二人はユリキュアS(エス)プラッシュスター

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639名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/21(木) 07:08:15 ID:Yl2euycF
まあなんだ、


続けて
640名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/21(木) 11:16:28 ID:L/gL2hrP
「そんな…」
ゴーヤーンの言葉を聞いた満はため息をついた。
満は咲に滅びの力を奪われ、通常の戦闘服に戻って座り込んでいる。
「私のお父さんを…?」
「私の計画を散々狂わせてくれましたからね。満殿、薫殿におけるあなたと美翔舞殿のようなものですから!」
言葉と共にゴーヤーンは薫と舞に腕を向けた。
舞もゴーヤーンの力を抜こうと腕を向けるが、
「無駄ですよ!ここは滅びの国の中心部近く、精霊の力などここでは無力!」
「逃げろ舞!」
薫は舞を突き飛ばすと滅びの力に向けて突進する。
ゴーヤーンは滅びの力を薫に向けて解き放った!

(紫霧も、あの男を守ろうとして私の力を食らったものでしたが…、
裏切り者は愚かですねえ)
641名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/21(木) 12:53:48 ID:vKqXNhQf
「うおおおおおっ!!」
薫はゴーヤーンに向かって拳を放つ。
しかし彼はそれを簡単にかわし、滅びの力を纏った拳を薫のボディに打つ。
ゴーヤーンの攻撃を食らい、バランスを崩した薫をさらに彼は彼女を蹴り上げ、数メートルほど弾き飛ばした。
「薫さん!」
舞は慌てて駆け寄り、薫の傷を治そうとするが、このダークフォールの中心部では、何も効果がない。
そんな二人を見てゴーヤーンは、にたにたと笑う。

「愚かですねえ、滅びの力を失い、人間になった薫殿は何もできない。このまま黙って見ていなさい!薫殿が殺されるのを!あの時の、紫霧殿を守れなかった日向大介殿のようにね!」

「・・・」
咲は水溜まりに映っている自分の顔を、まじまじと見る。
髪が長く、頬にくまどりが入り、人間ではない自分の姿を・・・。
「これが、私・・・?」
咲は両手で顔を覆う。
「・・・そして、これが、母さんの力・・・?」

今まで咲は普通の女の子として生きてきた。
いや、生きさせてくれた。
「じゃあ、今のお母さんは・・・?」
きっと、みのりがあの夫婦の本当の子供だろう。
自分だけがあの家族とは違う。
だが、本当にそうなのか?
沙織は、きっと自分が自分の子供ではないこと分かっている。
だけど今まで沙織は、『お母さん』は、自分とみのりを贔屓もせずに、別け隔てなく自分を育ててくれた。
自然と涙が溢れてくる。
「・・・お父さん、お母さん、・・・母さん・・・」
両手に握り拳を作り、きっ!と、ゴーヤーンを睨み付ける。

「一度ならず二度までも・・・お前に私の家族を殺させはしない・・・!!」
642名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/21(木) 23:03:54 ID:C/njz/It
(咲…咲だけに戦わせるわけにはいかない…)
満は滅びの力を集中しダークフォールモードになろうとするが
力が入らない。

(どうして…変身はできているのに…)
力を入れようとしてもすぐに体が崩れる。

(みんながこっちに来たのは、私のせいなのにっ…!)


ゴーヤーンは咲の姿を見てにやりと笑う。

「日向咲殿。あなたは実にすばらしい」
「……?」
「紫霧殿の力を受け継いだばかりか、闇と光をつなぐゲートとしての
 能力も持っている。…あなたは世界を滅ぼすために生まれてきたんですよ」
「何を!?」

「あなたの持っている能力は、他の誰の能力よりも世界を滅ぼすに適したものです。
 ダークフォールの住人と緑の郷の住人の間に生まれたあなたこそ、
 世界を滅ぼすための申し子…」

