【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
「地図」 → MAP-Cのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【バトルロワイアルの舞台】
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/34/617dc63bfb1f26533522b2f318b0219f.jpg
【キャラクターの状態表テンプレ】
【地名・○○日目 時間(深夜・早朝・昼間など)】
【キャラクター名@作品名】
[状態]:(ダメージの具合・動揺、激怒等精神的なこともここ)
[装備]:(武器・あるいは防具として扱えるものはここ)
[道具]:(ランタンやパソコン、治療道具・食料といった武器ではないが便利なものはここ)
[思考・状況](ゲームを脱出・ゲームに乗る・○○を殺す・○○を探す・○○と合流など。複数可、書くときは優先順位の高い順に)
◆例
【B-6森 2日目 早朝】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(左腕・右足に切り傷)
[装備]:刀、盾
[道具]:ドアノブ、漫画
[思考]
第一行動方針:のび太を殺害する
第二行動方針:アーカードの捜索
基本行動方針:最後まで生き残る
【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。
【放送】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
スピーカーからの音声で伝達を行う。
【禁止エリア】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【能力制限】
◆禁止
・ハルヒの世界改変能力
・ローゼンキャラの異空間系能力(間接的に人を殺せる)
・音無小夜の血液の効果
◆威力制限
・BLOOD+のシュヴァリエの肉体再生能力
・Fateキャラの固有結界、投影魔術
・長門有希と朝倉涼子の能力
・レイアース勢、なのは勢、ゼロ勢、遠坂凛の魔法
・サーヴァントの肉体的な打たれ強さ(普通に刺されるくらいじゃ死なない)
・サーヴァントの宝具(小次郎も一応)
・スクライドキャラのアルター(発動は問題なし、支給品のアルター化はNG)
・タチコマは重火器の弾薬没収、装甲の弱体化
・アーカードの吸血鬼としての能力
◆やや威力制限
・うたわれキャラの肉体的戦闘力
・ジャイアンの歌
◆問題なし
・ローゼンのドールの戦闘における能力
・ルパンキャラ、軍人キャラなどの、「一般人よりは強い」レベルのキャラの肉体的戦闘力
【参加者一覧表】
6/6【涼宮ハルヒの憂鬱】
○キョン/○涼宮ハルヒ/○長門有希/○朝比奈みくる/○朝倉涼子/○鶴屋さん
5/5【ドラえもん】
○ドラえもん/○野比のび太/○剛田武/○骨川スネ夫/○先生
5/5【スクライド】
○カズマ/○劉鳳/○由詫かなみ/○君島邦彦/○ストレイト・クーガー
5/5【ひぐらしのなく頃に】
○前原圭一/○竜宮レナ/○園崎魅音/○北条沙都子/○古手梨花
5/5【ローゼンメイデンシリーズ】
○桜田ジュン/○真紅/○水銀燈/○翠星石/○蒼星石
5/5【クレヨンしんちゃん】
○野原しんのすけ/○野原みさえ/○野原ひろし/○ぶりぶりざえもん/○井尻又兵衛由俊
5/5【ルパン三世】
○ルパン三世/○次元大介/○峰不二子/○石川五ェ門/○銭形警部
5/5【魔法少女リリカルなのはシリーズ】
○高町なのは/○フェイト・テスタロッサ(フェイト・T・ハラオウン)/○八神はやて/○シグナム/○ヴィータ
5/5【Fate/stay night】
○衛宮士郎/○セイバー/○遠坂凛/○アーチャー/○佐々木小次郎
5/5【BLACK LAGOON】
○ロック(岡島緑郎)/○レヴィ/○ロベルタ/○ヘンゼル/○グレーテル
5/5【うたわれるもの】
○ハクオロ/○エルルゥ/○アルルゥ/○カルラ/○トウカ
4/4【HELLSING】
○アーカード/○セラス・ヴィクトリア/○ウォルター・C(クム)・ドルネーズ/○アレクサンド・アンデルセン
4/4【攻殻機動隊S.A.C】
○草薙素子/○バトー/○トグサ/○タチコマ
3/3【ゼロの使い魔】
○平賀才人/○ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール/○タバサ
3/3【魔法騎士レイアース】
○獅堂光/○龍咲海/○鳳凰寺風
3/3【ベルセルク】
○ガッツ/○キャスカ/○グリフィス
2/2【デジモンアドベンチャー】
○八神太一/○石田ヤマト
2/2【OVERMAN キングゲイナー】
○ゲイナー・サンガ/○ゲイン・ビジョウ
2/2【BLOOD+】
○音無小夜/○ソロモン・ゴールドスミス
1/1【MASTERキートン】
○平賀=キートン・太一
80/80
テンプレートは以上。以下、作品の投下を。
7 :
オープニング:2006/12/07(木) 20:38:02 ID:0plmBHDT
一切の光無き暗闇の中。
ざわざわと人の喧噪が響いていた。
(なんだよ、うるさいなぁ)
少年は不平に思う。
今日は日曜日なんだから寝かせてくれたって良いじゃないか。
「おい、起きろのび太!」
そう思う少年に知り合いの声がする。
ドラえもんの声だ、うるさいなぁ。
「起きなさい、のび君!」
そう思う少年に知り合いの声がする。
先生の声だ、うるさいなぁ。
……先生?
「「起きろのび太!」
「わあごめんなさい!!」
跳ね起きた。
「……あれ?」
起きてから少年、野比のび太は首を傾げる。
起きたという事は目を開けたはずなのに、どうしてまだ暗いんだろう。
先生の声が聞こえたから学校のはずなのに、どうしてまっくらなのだろう。
暗闇の中から声だけが聞こえる。
たくさんの人がいるようだった。
「やっと起きたか。もう、のび太君はいつもそうなんだから」
「ドラえもん? これ、どうなってるの? 何も見えないよ」
「知らないよ、さっきからそうなんだ。気づいたらみんなこんな所に居たんだ」
「みんな?」
周囲を見回す。
もちろん暗闇を見通す事なんて出来なかったけれど、見知った友人が居るのは感じ取れた。
「やっと起きたか、ぐずだなのび太は」
「そうだよ、こんな時にぐーすか寝てるなんてさ」
(ジャイアンにスネ夫も居るみたいだ)
「そんな事言わないで、のび太さんだけじゃなくわたし達だって何も判らないんだから」
(しずかちゃんも居る)
「みんな落ち着きなさい。先生も何が何だか判らないんだ」
(先生まで居る!?)
のび太は混乱した。
「いったいぜんたい、どういうこと!?」
「フハハハ、こういう事だ」
疑問の叫びに不気味な声が答えた。
部屋に明かりがつく。
周りを見回すとスーツを着た男の人や古めかしい服の女の人が居た。
蜘蛛型の足が付いた変なロボットも居た。
そして一段と高くなった壇上には、未開地のシャーマンのような毛皮の衣を纏った
奇怪な仮面の男が立っていた。
「ギガゾンビ!?」
「そんなバカな、タイムパトロールに捕まったはずじゃ!?」
ドラえもんが驚きの声を上げる。
だが、目の前に居るのはかつて彼らが捕らえた時空犯罪者ギガゾンビに違いなかった。
「ワハハハ、目覚めの気分はどうかな生贄の諸君!」
ギガゾンビが高らかな笑い声を上げる。
「生贄……?」
誰かが疑問の声を吐く。
「そう、生贄だ!
キサマらにはこれから殺し合いをしてもらう!」
約80人もの群衆を前に男は高らかに宣言した。
「おまえ達はありとあらゆる世界の様々な時間から集めた生贄だ。
おまえ達にはこれから殺し合いをしてもらう。
そして生き残った一人だけは元の世界に返してやろう。
それがこの殺し合い、バトル・ロワイアルだ。
ああそうだ、その生き残った一人は一つだけ願いも叶えてやるぞ?」
「こんな事をすればタイムパトロールが黙っていないぞ!」
ドラえもんが怒りの声を上げる。
「バカめ、私は時空刑務所から脱獄し亜空間破壊装置を完成させた!
もはやタイムパトロール共は私に手を出せないのだ。
今度は誰も助けに来ないぞ、青ダヌキ」
「そんなバカな!?」
青ダヌキことドラえもんの顔が本当に青くなった。
それが本当なら、前の時に奴を捕まえた手段はまるで通用しなくなる。
「本当だとも。キサマらに残された道は殺し合って生き残るだけだ」
「そんな事させないわ!」
「ああそうだ、おまえの言う事なんて聞くもんか!」
一人の少女が叫び、それと共に筋肉質の男が飛び出した。
カメラを下げたその男は壇上によじ登りギガゾンビに掴みかかろうとする。
壇上に居るとはいえそれは届かない距離ではないように思えた。だが。
「ダメなのです富竹! ボク達の首には……!」
人混みから抜けてきた少女が制止の声を上げる。
その少女が何故それに気づき、あるいは知っていたのかは判らない。
何にせよ、それは遅すぎた。
その少女はいつもそうで、その男はいつもそうだった。
ボンッ。
男の生首がゆっくりと宙を舞い、偶然にも少女の足下に転がった。
血が床に撒き散らされ虚ろな目が少女を見上げる。
「富竹……!」
「富竹さん!!」
富竹というらしい男は、死んだ。
あっさりと理不尽に、その場にいた“参加者”達に対する見せしめとして。
その周囲で起きる騒ぎを見てギガゾンビは楽しげに笑った。
「フハハハ、キサマらの首には爆弾の付いた首輪を取り付けてある。
私に逆らったり、会場から逃げようとすれば爆発するぞ。
誰も殺し合わない退屈な見せ物になれば、纏めて爆破するかもしれんなあ」
恐ろしい事を口にする。
ならば誰かが殺されてもみんなで爆破される前に抑え込めば。
「もう一つ、キサマらの前の私の姿はただの立体映像だ。バカな事は止すのだな」
そんな希望さえもギガゾンビはあっさりとへし折った。
「これは私の退屈をしのぐ見せ物なのだ。ああ、そうだ……」
ギガゾンビは一人の少女に視線を注いだ。
源静香。
「さっき、キサマも私に逆らおうとしたな」
「そ、それは……!」
反射的に反抗の言葉を叫んだ事を思いだして青くなる。
「不穏分子は減らしておくとしよう」
「い、いや、ゆるして!」
ギガゾンビは本気だ。
殺される……!
「や、やめろーー!」
「のび太さん!?」
のび太は勇気を奮って飛び出した。
震えながらもしずかを庇い、ギガゾンビに立ち塞がる。
「し、しずかちゃんに手を出したらゆゆ、ゆるさないからな!」
「ムムッ、キサマはあの時のタイムパトロールの協力者だな」
かつてタイムパトロール隊は発信器の信号に引かれてギガゾンビの基地を強襲した。
捕まえておいた奴らはそんな物を持ってはいなかった。
それなら残るは合成生物に乗って進入してきたこの少年しか居ない。
「キサマだけはゆるさん! たっぷりと苦しめ!」
「わ、わあああ!?」
のび太は目を瞑って悲鳴を上げた。
ボンッ、という音が聞こえた。
(あ、あれ? ぼく、どうして生きているんだろう?)
背中に何か温かい物が掛かるのを感じる。
ゆっくりと目を開けると、ドラえもん達がこちらを見て凍り付いていた。
(だいじょうぶだよ、ぼくはどこも痛くない)
ちょっと背中が温かいだけでなんともない。そう、本当になんともないんだ。
だからそんなに固まらなくても良い……
(温かい?)
どうして、温かいのだろう?
ゆっくりと、本当にゆっくりと振り返るとそこには…………
「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「フハハハ、苦しめ、苦しむがいい」
泣き崩れるのび太を見てギガゾンビはさも楽しげに、悪魔のように笑う。
「おまえは私の手では殺さん。
ゲームの参加者の一人として殺し合いの中でもっともっと苦しんで死ぬのだ。
無力な一人の子供として惨めったらしく死ぬのだ」
絶対的な勝利者として高みから笑う。
もうどうしようもない目の前の敗北者を嘲笑う。
――しかし。
「……ゆるさない、からな」
少年は項垂れ、呟いていた。
「ゆ、ゆるさないぞ。
ぼくは言ったぞ、しずかちゃんに手を出したらゆるさないって」
泣き虫の少年は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら怒っていた。
ギガゾンビには届かない声で怒っていた。
「こ……」
その力はとても弱い。弱虫で泣き虫の、優しい少年の怒りだ。
だけど。
「ころしてやる……どうやってでもころしてやる……」
その怒りがギガゾンビに届く日が来ないなんて、誰も決めていない。
「ぼくはおまえをぜったいにゆるさないぞ、ギガゾンビ……!!」
少年は高みに立つ仇を、見上げた。
ギガゾンビはもうそんな少年の事を見てはいなかった。
自分に屈辱を味あわせた子供に仕返しした事で満足して、上機嫌で説明を再開していた。
「首輪は定時放送で報せる禁止エリアに進入しても爆発する。
人数が少なくなれば他の参加者とも出くわしにくくなるから、場所を狭めてやるのだ。
それから、おまえ達には支給品を与える。
中には武器等の支給品がランダムに1〜3個、それに地図や食料などが入っている」
殺し合いの説明を終えて、ギガゾンビは高らかに宣言する。
「さあ、今からおまえ達にはワープで会場に送ってやろう!
これはサービスだ、安心して向かうが良い! 健闘を祈っているぞ。
フハハハ、フハ、フハハハハハハ…………」
宣言通り、高笑いと共に参加者が会場へとワープしていく。
遂に殺し合いのゲームが幕を開けたのだ。
理由は不明。
目的も不明。
ただ目の前には逃れえぬ残酷だけが待っている!
そして、バトルロワイアルが始まった――
どういうことなのかしらね、これ。
それが私、遠坂凛が始めに思ったことだった。
いきなり目が覚めたらどこか分からないところに連れて行かれてて「殺し合いをしろ!」
なんて言われ、荷物受け取ったらどこかの建物の中にワープなんていくら魔術師の私でも
理解不可能だ。しかも魔術のレベルじゃない、魔法レベルの技術が使われてるみたいだし
(ちなみに私達は現代の科学で同じ結果を導き出せるものを「魔術」、科学では再現できな
いものを「魔法」と呼ぶ)。
「救いがある、といえばあるのかもしれないけど……」
名簿を見てみる。
明らかにおかしい名前の奴がいたりとか妙に日本人が多いのは放っておいて、ともかく
セイバーにアーチャーがいるのは幸いだ。セイバーとアーチャーは強い。なんでまた召還
されてるかは分からないけど、二人に勝てる相手がそうそういるとは思えないし……
そこまで考えて、ふと気付いた。その二人は、本当に私が知ってる「セイバー」と「アー
チャー」なんだろうか?
「……あの金ぴかもアーチャーよね、確か」
もしアーチャーがそっち、英雄王ギルガメッシュなら最悪だ。強過ぎるし性格も危険。
偉そうな性格だったからギガゾンビとかいう奴に喧嘩売ってくれそうだけど、少なくとも
私とは友好的な仲じゃない。だいたい、ずっと昔に行われた聖杯戦争の「セイバー」や
「アーチャー」だったら完全に知らない相手だ。顔写真でも付けてくれればいいのに。
それに、普通の英霊は本来の居場所に戻ると記憶が無くなる。下手をすれば、例え私が
知ってるアーチャーだったとしても味方になってくれない可能性さえある。セイバーは
記憶があったらしいから、その点は安心だけど。
「そうなると、まず探すのは士郎ね」
士郎なら武器ぐらい簡単に調達できる。とりあえず二人揃って干将・莫耶を持ってれば
少しは安心できると思う。武器があるのとないのとでは大違いだ。
それに、あいつ一人だと不安もある。士郎のことだから『殺し合いするな!』とか言い
まわって、色んな戦闘に突っ込むに違いない。士郎はそういう性格だ。
私だってわざわざ殺し合いに乗ってやるのはごめんだ、聖杯戦争は終わってるんだし。
ただ、襲い掛かってくる相手には容赦しない。だけど士郎は例え自分を殺しに来る相手で
も、何とか殺さずに済ませようとするだろう。はっきり言って、そんなんじゃいくら命が
あっても足りないに違いない。そういう面から言っても、士郎とさっさと合流してカバー
やらないと。
当面の方針は決まった。後は、どうやってそれを成し遂げるかだ。となると重要なのは。
「これ、何が入ってるのかしら」
ランダムに決まる支給品。もしかしたら宝石とかアゾット剣とか入ってないだろうか。
まあそこまでは無くても、ちょっとした魔術礼装(魔術行使をサポートする道具のこと)
ぐらい期待してもばちは当たらないはず。
早速開けて取り出してみる……明らかに容量が第二魔法とかそういったレベルを超越し
てるのは置いておいて、まず出てきた物そのいち。飲み物。正確にはヤクルト一本。最初、
水とか食料の一部かと思った。新手のいじめ?
「……次」
落胆しながら違うものを取り出す。だいぶ薄れた期待と共に出てきたのは……
「よし、ツイてる!」
思わずガッツポーズをしてしまうほどの、当たり。出てきたのは赤い宝石。しかもこの
宝石からは魔力を感じる。これ以上ない当たりだ。
説明しておくと、遠坂の魔術師は力の「転換」を得意とする。あらかじめ何かに魔力を
溜め込んでおいて、いざという時その力を一気に開放することにより高度な魔術を一瞬で
行使できるというわけ。そして、遠坂家は宝石に魔力を溜め込むのが得意。……まあ開放
すると宝石が壊れるせいで遠坂の魔術師は金欠なんだけど、それはともかく。
他の荷物をデイバッグに戻し、宝石を手の中に握り締めて精神を集中、魔力を流す。
誰もいないうちに少しだけでもやっておいた方が安全でいいだろう。数分程度の魔力でも
眼くらましにはなるし、幸いここは建物の部屋の一室だからいきなり襲われることもない。
すぐにすませるつもりだった……んだけど。
「魔力が流れ込むのが遅い……?」
なぜか知らないけどいつもより魔力の通りが悪い。いきなりこんな所に連れてこられた
からだろうか?この調子だと予想外に時間を使ってしまうかもしれない。もし襲われたら
逃げ場が無いかも、とか考えているといきなり声が聞こえた。
「Hello」
「うわ、敵? もう!?」
なんか大人の女性らしい声だった。英語ってことは外国人?とりあえず周りを見渡す。
でも誰もいない。隠れてるんだろうか……
「……What are you doing ? Look at me」
「…………」
またした。今度ははっきりと聞こえた、しかもこの宝石から。えっと、これってつまり。
「……喋ってるの、あんた?」
「Yes」
「…………」
喋る宝石。普通こんな物に遭遇したら誰だって驚く、魔術師の私だって驚く。
だけど、宝石は待ってくれない。
「Who are you ? Do you know where my master is?」
「……うん、まあ」
人間みたいな声で喋る宝石。そんな物、全く見たことなかったし聞いたこともなかった
けど……きっと、世の中にはこういう魔術礼装もあるんだろう。ここにあるんだし。
そう強引に思って、混乱する頭を落ち着かせようとする私だった。
「Answer, please」
「……現状把握するまでちょっと待ってて、お願いだから」
【D-5 ホテルの一室・1日目 深夜】
【遠坂凛@Fate/ Stay night】
[状態]:健康・ややびっくり
[装備]:レイジングハート・エクセリオン/スタンバイモード(魔法少女リリカルなのは)
[道具]:デイパック ヤクルト一本 水と食料それぞれ二日分 コンパス 地図 名簿 筆記用具 時計 ランタン
[思考・状況]1 ……これなに?
2 士郎と合流
3 アーチャーやセイバーがどうなっているか、誰なのかを確認する
4 自分の身が危険なら手加減しない
気付いた時には少年――骨川スネオは一人だった。
気が付くと薄暗い広い空間に立っていた。
周りのみんなが消えてしまったのかと一瞬思ったが、そうでないとすぐに解った。
リノリウムの冷たい床。規則正しく並んだソファ。人の気配のしない受付カウンター。
そこは病院のロビーだった。
電灯が点いていないのに明るいのはガラス張りの玄関から差し込んでくる月明かり
のせいだ。
先程見た凄惨な光景、それに対してあまりに寒々しいこの空間とのギャップにに気が
変になりそうになる。あれは本当に現実だったのかと……
しかしすぐにそれが現実だったのだと思い返す。
自分の身体にべったりと張り付いた赤黒い……しずかちゃんだったのもの。
フラッシュバックした光景に思わずへたりこんだ時に、それに気付いた。
自分の足元に置かれていた一つのデイバッグ。
少し思い出した。茫然自失ではあったが何か配られると聞いた覚えがある。
恐る恐るバッグを開いて中を確認する。
…タオル、パン、ペットボトルに入った水、方位磁石に地図、懐中電灯等々……
どれも素っ気無いデザインのありふれた物ばかりだったが、一番奥に他とは
違い油紙に包まれた重量感のある物が入っていた。
床にへたり込んでゆっくりと油紙を剥がすと、中から現れたのは一丁の拳銃だった。
”グロック26”
名前なら知っているしその玩具(エアガン)だって持っている。
だが今掌の中にあるこれは本物だ。
”殺し合いをしてもらう”
ギガゾンビの言葉を思い出す。そして再び恐怖がこみ上げてくる。
弱虫ののび太が本当の勇気を持っているのを知っている。
いじわるなジャイアンが一番頼りになることを知っている。
死んでしまったしずかちゃんは、誰かを支えることのできる強さの持ち主だった。
だがそれに比べて自分は、…自分にはそんなものはない。
誰よりも物を持っていたが、それは全部誰かが持っていたものだった。
ぽたりとリノリウムの床に涙が落ちる。心細い。誰かに会いたい。
一人では気がおかしくなってしまう。
…だが誰もいない。今、自分の傍にはだれもいない。
あるのは掌に収まっている一丁の拳銃。
これだけが頼りだ。これだけで生き残らなければならない。
拳銃と一緒に収まっていた弾丸。9mmパラベラム――知っている。
ミリタリー雑誌で読んだことを思い起こしながら弾丸をマガジンに込め、それを
銃に収める。
弾を込めた拳銃を両手で構えると吸い付くように手の中に納まった。
雑誌にはコンパクトで力の無い者にも扱えると書いてあった。自分にはぴったりだ。
スライドを引き撃てる状態になった拳銃を壁に向ける。
自分の手の中には銃がある――本物の銃!心に中に何か強い気持が湧き上がってくる。
これで撃てば相手は死ぬ。拳銃で撃たれて平気なヤツなんているもんか。
弾はたっぷり入っていた。その気になれば全員を……
パンッと破裂音が響いた。目の前の壁に小さな穴。
うっかり拳銃を撃ってしまったらしい。その反動は予想よりもさらに小さくこの拳銃を
自分でも扱えると確信することができたが、それとは逆に今さっきの気持は萎えた。
……今さっき自分は何を考えていたのか。銃で、人を撃って、殺す。
自分はそうなのか。そういう人間なのか。殺せと言われれば殺すのか。
激しい自己嫌悪に陥る。自分のダメな所を再確認する。
いつもこうだ。調子に乗るのだ。のび太へのいじめも、なんのことはない
いつもたきつけているのは自分だ……
再びリノリウムの床にへたり込む。その冷たさに不安が増す。
どうすればいいのか……、このまま殺されるのを待つか。いやだ、死にたくない。
手早く荷物をまとめ、この場を去り手近な場所に隠れようと考える。
ここは病院で部屋は無数にある。奥に逃げ込めば誰にも見つからないかも知れない。
……が、廊下の奥は真っ暗だ。夜の病院なんて怖いものの代名詞のようなものだ。
とてもじゃないがそこに踏み込む勇気はない。
病院の出口へ向かう。月明かりの下へ。今は少しでも明るい所がいい。
外に出て、怖くない所を探し、それからそこに隠れればいい。
ガラスの戸を押し開けてそのまま通りに出る。
灯りは月明かりだけで街灯の一本にも灯りが点いていない。
その暗さと不自然さにまた不安になる。やっぱり戻るべきか……
「そこの少年」
声を掛けられた!驚きのあまり気絶するかと思った。
反射的に声のした方へ身体を向けると、10メートル程離れた位置にトレンチコートの
誰かがが立っている。手の平を両手に上げたその姿はまるで……
「ヒィッ!」
反射的に手の中の銃を撃ってしまった。再び乾いた破裂音が響く。
つむった目を恐る恐る開くと、トレンチコートの誰かは脇を抑えてうずくまっている。
人を撃った!人を殺してしまう!?
「ご、ごめんなさい!」
反射的にあやまり、その誰かの元に駆けつける。
「ボクは、ボクは、ボクは……」
「大丈夫だ。ワシは心配ない。落ち着きなさい」
トレンチコートの誰かが顔を上げる。帽子を目深に被って見えなかった顔が月光に
照らされ初めて見えた。
「ワシはインターポールの銭型警部。君を保護する者だ」
初老の男性――銭型警部は手当てをした傷に手を当てると、ホッと息を吐いた。
幸いなことに少年の放った銃弾は致命傷にはならなかった。
脇に命中し肋骨に当たって反れてくれたおかげで、少々肉が抉れたぐらいだ。
今は少年と病院の中に居る。病室の中の一つで傷の上に包帯を巻くのを手伝って
貰っていたところだ。
「傷は大丈夫ですか?」
「ああ、たいしたことはないよ」
「でも、あんなに血が出て……」
サイドボードの上にある照明が控えめに照らす室内には、血に染まったタオルが
散乱している。
「表面をかすっただけだ。身体の中に弾は入ってないから平気だよ」
「そうですか……」
少年は怯えている。この状況に、何より人を撃ってしまったことに。
少年を追い詰めるこの状況に益々腹が立ってくる。…あのギガゾンビとかいうヤツ。
「お、おじさんは…どうするんですか?そ、その……」
「ワシは誰も殺さんよ。あんなヤツの言いなりなんかにはならん」
「…………」
「君も、君の友達もみんなお家に帰れるようにしてやる。そして、あのギガゾンビとか
名乗るけしからんやつは、逮捕してやる」
「……友達」
「ああ、さっきは友達たちと一緒だったろう?」
「……はい。のび太とジャイアンとドラえもん。後、先生」
「一緒に探そう。そしてみんなで帰ろう」
「あの!おじさんは、おじさんには友達は?」
唐突な返しにすこし答えを躊躇してしまう。
「ワシか……、友達と少し違うが知っているヤツらはおるよ」
「どんな人たちなんですか?」
難しい質問だ。
「悪党さ」
「じゃあ」
「でも悪いだけのヤツらじゃないんだ……」
そうだ、悪いだけのヤツらじゃない。
「………………」
「むやみやたらに殺生をするようなヤツらじゃない。義理も人情もある。
誰かに言われて人を殺すなんてことはしない……」
ワシはそう信じている。
「だったら……」
「そうだな。もしかしたら一緒になるかもしれん」
「もし、その人たちが一緒になったら……」
アイツらと協力することが出来れば、
「十中八九、この状況から逃げおおせるよ」
確信はないが、今までいつもそうだったんだ。あいつなら、ルパンなら……
「これを……」
少年が差し出したのはさっきの拳銃だ。これが彼の支給品だったのだろう。
「これは、君のじゃないか」
「でも!おじさんの方が上手く使えるだろうし、それにボクは……」
少年の顔が翳る。
「……わかった。ワシが預かろう。これは君には不必要な物だ」
ホルダーがないので、セーフティをかけてズボンのベルトに挟む。
弾丸――120発もあったそれはデイバッグの中にしまう。
代わりに自分の支給品だった赤紫の布を取り出す。
「代わりといっちゃなんだが、コレを君に預けるよ」
「ひらりマントだ!」
「……ひらりマント?」
「ええ、これ、ボク得意なんですよ」
得意?この布――ひらりマントには何か使い方があるのか。
少年は畳まれていた布を開くと、それを闘牛士のように構えた。
「そこの包帯を投げてみてください」
よくはわからないが、まだ解いていない巻いた状態の包帯を軽く放り投げる。
それがマントに触れると同じ勢いで手元へと戻ってきた。
驚いてつい包帯を取りこぼしてしまう。
「い、今のは?」
少年の顔はさっきまでと打って変わって自信が表れている。
「今のがこのひらりマントの効果。なんでも元の場所へ跳ね返すんです。」
「なんでも……?」
「はい。銃弾でも、大砲の弾でも。」
「……大砲の弾でも」
ルパンも得体の知れない道具を使っていたが、それにしてもこれは不可思議がすぎる。
「それを、君は知っていたのか?」
「ええ、ドラえもんの道具ですから」
ドラえもん。この少年の友人の名だ。あの眼鏡の子かそれとも大きな子か。
「はぁ、たいしたものだ……」
原理は解らんが、この少年はこれに詳しいらしい。
「よし、じゃあそれは君が使いなさい」
「でも、これもおじさんが……」
コートの前を開け、拳銃を指し示す。
「ワシにはお前さんから預かったこれがあるし、それは君の方がうまく使えるだろう」
「……そうですか。……はい。わかりました」
「うむ」
少年の気持が解れてきた。なんとか前向きな気持を取り戻したようだ。
「では、外が明るくなるまで少し休もう。ワシもすぐには動けんからな」
「はい。わかりました」
ワシはベッドの上に脚を伸ばし、毛布を被って身体を休めた。
【D-3/病院内/1日目-黎明】
【銭型警部】
[状態]:左脇に軽傷。手当てをして包帯を巻いています
[装備]:グロック26(弾:9/10発)/ズボンのベルトに通しています
[道具]:デイバッグ/支給品一式/9mmパラベラム弾(110)/医療キット
[思考]:日が昇るまで休息/スネ夫の友人たちを探す
【骨川スネ夫】
[状態]:特に問題はなし
[装備]:ひらりマント/手に持っています
[道具]:デイバッグ/支給品一式/医療キット
[思考]:日が昇るまで休息/のび太たちを探す
まだ年端もいかない少女、オヤシロ様の巫女である古手梨花はその姿に似使わぬ大人びた声で小さく呟いた。
「殺し合い、ねぇ」
あの変な仮面をつけた男?は確かにそう言ったはずだ、殺しあえ。と
「ねぇ、羽入。」
私は羽入にだけ聞こえる声で言うが、羽入の姿は見当たらない。
それどころか今この場に、人の気配すらしないみたいだ。
やはり、殺し合いの場に招かれたというのは間違いが無いのだろう。
とにかく、この場に羽入は居ないようだ。
普段うっとおしい癖に、肝心な時に全く役に立たないんだから・・・。
心の中で悪態を付いた私は、誰も居ないことをもう一度確認し近くの木にもたれかかることにした。
さすがに・・・死に戻ったばかりでこれは疲れるわね・・・。
幾度となく死に続けてきた私だが、さすがに殺し合いをする世界は見たことも無い。
と、言うよりもここは雛見沢ですら無いのだろう。まったく見覚えの無い場所だ。
周りの光景はまるで雛見沢のような森林に覆われた山岳地帯のようだ。
だが、雛見沢とは全く別の場所であるのは間違いない。
そりゃ百年以上も雛見沢に居れば誰だってそこにあるものはほぼ全て把握して当然である。
というよりも雛見沢という閉じた世界は完全に見飽きていた。
この場所は確実に雛見沢ではない。だがここは本当に日本であるかすら怪しく思える。
木々から感じ取れる生命感の無さ、不自然さは私にちょっとした不快感と少しの新鮮さを与える。
そう考えれば私があの時死んだのは間違いで、実は何らかの事故が起こったのかもしれない。
やり直しはいつも雛見沢だったんだから。
・・・いやいや、記憶に違いが無ければ私は間違いなく死んだのだろう。
私が最後に見た光景は間違いが無ければ、狂気と妄想に取り付かれた哀れな拷問狂、園崎詩音の姿だったはずだ。
そのとき私は、惨劇を止めるために雛見沢症候群を患った詩音に治療の注射をしようとした。
だが、結局の所返り討ちになってしまった。情けない・・・
その後私は「綿流し編」と名づけた世界と似たような展開、つまり詩音によって拷問されるのはもう御免だった。
私は同じ展開を二度もやるなんてご免だし、それが拷問の末の死なら尚更やりたいはずがない。
・・・その後は良く覚えてないが、多分近くに落ちていた包丁で喉を掻き毟り、自殺してやったはずだ。
自殺した私が羽入にやり直しを頼んだ後、何故かあの殺し合いの場に居たというわけだ。
・・・記憶と事実のつながりがあまりにも不自然すぎる。今までとはまったくありえない展開。
やり直した先は雛見沢ではなく、殺し合いの舞台ですって?
終わりの無き永遠の繰り返しの世界で、最も大きなイレギュラーだ。私はこんな世界は見たことが無い。
まあ、今回も富竹は今までとまったく同じ展開だったのは頭が痛い・・・
さすがに、この殺し合いの舞台では私と同じである富竹の逃れられない死は関係がないだろう。
が、私の首に巻かれた首輪の存在はここが殺し合いの場であるということの確かな証明になっている。
いくらなんでも私の足元に転がった富竹の首が夢だとはとても思えない。でも・・・
「ありえない・・・。こんなことはありえないはずよ・・・。」
彼女は少女とは思えないほど大人びた声で、ただただ困惑の表情を浮かべながら呟やく。
百年を生きる雛見沢の魔女、本当の古手梨花にとってイレギュラーとは嬉しくもあり困惑するものでもあった。
・・・私は思考停止をするのも馬鹿らしいと思い、表情を再び戻す。
まずは、あの仮面男・・・ギガゾンビとやらが言っていた支給品とやらを確認してみることにした。
私は中身を確認する。
これはこれは・・・、ずいぶんと馴染み深い物が姿を現した。
「スタンガン、ねぇ・・・」
私はあまりの皮肉に笑いそうになってしまった。
一番最後に私を死に至らしめる原因となった、あのスタンガンがここにあるとはね。
まあ、私みたいな非力な小娘が殺し合いをするには
銃や刀なんかよりよっぽどうってつけの、いわゆる"当たり"ってとこかしらね?
私は残りの支給品を確認を行った。
するとその中には、名簿が含まれている。
私は自分以外に誰がこの趣味の悪いゲームに付き合っているのかを確認することにした。
そういえばあの場にみんなが・・・いや、確認してから考えよう。
もしかしたら人違いかもしれない、そうかもしれないんだから・・・
やはりか・・・。
前原圭一、竜宮レナ、園崎魅音、北条沙都子・・・そして私。
・・・私の大切な友人。いや、仲間達と殺しあえというのか。なんて残酷な運命。
私にはそんな、そんなことが出来るはずが無い。仲間を、殺せだなんて
そもそも、非力な小娘がこんな殺し合いの舞台で生き残れるか?いや、無い。
私を深い絶望が覆う。結局・・・私は繰り返される惨劇に抗えないのか、救われないのか・・・。
絶望に身を任せ、いっそこの場で自殺してしまおうかと思ったとき、あの男が言った言葉を思い出していた。
"好きな願いを叶えてやろう。"と
私ははっとなる。
しかし、都合よく願いなど叶えてくれるだろうか?いや、普通はないだろう。
私が何度繰り返しても掴む事が出来なかった小さな願いをあの男が?
私の小さな願い、大切な友人たちが誰一人惨劇に見舞われず、雛見沢で昭和58年6月を超えること
そんなことは・・・ありえない。
見るからに胡散臭そうな見た目の男だった。
あいつの都合通りに他人を殺して回るというのも、運命に流されてるようで気が乗らない。
・・・いや、どうなんだろう。決め付けるのはよくないな。
もしかしたら、これはチャンスなのかもしれない。
私を100年以上も執拗に追い掛け回し、永遠に昭和58年6月の雛見沢に縛り付ている死の運命。
どれだけ抗っても今まで勝つことが出来なかった死。
それに比べてみれば殺し合いなどなんと分かりやすいか。
どうせ死んでも惜しくない命なんだ、私だってやれないことは無いはずだ。
でも・・・
でも・・・
私は・・・大切な友人達を、親友の・・・沙都子を殺せるの?
私に、できるのだろう・・・か。沙都子を、みんなを殺す?
いや・・・殺すしかないんだ。
私は今まで八方手を尽くして大切な友人を救おうとした。
私の身に迫る運命から救おうと助けを求め続けた。
仲間でさえ!親友でさえもだ。
私は慰められ、勇気付けられたことはあった。だが、助けてはくれなかった。誰もね・・・
それどころか私は雛見沢とは関係のない青年、赤坂衛にすら助けを求めた。
しかし彼でさえ、一度たりとも昭和58年6月に助けに来てくれなかった。
私は、雛見沢で何度も何度も惨劇を回避しようとした、その努力は決して報われることは無かった。
今はどうだ?ただ生き残るだけで私の望む小さな幸せをという願いを叶えることが出来る。
なんと簡単で分かりやすい!
仮にゲームから脱出して雛見沢に戻る?私の大切な友人が一人でも欠けた世界になんて興味ない。
私だって生き残れるかどうか分からないのに、みんな一緒に脱出なんてそれこそ虫の良すぎる話だ。
奇跡が起こってみんなで雛見沢に帰れても、正体の分からない惨劇が起これば努力は全て水の泡だ。
それならば、願いをかなえて惨劇の起こらない雛見沢で、もう一度やり直せばいいのではないか?
これはとても分の悪い賭け、でも勝つのに奇跡・・・サイコロの7は要らない。
サイコロの6を何度か出し続ければいい。たったそれだけの話なんだ。
現にサイコロの6、このスタンガンを引いている。確実に流れは向いているようにも見える。
決めなきゃ・・・答えを・・・
私は
私は、大切な友人達と一緒に昭和58年6月を超えてみせる!
殺してでも、生き延びる。私は決して死の運命なんかには屈しない!
そのためならば誰でも殺す。たとえ圭一を・・・、レナを・・・、魅音を・・・、・・・そして沙都子を
殺してでも!
「いいじゃないの変態仮面。あんたの企みに乗ってやるわ。」
彼女は空を見上げ悪態を放ち、その場から立ち上がった。
その表情は、とても年端の行かない少女とはかけ離れた歪んだ笑いであった。
さて、どうするか。
クールになれ、古手梨花。どうやったらこのゲームで勝ち残れる?
このスタンガンで直接他の参加者を襲う?
・・・いや、それは無理だろう。あの場には私では絶対適わないような大男もちらほらと居たようだった。
それに私は詩音に奇襲しようとして、助けようとしたとはいえ返り討ちになったではないか。
そんな私が正面から他の参加者と戦ったとして、優勝どころか一人倒すのだって難しいだろう。
つまり、私は殺し合いに最初から向いていない。でもどうすれば私は勝ち残れる?
考えろ・・・考えるんだ。
・・・そうね。いつものやり方で行きましょうか。
私は見ての通り小さな普通の少女だ。少なくともゲームに乗っている人間には見えないだろう。
だから守ってもらえばいいんだ。他の参加者にね・・・。
雛見沢でも私は、オヤシロ様の生まれ変わりとして周りからずっと持て囃されてきた。
魅音の叔父の店を貸しきって部活をしたときにも、周りの参加者をうまく味方につけて勝ち上がった。
そんな私にとって他人を上辺だけでも味方につけることはたやすい。
私のようにゲームに乗って殺しに来る人間ならともかく、まさかあの中の全員がゲームに乗って殺し合いをするわけが無い。
私の仲間も・・・たぶんそうだろうし、名簿を見たときには日本人らしき名前もかなり含まれていた。
少なくともいつの間にか連れ去られ、殺し合いをしろといわれた日本人がいたとする。
そんな人間がハイそうですか。と言ってゲームに参加する?普通はないだろう。
だからこそ、人を騙して信用させることが出来る。私みたいな普通の可愛らしい少女なら尚更だ。
私が積極的に殺し合いをする必要など無い。他の誰かに私以外の全員を殺してもらえばそれでいい。
そして最後の二人になったら、背後からズガン。
少なくとも、私が積極的に殺人をするよりはよっぽど勝率が高い。
最後の一人を倒せばいい。たったそれだけのことだ。
・・・確立は決して高いわけじゃない。でも0よりはずっと高い。
私は今度こそ、・・・いや、絶対に賭けに勝つんだっ・・・!
この今までに決してありえなかった世界で勝つんだ!
勝って、勝って今度こそ私は私が幸せになれる世界をを手に入れるんだ!
そのためなら、私はどんな努力でもする。今度こそ私が生き残るために!
「みぃ、殺し合いなんてがくがくぶるぶるのにゃーにゃーなのです・・・。」
彼女ははまるで自分自身を騙すかのように年相応の、可愛らしい声で一言呟いて歩き出した。
そうね、まずは人の集まりそうなあの町にでも行ってみようかしら。・・・くすくす
【B-6南東部 一日目 深夜】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:スタンガン(普段はディバックに隠している)
[道具]:荷物一式
[思考]
第一行動方針:B-6から南下して町へ向かう。
第二行動方針:ステルスマーダーとしてゲームに乗る。
基本行動方針:自分を保護してくれそうな人物(ひぐらしキャラ優先)、パーティーを探す。
最終行動方針:ゲームに優勝し、願いを叶える。
※梨花は目明し編終了時→罪滅し編開始時から呼ばれました。
ヘンゼルは夜。月明かりが明るい森の中を移動していた。
左手には食料その他が入ったバッグ、右手には支給品の一つである大ナタを持っている。
「殺そう。みんな殺そう」
ヘンゼルは小さく呟いた。
森を移動したのはそのためだ。
市街地には多くの人間が集まるだろう。しかし見通しが良すぎるため不意打ちが困難だ。
刃物での殺しを好むヘンゼルにとってそれは決して好条件ではなかった。
そしてヘンゼルの直感が自然と自分の趣向を満足させるに一番相応しい場所。
森を選んだのだ。
森の中を音を立てずに静かに歩いていると背後から音がした。
「!」
ヘンゼルはすぐに後ろを振り向く。
「うわあ。この木邪魔だぞ。おら疲れた〜」
このゲームには似合わない小さな子供の声だ。
「!?」
ヘンゼルはゆっくりその声の元に向かう。
だがそれより先に声の主がヘンゼルに声をかける。
「はっ!?綺麗なお姉さん!?ここはおらがエスコートするぞ」
そのいきなりの声にヘンゼルは特に意に返さずに進む。
「君か。・・・子供」
ヘンゼルは声の主を見て呟く。
「何だ。お兄さんか。ねえ綺麗なお姉さんは知らない」
子供はヘンゼルに無警戒で進む。
「えっ!?」
「おらは野原しんのすけ。ちょっぴりシャイな五歳児だぞ」
しんのすけは相手の反応も見ずに相変わらず元気に自己紹介をする。
「・・・・・・そう。しんのすけって言うんだ」
「そうだぞ。おらは世界一カッコ良いんだぞ」
「・・・どうして?」
「んっ?なんだ?」
「どうして平気で近づいたの。僕はナタを持ってるし逃げないと。そうしないと面白くないじゃない」
ヘンゼルは驚いた。ナタを持った自分に全くの無警戒で接近した少年に。疑問をぶつけずにはいられなかった。
「おらは逃げないぞ。それにお兄さん優しそうだし普通怖くないぞ」
しんのすけの言葉にヘンゼルは驚いた。この人を信じきっている少年に。自分の五歳の頃とは全然違うことに。なぜか殺してはいけない。そんな気がした。
「君は家族はあるのっ?」
ヘンゼルは意を決して聞いた。少し語尾が強くなったかもしれない。
「なんだ。驚いたぞ。でもいいや。おらはひろしとみさえとさっきは居なかったけど妹のひまわりと犬のシロがいるぞ」
「・・・やっぱり。・・・両親か」
ヘンゼルは少し間を置いて立て続けに質問に入る。
「支給品は何?僕はこのナタと後はバッグにスタンガンと画鋲一箱だけど」
ヘンゼルは自らの支給品も明かした。そして語尾も先ほどよりは静かだった。
「これだぞ」
しんのすけは小さなピストル。ニューナンブを出した。
「あとこれとこれだぞ。どっちも重いから無理だぞ」
さらに一丁の銃と手榴弾を五個取り出した。
「これは・・・」
ヘンゼルは驚いた。その銃はコルトM1917威力が強いリボルバーの銃だった。
「・・・じゃあこの銃は僕が持つよ。君は手榴弾をバッグにしまってすぐに出せる状態で持ってて」
ヘンゼルはそう言うとしんのすけが出した銃を手に取る。
「お兄さんはどうするの?」
「・・・僕は姉さまを見つけるよ。君の家族もついでだから探すよ。多分市街地の方だと思うから行こう」
ヘンゼルは優しく話した。
「お兄さん、お姉さんいるの?紹介して欲しいぞ」
「・・・そうだね。会えたら紹介してあげようかな・・・きっと」
ヘンゼルの目は一瞬悲しそうに見えた。
【B−5の森・1日目 深夜】
【ヘンゼル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康。
[装備]:大ナタとコルトM1917。
[道具]:標準装備のを持っている。画鋲とスタンガンも入っている。
[思考・状況]1:グレーテルと合流
2:しんのすけを家族とあわせる。
3:襲ってくる相手は皆殺し。
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:少しの疲労
[装備]:ニューナンブ(弾丸は五発とも入っている) 手榴弾(かばんに入ってるがすぐに出せる状態)
[道具]:標準装備。
[思考・状況]1:みさえとひろしと会う。
2:綺麗なお姉さんを見つける。
3:早くゲームから脱出する。
4:ヘンゼルとヘンゼルのお姉さんとも一緒に逃げたい。
「ああもう!困ったなぁ……」
誰に向けるわけでもなく、独り悪態を吐いては見たものの、それで事態が好転するわけでもない。
園崎魅音は独り山中で途方に暮れていた。魅音が開封した支給品、ホ○ダのスーパーカブがそのすぐ傍に停車している。
それは極一般的なスクーターで、燃料も十分に入っていたのだが、彼女はその移動手段を十分には活用できない状況下にいた。
魅音が独りになって最初に考えたことは、当然ながら、圭一達他の仲間と合流することだった。
園崎家次期党首だなんだといっても、この状況下で独りっきりというのは流石に心細いし、それはきっとレナ達も同じことだろう。
大勢で殺し合いをするだなんて現実味の無い話だけれど、現に目の前で富竹さんは殺された。
今頃、皆不安がっているに違いない。勿論自分も不安だ。だから今は一刻も早く、皆と合流したかった。
その上では、カブは魅音にとってはかなり有難い支給品ではあった。
しかし、不運にも魅音が運ばれたのは、険しい山の中腹。道は荒れた非舗装路。しかも時間は真夜中。
ここでカブに乗っても、まともに運転できるとは到底思えないし、最悪の場合、事故を起こして独りリタイアも有り得る。
仲間に会いたいと気持ちは焦るが、ここで無謀な行動に出るわけにもいかない。
「う~ん、やっぱりこれはデイパックに戻して、まともな道まで歩くしかないか……」
現実を超越した数々の出来事に、魅音の現実感覚は軽く麻痺しだしてきている。
しかしそのおかげで、与えられた不思議な道具を活用することにも特に疑問を抱かずに済んでいる。
いまは、そんなことをあれこれ考えている場合ではない。冷静に事態を把握し、最善の手を最速で打つべきだ。
いつまでもこんなところで愚図愚図している場合じゃあない!
「こんな夜更けに独りで歩かれては無用心ですよ、お嬢さん!」
「うわぁっ!」
いきなり後ろから声を掛けられ、驚いて叫び声を上げてしまった。
振り向くと、いつの間にか真後ろに、見慣れない格好の男が立っていた。
「いやぁ、脅かせてしまったみたいで誠にすみませェん。いえ、こんな真夜中の人気の無い山中に独りで居られるうら若きご婦人を見かけたものの、
それを見捨ててゆくような紳士として有るまじき行動を取るなど私の中のシヴァルリィが許しませんので、お声をかけさせて頂きました。なお、
シヴァルリィというのは騎士道精神のことで、忠義と礼節を重んじ、か弱きものをお助けするといった内容のものでしたが、ご存知でしたか?ああ、
これは失敬。話が逸れましたね。それよりもお独りでおられるなんて危険極まりないですよ。近年は犯罪が増加傾向にあるのは明白、唯でさえ
物騒な世の中だと言うのに、せめて自分のみは自分で守ろうという気高き精神をお持ちなのかも知れませんが、その精神だけを糧に渡り行くには
この世界はあまりに過酷。そして何よりこの異常な状況下では、貴方のように可憐でいたいけな女性は真っ先に狙われ、悪者の毒牙に狙われる
というのは、悲しいかな、世界の必定。しかしご安心ください、そんな非常な世界においても、そこには必ず熱き魂を内に秘めた正義の使者が
舞い降りるものなのです。そう、それこそが私! It’s me ! I am the HERO !! そして貴方は言わばこの世界に舞い降りた一輪の薔薇の花!!
さあお嬢さん、私と共に、この世界を駆け抜けませんか!?」
この台詞を喋りきるのに要した時間、約1分。そしてまだまだ止まらない。
男はこちらに物言う隙を与えず、ものすごいスピードの早口で話し出した。なんなんだこの人は。
改めて男の姿を見る。尖がった特徴的な髪型に、変な白いコート。キザっぽい顔と雰囲気と、狂気じみた振る舞い。
……怪しい。怪しすぎる。絵に描いたような不審人物だ。
一歩、一歩と後ずさる。
「ああ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ?決して怪しいものではありませんから。お嬢さんに危害を加えようなんて気持ちは微塵も……」
決まりだ。自分で自分のことを『怪しくない』なんて言う奴ほど怪しい奴は居ない。
何とかしてこの場を離れないと。でも、まだ出しっぱなしのカブを手放すのは勿体無いし、そもそも逃げ切れるのかどうか……
「おや、私から逃げるつもりなんですか?ショックだなぁ、そんなに邪険にしなくてもいいじゃないですか」
見抜かれている……!この男、思ったよりも隙がない。
どうする!?いっそ戦うか!?いや、それでも勝てる見込みは高くない……どうする?どうする!?
切羽詰ったこちらとは対照的に、男は相変わらず、自分のペースを崩さない。
「ははは、確かに貴方が警戒するのも解りますよ?なにせこんな異常な状況下で、既に死者も出ていますからねぇ。
ですが、考えてもみてください。私がもし貴方に危害を加えたりするつもりなら、最初から声などかけなければいいだけの話です。
わざわざこちらから声をかけ、姿を現しているのですから、少なくとも今すぐに貴方をどうこうしようというつもりが無いことぐらいは
信じていただけないものでしょうか?」
そう言われてみると、確かにその通りだった。私は声をかけられるその瞬間までこの男のことを気付かなかったのだから、
もしこの男が無言で奇襲に打って出たなら、私は無事では無かっただろう。
この男にとっても、そのほうがずいぶんと事を成しやすかった事は明白だ。
だが、だからといってこの男の言うことを全て信じていいものか……?
「ところでお嬢さん、お逃げになるなら、どうしてそのスクーターに乗ろうとしないのですか?
ああ、解りました、夜の荒れ道を運転するのは危険だと思われたのですね。賢明な判断です。
では、スクーターを置いてさっさと逃げ出さないのは何故でしょうか?勿体無いと思ったから?
いえ、きっと貴方には『行きたい場所』があるのではないでしょうか?
例えばそう、貴方のお友達のいる所、とか?」
「えっ」
思わず声を漏らしてしまう。部活の長にあるまじき失言だ。相手にこちらの弱みを知られてしまう。
「おや、当たりですか。ですがそれなら私にも是非協力させて頂きたいですね。こう見えても私、乗り物の運転は得意でしてね。
それに、もしかしたら貴方のお友達のことにも心当たりがあるかもしれません。人探しなら2人でする方が効率的ですし、
宜しければそのお友達のことを教えていただけませんか?」
ど、どうする?
完全にこの男のペースだった。一方的に話しかける割に、こちらからの情報は全て拾い上げて行く。
この男に圭ちゃん達のことを話してもいいのものか?だが、それで圭ちゃん達を危険にさらすことは避けないといけない。
でも、その圭ちゃんたちの居場所すら解らない現状では……
「……そこまで親切にしてくれるのは有り難いけど、それじゃ貴方にとってメリットが無いじゃない。何が目的なの?」
「だから最初から言っているじゃありませんか。困っているか弱き女性を放って置くなど、私には出来るはずもありません。
私は貴方のお力になりたいだけですよ」
……つまりは、下心……ということなのだろうか。
確かにそういう意味では、最初から趣旨は一貫しているようだ。
だがそれでは、違う意味で危険なんじゃないのか……?
でも、圭ちゃん達と一刻も早く合流するためには、背に腹は替えられない……
それに、いつまでも迷っているわけにも行かない。だから、覚悟を決めて、決断する。
「わかった、貴方を信用するよ。
私が探しているのは、4人。私と同年代の子が男女1人ずつ、小学生ぐらいの女の子が2人だよ。
もしアンタが私の他に誰かと会ってるんなら、その中に心当たりはある?」
名前は敢えて伏せておくことにした。相手に与える情報は必要最低限に留めておくことにする。
だが、これに対する返答は、思いもかけないものだった。
「なあんだ、その4人だけですか?それなら、私の力をもってすれば目と鼻の先ですよ」
「何だって?」
予想外の返答だった。この男が他の仲間の居場所を知っている?
皆が集められ、バラバラにされたときからそんなには時間は経っていないはずだけど、
私以外は皆近い場所に飛ばされたのだろうか?その可能性はかなり低いと思うのだけれど……
やはりこれは……嘘!?
しかし、嘘を吐くにしては前フリもなにも無い。話し出しも唐突だし、怪しむべき要素が多すぎる。
嘘にしては、『信じられなさすぎる』のだ。
では逆に、この人は嘘を吐いていないとしたら……?
そして一方、今は正直、藁にもすがりたい気持ちだ。乗りかかった船。毒を食らわば皿まで。
嘘でも何でも、今はこの人の言うことを信じてみる方が、皆と合流できる可能性が僅かでも高くなる、か……?
「……わかった。それじゃ早く皆のところに連れてってよ。すぐ近くにいるんだろ?」
「わかりました!では私めが、お嬢さんを安全!かつスピーディ!!にエスコートして差し上げましょう!!
それでは、折角ですからお嬢さんがお持ちのスクーターをお借りするとしましょうか!」
男は、そのままスクーターにまたがると、私を荷台に座るよう勧めた。
まさか、2ケツで行くつもりなのか?この荒れ道を?
「あ、あのさ、アンタがいくら運転に自信があるからって、この暗い荒れた道を二人乗りで行くのは、ちょっと危ないんじゃないの……?」
「ハハハ、それに関してはご心配なく!私には“とっておき”がありますからね!!
さあ、騙されたと思って、お座りください!」
何故か、物凄い自信だった。こちらが文句を言う隙も無いほどに。
私は仕方なく、清水の舞台から飛び降りるつもりで、カブの荷台にまたがった。
「いいでしょう、それではお見せしましょう!私のアルター能力を!『ラディカル・グッドスピード』を!!!」
ガァン!ガァン!!ガァン!!!
彼がそう叫ぶや否や、周りの地面が数箇所、大きくえぐれた。そして、その砕けた破片が粒子状になり、カブの周りに集まってくる……
次の瞬間には、その至って平凡だったカブは、紫色で、流線型のエアロパーツのついた、ド派手な改造車に変身していた。
「な!?これは!!??」
「ハハハ、これが私のアルター能力、『ラディカル・グッドスピード』ですよ!お嬢さんはアルター能力を見るのは初めてでしたか?」
男は今までにもましてテンションが上がっている。不安だ。早まったか……?
男のテンポはまだまだ上がる。
「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね!大変失礼しました!!
私は人呼んで“世界最速の男”、ストレイト・クーガーと申します!お嬢さん、お名前は!?」
「え?ああ、園崎魅音、っていうんだけど。」
「そうですか、“イオン”さん!いい名前ですね!!」
「“イオン”じゃなくて“みおん”だよ!」
「ああ、すいません“イオン”さん!私はどうも人の名前を覚えるのが苦手でしてね!では飛ばしますから、しっかりつかまっていて下さいね!」
「だから“みおん”だっていってるぉぁぁあああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
突然の急加速。クーガーがカブを発進させたのだ。
「ハッハッハッ、喋っていると舌を噛みますよ、イオンさん!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(声にならない叫び)!!!!」
クーガーは、山中の荒れ道を物凄いスピードで疾走していった。
そのドライビングテクニックは確かに目を見張る物だが、どうにも同乗者思いのものではない。
魅音は早くも、自分の迂闊さを後悔しだしていた。
魅音の犯した過ちは2つ。
1つは、クーガーが他の仲間の居場所を知らなかったこと。しかし、これは決してクーガーが嘘を吐いたわけではない。
そしてもう1つは、クーガーにとって、この限られた空間内ではあらゆる場所が『目と鼻の先』にある、ということだった。
【C-8 山中・1日目 深夜】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:乗り物酔い、精神的に軽く動揺
[装備]:カブ・クーガースペシャル
[道具]:支給品一式(配給品残数不明)
[思考・状況]1.カブから降りる。
2.吐く
3.圭一ら仲間と合流。
【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:健康
[装備]:カブ・クーガースペシャル
[道具]:支給品一式(配給品数不明)
[思考・状況]1.世界を縮める。
2.イオン(魅音)をエスコートする。
*クーガーは、特に目的地を設定することなく走り出しました。
俺は突然ワープさせられて辿り着いたところは空に満月の浮かぶ森の中だった。
支給物を広げその中にあった地図で位置を確認するとC-7であるらしい。
とりあえず、人里を目指して山を降りながらこれからのことを考える。
さてどうしたもんか?
どうやら妙なことに巻き込まれちまったみてえだ。
こんなオカルトじみた事件なんざ聞いたともねえよな。
あの場にいたとっつあんなんかは今頃はあの主催者を逮捕するなんて言って張り切ってるんだろうがなぁ。
さて俺はどうすっかな?
まあ、やるこたあ決まってるんだがな。もちろんこの俺ルパン三世は胸糞悪い殺し合いをする
つもりはねえさ、だがこの首輪に何らかの監視装置やらなにやらついていて脱出や反逆をしよう
ものなら先刻のお穣ちゃんやおっさんみたいにどかん!っと爆発する以上は表立っては反逆は不可能。
……まったく可愛そうなことをしやがる。人生これからって歳の子を殺すなんざ男の風上にも
おけねえやろうだ。俺だったらあんな子は殺さずに紫式部みてえに……
おっと、少し思考がずれたな。
とりあえずこれまたあの場にいた次元達を探す裏で工具やら首輪解除に役立ちそうな面子でも探そうかな。
どうせなら美人の眼鏡をかけたボインな女科学者なんかがいいな。
あの場所には綺麗どころの美人ちゃんや数年もすれば食べごろにもなる美少女達もいたしな。
お!そうだ!どうせなら可愛い子ちゃん達が襲われているところをこの俺様が助ければ
信頼もできてなおかつ他の参加者もこの俺様が殺し合いに乗っていないことを証明できるから
人も集まりやすいな。今からハーレムが出来るのが楽しみだ。
ウッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ
そんなことを考えていると、パキ!という枝を踏む音が聞こえた。
どうやら誰かが近くにいるらしい。しまったなぁ、謎機能の四次元デイバックとやらの中に
入っていたものはマテバ2008Mつうの銃で丁寧にも説明書が付いてあった。
俺の記憶が正しければマテバ2006Mまでしか製造されていなかったはずだ。
しかも性能はあまり良さげではねえから、はっきし言って愛用のワルサーと比べる
と雲泥の差がある銃で、イマイチ信用できないねえ。
ちなみに他の支給品は変わったドラ焼きとグラビア誌だ……
なんか俺悪いことしたかな?いまさらだけどさ。
……相手が殺る気のある実力者ならちょっと危ねえな。まあ何とかなるだろ。
「はぁい、そこにいる方はどなたですか?」
気配がした方向に問いかける。だが向こうはなかなか出てこない。
そして五分ほど経ち
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな叫び声を上げながら日本人の女子高生が刀を振り回しながら切り込んできた。
だが五右衛門の奴と比べれば格段に遅え。後ろ歩きで女子高生の上段からの打ち込みを避け
続けざまに放たれる右からのなぎ払いにしゃがみ、すぐさま切り返してきた頬を狙った左からの
斬撃も後ろに跳びぶことによって避わす。
さて、どうしたもんか。
「お穣ちゃん、筋も踏み込みも悪かねえがくもった剣じゃつまらぬものも切れねえぜ」
「うるさい!うるさい!うるさい!あんたみたいなレイプ魔を放っておいたらみくるちゃん
やユキ達が危ないじゃないのよ!!」
俺はフェミニストだから強引にするのは嫌いなんだがなぁ……
「おじさんは殺し合いに乗っていないよ、お穣ちゃん」
「信用できるか!」
胴体を狙ってきた突きを体をずらしてさける。
どうやら聞く耳を持たないらしい。まあ仕方がねえだろう。実際に人が死んじまっているわけ
だし。さてどうしたもんだか。
相手は半場錯乱状態の女の子。あと五年もすれば『手を出しても』いいかんじだねぇ。
もっともここで彼女が生きていられればの話だけどさ。
「うりゃああああああああああああああああああああ!!」
少女が裂帛の気合を叫びながら上段から剣を振降ろそうとしてくる。
だが俺はその瞬間にクイックドロウでマテバを懐から抜き少女に向かって引き金を引いた。
「きゃ!?」
銃声が一発辺りに木霊し少女が仰向けに倒れ、彼女の持っていた刀が吹き飛び
そこにあった木に突き刺さる。
女の子は倒れたまま動かなくなった。
「……ちょっと女の子には刺激が強かったかな?」
女の子の持つ剣のガードの部分に銃弾を当てて弾き飛ばしただけなんだけどな、
弘法は筆を選ばずといった感じで。
まあ、倒れるときにゴンって音がしたから地面に頭でも打ち付てそのまま気絶したぽい。
とりあえず抱き起こして状態を確認する、やはり女の子は気絶しており目立った外傷は
見当たらない。思わずほっとした、この歳の女の子は怪我とか気にする方だからねえ
それにこう見えても俺は友情の厚い女の子は嫌いじゃないんだぜい。
デイバックを枕代わりにさせてその場に置いておき、木に突き刺さった
刀を回収することにする。ベルトやら頭部やら体のあちこちに仕込んでいた
仕事道具が全部取り上げられちまった以上はこんな刀一本でも何かの役に立つかもしれねえ、
それに鈍らじゃあなさそうだから高く売れそうだ。
そこに落ちてあった鞘に刀を納めベルトに差す、なかなかいい感じだね。
さて次はこの刀の持ち主をどうするかだ。さすがに放っていくのはまずいよな。
とりあえず、この子を抱えて近くで休めそうな場所を探すとしますか。
だがこのときの俺は知らなかったんだ、思っている以上に厄介な状況に陥ってることなんざ。
【C-7森/初日/深夜】
【ルパン三世@ルパン三世】
[状態]:健康、謎の女子高生を抱えている
[装備]:マテバ2008M@攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(弾数5/6)、
小夜の刀(前期型)@BLOOD+
[道具]:荷物一式エロ凡パンチ・'75年4月号@ゼロの使い魔、
カマンベールチーズ入りドラ焼き×10@ドラえもん
[思考]:1、落ち着けそうな場所を探す、
2、他の面子との合流
3、協力者の確保(美人なら無条件?)
4、首輪の解除及び首輪の解除に役立つ道具と参加者の捜索
5、主催者打倒
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:気絶
[装備]:無し
[道具]:荷物一式
[思考]:1、SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出
[備考]:ハルヒの他の支給品の状態は次の書き手に任せます
それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた
大きくぶ厚く重く
そして大雑把すぎた
それはまさに鉄塊だった
「ふっ、またずいぶんと無粋な剣もあったものだ」
デイバックの中から出てきた巨大な鉄塊を眺め、佐々木小次郎はひとりごちた。
「このような大きさのものが鞄に入るとは面妖な…、もっとも私も人のことは言えぬか」
例えば自分を召喚した魔女ならばこの程度のことは軽くやってのけるだろう。
それに常識を持ち出すのであれば、名も無き一剣士だった私が佐々木小次郎としてこの場にいるのもまた常識外のこと。
とやかく言う筋合いは無い、か。
「まあ良い、何にせよ支給品が剣であったのは僥倖だ。ギガゾンビとやらもなかなか粋なことをやってくれる」
そう呟きつつも巨大な剣を何度か振ってみる。
優男がその身にそぐわぬ大剣を軽々と振ってみせる。
それは一種異様な光景だった。
「ふむ…多少重すぎるきらいがあるが尺は申し分ない。これならば存分に楽しめそうだ」
そう、我が望みはただ一つ。
兵(つわもの)と全力で仕合たい。
名簿で確認したところセイバーもここに来ているようだ。
あの騎士王に再戦を挑むのも面白いかも知れぬ。
剣を振りつつも今後のことに思いを馳せる。
「…とは言えこのようなところに留まっていても願いが適うわけもなし、そろそろ行くか」
背後を一瞥し、佐々木小次郎は歩き出した。
…どうやら行ったみたいですわね。
全く、最後に此方を見たときは心臓が止まりそうでしたわ。
あの方はいったい何者ですの!?
