<神奈備命>“summer編”ストーリー簡介・後編(その3)
「誰だっていい…神奈をあんな目に遭わせた奴等を、一人でも多く道連れにして死ぬ!!」
自暴自棄になる柳也の前に立ちはだかったのは、裏葉だった。
「邪魔立てするなら斬る。脅しではないぞ」
だが、裏葉も一歩も引く構えを見せない。
「私には聞こえます。神奈様のお泣きになっている声が」
ttp://j72820.chez-alice.fr/up1/file/a2_010970.jpg そして柳也は思い出す。末永く幸せに暮らすこと、それが神奈の望みだったはず…。
神奈は高野山の法師達によって空に封じられたまま死んだ。
そのため、その魂は空に留まったままであった。
翼人の死後、その魂は大量の記憶と共に新たな翼人へと転生するはずであった。
しかし、翼人の系統は神奈で途絶えてしまったため、神奈はやむなく人へと転生する。
だが、人へ転生しても翼人の膨大な記憶の流入に耐えきれず、すぐに死んでしまう。
そうして何度も悲劇を繰り返しながら、神奈の魂は救済されることなく空に留まり続ける…。
裏葉が聞いた神奈の声というのは、空耳ではなかった。
裏葉は、類い希なる方術の能力者であったのだ。
神奈を救うため、裏葉と柳也は方術の修練に励んだ。
しかし、翼人にかけられた呪いは、神奈を責め苛むばかりではない。
翼人に心寄せる者をも弱らせ、やがては死に至らしめる。
限られた時間の中で、柳也が出来ること。それは、自分の意志を子に継がせること…
裏葉はそう柳也に告げ、「お手伝い」を申し出る。
「…わかった。但し俺は、残りの時の全てをお前のために使う」
ttp://j72820.chez-alice.fr/up1/file/a2_010971.jpg 神奈は、膨大な負の記憶に苛まれながら、独り空で悲しい夢を見続ける。
それは何百年先になるか分からない。しかし、必ず神奈を救ってみせる。
柳也と裏葉は人形に力を込め、子孫に神奈救済の願いを託して、
残り僅かな二人の幸せな時間を過ごしていった。
ttp://j72820.chez-alice.fr/up1/file/a2_010972.jpg そして、時は過ぎ…。
とある海辺の田舎町に降り立ったさすらいの人形芸人・国崎往人は、
空に憧れる不思議な少女・神尾観鈴と出会う。
「にはは。往人さん、海へ行きたいな」
ttp://j72820.chez-alice.fr/up1/file/a2_010973.jpg それは、ちょうど1000年目の夏。最後の夏の始まりであった。
(後編 おわり)