アニメキャラ・バトルロワイヤル 〜作品投下スレ〜

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261たのしい遊園地 ◆WgWWWgbiY6 :2006/12/10(日) 03:58:51 ID:2a+JR9dj
【E―5:道路・1日目 深夜】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:健康
[装備]:コルトSAA(装弾数:6発・予備弾12発)
[道具]:支給品一式・ダイヤの指輪・銭形警部変装セット
[思考・状況]1:頼りになりそうな人を探す。
        2:ゲームから脱出。
        
【F−5:遊園地・一日目深夜】
【ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:支給品一式(配給品数不明)
[思考・状況]1:観覧車を破壊した人物の発見。
        2:マーダーをの処理。
        3:ゲーム打倒。
262経験過多、経験不足(1/3) ◆Bj..N9O6jQ :2006/12/10(日) 04:08:41 ID:aVn0KFr0
 走る。
 暗い闇夜の中、バリアジャケット……
デバイスを介して生み出す防護服を纏い、フェイトは走る。
まるで悪夢を忘れ、記憶から逃げようとするかのように。
手にはS2U。ミッドチルダ式のデバイスだ、彼女が扱うことに支障は無い。
頭にあるのは先ほど見た最悪のイメージ。散乱する血。死体。殺人と言う禁忌。

――人を殺した親友

 それは彼女を混乱させるに十分すぎるものだ。
フェイトは数々の戦場に身を置いた身だが、死体は一回も見たことが無い。
殺人もしていない。なぜか?デバイスに存在する、非殺傷設定のためだ。
簡単に殺さずに済ませてしまう技術は戦いから殺しという現実を遠ざける。
圧倒的な魔法の実力と多くの戦闘経験を持つフェイト。
しかし、彼女は見慣れていない。死体を。
失ったものはたくさんある、傷付けられたこともたくさんある。
だが、あれほど無残な死に様はまだ一度も見ていない。
目の前で消えていった母親だって、死体を見たわけではない。
そういう点では、彼女はただの女の子と変わりなかった。
死と言う現実を理解していないのだから。
ゆえに混乱し、ただ走る。
その心は、恐怖と言う名の暗闇に囚われ始めて。

――夜の闇は、それを増長させる。

 何も見えない。聞こえるのは音だけ。だから、頼りになるのは耳。
 轟音。前方、左手から。フェイトはそちらを向いた。
まだかなり距離がある。だが、しっかりと見えていた。
木が倒れる。燃え上がる。何かが、爆発したのだ。
……爆発。心当たりなら、ある。

「ディバインバスター……」

 怯えたような声でフェイトは呟いた。
追いついたんだ、自分は。なのはに。そして、この周辺には自分しかいない。

――私ね、騒がしいのは嫌いなの。
――だから、あんまりフェイトちゃんがうるさくするなら…

     コ ロ シ チ ャ ウ ヨ ?

 今まで聞いた中でも最悪な言葉が頭をよぎる。
今のは多分、なのはからの警告。なのははレイジングハートも持ってたんだ。
……そう、フェイトは思った。
混乱している彼女が、石ころ帽子を被ったみくるに気付くはずもなかった。
心と視界を闇に覆われ、射手にも気付かなかった。
そもそもディバインバスターは物を燃やさないという、
根本的なことさえ気付かなかった。

「とめ、なきゃ……」
263経験過多、経験不足(2/3) ◆Bj..N9O6jQ :2006/12/10(日) 04:10:18 ID:aVn0KFr0

 炎の中でS2Uを構える。その膝は明らかに震えていた。
なのはは生半可な実力ではない。
直に(しかも拘束されて)最強魔法・スターライトブレイカーを受けたフェイトは身を以ってそれを知っている。
そして、スターライトブレイカーが非殺傷設定でないなら……人を殺すことなんて簡単だ。
こうしている瞬間にも、なのはとレイジングハートはカウントを開始しているかもしれない。
カートリッジを使わなければ10秒。使えばもっと早い。
それで、スターライトブレイカーは発射され。

――死ぬ。死ぬんだ。シグナムみたいに。

 震えた足で、フェイトはなのはを探して炎の周辺を走り回る。
いや……もはや探し回るという表現は適切ではない。
なのはの照準から外れるために、逃げ回っているようだった。
いくら気丈に振舞っていても、どれほど大人びていても。
確かに「死」に関して彼女は9歳の女の子だった。

……怖い。
……こわい、こわい。
……もういやだ、帰りたい。
……くらいよ。どこから狙ってるの?
……勝てるの?なのはに勝てるの?殺さずに?
……誰でもいいよ、助けてよ、たすけてたすけてたすけて、たすけて!

――ガサリ

「!? フ、フォトンランサー!」

 葉が擦れる音。闇夜で相手は見えない。
なのはが相手だったら……隙を与えちゃ駄目だ。
ディバインバスターでも受けきれない。
スターライトブレイカーなんて受けたら死ぬ。
その前に先制攻撃するしかない。
フェイトは半狂乱で、フォトンランサーを……金色の光弾を放ち。

――後悔した。

 そこにいたのは、なのはではなかった。
人間とは違う容姿をした女性……人間形態のアルフを思い起こさせる姿。
ヒョウを基にした使い魔だろうか?
彼女に怪我は無い。怪我は無いが。その目にあるのは。

「……驚きましたわ」
「あ……その……」

 明らかな、敵意。

 弁解をする暇も無い。それに、声も出ない。
264経験過多、経験不足(3/3) ◆Bj..N9O6jQ :2006/12/10(日) 04:11:22 ID:aVn0KFr0
当たってはいない。照準が甘かったこともあり相手は見事に避けていた。
だが、攻撃したのは事実。そして、相手に分かったのはそれだけ。
それ以外の事情は分かりようが無い。
相手は明らかに身長と大きさが釣り合っていない、巨大な得物を構える。

フェイトを、殺すために。

 フェイトの足が、勝手に後ずさる。怯えた子供のように。
だが嘱託魔導師として戦い続けた経験は、
知らず知らずのうちにフェイトにS2Uを構え直させていた。

「邪魔をするなら……手加減、しませんわ」
「!」

【D-7 森林・1日目 黎明】
【フェイト・T・ハラウオン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:恐慌状態
[装備]:S2U+バリアジャケット@魔法少女リリカルなのは(他のランダムアイテムに関しては後続の書き手さんに一任します)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1: 応戦……?
      2:なのはの殺戮を止める

【カルラ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾、残弾6発)(棍棒としてしか使う気はない)
[道具]:支給品一式 、ランダムアイテム残数不明(カルラが扱える武具はありません)
[思考・状況] 1.応戦
      2.ハクオロと合流。他の仲間とも合流したい。
      3.邪魔する人間には容赦しない。
265たのしい遊園地 ◆WgWWWgbiY6 :2006/12/10(日) 04:19:02 ID:2a+JR9dj
すみませんが>>261のウォルターの項を
【F−5:遊園地・一日目深夜】

【ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:支給品一式(支給品不明)
[思考・状況]1:観覧車を破壊した人物の発見。
        2:マーダーをの処理。
        3:ゲーム打倒。
266請負人 ◆C0vluWr0so :2006/12/10(日) 07:37:36 ID:VLnv7/Ft
暗い森の中。周りには他の参加者どころか生き物の気配も無い。
ただ一人だけが巨木の幹の下に座り込んでいる。ロングコートを羽織った美丈夫。
それがエクソダス請負人、ゲイン・ビジョウだった。

(まったく……なんだってこんなことになったんだ?)
ゲインは現在の状況を把握しきれていなかった。彫りの深い美しい顔が疑問の表情を浮かべる。
(シベ鉄の仕業か? だが奴らはこんなまどろっこしい真似はしない。ロンドン・IMAの介入が入ったとでも?
 それにこの木々に気候……俺の知っている土地じゃない)

彼の元いた世界は極寒の地シベリア。
世界は大変動を迎え、人々は過酷な土地でドームポリスという建造物の中で暮らすことを余儀なくされていた。
そこシベリアを支配していたのがシベリア鉄道公社である。
シベリア鉄道公社――通称シベ鉄は本来ならばシベリア全土に渡る鉄道を管理するだけの組織なのだが、
シベリアでほとんど唯一の交通機関である鉄道は、そのまま食糧・資源の供給も担っている。
そのためシベ鉄からドームポリスへの影響力も多大であり、実質的にシベリアを支配していた。
強大な権力を盾に横暴の限りを尽くすシベ鉄に反感を持つ人々は、かつて自分たちが住んでいた豊かな土地、ヤーパンへと脱出しようとした。
これがエクソダスである。
ゲインはエクソダス請負人として、この都市単位での大脱走を指導する立場にあった。

「名簿に知った名前はほとんどないな……。ゲイナーくらいなものか」
例えば自分がウルグスクのエクソダスの中心人物として集められたのだと仮定しよう。
エクソダス関係者を集めているのなら他の80人近い面々もそうだということになる。
だがあの場には明らかに小さな子供もいた。あの子達がみなエクソダスに関わっているとは考えにくい。
そもそもエクソダスを取り締まるのならこんなまわりくどいやり方をする必要もない。
自分は『エクソダス請負人』という立場としてここにいるのではないのだ。
おそらく、自分たちには共通点など欠片も無い。あの仮面の男もシベ鉄やロンドン・IMAの人間ではないのだろう。

「つまりあいつの思惑なんかわかりっこなし。お手上げというわけか」

ふぅ、と息をつく。首輪の冷たい感触にはまだ慣れない。
(それでも……俺は請負人で、あいつはチャンプだ。諦めるには早すぎるさ)
むざむざと死ぬつもりは無い。ゲインはデイパックへと手を伸ばし、支給品の確認をする。
さっき見た名簿の他に、食糧、地図にコンパス、時計、ランタン、筆記用具。そして――

「こいつは……なかなか洒落にならないかもしれないな」
ゲインに支給されたランダムアイテムは二つ。残念なことにどちらも殺傷能力の高い武器とは言えなかった。
パチンコと工具箱。銃や刀剣の類を期待していただけに、落胆の色は隠せない。

「こいつはなんだ? 説明書によると……ゴムで弾を撃つだけの単純なおもちゃか」
だが黒いサザンクロスの二つ名を持つ優秀な狙撃手のゲインならばパチンコでも本来以上の性能を引き出せる。
試しに近くにあった小石を弾にして、30mほど離れたところに茂っている木の葉の一つを狙う。
何気ない動作でゴムを引く。狙いをつけるのに要したのはほんの2、3秒。だがその狙いは正確だ。
ひゅんっ! 軽快な音を上げ飛んでいった石は、見事に狙った木の葉を粉々にした。
「射撃の精度は悪くない。後は使い方しだいだな」
いくらパチンコだといっても急所を正確に狙うことの出来る者が持てば武器になりうる。
目、眉間、こめかみ。殺すことは出来ないだろうが相手の戦闘力を削ぐ分には十分だろう。
267請負人 ◆C0vluWr0so :2006/12/10(日) 07:39:06 ID:VLnv7/Ft
次に工具箱をチェックする。中身は一般的な工具ばかりだった。
トンカチ、糸ノコ、スパナやドライバーその他諸々。用途は幅広い。
その中からトンカチを選び、近接戦用の武器として右手に装備した。

「やはりこれだけじゃ心細いな。ライフルでも入っていれば良かったんだが贅沢は言えないか」
パチンコとトンカチでは銃を持った人間にでも襲われればひとたまりもないだろう。
早急に他の武器、出来れば使い慣れた銃器を見つけたいところだ。


地図を眺めてこれからの行動方針を決めようとしながらも、ゲインの脳裏には見せしめとなった二人の姿が浮かんでいた。
かつて、まだゲイン・ビジョウがゲイン・ビジョウで無かったとき。
一つのドームポリスがエクソダスを決行した。そのドームポリスの名はウッブス。
――ゲインの故郷だった。……だった。

エクソダスは重大な犯罪行為であり、楽園の自由を求めた代償は、時として死という形で還ってくる。
ウッブスはエクソダスに失敗した。そしてウッブスという街は滅んだ。
ゲインはあの時の血と叫びと硝煙の匂いを忘れることは出来ない。

「あんな凄惨な光景……繰り返すわけにはいかない」
ゲインは立ち上がり、南へと足を進める。
ウッブスは失敗し、ゲインは名前を捨てた。だがウルグスクでは違った。

「エクソダスは……希望だ。ここで終わらせるわけにはいかないさ」
ウルグスクのエクソダスの中で見つけたものがある。それは『仲間の存在』だ。
ウッブスはみんながゲインという請負人の存在に依存し、頼り切っていた。
だが今はひとりじゃない。頼れる、強い仲間がいる。
浮かぶのはゲームチャンプの顔。ゲイナーに白兵戦の技術なんてほとんど無い。
なに、あいつなら大丈夫だろうよ。ゲインはゲイナーを信頼していた。
あいつとなら……俺はなんだって出来るさ。
こんな殺し合いに乗る気はさらさらない。まずは南下し、市街地で協力できる人間を集める。

「確か……ギガゾンビとかいったな。あいつに教えてやるぜ。
 ピープルが希望を持つ限り、エクソダスは暴力なんかじゃ止めれないってことをな」
 
【C-5森 1日目 深夜】
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:良好
[装備]:パチンコ(弾として小石を数個所持)、トンカチ
[道具]:支給品一式、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)
[思考]
第一行動方針:市街地で信頼できる仲間を捜す
第二行動方針:ゲイナーとの合流
基本行動方針:ここからのエクソダス(脱出)
268不思議の国のバトー 1/10  ◆S8pgx99zVs :2006/12/10(日) 11:37:10 ID:aqy3Bfby
「馬鹿馬鹿しいぜ」
エリアを東西に結ぶ線路、その高架下で一人の男が毒づいていた。

一体ドコのどいつだ、こんな馬鹿げた疑似体験をオレにかましているのは。
いきなり始まったかと思えば、ヘンテコな面を被った男が"殺し合いをしてもらう――願いを
叶える"だと、悪趣味な上に陳腐だ。
今日日、ガキのする仮想ゲームだってもっと趣向を凝らしているもんだぜ。

一体、ドコの誰が?いつ?どうやって?何が目的でこんなことをしている。
仮にも9課に所属するオレに仕掛けて来たってことは、政治テロかそれとも今までに
捕まえた犯罪者の復讐か……
どっちにしろ腑に落ちねぇ……、操るなら操ればいい。殺すなら殺せばいい。
こんな疑似体験をかます必要はない。何故、こんなゲームをオレにさせる?その目的は?
今、オレがすでに操られているとして、ここで人を殺せば現実でも殺している――としても、
まだオレには自由裁量がある。
……何が目的だ。何が。このサバイバルゲームに何の意味がある?

