アニメキャラ・バトルロワイヤル 作品投下スレ2

このエントリーをはてなブックマークに追加
241老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:26:11 ID:HHfSwyIw
ウォルターは銃弾をかわしながら走り、グリフィスに分銅を発射する。
グリフィスは横っ飛びに避け、地面を転がって鎖を手操ることによる分銅の追撃をも避ける。
分銅が地面に当たって穴を穿つ。

(戦闘のセンスはなかなかのもの……恐らくは軍人か傭兵。随分と前時代的な出で立ちだが)

グリフィスは倒れたままで半身を起こして発砲。
銃弾が迫り、鎌の部分で受け流す。

(前時代的というのはこちらの武器も同じか。鎖鎌とは……さっきはあんなことを言ったが、なかなかいい武器だ)

分銅を戻し、鎖を数十センチ垂らして回転させ、走りながら狙いをつけ、再び分銅を発射。
体勢を崩しているグリフィスは、かわしきれずに甲冑の腹に分銅の直撃を喰らい、吹き飛ばされる。
だが鎧のおかげで大した衝撃はなかったようで、立ち上がって再び銃を構えた。

(首を狙ったのだが……昔のようにはいかないものだな。しかしあの鎧は厄介だ)

分銅を手元に戻し、回転させながら再び狙いをつける。
銃弾が飛び交うが、意に介さずにグリフィスにジグザグに走りながら突っ込む。

(射程に差があるのだ、怪我の一つ二つは覚悟しなくてはな!芳しい硝煙の匂い、若かりし日の戦場を思い出す!)

分銅がグリフィスの下に一直線に発射される。
同時に一瞬生まれたウォルターの隙を逃さず、銃弾がウォルターの左腕を貫く。
痛みに足を止めたように見えたウォルターに向け『しめた』と笑んで銃の引き金を引こうとしたグリフィスに、ウォルターも笑みを返す。
発射された分銅は鎧の胸の部分の甲冑―――心臓の上の甲冑をはじき飛ばすと同時に、マイクロUZIをも同心円状の動きで宙に舞い上げる。

「Check!」

叫びながら一瞬で間合いを詰めるウォルター。
後ろに逃げようとするグリフィスは、しかし瓦礫に躓く。
そう、追い詰められたるは観覧車の真下。
鎌が剥がれた甲冑の部分、心臓を狙って振り下ろされる。
242老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:27:50 ID:HHfSwyIw

―――しかし刃は止まった。

「!?」

「本当にっ……便利だな、これは!」

グリフィスは言ってウォルターの襟元を掴んで後ろに投げ飛ばし、デイパックからロープを取り出す。
ウォルターは受身を取りつつ鎖鎌を持ち直し、立ち上がる。

(防弾……いや防刃か!)

対抗策を考えながら振り向くと、天に伸び、どうしたことか空中で固定されたロープを握ってグリフィスが冷たい眼で見つめていた。

「―――ハァッ!」

ロープがしなり、グリフィスが捕まりながら宙に舞う。
放り上げられていたマイクロUZIをキャッチし、一回転してウォルターの真上、辛うじて落下を免れたゴンドラの上に降り立つ。

「真逆―――!?」

ウォルターが一瞬で予測した通りに、グリフィスはゴンドラを支える支柱に銃を向け、発砲する。
絶え間ない銃声、そして―――!

ガコンッ!


ゴンドラが、落下した。
243老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:28:49 ID:HHfSwyIw
「無茶をする若造だ!」

落下してきたゴンドラを辛くもかわしたウォルターは、舌打ちしながら周囲を見回した。
埃が充満していて視界が悪い。
あの男は上か、右か、左か、後ろか、正面か―――?
眼では見つけるのは不可能、とウォルターは悟る。

(視覚でも触覚でも味覚でも嗅覚でもない、聴覚を、聴覚だけを研ぎ澄ませ。反射する音の源を突き止めろ)

脱力する。
飛び散り触れる破片を認識する触覚。
舌を麻痺させる。
破片によって切れた唇から流れる血の味を認識する味覚。
眼を閉じる。
埃と破片のみを認識する視覚。
息を止める。
硝煙と立ち上がる埃の臭いを認識する嗅覚。

全てを断ち、聴覚だけを研ぎ澄ます。
―――聴こえた。
連続的に金属と金属がぶつかり合う音。
それは鎧をつけた男が柱を歩くような。

(――――――上か!)

音の源を感知し、鎌を外して投擲する。
音は止んだ。直撃。
眼を開け、風を切って落ちてくる音源を見遣る。
244老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:29:52 ID:HHfSwyIw

――――――それは、マイクロUZIの予備カートリッジ。
先程のロープが括り付けられ、そして先程投げた鎌で切れて落ちたようだ。

「ブービー……」

刹那、足元の瓦礫の山からグリフィスが飛び出す。両手に先が尖った長い鉄の棒を握っている。

(ゴンドラの中に―――)

かわせない。
ウォルターのどてっ腹に棒が突き刺さる。

「―――ォォォ」

グリフィスが気合の篭った声を上げながら、更に鉄の棒、いや、杭を刺し込む。

それは。

「オオオオォォォオオオォォオォオオッ!!」

それは、勝ち鬨の声。
245老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:31:12 ID:HHfSwyIw


「―――ありがとうございました」

グリフィスは胸の甲冑を拾って付け直し、予備カートリッジを拾い、マイクロUZIを懐に仕舞いなおし、そしてロープを回収して言った。
相手は串刺しになってなお生きている、ウォルター・C・ドルネーズ。
彼のデイパックから食料を抜き取りながらさらに言を続ける。

「慣れない武器に頼りすぎるな―――まったくその通りですね。私は剣を探すとします」

殆ど当たらなかった自分の銃の腕前を恥じているのか、少し顔を俯けている。

「教授代を払いたいところですが……楽にしてあげましょうか?銃弾はもったいないから、この棒を捻って引き抜くことになりますが」
「まあ、食料をくすねておいて言うのもなんですけどね……」

鉄の棒に手を掛け、悪びれることなく言うグリフィスにウォルターは苦笑いして言う。

「ク……ク……構……わんよ。今……走馬灯が見えているんだ。余計な……真似は……しないでくれ」

ゴフッ、と血を吐くウォルター。
グリフィスは肩をすくめると、「では、いい夢を」と言い残し、去っていった。
246老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:32:31 ID:HHfSwyIw

一人残されたウォルターは呟く。

「フフ……串刺しで死ぬ……とは、アーカードは……うらやましがるかも……知れんな?」

そして、グリフィスが甲冑を探している間に懐に隠しておいた、輸血用の血液パックを取り出す。
彼は、支給されたアイテムが武器だと思っていたため、これは全員に支給されたものだと思っていた。
それを眺めながら、恐らくは最後になるであろう、脳の活動を行う。

(セラス嬢……アーカード……ここに来るかは知らんが……死人の……それも老いぼれの血などより、こちらの方がいいだろう……?)

血液パックを自分のすぐ側の瓦礫の下に隠す。
そして、空を見上げる。

――――――朝を迎えそうだった。

ああ―――自分の使える主は、目覚めて自分と頼れる僕のアーカード、そのまた僕のセラス嬢がいないと気付いてどうするだろう?
錯乱するだろうか?
悲しむだろうか?
それとも、全力で探し出そうとするだろうか?

探し出せたとしても、自分はもう死ぬ。
主に失望されるかもしれない。

(イン……テ……も……せん……)
247老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:36:37 ID:HHfSwyIw

今、老兵が死んだ。



―――――――――しかし、物語は終わらない。








【G−5 遊園地・1日目 早朝】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:疲労
[装備]:マイクロUZI(残弾数18/50)・耐刃防護服
[道具]:予備カートリッジ(50発×1)・ターザンロープ@ドラえもん・支給品一式(食料のみ二つ分)
[思考・状況]
1:皆殺し
2:剣欲しい

備考:ターザンロープは一部切れましたが、運用は可能です。


【ウォルター・C・ドルネーズ 死亡 残り64人】

[備考]:輸血用血液パック×3が近くの瓦礫の下に隠されています。
248無題 コこロのアリか(修正版) ◆wNr9KR0bsc :2006/12/15(金) 19:55:43 ID:Y6ck58mZ
#>>168から以下の投下する文に変更です。




斬り裂いたのは、空気。
「なっ…どこだ、どこにいる!」
少し目線を下に落とすと、丸い坊主頭が見える。
「あハァ〜〜おねぃさんのおムネおっきいゾ〜」
もう一つ、しんのすけは女性を見つけると常人離れした速度でその女性の胸に飛びつく。
セイバーの射程より僅かに広かったしんのすけの射程。セイバーが剣を振り上げた時に既に足元近く迄来ていた。
剣で薙ぐ間にしんのすけは胸をよじ登っていた、結果的にそれは回避行動となった。
「なっ…は、離せ!」
一気に紅潮するセイバーの頬、急いで身体を捩るがその程度ではしんのすけは離れない。
「でもゴツゴツしててお胸のほうには触れないゾ…」
「離せと…言っているッ!!」
服を掴み力任せに引き剥がし放り投げる。
「おわっ!!」
急な出来事にしんのすけは尻からバウンドし、近くの木に頭をぶつけて倒れた。
「許さない…許さないッ!」
怒りに身を任せしんのすけへと向かうセイバー、今度こそ確実に仕留める為に剣を振り下ろす。
「死ねぇッ!」


次は鉈に阻まれた。
「誰だ!私の邪魔をするや」
セイバーの時が、止まった。鉈の柄を持つ人物を見た、見てしまった。
カンキのエガオで、立っていたその少年を。
「ねえねえ、お姉さん」
怖い、怖い、怖い、怖いという感情と単語が身体の中を駆けずり回り。
両手は引きつり、足は知らぬ間に一歩下がっている。
「僕と、遊ぼうよ」

その声と同時にセイバーの剣が弾かれる。それが、合図。
間髪入れずにヘンゼルの蹴りがセイバーの腹部を狙う。
後ろに少しぐら付くがすぐに身を翻す、そこに銃撃が3発。
一つは頭部、残りは脚部に目掛けて放たれるが感情を振り切ったセイバーは全てはじき落す。
一発はじき落とすごとにセイバーも少しずつ進み、全てはじき落としたところで急加速し間合いを詰める。
肩、肩、頭、腰、手、頭、腰、足。セイバーの剣とヘンゼルのナタが流れるように動く。
「うーん、やっぱり姉様じゃないと上手く当たらないや。
 あーあ…斧があったらなぁ、もっと楽しめるのに…」
間合いを取りながら更に同じ場所に3発、再び弾丸が発射される。
「同じ手は食わない!」
気が付いていなかった、同じではなかった事に。飛来してくる一つの小さな木箱の存在に。
銃弾を3発弾く流れからその小さな木箱を両断する。銃弾を弾くより簡単な作業。
249無題 コこロのアリか(修正版) ◆wNr9KR0bsc :2006/12/15(金) 19:56:29 ID:Y6ck58mZ


「う、うがああああああああああっ!!」


それが出来なかったのはその箱が只の小さな木箱ではなかったから。
箱の中身はスタンガンと大量の画鋲。
スタンガンを入れ、最大まで電圧を高めて入れる。後は持ち手の所に画鋲を敷き詰め上蓋をはめ込む。ここまでが仕込み。
そしてそれを投げつける。後は剣で受け止められたときに画鋲が前へと前進しスタンガンの電流に触れる。
家庭用電源とまでは行かないがある程度強い電流に触れた画鋲は発光を起こし、箱に僅かな裂け目が入った時に光が爆発的に漏れ出す。
第一の攻撃はこの光。これで剣に入る力が緩み、尚且つ目くらましになる。
剣は箱に深く突き刺さったままとなる、そこにスタンガンが触れる。

結果、高圧電流が身体に流れ込む。剣を離せば逃れられる。然し腕が動かない。
「あ、ああ…あ、ああああ!!」
電流に耐えながらセイバーは剣を振り切る、箱とスタンガンが潰れる音。
瞬間的な出来事だった。セイバーの視界は点滅しだし、体には痺れが残る。
ようやく正常に戻った視界には、既に少年の姿が。

「う…ぐっ!」
まず足払いを喰らい地面とに顔からぶつかり、笑い声が頭の中に木霊する。
右肩に深く突き刺さるナタ、何回も、何回も。笑顔でセイバーの両肩にナタが振り下ろされる。
「あはははは、ははははっ、はははハははハハ!!」
肩に力が入らず剣が握れなくなってきた、抵抗できなくなってから殺すつもりのようだ。
「…そろそろお別れしようか、お姉さん」
殺される?ダメだ、それだけはダメだ。私は死ねない。民の為に、私自身の為に。
「私は…死ねない!」
私は、剣を振るった。その後に何も考えずにとにかく魔力を練った。
「勝…利すべき……」
目の前の少年を倒すために。
「黄金の…剣!」
250無題 コこロのアリか(修正版) ◆wNr9KR0bsc :2006/12/15(金) 19:57:17 ID:Y6ck58mZ



「あいたた…かーちゃんのゲンコツより痛いゾ…」
しんのすけが頭のたんこぶを抑えながら起き上がった。
日頃からゲンコツで鍛えられている彼の頭はある程度の強打に耐えられるほどの石頭になっていた。
「お、そういえばヘンゼルがいないゾ?」
数秒後、しんのすけはすぐ隣に吹き飛んできたヘンゼルの姿を見た。

