に軌道を変え、そのまま走り出す為に必ず必要となる「停止」という一連の動作。
ヒトの姿をしたもの全ては、ドールズでもない限り必ず行わなければいけない動作。
ジュンはそのタイミングにあわせて、モデルガンを放り投げたのだ。それは単純で、至難の業だ。

最初から当たる事など期待していない。運動神経に自信が無い。
当たるのではなく、当たりそうに見えるだけで良い。そして女がそれに困惑するだけで良い。
そう切実に祈りながら放り投げたモデルガンは、幸運にも一直線に女の顔に向かっていた。
女は困惑した様子でモデルガンへと視線を移し、避けた。その拍子に体が揺れている。
当然だ。高速で走り出そうとした瞬間に回避行動を取る、という行動は至難を極める。
その理論を裏付けるように、彼女の動作は「一瞬の停止」から「しばしの停止」へと移行していた。

遂に生まれた。
数々の手順を踏み、様々な読みと偶然が交錯し、遂にやっと、付け入る隙を引き摺り出した。
161回天(修正) 9/12 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/23(土) 21:15:33 ID:7Lgf5Yik

急いで物干し竿を取り出した。
四メートルにもなるそれを両手で掴み、槍の如く水平に構える。
照準は動きを停止させたあの女の体。不安定な体勢になっているその体を睨みつける。
そして叩き込む場所をしっかりと見定め、竿を勢い良く相手の腹部へと突き出した。

「あ゛ぅッ!!」

放った竿は相手の鳩尾に突撃し、女は突然の衝撃に耐え切れずに変な声を出して蹲った。
無力に膝を落とし、打ち込まれた部分を左手で苦しそうに押さえている。
顔を上げることもままならないまま耐えている様だ。地面ばかり見てこちらを全く見ていない。
これはまたとないチャンスだ。出来るならそのまま竿で後頭部を強打させたいのだが、
長い棒を持ち上げた挙句に叩き落す様な力は今の自分には備わっていない。
ならば、と彼は賭けに出た。一瞬だけ相手に背中を見せるが、やるしかない。
「これで……ッ!!」
気合を孕んだ言葉と共に、突き出した物干し竿を先程より短めに持って左に振るう。
それと同時に自分自身にも回転を加えた。
と言うより、自身が回転運動そのものを行った。
ジュンを中心にして反時計回りに、さながら長針の様に物干し竿が動く。
早い話がハンマー投げの要領だ。違いはその手を離さず、回る回数を一度に抑えるだけ。
だが勢いと威力を増幅させる為だけのその運動は、戦いのプロから見れば隙だらけである。
しかしそれこそが、この状況で生まれたジュンの賭けだった。
全てを攻撃に集中させるという、厳しすぎる賭けだ。

相手は動かない、というより動く事が出来ないのか。
不安を抱きつつ、ジュンはそのまま円運動を続ける。
遂に、その回転運動によってジュンは相手に背中を曝け出した。
無防備で頼りない背中、それを戦いなれているであろう相手に晒す。
しかし、相手は攻撃をしてこない。いつでも攻撃する機会があるだろうに。
動きが無い。攻撃も来ないまま、相手に背中を向ける時間は終わった。
これならいける。ジュンは最後の大勝負に出た。

「終わりだぁッ!!」

野球の打者の如く水平に振るわれた物干し竿。それは女の側頭部と顎を完璧に捕らえた。
衝撃を受けた女は声を出す事も無く倒れ、挙句の果てには頭部を勢い良くアスファルトの地面に打ち付けた。
当たり所が相当悪かったのだろうか、そのまま動かない。意識を失っている様だ。
完全に沈黙し、無力化している。敗北という二文字が良く似合う姿だった。

ジュンは、賭けに勝った。
162回天(修正) 10/12 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/23(土) 21:16:53 ID:7Lgf5Yik

隙だらけになった事に気づかぬまま、
朝倉は状況の理解に徹し、一瞬で答えを探そうとする。
だがそんな事が不可能な事すら、混乱した今の彼女は気付かない。
故に、一有機生命体如きの攻撃を許してしまう事になる。

「あ゛ぅッ!!」

混乱が解けぬまま思考を続けていると、無意識に声が漏れた。
突然どうしたのかと確認すると、鳩尾に長い棒が突撃していた。
急激に痛みが体を揺さぶる。こんな物を隠し持っていたのか。
痛みが体を支配し、敵前にもかかわらず蹲ってしまった。拙い、隙だらけだ。
顔を上げる気力も生まれないので、相手を忌々しく睨みつける事も出来ない。

しかし、まさか自分に隙が生まれる事になるとは。様々な偶然がこうも自分を追い詰めるとは。
いっそ出会い頭に手に入れた生首を見せて、更なる動揺を誘うべきだっただろうか。
いや、だがあれは罠等の為に使用したいし、紛失の危険を伴う状況では無闇に使うべきではない。
しかし相手は一般人のはずだ。ならばやはり動揺を誘うべきだったかもしれない。念には念をと言う。
だが本当に一般人だったのか? まさかあの少年も情報統合思念体の一派の……いや、違う。
自分にはわかる。いや、今はそんな事はどうでもいい。このままでは隙だらけだ。何故自分はこうなったのか。
何故相手は拳銃を投げたのか、意味がわからない。攻撃? いや、その理屈はおかしい。
現実的な方法を取らずに何故あの様な回りくどい方向性で……何故、何故……!

体の中で痛みが循環し、苦しめているにもかかわらず朝倉は思考を続ける。
だが突然の痛みで脳が混乱している所為で最早自分が何を後悔し、何に狼狽しているのかすら判らない。
痛みを伴った事で思考が余計なループを起こし、一体自分が何を重視すべきかも判らなくなりそうになる。
だがこのまま動きを止めたままになるわけにはいかないことは確かだ、それだけは理解出来た。だが動けない。
やはりあそこで首を見せて……いや、今考えるべきはその事ではなく……。
「これで……ッ!!」
声が聞こえた。この期に及んでまだ相手は何かをしようとしているのか。
危険を察知した彼女は、状況把握の為に少年を視界に入れようと、痛みに耐えてその顔を上げた。

「終わりだぁッ!!」

さらに皮肉な事に、彼女がその行動を取ったおかげで見事な攻撃が叩き込まれた。
そのまま激しく頭部をアスファルトに打ち付けられる。何が起こったかさえ理解出来なかっただろう。
自分が更なる痛みを感じた事。ただの一有機生命体に敗北した事。全てが偶然では無く、仕組まれた策だった事。
そして自分が心理戦という観点でも敗北した事。その全てに気付かぬまま、彼女の意識はそこで途絶えた。
163回天(修正) 11/12 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/23(土) 21:18:03 ID:7Lgf5Yik

ジュンは倒れている女の様子を見た。やりすぎただろうか、と不安になったのだ。
確認してみれば、息はしているようだし痙攣も起こっていない。
更には流血もしていない。どうやら死んではいない様だ。
意識が無いだけだと理解すると、ジュンは少し安心した。

しかしゆっくりしている暇は無い。急いで逃げなければ。
所詮、相手を倒したのは一定の状況下が生み出した奇跡のおかげに過ぎない。
とりあえず自分のモデルガンを回収し、物干し竿も急いで袋にしまった。
そして女の支給品をどうするかという答えはすぐに出た様で、無難に刀共々回収しておいた。
素早く相手の持っている荷物を全て回収し、刀は自分の袋へと収納する。これで良い。
そして急いで走り出した。女が目覚めない内に逃げ出さなければ、今までの奇跡が無駄になるのだ。
ジュンは防波堤を西へ西へと疾走する。目指すは防波堤の終わりだ。



そして、それはすぐにフィナーレを迎えた。
殆どを歩きつくしていた所為か、すぐにゴールに辿り着いたのだった。
防波堤の終わり。生きた心地がしなかったあの場所の終わり。そこに到着したのだ。
しかし、ここからだ。ここから更に敵の目を掻い潜っていかなければならない。
「そういえばあの人……何か便利なものを持ってたりしないのかな?」
辺りに誰もいない事、あの女が追ってこない事をしっかりと確認した。よし、大丈夫。
警戒を解かない様努力しつつ、先程奪ってきた袋に両手を突っ込む。すると両手が妙な物に触れた。
もじゃもじゃしている。確かめる必要がある、とすぐさまそれを掴み、そのまま引き抜いた。

なんと右手と左手に一つずつ、計二つの生首が出てきた。
作り物ではない、本当の人間の首だ。しかも一つは損傷している。
「……ッッ!?」
悲鳴が上がりそうだった。再び腰が抜けそうにもなる。
気合で押さえつけようとするが脳は混乱し、嫌悪感に支配される。
そのまま無意識に二つの生首を放り投げてしまった。
首は放物線を描き、海へと落ちていく。だがジュンはそれをただ見守るしかなく。
水の跳ねる音が二度起こった。恐らくは落ちたのだろう、海に。
「…………」
突然生首が出てきた事にショックを隠せず、未だ言葉が出ない。
放り投げてしまった首の主に申し訳ないと思いつつも、足が震える。
なんてものを見てしまったんだ、自分は。今別の支給品を確かめる気力も失ってしまった。
だがとりあえず先程回収した刀だけでもと思い、それだけは取り出した。他でもない護身用だ。

ここで止まるわけには行かない、歩き出さなければならない。
信用に足る人間がいると良いが……かなり不安になる。
地図によると近くにある建物は駅のみ。何者かが本拠地にしている可能性がある。
もし人がいたとして、こんな自分は誤解されないだろうか。刀まで持っているし、袋も大量に所持しているのだ。
またもや賭けだ。ここで自分はどうするべきだ。様々な思惑を持った人が集まる可能性がある場所に行くか。
もしくはどこか別の……いや、よく考えればこんな世界に「絶対に安全な場所」などある筈は無いだろう。
自分一人ではあまりにも無力。自分が単独で勝利するという奇跡は二度も起きないのだ。

「……行こう、駅に」

自分一人で闘うという無謀より、信頼できる人間が見つかる希望を取った。
元々真紅達を探すつもりだったのだ。リスクばかり考えてどうする。
確かに荷物を沢山持っていたり、刀を持っていれば怪しまれるだろう。
だが正直に話せば誤解は払拭される。そうに決まってる。だからリスクばかり考えるな。
勇気を出せ、前を見て進め。何の為の決意だ。口だけなのか、そうじゃないだろう。
防波堤から降りながらそう自分を精一杯勇気付けると、ジュンは駅の方向へと歩き出した。
これから様々な賭けが自分を待つだろう。だが進まなければならない。
進まなければならないのだ。だから進む、それだけだ。

生きる事は、戦う事なのだから。
164回天(修正) 12/12 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/23(土) 21:19:19 ID:7Lgf5Yik

朝倉涼子は、ジュンが去った後も目覚めない。
意識を失い続けたまま、世界は時を刻み続けている。
いつか眠りから醒めたら、彼女はまずどうするのだろうか。
それ以前に、何事も無かったかの様に立ち上がることが出来るのだろうか。

潮風が髪と制服を靡かせる。
だがやはり、彼女は目覚めなかった。




【H-2 防波堤を降りた所・1日目 早朝】
【桜田ジュン@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:戦闘による疲労、警戒
[装備]:チャンバラ刀@ドラえもん
[道具]
荷物四人分、物干し竿 ベレッタM92F型モデルガン
弓矢(矢の残数10本)@うたわれるもの
チャンバラ刀専用のり@ドラえもん、オボロの刀(1本)@うたわれるもの
アヴァロン@Fate/Stay night、アーチャーの腕@Fate/Stay night
[思考・状況]
1:F-1にある駅へ向かう
2:信頼できる人間を捜す
3:他人の殺害は出来れば避けたい
基本:ゲームに乗らず、ドールズ(真紅、翠星石、蒼星石)と合流する。


【H-3 防波堤・1日目 早朝】
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:意識不明、肉体(特に頭部)へのダメージ大、精神的に疲弊
[装備]:SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:なし
[思考・状況]
1:不明
基本:自分の行動によって世界と涼宮ハルヒにどんな変化が起こるかを観察する。


※注意
・ハクオロの首と才人の首は、ジュンによって海(防波堤の北)に投棄されました。
・朝倉涼子は頭部に激しいダメージを受けた為、何らかの後遺症や障害を患っているかもしれません
165罪悪感とノイズの交錯 ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/23(土) 23:31:52 ID:hdf+e4ui
暗闇に支配されていた森が、少しずつ明るさを得ていく。
殺し合いを強要されるフィールドの中、普段通りに朝が訪れようとしていた。
それでも、見通しの悪い森の中をトラックで走るには不安があった。
いつ何処から、何が飛び出してくるのか分からないのだ。
だから、石田ヤマトはヘッドライトを点けたまま、軍用トラックを進ませていた。
のんびりという形容が似合うほど、その速度は遅い。
まるで、車内に漂う重い空気が速度を奪っているようだった。
ヤマトもぶりぶりざえもんも、何一つ口を利いていなかった。
舗装されていない森を走るトラックは、座席へと振動を伝えてくる。
自家用車のような柔らかいシートを使っていないため、乗り心地がいいとは言えなかった。
不愉快な振動が体を揺さぶる。エンジンの駆動音がやけに耳につく。
それらを全て無視するようにして、ヤマトは前だけを見てトラックを走らせ続ける。
全神経を運転することに、全意識を前方の注意だけに傾けていた。
そうすることで、あらゆることを意識から追い出すように。
グレーテルを殺してしまった罪悪感や、ぶりぶりざえもんに対する不信感。
それらを意識するよりは、運転のストレスの方がいくらかマシだった。
「お、ぉぉぉ……」
不意に、エンジンの音に交じって呻き声が聞こえてきた。だがヤマトはそれを耳から追い出し、運転に集中する。
「おおおぉぉぉ……」
耳障りな声は次第に大きくなり、ヤマトの集中力を削いでいく。
後部座席から聞こえるその声を無視するため、できるならば耳を抑えたいくらいだった。
ヤマトは苛立ちを燻らせる。ともすれば、そのままアクセルを踏み込んでしまいそうなほどに。
「ヤマト、車を止めろ……! 降ろせ……!」
何が起きたかなど容易に想像がつく。
それでも、ヤマトはぶりぶりざえもんの要望には応じない。
どうやら、デジモンにも食中毒はあるらしい。自業自得だ。この身勝手なデジモンにはいい薬だろう。
そう思いながら、ヤマトは少しだけルームミラーに目を向けた。
そこに映る、もう動かないグレーテルに何度目かになる謝罪を胸中で投げかけてから、ぶりぶりざえもんを見る。
悶えながら口元に前足を当てるぶりぶりざえもんの顔は、青ざめていた。
「あぁん、もうダメ。で、出るぅ……」
喘ぎ、くねくねと艶かしい動きをしながら、ぶりぶりざえもんの口が開く。そこからぽたりと、一滴の涎が垂れ落ちた。
嫌な予感が、ヤマトの胸に去来する。
トラックが汚れるだけならまだしも、このままではグレーテルの遺体に何かがぶちまけられてしまう。
そう感じたヤマトはトラックを止め、急いで後部座席のぶりぶりざえもんを引っつかんで。
166罪悪感とノイズの交錯 ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/23(土) 23:34:15 ID:hdf+e4ui
迷わず、窓から投げ捨てた。
ぶりぶりざえもんは、空中で吐瀉物を撒き散らしながら放物線を描く。
顔面から地面に突っ込んだぶりぶりざえもんは、朝の空気を汚すようにして吐き続けていた。
撒き散らされている、聞いているだけでも吐き気がしそうな声にヤマトは顔を顰める。溜息を吐いて、彼は窓を閉めた。
すると、車内が妙に広くなったような気がした。
ヤマトは、ぐるりと車内を見回す。
後ろにいる、もう動かないグレーテル。
置き去りにされた、ぶりぶりざえもんのデイバック。
ヤマトの手に、じわりと汗が滲む。そのままごくりと唾を飲み、窓を閉めたまま外を窺った。
そこでは、未だぶりぶりざえもんが地面を汚し続けている。痛々しい姿だったが、それに同情も憐憫も湧いてはこなかった。
その代わりとでもいうように、ヤマトの胸に別の考えが浮かんでくる。
こいつと一緒に行動することに、どれほど意味があるのかということだ。
自分勝手で、人の話もまともに聞かず、偉そうで、頼りになりそうもない。
むしろ、いざというときは後ろから撃たれるのではないかという気さえしてくる。
救いのヒーローと自称しているが、それらしい素振りを見せたことは一度たりともない。
一緒にいてもただ苛立ちが募るばかり。それなら、単独で行動した方がマシなんじゃないか。
今ならば、こいつを放っていける。少しアクセルを踏み込むだけで、こいつとは別れられる。
やるならば早くしなければ。勘付かれる前に。トラックに取り付かれる前に。
だが、とヤマトは思案する。
本当にそれでいいのか。確かに腹の立つ奴だが、こんなに苦しんでいるんだ。
放っておいて、本当にいいのか。
浮かんでくる考えを、ヤマトは大きく頭を振って振り払う。
それら全てを捨て置くように、ヤマトはブレーキから足を離してアクセルを踏む。
ぶりぶりざえもんのえずき声を残して、トラックは走り出す。
朝を迎え始めた森の中を、ゆっくりと走り出す。
167罪悪感とノイズの交錯 ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/23(土) 23:36:49 ID:hdf+e4ui
◆◆

どれほど走ったかと尋ねられれば、それほどの距離を進んだわけではないし、時間も余り経過してはいない。
それなのに、ヤマトはかなりの時間、相当の距離を走ったような錯覚を感じていた。
随分体が重いのは、気分が重いせいだろうかとヤマトは思う。
もともと遅かったトラックの速度は更に落ち、今にも止まりそうだ。
ヤマトはずっと、グレーテルを轢いてしまった後は特に、集中して運転を続けていた。
だが現在、彼はぼんやりとハンドルを握っていた。前方を見てはいるものの、その情報がまともに頭には入ってこない。
意図的にぶりぶりざえもんの声を頭に入れないようにしていたときとは違う。
見ようとしているのに、頭に入ってこない。ヤマトの頭の中は、罪悪感でいっぱいだった。
ぶりぶりざえモンは無事だろうか。
苦しんでいるところを誰かに襲われてはいないだろうか。
浮かんでくるのは、血色の悪い豚の顔。脂汗が浮かぶ不細工な顔。
止め処なく思い出されるその顔を、ヤマトは頭を振って拭い取る。
あいつのことだ、吐けばすっきりしてピンピンしているだろう。
もし誰かに襲われたとしても上手く逃げ回りそうだし、あいつが死ぬところを想像できない。
だから、大丈夫。きっと、大丈夫。大丈夫、大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫。
「大丈夫だよな? ぶりぶりざえモン……」
ヤマトは呟いて、自分を落ち着けようとする。頭を大丈夫という言葉で埋め尽くし、心を安らげようとする。
そうしても。
どんなにそうしようとしても。
苦しむぶりぶりざえもんの顔は離れてくれなくて。
見捨てた罪悪感は消えてくれなくて。
直視するのを避けようとするヤマトの目を開くように、逃げようとするヤマトの逃げ道をなくそうとするかのように。
それらはヤマトを包囲していく。飲み込もうとしていく。
そう実感したとき、ヤマトは気付く。

自分が罪の意識から逃れようとしていたことに。
捨て置いた罪から目を背けようとしていたことに。

思わず、ヤマトはハンドルに思い切り拳を叩きつけた。
拳に伝わる痛みを、ヤマトは強く噛み締める。

最低だ。
苦しむぶりぶりざえモンを見捨てて、その罪から逃れようとして。
こんな自分はイヤだ。
こんな人間になりたくなんて、ない。

「……戻ろう」
許せないほどの最低な人間になる前に。
ぶりぶりざえモンに何かがある前に。
間に合わせなければならない。絶対に、間に合わせなければならない。

たとえ戻っても、置き去りにした事実と罪が消えるわけじゃない。
だとしても、まだ取り返しはつく。いや、取り返してみせる。
自分勝手で、人の話もまともに聞かず、偉そうで、頼りになりそうもない奴だけど。

それでもあいつは、ぶりぶりざえモンは。
オレがこの殺し合いの中で、初めて出会った仲間なんだから。
168罪悪感とノイズの交錯 ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/23(土) 23:39:20 ID:hdf+e4ui
ヤマトはハンドルを切り、トラックを転進させる。
罪から目を背けないために。
自分自身を、救えないほど最低な人間にしないために。
そして何よりも、仲間のために。
「ぶりぶりざえモン……」
無事でいてくれと願いながら、ヤマトはアクセルを踏み込む。
あの憎らしい顔を早く見たかった。あの偉そうな言葉を早く聞きたかった。そして何より、早く謝りたかった。
だからヤマトは加速するのも構わない。力を入れれば入れるだけ、トラックは答えてくれる。
焦りに取り付かれながらも、ヤマトは前をじっと見据えていた。
景色が通り過ぎるスピードが速くなっていく。
そんな中、ヤマトは見つけた。
進行方向に佇む、セーラー服を着た人影を。
「!!」
ヤマトの頭に数分前の光景がフラッシュバックする。
グレーテルを轢き殺してしまったその瞬間が、瞼の裏に蘇る。
人影との距離は十分にある。しかし、人を轢いてしまった経験が、ヤマトを必要以上に動かした。
突き動かされたように、ヤマトは慌ててブレーキを踏む。足の裏で蹴り飛ばすように、ブレーキペダルを力の限り踏みつける。
急制動の衝撃がヤマトを襲う。だがそれに耐えながら、ヤマトはハンドルを力いっぱい切る。
巨大な揺れと慣性に振り回されても、彼は腕と足の力を抜かない。
そして、トラックが一際大きく揺れた。体が浮き、シートベルトが食い込む。
衝撃で上半身が曲がり、額がハンドルに打ち付けられた。
それを最後に、ジェットコースターに乗っているような感覚は終わる。
ようやくトラックは停止したのだ。
ハンドルに寄りかかっていたヤマトは、そっと顔を上げる。
ルームミラーに映ったその額からは、血が流れ出ていた。
額だけではなく、右腕も痛い。見ると、上腕に黒いアザができていた。どうやらぶつけたらしい。
痛みを堪え、ヤマトは後部座席を確認する。そこにあるグレーテルの遺体は、幸いなことに目立った傷は見られなかった。
そのことに安堵して、ヤマトはドアを開ける。
すると、タヌキのような耳と眼鏡を付けた少女の顔が、目の前にあった。
169罪悪感とノイズの交錯 ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/23(土) 23:41:26 ID:hdf+e4ui
◆◆

涼宮ハルヒの痕跡を追っていた長門有希は、エンジン音とライトの明かりを捉えると足を止めた。
何処に敵が潜んでいるのか分からないこの状況で、ヘッドライトを灯して車を走らせるというのは自分の居場所を知らせながら移動しているようなものだ。
無鉄砲。
そんな言葉を当てはめるのが最も正しいような行動でしかない。
長門有希が追う人物は、そんな言葉を当てはめるのが最も正しいような人物だ。
今まで追ってきた足跡が、涼宮ハルヒと関連するものかどうかは定かではない。
手がかりだった整髪料の香りは、風によって流されていた。
分かることは、かつてこの周囲に涼宮ハルヒがいた可能性がある、ということだけだった。
足跡を追うべきか、車の調査を行うか。
長門は、後者を選択した。
もしも自動車に涼宮ハルヒが乗っているとすれば、今合流しておかなければ後の合流は困難であると判断したためだ。
普段のような情報操作を行える環境ではない。引き離されてしまえば追いつくのは難しい。
だから、長門は自動車のドライバーと接触しようとした。走る車の前に出て、相手を止めようとした。
もちろん突然目の前に飛び出したわけではないし、衝突する可能性があった場合回避するつもりだった。
それだけの余裕を、長門は見てとっていた。
それなのに、長門を発見したドライバーは不必要な急ブレーキと過剰な急ハンドルを行った。
結果、トラックは大きく横道に逸れ、そこにあった大岩に激突してようやく止まった。
長門は倒れたトラックに歩み寄る。中にいる人物を確かめるために。
少なくとも、危険な人物でないことは予想がつく。殺人者ならば、構うことなく長門を轢き殺していただろうから。
長門は一足でトラックに近づくと、運転席の窓から中を覗き込んだ。
そこにいたのは金髪の少年で、額から血を流している彼は後部座席を見て安堵の表情を浮かべていた。
彼と同じように後部座席を見ようとしたとき、ドアが開いて少年が姿を現した。
170罪悪感とノイズの交錯 ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/23(土) 23:43:52 ID:hdf+e4ui
「ごめん……大丈夫、だった?」
尋ねると、長門は無表情に首を横に振って答えた。
同じことを繰り返さずに済んで、ヤマトは心から安心する。
「よかった……」
思わずそう漏らしたが、長門は無反応だった。
どうしたのかと思い様子を窺うと、彼女は後部座席の中を見つめていた。
そこにいるのは、動かない人間。
自分が殺してしまった、人間。
そのことを他の誰かに知られてしまうことに、ヤマトは恐怖を感じる。
だが、隠すわけにはいかない。嘘をつくわけにはいかない。
そうやって罪から目を背けようとすることが嫌で、ヤマトはぶりぶりざえもんの元へ戻ろうとしているのだから。
そうだ。
こんな所で油を売っている場合ではない。
グレーテルをこのままにしておくわけにはいかないが、ぶりぶりざえもんを捜すのが先だ。
手遅れにならないうちに、急いで見つけないと。
「詳しくは後で必ず説明するから、少し待って――」
ヤマトが言いかけたとき、長門の視線が動く。
彼女の瞳は、ヤマトがトラックで目指していた先へと向けられていた。
つられてヤマトもそちらを見る。
そこには、動く小さな影があった。よろめくように歩いているそれは、とても弱々しい。
それは、衰弱したぶりぶりざえもんの姿だった。
「ぶりぶりざえモン!」
ヤマトは急いでぶりぶりざえもんへと駆け寄り、今にも倒れそうなその体を支える。
「ヤマト、キサマ……よくも私を置き去りにしてくれたな……」
相変わらず偉そうなぶりぶりざえもん。しかし、その声はか細くひ弱だった。
「ごめん……」
ヤマトはぶりぶりざえもんを抱きしめる。その体が、心なしか痩せ細っているような気がした。
ヤマトの視界が涙で滲む。ぶりぶりざえもんの言葉に反論などできはしない。
悪いのは、自分なのだから。
「ごめんな、ぶりぶりざえモン……」
額から垂れ落ちる血と涙が混ざり合い、ヤマトの頬を伝っていく。
ヤマトの腕の中、ぶりぶりざえもんは小さく鼻を鳴らす。その姿すら、力ない。
「ごめんで済めば警察はいらんのだ……慰謝料、百億万円を要求する。ローンも、可……」
毒づくぶりぶりざえもんの体を、ヤマトは必死で支えようとする。
どうすればいいのか分からず、ただ腕に力を込めた。
腕の怪我が痛んでも、ただ必死で力を込めた。
自分の力が、ぶりぶりざえもんに伝わることを願うようにして。
「やめろ、ヤマト……私には、そういう趣味は……」
喋り続けるぶりぶりざえもん。その姿が痛々しく、ヤマトには辛かった。
どうすればいい。どうしたら救われる。オレに何ができるんだ。
171罪悪感とノイズの交錯 ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/23(土) 23:46:35 ID:hdf+e4ui
「車内に散乱した白米から、黄色ブドウ球菌が検出された」
自問するヤマトに、淡々とした声が投げかけられる。振り向けば、後ろには長門が佇んでいた。
「黄色ブドウ球菌による食中毒の治療は抗生物質投与といった化学療法が適切。
 また、嘔吐によって失われた水分、栄養分を輸液によって摂取する必要がある」
「治せるのか!?」
思わず声を荒げたヤマト。それに対し、長門の声はあまりにも平坦だ。
「抗生物質および輸液製剤の調達ができれば治療、回復は可能。それらがある可能性が最も高いのは、西にある病院」
ヤマトの口元に笑みが生まれる。まだ手はある。救うことができる。
道さえ分かればあとは行くだけだ。
ヤマトは荒っぽく涙を拭くと、ぶりぶりざえもんを抱き上げて立ち上がる。
体力も気力もないのか、ぶりぶりざえもんが抵抗することも文句を言うこともなかった。
トラックへ向かいながら、ヤマトは長門を見上げる。
「オレ、病院へ行くよ。ありがとう」
グレーテルの埋葬は、申し訳ないが後回しだ。
ぶりぶりざえもんを治療することが、今のヤマトにとって最優先事項なのだから。
ヤマトはトラックの助手席にぶりぶりざえもんを乗せ、自分は運転席に座る。
「待ってろよ、ぶりぶりざえモン。すぐに病院へ連れてってやるからな」
呻くぶりぶりざえもんにヤマトは告げる。
必ず助けると、そう決意して。するとそのとき、助手席のドアがノックされた。
窓を開けて外を見ると、感情の読み取れない瞳と目が合う。
「わたしも行く」
届いてきた声。それからも、彼女の感情は掬い取れない。
だが、心強いと思う。
自分一人で病院に行ったところで、適切な処置ができる自信はないからだ。
「……助かるよ。ありがとう」
付き合わせるのは申し訳ないと思いながら、ヤマトは言う。
「いい。あなたが怪我をしたのはわたしにも責任がある。それに――」
長門は後部座席を一瞥して、続けた。
「まだ詳しい話を聞いていない」
ヤマトは身を強張らせながらも、首を縦に振る。
話さなければならないことだ。
それも、罪と向き合うために、逃げないために必要なのだから。
「そうだな。よろしく頼むよ」
頷く長門の、変わらない表情が、何故か頼もしく感じられた。
172罪悪感とノイズの交錯 ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/23(土) 23:49:09 ID:hdf+e4ui
◆◆