…………
………………
……………………
埒が明かねぇぜ。こんな状態じゃ答えは出ねぇ。最悪、オレがただ夢を見ているだけと
いうこともありえるしな。

コレが現実か仮想かはたまた夢――これも仮想だが――かは置いといて、このゲームに
どう対処するか考えるか……

まずは、この首輪だ。
爆薬が仕掛けられていると言われ、実際にそれは目の前で証明された。
……確かに爆薬はこの中にある。起爆装置も確認できたが防壁が厚くて手が出ねぇ。
首輪の内周に回路が走っていて――これが切れると起爆する……か。
ノイズを発しているところから、おそらく受信だけでなく発信装置も内臓されているな。
あの仮面の男がこちらの居場所を確認するためか。これを辿れりゃいいんだが、道具が
ないし――そもそも、衛星を経由されてちゃそこでお手上げだ。

首輪は一先ず諦めるとして、次は少佐か……
あの少佐が本物という可能性はこれが疑似体験なら低い。偽者だったとして、作られた
データなら判別がつく可能性もあるが、オレ自信の脳内から投影されていたんじゃ
判別不可だ。逆に本物だったとしても――判別不可じゃねえかっ!

次はここがどこか?GPSが利けばすぐにわかるが生憎作動しない。
となれば記憶と知識が頼りだが、少なくともオレの記憶にある場所じゃない。
かといって地図を見ても、現代――少なくとも日本の中にある地形でもない。
だとすればやはりここは仮想の世界なのか、それともわざわざこのために用意したのか……

仮想か現実か、いい加減どうどうめぐりだぜ。
269不思議の国のバトー 2/10  ◆S8pgx99zVs :2006/12/10(日) 11:38:26 ID:aqy3Bfby
「あー、クソッ!」
こういうのはオレの好きなシチュエーションじゃねぇ。
もっとわかりやすくて大暴れできるような――そうだ。支給品とやらを確認するか。
武器が入っていると言ってたな。

「……カラシニコフ〜?」
デイバックから出てきたのは旧世紀及び今世紀初頭の大戦争辺りまで活躍していた
AK-47だ。これで戦えってのか?うーむ……だが、構えて照準してみると以外と悪くない。
他には……水、食料、ライト、コンパス、地図、筆記用具、時計……それと、
……お菓子に……煙草か。菓子はともかく煙草は見たこともない銘柄だな。
引っくり返すと裏に紙が張ってある、なになに――”毒入り注意”――なるほどね、これも武器か。
まさか菓子箱の方にも仕掛けがあるんじゃねぇだろうな。開けると爆発するとか。
…………考えてみるとこの六角形の緑の箱はなにやら怪しい。

箱に手を当てる……振動はしていない。熱も感じないぜ。
次に箱を傾けてみる……別段固まりのようなものは入っていない。
顔を近づけ匂いを嗅ぐ……薬品や火薬の匂いはしない。
丁寧に封を切る、そしてゆっくり蓋を開くと…………ほら、普通のお菓子だ。

「くそっ!」
何をやっているんだオレは……自分自身の馬鹿馬鹿しさに疲れるぜ。
270不思議の国のバトー 3/10  ◆S8pgx99zVs :2006/12/10(日) 11:39:21 ID:aqy3Bfby
AKを肩に下げ、市街地を目指して高架の下を歩く。
別に山中でのサバイバルは苦手ではないが、ジメジメした地面で寝続けるというのも
気が滅入るし、この場合じっとしているより動いた方が手っ取り早い。

全エリアの合計面積が16000uで参加者が80人、一人頭の面積が……
「そろそろ誰かを見つけられてもいいんだが……」
あまり意味のない計算をしながら、ひとりごち歩く。そもそも均等に……

ドオンと轟音が鳴り響く。山の方を見上げてみればまだふもとの辺り、ここからでもそう遠くない
位置で火柱が上がっているのが見える。
対物ライフル?いやRPGか?というかそんなモノが他の参加者には支給されているのか。
つくづく自分は貧乏くじを引く方だと痛感する。

さて、どうするか?少なくとも撃った人間がいるのが予想されるが、どこから撃たれたかは
見ていなかった。着弾地点まで出て行ってオレも撃たれましたじゃ、間抜けがすぎる。
とりあえず、コンクリートの柱に身体を寄せAKを構えて様子を窺う。

今の一撃で終わったのか次のアクションはない。自分はまだ見つかってないようだが、
長距離砲を前に相手を確認せずに動きたくはないしな。しばらくここで……ん?

「ひぃ〜〜ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
高い女の声が山の方から近づいてくる。狙われていた人間か?

「あひっ!ぅひぃ〜ぃぃぃぃいいいいぃ〜〜っ」
…………おかしい。声の大きさからすればもう姿が見えても――光学迷彩か!?
腰の高さまである草を掻き分け悲鳴を上げる女(?)がこっちに向かってくる。
「止まれっ!」
見えない女の正面に飛び出し銃口を向けて威嚇する。
「ひゃんっ!」
草が途切れた所で小さな悲鳴が聞こえ、ドタッという音とともに砂煙があがった。
半球の何かが転がってきて、女の姿が見えるようになった。

地面にうつ伏せになりぅぅ…とか弱い声を出すメイド姿の女の子――朝比奈みくるであった。
271不思議の国のバトー 4/10  ◆S8pgx99zVs :2006/12/10(日) 11:40:23 ID:aqy3Bfby
いきなり出てきたかと思えばメイド……メイドねぇ。
「おい、大丈夫か?」
地面に伏してか細い声を上げるメイドに声をかけてみる。
「……ひぃっ!殺さないでくださ〜い」
両手を頭の上にあげて振るえはじめた。特に武器は持っていないようだし害はないようだが。
「殺さない。立ち上がって名前を言え」
メイドはおずおずと顔を上げ、オレの顔を見ると泣きそうな顔をしてからゆっくりと立ち上がった。
「……朝比奈みくると言いますぅ。みくるちゃんとお呼びくださぁい」
名簿にあった名だな。こいつもこのゲームのプレイヤーなのか、あるいは……
見た目は背の低く、童顔で愛らしい顔、その割りに女らしい身体、メイド服……
「お前、ロボットか?」
メイド服の少女は質問に目を丸くする。
「へ?違います。私はれっきとした人間です」
「サイボーグでもない?仮想のキャラクターでも?」
「違います〜人間です」
てっきり愛玩用のロボットかと思ったが”天然”らしい。まぁそれはいい。
「さっきの爆発は?何があった?」
質問を聞いた途端急にあたふたとする。
「そ、それが急に爆発してっ!、女の人がこっちを狙っていてっ、怖くてっ……」
「逃げてきたのか?」
「ひぃぃぃぃぃ〜〜〜〜っ!」
頭を抱えて闇雲に逃げ出そうとする少女の腕を取って柱の影に入る。
「落ち着けっ!相手の顔は見たのか?」
「ひぃっ…、お、女の人でした。鬼みたいな人がすぐそばにいて……」
「すぐそばに……?」
どうやら砲を撃ったのは素人らしい。この場合誤射ということもありえる。
とりあえず、追ってはこないだろうし、ここに直接撃ちこまれる心配もなさそうだ。
「落ち着け、もう危険はない。落ち着いて事情を話してくれ」
「はぁ、じ、事情ですか?」
「ああ、君が何者で、何でここにいるか、だ」
「わかりました。秘密なんですけど緊急事態だから話します」
「ああ、頼む」

「私は”未来人”です」

「…………………………」
なんだか馬鹿らしくなってきたぞ。
272不思議の国のバトー 5/10  ◆S8pgx99zVs :2006/12/10(日) 11:41:14 ID:aqy3Bfby
「未来人…?」
「はい!みくるは未来から来ました」
「……………………」
「し、信じてもらえないかもですけどっ、みくるは本当に未来からやってきたんです!」
「……………………」
「あぁ、うぅ……本当ですよぉ……」
「未来から”来た”と言ったな?じゃあ、君が来たという”今”は何時で何処だ?」
「…2003年の日本ですけどぉ」
「2003年!?第4次世界大戦の最中じゃないか」
「第4次世界大戦っ!?そ、そんなのその時間平面上じゃ起きていません!」
「だとしたら、君が未来人というのは嘘か?」
「嘘じゃありません〜っ」
「だったらどう解釈する?」
「そ、それは〜……、あなたが並行世界の住人だったり……」
「……………………」
「あ、あの〜……」

「真面目にするのが馬鹿らしくなってきた……」
273不思議の国のバトー 6/10  ◆S8pgx99zVs :2006/12/10(日) 11:42:33 ID:aqy3Bfby
「そ、そんな!みくるは嘘をついてません〜」
メイド服の少女が涙目で詰め寄ってくる。
「そうじゃない。そういう意味でいったんじゃない……」
「……?」
「オレはコレが全部疑似体験ではないかと疑っている。その場合、君はキャラクターで
君自身は自分の中の矛盾に気づかない」
少女はオレの言葉に怯えながらも気丈に反論してくる。
「そ、それだと、私から見たらあなたの方が疑わ……しい、かもです」
「オレには確固たるこのゲームが始まる前の記憶がある。オレは現実の人間だ」
そのはずだったが、予想外の反論がきた。
「そ、そんなのわかりっこありません。さっきあなたが言ったじゃないですか。
作られたキャラクターは自身を疑わないって。だ、だから、あなたの記憶だって
予め与えられた偽物かも……知れない、です」
そうだ、確かにそれは否定できない。
「少佐も似たようなこと言ってったけな……」
「少佐…?」
「草薙素子。名簿はまだ見ていないか?オレがバトーで、素子、トグサ、タチコマが
オレの同僚だ」
「バトーさん。変わった名前…あっ、ゴメンなさい」
「君の方は知り合いはいないのか?」
「え、あっ、います。涼宮さんとキョンくんと長門さんと、鶴屋さんと…浅倉さん」
「けっこういるんだな。で、彼女達も君のように未来人だったりするのか?」
「………………」
「どうした?言えないのか?」
彼女は可愛らしい手を顎に当てて難しい顔をしている。
「……えーと、難しいというか、私が言っていいのか……」
「みんな普通の人間じゃない?」
「えっ…、いやキョンくんと鶴屋さんは普通の人間です…あっ」
「つまり、他はそうでないと」
「うぅ……、いじわるですね」
頬膨らませ赤くする様も可愛らしい、庇護欲をそそるタイプだ。
これが愛玩用ロボットなら人気商品だろう。

「どうかしましたか?」
顔をかしげてこちらを覗きこんでくる。
「いや、これからどうしたもんかと思ってね」
274不思議の国のバトー 7/10  ◆S8pgx99zVs :2006/12/10(日) 11:43:28 ID:aqy3Bfby
結局は真面目にこのサバイバルゲームに取り組むことにした。
かわいらしいメイド少女曰く、
「私たちが仮想や作られた存在である可能性はありますが、もしそうでなかった時
なにも努力せずに失敗しちゃったら後悔すると思います」
……だそうだ。一理ある。
もしこれが仮想訓練だとしたら、メイド少女に諭されているオレを見てイシカワあたりは
腹を抱えて笑っているかもしれんが、もうかまうもんか。
あのギガゾンビとかいうわけのわからんヤツを倒して、ここを出る。それだけだ。