あんなに重そうな剣をまるで竹刀でも振ってるかのように…。
今の装備では到底殺せそうにありませんし、私に気づかずに去って頂けて幸いでしたわ。
あのような大剣…バットでは防げそうにもありませんし、あんな剣で斬られれば傷薬を塗ろうが塗るまいが即死でしょうしね。
私に支給されたのはにーにーのバットと傷薬。
私に支給された物は他の人にとっては外れと言える支給品かもしれない。
でも、私にとっては最高の支給品。
にーにーのバット。
ゲームに乗るかどうか迷っていましたが、このバットを見て決めましたわ。
私は生き残って、にーにーに会う。
部活のみんなを殺すのは嫌だけど、にーにーに会えなくなるのはもっと嫌だ。
だから殺す。
圭一さんもレナさんも魅音さんも…梨花も。
にーにーはこんな私を許してくれないかも知れません。
それでも…私はにーにーに会いたい。
その為なら、私はなんだってやってやりますわ。
ふむ…追って来ないようだな。
あの場にいたのは大半が子供であったし、それも無理からぬことか。
振りかかる火の粉は払わねばならんが、逃げるものをわざわざ追うほど無粋な真似をするつもりも無い。
願わくば、次は強者に会いたいものだ。
【A-6・1日目 時間(深夜)】
【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:無傷。平常心。
[装備]:竜殺し@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1.兵(つわもの)と仕合たい。基本的には小者は無視。
【A-6・1日目 時間(深夜)】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:無傷。軽度の高揚。
[装備]:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に
[道具]:支給品一式 、エルルゥの傷薬@うたわれるもの
[思考・状況]
1.生き残ってにーにーに会う。
2.ゲームに乗る(ただし強そうなものとは戦わない)
彼の視界が急転したのは、音無小夜を発見し、彼女に声をかける直前だった。
「飛ばされていく」という言葉が見事に当てはまる感覚と共に、彼は会場へと強制的に移動される。
そして気付けば彼は建物の中にいた。
見れば広い部屋に机と椅子が規則的に並んでいる。
恐らくここは学校の教室だろう。窓からの景色から推理するに三階程度だ。
……まぁ、どうでも良い。とにかく、確かに自分がワープされたというなのだろう。
「便利なものですね」と苦笑し、彼――ソロモン・ゴールドスミス――は静かに溜息をついた。
何故死んだはずの自分が再び生を得たのか。
何故この様な事に巻き込まれてしまったのか。
何故あのギガゾンビと名乗った者は我々に殺戮を求めるのか。
彼の疑問は尽きない。だが、どうでもいい。
小夜がいた。愛する小夜がいた。護りたい小夜がいた。
そうなれば、と彼は一つの決断をする。
「小夜を……護らなければ……」
ゆっくりと呟く。
「小夜の本当のシュヴァリエは……ハジはいなかった……」
確認するように。
「ならば今度は私が小夜を護る番です」
使命の焔を心の内に生み出す為に。
「全ての血を越えて……」
自分の生きる意味を消さぬ為に。
「……再び得た、この命を賭けて」
そう、誓った。
不安は無い。小夜を護るという使命を与えられた彼は何も臆さない。
ザックを手にし、教室の扉を開いた。
使命を全うする為に、彼は力強く歩き出す。
その筈だったが、突然彼は歩を止めた。
視線の先――長い廊下の先だ――に蒼い服を着た子供が立っていた事に気づいたからだった。
視線の先にいる相手はこちらに気づいておらず、何かを呟いている。
申し訳なく思いつつも、彼はその呟きに耳を傾けた。
「レンピカがいな……僕は確か……何故今……」
澄んだ空気をもってしても、聞こえたのはこの程度だった。
「レンピカ……? 香水でしょうか……」
ソロモンが思案しつつ呟く。しかしこの状況で香水の話をする意味が判らない。
しばし考えたが、やはり理解出来ない言葉の意味を探る事は時間の無駄に等しかった。
すぐに疑問を投げ捨てた彼は、もっと建設的な行動を取る事にした。
子供は自分の姿に気づいていない。今の内に、とばかりにそっと支給品を確認した。
人が「レイピア」等と呼ぶ細身の刺突剣が鞘に仕舞われたままで入っていた。これはかなり運が良い。
早速取り出し抜く。そして暗殺者の様に静けさを保ったまま、刀身を目の前の相手に向けた。
そして極力足音を立てない様、そっと相手の背後へと近付く。
焦らず、慎重に歩む。相手が考え事をしていたおかげか、剣が届く間合いへと無事に辿り付く事が出来た。
―――ここからが賭けだ。ソロモンは、相手の首筋にレイピアの刀身を突きつけ、言った。
「すみません……ザックを置き、両手を挙げて下さい。
従わなかった場合、僕がこの剣であなたを刺します。ご協力を」
突然のその言葉に相手は驚く。
だが首筋を狙う冷たい気配に早速気付いたのか、すぐに指示に従った。
「僕をどうする気だい……? 目的は?」
「手数をかけてすみません……大丈夫です、どうもしませんよ」
その問いに、ソロモンは出来るだけ爽やかに答えた。
敵意が無い事を笑顔で示し、レイピアを鞘に収める。
「もう構いません。楽な体勢で振り向いてくれるだけで良いですよ」
「……じゃあ」
振り向いた相手の目は、左右で色が異なっていた。
―――それから数分後。
「先程は驚かせてしまいました……申し訳ありません」
ソロモンは先程自分がいた教室の中へと相手を招待し、非礼を詫びた。
突然の脅迫によって相手に多大な負担を強いた事に対しての、深い謝罪だった。
彼はシュヴァリエである前に、一人の温厚な青年”ソロモン・ゴールドスミス”だ。
色々と後ろめたい部分があったのだろう。
「あ、いや……この状況なら仕方ないし……。
とりあえず話は聞くから、頭を上げて欲しいかな……」
ソロモンの謝罪の結果、相手は警戒を解いて信用してくれた様だった。
頭を上げると、ヘテロクロミアの両目がソロモンを見上げていた。
「僕はソロモン。ソロモン・ゴールドスミスです」
互いに適当な椅子に腰掛け、まずはソロモンが名乗る。
「僕は蒼星石。ローゼンメイデンの第四ドールだ、宜しく」
「ローゼン、メイデン? ドール……人形、ですか……」
蒼星石と名乗った蒼い服の相手は、確かに人形の様に小さかった。
大きさなど、一度見れば違和感を覚えるだろうに気づかなかった。
暗殺者の真似事をしている時はそこまで頭が回っていなかったのだろう、自分の不器用さに驚かされる。
「人間ではない、という事ですか? 自分は動く人形だと?」
確認の言葉に、蒼星石は頷いた。
「成る程……人形が人間のように話し、動く……と。
わかりました、その言葉であなたの身体の小ささの理由等も納得がいきましたよ」
ソロモンはあまり驚きはせず、くすくすと笑みを浮かべる。
「何故簡単に納得出来たの? 普通は人間は僕達の事を見ると驚くのに……」
どうやら蒼星石にはそれが奇妙に映ったようだ。つい本音を漏らしてしまう。
呟きを聞いたソロモンは、笑みを浮かべたままその問いに答えた。
「僕も人間ではないんですよ」
その言葉が合図だったかのように、互いに情報交換が始まった。
自分達このゲームに乗っていないこと。
自分達が人間ではなく、別の種類の存在であること。
自分達が過去にしてきた事。
自分達の大切なもの、護りたいもの。
自分達が報われぬ最期を遂げた事。
様々な事を話した。
「あなたにも……護りたい者がいるのですね」
「あなたも……一度死んでしまったんだね」
そして互いに知った。
二人の境遇は相反し、だが似ていた事をだ。
姿形、生きる為に繰り返した物事は違っていても、
護りたい者がいるという事と、互いの生き様は通じるものがあった。
結託するには十分すぎる理由だ。少なくとも、今の状況では。
「僕は小夜を探し、護りたいのです。無意味に殺戮などをする意味などありません」
「僕も翠星石を……真紅やジュン君も探さなければいけない……」
ソロモンがそっと右手を伸ばす。それは誓いへの一歩だ。
「互いの望みは護るべき人を護る事です……共に行きましょう、蒼星石」
蒼星石は一寸の間を置いたものの、彼の右手を静かに取った。
「あなたは信用できそうだ。宜しく、ソロモンさん」
「ソロモンで構いませんよ」
「じゃあ……宜しく、ソロモン」
こうして二人は、盟友となった。
その後、今度は互いの支給品を確かめ合い始めていた。
互いが仲間であれば、物品を把握してもデメリットは存在しないからだ。
蒼星石の支給品はまずコンバットナイフ。同封された説明書には
”対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースの一人が使っていた物の同モデル!”
という適当に辞書で引いてきたような文が書かれていた。
人形にとっては少し大きいそれを、蒼星石は両手でしっかりと持つ。
「他に何か無いのですか?」
「ちょっと待って……ん、これは?」
更にもう一つ出てきた。厚紙を蛇腹折りにしたもの。俗に言うハリセンだった。
「……ハズレだね」
「まぁ、ナイフが出て来ただけ良しとしましょう」
そう言いながら、蒼星石がハリセンをバッグにしまうのを眺める。
そしてレイピア以外に何かが入っているのを期待して、もう一度バッグを開けてみた。
中には白衣。かつて「人間の医者」だった自分へのあてつけか何かだろうか。
苦笑しつつ蒼星石にそれを見せ、袋にしまった。
「ではそろそろ動きましょうか」
支給された物品の確認を終えると、立ち上がる。
蒼星石もその言葉を合図に椅子から降り、立ち上がった。
「まずは僕達でこの建物の内部を探索しましょう。灯台下暗しと言う言葉もあります」
「そうだね……じゃあ、行こう」
扉を開き、外に出る。風が静かに二人を撫ぜた。
「さて……僕達がただの男で終わらない事を、あのギガゾンビという男に証明しましょう」
不適に微笑みつつ、冗談めかした言葉を紡いでみた。
すると、その言葉を聞いた蒼星石の表情が何かを言いたそうなものに変わる。
何かまずかったでしょうか、と問うと、蒼星石は静かに答えた。
「僕、女の子なんだけど……」
ソロモンは、二度目の謝罪をした。
【A-1高校内部(三階廊下)・一日目 深夜】
【ソロモン・ゴールドスミス@BLOOD+】
[状態]:健康
[装備]:レイピア
[道具]:白衣
[思考・状況]
1:音無小夜と合流し、護る
2:翠星石の捜索
基本:蒼星石と共に行動する
【蒼星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:朝倉涼子のコンバットナイフ
[道具]:ハリセン
[思考・状況]
1:翠星石と合流し、護る
2:音無小夜の捜索
基本:ソロモンと共に行動する
怖かった。どうしてこんなことになったのか、全く理解できない。
悪夢なら早く覚めて欲しいと思う。だが、首に触れる無機質な触感は、無視できないほどにリアルだった。
由詫かなみは深夜の森で、震えながら歩いていた。何処かを目指しているわけではない。
強いて目指す場所を言うならば、彼の元。隆起現象の後、消息を絶った彼の元。
「カズくん……」
かなみの探し人、カズマもこの会場にいる。それだけは、彼女にとって僥倖だった。
この理不尽な現実に戦慄し、話をすることも声をかけることもできなかった。だが、カズマは確かにいた。
見間違えるはずなど、ない。
「カズくん、会いたいよ……」
会えればどれほど心強いだろう。会いたい、会いたい。
そうやってカズマのことを考えていなければ、かなみの心は恐怖に押しつぶされてしまいそうだった。
風はない。無風の世界に、かなみが地を歩く音が響く。
風はない。それゆえに音が運ばれてくることはない。
なのに。
かなみの右手側から、枝葉が擦れ合う音がした。
かなみの皮膚が粟立ち、意識がそちらへ向かう。心臓が急激な運動を始め、デイバックのストラップを握る手に汗が滲んでいく。
逃げなきゃ。
そう思っても、体が動かない。意思を拒否するように、体は震えるだけで言うことを聞いてくれない。
怖い、嫌、死にたくない。カズくん、カズくん。
音は近づいてくる。それに比例するように、震えはどんどん肥大化していく。
怖いのに、目を閉じることができない。視界を閉ざす方が、ずっと怖かった。
音は近づいてくる。それが長身の人影だと分かっても、かなみは動くことも声を出すこともできなかった。
そして。
「おーい、そこのコっ。聞こえるっかなっ?」
底抜けに明るい、女性の声が聞こえた。だが、かなみはそれに答えることなどできず、口から震えた吐息を漏らすだけだった。
「あー、そんなに怖がらなくてもいいっさ。ほらほら」
声とともに、何かが投げつけられる。反射的に後ずさったかなみの前に、見覚えのあるものが落ちて転がった。
それは、かなみの手にあるデイバックと同じものだった。続いて、声の主が姿を見せる。
足元まで届きそうなほどの黒い長髪が特徴的な、長身の女性だった。両手を挙げる彼女は、かなみの前でくるりとターンする。
長髪を舞い上がらせ、再度かなみに向き直った女性は、太陽のような笑みをその顔に湛えていた。
「ホールドアップってやつさっ。なんなら身体検査でもやるかいっ?」
「あ……いえ……」
ようやくそれだけを言うと、かなみは腰が抜けたようにそのばにへたり込んだ。
八重歯を見せて笑う女性はしゃがみ、かなみと目の高さを合わせる。近くで見るその顔はとても綺麗で、悪意といったものは何も感じられないほど純粋に見えた。
彼女の手が、かなみの髪に触れる。そして優しく、髪を丁寧に梳くようにして撫で始めた。
かなみは、思う。
温かい、と。
その温かさが、かなみを支配していた恐怖を拭い取っていくようだった。
「あたしは鶴屋さっ。名前、教えてくれるかなっ?」
「かなみ、です。由詫、かなみ」
かなみが落ち着いた頃、ようやく自己紹介が交わされる。終始笑顔の鶴屋につられ、かなみの口元に笑みが浮かんだ。
「ふむふむ、かなちゃんねっ」
言いながら、鶴屋はデイバックから名簿と筆記用具を取り出す。
かなみも同じようにデイバックからそれを出したとき、まだこの中を確認していなかったことに気付いた。
カズマのことばかりを考えていたせいだろうか。そう思うと、なんだか恥ずかしくなってしまう。
「かなちゃん? どったのっ?」
「あ、いえ。何でもないです」
鋭い人だなと思いながら、かなみは名簿に目を落とす。
「情報交換といこうっ。あたしの知り合いは朝比奈みくる、キョンくん、ハルにゃん――あ、涼宮ハルヒってコね――それと、長門有希ちゃん。みんなめがっさ楽しくていいコたちさっ。殺し合いなんてするようなやつらじゃないって、あたしが保障するよっ」
鶴屋の明るい口調から、本当にいい人たちなんだろうなとかなみは推測する。
「私の知ってる人は――」
名簿にある、名前。それを見ただけで、かなみの目頭が熱くなるような気がした。
「カズくん……」
「カズくん? カズマ、って人のことかい?」
「あ、はい。そうです。ちょっと乱暴だけど、本当はとても優しいんです」
「そっかー。その人はかなちゃんの大事な人なんだね!」
目を細めるかなみ。鶴屋は、眩いくらいの笑顔でそれを受け止めてくれた。
もう一度名簿を見る。カズマという名前から目を離すのが少し名残惜しかったが、他に知っている名前を探さなければならない。
そして。
かなみはその名前を見て、目を見開いた。
君島邦彦。命を落としたはずのその名前が記されていたからだ。
改めて主催者の力を実感するが、それから目を逸らすようにしてかなみは名簿を最後まで目を通した。
「……君島邦彦さんに、劉鳳さんも知り合いです。二人ともいい人ですから、大丈夫だと思います」
「なるほどねー。分かったよっ。ありがとっ」
名簿を片付ける鶴屋を見ながら、かなみは思う。
思ったよりも、危険ではないのかもしれない、と。
鶴屋の知り合いも、自分の知り合いも、殺し合いをするような人物はいないようだ。
そんな人ばかりなら、きっと大丈夫。首輪だって、強大な主催者だってなんとかできるのではないかと、そんな楽観的な思考がかなみの中で生まれる。
「ところでかなちゃん。支給品は確認した?」
投げかけられた鶴屋の声に、かなみは考えを中断して首を横に振る。
「確認した方がいいよっ。何が起こるか分かんないからねっ。ちなみにあたしのはこれさっ」
鶴屋はデイバックからプラスチック製の棒を取り出す。その中心部は黒く、そこから両側に伸びる黄色い部分は平たい。
いわゆるボディブレードと呼ばれるエクササイズ用品だった。
「わはははっ。ものごっついマッチョなアメリカ人になった気分っ。これで戦えなんてギャグだよねっ」
ボディブレードの中心部を水平に持って上下に振るう鶴屋は、口を開けて笑う。なんだか、妙に楽しそうだ。
「それ、武器なんですか?」
かなみが首を傾げると、鶴屋はその手を止めた。
「違うよっ。叩かれたら痛いと思うけどねっ」
どうしてそんなに楽しそうなのだろうと思いながら、かなみはデイバックの中を探る。すると柄のようなものに指先が触れた。
取り出す。
それは、かなみの手には余るほどの大きなハンティングナイフだった。
鈍色の刃は血を求めているようで、かなみの背筋に悪寒が走る。
包丁で食材を切るのとは訳が違う。これを使って斬るのものは生きた動物。しかし、この会場においては違う。
これを使って斬るものは、生きた人間だ。
そんなこと、できるはずがない。たとえ自分の身を守るためであっても、できるわけがない。
「すごいねっ。あたしのと比べたら大当たりっさ!」
鶴屋の態度は変わらない。それが随分頼もしく感じられた。
かなみは少し迷う。このナイフは自分が持っているよりも、鶴屋に渡したほうがいいのではないか、と。
与えられた力を会ったばかりの他人に渡すのが危険だということくらい、理解している。
だが、それは信頼におけない相手の場合だ。
鶴屋は、晴れ晴れとした笑顔でかなみを見ている。見ているこちらも温かくなるような笑顔だった。
それを見て、かなみは確信する。鶴屋なら大丈夫だと。
デイバックを投げて自分の無害を証明した鶴屋なら。
胸を埋め尽くしていた恐怖を和らげ、照らしてくれた鶴屋なら。
大丈夫、きっと大丈夫。
かなみは慎重に刃を持つと、柄を鶴屋に差し出した。
「え? かなちゃん?」
疑問符を浮かべる鶴屋に、かなみは小さく首を縦に振る。
「鶴屋さんが使ってください。私、上手く使えそうにありませんから」
言って、笑いかける。鶴屋のように満面ではないにしても、小さく確かに微笑みかける。
少しの間の後、鶴屋はおずおずとそれを受け取った。
「本当に、いいのかい?」
尋ねてくる鶴屋に、かなみは頷いた。
「……かなちゃんはあたしを信頼してくれてるんだねっ」
鶴屋の声に答えようとした、その瞬間。
首輪とは異なった冷たい感触が、首の皮に触れた。
「……えっ?」
鶴屋の手が真っ直ぐ自分の方へ伸び、そこに握られたナイフの刃が首筋に宛がわれていた。
かなみの思考がフリーズする。鶴屋の顔を見れば、そこから笑顔は消えていた。
「ごめんね、かなちゃん」
何が起こったのか、どうすればいいのか分からず、体を動かすことができない。
ただ目の前、鶴屋が左手にデイバックを掴むのが見える。鶴屋はかなみの首元にそれを持ってきて、そして、呟く。
「本当、ごめん」
全てを、察した。
自分の行動がとんでもない過ちだったということを。このまま殺されてしまうということを。
もう、カズマの顔を見ることができないということを。
「カズくん……」
声が漏れる。すると、刃の触感が近づいた気がした。
それでも。
「カズくん、カズくん……っ!」
かなみは呼び声を上げる。そしてそれが叫びに変わる直前に。
刃が、かなみの首を掻き切った。
◆◆
血を噴き出すかなみの首に、鶴屋は左手のデイバックを押し当てる。小さな体が、ゆっくりと倒れていった。
返り血で染まっていくデイバックを、鶴屋は彼女らしからぬ無表情で眺めていた。
鶴屋の精神はタフだった。
いかにも怪しい仮面の男に殺し合いを強要されても、その男が少女や男性を手にかけるのを目の前にしても、冷静な心を失わないでいられるほどに。
だが、彼女の知り合い全員がそうであるとは、とても言えない。
血色を失っていくかなみに視線を落としながら、鶴屋は考える。
長門ちゃんは大丈夫。きっとあたしよりずっと冷静に、この状況を判断できると思う。
キョンくんも結構冷静だ。取り乱して短絡的な行動を取ったりはしないだろう。
ハルにゃんはきっと黙っていない。今頃、主催者に殴りこみをかける方法を考えているかもしれない。
みくるは一番心配だ。どこかで怯えて、うずくまっていてもおかしくはない。
その誰にも死んでほしくなかった。その誰にも人を殺してほしくなどなかった。
彼らSOS団は、本当に楽しそうなのだ。
鶴屋はそれを見ているのが好きだった。部外者として、楽しそうな彼らを見ているのが鶴屋は好きだった。
たった一人欠けることも許されない。仮に全員生き延びても、彼らのうち誰かが手を汚せば、きっとあの楽しい日々は帰ってこないだろう。
だから、鶴屋は彼らを守りたかった。そして、彼らの代わりに部外者である自分の手を汚そうと、鶴屋は決意した。
大切なものを守るために。その結果、彼らから疎まれることになったとしても。
正しいとは思わない。鶴屋の行動は、SOS団以外の命を奪うことになるのだから。
それでも、鶴屋はその道を選ぶ。その意志は、強い。
返り血を浴びた自分のデイバックでナイフの血糊を拭うと、その中にある水と食料をかなみのデイバックに移す。
念のためボディブレードもその中に入れると、肩にかけた。
鶴屋は一瞬だけ、目を閉じる。
武器を得るため、自分の覚悟を決めるための犠牲になったかなみへと哀悼の意を表するために。
そして立ち上がる。
歩き出しながら、鶴屋は頭を働かせる。
武器が手に入ったとはいえ、ナイフでは銃器の前にはどうしても劣る。戦い慣れている者もいるだろう。
それに、首輪もどうにかしなければならないのだ。利用できる者は利用した方がいい。
そのためにも、いきなり斬りかかるのはまずい。やはり、今のように接触してみるのが最良だ。
殺すのは相手を見極めてからでも遅くはない。
そう考えた鶴屋は、頬をほぐすように揉む。そして、いつものような笑顔を浮かべた。
深夜の闇の中、殺人ゲームの渦中で。
鶴屋は、彼女らしい笑みを湛えていた。その瞳に、強い意志を輝かせながら。
◆◆
夢を、見ていました。
今、あなたが何をしているのか分からないけど。
夢の中のあなた。
どうか、無事でいてください。
どうか、生き延びてください。
どうか――
かなみの夢。
いつもとは違い『夢の中のあの人』の想いが伝わってこなかった。
それどころか色も薄く、ぼんやりと翳っているようで頼りない夢だ。
それでもかなみは願いを届けようとする。どこにいるかも分からない『あの人』へと。
意識がなくなる、その瞬間までずっと。
届かない祈りを、かなみは捧げ続けていた。
【F-8 初日 深夜】
【鶴屋さん@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:無傷。冷静。
[装備]:ハンティングナイフ
[道具]:自分の支給品に加え、かなみの食料と水、ボディブレード
[思考・状況]1:人を探す
2:SOS団の面子(キョン、涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる)と遭遇した場合、彼らを守る。
それ以外の面子と遭遇した場合、接触し、利用できそうなら共に行動。利用できそうにないなら隙を見て殺す。
基本:ステルスマーダーとして行動
【F-8 初日 深夜】
【由詫かなみ@スクライド】
[状態]:死亡
目を覚ますと見たことも無い場所にいて、
そこに居た変な仮面のおっさんに殺し合いをしろと言われた。
どこかで聞いた事があるような状況に、思わず溜息を漏らしながら茂みの中に座り込む。
さて、どこから突っ込みを入れたものか・・・まあ、十中八九ハルヒだろうな。
こないだ――先週か先々週だかに黒い装丁の本を読んでいた気がしないでもない。
あの時は何も考えてなかったが、今思うにあの本は昔映画にもなったアレではなかっただろうか?
などと少しの回想を交えつつ、とりあえず足元に転がっている鞄を開ける事にする。
あの仮面男の言ったとおり、鞄の中には食料らしき袋やらペットボトルやらが詰め込まれていた。
一番上に乗せられた紙は・・・どうやら参加者名簿と地図らしい。
別に自分の意思で参加したわけじゃないんだが、こういう場合参加者でいいのか?
そんなくだらない事を考えながら参加者名簿に目を通す。
そして、よく見知った六つの名前を見つけ・・・
「・・・って、こんな所でもキョンかよ」
思わず小声でで突っ込みを入れた。というか絶対ハルヒだ。間違いない。
そんな確信を深めながら視線を右に移動する。
涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる・・・続けて並ぶSOS団の面々。何故か古泉だけは居なかったが。
ともかく、ハルヒや長門、朝比奈さんと合流すべきだろう。
朝比奈さんは早急に保護すべきだし、長門はこの状況について何か考えがあるかも知れない。
それにハルヒもこの状況に怯えて震えているかもしれない・・・想像できないが。
さて、古泉の代わりのように存在する、残り二つの名前にも視線を向ける。
朝倉涼子と鶴屋さん(名簿で敬称をつけるのはどうかと思うが・・・)
鶴屋さんはともかく、長門に消されたはずの朝倉が居るのは気に掛かるが・・・考えるだけ無駄なんだろう。
ともかく方針は決まった。早急にハルヒ達と合流し・・・後は長門に任せる。
長々と考えては見たが、今の状況で出来るのはこれくらいだ。
その為にも、まずは支給品とやらを確認すべきだと鞄を引っ繰り返す。
パンの袋やペットボトルが地面に転がる。同時に支給品らしき物体も俺の目の前に転がる。
それは異様にでかい兎のぬいぐるみと、これまた異様に長い日本刀だった。
・・・兎はともかく、刀は役に立つだろう。長すぎるような気もするが。
そんな風に考えながら散らばった物を拾い集める。
そして、刀に手を伸ばそうとして・・・俺は体の動きを止めた。
いや、正確には強制的に止められたというべきだろう。
首筋に当てられた冷たい感触に、俺は完全に動きを封じられていた。
「動くな。動かなければ悪いようにはしない」
後ろから聞こえる女性の声に、『これはすでに悪いようにされてるのでは?』というぼやきを飲み込む。
「お前は、この殺し合いに・・・」
「乗っていないです」
聞こえてくる疑問に敬語で即答する。しばしの沈黙の後、俺の首から冷たい感触が消えた。
どうやら、信用してもらえたらしい。ありがたい事である。非常に。
「驚かせて申し訳ない。某も無用な殺生をするつもりはない」
「いえ、こんな状況ですから・・・」
仕方がないと続けようとして・・・背後に振り返った俺は言葉を止める。
そこには出刃包丁を手に佇む、変な付け耳と和服のような衣装を身に付けた女性が居たのだった。
獣耳侍娘と言うべきなのか・・・ハルヒがいたら興奮するのだろうが。
ともかく。何よりも始めに、まず一つ聞いておくことにした。
「・・・コスプレですか?」
「は?」
【A-3森 初日 深夜】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康、すこし脱力気味
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、物干し竿@Fate/stay night、なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん
[思考・状況]
1:目の前のコスプレ娘と情報交換
2:ハルヒ達との合流(朝倉涼子に関しては保留)
基本:殺し合いをする気はない
【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:出刃包丁@ひぐらしのなく頃に
[道具]:支給品一式(配給品残数不明)
[思考・状況]
1:こすぷれ・・・?
2:目の前の少年と情報交換
3:ハクオロ等との合流
基本:無用な殺生はしない
「くっそ、なんだってんだよ畜生……夢だろ?これは悪い夢なんだろ!?」
口ではそう言いつつも、あの時あっけなく首が吹っ飛んだ男のことは生々しく記憶に残っていた。
果敢にもゲームでいうラスボスみたいな仮面の男に向かっていって、そして何ができたわけでもなく
死んでいった男。自分もよく知っている、男。
「富竹さん……」
前原圭一はそう、口の中で呟いた。別にそこまで親しかったわけではなかったのかもしれない。で
も、それでも知り合いは知り合いだ。そんな彼が死んでしまった。まったく無意味な死……いや、自
分たちに抵抗は不可能だということを知らしめるという目的のためならば、これ以上ないくらいに効
果的だとは言える。だがそれだけのために、よりにもよって、彼が。あともう一人女の子が死んだが、
それによって怒り狂った少年の気持ちがわかってしまう。
「くそ、くそ、くそぉっ!なんでだよ!?なんでこんなことに……っ」
わめいて、次の瞬間にはっとして口をつぐむ。
そうだ。もうここはあの仮面野郎のいう殺し合いの場なのだ。油断したら一秒後にはお陀仏という
ことが十分にありえる世界。あの場にいた人たちの中で殺し合いに乗りそうな人というのは自分が見
たところあまりいそうになかったが、人というものは何がきっかけで豹変してしまうかわからない生
き物だ。普段心優しい人でも、ふとしたことで殺人鬼に変わってしまうことも十分にありえる。特に、
こんな異常な世界では。
そこまで考えた時、圭一はようやく思い至った。
「みんな……」
そうだ。ここには富竹さんだけじゃない。自分の大切な仲間がいるんだ。あの場は必死に探したが仲
間の存在を確認することはできなかった。でも、富竹さんが死ぬ直前に梨花ちゃんの声がたしかに聞こ
えた。多分、他のみんなもここに飛ばされているんだろう。レナ、沙都子、魅音……。
殺されるかもしれない。
「…………っ!!」
思わず叫びたくなる衝動をなんとか必死に堪えて、圭一は厳重に周りを警戒した上でその場に座り
込んだ。そうだ圭一。落ち着け、クールになれ。こういうわけのわからない現状においてこそ、クー
ルになることが何よりも求められるんだ。大丈夫、大丈夫だ。俺は冷静だ。ほら、こうやって深呼吸
だってできる。
高鳴る動悸を無理やり無視して深呼吸を一度すると、圭一はあらためて周りを見回した。
正確な位置はよくわからないが、とりあえずわかるのはここが山中だということだ。深夜というこ
ともあって周りがよく見えないが、自分が今座っているところは真後ろに大木が立っているからいき
なり背後から狙われるといった心配はないだろう。仮に誰かがこっちに近づいたりすれば、こんな草
木が生い茂っている場所だ、すぐに物音がしてそれを自分に伝えてくれる。そして今は、どれだけ耳
を澄ましてもそんな音はしない。大丈夫。少なくとも今この場においては、安全は確保されている。
そこでようやく、圭一は本当に落ち着きを取り戻せてきた。
そうなると次に自分が取るべき行動は、自分たち参加者とやらに配られた荷物の確認だ。肩にぶら
下げていた小さめのリュックを目の前に置くと、中身を適当に出してみることにした。
(えーっと、コンパスにこれは……ああ、ランタンか。今点けたら俺の居場所を悟られることになる
な、やめとこう。おっ、ちゃんと水と飯はあるんだな。よかった自炊はしなくてもよさそうだ……)
料理が大の苦手である圭一にとって、食料の有無は死活問題である。その点に関しては、最初から
食料が用意されてあるのは非常にありがたかった。
(それから名簿か……ああ、やっぱり俺以外にみんなこっちに飛ばされてる……くそっ。それと、時
計か。今は一時半か……いつもなら、何も考えずに気楽に寝てる時間帯なんだけどな)
実際はそんな気楽な時間帯とやらは元の世界においてもあまり経験できなくなるのだが、そのこと
を今の彼が知る由もない。
(あと鉛筆と紙に、地図、か。う〜んこれ見てもやっぱここがどこかよくわかんねえな。ま、いいや
置いとこう。そんで最後に……)
「これ……アレだよな」
敢えて今まで見ないふりをしてきたが、最後に残ったこれは圭一にとって非常に見慣れているもの
だった。すなわち……レナの愛用品である、鉈。袋に包まれてはいるが、これは忘れようにも忘れら
れないくらいのインパクトがある。
レナが雛見沢の大型ゴミ処理場で、圭一にとっては何が嬉しいのかいまいちよくわからないが彼女
にとっては宝物である粗大ゴミを掘り出すために使っていたものだ。まさか自分の荷物の中にこんな
ものが入っていたとは思わなかった。
(でも、これはラッキーなのかもな。そりゃ銃とかには叶わないかもしれないけど、立派な武器だし。
あとは俺が人を殺せるだけの覚悟があるのかってとこが問題だけど……)
正直に言おう。ない。
ただのガキである自分に、そんな簡単に人を殺せるだけの覚悟があってたまるか。やられそうにな
ったら、躊躇なくやってやるさ。だけどそれ以外は、やっぱり殺したくない。
(そうさ。荷物の確認も終わったし、空が明るくなったらみんなと合流するんだ。そうしたら、きっ
と……)
カサッ
「!!」
自分の右手の方で、たしかに音がした。微かだけど、たしかにした。聞き違いなんかじゃない。絶
対に、した。
圭一は鉈を包んでいた袋を解いて刃を出すと、水平にして地面に置いた。そして自分もすぐに、か
つ慎重にその場に這いつくばる。鉈の柄がすぐに手の届く位置にあることを確認する。よし、大丈夫
だ。いつでも向かうことができる。
息を殺した。吸うときも、吐く時も、さっきやった深呼吸の時よりもはるかに小さく、ゆっくりと。
(誰だ?俺を*そうとする奴か?それとも一人が心細くて仲間を探してる奴か?)
落ち着け、クールだ。クールになるんだ圭一。
相手が前者なら、その時は一切の迷いを振り切って、この鉈で*してやる。
後者なら、隙を見計らって襲い掛かり、身動きできないようにしてから相手が本当に敵意を持って
いないかどうかを確かめた上で仲間にするかどうかを決める。完璧だ。
……圭一がもっと冷静だったならば、そんなタイプ分けが見かけだけで判断できるケースなんてそ
んなにないということに気づきそうなものだが、やはりこの時の彼は軽く興奮していて、本当に正常
な判断を下せる状態になかった。
草木を踏み分ける音が近づいてくる。どうも向こうも慎重になっているらしく、その音はゆっくり
としたものだった。でも、近づいてくる度に音ははっきりと聞こえるようになった。とりあえずこれ
で、プロの殺し屋なんかじゃないということはわかる(圭一の知識では、殺し屋という人種は足音を
消すことなど造作のないことである)。素人だ。これなら、勝てるかもしれない。
やがて、その音が自分のすぐ側に来た。今だ。
「う・おおおおおおっ!!!!!」
こんなところでこんな大声をあげるのは自殺行為だということは頭の中ではわかっていた。わかっ
てはいたが、こうでもしなきゃ自分を奮い立たせることなどできなかった。叫び声と共に鉈を持って
立ち上がると、勢いよく目標に向かって飛び掛る!
「っ!?」
そいつは自分の存在に気づいていなかったようだ。びくっと体を震わせたまま動かない。いける!
まずは組み敷いて、身動きとれなくしてから……
すぱぱぱーんっ
目の前に電気が走った。というより、雷が走った。何が起きたのか、圭一には理解ができない。あ
れ?こっちは鉈を持ってて、相手は素人っぽいからどっちかっていうと無害だと判断して地面に倒し
てから鉈をつきつけようとして、でもその直後に雷が走って。あれ?スタンガンとかそういった類じ
ゃ、ないよな。
「動くな」
その時、逆に自分が首筋に何か尖ったものを突きつけられた。
「動くと、刺す」
それと同時に、底冷えのするような声が耳元からした。女性の声だ。いや、女性というよりは女の
子の声。いや、ていうか、これは……
「れ……な?」
「………………はぅ?圭一くん?」
さっきの芯から冷たくなるようなどす黒い声から一変して、レナ……竜宮礼奈は、いつも通りのど
こか抜けた声に戻ったのだった。
「いやー、びっくりしたぜレナ。まさかこっちが返り討ちに遭うとは。さっきのレナのパンチ、ほん
と目の前が光ったぜ。相変わらず容赦ねえなあ」
本来なら笑い事ではないのだが、圭一は気楽に笑ってみせる
「は、はうぅ。圭一くんがいきなり襲い掛かってきたりなんかしちゃうから、レナ何がなんだかわか
らなくなっちゃって」
一段落を終え、また元々座っていた場所に戻ると圭一とレナは小声でお互いの再会を喜んでいた。
こんなところでまた出会えるなんて、けっこうすごい確率なのかもしれない。
「あっ!圭一くん、首筋に血が……」
「ん?あー別に気にすんなよこれくらい」
レナに背後に回りこまれた時に突きつけられたものは、いわゆるコンバットナイフだった。小型だ
がその分接近戦に長け、首を刺したりすれば確実に致命傷になるだろう。
「ご、ごめんね。ごめんね圭一くん。絆創膏とかはないけど、どうにか……」
「だから大丈夫だって。ほんと、こんな時でも変わらねえなあレナは」
そう言って、圭一は笑う。レナはそれでも心配そうにしていたが、圭一がレナの頭に手を置いて髪
をくしゃくしゃとかき回すと「はうぅ……」と呻き、真っ赤になって黙ってしまった。
「じゃあ、レナの方もまだ誰とも会ってないんだよな」
「あ、う、うん。私がここで会ったのは、圭一くんが初めてだよ」
「そ、か」
これは奇跡なんだろうか。早く合流したいとは思っていたが、まさかこんなに短時間で仲間と出会
えるとは。しかも両方無傷だ。
「ね、圭一くん」
「ん?」
レナは白い愛用の帽子を両手でくるくるともてあそびながら、こちらに笑いかけてきた。
「なんだかさ、雛見沢に戻ったような気がするね」
一瞬、ぽかんとした顔になっているのが自分でもわかった。でも、あらためて思い直す。
「……ああ、そうだな」
そうだ、自分たちの住む場所である雛見沢も、こんな森が生い茂ったど田舎だった。たしかにここ
だけで見ると、まるで自分たちが今でも雛見沢にいるかのような錯覚を覚える。
でもこの世界には数多くの殺人者候補がいて、そして大切な仲間がいる。殺されるのかもしれない。
やっぱり雛見沢とは、違う。
だけど、たしかに仲間はいる。
「ああ、そうさ。気分だけじゃなくて絶対に戻ってみせる」
「え?」
圭一は、自分の心に何か熱いものが宿ってきているのを感じた。
「だってそうだろ、レナ。俺たちがこうして出会えたのは奇跡だ。奇跡なんてものはそう滅多に起き
やしない。でも、それでも今、たしかに奇跡は起きたんだ」
「圭一くん?」
レナは目をぱちくりさせている。だがそれにかまわず、圭一は話を続ける。
「信じろよ、レナ。信じるんだ。俺だけじゃ足りねえ。お前も、魅音も、沙都子のやつも、梨花ちゃ
んも。もしかしたら俺たち以外の参加者たちもだな。みんなが奇跡が起きると信じて行動して、そし
て初めてそれは起こるんだ」
何の根拠もないはったりなのかもしれない。
「奇跡って、どんな?」
でも、何の根拠もないはずなのに、確信だけは何故かあった。
「決まってんだろ?」
そう言うと圭一はがしっと力強く、レナの肩を両手で掴んだ。そしてレナの瞳をじっと見つめる。
「俺たちはあいつらとまた出会える。そして、こんなくだらないゲームから脱出して、また雛見沢で
いつも通りみんなで楽しくて馬鹿な生活を送れるってことだよ」
「…………」
「な?大丈夫だ。絶対にうまくいく。俺を信じろ、みんなを信じろ」
しばらく黙っていたレナだが、やがて顔をあげると
「……そう、だね。圭一くんの言うことが正しいのかどうかはレナにはわからないけど、それでも圭
一くんがそう言うんだったら信じるよ」
「よっしゃ!」
また、圭一はレナの髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。またもやレナの顔は真っ赤になる。本当に面
白い奴だ、と圭一は思う。
「俺たち部活メンバーが揃えば、敵なんていやしない。だろ?」
「うんっ」
二人して笑顔になる。そうだ。みんなはたしかにこの世界にいる。急がないと死んでしまうかもし
れないが、それでもいるんだ。脱出の可能性としては、それだけで十分だ。
「見てろよあの仮面野郎。俺たちはどんな惨劇が訪れようとも絶対に屈しねえ。てめえら悪魔どもが
喜ぶ脚本がどれだけやって来ようとも、俺たちが全部ブチ壊してやる!」
【A-2森 初日 深夜】
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:首筋にかすり傷。支障なし。軽く興奮気味。とりあえず精神は正常。
[装備]:レナの鉈
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:魅音、沙都子、梨花との合流、ゲームの脱出
2:明るくなるまで待機。周りには注意。
3:マーダーと出会ったらレナを守る。殺すことに躊躇はあるがやる時はやる覚悟。
4:仲間になりそうだったら様子を見た上で判断する。
基本:竜宮レナと共に行動。
【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:無傷。軽く錯乱気味だが圭一との再会でなんとか抑えてる。
[装備]:コンバットナイフ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:魅音、沙都子、梨花との合流、ゲームの脱出
2:明るくなるまで待機。周りには注意。
3:マーダーと出会ったら容赦なし。どちらかというと武器は圭一が持ってる鉈がいい。
4:仲間になりそうだったらとりあえずは圭一の判断に従う。
でも自分の判断でダメだと思ったら即殺す。
基本:前原圭一と共に行動。
63 :
守護者:2006/12/08(金) 03:36:52 ID:VNbKIF+c
海に囲まれた防波堤の上に、赤い骸布に身を包んだ男が降り立った。
「…………ふん」
鷹のように鋭い目で辺りを見つめ、現れた男――――アーチャーは吐き捨てる様にこの状況を笑った。
呼び出されたのは何時もと大差ない、ただの地獄。
地獄に呼び出されることなど、彼にとってはウンザリするほど繰り返された日常でしかない。
守護者は世界が滅びる危機がある場合に出現する。
それはつまり、ゲームの首謀者であるあの男、もしくはこのゲーム自体に滅びの要因があるということ。
真偽を確かめる術は無くとも、守護者である自分が呼ばれたという事はそう言うことなのだろう。
己にできることは守護者の義務を果たすだけ。
では、どう果たすか。
この空間から脱出しようにも方法が無い。
生憎と強化と投影以外の魔術はからきしだ。
だから望みの薄い脱出などに賭けることはできない。
あの男の前にたどり着く方法で思いつく限りでは一つだけ。
他の人間を皆殺しにすること。
全員殺せば目通りはできるだろう。
霊長の命を背負った守護者に失敗は許されない。
選ぶのなら、より確実な道を選ばざるえない。
となると、この場ですることは実に単純だ。
救われなかった79の命を速やかに殺し、
首謀者へと辿りつき、殺す。
後は消え去り、守護者の座に還るだけ。
それで終わり。
救われなかった多くの者達を無かった事にして、より多くの者を救う事も。
誰も死なないようにと願ったまま、大勢の為に一人にを殺す事も。
誰も悲しまないようにと口にして、その陰で何人かの人間には絶望を抱かせる事も。
理想を守る為に理想に反する事にも、もう慣れた。
世界を滅ぼす過程はいつだって人間の業。
守護者とはその業の後始末を行う、ただの掃除屋だ。
気の遠くなるような繰り返しの中、そんな人間の醜さを見せ付けられ続け、感傷は磨耗し消え去った。
行動に迷いなど無い。
迅速にアーチャーは参加者を探して動き始めた。
結局目に見えるものすべて殺すのだから、名簿の確認は行わなかった。
それが彼にどう影響するのか、それはまだ誰も知らない。
【H-3 防波堤・1日目 深夜】
【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:健康。
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、不明
[思考・状況] 1:参加者全員を殺す。
2:ギガゾンビを殺す。
「なあ。ちょっと待てよっ!殺すってマジかよ。おいっ聞いてるのか!」
桜田ジュンは必死で目の前の女の子北条沙都子に説得の声をかける。
だが沙都子は意に返さず金属バットを振り上げる。
「殺す。殺しますわ。あなたは弱そうですし私でも簡単に殺せますわ」
沙都子は静かに呟きながら全力でバットを振り下ろす
「ひいっ」
ジュンは体を横にずらして振り落ろされる金属バットから逃げる。
「こんなところで死んでたまるかー」
ジュンはとにかく無我夢中で逃げる。
ジュンは息を切らしながらも目に入った温泉旅館の中に逃げ込んだ。
「はあはあ。もうここまで逃げれば追ってこないだろ・・・ええっ?」
廊下の影から様子を見たが沙都子の姿を発見してしまった。
(冗談じゃないぞ。このままじゃ殺される。武器はっ?何か武器になるもの)
ジュンは支給品の武器が入った四次元バックをあけて調べる。
「これはえっと・・・ショックガン?」
ジュンはさらに説明書を読む。
「これを使えば一発で相手を気絶させることが出来る。ただし殺傷力はほとんどありません・・・か。でも銃なんて使ったことないし」
ジュンは一つ目のをもう一度入れ直し、さらに二つ目を調べる。
「これは・・・鉄扇?こんなのじゃ金属バットには勝てないよ」
ジュンは一縷の望みを信じ三つ目があるのを信じながら調べる。
「あった。えっと・・・予定メモ帳?なんだこれは」
ジュンは説明書を読む。
「書いたことが全て本当になります。しかしこれは試供品のため半径五メートル以内でしか効力が無い・・・か本当なのか」
ジュンはこの道具の効果に疑問を持つ。
(いくらなんでも書いたことが現実になるなんてありえるのか。確かに僕の周りには動く人形とか居るけど・・・でもまさかそんな)
しかしジュンの思考は途中で途切れてしまう。不意にわき腹に殴られたような痛みが走ったのだ。
「ぐっ」
ジュンは痛みに地面に転がる。
「あらあら。余裕ですのね。でもそれでやられるなんてただの油断じゃなくて」
「くそっ」
ジュンは必死でわき腹を押さえながら咄嗟に地面の予定メモ帳を拾って足を引きずりながら旅館の奥に逃げる。
「おっほっほっほ。良いですわよ。惨めに逃げなさい。そして最後には私が殺してさしあげますわ」
沙都子は高笑いと余裕の笑みでゆっくり金属バットを持って近づいてくる。
(死にたくない、死にたくない。真紅と翠星石と蒼星石を見つけないと。雛苺や姉ちゃんが待ってる家に帰らないと)
ジュンはとにかくそのために逃げる。
そしてジュンは旅館の一室に倒れこむように入った。
「ほっほっほ。それがあなたの死に場所。そうね。わたくしが楽にして差し上げますわ」
沙都子はバットを握り締めて部屋に入る。
そこでジュンは覚悟を決めた。
(一か八かだ。なるようになれっ!)
ジュンは覚悟を決めて予定メモ帳に書き込んだ。
『桜田ジュンを襲う女が 自らが持ったバットで 自らを殴り続けて自殺する』
猛スピードで書いただけに字は震えていてさらに荒れていた。
「おっほっほ。じゃあ死んでください。わたくしがにいにいと会うために犠牲となってっ」
「くそっ。終わりかっ」
沙都子はバットを振り上げる。
ジュンは死を覚悟して目を閉じた。そして次の瞬間
激しく何度も鈍い音が繰り返される。だがジュンには痛みがまるで無い。
最初のわき腹の痛みはまだかすかに残っているがそれ以外の新たな痛みが無い。
「・・・えっなっ」
ジュンはゆっくり目を開く。するとそこには凄惨な光景があった。
「いやっ。どうして?止まらない」
沙都子は何度も自分の頭を金属バットで殴り続けていた。
「うっ・・・うわあああぁ」
ジュンはその光景に耐え切れず部屋を出る。そしてドアを閉める。
ドア越しに何度も少女の悲痛な悲鳴と鈍い音が響き続ける。
ジュンはその音を聞きたくないが足がすくむ立ち上がることも出来ない。
必死で耳を両手で強くふさぐ。少しでも残酷がことを見ないように、聞かないように。
「あっ。どうしてにいにい。助けて」
沙都子はにいにいに助けを請う。
決して叶わないことは分かっているのに。
(意識が・・・薄れてきましたわ。わたくし・・・どうして殺そうなんて・・・。みん・・・なやさし・・・にいに・・・)
少女の意識はそこで途絶えた。
十数分後、音は完全に聞こえなくなった。
そしてさらに数十分。ジュンは少し落ち着きを取り戻し立ち上がった。
「うっううう」
ジュンは少し目に涙を浮かべながらもゆっくりと最初の場所に戻る。
「ここか。・・・よしっ。まずは荷物を整理して。ついでにあの子の荷物も貰ってと。さあ!気を取り直して真紅たちを探すぞー」
ジュンは必死で空元気でも良いから元気な振りをして・・・そして前に進んだ。
【A-8の温泉周辺・1日目・早朝】
【桜田ジュン@ローゼンメイデン】
[状態]:わき腹に打撲(軽度)精神的に少し不安定だが空元気で落ち着こうとしている。
[装備]:予定メモ帳、ショックガン、鉄扇
[道具]:沙都子の分と2人分の支給品。そして沙都子の支給品のエルルゥの薬
[思考・状況]
1:真紅と翠星石と蒼星石と合流。
2:水銀燈とは出会いたくない。
3:少しでも早くゲームから離脱。
4:予定メモ帳での殺害は相手が殺しに来た時のみの最終手段。
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:死亡(悟史のバットは沙都子の隣に)
俺が突然ワープさせられて辿り着いたところは暗闇に包まれた森の中だった。
なんだか満月がきれいだねぇ。こんな殺し合いの場ということ考えなけりゃあな。
支給物を広げその中にあった地図で位置を確認するとC-7であるらしい。
とりあえず、これからのことを考えながら山を下ることにする。
さてどうしたもんか?
どうやら妙なことに巻き込まれちまったみてえだ。こんなオカルトじみた事件なんざ聞いたともねえよな。
あの場にいたとっつあんなんかは、今頃あの主催者を逮捕するなんて言って張り切ってるんだろうがなぁ。
さて俺はどうすっかな?
まあ、やるこたあ決まってるんだがな。もちろんこの俺様ルパン三世は胸糞悪い殺し合いをする
つもりはねえさ、だがこの首輪に何らかの監視装置やらなにやらついていて、脱出や反逆をしようものなら
先刻のお穣ちゃんやおっさんみたいにどかん!っと、爆発する以上は表立っては反逆は不可能。
……まったく可愛そうなことをしやがる。人生これからって歳の子を殺すなんざ男の風上にも
おけねえやろうだ。俺だったらあんな子は殺さずに紫式部みてえに……
おっと、少し思考がずれたな。
とりあえず、これまたあの場にいた次元達を探す裏で工具やら首輪解除に役立ちそうな面子でも探そうかな。
どうせなら美人の眼鏡をかけたボインな女科学者なんかがいいな。
あの場所には綺麗どころの美人ちゃんや数年もすれば食べごろにもなる美少女達もいたしな。
お!そうだ!どうせなら可愛い子ちゃん達が襲われているところをこの俺様が助ければ、
信頼もできてなおかつ他の参加者もこの俺様が殺し合いに乗っていないことを、証明できるから
人も集まりやすいな。今からハーレムが出来るのが楽しみだ。
ウッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ
そんなことを考えていると、パキ!という枝を踏む音が聞こえた。
どうやら誰かが近くにいるらしい。しまったなぁ。
謎機能の四次元デイバックとやらの中に入っていたものは、マテバ2008Mつう銃で丁寧にも説明書が付いてあった。
俺の記憶が正しければマテバ2006Mまでしか製造されていなかったはずだ。
しかも性能はあまり良さげではねえから、はっきり言って愛用のワルサーと比べる
と雲泥の差がある銃でイマイチ信用できないねえ。
ちなみに他の支給品は変わったドラ焼きとグラビア誌だ……
なんか俺悪いことしたかな?いまさらだけどさ。
……相手が殺る気のある実力者ならちょっと危ねえな。まあ何とかなるだろ。
「はぁい、そこにいる方はどなたですか?」
気配がした方向に問いかける。だが向こうはなかなか出てこない。
耳には確かに息遣いが聞こえるんだがな、段々荒くなっているけど。
そして五分ほど待っていると、
「とぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな叫び声を上げながら日本人の女子高生が泣きながら刀で切り込んできた。
だが五右衛門の奴と比べれば格段に遅え。後ろ歩きで女子高生の上段からの打ち込みを避け
続けざまに放たれる右からのなぎ払いにしゃがみ、
すぐさま切り返してきた頬を狙った左からの斬撃も後ろに跳びぶことによって避わす。
さて、どうしたもんか。
「お穣ちゃん、筋も踏み込みも悪かねえがくもった剣じゃつまらぬものも切れねえぜ」
「うるさい!うるさい!うるさい!あんたみたいな怪しい奴を
放っておいたらみくるちゃんやユキ達が危ないじゃないのよ!!」
俺はフェミニストだから強引にするのは嫌いなんだがなぁ……
それに俺以上に怪しくない怪盗なんざいないぜ。
……出合った女にはよく『怪しい男』とか言われるのは一族の性だとは思いたくはないけどさ。
「おじさんは殺し合いに乗っていないよ、お穣ちゃん」
「モリアーティみたいな面した奴なんか信用できるか!」
「……あんなのと俺と一緒にするなよ。俺のご先祖様はもっと偉大なんだぞ……おっと」
そのまま胴体を狙ってきた突きを体をずらしてさける。
どうやら聞く耳を持たねえらしい。
まあ仕方がねえだろう。実際に人が死んじまっているわけだし。
さてどうしたもんだか。
相手は半場錯乱状態の女の子。あと五年もすれば『手を出しても』いいかんじだねぇ。
もっともここで彼女が生きていられればの話だけどさ。
「うりゃああああああああああああああああああああ!!」
少女が裂帛の気合を叫びながら上段から剣を振降ろそうとしてくる。
だが俺はその瞬間にクイックドロウでマテバを懐から抜き少女に向かって引き金を引いた。
「きゃ!?」
銃声が一発辺りに木霊する。
少女が仰向けに倒れ彼女の持っていた刀が吹き飛び、そこにあった木に突き刺さる。
女の子は倒れたまま動かなくなった。
「……ちょっと女の子には刺激が強かったかな?」
女の子の持つ刀の鍔の部分に銃弾を当てて、弾き飛ばしただけなんだけどなぁ。
弘法は筆を選ばずといった感じで。
まあ、倒れるときにゴンって音がしたから地面に頭でも打ち付てそのまま気絶したぽい。
とりあえず抱き起こして状態を確認する、やはり女の子は気絶しており目立った外傷は
見当たらない。思わずほっとする、この歳の女の子は怪我とか気にする方だからねえ、
それにこう見えても俺は友情の厚い女の子は嫌いじゃないんだぜい。
デイバックを枕代わりにさせてその場に置いておき、木に突き刺さった刀を回収することにする。
べルトやら頭部やら体のあちこちに仕込んでいた仕事道具が全部取り上げられちまった以上は、
こんな刀一本でも何かの役に立つかもしれねえ。それに鈍らじゃあなさそうだから高く売れそうだ。
そこに落ちてあった鞘に刀を納めベルトに差す、なかなかいい感じだね。
さて次はこの刀の持ち主をどうするかだ。さすがに放っていくのはまずいよな。
とりあえず、この子を抱えて近くで休めそうな場所を探すとしますか。
だがこのときの俺は知らなかったんだ、思っている以上に厄介な状況に陥ってることなんざ。
【C-7森/初日/深夜】
【ルパン三世@ルパン三世】
[状態]:健康、謎の女子高生を抱えている
[装備]:マテバ2008M@攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(弾数5/6)、
小夜の刀(前期型)@BLOOD+
[道具]:荷物一式、エロ凡パンチ・'75年4月号@ゼロの使い魔、
カマンベールチーズ入りドラ焼き×10@ドラえもん
[思考]:1、落ち着けそうな場所を探す、
2、他の面子との合流
3、協力者の確保(美人なら無条件?)
4、首輪の解除及び首輪の解除に役立つ道具と参加者の捜索
5、主催者打倒
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:気絶
[装備]:無し
[道具]:荷物一式
[思考]:1、SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出
[備考]:ハルヒの他の支給品の状態は次の書き手に任せます
僕――ゲイナー・サンガが気付いた時、大勢いた人々は消え去り、寂れたプラットホームに
一人で立っていたんだ。薄明かりの下、何本ものレールが東西に伸びてると言うのに列車は
影も形もない。24時間ギリギリのダイヤで走り回るシベ鉄じゃ、廃駅でもなければありえない。
とするとここは何処なのだろう? かなり暑いし、遠くには樹木らしき物が何本も見える。
もしかしてあれが本で読んだ本物の『森』ってやつなんだろうか? ここはヤーパンなん
だろうか? とりあえず考えるのは後回しにして、僕は近くの機械(自販機)の影に隠れた。
これが現実なのか夢なのかは良く分からないけど、殺し合いっていうんだから用心に越した
事はない。ぼんやり立ってて撃たれました、じゃ洒落にならないし。
「ったく、自分の手を汚さない事しか考えのないのかよ。大人って奴は! 大体……」
さらに続けようとして止めた。文句を言ってイジケるだけでは何も出来ないと散々身を
持って学んだじゃないか。今するべき事は現状確認と安全確保だ。一人で憤る事じゃない。
機械の薄灯りの下、デイパックの中を探り支給品を取り出す。地図、名簿、食料等色々。
武器はサブマシンガンと弾薬が入っていた。見た事のない形式だけど何とか扱えそうだ。
オーバーマンを除けば間違いなく最良の武器だ。これが刀剣類だったら目も当てられない。
他にも酒瓶が何本か入っていたけど、そっちは後回し。今のうちに地図と名簿を頭に入れて
おかないと。憶えるだけならゲームの攻略よりは楽だけどさ。
「周りの大きな建物がコレとコレだとするとココはE-6にある『イイロク駅』ってとこか。
まいったな、微妙な初期位置だぞ」
ゲームのバトルロイヤルなら何度も経験がある。それこそ負けた事なんてない。現実でも
そのセオリーが通用するかどうかは別として、マップ中央付近で障害物が多いとなれば
激戦区になると容易に予想が着く。白兵戦を得意としない、と言うか苦手な僕としては
出来れば戦闘は避けたい。殺すのも殺されるのも御免だ。それ強制されるのはもっと御免だ。
ではどうするのか、他の人達とどう接するのか? そんな時に、あの女性に襲われたんだ。
「ったく、犬っころじゃねぇんだぞ。首輪なんぞ着けやがって。大体よ……」
この”二挺拳銃”レヴィ様に金も払わずに殺しをさせようってのかよ。こちとら慈善事業
やってんじゃねぇんだ。あの%※#野郎、舐めやがって。
「んで、ここはどこなんだ?」
気が付くとアタシは線路の上を歩いていた。頭に血が上ってたせいか、どうやって来たか
憶えてない。さっきまで大勢いたはずなんだが……飲みすぎたか? いや、そんな筈ない。
その証拠にアタシの手はソードカトラスの代わりに小汚ねぇデイパックを持っているからだ。
糞っ。そいつをひっくり返しても銃一挺、弾一つも出てこねぇ。地図に名簿、それに変な
懐中電灯とロープの付いた手錠だ。説明書に『ぬけ穴ライト』って書いてっけどよ?
『これの壁や床・地面などを照らすと抜け穴が出来ます。壁など以外には効果ありません。
数十分で元に戻り、中の物は外へ押し出されますので注意してください。』
ちょいと試してみるとアラ不思議、照らした地面に穴が開きやがった。こいつがありゃ
金庫破りもチョイチョイってもんだな。あの%※#野郎の道具だって事がムカツクがよ。
そうこうしている内に駅に着いたらしい。さっきレールごと地面に穴開けちまったけど
大丈夫だよな?
「ん……あれは?」
プラットホームの片隅、自販機の影にガキがいやがる。さっき喚いていたメガネの奴か?
それにしちゃ服装が違うか。まったく日本人は区別つきゃしねぇぜ。身を低くして隠れている
つもりなんだろうが、ホーム下から見ればバカ丸出しだ。生意気にも自動小銃なんぞもって
やがる。さーて、どうやってブン盗ってやろうかね?
そんな危険な女性が近くにいるとは知らずに、僕は詰まらない考察をしていたんだ。
今思えば、あの時周囲に気を気張っておけば、別の出会い方があったかもしれない。
(殺し合いをさせようというのだから、ある程度の戦闘経験のある者を集めたはずだ。
あのメガネの子供でさえ『殺してやる』と言っていた。オーバーマンや古代兵器の
使い手に年齢は関係ない。シンシアの例を考えれば幼いほど強くて残酷な可能性も……)
考えている途中で何か首筋がチクチクするような気配を感じた。何も物音はしないが
近く何かいる。多分。例えるなら、気配を殺したアデット先生が夕飯のオカズを奪いに
来ている。そんな感じだ。
(風が変わった?!)
感じるが早いか、僕は思いっきり横へ跳んだ。一人相撲になったって構いはしない。どうせ
誰も見てはしない。杞憂に終わればそれが一番なんだ。でも現実はそれを許さなかった。
跳びながら見ると僕の頭上、駅の屋根にポッカリと丸い穴が開いていて、そこから風と一人の
女性が飛び込んできたんだ。さっきまで確かに屋根があったはずなのに。
「気付きやがったかよ!」
「うわわわっ!!」
間一髪で奇襲を避けた僕に対して、休む事無く女性はデイパックを投げつけて間合いを
詰め込んできたんだ。僕は夢中で引き金を引いた。だけど女性に当たる事はなかった。
急に足元が穴が開いて転びかけたんだ。何が起こったのか分からなかった。でもそのせいで
銃弾が当たなかった事は確かなんだ。反れた銃弾は機械に当たって破片を撒き散らしていた。
「子供の玩具じゃねぇんだ、そいつを寄こしなぁ!」
体制を崩した僕は女性の体当たりを諸に受けてしまった。だけど両手はシッカリとマシン
ガンを握り締め決して放さなかった。自慢じゃないが白兵戦に自信はない。子供が相手でも
危ないかもしれない。だから絶対に放す訳にはいかなかった。以前に武器を奪われた時、
命があったのはタダ運が良かっただけだから。今、武器を放す事は死ぬ事に等しいからだ。
僕は引っ繰り返ったまま、それでも銃口だけは女性を捕らえ続けた。
「この糞ガキがッ!」
「動かないで! この距離ならガキが撃ったって当たりますよ!」
「当ててみなぁ!」
ゴンッ!
弾が銃口から出る事はなかった。叫ぶのと同時に女性の頭へ『屋根に着いていた電灯』が
落下したんだ。どういう理屈かは知らないけど屋根には無数の穴が開いていた。さっき見た
時、穴は一つしかなかったのに。この女性の仕業なんだろうか? ともかくこの隙に僕は
体制を直すことが出来たんだ。
「動かないで! 今度はシッカリ狙いがついてますからね」
「っっっっってぇ〜! このガキがぁぁ!!」
「自業自得って言葉を知ってますか? 動かないでって言ってるでしょ?」
「うるせぇ糞ガキ!」
文句を言いつつも頭を抑えた女性は動きを止めた。頭から出血はないようだけど少し涙目、
痛みを必死に堪えているのかもしれない。よく見れば女性の格好はまるで下着同然の薄着だ。
とても外出する格好とは思えない。頭が弱いんだろうか? シベリアならあっという間に凍え
死んでしまう。それともやはりヤーパン人なのだろうか? いずれにしろアデット先生並みの
危険人物には間違いない。もっと別のまともな大人に出会いたかった。
「その手に持った物も足元に置いてコッチへ。静かに、ゆっくりと!」
「チッ。ガキがポリみてぇなこと言いやがって」
「そう思うならあなたも暴漢みたいな真似はしないでください。殺したくはないんですから」
しぶしぶアタシは糞ガキの指示にしたがって、手にしていた『ぬけ穴ライト』を足元へ置くと
ガキの方へと蹴り飛ばした。それを何に使うのか分からないと言った感じで首を傾げてやがる。
そうだ、妙な道具のせいで大恥かちまった。ロアナプラの連中に見られてたら、恥ずかしくて
明日から街を歩けねぇとこだったぜ。やっぱりギガゾンビとかいう%※#野郎は許せねぇ。
ガキもいい気になってんなよ。
「くっ、頭が……」
アタシはさっき打った頭を抱えてしゃがみ込んだ。あまりの激痛に身が震える、って感じの
迫真の演技だってのにガキは乗ってこねぇ。それどころか警戒を強めやがった。近寄ってきたら
一発KOしてやろうと思ったのによ。
「頭の具合が悪いんですか? 自慢じゃありませんが、その手は一通り経験済みです」
「そうかい糞ガキ、次はどうすんだ? 素っ裸にして身体検査でもするかい、チェリーボーイ」
「ガキじゃありません。ゲイナー・サンガです。オバサンの裸には興味ありませんのでご安心を」
「軽いジョークで受け返せねぇようだからガキだって言うんだよ」
「僕はゲイナー・サンガです。名前、覚えられないんですか? ご自分の名前は言えますか?」
アタシを挑発してくるとは恐れ入ったね。命知らずにも程がある。多少は自覚もあるのか
シッカリと照準を合わせて警戒は緩めない。少しは修羅場を潜ってるのか、あるいは痛い目を
見てきたのか。あの分厚い服は防弾か? ま、殺せる時に殺さない程度じゃまだまだだな。
「アタシはエダだよ。エダ」
「そんな名前は名簿にありませんでしたよ。ご自分の名前、忘れちゃいました?」
「レヴィだ! 糞ッタレ!」
エダの名前で適当に誤魔化そうと思ったのに100人近い名前を覚てやがったのか。そんな芸当
ロックでも……いやアイツなら出来るか。あんな数行読んだら眠くなっちまうもんをよ。
このガキ、少しは役に立つか? ロックも最初はどうしようもなかったもんだしな。そういや
殺せるくせに殺さない甘ちゃんだ。今は生かしといても、どうとでもできるか。
「ではレヴィさん。ご自分の荷物を持ったら前を歩いてください。ゆっくりですよ」
没収した荷物を本人に持たせるか普通? 武器がねぇから安心してんのか? ただの馬鹿か?