石田ヤマトと共に病院へ向かうことは涼宮ハルヒから遠ざかる可能性が高い選択である。
涼宮ハルヒとの接触という目的を達成するためには、再度足跡の追跡を続行するのが最も合理的だ。
そのことを、長門有希は理解していた。だから、そうしようとした。
そうしようと、長門はトラックから遠ざかろうとした、その瞬間。
彼女の思考にノイズが生まれた。
バトルロワイアルの中、最初に発見した少女を見送ったときに感じたものと酷似したノイズ。
不愉快なそれは、無視することも処理することも、理解することさえもできないものだった。
ただ分かるのは、石田ヤマトを捨て置いて単独で行かせるということがノイズを生み出している原因だということだけ。
それゆえに、長門はヤマトに声をかけた。
そうすることが、正しいかどうかは分からない。
だが少なくとも、思考のノイズはなりを潜めていった。
だからきっと、間違ってはいないのだろうと長門は結論付ける。
そうして、長門がトラックに乗り込んだ、その直後。

空のスクリーンに、仮面の男の姿が映し出された。
173罪悪感とノイズの交錯 ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/23(土) 23:51:09 ID:hdf+e4ui
【C-6とC-7の境界 1日目・早朝。放送直前】

【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人をはね殺したことに対する深い罪悪感、精神的疲労。右腕上腕打撲、額から出血
[装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
   RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
   デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
   真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考]
1:病院へ行ってぶりぶりざえもんの治療
2:移動しながら長門にグレーテルのことを説明。
3:街へ行って、どこかにグレーテルを埋葬してやる
4:八神太一との合流
基本:生き残る
[備考]:ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。

【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒。激しい嘔吐感
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手)
[道具]:支給品一式 (配給品0〜2個:本人は確認済み)パン二つ消費
[思考]
1:吐きそう。すごく吐きそう。むしろ吐きたい。
2:強い者に付く
3:自己の命を最優先
基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
[備考]:黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。

[共通思考]:市街地に向かい、グレーテルを埋葬するのに適当な場所を探す。

【長門有希】
[状態]:健康
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/タヌ機/S&W M19(6/6)
[思考]
1:ヤマトたちに付き合い、ぶりぶりざえもんの治療
2:ハルヒを探す/朝倉涼子を探す/キョンを探す

[共同アイテム]:ミニミ軽機関銃、おにぎり弁当のゴミ(どちらも後部座席に置いてあります)
174罪悪感とノイズの交錯:修正願い ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/24(日) 00:41:28 ID:FsVfETyH
>>170の2行目

>尋ねると、長門は無表情に首を横に振って答えた。

>尋ねると、長門は無表情に首を縦に振って答えた。
に変更してください。
 涼宮ハルヒはいつだって突拍子もないことを言う。
 急に映画を作ろうだとか、急に野球大会に参加しようだとか、急に合宿に行こうだとか。
 その被害を受けてきたのは、専ら涼宮ハルヒが団長を務めるSOS団の面々であったのだが。
 このバトルロワイアル内では、かの有名な大怪盗、アルセーヌ・ルパンの三代目が被害者となっていた。

「図書館に行きましょう!」

 市街地に足を踏み入れ、他の参加者と接触するため探索を始めた頃。
 ずんずんと先を進んでいた涼宮ハルヒは、後ろをついて来るルパンとアルルゥにそう提案した。

「図書館ねぇ。悪いチョイスじゃあないと思うが、しかしまたなんで? お嬢ちゃんの仲間を捜すんなら、人の集まりやすそうな駅周辺とかの方がいいんじゃないか?」

 意図の分からない提案に答えを求めるべく、ルパンが団長閣下に質問する。
 地図に明確な居場所が明記されている以上、それなりに大きな施設であると推測できる図書館。
 しかし図書館に向かうには、川を跨いでそこそこ歩かなければいけない必要があり、あまり効率的な判断とは言えない。
 それだったら、図書館よりもよっぽど近い駅やホテルに向かった方が確実のようにも思える。

「有希はね、本が好きなのよ」
「は?」

 ハルヒが何の脈絡もなしに出した名前に、ルパンは疑問符を浮かべた。

「あの子、普段SOS団の部室でも、暇さえあれば本を読んでるのよ。文庫だったりハードカバーだったり、小説だったり難しい外国版だったりもするのよ」
「はぁ……つまり、その有希って子はSOS団の仲間で、本の虫ってわけか。で、だからってなんで図書館を目指すんだい?」
「鈍いわねぇ〜。あれだけ本好きの有希が、これだけハッキリと『図書館』って明記されている場所に向かわないはずないでしょ!?」

 自信満々に語るハルヒを前に、ルパンは思わず脱力した。

「あたしずっと考えてたのよね。。SOS団のみんななら、いったい何処に向かうだろうって。
 で、地図を見たらピンときたってわけ。キョンやみくるちゃんはともかく、有希なら絶対に図書館に行くはずよ!
 さすがはあたし。団員の行動心理を的確に判断し、居場所を特定する……う〜ん! 今から有希との合流が楽しみになってきたわ!」

 キラキラと目を輝かせるハルヒの前に、ルパンは最早、返す言葉もなかった。
 そもそも長門有希なる人物は、このような非常事態でも本を読みに行くような肝の据わった人間だというのだろうか。
 いや、それは単なる危機感のない馬鹿か、もしくはかなりの天然か……。
 想像できない人物像を頭の中で有耶無耶にしたまま、ルパンはやがて考えることをやめた。
(ま……仲間の性格から行き先を特定するって手段は面白いと思うがね……。俺の知り合いならどこへ向かうかな?
 銭型のとっつぁんなら警察署、不二子なら宝石店、次元ならガンショップで、五ェ門なら鍛冶屋かなんかか?
 どれもこれもありそうにねぇ施設だなぁ……)

 ハルヒに習って、仲間の向かいそうな場所を考えてみる。
 が、出てきた結果はどれもありえないものばかり……いくら不二子でも、この非常時に宝石を手に入れて喜んだりはしないだろう。
 次元や五ェ門が武器を求めて各所に向かうという可能性はありそうだが、このゲーム内で銃や刀を現地調達できるとは思いがたい。
 銭型に至っては、特に目的地も考えず、ただひたすらにルパンを捜している可能性すらあり得る。

 考えるだけ無駄か。そう判断したルパンは、思考を中断して、先を行くハルヒとアルルゥに目をやった。

 そこで、ルパンは明らかな視覚の変動に頭を振るわせた。

 目をごしごしと擦り、もう一度目をやる。

 間違いない。いやしかしなんで。

 あまりにも唐突すぎること故、判断が追いつかない。

 しかしこのままではただ混乱を広げるだけなので、現在ルパンの視覚が捉えている内容を率直に表現しよう。


 アルルゥが、メイド服を着ていた。


「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いい!
 すごいわアルちゃん! 素晴らしすぎる着こなし……も、もう萌え萌えだわっ!
 世の中にこんな生体兵器並みの萌え生物がいたなんて……ああ、もう! みくるちゃんのポジションが危うくなっちゃうじゃない!」

 元着ていたアイヌの民族衣装っぽいのはどこに消えたのか。
 アルルゥはやや派手なフリフリメイド服に身を包み、つぶらな瞳を浮かべてはハルヒにムギュっとされていた。

「な、なぁ嬢ちゃん……いったいこのメイド服は、どこから調達したんだい?」
「え? ああ、これよこれ」

 困惑するルパンに、興奮気味のハルヒはずいっと、一台のカメラを差し出した。
 奇抜なデザインの珍妙なカメラ……もしかしなくても、ハルヒの支給品だろう。刀以外にもあったのか。
 どれどれっ、とルパンはカメラ片手に説明書を眺めてみる。そこには、こう書かれていた。

『着せ替えカメラ
 気に入ったデザインの服を着せたい人にすぐ着せられるカメラ。
 デザイン画をカメラに入れ、ファインダーを覗きながら位置を合わせ、シャッターを切る。
 すると、分子分解装置が服を作っている分子をバラバラにし、定着装置(分子再合成装置)がそれを組み立て、別の服にする。
 絵や写真を入れないでシャッターを押すと、衣服を分解するだけで再構成しないので、裸になってしまう』

 摩訶不思議、の四文字では済ませられない超科学の産物が、そこにあった。
(なるほどなぁ……原理はちぃーっとも分からないが、これを使えば自分がデザインしたとおりの衣装に着せ替えさせられるわけか。
 団長様はこれを使って、尻尾の嬢ちゃんをメイド服に着替えさせたと、そういうわけね。
 しかしこれ、何も入れないでシャッターを切ると裸になっちまうのか……ウッシシシシシおっと)

 ルパンはやや引きつった(不気味な)微笑をしながら、ハルヒに着せ替えカメラを返却した。
 その際――着せ替えカメラを取り出した際に取りこぼしたのだろう――ハルヒの足元に、一挺の銃が転がっていることに気づいた。

「お嬢ちゃん、これは?」
「ああ、それ? もう一個の支給品よ」

 さらっと流すハルヒ。というか、今の今までこんなものを隠し持っていたのか。

「おいおい、どうでもいいって風に言うが、護身用だったら刀よりもこっちの銃の方がいいんじゃないか?」
「いやよ。だってあたし銃なんて撃ったことないし、万が一狙いが反れでもしたら、アルちゃんも危険になっちゃうじゃない。
 それに…………運悪く急所に当たって、相手を殺しちゃうのも嫌だしね」

 ああ、なんだ。やや小さくなったハルヒの声を聞いて、ルパンはある種の安堵を取り戻した。
 涼宮ハルヒ。これまでの動向は、未だ現実に慣れていないようにも思えたが……心の中では、これが殺し合いのゲームであるとちゃんと自覚しているらしい。

「なんなら、それはあんたにあげるわよ。あんたも一応SOS団の団員なわけだし、ここらへんで団長であるあたしのご好意に甘えても、罰は当たらないはずよ」
「そりゃどーも」

 ルパンは丁重にお辞儀をし、寛大な団長様に感謝の意を表す。
 ルパンの戦闘スタイルは二挺拳銃というガラではないが、マテバの残弾が心許なかった現状、嬉しい報酬ではある。

「そんなことよりも! あたしは今すぐ、この萌え萌えアルちゃんを写真に収めなければ気がすまないわ!
 どこかに写真屋はないかしら? この際コンビニや売店でもいいわ。インスタントカメラくらいは売ってるでしょ」

 アルルゥの可愛さに暴走気味のハルヒは、一人先走って市街地の奥深くへと進んでいった。
 追わなければなるまい。SOS団の特別団員として、彼女の気まぐれにとことんまで付き合うことこそが、ルパンの最優先すべき仕事なのだ。
 万が一彼女を不機嫌にして、閉鎖空間でも発生しようものなら――この場に古泉一樹がいたら、そんな心配をしたことだろう。
 幸いにも、このゲーム内で閉鎖空間が発生する可能性は……『おそらく』ゼロなのだが。
 程なくして。一行は人気のない公園へと移動する。
 小さな町の写真店から二台、インスタントカメラをガメてきたハルヒが、アルルゥを被写体にパシャパシャとシャッターを切っていた。

「アルちゃん、そこでクルッとターン!」
「きゃっほう」

 グラビアアイドルを撮影するカメラマンのような機敏さで、アルルゥを激写しまくるハルヒ。
 本当は高画質のデジタルカメラが欲しかったところだが、あまり贅沢は言っていられない。
 アルルゥもアルルゥで、楽しそうな表情をしている。いきなりこんな殺し合いに連れて来られたというのに、タフな女の子たちだ。
 東から昇った太陽が照明となり、フラッシュ要らずでシャッター音が飛び交う。
 涼宮ハルヒの撮影が終わるのは、いつになることやら。ルパンは欠伸をしながら、犬耳メイド撮影会を眺めていた。

「ねぇ、ルパン」
「ん?」

 ハルヒに初めて名前で呼ばれ、ルパンは一瞬面食らったような顔をしてしまう。

「この写真、インスタントだから専門の人がいてくれないと現像できないのよね。
 あたしはSOS団の更なる躍進のためにも、アルちゃんの写真を絶対ホームページにアップしなければならない。
 だから……さっさと元の世界に帰るわよ」

「……ああ、そのためのSOS団団長様、だろ?」

 ルパンは思った。
 涼宮ハルヒは確かにハチャメチャだが、根は仲間思いの優しい娘だ。
 天下の大泥棒、ルパン三世が惚れ込み、守るだけの価値は十分にある。

「ああ、それにしても! ぜひともこの子とみくるちゃんのダブルメイドで、ツーショットを撮ってみたいものだわっ!
 きっと萌え萌えすぎて失神者続出、ホームページのヒット数も鰻上り間違いなしよ!
 ああもう、こんな時にみくるちゃんは、いったいどこで何をしてるのよぉ〜!!」


 ◇ ◇ ◇

 団長が新戦力のポテンシャルに悶えていることなど露知らず。
 SOS団の現役マスコットである朝比奈みくるは、メイド衣装のまま駅前の喫茶店に入っていた。
 もちろん、先刻知り合ったバトーも一緒であるが、会話はあまりない。
 なぜならば。朝比奈みくるは今、ある作業に没頭中であり、とても声をかけられる雰囲気ではないからである。

「う〜んと……ほうじ茶にアールグレイ……それとキリマンジャロ……すごい、お茶や紅茶に、それにコーヒー豆も充実してる」

 カウンターの奥に並べられた、多種多様な茶葉とコーヒー豆たち。
 それを目の前に、吟味するような熱い視線を送り続けるメイドさん。
 客席に座るバトーの視界には、シュールな光景が浮かんでいた。

「なあ、お楽しみのところ悪いんだが、そろそろ出発しないか? 言いにくいが、あと僅か数分で六時……放送が流れちまう。
 こんなところで、悠長に茶を眺めている時間はないと思うんだが」
「へあ!? も、もうちょっと、もうちょっとだけ待ってください……」

 このやり取りも、かれこれ三回目である。
 いったい何が楽しいのか――そういえば、どこかで『女の買い物は長い』と聞いたような気もする――分からないが、みくるはこの喫茶店からいっこうに離れようとしない。
 茶葉やコーヒー豆が欲しいのならば、全部纏めて持って行ってしまえばいいものを。どうせ、四次元デイパックの収容数は無制限なのだから。
 バトーはやれやれとつぶやきながら、ちょこまかと動き回るメイドを見ていた。

 そもそも、2人はなぜこんなところにいるのか。
 当初は、深夜の内に付近で一番高い建造物であるホテルへと向かうはずだったのだ。
 その道中、駅周辺の小さな百貨店で望遠鏡を探し回り――残念ながら調達することはできなかったが――どうしたものかと歩いていた最中、みくるの懇願でここに立ち寄ってみたのだ。

「……実を言うとですね」
「うん?」

 カウンター越し、茶葉の包みを胸に抱えたままのみくるが、背を向けた状態でバトーに話しかける。

「駅前の喫茶店って、SOS団の集合場所だったんですよ」
「S……OS団? なんだ?」

 聞きなれない単語に、バトーは説明を求める。

「あ、SOS団っていうのは涼宮さんが発足した部活動のことで、あたしやキョンくんや長門さん、それに古泉くんも参加してるんですよ。
 いつもは北口駅なんですけど、ここの喫茶店も似たような場所にあったから、つい、ここで待ってれば誰かが来てくれるんじゃないかと思って……」

 懐かしそうに語るみくるの表情はどこか儚げで、バトーは今までに感じていたドジッ娘メイドの印象を少しばかり改変した。
(つまり駅前の喫茶店は、仲間内でお決まりの合流地点だったってわけか)

 それならそうと、早く言えばいいものを。
 ホテルから他の参加者を捜すという手段も良策ではあるが、みくるの仲間がここを訪れる可能性があるというのであれば、わざわざ無碍にする必要もないだろう。
 それに、駅ならば人の集まる確率も高い。仲間と合流を図るにも、他の参加者と接触するにも、ここは都合のいい場所なのかもしれない。

「そういうことなら、もう少しここで待ってみるか。擦れ違って合流がおじゃんになっちまったら、救いようがないからな」
「ほ、本当にいいんですか?」
「ああ。俺も、もう少しのんびりさせてもらおうか」
「あ、ありがとうございますっ!」

 みくるはペコリと一礼し、さらに店内の奥側――厨房の方へ走っていった。

「で、今度はいったい何をするつもりなんだ?」
「あ、みなさんがいつお腹を空かせて来てもいいように、何か軽食でも作っておこうかと思ったんですけど……ここの冷蔵庫、何もないんですね。ちょっと残念……」

 なんとまぁ、楽天的な。
 バトーは思いつつも、決して悪い印象は抱かず。また、やれやれ、といった感じで、顔を緩ませた。
 ふと、店内を見渡してみる。その片隅にポツンと置かれた機械が気になって、少し調べてみた。
 どうやらかなり旧式の音楽再生機――レコードのようだ。
 この店は防音処理が施してあるようだし、外に音が漏れる心配もないか……と、バトーは気まぐれにレコードを再生してみる。
 質素な喫茶店のイメージうまく調和した、モダンテイストの荘厳な旋律が流れ出す。
 その大人な雰囲気を醸し出す店内の奥で、可愛らしい女子高生メイドがせっせと紅茶を作っているというのも、おかしな話だった。

「なぁ」
「はい?」

 バトーの呼びかけでみくるは手を休め、両者が視線を合わせる。

「みくるは、本当にただの……いや、『未来人』だったか……ともかく、ただの女子高生なのか? 
 こんなこと言っちゃあなんだが、本当に本職がメイドってわけじゃあ……」
「ええ、そ、それはぁ……」

 バトーの質問に一瞬だけ困惑した顔を見せたみくるは、やがて笑顔でこう返した。

「禁則事項です」

 ……ん、そうかい。と、バトーはまた口を噤んだ。


 ◇ ◇ ◇

「チッ」

 同僚のバトーが喫茶店でメイドを眺めていることなど露知らず。
 公安9課に属する新米課員、トグサはホテルのロビーでもう何回目になるか分からない舌打ちをしていた。

「トグサさ〜ん、例のもの、見つかりましたか?」
「ああ、セラスか。今ちょうど、このホテルの設備の悪さにイラついていたところさ」

 あからさまに不機嫌な顔を作るトグサの前に、同じくホテルの別フロアを調べていたセラス・ヴィクトリアが現れる。
 彼らがこのホテルに到着したのは、朝日が昇る前。しかしこの大きな内部を二人だけで探索するというのも骨が折れるもので、気づけば既に放送直前の時刻にまで迫っていた。
 ハァ〜っ、と大きな溜め息を吐きながら、トグサはロビーに置かれた豪華なソファに腰を下ろす。
 尻部に感じる感触はフカフカで、実に座り心地が良かった。これほど上質なソファを備えているというのに、何故『あれ』はないのか。

「見つからなかったんですか? 情報端末」
「ああ。回線らしきものが取り付けられていることは確認できたんだが……肝心の情報端末本体がない。
 旧式でもいいからコンピュータの一つや二つくらいあるかと思ったんだが、甘かったな。
 通信機の方は電話が置いてあったが、繋がるのはマップ内の他の施設だけ。しかも全部留守電ときたもんだ」

 ホテルのロビー、フロント、事務室、色々回ってみたが、情報を入手できるようなものは何一つとして置かれていなかった。
 仮にもここはホテル。建物内に情報端末が一つもないというのは不自然な結果だったが、逆にその結果から推測できることもある。

「そういえばセラス、厨房の方はどうだった?」
「ええとですね……思ったとおり、冷蔵庫の中はもぬけの空でした。でも、調理道具や食器類はちゃんと残ってましたよ。
 武器、って言うにはちょっと不安ですけど、一応包丁やナイフなんかの刃物も入手できました」

 トグサと別行動を取っていたセラスが調べたのは、ホテル内のレストラン――そこの厨房の設備だった。
 支給品に食料類が入っていることからも想像できるが、やはり重要アイテムを施設から現地調達するのは無理だったようだ。
 もしかしたら……と思ったのだが、結果は案の定。だがこれで、トグサの考える『答え』は明確のものとなった。

「包丁やナイフ、武器とは呼べないようなどうでもいいものは置いてあり……食料や情報端末などは施設内から撤去されている……セラス、これがどういうことか分かるか?」
「え? ど、どういうことですか?」

 トグサの言う意味をを飲み込めないセラスは、キョトンとした顔つきで首を傾げる。
 そんなセラスに、トグサは微笑を作りながら言った。
「支給品だよ」

 その言葉で、セラスはますます混乱してしまう。
 どうやら、さらなる説明が必要なようだ。

「いいかセラス。食料も情報端末も、どちらともホテルに置いてあっておかしくないものだ。
 だが、ない。これはどういうことか。主催者になったつもりで考えてみれば分かるだろ?」

 セラスは数秒思案し、やがて閃いたかのように目を見開き、発言した。

「えっと……『参加者に持っていかれたら困る』、だから初めから置かない……そういうことですかね?」
「正解だ。食料が簡単に手に入るようにしてしまったら、
『数少ない食料を参加者同士で奪い合う』という、主催者側が好みそうなイベントをおしゃかにしちまう可能性があるからな。
 同じ理由で、情報端末を置いてしまったら『簡単に情報が漏れる』。
 ここに情報端末が置いていないということはつまり、『ネットワーク上に見つけられては困る情報がある』ってことなのさ」
「なるほど。それが、脱出や首輪解体のヒントってわけですね……ん?」

 トグサの考察を感心しながら聞いていたセラスだったが、ある一つの、絶対に無視できない疑問点に気づく。

「って、ネットワーク上にヒントが転がってるって分かっても、肝心の情報端末がないんじゃ意味ないじゃないですか!」

 既にこのホテル内は、虱潰しに捜した。
 地図を見てもマップ上で一番大きな施設はこのホテルのようだし、他の施設を廻っても、情報端末がある可能性は著しく低いだろう。
 退路が断たれた――セラスが胸に絶望感を抱かせ始めたその時、トグサがまた光明を開いた。

「だからさっきも言ったろう? 鍵は支給品さ」
「ふぇ?」

 間抜けな声を出すセラスに、トグサはさらなる説明を続ける。

「まずは、これを見て欲しい。これは俺に支給された道具の一つなんだが……」

 トグサがデイパックから取り出したのは、何の変哲もないただの手袋。
 興味深げなセラスの視線の下、トグサがその手袋をはめてみると、指先から多種多様な工具が飛び出した。
 それはドリルだったりカッターだったり溶接機具だったりセンサーだったり……小型工具が密集しすぎて、何に使えるのかがよく分からない。
 そもそも、この小さな手袋のどこにこれほどの工具が収容されていたのか。
「これは『技術手袋』といってだな、簡単な工作から難しい修理、改造までなんでもこなせる万能ツールなんだそうだ。
 機械的な技術のない者でも容易に使いこなせるらしく、ラジコンの戦車を実戦用に改造することも可能らしい」
「ら、ラジコンておもちゃですよね!? そんな、おもちゃを実戦用にって……本当にそんなこと可能なんですか?」
「俺も信じがたかったんだが、どうやら性能は間違いないらしい。
 さっき試しに、そこのフロントに置いてあるレジを一台ブッ壊してみたんだが……数分も掛からず修理できたよ」

 目を白黒させて、セラスはフロントに置かれたレジを確認する。
 どこにも異常は見られない、万全の状態だった。かといってトグサのブッ壊したという言葉が嘘とも思えない。
 だとすると、導き出される結論は一つ。
 トグサの持つ、ラジコンを実戦用に改造することさえ可能な手袋の性能は、疑うことなく本物であるということだ。

 未来のオーバーテクノロジーの産物を前に、信じられないといった表情を見せるセラスは、そこであることに気づいた。
 ラジコンを実戦用にすら改造できる代物。だというのなら。

「ひょっとしてそれ……この首輪も、解体できるんじゃ……」

 恐る恐る聞いてみる。トグサから返ってくる答えは――

「気づいたか。これだけの性能を秘めた道具だ――俺は、『可能』だと思ってる」

 ――ビンゴ。
 どうやらトグサの引き当てた『技術手袋』は、全ランダムアイテムの中でも特上級の当たりだったらしい。

「じゃ、じゃあ今すぐにでも解体を――」
「いや、それは無理だ」

 興奮気味に駆け寄るセラスを制して、トグサは冷静に説明を続行する。

「確かに、この技術手袋を使えば首輪の解体は簡単だ。だが、それじゃあまりに『簡単すぎる』んだよ。
 俺が主催者だったら、まずそんな便利アイテムは支給しないし、支給したとしても、なんらかの罠を仕掛ける」
「罠、ですか?」
「そう、罠だ。たとえば、首輪を解体しようとした瞬間に――『ボン』、とかな」

 ゾクゾクゾクッ、とセラスの身が震える。
 今まで築き上げてきた希望の山が、一片に崩された気持ちだ。
「そ、それじゃあやっぱり解体なんて無理じゃないですかぁ〜」
「そうでもないさ。ようは、首輪より先にその罠を解除できればいいわけだ。
 そして俺の予測では、おそらくその答えは……ネットワーク上に転がっている」

 なるほど。そのための情報端末排除か。
 ということは、情報端末を手に入れその上で技術手袋を駆使すれば、首輪は外れる――と、そこまで考えて喜ぼうとしたセラスは、高揚寸前だった心を急激に落ち着かせた。
 さすがに、希望を見つけてまた失望するというパターンにはもう飽き飽きだ。

「だーかーらー! その情報端末が手に入らないんじゃ、首輪解除のための情報も掴めないじゃないですか!
 意味ないですよ! トグサさん、ひょっとして私のことからかってるんじゃないですか!?」
「ちょ、そんな怒るなよセラス。俺はただ順を追って説明しようとしただけで……お、おいやめろよ? 殴るのだけは勘弁だぞ? おい!?」


 セラスの気持ちを落ち着かせるのに、数分かかった。


「い、いいかセラス? とりあえず、これまでの俺の考えを整理するぞ?
 まず、『首輪は技術手袋で簡単に解除できる』。これは信じきっていいだろう。
 だが、『首輪には解除しようとすると起爆する罠が仕掛けれている可能性がある』。これは余計な心配かもしれないが、十分考えられることだ。
 そして、『その罠を解く方法、脱出の方法云々は、ネットワーク上に隠されている可能性が高い』。ホテル内の情報端末が撤去されていることから見ても、これは間違いないと思う」
 で、これで最後になるが……『鍵となる情報端末は、他の参加者の支給品に紛れているかもしれない』」

「……その根拠は?」
「俺に技術手袋が支給されたという事実さ。もし主催者側が、本当に俺たちに首輪を解除させたくないのなら、こんなアイテムは支給しない。
 殺し合いに相応しい武器だけを支給していればいい話だ」

 トグサの考察が、いよいよ大詰めに入る。
 セラスは、聞く耳に注意力を高めた。

「つまりは、技術手袋も情報端末も、主催者側がゲームを面白くするために入れた施し……キーアイテムなんだよ。
 奴は俺たちがキーアイテムの存在に気づき、必死で脱出への道を模索している様を、笑いながら見るのが趣味なんだろうさ」

 悪態を吐きながら、虚空を眺めるトグサを見て、セラスはまた気づく。
 トグサの考察は立派なものだったが……これは、ひょっとしたらヤバいのではないだろうか。

「あの、トグサさん……もし、もしですよ? 主催者が……ギガゾンビがこの会話を盗聴してたり監視してたりしたら……ヤバイんじゃ」
「盗聴に監視ね……まさかこんな殺し合いを開いて中身を見ないってはずはないし、十中八九、それもあるだろうな」
「え、えええええええ!? じゃ、じゃあどうするんですか!? 
 こんなに主催者側の考えてることズバズバ言い当てちゃって、危険と思われて外から首輪を遠隔爆破でもされたら……」
「いや、おそらくギガゾンビは起爆スイッチは用意していない。相手の手動で爆破、ってのはたぶんできないはずだ……たぶんな」

 これまでの発言と違い、今回の考察については自信がないのか、トグサの声はやや小さかった。

「わざとキーアイテムをばら撒くようなヤツだ。反抗して脱出しようとする者がいるなら、むしろ大歓迎と思っている可能性が高い。
 それを遠隔から爆破するなんて、味気のないマネはしないだろう……ギガゾンビの性格はよく知らないが、俺はそう推測するね」
「それって……性格から感じ取ったイメージってだけで、根拠は何もないじゃないですか……」
「や、根拠ならあるぞ一応。それは、『俺がまだ死んでないってことだ』。
 あれだけマズイことをベラベラ喋ったんだ。危機感を感じたってんなら、さっさと俺の首輪を爆破するだろうさ。
 ま、単純に俺の考えてることが大ハズレなだけで、何言ってんだコイツって呆れられてるだけかもしれないがな」

 結局のところ、トグサの推論はどれも推測の域を出ない。
 だが少なくとも情報端末が見つかりさえすれば……トグサの考察が正解だったのかどうだったのか、全てに決着がつく。
 それまでは、いつ首が飛ぶのだろうというビクビクした思いと戦いながら、歩んでいこう。