「で、君の……」
「みくるちゃんとお呼び下さい」
「みくる……の荷物はどうした?途中で落としたか?」
オレの言葉を聞いて、ハッとした顔をする。今さら気づいたようだ。
「ど、どうしよぅ〜、大事なものなのに……」
落ちているわけでもないのにそこいらをキョロキョロ見渡す。
「これは君の支給品か?」
先ほど、足元に転がってきた半球の何かを彼女の前に出してみた。
「あ!そうです。拾っておいてくれたんですか。ありがとうございます」
「で、それはなんだ?役に立つのか」
「えっとですね〜…、これはこうすると〜……」
彼女が半球の何かを頭の上――あれは帽子だったらしい――に被せると……
「姿が消えるんですよ!」
……さっきの光学迷彩はこれの効果か。だが、被っただけで全身をカバーするとは
ずいぶんオーバーテクノロジーだ。熱反応も動体反応も消失している。
「……えと、消えて…ますよね?じゃないと私恥ずかしいんですけどぉ」
「あ、いや消えている。オレからすると多少不自然なブランクがあるんで、完全では……
なんだ、見えてきたぞ。切れたのか?」
「あ、そういえば説明書にじっと見られると、見えちゃうって書いてました」
「つまり、光学迷彩ではなく心理迷彩ということか。なるほど」
「よくわかりませんが〜……」
「君の世界のものじゃない?」
「絶対ではないですけど、私は見たことありません。でも……」
「でも、なんだ?心当たりがあるのか?」
「もしかしたら、あの青い…たぬき?さんが知っているかも知れません」
275不思議の国のバトー 8/10  ◆S8pgx99zVs :2006/12/10(日) 11:44:18 ID:aqy3Bfby
青いたぬき……ギガゾンビに殺された少女の近くにいた置物みたいなヤツのことか。
「どうして、そう思う?」
「あの最初の時、青いタヌキさんと仮面の人が言い争っていて知り合いのようでした。
で、その中でタイムパトロールとか時空なんとかって言ってて、多分青いタヌキさんも
仮面の人も未来……私から見ても未来の人達なんだと思います。だとしたら……」
「すべてに合点がいく」
「…はい。それでこの道具も仮面の人が用意したものですから」
「…………………………」
「ど、どうしたんですか?何かおかしいですか」
「いや、意外と頭がいいんだなと思ってな」
「意外は失礼ですよ!」
276不思議の国のバトー 9/10  ◆S8pgx99zVs :2006/12/10(日) 11:45:08 ID:aqy3Bfby
疲労した彼女の疲れが取れるまで、そして爆発を起こした女が次のアクションを
起こさないかじっくりと見切った上で出発することにした。

「さてと、じゃあ動くとするか」
AKとデイバッグを肩に掛けなおし、西――市街地の方を見やる。
彼女――みくるには石ころ帽子を被りっぱなしにするよう言ってある。
狙撃された場合、オレなら対処はできるが彼女にはそれは無理だからだ。
彼女のデイバッグは諦めた。森の中で音を立てずに探し物をするのは難しし、
聞いた限りではそれほど重要なものを持っていなかったからだ。
「ホテルに向かうんですよね?」
姿の見えない彼女が聞いてくる。
「ああ、このまま線路沿いに市街地へ入り、物資を補給しながらホテルに向かう」
「ホテルをお家……基地にするんですか?」
「いや、ホテルに行くのはあそこが一番高い場所だからだ」
「………………?」
姿は見えないがきょとんとしたという沈黙だな。
「屋上に上って周りを監視する。あそこらへんは人も集まりやすいだろうからな」
「それで、みんなを探すわけですね。青いタヌキさんも」
「そういうことだ。そのためにも途中で望遠鏡を見つける必要がある」
「わかりました。私もお手伝いします」

「じゃあ、進むぞ。敵を確認したからには慎重に進む。あんたもさっき殺されかかった
ってことを忘れるな」
「はっ、はい」
「その帽子の効果で離れた所からは気付かれないだろうから、オレの後をゆっくり
歩いてくればいい」
「はい」

バトーとみくる――傍目にはバトーだけのように見えるが――の2人は高架にそって
西へと移動を始めた。
277不思議の国のバトー 10/10  ◆S8pgx99zVs :2006/12/10(日) 11:45:58 ID:aqy3Bfby
 【E-7/高架下/1日目-黎明】

 【バトー】
 [状態]:健康
 [装備]:AK-47(30/30) カラシニコフ
 [道具]:デイバッグ/支給品一式/AK-47用マガジン(30発×9)/チョコビ/煙草一箱(毒)
 [思考]:市街地で望遠鏡またはそれに類するものを入手する。
      ホテルの屋上に向かう。
      9課の連中、みくるの友人、青いタヌキを探す。

 ※チョコビ 参考>http://www.bandai.co.jp/candy/products/2006/88013.html

 【朝比奈みくる】
 [状態]:健康/メイド服を着ている
 [装備]:石ころ帽子(※[制限]音は気づかれる。怪しまれて注視されると効力を失う)
 [道具]:なし
 [思考]:バトーと同行する。
      SOS団メンバー、鶴屋さんを探して合流する。 
      青ダヌキさんを探し、未来のことについて話し合いたい。

 ※みくるの落としたデイバッグはD-7の南部に落ちています。

     デイバッグ/支給品一式/庭師の如雨露
     エルルゥの薬箱(治療系の薬はなし。筋力低下剤、嘔吐感をもたらす香、
     揮発性幻覚剤、揮発性麻酔薬、興奮剤、覚醒剤など)
>>277

 【E-7/高架下/1日目-黎明】

 【バトー】
 [状態]:健康
 [装備]:AK-47(30/30)
 [道具]:デイバッグ/支給品一式/AK-47用マガジン(30発×9)/チョコビ/煙草一箱(毒)
 [思考]:市街地で望遠鏡またはそれに類するものを入手する。
      ホテルの屋上に向かう。
      9課の連中、みくるの友人、青いタヌキを探す。

 ※チョコビ 参考>http://www.bandai.co.jp/candy/products/2006/88013.html

 【朝比奈みくる】
 [状態]:健康/メイド服を着ている
 [装備]:石ころ帽子(※[制限]音は気づかれる。怪しまれて注視されると効力を失う)
 [道具]:なし
 [思考]:バトーと同行する。
      SOS団メンバー、鶴屋さんを探して合流する。 
      青ダヌキさんを探し、未来のことについて話し合いたい。

 ※みくるの落としたデイバッグはD-7の南部に落ちています。

     デイバッグ/支給品一式/庭師の如雨露
279 ◆S8pgx99zVs :2006/12/10(日) 12:36:32 ID:aqy3Bfby
ごめんなさい。>>278の修正はなし。>>277で通します。
280怯える少年 ◆/1XIgPEeCM :2006/12/10(日) 13:19:57 ID:UWGJM6pd
「ああ、もう、なにがなんだか……」
彼、桜田ジュンは混乱していた。
何時の間に眠ってしまったのか分からないが、目が覚めたら見たこともない部屋の中で、これまた知らない人が沢山いた。
そして仮面の男が出てきて言ったのだ。『キサマらにはこれから殺し合いをしてもらう』と。
これを聞いただけでも軽いパニック状態に陥りそうになったが、さらに人が目の前で死んだ。二人。
一人は筋肉質な男。果敢にも仮面の男に殴りかかり、そして呆気なく首を吹き飛ばされた可哀想な人。
もう一人は、自分よりいくつか年下で小学生くらいの女の子。彼女も同様に首を吹き飛ばされて死んだ。
ジュンは恐怖した。少しでも逆らえば殺される。その恐怖に抗う術もなく、ジュンはまるで石化したようにその場から動けなかった。

……そして、気付いたらここにいたわけだ。
ジュンが飛ばされた場所は会場南の遊園地。H-4のお化け屋敷の中だったが、当の本人はそれを知る由もない。

「うー、なんだよここ……気味悪いなぁ」
思わず正直な感想を漏らしてしまう。周りは薄暗く、壁が真っ赤に染まっている。血のように赤い赤。そんな感じだ。
いくらなんでもこんな気持ちの悪い所に送り込むことはないだろう……。
デイパックを片手に一歩一歩、周りに注意を向けながら前へと歩く。とりあえず出口を捜さなければ。
こんな得体の知れない場所に留まるのはごめんだった。
その時、この場の明かりがフッと消えた。
「ひっ」
情けない声がジュンの口から漏れる。辺りは一瞬の内にして真っ暗闇に包まれた。
そしてどこからかおどろおどろしい……人の呻き声のようなものが聞こえてきた。
誰かのいたずらか。幻聴かもしれない。
ゔゔぅぅぅぅ……。あ゙あ゙ぁぁぁ……。
誰かに助けを求めているような声。聞く者を心の底から震え上がらせるような、そんな声だ。
ジュンは急に恐くなって、駆け出した。暗闇の中駆け出した。
ところどころ壁にぶつかりながらもジュンは走り、ほどなくして出口が見えたので、彼はそこから飛び出した。

「はぁ、はぁっ、くそうっ! なんなんだよ!」
耐え切れず大声を上げてしまうジュン。そこでハッとして、彼は咄嗟に両手で口を塞いだ。
様々な展開の連続で混乱してしまったために気付かなかったのだが、殺し合いはもう始まっているのだ。
大声を出せば、危ない奴に居場所を知られてしまう可能性も大いに有り得る。
体を固まらせ、息を殺して周囲を見渡す。特に人がいるような気配は感じない。ジュンはホッと胸を撫で下ろした。
そして、今さっき自分が出てきた建物。
見ると、一見廃墟のようだが、いかにもそれは自然に成れ果てたものではなく、人工的に作られたものだと分かるお化け屋敷だった。
ジュンは、なんだ、と苦笑する。
少しずつ落ち着いてきたところで、ジュンは自分に支給されたデイパックのことを思い出し、中身を確認する。
中からは水、食料二日分に、地図や名簿、その他もろもろが出てくる。
ジュンは現在地を確認するため地図を広げ、デイパックに入っていたランタンで照らしながら見てみた。
281怯える少年 ◆/1XIgPEeCM :2006/12/10(日) 13:21:06 ID:UWGJM6pd
「えっと、ここ……遊園地だよな」
地図を見ながらもジュンは困った表情になる。
周囲には自分がさっき出てきたばかりのお化け屋敷に、近くにはコーヒーカップ。少し離れた所には観覧車が見える。
恐らくは遊園地の中のどこかと考えて良いと思うが……詳しいエリアは特定できない。
およそ4エリア分の広さはあるこの遊園地は、結構広そうだ。
とりあえずは大まかな現在地が分かったからよしとして、ジュンは次に名簿に手を伸ばした。
あの時自分と同じように集められていた人達。少なく見積もっても五十人は確実にいた。自分が知っている人もいるかもしれない。
そう思い、ジュンは名簿を広げ……あった。
ジュンにとってはあまりにも聞きなれた名が、四つ。真紅、翠星石、蒼星石、そして……水銀燈。
「あいつらもいるのか……」
水銀燈は別として、真紅達も参加させられているのなら、何とか彼女らと合流したいとジュンは思った。
何せ自分は所詮引き篭もりの中学生。あの時集められた人達の中には、自分なんかよりも強そうな大人が何人もいた。
常識的に考えて、ただの子供である自分が生き残れるはずがない。
真紅達は一種の希望。一人でいるのは心細い。だから、まずは彼女らと合流して少しでも恐怖を和らげたいと、ジュンは考えた。
今後の行動方針も決まったところで、ジュンは名簿を放り出し再びデイパックを漁る。
確か武器が入っているはずなのだ。流石に武器も持たずに歩き回るのは危険すぎる。
やがてデイパックからは、どうしてこんな物が入っているのか、物干し竿が出てきた。本当に何の変哲もない銀色の棒。
「なんでこんな物が……」
長い。二メートルはあるだろうそれは、どう考えてもこの小さなデイパックには入り切りそうにない代物だ。
まったくもって摩訶不思議だが、不思議なことは日常茶飯事なので特に気にも留めないでおく。
次に出てきたのは、なんと拳銃だった。
しかし軽い。本物の銃器に触れたことがないのでよく分からないが、こんなに軽いものだろうか。
ふと、グリップの部分にセロテープで二つ折りにされた白い紙が貼り付けてあることに気が付いた。
それを引き剥がし開くと、そこには『これはモデルガンです』と黒い文字で書かれていた。がっくりと肩を下ろすジュン。
結局、デイパックに入っていた武器らしい物はこの二つだけだった。

つまるところ、簡単に言うとこうだ。

物干し竿とモデルガンで戦えと。

冗談じゃない。ジュンは自分の生存確率がぐっと下がってしまったことに落胆する。
強い武器……そう、例えば銃とかそういった系統ならば、多少の体力差があろうと覆すことができるかもしれないのに。
勿論、相手も銃を持っていたら別だが、接近武器と遠隔武器。どちらが強力かは明白だった。
今、ジュンが持っている武器らしい物と言えば、接近武器に部類するであろう物干し竿くらいしかない。
モデルガンでは鈍器として役立つかも怪しいものだろう。
しかし、実際に持ってみると分かるように、物干し竿にはそこそこ重さがある。
引き篭もりで基礎体力があまりないジュンにとっては、これを長時間持ち続けることは苦痛だった。

とにかく。自分の周りに散らかした荷物を全てデイパックに詰めながらジュンは思う。
とにかく真紅達を捜そう。上手く合流できればその後は……何とかなる。
そう決意を固め、ジュンはデイパックを肩に下げ歩き始めようとした。
と。
282怯える少年 ◆/1XIgPEeCM :2006/12/10(日) 13:22:01 ID:UWGJM6pd
ドゴオオオオン!!