「くそっ、上手く実体化できないッ…」
いつもなら微塵すら残さず消し飛ばす事ができるであろう剣が、相手に切り傷を与え吹き飛ばす程度にまで落ちていた。
即興で練ったとは言えここまでできれば十分か、まだまともに動けるうちに止めを刺しに向かう。

「ヘンゼル…」
「やぁ…目が醒めたみたいだ…ね」
物凄い量の出血と相当深い傷を負いながらヘンゼルはしんのすけに話し掛ける。
「家族に、会いた、いなら。早く、逃げるとい、い」
僕は何を言ってるんだろう?頭の中がズキズキする…。
「嫌だ!そんなことできるわけ無いゾ!」
大粒の涙を流しながらしんのすけがヘンゼルに縋りつく。
「…オラが、オラがヘンゼルを守るゾ!」
しんのすけはニューナンブを、いつか見た映画の見様見真似で構え。
「おねぃさんの…オバカァ〜〜!!!」
銃声が一発。防御姿勢を取るが肩が上手く動かない。鎧に銃弾がめり込む。
「ヘンゼル…待ってて、今オラがおんぶしてやるゾ!」
明らかに体型が違うヘンゼルを、ムリして担ぐしんのすけ。

「ま、待てぇっ!」
足は負傷していないセイバーが一気にしんのすけに間合いを詰める。セイバーの息遣いが間近にまで聞こえたときだった。
ヘンゼルが持っていた大鉈をセイバーに向かって投げつけ、防御姿勢を取るのが遅れたセイバーの鎧に突き刺さる。
さらにしんのすけに「いつでも出せるようにしておいて」と言っておいた手榴弾をしんのすけのデイパックから取り出し投げつける。

ナタに対処している間に手榴弾が彼女を襲う、防御も間に合わず直撃。
吹き飛ばされた先ではしんのすけの姿は見えなくなっていた。
よく見れば自分の鎧に裂け目が入っている。肩も動かすのが限界である。
彼女は近くの木にもたれかかり傷の治癒を始めた。もう、今は喋る元気すらない。

「待ってて、ヘンゼル…」
ヘンゼルをおぶっているしんのすけは半ばヘンゼルの足引き摺りながら走っていた。
「オラが、なんとかしてあげるゾ…!」
しんのすけは走りつづけた、ヘンゼルが助かる望みを抱いて。
ただ、ただ。走りつづけた。
251無題 コこロのアリか(修正版) ◆wNr9KR0bsc :2006/12/15(金) 19:58:31 ID:Y6ck58mZ
【B-4西部・1日目 黎明】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:全身に裂傷とやけど、両肩を大きく負傷、鎧に裂け目、極度の疲労。
[装備]:カリバーン、大ナタ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:傷を治す
2:優勝し、王の選定をやり直させてもらう

【B-4東部・1日目 黎明】
【ヘンゼル@BLACK LAGOON】
[状態]:右肩から深い切り傷(治療が受けられない場合…?)、気絶
[装備]:コルトM1917(残弾なし)
[道具]:支給品一式、コルトM1917の弾丸(残り12発)
[思考・状況]
1:手慣れた斧が欲しい
2:不快感の正体を探る(?)
3:襲ってくる奴をできるだけ「遊ぶ」
4:グレーテル、しんのすけの家族と合流

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:中度の疲労、全身にかすり傷、頭にたんこぶ、ヘンゼルをおぶっている
[装備]:ニューナンブ(残弾4)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:ヘンゼルを助けたい
2:みさえとひろし、ヘンゼルのお姉さんと合流する
3:ゲームから脱出して春日部に帰る

※スタンガンは破壊されました。B-4西部にばら撒かれた画鋲は拾えば使用可能です
252峰不二子の憂鬱 1/2  ◆S8pgx99zVs :2006/12/15(金) 20:57:13 ID:OaOFQCMh
峰不二子は畳の上に腰を下ろし一息ついた。
場所は先程離れた遊園地からそう遠くはない、マンションの一室だ。

先程、その中を検めて驚いた。その、あまりの普通さに。
どこもつい先程まで使用されていたかのような痕跡があるのだ。
だとしたら一体、この街の住民はどうしたのか?
この舞台を用意したギガゾンビによって消されてしまったのだろうか?
まるでマリー・セレスト号のような状況に背筋に寒いものが走る。

気を落ちつけ、先程遊園地の中で出会った老人から譲り受けた拳銃を取り出す。
彼女はこの様な状況下で敵から貰った物を易々と使うお人よしな女ではない。
拳銃を分解し弾丸を確かめる。なんらかの仕掛けがしてあると踏んでいたが…………

「驚いたわね」

思わず口にでる。
拳銃には何ら細工は施されていなかった。
さりとて状況は芳しくない。
コルトSAAは大口径で峰不二子の手にはやや余る。しかも旧いタイプのリボルバーで
装弾に時間がかかる。正直、こういったサバイバルで使える銃じゃない。
今時こんな物を使うのは次元大介のようなガンマン気取りの連中だけだ。

やはり、この場合隠れているのが無難か。
元々荒事はそれほど得意ではないのだ。無理して殺す相手を探す必要はない。
それに、先程の老人――あれはかなりの手練だ。かなりの修羅場を潜ってきただろう
匂いをその身体に纏わせていた。
もし相手がその気だったら――殺されていた。確実に。
それに加えて、あの大破壊。何者が何をしてああなったかは解らないが、アレもまた
自分の手には負えないだろう。

泥棒の手練ならあのルパンさえも出し抜く自信はあるが、こと殺し合いとなると……

峰不二子は真っ暗な部屋の中で一つ溜息をついた。
253峰不二子の憂鬱 2/2  ◆S8pgx99zVs :2006/12/15(金) 20:58:03 ID:OaOFQCMh
この広い舞台だ。徹底的に隠れていればほとんど他人と遭遇することはないだろう。
そう――ほとんどは。逆に言えば、逃れられない戦いの時がいつかは来るはずだ。
その時のことを考えると、やはり今の武装では心もとない。武器に変わるものや自分と
共闘できるもの、そして――自分より弱いものを探す必要が出てくる。
しかし、そこにはリスクが伴う。

まるで、100$札一枚でポーカーを始めるようなものだ。

何回かうまくことが運べばいいが、あまりにも後がなさすぎる。
元々、勝算のない賭けはしないタイプである。むしろイカサマの種を仕込んでから相手に
声をかけるタイプだ。

峰不二子が2回目の溜息をつことした時、何か音が聞こえてきた。


…………ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。

ベランダのガラス戸から顔を覗かせて外を見る。
暗闇の中に光を浮かべてやってきたのは線路の上を走る電車だった。

地方都市らしい3両編成のくたびれた雰囲気の電車。
ガタンゴトンとゆっくりと峰不二子がのぞいている下を通り過ぎていく。
…………そして電車は東の方へと行ってしまった。

人が乗っているのは見えなかった。運転している人間も。
だが、気付いた―― 一つだけ全開になっていた窓に。
どうやら途中で窓から飛び出た人間がいたようだ。だとするならあの電車は罠か?
地図を思い返せば、あの電車は西の川に分断されたところから走ってきたはずだ。
だとすれば、乗っていた人間はあの近辺からスタートして、橋や防波堤を渡るよりかは
危険がないと判断したのだろう。だが、何らかの理由で途中下車した。


さて、どうしたものか?
電車は気になるが、あまり自分に有利に働くものとは思えない。
だが、どういったものかは確かめておきたい。もしかしたら誰かを出し抜くのに
使えるかもしれない。

リスクは高い。
好奇心は猫をも殺すとはよく言うし、今まで何度もその忠告を受けてきた。
そう――何度忠告を受けても止められないのだ。
峰不二子の好奇心は。


峰不二子はバッグを肩に背負うと、部屋を出て電車の後を追った



 【E-5/市街地/1日目-黎明】

 【峰不二子】
 [状態]:健康
 [装備]:コルトSAA(装弾数:6発・予備弾12発)
 [道具]:デイバック/支給品一式/ダイヤの指輪/銭形警部変装セット
 [思考]:頼りになりそうな人を探す/ゲームから脱出
254名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 22:48:30 ID:PfD39Jpi
>>232-235は無効です
255名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 23:09:24 ID:ui16R+c0
>>254
どうして?
256名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 23:38:31 ID:ui16R+c0
というかマジで無効?
257鬼軍曹 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/15(金) 23:57:03 ID:gKt2hnPt
>>232-235の「GOODBYE SUPER GIRL」は
雑談スレでの「問題がある」という判断を基に、無効とします。
258洗濯⇔選択1/3 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/16(土) 02:51:26 ID:CbGDNpa2
綺麗な星空の下、蛍でも飛んでいそうな川原で妙齢の女性と二人っきり。
年頃の男なら一度は夢見るようなことであり、俺だって考えた事が無いわけじゃあない。
だが、ここはむしろ別の意味で胸が高鳴るような場所であり・・・
同時に川の近くで、なにやら調べている彼女も普通の女性ではなく。
俺はあまりの突拍子の無さに、目覚めてから何度目にかになる溜息をつき、
そして、結局はいつもとほぼ同じ状態であることに気づいて、また溜息をついた。
兎にも角にも・・・俺は殺し合いなどという過酷な状況で、頼もしい協力者と出会い共に行動していた。

しかし・・・今まで色々な事態に遭遇してきたが、これは一番最悪な状況かもしれない。
川を調べているトウカさんを待ちながら、ふと、そんな事を考えてみる。
しかし、俺の脳はそれをすぐさま否定する。
そりゃそうだ。命の危機だって今回が初めてではないのだ。当然である・・・かなり嫌な当然だが。
まあ、閉鎖空間に閉じ込められたり、クラスメイトに命を狙われたり、
これまでも散々な目に遭ってきたからな・・・今回も含めて、訳がわからないのにかわりはないんだが。
さて、その俺を殺そうとしたクラスメイト――朝倉涼子は長門の手によって消滅し、
その結果、俺の命は助かり彼女は転校と言う形で世界から姿を消した。はずだったのだが・・・
今回渡された参加者名簿には、何故かその朝倉の名がしっかりと書き記されていたのだった。
今まで保留にしていたが・・・やはり、考えないわけにもいかないだろう。
俺は名簿にあった彼女の名前を思い返しながら、考えを纏めることにした。

まずは、ここにいる朝倉涼子が同姓同名の別人だという可能性を考えてみよう。
この場合は『朝倉涼子』に対して警戒する必要はない・・・それ以前に彼女の顔も知らない事になる。
だがしかし、彼女の名前は朝比奈さんと鶴屋さんの間に挟まれて存在している。
俺の知り合いが順番に並んでいるのを見る限り、彼女は俺の知っている人物である可能性が高い。
よって、この仮説は却下してもいいだろう。
つまり、ここにいるのは俺のよく知る朝倉だと言う事になる。
そして俺のよく知る朝倉涼子だとすれば、俺の命を狙っている可能性が高いという事になり・・・
要は頭痛の種が一つ増えただけじゃないか。思わず頭を抱えてうずくまりたくなったぞ。

まあいい、とりあえずトウカさんに朝倉に警戒する旨を容姿とかと一緒に伝えて・・・
「な、な、なぁ〜」
などと考えていると俺の近くで水音と声が聞こえた。
顔を上げると、トウカさんがなにやら慌てた様子で走り出そうとしていた。
それを押し止めながら何事かと尋ねると、少し目を潤ませながら彼女は言った。
「きょ、キョン殿!某の荷が!」
刀とうさぎを抱えながら必死で指し示す先には・・・川面を上下する黒い物体。
慌てて刀を引ったくり、俺たちは二人でディバッグを追いかけ始めた。
259洗濯⇔選択2/3 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/16(土) 02:52:27 ID:CbGDNpa2
「某としたことが・・・申し訳ない」
それから数十分後、俺は項垂れて謝るトウカさんに事情を聞いていた。
説明によると、川の水が飲めることを確認した彼女は、
水の減ったペットボトルを取り出して水を補給しようとしていたらしい。
そして、ペットボトルを手に屈み水を補給しようとしたとき悲劇は起こった。
開けっ放しの鞄からうさぎ人形が川に落ち、慌てて拾おうと邪魔な鞄を地面に降ろしておいたら、
今度は人形を拾う際に足元の鞄を蹴落としてしまったらしい。
たしかに・・・彼女の手元にあるうさぎは、頭の部分がずぶ濡れになっている。
そして引き上げたディバッグは・・・防水加工なのか、中身は無事なものの表面は濡れ鼠の状態だった。
ものすごく悲惨な状況である。とりあえず、中身は濡れてないとトウカさんを慰める事にする。

「トウカさん、あの・・・」
「キョン殿、あれを」
しかし、俺の慰めの言葉は彼女の鋭い声に遮られる。
トウカさんが指し示す方向―川の対岸に目をやると、遠くの空が赤く染まっているのが見えた。
もちろん、夜明けにはまだ早い。ならあれは・・・何か、燃えているのか?
俺の疑問にトウカさんは真剣な眼差しで頷く。
多分、障害物に隠れていたのが川沿いに移動したことで見えるようになったんだろう。
・・・これは怪我の功名と言うべきなのか?
「さて、どうされるキョン殿」
突如ふられた問いかけに思考を中断する。
どうする・・・つまり、火事が起こっている場所に行くか否か。
普通に考えると、あそこには火災を起こした原因があるわけであり、
そんな場所に近づくのは危険きわまりないだろう。だがしかし・・・
「・・・おそらく、燃えているのはこの辺りだと思うのだが」
いつの間にか広げられた地図。その一点をトウカさんが指差す。
そこには赤い点と図書館の一文字があった。
その施設の名称にいやがおうにも一人の少女の名が思い浮かぶ・・・まさかとは思うが・・・