「さて、これで長ったらしい説明は終わりだ。俺はこれから外に出て、他の参加者が何か情報端末を支給されていないか調査してくる。セラスは……」
「あ、私は日の光がちょっと……」
「苦手だったんだな。仕方がない。セラスはここで待機、俺はちょっくら外に出てくる。別行動になるが、時間は無駄にできないしな」

 膳は急げ、とトグサはホテルの出入り口に向かっていく。
 その身に武装はない。あるのは武器とはいえないような護身用の刃物が数点のみだ。
 さすがに心配になったセラスは、別れ際トグサに声をかける。

「あ、あの! さすがに丸腰じゃ危ないだろうし、なんだったら私の武器を持っていって……」
「心配はいらないさ。俺はあくまでも、調査に向かうだけだ。護身用の武器もガラクタで十分だし、それはセラスが持ってろ。
 あと、俺が戻ってくるまで絶対に離れるなよ。最低でも、正午には戻ってくるから。
 もし万が一、ここが禁止エリアになったりしようものなら……すぐ近くのエリアにある駅を合流ポイントにしよう」

 手際よく話を進めるトグサに、セラスは何も言えなくなってしまった。
 この別れが今生の別れ、というわけではないが、彼と離れるのはなんだか妙に心細い。
 その心を知ってか知らずか、トグサは既にホテル入り口の自動ドアを潜り抜けるところまで来ていた。
「あっ、あの」

 後姿を見せるトグサに、セラスが懸命な思いで声を掛ける。
 また再開するために必要な、大事な儀式を行うために。

「いってらっしゃい」

「ああ、いってくるよ」

 ナチュラルに。
 トグサとセラスは会話を終え、それぞれの仕事に取り掛かった。
 調査と待機。二人がこのホテルで再会するのは、いったいいつになるのだろうか。


 ◇ ◇ ◇


 こうして、ホテルにて合流するはずだった七人の参加者は、奇妙な運命に翻弄され別々の道を歩む。
 この先、彼らが一同に会する機会があるのかどうかは……まだ、誰にも分からない。


【D-4/公園/1日目/早朝(放送直前)】
【ルパン三世@ルパン三世】
[状態]:健康、SOS団特別団員認定
[装備]:マテバ2008M@攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(弾数5/6)、ソード・カトラス@BLACK LAGOON
[道具]:支給品一式、エロ凡パンチ・'75年4月号@ゼロの使い魔
[思考]:1、とりあえずハルヒに従いつつ行動。
    2、ハルヒとアルルゥを守り通す。
    3、他の面子との合流。
    4、協力者の確保(美人なら無条件?)。
    5、首輪の解除及び首輪の解除に役立つ道具と参加者の捜索。
    6、主催者打倒。

【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康、アルルゥの萌え度に興奮気味
[装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+
[道具]:支給品一式、着せ替えカメラ@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
[思考]:1、図書館に向かい、長門有希と合流。
    2、着せ替えカメラを駆使し、アルルゥの萌え萌え写真を撮りまくる。
    3、SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。

【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:健康、SOS団特別団員認定
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服
[道具]:無し
[思考]:1:ハルヒ達に同行しつつハクオロ等の捜索。
    2:ハクオロに鉄扇を渡す。
【E-6/駅前の喫茶店/1日目/早朝(放送直前)】
【バトー@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:健康
[装備]:AK-47(30/30) カラシニコフ
[道具]:デイバッグ/支給品一式/AK-47用マガジン(30発×9)/チョコビ/煙草一箱(毒)
[思考]:1、しばらく喫茶店で待機。
    2、望遠鏡またはそれに類するものを入手し、ホテルの屋上に向かう。
    3、9課の連中、みくるの友人、青いタヌキを探す。

【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康/メイド服を着ている
[装備]:石ころ帽子(※[制限]音は気づかれる。怪しまれて注視されると効力を失う)
[道具]:紙袋、茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている)
[思考]:1、しばらく喫茶店で待機し、SOS団の面々と合流する。
    2、バトーに同行する。
    3、SOS団メンバー、鶴屋さんを探して合流する。 
    4、青ダヌキさんを探し、未来のことについて話し合いたい。



【D-5/ホテル内/1日目/早朝(放送直前)】
【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]: 健康
[装備]: エスクード(風)@魔法騎士レイアース、中華包丁、ナイフ×10本、フォーク×10本
[道具]: 支給品一式 (バヨネットを包むのにメモ半分消費)、バヨネット@ヘルシング
[思考・状況]1:トグサが戻るまでホテルで待機。
      2:アーカード、ウォルターと合流。
      3:ドラえもんと接触し、ギガゾンビの情報を得る。
※ドラえもんを『青いジャック・オー・フロスト』と認識しています。


【D-5/ホテル周辺/1日目/早朝(放送直前)】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]: 健康
[装備]: 暗視ゴーグル(望遠機能付き)、刺身包丁、ナイフ×10本、フォーク×10本
[道具]: 支給品一式、警察手帳(元々持参していた物)、技術手袋@ドラえもん
[思考・状況]1:情報端末の入手(他の参加者の支給品に紛れている可能性が高いと考えている)。
      2:正午の放送までにはホテルに戻る。セラスと合流できない場合は駅へ。
      3:機会があれば九課メンバーと合流。
[備考]※他メンバーの行動の妨げにならないよう、他メンバーについての情報は漏らさないつもりです。
   ※セラスのことを、強化義体だと思っています。
   ※トグサの考察は以下の通りです。
   ・『首輪は技術手袋で簡単に解体できるが、そのままでは起爆する恐れがある』
   ・『安全に解体するための方法は、脱出手段も含めネットワーク上に隠されている』
   ・『ネットワークに繋ぐための情報端末は、他の参加者の支給品に紛れている』
   ・『監視や盗聴はされていると思うが、その手段については情報不足のため保留』
   ・『ギガゾンビが手動で首輪を爆破する術はないと考えているが、これはかなり自身ない』
188王様の剣 1/6  ◆RhuwIVoq9A :2006/12/25(月) 21:05:44 ID:aiNLfCYl
ダメージは深刻。
徹底的に刻まれた両肩は特に酷く、肘を上げる程度の運動も思うようにならない。
爆風も浴びた。あの手の爆薬の主たる殺傷力である、破片の直撃は免れたが、身代わりに鎧が裂けている。
さらに吹き飛ばされての落下衝撃が体の芯に響き、全身を控えめな裂傷と火傷の満遍ないデコレーション。
開戦直後から、随分な惨状だ。
疲労分のダメージが癒えたところで、立ち上がる。
傷が塞がるまで待っていられない。ただでさえ、屋外での休息は危険なのだ。それに傷の治りが妙に遅い気がした。
いや、あるいは遅いどころではないかもしれない。未だに僅かずつ血が流れ続けているのだから。
慣れた剣を腰に佩き、荷物をどうにか背に負った。
バッグが肩に重さを乗せるたびに、鎖骨を抉られるような痛みが走るが、物資は戦の要。捨て置くわけには行かない。
鉈は使い道がない上、この状況では拾うための体力も馬鹿にならない。捨てていく。
身を隠すということなら、近くの林で物音を立てなければそれが一番いい。だが、それは奇襲を仕掛ける場合の話。
回復となると、きちんとした設備を利用するほうがよい。
環境もよく、条件によっては視界を限らせ、また射線や行動範囲を制限する等の、防御側に有利な要素が多く期待できる。
せめて納屋でもと、雨垂れの様な出血をおして南下していたところ、派手な彩色の布をまばらに張った、石の館が現れた。
「……これは」
何の建物だろうか。鉄枠で括った布には、派手な文字と真に迫った人の姿が染め抜かれている。見たこともない質感の布だった。
随分息が詰まりそうな印象を与えるが、ここの片隅にいれば誰かが来てもやり過ごせるかもしれない。
こちら側は建物の裏側らしい。外周を回れば、出入り口が見つかるだろう。
太陽が頭を覗かせようとしていた。
空気はまだ冷たいが、それでも地平線から漂い来る、いくらかの暖かさが傷に少しだけ心地よい。
建物に右肩を預けるように歩き、そろそろ建物の角というところで、何かの話し声を聞いて足を止めた。
こちらの停止を聞いたのか、話し声も止まる。
「キョン殿、お待ちを」
やや抑えめの女の声が小さくはっきりと聞こえる。
あと少し早く気づいていれば、引き返してやり過ごすこともできただろうか。
「何者か!」
張りのある声。素人でもなければ、苦戦は必死だ。
「こちらに敵意はない! 姿を現されたい!」
馬鹿正直な、正面からの誰何だった。
さて、どうする。
戦いの経験のなさそうな者であれば、今の傷でも戦える。問題なく殺せる。
だが、それなりに研鑽を積んだ戦士なら、おそらく太刀打ちできないだろう。
外見で判断するにも、相手の姿は見えない。こちらの姿も見られていないというアドバンテージは、掴んでおく価値は十分にある。
逃げられれば、逃げてしまうのが一番いい。
「出てきませんよ?」
「あれ、そんなはずは……」
どこか浮いているような男の声に押され、女の気配が不十分な警戒のまま隠れた角へ近づいてくる。
あまりの状況に、刹那だけ思考が止まった。
好機である。しかも、海岸で探していた砂金粒を本当に見つけてしまうほどの。
189王様の剣 2/6  ◆RhuwIVoq9A :2006/12/25(月) 21:06:43 ID:aiNLfCYl
「あの、トウカさん?」
「いや、確かに誰かの気配が消えるのを感じたのだ。今某が確認に……」
「いやいや、あの……」
会話に合わせ、カリバーンをそっと引き抜く。
必殺を期すべきか、体力の温存を心がけるべきか。
宝具なら、建物の壁材もろとも相手を切り払うことができるだろう。
だが、今は剣を持つ腕が腰より上に上がらない状態だった。
不完全な発動では、攻撃力へ絶対の信頼を寄せるわけにはいかない。
そして先刻に続く連続使用は、残りの全体力を使い潰すことになる。
力尽きたところで別の参加者が出てくればそれまで。
万に一つ、討ち漏らした場合も同様だ。
無想を念じながら、剣を腰へ引き付ける。多少の高さまでなら、振る勢いで斬り上げることができるはずだ。
細く長く息を吐く。小さく太く息を吸う。
腰の回転に乗せ、カリバーンをそのまま打ち出した。
輝く剣が、角から頭を出した影の眉間に食い込む。
手応えあり……では、なかった。
布と綿を切り裂いたに留まる剣は、建物に跳ね返って切っ先を地に埋める。
眼前には、額を割られたぬいぐるみを投げ捨てながら飛び下がる男と、袖を引かれるまま愕然と下がる女。
「そ……某のうさぎが……!」
「それどころじゃないじゃないですよ! やっぱり危なかったじゃないですか!?」
「そ、そうであった! 某としたことが!」
剣を振り抜いた瞬間に、肩口から血と肉が噴き出したのを感じた。神経束もねじれたか、激痛が走る。
奥歯に噛み付いて、かろうじて声が出るのを防ぐ。
二人が間合いをとる姿はどうにも隙だらけだが、こちらに追いすがる余裕はなかった。
「おのれ、何者か!」
結果、剣士らしい女に体勢を整える時間を与えてしまった。

思ったとおりの二人組だった。
男は、焦りを浮かべつつも口を半開きにしたまま戦いに備えるでもなく、女の陰に隠れる形で突っ立っている。
そして剣士の女は、腰に構え柄に手をかけた居合の構え。
片刃曲剣ならではの、待ちの高速剣だ。
鞘に収められたままの得物は、通常の両手剣の倍はあるのではないだろうか。
腰から抜き放つには長すぎる代物だが、構えに躊躇はない。
抜けるのだろう。
こちらの剣を当てるには、入った瞬間に斬られる死の間合いを、さらに一歩踏み込まねばならない。
「あの、トウ……」
不用意に声をかけた男のお陰で、居合の鉄壁に綻びが生じる。
先手。
190王様の剣 3/6  ◆RhuwIVoq9A :2006/12/25(月) 21:07:57 ID:aiNLfCYl
「約束されし――――」
「くっ!?」
剣士が柄を取り、鯉口が光る。だが遅い。
「勝利の――!?」
柄が滑った。手から剣が抜けそうになる。
集中が途切れた刀身から、魔力が霧散していく。
無理だ。宝具は中断し、敵の居合を防がなければ。
――そう思った瞬間には、既に抜刀が体を通り抜けた後。それが居合であった。

はずなのだが、両断されていなかった。
不審に思って警戒しつつ上目遣いの睨みを投げると、両腕をいっぱいに伸ばして大汗をかいている剣士の姿。
超長剣が抜ききれなかったらしい。
「だから言おうと……」
男の声。
苦労して鞘を払おうとしている姿を、つい見守りそうになる。
「……はっ!?」
ようやく、剣士が盛大に隙を晒していることに気がついた。
前に流れた上体を引き戻す代わりに、さらに踏み込むのが定石。
前の足に体重を乗せたところで、まだ剣に鞘がひっかかったままの剣士が体勢に入った。
「ッ!?」
「ふっ!」
やや流れた返し刃を、剣士は半ば刀身が納まったままの鞘で受け止めた。
鍔迫り合いとなる。
肩傷が悲鳴を上げたが、相手の腰が伸びきっているのに比べ、こちらは重心が落ちている。条件は悪くない。
ここを押し切れば、勝てる。
剣士の瞳が、降りてきていた。
「そなたには、他人を殺してでも成し遂げたい望みがおありか?」
わかってもらおうとは思わない。
過去に潰えた、自分の国。
自分が王であったばかりに滅んだ、民草の記憶。
それはもはや既に歴史となってしまった。
「私の、望み……」
剣士にも、そしてこれから先の誰にも語ることのないその望み。
史書に記されるであろう騎士王アーサーの名を、歴史から永久に消すこと。
アーサーなどという王は、どこにも存在しなかった。
アーサーに関わった無数の民は、それがために訪れた死の運命に出会わずに、生き続けることができる。
わかってもらえるとも思わない。
だが、相手の瞳に了解の色が浮かんでいた。
191王様の剣 4/6  ◆RhuwIVoq9A :2006/12/25(月) 21:09:11 ID:aiNLfCYl
「トウカさん!」
男が荷物から何かを取り出した。
噛み合った相手の剣を払い、投げつけられるそれを避ける。
闘拳用の手袋。
こちらが離れた隙に、剣士は今度こそ超長剣を抜き放った。
「それが罪なき人々であっても?」
否とは言えない。
偽る気もない。
結局は、抜き合わせなければならない相手だった。
「ならば」
以後の言葉は不要であった。
「某はエヴェンクルガのトウカ。いざ尋常にお立ち合いあれ」
「故あって名は名乗れないが、私はセイバーのサーヴァント。受けて立とう」
同時に、間合いを取った。
抜き身を居合いに擬したトウカに対し、再び腰溜めに聖剣を構える。
もう力が残っていない。
肩の傷が決定的な深さまで開いたか、腕に力がない。肘先を支えきれず、剣が見苦しいまでに震えている。
悪いことに、あの剣の異常射程に抗するためには、宝具あるいは風王結界の飛刃に頼らなければならない。
剣の魔力を投げつけるのは、振り抜いてから命中までのタイムラグがある。使うわけにはいかない。
二度目が不発とはいえ、実質三度目の宝具に肩が耐えられるとは到底考えられないが、貫き通す意地と誇りがある。
だが、この張り詰めた空気に意識が割けるか。
腕を固めることに気をとられ、無造作な居合に対応しきれない危険性もある。
例えば今この瞬間、思考の虚を打たれれば……
不意にトウカが気を外した。
「何を……」
「御身の腕前を持ってすれば、先刻の某の醜態、隙を突こうと思えば突けたはず。その節義に報いよう。
 ……この勝負、しばし預ける」
弄言か、と防御反撃に集中した意識の隙に、トウカはさらに一歩引く。
これで、カリバーンの通常剣撃の間合いから完全に逃れたことになる。
そこから、さらに居合の構えを崩した。
「いずれ雌雄を決しよう。その時まで健勝に、サァバンド殿」
背を向ける。
こちらが追いすがって斬りかかってくるなどとはまったく考えていないのか。
振り向きざまに斬り捨てる自信があったのか、こちらがそうしないであろうことを知っているのか。
連れの男は、立ち合いの気に呑まれていたらしい。茫洋としていた意識がやっと目を覚ましたのか、荷物を掴んで慌ててトウカを追う。
男越しに、トウカが振り返った。
「もし叶うなら、その時まで斬らざるべきを斬らぬよう……」
納刀の動作で抜き身の鍔元を素手で握り、当然のように流血した。
おぼつかなくなった手元で男が持ってきた鞘をひったくり、鞘を取った左手に剣の先端を刺した。
トウカと連れが視界から消えるまでおよそ4分。
三人とも、何者かの奇襲を受けなかったのが奇跡であった。

192王様の剣 5/6  ◆RhuwIVoq9A :2006/12/25(月) 21:10:13 ID:aiNLfCYl
再び、一人。
とりあえず、建物に避難しよう。
彼女のような使い手にもう一度遭遇すれば、今度は命がある保証はない。
ふと、左手側を見た。
うさぎのぬいぐるみが落ちていた。
先程のトウカの言葉を思い出す。
『某のうさぎが……!』
うさぎは頭を目元まで斬り割られており、脳漿のようにはみ出した中綿で髪が生えたように見えなくもない。
つぶらな瞳が、虚ろにこちらを見上げている。
「すまなかったな」
いずれ再び見える相手だ。届けてやろう。
そう思って、傷が痛むのを押して持ち上げた時、手に不快な感触が伝わった。

このうさぎ、なんか湿っている。
193王様の剣 6/6  ◆RhuwIVoq9A :2006/12/25(月) 21:11:15 ID:aiNLfCYl
【B-4 映画館外周 初日 早朝】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:なんかすっげ疲れた
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、わすれろ草@ドラえもん
[思考・状況]
1:火災現場(C-3図書館)に向かう
2:トウカと共に仲間の捜索
3:ハルヒ達との合流
4:朝倉涼子には一応、警戒する
基本:殺し合いをする気はない

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:左手に切り傷
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
1:火災現場(C-3図書館)に向かう
1:キョンと共に仲間の捜索
2:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
3:ハクオロ等との合流
基本:無用な殺生はしない
※セイバーを、サァバンドという偽名を使うセイバー族の人だと思っています。
【B-4映画館外周、けんかてぶくろ@ドラえもん 投棄】


【B-4 映画館内部 初日 早朝】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:全身に裂傷とやけど、両肩を大きく負傷、鎧に裂け目、極度の疲労。
[装備]:カリバーン
[道具]:支給品一式、なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん
[思考・状況]
1:傷を治す
2:優勝し、王の選定をやり直させてもらう
3:エヴェンクルガのトウカに、見逃された借りとうさぎを返し、預けた勝負を果たす。
※うさぎは頭が湿っており、かつ眉間を割られています。
194 ◆RhuwIVoq9A :2006/12/25(月) 21:22:06 ID:aiNLfCYl
文中の「約束された勝利の剣」を「勝利すべき黄金の剣」へ修正します。
それに伴い、3/6冒頭部を以下のとおりに修正します。

「勝利すべき――――」
「くっ!?」
剣士が柄を取り、鯉口が光る。だが遅い。
「黄金の――!?」


以上です。
195眼鏡と炎と尻尾と逃避と紅茶 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/27(水) 00:08:17 ID:M0L65oRx
ソレは猛火をあげて燃えていた。
中に眠る無数の蔵書や本棚を燃料にして、雄雄しく猛々しく。
その炎は永遠に止む事がないかの如く。
「はぁっ、はぁっ! 光さん……!!」
そんな燃え盛る地へと少女は向かう。
ただひたすらに、その炎を目印にして。
――炎。
それが彼女の記憶の中で親友の使っていた得意魔法の属性と直結した時から、彼女の足は動いていた。
そこが例え、動く列車の中であったとしても。
そして、その列車の中に同行人がいたとしても。
少女にとって、その親友はそれほどかけがいの無い存在だったのだ。
「光さん……光さん……!!」
少女は思い出す。
あの底抜けに明るく、そして強かった親友の姿を。
「はぁ……はぁっ……無事でいてください、光さん……!」
炎のあがる地へと近づくほどに、彼女の胸の鼓動は高まってゆく。
走った事による息切れ、火災現場に近づくという緊張感、そして何より親友がそこにいるかもしれないという期待によって。
そして、彼女は到着した。
「はぁっ……はぁっ……! 光さん……ここにいるんですか……?」
見据えるのは燃え盛る図書館の正面。
少女、鳳凰寺風は、ここで一人立ち尽くし、何度目か分からない親友の――獅堂光の名前を呼んだ。

――普通なら、こんな炎の中に人がいるなどと考えることは無いだろう。
特に、普段から冷静で思慮深い風ならば。
事実、風はこの地にやって来てからも、きわめて冷静に普段どおりにつとめていたように見える。
だが実際は、彼女は心のうちではバトルロワイアルという異常なゲームに巻き込まれた仲間の安否を常に心配しており、冷静と動揺の間スレスレのところで心が揺れ動いていたのだ。
そして、その心は車窓から炎が上がっている図書館を見て、一気に動揺の方向へ傾いていってしまった。
それゆえに、彼女は炎から光の姿を直接的に連想、その炎の中にこそ彼女はいるに違いないと思い込んだ。
「光さん……。待っていてください、私が今……」
そんな動揺している彼女だからこそ、その足は自然と図書館の内部へと向かっていたのだろう。
196眼鏡と炎と尻尾と逃避と紅茶 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/27(水) 00:10:00 ID:M0L65oRx
幸か不幸か、図書館の入口は未だ炎に包まれておらず、中へと入ること自体は容易だった。
風は図書館に入ってすぐの広い空間で、光の名を叫ぶ。
「光さーーん! いらっしゃいますかーーー!? いらっしゃいましたら返事してくださーーい!!」
そう呼びかけても聞こえてくるのは、炎がパチパチと立てる音だけ。
風は、まだ奥にいて聞こえないのかも……と図書館を奥へと進んだ。
だが、奥に行けば行くほど火の手は強くなるばかり。
炎は、本棚やその中に詰まっている無数の蔵書を餌に、衰えることなく成長し続けていた。
更に、その炎は同時に大量の黒煙も生み出していているわけで……。
「光さ……ごほっ、ごほっ、光さん! いらっしゃいましたら、ごほっごほっ……返事を――!!」
風は煙に咳き込みながらも、持っていたハンカチで口を押さえながら奥へと進もうとする。
そして、そうやって奥へと進んだ彼女は、次第に異臭を感じることとなる。
それは、今まで周囲でしていた紙や建材が燃える臭いとは異なる、今まで嗅いだことのないような臭い。
「何なんでしょう、この鼻を刺すような臭いは……」
火の手が強すぎてこれ以上は進めないという場所で立ち止まると、風はそうぽつりと呟き、踵を返した。
――この時、彼女は知らなかったのだ。
その彼女が背を向けた先にある火柱の中では一人のサムライが燃えており、それが焼ける臭いこそが異臭の正体であることに。

――再び図書館入口ホール。
奥から引き返してきた風は、まだ光を探すかそれともこの場を離れるかを決めかねていた。
「光さん……」
まだ図書館の二階、三階部分は探していない。
もしまだそちらに彼女が残っているとするならば、自分は絶対に探し出さなくてはならない。
見捨てるほど、自分と光の友情は浅くはない――そう信じているから。
……だが、それと同時にその行為は危険が伴う。
火災は収まるどころか勢いを増す一方で、いつ炎が自分に迫ってくるか分からない状況になっている。
しかも、怖いのは炎だけではない。
炎とともに発生している黒煙もまた、有害ガスや一酸化炭素を含んでいたりと長時間吸い込んでいては命に関わる可能性がある。
更に言えば、光がここにいるかもしれないという仮定自体、自分が炎から単純に連想した何の確証もない考えだった。
あの当時こそ動揺してその仮定を信じきっていたがい、今思い返せばそれはあまりに浅はかな考え、そして行動であり……。
「そうですわ。こんなところで私が火に飲まれてしまっては身もふたもありませんわ」
――三人揃って東京へ帰ろう。
かつてセフィーロでしたそんな約束を、落ち着きを取り戻しつつあった風は思い出した。
「私がここで死んでしまっては、光さん、そして海さんと東京へ帰れなくなってしまいますわ……」
根拠も無い仮定を信じて炎の中へ飛び込むか、今そこに迫っている自分の死を回避して知人たちに会える次のチャンスを待つか。
本来の冷静で思慮深い彼女がどちらを選ぶのかは自明の理だろう。

……そして、炎が入口のホールを嘗め尽くし始めたのは、風がその決断をしてから間もなくの事であった。
197眼鏡と炎と尻尾と逃避と紅茶 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/27(水) 00:12:23 ID:M0L65oRx
燃え盛る図書館を後にしてからどれくらいが経っただろうか。
風は、もと来た道を戻り南下していた。
南下する理由は二つ。
一つは北上するよりも南下するほうが、市街地や遊園地といった人――この場合、当然光や海のことだが――がいる可能性が高い地点を捜索しやすいから。
そしてもう一つは……。
「君島さん……怒っていらっしゃるでしょうか……」
風がぽつりとつぶやくのは、この地に放り出されて最初に出会った参加者、君島邦彦の名前。
少しの間だが茶を共にした彼に理由をほとんど説明する暇もなく、列車を飛び降りてしまったことが風にとっては心残りだった。
そして、そんな彼に勝手に飛び出てしまったことを謝ろうという目的もあって、彼女は彼がまだいるであろう南方へと向かっていたのだ。
「電車がイイロク駅に到着してからもう時間が経ってしまいましたが……君島さんもきっと周辺でお友達を探しているはず。……きっと会え――あら? あれは……」
目下の目的地をイイロク駅方面へと決めようといていた矢先。
彼女の視線が、車道を挟んで向こうの歩道にいる一人の少女の姿を捉えた。
街灯の下で照らされるその少女は、やや古風な和服を身にまとっており、歳は自分と同じかそれよりもやや年上かくらいに見える。
そして、その首にはしっかりと首輪がついている。
「どうやら参加者のようですわね……」
向こうはこちらの存在に気づいていないらしい。
何やら電柱に手をつき地面に向かって何かをぶつぶつと呟いていたのだ。
そして、風はそんな彼女のあまりの無防備さを見て、彼女はゲームに乗っていないだろうと判断、声をかけた。

「こんばんは。何をなされているんですか?」





ロックの元を飛び出して、どれくらい時間が経っただろうか。
エルルゥは、ひたすら道を北上していた。
理由は唯一つ。惚れ薬を誤飲したロックの視界から遠ざかる為だ。
「ロックさん……ごめんなさい……! 私……薬師失格です!!」
彼女が目指す薬師とは惚れ薬の誤飲如きで逃げ出すような腰抜けではなかったはずだった。
……が、彼女は薬師見習いであると同時に乙女だったのだ。
つまり、薬師と乙女を両天秤にかけたときに乙女に傾いた結果がこれなのだ。
「ロックさん……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……! でも……でもやっぱり私……!」
エルルゥはその場に立ち止まると、近くにあった灰色で冷たい木の幹のようなものに両手を突き、顔を下へと向ける。
「おばあちゃん……私、やっぱりまだまだみたい……」
彼女は、自分の師でもあった名薬師の祖母を思い出す。
きっと、彼女がこのことを知ったら、自分をぴしゃりと叱りつけるだろう。
「でも、だって惚れ薬なんて初めてだし……私……私どうすればよかったの、おばあちゃん……」
言い訳したところで、逃げ出したことには変わらない。
それくらいはエルルゥも分かっている。
それはあまりに身勝手な行動で、このまま放って置けばロックや他の人達に迷惑がかかるかもしれない。
そんな風に次第に罪悪感に苛まれはじめるエルルゥであったが、そんな時ふと声がかけられた。

「こんばんは。何をなされているんですか?」
198眼鏡と炎と尻尾と逃避と紅茶 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/27(水) 00:14:57 ID:M0L65oRx
「はにゃ!?」
いきなりかけられた声に、エルルゥは驚いた。
顔を上げてみれば、自分のすぐ間近に少女が立っていたので、彼女は更に驚いた。
「い、いつの間にそ、そこに!?」
「はぁ? いつと言われても……少し前からここにいたのですが……」
「少し前って……そ、それじゃあ、もしかして今私が喋っていたことも?」
「えっと、おばあちゃんがどうのと仰っているのは聞こえましたが……」
それを聞いた途端にエルルゥは恥ずかしさでいっぱいになり、顔を赤くしてうずくまってしまう。
「はぁ〜、私ってばまたやっちゃったぁ〜」
「あの、あまりお気を落とさないでください。私は全く気にしていませんから」
「で、でも……」
それでも落ち着かない様子のエルルゥを見て、少女は一つの提案をする。
「では、ひとまずお茶でもご一緒にどうです? 心が落ち着きますよ?」
「……は、はい?」