なんか拍子抜けしたぜ。ロープで縛り上げられなかっただけ儲けもんだ。今に見てやがれ。
自分がどんなに馬鹿な事をしたかってタップリと教育してやるからよ。
「暗い内に中心部から離れますよ。聞こえてますかレヴィさん?」
「へいへいっと」
【E−6の駅・1日目 深夜】
【ゲイナー・サンガ@キングゲイナー】
[状態]:健康
[装備]:イングラムM10サブマシンガン、防寒服
[道具]:支給品一式、予備弾薬、バカルディ(ラム酒)3本
[思考・状況]
1:レヴィの警戒は解かない(今後どうするか考えあぐねている)
2:もう少しまともな人と合流したい(この際ゲインでも可)
3:駅周辺部から離れる
4:さっさと帰りたい
[備考]名簿と地図は暗記しました。
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:健康(頭に大きなタンコブ)
[装備]: ぬけ穴ライト@ドラえもん
[道具]:支給品一式、ロープ付き手錠@ルパン三世
[思考・状況]
1:ゲイナーと立場を逆転させたい
2:ロックの捜索
3:気に入らない奴はブッ殺す
[備考]まともに名簿も地図も見ていません。
ロベルタの参加は確認しておらず、双子の名前は知りません。
※レヴィがぬけ穴ライトで開けた穴は数十分で修復しますが、
落ちた電灯と銃撃を受けた自販機はそのままです。
>>64-
>>65 破棄します。
沙都子は最初の設定のまま生存で桜田ジュンはまだ未投稿状態に戻るので自由に書けます。
混乱を招いてしまって申し訳ございませんでした。
野原みさえは、ひとり川辺にしゃがみこんでいた。
肩で息をし、デイパックを抱きしめながら周囲を警戒する。
(さっきの男は、もう追ってきてないみたいね……)
まだ震えの収まらぬ膝をかかえこみ、みさえは先程のことを思い出していた。
デイパックひとつを与えられ、みさえが放り出されたのはどことも知れぬ山中の寺の境内であった。
木々がさやめき、闇が揺れる真夜中の寺というのは、なかなかに不気味なロケーションである。それが一人ぼっちならなおさらだ。
なんとなくここが春日部市でないことを、みさえは肌で感じていた。
詳しい者なら植物などからもっと詳しく地理を推察できるのだろうが、ごく普通の専業主婦であるみさえにその知識はない。
知識もなく、状況を切り開く力もないみさえが今できるのは、なぜこんなことになってしまったのかと思い悩むことだけであった。
……そうよ、今日はボーナスの日で、明日はみんなで焼肉を食べようかって話をして……それからいつも通り、家族4人で並んで眠ったはずだったのに。
なのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
ひろしやしんのすけはどこに居るのかしら。とにかく見つけなきゃ。でも場所がわからない。
二人も同じで、きっと私がどこにいるかわからなくて、一人ぼっちで不安になっているに違いないわ。
それにしても肌寒いわね。しんのすけがお腹を冷やしてなければいいけど。お腹を壊したら明日の焼肉も食べれなくなっちゃうわよ。
――――明日? 明日ちゃんと帰れるのかしら? 帰れなかったら、ひまわりの面倒は誰がみるの?
ギガゾンビが「殺し合い」だの「願いをかなえる」だの言っていたのを思い出さないでもなかったが、
それをまともにとらえるにはみさえの心には現実のあれこれが染みつきすぎていた。
ゲームに乗るという選択肢は、この場に連れて来られたばかりのみさえには思いもつかないものであった。
――――帰らなきゃ。
何としてでも、帰らなきゃいけない。
ジーパンの尻ポケットに運よく入っていた小銭の中から5円玉をより分け、賽銭箱に放る。
この不安な状況がなんとかなりますようにと願いをこめてみさえは鈴を鳴らし、両手を合わせた。
すると、願いが天に通じたのか――
見るからに恐ろしげな男が寺の横の森から飛び出してきた。
あ、まちがい。
見るからに恐ろしげな得物を携えた男が寺の横の森から飛び出してきた。
男の持っていたそれは、剣の形はしていたが、剣というには馬鹿げた凶器だった。
みさえの息子が描いたラクガキの中にしか出てこないような、人の身の丈以上もある鉄の塊。
いっそチェーンソーや日本刀などのわかりやすい凶器だったら、みさえも「ドッキリでしょ?」と
(引きつりつつ)笑っただろうが、視界に飛び込んできたそれはみさえの抱く「凶器」としての想像を飛び越え、
しかしそれを目にした誰にも、有無を言わさずそれが「凶器」であると知らしめるような、飛びぬけた凶悪さを具えていた。
飛び出してきた相手をそれ以上ろくに確認することもないまま、みさえはあらん限りの声をしぼって悲鳴をあげた。
そしてデイパックを抱いたまま反射的に鬱蒼と茂る森へ走る。
・
・
・
無我夢中で逃げ回って数十分。
相手を撒くことができたのはよかったが、その代償として現在みさえは山中でひとり迷子の身である。
家族を探すにも、まずは自分が迷っていては話にならない。
コンパスか地図でも入っていないかと、とりあえずみさえは抱えっぱなしのデイパックを開いてみた。
はたしてその中にコンパスと地図はあった。周りの地形から推測するに、今みさえは右上隅の区画あたりにいるようである。
デイパックには、他にもいろいろ入っていた。どう考えても中に入っているのは物理的におかしいような中身に首を傾げつつ、みさえはひとつひとつ細かく確認する。
状況もあるが、主婦の性のようなものであった。
とりあえず手当たり次第につかみ出して地面に並べて確認してみると、入っていたのは以下のようなものだった。
・地図
・コンパス
・鉛筆とメモ帳
・飲料水
・食料
・時計
・ランプ
・名簿
・懐中電灯(?)
・女の子向けおもちゃのステッキ(?)
キャンプ用品詰め合わせの中身をそのまま移し変えて放り込んだような最初の7つは置いといて、みさえの目をひいたのは名簿と、
照明器具がすでにあるのになぜか入っている懐中電灯と、あと謎のおもちゃ。
まず、名簿を確認する。名前の横に番号が振ってあって、それが人数確認にもなる。
最後の「平賀=キートン・太一」は80番……全部で80人も自分と同じような状況にいるであろう参加者が存在するという事実に、みさえはため息をついた。
名前の並びは50音順ではなくばらばらに並んでいて読むのに骨が折れたが、それでも根気よく上から下に読んでいくと
程無くしてみさえは見慣れた3つ……いや4つの名前を発見した。
「野原しんのすけ」「野原ひろし」「野原みさえ」……そして「ぶりぶりざえもん」。
(何故しんのすけのラクガキのキャラクターの名前があるのだろう?)
何度も確認しなおしたが、名簿に「野原ひまわり」の名は含まれていなかった。そのことに安堵する。
そして、自分たちの名前を見つけたと同時に、ある推測が浮かんだ。
名簿の並びは50音順ではないが、各参加者の名前は、おそらく――知り合い同士を固めて並べてあるような気がする。
野原一家は三人とも苗字が同じなので並んでいてもおかしくはないが、みさえやしんのすけの知っている「ぶりぶりざえもん」がそのすぐ下にあるというのは只の偶然ではないように思えた。
次に、懐中電灯とおもちゃを確かめてみる。この二つには、柄のところに「説明書」と書かれた紙が輪ゴムで括ってあった。取り外して中を読む。
懐中電灯の方は、「スモールライト」という製品名らしい。
なんでも、『使い方は懐中電灯同様。スイッチを入れると発光し、その光を物体に当てると、その物体を小さくできる』とのこと。
手の中で転がしつつためつすがめつするが、見た目は本当にごく普通の懐中電灯である。
文脈からみさえが考えたのは、テレビの通販でよくあるような、アレ――ゲルマニウムやら遠赤外線やらの効果で
脂肪を燃焼させるという謳い文句の、怪しげな痩身器具の類であった。
おもちゃのステッキのほうはこうである。
『レイジングハート:インテリジェントデバイス。
祈願型プログラムによって、基本的な防御・攻撃魔法は願うだけで発動する。
ただ、ジュエルシード封印時などには「呪文」が必要である。この場合「リリカルマジカル」が呪文。
バトン状の杖(デバイスモード)を基本とし、狙撃時には先端が音叉状に変形してシューティングモードとなる。
起動呪文は、
「風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に! レイジングハート、セットアップ!」』
……どうみてもオモチャです。本当にありがとうございました。
殴る棒くらいには使えるだろうとレイジングハートを手に提げたまま、みさえは二度目のため息。
殺し合えと言われたところで、こんなものを渡されてはふざけているとしか思えない。
「……もしかして、ドッキリ企画?」
連れて来られた時、最初に浮かんだその考えをみさえはつぶやく。
「そーよ、絶対そうだわ。だいたい、こんなのどう考えたっておかしいじゃない」
楽観的に、否、楽観したいとの切な思いをこめて、つとめて明るくみさえはもう一度つぶやいた。
言葉の力は大きく、それは麻薬のように作用する。
自分の発した言葉に励まされ、みさえの精神的緊張がわずかに解けた。
ふと、例の「スモールライト」に目が向く。
「これって、私に渡されたってことは……勝手に使っていいのよね……」
懐中電灯を見つめ……周囲に人の目がないのを確かめてから、おもむろに自分の大きく張り出した臀部に光をあててみる。
そのまま1分ほど照射を続けてみたが、目立った効果はない。
すぐに効果のあらわれるものではないとわかっているのだが、何となく失望感。
我に返ると同時に、今の自分が相当に恥ずかしいことをしていたのに気づいて、「なーんちゃって……」とごまかしつつ、
あわててライトをしまおうとする。
が。
何かが、おかしい。
(なに? なんだか、周りが変じゃない?)
きょろきょろと見回し――異変の正体を悟った瞬間、みさえは息を呑んだ。
周りが大きくなっている?
私が縮んでいる!?
「ちょ、ちょっと何これ」
慌てるが、どうにもできない。
周囲は相変わらず静かなまま。木々は静かにさやめき、川は月明かりを反射してせせらいでいる。何も異変はない。
異変が起きているのはみさえ自身。みさえの体が、急激に縮んでゆく。
「なによこれ!? ちょっと嫌ってば、助けて、助けて、あなたーっ!」
みさえの夫を呼ぶ悲痛な声が、深夜の森にこだました。
・
・
・
どうして、こんなことになったんだろ。
みさえは、小山のようなデイパックに寄りかかったまま呆然としていた。
体の縮小が止まった時には、みさえは小さな人形サイズになってしまっていた。
デイパックから取り出されて並んだままのペットボトルやコンパスの間を歩き回る。
どれも、すでに今のみさえには持ち運ぶことすら困難な、無用の長物たちであった。
いまや支給品の中でみさえの使えそうなものは、みさえと一緒に縮んだスモールライトと、手に持っていたおもちゃのステッキのみであった。
みさえが途方にくれていると、不意に茂みのざわつく音が近づいてきた。
誰か来る!
みさえは逃げ場所を探して周囲を見るが、広げられたデイパックの中身を見て思いとどまった。
これを手放してしまっては、特に食料を手放してしまっては、逃げてももっと困るだけではないだろうか?
しがないサラリーマンを夫に持つ主婦の貧乏根性が、みさえにその場を離れることをためらわせた。
そう迷っているうちにも、音は近づいてくる。
窮してさ迷うみさえの目に、格好の隠れ場所が映った――――。
予想通り、茂みを抜けた先には川があった。
川べりの砂利の上には、先程まで誰かいたのか、手付かずのままの支給品がデイパックから取り出されたまま広げられている。
一応確かめてみるが、罠はなさそうである。
おそらく、彼の気配におびえて荷物をほっぽり出して逃げたのであろう。
食料品や水はそのままであり、開封した様子もない。勿体ねえな、と思いながら
あるに越したことはないそれらを拾い上げ、自分のデイパックに移し変えてゆく。
他は何かないかと見る目に、空になってくたれているデイパックが映る。
袋も、いざという時に役立つことの多い品である。それに、まだ何か役に立つものが残されている可能性もある。
彼はデイパックも拾い、その中に手を突っ込んだ。
何かが手に触れる。
掌に収まる小ささで、しかも生物の奇妙な柔らかさを具えた奇妙な感触。しかも暴れる。
これは彼のよく知っている「アレ」に似た…………
「まさかお前、パ……」
イヤな期待とともに手をデイパックから引っこ抜くと、握られていたのはやはり――――
いよいよ進退窮まると腹を決め、みさえは構えた。
(こうなったら、中に入っていたもののフリをして切り抜けるしか……!)
頑強な手にウエストをがっしりつかまれ、引っ張り出されてみればいかつい男とご対面。
機先を制して無骨な益荒男の顔先にレイジングハートを掲げ、かわいらしくヒロインポーズ。
「よ、ようこそおめでとうございまーす!
ワタシを引き当てたあなたはラッキー! 魔法少女リリカルみさリン、あなたのモトにただいま参上☆」
みさえが昔の学生服を着てみた時の夫ひろしと同じ表情が、目の前にあった。
【A-7の山中・川のほとり 1日目 深夜】
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:1/10サイズ化。その他は健康だが、精神的ストレス(ヒステリーに転化される)
[装備]:レイジングハート@リリカルなのは(こちらも1/10サイズ)
[道具]:スモールライト@ドラえもん(電池やや消耗)
[思考]
第一行動方針:家族の安否確認、できれば合流したい
第二行動方針:とりあえず身の安全をはかるため、ガッツについていく
第三行動方針:元のサイズに戻れる方法を知る
基本行動方針:ひろしやしんのすけも心配だが、一人残されているであろうひまわりが心配……(⇒もとの世界に帰る)
【A-7の山中・川のほとり 1日目 深夜】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:心身ともに健康
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
第一行動方針:???
第二行動方針:???
基本行動方針:???
[追記]
・ガッツの出典時期、思考、所持品などは次の方にお任せします。
・スモールライトは普通の乾電池で動いています。
・原作(映画)設定で、効力の持続する時間に限りがあること、もう一度光を浴びれば元の大きさに戻れる「解除光線」の機能を有している事が描写されています。
また、ビッグライトの能力はありません(原作初期版では、スモールライトはビッグライトの効果をも備えていましたが、のちに別々にされたようです)
・威力制限として、縮小限界(元のサイズの1/10まで)を設けてあります。
・みさえは、もう一度光に当たれば元の大きさに戻れることには気づいていません。
失われた時を求めて
彼は、駅前の雑居ビルの3Fにその場所を見つけた。
人影のないカウンターの前を通り過ぎ、左右にたくさんのドアが並んだ廊下に踏み込む。
固いノブを捻ってそうしたドアの1つを押し開けると、そこはソファの並んだ小部屋になっていた。
彼は後ろ手にドアを閉めると、奥のソファに座り込んだ。
右の拳を固めて、テーブルにたたきつける。その上に載せられていた灰皿が衝撃ではねるが、
それだけだった。
彼は痛む拳を解くと、頭を抱えてうずくまった。
いつもの交差点。学校への道。他愛のないおしゃべり。
人々の集められた部屋。仮面の男。爆発音。
無人の街。誰もいないビル。この部屋にただ1人の自分。
永遠に失われた平穏な日々と今。あの惨劇の前後ですべてが変わってしまっていた。
だが、その前に戻るすべがあるのだとしたら……
テーブルにおいてあるリモコンをぼんやりと眺めていた彼の瞳が、決意を帯びたものへと変わる。
それを手にとってボタンを押す。すると、部屋の隅にしつらえられたモニターに光がともった。
彼はその機械を使ったことはなかったが、勘と画面を頼りにリモコンを操作する。
ある儀式の準備を整えるためだ。
彼にとっては本来、その儀式はこんなときに行うべきものではない。
だが、
喪われた友を悼むために。自らを奮い立たせ、前へと進むために。
今は、それが必要なときだった。
一心不乱に画面を見つめる彼は気づかなかった。
きちんとロックできていなかったドアが、内側へと薄く開いていることに。
○
「まったく、これじゃしょうがねーです。」
彼女は、自分の前に立ちふさがるドアを前に、腕組みをしてため息をついた。
ドアノブは彼女が精一杯手を伸ばし、それでもぎりぎり届かない位置にある。
「ギガ……なんだか知らんですが、少しは気を利かせてもっとましな場所に飛ばしやがれです。
どれ、なにを入れたか見てやるです」
そう文句を言ってソファの上のデイパックのところまで戻ると、彼女はその中に手を突っ込んだ。
このゲームが始まってからというもの、彼女はこの部屋に閉じ込められたまま動けずにいた。
人工精霊が呼びかけにこたえない以上、彼女1人で何とかするしかない。
鼻歌を歌いながら中身をまさぐり、当たったものをつかんで勢いよく引き出した。
「じゃじゃ〜ん……!?」
自分の手に握られたものを見て彼女は一驚した。
慌ててテーブルの上にそれをおくと、今度は参加者の名簿を取り出し、一心不乱に目を動かす。
時折見知った名を見かけるがそのまま作業を続け、最後に、1つの名前のところで指が止まった。
「……蒼星石」
呟いて、テーブルの上に目を落とす。
華麗な装飾が施された金色のもち手。剪定を行うためのしっかりとした刃。
それこそ、
戦いの中でローザミスティカを奪われ、ただの人形になってしまった薔薇乙女の第四ドール。
彼女の失われた半身。
ただ1人の双子の妹――蒼星石の持つ庭師の鋏に違いなかった。
それをじっと見つめる彼女の瞳に映っているのは鋏なのか、それともかつての日々の残滓なのか。
しばらくの間そうしてからソファを飛び降りる。
彼女は名簿をしまって鋏をつかむと、この場に立ちふさがる障害――部屋のドアをにらみつけた。
○
モニターに映し出された“それ”を彼はまじまじと見つめた。
“それ”がここに存在することはありえない。少なくとも、彼がそのことを知らないはずがない。
そこまで考えて、彼はかぶりを振って頭の中から疑問を追い出した。
この儀式には“それ”がもっともふさわしい。その事実の前にすべては無意味だったからだ。
彼は震える指でリモコンのスイッチを押した。
すると、画面が切り替わり……室内に、軽妙なイントロが流れだした。
○
「この姉に会うまで無事でいるですよ。蒼星石。」
彼女は庭師の鋏――結局これでドアを開けたらしい――を右手に握り締め、廊下へと一歩踏み出した。
と、突然その表情が緩む。なにやらにやにやしながら誰にともなくしゃべり始めた。
「まあ、そのついでにチビ人間のことも探してやらんことはないです。
あくまで“ついで”ですけど……」
そこまで言ったところで、彼女は前方の一室から何かの曲が流れ出しているのに気づき、
そして、衝撃がきた。
○
♪俺はジャイアン様だ
作詞:剛田武 作曲:剛田武
俺はジャイアン ガキ大将 天下無敵の男だぜ
のび太スネ夫は目じゃないよ 喧嘩スポーツ どんとこい
歌もうまいぜ まかしとけ
「ってどこがですかぁ!! 今すぐその口閉じやがれです!!」
突然、個室のドアが勢いよく開かれた。
突きつけられた指をぽかんと見つめる剛田武――ジャイアンに向かって乱入者――翠星石は叫ぶ。
「これじゃ静かに物思いにもふけられねぇです!!
うなるなら翠星石の迷惑にならない場所でやればいいのです!!」
と、そこまで言って自分のうかつさに気づいたのか、翠星石の表情が凍りついた。
沈黙。
あっけにとられたままのジャイアンと固まったままの翠星石。
カラオケの伴奏だけが響く室内で、互いに見詰め合ったまま動けない。
にらみ合うことしばし。
2回ほどループして曲が終わると、今度こそ本当に静寂が訪れてジャイアンはうつむいた。
視線が外れた隙に、部屋の外へと後ずさりする翠星石を声が追いかけてくる。
「……そうだよなあ。迷惑だよなあ」
ぽつりと呟くと、ジャイアンは面を上げた。その形相が一変している。
「んなろ〜!! 俺様の歌を、馬鹿にしやがって〜!! ぶっ……」
『殺して』
限界だった。
振り上げた拳を力なく下ろすと、ジャイアンはその場にがっくりとひざをついた。
【E-6駅前商店街 1日目 深夜】
【剛田武@作品名】
[状態]:健康だが、しずかの死にかなり動揺
[装備]:カラオケ店備え付けのマイク(店の外では使用不可)
[道具]:支給品一式(まだ中身を確かめていない)
[思考・状況]
第一行動方針:ドラえもん、のび太、スネ夫を探す。
基本行動方針:?
【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:健康。目の前の状況に若干の困惑
[装備]:庭師の鋏(※本来の持ち主である蒼星石以外にとっては単なる鋏)
[道具]:支給品一式(庭師の鋏以外に特殊な道具があるかは不明)
[思考・状況]
第一行動方針:とりあえず、目の前でうずくまっている人間をどうにかする
第二行動方針:蒼星石を捜して鋏をとどける
基本行動方針:蒼星石とともにあることができるよう動く
※本人が本調子でなかったことと防音設備のため、ジャイアンリサイタルは
ビルの外へは“あまり”響いていないようです。
79-87を破棄し、修正版を新たに投下します。
野原みさえは、ひとり川辺にしゃがみこんでいた。
肩で息をし、デイパックを抱きしめながら周囲を警戒する。
(さっきの男は、もう追ってきてないみたいね……)
まだ震えの収まらぬ膝をかかえこみ、みさえは先程のことを思い出していた。
デイパックひとつを与えられ、みさえが放り出されたのはどことも知れぬ山中の寺の境内であった。
木々がさやめき、闇が揺れる真夜中の寺というのは、なかなかに不気味なロケーションである。それが一人ぼっちならなおさらだ。
なんとなくここが春日部市でないことを、みさえは肌で感じていた。
詳しい者なら植物などからもっと詳しく地理を推察できるのだろうが、ごく普通の専業主婦であるみさえに
その知識はない。知識もなく、状況を切り開く力もないみさえが今できるのは、
なぜこんなことになってしまったのかと思い悩むことだけであった。
……そうよ、今日はボーナスの日で、明日はみんなで焼肉を食べようかって話をして……
……それからいつも通り、家族4人で並んで眠ったはずだったのに。
なのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
ひろしやしんのすけはどこに居るのかしら。とにかく見つけなきゃ。でも場所がわからない。
二人も同じで、きっと私がどこにいるかわからなくて、一人ぼっちで不安になっているに違いないわ。
それにしても肌寒いわね。しんのすけがお腹を冷やしてなければいいけど。お腹を壊したら明日の焼肉も食べれなくなっちゃうわよ。
――――明日? 明日ちゃんと帰れるのかしら? 帰れなかったら、ひまわりの面倒は誰がみるの?
ギガゾンビが「殺し合い」だの「願いをかなえる」だの言っていたのを思い出さないでもなかったが、
それをまともにとらえるにはみさえの心には現実のあれこれが染みつきすぎていた。
ゲームに乗るという選択肢は、この場に連れて来られたばかりのみさえには思いもつかないものであった。
――――帰らなきゃ。
何としてでも、帰らなきゃいけない。
ジーパンの尻ポケットに運よく入っていた小銭の中から5円玉をより分け、賽銭箱に放る。
この不安な状況がなんとかなりますようにと願いをこめてみさえは鈴を鳴らし、両手を合わせた。
すると、願いが天に通じたのか――
見るからに恐ろしげな男が寺の横の森から飛び出してきた。
あ、まちがい。
見るからに恐ろしげな得物を携えた男が寺の横の森から飛び出してきた。
男の持っていたそれは、剣の形はしていたが、剣というには馬鹿げた凶器だった。
みさえの息子が描いたラクガキの中にしか出てこないような、人の身の丈以上もある鉄の塊。
いっそチェーンソーや日本刀などのわかりやすい凶器だったら、みさえも「ドッキリでしょ?」と
(引きつりつつ)笑っただろうが、視界に飛び込んできたそれはみさえの抱く「凶器」としての想像を飛び越え、
しかしそれを目にした誰にも、有無を言わさずそれが「凶器」であると知らしめるような、飛びぬけた凶悪さを具えていた。
飛び出してきた相手をそれ以上ろくに確認することもないまま、みさえはあらん限りの声をしぼって悲鳴をあげた。
そしてデイパックを抱いたまま反射的に鬱蒼と茂る森へ走る。
・
・
・
無我夢中で逃げ回って数十分。
相手を撒くことができたのはよかったが、その代償として現在みさえは山中でひとり迷子の身である。
家族を探すにも、まずは自分が迷っていては話にならない。
コンパスか地図でも入っていないかと、とりあえずみさえは抱えっぱなしのデイパックを開いてみた。
はたしてその中にコンパスと地図はあった。周りの地形から推測するに、今みさえは右上隅の区画あたりにいるようである。
デイパックには、他にもいろいろ入っていた。どう考えても中に入っているのは物理的におかしいような中身に首を傾げつつ、
みさえはひとつひとつ細かく確認する。状況もあるが、主婦の性のようなものであった。
とりあえず手当たり次第につかみ出して地面に並べて確認してみると、入っていたのは以下のようなものだった。
・地図
・コンパス
・鉛筆とメモ帳
・飲料水
・食料
・時計
・ランプ
・名簿
・懐中電灯(?)
・女の子向けおもちゃのステッキ(?)
キャンプ用品詰め合わせの中身をそのまま移し変えて放り込んだような最初の7つは置いといて、みさえの目をひいたのは名簿と、
照明器具がすでにあるのになぜか入っている懐中電灯と、あと謎のおもちゃ。
まず、名簿を確認する。名前の横に番号が振ってあって、それが人数確認にもなる。
最後の「平賀=キートン・太一」は80番……全部で80人も自分と同じような状況にいるであろう参加者が存在するという事実に、
みさえはため息をついた。
名前の並びは50音順ではなくばらばらに並んでいて読むのに骨が折れたが、それでも根気よく上から下に読んでいくと
程無くしてみさえは見慣れた3つ……いや4つ、5つの名前を発見した。
「野原しんのすけ」「野原ひろし」「野原みさえ」……「井尻又兵衛由俊」そして「ぶりぶりざえもん」。
(何故しんのすけのラクガキのキャラクターの名前があるのだろう?)
何度も確認しなおしたが、名簿に「野原ひまわり」の名は含まれていなかった。そのことに安堵する。
そして、自分たちの名前を見つけたと同時に、ある推測が浮かんだ。
名簿の並びは50音順ではないが、各参加者の名前は、おそらく――知り合い同士を固めて並べてあるような気がする。
野原一家は三人とも苗字が同じなので並んでいてもおかしくはないが、みさえ一家の知っている「井尻又兵衛由俊」や
「ぶりぶりざえもん」がそのすぐ下にあるというのは只の偶然ではないように思えた。
次に、懐中電灯とおもちゃを確かめてみる。この二つには、柄のところに「説明書」と書かれた紙が輪ゴムで括ってあった。
取り外して中を読む。
懐中電灯の方は、「スモールライト」という製品名らしい。
なんでも、『使い方は懐中電灯同様。スイッチを入れると発光し、その光を物体に当てると、その物体を小さくできる』とのこと。
手の中で転がしつつためつすがめつするが、見た目は本当にごく普通の懐中電灯である。
文脈からみさえが考えたのは、テレビの通販でよくあるような、アレ――ゲルマニウムやら遠赤外線やらの効果で
脂肪を燃焼させるという謳い文句の、怪しげな痩身器具の類であった。
おもちゃのステッキのほうはこうである。
『バルディッシュ:インテリジェントデバイス。
祈願型プログラムによって、基本的な防御・攻撃魔法は願うだけで発動する。
発動すると斧の姿を基本形態(デバイスフォーム)とし、
状況に応じて死神の鎌(サイズフォーム:格闘用)・槍(シーリングフォーム:封印用)に変形する」
……どうみてもオモチャです。本当にありがとうございました。
殴る棒くらいには使えるだろうとバルディッシュを手に提げたまま、みさえは二度目のため息。
殺し合えと言われたところで、こんなものを渡されてはふざけているとしか思えない。
「……もしかして、ドッキリ企画?」
連れて来られた時、最初に浮かんだその考えをみさえはつぶやく。
「そーよ、絶対そうだわ。だいたい、こんなのどう考えたっておかしいじゃない」
楽観的に、否、楽観したいとの切な思いをこめて、つとめて明るくみさえはもう一度つぶやいた。
言葉の力は大きく、それは麻薬のように作用する。
自分の発した言葉に励まされ、みさえの精神的緊張がわずかに解けた。
ふと、例の「スモールライト」に目が向く。
「これって、私に渡されたってことは……勝手に使っていいのよね……」
懐中電灯を見つめ……周囲に人の目がないのを確かめてから、おもむろに自分の大きく張り出した臀部に光をあててみる。
そのまま1分ほど照射を続けてみたが、目立った効果はない。
すぐに効果のあらわれるものではないとわかっているのだが、何となく失望感。
我に返ると同時に、今の自分が相当に恥ずかしいことをしていたのに気づいて、「なーんちゃって……」とごまかしつつ、
あわててライトをしまおうとする。
が。
何かが、おかしい。
(なに? なんだか、周りが変じゃない?)
きょろきょろと見回し――異変の正体を悟った瞬間、みさえは息を呑んだ。
周りが大きくなっている?
私が縮んでいる!?
「ちょ、ちょっと何これ」
慌てるが、どうにもできない。
周囲は相変わらず静かなまま。木々は静かにさやめき、川は月明かりを反射してせせらいでいる。何も異変はない。
異変が起きているのはみさえ自身。みさえの体が、急激に縮んでゆく。
「なによこれ!? ちょっと嫌ってば、助けて、助けて、あなたーっ!」
みさえの夫を呼ぶ悲痛な声が、深夜の森にこだました。
・
・
・
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
みさえは、小山のようなデイパックに寄りかかったまま呆然としていた。
体の縮小が止まった時には、みさえは小さな人形サイズになってしまっていた。
デイパックから取り出されて並んだままのペットボトルやコンパスの間を歩き回る。
どれも、すでに今のみさえには持ち運ぶことすら困難な、無用の長物たちであった。
いまや支給品の中でみさえの使えそうなものは、みさえと一緒に縮んだスモールライトと、手に持っていたおもちゃのステッキのみであった。
みさえが途方にくれていると、不意に茂みのざわつく音が近づいてきた。
誰か来る!
みさえは逃げ場所を探して周囲を見るが、広げられたデイパックの中身を見て思いとどまった。
これを手放してしまっては、特に食料を手放してしまっては、逃げてももっと困るだけではないだろうか?
しがないサラリーマンを夫に持つ主婦の貧乏根性が、みさえにその場を離れることをためらわせた。
そう迷っているうちにも、音は近づいてくる。
窮してさ迷うみさえの目に、格好の隠れ場所が映った――――。
予想通り、茂みを抜けた先には川があった。
川べりの砂利の上には、先程まで誰かいたのか、手付かずのままの支給品がデイパックから取り出されたまま広げられている。
一応確かめてみるが、罠はなさそうである。
おそらく、彼の気配におびえて荷物をほっぽり出して逃げたのであろう。
食料品や水はそのままであり、開封した様子もない。勿体ねえな、と思いながら
あるに越したことはないそれらを拾い上げ、自分のデイパックに移し変えてゆく。
他は何かないかと見る目に、空になってくたれているデイパックが映る。
袋も、いざという時に役立つことの多い品である。それに、まだ何か役に立つものが残されている可能性もある。
彼はデイパックも拾い、その中に手を突っ込んだ。
何かが手に触れる。
掌に収まる小ささで、しかも生物の奇妙な柔らかさを具えた奇妙な感触。しかも暴れる。
イヤな予感とともに手をデイパックから引っこ抜くと、握られていたのはやはり――――
いよいよ進退窮まると腹を決め、みさえは構えた。
(こうなったら、中に入っていたもののフリをして切り抜けるしか……!)
頑強な手にウエストをがっしりつかまれ、引っ張り出されてみればいかつい男とご対面。
機先を制して無骨な益荒男の顔先にバルディッシュを掲げ、かわいらしくヒロインポーズ。
「よ、ようこそおめでとうございまーす!
ワタシを引き当てたあなたはラッキー! 魔法少女リリカルみさリン、あなたのモトにただいま参上☆」
みさえが昔の学生服を着てみせた時の夫ひろしと同じ表情が、目の前にあった。
【A-7の山中・川のほとり 1日目 時間(黎明)】
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:1/10サイズ化。その他は健康だが、精神的ストレス(ヒステリーに転化される)
[装備]:バルディッシュ@リリカルなのは(こちらも1/10サイズ)
[道具]:スモールライト@ドラえもん(電池やや消耗)
[思考]
第一行動方針:家族の安否確認、できれば合流したい
第二行動方針:とりあえず身の安全をはかるため、ガッツについていく
第三行動方針:元のサイズに戻れる方法を知る
基本行動方針:ひろしやしんのすけも心配だが、一人残されているであろうひまわりが心配……(⇒もとの世界に帰る)
【A-7の山中・川のほとり 1日目 時間(黎明)】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:心身ともに健康
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
第一行動方針:???
第二行動方針:???
基本行動方針:???
【A-6・1日目 時間(黎明)】
【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:無傷。平常心。
[装備]:竜殺し@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1.兵(つわもの)と仕合たい。基本的には小者は無視。
[追記]
・ガッツの思考、所持品などは次の方にお任せします。
・最初に飛び出してきてみさえを驚かしたのは、隣接区域(A-6)に居た佐々木小次郎です。
時系列としては、『竜殺し』の話の少し後になります。まだ「深夜」から「黎明」に移ったばかりです。
・スモールライトは普通の乾電池で動いています。
・原作(映画)設定で、効力の持続する時間に限りがあること、もう一度光を浴びれば元の大きさに戻れる「解除光線」の機能を有している事が描写されています。
また、ビッグライトの能力はありません(原作初期版では、スモールライトはビッグライトの効果をも備えていましたが、のちに別々にされたようです)
・威力制限として、縮小限界(元のサイズの1/10まで)を設けてあります。
・みさえは、もう一度光に当たれば元の大きさに戻れることにはまだ気づいていません。
>>90の翠星石の状態表を以下に訂正。
【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:若干頭がくらくら。目の前の状況にちょっと困惑
[装備]:庭師の鋏(※本来の持ち主である蒼星石以外にとっては単なる鋏)
[道具]:支給品一式(庭師の鋏以外に特殊な道具があるかは不明)
[思考・状況]
第一行動方針:とりあえず、目の前でうずくまっている人間をどうにかする
第二行動方針:蒼星石を捜して鋏をとどける
第三行動方針:チビ人間(桜田ジュン)も“ついでに”捜す
基本行動方針:蒼星石とともにあることができるよう動く
「聖杯を求めて契約したはずが、このような場所に呼ばれるとは」
映画館の屋根の上。青いドレスに白銀の鎧を纏った小柄な少女、セイバーは思わず呟いていた。
その表情は、暗い。
彼女の正体は王――伝説に謳われるアーサー王。国を滅ぼしてしまった自分の愚かさを嘆き、
絶望し、自分よりも上手く国を統治できる新たな王に選定の剣を抜かせるため……過去を改竄する
ためにあらゆる願いを叶えることのできる聖杯を求めた。そのために彼女は世界と契約し、色んな
時代、色んな世界への召還に応じている。そのため、聖杯という言葉が欠片も存在しないここに召
還されるのは少々意外ではあった。だが。
「願いが叶うという点では変わりない……
そういう点では、呼ばれるのは当然の出来事かもしれませんが」
そう、いかなる手段であろうと願いが叶うのには違いない。
ならば……過去の改竄を求め、セイバーは戦うしかない。
――もっとも。嫌な気持ちがあるのも確かだ。
この戦争の主催者と話していた子供。それは、明らかにただの子供だった。例え子供であろうと、
戦意があるのならそれは戦士である。だが、あの子供に戦意があるとはとても思えなかった。もし、
この戦争には戦意がない者も大量に紛れ込んでいるとすれば?戦意がない者は戦士ではない……
騎士王の名を冠する彼女としては、そのような相手を殺すことは躊躇わざるを得なかった。
「……それでも、私の行いで民が救えるのなら」
迷いを振り切るかのように、セイバーは剣を握る。
罪ならば既に重ねている。衛宮切嗣をマスターとして挑んだ前回の聖杯戦争。彼は勝つためには
手段を選ばない男だった。もちろん、彼のやり方によって被害は小さく済んだという事も多々ある。
だが、被害を小さくするためでも彼が人を殺していったのも事実だった。当然、そのサーヴァント
であったセイバーの手も既に汚れていよう。だから。
「失われたはずの私の剣よ。騎士道にまた背く私に絶望するかもしれない。
だが……せめて、最後まで共に戦い抜いてくれ。我が民のために」
彼女は、戦うと決めた。
その手にあるのはカリバーン。かつて騎士道に悖る行為をしたアーサー王を見捨てて、折れた剣。
なぜ失われたはずのこの剣があるのかはわからない。だが、ギガゾンビなる男がこの剣をわざわざ
渡した理由はセイバーにはわかった……皮肉だ。王の選定に使われる騎士の象徴たる聖剣で無辜の
人間を殺していく。これ以上の皮肉があろうか。
それでも……そうと分かっていても、セイバーは願いを叶えたかった。
「せめて……戦士でない者が私の前に現れないよう願いましょう」
目を瞑る。それは、ささやかな祈りのようだった。それとも、これから殺していくだろう人々へ
の謝罪か。
もし彼女がある場所、ある時代に召還されてからここに来たのなら、彼女は願いを叶えるために
……やり直しを求めるために戦うことなどないのだ。だが、今の彼女には知る由もない。
鞘を見つけることのできないまま、黄金の聖剣は返り血に染まる。
【B-4映画館・1日目 深夜】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:健康
[装備]:カリバーン
[道具]:支給品一式
[思考・状況] 優勝し、王の選定をやり直させてもらう
「いったいどうなっとるんだ…」
突然妙なところに連れて来られて、妙な仮面の男に殺し合いをしろと言われる。
本当にいったいどうなっているのか。何故自分がこんな目にあうのか。
自分だけならまだいいが、自分の生徒達も同じように連れて来られている。
「……源…」
源静香。優しくて、成績も優秀ないい子だった。
なぜ殺されなくてはいけなかったのか。
仮面の男に対する怒りで気が狂いそうになる。
「…いかんな、落ち着かなければ…」
必死に怒りを堪えながら、今後のことを考える。
「まずはあの子達を捜すか…」
野比のび太、剛田武、骨川スネ夫、
三人とも大切な生徒だ。
突然こんなことに巻き込まれて、怯えているに違いない。
それに、友達を目の前で殺されたショックは、自分よりもあの子達の方が大きいはずだ。
特に野比は危険な状態だった。放っておいたらうかつな行動を起こしかねない。
急いで捜さなくてはいけない。
「先生が行くまで、皆死ぬんじゃないぞ…」
傍に置いてあったデイパックを掴み、立ち上がる。
その時だった。背後に人の気配を感じたのは。
慌てて振り返ると、バットを振り上げた男が目の前に迫っていた。
避ける間もなく頭を殴られ、その場に倒れこんだ。
血が噴出し、意識が遠くなっていく。
(く…骨川…剛田…野比…)
男が再び自分に向かってバットを振り下ろした。
そして、目の前が真っ暗になった。
とうとうやってしまった。
目の前には血まみれの男性が倒れている。
自分が殺したのだ。
「すまねえ…こうするしかなかったんだ…」
言い訳をするように呟くが、罪の意識は消えない。
自分がしたことは、間違いなく最低の行いだ。
「…こうするしかなかったんだ…」
必死に自分に言い聞かせる。
しばらくして、ようやく気分が落ち着いてきた。
なるべく死体を見ないように、男の荷物を回収する。
そして、逃げるようにその場を離れた。
「待ってろよ、しんのすけ…父ちゃんが助けてやるからな…」
【C-3の図書館 一日目 深夜】
【野原ひろし@クレヨンしんちゃん】
[状態]:健康
[装備]:金属バット
[道具]:二人分の荷物一式 ランダムアイテム1〜5個
[思考]:1、しんのすけ以外の参加者を殺す
2、しんのすけを優勝させる
【先生@ドラえもん】
[状態]:死亡
「まーったくついてねぇよなぁ…いきなり連れて来られて殺しあえっつわれてもねぇ」
青年、君島邦彦は頭をかきむしりながら一人呟き、バッグに入っていた奇妙な四角の物体を見つめる。
その四角の物体に刺さっている妙な線の先にある突起から音楽が聞こえてくる。
「本土の人間の趣味ってーのはわかんねぇなぁ」
その四角の物体をガチャガチャと弄繰り回し、溜息をつく。
自分のカバンに入っていたのはこの奇妙な物体一つ、銃はおろか武器になりそうなものは一切入っていない。
まさに今の君島はどうぞ殺してくださいと言わんばかりの格好である。
「駅にはなんかあっかなぁ?」
武器、願わくば銃が欲しいところだが易々とそういうものは置いていないだろう。
せめて武器になりえる物を手に入れるために、目先についた施設へ足を進める。
「カズマァ…どこにいんだよォッ!」
何時のときでも、全てに抗いつづけた最高の相棒は今何処に?
彼は走る、たった一人の男に、救いを求める為に。
「っとまぁ、あっという間に着いたな」
地図に書いてある駅に来てみたが君島本人は電車自体には乗った事が無い。
ただ、車並に早くて多くの人数を運べる乗り物だということだけは記憶している。
上を見上げれば時計とよく分からない数字が羅列された表がぶら下がっている。
「時間になったら電車が来るって感じ、だな」
時刻表を見ると2、6、10、14、18、22のところに30という数字が一つ有るだけ。
電車の行く先は?地図を指でたどっていくと地図の中心部にもう一つ駅があった。
「中心にもーひとつって所か…こんな場所より中心の方が人も居るかもしれないな、かなみちゃんも、そして…カズマも」
然し、電車が来るまでにはまだまだ時間がある。
古ぼけた看板に「←駅長室」と薄くかかれている、なんかしらの武器が有る気がする。
気を引き締めて左のへと向かい、ドアの少し前で足を止める。
誰かが居る、証拠には僅かに聞こえる足音。
その音と足に意識を集中しながらゆっくりと、ドアへと向かい…。
ドアは半開きだったことに気がついていれば、少し変わったのかもしれない。
木が軋む嫌な音と共にゆっくりとドアが開いていく。
「誰ですか?」
ドアの置くから落ち着いた声が聞こえる、どうやら女性のようだ。
闘って勝てるかもしれない、だが自分の武器はほぼ素手。
カズマのように武闘経験があるわけでもないし、相手が女性とは言え武道の熟練者かもしれない。
さぁ君島邦彦、俺が取るべき行動は…!
「オーケイ、俺の降参だ」
荷物を足元に落とし、手を上げて中に入っていく。
「アンタがやる気なら、なんとでもするがいいさ。俺に抗うすべは無いからな」
というのは半分嘘である、もし相手が直接攻撃に移れば、足元にあるデイパックを思い切り蹴り飛ばす。
それが君島邦彦の最終的な考え、逃げる。
「はぁ、そうですか。それならば安心ですわ」
「…は?」
予想だにしない一言に君島は目を丸くする。目の前の少女は瞬く間に警戒を解き笑顔を振り撒いている。
「人を殺すことなんて、したくありませんから」
呆気に取られた君島は両手をぶら下げ目の前の少女を見ている。
「それよりいっしょにお茶にしませんか?私のバッグに入っていたんです。どうですか?」
「は、はぁ。いい、です、けど…」
街でヤクザの肩にぶつかった時に何故か相手のほうから謝られる、正にそんな気分。
予想外中の予想外、1%の考えも持たなかったケースである。
小さな事務机の前に並ぶカップに入った紅茶が二つ。テーブルを挟むように座る両者。
まじまじとカップの中身の紅茶を見つめる君島。
「安心してください、毒なんか入っていませんわ」
「は、はぁ。い、ただきます」
カップを持ち、温かい紅茶を口の中へ流し込んでいく。
ほのかな香りが鼻腔を通り抜け、風味が瞬く間に広がって行く。上物中の上物…だろう。
「ところで、お名前は?」
「ん、ああ。君島、君島邦彦って言うんだ。アンタは?」
「風です、鳳凰寺風。よろしく御願いしますね、君島さん」
目の前の少女、風は常に笑っている。
純粋で、とても透き通った。まるでカズマが帰ってきたかなみのように。
「ところで、どうして俺が襲ってこないってわかったんだい?
ひょっとしたら、さっきのヤツだってハッタリだったかもしれないんだぜ?」
風は顎に手を置き、一寸の間考えた。答えはすぐに笑顔で返ってきた。
「本当に殺しに掛かってくる方でしたら、ドアを開けてしまうなんてミスはしないと思いますし。
バッグを落とすということもしないと思いましたから…大丈夫だと思ったんですわ」
自身のミスが相手の警戒を解いた、思いもしなかったことが起こっていた。
「中に居たのがアンタ本当にで良かったよ。そうだ、ここに着てから俺みたいなちょっと髪の毛の赤い男と、小さな女の子を見なかったかい?」
カズマ、そしてかなみのことを風に聴く
「いえ、気がついたらここに居ましたから。紅茶を入れるためにお湯を沸かしていたのでここからは出ていませんわ」
「アンタ、真っ先に紅茶入れることを考えたのか?」
君島の疑問は勿論、笑顔で帰ってくる。
「ええ、そんなに人が入ってくるわけも無いと思いましたし、バッグの中にこんな素晴らしい紅茶が入っていましたから。
とりあえず落ち着くために作ろうと思ったんですわ」
二度目の驚愕、全く予想できない行動をやってのける。
それが目の前の人物、鳳凰寺風なのだろうか。
「ところで、君島さんは私の知り合いに逢いませんでしたか?
赤い髪で背の小さい光さんと、青くて長い髪の海さんの二人なんですが…」
「いや、ここに来てから人にあったのはアンタが初めてだ、誰にも会ってないな」
そうですか、と少し暗くなった表情を一瞬だけ見せる。
「そうだ、電車に乗ろうぜ!電車に乗ったら歩くよりかは圧倒的に早く中心部にいける!
危険ッちゃあ危険かもしれないけど人は多いと思う!」
地図を机の上に開き中心部を指差す君島。
確かにここから当ても無く歩くよりは確実に人に会えるルートではある。
だが人に会ってもその人間が安全かどうかは分の悪い賭けとなる。
遭遇した人間が知り合いで会っても、例外ではない。
「そうですね、確かに危険ですが。光さんや海さんに会えるかもしれない確率は高いですわ。
ここに居るより、ここから歩くよりかは確実ですし、乗りましょう、電車に」
「ああ、つってもあと一時間以上有るんだよなぁ。
そうだ、ここにある役に立ちそうなものを探せば少し時間は潰れるんじゃねえかな?」
まだそんなに探索していないこの狭い部屋、二人はここを細かく探索し始めた。
「スパナ、包帯、ロープ、コレはバール……か?」
「ですわね、とりあえず武器になりそうなものはその二つですわ」
見つかったものを机に並べ、風はスパナ、君島はバールのようなものを取る。
「もうちょっといい物が欲しかったが、贅沢言ってもしゃーないわな。
っつってもまだ時間あるなぁ…あ、そうだお互い来た場所がなんか違うみたいだし、互いの場所の話をしないか?」
君島の一言から、互いの話は始まる。
君島の世界のこと、カズマや劉鳳、アルター、HOLY、ロストグラウンドのこと。
風の世界のこと、現実世界とエメロード、光と海、自分の武器エスクードのこと。
二人の情報交換と会話は長く続く、電車が来るまで後――――――――――
【F-1の駅 駅長室・1日目 深夜】
【君島邦彦@スクライド】
[状態]:健康
[装備]:バールのようなもの
[道具]:ロープ、iPod(電池満タン、中身は不明、使い方が分からない)
[思考・状況]
1:カズマ、かなみと合流。劉鳳とはできるだけ会いたくない。
2:なんでもいいから銃が欲しい。
【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース】
[状態]:健康
[装備]:スパナ
[道具]:紅茶セット(残り10パック)、猫のきぐるみ、包帯(残り6mぐらい)、時刻表
[思考・状況]
1:自分の武器を取り戻したい
2:光、海と合流
[共通思考]
1:電車がくるまでここ(駅長室)で待機しながら会話、情報交換。
2:電車に乗って中心部へ
3:この場所から脱出
静寂に沈む広大な森の一角で、少年、石田ヤマトは月を見上げていた。
周囲に人気はなく、ただ風が木々を揺り動かす音だけがヤマトの耳に届く。
(……殺し合いか)
先の惨劇が脳裏に浮かぶ。
頭を吹っ飛ばされた男と……自分と同い年くらいの少女。
仮面を被った男の説明。
死んだ少女の友達だったと思われる少年の憎しみに満ちた表情と、『ギガゾンビ』という呼称。
仮面の男―――ギガゾンビが放つ禍々しい殺意と狂気は嫌が応にも今まで戦ってきた人外の敵たちを思い出させる。
「そうだ、タケルは来ていないのか!?」
最愛の弟の事を思い出し、ヤマトはデイパックから黒い表紙の名簿を取り出し、内容を確認する。
「―――よかった、いない……太一がいるな」
あいつはこの状況に置かれてどう行動するだろうか。
ヤマトはそう考え、冷や汗を流す。
「間違いなく……猪突猛進だな」
ギガゾンビに抵抗するであろうことは自分と同じだが、太一には無茶を承知で行動する傾向がある。
と、そう考えてヤマトは思い直す。
(ギガゾンビに抵抗するのか?ガブモンもいない……更にいつの間にかは分からないが首にこんなものを付けられている)
条件を満たすと爆発する、という首輪に手を当てる。
(…………駄目だ。俺は選ばれし子供だ。人の道に外れた事をするわけにはいかない。だが、死にたくもない……)
恐怖と倫理に挟まれ、ヤマトは頭を抱える。
(―――そもそも俺みたいな子供が積極的に殺し合いに参加して生き残れるはずがない。じゃあどうする?)
隠れていようか?
(だがこう森ばかりだと隠れる場所もない……クソッ、何で俺がこんな目に…………?)
苛立ちながらポケットに手をやると、固く冷たい感触がした。
乱暴に取り出した、それは――――――。
「ハーモニカ……」
ハーモニカはヤマトの特技であり、デジタルワールドにも持ち込めた愛着のある道具だ。
(気晴らしに吹いてみようか……いや、駄目だな。周りに人気はないとはいえ、危ない)
ハーモニカをポケットに仕舞いなおすと、手近な岩に腰を下ろす。
(とりあえず……太一を探すか。仲間を放っておくわけにもいかない)
当面の指針を決めると、ヤマトは支給品の確認作業に移った。
「RPG-7……?日本語では『手持ち式対戦車擲弾発射筒』と書かれているが……対戦車……戦争用の武器なのか?」
ヤマトは動作の説明書を読む。
「使い方自体は簡単と書かれているが……本体が小学生の俺に扱える重さじゃないな」
何種類かある弾頭の種類を確認し、スモーク弾を選択して装填する。
「これは切り札だな……一発撃てるかどうかも怪しいが」
RPG-7をデイパックに戻す。
「それにしてもこのバックに手を入れると変な感覚がするな……出したいものを考えたらそれが手に吸い付いてくるみたいだ」
いま仕舞ったRPG-7の重量もさっきまで感じなかったりと不思議だが、次に出てきた物のせいでその疑問は霧散した。
「デジヴァイス……!?」
それは、自分達がデジモンを進化させるのに必要なアイテムだった。
八人分あり、全て同じデザイン、同じ色なので自分のデジヴァイスかどうか判別は出来なかったが。
「みんなの位置を確認してみよう……やっぱり駄目か」
デジヴァイスの機能の一つ、他のデジヴァイスの所在位置を示す機能を使おうとしたが、作動しなかった。
「これは時計の予備くらいにしか使えないな……ガブモンさえいれば……」
三つ目に取り出した物はクロスボウだった。
「これくらいなら使えるか……使わないで済むのが一番いいんだけどな」
クロスボウを脇に置き、残りの道具―――水と食料それぞれ二日分、コンパス、地図、名簿、筆記用具、時計、ランタンを確認。
それが終わって、一息ついた時だった。
「おい、そこのガキ」
「! 誰だ!!」
いきなり男の声が聞こえ、ヤマトは声のしたほうにクロスボウを構えて振り向く。
撃つとしても足を撃って逃げることに徹したい……と思いながら振り向いた彼だったが、そこには予想を遥かに超える相手がいた。
「うおっ、危ないだろガキ!その武器を下ろせ!いや下ろしてください!」
豚。豚が二足で立って紫色のズボンをはき、デイパックを背負って人間の言葉を発している。
「豚が喋った……」
「豚ではない!わたしはぶりぶりざえもんだ!」
ヤマトが少し迷いつつもクロスボウを少し下げ、つい心中を口に出すと、豚は躍起になって言い返してくる。
(なんだコレは……ん?ぶりぶりざえモン?)
「ああ、お前デジモンか?もんざえモンやスカモンの仲間かな?」
「な……ぶりぶりざえもんだと言ってるだろ!貴様わたしをおちょくっているのか!?」
「いや、そういうつもりで言ったんじゃなくて……」
ヤマトは訂正しながらも、目の前の豚が首輪を付けていることに気付く。
「そういえば名簿に目を通した時そんな感じの名前があったな……」
この豚型のデジモンもこの事件の被害者のようだ。
「ハアハア……まあ本題に入ろう。この正義の味方であるわたしがあのギガゾンビとかいう奴を倒してやるから強力な武器があったらくれ」
突然突拍子もないことを言い出すぶりぶりざえもんに、ヤマトはやや驚いて答える。
「ギガゾンビに勝てる自信があるのか?」
「わたしは救いのヒーローだ」
妙に自信たっぷりなぶりぶりざえもんの態度を見て、ヤマトは金色の髪に手をやりながら思案する。
(もしかするとコイツは凄いデジモンなのかもしれないな……見た目がちんちくりんな奴が強いこともあるし……)
「さあどうした、わたしに任せておけば万事解決だぞ?後でこの名簿に乗ってる奴全員から救い賃を貰うがな」
「よし分かった、これをあげよう。その代わり俺と一緒に行動してくれ」
ギガゾンビに勝てるというのは流石に眉唾物だが、とりあえず味方に引き込んでおいて損はなさそうだとヤマトは判断した。
デイパックからRPG-7用の弾頭の一つ、照明弾を取り出し、ぶりぶりざえもんに手渡す。
(これならコイツが俺を騙していた場合の危険は薄いからな)
ぶりぶりざえもんはそんなヤマトの思惑にも気付かず、大喜びでズボンの中に照明弾をしまった。
「よし、お前名前は?」
「石田ヤマトだ」
ぶりぶりざえもんはヤマトの名前を聞きながら岩に腰掛け、デイパックからパンを取り出す。
「ヤマト、とりあえずめしにするか」
「まだここにきて1時間も経ってないぞ!?食料は節約した方が……」
しかしぶりぶりざえもんは既に一本分のパンを食べ終わり二袋目を開けにかかっていた。
「腹が減っては戦はできん」
ヤマトが溜息を付き、再び月を見上げた時だった。
ガサゴソ
……茂みの向こうから何かが寄ってくる音がする。
ヤマトは瞬時に茂みに向けてクロスボウを構え、呼吸を整える。
茂みに意識を集中させ、指をトリガーに番える。
「ぶりぶりざえモン、援護してくれ。……ぶりぶりざえモン?」
小声で伝達するが、ぶりぶりざえもんは返事をしない。
茂みに注意を払いつつ、横目で隣を見る。
「ブー、ブー」
「 !? 」
ぶりぶりざえもんが四つん這いになって、豚の鳴き真似をしていた。
パンも食べさしで放り出している。
ガサガサッ
予想外の光景に唖然としていたヤマトが茂みから目を放していた隙に、茂みから何かが飛び出し、こちらに向かってくる。
あわててクロスボウのトリガーを引くが矢は外れて茂みに消える。標的は思ったより小さい……?
「なんだ、ただのネズミか」
ぶりぶりざえもんがいつのまにか立ち上がり、パンにたかろうとしていたネズミを蹴飛ばして膝についた土を払い、パンを拾う。
「…………」
「何だ怖い顔をして?パンなら分けてやらんぞ」
パンに付いた土を払いながら言うぶりぶりざえもん。
ヤマトは、心の底から照明弾を渡したことを後悔し始めていた。
「いやだからさっきのは演技だ。敵を騙すなら味方からっていうだろう?」
しきりに言い訳するぶりぶりざえもんを意に介さず、ヤマトは地図を眺めていた。
ここはA-8の森のようだ。
「近くにあるのは温泉と山か……迂回して街に行きたいな」
「何故だ?」
ヤマトはぶりぶりざえもんに街に行けば戦いを望まない人が集まっているかもしれない、と説明する。
「まあ逆の奴も集まるかもしれないが……こんな端にいたら禁止エリアで閉じ込められるかもしれないからな」
地図をデイパックに戻し、市街地に向かって歩き始めようとするヤマトを、ぶりぶりざえもんが呼び止める。
「まてヤマト、いいものがある」
「いいもの?」
先ほどのこともあり半信半疑で振り向くと、ぶりぶりざえもんがデイパックからごそりと、トラックを取り出した。
「これに乗っていくぞ」
「……」
ヤマトは軍用の物のように見える迷彩色のトラックと自分のデイパックを交互に眺める。なにかがおかしい。
ぶりぶりざえもんは既に運転席に乗り込み、蹄を動かして『カモン』というような仕草をしている。
「あ、いやちょっと待てぶりぶりざえモン……車なんて使ったら周囲にこっちの位置を……」
「位置を知られる頃には既にそこを通り過ぎている。それでも寄ってくる奴は片っ端から轢いてやればいい」
「よくない!」
抗議しながらもヤマトは助手席に乗り込み、ぶりぶりざえもんに安全運転を心掛けるよう言い聞かせる。
「こんな森の中で安全運転もクソもあるか、ノリの悪い奴め」
文句を言いながらもぶりぶりざえもんはトラックのエンジンをかける。
「よし、発進するぞ!全速前進!レッツラゴー!!!」
「全速はやめろ!」
………………。
トラックは前に進まない。
「……どうした?」
「……後ろ足がな、アクセルに届かん」
ぶりぶりざえもんがヤマトの方を向き、意味ありげな視線を送る。
「俺に運転しろって言うのか?」
ヤマトはそれなら歩こう、と言おうとしたが殺意を持った相手に出会った時は装甲の厚い軍用トラックに乗っていた方が安全な気もした。
「大人への道を一歩駆け上れ、ヤマト!」
「……」
太一、タケル…………。
どうやら俺は、人の道から外れそうだ……。
トラックはゆっくりと、本当にゆっくりと走り出した。
【A-8森 1日目 深夜】
【友情と救済の軍トラズ】
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:運転によるストレス、罪悪感
[装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー、RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)、
デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
[思考]
第一行動方針:安全運転を心がける
第二行動方針:八神太一との合流
第三行動方針:ぶりぶりざえモンはアテにしない
基本行動方針:生き残る
備考:ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:異常なし
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手)
[道具]:支給品一式 (配給品0〜2個:本人は確認済み)パン二つ消費
[思考]
第一行動方針:ヤマトの運転を補助
第二行動方針:強い者に付く
第三行動方針:自己の命を最優先
基本行動方針:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
チーム共通行動指針:山中を避け、市街地に向かう。
「ここはロストグラウンドではないな。更に言うならば、恐らくは世界のどこでもない空間……いわば擬似世界。
雲慶のアルター能力のようなものか」
劉鳳は一人、遊園地のベンチに座って考えていた。周りに人の気配はしないが、それにも関わらずこの場の観
覧車やメリーゴーランドなどといった遊具は楽しげな音楽を鳴らしながら活動し続けていた。まるで目に見えな
い人間が存在して、それらで楽しんでいるかのように。深夜だというのにそれを意に介さずに動き続けている。
今この場においては、それらのきらびやかな光や音楽といった全てが苛立たしい。
「ちっ」
舌打ちをすると、劉鳳は現状を確認することに勤めた。
デイパックに詰められた荷物を見ると、地図やコンパスといった簡単な必需品の他には刀が入っていた。とは
いえ、自分に剣術の心得があるはずもない。まだ幼い頃に軽く教わった覚えがあるが、到底実践レベルには届か
ない。
それにこんなものがなくとも、自分には他に強大な力を持っている。わざわざ武器に頼る必要はない。たとえ
拳銃から狙われたところで、完全自立型のその力は自分を守ってくれる。だが一応この場に刀を放置することは
危険だと判断したため、劉鳳はそれを役に立たないということは承知しつつ持っていくことにした。
「…………」
そして彼は、自分の首につけられている輪にそっと触れた。
あの仮面の男は、どういう仕組みだかは知らないが自分の好きな時にこれを爆発させることができるらしい。
アルターを使うことでこの首輪の物質を消滅させることができないかと先ほど試してみたが、やはりと言おう
か周りの床や柱、看板などは消えたがこの首輪に関しては何の影響も見られなかった。
「結局、ここでも飼い犬というわけか」
思わず自嘲する。
自分は元々いた世界においてはHOLDという警察機関の実行部隊、『HOLY』の隊員だった。そこはレベルの
高いアルター能力者のみで構成されており、そのためかそれ以外のアルター能力者で、ロストグラウンドで無法
行為を働く外道たち……ネイティブアルターと呼ばれる連中からは飼い犬と罵られてきた。
別にそう呼ばれることはかまわない。HOLYを抜けたいと思ったこともない。自分は自分の正義があって、そ
の信念に基づいて行動しているだけだ。だが名目上では、確かに奴らにそう見られても仕方ないところもあると
いうことは自覚している。そしてここ、HOLYという肩書きがほぼ意味を成さないこの場においても、自分を含
めこの世界に閉じ込められた参加者は仮面の男に操られる大勢の飼い犬にすぎないのだ。
「まあいい。ならば俺はその飼い主を噛み殺すだけだ」
たとえどこにいようが関係ない。自分の掲げる『正義』の二文字がある限り、決して迷わない。ああ、迷って
などいられるものか。そしてその正義は、あの仮面の男を『悪』だと認識した。俺は奴を、断罪する。
劉鳳は立ち上がる。
頭に浮かぶのは、最初に仮面の男に立ち向かおうとして命を散らした二人の男と少女。本来ならばあの場では
他の誰でもない自分が出ていくべきだった。そうする他に選択肢はなかったはずだ。だがあの時、自分は愚かに
もまず様子を見るべきだと判断し、前に出て行くのを躊躇ってしまった。その結果、二つの小さな命が消え去る
ことになった……自分への怒りに、吐き気がする。
たしかに判断としてはあれで正しかったのかもしれない。さすがに自分でもここまで至近距離の爆発を防ぐこ
とはできない。あの時何も考えずに奴に刃向かおうとすれば死んでいただろう。そしてああいう行動を取った結
果、自分は今でもこうやって生きている。だから判断は正しかった。
だが、感情が絶対的に納得しない。
「絶影!」
叫ぶ。再び周りの地面や、先ほどまで座っていたベンチが消滅する。そして、それと引き換えにして自分の相
棒とも呼べる存在を地上に出現させる。あの何年も前の忌まわしき時から、いやそれ以前からずっと自分と共に
いた相棒を!
「俺は決して悪を許さん!何が悪で何が正義かわからないというのなら、俺は俺の正義を貫いてみせる!故に仮
面の男、そしてこれからこのゲームとやらに乗るであろう無法者!秩序を破壊し続けるその罪はこの手で必ず償
わせる!」
自分の感情に合わせて完全自立型の相棒が動く。一瞬にして空に舞い上がると、相も変わらず無神経に音楽を
鳴らし続ける遊具を目掛け、神速の攻撃を仕掛ける。全てを切り裂くその刃で。どこまでも伸び続ける、その刃
で。
どごおおおおおんっ!
壮絶な音をたてて、遊園地の一部が破壊されてゆく。ぬるい。この程度では自分の怒りはとても表せない。
崩壊してゆく光景に背を向けると、後ろを振り返りもせずに劉鳳は前に向かって歩き出した。
悪を挫き、弱き者を助ける。それが劉鳳の正義。だがそれとは別にもう一つ、彼にはどうしても為さねばなら
ぬことがあった。自分と同じくこの世界のどこかに飛ばされているであろう宿敵。好敵手とも言えるのかもしれ
ないが、それよりも宿敵という言葉が一番しっくりくる、あの男。
「ここがどこであろうとかまわない。貴様とは、必ず決着をつけてみせる……!」
それは、貴様とて同じことだろう……カズマ!!
【G-5遊園地・1日目 深夜】
【劉鳳@スクライド】
[状態]:健康、『悪』に対する一時的な激昂
[装備]: なし
[道具]:支給品一式、斬鉄剣
[思考・状況]
1:主催者、マーダーなどといった『悪』をこの手で断罪する
2:相手がゲームに乗っていないようなら保護する
3:カズマと決着をつける
4:必ず自分の正義を貫く
[備考]遊園地の観覧車とメリーゴーランド、その周辺は破壊されました
闇。
天は葉に、地は土に、左右は森に、前後は黒に囲まれた闇。
人の不安を否応なく駆り立てる闇の中で、すすり泣く声が聞こえてくる。
「うっく……ひぃ……ふえぇ……」
皿を割ってしまったせいで井戸に投げ落とされ、
死んだ後も皿を数え続けるという無意味な行動を延々と続けているドジッ娘メイドさん型幽霊の如きすすり泣き。
暗闇の中を歩きながら、SOS団公認の正真正銘ドジッ娘メイドである朝比奈みくるは泣き続けていた。
その服装は何故か北高の制服ではなくメイド服。理由はわからない。ギガゾンビの趣味かもしれない。
「ひぐ……な、なんであたし、連れてこられたんですか? こ、ここはどこなんですか?」
虚空に向かって問いかけるも、帰ってくる答えはない。
「黙りなさい」という強気な叱咤も、「やれやれ」とでもいうような呆れながらの説明もない。
「う……うぅ……」
泣き虫メイドさんは遂に、近くの大木に背中を預けて座り込んでしまった。
暗い暗い森の中、デイバック片手に袖を濡らすメイドさん。
どう形容していいのかサッパリわからない。
周囲にはみくるの嗚咽だけが響いていたが、それもやがて終わりを迎えることになった。
「ひぃ」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて目の前の茂みを凝視する。
恐怖をなみなみと湛えた視線の先で、茂みは確かに蠢いていた。
ガサガサ、ガサガサ
「あ……あ……」
緊張が臨界点を突破する。
限界を迎えたみくるの精神が、金切り声を発生させるよう声帯に命令を出す直前、茂みの中から何者かが飛び出した。
ピィーーーーッ
甲高い泣き声が響く。
一羽の小鳥がみくるの肩をかすめ、夜空へと消えていった。
呆然と、小動物の飛翔を見送るみくるの肩から力が抜ける。
「ふう……」
そのときには、みくるの精神は安定を取り戻していた。
突然こんな出来事に巻き込まれてしまったために失っていた平常心が戻ってくる。
そう、彼女に混乱している暇などないのだ。
(とにかく、考えましょう。今確実にわかることは、この殺し合いが相当危険な状態だということです)
落ち着きを取り戻したみくるが思考を巡らせる。
こう見えても未来から派遣されたエージェント。
ドジであったり臆病であったりはしても、むやみやたら、考えなしに動くことはしない。
(まず、未来と連絡が取れません。それに、この時間平面上にこんな出来事はなかったはずです。
……私が下っ端だから教えられていないだけかもしれませんけど……うぅ……と、とにかく!)