「ふざけるなっ!私のお父さんも母さんも、そんなことのために私を…」
「気づいていなかっただけですよ。
 あなたを育てることが世界を滅ぼすことになるとはね。咲殿。
 以前力を暴走させた時、楽しかったでしょう?
 今はその感情を押さえ込んでいるだけでしょう?
 自分の運命にそろそろ従ってはどうですか」
643名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/22(金) 00:40:54 ID:cpqqFYda
「それにもう一つ、いいことを教えてあげましょう。あなたが滅びの力を持ち続ける限り、私達は何度でも復活する!」
「!!」
ゴーヤーンの言葉を聞いた咲と満はショックを受ける。何故なら自分の滅びの力が消えれば満が消えてしまうから・・・。
先に、このことを聞いていた舞と薫は、やはりこれが真実なのだと確信する。

ゴーヤーンはニヤリと笑い、
「・・・皮肉ですねえ・・・。あなたの父親、そしてあなたまでもがダークフォールの住人を愛してしまうなんて・・・
闇と光が共存するなんて不可能なんですよ。さあ日向咲殿、私と一緒に世界を滅ぼし、世界の頂点に立つのです!あなたがいる限り滅びの力は消えないのだから。人間は、それに征服されればいいのです」

ゴーヤーンの話を聞いた咲はニヤリと口の端を上げる。
「何がおかしいのです?」

「・・・あんた達を倒しても何度でも復活するから何をしても無駄だって?」
「・・・?」
「・・・あんたもバカね。自分で墓穴を掘るなんて・・・。
私の中には闇と光の力もある。共存が不可能なら、これを使えば、あんた達だけを封印することができる」
「!!」
咲は両手に二つの力が交じった光球を作る。
「・・・今からあんた達を倒して、このダークフォールの地下深くに封印すれば二度と緑の郷へ上がってこれない・・・」
亜麻色の長い髪がなびき、オーラも強くなる。

「あんたを倒して、みんなで緑の郷に帰る!!そして、母さんや満達が愛した緑の郷を、守ってみせる!!」
644名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/22(金) 08:13:17 ID:ZKmA91Aj
「日向咲殿、ここがどういう場所かお忘れですか」
ゴーヤーンが手を振ると、咲の手から光の力が消えた。

「!」
「少し頭を冷やしていただきましょうか」
ゴーヤーンが地に滅びの力を打ち込むと咲の下の地面が大きく口をあける。

「うわあああ!?」
驚きの声と共に咲の体は地に飲み込まれた。
満が立とうとした時には穴自体が消えてしまってしまっている。
(ここよりも更に深いところがあるというの!?)

「ふふふ…」
満はゴーヤーンを見た。手に今まで見たことのない力が篭っている。

「さすがは紫霧殿の力…」
(咲の力がゴーヤーンに入っている!?この下はどうなってるの!?)

ゴーヤーンは舞と薫に近付く。
「まずあなた方を倒してから、日向咲殿とゆっくりお話をしましょう」
「薫!舞!」
満はようやく立ち上がるが、ダークフォールモードにはなれないまま。

(薫も舞も戦えない…私がなんとかしなきゃ…)
645名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/22(金) 09:49:12 ID:cpqqFYda
ダークフォールの中心部から、さらに深い場所に落とされた咲は落下の時に頭をぶつけてしまい、気を失っている。
頭の痛みでまだ目が覚められず、変身も解けてしまっている。
意識もはっきりとしていない。

『咲、咲・・・』
「・・・?」
『咲・・目を覚まして、咲・・!!』
真っ暗な暗黒の世界。
なのに誰かが自分を呼ぶ。
これは、夢・・?幻・・・?