近くにあった民家にて。
少女は湯を沸かすと出際よく茶を淹れ、そしてそれをカップへと注ぎ、エルルゥの前へと置いた。
「一度飲んでみましたが、中々の味でしたわ」
「……は、はぁ」
いきなり茶に誘われ、戸惑いつつも家の中へと入ったエルルゥは、目の前に置かれた珍しい色をした液体を見て更に戸惑った。
目の前の少女はこれをお茶というが、このような色は自分が調薬した飲み薬でくらいしか見たことがない。
もしかしたら毒なのかも……エルルゥがそれを訝しげに見つめると。
「大丈夫ですわ。毒なんて入っていませんわ」
「ふぇ? あ、あわわ、べ、別に私はそんな……!」
「無理もありませんわ。……これは、バトルロワイアルなんですものね」
少女はそう言うと、カップに口をつけそれを飲んだ。
「ですが、安心してください。私はこのようなゲームには乗っておりません」
「そ、それは私も同じです!」
「そうですか。なら安心ですわね」
そう言って、少女はエルルゥに笑いかけた。
エルルゥはそんな彼女を見て、ようやく落ち着き始めた。
そしてようやくカップを手に取ると、その中身を口にして――
「……あ、おいしい」
お茶の味にご満悦の様で、彼女は顔を緩ませた。
199眼鏡と炎と尻尾と逃避と紅茶 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/27(水) 00:17:53 ID:M0L65oRx
紅茶によって落ち着きを取り戻したエルルゥは少女と一通りの情報交換をした。
互いのこと。
ここに来ている他の仲間たちのこと。
そして、自分達のいた世界のこと。
すると、少女――鳳凰寺風がカップを傾けながら頷く。
「……つまり、エルルゥさんはトゥスクルという国のお姫様なんですね?」
「ぶふっ!!!」
その瞬間、カップに口をつけていたエルルゥが、盛大に紅茶を吹いた。
「あらあら、大変ですわ。何か拭くものを……」
「ち、ちち違いますよ! 私はその……」
「え? 拭くもの……いりませんか?」
「いえ、そうじゃなくって、私はその……皇后様じゃないっていうかその……」
「まぁ。それじゃあ、愛人でいらして――」
「違います!! 私はそ、そのハクオロさんの傍で世話をしているだけっていうか、ハクオロさんが気づいてくれないだけって言うか……」
顔を赤くしながらエルルゥは一人で喋り続け、風は至ってマイペースにそれを聞く。
「……で、そういうわけなので、私は日々カルラさんやウルトリィさんと――って、私ったら何言ってるのかしら!?」
「なるほど、分かりました。そのハクオロ皇というのは、よほどの好色皇さんということなんですね」
「だぁかぁらぁ、そうじゃな――――いや、まぁ当たっているのかといえばその……」
そして、そんな会話をしている間に時は流れて――。
「……! そうでしたわ!」
そんな時間の流れに気づいたのか、風が話の途中で、突然両手を合わせたかと思うと立ち上がった。
「……ど、どうしたんです、フーさん?」
「そういえば私、ある人を探している途中だったんです。エルルゥさんとのお話が面白かったせいで、すっかり忘れていましたわ」
「ある人って……さっき言っていたヒカルさんやウミさんですか?」
「はい、光さん達も当然探しているのですが、その他に、ここに来て一緒に行動していたのですが途中で私の身勝手のせいで別れてしまった方がいるんです。私、その方にもう一度会って、先ほどの事をお詫びしようと思っていまして……」
「あ、そ、それって……」
「あら? どこにいるのか知っているんですか君島さんを?」
「いえ、そうじゃなくって、その……」
自分と状況が似ていないだろうか? ――エルルゥはそう思った。
彼女が、この地に放り出されて最初に声をかけた参加者ロック。
彼と行動を共にしようかと考えていた矢先、彼が惚れ薬を誤飲してしまった為に彼女は自身の保身を優先して別れてしまったのだ。
そして、彼女もまた、風と同じく、その別れた相手であるロックに再度会えたらあの時の無礼を詫びたいと思っている人間だった。
ただし、惚れ薬の効果が切れたころに、であるが。
「……そうですか。それでは、私はそろそろここを出ようかと思います。お茶は少し分けておきますので、またいつか自分で淹れてみて下さい。では、またいつか――」
「ま、待ってください!!」
背を向けようとした風をエルルゥが引き止める。
まだ薬の効果が切れていないかもしれないロックに会うために一人で戻るか、今はひとまず風と一緒に行動をして、それからロックに会うチャンスを待つか。
今までの行動を見れば、彼女がどちらを選ぶのかは自明の理だろう。

……そして、二人が揃って民家から出たのは、エルルゥがその決断をしてから間もなく事であった。
200眼鏡と炎と尻尾と逃避と紅茶 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/27(水) 00:21:21 ID:M0L65oRx


「……もうすぐ夜明けですね」
「……そうですわね」
家を出、道路を並んで歩いていた二人は空を見上げながら、言葉を交わす。

――夜明けは近い。

「あ、そういえば気になっていたことが一つあるんですけど……」
「あら、偶然ですわね。私もですわ。」

――二人の少女は朝日が昇るのと同時に知らされる事実を聞いて何を思うのだろうか。

「えっと、その……鼻の上に乗せている丸いのって何なんです?」「そのふわふわした耳と尻尾は仮装か何かですか?」

――そして、彼女達はこれからどうなってゆくのだろうか。
――それは神のみぞ知ることなのかもしれない。


【D-3/路上/1日目/早朝】

【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース】
[状態]:健康
[装備]:スパナ
[道具]:紅茶セット(残り5パック)、猫のきぐるみ、
    包帯(残り6mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅)
[思考・状況]
基本:仲間三人揃って、生きて東京へ帰る
1:君島に再会して詫びたい
2:光、海と合流する
3:自分の武器を取り戻したい
[備考]
現在、イイロク駅方面(市街地中央部)へと移動中。
エルルゥとその仲間、更に彼らがいたトゥスクルを含めた世界について大体理解しました。
彼女がロックから逃げていることは知りません。

【エルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん、五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
    市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)、紅茶セット(残り4パック)
[思考・状況]
基本:仲間と合流する
1:たずね人ステッキを再び使えるようになるまで、ひとまず風と一緒に行動する。
2:他の参加者と情報交換をし、機を見計らってたずね人ステッキ使用。ハクオロたちの居場所を特定する。
3:ハクオロ、アルルゥ、カルラ、トウカと合流し、ギガゾンビを倒す。
4:時間が経過したら、ロックと再会して謝りたい
[備考]
フーとその仲間(ヒカル、ウミ)、更にトーキョーとセフィーロ、魔法といった存在について何となく理解しました。
[道具備考]
1:惚れ薬→異性にのみ有効。飲んでから初めて視界に入れた人間を好きになる。効力は長くて一時間程度。(残り六割)
2:たずね人ステッキ→三時間につき一回のみ使用化。一度使用した相手には使えない。死体にも有効。的中率は70パーセント。
201峰不二子の憂鬱U/君島邦彦の溜息 ◆LXe12sNRSs :2006/12/28(木) 00:42:58 ID:ueUzCxYK
 電車を追走していった一人の美女がいた。
 賑わいのない一人旅にもそろそろ嫌気が差してきた頃、駅を訪れた美女は、新たな出会いをモノにすることができるか否か。

「次の運行は4時30分……その次が8時30分……どうやら、四時間おきの発車みたいね」

『イイロク』というふざけた名前がつけられた駅のプラットホームにて。
 峰不二子は、停車中の古ぼけた電車と、覚えやすすぎる時刻表を眺めていた。

 バトルロワイアルのフィールドを運行する電車……どんなものかと調べてみれば、本数は少ない上に速度は鈍足。
 おまけに車内は、奇妙な土偶とおちゃらけた放送によって支配されており、乗客の士気を低下させる恐れさえ感じた。
 これで本当に殺し合いをしろというのだから、まったく馬鹿馬鹿しい。

(さて……車内は私が見たとおり窓が開いていたようだけど、中はもぬけの殻。乗客はいたけれど、どこかで途中下車したみたいね)

 たかが3km程度の距離を6分で運行するほど鈍足なのだ。走行中とはいえ、窓を開いての飛び降り途中下車も不可能ではないだろう。
 だからといって、そんなことをする馬鹿が果たして本当にいるのかどうか。
 このゲームが始まってから、まだウォルターという紳士的な老人としか知り合っていない不二子には、イマイチ判断しにくいところだった。
 少なくとも……ルパンや次元、五ェ門や銭型ならやりそうでもあるが。

(とりあえず、この電車に罠が仕掛けられている可能性はなさそうね。あの土偶も、こちらに危害を加える様子もないようだし……)

 不二子は考える。この先の進路を。
 ルパンたちと合流するなら、やはり人気の多そうな市街地を張っているのが一番能率的ではある。
 だが、それ故に闘争も生まれやすい。武器を所持している現状、自分の身一つを守るくらいの自身はあるが、それでも避けられる戦闘は回避したい。
 ただでさえ、遊園地付近には戦車を支給されたかもしれない輩が潜伏しているのだ。
 修羅場は幾度も潜ってきたつもりだが、さすがに戦争規模の危ない目にはあいたくない。
 さらに、現在不二子が立つイイロク駅のホームには、いくつかの撃ち捨てられた薬莢が散乱し、不安を加速させる要因にもなっていた。
 この付近で戦闘が行われたことは最早明確、ゲームに乗った参加者がいる可能性はさらに高い。

(電車の行き先は西の果て……F-1エリア。まぁ、安全圏ではあるわね。けど、他の参加者との接触は少なくなるか……)

 危険は遠ざかるが、出会いも遠ざかる。
 電車に乗り、一旦安全圏に逃げ込むか。
 市街地に留まり、協力者を得ることを優先するか。
 選択は、二つに一つ。

「…………」

 峰不二子は、再び考える。


 ◇ ◇ ◇

202峰不二子の憂鬱U/君島邦彦の溜息 ◆LXe12sNRSs :2006/12/28(木) 00:46:04 ID:ueUzCxYK
「はぁ……はぁ……はぁ……チクショー。風ちゃ〜ん、どこ行ったんだぁ〜」

 息を切らしながら、情けなく声を絞り上げる男が一人。
 線路沿いを西に、全力疾走で走ってきた君島邦彦は、鳳凰寺風が途中下車をした地点まで戻ってきていた。

「ぜぇ、ぜぇ、クソッ、風ちゃんはいったいどっちへ向かったんだ?」

 線路沿いにて小休止を取りつつ、君島は考える。
 電車の窓から見えた、燃え盛る建物。方向は北の方角のようだが、風は既にそちらへ向かったのだろうか。
 正直、あのおっとりした少女がここまで行動的な女性だったとは思いもしなかった。

「そういや、かなみちゃんもあれで結構行動派だったよなぁ……カズマは言わずもがなだけど。あいつらも、今頃は無事でやってんのかなぁ……?」

 しばし風のことを忘れ、再会を望んだ友人たちのことを思う。
 ゲームが始まって既に四時間半……未だ風以外の人間と接触していない君島には、今が殺し合いの真っ最中であるという危機感がイマイチ不足していた。
 ひょっとしたら、仲間を追って全力疾走なんて無駄な苦労をしているのは、自分だけではないのだろうか。
 他の連中は殺し合いなど意に関さず、とっくにギガゾンビ打倒の策でも練っているのではないだろうか。そんな予感さえしてくる。

(そうだよなぁ……ここにゃカズマもいるし、HOLYの連中まで参加してるんだ。殺し合いやれって言われて、素直にハイ分かりましたなんて言うヤツがいるのかね)

 現実逃避――というわけではないが、疲れた身体で考えると、どうにも発想がいいかげんになる。
 だが冷静に考えて、あの仮面の男が、化け物じみた戦闘力を誇るアルター能力者に叶うものかどうか。
 このような大掛かりなゲームを仕組むほどの人物、ただ者ではないということは分かるが、これがもしタイマンでの喧嘩だったら。
 君島の脳裏には、勝ちのりを上げるカズマの姿しか思い浮かばない。

「なんかあいつのこと考えてると、殺し合いのゲームなんて馬鹿馬鹿しくなってくるなぁ……ん?」

 白みがかってきた空を見上げる君島の後方、ガタンゴトンという錯覚しようのない騒音が聞こえてきた。
 振り返ってみると、そこには電車の姿が。
 君島が途中下車し、イイロク駅に到着した電車が、エフイチ駅に戻るべく引き返してきたのだ。

「電車が動いてる、ってことは……ゲ、もう四時過ぎてるじゃねぇかぁ。早いとこ風ちゃんと合流しないと、放送が流れちまうぜ」

 現在時刻を確認して慌てだした君島は、通り過ぎていく電車に一目もくれず、北へ向けて歩き出す。
 

 ◇ ◇ ◇

203 ◆LXe12sNRSs :2006/12/28(木) 00:47:01 ID:ueUzCxYK
 ガタガタレールの上を行く電車が、終点を迎えてゆっくりと停車した。
 その車中から出てくるのは、一人の妖艶な美女。
 結局、不二子は電車に乗ることを選択した。

「ここがエフイチ駅……イイロク駅とほとんど一緒で、なんだか味気ないところねぇ」
 
 降り立った駅構内を調査し、不二子は失望と近しい感覚に囚われていた。
 ホーム、改札、駅長室……設備のほとんどはイイロク駅と大差なく、印象としては日本のド田舎を思わせる、実に面白みのない駅だった。
 特に何を期待していた、というわけではないが、もっと派手で衝撃的なサプライズはないものだろうか。
 たとえば、素敵なナイトが出迎えに来てくれるとか。

「やっぱり、こんな端っこの方で協力者を求めようっていうのは高望みすぎかし――」

 改札を抜け、駅の外に出る……その時だった。
 不二子の耳に、けたたましい程の爆音が轟いたのは。

「な、何!?」

 爆音は、駅のすぐ外から。
 音だけではない、熱気や煙までもが、駅構内を侵食していく。
 場慣れしていない人間だったら、混乱したかもしれない。しかし、裏の道を渡り歩いてきた確かな経験は、不二子に正常な判断を齎した。

(すぐ近くで、何かしらの爆発物が――――!?)

 素敵なナイトどころではない、とんだ歓迎だった。
 爆発が起こる原因などに、碌なものはない。これは経験上言っているわけではなく、一般論としても言えたことだ。
 そして、殺し合いの場で起こる爆発などといったら――相手を殺すためのものに決まっている。

 現状を把握し、不二子は逃走の道を即決した。
 下車して早々厄介事に巻き込まれるなど、冗談ではない。
 先の長い人生、こんなところでくたばっては、あの世で一生後悔することになる。
 駅から離れていく最中、少年のものらしき絶叫が聞こえたが、全て無視した。
 たとえそこで殺し合いが行われていたとしても、不二子に係わり合いになる意思はない。
 これまで数多の修羅場を潜り抜けてきたのも、全ては引き際を見極める的確な判断力があったからこそだ。

(危ない橋を渡るのは嫌いじゃないけれど、見るからに壊れている橋を渡って転落する趣味はないわ。くわばらくわばら……)

 そんなことを思いながら、不二子はひっそりと駅から離れていく。
 それにしても不幸だ。安全圏だと思って逃げ込んできたエリアだったが、まさか着いて早々、トラブルに巻き込まれそうになるとは。
 先の未来に若干の不安を感じつつ、不二子は頭を抱える。

 気分は、憂鬱だった。


 ◇ ◇ ◇

204峰不二子の憂鬱U/君島邦彦の溜息 ◆LXe12sNRSs :2006/12/28(木) 00:48:58 ID:ueUzCxYK
「だー、もうチクショー! どこいったんだよぉ〜、風ちゃーん!」

 心細い一人行脚を続けながら、君島は寂しさと疲労感に蓄積に怒りを募らせていた。
 風が目指した燃え盛る建物は、地図を見るに病院か図書館のどちらかのはず。
 そう信じて、途中下車してからの約四時間をほぼノンストップで移動し続けてきた君島は、ついに根を上げた。

「ガー! もう休憩だ休憩! このまんまじゃ足が棒になっちまうよ!」

 今なら分かる。あの電車のありがたみが。
 風とは一刻も早く合流したいが、いざという時のための逃げ足を潰してしまっては、死活問題になる。
 君島は捜索の手を一旦休め、近くの民家に駆け込んだ。
 家屋の中には、数え切れないほどの部屋と豪勢な装飾物の数々が置かれており、そして何より広い。市街の連中が住んでいそうな大豪邸だった。
 殺し合いなんていうふざけたゲームに付き合ってやってるのだ。身分不相応な家に泊まったとて、罰は当たらないだろう。
 君島は感じたこともないような柔らかさのベッドに飛び込み、疲れ果てた身体に休息を与える。
 一時だけかもしれないが、今は何もかも忘れて幸せを感じていたい。
 とは思いつつも。

「カズマの奴は……今頃どうしてんのかねぇ」

 寝転がりながらも、頭ではしっかりと相棒のことを考えている。
 怒りの沸点が低く、誰に対しても好戦的な態度を取るような人間……性格だけ見れば、こういったゲームでは長生きできないタイプである。
 だが、カズマにはそのセオリーを超越するほどの怪物的戦闘能力がある。少なくとも、自分より先に死ぬことなどは絶対にないはずだ。

「おかしいな……いつもは黙ってても厄介事を持ってくるようなとんでもねぇヤローなのに、なんだか無性に会いたくなっちまったよ……って、何センチになってんだ俺は」

 再会できぬ友人を思いながら、君島は仰向けになって天井を眺めた。
 この先、自分の運命はどう運ばれるのか。
 カズマがいない、というだけで平穏に暮らせるような気がするのは……錯覚なのだろうか。
 錯覚であってほしくない。平穏に暮らせると信じたい。

「だけど、ま、錯覚なんだろうな」

 思わず、溜め息が漏れた。



【G-1/1日目/早朝】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:健康
[装備]:コルトSAA(装弾数:6発・予備弾12発)
[道具]:デイバック/支給品一式/ダイヤの指輪/銭形警部変装セット@ルパン三世
[思考]:1、駅から離れる。
    2、頼りになりそうな人を探す。
    3、ゲームから脱出。
※不二子が聞いた爆音の正体は、太一が投げた手榴弾です。

【D-2/豪邸/1日目/早朝】
【君島邦彦@スクライド】
[状態]:重度の疲労、軽い打ち身
[装備]:バールのようなもの
[道具]:ロープ、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅)
iPod(電池満タン、中身は不明、使い方が分からない)
[思考・状況]
1、しばらく休憩。
2、鳳凰寺風との合流(病院、図書館の辺りを捜してみる)。
3、カズマ、かなみと合流。この際、劉鳳でも構わない。
4、なんでもいいから銃及び車が欲しい。
205第一回放送 ◆q/26xrKjWg :2006/12/28(木) 21:07:52 ID:bmoVxaKK
 空に巨大な人影が浮かぶ。
 仮面の男――ギガゾンビ。その立体映像。
 本来音声のみで済むはずの放送をわざわざそんな形で行うのは、ギガゾンビの安い虚栄心の現れだった。
 どこからでも見える姿から、どこにでも届く声が響く。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 おはよう! いい朝は迎えられたかな?
 私は実にすがすがしい朝を迎えられた! これもひとえに、おまえ達が私を楽しませてくれているお陰だ。

 さて、記念すべき第一回目の定刻放送だ。このギガゾンビ様の声を拝聴できることに感涙しながら聞け。

 禁止エリアは――

   7時より A-4
   9時より H-8
   11時より D-1

 ――だ!

 期限を過ぎても禁止エリアに留まっていたならば、首輪の爆弾がボン! だぞ。
 まあ、一応警告ぐらいはしてやろう。うっかりしていて自爆というのも滑稽と言えば滑稽だが、少々味気ないからな。私の寛大さに感謝するがいい!

206第一回放送 ◆q/26xrKjWg :2006/12/28(木) 21:08:50 ID:bmoVxaKK
 そして死亡者だが――

   鶴屋さん
   骨川スネ夫
   先生
   由詫かなみ
   野原ひろし
   井尻又兵衛由俊
   石川五ェ門
   銭形警部
   八神はやて
   衛宮士郎
   グレーテル
   ハクオロ
   カルラ
   ウォルター・C・ドルネーズ
   アレクサンド・アンデルセン
   平賀才人
   タバサ
   龍咲海
   平賀=キートン・太一

 ――以上19名!
207第一回放送 ◆q/26xrKjWg :2006/12/28(木) 21:09:37 ID:bmoVxaKK
 素晴らしい、実に素晴らしい!
 私の予想を遙かに上回るペースで進行している。退屈させたら全員の首輪を爆破、などとわざわざ言う必要もなかったのかもしれん。
 おまえ達の神経を疑うぞ? そこまでして何か願いを叶えたいのか? それとも単に殺しが好きなのか? 下賤なやつらめ!

 ともあれ、今のうちにしっかりと日の出を拝んでおくといい。目に焼き付けておけ。
 まだ生き残っている61人のうち、何人が明日の日の出を拝めるか分かったものではないのだからな!
 ワハハハ――

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 ギガゾンビの表情は、仮面の下に隠されて見えてはいない。しかし、その声を聞いて表情を想像できないとすれば、それは相当な阿呆だろう。
 耳障りな笑い声とノイズを残して、ギガゾンビの姿は消え去った。
208名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/28(木) 23:42:47 ID:CaHu+gDf
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209名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/28(木) 23:44:21 ID:CaHu+gDf
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210名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/28(木) 23:45:29 ID:CaHu+gDf
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211名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/28(木) 23:45:46 ID:VUGUybQE
ID:CaHu+gDfさんへ

削除依頼を提出しました。
212名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/28(木) 23:46:33 ID:CaHu+gDf
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213名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/28(木) 23:47:47 ID:CaHu+gDf
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214名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/28(木) 23:49:04 ID:CaHu+gDf
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215名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/28(木) 23:50:19 ID:CaHu+gDf
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216名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/28(木) 23:51:31 ID:CaHu+gDf
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217名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/28(木) 23:53:04 ID:CaHu+gDf
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218名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/28(木) 23:54:18 ID:CaHu+gDf
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219名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/28(木) 23:56:07 ID:CaHu+gDf
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220sage:2006/12/29(金) 00:21:48 ID:OyV6Flxl
めちゃくちゃ面白いです!
まとめサイトはないんですか?
221東天の緋 1/3  ◆79697giSSk :2006/12/29(金) 01:01:50 ID:FOHkfLUB
川岸を歩けば、対岸から姿が見えてしまう。
はやてに見つけてもらえる可能性はなくはないが、飛び道具を持っているかもしれない人間に見つかる危険を避けたほうがいい。
「……さむ」
抜き身で斧槍など担いでいたら、真っ先に警戒されるだろうと思ったが、それ以上考えなかった。
武器を持っているのは当然のこと。それを理由に信用を置けないという人間の方こそ、警戒するべき相手に違いない。
そもそも、ハルバードは既に杖となっていた。
気を失った状態で、夜の川に流されたのは最高にまずかったらしい。
加えて、満足に拭えず、いまだに湿り気を帯びた身体。
まだまだ冷たい夜明けの空気が、体を通り抜けてヴィータの骨を穴だらけにし、開いた穴から体力と体温を勝手に持っていく。
寒くて歩いていられない。
動かすたびに関節が、錆びついているかのように神経に障る。
耳を澄ませようとしたが、うまく感覚が広がっていかない。意識からして薄く靄がかかったようで、空気の流れを感じ取ろうにも
皮膚の上に厚いビニールを被せられたかのように鈍い。目を開けているのに、前も良く見えない。
それに、さっきからどうも息苦しい。
呼吸がどうとかではなく、体力の消耗が激しいと言うべきか。休んだ分はとっくに使い切っていた。
長い道のりだというのに、一足ごとに、体中の力が抜けていくような感覚さえ覚えている。
それでも歩みを止めるわけには行かない。
一足ごとに、ハルバードにかかる体重が大きくなっていく。

「あ……橋、か……」
目の前に橋があった。
風景の変化は、ヴィータの歩みを支えていた機械的な反復運動に大きくクサビを打ち込んだ。
もう歩けない。歩きたくない。
冷え切った体を引きずって欄干に倒れこみ、座り込むもんかと全身でかじりつく。
ハルバードが乾いた音を立てて床板に転がった。
身を屈めるのも一苦労だったが、欄干に腕をかけ、ずり落ちるようにしてハルバードを拾い上げる。
「こんな……もんで……」
行く先、橋の尽きるであろう方角をじっと見据える。しかし、目に入った景色を理解する余裕は少しずつ失われていた。
そのまま、ずるずると、欄干をレール代わりに、ゼンマイの切れかけた人形のように進む。
「ベルカの、騎……が……っ」
作業的に足と斧槍を動かし、いくらか来たところでホログラムが行く手の空を遮った。


「……死ん?」
はやてが?
我が身を省みる。主を失えば生きてはいられないヴォルケンリッター鉄槌の騎士は、未だそこに在る。
シグナムだって、死んだうちに呼ばれなかった。消滅なら死んだことにならないのかもしれないけど、ともかくシグナムも呼ばれてない。
「……きっと、なんかの、間違いだ……名前同じとか……」
死んでしまったらしい「八神はやて」を探さなければ。
ヴィータが知っているはやてなら、絶対まだ生きているんだから。名前が同じだけだって、確認しなければ。
222東天の緋 2/3  ◆79697giSSk :2006/12/29(金) 01:03:04 ID:FOHkfLUB
でももし万にひとつ、億にひとつ「八神はやてが死んでしまったにも関わらず、自分が生き残っている」ならば?
取り残された、という思いが意識に触れた瞬間、汚水が逆流するように不安が噴出した。指先が一気に冷え、黒い淀みが腹を満たしていく。
胸へ上がった焦燥が心臓に激しい脈を打たせ、喉から這い登る分は胸の内側をおぞましい襞で撫で上げた。
口腔に達した嘔吐感でヴィータは反射的に口を押さえた。
吐けない。
吐くにも体力がいる。もう小指の先ほどのエネルギーも無駄にできない。
はやては死んでしまったんだから、ひとりでがんばっていかないと。
……そんなはずはない。
はやては大丈夫だ。あのはやては、きっと違うはやてだ。はやてがはやてじゃないということを、確かめに行くだけなんだ。
そして、はやてがはやてじゃないとわかったら、今度こそちゃんとはやてを見つけなければ。
はやてが危ないのは変わっていない。
はやてを助けに行かなければ。もう小指の先ほどのエネルギーも無駄にできない。
手足の指先が、肘が、膝が、耳や鼻までが冷え切っている。
体の芯は震えるほど熱い。
「はやてが死んじまったなら、あたしらが、こうして、元気で……いられるわけが、ないんだ……からな……」
元気とは程遠い体調は思考の混濁を呼び、その混濁は不安もろとも兆にひとつの真実を意図的に投げ捨てた。
「……そだ、シグナムなら、なんか、わかるかも……」
頭を使うのはシャマルの仕事だ。何が一番合っているか、その場でぱっと思いつくのは、シグナムが慣れている。


ついに、鉛の海を行くような橋が尽きた。
目の前には建物。これは知っている。「駅」だ。
電車が来て、魔法を使わなくても遠くまで早く行ける建物だ。
この近くには、多分はやてはいない。それなら電車に乗っていくのがいい。
223東天の緋 3/3  ◆79697giSSk :2006/12/29(金) 01:04:29 ID:FOHkfLUB
「あ、きっぷ……」
切符。電車に乗るためには、切符を買わなければならない。
「……お金、持ってたっけ……」
何度か崩れ落ちそうになりながらではあったが、自動券売機に辿り着く。
料金表を見ようとあごを上げたところで、目の前が完全に真っ暗になった。地面が勝手に足から離れる。
倒れる。倒れたら、起き上がるまでまた全力を振り絞らなければならない。
いや、もう起き上がれる自信がない。
普段から見れば遅いことこの上なく、しかし今の状態にしては奇跡的なほど敏捷に、脇に挟んだハルバードを後ろに突いて
仰向けに倒れることは防いだ。しりもちをつかないようにしなければ。
ハルバードを挟んだ腕に力を入れて、足と、背中と、おなかで体を無理に引き起こして、前へ。
そしてついに、ハルバードの石突が、床からずれた。
前につんのめったヴィータは顔から倒れこむ。
「……、……や、……」
右腕が伸び、手のひらが床に触れ、それで動けなくなった。
横に、ハルバードが転がった。


【E-6駅構内・1日目 朝】

【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:体温低下による発熱と、無理を押しての長距離歩行による疲労で気絶
[装備]:ハルバード、北高の制服@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:支給品一式、スタングレネード(残り五つ)
[思考・状況]
信頼できる人間を捜し、PKK(殺人者の討伐)を行う
「八神はやて」の生死を確かめる
基本:よく知っている人間を探す(最優先:八神はやて、次点シグナム。他よりマシがなのはとフェイト)
22430秒の楽園 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/29(金) 04:15:03 ID:kJnZHOrl
『会場から出たらどうなるか、確かめてみる』
この言葉を最初に聞いたとき。私には彼の考えが全く理解できなかった。
だって、会場の外に出ると首輪が爆発するのだ。
首から上が吹き飛んでしまうのだ。富竹さんや、もう一人の女の子みたいに。
すぐに爆発するとは思えないと圭一くんは説明してたけれど、それもただの予想。
そんなあやふやな事に、自分の命をみすみす賭けるなんて考えられない。
これはいつもの部活とは違うのに。負けたら取り返しがつかないのに。
不安そうな私に彼は笑顔を見せる。自分が死ぬとは微塵とも思っていないような笑顔。

『よし・・・ここが境界線だ』
だからこそ、圭一くんがそう呟いたとき、私は気づいてしまった。
彼は自分が死なないことを確信している!
この会場から出ようとしたら首輪が爆発するのは本当だろう。
現に富竹さんと女の子が×されたのだ。それは否定しない。
けどそもそもの問題。ここは本当に北の端なのだろうか?
もし北端がもう少し先だとしたら?そしたら彼の笑顔は理解できる。
安全が保障されているからこその余裕。だからこそ、危険だと言う場所に笑顔で飛び込める。
なら、そのフェイクの理由は?それこそ簡単だ。
彼は私がなかなか隙を見せないので、強攻策をとることにしたのだ。
もし私が彼の立場なら。首輪が爆発しない安堵で駆け寄る私を、禁止区域へ向けて突き飛ばす。
それだけで、彼は私を×せる。確実に×せる。

だから私は、会場外に出ようとする彼に声をかけた。
「圭一くん……本当に……」
「……ああ」
私の言葉に圭一くんは神妙に頷く。何かに緊張したような、怯えたような顔。
だけど、私は騙されない。
私を制し、ゆっくり前へと進む彼に対し、私も一緒に行くと言って追い越した。
私の行動が予想外だったのだろう。圭一くんは、慌てて私の後を追いかける。
それはそうだ。私を先に行かせて、首輪が爆発しないことに・・・
ここがまだ、北端ではない事実に気づかせるわけにはいかないから。
彼の慌てる様を確認し、私は不意にディバッグを落とす。そして、身を翻して振り返り・・・

私が背後の彼に刃を付き立てたのと、突然声が聞こえたのは、ほぼ同時だった。
22530秒の楽園 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/29(金) 04:16:00 ID:kJnZHOrl

「うがぁああああああああ!!!」
空からの声と首元からの声。その二つをかき消すように、圭一くんが叫び声をあげる。
私の握った刃物は、彼の左眼に深々と突き刺さっていた。
暴れる彼からナイフを引き抜き、再び突き立てる。突き立てる。突き立てる。
二重音声のように聞こえる声を振り払い、彼の腕や肩を傷をつける。
まだだ。まだ、こいつは生きている!私は足元に落ちていた鉈を拾い、彼の頭を目掛けて振り下ろした。
しかし、その渾身の一撃は、彼の左腕に鉈を持った左手が捕まり、止まる。
ナイフを持ったもう片方にも彼の右腕が伸び、そのまま強い力で握られる。
そして、その体性のまま、彼は物凄い勢いで私の身体を振り回した。
「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
彼の獣のような声と握りつぶすような腕の力に身を竦める。
次の瞬間、彼の両手は離され、私の身体は大木に叩きつけられた。
骨が軋み、意図しない短い音が口から漏れる。
痛みに霞む目に彼の顔が映る。彼は何故か、優しい笑顔を浮かべていた。


・・・ゼロ


くぐもった音とともに、彼の顔が消えた。
「え・・・?」
思わず漏らした言葉も、私以外の誰の耳に届くことも無く、消えた。



【A-2森北端 初日 朝】

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]背中に痛み、あばらにひび。茫然自失
[装備]コンバットナイフ、鉈@ひぐらしのなく頃に
[道具]なし
[思考・状況]
 基本:???

