アニメキャラ・バトルロワイヤル 作品投下スレ2

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無しさん@お腹いっぱい。
ここは
「アニメ作品のキャラクターがバトルロワイアルをしたら?」
というテーマで作られたリレー形式の二次創作スレです。

参加資格は全員。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。

「作品に対する物言い」
「感想」
「予約」
「投下宣言」

以上の書き込みは雑談スレで行ってください。
sage進行でお願いします。

現行雑談スレ
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1165450622/l50

2 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2006/12/07(木) 20:28:35 ID:0plmBHDT
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」

 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → MAP-Cのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【バトルロワイアルの舞台】
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/34/617dc63bfb1f26533522b2f318b0219f.jpg

まとめサイト(wiki)
http://www23.atwiki.jp/animerowa/
2名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/10(日) 20:20:11 ID:hrtOP/vY
【キャラクターの状態表テンプレ】

【地名・○○日目 時間(深夜・早朝・昼間など)】
【キャラクター名@作品名】
[状態]:(ダメージの具合・動揺、激怒等精神的なこともここ)
[装備]:(武器・あるいは防具として扱えるものはここ)
[道具]:(ランタンやパソコン、治療道具・食料といった武器ではないが便利なものはここ)
[思考・状況](ゲームを脱出・ゲームに乗る・○○を殺す・○○を探す・○○と合流など。複数可、書くときは優先順位の高い順に)

◆例
【B-6森 2日目 早朝】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(左腕・右足に切り傷)
[装備]:刀、盾
[道具]:ドアノブ、漫画
[思考]
第一行動方針:のび太を殺害する
第二行動方針:アーカードの捜索
基本行動方針:最後まで生き残る

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24
3名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/10(日) 20:21:09 ID:hrtOP/vY
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。

【放送】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
スピーカーからの音声で伝達を行う。

【禁止エリア】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
4名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/10(日) 20:22:01 ID:hrtOP/vY
【能力制限】

◆禁止
・ハルヒの世界改変能力
・ローゼンキャラの異空間系能力(間接的に人を殺せる)
・音無小夜の血液の効果

◆威力制限
・BLOOD+のシュヴァリエの肉体再生能力
・Fateキャラの固有結界、投影魔術
・長門有希と朝倉涼子の能力
・レイアース勢、なのは勢、ゼロ勢、遠坂凛の魔法
・サーヴァントの肉体的な打たれ強さ(普通に刺されるくらいじゃ死なない)
・サーヴァントの宝具(小次郎も一応)
・スクライドキャラのアルター(発動は問題なし、支給品のアルター化はNG)
・タチコマは重火器の弾薬没収、装甲の弱体化
・アーカードの吸血鬼としての能力

◆やや威力制限
・うたわれキャラの肉体的戦闘力
・ジャイアンの歌

◆問題なし
・ローゼンのドールの戦闘における能力
・ルパンキャラ、軍人キャラなどの、「一般人よりは強い」レベルのキャラの肉体的戦闘力
5名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/10(日) 20:23:28 ID:hrtOP/vY
【参加者一覧表】

6/6【涼宮ハルヒの憂鬱】
   ○キョン/○涼宮ハルヒ/○長門有希/○朝比奈みくる/○朝倉涼子/○鶴屋さん
5/5【ドラえもん】
   ○ドラえもん/○野比のび太/○剛田武/○骨川スネ夫/○先生
5/5【スクライド】
   ○カズマ/○劉鳳/○由詫かなみ/○君島邦彦/○ストレイト・クーガー
5/5【ひぐらしのなく頃に】
   ○前原圭一/○竜宮レナ/○園崎魅音/○北条沙都子/○古手梨花
5/5【ローゼンメイデンシリーズ】
   ○桜田ジュン/○真紅/○水銀燈/○翠星石/○蒼星石
5/5【クレヨンしんちゃん】
   ○野原しんのすけ/○野原みさえ/○野原ひろし/○ぶりぶりざえもん/○井尻又兵衛由俊
5/5【ルパン三世】
   ○ルパン三世/○次元大介/○峰不二子/○石川五ェ門/○銭形警部
5/5【魔法少女リリカルなのはシリーズ】
   ○高町なのは/○フェイト・テスタロッサ(フェイト・T・ハラオウン)/○八神はやて/○シグナム/○ヴィータ
5/5【Fate/stay night】
   ○衛宮士郎/○セイバー/○遠坂凛/○アーチャー/○佐々木小次郎
5/5【BLACK LAGOON】
   ○ロック(岡島緑郎)/○レヴィ/○ロベルタ/○ヘンゼル/○グレーテル
5/5【うたわれるもの】
   ○ハクオロ/○エルルゥ/○アルルゥ/○カルラ/○トウカ
4/4【HELLSING】
   ○アーカード/○セラス・ヴィクトリア/○ウォルター・C(クム)・ドルネーズ/○アレクサンド・アンデルセン
4/4【攻殻機動隊S.A.C】
   ○草薙素子/○バトー/○トグサ/○タチコマ
3/3【ゼロの使い魔】
   ○平賀才人/○ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール/○タバサ
3/3【魔法騎士レイアース】
   ○獅堂光/○龍咲海/○鳳凰寺風
3/3【ベルセルク】
   ○ガッツ/○キャスカ/○グリフィス
2/2【デジモンアドベンチャー】
   ○八神太一/○石田ヤマト
2/2【OVERMAN キングゲイナー】
   ○ゲイナー・サンガ/○ゲイン・ビジョウ
2/2【BLOOD+】
   ○音無小夜/○ソロモン・ゴールドスミス
1/1【MASTERキートン】
   ○平賀=キートン・太一
80/80

>>1を訂正
現行感想スレはこちらです
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1165650766/
6復讐の道を行く男、愛に生きる女1/8 ◆qwglOGQwIk :2006/12/10(日) 20:27:07 ID:odmSMrZA
殺し合いなど隻眼隻腕の黒い剣士、ガッツには何の関係も無かった。
ただ、男の戦う相手が魔物か人間かの、ガッツにとっては細かな違いである。
ガッツにとって最も重要な点はゴットハンド、及びゴットハンドへ転生したグリフィスへの復讐である。



俺にとって殺し合いなんてどうでもいい。
だがこの殺し合いの場に飛ばされるときに見た最後の顔を絶対に忘れちゃいねえ。

間違いない、絶対に間違いない。
あいつは、グリフィスだ。

俺の、俺の居場所だった切り込み隊、・・・ガストンの奴。
対立もしたけれど、頼れる仲間だった。ジュドー、コルカス、ピピン・・・。
俺たち鷹の団の全てを「生贄」にしたグリフィス。
そして俺の、俺の目の前でキャスカを・・・キャスカを陵辱しやがったグリフィス。


グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス


・・・
グリフィスの野郎を殺せるなら、俺はどんな犠牲だって問わない。
それこそ本当に殺し合いなんてどうでもいい、グリフィスに復讐さえできれば何も関係ない。

早速グリフィスを捜索しようと行動を始めた俺だが、体が妙に軽いのが気になる。
特に違和感を感じた背中を調べると、俺の相棒である大剣「ドラゴン殺し」が見あたらねえ。
それどころか体中に仕込んだ武装一式、ご丁寧にも左手の義手からまで火砲を除去していやがる。

さすがに、剣が無い状態では復讐の遂行が出来ない。
あの仮面野郎、(仮面の魔物か?)がご丁寧に支給してくれた袋の中身を見ることにした。

ちっ・・・ついてねえな。
中身は水食料に加えていくつかの道具が入っているのは確認できた。
だが俺の望む獲物、剣は結局出なかった。
説明書によると刃を飛ばせるらしいナイフ、「スペツナズナイフ」が5本
もう一つの支給品はたくさんの弾薬らしく、銃という武器が無ければ使い物にならない品らしい。
スペツナズナイフは強力な武器らしいが、こういうちまちました武器は俺の柄じゃねえな。
グリフィスだけでなく、俺の獲物である剣を探す必要もあるようだった。
とりあえず、俺は支給品を袋にほおり込み、名簿を確認することにした。

『グリフィス』

いた、いやがったぜグリフィスの奴。俺の目に間違いは無かった。
狂喜するガッツは、同時にもう一つの名前が目に入る。

『キャスカ』

・・・!?キャスカだと、キャスカの奴は確かにゴドーの場所で見つからないように隠れていたはずだ。なぜ・・・
ちっ、探し人がもう一人増えちまいやがったか。あいつ、無事だといいが・・・
そして他に名前を確認するが、他には変な名前があるだけで知り合いは居ないらしい。
まあ俺に、知り合いなんて呼べる奴は後はゴドー達ぐらいか・・・
7復讐の道を行く男、愛に生きる女2/8 ◆qwglOGQwIk :2006/12/10(日) 20:28:21 ID:odmSMrZA
俺は地図とコンパスを片手に場所を確認することにした。
近くに小川が見えることからどうやら川べりに居るようで、更に言えば相当山奥に居るらしいな。
地面の起伏もかなり険しいことから考えて、小川の上流にいるこたぁ間違いない。
これらを総合判断するに、どうやら俺はA7かB6という所に居るらしい。
グリフィスの奴はこんな辺境の山奥に意味も無く篭る奴じゃねえ、きっとこの地図で言う街の方にいやがるに違いない。
そういうわけで俺はグリフィスを探すついでに、剣を探すために川沿いを歩き始めた。

グリフィス、必ず見つけ出して俺が殺す。





・・・

「よ、ようこそおめでとうございまーす!
ワタシを引き当てたあなたはラッキー! 魔法少女リリカルみさリン、あなたのモトにただいま参上☆」

あ、あれ?反応が無い?
とっさに手持ちのステッキを片手に、うまい具合にアドリブをしたはずなのに目の前の黒い鎧を着た大男には反応が無い。
大男はげんなりした、呆れたような表情で私、野原みさえのことを見つめていた。

・・・

ち、沈黙って嫌だなぁ。あたしこういうのは嫌いなんだけどな。アハハ・・・
そんな沈黙が30秒ほど続いたか、目の前の大男の表情がきりっと引き締まり、私が顔の前に近づく。
や、やだ。この大男ワイルドすぎるけど、よく見たらちょっとイケメンじゃない。
私に惚れ直したのかしら、ホホホ・・・

「おい、グリフィスのことを知っているか?お前も参加者なんだろ。」
「グリフィス?誰よそいつ、そんな名前聞いたことも無いわ。確かに私も参加者だけど」
「そうか、邪魔したな。」

目の前の男は私のことを握る手を緩め、優しく地面へとエスコートする。
と思ったら、大男は踵を返して歩き始める。わたしのことを居なかったように無視して

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あんた聞くだけ聞いて可愛い女性を放置なんて何様!」

みさえは叫ぶものの、大男はみさえに反応する様子は無い。
こうなったら、これだっ!
みさえはとっさにスモールライトを目の前の大男に浴びせる。
効果は無いか?と思ったが少しして大男も同様に縮小を始めた。
私はやっりぃ!と心の中で呟き、スモールライトをポケットにしまう。
そして縮小した大男?に接触するべく走り出した。
砂利の上って、小さくなると結構歩きづらいわね・・・
8復讐の道を行く男、愛に生きる女3/8 ◆qwglOGQwIk :2006/12/10(日) 20:29:25 ID:odmSMrZA
さすがの大男もこれにはかなり驚いている様子で、砂利の上で困惑しながら周りをキョロキョロしていた。
なんとか大男に追いついた私はは大男の鎧に掴みかかる。

「ちょっとあなた!人の話もちゃんと聞きなさいよ。私だって聞きたいことがあるんだから」

男が私に振り返ると同時に、体がふわっと浮く。私は一瞬何が起こったかわからなかった。
少しして私は、男に胸倉を掴み上げられ体を持ち上げられていることに気が付いた。

「おい、これは一体どういうことなんだ?」
「あなたがわたしの話を聞かないから、足止めしてやっただけよ!」
「なんだと、ふざけるんじゃねえよ・・・」

目の前の大男は私に掛ける力を強める。苦しい・・・。

「さっさと元の体に戻る方法を教えやがれ、おばさん」

お、おばさんですってえ〜。何よこの男、ちょっとイケメンだからって調子に乗りやがってぇ
と私が思ったのも束の間、ガサガサと茂みが揺れる。
すると私は地面に投げ捨てられた、いったぁ〜

「ちっ・・・」

大男はわたしのことなんか居なかったみたいに茂みの方を見ている。
それからすぐ、茂みの向うから小さな女の子が現れた。
どうやらしんのすけよりは年上の、小学生ぐらいの女の子のようだ。
わたしはその女の子に助けを求めるべく大声を上げた。

「お〜〜い」
「ば、馬鹿何やってやがる。」
「何って助けを求めてるんじゃない、あんたも声を出しなさいよ。」

私は大男にそう言ってやった。すると目の前の女の子は私達に気が付いたようだ。
やった、これでこんなよく分からない状況から抜け出せるのね!
私は女の子に向かって勢いよく走り出す。





・・・驚きましたわね。世の中にはこんな小さな人間?もいらっしゃるのですのね。
私が茂みを抜けるとなにやら小さな声がして、その方向を見れば人形のような小人がいるじゃありませんか。
私の目の前に現れたのは小人は二人、おばさんみたいなのが一人。
そして漫画にでも出てくるような黒い西洋甲冑を着込んだ男が一人。
おばさんみたいなのは何か色々まくしたてているが、賢いわたくしはもっと重要なことに気が付きましたのよ?
二人の小人にはちゃーんと首輪がありますの、つまりこの小人達は参加者。
にーにー、見ていてくださいね。

私は左手に持っていたにーにーのバットを両手持ちにし大きく振りかぶる。そして勢いよく振り下ろしたっ!

グシャッ!

・・・外れてしまいましたか。
私がおばさんの小人目掛けて振り下ろしたバットに、何かを叩き潰すような感覚は無かった。
バットのすぐ近くには仕留め損ねたおばさんが居る。そしてそのおばさんを掴んで引っ張り上げたらしい男がいる。
私は間髪居れずそのままバットを薙ぎ払う、すると小人は吹き飛ばされ、茂みの近くに飛んでいった。
私はもう一度にーにーのバットを振りかぶり、今度こそしとめようとする。
しかし、薙ぎ払って行動不能にしたと思っていた小人達はすでに逃げ出し始めていた。
あの茂みに逃げられると厄介ですわね。特にあの男の小人はなんだか特に厄介な感じがしますわ。
9復讐の道を行く男、愛に生きる女4/8 ◆qwglOGQwIk :2006/12/10(日) 20:30:40 ID:odmSMrZA
ちっ・・・あのクソガキめ。容赦ない真似しやがる。
俺はとっさにクソガキからの殺気を感じ取り、反射的にこの女を助けてしまった。
気が付いたら俺は大きく吹っ飛ばされていた。くそっ・・・
女のほうもどうやら無事のようだった。もう考えてる時間はねえな。

「おい、二手に分かれてあの茂みに走るぞ!」
「えっ、えっ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ〜」

俺は後ろを振り返る。後ろに見えるのは鈍器を振りかぶったクソガキと女。
この状況を全く理解していないらしい女に、再び悪態を付きながらもう一度言ってやった。

「だから二手に分かれたほうが安全なんだよ、分かったらさっさと二手に分かれやがれ!」

二手に分かれれば、少なくともあのクソガキはどちらか片方しか標的にすることができない。
最初にあのおばさんを狙ったことから考えて、俺が狙われる確立は低いだろうと踏んだ。
これならクソガキがあの女を仕留めるのには多少の時間が掛かるはずだし、その間に俺は逃げ切れるだろう。
女はやっと俺の言葉を理解したらしく、俺から離れ始めるが・・・

ドガン!

俺はとっさに飛んで攻撃を回避する。あのクソガキめ、俺に狙いを変えやがった?
クソガキの攻撃は鈍器を乱暴に振り上げて叩き下ろすか、薙ぎ払うだけなんで避けるのは難しくない。
だが、これはまともに食らったらひとたまりも無いだろうな・・・。
俺はあの時薙ぎ払いの一撃の際、どういうわけかあの女を庇ってしまったらしくまだ体中には痛みが残っていた。

「ホホホ、待ちなさい〜」

誰が待つか。
こんなクソガキごときが俺様を舐めやがって・・・

ヒュン・・・!ガスッ!

ぐっ・・・、まともに食らったか。鎧が無かったらマジで死んでたかもな・・・
ゴロゴロと転がりながらも、何とか俺は受身を取って立ち上がる。・・・だがこの状況はかなりやばいぜ。
俺は相手の攻撃を見切る余裕すら無いと判断し、力を振り絞って目の前の茂みに飛び込む。

ヒュン、ドガッ!

間一髪、何とか逃げ切れたか・・・。
そう思っていたとき、茂みは大きくガサガサと揺れ、再び鈍器の振り下ろされる音がまた引き起こる。
ちっ、まだ休む暇もねえのか・・・。俺は体を起こすと、金属音の響く茂みの中を走り出した。





・・・逃しましたわね。いや、まだまだ終わってはいませんわよ・・・
茂みの中は月明かりではどうしようもないほどの暗闇で、茂みの中を探すのはかなり困難。
だけどあいつらその大きさゆえに遠くに逃げ出すことは出来ない。
まだまだ私が絶対の有利なんですのよ。にーにー、私はちゃんとやり遂げますわよ。
にーにー、ちゃんと見ていてくださいね。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思った・・・」

私、野原みさえは茂みの中で尻餅を付きゼイゼイと声をあげていた。
周りにはバットの音が木霊するが、少なくともこの茂みのようではないようなのでとりあえず安堵する。
暗いとか怖いとかそういう問題じゃなく、私はたしかに「殺し合い」に巻き込まれているのを理解していた。
あー、もうどうしよう?つ、疲れた・・・

ゼイゼイと声を上げる私に黒い塊が何かぶつかり、強い衝撃が走る。
えっ、もしかして死んじゃう?私。
と思うが、吹き飛ばされながらも意識があることから、どうやらあのバットの一撃でないことらしいわね。
すると私の顔の前にあの大男が現れる。・・・っ!この人血まみれじゃないの。
私は大男を心配して一言声を掛けようとするが、大男はそんなことは知ったことじゃないとばかりに自分の話を進める。

「前置きはいい、どうしてこうなったのかをさっさと教えろ。元に戻せ」
「ちょっと、元に戻せって言ったって・・・」
「ああ?」
「ちょ、ちょっとは落ち着きなさいって、今説明するから・・・」

私はポケットにしまっていたスモールライトを見せ、名前と効果と一部始終を説明する。
大男は呆れた表情を見せ、頭を抱えている。

「こういうこと、わかった!」
「ああ、よく分かったからそいつをよこしな。」

よこしな。と男は言うものの、男は私の同意など無いように手からライト取り上げると適当にいじくり始めたではないか。

「ちょ、ちょっと壊れたらどうするの!」
「煩い、黙ってろ。」

男は適当にスモールライトをいじくり回す。するとまたあの光が・・・





完璧に逃しましたわね・・・。これはかなり厄介なことになりましたわ。
私は茂みを調べて回るものの、森にある茂みを暗闇の中調べることに飽きていた。
最初はにーにーのバットを振り回していたが、これでは効率が悪いことに気が付いて一つ一つ探し始めた。
しかし、ライトで茂みの中を見渡した所で一向に人影は現れなかった。
私は小人達に逃げられた。これはかなり手痛いミス。
自分が戦いを挑めるような相手は多くない。
わたくしのような小娘では最初に出会ったあの大剣を振り回すような奴には絶対勝てる訳が無い。
だからこそ自分が勝てる相手は全力で叩き潰さなければならなかったはずだ。
・・・私が戦って勝ち残らないと、にーにーは帰ってこない。
だから、何としても勝ち残らないといけないのに、本当に痛いミスですわね。
私はため息を一つ吐くと、再び砂利道の方に戻ろうとした。した。

したはずですわっ・・・
動けない、私の体は、いや右手は・・・何者かに強く掴まれていた。握りつぶされるような痛みがっ
正体を確かめるべく後ろを振り返ると・・・ひぃっ!
あの、あの血だらけの小人が、血まみれの大男になっているっ!
わたくしの手を痛いほど強く握る大男は、にやりと笑う。


「よおクソガキ、さっきはよくも散々な目にあわせてくれたな。」
助けてにー・・・痛っ!

わたくしは大男に掴み上げられた後投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
とっさに受身を取ったものの、体が痛い。逃げなきゃ、助けてにーにー・・・
わたくしは体を這いずって逃げ出そうとする。後ろから大男の声がする。

「逃げるとはずいぶんと調子がいいな、クソガキめ」

声を聞きわたくしは大男に、振り返る。ひぃっ!?
その大男はわたくしに憎悪の目を込め、血だらけになりながらバットを振り上げて佇んでいた。
後ずさりする私に向かって無情にもバットは、私に向かって振り下ろされましたわ。

「・・・・・・ッつぎゃあああああああああ」

猛烈な痛みが走る。痛い痛いイタイイタイ・・・
わたくしの足は、み、右足は・・・右足だったものはグシャグシャに潰されていた!
こ、殺される。本当に殺される。あ、謝らないと、謝って許してもらわないと

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」
「今更命乞いとは本当にふてえクソガキだ。」

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。許してください。
痛い、痛い、痛い・・・。許して許して許してごめんなさいごめんなさい。
私は頭を何度も何度も下げて謝る。男は私の髪をわし掴みにして目の前に寄せる。
痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

「よく聞けクソガキ、グリフィスって奴を・・・」
「みさリンキ〜ック!」

ドガッと音がして、どてっと大きな音がする。大男は私の髪を離して背中を見せる。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。許してください許してください許してください。

「おい、おまえは一体何のつもりだ?」
「何って、こんな小さな子供を苛めるなんていい大人のすることじゃないでしょ!」

おばさんが大男に食って掛かる。助、かった・・・。

「このクソガキは俺だけじゃなく、お前も殺そうとしたんだぞ?」
「だからって、謝ってる子供を殺そうとするなんて駄目よ!」
「うだうだうだうだうるせえなぁ、お前はどっちの味方なんだよ!」

おばさんが男に掴みあげられる。どちらも表情は変わらない。
すると、パシンと何かを叩く音が鳴ったのですわ・・・。

「女性に暴力を奮うなんて最低の男ね。何様よあなたは!」
「この野郎・・・」
「私は野郎じゃなくて女です。春日部市の主婦、野原みさえなんだから!」

おばさん、・・・みさえさんがぴしゃりと言い切った後、再び沈黙が走る。
ほんの少しの後、大男はみさえさんから目をそらし、何か言葉を漏らしながらみさえさんを下ろす。

「・・・ちっ、好きにしやがれ。」

みさえさんが地面に下ろされる。
助かった・・・。許してくれたの?にーにー、にーにー・・・
不意に安心した私は、急に目の前が暗くなっていったのですわ・・・。
あの女、野原みさえは俺の苦手な目をしていた。
女がふい見せる弱くも力強い意思を持った瞳、俺はああいうのと戦うのは嫌いだ。
そのせいか、これ以上面倒なことになるのは嫌だったから仕方なくクソガキを開放してやることにした。
クソガキを見ると気絶しているらしく、グリフィスの情報について知れないのは痛いが、それよりもこの場に居るのが嫌だった。
俺はみさえからスモールライトを再び取り上げると、あの時に小さくなっていた俺の支給品を元のサイズに戻した。
そしてクソガキの持っていた袋を回収し、中身をあさり始める。
袋の中からは水や食料の他、薬が出てくる。説明書によるとどうやら傷薬らしい。
早速、俺は傷薬を使ってあのクソガキに散々甚振られた傷を治療することにした。





私はあの大男から解放されると、あの女の子の様子を見に行った。
私は女の子の胸に耳を当て、心臓の音を確認する。よかった・・・気絶しているだけね。
でも、これはちょっと酷いわね・・・。
目の前の女の子の右足は痛々しく血が流れ、ぐしゃぐしゃに潰されている。
その顔には涙がボロボロに流れた後が見えた。本当に酷いわね。本気で殺されかけた私が言うのもなんだけど・・・
しんのすけがたまにつけてくる擦り傷のような怪我ならともかく、これは私には手に負えない代物だった。
さすがにどうしようもないので大男のほうをちらっと見ると・・・
ってえーーー、何か塗ってるうー!

「ちょっとあなた、何やってるのよ!」
「何って傷の治療だ。見りゃ分かるだろ」
「えっ、傷薬ですって。どうしてあなたが傷薬なんて持ってるのよ!」
「あのクソガキの荷物の中でたまたま発見しただけだ。文句あんのか?」
「あるわよ!女の子に大怪我をさせておいてそのまま、本当に自分勝手な男ね!」
「うるせえなぁ・・・」

大男はイライラした表情で私の問答に答える。
ふいに大男はぷいと目を逸らし、私に向かって傷薬の残りを投げつけてきた。

「そいつはくれてやる、だからもう二度と俺に関わるんじゃねえ」

そういって男はディパックを抱えると、私達のことなどどうでもいいように歩き出す。
はっ、いま気がついたけどあの男ディパックだけじゃなくスモールライトまで持っていってるじゃない。

「ちょっとちょっと、スモールライト返しなさいよー」
「うるせえなぁ、傷薬をくれてやったくせに贅沢言うんじゃねえ」
「え?いやそんな話じゃ・・・」

大男は振り返ると私をギロリ睨み付け、イライラした声で言い捨てた。
私は少しばかりその表情に恐怖して後ずさりをする。ワイルドとかじゃなくて、やっぱり顔怖いわね・・・。
私がうろたえている間にも男は、どこ吹く風かもう川下のほうへ歩き出してしまった。
私が男を再び呼びかけるも、今度こそ本当に私のことを無視をして歩き出した。
もう何よ。あの大男ったら本当に自分勝手で、しかも名乗りもしないなんて・・・
ちっ・・・、ついてないぜ。あの女は本当にやりにくい・・・。
これだけの大怪我を追いながら、俺が手に入れたのは鈍器とこのスモールライトと呼ばれる道具だけ。
スモールライトは戦闘では有用であるものの、やはり剣が手に入らなかったのは痛い。
スモールライトのような変な道具があるようじゃあ、油断してたら何があるか分かったもんじゃねえな
俺は気を引き締め、鈍器を肩に抱える。そのうち傷薬が効いてきたのか少しだけ体が楽になってきた。


そういえば、刻印がうずかねえなぁ・・・



【A-7の山中・川のほとり 1日目 黎明】

【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:体が痛い、精神的ストレス(ヒステリーに転化される)
[装備]:なし
[道具]:エルルゥの傷薬(使いかけ)@うたわれるもの
[思考]
第一行動方針:気絶している女の子の介抱
第二行動方針:家族の安否確認、できれば合流したい
基本行動方針:ひろしやしんのすけも心配だが、一人残されているであろうひまわりが心配……(⇒もとの世界に帰る)

【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:右足粉砕(傷薬でも殆ど直らないレベル)、打ち身。気絶
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
第一行動方針:不明
第二行動方針:生き残ってにーにーに会う


【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:全身打撲、大ダメージだが一応治療済み。苛立ち
[装備]:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、ボロボロになった黒い鎧
[道具]:
スモールライト@ドラえもん(電池大消耗、残り1〜2回分)、支給品一式、ディパック3人分
スペツナズナイフ*5、銃火器の予備弾セット(各200発ずつ)
[思考]
第一行動方針:この場を離れる
第ニ行動方針:キャスカを保護する
第三行動方針:俺の邪魔する奴はぶっ殺す
基本行動方針:グリフィス、及び剣の捜索
最終行動方針:グリフィスを探し出して殺す

※ガッツの時間軸はアニメ一話直前、キャスカは幼児退行している状態だと思っています。
※ガッツはスモールライトの使い方を理解しました。また未知の支給品への警戒感が生まれました。



※レイジングハート(1/10サイズ) は沙都子に薙ぎ払われた際、みさえが現場のどこかに落としました。
衛宮士郎はゆっくりと街を彷徨っていた。
そしてあの部屋で青年の男性と小学生の女の子を殺した男に対して強い怒り。
黙ってみているしか出来なかった自分に強い憤りを感じていた。
「くそっ。・・・まただ。また見てるだけしか」
士郎は悔しかった。誰一人犠牲にしない。その理想が自分の眼前に破壊されたのだ。許せなかった。
「・・・はっ。そうだ。名簿だ。道具も。くそっ。どうして俺は冷静に行動できないんだっ」
士郎はまたしても自分のミスに気づき歯がゆくなる。
もうゲームが開始にて数時間がたつ。
それなのにただギガゾンビに対する強い殺意だけで闇雲に歩き回り何も行動をしていなかった。
遠坂がもし近くに居ればぶちきれて怒り狂うだろう。また殺人鬼が襲ってくれば恐らくは既に退場者になっていただろう。

『あんた。何感情で先走ってるのよ。もっと冷静に物事を見なさいっ!』
今にもそんな遠坂の叱咤が飛んできそうな気がした。

士郎は地面に腰を落としてゆっくりと名簿の確認を行う。
「とりあえずは名簿だな。えっと知り合いは・・・なっ」
士郎は名簿を見て驚愕に顔をする。
遠坂凛の名前は分かる。セイバーもだ。だがバーサーカーにやられたはずのアーチャーとマスター不明の佐々木小次郎の名前まであったのだ。
「そんな・・・あいつ生きてたのか。でもそれならどうして?」
士郎は激しく疑問に思った。あの時を境に姿を消したアーチャー。その名前がどうしてある。
佐々木小次郎はマスター不在なのを考えれば同姓同名の別人も考えられる。もしくは次のロックが不明だったマスターの可能性もある。
だがアーチャーは・・・士郎には理解できなかった。
「・・・とにかく会うしかない。アーチャーに。もちろんセイバーと遠坂もだ」
士郎は結局その結論に行き着いた。アーチャーの正体は見ない限りは分からないからだ。
「・・・他には・・・えっ!?」
士郎はロックの少し下にある名前に驚く。ヘンゼル、グレーテル。
自分も子供の頃に読んだ記憶がある童話だ。普通は誤植か何かと思うだろう。
だがあの部屋には明らかに人間じゃない者もいた気がする。童話の登場人物が出て来ている可能性もある。
「一応・・・探そう」
士郎は少し気になったのでその二人にも少しだけ興味があった。
「他は・・・もう無いか」
士郎は他に知った名前が無いのを確認すると名簿をバッグに戻す。
桜や藤ねえやイリヤの名前が無いのは安心だった。戦闘力の無い彼女達では恐らく何も出来ずに殺されただろう。
そして新たに武器を探す。
「・・・なんでおもちゃのハンマーが?」
士郎はあきれる。綺麗にデコレーションされたハンマーがあったのだ。どう見てもおもちゃにしか見えない。
『グラーフアイゼン。魔法アイテムです。魔力を送り込めば強力な武器になります』
備え付けの説明書で確認をするがやはりおもちゃとしか思えない。それに仮にこれが本物だとしてもだ。
魔力の放出が出来ない。魔術師として欠陥品の士郎にとってはやはりただのおもちゃのハンマー以外の使い道は無い。
「他には・・・ドライヤー?」
『瞬間乾燥ドライヤー。汚れた服もおねしょ布団も海に落ちてびしょぬれの服も一瞬で乾燥。染み抜き機能のオマケ付きっ!」
「・・・・・・・」
さすがの士郎もこの説明書きにはあきれる他は無かった。
この状況下で染み抜き機能があるドライヤーが何の役に立つ。おねしょ布団って別に赤ちゃんは居ない。
汗をかいて気持ち悪いのが直るがそれだけ。まあ日常生活でなら色々と便利だろう。
しかし正直言って現状の士郎には何の役にも立たない。
「やっぱり・・・自分で作るしかないのか」
士郎は手に全神経を集中した。そしてイメージした。この状況で役立つ武器を。
「はあっ・・・」
士郎は少し大きな声を出して集中力を高めそして投影した。・・・アーチャーが愛用していた剣を。一本のみだが。
「どうして・・・うっ」
士郎は膝を付いた。そして少し息も上がっている。疲労も前より少しだが上がっている。
「そんな・・・ばかな!?」
士郎は疑問でいっぱいだった。最初にアーチャーがいるのも。
唯一の魔術師としての特技、投影もそのアーチャーの剣二本をイメージしたのが一本のみで疲労に襲われている。
「くそっ。どうして」
士郎は悔しさで地面を一度殴る。そして二度目の時だった。
「無駄に体を痛めつける。サバイバルでは決してしないことだな」
一つの低い女性の声が士郎の耳に響いた。
士郎はその女性を見て焦る。
「えっ!?」
そんな間の抜けた声しか出なかった。
剣は手元にある。だがドライヤーとグラーフアイゼンも一緒に散らかしている。
これでは相手に銃を所持してないのが丸分かりだ。しかも腰を地面に落ち着けた状態だ。すばやい反応が出来ない。
相手に殺意があれば攻撃対象としてうってつけの状態だ。
まただ。どうして俺はっ。
士郎は気づいた限りでも二度目のミスに自分自身が憎くなった。

だがその女性は士郎に攻撃を加えなかった。
それどころか士郎に近づいていった。
「へえ。武器はその剣一つだけ。それでどうする?戦う」
女性は周りに散らかった物を視認して、そして士郎を少し見下したような目で見つめる。
私がやる気ならすでにあなたは死んでいる。
そんな風に士郎には聞こえた。

士郎の考えは決まっていた。
「俺は戦う気は無い。一人でも多くの人の命を助けたいだけだ。だから自らは絶対に殺したりはしない」
士郎は剣を持たずに立ち上がる。
「そう。武器はそれだけなの」
「ああ。この剣とそこの魔法のハンマーと衣服を瞬時に乾かしてくれるドライヤーだけだ」
女性の問いに士郎は正直に答える。
厳密には剣は支給品の武器とは違うのだがそれを説明すると長くなるのでここは士郎はあえて言わなかった。
「・・・瞬間で乾かすドライヤー!?良いわね。借りるわよ」
女性は有無を言わさず背負っている物をおろすとドライヤーとかばんの中の濡れた服を取り出した。
奇跡が起きた。ドラえもん道具では大外れに入るドライヤーが早くも大いに役立ったのだ。
「えっ。ちょっとこれは」
だが士郎はそんな奇跡には当然気付かない。それよりも目の前に転がる少女に士郎は驚く。
今まで気づかなかった士郎も驚き物だが目の前の女性は軽々と一人の少女を抱えて歩いていたのだ。
「あのっ。この子は?」
士郎は疑問に思い質問をする。
「さっき拾った」
女性は黙々と濡れているスカートとショーツを広げながらあまりに簡潔に話す。
「ちょっとそれじゃ・・・そういえば名前も聞いてなかった。俺は衛宮士郎だけどあなたは」
士郎は不満の声を言いかけ、そういえば名前を聞いていなかったことを思い出し名前もついでに聞くことにした。
「ここでの名前は草薙素子。・・・でも助かったわ。その子の着替えダブダブだし」
素子は簡潔に自己紹介を済ませ、文字通り瞬時に乾いた服を再度気絶している少女に着替えさせようとした。
ダブダブの服では目が覚めた後に動きづらいだろうしショーツが無いと大騒ぎを起こす可能性がある。
無意味なことで時間を使うのはこの状況下では避けたかった。
「あのっ。その子の名前は?それにどうして気を失ってるんです。指に巻いてるハンカチは?」
士郎は二人の状況が良く分からなかった。素子のことも色々謎が多すぎた。
士郎は全て知っておきたいと思った。
「分かったわ。・・・この服着せたら・・・すぐにでも教えてあげる」
素子は悪戦苦闘しながら服を着せ替えていた。
「あっ。すいません」
士郎はさすがにそれを手伝うわけにもいかないので黙って後ろを向いて着替えを待った。
その際一瞬だが少女の素肌が見えた気がしたが士郎は全力で忘れようとした。
そして数分後。
きれいに乾いた元の服に戻った少女はまだ意識を閉ざしている。
その横で素子は士郎に先ほどした事をある程度オブラートに包んで説明した。

「ふざけるなよっ。無闇に女の子を怯えさせるなんて。それに爪が剥がれてたっけ。やりすぎだろ。怖いことがあったんだから錯乱だってっ」
それはオブラートに包んだ内容でも士郎を激怒させるには十分に足る物だった。
「そう。・・・まあ確かにやりすぎだったな。でも襲ってくる敵を容赦は出来ない。殺さなかっただけでもマシだな」
素子は士郎の激怒を軽く冷静な口調で受け流す。
「くっ・・・」
最初に反省を言われた手前、士郎は更なる言及を押しとどまるを得なかった。
正直言って少女を襲う。そのようなこと。士郎には許せることではなかった。
イリヤに襲われたことはあるが。それでも自分は人を信じたかった。

「うっ。ううう」
そこで少女がふと目を覚ましそうになった。

「目が覚めたのか」
素子は少女に近寄ろうとした。だがそれは士郎が許さない。
「俺が話す。素子は後ろに下がって」
恐怖心を植えつけられた素子より自分の方が安心だろう。
士郎はそう思い少女の元で腰を下ろす。
素子もここは士郎に任せ自分は少しだけ後方で待機を決めた。


少女は夢を見ていた。
夢の中では制服姿の女性朝倉涼子が少女に襲い掛かろうとしていた。
「いやあ。サイト助けてー」
夢の中で少女は叫ぶ。それと同時にサイトは現れた。
「ルイズ大丈夫か。怖がらせてごめんな。でも俺が居るから大丈夫だ」
サイトはルイズと朝倉涼子の間に入り襲い掛かる敵に剣を一振りした。
すると朝倉涼子はどこにもいない。存在が消えていたのだ。
「・・・サイトぉ。やったのぉ?」
ルイズは震えた声で聞く。
「ああ。ルイズ。無事でよかったよ」
サイトはルイズの無事に安堵すると強く強く抱きしめた。
「サイト。私・・・」
そして少しずつ少女は現実へと覚醒していった。
「うっ・・・ここは」
「おはよう」
目覚めたルイズに士郎は出来る限り優しい表情と声で話しかける。
「う、サイト・・・夢?・・・・・・はっ・・・きゃっ!」
頭が覚醒した少女は目の前の見知らぬ男の顔面に右ストレートを繰り出した。
「ぐっ」
不意の出来事に士郎はクリーンヒットを許してしまう。幸いにも非力な少女のパンチ。
士郎は鼻頭が赤く染まっているがそれほどの重傷ではなかった。
「ふっ」
後ろで素子はその光景をただ見つめている。

「ちょっとここは?・・・サイトは・・・」
少女があたりを精一杯見渡しても少女が求める男、平賀才人はここにはいない。
少女は目いっぱいに涙を浮かべた。
怖い。才人がいない。怖い目にあった。何も出来なかった。貴族の少女には辛すぎた。
「サイト、サイト、サイト・・・サイトっぉぉぉーー!」
少女はただサイトの名前を呼び涙を流し続けた。
「・・・落ち着いて」
士郎は泣き続ける少女にちょっと焦る。だが優しい声は忘れないようにした。とにかく刺激しないように努めた。
ほんの少し背中をさすってあげようとしたが
「いやっ。サイト以外触らないで・・・うっ」
完全に少女は拒絶した。
士郎には言葉をかけ続ける以外の術はなかった。

数十分が経過した。
素子はほんのわずかにイライラしたが少女を襲い爪を剥いだ人間の名前は知りたい。
わざわざ殺さずに爪だけ剥いだのだ。かなりの凶悪人物である。放置は危険だ。そのために我慢強く待っていた。
士郎はとにかく少女が泣き止むのを待った。ただ優しい言葉だけをかけ続けて。
最初は『サイト』のことばかり口にして泣いたのもほんの少しだけだが落ち着いている気がした。
さらに数分。
「うっ・・・う」
少女の泣き声も少しだが収まった。
「大丈夫か。ところで君の名前は?」
「・・・ルイズ・・・ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
ルイズは途中で小声のボソボソしゃべりになりながらも自分のフルネームを言った。
「えっ。ルイズフランソワルブラ・・・」
士郎は長すぎるフルネームに少し混乱した。
「・・・・・・・・・ルイズで良いわ」
ルイズは士郎にルイズと呼ぶことを了承した。その声は先ほどよりさらにはっきりした口調で聞こえた。
「そうか。えっとルイズ。どうして爪を」
士郎は聞きづらく小さな声でゆっくり話す。
「・・・」
ルイズはその問いのは押し黙ってしまう。
「あっ。やっぱり良いよ。辛いだろ。別に」
士郎はルイズを気遣いすぐに止めた。だが
「・・・・・・何だか腹が立ってきたわ。私は貴族なのよ。それなのにこんなこと・・・」
「・・・もう良いわ。教えてあげる。あの女・・・」
ルイズは長期間の気絶と号泣で逆にすっきりしたのかざっくばらんなぐらいはっきりとした口調で自分を最初に襲った女のことを口にした。
その説明には改めて思い出して自分のふがいなさ、相手への怒りも相まってドンドンハイテンションになっていった。
若干の脚色もあったかもしれない。だが記憶にある限りの全てを伝えた。
名前は名乗らなかったが涼宮なんとか、なんとかみくる、鶴屋さん、キョン、長門の五人は殺すなといったことも。
「そう。じゃあ恐らく襲った相手はその五人の知り合い。朝倉涼子・・・もしくはドラえもん。どちらかで間違いないわ」
じっと聞いていた素子が名簿と照らし合わせて確認した。
女でのび太や剛は考えにくい。その次の女と思わしき名前は性別が不明の11番の先生か14番の由託かなみ。それは遠すぎる。
既に絞り込んだ二人のどちらか。ルイズの話の限りではかなりの危険人物だ。見つけ次第射殺の覚悟も必要だった。
「・・・そう。やるじゃない」
素子が前に出るとさすがに少し怖いのかさりげなく士郎の背後に隠れる。
しかし隠れながらも上から目線の言葉だけは決して変えなかった。
素子はそんなルイズの姿などおくびにも気に留めずさっさともう一つの支給品を手に取った。そしてルイズに投げる。
「ただのおもちゃよ。遊んでなさい」
そういってグラーフアイゼンをルイズに投げる。
ルイズは前のトラウマか咄嗟に士郎の背中に隠れる。そのため士郎が受け取る形になる。
「・・・えっと。ルイズ。これ魔力を流せば武器になるみたいだぜ。一応使うか?」
士郎はルイズにそっとグラーフアイゼンを差し出す。
「魔力っ!?」
ルイズは士郎の声に聞くが早いかグラーフアイゼンを取る。
そして自分の魔力を少し流す。
するとドイツ語で(以後は『』内はグラーフアイゼンの声を和訳したものです)
『あなたがマスター?』
「・・・ええ。このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールがマスターよ」
ルイズは自信満々にグラーフアイゼンに我がお前の主だと伝える。
『オーケー。では魔力の更なる供給を』
グラーフアイゼンはさらに魔力を求める。
「分かったわよ。良い。ちゃんと受け止めなさい」
ルイズはさらに魔力を送り込んだ。すると一瞬ルイズは激しく心臓が揺さぶられるような錯覚を感じた。
そして莫大な光の渦がちょうどグラーフアイゼンを向けた方向にある一つの民家を吹き飛ばしてしまう。
すさまじい威力だった。だがそこでグラーフアイゼンは沈黙してしまう。
ルイズの息も大きく上がっている。
「はあ・・・はあ。何これ?ちょっと魔力流しただけで吸い込まれるよう・・・それにこの威力って・・・このばかっ!」
ルイズは沈黙してしまったグラーフアイゼンに思わず八つ当たりをしてしまう。
「・・・ふん。まあいいわ。今はちょっと気を抜いただけよ。敵が来たら絶対、ぜったい、ぜえぇぇっったい使いこなしてやるんだから」
ルイズは得意の強がりも見せた。あの時の覚えた表情が嘘のようだった。
「魔法・・・本当にあるのか!?」
素子はさすがに驚いた。そしてすさまじい威力には脅威も僅かながらに感じていた。
「まだまだ調べる必要があるな」


「それでルイズ?サイトって誰?もう完全に落ち着いたようだし。教えなさい」
素子はルイズが完全に本調子なのを確認し、ずっと気になっていたルイズが何度も口にした
『サイト』の名前を質問した。
「えっ。それは・・・使い魔よ。私の使い魔。飼い犬といっても・・・良いわっ!」
突然の問いかけにルイズは顔が赤くなった。だが必死で『使い魔』と主張した。
「それだけ?」
素子がなおも食い下がるとルイズの顔が余計真っ赤になる。
「もう終わりですよ。詮索しすぎだ」
ルイズの顔が赤くなったのを見て士郎が割ってはいる。
「・・・はいはい。じゃあ他に知ってる人は居る?」
士郎が割って入ったのでサイトの詮索をやめ別の質問でルイズに名簿を突きつけた。
「なっ。ってええっ」
ルイズはいきなり目の前に名簿を出されて驚いた。
そして平賀才人と自分の下にあるもう一つの知っている名前タバサを見つける。
「タッタバサなら知ってるわよ。本好きのちょっと暗い子よ。どうせ図書館で本でも読んでるでしょ」
タバサのことを軽く伝える。そして他の者は知らないことも一緒に伝えた。

「そう。・・・じゃあいくぞ。時期に日が昇る。電車に乗って街だ」

ルイズが完全復活したのを見届けると士郎とルイズをつれて素子は駅へと向かった。
【F-2のF-1のほぼ境目に近い位置の街・1日目 黎明】
【草薙素子@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:機能良好。ルイズが精神的に安定して安心。士郎も一応は敵では無さそうだ。
[装備]:ベレッタ90-Two(弾数17/17)
[道具]: 荷物一式×3、ルールブレイカー@Fate/stay night、トウカの日本刀@うたわれるもの
     水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、もぐらてぶくろ@ドラえもん、
     バニーガールスーツ(素子には似合う?)@涼宮ハルヒの憂鬱
     獅堂光の剣@魔法騎士レイアース、瞬間乾燥ドライヤー(電池を僅かに消耗)@ドラえもん
[思考]:
1、バトー、トグサ、タチコマを探す
2、ルイズと士郎と駅に向かう。
3、首輪を外すための道具や役立ちそうな人物を探したい
4、ギガゾンビの情報を知っていると思われる、のび太、狸型の青い擬体、少年達、中年の男を探す
5、ルイズの爪を剥いだ人間を放置するわけには行かない。見つけ次第射殺も辞さない。
6、平賀才人とタバサもついでに探してやる。
7、ギガゾンビの”制圧”
[備考]:参加者全員の容姿と服装を覚えています。ある程度の首輪の機能と構造を理解しました。
    草薙素子の光学迷彩は専用のエネルギーを大きく消費するため、余り多用できません。
    電脳化と全身擬体のため獅堂光の剣を持っても炎上しません。



【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:激しい疲労。左手中指の爪が剥がれている。しかし痛みはほとんど引いた。
     精神が安定も若干ハイテンション気味。理不尽な出来事に激しい怒りがある。
     ショーツとスカートが一度汚れたことに気づいていない。
[装備]:グラーフアイゼン(本来はヴィータの武器。ルイズが魔力をほとんど使ったため(暴発に近い)数時間は使用不能)
[道具]:最初の貴族の服。(素子に着せられたために聞くずれしてたが自分で直した)
[思考・状況]
1、才人と1秒でも早く合流する。(現状は素子に同行。途中の敵は素子と士郎にお任せ)
2、才人に手伝ってもらって朝倉涼子かドラえもんに5倍返しの報復。(1も3もまだの場合は同行者二人に隠れる)
3、魔力の回復を待ってグラーフアイゼンを使いこなす。
4、タバサとも一応会いたい。
5、1と2と出来れば4も完了次第もとの世界に帰る。(3と4はそれほど思っていない)
6、5の際に時間があれば主催のバカ男に願いを叶えさせて胸を大きくさせる。
7、6の際に余裕があれば才人と協力して素子に先ほどの仕返し。
8、7をやってもさらに余裕があれば主催のバカ男を自国に連れ帰って貴族の名の元に極刑(6が成功の場合恩赦有り)を与える。

【衛宮士郎@Fate/stay nigh】
[状態]:健康。ルイズのパンチが非力だったために少しだけ鼻頭が赤いが問題無い。
[装備]:自らが投影した剣。(型はアーチャーの剣干将・莫耶。宝具の力は無いが強度は結構ある。士郎は剣の名前は知らない)
[道具]:着の身着のまま(支給品は素子が預かっている)
[思考・状況]
1、セイバーと凛と合流。(とりあえず素子に同行)
2、アーチャーが居る理由と正体を確かめる。
3、ルイズを才人に合わせる。
4、出来る限り一人も傷つけずにゲームを終結させる。
5、佐々木小次郎の正体も確認したい(ロックがマスター?)
6、ヘンゼルとグレーテルに少しだけ興味(童話の兄妹?)


衛宮士郎はバーサーカー戦が終了してキャスターと戦うまでの間の状態で呼び出されました。
素子はルイズのドタバタで士郎に名簿の確認を取るのを忘れています。
ルイズの使用したグラーフアイゼンによる民家一軒崩壊で四方一マスにはその音が聞こえたと思われます。
ルイズはグラーフアイゼンを現時点では暴発ぐらいでしか殺傷力のある魔法は出せません。
そのため本来の接近戦での細かい操作は現状ではかなり難しいです。


タイトルの意味はフランス語で復活のルイズです。
>>13
状態欄最後の部分を修正。

誤 ※レイジングハート(1/10サイズ) は沙都子に薙ぎ払われた際、みさえが現場のどこかに落としました。

正 ※バルディッシュ(1/10サイズ) は沙都子に薙ぎ払われた際、みさえが現場のどこかに落としました。
22決意の言葉 1/4 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/11(月) 00:01:26 ID:GYhBUekN
音無小夜がこの世界の大地に降り立って数十分が経つ。
その間で彼女は驚きや混乱をなんとか抑えつけた。

「……よし」
まずは灯りを点して地図を確認する。H-7と区分されている場所にいるらしい。
次に名簿を確認すると、見知った人物がたった一人しかいなかった事に驚く事になった。
ソロモン・ゴールドスミス。ハジ曰く、「本能すら超えて、小夜の本当のシュヴァリエとなった」男。
彼が何故こんな場所にいるのかが判らない。だが受け入れるしかないようだ。もう一度冷静になって名簿を見る。
何度も確認しても、名簿にあるのはソロモンと自分の名前のみ。あのハジやカイの名前は載っていなかった。
彼らがいない事に少しばかり心細さを覚えつつも、この殺し合いの中に参加させられていない事に安堵する。
それにここにはディーヴァもいない。彼女がいないだけでも更に余計な心配は減る。

だが、つまり。
今の自分は孤独である事とほぼ同義である。

自分を知るのはただ一人、ソロモン・ゴールドスミス。
彼がどう動くか、それが少し気がかりではある。
「小夜の為に」と人を殺すか、「小夜が悲しむ」と殺しをしないか。
いくらでもイレギュラーが生み出されるこの状況では推測の域を出ないが
恐らくはこの単純な二択であろう。ソロモンはそういう男だ、きっと。
ならば、と小夜は思考する。自分はどうする? 自分はどう動くべきだ?
勿論、他の罪も無い参加者を殺す事はしたくない。
だがこの状況では自らの血を赤に染める人間も少なくは無いはずだ。
それを放っておけば、この世界には血の臭いが蔓延してしまう。

そこまで考えて小夜の答えは決まった。
この世界で人を殺そうとする者達を、自分の手で排除する。
自分がやらなければならない。あの時と同じように、被害者を減らす為に戦わなくてはいけない。
そうと決まれば、とデイバッグを開く。中に武器が入っていれば万々歳だ。
中に手を入れて遠慮なく引っ張り出すと、出てきたのは散弾銃だった。驚きつつ説明書を見る。

ウィンチェスターM1897
正式名称は「Winchester Model 1897」
アメリカのウィンチェスター(Winchester)社が開発したポンプアクション式散弾銃。
3発以上の装弾数を持つ散弾銃の元祖といわれ、民間はもちろんのこと軍隊や警察などでも使用された。
全長は985mmで重量は3.3kg、口径は12ゲージ。装弾数は5発である。

恐らく随分と強力な物を引いたのだろう、という事は理解出来た。
他にも何かあるだろうか、と再び手を突っ込む。出てきたのは、この散弾銃の予備弾だった。
ケースに入っているそれは視覚的にもずっしりとしている。説明書曰く入っているのは30発分らしい。
ランダムに渡されたとされる物品はこれで終了。武器が散弾銃一つとは言えど、これは大きなステータスだ。
しかしここで、小夜が散弾銃を使った事が無いという致命的な問題点が残る。
一体どうすればいいのだろうか。

「……撲って使おうか」

溜息が漏れた。
23決意の言葉 2/4 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/11(月) 00:03:10 ID:GYhBUekN


一方こちらは真紅。あれから彼女は東へと進んでいた。
その途中に遠目で見た観覧車の破壊には驚いたが、
まずは移動が先決だとばかりに孤独に遊園地の中を進んでいく。
全てはジュンや他の姉妹達を捜す為にだ。
だが突然彼女は立ち止まった。そのまま何をするかと思えば、デイバッグに目をやる。
「……武器が入ってるかどうかを見ていなかったわね」
そう、彼女はまだ支給品の全てを確認してはいなかった。
辺りを確認し、隠れられる場所を全て探す。近くにベンチがあったようだ。
警戒しつつベンチの下に隠れて息を殺し、誰もいない事を確認すると袋を開いて手を突っ込んだ。

「まぁ……なんと言う事……」
まず中に入っていたのは犬のぬいぐるみ。そう、まさしく真紅達が愛してやまない
子供向け人形劇番組「くんくん探偵」の主人公、くんくんの人形だったのだ。
「ああ、くんくん……あなたまでこんな所に連れて来られたのね……可哀想にっ」
そのぬいぐるみがくんくん本人(本犬?)だと言わんばかりに話しかける真紅。
話しかけている本人は至って真面目であり、更にはマジ泣き一歩手前だ。
微笑ましいどころの話ではない。もう一度言う、本人は至って真面目なのだ。
「……いえ、でも心配しないでくんくん。あなたは私が守るわ!
 だから今はこの袋の中に隠れていて。そして私を見守って頂戴……」
だが持ち直した。真紅は使命感によって更に燃え上がったのである。
涙など見せない。ジュンの為に、姉妹の為に、くんくんの為に!
私は気高きローゼンメイデンの第五ドールよ。何か文句があって!?
そう言わんばかりに更に袋を弄る。そして何か金属のようなものを掴んだようだ。
全貌を明らかにする為にそのまま勢い良く引っ張り出した。
出てきたのは――

「Zieh!」

明らかに真紅のサイズには合わない装飾された剣。理解を超えている。
しかもそれが出てきた瞬間、今度は流暢というより最早ドイツの住人みたいな発音のドイツ語が聞こえたのだ。
叫んでいるのはこの剣らしい。自分達、薔薇乙女の様に喋る事が出来る剣があるとは。
説明書を読むと、剣がレヴァンティンという名前を持っているという事、
そして更には魔力を込めると力を発揮出来る、といった事まで書かれていた。
魔力での行使……自分には可能だろうか? 一応花弁を具現化させる等の力は持っている。
これをお父様が魔力と呼んだかは知らないが、万一の事もある。一度安全な場所で確認するべきかもしれない。
――しかしそれはともかくとして、いきなりの声が『抜け!』という叫びだったのはどういう事だろうか。折角隠れていたのに。
「騒がしいわ、静かになさい」
「Mir tut es leid!(申し訳ありません!)」
「私の言葉が通じないの? 判ったわ。Halten Sie den Mund!(口を閉じなさい!)」
「Sie reden vielleicht in Japanisch!(日本語で構いません!)」
「あなた……私を馬鹿にしているの……?」
「Nein!(いいえ!)」
「そう……」
成程。本人(本剣?)は至って真面目であり、
この叫びは癖なのだろう。それは理解出来たのだが。

溜息が漏れた。
24決意の言葉 3/4 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/11(月) 00:06:18 ID:wr+P8ayK


「でも無いよりはマシ……」
小夜は予備弾を袋にしまい、ショットガンを構える。


「私はあなたを持ったまま歩いたりは出来ない。だからこの中にいて頂戴」
「Jawohl!(了解!)」
真紅は結局最後の最後まで叫んでいた剣を、柄を少し露出させた状態でしまう。


「この世界は、危険が常に隣り合わせだけど……」
小夜は静かに辺りを見渡す。


「レヴァンティン、よく聞こえないかもしれないけれど聞いて。
 私はここがどういう場所かは判らないけれど、大丈夫よ」
真紅は窮屈なベンチの影から再び外に出る。


「最初から諦めちゃいけない」
小夜は前を見据える。


「そう、私は美しく咲き誇る薔薇乙女」
真紅は再び歩き出す。


「罪の無い人達を殺戮から守りたい」
小夜は歩き出す。


「ここで倒れてしまっては、お父様にも姉妹達にも笑われてしまうもの」
真紅はしっかりと歩き続ける。


「だから、この殺し合いに乗った人たちを……倒す!」
更にしっかりと前を見据え。


「だから、皆を捜す。儀式とやらの計画を破綻させて、ここから脱出するのだわ」
思いを現実にする為に。


「私がやらなきゃいけないから……あの時の様に!」
決意を固める為に、言った。


「終わらせる方法は……きっと一つではないのだから」
「Ja!(はい!)」
返事を聞くと、今度はレヴァンティンを完全にバッグへとしまった。



この世界で、二人の望みは叶うのだろうか。
25決意の言葉 4/4 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/11(月) 00:08:25 ID:wr+P8ayK


【H-7・1日目 深夜】

【音無小夜@BLOOD+】
[状態]:健康
[装備]:ウィンチェスターM1897
[道具]:支給品一式、ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)
[思考・状況]
1:どこかへ移動
基本:まずはPKK(殺人者の討伐)を行う


【F-4 遊園地内部・1日目 深夜】

【真紅@ローゼンメイデン】
[状態]:健康、人間不信気味
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはA's、くんくんの人形@ローゼンメイデン
[思考・状況]
1:遊園地内部を東に移動中
2:自分の能力が『魔力』に通ずるものがあるかを確かめたい
基本:ジュンや姉妹達を捜し、対策を練る
26 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/11(月) 00:17:27 ID:wr+P8ayK
「決意の言葉」の修正です。

>>22より。

×だがこの状況では自らの血を赤に染める人間も少なくは無いはずだ。



○だがこの状況では自身の手を真赤に染める人間も少なくは無いはずだ。


に変更します。下が変更後です。
27飛び込んで行け、夜へ ◆.9Q8uilou6 :2006/12/11(月) 00:35:06 ID:H91yIhsR
それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた
大きくぶ厚く重く
そして大雑把すぎた
それはまさに鉄塊だった

「いったい誰がこんな剣使えるって言うのよ!」

デイバックを空けて出てきたのはどうやって中に入っていたのかも分からない巨大な剣だった。
私だって並みの男に負けない力を持っている自信がある。
でもこの剣は無理だ。
持ち上げるだけで精一杯でとてもじゃないが戦闘には使えそうも無い。
いったいどんな人間がこんな剣を振れるのか想像しようとして、一人の男の姿が思い浮かんだのであわててその姿を打ち消した。

あの男───ガッツが去ってから全てがおかしくなった。
グリフィスはガッツを追うように行方不明になり、鷹の団はミッドランドのお尋ね者になり逃亡生活。
だが───やっとグリフィスの居場所を掴んだ。
後は計画を練ってグリフィスを救い出せば全てが元通りになるはずだった。
こんな殺し合いに巻き込まれなければ。
「この剣は戦闘には使えそうも無いわね…何か他に武器は…これは?」
次に私は参加者の名前が書かれた紙を見つけた。

「ガッツ!?それにグリフィスも!?」

私は今までこの殺し合いに優勝して元の世界に戻りグリフィスを救出するつもりだった。
でもグリフィスはここにいる。
それに───ガッツも。
そして生き残れるのは一人。
私はどうしたらいい?
自分が生き残るためにグリフィスを殺す?
無理だ、そんなこと、力の面でも心の面でも出来るわけが無い。
私はグリフィスの剣。私の命はグリフィスの命の為にある。
じゃああのギガゾンビとやらを殺す?
それも無理だ。
私もグリフィスもガッツもただの剣士だ。
離れたところから魔法で相手の首を爆破する相手にかなうはずが無いし、そもそもここにいない相手を殺すことなど出来るはずもない。
なら私のすべき事は一つ。グリフィスのために他の参加者を殺して、最後に自害する。
でも私が全員を殺してる間にグリフィスが死んだら───
大丈夫。グリフィスは私よりも遥かに強い。
グリフィスを殺せる人間なんて───
『ガッツ』
私は名簿に書かれていたもう一人の知り合いの名前を思い出した。
28飛び込んで行け、夜へ ◆.9Q8uilou6 :2006/12/11(月) 00:36:16 ID:H91yIhsR

ガッツ、ガッツならグリフィスにも勝ってしまうかもしれない。
そして何より───グリフィスにガッツは殺せない。
グリフィスにとってはガッツは何にも変えがたい心の支えだ。
───多分、ガッツが鷹の団を捨てて去っていった今でさえ。
グリフィスにガッツは殺せない。
でもこの殺し合いで生き残れるのはただ一人。
なら、私が殺すしかない。
殺せないまでも、傷を負わせる事が出来れば他の参加者が殺してくれるかもしれない。
その為にも何か私にも使える武器は───
そう思いカバンに手を入れると、私の手が何かを掴んだ。

「これは───黄金の剣?」

今度の剣は先ほどの剣のように無茶苦茶なサイズではなく、私が今まで使っていた剣と同じくらいの大きさだった。
これなら、これならやれる。
決意は固めた。武器も手に入れた。後は───実行するだけだ。




【A-5・1日目 深夜】

【キャスカ@ベルセルク】
[状態]:健康
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、カルラの剣@うたわれるもの(持ち運べないので鞄に収納しました)
[思考・状況]
1:ガッツを殺す。
2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。

※1 キャスカはガッツが一度去って再開する直前、グリフィスが捕まってから一年後の状態で来ています。
29淵底に堕ちた鷹  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/11(月) 01:10:52 ID:b1g1/6t9
 輝くがらくたを求めて石畳を駆け抜けた、嘗ての幼少時代。
 茜色の帳が下りる夕暮れの中、ただただ純粋に目指した至高の到達点。
 最初は何も持ってはいなかった。だが、最初から他人が羨むものを持っていた。それは才能と言い換えてもいい。

 始まりは光の差さぬ陳腐な路地裏で。底辺に位置する穴倉から、曖昧に輝く真なる王城を求めて。一歩一歩と確実に歩みを進めてきた。  
 一つずつ、丁寧に丁重に。積み木を重ねるが如く慎重にだ。
 積み上げる腕は震えることなく、万事滞りなく高みを目指していった。
 順調にゆるりと進行した自身の目的であったが、そんな折に一人の男が現れる。
 躓きがなく、面白みに掛ける遊戯であったが、彼との邂逅は愚鈍な遊びに転機をもたらした。
 
 男は自分以上に何も持ってはいなかった。他人に羨まれるものとて所持していなかった。
 ―――だが、自分に持っていないものを持っていた。
 我を通す奔放さに、揺ぎ無い反骨心。常に直進する屈強な精神。
 目が眩むほどの男の特性を、一目で看破した。 
 故に思う。
 ―――欲しいと。
 そして、事実手に入れた。
 当然だ。今まで欲したもので、手に収まらなかったものはないのだから。
 男を加えてからというもの、自分の遊びは終幕へ向けて加速した。
 減速などありえない。推進剤の役目を担う男を伴って、全ての事を抜かりなく進行していく。
 夕焼けに誓った壮大な理想を叶えるべく、一刻たりとも静止せずに突き進んだ。
 自身が望む、自身の『国』を保持するという理想へ向けて。
 漠然と霞んでいた望みは、男の加入もあって鮮明さを増した。
 ―――あと少し。あと少しだ。あと少しで、自分は満たされると。
 だが、再び転機をもたらしたのは、やはり例の男であった。転機とは名ばかりの、暗い深淵へ転がり込む転機は確かに自分を深く叩き落した。
 男が去ったのだ。今まで留まることを知らなかった心を叩き折り、自分を差し置いて抜きん出た。屈辱という感情を置き土産にだ。
 一生懸命溜め込んだ砂利が指の隙間から抜け落ちていく喪失感に、精神の枷が外れたように自暴自棄となった。
 大いなる目的の為に小さな些事を斬り捨てながら保っていた精神の安定が、堰を切ったかのように流れ出した。
 決して媚びずに省みない男の存在が、感情の安定を確かに留めると共に、自身の起爆剤とも成り得たのだろう。  
30淵底に堕ちた鷹  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/11(月) 01:11:53 ID:b1g1/6t9
 ―――結果、自分は全てを失った。富も名誉も、他人が羨望する自身の特性も全てが全て。積み上げた積木は総じて崩れ落ちたのだ。
 これまで歩んできた人生が、愚かしいほどに無謀な計画だと自覚せざるを得なかった。
 つまらなかった。何もかもが。くだらなかった。自分を含めた有象無象の全てが。
 今更だった。男を失って、初めて後悔を自覚したことが既に後の祭りであることは。
 手中に収めたと思っていた筈が、何時の間にやら逆に掌握されていたという事実。
 崇高で神聖な目的を果たす巡礼の旅は、男と共にいることで陽炎の如く揺らめき、淡く色褪せていった。
 理想へ近づいていた筈が、どうしてこんなにも霞んでいくのだろうか。
 耐え難かった。一身を捧げて遥か遠い理想郷を目指していたのに、一人の男がそれを狂わせた。
 確かに距離を縮めていたのに、男といれば強迫観念とも言える使命さえ忘れることが出来た。
 ―――楽しかったのだ。時間すらも忘れて、初めて対等と思える他者と接したことは、何よりも尊かった。
 それが、耐え難かったのだ。
 長年追い求めてきた理想の果てが、男一人の手により夢の残滓に消えるのか。
 ―――駄目だ。容認できない。
 暗き路地裏から理想を見上げるだけに留めておけば、自分とてここまで苦しむことはなかった。
 だが、もう遅い。自分は取り返しの付かない地点まで駆け抜けて、―――既に、再起不能の身体を抱えてしまっているのだから。
 想像を絶する拷問を受け、身体機能は著しく退廃した。
 剣も鎧も担げぬ身体で、一体何を成し遂げようものか。何も出来はしないのだ。
 目が眩んで理想を求めた果てが、結局これかと。―――本当につまらない。

 そして、やはり来た。
 矮小で脆弱となった自身を救出すべく、それでも男は現れた。
 ―――男は自分を“救い”に来たのだ。地に沈んだ自身へ、高みから手を差し伸べたのだ。
 それが苦痛でもあり、それ以上に憎らしかった。
 確かに格下であったものが同等となり、仕舞いには憐憫の視線で見下ろされる始末。
 男だけには。ただ一人、彼だけには哀れみの視線を投げかけられることは我慢ならない。
 これでは自身の価値など、男の踏み台となるべく生を繋いだ哀れな生贄ではないか。
 助けられた己は、羨望の的であった己は、仲間であった者からも須らく見下されていた。
 仲間達にその気はなくとも、自分にはそう感じた。そうとしか感じられなかったのだ。
 それも当然か。なにしろ一人では何ひとつ成し遂げることも叶わぬ醜態な存在へと、無様にも成り果てたのだから。
 ―――恐ろしかった。意味も意義も無情に失われるということは、どうしよもない恐怖へと駆り立てた。
 全てを失くしたと、改めて身の境遇を自覚してしまうと心が凍てついた。
 突き刺さる同情の眼差しが、自分を絶望へと苛ませる。
 こんな惨めで情けない姿を晒されるぐらいなら、いっそ光の灯らぬ拷問部屋で息絶えた方が幾分か増しだったというものだ。
 自分を救出したと思い込む男達は、亀裂が入った精神の傷口に塩を塗りこむ行為と同義だということに気付きもしない。
 這いずるしか能のない蛆虫な自身に、価値ある生を求めること自体間違っているのだ。
 意味を失った命などに執着はなく、全ての柵を投げ捨てて川岸の畔で命を絶った。
31淵底に堕ちた鷹  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/11(月) 01:14:55 ID:b1g1/6t9
 元より不鮮明だった視界が閉ざされ、安楽という死へと堕ちていく筈だった。
 だが、漆黒の闇の中で、確かに意識が存在する。
 混雑極まりない思考が、あろうことか幻聴までも響かせた。
 どんな声色か声質か、今では判別もできはしないが、それでも確かに聞き届けた。
 それは再び機会を与えるという言霊に他ならない。
 言葉を受けた意識が明確となり、水中に浮ぶかのような浮遊感の中で、彼は眼光を灯らせた。
 暗き闇の淵に立つ自分の視界上で、彼方に聳える黄金色の城が、手の届かぬ位置で眩しく輝いている。 
 眩んだ目を薄め、ふと背後を振り返った。
 ―――そこには、ざわざわと蠢く嘗て人であった醜悪な肉の塊。
 一面を敷き詰めたように何十何百、何千何万の見るも無残な屍が延々と脈打ちながら続いていた。
 怨嗟の雄叫びを奏で、凄惨の悲鳴を響かせる無数の眼球は、怖怖と自分を見詰めている。
 そんな亡者共が連なるように積み上がり、自身の理想へ向けて長々と広がっていた。
 さながら過去に駆け抜けた路地裏の石畳の如く、欲求に従うよう親切にも踏み場を用意してくれているような光景だ。
 無意識にも理解する。―――それは贄だと。
 己が遊戯と称して積み上げてきたものは、断じて積木などではなかった。
 小さな犠牲と大きな犠牲を際限なく生んできたこの光景こそが、今の凝縮された世界なのだろう。 
 そして、頂きに届かせるべく、一体一体の不完全な屍を積み上げていったのは他でもない。
 ―――自分自身が築き上げたのだ。理想の為に斬り捨てた亡者の路地裏は、彼が積み上げてきたものだ。
 地獄の底から噴するように、絶望極めし幾重の唸り声を耳にした途端、唐突に不思議な感覚に囚われた。
 修羅の道を歩んだ先が、この光景を醸し出しているのだとしたら、自分は何を意固地に突き進んできたのだろうか。
 屍の罵るような言葉が問答無用に突き刺さり、彼は居た堪れなくなって頭を抱えた。
 感情を伴わない無情な罵倒が、途切れることなく自分へと降り注いだ。
 だが、死を意識せざるを得ない凄惨な挽歌の中で、閉じられた瞼の上から強い刺激を受けた。
 彼は、堪え切れずに面を上げて瞳を見開いた。
 ―――背後に広がる地獄絵図を霞ませるほどの眩い輝き、人生を賭して夢見た黄金郷が変わらぬ姿で佇んでいる。
 