「う・・・」
夢の中、目は虚ろなまま、重い頭を支え、ゆっくりと咲は起き上がる。
「だ、誰・・・?」
『時間がないの・・・聞いて』
「!!」
ようやく咲は目を覚ます。
すると自分の目の前には誰かが立っている。
髪の長い、女?の人・・・?
薄暗くて、相手が誰なのかはよくわからない。

『あなたなら、きっと理解できる・・・』
「?」
『闇と光の両方の幸福を・・・。そして二つの世界を幸せにできる・・・』
「な、何・・・?あなた、あなた、誰なの!?」
『そして・・・』

『お父さんを守ってあげて、咲!!』
「!?」

『あなたならできる、いいえ、あなたでなければできないのよ・・・』

『そして、その宿命を果たして!私とあの人の心と力を受け継いだあなたが・・・!!』

「!?そ・・・、それじゃあ、あなたは・・・!?」

『ごめんね・・・育ててあげられなくて・・・』

彼女は、そう言ってから振り返り、先へ進んでいく。
「待って!ねえ、待ってよ!!」
あまりの早さで、咲は追い付けない。

「母さん!!」
646名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/22(金) 22:03:52 ID:PZifY8dE
「待って、母さん!待って!」
咲は追いかけたが女の人の姿は闇にまぎれて消えてしまった。

「母さん…」
闇の中咲はうずくまる。

『闇と光の両方の幸福を・・・。そして二つの世界を幸せにできる・・・』

「私、そんなことできないよ…」
あたりを見回したが、闇が広がっているだけだ。どうすれば元の場所に戻れるのかさえ
分からない。
力を入れようとしてもそのまま力が闇に飲み込まれていく。

「みちるぅ……」
咲の口から会いたくてたまらない人の名前がこぼれ落ちた。



「満殿。困った方ですね……」
満はゴーヤーンの攻撃から薫と舞を守るため薄く赤いバリヤーを張っている。
ダークフォールモードではないのでバリヤーの力も弱いが、今の満には
これが精一杯だった。

「あなたのことは消すわけにはいかないんですよ。
 日向咲殿と話し合うときに何かと使えそうですのでね、あなたが」
「咲は…お前と話すことなどない!」
「やれやれ」
ゴーヤーンは首を振る。
「ならば、仕方ありませんね!」
満がはっと気づいたときにはゴーヤーンの顔が目の前にあった。
彼の手が満のバリヤーを突き抜け腕をつかまれる。
咄嗟にゴーヤーンの腕をつかみ返し投げ飛ばそうとしたが、
ゴーヤーンは満を捕まえたまま飛び上がると滅びの力と共に満の体を地に叩きつける。

「満!」
薫は満のそばに駆け寄り倒れた満の手を取る。
「満…」
満は何も答えない。
(私が…私に、力があれば…)
647名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/22(金) 22:04:58 ID:PZifY8dE
「まだ消滅はしないでしょう」
すぐ近くに降りたゴーヤーンの声が冷たく響く。
「ゴーヤーン……」
「ご自分の心配をされたほうがよろしいですよ、薫殿。
 あなたと舞殿は私にとって邪魔なだけの存在……
 人間になるとは、つくづく愚かなことをしましたね。
 結局、あなたは何も守れないままここで消滅する…」
「私は、大切な人を守る…」
「それならやって…ぐえっ!?」
いつの間にかゴーヤーンの後ろに立っていた舞が彼の背中を蹴り飛ばした。
だが大したダメージは与えられずゴーヤーンは顔に怒りを浮かべて立ち上がる。


「よくもやってくれましたね、舞殿……力が使えないからと言って、もう容赦しません!
 ここで仲良く消えてしまいなさい!」
「舞!」
ゴーヤーンの手に光球が浮かんだのを見た薫は舞を押し倒しよけさせる。

「ほう、よけましたか。でもそこまでですよ」
ゴーヤーンが近づいてくる。

(私に、力があれば…舞を…みんなを、守りたい……!)