「うわああっ!」
唐突に聞こえた凄まじい轟音。
驚いてそちらの方を見ると、さっきまで煌びやかなイルミネーションに包まれていた観覧車が、バラバラになって崩れ落ちていく。
観覧車の残骸が地に伏す音と共に、その周辺には盛大な土煙が上がる。観覧車の周りにあったものも容赦なく破壊された。
地獄絵図。まさにそんな言葉がぴったりな光景だった。
「なにが起こったんだ……」
その光景を目の当たりにしながら、ジュンは暫く呆然と立ち尽くし、考え、そして理解した。
あれほどの建造物を一瞬にして破壊してしまう、そんなとんでもない能力を持った者がこの近くにいるのだ、と。
改めて、この殺し合いという状況の異常さに震撼させられる。

ジュンにはある変わった趣味があった。
インターネットで商品を注文し、クーリングオフ寸前に返品してそのスリルを味わうという、なんとも暗い趣味だ。
本人曰く、このスリルがたまらないそうで、これがなかなかやめられないとまらない。
しかし、今のこの状況下で感じるスリルはそんなものとは格が違う。
いつ殺されるか分からない。もしかしたら、一瞬後には死んでいるかもしれないこの状況。
彼とて、自分の命に関わるスリルを味わうことなど、真っ平ごめんなのだ。

ジュンは逃げ出した。観覧車があった方向と反対の方へ。
ほんの少し走ったところで、恐怖一色に染まったジュンの目に救いの架け橋が飛び込んでくる。
防波堤。あそこを渡って行けば、この遊園地から脱出できるかもしれない。
迷っている暇はない。あそこを渡って逃げよう。
そう思ったジュンは、縋るような気持ちで防波堤によじ登り、そして早足に渡り始めた。





【H-4 防波堤・1日目 深夜】
【桜田ジュン@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:少し疲労 まだ見ぬ敵に怯える
[装備]:物干し竿 ベレッタM92F型モデルガン(どちらもデイパックにしまってあります)
[道具]:デイパック 支給品一式
[思考・状況]
1:防波堤を渡って遊園地から脱出。
2:真紅、翠星石、蒼星石と合流したい。
3:死にたくない。
283吸血鬼の倒し方 ◆jC6t70h.xo :2006/12/10(日) 16:30:18 ID:dgJ59778
 遠くで起った銃撃戦のような騒音に気が付き、岡島緑郎ことロックは隠れていた建物から
飛び出した。銃声が続く場所まで大体数十M、商店街の通り一つ向こうって所か。

(レヴィかロベルタ……いや、違うな)

 途切れ途切れに聞こえる銃声(恐らく大口径)からは彼女達のような苛烈な攻撃性は感じない。
銃の扱いと殺人に慣れた者が逃げる相手を狙って一方的に弄んでいる。余裕のある銃撃間隔から
そんな状況が推測できた。銃を持つ快楽殺人者に良くある傾向だ。少し前まで一流上場企業の
サラリーマンだったロックだが、悲しい事に銃撃戦には慣れてしまった。

(どうする。ここは逃げるか?)

 彼に支給された物の中には武器のなりそうな物は入っていなかった。説明書を読んでも
『これは使い道があるのか?』と思えるような道具ばかりだったのだ。どうせ銃が入っていても
人に向けて撃てるかどうかは分からないし、銃撃戦が出来るとも思えない。考えるまでもなく
逃げた方が良い。そうだ逃げよう。人には向き不向きがある。元々自分にはドンパチには向いて
いないのだ。そうロックは銃撃と反対方向へ踵を返す。その時、銃声が止んだ。

(静かになった。逃げ切ったのか? それとも……)

 最期の銃声は焦りのない一発だけ、逃げる者を追うような感じではなかった。殺したのか。
ここで自分はウダウダやって見殺しにしたのか。ロックの額に汗が滲んだ。あの時、少女が
殺された。その友人と思わしき少年は果敢にも向かっていった。なのに大人の自分は逃げたのか。
弱いから、向いていないから、隠れて、逃げて、怯えて……。嫌な事から目を背けて保身の為に
頭を下げ続ける大人に戻りたくなくて、海賊(運び屋)になったんじゃないのか。
 ロックはもう一度踵を返した。銃声がしていた方向へだ。
284吸血鬼の倒し方 ◆jC6t70h.xo :2006/12/10(日) 16:31:36 ID:dgJ59778
(名簿には80人の名前があった。半数がレヴィ達みたいにイカれたモンスターなら遅かれ早かれ
ブラッドパーティーだ。さっそうとヒーローが現れて事件を解決してくれるとは期待できない。
ここで逃げたって同じ、いやむしろ相手の存在を確認してる今の方がマシだ)

 さっきの銃撃戦も殺される前に降参したのかもしれない。弾切れかもしれない。もし死んで
いても相手や武器を確認するだけでも価値がある。直接戦闘担当がレヴィなら情報と交渉担当は
ロックだ。裏方には裏方の立ち回りがある。ロックは自分に言い聞かせた。
 
(一応、最悪の事態に備えておくか。無理矢理でも使えそうなのは……)

 情報は伝えなければ何の意味もない。ロックは直ぐ近くのうどん屋に入ると、レジを漁って
現金を手に入れた。格好悪いが逃亡資金の為に日本円を用意しなければならなかったのだ。


 銃声が鳴り止んで10分程。ロックは現場まで十m程の路地に潜んで様子を伺っていた。
ズタボロで真っ赤なコートの大男が片手に巨大な銃を持ち、もう片方の手で何かを掴んでいる。
近く奇妙な杖と支給品のデイパックが2つ、多分大男と襲われていた者のだ。

(なんなんだよあれは?!)

 ロックは込み上げる嘔吐感を必死で押さえた。それが人間おそらく子供で、それを大男が
『捕食』していると言う事が信じられなかった。まさか本当にイカれたモンスターだとは。

「トリスタン───ハルゲニア?」

 突然大男、アーカードが声を上げた。咄嗟に口を押さえて息を殺したロックの背中に滝の様な
汗が流れたが、どうやら独り言らしかった。アーカードは明後日の方向を向いて続けている。
ロックはホッと胸を撫で下ろした。見つかれば自分も八つ裂きにされて食われてしまうだろう。
それは恐怖と共に激しい怒り、そして僅かな安心を与えた。もしもこの大男を殺めても良心の
呵責はゼロだろうと。
285吸血鬼の倒し方 ◆jC6t70h.xo :2006/12/10(日) 16:33:13 ID:dgJ59778
「それにしても……ちゃぁんと理解してるじゃないかギガゾンビ」

 アーカードは虚空に向かって語りながら首に手をやった。彼の首に無かった。まだ切断された
時の傷は完全に直っておらず、肉は剥き出しのままで生々しい。良く見ればズタズタのコートの
下にかなり酷い出血の跡があるが、大男はダメージを感じていないかのように平然としている。

「そう、吸血鬼を殺すのには昔から心の臓腑に杭を打ち込むと相場が決まっている」

(ゾンビの次は吸血鬼だって? 冗談じゃないぞ。夢か? ハリウッドの三流ホラー映画か?
それとも糞ったれな現実か? )

 銃を使う吸血鬼なんて聞いた事も無いが『狂人以上のモンスター』である事は間違いない。
首輪をしていない者がいる事、人外のモンスターがいる事、その武器、犠牲者が出た事。
それだけ分かればロックには十分だった。どちらかといえばそれ以上踏み込めなかったのだ。
犠牲者の子供にはすまないと思ったが、この場で戦いを挑む程の無謀さをロックは持ち合わせて
いない。出来れば相手の向かう方向を確認してから逃げよう、そうロックが考えた時だった。

「なあ、そう思わないか? ヒューマン!」

 突然アーカードが振り返った。ギラリとした眼が路地から伺っていたロックの眼を捉えた。
次の瞬間、ロックは脱兎の如く逃げ出した。

 BANG!!

 一瞬前まで頭があった所を銃弾が通過する。
286吸血鬼の倒し方 ◆jC6t70h.xo :2006/12/10(日) 16:35:10 ID:dgJ59778
(見つかってた! 笑い話にもなんないぞコレ。どうする? 本当にアレでイケるのか?)

「どうした? ヒューマン、先程の子供の方がよっぽど勇敢に挑んできたぞ!!」

 全力で走るロックとほぼ変わらない速度で悠々とアーカードが追いかける。ロックは直ぐ先に
ある建物へと転がる様に逃げ込んでいった。そこは先程侵入したうどん屋だった。

「逃げるしか出来ないのか? ヒューマン、殺すにも値せぬ狗以下か?」 

 縄暖簾を潜って店内に入ったアーカードが見たものは、即席のバリケードだった。店内の半分
程の所に座敷用の折畳み四脚テーブルを何台も縦て銃撃戦用の壁を作り上げてある。入口の中に
卵が幾つも転がって潰れているのは、足元を滑らすのトラップのつもりだろうか?

(下準備して誘い込んだのか? ならばあのヒューマンには『戦う意思がある』ということだ)

 アーカードの口元が緩んだ。ただの逃げ回る狗ではなかった事が嬉しいらしい。

 BANG!!

 バリケードの一角へ銃弾を叩き込む。数枚のテーブルを貫通して風穴を作ったが。最後まで
貫通しているかどうかは分からない。直ぐ近くに隠れている、そんな気配はしたが出てこない。

 BANG!!

「どうした? ヒューマン、お祈りの時間を稼ぐ為に、わざわざ準備をしたのか?」
「ヒューマン、ヒューマンと馬鹿の一つ覚えみたいに喧しいんだよドラキュラ野郎!」
287吸血鬼の倒し方 ◆jC6t70h.xo :2006/12/10(日) 16:36:33 ID:dgJ59778
 BANG!!

「ドラキュラだと?」
「吸血鬼の名前は昔からドラキュラって決まってんだ! それとも男だけどカーミラか?!
気に入らなけりゃヴラド・ツェペシュとかクリストファー・リーとでも呼んでやろうか?」

 BANG!!

「下衆な名で呼ぶな。ヒューマン、我が名はアーカード……?!」
(言った!!)

 ダギュンッ!!

「なに?!」

 銃声に反応するよりも早く、突然アーカードはバランスを崩してその場に引っ繰り返った。
何かに躓いたとかではなく、見えない手に引っ繰り返えされたかのようだ。

「じゃあなアーカード! 生きてたらお日様の下で会おうや!」

 ロックの怒鳴り声と共にバリケードの向こうから口の空いたうどん粉の袋が投げ込まれた。
濛々と立ち込めるうどん粉で視界が遮られたアーカードを尻目に、ロックは窓を破って店外へと
逃走していった。
288吸血鬼の倒し方 ◆jC6t70h.xo :2006/12/10(日) 16:38:10 ID:dgJ59778
「つまらん真似をする。この期に及んで逃げるか、ヒューマン!」

 ロックを追おうとして立ち上がった瞬間、

 ダギュンッ!!

 またもやアーカードはその場で頭から引っ繰り返った。あれはヒューマンの攻撃ではなかった
のか? 銃声がする方を確認するとうどん粉の舞う中、黒い卵がこちらを見ていた。良く良く
見れば卵はハンプティ・ダンプティのように黒い帽子に背広、それにサングラスにネクタイまで
付け、その腕には銃のようなものが握られていた。この卵がアーカードを転ばせたのだ。
10円で名前を言われたターゲット3回を転ばせる道具『転ばし屋』だ。

「ふざけた玩具が、良い気になるな!」

 アーカードは黒い卵『転ばし屋』に向かってジャッカルの引き金を引いた。

*****************

 ドンッ!!!