【前原圭一@ひぐらしのなく頃に 死亡】

【残り60名】
22630秒の楽園 修正版 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/29(金) 04:56:23 ID:kJnZHOrl
「会場から出たらどうなるか、確かめてみる」
この言葉を最初に聞いたとき。私には彼の考えが全く理解できなかった。
だって、会場の外に出ると首輪が爆発するのだ。
首から上が吹き飛んでしまうのだ。富竹さんや、もう一人の女の子みたいに。
すぐに爆発するとは思えないと圭一くんは説明してたけれど、それもただの予想。
そんなあやふやな事に、自分の命をみすみす賭けるなんて考えられない。
これはいつもの部活とは違うのに。負けたら取り返しがつかないのに。
不安そうな私に彼は笑顔を見せる。自分が死ぬとは微塵とも思っていないような笑顔。

「よし・・・ここが境界線だ」
だからこそ、圭一くんがそう呟いたとき、私は気づいてしまった。
彼は、自分が死なないことを確信している!
この会場から出ようとしたら首輪が爆発するのは本当だろう。
現に富竹さんと女の子が※されたのだ。それは否定しない。
けどそもそもの問題。ここは本当に北の端なのだろうか?
もし北端がもう少し先だとしたら?そしたら彼の笑顔は理解できる。
安全が保障されているからこその余裕。だからこそ、危険だと言う場所に笑顔で飛び込める。
なら、そのフェイクの理由は?それこそ簡単だ。
彼は私がなかなか隙を見せないので、強攻策をとることにしたのだ。
もし私が彼の立場なら。首輪が爆発しない安堵で駆け寄る私を、禁止区域へ向けて突き飛ばす。
それだけで、彼は私を※せる。確実に※せる。

だから私は、会場外に出ようとする彼に声をかけた。
「圭一くん……本当に……」
「……ああ」
私の言葉に圭一くんは神妙に頷く。何かに緊張したような、怯えたような顔。
だけど、私は騙されない。
私を制し、ゆっくり前へと進む彼に対し、私も一緒に行くと言って追い越した。
私の行動が予想外だったのだろう。圭一くんは、慌てて私の後を追いかける。
それはそうだ。私を先に行かせて、首輪が爆発しないことに・・・
ここがまだ、北端ではない事実に気づかせるわけにはいかないから。
彼の慌てる様を確認し、私は不意にディバッグを落とす。そして、身を翻して振り返り・・・

『警告しま『さて記念すべき第一回の・・・』
私が彼に刃を付き立てたのと、突然の彼以外の声が聞こえたのは、ほぼ同時だった。
22730秒の楽園 修正版 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/29(金) 04:57:32 ID:kJnZHOrl
「うがぁああああああああ!!!」
空からの声と首元からの声。その二つをかき消すように、圭一くんが叫び声をあげる。
私の握った刃物は、彼の左眼に深々と突き刺さっていた。
『〜より H-〜』『〜4秒前、23〜』
暴れる彼からナイフを引き抜き、再び突き立てる。突き立てる。突き立てる。
二重音声のように聞こえる雑音―アルファベットや数字などを振り払い、彼の腕や肩を傷をつける。
まだだ、まだ油断するな。まだ、こいつは生きている!
ふらつく彼を尻目に、私は足元に落ちていた鉈を拾う。そして、その頭を目掛けて力を込めて、振り下ろした。
『〜6、15、14〜』『〜ルラ、ウォルター・C〜』
しかし、その渾身の一撃は、彼の左腕に鉈を持った左手が捕まり、止まる。
ナイフを持ったもう片方にも彼の右腕が伸び、そのまま強い力で握られる。
そして、その体性のまま、彼は物凄い勢いで私の身体を振り回した。
「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
彼の獣のような声と握りつぶすような腕の力に身を竦める。
次の瞬間、彼の両手は離され、私の身体は大木に叩きつけられた。
骨が軋み、意図しない短い音が口から漏れる。
『・・・2・・・タバ・・・1・・・咲海・・・』
痛みに霞む目に彼の顔が映る。彼は何故か、優しい笑顔を浮かべていた。


・・・ゼロ


くぐもった音とともに、彼の顔が消えた。
「え・・・?」
思わず漏らした言葉も、私以外の誰の耳に届くことも無く、消える。
『素晴らしい、実に素晴らしい!』
空からの声だけが、私を賞賛していた。



【A-2森北端 初日 朝】

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]背中に痛み、あばらにひび。茫然自失
[装備]コンバットナイフ、鉈@ひぐらしのなく頃に
[道具]なし
[思考・状況]
 基本:???
※通常支給品の入ったディバッグは境界線外に放置されています

【前原圭一@ひぐらしのなく頃に 死亡】
※圭一の死体とディバッグは境界線外に放置されています

【残り60名】
228 ◆79697giSSk :2006/12/29(金) 09:30:29 ID:FOHkfLUB
東天の緋より
2/3後半部「鉛の海〜」以降の本文、および最終位置を以下のとおり修正します。



ついに、鉛の海を行くような橋が尽きた。
向こうには、建物がある。線路が出ている建物なら、知っている。「駅」だ。
電車が来て、魔法を使わなくても遠くまで早く行ける建物だ。
この近くには、多分はやてはいない。それなら電車に乗っていくのがいい。
電車なら、きっと少しは休めるに違いない。
「あ、きっぷ……」
切符。電車に乗るためには、切符を買わなければならない。
「……お金、持ってたっけ……」
荷物はすべて、背中のバッグだ。
「……いいや……」
今は、駅に辿り着くことが大切だ。
欄干から腕を引き剥がし、斧槍を杖に体を起こす。
また、足と杖だけを頼りに、少しずつ前へ這い出して行った。

そして、躓いた。
石でも段差でもない。
しっかり上がりきらなかった爪先が地面を擦り、足首が伸びきる。
体重を支えるはずだった次の一歩が遅れ、体が前につんのめった。
落ちる。
まだ地面についている片足と、両手で寄りかかっているハルバードに体重を預ける。
これでまた、倒れずに歩けるはずだった。
だが、長時間の無理は、体力を予想以上に奪っていた。バランスをとりきれず、ハルバードの石突が、ずれた。
支えるものがなくなったヴィータは、顔から倒れこむ。
立ち上がらなければ。立ち上がって、歩いて、電車に乗って。
でも、体が地面に吸い付いてしまって、体を起こそうとする腕も足も重くて、全然駄目だ。
支えにしようとした斧槍も、腕の中に抱え込んでしまっていて、体を持ち上げる用を成さない。
「……、……や、……」
右腕が伸び、手のひらが地面に触れ、それで動けなくなった。


【F-1橋東岸・1日目 朝】
229 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/29(金) 14:25:02 ID:kJnZHOrl
>>224-227の『30秒の楽園』を破棄します。
皆様、申し訳ありませんでした。
230I wish ◆KpW6w58KSs :2006/12/29(金) 16:16:48 ID:uXhutjVJ

『おはよう! いい朝は迎えられたかな?』
 弱っているぶりぶりざえもんという豚を抱え。
 そして新たに長門有希という少女を乗せ。
 石田ヤマトという少年を運転手とするトラックのその前方に、『奴』が現れた。

「何だ、あれは……!?」
 思わず顔が硬直する。
 不快極まりないその音声は、トラックにいる全員の視線を集めた。
(ゲンナイさんの時と、似てるな……立体映像か……
とすると、これは……放送、って奴……だな)

「記録をした方がいい」
「……あ、そうだったな」
 長門に指摘され、デイパックの中から紙とペンを取り出す。一人がメモするだけで十分かもしれないが、
万一、このメンバーが離散した時を考えるとやはりそれぞれがメモしておくのが妥当だろう。
 勿論動けないぶりぶりざえもんの分もメモしておくのを忘れない。
「そ……こにいた、か……スキだら、け……だぞ……うぐ」
「お前は横になっててくれ。放送は俺達で聞いておく」
「…………仕方、ない……な……そこまで、頼むなら……そうさせて貰お……ぐえ」
 弱々しくも虚勢を張るその姿に、ヤマトの胸が締め付けられた気がした。

 続いて、死亡者の発表になる。
 できるだけ少なくあってくれ、と名簿に印をつけながら願うヤマトの心中とは裏腹に
 ギガゾンビは次々と名簿にある名前を読み上げる。
(……太一は、無事か。良かっ…………)
 いや、良いわけがあるか。19人も人が死んでいるというのに。
 一瞬でも仲間の無事に、死んでいった人達を忘れ喜んだ自分に再び罪悪感が訪れる。
 それに自分は事故とはいえ、人を殺しているのだ。
 今呼ばれていた、19人のうちの一人を。

(……ぶりぶりざえモンは助ける。この女の子も死なせない)
 ヤマトの手が強く握られた。
(ここでだって、元の世界だって、もうあの子や、ウィザーモンやピッコロモンのような犠牲は増やさない。
そして、必ずデジタルワールドに帰る。世界を救うんだ)
 ヤマトの意志は、固くなる。
(そうだろ、太一……)
 視線は窓の外へ投げられた。まだ見ぬ親友を想い──

(そうだ、他の皆は……)
 ぶりぶりざえもんの方を見る──弱々しくギガゾンビの方を向いて、何かを呟いていた。
 放送を聞いているのかも疑わしい……まぁいいか。むしろ、この状態で友人が死んだと知ればどうなるか
分かったものではない。
 続いて長門の方を見る。

 ──明らかに様子がおかしい。顔は、依然として無表情のままだが。
 メモを続けるペンの動きが、明らかに遅くなっている。注意深く見れば僅かに手が震えているようだ。
「……まさか」
231I wish ◆KpW6w58KSs :2006/12/29(金) 16:18:00 ID:uXhutjVJ


 小型トラックに乗り込んだ瞬間。空に前触れもなく仮面の男のホログラムが浮かび上がった。
どうやら、これがあの男の言う第一回目の定刻放送であるらしい。
 となれば、禁止区域とこれまでの死亡者の発表がある。
 長門にとっては、記憶すべき内容とはいえメモを取る必要はなかった。だが、何故か長門はそれを実行した。
 紙が一枚しかないわけでもない。恐らく、これは決して無意味なことではない、と考える。
 ……何故だかは、やはり分からない。またノイズが発生したような気がした。

 禁止区域に続いて、死亡者の発表になった。
 またしても、思考にノイズが発生する。……これが苛立ちという物であるのだろうか。
 そしてその思考のノイズは、いきなり急増することとなる。

──鶴屋さん

 鶴屋──SOS団の名誉顧問であり、朝比奈みくるの同級生。
 天真爛漫な性格故に、誰とでも友好的に接し、また誰からも友好的に見られる。
 長門との会話は多くはなかったものの、少なくとも悪い人物でないとは認識していた。

 その、鶴屋が。
 死んだという。

 その放送の真偽は不明ではあるが、長門が認識する主催者の性格からしてもわざわざ虚偽の放送を行うとは考えにくい。
 となるとすれば、彼女が死んだというのは事実である可能性が大きく──

 この認識が、長門に大きなノイズを生んだ。
 耐えることが出来ぬ量ではないが、今までのノイズよりも大きい──

 これは──?
232I wish ◆KpW6w58KSs :2006/12/29(金) 16:19:33 ID:uXhutjVJ




「あなたが気に掛ける必要はない」
「だが……その、君の……」
「確かに、私の知る人物が一人死んだことは事実。
だからといって必要以上に立ち止まることは出来ない。それはあなたも同じ」
 放送が終わった頃にはノイズは大分収まっていた。相変わらず彼女の表情は変化しない。
「……そうだが……大丈夫、なのか?」
「私は大丈夫。それよりも現状の把握、それに情報交換をしたい」
「…………分かった」


 長門の意志は、固くなる。
 この少年と同行し、あの奇妙な豚の治療をする。
 それから、できれば平行してSOS団のメンバーを探す。

 当初の捜索対象はキョンと涼宮ハルヒ、そして朝倉涼子のみだったはず。
 その対象に、何故か朝比奈みくるに八神太一が加えられた。

 思考に僅かなノイズが発生した。しかし、不快感はない。


 あるいは、それが長門の『願い』であるのかもしれなかった。
233I wish ◆KpW6w58KSs :2006/12/29(金) 16:21:15 ID:uXhutjVJ
【C-6とC-7の境界 1日目・早朝】


【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人をはね殺したことに対する深い罪悪感、精神的疲労。右腕上腕打撲、額から出血
[装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
  RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
  デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
  真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考]
1:病院へ行ってぶりぶりざえもんの治療
2:移動しながら長門にグレーテルのことを説明。
3:街へ行って、どこかにグレーテルを埋葬してやる
4:八神太一、長門有希の友人との合流
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。
    生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
[備考]:ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
     また、参加時期は『荒ぶる海の王 メタルシードラモン』の直前としています。



【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒。激しい嘔吐感
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手)
[道具]:支給品一式 ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー
     クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り四回) パン二つ消費
[思考]
1:吐きそう。すごく吐きそう。むしろ吐きたい。 む、ギガゾンビ!倒s……あqwせdrtfgyふじこ
2:強い者に付く
3:自己の命を最優先
基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
[備考]:黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。
     情報交換により、配給品がブレイブシールドとクローンリキッドごくうと判明しました。

[共通思考]:市街地に向かい、グレーテルを埋葬するのに適当な場所を探す。


【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康、思考に微妙なノイズ
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/タヌ機/S&W M19(6/6)
[思考]
1:ヤマトたちに付き合い、ぶりぶりざえもんの治療。できれば人物の捜索も平行したい
2:SOS団のメンバーを探す/八神太一を探す/朝倉涼子を探す/


[共同アイテム]:ミニミ軽機関銃、おにぎり弁当のゴミ(どちらも後部座席に置いてあります)
234I wish ◆KpW6w58KSs :2006/12/29(金) 16:22:30 ID:uXhutjVJ
[制限]
ブレイブシールド:ウォーグレイモンの盾。強度はある程度下げられている。
          二つに分け、背中に装着できるがアニメと違い空は飛べない。

          ぶりぶりざえもんはサイズが合わなくて装着できませんでした。

クローンリキッドごくう:髪にふりかけ、髪を抜くことで抜いた髪が小さい分身となる。
              ただし分身は本人そのものなので強い味方になるとは限らない。
              制限として一回につき十五人までしか出現しない。五回分あるが
              一回使うと二時間待たない限り、いくらかけても効果がない。

              ぶりぶりざえもんは髪がなかったので使えませんでした。
              それでも一回分無駄遣いしてます。一応今使うと効果はあります。

235Ground Zero  1/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 18:49:09 ID:ZN7Kp9po
ウォルター・C・ドルネーズは死んだ。

そう告げられた所で、セラスにはいまいち実感が湧かなかった。
今まで一度も戦闘の形跡を目にしなかった所為もある。
が、何よりもその理由は、同じ死亡者として宿敵のイカレ神父の名が上がっていた事だ。

アレがくたばるワケねーって。

故に、セラスには放送の内容がイマイチ信用できなかった。
が、必ず嘘であると信じる根拠もない。
要するに、何も判らないのだ。
もどかしい。
しかし、留守番を頼まれた身故、勝手にこのホテルを出ていく訳にもいかない。
第一、アテなど全く無い。

ならば。
セラスがするべき事はただ一つ。
来るべき自分の出番に備え、英気を養う。
セラスはダブル程の大きさのあるシングル用ベッドにダイブすると。

グーーー。

0.95秒で眠りに落ちた。


◇ ◇ ◇


その1時間ほど後。
ホテルの50mほど南の裏道。

「……とりあえず近辺に人影はない、か。おい、みくる、まだ歩けるな?」
「はい、大丈夫です」

見たところ、みくるは少し息が上がっているものの、目立った疲労の色は見えない。
どうやら大丈夫なようだ。

1時間前の放送。
いきなり"鶴屋さん"の名前が呼ばれた時みくるは明らかに動揺していた。
手にしていた紅茶のポットを落としてしまう程に。
しかし、それも一瞬。
放送を聞き終えると即座に『目的地に急ぎましょう』と言った。
この6時間、バトーとみくるの2名がお互い以外に出会った参加者は僅か1名。
対して、その6時間の間に参加者の4分の1が"脱落"している。
放送が真実なら、このままじっとしていても仲間と殺される前に合流できる可能性は高くない。
以前の計画通り、ホテルの屋上から探してこちらから出向いた方が有利。
それ以上に、居ても立ってもいられないのだろうが。
236Ground Zero  2/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 18:52:22 ID:alFf+d17
『朝比奈みくるは無事です。ここには戻りません』との書置を残して二人は喫茶店を出た。
これならゲームに乗った者に見られた所で余計な情報を与えることはない。
ホテルに向かう道すがら見付けた大型ディスカウントショップでめぼしいものを探した。ここで双眼鏡が手に入れば文句は無い。

その戦果:
チョコビ1ダース。
電池数種類。
衣類少々。
洗剤数種類。
有機溶剤。
そして ーーー 暇を持て余したみくるが手動式の玩具自動販売機で引き当てたオモチャのオペラグラス。

役に立ちそうな物は果物ナイフすらなかった。
泣きたくなる。

「でも、洗剤なんて一体何に使うんですか?……あ、洗濯に使うに決まってますよね」

どこまでも呑気なみくるの意見に呆れる。

「んな暇あるか。爆弾の材料にする」
「ば、バクダンですかぁ!き、危険です〜!」

お前の子守の方がよっっっぽど危険だ、と言いたいのをバトーは堪える。既に15人以上が殺され、自身もそのリストに入りかけた事を忘れたのだろうか。
そんなこんなでボケとツッコミを繰り返している内に、目的地のホテルの正面ゲートが見えてきた。

「やっと着きました〜。もうくたくたです〜」
「あ、バカ!」

一旦物陰からホテル内部の様子を伺っていると、ふらふらとみくるが一人でゲートに近付いていった。

「よせ!待ち伏せの危険がある!裏口から入るぞ!」
「だいじょうぶですよ〜」

もう自動扉が開いて、みくるはロビーに侵入している。仕方なくバトーもそれに追随した。
カウンター前の床に座り込んでいる所で捕まえる。

「お前な、仮にもここは殺し合いの舞台なんだぞ。もうちょっと緊張感を持て、緊張感を」

ここは一つ彼女のバトルロワイアルに対する認識を改めて貰おうとしたものの。
二の句が告げれなかった。
みくるは泣いていた。

「ひっく……うぅ……鶴屋さん……いい人で……うぇ……こんな……死んじゃう理由なんて……ぐぅ……いわれなんて……どこにも……ふえぇ」

大丈夫な訳はなかった。
普通の高校生より多少は普通でない経験を重ねているとは言え、彼女もまた基本的にはどこにでも居る10代(?)の女の子に過ぎない。
こんなまともでは無い状況の中で、いつ襲い来るかも判らない脅威に怯えながら、日常での自分を演じることでなんとか耐えてきたのだ。
そこに容赦なく降り注ぐ身内の訃報。
帰るべき日常に、おそらく"鶴屋さん"はもう、いない。

まあ、もう大丈夫か。
ざっと見たところ、ロビー付近に誰かが潜んでいる形跡は無い。
逃走経路を確保した上で50以上ある客室のどれかに身を潜めさせれば、ようやくこの子守からも開放される。そう思って非常階段を先行しようとしたその時。
自動ドアが開かれる音に振り向くと。

そこにメイドが立っていた。


◇ ◇ ◇
237Ground Zero  3/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 18:53:50 ID:alFf+d17


その頃最上階、ロイヤルスイートの浴場。

「あ゛あ゛ーーー。生き返るーーー」

1時間ほどの睡眠を終えたセラスは、彼女の自室ほどもある浴槽を堪能していた。

「そーいや北東の方に温泉があるんだっけー。トグサさん、収穫なかったら行ってみるかなー。どーせアテもないんだし」

大先輩の死を信じられぬが故か、半人前ドラキュリーナはどこまでもお気楽だった。


◇ ◇ ◇


そして、再び階下。
ロビーは戦場と化していた。

「ドッカン……ドカン……ドッカン……ドカン……」
BAOOOOM!BAOOM!BAOOOOM!BAOOM!

「うおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉ!!」
「ひいいいぃぃぃぃいいいいぃぃぃぃ!!」

襲い来る衝撃波から必死で逃げ惑う。

"圧縮空気衝撃波;推定速度変化:限界値突破..推定加速度:不明...要回避"

メイドの左手に取り付けられた、どう見ても玩具にしか見えない大砲。
そこから致命的な超音速波が途切れることなく発射されているのだ。
遮蔽物のカウンターが容赦なく削られて行く。

『もしこれが疑似体験だとしたら、製作者はファンタシィにハマり込んで電脳を硬質化させちまったイカレ野郎にちがいねえ!畜生!泣きたくなってきたぜ!』
「みくるーーゥ!大丈夫かーーァ!」

砲撃の隙を見て敵にカラシニコフを撃ち込みつつ、向こうで伏せて悲鳴を上げているみくるの安否を確認する。

「だいじょーぶじゃありませえぇぇぇん!!」

大丈夫のようだ。
メイドは彼女に向かっては砲撃を撃ち込んでこないが、それでも破片やら跳弾やらが所構わず飛び交っている。
が、幸い一発も当たっていないようだ。その幸運を分けてもらいたいもんだ、こん畜生。

「やめろ!俺は警察だ!じきにこの状況は制圧される!正当防衛で済まされる内に武装を解除しろ!」
「かかわりのないことで」

返事は銃弾と衝撃波。
もうカウンターが持たない。
思考戦車に銃一丁で喧嘩売ってる気分だぜ。
榴弾の雨の中、小銃一丁で突撃。
タイトルはドンキホーテで決定。
238Ground Zero  4/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 18:55:40 ID:alFf+d17
「どーしてこんなことするんですかあ〜!あのお面のひとが最後の一人を約束通り見逃してくれるとは思えません〜!みんなで逃げましょおよお〜!」
「……私は主人とその御家族にこの魂すら捧げた身。訳あって若様が命の危険に晒されておりますれば、一刻も早く元の世界に戻り、御身をお守りせねばなりません。立ち塞がる障害は須く薙ぎ払うまで。見た所貴女もメイドのよう。私の忠義が判らぬ筈が有りますまい」
「ちがいます〜。私メイドさんじゃありません〜。これは無理矢理着せ……」

ぴくり、とメイドの表情が動いた気がした。

「メイドの姿を騙る不届き物め。貴女などにそのエプロンドレスを身に纏うことは許されません」
「ひゃあああぁぁぁぁ〜!」

……なんかさっきよりも砲撃が激しくなったぞ。
しかしみくるが思ったより冷静で安心した。
悲鳴こそ上げているものの、パニクったり余計な行動をとられていない分足手まといとしての負担は致命的にはなっていない。

「おい!聞こえてるかみくる!あのメイドの今の標的は俺だ!俺が次にカウンターから飛び出したらその隙にお前は裏口から逃げろ!いいな!死ぬ気で逃げろ!」

なんとかあのメイドに聞こえないように伝えると、砲撃の直後に遮蔽物を替えるべく、みくるとは反対の方向に飛び出す。
撃ち合いつつも、何とか石柱の影に身を隠し振り向くが、相変わらず少女はさっきの所でその身を伏せていた。

「阿呆ッ!逃げろと言っただろッ!」
「できませえん〜!」
「何故ッ!」
「腰が抜けましたあ〜!」

前言撤回。あいつは足手まといとして致命的だ。泣いていいか?

死に物狂いで一旦カウンターの後ろに戻り、そのままみくるを抱えて奥の石柱の後ろに滑り込む。
加速された視覚野に映し出される9mmパラベラムの死の螺旋がすぐ側を掠めて行く。
ギリギリセーフ。まだ死んじゃいない。奇跡だ。

「バトーさあん〜。わたしじゃどのみち生きて帰れそうもありません〜。わたしを置いて、バトーさんだけでも逃げてください〜」
「心掛けは立派だが、口に出す前に思考と行動を一致させろッ!」

みくるは腕にすがり付いたまま離れようとしない。
……ひょっとしてこいつ俺を殺そうとしてないか?
いや、今までの言動から鑑みるに、単にこいつが超弩級の天然であるだけだろう。
いっそ、殺そうとしてくれた方がなんぼかマシかも知れないが。

なおもメイドが砲撃の合間に右手の拳銃で発砲する。軽量故のリコイルを片手で抑え付けつつ惚れ惚れする位正確で早い射撃。
だが、それだけじゃ無意味だ。必要なのは相手より早く確実にしとめられる距離に入ること!

メイドが狙いを定めるより一瞬早く、石柱から身を乗り出したバトーの射撃が襲いかかる。

「くゥッ!」

下腹、脇腹、右肩、そして銃身に着弾し、グロックが弾き飛ばされる。
身を翻し、メイドも反対側の柱の影に身を隠した。

『やったか!』

そう思いつつ石柱の後ろから様子を伺う。
さしもの、超人じみた筋力を持つあのメイドと言えど、三発も7.62mm弾を食らえば少しは大人しく……。

しかし、バトーが目にしたのは銃創をものともせず悠然と歩み出るメイド・ロベルタの姿。
その右手には新たな大砲。
合わせて二丁の空気砲がバトーに向けられた。

「……嘘だろ?」


◇ ◇ ◇
239Ground Zero  5/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 18:57:59 ID:alFf+d17

欠伸を上げつつセラスが再び寝室に入ろうとしたその時。
人並外れた吸血鬼の聴覚が、防音壁を越えてかすかな爆音をとらえる。
さらに人間の感覚では表現し得ぬ闘争の気配。
トグサが交戦しながらホテルまで戻ってきた可能性もある。
まあ、あの人に限ってそんなヘマはやらかさないだろう。
ちょっと様子を見てくるだけで良い。
その時はセラスもそう考えていた。


そして、階下にセラスが見たものは。
ガンタ○クよろしく両手に付けた見た目玩具の大砲を交互にぶっぱなす、あやしげなメイド服の女と。
更にそれに輪をかけてアヤシゲな面構えをした大男が自動小銃を撃ちまくっている姿だった。

「あのー。これ、どーゆーことでしょー?」
「見て判りませんか?」

メイドが抑揚なしで"ドッカンドッカン"とブキミに呟きながら、砲撃を休めずに言う。

「その男が先に撃ってきたので仕方なく反撃を加えている所です」
「違う!先に撃ってきたのはその女だ!」

大男も撃つ手を休めずに反論する。

「そ、そうです〜。バトーさん悪いひとじゃありません〜」

良く見ると男の隠れているものの三つ隣の柱の影で、これまたメイド服の少女が涙目で頭を抱えて縮こまっている。

『と・言われてもねー』

男の方は見るからにワルそうな面構えだし。顔にメリ込んでるメガネ、スゲーコワいんすけど。て、ゆーか絶対悪役。うちの傭兵団にもあんな悪人面いねーって。
メイドの方もメガネが逆行で光って表情見えなくてコエーよ。まるでどこぞのキチ○イ神父だ。

そのキ○ガイ神父を先刻殺害したのが彼女ともつゆ知らず、セラスはそう評価した。

『でもインテグラ様も
"メイドとは主に遣えあらゆる雑務をこなす、信用されるべき社会的ステータスの一つ"
って言ってたしなー。あ、男を弁護してるのもメイドさんか。でも脅されてるって可能性も。
あー、メイドと言えばこないだお遊びでインテグラ様がマスターまで巻き込んで皆でメイド姿に……。
…………………………。
いや、忘れよう。あんなこと。うん。いますぐ』

状況は何方かというとメイドの方が優勢に見える。
こっちは所々撃たれているだけで大したことないけど(セラスの感覚も大分吸血鬼のそれに毒されてきている)、男の方はもう見るからにズタボロだ。
あっちを援護した方がいいのかな?
つーか、この状況でどっちかに付けって言ったって。
それ、初対面でマスターとキチガ○神父のガチバトル見て、どちらが悪者でしょうって訊くようなもんじゃん。
この状況とあの惨状をダブらせてみる。

"ゲェァハハハハハハハァ!滅ぼしてやるぞモンスター!!"
"HAHAHAHAHAHAHAHA!やってみるがいいヒューマン!!"