「うあああああ!」
重なっていた舞と薫の掌の間に白い輝きが生まれる。
「風!?馬鹿な……」
一陣の突風がダークフォールを吹きぬける。思わず目を閉じて
髪を押さえたゴーヤーンの前に薫が立ち上がる。

通常の戦闘服でもなくダークフォールモードでもなく、
舞が纏うキュアウインディの姿、風のプリキュアに近い姿をしている。


「ほう…この場所で強引に精霊の力を使うとは……」
「天空の風よ!」
薫は風を生み出しゴーヤーンを吹き飛ばす。その一方で、
(満、聞こえる!?聞こえたら返事して!)
懸命に満に心の中で言葉を送った。

(かお…る…?)
(滅びの力が使えそうだったら、地面に打ち込んでみて咲を追いかけなさい!
 今、あなたにしかできないの!)
(う……うん……)

満は薄く目を開けると、自分の滅びの力を地面に這わせた。
下の空間への扉が開く。


「おのれ……薫殿……」
ゴーヤーンはすぐに体勢を立て直す。
「私の中には、今咲殿の力が流れ込んでいます!そんな精霊の力で
 対抗できるとでもお思いですか!」
648名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/22(金) 23:00:59 ID:cpqqFYda
ダークフォールの地下深く、重い体を引きずりながら満は咲を探す。
辺りは岩場ばかりの暗黒の世界。
(ダークフォールに、こんな所があったなんて・・・)
ダークフォールで生まれた自分でも知らなかった場所。
尚更、咲を探すのは至難の業であるが、いつかのように、満は意識を集中する。
(咲、聞こえる?咲!)
満は咲の気配を探りながら奥へと進む。

「満?」
うずくまっていた咲は満の声に、はっとして立ち上がる。

「咲!」
満は、ようやく咲を見つけて彼女に近づくが、いつかのように咲の元気がない。

「何、情けない顔してるのよ。あなた、只者じゃないと思ってたけど、やっぱり混じってたのね」
「・・・」
「咲?」

咲は俯いたまま、ゆっくりと言葉を絞りだすように話す。
「満・・・」
「?」
「さっき、母さんに会った・・・」
「!?」
649名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/23(土) 08:21:25 ID:BM+JZe8k
「…咲のお母さん、どこへ?」
(ゴーヤーンは咲のお母さんのこと殺したなんて言ってたけど…)

「分かんない。ふっと現れて、追いかけたんだけどすぐ消えちゃった…」

(咲のお母さんの思いが形になって現れたのかしら…)

「満…」
「ん?」
「私、どうすればいいんだろう。私にはできないよ…」
「何が?」
「闇と光、両方の世界を幸せにするなんて。母さんはお父さんを守ることと、
 両方の世界を幸せにすることを私に頼んでいったの。
 でも、私…いきなり自分が滅びの世界の血を引いてるって言われただけでも
 どうしたらいいかよく分からないのに…」

「馬鹿ね…」
満は咲の肩を抱いた。

「どんな生まれでも、あなたはあなたでしょ。何も変わらないわ」
「うん…」
「それに、前、ずっと私のこと守ってくれるって言ってたでしょ?
 あれは両方の世界を幸せにするってことじゃないの?
 両方の世界の住人を幸せにしてくれるって意味じゃないの?」
「満…」
「私はあなたのお母さんに会ったことはないけど、
 もしもあなたのお母さんが私たちと同じように緑の郷を愛したなら…」
「……」
「きっと、今の優しいあなたに自分の信じる道を行って欲しいと願っていると思うの」
「うん…」

「咲…あなたの道を進んで。私もあなたについていくわ」
「満」
咲は横目で満を見た。

「…だったら、もうあんなことしないよね?」
「あんなこと?」
「自爆しようなんて…」
満は目を伏せる。

「咲に負担をかけたくなくて…滅びの力がなくなればゴーヤーンたちが
 来なくなるから」
「一人だけでそんなこと決めないで…満がいなくなったら、負担がなくなったって
 満がいなくなったら意味がないよ」
「うん…」

満は咲の額に唇を寄せた。
650名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/23(土) 20:57:17 ID:ypDh4H+l
満は咲の額にキスをする。
そして、そのまま咲の唇にあてる。
「っ!?」
満が咲を求める前に、咲の方が早かった。
満の中をかき回す。
満は抵抗せずに咲にされるがままになっている。