ネガティブスパイラルに陥りそうな思考を無理矢理軌道修正する。
(あの仮面の男、「時空刑務所」とか「亜空間破壊装置」とか「タイムパトロール」とか言ってました。
もしかしたら、未来の[禁則事項]かもしれないし、[禁則事項]かもしれません。
あの青いタヌキさんなら事情を知っていそうですけど……キョン君たちと合流するのが先決です)
SOS団の仲間たちや、友人である鶴屋さん。彼らなら間違いなく信用できる。
何故か小泉一樹はいなかった。朝倉涼子ですらいたというのに。
とりあえず今後の方針を決めたみくるは、立ち上がろうと腰をあげた。
その手が、何か柔らかいものに触れる。
何だろうと見ると、それは支給品が入ったデイバックだった。
ろくに中身も見ないまま持ち歩いていたのだ。
(そういえば……武器が入っているとか言ってましたね)
デイバックの中に手を入れると、見た目からは信じられないほど物が入っていた。
地図、コンパス、筆記用具……
そして、みくるの手が一般の支給品以外のものに触れる。
デイバックの中から引きずり出すと、それは水泳帽のような灰色の被り物。
一緒についていた説明書にはこう書いてあった。
『石ころ帽子。被ることで相手から認識されなくなる。ただし、本来の石ころ帽子と異なり制限が加えてある。
装備者が動くことで音が発生した場合、音を消すことができない。そのことで人に気付かれる可能性がある。
その後で注意深く見られたとき、石ころ帽子は効力を失い、装備者は発見されることになる。
見つかってから被っても効果は無効。また、少しでも破れた場合、効力はなくなる』
相手から認識されなくなる道具。
動いてしまったら気付かれてしまうが、じっとしている分には無敵だ。
(でも……)
そのための禁止区域。自分がいる地区が禁止区域に指定された場合、嫌でも動かなければならなくなる。
それに、ずっと隠れているわけにはいかない。やるべきことがあるのだから。
石ころ帽子を被り、次の支給品に手を伸ばす。
二番目に出てきたものは綺麗な装飾が施された如雨露だった。
特に説明書はなく、何の効果があるのかわからない。これは一時保留。
そして、最後に出てきたのは……
「薬箱ですかー。これなら私にも使えそうです」
本音を言えば、みくるは銃器や刀剣類が出てこなくてホッとしていた。
自分に戦いなどできるはずがない。武器に振り回されてしまうのがオチだ。
その点、治療くらいなら自分も役に立てる。みくるにとっては最高クラスの当たり支給品だ。
「それにしても随分と古風な薬箱ですね……ん、これは説明書?」
薬箱を開けると、色とりどりの薬品の中に説明書が入っていた。
『とある薬師の薬箱。ただし、傷薬など治療薬は別のデイバックに支給されており、この中身はそれ以外の薬品である』
説明書の冒頭に不穏な文字が躍っている。
嫌な予感がした。
「えーと、これはワブアブの粉末……ワブアブという虫を乾燥させ粉末にしたもの。筋力を低下させる効果がある……虫ぃ!?
気持ち悪い……ほ、他の薬は!? ひとつくらいまともな薬があるはず……こ、こここのお香は何でしょう?」
粉末薬と一緒に入っているお香を手に取る。
医療品としてのお香は、心を落ち着けるなどの効能があったはずだが……
そんなみくるのささやかな期待は粉々に打ち砕かれた。
「……激しい嘔吐感と気怠さに襲われるネコンの香煙に、燃やすと微かに甘い香りを放ち、激しい幻覚作用を持つ紅皇バチの蜜蝋。
それと外科医術に使われる揮発性の高い液体で、吸った者の意識を一瞬にして奪うケスパゥの香煙……
ってロクな薬ないじゃないですか! 興奮剤や覚醒剤まで! いやあぁーーっ!」
そこまで口に出してから、みくるは慌てて口を閉じた。
途中から、普通に声を出してしまっていることに気付いたからだ。
被っている石ころ帽子では発する音までは防げず、現状で敵に襲われたらひとたまりもない。
息を殺して周りを伺う。
そのまま数十分が経過しても、みくるは動こうとしなかった。
森は静かに佇んでおり、特に異常は感じられない。
しかし、一度気になりだしてしまってからは、森全体が敵意を持って襲ってくるように思えてならなかった。
ザワザワ、ザワザワ
今まで、不気味だとは思っても危険だとは感じなかった森が、全てを溶かし尽くす悪魔の胃袋のように感じられる。
このままでは、喰われる。
肉体的にではない。精神的に喰い尽くされる。
本能的にそう感じたみくるは巨木の根元から立ち上がり、移動しようとした。
そして、一歩を踏み出したそのとき、
今まで背中を預けていた巨木が火の柱と化した。
「――――っっっ!」
言葉にならない悲鳴をあげ、その場にへたり込む。
熱によって繊維が爆ぜる音とともに、巨木がゆっくりと倒れ込んだ。
燃え落ちる炎柱の向こうに、みくるは鬼の姿を見た。
肉食獣のような鋭い眼光。
明らかに人間とは思えない、ヒョウのような耳。
血のような真っ赤な衣服。
そして何より、自分の身長よりも大きい大砲を軽々と持ち上げる、その異常性。
その口が歪み、言葉を形作る。
陽炎の向こうに見える鬼は、こう言っているように見えた。
『 ざ ん ね ん 、 は ず し ま し た わ 』
※ ※ ※
朝比奈みくるは走っていた。
危険から逃れるために。鬼から逃げるために。
危険を皆に伝えるために。鬼から逃げるよう忠告するために。
心の中でSOSを発し続けながらも、皆のために走り続けていた。
炎が燻る地獄から、一目散に逃げてきたのだ。
「ハァ、ハァッ!」
息を切らしながらも、スピードを落とすわけにはいかない。
もしかして今現在も追いかけられているかもしれないのだ。
追いつかれたら殺されるかもしれない。いや、確実に殺されるだろう。
問答無用で大砲を打ち込んできた相手だ。
後ろを振り返る余裕なんてない。
逃げろ。逃げろ。早く逃げろ。
足を動かせ。立ち止まるな。前へ進め。
助けを求めろ。危険を伝えろ。仲間を探せ。
「あの女の人は、危険ですっ……!」
※ ※ ※
「残念、はずしましたわー」
カルラは特に残念がる様子もなく、構えていたハルコンネンを地面に下ろした。
30mm 対化物用「砲」ハルコンネン。
ついさっきまで装填されていて、先程巨木を消し炭にした弾丸は爆裂鉄鋼焼夷弾。残弾5発。
もう一種類の弾丸は劣化ウラン弾。残弾6発。
人間には到底扱えないその砲を、片手で易々と振り回す。
見た目では脅威に感じる光景だが、実際にはカルラはハルコンネンを全く扱いきれていなかった。
「おかしいですわねー。確かに”あの木の三つ隣”を狙ったはずですのに」
いくら力があったところで、固定台座もなしに「砲弾」を相手に命中させることなどできるはずがない。
まして、カルラは大砲など存在しない世界の出身なのだ。
ハルコンネンも、『ヒムカミ(火神)の加護を受けた鉄の筒』くらいにしか認識していない。
「やっぱり術法関係はウルトのほうが適任ですわね。私は太刀を使った戦い方のほうが性に合ってますわ」
説明書通りにやってみて、自分にこの鉄筒はうまく扱えないということがわかった。
試し撃ちも散々な結果に終わり、せいぜい鈍器としてしか使えなさそうだ。
とは言っても、棍棒状の武器は趣味ではないので、太刀が欲しいところである。
自分が握っても壊れないほど丈夫な太刀が。
「さて、そろそろあるじ様と合流しようかしらねー」
カルラは歩き始める。
彼女は殺し合いをする気はなかった。
邪魔する人間を屠る予定はあったが、それ以外の人間とは争うつもりはなかった。
ハルコンネンを使ったのも、ただの試し撃ち。
だから、”誰もいない森の中”を標的として使ったのだ。
ギリヤギナの剣奴は、道端の石ころに気がつかなかった。
弱き者達に目を向けなかったからこそ、ギリヤギナ族の国は滅びたというのに。
【D-7森・1日目 深夜】
【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:恐慌状態、全力疾走による疲労、服はメイド服
[装備]:石ころ帽子(制限により、音を出して、それが他人に聞かれたら効力を失う)
[道具]:支給品一式 、庭師の如雨露、
エルルゥの薬箱(治療系の薬はなし。筋力低下剤、嘔吐感をもたらす香、揮発性幻覚剤、揮発性麻酔薬、興奮剤、覚醒剤など)
[思考・状況] 1.ヒョウ耳の女の人から逃げる。周囲の人に危険を伝える。
2.SOS団メンバー、鶴屋さんとの合流。
3.青ダヌキさんと未来のことについて話し合いたい。
【D-7森・1日目 深夜】
【カルラ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾、残弾6発)(棍棒としてしか使う気はない)
[道具]:支給品一式 、ランダムアイテム残数不明(カルラが扱える武具はありません)
エルルゥの薬箱(治療系の薬はなし。筋力低下剤、嘔吐感をもたらす香、揮発性幻覚剤、揮発性麻酔薬、興奮剤、覚醒剤など)
[思考・状況] 1.ハクオロと合流。他の仲間とも合流したい。
2.邪魔する人間には容赦しない。
修正です
>>123のカルラの道具欄
>エルルゥの薬箱(治療系の薬はなし。筋力低下剤、嘔吐感をもたらす香、揮発性幻覚剤、揮発性麻酔薬、興奮剤、覚醒剤など)
は削除します。
そこは右も左も高い本棚の並ぶ薄暗い広間。その中央の暗がりで、床に座し瞑想している
男が一人。石川五ェ門は図書館の3Fにいた。修行の場より先程の場所に集められ、そして
ここへと飛ばされたのだ。
(己を高める者達同士の戦いならば、いくらでも剣を交えよう。だが個人の快楽の為の
戦いなど断じて許すわけにはいかん。ましてや無抵抗の子供を殺めるなど言語道断!)
クワッと目を開くと五ェ門は立ち上がった。下の階で物音がしたような気がしたのだ。
ギガゾンビと名乗った妖術使いが、何処にいるかは分からない。闇雲に動くの相手の思う
壺だが、ここで手をこまねいている訳にもいかない。こうしている間にも無力な女子供が
命を落としているかもしれないのだから。
1Fまで降りた時、五ェ門は血の匂いに気が付いた。部屋に一角に血塗れの中年男性が
倒れているではないか。慌てて駆け寄り脈を取るが既に事切れていた。床には血文字で
『生徒達を……』と書かれていた。この男は教師だったのだろうか。
五ェ門は部屋のカーテンを引き千切って男の遺体を包むと部屋の端にあるソファーへ移し、
五ェ門は己の修行不足を恥ると共に最期まで生徒を思った教師の冥福を祈った。
(すまぬ。拙者がもう少し早く気が付いていれば……)
現場に争った形跡は無い。後頭部の傷を見ても不意打ち、その後に一方的に殴打だろう。
犯人は既に逃げ去ったか。ならば何処へ向かった? 五ェ門が思案していると木の擦れた
音がした。扉が開いたのだ。部屋の中には誰もいない事は確認していた。だとすれば外から
侵入者に他ならない。殺害犯が戻って来たのだろうか? 五ェ門は侵入者に備えては気を
引き締めると本棚の影に身を隠し手刀を構えた。残念ながら彼には武器として扱える物は
支給されていなかった。デイパックの中にもう一つ鞄が入っており、その中には小さな
螺子巻きと奇妙な筒が二つ入っていただけだったのだ。
「失礼いたします」
(むむ。あの服、いつか国外の屋敷で見た事がある。確か西洋女中といったか)
「お初にお目にかかります。私はラブレス家の使用人、ロベルタと申します」
静かに挨拶をして入ってきたのはロベルタだった。手には火の灯った燭台を掲げている。
眼鏡のせいか表情は見えないが恐らく若い。彼女は五ェ門のいる本棚へ向かって丁寧な
会釈をした。ロベルタに釣られて五ェ門も姿を現して挨拶を返す。不意打ちをするような
卑怯な殺人犯は堂々と挨拶などしないだろう。
「あ、あぁ拙者、石川五ェ門と申す……」
「五ェ門様、でございますか。失礼ながらお聞きしたい事がいくつか―――」
「む、拙者で答えられる事であれば……」
「当家の若様、ガルシア・ラブレス様の行方を、ご存じないでしょうか?」
丁寧な物腰にも五ェ門は構えを崩さず、思考を巡らす。あの男の知り合いだろうか?
だがあの男は純日本人だろう。少なくともガルシアとかいう顔ではない。そうすると
あの場にいた子供ないし青年の一人の事だろうか? 何にせよその名に覚えはなかった。
たしか名簿を貰ったはずだが、暗いのでまだ見ていなかったのだ。
この時、気が付くべきであった。灯りは彼女が持って来た事、五ェ門がいたのは暗い
本棚の影だったという事に。
「申し訳ないが、まだ拙者は誰とも出会ってござらん。力になれず申し訳ない」
嘘だ。しかし無関係かもれない娘にわざわざ惨劇を伝える事に必要はないだろう。
「そう……でございますか。お顔をお上げください。こちらこそ、お時間を取らせて、
申し訳ありませんでした」
ロベルタは深々と御辞儀をすると、部屋の端にある閲覧用のテーブルへ燭台を置いた。
蝋燭の灯りがロベルタの整った顔を照らし上げる。
(なんと可憐な……)
灯りを置くという事は、この場に留まるという事だろう。五ェ門は多少違和感を覚えたが
若様を待つのだろうと勝手な解釈をした。もしかしたら相手は犯人かも知れないが。
「失礼だがロベルタ殿は、ここでどなたか、先程の御仁をここで待たれるのか? 拙者、
この先の病院へと向かおうかと思っていた所。もし宜しければご一緒致しませんか?」
五ェ門の言葉にロベルタは僅かに微笑んで答えた。
「お気遣い感謝いたします。ですが私はここで、人を待たねばなりません。ですから……」
「あ、いや。拙者も絶対病院に行かねばならない、という訳ではござらん。ここよりも
他の者が訪れそうなので向かおうかと思っていただけで。ロベルタ殿が残るというので
あればこの石川五ェ門、微力ながらご一緒させていただく」
「そう……でございますか。お優しいのですね」
「いやいや。こんな所に女性を一人で置いて行くわけには行かぬ訳で……」
五ェ門は半ば強引に居残る事を決めた。弱者を守ると決めた矢先、か弱い女性を置いて
一人で他へ行くのは論外だろう。犯人が戻ってくる可能性もある。石川五ェ門、女に弱い
所はルパン三世と大して変わらない。峰不二子を信用するかしないかの違いだけだ。
「しかし今このような時に本を見に来る者がいるとも思えないのだが。ロベルタ殿は何か
考えがあって人を待たれるのだろうか?」
「ええ、もちろんでございます。本は読むだけの物では、ございません。五ェ門様、これを
御覧ください」
ロベルタの指の先には他と同じような本棚があるだけだった。五ェ門はその本棚へと
近づき調べ始めたが、隠し扉などは見当たらない。丹念に調べてみるが普通の本棚だ。
「ロベルタ殿、一体ここに何が?」
振り向こうとした時、五ェ門の首にロベルタの左腕が後ろから巻きついた。背中に
握り拳大の筒のような物が押し当てられる。それはロベルタの右腕に装着された空気砲と
呼ばれる道具だった。
「ロベルタ殿?!」
「ドカン(ドンッ!)、ドカン(ドンッ!)」
抑揚の無い声で『ドカン』と発する度に衝撃が五ェ門の背中を撃ち抜いた。至近距離で
なおかつ左腕で固定して衝撃を逃がさない。五ェ門が腕を外そうともがくが機械人形か
何かのようにビクともしない。やはりこの娘があの男を殺したのか? しかしこれは殺し
慣れした動きだ。先程の素人の様な手口とはまったく次元が違う。
「御免ッ!」
三度目を言わせる前に渾身の肘打ちをロベルタの腹部に叩き込み、ようやく束縛から
逃れた。飛び交う衝撃を避け本棚の裏へと転がり込むが、五ェ門の口からは血が零れ落ちる。
内臓を傷つけている事は間違いなかった。
「ドカン、五ェ門様、ドカン、どこへお隠れに、ドカン、なりましたか?」
抑揚の無いロベルタの声が近づいてくる。ここは隠れて一か八か、出会い頭の相打ちを
狙うしか道は無いか。だが五ェ門の行動を予想していたかのように、それは起こった。
本棚が五ェ門の隠れている方へとドミノのように倒れたのた。空気砲は五ェ門を狙ったもの
ではなく、本棚を倒す為のものだったのだ。
「ふ、不覚……」
五ェ門は山の様な本に圧し掛かられ、完全に動きを封じられてしまった。辛うじて首と
左腕は自由だが本棚を起す事は出来ない。身動きできない五ェ門の前にロベルタが立った。
「まだご無事でしたか、五ェ門様」
「ロベルタ殿、何故……」
「ここに若様は、居られません。ですから早急に事態を終息させて、若様の元へ参りたい
のです。申し訳ございません。全ての方にご退場を願います」
「……ここに居た男を殺したのも、ロベルタ殿の仕業か?」
「存じませぬ。私が出会ったのは五ェ門が最初ですわ」
ロベルタがチラリと遺体の方を見たような気がした。唐突に五ェ門は理解した。この娘は
自分と同じく、血の匂いを嗅ぎ分けていたのだと。もしかしたら自分が殺害犯と思われて
いたのかも知れないと。
「……無念」
眼前に突きつけられた空気砲を前に、五ェ門は死を覚悟して目を瞑った。したばかりの
約束を果たせぬまま死に行く未熟さを男に詫びながら。だが空気砲は撃たれなかった。
十数秒後、五ェ門が目を開けた時にはロベルタの姿は無く、遠くから一言可憐な声が
聞こえただけだった。それはこう聞こえた。
「では五ェ門様、御機嫌よう」
――――――――――――――――――――――
身動きの取れない五ェ門を放置し、ロベルタは閲覧用の机から燭台を手に取った。
そして近くに転がっている五ェ門のデイパックを手にすると一言、別れの挨拶を告げた。
「では五ェ門様、御機嫌よう」
そう言ってロベルタは崩れた本の山に火の灯った燭台を投げ捨てると立ち去った。
瞬く間に火は炎となり建物全体を覆ってゆくだろう。若干、遅れたが予定通りだ。
外へと出たロベルタは窓の中に見えるまだ小さな炎を見て呟いた。
「後、78人。明るい火に群がる羽虫は何匹でしょうか?」
ロベルタは獲物を待ち伏せる為、闇の中へと姿を消した。
【C-3/図書館の近く/1日目/黎明】
【ロベルタ@BLACK LAGOON】
[状態]:肋骨にヒビ(行動には仕様無し)
[装備]:空気砲@ドラえもん
[道具]:支給品二セット、マッチ一箱、ロウソク2本(燭台は失いました)
ドールの鞄と螺子巻き@ローゼンメイデン(五ェ門の支給品)
糸無し糸電話1ペア@ドラえもん(五ェ門の支給品)
[思考・状況]
1:待ち伏せで人数を減らす。
2:皆殺し(ギガゾンビ含む)にして終了させる
3:帰ってガルシアの捜索を続行する
[備考]:アニメ一期の途中、ラグーン商会を追跡している途中から来ています。
五ェ門の支給品は中身を確認して一つのデイパックにまとめました。
【石川五ェ門】
[状態]:死亡(図書館内)
[備考]:支給品はロベルタに持ち去られました
少年、八神太一は木の陰で息を弾ませ、未だ鼓動の鳴り止まない心臓を胸の上から押さえつけながら、
必死になって今までに起こった事を思い返していた。
大人の男と…自分たちと同じぐらい歳の女の子が死ぬ瞬間が頭にちらつくのを振り払いながら、昨日の記憶に集中させた。
昨日、自分は確かに仲間と共に眠りについたはずだ。
(そう、おれの仲間、”選ばれし子供たち”とそのパートナーデジモン…)
「……! アグモン… アグモンは!?」
何故今まで気が付かなかったのだろう。
おれがデジタルワールドにやって来た時から、ずっとそばにいてくれたデジモン。
時には喧嘩もしたけれど、デビモンやエテモンが襲ってきた時、身を盾にして守ってくれたデジモン。
ちょっとのんびり屋で食いしん坊だけど、熱いココロを持った”パートナー”。
その存在すらもすっかり忘れてしまっていたことに太一は驚きながら、周囲を見回してみた。
が、森の中は不気味すぎるほどに静まり返っており、
黄色のどこか肉食恐竜の子供のような姿をした存在を確認することが出来なかった。
相棒がいないことに言い知れぬ不安を感じた太一は、さらにあることに気付く。
「おれのデジヴァイスが…ない…
それに…タグと紋章、望遠鏡まで」
アグモンを進化させるのに必要な”聖なるデヴァイス”デジヴァイス。
仲間と協力してようやく手に入れたタグと紋章。
そして彼が現実世界から持ってきた唯一の道具、望遠鏡。
その全てが今の彼の手元には無かった。一瞬目の前が真っ暗になる。
そこで足元に置かれた見慣れないデイパックが太一の目に留まる。
もしかしたら…一縷の希望をその中身に懸けてデイパックを開けようとしたその瞬間。
太一は気付いた。
自分の目の前に何かがいることに。
○
ドラえもんは焦燥感に駆られながら森を探索していた。
本来、四次元ポケットがあるべきその腹部には何もついていなかったのだ。
周囲には細心の注意を払いながら、しかし考えてしまうのは自分と同じ世界から来た人たちのことだった。
「くそう… ギガゾンビめ…」
普段は温厚な性格であるはずのドラえもんも、憎々しげに呟いた。
再度自分たちの目の前に立ちはだかった時空犯罪者。
あの時、タイムパトロールが確かに逮捕したはずなのに。
やつは確かに言った。自分たちは生贄なのだ、と。
早く何とかしなければならない。
しかし、あの時ギガゾンビと戦った時だって、タイムパトロールが来てくれなければ危ないところだったのだ。
ひみつ道具があったからこそなんとか戦えたわけで、今の道具が無い状態では何も出来ずに今度こそ殺されてしまうだろう。
そして今回タイムパトロールは期待できないようだ。
何とかするにも、今の自分には何もできない。恐らくそこから来ているだろう、焦燥感。
「ジャイアンにスネ夫、それに先生まで」
ドラえもんは後悔していた。あの日、五人の家出に協力して、彼らを七万年前の日本に連れて行ってしまったことを。
ドラえもんは責任を感じていた。このような事態になってしまった遠因は恐らく自分だろうことを。
責任を償うことはもう出来ない。既に自分のせいで犠牲者が二人も出てしまった。
今出来ることは、せめて一人でも多くの人たちを救うこと。
(もちろん、ジャイアンとスネ夫、先生だって、絶対に)
「…しずかちゃん」
脳裏に浮かぶのは自分のことを「ドラちゃん」と呼ぶ一人の少女だった。
度々お風呂を覗いてしまってその度に怒られたこともあったが、優しく快活な子だった。
しかし…
(もういない。いなくなっちゃったんだ)
仇を討ちたいとも思う。だが頼りの道具は全く無いのだ。
そしてもう一人、何処か頼りない少年の顔が浮かんできた。
初めて出会ったとき、なんて情けない子供なんだろう、と思ったものだ。
遅刻だってしょっちゅうで、廊下に立たされてるし。
0点とってママに怒られてばっかりだし。
怠け者で昼寝ばっかりだし。
ジャイアンやスネ夫に何か言われたりされたりしたからって、いっつもぼくの道具に頼ることばかり。
最初は良いことに使うのに、すぐに悪用しちゃう。
昨日だって、女の子を助けたところまでは良かったのに。
それにこの間だって、おじいさんの荷物を持ってあげていた。
いつだったか、臆病なのにジャイアンに立ち向かっていったことも…
そこでドラえもんは思い出す。
それはある春の日。そこは桜が舞う夜の公園。そこにボロボロになって倒れている少年と青い猫型ロボット。
彼は傷つきながらも気持ちよく送り出そうとしてくれたっけ。
未来へ帰らなきゃいけなくなったぼくに向かって。
ドラえもんは感情の高ぶりを抑えきれなくなって、立ち止まってしまった。
「のび太くん…!」
声は小さく呟く様に、だがはっきりとその口から発せられた。
いつの間にか、ロボットである自分の瞳から一筋の涙が出てきていた。
さっきだってそうだ。
しずかちゃんを助けるためにギガゾンビの前に立ち塞がったじゃないか。
足を震わせ、声まで震わせながら…必死に庇おうとしていたじゃないか。
死なせるわけにはいかない。
(あんなに優しく勇気のあるのび太くんを)
死ぬわけにはいかない。
(死んでしまったら、優しいのび太くんはきっと今と同じぐらいに、いやそれ以上に悲しむ)
そして、今は不安だ。
あんなに感情を剥き出しにするのび太くんははじめて見た。
なんだか嫌な予感がする。
(早く…はやく…見つけてあげなきゃ)
ドラえもんが再び歩みだそうとした時。
一人の少年がこちらを見ていることにようやく気付いた。
驚きの余り、口がパクパクと動いて声が出ない様子だ。
彼はこの少年にこれ以上不安を与えないように挨拶した。
さっきまでの焦燥感も悲しい感情も押し殺して。
それは奇しくも初めてのび太少年と出会った時と同じものであった。
「こんにちは、ぼくドラえもんです」
○
太一は突然現れた青いロボットに驚きはしたものの、向こうから発せられた第一声とその名前に気が抜けてしまった。
初めてデジタルワールドに来てコロモンと会った時となんか似てる、ふとそんなことを考えた太一は微笑みと返事で返した。
「おれ、八神太一。お台場小学校の五年生だ」
二人…というより一人と一体はその場で情報を交換し合う。
このロボット―ドラえモンというらしい―は三人の人間の子供と一人の大人を探しているらしい。
剛田武、骨川スネ夫、野比のび太という子供(偶然にも三人とも太一と同じ五年生であった)とその担任の先生を探して欲しいらしい。
話を聞くと、野比のび太はメガネをかけていて、普段は気弱で何処か頼りないが、心は優しい少年なんだそうだ。
その話を聞けば聞くほど、太一は”選ばれし子供たち”の一人である城戸丈と似ている、と思った。
(そうだ。この世界に来たのはそんなに悪いやつばかりじゃないのかもしれない。
もしかしたら、あんなふざけた格好の言うことなんて誰も聞かないのかもしれない。
だったら殺し合いは起こらない。
だいたいおれ達がデジタルワールドにやって来たときだって、殺し合いなんて事起きなかったじゃないか。
それと同じだ。
いや、凶暴なデジモンたちがいなくて、ただ一人の悪人だけ。
そいつを皆でとっちめてやる。
細かい話はいらない。
それだけの話だ。何だ簡単じゃないか)
(それに…)
太一は、前の日に”選ばれし子供たち”の一人であり、参謀役でもある泉光子郎の言葉を思い出していた。
光子郎は、この世界はデータやプログラムが実体化した世界なんだ、と言っていた。
現実の生身の肉体はまだあのキャンプ場に残されたままかもしれない、とも。
太一にとってそんな説明はほとんど理解できていなかったが、要はテレビゲームのような世界なんだろう、と考えていた。
ゲームオーバーになったらリセットしていつでもやり直しの効く世界、それがデジタルワールドなのだ、と。
(そして…おれにはドラえモンがいる。
光子郎がいないから詳しくは分からないけど、そんなに見た目強そうじゃないから、多分成長期の狸機械型デジモンとか。
成長期だったら強くはないかもしれないけど、進化させることが出来たらきっと戦力になる。
あの変な格好をしたやつを倒すのに役に立ちそうだ。
ただ、デジモンが進化するにはパートナーに危険が及んだ時しか進化が出来ない。
おれのパートナーはアグモンだし。だいたいこいつのパートナーって誰なんだろう)
「おい、お前のパートナーって誰?」
「パートナー?そんなのいないよ」
困ったことになった。探すのであれば何とかなるが、パートナーがいなければ進化できない。
だったら…
「じゃ、ドラえモン。おれがたった今からお前のパートナーになってやるよ」
「う〜ん。言ってる意味が良く分からないんだけど」
「いいからいいから。オッケーしてくれよ。皆を探したいんだろ?協力するからさ。な?」
「そういうことならいいけど…」
太一は安心した。
後はパートナーである自分に自ら危険が及ぶようにすれば良い。
きっと進化して助け出してくれるだろう。
今までもそうだったんだから。
それに万が一死ぬようなことがあっても全然問題ない。
ゲームオーバーになったらリセットすれば良い。
だって、自分たちはデータなんだから。
この時、少年、八神太一は間違いを五つもしていることに全く気付かなかった。
一つ目は、デジタルワールドでの死は現実世界での死と直結している事実だった。
人間のようなかなり膨大で緻密なデータはフィードバックされる時に何らかの影響が出る、これが光子郎の推測であった。
しかし、その捕らえ方をテレビゲームに置き換えた太一には理解できなかったらしい。
二つ目は、そもそもここがデジタルワールドではないことだ。
今まで元のデジタルワールドに戻るために、デジタルワールドで悪のデジモンたちと戦ってきたのに、
まさかこんなにもあっさりと現実の世界に戻ってこれるとは思いもしなかっただろう。
三つ目は、その現実の世界が殺し合いの場である、という認識の甘さにある。
確かに、”選ばれし子供たち”の七人は突然始まったサバイバルにもしっかりと順応してこれまでやってこれた。
だが、この場は違う。既にゲームが始まる前に既に二名の死者が出ているのだ。そしてその数は現に増えているだろう。
人が死ぬことによって、残されたものたちには感情が生まれる。
驚愕、失意、悲哀、絶望、悲憤、復讐、そして殺意。
そしてまた一人の犠牲者を生む。
残されたものの殺意、そして犠牲者。
殺し合いのサイクルから逃れる術は無い。
最も、まだ小学五年生である八神太一には理解できないことだったかもしれないが。
四つ目は、ドラえモンと会話することで落ち着きを取り戻すどころか安心しきった太一が、
今デジヴァイスを持っていないことを忘れてしまっていることである。
デジヴァイスが無くては、デジモンが進化することは無いのである。
従って太一のピンチにドラえモンが進化して、
メタルドラえモンにも、インペリアルドラえモンにも進化することは例えどう転んでもないのだ。
五つ目は、そもそも”ドラえもん”がデジモンではないという根本的な勘違いにある。
ドラえもんは成長期の狸機械型のデジモンではなく、2112年からやってきた猫型ロボット。
ドラえもんという存在の全てをそもそも間違っていたのだ。
太一が今までに冒険してきた世界と、こちらへ来て出会った初めての相手が”ドラえもん”という名前。
これらが結びついて、太一が勘違いしてしまうのも仕方が無いことだったのかもしれない。
太一は、殺し合いの場には似つかわしくないほどの落ち着きで、リストをパラパラとめくりながら、
(なんだよ。ここに来てるのヤマトだけか。
ここに光子郎がいたらいろいろ分かったのに)
心の中で勝手に文句を言っていた。
しかし太一は思いもよらないだろう。
自分と同じ世界から来た仲間の石田ヤマトさえも、今まさに自分とほとんど同じ間違いをしていることに。
そして太一自身は、それ以上の間違いをしてしまっていることに。
○
「この中だとおれの仲間はこいつだけだ。石田ヤマト。おれと同い年」
自分の話が終わった後、今度は太一くんの方から自分の仲間のことを話してくれた。
最初に声をかけた時はさすがに警戒されるかと思ったが、名前を聞くなり微笑んだ太一くんを見て安心した。
ここへ飛ばされてきて、初めて出会った男の子、八神太一くん。
偶然にもこの男の子とのび太くんたちが同い年であることを知って、親近感を感じた。
(太一くんとのび太くんはどこか似てる。
のび太くんと同じぐらいに勇気がありそうだ)
多少親バカな面を垣間見せつつも、太一を信頼することにしたようだ。
ぼくはギガゾンビについても少し話すことにした。
太一くんはあの最初の部屋にいたはずで隠してもムダだと思ったから、
ある程度―今回の事件の遠因がぼくにあるかもしれない事―は伏せて話したんだけど。
時空犯罪者、タイムパトロール、という恐らく聞き慣れない言葉に対しても、どこか余裕、というより関心があまりないようだった。
例えるなら…まるで太一くんがゲームの中の会話をボタンを連打して飛ばしているかのような…そんな感じがした。
「そういや、支給品があるとか言ってたから確認しようとしてたんだった」
太一くんがそんなことを言いだし、デイパックを漁り始めた。
ぼくもすっかりと忘れていた、しかしそれでもしっかりとここまで担ぎ上げてきた自分のデイパック。
(この中に、ぼくのひみつ道具さえあれば…)
欲を言えばきりが無いが、この状況ではどんなひみつ道具が出ても素直に喜べそうな気がした。
最初に出てきたのは、一枚のCDだった。
"THE DAY OF SAGITTARIUS V"とある。ゲームCDのようだ。
まぁ、投げることも出来なくはないがハズレの部類に入るだろう。
次に出てきたのは――手榴弾だった。
これには説明書きがある。
「クララが自決する際に使ったものと同じもの」とある。
クララが誰なのかは知らないが、コレは当たりなんじゃないだろうか。
ただ一個しかないのが心許ないが。
まだあるかと他を探ってみるが、使い親しんだ四次元ポケットの中とよく似た、デイパックの中の空間には何も残されていなかった。
どうやらこの二つが自分の支給品らしい。結局頼りにしていたひみつ道具はひとつも無かった。
ふと太一くんのほうを見てみると、太一くんの方もまだ当たり武器が来ないらしい。
異次元に通じているので使いにくいのか、必死になって道具を取り出そうとしている。
そのそばには、最初に出てきたと思われるヘルメットが落ちてあった。
「お。なんかあった。手応えあり」
そう言ってどこか嬉しそうにそれを引き出した太一くん。
出てきたのは――ミサイル?
いや、よく見てみるとあれは…
ぼくのひみつ道具!
「 み せ か け ミ サ イ ル 〜 」
「みせかけミサイル?なんだよ、それ?」
いつもの癖が出てしまったのか、いきなり大声をあげてしまったドラえもんに驚きながら太一は聞き返した。
「簡単だよ。ただのみせかけのミサイルなんだ。
発射もしないし爆発もしない」
「ちぇっ、なんだよ、ハズレじゃんか」
ぼくがしたのと全く同じ説明があったらしい付属の注意書きを見ながら、少し悔しそうに言った。
ぼくだって悔しい、もっとたくさんのひみつ道具があるはずなのに。
太一くんは他にもないか探しているけど、もう他には出てこないようだ。
結局武器らしい武器は手榴弾が一個。防具はヘルメット。まぁミサイルも脅しにはなるかもしれないけど…
急にこれからのことに不安になってきたぼくに向かって太一くんは底抜けて明るく言い放った。
「はやくみんなを探さないとな。とりあえずこっからなら駅が近いみたいだ。行ってみようぜ。
大丈夫だって。いざってときはおれが身代わりになればいいんだから」
この状況でさらりとこんなことを言ってのける太一くん。
頼もしい言葉に驚きながらもぼくは頷いた。
(そうだ。ぼくがさがしてあげなきゃ。
みんなを。そしてのび太くんを。)
既に太一くんは周囲を気にすることも無く、そしてヘルメットを付けることなくずんずんと歩き出していた。
心の不安は未だ晴れない。
でも前へ進もう。
この先で待ってる人がいるはずだから。
○
そう。それが一人の子供と一体のロボットにとっての
とても長く、とても短い、一日目の始まりだった。
【E-1 森林・1日目 深夜】
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:健康 若干の不安
[装備]:手榴弾@BLOOD+ (普段はデイパックにいれています)
[道具]:"THE DAY OF SAGITTARIUS V"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱
支給品一式
[思考・状況]1、ヤマトを含む仲間との合流(特にのび太)
2、ひみつ道具を集めてしずかの仇、ギガゾンビをなんとかする
【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:健康 投げやりな気持ち
[装備]:なし
[道具]:みせかけミサイル@ドラえもん
ヘルメット(殺し合いが起きないという自信の表れでつけていません)
支給品一式
[思考・状況]1、危険な目に遭ってドラえモンを進化させたい
2、ヤマトたちと合流
[備考] 八神太一の参戦時期はエテモン編のナノモンに会いにいく直前(第19話の中盤)となっています
(注意)太一の間違いは主に三つ
1、ドラえもんをデジモンと勘違いしています
2、この世界をやり直しの効く世界だと思っています
3、殺し合いなんて起こらないと思っています
[共通思考] 駅へ向かう
開始早々、ルイズは朝倉涼子に襲われた。
「――きぃゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
本当に、開始早々。すぐに。時間に直すと、ゲームがスタートして五分と四十四秒しか経っていない。
今、自分が立っている地点、、辺りの光景、荷物をざっと眺め、その時点で約五分。
まだ行動方針の「こ」の字も決めていない、どうしようかと思案もし出していない内に、ルイズはセーラー服を着た女子高生に襲われたのだ。
「破損したデータがなんの前兆もなく唐突に修復することってあると思う? それも不完全な形で。
他の統合情報思念体とコタンタクトが取れないのも、こんなゲームが行われることになったのも、私がここにいるのも。
全ては何者かが仕組んだ、重要な意味を持つことだと思うの。もちろんそれは、あの主催者を名乗っていた怪物じゃなくて、もっと大きな存在。
分かりやすく言うと神様みたいな、そういう絶対的な存在。涼宮ハルヒが参加していることが、何よりの証明だと思うのよね」
出合って、追われて、逃げて、ルイズは薄暗い林の中まで迷い込み、そして、
(なに言ってるのコイツ――――ワケワカンナイワケワカンナイワケワカンナイ)
今、追い詰められていた。
「い……や……嫌ぁ……助けて……たすけて……」
「それ無理。理由はまだ分からないし、いくつか捻り出したパターンはどれも空想の域を出ないけれど、やっぱり私がここにいるのには何か意味があると思うの。
殺し合いのゲームの中に、わざわざ消去された存在が呼び出された。何をしろって言ったら、やっぱり殺し合いだと思うのよね」
ワケワカンナイワケワカンナイワケワカンナイ。
言語は理解できるのに、その内容がまったく理解できない。
ここは何処なのか、この女は何者なのか、どうして死にそうな目を体験しているというのか、
「このゲームに涼宮ハルヒが関わっている可能性は、間違いなくゼロじゃない。だから私は、言われたとおり他の参加者を殺して涼宮ハルヒの出方を見る」
淡々と一人会話を進める朝倉の笑顔は、とても自然で楽しそうな……この「人を襲う境遇」を、楽しんでいる。そう思えるような笑顔。
涼宮ハルヒって誰? あなたは誰? そもそもアレはなんだったの? いきなり首が破裂して、え? え ?え?
混乱が収まらないルイズは、朝倉の不気味な佇まいに恐怖するばかりだった。
走って、走って、また走って。まるで猫に追いかけられる鼠の気持ちだった。
こんな屈辱、絶対に許せない。普段のルイズだったら、怒り狂って乱心するところだろう。
しかしそれが叶わないほどに、朝倉涼子は異常だった。
ちなみに、朝倉涼子が削除されたはずの自身の状況に気づき、このゲームの趣旨と考えられる主催者の目的と自分がいる意味を分析し、
支給物の確認、近辺の確認、これからの行動方針を思案し決断、真っ先に見つけたルイズを襲うまでに掛けた時間は――約五分。
ルイズが受け入れられない現実に混乱しているその五分で、朝倉涼子はこの殺人ゲームを「受け入れた」のだった。
(才人……さいと……サイト……)
逃げ続ける最中、ルイズの心中ではある平民の使い魔の名がひたすらにリピートされていた。
そのことに気づく余裕もないルイズは、不注意にも転がっていた石に躓き、転倒した。
普段なら、きっといつも傍にいるバカ犬が「ドジだなぁ」なんて言って笑い飛ばすのだろう。
だがそんな現実はとうに消失した。
この場には追う者――朝倉涼子と、逃げる者――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの二人しかいない。
暗い林の中で、二人ぼっち。
「あ……」
転んで起き上がろうとしたその動作の途中、頭上には既に朝倉涼子が立っていて。
ルイズは、絶望した。
「じゃあ、死んで」
ニッコリ。
微笑む朝倉の手には、刃が片方にしか付いていない刀剣(ルイズは日本刀というものを知らない)が握られ、その輝く切っ先をルイズに突きつける。
これが刺されば、死ぬ。この女は、間違いなくそれを実行する。
死んだら、終わりだ。それだけは嫌だ。こんなところで終わりたくない。
だがいったい自分に何が出来る。逃走? 逃亡? 撤退? 退却?
――駄目だ、「抵抗」という概念が頭から抹消されつつある。
本能では、既に死を受け入れ始めているのか。
「いや……才人……」
その名を、呼ぶ。
才人は、現れない。
「いや……いや、嫌、いや――」
「死ぬのっていや? 殺されたくない? わたしには有機生命体の死の概念がよく理解できないんだけど」
――――ルイズは、絶望した。
「いやぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! たすけて、サイトぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
絶叫して、呼ぶ。
それなのに、使い魔は現れてくれない。
死を、覚悟した。
目を強く閉じて、襲い来る痛みに耐えようとする。
そしたら、
「やっぱり、やめた」
その言葉を耳にして、そっと目を開ける。
眼前にあった刃は、いつの間にか下げられていた。
「わたしが他の参加者を片っ端から殺していくって選択は正解だと思うし、いずれ涼宮ハルヒがなんらかのリアクションを起こすのは間違いないと確信しているの。
でもそれだけじゃ地道すぎっていうか、キョン君を殺す、っていう爆発的な反応は望めないと思うし、何よりこの世界って、わたしの能力がほとんど使えないのよね。
それはもちろん長門さんも同じだと思うけど、あの人が涼宮ハルヒや朝比奈みくる、キョン君の防衛に回ることは目に見えてる。
だとしたら、実力行使っていう手段はあんまり効率的じゃないと思う。確実性も薄いしね。だから、使える手段は多いに越したことはない」
相変わらず、何を言っているのか分からない。
でも、下げられた刃にはきっと、交戦回避の意味があるはずだ。
つまり、ルイズはもう殺さないと。
それだけは理解できた、「つもり」だった。
「……見逃して……助けて、くれるの?」
「うん、それ無理♪」
その時だった。
安心という「錯覚」をしてしまったルイズは僅かに口元を緩ませ、すぐに絶望の顔を作り直す。
朝倉涼子は空いた方の腕を伸ばし、一瞬でルイズの首を絞めかかったのだ。
「がっ……」
嗚咽を漏らすルイズ。また、混乱がやってくる。
朝倉涼子は、とても女子高生とは思えない腕力でルイズの首を掴み、片手でひょいっと持ち上げてみせる。
ルイズが歳不相応に小さすぎる、というのもあるかもしれない。いや、それにしても。
やはり朝倉涼子――この存在、危険すぎる。
「あなたの命、っていうより命運って言った方がいいかな? はここでもらう。でも、すぐには殺さない。
あなたには、私の手助けをしてもらいたいの。影ながらね。八十人っていう人数はやっぱり多いと思うし、私の能力も不完全だし。
だからあなたは、わたしのサポートのためにたくさんの人を殺して。約束してくれれば、ここでは殺さないであげる。
あ、でもキョン君と涼宮ハルヒ、朝比奈みくると一応鶴屋さんって人は、勝手に殺しちゃ駄目よ。
長門さんはあなたには無理だろうけど、厄介だから始末できたらして欲しいな。でもやっぱり無理かな。うん、無理。
まぁ一人でも二人でもいいから、できるだけ人数を減らしてね。ちょっとでも負担が軽くなればいいから。
そういえばあなた、人を殺したことはある? ないよね? でも大丈夫、これあげるから、役立てて。
日本刀にしては軽いし、切れ味だけはいいから。たぶんあなたでも簡単に人が殺せる。どう、この条件のむ?」
苦しみながら、必死に理解しようとした。
つまりこの女は、「他の参加者全員を殺すのは大変だから、人数減らすの手伝って」と要求しているのだ。
もちろん、ルイズに人殺しの意思など皆無。だが、もし承諾することで命が助かるというのであれば……たとえ偽りの返事でも。
「わ……か、った。やく……そく、する」
声を搾り出して、ルイズはやっと朝倉涼子の腕から解放された。
地に落とされ、咳き込む。その足元には日本刀なる武器が放られ、朝倉涼子は満面の笑みを作った。
「ありがとう。あなた運がいいわよ。あなたがたまたま一人目だったから、こういう手段を取ったにすぎないし。
協力者はそんなに多くはいらないし、足元を掬われる可能性がゼロとも言い切れないから。
実際、あの時わたしは長門さんを甘く見たせいで痛い目を見たんだから」
朝倉涼子が、また意味不明なことを喋る。
良かった。とりあえず、この場は凌げた。
始まって早々、とんだ不運に出合ったものだったが……この時ばかりは、本当に幸運を感じていた。
そう、この時ばかりは。
「でもね……もし、私との約束を破ったら……」
朝倉涼子が、ルイズの小さな左手に手を伸ばす。
ルイズは、それがなにを意味するのか理解できなかった。
朝倉涼子が、ルイズの小さな左手の中指に手を伸ばす。
ルイズは、それがなにを意味するのか理解できなかった。
朝倉涼子が、ルイズの小さな左手の中指の爪に手を伸ばす。
ルイズは、それがなにを意味するのか理解できなかった。
朝倉涼子が、ルイズの小さな左手の中指の爪を引き剥がす。
ルイズは、痛みと共に理解した。
ああ、なんだ。
やっぱりこの女、「異常」なんだ――
「――――ぎぃぃやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
爪を引き剥がされ――「毟り取られた」、という表現の方が適切かもしれない――ルイズ、痛みのあまりその場を転げまわる。
左の中指を見る。爪がない! それになんだか紅い! ヤバイ! これ絶対イタイ!
「痛い!……イタイ…………いたいよぉ……」
痛痛痛痛痛、ただひたすらに痛。
涙ぐみ、叫んで、それでも痛みの苦痛には打ち勝てなかった。
そんなルイズの状態を楽しそうに見守る朝倉涼子は、やはり笑顔。
「いい? この痛みをようく覚えておいて。もし約束を破って、あなたが人殺しをしていなかったとしたら……わたしが、すぐに飛んできてあなたを殺すから」
それは、遠まわしだが死刑宣告と同意のものだった。
殺されこそしないものの、朝倉涼子は確かに、ルイズの「命」を奪い取ったのだ。
「じゃあね。わたしはわたしでゲームを続けるから、あなたはあなたで頑張って」
それだけ言い残し、静かに去っていく。
その背中を恨めしく見つめながら、ルイズは、ただただ怯えていた。
『約束破ったら……嫌だよ?』
去り際、そんな空耳が聞こえてくるようだった。
◇ ◇ ◇
「さてと、これから何処へ行こうかな」
ルイズと別れた朝倉涼子は、次なる標的を探し、他地区への進行を開始していた。
日本刀はルイズに譲ったものの、支給された武器はまだ残っている。
四次元デイパックの中には、かなり旧式な作りだがしっかりしている弓矢が一組。
そしてさらにもう一つ、ある意味では因縁ともいえるアイテムが一つ、入っていた。
「これ見たら、キョン君はなんて反応をするかな?」
悪戯をする子供のように、無垢に笑って見せる朝倉涼子。
その見た目の美貌は、多くの参加者を騙し、恐怖に陥れるに違いない。
あの、ルイズのように。
「とりあえず、やっぱり最終的な獲物はキョン君よね。彼が死ねば、涼宮ハルヒは必ずなんらかのアクションを起こす。この世界にも、きっとなんらかの変化が訪れるはず」
その結果、自分がどうなるか、という心配は微塵もない。
朝倉涼子にとって、涼宮ハルヒという存在が世界にどう影響与えるか……それを観察することに意味があるのだ。
例えここで死んだとしても、それは所詮、自分が長門有希のバックアップに過ぎなかったということ。
だが、せっかく廻ってきたチャンス。
「どうせなら、ものにしたいよね♪」
キョンを殺して、涼宮ハルヒの出方を見る。
スキップを刻みながら進む朝倉の右腕には、『団長』と書かれた腕章が付けられていた。
◇ ◇ ◇
種を、植え付けられた。
開花すれば、人殺しになってしまう危険な種。
恐怖という、厄介な種を。
(大丈夫……このまま逃げちゃえば、あの女には分からない。分かりっこないんだ)
ルイズが本当に人を殺すかどうか、朝倉涼子にその判別の方法はない。
なのに。
爪を剥がされた左中指が、無性に痛む。
『約束』
――ゾッ、とした。
何かに取り付かれたように、周囲を確認する。
朝倉涼子の影はない。
ホッと安心したのも束の間、中指の痛みは治まらなくて。
まるで、終始朝倉涼子に、見張られているような――そんな気がしてならなかった。
「……才人」
使い魔の名を呼んでも、もはや何の意味もなかった。
『約束破ったら……嫌だよ?』
ルイズは、恐怖に支配されつつあった。
かといって、すぐには狂気を宿すことも出来ない。
後で確認した名簿の中に、平賀才人の名があったからなおさらだ。
その上、支給された道具の数々はどれも役にたたなそうなものばかり。
『水を貯え勢いよく発射する、銃に見せかけた子供のおもちゃ』
『誰でも簡単に穴を掘ることが出来る手袋』
『みくるちゃん専用のコスプレ衣装!』
……ふざけているのだろうか。これで殺し合いをしろという方が、どうかしている。
ギガゾンビに対して文句を言いたくなったが、生憎ルイズの脳はそれほどまでに活性化していない。
蟠りのように佇んでいるのは、朝倉涼子への恐怖一色。
ルイズは恐れ、未だ決断できずにいた。
「約束破ったら……嫌だよ?」
「もし、約束を破ったら」
「すぐ。殺しにいくから」
【G-1/林/1日目/深夜】
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:弓矢(矢の残数10本)@うたわるもの、SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:荷物一式
[思考・状況]1、出合った参加者は躊躇なく殺していく。
2、キョンを殺して涼宮ハルヒの出方を見る。
3、人数を減らしていく上で、世界と涼宮ハルヒにどんな変化が起こるかを観察する。
4、3を実行するため、涼宮ハルヒの居場所だけでも特定したい。
【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:恐怖による錯乱状態、左手中指の爪が剥がれている
[装備]:トウカの日本刀@うたわれるもの
[道具]:荷物一式、水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、もぐらてぶくろ@ドラえもん、バニーガールスーツ@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]1、朝倉涼子から逃げるか、朝倉涼子との約束に従い人を殺すか、決断する。
2、朝倉涼子に対する恐怖。
3、才人に逢いたい……。
[備考]バニーガールスーツはみくる専用のものなので、ルイズではサイズが合わない(特に胸の部分が)
―――要は勝てばいい。
あまりにも単純明快で、至極簡単な結論をカズマは即座に弾き出した。
仮面の男に言われるまでもない。歩む道を妨げる輩は問答無用で殴り飛ばせばいいだけの話だ。
今までだって本能に従って好き勝手に生きてきた。これからだって変わりはしない。
違いなど、舞台が何処であるかという一言に尽きる。
明らかな人外がタイムパトロールだの意味深な言動を吐き散らしていたことも。得意気な愉悦を含ませた男がバトルロワイヤルなどと口を開いていたことも。
総じて知ったことではない。
邪魔立てする奴は殴る。気に喰わない奴も殴る。
自身の生き様に、無粋にも横槍を入れた仮面の男も特に力を入れてボコる算段だ。
まったくもって思考するにも馬鹿馬鹿しい最もな帰結。
カズマは気分を害したように地面を蹴る。
「―――ちっ、くだらねェ……」
そんな我の道を突き進むカズマだが、実のところ彼は一度も参加者名簿に目を通してはいない。
因縁の相手が同じく参加していることや、死人が参加していることすらも彼は気が付いてさえいないのだ。
カズマにとって人物を特定する参加者名簿など目を通す価値さえなく、それこそ時間の無駄ともいえる行為である。
例外なく殴るのだ。選別などまったく必要のないことだ。
唾を地へと吐きかけて、右腕を庇いながらカズマは歩き出す。
現在地は商店が連なるモール街。照明は例外なく落とされており、漆黒の帳の中を足跡だけが木霊させた。
カツカツと安定した音を踏み鳴らしながら、彼は不気味に沈みかえる商店街を幽鬼のように闊歩する。
開いた左目で辺りを見渡した限り、立ち並ぶ店舗は新築同然で生活臭が皆無であった。
どうやら殺し合いをさせるためだけに用意した、気前のいいステージのようだ。
存在するのは参加者のみ。つまり、好き勝手暴れても文句は無いと言うことか。
普段から街中で暴れまわっているカズマからしたら別に関係などないが、それでも自由気ままに振舞えるとあっては心も躍るというものだ。
だが、幾多の苛立ちを促す要因として、支給品の内容も挙げられる。
「で? あの仮面のクソは、こんなワケわかんねぇ機械で殺し合いをさせるつもりだったのかよ」
カズマは自身に支給された品を、顔を顰めながら手の中でぞんざいに転がす。
それは写真や映像を記録するカメラ装置と、簡易な携帯電話。機械に疎く、使用方法を知りえぬカズマにとっては双方ともゴミ以外の何物でもない。
正に猫に小判と豚に真珠。宝の持ち腐れだ。
勢いに任せて地面に叩き付ける衝動を何とか押し留め、乱暴にポケットへと放り込む。
いざとなったら投擲という攻撃手段に摩り替わるべく、今は保持するのもやぶさかではなかった。
そもそもだ。カズマにとっては始めから拳一本で渡り合う自信があるために、お世辞にも武装して有利に成ることなど有り得ない。
そんな彼は望んだ支給品といえば、差し当たると豊富な食料か。
支給された食料は粗雑そのものであった。普段から上等なものを食べていないにしても、配慮の足らぬギガゾンビは許せるものではない。
しかし、食糧不足自体は憂慮すべき問題ではなかった。今まで通り殴って奪えばいいだけのこと。普段と変わらぬことだ。
誰に当てたのか、くっと小さく侮蔑の吐息を零しながら、カズマは近場の商店へ歩み寄る。
彼とて積極的に暴れまわる腹積もりなどなく、対象はあくまで自身の神経を逆撫でする輩に限定されるのだ。
さらに時間帯が時間帯だ。歩き回っては敵を探す手間など面倒であるし、何よりも今は睡眠欲を解消すべく寝床は確保しておきたいところ。
野宿自体は手馴れたものだが、屋根があるのならば使用しない手はない。
ドアノブに手を掛けることも億劫だったために、彼は躊躇無く扉を蹴破った。
金具が外れて室内へと吹き飛んでいく扉を暫し眺め、立ち込めた埃の中に足を踏み入れる。
夜目に馴れた眼球で、ぐるりと視界を回転させた。
そんなカズマの走らせた視線が、小さな人影を確認するに至る。
「―――ぅ……。そ、その……」
カズマの細めた眼光に当てられて、萎縮したように少女が佇んでいた。
か細い声は何処か怯えたようで、そして会話をするべく必死に呂律を回そうと躍起している。
先客か―――カズマは舌を打ちながら思う。
どうやら既に少女がここを寝床と定めていたようだ。
近くにクッションが転がっていることから、体勢に入ったものの乱暴に侵入したカズマによって叩き起こされたということか。
年端もいかぬ子供を摘み出してまで寝床を確保しようなどとは、流石のカズマとてそこまで器が狭くは無い。
ここは商店街。寝床など幾らでもあるのだ。
ならば長居は無用と、彼は黒いジャケットを翻して踵を返す。
「ま、待ってください!」
「っ!?」
呼び止める声に、カズマは表情に驚愕を孕ませながら振り返った。
少女が一歩を踏み出して躍り出る。
窓から差し込む月明かりが、不鮮明だった少女の輪郭を照らし出す。
姿といい声質といい、目を見張ったカズマは唖然と我知らずに呟いた。
「―――か、なみ……」
「……え?」
いや違うと、すぐさま否定した。
声と雰囲気が似通ってはいるが、顔立ちが異なっている。
少女との邂逅に、カズマは嘗て共に暮らしていた由詫かなみの存在が脳裏を過ぎった。
今も隆起した大地で逞しく生存していると思うと、彼は感慨深そうに表情を落とす。
だが、それは既に捨て去った日常。
今更女々しくも、振り返る余地などありはしないのだ。
これ以上かなみと類似する点の多い少女を見ていると、逆に自身の不甲斐無さを自覚せざるを得なかった。
少女の存在を無視する形で、カズマ再び歩き出す。
「あっ! ちょ、ちょっと待ってください……っ」
そんなカズマを必死に引き止めようと、少女は走り寄って彼の裾を引っ張った。
つんのめる様にして制止させられたカズマは、あからさまな溜め息を洩らし、次いで舌打ちをしながら振り返る。
「……んだよ」
「ぁぅ……。えっと、あなたは、こんな殺し合いを……?」
「あァ?」
一心に見上げる少女の視線に、カズマは大人気無くも凄みを利かせて見下ろした。
少女が恐る恐る言葉にする殺し合いの一言。即ちバトルロワイヤルのことであり、彼女も参加者の一人に数えられるということだ。
一体仮面野郎は何を考えているのかと、カズマは不愉快気に眉間に皺を寄せる。
こんな戦力の欠片も見当たりそうに無い子供を混ぜた所で、何の利得があるというのか。
少女の境遇などどうでもよいが、少しは屈強で増しな人材を導入した方が幾分か楽しめるというものだ。
そんな他所から見たら不憫としか思えない少女は、カズマの眼光に怯みつつも、果敢に視線を交差させる。
「だ、だから……あのお面の人の言葉に従うんですか……?」
「従うって?」
少女の言葉を一笑に伏す。
従うという受動的な言葉程、自身に見合わぬものは無い。
少女が困惑気に眺める中、カズマは失笑を噛み殺しながら口許を吊り上げた。
「ざけんじゃねェよ。あのクソ野郎は完膚無きにボコる、それこそ容赦なくだ」
「あっ……じゃあ、やっぱり皆で協力して頑張れば何とかなりますよね?」
ナリや雰囲気は危険さを含ませてはいたが、どうやら積極的に殺し合いに乗るつもりは無いようだ。
少女はカズマの第一印象を、そういう具合に判断して期待の篭もった視線を彼へと寄せた。
「協力? 知るか」
「……え?」
だが、少女の見当違いも甚だしい解釈は、カズマの言葉によって切って捨てられる。
「お手繋いで仲良くやりたければ他所でやれ。―――殴ると決めたの俺だ。誰にも邪魔立てさせるかよ」
「邪魔って……。一人でなんて無茶だと―――」
「偉そうに能書き垂れんなよガキが。それを無茶だと決めるのも俺だ。
それにだ。あの野郎に限ったことじゃねェんだよ……。気に喰わない奴は殴らないと気がすまない性分なんでね」
協力など以ての外だと、カズマの言外からもそれは染み出ていた。
孤高且つ横暴とも言える彼の言い分に、少女は理解が出来ぬ様子で口を噤ませる。
カズマは黙った少女を一瞥し、今度こそはと室内から退室しようと背を向けるが―――
「あの! 夜だから寝る場所探してたんですよね?」
「……」
またもや引き止められたカズマ。
次は何だと言わんばかりの顰めっ面だが、少女の言葉は的を射ていたために沈黙で返した。
その反応を受け取り、彼女は決意を固めたように一度頷く。
「なら、ここ使ってください。わたしは構いませんから」
「はぁ? 勝手に決めてんなよ。だから馴れ合いは御免だと―――」
「なのはです! わたし、高町なのはって言います。よろしくお願いしますね」
「テメェの名前なんて聞いちゃいねェ!」
少女―――なのはは、カズマの言葉を遮って畳み掛けるように言葉を連ねる。
彼女の予想外ともいえる強引さは、かなみとはやはり似ても似つかなかった。
かなみと重ね合わせてしまい、嘗ての習性でうろたえるカズマを考慮せず、なのはは続ける。
「まずは自己紹介から始めませんか? 信用してくれなくてもいいです」
「…………」
「でも、あなたは……その、乱暴そうだけど、悪い人じゃなさそうだし。わたしは信用します。
―――お名前……聞いてもいいですか?」
濁りのない真摯な視線を当てられたカズマは、居心地が悪そうに頭を掻き毟る。
純粋に彼を見詰めるなのはの双眸は、確かにかなみを彷彿とさせた。
こんな殺伐とした環境でさえ、少女の影が付いて離れないことに因縁を感じる。
苦々しげに目を細めていたカズマだが、淀みないなのはの懇願とも言える視線に根負けして口を開く。
「……ちっ! カズマだ」
「カズマ……?」
「呼び捨てにすんじゃねェよ!」
なのはは確認を込める意味で呟いたのだが、過剰に反応するカズマに慌てて頭を下げる。
それは何時かの情景。
―――そうだ。かなみとの出会いに近しいものだ。
あの時も呼び捨てにしたかなみを怒鳴った覚えがある。
彼女はすぐさま訂正を入れたものの、譲歩した『カズくん』という名称が気に喰わなくもあり、こそばゆくもあった。
「えっと、じゃあカズマさんで」
「……好きにしろ」
だが、流石に呼称までは類似しないか。
安堵か落胆か、カズマは形容し難い表情を面に浮かべる。
なのはに対する対応を決めかねていたカズマを他所に、思い立ったように彼女はいそいそと四次元バックに手を差し込んだ。
訝しげなカズマが見守る中、なのははバックを漁っていた腕を引き抜いた。
お目当てのものが見つかったのか、満足気に掴んだものを広げてみせる。
「……なんだそりゃ?」
「テーブルかけです」
彼女はひらひらと繊細な布を翻し、近くにあった簡易テーブルへとさっと敷く。
両端を揃え、ピンとテーブルかけを引き伸ばした。
皺一つない純白のシートが、二人の眼前に備え付けられる。
ますます困惑を深めるカズマの様子をものともせず、なのはは何処か得意気に胸を張った。
「カズマさん。実はこれ、普通のテーブルかけじゃありません。魔法のテーブルかけなのです」
「はぁ? 手品でもするのか? お呼びじゃねェよ……」
「違います! 魔法です!」
頑なに魔法だと言い張るなのはに、カズマは正気を疑うかのような視線を寄せた。
頬を膨らませながらも、見ててくださいよとシートを指で指し示す。
なのはは小さく息を吸い、言葉を走らせた。
「ショートケーキ!」
瞬間―――テーブルかけの上へと唐突に苺のショートケーキが出現した。それは文字通りに質量を持って発生したのだ。
カズマは何もない所から突如出現したケーキを目の当たりにして、驚愕に身を震わせながらケーキを引っ掴む。
「―――アルターか!?」
「は?」
「い、いや。普通のケーキだな……」
一瞬アルター能力者かと勘繰るも、能力を構築すべく粒子が一切発生しなかった。
何よりも、自身の手に収まるケーキは本物らしき形状と香ばしい匂いを漂わせている。
試しにクリームを指で掬って舐めてみた。
「……甘ぇ」
「はい。正真正銘、ショートケーキです。そのケーキはカズマさんに上げちゃいます」
なのはの言葉を待つこともなく、クリームで彩られた洋菓子を一口で飲み込んだ。
食い汚いともいえるカズマの調子に彼女は苦笑しながらも、寛大な笑みを浮かべてシートを手で叩く。
「えっとですね……種明かしをしちゃいますと、これはグルメテーブルかけと言いまして。
欲しい料理を口にするとシートが出してくれちゃいます」
「……マジか?」
「マジです」
カズマの視線は、完全に魅惑のシートへと釘付けとなっていた。
知らず内に懐柔されつつあるカズマに、なのはは提案を持ち掛ける。
「カズマさん。ここにいれば美味しいものが沢山食べられちゃいます。少なくとも、カズマさんの空腹を満たすことが簡単に出来るのです。
……一緒にどうですか?」
食い付き気味のカズマを、引き上げに掛かるなのは。
ここで無碍に断られれば彼を引き止める術はなく、万策も尽きる。
何故こうまでカズマを引き止める真似をするのか。
回答は至って明快。一人では心細く思えたからだ。
なのはの姿は、それこそ一切の誇張もない年端のいかない少女である。
実態は魔法の杖で獅子奮闘する魔法少女なわけだが、今では膨大な魔力を手持ち無沙汰とする一人の子供。
普通の小学生とは決して言い難いが、それでも年相応に不安とて抱えているのだ。
ギガゾンビが躊躇なく人間を殺したことは、正直なところ純粋に恐怖が粟立った。
二度と家族や知人に会うことも叶わぬと自覚してしまうと、泣き叫びたくなる衝動に駆られる。
名簿を見る限り、親友とも言えるフェイトや共に戦った仲間たちの名前も綴られていた。
最も信頼の置ける人物達が、同じく無常な殺し合いに参加させられていると知っては気も滅入るというものだ。
現に、カズマが現れる寸前までは意気消沈し、瞼から涙が零れ落ちる寸前であった。
そんな折に現れた、否現れてくれたカズマの存在だ。藁にも縋りたくなるのも無理はない。
なのはは表情を不安に滲ませながらカズマの反応を待つ。
眉間に皺を寄せていたカズマは、小さく息を付いてなのはに向き直った。
「施しは受けねぇ」
「……っ」
期待した返答とは真逆なカズマの一言に、なのはは悲しそうに目尻を下げて俯いた。
しかし、カズマは続ける。
「―――が……招かれた手前、無碍にすんのも頂けねぇ……。
か、勘違いすんじゃねぇぞ! 食料で釣られるほど安い男じゃないんだよ俺は!! 分かったな!?」
「あ……。はい!!」
空腹という欲求に耐え切れなかったのか、奥歯を噛み締めながら苦心するカズマ。
そんな白々しくも墓穴を掘る彼の様子に、はにかむようにしてなのはは頷いた。
残酷な現実の中、初めて心の底から安心できた一時であった。
【G−8(商店内)・1日目 深夜】
【カズマ@スクライド】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)・携帯電話(各施設の番号が登録済み)・支給品一式
[思考・状況]
1:空腹を満たすべく、食事に取り掛かる。
2:ギガゾンビは完膚無きにボコる。他、邪魔立てする者も同じ。
【G−8(商店内)・1日目 深夜】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り28品)・支給品一式
[思考・状況]
1:空腹を満たすべく、食事に取り掛かる。
2:カズマに同行するつもり
3:フェイト、はやて、シグナム、ヴィータの捜索。
「訳判んねー」
これがあたしの感想だった。
そりゃいきなり殺し合いをしろとか言われても判るわけがない。
それにグラーフアイゼンだって……どこ行ったのか判らない。
何でこんな事になったんだ。誰かあたしに説明してくれ。
……なんて、愚痴を零しても仕方無い。あたしは支給品を確認する事にした。
中に入っていたのはまず、なんか爆弾みたいなのが五つ……これで一セットって訳だな。
説明書には「音と光で相手を無力化する兵器、所謂スタングレネードです」と書いてある。
…………アイゼンゲホイルみたいなもんか? よし、次。
次に出てきたのはハルバードだ。柄がアイゼンみたいに長いな……。
でも慣れてる長物で助かった。ハンマーじゃなくて刃物だけど、これで襲われた時に対処しやすい。
更に他には何か、と確認すると出てきたのは……なんだこりゃ。セーラー服……?