 ―――そうだ、全てはこのためだ。
 何よりも尊ぶべき『国創り』。それが永久不変の目的ではなかったのか。
 人間という莫大な財産を無用に捨てたままで満足できるのか。志半ばで泣き寝入りを許容できるのか。
 ―――断じてありえない。嘆き続ける悲運な亡者共を価値ある死へと昇華せんために、自分が歩みを止めることなど許されない。
 理想の糧となった敵や味方達には、一欠けらの同情や謝罪する余地はない。
 詫びることなど決して出来ない。ここで詫びてしまえば、行為を悔やんでしまえば、今までの所業全てが水泡と化すのだから。
 数多の仲間や敵を踏みしだいて置きながら、今更何を躊躇う。
 諦めてしまえば、もう二度とあの場所へ手を届かせることは叶わない。
 だから、彼は振り返るのはもうやめた。 
 一心に輝く理想の果てを見届けて、彼の意識は四散する。
32淵底に堕ちた鷹  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/11(月) 01:16:40 ID:b1g1/6t9
 ****

「…………」

 彼―――グリフィスは開いた視界で辺りを見渡した。
 そこは黒幕で閉ざされた小さな一室。
 瞼を二三度瞬かせて、彼は小さく息を吐く。
 眼球を走らせて視界を回す。
 ―――見える。傷つけられた網膜が正常に機能する。
 鼻を振るわせて周囲を嗅ぐ
 ―――香る。削がれた鼻腔が正常に機能する。
 口内を乾かせて言葉を吐き出す。
 ―――紡げる。切断された舌が正常に機能する。
 指の関節を一本一本折り曲げて拳を固めた。
 ―――動く。千切られた腱が正常に機能する。
 グリフィスは能面の表情で哂った。 
 何の冗談か、まるで現実味がない。だが、認めざるを得ない真実こそが今であろう。
 今際に耳朶を打たせた煩わしい言霊。
 恐らく此度の主催者、ギガゾンビのものであったのであろうか。
 お陰とは思わない。都合のいい偶然と数奇なる宿命だと納得する。
 どっちにしろ、グリフィスが行うことに差異はない。
 薄汚い路傍を駆け抜けた頃と、なんら違いはないのだ。
 
 彼は近くに転がる支給品に手を伸ばす。 
 それは黒光りする頭身に、無骨なフォルムを備える短機関銃。
 傍には、何重にも繊維が張り巡らされた簡素な衣服。耐刃防護服だ。
 防護服は一撫でしただけで、使用用途については理解した。硬く繊細で、それでいて軽量化が施された防衛道具に感心する。
 甲冑ほど被害を低減させるほどではないが、何よりも軽装だというのが魅力であった。
 すぐさま装着し、次いで機関銃に触れる。
 グリフィスがいた世界でも数少なくではあるが、携帯銃火器も確かに存在はしている。
 刀剣類が主流となっているために、こういった武装は正直お目にかかることも稀であろう。 
 訝しげに短機関銃を眺め回すが、引き鉄に手を差し込むことで銃把が掌に適合した。
 根底まで続きそうな暗闇へと、機関銃の銃口を向ける。
 トリガーに掛かった指を引いた瞬間、騒音を伴う一発の銃弾が大気を裂きながら放出された。
 バキリと、何かが砕けた音がする。弾丸が室内の備品を破壊したのだろう。
 多少の衝撃を肌で感じ、銃口から立ち込める硝煙をグリフィスは眺めた。

「戦におあつらえ向きだな……」

 銃の射程や威力等、最低限の有用性を見抜いたグリフィスは無表情で懐に支給品を仕舞い込む。
 さらにバックから参加者名簿を引き抜いた。
 適当にさらっと目を走らせて、二つの名前に釘付けとなる。
 
「―――キャスカ……。そして、やはりいたか……ガッツ」
33淵底に堕ちた鷹  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/11(月) 01:18:49 ID:b1g1/6t9
 漠然と予感はしていた。
 キャスカはともかく、機会を設けた自身を差し置いて、ガッツがいない筈がないのだ。
 ガッツはグリフィスの本当の意味での友である。友愛の感情を持て余すほど惹かれている。
 ―――だがらこそ許せない。
 ガッツは自分を異常に狂わせる。一度でも彼を甘受してしまえば、手放すことが惜しいほどの執着心が沸き起こる。
 彼の輝きは、自身の理想を覆い尽くすほどにギラギラと目に付き刺さるのだ。
 それが苦痛だと、最初から気付いてしまえば良かったものを。
 耐え難い嫉妬の感情を必死に内包し、ガッツを常に格下、もしくは同等と見定めることで矜持を保っていたというのに。
 しかし、それは儚くも破裂した。
 ならば感情を持て余し、吐露すべき矛先は何に向ければいい。
 今ならば、少し考えれば自ずと理解も出来よう。―――当の本人に向ければ万事解決だ。
 ガッツと対峙した時に、既に心は決めていた筈なのだ。
 ―――手に入らぬのなら、いっそのこと―――
 
 今までは―――そうだ。少し休みすぎた。
 遊びは終わってはいない。これから再び始まるのだ。積木遊びは今も尚、頂を目指すべく継続している。
 故に、止まることは二度となく、積木と言う名の屍はこれからも築いていくだろう。 
 唯一無二の渇望を満たすべく、生ある命の全てが生贄だ。至高の到達点へ辿りつくために捧げられる人間は、ただの肉の御供に過ぎない。
 程よく揃っているバトルロワイヤルの参加者達は、例外なく競い合う軍鶏として献上されるだろう。―――自分の野望の為に。
 元より誰の為でもない。全ては欲求。全ては自己満足。その上に成り立つグリフィスの壮大な夢は、鮮血の絨毯で彩られている。
 彼は一切躊躇うことはないだろう。金輪際、眼前しか進まずに、見果てぬ世界を二度と見失うことはない。
 ―――紅の日暮れを背に駆け抜けた、あの路地裏の石畳はまだ続いているのだから。
 
「ふふ……。そうだな、そうだった。夕日は今も尚、輝きは失っていない……。沈んではいない。
 理想の為に……死んでくれるな、ガッツ?」

 グリフィスは動き出す。与えられた機会を活用すべく、自身の意義を見出すために。
 壊れた精神と、逸脱した思考を抱えて。
 理想を貧欲に求める渇望の狂戦士が、闇夜の戦場に降り立った。



【G−4 遊園地(お化け屋敷内)・1日目 深夜】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:正常
[装備]:マイクロUZI(残弾数49/50)・耐刃防護服
[道具]:予備カードリッジ(50発×1)・支給品一式
[思考・状況]
1:皆殺し

『備考:グリフィスの時間軸は蝕の寸前。川岸で覇王の卵を手にする直前なので、フェムトフラグは無し。
    五体満足で、精神だけが連れてこられた状態です。身体能力についてはガッツと決闘した時と大差ないです』
34「某としたことが……」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/11(月) 01:33:20 ID:90yWaiFt
「先刻は失礼した。某(それがし)の名はトウカ。エヴェンクルガ族の武士(もののふ)なり」

 なんとかロワイアルに巻き込まれて早数分、首筋に刃物を突きつけられるといういきなりのピンチに遭遇した俺だったが、今はなんとか難を逃れることに成功した。
 時代劇に出てきそうな武士の着物を身に付け、鳥類の羽を模した耳を携える謎のコスプレイヤーさんの名前は、トウカというらしい。
 なぜ彼女はこんな異常事態に、こんなふざけた格好をしているのか。少なくとも、先ほど出刃包丁を突きつけてきた時の彼女にはマジな緊迫感を感じたんだが。
 ひょっとして俺の錯覚だったか? それとも、彼女は真剣にこの姿で殺し合いに臨むつもりなのだろうか。
 オイオイ、まさかとは思うが、この舞台のどこかにいるであろう朝比奈さんも、SOS団給仕用のメイド服を着ていたりはしないだろうな。
 メチャクチャ可能性ありそうで、限りなく不安なんだが。

「しかしそなた……随分と珍妙な格好をしているが、いったい何処の国の出身だ?」

 珍妙な格好はどっちだ。自慢じゃないが、北高男子の制服はオーソドックスすぎるブレザーで、地味なことだけが自慢なんだぞ。ってやっぱ自慢になんねーよ。
 それに何処の国の出身かって、そんなもん一目瞭然じゃないか。あんたが今話している言語は何処の国のものだ。俺の知識じゃ該当する国は一つしかないのだが。

 と、俺の常識とトウカさんの常識をぶつけ合うこと自体そもそもの間違いだったのだと、その後の情報交換で思い知らされることになる。
 なんでも、トウカさんの出身国はハクオロという王様が統治するトゥスクルというところだそうで、豊かな自然と寛大な王に守られた素晴らしく住み心地のいい国らしい。
 しかしおかしいな。俺は世界地図でも地球儀でも旅行番組でも、トゥスクルなんて国はお目に掛かったことがない。
 エヴェンクルガ族とかいうのも初耳だし、ひょっとしたら国というよりはどこかの辺境民族の集落かなんかじゃ、と俺は考えた。
 我ながら、常識人らしい考えを持っちまったと思ってる。
 現在自分の身が置かれている状況と、普段自分が遭遇しているビックリ体験の連続を照らし合わせてみろ。
 この鳥の羽の耳を付けたコスプレイヤーさんじゃない人が何者なのか、トゥスクルという国が実在するのか否か、答えは実に簡単じゃないか。

 つまりトウカさんは――ハルヒが創りだした閉鎖空間のような――パラレルワールドの住人というわけだ。

 もちろん、この世界も俺の知る世界なんかじゃなく、その類のものなんだろうな。
 だとしたら、やっぱり元凶はハルヒか? アイツ、宇宙人や未来人や超能力者では飽き足らず、密かに鳥耳少女と友好を深めたいとか願ってやがったのか?
 って、いや、ちょっと待てよ俺。いくらハルヒがトウカさんみたいな特異な人種との遭遇を願ったからといって、そこが殺し合いの場である必要性なんて皆無のはずだ。
 確かに八十人が生死を懸けて戦うなんてのは、刺激的を通り越して猟奇的すぎるイベントだ。
 だがハルヒが心の底からそんな惨劇を望むかといえば、答えはノーに決まってる。実際、夏休みに起きた孤島での殺人事件もお芝居だったしな。
35「某としたことが……」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/11(月) 01:35:14 ID:90yWaiFt
 とまぁ、この世界における俺の浅知恵な考察はこの辺にしておこう。
 この殺し合いゲームにハルヒが関与しているにせよしていないにせよ、俺みたいな一般ピープルが一人が悩んだところで答えが見えるはずもない。
 何度も言うが、俺は至って普通の男子高校生だ。宇宙人でも未来人でも超能力者でもないし、そうなりたいとも思わない。
 ただちょっとばかり、周りが特殊すぎるだけだ。ライオンの檻の中に一人迷い込んだネコみたいな存在なんだよ、俺は。

「で、トウカさんはまず仲間たち――ハクオロさんとエルルゥさんとアルルゥさんとカルラさん、この四人と合流したいと」
「ああ。カルラ殿ほどの実力者なら心配要らないだろうが、エルルゥ殿やアルルゥ殿を一人にしておくのはあまりに危険。
 それに聖上は、絶対に失ってはいけぬ御方。某がなんとしてもお守りしなければ。キョン殿は――」

 ちなみに。
 これから俺に会う奴会う奴、みんな俺のことをキョンと呼ぶのだろうが、その辺のことについてのツッコミはご遠慮いただきたい。
 そもそも参加者名簿での登録名があだ名ってのはどうなんだ。いくら俺が本名で呼ばれることがないからって、これじゃあ初対面の相手にもキョンって名乗らなきゃいけねぇじゃねぇか。
 例外は俺だけでなく、鶴屋さんもよく『鶴屋さん』なんて呼称で名簿に載ることになったもんだ。ってか殺し合う相手に対してさん付けがデフォルトってのはどうなんだ。

「――えすおーえす団、というところの仲間を捜しているのであろう? 人捜しをするならば、人手が多いに越したことはない。
 どうだろう。ここは某と、協力関係を結んではくれまいか?」

 協力し合うことには何の異存もないだのだが、仮にも殺し合いをしろと言われてここにいるのに、そう簡単に人を信用していいものか。
 もっともそんな心配をしているのは俺だけのようで、トウカさんの瞳は曇りを一切持たない天真爛漫な光で輝いている。
 きっと、人を疑ったりとかあんまりしない人なんだろうな。

「あのギガゾンビなる怪人が如何程の実力を持っているかは分からぬが、某とて武の民エヴェンクルガ族の端くれ。
 某と共に歩んでくれるというのであれば、身命に懸けてキョン殿のお命を守ることを約束しよう」

 やたら勇敢なことを言ってくれるが、俺はうら若い女性に守ってもらうほど弱い男じゃない。
 そりゃ俺は古泉みたいな超能力バトルはできないし、この世界からの脱出方法についても結局は長門頼りだが、それなりに修羅場はくぐって来たつもりだ。
 運よく身を守るための武器も支給されているし、トウカさんにそこまで苦労をかけるつもりは――

「某の実力が疑わしいというのであれば、それなりの証拠をお見せしよう。そこで見ていてくれ」

 どうやら俺の気遣いの意味を取り違えてくれたらしい。
 トウカさんは弱く見られたと思っている自分の実力を見せ付けるため、支給された出刃包丁片手に一際高く聳えた大木の前に立つ。
 そしてそのまま腰を落とし、出刃包丁を持った右腕は左脇の辺りに構えた。
36「某としたことが……」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/11(月) 01:36:20 ID:90yWaiFt
 ああ、この構えなら分かるぞ――これは、世にいう『居合い』というものだ。

 剣術なんてものには浸透していないが、どういう技なのかはそれなりに知っている。
 刀を鞘に納めた状態で腰元に構え、相手が間合いに近づいてきた瞬間に抜刀、一撃で斬り伏せる神速の型だ。
 その姿は剣戟モノの時代劇で見る役者なんかよりよっぽど堂に入っており、思わず見惚れる程でもある。
 だが忘れちゃいけないが、彼女が持っているのは日本刀ではなく出刃包丁だ。
 そしてそれを使って斬り伏せようとしているのは、秋刀魚や鯵ではなく樹齢100年はあろうかという大木だ。
 ミスマッチにもほどがある。そんな風に考えていたら、風が吹いた。

 ――ヒュンッ

 トウカさんの出刃包丁による居あい斬り――その一振りが、轟音と突風を生み出したのだ。
 その剣速には正直俺も驚いたが、そんなことよりもまず、訪れた残酷な結果に言葉を失ったね。

「なぁ!?」

 案の定というかお約束というか想定通りというか、出刃包丁は見事に大木に減り込んでいた。半分にも斬り込めていない。
 まぁ、刃渡り数センチの刃物で人よりも大きな木を一刀両断なんて離れ業は、たとえ中国雑技団でも無理な芸当だ。
 こうなることは予測できていたのだが、なんというか、意外そうに目をパチクリしているトウカさんを見ると居た堪れない気持ちになってくる。
 自分の失態が納得いかないのかそれとも恥ずかしいのか、トウカさんは減り込んだ出刃包丁に力を込め、強引に木から引き離そうとしている。
 あーあー、そんなに力いっぱい引き抜こうとしたら……

 ――ポキンッ

 危惧して忠告しようとしたのも束の間。
 無理やりに力を込めた出刃包丁は、ものの見事に折れてしまった。

「なななななななななななななァァ――!?」

 や、そんなに驚かれても対応に困るのだが。
 そしてそのままがっくりと項垂れるし。
 トウカさんの剣の腕が凄いってのは分かったが、出刃包丁じゃこれが限界ってことをぜひ知ってもらいたい。
37「某としたことが……」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/11(月) 01:37:28 ID:90yWaiFt
「クッ! 某としたことが……一生の不覚ッ!」

 不注意から武器を失ってしまったことにショックを受けているのか、トウカさんは悔しそうに嘆いていた。
 
「まぁまぁ。そうだ、剣が得意っていうなら、俺のヤツを譲りますよ。俺の支給品、偶然にも刀でしたから」
「それはかたじけない。キョン殿には何から何まで、迷惑をかける……アッ!」

 俺が物干し竿をトウカさんに譲ろうと、徐に支給品類を広げた時のことだ。
 突如トウカさんの瞳が宝物を見つけたかのような反応を見せ、キラキラと輝きだす。
 その視線の先は俺が差し出した物干し竿ではなく、もう一つの支給品……不細工な上にやたらとデカイ、ウサギのぬいぐるみに注がれていた。

「か、かわいい……」

 ……そ、空耳か? 今一瞬、この不細工ウサギを見つめながら可愛いと称賛する声が聞こえたのだが。
 もしかしてあれか? トウカさんは、気丈な性格の割に実は無類の可愛い物好きというお決まりな設定を秘めているというのか?
 ……だとしたらそれなんて……ゲフンゲフン。いや、俺はトウカさんの正確な素性とかよく知らないぞ。原作とか、そういう単語はNGワードとして登録するように。

「そ、そういえば、トウカさんの他の支給品はなんだったんです? まさか出刃包丁一本だけってことはないでしょう?」

 話題を切り替えようと、俺はトウカさんに手持ちの荷物を見せてくれるよう頼む。
 これで支給品が包丁一本だけだったらどう慰めようかとも思ったが、あいにくその心配は杞憂に終わったようだった。

 トウカさんが新たに取り出した支給品は二つ。
 一組のボクシングローブと、造花のようにも思える一輪の花だった。
 俺はその二つの花の方を手に取り、説明書片手に難しい顔をするトウカさんに尋ねる。

「この花はなんていう道具なんですか?」
「『わすれろ草』、というらしい。なんでも、この花のにおいを嗅いだ者は、たちまちその時思っていたり考えていたことを忘れてしまう……と」

 なんじゃそら。つまり相手から思考を奪う道具ってわけか……まさかと思うが、なんかヤバイ薬の原材料とかじゃないよな。
 しかしまあ、使いようによっては使える道具かもしれない。
 たとえばもし誰かに襲われたとして、その相手にこの花のにおいを嗅がせれば、襲っていたこと自体を忘れちまうわけだ。
 ご丁寧にも数十分で効果が切れるとの補足説明付きだが、急場凌ぎくらいにはなるだろう。もちろん、使わないにこしたことはないのだが。
38「某としたことが……」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/11(月) 01:39:02 ID:90yWaiFt
「じゃあ、このボクシンググローブみたいなものは? これはどことなく武器っぽいですけど」
「ぼくしんぐぐろーぶ……というのはよく分からないが、それは『けんかてぶくろ』という名前らしい」

 なんつーまんまなネーミングだ。製作者はもっとこう、センスというものを考慮しなかったのだろうか。
 機能については説明を受けるまでもない。ただのボクシンググローブではないようだし、十中八九けんかが強くなるとか、そいうまじないめいたものが込められた道具なのだろう。
 俺はそのけんかてぶくろなるものを拝借し、試しに手に嵌めてみた。
 ボクシンググローブを嵌めるなんて機会は滅多にないからな。気分はプロボクサーだ! なんて思いつつ、少々舞い上がりシャドウボクシングなどしてしまった。
 それが、最大の間違いだったんだな。

「ぐふぉっ!?」

 ――突然、殴られた。誰にかって? 他でもない、自分の腕にさ。

「ごふっ!? ぐおっ!?」
「キョ、キョン殿!?」

 混乱するな。誰がなんと言おうと俺が一番驚いている。
 一応断っておくが、俺は急に自虐の楽しみに目覚めたとかそんなんじゃないぞ。
 シャドウボクシングするつもりで空に振り被ったパンチが、意図せずUターンして俺の顔面に飛び込んできた。ただそれだけさ。
 結果的に、俺は自分で自分を殴っていることになる。それも自分の意思とは関係なしにだ。
 力の調節もできたもんじゃない。どうすれば止まるのか見当も付かず、俺は激痛の走る顔面から鼻血を垂れ流していた。

「こ、これはいったいどうなって……」
「ト、トウカさんごふぉ、説明書をぼっ、読んでくださべっ!?」
「説明書……は! な、なんと! 『自分で自分と喧嘩できる道具』と書かれている!?」

 な、なんてこった。喧嘩が強くなる、なんてとんだ見当違いな効果じゃねーか!
 あまりの馬鹿げた効果に怒り狂いたかったところだが、腕が殴ることをやめない内ではそれも叶わない。
 つーか誰だこれ作ったの。責任者出て来い。
39「某としたことが……」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/11(月) 01:40:20 ID:90yWaiFt
 ――危うく、自分の拳に殴り殺されるところだった。
 結局、俺の腕が俺の顔面を殴り続けるというアホすぎる行動から解放されたのは、五分が経過してから。どうやら時間制限が付いているらしい。
 だがあえて文句を言わせてもらおう。なげーよ五分。というかこんなものはこの先一分一秒足りて付けたくはない。てかもう絶対付けねぇ。
 もし俺の拳が本当にプロボクサーのものだったら、それこそ死んでいたかもしれない。効果はふざけているが、考えようによっちゃ恐ろしすぎるアイテムでもある。
 ないとは思うが、こんなものが普通にデパートに並んでいたとしたら、消費者から事故が発生するのは間違いないと思う。

「申し訳ないキョン殿! 某としたことが……支給品の効果を見誤るとは、なんたる不覚!」

 トウカさんはといえば、自分の支給品で俺を傷つけてしまったことが居た堪れないのか、ほとんど土下座の体勢でさっきから謝り続けている。
 もとはといえば、先走ってあんなものを嵌めてしまった俺が悪いのだが。
 俺はトウカさんに気にしないよう言葉を投げかけてみるのだが、この人の性格も相当頑固なようで、自らの手で責任を取らなければ気が済まない様子である。

「かくなる上は……割腹し、この命を持ってお詫び申し上げまする!!」

 ――――ハ?

「え、あの、トウカさん? 何もそこまでしなくても……」
「いいえ! せっかく協力し合えた相手にこのような失態を働いてしまうとは、エヴェンクルガ族末代までの恥!
 義を重んじる民の者として、償いを入れねば某の気が治まりませぬ!」

 俺が制止を入れても聞かず、トウカさんは正座の体制から腹部目掛け、折れた状態の出刃包丁を付きたてようとする。
 いくら折れてるからって、あんなもの突きつけりゃ怪我をすることは間違いなしだ。

「聖上……某の未熟が故の失態、どうかお許しください。願わくば、皆が無事に生還できることを……」

 覚悟を決めたのか、目を瞑り切腹の体勢に入る。

「わー! ストップストップ!!」

 俺は慌てふためき、咄嗟に地面に置かれた一輪の花を手に取った。
 わすれろ草、だったか。彼女を止めるには、もうこれしか方法がない。

「忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ!」

 トウカさんの鼻元で、がむしゃらにわすれろ草を振るいまくる。
 するとトウカさんはむず痒かったのか、ハクチュ、と可愛らしいクシャミを一回。
 そして、次の瞬間には手から出刃包丁を放していた。
40「某としたことが……」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/11(月) 01:42:54 ID:90yWaiFt
「あれ……某はいったい何を……?」
「や、やだなぁ座り込んじゃって! ほら、早く立ってくださいよ! 仲間を捜しに向かうんでしょう?」

 俺はやや強引にトウカさんの手を引き、方向も確認せずに歩き出す。
 トウカさんはやや不服そうな顔を見せたが、すぐに自分の成すべきことに気づき、自らの足で歩みだした。

「そうだ……一刻も早く聖上を見つけ出し、お守りしなければ。某としたことが……そんな大事なことを失念してしまうとは」
「そうですよ〜ハハハ……」

 つ、疲れるっ! なんかもの凄く疲れたぞこれまでの一連の行動っ!
 ともかく俺は心強いかどうかはかなり微妙な線をいく協力者を得て、仲間達の捜索に当たった。
 正直先行きはかなり不安なんだが……ま、グチを言っても始まらんだろう。


 ちなみに。
 トウカさんは今回、「某としたことが……」と三回も口にした。おそらくは、本人も知らない内に口癖になっているだろう。
 そしてそれを分析して、俺は確信したね。
 口には絶対出さんが、トウカさんは重度の「うっかり者」で間違いない。絶対。


【A-3森 初日 黎明】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:軽度の疲労(精神面含め)、顔面に軽傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、わすれろ草@ドラえもん、けんかてぶくろ@ドラえもん
[思考・状況]1:トウカと共に仲間の捜索。
       2:ハルヒ達との合流(朝倉涼子に関しては保留)。
      基本:殺し合いをする気はない。

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に、なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん
[思考・状況]1:キョンと共に仲間の捜索。
       2:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す。
       3:ハクオロ等との合流。
      基本:無用な殺生はしない。

※それぞれの支給品を交換しました。
41approaching!  ◆XnCOMfEOg. :2006/12/11(月) 02:23:06 ID:6T6S/WUD
 暗闇にも随分目が慣れてきた。
 いざ毛布を被ってみると、目に広がるのは闇の青ではなく、どれほど前か知れない先刻に見せられた赤の飛沫。
 目に映る赤に興奮したなのはの体のコマネズミが、あっちこっちを走り回って心臓を蹴ってぐるぐるぐる。
 眠れるわけがない。
 暗闇にも随分目が慣れてしまった。
 逃げ込んだ場所はどうやら小さめの家具を扱う雑貨屋だったようで、クッションに毛布と、寝る準備だけは整えられる。
 とりあえず最初に手をかけたら鍵が開いていたので忍び込んだだけだった。
 この分なら、近くを探ればもっと色々な物も手に入るかもしれない。
 そう考えながら、すっかりバターと油の匂いが充満した店の中を見回す。
 食べるだけ食べて満腹の不良さんが一人。
 テーブルかけの説明書には、使いすぎると効果がなくなりますと書いてあった。あと何回使えるんだろう。
「……? 呼んだか?」
「えっ、う、ううん」
「ん、そうかよ」
 消化不良そうな顔をして、カズマはなのはから視線を外す。
 あとは夜の暗さがどっしりと、体中に乗っかってきているばかりだった。
 カズマはそれっきり何も言わない。心細さから誰かも構わずに呼び止めてしまったけれど、
 相手によってはあの場で殺されていても文句は言えない状況だった。
 カズマはちょっと怖い人だった。でも、信じても大丈夫みたいに思う。少し離れたところで目を少しだけ開けて、下を向いている。
 やっと気持ちが落ち着いてきたかもしれない。
「あの、お布団まだありますよ」
「いらねえよ」
「でも」
「いらねえっつってんだろ」
 ぶっきらぼうに言い捨てると頭を上げて、背の衣装棚にもたれかかっていた。

                          ※

 街灯のスポットライトを避けながら南へしばらく歩いていると、商店街と思しき場所に入り込んだ。
 深夜ともなると物音がよく響く。昼なら絶対に気づかないだろう、という音まで聞こえてきて、時々必要以上に身に力が入ってしまう。
 さっきのドラのような音は何だったのだろう。聞こえるには聞こえたが、それほど近くもなさそうで、放っておいてもいいような気がする。
 ふと立ち止まった。横に立っている商店は、なんとなく雰囲気が違う。
 周囲に気をつけながら建物を一周してみて、ここだけちゃんと窓にカーテンがかかっていることに気がついた。
 人がいる。
 しかもカーテンをしているということは、これから寝ようというのだろうか。なんだい余裕だなあ、と呆れ笑いが出た。
 でも、そういう相手なら話し合う余地もあるはず。
 意を決して窓をノック。
「すいませーん。いいかーい? いいかなー?」
 警戒されないように、こちらから声を出す。と同時に、すぐに窓枠から身を外した。
 狙い撃ちにされては、お粗末にも程がある。
42approaching! 2/6  ◆XnCOMfEOg. :2006/12/11(月) 02:24:56 ID:6T6S/WUD
 案の定、応答なし。
「もしもーし?」
 今更だが、相手が問答無用だった場合は、このやり方はすごく危険だ。
「誰かいるんだよねーっ。あたしも入れてよーっ」
 悪くすれば、もう周りを囲まれている可能性も……ないと思いたい。一目見れば罠を張っていないとわかってもらえるはずだ。
 建材の擦れるビニール質の音を小さく立てて、糸ほどに戸が開いた。

                          ※

 心強いから、という。
 高町なのはと名乗った女の子の意見に、鶴屋は全面的に賛成だった。
 この子も、鶴屋の笑顔にすっかり心を開いたのか、鶴屋を招き入れた時のような固さがかなり和らいでいる。
 だが残念ながら同時に、使えそうもないなあとも思った。
 おそらく衣装棚の前でふてくされている柄の悪い青年も同意見だろう。
 不良の方は喧嘩はできそうだが、殺し合いとなるとどうなるか。なのはに至ってはどこにでもいる普通の女の子だ。
 ちょうどさっき殺したような。
「あーのさ、そっちの彼の名前も教えてほしいなって」
「そうですよ、カ……」
「その前に聞きたいことがある」
「名前? さっき言ったじゃん、あたしは鶴屋……」
「そうじゃねえ。その袖の血だ。バッグにもだ」
 デイバッグに、セーラー服に、気をつけても見落としかねないレベルの小さな血飛沫がひとつ、ふたつ。
 青年の上げた顔に、いつの間にか野犬の目が光っていた。
 やってしまった。頚動脈からの噴血である。バッグを押し当てた程度では、抑え切れなかったのか。
「そりゃあ……」
 最初に女の子の首が飛んだ時さとありがちな言い訳をしようとして、鶴屋は止まった。デイバッグにまで飛んでいる血の説明がつかない。
 危ない危ない。
 危ないついでに、もう少し危ないを重ねるしかない。
「うん、実はここに来る前にちょっと襲われちゃってね」
「お前に怪我はねえようだな」
「まあね……っ。相手に怪我させて、その隙に逃げたのさっ」
「どんな奴だ?」
 さっきまでのくつろいだ空気もすっかり消えてしまい、なのはが隅でうろたえている。
「あの……」
「あっはははー。めがっさ暗くてよくわからなかったのさ! 結構体格はよさげな感じだったよ!」
 いくら本当の話でも、10歳かそこらの女の子に刃物を向けた話なんかして、いい印象なわけがない。
 胃がもたれていそうな顔をして、カズマは黙った。
「あのさっ、それで君の名前……」
 答えはない。
「にょろーん……」
 再びほぐれた緊張に、なのはが場をつなぐように笑った。
43approaching! 3/6  ◆XnCOMfEOg. :2006/12/11(月) 02:26:08 ID:6T6S/WUD
                          ※

「なのはちゃんなのはちゃん、支給品の確認って済ませたかい?」
 手持ち無沙汰になのはとコミュニケーション。
 彼女にチンピラの名前を聞いてもいいような気がするが、答えるなとでも言いたげなプレッシャーが彼の全身からにじみ出ている。
 変に話をさせて、チーム仲を悪くしてもしょうがない。
「あ、はい……そんなにいいものは入ってませんでした」
「あーらら、そりゃ残念だねっ。まあ、あたしも人の事言えないけどさっ」
 ボディブレードを取り出し、びよんびよんと振ってみせる。情けなそうにだが、なのはからまたひとつ笑顔が出てきた。
 この子は、話していて落ち着く。やたらと裏を読まなくてもよい雰囲気だからだろう。
 彼女と比べると、表すら見せてやるものかと牙を剥いている連れの男がなおのこと近寄りがたい。
「ちなみに聞いていいかなっ。何が入ってた?」
「あ、ええっと、テーブルクロスです」
「そりゃひどいね」
 外に声が聞こえないように、二人揃って忍び笑い。本当に殺し合いをさせるつもりの支給なのだろうか。
 今は、かなみと同じやり方はやめた方がいい。なのはだけならともかく、青年の出方が読めない。
「そうそう、あたし人探ししてるのさっ。ちょっといいかい?」
 となると後する事は情報交換ぐらいになる。カーテンを少し開いて、街灯の明かりで名簿を照らす。
 フェイト、はやて、シグナム、ヴィータ。名前と、特徴。
 そういう姿の人間に会った時になのはの名を出せば、少なくともその場は凌げる。ただし、なのはが生きている限りだ。
 そしてなのはたちにもこちらの名前を出すように言っておけば、SOS団との不慮の交戦の可能性はぐっと減る。
「テスタロッサ? うっわー、強そうな名前だねっ」
「え、そう、です、か……?」
 困り顔のなのはの向こうで、不機嫌そうな青年が、興味の無い顔をしてこちらを窺っている。
 暇なのだろう。
「んふふ、君も見るかいっ? 名前を教えてくれるかなっ?」
「ケッ」
「ありゃりゃ、正直じゃないね」
 なのはもどうしようもないなあという顔で笑っている。
 仕方がないので二人で名簿を見ていると、またカズマが少しずつ近づいてきている気がする。
 目線を上げると、今度はカズマが名簿を注視している顔に行き当たった。
「ふふん、やっぱり興味深々にょろねキミ。それじゃあ名簿からキミの名前を当てて……」
 言い終わらないうちに、カズマの腕が参加者名簿をむしりとった。暗がりに引っ張り込まれた名簿が、また光の下に戻ってくる。
 ただし今度はカズマごと。
「かなみ……!」
 自分の顔が強張ったのが、はっきりと感じ取れた。
「クーガー……劉鳳……!」
 幸運にも、鶴屋の異常は気づかれなかったらしい。それ以上に、カズマの衝撃の方が強かった。
「君島……!?」
「うんうん、私の友達もさ……」
 そろそろ合いの手を、とうっかり口を開いてしまった鶴屋に、カズマの動揺が殺到した。
44approaching! 4/6  ◆XnCOMfEOg. :2006/12/11(月) 02:27:36 ID:6T6S/WUD
「どこだ!? かなみは! 君島はどこにいる!?」
 尋ねてもわかるわけがない。カズマの暴走に過ぎない。普通は逆さに振っても「知らない」としか言えない。
 だが、心当たりのありすぎる鶴屋の脳裏に走った思考はそうではなかった。
 この男はかなみを知っている。ならば、自分の来た方向へ行かせてはならない。
「あ、あっち!」
 咄嗟に、あらぬ方向を指差した。
「間違いねえな!? 間違ってたらブッ飛ばす!」
 なにせ相手がチンピラの御面相で、今にも絞め殺しかねない気迫を放っている。勢いに負けて、思わず首を縦に振る。
「くそっ!」
 一声叫ぶと、跳ね起きて扉を蹴破った。逆側に打ち込まれた蝶番が、建材の破片を撒き散らしながらバウンドする。 
 追いかけた方がいい。かもしれない。少なくとも、一人でいるよりはマシなはずだ。
 だが、いなかった場合に吊るし上げを食らったらどう言い逃れるか。わざと撹乱していると思われたら最後だ。
 だがここで考えていても仕方が――――
「あ、カズマさん!?」
 上げかけた腰が固まった。
 なのはが慌てて荷物をかき集め、追いかけようとしたところで、座り込んだ鶴屋を顧みる。
 崩れかけた笑顔をつくろって、とりあえず笑ってみましたという態を装うと、彼女は少しだけ迷った後、外へ飛び出した。
 手前勝手に離れていくカズマを優先したのだろう。
 四角く切り取られた壁から、宵闇と街灯が染み込んできている。
「……うっひゃあ」
 そうだ。
 ついていく馬鹿はいない。
 一雨降られたかのような勢いで、汗が流れていく。
 追いかけるなどという気が起ころうはずもない。カズマの存在感と、なのはの軽い駆け足が遠ざかっていくのを聞き取るまで、
 鶴屋は全身を耳にして、じっと外を窺っていた。
 寒いのは、吹き込む夜風のせいばかりではない。

                          ※

「かなみー! どこだ! 聞こえたら返事をしろ! かなみー! 君島ぁー!」
「かっ、カズマさん! 大きな声なんて出したら……!」
 夜はただでさえ静かで音が通りやすい。すぐに見つかって大変なことになってしまう。
 どうにか追いついて腰にかじりついたが、なのはを引きずってでも進むつもりらしい。
「カズマさん! おち、落ち着いて!」
 歩調をあわせられず、数メートル引きずられたところでようやく止まった。
「そんなに大きな声を出したら、二人を見つける前に危ない目に遭っちゃいますよ!」
 腰にぶら下がったまま見上げると、相当に殺気立った視線が降りてきている。
「かなみは何もできねえ。俺なんかいい、今危ねえのは俺よりあいつだ。早いとこ見つけてやらねえと……それに……」
 カズマは顔を上げた。奥歯がすごく踏ん張っている音がする。
「君島は死んだ。墓も作った。埋めたのも俺だ。こんなところにいるはずがねえ」
45approaching! 5/6  ◆XnCOMfEOg. :2006/12/11(月) 02:29:42 ID:6T6S/WUD
 一瞬、カズマが殺したのかと思ったが、それなら名簿を見て慌てるのは変だ。
 カズマは乱暴だけど、嘘をついたり変なごまかしをしたりしないと思う。してもすぐばれると思う。
 爪先がやっと地面を探り当て、なのはは腰から降りた。
「君島さんって?」
「……腐れ縁だ」
 ようやく、気持ちが落ち着いてきた。
「友達……なんですね?」
「……まあな」
「かなみちゃんは……?」
 なんて答るか、ちょっと気になった。思ったとおりカズマは、眉間にしわをつくって何かじっと考えている。
「……いいだろそんなことは! かなみはかなみだ!」
「私も、友達を探してるんです。あの、一緒に探せないかな、って」
 苛立ちをかわされて、カズマが詰まった。ぐりぐりと眉間のしわに力を入れていたが、ため息をひとつ吐いて、肩から力を抜いた。
「知るかよ。もう好きにしろ」
「うん、好きにやります」
 そうと決まれば、まずはお互いの友達の話から始めなければ。
 知らずに戦ったりなんかしたら大変だ。
「……あれ、そういえば鶴屋さん」
「ほっとけよ。来たくねえから来ないんだろ」
 それはそうかもしれない。
 でも、それでも一人で置いていくのは危ないし、何かがちょっとだけ引っかかる。
46approaching! 6/6  ◆XnCOMfEOg. :2006/12/11(月) 02:30:49 ID:6T6S/WUD
【G−8(モール)・1日目 黎明】

【カズマ@スクライド】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)・携帯電話(各施設の番号が登録済み)・支給品一式
[思考・状況]
ギガゾンビを完膚無きにボコる。邪魔する奴はぶっ飛ばす。
かなみの保護あるいは君島の確保を最優先。次点、協力要請及び状況把握のためクーガーとの接触。劉鳳? 後だ後!

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り22品)・支給品一式
[思考・状況]
カズマと一緒に知人探し。
フェイト、はやて、シグナム、ヴィータの捜索。


【G−8(商店内部)・1日目 黎明】

【鶴屋さん@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:正常。服およびバッグに、ごく目立たないレベルの返り血の付着。
[装備]:ハンティングナイフ
[道具]:自分の支給品、かなみの食料と水、ボディブレード
[思考・状況]
SOS団の面子(キョン、涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる)と遭遇した場合、彼らを守る。
それ以外の面子と遭遇した場合、接触し、利用できそうなら共に行動。利用できそうにないなら隙を見て殺す。
カズマ、なのはは今後、殺害可能状況が来るまで回避する。
基本:ステルスマーダーとして行動


※カズマと君島の原作時間軸は多少の前後があるようです
47従わされるもの ◆lbhhgwAtQE :2006/12/11(月) 03:25:45 ID:r1+BaKHM
「ようやくここまで辿り着いたか、っと」
俺は背負っていた少女を下ろし、横たわらせると自分もその場に座り込んだ。
そりゃ、ずっと女の子一人を背負って歩いてりゃ流石の俺だって疲れるさ。
で、休憩がてら、とりあえず俺は地図を広げた。現在地を確認するためにな。
「……っと、確か最初C7って位置にいて、南西に進んできたんだから……今はD6あたりってことかぁ?」
最短で山を下りれそうだったルート。それを進んだ結果が、南西方向への下山だった。
何せ、女の子一人背負ってるんだ。出来るだけ近道を使いたいってのが道理だろ?
……で、俺の視界には山の麓にそびえるホテルらしき建造物の姿が映っているわけだが。
「なぁるほど。あっちの方角に、こいつが見えるって事はぁ……大体ここらへんかぁ」
目の距離感覚を信じて俺は大方の目星をつけた。
現在位置が、D6ブロックの中央北寄りあたりである、ってな。
そうと分かれば話は早い。
俺は嬢ちゃんを連れて、とっととそのホテルを目指すことにした。
……何、別にやましいことなんざ、考えちゃいない。この嬢ちゃんには野宿をさせたくないだけだ。
ホテルなら、屋根もベッドもあるしな。
ま、そういうわけで俺は休憩を終わりにして、嬢ちゃんを背負おうとしたんだが……その時俺は耳にしたんだ。
背後から何かが近づいてくる音をな。
……やれやれと思ったさ。どうしてこうも、俺は背後から誰かと会うんだろうな、ってな。
だが、もし相手がやる気だったら、このまま殺されちまう。
そんなのまっぴら御免だ。
だから、俺は後ろを振り返った。マテバを構えてな。
――すると、草むらの向こうに見えたのは……


梨花から逃げてどれくらい時間がたったのであろうか。
アルルゥは走っていた。
その小さな身体でひたすら山道を。
途中何度も石や蔦につまずき転び、身体にいくつもの傷が出来ても。
例え、それが本当に山を下りる道なのか分からなくても。
しかし、その手に持つ鉄扇だけは放さぬように。
アルルゥはひたすら走った。
――そして、彼女が草むらをかき分けて飛び出そうとした先には……
「…………!!」
そこには人がいた。
赤いジャケットを羽織った長身の男。
そして、その横で眠っている少女。
それを見たアルルゥは、無意識のうちに手近にあった木の後ろへと隠れた。
先ほどと違い、もう投げるものはない。
あるものは、父と慕う男の大事な武器だけ。
これを投げるわけにはいかない。
どうすればいいんだろう……アルルゥは困りながらも鉄扇を握り締めて、じっと木の裏に隠れていた。
すると、そんな彼女の耳に、男のものらしき声が。
「はぁい、そこにいる方はどなたですか?」
48従わされるもの ◆lbhhgwAtQE :2006/12/11(月) 03:26:50 ID:r1+BaKHM
いやはや驚いたぜ。
草むらから飛び出してきたのは、ちっちゃいお嬢ちゃんだったんだから。
歳は大体、あのギガゾンビに殺された女の子と同じくらいなんだろうけど、その格好がこれまた珍しかった。
服装は、日本の北海道にいるアイヌ民族の服装をアレンジしたっぽい感じで、しかも犬みたいな耳の形をした飾りをつけていたときた。
こりゃあ、一体どこの宗教なんだ、と思ったんだか、それも束の間、その子は目にも留まらぬ速さで180度ターンすると木の後ろに隠れちまった。
……俺ってそんな隠れられるほど悪人面してっかなぁ? いや、確かに悪人なんだがな。  
……だが、どうやらあの様子だとやる気ってわけじゃなさそうだな。
となると、ただ怯えているだけってことだが……そんな怯えている女の子を放って置いたとなれば男が廃る。
ひとまず、あの子をなんとかこっちに呼び出してやろうか、っと。
――まずは、優しく声を掛けて……
「はぁい、そこにいる方はどなたですか?」
「……! …………」
「こっちは君を取って喰おうだなんて考えちゃいないぜ。だから、出ておいで」
「………………」
……あらら、やっぱりダメか。
こっちをちらちらと見てはいるけど、来る気配はないねぇ。
だったら、直接――とは思うものの、そんなことしたら余計に警戒されそうだ。
ここは一つ、何かあの子をこっちに来させる方法を――っと。これなんかどうだ。
俺は、今まで役に立ちそうにないだろうなと思っていたそれを取り出した。


アルルゥは木の後ろから、じっと向こうの男の様子を見ていた。
男は彼女に声を掛けたりもしたが、それでも動かず、ただじっと彼女は様子を伺っていた。
だが。
「ほら、こっちに来たら、これをあげよう。……だから、おいで」
男の手に載せられていたふわふわしたもの。
それを見ると、アルルゥは耳をぴこーんと立てた。
「ほら、おいしそうだぞ。中には……ほら! アンコの他にチーズまで入ってるんだぜ。こいつぁたまらないぜぇ?」
どうやら、それは食べ物であるらしい。
アルルゥはそう判断するや否や、目をギュピーンと効果音が出そうなほど輝かせる。
……だが、それでも人見知り名性格ゆえに一歩が踏み出せなかった。
だがその一歩も――
「お前さんがこないなっら、お〜れが食べちゃおっかなぁ〜――っと、おぅわっ!!」
その一歩も、食べ物の力により簡単に踏み出せてしまった。

アルルゥ――人見知りを食べ物で解決できる少女であった……。
49従わされるもの ◆lbhhgwAtQE :2006/12/11(月) 03:28:25 ID:r1+BaKHM
いやはや驚いたぜ。
まさか、ドラ焼き一つで、ここまで食いつかれたとは。
しかも、あのドラ焼きを奪い取った速さ……俺よりも速いんじゃないのか?
……とまあ、それはさておき、飛び出てきた女の子は今、実に美味そうにドラ焼きを食べている。
その食べっぷりを見ていると、こっちまで腹が空いてきそうだぜ。
「よぉ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは一体今までずっと一人だったのかい?」
「……はぐっ、むぐっ…………ん!」
「ここに来たときも一人だったのか? 仲間とか知り合いとかは……」
「むぐっ……んぐっ……んー、おとーさんとおねーちゃんとカルラおねーちゃんとトウカおねーちゃんがいる」
最後の一個を食べきったお嬢ちゃんが手についたアンコやチーズを舐めながら答える。
お父さんにお姉さん……この子は家族を皆連れてこられたってのか。
あのギガゾンビって野郎め……胸糞悪い事しやがるぜ。
「って、こたぁ、お嬢ちゃんは今、その家族を探しているのかい?」
「……ん。アルルゥ、おとーさん探してる」
アルルゥ――それが、この子の名前か。
……それにしても、この子、よく見れば鉄で出来た扇……鉄扇以外は何も持ってないじゃないか。
しかも、服も汚れてるし、顔にも擦り傷が……よっぽどな事があったのかねぇ。
俺はそのつらかったであろう今までの出来事と想像すると、無意識のうちにその子の頭を撫でていた。
「……ふぁ?」
「そうか……。お嬢ちゃんも色々あったんだなぁ」
「……んふ〜」
すると、アルルゥは気持ちよさそうな声を出して俺に擦り寄ってきた。
……おいおいおい、俺は流石にそういった趣味はないぜぇ。
確かにあと十何年かしたら、いい女になりそうだけどよ。
でもま、別に害は無いからかまわないか。
「……何やってんのよ、このロリコン男ぉぉぉ!!」
「うっひゃあ!!」
ま、そんな風に思っていたのも、もう一人のお嬢ちゃんが目覚めるまでだったわけだけどな。


涼宮ハルヒは起きて早々ご立腹だった。
それもそのはずで、目を覚ましてみれば自分が仕留め損ねた男が、小さい女の子の手を出していたのだ。
最初見た時から怪しいとは思っていた。
だけど、まさか幼女に手を出すとは……ハルヒの怒りは意識がはっきりすると同時に爆発した。
「……何やってんのよ、このロリコン男ぉぉぉ!!」
「うっひゃあ〜〜!!」
ハルヒの握り拳は、ルパンの顔をすれすれで通過する。
「よけるんじゃないわよ、この未成年略取男!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ――どひゃあ〜!」
ハルヒの拳は意外と素早く、ルパンも驚きつつ避けていった。
「んもう、避けてたら当たらないでしょ! じっとしてなさい!」
「んな、ムチャクチャな」
「問答無用! 食らいなさ――って、え?」
すると、ハルヒとルパンの間に一人の少女が割って入った。――アルルゥだった。
「ちょっと、どきなさい。私はこの男を殴らないといけないんだから!」
「や」
「嫌、じゃないの。とっととどきなさい。でないと……」
「おじさん、お菓子くれたからいい人。だからぶっちゃだめ」
「お菓子くれたからからって……そんな事で信用しちゃって……」
「おいおい、酷い言われようだなぁ。俺は少なくともレディには優しいぜぇ」
「……んー」
ハルヒはルパンとアルルゥの顔を交互に見やると、
「分かったわ。この子に免じて信じてあげる」
頬を膨らませたままだったが、ハルヒはとりあえずルパンを信じることにしたようだった。
……いざとなればどうにでもなる状況のはずなのに、何故かルパンはそれを聞いて心から安堵していた。
50従わされるもの ◆lbhhgwAtQE :2006/12/11(月) 03:30:39 ID:r1+BaKHM
とりあえずお嬢ちゃんが落ち着いたところで、俺達は互いに自己紹介も兼ねて情報を交換することにした。
……とりあえず初っ端に俺が、世紀の大怪盗の孫だって事を言ってみたものの、お嬢ちゃん――ハルヒには本の読みすぎって言われ、アルルゥにいたっては知らない、って言われるとはね……少し切なくなったさ。ここだけの話。
んで、本題に入ると、ハルヒも俺やアルルゥ同様に仲間や同級生と一緒にここに連れてこられたことがまず分かった。
要するに、ここにいる連中は、最低でも一人は知り合いがいるようなことになりそうだ。
……知り合い同士を集めて殺し合いたぁ、ますます胸糞悪い。
「……な〜るほどねぇ、つまりお嬢さんはそのSOS団のメンバーを探している、と」
「そうよ! 古泉君はいないけど、あたしたちが集まればどんな困難だって乗り越えられるんだから!」
話を聞く限りじゃ、そのSOS団ってのは高校の部活動レベルの団体っぽいが、ハルヒの強気な言い方を聞くと、どうも本当にそんな気になっちまうなぁ。
……ここはダメ元で聞いてみるとするか。
「……そんじゃあよ、SOS団の中に、こいつを解体できそうな奴ってーのはいたりするかい? いたら頼もしいんだけどなぁ。なぁ〜んて」
俺は首につけられた首輪を指差しながら尋ねる。
ま、そんなこと高校生に任せるようじゃ、俺も地に堕ちたようなもんだけどな――
「勿論、いるわよ!」
「うんうん、まぁそれは仕方がな――って、えぇ!? それホント?」
「あたしが嘘をつくはずないじゃない。本当よ!」
「で、それって……」
「それは勿論、私達よ!」
……は? この嬢ちゃんは一体何を……。
「あたし達SOS団はね、野球大会では常連のチームに勝ったし、パソコンゲームではコンピ研に勝ったし、殺人事件も解決したし、映画だって作ったのよ。そんな私達に掛かれば首輪なんてイチコロよ!」
そこまで言い切るたぁ、余程自信があるのかねぇ。
俺は素直に感心した。このハルヒって嬢ちゃん、仲間をそれだけ信頼してるってことだもんな。
……と、感心してると今度はアルルゥに袖をつかまれたぞ。
「どうした、アルルゥ?」
「おとーさんも頭いい。あと強い。トウカおねえちゃんもカルラおねえちゃんも強いし、おねーちゃんもちょっと怖いけど……」
どーやら、仲間の……いや家族の信頼具合はこっちも同じようだ。
……とかいう俺も、次元や五ェ門、不二子ちゃんにとっつあんなら、やってくれるって信じてるぜ。
やっぱ、仲間ってのは、これくらい信じあえないとな。
「分かった。そんじゃ、さっそく行くとしますか」
「行くって……どこに?」
「街の方にさ。そっちに行けば、誰かに会う確率だって高くなるだろ?」
会うのは知り合いだけじゃなさそうだがな。
「……そ、そうね! あたしも同じことを考えていたのよ、えぇ!」
やれやれ、口の減らない嬢ちゃんだことで。
「……さて、と。そうと決まれば早速――」
「――ちょっと待った!!」
俺が腰を上げようとすると、ハルヒがまた声を張り上げた。
あんまり大声を出して欲しくはないんだけどなぁ。
「……どうしたんだい、嬢ちゃん」
「決めたわ! あなた達をSOS団に特別団員にしてあげる!」
…………何だって?
51従わされるもの ◆lbhhgwAtQE :2006/12/11(月) 03:31:35 ID:r1+BaKHM
涼宮ハルヒはいつも唐突だ。
唐突に企画を立ち上げ、団員達(主にキョンとみくるだが)を振り回す。
それも、慣れさえすれば、多少は楽なのだろうが、ここにいるルパンとアルルゥがそれに慣れているはずもなく。
「SOS団の特別団員?」
ルパンが鸚鵡返しに尋ねると、ハルヒは頷く。
「えぇ、特別団員! 本当は北高の部活動だから、あなた達を入れることは出来ないの。だから特別!」
「いや、特別団員って言ってもねぇ、嬢ちゃん――」
「本当なら、団長であるあたし自ら団員を入れることなんか無いんだから感謝しなさいよ!」
ルパンの言葉をハルヒは聞こうとしない。
「……んで、今回のSOS団の活動内容は勿論、こんな下らないゲームを止めて、皆でここを出ること! 分かった?」
ハルヒの勢いに気圧されルパンは喋れなくなるが、ハルヒの言うことには全面的に賛成だった。
だから、あえてルパンは止めようとしなかった。
「あ〜、それにしても、こんな萌え萌えな子がこの世にいたなんてね〜、やっぱり世界は広いのねぇ〜」
そして、ハルヒはそんなルパンをそっちのけで、アルルゥを抱きかかえると頬擦りをする。
「犬風の耳と尻尾に、和風をイメージした衣装、そして何よりロリっ子! 完璧だわ! みくるちゃんと同等……いやそれ以上かもしれないわ!」
「……んふー」
アルルゥは何を言われているかわからなかったが、それでも抱きかかえられ頬擦りされて満足げだった。


やれやれ、俺はとんでもない奴と会っちまったんじゃないか、って今更思い始めてきたぜ。
こんなに気が強くて物怖じしない女、そうお目にかかれないはずだ。
……だが、それだけにこの子の目は本当に決意に満ち溢れている。
俺は、そういう意味では気に入ったね、この嬢ちゃんを。
……って、あれ? 何か嬢ちゃんが近づいてきたぞ?
しかもデイバッグを二つ持って……?
「……そんなわけだから、あなたが荷物持ちね!」
何がそんなわけなんだ、と思う暇も無く。
「だって、あなたしか男がいないんだから仕方ないでしょ! はい、持って!」
押し付けられる荷物を俺はただ、受け取るしか出来なかった。
――って、ちゃっかり日本刀は自分で持ってるわけね。
「それじゃ、さっそくしゅっぱーつ!!」
「お〜!」

……こりゃこれからも大変なことになりそうだぜ。
52従わされるもの ◆lbhhgwAtQE :2006/12/11(月) 03:33:17 ID:r1+BaKHM
 【D−6 1日目 黎明】
 【ルパン三世@ルパン三世】
 [状態]:健康 やれやれ SOS団特別団員認定
 [装備]:マテバ2008M@攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(弾数5/6)
 [道具]:支給品一式 エロ凡パンチ・'75年4月号@ゼロの使い魔
 [思考]:1、とりあえずハルヒに従いつつ行動
     2、他の面子との合流
     3、協力者の確保(美人なら無条件?)
     4、首輪の解除及び首輪の解除に役立つ道具と参加者の捜索
     5、主催者打倒

 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
 [状態]:健康 やる気十分
 [装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+
 [道具]:支給品一式(本人は中身確認済)
 [思考]:1、SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出

 【アルルゥ@うたわれるもの】
 [状態]:健康 満腹 SOS団特別団員認定
 [装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの
 [道具]:無し
 [思考]:1:ハルヒ達に同行しつつハクオロ等の捜索
     2:ハクオロに鉄扇を渡す

 ※一行はこれから市街地方向へ移動の予定
 ※ルパンのホテルへ行区という当初の予定はハルヒが目覚めたために保留扱いに

 【カマンベールチーズ入りドラ焼き】
 [状態]:全滅
53ムーンマーガレット  1 ◆B0yhIEaBOI :2006/12/11(月) 15:27:45 ID:L+2tXmRp

今夜は月夜。それも、満月。


月明かりの中、山を下って、市街地の方へ走る。
人工的な明かりの無い山中だったけれど、真昼のように――否、真昼以上に辺りのことが良く見えた。
走っている最中に、色々な音が聞こえたし、実際何人かの人も居た。
爆発音、銃声、叫び声、笑い声、泣き声。話し声。
そして、いくつかの人影。一つの場所に留まるものも、移動する者もいる。
でも、今は接触を避けて駆け抜ける。
まずは日中に留まれる拠点と、マスター、ウォルターさんを見つけるのが先決だ。

なんだか、まるでこの山中が小さな箱庭であるかのような錯覚を覚える。
きっと満月の夜というロケーションが、私の五感を昂ぶらせているのだろう。
でも、あの人たち、あれで隠れているつもりなのかしら。

「ふふッ」

自然と笑みがこぼれる。
いけない、今は笑っていられるような状況じゃないのに。
でも、今なら、
ほんのちょび〜〜〜〜〜〜〜〜っとだけ、
……マスターの言う、『闘争』っていう言葉が分かるような気がしてしまう。
正直、今他の人に会いたくないのは、この闘争心、というか、『疼き』のせいでもある。
もし、万が一戦闘になりでもすれば、その時は――
ああ、あんまり認めたくは無いけれど、やっぱり私って吸血鬼なんだなぁ……
 
54ムーンマーガレット  2 ◆B0yhIEaBOI :2006/12/11(月) 15:28:33 ID:L+2tXmRp
そして私は、思ったほどの時間も経たない間に市街地の端へと到着した。疲労はほとんど感じない。
取り敢えず、日中に潜めるような場所を探す事にする。
でも、その時、あることに気付いた。

――見られている!

進行方向の、路地裏に誰かがいる。今は姿も完全に隠れているけれど、確実に今もそこにいる。
『私には、わかる』
でも、私の進行方向にいて、私が行くのを分かっているのに姿を現さない。
……ということは、待ち伏せ?
なら、あそこに隠れているのは、殺し合いを好む殺人鬼、ということなのだろうか?
それなら、戦闘を避けようとしても、狙われてるわけだから、迂闊に逃げるのは危険かな……


って、冗談じゃない!
そっちが殺人鬼なら、こっちは吸血鬼だっつーの!
相手がその気なら、こっちから仕掛けてやる。先手必勝。取り敢えず、先に押さえ込んでしまおう。
私は勢いで今までの思考をひっくり返し、路地に向かって走り出した。
我ながら、今夜は好戦的だなぁ。

「止まれッ!」

私が走り出した直後、男は路地から姿を現した。
顔にはマスク、いや暗視ゴーグルを着けている。このせいで私は発見されてしまったのか。
男が、黒い何かを私の顔に突き出す。
――銃!?危ない!!
作戦変更、とりあえずぶん殴って大人しくさせてしまえ!!

「――警察だッ!!」  
 
55ムーンマーガレット  3 ◆B0yhIEaBOI :2006/12/11(月) 15:29:44 ID:L+2tXmRp
「へっ!?」
よく見れば、手にしているのは警察手帳。や、やばっ止まらな――――

ズゴォン!!







「……ご、ごめんなさい……」
「……寿命が3年は縮まったよ」
彼の頬スレスレを通過して、私の拳は彼の背後の壁にめり込んでいた。
……ギリギリセーフ、結果オーライ!?



†   †   †   †   † 
56ムーンマーガレット  4 ◆B0yhIEaBOI :2006/12/11(月) 15:30:49 ID:L+2tXmRp

「ごめんなさい!ごめんなさい!本当にごめんなさい!!」
「ああ、もういいって。お互い怪我も無かったんだしさ」
「で、でも……ごめんなさい!」

あの後私は、衝撃音を誰かに聞かれたかもしれない、ということで、あの場所から歩き出したのだった。
この男と一緒に。男の名は――
「あれ、そういえばお名前聞いてませんでしたね。私はセラス・ヴィクトリア。セラスと呼んで下さい」
「俺はトグサ――トグサでいい」
「わかりましたトグサさん。そういえばトグサさんも警察官なんですか?」
「ああ、一応ね。君も警察官なのかい?」
「あ、はい!でも今は警察官というか特殊情報機関員と言うか……あ゛」

うっかり機密を漏洩してしまった。トグサは苦笑しているようだ。
「ハハ、今のは聞かなかったことにしとくよ……その代わりと言っちゃなんだが、2、3聞かせて欲しいことがあるんだけど」
「え?ええ、何ですか?」
「セラスは何処に向かってたんだ?実は暫くの間尾行してたんだが……まさか見つかるとは思って無かったがな。油断したよ。
観察していた観想だが、セラスは何か探し物か、探し人でもいるのか?」

――え゛……そうだったのか。気付かなかった。全ての人を感知できていたワケではなかったのか。私こそ油断していた……
「いえ、私、ちょっと日の光に弱い体質でして……で、日中を過ごせる場所を探していたんです。あと、私の仲間も」
「へぇ、まるでドラキュラじゃないか。変わったタイプの義体だな」
まるで、というか、そのものなんデスけど……
57ムーンマーガレット  5 ◆B0yhIEaBOI :2006/12/11(月) 15:31:41 ID:L+2tXmRp
「でも、トグサさんは何をするつもりだったんですか? ハッ、まさか、ストーカー……」
「おいおい、失礼なこと言うなよ。セラスが生身とは思えないスピードで市街地に入ってきたから、念のため様子を伺ってただけさ。
一応言っとくけど、俺の目的は……とりあえず情報収集ってところだな。参加者、この世界、それらについての多元的、多面的な情報を集めたい」
「あれ?トグサさんはお仲間とかはいらっしゃらないんですか?」
「いるよ。でも合流は後回しだ。今は先に集められるだけ情報を集めたい」
「ど……どうしてですか?お仲間さん達は心配じゃないんですか?」
「ないよ」
トグサはあっさり言い切った。

「ええ!?それちょっと酷くないですか!?」
「大丈夫さ。俺の同僚はそう簡単にくたばるようなタマじゃ無いしな。
それどころか、多分ほっといても、今回の状況の収拾をつけるための各自にとって最善の行動を取るはずだ。
恐らく、他参加者の掌握、殺し合いに乗る奴の制圧なんかはあいつらに任せておけば大丈夫だろう。
なら俺は、今俺にしか出来ないことをやるべきだ。だから、取り敢えずは情報を集めて、あいつらのサポートに徹することにする。
なに、嫌でもそのうち合流できるさ。」

ヤバ、なんだかちょっとカッコよかった。中年ストーカーからかなりのランクアップだ。
「信頼……してるんですね」
「そう、かもな。それにうちのボスが口酸っぱくして言ってるんだよ。

『我々の間にチームプレイなどという都合のいい言い訳は存在しない。 必要なのはスタンドプレーの結果として生じるチームワークだけだ』

――ってな。だから、俺は俺の考えるベストをするだけさ」
「……なんだか私のところのボスとちょっと似てる気がします」
「ハハ、お互い厄介なボスに当たったもんだな」
「同感です!」
厳しい上司を持つと苦労する。この点に関しては深く共感できた。
絶対私のボスの方がタチが悪いけど(マスターは別格)。
58ムーンマーガレット  6 ◆B0yhIEaBOI :2006/12/11(月) 15:32:39 ID:L+2tXmRp
「だから、とりあえず今は情報……特に情報端末を探したいところだな。ライフラインの有無も確認したい。
あと、何らかの通信設備もあれば言うことはないんだが」
「でしたら、とりあえずホテルの方に行きますか?そこでしたら一通りの設備は整ってるでしょうし……
あっ、ホテルで今いかがわしいこと考えませんでしたか!?」
「思ってね〜よ。これでも妻子持ちなんだよ、俺は!」


――と言うことで、暫くの間、私はトグサさんと行動を共にすることになりました。
そういえばトグサさんのお仲間の名前を聞けなかったり、逆にこっちの情報をペラペラ喋ってしまったりした気もしますが、
とりあえず悪い人ではないみたいだし、むしろ、ちょっと頼りになるかもしれません。
いろいろと心配事(主に私の知り合いに関して)もありますが、なんとか今回の事件解決に向けて頑張って行こうと、
改めて心に誓った私でした。



「トグサさん……きっと、何とかなりますよね?」


「当たり前だろ。俺達九課を巻き込んじまったのが、奴さんの運の尽きさ」


59ムーンマーガレット  7 ◆B0yhIEaBOI :2006/12/11(月) 15:34:03 ID:L+2tXmRp
【D-6:市街地・1日目 黎明】
【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]: 健康、満月で絶好調。
[装備]: エスクード(風)@魔法騎士レイアース
[道具]: 支給品一式 (バヨネットを包むのにメモ半分消費)、バヨネット@ヘルシング
[思考・状況] 1:トグサと同行し、ホテルへ向かう。そして、ホテルを拠点として確保。
2:アーカード、ウォルターと合流
3:ドラえもんと接触し、ギガゾンビの情報を得る
※ドラえもんを『青いジャック・オー・フロスト』と認識しています。

【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]: 健康
[装備]: 暗視ゴーグル(望遠機能付き)
[道具]: 支給品一式、警察手帳(元々持参していた物)、支給アイテム×1(詳細不明、トグサ本人は確認済み)
[思考・状況] 1:ホテルに向かい、情報収集
2:通信設備の発見、確保。情報ネットワークの形成。
3: 機会があれば九課メンバーと合流。
※他メンバーの行動の妨げにならないよう、他メンバーについての情報は漏らさないつもりです。
※セラスのことを、強化義体だと思っています。


※セラス達はルパン一向よりも先にD-6市街地に侵入しています。
60NAIL TRAPE-キュートな悪魔- ◆colbOqlL7. :2006/12/11(月) 19:38:47 ID:iPyHi4mH
二人は防波堤に腰を落ち着けて座っていた。目の前の森は月明かりだけが照らしている。

「ちょっと待って・・・じゃああんたってトゥスクルって国の王様?」
仮面の青年の自己紹介に少年は驚く。
「ええ。名前はハクオロと申します。してそなたは?」
ハクオロは少年にも名前を尋ねる。
「俺は平賀才人です。でも凄いなあ。王様って・・・」
才人にとって王様は珍しいわけではなかった。
だがどうも才人の周りの貴族はわがままや自己中心的な人間が多い。
アンリエッタは優しいがどこかピントがずれている節がある。
だからハクオロのような穏やかで丁寧でしかも危険を顧みず自分を守ろうとした。
そんな王は新鮮だった。

驚いたな。わがままじゃない人もいるのか。
才人は素直に関心してしまった。

「いえいえ。そんな凄いことでは。才人こそ先ほどの赤い服の男との戦闘。見事でしたよ」
ハクオロも才人を称える。
先ほどのあの男との一戦を見た限りでは決して彼はただの子供では無いと感じた。

「それより」
ハクオロは表情を変えて(仮面のためにはっきりは分からないが目で何となくそんな気がした)才人に尋ねる。
「先ほどの剣。それはいったい?」
ハクオロは疑問を口にした。さきほど特殊な効果と言われたがそれで納得できるわけは無い。
才人の剣。つい先ほど赤い服の男を一戦を交えた際に腕を斬った。だが今自分のバックに入ってる腕からは一滴も血が流れていない。
それどころか落ちていた木の葉を切断面にくっつけても血が全くつかない。
ありえない話だった。

妖術の類か。それとも先ほどの男はこの世の生き物ではないのか?
ハクオロはそんな疑問さえ抱いていた。

「これはですね。斬ってもこののりでくっつくみたいです。不思議ですけど」
才人はハクオロの問いに簡潔明瞭に答える。だがそれはハクオロを一層混乱させていた。
「・・・そんなことが」
ありえない話だ。自分は戦の過程で武士の腕や足が切られるのは何度も見た。
だがそれは絶対に結合など不可能だった。そのわけの分からない『のり』でくっつく。

いくらなんでもとっぴ過ぎた。
・・・だが現に腕からは一滴も血が流れていない。
その怪奇現象のためにハクオロは未だに先ほどの赤い服の男の腕を捨てきれずにいた。
61NAIL TRAPE-キュートな悪魔- ◆colbOqlL7. :2006/12/11(月) 19:40:06 ID:iPyHi4mH
「ところでさ。俺も名簿と支給品と地図見て良い?見る暇無かったから」
才人は一応ハクオロに確認を取る。
「あっ。すまない。分かった」
ハクオロは考え事の最中に不意をつかれ少し声が裏返りながらも了承する。
才人はハクオロの裏返り声にはあまり気にせずに、まずは名簿から目を通す。
「えっと・・・」
才人は名簿を見る。
だがすぐにルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの名前を見つける。
長い名前なのが助かった。

だけどギガゾンビもよく正確にフルネームで書いたな。
それだけは凄いぜ。・・・でもまあルイズのことだ。
・の位置一つでも間違えていたら怒って何をやらかすか分からないし。
ギガゾンビって人もきっとそれを配慮したのだろう。意外とマメだな。
才人はギガゾンビにおかしな感想を持ってしまう。

・・・そしてそのすぐ下にはタバサの名前も。
自分とルイズとタバサ。三人だけだ。
アンリエッタもシエスタもキュルケもモンモンもギーシュも居ない。三人だけ。
才人は少し安心した。
アンリエッタは戦いにはまずむかない。シエスタもきっとあっさり殺されてしまうだろう。
だがルイズは意外と気が強い。タバサも無口だけど魔法は結構使える。
きっと自分が行くまでは無事で居てくれるはず。
それを信じたかった。