しばらくお互いを求め合うと二人は唇を離す。

咲は満を見つめている。
強く、真っすぐな瞳で。

「満、私もう迷わないよ。母さんや満が愛した緑の郷を守る!そして、満のことも私が守る!!」
満は、そんな咲を見て微笑む。


「・・・とは言ったものの・・・」
ふと咲は、この場所の天井を見上げる。
「咲?」
「どうやったらここから出られるんだろう?」
二人は、しばらく思案する。
「咲・・・」
「えっ?」
「・・・変身してみたら?」
咲は俯きながら、
「さっき何度も試してみたけど、できなかった。だから今もきっと・・・」
「咲」
咲の台詞を言い終える前に満が言葉を挟む。
「満?」
「だからといって諦めるの?さっきあなたもう迷わないって言ったじゃない」
「う・・・」
「それに、今のあなたはついさっきまで落ち込んでいたあなたじゃないわ。きっと今のあなたなら・・・」
「わかったよ・・・」

咲は体中に力を込める。
今、自分の周りにある闇に負けないくらいの力を込める。
髪が揺らめき始める。
どくどくと、自分の中の二つの血が混じり合っていくのがわかる。

(母さん、私に力を!満を助ける、みんなを守る、力が欲しい!)
651名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/23(土) 21:55:06 ID:o/gI9Cu6
薫は苦戦していた。

「どうしました、薫殿!」
ゴーヤーンはすっかり勢いを取り戻している。
薫は口の中が切れて出てきた血をふっと吐き出した。

この場所では精霊の力は弱い。薫にとってこの変身がはじめてだったこともあり、
力もまだ十分には使いこなせていなかった。

「薫さん!」
薫に迫るゴーヤーンの頭上に舞が踵落しを決める。

「舞!」
舞に向ったゴーヤーンの手を薫の拳が撃ち攻撃を防ぐ。
だがゴーヤーンも流れた体から滅びの力を薫に放つ。
「ぐっ!」
小さいながら竜巻を起こしゴーヤーンを一瞬怯ませると薫は跳び下がり岩壁を背にした。
その隣に背中から翼を生やした舞が降りる。
(精霊の力が完全に使えれば……ゴーヤーンにエネルギーを送り込んで倒すことだって
 できるのに…)

舞は歯痒かった。戦っていても、ゴーヤーンにはあまりダメージを与えられていないと
いうことは見て取れる。


「なるほど、あなた方お二人おとなしく消えるつもりはないようですな…」
「当たり前よ」
薫は口から流れる血を拭って答えた。

「ならば、仕方ありませんね…」
ゴーヤーンが体に力をこめる。彼の周りにどす黒いオーラが立ちこめる。

「うおおおおおっ!」
「何!?」
薫は目を疑った。ゴーヤーンの姿が変化して行く。黒いオーラに包まれて良く見えないが、
3頭身といっていい体が徐々に伸びいく。
更に大きいのは滅びの力の変化で、そばにいるだけで圧倒されるような滅びの力が四方八方放たれる。


「日向咲殿がかなり私に滅びの力をくれましたのでね」
闇のオーラの中、ゴーヤーンの声が自信たっぷりに響き渡る。
652名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/23(土) 22:38:10 ID:ypDh4H+l
「さようなら舞殿薫殿!」
ゴーヤーンは暗黒の波動を舞と薫に放った!
「薫さん!」
薫は舞の前に立ち、つむじ風を起こすがゴーヤーンの攻撃によって、簡単にかき消されてしまう。