「あーあ、撃ちやがったな。あのくらいで死んでくれれば良いんだけど。吸血鬼の心臓に杭を
刺すなんて出来るのはバラライカさんくらいだよ」

 うどん屋で粉塵爆発が起った事を悟ったロックは、素早く元の歩道に戻ると落ちている荷物を
かき集めた。『使い道のないような道具』でも『使い方によっては意外に使える』という事を
今学んだばかりだ。ついでに子供の遺体(の一部)に合掌するとスタコラと西へと向かった。
死んだかどうか分からないがアーカードが本物の吸血鬼なら河を越える事は出来ないはずだから
289吸血鬼の倒し方 ◆jC6t70h.xo :2006/12/10(日) 16:39:31 ID:dgJ59778
【F-3/商店街/1日目/黎明】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:体中に重度の裂傷と火傷(自然治癒可能だが、直ぐには動けない)
[装備]:対化物戦闘用13mn拳銃ジャッカル(残弾19)
[道具]:なし
[思考・状況]
1、しばらく自然治癒を待つ
2、殺し合いに乗る
[備考]
1、タバサとの戦闘に加えうどん屋の爆発など、かなり派手な戦闘音が響きました。
周囲八マスに居る人間に聞こえる可能性があります。
2、『転ばし屋』はあと一回転ばす為に、倒れたアーカードが立ち上がるのを待っています。


【F-3/道路上/1日目/黎明】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:健康
[装備]:ルイズの杖@ゼロの使い魔
[道具]:支給品三人分(他武器以外のアイテム2品)
どんな病気にも効く薬@ドラえもん
現金数千円
[思考・状況]
1、とりあえず西の橋を越える
2、レヴィとの合流
[備考]
1、支給品は一つのデイパックへまとめてあります。
2、『ころばし屋@どらえもん』はアーカードのそばに放置されています。
290吸血鬼の倒し方(一部修正) ◆jC6t70h.xo :2006/12/10(日) 17:13:53 ID:dgJ59778
>>285 の一部(2行目に一部抜けがありましたので修正します

誤:アーカードは虚空に向かって語りながら首に手をやった。彼の首に無かった。

正:アーカードは虚空に向かって語りながら首に手をやった。そこに首輪は無い。
291吸血鬼の倒し方(一部修正) ◆jC6t70h.xo :2006/12/10(日) 17:23:58 ID:dgJ59778
>>283 に間違いがありましたので修正します。たびたび申し訳ありません

誤:遠くで起った銃撃戦のような騒音に気が付き、岡島緑郎ことロックは隠れていた建物から

正:遠くで起った銃撃戦のような騒音に気が付き、ロックこと岡島緑郎は隠れていた建物から
292弓兵と使い魔、そして皇 1/5 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/10(日) 17:55:55 ID:DNniwKmX
「なんなんだよ、いったい!」
長い防波堤の一角で少年の叫びがこだまする。あまりにも無警戒な、大声。
そんな声を打ち消すように無数の風切り音がその場に響く。
別に彼―平賀才人は特別、無警戒なわけではない。
突然襲い掛かってきた赤い服の男。彼への対応に精一杯なだけだった。
「おいあんた、本気で殺し合いなんてやる気なのか!?」
才人の質問に答えることも無く、ただただ無言で二刀を振るう。
恐怖で歪んでいるわけでもなく、狂気に染まっているわけでもなく・・・
あくまでもその行為が当然の責務だというかのような無表情。
剣閃の激しさも相まって、その姿はまるで赤い悪魔のようだった。
打ち下ろし、切り上げ、叩きつけ・・・
稀に入ってくる蹴りも何とかかわしつつ、陸地へと向かって走る。
なにか武器でもあれば、また違っていたのだろうが・・・
鞄の中身を確認する間もなく襲われたため、才人はいまだ無手の状態だった。
回避に専念しているため、かする程度で済んでいるものの・・・
このままでは両断されるのは時間の問題である。
殺されるという恐怖の中、才人なんとかしなければという焦燥感に駆られていた。

しかし、焦燥感に駆られているのは追われている才人だけではなく。

そう、焦っているのは追っている男―アーチャーも同じだった。
当初、防波堤で才人を発見したアーチャーは、
こちらに気づいた様子も無い彼を奇襲同然に仕留めるつもりだった。
しかし彼を蹴り飛ばしながら、干将・莫耶を投影しようとして・・・失敗した。
いや、正確には失敗したわけではなく、いつものような速度で具現化しなかったのだ。
そこで制限に気づき、慌てて支給品・・・補助程度には使えるだろうと腰につけていた二本の刀を抜く。
その一瞬の間に少年は全速力で逃亡を開始していたのだった。
そしてアーチャーの誤算はもう一つ。それは少年が予想以上に実戦慣れしていたこと。
背後から奇襲を受けてから逃亡を選択するまでの決断の速さからは、
彼が普通一般の日本人ではなく、何らかの形での戦闘経験があることが感じられた。
だが、しかし・・・それでも少年を仕留めるのは、もはや時間の問題だった。
いつもとは違う二刀をいつものように振るう。煌く剣閃は徐々に少年を追い詰めていく。
数十分後、陸地が視認できるようになった頃には・・・少年の命はもはや風前の灯火といった状態だった。
息を切らせ、ふらつく少年に蹴りをいれる。衝撃で地面を転がる少年。
這い蹲り、なおも逃げようとする彼に目掛けて刀を振り下ろし・・・
293弓兵と使い魔、そして皇 2/5 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/10(日) 17:56:47 ID:DNniwKmX
仮面の男―トゥスクル皇、ハクオロがその光景を目にしたのはこの場所に降り立って三十分程後。
支給品である変わった形の物体を手に岸辺を歩いていたときの事だった。
それは長い橋の上で、二刀流の男が黒髪の少年を襲っている姿。
襲っている方と襲われている方・・・二人とも知り合いというわけではなく、
赤い服の男がこちらに気づいていない以上、関わりあいになるのは無益な事のように思えた。
だがしかし・・・男の持つ刀を確認し、ふらついていた少年が蹴り飛ばされたとき・・・
若き皇は思わず手に持った物体―同封されていた紙によると魔法の杖らしい―を握り締めた。
そして、紙に書かれていた通りに杖を展開し、叫ぶ。
「やめろぉぉぉ!!」
同時に、ハクオロの手によって“杖”に宿った力が解放された。


突然聞こえた叫び声に、才人は力を振り絞って顔を上げる。
そして、物凄い勢いで飛んでくる見覚えのある何かを確認した。
「げ・・・!」
才人が慌てて伏せるのとほぼ同時、赤服の男が右手に持った刀を投げる。
男の投げた刀は飛来した物体・・・ロケットランチャーの弾に衝突し爆発、相殺する。
しかし、近距離での爆発に立った状態で晒され、男の体が軽く揺らめく。
そして・・・その隙ともよべる瞬間を、才人は見逃さなかった。
鞄に手を突っ込みながら、立ち上がる。そして、支給品を掴み・・・
「当たりだ!」
左手の輝きと共に、玩具にしか見えない刀を取り出す。
そこまでの時間、僅か数秒。しかし、その一瞬の間に悪魔も体制を立て直していた。

しかし・・・左手に輝くガンダールヴの紋章、それを目にした男の表情がはじめて変わる。
それは困惑と躊躇。それはほんの一瞬の事。
その僅かな空白で間合いを詰め、才人は剣閃一つで男の左腕を斬り捨てた。
そして、もう一撃を加えようとして、男に三度目の蹴りを食らい、弾き飛ばされる。
地面を転がり、体制を立て直した時には・・・盛大な水音と共に、男は姿を消していた。
294弓兵と使い魔、そして皇 3/5 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/10(日) 17:57:48 ID:DNniwKmX
「無事だったか・・・」
防波堤に佇む才人のもとに、仮面をつけた男が駆け寄ってくる。
その右手には見覚えのある物体。どうやら、あれを撃ったのはこの男らしい。
「助けてもらって、ありがとうございます」
「いや、むしろこちらは謝りたい・・・私もあれほどの威力とは思わなくてね」
本当に申し訳なさそうに言う男に才人は苦笑する。
確かに、あの爆発で左耳が聞こえにくい感じだが、それでも助かったのは彼のおかげである。
仮面の青年が落ちている物体を拾うのを眺めながら、才人は己が幸運に感謝した・・・
「って・・・何を拾ってるんですか!」
彼が拾っていたのは襲撃者の左腕・・・正確には左腕の肘から先と、その手が握っている刀だった。
「いや、これは私の知り合い―仲間の刀でね。一応回収しておこうかと・・・
 ・・・それより、この腕。血がまったく出てないようなんだが・・・」
「ああ、それはこの道具の特殊な効果ですよ」
そう言って、才人は手にした刀を持ち上げる。
仮面の男は『そうか・・・』と呟くと、首を傾げて刀を見つめた。
295弓兵と使い魔、そして皇 4/5 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/10(日) 17:58:35 ID:DNniwKmX



【H-2陸地よりの防波堤 1日目 深夜】
【平賀才人@ゼロの使い魔】
[状態]:全身にかすり傷、疲労困憊、左耳が聞こえにくい
[装備]:チャンバラ刀@ドラえもん
[道具]:チャンバラ刀専用のり@ドラえもん、支給品一式(配給品残数不明)
[思考・状況]
 1:とりあえず仮面の青年と情報交換
 2:鞄の中身などを確認する
 基本:殺し合いには乗らない
※参加者名簿を確認していないため、自分以外に誰か居るのかわかっていません
※地図を確認していないため、現在地もわかりません
※赤い服の男(アーチャー)を危険人物だと認識しました

※チャンバラ刀とのり
 未来の子供がちゃんばらごっこに使う道具
 実際に斬れるが血は出なく、専用のりでくっつけると治る

【ハクオロ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:破壊の杖(M72ロケットランチャー)/残弾0@ゼロの使い魔、
     オボロの刀(1本)@うたわれるもの
[道具]:支給品一式、アーチャーの左腕
[思考・状況]
 1:少年と情報交換をする
 2:エルルゥ達との合流
 基本:降りかかる火の粉は払うが、殺し合いはしない
※赤い服の男(アーチャー)を危険人物だと認識しました
※もう1本のオボロの刀はロケットランチャーの弾と相殺しました
296弓兵と使い魔、そして皇 5/5 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/10(日) 17:59:25 ID:DNniwKmX
防波堤での戦闘から一時間以上も後・・・遊園地の岸部付近にアーチャーの姿があった。
周囲を軽く見回した後、アーチャーはすぐ近くにあった建物――管理事務所らしき場所に入る。
「・・・・・・」
そして、その場にあったソファーに座り、軽く息をついて・・・彼は忌々しげに自らの左腕を見つめた。
一瞬の油断から奪われたそこは、肘から先が失われ、痛々しい姿を晒している。
何故か痛みや出血は無かったが片腕を失ったのは大きかった。思わず舌打ちをしながら目を閉じる。
らしくもない油断・・・その原因は少年の左手。そこに光り輝いた紋章。
「あれは・・・令呪、だったのか?」
一瞬だったため確認は出来なかったが・・・明らかに魔術的な印象を受けた。
ならばあの少年は・・・魔術師、なのだろうか?
そして、この地には彼のサーヴァントも居るのだろうか?
意図しない迷宮に踏み込みそうになって、アーチャーは頭を振って目を開く。
・・・あの少年が何者にせよ、自分が行うことは変わらないのだ。
アーチャーは背もたれに身体を預け、休息を取りつつ・・・干将・莫耶の投影を開始した。



【G-3遊園地内の建物 1日目 黎明】
【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:疲労、左腕喪失
[装備]:無し
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
 1:干将・莫耶の投影
 2:参加者を全員殺す
 3:ギガゾンビを殺す
※先程の少年(平賀才人)は魔術師かも知れないと考えています
衛宮士郎はゆっくりと街を彷徨っていた。
そしてあの部屋で青年の男性と小学生の女の子を殺した男に対して強い怒り。
黙ってみているしか出来なかった自分に強い憤りを感じていた。
「くそっ。・・・まただ。また見てるだけしか」
士郎は悔しかった。誰一人犠牲にしない。その理想が自分の眼前に破壊されたのだ。許せなかった。
「・・・はっ。そうだ。名簿だ。道具も。くそっ。どうして俺は冷静に行動できないんだっ」
士郎はまたしても自分のミスに気づき歯がゆくなる。
もうゲームが開始にて数時間がたつ。
それなのにただギガゾンビに対する強い殺意だけで闇雲に歩き回り何も行動をしていなかった。
凛がもし近くに居ればぶちきれて怒り狂うだろう。また殺人鬼が襲ってくれば恐らくは既に退場者になっていただろう。