「・・・・・・行きましょう」
数分の間、悩みに悩み抜いたあと・・・俺の出した一声に、トウカさん無言でこくりと頷いた。
「では、行くとしようかキョン殿」
頼もしさを感じさる言葉に俺も頷く。
鞄を小脇に抱えた彼女を先頭に、遠くに見える橋へ向かって歩き出す。
濡れた鞄の口からは、同じく、ずぶ濡れになったうさぎの頭がのぞいていた。


・・・やっぱり前言は撤回しておこう。
260洗濯⇔選択3/3 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/16(土) 02:53:21 ID:CbGDNpa2
【B-3川沿い 初日 黎明】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:軽度の疲労(精神面含め)、顔面に軽傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、わすれろ草@ドラえもん、けんかてぶくろ@ドラえもん
[思考・状況]
 1:火災現場(C-3図書館)に向かう
 2:トウカと共に仲間の捜索
 3:ハルヒ達との合流
 4:朝倉涼子には一応、警戒する
 基本:殺し合いをする気はない

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
     なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん
[思考・状況]
 1:火災現場(C-3図書館)に向かう
 1:キョンと共に仲間の捜索
 2:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
 3:ハクオロ等との合流
 基本:無用な殺生はしない
※鞄となぐられうさぎの頭が濡れています。
261「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:31:50 ID:IpCuORTu
 指し示された方角をいくら捜そうとも、捜し人は見つからない。
 陽気な道化師の手の平で踊らされていることにも気づかず、カズマは一人、声を張り上げる。

「――どこだァー! かなみぃーッ!!」

 この世界の何処かにいる――知るには遅すぎた――少女の名を呼び、北へ、東へ、西へ、南へ。
 鶴屋が教えた方角が無意味になるほどがむしゃらに歩き続け、今は何処のエリアとも知れぬ森の中にいた。

「カズマさん! そんな闇雲な捜し方じゃ、見つかるものも見つからないですよ!」
「うるせェ! ならテメェはなんかいい方法でも持ってんのか!? ねぇだろ!? だったら邪魔すんな!」

 疾走するカズマの後を追って、必死に喰らいついていくなのは。
 無謀ともいえるカズマの行動に注意を促すも、協調性皆無、唯我独尊を信条とする彼には、全ての言葉が無用の長物だった。

 行き先を定められない二人の迷い人が、次なる指針を掴み取ったのは、朝焼けで辺りが照らし出された頃。
 それまでは静かに佇んでいた森の中で、突如として聞こえてきた銃声が――焦るカズマの心をさらに駆り立てた。


 ◇ ◇ ◇


「おい、いったいどこまで歩き続けるつもりだよ」

 右肩のタトゥーと腿の付け根の辺りで切れたデニムのホットパンツ、そして何より凶悪な目付きを、他者と間違えようのない目印とする女――レヴィは、同行者である眼鏡の少年に悪態を付く。

「この地図の南東に位置する森……エリアでいえばF-8と書かれている場所ですよ」

 眼鏡の少年――ゲイナー・サンガは支給された地図を広げながら、自身の脳にインプットしたデータとその内容を照らし合わせる。
 コンパスを駆使し、方角を再確認。歩を進める先は、間違いなくF-8エリア。ゲイナーの記憶に狂いはない。

「あぁ!? なんだコリャ、端っこも端、地図ギリギリのところじゃねぇか。こんなところ行ってどうすんだよ」

 レヴィはゲイナーが広げていた地図を覗き込み、彼の示した指針にイチャモンをつける。
 そもそも、レヴィがゲイナーと行動をしている目的はただの二つだけ。

 その一、彼の所持している銃の強奪。
 その二、初遭遇時、駅で起こった一連の騒動の仕返しをしてやりたい。

 一瞬の内に地図と名簿の内容を暗記するその能力……ロックのように、磨けば役に立つ原石かとも思ったが、組んでいれば利用できるとも思ったが、

「こういうゲームのセオリーですよ。中心部には一番人が集まりやすい。それも人数が多い序盤は特にね」

 数時間共に歩いて分かった。このゲイナーという糞ガキは、つくづく『気に入らない』。
 内向的な性格、頭を駆使したその能力、やたらと理論的なところまで……あらゆるところでロックと特徴が酷似しているのだが、何かが違う。
 それが何か分からないから無性に腹が立つのかも知れないが、とにかく気に入らない。
 ひょっとしたら、レヴィはロックに初めて出合った時の、あの頃の感情をゲイナーに抱いているのかもしれない。
 ダッチは、『ホイットマン熱(フィーバー)』とか呼んでいたか。新しい仲間と反りが合わせられず、イラつきを覚え、執拗に銃を乱射したくなる一種の悪い癖。
 もっとも、ゲイナーは仕事仲間でもなんでもないのだが。やっぱり、ただ単純に気にいらないだけなのだろう。
262「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:32:40 ID:IpCuORTu
「ハッ、つまりは人殺しが怖ェーから隅っこに隠れてじっとしてようって魂胆か。とんだチキン野郎だな。テメェそれでもタマついてんのか?」
「少なくとも、昼頃までは周辺の森で待機するつもりです。暗い内は襲撃者に襲われる可能性が高いし、協力者を見つけるにしても、明るい日中の方がいいですから」

 噛み合わない――恐れ知らずなことに、意図的に噛み合わなくさせているのだろう――会話を続けながら、ゲイナーとレヴィは進む。
 レヴィはゲイナーに対するイラつきを増大させながら、ゲイナーはそんなレヴィに主導権を握らせないよう平常心を貫きながら。

「止まりな、糞ガキ」

 ――レヴィが逸早く異変に気づき、先を行くゲイナーにストップをかけた。

「本気で名前覚えられないんですか? 糞ガキじゃなくてゲイナーです」
「……オーケイ、ゲイナー。今までのことは一旦忘れ、クールになってあたしの話を聞きな。……何か、異臭を感じないか?」

 真剣な面持ちで問うレヴィだったが、ゲイナーはこれをどう受けとめたのか、これまでと変わらぬ顔で「何も」と答えた。
 職業柄、猟犬並に発達してしまったレヴィの嗅覚が異常なのか。それとも温室育ちの引きこもり(レヴィのイメージ)であるゲイナーが正常すぎるだけか。
 レヴィは、はぁ〜、と溜め息を吐き、己の嗅覚が導く場所へと脚を運んだ。

 その先に、少女の死体があった。

「え……?」

 レヴィの後を追いかけ、ゲイナーもそれを発見した。
 薄暗い森の中、若干の木の葉に身を隠された少女の遺体。
 もう二度と起き上がることのないその身体は、ゲイナーの心を激しく揺さぶった。

「誰が……こんな!」

 衝撃、悲痛、激昂――順序良く変動していくゲイナーの感情は、実に人間らしいとレヴィは思った。
 だからこそ、この場には向かない。このクソッタレなゲームに、こいつは向いていない。

 項垂れ愕然とするゲイナーを尻目に、レヴィは一人、少女の死体に歩み寄る。

(首筋を刃物で一閃……頚動脈からは僅かにズレてる……こりゃ素人の仕業だな。なんか役立ちそうなモンは……クソッ、やっぱ持ち去ってやがる)

 放置されていた少女のデイパックを探るが、出てくるのはコンパスや地図といった馴染みの道具ばかり。
 支給武器や食料、水などのサバイバル用品は全て品切れ(ソールド・アウト)。抜き取られた後だった。
 チッ、と舌打ちをするレヴィの様子を見やり、ゲイナーは顔を顰める。

「なにを……しているんですか?」
「あ? なにって、役に立ちそうなモンが残ってないか確認してンじゃねェか」
263「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:33:30 ID:IpCuORTu
 さも当然のように死体漁りをするレヴィに、ゲイナーは今まで溜め込んできたストレスを、怒りという形で爆発させた。
「人が……こんな小さな女の子が死んでいるっていうのに、あんたってヤツは……!」
 レヴィの胸ぐらを掴み取り、ほとんど感情に任せて、声を張り上げた。
「それが、大人のやることかよ!」
 ゲイナーはレヴィに対する不満をこの一言に充填させ、クソッタレな彼女の姿勢を修正してやろうとさらに掴み寄るが……

「――ウ!?」

 ――至近距離、射程範囲に入った際、ゲイナーの股間は、レヴィの膝によって潰された。
 崩れ落ちるようにへタレ込むゲイナーを見下ろし、レヴィは悠然とした構えでハッ、と嘲笑った。

「ロック以上にアマちゃんだなテメェは。今自分が何やってるのか理解できてるか? 温室育ちのぼっちゃんのお遊戯じゃねぇんだよ」

 睨みを利かせ、力なく悶えるゲイナー押し倒す。
 そのまま騎乗するように跨り、マウントポジションの体勢を取った。

「殺し合いに仲間はいねェ。信頼できねェヤツはみんな敵だ。それとも、テメェはこのガキの養父か何かか?
 知らねェヤツの死に悲しまないで何が悪い。自分が生き残る確率を上げるために死体漁って何が悪い。
 これはテメェの言うところのゲームのセオリーじゃねェのか? あン?」

 身動きの取れなくなったゲイナーからイングラムM10サブマシンガンを没収し、その銃口を少年の口内に捻じ込んだ。

「ムガガ!?」
「分からねぇなら分からせてやろうか? 裏の世界の常識ってヤツをよ」

 ――職業柄、人が死ぬところは嫌というほど見てきた。
 大人も子供も、男も女も。自らの手で殺したこともあるし、敵の手にかかって死んだ他人も腐るほどいた。
 馬鹿な話だが、もし誰かの死に目に会う度に1セント貰っていたとしたら、レヴィは今頃大金持ちになっていることだろう。
 何も感じないといえば嘘になる。人間らしい感情を完全に排除したつもりはない。
 だからといって場の状況も考えず感情に流されるような愚行は、バカ正直なアマちゃんがやることだ。

「BANG」

 怯えるゲイナーを弄ぶかのように、レヴィは、ふざけた口調と共に引き金を引いた。


 ◇ ◇ ◇


 銃声が鳴った。
 銃声を聞いた。
264「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:34:57 ID:IpCuORTu
 あっちだ、あっちの方角。

 どういうことだ。
 あの女の言っていたのとまるで反対の方向じゃねーか。
 違ってたらぶっ飛ばす……いや、今はあの女のことは後だ後。

 銃声が鳴ったってことは、そこに銃を持ったヤツがいるってことだ。
 人を簡単に殺せる道具を持ったヤツが。

 クソッ、暗くて足元がよく分からねぇ。
 空はもう明るくなってきてるってのに、薄気味ワリィ森だぜ。

「――――」

 ま、その分雑音は少なくて助かるがな。
 微かに聞こえた人の声は、あっちの方か。

 待ってろよ。誰かは知らねぇが――――


 そこで、カズマの思考は停止した。
 とうとう発見してしまった、少女の死体が原因で。


 ◇ ◇ ◇


「……他人の死に方は他人の死に方だ。考えたところで屁の役にも立たねぇさ、ゲイナー。損のねぇことだけ考えな」

 ――教育終了。
 レヴィは空へ翳していたイングラムの銃口を下ろし、未だ震えた状態のゲイナーを嘲笑った。

「でもま、小便漏らさなかっただけ上出来だぜ、ゲイナー。ただの陰湿ネクラ野郎かとも思ったが、案外肝が据わってんじゃねェか」
「……あなただけが場慣れしていると思わないでくださいよ。僕だって、それなりの修羅場は潜ってきたんだ。相手に撃つ気があるのかないのかくらい、簡単に分かる」

 寸前の仕打ちなどまるでに意に介さず、ゲイナーは堂々すぎる態度で、狂犬に食って掛かる。

「あン? テメェ、そりゃあたしに撃つ度胸がねぇとでも言いたいのか? 今どっちが優勢か、分かんねぇワケじゃねぇだろ?」

 ゲイナーが挑発してみせると、レヴィは即座に怒りを表す。ほとんど条件反射みたいなものだった。
 倒れたままのゲイナーの額に再度銃口を押しつけ、グリグリと甚振る。
 レヴィのいじめっ子のような陰険な仕打ちにも、ゲイナーは屈しなかった。
 ゲームは主導権を握られたらそこで勝敗が決まる。大丈夫だ。どんなに挑発しようが、レヴィは自分を殺さない。
 これまでレヴィと行動を共にしてきたゲイナーは、彼女の心理的性格、怒りの沸点、凶悪性の度合いなどを分析し、
『彼女がブチギレるボーダーライン』を的確に見極められるようになったのだ。
 こういった自己中心的な手合いと上手くやるには、弱みを見せることも重要だ。
 銃を簡単に奪われたことは失態だったが、彼女は乱射魔(アッパー・シューター)ではない。
 大丈夫。現状を維持していけば、きっと彼女とも信頼関係が築ける……あくまでも、もっと利口で頼りがいのある仲間ができるまでの繋ぎだが。
265「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:36:09 ID:IpCuORTu
「おい」