説明書には「北高の女子生徒用制服です」と書かれてある。どこだよ、北高って。
とりあえずかさ張るし、ハルバード以外の道具は袋に入れておいた。
これからどうするか……。
いや、答えは最初から決まってる。はやてを捜さないと。
こんな殺し合いがどうとか言われて、混乱しないはずが無い。
はやては優しいから……だから、あたしが護らなくちゃならない。
人を殺してでも生き延びようとする奴がいたら、あたしが倒すんだ。
そうだ、はやてを護る為にあたしが……人殺しになっちまった奴らを……。
……大丈夫、落ち着け。あたしには出来る。ベルカの騎士なんだから。
それにここには、はやてだけじゃない……なのは達もいるんだ。
あいつらに降りかかるかもしれない火の粉は払わないと。
そうなんだ、あたしがそうしなきゃいけないんだ。
そうでもしないと、ここでは何が起こるかわかったもんじゃない。
……そうなんだろ? ギガなんとか!
……と、あたしが決心を固めた瞬間だった。
あのとんでもない奴が来たのは。
「ヴルぁァアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!」
本当にそれは突然だった。突然辺りに奇声が響いた。
更にその妙な叫びが合図みたいに、あたしがさっき立っていた位置に衝撃が走った様だ。
同時に鉄が鉄をぶッ叩いた様な音が響く。これは相当な攻撃だ、耳を劈く音が威力を物語ってる。
だけど、咄嗟にバックして回避したおかげであたしは助かった様だ。
多分運が良かった。ありきたりだけど「後数秒気づくのが遅かったら死んでた」と思う。
殺意を込めて攻撃を放ってきた相手が、まさかここまで気配を殺して近付いてたなんてな。
あたしもちょっと平和ボケしてたか……? だけど、丁度良い。
速攻で勝てるかどうかは判らねーけど、このグラーフア……じゃなかった、ハルバードで……倒す。
「随分と戦い慣れているのだね……ならば本気で行こう。Amen」
男がさっきとは打って変わって、落ち着いた声で何か言った。
そして言葉と同時に相手が右手を高く上げた。月明かりに相手の得物が照らされ、光る。
何を持っているのかをあたしが理解する暇も与えず、そのまま男は肉薄してきた。
命知らずな突撃のおかげで加速した、相手の右手の何かをハルバードで受け止める。
すると、まただ。またあの耳を劈くような音が聞こえた。
その時やっと判ったんだ。相手の得物は何の変哲も無い”鉄パイプ一本だけ”だって事に。
まさか……冗談だろ? こんな物であんな激しい攻撃をしてたのか!?
嘘みたいな話だけど、でもあたしが今そんな馬鹿力の人間と戦ってるのは現実だ。
こんな奴と鍔迫り合いを続けるわけには行かない。あたしはすぐにバックステップで距離を置いた。
さぁこれからどうする。逃げるか……いや、でも……。
馬鹿かあたしは! 敵を倒すと誓ったばっかりじゃないか!
はやてが身の危険に晒される前に摘み取らなきゃいけないんだろ!?
はやてが死んじゃったり、笑わなくなったりしたら一番困るのはあたしだろっ!?
よし、決まりだハルバード! お前を存分に振るってやる! このあたしにこんなに大事にされる事に感謝しろよ!
その代わり、あんな鉄パイプなんかに音を上げたら承知しないからなっ!!
あたしは意を決して接近。そのまま跳躍し、ハルバードを相手に振り下ろそうと振りかぶった。
…………それがまずかった。
「え……?」
あたしが男の構えの変化に気づいたのは跳躍した後。
右じゃない、左腕をこっちに向けていた。相手の腕の先にあったものは……筒?
月明かりで照らされて、男が笑みを浮かべた事に気づく。
……それが、あたしが最後に見たこの男の姿だった。
「ドォゥゥゥカァァァァアアアアアアアンンッッッ!!!!」
男が叫んだ瞬間、あたしの体に何かがぶつかった。
あたしにぶつかったのは見えない何か……一体……何だ、これ。
まともにくらった所為か、痛い。
「うあッ!」
何かの塊みたいな何かは、漏れた叫びを無視してあたしの体を容赦なく吹き飛ばした。
空中でくらったのがまずかったのか、そのままあたしはボロ切れの様に飛んでいく。
吹っ飛ばされた先に地面が無いみたいだ。上にも下にも右にも左にも地面は続いてない。
つまり橋の上から吹っ飛ばされたって事……当然落ちる先は川だ。完全に不用意だった。
……痛みに耐えて冷静に考えてみたけど、それもここまでみたいだ。
橋が視界から消えた。あたしの体が川へと沈んだ所為だ。
力を振り絞って浮き上がり、気合で離さなかったハルバードを袋に入れる。
泳いで岸へと移動したかったけど、突然の痛みと水の冷たさで体が思うように動かない。
これって、溺れて流されてるって言うんだよな……?
やば……死ぬのかな、あたし。
それに……なんか……景色が、遠のいてき……た……。
はやて……ごめ、ん…………。
○
「死んだか?」
そう呟いたアンデルセンは、流されていくヴィータを案外あっさりと見失っていた。
深夜での外の暗さと水の流れによる作用だろう。完全に滅殺出来たか確認できない事を彼は残念がった。
だが、まあ良い。次に会った時に滅してしまえば良いだけの事なのだから。
心中で呟きつつ、アンデルセンは両手の得物を比べるように眺めた。
鉄パイプと空気砲、これがヴィータに奇襲を行う前に袋を開いた結果。
自分の最も得意とする武器ではなく、全く違うものが出てきてしまったと言う現実がそこにある。
まず浮かぶ言葉は「忌々しい」。
もしもバヨネットが、愛用の銃剣があればあの小娘を抹殺出来たと言うのに。
鉄パイプであった事の不運に、悔しさを飛び越え憤りすら覚える。
だが一方で感謝もする。左手に装着された空気砲とやらの性能は、なかなか目を見張るものがあった。
「”ドカンと叫べば空気の塊が発射され、相手を吹き飛ばす”……素晴らしいではないか」
戦闘能力、こと接近戦に重要である「間合い」を理解している自分なら、これは非常に利用価値を生む。
バヨネットを手に入れれば世話になる事も無くなるだろうが、これは良い。
喉を鳴らすように笑みを浮かべ、アンデルセンはその場に座った。
鉄パイプをいつでも構えられる場所に置き、再び袋を開く。
ランタンを取り出して辺りを照らし、地図とコンパスを手早く取り出す。
そしてコンパスの針の向き、地図をじっくりと確認した。
「B-3……」
アンデルセンが今いる場所は地図で言うと「B-3地点の橋の上」である。
ここから浮かび上がる選択肢は、西に行くか東へ行くか。
しかし西には大した物は無い。学校と駅があるが、ただそれだけだ。
「ならば、東だ」
東の方角には様々な建物がある。近い場所では映画館に図書館、病院と三つもの建物が点在している。
ならば人の集まるであろう東方向に行くべきだろう。アンデルセンはこう判断した。
本人には知る由も無いが、東には確かに人間が沢山いる。彼の読みは確実に当たっている。
「我は神罰の地上代行者。我が使命は全ての悪を塵に滅する事。
即ちこの世界を生み出した悪を滅する為、全ての存在を滅する事……Amen」
立ち上がり、呪文の様に唱える。
それはこの世界全てに対する敵対宣言であった。
彼は東へと歩き出す。塵を塵に帰す為。全ての存在を滅する為に。
○
「はぁっはあっ……ここは……うっ、げほっげほっ!」
咳き込みつつ、あたしは目を開いた。死んでなかった、助かった。
本当に良かった。ずぶ濡れになっただけで済んだんだ。ここまで悪運が強いなんてな。
とりあえず肩で息をしつつ、あたしは辺りを見渡した。
「どこだよ……ここ……」
急いで袋を開く……前に濡れた手を袋でよく拭いて地図を取り出す。
凄い、全然中のものは濡れちゃいない。って、感心してる場合じゃない。
辺りの風景と照らし合わせる。北を向くと、川が分岐しているのがわかった。
そうか、ここはこの地図で言うC-2……丁度川の分岐を生む岸に流れ着いたみたいだ。
でも橋で会ったあいつ、なんて強さだったんだ。
あの変な筒とただの鉄パイプだけでこのあたしに互角以上、いや……あたしよりも強かったかもしれない。
この状況じゃ……独りで戦っても負けるだけか。一対一ではベルカの騎士に負けはねーはずだったんだけど。
もしかしたらあんなのがまだ沢山いるのか? 更に強い奴が人を殺しにかかってたりするのか?
……まいった。独りで戦うなんて馬鹿な事、考えないほうが良かったかな。
こうなったら信頼できる人間を捜す事も頭に入れないとな。そしてもう一回あの男を倒してやる。
「ベルカの騎士は……こんな事じゃ倒れねぇっくしょん!!」
盛大にくしゃみが出た。寒い。当たり前だ、全身がずぶ濡れなんだ。
どうしようかと考えていると、ふと思い出した。
「そうだ、北高とかいう学校の制服があった……」
とりあえず着替えないとな。風邪ひいて動けなくなるわけには行かないし。
ずぶ濡れでも服脱いで適当に水気取れば大丈夫だ。濡れた服のままより十分マシ!
よし、思い立ったが吉日だ!
……誰も来ませんように。
【C-2川の分岐点の岸・1日目 深夜】
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労(自然回復する程度)、ずぶ濡れ
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ハルバード、スタングレネード(残り五つ)、北高の制服@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
1:北高の制服に着替える
2:信頼できる人間を捜し、PKK(殺人者の討伐)を行う
基本:元の世界の仲間を探す(八神はやてを最優先)
【B-3橋・1日目 深夜】
【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING】
[状態]:健康
[装備]:鉄パイプ、空気砲@ドラえもん
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:東方向に向かい、出会った人間を滅殺する
基本:ゲームに勝利し、ギガゾンビを滅殺する
気がつけば、私は森の中に一人きりだった。
ただでさえ見通しの悪い場所だというのに、加えてこの暗さ。迂闊に動かない方がよさそうだ。
だが、やれる事はやっておかなければならない。
それは、どうしてこんな所へ連れてこられてしまったのか…などという後ろ向きな考えをめぐらせる事ではない。
まずは支給品の確認を含めた自分の置かれている状況の把握だ。
耳を澄まし、周囲の気配を探る。頼れる相棒も、背中を預けられる仲間もいないこの状態では、頼れるのは自分の五感だけだ。
…大丈夫。誰もいない…!?
辺りを見回していた視線がある一点で止まる。そこに居たのは、
何処かの制服を着た、おかしなタヌキの尻尾を生やした眼鏡の少女だった。
一瞬、自分の目がおかしくなったのかとゴシゴシと眼を擦る。
改めて見てみれば…やはり、そのような珍妙な存在は、居るわけがなかった。
幻視だなんて、どうかしている。溜息を吐いて、軽く頭を左右に振る。
…落ち着いて、フェイト。いつもみたいに、冷静になるんだ。
いくらか気分が落ち着いてきたところで、今度は木の葉の擦れる音が聞こえてきた。
今度は幻聴でも聞こえてきたのだろうか?
…なんにせよ、先ほど決めたように迂闊に動くわけには…「…フェイトちゃん?」…聞き慣れた、声がした。
一番仲良しの友達、魔導師としても一流の、かけがえのない存在。
「…なのは、なの?」
音のした方に、そっと呼びかける。段々音が近づいてくる…そして、彼女は姿を現した。
「よかった…無事だったんだね、フェイトちゃん」
いつもと変わらぬ笑顔にいくらかの疲労を纏わせながら、少女、高町なのはは私に近づいてきた。
だけど…どうしてなんだろう、私はじりじりと後ずさりしてしまう。
何故?どうして、大切な友達に、頼れる仲間に会えたのに、私は退いてしまうのだろうか?
…簡単な事だ。私は、なのはに恐怖している。
聖祥大付属小の白い制服を鮮血に染め、その右手には血塗れの騎士剣を、そして、その左手には…騎士の首をもっているのであれば。
「なのは…なんで、どうして…」
身体の震えが止まらない。ああ、私はこんなに弱い存在だっただろうか?
「え?どうしたの、フェイトちゃん?」
「どうしたの、って…!なんで、シグナムの、く…首を…」
「…ああ、これの事?」
こともなげになのはは「それ」…剣の騎士、シグナムの首を掲げてみせる。
「だって…放っておいたら、シグナムさん、フェイトちゃんを殺しちゃうかもしれないでしょ?
だから…殺しちゃった」
…私は、悪い夢でも見ているのだろうか。
なのはが、シグナムを、殺した?その、右手に持つ、レヴァンテイン―シグナムのデバイス―で?
「なのは…おかしいよ、こんなの…どうしちゃったの、なのは!?」
「やだなぁフェイトちゃん、私は別にどうもしてないよ。
…私は、ただ、大切な人に死んでほしくないだけなの。だから、他の人は皆殺す。
そうすれば、失わなくてすむでしょ?」
「そんな理屈…!そんな理屈で、シグナムは殺されたの!?
彼女も、大切な人なんじゃないの!?ねえ、なのh」
「…うるさいよ、フェイトちゃん」
思わず感情をぶちまけていると、突然なのはの声が冷たくトーンダウンする。
突然の豹変に、かつての母のそれを思い出し…私は、どうする事もできなくなる。
顔を伏せ、異様な気配を纏いながら、なのはの口から言葉は紡がれる。
「私ね、騒がしいのは嫌いなの。だから、あんまりフェイトちゃんがうるさくするなら…」
嫌だ、聞きたくない。耳を塞いでいやいやをするように頭を振る。
分かっていた。そんな事じゃ、なのはの言葉は遮れないのだと。だって…
コ ロ シ チ ャ ウ ヨ ?
…今でも、そう言ったなのはの瞳の暗さを、思い出してしまうのだから。
結局、なのははそう言ったけれど私を殺そうとはしなかった。
それまでと雰囲気を一変させ、優しげに私に告げたのだ。
曰く、「私が他の皆を殺してあげるから、フェイトちゃんは安全な所で待ってて」…と。
そう言って歩み去っていくなのはを、私は、止められなかった。
それから、30分くらい経っただろうか。私は、のろのろと立ち上がった。
…止めないと。何があっても、なのはを。他の誰かを殺してしまう前に。
その思いだけが、私を動かしていた。友達の豹変の理由など、分かるわけがなかった。
ただ、止めなければと。その事しか、頭になかった。
「…クロノ…私に、力を貸して…」
手にしたカードを眼前に掲げ、そう呟く。
カードは私の声に応え、その姿を黒い杖へと変えていく。
S2U…義理の兄、クロノ・ハラウオンがかつて愛用していたデバイス。
無口なそれは、自らのデバイス…バルディッシュを想起させ、ここには居ないアルフへの想いを募らせる。
…いけない。今は、立ち止まってる場合じゃない。
思わず弱気になってしまう自分をどうにか奮い立たせ、私は消えていったなのはの後を追い走り出した…
【D-7 森林・1日目 深夜】
【フェイト・T・ハラウオン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:若干の精神的疲労、それ以外は問題なし
[装備]:S2U@魔法少女リリカルなのは(他のランダムアイテムに関しては後続の書き手さんに一任します)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1:なのはの殺戮を止める
2:未定
金髪の少女が走り去ってからしばらくの後。
草むらの中から、何処かの制服を着た、おかしなタヌキの尻尾を生やした眼鏡の少女が音もなく姿を現した。
草の擦れる音すらたてず、気配を断ち続けた者こそ、誰であろう、長門有希その人である。
「…」
無言で手にした紙切れに目をやる長門。そこには、こう書かれていた。
『道具名:タヌ機
効果:22世紀のお化け屋敷で使われる道具で、この眼鏡と尻尾を付けて誰かを見つめると、
その見つめられた人物は、まるでタヌキに化かされたように現実が別世界に見えてしまう。
メガネとシッポを付け、装着している人の脳波を相手の脳に送り込むと、思い通りの幻覚を見せる事が出来る』
つまり、こういう事である。
フェイトが見た奇怪な少女―勿論、長門の事である―は、幻視などではなかった。
彼女は、タヌ機により『自分が最も恐れている事』を見させられたのだ。その結果は…言うまでもないだろう。
『親友である高町なのはが殺戮に身を投じ、互いに認め合った仲間であり、好敵手でもあるシグナムを惨殺した』、
そんな幻覚を見せられてしまったのだ。
だが、長門はそんな事を知る由もない。ただ、自分が出会った少女に咄嗟にイメージを送りつけ、それを傍観していただけだ。
彼女は隙だらけで、自分になら殺す事は容易かった。だが、彼女はそうしなかった。
合理的思考をよしとする彼女には、当然この殺戮空間での生存率の低さは把握できており、自らが生き残るには他人を殺すしかないという事も理解していた。
だが、彼女はその考えに従わなかった。何故かはよく分からない。けれど、
そうしたら、もうSOS団には居られないような気がした。
そうして、それは彼女の中に無視するには大きすぎるレベルのノイズを生み出した。
…だから、殺さなかった。ただ、見送った。
そして、彼女は動き出す。SOS団員を探して、アテもなく彷徨うようだ。
情報統合思念体とは連絡が取れない。自らの得意とする情報改変その他の能力も著しく低下している。
結局、自らの『カン』なるものに頼るしかないようだ。そして、長門はそうした。合理的な考えなど、しようともしなかった。
…先ほど、殺さねば殺されると、そう彼女に思わせた思考など、従うのも嫌だった。
SOS団の団員を殺すさまを想起させたそれなど…今の彼女には、唾棄すべきもの同然であった。
【同刻・同位置】
【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:異常なし
[装備]:不明(他のランダムアイテムに関しては後続の書き手さんに一任します)
[道具]:タヌ機@ドラえもん
支給品一式
[思考・状況]1:SOS団員を探す
[備考]情報統合思念体とのコンタクトが取れません。
また、作中で彼女が発動している色々な能力は著しくその精度を制限されています。
特に再生能力はごく浅い擦過傷を治すのが精々かと思われます。
これらの事実を、彼女自身は把握しています。
ただし、どの程度まで制限されているのか、その度合いに関してはその限りではありません。
広く、暗い空間。
本来なら人々を楽しませる映画が上映されるはずのその場所が、今は余りにも静かだ。
一つの椅子に腰掛ける日本人とも英国人ともとれる顔立ちの男が一人。
彼、平賀=キートン・太一は、支給された奇妙な道具に関する説明書を眺めていた。
彼の思考は始めからゲームの脱出、それのみだった。
もちろん自分のみならず、他に集められてしまった人々も一緒にだ。
それがどれだけ難しい事かはキートンにもわからない。
先程集められた部屋で見た多種多様なる人々(そう形容していいのかわからない者も居たが)も
自分の喉元に輝く忌々しい首輪の技術力も、はっきり言えば自分の知る常識からは逸脱している。
そして目を通している説明書に書かれた内容も彼の常識からは考えられないものだった。
「とりあえず、使ってみるか。」
結局、今までのオプの仕事のようにSASなどで培った経験に頼るしかないと考え、腹を括った。
半信半疑で、デイパックの中から子供一人がくぐれるような大きさの輪を取り出す。
彼に支給された秘密道具の一つ『通りぬけフープ』
壁などに当てる事でその場所に穴ができ、通り抜ける事が出来るという。
結果は確かに説明書に書かれていた通りだった。
通りぬけフープをスクリーンに当てると記述通り、ポッカリと穴が開いた。
始めは「これはすごい!」と自分の置かれた状況を忘れるほどに
興味を示したキートンだったが、よくよく考えればこの支給品は武器としては使えない。
おそらくもう一つ支給された秘密道具も、説明書を読む限り戦闘向きではないだろう。
「武器は現地調達か・・・」
そんな考えを巡らせていると、部屋の外で少し涙で掠れたような声が聞こえた。
「ドラえもーん、ジャイアーン、スネ夫ー、せんせーい!」
まさか、殺し合いが行われるこの場所で堂々と人探しをしているのだろうか。
声を張り上げれば、この殺し合いに乗ったものに狙われるリスクは高いはずだというのに。
それともこちらを油断させる罠なのか。いや、この声は聞いたことがあった。
あの部屋で殺された女の子の友達であろう少年の声だ。
確か、のび太と呼ばれていたはずだ。
女の子が殺されたとき、誰よりも激昂していたのはあの少年だった。
そして、知り合いも居なくなり、不安に駆られ判断力が鈍っているのだろう。
どんな理由にせよ、これ以上叫ばれることは殺し合いに乗った者を呼ばれることは
あの子にとっても自分にとっても良い結果にはならない。
キートンは接触を試みる事にした。
「そこに居るのはもしかしてのび太くんかい?」
「だ、誰なの?」
予想通り少年は先程ののび太だったらしく、銃を構えこちらに向ける。
ランタンを右手に両腕を挙げ、笑顔で接する。
この状況下での笑顔は相手によれば逆に不信感を与えかねないが、のび太のような純粋そうな子供の心を信じて、あえて笑顔にする。
「安心して。私は平賀=キートン・太一。君を襲ったりはしないよ。」
「う、うわぁーん」
その笑顔にこのロワイヤルが始まり、初めて人の優しさに出会えたのび太は緊張がほぐれ泣き出してしまう。
結果的にさっきよりも大声を出させる結果になってしまったが、キートンも仕方ないと諦めた。
「大丈夫かい?」
「うん。なんだかキートンさんにいろいろ話したら少し落ち着いたよ。」
一通り泣き終えたあと、のび太とキートンは自己紹介をした。
のび太から聞いたドラえもんの話は、秘密道具の科学力を説明するには荒唐無稽ともいえたが
実際に目の前にあるのでは納得せざるを得なかった。
「のび太君、君も知っているとは思うけど・・・これを使わないかい?」
「それ・・・テキオー灯だ。」
懐中電灯のような外見の秘密道具『テキオー灯』
この光線を浴びる事で人間は様々な場所で24時間活動できることが可能になる代物である。
「なら、これの効力は知っているね?
支給されたこのテキオー灯は一人一回分しか使う事ができない。
君がこれを浴びて海の中に潜っていれば、一日は安全に過ごすことができるはずだ。」
少し考えた後、のび太は言った。
「ありがとうございます。キートンさん。でも僕、これを使う事はできません。
先生にスネ夫にジャイアン、それにドラえもん。
みんなが大変な状況に遭っているかもしれないのに一人だけ、安全な所で待っているなんてできません。
だから、それはキートンさんが使ってください。」
「・・・仕方が無いな。じゃあ私も君と一緒に友達を探そう。
それだけじゃない。ここに集められたみんなでだそしてみんなで脱出しよう。それで良いかな?」
キートンもこんなことを聞く前から、のび太の決意はわかっていた。
それを聞いたのも、誰か一人でも生き残ってもらいたいという願いからだったのかもしれない。
「うん。キートンさん!」
のび太はいつも通りの元気な笑顔でそれに答えた。
――でも、僕は脱出は出来ないかもしれない。ギガゾンビだけは絶対に許す事は出来ないから。
しかし、少年の心には鬱屈とした闇が蝕み始めているのかもしれない。
【C−3:図書館・1日目 深夜】
【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38(装弾数:8発・予備弾24発)
[道具]:支給品一式(配給品数不明)
[思考・状況]1:キートンと一緒にドラえもんたちを探す。
2:できるだけ人を集める。
3:しずかちゃんの仇をとる。
【平賀=キートン・太一@MASTERキートン】
[状態]:健康
[装備]:通りぬけフープ・テキオー灯(一人一回分)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1:のび太と一緒にドラえもんたちを探す。
2:道中で武器になるようなものを探す。
3:できるだけ人を集める。
4:ゲームからの脱出。
【G−8(商店内)・1日目 深夜】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り28品)・支給品一式
[思考・状況]
1:カズマに同行するつもり
2:フェイト、はやて、シグナム、ヴィータの捜索。
【G−8(商店内)・1日目 深夜】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り28品)・支給品一式
[思考・状況]
1:カズマに同行するつもり
2:フェイト、はやて、シグナム、ヴィータの捜索。
広く、暗い空間。
本来なら人々を楽しませる映画が上映されるはずのその場所が、今は余りにも静かだ。
一つの椅子に腰掛ける日本人とも英国人ともとれる顔立ちの男が一人。
彼、平賀=キートン・太一は、支給された奇妙な道具に関する説明書を眺めていた。
彼の思考は始めからゲームの脱出、それのみだった。
もちろん自分のみならず、他に集められてしまった人々も一緒にだ。
それがどれだけ難しい事かはキートンにもわからない。
先程集められた部屋で見た多種多様なる人々(そう形容していいのかわからない者も居たが)も
自分の喉元に輝く忌々しい首輪の技術力も、はっきり言えば自分の知る常識からは逸脱している。
そして目を通している説明書に書かれた内容も彼の常識からは考えられないものだった。
「とりあえず、使ってみるか。」
結局、今までのオプの仕事のようにSASなどで培った経験に頼るしかないと考え、腹を括った。
半身半疑で懐中電灯のようなものを取り出す。
彼に支給された秘密道具『テキオー灯』。
この光線を浴びる事で人間は様々な場所で24時間活動することが可能になる代物である。
しかし、効果としてあまりに便利すぎる為か一人一回分しか使えないらしい。
とはいえ、こんな所で試してみたところで役にはたたない。
それにこの秘密道具というものを信じきれたわけでもないのだ。
もう一つの支給品『極細の鋼線』も、説明書を読む限り扱う為には特殊な訓練が必要なようだ。
「武器は現地調達か・・・」
そんな考えを巡らせていると、部屋の外で少し涙で掠れたような声が聞こえた。
「ドラえもーん、ジャイアーン、スネ夫ー、せんせーい!」
まさか、殺し合いが行われるこの場所で堂々と人探しをしているのだろうか。
声を張り上げれば、この殺し合いに乗ったものに狙われるリスクは高いはずだというのに。
それともこちらを油断させる罠なのか。いや、この声は聞いたことがあった。
あの部屋で殺された女の子の友達であろう少年の声だ。
確か、のび太と呼ばれていたはずだ。
女の子が殺されたとき、誰よりも激昂していたのはあの少年だった。
そして、知り合いも居なくなり、不安に駆られ判断力が鈍っているのだろう。
どんな理由にせよ、これ以上叫ばれることは殺し合いに乗った者を呼ばれることは
あの子にとっても自分にとっても良い結果にはならない。
キートンは接触を試みる事にした。
「そこに居るのはもしかしてのび太くんかい?」
「だ、誰なの?」
予想通り少年は先程ののび太だったらしく、銃を構えこちらに向ける。
ランタンを右手に両腕を挙げ、笑顔で接する。
この状況下での笑顔は相手によれば逆に不信感を与えかねないが、のび太のような純粋そうな子供の心を信じて、あえて笑顔にする。
「安心して。私は平賀=キートン・太一。君を襲ったりはしないよ。」
「う、うわぁーん」
その笑顔にこのロワイヤルが始まり、初めて人の優しさに出会えたのび太は緊張がほぐれ泣き出してしまう。
結果的にさっきよりも大声を出させる結果になってしまったが、キートンも仕方ないと諦めた。
「大丈夫かい?」
「うん。なんだかキートンさんにいろいろ話したら少し落ち着いたよ。」
一通り泣き終えたあと、のび太とキートンは自己紹介をした。
のび太から聞いたドラえもんの話は、秘密道具の科学力を説明するには荒唐無稽ともいえたが
実際に目の前にあるのでは納得せざるを得なかった。
「のび太君、君も知っているとは思うけど・・・これを使わないかい?」
「それ・・・テキオー灯だ。」
「なら、これの効力は知っているね?
支給されたこのテキオー灯は一人一回分しか使う事ができない。
君がこれを浴びて海の中に潜っていれば、一日は安全に過ごすことができるはずだ。」
少し考えた後、のび太は言った。
「ありがとうございます。キートンさん。でも僕、これを使う事はできません。
先生にスネ夫にジャイアン、それにドラえもん。
みんなが大変な状況に遭っているかもしれないのに一人だけ、安全な所で待っているなんてできません。
だから、それはキートンさんが使ってください。」
「・・・仕方が無いな。じゃあ私も君と一緒に友達を探そう。
それだけじゃない。ここに集められたみんなでだそしてみんなで脱出しよう。それで良いかな?」
キートンもこんなことを聞く前から、のび太の決意はわかっていた。
それを聞いたのも、誰か一人でも生き残ってもらいたいという願いからだったのかもしれない。
「うん。キートンさん!」
のび太はいつも通りの元気な笑顔でそれに答えた。
――でも、僕は脱出は出来ないかもしれない。ギガゾンビだけは絶対に許す事は出来ないから。
しかし、少年の心には鬱屈とした闇が蝕み始めているのかもしれない。
【B−4:映画館・1日目 深夜】
【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38(装弾数:8発・予備弾24発)
[道具]:支給品一式(配給品数不明)
[思考・状況]1:キートンと一緒にドラえもんたちを探す。
2:できるだけ人を集める。
3:しずかちゃんの仇をとる。
【平賀=キートン・太一@MASTERキートン】
[状態]:健康
[装備]:テキオー灯@ドラえもん・極細の鋼線@HELLSING
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1:のび太と一緒にドラえもんたちを探す。
2:道中で武器になるようなものを探す。
3:できるだけ人を集める。
4:ゲームからの脱出。
>>156の「ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's」の状態表を以下に修正します。
【C-2川の分岐点の岸・1日目 深夜】
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労、空気砲のダメージが多少現存、ずぶ濡れ
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ハルバード、スタングレネード(残り五つ)、北高の制服@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
1:北高の制服に着替える
2:信頼できる人間を捜し、PKK(殺人者の討伐)を行う
基本:元の世界の仲間を探す(八神はやてを最優先)
古手梨花がそれを見つけたのは、山を下り始めて三十分ほど経った頃の事だった。
(くすくす・・・随分とまた無用心ね)
進行方向の向かって正面。大木の根元に小柄な影が蹲っているのを確認し、梨花はほくそえむ。
尻尾のような飾りと見たこともない服装だが、おそらくは自分と同年代か少し上程度の少女だろう。
地面に色々な道具――おそらくは支給品だろう――を広げている。
(さて、どうしようかしら。利用するのもいいけど・・・)
そう考えながら少女の様子を見る。
・・・どうやら手に持ったものをいじくるのに夢中で、こちらにはまったく気づいていないようだ。
(やっぱり、殺せるときに殺しておかないとね)
鞄からゆっくりとスタンガンを取り出し、軽く構える。準備は万端だ。
一呼吸の間をおいて、少女に向かい一歩を踏み出す。そして・・・
「・・・!?」
「っ・・・!」
二歩目を踏み出そうとした瞬間、少女がこちらへと振り返った。
その視線に怯えと警戒の色を察知し、軽く歯噛みする。
(気づかれた!?・・・いえ、落ち着きなさい、クールになるのよ梨花。まだ充分に挽回できる状況よ)
さりげなくスタンガンを後ろ手に隠しながら、すぐに強張っていたであろう表情を笑みへと変えた。
「みー、やっとで人を発見したのですよ」
笑顔は元々、獣の行う威嚇という行為だった・・・何処で聞いたのかも解らない雑学を思い出しながら、
長きを生きる魔女は少女を安堵させるべく、巧みに笑顔と言葉を連ねる。
「大丈夫なのです、ボクは怖い事をする気は・・・」
その言葉を遮るように、少女が手にした物体をこちらに投げつける。
孤を描いた小さな“それ”は梨花の体に当たり、そのまま足元へと転がる。
「みー、本当に大丈夫なのですよ?」
「・・・・・・ぅぅ」
梨花は不安げな顔を作り、少女へと一歩歩み寄る。
しかし、返って来たのは微かな声と投擲の第二波、第三波。
こんなに入るのかと思うほどの荷物が飛んできたのだ。
飛来する傘やらペットボトルやらを梨花はなんとか避ける。
(そもそも、傘などはこちらまでの飛距離すら稼がなかったが)
やがて、梨花が『やはりこの娘はここで殺しておこうか』などと考え始めたとき、不意に少女が動きを止めた。
投げられる物が尽きてしまったのだろう。じっと鞄へ視線を送っている。
(ふふ・・・よくも、てこずらせてくれたわね)
後ろ手でスタンガンを握りなおしながら、ゆっくりと少女に近づく。
「怯えなくても大丈夫なのですよ。にぱー」
もちろん、笑顔は絶やさない。邪気の無い笑みを装いながら、少しずつ歩を進める。
その時・・・少女が鞄の中から鋼色の何かを取り出すのが見えた。
(しまった!?)
死の予感に思わず目を瞑ってしまう。雛見沢での日々が脳裏を駆ける。
程なく身体を襲う衝撃に、古手梨花の意識は奪われ・・・
173 :
少女の幸運と少女の不幸2/4 ◆FbVNUaeKtI :2006/12/09(土) 05:17:38 ID:gB64ca8C
「あれ?」
・・・なかった。目を開くと、少女の姿が忽然と消えている。視線を落とすと、足元に転がるのは黒い鞄。
その場に残されたのは散乱する道具と呆然と佇む梨花。そして草を掻き分ける微かな音のみ。
逃げられた・・・よほど恐ろしい顔をしていたのか、こちらの殺気とやらを読んだのか・・・
(なんにせよ、うかつだったわね)
逃げられたことに微かな不安と怒りが込み上げるが、頭を振ってそれを追い払う。
殺気のような物を読まれたとしても、決定的と言える証拠は無かったはずである。
だから、逃げられてもそんなに問題視することは無い。
それに命の代わりと言ってはなんだが、少女は数多くの物を残していってくれたのだ。
「大漁大漁なのです。にぱー」
雰囲気を打ち消すように呟き、梨花はその場に転がっている物を拾い集め始めた。
パンや水を袋にいれ、支給品であろうタイマーと傘を手に取り・・・傘の異様な重さに気づく。
(くすくす・・・こんな物騒な物まであるのね・・・私には無用の長物だけど)
傘の内部に仕込まれた銃に、思わず自虐的な笑みを浮かべる。
おそらく使いこなせはしないだろうが、それでも何かの役には立つだろうと鞄に突っ込む。
傘はつっかえる事もなくスムーズに鞄の中に消えた。
「・・・・・・・・・」
目の前で起こった異様な事実を軽く無視して、梨花はもう一つの物体へと目を注ぐ。
それは一番最初に投げられた物体。掌に余るくらいの大きさのタイマーらしきものだった。
(時報の機能でもついてるのかしら?まあ、陽動くらいには使えるかもね)
そんな事を考えながら、魔女は自分のツキに笑みを浮かべる。
(6とまではいかないけれど、順調にいい目がでてるわね。私の運も捨てた物じゃ・・・)
と、そこまで考えたとき・・・梨花の手元からポンッという間抜けな音が響いた。
『おっぺけぺ〜のぺ〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
後方から聞こえた物凄く大きな声に、森の中を走っていたアルルゥは首をすくめ、その動きを止めた。
恐る恐る後ろを振り向き、何の気配も無いことを確認すると再び山を駆け下り始める。
その手に抱えられている物は鋼色に輝く扇子。
ついさっき、見知らぬ少女から逃げるときに持ち出した、たった一つのもの。
(ちなみにアルルゥが逃げ出した原因は・・・単なる人見知りである)
「おとーさん・・・」
それの持ち主である仮面の青年の姿を思い浮かべながら、少女は麓へと駆け下りてゆく。
・・・アルルゥは全く気づいていなかった。
聞こえてきた奇声が先程、自分に話し掛けてきた少女の声で、
奇声をあげた原因が自分がいじっていた支給品―時限バカ弾にあるという事を。
【C-6山中 1日目 深夜】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:時限バカ弾で混乱、数秒程度で通常復帰
[装備]:スタンガン
[道具]:荷物一式×2、ロベルタの傘@BLACK LAGOON
[思考・状況]
1:おっぺけぺ〜のぺ〜
2:南下して町へと向かう
3:ステルスマーダーとしてゲームに乗る
基本:自分を保護してくれそうな人物(ひぐらしキャラ優先)、パーティーを探す
最終:ゲームに優勝し、願いを叶える
【C-6山中 1日目 深夜】
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの
[道具]:なし
[思考・状況]
1:ハクオロ等の捜索
2:ハクオロに鉄扇を渡す
基本:ゲームには乗らない
※アルルゥの支給品『時限バカ弾』は破裂して失われました
※梨花の奇声はエリア周辺に響いたと思われます
※『時限バカ弾』
時限タイマーを巻いた状態で対象に貼り付けて使用。
制限時間が来ると破裂し、貼り付けられた対象がバカな事を叫んだり踊ったりする。
おそらく、数秒程度で普通の状態に戻ると思われる。
>>156のヴィータの状況を変更。
【C-2川の分岐点の岸・1日目 深夜】
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労、空気砲のダメージが現存、ずぶ濡れ
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ハルバード、スタングレネード(残り五つ)、北高の制服@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
1:北高の制服に着替える
2:信頼できる人間を捜し、PKK(殺人者の討伐)を行う
基本:元の世界の仲間を探す(八神はやてを最優先)
※ダメージの程度
体は動かせますが、暫くの間は痛みによる身体能力への枷が発生しています。
シグナムは一人、路傍に座っていた。背後にあるのはこの状況下でも稼動しているらし
い遊園地。それだけ見ると、ここが殺し合いの場とはとても思えない。
夜天の書の防衛プログラム・ヴォルケンリッターの将である彼女は様々な世界を旅し、
蒐集を行ってきた。だが、今回ほど特異なことは初めてだ。
「どうなっている……空間転移はできず念話も不可能。
管理局は何をしている……!」
苛立ちが口からこぼれる。普段の彼女なら他人任せにせず自分で突破しようとしている
だろう。だが何より致命的だったのはまともな武器がないこと、そして主であるはやても
参加していることだった。自分のレヴァンティンさえ没収されているのだ、リインフォー
スをはやてが装備している可能性はほぼ有り得ないと言っていい。更に何か妨害がされて
いるのか、念話もできない。まさに危険な状態であることがシグナムを苛立たせている。
もちろん、支給品はある。ありがたいことに、自分のよく見知ったデバイスだ。しかし。
「……せめて、グラーフアイゼンなら何とか使えたかもしれないのだが。
シャマルには悪いが、これは私には扱えん……」
嘆息するシグナムの指にあるのは指輪型のデバイス、クラールヴィント。補助と癒しが
本領であり攻撃の機能は皆無、前線に立って戦うシグナムとの相性は最悪だ。一応は起動
してみたものの、飛行どころか念話が使えるようになった様子さえない。もう一つの支給
品である木刀の方がまだマシだ。使い手であるシャマルに渡そうにも、本人がいなくては
どうしようもない。ならば補助魔法に精通する仲間に渡せればまだいいのだが、ユーノも
クロノもいなかった。なのはもフェイトもヴィータも回復や補助は不得手。望みがあると
すればはやてぐらいか。上手くクラールヴィントを使って時空管理局と連絡が取れれば。
考え事に沈むシグナム。その耳に、ふと音がした。何かが後ろで地面を叩く音。だが、
人間の歩く音とは微妙に質感が違う……
「……ち」
とっさに遊園地の入り口の陰に隠れた。電気は付いていて明るいとはいえ、ただ座って
いるだけよりかはマシだろう。木刀を握り締め、いつでも殴りかかれるように備える。
近くまで来て相手もこちらの気配に気付いたのか、音も止まった。顔を出せばギリギリ
で見えるだろう。だが、相手が射撃を得意としていれば、出した顔を撃ちぬかれる。結果、
シグナムは隠れたまま相手の対応を伺うしかない。
相手も同じ考えだったのか、しばらく何の動きも無く時間が流れる。シグナムにも流石
に焦りが生まれてきた。逃げるべきか、話しかけるべきか……そもそも歩行音だったのか?
一刻も早くはやてに会いたい、そんな考えが焦りを更に増やし、判断を狂わせた。
少しだけ、顔を出す。目に入ったのは……小さな人形。それが手を向けていた。いや、
確かに人形だが生きている人間のように強い意思を感じる。思わずシグナムは困惑してし
まい……それは、間違いなく隙だった。
「!?」
とっさに顔を引っ込める。頬を何かが掠めた。血が流れる。
運がよかった……いや、違う。
「最初から、狙って掠めさせた……?」
そう、あの弾速で真正面から顔を狙うならもっと傷が深くていいはず。何より、自分は
呆然としていたのだから。ならばなぜ……
そんな自問をするシグナムに、相手――人形はすぐに答えた。
「動かないで。動いた瞬間、お前はそこで死ぬ」
「……なに?」
「動いたら今の攻撃を当てる。当たり所によっては致命傷になるのだわ。
でも動かない限り、命は奪わない」
なるほどな、とシグナムは納得した。つまり、脅しだったというわけだ。もちろん、
このまま闇夜に紛れて逃走することは可能だ。だが。
「……何が望みだ」
シグナムは留まることを選んだ。
殺さない相手なら大丈夫だと判断したのだ。もっとも、色々やって最後に殺すという
可能性もあるが。
別に、人形が喋ることはもう驚かない。そもそもシグナム自身人間ではないのだから、
そういう物もあるのだと考えただけだ。
「質問があるのだわ。
私は真紅。私と似た人形に心当たりはあって?」
「……ないな」
「そう。桜田ジュンという名に心当たりは?」
「ない」
「今まで、誰かに会った?」
「いや」
「最後に。お前は、なぜ待ち伏せをしていたの? 殺すため?」
「あいにく、今の私は自衛が精一杯だ。木刀で人を殺すのは大変すぎる。ほら」
「…………」
隠れたまま木刀だけをかざし、相手の視界に入れてやる。
人形――真紅がシグナムのいる場所を見つめているのがシグナムにも分かった。信じる
べきか、信じないべきか迷っているのだろう。やれやれ、と溜め息を吐いて。
「何を言っても、無駄かもしれないが……
私は嘘は言っていない。絶対に、だ。ベルカの騎士としての誇りがある」
「…………」
「桜田ジュンという人物を探しているのなら、私も手伝う。
私の探し人も探すという条件付きだが、悪い条件ではないはずだぞ」
真紅は何も言わない。シグナムにこれ以上言う言葉は無い。しばらくして、真紅はぽつ
りと呟いた。
「……アリスゲームというものを知っていて?」
「知らないな」
「これと似たものよ。私達ドールは他のドールを倒し、ローザミスティカを奪わなくては
いけない使命の元にあった。私達は、アリスという存在になるために作られたのだから。
そして、アリスになるにはアリスゲームに勝ち抜くのがその方法だと思っていた。
つい最近、アリスゲームだけがアリスになる方法ではないと知ったけれど」
シグナムの耳に、笑い声が聞こえた。自嘲するような、哀しげな笑い声だ。
「それに気付くまで大切なものを失ったわ。
蒼星石さえ最後にはお父様のため戦うことを選んだ……選んで動かなくなってしまった。
状況も違うし、私は人形だから断言できないし、したくないけれど……」
真紅の言葉はそこで終わりだった。だが、シグナムにも後半は簡単に予想がつく。
――もし、人間も……このゲームもそんなことばかりなのだとしたら?
「だから、失礼かもしれないけど……お断りするのだわ。
私は仲間達と合流して、対策を練る。
アリスになる手段がアリスゲームだけでないように、きっと何か手段があるはずだから」
裏切られて戦うことになるのはもう嫌だ、と真紅は告げた。
その後は、何も無かった。
真紅と名乗った人形は何処かに消え、シグナムが一人で残された。
見知らぬ他人への極度の不信感。それが真紅にはあった。以前似た経験をしている者と
して、警戒や不安を抱いてしまうのだろう。
シグナムは怒ってもよかったのかもしれない。私を愚弄するのか、と。騎士の名に賭け
て裏切りなんかするものか、と。だが。
「私には、その資格は無いな……」
思わず、シグナムも自嘲の笑みを浮かべていた。真紅の言葉。それはシグナムにも思い
当たる節がある。
はやてが闇の書に侵食された時……蒐集の開始を決意したのは誰だ?他でもない自分達
ヴォルケンリッターだ。人を殺さない、そう決意はしていたし実際に死者は出さなかった。
だが、万が一が起こる可能性もあったのだ。強い決意が元で、殺人が起こされる危険性が
ある。そんな可能性を、シグナムもまた思い起こしてしまっていた。自分が殺されるなら
まだいい、だがもしはやてに危害が及ぶようなことがあれば、私はその相手を殺さずに止
めることができるのか。かつての自分はフェイトを殺してでも闇の書を完成させるつもり
だったというのに。真紅は当然、知らなかっただろうが……不信を受けるに足る過去が、
シグナムにはある。
――そして、もし優勝以外にはやてを帰らせる手段が無い時自分はどうする?
「……考えたくも無い」
シグナムは首を振った。どうもマイナス思考ばかりだ。
それに、少なくとも先ほどの会話で分かったことがある。このゲームにあの人形、真紅
は乗っていない。いつか合流する気になったなら、共に何らかの対策が練られるかもしれ
ない。幸い、シグナムの手にはクラールヴィントがある。通信妨害と異空間との通信。
使いこなせればこの狂ったゲームを破壊できる……かもしれない。
「まあ、私には使いこなせないのだが」
根本的な問題にシグナムはため息を吐いたが、嘆いても始まらない。
行動指針は決まった。まず、仲間と合流する。そしてクラールヴィントを渡す。望みが
ありそうなのははやてと……ヴィータも一応。クラールヴィントはベルカ式のデバイス、
ただでさえ補助魔法をあまり使わない上に術式が違うフェイトとなのははあまりあてには
できなさそうだ。人に頼るだけでなく、シグナム自身もなんとか使いこなせないかどうか
努力するべきだろう。
「帰ったらシャマルに礼を言うべきだな。それと、補助魔法の学習もしよう」
後方支援の大切さを思い知りながら、廃墟のように静まり返った遊園地の入り口を出る。
なぜかは知らないが、遊園地からは轟音がした。近づかない方が無難だ。となるとどちら
へ行くか……地図を見ながらシグナムは少し迷ったが、道路沿いに西へ歩くことに決める。
北は広すぎてすれ違う恐れがある。だが西は島を繋ぐ橋の前で待っていればいつか会える。
まさか列車が走っているということはないだろう、とシグナムは判断したのだ。実際には
走っているのだが……もっとも、こんな状況で列車が走っているなどと予想できないのは
仕方の無いことだろう。
「後は、運を天に任せるしかないか……」
自分の知らない所で仲間が殺される……そんな最悪のケースがないことを祈り、シグナムは歩き出した。
【F-3 遊園地入り口・1日目 深夜】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:健康・道路沿いに西へ移動中
[装備]:クラールヴィント(全く使いこなせていない)@魔法少女リリカルなのはA's
木刀
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1はやて、ヴィータ、フェイト、なのはと合流。優先順位は並んでいる通り
2クラールヴィントを使いこなせるようにし、脱出案を考える
3脱出できない時は……?(できれば考えたくない)
※シグナムは列車が走るとは考えていません。
【真紅@ローゼンメイデン】
[状態]:健康・北か東へ移動中
[装備]:不明
[道具]:支給品一式、ランダムアイテムは不明
[思考・状況]ゲームの破壊
人間不信(仲間は例外)
とある民家の一室。
ここで士郎たち五人は一時の休息を取っていた。
「だけどえっと士郎って言ったっけ?助かったよ。料理も上手だし。この非常時でも暖かい物食べるとやっぱり落ち着くな」
才人は士郎の作ったスープを飲みながらとても美味しそうな感情を込めて感想を伝えた。
「ありがとう。でもライフラインが切れてなくて助かったよ。幸い家にも材料があったし」
士郎も椅子に座りながら穏やかに答える。
外から気づかれないために灯りはつけていない。そのため薄暗いが何となく笑顔なのが才人には読み取れた。
また隣では先に民家の冷凍食品で食事を済ませたロックとハクオロが名簿の確認をしていた。
「名簿を確認したけどこのメンバーは・・・どうして俺とレヴィが居るのにダッチとベニーは居ないんだ」
「その二人はロック殿の仲間か?」
ハクオロがふと疑問に思いたずねる。
「ええ。俺の仕事仲間です」
「そうか。私もベナウィやオボロが居ないのは残念だ。彼らなら心強い仲間だったんだがな」
ロックの応えにハクオロも思わずここには居ない仲間のことを思い浮かべた。
「ハクオロさんも仲間は全員居ないんですか」
ハクオロの言葉の意味をロックは感じ取った。
どちらも頼りの仲間が欠けている。自分達が中心にならなくてはと。
「・・・・・・」
もう一人。グレーテルと名簿に書かれた少女は黙々と四次元バックを空けて中身を確認していた。
その表情は少女には似合わないほど真剣な表情だった。
時はロックがワープした直後に遡る。
「ヘンゼル、グレーテル。彼女達のここでの名前か。くそっ」
ロックは初めて名簿で確認した時に憤りを感じずにいられなかった。
過去に出演したポルノビデオの役名がここでの名前。そんなのは許せなかった。
その直後だ。グレーテルと出会ったのは。
「君か・・・会えたね」
ロックは不意に目の前に現れた少女に驚きながらも落ち着いて声をかけた。
「うふっ。良かったわ。最初に出会ったのがあなたで。ねえ協力してくれない?逃げるのに」
だがグレーテルは特に答えを返さずに無邪気な笑顔でロックに話し続ける。
「私はこのゲームには乗る気は無いわ。だってあの部屋の人見たけど子供とか弱い大人ばかりですもの。それよりあの仮面の人。あの人を殺したいわ。
ただ殺しあうよりその方がずっと楽しそうで魅力的ですもの。それに兄さまは殺したくないわ」
最後の一言がロックには何故か強く強調されたように感じた。ただの錯覚なのかもしれない。だがロックはグレーテルの心を信じたかった。
「分かったよ。俺が・・・協力しよう」
ロックはグレーテルの考えに力強く頷いた。
その後本当にすぐだった。才人、ハクオロ、士郎と出会ったのは。
もし彼があと数年ロアナプラで暮らしていれば彼らも疑っただろう。
だがまだ裏社会へ入って期間の短いロックはあっさりと信じてしまった。
むろんグレーテルの勘が彼らは信頼できると感じ取ったのも大きいが。
これが今回ばかりは二人にプラスに働いた。
時は再び元に戻る。
「とりあえず才人殿はルイズという少女を探したいのだね?」
ハクオロは才人に尋ねる。
「はい。あいつ俺が居ないと絶対に他の人にわがまま言って迷惑かけると思うんです。俺が居ないと・・・マジでルイズ問題起こしてないと良いけどな」
才人はルイズの心配の他にも別の参加者にルイズが我侭を言ってないか、問題ごとを起こしてないかも心配の種だった。
「そうか。それは早く見つけないとな。・・・ロック殿は?」
ハクオロは才人とルイズの心配の仕方に若干肩が抜けながらもロックにも質問をする。
「あっ。はい。とりあえずレヴィを探さないと。あとこの子の兄さんも」
ロックは言いながら支給品のひとつである地図をじっくりと眺めるグレーテルにも目を向けた。
なんとしてもこの子の兄さんとレヴィを会わしてはいけない。ロックはそう感じた。
レヴィの性格なら殺し合いになるだろう。こんなふざけた場所でドンパチはまっぴらだ。
「・・・・・・士郎殿は誰をお探しで?」
ハクオロはあえてロックには返答せずに士郎にも質問を投げかける。
「俺はですね。とりあえずセイバーと凛の二人です。あとこの際アーチャーでも。あいつら凄く強いし助けにはなります」
士郎は顔見知りの三人の名前を挙げる。
「そうですか。私はエルルゥとアルルゥです。カルラやトウカはいくらでも生き延びる術はありますがこの二人は・・・。早くしないと・・・心配です」
ハクオロは二人の名前を出すと思わず深刻そうな感じが声から出てしまった。
そしてほんの少しではあるがハクオロは戦闘力があるもののみが仲間の士郎を羨ましく感じてしまった。
その後少しして気を取り直し全員が椅子に座り直し、新たに会議を始めた。
「まずは全員の支給武器を確認したい。まずは私から出そう」
ハクオロは毅然とした態度で話し出し、そして支給武器を出す。
「・・・この鉄の塊は何だ?あと不思議な薬品と光線みたいなのがあるが」
ハクオロは取り出しながら不思議に思ったことを言ってしまう。見たことが無い品のために仕方が無いが。
「貸してください」
ロックが鉄の塊とハクオロが言ったものを取る。それはレヴィの愛銃のカトラスだった。
「これは・・・レヴィの。僕が持ってますよ。良いですか」
ロックは少し迷ったがすぐに決めた。このめぐり合わせも何かの縁だろう。そう感じたのだ。
「ああ。私も使い方は良く分からないからな。・・・んっ。この二つは説明書があるな。読んでみよう。
トカゲロン、塗ると喪失した部分を元に戻せる、ただし同一人物には三度しか使えない。
復元光線、壊れた物も光を浴びせれば一瞬で修復。ただし使用回数は十回。また自然劣化(耐久制限超過)などは直せない。これは魔術なのか?」
ハクオロは不思議すぎる効果の武器二つに思わず疑問の声を挙げる。
「ははは。でも俺の探してるルイズも魔法使うし意外とそれも正しいかも」
才人は軽い調子でハクオロの疑問に答える。
「・・・そうか。ではこれは私が持っておこう。次は才人殿か」
「はい。俺はっと・・・これですね」
才人は一つのみ支給されたのか出したのは一つのみだった。
「グラーフアイゼンって名前です。カードに名前が書いてありました」
才人は名前を読み上げた。
「ただのおもちゃみたいだ」
ロックは思わずその武器の感想を呟いた。
「でも・・・なんか分かりますよ。これ武器みたいです。凄い威力のある」
才人は何となく直感で感じた。この魔法武器の威力と性能を。
「俺。これ持ちますよ。威力有りそうだし」
「でも大丈夫かな。不安だ」
ロックはまだその武器に不安を拭いきれない。
「じゃあ次は俺が出しますよ」
立て続けに士郎が四次元バックを空ける。
「えっと・・・三つありますよ。これなら大丈夫です」
士郎は武器を取り出した。
鉄扇とイングラムM11と大きな斧だった。
「これはっ。士郎殿。私が受け取って良いか?」
ハクオロは思わず鉄扇を取り士郎に頼む。
「良いですよ。でもそれって良いんですか?」
鉄扇を取ったハクオロに疑問をぶつける。
とても武器としては頼り無さそうだったからだ。
「いや。私はこれをよく使っていたからな。でも少し私が使ってたのより大きくて重いが・・・これなら思うように戦える」
ハクオロは鉄扇を腰に差す。
「私がこれ使うわ」
グレーテルはイングラムM11を手に取る。
「えっ。グレーテル。君これ使えるの?」
士郎は驚く。少女にマシンガン。とてもアンバランスだったからだ。
「ええ。私はこれで大丈夫よ。いつも使ってるのはもっと大きいんですもの。あと士郎。その斧、私の兄さまの」
グレーテルは士郎の持っている斧を指差して伝える。
「えっ。君の兄さんのか。使いやすそうだから良いなと思ったんだけど・・・使わない方が良いか?」
士郎は少し考えてグレーテルに使用許可の確認を取った。
「いいわよ。だってその斧は殺すためですもの。誰でも使って良いのよ。戦うためなら」
グレーテルは無邪気な笑顔で話す。
「・・・そうか。・・・ありがとう。・・・えっとロックさんとグレーテルは?」
士郎は斧を取り、グレーテルの言葉に少しつまりながらも何とかロックとグレーテルにも支給品をたずねる。
「私はこれね。あまり意味無さそうだけど」
グレーテルは二つの支給品を出す。
一つはヌイグルミ、もう一つはデリンジャーだった。
「これは結構良いんじゃないの?」
才人は銃を出したグレーテルに尋ねる。
「?だってたった二発しか撃てないのよ。威力も小さいし。私は要らないわ。欲しいならあなたが使う?」
グレーテルはデリンジャーを机に置くと才人の方に滑らす。
「良いのか?じゃあ俺が貰おうかな。この杖だけじゃ不安だし」
「待ってくれ」
遠慮なく受け取ろうとした才人をロックが制止する。
「僕が持つよ。これだけじゃ威力が強すぎて扱いづらいし」
カトラスを出しながらロックは苦笑いで才人に願い出る。
「分かりました。良いですよ」
才人はあっさりデリンジャーをロックに渡す。
「ありがとう」
ロックは才人から銃を受け取る。
「それよりロックさん。支給品見せてよ。最後だし」
才人は軽い調子でロックに支給品を見せてもらうように頼む。
「あっ。そうだね。えっと・・・」
ロックはバックをあさり支給品を一つ取り出す。
「これだけだよ。・・・はあ」
ロックが脱力ながらに取り出したのは小さな指にはめるような小型の大砲のようなものだった。
「おもちゃか。いったいあの仮面の男は何を考えているんだ」
ハクオロは疑問を感じずに居られなかった。
殺し合いの武器におもちゃを混ぜる。そのようなふざけたことをする者の真意が理解できないからだ。
「一応説明書があります。えっと・・・空気ピストル、指にはめてバンッと叫べば空気の弾が飛び出し当った相手が気を失います。・・・完全におもちゃだよな。これ」
ロックは一応説明書を読むが余計疲れがたまった。
「ははは。一応しまっておけば良いですよ。意外とマジに使えるかもしれませんよ」
才人は笑いながら話す。
才人の笑いに少しむっとしながらもロックは空気ピストルをかばんに入れる。
「それでこれからどうします。まさかいつまでもここで閉じこもっても居られないですし」
一通りの支給品のチェックと交換もすませたところで士郎が本格的に今後の展開を話す。
「とりあえず夜までここにいましょう。朝になれば駅があるからそこから電車で街に行こう。まずは人を探さないと」
ロックが提案をする。まずは人を探さないと話にならないからだ。
「しかし街に人が居るのか?普通は森の方に逃げるのでは?」
ハクオロはロックの決断に疑問をぶつける。
「いいえ。彼は正しいわ。誰でも街が恋しいですもの。・・・誰だって」
グレーテルがハクオロに反対の意見をぶつける。
語尾がほんの僅かに小さかったがその意味はロック以外感じ取れなかった。
「そうですね。俺もそう思います。やっぱり寝る場所とか物資も街ならありますし。特に女の子は野宿は・・・」
士郎はロックとグレーテルの意見に強く賛同する。
ここには居ないが桜や大河先生ならきっと野宿は避けるだろう。そう考えればロックの意見はうなずけた。
「確かにそうだ。ルイズのやつ野宿なんて絶対無理。きっとホテルでも探してシャワー浴びてベッドで寝てるよ。間違いない」
士郎の言葉に才人も強く同調する。あのプライドが高いお嬢様育ちのルイズが野宿。才人にとってそれは考えられないことだ。
「・・・そうか。確かにそうだな。分かった。夜が明ければすぐに街へ出発だ」
ハクオロも大多数の意見に従い明日の朝五人は街へと向かうことを決めた。
【F−2。歩道と線路の間にある民家・1日目 深夜】
【ハクオロ@うたわれるもの】
[状態]: 健康。エルルゥとアルルゥが心配だが落ち着いている。
[装備]:鉄扇(いつもの愛用のものより一回り大きく少し重い)
[道具]:支給品一式、トカゲロン、復元光線(どっちも未使用)
[思考・状況]
1:朝になれば駅から街に向かう。
2:エルルゥとアルルゥを探す。
3:トウカとカルラも探す。
4:一人でも死者や怪我人を出さずにゲームから脱出
5:襲い掛かる敵は容赦しない
6:出来れば使い慣れた鉄扇の方も手に入れたい。
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 健康。
[装備]:斧(ヘンゼルが愛用していた物)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:朝になれば駅から街に向かう。
2:凛とセイバーとアーチャーを探す。
3:一人でも仲間を見つける。
4:とにかく何が何でも死者を出さずにゲームを終わらせる。
【平賀才人@ゼロの使い魔】
[状態]: 健康。これが魔法学校の授業の延長なのか本当の殺し合いなのかはっきり分かっていない。
[装備]:グラーフアイゼン(魔法が使える以外よく分からない)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:朝になれば駅から街に向かう。
2:ルイズを見つける。
3:このゲームがマジかどうか確かめる。
4:授業の延長ならとにかく活躍して目立ってギーシュを見返す。
5:もし本当の殺し合いならルイズを見つけてギガゾンビを倒す(殺すかは別)
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]: 健康。落ち着いている。ギガゾンビに強い憤り
[装備]:ソードカトラス(レヴィ愛用の銃)、デリンジャー
[道具]:支給品一式、空気ピストル(おもちゃと思っている)
[思考・状況]
1:朝になれば駅から街に向かう
2:ヘンゼルとレヴィが鉢合わせになる前にどちらかを見つける。
3:グレーテルの様子が少し気になる。
4:敵は殺す。無害なら仲間にしても良い。
5:ギガゾンビは殺す。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]: 健康。精神的にほんのわずかに高揚があるもほぼ冷静。
[装備]:イングラムM11
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:朝になれば駅から街に向かう
2:兄さまと合流する。
3:攻撃するものは皆殺し。
4:ギガゾンビを楽しんで殺す。
「う〜ん、どうしよう。」
夕日の中、一人思案に暮れる妙齢の美女。非情に絵になる光景である。
…肌着は随分と変態的だったが。
◆GeWQlstma6(これで二回目)を悩ませているのは、SSの採用のさせ方である。
「ドカゲロンと復元光線は出しちゃダメって言われちゃったし……」
「だからと言って支給品を変えるなんて絶対に嫌だし…」
「あーーーっ!もう、こんな時に自作自演が使えないなんて!」
先程からこれの繰り返しである。途中に入った突っ込みにも、信用度がマイナスに突入している事にも気付いていない。
結局、この永久ループが終わったのは30週目が終わった時だった。
ズガンッ!
「愚かです。」
食料の入ったバッグを掴み、住人(◆GeWQlstma6 以外)はその場から立ち去った。
そう、こんな殺伐とした場で無茶な支給品を挙げ続ければ、こうなる事など十分に予測できたはずなのである。
それこそが、彼女に筆を起こす為に最初にすべきことだった。
【49 ◆GeWQlstma6 筆を折る】
【52 住人 良SS、SS、良書き手、書き手、良読み手、読み手、糞読み手】
【残り まとめサイト】
最高!
自分でも無理があるとは思っていたので、残念ですが
>>188を破棄します。
小声で呪文を唱え、杖を振り、こんな状況にも関わらず怯えた様子も見せず、むしろどこと無く楽しそうな表情で道を歩いている男に向けて風の刃を放つ。
風の刃が男の首を切り裂き男の顔が宙を舞う。
そして一瞬遅れて体が崩れ落ちる。
名も知らぬ男の人生は、たったそれだけで終焉を迎えた
最後に悲鳴一つあげることも無い。そこに残るのはただ死という現実だけ。
…人を殺した。でもその事に罪悪感は無い。
私は帰らねばならない。
帰って、この『どんな病気にも効く薬』を母さまに届けなければならない。
そして母さまと幸せに暮らす。
たかが80人殺すだけで、その願いが適うなら安いものだ。
どれほどのあいだ、思考していただろうか?