「・・・支給品は何かあるかな・・・」
才人とバックをあけて名簿と入れ替わりに中身を探す
さっきは焦ってたが何か無いか・・・。
「んっ?」
才人は探して居るとチャンバラ刀ののりの陰に隠れて見損じていたが大きなリボルバーの銃が出てきた。
「これは・・・」
それは銃身がやたら長い銃だ。
才人は試しに五メートルほど離れた木に向かって発砲する。
・・・
巨大な銃声が響いた。そして銃弾は狙った木の隣の木にめり込んでいる。
「何だ今のは?それも魔法の一種か?」
ハクオロは先ほどの銃声に驚く。
その前に自らが放った魔法の杖もそうだがありえないことが多すぎる。
「・・・いえ。これは火薬の力で鉄を飛ばす物です。・・・でも」
才人の手はびりびりとしびれていた。
そして思った。
これは使えない。
元々剣を主な武器としているのもあるが銃は苦手だ。
才人は銃を銃として使うの諦める。銃身が長いから刃物対策には使えると考えた。
そしてもっと使いやすい支給品が無いか調べる。そして見つけた。最悪の支給品を。
62NAIL TRAPE-キュートな悪魔- ◆colbOqlL7. :2006/12/11(月) 19:43:20 ID:iPyHi4mH
「なっ!・・・どうし・・・て」
才人は最後の支給品に驚愕した。ある意味で最悪の支給品だった。
それは漆黒のボディスーツ、漆黒の鞭、漆黒の目隠し、等で構成されたSM嬢の衣装だったのだ。
しかも明らかに胸が小さく、慎重も160センチ弱の人用のサイズだった。
つまりルイズにぴったりのサイズだったのだ。
士郎は強く思った。
ギガゾンビはルイズのストーカーに違いない。
名前が正確なこともストーカーなら当たり前だ。
しかも名簿順は使い魔の自分がルイズより前。
ルイズがそれに怒り喧嘩するのも計算に入れての所業。根暗のストーカーなら当たり前だ。
そこにサイズぴったりのそれもルイズの性格にまでピッタリの衣装。これが作為的でなくて何なんだ。
そもそも最初の少女の爆発だって幻覚なだけかもしれない。魔法ならそれぐらい簡単だ。
あの赤い服の男はギガゾンビに雇われたのかもしれない。ルイズと距離が近い自分を殺してそして・・・。


その後才人がギガゾンビの間違った方向への解釈は書ききれないので割合。


「・・・じゃあ次は地図で・・・」
才人はルイズが着ると自分が痛い目にあう。
ある意味では機関銃より危険なSM嬢セットをバックに戻すと地図を広げた。

えっと。ここは防波堤沿いか。林が目の前にあるからH-2の方か。
・・・そういえばさっき観覧車が倒れたよな。誰だよ。赤い服の奴以外にも殺し合いに参加する奴居るのかよ。
ここは遊園地を避けたほうが良いな。
中心部へ行くなら二つ道があるけどどっちから行くべきか。
駅から電車なら時間的には速いけど・・・ルイズが電車を知ってるわけ無いしな。まさか線路を歩いて轢かれては・・・。
・・・・・・でもいくらなんでもそんな間抜けな死に方はしないよな。コントじゃないんだし。
はあ・・・ハクオロも電車は知らないみたいだしルイズみたいに別の世界の人間なのか?
そういえばあの部屋には青い狸みたいなのやロボットもいたし。
それにハクオロが王の国というトゥスクルも聞いたことがない。
いったい俺の知らない世界っていくつ有るんだろ・・・。
才人は少し感傷気味にふける。だが一瞬で立ち直り考えを纏めた。
でも俺の知り合いも歩道の方で移動してそうだし・・・決めた。

「ハクオロ。この地図だけど・・・ここから移動しようか」
才人はハクオロに自分の意思を伝える。
「んっ。やはりそうか」
ハクオロも才人の指した指に頷く。
「ああ。このF-2の歩道から中心部に。ハクオロの仲間の人もこの道で移動していると思うし」
「この駅という物が良く分からないが・・・。そうだな。エルルゥやアルルゥも分からないものは使わないだろう」
ハクオロも才人も意見が重なった。
まっすぐ北上して歩道へ出る。そして中心部へ。
それが共通意識になった。
そしてそのために二人は林へと歩を進める。
63NAIL TRAPE-キュートな悪魔- ◆colbOqlL7. :2006/12/11(月) 19:44:41 ID:iPyHi4mH
うふふ。獲物が二人か。さっきの女は一人だったから駒にしたけど二人ならしょうがないわね。殺しちゃえ。

朝倉涼子は林の影から発見した。男二人。
どっちも剣は持っている。だがこっちにはまるで気付いていない。

ふふふ。最初に仮面の人を殺してから混乱してる男の子も殺そうかな。反応次第で駒にしても良いけど。
朝倉涼子は標的を定めると弓を構える。
弓がしなる音が鳴る。
矢はハクオロの方に完全に向いている。
だがその弓矢は射るより早く男の声が響く。
「そこにいるのは誰だ?」
ハクオロは影に隠れた女に声をかけた。
「えっ!?」
才人はハクオロの声に驚き動きがフリーズする。
「才人。あそこだっ!」
ハクオロは朝倉が潜む陰を指差した。
「えっ!!」
朝倉も驚く。
そしてそのまま手がピクッと反応して矢を放してしまう。
ハクオロはそれを読んでいたのか予め体を横に一歩体を移動させて矢を回避してしまう。
「弓矢・・・敵かよ」
才人も弓矢にはかなり驚く。
赤い服の男に襲われた時の疲労は若干戻ったとはいえ精神的にはまだ休まっていない。

そんな。完全に無防備だったはず。どうして・・・
朝倉は少しだけ驚く。

「弓がしなる音が聞こえた。聞きなれた音だ。そして凄まじい殺気。気付かないわけがない。さあ出てきなさい」
ハクオロは林の影の主に姿を見せるように促す。

しかたないですわ。やっぱり弓矢は苦手です。
朝倉は決断するが早いが弓を捨て矢だけを五本束ねて右手に持ち、二人の前に現れた。
「始めまして。あなた達は誰ですか?」
朝倉は丁寧な口調で話す。いつもの委員長の口調でだ。
「それならまずはそなたから名乗るのが筋というものだ」
ハクオロは毅然とした態度で応える。
「良いんですよ私は。それよりあなた方はピンク色の長い髪の女性を知っていますか。黒いスカートに白いシャツを着ています」
朝倉は淡々と委員長スマイルの笑顔で話す。才人の方にさりげなく目線を向けて。
「えっ!」
才人は驚く。ピンクの長い髪。黒いスカート、白いシャツ。ルイズの特徴に酷似していた。
「・・・・・・なっ・・・なあ・・・そのピンクの髪ってウェーブ掛かってた?」
才人は少し声が引きつりながらも聞いた。
「うーん。どうだったかなあ。・・・うんっ。たしかしてた。『サイトォ』って叫んでた。すっごく怯えてたよ」
朝倉は笑顔で少しルイズの口真似をしてみせた。とても楽しそうに。語尾にハートマークが付くように。
「・・・なっ・・・なあ。・・・その・・・子ど・・・こ?」
才人はほとんど震える唇で必死に朝倉に問いかけた。才人の目は凄く頼りなかったかもしれない。
「えへへ。これ。なーんだ」
朝倉は満面の笑顔でルイズからむしりとった爪を取り出す。
「!・・・そ・・・れ」
サイトはそれを見て顔が青く凍りつく。
64NAIL TRAPE-キュートな悪魔- ◆colbOqlL7. :2006/12/11(月) 19:45:47 ID:iPyHi4mH
しょうがないですね。このままじゃどうせ負けちゃいます。
朝倉は一度バックステップで距離をとると野球のサイドスローの要領で矢を投げる。
「なっ!?」
ハクオロは何とか矢を捌く。だがその隙に朝倉は全速力で逃走を図る。
「待てっ・・・くそ」
ハクオロは追おうとするが思いとどまる。
才人が座り込んだまま動かない。
一度ハクオロは朝倉涼子の出てきたところに向かいドリィやグラァの弓矢なのかを確認し再び戻る。
「・・・才人。・・・大丈夫か」
ハクオロは才人を優しく励ます。
「・・・ばかやろ」
才人は小さく呟く。
「えっ?」
ハクオロは聞き取れなかった。
「ばかやろー。ルイズは俺の主だー。さっきの女ー絶対に許さねーぞー!!!」
才人はすくっと立ち上がりそして大声を張り上げ朝倉の逃げた方向に叫んだ。自分を鼓舞するように。必死に。搾り出すように。
「・・・気が済んだか?ではいくぞ。そなたのルイズ、私のエルルゥやアルルゥが待っている」
才人が一瞬で立ち直ったのに驚きながらもハクオロは微笑みかける。
「ルイズを探すよ。タバサも元の世界に送り届けてやらねーと。俺が・・・絶対」
才人の目は怒りと決意に燃えていた。
自分がいないと何も出来ないルイズ。そして友達のタバサ。二人は絶対に守る。それが才人を奮い立たせる。

ハクオロは才人の心配するルイズという少女のことも気がかりだった。
あの女。なぜ爪だけ?殺したのならもっと別の物の方が・・・。
ハクオロは朝倉の行動に少し疑問を持っていた。
二人は再度北上する。


【G-2の林・1日目 黎明】
【平賀才人@ゼロの使い魔】
[状態]:全身にかすり傷。(痛みは無い)。大声を張り上げたために少し喉に痛み。朝倉に対しての激しい怒り。
[装備]:チャンバラ刀、カトラス/残弾5、
[道具]: チャンバラ刀専用のり、予備弾丸24、SM嬢セット一式(ルイズにぴったり)、ルイズの左手中指の爪、支給品一式
[思考・状況]
1、ルイズのもとに向かう(生存を信じる。赤い服の男に教われないかも心配。無事ならずっと傍に・・・)
2、タバサとも合流。(朝倉か赤い服の男に襲われる前に守る)
3、歩道から中心部へ。
4、ルイズの状況次第では朝倉涼子を殺す。

注:才人はカトラスを接近戦の鈍器として使うつもりです。

【ハクオロ@うたわれるもの】
[状態]:健康。
[装備]:オボロの日本刀、破壊の杖(M72ロケットランチャー)/残弾0、弓矢/残数4
[道具]: アーチャーの右腕、支給品一式
[思考・状況]
1、エルルゥたちを探す。
2、北上して歩道から中心部へ。
3、次こそマーダー化したものを捕らえ、凶行を阻止する。
4、弱者は救済し、このゲームを止める。
5、ルイズという少女の爪だけを見せた朝倉の真意を知りたい。

注:ハクオロは弓矢の使用経験はありません。
65NAIL TRAPE-キュートな悪魔- ◆colbOqlL7. :2006/12/11(月) 19:46:35 ID:iPyHi4mH
朝倉は何度も全力で走った。
とてもじゃないがあのままやれば、
もし才人を殺せば逆に本気を出され殺された恐れがあった。
その上追い詰めたはずの才人の雄たけびが先ほど耳に届いた。
ありえない。あれだけ追い詰めて瞬時に復活。あれがあの女の男サイト。
許さないです。絶対に殺してあげます。
朝倉は迷い考えそして行動を決めた。
「そうですね。やっぱり最初が楽すぎたのがいけません。次は弱い人から武器を奪ってからです」
朝倉涼子は再び優等生スマイルを完全に取り戻し行動を決めた。


【H-2の林・1日目・黎明】
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:全力疾走による若干の疲労。手足の複数の切り傷(傷は浅い)
[装備]:SOS団会長のワッペン
[道具]: 無し(支給品は逃走最優先のために放置)
[思考・状況]
1、とりあえず防波堤に向かいそこから遊園地へ向かう。(観覧車倒壊時間林内に居たため惨状を知らない)
2、強い武器を持った弱い人間を狙い武器を奪う。
3、武器の無い人間と強そうな人間はリスク回避のため一時的に放置
4、キョンを殺して涼宮ハルヒの出方を見る。
5、人数を減らしていく上で、世界と涼宮ハルヒにどんな変化が起こるかを観察する。
6、5を実行するため、涼宮ハルヒの居場所だけでも特定したい。
7、サイトと仮面の男を殺してあげる。

ハクオロが弓矢以外の支給品に手を付けなかったためにG-2の林内には朝倉涼子の支給品が放置されています。
才人の雄たけびは周囲1マスで聴力が高い人のみ、かすかに聞こえた可能性もあります。
66 ◆colbOqlL7. :2006/12/11(月) 20:01:17 ID:iPyHi4mH
訂正
>>62
士郎は強く思った×
才人は強く思った○
です。
二人は防波堤に腰を落ち着けて座っていた。目の前の森は月明かりだけが照らしている。

ハクオロが先ほど使用した破壊の杖は既に自分のバックにしまっている。
才人の説明によってあれは一回こっきりの代物だと分かったからだ。
刀が無ければ鈍器で活用しようとしていた。
だがオボロの刀が有る以上は重量を考えても手で持つ必要は無かった。

そして二人は互いの自己紹介を始める。
「ちょっと待って…じゃああんたってトゥスクルって国の王様?」
仮面の青年の自己紹介に少年は驚く。
「ええ。名前はハクオロと申します。してそなたは?」
ハクオロは少年にも名前を尋ねる。
「俺は平賀才人です。でも凄いなあ。王様って・・・」
才人にとって王様は珍しいわけではなかった。
だけどどうも才人の周りの貴族はわがままや自己中心的な人間が多い。
アンリエッタは優しいがどこかピントがずれている節がある。
だからハクオロのような穏やかで丁寧でしかも危険を顧みず自分を守ろうとした。
そんな王は新鮮だった。

驚いたな。わがままじゃない人もいるのか。
才人は素直に関心してしまった。

「いえいえ。そんな凄いことでは。才人こそ先ほどの赤い服の男との戦闘。見事でしたよ」
ハクオロも才人を称える。
先ほどのあの男との一戦を見た限りでは決して彼はただの子供では無いと感じた。

「それより」
ハクオロは表情を変えて(仮面のためにはっきりは分からないが目で何となくそんな気がした)才人に尋ねる。
「先ほどの剣。それはいったい?」
ハクオロは疑問を口にした。さきほど特殊な効果と言われたがそれで納得できるわけは無い。
才人の剣。つい先ほど赤い服の男を一戦を交えた際に腕を斬った。
だが今自分のバックに入ってる腕からは一滴も血が流れていない。
それどころか落ちていた木の葉を切断面にくっつけても血が全くつかない。
ありえない話だった。

妖術の類か。それとも先ほどの男はこの世の生き物ではないのか?
ハクオロはそんな疑問さえ抱いていた。

「これはですね。斬ってもこののりでくっつくみたいです。不思議ですけど」
才人はハクオロの問いに簡潔明瞭に答える。だがそれはハクオロを一層混乱させていた。
「…そんなことが」
ありえない話だ。自分は戦の過程で武士の腕や足が切られるのは何度も見た。
だがそれは絶対に結合など不可能だった。そのわけの分からない『のり』でくっつく。

いくらなんでもとっぴ過ぎた。
…だが現に腕からは一滴も血が流れていない。
その怪奇現象のためにハクオロは未だに先ほどの赤い服の男の腕を捨てきれずにいた。
「ところでさ。俺も名簿と支給品と地図見て良い?見る暇無かったから」
才人は一応ハクオロに確認を取る。
「あっ。すまない。分かった」
ハクオロは考え事の最中に不意をつかれ少し声が裏返りながらも了承する。
才人はハクオロの裏返り声にはあまり気にせずに、まずは名簿から目を通す。
「えっと…」
才人は名簿を見る。
すぐにルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの名前が見つかった。
長い名前なのが助かった。

だけどギガゾンビもよく正確にフルネームで書いたな。それだけは凄いぜ。・・・でもまあルイズのことだ。
・の位置一つでも間違えていたら怒って何をやらかすか分からないし。
ギガゾンビって人もきっとそれを配慮したのだろう。意外とマメだな。
才人はギガゾンビにおかしな感想を持ってしまう。

…そしてそのすぐ下にはタバサの名前も。
自分とルイズとタバサ。三人だけだ。
アンリエッタもシエスタもキュルケもモンモンもギーシュも居ない。三人だけ。
才人は少し安心した。
アンリエッタは戦いにはまずむかない。シエスタもきっとあっさり殺されてしまうだろう。
だけどルイズは意外と気が強い。タバサも無口だけど魔法は結構使える。
きっと自分が行くまでは無事で居てくれるはず。
それを信じたかった。

「…支給品は何かあるかな…」
才人とバックをあけて名簿と入れ替わりに中身を探す
さっきは焦ってたが何か無いか…。
「んっ?」
才人は探して居るとチャンバラ刀ののりの陰に隠れて見損じていたが大きなオートマチックの銃が出てきた。
「これは…」
それは銃身が少し長めの銃だ。
才人は試し撃ちをするか考えた。
だが先ほどロケットランチャーの爆音が響いたのだ。
今さら銃声一つで大勢が変わるとは思えない。
それより銃の威力を確認したかった。
才人は五メートルほど離れた木に向かって発砲する。
先ほどロケットランチャーの炸裂音が響いたのだ。

一つの銃声が響いた。そして銃弾は狙った木の隣の木にめり込んでいる。
「何だ今のは?それも魔法の一種か?」
ハクオロは先ほどの銃声に驚く。
その前に自らが放った魔法の杖もそうだがありえないことが多すぎる。
「…いえ。これは火薬の力で鉄を飛ばす物です。…でも」
才人の手はびりびりとしびれていた。
そして思った。
これは使いにくいな。
元々剣を主な武器としているのもあって銃は苦手だ。
才人は銃を銃として使うの諦める。銃身が長いから刃物対策には使えると考えた。
そしてもっと使いやすい支給品が無いか調べる。そして見つけた。最悪の支給品を。
「なっ!…どうし…て」
才人は最後の支給品に驚愕した。ある意味で最悪の支給品だった。
それは漆黒のボディスーツ、漆黒の鞭、漆黒の目隠し、等で構成されたSM嬢の衣装だったのだ。
しかも明らかに胸が小さく、慎重も160センチ弱の人用のサイズだった。
つまりルイズにぴったりのサイズだったのだ。
才人は強く思った。
ギガゾンビはルイズのストーカーに違いない。
名前が正確なこともストーカーなら当たり前だ。
しかも名簿順は使い魔の自分がルイズより前。
ルイズがそれに怒り喧嘩するのも計算に入れての所業。根暗のストーカーなら当たり前だ。
そこにサイズぴったりのそれもルイズの性格にまでピッタリの衣装。これが作為的でなくて何なんだ。
そもそも最初の少女の爆発だって幻覚なだけかもしれない。魔法ならそれぐらい簡単だ。
あの赤い服の男はギガゾンビに雇われたのかもしれない。ルイズと距離が近い自分を殺してそして…。


その後才人がギガゾンビの間違った方向への解釈は書ききれないので割合。


「…じゃあ次は地図で…」
才人はルイズが着ると自分が痛い目にあう。
ある意味では機関銃より危険なSM嬢セットをバックに戻すと地図を広げた。

えっと。ここは防波堤沿いか。林が目の前にあるからH-2の方か。
…そういえばさっき観覧車が倒れたよな。誰だよ。赤い服の奴以外にも殺し合いに参加する奴居るのかよ。
ここは遊園地を避けたほうが良いな。
中心部へ行くなら二つ道があるけどどっちから行くべきか。
駅から電車なら時間的には速いけど・・・ルイズが電車を知ってるわけ無いしな。まさか線路を歩いて轢かれては…。
……でもいくらなんでもそんな間抜けな死に方はしないよな。コントじゃないんだし。
はあ…ハクオロも電車は知らないみたいだしルイズみたいに別の世界の人間なのか?
そういえばあの部屋には青い狸みたいなのやロボットもいたし。
それにハクオロが王の国というトゥスクルも聞いたことがない。
いったい俺の知らない世界っていくつ有るんだろ…。
才人は少し感傷気味にふける。だが一瞬で立ち直り考えを纏めた。
でも俺の知り合いも歩道の方で移動してそうだし…決めた。

「ハクオロ。この地図だけど…ここから移動しようか」
才人はハクオロに自分の意思を伝える。
「んっ。やはりそうか」
ハクオロも才人の指した指に頷く。
「ああ。このF-2の歩道から中心部に。ハクオロの仲間の人もこの道で移動していると思うし」
「この駅という物が良く分からないが…。そうだな。エルルゥやアルルゥも分からないものは使わないだろう」
ハクオロも才人も意見が重なった。
まっすぐ北上して歩道へ出る。そして中心部へ。
それが共通意識になった。
そしてそのために二人は林へと歩を進める。
うふふ。獲物が二人か。どうしよっか。さっきの女は一人だったから駒にしたけどね。
でも二人ならしょうがないよね。もっと増えたらいろいろ困っちゃうし。
でもさっき銃声が響いた気もしたんだけど。爆発音も…持ってないし別人か。殺しちゃお。

朝倉涼子は林の影から発見した。男二人。
どっちも剣は持っている。だがこっちにはまるで気付いていない。

ふふふ。最初に仮面の人を殺してから混乱してる男の子も殺そうかな。反応次第で駒にしても良いけど。
朝倉涼子は標的を定めると弓を構える。
弓がしなる音が鳴る。
矢はハクオロの方に完全に向いている。
だがその弓矢は射るより早く男の声が響く。
「そこにいるのは誰だ?」
ハクオロは影に隠れた女に声をかけた。
「えっ!?」
才人はハクオロの声に驚き動きがフリーズする。
「才人。あそこだっ!」
ハクオロは朝倉が潜む陰を指差した。
「えっ!!」
朝倉も驚く。
そしてそのまま手がピクッと反応して矢を放してしまう。
ハクオロはそれを読んでいたのか予め体を横に一歩体を移動させて矢を回避してしまう。
「弓矢…敵かよ」
才人も弓矢にはかなり驚く。
赤い服の男に襲われた時の疲労は若干戻ったとはいえ精神的にはまだ休まっていない。

そんな。完全に無防備だったはず。どうして・・・
朝倉は少しだけ驚く。
「弓がしなる音が聞こえた。聞きなれた音だ。そして凄まじい殺気。気付かないわけがない。さあ出てきなさい」
ハクオロは林の影の主に姿を見せるように促す。

はあ。失敗か。やっぱり弓矢は苦手です。
でもさっきサイトって…うふ。私運が良いのかも。
朝倉は決断するが早いが弓を捨て矢だけを五本束ねて右手に持ち、二人の前に現れた。
「始めまして。あなた達は誰ですか?」
朝倉は丁寧な口調で話す。いつもの委員長の口調でだ。
「それならまずはそなたから名乗るのが筋というものだ」
ハクオロは毅然とした態度で応える。
「…うふ。良いわ。それより。…これって一人しか生き残れないのよ。どうして二人で居るのかな?」
「そんなこと決まっている。あの男を退治し、全員で生き延びるためだ」
朝倉の問いにハクオロは迷うことなく応える。
「…そう。でもね。私は思うの。有機生命体の死の概念って実は分からないんだ。だからね。生きるのに執着するのも
ちょっとピンと来ないの。それにね。涼宮さんがどんな反応をするのかも見たいわ。人が死んでどんな反応を示すのか」
朝倉は笑顔で話し続ける。
「待て。その涼宮というものは?」
ハクオロは聞かぬ名前を出したことに謎を覚え問いかける。
「…それよりあなた達。ピンク色の長い髪の女性って知ってる。黒いスカートに白いシャツを着てたよ。」
朝倉は淡々と委員長スマイルの笑顔で話す。才人の方にさりげなく目線を向けて。
「えっ!」
才人は驚く。ピンクの長い髪。黒いスカート、白いシャツ。ルイズの特徴に酷似していた。
「……なっ…なあ…そのピンクの髪ってウェーブ掛かってた?」
才人は少し声が引きつりながらも聞いた。
もしルイズなら…先ほどの発言と照らし合わせても嫌な汗が流れる。
「うーん。どうだったかなあ。…うんっ。たしかにしてたよ。『サイトォ』って叫んでた。すっごく怯えてたよ」
朝倉は笑顔で少しルイズの口真似をしてみせた。とても楽しそうに。語尾にハートマークが付くように。
「…なっ…なあ。…その…子ど…こ?」
才人はほとんど震える唇で必死に朝倉に問いかけた。
怯えてた。それがドンドン嫌な方向に思考を加速させる。
才人の目は凄く頼りなかったかもしれない。
「えへへ。これ。何かな?」
朝倉は満面の笑顔でルイズからむしりとった爪を取り出す。
「!…そ…れ」
サイトはそれを見て顔が青く凍りつく。
ルイズが死んだ?
死んでなくてももう無事ではいない。プライドの高いルイズが・・・。もう正気ではいないかもしれない。
才人は顔面蒼白になり腰から砕け落ちる。

「だってえ。『助けてぇ』と『止めて』と『サイト』しか言わないだもん。もう弱すぎてつまらなかったよ。
ねえ。これその子の爪だけどほしい?あげるね。」
朝倉はルイズの爪をサイトに投げつける。
その爪は才人の額に当り地面に落下する。
才人も額に当った瞬間に少しだけピクッと反応する。
それと同時に朝倉は才人の方に向かって飛び出した。
「じゃあ死んでね。」
可愛い声と笑顔とはまるで正反対のアンバランスな行動で朝倉は矢じりを持って才人に突っ込む。
完全に意気消沈。簡単に殺せる。才人を一気に殺し剣を奪いハクオロも殺す。
朝倉の策略はほぼ完璧だった。隣がハクオロでなければ。

「くっ。才人っ」
ハクオロが朝倉より一瞬早く才人の前に立ち朝倉の攻撃を受ける。
幸いにも日本刀と比べ矢じりのみで切り結ぶ必要がある矢の違いもありハクオロは互角以上に立ち回れた。


ここで朝倉はこの状態になるまでの三つのミスに気付く。
一つは最初に弓矢で襲撃をしたこと。
自分の容姿と演技力なら容易に油断させて不意打ちを仕掛けられた。
一つは自分の奇襲を見破った男が隣に居るのに割ってはいるのを計算に入れなかったこと。
普通に弓矢で粘り強く狙撃すべきだった。
その方が遥かに勝算があった。
一つはそもそもルイズに日本刀を渡したこと。
接近戦用の唯一の武器を自ら放棄。
あれがあればハクオロにも負けなかったかもしれない。

朝倉は何とか矢じりの部分でハクオロと立ち回りを続けた。
ハクオロがどこかでエルルゥとさほど歳の変わらぬ女性を殺すことにほんのわずかの躊躇があること。
すぐ後ろで座り込んで動かない才人がいること。
ハクオロ自身も日本刀が不慣れだったこと。
そして彼を守りながらの戦いが朝倉にはアドバンテージであったはずだった。
だがそれでも手や足に複数の切り傷は出来てしまう。
さらに束ねて少しは丈夫なはずの矢も徐々にボロボロになっていく。
ハクオロの予想外の接近戦での技量に朝倉は焦っていた。
しょうがないかな。このままじゃ負けちゃうかも。
朝倉は一度バックステップで距離をとると野球のサイドスローの要領で矢を投げる。
「なっ!?」
ハクオロは何とか矢を捌く。だがその隙に朝倉は全速力で逃走を図る。
その際にハクオロの足下にあった支給品バックを手に取ることは忘れずに。
「待てっ…くそ」
ハクオロは追おうとするが思いとどまる。
才人が座り込んだまま動かない。
一度ハクオロは朝倉涼子の出てきたところに向かいドリィやグラァの弓矢なのかを確認し再び戻る。
「…才人。…大丈夫か」
ハクオロは才人を優しく励ます。
「…ばかやろ」
才人は小さく呟く。
「えっ?」
ハクオロは聞き取れなかった。
「ばかやろー。ルイズは俺の主だー。さっきの女ー絶対に許さねーぞー!!!」
才人はすくっと立ち上がりそして大声を張り上げ朝倉の逃げた方向に叫んだ。
自分を鼓舞するように。必死に。搾り出すように。
爪しか出てきてない以上生存を信じるよう自分自身に言い聞かせた。
「…気が済んだか?ではいくぞ。そなたのルイズ、私のエルルゥやアルルゥが待っている」
才人が一瞬で立ち直ったのに驚きながらもハクオロは微笑みかける。
「ルイズを探すよ。タバサも元の世界に送り届けてやらねーと。俺が…絶対」
才人の目は怒りと決意に燃えていた。
自分がいないと何も出来ないルイズ。そして友達のタバサ。二人は絶対に守る。それが才人を奮い立たせる。

ハクオロは才人の心配するルイズという少女のことも気がかりだった。
あの女。なぜ爪だけ?殺したのならもっと別の物の方が・・・。
ハクオロは朝倉の行動に少し疑問を持っていた。
そして少し不安にもなる。
エルルゥやアルルゥがあの女と出会えば…。それ以外にもあのような者が多く居れば…
両者大小の違いは有るが不安を抱えながら、二人は再度北上する。


【G-2の林・1日目 黎明】
【平賀才人@ゼロの使い魔】
[状態]:全身にかすり傷。(痛みは無い)。大声を張り上げたために少し喉に痛み。朝倉に対しての激しい怒り。
[装備]:チャンバラ刀、カトラス(ベレッタM-92-F)/残弾14、
[道具]: チャンバラ刀専用のり、予備マガジン2、SM嬢セット一式(ルイズにぴったり)、ルイズの左手中指の爪、支給品一式
[思考・状況]
1、ルイズのもとに向かう(生存を信じる。赤い服の男に教われないかも心配。無事ならずっと傍に・・・)
2、タバサとも合流。(朝倉か赤い服の男に襲われる前に守る)
3、歩道から中心部へ。
4、ルイズの状況次第では朝倉涼子を殺す。

注:才人はカトラスを接近戦の鈍器として使うつもりです。
  追い込まれたらガンダールヴ後からが発動する可能性があります。

【ハクオロ@うたわれるもの】
[状態]:健康。若干の焦燥感
[装備]:オボロの日本刀、弓矢/残数4
[道具]: 支給品一式(朝倉のもの)
[思考・状況]
1、エルルゥとアルルゥを危険人物より先に見つける。
2、北上して歩道から中心部へ。
3、次こそマーダー化したものを捕らえ、凶行を阻止する。
4、弱者は救済し、このゲームを止める。
5、ルイズという少女の爪だけを見せた朝倉の真意を知りたい。

注:ハクオロは弓矢の使用経験はありません。
  支給品一式は朝倉とハクオロのものが入れ替わりました。
朝倉は何度も全力で走った。
とてもじゃないがあのままやれば、
もし才人を殺せば逆に本気を出され殺された恐れがあった。
その上追い詰めたはずの才人の雄たけびが先ほど耳に届いた。
ありえない。あれだけ追い詰めて瞬時に復活。あれがあの女の男サイト。
許さないです。絶対に殺してあげます。
朝倉は迷い考えそして行動を決めた。
「だめね。やっぱり最初が楽すぎたのがいけないのかしら。次は…慎重に頑張らないとね」
朝倉涼子は再び優等生スマイルを完全に取り戻し行動を決めた。


【H-2の林・1日目・黎明】
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:全力疾走による若干の疲労。手足の複数の切り傷(傷は浅い)
[装備]:破壊の杖(M72ロケットランチャー)/残弾0、SOS団会長のワッペン
[道具]: 支給品一式(ハクオロのもの)、アーチャーの右腕
[思考・状況]
1、ハクオロの支給品を確認する。
2、とりあえず防波堤に向かいそこから遊園地へ向かう。(観覧車倒壊時間林内に居たため惨状を知らない)
3、強い武器を持った弱い人間を狙い武器を奪う。
4、キョンを殺して涼宮ハルヒの出方を見る。
5、人数を減らしていく上で、世界と涼宮ハルヒにどんな変化が起こるかを観察する。
6、5を実行するため、涼宮ハルヒの居場所だけでも特定したい。
7、サイトと仮面の男を殺してあげる。

才人の雄たけびは周囲1マスで聴力が高い人のみ、かすかに聞こえた可能性もあります。
朝倉涼子はまだハクオロの支給品のチェックは行っていません。
75 ◆B.Jiitryd2 :2006/12/11(月) 22:43:48 ID:9H9Z7l41
「う〜ん、どうしよう。」
夕日の中、一人思案に暮れる妙齢の美女。非情に絵になる光景である。
…肌着は随分と変態的だったが。
◆colbOqlL7(これで何度目?)を悩ませているのは、SSの採用のさせ方である。
「碌に推敲もしないのとwikiでゴリ押しはしちゃダメって言われちゃったし……」
「だからと言って作品を破棄するなんて絶対に嫌だし…」
「あーーーっ!もう、こんな時に自作自演が使えないなんて!」
先程からこれの繰り返しである。途中に入った突っ込みにも、信用度がマイナスに突入している事にも気付いていない。
結局、この永久ループが終わったのは30週目が終わった時だった。

ズガンッ!

「愚かです。」
食料の入ったバッグを掴み、住人 (◆colbOqlL7 以外)はその場から立ち去った。


そう、こんな殺伐とした場で無茶なSSをゴリ押しし続ければ、こうなる事など十分に予測できたはずなのである。
それこそが、彼女に筆を起こす為に最初にすべきことだった。

【49 ◆colbOqlL7  今度こそ筆を折る】
【52 住人 地図職人、wiki職人、良SS、SS、良書き手、書き手、良読み手、読み手、糞読み手】
【残り まとめサイト】
76 ◆B.Jiitryd2 :2006/12/11(月) 22:48:52 ID:9H9Z7l41
自分でも無理があるとは思っていたので、残念ですが>>75を破棄します。
ラ・ヨダソウ・スティアーナ
77名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/11(月) 23:40:44 ID:4iAX5nMi
>>60-76は無効です。
詳細は感想スレにて。
78名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/11(月) 23:44:42 ID:nj5sE9uN
>>77
鳥晒せ
79鬼軍曹 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/11(月) 23:57:32 ID:4iAX5nMi
>>78
すまん、俺だ俺。鬼軍曹。
本人が破棄って言ってたから俺が勝手に、すまん。
やっぱ拙かったか?
80名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/12(火) 00:00:47 ID:nj5sE9uN
>>79
ああいや、管理人権限の強制行使なら別にいいんだ、多分。
81名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/12(火) 00:01:43 ID:3f/ocmLA
軍曹は管理人じゃない気がするぜ!
でもこの流れでは破棄は当然の流れだから、問題ない気がするぜ!
82鬼軍曹 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/12(火) 00:03:59 ID:4iAX5nMi
>>80-81
管理人じゃNEEEEEEEwwwwwww
とりあえずここは投下スレなんで撤退するぜ!
っていうかここで疑問系の投稿してすまなかった。さぁ、帰ろう。
83嗤うベヘリット(1/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:30:46 ID:jIsCCc0+

 お気に入りの人形の手入れをするような優しい手つきで、
グレーテルは膝に置いた支給品を確かめていた。

 ミニミ軽機関銃。

 それはグレーテルの得手とする武器に近く、かなり喜ばしい支給品であった。
 他の人たちにどんなものが渡されているのかは知らないけれど、自分にはこれがあれば十分。

 一応他に入っていたものも確かめてみたが、地図などの必須品の他には血の色をした卵形の奇妙なペンダントと、
米飯の塊2つに黄色いおまけのついた、お弁当らしき包みだけであった。
 説明を読むと、ペンダントはともかくもう一方は役立つこともありそうだったが、使いどころが肝心と思われた。
 今は用を為さぬその二つはデイパックの中に戻してある。

 名簿はすでに目を通したが、彼女の片割れの名は無かった。
 名簿の中ほど辺りにある「ヘンゼル」と「グレーテル」というのが自分たちの名前だということには、
まだ気づいていないのである。

 しかしグレーテルは、名前はなくとも「兄様」も確実にこのゲームに参加しているであろうことを
確信していた。
 だって、たくさんたくさん人が殺しあうんでしょう? いっぱいいっぱい天使さまを呼ぶんでしょう?
こんな素敵な遊びにひとりだけ呼ばれなかったら、「兄様」がかわいそう。
84嗤うベヘリット(2/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:32:04 ID:jIsCCc0+

 マシンガンを撫でているグレーテルの耳に、異音が入った。
 左が眩しくなる。振り向くと木々の影の間を、何か大きなものがゆっくりと通過してゆく。

 それは軍用トラックだった。

 木が邪魔してよく見えないけれど、運転しているのは子供のように見える。
 丁度いいわ、あれに乗せてもらいましょう。
 もし嫌がられても、これを出してお願いすればいいし。
 にっこりと天使の笑みを浮かべ、グレーテルは機関銃をデイパックにしまった。
 長くかさばる全身をすべて収めても、デイパックの外面には膨らみすら目立たなかった。
 傍目にはマシンガンなんて物騒な品が入っているとは予想もつかないであろう。

 木々の間から洩れる光の方向に向かって、グレーテルは歩き出した。
 街に待つであろう、自分にとってもっとも好ましい血の惨劇を想像しているうちに体の奥が昂ぶってくる。
己の体を意識することは、ほぼ同じものを持つ双子の片割れを意識することに結びつく。
 「そうね、兄様もきっとそこにいるわ」

 「姉様」はわたしで、「兄様」もわたし。きっと同じことを考えるもの。



【B-8森 1日目 黎明】
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康
[装備]:ミニミ軽機関銃
[道具]:おにぎり弁当
     (たくわんニ切れ付。食中毒を引き起こす毒物アイテム)
     真紅のベヘリット
[思考]
第一行動方針:とりあえず、あのトラックに乗せてもらって街へ向かいましょう
第二行動方針:兄様はどこかしら?
基本行動方針:「兄様」を探しつつ、自分の嗜好を満足させるために素直に殺し合いに乗る。
85嗤うベヘリット(3/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:33:53 ID:jIsCCc0+


 山の横を抜け(途中、山の斜面中腹に寺のような屋根が見えた)、ちょうどエリアの縁すれすれにあたる場所を
ヤマトとぶりぶりざえもんの乗ったトラックは走行していた。

 道とも言えぬ道を、軍トラはめりめりぱきぱきばきばきがさがさと、容赦なく音を撒き散らしながら
進んでゆく。
 ハンドルを握るヤマトはその音を気にしながらも、慎重に、ごく慎重に運転を続ける。
 「おい、もっとスピードをあげろ」とうるさいぶりぶりざえもんを聞かぬふりでいなしつつ、
安全運転を心がける。メーターはまだ時速20キロと30キロの間をそわそわと振れているばかりだ。

 「ん?」
 ふと、頬に風があたる。
 窓は襲われることを考えて、開けていないはずだが……?
 「エアコンを入れたのか?」
 「ん? ああ、寝るには少々寒いからな」
 一般の自家用車しか知らないヤマトは、エアコンが付いていたところで大して驚きはしなかったが、
軍用の乗り物でエアコン付きとはわりと贅沢仕様である。
 だが問題はそっちではなく。

 「おまえ……この状況で寝るのか、というか寝られるのか?」
 「私は戦に備えて休む。ので運転はたのんだ」
 言うやいなや目を閉じ、イビキまで1秒。
 鼻ちょうちんまで出して、すでにぶりぶりざえもんは眠りの中だ。
 「あ、待て、おい……!」
 がしかし、ヤマトの声に反応してすぐにぱちりと目を開けた。
 ずずいと顔面、いや豚面? を近づけ、ドスのきいた声で言い聞かせる。
 「く、れ、ぐ、れ、もだ。寝首を掻こうなどと考えるなよ?」
 ヤマトが気押されてうなずいたのを確かめ、ぶりぶりざえもんは満足そうに腕組みしたまま、
再び助手席に寝転がった。
 「コイツ、本当に役に立つのか……?」
 依然として、半信半疑なヤマトであった。
86嗤うベヘリット(4/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:35:23 ID:jIsCCc0+

 ようやく静かに運転に集中できるようになった。
 ヤマトはため息を吐きつつ、横のカーナビの画面を確認する。

 マップの現在地が表示されるほかはラジオしか機能のない旧式のものであったが、
現在地が表示されるのは有難いと思った。
 現在は「B-8」エリアの縁すれすれで、もう少し東にはみ出ればマップから出てしまいそうだった。

 助手席側の窓をとおして、東の景色を見やる。
 ――ほんの少し、垣間見える遠くの空の色が変わってきているように思えた。
 そこには、鬱蒼と茂る森林が続いていて――鉄条網や、バリアのようなものは見当たらない。
見張りらしき影もない。

 「…………」

 わずかに口内が乾くのを感じ、唾を飲み込んだ。
 もしかしたら……脱出できはしないか?
 もし見張りなどがいても、このトラックなら強行突破もできるかもしれない。
 いや、それはいくら何でも甘いか? そうやすやすと逃がしてくれるようなことはないだろうし……
……と思いながらも、その考えを捨てられない。


 (偵察するだけだ……何か危ない兆しがあったら、すぐに戻ればいい)
87嗤うベヘリット(5/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:37:26 ID:jIsCCc0+
 そう決めると、ぶりぶりざえもんがぐっすり眠っているのを確認する。
 そして、ヤマトは静かにハンドルを切って方向転換をした。
 フロントガラスの向こうには、大森林。
 ……やはり、バリアも見張りも見当たらない。

 ペダルの踏み込みを浅くし、もともと低速走行だったのをさらに減速して、人の早歩きするのと
そう変わらない程度の速度までに落とす。
 メーターが水平に近くなる。異常があったときにすぐにハンドルを切れるように構え、じりじりと進む。

 掌に汗がにじんでくる。知らず知らず前傾姿勢になり、ハンドルにかぶりつくようになる。もし見えないバリアが
あるのなら、それはむしろ幸運だ。だがもし、少しでもエリアから出ただけで射殺されたりしたら? 首輪を爆破されたら?
心臓が、痛い。死んだらどうなるんだ? デジモンワールドはどうなるんだ? 太一たちはどう思う? ナビの画面の縁の線の上に
トラックを示す光点はある。もうすぐ外だ。どうなる、死ぬのか? ハンドルを握り直す。死ぬものか。だって。深呼吸する。
タケル。




 ナビ画面の光点が、消えた。


 マップの外に、出た。




 何もない――バリアも飛んでくる銃弾もない。
 全身からどっと汗があふれた。
 ヤマトは息を吐こうとして――


88嗤うベヘリット(6/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:40:51 ID:jIsCCc0+





 『警告します。禁止区域に抵触しています。
  あと30秒以内に爆破します。』




89嗤うベヘリット(7/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:42:37 ID:jIsCCc0+


 点滅する赤と緑の光。
 吐き出しかけていた息の塊が喉に詰まった。

 鼻ちょうちんがぱちんと割れた。
 警告音声にぶりぶりざえもんも跳ね起きた。点滅している自分の首輪を見てパニックに陥る。
 「わ、私の寝ている間に何をやっている!」
 ぶりぶりざえもんが、硬直しているヤマトの手に飛びついて無理矢理ハンドルを切らせた。
 しかし、動転していたせいか、まったく逆の方向へとトラックは進む。

 首輪の点滅が早くなる。繰り返し音声が流れる。
 警告します。禁止区域に抵触しています。
 あと20秒以内に、

 「違う! 逆だ、ぶりぶりざえモン!」
 ぶりぶりざえもんを力任せに振り払い、ヤマトは元のB-8エリアに向かってハンドルを切り、アクセルを
渾身の力で踏み込んだ。
 軍トラはドリフトよろしく尻を振り回して真逆に方向転換し、一気に加速して駆け抜ける。
メーターが直角へと近づき、近づき、とうとう越える。



 程無くして、首輪の点滅が消えた。
 とりあえずは危地を脱したのを感じ、体から力が抜けそうになった。
 「ぶりぶりざえモン、すまない……大丈夫か?」
 汗で滑るハンドルを握りなおしながら、ヤマトは前面に目を向けた。




 ――――真正面にいる少女と、目が合った。














                           ドンッ
90嗤うベヘリット(8/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:44:04 ID:jIsCCc0+


 停止と同時に、ヤマトは運転席から飛び降りた。
 ヘッドライトの明かりで照らされている範囲に、西洋風の衣服を着た少女がうつぶせに横たわっていた。

 血の赤は見えず、見た目には手足がちぎれ飛んでいるなどの怪我もない。しかし、背中や指のもがくような痙攣が、
不吉な予感をさせていた。


 駆け寄るなり抱き起こし、声をかける。
 「おい、大丈夫か!?」
 トラックの直撃を受けてはね飛ばされた少女――グレーテルの目が、薄く開いた。

 「兄……様……?」

 グレーテルを抱えたヤマトの腕が、びくりと震える。
 まだ何か言いたそうなその唇がまた動くのを、叱られる子供のように身を固くして待った。

 「………… …  」
 かすかな言葉は、トラックのエンジンの唸りにかき消された。

 抱えたグレーテルの体が、ほんの少し――軽くなったように思えた。

91嗤うベヘリット(9/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:44:58 ID:jIsCCc0+




 ………………。


 …………。

 ……。


 その白い頬を、軽く叩いてみた。
 自分の弟を起こすように、肩を優しく揺さぶってみた。

 長い髪をかき払い、胸に耳を押し当ててみた。
 手首の脈も確かめた。
 うすく開いたままの唇がまた動くのを、待ってみた。

 抱えたグレーテルの体は、次第にずっしりと重く――冷えてゆくように思えた。




 煌々と輝くヘッドライトに照らされたグレーテルの顔は、きれいだった。

92嗤うベヘリット(10/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:47:27 ID:jIsCCc0+










 「……ぶりぶりざえモン」
 タイヤの影で、びくつく気配がした。
 ヤマトが何か言うよりも早く、ぶりぶりざえもんは虚勢を張って肩を怒らせ詰め寄る。
 何かいろいろ言っているが、意訳すると「自分は悪くない」みたいな事をまくしたてている。
 しかし、それらはヤマトの耳には入らない。
 
 ヤマトの心中はかき回され、さざなみ立つ。やってしまったことの重さにゆらぎ、それでも驚くほど
頭の中では動揺していないのを感じ、そのことに何よりも深く動揺する。
 まだ、現実感がなかった。
 デジタルワールドでの冒険は、いくらそれが危険なものであっても、どこか現実感を欠いていた。何かミスをして
ピンチになってしまっても、必ず何かがあって助かった。これまで危険な目にあったことは何度もあったし、もう
怯えるだけの子供でもなくなっていたが、今起こったことは、対処しようにもその方法さえわからないような、
そんな恐怖ととまどいがあって、ヤマトはそれに押しつぶされそうになっていた。

 腰の辺りから、じわりと痺れるような感覚が背骨を伝って上がり、よくわからないものがこみ上げて首をしめつけ、
頭に血が昇る。思考停止の静けさの合間にさまざまな思いや言葉やすべきことが点滅する。
 オレはどうしたらいい?

 この子は、「にいさま」と言っていた。
 おそらく、きょうだいがいたのだろう。……そのことが、ヤマトをさらに深い罪悪感に突き落とす。


 しようと思えば、冷静に考え、行動することはできそうだった。しかし考えたくなかった。
しばらくは彼女の死にうちひしがれ、沈黙し、何も考えられないままにいたかった。
93嗤うベヘリット(11/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:49:24 ID:jIsCCc0+

 だが、その思いもぶりぶりざえもんの不審な挙動で打ち消された。


 「……待て」
 「な、何だ?」
 「……今、何か隠さなかったか?」
 「い、いや? 見間違えだろう、気にするな」
 ぶりぶりざえもんは不自然にそっぽを向く。
 だが、そのズボンの股間の辺りが不自然に膨らんでいる。

 「…………」
 ヤマトはグレーテルをその場に横たえ、無言で近づく。
 ぶりぶりざえもんも、ヤマトが近づいたぶん後退する。
 「な、何だ? 何をする気だ?」
 ヤマトは早足で一気に距離を詰め、ぶりぶりざえもんをうつぶせに押さえつける。
 そして、ズボンを剥ぎ取った。

 「な、何をする! こら返せまさかお前そんな趣味が」
 ぶりぶりざえもんが股間を隠してじたばたわめくのを無視して、ヤマトはズボンを脱がせた時に
転がり落ちたものを拾い上げた。


 「……これは?」
 「……ブー、ブー」
 「どうしてこれを隠した?」
 「ブー、ブー」
 「……この子のものだろう。それをなぜ、こっそり取ろうとした?」
 「ブー、ブー」
 「…………」

 ヤマトは、近くに落ちているグレーテルのデイパックに目をやる。
94嗤うベヘリット(12/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:50:19 ID:jIsCCc0+
 中を探ると、ヤマトらのデイパックにも入っていた名簿類の他に、笹の葉で包まれたおにぎり包みと、
巨大な銃――――そして、「3枚の」説明書が出てきた。
 三枚すべてに目を通し、ヤマトは再び拾ったものを見る。

 真っ赤な卵型のペンダント。福笑いのように、目鼻口のパーツがばらばらに彫り込まれた不気味な石。
 説明書にはこう書いてあった――――



 ”真紅のベヘリット。
 か弱き存在である人間に、生贄と引き換えに力を授けてくれる魔法の石。”


95嗤うベヘリット(13/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:53:16 ID:jIsCCc0+

 ヤマトは掌にベヘリットを握ったまま、グレーテルを抱き上げた。
 「……これは俺が預かっておく」
 ぶりぶりざえもんは、股座を隠しながらヒヅメを踏み鳴らして抗議する。
 「キ、キサマー! それは私が拾ったものだぞ!」
 「何となくだが……お前に持たせておくと危ない気がするからな」
 そして、グレーテルを抱えたままトラックに戻ろうとする。
 「な、何をしているんだ! そいつは置いていって早くこの場を」
 「誰かに見つかったらどうする!」

 言ってから、ヤマト自身が自分の言葉に動揺した。
 違う、そうじゃない。そんなことを考えていたわけではなかった。

 「い、いや……こんな所に野ざらしでは、かわいそうだ」
 この場にあわせた冷静な判断から出た言葉かもしれないが、それでもさっきの自分の台詞はあんまりだ。
 こんな冷静さは嫌だ。
 まるで俺が人でなしみたいだ。


 後部座席にグレーテルの死体と彼女のデイパックを安置しながら、ヤマトは呼びかけた。
 「……ぶりぶりざえモン」

 踵を返して逃げようとしていたぶりぶりざえもんの足がこわばる。

 「…………街へ行こう。そして、この子をふさわしい場所に眠らせてあげよう。
 それが、俺たちの最低限の責任だ」
 「そ、そうだな。それも救いのヒーローの務めだ。不慮の犠牲は、お助け事業の前ではやむを得ないことだからな。
 うん、気にするな、少年」
 ヤマトへの返事というよりも自分に納得させるように、ぶりぶりざえもんはうなずいた。
 とりあえず危害を加えられるわけではないと安心して、慌ててヤマトの後を追う。




 再び運転席に座ったとき、ヤマトの掌中で何かがもぞりと動く感触がした。
 知らず固く握っていたこぶしを開き、ヤマトは見えたものに息を呑んだ。




 目尻をにゅるりと下げ、ベヘリットが嗤っていた。
96嗤うベヘリット(14/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:54:15 ID:jIsCCc0+

【B-8森 1日目 黎明】



【友情と救済の軍トラズ】



【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人をはね殺したことに対する深い罪悪感、精神的疲労
[装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
     RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
     デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
     真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考]
第一行動方針:街へ行って、どこかにグレーテルを埋葬してやる
第二行動方針:八神太一との合流
第三行動方針:ぶりぶりざえモンはアテにしない
基本行動方針:生き残る
備考:ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。

【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:ややショック、そのせいで少しテンション高め
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手)
[道具]:支給品一式 (配給品0〜2個:本人は確認済み)パン二つ消費
[思考]
第一行動方針:ヤマトの運転を補助
第二行動方針:強い者に付く
第三行動方針:自己の命を最優先
基本行動方針:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する


チーム共通行動指針:
市街地に向かい、グレーテルを埋葬するのに適当な場所を探す。
チーム共同アイテム:ミニミ軽機関銃、おにぎり弁当
(鮭とイクラ+たくわんニ切れ付。食中毒を引き起こす毒物アイテム)
※二つともグレーテルの所持品だったもの。後部座席に置いてある。
97嗤うベヘリット(15/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 01:57:04 ID:jIsCCc0+
[追記]
(※この部分は次回以降の状態表に持ち越す必要はありません)

 ・支給品のおにぎりには、「黄色ブドウ球菌」が繁殖しており、食べれば高確率で食中毒を引き起こします。
 ※このおにぎりを食べると、約3時間後に激しい嘔気・嘔吐、疝痛性腹痛、下痢を伴う急激な急性胃腸炎症状を
発します。症状には個人差がみられますが、まれに発熱やショック症状を伴うこともあります。重症例では
入院を要します。ですが一般には予後は良好で、死亡することはほとんどなく、通常1日か2日間で治ります。
 しかしロワ内においては、死には至らなくても激しい体力の低下・戦闘力の低下を引き起こすおそれのある
十分に危険なアイテムでしょう。

・ベヘリットについて
 このベヘリットはただのベヘリットではなく、グリフィスのもとに付いてまわった「真紅のベヘリット」。
 このロワの中で生かされる特性は、因果に選ばれた者=「魔物の王」になる資質のある者(様々な作品からの
キャラクターが参加しているこのロワ内では、必ずしもグリフィスのもとに行き着くとは限らない……)に、
自然と引き寄せられる(人の手を伝い、あるいは偶然拾われるなどして)。
 例え捨てたり紛失したりしても何らかの形で手元に戻り、逆に必要としていない(因果に選ばれていない)者が
手にしてもいずれ手元を離れていく。
 しかし、「次元の扉を開け、生贄と引き換えに人間を異次元の世界の魔物へと転生させる」
という能力は、ベルセルク世界とは異なるルールのもとに動いているこの世界では発動されない。
 要は、このロワにおいてのベヘリットは、不気味ではあるが無力な、単なるマスコットにすぎない。
勿論「蝕」を引き起こすこともない。
 しかし、問題なのは、このアイテムの説明書には「ロワ内では無力」という肝心の一文が
抜け落ちているという点である。
 単なる手落ちか、ギガゾンビの作為かは謎。
98 ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 02:00:26 ID:jIsCCc0+
申し訳ありません、「嗤うベヘリット(14/15)」において最も重要な一文が
コピペミスで抜けておりましたorz





【グレーテル 死亡】


99(修正版)嗤うベヘリット(8/15) ◆tC/hi58lI. :2006/12/12(火) 02:35:58 ID:jIsCCc0+


 停止と同時に、ヤマトは運転席から飛び降りた。
 ヘッドライトの明かりで照らされている範囲に、西洋風の衣服を着た少女がうつぶせに横たわっていた。

 血の赤は見えず、見た目には手足がちぎれ飛んでいるなどの怪我もない。しかし、背中や指のもがくような痙攣が、
不吉な予感をさせていた。


 駆け寄るなり抱き起こし、声をかける。
 「おい、大丈夫か!?」
 トラックの直撃を受けてはね飛ばされた少女――グレーテルの目が、薄く開いた。







 グレーテルは思う。

 ああ……
 夜の闇よりも暗いのは、どうしてかしら。
 さっきまではあんなに眩しかったのに、どうしてかしら?
 目がよく見えない。誰かが私を呼んでいるのに。
 誰?


 「兄……様……?」

 グレーテルを抱えたヤマトの腕が、びくりと震える。
 まだ何か言いたそうなその唇がまた動くのを、叱られる子供のように身を固くして待った。

 「………… …  」
 かすかな言葉は、トラックのエンジンの唸りにかき消された。

 抱えたグレーテルの体が、ほんの少し――軽くなったように思えた。


100有機生命体の耐久度調査(1/5) ◆Bj..N9O6jQ :2006/12/12(火) 04:17:23 ID:rEdi/4UR
「うん、予想通り。
 防波堤から歩いてきたわね、二人。
 防波堤を橋代わりとして使う人物はいると思ったのは当たりね。
 組んでるってことは、殺し合いにそれほど積極的じゃない……
 でもさっき、何か爆発が起こってたわよね。
 じゃ、そういうことができる武器を持ってるかもしれない。
 そしたら、正面から立ち向かうのは危険よね。うん危険。
 ちょっと策を練らなくちゃ。
 統合思念体に連絡が取れない以上、前準備は大切よね」




「……ハクオロさん、でしたっけ?」

 防波堤からやっと途切れたその先は、木や雑草が生い茂っている森だった。
 防波堤ではまた襲撃に遭った時に海に落とされる危険性があるため、
まず陸に上がることに決めて情報交換は歩きながら行っていた才人だが、
どうしても気にならずにはいられないことがあった。

「私の仮面が気になったか?」
「まあ、それもありますけど……なんで腕を持ってこさせたんですか?」

 そう。ハクオロはなぜかさっきの男の腕を才人のデイパックに入れさせていた。
斬った当人である才人も、さすがに先が無い腕なんて持ち歩く趣味は無い。
猟奇的な連続殺人犯でもあるまいし。
気持ちを理解したか、ハクオロは頷きながら説明した。

「もしあの男がまた襲ってきた場合、交渉材料に使えないか、と」
「え?」
「いくらなんでも、腕がくっつけられると聞いては黙ってはいられないだろう?
 そして、腕を持つならくっつけられる道具を持っている者の方がいい。
 いらない物で実演できる」

 つまり、こういうことだ。
もしまた襲ってきた場合……腕が簡単にくっつけられる旨を説明してやる。
そして襲ってきたらこの腕を捨ててやるぞ、
くっつける道具を捨ててやるぞとでも言えばいいわけだ。
例え腕を諦めるにせよ信じないにせよ、少なくとも隙ぐらいは生まれるだろう。
ハクオロの説明を受けた才人は思わず感心していたが……

「でもなぁ……」

 感心しても、自分の荷物の中に腕があるというのはやはりよろしい気分ではない。
もっとも、ハクオロとしてもそれは分かりきっている。それでも。

「だがこの森の中だ、また遭遇するかもしれない。
 それにお互い探し人がいる、襲われている状況で再会するとも限らないだろう」
「そうですね……」
101有機生命体の耐久度調査(2/5) ◆Bj..N9O6jQ :2006/12/12(火) 04:18:21 ID:rEdi/4UR
 長期的に見れば、有益になる可能性もあるのだ。
才人はふとルイズやタバサがあの男に襲われている様子を思い浮かべて、
慌てて頭からその考えを振り払った。
自分からわざわざ最悪の光景を思い浮かべたくは無い。

……そんなことをしていたからだろう。

「どうやら、違う者に遭遇したようだ」
「!?」

 隠れた人物に気付けなかったのは。
慌ててハクオロの視線を追った才人は、木の陰に誰かが隠れていているのに気付いた。
ただ……先ほどの男でないのは確かだ。
青い長髪が風で流れているし、スカートらしき物も見えている。

(もしかして、女の子か? こんな場所じゃ怖がるのも当然だ)

「とりあえず、出てきたら? やる気はないし……」

 おずおず、といった声で才人は呼びかけた。
できるだけ不審人物でなさそうに聞いたつもりだが、
正直ハクオロの格好は不審人物だと才人は思っていたりもした。
まだあまり事情を聞いていないのに失礼な評価かもしれないが。

「……ふむ」
「あ」

 出てきたのは、まず間違いなく美少女と呼べる部類に入る女の子だった。
だが何よりもまず才人が驚いたのは……彼女の服。
もしかすると……

「……もしかして、日本人?」
「? なんでそんなことを聞くのかしら?」
「いいから。名前は?」
「……長門有希」
「やっぱり」

 間違いなかった。彼女は「才人の」世界の人間だ。
言い知れない気持ちが心に溢れる。望郷とか、そういった気持ち。
思わず才人は安心していた。日本人なら、平和慣れしているから大丈夫だ。
だが……長門と名乗った女の子は才人達を信用していないらしい。
お愛想笑いのような、ぎこちない笑みを浮かべている。
その表情が多少気になったのか、ハクオロが疑問げな表情を浮かべて質問した。

「そんな顔をされる理由は無いのだが」
「仮面を付けてるから、どう反応すればいいか分からないのかも……」
「……これは、一応事情がある」

 脇から答えた才人の言葉に、ハクオロは苦笑するしかない。
もっとも、一応これは才人なりの気遣いである。
102有機生命体の耐久度調査(3/5) ◆Bj..N9O6jQ :2006/12/12(火) 04:19:09 ID:rEdi/4UR
彼女が才人の世界から来たなら、仮面を付けた人物は思いっきり不審人物の分類に入る。
あの子が言いづらいならこっちから言ってあげた方がいい、
そう推測して才人は言ったのだが……女の子ははっきりと通る声で。

「腕、持ってたわよね」

 と告げた。

「あ……」
「む」

 才人とハクオロは思わず言葉に詰まる。
なるほど、斬った腕を持ち歩く様子を見れば信用などしたくなくなるのも当然だろう。
もっとも……同じ言葉に詰まった状態でも、考えていることはまるで違っていた。
ハクオロは将来的に、これを広められることにより自分達が危険人物扱いされないかと。
才人は今、なんとかして信用を得て元の世界の話を聞けないかと。
それでも一応、二人が導き出した「今行うべきこと」は一致していた。
言い訳だ。

「私は襲撃されていた才人殿を助けただけなのだが。
 ……まあ、危険な目には遭わせてしまったがね」
「俺も、正当防衛だし……それに、この剣は斬っても大丈夫なんだ」
「?」
「ああ、えっと……斬っても痛くないし、くっつける手段がある」

 女の子は明らかに疑いの目を向けている。当然といえば当然か。
しばらく後。

「じゃあ、実演して」
「う」
「……才人殿、そこまではしない方がいい」

 こんな事を才人は言われた。……さすがにそれは嫌だ。
自分で自分を斬る趣味も才人にはない。ハクオロに警告されなくてもやらない。
かといって、懐かしい世界の住人と少し話がしてみたいのも事実だった。
躊躇っていると、女の子は地面から木の枝を拾い上げて、

「これ、切って」
「……ああ、それくらいなら」
「……?」

 別に問題は無い。ただ……こんなに細い木の枝はくっつくんだろうか?
さすがに気になったが、くっつかなかったらその辺の木でも切るか。
何か引っかかっているような目のハクオロを気にせずに、
才人は木の枝を受け取ろうと女の子の手前まで行って。

「えいっ」
「……え?」

 視界が、赤く染まった。
103有機生命体の耐久度調査(4/5) ◆Bj..N9O6jQ :2006/12/12(火) 04:20:05 ID:rEdi/4UR




「っああああああああああああああ!」

 才人とかいう男の子が絶叫する。有機生命体はやっぱり脆い。
左目に木の枝が突き刺さるくらいで絶叫するなんて。
虹彩に水晶体や角膜が貫かれただけで、視神経や脳は無事じゃない。
長門さんは全身を貫かれても平気だったし、
キョンくんは奇襲でもちゃんと対応できたのにね♪
この木の枝はあらかじめ構成因子を変えておくことで鋭さを増した特別製。
以前長門さんに放った、椅子から生み出した槍と原理は同じ。
結構時間をかけたのに、出来はそれより劣っちゃっているけどね。

「貰うわね、これ」
「待て!」

 仮面の男が刀を向ける。だが、間に合うはずも無い、間に合わせない。
男の子の剣を奪い取ってその右腕ごとデイバックの紐を断つ。
へえ、本当に血が出ないんだ。まあ、それに驚くのは後でいいかな。
相手はまだ私をただの有機生命体の女の子だと思っているはず、そこが付け目。
剣で荷物を引っ掛けながらもう片方の腕で軽々と男の子を持ち上げて。

「なっ!?」
「……くす」

 男の子を盾にして刀を受ける。呆然とする仮面の男。
あーあ、痙攣してる。これは死んじゃったかな?心臓に刺さってるし。
もっとも私はそんなこと構わない。男の子のお腹を蹴飛ばした。
より深く心臓に刀が刺さり、勢いを付けられた死体が仮面の男と縺れ合って倒れ込む。
当然、見逃さない。

「じゃあ、死んで♪」

 剣ですっぱりと、男の子ごと仮面の男の首を切り落とす。
もっとも、血は出ていない。痛みも無いんだろう。右腕を切った時にそれは理解できた。
だから、とどめを刺すべく首をサッカボールのように蹴飛ばした。
見事な軌道を描いて生首は海に着水。
念のため、海辺に行って様子を見届ける。
首が発していたんだろう泡もそのうち出なくなった。

「……簡単ね」

まさしく最高の結果だ。あっさり二人を殺せたし、それに。

「この剣は意外と使えそうね♪」

 そう、いい物を手に入れた。この剣なら脅しに最適だ。
腕を切り落とし、返して欲しかったら人を殺せと言えばいい。
104有機生命体の耐久度調査(5/5) ◆Bj..N9O6jQ :2006/12/12(火) 04:20:51 ID:rEdi/4UR
まさにうってつけ。私向け。

「いっそ、SOS団員の五体をバラバラにして涼宮ハルヒに見せるのもいいかもね」

 考えただけで心が躍る。
もしまだ生きているキョンくんの首を……文字通り生首を見せたら?
涼宮ハルヒはどんなリアクションをするだろう、楽しみだ。


【H-2森 1日目 黎明】
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:少し疲労
[装備]: チャンバラ刀@ドラえもん、SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:荷物三人分、弓矢(矢の残数10本)@うたわれるもの
   チャンバラ刀専用のり@ドラえもん、オボロの刀(1本)@うたわれるもの
   アヴァロン@Fate/Stay night、アーチャーの腕@Fate/Stay night
[思考・状況]1:出会った参加者の四肢を奪い、言う事を聞かせる。
     2:それができない参加者は躊躇なく殺していく。
     3:キョンを殺して涼宮ハルヒの出方を見る。
     4:SOS団の四肢を奪い、涼宮ハルヒに見せる。できれば生首がいい。
     5:人数を減らしていく上で、世界と涼宮ハルヒにどんな変化が起こるかを観察する。
     6:3、4、5を実行するため、涼宮ハルヒの居場所だけでも特定したい。

※チャンバラ刀とのり
未来の子供がちゃんばらごっこに使う道具
実際に斬れるが血は出なく、専用のりでくっつけると治る


【ハクオロ@うたわれるもの 死亡】
【平賀才人@ゼロの使い魔 死亡】
105首二つ ◆jFxWXkzotA :2006/12/12(火) 21:02:09 ID:aDDjzW6I
潮風が吹いていた。
心地よい風が、長く、美しい髪をサラサラと撫でている。
海は凪いでおり、時折波が打ち寄せるくらいだ。
そんな海辺で、朝倉涼子は荷物の確認をしていた。
近くに二人の男の死体が転がっているが、全く気にしていない。
そう、それはもはやただのモノ。
モノにかける感情など、利用価値があるかないかという打算だけだ。
感情らしい感情がない彼女にとっては、それすら無意味な言葉だが。

「これは……誰の腕かな?」
奪った荷物の中から出てきた一本の腕。
すらりと長く、筋肉質な男性の腕。
切断面からは血が出ておらず、チャンバラ刀で斬った相手のものだと思われた。
考えても結論はでないとわかりきっているので、早々に考察活動を放棄する。
一緒に出てきた、傷を治療するという鞘と一緒にデイパックに放り込む。
アヴァロンという名のその鞘は、どうやらかなり強力なものらしい。
サイズの関係で刀が収納できなかったため、とりあえずデイパックの中に仕舞って置くことにした。

「ま、こんなとこかな」
略奪物の確認を終えた朝倉が腰を上げ、尻についた砂を払う。
その表情は、普通。
嬉しそうでもなく、悲しそうでもなく、狂っているようでもなく。
普通。
海に遊びに来て楽しかったな。さて今から帰るか。……とでも言うように、普通。

北に移動しようとした朝倉の視界の端に奇妙なものが映る。
波打ち際に打ち上げられている、黒い、丸い物体。
少し注意しながら近づいた朝倉は、その物体の正体に気付いて「なぁんだ」と安心した。
それは先程、ボレーシュートで海に打ち込んだ仮面の男の首だった。
念のため確認してみると、やはり息はない。
しかし、溺死したはずのその顔は、何故か苦痛や恐怖で歪んではいなかった。
穏やかなデスマスク。
不思議に思った朝倉は、チャンバラ刀の説明書をよく読む。すると、裏にただし書きがあった。
『制限により、この刀で首を切られた場合、死亡します』
――なんてことだ。これでは計画が台無しだ。
――でもまあいいか。首以外を切ればいいだけの話だし。
安心した朝倉は、生首を海に向かって放り投げる前に戯れに仮面を剥がそうとした。
戯れのはずだった。
106首二つ ◆jFxWXkzotA :2006/12/12(火) 21:02:56 ID:aDDjzW6I
「あれ?」
いくら引っ張っても仮面は剥がれなかった。
力を入れても結果は変わらず。
不思議に思って顔面との継ぎ目を見るも、特に変わったところは見当たらない。

「……構成情報を解析」
遂に朝倉は、自身の能力を使って解析を試みた。
その結果、わかったことは二つ。
この仮面は、男の脳に繋がった無数のケーブルと接続されており、決して外れないこと。
そしてもう一つ。
こんな仮面の情報は”情報統合思念体”の中に存在しかったこと。
過去、現在、未来。全ての情報の中に存在しないはずだった。

「おかしいなあ」
もう一度情報統合思念体とコンタクトを試みる。当然通じない。
思考続行。
このゲームは涼宮ハルヒが作り出したはず。ならばこの仮面も涼宮ハルヒの創造物。
3年前の情報爆発のとき、涼宮ハルヒから膨大な量の情報が溢れ出した。
殆どがノイズだったその情報に、情報統合思念体は進化の可能性を見出した。
だから私が作られた。
進化の可能性を探ることこそ私の存在意義。
思考続行。
涼宮ハルヒ。情報統合思念体に存在しない情報。ゲーム。デリートされたはずの私。多人数の参加者。
未来。主催者。異世界。SOS団。長門有希。未知の道具。未知の情報。……未知の情報?
「まさか……情報爆発はもう始まっている?」
既に涼宮ハルヒが暴走していて、その結果こんな殺し合いが開催されたのだとしたら――
「観察には打ってつけじゃない!」
手を叩いて狂喜する朝倉。
思考続行。
もはや観察対象は涼宮ハルヒだけではない。この殺し合い全てが観察対象だ。
新たな情報、知らない情報、進化の可能性を秘めた情報。全てが観察対象であり――略奪対象。
「うん。この仮面も後で情報統合思念体に報告しないとね。殺しちゃったのは早計だったかなあ。
 まさか情報統合思念体に存在しない情報だなんて、信じられない!
 でも、平行して涼宮ハルヒのことも観察しなきゃね。とりあえず行動方針はそのままかな。
 うん、決めた。涼宮ハルヒを刺激しつつ、この舞台で進化の可能性を探す。
 現場の独断で話を進めちゃってもいいよね。だってもう、こんなに興味深いモノが手に入ったんだから」
仮面の男の生首を、まるで宝物のように抱きかかえる。
情報統合思念体にすら存在しない情報の塊。
もしかしたら、進化の可能性を秘めているかもしれないモノ。
まだまだある。きっとある。進化の可能性。
思考続行、且つ行動開始。
107首二つ ◆jFxWXkzotA :2006/12/12(火) 21:03:57 ID:aDDjzW6I
もしかしたら。
そう思ってもう一人の少年の首も切断して調べてみたが、こちらはごく普通の日本人であるらしかった。
片目を潰され、虚ろな表情をしている死に顔を見つめ、残念そうに溜息を吐く。
「人をおびき寄せる餌くらいにはなるかな」
二つの生首をデイパックの中に放り込み、腰を上げる。
もはや砂まみれとなった制服を手で払いながら、朝倉は微笑んだ。
その笑みは、やはり普通。