 唐突に、声を掛けられた。
 横に振り向くと、気づかぬ内に――ゲイナーのことで頭に血が上っていたからだろう――現れていた、一人の男性の姿が。
 その時のレヴィの体勢といえば、ゲイナーの上に馬乗りになり、額に銃を押し当てるという、完璧な悪人スタイル。

(ヤベッ、勘違いされちまったか)
 信じられないといった形相でレヴィの顔を見やる男の表情は、顔面蒼白。
 この世の終わりを見てしまったかのような、そんな絶望的な雰囲気さえ漂わせていた。
(オイオイ、あたしの顔がそんなにおっかねェってのかよ……まぁ、言い訳できるような状態じゃねェけどよ)
 男の底知れぬ驚愕顔に、レヴィは不安感を募らせる。
 ただでさえ見た目からしてイメージが良くない彼女、殺し合いに乗った殺戮者(マーダー)として扱われるのも止むなしと思われた。

 しかし妙だ。いきなり姿を見せてきた男は逃げるでも襲うでもなく、「おい」と一声かけたまま立ち尽くしているだけ。
 レヴィの行いを見て足元が竦んでしまったのか。それほど臆病者には見えないが。


「かなみは、死んでるのか?」


 男が発したその一言で、全てに合点がいった。
 レヴィは自分の真後ろを見やる。そこには先程漁っていた少女の死体が一つ。
 なるほど。男の言葉から察するに、この少女の名はかなみ。そして少なからず、ショックを受ける程度にはこの男の知り合いのようだ。

「答えろ。かなみは、死んでるのか?」
「ああ? んなもん見りゃ分かんだろうが。首を掻っ切られてほとんど即死だよ――」

 ウザったい。正直、レヴィは男に対してそんな印象を抱いていた。
 唐突に現れて、どう見ても死んでいる少女の生死を執拗に聞いてくる。
 お前には流れ出ている血が見えないのか。周囲に散布している真っ赤な木の葉が見えないのか。
 そういった意味を込めて、レヴィ普段どおりの悪態をついた。


 その行動が全ての引き金だった。


「――――うお」

 一瞬、一秒よりももっと短い刹那の時間。
 ありとあらゆる音が止み、空気が消失したかのような静けさを見せた。
 そして、
266「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:38:09 ID:IpCuORTu
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 その男――カズマの魂の叫びが、その場にいた全ての存在を揺るがした。
 咆哮が上がる中、カズマの周囲に聳えていた木の一部分が突如、抉り取られるかのように消失。
 原子レベルで分解された物質はカズマの右腕に収束し、腕全体を覆う篭手のようなものに再構築される。

 アルター能力『シェルブリット』第一形態。

 殴る、という極めて単純明快な一動作を破壊兵器並みの威力に昇華させる、カズマの超攻撃的精神の表れだった。

「テメェだけはァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 新しく形成された右腕を大地に叩き付け、生まれた衝撃で空高く飛びあがるカズマ。

「絶対にィィィィィィィィィ!!! 許さねェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

 森を突きぬけ、昇り始めたばかりの太陽に接近せんばかりの勢いを見せ付ける。
 高く、高く、もっと、もっと高く。

「衝撃のォォォォォォォォォォォォォォ――」

 上昇し切ったカズマが次に目指す先は、地面。
 かなみの死体のすぐ傍で銃を構え、今にも眼鏡の少年を撃ち殺そうとしていた――レヴィ目掛けて。
 拳を、振るう。

「――ファーストブリットォォォォォォォォォォォォッッ!!」

 その瞬間、レヴィは大砲の弾でも飛んできたものだと錯覚した。
 弾丸とほぼ変わらぬ速度、それでいて弾丸を優に越える体積。例えるならばミサイルか。
 あまりの超常的な出来事に、それが『ただのパンチ』であることにも気づけず、もしくは認めることもできず。
 納得がいかないまま、レヴィは反射的に身をかわすことしかできなかった。

 原爆でも落とされたかのような轟音が鳴り響き、数本の木が薙ぎ倒された。
 カズマが放った『衝撃のファーストブリット』は標的を外し、代わりに大地を叩いた反動で土埃を巻き上げる。
 それが煙幕となり、レヴィ――とあの瞬間彼女に掴まれてどうにか攻撃を回避したゲイナー――はカズマの目から逃れることに成功した。
267「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:38:59 ID:IpCuORTu
「Fuck it all! なんだってんだあのバケモノ野郎は!? 腕に爆薬でも仕込んでんのか!?」

 ゲイナーから取り戻したばかりのイングラムを構え、レヴィはすぐさま臨戦態勢を取った。
 とりあえず、相手が好戦的かつ超弩級の破壊力を保持していることは分かった。その上で、どう戦いどう勝つかを懸命に模索し始める。
 愛銃ソード・カトラスは不所持の上、『二挺拳銃(トゥーハンド)』の名で知られるレヴィも、手持ちの銃は一丁のみ。
 加えてダッチやロックのような有能なサポート役は居らず、強いて言うならお荷物になるようなゲイナーが付きまとうだけ。
 反吐が出るほど最悪な事態だ。危ない橋を通り越して、橋の掛かってない急流の上を紐なしバンジーしろと言われている気分にさえなった。

「レ、レヴィさん! 銃をしまってください! こっちが好戦的な態度を取ったら、相手がますます誤解しますよ!」
「ああ!? 今さら何言ってんだ。あいつァあたし達を殺す気で来てるんだぜ? まさか、話し合って平和的解決を〜とかなんとか言い出すつもりじゃねェよな」
「その通りですよ! あの人、あの女の子の死体を見て、名前を呼んでいたでしょう!? きっとあの人は知り合いかなんかで、僕たちがあの子を殺したって誤解しているんですよ!」

 だから――そう口を紡ごうとしたゲイナーの口内に、レヴィは無理やり銃口を押し込んだ。

「モガッ!?」
「だから――事情を説明して和解しようってか? バカかテメェは。向こうは殺る覚悟で来てんだぜ。
 マフィアにガキが立ちション引っ掛けて許してもらえるとでも思ってんのか? 理由なんて関係ねぇ。
 殺られる前に殺る。殺し合いだとかゲームのセオリーだとかじゃなく、こりゃ生きていく上での常識だろうが」

 眉を顰めながらも沈着冷静(クール・アズ・キューク)に発言するレヴィの感情は、最早爆発寸前のところまできていた。
 ゲイナーのあまりにも甘い考えもそうだが、報酬もなしに人を殺せというこのゲームの趣旨自体に、レヴィは憤りを感じている。
 これは、その憤慨をウサ晴らすいい機会じゃないか?――そう思い立ったのも、銃を構えた一つの理由だろうか。

(そうだ……このレベッカ様にタダで殺しをさせるってことがどういうことか、あの変態仮面野郎に思い知らせてやろうじゃねェか)

 ここで人を殺したって一銭の価値にもならない……だが、ムカツクやつをブッ殺してスカッとするくらいの報酬は、貰ってもいいような気がした。
 そういう点では、こういった勘違いヤローはカモといえるかもしれない。

 レヴィはゲイナーの口内からイングラムの銃口を取り出し、来るべき敵へと矛先を変える。

「さぁボウヤ、素敵な素敵な血祭り(ブラッド・パーティー)の始まりだ。せいぜい上手にダンスを踊ってくれよ」

 土色の煙幕の先にいる敵に向かって、レヴィはご機嫌な謳い文句を言ってのける。もちろん、銃を構えながら。
 幾つかの木々、土と落ち葉による粉塵、レヴィとカズマを遮る隔ては徐々に薄れていき、決戦の時を迎える。
 先手を撃ったのは、カズマだった。
268「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:40:32 ID:IpCuORTu
「撃滅の――――セカンドブリットォォォォォォォォォ!!!」

 煌く輝きの粒子は虹のような鮮やかさを放ち、暗黒を照らす。
 そして爆発する、推進力。
 右拳を振るいながら突進してくるカズマをイングラムの銃撃で牽制しつつ、レヴィはギリギリで攻撃を避けるタイミングを見極める。
 身を翻し、宙を舞う。レヴィが空中で一回点、二回転する頃には、『撃滅のセカンドブリット』によって無関係の木が殴り倒されていた。
 たかがパンチ一発。たかがパンチ一発で、木が粉砕されたのだ。

(ヒュー! なんつー馬鹿げた威力だ。ありゃ一発でも当たりゃ終わりだな。M2爆竹でイワシの缶詰を吹っ飛ばすみたいに、木っ端微塵になっちまう)

 口笛を吹きつつ、余裕で相手を称賛してみせるレヴィ。カズマの一撃の破壊力は確かに脅威だが、対処法がゼロというわけではない。
 ようはミサイルだ。ミサイルと戦っていると思えばいい。
 一発当たればそこでゲームオーバー。だがその一発が当たらなければ、相手の勝ちはない。
 ミサイルがブチ当たる前に、こっちがぶっ壊してやればそれでゲームセット。極めて単純、それでいて面白み十分の派手なゲームだった。

「下手な小細工や鍔迫り合いは好きじゃねェ。やるんなら、ソッコーで行かせてもらうゼッ!!」

 パララララ……という銃声が止め処なく流れ、弾丸の全てはカズマを仕留めんと襲い掛かる。
 しかしここは、森林地帯のド真ん中。何本も聳えた木々は攻撃を遮るバリケードとして機能し、カズマを銃弾の雨から守る。
 レヴィお得意の二挺拳銃ならば、もっと戦略の立てようがあったかもしれない。

「クソッ! 木が邪魔クセェ!」

 サブマシンガン一丁でも十分に強力といえたが、プロのガンマンであるレヴィはただ武器が高性能なだけでは満足しない。
 カズマの身体能力もさることながら、視界と射程を狭める樹木郡が邪魔なことこの上ない。
 このまま遠方から撃ち続けても埒が明かない。ならば話は簡単。もっと近づいて撃てばいい。
 同時に、それはカズマの得意な近接格闘の間合いに踏み込むことにもなる。
 それを承知しながら、レヴィは、レヴィという人間はどう選択するか。
 彼女を知る者なら、誰もが正解を言い当てることだろう――

「――GO! GO!! GO!!!」

 カズマ目掛けて、銃を乱射しながら突進する。
 対してカズマは、向かってくるレヴィ、飛びかかってくる銃弾を歯牙にもかけず、今一度渾身の一撃を叩き込もうと力を溜める。

 カズマのアルターが形成する篭手――その肩の部分に装着されていた羽が、一撃一撃拳を放つたび減っているのに、レヴィは気づかなかった。
『衝撃のファーストブリット』の際に一枚。『撃滅のセカンドブリット』の際に一枚。そして羽は、もう一枚残っている。
 即ち、それがどういうことか。

「抹殺の――――」

 右拳を、振り上げる。
 大切な存在をぶち壊した、糞ムカツク存在に反逆するため。
269「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:41:43 ID:IpCuORTu
「――ラストブリットォォォォォォォォォォォォッッッ!!!」

 ミサイルが、発射された。
 そうとしか思えない爆発的な推進力は、一直線にレヴィを狙う。
 邪魔する障害物は全て薙ぎ倒し、粉砕し、撃破し、ブッ潰す。
 その先には、反逆するべき敵が銃を構え、こちらを殺そうと画策している。
 小賢しい。全部殴って、終いにする。
 答えは至ってシンプルだった。

 レヴィの放った弾丸は、その全てが無駄になっていた。
 接近したことで狙いは付けやすくなったが、相手も超スピードで近づいてきているせいか、射撃の精度に誤差が見られる。
 しかし、それでも『二挺拳銃(トゥーハンド)』で知られるレヴィの腕は尋常ではない。
 何発かは的確にカズマを捉え、その身体を蜂の巣にしようと迫るのだが、

(……な、にィ!?)

 カズマを捉えた銃弾は、その『拳』によって撃ち弾かれた。
 イングラムの銃弾は、決して安物ではない。相手のガントレットがいかに丈夫といえど、無傷であるはずがない。
 ましてや、『拳』で『銃弾』を打ち払うなど――

(って、文句言ってる暇はねェェ!!)