BANG!!
激しい音とわずかな衝撃が私を襲った。割れた窓ガラスの破片が私の頬を傷つけ、うっすらと血が流れる。
「首をもがれたのは、久しぶりだ。なかなかやるじゃぁないかヒューマン」
声のする方を見るとを見ると、殺したはずの男がそこに立っていた。
「いい目をしているなヒューマン、その目は化け物を殺す人間の目だ」
どういうこと。
あの男は確かに首を切り飛ばして殺した筈───
BANG!!
「どうしたヒューマン?敵はここにいるぞ、さっさと攻撃してこい。お楽しみはこれからだ!!」
余裕のつもりか男は妙な形の杖をこちらに向けたまま、此方に語りかけてくる。
「HURRY!」
何故殺した筈の男が生きていたのかは分からない分からない。
「HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!」
でも────
「HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!」
関係無い。死なないのなら───
「HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!」
死ぬまで殺すのみだ。
「ウィンディ・アイシクル」
無数の氷柱を作り出し、眼前の不気味な男に向けて放ち───
「アイス・ストーム」
自分の使える呪文の中でも最も強力なトライアングル・スペルを眼前の男に向けて叩きつける。
無数の氷柱に突き刺され、氷粒まじりの竜巻の直撃。
そんな攻撃に耐えうる“人間”が存在するはずも無く、それは明らかな過剰殺戮だった。
───相手が“人間”ならば。
体中に氷柱が突き刺さり、纏っている服もボロボロ。
「どうしたヒューマン!?それだけか!?たったそれだけで私を殺すつもりか!?もっとだ!!もっと!!もっと!!もっと!!もっと!!私を殺したいのなら!!もっと力を見せてみろ!!」
そんな状況で、タバサの眼前に立つ男は、至極楽しそうに笑って見せた。
「…化け物」
「そう、化け物だ。それと退治するお前は何者だ?化け物か?人間か?それとも狗か?」
勝てない、目の前の“化け物”に私は決して敵わない。それが理解できた。
でも、死ねない。折角母さまの病気を治すきっかけを掴んだのに、こんなところで死ねるはずが無い。
BANG!BANG!BANG!
化け物の杖から出た何かが私の右腕と両足を穿った。
「どうした?ヒューマン、それで終わりか?私を殺して見せろ!500年前のように!100年前のように!この心臓に氷柱を突き立てて見せろ!!」
───勝てない
───死ねない
───ならば選択肢は一つ
───逃げる。
「アイス・ストーム」
もう一度竜巻をぶつけて、その隙に───
「フライ」
空を飛んで逃げれば───
BANG!!
飛翔の準備が整った瞬間、何かが私の胸を穿った。
「…そうか、お前もそうか。私を殺すに値わない、下らない生き物か」
竜巻をものともせず、男が此方に向かって歩いてくる。
「本来なら、犬の餌にしてやるところだが、どう言う訳か出てこないようだ」
男の手のひらが私の頭を掴む
「故に───私が直々に喰らってやる」
その言葉を聴き終えぬうちに────私の意識は途切れた。
「トリスタン───ハルゲニア?」
本来なら食した相手の知識は完全に自分の元となるはずだ。
だが得られたのは要領を得ない断片的な情報のみだった。
先程、使い魔を出せなかったことといい、人1人喰った割りに修復が遅いことといいどうも自分の力は制限されているようだ。
「それにしても…ちゃぁんと理解してるじゃないかギガゾンビ」
彼の首に、首輪は無かった。
何故なら彼は首を爆破したくらいでは死なないから。
その代わり、彼の心の臓腑には爆弾が仕掛けられていた。
「そう、吸血鬼を殺すのには昔から心の臓腑に杭を打ち込むと相場が決まっている」
私の心の臓腑に杭を打ち込むのは誰だ!?
私の心の臓腑に爆弾を埋め込んだギガゾンビか!?
それとも死神ウォルターか!?
それとも銃剣アンデルセンか!?
それともまだ見ぬヒューマンか!?
楽しい…実に楽しくなってきた。
さあ、戦争の時間だ!
【F−3 歩道・1日目 黎明】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:体中に裂傷(ただし自然治癒可能)
[装備]:対化物戦闘用13mn拳銃ジャッカル (残段25)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1殺し合いに乗る。
【タバサ@ゼロの使い魔】死亡
備考
※1タバサの支給品の『ルイズの杖@ゼロの使い魔』と『どんな病気にも効く薬@ドラえもん』その他支給品一式がF-3に放置されました。
※2最初にタバサが隠れていた店のガラスは全壊、その他派手な戦闘痕が残っています。
※3かなり派手な戦闘音が響きました。周囲八マスに居る人間に聞こえる可能性があります。
タイトル付け忘れてました。
【reckless snow wind】
でお願いします。
彼女にとって時刻が深夜なのは僥倖だった。
人ならざる者、二度と太陽の下を歩けない身となった今、夜は活動時間だ。
彼女の名はセラス・ヴィクトリア。永遠の19歳、まだ血の味を知らないドラキュリーナ。
殺し殺されるのが当然の世界に籍を置く身だがまだ人の心は失っていないつもりだ。
疾風と化して山を降る。
セラスは斜面の竹林を降り一路寺を目指す。日の出まで6時間を切っている。日光を避けられる場所は今のうちに確認しなくては。
地図と地形、そしてコンパスを用いて照らし合わせたところ、ここはB−7地区で山の中腹あたりだ。
山を挟んで北東には温泉、南に下ればエリアの境目に寺がある。更に南へ行き線路を進めば市街地だ。
(竹が自生している。ここはアジアなのかしら?)
竹林を抜け開けた場所に出ると寺が見えてきた。今のところ人の気配は無い。
門をくぐり寺内を慎重に抜けるが吸血鬼の身に変化はない。アジアの怪物には寺院で寝起きするモノがいると聞くから吸血鬼でも大丈夫なのだろうか? そんな風に考える。
本堂に入りやっと息をつけた。深呼吸、地図を広げ状況の再確認をする。
あの部屋にはまだジュニアスクールにも上がっていない子供が何人もいた。その中で少女が蟻でも踏み潰すかのように殺害されたのだ。
ギガゾンビへの怒りがこみ上げてきた。その上全員で殺し合えという、冗談じゃない。
「いや、マスターなら大喜びするかも…」
戦闘狂の主を思い出し苦笑した。
「とりあえずマスターたちと合流しないと。何か役立つものは…」
はじめに手にしたのはサファイヤのような緑の宝石が埋め込まれたナックルガード。説明には『エスクード(風):魔法騎士の装備。専用の両手剣もしくは弓矢を収納できる。攻撃力は心の強さに拠る』とあった。とりあえず装着する。
もうひとつの品は“アレ”だった。手に焼ける感覚を覚え思わずバクパックごと放り出してしまう。
『バヨネット×2:ライフルなどの銃口につける刺突用刃物。切れ味はよくないが本品はこの限りでない。なお神聖武器である。』
かつて自分の身体をハリネズミにした気違い神父の獲物だ。急いで名簿を確認すると自分とアーカード、ウォルターと並んであの男の名前もある!
こんなものどこかに捨ててしまえ、そう思ったがすぐに別の考えが浮かぶ。
こうは考えられないだろうか?
自分の手元にバヨネットがあるということはアンデルセンは現在丸腰だ。聖書も持っていない可能性が高い。
無論アンデルセンが他の武器を所有している可能性、アーカードがジャッカルを、ウォルターが鋼鉄糸を持っていない可能性も考慮したが二人と合流できれば対抗できるはずだ。
「やっぱり持っておこう、ウォルターさんの臨時の武器になるかもしれないし」
直接触れないようにメモ用紙を破り包んでバックパックにしまう。
次はどう行動するかだ。
いくつもの考えが浮かんでは消える。戦闘での一瞬の判断とは違う思考。
まずアーカード、ウォルターとの合流は最優先課題だ。吸血鬼の超常能力も太陽が弱点は痛すぎる。
アンデルセンは――遭遇すれば対決は避けられないだろう。
そしてゲームからの脱出。できればギガゾンビを倒したい、それには――
(青いジャック・オー・フロストにギガゾンビの情報を教えてもらう)
セラスはギガゾンビと青いジャック・オー・フロスト(以下青フロスト)との会話は思い出した。
少なくとも過去ギガゾンビを捕縛した者が存在したということ。青フロストに接触すればさらに詳しく分かるかもしれない。
「えーと、今ここの寺だから、ここね」
地図を指差した先にはホテル、レジャービル、駅の三角地帯。3つともそれぞれ約500メートルの距離を置いている。
地区の中心で人が集まりやすく、かつひとつのエリアに固まっていて人探しには絶好の場所だ。しかも太陽光を避けられる。
寺から一番近いホテルまでおおよそ1キロ、山道を考慮しても1、2時間の距離だ。
満月の柔らかい光が照らす中、セラスは寺を後にする。
闇の中を翔けながら携帯食料を少量千切り口にする。相変わらず吐き気を催す味だが無理やり租借し飲み込んだ
「マズ、やっぱり血でなくちゃ駄目なの…?」
吸血への渇望と暴力衝動を抱えドラキュリーナは夜を翔ける。
【C−7 山中・一日目 深夜】
【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]: 健康
[装備]: エスクード(風)@魔法騎士レイアース
[道具]: 支給品一式 (バヨネットを包むのにメモ半分消費)、バヨネット@ヘルシング
[思考・状況]
1:アーカード、ウォルターと合流
2:ドラえもんと接触し、ギガゾンビの情報を得る
*ドラえもんを『青いジャック・オー・フロスト』と認識しています。
#Warning! Even the collisions are 810.6 another meters.
「殺しあえって言われて渡された者がコレって…私相当運無い?」
獅堂光は、困惑していた。
殺し合いに乗るつもりは無かったが自衛の為にせめてまともな武器が入っていることを願って出したデイパックの中身は…。
「ど、どうしようかな…これ」
テレビに映っているアーティストが使っているような、新品のドラムセット一式。
吹奏楽部だとか軽音楽部が使っていたものに近いのかもしれないが、こんな間近に見たことは無かった。
それと奇怪な瓶が二本、これが彼女の支給品。
「こっちは武器にするにしても、投げて使うぐらいしかないなぁ。
このシンバルが外れたらこれが武器になりそうだけど、このネジを…こう、ん?」
一番上のネジをグルグルと回し始め、ゆっくりとそのネジが外れる。
「これでこうすれば…あ、外れた!」
クラシュシンバルがスタンドから外れる、持ち上げてゆっくりと離して行く。
「あっと…うわわっ!」
スルリと手から滑り落ちクラッシュシンバル独特の弾ける音が辺りに響き渡る。
その音は大きく、激しく、あたりの木々を揺らしていく。暫しの間、その場で警戒を続けた。
「…誰も来ない。ああ良かったぁ、いきなり襲われるところだったぁ」
落としたクラッシュシンバルを拾い、デイパックへと放り込む。
「残りはいざ!って時に使えるかもしれないし。うん、戻しておこう!
それと…もう一つ何かある、これはなんだろう?」
ドラムセットをデイパックに仕舞い、次に光が手にしたのは「デンコーセッカ」と書かれた同じ形の2本の瓶。
一緒についている解説書に光は目を通した。
この時点での光の失敗は二つ。
クラッシュシンバルを落としたこと。
クラッシュシンバルの音を聞いていた人間が、遠くに少なくとも一人いたということ。
#Warning! Even the collisions are 681.86 another meters.
「ハッハッハァ!いいですねぇ!少し何時もより遅い気はしますが速度も体調も良好!
こんな場所とは言え、やぱりドライブというものはすがすがしい気分にさせてくれますねぇ。
そうそう!ドライブと言ってもやはり目的地に着くまでが大切です!その目的地までの移動時間を短縮することで現地での予定に余裕が持てる!
さらにその予定を早く済ませれば自由に行動できる時間が増える!つまり早くすればするほど自分にプラスになるんです!
聞いてますかぁ?”イオン”さん!」
「み、みお、んだ、っていってあああああああああああ!」
「大丈夫ですよ〜私がしっかり前を見ていますからねぇ!
この世で最も速い速度でも安定した走行をお約束しますよぉ?」
それにしてもこの男、全く人の話を聞く様子が無い。
私は一刻も早くこの性質の悪い絶叫マシーンから降りたい。
いやこれは絶叫マシーン?そんな軽いもので済むようなレベルじゃない。
地獄。それが相応しかった。
とにかく一刻も早く降りたい、そして喉の奥からこみ上げてくる物をどうにかして処理したい。
そんな魅音の願いが届いたのかクーガーが有る事に気が行く。
遠くからある程度の音量で聞こえるドラのような弾ける音。武器の音なのだろうか?
「おやぁ?いまなんだか変な音がしましたねぇ。こんな山の中で音を立てるというのは自殺行為に近いです。
しかもこんな弾ける音といえば戦闘が起こっているかも知れないと考えた方がいい!ならば!紳士として救出に向かうべきです!
さらに可能性を考えればイオンさんの知り合いが襲われているとも考えられる!襲っている方というのならば考えますけどねぇ!!
どちらにせよ俺は向かうのだぁああああああ!最速!最短で!行きますよイオンさああああああああああん!」
さらに強く握られるハンドル、アクセルは全開、上がる速度。
堪えるのが限界になってきた、今すぐにでも吐きたい。
しかし無常にも速度は段々と上がっていく。
これは試練ですか?
#Warning! Even the collisions are 315.87 another meters.
「ふーん、コレを飲むと目にも止まらぬ速さで走る事ができる…かぁ」
俄には信じがたい話である、こんなようなものを飲むだけでそんな超速が手に入るとは思えない。
でも信頼できる仲間には早く会いたい、この会場内をそんな速さで駆け巡れば少しは早く見つかるだろうか。
何にせよ動かなければ始まらない、考えは纏まった。
「よし、目立つかもしれないけれど海ちゃん風ちゃんを探しに中心に行こう!これの蓋を開けて…と」
中身の液体を口の中へと流し込む、不味いとも美味しいとも思えないなんとも言い難い感覚のそれを飲み込んでいく。
飲み干したところで何らかの変化が出たわけでもない、獣の身体になったわけでもないし、背中に羽根が生えた訳でもない。
「ホントこれで速くなっ…ええええええええ?!」
何気なく後ろを振り向いた光の目に飛び込んできたもの、それは。
#Warning! Even the collisions are 62.91 another meters.
「さぁ!音が鳴ったところまで恐らくもう少しですよ!ヒャッホオオオオオオオ!」
もう声すら出ない、完全にこの男のペース。
考えるという事が馬鹿らしくなってきた、世界が違うというより次元が違う。
いやもっとなにか根本的な物が違う。
あたまのつくり?すんでいるせかい?なんかもーどーでもいーや、あははははは。
「ねぇ、イオンさん。大丈夫ですか?流石に車ではありませんし少し最速すぎましたか?」
スピードを緩めることなくクーガーはたった一瞬、魅音のほうを振り向いた。
魅音には見えた、その一瞬の間に目の前に人影が見えたことを。
「ま…ま、まうおぇっ!まえっ!」
このまま行けば確実に衝突する、下手すれば三人揃ってオダブツになるかもしれない。
魅音の必死の叫び、振り絞ったその声は爆音より激しく。
「え…?うおおおおおおっ?!」
#Before long, the unexpected error and this vehicle will collide.
→クーガーの考え
このままでは衝突!しかしこの俺のウルトラテクニックを以ってすればコレぐらいの危機を乗り越えるぐらい朝飯前!
即断!即決!即動!スクーターの武装を解除し瞬く間に俺の足に装着!ラディカルグッドスピード脚部限定!
そしてそのままスクーターの裏側に回り逆噴射!さらにハンドルの向きを変えて進行方向を逸らす!
極限まで高めた乗り物の速さVS俺自身の速さの一瞬の戦いだ!ハッハ…な、何ィ〜〜〜〜〜〜〜〜!!
→光の判断
突っ込んできたのはバイク、どうしよう!このままじゃ海ちゃんや風ちゃんにも会えないまま死んじゃうかも知れない!
と、とにかく!逃げよう!せーのっ!…うわ、うわわわわわあああああああああああ!!
→魅音の願い
降 ろ し て
この数秒に起きた出来事は正に超人技。
クーガーが瞬く間にアルターを自分の足に移しバイクを前から押さえつけハンドルを返し進行方向を変え、アルターからの噴射でバイクの速度を緩めるいうもの。
その前に光は走り始めていた、本人すら考えつかなかったスピードが一瞬で出たのだ。
一方魅音は…クーガーを決して離す事は無かった。何が起こっているのか、考える余裕すらなかった。
速度が緩まったとはいいある程度の速度を持ったバイクはそのまま近くの木へと突っ込んでいった。
刹那の土壇場劇、そこにいた三人が全員衝撃を受けた。
「俺より速く動いていた、しかもあの速度を瞬時に出すとは…バカな、俺が遅い?俺がスロウリィ?」
確かにあの人間が何か使っていたのかもしれない。
それにしてもアルターは見当たらなかったしそれといった特徴も無かった。
一瞬にしてどうやってあそこまで速度を高めたか?
「俺が…遅い…うあああああああああああ!オ〜ブストラクショ〜ン!!」
クーガーはカブのことも忘れ、ガクリと膝を突いた。
「超えて見せる!例えどんな人間であったとしても俺は追いついて見せるぞおお!」
魅音はスクーター最速地獄から抜けだせたや否や即座に走り出し、そこらの木に寄りかかり吐いた、吐いた、吐き続けた。
クーガーの叫びも何もかもを無視し、吐いた、とにかく身体からこみ上げてくる物が止まらない。
胃液やらなにやら全て、止まることなく。吐いて吐いて吐いて。
魅音は自分の不運とクーガーの能力を心の底から呪った。
【C-8 南部・1日目 深夜】
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:乗り物酔い、精神的に軽く動揺、吐き気、著しい頭痛、多少の狂乱?
[装備]:ホ○ダのスーパーカブ(破損状況は未確認だが木に突っ込んだ)
[道具]:支給品一式(配給品残数不明)
[思考・状況]
1.とにかく吐く
2.圭一ら仲間と合流。
3.クーガーから逃げる(?)
【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:俺が遅い…?俺がスロウリィ?
[装備]:ラディカルグッドスピード(脚部限定)
[道具]:支給品一式(配給品数不明)
[思考・状況]
1.俺が遅い…?
2.世界を縮める。
3.イオン(魅音)をエスコートする。
[備考]
※カブの立てた物音は誰かが気がつくかもしれません。
※カブは停止し、アルターは解除されました。
クーガーの支給品、魅音の残り支給品数は未だに不明です。
※ちょうど光がシンバルを落とした地点です。
シンバルの音を不審に思った人間がこちらに向かってくるかもしれません。
「わわわ!ちょっと待って!待って!」
自分でも予測していなかった速度を上手くコントロールできずに爆走を続ける光。
デンコーセッカの効力は凄まじい物だった。
「こんなに早くなるなんて考えてないってえ!!」
――――――――えー、本日は人間暴走特急にご乗車頂き誠に有難うございます。
当列車は現在止まれません、そのままお待ちください――――――――
【D-8 中心部線路付近・1日目 深夜】
【獅堂光@魔法騎士レイアース】
[状態]:デンコーセッカによる最速状態、早朝頃には切れます。
[装備]:クラッシュシンバルスタンドを解体したもの(足の部分を先端にする感じで持っています)
[道具]:ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、デンコーセッカ@ドラえもん(残り1本)
[思考・状況]
1.誰か止めて!
2.光、海と合流
3.この場所から脱出
[備考]
※爆走の為、足音等に誰かが気がつくかもしれません。
シンバルを落とした大分後ですが、比べ物にならないくらい大きな音なのでこちらのほうが不信がられる可能性が有ります。
※ドラムセット種類についてはおまけのようなものなので。
大体の形を把握していただければそれでOKです。
ドラムセットはちなみに一式でこのような物です。
ttp://www.soundhouse.co.jp/shop/ProductDetail.asp?Item=677^S4522STLA^^
205 :
怪奇!デブス腐女子ジャイ子 ◆VpZhygrZew :2006/12/09(土) 21:02:38 ID:1PTWoumr
ジャイ子参上!!
「ぐふふうふふふふふふ!なんでアンジェリークと桜蘭学園ホスト部とプリンセスプリンセスの
イケメンがいなくてあんたたちのようなキャラが出てるのよ!死になさい!!」
ズガンズガンズガンズガンズガン!!!
ハクオロたちの体は蜂の巣になった!
「作者の贔屓がわかる作品ほどキモいものはないのよ!氏ね!作者!何が戦隊ヒーローだ!」
ズギューン!
◆GeWQlstma6 も死んだ!!
そしてジャイ子は満足そうにアンジェリークをやりだした。
激しい戦いの裏にはこんなドラマがあったのだ。
【ハクオロ@うたわれるもの】
[状態]: 死亡
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 死亡
【平賀才人@ゼロの使い魔】
[状態]: 死亡
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]: 死亡
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]: 死亡
>>200の
> この世で最も速い速度でも安定した走行をお約束しますよぉ?」
を
> この世で最も早い速度でも安定した走行をお約束しますよぉ?」
に変更です。
や、些細なことですけどね。すいません。
そこに居たのは、龍咲海という女とタチコマという機械だったのだけれど、
2人はお互いの名前を知らなかったし、名乗りもしなかったのだから、
その時は名前なんて、あまり意味が無いものだった。
街中を一人の女が走っている。
長髪で細身の若い女。なんとなく、水とか海とかを連想させる。青い女。
そして、身に着けた青い服にコーディネイトでもしたかのように、顔は血の気が失せて、真っ青だ。
表情は悲壮で、不安に満ち溢れている。
そして、さっきから誰も周りに居ないというのに、何度も後ろを振り返ってばかりいる。
さしずめ、非日常的な恐怖による恐慌状態、といったところだろうか。
彼女にとっては、この異常な環境と目の前で起こった人の死は、その許容範囲を超えたものだったのだろう。
そして、自らの許容範囲をオーバーしたとき、人間の取る行動は大体二つ。
何もしなくなるか、一心不乱に何かをしだすか。
そういう意味では、彼女は一心不乱に、逃げていたのだろう。
見えない恐怖から。迫り来る死から。
得てして、そういう時に人間は、脆くなる。
「ねえ、ねえ、そこのお嬢さ〜ん、僕とお茶しな〜い?」
突然、何も無かったはずの空間から声がした。
耳障りな高い声。
「えっ?ええっ??何、何なの!!??」
女は突然の事態に取り乱している。
そんなにキョロキョロすると目を回すのではないのだろうか。
「あれ?おかしいなぁ、女の人の事情聴取するときの必殺技だってパズ君が言ってたのに〜!」
対して、声の主は動じない。というか、緊張感がまるで無い。
ここまで図太いと、この声の主も人間かどうか疑いたくなる。
それはこの女にとっても同様だったらしい。
「ど、どこなの?誰なの?何なのよ、答えなさいよッ!!」
「いえ、僕はこう見えても一人の国家公務員なんですよ?あ、見えないんだっけ?
とりあえず、そのまま落ち着いて僕の話を聞いてくれませんかぁ?」
ここまで取り乱している女性に「落ち着け」といったところで逆効果だというのに、どうもこの声の主は精神年齢が低い。
実地経験がまだまだ不足しているようだ。
「嫌、もう嫌、嫌よッ……!」
一方、女は完全に混乱しきっている。これ以上何を言っても聞きはしまい。あと、もう一押しさえあれば……
「も〜う、そんなに僕を困らせちゃダメだよ、子猫ちゃん!言うこと聞かないと…
食 べ ち ゃ う ぞ 〜 っ ! 」
「い、イヤ〜〜〜〜〜〜ッ!!!『 蒼い竜巻!! 』」
錯乱した女がそう叫ぶと同時に、声のする方向に竜巻が舞い上がった。
そう、まるで魔法のように。この女も魔法がつかえるというのだろうか?
巻き上がる竜巻。飛び散る水しぶき。
その中から、大きな影がパチパチとその姿を光らせながら現れた。
「わぁ、ナニコレ!?こんな現象データベースに登録されて無いよ!?水かぶって光学迷彩が失効しちゃったぁ〜!」
滑り出したのは、青い車。いや、機械でできた蜘蛛、といったほうが相応しいだろうか。
機械蜘蛛は、相変わらずかん高くて不快な声で話し出す。
「もう、パズさんの言うことを聞いてたらロクなことが無いや。当分パズさん入力分のデータ参照は凍結〜!
え〜っと、で、キミ、ちょっと僕の話を聞いてくれるかなぁ?」
恐怖に魅入られた人間に、姿を隠したままで話しかけるのはいたずらにその恐怖心を煽るだけだ。
だから、姿を現す、というのは結果的には正しい行動だったと言えるだろう。
ただし、それはその姿が普通の姿だった場合の話だ。
「ば、化け物……!もう嫌ァッ!!『 水の龍!! 』」
女がそう叫ぶと、彼女のもとから凄まじい勢いの水流が噴出した。
水流、いや、これは水龍と呼んだ方が相応しい。
「おおっと、危ない!でももうその手は食わないんだもんね〜♪」
しかし、機械蜘蛛は予想外に軽いフットワークで巧みに水龍を回避する。
「ふっふ〜ん、原理は不明だけど、攻撃パターンは単純だね!でも、そういうことする悪い子は……こうだっ!」
機械蜘蛛が、跳躍した。そして、近くのビルの外壁を蹴り、女の後ろに舞い降りる。信じられない身軽さだ。
がしっ
状況に全く対応できていない女の体を、機械蜘蛛の腕が捕まえる。
「公務執行妨害で逮捕する〜〜! あれ、でもこの後どうすればいいんだっけ?所轄の警察ってこの辺にあるのかな……??」
「嫌ッ、放して!放してったらぁ!!」
「もう、いい加減僕の話を聞いてったらぁ……」
残念ながら、これで戦闘は終了のようだ。羽交い絞めにされたあの女に反撃できる余地は残っていない。
そして、機械蜘蛛の方も、自分が勝ったというのに相手に止めを刺そうとしない。
仕方の無い人たちだ。
最初に仮面の男が言ったとおり、これは殺し合いのゲームなのに。
所詮この世は弱肉強食。それが分かっていないなんて、本当に見るに耐えない。
それがあまりにも仕方が無かったから、私は双眼鏡を下ろし、拳銃を構えて、身を隠していた物陰から姿を現した。
そして、体に比べて大きな拳銃の引き金を、ゆっくりと絞り込む。
パン!パン!
「えっ?」
私の撃った弾丸は、一発は狙いから外れて機械蜘蛛の体に当たり、乾いた音を立ててそのボディにめり込んだ。
そして、もう一発は狙い通りに女の頭に命中した。瞬時に飛び散った脳漿が、青い機械蜘蛛を赤く染める。
「ええっ!?……ちょっとキミ、大丈夫!?」
返事代わりに、女の体がビクン、ビクンと痙攣する。
どう考えても即死だと言うのに、まったくこの機械ったらおばかさんなんだから。
「だめよぉ、折角勝ったんだから、きちんと止めをさしてあげないとぉ」
「き……キミ、だれ?」
「私ぃ?私の名前は水銀灯よぉ、おばかさぁん」
【E-5:市街地・1日目 深夜】
【タチコマ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:ボディに一発被弾
[装備]:無し
[道具]:支給品一式(配給品数不明)
[思考・状況]1:状況の確認 、把握。
2:九課のメンバーと合流する。
*タチコマの光学迷彩はエネルギーを大きく消費するため、余り多用できません。
*タチコマの支給品には、食料の代わりに燃料が入っています。
【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM92F(残弾13、マガジン15発×4個)、双眼鏡
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1:タチコマと会話をする。
2:真紅達ドールを破壊し、ローザミスティカを奪う。
3: バトルロワイアルの最後の一人になり、願いを叶える。
【龍咲海@レイアース 死亡確認】
*海の支給品一式(配給品数不明)は、海の死体の傍に放置されています。
【残り76人】
>ID:voLBgENG
お前の人生が終わればいいんだよ。漢字を間違えるようなアホが作品書くな。
死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。
死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。
死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。
死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。死ね。このロワは絶対に失敗する。
修正
「私ぃ?私の名前は水銀燈よぉ、おばかさぁん」
痛恨……ごめんなさい 水銀燈様
ってか訂正してくれた人の漢字も間違ってたから、危うく恥の上塗りをするところでした。
今後はこのようなことの無いよう重々気をつけます。
夜の闇の中、病院の一室。
少女は明かりも付けずに佇んでいた。
見つからないように、たとえ夜目の効く者が見上げても見つからない窓の陰。
青みがかる暗い闇の中、耳が痛くなる静かな夜の下。
少女は夜の闇の底に居た。
それは別段怖い事でもなんでもない。
夜天の主である少女にとって、夜は特に嫌いでも怖れるものでもなかった。
目下の問題はそんな事ではない。
(あかん、プロテクトが外れへん)
彼女の腕にあるのは夜天の書と呼ばれるマジックアイテムだ。
彼女が以前から持っていた物でも有る。
それが本来の持ち主である八神はやての腕にしかと有るのは、
人の魔力中枢、リンカーコアにまで食い込み蝕むそれが体の一部と判断された為か、
それとも偶然にもランダム支給品で引き当てた為なのだろうか。
如何なる理由にせよそれは正当な所有者である八神はやての手の上に有った。
ただし、多重プロテクトを掛けられた状態で。
(ヴォルケンリッター(夜天の書の守護騎士)の項は殆ど凍結か。
シグナムとヴィータは居るのは間違いないけど連絡も召喚も破壊時の再生も不能。
生死が判るだけでも良しとせなあかんなー。
シャマルとザフィーラに至っては一週間やそこらではどうにもならへん。
あとは管制人格のリインフォース……この子は、上手くすれば起こせそうや。
休眠状態から最低限の機能だけなら、あと数時間って所か)
祝福の風リインフォース。
夜天の書の主である八神はやてが名を与えた、夜天の書の管制人格。
夜天の書とは古代の魔法技術により作られた魔法知識を蒐集する資料書であり、
同時に融合型デバイスと呼ばれる一種の魔法の杖でもある。
融合型デバイスとは自らの意志を持つデバイスに完全な人の姿と意志を与え、
状況に応じて術者と『融合』することで魔法管制と補助を行うものだ。
時に使用者を乗っ取る『融合事故』が起きる危険と、適応や調整の難しさから開発が中止された。
最も、はやては一度は『融合事故』を起こしたものの、二度目はこれを使いこなした。
夜天の書ははやての愛用の武器ともなりうるのだ。
しかし――
(……闇の書の闇も、再生が始まってる)
夜天の書を闇の書という忌まわしい名で呼ばせた、歪められたシステム。
管制人格にも止められず、やがて所有者を呑み込んで破滅の化身と化す事故。
はやては一度はこれを切り離し、仲間の協力を得て消滅させていた。
その直後にここに連れて来られたのだ。
だが夜天の書の正しい形は既に無く、書の無限再生機能は再び破滅を呼び寄せる。
もっともそれは。
(再生が終わるまで三日……四日目て所やなー。
その後もしばらくなら耐えれるかもしれへんし、まあなんとかなるやろ)
あるいは、その前に。
(…………わたしが殺される方が早い、かもなー)
はやては曖昧な苦笑いをして自らの足を見下ろした。
少女は車椅子に座っていた。
一度は切り離したとはいえ、長年に渡り闇の書に蝕まれた体は未だ下半身不随だ。
完全に回復するには年単位の歳月を必要とするだろう。
あるいは管制人格を覚醒するか、休眠状態でも一部機能を復活して『融合』できれば、
一時的に十分に動き戦える体を得る事は出来る。
だがそれには今しばらくの時間が必要だ。
もし現時点で殺し合いに乗った者に襲われれば為す術もなく殺される。
彼女に与えられた支給品はどれも戦いに使える物では無かった。
手元に有るのは金属性の扇と、イヤホン型の補聴器。
扇は開いていても銃弾を止められるのではないかというほどに堅牢な作りをしている。
その上、開いた状態のエッジは刃物として使える程に鋭い。
格闘戦が得意な者が使えばかなりの業物かもしれない。
が、車椅子に乗った下半身不随の子供でしかない自分には到底使いこなせまい。
『融合』した所ではやてが得意なのは広域・遠隔攻撃や状態変化といった支援攻撃、
そして騎士達を率いての指揮官としての適正だ、結局使い物にはならない。
補聴器も役に立つ物には違いないが、戦いになってしまえばどうしようも無い。
彼女は今、無力だった。
(シグナムとヴィータ、それになのはちゃんやフェイトちゃんはどこに居るんやろうなー)
少女の大切な騎士達。それと二人の親友。
彼女達は信用できる。
特に騎士の二人に至っては、皮肉なことに物理的に、最後の一人となる事が有り得ない。
はやてと夜天の書は一心同体であり、シグナムとヴィータはその一部だ。
切り離す手段は有るが、その場合でも代わりにはやての魔力が必要となる。
事実上はやての命は三人分の命と言う事ができた。
(なんとかしてあげたいんやけどな……)
彼女達と繋がっている事は愛おしく、嬉しい事だ。
更にそんな事が有っても無くても関係無く、二人は命懸けではやてを守るだろう。
だからそれで良いと思う……自らの命がここまで危うく、離ればなれでなかったならば。
こんな有様では彼女達の主人として申し訳なく思うほどだ。
ただ一つ言える事は。
(わたし達には最後の一人になって生き残るって選択肢は無いって事やなー)
その事は嬉しかった。
殺し合いに乗った誰かが現れるかと思うと恐くてたまらないけど、一人じゃない。
そこに誰も居なくても、シグナムとヴィータに繋がっている。
だから、例え殺されてしまうとしてもやれるだけの事をやろうと、そう思えたのだ。
――マルチタスク思考による並行作業を終了。
(よし)
プロテクトの解除を続けながら限定的な機能解放を果たした夜天の書を使い
魔術師として基本的なマルチタスク思考により、慎重に首輪の解析を実行した。
魔法による解析の対策は奇妙なほどに甘く、内部構造の把握に成功する。
はやての脳裏に首輪の内部構造が浮かびあがる。
はやては首輪の内部解析に成功したのだ。
だが。
(ダメやー、どれがどうなってるかてんでわからへん)
思わず頭を抱えこんだ。
なんとなく集音機能が有る事は判ったが、それ以外は全く理解不能。
夜天の書に蒐集された膨大な魔法知識をもってしても何一つ判らなかった。
理由は簡単な事だ。
首輪は23世紀の超科学技術により作り出された。
だから魔法技術による解析は想定されておらず、内部構造の把握も容易かつ安全に行えた。
次の段階に進もうとするとそれが裏目に出る。
魔法を極めた所で、未来科学の粋を集めた首輪の構造は理解できないのだ。
魔法により強引に外そうとしても、物理的に影響をもたらした瞬間に首輪は起爆するだろう。
魔法によっては解析しか行えず、科学だけで外すのは困難を極める。
それがこの、参加者達を縛り付ける悪魔の首輪だった。
(これ以上は他の誰かと協力しなどうにもならへんなー。
けど、今やと殺し合いになったら手も足もでえへん。……逃げる事さえも)
もう少し夜天の書に掛けられたプロテクトを外してからでなければ……
パンッ。
「――っ!!」
息を飲んで潜める。
(銃声……どこでや?)
息を止めて殺し、『補聴器』がもたらす音に耳を傾ける。
しばらく静寂が続き……そしてまた音と、声が聞こえた。
「そこの少年」
「ヒィッ!」
パンッ。
(誰か撃たれた!?)
一瞬、動揺と焦燥が走る。
「ご、ごめんなさい!」
走る足音。
「ボクは、ボクは、ボクは……」
「大丈夫だ。ワシは心配ない。落ち着きなさい」
(でも、大事無いみたいやな)
ホッと胸を撫で下ろす。
きっと今も島中で殺し合いが起きているとはいえ、それでも誰かが死ぬのは嫌だ。
最初の会場で起きたあんな事はもう見たくない。
果たして、しっかりとした言葉が続いた。
「ワシはインターポールの銭型警部。君を保護する者だ」
(警部さんなんか?)
このまま隠れていても誰かになんらかの形で見つけられるかもしれない。
その位ならいっそ……
* * *
ぴくり、と眉を動かし。銭形はハッと飛び起きた。
「ど、どうしたんですか!?」
スネ夫が心配そうに声を掛ける。
銭形警部はしばらく休むと言って横になっていたのにどうしたのだろう。
怪訝に見つめるスネ夫の目の前で、銭形はじっと黙り……言った。
「……何か聞こえんか?」
「え?」
慌ててスネ夫も耳を澄ます。しかし別に何も聞こえない……?
……からからからから
「な、なに? この音!?」
「判らん。だが、何か来るぞ」
銭形はゆっくりと部屋の入り口に近づき、外を見る。
廊下は依然真っ暗闇。
その闇の向こうから微かにからからと音がする。
エレベーターの辺りから廊下を曲がって、看護士詰め所の前へ。
既に視界内には入っているはずだが、廊下の照明を消しているせいで何も見えない。
――小さな音がして、廊下の照明が点灯した。
「……君は?」
そこに居たのは、車椅子に座った少女だった。
部屋に居る骨川スネ夫より更に幼い。
だというのに、しっかりとした様子で話し出した。
「はじめまして、銭形警部さん、骨川スネ夫さん。わたしは八神はやていーます」
礼儀正しくぺこりとおじぎをする。
「支給品で、さっきのスネ夫さんとの話も聞いてました。
しばらくご一緒してかまいまへんやろか?」
「あ、ああ、構わんぞ、もちろん」
多少動揺はしたが、断る理由は無いだろう。
銭形は二人目とはいえ子供を、それも足の不自由な少女を放っておける性格ではない。
スネ夫も驚きはしたが、自分より小さな女の子という事でそれほど警戒はしなかった。
更に駄目押し。
「あ、それと怪我の具合は大丈夫ですか?
滋養のある物くらい作れます。病院だから厨房も有りますやろしー。
わたし、これでも料理は得意なんです」
もちろんそれは願ってもない提案だったわけで。
30分後、病院の厨房で作られた少し早い朝食に舌鼓を打つ銭形とスネ夫の姿が有った。
・追伸/どうでもいい事
ところで、あなたは信じられますか?
この少女、これでまだ10歳にもなっていないのです。
【D-3/病院内/1日目-黎明】
【大人と子供と大人びた子供】
【銭型警部】
[状態]:左脇に軽傷。手当て済。
[装備]:グロック26(弾:9/10発)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/9mmパラベラム弾(110)/医療キット
[思考]:日が昇るまで休息/スネ夫の友人たちを探す
【骨川スネ夫】
[状態]:健康
[装備]:ひらりマント
[道具]:デイバッグ/支給品一式/医療キット
[思考]:日が昇るまで休息/のび太たちを探す
【八神はやて】
[状態]:健康
[装備]:夜天の書(多重プロテクト状態)/マイクロ補聴器/車椅子
[道具]:デイバッグ/支給品一式/病院の食材/ハクオロの鉄扇
[思考]:日が昇るまで休息/銭形と一緒に行動?/夜天の書の機能回復/みんなでゲームから脱出する
[備考]:首輪の内部構造を解析した。ただし高度な科学知識が無い為、殆ど理解できない。
辛うじて盗聴機能が有る事だけは勘づいた。
闇の書の闇は4日目に再生が完了してしまうが、すぐに暴走するかは不明。
・マイクロ補聴器
耳に差し込んで使用するイヤフォン型の小型補聴器。小さな声や音でも聞き取れる。
八神はやては原作における闇の書の闇撃破直後〜リインフォース離別前から呼ばれています。
凍るような寒さの中、サウスタウンの路地に横たわった龍咲海。
無残にも頭を撃ち抜かれて即死だったであろう。表情は死ぬ前の恐怖に引きつった顔のままだった。
「むごい・・・なんてむごいんだ・・」横たわった少女の死体をみながら、緑の顔をした異星人が呟いた。
「今助けてあげます」彼は、少女の頭部に両手をかざすと、静かに念じ始めた。
念じ始めて直ぐに、少女の頭部に異変が現れた。
彼の両手から発する優しい光に包まれた傷口が、徐々に塞がっていったのである。
「あなたは、ここで死ぬべき人間ではありません」
凍てつく寒さの中、サウスタウンの路地だけは、心地良い空気につつまれていた。
【海ちょん復活】
ルイズは朝倉涼子から襲われてから当てもなく林の中を歩いていた。
(サイトォォォ……どこー……?)
その表情は彼女のこれまでの人生の中でもっとも暗かった。
それは、彼女を守るガンダ―ルヴである平賀才人がいないだけではない。
数十分ほど前に遭遇した朝倉涼子によって心に植え付けられた”種”が原因である。
(誰でもいい……何でもいいから、どうすればいいか教えてよぉぉぉ)
そのまま、ルイズは歩き続けた。
そして……
(いた、人がいた)
ルイズは道を歩く剣を抱えた見慣れぬ露出の激しい服装の女性の姿を発見した。
「お………………」
そして声をかけようとしたとき、あの声が思い出された。
『約束破ったら……嫌だよ?』
ルイズの心をゾクリとその声が撫でる。
すぐさま後ろを見たが誰もいない。
だが、確実にその言葉は確実に心を犯す。
そして、女性の後を付けながらルイズは決断した。
(そうよ、あんな女殺しちゃえばいいのよ。見たところ貴族が着る服じゃないってことは、平民だし。
平民ってことは貴族である私がどれだけ消費してもいいってことよ。なによりあの胸が気に入らないわ。
なによ、あのメイド並にでっかい胸して、しかも私よりでっかい図体して出るとこ出てて、引っ込むとこ
引っ込んでて、綺麗な髪してて、平民のクセに生意気よ。コロシチャエ)
確実に見ず知らずの女性に対して確実に殺意を抱いていく。
そして、ピタリと女性が足を止めた。
(チャンスだ)
ルイズはそう思い、もぐらてぶくろを両手に嵌めて地面の中に潜る。
そして掘る。掘り続ける。
(ヤッテヤル!ヤッテヤル!)
掘る。掘る。掘る。掘る。掘る。掘る。掘る。掘り続ける。
(ヤッテヤレバいいんでしょ!)
女性がいると思しき地面の下に辿り着く。
そして、剣を付きたてようとしたが一瞬躊躇した。
それは、女性が移動していないかという根本的な問題であった。
(馬鹿!私の馬鹿!あの女が移動しているならヤレナイじゃないの!)
そう頭を抱えていると天井から何かの音がした。
(!?ばれた!)
ルイズは一瞬そう考えたがすぐに考えを改める。
(いや違う!ばれていたのならあの剣で串刺しよ。いける。私はあの女をヤレル)
そして、呼吸を整え剣を勢いよく天井に突き刺す。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その勢いはとてもルイズの出せる力とは思えぬほど強く、勢い余ってルイズも外に出てしまった。
だが、
「…あれ?なんで誰もいないの?」
そこには誰もいなかった。辺りを見回しても女性の影どころか猫一匹すらいなかった。
「まさか……幽霊?」
地面から這い出しながらそう思い背筋に寒気が走る。
「そうよね、こんな所だから幽霊の一人や二人出るよね。先刻の女がもうすでに誰かヤッテイ…」
「奇襲をかける基本は決して叫び声を上げないこと」
突然声がかけられ、ルイズの頭が状況を把握するのに0.5秒の時間を有した。
その間にルイズの持つ剣に強い力が働き、剣が宙に弾き飛ばされる。
「な、なんで!?」
とは言ったもののルイズは状況判断をするより先に本能的な危機感から再び地面に潜ろうとした。
その判断は素早く正しかった。彼女を相手にしなければの話であるが…
「遅いわよ」
「ひゃあ!?」
二本の剣が地面に落ちると同時にいきなり右足に妙な力が加わりルイズが宙に吊り下げられる。
まるで透明人間に吊るされるが如く。
「この魔法の手袋で地面の中を掘り進んだのかしら?没収」
そして、手袋も外されデイバックも放り捨てられた。流石にルイズもどういうことが起こっているかは
検討がついたが、時既に遅かった。
ルイズにとっては聞き慣れない音が聞こえると同時に吊り下げている人物の姿が顕になる。
「先刻の女…」
「あなたの尾行バレバレだったわよ」
女が無表情のまま呟く、彼女にとってはこの程度は児戯にも等しい。
「さて、どういう理由で襲ったのかぐらいは教えてほしいわね」
「………」
だが、ルイズは一言も声を発するつもりはなかった。
それは朝倉涼子への恐怖がこの状況下でも続いており、あのことを喋っただけでも殺されると信じていたからだ。
だが、そんなことなどルイズを捕まえた女には関係がない。
ルイズの左手の中指を見ながら女が唇を吊り上げる。
「お前は、おそらくこう言われた」
女が一拍置く。
「お前の命運はもらおう。でも、すぐには殺さない」
「!?」
そして、呟く。ルイズにかけられた呪いの言葉の再現を、
「お前には、私の手助けをしてもらう。影ながらな。八十人という数はやはり多い。
だからお前は、私のサポートのために多数の人物を殺してもらおう。約束を守りさえすれば、ここでは殺さないでやる。
まぁ一人でも二人でもいいから、できるだけ人数を減らしてね。ちょっとでも負担が軽くなればいいから。
そういえばあなた、人を殺したことはある? ないよね? でも大丈夫、これあげるから、役立てて。
日本刀にしては軽いし、切れ味だけはいいから。たぶんあなたでも簡単に人が殺せる。どう、この条件のむ?』
ルイズの脳裏に再び朝倉涼子の言葉が思い出され、それが女の言葉と重なる。
『でもね……もし、私との約束を破ったら……』
左手の中指に女の手が伸ばされる。
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
今度は暴れることが出来た。
そして、足を掴まれていた手が離れルイズは駆け出そうとする。
だが、すぐに取り押さえられた。それは左手を左手で、右腕を右足で押さえられるという奇妙な拘束の仕方であった。
女の豊乳がルイズ頭を圧迫するが今はそれどころではない。
「さて、私からすれば爪一本は手ぬるい。やるのならば、もっと徹底的にやるべきだ」
「……」
「五指を一本一本丁寧に切り離すか」
喋りながら空いた右手でデイバックの中から奇妙な形のナイフを取り出す。
「奥歯を時間を掛けて歯茎ごと取り出すか」
「……ぁ」
「全身の皮膚という皮膚を一片残らず剥ぎ取るか」
「…やぁ」
「眼球を抉り出すかを、するのが相手を正直にさせるのに都合がいいな」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫が響く。
「いやか?なら、正直に話してもらおう。お前が、誰に何をされて、何を言われたかを」
「そ、それは……」
そして、この状況でもルイズは躊躇した。自分を捕まえた女が朝倉涼子以上にクレイジーな存在と知らずに。
「そうか、ならゲームをしよう」
「げ……ぇむ……?」
ルイズはオウム返しに聞き返す。それは開放への期待ではなく純粋な恐怖であった。
「なに簡単なことだ、お前はただじっとしているだけでいい」
そのまま女は自分の左手をルイズの左手に添え、計十本の扇形の手が出来上がる。その間隔は僅か1cm。
「私がこのナイフで指と指の間を順に連続して刺す。もし、どちらかの指が傷つけばお前の勝ちだ。
開放してやろう。ただし、一分間傷つかなければ先刻言ったことを喋ってもらおう」
「…やめてよぉ」
力なく呟く。
「お仕置きだ……Game Start!」
「助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!サイトォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
だが、ルイズの願いは聞きいられず、また体を固定され動かすこともできずに、僅かな時間の悪夢が始まる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ナイフは両人の左手の指と指の間を左から順に縫うように突き刺し、右端に辿り着くと左端に戻っていく。
その間隔は0.1秒、少女の目でも捉えられる速度である。
「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!」
だが止まらない。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!」
止まらずにさらに速度が増す。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!」
ルイズは現実を認めたくないがために目を瞑る。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
だが、聞こえ続けるナイフが地を刺す音は、容赦なくルイズの耳に入る。
「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ドドドドドドドドドドドドドドドド!!
「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめ!?……?」
突然ナイフの動きとそれに伴う音が止まり、ルイズはやっと止めてくれたかと自身の左手の無事を確認し安堵する。
ドン!!
「ヒッ!?」
「ジャスト一分!」
だがその瞬間を狙って、ルイズと女の中指の間にナイフがこれまでより深く突き刺さる。
それを見たルイズは朝倉涼子以上の恐怖を、女に植え付けられ完全に意識を闇に落とした。
「少しやり過ぎた……か?」
気絶した名も知らぬ少女を左手の中指にハンカチを巻き、デイバックを枕代わりにさせて横たえ女、草薙素子が呟く。
「これではバトーのことは責められんな。私の方がよっぽどサディストだ」
そう、つまらなそうに呟きながらも、少女が持っていた装備を調べる手を休めない。
あらかじめ自分の装備を調べる過程で分かっていたことだが、少女や彼女の持つ支給物は、そのほとんどが量子力学すら
無視したものであり、現代の技術では説明できない物が殆んどであった。まるで、魔法の品物である。
ゆえに、過剰に少女を責めたてた。
実際に短剣とロングソードは魔法の品であるらしく、ロングソードの方は特定の人物、名簿にも名前が書いてあった
獅堂光以外の”人”が触れたら対象を燃やす、と書かれた説明書が同封されてあった。
嘘か真かは擬体化率100%のサイボーグである素子には判らなかったが、後をつけていた少女が飛行機事故に遭うまでは
見ていた魔法少女に似ており、殺気を自分の”ゴースト”が知覚したため相手を魔法とやらを使える相手と仮定して
服従させるほどの尋問を執り行った。
無論、マルコ・アモレッティやクルツコワ・ボスエリノフ等ほどではないが、このようなおきまりの手段を
用いる殺し合いに乗った人物の情報を吐かせる目的や、自分にとっては暗闇や雑音など問題にならないため
もし近くにいた場合は、隙だらけに見える不利を偽ってカウンターを仕掛けようとも考えていたが。
「さて、どうするか?」
とりあえず、都合のいいことに代えの服があり少女の濡れたスカートやショーツを、取り替える作業を
しながらこれからのことを考える。
元々、彼女はギガゾンビの言うことをまったく信じてはいないため、殺し合いに乗るという
選択肢は最初からに電脳に存在しない。
まずは、当初の予定どうりに九課のメンバーや、あのドラゾンビのことを知ってそうな人物を探すのは
当然として、一つ気になったことがあった。
(サイトー……ねぇ)
少女の体を拭きながら、メンバーのことを考える。
それは九課の中でもトップレベルの狙撃技術を持つ男のことを。
自分は状況把握をするために、あの場にいたすべての人物の容姿のデーターを確認することを優先した。
その中にはサイトーはいなかったはずである。
とはいえ名簿のデーターを浮かべると他の九課のメンバーと同様に”平賀才人”の名前が連なっている。
理由は不明だが、知り合い同士が名簿では近くに書かれていおり自分の”草薙素子”も偽名である
ことも考えると、違うとは断定できない。
「考えていても、仕方がないか」
少女の体液を拭き終わり、ぶかぶかのバニースーツを着せながらそう呟く。
この少女が、ルイズかタバサか獅堂光かその他の人物かは判らないが、後で聞けば判ることでもある。
それに、先に首輪を何とかするのが先決でもある。自分達は爆弾解体も可能ではあるし、
力が及ばなかったが、あの少女の首輪が爆発する前に受信装置にハッキングを行い、爆発を阻止しようと
したためある程度の構造は把握できた。結果的に防壁に妨げられ、少女を救えはしなかったが
代わりに、巻き込まれた人物達の敵討ちのための足がかりは得られた。
(うちのは大丈夫かしら?)
仲間のことを思い出す。ネットが繋がっていないため、連絡を取り合い無事が確認できず少々不安になる。
いまさら仲間が死んで、泣いてやるほどの人生は歩んではいないが、それでも自分と同じ九課の面子である。
死んでほしくはない。
(……弱気だな)
思考を九課のリーダーに戻す。
まずは、味方を集めることが先決であろう。そのためには防波堤か、この先にある橋を渡って人がいそうな
地域を目指さねばいけないが、もし防波堤に自分が銃を支給されたように、スナイパーライフルを支給された狙撃手が
いる場合は危険である。
(ならば、電車に乗るべきか)
いざとなれば、列車から飛び降りることも可能なため、まずは駅に向かうことにする。
そして、少女のスカートとショーツをデイバックの中に押し込み、
鋼の女は銃を右手に、デイバック二つを左肩に、少女を左脇に抱え、その場を後にした。
公安九課にとっては、いつも通りの戦いの日々が始まった。
【F-2林/1日目/黎明】
【草薙素子@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:機能良好、名前を知らない少女を抱えている
[装備]:ベレッタ90-Two(弾数17/17)
[道具]: 荷物一式×2、ルールブレイカー@Fate/stay night、トウカの日本刀@うたわれるもの
水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、もぐらてぶくろ@ドラえもん、
獅堂光の剣@魔法騎士レイアース、ルイズの濡れたスカートとショーツ
[思考]:1、バトー、トグサ、タチコマを探す
2、ルイズを抱えて駅に行く
3、首輪を外すための道具や役立ちそうな人物を探したい
4、ギガゾンビの情報を知っていると思われる、のび太、狸型の青い擬体、少年達、中年の男を探す
5、平賀才人をついでに探す
6、ギガゾンビの”制圧”
[備考]:参加者全員の容姿と服装を覚えています。ある程度の首輪の機能と構造を理解しました。
草薙素子の光学迷彩は専用のエネルギーを大きく消費するため、余り多用できません。
電脳化と全身擬体のため獅堂光の剣を持っても炎上しません。
【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:気絶、左手中指の爪が剥がれている(素子のハンカチが巻かれている)、素子に抱えられている
[装備]:バニーガールスーツ@涼宮ハルヒの憂鬱、(スカートとショーツを穿いていない)
[道具]:無し
[思考]:1、草薙素子に逆らえない
2、草薙素子に対する恐怖
3、才人に逢いたい……
[備考]:バニーガールスーツはみくる専用のものなので、ルイズではサイズが合わない(特に胸の部分が)
すいません
>>227のドラゾンビはギガゾンビに脳内補完しておいてください。
231 :
夜空の再会 ◆lbhhgwAtQE :2006/12/10(日) 00:27:22 ID:7slp8pY1
「ふむ、これはどうしたことか……」
井尻又兵衛由俊は一人、市街地の路地裏で戸惑っていた。
それもそのはずで、彼がデイバッグの中身を確認しようとそれを開けた瞬間、見た事もない白い小動物が飛び出してきたのだから。
そして、その動物は、今まさに又兵衛の首の周りをちょこまかと動いていた。
「お前は一体何者なのだ? お前もばとるろわいあるなどという下らぬ戯れに巻き込まれたのか?」
「キュルルル?」
そう尋ねても、その小動物は首を傾げるばかりである。
「やはり言葉は通じぬか……。しかし、俺と一緒にいてはいつ危険な目に遭うか分からん。ほら、今のうちに逃げるといい」
又兵衛は肩の上にいたそれを手で掴むと、地面へと置いてやる。
「それでは、達者で暮らせよ」
又兵衛はそう言って背を向けるとその場を立ち去る。
……だが、それを見てその小動物は首をかしげ、すぐに彼を追いかけてきた。
「ん? 何だ、お前。ついてきたのか!」
「キュルルル……」
「う〜む。だが、私と一緒ではいつ誰に襲われるかも分からぬし……それでもついてくるというのか?」
「キュルルルル!」
それは、言葉を理解したかのように高く鳴くと、再度又兵衛の肩へと飛び乗ってくる。
「……仕方ないな。だが、何か起きたらすぐに逃げるのだぞ?」
「キュルル!」
「はは、人懐こい奴だな。……しかし、名前が無いというのも不便だ。……よし、ここは一つ名をつけてやろう。“廉”などどうだ? お前のような元気な奴にはもってこいだ」
その名は、又兵衛が想いを胸に抱いていた女性と同じ名前。
だが、彼は知らなかった。
その動物――ミキュームには、既にガチャタラという素敵な名前がつけられている事を。
「しかし、いきなり殺しあえなどとは……あのぎがぞんびとかいう男、一体何を考えているのだ……」
又兵衛は、市街地を歩きながらそのようなことをぼやいていた。
「しかも、女子供までもを巻き込むとは……あの者、男の風上にも置けぬ輩だな」
「キュルルルル」
「……ん? あぁ、そうだな。お前も巻き込まれたのであったな」
城にいる殿や姫、そして城下の領民を守るために戦い、そして散っていった戦国の心優しき武将、井尻又兵衛由俊。
そんな彼が、今回のバトルロワイアルを素直に受け入れられるはずがなかった。
「こうしている間にも、また誰かが戦いに巻き込まれているやもしれぬ。なんとかせねば……」
又兵衛がそんな想いを胸に歩みを進めていたその時だった。
「キュルルル!!!」
突如、高い声で鳴き始めたガチャダラに驚くのも束の間、又兵衛はその声をきっかけに背後の殺気に気づいた。
そして、その殺気の正体を見ようと後ろを振り返ったまさにその時――
――ブウンッ!!!
目の前を何か硬いものが空振り、空を切る音が聞こえた。
「チィッ、外したかっ!!」
又兵衛は、その硬い何かを空振りした殺気の主の正体の声を聞いて驚いた。
「そ、その声は……ひろし殿!?」
「……って、あんたは確か……」
殺気の正体――野原ひろしもようやく自分が今金属バッドで殴りかかろうとした相手が誰かを認識する。
「あんた……生きてたのか」
「どうやらそのようであるな。……だが、今はそのようなことはどうでも良い。それよりも、そなたもこのような下らぬ戯れに乗せられたというのか!?」
「……あぁ、そうさ。俺は……俺はしんのすけを守らねぇといけないんだ。だから……だから悪いが他の奴らには死んでもらうことにしたんだよ!!」
「やめろ、ひろし殿!!」
又兵衛の制止も聞かずに、大きくバッドを振りかぶるひろし。
だが。
――キィィィィィィィィィィン!!!!!!
その刹那聞こえてきたのは、耳に酷い不快感を与える波長の音波。
ガチャダラ達ミキュームが、身の危険を察したときに発するそれは、又兵衛そしてひろしの耳にこれでもかというくらい響き、両者は耳を押さえて苦しむ。
「こ、この音は……」
「がぁぁ! み、耳がぁっ! うぁぁ……」
咄嗟に手を耳にやったことで、金属バッドは地面に落ちる。
そして、その隙を見逃さなかった又兵衛は耳を押さえながらも、ひろしに近づき、そして――
「――すまぬ」
手刀を首にあてると、彼を気絶させた。
「とうちゃん! と〜ちゃ〜ん!!」
暗い闇の中、しんのすけがいた。
そして、しんのすけは自分の事を呼んでいた。
「しんのすけぇ!!」
手を伸ばしてもそれはしんのすけには届かない。
いや、むしろしんのすけは闇の奥へとどんどん遠ざかっていた。
「しんのすけー!!」
「と〜ちゃ〜ん!!!」
そして、その姿は完全に闇の向こうへと消えてしまい……
「しんのすけ!!!」
ひろしは起き上がった。薄暗いコンクリートの壁に向かって手を伸ばしながら。
「何だ、夢か……」
ようやくそれを理解し、完全に目が覚めた彼は周囲を見渡し、自分がどこかの建物の一室にいて、ソファのようなものに横になっていたことに気が付く。
先ほどまで外にいたはずなのに何故……。
そんな疑問を抱いていると、その部屋に誰かが入ってきた。
「……ようやく目を覚ましたか、ひろし殿」
それは、ひろしも見知った人物――井尻又兵衛由俊だった。
手刀を使ってひろしを気絶させた後。
武器と荷物を奪い、更には殺すことも可能であったにもかかわらず、又兵衛は彼を近くにあったビルの一室へと運び込んだのだ。
そして建物の中を一通りめぐり戻ってきた彼は、目が覚めたひろしを見ることなり……
「……ようやく目を覚ましたか、ひろし殿」
穏やかな顔でひろしを見る又兵衛。
だが、すぐにその顔は険しい表情へと変わる。
「起きて早々申し訳ないが、そなたにどうしても聞きたいことがある。いいか?」
「………………あぁ」
「そなたがいるということは、そなたの家族もいるのか?」
「……あぁ。ひまわりとシロはいなかったが、みさえとしんのすけは来てる。……いや、気づいたら来てたという方が正しいかな」
「そう、か」
「俺がこうしている間にもしんのすけが危険な目にあってるかもしれないんだ。だから、俺はしんのすけを生き残らせるために少しでも人数を減らそうとして――」
又兵衛はそこまで聞くと、ひろしの傍まで近づき、そして
「んがっ!!」
殴った。脳天を拳骨で。
「な、何しやがる!」
「先ほど死に掛けたお返しだ。……そして、そなたの愚かさへの制裁だ」
「お、俺が愚かだと!?」
「あぁ、愚かだ。そなたは先ほど、しんのすけを生き残らせるため、と言っていたが、それで本当にしんのすけが喜ぶと思っているのか?」
又兵衛のそんな問いにひろしは戸惑う。
「そ、それは……」
「それに、しんのすけを生かす為ならば、そなたは妻をも手に掛けるというのか? 妻を手に掛けた上で子を生かす……それで本当にいいのか?」
「みさえなら分かってくれるはずだ。あいつには……しんのすけには未来があるんだ。それをこんなところで潰すわけには……」
「しんのすけの未来の為に、他の子らの未来を潰すと言うのか。あの男の口車にまんまと乗せられて――」
「うるせぇ!! 子供のいない奴に何が分かるってんだ!!」
そんな激昂とともに、ひろしは立ち上がった。
「んなこと分かってるよ。俺が正しくないことをしていることはな。だがな、俺はもう戻れないんだよ! こうする他ないんだよ!」
「それでは、やはりこの鉄の棒についていた血は……」
「あぁ、そうさ! もう俺は一人殺しちまったんだよ!!」
ひろしは叫ぶと同時に又兵衛の手からバッドを奪い、それと同時にバッドを思い切り横へと振った。
するとそれは、綺麗に弧を描き、又兵衛の右上腕へと直撃して…………
「ぐぁぁああ!!」
バッドによる直撃を受けた又兵衛は、右上腕を左手で押さえながらもだえ苦しむ。
ひろしが、そんな隙だらけの又兵衛を見逃すわけも無く、更に頭部めがけてバッドを振りかぶる。……だが。
――キィィィィィィィン!!!