「やることがいっぱいあるなあ。でも、頑張り次第で成果が出るならやりがいがあるよね♪」


【H-2海辺 1日目 黎明】
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:少し疲労
[装備]: チャンバラ刀@ドラえもん、SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:荷物三人分、弓矢(矢の残数10本)@うたわれるもの
   チャンバラ刀専用のり@ドラえもん、オボロの刀(1本)@うたわれるもの
   アヴァロン@Fate/Stay night、アーチャーの腕@Fate/Stay night
   ハクオロの首(首輪付き、血は出ていない)、才人の首(首輪付き、右目貫通傷)
[思考・状況]1:未知の情報(進化の可能性)を探す。
     2:出会った参加者の四肢を奪い、言う事を聞かせる。無理なら殺す。
     3:キョンを殺して涼宮ハルヒの出方を見る。
     4:SOS団の四肢を奪い、涼宮ハルヒに見せる。
     5:人数を減らしていく上で、世界と涼宮ハルヒにどんな変化が起こるかを観察する。
     6:3、4、5を実行するため、涼宮ハルヒの居場所だけでも特定したい。
     7:ハクオロの首は保管。才人の首は罠に使う。

※チャンバラ刀とのり
未来の子供がちゃんばらごっこに使う道具
実際に斬れるが血は出なく、専用のりでくっつけると治る
【制限】首を切ると対象の人物は死ぬ。
108名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/12(火) 21:14:03 ID:CCGXcaiX
>>100-104は荒らし目的のためNGです

539 : ◆Bj..N9O6jQ :2006/12/12(火) 04:21:39 ID:rEdi/4UR
先に謝っておきます、ごめんなさい。
ありとあらゆる批判を受ける覚悟です。

でももう我慢ならない……

548 : ◆Bj..N9O6jQ :2006/12/12(火) 04:46:14 ID:rEdi/4UR
>>541-546
本当にすみません、謝ります。
いくら謝ったところで許してもらえる問題ではないでしょうが……
はっきり言って、これしか思いつきませんでした。
>>545
才人の支給品が不明となっていたので、これを出しました。


本当は言葉を投げかけたい相手がいますが、抑えます。
恐らく歯止めが効きませんから。
ただ一つだけ……私は才人とハクオロさんで、ネタを考えていました。
没SSのレヴァンティン才人も、私が書いたものです。
言い訳にもなりませんでしょうが……せめて、一ファンとしてこれだけは言っておきたかった。

やっぱむかつく。好きなキャラをこんな風に殺さなきゃいけないのが。
寝ます。このままだとキーボード破壊しそうだ。
109[] ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:37:46 ID:1Ctu9l0z
 おっぺけぺ〜のぺ〜
  おっぺけぺ〜のぺ〜
   おっぺけぺ〜のぺ〜

 にゃはははぐるぐるでがらがらでどかんどかんぼーぼーなのです〜

    おっぺけぺ〜のぺ〜
     おっぺけぺ〜のぺ〜
      おっぺけぺ〜のぺ〜

  byわひゃはyふぁらうぇおいjwみょ〜

       おっぺけぺ〜のぺ〜
        おっぺけぺ〜のぺ〜
         おっぺけぺ〜のぺ〜

   ふぁけjひぁおうぇじゃだこぇえrふぁwfみおpmじゅえ〜

          おっぺけぺ〜のぺ〜
           おっぺけぺ〜のぺ〜
            おっぺけぺ〜のぺ〜…………


 ◇ ◇ ◇

110「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:39:22 ID:1Ctu9l0z
 いきなり殺し合いをしろ、なんて可笑しなことを言われたら、誰だって必然と視野が狭くなるもの。
 灯台下暗し――なんて諺があるが、暗くて見失ってしまうようなものは、何も手元にあるとは限らない。

「まぁ。今まで気にも留めませんでしたけれど、ここから見える月夜もなかなかのものじゃありませんの」

 空に上る満月を見ながら、獣耳の女――カルラは、物思いにふけるような素朴な笑顔を作る。

「まったく、こんな厄介なことに巻き込まれたりしなければ、今頃ウルトあたりと一緒に月見酒と洒落込むところですのに」

 素朴……そう、月を見上げる彼女の笑顔は、確かに素朴だったのだが、

「ねぇ? そうは思いませんこと?」

 見事すぎる真円から視線を外し、目の前に立つ少女へと被写体を移したその瞳は、どことなく妖艶にも見えた。

 深夜の森を行き来する風は、冷たい。
 漆黒のレオタードにマントベースとしたバリアジャケットを装備し、煌びやかな金髪を闇に引き立てさせている少女――フェイト・T・ハラオウンの格好は、見るからに寒そうだった。
 むき出しの太腿に鳥肌が立っていることにも気づかず、一点に見つめるは、闇の奥に潜みし者。
 寒さを忘れさせるほどの存在が、そこにいた。
 寒さを忘れさせるほどの失態を、やってしまった。
 寒さを忘れさせるほどの誤解を、生んでしまった。

「あ、あ…………」

 やらかしてしまった失敗への後悔のせいか、それとも単純に、カルラへの恐怖からくるものか。
 分からない。分かるのは、自分が彼女に攻撃を仕掛けてしまったということだけだ。

 普段の冷静な思考が、取り戻せない。
 タヌ機による幻覚作用が齎した最悪な不幸――親友が人を殺す、という悪夢がフェイトを混乱の渕に追い込んでいた。
 目の前の女性は誰か? 耳や尻尾など、獣の象徴的なパーツを宿しつつも人型を成すその姿。アルフやザフィーラと同じ使い魔なのだろうか。
 そもそも自分は、殺戮を続けるなのはを追ってここまで来たはずなのに。当のなのはは何処に消えてしまったのか。

「なのは……どこ?」

 カルラに目の焦点を合わせようとせず、フェイトはキョロキョロと辺りを見渡す。
 見知ったはずの親友は、やはりいない。既に移動してしまったのだろうか。
 だとすれば、このままここで無駄な時間を使ってるわけにはいかない。

「…………通る」

 殺し合いに乗った親友――高町なのはを止める。
 フェイトは意思を強め、見失わない内になのはを追おうと、再び進み出そうとするのだった。
 それこそ、降りかかる火の粉、行く手を阻む障害は、全て蹴散らしてでも。
111「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:40:27 ID:1Ctu9l0z
「あらあら。殺気を放っても臆せずに向かってくるなんて……本当に困ったお子様ですわね。忠告しておきますけれど、わたくし、そんなに優しくありませんことよ」

 微笑の影に強大な剣気を隠し、カルラは杖を構えるフェイトに向き直る。
 ホーホー、と何処からか梟の鳴き声が聞こえてきたような気がした。いや、ひょっとしたら虫の鳴き声だったかもしれないし、周囲の参加者が高笑いでもしていたという可能性もある。
 なんにせよその瞬間、開戦の鐘の音としては十分な――音が、鳴り響いたのである。

「ランサーセット」『Get set』

 フェイトの足元に輝きを放つ魔法陣が形成され、周囲に雷の光球が三つ、発現する。
 高速直射弾『フォトンランサー』。フェイトが最も得意とする、雷撃系の攻撃魔法である。

「ファイア!」『Fire』

 フェイトと、その手に握られた杖――デバイス『S2U』の声が重なり、三つの光球は複雑な軌道を描きながらカルラへと伸びる。
 一つは直線的に真っ直ぐと、一つは螺旋を描きながら相手を錯乱させ、一つは横合いから低速で移動し時間差で攻める。
 数多くの戦を経験してきたカルラといえど、さすがに自由自在に軌道が変化する矢というものは初めてだった。

 まず一つ目に襲ってきた直線的な光球は、跳躍一蹴、地面を強く踏み込み空へと避ける。
 そして二つ目に襲い掛かってきた螺旋軌道の光球は、回避では防御で攻略する。
 カルラは跳躍したその先――高く聳える木の枝を掴み取り、そのまま猿のような機敏さで、生い茂る木の葉の群集に逃げ込む。
 それが隠れ蓑となり、光球は多くの枝と葉に阻まれ、カルラの下に届くことなく拡散した。
 途端、衝撃で舞い落ちる木の葉の雨中から、カルラが飛び出す。

(我ながら品のない戦法ですこと。森を飛びまわって攻撃を回避するなんて、まるでキママゥじゃありませんの)

 余談だが、キママゥとはカルラが居た世界『ウィツァルネミティア』に生息する猿のことである。
 木の上から飛び出したカルラが向かう先は、魔法陣の上で光球の操作を行っているフェイト。
 カルラの想像以上のスピードに目を白黒させつつ、残った三つ目の光球を引き戻そうとする。が、
 時、既に遅し。カルラはフェイトの眼前に立ち、フェイトの額を目掛けて右腕を伸ばす。

「おイタはいけませんことよ」

 大人女性特有の、優しげだがどこか迫力のある微笑を見せ、フェイトの額にデコピン一閃。
 普段、大人の男四人がかりでも持ち運ぶのが困難な大剣を振り回すカルラのデコピンは、もはや単なるお仕置きのレベルを超越していた。
 ピンッ、と指が弾かれ、後方に飛ばされるフェイト。数多の魔法戦を経験してきた彼女でも、デコピンで攻撃されるのは初めてだった。
112「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:41:50 ID:1Ctu9l0z
「――ぅあっ!?」

 デコピンといえど、怪力カルラの繰り出す攻撃の前に、超軽量級のフェイトが飛ばされない理由はなかった。
 地を転がり、綺麗な金髪を土に汚す。ダメージ自体は大したことはないが、精神面――命を懸けた戦闘でデコピンを繰り出す――という衝撃的な出来事に、フェイトは面食らっていた。

「アルカス・クルタス・エイギアス 煌きたる天神よ いま導きのもと降りきたれ……」

 立ち上がりながら、フェイトはブツブツと何かを呟く。
 その複雑な言語様式が何を意味するものかは分からなかったが、フェイトの足場に形成された陣が未だ消えぬことに、カルラは警戒した。

(ウルトやカミュが術を使うのと似た雰囲気……まだ、何かがきますわね)

 フェイトから距離を取り、来るべき何かに備えるカルラ。
 その間も、フェイトは呪文の詠唱を止めなかった。

「サンダー……フォール!」

 瞬間。
 フェイトとカルラの周りに取り囲むかのような雷の帯が出現し、バチバチと火花を撃つ。
 傭兵としてのカンか、カルラはその雷で出来た円陣からこれまでにない危険信号を感知し、行動を移した。

 そして、天雷は降り注いだ。


 ◇ ◇ ◇


「…………やった?」

 砂埃舞う森林地帯。焼け焦げた草の大地に立っていたのは、フェイトただ一人だけだった。
 獣耳の怖い女の人はいない。影も気配も見当たらない。
 クロノのデバイスを通して放った魔法、死ぬことはないはずだが。

「……!」

 消えたカルラを捜すフェイトの視線の先、その場に倒れた一本の木を発見して、顔色が変わった。
 長さはそれほどでもなく、太さは人間の女性といった細い倒木。
 サンダーフォールの範囲雷撃に耐え切れなかったのだろう。根元からポッキリと折れ、大地に力なく横たわっていた。
 
 所々に、紅い血を付着させて。
113「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:42:41 ID:1Ctu9l0z
「――――――――ぁ」

 嫌な予感を感じた。
 最悪の結果が頭を過ぎる。
 カルラは何処に消えたのか。
 倒木に付着した血は誰のものなのか。
 分からない。違う。考えたくない。
 しかし、脳は無意識の内に思考を始める。

 ひょっとしたら、下敷きにしてしまったのではないか?

 ひょっとしたら、倒木の下にいるのではないか?

 血を流し、息絶えた状態の、彼女が。

 自分と戦っていたカルラが、

 死んでいるのでは、ないか?

「――――――――ッ」

 言葉が、出なくなった。
 非殺傷設定があるから、クロノのS2Uがあるから、相手が死ぬことはない。そう思って攻撃魔法を放った。
 しかし、そのせいで木が倒れた。その先に彼女がいて、下敷きにされてしまったのだとしたら。
 ――死ぬ。間接的だが、自分が殺した。

「…………わたし、が?」

 殺すつもりなんてなかった。殺戮に走ってしまった友人を止めるため、ちょっと退いてもらおうと思っただけなのに。
 事故、じゃ済まされない。元はといえば、フェイトの放った魔法が原因だ。
 たとえその気がなくても。あの人は、


    フ ェ イ ト チ ャ ン モ 、 コ ロ シ チ ャ ッ タ ン ダ ネ 


 なのはの声が、聞こえてきたような気がした。
 どうしようもない絶望の中で、フェイトは膝を折り、落胆し、項垂れて、

「………………………………」

 泣きたくなった。
114「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:44:02 ID:1Ctu9l0z
「――ぁっ、イタタ……まったく、驚かされましたわ」
「…………!」

 涙が溢れ出す――その間際、フェイトの涙腺を閉めるきっかけとなったのは、ひょうひょうとした女性の声だった。
 倒木が持ち上がり、その下から獣耳の女が姿を現す。
 頭部から血を垂れ流し、痛みに苦しむ顔をしているにも関わらず、手では軽々と倒木を持ち上げている。
 若い女性が血を垂らしながら木を持ち上げる。その光景にも驚かされたが、それよりも何より、

「…………生き、てた」

 ――殺して、なかった。
 その現実に、フェイトはいたく喜んだ。

「『生きてた』、と。そう言いましたわね、今。自分であんなことをしておきながら、そんな口を叩きますの?
 ……これはさすがのわたくしでも、ちょっと怒りましたわね。
 子供にはお仕置きで済ませようとも思いましたけれど……そういうわけにはいかなくなりましたわ」

 起き上がったカルラの表情から、微笑が消えた。
 そして次の瞬間、ブンッ! という大音量の風を切る音が。

 ――ドズンッ

 カルラを殺していなかったという喜びから一転、眼前に振り下ろされた倒木を見て、フェイトは表情を失った。
 ほとんど顔スレスレで下ろされた倒木は、カルラが一歩前に脚を踏み込んでいたら、フェイトの頭をグチャグチャに粉砕していたであろう体積。
 それを棍棒のように扱うカルラの怪力もそうだったが、

「子供を甚振るのは趣味ではありませんけれど……!」

 傭兵が全力で敵を殺しにかかる際の、本気の正気の剣気を超えた殺気。
 それを剥き出しにしたカルラの迫力に、フェイトは恐怖した。

 素手でフェイトに駆け寄り、電光石火の速度で腕を突きつける。
 今度はデコピンなどではない。突きつけた腕はそのままフェイトの顔面を掌握。
 女性のものとは到底思えない握力で締め上げ、さらに脚を加速させた。

「ぐあっ…………!」

 頭蓋骨が粉砕するのではないだろうかというほどの圧迫感、頭を固定されたまま高速で動かし回される不快感に、フェイトはこの上ない苦痛を味わう。
 フェイトの顔面を捕獲したままのカルラは、駆け出した状態からのスピードでさらに腕を伸ばし、聳え立った大木に突きつける。
115「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:45:23 ID:1Ctu9l0z
「……がはあァッッ!!?」

 フェイトの背中と大木の腹が正面衝突を起こし、激痛を与える。
 かなりの衝撃だったが、背骨は折れていない。いや、いっそ折れていた方が楽になれたかもしれない。
 背中に伝わった衝撃はフェイトの内臓器官にまで伝わり、盛大な吐き気を誘う。
 苦しむフェイトに追い討ちをかけるかのように、カルラは腕を振り上げ、掴んでいた顔面を宙へと解き放つ。
 勢いよく放られたフェイトの身体は、ポイ捨てされるゴミくずの如く地面に投げ出された。

「邪魔をするなら容赦はしない。そう、言ったはずですわ。あなたが何者であろうとも、わたくしにはわたくしのすべきことがある。
 立ち止まってなんか、いられませんもの。障壁は、容赦なく叩き壊させていただきますわ」

「う、うぅ……」

 実力……いや、違う。『覚悟』が違いすぎた。

 身も心も、全て捧げた主ハクオロのため。楽しく過ごした仲間たちと、一緒に帰るため。また、平穏を取り戻すため。
 カルラは戦うのだ。死ねないのだ。降りかかる火の粉は何度も振り払い、押しのけてでも進まなくてはいけないのだ。

 片やフェイトは、親友を取り戻すため……本当に、そうだったろうか。
 あれは本当に真実だったのか。なのはが、あんなことをするというのか。
 今では、全てがまやかしであったようにも思える。それに、振り回されていただけのようにも思える。
 だとしたら――フェイトはとんだピエロだ。真面目にショーを見に来てくれたお客に、悪戯をするような悪いピエロ。
 必死に生きようとするカルラを殺害一歩手前まで追い込み、自分勝手な妄想で全てを台無しにしようとしてしまった。
 こんな茶番には、もう付き合いたくない。心底そう思った。

『……Prease Master』

 声が、聞こえた。
 破壊的なカルラのものでも、猟奇的ななのはのものでもない。
 もっと穏やかで、冷静で、お兄さんみたいな声。

『It believes』

(……S2U…………)

『Friendship with the friend』

 平坦な声で、単調に言葉を紡ぐS2Uの声帯が、持ち主であるクロノの励ましにも思えた。
116「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:46:59 ID:1Ctu9l0z

 ――――なまえを、よんで――――

「なのは…………」

 呟く。小さくもしっかりと、会ってもう一度呼びたい、その名を。

「なのは、なのは……なのは」

「……その『ナノハ』というのは、あなたの恋人か何かかしら? それとも家族?」

 フェイトの呟きを聞き漏らさず、興味を持ったカルラが尋ねてみる。
 フェイトは、カルラのその問いを拒絶することなく、立ち上がって正面から返答する。


「友達だ」


 ハッキリと、言い切る。
 S2Uは言った。友達を信じろと。きっと、バルディッシュやレイジングハートでも同じことを言ってくれる。
 なのははフェイトを救ってくれた、掛け替えのない友人だった。そのなのはを、友達であるフェイトが信じないで、どうするんだ。

「私は、なのはに会う。友達に、会いに行くんだ」
「……そう。それが、あなたを『突き動かしていた力』だったのですわね。それが分かれば、十分……」

 フェイトがS2Uを構え、カルラが先程の倒木を拾い直す。

 それぞれの武器を片手に、譲れない思いを胸に。

 再び、衝突を。

「ブレイズキャノン」『Blaze cannon』

 杖の先端をカルラへ向け、魔力を集中させる。

「……参りますわ!」

 倒木を槍のように突き構え、フェイトへ向けて突進する。

「……ファイア!」『Fire!』

 S2Uの先端から、閃光の帯が放出される。
 カルラは倒木を前に突き出し、襲い掛かってくる砲撃を正面から突破しようと直進する。
117「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:47:47 ID:1Ctu9l0z
「わたしは……!」

 意地と意地とのぶつかり合い。思いと想いとのぶつかり合い。
 より強い方が勝つ。そんな気がして。

「なのはに、会うんだァァァァァァッ――――!!!」

 フェイトは、友達の名前を精一杯叫んだ。

 衝突は、轟音と閃光を放って、終焉を迎える。


 ◇ ◇ ◇


 そこには、極めて明確な勝敗結果が示されていた。
 先程まで構えていた杖はカード形態に戻し、立ったままの状態で、横たわる女性を見つめる少女が一人。
 地面に仰向けになりながら、開けてきた朝空と少女の顔を見つめる女性が一人。

「…………負けて、しまいましたわ」

 どこか陽気に聞こえるのは、彼女の楽天的な性格故のことだろうか。
 大した悔しさも見せず、カルラが終わりを告げた大地に倒れていた。

「ウルトやカミュの術も凄かったけれど、あなたの術の規模も相当なものでしたわよ」
「…………ありがとうございます」

 笑顔で相手を称賛するカルラとは反対に、勝者であるはずのフェイトは、居た堪れない気持ちでいっぱいだった。
 元はといえば、勘違いから始まった戦い。フェイトがもっと冷静であれば、回避できたはずの戦いだった。
 なのに、双方とも引き下がることが出来ず……結果的に、カルラをここまで傷つけてしまう結果になってしまった。
 落ち度を感じてしまうのは、しょうがないことであった。

「……ごめんなさい」
「あら、あなたが謝ることはありませんわ。これは、戦なんかよりももっと不条理で救えない、殺し合い。血も涙もなくて当然ですわ。ささ、遠慮なさらずこの首を持っていきなさい」
「! ……しませんっ、そんなこと」
「クスクスッ、分かっていましてよ。あなた、優しそうな瞳をしていますもの。見ていると吸い込まれそうな、そんな素敵な瞳……」

 カルラとフェイトは互いの視線を交差させつつ、その魅力に引き込まれ合っていた。
 さっきまで戦いを繰り広げ、互いにいがみ合ったていたはずなのに。今では、全てが分かり合えた気がする。

「よろしければ……名前を教えていただけるかしら」
「……フェイト。あなたは?」
「カルラ、ですわ。別に覚えていてもなんの得もない、つまらない名前でしてよ」
118「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:48:47 ID:1Ctu9l0z
 カルラのふざけたような物言いが、妙に心地よい。
 殺し合いという不安な境遇に置かれた中で、少しだけ元の世界の暖かさを取り戻せたような、そんな気がした。


 背後に死神が迫ってきていたことに気づけなかった。
 それは、一瞬でも殺し合いの世界から脱線してしまった意識のせいなのかもしれいない。


 ――バッ、と即座に飛び起きたカルラは、全身で覆い隠すかのように、フェイトの身体を抱きしめる。

「か、カルラさん!?」

 いきなり何をするのか、フェイトは赤面しつつも混乱を覚え、カルラの腕の中でされるがままに抱きしめられていた。
 その時の視界に映ったものは、ただ一つ。

 穏やかな笑顔から一転して、

 ドンッ、ドンッ、ドンッ、

 一頻りの銃声の後、笑顔から苦悶の形相へと表情を作り直す、カルラの姿だった。


 その後のことは、よく分からない。
 カルラはフェイトを抱きかかえたまま走り出し、森の中へと疾走を開始する。
 あの銃声はなんだったのか、カルラはどうしてこんなにも強く、フェイトを抱きしめるのか。
 その時はまだ、何も分からないでいた――


 ◇ ◇ ◇


 人気の薄くなった森の奥まで連れて来られ、フェイトはやっと、状況を理解した。

「あ、あ、あ……」

 差し伸ばした手――カルラの背中辺りから、ヌメッとした感触を感じる。
 そして、暖かさも。
 確認するまでもなかった。自分の手にカルラの血が付着したことも、カルラの背中にどうしてこんな液体が付着しているのかも。

「カルラさん……あの時、誰かに撃たれて……」
「……あらあら、そんな泣きそうな顔をしちゃって、せっかくの可愛らしい顔が台無しですわよ」

 不思議だ。どうしてこの女性は、こんなにまで完璧な笑顔を作れるのか。
119「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:50:23 ID:1Ctu9l0z
「ほら、笑ってくださいまし。あなたにはやらなくてはいけないこと、会わなくてはいけない友達がいるのでしょう?」
「でも、でも……」

 拒絶するようなフェイトの声にも押し負けず、カルラはあくまでも、地の笑顔を通して語りかける。

「もう一度、聞きますわよ。フェイト、あなたには会わなくてはいけない友達がいるのでしょう?
 その子の名前を呼んであげなさい。わたくしに聞かせてみせなさい。あなたには、悲しむ必要性なんてないのですから」

 カルラが見せてくれた極上の笑顔は、どこか痛々しくて。見ているだけで、涙がとめどなく溢れてきて。

「わたしは……なのはに……」

 もう一度、確かめるかのようにその名を呼ぶ。
 もう二度と、この気持ちを失わないように。
 もう二度と、目的を見失わないように。

「なのはに、会いたいぃぃ……………………………………」

 目から大粒の涙をたくさん流し、フェイトは、号泣しながらカルラにそう言った。

「……その言葉さえ聞ければ、わたくしはもう満足ですわ。そうだ、あなたが無事に友達と再会できるよう、おまじないをかけてあげましょう。
 目を瞑って、泣くのをやめて、気を休めて……」

 フェイトは、カルラに言われたとおりに行動し、そこで背中に違和感を感じた。
 トンッ、という首筋を打つような音がした直後、フェイトの身体はぐったり崩れ落ち、そこで意識を失う。
 泣き疲れて眠ってしまったような――そんな表情を見せる幼子に、カルラはよしよしと頭を撫で、静かに布を被せて上げた。


 ◇ ◇ ◇


 何が「おっぺけぺ〜のぺ〜」だ。
 正直、あんな状態になってしまった時はどうなるんだろうかと心配したものだったが、意外と早めに効果が切れたようで助かった。
 バカになっている最中に誰とも遭遇しなかったことは、運が良かったとしかいいようがない。
 あの尻尾の子には報復が必要ね……フフフ……いえ、それにお礼も必要かしら。
 なにせ、現在のこの状況を招く、きっかけを与えれてくれたんですもの。

「……つくづく、子供運がないですわね、わたくしも。まさか、襲撃者があなたのような可愛らしい娘だなんて」
「フフフ……あれだけ大きな戦闘音をたてれば、誰だって気になって調べてみようとするものよ。すぐにその場を立ち去らなかったのは、失敗だったわね」

 バカから平静に戻った私――古手梨花は、あの尻尾の少女を捜して森を彷徨っていた。
 その最中に見つけたのが、殺し合う二人の女たち。
 尻尾の少女と同族のようにも思える大人の女に、どういう仕組みかは知らないけれど杖から電気を発していた少女。
 私は二人の死闘を終始観戦しながら、機会を窺っていたのだ。――漁夫の利を得る、絶好の機会をね。
120「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:51:59 ID:1Ctu9l0z
「みー。もう一人の女の子はどうしたのですか? あの子も殺してあげないと、ねこさんはガクガクブルブルが治まらないのですよ」
「ああ……あの子なら、とっくの当に逃げてしまいましたわ。せっかく助けてあげたというのに、薄情な子。きっと、あなたの顔も見ていないんじゃないかしら」
「それはそれは、ご愁傷さまなのです。かわいそうだから、もうこれ以上苦しまないように、楽に殺してあげるのですよ。にぱー☆」

 私は満面の笑みを見せながら、銃を内蔵した傘を突きつける。
 女は既に死を受け入れたのか、木に凭れ掛かったまま静かに目を瞑った。

「何か言い残すことはあるですか? 今が最後のビッグチャンスなのですよ」
「遺言……ですか。そんなもの特にはありませんけれど、残念といえば残念ですわね……」
「みぃ? ここで死んでしまうことがですか?」
「後悔……というほどのものでもありませんけれど。叶うなら、もう少し居たかったですわね……あの居心地のいい食卓に……」
「食卓? ごはんが食べたいのですか? 心配しないでも、天国へいけばお腹まんぷくで、ペコペコフラフラになることもないのですよ」
「それもそうですわね。もっとも、天国なんてところに行けるかどうかは、イマイチ自信がないですけれど」
「大丈夫なのですよ。もし地獄に落ちても、ボクには全く関係のないことだから、安心して逝ってくるといいのです」
「……あなた、歳の割に意外と毒舌ですのね」
「? 何を言っているのかボクにはよくわからないのですよ」
「あらあら、それは困りましたわ」
「あはははは〜」
「ふふふふふっ」

「じゃあ、死になさい」


 ◇ ◇ ◇


  『それは俺の芋だァーーーー!』      『バカっ、テメー一人で食いすぎなんだよ!』

        『クロウ、あなたもいい加減にしておきなさい』
 
            『若様、おかわりはどうですか?』      『あらあらウフフ』

     『おいしいねーユズっち』          『はい……』

        『うぅ……聖上ぉ……某は、某はぁ……』   『ちょ、トウカさんそれお水じゃなくてお酒じゃないですか!』

 『やれやれ……』              『おとーさん、たいへん』



 あの、騒がしくも楽しかった団欒の日々。
 悲しみを招くような戦乱もあったけれど、あの楽しい日々があったから、今まで頑張ってこれた。
 もうあそこに戻れないんだと思うと、心が悲しくなってくる。
121「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:53:32 ID:1Ctu9l0z
(もう少しだけ、あの場にいたかった)

(みなさんと一緒に、もう少しだけ)

(ごめんなさい……あるじ様。わたくし、どうやらここで退場みたいですわ)


 ◇ ◇ ◇


 後に残ったのは、怪しく笑う青髪の少女が一人。
 木に凭れ掛かったまま、体中を銃弾で貫かれた死体が一つ。

「まずは一人……そろそろ夜も明けるだろうけど、まぁまぁの滑り出しといったところかしら。
 役に立ちそうな支給品も手に入ったことだし、早めにこの場から立ち去ったほうがいいわね」

 カルラを銃殺した古手梨花は、彼女の四次元デイパックを回収し、その場を離れる準備を進めていた。
 震源地から少し離れているとはいえ、あの戦闘音を聞きつけた参加者がまだ湧いてこないとも限らない。
 それらと接触するというのも手だが、近くに死体がある以上、無駄な誤解をされる危険性もある。

「尻尾の少女に金髪の少女も……今のところは保留ね。幸いにも私の正体はバレていないようだし、放っておいても大丈夫でしょう」

 古手梨花は子供らしからぬ妖艶な笑みを浮かべ、その場を去って行く。

「こわいこわい。あんなところで人が死んでるなんて、ねこさんはますますガクガクブルブルのニャーニャーなのですよ」

 異常としか取れないような、無邪気な発言を残して。

 
 ◇ ◇ ◇

122「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/12(火) 23:54:36 ID:1Ctu9l0z
 風が吹く。
 その風は、少女を覆っていた布をバタバタとはためかせ、空へと舞い上げる。
 むき出しにされた少女は目元に涙を溜め、すぐ傍で起こっていた惨劇に気づけぬまま、朝を迎える。
 カルラが死亡前、フェイトに被せた布――『透明マント』が、梨花の目からフェイトを救ったのだ。
 だが、死は免れても、悲しみから逃れることは出来ない。

 フェイトは目を覚ましたあとも、きっと泣きじゃくることになるのだろう。

 分かり合えた、戦友になれると思えた女性の、死を受け止めて。



【D-7 森林・1日目 早朝】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:スタンガン@ひぐらしのなく頃に
[道具]:荷物一式×3、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾、残弾6発)@HELLSING、
    :カルラの不明支給品ひとつ(カルラが扱える武具ではない)
[思考・状況]
1:南西の町方向へ移動。
2:ステルスマーダーとしてゲームに乗る。チャンスさえあれば積極的に殺害。
基本:自分を保護してくれそうな人物(ひぐらしキャラ優先)、パーティーを探す
最終:ゲームに優勝し、願いを叶える


【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:気絶、疲労大、全身に軽傷、背中に打撲
[装備]:S2U(元のカード形態)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム残数不明
[思考・状況]1:なのはに会う。それ以外の思考は停止中。
[備考]:タヌ機による混乱は治まった様子。


【カルラ@うたわれるもの 死亡】
[残り71人]

 ※午前四時ごろ、D-7の森林地帯にて、大規模な戦闘音と閃光が発生しました。
 ※カルラの支給品『透明マント@ドラえもん』は、風に飛ばされD-7の何処かに放置されています。
  ですが、布の生地自体が透明なため、著しく見つけにくくなっています。
  透明マントは子供一人がすっぽりと収まるサイズ。複数の人間や、大人の男性では全身を覆うことできません。
  また、かなり破れやすいです。
123【修正】「友達だ」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/13(水) 00:27:23 ID:ATJD8sxD
>>115
21行目
【もっと穏やかで、冷静で、お兄さんみたいな声。】
を、
【もっと穏やかで、冷静で、お母さんみたいな声。】
に。

25行目
【平坦な声で、単調に言葉を紡ぐS2Uの声帯が、持ち主であるクロノの励ましにも思えた。】
を、
【平坦な声で、単調に言葉を紡ぐS2Uの声帯が、義母であるリンディの励ましにも思えた。】
に修正します。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの元へと歩き出してからしばらく。
道中、何かが弾けるような音や何かが爆発、崩壊する音など色々な音を聞き、恐怖を感じながらもエルルゥは、着々とステッキが指し示した南西へと向かっていた。
「こっちで……合ってるよね?」
コンパスを見ながらの移動であったが、エルルゥにとって方角を指し示す針など初めて見る物であり、それがどれ程信用できるのかは未知量だった。
また、それに加えこれほど歩いているのに、今まで誰にも会っていないというのも、不安要素の一つだった。
「まさか……通り過ぎちゃった、なんててことは無いわよね」
誰に言うでもなく、一人心地に呟き、ひきつった笑みを浮かべる。
「あは、あははは…………そ、そうよ! とにかく誰かに会うまでは歩かなきゃ! えぇ!」
エルルゥはそう自分に言い聞かせ、止めていた足を再び動き出した。

――その先に何があるかという不安を抱きつつ。



更に歩くこと幾許か。
「……これだけ歩いても誰にも会わないなんて……やっぱり通り過ぎちゃったのかなぁ……」
流石に歩くのに疲れたのか、エルルゥは近くにあった電柱にもたれかかり溜息をついた。
そして、彼女は地図を広げると現在位置を確認する。
「最初にいたのが確かここ。……で、南西に向かってずーっと歩いてきたわけだからぁ……」
指が地図の上を走り、そして一点で止まった。
――指が止まったのは“F-3”と指定されたブロック。
「まだ水辺も見えていないし、きっとここら辺だと思うんだけど……」
周囲を見渡すが、やはりその視界には人っ子一人映らない。
「やっぱり、どこかの建物の中にいるのかな」
現在アルルゥがいるF-3エリアは、いわゆる商店街になっている地区で彼女の今歩いている通りの両岸には商店が立ち並んでいる。
もしかしたら、この中のどこかに……そんな仮定が彼女の脳裏をよぎった。
そして、彼女の背後にも、そんな商店の内の一軒があった。
「…………一応、探すべき……よね」
エルルゥの身体は自然と、その商店へと吸い込まれていった。
ガラス戸を開けると、その中は当然のように薄暗かった。
月明かりと通りの街灯の光が差し、かろうじて店内の様子が伺える程度といったところだ。
「すみませ〜ん。誰かいらっしゃいますか〜?」
エルルゥは声を掛けながら恐る恐る中へと入る。
そして、店内を一周してみるが誰もいる気配はなく。
「やっぱりいないかぁ。……でも、こんな調子で探していたらいつまで経っても――はにゃにゃ!!」
収穫なしと判断し店を出ようとした矢先、彼女は唐突に床に伸ばされていた電気コードに躓いてしまった。
そして、躓いた彼女はそのまま転倒、更にその際に身体を支えようとして伸ばした手で棚にあった商品をぼとぼとと落としてしまう。
「いつつ……。んもう、何で私ばっかりこんな目に…………って、あら? これは……」
エルルゥは起き上がると同時に、転んだ拍子に落とした商品の箱を手に取った。
そして、そこに書かれていたのは――
「えっと、なになに、胃腸薬……って、これが薬?」
エルルゥが入った店――それは薬局だった。
そして、薬師として修行中の身である彼女にとって、ここに置いてある多様な医薬品はまさに興味の対象であった。
箱詰めされた胃腸薬――それを早速開けてみると、そこから出てきたのは小分けになった袋。
しかも、よく見れば密閉されているようで、保存が利くようになっていた。
「これなら、何か病気になるたびに調合しなくても済むのね。……便利だわぁ」
試しに袋を開けて、中身である粉を舐めてみると、それは確かに自分が調剤する薬にどこか通じる味だった。
「――ほ、他にはどんな薬があるのかしら?」
エルルゥは棚に手を伸ばし、次なる医薬品を調べることにした。
人探しの事などすっかり忘れたように、まるで現実から逃げるように……。


様々な薬を調べた結果。
エルルゥは、ここに置いてある薬の効率のよさにひどく感心した。
飲みやすい喉越しにした飲み薬――これさえあれば、オボロの二日酔い対策も万全だろう。
凝縮して固形にしたり、楕円形の食べれる器に包むことで苦さをおさえている粉薬――アルルゥだってこれなら蜂蜜無しでも飲んでくれそうだ。
更には、筋肉の痛みとる効果がある布や、出しやすい口のついた容器に入ったペースト状の傷薬、それに傷口に貼る糊のついた包帯――戦場に出る皆にもってこいのもののようだ。
「おばあちゃんにも見せたかったな……」
いつしかその腕の中には、いくつもの薬の箱やビンが抱えられており、彼女はそれら全てをデイパックに詰め込んだ。
……あれだけ大量に入れたのに小さいまま、しかも重さもそのままなデイパックに今更エルルゥは驚きはしない。
何というか……慣れたらしい。この自分の知る範疇を超えた世界の技術力に。
「それじゃ、そろそろルイズフランソワブ……なんとかさん探しを再開――」



――BANG!!



ガラス戸に手を掛けた瞬間、何かが破裂するような音がエルルゥの耳に飛び込んだ。
「ひゃあ!」
驚きおののき尻餅をついてしまうエルルゥ。
そして、ガラス戸の向こうからは立て続けに炸裂音や何かを切り裂く音、ガラスが割れる音が聞こえてくる。
「な、何なの? どこか近くで聞こえているみたいだけど……」
何が起こっているのか――それが気になった彼女は恐る恐るガラス戸を少し開け、外を見てみる。
すると、外では……

――どうしたヒューマン!?それだけか!?たったそれだけで私を殺すつもりか!?もっとだ!!もっと!!もっと!!もっと!!もっと!!私を殺したいのなら!!もっと力を見せてみろ!!

現在いる薬局から百メートルは離れた場所だろうか。
月に照らされた大通り、そこでは大男と小さい少女が向かい合っていた。

――そう、化け物だ。それと退治するお前は何者だ?化け物か?人間か?それとも狗か?

――BANG!BANG!BANG!

男の声は良く聞こえるが、少女の声は聞こえない。
だが、見て分かるのは男の方が圧倒的に有利であるということ。
男が何か杖か棒のようなものを少女の方へ向けると、少女の腕と足から血が吹いた。
「……え、い、今のって……」
接近しなくても相手を攻撃する杖――方術の一種だろうか?
……否。方術を使えるのはオンカミヤリュー族のみであるし、あの男にはその象徴である翼が生えていない。
ということは、あれもまた“自分の知る範疇を超えた世界の技術力”なのか……。
などと考えている間と、男は少女の頭を掴んでいた。
そして、男はそのままその少女を――
「ひ、ヒィッ!!!」
エルルゥは目の前で繰り広げられそうになった光景を視界から隠すようにガラス戸から離れると薬局の奥へと逃げた。
「そ、そんなことがありえるっていうの? ……ムティカパ様じゃあるまいし……」
薬局の奥、カウンターと壁の間にしゃがんでエルルゥは震えていた。
彼女が一瞬目にした光景。
それは、ここに来てから見たどの出来事よりも異常だった。
「だ、だって、そんな……人が人を食べるなんて…………」
そうして震えていると、例の何かが炸裂する音が新たに聞こえてきた。
どうやら、またあそこで何かが始まったようだ。
――しかし、エルルゥは今度は外の様子を見る気がしなかった。
何故なら、そこには人を喰らう“何か”がいるのだから……。
……だが。
そんな彼女の恐怖と裏腹に、その後破裂するような音は次第に遠ざかっていった。
確かに音は聞こえはするのだが、先ほどよりも小さくなっている。
そして、その音もあまり聞こえなくなったと思ったその時であった。



――ドンッ!!!



不意をつくかのような大きな爆音が、薬局内部にいるアルルゥの耳に響いた。
それは先ほどまでの破裂するような炸裂するような音とは違う、はっきりとした爆発の音。
これには流石に、何事かとエルルゥも再び出口へと近づき、ガラス戸を少し開くと外の覗く。
「……こ、これは……」
彼女の目に最初に飛び込んできたのは通りの脇からもうもうと立ち込めていた黒煙だ。
それを見て、彼女はすぐに通りの路地裏で爆発があったと判断する。
そして、次に見えたのは通りを向こう側へと走り去って行く人の姿。
街灯に照らされたそれは、かろうじて上着が白いのが分かるくらい。
「――さっきの人……じゃなさそうだけど…………って、も、もしかして、あれがルイなんとかさんだったり!?」
だとすれば、それは彼女がまさに接触を試みようとずっと捜し求めていた人だ。
今すぐ追わなければ、また見失ってしまうだろう。
だが、彼女は躊躇する。
もし、その人が他人だったら? しかもあの爆発を起こした張本人だとしたら?
そうだとすれば、追いかけていった自分が馬鹿を見てしまう。
追うか追わざるか、そんな二つの選択肢が彼女の脳裏をぐるぐると巡る。

そして、彼女の下した決断は…………。
【F-3/商店街・薬局内部/1日目/黎明】

【エルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん、五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
     市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)
[思考]:
基本、仲間と合流する
1、ルイズと思われる人を追うか、それとも薬局内部で留まるか……
2、他の参加者と情報交換をし、機を見計らってたずね人ステッキ使用。ハクオロたちの居場所を特定する。
3、ハクオロ、アルルゥ、カルラ、トウカと合流し、ギガゾンビを倒す。
[備考]
『惚れ薬』→異性にのみ有効。飲んでから初めて視界に入れた人間を好きになる。
     効力は長くて一時間程度。量は一回分のみ。
『たずね人ステッキ』→三時間につき一回のみ使用化。一度使用した相手には使えない。
          死体にも有効。的中率は70パーセント。

エルルゥはE-5における海殺害時の発砲音と遊園地が一部破壊される音を聞いています
また、ロックをルイズと勘違いしています
野比のび太と平賀=キートン・太一が闇夜を往こうと――心を震わせ虞を祓い、眼前に
希望を見出そうと闇の彼方を見たその時――それは其処に在った。
月光に照らされた青白い通りの真中、地面に落ちた影がそのまま伸び上がったかのような
黒い存在――人の容をした何か。
月光を跳ね返し銀に輝く眼鏡の奥の双眸に浮かぶは――怒り。
吹き荒び何人たりとて逃しはしない破壊の衝動。

彼の名は”アレクサンド・アンデルセン”

敵を死滅、敵を壊滅、敵を絶滅、敵を破滅、敵を消滅させることだけが至上の断罪者。
そのアレクサンド・アンデルセンが彼らの往く道の上に在った。

膨れ上がり、尖鋭さを増し、のた打ち回り、満たし、アンデルセンを突き動かすのは――怒り。

”これから殺し合いをしてもらう”――確かにそう言ったのだ。
”これから殺し合いをしてもらう”――呼びつけて確かにそう言ったのだ。
”これから殺し合いをしてもらう”――この俺を呼びつけて確かにそう言ったのだ!

殺し合い!?殺し合い!?殺し合い!?殺し合いっっ!!よりにもよって殺し合いとはっ!!
この俺に!?この俺に!?この俺に!?この俺にっっ!!誰にでもなくこの俺にかっ!!

殺し合いを生業とするこの俺に、殺し合いを試練とするこの俺に、殺し合いを生とするこの俺に、
殺し合いを宿命とするこの俺に、殺し合いを役割とするこの俺に、殺し合いを死とするこの俺に……

今更――”殺し合いをしてもらおう”?

こんな挑発があったか!!こんな侮蔑があったか!!こんな嘲りがあったか!!
こんな非礼があったか!!こんな屈辱があったか!!こんな絶望があったか!!

いいだろう、いいだろう、いいだろう、その挑発に乗ってやろう。

ここが煉獄ならば俺はその住人を焼く浄化の炎となってやろう。
煉獄から神の御座に向かえるは炎に焼かれその魂を昇華させた者のみ。
俺がその一人を選んでやろう。

そしてその一人が愚者を討つだろう!

烈火の衝動がアンデルセンを闘争の場へと突き動かす。
異様な相手の出現に平賀=キートン・太一の動きが凍りついた。


恐怖に身がすくむ……アレの、いや彼の目。あの目は”怒り狂った獣の目”だ。
とてもじゃないが話しが通じる相手じゃあない。
ならば――戦うか?逃げるか?いや、そもそもそんな選択が許される相手なのか。
彼に張り付いた視線をなんとか引き剥がし、私の隣にいる少年を見やる。
少年――のび太君も、彼が只者ではないことを悟ったらしい。身体を振るわせることすら
できずに恐怖している。
のび太君。今の私の依頼人は彼だ。彼の目標を最優先にする――彼は守る。絶対に。

「のび太君、ガムをくれないか?」
「…………え?」
「さっきバッグの中に見つけただろう?あのガムさ」
私の考えを察したのか、のび太君は無言でガムを渡してくれた。
「……キートンさん」
貰ったガムを一度に口に頬張る。
「こんな時はまずリラックスってね」
自分のデイバッグをのび太くんに押し付けるように渡す。
「先に行っておいてくれ、行き先はさっき話したとおりだ。誰かに遭遇したら善人か
悪人かはちゃんと確かめて」
「キートンさんは……」
「私は彼の相手を少ししてから君を追いかけるよ……心配しないで、私は臆病者だから
生きて帰れない勝負はしない。絶対に君に追いつく……だから、行ってくれ!」
のび太君の背中を叩き、三叉路の南へと送り出す。戸惑いはあったが走ってくれた。
後は目の前の彼だ。


黒い危機が口を利く。
「逃げられると思うのか?」
対するは危機の調停者。
「そのために私が残った」
黒い危機が問う。
「勘違いしている。運命から逃れられるのかと訊いたのだ」
調停者が宣誓する。
「…………逃してみせる」
黒い危機が諭す。
「運命とは闘争によって勝ち取られなければいけない。敗走者に与えられる運命はない。
神の御心は勝者にのみ打ち明けられるのだ」
調停者が己が覚悟を示す。
「彼の分まで私が戦う。それだったらいいだろう?」
黒い危機がニタリと笑う。それが開始の合図となった。
「ドゥォオオオオオオッッッ〜〜ッゥクワァッッァァァァァアアアア〜〜〜ウウンッッ!!」

黒の咆哮に調停者が吹き飛び、ガラスを突き破り並べられていた商品を巻き添えに
商店の中へと放り込まれる。
間をおかずに破られた窓から人影が勢いよく飛び出す。
それを撃ち落す咆哮――弾け四散する人影。
路上にバラバラと転がるのは人ではなく人形――マネキンだった。
その間隙に男がドアから路上へと飛び出る。
逃げるように激昂する黒から離れるように走り出す。
それを追い三度咆哮と共に衝撃波が放たれるが、男はそれを流されるように受け、
地面を転がり難を逃れ、続けて四度、五度と同じように衝撃波をやり過ごした。
(さぁ、おまえの衝撃波は私には通用しないぞ。突っ込んで来い)
心の内が聞こえたわけではないだろうが、己が身体を弾丸とした黒い疾風が男へと肉薄する。


なんて速さだ!人間離れにも程があるぞ。
触れれば身体を二等分にされそうな手刀を体を捻って交わし、次の蹴りを電柱を盾に交わす。
蹴られた電柱がメシリと悲鳴を上げる。あんなものをまともに喰らえば一撃だ。
冷や汗を拭う間もない。連続して繰り出される怪物の攻撃を避けながら少しずつヤツを誘導する。
左腕は筒状――アレが衝撃波を放つ砲?――なので、手刀での突きは右だけだ。
ショウウィンドゥに背を付き手刀を誘う――今だ!
突き出された右腕を巻き取るように捕り、背中を相手に当て背負い投げで商店の中に放り込む。
ガラスを派手にブチ破って黒い怪物が商店の中に転がる。
そこに今まで口に含んでいた例のガムを吹きこんだ。
「それじゃあ、さようなら」
瞬間、空気中に吐き出されたガムはエアバックのごとく一瞬で商店の中を満たした。
最後に洩れ聞こえたのは怪物の断末魔か……

アスファルトにポタリ、ポタリと血が落ちる。
最後の背負い投げ、右肘も破壊するつもりだったが――逆にこっちの指を持っていかれた。
左手を見ると人差し指と中指が根元から千切られて血が垂れていた。
利き腕でなかっただけましだが、手当ての必要がある。


男は先に行かせた少年を追い、大通りを南へと走った。
幸か不幸かのび太君の足は速くなかったためすぐに追いつくことができた。
「のび太君!」
大きすぎない声で呼びかける――気付いたようだ、振り向いてくれた。
こちらを指差している……指差して……?

!――振り向く暇はなかった。あてずっぽうに横っ飛びする。

「ドゥォッ…………カアァァァァァァァァァァッ………ウムゥッ!!」

直前まで私のいた場所を衝撃波を通り過ぎる。
馬鹿な!あの状態から5分も過ぎていないぞ。
どうする?手持ちはもうゼロだ。どうやってのび太君を逃がす?
何か使えるモノはないか?何か使える――――ッ!!!!

…………初めて蹴られるサッカーボールの気持ちが解った。
蹴られたのは左脇か、アバラが粉砕されて肺に突き刺さっているのが解る。
壁にぶつかった時に背骨を傷めたか、手足に痺れが走っている。
どこにぶつけたんだかいつの間にかに左足首が折れている。
満身創痍。こうなってしまっては、もう……アレしかないな。アレを使うしかない……

のび太君に化物が迫る。彼を殺す気か、だがまだだ。そうはさせない。
「待て、化物…………まだ、私は生きている、ぞ」
ピタリと足を止めて化物がこちらを見る。いいぞ、こっちにこい。
「私、は……まだ闘え、るぞ……。私が……先だろう?かかって、こいよ」
怪物の肩が震えている……、怪物が笑っている。

「はははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

静寂だった通りに怪物の哄笑が響き渡る。
「”まだ闘えるぞ”、”かかってこい”だと?クカカッ……いいだろうっ!!
お前を俺の敵だと認めよう!お前を塵としてではなく俺の敵として殺してやろうっ!!」
これでいい。後は……
「のび太君は……今のうちに、逃げろ……」
のび太君にも私が何を使おうとしているか解ったようだ。顔が悲痛に歪む……でも、
「逃げる、んだ……。」


悟ってくれたか。のび太君は踵を返して走り出した。
つらい決断をさせてしまった。彼の心を傷つけてしまったかもしれない。

……後は、私が約束を守る番だ。
私の命を使って怪物をここに繋ぎとめる。
怪物が目の前に立った。
怪物の拳が、手刀が、蹴りが私を打つ。
死なない――これが私の精一杯の抵抗だ。
私が死な……い限り……物は、のび太君を追わな、い。
のび……君が安全な……所……しの………………
……達……、再……で……ると、……んだ、が…………
……、…………、…………、……………………………………

………………………………………………………………………………………………
ほのあかるい病室の中で、銭形警部、骨川スネ夫、八神はやての3人は朝を待ち
思い思いの格好で身体を休めていた。


「銭形はん、ええか?」
車椅子の少女が顔を上げる。
「どうした?便所にでも行きたくなったのか?」
「ちゃうよ。いややなぁ」
苦笑の表情を浮かべながら耳に指先を当てる。
「誰か来ているのかっ!?」
にわかに室内に緊張が走る。
「遠いけど、ちこづいてきておる。…なんやぁ、泣いてはるみたいやね…子供や」
「ま、まさか!」
スネ夫が椅子から立ち上がる。
「うん。スネ夫にいちゃんと同じぐらいかも知れへん」
銭形警部がコートの襟を整ながらドアへと歩く。
「どっちにしろ、保護しないわけにはいかん。君たちはここで待っていなさい」
「玄関からの方が近いよ」
「解った。スネ夫君ははやてちゃんを頼む」
落ち着かないスネ夫を制し銭型が足早に部屋を去る。
「また子供が増えんねんね」


真っ暗な廊下、リノリウムの床に革靴の足音を響かせながら銭形警部が進む。
銭形の耳にはまだ声は届かない。
泣いていると聞いた。ならば誰かに追われている可能性は否定できない。
銭形警部は腰から拳銃を抜くとその安全装置を解除した。
角を曲がりホールに繋がる廊下に出たとき、銭形警部の耳にも声が届いた。
駆け出す。確かに子供の声――しかも泣いている。保護しなければならない。

銭形警部がホールにたどり着いたのと、のび太がガラス戸をくぐるのは同時だった。

互いに気づいた二人がピタリと動きを止める。
先に声をかけたのは銭形警部の方だった。

「君はのび太君だな。スネ夫君の友達の?」
「あ、あなたは……?」
どうやら正解だったようだ。確かに彼はスネ夫に教えてもらった通りの容姿をしている。
「ワシはICPOの銭形警部。君の友人スネ夫君を保護している。」
「スネ夫!」
「ああ、彼は奥にいる。君も保護しよう。……君は一人か?」
彼の顔がハッとする。一人ではなかったらしい。
「キートンさんがっ!キートンさんがっ化物にっ!」
ば、化物……?――――――ッ!

「ドオッ……………カアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ……ンッ!!」

病院の玄関ロビーを衝撃波が吹き荒れた。
真っ暗な廊下に複数の慌しい足跡が響く。
銭形警部は爆音に部屋を飛び出してきたスネ夫たちと合流し、先程とは逆に
奥へ奥へと走っていた。
衝撃波で気を失ったのび太は銭形警部の肩に、はやての車椅子はスネ夫が押している。
そしてそれを追いかけるのは黒衣を纏った死――神父、アンデルセン。
咆哮と共に衝撃波が院内を吹き荒れ、轟音が響く。


「右に曲がるぞっ!」
角を曲がった所でさっきまでいた位置を衝撃波が突き抜ける。
まずい、だんだん間隔が近くなってきた。どこかであの怪物を捲かなければならない。
こちらはワシ意外は全員子供なんだ。こんな鬼ごっこはいつまでも続けてられない。
天井の案内を見る――緊急搬出口――
「次は左だっ!」
しまった〜…、まずいぞこっちは。。
廊下の奥に出口が見えたがその距離――25メートル。途中に曲がり角はない。
ここで追いつかれたら終わりだ。
「銭形のおじさんっ!」
車椅子を押して前を行くスネ夫君がワシを呼ぶ。
「スネ夫君。走れっ!一生懸命走るんだ〜っ!」
もうここは根性を出し切るしかない。
「ち、違うんです。聞いてください!ここだったらっ……ここだったらアイツに勝てるッ!」
何だって?予想もしなかった言葉に思わず足が止まる。
「ここだったら……?」
「はい。アイツに勝てます」
スネ夫君は自信満々にひらりマントを自分の前に構えた。
ひらりマント……廊下を振り返る――そ、そうか。ワシにも解った。
「よし、ワシが援護しよう!」
腰の拳銃を抜いて構える。
「ボ、ボクも……、戦う」
いつの間にか肩の上ののび太君が目を覚ましていたらしい。
彼を床の上に立つと荷物から銃を取り出した。
「のび太……」
「スネ夫……、ボクも戦う」


「来るっ!!」
廊下の先に神父が現れるのと、耳に手を当てた八神はやてが叫ぶのは同時だった。
闇夜を哄笑と爆音と破壊を伴い疾走する黒き狂気――暴風アンデルセン。

鳴り響く闘争の調べか、闇に漂う血臭にか、死と殺戮の予感、あるいはその全てを
嗅ぎ取ったのか、そこに猟犬――ロベルタが音もなく這いよっていた。
猟犬が様子を窺う前で病院の扉が静かに開き、中から車椅子の少女――八神はやてが出てくる。


スネ夫君の作戦――直線の廊下という火線の限定された空間。そこであの化物を
待ち構え、空気砲――スネ夫さんが知っていた――の砲撃をひらりマントで跳ね返す。
あの衝撃波は声を出さないと使えないらしいから、タイミングを計るのも簡単だろう。
そしてそれを銭形さんとのび太さんの拳銃が援護する。回避することのできない
完璧な布陣。相手が……、あの怪物がもし回り込むことを考えてもこの出口にまでは
十分な距離がある。そうなれば十分な時間をもって逃げることができるだろう。

考えている間に戦闘が始まった。振り向いて扉を見やる。
衝撃波が廊下を駆け抜ける轟音と拳銃の発砲音が扉越しにも聞こえてくる。
膝の上に乗せたデイバッグ――その中にある夜天の書を思う。
これが、夜天の書が解放されていれば自分も戦うことができるのに……
何故、これが最初から自分の手元にあったのか。何故これほどにまで厳重に封印されて
いるのか、それと……何故闇の書までが再生されているのか。
この状況を含めてわからないことだらけだ。ただ、わかっているのは自分も含め
銭形さんもスネ夫くんも、のび太さんや他の仲間たちも含めて誰もがこんな殺し合いを
望んでいるわけではないこと。
改めて夜天の書を思う。後いくらかの時間で最初のプロテクトを解除できる。
そうなれば、みんなの力に――

「もし」

突然の声に驚き背筋が凍りつき、思わず声を上げそうになる。
恐る恐る声のした方を向くとそこに居たのは……
「メ、メイドさん……?」
黒いワンピースに白いエプロンとカチューシャ。絵に描いたようなメイドさんだった。
「いかにも、私はラブレス家に仕えるメイドのロベルタというものです。このような夜分に
突然声をかけ驚かせてしまった非礼をお詫びします」
自己紹介と謝罪を抑揚なく一口で言い切るとメイドさんはペコリと頭を下げた。
「や、別にええんよっ!うちも驚いたけど、それより……」
すっと顔を上げるとまた機械のように喋りだす。
「はい。私、いきなりこのような右も左もわからぬ所に放り込まれ当てもなく行けば、
なにやら大きな音を聞き、さて何事かと足を向けてみればここに辿り着いたという有様です」
と言うと、手を伸ばし病院の扉を指し示す。
「あの中でなにが?」
つられて私も扉の方を見やる。今だ轟音と銃声は鳴り止んでは――――


ゴキリという小気味よい音と共にはやての意識は途切れた。
メイド――ロベルタは頭から両手を離すと、手早くはやての膝の上と車椅子の手すりに
掛けられた合わせて5つのデイバッグを回収し、それらを検品すべく闇の中に帰った。
病院の中の戦場―― 一直線の長い廊下では迫る怪物とそれを追い返さんとする
三人組の激しい攻防が続いていた。怪物が怒声と共に衝撃波を放ってもスネ夫の構える
ひらりマントがそれを返し、真っ直ぐに戻ったそれは怪物を一歩後退させる。
怪物が衝撃波を諦め突進してくるならば、銭形警部とのび太の拳銃がそれを遮る。
その繰り返しであった。怪物は愚直にもただただ前進し、その身体に傷を増やしていった。
だが、衝撃波を繰り返し受け、銃弾を全身に呑み込み血を振りまきながらも怪物は
倒れてはいない。常人ならばとっくに死んでいるであろう傷を受けてもただ前へと迫る
怪物に三人の心は次第に蝕まれていっていた……


目の前の怪物はもう何発も弾丸を叩き込んでいるのに弱る素振りすら見せん。
だがそれよりも、ワシが今一番驚いておるのは隣ののび太君だ。
その手に握られた銃がルパンの愛用品であるワルサーP38というのにも驚いたが、
何よりも驚いたのはその射撃の腕だ。
やはり小学生の手には余るのか、撃つたびに持ち直してはいるがまだ一発も外して
いない。あの人間離れした怪物の速さを考えればワシ以上……いや次元大介に匹敵
するやも知れん。

また一発、のび太君の放った銃弾がヤツを捕らえる。そしてワシはのび太君が構えなおす
間に4,5発を流し撃ちしてヤツの動きを牽制する。そのうちヤツは苛立ち左腕に装着した
空気砲を撃ってくるが――

「ひらり!」

スネ夫君のひらりマントがそれを跳ね返す。衝撃波を跳ね返され体勢を崩したところを
のび太君が撃ち、それにワシが続く――だが倒れない。
優勢ではあるが拳銃の弾丸には限界がある。そしてこの作戦が綱渡り的なものである
ことも理解している。どこかで踏み外せば……


そしてその時は来た――

のび太のワルサーP38がスライドロック――弾切れを起こしたのを機に攻守が逆転した。
怪物が傷口から血煙を流して三人を猛襲する。後、一歩の間合いでスネ夫の
頭をかち割れるという所まできた時、銭形警部が動いた。銃を捨て、スネ夫のひらり
マントを取り上げ振るった。マントの表面を神父の手刀が滑り勢い余って壁に突き刺さる。

「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

銭形警部の叫びが廊下に轟いた。
銭形警部の叫びにいち早く動き出したのはスネ夫だった。
逡巡なく踵を返し立ち、竦むのび太を手を取ると出口に向かって駆けた。

背中にドアの閉まる音を聞き銭形警部は安心した。
短い間でしかなかったが彼からの強い信頼を確信する。
ならば銭形は己が職務を果たすだけだ。


病院の外に飛び出したスネ夫ははやての姿を探して――絶句した。
首を折られだらりと不自然に垂れた頭。ひと目で死んでいると解る。
少しの間離れていただけで音もなく彼女はただ、死んでいた。
あまりの理不尽な死に直面し、心の闇から押さえ込んでいた恐怖が溢れ出そうになる。
壊れてしまいそうになる。叫びたかった。全てを否定したかった。
はやてに預けていた荷物も失われている。銭形警部とももう会えないだろう。
目の前にはただ闇の世界があるだけ。
心が張り裂けそうだ。

――だが、スネ夫は踏みとどまった。狂乱に陥るギリギリの位置で。
目からは大粒の涙が溢れる。脂汗が止まらない。膝がガクガクと笑う。心臓が早鐘のように
打たれている。でも、まだ――まだその眼差しだけは前を向いている。
後からはとても徒手空拳同士の戦闘とは思えない物騒な破壊音が響きはじめていた。


銭形のおじさんが戦っている。
銭形のおじさんはボクと約束してくれた――「君を保護する」と。
だったら……、だったら生き残るのがボクの戦いだ。
ボクは絶対、銭形のおじさんを嘘吐きにはさせない。絶対最後まで生き抜いてやるんだ。


スネ夫は遠くまで続く闇を睨みつけると、茫然自失ののび太の手を引き
その闇の中へ飛び込んだ。
病院の中の戦場――今、そこに鳴り響くのは銃声ではなく石と肉と骨が砕ける音だ。
壁が削られ、血が飛び散り、削れた肉がこびり付く――処刑場と化していた。


……やっぱり、馴れんことをするもんじゃ、ないな。
このマントはワシの性に合わん。いくらかは攻撃を逸らすことはできたが……
……一体こいつはなんなんだろうな?
いままで色々と見てきた。ルパンを追いかけててトラブルに巻き込まれたのは二度や三度じゃない。
それでもこんな化物は初めてだ。ルパンなら、ヤツならこんな時どうする?
ヤツなら…………こうするかもしれんなぁ……


銭形刑事の手からひらりマントが落ちる。
堅固に守り通した心臓が露になり、そこに怪物が手刀を刺し込まんと伸ばす――が!
マントは床に落ちても効果を失わない。
怪物は手刀を構えた姿勢でつんのめる――その手を銭形警部が捕って投げる。
柔道場でも、凶悪犯を検挙する時にも使わない殺すための投げ。
ドズゥッ、と重い音を立てて神父怪物の頭が硬い床に突き刺さり、そしてゆっくりと倒れる。
それを見た銭形警部も糸が切れた人形のように床へと倒れこんだ。


不思議な気持だ。
死を目前にしているのが解るのに、怖くなかった。
覚悟を――覚悟を決めていただからだろうか?


スネ夫君は無事だろうか、無事逃げおおせただろうか?
守ると約束したのに――家に連れ帰ってやると約束したのに、自分はこんなところで
終わってしまうのが申し訳ない。
スネ夫君の友達ののび太君とはやてちゃんも――そして彼らの友達も……助かってくれ。


……ルパン。
ヤツは今、どうしてるんだろうな。ワシが死んだって知ったら……喜ぶか?
それとも……泣いて、くれるか?