 カズマとレヴィの位置が交差するその刹那――レヴィはギリギリ、コンマ一秒でも遅れれば破砕されていたであろうタイミングで、跳んだ。
『抹殺のラストブリット』は、レヴィがいた位置を通り過ぎ――そして、突き抜ける。
 チキンレースでもしたかのような感覚が、疲労感として襲ってきた。
 一応は攻撃回避に成功したレヴィは舌打ちし、身体を捻って着地するための体勢を整える。
 その間際、不幸は再来を告げた。

「――――ッ!」

 声にならない衝撃が、レヴィを襲った。
 何が起こった――疑問符を浮かべて己の身体を見下ろす最中、無様に地へ落下するところで理解する。
 木片だ。カズマが薙ぎ倒し、粉砕した木の一部分が、レヴィの鳩尾に深く減り込んでいた。
 息が苦しい。不意に喰らってしまった不幸な被弾で肺を圧迫され、レヴィは一時的だが呼吸困難に陥った。

(が、っは……クッソ、気持ちワリィ……バカルディを三日三晩飲み明かした時くらいの胸糞の悪さだ……うぉ、吐きてぇ)

 銃を持つ手に力が入らない。視界がぼやけてくる。
 満足に身体を動かすことが出来ず、レヴィはその場で蹲った。
 そうしている間にも、人間離れした闘争者は勘違いを続けている。
270「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:42:36 ID:IpCuORTu
「まだだ! まだ終わらねぇ!」

『衝撃のファーストブリット』、『撃滅のセカンドブリット』、『抹殺のラストブリット』。
 三種の拳を撃ち放ち、カズマのアルターは弾切れ、一時の消失を見せていた。
 しかし、アルターの再構成はジャムった銃の弾をリロードするよりよっぽど容易い。
 カズマの周辺に散らばっていた木片が即座に分解され、新たなアルターを構成するためのエネルギーとして働く。

「もっとだ! もっと、もっと、もっと! もっと、輝けえェェェェェェ!!!」

 先程の篭手とは細部で違う形状――カズマのアルター『シェルブリット』の第二形態が、その姿を見せた。
 数多の修羅場を掻い潜ってきた故のカンか、レヴィはそれが、さっきよりもずっとヤバイもの――という正しい認識を感じ取っていた。
 だが、痛みのせいで対処が追いつかない。逃げるにも、迎え撃つにも、今のレヴィでは身体機能が不足しすぎている。

 単純に考えて、窮地。
 生きるか死ぬかの瀬戸際、だというのに。
 レヴィは、笑っていた。

(弾丸を拳で弾いて、本人は怪我一つしてねぇ。素手で森林破壊するようなバケモンなんて、ゴジラも真っ青の生体兵器だぜ。
 …………『いいネ』。『天までイカしてる』。『最高だ』)

 口には出さないが、レヴィの思考の節々には狂気を逸脱した不気味さが蔓延しているようだった。
 このピンチを楽しむかのように。めぐり合えた強敵を歓迎するかのように。
 クレイジーすぎる考えは身体を強引に動かし、戦意を奮い立たせる。

(――ダッチも姐御も、張の旦那や他の連中も――――ロアナプラに吹き溜ってる連中は、どいつも皆、くたばり損ないだ。
 墓石の下で虫に食われてる連中と違うところがあるとすりゃ、たった一つ。
 生きるの死ぬのは大した問題じゃねぇ。こだわるべきは、地べた這ってくたばることを、許せるか許せねェか、だ)

『シェルブリット』の輝きが、苦痛に歪むレヴィの素顔を照らす。
 苦しいはず――なのに、表情は、やはり笑っていた。

(生きるのに執着する奴ァ怯えが出る、目が曇る。そんなものがハナからなけりゃな、地の果てまでも闘えるんだ)

 弱肉強食の四文字を掲げた生存競争――それこそがレヴィの暮らす世界であり、また、この殺し合いゲームの本質なのだ。

 ならば、死ぬ気で闘った方が勝つ。

 だから、立つ。
271「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:43:56 ID:IpCuORTu
「やめてェェェェ!」

 カズマが突っ込み、レヴィが立ち上がる――そう思われた矢先、小さな乱入者は無防備な状態でやって来た。
 タックルするかのような勢いでカズマに抱きかかり、ひしっと拘束するツインテールの女の子。
 見たところ年齢は10歳かそこら、まだ女にもなり切れていない未成熟のガキンチョが、カズマとレヴィの死闘を中断させたのだ。

「もうやめてよカズマさん! この人は違う! たぶんこの人じゃない! だからもう、喧嘩するのはやめて!」
「うるせェ! その声で……その声で俺の名前を呼ぶんじゃねェェッ!!」

 カズマはツインテールの少女――なのはを振り払おうと身体を捻らせるが、ガッチリと固定されたまま少女は手を放そうとしない。
 もしかしたらだが。カズマも無意識の内に、込める力を弱めてしまっているのかもしれない。
 この声が、カズマと呼ぶその声が。

「似てんだよッ! お前の声はそこで……死んでるかなみとッ! イラつくくらいソックリで……なんでテメェはかなみと同じ声してんだよ!」

 理不尽な疑問を投げつけ、カズマは激昂した。
 それでも、なのははカズマを離さない。このまま解き放ってしまったら、きっとみんなが悲しむ結果になる。それが、分かっていたから。

(……ハッ)

 茶番(ファルス)だ。少女に抑制されるカズマを見て、レヴィはそう思った。

(てっきり妹かなんかが死んで怒ってんのかと思ったら、ただのロリータ・コンプレックスかよ。救えねぇ、救えねぇよテメェ)

 銃を構え直し、カズマを狙う。
 容赦する必要はない。むしろ、これはチャンスでもある。
 銃を向けた相手に命乞いして生かしてもらえるほど、この世界は甘くない。
 その点では、元の世界もこの殺し合いの仮想空間も、等しく同じだった。

「アバヨ」

 凶悪な目つきをギラつかせ、レヴィは、躊躇なく引き金を引いた――――
272「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:47:10 ID:IpCuORTu

 ゴッチ〜ン☆


「がっ!?」

 ――かに思われた。が、そうはいかなかった。
 いつの間にかレヴィの背後に潜んでいたゲイナーが、そうさせなかったのだ。

「ゲイ、ナ……て、めぇ…………」
「あんたはもう少し冷静になって、人の話をちゃんと聞いたらどうなんだ。馬鹿みたいに銃撃って物事が片付くと思ったら、大間違いだぞ」

 手に少しだけ割れた酒瓶を握り、ゲイナーが息を切らしながら言う。
 おそらく、これでレヴィの後頭部を殴りつけたのだろう。致命傷にならいようほどほどの力を込めて。
 
 ――銃じゃ、解決しないこともあるんだぜ。

 意識が遠のく間際、不意に、ゲイナーとロックの言葉が重なったような――そんな錯覚を覚えた。不愉快極まりないことだが。
「覚えて、や、が、れ……」
 小悪党の定番セリフを口にしながら、レヴィは静かに落ちていった。

 酒瓶から漏れたバカルディが、ピューと噴水のように注がれる。
 それを頭から仰いだレヴィは完全に沈黙し、ある種の騒動元がやっと退場していったことを示していた。

「二人ともよく聞いてください。僕たち二人は、あの女の子の死体をさっき見つけたばかりだ。
 誰かも知らないし、誰がやったかも知らない。ちなみに僕とレヴィさんは、互いに他の参加者とはまだ遭遇していない。
 僕の知り合いでゲイン・ビジョウっていう男性が一人参加してるけど、その人がやったとは到底思えないし、
 レヴィさんの知り合いについては分からないけど、とにかく僕たちに犯人の心当たりはない。
 凶器になりそうな刃物も所持していないし、唯一武器となり得るのはレヴィさんが持ってた銃、あとはたった今割ったばかりの酒瓶ぐらい――」

「もういい。黙れ」

 自らの身の潔白のため、そして何より保身のため、ゲイナーは自分達が持っている情報を洗い浚い証言する。
 そんなゲイナーのヤケクソ染みた弁解を聞いてか否か、カズマはレヴィでもゲイナーでもなく、力なく横たわる一人の少女に視線を向けた。

 その雰囲気を察したなのはは、自らカズマを覆っていた腕を緩める。
 解き放たれたカズマはフラフラと歩き、少女の遺体に近づく。

 首筋が紅く濡れている。ナイフか何かで裂かれたのだろう。
 手口から見ても、あの女の仕業でないことは明白だった。そんなことは分かってる。
 その血が、全てを物語っていたのだ。

 カズマが捜した、掛け替えのない大切な少女。
 由詫かなみは、他に感じようがないくらい、どうしようもなく、冷たくなっていた。

「…………ょう」

 嗚咽が漏れる。
 こんな時、なんて叫べば、どんな顔をすればいいのか、分からない。
 だから、自然に身を委ね、感情の赴くままに行動する。
273「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:48:19 ID:IpCuORTu
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 カズマは叫び、嘆いた。
 もうじき、彼女の死を知らせる正式な通告が流れる。


 ◇ ◇ ◇


 夢を、夢を見ていました。

 夢の中のあの人は、大きすぎる悲しみに、心の中で泣き続けていました。

 ああ、夢の中のあなた、わたしのあなた。

 あなたが、悲しみと正面から向き合えるのかどうか、今のわたしには想像もつかない。

 あなたの傍にいた女の子は、悲しみに潰れそうなあなたを見て、心細く思っているかもしれない。

 あなたが敵意を向けたあの女性は、どうしようもない怒りであなたを攻め立てるかもしれない。

 あの女性と一緒にいた彼は、あなたの悲しみに気づきながらも、何も出来ない自分に憤るかもしれない。

 わたしには、どうすることもできない。

 あなたを立ち上がらせることも、他のみんなを導くことも。

 わたしには、何もできない。

 例え、誰かが傷つき、倒れても。

 みんながみんな、ボロボロでした。
274「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:50:09 ID:IpCuORTu
【F-8・森林/1日目/早朝】

【カズマ@スクライド】
[状態]:軽度の疲労、激しい怒りと深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)・携帯電話(各施設の番号が登録済み)・支給品一式
[思考・状況]1:かなみを埋葬してやりたい。
      2:かなみを殺害した人物を突き止め、ブチ殺す(一応、レヴィとゲイナーが犯人でないことは認めたようだ)。
      3:君島の確保、クーガーとの接触。劉鳳? 知るか!
      4:ギガゾンビを完膚無きまでにボコる。邪魔する奴はぶっ飛ばす。

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:なし
[道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り22品)・支給品一式
[思考・状況]1:カズマが心配。
      2:カズマと一緒に知人探し。
      3:フェイト、はやて、シグナム、ヴィータの捜索。

【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:精神的に疲労
[装備]:イングラムM10サブマシンガン(レヴィから再び没収)、防寒服
[道具]:支給品一式、予備弾薬、バカルディ(ラム酒)2本@BLACK LAGOON、割れた酒瓶(凶器として使える)
[思考・状況]
1:カズマ、なのはと情報交換。
2:レヴィが暴走しないよう抑止力として働く。
3:もう少しまともな人と合流したい(この際ゲインでも可)。
4:さっさと帰りたい。
[備考]名簿と地図は暗記しました。

【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:気絶、軽度の疲労、腹部に軽傷、頭に大きなタンコブ、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
[装備]:ぬけ穴ライト@ドラえもん
[道具]:支給品一式、ロープ付き手錠@ルパン三世
[思考・状況]1:起きたらカズマに倍返し。手段は選ばない。というかブチ殺したいほどムカついている。
      2:もちろんゲイナーにも制裁を与える。
      3:ロックの捜索。
      4:気に入らない奴はブッ殺す。
[備考]まともに名簿も地図も見ていません。
   ロベルタの参加は確認しておらず、双子の名前は知りません。

※ほぼ放送直前の早朝頃、F-8の森林地帯にて戦闘音が鳴り響きました。何本か木が倒れています。
275名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/16(土) 23:50:20 ID:OK2/bicK
 \\  川   l|   || 川 l| | /
ミ三ミゞヽr、- ,r='ニ二ニニヽ、{ ||//   //
  __,、--y {´      ) },、,,彡  //! / /
二,-―'>--┤ヽ、____,..-' /ヽr‐==、//彡/
ミミヽ/   `ー 、____,..- '´``{ {  ヽ/
二=彡  r====ニ、ヽ、     ヽヽ   ヽ
三/   ´     } |     ;;;:,`、ヽ、__/
三         } }、    ;;;;;;;へヽ,=ノ
/l!|        `、\   ;;/ '`ソ
 `      ,-―‐-r`=ツ_.∠_´ ,/
         、{i)  `  /,q  !/、
   j     ` ̄ ´    '=' / /