『あんた。何感情で先走ってるのよ。もっと冷静に物事を見なさいっ!』
今にもそんな凛の叱咤が飛んできそうな気がした。

士郎は地面に腰を落としてゆっくりと名簿の確認を行う。
「とりあえずは名簿だな。えっと知り合いは・・・なっ」
士郎は名簿を見て驚愕に顔をする。
遠坂凛の名前は分かる。セイバーもだ。だがバーサーカーにやられたはずのアーチャーとマスター不明の佐々木小次郎の名前まであったのだ。
「そんな・・・あいつ生きてたのか。でもそれならどうして?」
士郎は激しく疑問に思った。あの時を境に姿を消したアーチャー。その名前がどうしてある。
佐々木小次郎はマスター不在なのを考えれば同姓同名の別人も考えられる。もしくは次のロックが不明だったマスターの可能性もある。
だがアーチャーは・・・士郎には理解できなかった。
「・・・とにかく会うしかない。アーチャーに。もちろんセイバーと凛もだ」
士郎は結局その結論に行き着いた。アーチャーの正体は見ない限りは分からないからだ。
「・・・他には・・・無いな」
士郎は他に知った名前が無いのを確認すると名簿をバッグに戻す。
桜や大河先生やイリヤの名前が無いのは安心だった。戦闘力の無い彼女達では恐らく何も出来ずに殺されただろう。
そして新たに武器を探す。
「・・・なんでおもちゃのハンマーが?」
士郎はあきれる。綺麗にデコレーションされたハンマーがあったのだ。どう見てもおもちゃにしか見えない。
『グラーフアイゼン。魔法アイテムです。魔力を送り込めば強力な武器になります』
備え付けの説明書で確認をするがやはりおもちゃとしか思えない。それに仮にこれが本物だとしてもだ。
魔力の放出が出来ない。魔術師として欠陥品の士郎にとってはやはりただのおもちゃのハンマー以外の使い道は無い。
「他には・・・ドライヤー?」
『瞬間乾燥ドライヤー。汚れた服もおねしょ布団も海に落ちてびしょぬれの服も一瞬で乾燥。染み抜き機能のオマケ付きっ!」
「・・・・・・・」
さすがの士郎もこの説明書きにはあきれる他は無かった。
この状況下で染み抜き機能があるドライヤーが何の役に立つ。おねしょ布団って別に赤ちゃんは居ない。
汗をかいて気持ち悪いのが直るがそれだけ。まあ日常生活でなら色々と便利だろう。
しかし正直言って現状の士郎には何の役にも立たない。
「やっぱり・・・自分で作るしかないのか」
士郎は手に全神経を集中した。そしてイメージした。この状況で役立つ武器を。
「はあっ・・・」
士郎は少し大きな声を出して集中力を高めそして練成した。・・・ただの曲線を描いてはいる少し長いだけのナイフを。
「どうして・・・うっ」
士郎は膝を付いた。そして少し息も上がっている。疲労も前より少しだが上がっている。
「そんな・・・ばかな!?」
士郎は疑問でいっぱいだった。最初にアーチャーがいるのも唯一の魔術師としての特技、練成もただ一つのナイフでこのざま。
「くそっ。どうして」
士郎は悔しさで地面を一度殴る。そして二度目の時だった。
「無駄に体を痛めつける。サバイバルでは決してしないことだな」
一つの低い女性の声が士郎の耳に響いた。
士郎はその女性を見て焦る。
「えっ!?」
そんな間の抜けた声しか出なかった。
ナイフは手元にある。だがドライヤーとグラーフアイゼンも一緒に散らかしている。
これでは相手に銃を所持してないのが丸分かりだ。しかも腰を地面に落ち着けた状態だ。すばやい反応が出来ない。
相手に殺意があれば攻撃対象としてうってつけの状態だ。
まただ。どうして俺はっ。
士郎は気づいた限りでも二度目のミスに自分自身が憎くなった。

だがその女性は士郎に攻撃を加えなかった。
それどころか士郎に近づいていった。
「へえ。武器はそのナイフだけ。それでどうする?戦う」
女性は周りに散らかった物を視認して、そして士郎を少し見下したような目で見つめる。
私がやる気ならすでにあなたは死んでいる。
そんな風に士郎には聞こえた。

士郎の考えは決まっていた。
「俺は戦う気は無い。一人でも多くの人の命を助けたいだけだ。だから自らは絶対に殺したりはしない」
士郎はナイフを持たずに立ち上がる。
「そう。武器はそれだけなの」
「ああ。このナイフとそこの魔法のハンマーと瞬間で乾かしてくれるドライヤーだけだ」
女性の問いに士郎は正直に答える。
厳密にはナイフは支給品の武器とは違うのだがそれを説明すると長くなるのでここは士郎はあえて言わなかった。
「・・・瞬間で乾かすドライヤー!?良いわね。借りるわよ」
女性は有無を言わさず背負っている物をおろすとドライヤーとかばんの中の濡れた服を取り出した。
奇跡が起きた。ドラえもん道具では大外れに入るドライヤーが早くも大いに役立ったのだ。
「えっ。ちょっとこれは」
だが士郎はそんな奇跡には当然気付かない。それよりも目の前に転がる少女に士郎は驚く。
今まで気づかなかった士郎も驚き物だが目の前の女性は軽々と一人の少女を抱えて歩いていたのだ。
「あのっ。この子は?」
士郎は疑問に思い質問をする。
「さっき拾った」
女性は黙々と濡れているスカートとショーツを広げながらあまりに簡潔に話す。
「ちょっとそれじゃ・・・そういえば名前も聞いてなかった。俺は衛宮士郎だけどあなたは」
士郎は不満の声を言いかけ、そういえば名前を聞いていなかったことを思い出し名前もついでに聞くことにした。
「ここでの名前は草薙素子。・・・でも助かったわ。その子の着替えダブダブだし」
素子は簡潔に自己紹介を済ませ、文字通り瞬時に乾いた服を再度気絶している少女に着替えさせようとした。
ダブダブの服では目が覚めた後に動きづらいだろうしショーツが無いと大騒ぎを起こす可能性がある。
無意味なことで時間を使うのはこの状況下では避けたかった。
「あのっ。その子の名前は?それにどうして気を失ってるんです。指に巻いてるハンカチは?」
士郎は二人の状況が良く分からなかった。素子のことも色々謎が多すぎた。
士郎は全て知っておきたいと思った。
「分かったわ。・・・この服着せたら・・・すぐにでも教えてあげる」
素子は悪戦苦闘しながら服を着せ替えていた。
「あっ。すいません」
士郎はさすがにそれを手伝うわけにもいかないので黙って後ろを向いて着替えを待った。
その際一瞬だが少女の素肌が見えた気がしたが士郎は全力で忘れようとした。
そして数分後。
きれいに乾いた元の服に戻った少女はまだ意識を閉ざしている。
その横で素子は士郎に先ほどした事をある程度オブラートに包んで説明した。

「ふざけるなよっ。無闇に少女を怯えさせるなんて。それに爪が剥がれてたっけ。やりすぎだろ。怖いことがあったんだから錯乱だってっ」
士郎はオブラートに包んだ内容でも十分に激怒させるに足る物だった。
「そう。・・・まあ確かにやりすぎだったな。でも襲ってくる敵を容赦は出来ない。殺さなかっただけでもマシだな」
素子は士郎の激怒を軽く冷静な口調で受け流す。
「くっ・・・」
最初に反省を言われた手前、士郎は更なる言及を押しとどまるを得なかった。
正直言って少女を襲う。そのようなこと。士郎には許せることではなかった。
イリヤに襲われたことはあるが。それでも自分は人を信じたかった。

「うっ。ううう」
そこで少女がふと目を覚ましそうになった。

「目が覚めたのか」
素子は少女に近寄ろうとした。だがそれは士郎が許さない。
「俺が話す。素子は後ろに下がって」
恐怖心を植えつけられた素子より自分の方が安心だろう。
士郎はそう思い少女の元で腰を下ろす。
素子もここは士郎に任せ自分は少しだけ後方で待機を決めた。


少女は夢を見ていた。
夢の中では制服姿の女性朝倉涼子が少女に襲い掛かろうとしていた。
「いやあ。サイト助けてー」
夢の中で少女は叫ぶ。それと同時にサイトは現れた。
「ルイズ大丈夫か。怖がらせてごめんな。でも俺が居るから大丈夫だ」
サイトはルイズと朝倉涼子の間に入り襲い掛かる敵に剣を一振りした。
すると朝倉涼子はどこにもいない。存在が消えていたのだ。
「・・・サイトぉ。やったのぉ?」
ルイズは震えた声で聞く。
「ああ。ルイズ。無事でよかったよ」
サイトはルイズの無事に安堵すると強く強く抱きしめた。
「サイト。私・・・」
そして少しずつ少女は現実へと覚醒していった。
「うっ・・・ここは」
「おはよう」
目覚めたルイズに士郎は出来る限り優しい表情と声で話しかける。
「う、サイト・・・夢?・・・・・・はっ・・・きゃっ!」
頭が覚醒した少女は目の前の見知らぬ男の顔面に右ストレートを繰り出した。
「ぐっ」
不意の出来事に士郎はクリーンヒットを許してしまう。幸いにも非力な少女のパンチ。
士郎は鼻頭が赤く染まっているがそれほどの重傷ではなかった。
「ふっ」
後ろで素子はその光景をただ見つめている。

「ちょっとここは?・・・サイトは・・・」
少女があたりを精一杯見渡しても少女が求める男、平賀才人はここにはいない。
少女は目いっぱいに涙を浮かべた。
怖い。才人がいない。怖い目にあった。何も出来なかった。貴族の少女には辛すぎた。
「サイト、サイト、サイト・・・サイトっぉぉぉーー!」
少女はただサイトの名前を呼び涙を流し続けた。
「・・・落ち着いて」
士郎は泣き続ける少女にちょっと焦る。だが優しい声は忘れないようにした。とにかく刺激しないように努めた。
ほんの少し背中をさすってあげようとしたが
「いやっ。サイト以外触らないで・・・うっ」
完全に少女は拒絶した。
士郎には言葉をかけ続ける以外の術はなかった。

数十分が経過した。
素子はかなりイライラしたが少女を襲い爪を剥いだ人間の名前は知りたい。
わざわざ殺さずに爪だけ剥いだのだ。かなりの凶悪人物である。放置は危険だ。そのためにかなり我慢強く待っていた。
士郎はとにかく少女が泣き止むのを待った。ただ優しい言葉だけをかけ続けて。
最初は『サイト』のことばかり口にして泣いたのもほんの少しだけだが落ち着いている気がした。
さらに数分。
「うっ・・・う」
少女の泣き声も少しだが収まった。
「大丈夫か。ところで君の名前は?」
「・・・ルイズ・・・ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
ルイズは途中で小声のボソボソしゃべりになりながらも自分のフルネームを言った。
「えっ。ルイズフランソワルブラ・・・」
士郎は長すぎるフルネームに少し混乱した。
「・・・・・・・・・ルイズで良いわ」
ルイズは士郎にルイズと呼ぶことを了承した。その声は先ほどよりさらにはっきりした口調で聞こえた。
「そうか。えっとルイズ。どうして爪を」
士郎は聞きづらく小さな声でゆっくり話す。
「・・・」
ルイズはその問いのは押し黙ってしまう。
「あっ。やっぱり良いよ。辛いだろ。別に」
士郎はルイズを気遣いすぐに止めた。だが
「・・・・・・何だか腹が立ってきたわ。私は貴族なのよ。それなのにこんなこと・・・」
「・・・もう良いわ。教えてあげる。あの女・・・」
ルイズは長期間の気絶と号泣で逆にすっきりしたのかざっくばらんなぐらいはっきりとした口調で自分を最初に襲った女のことを口にした。
その説明には改めて思い出して自分のふがいなさ、相手への怒りも相まってドンドンハイテンションになっていった。
若干の脚色もあったかもしれない。だが記憶にある限りの全てを伝えた。
名前は名乗らなかったが涼宮なんとか、なんとかみくる、鶴屋さん、キョン、長門の五人は殺すなといったことも。
「そう。じゃあ恐らく襲った相手はその五人の知り合い。朝倉涼子・・・もしくはドラえもん。どちらかで間違いないわ」
じっと聞いていた素子が名簿と照らし合わせて確認した。
女でのび太や剛は考えにくい。その次の女と思わしき名前は判断が困るの11番の先生か14番の由託かなみ。それは遠すぎる。
既に絞り込んだ二人のどちらか。ルイズの話の限りではかなりの危険人物だ。見つけ次第射殺の覚悟も必要だった。
「・・・そう。やるじゃない」
素子が前に出るとさすがに少し怖いのかさりげなく士郎の背後に隠れる。
しかし隠れながらも上から目線の言葉だけは決して変えなかった。
素子はそんなルイズの姿などおくびにも気に留めずさっさともう一つの支給品を手に取った。そしてルイズに投げる。
「ただのおもちゃよ。遊んでなさい」
そういってグラーフアイゼンをルイズに投げる。
ルイズは前のトラウマか咄嗟に士郎の背中に隠れる。そのため士郎が受け取る形になる。
「・・・えっと。ルイズ。これ魔力を流せば武器になるみたいだぜ。一応使うか?」
士郎はルイズにそっとグラーフアイゼンを差し出す。
「魔力っ!?」
ルイズは士郎の声に聞くが早いかグラーフアイゼンを取る。
そして自分の魔力を少し流す。
するとドイツ語で(以後は『』内はグラーフアイゼンの声を和訳したものです)
『あなたがマスター?』
「・・・ええ。このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールがマスターよ」
ルイズは自信満々にグラーフアイゼンに我がお前の主だと伝える。
『オーケー。では魔力の更なる供給を』
グラーフアイゼンはさらに魔力を求める。
「分かったわよ。良い。ちゃんと受け止めなさい」
ルイズはさらに魔力を送り込んだ。すると一瞬ルイズは激しく心臓が揺さぶられるような錯覚を感じた。
そして莫大な光の渦がちょうどグラーフアイゼンを向けた方向にある一つの民家を吹き飛ばしてしまう。
すさまじい威力だった。だがそこでグラーフアイゼンは沈黙してしまう。
ルイズの息も大きく上がっている。
「はあ・・・はあ。何これ?ちょっと魔力流しただけで吸い込まれるよう・・・それにこの威力って・・・このばかっ!」
ルイズは沈黙してしまったグラーフアイゼンに思わず八つ当たりをしてしまう。
「・・・ふん。まあいいわ。今はちょっと気を抜いただけよ。敵が来たら絶対、ぜったい、ぜえぇぇっったい使いこなしてやるんだから」
ルイズは得意の強がりも見せた。あの時の覚えた表情が嘘のようだった。
「魔法・・・本当にあるのか!?」
素子はさすがに驚いた。そしてすさまじい威力には脅威も僅かながらに感じていた。
「まだまだ調べる必要があるな」