ヘヘ……馬鹿野郎……ワシがいな……なって、も  ……前等、悪党共が御天、とさんの……
…………由に……歩……きる日、なん、て……やしない、ん……よ……


じゃあなルパン。


後は……頼んだぞ。
床に伏した銭形警部をアンデルセンが見下ろしていた。
彼もまた満身創痍である。全身に十数か所の弾痕。跳ね返された衝撃波で全身の骨が
軋んでいる。床に叩きつけられた後頭部は骨折し頚椎にも損傷がある。
そして、ぶらりと垂らした右腕。間接が破壊され完全に駄目になっている。
達人レベルの人間に”二度”も連続で極められたのだ。人の域を超えていてもそれには
絶えられなかった。
床に血が垂れる。いつもならば改造によって得た自己再生能力と回復法術で傷を癒すことが
できるが、自己再生能力はわずかにしか働かず、回復法術にいたっては全く用を足さない。


神に見放されたか――さもありなん。
元よりイスカリオテはユダ(裏切者)だ。生きて地獄に落とされたというのなら本望だ。
足元に転がるこの男。そして先刻殺したあの男。
東洋人――ブッダニスト――滅ぼすべき異教徒であり――俺の敵。
祈る言葉はないが、お前等が俺の敵であったことは忘れまい。


アンデルセンが次の殺戮に赴こうと出口の方を向いた時、その扉が静かに開き彼と同じ
黒衣の女がゆっくりと入ってきた。
対峙する二人はあまりにも同じだった。
黒衣を纏い、十字架を胸に下げ、狂気漲る瞳を眼鏡で隠し、怪物であった。そして……


「私、火急の用がありますればあまり暇を置く時間はありません。必ず戻らなければ
ならない故あり、サンタマリアの誓いの元にあなたをここで仕留めさせていただきます」


カトリックかっ!ククッ!俺と同類が、俺の前に立つ。
戻る?いいだろう俺は煉獄の炎。俺がお前を試してやろうッ!
ロベルタの口上が終わるやいなやアンデルセンの咆哮と衝撃波が廊下を疾る、が!
それは途中で掻き消された。血煙の向こうにはアンデルセンと同じ砲を構えたロベルタ。

使う獲物までが同じ――埒が開かぬと悟ったアンデルセンは空気砲を床に落とし
腰溜めに左の手刀を構える。
同じくロベルタも空気砲を床に落とし獲物を取り出す。
彼女が取り出したのは長剣。ただの剣ではない、切っ先が触れた床にヒビが入っている。
ただでさえ豪奢で長大な剣だが適格者ではない故に常人では持てぬ重さになっているのだ。
しかしそれをロベルタはこともなげに大上段に構える。

「参る」
「いつでも」

アンデルセンが黒き疾風となる。いく筋もの血の尾を引き、己を一本の敵を貫く矢として。

勝負は一瞬で決着した。
ロベルタが振り下ろした剣がその刃の半ばまで突き刺さる。
そして首を失ったアンデルセンの身体が勢いをそのままに床を滑る。
一間おいて、アンデルセンの首が床に落ちた。


ロベルタは一切の感傷はないという風に、落ちた武器らを回収するとデイバッグを肩に
かついでその場を後にした。



【平賀=キートン・太一  死亡】
【八神はやて  死亡】
【銭形警部  死亡】
【アレクサンド・アンデルセン  死亡】
 【D-3/路上/1日目-黎明】

 【骨川スネ夫】
 [状態]:疲労
 [装備]:
 [道具]:
 [思考]:とにかく逃げる。隠れられる場所を探す。

 【野比のび太】
 [状態]:茫然自失
 [装備]:ワルサーP38(0/8)
 [道具]:
 [思考]:何もしたくない考えたくない。


 【D-3/路上/1日目-黎明】

 【ロベルタ@BLACK LAGOON】
 [状態]:肋骨にヒビ(行動には仕様無し)
 [装備]:空気砲(×2)/鳳凰寺風の剣
 [道具]:デイバッグ/支給品一式(×7)
      マッチ一箱/ロウソク2本/糸無し糸電話1ペア/テキオー灯
      ワルサーP38の弾(24発)/9mmパラベラム弾(60)/極細の鋼線
      医療キット(×2)/病院の食材
 [思考]:市街の中心部(D-5.6、E-5.6)へ向かい人を探して殺害。
      ゲームに勝利し、ガルシア坊ちゃんのいる世界へと戻る。

 ※状態のまとめ

 ・アンデルセンの荷物(デイバッグ/支給品セット/鉄パイプ)は【B-3 橋の上】に放置されています。
 ・映画館から南へ下る通りは空気砲によって被害が生じています。
 ・キートンの死体は【C-4 歩道】に放置されています。
 ・病院内(1F)のいたるところに空気砲による被害が生じています。
 ・銭形警部とアンデルセンの死体は裏側の搬出口の廊下に放置されています。
 ・はやての死体はそのすぐ外に放置。マイクロ補聴器は装備したままです。
 ・ロベルタはほとんどの荷物を持ち去りましたが、不必要であった物は病院裏のダストBOXに
  捨てました。(あまったデイバッグ×6、ドールの鞄と螺子巻き、夜天の書(多重プロテクト状態))
  誰かが見つければ取得できます。

 ※話の中でキートンが使用したのはルパン三世の「バルーンガム(正式名称不明)」です。
   のび太の不明だった支給品をこれにしました。
142 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/13(水) 01:27:10 ID:cyqcXrZp
>>127
中段あたりに誤字があったので報告します。

×不意をつくかのような大きな爆音が、薬局内部にいるアルルゥの耳に響いた。
                     ↓
○不意をつくかのような大きな爆音が、薬局内部にいるエルルゥの耳に響いた。
143敵はどこだ ◆4CEimo5sKs :2006/12/13(水) 01:37:03 ID:LFzsHS3i
闇が、侵食してくる。
どこまでも深淵で、どこまでも漆黒の闇が。
それは一瞬で自分を飲み込むなどというような強大で絶対的なものではないかわりに、
いつまでも……そう、いつまでも。
いつまでも、
いつまでも、
いつまでも、
いつまでも、
いつまでも、
いつまでも、
いつまでもずっと付き纏ってくる。まるで影のように。
それはどんなに抵抗しても、どんなに逃げようとしても、自分の全てを覆いつくそうと隙を窺っている。
消えたと思っても、それは隠れているだけ。実際は常に自分の背後にいるのに。
いつからだろう。
いつから、こんな風になってしまったのだろう。
自分はただ、幸せになりたいだけなのに。
その幸せだって高望みというほどのものではない、手を伸ばせばすぐに届くような。
そんなささやかなものだというのに。
いつから――全てが狂い出したのだろう。

144敵はどこだ ◆4CEimo5sKs :2006/12/13(水) 01:37:51 ID:LFzsHS3i
小学校に上がる前に、元々住んでいた雛見沢の村から両親の……母の、仕事の都合で茨城の町へと引っ越した時。
これが一番最初に、自分の手のひらから幸せが零れ落ちていった時だった。
それまでは近所の友達と毎日雛見沢で楽しく遊んでいた。
大好きな友達。しっかり者の母。少し気が弱いけれど、優しい父。
そんな人たちに囲まれて、当時は自覚はなかったけれど今から思えば幸せな日々を送っていた。
でも茨城の町に引っ越すということを両親から告げられた瞬間に、その幸せだった日々は一瞬にして消え去った。
当時幼い自分はこの村を出て行くのを嫌がってわんわんと泣いたらしい。
でもだからといって何の力もない自分に為す術があるわけもなく、
結局両親と共に茨城の町へと引っ越していった。

新しくその町に住むようになってから母の仕事は充実しているようで、
彼女は子供の自分の目から見ても輝いていた。
自分も、将来は母のようになりたいと思った。それくらいに彼女は毎日が楽しそうで。
……でもそれとは対照的に、父は辛そうだった。
元々母と同じデザイナーの仕事をしていたにもかかわらず、
悲しいことに天は才能を母にのみ与え、彼にはせいぜいその残りかす程度のものしか与えなかった。
父もそのことを自覚していた。でもその上で、父は少しでも母の力になれるように立ち回っていた。
母の仕事のために自分の都合を置いてここに引っ越したし、
多忙であまり家に居ることのできない母の代わりに家事を務めるようにもなっていった。
その過程にどれほどの苦しみがあったかということは想像できない。したくもない。あまりに、悲しいから。
料理、洗濯、掃除、学校の行事参加……彼は慣れないながらも必死に頑張っていた。
……どうしても料理だけは最後まで苦手だったけれど。その分はかわりに自分が頑張った。
決して雛見沢にいた頃ほどには幸せと思えるような生活ではなかったけれど。
それでも自分は新しい生活に適応していき、幼い当時を忘れかけていった。
これはこれでいいのだと。これもまた、幸せの形なのだと。そう思うようになっていった。
145敵はどこだ ◆4CEimo5sKs :2006/12/13(水) 01:38:48 ID:LFzsHS3i
そしてそんな両親が離婚した一年と少し前、自分は再び幸せを失った。
原因は母の浮気。相手は仕事の同僚。
自分とも一応職場の集まりなどに母に連れて行ってもらった時に知り合っていた、若い男性だった。
彼は自分にとても優しくしてくれた。
優しくしてくれる相手に悪意を持つはずもなく、自分も好意を持って彼に接していた。
だがそれが家族になるというと話は別だ。
これは母の裏切りだと思った。何の弁解の余地もなく。
だから母に新しいお父さんと一緒に暮らさないかと聞かれた時、猛反発した。
これまで母のために全てを投げ打って尽くしてくれた父を見捨てるのか。
まだ遅くはない、そもそも離婚なんてしないでまた今まで通り三人で暮らせないのか。
そういった旨をあらん限りの大声で叫んだ。
でも、自分は間違っていた。
まだ遅くはないって?違う。もうとっくの昔に手遅れだったのだ。
母は、妊娠していた。

それから、悟った。
世の中には優しくするべき大勢の人たちと、そうするべきではない『敵』がいることに。
存在するだけでそれは『敵』。その人に悪意があろうがなかろうが関係なく。
この場合の『敵』は、その同僚の男性だった。
『敵』に優しくした結果、幸せはまた一瞬で消え去っていった。彼が消したのだ。
幸せになるためには、そのような『敵』に容赦してはならないのだ。
『敵』は排除すべきだ。
必ず、絶対。どんな手を使ってでも。
だから、告げる。

「動くな……動くと、刺す」

146敵はどこだ ◆4CEimo5sKs :2006/12/13(水) 01:40:09 ID:LFzsHS3i
相手が何者かを確認するまでもなく殺すべきだったかもしれない。
だけどこの時、私はまず情報を収集するべきだと判断した。
いきなりこんなところに飛ばされて、右も左もわからない状態では何もできないから。
情報とはこの男と、男が知っている限りの仲間の素性。この場所について何か知っているのかということ。
そして……私の大切な友達の行方。
それらを聞き終えたら、一切の躊躇もなく刺し殺すつもりでいた。
でも、後から考えたらこれは非常に危険だということがわかる。
たとえ背後からナイフを首筋に突きつけるという圧倒的優位の状況においても
油断して思わぬ反撃を食らうこともあるし、
実は相手が複数で別に仲間がどこかに隠れていたとしたら今頃死んでいたのは私のほうだ。
情報を得たいのなら最初に相手に仲間がいないことを確認して、
かつこんなナイフのようなちゃちなものではなくもっと信用できる武器……銃とか、鉈とか。
そんなものを手に入れてからにすればよかった。本当は危ないところだったのだ。
……でも、この時に限ってはこの間違った判断が幸いした。
その人は私が探していた友達の一人だったから。

「ん?どうしたレナ」
「ううん、なんでもないよ」
「そっか……今はちゃんと休んどけよ。俺がちゃんと見張ってるから」

147敵はどこだ ◆4CEimo5sKs :2006/12/13(水) 01:41:29 ID:LFzsHS3i
前原圭一くん。たまに私にはよくわからないことを一気に捲くし立てたりするけれど、
基本的にはいつも明るくて楽しい、私の大切な友達。
……無神経な一言が勘に触る時もあるけど。
圭一くんは言った。みんなが信じれば、奇跡は起きるのだと。
たしかにそうだ。
信じて、行動して、奇跡を起こして、そして初めて幸せは掴むことができる。
今までの私は行動しなかった。『敵』を排除しようとしなかった。だから幸せは逃げていった。
私にとっての今の幸せ。
またみんなで……圭一くん、魅ぃちゃん、沙都子ちゃん、梨花ちゃんのみんなで雛見沢に戻ること。
また、楽しいあの日々に戻ること。
あれから色々とあったけれど、両親が離婚した後で父と私は二人だけで、再び雛見沢に戻った。
それからはまた幸せな日々がやってきた……違う。掴んだのだ。
私は何度も何度も雛見沢に帰りたいと父に言った。
『あの日』突然私の前に降臨されたオヤシロ様が告げてくださったから。雛見沢に帰ろう、と。
これまで竜宮家が被ってきた不幸は、全てオヤシロ様の祟り。
雛見沢を見捨てて他の町へ行ってしまったことへの神罰。
雛見沢の守り神である、オヤシロ様の怒り。
いつから全ては狂い始めたのか。
そんなことは最初からわかっていたのだ。
雛見沢を離れたあの時。
あれから、全てがおかしくなっていった。
だからもう一度あそこに戻れば、全てが元通り。
そう思ったし、事実そうだった。
雛見沢に帰ってからは、また幸せになれた。もう二度と手放したくない、かけがえのない幸せ。
母はもういない。あの人はもう母ではない。私の幸せを乱した『敵』だ。
あの女性のことはもうどうでもよかった。私は雛見沢でようやく、本当の幸せを掴んだのだから。
148敵はどこだ ◆4CEimo5sKs :2006/12/13(水) 01:42:28 ID:LFzsHS3i

なのに。

なのになのになのになのになのに。
その幸せな雛見沢の日々は、またもや一瞬にして消え去ってしまった。
こんなわけのわからないところに突然放り込まれて。突然殺し合いを強要されて。
何故?どうして?何がいけなかったの?
私の『敵』は誰?
私はこの悲劇を回避するために、誰を排除すればよかったの?
その答えも最初から決まっているはずだった。正確には、これから排除するべき人だけど。
あのギガゾンビと名乗った、仮面を被った男の人。
そして……この世界に集められた、私の知り合い以外の参加者全員。
それこそ、悪意があろうとなかろうと関係ない。居るだけで私の害になる存在。ただそれだけの存在。
『敵』だ。
……そう、思っていた。
でも圭一くんは、そんな人たちをできる限り仲間にして脱出しようとしているらしいのだ。
ここでひたすら前に進み続けていた私の思考は立ち止まる。
仲間を集めて、力を合わせてここから脱出する。現実的なようで、決してそうではないと思う。
ここから脱出というのは、実際可能なのだろうか。
だって富竹さんやどこかの女の子が殺された時、あの場にいた人たちは全員何もしなかったじゃないか。
せいぜい私よりも年下の、その娘の友達らしい男の子がやかましくわめいていただけ。
それはつまり。何もしなかったということはつまり。
お手上げだったんじゃないのか?
もしそうでないのなら。脱出できるというのなら。
全員が一つの場所に集まっていたあの場で何かしらアクションを起こしていたはずではないのか?
それでも……圭一くんは信じろという。自分を。みんなを。
圭一くんは考えていることがすぐに顔に出る……そのせいでよく部活のゲームに負けるんだけど。
そしてあの時、そんな圭一くんの顔に、脱出に対する疑いというものは一切見受けられなかった。
彼は本当に、信じている。
それなら……私も、やっぱり今は信じるしかないのかもしれない。
この顔の時の圭一くんは、今まで逆転不可能な崖っぷちにも関わらず、そこから何度も勝利してみせたから。
そんな彼が脱出できると言っているから。またみんなと会えると言っているから。
今までだって雛見沢のみんなが揃えば何でもできた。今回だって、きっと。
だから、たとえ脱出という言葉が希望に見せかけた願望にすぎないにしても。
信じよう。今は。今だけは。
149敵はどこだ ◆4CEimo5sKs :2006/12/13(水) 01:43:30 ID:LFzsHS3i

でも……どうしても考えてしまう。
本当に幸せを掴むためには、あのギガゾンビの言う通り私以外の参加者を皆殺しにするべきなんじゃないかって。
本当は脱出なんて無理。だからそれしか幸せを掴む方法はないんじゃないかって。
私がみんなを……圭一くんたちを含めたみんなを殺して生き残って、
そして何でも叶えてくれる願いとかいうのでまた生き返らせてもらってから、雛見沢に戻る。
願い事が『みんなを生き返らせる』と『雛見沢に戻る』の二つになってしまうが、そこは
『また元の、以前と何も変わっていない雛見沢に帰してください』とでも言えばいい。
この選択が一番現実的なんじゃないかって。そう思ってしまう。
この考えでいくと、すなわち私の『敵』とは知り合い以外の参加者だけではなく、現在すぐ側にいる……
……ああ、私は何を考えているのだ。冷静になれ。
あのギガゾンビが、本当に願いを叶えてくれるかどうかもわからないじゃないか。
全てが終わって、もう戻れないところまで来てしまって、
それから「願いを叶えるなんてことを本当に信じていたのか?」で殺されてしまっては元も子もない。
それに、私は最初にどうしようと考えていた?
私が知り合い以外を全員『敵』とみなして殺そうとしていたのは何故だった?
仮に本当にギガゾンビが願い事を叶えてくれるとしたら、
私、圭一くん、魅ぃちゃん、沙都子ちゃん、梨花ちゃんの誰かが生き残れば
きっとみんな、私と同じことを願ってくれると思ったからじゃないか。
冷静に、落ち着いて状況を見極めるんだ。選択肢は多い方がいい。
時間はちゃんとある。まだこんな早くから生き残る可能性をわざわざ自分から狭めることはない、
脱出の可能性だってないと決まったわけではない。
冷静になれ。他の参加者だって場合によっては『敵』じゃないのかもしれないのだ。
ギガゾンビも、もし脱出が不可能だとわかった場合、
生き残ることで本当に願いを叶えてくれるのなら排除すべき『敵』ではない。

……あれ?
じゃあ、『敵』はどこ?『敵』は誰なの?絶対に存在するはずの『敵』は。

……………。

わからない。でも、たしかにいるはず。今はただ不明瞭なだけ。
とにかく今は、信じ続けるんだ。圭一くんを……みんなを。
そして一刻も早く、雛見沢に帰るんだ。
早く帰って、たとえ一時的にでもまたあそこを離れたことに対してオヤシロ様に謝るんだ。
まだ、あの『蛆』は湧いてこない。まだ大丈夫。まだ、オヤシロ様は私を許してくださっている。
150敵はどこだ ◆4CEimo5sKs :2006/12/13(水) 01:44:48 ID:LFzsHS3i
ごめんなさい、オヤシロ様。私はすぐに帰ります。ですからどうか、祟らないでください。蛆は嫌です。
ごめんなさい。謝りますから。ごめんなさい。

            ごめんなさい。
                  ごめんなさい。
 ごめんなさい。            ごめんなさい。
             ごめんなさい。         ごめんなさい。     ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
151敵はどこだ ◆4CEimo5sKs :2006/12/13(水) 01:45:41 ID:LFzsHS3i
【A-2森 初日 黎明】
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:正常。少し眠い。
[装備]:鉈@ひぐらしのなく頃に
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:魅音、沙都子、梨花との合流、ゲームの脱出。
2:明るくなるまで待機。四時になったらレナと見張りを交代。周りに注意。
3:マーダーと出会ったらレナを守る。殺すことに躊躇はあるがやる時はやる覚悟。
4:仲間になりそうだったら様子を見た上で判断する。

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:少し錯乱気味。祟りへの恐怖。
[装備]:コンバットナイフ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:魅音、沙都子、梨花との合流、ゲームの脱出。雛見沢に戻って、オヤシロ様に謝る。
2:明るくなるまで待機。四時になったら圭一と見張りを交代。それまで寝る。
3:マーダーと出会ったら容赦なし。どちらかというと武器は圭一が持ってる鉈がいい。
4:仲間になりそうだったらとりあえずは圭一の判断に従う。
 でも自分の判断でダメだと思ったら即殺す。
5:圭一を信じる。
6:もしも脱出が不可能なら……?
152ソロモンの指輪 1/8  ◆nSPmc44fPU :2006/12/13(水) 02:01:05 ID:ObZ37klY
 高校の理科室に、死に至る危険のある薬品は置いていないのが普通だ。
 そして、薬品を使う場所がすぐそばのため、長距離を持ち運べるような設備もない。
 理化室の瓶では乱戦の折にこぼれ、自分に害を及ぼす危険がある。
 ネジ山を切ったプラスチックキャップでは薬品の浸蝕に耐えられず、ガラスの蓋は傾ければすぐに外れてしまう。
「薬品は無理ですね」
「仕方ないね……」
 蒼星石は、まだ心許ない表情である。
 だが、理科室が駄目なら、学校で支給品を越える武器の補給は無理だろう。

 次は天文台だった。
 会談の踊り場で下を見張っていた蒼星石に、望遠鏡と双眼鏡を見せる。棚の用意の一揃えを取ってきたものだ。
 そのうち、双眼鏡の方を差し出した。
「視界が広ければ、それだけ有利になりますからね」
「ちょっと、僕には大きすぎるかも」
 なるほど確かに、へこんだ側を当てれば胸当ての代わりに使えてしまいそうだ。
「では僕が持っていることにしましょう。使う時は遠慮なく言ってください」
 そう言って、一緒くたに自分のデイバッグに放り込む。
「ここの用はこれだけです。待たせてしまいましたね」
「あ、いや。僕はそういうの、気が回らなかったから」
「そう言ってもらえると、気が休まります」
 廊下は自然と歩幅の広いソロモンが前に立った。

 続いて、家庭科室。
 準備室側の棚には、裁縫道具の他に、刺繍に使うのか布地や装飾物がいくつか置いてあった。
 そして包丁。
「……鞘もないのに持っていくのは危険でしょうか」
「僕には使いにくそうだよ」
「そうですね……」
 少し考える。
「ねえ、武器になりそうなものを全部持って行っちゃうのはどうかな?」
「なかなか興味深い意見ですが……」
 蒼星石の意図は、他人の殺害を決めた人間が武器を調達しづらくすることにあるだろう。
 だが、ここに武器を求めて来るのがそういう人間ばかりとも限らない。
 そしてここの刃物だけを持っていくのに、どれだけの効果があるか。
「残念ですが、結論より夜明けが先でしょうね」
「そうだね。ごめん」
「いえ。視点を多彩に持つのは大切なことです。今後ともお願いしますね」
 これ以上収穫が見込める場所はない。これで校内探索は終わりか、と出入り口越しに廊下の窓を見下ろした。
 向かい側の棟1階の廊下、消火栓らしき小さな光が、ぱっと消えてまた現れた。
153ソロモンの指輪 2/8  ◆nSPmc44fPU :2006/12/13(水) 02:02:17 ID:ObZ37klY
「おや、あれは」
 振り返る蒼星石に、物音を立てないようにと囁く。
「誰?」
「わかりません。姿は見えませんでしたが、誰かがいることは確かです。消火栓の赤色灯が隠れるくらいだったので、
少なくともあなたのお友達ではないと思いますが」
 ドールが自分たちの入っていた鞄を手に入れたなら、鞄で飛行することは可能だ。だが、こんな屋内で飛ぶような無鉄砲は……
 いるにはいるが、翠星石が物音を立てないとは考えにくい。
「人間の友達もいるんだ。彼なら」
「わかりました」
 ともかく、作戦を練らなければならない。人探しをしている都合上、相手を視認できる程度まで近づく必要があった。
 せっかく手に入れた望遠鏡は、ここでは使いにくい。
「ジュンや小夜さんかもしれないけど、敵かもしれない。こっちから話しかけた方が有利だと思うんだ」
 その通りだ。蒼星石は、見た目より語りの調子の方が性格をよく反映している。
 と、提案を聞くために目を向けた時、ソロモンの脳裏にひらめくものがあった。
「蒼星石、僕に考えがあります。もし君が嫌ならいいのですが」
「僕にできることなら……」
「あなただからこそですよ」

                       ※

 深夜とはいえ常夜灯が残っている場所には、まだまだ明るいわだかまりが残っている。
 なるべく物陰を通るようにして、高校の建物へ。
 こんな時は黒に揃えた自分の服装が役に立つ。
 校舎内に入ってみれば、何の変哲もない日本の高校だった。稀に廊下と教室を窓で仕切っている場合があるのだが、ここは運良く壁である。
 これなら視界が通らず、ある程度探索に集中できる。
 1階を虱潰しに見て周り、どうやら先客がいるのではないだろうかという結論にたどり着く。
 2階へ上がり、同じく教室を覗きながら廊下を歩いていた時、小さく物音がした。
 見てみるが、特に変わった様子はない。念のためあたりを気にしながら進むと、
 先ほど音がした方向の一室から、人影がちらりと見えてすぐに元の部屋へ戻っていった。
 不意の遭遇か、とも思ったが、相手の動きに慌てた様子がない。
「こいつぁお呼びってことかな……?」
 歩みは変わらず警戒を続けたまま、少しずつ人影が見えた部屋に近づく。
 戸口まで来たところで、壁に張り付いてズボンから唯一の武器を引き抜いた。
 .454カスール・カスタムオート。装弾数7発、総重量4キロ。正気の沙汰ではない。
 こんなものを拳銃にしても、格好をつけて片手で撃とうものなら手首が折れる。握りが悪ければ、肘から行くかもしれない。
 日本警察よろしく、両足を肩幅で踏ん張って、両手でしっかり支えて撃つしかない。それでさえ反動で狙いがずれないかどうか。
 得意の抜き打ちなどやった日には、腕がどこへ飛んでいくことやら。
 鉄塊の重さをした銃を胸の前に両手でしっかり固定し、教室の中を窺った。
「ほおう……」
 藍色の窓を背負って、堂々と立つ男の陰影。
154ソロモンの指輪 3/8  ◆nSPmc44fPU :2006/12/13(水) 02:03:23 ID:ObZ37klY
「俺を待っててくれたのかい?」
「ええ。少しお茶など、と言いたいところなのですがね」
 キザな言い草をする。次元の経験則から行くと、こういう奴は大抵食わせ者だ。気をつけなければならない。
 たとえば、踏み込んだ途端に、隠れていた人間に取り囲まれる、とか。
 一瞥するに、他に誰もいなさそうだが。
「何か変なもの隠してないだろうな」
「どうぞ」
 言うや否や、男は長細い何かを前に放り出し、頭の後ろで両手を組んでみせる。
 音からすると、剣か。
「あんた、随分と余裕じゃないか。いきなりズドンなんてのは考えなかったのか?」
「あなたへの誠意と受け取っていただきたいところですね」
「あーそうかい」
 その誠意とやらへの礼儀として、男に銃口を突きつけることはしない。
 いつどこへでもすぐに撃てるよう、両手でしっかり保持して、壁に背を擦るようにしてゆっくりと教室へ。
 他に誰もいないらしい。
 流し台のついた大きな机が規則正しく9つ、横並びに足元に死角を作っている。
 入り口脇の、背の低い棚の上に、学校に不似合いなほど大きい人形と、普通のサイズのぬいぐるみがいくつか、布をかけられて載っていた。
 念のため、布を取り除けて確認する。
 クマもウサギも男の子も、皆壁にもたれて空ろに座っている。
「お行儀のよろしいこって」
 教卓を盾に黒板側へ回り、机の死角を確認。ここにもいない。
「納得していただけましたか?」
「あんたまだその格好だったのか。もう手は降ろしていいぜ。だが剣から離れな」
「それはできません。僕の身の安全が保証されなくなります」
「だろうな。俺ぁあんたみたいな頭の切れる奴が神妙にしてるの見ると、逆に疑っちまうんでね。大体、状況が状況だ。
知った顔以外、そんなにあっさり信用できねえんでな」
「なるほど、あなたに感じた印象は正しかったようですね」
 男が剣を取った。
「動くんじゃねえ」
 次元のカスタムオートに構わず、鞘をベルトに差す。
「ではもうひとつ、僕があなたに敵意がないということを証明しましょう。それで信用していただけますか?」
「よく言うぜ……モノによるな。やってみな」
 話をしながらも、次元は油断なく出入り口へとにじり寄っていく。
 柔らかく笑顔を浮かべると、男は右手をさりげなく振りながら、一声囁いた。
「蒼星石。ご挨拶して差し上げて」
「何……」
 引き金にかかる指に神経を集中させた次元の背後で、小さく鞘走りの音が聞こえた。
 慌てて振り返ると、男の子の人形が、どこに隠し持っていたかコンバットナイフを両手に抱え、次元に突きつけている。
155ソロモンの指輪 4/8  ◆nSPmc44fPU :2006/12/13(水) 02:04:29 ID:ObZ37klY
「ちっ……!」
 身を捻って飛び下がろうとした次元の近くで、もうひとつ乾いた鉄の音が流れた。
 腰を切って無理矢理逆回転。したところで、細い剣の切先と目が合った。
「……と、いうことなのですが」
「……ちっ。わかったよ。降参だ」
 思ったとおり、こいつはとんだ食わせ者だ。


「こいつはあんたの操り人形か?」
 男に尋ねながら、床に降り立って直立不動の人形を改めてまじまじと確認する。
 男の子とは思ったが、確かヨーロッパの上流の人間には、女の子にこういう格好をさせて喜んでいる変態がいた気がする。
 なんにせよ、これがビスクドールなら、次元にはどちらでもいい話だ。
 首元の大きな柔らかそうな緑のリボンが窮屈そうに見える。
 背負ったコンバットナイフは、人形の小さな体躯には両手剣のように大きい。
 これがアンバランスの美しさですよとか言い出すのだろうな、と次元は思った。
 ナイフの刃は両手剣でいいとしても、刃の幅そのままの柄は人形には握りこめない。
 となると自然、腕で抱えながら振り回す形になり、攻撃は大振り、ただし指先でも引っかかればまるごと持っていかれる。
 そういう相手になる。
 人形のスピードによっては、かなりの脅威だろう。
 特に今のような、机や椅子や棚の多い、暗い建造物の中などは。
 歩いてきた男が、人形の頭にシルクハットをぽんと載せた。とするとこの格好は男の趣味なのだろうか。
「彼女は、糸がなくても自分で動いてくれる優秀なレディなんですよ」
「なんだと?」
 魔法の人形と来たか。
 どう考えても馬鹿馬鹿しい話だが、バンパイアやら人造人間やらゾンビーやらと大真面目に撃ち合いをやった身としては、
 頭から否定するわけにもいかなそうだ。
 それに事実、男の右手に合わせて、人形がぎこちないながらもヨーロッパ貴族のような挨拶をしている。
 見たわけでもないのにまるまる信じるのはバカのやることだが、
 目の前のものをまったく信じようとしないのはバカを突き抜けて地獄行きだ。
 そうそう、確かマシンガンを埋め込んだ武装マネキンなんて代物があったはずだ。それのバージョンアップだと思えば、気休めになる。
「そんなに物珍しそうに見ないであげてください。あなたのダンディズムは、彼女にとっては少し刺激が強すぎるようですから」
「あー、そーかいそーかい……」
 確かに少し警戒されているような雰囲気が、無表情から出ている。
 次元の脇を通り抜けて、男が人形の頬を右手ですっと撫でた。
「蒼星石、しばらく好きにしていていいですよ」
 人形がややぎこちなく関節をほぐし始める。手足の指先まで回し終えると、人形はゆっくりとそのあたりを歩き始めた。
「ヒュー……どうやって動かしてんだ?」
 糸はないとさっきはっきり言っていた。となるとリモコン操作だろうか。まさか本当に武装マネキンのバージョンアップなのか。
「ですから、自分で動いていると言いましたよ」
 答える男の声を横に、次元の目の前で人形が右手を上げた。薬指に銀の環が光っている。
156ソロモンの指輪 5/8  ◆nSPmc44fPU :2006/12/13(水) 02:06:03 ID:ObZ37klY
「? こいつがどうかしたか?」
「これですよ」
 思わず人形に尋ねた次元に、男から声がかかる。彼も右手の薬指に銀の環を嵌めていた。
「これで、僕と彼女の心が繋がり、彼女に意思を与えるのです」
 次元は、口が半開きになっているのを自覚していた。
「それじゃあ何だ? 本物の魔法だってのか?」
「僕にもよくわかりませんが、僕が彼女の主である限り、彼女が生きられるのですから。いいじゃないですか」
 次元なら怪しくて絶対に使えない。
 当分口は閉じられなさそうだと思ったところで、ひとつだけ浮かんできた疑問が次元の頭を少し明晰に戻した。
 今、赤と緑の瞳で次元を見上げている人形。
 自分から動く人形なんてのは、騙し討ちに使えばおそらく外すことはないだろう。
 たった今、ライオンの口に頭を突っ込んでいたことを気づかされたばかりだ。相手がその気がなかったからこそ、助かっている。
 その切札をわざわざ見せるということは自殺行為に等しい。
 数分のやりとりでも、それがわからないような相手じゃないことは大体察しがつく。
 なら指輪はフェイクだろう。
 当たりは、別にある。
「ほれほれ」
 じっと見られているとやることもないので、とりあえず人形の喉をさすってやろうと指を出したら、避けられた。
「やめてあげてください。彼女は猫ではないのですから」
 身の置き処が無い。


 聞けば、ソロモンという名のその男、他にも似たような人形を探しているという。
「知り合いか?」
「彼女の姉妹たちだそうです」
 さらなる質問を予期していたらしいソロモンは、渋い顔で黙った次元を見て拍子抜けした色を見せた。
「では、あなたのご友人について聞かせていただけますか」
「ああ……ルパンと五ェ門と不二子と、あと銭形のとっつぁんだな。ルパンは……まあ、俺が見分ける。
五ェ門は着物と刀持った、今の時代にゃちと場違いな奴だ。見りゃすぐにわかる。で不二子は……」
 長らく顔を合わせている連中ばかりだが、他人に説明するとなると、わかりやすくするには少々骨が折れる。
「別に探してるわけじゃねえが、見つけたらよろしく言っといてくれ」
 一通り聞いて、ソロモンはひとつ頷いた。
「ルパンですか。かの高名な怪盗を思い起こさせますね」
「その高名な怪盗様の3代目だってよ」
「それはそれは。聞きましたか? 蒼星石。アルセーヌ=ルパンのお孫さんだそうですよ。お会いするのが楽しみですね」
「喜んでるとこ悪いが、がっかりすると思うぜ」
 抱きあげた人形に顔を寄せて、笑顔で囁いている。
 どうやら自分の世界に入っている間は人形への操作がおろそかになるらしい。人形は、固い顔でぐらぐらと揺れている。
 これから先もこのスキンシップを我慢して見なければならなそうだ。
 それにしてもなんというか、人形に表情がないはずなのにこわばった顔に見えるのも納得できるというか。
 シルクハットがずり落ちかけている。
「……ん? 何でしょうか、蒼星石?」
 小首を傾げた人形の口元へ、ソロモンはそっと耳を近づける。
157ソロモンの指輪 6/8  ◆nSPmc44fPU :2006/12/13(水) 02:06:59 ID:ObZ37klY
 口は動いているようだが、声が出ているかどうか、次元には聞こえない。
 聞き終えたらしいソロモンは、必要なことですから、と人形に向かって和やかに笑って首を横に振った。
「……なあ、抱えてて疲れねえか」
「いいえ。彼女は僕の大切なパートナーですから」
 人形相手に世話を焼いてやってもしょうがないと思いながらも、ふと出してみた助け舟は見事に漂流していった。
 しまいには人形が顔を真っ赤にして泣き出すんじゃなかろうかと余計な想像をし、そこまで空気に引き込まれている自分に溜息ひとつ。
 いや、真っ当に考えれば、あのなんとなく嫌がっているような微妙な演技もすべてソロモンの操作が関わっていることになるのだろうか。
 ポケットに手をやる。タバコが無い。次元は足取りも重く椅子に崩れた。

                       ※

 洗面台に立って、準備室からとってきた飾り布を首に巻きつける。
 首輪の上からだから少し息苦しいが、今後のためには大切なことだ。蝶結びにしたら、うまくリボンになってくれた。
「……でもソロモン、僕はあまり演技に自信がないんだ」
「僕もですよ蒼星石。困りましたね」
 準備室から裁縫サンプルらしいぬいぐるみを集めてきたソロモンが、変わらぬ調子で答える。
「わざとらしかったり、ぎこちなかったりすれば、すぐばれてしまうかもしれませんからね……いや、こういうのはどうでしょう。
 最初からわざとらしく、ぎこちなければ?」
「どうするんだい?」
 ナイフをデイバッグから取り出し、紐で背中に結びつける。何度か引き抜く練習をして、その都度紐の調整をする。
「僕は、君に対してオーバーに接しますよ。君は動く人形なのだから、多少ぎこちないぐらいが丁度いい……さあ、
君の荷物は僕のバッグにひとまとめにしてしまいましょう。『人形』が支給品を持っていたら、変ですからね」
 ナイフを取り出したデイバッグが小さく折りたたまれ、取り出された中身と共にソロモンのデイバッグに収められる。
「蒼星石。これに決めました」
 ソロモンの右手の薬指に、銀色の輝きがあった。
「遠目に見れば、ただの金属リングとわからないはずです。これを、僕たちの『契約の指輪』にしましょう」
 ソロモンと同じように蒼星石も、何に使うのかよくわからないがどうやら教材の一部らしい銀色のリングを右手の薬指に嵌める。
「どちらかが指輪を外したら、君は動かないただの人形に戻ってしまいます。そして、僕の指輪を新たに手に入れる人間がいたら
 今度はその人間が君の主になります」
「それじゃあ、その後ソロモンは……?」
「大丈夫、僕は自分で何とかしますよ」
「うん、わかったよ」
 蒼星石を持ち上げ、出入り口近くの背の低い棚に座らせ、両側にクマとウサギを配置する。
「背筋を伸ばして力を抜いて、目はなるべく自然に開いたままで……そう、上手ですね」
 蒼星石がいる違和感を消すために、準備室から少々埃っぽい布を取ってきて、全体にかける。
 ただし、蒼星石がナイフを抜くのに邪魔にならないように。
 蒼星石の準備はこれで終わりである。あとは、ソロモンが人影を呼び込んだ時に、自分の知った人間だったら演技はなし。
 知らない人間なら、ソロモンが合図を送るまで人形のふりを続け、「挨拶しろ」なら威嚇。「月が綺麗だ」なら攻撃。
 「紹介しよう」なら、ソロモンの見知った顔。武器を取る必要は無い。
 だが、念のため演技は続けようとシュヴァリエは言った。
158ソロモンの指輪 7/8  ◆nSPmc44fPU :2006/12/13(水) 02:07:55 ID:ObZ37klY
「それから、必ず合図を待ってから行動に移してください。僕も時々、わざと窮地に立つことがありますから」
 蒼星石の行動を見越して、ソロモンはそう釘を刺していた。
「そうそう、ここからが一番大切なところですが」
 夜の光にレイピアを抜き放ち、刃を確かめる。
「もし君が先に狙われるようなことがあっても、僕はあくまで君を武器として扱います。
その代わり、もし君が『ただの人形』の時に僕が死ぬようなことがあっても、僕を助ける必要はありません」
「……時々、わざと死ぬような目にあうから?」
「ええ。そうですね」
 剣が再び鞘に戻る。
「では、始めましょうか」
 誰一人として一番大切な取り決めを守る気が無いまま、即席のチームプレーが始まる。



 始まった。
 終わった。
 そこまでは良かった。
 次元大介は危険な人間ではなさそうだった。現状、彼に不満は無い。
 ただ、ソロモンの蒼星石への接し方は、予想を超えて情熱的だったのが、最大の問題だった。
 ローザミスティカのマスター以外の男性に抱き上げられ、優しく顔を近づけられては、
 演技などしなくても動作がぎこちなくなってしまう。
 次元との交渉中は、よいコンビネーションだと思ったのに。
 普段蒼星石を連れ歩く状態がこちらなら、なんとかして改善してもらわなければ。
「……ん? なんでしょうか、蒼星石?」
 こちらの表情に気づいて、ソロモンが顔に耳を寄せてくる。
 これからずっと、意思の疎通にさえこういう接近を伴うかと思うとめまいがしてくる。
「あ、あのさ、その、もうちょっと控えめに接してほしいんだ……」
 囁きどころか吐息になってしまった蒼星石の申し出に、ソロモンは和やかな慈しむような笑顔を向ける。
「必要なことですから」
 ああ、無表情がこんなにもつらい。
 一体どこまでが演技で、どこまでが素なのだろう。
 ともかく、残念ながら今後当分、この恥ずかしい思いを続けなければならないらしいということがはっきりしてしまった。
「助けて翠星石……」
 なんだか泣きたくなってきた。
159ソロモンの指輪 8/8  ◆nSPmc44fPU :2006/12/13(水) 02:09:10 ID:ObZ37klY
【A-1高校内部(2階家庭科室)・一日目 黎明】

【ソロモン・ゴールドスミス@BLOOD+】
[状態]:健康。右手薬指に銀色の金属片を、指輪のふりをして嵌めている。
[装備]:レイピア
[道具]:白衣、ハリセン、望遠鏡、双眼鏡(蒼星石用)、蒼星石のデイバッグ
[思考・状況]
1:音無小夜と合流し、護る
2:翠星石の捜索
3:こちらの利になる範囲に限り、次元に協力
基本:蒼星石の主人の人形遣いを装い同行。人形遣いの演技は、不自然をごまかすため大仰にわざとらしく可愛がる。

【蒼星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:健康。右手薬指に銀色の金属片を、指輪のふりをして嵌めている。緑の大リボンで首輪をカモフラージュ。
[装備]:朝倉涼子のコンバットナイフ
[道具]:リボン、ナイフを背負う紐
[思考・状況]
1:翠星石と合流し、護る
2:音無小夜の捜索
基本:ソロモンの魔道傀儡を装い同行。人形の演技は指導どおりぎこちなく無表情に、声は他人に聞かれないように。
   ただ人形遣いの演技が……

【次元大介@ルパン三世】
[状態]:健康
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@ヘルシング ズボンとシャツの間に挟んであります
[道具]:支給品一式、13mm爆裂鉄鋼弾(35発)
[思考・状況]
1:殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す
2:ギガゾンビを殺し、ゲームから脱出する
基本:こちらから戦闘する気はないが、向かってくる相手には容赦しない
>>141

 【D-3/路上/1日目-黎明】

 【骨川スネ夫】
 [状態]:疲労
 [装備]:
 [道具]:
 [思考]:とにかく逃げる。隠れられる場所を探す。

 【野比のび太】
 [状態]:茫然自失
 [装備]:ワルサーP38(0/8)
 [道具]:
 [思考]:何もしたくない考えたくない。


 【D-3/路上/1日目-黎明】

 【ロベルタ@BLACK LAGOON】
 [状態]:肋骨にヒビ(行動には支障無し)
 [装備]:空気砲(×2)/鳳凰寺風の剣/グロック26(10/10)
 [道具]:デイバッグ/支給品一式(×7)
      マッチ一箱/ロウソク2本/糸無し糸電話1ペア/テキオー灯
      9mmパラベラム弾(50)/ワルサーP38の弾(24発)/極細の鋼線
      医療キット(×2)/病院の食材
 [思考]:市街の中心部(D-5.6、E-5.6)へ向かい人を探して殺害。
      ゲームに勝利し、ガルシア坊ちゃんのいる世界へと戻る。

 ※状態のまとめ

 ・アンデルセンの荷物(デイバッグ/支給品セット/鉄パイプ)は【B-3 橋の上】に放置されています。
 ・映画館から南へ下る通りは空気砲によって被害が生じています。
 ・キートンの死体は【C-4 歩道】に放置されています。
 ・病院内(1F)のいたるところに空気砲による被害が生じています。
 ・銭形警部とアンデルセンの死体は裏側の搬出口の廊下に放置されています。
 ・はやての死体はそのすぐ外に放置。マイクロ補聴器は装備したままです。
 ・ひらりマントは銭形警部の死体の傍に落ちています。
 ・ロベルタはほとんどの荷物を持ち去りましたが、不必要であった物は病院裏のダストBOXに
  捨てました。(あまったデイバッグ×6、ドールの鞄と螺子巻き、夜天の書(多重プロテクト状態))
  誰かが見つければ取得できます。

 ※話の中でキートンが使用したのはルパン三世の「バルーンガム(正式名称不明)」です。
   のび太の不明だった支給品をこれにしました。
161正義の果て  ◆A9u3tGxhSc :2006/12/13(水) 21:53:46 ID:wSjNHJJj
「――――投影(トレース)開始(オン)」

 右腕に夫婦剣の片割を投影した。
 そして視覚を閉じ、触覚でその中身を視る。
 頭の中に湧き上がる解析図を分析する。
 基本骨子及び構成材質の複製率の低下。
 通常時との投影時間誤差約三秒。
 更に消費魔力量増加。
 舞台レベルの魔術結界の可能性有。

 分析が終了し、現状が理解できればどうという事はない。
 ここから先はそれを踏まえて戦うだけ。
 現状を確認し終え、弓兵は管理事務所から表に出て辺りを見渡す。
 弓兵の目は鷹の目のそれだ。
 たとえ夜闇の中でも数キロ先の小石とて見分けて見せよう
 鋭い鷹の目が次の獲物をその視界に捕えた。
 距離にして400メートル。まだこちらには気付いていない。
 両腕があれば狙撃で事済む話だったのだが、片腕ではそうもいかない。
 手早く形を付けるのならば、気付かれる前に接近し一瞬で屠るしかあるまい。
 投影した剣を片手に、音も無くアーチャーは駆けだした。
 間合いは一瞬で零になる。
 そして、背後を向けている獲物めがけ剣を振り下ろす。

「――――どういうつもりだ貴様」

 不意を打ち、苦も無く相手を仕留められるはずの一撃は、苦も無く相手にかわされた。
 そして攻撃をかわした男、劉鳳は怒りの表情で襲撃者を見つめる。
 対するアーチャーは襲撃失敗を悔やむでもなく、張り付いたような無表情。
 ただ冷徹な目で敵を値踏みし、どのように仕留めるかを考えていた。

「ふん。答える気は無い、か。いいだろう」

 答えずともその目を見ただけで劉鳳は理解した。
 その無慈悲な瞳は、自分の最も嫌う『悪』の眼だ。
 劉鳳は判決を告げるように言い放つ。

「俺の中の正義が貴様を悪と断定した。故に貴様を断罪する――――絶影!」

 辺りの物質を巻き込み白青の断罪者が光臨する。

 正義。その言葉に無表情だったアーチャーの眉がピクリと動いた。
 この地獄で正義を謳う、その愚かさに吐き気がする程の嫌悪を浮かべ、アーチャーは剣を構える。

「――――理想を抱いて、溺死しろ」
162正義の果て  ◆A9u3tGxhSc :2006/12/13(水) 21:54:57 ID:wSjNHJJj
 先手を取ったのは赤い弓兵だった。
 白青の影には目もくれず、一直線に使い手へと迫る。
 そうはさせじと絶影は主たる劉鳳を護るべく、肩から伸びるウイップを放つ。
 そのウイップをアーチャーは干将莫耶で受け捌いた。
 アーチャーが足を止めた一瞬の隙に、劉鳳は間合いを詰め攻撃に転じる。
 劉鳳が振り下ろした斬鉄剣を、アーチャーは紙一重で避ける。
 だが、次の瞬間には絶影の攻撃が後方に迫っていた。
 衝突する赤と青の影。
 劉鳳と絶影の連携攻撃にアーチャーは苦戦を強いられる。
 ここまで全ての攻撃を紙一重で避けてたアーチャーも、とめどない連続攻撃についにバランスを崩した。
 体勢を崩した所に劉鳳の剣戟が放たれる。
 アーチャーはその軌道に干将莫耶を差し出すが、その剣戟を受け止めた瞬間、干将莫耶は切り裂かれた。
 剣を砕くのではなく切り裂くとは、なんという切れ味。
 この剣相手では、干将莫耶では分が悪い。
 そう判断したアーチャーは後ろに飛び退き、劉鳳から大きく距離をとった。
 逃すまいと、劉鳳は刀を振り上げそれに迫り行く。
 この距離ならば投影完了の誤差を考えても十分間に合う。
 その確信の下、弓兵の目は振り上げたその剣を透視する。

「――――投影(トレース)開始(オン)」

 カチリと撃鉄が降ちる。
 創造理念を鑑定し、
 基本骨子を想定し、
 構成材質を複製し、
 制作技術を模倣し、
 成長経験に共感し、
 蓄積年月を再現し、
 その工程を凌駕し尽くす。

「――――投影、装填(トリガー・オフ)」

 刀銘、斬鉄剣―――――物質投影完了。
 使用者、石川五エ門――技術投影完了。

「全工程投影完了(セット)――――是、斬鉄剣」

 アーチャーを間合いに捕らえた劉鳳が斬鉄剣を振り上げる。
 アーチャーもそれに対抗し右腕を振り下ろす。
 何時の間に手にしたのか、その右手には同じく斬鉄剣が握られていた。
 衝突する二つの剣。

「なっ…………!」

 その結果に驚愕を浮かべたのは片側だけだった。
 斬れぬ物は無いと言われた業物は、互いに互いの刀身を二つに切り裂いた。

 投影の剣ではその強度はオリジナルには敵わない。
 ましてや魔術制限の掛かったこの場では尚更だ。
 そのまま衝突していれば、アーチャーの剣のみが砕かれて然る結果だっただろう。
 だが、アーチャーは剣のみらなず、本来の使用者の技術をも複製した。
 更にサーヴァントの身体能力を加えれば、相殺など容易い事。
163正義の果て  ◆A9u3tGxhSc :2006/12/13(水) 21:56:13 ID:wSjNHJJj
「――――投影(トレース)開始(オン)」

 アーチャーの剣が再構築され、再びその右手に握らる。 

「……相手の武器を模するアルターか」

 敵の能力をそう分析し、劉鳳は刃の折れた斬鉄剣を投げ捨てる。

「だが、その程度でこの俺と絶影を退けられると思うな!
 見せてやる。俺のアルター、絶影の真の姿を!」

 主の呼び声に答え、絶影がその拘束を解いた。
 封じ込められていた両腕の拘束が解き放たれ、半面だったその顔の全て露になる。
 その造形は輪郭すらも変化してゆく。
 五指には鋭い鍵爪。
 上半身は浮遊しており、下半身は人の物ではない大蛇や龍のそれだ。
 絶影に付けられた拘束は強すぎる力故。
 その拘束が今、解かれた。
 真の力を解放された絶影はアーチャーめがけ一直線に突撃する。
 ――――速い。
 そのスピードはこれまでの非ではない。
 影すらも追い付けないその速度。まさに絶影の名に相応しい。
 想像以上のスピードアップにアーチャーの対処は間に合わない。
 影よりも速い一撃が、アーチャーの腹部を撃ちぬいた。
「グハ……ッ!」
 衝撃が腹を突き破る。
 スピードだけではない、パワーまでもが圧倒的に強化されている。
 その事実に驚愕する間もなく、次なる一撃がアーチャーを襲う。
 今度は何とかその動きに反応し、攻撃を剣で受け捌く。
 だが、防御した次の瞬間には既に次の攻撃が放たれいた。
 速すぎるその動きは掴もうとしても掴めない、水を捕えるようなものだ。
 両手ならば話も違おうが、片手である今の状態で捌ききれる物ではない。
 アーチャーは何とか防御に徹し隙をうかがうも、見る見るうちに体は削られてゆく。

「剛なる右拳――――伏龍!」

 剣のように鋭いパーツがミサイルのように放たれた。
 アーチャーはその一撃を受け止めるも、重さに耐え切れず右腕の剣が弾き飛ばされた。

「剛なる左拳――――臥龍!」

 絶影の左腕から容赦無く追撃のミサイルが放たれる。
 防御の術も無く、まともにその一撃を喰らったアーチャーは大きく吹き飛ばされた。
 吹き飛ばされる敵を見て、アルター使いは勝機を見た。
 劉鳳は絶影を追撃に上げるのではなく大きく後方に下げた。
 一見理に適わないその行動の意味が、アーチャーには理解できた。
 ――――それは滑走路だ。
 離れた二人の距離は約100メートル。
 一直線に続く二人の間に障害物一つない。

「――――絶影! トドメだッ!」

 絶影が滑走路を走り始めた。
 グングンと勢いを増すその身は空気の壁を打ち破りながら加速してゆく。
 その、絶対の死を持った突撃を見て、弓兵は勝機を見た。
164正義の果て  ◆A9u3tGxhSc :2006/12/13(水) 21:57:33 ID:wSjNHJJj
「――――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)」

 体勢を立て直したアーチャーは逃げるでもなく、ただ腕を前へ突き出す。
 その間にも絶影の加速は高まって行く。
 速度が音速へと差し迫り、大気が震える。

「――――熾天覆う七つの円環(ローアイアス)」

 真名の展開と同時に、アーチャーを守護するように七枚の花弁が出現した。
 劉鳳は現れた花弁に怯むでもなく、絶影をそのまま真正面から突撃させる。
 それは己がアルターに切り裂けぬ物は無いという、絶対の自信。
 音速の弾丸と化した絶影と花弁の盾が激突する。

 衝突の衝撃に一枚目の花弁が四散した。

「――Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で 心は硝子)」

 アーチャーが投影したこの盾こそ、ギリシャの大英雄ヘクトールの投槍を防いだ英雄アイアスの盾。
 そして、アーチャーが唯一得意とする防御兵装。

 加速の速さに二枚目の花弁が四散する。

「――I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)」

 投擲武具、使い手より放たれた凶器に対してならば無敵とされる結界宝具。
 それは使い手たる劉鳳より離れ行動する絶影にも当てはまる。
 だが、その法則すら無視し絶影は花弁と拮抗する。

 突撃の勢い三枚目の花弁が四散する。

「――Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく)
   Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)」

 一枚一枚が古代の城壁に匹敵するその花弁を物ともせず、真の力を解放した絶影は進む。

 絶影の力に四枚目の花弁が四散する。

「――Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)」

 五枚目の花弁が四散する。

 決して破られない盾を尽く砕き続けてきた絶影が、ここに来てようやくその勢いを僅かに弱めた。

「――Yet, those hands will never hold anything.(故に、生涯に意味はなく)

 六枚目の花弁と絶影が衝突する。
 弱まった勢いを補うように、劉鳳が操る絶影に力を込め、押し切る。

「切り裂け、絶影――――!」

 裂帛の気合に六枚目の花弁が四散する。

 これで七枚の花弁のうち六枚が四散した。
 絶影の猛攻にアーチャーを守護する花弁は残り一枚と迫る。
 だが――――。
165正義の果て  ◆A9u3tGxhSc :2006/12/13(水) 21:58:51 ID:wSjNHJJj
「――――So as I pray, unlimited blade works.(その体は、きっと剣で出来ていた)」

 ――――その真名を口にした瞬間、世界は一変した。
 世界を塗り替えるように炎が走る。
 これまでの世界のあらゆる物が砕け、あらゆる物が再生した。
 幻想的なイルミネーションは消えさり、薄暗い空には巨大な歯車が回る。
 後には誰もが楽しむ遊具は無く、墓標のような剣が無数に乱立した剣の丘が広がっていた。
 この荒廃した世界に生きる者は術者とその敵のみ。
 これこそ彼の宝具であり、ただ一つの武器。
 術者の心象世界を具現化する大禁呪。
 直視した剣を複製するこの世界に存在しない剣はなく、
 直視した剣を複製するこの世界に本物など一つも存在しない。
 ここには全てがあり、おそらくは何もない。
 それが、彼の世界だった。

「何、だと!?」

 流石の劉鳳もこの事態に驚愕を隠せない。
 空間移動のアルター? いや、空間支配か?
 様々な疑問が劉鳳の頭をよぎる。
 これ程大規模なアルターを、物質変換という前触れも無く発動することなど彼の常識では不可能だった。

 その疑問が一瞬の隙を生む。
 気付けば、劉鳳は辺り一面を宙に浮かぶ無数の剣に囲まれていた。
 アーチャーが指揮者のように振り上げた手を静かに下ろす。
 号令一下、避け目のない剣の雨が降り注ぐ。

「クッ、絶影――――!」

 防御のためにアーチャーの目前と迫っていた絶影を呼び戻す。
 神速で駆けつけた絶影は主を護らんと降り注ぐ剣の雨を弾き落とす。
 だが、絶影が剣に触れた瞬間、その剣は爆炎を上げた。

 ”壊れた幻想(ブロークンファンタズム)”
 唯一無二の宝具を爆弾として使用する、贋作者たる彼のみが使える必殺技。
 壊れた幻想に巻き込まれた絶影のダメージは劉鳳に還る。
 ダメージを喰らった劉鳳は、吹き荒れる爆風に耐えることもできずに吹き飛ばされた。
 そのまま受身も取れず地面に叩き付けれた。
 地に伏せた劉鳳めがけ、無慈悲にも宝具の雨霰が降り注ぐ。
 古今東西あらゆる名剣に全身を貫かれ、劉鳳は絶命した。
 同時に、世界が砕け散る。
 それはアーチャーの意図した物ではない。
 予想以上の魔力消費による、固有結界の強制終了である。
166正義の果て  ◆A9u3tGxhSc :2006/12/13(水) 21:59:55 ID:wSjNHJJj
「…………ぇ」

 ふと、死んだはずの男から呻きのような声が漏れた。
 直後に武器が消えた故か、アレだけの宝具に身を貫かれながら、まだ男は生きていた。
 だが、それも些細なこと。
 眼は虚ろに開かれ、全身には数え切れない程の致命傷が空いている。
 たとえ一命を取り留めていたところで、この傷では直に息絶えるのは目に見えていた。
 アーチャーにできることは、一秒でも早くその苦しみを終わらせてやることしかない。
 止めを刺すべく、アーチャーは劉鳳に近づいてゆく。
 見れば、遺言でも残すつもりなのか、必死に口を動かし誰かに意志を伝えようとしているのが見えた。

「…………ぜ、」

 届くことのない意思を静かに見つめながら。
 アーチャーは静かに右腕を振り上げる。

「ぜ……――――絶影……ッ!」

 劉鳳の虚ろな瞳が見開かれた。
 咆哮と同時に絶影がアーチャーの目の前に再構築される。
 それは闘争の意志。
 幾十の死に至る傷を誰が受けた者が、闘争を選ぶなどと誰が思おう。
 完全に虚をつかれたアーチャーの胸元を、絶影の鋭い一撃が切り裂いた。

「チッ…………!」

 後方に距離を取りながらアーチャーは自分の甘さに歯噛みする。
 撃退のため、干将莫耶を投影しようと魔術回路を開き、

 その寸前で、その行為の不要を悟った。

 最後まで己が正義を貫いた男は、先の一撃で完全に命を燃やし尽くしていた。
 胸元を深く切り裂いた影も、幻の様にその実態を無くしている。
 弓兵は勝利に酔うでもなく淡々と現状を見つめた。

 無様なものだ。
 それが自身を振り返った弓兵の感想だった。
 片手を喪い、満身創痍になり、切り札を使用してようやく一人目。
 油断から不要な一撃をもらい、魔力もほぼ底を付いている。
 既にもう一度固有結界を使用できるほどの魔力は残っていない。
 魔力残量は精々、投影三回分といったところか。

 アーチャーがふと後ろを振り返れば、正義を掲げた男の成れの果てが見えた。
 その姿に何を見たのか、弓兵は静かに目を閉じその場を後にした。

【G-4遊園地 1日目 黎明】
【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:疲労大、左腕喪失、全身にダメージ、胸元に切傷、残り魔力投影三回分
[装備]:無し
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
 1:魔力の回復、参加者を見つけた場合そちらを優先
 2:参加者を全員殺す
 3:ギガゾンビを殺す

【劉鳳@スクライド――――死亡】
167無題 コこロのアリか ◆wNr9KR0bsc :2006/12/13(水) 23:50:56 ID:st3Hhy95
「さて、どこへ向かうか…」
地図を見る限り近くには図書館がある。このまま映画館の屋上に居座って奇襲を仕掛けるか。
人が集まると思われる図書館の方へ向かって一人でも多く人数を減らすか。それとも…?

「強き戦士が揃えば…私といえど奇襲を使っても勝てるかどうか。
 ならば、人が少なく撹乱もしやすい森に行った方が良いかも知れないな…」
地図をデイパックへと仕舞い込み、映画館の屋上から地上へ華麗に舞い降りる。
映画館の玄関に、青色のドレスが舞う。森へ向かう王は、その美しいドレスと共に何かを引き摺る。

焦りがあった。姉さま以外はいつも通りに「遊ぶ」つもりだった。
でも目の前の少年は遊べない、いや、遊びたくない。
彼を利用すれば姉さまに早く会える、そんな妙な期待が有った。
いや、それも違う。何故かしんのすけでは遊べない。 何故?
よく分からない物が僕の不快感を掻き立て、心の何かがギシギシ音を立てて。

「ねえ、君の家族はどんな人なの?」
彼と一緒にいる以上彼の家族を探す必要も有る。
「お?そうだなぁ、オラのかーちゃんとーちゃんは……」
しんのすけが言う特徴を頭に叩き込みながら、考える。
彼になるべく気付かれないように「遊ぶ」事。
戦闘となれば自分が殺し屋で有ることがバレるかも知れない。
殺し屋とわからなくても危険な奴とは見られる、そうなったら彼でも恐らくついて来ないだろう。
かといって「遊ぶ」チャンスを逃すわけには行かない。どうする…どうする?!
「ねぇ、オラの話聞いてるぅ?」
ハッと我に返ると、しんのすけが疑いの眼差しを向けている。
「う、うん。聞いてたよ」
眉を動かしながら、ヘンゼルを見つめる。
「まぁいいゾ、オラの家族はきっと大丈夫!
 …ところてん、忘れてたけどお兄さんお名前なんて言うの?まだ聞いてなかったゾ」
ところで、と言いたいのだろう。
そう言えば名簿には…あの映画での名前が載っていた。
仕方がないがここはこの名前で名乗るしかないだろう…。
「僕はヘンゼル…そうだな、世界で二番目にカッコ良い双子の一人さ」
ほうほうと頷きしんのすけが顔を覗き込む。彼にもそのうち知られてしまうんだろう。
僕が殺し屋だと。そうなったら僕はどうしよう?
不快なものが大きくなってくる、
気がつけば片手が軽い、そう言えば繋がっている筈の手が…。
「ハァ〜〜イ、おねぃさぁ〜〜〜ん。オラとお茶しなぁ〜〜〜い?」
遠くへと爆走していくしんのすけの姿が見えた、視界の奥には剣を持った一人の女性が居た。

「ハァ〜〜イ、おねぃさぁ〜〜〜ん。オラとお茶しなぁ〜〜〜い?」
驚いたのは気配を消して歩いていたセイバー。
彼女が知っている筈が無いのだが、しんのすけの目と鼻は女性に対してだけ信じられない精度で働く。
さらに女性の下へ行くための脚力も格段に上がる。
セイバーは落ち着いて剣を構え直す。
しんのすけはセイバーに夢中で剣を構えている姿に気がつかない。
「すまない」
たった一言呟き、しんのすけを剣で薙ぐ。手と瞳には僅かな哀しみを込めて。
168無題 コこロのアリか ◆wNr9KR0bsc :2006/12/13(水) 23:52:38 ID:st3Hhy95




斬り裂いたのは、空気。
「なっ…どこだ、どこにいる!」
少し目線を下に落とすと、丸い坊主頭が見える。
「あハァ〜〜おねぃさんのおムネおっきいゾ〜」
もう一つ、しんのすけは女性を見つけると常人離れした速度でその女性の胸に飛びつく。
セイバーの射程より僅かに広かったしんのすけの射程。セイバーが剣を振り上げた時に既に足元近く迄来ていた。
剣で薙ぐ間にしんのすけは胸をよじ登っていた、結果的にそれは回避行動となった。
「なっ…は、離せ!」
一気に紅潮するセイバーの頬、急いで身体を捩るがその程度ではしんのすけは離れない。
「でもゴツゴツしててお胸のほうには触れないゾ…」
「離せと…言っているッ!!」
服を掴み力任せに引き剥がし放り投げる。
「おわっ!!」
急な出来事にしんのすけは尻からバウンドし、近くの木に頭をぶつけて倒れた。
「許さない…許さないッ!」
怒りに身を任せしんのすけへと向かうセイバー、今度こそ確実に仕留める為に剣を振り下ろす。
「死ねぇッ!」


次は鉈に阻まれた。
「誰だ!私の邪魔をするや」
セイバーの時が、止まった。鉈の柄を持つ人物を見た、見てしまった。
カンキのエガオで、立っていたその少年を。


「やっとだ…やっと遊べる!さぁ、遊ぼう?!お姉さん!」
その声と同時にセイバーの剣が弾かれる。それが、合図。
間髪入れずにヘンゼルの蹴りがセイバーの腹部を狙う。
後ろに少しぐら付くがすぐに身を翻す、そこに銃撃が3発。
一つは頭部、残りは脚部に目掛けて放たれるが全てはじき落す。
一発はじき落とすごとにセイバーも少しずつ進み、全てはじき落としたところで急加速し間合いを詰める。
肩、肩、頭、腰、手、頭、腰、足。それこそ超人的なスピードで攻撃し続ける。
「…ふふ、さぁ、もっと遊ぼう?」
今度はヘンゼルが劣勢になる。距離を取り、再び銃を取り出す。
同じ場所を3発、再び弾丸が発射される。
「同じ手は食わない!」
気が付いていなかった、同じではなかった事に。飛来してくる一つの小さな木箱の存在に。
銃弾を3発弾く流れからその小さな木箱を両断する。銃弾を弾くより簡単な作業。
169無題 コこロのアリか ◆wNr9KR0bsc :2006/12/13(水) 23:53:29 ID:st3Hhy95


「う、うがああああああああああっ!!」


それが出来なかったのはその箱が只の小さな木箱ではなかったから。
箱の中身はスタンガンと大量の画鋲。
スタンガンを入れ、最大まで電圧を高めて入れる。後は持ち手の所に画鋲を敷き詰め上蓋をはめ込む。ここまでが仕込み。
そしてそれを投げつける。後は剣で受け止められたときに画鋲が前へと前進しスタンガンの電流に触れる。
家庭用電源とまでは行かないがある程度強い電流に触れた画鋲は発光を起こし、箱に僅かな裂け目が入った時に光が爆発的に漏れ出す。
第一の攻撃はこの光。これで剣に入る力が緩み、尚且つ目くらましになる。
剣は箱に深く突き刺さったままとなる、そこにスタンガンが触れる。

結果、高圧電流が身体に流れ込む。剣を離せば逃れられる。然し腕が動かない。
「あ、ああ…あ、ああああ!!」
電流に耐えながらセイバーは剣を振り切る、箱とスタンガンが潰れる音。
瞬間的な出来事だった。セイバーの視界は点滅しだし、体には痺れが残る。
ようやく正常に戻った視界には、既に少年の姿が。

「う…ぐっ!」
右肩に深く突き刺さるナタ、何回も、何回も。笑顔でセイバーの両肩にナタが振り下ろされる。
そろそろ剣が握れなくなってきた、抵抗できなくなってから殺されるのだろう。
「…さて、そろそろお別れしようか、お姉さん」
殺される?ダメだ、それだけはダメだ。私は死ねない。民の為に、私自身の為に。
「私は…死ねない!」
私は、剣を振るった。その後に何も考えずにとにかく魔力を練った。
「約…束された……」
目の前の少年を倒すために。
「勝利の…剣!」
170無題 コこロのアリか ◆wNr9KR0bsc :2006/12/13(水) 23:54:41 ID:st3Hhy95



「あいたた…かーちゃんのゲンコツより痛いゾ…」
しんのすけが頭のたんこぶを抑えながら起き上がった。
日頃からゲンコツで鍛えられている彼の頭はある程度の強打に耐えられるほどの石頭になっていた。
「お、そういえばヘンゼルがいないゾ?」
数秒後、しんのすけはすぐ隣に吹き飛んできたヘンゼルの姿を見ることになる。

「くそっ、上手く実体化できないッ…」
体力、時間、魔力。どれを取っても最低のレベルの状況では相手を吹き飛ばすのが限界。
ここまでできれば十分か、まだまともに動けるうちに止めを刺しに向かう。

「ヘンゼル…」
「やぁ…目が醒めたみたいだ…ね」
物凄い量の出血と相当深い傷を負いながらヘンゼルはしんのすけに話し掛ける。
「家族に、会いたいなら、早く、逃げるといい…」
僕は何を言ってるんだろう?イライラする…。
「嫌だ!そんなことできるわけ無いゾ!」
大粒の涙を流しながらしんのすけがヘンゼルに縋りつく。
「…オラが、オラがヘンゼルを守るゾ!」
しんのすけはニューナンブを、いつか見た映画の見様見真似で構え…。
「おねぃさんの…オバカァ〜〜!!!」
銃声が木霊した。防ぐ姿勢をとるが肩が上手く動かない。
鎧に銃弾が蹲る。
「ヘンゼル…待ってて、今オラがおんぶしてやるゾ!」
明らかに体型が違うヘンゼルを、ムリして担ぐしんのすけ。

「ま、待てぇっ!」
足は負傷していないセイバーが一気にしんのすけに間合いを詰める。セイバーの息遣いが間近にまで聞こえたときだった。
ヘンゼルが持っていた大鉈をセイバーに向かって投げつける。また防御姿勢を取るのが遅れたため鎧に突き刺さる。
さらにしんのすけに「いつでも出せるようにしておいて」と言っておいた手榴弾を取り出し投げつける。

ナタに対処している間に手榴弾が彼女を襲う、防御も間に合わず直撃。
吹き飛ばされた先ではしんのすけの姿は見えなくなっていた。
よく見れば自分の鎧に裂け目が入っている。肩も動かすのが限界である。
彼女は近くの木にもたれかかり傷の治癒を始めた。もう、今は喋る元気すらない。

「待ってて、ヘンゼル…」
ヘンゼルをおぶっているしんのすけは半ばヘンゼルの足引き摺りながら走っていた。
「オラが、なんとかしてあげるゾ…!」
しんのすけは走りつづけた、ヘンゼルが助かる望みを抱いて。
ただ、ただ。走りつづけた。
171無題 コこロのアリか ◆wNr9KR0bsc :2006/12/13(水) 23:55:46 ID:st3Hhy95

【B-4西部・1日目 黎明】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:全身に裂傷とやけど、両肩を大きく負傷、鎧に裂け目、極度の疲労。
[装備]:カリバーン、大ナタ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:傷を治す
2:優勝し、王の選定をやり直させてもらう

【B-4東部・1日目 黎明】
【ヘンゼル@BLACK LAGOON】
[状態]:右肩から深い切り傷(治療が受けられない場合…?)、戦闘不能
[装備]:コルトM1917(残弾なし)
[道具]:支給品一式、コルトM1917の弾丸(残り12発)
[思考・状況]
1:気絶
2:心にある不快感の正体を探る(?)
3:襲ってくる奴をできるだけ「遊ぶ」
4:グレーテル、しんのすけの家族と合流

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:中度の疲労、全身にかすり傷、頭にたんこぶ、ヘンゼルをおんぶしている
[装備]:ニューナンブ(残弾4)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:ヘンゼルを助けたい
2:みさえとひろし、ヘンゼルのお姉さんと合流する
3:ゲームから脱出して春日部に帰る

※スタンガンは破壊されました。B-4西部にある画鋲の入ったは拾えば使用可能…?
172名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/13(水) 23:55:52 ID:hVrP/Uax
  体勢を立て直したアーチャーは逃げるでもなく、ただ腕を前へ突き出す。
 その間にも絶影の加速は高まって行く。
 速度が音速へと差し迫り、大気が震える。

「――――熾天覆う七つの円環(ローアイアス)」

 真名の展開と同時に、アーチャーを守護するように七枚の花弁が出現した。
     .iヽ         i
      .|ヽ`、      イ
      .| } ヽ,,----、,,/i j
      | |::::::::::::::::::::::::::::ヽ
      |/::::::::::::_::0:::::::0:::i
      /::::::::::::○`、:::::::Yo'i
      |:i::::::::::::::,,-' `i::::i::::/
      |:|;::::(⌒ヽ::::;;〈:::::ヽi
      i:::"'-,_i'""''ヾ ヽ;:::ヽ、今ちゃんと読んできたけど
      |:::::::::::::ヽ、ヽ,  ヽ::::ヽ 真絶影が迫ってきているさなかで呪文言ってるよな
     /:::::::::::::/::ヽ, ヽ  i''"フ 音速で迫ってるものがくるより早く呪文言うってどういうことだよ
    /ヽ::::::::::/::::::::::''┬-┬" 一秒に10回レイプ発言かよ
   /ヽヽ、:::::::::::::::::::::| | |     ヘッヘッヘッヘッ…(骨投げろよ劉鳳…)
  /:::::::::"-,,\:::::::::::::::`┬' 後、アニメから見るに真絶影って加速してないよな、いきなり速いよな
173無題 コこロのアリか ◆wNr9KR0bsc :2006/12/14(木) 00:01:26 ID:st3Hhy95
>「約…束された……」
>目の前の少年を倒すために。
>「勝利の…剣!」

>>169の以上の部分を

「勝…利すべき……」
目の前の少年を倒すために。
「黄金の…剣!」

に修正いたします。
174名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/14(木) 00:02:13 ID:l7ZF74Ut
誤爆desu
175彼女の死を乗り越えて ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/14(木) 00:14:59 ID:rx00GN9I
轟音とも呼べる歌声がなくなり、驚くほど静かになったその部屋で、カラオケの筐体が選曲を待っている。
それに構うことなく、ヘテロクロミアの人形、翠星石はうなだれる大柄の少年、ジャイアンをじっと見つめていた。
ジャイアンはそのことに気付いてはいない。ただただ、自分が衝動的に放ちかけた言葉を心の中で反芻していた。
『ぶっ殺してやる』
日常的に、深く考えることなく使っていた言葉だ。当然、本気でそんなことを思ったことなど一度もない。
だというのに殺すという言葉を使っていたのは、ジャイアンにとって『死』というものが遠く、実感の伴わないものだったからだ。
それでも今、吐き気を催すほどに死は現実感を伴っていた。
彼は死の残酷さと無情さを見せ付けられたのだ。それも、最悪の形で。
ジャイアンの頭に先刻の光景がフラッシュバックする。無視することができないほど、それは鮮烈だった。
風船が破裂したような音。
飛び散る鮮血。
体から離れていく首。
動かなくなる体。
かつて源静香だった、肉の塊。
「うあああああ――ッ!!」
叫び声と涙が、止め処なく零れ落ちていく。
もう静香の声は聞けない。
もう静香の微笑みは見れない。
何もできなかった。
静香を助けることも、ギガゾンビを殴ってやることすらも。
情けなかった。腹立だしかった。普段はガキ大将として威張っている自分が、こんなに無力だったとは。
悲しみ、悔しさ、怒り。それらがない交ぜになって、ジャイアンを飲み込もうとしていた。
涙を拭うだけの気力すら、彼にはない。氾濫した川のような感情の奔流に任せ、ジャイアンは泣いた。
目の前にいる翠星石に構うことなく、むせび泣いた。
176彼女の死を乗り越えて ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/14(木) 00:16:15 ID:rx00GN9I
◆◆

翠星石はびくりと体を震わせる。
くらくらする頭で目の前の人間をどうするべきか考えているうち、そいつが突如声を上げて泣き出したからだ。
予想していない展開だった。相手はとんでもない音程で歌を唄った挙句、拳を振り上げてきたような男だ。
そんな男が、まさか声を上げて泣き始めるとは思わなかった。
どうするべきなのかますます分からなくなる。ただ、呆然と立ち尽くすしかできなかった。
いかつい人間の泣き声は、気が強いとはいえない翠星石を怯えさせるほどに大きい。
だが、その大きさゆえに。
彼の、ジャイアンの悲しみは真っ直ぐに、翠星石へと伝わってきた。
それは、空よりも大きく海よりも深い悲しみ。
それは、一人で抱えるには、余りにも重すぎる悲哀。
翠星石は思い出す。
ローザミスティカを奪われ、動くことも話すこともできなくなった蒼星石を目の当たりにしたときのことを。
あのときは悲しくてたまらなかった。自分の中の何かが壊れてしまったように、ひたすらに涙が溢れて止まらなかった。
だがそのとき、彼女は一人ではなかった。
重い悲しみを一緒に持ってくれる仲間がいてくれた。辛い傷を癒してくれる仲間がいてくれた。
だから。
翠星石はジャイアンを放っておくことなどできなかった。彼を一人にしてこのまま立ち去ることなど、できはしなかった。
「……元気出しやがれ、ですぅ」
おずおずと声をかけてみた。だが、彼は泣くばかりで顔を向けることさえしない。
「いつまで泣いてやがるんですかぁ?」
尋ねてみても、ジャイアンは泣き止む気配を見せない。
そもそも、相手が大声で泣き喚いているのだ。聞こえているのかどうか疑わしい。
どうしようかと翠星石は首を捻る。すると、ジャイアンの手から転がり落ちていたものが目に入った。
拾ってみる。太い棒の先端に、丸いものがついているそれは、翠星石には少し重かった。
テレビで見たことがあるそれの効果を思い出した翠星石は、口元に丸い部分を持っていって、そして言う。
「いい加減にしやがれですぅ! このデブ人間っ!」
カラオケに備え付けられていたマイクで増幅された翠星石の声が、ジャイアンの声を掻き消すように響いた。
177彼女の死を乗り越えて ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/14(木) 00:17:00 ID:rx00GN9I
◆◆