http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1165749471/
276misapprehension ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/17(日) 00:07:47 ID:zcE+je0x
だだっ広い遊園地、北側のゲートに差し掛かったとき、緑色の髪を持つ青年、劉鳳は足を止めて振り返る。
振り返った先にあるのは煌びやかに彩られた遊園地、劉鳳の苛立ちを煽るような建造物の群れ。
人工の世界、虚構の楽園で、彼は何かの気配を感じた。
胸で燻る怒りをそのままに、劉鳳は耳を澄ませた。
無遠慮に飛び込んでくる耳障りな音楽に顔を顰めながらも、彼は音に意識を傾け続ける。
完成されたリズムに紛れ込んだノイズを探すように。それがどんなに小さくても逃さないように。
遊園地は音を鳴らし続けている。
まるで意思を持ち、劉鳳の邪魔をするかのようだった。
本当に、耳障りだ。
内心でそう吐き棄てた直後、劉鳳の耳はそれを捉えた。
それは石畳を叩く、乾いた音。とても微細な足音だ。
音楽に紛れ、その音は近づいてくる。
相手の出方を窺うため、劉鳳はそちらへと目を向けた。
すぐに絶影を呼び出しはしない。
先刻、怒りに任せて観覧車を破壊したとはいえ、彼は破壊者でも殺戮者ではないのだ。
劉鳳の目的は『悪』を処断し、断罪すること。
近づいてくる相手が『悪』だと断定できてから絶影を再構成しても遅くはない。
劉鳳のアルター、絶影は後手で出したとしても不利にならないほどの速度を持っているのだから。
やがて足音は、一定の距離を持って止まる。
一足では踏み込めない距離。だが絶影なら一瞬で埋められる距離が、劉鳳と足音の主との間に横たわる。
劉鳳の視線の先、足音の主が佇んでいる。
それは、赤を基調としたドレスを纏った人形だった。
メルヘンチックなその外見は、遊園地というこの場所によく似合っていた。
劉鳳は直感的に、アルターによって作り出されたものかと推測する。
だがその考えは、すぐに霧散した。
その人形が自分と同じデイバックを持っていて、細い首には自分と同じ首輪が嵌められていたからだ。
自分と同じ参加者である人形は右腕を構える。それを、劉鳳は臨戦体勢だと解釈した。
「……聞きたいことがあるのだわ。答えてもらえるかしら?」
人形――真紅は掌をこちらに向けたまま話しかけてくる。
劉鳳はすぐにでもアルターを再構成できるようにしながら、答えた。
「構えながら頼みごとをするのがお前の流儀か?」
「この状況下で、見知らぬ相手に隙を見せる馬鹿がいて?」
切り返してくる真紅。ガラス玉のような彼女の瞳には警戒の色が濃い。
少しの間を置き、劉鳳は腕を組んだ。
すぐに襲ってこない以上、ひとまずは問題ないだろうと判断しての行動だ。
「……いいだろう。俺に分かることなら答えよう」
劉鳳は相手の話に耳を傾けることにした。相手が『悪』なのかを見極めようとするために。
もし『悪』でないのなら、こちらに殺し合いの意思がないということを態度で示すために。
真紅はこくりと頷くと、小さな口から凛とした声を紡ぎ出す。
「私は薔薇乙女の第5ドール、真紅。おまえの名は?」
「対アルター特殊部隊HOLY所属、劉鳳だ」
「劉鳳。私のような人形、あるいは桜田ジュンという人間に心当たりはあって?」
貴族のような外見通りに話す真紅に、生意気な態度だと思いながらも劉鳳は応じる。
劉鳳に嘘をつく理由はない。だから彼は、自分の知っている通りに答えていく。
「いや、お前以外には誰とも会ってはいない」
「そう。それなら」
真紅は左手で彼女の後ろ、遊園地の中心部を指差す。
「観覧車を破壊した人物にも心当たりはないのね?」
劉鳳は真紅の後ろを一瞥し、ああ、と頷いてから。
「あれは――」
277misapprehension ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/17(日) 00:11:11 ID:zcE+je0x
◆◆

「俺がやったことだ」
あまりにも簡単に告げられた劉鳳の言葉。それを耳にした瞬間、劉鳳に向ける右手が強張った。
それだけではない。体中が緊張したように強張っていくのを、真紅は感じていた。
真紅は胸中で舌打ちをしながら、思う。
とんでもない相手と話をしていた、と。
正面の人間が、観覧車を簡単に破壊してしまうような相手だったとは。
あの破壊力は、支給品によるものとは思えない。
もしもそんな強力な武器を持っているなら、それをバックにしまっておくのは不自然なのだから。
武器を手にしていなくとも、油断はならない。
真紅は後悔しながらも警戒を強めていく。彼女は、劉鳳をこう認識し始めていた。

強い力を持ちながら、それを破壊に使うような人間、と。

危険な人物だと真紅は思う。
破壊の対象が、破壊の矛先が、他の人間や自分たちドールになってもおかしくはない。
歯噛みする真紅。だがその様子を意に介さず、劉鳳は何でもないかのように口を開く。
「どうした? 嘘は言っていないが?」
「……だから問題なのだわ」
劉鳳の自然さに、頭の中で警鐘を鳴らしながら、真紅は考える。
この人間を放っておくのは危険。
姉妹たちならともかく、もしもジュンがこの男と出会えば、出会ってしまえば。
おそらく赤子の手を捻るように、劉鳳はジュンを殺してしまう。
そんなことをさせてはならない。させたくない。
ならば、どうすればいい。戦って、倒しておくべきか。
真紅は思考しながら、劉鳳を見据える。彼は腕を組み、立ち尽くしたままで真紅へと視線を送っていた。
一度生まれた不信感は加速度的に広がっていき、真紅の心を支配していく。
構えもしない劉鳳に、真紅は顔を顰める。
劉鳳の態度は、余裕を見せているように映った。
話を聞き、質問に答えたのも、全て。
こちらに余裕を見せているように、真紅は感じ取った。
真紅は破壊された観覧車を思い出す。一瞬で鉄屑と化した観覧車のことを。
恐るべき破壊力に、真紅は背筋に悪寒を感じる。
勝てる気がしなかった。少なくとも、自分一人では敵いそうになかった。
渡るにはあまりにも無謀すぎる勝負の橋。
最後まで渡りきることができるかどうか、それすらも分からない橋。
だから真紅は、決断する。
強く強く、奥歯をぎゅっと噛み締めて。
自分の決断は最善だと、そう思いながら。
真紅は腕に力と意思を込める。すると、彼女を守るように薔薇の花弁が舞い始めた。
「待て! 俺は――」
劉鳳の声を最後まで待たず、無数の花弁が舞い上がった。
278misapprehension ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/17(日) 00:13:27 ID:zcE+je0x
◆◆

劉鳳が花弁を振り払ったとき、既に真紅の姿は消えていた。
彼は、迂闊だったと内心で自嘲する。
この遊園地に飛ばされたときから感じていた苛立ちが後押しをして、劉鳳は自分への怒りを感じていた。
八つ当たりをするように、劉鳳は右手で左の掌を叩く。ぱしん、という快音が、遊園地の音楽に飲み込まれていった。
劉鳳は、真紅を『悪』だと判断してはいなかった。
このような殺し合いの下では警戒するのは当然のことだし、責めるつもりもない。
ただ問題なのは、彼女が劉鳳にとって都合の悪い誤解をしている可能性が高いということだった。
『悪』を処断することに何の躊躇もない。また、宿敵と戦うことに躊躇いはない。
だが、それ以外の戦闘は極力避けたかった。無駄な戦闘で消耗するのは、劉鳳の望むところではない。
どれほどの『悪』が潜んでいるのか分からないのだから。
そのために、真紅を放っておくわけにはいかなかった。
誤った情報を彼女の仲間や他の誰かに広められる前に、再び真紅と接触したい。
相手は小さな人形だ。それほど遠くには行っていないだろう。
そう考えながら、劉鳳は再び遊園地の中へ戻っていく。
少しだけ、自分の迂闊さを呪いながら。

◆◆

ゲートの陰、物音を立てないように劉鳳の様子を窺っていた真紅は、彼の姿が見えなくなるまで身動き一つしなかった。
どうやら獲物を逃がしてイラついてるようだったが、上手く逃げ切れたようで胸を撫で下ろす。
花弁を具現化し、目くらましからの撤退。発見されるかどうかは賭けだった。
距離を取るだけでは確実に追いつかれる。だから真紅は小さな体を生かして隠れることを選んだ。
戦う前から逃亡するのは不本意だったが、犬死にするよりマシと真紅は自分に言い聞かせた。
アリスゲームを髣髴とさせる殺し合いを終わらせるために、死ぬわけにはいかない。
ゲートから出ると、真紅はもう一度遊園地内に目を向ける。
劉鳳の姿がないことを再確認してから、真紅は早足で、だが極力足音を立てないようにしてゲートを潜る。
この殺し合いに乗った者、劉鳳のような危険人物がどれだけいるのか分からない。
だから、急がなければならない。一人として、欠けないうちに。
「ジュン、みんな。無事でいて……!」
焦燥に駆られるようにして、真紅は遊園地を後にする。
突如降り始めた雨が、その身を濡らしても構うことなく。
279misapprehension ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/17(日) 00:15:27 ID:zcE+je0x
【F-5遊園地・1日目 黎明】
【劉鳳@スクライド】
[状態]:健康、『悪』に対する一時的な激昂、自分の迂闊さへの怒り
[装備]: なし
[道具]:支給品一式、斬鉄剣
[思考・状況]
1:真紅を捜し、誤解を解く
2:主催者、マーダーなどといった『悪』をこの手で断罪する
3:相手がゲームに乗っていないようなら保護する
4:カズマと決着をつける
5:必ず自分の正義を貫く


【E-5・1日目 黎明】
【真紅@ローゼンメイデン】
[状態]:健康、人間不信気味、焦り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはA's、くんくんの人形@ローゼンメイデン
[思考・状況]
1:劉鳳から逃げるように移動
2:自分の能力が『魔力』に通ずるものがあるかを確かめたい
基本:ジュンや姉妹達を捜し、対策を練る
備考:劉鳳を破壊嗜好のある危険人物と認識しています。
280死と少女と(1/5) ◆TIZOS1Jprc :2006/12/17(日) 00:56:32 ID:LfQ/dHg7
「うぐッ……。ヒック……」

いったいこの小さな少女のどこからそんな量の涙が出てくるのか。
そう思いたくなる程フェイトはずっと泣いていた。

『私の……せいだ……』

もう冷たくなって、死後硬直まで始まっているカルラの亡骸にすがり付いたまま。

『あの時フォトンランサーなんて撃たなければ!もっと早く誤解を解いてれば!
いや、せめてもっと周囲を警戒してればマーダーの接近に気付けてた!』

闇夜が白み始めているのにも気付かずに目を伏せたままずっとすすり泣いていた。
夜は、明ける。
そして暗い森の中にも光は射す。
不意に射し込んだ光に顔を上げると。

そこに奇妙な形をした巨大なクモがたたずんでいた。

     * * *

埋葬を終え行動を再開したタチコマは少し離れて線路沿いに進むことにした。
駅などの要衝を九課のメンバーが制圧していることを考慮したからだ。
そして途中でイーロク駅にたどり着いたものの。

「うわっ!タンマ!ストップ!のせてー!」

無情にも西へ向かう列車が丁度発車していた所だった。昭和時代の電車を模した自走列車がタチコマの目の前を通り過ぎる。
厚い装甲に阻まれ熱センサが届かず中の様子は確認できない。
線路にたどり着いた時にはもうずいぶんと距離が開けられていた。

「あーあ、行っちゃった。それにしてもスゴい列車だったなー。装甲列車なんて前時代的なモノ始めて見たよ」

タチコマの速さなら今からなら追い付くが、その場合イーロク駅の確認はできない。
追い付いても列車の中に侵入するのは一苦労しそうだ。
結局タチコマは列車を諦めてイーロク駅の調査を優先した。
ホーム、待合室、トイレ……は狭くて入れない。
階段、地下通路、機能していない改札、駅員区画、駅員用トイレ……やっぱり入れない。
ざっと調べた所、今駅の中に人は居ないようだ。
先程の列車に誰か乗り込んだかどうかは、もはや確認できない。
仕方なくホームに戻ってせめて時刻表を確認しておく。

「4:30発ってのがさっき出てったやつだね。4時間ごとの発車か……。で向こうの駅からの次の列車の到着は2時間後っと」
281死と少女と(2/5) ◆TIZOS1Jprc :2006/12/17(日) 01:01:03 ID:LfQ/dHg7
2時間何もせずこのまま駅に留まるのもアホらしい。九課のメンバーなら市街地に向かっただろうか。

「……でもこっから東の線路ってどうなってるんだろ?」

それにさっき北東の森の方でちらりと光が瞬いたのも気になる。戦闘の可能性。
仲間を探すための指針が全くない現状で頼りにすべきはその好奇心。
タチコマはそのまま線路沿いを東に突き進むことにした。



タチコマが市街地を抜けて森に入った時のことだった。

「あるうひ〜♪もりのなか〜♪くまさ……銃声?」

かすかだが北の方から銃声が聞こえた。音波の波形からするとおそらく12番ゲージを使用する型のショットガン。
銃声は一発切りでそれ以上は聞こえない。正面戦闘ならば複数回の発砲が聞こえる方が自然。接近戦にしか使えないショットガンでは狙撃も有り得ない。
ゲーム開始から5時間も経過して試し撃ちというのも考えづらいのでステルスマーダーによる騙し討ちが最も可能性が高い。ならば

「少なくとも顔は確認しとかないとね」

必要に応じて加害者の拘束、もしくは無力化を行わねばならない。
光学迷彩を作動させておく。
先程の戦闘によるダメージで光学迷彩の効果が著しく低下しているが、この薄暗さなら先に相手に発見される可能性は一段と低くなる。
彼本来の使命を遂行すべくタチコマは銃声の音源へと向かった。



途中にデイバッグらしき物を見掛けたが罠の可能性も考えて一旦無視。
そして、タチコマが現場に見た物は奇妙な形状に耳朶を改造した女の死体と、それにすがり付いて泣きじゃくる金髪の少女だった。

『えーーーーーーと』

この少女が死体の女を殺したのだろうか?
戦闘の跡らしき傷が彼女の所々に滲んでいる。
何にせよ先刻海を錯乱させて、挙句殺害されてしまった様な失態は繰り返してはならない。
あの時はパズの言う事を真に受けて必要以上に馴れ馴れしく接し、あらぬ誤解を受けてしまった。
こういう時はきっと一般的なロボットに対する先入観の通りに"ロボットらしく"行動すれば相手も安心するに違いない。
まず光学迷彩を消して姿を表す。突然表れた巨大な気配に金髪の少女が顔を上げた。