「それでルイズ?サイトって誰?もう完全に落ち着いたようだし。教えなさい」
素子はルイズが完全に本調子なのを確認し、ずっと気になっていたルイズが何度も口にした
『サイト』の名前を質問した。
「えっ。それは・・・使い魔よ。私の使い魔。飼い犬といっても・・・良いわっ!」
突然の問いかけにルイズは顔が赤くなった。だが必死で『使い魔』と主張した。
「それだけ?」
素子がなおも食い下がるとルイズの顔が余計真っ赤になる。
「もう終わりですよ。詮索しすぎだ」
ルイズの顔が赤くなったのを見て士郎が割ってはいる。
「・・・はいはい。じゃあ他に知ってる人は居る?」
士郎が割って入ったのでサイトの詮索をやめ別の質問でルイズに名簿を突きつけた。
「なっ。ってええっ」
ルイズはいきなり目の前に名簿を出されて驚いた。そして平賀才人と自分の下にあるもう一つの知っている名前タバサを見つける。
「タッタバサなら知ってるわよ。本好きのちょっと暗い子よ。どうせ図書館で本でも読んでるでしょ」
タバサのことを軽く伝える。そして他の者は知らないことも一緒に伝えた。

「そう。・・・じゃあいくぞ。時期に日が昇る。電車に乗って街だ」

ルイズが完全復活したのを見届けると士郎とルイズをつれて素子は駅へと向かった。
【F-2のF-1のほぼ境目に近い位置の街・1日目 黎明】
【草薙素子@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:機能良好。ルイズが精神的に安定して安心。士郎も一応は敵では無さそうだ。
[装備]:ベレッタ90-Two(弾数17/17)
[道具]: 荷物一式×3、ルールブレイカー@Fate/stay night、トウカの日本刀@うたわれるもの
     水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、もぐらてぶくろ@ドラえもん、
     バニーガールスーツ(素子には似合いそう)@涼宮ハルヒの憂鬱
     獅堂光の剣@魔法騎士レイアース、瞬間乾燥ドライヤー(電池を僅かに消耗)@ドラえもん
[思考]:
1、バトー、トグサ、タチコマを探す
2、ルイズと士郎と駅に向かう。
3、首輪を外すための道具や役立ちそうな人物を探したい
4、ギガゾンビの情報を知っていると思われる、のび太、狸型の青い擬体、少年達、中年の男を探す
5、ルイズの爪を剥いだ人間を放置するわけには行かない。見つけ次第射殺も辞さない。
6、平賀才人とタバサもついでに探してやる。
7、ギガゾンビの”制圧”
[備考]:参加者全員の容姿と服装を覚えています。ある程度の首輪の機能と構造を理解しました。
    草薙素子の光学迷彩は専用のエネルギーを大きく消費するため、余り多用できません。
    電脳化と全身擬体のため獅堂光の剣を持っても炎上しません。



【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:激しい疲労。左手中指の爪が剥がれている。しかし痛みはほとんど引いた。
     精神が安定も若干ハイテンション気味。理不尽な出来事に激しい怒りがある。
     ショーツとスカートが一度汚れたことに気づいていない。
[装備]:グラーフアイゼン(本来はヴィータの武器。ルイズが魔力をほとんど使ったため(暴発に近い)数時間は使用不能)
[道具]:最初の貴族の服。(素子に着せられたために聞くずれしてたが自分で直した)
[思考・状況]
1、才人と1秒でも早く合流する。(現状は素子に同行。途中の敵は素子と士郎にお任せ)
2、才人に手伝ってもらって朝倉涼子かドラえもんに5倍返しの報復。(1も3もまだの場合は同行者二人に隠れる)
3、魔力の回復を待ってグラーフアイゼンを使いこなす。
4、タバサとも一応会いたい。
5、1と2と出来れば4も完了次第もとの世界に帰る。(3と4はそれほど思っていない)
6、5の際に時間があれば主催のバカ男に願いを叶えさせて胸を大きくさせる。
7、6の際に余裕があれば才人と協力して素子に先ほどの仕返し。
8、7をやってもさらに余裕があれば主催のバカ男を自国に連れ帰って貴族の名の元に極刑(6が成功の場合恩赦有り)を与える。

【衛宮士郎@Fate/stay nigh】
[状態]:健康。ルイズのパンチが非力だったために少しだけ鼻頭が赤いが問題無い。
[装備]:自らが練成したナイフ。(普通のナイフ。宝具の力は無い)
[道具]:着の身着のまま(支給品は素子が預かっている)
[思考・状況]
1、セイバーと凛と合流。(とりあえず素子に同行)
2、アーチャーが居る理由と正体を確かめる。
3、ルイズを才人に合わせる。
4、出来る限り一人も傷つけずにゲームを終結させる。
5、佐々木小次郎の正体も確認したい(ロックがマスター?)


衛宮士郎はバーサーカー戦が終了してキャスターと戦うまでの間の状態で呼び出されました。
素子はルイズのドタバタで士郎に名簿の確認を取るのを忘れています。
ルイズの使用したグラーフアイゼンによる民家一軒崩壊で四方一マスにはその音が聞こえたと思われます。
ルイズはグラーフアイゼンを現時点では暴発ぐらいでしか殺傷力のある魔法は出せません。

タイトルの意味はフランス語で復活のルイズです。
殺し合いなど隻眼隻腕の黒い剣士、ガッツには何の関係も無かった。
ただ、男の戦う相手が魔物か人間かの、ガッツにとっては細かな違いである。
ガッツにとって最も重要な点はゴットハンド、及びゴットハンドへ転生したグリフィスへの復讐である。



俺にとって殺し合いなんてどうでもいい。
だがこの殺し合いの場に飛ばされるときに見た最後の顔を絶対に忘れちゃいねえ。

間違いない、絶対に間違いない。
あいつは、グリフィスだ。

俺の、俺の居場所だった切り込み隊、・・・ガストンの奴。
対立もしたけれど、頼れる仲間だった。ジュドー、コルカス、ピピン・・・。
俺たち鷹の団の全てを「生贄」にしたグリフィス。
そして俺の、俺の目の前でキャスカを・・・キャスカを陵辱しやがったグリフィス。


グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス


・・・
グリフィスの野郎を殺せるなら、俺はどんな犠牲だって問わない。
それこそ本当に殺し合いなんてどうでもいい、グリフィスに復讐さえできれば何も関係ない。

早速グリフィスを捜索しようと行動を始めた俺だが、体が妙に軽いのが気になる。
特に違和感を感じた背中を調べると、俺の相棒である大剣「ドラゴン殺し」が見あたらねえ。
それどころか体中に仕込んだ武装一式、ご丁寧にも左手の義手からまで火砲を除去していやがる。

さすがに、剣が無い状態では復讐の遂行が出来ない。
あの仮面野郎、(仮面の魔物か?)がご丁寧に支給してくれた袋の中身を見ることにした。

ちっ・・・ついてねえな。
中身は水食料に加えていくつかの道具が入っているのは確認できた。
だが俺の望む獲物、剣は結局出なかった。
説明書によると刃を飛ばせるらしいナイフ、「スペツナズナイフ」が5本
もう一つの支給品はたくさんの弾薬らしく、銃という武器が無ければ使い物にならない品らしい。
スペツナズナイフは強力な武器らしいが、こういうちまちました武器は俺の柄じゃねえな。
グリフィスだけでなく、俺の獲物である剣を探す必要もあるようだった。
とりあえず、俺は支給品を袋にほおり込み、名簿を確認することにした。

『グリフィス』

いた、いやがったぜグリフィスの奴。俺の目に間違いは無かった。
狂喜するガッツは、同時にもう一つの名前が目に入る。

『キャスカ』

・・・!?キャスカだと、キャスカの奴は確かにゴドーの場所で見つからないように隠れていたはずだ。なぜ・・・
ちっ、探し人がもう一人増えちまいやがったか。あいつ、無事だといいが・・・
そして他に名前を確認するが、他には変な名前があるだけで知り合いは居ないらしい。
まあ俺に、知り合いなんて呼べる奴は後はゴドー達ぐらいか・・・
俺は地図とコンパスを片手に場所を確認することにした。
近くに小川が見えることからどうやら川べりに居るようで、更に言えば相当山奥に居るらしいな。
地面の起伏もかなり険しいことから考えて、小川の上流にいるこたぁ間違いない。
これらを総合判断するに、どうやら俺はA7かB6という所に居るらしい。
グリフィスの奴はこんな辺境の山奥に意味も無く篭る奴じゃねえ、きっとこの地図で言う街の方にいやがるに違いない。
そういうわけで俺はグリフィスを探すついでに、剣を探すために川沿いを歩き始めた。

グリフィス、必ず見つけ出して俺が殺す。





・・・

「よ、ようこそおめでとうございまーす!
ワタシを引き当てたあなたはラッキー! 魔法少女リリカルみさリン、あなたのモトにただいま参上☆」

あ、あれ?反応が無い?
とっさに手持ちのステッキを片手に、うまい具合にアドリブをしたはずなのに目の前の黒い鎧を着た大男には反応が無い。
大男はげんなりした、呆れたような表情で私、野原みさえのことを見つめていた。

・・・

ち、沈黙って嫌だなぁ。あたしこういうのは嫌いなんだけどな。アハハ・・・
そんな沈黙が30秒ほど続いたか、目の前の大男の表情がきりっと引き締まり、私が顔の前に近づく。
や、やだ。この大男ワイルドすぎるけど、よく見たらちょっとイケメンじゃない。
私に惚れ直したのかしら、ホホホ・・・

「おい、グリフィスのことを知っているか?お前も参加者なんだろ。」
「グリフィス?誰よそいつ、そんな名前聞いたことも無いわ。確かに私も参加者だけど」
「そうか、邪魔したな。」

目の前の男は私のことを握る手を緩め、優しく地面へとエスコートする。
と思ったら、大男は踵を返して歩き始める。わたしのことを居なかったように無視して

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あんた聞くだけ聞いて可愛い女性を放置なんて何様!」

みさえは叫ぶものの、大男はみさえに反応する様子は無い。
こうなったら、これだっ!
みさえはとっさにスモールライトを目の前の大男に浴びせる。
効果は無いか?と思ったが少しして大男も同様に縮小を始めた。
私はやっりぃ!と心の中で呟き、スモールライトをポケットにしまう。
そして縮小した大男?に接触するべく走り出した。
砂利の上って、小さくなると結構歩きづらいわね・・・
さすがの大男もこれにはかなり驚いている様子で、砂利の上で困惑しながら周りをキョロキョロしていた。
なんとか大男に追いついた私はは大男の鎧に掴みかかる。

「ちょっとあなた!人の話もちゃんと聞きなさいよ。私だって聞きたいことがあるんだから」

男が私に振り返ると同時に、体がふわっと浮く。私は一瞬何が起こったかわからなかった。
少しして私は、男に胸倉を掴み上げられ体を持ち上げられていることに気が付いた。

「おい、これは一体どういうことなんだ?」
「あなたがわたしの話を聞かないから、足止めしてやっただけよ!」
「なんだと、ふざけるんじゃねえよ・・・」

目の前の大男は私に掛ける力を強める。苦しい・・・。

「さっさと元の体に戻る方法を教えやがれ、おばさん」

お、おばさんですってえ〜。何よこの男、ちょっとイケメンだからって調子に乗りやがってぇ
と私が思ったのも束の間、ガサガサと茂みが揺れる。
すると私は地面に投げ捨てられた、いったぁ〜

「ちっ・・・」

大男はわたしのことなんか居なかったみたいに茂みの方を見ている。
それからすぐ、茂みの向うから小さな女の子が現れた。
どうやらしんのすけよりは年上の、小学生ぐらいの女の子のようだ。
わたしはその女の子に助けを求めるべく大声を上げた。

「お〜〜い」
「ば、馬鹿何やってやがる。」
「何って助けを求めてるんじゃない、あんたも声を出しなさいよ。」

私は大男にそう言ってやった。すると目の前の女の子は私達に気が付いたようだ。
やった、これでこんなよく分からない状況から抜け出せるのね!
私は女の子に向かって勢いよく走り出す。





・・・驚きましたわね。世の中にはこんな小さな人間?もいらっしゃるのですのね。
私が茂みを抜けるとなにやら小さな声がして、その方向を見れば人形のような小人がいるじゃありませんか。
私の目の前に現れたのは小人は二人、おばさんみたいなのが一人。
そして漫画にでも出てくるような黒い西洋甲冑を着込んだ男が一人。
おばさんみたいなのは何か色々まくしたてているが、賢いわたくしはもっと重要なことに気が付きましたのよ?
二人の小人にはちゃーんと首輪がありますの、つまりこの小人達は参加者。
にーにー、見ていてくださいね。

私は左手に持っていたにーにーのバットを両手持ちにし大きく振りかぶる。そして勢いよく振り下ろしたっ!