声が個室に反響する。エコーして伝わってくるそれは、ジャイアンの心を瞬時に沸騰させた。
もともと鬱屈していた怒りが爆発し、ジャイアンの体を突き動かす。
立ち上がる。そして顔を上げ、未だ涙の乾かぬ目で翠星石を睨みつけた。
翠星石がたじろぎ、後ずさる。だがその距離を埋めるように、ジャイアンは一歩踏み出した。
「てめぇ、言わせておけば!」
まるでサッカーボールを蹴ろうとするかのように、ジャイアンは思い切り足を振った。履き古したスニーカーが空を切る。
だがその蹴りは、完璧に空ぶった。
逃げるようにしてジャイアンから距離を取った翠星石。その姿を探すため、ジャイアンはあたりを見回す。
すぐに、見つかった。翠星石はソファの後ろから、ジャイアンの様子を窺っていた。
目が合う。すると彼女は怯えたようにしながらソファの裏に隠れる。
ジャイアンが腕を振り上げ、追いかけようとしたとき、翠星石の声が聞こえた。
「な、殴りたければ殴ればいいです!」
隠れながらの声は震えていた。本当は殴られたくないんだということくらい、ジャイアンにも分かった。
だが、止められなかった。もともと感情のコントロールが得意な方ではないし、それに何より。
ジャイアンは悲しみと同じくらいの怒りを抱いていたから。
静香を殺したギガゾンビに対して、そして何もできなかった無力な自分に対して。
やり場のない怒りだった。
だがそれを溜めておけるほど、八つ当たりをしないでいられるほど、ジャイアンは大人ではない。
ジャイアンは怒りを滲ませながら、早足でソファに歩み寄る。腕を思い切り振り下ろそうとして。

「それで涙が止まるなら、いくらでも殴りやがれですぅ!!」

叫び声が来た。その直後、翠星石がモグラ叩きのモグラのように顔を出す。
彼女は震えながらも、色の違う二つの瞳を真っ直ぐジャイアンへと向けていた。
普段のジャイアンなら、いい度胸だと拳骨をお見舞いしていただろう。
普段のジャイアンなら、ただムシャクシャしているという理由だけで殴りつけていただろう。
だが今、止められなかったはずの腕は止まっていた。
急速に意識が冷えていく。振り上げていた腕からは力が抜け、だらりと落ちた。
178彼女の死を乗り越えて ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/14(木) 00:17:48 ID:rx00GN9I
ジャイアンは思う。
何をやっているんだ、と。
本当にぶん殴る相手は別にいるんじゃねぇか、と。
そう思考できたのは、彼が少しでも前へ進みかけている証だった。
静香の死による痛みと喪失を乗り越えかけている証だった。
ジャイアンは単純な性格だ。それゆえに目先のことに捕われ、簡単に目的を見失ってしまう。
だが単純ゆえに、きっかけさえあれば、すぐに目的を見つけなおすことだってできる。
ジャイアンは想起する。思い出すだけでも反吐が出そうになるが、それでも思い起こす。
趣味の悪い仮面の男、ギガゾンビを。殴るべき相手の姿を。それが、今のジャイアンにとっての目標地点だ。
心に刻み込む。決して、迷わないように。
そして、自らの両頬を思い切り叩く。これは罰だ。
何もできなかった自分への罰。静香を死なせてしまった自分への罰。
だが、この程度で足りるとは思わない。
ギガゾンビをぶん殴った後、帰ったら母ちゃんに思い切り殴ってもらおうと強く決心する。
「その、悪かったな。いきなり殴りかかろうとしてよ」
いくらか冷静になった彼は、素直に謝罪する。すると、翠星石はやれやれといった様子で肩を竦めた。
「まったく、世話が焼ける人間ですぅ」
反射的に、ジャイアンは拳を振り上げる。
まだ彼は発展途上中だ。短気で乱暴者という気質がすぐに変わりそうにはなかった。
179彼女の死を乗り越えて ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/14(木) 00:18:45 ID:rx00GN9I
◆◆

個室内でひとしきり追いかけっこが終わった後、ジャイアンと翠星石は情報交換を終えて一息をついた。
翠星石はぐったりとソファに寝そべる。情報交換でこんなに疲れるとは思わなかった。
なにせ、翠星石がジュン以外の人物の名前を出すたび、ジャイアンが「読めない」と言うのだ。
そのことにイライラして無駄に声を張り上げたせいで、無駄に体力を消耗した気がする。
だがとりあえず、ジャイアンの知り合いに危険人物はいなさそうだという事実は、少なからず翠星石に安堵をもたらしていた。
溜息をつきながら、翠星石はジャイアンを見る。彼はデイバックから支給品を取り出していた。
ジャイアンの武骨な手に握られたものを見て、翠星石は疑問の声を放つ。
「うちわですかぁ?」
だが、ジャイアンはうちわの説明書を読むのに夢中で返事もしない。
「無視すんじゃねーですっ!」
翠星石はジャイアンの手からそれを奪い取ろうとする。だがそれより早く、ジャイアンの手にあるうちわが翠星石を扇いだ。
瞬間、突風が来た。翠星石の体がその風に煽られ、後ろへと吹き飛んでいく。
その体がソファの背もたれにぶつかったとき、風も止んだ。
翠星石は立ち上がり、ジャイアンの手にあるうちわを睨みつけた。
「な、何しやがるですか!」
「おぉ、すっげー」
「すっげー、じゃねーですっ!」
翠星石は言い捨ててから、庭師の鋏とデイバックを掴むと、ソファから飛び降りる。
「まったく、付き合ってられねーですぅ」
ぼそりと毒づいてから、彼女は歩き出した。
疲れは残っているが、こんなところでのんびりしている場合ではない。一刻も早く蒼星石を捜さなければならないのだ。
180彼女の死を乗り越えて ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/14(木) 00:19:36 ID:rx00GN9I
翠星石は開けっ放しのドアから外に出る。
前へと伸びる廊下を、翠星石は歩いていく。
長く広いと、翠星石は感じた。それは自分がドールだからと、内心で言い聞かせる。
翠星石が立てる小さな足音だけが廊下に消えていく。
あの騒々しさが嘘のように、あたりは静まり返っていた。
廊下を照らす無機質な電灯。翠星石には手の届かない扉の群れ。
その先、廊下の終着点には角がある。その向こう側を窺い知ることはできない。
翠星石の歩みが、徐々に遅くなっていく。目には見えない何かに、前へと進む力を奪われているようだった。
前を見ていた翠星石の顔が、俯き加減になる。床に映し出された自分の影が、ひどく頼りない。
やがて足音は、消える。
すると、何もかもを吸い込んでしまいそうな静けさがあたりを支配し始めた。
翠星石は庭師の鋏を掻き抱く。冷たい鋏の感触は、しかし翠星石に力を与えてくれるようで。
「蒼星石……」
縋るように思わず呟いた、その瞬間。
荒々しい足音が、静寂を破って聞こえてきた。
「おい、待てよーっ」
それに続く野太い声に、翠星石はハッとなって後ろを振り返る。うちわとデイバックを手にしたジャイアンが追いかけてきていた。
「つっ、着いてくるんじゃねーですぅ」
慌てて庭師の鋏を持ち直すと、彼を引き離そうと再び歩き出す翠星石。だが、歩幅が違うため簡単に追いつかれてしまった。
「いいじゃねーか。一緒に行こうぜ!」
馴れ馴れしい態度に、あのまま放っておけばよかったと少しだけ後悔する。
本当に、少しだけだ。
それよりもむしろ、翠星石は安心していた。その安心ははじんわりと広がっていき、すぐに後悔を塗り潰していく。
翠星石はわざとらしく溜息を吐く。内心の安堵を悟られないように。
「……まったく、仕方ねー人間ですぅ」
無機質な廊下が少しだけ狭くなったような、そんな気がした。

【E-6駅前商店街。移動中 1日目 黎明】

【剛田武@ドラえもん】
[状態]:健康
[装備]:強力うちわ「風神」@ドラえもん
[道具]:支給品一式(確認中に翠星石を追ったため、風神以外は未確認)
[思考・状況]
第一行動方針:ドラえもん、のび太、スネ夫を捜す。
基本行動方針:誰も殺したくはない。
       ギガゾンビをぶん殴る。
※強力うちわ「風神」は空気抵抗がとても大きいうちわで、ひと仰ぎで大きな風を起こす事ができるものです。
 原作では人を吹き飛ばすほどの風も簡単に出せましたが、制限されており、最大でもローゼンメイデンのドールを吹き飛ばす程度です。

【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:少し疲労
[装備]:庭師の鋏(※本来の持ち主である蒼星石以外にとっては単なる鋏)
[道具]:支給品一式(庭師の鋏以外に特殊な道具があるかは不明)
[思考・状況]
第一行動方針:蒼星石を捜して鋏をとどける
第二行動方針:チビ人間(桜田ジュン)も“ついでに”捜す
基本行動方針:蒼星石と共にあることができるよう動く
181長戸有希の報告 1/4  ◆S8pgx99zVs :2006/12/14(木) 03:07:58 ID:qavokPTy
現在の状況に関する長門有希の推測

尚、長門有希が他にも存在する可能性を考慮し、この報告において主観を持つものを
以後、長門有希(A)。略して長門Aと呼称する。

状況の確認

地球(※1)-日本を基準としたXXXX/XX/XX XX:XXより、認知の断絶(※2)を挟み、
情報統合思念体を基準とした絶対座標位置及び時間平面の特定のできない空間へと
転移(※3)させられ、そこでギガゾンビを自称する存在(※4)より、同空間内に集められた
他の存在(※5)との生存競争を命じられる。この時使用された言語を長門Aは地球の
日本語と認知(※6)。その後、再び認知の断絶を挟み絶対位置、時間を特定できない
空間へと転移させられる。

この状況を長門Aの主観が認識してから情報統合思念体との接触ができなくなっている。
また、情報解析及び情報連結、情報連結解除にもなんらかの制約が掛かっており、
その能力を十分に発揮できない(※7)でいる。

制約として長門Aの有機デバイスに首輪(※8)が装着されており、ギガゾンビの提示した
規則(※9)に抵触すると爆破(※10)される仕組みになっている。



※1 固有名詞。
※2 断絶されていた期間は推測不能。
※3 認知の断絶があるため必ずしも転移と特定できないが、主観での認識として便宜上こう書く。
※4 情報解析が不可能であったため存在の特定は失敗。
※5 多種多様の存在、前記の理由で特定には失敗。
※6 ただし、情報親和喚起法による伝達の可能性もあるため確定はできない。
※7 程度、また回復の方法については調査中。
※8-1 装着者の頚椎を基点とした絶対座標設定を持っており、物理的な方法での排除は不可能。
※8-2 但し、その前提である首輪の機能を阻害すればその限りではないと推測される。
※9 首輪を外そうとする。進入を禁止された区域に立ち入る。
※10 有機デバイスの頭部を破壊できる物理的威力があり、情報内に不可避の属性を持つ。
182長門有希の報告 2/4  ◆S8pgx99zVs :2006/12/14(木) 03:08:50 ID:qavokPTy
現時刻から起こす行動の指針を立てる前提として、現状に陥った原因を推測する。


1.涼宮ハルヒの情報改変能力が原因とする

 現在までに認識している情報から推測するに、可能性は低い。
 まず、涼宮ハルヒから放出される情報因子を発見できていない。
 また、涼宮ハルヒの思想、理念、脳内情報に繋がる状況ではない。
 それらに加え、涼宮ハルヒの認識していない長門Aの能力に制限が加えられていること。

2.情報統合思念体が原因とする

 可能性が高いのは急進派の工作という場合。
 ただし、その場合彼らの理に合わない雑多な情報が多すぎる。
 だが、彼らが地球上のなんらかの情報デバイスを介してこれを実行しているのなら
 その疑問は払拭される。
 この場合、この空間内に存在する涼宮ハルヒは本人である可能性が高い。

3.長戸有希が原因とする

 A.
 長門Aが本来の長門有希の情報内に作られたシミュレーション用情報だとする場合。
 この場合あらゆる不合理が解決されると同時に、推測が意味を成さなくなる。

 B.
 長門有希になんらかの情報欠陥が発生していた場合。
 この場合もA.と同様にあらゆる不合理が解決されると同時に、推測が意味を成さなくなる。

 これらが原因の場合、長門Aの観点から問題を解決することは困難。

4.ギガゾンビが原因とする

 ギガゾンビ及びなんらかの存在が実際にこの状況を起こしているという場合。
 これはあらゆるパターンの中でも危険性が高い部類に入る。
 長門Aに制約が掛けられている現在、この状況を解析、解決することは困難であると推測。


その他、可能性が稀薄な例については割愛。
183長門有希の報告 3/4  ◆S8pgx99zVs :2006/12/14(木) 03:09:42 ID:qavokPTy
前項での想定から導き出される今後の方針。

1.情報統合思念体との接触

 問題の根幹である情報統合思念体との接触に関する制約の解決。

2.空間構成情報の収集

 空間構成情報を収集、解析し、構造の把握。 

3.涼宮ハルヒとの接触

 涼宮ハルヒと接触し、それが本物であった場合保護する。
 偽者であった場合は構成情報を解析し、情報を収集する。有機体の生死は問わない。

4.朝倉涼子との接触

 朝倉涼子と接触し、その構成情報を解析し、情報を収集する。
 指示下にある場合、協力させる。
 そうでない場合、有機体の生死は問わない。

5.キョンとの接触

 キョンと接触し、それが本物であった場合保護する。
 偽者であった場合は構成情報を解析し、情報を収集する。有機体の生死は問わない。

6.長門Aの保護

 長門Aの状態を保全するよう努める。優先すべき問題がある場合はそれに限らない。


また、上記の行動と併せて情報の解析を進め現状の把握し、脱出方法を模索する。
184長門有希の報告 4/4  ◆S8pgx99zVs :2006/12/14(木) 03:10:32 ID:qavokPTy
月の光も入らぬ濃い森の中を苦もなく歩いていた長門有希は、
何かに気付くとそれに近づいた。
一人分の足跡――だがただの一人では不自然な足跡。
足跡から推測される靴の種類、履いている人間の性別、体格、体重。そして歩き方。
それらから見ると、この足跡はやや深く、歩幅は短く、体重のかかる位置が不自然。
何か、もしくは誰かを背負っていると推測される。
誰か?長門有希は神経を集中し、空間内に残る手がかりを探し――見つけた。
風に流されずに残っていた僅かな整髪料の匂い――涼宮ハルヒの匂い。
断言はできないが、現在唯一の手がかり。


長門有希は足跡を追い、暗闇を駆け出した。




 【D-7/森の中/1日目-深夜】

 【長門有希】
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:デイバッグ/支給品一式/タヌ機/S&W M19(6/6)
 [思考]:ハルヒ(足跡)を追う/朝倉涼子を探す/キョンを探す

 ※不明だった支給品は”S&W M19(装弾数6/6発)”に設定しました。次元大介の愛銃です。
185悲劇 1/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/14(木) 03:16:56 ID:PjJIk1Tb
「流石にすぐにダメージが治ったりはしねーか……げほっ!」

ハルバードを持って警戒しつつ、肩で息をしながら、時には咳き込みながら
ゆっくりと、ゆっくりと、出来る限り静かに、ヴィータはその場に座り込んで回復を待っていた。
化け物の様な敵が闊歩している中を、ダメージが残った状態で進むのは危険すぎる。
だからこそ今すぐにでもはやてを捜したい気持ちを無理矢理抑え、休息を取り続ける。
清潔感漂う色彩のセーラー服が、風で揺れた。


ヴィータの着替えが終わったのは数分前。
彼女にとっては誰かに見られてしまったりしないかと冷や冷やした時間だった。
下着以外の全てを脱ぎ捨て、きつく絞って出来る限り水気を取る。
その間に五体の自然乾燥を期待する。微妙に、月並みだが乾燥が促された。
しかし、何も着ていない状態で風に当たると風邪を引きそうなものだが
「こんな事でベルカの騎士が具合悪くなってどうすっくしょん!!」
との事らしい。ただ、今の盛大なくしゃみで体の冷えを実感した。
彼女は急いで北高の制服を着る。不安だったがサイズは合っていた。
その事に一先ず安心していたが、やはり制服が少し湿り気を帯びてきた。
流石にこの短時間で体はまだ乾いていたとは言えなかったらしい。
だがあの濡れ鼠状態よりは十分マシだ。このレベルならいつかは乾燥するだろう。


そんな事があり、数分経った後に今のヴィータのこの状態に時間は戻る。

座っていると楽だった。疲れやダメージも軽くはなってきた気がする。
溺れていた時の後遺症で咳き込む事もあるが、それもいつかは収まるだろう。
こういうものは気の持ちようだ。大丈夫、なんとかなる。自身に言い聞かせた。
「大丈夫だ、大丈夫……ハルバード、お前もそう思うよな?」
ハルバードは答えない。当然だ、アームドデバイスでも無ければインテリジェントデバイスでもない。
「……ハルベルト?」
今度はドイツの語感で名前を呼んでみる。当然だが相変わらず反応は無い。
「まぁ、答えないのが当たり前だよなー……げほっ」
ここは恰好良い声で『Ja.(はい)』とか答えて欲しかったが仕方が無い。
頼れるものの物言わぬ武器を溜息交じりに眺め、空を見上げた。

「はやて……どこにいるんだ……?」
186悲劇 2/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/14(木) 03:20:29 ID:PjJIk1Tb

「はやて……か」
「はやて?」
ドラえもんは、歩きながら名簿を見ている太一の呟きを聞いた。
太一は先程からランタンで辺りを照らしつつ、延々と名簿を眺めながら歩いている。
こんな夜中に、しかも敵がいるかもしれないのに。なんとも危なっかしい。
冷や冷やしていると、太一が唐突に名簿を見せてきた。どうしたんだろう。
「ほら、見てみろよ。俺と苗字が一緒の奴がいるんだ」
言われるがままに名簿を見せると、確かに”八神はやて”という名前が書かれていた。
まさか、何か重要な事なのだろうか。太一に訪ねてみる。
「太一くん、もしかしてそれ……結構大事な事だったり……」
「いや? 別に」
「……あ、そう……」
「いやー、でも偶然って凄いな! どんな奴なんだろう、会ってみたいなぁ」
あっさり言ってのけると、まだ見ぬ八神さんに思いを馳せる太一。
そんな光景を見てドラえもんは溜息をついた。

『呑気過ぎる』

陰口に相当する事を、ついつい心中で呟いてしまう。
しかしなんとか彼に毒づきたくなる気持ちを押さえた。
冷静になって辺りを見渡すと、太一の持つ灯りのおかげで案外明るい事を改めて認識した。
二人きりと言う状況では、自分たちの位置を他人に教えてしまい危険である。
だが太一は灯りをつけたまま、その事を気にかけることもしなかった。

そして安心しきっている太一の歩みの勢いも、失う事を知らない。
と言うよりドラえもんには寧ろ、彼の勢いは増している様にも見えた。
その証拠に、いつの間にか太一はまたも自分の前を歩いている。
一応彼にペースを合わせるものの、そうすると歩く事に夢中になって周りへの警戒を怠りそうになってしまう。
「ねぇ、太一君。もうちょっと周りを警戒しないと……」
流石にこれは拙い、とドラえもんが注意しようとする。
「大丈夫大丈夫! 心配するなってー」
だが、あっけなくそう言われてしまった。
何が大丈夫なのだろうか。ドラえもんは再び不安に駆られた。


「あ、駅だ!」

暫く歩き続けた後。
そんな事に気づく様子も無く、太一が達成感で溢れた表情で言った。
辺りが暗い所為でどのくらいの時間歩いていたかは判らないが、確かに視線の先には駅があった。
「よーし、誰かいるか調べてみようぜ」
「え? それは危険だよ!」
太一の無謀な言葉に対してドラえもんが声を荒げるが、太一はやはり気にしない。
「いいからいいから! 俺を信じて」
それどころか、ドラえもんの手を取って引っ張ろうとさえした。

ドラえもんは思う。
そろそろ一喝しなければ、と。
187悲劇 3/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/14(木) 03:21:49 ID:PjJIk1Tb

ドラえモンは何をそんなに心配しているんだろう。
太一はそう考えながら気楽に駅の内部へと進んでいく。

大丈夫だ。

そんな間違った自己解決による結論を基に太一は進んでいく。
自分には敵がいないかのように、状況を知らずに進んでいく。
自分が全てを理解しているかのように、危険を顧みずに進んでいく。

太一は勘違いに気づかない。
何時間も勘違いをし続けている。
致命的で、危険で、最悪な勘違いを。


『大丈夫、おれ達はデータなんだし』


太一は、愚かにも進み続ける。
188悲劇 4/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/14(木) 03:23:22 ID:PjJIk1Tb

自分はデータの様なものである。

ヴィータはそれをよく知っていた。
はやてから魔力を貰う事で存在し続ける、言わばデータシステム。それが自分だ。
自身の命が尽きるか、もしくははやてが死んでしまえば自分は消滅してしまう。
はやてが死んでしまったら、シグナムもシャマルもザフィーラも、そのアームドデバイス達も死んでしまう。
今、自分の手から離れてしまっているあのグラーフアイゼンもだ。

だが今はどうだ。自分は生きているじゃないか。
自分が生きている限り、はやては死んでいないのだ。

そう自分に言い聞かせると、ヴィータは少しだけ安心した。
冷静になり、はやての生を実感し続ける事で気持ちが楽になっていく。
そのおかげかは知らないが、少しだけダメージも消えていった気がした。
「単純だな……」
苦笑し、静かに辺りを眺める。少なくとも今は人の気配が無い。
だが警戒は解かず、闇の中で彼女は休息を続ける。

大丈夫、大丈夫だ……。
まだ自分は生きている。だからはやても生きている。
はやては見つかる、絶対に見つかるんだ。

そう言い聞かせ、焦りを無理矢理に封じ込めて休息する。
はやてを捜す為、そして殺しに従事する者を倒すその時の為に。


ヴィータにとってその休息の時間は、極めて穏やかに流れていった事だろう。
だがしかしその同時刻、彼女が知らぬ所ではとても穏やかとは思えない事件が起きていた。
189悲劇 5/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/14(木) 03:25:36 ID:PjJIk1Tb

「ドゥォオオオオオオッッッ〜〜ッゥクワァッッァァァァァアアアア〜〜〜ウウンッッ!!」

街で、数時間前にヴィータと戦ったあの鉄パイプの男、アンデルセンが殺戮を始めていた。
その近くには八神はやてがいるのだが、ヴィータがそれを知る事は無く、休息を続けている。


「はははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

街で、アンデルセンの襲撃からめがねをかけた少年、のび太が逃げていく。
彼が逃げる先には八神はやてがいるのだが
ヴィータはそれを知る事も無く、休息を続けていた。


「ドオッ……………カアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ……ンッ!!」

病院で、のび太の後を追ってきたアンデルセンが襲撃をかけていた。
八神はやては彼の襲撃から仲間と共に必死に逃げているのだが
ヴィータはそれを知る事も無く、休息を終わりにして立ち上がろうとした。


「いかにも、私はラブレス家に仕えるメイドのロベルタというものです。このような夜分に
突然声をかけ驚かせてしまった非礼をお詫びします」

病院の緊急搬出口の外で突然姿を現したメイド服の女性、ロベルタが八神はやてに話しかけた。
彼女はこの殺し合いに乗っていた危険人物であり、八神はやての命さえも奪おうとするのだが
ヴィータはそれを知る事も無く、決意を新たに立ち上がった。




そして、ヴィータが移動を開始する瞬間。

八神はやてが、死んだ。
190悲劇 6/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/14(木) 03:28:10 ID:PjJIk1Tb




――だが、運命の悪戯だろうか。神の悪ふざけなのだろうか。
八神はやてが死んだその瞬間に、ヴィータは歩き始めていた。
完全には疲労を回復出来てはいないだろうと推測し、勢いを抑えつつだ。
勿論その目的は八神はやてを護る事であり、それは永劫変わらない。


つまりは、そう。
八神はやてが死を迎えても、ヴィータは消滅しなかった。
避けられぬはずだった死の運命――それが消え失せてしまっていたのだ。

この光景を眺める者が居たとしたら。
そしてその眺める者が音楽家や奏者なら。
きっと、涙しながら哀しい旋律を紡いだ事だろう。
主が死んだ事を知る由も無く、騎士が歩き出してしまったのだから。

「はやて……無事でいろよ……」

彼女が何故、主を失ってもなお生き続けているのかは誰にも判らない。
だが今こうして、守護騎士ヴォルケンリッターが主を追い求めている現実がそこにある。
消えるはずだった命が消えず、知るはずだった現実を知る事も無くなってしまった。
そんな彼女に降りかかったものを敢えて言葉にするならば――それは”悲劇”に他ならないだろう。

「絶対見つけるから、待ってろよ」

達成されるはずの無い目的の為、ヴィータは歩き出した。
191悲劇 7/7 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/14(木) 03:30:42 ID:PjJIk1Tb

【C-2川の分岐点の岸・1日目 黎明】

【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労は減少、空気砲のダメージも減少、着替え終了、休息終了
[装備]:ハルバード、北高の制服@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:支給品一式、スタングレネード(残り五つ)
[思考・状況]
1:信頼できる人間を捜し、PKK(殺人者の討伐)を行う
基本:元の世界の仲間を探す(八神はやてを最優先)


【F-1 ランタンで駅が視認出来る周辺(北側)・1日目 黎明】

【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:健康 多大な不安
[装備]:手榴弾@BLOOD+ (普段はデイパックにいれています)
[道具]:"THE DAY OF SAGITTARIUS V"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱 、支給品一式
[思考・状況]
1:そろそろ太一を一喝したい
2:ヤマトを含む仲間との合流(特にのび太)
基本:ひみつ道具を集めてしずかの仇、ギガゾンビをなんとかする

【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:健康 投げやりな気持ち
[装備]:なし
[道具]:みせかけミサイル@ドラえもん
   ヘルメット(殺し合いが起きないという自信の表れでつけていません)
   支給品一式
[思考・状況]
1:ドラえもんを連れて駅内部を気軽に探索
2:危険な目に遭ってドラえモンを進化させたい
基本:ヤマトたちと合流



【注意】
守護騎士ヴォルケンリッターであるヴィータは八神はやてが死ぬと消滅するはずでしたが
今回ヴィータは消滅せずに、何事も無かったかの様に生命活動を支障なく続けています。

本作品「悲劇」の最終的な時間軸は
◆S8pgx99zVs氏の作品「神父 アレクサンド・アンデルセン」
の作品内ラストにて、ロベルタが場を後にした時刻とほぼ同じです。
192月夜 ◆WgWWWgbiY6 :2006/12/14(木) 05:25:23 ID:yo+Thfvn
真っ黒な闇にポッカリと穴を開けるように月が光る。
それは格別にいい夜――とはいかない。
残念ながらあの紛い物の白い穴などで、夜族が満足できる筈も無い。

フッ!フフフフははッ!

込み上げる笑いを抑えようとはしない。
体中の痛々しい火傷のあと、裂傷、首の切断跡。
こんな外傷などは怪物にとって、問題ではないのだ。

これらは全て人間達につけられた傷跡だ。

――首を切り取られたのはアンデルセン以来か?
――あんなにも小賢しい真似でここまでの火傷を負わされたのは始めてかもしれん
――ここで出会った参加者達はそのどれもが人間だ
――生き残る為に吸血鬼をも恐れず、朽ち果てもしくは戦った
――なんにせよ、彼らは狗ではない
――自分の意思で生き残ると決め、戦う人間だ!
193朧月夜 ◆WgWWWgbiY6 :2006/12/14(木) 05:26:16 ID:yo+Thfvn
人外のものを相手にするのにはそれと同等の力が必要になる。
しかし、能力を制限されたそれには同等の力がなくとも戦えるようになる。
先程の粉塵爆発がそうだ。

これが何を意味するか。
今まではぼろ雑巾のように扱われた人間でも、勝機を得る可能性は出たのだ。

――これほど嬉しいことはない

異形の歓喜の波は留まる事を知らない。
これから始まる死の宴に体を痙攣させるように震える。

――人間達はは恐怖と戦い、絶望に反逆し、死に抗うだろう
――徒党を組み、信頼しあい、裏切ることで
――それならば、徒党を潰し、信頼を断ち切り、裏切る事すらままならなくしてやろう
――それ以上の恐怖を、絶望を、死を振りまくことで
――俺を蹂躙させてみろ、人間達よ

「俺も貴様も全く以って狂っているなあ、ギガゾンビ。」

紛い物の月はその姿を半分ほど隠し始め、作り物の陽が上り始めようという時刻となった。   
まだ傷は完全に癒えた訳では無かったが、戦うには問題ない。
闘争を振りまくべく、吸血鬼――アーカードはその一歩を踏み出し、

そして、ズッこけた。
194朧月夜 ◆WgWWWgbiY6 :2006/12/14(木) 05:27:06 ID:yo+Thfvn
【F-3/商店街/1日目/黎明】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:体中に軽度の裂傷と火傷(自然治癒可能)
[装備]:対化物戦闘用13mn拳銃ジャッカル(残弾19)
[道具]:なし
[思考・状況]
1、雰囲気台無し
2、人々の集まりそうなところへ行き闘争を振りまく
3、殺し合いに乗る
[備考]
1、タバサとの戦闘に加えうどん屋の爆発など、かなり派手な戦闘音が響きました。
周囲八マスに居る人間に聞こえる可能性があります。
195何だってんだ ◆vScE74qUDM :2006/12/14(木) 05:31:49 ID:vOmYqcn8
川の側を伝い、南西へ向かう内に俺の違和感は膨らんでいく。
夜魔や死霊が現れる気配が全くねえ。 俺は空を見上げた。

「…………」

まだ夜は明けてねえ……。 俺は鈍器を義手に持ち替え、刻印に手を伸ばした。
首輪からはみ出てる刻印の手触りは確認できた。
奴等の手で刻印を刻まれて以降、ゴドーの所以外で魔物が俺の刻印に引き寄せられない時はなかった。
このゲームとやらも参加者の何人かは使徒らしき連中も混ざっていたはずだ。
刻印は反応しなかったのか? 強い使徒の糞つまらねえ道楽に巻き込まれた程度と思っていたが。思った以上に訳わからん事に巻き込まれやがったか。

「…………」

思えば、化けモンになったグリフィスも参加者なんだよな。
……他のゴッドハンドか、……神とやらがこれを始めやがったのか? 
ち……考えがまとまらねえ。
俺は足を止め、鈍器の再確認を始めた。 スモールライトみてえに何があるか解らねえしな。
表面をなぞり、可能な限り視認する、生き物をぶっ殺すにゃあ向いてねえな。
柄らしき部分に何か文字が書かれてたが、暗くて読めねえ。
説明書もねえし、こりゃ本当にただの鈍器か?
グリフィス以外にも化け物がいるんだ、冷静に考えなくともこれはマズイぜ……。
奴に復讐するまで……そいつを抜きにしても殺されるつもりはねえからな。

「……!」
196何だってんだ ◆vScE74qUDM :2006/12/14(木) 05:33:19 ID:vOmYqcn8
不意に俺の脳裏にさっき離れたあの女――みさえの姿が浮かんだ。
あいつ……なんか持ってたよな。 クソガキに手間取って、すっかり忘れちまった。
仮にあいつ一人でガキを担いだところで、歩ける距離は知れている。戻るか?
俺はあいつらがいた場所に足を向けようとし……。

「……………………チッ」

仕方なく俺はあの場所に向かった。


★★★


「あった!」

小さくなったオモチャを見つけた私は喝采を上げた。

「これ使えないかな……」

私はそう呟き、オモチャをしまいこんであの子の元へ戻る。 

「……はぁ……はぁ……」

女の子は少し苦しげに息を吐いていた。 
右足には服の布地を巻いたけれど……治せないわよね……。 
川の流れる音と女の子の息遣いを聞きながら、私は途方にくれていた。
女の子を担いで移動しようとも思ったけれど、疲れている上に傷薬以外何も持っていないのが心細く、動く気になれず、とてももどかしい。
夜が明ければ動く気にはなれそうだけど、しんのすけたちを思うと……。
197何だってんだ ◆vScE74qUDM :2006/12/14(木) 05:34:13 ID:vOmYqcn8
「ん……」
「えっ……?」

あの子が? 私はあの子の顔を覗き込んで、大丈夫と声をかけようとした。
女の子はゆっくり瞼を上げると、私の顔を見つめ……顔を横に向けた。
私はそれに戸惑った。 女の子は手足を動かし私から遠ざかろうとしているように見えた。
だけど、怪我とショックからか立ち上がることさえできそうになかった。

「あ、あの怖い人は……」

もういないわよ、と言おうとしたけど言葉が続かない。
この子は殺そうとした人と歩けない状態で顔を合わせてるんだ。
女の子は身体を震わせながら、引きずるように後退する。
私は陰鬱な考えを頭を振って払いながら、いてもたってもいられなりつい女の子に駆け寄ろうとした時……
女の子の目が大きく見開かれたのを見た。

「クソガキ……目ぇ覚めたか……」
「ひっ……」

剣呑な声が私の後方から聞こえた。私は振り向いた。

「あんた……他にもなんか持ってたな。それ寄越せ」
「な、何よっ……それっ!」

私はずうずうしくも理不尽な要求をするあの男を前に両手でチョップの構えを取った。

「………………」

何故か、男はまたあの時と同じようなげんなりとした表情で私を見つめていた。
198何だってんだ ◆vScE74qUDM :2006/12/14(木) 05:35:35 ID:vOmYqcn8
★★★


俺はあの女の脇をすばやく通り抜け、怯えてるガキの前に立ち、奴の左膝を足で押さえつける。

「い、いやぁ……」
「何してるのよ!」
「騒ぐな……妙な動きをすりゃ折るぞ」

クソガキは震えながら、首を何度も縦に振った。みさえが非難を続ける前に俺は話を切り出した。

「寄越せ。それとあんたと、このガキにもっと聞きたい事がある」
「離しなさいよ」
「あんたを殺ろうとした相手だろ?」

みさえはぐっと黙る。 
だが舌の根が乾かねえ内に今度はう〜と唸り声らしきもんをあげて、俺を睨んだ。
何なんだ……。 俺は頭をかきながら、あいつに向かって言った。

「あんたはこのガキをどうしたいんだよ?」
「助けるに決まってるじゃない」
「…………」

ガキが短く息を吐いた。

「参加者の中にはあんたの知り合いもいるんだろ?」
「え!? そ、そうだけど……」
「あんた達を平気で殺ろうとしてる奴の方が、そいつらより大事なのか?」
「…………そ、そんなこと言えないわよ」
199何だってんだ ◆vScE74qUDM :2006/12/14(木) 05:36:57 ID:vOmYqcn8
どうやら……

「あんた、人を殺した事ないだろ?」
「…………。 無いに決まってるじゃない!」

考え込んでいて、俺の問いにすぐに反応できなかったらしいな。
こうなると、別の嫌な予感も当たりそうだぜ。

「言っとくが……人命救助は戦うよりもずっと難しいぜ」
「あなた何なのよ……」
 
俺はみさえを睨みつけて言った。

「そこんとこ分かってんだろうな?」
「…………」

意外にもみさえは黙った。安易に分かってると答えると思ったが。
あいつはふいに強く瞬きをして、少しして顔を少し上に上げて言った。

「ええ……それでも殺したくないわよ」

……俺は心でやれやれとぼやきながら、脱線した話を元に戻そうとした。

「とにかくあんたが持ってた棒と説明書があれば寄越せ」
「あなたみたいな追いはぎに渡さないわよっ」

俺は嘆息しながら言った。

「ただじゃねーよ」
200何だってんだ ◆vScE74qUDM :2006/12/14(木) 05:38:05 ID:vOmYqcn8
★★★

「……うーん」

私はオモチャと交換で渡された、二本のナイフと説明書を見ながら、何ともいえない気持ちでいた。
殺さないって言った手前、素直に喜べない。
これが服とかアクセサリーならどんな状況でも喜べるんだけどー。

「あなた、なんて名前なの?」
「ガッツだ」

外人さんね……コスプレにしては濃すぎるけど。あの子の名前は……

「おいガキ、名前なんて言うんだ?」
「…………」

って、ガッツまたあの子に。 彼は足首を少し動かした。
ぐりって音が聞こえた気がした。

「北条沙都子ですっ!」

あの子は半ば涙声で叫ぶ。あいつ〜名前くらいで。

「ちょっと、いい加減足退けたら……」
「この戦場にいるお前の知り合いの名前と特徴を言え」

あの子……沙都子ちゃんがびくっと震える。

「それと、あんたとあんたの知り合いの情報もだ」
「……え?」
「俺と俺の知り合いの情報も教える。情報交換だ」

あの男……ガッツは素早くそう私に切り出した。
201何だってんだ ◆vScE74qUDM :2006/12/14(木) 05:39:20 ID:vOmYqcn8
★★★

もちろん警戒は弱めてねえが、ほんとに死霊どもが現れる気配はねえな。
クソガキが泣きじゃくり、みさえがそれを宥めながら、こっちを睨みつけている。
思ったより中々、口を割らなかったな。
知らずに叩っ殺しても知らねぇぞと言ったら、口を割りやがった。
何なんだ、こいつも? 足は既に退けている。

「どうやら俺とあんたは住む世界が違うようだな」
「……。にわかには認めたくないわよね〜」

みさえの口から、異世界ものはとか、でも前にとかの愚痴のような呟きがもれる。
こればかりはあいつと同意見だ。俺もよく分からんが認めたくねえ。 
だが、それなら魔物が出てこねぇのも理由はつくな。
場合によっちゃ、別のタイプの人外と戦うのか? 
使徒でさえ妙な芸を持ってる奴等が多いってのに。
下手すりゃ、あの仮面の男……ゴッドハンドの奴等より強えんじゃねえのか?
頭が痛え。 まさかグリフィスの奴、先に死なねぇよな?
気がつけば、みさえがガキと話をしている。
俺はそれを黙って聞こうとするが、あいつが唐突に俺に話しかけてきた。

「あなたはこれからどうすんの?」

俺はスモールライトを出し、みさえに言った。
202何だってんだ ◆vScE74qUDM :2006/12/14(木) 05:42:38 ID:vOmYqcn8
「その棒を元の大きさに戻す」
「このおもちゃを?」
「多分、玩具じゃねえだろ」
「…………」

みさえはまた何か葛藤してやがる。早くしろ。
みさえは爪楊枝のような金属の棒を取り出す。

「沙都子ちゃんをおぶっては……くれないよね、やっぱ」
「当たり前だろ」

俺は当然拒否すると、みさえはガキの方へ顔を向けて言った。

「沙都子ちゃん……いい?」

ガキは顔を青ざめさせるも迷いを振り切るように言う。

「……いい、ですわ」

みさえはすまなそうに頭を少し顔を俯かせると、俺に言った。

「沙都子ちゃんをちっさくしたいんだけど」
203何だってんだ ◆vScE74qUDM :2006/12/14(木) 05:44:05 ID:vOmYqcn8
★★★


いま……外よりも暗い、みさえさんのデイパック中に私はいるのですわ。
こんな怪我じゃもう歩けないし、みさえさんもそれほど力はないから仕方がありませんわね。
……それにしても、あの男がみさえさんの提案を聞いた時の感心したような顔は見ものでしたわ。ほほ……。

「………………」

あの男は夜が明けるまで、ここにいるって言ってた。どうか、あまり動かないで欲しい。
私が圭一さんたちの事、話してしまったから。
人を殺そうとした私の知り合いじゃ、きっとあの男は赦してくれない。
私も人殺しが怖いから。
私はそう思いながら、ひとつの矛盾に気づいたですわ。
私はにーにーに会いたいためだけに、みんなを殺そうと考えてたのに。
どうして心配なんかしてるのかって。

思えば、私の決断と方法、あまりにも底が浅かったのですわ……。
殺し合いなんかじゃないけれど、魅音さんが考えた部活はこんな浅知恵で勝ち抜けるものじゃなかったですわ。
もしかしたら、にーにーが居たあの日、魅音さんが突然豹変して怒ったのも……。
……意地悪な叔母がいた時、私は反抗し続けてたけど、それが原因でにーにーがいなくなるなんて思ってなかった。

……私が我慢しなかったからだ。

これからは我慢しよう。今は生き延びることを考えて。
これも我侭かもしれないけれど、圭一さんたちと出会わないことを願いながら。
204何だってんだ ◆vScE74qUDM :2006/12/14(木) 05:45:23 ID:vOmYqcn8
★★★

彼が沙都子ちゃんを少し遠ざけながら、私に首輪について説明を続ける。

「あんた、ガキを抱えた時、首輪を掴まれるなんて考えたことあるか?」

私は首を振る。

「どれだけの力で爆発するか知らねーが、どんな奴でも油断はしねえこった」
「そう言われると転んだだけで爆発しそうよね」
「それは無いだろ。 仮面の男の目的が戦場の観察である限りな」

私が見た戦国時代を超える殺伐さよね。西洋だとこんなもの?
話を終えると私は沙都子ちゃんのデイパックを元の位置に戻し、座り込む。

「俺の戦いの邪魔はするなよ。邪魔ならあんたもたたっ斬る」
「えんがちょ男」

私は嘆息しながら諦めの表情を形作り、毒を吐いた。
ガッツの顔が少し引きつったように見えた。あら?もしかして、ショック?
私はどこかで生きている家族の事を思う。
しんのすけ達なら……らくがきは知らないけど。彼に殺されるような行動は取らないと思う。
あの人がボーナス袋を出してなかったのが気にかかってたけど。
私は沙都子ちゃんが入っているバッグを見て、ある場所の名を思い浮かべる。

……県、雛見沢村。

どこかで聞いたその村名を反芻しながら、私はまたも違和感を感じた。
何年か前に無くなってなかったっけと。
私はそれを思い違いと解釈しながら、夜が明けるまで休憩を続けた。
205何だってんだ ◆vScE74qUDM :2006/12/14(木) 05:47:27 ID:vOmYqcn8
【A-7の山中・川のほとり 1日目 早朝】

【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:体がちょっと痛い、精神的ストレス(ヒステリーに転化される)
[装備]:スペツナズナイフ×2
[道具]:エルルゥの傷薬(使いかけ)@うたわれるもの 、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、デイパック2人分(内一つに沙都子が入ってます)
[思考]
第一行動方針:家族や井尻の安否確認、できれば合流したい
第二行動方針:夜明けまでここで休憩、ガッツについていくかどうか少し迷っている
第三行動方針:沙都子の保護
基本行動方針:ひろしやしんのすけも心配だが、一人残されているであろうひまわりが心配……(⇒もとの世界に帰る)

【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:1/10サイズ化、右足粉砕(傷薬でも殆ど直らないレベル、一応処置済み)、軽度の疲労、デイパックの中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
第一行動方針:生き残ってにーにーに会う
第二行動方針:みさえ、ガッツ(強い恐怖心あり)に従う
第三行動方針:ひぐらしメンバーとは会いたくない
第四行動方針:右足の傷及び、体のサイズが治れば、二人からの離脱を考える。
その場合、乗る乗らない関係無しに、行動には細心の注意を払うつもり。

【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:全身打撲、大ダメージだが一応治療済み。
[装備]:バルディッシュ@リリカルなのは、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、ボロボロになった黒い鎧
[道具]:
スモールライト@ドラえもん(残り1回分)、支給品一式、デイパック1人分
スペツナズナイフ×3、銃火器の予備弾セット(各160発ずつ)
[思考]
第一行動方針:夜明けまでみさえ達とここで休憩して様子を見る
第ニ行動方針:キャスカを保護する 、出来ればスモールライトを使って
第三行動方針:俺の邪魔する奴はぶっ殺す、ひぐらしメンバーに警戒心
第四行動方針:首輪の強度を検証する
基本行動方針:グリフィス、及び剣を含む未知の道具の捜索、情報収集
最終行動方針:グリフィスを探し出して殺す

※ガッツとみさえはバルディッシュの使い方を理解しました。
※沙都子はバルディッシュの使い方と首輪の話については知りません。
※彼ら三人はそれぞれの知人(参加者)についての情報を共有してます。
※話に出てくる魅音は別人です。魅音はその事を知りません。
※クレしんの世界に雛見沢があったかどうかは以降の展開に任せます。
 無かった場合はみさえの勘違いで。
206ギーガ鉄道の夜 ◆v3IQLoJSTY :2006/12/14(木) 06:39:26 ID:Ek/vBGe9
 いや、ほらさ。一口に話って言っても色々あるわけよ。一言二言で終わっちまう話とか
話せば長くなる話とか。電車を待つ間に駅長室で紅茶を飲みつつ、可愛い女の子と良い雰囲気でさ。
これが殺し合いの真っ只中でなけりゃ、神様に感謝の一つもしたんだけどね。あれから話したんだよ。
俺の世界のこと、カズマのこと、アルター、HOLY、ロストグラウンドのこと。風ちゃんの世界のこと、
エメロードのこと、二人の親友のこと、エスクードのこと。そして風ちゃん自身のこと。あー、現実は
厳しいよなぁ。俺、挫けそう……。カズマぁ、今お前どこにいんだよ。助けてくれよぉ。

「君島さん、どうか致しましたか? あ、ごめんなさい。私ったら自分の事ばかり話してしまって」

 風ちゃんが心配そうな顔で俯いていた俺の顔を覗き込んだ。優しい子だよなぁ。

「いやぁ、何でもないって。エメロードの話でさぁ、ちょびーっと難しい所があったんでさ、
頭ン中で整理してたんだ」
「まあ、仰ってくだされば詳しくお答えしましたのに……」
「ごめんね。ちゃんと風ちゃんの話も聞いてたからさ」

 ホント、優しくて強い子だよなぁ。俺が何考えてたかなんて、ゼッテェわかんねぇだろうな。

「今度は、君島さんの番ですよ。お話、聞かせてください」
「あ、ああ。その前にさ、あれ、何だか分かるかい?」

 そう言って俺は部屋の隅の方の小さな台に置いてある、妙な円盤の付いた黒い物体を指差した。
何かに似てるんだが思い出せねぇ。年かな?

「えぇ、懐かしの黒電話さんですけど?」
「はぁ?」

 あれでも電話かよ。そう言われれば確かに受話器が付いてやがる。俺は受話器に飛びついた。
これがあれば電車に乗らずとも遠くと連絡が取れるってもんよ。
207ギーガ鉄道の夜 ◆v3IQLoJSTY :2006/12/14(木) 06:40:10 ID:Ek/vBGe9
「風ちゃん! 何でもっと早く教えてくれないんだよ!」
「ごめんなさい。てっきり分かってらっしゃるとばかり……」
「あ、あぁ俺の方こそ怒鳴ったりして悪かったゴメン」

 そりゃ目の前の電話に気が付いてなかったなんて、思わねぇよな普通。

「でもこれで他の奴らと連絡が取れる! 大ラッキーだぜ」
「でも、お家の番号なら分かるのですが……たぶん光さんも海さんもまだ帰宅なされてないかと」
「……」

 言われてみればその通りだ。誰に掛けるんだよ電話。都合良くカズマが通信機とか持ってるとは
思えねぇし、万が一いや億が一の確率でカズマが持ってても絶対使い方理解できてないし。
そもそも電話番号、知らねぇし。

「だよなぁ……使える物なら、とっくに風ちゃんが使ってるよなぁ」
「いえ、そういう訳でもありませんよ。今、気が付いたのですけど」

 そう言って風ちゃんが指差したのは壁、時刻表の下に貼ってある古ぼけた地図だ。良く見れば、
他の駅の連絡先が書いてあるじゃねぇか。さすが風ちゃん、俺とは眼の付け所が違うぜ。
ここが『江府市(エフイチ)駅』だから、手持ちの地図にあるもう一つの駅は……

「これだ『飯鹿(イイロク)駅』XXXX−XX−1169、この番号に間違いない!」
「おそらく向こうの駅長室に繋がる思うのですけど……」
「良し早速……」

 向こうに誰かいれば万々歳。いなけりゃ待ち伏せもないって事で電車に乗れば良いって寸法よ。
情報を制すものは世界を制す。早速、電話を掛けてみっか。えーと……
208ギーガ鉄道の夜 ◆v3IQLoJSTY :2006/12/14(木) 06:41:32 ID:Ek/vBGe9

「ごめん、風ちゃん頼むわ」
「……これはダイヤル式の電話でして、こうやって……」

 役に立ってねぇな、俺。

 ジーコ、ジーコ、ジーコ、トゥルルルルル……

「どなたも出られないみたいですわね」
「みたいだなぁ」
 
 俺達は頭をくっつける様に近づけて受話器に耳を傾けるが、延々と呼び出し音が鳴るばかり。
電話自体は生きているみたいだから、上手く電話番号を見つければ活用できるかも知れねぇ。
俺達は今の『イイロク駅』の番号とここ『エフイチ駅』の番号をメモして頭に叩き込んだ。

「この状況下で居留守使って待ち伏せたぁ考え難いし、向こうにゃ誰も居ないかな?」
「そうに違いませんわ。電話が鳴っていたら、思わず受けてしまいますもの」
 
 情報を欲しがってる奴ならまず受けるだろうし、自信タップリの戦闘凶も嬉々として受話器を
上げるだろうさ。でもよ、俺みたいなビビリ屋とかカズマみたいな単細胞が電話の音に戸惑って
出ないとか考えないのか? まあ生活環境の違いなんだろうけどさ。

「とりあえず、電車が来たら発車前にもう一回掛けて安全確認しようぜ」
「ええ、それなのですけれど。あそこに見えるのは電車……ですよね?」
「なにぃ?!」

 俺はまた大声を上げちまった。だって俺達、ずっと電車を待っていたんだぜ、一体いつの間に?
窓の外、風ちゃんが指差す先にそいつはいた。二つ向こうのホームにちょこんと停まってやがる。
すぐさま俺は風ちゃんの手を引いて電車の停まっているホームへと向かった。
209ギーガ鉄道の夜 ◆v3IQLoJSTY :2006/12/14(木) 06:42:44 ID:Ek/vBGe9
 駅長室から線路を二本ほど跨いで向こう側。無駄に長いプラットホームに停まっていたのは
見るからにボロッちい深緑と橙色の角張った車両。しかも三両編成だ。あまりの大迫力に思わず
目眩がしちまったぜ。俺が想像していた電車は、もっと、こうスマートで、銀ピカで、力強くて。
別にどうでもいいけどさ。ちゃんと走るのかよ、これ。

「ん、電車から声が聞こえる。誰かいるのか!」
「あれは多分、車内放送ですわ」

『ギガ〜、本列車は当駅発『イイロク』行きギガ〜。発車までしばらく待つギガ〜』

 その声は確かに無機質な放送だった。俺達は辺りを警戒しながら無人の電車へと乗り込んだ。
何だか妙にムカつく合成音声だぜ。

「何かギガギガと癇に障る喋り方だな」
「きっと古いからスピーカーが壊れているのでは?」

 そっか。故障じゃ仕方ないな、オンボロめ。俺達は念のため車内を捜索してみる事にした。
密室で襲撃なんて今時ホラー映画のネタにもならないからな。しっかし見れば見るほどボロっちい。
電車に乗る事自体が初めてだからどこがとは言えないけどよ。なんつーの、時代遅れって感じ。
だけど奇妙な事にボックス席のシートに綻びは無く、床にも塵一つ落ちていない。まるでわざと
ボロい外見の電車を作ったばかりに見える。その辺を意識して調べ直せば窓ガラスは防弾仕様だわ、
外面は何かの合金製装甲板だわ、ただのボロ電車じゃねぇな。金と手間が掛かってやがる。

「君島さん、何かございましたか?」
「いや、この電車が意外と頑丈だって事が分かったくらい。風ちゃんの方は?」
「こちらも特には。変な土偶が運転席に置いてあっただけですわ」
「そうか。とりあえず一安心だな」

 先客の気配は無し。このまま電車に乗れば安全にE-6の駅まで行けるな。それに走行中に
周囲を色々と観察できる。もしかしたら誰か、かなみちゃんやカズマを見つけられるかも。
んな事を考えてると、また壊れたスピーカーが癇に障る声で放送を始めた。
210ギーガ鉄道の夜 ◆v3IQLoJSTY :2006/12/14(木) 06:43:57 ID:Ek/vBGe9
『ギガ〜本列車は2時30分発『イイロク』行きギガ〜。『イイロク』へは2時36分に到着ギガ〜』

「えーと3km程度の距離に6分か。待ち時間を考えると歩いた方が速かったかもな」
「でも電車から他の方を見つけられるかも知れませんし。シッ、まだ続きがあります」

 やっぱ俺が思いつく程度の事は分かってんよなぁ。俺、マジで役に立ってねぇ。

『本列車は侵入禁止区域を通過する事があるギガガ〜本車両内に限り皆様の安全を約束するギガ〜。
なお走行中の途中下車は大変危険なので止めるギガ〜車内での殺し合いは一切責任負わないギガ〜』

「侵入禁止区域に入っても電車の中に居れば大丈夫なわけか。って途中下車って何だよ」
「窓が大きく開きますわ。でも窓から飛び降りるお調子者なんて居られませんよね」
「あぁ、窓を突き破って飛び込んで来そうな奴には心当たりがあるけどね」 

 俺には見える。近い未来、防弾ガラスをぶち破って途中乗車してくるカズマの姿が。

『ギガ〜本列車は当駅発『イイロク』行きギガ〜。発車まで後三分待つギガ〜』

 電車を調べるのに夢中でウッカリしてたぜ。もうそんな時間なのかよ。このまま電車に……
やべっ、もう一回電話すんの忘れてた。あと風ちゃんの紅茶セットも置きっぱなしだったし。

「君島さん、何処行くんですか?」
「もう一回電話してくる! あと君の紅茶セットも! 大丈夫、急げば間に合う!」
「先程取りに行って参りました。電話も掛けてみましたが、やはりどなたも出らませんでしたよ」

 あ、そうですか。

「でもよ、一人で動き回るのは危ないからさ……」
「君島さんも、ですわよ。私は大丈夫、いざとなったら君島さんに守っていただきますから」

 俺ァ昔、カズマに言った事がある。『馬鹿の考えるてる事は分かんねぇ』ってさ。だから分かるんだ。
風ちゃんは『俺の考えてる事なんて分かんねぇ』ってさ。
211ギーガ鉄道の夜 ◆v3IQLoJSTY :2006/12/14(木) 06:45:09 ID:Ek/vBGe9
 ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、カタン、コトン、カタン、コトン……

 ついに電車が動き出した。思っていたより力強く、思ったより遅い。そして意外と音は小さい。
駅長室に居た俺達が気が付かなかったのも無理はない。なんて言うか、あんまり迫力のない音だ。

『ギガ〜! 本日はギーガ鉄道を御利用頂きまして、まことにありがとうギガ〜!
本列車は『エフイチ』発『イイロク』行きギガ〜。『イイロク』へは2時36分に到着ギガ〜』

 俺は南側の席に座って窓の外を見ていた。風ちゃんは北側の席で外を見ている。誰か見つかると
良いけど。考えてみれば電車は4時間に1本、往復なら2時間に1本。不便だけど、電車が襲撃される
可能性を考えると疎らで丁度良い。一時間以上の停車時間を上手く使えば、かなりの広範囲を
カバーできるし。急ぎの時は走ればいいさ。そうそう向こうに着いたら銃以外に車も探さないと。

「あぁ、大変ですっ!」
「ど、どうしたのさ一体?」
「私ったら、『切符』を購入していませんでした。どうしましょう……?」

 風ちゃんの消え入るような声に、俺は溜息しか出なかった。魔法剣士様は余裕がお有りで
いらっしゃる。そんな事を思った時だった。

 ドンッッ!!!

 鉄橋を超えた辺りで、いきなり凄い音がしやがった。そう遠くない所で何かが爆発した音だ。

「なななな、なんだ?! なんだってんだよっ?!」
「君島さん、こっちを!」

 俺の情けない声とは裏腹に、風ちゃんの凛とした声が車内に響いた。風ちゃんの指差す先、
(今夜だけで何度目だ?)北の窓、遥か向こうには、何か大きな建物が炎に包まれていた。

「炎……もしかして光さん?! 君島さん、私、行きます!」

 風ちゃんは言うが速いか半開きの窓を全開にすると闇の中へと飛び出した。何考えてんだ。
さっき自分で途中下車する馬鹿はいねぇって言ったばっかだろ。あの炎が話に聞いた光って子の
魔法なら、戦闘が始まってる可能性もあるけどよ。闇の中に一人だぜ、無茶すんじゃねぇよ。
212ギーガ鉄道の夜 ◆v3IQLoJSTY :2006/12/14(木) 06:48:05 ID:Ek/vBGe9
「ちっきしょーっ!!」

 俺は散々躊躇した末、窓から闇夜へとダイブした。地面までのコンマ数秒、一体俺が何を
思っていたか分かるかい? 風ちゃんのこと。その親友のこと。カズマのこと。全部ハズレだ。
最優先で守ってやらなきゃいけねぇ、かなみちゃんのことでもねぇ。俺は……一人になるのが
怖かっただけなんだ。

 風ちゃんの話を聞いて思ったんだ。この子は魔法剣士として他の二人と一緒に選ばれて此処へ
来たんだと。カズマや劉鳳の様に己の思いと大切なものを守る力をあの子は持っているんだって。
 でも俺は、何も持ってねぇ。あの子と違って話の内容だってほとんど他人事だ。いつもカズマ
カズマカズマカズマ、俺一人じゃ何にもやってねぇじゃねぇか。俺は一体なんなんだよ。何で
そんな俺がここに居るんだよ。そう考えたらさ、急に最初ギガゾンビに女の子を殺されたガキを
思い出したんだ。あのガキの眼がカズマとダブりやがった。それで気付いたんだ。俺は、いや俺
だけじゃねぇ多分かなみちゃんも、カズマに対するあの少女の替わりなんだって。
 アルターも銃も何にも無くて、支給されたのはちっぽけな機械一つ。今考えれば早く死ねって
言われてたようなもんだ。かなみちゃんだって何処かで頑張ってるはずなのに、守ってやらなきゃ
いけねぇのに、俺って奴は自分が死ぬのが怖くて、風ちゃんの余裕に嫉妬してたんだ。強者の持つ
余裕って奴にだ。情けねぇよな。大の大人があんな女の子を羨ましがってイジケてんだぜ。

 ドサッ!

 俺はしたたかに背中を地面に打ち付けたが、途中下車には成功した。しばらく呼吸が出来ない程に
痛い。だがそれでいい。俺は今、痛くて泣いてるんだ。結構遅れちまったけど、とにかく北だ。
風ちゃんを追いかけなきゃな。だけど、あの子を心配するより、早いとこ孤独から逃げ出してぇと
思ってる俺がいる。カズマぁ、助けてくれよぉ。こんな俺を、いつもみてぇにブン殴ってくれよぉ。
213ギーガ鉄道の夜 ◆v3IQLoJSTY :2006/12/14(木) 06:49:19 ID:Ek/vBGe9
【E-2/路上/1日目/黎明】
【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース】
[状態]:健康
[装備]:スパナ
[道具]:紅茶セット(残り10パック)、猫のきぐるみ、
包帯(残り6mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅)
[思考・状況]
1:火災現場(図書館)に獅堂光がいるか確認
2:自分の武器を取り戻したい
3:光、海と合流
[備考]
E-3西側よりE-2の路上を北上中。

【E-5/線路北側/1日目/黎明】
【君島邦彦@スクライド】
[状態]:健康、軽い打ち身(精神的に多少混乱)
[装備]:バールのようなもの
[道具]:ロープ、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅)
iPod(電池満タン、中身は不明、使い方が分からない)
[思考・状況]
1:鳳凰寺風との合流
2:カズマ、かなみと合流。この際、劉鳳でも構わない。
3:なんでもいいから銃及び車が欲しい。
[備考]
電車内ではウジウジ考え事をしていたので、ちゃんと外を観察していません

[共通備考]
元の世界や知人、魔法、アルターなどの知りうる情報を交換しました。
電車内で聞いた爆音は、うどん屋の粉塵爆発で、炎は図書館の火事です。
図書館の火事を獅堂光の魔法が原因かもと思っています。
電車の運行サイクルを理解しました。
黎明時の早い時間に、E-6の駅長室の電話が二度鳴りましたが、誰も出ていません。
214ギーガ鉄道の夜 ◆v3IQLoJSTY :2006/12/14(木) 06:50:28 ID:Ek/vBGe9
電車についての設定(案)

・ギーガ鉄道:無人です。人間の運転手は乗っていません。
旧式車両風装甲列車:外見はドラえもんに出てくる電車(山手線風)です
防弾ガラスと装甲板:拳銃くらいは余裕。それ以上は保障できません)
走行速度:時速30kmほど(一般人では追いつけないが、車だと軽く抜けるくらい)。
車内放送完備:スピーカーが壊れかけててギガギガ言います。ご了承ください。
複線の往復路線:他に稼動中の車両があるかどうかは不明です。
侵入禁止区域:乗車中は禁止区域の制限を受けません。途中下車は危険です。
時刻表:F-1駅からは2:30より4時間刻みで発車。隣の駅まで6分程。
運賃:駅の改札でどうぞ。
E-5の市街地に少女の死体と人ではない物が二体存在した。
片方は生命活動を終えた少女を抱えた青い蜘蛛型の機体、もう片方はそれを見下ろす黒い人形。
二体は、片方は無表情に、もう片方は嘲笑を浮かべながら対峙していた。

「ねえねえ、なんでキミはこの子を撃ったのさ?君が撃ったんだろ」
「あらぁ、ごあいさつねぇ。折角助けてあげたのにぃ」
「助けた?なんで?」
黒い少女、水銀燈と名乗る存在はそのままの体勢でタチコマを見下ろし続ける。
「当然でしょ、敵は排除しなきゃならないんだからぁ。この状況じゃあ、なおさらだしぃ」
だが、タチコマは反論する。
「敵は排除するという意見には賛成だけど、キミの意見には反対だ。
 彼女は怯えていたから僕を攻撃した。だけど、公務執行妨害以外の罪にはならないし、
 説得は不可能じゃなかったと思う。殺し合いに参加していたとしてもね。
 あの状況で彼女が僕に勝てる可能性は低いし。
 第一、君には僕の行動裁量権すら持っていないじゃないか。
 僕の自己保全の権限は低ランク。よって、君が助ける必要も彼女を殺す必要もなかった。O.K?」
水銀燈は多少口元をヒクつかせながら再び口を開く。
「……生意気ねぇ、乳酸菌でも採ったらどうかしらぁ?」
「僕にはそんな物は必要ないよ。天然オイルならタンク一杯まで飲みたいけど」

水銀燈はそんなタチコマに対して溜息を吐きながら、態々話しかけた理由を思い出すと
自分の考え実行することにする。
「ねぇ、あなたぁ。私と手を結ばない?」
「なんで?」
「あらぁ、決まっているじゃないのぉ。いくら私でも80の数を片付けるの……」
「絶対にノゥ!」
だが、タチコマには水銀燈の考えを理解できていたため、腕をクロスさせ否定の言葉を紡ぐ。
「…最後まで言わせなさいよ。まさか、みんな仲良く脱出できるなんて思っているのかしらぁ?
 だとしたら、とんだ笑い話だわ」
「僕としては、あのギガゾンビってのに約束を守る気があるのか、甚だ疑問に思うんだけどね。
 そういえば、君って人間でも義体でもロボットでもないね。熱源がほぼ0で稼動できるなんて、普通ありえないよ」
「ふん。私はローゼンメイデンの第一ドール、水銀燈。お父様が作った完璧な乙女。彼方如きに理解できるはずもないわ」
「ふ〜ん、そうなんだ。でも、何で服の裏の腹部ブロックがないの?
 少佐に良い擬体でも紹介して貰えるように頼んであげようかい?」


その言葉は完璧な乙女を自負する水銀燈にとって、最大の欠点でありかつ、コンプレックスを指摘する言葉でもあり、
決して言ってはならない台詞であった。
「ジャンクにおなり!!」
水銀燈は怒りに任せて銃の引き金を引く。
だが、その弾丸が当たる前にタチコマはバックし、龍咲海の遺体を抱えたままその場から逃げ出した。
銃弾は何発も外れ、何時しか小さな乾いた音が鳴る。
「チッ!弾切れか!?」
忌々しげにデイパックから新たなマガジンを取り出し、装填する。
「逃がさないわよ、私を侮辱した罪は償わしてあげるわ」
そうして、黒い羽を生やした少女は青い戦車を追った。


「ごめんね、僕が盾になってあげられなくて」
タチコマはそう言い、逃走先の裏路地に遺体を放置することにした。
これから起こる戦闘では、デッドウェイトになる事は明白だからだ。
「でも、これ以上この子の体を傷つけちゃいけない気がするのはなんでだろう?」
などと思考したものの、とりあえずは、すぐそこまで迫っている敵を迎え撃つため表に出る。
そこには、やはり少女がいた。
「あらぁ、態々ジャンクになりにきたのかしらぁ?」
だが、タチコマには水銀燈の挑発めいた言葉など通用しない。
「投降しろ!今ならまだ許してやる!」
「とうこうぅ?アッハハハハハハハハハ!空も飛べないくせに、どうやって私に勝てるって言うのかしら?」
「こうするんだい!」
そのまま、タチコマが何かを発射する。
「ふん、こんなもの」
だが、水銀燈はあっさりとかわす。が、

「何!?」
そのまま、建物の壁に張り付いたワイヤーを巻くことで、水銀燈に向かって高速でタチコマが飛んでくる。
「でも、遅い!」
水銀燈は少々面食らったが、僅かに位置を代え銃弾の雨を降らせる。


威力推定…10で装甲破壊-30Carbineを10として9mmx19は3-装甲破壊不可、回避の必要性無し。


だが、タチコマのニューロチップがそう判断するほど低威力である。
無論、装甲が劣化している現在ならばライフル弾でも貫けるが、ベレッタの9mmの弾丸ではライフル弾の半分以下の威力しか
持ち得ない。もし、一点突破を狙えばあるいは装甲を貫けるかも知れないが、水銀燈の射撃技術はトグサと比べても
児戯に等しいため、それは不可能であった。
そして、二体が距離を置いてすれ違おうとしたとき、突如水銀燈が体を捻る、その服に切れ目が付いていた。
それは、タチコマのマニュピレーターに何時の間にか握られていた剣によるものである。
タチコマは流石に普通にタックルをしても避けられると思考したため、支給された剣をデイパックから直前に出し、
離されるであろう距離を埋めることを思いついた。結果は失敗に終わったが。


「小賢しいまねを!」
水銀燈は、再び銃弾を放とうとするも乾いた音がするだけで、弾は発射されなかった。二度目の弾切れである。
「この役立たず!」
そのまま銃を放り投げる。
「玩具のくせに思ったよりやるわねぇ……お前には勿体無いけど……
 これで……ジャンクになりなさい!!!」
そして、黒き両翼から無数の黒い羽が壁に張り付いているタチコマに向かって射出される。
「うっわわわわ!羽飛ばしてくるなんて、ずるいんだぞ!」
流石にタチコマも乱数回避を実行するが、黒い羽の数発がボディを掠める。

威力推定-呼称羽射撃-威力6-連続被弾で装甲破壊の可能性有り-回避の必要性有り。

タチコマはそう判断し、光学迷彩を実行するが、
「うわ!」
「見え見えよ!」
無数の羽が漂う中では効果がなく、再び羽がボディを傷つける。
なんとか、攻撃を回避しながらタチコマはフルスピードで辺りを逃げ回る。
「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!そら、そら、もっと速く逃げないと穴だらけになっちゃうわよ」
そのまま、タチコマと水銀燈は街中で黒い羽を撒き散らしながら追いかけっこをし、終に行き止まりに突き当たった。
「あらぁ、もう終わりなの?なら、今度こそ本当にジャンクになりなさい!!」
そして、無数の羽がタチコマに殺到する。




だが、これで終わるタチコマではなかった。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
そのまま、デイパックの中から鎖付きの星型の鉄球、名称フレイル型モーニングスターを抜き出し、
水銀燈に対して平行になるように振り回す。無数の羽は鎖や鉄球によって、そのほとんどが叩き落される。
その武器は、単純そうな見た目に反し扱い事態は難しいが、時間を掛けて使用するためのプログラムを組んだ
タチコマにとっては雑作もないことであった。
「チッ!ちょこざいな!」
そのとき、脱力感が水銀燈を襲う。ミーディアムがおらず、長時間の戦闘機動も可能なタチコマ相手に、
長く戦闘を続けたため力が消耗されてしまったのである。
「えい!」
そんな、彼女に向かってタチコマは剣を投げつける。なんとか体をひねり水銀燈は避けるが、
「ワイヤー発射!」
バランスを崩した水銀燈にタチコマのワイヤーが迫る、なんとか初撃はデイパックを投げつけて防ぐも、
続く第二波が水銀燈の両腕に巻きつき、拘束されてしまった。
「まさか、私の力が途切れるのを狙って…」
「当然!さあ、最終警告だ。投降しろ!」
だが、彼女は決して敗北を認めない。敗北を認めてしまえば完全ではなくなるからだ。
「ふん!まだ、負けたわけじゃないわ!これぐらい…」
「投降しろって言ったよ、僕は。喰らえ!ガンダムハンマァァァァァ!!」
そのまま、タチコマは水銀燈に向かって、遠心力が加わり破壊力の増したフレイル型モーニングスターを投げつける。
「この!」
水銀燈は力を振り絞って羽でワイヤーを断ち切り、回避しようとするが、





その瞬間、フレイル型モーニングスターが水銀燈に直撃した。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
その叫びを残し、彼女はフレイル型モーニングスターと共に何処かへと吹き飛ばされていった。





「これでよし」
戦闘が終わり、辺りに散らばる装備を回収したタチコマはとあることを実行することにした。
それは、この状況下では特に有利になることでもなく。九課の誰にも教えられていないことではあったが、
それは、自身がやらなければいけないと感じたことである。

Umi Ryuuzaki sleep here :1980〜2031

雨の振る中、そう掘られたコンクリートの破片と、荷物が二つ、そしてタチコマの最後の支給品である西瓜が
E-5の空き地に置かれており、エクシードの剣が大地に突き刺さっていた。
それは、タチコマが作った即席の墓であった。あの後、支給品や荷物を調べる過程で
生徒手帳を発見し少女の情報が判明したため、墓に名を刻んだのである。
「じゃあ、君の道具は貰っていくね。こういうのって形見分けっていうんだっけ?そういえば、君の支給品は僕の榴弾と
 天候を操作できる道具だったよ。僕の装備が入っていただけでも驚きなのに、すごい道具が入っていて驚きさ。
 代わりに僕の支給品を置いて行くから、それじゃあね。バイバイ」
そうしてタチコマは、センサ−やボディから雨水を滴らせながら、その場を後にした。





【E-5市街地 1日目 黎明】
【タチコマ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:装甲がぼこぼこ、ダメージ蓄積、燃料補給済み
[装備]:ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)
[道具]:支給品一式、燃料タンクから1/8補給済み、お天気ボックス@ドラえもん、西瓜四十九個@スクライド
    タチコマの榴弾@攻殻機動隊S.A.C、双眼鏡、龍咲海の生徒手帳
[思考]:1、九課のメンバーを探しに行く。

*タチコマの光学迷彩はエネルギーを大きく消費するため、余り多用できません。
*タチコマの支給品には、食料の代わりに燃料が入っています。
*タチコマの榴弾は一機では装填不可能
*お天気ボックスは使用したエリアに四時間しか効果がありません、また晴れと雨と曇のカードしか付属していません。

*龍咲海の遺体はE-5の空き地に埋められました。
*龍咲海の剣@魔法騎士レイアース、西瓜一個@スクライド、デイパックは龍咲海の埋葬場所に放置されています。
*E-5に雨が降っています。


【E-5 1日目 黎明】
【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:消耗大、服の一部が破けている、フレイル型モーニングスターに吹き飛ばされている
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考]1、この状況をなんとかしたい
    2、真紅達ドールを破壊し、ローザミスティカを奪う。
    3、バトルロワイアルの最後の一人になり、願いを叶える。
*水銀燈のデイパックはE-5の龍咲海の埋葬場所に放置されています。
*フレイル型モーニングスターは水銀燈と共に飛翔中。吹き飛ばされ先は次の書き手さんに任せます。
221 ◆5VEHREaaO2 :2006/12/14(木) 23:53:46 ID:cQUP4SIU
すいません

Umi Ryuuzaki sleeps here :1980〜2031

に修正します。
222最悪の軌跡(1/8) ◆CFbj666Xrw :2006/12/15(金) 01:15:12 ID:YNEOHCGI
「とうちゃ〜ん!」

(……くそ)

「とうちゃ〜ん!」

何度も何度も、脳裏にしんのすけの声がこだまする。

「とうちゃ〜ん!」

(しんのすけ……!)