『さあ、ここからが勝負だ!コミュニケーションは言葉!今こそこの膨大な記憶野を生かす時!』
「オハヨウ、オジョウサン。ボクノナマエハ、たちこまデス」
282死と少女と(3/5) ◆TIZOS1Jprc :2006/12/17(日) 01:03:53 ID:LfQ/dHg7
ぎょっとして少女が身を引く。

「……ロボット?」
「イエス。ボク、ろぼっとデス。ショウタイヲシラレタカラニハ、ニガスワケニハ、イキマセン」

益々気味悪げな表情で少女はあとずさった。

『あちゃー。逆効果だったみたい。やっぱり変な冗談は無しにして、矢張り冷静かつ客観的な態度でのぞまなきゃね』
「ごめんごめん。さっきのは会話を和やかにするためのジョークさ。僕は公安の備品で思考戦車のタチコマさ。とりあえずこの状況の経緯を聞きたいんだけど。まずキミの名前を教えてくれるかい?」

フェイトはぴょこぴょこと機敏に動くマニピュレータとくるくる回る外部観測ユニットを交互に眺めた。

「はあ……。私はフェイト……」

とりあえず同じ会話のフィールドに立つことには成功したようだ。そしてタチコマはストレートにさっきから気になっていた事を尋ねた。

「で。それ、キミが殺したの?」

あまりにストレートな物言いは、時に人を傷つける。
それ、が何をさすのか判らなかったか、一瞬呆気にとられた少女の眼に再び涙が込み上げた。

「私のせいなんだ……。わたしが……ころしたも同然……。わたしのほうが……!死ねばよかったんだっ……!」

再びしゃくりあげる少女。
泣き声のボルテージが上昇しタチコマは途方に暮れる。
結局、少女フェイトが落ち着くまでにさらに数分を要した。



「じゃあキミの犯したのはせいぜい傷害と不慮の殺人未遂だね。キミは未成年だから前科にはならないだろうし、そもそもここ日本じゃないみたいだから僕達の捜査権は及ばないよ」

ようやくある程度落ち着いたフェイトから簡単に事情を聞いたタチコマはそう結論付けた。
とはいえこの少女が嘘を言っている可能性は思考に留める。
女を蜂の巣にしたショットガンは見当たらないが、デイバッグの中に隠しているかもしれない。

「……そういう問題じゃない」

さっきからずっと眼を伏せたままのフェイトがぽつりとつぶやいた。先程"お近付きのしるし"に与えた西瓜にも全く手を付けていない。

「私がしっかりしてれば、この人……カルラさんは死なずにすんだ。わたしが……なんとかしなきゃいけなかった」

そう言うと再びフェイトはうつむいて喋らなくなった。
283死と少女と(4/5) ◆TIZOS1Jprc :2006/12/17(日) 01:05:50 ID:l/pKkkUF
『それにしても、ねえ?』

タチコマは先程のフェイトの話を反芻する。

『彼女の話が本当なら彼女は僕達のいる2030年から30年位過去から来た事になる。タイムスリップ?時空管理局執務官?バカバカしい話だよ』

しかし先刻相対した水銀燈なるロボット(?)の放った分析不能の黒い羽。
出会ったいずれも若い人間3人の内全員が今時電脳化していないという事実。
そしてフェイトが見せてくれたS2Uなる黒い杖に変化するカード。
どれもがタチコマの常識の遥か上空を行き交う話だった。

『やっぱこれ疑似体験だよね?新手の行動テストかな?』

しかしこのバトルロワイアルが現実であろうと仮想であろうとタチコマの取るべき行動には関係の無いことだった。
AIのタチコマの頭脳にとって現実と仮想は等価。
現実の任務に失敗して破壊された所で、分化した数ある個体の一つが欠けただけの事。
また、仮想空間で酷い失敗をすれば性能不良として扱われ、待っているのは廃棄処分だ。
どのみち人工知能であるタチコマに"死"は存在せず、破壊を恐れて任務を疎かにすることは考えられない。
なすべき事は九課のメンバーとの合流、バックアップ。
そしてこの少女の保護。
例え彼女が嘘を付いていたとしても、だ。

「……誰かの為に涙を流すことは価値があることだって、トグサ君が言ってた」

タチコマの声にフェイトは顔を上げた。

「僕は涙腺なんてないからその意味がよくわからないけど……キミを泣かせてしまうこの現状をなんとかしたいって、思う」

それが現実であれ仮想であれ。
なぜだろう、目の前に居る傷付いた心を、放っておくことができない。
その言葉にフェイトはタチコマへの警戒を、ほんの少しだが、解いた。その時。
突然上空に巨大な主催者の仮面の男の姿が浮かびあがった。ギガゾンビのホログラム。
少女にさらなる死を突き付ける定時放送が始まったのだ。

そして夜は、明ける。
284死と少女と(5/5) ◆TIZOS1Jprc :2006/12/17(日) 01:07:37 ID:l/pKkkUF
【D-7 森林・1日目 早朝〜朝】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労中、全身に軽傷、背中に打撲、泣き疲れ
[装備]:S2U(元のカード形態)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム残数不明、西瓜1個@スクライド
[思考]
1:放送を聞く。
2:カルラを埋葬、彼女の仲間に謝る。
3:タチコマを警戒しつつ情報交換
4:なのはに会い、もし暴走していたら止める。
5:はやて、シグナム、ヴィータとも合流
6:この西瓜……どうしよう
[備考]:タヌ機による混乱は治まったものの、なのはがシグナムを殺した疑惑はまだ残っています。

【タチコマ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:装甲はぼこぼこ、ダメージ蓄積、燃料わずかに消費
[装備]:ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)
[道具]:支給品一式、燃料タンクから1/8補給済み、お天気ボックス@ドラえもん、西瓜48個@スクライド
   タチコマの榴弾@攻殻機動隊S.A.C、双眼鏡、龍咲海の生徒手帳
[思考]
1:放送を聞く。
2:フェイトと情報交換、榴弾を装填してもらう。
3:D7南部のデイバッグを回収
4:フェイトを彼女の仲間の元か安全な場所に送る。
5:九課のメンバーと合流。
6:自分を修理できる施設・人間を探す。
[備考]:光学迷彩の効果が低下しています。被発見率は多少下がるものの、あまり戦闘の役には立ちません。
効果を回復するには、適切な修理が必要です。
285これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:14:07 ID:rJjIriYg
「―――っ、はっ! はぁ、はっ、はあぁ……。何とか撒いたか……?」

 高鳴る鼓動を掌で押さえ、喘息の様な荒ぶる吐息を正すべく一人の青年が地へと座り込んだ。
 岡島禄郎ことロックである。
 彼は今し方、人外化生なアーカードの猛威を咄嗟の機転で潜り抜けたばかりであった。
 吸血鬼は河を渡れないという伝奇を信じて、河川に設けられた石橋を必死の思いで横断した次第だ。
 一般人の自分が粉塵爆破という方法で規格外の獣を退げたから良かったものの、少しでも策を見誤れば確実に命はなかった。
 極限までに高められた緊張の反発が、今更ながらに額や背筋から凍える冷や汗となって滴り落ちてくる。

「くそったれ! 聞いてないぞ、あんな化物……っ」

 胸中で押さえきれぬ悪態が外へと飛び出し、ロックは自棄気味に大の字に寝転がった。
 今まででも弾丸吹き荒れる危険地帯に身を晒されたことはあれど、流石に範疇を越えた化物が相手だと肝の冷え具合も格段に違ってくる。
 強者と疑うべくもない程の息苦しい威圧感と圧迫感、漫然且つ冷然とした途方もない殺気が毛穴の奥まで突き刺さっていたのだ。
 正気を保ちつつ策を講じる余裕まであったロックは、大健闘したといっても過言ではない。
 だが、大金星を上げたからと言って慢心する余裕など持ち合わせてはおらず、直面した事実に今でさえ恐怖心を抱えていた。
 こちとら幾分の修羅場を潜り抜けたとはいえ、彼自身に戦闘技術など皆無。
 単独で絶体絶命の危機に遭遇することは、多量の精神を磨り減らす行為だということを改めて自覚する。
 ロックの相棒―――レヴィは単身奮闘する度胸の据わりに据わった女性であるが、これが彼女の世界だと認識してしまうと、なにやら理解の出来ぬ尊敬心が湧きあがって来るというものだ。  
 ―――まあ、彼女はこういったスリルを快楽とする、言わば戦闘狂な節があることを否定はしないが。

 ともかくも、一刻も早くアーカードを遠ざけるべく移動を開始したいところだが、心肺機能の悲鳴と連鎖して脚部までもが棒の様に張っている状態だ。
 足を動きたくも、数分の休憩を要さなければ意のままにならない。
 今は休息が肝要かと思い、ロックは仰向けの体勢で群青に染まりつつある大空を眺めた。
 気付くと、ゲームが開始されてから既に数時間。黎明期が過ぎ去った時間帯の中で、一睡することも儘ならぬ状況に放り出されたのだ。
 ここで瞼を閉じてしまえば、夜通し駆け回って蓄積した疲労が睡魔となって襲い掛かってくること請負である。
 一時の欲求に従って安穏とするのも有りか、そこまで思ってロックは勢いよく上体を起こす。
 
「駄目だ駄目だ……。あの時代錯誤野郎が河を渡る可能性……いや、尋常ならざるスピードで遠回りしてくる可能性もありか……」
286これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:15:40 ID:rJjIriYg
 ロックは頭を振りながら自問する。
 このような隠れ蓑とも成り得ぬ場所で、むざむざと惰眠を貪っている最中に襲われでもしたら目も当てられない。
 一度目はアーカードの猛威を凌ぎきった。
 だが、確信できる。―――二度目はないと。
 謀られた行為を犬に噛まれた些細な出来事と諦めて、追跡に自制を利かせてくれれば僥倖だが、そうそう都合の良い展開が訪れる筈もない。
 何事もなく苦難を素通り出来たことが、今までの経験上でも例がないことは百も承知。
 基本的に、ある日を境に災難塗れの人生を歩んできたロック。此度の人生一の凶難とも言える出来事すらも、巡り合う不運の延長線上だと諦めも付いている。
 だが、平々凡々の人生を歩んできた自分が幾多の災禍にまみえたと時とて、それ以上の幸運を持って切り抜けて来たのだ。
 バトルロワイヤルと称した冗談紛いの状況で、無様に死んでやるなどロックの誇りが許さない。
 確かに、アーカードと再び相対すれば彼の命など微塵の如く磨り潰されるだろう。一度欺かれた相手に油断を見せるような愚考すらも犯さない。
 正に問答無用で有無を言わさず、ロックの儚い生命など屠って始末を終えることは間違えない。
 恐らく、ロックに対して用心深くなったアーカードに今一度奇策を用いるのも、ある意味無謀で危険極まりないのだ。 
 その中で最も生存率の高い方法を考慮するならば、普通に考えて一つしかない。
 ―――つまり、相手にしなければいいだけのこと。端的に云うと、意地でも逃げ切る。その一辺倒に尽きた。
 決して速いとはいえない速力で逃走できるかはともかく、一箇所に留まって敵に捕捉されるのだけは何としてでも避けたいものだ。

 ロックは上昇した体温によって湧き出た汗を拭い、渇ききった口内を潤すべくバックへと手を伸ばす。
 暫しの休息を取った後は、直ぐにでも行動を開始するつもりである。
 この悪質な殺し合いに、同じく付き合わされているレヴィとも早急に合流する必要があったからだ。 
 彼女の安否に気を病んでいるわけではない。傲岸不遜に無茶をやらかしていないかという不安が、何よりもロックに心配の種を植え付ける。
 一度性根に火が灯れば、それこそ見境無く周囲を燃やし尽くすほどに気性が激しい女性なのだ。
 レヴィが起こした惨事の後始末は決まってロックの仕事であるからして、絶えない気苦労を常に背負う身にもなってもらいたい。
 本人がいない内での正しく身勝手な思考だが、胸中による陰口ぐらいは容認してくれてもいいのではないか。
 考え出すと理不尽な感情に苛まれる。精根尽き果てること寸前な溜め息を零し、バックから覗いた水分の容器を口に含めるべく手に取った。
 一先ず呼吸と思考を落ち着かせる意味を込めて、潤い求める口内に水分を与えてやろうと容器を持ち上げる。

 その間際、警戒緩んだロックの耳朶が、ザッと地を踏みしめる音を正確に聞き取った。

「―――っ!?」

 疑うべくもない明らかな足音に、何事かと跳ねるように視線を走らせる。その拍子に、手に持った水の容器は意図せぬ内に放り投げていた。
 
「っはぁ……はぁ、はぁ。やっと……追いつきました」

 ロックが捕らえた視界上には、膝に手を突きながら息を整える少女の姿があった。
 彼女の言葉の意味を顧みれば、どうやら自分を追って来たと見て間違いないようだ。
 ―――だが、どうして?
 彼は警戒が孕んだ訝しげな視線を少女へと寄せる。 

「―――俺に……何か用なのか?」
287これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:16:54 ID:rJjIriYg
 半ば腰を浮かせつつ、何時でも攻防可能な体勢を維持して問いかけた。
 鋭い眼光を浴びせかけられた少女は、我に返ったように慌てて腕を左右に振らせる。