グシャッ!

・・・外れてしまいましたか。
私がおばさんの小人目掛けて振り下ろしたバットに、何かを叩き潰すような感覚は無かった。
バットのすぐ近くには仕留め損ねたおばさんが居る。そしてそのおばさんを掴んで引っ張り上げたらしい男がいる。
私は間髪居れずそのままバットを薙ぎ払う、すると小人は吹き飛ばされ、茂みの近くに飛んでいった。
私はもう一度にーにーのバットを振りかぶり、今度こそしとめようとする。
しかし、薙ぎ払って行動不能にしたと思っていた小人達はすでに逃げ出し始めていた。
あの茂みに逃げられると厄介ですわね。特にあの男の小人はなんだか特に厄介な感じがしますわ。
ちっ・・・あのクソガキめ。容赦ない真似しやがる。
俺はとっさにクソガキからの殺気を感じ取り、反射的にこの女を助けてしまった。
気が付いたら俺は大きく吹っ飛ばされていた。くそっ・・・
女のほうもどうやら無事のようだった。もう考えてる時間はねえな。

「おい、二手に分かれてあの茂みに走るぞ!」
「えっ、えっ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ〜」

俺は後ろを振り返る。後ろに見えるのは鈍器を振りかぶったクソガキと女。
この状況を全く理解していないらしい女に、再び悪態を付きながらもう一度言ってやった。

「だから二手に分かれたほうが安全なんだよ、分かったらさっさと二手に分かれやがれ!」

二手に分かれれば、少なくともあのクソガキはどちらか片方しか標的にすることができない。
最初にあのおばさんを狙ったことから考えて、俺が狙われる確立は低いだろうと踏んだ。
これならクソガキがあの女を仕留めるのには多少の時間が掛かるはずだし、その間に俺は逃げ切れるだろう。
女はやっと俺の言葉を理解したらしく、俺から離れ始めるが・・・

ドガン!

俺はとっさに飛んで攻撃を回避する。あのクソガキめ、俺に狙いを変えやがった?
クソガキの攻撃は鈍器を乱暴に振り上げて叩き下ろすか、薙ぎ払うだけなんで避けるのは難しくない。
だが、これはまともに食らったらひとたまりも無いだろうな・・・。
俺はあの時薙ぎ払いの一撃の際、どういうわけかあの女を庇ってしまったらしくまだ体中には痛みが残っていた。

「ホホホ、待ちなさい〜」

誰が待つか。
こんなクソガキごときが俺様を舐めやがって・・・

ヒュン・・・!ガスッ!

ぐっ・・・、まともに食らったか。鎧が無かったらマジで死んでたかもな・・・
ゴロゴロと転がりながらも、何とか俺は受身を取って立ち上がる。・・・だがこの状況はかなりやばいぜ。
俺は相手の攻撃を見切る余裕すら無いと判断し、力を振り絞って目の前の茂みに飛び込む。

ヒュン、ドガッ!

間一髪、何とか逃げ切れたか・・・。
そう思っていたとき、茂みは大きくガサガサと揺れ、再び鈍器の振り下ろされる音がまた引き起こる。
ちっ、まだ休む暇もねえのか・・・。俺は体を起こすと、金属音の響く茂みの中を走り出した。





・・・逃しましたわね。いや、まだまだ終わってはいませんわよ・・・
茂みの中は月明かりではどうしようもないほどの暗闇で、茂みの中を探すのはかなり困難。
だけどあいつらその大きさゆえに遠くに逃げ出すことは出来ない。
まだまだ私が絶対の有利なんですのよ。にーにー、私はちゃんとやり遂げますわよ。
にーにー、ちゃんと見ていてくださいね。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思った・・・」

私、野原みさえは茂みの中で尻餅を付きゼイゼイと声をあげていた。
周りにはバットの音が木霊するが、少なくともこの茂みのようではないようなのでとりあえず安堵する。
暗いとか怖いとかそういう問題じゃなく、私はたしかに「殺し合い」に巻き込まれているのを理解していた。
あー、もうどうしよう?つ、疲れた・・・

ゼイゼイと声を上げる私に黒い塊が何かぶつかり、強い衝撃が走る。
えっ、もしかして死んじゃう?私。
と思うが、吹き飛ばされながらも意識があることから、どうやらあのバットの一撃でないことらしいわね。
すると私の顔の前にあの大男が現れる。・・・っ!この人血まみれじゃないの。
私は大男を心配して一言声を掛けようとするが、大男はそんなことは知ったことじゃないとばかりに自分の話を進める。

「前置きはいい、どうしてこうなったのかをさっさと教えろ。元に戻せ」
「ちょっと、元に戻せって言ったって・・・」
「ああ?」
「ちょ、ちょっとは落ち着きなさいって、今説明するから・・・」

私はポケットにしまっていたスモールライトを見せ、名前と効果と一部始終を説明する。
大男は呆れた表情を見せ、頭を抱えている。

「こういうこと、わかった!」
「ああ、よく分かったからそいつをよこしな。」

よこしな。と男は言うものの、男は私の同意など無いように手からライト取り上げると適当にいじくり始めたではないか。

「ちょ、ちょっと壊れたらどうするの!」
「煩い、黙ってろ。」

男は適当にスモールライトをいじくり回す。するとまたあの光が・・・





完璧に逃しましたわね・・・。これはかなり厄介なことになりましたわ。
私は茂みを調べて回るものの、森にある茂みを暗闇の中調べることに飽きていた。
最初はにーにーのバットを振り回していたが、これでは効率が悪いことに気が付いて一つ一つ探し始めた。
しかし、ライトで茂みの中を見渡した所で一向に人影は現れなかった。
私は小人達に逃げられた。これはかなり手痛いミス。
自分が戦いを挑めるような相手は多くない。
わたくしのような小娘では最初に出会ったあの大剣を振り回すような奴には絶対勝てる訳が無い。
だからこそ自分が勝てる相手は全力で叩き潰さなければならなかったはずだ。
・・・私が戦って勝ち残らないと、にーにーは帰ってこない。
だから、何としても勝ち残らないといけないのに、本当に痛いミスですわね。
私はため息を一つ吐くと、再び砂利道の方に戻ろうとした。した。

したはずですわっ・・・
動けない、私の体は、いや右手は・・・何者かに強く掴まれていた。握りつぶされるような痛みがっ
正体を確かめるべく後ろを振り返ると・・・ひぃっ!
あの、あの血だらけの小人が、血まみれの大男になっているっ!
わたくしの手を痛いほど強く握る大男は、にやりと笑う。


「よおクソガキ、さっきはよくも散々な目にあわせてくれたな。」
助けてにー・・・痛っ!

わたくしは大男に掴み上げられた後投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
とっさに受身を取ったものの、体が痛い。逃げなきゃ、助けてにーにー・・・
わたくしは体を這いずって逃げ出そうとする。後ろから大男の声がする。

「逃げるとはずいぶんと調子がいいな、クソガキめ」

声を聞きわたくしは大男に、振り返る。ひぃっ!?
その大男はわたくしに憎悪の目を込め、血だらけになりながらバットを振り上げて佇んでいた。
後ずさりする私に向かって無情にもバットは、私に向かって振り下ろされましたわ。

「・・・・・・ッつぎゃあああああああああ」

猛烈な痛みが走る。痛い痛いイタイイタイ・・・
わたくしの足は、み、右足は・・・右足だったものはグシャグシャに潰されていた!
こ、殺される。本当に殺される。あ、謝らないと、謝って許してもらわないと

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」
「今更命乞いとは本当にふてえクソガキだ。」

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。許してください。
痛い、痛い、痛い・・・。許して許して許してごめんなさいごめんなさい。
私は頭を何度も何度も下げて謝る。男は私の髪をわし掴みにして目の前に寄せる。
痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

「よく聞けクソガキ、グリフィスって奴を・・・」
「みさリンキ〜ック!」

ドガッと音がして、どてっと大きな音がする。大男は私の髪を離して背中を見せる。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。許してください許してください許してください。

「おい、おまえは一体何のつもりだ?」
「何って、こんな小さな子供を苛めるなんていい大人のすることじゃないでしょ!」

おばさんが大男に食って掛かる。助、かった・・・。

「このクソガキは俺だけじゃなく、お前も殺そうとしたんだぞ?」
「だからって、謝ってる子供を殺そうとするなんて駄目よ!」
「うだうだうだうだうるせえなぁ、お前はどっちの味方なんだよ!」

おばさんが男に掴みあげられる。どちらも表情は変わらない。
すると、パシンと何かを叩く音が鳴ったのですわ・・・。

「女性に暴力を奮うなんて最低の男ね。何様よあなたは!」
「この野郎・・・」
「私は野郎じゃなくて女です。春日部市の主婦、野原みさえなんだから!」

おばさん、・・・みさえさんがぴしゃりと言い切った後、再び沈黙が走る。
ほんの少しの後、大男はみさえさんから目をそらし、何か言葉を漏らしながらみさえさんを下ろす。

「・・・ちっ、好きにしやがれ。」

みさえさんが地面に下ろされる。
助かった・・・。許してくれたの?にーにー、にーにー・・・
不意に安心した私は、急に目の前が暗くなっていったのですわ・・・。
あの女、野原みさえは俺の苦手な目をしていた。
女がふい見せる弱くも力強い意思を持った瞳、俺はああいうのと戦うのは嫌いだ。
そのせいか、これ以上面倒なことになるのは嫌だったから仕方なくクソガキを開放してやることにした。
クソガキを見ると気絶しているらしく、グリフィスの情報について知れないのは痛いが、それよりもこの場に居るのが嫌だった。
俺はみさえからスモールライトを再び取り上げると、あの時に小さくなっていた俺の支給品を元のサイズに戻した。
そしてクソガキの持っていた袋を回収し、中身をあさり始める。
袋の中からは水や食料の他、薬が出てくる。説明書によるとどうやら傷薬らしい。
早速、俺は傷薬を使ってあのクソガキに散々甚振られた傷を治療することにした。





私はあの大男から解放されると、あの女の子の様子を見に行った。
私は女の子の胸に耳を当て、心臓の音を確認する。よかった・・・気絶しているだけね。
でも、これはちょっと酷いわね・・・。
目の前の女の子の右足は痛々しく血が流れ、ぐしゃぐしゃに潰されている。
その顔には涙がボロボロに流れた後が見えた。本当に酷いわね。本気で殺されかけた私が言うのもなんだけど・・・
しんのすけがたまにつけてくる擦り傷のような怪我ならともかく、これは私には手に負えない代物だった。
さすがにどうしようもないので大男のほうをちらっと見ると・・・
ってえーーー、何か塗ってるうー!

「ちょっとあなた、何やってるのよ!」
「何って傷の治療だ。見りゃ分かるだろ」
「えっ、傷薬ですって。どうしてあなたが傷薬なんて持ってるのよ!」
「あのクソガキの荷物の中でたまたま発見しただけだ。文句あんのか?」
「あるわよ!女の子に大怪我をさせておいてそのまま、本当に自分勝手な男ね!」
「うるせえなぁ・・・」

大男はイライラした表情で私の問答に答える。
ふいに大男はぷいと目を逸らし、私に向かって傷薬の残りを投げつけてきた。

「そいつはくれてやる、だからもう二度と俺に関わるんじゃねえ」

そういって男はディパックを抱えると、私達のことなどどうでもいいように歩き出す。
はっ、いま気がついたけどあの男ディパックだけじゃなくスモールライトまで持っていってるじゃない。

「ちょっとちょっと、スモールライト返しなさいよー」
「うるせえなぁ、傷薬をくれてやったくせに贅沢言うんじゃねえ」
「え?いやそんな話じゃ・・・」

大男は振り返ると私をギロリ睨み付け、イライラした声で言い捨てた。
私は少しばかりその表情に恐怖して後ずさりをする。ワイルドとかじゃなくて、やっぱり顔怖いわね・・・。
私がうろたえている間にも男は、どこ吹く風かもう川下のほうへ歩き出してしまった。
私が男を再び呼びかけるも、今度こそ本当に私のことを無視をして歩き出した。
もう何よ。あの大男ったら本当に自分勝手で、しかも名乗りもしないなんて・・・