――しんのすけの未来の為に、他の子らの未来を潰すと言うのか。あの男の口車にまんまと乗せられて

(んな事はわかってるんだ!!)
しんのすけの声が、又兵衛の言葉が、何度も何度もこだまして頭を離れない。
何度考えてもこれは良い事でも正しい事でもない。
(だけど……だけどよう! それでも……それでもオレは父親なんだ!)
だから、殺さなければならない。
大人でも。子供でも。
男でも。女でも。
……だから、ひろしは新たな標的に向かって飛び出した。
物陰から、橋の袂に立つ女に向かって。
背後から、金属バットを振りかざして。
「うおおおおおおおぉっ!!」
振り下ろした。

     * * *

シグナムは考えていた。
何度も思い返していた。

「私達ドールは他のドールを倒し、ローザミスティカを奪わなくてはいけない使命の元にあった。
 私達は、アリスという存在になるために作られたのだから。
 そして、アリスになるにはアリスゲームに勝ち抜くのがその方法だと思っていた。
 つい最近、アリスゲームだけがアリスになる方法ではないと知ったけれど」

自嘲するような、哀しげな笑い声が脳裏に甦る。

「それに気付くまで大切なものを失ったわ。
 蒼星石さえ最後にはお父様のため戦うことを選んだ……選んで動かなくなってしまった。」

そう、真紅は失ったのだ。大切な仲間を。
奪い合いの中で生まれたであろう仲間さえ、争いに呑まれて失ったのだ。

「私は仲間達と合流して、対策を練る。
 アリスになる手段がアリスゲームだけでないように、きっと何か手段があるはずだから」

それに気づいた今ならな……彼女は何も失わずに済むのだろうか?
(……それさえも断言は出来ないだろう)
信頼できる仲間だけで集まっても、全てを失わないでいられるとは限らない。
理由は簡単な事だ。
世界は苦難に満ちている。
敵が居なくとも、闇の書が主を侵触するのを止めるためにシグナム達は戦いに身を投じた。
悪意ではなくただ悲しく強い意志により彼女達を絡め取っていた陰謀が有った。
争いは仲間達の内からと、仲間達の外から襲い来る。
そしてシグナム達ヴォルケンリッターは外敵を討つ剣なのだ。
シグナムはそちらを見もせず、背後へと木刀を振り抜いた。
223最悪の軌跡(2/8) ◆CFbj666Xrw :2006/12/15(金) 01:16:06 ID:YNEOHCGI
「ぐあぁっ!?」

呻き声と共に野原ひろしは叩き割られた鼻頭を抑える。
鼻から血がぼたぼたと滴り落ちた。
「な、なんで……!?」
「答える必要は無い」
シグナムの片手にはクラールヴィントが輝いていた。
その指輪に入っている石が分離し、指輪本体と紐でつながっている。
即ち振り子のようになったその石は、ぴたりと野原ひろしを指していた。
クラールヴィントは情報戦に優れたデバイスだ。
シグナムの苦手とする分野ではあるが、それでも近距離の索敵に使うには十分だった。
「答えるのはおまえだ。答えろ。おまえはなぜ殺し合いに乗った?」
「………………」
「答えろ!」
シグナムは木刀を突きつける。

「…………俺は、父親だ」

野原ひろしは鼻を押さえていた手を離し、金属バットを両手で構えなおした。
潰された鼻から流れる血とぼろぼろ零れる涙があっという間に顔をぐしゃぐしゃにする。
(……みっともねえ)
だけど。
「俺は、父親なんだ!」
「それなら模範となり、子の為になるように生きるべきではないのか?」
「ああわかってる! わかってるんだよ、んな事は!」
だけどそれでも。
「理屈じゃないんだよ!」
「そうか」
想いを込めた渾身の一撃は。
鳩尾に撃ち込まれた鋭い突きであっさりと止められた。
血に濡れた金属バットが地面に転がる。
「ご……げほ…………」
胃液が漏れて咳き込む喉を木刀が締め上げる。
窒息しないように、そして話せる程度に。
「……名前を聞いておこう」
「…………野原……ひろし…………父親……だ…………!」
「そうか。私はヴォルケンリッター烈火の将シグナム。だが……」
沈黙。
ひろしは背後の女が、歯を食いしばる音を聞いた。
…………。
「……私が誰かにこの名乗りをするのは、おそらくこれが最後だ」
「それは、どういう」
絞める。
「がっ」
「もう一つ聞かせてもらうぞ、野原ひろし。
 おまえが持っていたであろうデイパックはどうなった?」

     * * *
224最悪の軌跡(3/8) ◆CFbj666Xrw :2006/12/15(金) 01:17:12 ID:YNEOHCGI
井尻又兵衛由俊はしばらく陶然と見上げていた夜空から目を離した。
いつまでも物思いに耽っているわけにはいかない。
これからの事を考えなければならない。
(なによりひろし殿を止めねばなるまい)
まずは彼が残して行った支給品から調べるべきだろう。
野原ひろしのデイパックと、彼が殺した男のデイパック。
些細な事だが死者の遺品は後回しにし、ひろしのデイパックを開けた。
といってもひろしが使っていた武器は金属バットだ、それ以上の武器は出てこまい。
事実、逆さにすると中から転がり出た物はまるで武器には見えなかった。
「これは……宝石か?」
10個に及ぶ神秘的な輝きを放つ宝石。
それがひろしのデイパックから出てきた残る支給品だった。
「一体何に使うのだ?」
あの“ぱそこん”とやらも又兵衛には理解できない支給品だったが、これもとびきりだ。
少なくとも武器には見えないし、その機能も想像すらできない。
やはりこれはただの宝石なのだろうか?

「驚いたな、カートリッジシステムと極めて近似した系統の魔導具らしい」
「曲者!?」
ハッと振り返ったそこには一人の女が立っていた。
その足下まで転がった1つの丸い宝石を拾い上げ、しげしげと眺めている。
俯いたその顔は髪に隠れ、表情は見えない。
警戒し、しかしすぐにその警戒を緩める。
(こやつは不意打ちをする女ではない)
この気配。戦場(いくさば)において何度も相対したこの人種。
「そなた……武人か?」
「……そうだ」
首肯する。だが、又兵衛はハッと息を呑んだ。
「その……バットは……?」
「………………」
女は片手に持っていた金属バットを放った。
それは甲高い音を立てて又兵衛の足下に転がった。
……その握り手には、べっとりと紅い手形が付いている。
「野原ひろしより奪った物だ。この場所の事も、おまえの事も聞いた」
「ひろし殿を……殺したのか?」
「…………そうだ」
抑揚のない答えが返る。
「何故だ!?」
「言うまでもない。あの男は殺し合いに乗っていた。
 主に害を為しうる者は排除する。それが騎士の務めだ」
「それは……!」
その通りだ。
野原ひろしはギガゾンビの言う殺し合いに乗っていた。
誰かを殺そうとする者が誰かに殺される事に不平を唱える資格は無い。
「だがひろし殿は……悪人ではなかった!」
それでも又兵衛は叫んだ。
「ひろし殿はただ父親であろうとしただけだ。
 ただ……ただそれ故に愚かな過ちを犯してしまっただけなのだ!」
(拙者は何を言っているのか)
目の前の女が何者かは知らない。
だが非はひろしに有り、彼を殺した事を非難する事は出来ない。
彼女を恨む権利はなく、ましてや彼女に復讐するなどもっての他だ。
「ひろし殿は……」
225最悪の軌跡(4/8) ◆CFbj666Xrw :2006/12/15(金) 01:18:34 ID:YNEOHCGI
「……判っている。
 あの男の想いは痛いほどに判る。どれほどに痛み、どれほどに苦しんだのかも。
 なにせ……」
女は顔を上げた。
又兵衛はあっと息を呑んだ。
「あの男と同じ選択をした今となってはな」
彼女の表情は、あの時の野原ひろしとまるで同じだったのだ。
顔は違う。男と女、中年と美女、人種も積み重ねた物もまるで違う。
だが悲痛な想いと切実な決意が、痛々しい覚悟と破滅的な希望と共に同居する表情は、同じ。
女はその表情を、想いを――継承していた。

     * * *

「答えるのはおまえだ。答えろ。おまえはなぜ殺し合いに乗った?」
シグナムは襲ってきた男を問いつめた。
なぜそんな事を聞いたのだろう。
殺し合いに乗った者達の言い分を聞く意味など無いというのに何故気にするのか。
「答えろ!」
(……私自身の中に迷いがあった為だ)
だから聞いて、答えを得た。
その答えはたった一言で、そして十分すぎる答えだった。

「…………俺は、父親だ」

男は鼻を押さえていた手を離し、金属バットを両手で構えなおした。
潰された鼻から流れる血とぼろぼろ零れる涙があっという間に顔をぐしゃぐしゃにする。
シグナムはその弱々しい姿を見て、強いと思った。
その醜い姿を見て、気高いと思った。
「俺は、父親なんだ!」
「それなら模範となり、子の為になるように生きるべきではないのか?」
シグナムにも判っていた。
だけどそれでも、意味が無いと判っていても問い掛ける。
「ああわかってる! わかってるんだよ、んな事は!」
答えは予想通り。
「理屈じゃないんだよ!」
「そうか」
(そうだな)
そう、それは理屈ではない。
誤った道。
赦されない道。
大切な人を傷つけてしまうかもしれない道。
その大切な人と自分が一緒に居る事が許せなくなる道。
……少し遠回りになる事を許容するだけで他に幾らでも道のある近道。
それでもその道を選びたい程に大切な人が居る。
自らの全てを捧げ、正しきを放棄し、心を傷つけてでも護りたい人が居る。
(あの時の私達と変わらない)
かつてヴォルケンリッターが八神はやてとの約束を破り、罪無き人々を傷つけてでも、
密かに魔術師達のリンカーコアを集めていたあの時と。
あの時との彼女と目の前の男の違いは、それより更に何歩も過ったこと。
それと、無力であること。ただそれだけだった。
素人丸出しの愚直さで向かってきた男に木刀を撃ち込み、首を締め上げる。
「……名前を聞いておこう」
「…………野原……ひろし…………父親……だ…………!」
「そうか。私はヴォルケンリッター烈火の将シグナム。だが……」
続く言葉を呑み込む。
226最悪の軌跡(5/8) ◆CFbj666Xrw :2006/12/15(金) 01:19:20 ID:YNEOHCGI
(――覚悟を、決めろ)
あの時、シグナムは騎士の誇りを失ってでも八神はやてを護ろうとした
今度は騎士の忠義すらも失う。
八神はやての為? そんな事は口が裂けても言ってはならない。
主の為に罪無き人々の命を奪ったなど口にしてはならない。
理由にしてもならない。
これはあくまでシグナムが勝手に行う事だ。
最早騎士でもないただの修羅が、一人の少女を生かしたくて勝手に行う事だ。
だから歯を食いしばって言った。
「……私が誰かにこの名乗りをするのは、おそらくこれが最後だ」
そして、何故かバットを持つだけで持っていなかったデイパックの場所を聞き出してから、
シグナムは野原ひろしの首の骨を折って、殺害した。

     * * *

「バカな、そなたのような武人までもこのような下らぬ戯れに乗るというのか!?」
「そういう事になるな」
女は決然と答えた。
「考え直せ! 脱出の手段、反抗の手段は必ず有る! 諦めてはならぬ!」
「……ああ、きっと有る。我が主も今頃はそれを捜しているだろう。
 そして、主ならきっとそれを見つけだすだろう」
「それが判っているならば、何故だ!?」
「例え主が正しき道を行きても、敵は居る。殺し合いは止まるまい。
 ……私は少しでも主が生き残る可能性を増やす。それ以外を殺す事によって」
「主の道を血で汚す気か? 殺し合わずに全てを解決しようとする主なのであろう?
 そなた、罪無き者達の血で汚れた顔を主に向けるつもりか!?」

女――シグナムはかつてを回想する。
罪無き者達を傷つけてでも主を救うと誓った時、ヴィータは言った。
『はやての未来を血で汚したくないから、人殺しはしない。だけど、それ以外なら何だってする!』
そう誓ったのだ。
(だが、私はそれさえも破ろうとしている)
だからこそせめて。
「私が主と相まみえる事は、もう無い」
故に最早名乗る名は無い。
「我が不忠義を主が耳にする事も、無い」
そう、その為に。
「私が殺し合いに乗った事は、誰にも報せない」
「…………そうか」
又兵衛は目の前の女、シグナムの行動方針を悟った。
彼女は自らが殺し合いに乗った事を知る者を一人として生かしておかない。
又兵衛は足下に転がった金属バットをゆっくりと拾い上げる。
シグナムはクラールヴィントを身につけた左手に宝石を掴み、宝石ごと両手で木刀を握る。
最早言葉は何の意味も為さない。
そして戦いは。
「ならば……いざ尋常に、勝負!」
「応!」
――一瞬の刹那で決する。
227最悪の軌跡(6/8) ◆CFbj666Xrw :2006/12/15(金) 01:20:16 ID:YNEOHCGI
シグナムはカートリッジシステムの無いクラールヴィントを宝石に秘められた力により仮想駆動。
宝石の魔力がクラールヴィントを経て木刀に流れ込み、シグナムの最も得意とする必殺の魔法を起動する。
――紫電一閃。
それは魔法にして武術だった。
業火に包んだ刀身による一撃はあらゆる障壁を打ち破り敵を打ち倒す必殺の刃。
炎に包まれた木刀が朽ちるまでは一瞬、しかしその一瞬で一度だけの打ち込みが放たれた。
本来の武器ではない仮初めの、ただの木刀故にたった一度だけの一太刀。
故に又兵衛はそれを金属バットで受け止めようとした。
「おおおおおぉっ!!」
耐えきれば、相手の武器は砕け散る。
耐えれば又兵衛の勝利。打ち破ればシグナムの勝利。
決着は一瞬で訪れる。
……永遠の様に長い闘争の刹那の中で、又兵衛の右腕の力が僅かに抜けた。
(しまった、ひろし殿に受けた傷――)
半ばまで溶けた金属バットが弾け飛び、木刀が一瞬にして燃え尽きる。
その時には既に、業火の刃は又兵衛を斬り裂いていた。

「みご……と……」

鈍い音を立てて、又兵衛は崩れ落ちた。

「………………すまぬ」

シグナムの手の中で宝石が砕け散る音がした。
もっと大切な何かが砕けてしまった音がした。



こうして井尻又兵衛由俊は死んだ。
彼が止めようとした野原ひろしは殺された。
そして彼と同じ道を辿ろうとするシグナムを止められなかった。
彼の死に何よりも傷付く者は少なく、彼の死がもたらす物は無い。
それは全く意味の無い死だった。
無駄死にだった。
228最悪の軌跡(7/8) ◆CFbj666Xrw :2006/12/15(金) 01:21:41 ID:YNEOHCGI
だが、そんな死でさえもこう言うべきなのかもしれない。
運が良かったと。
野原ひろしも死んだ。
子供達を愛する穏和な男を一人殺しただけでそれ以外殺せずに死んだ。
鬼になってさえ息子に危害を及ぼす者を一人たりとも減らせずに死んだ。
それどころか彼の覚悟と過ちは、人殺しを増やす事となった。
野原しんのすけを殺そうとする者を一人増やす結果になった。
それは断じてゼロではないのだ。
ゼロよりも小さなマイナス。
無意味よりも悪い最悪。
最悪の死に様。
最低の成果。

そして――

     * * *

(……罪無き人を殺めたのは久しぶりか)
人を殺めたのは初めてというわけではない。
八神はやてと出会う前、それ以前の主の元でなら人を殺めた事は有った。
罪無き者を殺めた事も無かったわけではない。だが。
(クッ…………吐き気がする)
吐いてしまうほど無様では無いが、それでも吐き気を覚えた。
久しぶりのせいだろうか。
(いや。違う)
シグナムは床に転がる宝石を一つ拾い上げた。
偶然にもベルカ式に極めて近似した構造と性質を持つ魔術の武器。
(使い捨てデバイスとでも言うべき物のようだな)
クラールヴィントでやった事はそれを微調整しシグナムの魔法に修正しただけ。
ならば簡単なことだ、今から使う魔法など。
――騎士甲冑の創造。
シグナムの全身が光に包まれ、騎士としての甲冑が顕現する。
なのは達ミッドチルダ式におけるバリアジャケットと同じく魔力で編まれた装甲服。
彼女達のそれは最初に主から形を賜らなければならないが、それ自体は魔力で創造する。
その形状が性能を左右する事も無い。
新たな主になった八神はやてにそう伝えた時、彼女は言った。
「そやけど、わたしはみんなを戦わせたりせえへんから」
そう言って彼女がイメージした形は服だった。
彼女曰く、騎士らしい服。それが八神はやてが騎士達に与えた騎士甲冑だった。
この服に限った事ではない。
ヴォルケンリッター達は彼女に出会って何もかもが変わった。
それまでの主のように、高圧的に接するでもなく物のように接するでもなく、家族として。
大切な家族として扱う彼女から、ヴォルケンリッターの心は徐々に温もりを得ていった。
何よりも大切な、誰よりも愛おしい家族。
そんな彼女が主だったからこそ、シグナムは彼女を護るために道を外れた。
(……すまない、主はやて)
229最悪の軌跡(8/8) ◆CFbj666Xrw :2006/12/15(金) 01:22:51 ID:YNEOHCGI

………………。
転がる荷物を整理する。
又兵衛の荷物からは銃が見つかった。シグナムの好みでは無いが一応は持っていく。
パソコンは使いそうに無いから置いていく事にした。
野原ひろしの荷物から見つかった魔法の宝石は全て持っていく。
野原ひろしが殺した男の荷物からは、原始的な武器ばかりが幾つも転がり出た。
一つ目は日本刀のような刀だ。ごく普通の鞘付き。
(……打って付けだな。私には性が合う)
試し振りしてみると鍛え抜かれた刃は彼女の実用にも耐える名刀だった。
二つ目は折り畳み式の大鎌。
(元から使いにくい武器だが重心が妙だな。とても小柄な少女が使うような……)
そう、例えば彼女の好敵手であったフェイトという少女であれば上手く使いこなすだろう。
一応、刀の予備としてデイパックに放り込んでおいた。
空間を操作する魔法でも掛かっているのか、デイパックは体積も質量も感じさせない。
そして三つ目は、弓矢だった。
碧色のシンボルカラーを基調としたその弓は清廉な美しさを感じさせた。
実はシグナムは弓矢も使いこなす。
彼女のデバイスであるレヴァンテインにもボーゲンフォルムという弓矢形態が存在した。
その形態から二つのカートリッジを消費して放つシュツルムファルケンこそが、
シグナムの使う魔法の中でも最大の破壊力を誇る必殺技だったのである。
単純性能では銃の方が使いやすく安定した威力を誇るが、弓矢の方が使い慣れている。
迷わず狙撃用として持っていく事を決めた。

シグナムは狙い通り、三人分も集中して残っていたデイパックから十分な装備を整えた。
後は覚悟だけ。
部屋を出ていく時に一度だけ振り向いた。
それを最後に迷いを振り切って歩き出す。
(まずは主はやてを殺す可能性が有る者を優先する。
 ヴィータを殺す必要は無い。もしあいつがはやてと最後まで残る事があれば自害するだろう。
 ……それまでに主が脱出手段を見つける事を祈ろう。
 なのはやフェイトも後回しで良い。最後に残らなければ放っておいて良いだろう。
 それ以外は……無害なフリをしている者と区別が付かない。全て仕留める。
 逃してはならない。名前を名乗らずとも姿を見せて逃してはならない。
 何故ならそれが主の耳に入れば主が築いてしまうからだ。
 だから、一人残らず殺す。
 その方が、ほんの僅かでも可能性が上がるのだから)
その思考は自暴自棄でも出鱈目でもない。
理路整然と必要なことと不要なことを選り分ける。
ヴォルケンリッターの主はあくまで八神はやてだが、シグナムはその将だ。
主の指示が無い時にヴォルケンリッターを指揮する彼女の思考は健在だった。
事実、必ずしも間違っていたわけではない。
主はやてが正しき道を歩み、しかし非力で暴力に屈しうるという予想は的を得ていた。

八神はやては気高き意志で殺人を否定し、その非力さ故に既に殺されていたのだから。

(クラールヴィントを使えば個人識別は無理だが無差別の探索は出来る。
 この周辺の通りを通る者が居れば、まずはそれを矢で狙うか、あるいは……)

哀れな騎士は気づかない。
主が死しても在り続ける筈が無い。筈が無い事が起きている。
それに気づかずに騎士は無意味よりも悪い最悪へと突き進む。

哀れな騎士は道化と化した。

【野原ひろし   死亡】
【井尻又兵衛由俊 死亡】


230最悪の軌跡(報告) ◆CFbj666Xrw :2006/12/15(金) 01:23:59 ID:YNEOHCGI
【D−3 橋の袂 黎明】
野原ひろしの死体が転がっています。

【D−4 雑居ビル 黎明】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:健康/騎士甲冑装備
[装備]:ディーヴァの刀(BLOOD+)
    クラールヴィント(極基本的な機能のみ使用可能)(魔法少女リリカルなのはA's)
    凛の宝石×8個(Fate/stay night)
    鳳凰時風の弓矢&矢24本(魔法騎士レイアース)/コルトガバメント
[道具]:支給品一式/ルルゥの大鎌(BLOOD+)
[思考・状況]1はやて、ヴィータ、フェイト、なのは以外の参加者を殺害する。
        2ゲームに乗った事を知られた者は特に重点的に殺害する。
        3危険人物優先だが、あくまで優先。
        4もしも演技でなく絶対に危険でないという確信を得た上で、
         ゲームに乗った事を知られていないという事が起きれば殺さない。
 ※シグナムは列車が走るとは考えていません。

ディーヴァの刀 :特別な効果は無い。資産家な超人の物なので丈夫な業物ではある。
ルルゥの大鎌  :特別な効果は無い。超人的身体能力を持つ小柄な少女の武器だった。
鳳凰時風の弓矢:特別な効果は無い。鳳凰時風にはサイズが完全に合うだけ。

三人分の荷物一式
井尻又兵衛由俊の死体
ノートパソコン
が残されています。
231名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 03:25:56 ID:WAFBQn3m
>>161->>166は無効です。
232GOODBYE SUPER GIRL ◆dNRCLumUaE :2006/12/15(金) 19:07:02 ID:ui16R+c0
おいおい。今の何だよ。
さっきうめき声聞こえたぞ。男の。
後ろには遊園地を破壊した化けものがいるっぽいのに前も殺し合いかよ。
これじゃ海に飛び込む…バカか。二人も化け物居るなら三人も四人も居るに決まってるだろ。
大体イアンソープでもないのに泳いで逃げ切れるわけ無いじゃないか。
僕は決して泳ぎは得意じゃないぞ。
それなら…前だ。敵は自分の存在を知らない。それに遊園地を破壊する奴よりマシだ。
ただの殺人狂なら…僕の方にも勝機はあるぞ。…殺す気で行く。
それには…モデルガンは邪魔だ。物干し竿は…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
233GOODBYE SUPER GIRL ◆dNRCLumUaE :2006/12/15(金) 19:07:55 ID:ui16R+c0
便利な剣ね。これなら誰でも殺せるわ。
私は最強かもね。キョンくんの首を一刻も早く刈って…涼宮さんにもって行かないと。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
234GOODBYE SUPER GIRL ◆dNRCLumUaE :2006/12/15(金) 19:08:53 ID:ui16R+c0
二人の距離が近づく。その距離は二メートル強。

「やあ。君は誰?僕は…桜田ジュンです」
よし完璧だ。とりあえず僕は普通の中学生だ。
殺しなんて見てない。悲鳴も聞いてない。…油断してくれ。

「えっ…あっ。私は…長門有希です」
一人か。弱そうだし演技すること無かったかな。そうだね。さっさと殺そう。

まだ…あの女僕が殺したことを知っているのに気付いてない。
…あっ。右手を後ろに隠してる。武器か?間合いは…長くない。近づいてきた。…今だ!

「えっ!?」

朝倉涼子は倒れた。後ろ手に持ったチャンバラ刀は宙を舞う。
そして朝倉涼子は…地面に倒れる。

「やったぞ。上手く行った」

ジュンの攻撃は見事に炸裂した。
朝倉涼子が駆け出した瞬間。四次元ポケットから出した物干し竿。
それをカウンターの要領で額に直撃させた。

「……計算外。あの刀…届かない。もう一つの刀で…」

「うわああああああぁぁぁぁ」
235GOODBYE SUPER GIRL ◆dNRCLumUaE :2006/12/15(金) 19:11:35 ID:ui16R+c0
とある少年の悲鳴。

ここで殺してやる。殺す気だった。
殺さないと……殺される!


はあ。参ったな。まさかこんなところで。油断しちゃった。
どうせならあの二人の首……。最初に投げつければよかっ……。



そこで朝倉涼子に思考は掻き消えた。
ジュンはトドメとばかりに飛び掛り朝倉涼子に顔面めがけて物干し竿を突き立てたのだ。

もう…朝倉涼子は動かない。
ギガゾンビの制限。頭部を破壊したら死ぬ。
その制限を知らなかった者は男二人の命。そしてその二人を愛した数々の女の笑顔。
それだけを奪い去り…自らの本来やるべきことを何一つ果たせずに………散った。



「やった。僕は…真紅。僕は…僕は………」

コロシタ。ネエチャントトシノカワラナイオンナヲ…

「うわああああああああああぁぁぁぁぁ」

少年の絶叫が響いた。
朝倉涼子は死して…更なる一人の男を…闇に落とした。





【H-3 ・防波堤中央部・1日目 早朝】
【桜田ジュン@ローゼンメイデン】
[状態]:混乱。
[装備]:物干し竿、
[道具]:支給品一式、モデルガン
[思考・状況]
        1:人を殺した
       2:真紅…
       


【朝倉涼子  死亡】

H-3の防波堤には朝倉涼子の所持していた
チャンバラ刀。
そして朝倉涼子の支給品のバック、(中にチャンバラ刀ののり、オボロの刀、アヴァロン、ハクオロと才人の首、アーチャーの腕、支給品×3)
が落ちています。
236老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:16:28 ID:HHfSwyIw
白銀の髪が突風に揺れる。
珍妙で巨大な建築物が破壊され崩れ落ちていく。
鉄で出来た箱が次々と地表に激突し、またも突風を生む。
背筋が凍る。

身に着けた甲冑を。
その下に着込んだ耐刃防護服を。
一見華奢ながら、戦場で鍛え上げられた体皮と筋肉を。
脈々と流れる平凡ながら野心に燃える熱い血潮を。
戦慄が穿って奔り、心臓を強く速く打ち鳴らす。

冷や汗が頬を伝う。
円形のリングの中に居た馬たちが一瞬で引き千切られて宙に舞う。
血を噴出さないところをみると、作り物だろうか。
およそ常識では考えられない超大な破壊を行った、全身を鎧で纏った者が飛び上がって高い柱の上に立つ。
月光に映える威容。
そして彼のものは、およそ常識では考えられない速度でどこへともなく消え去った。

その破壊を遠くから眺めていた男、グリフィス。
彼は破壊が終了したことに数秒遅れて気付き、深く空気を吸い込んで一歩退く。
引かれた足が当たり、店先に置かれたマスコットのような大きな人形を倒してしまう。

「何だ……今のは」

グリフィスは右手に構えた銃を取り落とす。
剣と矢による戦争を生き抜いてきた者にとって、その光景は余りに刺激が強すぎた。
237老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:17:14 ID:HHfSwyIw

それはまさしく一騎当千。
人の想像届き得ぬ、人外の破壊活動だった。

「あれではまるで……」

脳裏に浮かぶは同じく人外のバケモノ。
常人の十倍近い背丈を持つ牛面の異形、『不死の』(ノスフェラトゥ)ゾッド。

「―――――ッ」

そうだ、今見たものは人間ではない。
自分に絶え間なく近づき蝕の刻を渇望する者たちの一種。
使徒―――とか名乗っていたか?

「贄ばかりではないということか」

あの闇の世界のもの達も、この宴には招かれているのか。

「だが、何も恐れることはない」

あのガッツでさえ手に余した化物たち。
自分には、それすら従えさせられるという自信が、確信があった。

「―――心配ない」

グリフィスは自分に言い聞かせるように呟いて銃を拾い、崩れていく建物に向かった。
238老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:19:10 ID:HHfSwyIw

片眼鏡の老人が遊園地を闊歩している。
彼、ウォルター・C・ドルネーズも先の破壊に惹きつけられて歩を進めていた。

「ふむ、ここにくるまで誰にも会わなかったが……」

この通りを抜ければあの観覧車は目前。
あの破壊を行った者はその場を動いていないのか?
破壊者が人を呼び寄せて順次撃破していく腹だとしたらそうだろう。
その場合は呼び寄せる手段として大規模な破壊を行った事から強者を求めていると推測される。

「……アーカードだったらお笑い種だな」

チラと浮かんだ想像を押し込める。
まあ破壊者がこちらの方行に向かわなかっただけかもしれないし、そもそもあの破壊が戦闘の副産物で破壊者は死んでいる可能性もある。

「まあ色々考えても仕方ない」

通りを抜け、観覧車の全貌が目に入る。
恐らくは四十個ほどあったと思われるゴンドラのほとんどが地面に叩きつけられ、砕けて瓦礫の足場を作っている。
車輪状のフレームもあちこちが軋んでおり、正常に稼動することは不可能だろう。
脇にあるメリーゴーランドもボロボロだ。

「……無粋な真似をするものだ」

この観覧車など、周囲の様子を確認するにはもってこいの物だというのに(動くかどうかは知らないが)。
恐らくこれを行った者はそうとうに短絡的な思考の持ち主なのだろう。
ウォルターは周囲を見回し、観覧車の近くに自分と同じくこの惨状を見上げている男を発見する。
中世の鎧を身に纏った優男。
白銀の髪が闇夜によく映えている。

(……あの男が?)

ウォルターは臆することなく気配を断って近づき、50mほど離れた位置から話しかける。

「これは貴方の仕業ですかな?」
239老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:20:27 ID:HHfSwyIw


鎧の男、グリフィスはウォルターに気付いていたかのように驚いた素振りも見せず顔を向ける。
焦ることもなく、静かにウォルターを見つめ、再び観覧車に目をやって言う。

「そう見えますか、御老人?」

ウォルターも観覧車に目をやり、その惨状をまじまじと眺めて言う。

「まあ見かけによらない、と言う言葉がありますしな……人も、人ではないものも……」

ぼそりと、しかしグリフィスには確実に聞こえるような大きさで呟くウォルター。
グリフィスは『人ではないもの』と聞いて横目でウォルターを睨み、満面の笑みで振り向く。
そして懐から短機関銃―――マイクロUZIを引き抜き、無造作にウォルターに向けて乱射する。

銃が手の中で暴れる。
心地よい音を上げながら激しく振動し、熱い弾丸(モノ)をぶちまける。
しばしその快感に身を任せ、グリフィスは発砲を止める。
多量に上がる硝煙の匂いを嗅いで咳き込みながら、ウォルターに目を向ける。
どんなことになっているだろうか―――と、思いながら。

そこには、蜂の巣になって倒れている死体も、憤怒の声を上げて姿を変え、襲い掛かる怪物もいなかった。
グリフィスの目に初めて焦りがよぎる。
240老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:23:52 ID:HHfSwyIw
「ほう……ウージーか。ワルシャワではお目にかからかった銃をこんなところで」

不意に背後から声が聞こえ、グリフィスは銃を構えたまま咄嗟に体を後ろに向ける。

「……見るとはね。銃火器の運用に慣れていないのかね?銃に意識をやっているのがみえみえだったよ」

ウォルターは言いながら、懐から得物を取り出す。
鎖を付けた鎌。鎖の先には分銅が。

「慣れない武器に命を預けるものじゃない……強力な武器であるならなおさらのことだ」

分銅を指で弄くりながらウォルターが云う。

「わたしはウォルター。ウォルター・C・ドルネーズ。ヘルシング家執事、元はヘルシング機関のゴミ処理係をやっていた」

鎖を自在に操って分銅を振り回し、眼を鋭くして言うウォルター。
グリフィスは不敵に笑い、銃を構え直して言い放つ。

「騎士として、名を名乗られたからには名乗らぬわけには参りませんね。私はグリフィス。恥ずことながら仕える主はおりません」

ウォルターが薄く笑って返す。

「礼儀を弁えたいい若者だ。教育してやりたいが……残念、ここは実戦場だ」
「いえ、是非とも御教授願います―――実戦の中でね!」


銃声。
241老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:26:11 ID:HHfSwyIw
ウォルターは銃弾をかわしながら走り、グリフィスに分銅を発射する。
グリフィスは横っ飛びに避け、地面を転がって鎖を手操ることによる分銅の追撃をも避ける。
分銅が地面に当たって穴を穿つ。

(戦闘のセンスはなかなかのもの……恐らくは軍人か傭兵。随分と前時代的な出で立ちだが)

グリフィスは倒れたままで半身を起こして発砲。
銃弾が迫り、鎌の部分で受け流す。

(前時代的というのはこちらの武器も同じか。鎖鎌とは……さっきはあんなことを言ったが、なかなかいい武器だ)

分銅を戻し、鎖を数十センチ垂らして回転させ、走りながら狙いをつけ、再び分銅を発射。
体勢を崩しているグリフィスは、かわしきれずに甲冑の腹に分銅の直撃を喰らい、吹き飛ばされる。
だが鎧のおかげで大した衝撃はなかったようで、立ち上がって再び銃を構えた。

(首を狙ったのだが……昔のようにはいかないものだな。しかしあの鎧は厄介だ)

分銅を手元に戻し、回転させながら再び狙いをつける。
銃弾が飛び交うが、意に介さずにグリフィスにジグザグに走りながら突っ込む。

(射程に差があるのだ、怪我の一つ二つは覚悟しなくてはな!芳しい硝煙の匂い、若かりし日の戦場を思い出す!)

分銅がグリフィスの下に一直線に発射される。
同時に一瞬生まれたウォルターの隙を逃さず、銃弾がウォルターの左腕を貫く。
痛みに足を止めたように見えたウォルターに向け『しめた』と笑んで銃の引き金を引こうとしたグリフィスに、ウォルターも笑みを返す。
発射された分銅は鎧の胸の部分の甲冑―――心臓の上の甲冑をはじき飛ばすと同時に、マイクロUZIをも同心円状の動きで宙に舞い上げる。

「Check!」

叫びながら一瞬で間合いを詰めるウォルター。
後ろに逃げようとするグリフィスは、しかし瓦礫に躓く。
そう、追い詰められたるは観覧車の真下。
鎌が剥がれた甲冑の部分、心臓を狙って振り下ろされる。
242老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:27:50 ID:HHfSwyIw

―――しかし刃は止まった。

「!?」

「本当にっ……便利だな、これは!」

グリフィスは言ってウォルターの襟元を掴んで後ろに投げ飛ばし、デイパックからロープを取り出す。
ウォルターは受身を取りつつ鎖鎌を持ち直し、立ち上がる。

(防弾……いや防刃か!)

対抗策を考えながら振り向くと、天に伸び、どうしたことか空中で固定されたロープを握ってグリフィスが冷たい眼で見つめていた。

「―――ハァッ!」

ロープがしなり、グリフィスが捕まりながら宙に舞う。
放り上げられていたマイクロUZIをキャッチし、一回転してウォルターの真上、辛うじて落下を免れたゴンドラの上に降り立つ。

「真逆―――!?」

ウォルターが一瞬で予測した通りに、グリフィスはゴンドラを支える支柱に銃を向け、発砲する。
絶え間ない銃声、そして―――!

ガコンッ!


ゴンドラが、落下した。
243老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:28:49 ID:HHfSwyIw
「無茶をする若造だ!」

落下してきたゴンドラを辛くもかわしたウォルターは、舌打ちしながら周囲を見回した。
埃が充満していて視界が悪い。
あの男は上か、右か、左か、後ろか、正面か―――?
眼では見つけるのは不可能、とウォルターは悟る。

(視覚でも触覚でも味覚でも嗅覚でもない、聴覚を、聴覚だけを研ぎ澄ませ。反射する音の源を突き止めろ)

脱力する。
飛び散り触れる破片を認識する触覚。
舌を麻痺させる。
破片によって切れた唇から流れる血の味を認識する味覚。
眼を閉じる。
埃と破片のみを認識する視覚。
息を止める。
硝煙と立ち上がる埃の臭いを認識する嗅覚。

全てを断ち、聴覚だけを研ぎ澄ます。
―――聴こえた。
連続的に金属と金属がぶつかり合う音。
それは鎧をつけた男が柱を歩くような。

(――――――上か!)

音の源を感知し、鎌を外して投擲する。
音は止んだ。直撃。
眼を開け、風を切って落ちてくる音源を見遣る。
244老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:29:52 ID:HHfSwyIw

――――――それは、マイクロUZIの予備カートリッジ。
先程のロープが括り付けられ、そして先程投げた鎌で切れて落ちたようだ。

「ブービー……」

刹那、足元の瓦礫の山からグリフィスが飛び出す。両手に先が尖った長い鉄の棒を握っている。

(ゴンドラの中に―――)

かわせない。
ウォルターのどてっ腹に棒が突き刺さる。

「―――ォォォ」

グリフィスが気合の篭った声を上げながら、更に鉄の棒、いや、杭を刺し込む。

それは。

「オオオオォォォオオオォォオォオオッ!!」

それは、勝ち鬨の声。
245老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:31:12 ID:HHfSwyIw


「―――ありがとうございました」

グリフィスは胸の甲冑を拾って付け直し、予備カートリッジを拾い、マイクロUZIを懐に仕舞いなおし、そしてロープを回収して言った。
相手は串刺しになってなお生きている、ウォルター・C・ドルネーズ。
彼のデイパックから食料を抜き取りながらさらに言を続ける。

「慣れない武器に頼りすぎるな―――まったくその通りですね。私は剣を探すとします」

殆ど当たらなかった自分の銃の腕前を恥じているのか、少し顔を俯けている。

「教授代を払いたいところですが……楽にしてあげましょうか?銃弾はもったいないから、この棒を捻って引き抜くことになりますが」
「まあ、食料をくすねておいて言うのもなんですけどね……」

鉄の棒に手を掛け、悪びれることなく言うグリフィスにウォルターは苦笑いして言う。

「ク……ク……構……わんよ。今……走馬灯が見えているんだ。余計な……真似は……しないでくれ」

ゴフッ、と血を吐くウォルター。
グリフィスは肩をすくめると、「では、いい夢を」と言い残し、去っていった。
246老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:32:31 ID:HHfSwyIw

一人残されたウォルターは呟く。

「フフ……串刺しで死ぬ……とは、アーカードは……うらやましがるかも……知れんな?」

そして、グリフィスが甲冑を探している間に懐に隠しておいた、輸血用の血液パックを取り出す。
彼は、支給されたアイテムが武器だと思っていたため、これは全員に支給されたものだと思っていた。
それを眺めながら、恐らくは最後になるであろう、脳の活動を行う。

(セラス嬢……アーカード……ここに来るかは知らんが……死人の……それも老いぼれの血などより、こちらの方がいいだろう……?)

血液パックを自分のすぐ側の瓦礫の下に隠す。
そして、空を見上げる。

――――――朝を迎えそうだった。

ああ―――自分の使える主は、目覚めて自分と頼れる僕のアーカード、そのまた僕のセラス嬢がいないと気付いてどうするだろう?
錯乱するだろうか?
悲しむだろうか?
それとも、全力で探し出そうとするだろうか?

探し出せたとしても、自分はもう死ぬ。
主に失望されるかもしれない。

(イン……テ……も……せん……)
247老兵は、 ◆UJlsurBQPM :2006/12/15(金) 19:36:37 ID:HHfSwyIw

今、老兵が死んだ。



―――――――――しかし、物語は終わらない。








【G−5 遊園地・1日目 早朝】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:疲労
[装備]:マイクロUZI(残弾数18/50)・耐刃防護服
[道具]:予備カートリッジ(50発×1)・ターザンロープ@ドラえもん・支給品一式(食料のみ二つ分)
[思考・状況]
1:皆殺し
2:剣欲しい

備考:ターザンロープは一部切れましたが、運用は可能です。


【ウォルター・C・ドルネーズ 死亡 残り64人】

[備考]:輸血用血液パック×3が近くの瓦礫の下に隠されています。
248無題 コこロのアリか(修正版) ◆wNr9KR0bsc :2006/12/15(金) 19:55:43 ID:Y6ck58mZ
#>>168から以下の投下する文に変更です。




斬り裂いたのは、空気。
「なっ…どこだ、どこにいる!」
少し目線を下に落とすと、丸い坊主頭が見える。
「あハァ〜〜おねぃさんのおムネおっきいゾ〜」
もう一つ、しんのすけは女性を見つけると常人離れした速度でその女性の胸に飛びつく。
セイバーの射程より僅かに広かったしんのすけの射程。セイバーが剣を振り上げた時に既に足元近く迄来ていた。
剣で薙ぐ間にしんのすけは胸をよじ登っていた、結果的にそれは回避行動となった。
「なっ…は、離せ!」
一気に紅潮するセイバーの頬、急いで身体を捩るがその程度ではしんのすけは離れない。
「でもゴツゴツしててお胸のほうには触れないゾ…」
「離せと…言っているッ!!」
服を掴み力任せに引き剥がし放り投げる。
「おわっ!!」
急な出来事にしんのすけは尻からバウンドし、近くの木に頭をぶつけて倒れた。
「許さない…許さないッ!」
怒りに身を任せしんのすけへと向かうセイバー、今度こそ確実に仕留める為に剣を振り下ろす。
「死ねぇッ!」


次は鉈に阻まれた。
「誰だ!私の邪魔をするや」
セイバーの時が、止まった。鉈の柄を持つ人物を見た、見てしまった。
カンキのエガオで、立っていたその少年を。
「ねえねえ、お姉さん」
怖い、怖い、怖い、怖いという感情と単語が身体の中を駆けずり回り。
両手は引きつり、足は知らぬ間に一歩下がっている。
「僕と、遊ぼうよ」

その声と同時にセイバーの剣が弾かれる。それが、合図。
間髪入れずにヘンゼルの蹴りがセイバーの腹部を狙う。
後ろに少しぐら付くがすぐに身を翻す、そこに銃撃が3発。
一つは頭部、残りは脚部に目掛けて放たれるが感情を振り切ったセイバーは全てはじき落す。
一発はじき落とすごとにセイバーも少しずつ進み、全てはじき落としたところで急加速し間合いを詰める。
肩、肩、頭、腰、手、頭、腰、足。セイバーの剣とヘンゼルのナタが流れるように動く。
「うーん、やっぱり姉様じゃないと上手く当たらないや。
 あーあ…斧があったらなぁ、もっと楽しめるのに…」
間合いを取りながら更に同じ場所に3発、再び弾丸が発射される。
「同じ手は食わない!」
気が付いていなかった、同じではなかった事に。飛来してくる一つの小さな木箱の存在に。
銃弾を3発弾く流れからその小さな木箱を両断する。銃弾を弾くより簡単な作業。
249無題 コこロのアリか(修正版) ◆wNr9KR0bsc :2006/12/15(金) 19:56:29 ID:Y6ck58mZ


「う、うがああああああああああっ!!」


それが出来なかったのはその箱が只の小さな木箱ではなかったから。
箱の中身はスタンガンと大量の画鋲。
スタンガンを入れ、最大まで電圧を高めて入れる。後は持ち手の所に画鋲を敷き詰め上蓋をはめ込む。ここまでが仕込み。
そしてそれを投げつける。後は剣で受け止められたときに画鋲が前へと前進しスタンガンの電流に触れる。
家庭用電源とまでは行かないがある程度強い電流に触れた画鋲は発光を起こし、箱に僅かな裂け目が入った時に光が爆発的に漏れ出す。
第一の攻撃はこの光。これで剣に入る力が緩み、尚且つ目くらましになる。
剣は箱に深く突き刺さったままとなる、そこにスタンガンが触れる。

結果、高圧電流が身体に流れ込む。剣を離せば逃れられる。然し腕が動かない。
「あ、ああ…あ、ああああ!!」
電流に耐えながらセイバーは剣を振り切る、箱とスタンガンが潰れる音。
瞬間的な出来事だった。セイバーの視界は点滅しだし、体には痺れが残る。
ようやく正常に戻った視界には、既に少年の姿が。

「う…ぐっ!」
まず足払いを喰らい地面とに顔からぶつかり、笑い声が頭の中に木霊する。
右肩に深く突き刺さるナタ、何回も、何回も。笑顔でセイバーの両肩にナタが振り下ろされる。
「あはははは、ははははっ、はははハははハハ!!」
肩に力が入らず剣が握れなくなってきた、抵抗できなくなってから殺すつもりのようだ。
「…そろそろお別れしようか、お姉さん」
殺される?ダメだ、それだけはダメだ。私は死ねない。民の為に、私自身の為に。
「私は…死ねない!」
私は、剣を振るった。その後に何も考えずにとにかく魔力を練った。
「勝…利すべき……」
目の前の少年を倒すために。
「黄金の…剣!」
250無題 コこロのアリか(修正版) ◆wNr9KR0bsc :2006/12/15(金) 19:57:17 ID:Y6ck58mZ



「あいたた…かーちゃんのゲンコツより痛いゾ…」
しんのすけが頭のたんこぶを抑えながら起き上がった。
日頃からゲンコツで鍛えられている彼の頭はある程度の強打に耐えられるほどの石頭になっていた。
「お、そういえばヘンゼルがいないゾ?」
数秒後、しんのすけはすぐ隣に吹き飛んできたヘンゼルの姿を見た。

「くそっ、上手く実体化できないッ…」
いつもなら微塵すら残さず消し飛ばす事ができるであろう剣が、相手に切り傷を与え吹き飛ばす程度にまで落ちていた。
即興で練ったとは言えここまでできれば十分か、まだまともに動けるうちに止めを刺しに向かう。

「ヘンゼル…」
「やぁ…目が醒めたみたいだ…ね」
物凄い量の出血と相当深い傷を負いながらヘンゼルはしんのすけに話し掛ける。
「家族に、会いた、いなら。早く、逃げるとい、い」
僕は何を言ってるんだろう?頭の中がズキズキする…。
「嫌だ!そんなことできるわけ無いゾ!」
大粒の涙を流しながらしんのすけがヘンゼルに縋りつく。
「…オラが、オラがヘンゼルを守るゾ!」
しんのすけはニューナンブを、いつか見た映画の見様見真似で構え。
「おねぃさんの…オバカァ〜〜!!!」
銃声が一発。防御姿勢を取るが肩が上手く動かない。鎧に銃弾がめり込む。
「ヘンゼル…待ってて、今オラがおんぶしてやるゾ!」
明らかに体型が違うヘンゼルを、ムリして担ぐしんのすけ。

「ま、待てぇっ!」
足は負傷していないセイバーが一気にしんのすけに間合いを詰める。セイバーの息遣いが間近にまで聞こえたときだった。
ヘンゼルが持っていた大鉈をセイバーに向かって投げつけ、防御姿勢を取るのが遅れたセイバーの鎧に突き刺さる。
さらにしんのすけに「いつでも出せるようにしておいて」と言っておいた手榴弾をしんのすけのデイパックから取り出し投げつける。

ナタに対処している間に手榴弾が彼女を襲う、防御も間に合わず直撃。
吹き飛ばされた先ではしんのすけの姿は見えなくなっていた。
よく見れば自分の鎧に裂け目が入っている。肩も動かすのが限界である。
彼女は近くの木にもたれかかり傷の治癒を始めた。もう、今は喋る元気すらない。

「待ってて、ヘンゼル…」
ヘンゼルをおぶっているしんのすけは半ばヘンゼルの足引き摺りながら走っていた。
「オラが、なんとかしてあげるゾ…!」
しんのすけは走りつづけた、ヘンゼルが助かる望みを抱いて。
ただ、ただ。走りつづけた。
251無題 コこロのアリか(修正版) ◆wNr9KR0bsc :2006/12/15(金) 19:58:31 ID:Y6ck58mZ
【B-4西部・1日目 黎明】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:全身に裂傷とやけど、両肩を大きく負傷、鎧に裂け目、極度の疲労。
[装備]:カリバーン、大ナタ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:傷を治す
2:優勝し、王の選定をやり直させてもらう

【B-4東部・1日目 黎明】
【ヘンゼル@BLACK LAGOON】
[状態]:右肩から深い切り傷(治療が受けられない場合…?)、気絶
[装備]:コルトM1917(残弾なし)
[道具]:支給品一式、コルトM1917の弾丸(残り12発)
[思考・状況]
1:手慣れた斧が欲しい
2:不快感の正体を探る(?)
3:襲ってくる奴をできるだけ「遊ぶ」
4:グレーテル、しんのすけの家族と合流

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:中度の疲労、全身にかすり傷、頭にたんこぶ、ヘンゼルをおぶっている
[装備]:ニューナンブ(残弾4)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:ヘンゼルを助けたい
2:みさえとひろし、ヘンゼルのお姉さんと合流する
3:ゲームから脱出して春日部に帰る

※スタンガンは破壊されました。B-4西部にばら撒かれた画鋲は拾えば使用可能です
252峰不二子の憂鬱 1/2  ◆S8pgx99zVs :2006/12/15(金) 20:57:13 ID:OaOFQCMh
峰不二子は畳の上に腰を下ろし一息ついた。
場所は先程離れた遊園地からそう遠くはない、マンションの一室だ。

先程、その中を検めて驚いた。その、あまりの普通さに。
どこもつい先程まで使用されていたかのような痕跡があるのだ。
だとしたら一体、この街の住民はどうしたのか?
この舞台を用意したギガゾンビによって消されてしまったのだろうか?
まるでマリー・セレスト号のような状況に背筋に寒いものが走る。

気を落ちつけ、先程遊園地の中で出会った老人から譲り受けた拳銃を取り出す。
彼女はこの様な状況下で敵から貰った物を易々と使うお人よしな女ではない。
拳銃を分解し弾丸を確かめる。なんらかの仕掛けがしてあると踏んでいたが…………

「驚いたわね」

思わず口にでる。
拳銃には何ら細工は施されていなかった。
さりとて状況は芳しくない。
コルトSAAは大口径で峰不二子の手にはやや余る。しかも旧いタイプのリボルバーで
装弾に時間がかかる。正直、こういったサバイバルで使える銃じゃない。
今時こんな物を使うのは次元大介のようなガンマン気取りの連中だけだ。

やはり、この場合隠れているのが無難か。
元々荒事はそれほど得意ではないのだ。無理して殺す相手を探す必要はない。
それに、先程の老人――あれはかなりの手練だ。かなりの修羅場を潜ってきただろう
匂いをその身体に纏わせていた。
もし相手がその気だったら――殺されていた。確実に。
それに加えて、あの大破壊。何者が何をしてああなったかは解らないが、アレもまた
自分の手には負えないだろう。

泥棒の手練ならあのルパンさえも出し抜く自信はあるが、こと殺し合いとなると……

峰不二子は真っ暗な部屋の中で一つ溜息をついた。
253峰不二子の憂鬱 2/2  ◆S8pgx99zVs :2006/12/15(金) 20:58:03 ID:OaOFQCMh
この広い舞台だ。徹底的に隠れていればほとんど他人と遭遇することはないだろう。
そう――ほとんどは。逆に言えば、逃れられない戦いの時がいつかは来るはずだ。
その時のことを考えると、やはり今の武装では心もとない。武器に変わるものや自分と
共闘できるもの、そして――自分より弱いものを探す必要が出てくる。
しかし、そこにはリスクが伴う。

まるで、100$札一枚でポーカーを始めるようなものだ。

何回かうまくことが運べばいいが、あまりにも後がなさすぎる。
元々、勝算のない賭けはしないタイプである。むしろイカサマの種を仕込んでから相手に
声をかけるタイプだ。

峰不二子が2回目の溜息をつことした時、何か音が聞こえてきた。


…………ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。

ベランダのガラス戸から顔を覗かせて外を見る。
暗闇の中に光を浮かべてやってきたのは線路の上を走る電車だった。

地方都市らしい3両編成のくたびれた雰囲気の電車。
ガタンゴトンとゆっくりと峰不二子がのぞいている下を通り過ぎていく。
…………そして電車は東の方へと行ってしまった。

人が乗っているのは見えなかった。運転している人間も。
だが、気付いた―― 一つだけ全開になっていた窓に。
どうやら途中で窓から飛び出た人間がいたようだ。だとするならあの電車は罠か?
地図を思い返せば、あの電車は西の川に分断されたところから走ってきたはずだ。
だとすれば、乗っていた人間はあの近辺からスタートして、橋や防波堤を渡るよりかは
危険がないと判断したのだろう。だが、何らかの理由で途中下車した。


さて、どうしたものか?
電車は気になるが、あまり自分に有利に働くものとは思えない。
だが、どういったものかは確かめておきたい。もしかしたら誰かを出し抜くのに
使えるかもしれない。

リスクは高い。
好奇心は猫をも殺すとはよく言うし、今まで何度もその忠告を受けてきた。
そう――何度忠告を受けても止められないのだ。
峰不二子の好奇心は。


峰不二子はバッグを肩に背負うと、部屋を出て電車の後を追った



 【E-5/市街地/1日目-黎明】

 【峰不二子】
 [状態]:健康
 [装備]:コルトSAA(装弾数:6発・予備弾12発)
 [道具]:デイバック/支給品一式/ダイヤの指輪/銭形警部変装セット
 [思考]:頼りになりそうな人を探す/ゲームから脱出
254名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 22:48:30 ID:PfD39Jpi
>>232-235は無効です
255名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 23:09:24 ID:ui16R+c0
>>254
どうして?
256名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/15(金) 23:38:31 ID:ui16R+c0
というかマジで無効?
257鬼軍曹 ◆wlyXYPQOyA :2006/12/15(金) 23:57:03 ID:gKt2hnPt
>>232-235の「GOODBYE SUPER GIRL」は
雑談スレでの「問題がある」という判断を基に、無効とします。
258洗濯⇔選択1/3 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/16(土) 02:51:26 ID:CbGDNpa2
綺麗な星空の下、蛍でも飛んでいそうな川原で妙齢の女性と二人っきり。
年頃の男なら一度は夢見るようなことであり、俺だって考えた事が無いわけじゃあない。
だが、ここはむしろ別の意味で胸が高鳴るような場所であり・・・
同時に川の近くで、なにやら調べている彼女も普通の女性ではなく。
俺はあまりの突拍子の無さに、目覚めてから何度目にかになる溜息をつき、
そして、結局はいつもとほぼ同じ状態であることに気づいて、また溜息をついた。
兎にも角にも・・・俺は殺し合いなどという過酷な状況で、頼もしい協力者と出会い共に行動していた。

しかし・・・今まで色々な事態に遭遇してきたが、これは一番最悪な状況かもしれない。
川を調べているトウカさんを待ちながら、ふと、そんな事を考えてみる。
しかし、俺の脳はそれをすぐさま否定する。
そりゃそうだ。命の危機だって今回が初めてではないのだ。当然である・・・かなり嫌な当然だが。
まあ、閉鎖空間に閉じ込められたり、クラスメイトに命を狙われたり、
これまでも散々な目に遭ってきたからな・・・今回も含めて、訳がわからないのにかわりはないんだが。
さて、その俺を殺そうとしたクラスメイト――朝倉涼子は長門の手によって消滅し、
その結果、俺の命は助かり彼女は転校と言う形で世界から姿を消した。はずだったのだが・・・
今回渡された参加者名簿には、何故かその朝倉の名がしっかりと書き記されていたのだった。
今まで保留にしていたが・・・やはり、考えないわけにもいかないだろう。
俺は名簿にあった彼女の名前を思い返しながら、考えを纏めることにした。

まずは、ここにいる朝倉涼子が同姓同名の別人だという可能性を考えてみよう。
この場合は『朝倉涼子』に対して警戒する必要はない・・・それ以前に彼女の顔も知らない事になる。
だがしかし、彼女の名前は朝比奈さんと鶴屋さんの間に挟まれて存在している。
俺の知り合いが順番に並んでいるのを見る限り、彼女は俺の知っている人物である可能性が高い。
よって、この仮説は却下してもいいだろう。
つまり、ここにいるのは俺のよく知る朝倉だと言う事になる。
そして俺のよく知る朝倉涼子だとすれば、俺の命を狙っている可能性が高いという事になり・・・
要は頭痛の種が一つ増えただけじゃないか。思わず頭を抱えてうずくまりたくなったぞ。

まあいい、とりあえずトウカさんに朝倉に警戒する旨を容姿とかと一緒に伝えて・・・
「な、な、なぁ〜」
などと考えていると俺の近くで水音と声が聞こえた。
顔を上げると、トウカさんがなにやら慌てた様子で走り出そうとしていた。
それを押し止めながら何事かと尋ねると、少し目を潤ませながら彼女は言った。
「きょ、キョン殿!某の荷が!」
刀とうさぎを抱えながら必死で指し示す先には・・・川面を上下する黒い物体。
慌てて刀を引ったくり、俺たちは二人でディバッグを追いかけ始めた。
259洗濯⇔選択2/3 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/16(土) 02:52:27 ID:CbGDNpa2
「某としたことが・・・申し訳ない」
それから数十分後、俺は項垂れて謝るトウカさんに事情を聞いていた。
説明によると、川の水が飲めることを確認した彼女は、
水の減ったペットボトルを取り出して水を補給しようとしていたらしい。
そして、ペットボトルを手に屈み水を補給しようとしたとき悲劇は起こった。
開けっ放しの鞄からうさぎ人形が川に落ち、慌てて拾おうと邪魔な鞄を地面に降ろしておいたら、
今度は人形を拾う際に足元の鞄を蹴落としてしまったらしい。
たしかに・・・彼女の手元にあるうさぎは、頭の部分がずぶ濡れになっている。
そして引き上げたディバッグは・・・防水加工なのか、中身は無事なものの表面は濡れ鼠の状態だった。
ものすごく悲惨な状況である。とりあえず、中身は濡れてないとトウカさんを慰める事にする。

「トウカさん、あの・・・」
「キョン殿、あれを」
しかし、俺の慰めの言葉は彼女の鋭い声に遮られる。
トウカさんが指し示す方向―川の対岸に目をやると、遠くの空が赤く染まっているのが見えた。
もちろん、夜明けにはまだ早い。ならあれは・・・何か、燃えているのか?
俺の疑問にトウカさんは真剣な眼差しで頷く。
多分、障害物に隠れていたのが川沿いに移動したことで見えるようになったんだろう。
・・・これは怪我の功名と言うべきなのか?
「さて、どうされるキョン殿」
突如ふられた問いかけに思考を中断する。
どうする・・・つまり、火事が起こっている場所に行くか否か。
普通に考えると、あそこには火災を起こした原因があるわけであり、
そんな場所に近づくのは危険きわまりないだろう。だがしかし・・・
「・・・おそらく、燃えているのはこの辺りだと思うのだが」
いつの間にか広げられた地図。その一点をトウカさんが指差す。
そこには赤い点と図書館の一文字があった。
その施設の名称にいやがおうにも一人の少女の名が思い浮かぶ・・・まさかとは思うが・・・

「・・・・・・行きましょう」
数分の間、悩みに悩み抜いたあと・・・俺の出した一声に、トウカさん無言でこくりと頷いた。
「では、行くとしようかキョン殿」
頼もしさを感じさる言葉に俺も頷く。
鞄を小脇に抱えた彼女を先頭に、遠くに見える橋へ向かって歩き出す。
濡れた鞄の口からは、同じく、ずぶ濡れになったうさぎの頭がのぞいていた。


・・・やっぱり前言は撤回しておこう。
260洗濯⇔選択3/3 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/16(土) 02:53:21 ID:CbGDNpa2
【B-3川沿い 初日 黎明】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:軽度の疲労(精神面含め)、顔面に軽傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、わすれろ草@ドラえもん、けんかてぶくろ@ドラえもん
[思考・状況]
 1:火災現場(C-3図書館)に向かう
 2:トウカと共に仲間の捜索
 3:ハルヒ達との合流
 4:朝倉涼子には一応、警戒する
 基本:殺し合いをする気はない

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
     なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん
[思考・状況]
 1:火災現場(C-3図書館)に向かう
 1:キョンと共に仲間の捜索
 2:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
 3:ハクオロ等との合流
 基本:無用な殺生はしない
※鞄となぐられうさぎの頭が濡れています。
261「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:31:50 ID:IpCuORTu
 指し示された方角をいくら捜そうとも、捜し人は見つからない。
 陽気な道化師の手の平で踊らされていることにも気づかず、カズマは一人、声を張り上げる。

「――どこだァー! かなみぃーッ!!」

 この世界の何処かにいる――知るには遅すぎた――少女の名を呼び、北へ、東へ、西へ、南へ。
 鶴屋が教えた方角が無意味になるほどがむしゃらに歩き続け、今は何処のエリアとも知れぬ森の中にいた。

「カズマさん! そんな闇雲な捜し方じゃ、見つかるものも見つからないですよ!」
「うるせェ! ならテメェはなんかいい方法でも持ってんのか!? ねぇだろ!? だったら邪魔すんな!」

 疾走するカズマの後を追って、必死に喰らいついていくなのは。
 無謀ともいえるカズマの行動に注意を促すも、協調性皆無、唯我独尊を信条とする彼には、全ての言葉が無用の長物だった。

 行き先を定められない二人の迷い人が、次なる指針を掴み取ったのは、朝焼けで辺りが照らし出された頃。
 それまでは静かに佇んでいた森の中で、突如として聞こえてきた銃声が――焦るカズマの心をさらに駆り立てた。


 ◇ ◇ ◇


「おい、いったいどこまで歩き続けるつもりだよ」

 右肩のタトゥーと腿の付け根の辺りで切れたデニムのホットパンツ、そして何より凶悪な目付きを、他者と間違えようのない目印とする女――レヴィは、同行者である眼鏡の少年に悪態を付く。

「この地図の南東に位置する森……エリアでいえばF-8と書かれている場所ですよ」

 眼鏡の少年――ゲイナー・サンガは支給された地図を広げながら、自身の脳にインプットしたデータとその内容を照らし合わせる。
 コンパスを駆使し、方角を再確認。歩を進める先は、間違いなくF-8エリア。ゲイナーの記憶に狂いはない。

「あぁ!? なんだコリャ、端っこも端、地図ギリギリのところじゃねぇか。こんなところ行ってどうすんだよ」

 レヴィはゲイナーが広げていた地図を覗き込み、彼の示した指針にイチャモンをつける。
 そもそも、レヴィがゲイナーと行動をしている目的はただの二つだけ。

 その一、彼の所持している銃の強奪。
 その二、初遭遇時、駅で起こった一連の騒動の仕返しをしてやりたい。

 一瞬の内に地図と名簿の内容を暗記するその能力……ロックのように、磨けば役に立つ原石かとも思ったが、組んでいれば利用できるとも思ったが、

「こういうゲームのセオリーですよ。中心部には一番人が集まりやすい。それも人数が多い序盤は特にね」

 数時間共に歩いて分かった。このゲイナーという糞ガキは、つくづく『気に入らない』。
 内向的な性格、頭を駆使したその能力、やたらと理論的なところまで……あらゆるところでロックと特徴が酷似しているのだが、何かが違う。
 それが何か分からないから無性に腹が立つのかも知れないが、とにかく気に入らない。
 ひょっとしたら、レヴィはロックに初めて出合った時の、あの頃の感情をゲイナーに抱いているのかもしれない。
 ダッチは、『ホイットマン熱(フィーバー)』とか呼んでいたか。新しい仲間と反りが合わせられず、イラつきを覚え、執拗に銃を乱射したくなる一種の悪い癖。
 もっとも、ゲイナーは仕事仲間でもなんでもないのだが。やっぱり、ただ単純に気にいらないだけなのだろう。
262「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:32:40 ID:IpCuORTu
「ハッ、つまりは人殺しが怖ェーから隅っこに隠れてじっとしてようって魂胆か。とんだチキン野郎だな。テメェそれでもタマついてんのか?」
「少なくとも、昼頃までは周辺の森で待機するつもりです。暗い内は襲撃者に襲われる可能性が高いし、協力者を見つけるにしても、明るい日中の方がいいですから」

 噛み合わない――恐れ知らずなことに、意図的に噛み合わなくさせているのだろう――会話を続けながら、ゲイナーとレヴィは進む。
 レヴィはゲイナーに対するイラつきを増大させながら、ゲイナーはそんなレヴィに主導権を握らせないよう平常心を貫きながら。

「止まりな、糞ガキ」

 ――レヴィが逸早く異変に気づき、先を行くゲイナーにストップをかけた。

「本気で名前覚えられないんですか? 糞ガキじゃなくてゲイナーです」
「……オーケイ、ゲイナー。今までのことは一旦忘れ、クールになってあたしの話を聞きな。……何か、異臭を感じないか?」

 真剣な面持ちで問うレヴィだったが、ゲイナーはこれをどう受けとめたのか、これまでと変わらぬ顔で「何も」と答えた。
 職業柄、猟犬並に発達してしまったレヴィの嗅覚が異常なのか。それとも温室育ちの引きこもり(レヴィのイメージ)であるゲイナーが正常すぎるだけか。
 レヴィは、はぁ〜、と溜め息を吐き、己の嗅覚が導く場所へと脚を運んだ。

 その先に、少女の死体があった。

「え……?」

 レヴィの後を追いかけ、ゲイナーもそれを発見した。
 薄暗い森の中、若干の木の葉に身を隠された少女の遺体。
 もう二度と起き上がることのないその身体は、ゲイナーの心を激しく揺さぶった。

「誰が……こんな!」

 衝撃、悲痛、激昂――順序良く変動していくゲイナーの感情は、実に人間らしいとレヴィは思った。
 だからこそ、この場には向かない。このクソッタレなゲームに、こいつは向いていない。

 項垂れ愕然とするゲイナーを尻目に、レヴィは一人、少女の死体に歩み寄る。

(首筋を刃物で一閃……頚動脈からは僅かにズレてる……こりゃ素人の仕業だな。なんか役立ちそうなモンは……クソッ、やっぱ持ち去ってやがる)

 放置されていた少女のデイパックを探るが、出てくるのはコンパスや地図といった馴染みの道具ばかり。
 支給武器や食料、水などのサバイバル用品は全て品切れ(ソールド・アウト)。抜き取られた後だった。
 チッ、と舌打ちをするレヴィの様子を見やり、ゲイナーは顔を顰める。

「なにを……しているんですか?」
「あ? なにって、役に立ちそうなモンが残ってないか確認してンじゃねェか」
263「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:33:30 ID:IpCuORTu
 さも当然のように死体漁りをするレヴィに、ゲイナーは今まで溜め込んできたストレスを、怒りという形で爆発させた。
「人が……こんな小さな女の子が死んでいるっていうのに、あんたってヤツは……!」
 レヴィの胸ぐらを掴み取り、ほとんど感情に任せて、声を張り上げた。
「それが、大人のやることかよ!」
 ゲイナーはレヴィに対する不満をこの一言に充填させ、クソッタレな彼女の姿勢を修正してやろうとさらに掴み寄るが……