「あ、ち、違いますよ? ちょっとお聞きしたいことがあって、その……いいですか?」
「…………」

 彼女はロックに対して危害を加えないと、念を押しながら訴えている。
 だが、彼の厳かな眼つきは依然と変わらず、慌てふためく彼女の調子にも動じた様子がない。
 それでも会話を交わすつもりは元よりあったために、視線で牽制しつつも続きを促すよう軽く頷いて見せた。
 彼女は一つ安堵の息を洩らし、緊張した面持ちで口を開く

「あ、あの……あなたは、ルイズフランソワーズ、ル、ブラン、ドラ・ヴァっ!?」
「は?」
「ひ、ひたい……」

 なんなのだこの少女は。
 理解不能な単語を口走ったかと思えば、舌を噛んで自滅するという体たらく。
 涙目な表情がまた過保護心をそそられるが、ここで油断をしてはいけない。
 幾ら年若い女性が苦痛に顔を歪めようが、一度甘い顔をして隙を曝け出すことこそが彼にとっては自殺行為。
 いや、むしろ女性だから警戒すべきである。
 ロックがラグーン商会の一員となってから、まともと言える女性と果たして巡り合えたのか。
 貞淑で美しい、もしくは活発で可愛らしい女性に巡り合えたか。この際、普通でも良い。よく思い返してみれば瞭然だ。
 否―――皆無であった。
 彼の周辺に生息する女共、もとい雌な獣共は例外なくぶっ飛んだ頭のネジが斜め上を爆走する奇想天外で珍種な人格なのだ。 
 ロックが身を寄せる世界が悪いのか、はたまた異性との巡り合わせが極端に不運なのか。
 どちらにしろ、彼が相対する女性は碌な人間ではない。
 よって、失態に顔を紅潮させた女性をことさらに注視する。
 警戒心によって気付くのが遅過ぎたが、違和感この上なかった。
 常識的な服装とは言い難い、何処か辺境民族が着こなす様な出で立ち。
 そして、それ以上に珍妙と言わしめる要因が少女にはあった。

「……コスプレか?」
「こ、こすぷれ……?」

 ロックが少女の姿を仮装と称した理由は他でもない。側頭部より突き出る獣耳に、後方より見え隠れする尻尾らしきもの。これが原因だった。
 コスプレという単語に、彼女は不思議そうに聞き返す。その際に揺れた。飾り物だと思っていた獣の部位が、感情に反応したかのようにだ。
 ―――あぁ、なんだ……。
 なんてことはない。彼女も人外か。
 つくづく一般人の定義とは無縁の人生だと、ロックは心底疲れ果てたかのように掌で顔を覆う。表情は、何処か哀愁を漂わせていた。
 もういい。警戒するのも馬鹿らしくなってきた。
 彼女からはアーカード寄りの危うさは感じられないために、気を揉むのは最早徒労だろう。
 これみよがしに溜め息を吐いて見せ、改めて彼女へ向き直る。
288これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:19:13 ID:rJjIriYg
「それで? えっと、ルイズなんだって……?」
「あ、はい。ルイズ、フランソワーズ、ル、ブラン、ドラ……ヴァリエール! よしっ。……は、あなたの名前ですか?」
「いや、違うけど」
「……え?」

 一度は躓いた名前を最後まで舌を噛むことなく言い切ったことは、彼女にとってさぞ爽快であっただろう。
 ある意味喜びがひとしおであったために、ロックの素っ気無い一言は無慈悲とも言えた。
 茫然としていた少女だが、諦め付かぬのか再び言葉を走らせる。

「……なら、あなたの名前を教えてもらえますか?」
「岡島……いや、名簿上はロックだけど」
「……もしかして、人違い?」
「もしかしなくとも人違いだね」

 少女は既に投げやりなロックの言葉を吟味し、その意味に気付くと落胆して肩を落とした。
 彼女はルイズという人物を探すことを目的としていたのだろうか。
 初見の対応からして、どうやら知り得た情報は名前だけのようである。まさかとは思うが、誰彼構わずルイズかどうかを聞いて回っているのだろうか。
 流石にそれは間の抜けた話だ。ロックを追いかけてきたところからすると、何かしらの根拠があったのだろう。
 頭を抱えた少女に、一先ず聞いてみることにする。
 
「あの、さ。どうして俺がルイズだと思ったんだ?」
「え? あぁ……実はですね―――」

 信じ難い話だが、どうやら特殊な道具によって人物を特定していた模様だ。
 会話の最中に名乗った少女―――エルルゥは甲斐甲斐しく道具に対して解説する。
 一見何の変哲もないステッキを倒すことにより、探し人が点在する方角を高確率で指し示すらしい。眉唾物の話だ。
 当の本人も理解できていないようだが、当然ロックとて原理については皆目見当も付かない。
 そういった用途の道具であることは間違いないようだが、現に自分がルイズでない以上、ステッキの有用性については疑わしいものだ。

「だけどさ、結局当たらなかったんだろ、そのステッキ? 胡散臭くないか……」
「うっ……。い、いえ、あなたがルイズさんでない以上、誤った行動を取ったのは自分ですし……」

 エルルゥの言い分によると、どうやらステッキを倒した方角に、偶然ロックがいたのだと言う。
 本来ならばルイズを正確に特定しており、その射線上に彼が割り込んだと見るほうが自然なのではないか。
 だが、ロックを目にした途端に彼は走り出したものだから、焦った彼女が咄嗟に追いかけてしまったのも無理はない。
 そして、何よりも直視し難い現実から目を逸らす為にも、あの場へ留まりたくはなかったのだ。

「それに、わたし見たんです……。真っ黒い人が、その……」
「―――いたのか、君も……」

 幾許もない過去の恐怖が再燃したのか、エルルゥは全身を震わせながら言い辛そうに言葉を濁す。
 その恐怖を身で持って体験したロックは、あの場に目撃者がいたことに若干の驚きと共に安堵の息を付いた。
 あれだけの爆音だ。気が付かないほうがおかしいが、安心したことはそれが原因ではない。
 アーカードの異常な気配察知能力からすると、あの場へ無防備にいたエルルゥなどすぐさま捕捉されていたのではないだろうか。
 仮に自分が殺されていれば、次への矛先は彼女だったのかもしれない。
 そう考えると、無茶を賭してまでアーカードと対峙した甲斐もあるというものだ。
 ロックはエルルゥの震える身体を宥める様、軽く肩へと手を置いた。
289これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:21:31 ID:rJjIriYg
「何にせよ、お互い無事で幸いだったね」
「はい、本当に……。あんな人がいるなんて……この世界は危険極まりないということが良く理解できました」
「……いやいや。そんな規格外な生物を俺らの世界に並べないでくれ……」

 あまり同一視にしてほしくないものだ。
 さらにエルルゥの発言。
 世界という単語で区別する辺り、やはり彼女は異世界人のようだ。
 それも当然か。ロックの世界には獣耳を先天的且つ天然に生やした人類など存在しないのだから。
 それを興味心で問い掛けるのも若干憚られたために、特に言葉を挟むといったことはしなかった。

「ともかくね。あの野郎はアーカードって言うからさ、彼周辺の知人にも気を付けた方が無難かもよ」
「あ、アーカードですね……。分かりました、気をつけます」

 アーカードに遭遇してからでは逃走するのも至難の業。一番は近づかなければ最善なのだが、もしかしたら偶然が重なって遭わざるを得ないかもしれない。
 それはもう、自身の不運を嘆くしか道はないだろう。そして打倒すべくもないのなら、逃げの一手に徹するしか生きる手段はないのだ。
 ―――だが、それでもだ。エルルゥの不思議なステッキを活用すれば、危険人物との遭遇も掻い潜れるのではないか。

「思ったんだけどさ。君のステッキは探し人を特定するんだろう?」
「え、はい。そのようですけど……何分一度しか使ってませんから成功率の程は……」
「まあ、この際ギガゾンビの能力を信じてだ。そのステッキをアーカードへ向けて使用したら奴の方角が分かるだろう?」
「あっ……、なるほど……」
 
 エルルゥは感心したように頷いた。
 ロックの考察を噛み砕くと、確かにステッキの更なる有用性が期待できる。
 つまり、アーカードの居場所をステッキで探り当てる。向けられた方角より、逆に移動することによって出会う危険性を失くしてしまえば良い。
 正しく根本的なことだ。

「ただ確率に任せた道具であるだけに……外れたらどうなるんだ?」
「さぁ……。七割方成功だと説明書には明記してありますが……」

 だが、ステッキの的中する確率が七割らしく、残りの三割はどうなるのか。
 外れた結果が見当違いの方角を指し示すのならばまだ良い。
 正直目も当てられないことは、倒れたステッキが正反対の結果へと陥ることだ。
 望む人物は遠ざかり、危惧すべく人物は接近する。所謂神頼みだが、本人の知り得ぬところで正否が下されている分始末に終えない。
 非常に有効活用できる道具ではあるが、多様はすべきではないだろう。

「なら、それが本当に不思議な力のある道具が試してみないか? 奴を使ってさ」

 ロックは数時間前に離れた商店街を遠目で見詰める。
 そこはアーカードに一矢報いた爆心地。
 彼の視線をエルルゥは辿った後、納得したように頷いた。

「そうですね……。時間制限もありますが、今は一刻も早くあの人から離れたいですし」
290これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo
 エルルゥとしても、果たしてステッキが望み通りの結果を導き出すか知っておきたい身。
 ルイズの捜索には失敗したものの、此度は幸いなことに、アーカードの居場所を漠然ながらに特定はしているのだ。
 爆発の直撃を喰らった状態で仮に移動したとする。それでもステッキが指し示す方向が商店街周辺、もしくは自分達から見て東寄りならば確信が持てる。
 それはロックにも好都合。人様の道具に便乗して自分の危機を回避することができるかもしれないからだ。
 意外とあざとい男だが、エルルゥ本人が彼の意図を見透かしていないのならば万事問題ない。
 彼女は不慣れな手付きで四次元バックをひっくり返す。
 なかなか豪胆な姿にロックは苦笑しながらも、エルルゥは錯乱した道具を掻き回して一振りのステッキを取り出した。

「これがたずね人ステッキです。―――では、いきます」

 信頼性を求めて、何の装飾もない普通の杖を地へと突き立てる。
 エルルゥは小さく息を吸った。

「―――アーカードさん……どーこだ」

 言葉と共に手を離し、突き立てたステッキが重力に引き寄せられる。
 コテンと、ステッキは地面へと水平に倒れ伏した。
 彼等はステッキの先端を辿って面を上げ、指し示す方角へと目を向けた。喜びの感心の吐息が二人より漏れ落ちる。

「間違いなさそうだな……。偶然って訳でもないんだろ?」
「は、はい! ステッキが独りでに倒れた感じだったので……不思議な力が作用したのかも」
「そうか……。このまま遠ざかれば一先ず安心ってところかな」

 倒れたステッキは石橋を挟んだ向こう側、つまり市街地へと正確に向けられていた。
 これで若干ながら、ステッキに活用能力があるのだと納得できる。
 満足のいく結果に、エルルゥは緩んだ笑みを浮かべながらステッキをバックへと仕舞い込んだ。
 次に、彼女は傍に転がる名簿へと手を伸ばす。
 掴んだ名簿を広げ、筆記用具を握り込みながら何やら書き込み始めた。

「……? 何をやっているんだ?」
「はい。人物の特徴を少々。他の人が見ても分かるように、ロックさんやアーカードさんについて記載しとこうかなと思いまして……」
「へぇ……。意外と几帳面だね」
「意外は余計ですっ。これでもわたしは薬師ですから、こまめに情報は記録する性分なんですよ」
「薬剤師か……。じゃあ薬なんて楽々調合できたりする訳だ」
「あ、あはは……。わたしなんてまだまだ未熟な身ですから、そんなことは……。―――それにしてもこの筆……便利ですねぇ」

 ベナウィさん喜びそう―――そう感慨深げに呟いた。
 墨汁要らずの鉛筆を、それこそ科学の集大成な如く感心したように使用する。
 その様は大げさにも思えたが、世界観が違うのだから価値観も違ってくるのだろう。
 熱心に名簿へと書き込むエルルゥを傍らに、手持ち無沙汰となったロックは錯乱する彼女の荷物を眺め見る。
 薬師というだけあって、確かに薬品ばかりが目に付いた。支給されたのか、もしくは近場で回収したのか。
 道具をある程度この街で収集したのならば、意外と目敏く活発な少女だと印象を変えざるを得ない。
 街としての形状を保った此度の舞台ならば、日用品に限らず、武器や食料も備え付けられているのではないか。
 再度街中を訪れて、自衛に役立つ掘り出し物を捜索してみるのも良いかもしれない。
 適当に曖昧な方針を浮かべていたロックであったが、一際目を捕らえて離さない物品が視界の中へと飛び込んできた。
 それは瓶の容器に入った、鮮やかで淡紅色な液体。何となく手に取ってみる。
 あらゆる角度から眺め、とりあえず蓋を抜いて香りを嗅ぐ。これも何となく好ましい匂いがした。
 そして、何となく口に含んでみたい欲求に駆られる。
 何となく尽くしという抽象的な思考だが、本能が誘われるのだから仕様がない。それは、口内が水分を欲していることにも相乗した。 
 鮮やかな着色料は得てして食指を動かしてしまうというものだ。
 ロックは地面へとぶち撒けられた自身の水に向かって残念そうに瞑目し、遂にエルルゥが所持する水分へと目を付けた。