「がぁぁ!! ま、またかよ!!」
再びあの超音波が聞こえてきた。
ひろしの知るところではなかったが、実は部屋の隅にはずっとガチャタラがいて、彼らの様子を伺っていたのだ。
二度目とはいえ聞きなれることのないこの音に、ひろしはたまらず部屋を飛び出た。
「……くそっ! 一体何だってんだ!」
悔しさを顔に浮かべながらひろしは建物の外へ出ると、無意識のうちに西の方へと足を向けた。
そして、音が耳から離れ、先ほどよりも落ち着きを取り戻すようになると不意に先ほどの言葉を思い出してしまった。
――しんのすけの未来の為に、他の子らの未来を潰すと言うのか。あの男の口車にまんまと乗せられて
「んなこたぁ、百も承知だよ。俺だって殺したかない。……だけどな……それでも、しんのすけはかけがいのない息子なんだ。しんのすけの為なら、俺は――」
ひろしが見上げた夜空は、どこか寂しげだった。
【D−4 大通りを西へ移動中 黎明】
【野原ひろし@クレヨンしんちゃん】
[状態]:健康
[装備]:金属バッド
[道具]:無し
[思考]:しんのすけ以外の参加者を殺す
しんのすけを優勝させる
一方、部屋に取り残された又兵衛はというと、痛みはひかない腕を押さえたまま呆然と立ち尽くしていた。
「ひろし殿……」
説得もむなしく、ひろしは再び人を殺すべく外へと出て行ってしまった。
又兵衛はそんな自分の不甲斐なさを呪った。
「俺は……俺は一体何をしていたんだ……。何でひろし殿を行かせてしまったんだ。くそっ!」
「キュルルル……」
するとそんな又兵衛の肩へガチャタラが飛び乗り、頬を舐めてきた。
「なんだ、お前。俺を慰めてくれるのか?」
「キュルルルル!」
「ははは、動物に慰められるとはな……俺も堕ちたものだな。――だが」
又兵衛は先ほどまでの暗い表情から、どこか決意を秘めた……そんな感じの顔になっていた。
「だが、悔やんでいても何も始まらないな」
「キュルルル?」
「あぁ。お前のおかげだ。礼を言うぞ」
「キュルルルルル!」
又兵衛に撫でられガチャタラも嬉しそうに首周りをくるくると駆け回る。
「こらこら、そんなに動くでない。くすぐったいだろうが」
「キュルルルル!」
笑顔を取り戻した又兵衛は、ふと窓の外の夜空を見た。
「……ひろし殿。そなたの行おうとしている事は、この俺が必ずや止めて見せよう」
又兵衛が見た夜空は、ただただ美しかった……。
【D−4 雑居ビル 黎明】
【井尻又兵衛由俊@クレヨンしんちゃん】
[状態]:右上腕に打撲痕 強い決意
[装備]:ガチャタラ@うたわれるもの
[道具]:支給品一式(ガチャタラ以外の中身は未確認)
[思考]:ひろしの暴走を止める
野原一家を探す
野原一家以外にも助けるべき人物は助ける
※ひろしの持っていた荷物(二人分)は、ビル内に放置
又兵衛は持っていくかどうかは、後の書き手さん次第で
>>156のヴィータの状況を再度変更します。
【C-2川の分岐点の岸・1日目 深夜】
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労、空気砲のダメージが現存、ずぶ濡れ
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ハルバード、スタングレネード(残り五つ)、北高の制服@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
1:北高の制服に着替える
2:信頼できる人間を捜し、PKK(殺人者の討伐)を行う
基本:元の世界の仲間を探す(八神はやてを最優先)
※ダメージの程度
体は動かせますが、暫くの間は痛みによる身体能力への枷が発生しています。
※空気砲の威力
威力がいくらか制限されている様です。
>>214 (……闇の書の闇も、再生が始まってる)
夜天の書を闇の書という忌まわしい名で呼ばせた、歪められたシステム。
管制人格にも止められず、やがて所有者を呑み込んで破滅の化身と化す事故。
はやては一度はこれを切り離し、仲間の協力を得て消滅させていた。
その直後にここに連れて来られたのだ。
だが夜天の書の正しい形は既に無く、書の無限再生機能は再び破滅を呼び寄せる。
もっともそれは。
(再生が終わるまで三日……四日目て所やなー。
その後もしばらくなら耐えれるかもしれへんし、まあなんとかなるやろ)
あるいは、その前に。
(…………わたしが殺される方が早い、かもなー)
はやては曖昧な苦笑いをして自らの足を見下ろした。
少女は車椅子に座っていた。
一度は切り離したとはいえ、長年に渡り闇の書に蝕まれた体は未だ下半身不随だ。
完全に回復するには年単位の歳月を必要とするだろう。
あるいは管制人格を覚醒するか、休眠状態でも一部機能を復活して『融合』できれば、
一時的に十分に動き戦える体を得る事は出来る。
だがそれには今しばらくの時間が必要だ。
もし現時点で殺し合いに乗った者に襲われれば為す術もなく殺される。
彼女に与えられた支給品はどれも戦いに使える物では無かった。
手元に有るのはバッグに入れたままの長大な剣と、イヤホン型の補聴器。
剣は見た目からして重そうだが、実際はそれ以上に異様な程に重い。
バッグが質量と体積を無視する不思議な物でなければ持ち運ぶ事すら出来なかっただろう。
持った瞬間だけは軽く感じたから調べてみると、本来の所有者以外が持つと重くなる魔法の剣らしい。
もちろん、車椅子に乗った下半身不随の子供でしかない自分には到底使いこなせない。
『融合』した所ではやてが得意なのは広域・遠隔攻撃や状態変化といった支援攻撃、
そして騎士達を率いての指揮官としての適正だ、結局使い物にはならない。
補聴器は役に立つ物には違いないが、戦いになってしまえばどうしようも無い。
彼女は今、無力だった。
(シグナムとヴィータ、それになのはちゃんやフェイトちゃんはどこに居るんやろうなー)
少女の大切な騎士達。それと二人の親友。
彼女達は信用できる。
特に騎士の二人に至っては、皮肉なことに物理的に、最後の一人となる事が有り得ない。
はやてと夜天の書は一心同体であり、シグナムとヴィータはその一部だ。
切り離す手段は有るが、その場合でも代わりにはやての魔力が必要となる。
事実上はやての命は三人分の命と言う事ができた。
(なんとかしてあげたいんやけどな……)
彼女達と繋がっている事は愛おしく、嬉しい事だ。
更にそんな事が有っても無くても関係無く、二人は命懸けではやてを守るだろう。
だからそれで良いと思う……自らの命がここまで危うく、離ればなれでなかったならば。
こんな有様では彼女達の主人として申し訳なく思うほどだ。
ただ一つ言える事は。
(わたし達に最後の一人になって生き残るって選択肢は無いって事やなー)
その事は嬉しかった。
殺し合いに乗った誰かが現れるかと思うと恐くてたまらないけど、一人じゃない。
そこに誰も居なくても、シグナムとヴィータに繋がっている。
だから、例え殺されてしまうとしてもやれるだけの事をやろうと、そう思えたのだ。
――マルチタスク思考による並行作業を終了。
(よし)
プロテクトの解除を続けながら限定的な機能解放を果たした夜天の書を使い
魔術師として基本的なマルチタスク思考により、慎重に首輪の解析を実行した。
魔法による解析の対策は奇妙なほどに甘く、内部構造の把握に成功する。
はやての脳裏に首輪の内部構造が浮かびあがる。
はやては首輪の内部解析に成功したのだ。
だが。
>>216-217
【D-3/病院内/1日目-黎明】
【大人と子供と大人びた子供】
【銭型警部】
[状態]:左脇に軽傷。手当て済。
[装備]:グロック26(弾:9/10発)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/9mmパラベラム弾(110)/医療キット
[思考]:日が昇るまで休息/スネ夫の友人たちを探す
【骨川スネ夫】
[状態]:健康
[装備]:ひらりマント
[道具]:デイバッグ/支給品一式/医療キット
[思考]:日が昇るまで休息/のび太たちを探す
【八神はやて】
[状態]:健康
[装備]:夜天の書(多重プロテクト状態)/マイクロ補聴器/車椅子
[道具]:デイバッグ/支給品一式/病院の食材/鳳凰寺風の剣
[思考]:日が昇るまで休息/銭形と一緒に行動?/夜天の書の機能回復/みんなでゲームから脱出する
[備考]:首輪の内部構造を解析した。ただし高度な科学知識が無い為、殆ど理解できない。
辛うじて盗聴機能が有る事だけは勘づいた。
闇の書の闇は4日目に再生が完了してしまうが、すぐに暴走するかは不明。
>追記
八神はやては原作における闇の書の闇撃破直後〜リインフォース離別前から呼ばれています。
・マイクロ補聴器(ドラえもん)
耳に差し込んで使用するイヤフォン型の小型補聴器。小さな声や音でも聞き取れる。
・鳳凰寺風の剣(魔法騎士レイアース)
とても長い剣。
風が使うと羽根のように軽いが、風以外が使おうとすると地面にめり込むほどに重い。
人間離れした怪力の持ち主なら強引に使える可能性有り。
うろ覚えですまないんだが、はやてに支給された「鳳凰寺風の剣」っていうのは、
セラスに支給された「エスクード(風)」のことじゃなかったけ?
アレはナックルガードだけで剣とかは別物だっけ? 昔の事なんで良く憶えてないんだ。
獣のような耳と、獣のような尻尾を生やした少女が一人。
彼女もまた、この理不尽な惨劇の参加者として、世界に佇む。
「ここは……いったい何処なのかしら」
そこはエルルゥにとって、完璧なる別世界だった。
周囲に聳えるのは、コンクリートによって建造された建物の群集。
木造の家にしか親しみのないエルルゥは、その丈夫でしっかりとした造りにただただ感心するばかりだった。
いったいどんな技術で製造されているのだろう……鋸では斬れそうもないし、斧では粉砕してしまう。
色鮮やかな塗料類も気になった。果実や植物の持つ色彩をうまく加工したのか、どちらにせよ建築について知識の浅いエルルゥの知る所ではない。
と、ゲームの始まりを迎えたスタート地点にて、エルルゥはそんなどうでもいいことを考えていた。
それもこれも、殺し合いなどという非現実的なものに巻き込まれたが故の混乱が原因である。
ギガゾンビなる主催者もそうだが、ここが何処なのかも謎だった。
エルルゥの暮らす国――ハクオロが統治する、『トゥスクル』ではない。
そして、トゥスクルを含む多くの国を総称した世界――『ウィツァルネミテア』でもない。
異世界、などという概念がまったくないエルルゥにとって、この事態はあまりにも深刻かつ混乱を招くものだった。
ただ、するべきことは決まっている。
「ハクオロさんにアルルゥ……トウカさんやカルラさんも、ここにいる」
ギガゾンビが開幕を宣言したのは、『殺し合い』。
これは、敵味方が二つに分かれて行われる『戦』とは違う……いつ、だれが、どこで死ぬとも限らない、そういうルールで行われるものだということもわかっている。
それこそ、まだ幼い妹アルルゥや、トゥスクルの皇という地位に立つハクオロとて、例外ではない。
ならば……一刻も早く仲間を探し出し、この殺し合いを中断させる道を探さなければ。
エルルゥは逸る気持ちを抑え、自らの荷物を調べ始めた。
冷静になり、自分ができることを的確に見据え、行動する。
闇雲に仲間を捜すよりは、よっぽど懸命な判断のはずだ。
四次元デイパックなる摩訶不思議すぎる品物については考えないことにして、コンパスや水の入ったペットボトルなる入れ物にも戸惑ったが、どうにか使い方はマスターすることが出来た。
そして一番問題なのは、全参加者に一個から三個までの割合で支給されるという特殊な道具の数々。
参加者によって異なる中身らしいが、エルルゥのデイパックには、幸運にも三つの支給品が入っていた。
その一つは、小さな瓶に入ったピンク色の液体。
「何かの薬――殺し合いに使われる薬品っていったら、まさか毒!?」
エルルゥは警戒心を強めながら、その薬品についていた説明書を読む。
『惚れ薬』:魔法によって生成された秘薬。飲んだ相手は、視界に入った異性一人に対し狂人的な好意を抱くようになる。効果は1〜2時間持続する。
その正体は、おおよそ殺し合いの場には似合わない、素敵な乙女アイテムだった。
「ほ、ほほほほホレ薬ぃぃ!? そんな、なにかの本で読んだことがあるけど、まさかこんな薬が実在していたなんて……
ここここここれをハクオロさんに飲ませればばばばばば鈍感なあの人でももももも私の気持ちに気がついててててててて」
殺し合いのことも忘れ、恋する一人の少女として動揺しまくるエルルゥ。
赤く染まった顔を静まらせ、落ち着くのに数分を要した。
とりあえず、これは役に立ちそうにない。
うまく使えば自衛にも応用できそうだが、こんな少量の液体、そうそう相手に飲ませることも難しいだろう。
飲食物に混入するのが一番良策に思えるが、このサバイバル空間ではその機会も少ないだろう。
だが、捨てはせず。
フフフ……とやや興奮気味に息を切らし、デイパックに惚れ薬をしまい込むエルルゥであった。
二つ目は、珍妙なデザインをした杖。
武器と取るには些か小さく、これも明確な使い方が分からないため、調べてみた。
『たずね人ステッキ』:人や物を探しているとき、このステッキを地面に突き立てて手を放すと、目当ての人や物の方向に倒れる。ただし的中率は70%。
「すごい! どういう仕組みかはよく分からないけれど……これがあれば、ハクオロさん達とも簡単に合流できる!」
と、エルルゥがたずね人ステッキの効力に喜んだのも束の間。
説明書には、追記として補足事項が書かれていることに気がついた。
その内容は、『3時間に一回しか使用できない』『一人につき一回しか使用できない』というもの。
すぐさまたずね人ステッキを倒そうとした手を止め、エルルゥは数秒、思案する。
これがあれば仲間との合流が楽になる。が、一回しか使えないという点がネックだった。
方向が分かったとしても、距離が離れていたら意味がない。エルルゥがその場にたどり着く前に、相手が移動してしまう恐れがあるからだ。
使うなら、慎重に。もっと情報を集めてから使用するべきか。
エルルゥはたずね人ステッキをその場に置き、とりあえずは保留とした。
最後に、三つ目の支給品を確認する。
エルルゥに授けられた三つ目のアイテム。それは、
「ひっ……」
思わず、声を漏らす。
三つ目の支給品は、見ただけで恐怖を感じるような――そんな、おどろおどろしさが伝わるものだった。
『五寸釘三十本と金槌』
説明書は、特に付いていなかった。
だがこればっかりは、さすがのエルルゥも何に使う道具か分かる。
釘の先端には黒ずんだ血の塊が付着し、金槌にも使い込んだ形跡が見られる。
つまりこれは、拷問道具なのだ。
三つ目の支給品から受けたショックで、数分の間言葉を失ったエルルゥ。
やはり、今行われているのは殺し合いなのだと……思い知らされるようで。
いつか、これを使う日が来るのだろうか。
いつか、これで誰かを痛めつける日が来るのだろうか。
いつか、これで誰かを殺……
そこまで考えて、エルルゥは頭をブンブンと振り払った。
(悩んで、俯いてばかりいたってしょうがないもの。早く、ハクオロさんやアルルゥたちを見つけないと――)
エルルゥはたずね人ステッキを再度取り出し、名簿に目を通す。
ハクオロ、アルルゥ、カルラ、トウカ――本命はこの四人との接触だが、回数制限がある以上、迂闊な使い道はしない。
まずは情報交換とこのステッキの効果を実験するため、誰か適当な人物を選び接触を図る。
ざっと目を通して、名簿の文面に入り乱れる多種多様な言語を頭に入れ、やがて一つの名に行き着く。
『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』
(な、長い……!)
エルルゥのいた世界では考えられないような長い名称に、興味を引かれた。理由はそれだけ。
それもしょうがない。名前からその人物が善人であるか悪人であるかなんて判断がつくはずないし、会ってみないことには情報も掴めない。
駄目で元々。運がよければ、接触することもできるだろう。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールさんどーこだ」
地面にたずね人ステッキを突き立て、エルルゥは手を放す。
――ステッキは、南西の方角に倒れた。
「あっち……ね。怖い人じゃなければいいんだけど……」
期待半分不安半分で、エルルゥはまだ見ぬルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールさんの下へ歩き出した。
【E-5/住宅街/1日目/深夜】
【エルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん、五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
[思考]:1、南西の方角へ向かい、 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールさんと接触する
(3時間以上経っても接触できなかった場合は、他の参加者との接触を試みる)。
2、他の参加者と情報交換をし、機を見計らってたずね人ステッキ使用。ハクオロたちの居場所を特定する。
3、ハクオロ、アルルゥ、カルラ、トウカと合流し、ギガゾンビを倒す。
[備考]各支給品の制限について。
『惚れ薬』→異性にのみ有効。飲んでから初めて視界に入れた人間を好きになる。
効力は長くて一時間程度。量は一回分のみ。
『たずね人ステッキ』→三時間につき一回のみ使用化。一度使用した相手には使えない。
死体にも有効。的中率は70パーセント。
>>132の15行目を修正
ドラえもんは後悔していた。あの日、五人の家出に協力して、彼らを七万年前の日本に連れて行ってしまったことを。
↓
ドラえもんは後悔していた。あの日、四人の家出に協力して、彼らを七万年前の日本に連れて行ってしまったことを。
ふと思ったのだけれど、
1:文頭一文字分空けずに、地の文と会話文をつめる
2:文頭一文字分空けずに、地の文と会話文は一行分空白にする
3:文頭一文字分空けて、地の文と会話文をつめる
4:文頭一文字分空けて、地の文と会話文は一行分空白にする
読む側としては、この中だったらどの投下形態が一番読みやすいのだろう
>>247は明らかな誤爆です。
本当にありが(ry
「ふむ、これはどうしたことか……」
井尻又兵衛由俊は一人、市街地の路地裏で戸惑っていた。
それもそのはずで、彼がデイバッグの中身を確認しようとそれを開けると中から出てきたのはどれも見た事もないようなものだったのだから。
一つ。透明な素材に包まれた液体。
これは、どうやら上についていた白い円筒を回すことで中身を飲めるようになっている水筒のようなものであることを彼は十数分かけて理解した。
一つ。先端が赤く塗られた棒状の金属がくるくると回る物体。
これは、どうやら赤い部分が同じ方向を差すことから、一定の方角を示す役目を持っているということを彼は十数分かけて(ry。
一つ。筒状で先端部だけなにやら広がっている物体。
これは、どうやら突起を滑らすことで明かりをともす役目をもっているのだということを彼は(ry
他にも色々と要との分からないものはいくつかあった。
だが、彼にとってもっとも用途が分からなかったのが……
このぱそこん……とかいう黒い箱は一体何なのだ? 指南書を読んでもさっぱり分からぬぞ」
彼の手元にあるのはまさしくノートパソコン。
これが存在する時代の又兵衛くらいの歳の男でさえ理解するのが難しいものなのだ、彼が理解するなど不可能に近かった。
「触らぬ神に祟りなし、とはよく言ったものだ。これはしまっておこうか」
と又兵衛は理解するのを諦め、ノートパソコンを他の基本一式と一緒にバッグへとしまう。
そして、残ったのは、ノートパソコンと一緒に配給された品――筒状の部分を持つ黒光りする金属製の何か。
説明書を読んだ又兵衛は、それが南蛮渡来の火縄銃の一種であることをそれとなしに理解したが……
「このような物を渡すとは……あの男め……」
自分が鉄砲で撃たれた時に、しんのすけが見せた悲しい顔を思い出した又兵衛は、その悲しみを自分に作らせようとしているギガゾンビに強い怒りを覚えていた。
そして、だからこそ、このようなものは使うまいとバッグに収めたのであった。
「よし、では出るとしようか」
そして又兵衛は歩き出した。
「しかし、いきなり殺しあえなどとは……あのぎがぞんびとかいう男、一体何を考えているのだ……」
又兵衛は、市街地を歩きながらそのようなことをぼやいていた。
「しかも、女子供までもを巻き込むとは……あの者、男の風上にも置けぬ輩だな」
城にいる殿や姫、そして城下の領民を守るために戦い、そして散っていった戦国の心優しき武将、井尻又兵衛由俊。
そんな彼が、今回のバトルロワイアルを素直に受け入れられるはずがなかった。
「こうしている間にも、また誰かが戦いに巻き込まれているやもしれぬ。なんとかせねば……」
又兵衛がそんな想いを胸に歩みを進めていたその時だった。
「――む?」
又兵衛は戦場で培った感覚により、背後に迫る殺気に気づいた。
そして、その殺気の正体を見ようと後ろを振り返ったまさにその時――
――ブウンッ!!!
目の前を何か硬いものが空振り、空を切る音が聞こえた。
「チィッ、外したかっ!!」
又兵衛は、その硬い何かを空振りした殺気の主の正体の声を聞いて驚いた。
「そ、その声は……ひろしか!?」
「……って、あんたは確か……」
殺気の正体――野原ひろしもようやく自分が今金属バッドで殴りかかろうとした相手が誰かを認識する。
「あんた……生きてたのか」
「どうやらそのようであるな。……だが、今はそのようなことはどうでも良い。それよりも、そなたもこのような下らぬ戯れに乗せられたというのか!?」
「……あぁ、そうさ。俺は……俺はしんのすけを守らねぇといけないんだ。だから……だから悪いが他の奴らには死んでもらうことにしたんだよ!!」
「やめろ、ひろし!!」
又兵衛の制止も聞かずに、大きくバッドを振りかぶるひろし。
だが。
「――な!?」
そんな大振りなひろしは言ってみれば隙だらけの状態。
戦い慣れている又兵衛がそんな隙を逃すはずもなく、彼はひろしの腕を掴むとそれをひねり上げ、バッドを放棄させる。
そして更に――
「――すまぬ」
手刀を首にあてると、彼を気絶させた。
「とうちゃん! と〜ちゃ〜ん!!」
暗い闇の中、しんのすけがいた。
そして、しんのすけは自分の事を呼んでいた。
「しんのすけぇ!!」
手を伸ばしてもそれはしんのすけには届かない。
いや、むしろしんのすけは闇の奥へとどんどん遠ざかっていた。
「しんのすけー!!」
「と〜ちゃ〜ん!!!」
そして、その姿は完全に闇の向こうへと消えてしまい……
「しんのすけ!!!」
ひろしは起き上がった。薄暗いコンクリートの壁に向かって手を伸ばしながら。
「何だ、夢か……」
ようやくそれを理解し、完全に目が覚めた彼は周囲を見渡し、自分がどこかの建物の一室にいて、ソファのようなものに横になっていたことに気が付く。
先ほどまで外にいたはずなのに何故……。
そんな疑問を抱いていると、その部屋に誰かが入ってきた。
「……ようやく目を覚ましたか、ひろし」
それは、ひろしも見知った人物――井尻又兵衛由俊だった。
手刀を使ってひろしを気絶させた後。
武器と荷物を奪い、更には殺すことも可能であったにもかかわらず、又兵衛は彼を近くにあったビルの一室へと運び込んだのだ。
そして建物の中を一通りめぐり戻ってきた彼は、目が覚めたひろしを見ることなり……
「……ようやく目を覚ましたか、ひろし」
穏やかな顔でひろしを見る又兵衛。
だが、すぐにその顔は険しい表情へと変わる。
「起きて早々申し訳ないが、そなたにどうしても聞きたいことがある。いいか?」
「………………あぁ」
「そなたがいるということは、そなたの家族もいるのか?」
「……あぁ。ひまわりとシロはいなかったが、みさえとしんのすけは来てる。……いや、気づいたら来てたという方が正しいかな」
「そう、か」
「俺がこうしている間にもしんのすけが危険な目にあってるかもしれないんだ。だから、俺はしんのすけを生き残らせるために少しでも人数を減らそうとして――」
又兵衛はそこまで聞くと、ひろしの傍まで近づき、そして
「んがっ!!」
殴った。脳天を拳骨で。
「な、何しやがる!」
「先ほど死に掛けたお返しだ。……そして、そなたの愚かさへの制裁だ」
「お、俺が愚かだと!?」
「あぁ、愚かだ。そなたは先ほど、しんのすけを生き残らせるため、と言っていたが、それで本当にしんのすけが喜ぶと思っているのか?」
又兵衛のそんな問いにひろしは戸惑う。
「そ、それは……」
「それに、しんのすけを生かす為ならば、そなたは妻をも手に掛けるというのか? 妻を手に掛けた上で子を生かす……それで本当にいいのか?」
「みさえなら分かってくれるはずだ。あいつには……しんのすけには未来があるんだ。それをこんなところで潰すわけには……」
「しんのすけの未来の為に、他の子らの未来を潰すと言うのか。あの男の口車にまんまと乗せられて――」
「うるせぇ!! 子供のいない奴に何が分かるってんだ!!」
そんな激昂とともに、ひろしは立ち上がった。
「んなこと分かってるよ。俺が正しくないことをしていることはな。だがな、俺はもう戻れないんだよ! こうする他ないんだよ!」
「それでは、やはりこの鉄の棒についていた血は……」
「あぁ、そうさ! もう俺は一人殺しちまったんだよ!!」
ひろしは叫ぶと同時に又兵衛の手からバッドを奪い、それと同時にバッドを思い切り横へと振った。
するとそれは、綺麗に弧を描き、又兵衛の右上腕へと直撃して…………
「ぐぁぁああ!!」
バッドによる直撃を受けた又兵衛は、右上腕を左手で押さえながらもだえ苦しむ。
ひろしが、そんな隙だらけの又兵衛を見逃すわけも無く、更に頭部めがけてバッドを振りかぶる。
だがその瞬間、彼の脳裏には、かつて合戦の帰りに撃たれ息絶えた又兵衛とそれを見て涙した息子の姿がよぎった。
「くっ、うぁあああ!!!」
バッドの軌道は逸れ、うずくまる又兵衛のすぐ横にそれは叩きつけられた。
「はぁ、はぁっ、はぁっ……」
「う、ぐ……ひろし?」
「……こ、今回は見逃してやる! あんたが死ぬとしんのすけが悲しむからな。……だが、いずれあんたも……」
そこまで言うとひろしは言葉を詰まらせ、又兵衛へと背を向けた。
「ま、待つんだ、ひろし……」
又兵衛は腕の痛みに耐えながら呼び止めるが、それでもひろしはそのまま部屋を飛び出ていってしまった。
「……くそっ! 殺さなきゃいけないのに俺は……俺は……!!」
ひろしは先ほどの自分の行為に無性に腹を立てながらビルを出ると、無意識のうちに西の方へと足を向けた。
そして、走りながら不意に先ほどの又兵衛の言葉を思い出してしまった。
――しんのすけの未来の為に、他の子らの未来を潰すと言うのか。あの男の口車にまんまと乗せられて
「んなこたぁ、百も承知だよ。俺だって殺したかない。……だけどな……それでも、しんのすけはかけがいのない息子なんだ。しんのすけの為なら、俺は――」
ひろしが見上げた夜空は、どこか寂しげだった。
【D−4 大通りを西へ移動中 黎明】
【野原ひろし@クレヨンしんちゃん】
[状態]:健康
[装備]:金属バッド
[道具]:無し
[思考]:しんのすけ以外の参加者を殺す
しんのすけを優勝させる
一方、部屋に取り残された又兵衛はというと、痛みはひかない腕を押さえたまま呆然と立ち尽くしていた。
「ひろし……」
説得もむなしく、ひろしは再び人を殺すべく外へと出て行ってしまった。
又兵衛はそんな自分の不甲斐なさを呪った。
「俺は……俺は一体何をしていたんだ……。何でひろし殿を行かせてしまったんだ。くそっ!」
そして、彼はそんな悔しさを胸にしたまま、ふと窓の外を眺めた。
すると、そこには月と星が静かに輝く夜空が広がっていて……
「こんなにも美しい月夜だというのに、何故我々はこのようなことをしているのであろうな……」
誰に言うでもなく、一人呟く又兵衛。
そして、空を見ているうちに彼の心は少しずつ洗われてゆき――
「ふむ、悔やんでいても何も始まらないな」
又兵衛は立ち上がると、再度夜空を見る。
「……ひろし殿。そなたの行おうとしている事は、この俺が必ずや止めて見せよう」
彼が見ていた夜空は、ただただ美しかった……。
【D−4 雑居ビル 黎明】
【井尻又兵衛由俊@クレヨンしんちゃん】
[状態]:右上腕に打撲痕 強い決意
[装備]:素手
[道具]:支給品一式 ノートパソコン コルトガバメント(バッグの中なのですぐには取り出せない)
[思考]:ひろしの暴走を止める
野原一家を探す
野原一家以外にも助けるべき人物は助ける
※ひろしの持っていた荷物(二人分)は、ビル内に放置
又兵衛は持っていくかどうかは、後の書き手さん次第で
以上が
>>231-236に代わる修正版です。
当然ながら、
>>231-236はこれにて無効扱いとしてください
そして
>>249の誤字を早速修正orz
他にも色々と要との分からないものはいくつかあった。
↓
他にも色々と用途の分からないものはいくつかあった。
静かだった。
聞こえる音は木々の間を抜ける風の音だけ。虫の鳴く音さえ聞こえはしない。
先程の凄惨な光景など夢だった――そんな気にさえなれそうな程、この森は静かだ。
もっとも、そんなことはありえないということは重々承知している。
これが現実だということは、さっきから首輪の冷たさが嫌というほど証明してくれている。
思考を現実に向け、これからのことを考えるとしよう。
ギガゾンビとかいう変態仮面に従って、罪のない人々を殺して回る気はさらさらない。
自分は悪に位置する人間だが、突然殺し合いをしろといわれて「はいそうですか」と従うような殺人狂ではないつもりだ。
となれば、自分がすべきことはただ一つ。
奴を殺し、この馬鹿げた殺し合いを終わらせることだ。
その為には奴のことを出来るだけ詳細に知らねばならない。
殺された少女の友達であろう子供達と青い狸のような生き物は、奴のことを知っているように見えた。
彼らに会い奴を倒す術を考え、出来るだけ早くこの殺し合いを終わらせよう。
名簿を確認したところ、自分の知り合いは四人。
ルパンに五ェ衛門、銭型のとっつぁんに不二子。
ルパンも五ェ衛門もとっつぁんも、こんなことで死ぬようなタマじゃない。
不二子は生き残ることに関しちゃ俺達の誰より上だ。
あいつらに会いたい気持ちはあるが、あいつらなら俺が居なくてもきっと大丈夫だろう。
多くの人を生かす為に出来ることをする。
それが、今一人の人間として次元大介がしなければならないことだ。
行動の骨子は決まった。となると次にすべきことは戦力の確認だ。
「さぁて、何が入っていることやらね……」
誰に言うでもなく呟き、デイバッグの中身を漁る。
出てきたものは銃と、それ用だと思われる弾丸だった。
正確に言えば《拳銃のようなもの》と《その弾丸と思われるもの》だ。
自分の記憶にはこんな銃は存在しない。
やたら長いし、拳銃にしては重過ぎる。
銃弾は銀色に光っていて、これまたこんなものは見たことがない。
……分からないことをいくら考えても仕方ない。大人しく説明書を読むことにしよう。
説明書を一通り読んでわかったことは、この《拳銃のようなもの》
――正式名称.454カスール カスタムオートの製作者はとんでもない馬鹿野郎だということだ。
拳銃としては異様な4kgもの重量(ショットガンやアサルトライフルがこの位の重さだ)。
自動拳銃としては大きすぎる35.5cmという全長。
とどめに、弾丸はウィンチェスター大聖堂の銀十字錫を溶かして作った13mm爆裂鉄鋼弾らしい。
一体、何を考えてこんな物を作ったのか。
「サイボーグに吸血鬼退治でもさせる気か?」
きっとそうだ。アメリカ辺りが作ったんだろう。あの国ならやりかねない。
とても無理のある結論だと自分でも思うが、これ以上考えても結論は出そうにない。
それなら無理にでも納得して、次のことを考えたほうがいい。実際、あの国ならやりかねないし。
地図によると、今俺がいるのはエリアA-1の森林らしい。
近くに高校があるようだから、とりあえずはそこを目指そう。
高校に探し人がいるなどと期待はしていないが、闇雲に探すよりは目標を定めたほうがいい。
カスタムオートをズボンとシャツとの間に挟み、獣道を歩き始める。
「よろしく頼むぜ。相棒」
この銃を扱い切れれば大きな戦力になるのは間違いない。
それに――
女は手のかかる方が可愛いってもんだ。
【A-1 ・1日目 深夜】
【次元大介@ルパン三世】
[状態]:健康
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@ヘルシング ズボンとシャツの間に挟んであります
[道具]:支給品一式、13mm爆裂鉄鋼弾(35発)
[思考・状況]
1:とりあえず、高校まで行く
2:殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す
3:ギガゾンビを殺し、ゲームから脱出する
基本:こちらから戦闘する気はないが、向かってくる相手には容赦しない
>>249-254の追加修正
一連の「バッド」表記は「バット」の誤りでした。ここにお詫び申し上げます
「ふざけてるわ。」
峰不二子は呟いた。
その呟きはこのバトルロワイヤルに対して、
ではなく意識を取り戻してから数分後、彼女のいた隣のエリアの一部が廃墟と化したからだ。
不二子の居る遊園地の事務所から見えた先程まで煌びやかに輝いていた観覧車が今は見る影も無い。
「全く、戦車でも支給されたっていうのかしら。」
実際にはアルター能力による破壊だったのだが、彼女の世界に存在しない物だと気付けるはずが無かった。
破壊の理由も原因も分からなかったが、これを行ったのは恐らく他の参加者であろう事は想像が付く。
この殺し合いが始まって数十分、いや二十分は経過しただろうか。
どちらにしろ始まってから、そう時間は経っていない。
ということは建物を簡単に壊せるような力を持った者がこの近くに居るということだ。
こうも簡単に攻撃を開始した人物である。ゲームに乗っている可能性も高い。
なにより観覧車壊滅という必要以上の破壊活動。
殺人狂か、破壊狂か、どちらにしろ狂っている。そんな相手との交渉は期待できない。
支給品も不二子にとっては満足もできそうも無い大きさのダイヤの指輪、
それに銭形変装セットという、はずれとも言うべき品々に落胆していた。
とりあえず、破壊した参加者には見つかりたくは無い。
不二子は逃げる事を選択した。
この遊園地には入り口が三つある。F-3の西門、F-5の北門、G-5の東門だ。
あの破壊者が何処に行くかはわからない。
だが、遊園地から出るならば相手が一番近いだろう場所は東門だ。
「ということは、私の今居るF-5の北門から抜け出せば、そいつには会わなくていいわね。
ま、そう単純に動いてくれたら、だけど。」
そんな不安が無かったわけでもない。
が考え込んで立ち止まっていたら、それこそその参加者に見つかる事になる。
言うが早いか、不二子は北門に向け走り出した。
北門から事務所の距離はそう離れているわけではなかった。
数分程走ったところで、派手な装飾の北門が見えるところまで辿り着いた。
「もし、そこのお嬢さん。突然で申し訳ありません。聞きたい事があるのですが。」
不二子は聞き覚えの有る声に呼び止められた。
しかしその声の主はどうやら彼女の知る人物とは違うようだ。
似たような声質だが、明らかに相手の声はその人物に比べ老いている。
だがこの張り詰めた空気と気迫、相手が老いているだろうといえ安心はできない。
細心の注意を払いながら相手に返事をする。
「何か御用かしら、Mr・・・」
「これは失礼いたしました。私はウォルター・C・ドルネーズというものです。
さて、返事がいただけたということは私の質問に答えていただけるということでよろしいですかな?」
「ええ、ウォルターさん。それと私は峰不二子と言いますの。」
この字面だけ見ればこの殺し合いという場には相応しくない自然な自己紹介の流れ。
しかし、二人の間にはお互いを信用しきったわけではないという緊張感があった。
さてこのウォルターという男の質問は二つ。
一つは、不二子がゲームに乗っているのか
一つは、あの観覧車の破壊について、なにか知っていないか
不二子の答えは二つともNO。
もちろん、ウォルターもその言葉を鵜呑みにしたわけではなかったようだが、
必要以上の追求はせずに、その場から観覧車のほうへ足を向ける。
「お手数をかけ、すみませんでした。それでは。」
「あら、ウォルターさん?英国紳士はこんな状況で女性を一人にしておけるのかしら?」
不二子にとって自分で身を守れる手段は今は皆無だ。
この初老といえ侮れない実力を持っているだろう男性をみすみす逃すわけにはいかない。
「しかし、この老いぼれではあなた一人、守りきれるかどうか。
それにあの観覧車を破壊したものがどういった人物か確かめなければ・・・
そうだ。あなたにこれを渡しましょう。」
そういうとウォルターはコルトSAAを取り出した。
「残念ね。でも私もあそこに戻りたくはないから。
これはありがたく受け取らせてもらうわ。運がよければまた会いましょう。」
そういうと不二子はさっさとその場から駆け出した。
「やれやれですな。」
何を考えているか分からない美女との行動は彼にいい結果をもたらす事無いだろう。
自分に支給された品は二つ、もう片方の支給品に比べれば銃火器は自分向きのものではない。
その為、自分に支給されたコルトSAAもすんなりと手放した。
優先すべきなのは、あの観覧車を破壊するほどの参加者がどういった存在かを見極めること。
年甲斐も無く、ウォルター自身その相手と会うことに楽しみを覚えているのは気のせいだろうか。
【E―5:道路・1日目 深夜】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:健康
[装備]:コルトSAA(装弾数:6発・予備弾12発)
[道具]:支給品一式・ダイヤの指輪・銭形警部変装セット
[思考・状況]1:頼りになりそうな人を探す。
2:ゲームから脱出。
【F−5:遊園地・一日目深夜】
【ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:支給品一式(配給品数不明)
[思考・状況]1:観覧車を破壊した人物の発見。
2:マーダーをの処理。
3:ゲーム打倒。
走る。
暗い闇夜の中、バリアジャケット……
デバイスを介して生み出す防護服を纏い、フェイトは走る。
まるで悪夢を忘れ、記憶から逃げようとするかのように。
手にはS2U。ミッドチルダ式のデバイスだ、彼女が扱うことに支障は無い。
頭にあるのは先ほど見た最悪のイメージ。散乱する血。死体。殺人と言う禁忌。
――人を殺した親友
それは彼女を混乱させるに十分すぎるものだ。
フェイトは数々の戦場に身を置いた身だが、死体は一回も見たことが無い。
殺人もしていない。なぜか?デバイスに存在する、非殺傷設定のためだ。
簡単に殺さずに済ませてしまう技術は戦いから殺しという現実を遠ざける。
圧倒的な魔法の実力と多くの戦闘経験を持つフェイト。
しかし、彼女は見慣れていない。死体を。
失ったものはたくさんある、傷付けられたこともたくさんある。
だが、あれほど無残な死に様はまだ一度も見ていない。
目の前で消えていった母親だって、死体を見たわけではない。
そういう点では、彼女はただの女の子と変わりなかった。
死と言う現実を理解していないのだから。
ゆえに混乱し、ただ走る。
その心は、恐怖と言う名の暗闇に囚われ始めて。
――夜の闇は、それを増長させる。
何も見えない。聞こえるのは音だけ。だから、頼りになるのは耳。
轟音。前方、左手から。フェイトはそちらを向いた。
まだかなり距離がある。だが、しっかりと見えていた。
木が倒れる。燃え上がる。何かが、爆発したのだ。
……爆発。心当たりなら、ある。
「ディバインバスター……」
怯えたような声でフェイトは呟いた。
追いついたんだ、自分は。なのはに。そして、この周辺には自分しかいない。
――私ね、騒がしいのは嫌いなの。
――だから、あんまりフェイトちゃんがうるさくするなら…
コ ロ シ チ ャ ウ ヨ ?
今まで聞いた中でも最悪な言葉が頭をよぎる。
今のは多分、なのはからの警告。なのははレイジングハートも持ってたんだ。
……そう、フェイトは思った。
混乱している彼女が、石ころ帽子を被ったみくるに気付くはずもなかった。
心と視界を闇に覆われ、射手にも気付かなかった。
そもそもディバインバスターは物を燃やさないという、
根本的なことさえ気付かなかった。
「とめ、なきゃ……」
炎の中でS2Uを構える。その膝は明らかに震えていた。
なのはは生半可な実力ではない。
直に(しかも拘束されて)最強魔法・スターライトブレイカーを受けたフェイトは身を以ってそれを知っている。
そして、スターライトブレイカーが非殺傷設定でないなら……人を殺すことなんて簡単だ。
こうしている瞬間にも、なのはとレイジングハートはカウントを開始しているかもしれない。
カートリッジを使わなければ10秒。使えばもっと早い。
それで、スターライトブレイカーは発射され。
――死ぬ。死ぬんだ。シグナムみたいに。
震えた足で、フェイトはなのはを探して炎の周辺を走り回る。
いや……もはや探し回るという表現は適切ではない。
なのはの照準から外れるために、逃げ回っているようだった。
いくら気丈に振舞っていても、どれほど大人びていても。
確かに「死」に関して彼女は9歳の女の子だった。
……怖い。
……こわい、こわい。
……もういやだ、帰りたい。
……くらいよ。どこから狙ってるの?
……勝てるの?なのはに勝てるの?殺さずに?
……誰でもいいよ、助けてよ、たすけてたすけてたすけて、たすけて!
――ガサリ
「!? フ、フォトンランサー!」
葉が擦れる音。闇夜で相手は見えない。
なのはが相手だったら……隙を与えちゃ駄目だ。
ディバインバスターでも受けきれない。
スターライトブレイカーなんて受けたら死ぬ。
その前に先制攻撃するしかない。
フェイトは半狂乱で、フォトンランサーを……金色の光弾を放ち。
――後悔した。
そこにいたのは、なのはではなかった。
人間とは違う容姿をした女性……人間形態のアルフを思い起こさせる姿。
ヒョウを基にした使い魔だろうか?
彼女に怪我は無い。怪我は無いが。その目にあるのは。
「……驚きましたわ」
「あ……その……」
明らかな、敵意。
弁解をする暇も無い。それに、声も出ない。
当たってはいない。照準が甘かったこともあり相手は見事に避けていた。
だが、攻撃したのは事実。そして、相手に分かったのはそれだけ。
それ以外の事情は分かりようが無い。
相手は明らかに身長と大きさが釣り合っていない、巨大な得物を構える。
フェイトを、殺すために。
フェイトの足が、勝手に後ずさる。怯えた子供のように。
だが嘱託魔導師として戦い続けた経験は、
知らず知らずのうちにフェイトにS2Uを構え直させていた。
「邪魔をするなら……手加減、しませんわ」
「!」
【D-7 森林・1日目 黎明】
【フェイト・T・ハラウオン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:恐慌状態
[装備]:S2U+バリアジャケット@魔法少女リリカルなのは(他のランダムアイテムに関しては後続の書き手さんに一任します)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1: 応戦……?
2:なのはの殺戮を止める
【カルラ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾、残弾6発)(棍棒としてしか使う気はない)
[道具]:支給品一式 、ランダムアイテム残数不明(カルラが扱える武具はありません)
[思考・状況] 1.応戦
2.ハクオロと合流。他の仲間とも合流したい。
3.邪魔する人間には容赦しない。
すみませんが
>>261のウォルターの項を
【F−5:遊園地・一日目深夜】
【ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:支給品一式(支給品不明)
[思考・状況]1:観覧車を破壊した人物の発見。
2:マーダーをの処理。
3:ゲーム打倒。
暗い森の中。周りには他の参加者どころか生き物の気配も無い。
ただ一人だけが巨木の幹の下に座り込んでいる。ロングコートを羽織った美丈夫。
それがエクソダス請負人、ゲイン・ビジョウだった。
(まったく……なんだってこんなことになったんだ?)
ゲインは現在の状況を把握しきれていなかった。彫りの深い美しい顔が疑問の表情を浮かべる。
(シベ鉄の仕業か? だが奴らはこんなまどろっこしい真似はしない。ロンドン・IMAの介入が入ったとでも?
それにこの木々に気候……俺の知っている土地じゃない)
彼の元いた世界は極寒の地シベリア。
世界は大変動を迎え、人々は過酷な土地でドームポリスという建造物の中で暮らすことを余儀なくされていた。
そこシベリアを支配していたのがシベリア鉄道公社である。
シベリア鉄道公社――通称シベ鉄は本来ならばシベリア全土に渡る鉄道を管理するだけの組織なのだが、
シベリアでほとんど唯一の交通機関である鉄道は、そのまま食糧・資源の供給も担っている。
そのためシベ鉄からドームポリスへの影響力も多大であり、実質的にシベリアを支配していた。
強大な権力を盾に横暴の限りを尽くすシベ鉄に反感を持つ人々は、かつて自分たちが住んでいた豊かな土地、ヤーパンへと脱出しようとした。
これがエクソダスである。
ゲインはエクソダス請負人として、この都市単位での大脱走を指導する立場にあった。
「名簿に知った名前はほとんどないな……。ゲイナーくらいなものか」
例えば自分がウルグスクのエクソダスの中心人物として集められたのだと仮定しよう。
エクソダス関係者を集めているのなら他の80人近い面々もそうだということになる。
だがあの場には明らかに小さな子供もいた。あの子達がみなエクソダスに関わっているとは考えにくい。
そもそもエクソダスを取り締まるのならこんなまわりくどいやり方をする必要もない。
自分は『エクソダス請負人』という立場としてここにいるのではないのだ。
おそらく、自分たちには共通点など欠片も無い。あの仮面の男もシベ鉄やロンドン・IMAの人間ではないのだろう。
「つまりあいつの思惑なんかわかりっこなし。お手上げというわけか」
ふぅ、と息をつく。首輪の冷たい感触にはまだ慣れない。
(それでも……俺は請負人で、あいつはチャンプだ。諦めるには早すぎるさ)
むざむざと死ぬつもりは無い。ゲインはデイパックへと手を伸ばし、支給品の確認をする。
さっき見た名簿の他に、食糧、地図にコンパス、時計、ランタン、筆記用具。そして――
「こいつは……なかなか洒落にならないかもしれないな」
ゲインに支給されたランダムアイテムは二つ。残念なことにどちらも殺傷能力の高い武器とは言えなかった。
パチンコと工具箱。銃や刀剣の類を期待していただけに、落胆の色は隠せない。
「こいつはなんだ? 説明書によると……ゴムで弾を撃つだけの単純なおもちゃか」
だが黒いサザンクロスの二つ名を持つ優秀な狙撃手のゲインならばパチンコでも本来以上の性能を引き出せる。
試しに近くにあった小石を弾にして、30mほど離れたところに茂っている木の葉の一つを狙う。
何気ない動作でゴムを引く。狙いをつけるのに要したのはほんの2、3秒。だがその狙いは正確だ。
ひゅんっ! 軽快な音を上げ飛んでいった石は、見事に狙った木の葉を粉々にした。
「射撃の精度は悪くない。後は使い方しだいだな」
いくらパチンコだといっても急所を正確に狙うことの出来る者が持てば武器になりうる。
目、眉間、こめかみ。殺すことは出来ないだろうが相手の戦闘力を削ぐ分には十分だろう。
次に工具箱をチェックする。中身は一般的な工具ばかりだった。
トンカチ、糸ノコ、スパナやドライバーその他諸々。用途は幅広い。
その中からトンカチを選び、近接戦用の武器として右手に装備した。
「やはりこれだけじゃ心細いな。ライフルでも入っていれば良かったんだが贅沢は言えないか」
パチンコとトンカチでは銃を持った人間にでも襲われればひとたまりもないだろう。
早急に他の武器、出来れば使い慣れた銃器を見つけたいところだ。
地図を眺めてこれからの行動方針を決めようとしながらも、ゲインの脳裏には見せしめとなった二人の姿が浮かんでいた。
かつて、まだゲイン・ビジョウがゲイン・ビジョウで無かったとき。
一つのドームポリスがエクソダスを決行した。そのドームポリスの名はウッブス。
――ゲインの故郷だった。……だった。
エクソダスは重大な犯罪行為であり、楽園の自由を求めた代償は、時として死という形で還ってくる。
ウッブスはエクソダスに失敗した。そしてウッブスという街は滅んだ。
ゲインはあの時の血と叫びと硝煙の匂いを忘れることは出来ない。
「あんな凄惨な光景……繰り返すわけにはいかない」
ゲインは立ち上がり、南へと足を進める。
ウッブスは失敗し、ゲインは名前を捨てた。だがウルグスクでは違った。
「エクソダスは……希望だ。ここで終わらせるわけにはいかないさ」
ウルグスクのエクソダスの中で見つけたものがある。それは『仲間の存在』だ。
ウッブスはみんながゲインという請負人の存在に依存し、頼り切っていた。
だが今はひとりじゃない。頼れる、強い仲間がいる。
浮かぶのはゲームチャンプの顔。ゲイナーに白兵戦の技術なんてほとんど無い。
なに、あいつなら大丈夫だろうよ。ゲインはゲイナーを信頼していた。
あいつとなら……俺はなんだって出来るさ。
こんな殺し合いに乗る気はさらさらない。まずは南下し、市街地で協力できる人間を集める。
「確か……ギガゾンビとかいったな。あいつに教えてやるぜ。
ピープルが希望を持つ限り、エクソダスは暴力なんかじゃ止めれないってことをな」
【C-5森 1日目 深夜】
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:良好
[装備]:パチンコ(弾として小石を数個所持)、トンカチ
[道具]:支給品一式、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)
[思考]
第一行動方針:市街地で信頼できる仲間を捜す
第二行動方針:ゲイナーとの合流
基本行動方針:ここからのエクソダス(脱出)
「馬鹿馬鹿しいぜ」
エリアを東西に結ぶ線路、その高架下で一人の男が毒づいていた。
一体ドコのどいつだ、こんな馬鹿げた疑似体験をオレにかましているのは。
いきなり始まったかと思えば、ヘンテコな面を被った男が"殺し合いをしてもらう――願いを
叶える"だと、悪趣味な上に陳腐だ。
今日日、ガキのする仮想ゲームだってもっと趣向を凝らしているもんだぜ。
一体、ドコの誰が?いつ?どうやって?何が目的でこんなことをしている。
仮にも9課に所属するオレに仕掛けて来たってことは、政治テロかそれとも今までに
捕まえた犯罪者の復讐か……
どっちにしろ腑に落ちねぇ……、操るなら操ればいい。殺すなら殺せばいい。
こんな疑似体験をかます必要はない。何故、こんなゲームをオレにさせる?その目的は?
今、オレがすでに操られているとして、ここで人を殺せば現実でも殺している――としても、
まだオレには自由裁量がある。
……何が目的だ。何が。このサバイバルゲームに何の意味がある?
…………
………………
……………………
埒が明かねぇぜ。こんな状態じゃ答えは出ねぇ。最悪、オレがただ夢を見ているだけと
いうこともありえるしな。
コレが現実か仮想かはたまた夢――これも仮想だが――かは置いといて、このゲームに
どう対処するか考えるか……
まずは、この首輪だ。
爆薬が仕掛けられていると言われ、実際にそれは目の前で証明された。
……確かに爆薬はこの中にある。起爆装置も確認できたが防壁が厚くて手が出ねぇ。
首輪の内周に回路が走っていて――これが切れると起爆する……か。
ノイズを発しているところから、おそらく受信だけでなく発信装置も内臓されているな。
あの仮面の男がこちらの居場所を確認するためか。これを辿れりゃいいんだが、道具が
ないし――そもそも、衛星を経由されてちゃそこでお手上げだ。
首輪は一先ず諦めるとして、次は少佐か……
あの少佐が本物という可能性はこれが疑似体験なら低い。偽者だったとして、作られた
データなら判別がつく可能性もあるが、オレ自信の脳内から投影されていたんじゃ
判別不可だ。逆に本物だったとしても――判別不可じゃねえかっ!
次はここがどこか?GPSが利けばすぐにわかるが生憎作動しない。
となれば記憶と知識が頼りだが、少なくともオレの記憶にある場所じゃない。
かといって地図を見ても、現代――少なくとも日本の中にある地形でもない。
だとすればやはりここは仮想の世界なのか、それともわざわざこのために用意したのか……
仮想か現実か、いい加減どうどうめぐりだぜ。
「あー、クソッ!」
こういうのはオレの好きなシチュエーションじゃねぇ。
もっとわかりやすくて大暴れできるような――そうだ。支給品とやらを確認するか。
武器が入っていると言ってたな。
「……カラシニコフ〜?」
デイバックから出てきたのは旧世紀及び今世紀初頭の大戦争辺りまで活躍していた
AK-47だ。これで戦えってのか?うーむ……だが、構えて照準してみると以外と悪くない。
他には……水、食料、ライト、コンパス、地図、筆記用具、時計……それと、
……お菓子に……煙草か。菓子はともかく煙草は見たこともない銘柄だな。
引っくり返すと裏に紙が張ってある、なになに――”毒入り注意”――なるほどね、これも武器か。
まさか菓子箱の方にも仕掛けがあるんじゃねぇだろうな。開けると爆発するとか。
…………考えてみるとこの六角形の緑の箱はなにやら怪しい。
箱に手を当てる……振動はしていない。熱も感じないぜ。
次に箱を傾けてみる……別段固まりのようなものは入っていない。
顔を近づけ匂いを嗅ぐ……薬品や火薬の匂いはしない。
丁寧に封を切る、そしてゆっくり蓋を開くと…………ほら、普通のお菓子だ。
「くそっ!」
何をやっているんだオレは……自分自身の馬鹿馬鹿しさに疲れるぜ。
AKを肩に下げ、市街地を目指して高架の下を歩く。
別に山中でのサバイバルは苦手ではないが、ジメジメした地面で寝続けるというのも
気が滅入るし、この場合じっとしているより動いた方が手っ取り早い。
全エリアの合計面積が16000uで参加者が80人、一人頭の面積が……
「そろそろ誰かを見つけられてもいいんだが……」
あまり意味のない計算をしながら、ひとりごち歩く。そもそも均等に……
ドオンと轟音が鳴り響く。山の方を見上げてみればまだふもとの辺り、ここからでもそう遠くない
位置で火柱が上がっているのが見える。
対物ライフル?いやRPGか?というかそんなモノが他の参加者には支給されているのか。
つくづく自分は貧乏くじを引く方だと痛感する。
さて、どうするか?少なくとも撃った人間がいるのが予想されるが、どこから撃たれたかは
見ていなかった。着弾地点まで出て行ってオレも撃たれましたじゃ、間抜けがすぎる。
とりあえず、コンクリートの柱に身体を寄せAKを構えて様子を窺う。
今の一撃で終わったのか次のアクションはない。自分はまだ見つかってないようだが、
長距離砲を前に相手を確認せずに動きたくはないしな。しばらくここで……ん?
「ひぃ〜〜ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
高い女の声が山の方から近づいてくる。狙われていた人間か?
「あひっ!ぅひぃ〜ぃぃぃぃいいいいぃ〜〜っ」
…………おかしい。声の大きさからすればもう姿が見えても――光学迷彩か!?
腰の高さまである草を掻き分け悲鳴を上げる女(?)がこっちに向かってくる。
「止まれっ!」
見えない女の正面に飛び出し銃口を向けて威嚇する。
「ひゃんっ!」
草が途切れた所で小さな悲鳴が聞こえ、ドタッという音とともに砂煙があがった。
半球の何かが転がってきて、女の姿が見えるようになった。
地面にうつ伏せになりぅぅ…とか弱い声を出すメイド姿の女の子――朝比奈みくるであった。
いきなり出てきたかと思えばメイド……メイドねぇ。
「おい、大丈夫か?」
地面に伏してか細い声を上げるメイドに声をかけてみる。
「……ひぃっ!殺さないでくださ〜い」
両手を頭の上にあげて振るえはじめた。特に武器は持っていないようだし害はないようだが。
「殺さない。立ち上がって名前を言え」
メイドはおずおずと顔を上げ、オレの顔を見ると泣きそうな顔をしてからゆっくりと立ち上がった。
「……朝比奈みくると言いますぅ。みくるちゃんとお呼びくださぁい」
名簿にあった名だな。こいつもこのゲームのプレイヤーなのか、あるいは……
見た目は背の低く、童顔で愛らしい顔、その割りに女らしい身体、メイド服……
「お前、ロボットか?」
メイド服の少女は質問に目を丸くする。
「へ?違います。私はれっきとした人間です」
「サイボーグでもない?仮想のキャラクターでも?」
「違います〜人間です」
てっきり愛玩用のロボットかと思ったが”天然”らしい。まぁそれはいい。
「さっきの爆発は?何があった?」
質問を聞いた途端急にあたふたとする。
「そ、それが急に爆発してっ!、女の人がこっちを狙っていてっ、怖くてっ……」
「逃げてきたのか?」
「ひぃぃぃぃぃ〜〜〜〜っ!」
頭を抱えて闇雲に逃げ出そうとする少女の腕を取って柱の影に入る。
「落ち着けっ!相手の顔は見たのか?」
「ひぃっ…、お、女の人でした。鬼みたいな人がすぐそばにいて……」
「すぐそばに……?」
どうやら砲を撃ったのは素人らしい。この場合誤射ということもありえる。
とりあえず、追ってはこないだろうし、ここに直接撃ちこまれる心配もなさそうだ。
「落ち着け、もう危険はない。落ち着いて事情を話してくれ」
「はぁ、じ、事情ですか?」
「ああ、君が何者で、何でここにいるか、だ」
「わかりました。秘密なんですけど緊急事態だから話します」
「ああ、頼む」
「私は”未来人”です」
「…………………………」
なんだか馬鹿らしくなってきたぞ。
「未来人…?」
「はい!みくるは未来から来ました」
「……………………」
「し、信じてもらえないかもですけどっ、みくるは本当に未来からやってきたんです!」
「……………………」
「あぁ、うぅ……本当ですよぉ……」
「未来から”来た”と言ったな?じゃあ、君が来たという”今”は何時で何処だ?」
「…2003年の日本ですけどぉ」
「2003年!?第4次世界大戦の最中じゃないか」
「第4次世界大戦っ!?そ、そんなのその時間平面上じゃ起きていません!」
「だとしたら、君が未来人というのは嘘か?」
「嘘じゃありません〜っ」
「だったらどう解釈する?」
「そ、それは〜……、あなたが並行世界の住人だったり……」
「……………………」
「あ、あの〜……」
「真面目にするのが馬鹿らしくなってきた……」
「そ、そんな!みくるは嘘をついてません〜」
メイド服の少女が涙目で詰め寄ってくる。
「そうじゃない。そういう意味でいったんじゃない……」
「……?」
「オレはコレが全部疑似体験ではないかと疑っている。その場合、君はキャラクターで
君自身は自分の中の矛盾に気づかない」
少女はオレの言葉に怯えながらも気丈に反論してくる。
「そ、それだと、私から見たらあなたの方が疑わ……しい、かもです」
「オレには確固たるこのゲームが始まる前の記憶がある。オレは現実の人間だ」
そのはずだったが、予想外の反論がきた。
「そ、そんなのわかりっこありません。さっきあなたが言ったじゃないですか。
作られたキャラクターは自身を疑わないって。だ、だから、あなたの記憶だって
予め与えられた偽物かも……知れない、です」
そうだ、確かにそれは否定できない。
「少佐も似たようなこと言ってったけな……」
「少佐…?」
「草薙素子。名簿はまだ見ていないか?オレがバトーで、素子、トグサ、タチコマが
オレの同僚だ」
「バトーさん。変わった名前…あっ、ゴメンなさい」
「君の方は知り合いはいないのか?」
「え、あっ、います。涼宮さんとキョンくんと長門さんと、鶴屋さんと…浅倉さん」
「けっこういるんだな。で、彼女達も君のように未来人だったりするのか?」
「………………」
「どうした?言えないのか?」
彼女は可愛らしい手を顎に当てて難しい顔をしている。
「……えーと、難しいというか、私が言っていいのか……」
「みんな普通の人間じゃない?」
「えっ…、いやキョンくんと鶴屋さんは普通の人間です…あっ」
「つまり、他はそうでないと」
「うぅ……、いじわるですね」
頬膨らませ赤くする様も可愛らしい、庇護欲をそそるタイプだ。
これが愛玩用ロボットなら人気商品だろう。
「どうかしましたか?」
顔をかしげてこちらを覗きこんでくる。
「いや、これからどうしたもんかと思ってね」
結局は真面目にこのサバイバルゲームに取り組むことにした。
かわいらしいメイド少女曰く、
「私たちが仮想や作られた存在である可能性はありますが、もしそうでなかった時
なにも努力せずに失敗しちゃったら後悔すると思います」
……だそうだ。一理ある。
もしこれが仮想訓練だとしたら、メイド少女に諭されているオレを見てイシカワあたりは
腹を抱えて笑っているかもしれんが、もうかまうもんか。
あのギガゾンビとかいうわけのわからんヤツを倒して、ここを出る。それだけだ。
「で、君の……」
「みくるちゃんとお呼び下さい」
「みくる……の荷物はどうした?途中で落としたか?」
オレの言葉を聞いて、ハッとした顔をする。今さら気づいたようだ。
「ど、どうしよぅ〜、大事なものなのに……」
落ちているわけでもないのにそこいらをキョロキョロ見渡す。
「これは君の支給品か?」
先ほど、足元に転がってきた半球の何かを彼女の前に出してみた。
「あ!そうです。拾っておいてくれたんですか。ありがとうございます」
「で、それはなんだ?役に立つのか」
「えっとですね〜…、これはこうすると〜……」
彼女が半球の何かを頭の上――あれは帽子だったらしい――に被せると……
「姿が消えるんですよ!」
……さっきの光学迷彩はこれの効果か。だが、被っただけで全身をカバーするとは
ずいぶんオーバーテクノロジーだ。熱反応も動体反応も消失している。
「……えと、消えて…ますよね?じゃないと私恥ずかしいんですけどぉ」
「あ、いや消えている。オレからすると多少不自然なブランクがあるんで、完全では……
なんだ、見えてきたぞ。切れたのか?」
「あ、そういえば説明書にじっと見られると、見えちゃうって書いてました」
「つまり、光学迷彩ではなく心理迷彩ということか。なるほど」
「よくわかりませんが〜……」
「君の世界のものじゃない?」
「絶対ではないですけど、私は見たことありません。でも……」
「でも、なんだ?心当たりがあるのか?」
「もしかしたら、あの青い…たぬき?さんが知っているかも知れません」
青いたぬき……ギガゾンビに殺された少女の近くにいた置物みたいなヤツのことか。
「どうして、そう思う?」
「あの最初の時、青いタヌキさんと仮面の人が言い争っていて知り合いのようでした。
で、その中でタイムパトロールとか時空なんとかって言ってて、多分青いタヌキさんも
仮面の人も未来……私から見ても未来の人達なんだと思います。だとしたら……」
「すべてに合点がいく」
「…はい。それでこの道具も仮面の人が用意したものですから」
「…………………………」
「ど、どうしたんですか?何かおかしいですか」
「いや、意外と頭がいいんだなと思ってな」
「意外は失礼ですよ!」
疲労した彼女の疲れが取れるまで、そして爆発を起こした女が次のアクションを
起こさないかじっくりと見切った上で出発することにした。
「さてと、じゃあ動くとするか」
AKとデイバッグを肩に掛けなおし、西――市街地の方を見やる。
彼女――みくるには石ころ帽子を被りっぱなしにするよう言ってある。
狙撃された場合、オレなら対処はできるが彼女にはそれは無理だからだ。
彼女のデイバッグは諦めた。森の中で音を立てずに探し物をするのは難しし、
聞いた限りではそれほど重要なものを持っていなかったからだ。
「ホテルに向かうんですよね?」
姿の見えない彼女が聞いてくる。
「ああ、このまま線路沿いに市街地へ入り、物資を補給しながらホテルに向かう」
「ホテルをお家……基地にするんですか?」
「いや、ホテルに行くのはあそこが一番高い場所だからだ」
「………………?」
姿は見えないがきょとんとしたという沈黙だな。
「屋上に上って周りを監視する。あそこらへんは人も集まりやすいだろうからな」
「それで、みんなを探すわけですね。青いタヌキさんも」
「そういうことだ。そのためにも途中で望遠鏡を見つける必要がある」
「わかりました。私もお手伝いします」
「じゃあ、進むぞ。敵を確認したからには慎重に進む。あんたもさっき殺されかかった
ってことを忘れるな」
「はっ、はい」
「その帽子の効果で離れた所からは気付かれないだろうから、オレの後をゆっくり
歩いてくればいい」
「はい」
バトーとみくる――傍目にはバトーだけのように見えるが――の2人は高架にそって
西へと移動を始めた。
【E-7/高架下/1日目-黎明】
【バトー】
[状態]:健康
[装備]:AK-47(30/30) カラシニコフ
[道具]:デイバッグ/支給品一式/AK-47用マガジン(30発×9)/チョコビ/煙草一箱(毒)
[思考]:市街地で望遠鏡またはそれに類するものを入手する。
ホテルの屋上に向かう。
9課の連中、みくるの友人、青いタヌキを探す。
※チョコビ 参考>
http://www.bandai.co.jp/candy/products/2006/88013.html 【朝比奈みくる】
[状態]:健康/メイド服を着ている
[装備]:石ころ帽子(※[制限]音は気づかれる。怪しまれて注視されると効力を失う)
[道具]:なし
[思考]:バトーと同行する。
SOS団メンバー、鶴屋さんを探して合流する。
青ダヌキさんを探し、未来のことについて話し合いたい。
※みくるの落としたデイバッグはD-7の南部に落ちています。
デイバッグ/支給品一式/庭師の如雨露
エルルゥの薬箱(治療系の薬はなし。筋力低下剤、嘔吐感をもたらす香、
揮発性幻覚剤、揮発性麻酔薬、興奮剤、覚醒剤など)
>>277 【E-7/高架下/1日目-黎明】
【バトー】
[状態]:健康
[装備]:AK-47(30/30)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/AK-47用マガジン(30発×9)/チョコビ/煙草一箱(毒)
[思考]:市街地で望遠鏡またはそれに類するものを入手する。
ホテルの屋上に向かう。
9課の連中、みくるの友人、青いタヌキを探す。
※チョコビ 参考>
http://www.bandai.co.jp/candy/products/2006/88013.html 【朝比奈みくる】
[状態]:健康/メイド服を着ている
[装備]:石ころ帽子(※[制限]音は気づかれる。怪しまれて注視されると効力を失う)
[道具]:なし
[思考]:バトーと同行する。
SOS団メンバー、鶴屋さんを探して合流する。
青ダヌキさんを探し、未来のことについて話し合いたい。
※みくるの落としたデイバッグはD-7の南部に落ちています。
デイバッグ/支給品一式/庭師の如雨露
「ああ、もう、なにがなんだか……」
彼、桜田ジュンは混乱していた。
何時の間に眠ってしまったのか分からないが、目が覚めたら見たこともない部屋の中で、これまた知らない人が沢山いた。
そして仮面の男が出てきて言ったのだ。『キサマらにはこれから殺し合いをしてもらう』と。
これを聞いただけでも軽いパニック状態に陥りそうになったが、さらに人が目の前で死んだ。二人。
一人は筋肉質な男。果敢にも仮面の男に殴りかかり、そして呆気なく首を吹き飛ばされた可哀想な人。
もう一人は、自分よりいくつか年下で小学生くらいの女の子。彼女も同様に首を吹き飛ばされて死んだ。
ジュンは恐怖した。少しでも逆らえば殺される。その恐怖に抗う術もなく、ジュンはまるで石化したようにその場から動けなかった。
……そして、気付いたらここにいたわけだ。
ジュンが飛ばされた場所は会場南の遊園地。H-4のお化け屋敷の中だったが、当の本人はそれを知る由もない。
「うー、なんだよここ……気味悪いなぁ」
思わず正直な感想を漏らしてしまう。周りは薄暗く、壁が真っ赤に染まっている。血のように赤い赤。そんな感じだ。
いくらなんでもこんな気持ちの悪い所に送り込むことはないだろう……。
デイパックを片手に一歩一歩、周りに注意を向けながら前へと歩く。とりあえず出口を捜さなければ。
こんな得体の知れない場所に留まるのはごめんだった。
その時、この場の明かりがフッと消えた。
「ひっ」
情けない声がジュンの口から漏れる。辺りは一瞬の内にして真っ暗闇に包まれた。
そしてどこからかおどろおどろしい……人の呻き声のようなものが聞こえてきた。
誰かのいたずらか。幻聴かもしれない。
ゔゔぅぅぅぅ……。あ゙あ゙ぁぁぁ……。
誰かに助けを求めているような声。聞く者を心の底から震え上がらせるような、そんな声だ。
ジュンは急に恐くなって、駆け出した。暗闇の中駆け出した。
ところどころ壁にぶつかりながらもジュンは走り、ほどなくして出口が見えたので、彼はそこから飛び出した。
「はぁ、はぁっ、くそうっ! なんなんだよ!」
耐え切れず大声を上げてしまうジュン。そこでハッとして、彼は咄嗟に両手で口を塞いだ。
様々な展開の連続で混乱してしまったために気付かなかったのだが、殺し合いはもう始まっているのだ。
大声を出せば、危ない奴に居場所を知られてしまう可能性も大いに有り得る。
体を固まらせ、息を殺して周囲を見渡す。特に人がいるような気配は感じない。ジュンはホッと胸を撫で下ろした。
そして、今さっき自分が出てきた建物。
見ると、一見廃墟のようだが、いかにもそれは自然に成れ果てたものではなく、人工的に作られたものだと分かるお化け屋敷だった。
ジュンは、なんだ、と苦笑する。
少しずつ落ち着いてきたところで、ジュンは自分に支給されたデイパックのことを思い出し、中身を確認する。
中からは水、食料二日分に、地図や名簿、その他もろもろが出てくる。
ジュンは現在地を確認するため地図を広げ、デイパックに入っていたランタンで照らしながら見てみた。
「えっと、ここ……遊園地だよな」
地図を見ながらもジュンは困った表情になる。
周囲には自分がさっき出てきたばかりのお化け屋敷に、近くにはコーヒーカップ。少し離れた所には観覧車が見える。
恐らくは遊園地の中のどこかと考えて良いと思うが……詳しいエリアは特定できない。
およそ4エリア分の広さはあるこの遊園地は、結構広そうだ。
とりあえずは大まかな現在地が分かったからよしとして、ジュンは次に名簿に手を伸ばした。
あの時自分と同じように集められていた人達。少なく見積もっても五十人は確実にいた。自分が知っている人もいるかもしれない。
そう思い、ジュンは名簿を広げ……あった。
ジュンにとってはあまりにも聞きなれた名が、四つ。真紅、翠星石、蒼星石、そして……水銀燈。
「あいつらもいるのか……」
水銀燈は別として、真紅達も参加させられているのなら、何とか彼女らと合流したいとジュンは思った。
何せ自分は所詮引き篭もりの中学生。あの時集められた人達の中には、自分なんかよりも強そうな大人が何人もいた。
常識的に考えて、ただの子供である自分が生き残れるはずがない。
真紅達は一種の希望。一人でいるのは心細い。だから、まずは彼女らと合流して少しでも恐怖を和らげたいと、ジュンは考えた。
今後の行動方針も決まったところで、ジュンは名簿を放り出し再びデイパックを漁る。
確か武器が入っているはずなのだ。流石に武器も持たずに歩き回るのは危険すぎる。
やがてデイパックからは、どうしてこんな物が入っているのか、物干し竿が出てきた。本当に何の変哲もない銀色の棒。
「なんでこんな物が……」
長い。二メートルはあるだろうそれは、どう考えてもこの小さなデイパックには入り切りそうにない代物だ。
まったくもって摩訶不思議だが、不思議なことは日常茶飯事なので特に気にも留めないでおく。
次に出てきたのは、なんと拳銃だった。
しかし軽い。本物の銃器に触れたことがないのでよく分からないが、こんなに軽いものだろうか。
ふと、グリップの部分にセロテープで二つ折りにされた白い紙が貼り付けてあることに気が付いた。
それを引き剥がし開くと、そこには『これはモデルガンです』と黒い文字で書かれていた。がっくりと肩を下ろすジュン。
結局、デイパックに入っていた武器らしい物はこの二つだけだった。
つまるところ、簡単に言うとこうだ。
物干し竿とモデルガンで戦えと。
冗談じゃない。ジュンは自分の生存確率がぐっと下がってしまったことに落胆する。
強い武器……そう、例えば銃とかそういった系統ならば、多少の体力差があろうと覆すことができるかもしれないのに。
勿論、相手も銃を持っていたら別だが、接近武器と遠隔武器。どちらが強力かは明白だった。
今、ジュンが持っている武器らしい物と言えば、接近武器に部類するであろう物干し竿くらいしかない。
モデルガンでは鈍器として役立つかも怪しいものだろう。
しかし、実際に持ってみると分かるように、物干し竿にはそこそこ重さがある。
引き篭もりで基礎体力があまりないジュンにとっては、これを長時間持ち続けることは苦痛だった。
とにかく。自分の周りに散らかした荷物を全てデイパックに詰めながらジュンは思う。
とにかく真紅達を捜そう。上手く合流できればその後は……何とかなる。
そう決意を固め、ジュンはデイパックを肩に下げ歩き始めようとした。
と。
ドゴオオオオン!!