マスター。絶対あのひとヒューマンやめてます。
そーいや、あの人外二人ともこのゲームに来てるんだっけ。
このゲームの参加者、ひょっとしてまともなのトグサさんぐらいしかいないんじゃないだろーか?

しつこいようだが、セラスはメイドが先刻その人外の一人の首を撥ねていることなど知る由もない。
実はこの大男がトグサの同僚だとも。
240Ground Zero  6/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 18:59:26 ID:alFf+d17


禍根を残したくない故、迂闊にどちらかの側を援護することが出来ない。
それを見越した上でロベルタは戦闘を継続していた。
この男を片付けてから女二人皆殺しにすれば良いだけの事。

『とはいえ、あの似非メイドの弁護がある分、あちら側に回っても可笑しくないはず……。漁夫の利でも狙うつもりでしょうか?』

答え:バトーの顔が怖いからです。
もしロベルタが眼鏡を外していたら、セラスはバトーの側に回るか一目散に逃げ出すかしていただろう。

定時放送が流れるまで、ロベルタはE-2の橋のたもとで待ち伏せをするつもりでいた。
しかし、すでに参加者の4分の1が犠牲になった事が明るみに出た今、のこのこと表を歩き回るのはゲームに積極的な者ぐらいだろう。
それでは足りない。
このゲームを一刻も早く終わらせるのがロベルタの望み。
その為にはこちらから積極的に出向いて、隠れている者達を狩り出さねばならない。
そして、動き出して1時間足らずでターゲットが3人も捕まった。
大男は厄介な相手ではあるが……。

『まあどのみち、向こうが弾切れになれば後は嬲り殺しです。つけ入られる程の手傷はこれ以上受けません』



一旦カラシニコフを撃ち尽くしてから、バトーは石柱の後ろで残騨を確認する。
30発入りマガジンが残り五つ。
他に武器になりそうな物はない。
絶望的な状況だった。
加えて迷惑な闖入者の存在。
セラスはさっきから非常階段からロビーに出てすぐの所でボケッとつっ立っていた。
はっきり言って邪魔だ。

「おい、そこのお嬢ちゃん!そこにいられるとジャマだ!とっととホテルから出てってくれ!」
「そうは言われましても〜」

セラスはほとほと困り果てた様子だ。

「私もトグ……仲間のひとから留守番を頼まれてて、ここを動く訳にはいかな……あ」

バトーは頭を抱えた。今のでロベルタのターゲットにその"仲間のひと"が加わったのは間違いない。

「御仲間がいらっしゃるのですか。その方をそこの殺人鬼の犠牲にさせる訳には行きませんね。そこの御方、御協力お願い出来ませんか?」

ロベルタが平然と嘘を吐く。
241Ground Zero  7/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 19:00:27 ID:ZN7Kp9po
「あ、あははははは。こーいってはなんですが、オッサンもメイドさんもメチャあやしいもんで、どっちを信用したもんかとー。とくにオッサンの方はいかにもイカツイ感じで」
「……俺、そんなに顔恐いか?」
「うん」
「ええ」
「えーと、……少し」

バトーは戦闘をよそにショックを受けていた。

「……俺、これでもイチオーケーサツなんだけど」
「どう見てもそうは見えませんね」

敵のロベルタにまで全否定されてしまった。

「……本当なんだぞ。知らんだろうが、内務省直属の公安九課って言う……」
「公安九課っ!?」

突然セラスが反応した。
確かトグサはこう言っていなかったか。

『当たり前だろ。俺達九課を巻き込んじまったのが、奴さんの運の尽きさ』

「オジサン、ひょっとしてトグサさんのお仲間ですか!?」
「トグサと一緒なのか!?」

一瞬、沈黙が降りた。
均衡していた場が、明確に一方に傾き始めたのをロベルタは敏感に感じ取る。

沈黙は一瞬だった。

「失礼」

お互いに気をとられたバトーとセラスの間を潜り抜けて。
へたりこんでいたみくるの頭に空気砲を押しつけ羽交締めにする。

「ひ、ひえええ〜」
「全員動くな!」

豹変したロベルタは一喝すると、バトーに向けて空気砲を放つ。
バトーを石柱の影に押し留めつつ、そのままみくるを盾にエレベータへ移動する。
動けないバトーと唖然とするセラスをよそにエレベータの扉は閉ざされた。

「……ッ!あの女の子!」
「おい!」

我に返るや否や、セラスはバトーの制止も聞かずに非常階段へ飛び出した。


◇ ◇ ◇
242Ground Zero  8/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 19:01:56 ID:ZN7Kp9po


怯えるみくるを拘束しつつ、ロベルタはこれからの行動計画を組み立てていた。

『とりあえず、二人が登ってくる内にこの似非メイドを殺して自分は飛び降りるのが得策か……』

ロベルタがみくるの首にかける腕に力を込めようとした瞬間。
エレベータの天井が剥がされた。

「なッ!」
「その女の子を放せッ!」

落下の勢いと共にセラスの拳が振り降ろされる。
かろうじてバックステップで避けるが、人質を突きとばしてしまった。
が、すぐに体勢を立て直し、床にめり込んだ拳を引き抜いているセラスの無防備な顔面に渾身の右ストレートを放つ。が。

「!」

まるで石を殴ったような感触。ゴリラをも昏倒させるロベルタの一撃が殆ど効いていない。
床から手を引き抜き、鼻血を垂らしたセラスが反撃に出る。
神速の回し蹴りは必死でしゃがんだロベルタの頭を掠めてエレベータの壁を吹き飛ばした。
大技の後の隙を狙ってロベルタが反撃せんと顔をあげる。しかし。
常人には関節の構造上不可能なスピードで体勢を立て直したセラスが、すでにロベルタに掴みかかっていた。
そのまま首を掴まれ壁に叩きつけられる。

「どうしてこんなことをッ!みんな助けようと頑張ってる人もいるのにッ!」
「ぐッ!」

ギリギリと万力のように締め付ける右手を振りほどこうと必死に足掻くがびくともしない。
セラスの腹を何度も蹴りあげるが結果は同じだ。
ロベルタの気がふっと遠くなりかけた瞬間。
ポーン、と軽快な音と共にエレベータのドアが開いた。

「なーーーッ!!」

エレベータは屋上の吹きさらしの部分とそのまま繋がっていた。
射角の浅い朝日がエレベータの空間にそのまま射し込んだ。
ビクン!とセラスの身体が揺れると、ロベルタの喉にかかる力が抜けていく。
正に、好機。
一気にロベルタはセラスの手を振りほどくと、彼女の腹に空気砲を当てた。

「しまっーーー!」
「さようなら」

ドカンというロベルタの咆哮とともにセラスは吹き飛ばされ、屋上から消えた。


◇ ◇ ◇
243Ground Zero  9/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 19:03:13 ID:ZN7Kp9po


「くそっ。あのお嬢ちゃん、トグサがどこにいるか一言言ってくれりゃ良いものを」
バトーは非常階段を必死に登っていた。
4階のエレベータ乗り場で確認した所、エレベータは屋上で止まっている。
今はトグサを探している時間は無い。
ロベルタがそのまま屋上で待っていてくれることを祈りつつ屋上への扉を開けて様子を伺う。
ロベルタは、そこにいた。
みくるの足を掴み逆さ吊りにして、今正に屋上から落とさんとしていた。

「思ったより、早かったのですね。金髪のお嬢さんならもう落としましたよ」

バトーがカラシニコフを構える。

「私を撃てばこの娘は落ちて死にます。銃を降ろして頂けませんか」
「……」

両者はお互いに隙がないことを確認した。
一方的な要求は無意味だ。

「オーケイ、こっちがゆっくり銃を床に下ろす。そっちもみくるを降ろしてくれないか。ゆっくりとな」
「承知しました」

バトーがしゃがんで銃を横に向かせている間に、ロベルタもみくるを地面に置く。
バトーの手がカラシニコフから離れると同時に、ロベルタはみくるの足を放した。

「よし、あとは俺が銃からゆっくり離れていくから、あんたはみくるが離れていくのを見逃す。それで良いか?」
「良いでしょう」
「みくるも判ったな」
「は、はい」

バトーがそろそろとカラシニコフから離れる。みくるもゆっくりとロベルタから距離を取り始めた。
そして、バトー、銃、みくる、ロベルタの居る各点が正方形を成すと同時。
ロベルタがバトーに向けて空気砲を構えつつ突進してきた。

「ドッーーー」

遮蔽物の無いこの空間では回避は不可能。

"圧縮空気衝撃波;推定速度変化:限界値突破..推定加速度:限界値突破....回避不能"

バトーの電脳が直撃のダメージを予測し、最も被害が少なく、直後に反撃に移れる姿勢を即座に計算した。
頭を抱え込んで左肩からタックルする形でふんばり、バトーは衝撃に備える。

「ーーーカン」
244Ground Zero  10/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 19:04:40 ID:ZN7Kp9po
衝撃。
すさまじい風圧に全身のフレームがきしみをあげる。
耐える。

"左肩甲フレーム負荷:限界値突破..左腕感覚信号:80%途絶..頚椎フレーム負荷:危険域..両脚部フレーム負荷:危険域.."

ひたすら耐える。
風圧でじりじりとバトーの義体化したボディーが押しやられていく。
そして屋上のへりまで引き摺られた所でようやく爆風が止まった。

バトーが顔を上げた瞬間、詰め寄ってきたロベルタに押し倒される。
"脊柱フレーム負荷:危険域.."
叩きつけられた衝撃を回復する間、運動系機能が一部停止した。
そのまま突き落とそうとロベルタが押しやる腕に力を込める。
ダメージでパワーが出せないバトーはじりじりと押されていく。

「ぐ……」

バトーのボディーの半分が空中に押しやられた、その時。

BABABABABANG!

ロベルタの胸を銃弾が貫通した。
ゆっくりと振り返るとみくるが涙目で硝煙をあげるカラシニコフを構えている。
素人の射撃故ほとんどが無駄弾となったが、至近距離から撃ったことが幸いして何発かが着弾したようだ。

「バ、バトーさん!に、逃げてください!」
「……」

呪詛を吐くでも悲鳴をあげるでもなく。
ロベルタは淡々とみくるに空気砲を向けた。

「ドッーーー」
「させるかあああぁぁぁーーー!」

ダメージ回復他自己保全用プログラムを全て停止してバトーはロベルタに掴みかかった。
そのまま渾身の力で空中に投げ飛ばす。
ロベルタの最期の反撃。
バトーの腕を抱え込む。
そのままもろとも、バトーとロベルタは屋上から投げ出された。

しばし、浮遊。
そして、落下。

『くそっ、レンジャー舐めんな!この程度の高度、屁でもーーー!』

バトーは受身を取るべく体勢を整えようとする。
しかし、姿勢制御系がエラーを出し電脳の命令を受け付けない。

ロベルタもまた生き残るためバトーの腕を放し落下の衝撃に備える。
しかし、風圧と極度の疲労の為、空中で気を失ってしまった。

『ーーー若様ーーー』

炸裂。


◇ ◇ ◇
245Ground Zero  11/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 19:09:25 ID:ZN7Kp9po


バトーはふと目を覚ました。
みくるがそばで泣いている。
かたわらにはロベルタのものらしき死体が散らばっていた。
死んだらしい。
そして、自分もまた長くはないことを悟った。

「みくる」

名を呼ばれてビクッと反応する。

「バ、バトーさあん……」
「少佐……草薙素子に……」
「……?なんて言ったんですか?し、しっかりしてください!」

そう言って、何を伝えるべきか何も考えていなかった事に気付いた。
いや、何も伝えなくて良い。
遺言を受けてセンチになってくれるようなタマじゃない。

「タチコマによろしく頼む。水色の、クモみたいなロボットだ」

代わりにどこまでもナイーブな相棒の名を告げると。

「ガブに……餌を……やら……」

バトーは喋らなくなった。
みくるが何度ゆすっても、喋らなくなった。


◇ ◇ ◇


ガッシャーーーン

「あアッ!わ、若様、申し訳御座いません!」

ラブレス邸のテラス。
ロベルタはガルシアのコーヒーカップをさげようとして、うっかり取り落としてしまった。
あわてて破片を拾おうとするがガルシアにやんわりと止められる。

「ダメだよロベルタ。手を切ってしまう。塵取を持ってこよう」
「も、申し訳御座いません……」

ロベルタはあらためて箒と塵取で割れたカップを回収した。
食器の上げ下げ一つ満足にこなせない様ではメイド長失格だと自分が情けなくなる。

「申し訳、御座いません……」
「もう良いよ、ロベルタ。僕は怒っていない」
「しかし……」
「大丈夫」

ガルシアはにっこりと笑って見せた。
246Ground Zero  12/12 ◆TIZOS1Jprc :2006/12/29(金) 19:10:35 ID:ZN7Kp9po
「家事だって、少しずつ上手くなってるんだ。ロベルタはよくやってくれてるよ。だから自分を責めないで」
「若様……」

本当に……自分はメイド失格だ。主人たちに逆に気を遣われてしまっている。情けないはずなのに、何故かその気遣いが心地良い。

「たまに……不安になるんだ。ロベルタがこの家を出てどこかに行ってしまわないかって。ここではやり甲斐を見付けられないんじゃないかって……。でもロベルタは……ここで必要とされてる。僕達の家族なんだ。だから……」
「ええ、判っています」

ロベルタもつられて微笑んだ。

「大丈夫です。ロベルタは、いつでも若様のお側におりますよ」


【D-5/ホテル周辺/1日目/朝】

【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:メイド服着用、ボロボロ、煤まみれ、何故か無傷
[装備]:AK-47カラシニコフ(0/30)
   石ころ帽子(※[制限]音は気づかれる。怪しまれて注視されると効力を失う)
[道具]:バトーのデイバッグ/支給品一式/AK-47用マガジン(30発×5)/チョコビ13箱/煙草一箱(毒)/爆弾材料各種/電池各種/オモチャのオペラグラス
   紙袋(ロビーに放置)、茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている)
[思考・状況]
1:バトーの死にショック。
2:SOS団メンバーを探して合流する。 
3:鶴屋さんの安否を確かめたい。
4:青ダヌキさんを探し、未来のことについて話し合いたい。

【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]: 気絶、全身打ち身、肋骨にヒビ、日光浴(怪我の回復ができない)
[装備]: エスクード(風)@魔法騎士レイアース
[道具]: 支給品一式 (バヨネットを包むのにメモ半分消費)、バヨネット@ヘルシング、中華包丁、ナイフ×10本、フォーク×10本
[思考・状況]
1:事態の収集をはかる。
2:トグサが戻るまでホテルで待機。
3:アーカード(及び生きていたらウォルター)と合流。
4:ドラえもんと接触し、ギガゾンビの情報を得る。
※ドラえもんを『青いジャック・オー・フロスト』と認識しています。
※道具は最上階のスイートの一室に放置しています。

【ロベルタ@BLACK LAGOON 死亡】
【バトー@攻殻機動隊S.A.C 死亡】

※ロベルタの荷物はほとんどが木端微塵になっています。残りはロベルタの遺体の周囲に散乱。
※ホテルのロビーが壊滅的な被害を受けました。あと一回同規模の戦闘があればホテルが崩壊する恐れがあります。
247武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:11:58 ID:U52Bp+Ax
俺がこの地に来て初めて死というものを直視したのは、もう日が昇り始めていた頃だった。
「これは…………」
「何という無惨な……」
それは図書館に向かう途中の事だった。
周囲の至る所に大砲のようなもので攻撃されたような痕跡が残る中、瓦礫に埋もれるようにして、彼はいた。
身に纏っていたのがスーツであったことから察するに、彼はきっとビジネスマンか何かだったのだろう。
だが、そんな彼も今となっては砕かれた頭を初めとする体中から大量の血を流し、ぴくりとも動かなくなっている。
自慢じゃないが、俺だって他殺体(正確にはあれは死んじゃいなかったが)を見るのはこれが初めてじゃない。
だがこれは、あの夏の合宿で見たものなんかよりも数倍怖い、いわばホラー映画から飛び出してきたような見た目をしていた。
格好悪いと思うかもしれないが、俺は脚がずっと震えていたよ。
……どんなことをしたら、人はこうも惨い死に方をするんだっていうんだ。
「某が不甲斐ないばかりに、このような事に…………」
「トウカさんが悪いんじゃない。悪いのは――」
悪いのはあくまで実行犯、そしてこんな事をするようにけしかけたあのギガゾンビとかいう奴だ――そう言おうとした時だった。

――ちょうど話題に上げようとしていた悪趣味な仮面の男が明るくなりつつあった空に映し出されたのは。

『おはよう! いい朝は迎えられたかな!?』
「な、なんだ、あの面妖な空は!? 幻術か!?」
「いえ、違います。あれは……」
俺も信じがたいが、アレはいわゆる立体映像とかいうSFに出てきそうな技術だ。
――確か、あれはまだ手のひらサイズくらいの映像しか投影できなかったはずなのに、何だあの規格外は。
やっぱり、時空なんとかとかいってたくらいだし、あれも朝比奈さんと同じ未来人だと言うのだろうか。
……朝比奈さん、スマン。あんなのと一括りにしてしまって。
『さて、記念すべき第一回目の定刻放送だ。このギガゾンビ様の声を拝聴できることに感涙しながら聞け』
放送……そういえば、最初の場所にいたときに、あいつが放送がどうしたとか言ってたな。
だとすれば……。
「某に幻術を仕掛けるとは……術士はどこだ? 出て来――むがっ!」
「トウカさん、落ち着いてください! あと刀、また鞘から抜け切れていません」
俺はトウカさんの口を押さえると、放送の内容に注意を傾けた。
『禁止エリアは――7時よりA-4、9時よりH-8、11時よりD-1だ!』
禁止エリア――これを聞き漏らして自爆したら身も蓋もあったものじゃない。
故に、俺はトウカさんの口を塞いだのだ。そこ、他意は無いから注意するように!
ま、でも今回はあまり関係ない場所が指定されたようだった。
とりあえずは一安心……したいところだったのだが、放送の内容はそれだけじゃないようだ。
『そして死亡者だが――』
死亡者――ここにいる男の人以外にもまだ死者がいるのだろうか。
ハルヒや朝比奈さん、長門は無事なのだろうか。
俺は、引き続き注意を放送に耳を傾けることにした。
248武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:13:22 ID:U52Bp+Ax
『――まだ生き残っている61人のうち、何人が明日の日の出を拝めるか分かったものではないのだからな! ワハハハ――』
何とも不快な――古泉なんか、これに比べたら屁でもないような――笑いとともに、放送は終わった。
……死んだのは19人か。
深夜0時からスタートしておよそ6時間……これほどまでに人が死ぬなんて、本当にどうにかしてる。
しかも、その中には鶴屋さん……あの破天荒に明るい先輩の名前もあった。
SOS団の正式な団員じゃなかったが、あの人にも映画や野球大会で色々と世話になった。
そんな少し前まで身近だった人が死んだと聞いて、冷静でいられるほど俺だって場慣れしていない。
こういったのに慣れてるのは、戦争映画か推理小説の主人公だけで十分だ。
だが、そんな俺よりも冷静さを欠いている人が俺の横にいた。
「そんな……カルラ殿、それに聖上まで…………そんな……そんな……」
トウカさんは、放送を聞いてからというものの目を見開きブツブツとうわ言のように、ことばを繰り返していた。
具体的には、カルラという友人、そして聖上……即ち彼女が仕えているハクオロとかいう王様の名前を聞いてから彼女は様子が一変した。
……確かに探していた人が死んだと聞けば、誰だって……俺だって動揺するし、気持ちだって沈む。
だが、トウカさんの場合はそういった気持ちの浮き沈みじゃ言い表せないような状態だったのだ。
そう、言うなれば絶望……生きる希望を無くしたというか――って、うぉ!!
「トウカさん! 何やってるんすか!!」
いつの間にかトウカさんは、その場に正座するとバックから欠けた包丁を取り出していた。
……ここまでくればやることは唯一つだろう。
「某が不甲斐ないばかりにカルラ殿を死なせてしまい、それに何よりも聖上をお守り通す事が出来なかったのだ! この身の未熟さ……死をもって償うしか――!!!」
「だからって切腹は無いでしょう! 切腹は!」
俺はハラキリをさせまいと、包丁を握るトウカさんの腕を掴む――が。
「離してくだされ、キョン殿! 某は……某は取り返しのつかぬ過ちをしてしまったのだ!!」
「ぐほぁっ!!」
掴んでいない片方の腕で俺は思い切り殴り飛ばされた。
親父にも殴ら……いやついさっき自分で自分を殴ったから、このフレーズは使えないのだが――って、そうじゃなくって!
マズい。このままでは、本当にハラキリしてしまう。
えぇい、こうなったら最終手段のわすれろ草で………………くそっ! こういう時に限って、バックの中から思うように取り出せないと来やがった。
「カルラ殿、聖上……叶うならば常世(コトゥアハムル)で再び会えることを――」
欠けた刃が、トウカさんに今まさに突き立てられようとしている。
……こうなったら、最早――!!
「エルルゥ殿、アルルゥ殿、生き延びてくだされ。……では!!」
「させるかぁぁぁ!!!」
「――!!!」
俺はその瞬間、必死の思いでトウカさんに飛びつき、そして包丁を手放させた。
腕を押さえるだけじゃ無駄のようだったから今度は体ごと取り押さえれば、という安直かつ確実な方法。
だが、それは同時に妙齢の女性に覆いかぶさるということでもあり、あまりやりたくはない手だった。
「え、えっと、その……」
「何故だ……何故逝かせてくれぬのだ、キョン殿!!」
俺の真下にいいるトウカさんは初めて怒りをあらわに俺へ叫んできた。
その目には大量の涙を湛えている。
「某は……某はエヴェンクルガの使命を務めることも出来なかった未熟者……! ならば、死を以って償うのは当然――」
「何で……何ですぐに死ぬ死ぬ言うんですか……」
「……え?」
「そんな軽々しく死のうとして……そんな事を、そのハクオロって王様やカルラって友達は望んでいるんですか……?」
249武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:14:26 ID:U52Bp+Ax


カルラ殿は強き武人であった。
今までに見たことも無いような巨大な剣を振り回し、戦場を縦横無尽に駆け巡る様はまさに鬼神というに相応しい。
そして、それと同時に彼女は自由人だった。
城内で所構わず酒を飲み、倉庫から食料を盗んだかと思えば、次の瞬間には寝ていたりと、某には何を考えているのかさっぱりであったが、不思議と嫌悪感は沸かなかった。
……某を幾度と無く騙し、おちょくってはきたというのに……真に不思議な人であった。
やはり、それがカルラ殿の魅力なのだろうか。
だが、そんな彼女も今はもう……。

聖上は真に賢き皇だった。
民の生活をその知恵により向上させ、戦場に来れば陣頭に立って采配を振るい、兵達を鼓舞すべく自らも出陣する。
そして、何より、その人柄と人望の厚さはまさに皇の鑑だった。
……そんな聖上に仕える事が出来た某はこの上ない幸せであった。
そんな聖上であったからこそ、某は全力で聖上を、そしてトゥスクルを守ろうという意志が強く働いたのだと思う。
だが、そんな聖上も今はもう……。

二人はもう……いない。
共に聖上をお守りするはずだったカルラ殿も、守るべきはずの存在であった聖上も。
某が包丁の刃を折ったり、荷物を川に流したり、あのサァバント殿との戦いに苦戦したりして時間を浪費していなければ、もしかしたら助けられたかもしれないというのに。
そう、全ては某が未熟だったが故の失態……取り返しがつかない事なのだ。
ならば、取るべき道は唯一つ。それは――
「この身の未熟さ……死をもって償うしか――!!!」
首一つでどうにかなるようなちっぽけなことではないのは分かっている。
それでも、こうでもしない限り某の心は治まるはずも無く……。
「だからって切腹は無いでしょう! 切腹は!」
キョン殿は必死に止めてくれるが、某はもう決めたのだ。
だから……だから……
「離してくだされ、キョン殿! 某は……某は取り返しのつかぬ過ちをしてしまったのだ!!」
「ぐほぁっ!!」
気遣ってくれるキョン殿を殴ってしまった事は心苦しいが、それでも某は……。
「カルラ殿、聖上……叶うならば常世(コトゥアハムル)で再び会えることを――」
それはおこがましい願いであり、叶わぬことなど百も承知。
「エルルゥ殿、アルルゥ殿、生き延びてくだされ」
そして、あの心優しき姉妹が某の分まで生きながらえてくれることを願いながら、某は再び刃を腹に――
「させるかぁぁぁ!!!」
「――!!!」
刺せなかった。
某はキョン殿にいつの間にか押さえつけられていたのだ。
殿方とはいえ、戦に出たことの無い者にねじ伏せられるとは某もやはり……。
悔しかった。死ねなかったことが。未熟だったことが。
だから、某はキョン殿に無意識のうちに喚き散らしてしまった。なんとも浅ましい姿だろう……。
きっと、こんな姿を見てキョン殿も呆れているだろう。
そう思っていたのに……
「そんな軽々しく死のうとして……そんな事を、そのハクオロって王様やカルラって友達は望んでいるんですか……?」
キョン殿が口にしたのは、そんな言葉だった。
そして、その顔はどこか悲しげだった……。
250武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:16:35 ID:U52Bp+Ax


自分でも在り来たりの陳腐な言葉なのは分かってる。
だが、今の俺にはこの他に言葉が見つからなかった。
自分の表現力の貧しさをこんなときに思い知らされるとは……。
これからは長門みたいにもっと本を読むとしよう、あぁそうしよう。
「あ、あの……俺、死ぬのはまだ早いと思うんですよ。それに、ここで死んだら、残っているトウカさんの仲間は誰が守るんです。だからその……」



――死ぬのはまだ早いと思うんですよ

そういえば、かつて聖上にも同じ事を言われた気がする。
あの時は、騙されているのも知らずに聖上を悪漢ラクシャインと信じ、トゥスクルを戦乱に巻き込んでしまった事で某はひたすらに罪の念に囚われていた。
そして、玉座の間、聖上の目の前で自らの首を差し出そうとしたその時――聖上は止めてくださったのだ。

――死ぬのはまだ早い。貴公にはまだ成すべき事がある。

成すべき事……。
それは、聖上にしてみれば失意のまま謀殺されたオリカカン皇をクッチャ・ケッチャの土に還して差し上げろという意味だったのかもしれない。
だが、某にはそれだけには思えなかった。
某が犯してきた罪を償うために、生を以って成せる事。
それは、聖上に一生仕え、この身を聖上そしてトゥスクルに捧げるということ。

……そうか、某はまた、同じ過ちを繰り返そうとしていたのだな。
某には聖上亡き後もまだ成すべき事が残っている。
キョン殿の言うように、まだ生きているエルルゥ殿とアルルゥ殿を某は命に賭けてもお守りせねばならない。
そして共にトゥスクルへ生きて帰って、ベナウィ殿やウルトリィ殿達と國の安寧に務めなくてはならない。
それに何より、某はこの目の前にいるキョン殿を守り通すとエヴェンクルガの名に於いて誓ったばかりではないか。
某としたことが、そんなことも忘れて命を絶とうとしていたのか……。