「――ウ!?」

 ――至近距離、射程範囲に入った際、ゲイナーの股間は、レヴィの膝によって潰された。
 崩れ落ちるようにへタレ込むゲイナーを見下ろし、レヴィは悠然とした構えでハッ、と嘲笑った。

「ロック以上にアマちゃんだなテメェは。今自分が何やってるのか理解できてるか? 温室育ちのぼっちゃんのお遊戯じゃねぇんだよ」

 睨みを利かせ、力なく悶えるゲイナー押し倒す。
 そのまま騎乗するように跨り、マウントポジションの体勢を取った。

「殺し合いに仲間はいねェ。信頼できねェヤツはみんな敵だ。それとも、テメェはこのガキの養父か何かか?
 知らねェヤツの死に悲しまないで何が悪い。自分が生き残る確率を上げるために死体漁って何が悪い。
 これはテメェの言うところのゲームのセオリーじゃねェのか? あン?」

 身動きの取れなくなったゲイナーからイングラムM10サブマシンガンを没収し、その銃口を少年の口内に捻じ込んだ。

「ムガガ!?」
「分からねぇなら分からせてやろうか? 裏の世界の常識ってヤツをよ」

 ――職業柄、人が死ぬところは嫌というほど見てきた。
 大人も子供も、男も女も。自らの手で殺したこともあるし、敵の手にかかって死んだ他人も腐るほどいた。
 馬鹿な話だが、もし誰かの死に目に会う度に1セント貰っていたとしたら、レヴィは今頃大金持ちになっていることだろう。
 何も感じないといえば嘘になる。人間らしい感情を完全に排除したつもりはない。
 だからといって場の状況も考えず感情に流されるような愚行は、バカ正直なアマちゃんがやることだ。

「BANG」

 怯えるゲイナーを弄ぶかのように、レヴィは、ふざけた口調と共に引き金を引いた。


 ◇ ◇ ◇


 銃声が鳴った。
 銃声を聞いた。
264「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:34:57 ID:IpCuORTu
 あっちだ、あっちの方角。

 どういうことだ。
 あの女の言っていたのとまるで反対の方向じゃねーか。
 違ってたらぶっ飛ばす……いや、今はあの女のことは後だ後。

 銃声が鳴ったってことは、そこに銃を持ったヤツがいるってことだ。
 人を簡単に殺せる道具を持ったヤツが。

 クソッ、暗くて足元がよく分からねぇ。
 空はもう明るくなってきてるってのに、薄気味ワリィ森だぜ。

「――――」

 ま、その分雑音は少なくて助かるがな。
 微かに聞こえた人の声は、あっちの方か。

 待ってろよ。誰かは知らねぇが――――


 そこで、カズマの思考は停止した。
 とうとう発見してしまった、少女の死体が原因で。


 ◇ ◇ ◇


「……他人の死に方は他人の死に方だ。考えたところで屁の役にも立たねぇさ、ゲイナー。損のねぇことだけ考えな」

 ――教育終了。
 レヴィは空へ翳していたイングラムの銃口を下ろし、未だ震えた状態のゲイナーを嘲笑った。

「でもま、小便漏らさなかっただけ上出来だぜ、ゲイナー。ただの陰湿ネクラ野郎かとも思ったが、案外肝が据わってんじゃねェか」
「……あなただけが場慣れしていると思わないでくださいよ。僕だって、それなりの修羅場は潜ってきたんだ。相手に撃つ気があるのかないのかくらい、簡単に分かる」

 寸前の仕打ちなどまるでに意に介さず、ゲイナーは堂々すぎる態度で、狂犬に食って掛かる。

「あン? テメェ、そりゃあたしに撃つ度胸がねぇとでも言いたいのか? 今どっちが優勢か、分かんねぇワケじゃねぇだろ?」

 ゲイナーが挑発してみせると、レヴィは即座に怒りを表す。ほとんど条件反射みたいなものだった。
 倒れたままのゲイナーの額に再度銃口を押しつけ、グリグリと甚振る。
 レヴィのいじめっ子のような陰険な仕打ちにも、ゲイナーは屈しなかった。
 ゲームは主導権を握られたらそこで勝敗が決まる。大丈夫だ。どんなに挑発しようが、レヴィは自分を殺さない。
 これまでレヴィと行動を共にしてきたゲイナーは、彼女の心理的性格、怒りの沸点、凶悪性の度合いなどを分析し、
『彼女がブチギレるボーダーライン』を的確に見極められるようになったのだ。
 こういった自己中心的な手合いと上手くやるには、弱みを見せることも重要だ。
 銃を簡単に奪われたことは失態だったが、彼女は乱射魔(アッパー・シューター)ではない。
 大丈夫。現状を維持していけば、きっと彼女とも信頼関係が築ける……あくまでも、もっと利口で頼りがいのある仲間ができるまでの繋ぎだが。
265「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:36:09 ID:IpCuORTu
「おい」

 唐突に、声を掛けられた。
 横に振り向くと、気づかぬ内に――ゲイナーのことで頭に血が上っていたからだろう――現れていた、一人の男性の姿が。
 その時のレヴィの体勢といえば、ゲイナーの上に馬乗りになり、額に銃を押し当てるという、完璧な悪人スタイル。

(ヤベッ、勘違いされちまったか)
 信じられないといった形相でレヴィの顔を見やる男の表情は、顔面蒼白。
 この世の終わりを見てしまったかのような、そんな絶望的な雰囲気さえ漂わせていた。
(オイオイ、あたしの顔がそんなにおっかねェってのかよ……まぁ、言い訳できるような状態じゃねェけどよ)
 男の底知れぬ驚愕顔に、レヴィは不安感を募らせる。
 ただでさえ見た目からしてイメージが良くない彼女、殺し合いに乗った殺戮者(マーダー)として扱われるのも止むなしと思われた。

 しかし妙だ。いきなり姿を見せてきた男は逃げるでも襲うでもなく、「おい」と一声かけたまま立ち尽くしているだけ。
 レヴィの行いを見て足元が竦んでしまったのか。それほど臆病者には見えないが。


「かなみは、死んでるのか?」


 男が発したその一言で、全てに合点がいった。
 レヴィは自分の真後ろを見やる。そこには先程漁っていた少女の死体が一つ。
 なるほど。男の言葉から察するに、この少女の名はかなみ。そして少なからず、ショックを受ける程度にはこの男の知り合いのようだ。

「答えろ。かなみは、死んでるのか?」
「ああ? んなもん見りゃ分かんだろうが。首を掻っ切られてほとんど即死だよ――」

 ウザったい。正直、レヴィは男に対してそんな印象を抱いていた。
 唐突に現れて、どう見ても死んでいる少女の生死を執拗に聞いてくる。
 お前には流れ出ている血が見えないのか。周囲に散布している真っ赤な木の葉が見えないのか。
 そういった意味を込めて、レヴィ普段どおりの悪態をついた。


 その行動が全ての引き金だった。


「――――うお」

 一瞬、一秒よりももっと短い刹那の時間。
 ありとあらゆる音が止み、空気が消失したかのような静けさを見せた。
 そして、
266「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:38:09 ID:IpCuORTu
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 その男――カズマの魂の叫びが、その場にいた全ての存在を揺るがした。
 咆哮が上がる中、カズマの周囲に聳えていた木の一部分が突如、抉り取られるかのように消失。
 原子レベルで分解された物質はカズマの右腕に収束し、腕全体を覆う篭手のようなものに再構築される。

 アルター能力『シェルブリット』第一形態。

 殴る、という極めて単純明快な一動作を破壊兵器並みの威力に昇華させる、カズマの超攻撃的精神の表れだった。

「テメェだけはァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 新しく形成された右腕を大地に叩き付け、生まれた衝撃で空高く飛びあがるカズマ。

「絶対にィィィィィィィィィ!!! 許さねェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

 森を突きぬけ、昇り始めたばかりの太陽に接近せんばかりの勢いを見せ付ける。
 高く、高く、もっと、もっと高く。

「衝撃のォォォォォォォォォォォォォォ――」

 上昇し切ったカズマが次に目指す先は、地面。
 かなみの死体のすぐ傍で銃を構え、今にも眼鏡の少年を撃ち殺そうとしていた――レヴィ目掛けて。
 拳を、振るう。

「――ファーストブリットォォォォォォォォォォォォッッ!!」

 その瞬間、レヴィは大砲の弾でも飛んできたものだと錯覚した。
 弾丸とほぼ変わらぬ速度、それでいて弾丸を優に越える体積。例えるならばミサイルか。
 あまりの超常的な出来事に、それが『ただのパンチ』であることにも気づけず、もしくは認めることもできず。
 納得がいかないまま、レヴィは反射的に身をかわすことしかできなかった。

 原爆でも落とされたかのような轟音が鳴り響き、数本の木が薙ぎ倒された。
 カズマが放った『衝撃のファーストブリット』は標的を外し、代わりに大地を叩いた反動で土埃を巻き上げる。
 それが煙幕となり、レヴィ――とあの瞬間彼女に掴まれてどうにか攻撃を回避したゲイナー――はカズマの目から逃れることに成功した。
267「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:38:59 ID:IpCuORTu
「Fuck it all! なんだってんだあのバケモノ野郎は!? 腕に爆薬でも仕込んでんのか!?」

 ゲイナーから取り戻したばかりのイングラムを構え、レヴィはすぐさま臨戦態勢を取った。
 とりあえず、相手が好戦的かつ超弩級の破壊力を保持していることは分かった。その上で、どう戦いどう勝つかを懸命に模索し始める。
 愛銃ソード・カトラスは不所持の上、『二挺拳銃(トゥーハンド)』の名で知られるレヴィも、手持ちの銃は一丁のみ。
 加えてダッチやロックのような有能なサポート役は居らず、強いて言うならお荷物になるようなゲイナーが付きまとうだけ。
 反吐が出るほど最悪な事態だ。危ない橋を通り越して、橋の掛かってない急流の上を紐なしバンジーしろと言われている気分にさえなった。

「レ、レヴィさん! 銃をしまってください! こっちが好戦的な態度を取ったら、相手がますます誤解しますよ!」
「ああ!? 今さら何言ってんだ。あいつァあたし達を殺す気で来てるんだぜ? まさか、話し合って平和的解決を〜とかなんとか言い出すつもりじゃねェよな」
「その通りですよ! あの人、あの女の子の死体を見て、名前を呼んでいたでしょう!? きっとあの人は知り合いかなんかで、僕たちがあの子を殺したって誤解しているんですよ!」

 だから――そう口を紡ごうとしたゲイナーの口内に、レヴィは無理やり銃口を押し込んだ。

「モガッ!?」
「だから――事情を説明して和解しようってか? バカかテメェは。向こうは殺る覚悟で来てんだぜ。
 マフィアにガキが立ちション引っ掛けて許してもらえるとでも思ってんのか? 理由なんて関係ねぇ。
 殺られる前に殺る。殺し合いだとかゲームのセオリーだとかじゃなく、こりゃ生きていく上での常識だろうが」

 眉を顰めながらも沈着冷静(クール・アズ・キューク)に発言するレヴィの感情は、最早爆発寸前のところまできていた。
 ゲイナーのあまりにも甘い考えもそうだが、報酬もなしに人を殺せというこのゲームの趣旨自体に、レヴィは憤りを感じている。
 これは、その憤慨をウサ晴らすいい機会じゃないか?――そう思い立ったのも、銃を構えた一つの理由だろうか。

(そうだ……このレベッカ様にタダで殺しをさせるってことがどういうことか、あの変態仮面野郎に思い知らせてやろうじゃねェか)

 ここで人を殺したって一銭の価値にもならない……だが、ムカツクやつをブッ殺してスカッとするくらいの報酬は、貰ってもいいような気がした。
 そういう点では、こういった勘違いヤローはカモといえるかもしれない。

 レヴィはゲイナーの口内からイングラムの銃口を取り出し、来るべき敵へと矛先を変える。

「さぁボウヤ、素敵な素敵な血祭り(ブラッド・パーティー)の始まりだ。せいぜい上手にダンスを踊ってくれよ」

 土色の煙幕の先にいる敵に向かって、レヴィはご機嫌な謳い文句を言ってのける。もちろん、銃を構えながら。
 幾つかの木々、土と落ち葉による粉塵、レヴィとカズマを遮る隔ては徐々に薄れていき、決戦の時を迎える。
 先手を撃ったのは、カズマだった。
268「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:40:32 ID:IpCuORTu
「撃滅の――――セカンドブリットォォォォォォォォォ!!!」

 煌く輝きの粒子は虹のような鮮やかさを放ち、暗黒を照らす。
 そして爆発する、推進力。
 右拳を振るいながら突進してくるカズマをイングラムの銃撃で牽制しつつ、レヴィはギリギリで攻撃を避けるタイミングを見極める。
 身を翻し、宙を舞う。レヴィが空中で一回点、二回転する頃には、『撃滅のセカンドブリット』によって無関係の木が殴り倒されていた。
 たかがパンチ一発。たかがパンチ一発で、木が粉砕されたのだ。

(ヒュー! なんつー馬鹿げた威力だ。ありゃ一発でも当たりゃ終わりだな。M2爆竹でイワシの缶詰を吹っ飛ばすみたいに、木っ端微塵になっちまう)

 口笛を吹きつつ、余裕で相手を称賛してみせるレヴィ。カズマの一撃の破壊力は確かに脅威だが、対処法がゼロというわけではない。
 ようはミサイルだ。ミサイルと戦っていると思えばいい。
 一発当たればそこでゲームオーバー。だがその一発が当たらなければ、相手の勝ちはない。
 ミサイルがブチ当たる前に、こっちがぶっ壊してやればそれでゲームセット。極めて単純、それでいて面白み十分の派手なゲームだった。

「下手な小細工や鍔迫り合いは好きじゃねェ。やるんなら、ソッコーで行かせてもらうゼッ!!」

 パララララ……という銃声が止め処なく流れ、弾丸の全てはカズマを仕留めんと襲い掛かる。
 しかしここは、森林地帯のド真ん中。何本も聳えた木々は攻撃を遮るバリケードとして機能し、カズマを銃弾の雨から守る。
 レヴィお得意の二挺拳銃ならば、もっと戦略の立てようがあったかもしれない。

「クソッ! 木が邪魔クセェ!」

 サブマシンガン一丁でも十分に強力といえたが、プロのガンマンであるレヴィはただ武器が高性能なだけでは満足しない。
 カズマの身体能力もさることながら、視界と射程を狭める樹木郡が邪魔なことこの上ない。
 このまま遠方から撃ち続けても埒が明かない。ならば話は簡単。もっと近づいて撃てばいい。
 同時に、それはカズマの得意な近接格闘の間合いに踏み込むことにもなる。
 それを承知しながら、レヴィは、レヴィという人間はどう選択するか。
 彼女を知る者なら、誰もが正解を言い当てることだろう――

「――GO! GO!! GO!!!」

 カズマ目掛けて、銃を乱射しながら突進する。
 対してカズマは、向かってくるレヴィ、飛びかかってくる銃弾を歯牙にもかけず、今一度渾身の一撃を叩き込もうと力を溜める。

 カズマのアルターが形成する篭手――その肩の部分に装着されていた羽が、一撃一撃拳を放つたび減っているのに、レヴィは気づかなかった。
『衝撃のファーストブリット』の際に一枚。『撃滅のセカンドブリット』の際に一枚。そして羽は、もう一枚残っている。
 即ち、それがどういうことか。

「抹殺の――――」

 右拳を、振り上げる。
 大切な存在をぶち壊した、糞ムカツク存在に反逆するため。
269「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:41:43 ID:IpCuORTu
「――ラストブリットォォォォォォォォォォォォッッッ!!!」

 ミサイルが、発射された。
 そうとしか思えない爆発的な推進力は、一直線にレヴィを狙う。
 邪魔する障害物は全て薙ぎ倒し、粉砕し、撃破し、ブッ潰す。
 その先には、反逆するべき敵が銃を構え、こちらを殺そうと画策している。
 小賢しい。全部殴って、終いにする。
 答えは至ってシンプルだった。

 レヴィの放った弾丸は、その全てが無駄になっていた。
 接近したことで狙いは付けやすくなったが、相手も超スピードで近づいてきているせいか、射撃の精度に誤差が見られる。
 しかし、それでも『二挺拳銃(トゥーハンド)』で知られるレヴィの腕は尋常ではない。
 何発かは的確にカズマを捉え、その身体を蜂の巣にしようと迫るのだが、

(……な、にィ!?)

 カズマを捉えた銃弾は、その『拳』によって撃ち弾かれた。
 イングラムの銃弾は、決して安物ではない。相手のガントレットがいかに丈夫といえど、無傷であるはずがない。
 ましてや、『拳』で『銃弾』を打ち払うなど――

(って、文句言ってる暇はねェェ!!)

 カズマとレヴィの位置が交差するその刹那――レヴィはギリギリ、コンマ一秒でも遅れれば破砕されていたであろうタイミングで、跳んだ。
『抹殺のラストブリット』は、レヴィがいた位置を通り過ぎ――そして、突き抜ける。
 チキンレースでもしたかのような感覚が、疲労感として襲ってきた。
 一応は攻撃回避に成功したレヴィは舌打ちし、身体を捻って着地するための体勢を整える。
 その間際、不幸は再来を告げた。

「――――ッ!」

 声にならない衝撃が、レヴィを襲った。
 何が起こった――疑問符を浮かべて己の身体を見下ろす最中、無様に地へ落下するところで理解する。
 木片だ。カズマが薙ぎ倒し、粉砕した木の一部分が、レヴィの鳩尾に深く減り込んでいた。
 息が苦しい。不意に喰らってしまった不幸な被弾で肺を圧迫され、レヴィは一時的だが呼吸困難に陥った。

(が、っは……クッソ、気持ちワリィ……バカルディを三日三晩飲み明かした時くらいの胸糞の悪さだ……うぉ、吐きてぇ)

 銃を持つ手に力が入らない。視界がぼやけてくる。
 満足に身体を動かすことが出来ず、レヴィはその場で蹲った。
 そうしている間にも、人間離れした闘争者は勘違いを続けている。
270「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:42:36 ID:IpCuORTu
「まだだ! まだ終わらねぇ!」

『衝撃のファーストブリット』、『撃滅のセカンドブリット』、『抹殺のラストブリット』。
 三種の拳を撃ち放ち、カズマのアルターは弾切れ、一時の消失を見せていた。
 しかし、アルターの再構成はジャムった銃の弾をリロードするよりよっぽど容易い。
 カズマの周辺に散らばっていた木片が即座に分解され、新たなアルターを構成するためのエネルギーとして働く。

「もっとだ! もっと、もっと、もっと! もっと、輝けえェェェェェェ!!!」

 先程の篭手とは細部で違う形状――カズマのアルター『シェルブリット』の第二形態が、その姿を見せた。
 数多の修羅場を掻い潜ってきた故のカンか、レヴィはそれが、さっきよりもずっとヤバイもの――という正しい認識を感じ取っていた。
 だが、痛みのせいで対処が追いつかない。逃げるにも、迎え撃つにも、今のレヴィでは身体機能が不足しすぎている。

 単純に考えて、窮地。
 生きるか死ぬかの瀬戸際、だというのに。
 レヴィは、笑っていた。

(弾丸を拳で弾いて、本人は怪我一つしてねぇ。素手で森林破壊するようなバケモンなんて、ゴジラも真っ青の生体兵器だぜ。
 …………『いいネ』。『天までイカしてる』。『最高だ』)

 口には出さないが、レヴィの思考の節々には狂気を逸脱した不気味さが蔓延しているようだった。
 このピンチを楽しむかのように。めぐり合えた強敵を歓迎するかのように。
 クレイジーすぎる考えは身体を強引に動かし、戦意を奮い立たせる。

(――ダッチも姐御も、張の旦那や他の連中も――――ロアナプラに吹き溜ってる連中は、どいつも皆、くたばり損ないだ。
 墓石の下で虫に食われてる連中と違うところがあるとすりゃ、たった一つ。
 生きるの死ぬのは大した問題じゃねぇ。こだわるべきは、地べた這ってくたばることを、許せるか許せねェか、だ)

『シェルブリット』の輝きが、苦痛に歪むレヴィの素顔を照らす。
 苦しいはず――なのに、表情は、やはり笑っていた。

(生きるのに執着する奴ァ怯えが出る、目が曇る。そんなものがハナからなけりゃな、地の果てまでも闘えるんだ)

 弱肉強食の四文字を掲げた生存競争――それこそがレヴィの暮らす世界であり、また、この殺し合いゲームの本質なのだ。

 ならば、死ぬ気で闘った方が勝つ。

 だから、立つ。
271「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:43:56 ID:IpCuORTu
「やめてェェェェ!」

 カズマが突っ込み、レヴィが立ち上がる――そう思われた矢先、小さな乱入者は無防備な状態でやって来た。
 タックルするかのような勢いでカズマに抱きかかり、ひしっと拘束するツインテールの女の子。
 見たところ年齢は10歳かそこら、まだ女にもなり切れていない未成熟のガキンチョが、カズマとレヴィの死闘を中断させたのだ。

「もうやめてよカズマさん! この人は違う! たぶんこの人じゃない! だからもう、喧嘩するのはやめて!」
「うるせェ! その声で……その声で俺の名前を呼ぶんじゃねェェッ!!」

 カズマはツインテールの少女――なのはを振り払おうと身体を捻らせるが、ガッチリと固定されたまま少女は手を放そうとしない。
 もしかしたらだが。カズマも無意識の内に、込める力を弱めてしまっているのかもしれない。
 この声が、カズマと呼ぶその声が。

「似てんだよッ! お前の声はそこで……死んでるかなみとッ! イラつくくらいソックリで……なんでテメェはかなみと同じ声してんだよ!」

 理不尽な疑問を投げつけ、カズマは激昂した。
 それでも、なのははカズマを離さない。このまま解き放ってしまったら、きっとみんなが悲しむ結果になる。それが、分かっていたから。

(……ハッ)

 茶番(ファルス)だ。少女に抑制されるカズマを見て、レヴィはそう思った。

(てっきり妹かなんかが死んで怒ってんのかと思ったら、ただのロリータ・コンプレックスかよ。救えねぇ、救えねぇよテメェ)

 銃を構え直し、カズマを狙う。
 容赦する必要はない。むしろ、これはチャンスでもある。
 銃を向けた相手に命乞いして生かしてもらえるほど、この世界は甘くない。
 その点では、元の世界もこの殺し合いの仮想空間も、等しく同じだった。

「アバヨ」

 凶悪な目つきをギラつかせ、レヴィは、躊躇なく引き金を引いた――――
272「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:47:10 ID:IpCuORTu

 ゴッチ〜ン☆


「がっ!?」

 ――かに思われた。が、そうはいかなかった。
 いつの間にかレヴィの背後に潜んでいたゲイナーが、そうさせなかったのだ。

「ゲイ、ナ……て、めぇ…………」
「あんたはもう少し冷静になって、人の話をちゃんと聞いたらどうなんだ。馬鹿みたいに銃撃って物事が片付くと思ったら、大間違いだぞ」

 手に少しだけ割れた酒瓶を握り、ゲイナーが息を切らしながら言う。
 おそらく、これでレヴィの後頭部を殴りつけたのだろう。致命傷にならいようほどほどの力を込めて。
 
 ――銃じゃ、解決しないこともあるんだぜ。

 意識が遠のく間際、不意に、ゲイナーとロックの言葉が重なったような――そんな錯覚を覚えた。不愉快極まりないことだが。
「覚えて、や、が、れ……」
 小悪党の定番セリフを口にしながら、レヴィは静かに落ちていった。

 酒瓶から漏れたバカルディが、ピューと噴水のように注がれる。
 それを頭から仰いだレヴィは完全に沈黙し、ある種の騒動元がやっと退場していったことを示していた。

「二人ともよく聞いてください。僕たち二人は、あの女の子の死体をさっき見つけたばかりだ。
 誰かも知らないし、誰がやったかも知らない。ちなみに僕とレヴィさんは、互いに他の参加者とはまだ遭遇していない。
 僕の知り合いでゲイン・ビジョウっていう男性が一人参加してるけど、その人がやったとは到底思えないし、
 レヴィさんの知り合いについては分からないけど、とにかく僕たちに犯人の心当たりはない。
 凶器になりそうな刃物も所持していないし、唯一武器となり得るのはレヴィさんが持ってた銃、あとはたった今割ったばかりの酒瓶ぐらい――」

「もういい。黙れ」

 自らの身の潔白のため、そして何より保身のため、ゲイナーは自分達が持っている情報を洗い浚い証言する。
 そんなゲイナーのヤケクソ染みた弁解を聞いてか否か、カズマはレヴィでもゲイナーでもなく、力なく横たわる一人の少女に視線を向けた。

 その雰囲気を察したなのはは、自らカズマを覆っていた腕を緩める。
 解き放たれたカズマはフラフラと歩き、少女の遺体に近づく。

 首筋が紅く濡れている。ナイフか何かで裂かれたのだろう。
 手口から見ても、あの女の仕業でないことは明白だった。そんなことは分かってる。
 その血が、全てを物語っていたのだ。

 カズマが捜した、掛け替えのない大切な少女。
 由詫かなみは、他に感じようがないくらい、どうしようもなく、冷たくなっていた。

「…………ょう」

 嗚咽が漏れる。
 こんな時、なんて叫べば、どんな顔をすればいいのか、分からない。
 だから、自然に身を委ね、感情の赴くままに行動する。
273「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:48:19 ID:IpCuORTu
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 カズマは叫び、嘆いた。
 もうじき、彼女の死を知らせる正式な通告が流れる。


 ◇ ◇ ◇


 夢を、夢を見ていました。

 夢の中のあの人は、大きすぎる悲しみに、心の中で泣き続けていました。

 ああ、夢の中のあなた、わたしのあなた。

 あなたが、悲しみと正面から向き合えるのかどうか、今のわたしには想像もつかない。

 あなたの傍にいた女の子は、悲しみに潰れそうなあなたを見て、心細く思っているかもしれない。

 あなたが敵意を向けたあの女性は、どうしようもない怒りであなたを攻め立てるかもしれない。

 あの女性と一緒にいた彼は、あなたの悲しみに気づきながらも、何も出来ない自分に憤るかもしれない。

 わたしには、どうすることもできない。

 あなたを立ち上がらせることも、他のみんなを導くことも。

 わたしには、何もできない。

 例え、誰かが傷つき、倒れても。

 みんながみんな、ボロボロでした。
274「夢を見ていました」 ◆LXe12sNRSs :2006/12/16(土) 23:50:09 ID:IpCuORTu
【F-8・森林/1日目/早朝】

【カズマ@スクライド】
[状態]:軽度の疲労、激しい怒りと深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)・携帯電話(各施設の番号が登録済み)・支給品一式
[思考・状況]1:かなみを埋葬してやりたい。
      2:かなみを殺害した人物を突き止め、ブチ殺す(一応、レヴィとゲイナーが犯人でないことは認めたようだ)。
      3:君島の確保、クーガーとの接触。劉鳳? 知るか!
      4:ギガゾンビを完膚無きまでにボコる。邪魔する奴はぶっ飛ばす。

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:なし
[道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り22品)・支給品一式
[思考・状況]1:カズマが心配。
      2:カズマと一緒に知人探し。
      3:フェイト、はやて、シグナム、ヴィータの捜索。

【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:精神的に疲労
[装備]:イングラムM10サブマシンガン(レヴィから再び没収)、防寒服
[道具]:支給品一式、予備弾薬、バカルディ(ラム酒)2本@BLACK LAGOON、割れた酒瓶(凶器として使える)
[思考・状況]
1:カズマ、なのはと情報交換。
2:レヴィが暴走しないよう抑止力として働く。
3:もう少しまともな人と合流したい(この際ゲインでも可)。
4:さっさと帰りたい。
[備考]名簿と地図は暗記しました。

【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:気絶、軽度の疲労、腹部に軽傷、頭に大きなタンコブ、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
[装備]:ぬけ穴ライト@ドラえもん
[道具]:支給品一式、ロープ付き手錠@ルパン三世
[思考・状況]1:起きたらカズマに倍返し。手段は選ばない。というかブチ殺したいほどムカついている。
      2:もちろんゲイナーにも制裁を与える。
      3:ロックの捜索。
      4:気に入らない奴はブッ殺す。
[備考]まともに名簿も地図も見ていません。
   ロベルタの参加は確認しておらず、双子の名前は知りません。

※ほぼ放送直前の早朝頃、F-8の森林地帯にて戦闘音が鳴り響きました。何本か木が倒れています。
275名無しさん@お腹いっぱい。:2006/12/16(土) 23:50:20 ID:OK2/bicK
 \\  川   l|   || 川 l| | /
ミ三ミゞヽr、- ,r='ニ二ニニヽ、{ ||//   //
  __,、--y {´      ) },、,,彡  //! / /
二,-―'>--┤ヽ、____,..-' /ヽr‐==、//彡/
ミミヽ/   `ー 、____,..- '´``{ {  ヽ/
二=彡  r====ニ、ヽ、     ヽヽ   ヽ
三/   ´     } |     ;;;:,`、ヽ、__/
三         } }、    ;;;;;;;へヽ,=ノ
/l!|        `、\   ;;/ '`ソ
 `      ,-―‐-r`=ツ_.∠_´ ,/
         、{i)  `  /,q  !/、
   j     ` ̄ ´    '=' / /

http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1165749471/
276misapprehension ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/17(日) 00:07:47 ID:zcE+je0x
だだっ広い遊園地、北側のゲートに差し掛かったとき、緑色の髪を持つ青年、劉鳳は足を止めて振り返る。
振り返った先にあるのは煌びやかに彩られた遊園地、劉鳳の苛立ちを煽るような建造物の群れ。
人工の世界、虚構の楽園で、彼は何かの気配を感じた。
胸で燻る怒りをそのままに、劉鳳は耳を澄ませた。
無遠慮に飛び込んでくる耳障りな音楽に顔を顰めながらも、彼は音に意識を傾け続ける。
完成されたリズムに紛れ込んだノイズを探すように。それがどんなに小さくても逃さないように。
遊園地は音を鳴らし続けている。
まるで意思を持ち、劉鳳の邪魔をするかのようだった。
本当に、耳障りだ。
内心でそう吐き棄てた直後、劉鳳の耳はそれを捉えた。
それは石畳を叩く、乾いた音。とても微細な足音だ。
音楽に紛れ、その音は近づいてくる。
相手の出方を窺うため、劉鳳はそちらへと目を向けた。
すぐに絶影を呼び出しはしない。
先刻、怒りに任せて観覧車を破壊したとはいえ、彼は破壊者でも殺戮者ではないのだ。
劉鳳の目的は『悪』を処断し、断罪すること。
近づいてくる相手が『悪』だと断定できてから絶影を再構成しても遅くはない。
劉鳳のアルター、絶影は後手で出したとしても不利にならないほどの速度を持っているのだから。
やがて足音は、一定の距離を持って止まる。
一足では踏み込めない距離。だが絶影なら一瞬で埋められる距離が、劉鳳と足音の主との間に横たわる。
劉鳳の視線の先、足音の主が佇んでいる。
それは、赤を基調としたドレスを纏った人形だった。
メルヘンチックなその外見は、遊園地というこの場所によく似合っていた。
劉鳳は直感的に、アルターによって作り出されたものかと推測する。
だがその考えは、すぐに霧散した。
その人形が自分と同じデイバックを持っていて、細い首には自分と同じ首輪が嵌められていたからだ。
自分と同じ参加者である人形は右腕を構える。それを、劉鳳は臨戦体勢だと解釈した。
「……聞きたいことがあるのだわ。答えてもらえるかしら?」
人形――真紅は掌をこちらに向けたまま話しかけてくる。
劉鳳はすぐにでもアルターを再構成できるようにしながら、答えた。
「構えながら頼みごとをするのがお前の流儀か?」
「この状況下で、見知らぬ相手に隙を見せる馬鹿がいて?」
切り返してくる真紅。ガラス玉のような彼女の瞳には警戒の色が濃い。
少しの間を置き、劉鳳は腕を組んだ。
すぐに襲ってこない以上、ひとまずは問題ないだろうと判断しての行動だ。
「……いいだろう。俺に分かることなら答えよう」
劉鳳は相手の話に耳を傾けることにした。相手が『悪』なのかを見極めようとするために。
もし『悪』でないのなら、こちらに殺し合いの意思がないということを態度で示すために。
真紅はこくりと頷くと、小さな口から凛とした声を紡ぎ出す。
「私は薔薇乙女の第5ドール、真紅。おまえの名は?」
「対アルター特殊部隊HOLY所属、劉鳳だ」
「劉鳳。私のような人形、あるいは桜田ジュンという人間に心当たりはあって?」
貴族のような外見通りに話す真紅に、生意気な態度だと思いながらも劉鳳は応じる。
劉鳳に嘘をつく理由はない。だから彼は、自分の知っている通りに答えていく。
「いや、お前以外には誰とも会ってはいない」
「そう。それなら」
真紅は左手で彼女の後ろ、遊園地の中心部を指差す。
「観覧車を破壊した人物にも心当たりはないのね?」
劉鳳は真紅の後ろを一瞥し、ああ、と頷いてから。
「あれは――」
277misapprehension ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/17(日) 00:11:11 ID:zcE+je0x
◆◆

「俺がやったことだ」
あまりにも簡単に告げられた劉鳳の言葉。それを耳にした瞬間、劉鳳に向ける右手が強張った。
それだけではない。体中が緊張したように強張っていくのを、真紅は感じていた。
真紅は胸中で舌打ちをしながら、思う。
とんでもない相手と話をしていた、と。
正面の人間が、観覧車を簡単に破壊してしまうような相手だったとは。
あの破壊力は、支給品によるものとは思えない。
もしもそんな強力な武器を持っているなら、それをバックにしまっておくのは不自然なのだから。
武器を手にしていなくとも、油断はならない。
真紅は後悔しながらも警戒を強めていく。彼女は、劉鳳をこう認識し始めていた。

強い力を持ちながら、それを破壊に使うような人間、と。

危険な人物だと真紅は思う。
破壊の対象が、破壊の矛先が、他の人間や自分たちドールになってもおかしくはない。
歯噛みする真紅。だがその様子を意に介さず、劉鳳は何でもないかのように口を開く。
「どうした? 嘘は言っていないが?」
「……だから問題なのだわ」
劉鳳の自然さに、頭の中で警鐘を鳴らしながら、真紅は考える。
この人間を放っておくのは危険。
姉妹たちならともかく、もしもジュンがこの男と出会えば、出会ってしまえば。
おそらく赤子の手を捻るように、劉鳳はジュンを殺してしまう。
そんなことをさせてはならない。させたくない。
ならば、どうすればいい。戦って、倒しておくべきか。
真紅は思考しながら、劉鳳を見据える。彼は腕を組み、立ち尽くしたままで真紅へと視線を送っていた。
一度生まれた不信感は加速度的に広がっていき、真紅の心を支配していく。
構えもしない劉鳳に、真紅は顔を顰める。
劉鳳の態度は、余裕を見せているように映った。
話を聞き、質問に答えたのも、全て。
こちらに余裕を見せているように、真紅は感じ取った。
真紅は破壊された観覧車を思い出す。一瞬で鉄屑と化した観覧車のことを。
恐るべき破壊力に、真紅は背筋に悪寒を感じる。
勝てる気がしなかった。少なくとも、自分一人では敵いそうになかった。
渡るにはあまりにも無謀すぎる勝負の橋。
最後まで渡りきることができるかどうか、それすらも分からない橋。
だから真紅は、決断する。
強く強く、奥歯をぎゅっと噛み締めて。
自分の決断は最善だと、そう思いながら。
真紅は腕に力と意思を込める。すると、彼女を守るように薔薇の花弁が舞い始めた。
「待て! 俺は――」
劉鳳の声を最後まで待たず、無数の花弁が舞い上がった。
278misapprehension ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/17(日) 00:13:27 ID:zcE+je0x
◆◆

劉鳳が花弁を振り払ったとき、既に真紅の姿は消えていた。
彼は、迂闊だったと内心で自嘲する。
この遊園地に飛ばされたときから感じていた苛立ちが後押しをして、劉鳳は自分への怒りを感じていた。
八つ当たりをするように、劉鳳は右手で左の掌を叩く。ぱしん、という快音が、遊園地の音楽に飲み込まれていった。
劉鳳は、真紅を『悪』だと判断してはいなかった。
このような殺し合いの下では警戒するのは当然のことだし、責めるつもりもない。
ただ問題なのは、彼女が劉鳳にとって都合の悪い誤解をしている可能性が高いということだった。
『悪』を処断することに何の躊躇もない。また、宿敵と戦うことに躊躇いはない。
だが、それ以外の戦闘は極力避けたかった。無駄な戦闘で消耗するのは、劉鳳の望むところではない。
どれほどの『悪』が潜んでいるのか分からないのだから。
そのために、真紅を放っておくわけにはいかなかった。
誤った情報を彼女の仲間や他の誰かに広められる前に、再び真紅と接触したい。
相手は小さな人形だ。それほど遠くには行っていないだろう。
そう考えながら、劉鳳は再び遊園地の中へ戻っていく。
少しだけ、自分の迂闊さを呪いながら。

◆◆

ゲートの陰、物音を立てないように劉鳳の様子を窺っていた真紅は、彼の姿が見えなくなるまで身動き一つしなかった。
どうやら獲物を逃がしてイラついてるようだったが、上手く逃げ切れたようで胸を撫で下ろす。
花弁を具現化し、目くらましからの撤退。発見されるかどうかは賭けだった。
距離を取るだけでは確実に追いつかれる。だから真紅は小さな体を生かして隠れることを選んだ。
戦う前から逃亡するのは不本意だったが、犬死にするよりマシと真紅は自分に言い聞かせた。
アリスゲームを髣髴とさせる殺し合いを終わらせるために、死ぬわけにはいかない。
ゲートから出ると、真紅はもう一度遊園地内に目を向ける。
劉鳳の姿がないことを再確認してから、真紅は早足で、だが極力足音を立てないようにしてゲートを潜る。
この殺し合いに乗った者、劉鳳のような危険人物がどれだけいるのか分からない。
だから、急がなければならない。一人として、欠けないうちに。
「ジュン、みんな。無事でいて……!」
焦燥に駆られるようにして、真紅は遊園地を後にする。
突如降り始めた雨が、その身を濡らしても構うことなく。
279misapprehension ◆7jHdbD/oU2 :2006/12/17(日) 00:15:27 ID:zcE+je0x
【F-5遊園地・1日目 黎明】
【劉鳳@スクライド】
[状態]:健康、『悪』に対する一時的な激昂、自分の迂闊さへの怒り
[装備]: なし
[道具]:支給品一式、斬鉄剣
[思考・状況]
1:真紅を捜し、誤解を解く
2:主催者、マーダーなどといった『悪』をこの手で断罪する
3:相手がゲームに乗っていないようなら保護する
4:カズマと決着をつける
5:必ず自分の正義を貫く


【E-5・1日目 黎明】
【真紅@ローゼンメイデン】
[状態]:健康、人間不信気味、焦り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはA's、くんくんの人形@ローゼンメイデン
[思考・状況]
1:劉鳳から逃げるように移動
2:自分の能力が『魔力』に通ずるものがあるかを確かめたい
基本:ジュンや姉妹達を捜し、対策を練る
備考:劉鳳を破壊嗜好のある危険人物と認識しています。
280死と少女と(1/5) ◆TIZOS1Jprc :2006/12/17(日) 00:56:32 ID:LfQ/dHg7
「うぐッ……。ヒック……」

いったいこの小さな少女のどこからそんな量の涙が出てくるのか。
そう思いたくなる程フェイトはずっと泣いていた。

『私の……せいだ……』

もう冷たくなって、死後硬直まで始まっているカルラの亡骸にすがり付いたまま。

『あの時フォトンランサーなんて撃たなければ!もっと早く誤解を解いてれば!
いや、せめてもっと周囲を警戒してればマーダーの接近に気付けてた!』

闇夜が白み始めているのにも気付かずに目を伏せたままずっとすすり泣いていた。
夜は、明ける。
そして暗い森の中にも光は射す。
不意に射し込んだ光に顔を上げると。

そこに奇妙な形をした巨大なクモがたたずんでいた。

     * * *

埋葬を終え行動を再開したタチコマは少し離れて線路沿いに進むことにした。
駅などの要衝を九課のメンバーが制圧していることを考慮したからだ。
そして途中でイーロク駅にたどり着いたものの。

「うわっ!タンマ!ストップ!のせてー!」

無情にも西へ向かう列車が丁度発車していた所だった。昭和時代の電車を模した自走列車がタチコマの目の前を通り過ぎる。
厚い装甲に阻まれ熱センサが届かず中の様子は確認できない。
線路にたどり着いた時にはもうずいぶんと距離が開けられていた。

「あーあ、行っちゃった。それにしてもスゴい列車だったなー。装甲列車なんて前時代的なモノ始めて見たよ」

タチコマの速さなら今からなら追い付くが、その場合イーロク駅の確認はできない。
追い付いても列車の中に侵入するのは一苦労しそうだ。
結局タチコマは列車を諦めてイーロク駅の調査を優先した。
ホーム、待合室、トイレ……は狭くて入れない。
階段、地下通路、機能していない改札、駅員区画、駅員用トイレ……やっぱり入れない。
ざっと調べた所、今駅の中に人は居ないようだ。
先程の列車に誰か乗り込んだかどうかは、もはや確認できない。
仕方なくホームに戻ってせめて時刻表を確認しておく。

「4:30発ってのがさっき出てったやつだね。4時間ごとの発車か……。で向こうの駅からの次の列車の到着は2時間後っと」
281死と少女と(2/5) ◆TIZOS1Jprc :2006/12/17(日) 01:01:03 ID:LfQ/dHg7
2時間何もせずこのまま駅に留まるのもアホらしい。九課のメンバーなら市街地に向かっただろうか。

「……でもこっから東の線路ってどうなってるんだろ?」

それにさっき北東の森の方でちらりと光が瞬いたのも気になる。戦闘の可能性。
仲間を探すための指針が全くない現状で頼りにすべきはその好奇心。
タチコマはそのまま線路沿いを東に突き進むことにした。



タチコマが市街地を抜けて森に入った時のことだった。

「あるうひ〜♪もりのなか〜♪くまさ……銃声?」

かすかだが北の方から銃声が聞こえた。音波の波形からするとおそらく12番ゲージを使用する型のショットガン。
銃声は一発切りでそれ以上は聞こえない。正面戦闘ならば複数回の発砲が聞こえる方が自然。接近戦にしか使えないショットガンでは狙撃も有り得ない。
ゲーム開始から5時間も経過して試し撃ちというのも考えづらいのでステルスマーダーによる騙し討ちが最も可能性が高い。ならば

「少なくとも顔は確認しとかないとね」

必要に応じて加害者の拘束、もしくは無力化を行わねばならない。
光学迷彩を作動させておく。
先程の戦闘によるダメージで光学迷彩の効果が著しく低下しているが、この薄暗さなら先に相手に発見される可能性は一段と低くなる。
彼本来の使命を遂行すべくタチコマは銃声の音源へと向かった。



途中にデイバッグらしき物を見掛けたが罠の可能性も考えて一旦無視。
そして、タチコマが現場に見た物は奇妙な形状に耳朶を改造した女の死体と、それにすがり付いて泣きじゃくる金髪の少女だった。

『えーーーーーーと』

この少女が死体の女を殺したのだろうか?
戦闘の跡らしき傷が彼女の所々に滲んでいる。
何にせよ先刻海を錯乱させて、挙句殺害されてしまった様な失態は繰り返してはならない。
あの時はパズの言う事を真に受けて必要以上に馴れ馴れしく接し、あらぬ誤解を受けてしまった。
こういう時はきっと一般的なロボットに対する先入観の通りに"ロボットらしく"行動すれば相手も安心するに違いない。
まず光学迷彩を消して姿を表す。突然表れた巨大な気配に金髪の少女が顔を上げた。

『さあ、ここからが勝負だ!コミュニケーションは言葉!今こそこの膨大な記憶野を生かす時!』
「オハヨウ、オジョウサン。ボクノナマエハ、たちこまデス」
282死と少女と(3/5) ◆TIZOS1Jprc :2006/12/17(日) 01:03:53 ID:LfQ/dHg7
ぎょっとして少女が身を引く。

「……ロボット?」
「イエス。ボク、ろぼっとデス。ショウタイヲシラレタカラニハ、ニガスワケニハ、イキマセン」

益々気味悪げな表情で少女はあとずさった。

『あちゃー。逆効果だったみたい。やっぱり変な冗談は無しにして、矢張り冷静かつ客観的な態度でのぞまなきゃね』
「ごめんごめん。さっきのは会話を和やかにするためのジョークさ。僕は公安の備品で思考戦車のタチコマさ。とりあえずこの状況の経緯を聞きたいんだけど。まずキミの名前を教えてくれるかい?」

フェイトはぴょこぴょこと機敏に動くマニピュレータとくるくる回る外部観測ユニットを交互に眺めた。

「はあ……。私はフェイト……」

とりあえず同じ会話のフィールドに立つことには成功したようだ。そしてタチコマはストレートにさっきから気になっていた事を尋ねた。

「で。それ、キミが殺したの?」

あまりにストレートな物言いは、時に人を傷つける。
それ、が何をさすのか判らなかったか、一瞬呆気にとられた少女の眼に再び涙が込み上げた。

「私のせいなんだ……。わたしが……ころしたも同然……。わたしのほうが……!死ねばよかったんだっ……!」

再びしゃくりあげる少女。
泣き声のボルテージが上昇しタチコマは途方に暮れる。
結局、少女フェイトが落ち着くまでにさらに数分を要した。



「じゃあキミの犯したのはせいぜい傷害と不慮の殺人未遂だね。キミは未成年だから前科にはならないだろうし、そもそもここ日本じゃないみたいだから僕達の捜査権は及ばないよ」

ようやくある程度落ち着いたフェイトから簡単に事情を聞いたタチコマはそう結論付けた。
とはいえこの少女が嘘を言っている可能性は思考に留める。
女を蜂の巣にしたショットガンは見当たらないが、デイバッグの中に隠しているかもしれない。

「……そういう問題じゃない」

さっきからずっと眼を伏せたままのフェイトがぽつりとつぶやいた。先程"お近付きのしるし"に与えた西瓜にも全く手を付けていない。

「私がしっかりしてれば、この人……カルラさんは死なずにすんだ。わたしが……なんとかしなきゃいけなかった」

そう言うと再びフェイトはうつむいて喋らなくなった。
283死と少女と(4/5) ◆TIZOS1Jprc :2006/12/17(日) 01:05:50 ID:l/pKkkUF
『それにしても、ねえ?』

タチコマは先程のフェイトの話を反芻する。

『彼女の話が本当なら彼女は僕達のいる2030年から30年位過去から来た事になる。タイムスリップ?時空管理局執務官?バカバカしい話だよ』

しかし先刻相対した水銀燈なるロボット(?)の放った分析不能の黒い羽。
出会ったいずれも若い人間3人の内全員が今時電脳化していないという事実。
そしてフェイトが見せてくれたS2Uなる黒い杖に変化するカード。
どれもがタチコマの常識の遥か上空を行き交う話だった。

『やっぱこれ疑似体験だよね?新手の行動テストかな?』

しかしこのバトルロワイアルが現実であろうと仮想であろうとタチコマの取るべき行動には関係の無いことだった。
AIのタチコマの頭脳にとって現実と仮想は等価。
現実の任務に失敗して破壊された所で、分化した数ある個体の一つが欠けただけの事。
また、仮想空間で酷い失敗をすれば性能不良として扱われ、待っているのは廃棄処分だ。
どのみち人工知能であるタチコマに"死"は存在せず、破壊を恐れて任務を疎かにすることは考えられない。
なすべき事は九課のメンバーとの合流、バックアップ。
そしてこの少女の保護。
例え彼女が嘘を付いていたとしても、だ。

「……誰かの為に涙を流すことは価値があることだって、トグサ君が言ってた」

タチコマの声にフェイトは顔を上げた。

「僕は涙腺なんてないからその意味がよくわからないけど……キミを泣かせてしまうこの現状をなんとかしたいって、思う」

それが現実であれ仮想であれ。
なぜだろう、目の前に居る傷付いた心を、放っておくことができない。
その言葉にフェイトはタチコマへの警戒を、ほんの少しだが、解いた。その時。
突然上空に巨大な主催者の仮面の男の姿が浮かびあがった。ギガゾンビのホログラム。
少女にさらなる死を突き付ける定時放送が始まったのだ。

そして夜は、明ける。
284死と少女と(5/5) ◆TIZOS1Jprc :2006/12/17(日) 01:07:37 ID:l/pKkkUF
【D-7 森林・1日目 早朝〜朝】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労中、全身に軽傷、背中に打撲、泣き疲れ
[装備]:S2U(元のカード形態)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム残数不明、西瓜1個@スクライド
[思考]
1:放送を聞く。
2:カルラを埋葬、彼女の仲間に謝る。
3:タチコマを警戒しつつ情報交換
4:なのはに会い、もし暴走していたら止める。
5:はやて、シグナム、ヴィータとも合流
6:この西瓜……どうしよう
[備考]:タヌ機による混乱は治まったものの、なのはがシグナムを殺した疑惑はまだ残っています。

【タチコマ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:装甲はぼこぼこ、ダメージ蓄積、燃料わずかに消費
[装備]:ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)
[道具]:支給品一式、燃料タンクから1/8補給済み、お天気ボックス@ドラえもん、西瓜48個@スクライド
   タチコマの榴弾@攻殻機動隊S.A.C、双眼鏡、龍咲海の生徒手帳
[思考]
1:放送を聞く。
2:フェイトと情報交換、榴弾を装填してもらう。
3:D7南部のデイバッグを回収
4:フェイトを彼女の仲間の元か安全な場所に送る。
5:九課のメンバーと合流。
6:自分を修理できる施設・人間を探す。
[備考]:光学迷彩の効果が低下しています。被発見率は多少下がるものの、あまり戦闘の役には立ちません。
効果を回復するには、適切な修理が必要です。
285これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:14:07 ID:rJjIriYg
「―――っ、はっ! はぁ、はっ、はあぁ……。何とか撒いたか……?」

 高鳴る鼓動を掌で押さえ、喘息の様な荒ぶる吐息を正すべく一人の青年が地へと座り込んだ。
 岡島禄郎ことロックである。
 彼は今し方、人外化生なアーカードの猛威を咄嗟の機転で潜り抜けたばかりであった。
 吸血鬼は河を渡れないという伝奇を信じて、河川に設けられた石橋を必死の思いで横断した次第だ。
 一般人の自分が粉塵爆破という方法で規格外の獣を退げたから良かったものの、少しでも策を見誤れば確実に命はなかった。
 極限までに高められた緊張の反発が、今更ながらに額や背筋から凍える冷や汗となって滴り落ちてくる。

「くそったれ! 聞いてないぞ、あんな化物……っ」

 胸中で押さえきれぬ悪態が外へと飛び出し、ロックは自棄気味に大の字に寝転がった。
 今まででも弾丸吹き荒れる危険地帯に身を晒されたことはあれど、流石に範疇を越えた化物が相手だと肝の冷え具合も格段に違ってくる。
 強者と疑うべくもない程の息苦しい威圧感と圧迫感、漫然且つ冷然とした途方もない殺気が毛穴の奥まで突き刺さっていたのだ。
 正気を保ちつつ策を講じる余裕まであったロックは、大健闘したといっても過言ではない。
 だが、大金星を上げたからと言って慢心する余裕など持ち合わせてはおらず、直面した事実に今でさえ恐怖心を抱えていた。
 こちとら幾分の修羅場を潜り抜けたとはいえ、彼自身に戦闘技術など皆無。
 単独で絶体絶命の危機に遭遇することは、多量の精神を磨り減らす行為だということを改めて自覚する。
 ロックの相棒―――レヴィは単身奮闘する度胸の据わりに据わった女性であるが、これが彼女の世界だと認識してしまうと、なにやら理解の出来ぬ尊敬心が湧きあがって来るというものだ。  
 ―――まあ、彼女はこういったスリルを快楽とする、言わば戦闘狂な節があることを否定はしないが。

 ともかくも、一刻も早くアーカードを遠ざけるべく移動を開始したいところだが、心肺機能の悲鳴と連鎖して脚部までもが棒の様に張っている状態だ。
 足を動きたくも、数分の休憩を要さなければ意のままにならない。
 今は休息が肝要かと思い、ロックは仰向けの体勢で群青に染まりつつある大空を眺めた。
 気付くと、ゲームが開始されてから既に数時間。黎明期が過ぎ去った時間帯の中で、一睡することも儘ならぬ状況に放り出されたのだ。
 ここで瞼を閉じてしまえば、夜通し駆け回って蓄積した疲労が睡魔となって襲い掛かってくること請負である。
 一時の欲求に従って安穏とするのも有りか、そこまで思ってロックは勢いよく上体を起こす。
 
「駄目だ駄目だ……。あの時代錯誤野郎が河を渡る可能性……いや、尋常ならざるスピードで遠回りしてくる可能性もありか……」
286これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:15:40 ID:rJjIriYg
 ロックは頭を振りながら自問する。
 このような隠れ蓑とも成り得ぬ場所で、むざむざと惰眠を貪っている最中に襲われでもしたら目も当てられない。
 一度目はアーカードの猛威を凌ぎきった。
 だが、確信できる。―――二度目はないと。
 謀られた行為を犬に噛まれた些細な出来事と諦めて、追跡に自制を利かせてくれれば僥倖だが、そうそう都合の良い展開が訪れる筈もない。
 何事もなく苦難を素通り出来たことが、今までの経験上でも例がないことは百も承知。
 基本的に、ある日を境に災難塗れの人生を歩んできたロック。此度の人生一の凶難とも言える出来事すらも、巡り合う不運の延長線上だと諦めも付いている。
 だが、平々凡々の人生を歩んできた自分が幾多の災禍にまみえたと時とて、それ以上の幸運を持って切り抜けて来たのだ。
 バトルロワイヤルと称した冗談紛いの状況で、無様に死んでやるなどロックの誇りが許さない。
 確かに、アーカードと再び相対すれば彼の命など微塵の如く磨り潰されるだろう。一度欺かれた相手に油断を見せるような愚考すらも犯さない。
 正に問答無用で有無を言わさず、ロックの儚い生命など屠って始末を終えることは間違えない。
 恐らく、ロックに対して用心深くなったアーカードに今一度奇策を用いるのも、ある意味無謀で危険極まりないのだ。 
 その中で最も生存率の高い方法を考慮するならば、普通に考えて一つしかない。
 ―――つまり、相手にしなければいいだけのこと。端的に云うと、意地でも逃げ切る。その一辺倒に尽きた。
 決して速いとはいえない速力で逃走できるかはともかく、一箇所に留まって敵に捕捉されるのだけは何としてでも避けたいものだ。

 ロックは上昇した体温によって湧き出た汗を拭い、渇ききった口内を潤すべくバックへと手を伸ばす。
 暫しの休息を取った後は、直ぐにでも行動を開始するつもりである。
 この悪質な殺し合いに、同じく付き合わされているレヴィとも早急に合流する必要があったからだ。 
 彼女の安否に気を病んでいるわけではない。傲岸不遜に無茶をやらかしていないかという不安が、何よりもロックに心配の種を植え付ける。
 一度性根に火が灯れば、それこそ見境無く周囲を燃やし尽くすほどに気性が激しい女性なのだ。
 レヴィが起こした惨事の後始末は決まってロックの仕事であるからして、絶えない気苦労を常に背負う身にもなってもらいたい。
 本人がいない内での正しく身勝手な思考だが、胸中による陰口ぐらいは容認してくれてもいいのではないか。
 考え出すと理不尽な感情に苛まれる。精根尽き果てること寸前な溜め息を零し、バックから覗いた水分の容器を口に含めるべく手に取った。
 一先ず呼吸と思考を落ち着かせる意味を込めて、潤い求める口内に水分を与えてやろうと容器を持ち上げる。

 その間際、警戒緩んだロックの耳朶が、ザッと地を踏みしめる音を正確に聞き取った。

「―――っ!?」

 疑うべくもない明らかな足音に、何事かと跳ねるように視線を走らせる。その拍子に、手に持った水の容器は意図せぬ内に放り投げていた。
 
「っはぁ……はぁ、はぁ。やっと……追いつきました」

 ロックが捕らえた視界上には、膝に手を突きながら息を整える少女の姿があった。
 彼女の言葉の意味を顧みれば、どうやら自分を追って来たと見て間違いないようだ。
 ―――だが、どうして?
 彼は警戒が孕んだ訝しげな視線を少女へと寄せる。 

「―――俺に……何か用なのか?」
287これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:16:54 ID:rJjIriYg
 半ば腰を浮かせつつ、何時でも攻防可能な体勢を維持して問いかけた。
 鋭い眼光を浴びせかけられた少女は、我に返ったように慌てて腕を左右に振らせる。

「あ、ち、違いますよ? ちょっとお聞きしたいことがあって、その……いいですか?」
「…………」

 彼女はロックに対して危害を加えないと、念を押しながら訴えている。
 だが、彼の厳かな眼つきは依然と変わらず、慌てふためく彼女の調子にも動じた様子がない。
 それでも会話を交わすつもりは元よりあったために、視線で牽制しつつも続きを促すよう軽く頷いて見せた。
 彼女は一つ安堵の息を洩らし、緊張した面持ちで口を開く

「あ、あの……あなたは、ルイズフランソワーズ、ル、ブラン、ドラ・ヴァっ!?」
「は?」
「ひ、ひたい……」

 なんなのだこの少女は。
 理解不能な単語を口走ったかと思えば、舌を噛んで自滅するという体たらく。
 涙目な表情がまた過保護心をそそられるが、ここで油断をしてはいけない。
 幾ら年若い女性が苦痛に顔を歪めようが、一度甘い顔をして隙を曝け出すことこそが彼にとっては自殺行為。
 いや、むしろ女性だから警戒すべきである。
 ロックがラグーン商会の一員となってから、まともと言える女性と果たして巡り合えたのか。
 貞淑で美しい、もしくは活発で可愛らしい女性に巡り合えたか。この際、普通でも良い。よく思い返してみれば瞭然だ。
 否―――皆無であった。
 彼の周辺に生息する女共、もとい雌な獣共は例外なくぶっ飛んだ頭のネジが斜め上を爆走する奇想天外で珍種な人格なのだ。 
 ロックが身を寄せる世界が悪いのか、はたまた異性との巡り合わせが極端に不運なのか。
 どちらにしろ、彼が相対する女性は碌な人間ではない。
 よって、失態に顔を紅潮させた女性をことさらに注視する。
 警戒心によって気付くのが遅過ぎたが、違和感この上なかった。
 常識的な服装とは言い難い、何処か辺境民族が着こなす様な出で立ち。
 そして、それ以上に珍妙と言わしめる要因が少女にはあった。

「……コスプレか?」
「こ、こすぷれ……?」

 ロックが少女の姿を仮装と称した理由は他でもない。側頭部より突き出る獣耳に、後方より見え隠れする尻尾らしきもの。これが原因だった。
 コスプレという単語に、彼女は不思議そうに聞き返す。その際に揺れた。飾り物だと思っていた獣の部位が、感情に反応したかのようにだ。
 ―――あぁ、なんだ……。
 なんてことはない。彼女も人外か。
 つくづく一般人の定義とは無縁の人生だと、ロックは心底疲れ果てたかのように掌で顔を覆う。表情は、何処か哀愁を漂わせていた。
 もういい。警戒するのも馬鹿らしくなってきた。
 彼女からはアーカード寄りの危うさは感じられないために、気を揉むのは最早徒労だろう。
 これみよがしに溜め息を吐いて見せ、改めて彼女へ向き直る。
288これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:19:13 ID:rJjIriYg
「それで? えっと、ルイズなんだって……?」
「あ、はい。ルイズ、フランソワーズ、ル、ブラン、ドラ……ヴァリエール! よしっ。……は、あなたの名前ですか?」
「いや、違うけど」
「……え?」

 一度は躓いた名前を最後まで舌を噛むことなく言い切ったことは、彼女にとってさぞ爽快であっただろう。
 ある意味喜びがひとしおであったために、ロックの素っ気無い一言は無慈悲とも言えた。
 茫然としていた少女だが、諦め付かぬのか再び言葉を走らせる。

「……なら、あなたの名前を教えてもらえますか?」
「岡島……いや、名簿上はロックだけど」
「……もしかして、人違い?」
「もしかしなくとも人違いだね」

 少女は既に投げやりなロックの言葉を吟味し、その意味に気付くと落胆して肩を落とした。
 彼女はルイズという人物を探すことを目的としていたのだろうか。
 初見の対応からして、どうやら知り得た情報は名前だけのようである。まさかとは思うが、誰彼構わずルイズかどうかを聞いて回っているのだろうか。
 流石にそれは間の抜けた話だ。ロックを追いかけてきたところからすると、何かしらの根拠があったのだろう。
 頭を抱えた少女に、一先ず聞いてみることにする。
 
「あの、さ。どうして俺がルイズだと思ったんだ?」
「え? あぁ……実はですね―――」

 信じ難い話だが、どうやら特殊な道具によって人物を特定していた模様だ。
 会話の最中に名乗った少女―――エルルゥは甲斐甲斐しく道具に対して解説する。
 一見何の変哲もないステッキを倒すことにより、探し人が点在する方角を高確率で指し示すらしい。眉唾物の話だ。
 当の本人も理解できていないようだが、当然ロックとて原理については皆目見当も付かない。
 そういった用途の道具であることは間違いないようだが、現に自分がルイズでない以上、ステッキの有用性については疑わしいものだ。

「だけどさ、結局当たらなかったんだろ、そのステッキ? 胡散臭くないか……」
「うっ……。い、いえ、あなたがルイズさんでない以上、誤った行動を取ったのは自分ですし……」

 エルルゥの言い分によると、どうやらステッキを倒した方角に、偶然ロックがいたのだと言う。
 本来ならばルイズを正確に特定しており、その射線上に彼が割り込んだと見るほうが自然なのではないか。
 だが、ロックを目にした途端に彼は走り出したものだから、焦った彼女が咄嗟に追いかけてしまったのも無理はない。
 そして、何よりも直視し難い現実から目を逸らす為にも、あの場へ留まりたくはなかったのだ。

「それに、わたし見たんです……。真っ黒い人が、その……」
「―――いたのか、君も……」

 幾許もない過去の恐怖が再燃したのか、エルルゥは全身を震わせながら言い辛そうに言葉を濁す。
 その恐怖を身で持って体験したロックは、あの場に目撃者がいたことに若干の驚きと共に安堵の息を付いた。
 あれだけの爆音だ。気が付かないほうがおかしいが、安心したことはそれが原因ではない。
 アーカードの異常な気配察知能力からすると、あの場へ無防備にいたエルルゥなどすぐさま捕捉されていたのではないだろうか。
 仮に自分が殺されていれば、次への矛先は彼女だったのかもしれない。
 そう考えると、無茶を賭してまでアーカードと対峙した甲斐もあるというものだ。
 ロックはエルルゥの震える身体を宥める様、軽く肩へと手を置いた。
289これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo :2006/12/17(日) 02:21:31 ID:rJjIriYg
「何にせよ、お互い無事で幸いだったね」
「はい、本当に……。あんな人がいるなんて……この世界は危険極まりないということが良く理解できました」
「……いやいや。そんな規格外な生物を俺らの世界に並べないでくれ……」

 あまり同一視にしてほしくないものだ。
 さらにエルルゥの発言。
 世界という単語で区別する辺り、やはり彼女は異世界人のようだ。
 それも当然か。ロックの世界には獣耳を先天的且つ天然に生やした人類など存在しないのだから。
 それを興味心で問い掛けるのも若干憚られたために、特に言葉を挟むといったことはしなかった。

「ともかくね。あの野郎はアーカードって言うからさ、彼周辺の知人にも気を付けた方が無難かもよ」
「あ、アーカードですね……。分かりました、気をつけます」

 アーカードに遭遇してからでは逃走するのも至難の業。一番は近づかなければ最善なのだが、もしかしたら偶然が重なって遭わざるを得ないかもしれない。
 それはもう、自身の不運を嘆くしか道はないだろう。そして打倒すべくもないのなら、逃げの一手に徹するしか生きる手段はないのだ。
 ―――だが、それでもだ。エルルゥの不思議なステッキを活用すれば、危険人物との遭遇も掻い潜れるのではないか。

「思ったんだけどさ。君のステッキは探し人を特定するんだろう?」
「え、はい。そのようですけど……何分一度しか使ってませんから成功率の程は……」
「まあ、この際ギガゾンビの能力を信じてだ。そのステッキをアーカードへ向けて使用したら奴の方角が分かるだろう?」
「あっ……、なるほど……」
 
 エルルゥは感心したように頷いた。
 ロックの考察を噛み砕くと、確かにステッキの更なる有用性が期待できる。
 つまり、アーカードの居場所をステッキで探り当てる。向けられた方角より、逆に移動することによって出会う危険性を失くしてしまえば良い。
 正しく根本的なことだ。

「ただ確率に任せた道具であるだけに……外れたらどうなるんだ?」
「さぁ……。七割方成功だと説明書には明記してありますが……」

 だが、ステッキの的中する確率が七割らしく、残りの三割はどうなるのか。
 外れた結果が見当違いの方角を指し示すのならばまだ良い。
 正直目も当てられないことは、倒れたステッキが正反対の結果へと陥ることだ。
 望む人物は遠ざかり、危惧すべく人物は接近する。所謂神頼みだが、本人の知り得ぬところで正否が下されている分始末に終えない。
 非常に有効活用できる道具ではあるが、多様はすべきではないだろう。

「なら、それが本当に不思議な力のある道具が試してみないか? 奴を使ってさ」

 ロックは数時間前に離れた商店街を遠目で見詰める。
 そこはアーカードに一矢報いた爆心地。
 彼の視線をエルルゥは辿った後、納得したように頷いた。

「そうですね……。時間制限もありますが、今は一刻も早くあの人から離れたいですし」
290これが薬師の選択です  ◆KZj7PmTWPo
 エルルゥとしても、果たしてステッキが望み通りの結果を導き出すか知っておきたい身。
 ルイズの捜索には失敗したものの、此度は幸いなことに、アーカードの居場所を漠然ながらに特定はしているのだ。
 爆発の直撃を喰らった状態で仮に移動したとする。それでもステッキが指し示す方向が商店街周辺、もしくは自分達から見て東寄りならば確信が持てる。
 それはロックにも好都合。人様の道具に便乗して自分の危機を回避することができるかもしれないからだ。
 意外とあざとい男だが、エルルゥ本人が彼の意図を見透かしていないのならば万事問題ない。
 彼女は不慣れな手付きで四次元バックをひっくり返す。
 なかなか豪胆な姿にロックは苦笑しながらも、エルルゥは錯乱した道具を掻き回して一振りのステッキを取り出した。

「これがたずね人ステッキです。―――では、いきます」

 信頼性を求めて、何の装飾もない普通の杖を地へと突き立てる。
 エルルゥは小さく息を吸った。

「―――アーカードさん……どーこだ」

 言葉と共に手を離し、突き立てたステッキが重力に引き寄せられる。
 コテンと、ステッキは地面へと水平に倒れ伏した。
 彼等はステッキの先端を辿って面を上げ、指し示す方角へと目を向けた。喜びの感心の吐息が二人より漏れ落ちる。

「間違いなさそうだな……。偶然って訳でもないんだろ?」
「は、はい! ステッキが独りでに倒れた感じだったので……不思議な力が作用したのかも」
「そうか……。このまま遠ざかれば一先ず安心ってところかな」

 倒れたステッキは石橋を挟んだ向こう側、つまり市街地へと正確に向けられていた。
 これで若干ながら、ステッキに活用能力があるのだと納得できる。
 満足のいく結果に、エルルゥは緩んだ笑みを浮かべながらステッキをバックへと仕舞い込んだ。
 次に、彼女は傍に転がる名簿へと手を伸ばす。
 掴んだ名簿を広げ、筆記用具を握り込みながら何やら書き込み始めた。

「……? 何をやっているんだ?」
「はい。人物の特徴を少々。他の人が見ても分かるように、ロックさんやアーカードさんについて記載しとこうかなと思いまして……」
「へぇ……。意外と几帳面だね」
「意外は余計ですっ。これでもわたしは薬師ですから、こまめに情報は記録する性分なんですよ」
「薬剤師か……。じゃあ薬なんて楽々調合できたりする訳だ」
「あ、あはは……。わたしなんてまだまだ未熟な身ですから、そんなことは……。―――それにしてもこの筆……便利ですねぇ」

 ベナウィさん喜びそう―――そう感慨深げに呟いた。
 墨汁要らずの鉛筆を、それこそ科学の集大成な如く感心したように使用する。
 その様は大げさにも思えたが、世界観が違うのだから価値観も違ってくるのだろう。
 熱心に名簿へと書き込むエルルゥを傍らに、手持ち無沙汰となったロックは錯乱する彼女の荷物を眺め見る。
 薬師というだけあって、確かに薬品ばかりが目に付いた。支給されたのか、もしくは近場で回収したのか。
 道具をある程度この街で収集したのならば、意外と目敏く活発な少女だと印象を変えざるを得ない。
 街としての形状を保った此度の舞台ならば、日用品に限らず、武器や食料も備え付けられているのではないか。
 再度街中を訪れて、自衛に役立つ掘り出し物を捜索してみるのも良いかもしれない。
 適当に曖昧な方針を浮かべていたロックであったが、一際目を捕らえて離さない物品が視界の中へと飛び込んできた。
 それは瓶の容器に入った、鮮やかで淡紅色な液体。何となく手に取ってみる。
 あらゆる角度から眺め、とりあえず蓋を抜いて香りを嗅ぐ。これも何となく好ましい匂いがした。
 そして、何となく口に含んでみたい欲求に駆られる。
 何となく尽くしという抽象的な思考だが、本能が誘われるのだから仕様がない。それは、口内が水分を欲していることにも相乗した。 
 鮮やかな着色料は得てして食指を動かしてしまうというものだ。
 ロックは地面へとぶち撒けられた自身の水に向かって残念そうに瞑目し、遂にエルルゥが所持する水分へと目を付けた。