「うわああっ!」
唐突に聞こえた凄まじい轟音。
驚いてそちらの方を見ると、さっきまで煌びやかなイルミネーションに包まれていた観覧車が、バラバラになって崩れ落ちていく。
観覧車の残骸が地に伏す音と共に、その周辺には盛大な土煙が上がる。観覧車の周りにあったものも容赦なく破壊された。
地獄絵図。まさにそんな言葉がぴったりな光景だった。
「なにが起こったんだ……」
その光景を目の当たりにしながら、ジュンは暫く呆然と立ち尽くし、考え、そして理解した。
あれほどの建造物を一瞬にして破壊してしまう、そんなとんでもない能力を持った者がこの近くにいるのだ、と。
改めて、この殺し合いという状況の異常さに震撼させられる。
ジュンにはある変わった趣味があった。
インターネットで商品を注文し、クーリングオフ寸前に返品してそのスリルを味わうという、なんとも暗い趣味だ。
本人曰く、このスリルがたまらないそうで、これがなかなかやめられないとまらない。
しかし、今のこの状況下で感じるスリルはそんなものとは格が違う。
いつ殺されるか分からない。もしかしたら、一瞬後には死んでいるかもしれないこの状況。
彼とて、自分の命に関わるスリルを味わうことなど、真っ平ごめんなのだ。
ジュンは逃げ出した。観覧車があった方向と反対の方へ。
ほんの少し走ったところで、恐怖一色に染まったジュンの目に救いの架け橋が飛び込んでくる。
防波堤。あそこを渡って行けば、この遊園地から脱出できるかもしれない。
迷っている暇はない。あそこを渡って逃げよう。
そう思ったジュンは、縋るような気持ちで防波堤によじ登り、そして早足に渡り始めた。
【H-4 防波堤・1日目 深夜】
【桜田ジュン@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:少し疲労 まだ見ぬ敵に怯える
[装備]:物干し竿 ベレッタM92F型モデルガン(どちらもデイパックにしまってあります)
[道具]:デイパック 支給品一式
[思考・状況]
1:防波堤を渡って遊園地から脱出。
2:真紅、翠星石、蒼星石と合流したい。
3:死にたくない。
遠くで起った銃撃戦のような騒音に気が付き、岡島緑郎ことロックは隠れていた建物から
飛び出した。銃声が続く場所まで大体数十M、商店街の通り一つ向こうって所か。
(レヴィかロベルタ……いや、違うな)
途切れ途切れに聞こえる銃声(恐らく大口径)からは彼女達のような苛烈な攻撃性は感じない。
銃の扱いと殺人に慣れた者が逃げる相手を狙って一方的に弄んでいる。余裕のある銃撃間隔から
そんな状況が推測できた。銃を持つ快楽殺人者に良くある傾向だ。少し前まで一流上場企業の
サラリーマンだったロックだが、悲しい事に銃撃戦には慣れてしまった。
(どうする。ここは逃げるか?)
彼に支給された物の中には武器のなりそうな物は入っていなかった。説明書を読んでも
『これは使い道があるのか?』と思えるような道具ばかりだったのだ。どうせ銃が入っていても
人に向けて撃てるかどうかは分からないし、銃撃戦が出来るとも思えない。考えるまでもなく
逃げた方が良い。そうだ逃げよう。人には向き不向きがある。元々自分にはドンパチには向いて
いないのだ。そうロックは銃撃と反対方向へ踵を返す。その時、銃声が止んだ。
(静かになった。逃げ切ったのか? それとも……)
最期の銃声は焦りのない一発だけ、逃げる者を追うような感じではなかった。殺したのか。
ここで自分はウダウダやって見殺しにしたのか。ロックの額に汗が滲んだ。あの時、少女が
殺された。その友人と思わしき少年は果敢にも向かっていった。なのに大人の自分は逃げたのか。
弱いから、向いていないから、隠れて、逃げて、怯えて……。嫌な事から目を背けて保身の為に
頭を下げ続ける大人に戻りたくなくて、海賊(運び屋)になったんじゃないのか。
ロックはもう一度踵を返した。銃声がしていた方向へだ。
(名簿には80人の名前があった。半数がレヴィ達みたいにイカれたモンスターなら遅かれ早かれ
ブラッドパーティーだ。さっそうとヒーローが現れて事件を解決してくれるとは期待できない。
ここで逃げたって同じ、いやむしろ相手の存在を確認してる今の方がマシだ)
さっきの銃撃戦も殺される前に降参したのかもしれない。弾切れかもしれない。もし死んで
いても相手や武器を確認するだけでも価値がある。直接戦闘担当がレヴィなら情報と交渉担当は
ロックだ。裏方には裏方の立ち回りがある。ロックは自分に言い聞かせた。
(一応、最悪の事態に備えておくか。無理矢理でも使えそうなのは……)
情報は伝えなければ何の意味もない。ロックは直ぐ近くのうどん屋に入ると、レジを漁って
現金を手に入れた。格好悪いが逃亡資金の為に日本円を用意しなければならなかったのだ。
銃声が鳴り止んで10分程。ロックは現場まで十m程の路地に潜んで様子を伺っていた。
ズタボロで真っ赤なコートの大男が片手に巨大な銃を持ち、もう片方の手で何かを掴んでいる。
近く奇妙な杖と支給品のデイパックが2つ、多分大男と襲われていた者のだ。
(なんなんだよあれは?!)
ロックは込み上げる嘔吐感を必死で押さえた。それが人間おそらく子供で、それを大男が
『捕食』していると言う事が信じられなかった。まさか本当にイカれたモンスターだとは。
「トリスタン───ハルゲニア?」
突然大男、アーカードが声を上げた。咄嗟に口を押さえて息を殺したロックの背中に滝の様な
汗が流れたが、どうやら独り言らしかった。アーカードは明後日の方向を向いて続けている。
ロックはホッと胸を撫で下ろした。見つかれば自分も八つ裂きにされて食われてしまうだろう。
それは恐怖と共に激しい怒り、そして僅かな安心を与えた。もしもこの大男を殺めても良心の
呵責はゼロだろうと。
「それにしても……ちゃぁんと理解してるじゃないかギガゾンビ」
アーカードは虚空に向かって語りながら首に手をやった。彼の首に無かった。まだ切断された
時の傷は完全に直っておらず、肉は剥き出しのままで生々しい。良く見ればズタズタのコートの
下にかなり酷い出血の跡があるが、大男はダメージを感じていないかのように平然としている。
「そう、吸血鬼を殺すのには昔から心の臓腑に杭を打ち込むと相場が決まっている」
(ゾンビの次は吸血鬼だって? 冗談じゃないぞ。夢か? ハリウッドの三流ホラー映画か?
それとも糞ったれな現実か? )
銃を使う吸血鬼なんて聞いた事も無いが『狂人以上のモンスター』である事は間違いない。
首輪をしていない者がいる事、人外のモンスターがいる事、その武器、犠牲者が出た事。
それだけ分かればロックには十分だった。どちらかといえばそれ以上踏み込めなかったのだ。
犠牲者の子供にはすまないと思ったが、この場で戦いを挑む程の無謀さをロックは持ち合わせて
いない。出来れば相手の向かう方向を確認してから逃げよう、そうロックが考えた時だった。
「なあ、そう思わないか? ヒューマン!」
突然アーカードが振り返った。ギラリとした眼が路地から伺っていたロックの眼を捉えた。
次の瞬間、ロックは脱兎の如く逃げ出した。
BANG!!
一瞬前まで頭があった所を銃弾が通過する。
(見つかってた! 笑い話にもなんないぞコレ。どうする? 本当にアレでイケるのか?)
「どうした? ヒューマン、先程の子供の方がよっぽど勇敢に挑んできたぞ!!」
全力で走るロックとほぼ変わらない速度で悠々とアーカードが追いかける。ロックは直ぐ先に
ある建物へと転がる様に逃げ込んでいった。そこは先程侵入したうどん屋だった。
「逃げるしか出来ないのか? ヒューマン、殺すにも値せぬ狗以下か?」
縄暖簾を潜って店内に入ったアーカードが見たものは、即席のバリケードだった。店内の半分
程の所に座敷用の折畳み四脚テーブルを何台も縦て銃撃戦用の壁を作り上げてある。入口の中に
卵が幾つも転がって潰れているのは、足元を滑らすのトラップのつもりだろうか?
(下準備して誘い込んだのか? ならばあのヒューマンには『戦う意思がある』ということだ)
アーカードの口元が緩んだ。ただの逃げ回る狗ではなかった事が嬉しいらしい。
BANG!!
バリケードの一角へ銃弾を叩き込む。数枚のテーブルを貫通して風穴を作ったが。最後まで
貫通しているかどうかは分からない。直ぐ近くに隠れている、そんな気配はしたが出てこない。
BANG!!
「どうした? ヒューマン、お祈りの時間を稼ぐ為に、わざわざ準備をしたのか?」
「ヒューマン、ヒューマンと馬鹿の一つ覚えみたいに喧しいんだよドラキュラ野郎!」
BANG!!
「ドラキュラだと?」
「吸血鬼の名前は昔からドラキュラって決まってんだ! それとも男だけどカーミラか?!
気に入らなけりゃヴラド・ツェペシュとかクリストファー・リーとでも呼んでやろうか?」
BANG!!
「下衆な名で呼ぶな。ヒューマン、我が名はアーカード……?!」
(言った!!)
ダギュンッ!!
「なに?!」
銃声に反応するよりも早く、突然アーカードはバランスを崩してその場に引っ繰り返った。
何かに躓いたとかではなく、見えない手に引っ繰り返えされたかのようだ。
「じゃあなアーカード! 生きてたらお日様の下で会おうや!」
ロックの怒鳴り声と共にバリケードの向こうから口の空いたうどん粉の袋が投げ込まれた。
濛々と立ち込めるうどん粉で視界が遮られたアーカードを尻目に、ロックは窓を破って店外へと
逃走していった。
「つまらん真似をする。この期に及んで逃げるか、ヒューマン!」
ロックを追おうとして立ち上がった瞬間、
ダギュンッ!!
またもやアーカードはその場で頭から引っ繰り返った。あれはヒューマンの攻撃ではなかった
のか? 銃声がする方を確認するとうどん粉の舞う中、黒い卵がこちらを見ていた。良く良く
見れば卵はハンプティ・ダンプティのように黒い帽子に背広、それにサングラスにネクタイまで
付け、その腕には銃のようなものが握られていた。この卵がアーカードを転ばせたのだ。
10円で名前を言われたターゲット3回を転ばせる道具『転ばし屋』だ。
「ふざけた玩具が、良い気になるな!」
アーカードは黒い卵『転ばし屋』に向かってジャッカルの引き金を引いた。
*****************
ドンッ!!!
「あーあ、撃ちやがったな。あのくらいで死んでくれれば良いんだけど。吸血鬼の心臓に杭を
刺すなんて出来るのはバラライカさんくらいだよ」
うどん屋で粉塵爆発が起った事を悟ったロックは、素早く元の歩道に戻ると落ちている荷物を
かき集めた。『使い道のないような道具』でも『使い方によっては意外に使える』という事を
今学んだばかりだ。ついでに子供の遺体(の一部)に合掌するとスタコラと西へと向かった。
死んだかどうか分からないがアーカードが本物の吸血鬼なら河を越える事は出来ないはずだから
【F-3/商店街/1日目/黎明】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:体中に重度の裂傷と火傷(自然治癒可能だが、直ぐには動けない)
[装備]:対化物戦闘用13mn拳銃ジャッカル(残弾19)
[道具]:なし
[思考・状況]
1、しばらく自然治癒を待つ
2、殺し合いに乗る
[備考]
1、タバサとの戦闘に加えうどん屋の爆発など、かなり派手な戦闘音が響きました。
周囲八マスに居る人間に聞こえる可能性があります。
2、『転ばし屋』はあと一回転ばす為に、倒れたアーカードが立ち上がるのを待っています。
【F-3/道路上/1日目/黎明】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:健康
[装備]:ルイズの杖@ゼロの使い魔
[道具]:支給品三人分(他武器以外のアイテム2品)
どんな病気にも効く薬@ドラえもん
現金数千円
[思考・状況]
1、とりあえず西の橋を越える
2、レヴィとの合流
[備考]
1、支給品は一つのデイパックへまとめてあります。
2、『ころばし屋@どらえもん』はアーカードのそばに放置されています。
>>285 の一部(2行目に一部抜けがありましたので修正します
誤:アーカードは虚空に向かって語りながら首に手をやった。彼の首に無かった。
正:アーカードは虚空に向かって語りながら首に手をやった。そこに首輪は無い。
>>283 に間違いがありましたので修正します。たびたび申し訳ありません
誤:遠くで起った銃撃戦のような騒音に気が付き、岡島緑郎ことロックは隠れていた建物から
正:遠くで起った銃撃戦のような騒音に気が付き、ロックこと岡島緑郎は隠れていた建物から
「なんなんだよ、いったい!」
長い防波堤の一角で少年の叫びがこだまする。あまりにも無警戒な、大声。
そんな声を打ち消すように無数の風切り音がその場に響く。
別に彼―平賀才人は特別、無警戒なわけではない。
突然襲い掛かってきた赤い服の男。彼への対応に精一杯なだけだった。
「おいあんた、本気で殺し合いなんてやる気なのか!?」
才人の質問に答えることも無く、ただただ無言で二刀を振るう。
恐怖で歪んでいるわけでもなく、狂気に染まっているわけでもなく・・・
あくまでもその行為が当然の責務だというかのような無表情。
剣閃の激しさも相まって、その姿はまるで赤い悪魔のようだった。
打ち下ろし、切り上げ、叩きつけ・・・
稀に入ってくる蹴りも何とかかわしつつ、陸地へと向かって走る。
なにか武器でもあれば、また違っていたのだろうが・・・
鞄の中身を確認する間もなく襲われたため、才人はいまだ無手の状態だった。
回避に専念しているため、かする程度で済んでいるものの・・・
このままでは両断されるのは時間の問題である。
殺されるという恐怖の中、才人なんとかしなければという焦燥感に駆られていた。
しかし、焦燥感に駆られているのは追われている才人だけではなく。
そう、焦っているのは追っている男―アーチャーも同じだった。
当初、防波堤で才人を発見したアーチャーは、
こちらに気づいた様子も無い彼を奇襲同然に仕留めるつもりだった。
しかし彼を蹴り飛ばしながら、干将・莫耶を投影しようとして・・・失敗した。
いや、正確には失敗したわけではなく、いつものような速度で具現化しなかったのだ。
そこで制限に気づき、慌てて支給品・・・補助程度には使えるだろうと腰につけていた二本の刀を抜く。
その一瞬の間に少年は全速力で逃亡を開始していたのだった。
そしてアーチャーの誤算はもう一つ。それは少年が予想以上に実戦慣れしていたこと。
背後から奇襲を受けてから逃亡を選択するまでの決断の速さからは、
彼が普通一般の日本人ではなく、何らかの形での戦闘経験があることが感じられた。
だが、しかし・・・それでも少年を仕留めるのは、もはや時間の問題だった。
いつもとは違う二刀をいつものように振るう。煌く剣閃は徐々に少年を追い詰めていく。
数十分後、陸地が視認できるようになった頃には・・・少年の命はもはや風前の灯火といった状態だった。
息を切らせ、ふらつく少年に蹴りをいれる。衝撃で地面を転がる少年。
這い蹲り、なおも逃げようとする彼に目掛けて刀を振り下ろし・・・
仮面の男―トゥスクル皇、ハクオロがその光景を目にしたのはこの場所に降り立って三十分程後。
支給品である変わった形の物体を手に岸辺を歩いていたときの事だった。
それは長い橋の上で、二刀流の男が黒髪の少年を襲っている姿。
襲っている方と襲われている方・・・二人とも知り合いというわけではなく、
赤い服の男がこちらに気づいていない以上、関わりあいになるのは無益な事のように思えた。
だがしかし・・・男の持つ刀を確認し、ふらついていた少年が蹴り飛ばされたとき・・・
若き皇は思わず手に持った物体―同封されていた紙によると魔法の杖らしい―を握り締めた。
そして、紙に書かれていた通りに杖を展開し、叫ぶ。
「やめろぉぉぉ!!」
同時に、ハクオロの手によって“杖”に宿った力が解放された。
突然聞こえた叫び声に、才人は力を振り絞って顔を上げる。
そして、物凄い勢いで飛んでくる見覚えのある何かを確認した。
「げ・・・!」
才人が慌てて伏せるのとほぼ同時、赤服の男が右手に持った刀を投げる。
男の投げた刀は飛来した物体・・・ロケットランチャーの弾に衝突し爆発、相殺する。
しかし、近距離での爆発に立った状態で晒され、男の体が軽く揺らめく。
そして・・・その隙ともよべる瞬間を、才人は見逃さなかった。
鞄に手を突っ込みながら、立ち上がる。そして、支給品を掴み・・・
「当たりだ!」
左手の輝きと共に、玩具にしか見えない刀を取り出す。
そこまでの時間、僅か数秒。しかし、その一瞬の間に悪魔も体制を立て直していた。
しかし・・・左手に輝くガンダールヴの紋章、それを目にした男の表情がはじめて変わる。
それは困惑と躊躇。それはほんの一瞬の事。
その僅かな空白で間合いを詰め、才人は剣閃一つで男の左腕を斬り捨てた。
そして、もう一撃を加えようとして、男に三度目の蹴りを食らい、弾き飛ばされる。
地面を転がり、体制を立て直した時には・・・盛大な水音と共に、男は姿を消していた。
「無事だったか・・・」
防波堤に佇む才人のもとに、仮面をつけた男が駆け寄ってくる。
その右手には見覚えのある物体。どうやら、あれを撃ったのはこの男らしい。
「助けてもらって、ありがとうございます」
「いや、むしろこちらは謝りたい・・・私もあれほどの威力とは思わなくてね」
本当に申し訳なさそうに言う男に才人は苦笑する。
確かに、あの爆発で左耳が聞こえにくい感じだが、それでも助かったのは彼のおかげである。
仮面の青年が落ちている物体を拾うのを眺めながら、才人は己が幸運に感謝した・・・
「って・・・何を拾ってるんですか!」
彼が拾っていたのは襲撃者の左腕・・・正確には左腕の肘から先と、その手が握っている刀だった。
「いや、これは私の知り合い―仲間の刀でね。一応回収しておこうかと・・・
・・・それより、この腕。血がまったく出てないようなんだが・・・」
「ああ、それはこの道具の特殊な効果ですよ」
そう言って、才人は手にした刀を持ち上げる。
仮面の男は『そうか・・・』と呟くと、首を傾げて刀を見つめた。
【H-2陸地よりの防波堤 1日目 深夜】
【平賀才人@ゼロの使い魔】
[状態]:全身にかすり傷、疲労困憊、左耳が聞こえにくい
[装備]:チャンバラ刀@ドラえもん
[道具]:チャンバラ刀専用のり@ドラえもん、支給品一式(配給品残数不明)
[思考・状況]
1:とりあえず仮面の青年と情報交換
2:鞄の中身などを確認する
基本:殺し合いには乗らない
※参加者名簿を確認していないため、自分以外に誰か居るのかわかっていません
※地図を確認していないため、現在地もわかりません
※赤い服の男(アーチャー)を危険人物だと認識しました
※チャンバラ刀とのり
未来の子供がちゃんばらごっこに使う道具
実際に斬れるが血は出なく、専用のりでくっつけると治る
【ハクオロ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:破壊の杖(M72ロケットランチャー)/残弾0@ゼロの使い魔、
オボロの刀(1本)@うたわれるもの
[道具]:支給品一式、アーチャーの左腕
[思考・状況]
1:少年と情報交換をする
2:エルルゥ達との合流
基本:降りかかる火の粉は払うが、殺し合いはしない
※赤い服の男(アーチャー)を危険人物だと認識しました
※もう1本のオボロの刀はロケットランチャーの弾と相殺しました
防波堤での戦闘から一時間以上も後・・・遊園地の岸部付近にアーチャーの姿があった。
周囲を軽く見回した後、アーチャーはすぐ近くにあった建物――管理事務所らしき場所に入る。
「・・・・・・」
そして、その場にあったソファーに座り、軽く息をついて・・・彼は忌々しげに自らの左腕を見つめた。
一瞬の油断から奪われたそこは、肘から先が失われ、痛々しい姿を晒している。
何故か痛みや出血は無かったが片腕を失ったのは大きかった。思わず舌打ちをしながら目を閉じる。
らしくもない油断・・・その原因は少年の左手。そこに光り輝いた紋章。
「あれは・・・令呪、だったのか?」
一瞬だったため確認は出来なかったが・・・明らかに魔術的な印象を受けた。
ならばあの少年は・・・魔術師、なのだろうか?
そして、この地には彼のサーヴァントも居るのだろうか?
意図しない迷宮に踏み込みそうになって、アーチャーは頭を振って目を開く。
・・・あの少年が何者にせよ、自分が行うことは変わらないのだ。
アーチャーは背もたれに身体を預け、休息を取りつつ・・・干将・莫耶の投影を開始した。
【G-3遊園地内の建物 1日目 黎明】
【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:疲労、左腕喪失
[装備]:無し
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:干将・莫耶の投影
2:参加者を全員殺す
3:ギガゾンビを殺す
※先程の少年(平賀才人)は魔術師かも知れないと考えています
衛宮士郎はゆっくりと街を彷徨っていた。
そしてあの部屋で青年の男性と小学生の女の子を殺した男に対して強い怒り。
黙ってみているしか出来なかった自分に強い憤りを感じていた。
「くそっ。・・・まただ。また見てるだけしか」
士郎は悔しかった。誰一人犠牲にしない。その理想が自分の眼前に破壊されたのだ。許せなかった。
「・・・はっ。そうだ。名簿だ。道具も。くそっ。どうして俺は冷静に行動できないんだっ」
士郎はまたしても自分のミスに気づき歯がゆくなる。
もうゲームが開始にて数時間がたつ。
それなのにただギガゾンビに対する強い殺意だけで闇雲に歩き回り何も行動をしていなかった。
凛がもし近くに居ればぶちきれて怒り狂うだろう。また殺人鬼が襲ってくれば恐らくは既に退場者になっていただろう。
『あんた。何感情で先走ってるのよ。もっと冷静に物事を見なさいっ!』
今にもそんな凛の叱咤が飛んできそうな気がした。
士郎は地面に腰を落としてゆっくりと名簿の確認を行う。
「とりあえずは名簿だな。えっと知り合いは・・・なっ」
士郎は名簿を見て驚愕に顔をする。
遠坂凛の名前は分かる。セイバーもだ。だがバーサーカーにやられたはずのアーチャーとマスター不明の佐々木小次郎の名前まであったのだ。
「そんな・・・あいつ生きてたのか。でもそれならどうして?」
士郎は激しく疑問に思った。あの時を境に姿を消したアーチャー。その名前がどうしてある。
佐々木小次郎はマスター不在なのを考えれば同姓同名の別人も考えられる。もしくは次のロックが不明だったマスターの可能性もある。
だがアーチャーは・・・士郎には理解できなかった。
「・・・とにかく会うしかない。アーチャーに。もちろんセイバーと凛もだ」
士郎は結局その結論に行き着いた。アーチャーの正体は見ない限りは分からないからだ。
「・・・他には・・・無いな」
士郎は他に知った名前が無いのを確認すると名簿をバッグに戻す。
桜や大河先生やイリヤの名前が無いのは安心だった。戦闘力の無い彼女達では恐らく何も出来ずに殺されただろう。
そして新たに武器を探す。
「・・・なんでおもちゃのハンマーが?」
士郎はあきれる。綺麗にデコレーションされたハンマーがあったのだ。どう見てもおもちゃにしか見えない。
『グラーフアイゼン。魔法アイテムです。魔力を送り込めば強力な武器になります』
備え付けの説明書で確認をするがやはりおもちゃとしか思えない。それに仮にこれが本物だとしてもだ。
魔力の放出が出来ない。魔術師として欠陥品の士郎にとってはやはりただのおもちゃのハンマー以外の使い道は無い。
「他には・・・ドライヤー?」
『瞬間乾燥ドライヤー。汚れた服もおねしょ布団も海に落ちてびしょぬれの服も一瞬で乾燥。染み抜き機能のオマケ付きっ!」
「・・・・・・・」
さすがの士郎もこの説明書きにはあきれる他は無かった。
この状況下で染み抜き機能があるドライヤーが何の役に立つ。おねしょ布団って別に赤ちゃんは居ない。
汗をかいて気持ち悪いのが直るがそれだけ。まあ日常生活でなら色々と便利だろう。
しかし正直言って現状の士郎には何の役にも立たない。
「やっぱり・・・自分で作るしかないのか」
士郎は手に全神経を集中した。そしてイメージした。この状況で役立つ武器を。
「はあっ・・・」
士郎は少し大きな声を出して集中力を高めそして練成した。・・・ただの曲線を描いてはいる少し長いだけのナイフを。
「どうして・・・うっ」
士郎は膝を付いた。そして少し息も上がっている。疲労も前より少しだが上がっている。
「そんな・・・ばかな!?」
士郎は疑問でいっぱいだった。最初にアーチャーがいるのも唯一の魔術師としての特技、練成もただ一つのナイフでこのざま。
「くそっ。どうして」
士郎は悔しさで地面を一度殴る。そして二度目の時だった。
「無駄に体を痛めつける。サバイバルでは決してしないことだな」
一つの低い女性の声が士郎の耳に響いた。
士郎はその女性を見て焦る。
「えっ!?」
そんな間の抜けた声しか出なかった。
ナイフは手元にある。だがドライヤーとグラーフアイゼンも一緒に散らかしている。
これでは相手に銃を所持してないのが丸分かりだ。しかも腰を地面に落ち着けた状態だ。すばやい反応が出来ない。
相手に殺意があれば攻撃対象としてうってつけの状態だ。
まただ。どうして俺はっ。
士郎は気づいた限りでも二度目のミスに自分自身が憎くなった。
だがその女性は士郎に攻撃を加えなかった。
それどころか士郎に近づいていった。
「へえ。武器はそのナイフだけ。それでどうする?戦う」
女性は周りに散らかった物を視認して、そして士郎を少し見下したような目で見つめる。
私がやる気ならすでにあなたは死んでいる。
そんな風に士郎には聞こえた。
士郎の考えは決まっていた。
「俺は戦う気は無い。一人でも多くの人の命を助けたいだけだ。だから自らは絶対に殺したりはしない」
士郎はナイフを持たずに立ち上がる。
「そう。武器はそれだけなの」
「ああ。このナイフとそこの魔法のハンマーと瞬間で乾かしてくれるドライヤーだけだ」
女性の問いに士郎は正直に答える。
厳密にはナイフは支給品の武器とは違うのだがそれを説明すると長くなるのでここは士郎はあえて言わなかった。
「・・・瞬間で乾かすドライヤー!?良いわね。借りるわよ」
女性は有無を言わさず背負っている物をおろすとドライヤーとかばんの中の濡れた服を取り出した。
奇跡が起きた。ドラえもん道具では大外れに入るドライヤーが早くも大いに役立ったのだ。
「えっ。ちょっとこれは」
だが士郎はそんな奇跡には当然気付かない。それよりも目の前に転がる少女に士郎は驚く。
今まで気づかなかった士郎も驚き物だが目の前の女性は軽々と一人の少女を抱えて歩いていたのだ。
「あのっ。この子は?」
士郎は疑問に思い質問をする。
「さっき拾った」
女性は黙々と濡れているスカートとショーツを広げながらあまりに簡潔に話す。
「ちょっとそれじゃ・・・そういえば名前も聞いてなかった。俺は衛宮士郎だけどあなたは」
士郎は不満の声を言いかけ、そういえば名前を聞いていなかったことを思い出し名前もついでに聞くことにした。
「ここでの名前は草薙素子。・・・でも助かったわ。その子の着替えダブダブだし」
素子は簡潔に自己紹介を済ませ、文字通り瞬時に乾いた服を再度気絶している少女に着替えさせようとした。
ダブダブの服では目が覚めた後に動きづらいだろうしショーツが無いと大騒ぎを起こす可能性がある。
無意味なことで時間を使うのはこの状況下では避けたかった。
「あのっ。その子の名前は?それにどうして気を失ってるんです。指に巻いてるハンカチは?」
士郎は二人の状況が良く分からなかった。素子のことも色々謎が多すぎた。
士郎は全て知っておきたいと思った。
「分かったわ。・・・この服着せたら・・・すぐにでも教えてあげる」
素子は悪戦苦闘しながら服を着せ替えていた。
「あっ。すいません」
士郎はさすがにそれを手伝うわけにもいかないので黙って後ろを向いて着替えを待った。
その際一瞬だが少女の素肌が見えた気がしたが士郎は全力で忘れようとした。
そして数分後。
きれいに乾いた元の服に戻った少女はまだ意識を閉ざしている。
その横で素子は士郎に先ほどした事をある程度オブラートに包んで説明した。
「ふざけるなよっ。無闇に少女を怯えさせるなんて。それに爪が剥がれてたっけ。やりすぎだろ。怖いことがあったんだから錯乱だってっ」
士郎はオブラートに包んだ内容でも十分に激怒させるに足る物だった。
「そう。・・・まあ確かにやりすぎだったな。でも襲ってくる敵を容赦は出来ない。殺さなかっただけでもマシだな」
素子は士郎の激怒を軽く冷静な口調で受け流す。
「くっ・・・」
最初に反省を言われた手前、士郎は更なる言及を押しとどまるを得なかった。
正直言って少女を襲う。そのようなこと。士郎には許せることではなかった。
イリヤに襲われたことはあるが。それでも自分は人を信じたかった。
「うっ。ううう」
そこで少女がふと目を覚ましそうになった。
「目が覚めたのか」
素子は少女に近寄ろうとした。だがそれは士郎が許さない。
「俺が話す。素子は後ろに下がって」
恐怖心を植えつけられた素子より自分の方が安心だろう。
士郎はそう思い少女の元で腰を下ろす。
素子もここは士郎に任せ自分は少しだけ後方で待機を決めた。
少女は夢を見ていた。
夢の中では制服姿の女性朝倉涼子が少女に襲い掛かろうとしていた。
「いやあ。サイト助けてー」
夢の中で少女は叫ぶ。それと同時にサイトは現れた。
「ルイズ大丈夫か。怖がらせてごめんな。でも俺が居るから大丈夫だ」
サイトはルイズと朝倉涼子の間に入り襲い掛かる敵に剣を一振りした。
すると朝倉涼子はどこにもいない。存在が消えていたのだ。
「・・・サイトぉ。やったのぉ?」
ルイズは震えた声で聞く。
「ああ。ルイズ。無事でよかったよ」
サイトはルイズの無事に安堵すると強く強く抱きしめた。
「サイト。私・・・」
そして少しずつ少女は現実へと覚醒していった。
「うっ・・・ここは」
「おはよう」
目覚めたルイズに士郎は出来る限り優しい表情と声で話しかける。
「う、サイト・・・夢?・・・・・・はっ・・・きゃっ!」
頭が覚醒した少女は目の前の見知らぬ男の顔面に右ストレートを繰り出した。
「ぐっ」
不意の出来事に士郎はクリーンヒットを許してしまう。幸いにも非力な少女のパンチ。
士郎は鼻頭が赤く染まっているがそれほどの重傷ではなかった。
「ふっ」
後ろで素子はその光景をただ見つめている。
「ちょっとここは?・・・サイトは・・・」
少女があたりを精一杯見渡しても少女が求める男、平賀才人はここにはいない。
少女は目いっぱいに涙を浮かべた。
怖い。才人がいない。怖い目にあった。何も出来なかった。貴族の少女には辛すぎた。
「サイト、サイト、サイト・・・サイトっぉぉぉーー!」
少女はただサイトの名前を呼び涙を流し続けた。
「・・・落ち着いて」
士郎は泣き続ける少女にちょっと焦る。だが優しい声は忘れないようにした。とにかく刺激しないように努めた。
ほんの少し背中をさすってあげようとしたが
「いやっ。サイト以外触らないで・・・うっ」
完全に少女は拒絶した。
士郎には言葉をかけ続ける以外の術はなかった。
数十分が経過した。
素子はかなりイライラしたが少女を襲い爪を剥いだ人間の名前は知りたい。
わざわざ殺さずに爪だけ剥いだのだ。かなりの凶悪人物である。放置は危険だ。そのためにかなり我慢強く待っていた。
士郎はとにかく少女が泣き止むのを待った。ただ優しい言葉だけをかけ続けて。
最初は『サイト』のことばかり口にして泣いたのもほんの少しだけだが落ち着いている気がした。
さらに数分。
「うっ・・・う」
少女の泣き声も少しだが収まった。
「大丈夫か。ところで君の名前は?」
「・・・ルイズ・・・ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
ルイズは途中で小声のボソボソしゃべりになりながらも自分のフルネームを言った。
「えっ。ルイズフランソワルブラ・・・」
士郎は長すぎるフルネームに少し混乱した。
「・・・・・・・・・ルイズで良いわ」
ルイズは士郎にルイズと呼ぶことを了承した。その声は先ほどよりさらにはっきりした口調で聞こえた。
「そうか。えっとルイズ。どうして爪を」
士郎は聞きづらく小さな声でゆっくり話す。
「・・・」
ルイズはその問いのは押し黙ってしまう。
「あっ。やっぱり良いよ。辛いだろ。別に」
士郎はルイズを気遣いすぐに止めた。だが
「・・・・・・何だか腹が立ってきたわ。私は貴族なのよ。それなのにこんなこと・・・」
「・・・もう良いわ。教えてあげる。あの女・・・」
ルイズは長期間の気絶と号泣で逆にすっきりしたのかざっくばらんなぐらいはっきりとした口調で自分を最初に襲った女のことを口にした。
その説明には改めて思い出して自分のふがいなさ、相手への怒りも相まってドンドンハイテンションになっていった。
若干の脚色もあったかもしれない。だが記憶にある限りの全てを伝えた。
名前は名乗らなかったが涼宮なんとか、なんとかみくる、鶴屋さん、キョン、長門の五人は殺すなといったことも。
「そう。じゃあ恐らく襲った相手はその五人の知り合い。朝倉涼子・・・もしくはドラえもん。どちらかで間違いないわ」
じっと聞いていた素子が名簿と照らし合わせて確認した。
女でのび太や剛は考えにくい。その次の女と思わしき名前は判断が困るの11番の先生か14番の由託かなみ。それは遠すぎる。
既に絞り込んだ二人のどちらか。ルイズの話の限りではかなりの危険人物だ。見つけ次第射殺の覚悟も必要だった。
「・・・そう。やるじゃない」
素子が前に出るとさすがに少し怖いのかさりげなく士郎の背後に隠れる。
しかし隠れながらも上から目線の言葉だけは決して変えなかった。
素子はそんなルイズの姿などおくびにも気に留めずさっさともう一つの支給品を手に取った。そしてルイズに投げる。
「ただのおもちゃよ。遊んでなさい」
そういってグラーフアイゼンをルイズに投げる。
ルイズは前のトラウマか咄嗟に士郎の背中に隠れる。そのため士郎が受け取る形になる。
「・・・えっと。ルイズ。これ魔力を流せば武器になるみたいだぜ。一応使うか?」
士郎はルイズにそっとグラーフアイゼンを差し出す。
「魔力っ!?」
ルイズは士郎の声に聞くが早いかグラーフアイゼンを取る。
そして自分の魔力を少し流す。
するとドイツ語で(以後は『』内はグラーフアイゼンの声を和訳したものです)
『あなたがマスター?』
「・・・ええ。このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールがマスターよ」
ルイズは自信満々にグラーフアイゼンに我がお前の主だと伝える。
『オーケー。では魔力の更なる供給を』
グラーフアイゼンはさらに魔力を求める。
「分かったわよ。良い。ちゃんと受け止めなさい」
ルイズはさらに魔力を送り込んだ。すると一瞬ルイズは激しく心臓が揺さぶられるような錯覚を感じた。
そして莫大な光の渦がちょうどグラーフアイゼンを向けた方向にある一つの民家を吹き飛ばしてしまう。
すさまじい威力だった。だがそこでグラーフアイゼンは沈黙してしまう。
ルイズの息も大きく上がっている。
「はあ・・・はあ。何これ?ちょっと魔力流しただけで吸い込まれるよう・・・それにこの威力って・・・このばかっ!」
ルイズは沈黙してしまったグラーフアイゼンに思わず八つ当たりをしてしまう。
「・・・ふん。まあいいわ。今はちょっと気を抜いただけよ。敵が来たら絶対、ぜったい、ぜえぇぇっったい使いこなしてやるんだから」
ルイズは得意の強がりも見せた。あの時の覚えた表情が嘘のようだった。
「魔法・・・本当にあるのか!?」
素子はさすがに驚いた。そしてすさまじい威力には脅威も僅かながらに感じていた。
「まだまだ調べる必要があるな」
「それでルイズ?サイトって誰?もう完全に落ち着いたようだし。教えなさい」
素子はルイズが完全に本調子なのを確認し、ずっと気になっていたルイズが何度も口にした
『サイト』の名前を質問した。
「えっ。それは・・・使い魔よ。私の使い魔。飼い犬といっても・・・良いわっ!」
突然の問いかけにルイズは顔が赤くなった。だが必死で『使い魔』と主張した。
「それだけ?」
素子がなおも食い下がるとルイズの顔が余計真っ赤になる。
「もう終わりですよ。詮索しすぎだ」
ルイズの顔が赤くなったのを見て士郎が割ってはいる。
「・・・はいはい。じゃあ他に知ってる人は居る?」
士郎が割って入ったのでサイトの詮索をやめ別の質問でルイズに名簿を突きつけた。
「なっ。ってええっ」
ルイズはいきなり目の前に名簿を出されて驚いた。そして平賀才人と自分の下にあるもう一つの知っている名前タバサを見つける。
「タッタバサなら知ってるわよ。本好きのちょっと暗い子よ。どうせ図書館で本でも読んでるでしょ」
タバサのことを軽く伝える。そして他の者は知らないことも一緒に伝えた。
「そう。・・・じゃあいくぞ。時期に日が昇る。電車に乗って街だ」
ルイズが完全復活したのを見届けると士郎とルイズをつれて素子は駅へと向かった。
【F-2のF-1のほぼ境目に近い位置の街・1日目 黎明】
【草薙素子@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:機能良好。ルイズが精神的に安定して安心。士郎も一応は敵では無さそうだ。
[装備]:ベレッタ90-Two(弾数17/17)
[道具]: 荷物一式×3、ルールブレイカー@Fate/stay night、トウカの日本刀@うたわれるもの
水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、もぐらてぶくろ@ドラえもん、
バニーガールスーツ(素子には似合いそう)@涼宮ハルヒの憂鬱
獅堂光の剣@魔法騎士レイアース、瞬間乾燥ドライヤー(電池を僅かに消耗)@ドラえもん
[思考]:
1、バトー、トグサ、タチコマを探す
2、ルイズと士郎と駅に向かう。
3、首輪を外すための道具や役立ちそうな人物を探したい
4、ギガゾンビの情報を知っていると思われる、のび太、狸型の青い擬体、少年達、中年の男を探す
5、ルイズの爪を剥いだ人間を放置するわけには行かない。見つけ次第射殺も辞さない。
6、平賀才人とタバサもついでに探してやる。
7、ギガゾンビの”制圧”
[備考]:参加者全員の容姿と服装を覚えています。ある程度の首輪の機能と構造を理解しました。
草薙素子の光学迷彩は専用のエネルギーを大きく消費するため、余り多用できません。
電脳化と全身擬体のため獅堂光の剣を持っても炎上しません。
【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:激しい疲労。左手中指の爪が剥がれている。しかし痛みはほとんど引いた。
精神が安定も若干ハイテンション気味。理不尽な出来事に激しい怒りがある。
ショーツとスカートが一度汚れたことに気づいていない。
[装備]:グラーフアイゼン(本来はヴィータの武器。ルイズが魔力をほとんど使ったため(暴発に近い)数時間は使用不能)
[道具]:最初の貴族の服。(素子に着せられたために聞くずれしてたが自分で直した)
[思考・状況]
1、才人と1秒でも早く合流する。(現状は素子に同行。途中の敵は素子と士郎にお任せ)
2、才人に手伝ってもらって朝倉涼子かドラえもんに5倍返しの報復。(1も3もまだの場合は同行者二人に隠れる)
3、魔力の回復を待ってグラーフアイゼンを使いこなす。
4、タバサとも一応会いたい。
5、1と2と出来れば4も完了次第もとの世界に帰る。(3と4はそれほど思っていない)
6、5の際に時間があれば主催のバカ男に願いを叶えさせて胸を大きくさせる。
7、6の際に余裕があれば才人と協力して素子に先ほどの仕返し。
8、7をやってもさらに余裕があれば主催のバカ男を自国に連れ帰って貴族の名の元に極刑(6が成功の場合恩赦有り)を与える。
【衛宮士郎@Fate/stay nigh】
[状態]:健康。ルイズのパンチが非力だったために少しだけ鼻頭が赤いが問題無い。
[装備]:自らが練成したナイフ。(普通のナイフ。宝具の力は無い)
[道具]:着の身着のまま(支給品は素子が預かっている)
[思考・状況]
1、セイバーと凛と合流。(とりあえず素子に同行)
2、アーチャーが居る理由と正体を確かめる。
3、ルイズを才人に合わせる。
4、出来る限り一人も傷つけずにゲームを終結させる。
5、佐々木小次郎の正体も確認したい(ロックがマスター?)
衛宮士郎はバーサーカー戦が終了してキャスターと戦うまでの間の状態で呼び出されました。
素子はルイズのドタバタで士郎に名簿の確認を取るのを忘れています。
ルイズの使用したグラーフアイゼンによる民家一軒崩壊で四方一マスにはその音が聞こえたと思われます。
ルイズはグラーフアイゼンを現時点では暴発ぐらいでしか殺傷力のある魔法は出せません。
タイトルの意味はフランス語で復活のルイズです。
殺し合いなど隻眼隻腕の黒い剣士、ガッツには何の関係も無かった。
ただ、男の戦う相手が魔物か人間かの、ガッツにとっては細かな違いである。
ガッツにとって最も重要な点はゴットハンド、及びゴットハンドへ転生したグリフィスへの復讐である。
俺にとって殺し合いなんてどうでもいい。
だがこの殺し合いの場に飛ばされるときに見た最後の顔を絶対に忘れちゃいねえ。
間違いない、絶対に間違いない。
あいつは、グリフィスだ。
俺の、俺の居場所だった切り込み隊、・・・ガストンの奴。
対立もしたけれど、頼れる仲間だった。ジュドー、コルカス、ピピン・・・。
俺たち鷹の団の全てを「生贄」にしたグリフィス。
そして俺の、俺の目の前でキャスカを・・・キャスカを陵辱しやがったグリフィス。
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
グリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィスグリフィス
・・・
グリフィスの野郎を殺せるなら、俺はどんな犠牲だって問わない。
それこそ本当に殺し合いなんてどうでもいい、グリフィスに復讐さえできれば何も関係ない。
早速グリフィスを捜索しようと行動を始めた俺だが、体が妙に軽いのが気になる。
特に違和感を感じた背中を調べると、俺の相棒である大剣「ドラゴン殺し」が見あたらねえ。
それどころか体中に仕込んだ武装一式、ご丁寧にも左手の義手からまで火砲を除去していやがる。
さすがに、剣が無い状態では復讐の遂行が出来ない。
あの仮面野郎、(仮面の魔物か?)がご丁寧に支給してくれた袋の中身を見ることにした。
ちっ・・・ついてねえな。
中身は水食料に加えていくつかの道具が入っているのは確認できた。
だが俺の望む獲物、剣は結局出なかった。
説明書によると刃を飛ばせるらしいナイフ、「スペツナズナイフ」が5本
もう一つの支給品はたくさんの弾薬らしく、銃という武器が無ければ使い物にならない品らしい。
スペツナズナイフは強力な武器らしいが、こういうちまちました武器は俺の柄じゃねえな。
グリフィスだけでなく、俺の獲物である剣を探す必要もあるようだった。
とりあえず、俺は支給品を袋にほおり込み、名簿を確認することにした。
『グリフィス』
いた、いやがったぜグリフィスの奴。俺の目に間違いは無かった。
狂喜するガッツは、同時にもう一つの名前が目に入る。
『キャスカ』
・・・!?キャスカだと、キャスカの奴は確かにゴドーの場所で見つからないように隠れていたはずだ。なぜ・・・
ちっ、探し人がもう一人増えちまいやがったか。あいつ、無事だといいが・・・
そして他に名前を確認するが、他には変な名前があるだけで知り合いは居ないらしい。
まあ俺に、知り合いなんて呼べる奴は後はゴドー達ぐらいか・・・
俺は地図とコンパスを片手に場所を確認することにした。
近くに小川が見えることからどうやら川べりに居るようで、更に言えば相当山奥に居るらしいな。
地面の起伏もかなり険しいことから考えて、小川の上流にいるこたぁ間違いない。
これらを総合判断するに、どうやら俺はA7かB6という所に居るらしい。
グリフィスの奴はこんな辺境の山奥に意味も無く篭る奴じゃねえ、きっとこの地図で言う街の方にいやがるに違いない。
そういうわけで俺はグリフィスを探すついでに、剣を探すために川沿いを歩き始めた。
グリフィス、必ず見つけ出して俺が殺す。
・・・
「よ、ようこそおめでとうございまーす!
ワタシを引き当てたあなたはラッキー! 魔法少女リリカルみさリン、あなたのモトにただいま参上☆」
あ、あれ?反応が無い?
とっさに手持ちのステッキを片手に、うまい具合にアドリブをしたはずなのに目の前の黒い鎧を着た大男には反応が無い。
大男はげんなりした、呆れたような表情で私、野原みさえのことを見つめていた。
・・・
ち、沈黙って嫌だなぁ。あたしこういうのは嫌いなんだけどな。アハハ・・・
そんな沈黙が30秒ほど続いたか、目の前の大男の表情がきりっと引き締まり、私が顔の前に近づく。
や、やだ。この大男ワイルドすぎるけど、よく見たらちょっとイケメンじゃない。
私に惚れ直したのかしら、ホホホ・・・
「おい、グリフィスのことを知っているか?お前も参加者なんだろ。」
「グリフィス?誰よそいつ、そんな名前聞いたことも無いわ。確かに私も参加者だけど」
「そうか、邪魔したな。」
目の前の男は私のことを握る手を緩め、優しく地面へとエスコートする。
と思ったら、大男は踵を返して歩き始める。わたしのことを居なかったように無視して
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あんた聞くだけ聞いて可愛い女性を放置なんて何様!」
みさえは叫ぶものの、大男はみさえに反応する様子は無い。
こうなったら、これだっ!
みさえはとっさにスモールライトを目の前の大男に浴びせる。
効果は無いか?と思ったが少しして大男も同様に縮小を始めた。
私はやっりぃ!と心の中で呟き、スモールライトをポケットにしまう。
そして縮小した大男?に接触するべく走り出した。
砂利の上って、小さくなると結構歩きづらいわね・・・
さすがの大男もこれにはかなり驚いている様子で、砂利の上で困惑しながら周りをキョロキョロしていた。
なんとか大男に追いついた私はは大男の鎧に掴みかかる。
「ちょっとあなた!人の話もちゃんと聞きなさいよ。私だって聞きたいことがあるんだから」
男が私に振り返ると同時に、体がふわっと浮く。私は一瞬何が起こったかわからなかった。
少しして私は、男に胸倉を掴み上げられ体を持ち上げられていることに気が付いた。
「おい、これは一体どういうことなんだ?」
「あなたがわたしの話を聞かないから、足止めしてやっただけよ!」
「なんだと、ふざけるんじゃねえよ・・・」
目の前の大男は私に掛ける力を強める。苦しい・・・。
「さっさと元の体に戻る方法を教えやがれ、おばさん」
お、おばさんですってえ〜。何よこの男、ちょっとイケメンだからって調子に乗りやがってぇ
と私が思ったのも束の間、ガサガサと茂みが揺れる。
すると私は地面に投げ捨てられた、いったぁ〜
「ちっ・・・」
大男はわたしのことなんか居なかったみたいに茂みの方を見ている。
それからすぐ、茂みの向うから小さな女の子が現れた。
どうやらしんのすけよりは年上の、小学生ぐらいの女の子のようだ。
わたしはその女の子に助けを求めるべく大声を上げた。
「お〜〜い」
「ば、馬鹿何やってやがる。」
「何って助けを求めてるんじゃない、あんたも声を出しなさいよ。」
私は大男にそう言ってやった。すると目の前の女の子は私達に気が付いたようだ。
やった、これでこんなよく分からない状況から抜け出せるのね!
私は女の子に向かって勢いよく走り出す。
・・・驚きましたわね。世の中にはこんな小さな人間?もいらっしゃるのですのね。
私が茂みを抜けるとなにやら小さな声がして、その方向を見れば人形のような小人がいるじゃありませんか。
私の目の前に現れたのは小人は二人、おばさんみたいなのが一人。
そして漫画にでも出てくるような黒い西洋甲冑を着込んだ男が一人。
おばさんみたいなのは何か色々まくしたてているが、賢いわたくしはもっと重要なことに気が付きましたのよ?
二人の小人にはちゃーんと首輪がありますの、つまりこの小人達は参加者。
にーにー、見ていてくださいね。
私は左手に持っていたにーにーのバットを両手持ちにし大きく振りかぶる。そして勢いよく振り下ろしたっ!
グシャッ!
・・・外れてしまいましたか。
私がおばさんの小人目掛けて振り下ろしたバットに、何かを叩き潰すような感覚は無かった。
バットのすぐ近くには仕留め損ねたおばさんが居る。そしてそのおばさんを掴んで引っ張り上げたらしい男がいる。
私は間髪居れずそのままバットを薙ぎ払う、すると小人は吹き飛ばされ、茂みの近くに飛んでいった。
私はもう一度にーにーのバットを振りかぶり、今度こそしとめようとする。
しかし、薙ぎ払って行動不能にしたと思っていた小人達はすでに逃げ出し始めていた。
あの茂みに逃げられると厄介ですわね。特にあの男の小人はなんだか特に厄介な感じがしますわ。
ちっ・・・あのクソガキめ。容赦ない真似しやがる。
俺はとっさにクソガキからの殺気を感じ取り、反射的にこの女を助けてしまった。
気が付いたら俺は大きく吹っ飛ばされていた。くそっ・・・
女のほうもどうやら無事のようだった。もう考えてる時間はねえな。
「おい、二手に分かれてあの茂みに走るぞ!」
「えっ、えっ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ〜」
俺は後ろを振り返る。後ろに見えるのは鈍器を振りかぶったクソガキと女。
この状況を全く理解していないらしい女に、再び悪態を付きながらもう一度言ってやった。
「だから二手に分かれたほうが安全なんだよ、分かったらさっさと二手に分かれやがれ!」
二手に分かれれば、少なくともあのクソガキはどちらか片方しか標的にすることができない。
最初にあのおばさんを狙ったことから考えて、俺が狙われる確立は低いだろうと踏んだ。
これならクソガキがあの女を仕留めるのには多少の時間が掛かるはずだし、その間に俺は逃げ切れるだろう。
女はやっと俺の言葉を理解したらしく、俺から離れ始めるが・・・
ドガン!
俺はとっさに飛んで攻撃を回避する。あのクソガキめ、俺に狙いを変えやがった?
クソガキの攻撃は鈍器を乱暴に振り上げて叩き下ろすか、薙ぎ払うだけなんで避けるのは難しくない。
だが、これはまともに食らったらひとたまりも無いだろうな・・・。
俺はあの時薙ぎ払いの一撃の際、どういうわけかあの女を庇ってしまったらしくまだ体中には痛みが残っていた。
「ホホホ、待ちなさい〜」
誰が待つか。
こんなクソガキごときが俺様を舐めやがって・・・
ヒュン・・・!ガスッ!
ぐっ・・・、まともに食らったか。鎧が無かったらマジで死んでたかもな・・・
ゴロゴロと転がりながらも、何とか俺は受身を取って立ち上がる。・・・だがこの状況はかなりやばいぜ。
俺は相手の攻撃を見切る余裕すら無いと判断し、力を振り絞って目の前の茂みに飛び込む。
ヒュン、ドガッ!
間一髪、何とか逃げ切れたか・・・。
そう思っていたとき、茂みは大きくガサガサと揺れ、再び鈍器の振り下ろされる音がまた引き起こる。
ちっ、まだ休む暇もねえのか・・・。俺は体を起こすと、金属音の響く茂みの中を走り出した。
・・・逃しましたわね。いや、まだまだ終わってはいませんわよ・・・
茂みの中は月明かりではどうしようもないほどの暗闇で、茂みの中を探すのはかなり困難。
だけどあいつらその大きさゆえに遠くに逃げ出すことは出来ない。
まだまだ私が絶対の有利なんですのよ。にーにー、私はちゃんとやり遂げますわよ。
にーにー、ちゃんと見ていてくださいね。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思った・・・」
私、野原みさえは茂みの中で尻餅を付きゼイゼイと声をあげていた。
周りにはバットの音が木霊するが、少なくともこの茂みのようではないようなのでとりあえず安堵する。
暗いとか怖いとかそういう問題じゃなく、私はたしかに「殺し合い」に巻き込まれているのを理解していた。
あー、もうどうしよう?つ、疲れた・・・
ゼイゼイと声を上げる私に黒い塊が何かぶつかり、強い衝撃が走る。
えっ、もしかして死んじゃう?私。
と思うが、吹き飛ばされながらも意識があることから、どうやらあのバットの一撃でないことらしいわね。
すると私の顔の前にあの大男が現れる。・・・っ!この人血まみれじゃないの。
私は大男を心配して一言声を掛けようとするが、大男はそんなことは知ったことじゃないとばかりに自分の話を進める。
「前置きはいい、どうしてこうなったのかをさっさと教えろ。元に戻せ」
「ちょっと、元に戻せって言ったって・・・」
「ああ?」
「ちょ、ちょっとは落ち着きなさいって、今説明するから・・・」
私はポケットにしまっていたスモールライトを見せ、名前と効果と一部始終を説明する。
大男は呆れた表情を見せ、頭を抱えている。
「こういうこと、わかった!」
「ああ、よく分かったからそいつをよこしな。」
よこしな。と男は言うものの、男は私の同意など無いように手からライト取り上げると適当にいじくり始めたではないか。
「ちょ、ちょっと壊れたらどうするの!」
「煩い、黙ってろ。」
男は適当にスモールライトをいじくり回す。するとまたあの光が・・・
完璧に逃しましたわね・・・。これはかなり厄介なことになりましたわ。
私は茂みを調べて回るものの、森にある茂みを暗闇の中調べることに飽きていた。
最初はにーにーのバットを振り回していたが、これでは効率が悪いことに気が付いて一つ一つ探し始めた。
しかし、ライトで茂みの中を見渡した所で一向に人影は現れなかった。
私は小人達に逃げられた。これはかなり手痛いミス。
自分が戦いを挑めるような相手は多くない。
わたくしのような小娘では最初に出会ったあの大剣を振り回すような奴には絶対勝てる訳が無い。
だからこそ自分が勝てる相手は全力で叩き潰さなければならなかったはずだ。
・・・私が戦って勝ち残らないと、にーにーは帰ってこない。
だから、何としても勝ち残らないといけないのに、本当に痛いミスですわね。
私はため息を一つ吐くと、再び砂利道の方に戻ろうとした。した。
したはずですわっ・・・
動けない、私の体は、いや右手は・・・何者かに強く掴まれていた。握りつぶされるような痛みがっ
正体を確かめるべく後ろを振り返ると・・・ひぃっ!
あの、あの血だらけの小人が、血まみれの大男になっているっ!
わたくしの手を痛いほど強く握る大男は、にやりと笑う。
「よおクソガキ、さっきはよくも散々な目にあわせてくれたな。」
助けてにー・・・痛っ!
わたくしは大男に掴み上げられた後投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
とっさに受身を取ったものの、体が痛い。逃げなきゃ、助けてにーにー・・・
わたくしは体を這いずって逃げ出そうとする。後ろから大男の声がする。
「逃げるとはずいぶんと調子がいいな、クソガキめ」
声を聞きわたくしは大男に、振り返る。ひぃっ!?
その大男はわたくしに憎悪の目を込め、血だらけになりながらバットを振り上げて佇んでいた。
後ずさりする私に向かって無情にもバットは、私に向かって振り下ろされましたわ。
「・・・・・・ッつぎゃあああああああああ」
猛烈な痛みが走る。痛い痛いイタイイタイ・・・
わたくしの足は、み、右足は・・・右足だったものはグシャグシャに潰されていた!
こ、殺される。本当に殺される。あ、謝らないと、謝って許してもらわないと
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」
「今更命乞いとは本当にふてえクソガキだ。」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。許してください。
痛い、痛い、痛い・・・。許して許して許してごめんなさいごめんなさい。
私は頭を何度も何度も下げて謝る。男は私の髪をわし掴みにして目の前に寄せる。
痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
「よく聞けクソガキ、グリフィスって奴を・・・」
「みさリンキ〜ック!」
ドガッと音がして、どてっと大きな音がする。大男は私の髪を離して背中を見せる。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。許してください許してください許してください。
「おい、おまえは一体何のつもりだ?」
「何って、こんな小さな子供を苛めるなんていい大人のすることじゃないでしょ!」
おばさんが大男に食って掛かる。助、かった・・・。
「このクソガキは俺だけじゃなく、お前も殺そうとしたんだぞ?」
「だからって、謝ってる子供を殺そうとするなんて駄目よ!」
「うだうだうだうだうるせえなぁ、お前はどっちの味方なんだよ!」
おばさんが男に掴みあげられる。どちらも表情は変わらない。
すると、パシンと何かを叩く音が鳴ったのですわ・・・。
「女性に暴力を奮うなんて最低の男ね。何様よあなたは!」
「この野郎・・・」
「私は野郎じゃなくて女です。春日部市の主婦、野原みさえなんだから!」
おばさん、・・・みさえさんがぴしゃりと言い切った後、再び沈黙が走る。
ほんの少しの後、大男はみさえさんから目をそらし、何か言葉を漏らしながらみさえさんを下ろす。
「・・・ちっ、好きにしやがれ。」
みさえさんが地面に下ろされる。
助かった・・・。許してくれたの?にーにー、にーにー・・・
不意に安心した私は、急に目の前が暗くなっていったのですわ・・・。
あの女、野原みさえは俺の苦手な目をしていた。
女がふい見せる弱くも力強い意思を持った瞳、俺はああいうのと戦うのは嫌いだ。
そのせいか、これ以上面倒なことになるのは嫌だったから仕方なくクソガキを開放してやることにした。
クソガキを見ると気絶しているらしく、グリフィスの情報について知れないのは痛いが、それよりもこの場に居るのが嫌だった。
俺はみさえからスモールライトを再び取り上げると、あの時に小さくなっていた俺の支給品を元のサイズに戻した。
そしてクソガキの持っていた袋を回収し、中身をあさり始める。
袋の中からは水や食料の他、薬が出てくる。説明書によるとどうやら傷薬らしい。
早速、俺は傷薬を使ってあのクソガキに散々甚振られた傷を治療することにした。
私はあの大男から解放されると、あの女の子の様子を見に行った。
私は女の子の胸に耳を当て、心臓の音を確認する。よかった・・・気絶しているだけね。
でも、これはちょっと酷いわね・・・。
目の前の女の子の右足は痛々しく血が流れ、ぐしゃぐしゃに潰されている。
その顔には涙がボロボロに流れた後が見えた。本当に酷いわね。本気で殺されかけた私が言うのもなんだけど・・・
しんのすけがたまにつけてくる擦り傷のような怪我ならともかく、これは私には手に負えない代物だった。
さすがにどうしようもないので大男のほうをちらっと見ると・・・
ってえーーー、何か塗ってるうー!
「ちょっとあなた、何やってるのよ!」
「何って傷の治療だ。見りゃ分かるだろ」
「えっ、傷薬ですって。どうしてあなたが傷薬なんて持ってるのよ!」
「あのクソガキの荷物の中でたまたま発見しただけだ。文句あんのか?」
「あるわよ!女の子に大怪我をさせておいてそのまま、本当に自分勝手な男ね!」
「うるせえなぁ・・・」
大男はイライラした表情で私の問答に答える。
ふいに大男はぷいと目を逸らし、私に向かって傷薬の残りを投げつけてきた。
「そいつはくれてやる、だからもう二度と俺に関わるんじゃねえ」
そういって男はディパックを抱えると、私達のことなどどうでもいいように歩き出す。
はっ、いま気がついたけどあの男ディパックだけじゃなくスモールライトまで持っていってるじゃない。
「ちょっとちょっと、スモールライト返しなさいよー」
「うるせえなぁ、傷薬をくれてやったくせに贅沢言うんじゃねえ」
「え?いやそんな話じゃ・・・」
大男は振り返ると私をギロリ睨み付け、イライラした声で言い捨てた。
私は少しばかりその表情に恐怖して後ずさりをする。ワイルドとかじゃなくて、やっぱり顔怖いわね・・・。
私がうろたえている間にも男は、どこ吹く風かもう川下のほうへ歩き出してしまった。
私が男を再び呼びかけるも、今度こそ本当に私のことを無視をして歩き出した。
もう何よ。あの大男ったら本当に自分勝手で、しかも名乗りもしないなんて・・・