……また、薄っぺらいような言葉と並べてしまった。
侍に腹を切るな、まだ死ぬなと言うのは確か生き恥を晒せと言っているのと同等だとどこかの時代劇か何かで言っていた気がする。
それなのに、俺ときたら何を言ってるのやら…………。
「…………ない」
……やっぱり怒っているのだろうか。
だけど、その場合どうすればいいんだ? 素直に切腹させるか? いや、それは流石にマズイな。でも他に方法が――
「キョン殿……かたじけない」
かたじけない……はて、その言葉は確か礼を言うときの言葉であって……ん?
「某、しばしの間、己の使命を忘れてしまっていた故に取り乱してしまった。……真に申し訳ない」
「あ、いや、それなら良かったんですが……」
それは、本当にいきなりだった。
トウカさんはまだ涙の跡が残っているものの、もう顔はすっかり元通りになっていた。
「それで……いつになったらこの体勢から抜け出せるのか、尋ね申したいのだが……」
俺はそう言われて、今更ながら自分が妙齢の女性に対しては失礼極まりない体勢をとっている事を思い出した。
嗚呼、何やってんだか。
251武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:18:22 ID:U52Bp+Ax
トウカさんが復活した後。
俺とトウカさんは二人で、先ほどの男性を埋葬した。
メチャクチャになった店が雑貨屋だったことからスコップが見つかったのが幸いして、土を掘るのはそこまで……いや、実際重労働だった。
人一人を埋めるのに必要な穴を掘るのにこれほど苦労するとは……。
俺はこんなふざけたゲームから出たら、土木作業現場のおじさん達をいつもの十倍尊敬して、感謝しようと思う。
「よし、これでいいか」
とまぁそんな訳で、埋葬も終わると、トウカさんが手近にあった木材をそこに刺した。いわゆる墓代わりというやつだ。
「……こんな質素な形ですまない。本来ならもっと正式に弔わなければならないのだが……」
そうトウカさんがお墓に向かって言っている脇で、俺は男を埋める際にその人の懐から落ちたそれを再び見た。

――平賀=キートン・太一。

手にした名刺には確かにそう書いてあった。
……言われてみれば、死亡者を発表していた時、そんな名前があった気がする。キートンって……この人ハーフだったのか。
職業もビジネスマンではなく大学で講師であったらしい。
普通の高校生の俺が言うのもなんだが、戦闘向きの職に見えないのは確かだ。
それが何で、あんなことになっちまったんだろうな……。
「キョン殿……いかがなされた?」
「あ? あぁ、今行きます」
トウカさんに促されて俺はその場を立ち去ることにした。

……鶴屋さん、それに大学講師の平賀さん。

そっちに行く用事があったら、俺を歓待してくれよ。
いや、本当は行きたくないんだけどさ。



ヒラガ殿を弔ってから、某たちは再び歩みを進めることとした。
その目的地は――
「キョン殿、その“としょかん”という場所に行ってどうするつもりなのです? 確かあそこは火が……」
「ちょっと気になることがありまして。……いや、まさかとは思うんですけどね」
「そうですか。気がかりならば致し方ありません、某はキョン殿の行く地なら何処へでもついていく覚悟ですので、余り気にしないでください」
「どこまでもって……そんな大げさな」
大げさな話などではない。
某は、某の誓いを思い出させてくれたキョン殿を絶対に守り通さねばならないのだ。
そして、それと同時にエルルゥ殿やアルルゥ殿とも合流し、守り通さねばならない。
エヴェンクルガとして、そして聖上に仕えた身として、それは成し遂げなくてはならない。
たとえ、聖上亡き後でもそれは変わらず。
それが、某の出来る聖上への最大の恩返しであり、忠義の証であると見つけたから。

――聖上、カルラ殿。某はお二方の分まで守るべきものを守り通して見せます!
252武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:27:38 ID:U52Bp+Ax






「――って、トウカさん。だからここまでついてこなくっていいですって!」
「いや、某、誓いの元に決してキョン殿を危険な目に遭わす訳には!」
「俺が行こうとしてるのは危険とかそういう場所じゃないんで……」
某は走りながら建物の中へと入ったキョン殿を追いかける……が、そこでようやく気づいた。
キョン殿が行こうとしてしていたのは……厠だった。
「も、申し訳ない! そ、某としたことが、つい!」
「いや、分かったなら別にいいですけど……」



【C-4/歩道/1日日/朝】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:色んな事にそろそろ慣れてきた
[装備]:スコップ
[道具]:支給品一式、わすれろ草@ドラえもん、キートンの大学の名刺
[思考・状況]
基本:殺し合いをする気はない
1:火災現場(C-3図書館)に向かう
2:トウカと共に仲間の捜索
3:ハルヒ達との合流
4:朝倉涼子には一応、警戒する
[備考]
キョンはキートンをただの大学講師だと思っています。
トイレタイムはすぐに終わったもとして、現在地は歩道ということにしてください

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:左手に切り傷
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
基本:無用な殺生はしない
1:火災現場(C-3図書館)に向かう
1:キョンと共に仲間の捜索
2:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
3:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す


※C-4状況まとめ
道路から少し離れた場所にキートンが埋葬されました。
残骸である木材を土の上に突き立てられただけの墓なので、誰の墓なのかは端から見ただけでは分かりません。
253武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/29(金) 21:31:09 ID:U52Bp+Ax






「――って、トウカさん。だからここまでついてこなくっていいですって!」
「いや、某、誓いの元に決してキョン殿を危険な目に遭わす訳には!」
「俺が行こうとしてるのは危険とかそういう場所じゃないんで……」
某は走りながら建物の中へと入ったキョン殿を追いかける……が、そこでようやく気づいた。
キョン殿が行こうとしてしていたのは……厠だった。
「も、申し訳ない! そ、某としたことが、つい!」
「いや、分かったなら別にいいですけど……」



【C-4/歩道/1日日/朝】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:色んな事にそろそろ慣れてきた
[装備]:スコップ
[道具]:支給品一式、わすれろ草@ドラえもん、キートンの大学の名刺
[思考・状況]
基本:殺し合いをする気はない
1:火災現場(C-3図書館)に向かう
2:トウカと共に仲間の捜索
3:ハルヒ達との合流
4:朝倉涼子には一応、警戒する
[備考]
キョンはキートンをただの大学講師だと思っています。
トイレタイムはすぐに終わったもとして、現在地は歩道ということにしてください

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:左手に切り傷
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
基本:無用な殺生はしない
1:火災現場(C-3図書館)に向かう
1:キョンと共に仲間の捜索
2:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
3:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す


※C-4状況まとめ
道路から少し離れた場所にキートンが埋葬されました。
残骸である木材を土の上に突き立てられただけの墓なので、誰の墓なのかは端から見ただけでは分かりません。
254Unlucky girl ◆/1XIgPEeCM :2006/12/30(土) 00:03:47 ID:hl9NkKHT
「え、なに?」
温泉施設の出口扉を開けてすぐ、園崎魅音が上方を見上げると、空のスクリーンにでかでかと映し出された仮面の男、ギガゾンビの顔があった。
そういえば、と魅音が時計を見ると、針は6時ジャストを刺している。どうやら定時放送の時間らしい。
朝っぱらからあんな男の顔など見たくもないし、声も聞きたくないが、ここは我慢我慢。
確か定時放送では禁止エリアなるものを作るそうで、その禁止エリアに侵入しても首輪が爆破されるとか。
放送を聞き逃すことは即ち死活問題である。これはしっかりと聞いておいた方が良い。

忌々しい笑い声と共に放送は終わった。
魅音は内心驚いていた。
たった6時間で約四分の一ほどの参加者が死んでしまったという事実も勿論だが、何より我ら部活メンバーが全員生き残っていることだ。
圭ちゃんも、レナも、沙都子も梨花ちゃんも。
お子様揃いの(勿論、魅音自身も含まれるのだが)部活メンバーがよく一人も欠けることなく健在であったものだ。
だが、当然のことだと魅音はほくそ笑む。
我が部活によって養われた精神力、忍耐力、観察力、洞察力、その他諸々。
そんな自分達がそう簡単にやられるわけないのだから。
一方、散々自分を振り回した挙句、訳の分からないことを言ってあっと言う間に走り去ってしまった奇妙な髪型のやたらハイテンションな男。
ストレイト・クーガーもまた健在であった。
まあ、あの男なら多分何回ぶっ殺しても死なないんじゃないか。それほどに、あの男は異常だった。
何が彼をあそこまで突き動かすのか。分からない。分かりたくもない。
彼はあの少女にまた会えたのだろうか。会って、そして証明できたのだろうか。
……そんなことはどうでもいい。
とりあえず、自分が知っている人は誰も死んでいないことに安堵する。

……いや、一人いた。

富竹さん……。

毎年雛見沢に遊びに来てくれる、見た目の割には頼りないカメラマン。
彼のことをちょっとからかったりすることもあったけれど、気さくで良い人だから、死なないで欲しかったのに。

今までいた人がいなくなった日常は、果たしていつもの日常と呼べるだろうか。
例え雛見沢に帰ることができたとしても、もう、元には戻らないんじゃないか……?
255Unlucky girl ◆/1XIgPEeCM :2006/12/30(土) 00:04:35 ID:hl9NkKHT
今更そんなこと考えたってしょうがない。
たった一人の人間の死に感傷して、血迷っているようでは部長としての名が廃る。
今は自分がやるべきことをやる。
「COOLになれ、園崎魅音……」
瞑想でもするかのように目を瞑り、家訓か何かのようにその言葉を一度詠唱する。
そして目をパチっと開く。心成しか、スッキリしたような気がした。
「よし! 行こう!」
目指すは山頂。ここからならそう大した距離じゃない。
禁止エリアの位置も今の自分とは無縁と言って良いほどの場所にあるし、かなりアクティブに動いても大丈夫だろう。
放送のメモをデイパックにしまい、魅音はデイパックを担ぎ南西方向に歩き出した。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ

魅音が山道を歩く音だけが周囲に響く。
周りは、木ばかりだった。どこもかしこも木。
木の陰に誰かが隠れていて、自分を襲うチャンスを窺っているのではないか。
連なる木々に日光を遮られ薄暗くなっている道を歩いていると、そんな錯覚にすら陥りそうになるが、勿論近くには誰もいない。
たかだか森の中の一人歩きでビクつくなどガラじゃないが、この状況下では仕方が無い。
終始警戒を忘れずに歩いたものの、結局ここまでの登山道で誰とも出会うことはなかった。

山頂に着いた。
大岩の傍に立てかけられた看板に『山頂』とくっきり書いてあるんだもの、目が腐ってでもいない限り分かる。
山頂は木が無く、ちょっとしたスペースになっており、木製のベンチが二脚安置されている。ここからなら会場を一望できそうだった。
「はぁー、いい眺めー」
その景色を一望しながら、思わず正直な感想を漏らす魅音。
これがこんな糞ゲームの真っ最中じゃなかったら良かったのに、と、魅音は嘆かずにはいられない。
今まで自分が登ってきた道は勿論のこと、南西に広がる市街地も一部は見渡すことができる。
望遠鏡か何かがあれば、もっと遠くまで見渡せるかもしれないが、そんな都合の良い物があるわけなかった。
遥か南西に見えるあの大きな建物は、ホテルか何かだろうか。他にも点のような建物が無数に存在している。
この山は標高何メートルくらいだろう。ふと、そんな疑問が浮かぶ。
400……いや、300メートルも無いかもしれない。分かるわけないけど。
256Unlucky girl ◆/1XIgPEeCM :2006/12/30(土) 00:05:25 ID:hl9NkKHT
「あ、そういえば……」
何かを思い出したように呟いて、デイパックを漁る魅音。
中からは透明な袋に入ったパンが二つ。少し早い気もするが、朝食を摂ることにした。
こんな状況で悠長に朝飯など食ってる場合ではないのかもしれないが、いざ、という時のために栄養はしっかり摂っておかなければならない。
それに、ここは山頂である。態々山頂までやって来る者はそうそういないだろう。食事中に襲われる可能性も低いと踏んだ。
魅音はベンチに腰を下ろすと、袋を開け、まず一口。

……味がない。

そりゃそうだ。
常識的に考えて、殺し合いをさせる参加者達にメロンパンやカレーパンなどと言った贅沢な物を支給するはずがない。
満足な食事にも有り付けない苛立ちにより半分ヤケになった魅音は、その手に持つパンを続けて二口、三口と頬張った。
「むっ!?」
味のないパンを一度に沢山頬張ると、飲み込むのが辛い。今の魅音の状況はまさにそれだった。
慌ててデイパックから水を取り出し、胸をドンドンと叩きながら口から喉へと流し込む。何とか飲み込めたようだ。
「はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」
園崎魅音、パンを喉につまらせ窒息死、なんてことになろうものなら末代までの恥である。
ご老人じゃあるまいし、そんなことはまず有り得ないが、油断大敵とはよく言ったものだ。
結局、パンは一つだけ食べて、もう一つは水と一緒にデイパックに戻すことにした。
空になったパンの袋は、中空にぽっと放ると、風に流されカサカサと音を立ててどこかへと消えていった。
ここにいつまでも留まっていても仕方ないので、魅音はさっさと下山することにした。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ

土を踏みしめる音だ。
山は、登るよりも下りる方がきつい気がする。登った後で疲れている、と言う相乗効果もあるのだろうが。
この山の斜面はさほど急ではないが、それでも少しも疲れないのかと聞かれればそうではない。
相変わらず辺りは鬱蒼と生い茂る木、木、木。
まるで何かを隠そうとするかのように、何本も何本も生えている。
程なくして。
257Unlucky girl ◆/1XIgPEeCM :2006/12/30(土) 00:06:15 ID:hl9NkKHT
「ん? あれは……」
少し開けた場所に出ると、そこには和風な建物が建っていた。
魅音は思った。寺だ。
特徴的な形の灰色の屋根と、古臭そうな雰囲気はまさしく、お寺だ。
地図を開いてみると、確かにB-7とC-7の境界線辺りにそんな物があるようだ。
山頂からはこんなものがあったなんて気付かなかったが、木々の陰に隠れて見えなかったのだろうか。
今まで自分が辿ってきたルートから考えて、恐らくこれがそうなのだろう。
寺があると言うことは、ここは日本のどこかか。それとも中国とかそこらだろうか。
参加者にやけに日本人が多いことと、温泉で見かけた土偶が日本語で喋っていたことを考えると、やっぱりここは日本だろうか。
とりあえずそれはそっとしておいて、と。

魅音は寺の入り口へと近付く。
入り口の前にはご丁寧に看板が立てかけられており、黒墨の達筆で『椎七寺』と書かれていた。
その名前にも、魅音は下らないとしか思わない。C-7と椎七をかけた。ただそれだけのこと。
入り口の引き戸を横方向に引くと、割とあっさりと開いた。漏れ出てきた木と畳の落ち着いた匂いが鼻腔をつく。
中へ入ってみる。

「うわっ、趣味悪っ」
思ったことをぱっと条件反射的に外に出すのはあまり良くないが、他に誰もいないのだからかまわない。
それに、そう言いたくなるのも無理もない。
彼女の目に飛び込んできたのは、畳の上で鎮座する土偶達。それも何十体も。ずらーっと。
この土偶は、あの温泉で見たものと酷似していた。こちらの方はギガギガ鳴くことは無いようなので、一安心する。
しかし、悪趣味だ。
この地では土偶を神聖なものとして崇める仕来りでもあるのか。それともあのギガゾンビとかいう奴の趣味だろうか。
「まさか……祟りとか無いよね?」
顔を引き攣らせて、そう呟く魅音。

オヤシロ様。
そんな単語が魅音の脳裏にフラッシュバックする。

魅音は急にいくつもの土偶の視線が耐えられなくなり、椎七寺から飛び出した。
まだ中に何かしら役に立つようなものがあったかもしれないが、あんな薄気味悪い所には一秒たりとも居たくなかった。
258Unlucky girl ◆/1XIgPEeCM :2006/12/30(土) 00:07:05 ID:hl9NkKHT
「ここまでして収穫無しか。はぁ……」
結局、魅音はここまで誰と遭遇することもなければ、扱いやすそうな武器の一つも見つけることができなかった。
ふと、時計を見ると8時まであと10分前。思ったよりも時間が経っているような、いないような。
こんな調子で大丈夫だろうか。魅音は内心不安で仕方がなかった。
「んー、やっぱり街の方行ってみないと駄目かねぇ?」
地図を見ながら魅音は首を傾げ、溜め息一つ。
やっぱり建物が多い所の方が沢山の人がいるのだろうか。人間だからお家が恋しいのかな?
「とりあえず、そっちに行ってみますか」
思い立ったが吉日。
腰掛けていた丸太から魅音は立ち上がり、デイパックを肩にかけ、そして市街地の方向へ歩き出す。

ザッ、ザッ、ガッ!

「あっ!」

ゴッ

木の根に躓いた魅音は、目の前にあった木にしたたか額を打ち付けた。





【C-7森・1日目 朝】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:頭部打撲により意識朦朧 少し疲労
[装備]:エスクード(炎)@魔法騎士レイアース
[道具]:ヘンゼルの手斧@BLACK LAGOON、USSR RPG7(残弾1)、ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)
    スーパーピンチクラッシャーのオモチャ@スクライド、支給品一式(パン×1、水1/8消費)
[思考・状況]
1:市街地を目指す。
2:圭一ら仲間を探して合流。
3:ドラえもん、もしくはその仲間に会って、ギガゾンビや首輪について情報を聞く。
4:襲われたらとりあえず応戦。
5:出来れば扱いやすい武器(拳銃やスタンガン)を調達したい。
6:クーガーは後回し。
基本:バトルロワイアルの打倒。
259リスキィ・ガール ◆pKH1mSw/N6 :2006/12/30(土) 00:25:06 ID:xixxZVu7
古代より、海は恐怖の象徴であった。
特に夜の海は、人間の根源的な恐怖を引きずり出す。
底どころか水面のわずか1cm下ですら見通せない、コールタールの如き深淵が水平線まで広がり、
波音と、時折魚が跳ねる音だけが聞こえる光景を安心できると形容できる性格は、あまり一般的とは言えないだろう。
人間は、そんな海から港を守るために様々な工夫を凝らしてきた。
防波堤もそのうちの一つであり、ローマ帝国期から存在する建築物である。
とはいえ、この殺し合いの世界には守るべき港も、護るべき人々もいないのだが。


とある少年が防波堤を走り去ってから数十分後、防波堤の一部が盛り上がり人影を形作った。
人影は少女の姿をしており、しきりに辺りを見回している。
朝焼けに照らされ始めた海が目の前にあることを認識し、人影は一歩後ずさる。
ガリ、と靴がコンクリートの角を噛み、灰色の粉塵がパラパラと毀れた。
慌てて後ろを振り向いた人影の目に飛び込んできた光景は、やはり海。
そこに至ってようやく認識する。自分が海のど真ん中に取り残されていることに。
「…………ッ!」
たった一人で海の上にいるという恐怖に囚われたのだろうか、人影は全速力で走り始めた。
海に張られた一本道を、一人の少女が駆けていく。


十数分後、少女は防波堤から飛び降りた。
少しだけ安心した少女は息を整えようとしたが、なぜか殆ど疲れていない。
1km近くも走り続けて疲労を起こさないことは異常なのだが、少女にはその理由がわからない。
スピードが常人離れしていたことについては気付いていないようだった。
少女が首を傾げながらも顔を上げると、そこは夢の国。
色とりどりの電飾と、シンボルマークがプリントされた旗が目に付いた。
ちなみにシンボルマークは土偶の形をしており、『ギーガランドへようこそ!』とゴシック体の歓迎文句を謳っている。
近くのガイドセンターに陳列してあるパンフレットを手に取って、パラパラと捲ってみる。
『絶叫マシン“ギーガコースター”! 途中でコースターが分解して、形状記憶セラミックで元に戻るよ!』
『恐怖の屋敷“ギーガマンション”! たくさんのクラヤミ族が住み着いているマンションだよ!(実物ではありません)』
『勇気を振り絞れ!“ギーガ城”! 魔王に囚われたツチダマ姫を助け出すんだ! 見事助け出した勇者には記念メダルをプレゼント!』
少女はパンフレットを閉じた。

ちょうどそのとき、空にホログラムが映し出された。


    ※    ※    ※    ※


曙光に照らされた遊園地で、颯々たる涼風が城旗を揺らす。
なかなかの佳景ではあったが、上空に浮かぶ怪人の映像が全てを台無しにしていた。
時は午前6時。第一放送が終了し、ギガゾンビの映像が消え始める。
高らかな哄笑とともに空が歪み、生贄たちをを見下すかのようなギガゾンビの顔にノイズが入る。
不快な残響だけを残し、やがて映像は霧散した。
その光景を見届け終わった瞬間、劉鳳は手近にあったクレーンキャッチャーに八つ当たりの敵意を向ける。
途端、魔獣に齧られたかのように地面が抉れ、代わりに拘束衣の破壊神が姿を現す。
劉鳳のアルター、絶影である。
絶影の誇る針金状の触腕が哀れな筐体を蹂躙し、景品のぬいぐるみを内臓のようにぶち撒けた。
260リスキィ・ガール ◆pKH1mSw/N6 :2006/12/30(土) 00:26:02 ID:xixxZVu7
「毒虫が……」
やはりだ。やはり力を持ち過ぎた阿呆は碌な事をしない。
救いようのない小物が分不相応の力を持つとこうなる、という良い見本だ。
憤怒の炎を滾らせる劉鳳の横で、直立不動のまま絶影が破壊活動を続けている。
ブラウン管が、レバーが、座椅子が、何かの部品が、まるで埃のように宙を舞う。
遊園地のゲームセンターに破壊の嵐が吹き荒れた。
嵐はいつまで経っても収まらず、もはや使えるゲーム機は一台たりとも残っていない。
ここまで劉鳳を憤らせているのは、ギガゾンビによる無能な暴君まがいの発言だけではない。
19人という死者数の多さが、破壊の嵐を止めさせない。
こんな馬鹿げた殺し合いに乗った人間によって19もの命の灯火が掻き消された。
殺人行為を行った者のうち何人かはおそらく、武器の力に酔い、調子に乗ったならず者だ。
制御できない力は唯の暴力。
最初から殺人のために力を行使する悪は論外だが、無駄な力を持ったために殺人に走った馬鹿もいるだろう。
「社会不適格者どもめ!」
絶影の動きが一層激しくなり、ゲームセンターの外壁までをも微塵切りにする。
構成する部分の殆どを失ったゲームセンターが、緩やかな崩壊を始めた。
一人のアルター使いの怒りが生み出した轟音が辺り一帯に木霊する。


崩れ落ちる建物を背に、少し冷静さを取り戻した劉鳳は歩き出した。
向かう先は人が集まりそうな市街地。目的は真紅という人形の捜索だ。
黎明に出会った一体の人形。
ローゼンメイデン第五ドールと名乗った薔薇使いは、自分にとって致命的な因子になる可能性がある。
己の不注意により勘違いされ、危険人物と認定されてしまったからだ。
あの赤い人形によって悪い噂が流布されれば、無意味な戦闘を行わざるを得ない状況も起こりうるだろう。
その前に、あの人形を捕獲しなければならない。

とはいえ、黎明から探し続けているにも関わらず、未だ足取りは掴めていない。
人形なら同類の中に潜んでいるだろうと推測して、ファンシーショップのビスクドール達を掻き分け、
結局手掛かり一つ見つからなかったときなどは、流石に惨めな気持ちになった。
これだけ探し回って何の痕跡も見当たらないということは、もう園内にはいない可能性が高い。
地図を見ながら捜索場所を絞り込む劉鳳の額には、うっすらと汗が滲んでいた。
警戒色に満ちたガラス球を思い出し、苦虫を噛み潰す。あれは完全に誤解している。
今そこの建物の影からこちらを伺っている少女がいるが、まさにあんな感じだ。
険しい顔で自分を睨みつけ、危険を察知した小動物のように逃げ出すところまで同じだな――――

「――――って、待て!」

どうやら、また破壊活動を見られたらしい。
そして例の如く勘違いされ、危険人物認定もされただろう。
少女が逃げ出した先の通路を曲がると、徐々に遠ざかる後ろ姿が見えた。
その腕には腕章が付けられており、文字が刺繍されているのがわかる。『団長』……どういう意味だろうか?
……仕方がない、緊急手段だ。少々手荒い方法だが、失敗を繰り返すわけにはいかない。

「絶影!」
光線のように伸びる触腕が少女に迫り、その足元にあるタイル張りの歩道を抉る。
足場を破壊され転倒する少女。その頭がコンクリート製の地面にぶつかり、ゴキリと嫌な音を立てた。
(しまった!)
急いで駆け寄り、少女の意識を確かめる。
かなり危険なぶつけ方をしたように見えたが、かろうじて意識は保っているようだ。
少女の瞳孔が開いていないことを視認した後、刺激しないよう慎重に声をかけた。
焦らず、そして油断せずに。
261リスキィ・ガール ◆pKH1mSw/N6 :2006/12/30(土) 00:29:16 ID:xixxZVu7
「いきなり攻撃してすまない。だが、誤解されることはどうしても防ぎたかった」
騙し討ちを警戒しながら、少女を安心させるために説得を試みる。
「対アルター特殊部隊HOLY所属、劉鳳だ。お前を殺すつもりはない、安心しろ」
声をかけられた少女が顔を上げる。その顔は、恐怖というよりは困惑で彩られていた。


「殺す……って、何を言っているの? ここは、どこ? 一体、何が起こっているの?」


    ※    ※    ※    ※


「記憶喪失だと?」
「うん……今まで自分が何をやっていたか、殆ど何も思い出せないの」
遊園地の出口を目指しながら、一組の男女が話し合っている。
男は険しい顔で少女を尋問しており、少女はおどおどした様子で指をいじくっていた。
20分ほどかけて劉鳳が少女から引き出した情報――つまり、少女が覚えていた全て――は、ごく僅かなものだった。
一人の少年と出会い、棒のようなもので殴られた。
気付いたら防波堤の上で倒れていた。
たったそれだけ。
その他のことは自分の名前すら覚えていないという。


(部分健忘というやつか……)
ほんの一部の記憶を残して思い出を全て忘れてしまうという症状を思い出す。
おそらく、その『少年』に殴られたときに記憶を失ったんだろう。
決して絶影で攻撃したときに頭を打ったからではない。
少女が言うには、少年に殴られた際の記憶は断片的に残っているらしく、
記憶の欠片は、自分は刀、少年は銃と棒を持ち、防波堤の上で対峙していたことを教えてくれたという。
その際、少年は『野原ひろし』と名乗り、自分自身は『長門有希』と名乗っていたようだ。
つまり、この少女の名前は『長門有希』ということになる。

「長門、デイパックは持っていないのか?」
武器どころか地図やコンパスすら持っていないことについて尋ねると、少女は首を振った。
野原という少年が刀ごと奪ったことは明白だった。
「狙いは武器か……過ぎた力は秩序を乱し、身を滅ぼすだけだとなぜわからない!」
少女のデイパックを奪い去ったであろう少年は、死んだ。
先程の放送の中で呼ばれた『野原ひろし』の名前が、その事実を雄弁に物語る。
秩序を乱し、人を傷付け、力を誇示するだけの愚か者には当然の末路だ。
防波堤を越えて少年を探すことはしなかった。死体に興味はない。
なお、少女に対する警戒も続けることにした。
記憶喪失の話が虚言である可能性も捨てきれないし、なにより、この状況で人の話を鵜呑みにするのは危険すぎる。


現在二人がいる場所はG-5。破壊されたゲームセンターがあるH-5からちょうど北にあるエリアだ。
少女は絶影による破壊音を聞いて劉鳳に近づいたらしく、破壊行為がもたらした予期せぬ副産物と言える。
だが、劉鳳がゲームセンターを破壊したのは人寄せのためではない。無論、八つ当たりでもない……はずだ。
劉鳳は、絶影の調子がおかしいことに気付いていた。
本来のスピードがなかなか出せない上に、身体にかかる負担も増加している。
観覧車を破壊したときに感じた違和感の正体を解明するためにゲームセンターを破壊してみたが、
どうやら気のせいではなかったらしい。アルター能力を“使いにくい”。
こんなことでは絶影の“真の姿”を開放したときどうなるか、想像もつかない。
262リスキィ・ガール ◆pKH1mSw/N6 :2006/12/30(土) 00:30:18 ID:xixxZVu7
劉鳳が思案に暮れていると、いつの間にか観覧車があった場所まで辿り着いていた。
そう、そこには確かに観覧車があったのだ。
だが今は、四十個ほどのゴンドラが埋葬された物悲しい墓地に過ぎなかった。
砕かれたメリーゴーランドの馬達も悲壮感を漂わせている。
まあ、劉鳳がやったことなのだが。

「真紅という人形にも誤解されてしまったし、少し短絡的過ぎたかな…………ん!?」
劉鳳は、瓦礫の中に不自然な鉄の棒が突き立っていることに気がついた。
まるで墓標のように打ち立てられている鉄に近づいてみると、そこには――――
「……クソッ」
「…………ッ」
鵙の早贄のように串刺しにされた老人の死体が一つ。
後ろで少女の息を飲む音が聞こえるが、気遣っている余裕はない。
素早く辺りを見回し、敵影を探す。血が乾ききっていないため、近くに犯人がいる可能性があるのだ。
「俺は周辺を捜索する。何かあったら大声を上げろ、絶影のスピードならすぐに戻れる」
そう言い残して劉鳳は走り出す。その脇には、既に絶影が構築されていた。


劉鳳がその場を去った後、少女は老人の死体を見下ろした。
口から吐き出された血が執事服をごわごわに歪めている。
少女の視線は、老人の死体から、突き立てられた鉄芯へ……そして観覧車の支柱へと移った。
何発もの銃弾が撃ち込まれた支柱へと近づき、落ちている銃弾を拾い上げる。
先が潰れている銃弾を見つめ、指の先でくるくると回す少女。
やがて、飽きたかのように銃弾を放り投げ、別の瓦礫に目を移す。
そうして少女は、劉鳳が戻ってくるまで瓦礫の中を彷徨っていた。


    ※    ※    ※    ※


「どうやら、近くに犯人はいないようだ。……長門、そのデイパックはどうしたんだ?」
周囲の捜索から戻ってきた劉鳳が尋ねると、少女は困ったような笑顔を作った。
「そこのお爺さんのデイパックみたいなんだけど……勝手に貰っちゃまずかったかな?」
食料は盗られちゃってるみたいだけど、と補足を入れる少女。
劉鳳は少し考え、そして結論を出した。
「いや、問題ないだろう」
物品を収納できるデイパックや、コンパス、地図などの支給品は持っておいたほうがいい。
予期せぬ事態に陥ったとき、選択肢が広がるからだ。
「それと、こんなものも見つけたんだけど」
少女は更に、ロープの切れ端を見せつける。
「このロープの切れ端は、お爺さんの死体の傍に落ちていたわ。そして、あるはずの片割れは見つからなかった。
 つまり、このロープの切断面と一致するロープを持った奴が犯人ということにはならないかしら。
 あ、それと、瓦礫の下から血液パックも見つけたわよ」
すらすらと戦果を語る少女に、劉鳳が感心したように息を吐く。
「抜け目がないな」
「誉めてくれてありがとう。で、これからどうするの?」
その質問に対しては即答した。
「犯人を追うぞ。もう、園外にいる可能性が高い」
「わかったわ」
特に議論することもなく、二人は歩き出す。

少女の持つデイパックの中で、申告しなかったもう一つの拾遺物――鈍く光る鎖鎌が、ジャラリと無機質な音を立てた。
263リスキィ・ガール ◆pKH1mSw/N6 :2006/12/30(土) 00:32:37 ID:xixxZVu7
【G-5遊園地・1日目 朝】
【劉鳳@スクライド】
[状態]:健康、『悪』に対する一時的な激昂、自分の迂闊さへの怒り
[装備]: なし
[道具]:支給品一式、斬鉄剣、真紅似のビスクドール(目撃証言調達のため、遊園地内のファンシーショップで入手)
[思考・状況]
1:老人(ウォルター)を殺した犯人を見つけ出し、断罪する
2:真紅を捜し、誤解を解く
3:主催者、マーダーなどといった『悪』をこの手で断罪する
4:相手がゲームに乗っていないようなら保護する
5:カズマと決着をつける
6:必ず自分の正義を貫く
[補足]:朝倉のことを『長門有希』、朝倉の荷物を奪った少年を『野原ひろし』と誤認しています。


【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:精神的にやや疲弊  不明
[装備]:SOS団腕章『団長』
[道具]:支給品一式(ウォルターのもの、食料はなし)、鎖鎌(劉鳳には隠してある)、ターザンロープの切れ端、輸血用血液パック×3
[思考・状況]
1:不明
基本:自分の行動によって世界と涼宮ハルヒにどんな変化が起こるかを観察する。ゲームの円滑化のために参加者を減らす。

[補足]:朝倉はジュンの攻撃によって一時的に『記憶の混濁による混乱』状態に陥り、絶影の攻撃により次の段階に移行しました。
    1.完全な記憶喪失、2.記憶の混濁の続行、3.記憶は復活し、嘘をついている、のいずれかです。
    2,3の状態の場合は、劉鳳を利用しようと考えています。
    1の状態の場合、頭に強い衝撃を受けると記憶が復活する可能性があります。
    2の状態の場合、時間経過とともに記憶は元に戻ります。
264 ◆pKH1mSw/N6 :2006/12/30(土) 01:06:13 ID:xixxZVu7
>>263の朝倉の状態表を

【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:精神的にやや疲弊  不明
[装備]:SOS団腕章『団長』
[道具]:支給品一式(ウォルターのもの、食料はなし)、鎖鎌(劉鳳には隠してある)、ターザンロープの切れ端、輸血用血液パック×3
[思考・状況]
1:不明

に変更します。
265-目的- -選択- -未来- 1/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:34:24 ID:14C7G1wB
目の前の少女の様子が、放送を終えた直後からおかしくなっている。
きっと放送で友達の名前が呼ばれたりしたんだろう。流石の僕もそれは予測出来た。

きっと大切な人だったんだろう。
彼女の動きは完全に止まっている。
まるでコンピューターが不慮の事故で起動不可になったようだ。

そんな彼女を戻す為に僕はどうするべきだろう。
話しかけるのが一番かな、やっぱり。うん、そうしよう。

そうと決まれば「善は急げ」だ。彼女を元気付けないと。
悲しませる状況をなんとかしたいって、自分で言ったばかりなんだから。
266-目的- -選択- -未来- 2/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:37:00 ID:14C7G1wB


『八神はやて』

ホログラムからのこの音声を聞いた瞬間、私の何かが崩れ去った気がした。
糸が切れたみたいにその場に座り込んで、放送で聞いたその名前を反復する。

「はやて……八神、はや……て……」

はやてが、死んだ。
この事実を容赦なく突きつけられた私は、呆然としていた。
信じられない。信じたくない。死んだなんてを考えたくなかった。
なのはみたいに優しく素敵で、優しく微笑んでいた大切な友達。
そんな彼女が死んだ現実を突きつけられ、私は絶望を感じて――


――そして放送が終わった。
なのはやシグナム、ヴィータは名前を呼ばれなかったみたいだ。
そこは少しでも安堵するべきだったんだろう。
いや、それ以前にどこか矛盾している事もあったはずだ。
でも今の私には、それを考えたりするゆとりは無かった。

19人。そんな数の死があって、そしてはやても死んだ。
この現実が突きつけられたままで、なのは達の名前が呼ばれなかったことに安堵出来なかった。
それにカルラさんは目の前で死んでしまって、放送で名前を呼ばれてしまった。
私の所為で死んでしまったんだ……喜べるわけない。

「大丈夫かい?」

タチコマが話しかけてきた。

「何かあったんだろうけど、元気だしなよ。ね?」

元気付けてくれているのか、明るい声で話しかけてくれてる。
でも、今の私に気遣ってくれていたんだとしても無駄だ。
はやてが死んで、ショックで体が動いてくれないんだから……。

ただただ呆然とする私の涙は枯れていて、もう自分の両目からは何も流れはしなかった。
やっぱり私は駄目だ。このまま何も出来なくなって朽ちていくのがお似合いなんだ。
カルラさんやはやての代わりに、なんでこんな馬鹿な私が死ななかったんだろう。
私なんか、駄目なのに。私なんか、私なんか……。

「やっぱり、私が死んじゃえば良かったんだ……っ」

こんな私が生きる資格なんて……ない。
結局私は、タチコマに会ったばかりのときと同じ考えを繰り返すばかりだった。
それもこれも私が駄目だからだ。やっぱり私は……私は……。
267-目的- -選択- -未来- 3/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:39:29 ID:14C7G1wB

「いや、その理屈はおかしい」

心が沈んでいく中。突然、タチコマからはっきりと否定された。
そうやって否定してくれるのは嬉しい。でも、私が言ったことは真実だ。
私が悪い事には変わりは無い。全く、変わりは無い。

「おかしくないよ……私はこんなに小さい人間で、何も出来ないから……」

そうだ、私は何も出来ない。無力なんだ。
それどころか迷惑ばかりかけて、足手まといで……私は、

「何も出来ないだって? それは”絶対にノウ”だね。出来る事は沢山あると思うよ?
 信じられないなら君の話を基にいくつか項目を挙げようか。まずこの人を埋葬することが出来る。
 そして君の友人を捜索することも出来る。それどころかその「魔法」という要素によって、
 友人や赤の他人を救済出来る可能性も発生してる。それが無理でもこの状況を打破する為の情報収集だって、
 襲い来る敵を魔法によって排除する事だって出来る。僕と共に手を組んで共闘することも出来るしね。
 ほら、選択肢は沢山あるよ。君が出来ることは非常に多い。だからその理屈はおかしい、僕はそう言ったんだよ」

突然私の反論を打ち切って、捲くし立てる様にタチコマはそう言ってくれた。
なんで、どうしてさっき会ったばかりの私なんかにそこまでしてくれるんだろう。
私なんかにこんなことを言ってくれるのは、どうしてなんだろう。

「選択肢は多いんだし、僕は出来る範囲で手助けしたい。だから、元気出して欲しいな」

……そうか。やっぱり私を元気付けてくれようとしているんだ。
自分だって危険なのに、それを無視して私なんかに構ってくれてるんだ。
やっぱり、私は迷惑かけてるんだ。ごめんタチコマ、私のことはもう良いよ。私はもう……。

「あのさ、この世界に温泉があるみたいなんだけど」

……は?

「うん、だからさ。ここは二人で温泉にいこうよ。
 君も心をリラックスさせた方が良いだろうしね。うん、決定」

突然で強引なタチコマの言葉に、私は戸惑った。
いや、どうして突然温泉? 温泉なんてあったっけ?

「うん、地図で見たから間違いないよ。場所はここから北東だね。
 これに入ると気持ちよくなってリラックスするって聞いたことがあるんだ。
 とりあえず一旦そこで落ち着いて、それからこれからの予定を決めようよ」

気遣ってくれているのか、タチコマはそう言った。
正直強引で驚いたけど、気遣ってくれるのは本当に嬉しい。
でも温泉になんかに行けば、タチコマのしたい事を後回しにしてしまう。
私なんか放っておいて、自分の仲間を捜せば良いのに……。

「気にしない気にしない。それじゃまず、この女の人を埋葬しよう。
 僕も手伝うからさ。それから一緒に温泉に行こう。それから……」

タチコマは言葉を続ける。
私はあっけに取られたのもあって、黙ってそれを聞いていた。

「それから、何が出来るかを一緒に考えよう。
 君にもやるべき事があるんだから、それを整理するべきだよ。
 だから、死んだほうが良かったなんて言っちゃ駄目だ。ダメ、絶対」
268-目的- -選択- -未来- 4/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:42:28 ID:14C7G1wB



自分が死ねばよかった。その言葉は間違ってる、と僕は思った。
思ったから、だからはっきりと言った。ちょっとはっきり過ぎたかもしれないけど。

でも、彼女に悲観的になって欲しくは無かったんだよ。

それにこのままじゃネガティブになっていくままだ。
僕は急な作戦――話題のすり替えまで行った。
だって、悲観的になって欲しくなかったんだもの。

多少強引だったけど、こうして僕は彼女に可能性を与えようとした。
こんな状況でも彼女の居場所を与えてあげたいと、そう思ったんだ。
例えばトグサ君なら、きっとそう考えるよね?
人間ならきっと、そう思うよね?
269-目的- -選択- -未来- 5/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:45:31 ID:14C7G1wB



「……そう、だ」

一緒に考えよう、そうタチコマが言ってくれた時だった。
私は呟きを漏らしながら、自分が最初に何をしたかったのかを思い出した。
そうだ、私はなのはを捜さなければいけない。会って、真相を確かめなきゃいけないんだ。
それにカルラさんだって埋葬しないといけない。私が殺したも同然なんだ、私がやらなきゃ。
私はやっと、目の前の現実と向き合うことが出来る気がした。

そうだ。タチコマと私は、出会って放送を一緒に聞いただけの関係だ。
それなのにタチコマは、放送が終わった瞬間から今までずっと私と話してくれた。
駄目になっていた私に、タチコマが優しい言葉をかけ続けてくれた。
私なんかに構っている時間は無いはずなのに、言葉をかけてくれていた。

『僕は涙腺なんてないからその意味がよくわからないけど……キミを泣かせてしまうこの現状をなんとかしたいって、思う』

放送が始まる直前、こんなことを私に言ってくれた。
グチグチと腐っていた私に、言ってくれたんだ。
私を元気付けてくれる為に。私が歩き出せるようにする為に。
だから私はタチコマの言葉で全てを思い出したんだ。思い出せたんだ。

「ごめん……ありがとう……ありが、とう……っ!」

枯れていたはずの涙がまた溢れ出した。
タチコマの優しい言葉が、私の心に広がっていく。
嗚咽しながら、でも力を振り絞って私はタチコマに礼を言った。

「どういたしまして」

タチコマの優しげなその返答を聞き、私はやっと立ち上がった。
カルラさんを埋葬する為だ。そうだ、ここで燻る訳には行かないんだ。
タチコマの言うとおりだ。私は私の出来る事をやるしかないんだ。
なのはを捜して、それから私は……私は、なのはを……見つけたら……。

ここで気付いた。タチコマの言うとおりだと悟った。
今は落ち着かないといけないという事に、今のままじゃ自分は駄目だという事に。
タチコマには悪いけど、今は落ち着いてゆっくりと考える時間が欲しい。

『うん、温泉にいこうよ。リラックスした方が良いだろうしね』

温泉、か……行ってみるのも、良いかもしれない。
ああ、そうか。タチコマは私がこんな醜態を晒す事を読んでたのか。
ありがとう、タチコマ。本当にありがとう……。

私は涙を拭い、カルラさんへと視線を向けた。
埋葬する為に。自分の業を、正面から受け入れる為に。
270-目的- -選択- -未来- 6/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:49:22 ID:14C7G1wB



僕も多少強引だったかな。全体的に焦ってたかも。
彼女に行き着く暇も与えずに話しすぎちゃったかもしれない。
終わった後でそう反省したけれど、でも同時に結果オーライだとも思った。
彼女は僕の言葉で元気を取り戻してくれたようだ。なら、それで良いんだ。

見れば彼女は、任務を遂行する時の少佐達みたいに何かを覚悟したようだ。
僕の言葉で彼女がそんな心情になったのならば、それはとても嬉しい。
でもやっぱり強引だったかも。次からは気をつけないとね、反省反省。

けれど彼女が元気を出してくれた様で何よりだ、本当に良かった。
やっぱり言葉は無力じゃないよ。凄いよ言葉、本当に凄い。
でもこれからが大事だ。これだけで満足しちゃいけないんだ。
目指すは有言実行――これからも僕は彼女を悲しませないようにしないと。


さて、そろそろ僕のすべき事も把握しておこう。
要点を整理すると、こうかな。

まずは南側にあったデイバッグを回収する。
それから彼女に頼んで榴弾を装填してもらう。
その後は温泉に行って彼女にはゆっくりとしてもらおう。
それを終えてから、彼女の仲間を捜す。または彼女を安全な場所に解放する。
ついでに僕を修理できる可能性や要因が発生したらチェックしておく。

以上。すべき事、ここまで。

九課の皆さんには申し訳ないけど、ここは一つ後回しだ。
まぁ少佐達のことだ、こんなところでそう簡単にはリタイアしないだろうしね。
僕は僕で、勝手にやるべきことをやらせてもらうよ。


あ、温泉の場所をもう一度確認しておこうかな。
実は僕自身も楽しみなんだよね。どんな感じなんだろ。
271-目的- -選択- -未来- 7/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/31(日) 01:50:55 ID:14C7G1wB
【D-7 森林・1日目 朝】

【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労中、全身に軽傷、背中に打撲、決意
[装備]:S2U(元のカード形態)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム残数不明、西瓜1個@スクライド
[思考]
1:カルラを埋葬、彼女の仲間に謝る
2:タチコマの誘いに乗り、温泉に行って自分を落ち着かせる
3:シグナム、ヴィータとも合流
基本:なのはに会い、もし暴走していたら止める。
[備考]
タヌ機による混乱は治まったものの、なのはがシグナムを殺した疑惑はまだ残っています。


【タチコマ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:装甲はぼこぼこ、ダメージ蓄積、燃料わずかに消費
[装備]:ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)
[道具]:支給品一式、燃料タンクから1/8補給済み、お天気ボックス@ドラえもん、西瓜48個@スクライド
  タチコマの榴弾@攻殻機動隊S.A.C、双眼鏡、龍咲海の生徒手帳
[思考]
1:D7南部のデイバッグを回収。
2:榴弾を装填してもらう。
3:温泉にフェイトを連れて行って落ち着かせる。
4:フェイトを彼女の仲間の元か安全な場所に送る。
5:九課のメンバーと合流。
6:自分を修理できる施設・人間を探す
[備考]
光学迷彩の効果が低下しています。被発見率は多少下がるものの、あまり戦闘の役には立ちません。
効果を回復するには、適切な修理が必要です。
272最悪をも下回る ◆q/26xrKjWg :2006/12/31(日) 02:17:57 ID:U/zmze/l
 主と騎士の関係は、極めて単純だ。
 騎士は主に仕える。主は騎士を騎士たらしめる。

 主なき騎士など存在し得ない。
 主の死の報が嘘なのか。それとも有り得ないことが起きているのか。

(ヴィータなら、その辺りで難しいことを考えるのは止めるだろうな)

 では、彼女――シグナムはどうか。
 彼女はもう一歩踏み込んだことを考えていた。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 煽動を目的として、ギガゾンビが嘘の情報を流すことはできる。
 そもそも参加者全員が同じ内容の放送を聞いているとも限らない。ギガゾンビがその気になれば、全体の状況を把握した上で、個々の参加者に最も効果的な放送を行うことすらも可能なはずだ。疑おうと思えばきりがない。
 しかし、綻ぶ嘘では煽動の用を為さない。状況の指向性ならばある程度の操作もできようが、全ての参加者の動向を完全に制御できるわけではない以上、嘘が嘘であると証明されてしまう可能性が残る。
 それ以前に、放送でのあの喜びよう。ギガゾンビの思惑通りに状況が進行していると見るべきだ。
 ふざけた話だが、ギガゾンビにとってこれは余興。禁止エリアも、猛獣と兎が同居する檻をじわりじわりと狭めるように設定されている。放っておいても勝手に進む折角の余興を、己の無粋な真似で台無しにしたりはしないだろう。

 では、有り得ないことが起きているのか。
 それならば既に起きている。
 異なる体系にある者、あるいは物。ベルカ式だとかミッドチルダ式だとか、そういった違いではない。類似こそ多少はあれど根本的な部分においては全く異質。それらが一同に介して殺し合いの舞台に立っている。
 そんな舞台を実現させている。

 だとすれば――

(我等ベルカの騎士と主との繋がりを断ち、主に依存する守護騎士プログラムに過ぎない我等の存在を独立させることも可能なのではないか?)

 ――それは推測でしかない。だが、ギガゾンビが嘘を吐いているという楽観的な考えよりは、よほど信憑性がある。
 認めたくはないが、それでも認めなければならない。

(……主はやては、死んだ)

 放送で告げられた通りに。
273最悪をも下回る ◆q/26xrKjWg :2006/12/31(日) 02:24:06 ID:U/zmze/l
 泣き、叫び、喚くことが許される状況であれば、そうしたに違いない。シグナムは己の感情を必死に抑えていた。
 制御しきれるはずもないが。
 握った拳は震えていた。爪が掌に食い込んでいる。痛みはなかった。痛みを感じていないだけかもしれない。

 主の身に降りかかるであろう危険を一つでも多く、少しでも早く排除することに全力を注いできた。騎士としての名も、武人としての誇りも、何もかもをかなぐり捨てて、自らを外道に貶めようとも。
 その決意は全て無意味となった。
 守るべき主を失い、共に逝くべき自分達は、まだここにいる。
 最悪をも下回る事態。

(最悪をも下回る事態だ……我等に何の手も残されていなければ。だが、手はある。我等にできることはたった一つしかないが、それでも手はある)

 この余興を勝ち抜き、ただ一人の生き残りとなること。一つだけ願いを叶えてやる――ギガゾンビはそう言っていた。
 ギガゾンビを信用しているのではない。
 ギガゾンビの過度の自尊心が確かなものであると信じているだけだ。願いを叶えると言った以上、興を削ぎさえしなければ願いは叶えられるはずだ。
 たった一人の大切な人を生き返らせたい。その為なら他の全てを厭わない。
 ギガゾンビのような奴ならば、いかにも喜びそうな願いだろう。

(私かヴィータが生き残り、願いを叶える。主はやてがそんなことを望むはずもないが、それでも我等の勝手でやるべきことだ。
 ヴィータと再会して共闘できればいいのだが。勝ち抜くことが目的でありながら、互いに全幅の信頼を置ける仲間がいる――それは大きなアドバンテージになる。
 強いて問題を挙げるとすれば、ヴィータの出方か……)

 主の為にと闇の書の蒐集を決意した時にも、主の未来を血で汚すようなことはしないと高らかに宣言していた。そんなヴィータが主の命を取るか、それとも主の心を取るか。選択の結果によっては、自分とは相容れないかもしれない。
 万が一共闘を拒まれたら、どうするか。
 こちらの邪魔は絶対にさせない。ただし、ヴィータを殺すつもりは全くない。
 過程はさておき、最終的に自分かヴィータのどちらかが生き残ればいい。その可能性をわざわざ己の手で低くするような行為は避けるべきだ。
 それに――罪なき者をも皆殺しにして願いを叶えるつもりはなくとも、結果として一つだけ願いが叶えられる立場になれば、ヴィータとて自分と同じことを望むに違いない。

(どうであれ、生き残りが我等二人だけになった場合には、私が全ての咎を背負って自害する。それでいい。差し当たっての問題は、それまでにどう障害を排除していくか)
274最悪をも下回る ◆q/26xrKjWg :2006/12/31(日) 02:26:42 ID:U/zmze/l
 レイジングハートを使用していた魔法使いに、黒い天使人形。ただの人間でありながら自分と拮抗する実力を有していたメイド。どれも相当の猛者には違いなく、またそれで猛者が全てだとも思えない。

 加えて、あのフェイトやなのはまで敵に回すことになる。
 二人ともまだ生きている。主が無事であれば、間違いなく主の脱出を手助けしてくれていたであろう、主の親友達。
 味方ならば心強いことこの上ない。しかし、敵に回せば最凶の魔導師達。
 シグナムは既に経験していた。その両方ともを。

(もう焦る必要は皆無だ。
 宝石は残り四つ。慎重に慎重を期せ。どのような者が相手であっても、どのような状況にあっても。
 殺せる時に殺せる者を確実に殺し、可能であれば物資を奪う。魔法に通じる何かが得られれば有り難い。
 消耗を強いる戦いは極力避ける。猛者は猛者同士で潰しあってもらえばいい。ただし、いざという場合には一切の出し惜しみは不要。
 生き残ることを最優先に考えろ)

 将として、己に課すべき使命を羅列する。
 いつの間にか、拳の震えは止まっていた。ゆっくりと、何かを確かめるように手を開き――また閉じる。確かに痛みを感じる。掌だけでなく背中にも。

 幸いにも、背中の傷は表面を浅く削られただけで済んでいる。致命傷には遠く、戦闘を含む当面の行動にも支障はないだろう。先の戦闘でも大丈夫だった。
 だが、これからの長丁場を考えれば話は別だ。放置しておくべきではない。
 意を決してクラールヴィントに己が魔力を通す。
 傷の疼きまでは取れない。多少の時間を要してようやっと塞がっただけのようだ。元より回復魔法を得手とはしないシグナムでは、クラールヴィント自体の機能に頼ったところでこの程度。
 宝石でも使えば多少は違うかもしれないが、限られた切り札をこのような軽傷で浪費するつもりはなかった。

(シャマルならば、あっという間に跡形もなく完治――なのだろうがな。贅沢は言っていられん。出血による体力の低下を防げれば、それで十分だ)

 続いて、食料として支給されていたパンをちぎっては口に放り込む。咀嚼も程々に無理矢理水で流し込む。
 不味い。
 どうしようもなく不味い。
 昔ならばそんなことは思いもしなかっただろう。だが今は違う。自分は知ってしまったのだ。食欲を誘う芳香漂う食卓を。暖かい団らんの一時を。

(私はそれを守れなかった。だから取り戻す。その席に加わる資格はとうに失ってしまったが……それでも、せめて取り戻してみせる)

 為すべきことはもう見定めた。
 主の死を悼むことはしない。悼む必要すらない。
 いずれ主の死はなかったことになるのだから。
275最悪をも下回る ◆q/26xrKjWg :2006/12/31(日) 02:28:28 ID:U/zmze/l
【D-3/橋の袂/朝(放送後)】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:背中負傷(処置済)/騎士甲冑装備
[装備]:ディーヴァの刀@BLOOD+
    クラールヴィント(極基本的な機能のみ使用可能)@魔法少女リリカルなのはA's
    凛の宝石×4個@Fate/stay night
    鳳凰寺風の弓(矢22本)@魔法騎士レイアース、コルトガバメント
[道具]:支給品一式、ルルゥの斧@BLOOD+
[思考・状況]
第一行動方針:無理はせず、殺せる時に殺せる者を確実に殺す
第二行動方針:ヴィータと再会できたら共闘を促す
基本行動方針:自分かヴィータを最後の一人として生き残らせ、願いを叶える

※シグナムは列車が走るとは考えていません。

※放送で告げられた通り八神はやては死亡している、と判断しています。
 ただし「ギガゾンビが騎士と主との繋がりを断ち、騎士を独立させている」
 という説はあくまでシグナムの推測です。真相は不明。


【クラールヴィントによる回復の効果について】

 回復魔法を不得手とするシグナムが自身の魔力のみでクラールヴィントによる回復を試みた場合、多少の時間を要した上で表面的な傷の治療しかできません。他の回復魔法が不得手の魔導師、あるいはそれに準ずる能力者でも同様です。
 魔力を何らかの外的要因でブーストするか、あるいは元々回復魔法を得手とする者が使用すれば、効果や回復速度についてある程度の向上が期待できます。
276くじけそうになったら涙を ◆C1.qFoQXNw :2006/12/31(日) 09:33:28 ID:eWrFX6Qf
「ウミは――」
ゲインの返答を遮ったのはギガゾンビ立体映像と高邁な挨拶だった。
濡れた夜明けの空に浮かんだ巨大なそれは自身の安っぽい自己顕示欲と虚栄心の表れか。参加者たちを嘲笑し、侮蔑し、悪意に満ちたセリフを吐き続ける。
そして――発表される数多の死者の中に確かにあったのだ、龍咲海の名前が。
「…そういうことだ」
光に説明しづらかった海の死をギガゾンビが無神経に知らしめたのは腹立たしかった。
しかし自分ならもっとオブラートに包んだ言い方ができただろうか? 欺瞞だ、どう言い換えようと龍咲海が死亡した事実は変わらない。
衝撃の宣告を受け光はカッと目を見開き、そして膝から崩れ落ちる。
「この先の空き地で彼女の墓を発見した。誰かが不憫に思って埋葬したのだと思う」
放送が終わって光は膝をついたままだった。突然友人が死んだと宣告された女子中学生の反応としては無理もない。
こんな悲劇が各地で繰り広げられているのだろう。それも19人、約4分の一の人数だ。
幸運にもゲイナーの名は呼ばれなかった。だがギガゾンビの言う通り明日の太陽を自分もゲイナーも拝めるのか? 仮想ではない狂気のゲームの中で。嫌な想像をしていまいゲインは身震いする。
3分も経っただろうか、前触れもなく光は立ち上がり歩みだした。夢遊病のようにフラフラと海の墓があると知らされた方向に向かって。
「おい、ヘタにうろついちゃあぶないって」
「…嘘だ、海ちゃんが死んだなんて」
「?」
「わたしは信じない。死体を確認するまでは!」
そう叫ぶと光は急に走り出した。あっけにとられゲインは反応が数秒遅れる。
「お、おい待てよ!」
荷物も預かっているし放っておくわけにもいかずゲインは光を追うことにした。
277くじけそうになったら涙を ◆C1.qFoQXNw
ザクッ、ザクッ、ザクッ…

ゲインが歩いてきた道を引き返し墓のあった空き地までくると光は墓を掘り返していた。
墓標の代わりだったレイピアが転がっている。彼女のものと思しきディパックも近くに放置されていた。
「海ちゃん…嘘だよね? ここに埋まっている人は別人だよねぇ? ねえ答えてよ」
光の口からは意味不明の言葉が発されている。制服が泥だらけになるのも構わず発掘作業を続けていた。
「もういい、止めろ! 死者を冒涜するのは。仲間なんだろ、君の…ウッ!?」
頭部を銃火器の類で打ち抜かれ、恐怖に引きつり大脳を晒す死体が現れた。その光景はゲインにウッブスの悲劇を想像させるのに十分だった。
エクソダス請負人として人の死を見た経験もあり嘔吐こそしなかったが目をそらせるには十分である。
一方、光は掘り返した海の亡骸の肩を抱き必死に揺らせている。
「ねえ、何時まで寝てるんだ? ギガゾンビを倒していっしょに東京に帰えろう…」
肩を揺らすその度に頭部を支えきれなくなった首がグルグルと揺れ、脳漿がだらしなく垂れている。
「しかたない、私おんぶしてあげるよ。確か北にホテルがあったはずだ」
疲労しているにも関わらず光は海の亡骸を背負い歩み始めた。まるで海の死など意にかけないように。
死体を掘り出しあまつさえ背負っていくという異常な光景にゲインは唖然としばらく立ち尽くしていた。

「海ちゃん見て、ゲインの表情。そんなに珍しいのかな、女の子同士のおんぶが」
『フフ、妬いてんのよ。光と私があんまり仲良しだから』
「でも親友だもん、仲がいいのは当たり前じゃないか」
『バカね♪ 私たちの仲のよさは特別なの』
「ギガゾンビ打倒は始まったばかりだ。まだまだこれから…」
『あんまり見せつけると百合だと思われるわよ』
「いいじゃないか誤解されたって。私たちは魔法騎士なんだから」