(もう駄目だ!)
二人はゴーヤーンの攻撃を覚悟して目を伏せる。
二人が目を伏せたと同時に爆発音が辺りに響いた。

「!?」
どうして?
自分達はゴーヤーンの攻撃を食らったはずなのに、体が痛くない。
恐る恐る目を開ける。
するとそこには、長い髪をなびかせる・・・、

「咲・・・!!」
舞は思わず声を上げる。

「よかった、間に合って・・・」
咲の腕の中には満がいる。空いている腕をゴーヤーンに向けている。
どうやら咲が彼の攻撃をかき消したようだ。

「ごめん、みんな。私がもたもたしていたせいで・・・」
咲は満を下ろし、ゴーヤーンの前に立ち、きっ!と睨み付ける。

「よくも、よくも母さんを・・・!!あんただけは許さない・・・!!だけど・・・」

「母さんは言った。宿命を果たせと!だが私は、あんたを殺さないでおいてやる!光があるから闇がある。だけどあんたが共存を望んでいないのなら、私はあんたを封印する!
そして私達は、母さんが愛した、緑の郷に帰る!」
653名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/24(日) 00:20:30 ID:cMyQuhbr
「ほう……」
ゴーヤーンは長く伸びた尻尾をばしんと地に打ち付けた。
ダークフォールの地が震える。

「闇の力を使ってあの場から脱出するとは」
「闇の力だけじゃない、私は二つの力を持っている」
「やはり滅びの世界の者と緑の郷の者が交わるなどとはあってはならないことですね……」
咲とゴーヤーンが言葉を交わしている間に薫は満を抱き上げる。


「はああっ!」
ゴーヤーンが声を上げると皆が立っている地面の色が薄くなった。
地下に充満していた闇の力がゴーヤーンへと入っていく。

「私を封印できるものならやってみなさい、日向咲殿!
 たとえあなたが闇と光を繋ぐゲートでも、私こそがこのダークフォールの主人!」
「!?どういう意味…?」
薫が思わず呟いた言葉にゴーヤーンはにやりと笑う。

「アクダイカーンは所詮私の作り上げた傀儡。紫霧と比べれば私の望みどおりに
 動いてくれましたがね。もっとも、アクダイカーンの造ったあなた方は
 紫霧と同じようにできそこないでしたが!」
最後の言葉と共にゴーヤーンは滅びの光球を両手から放つ。

「満、舞、薫、下がってて!」
咲は皆の前に出ると光の球に向って突進しその掌に受け止める。
「っあ!」
一瞬閃光が輝いたがすぐに光の球は消える。

「咲、上!」
舞の言葉に上を向くと真上からゴーヤーンが咲を叩き潰そうと迫る。
咄嗟に腕を顔の前に構えるがゴーヤーンの拳は咲の顔を捉えた。

「咲!」
バランスを崩しかけた咲を後ろから舞が支える。だがゴーヤーンは二人に滅びの波動を
撃ち弾き飛ばす。
「舞!」「咲!」
満と薫がすぐに動いた。壁に叩きつけられそうになった咲と舞の体を受け止める。
654名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/24(日) 00:21:27 ID:cMyQuhbr
「ぬああ!」
ゴーヤーンが両腕を上に突き出し一声吠えた。四人の居る地面から滅びの力が吹き上がる。
「え、ちょっと…!」
驚いている間に四人の体は吹き上げられ飛ばされた。咲は皆が傷つかず着地できるよう
バリヤーを張るが、自分の分を忘れてそのまま地に落ちる。

「ふん…」
四人がばらばらになったのを見てゴーヤーンは体に力を込め霧を発生させる。
薄い霞はすぐに濃く辺りを包み込んだ。
咲がはっと顔を上げたときには既に濃霧が自分を包んでいる。
誰の姿も見えない。
意識を集中し滅びの力と精霊の力を探ろうとしたが、感じられなかった。
霧のせいで自分以外の者の気配が感じられなくなってしまっている。

「はああっ!」
目の前の霧を破りゴーヤーンの光線が咲を捉える。正面から食らった咲はそのまま
岸壁に叩きつけられる。すっと霧は戻り、ゴーヤーンの姿を隠した。

「くそ……っ」
咲も腕に力を込める。だがその時ゴーヤーンのあざ笑う声が聞こえた。

「私を攻撃するのは構いませんよ。でも、あなたの大切な方にその攻撃が
 当たってしまうかもしれませんよ?」
はっと咲は腕を下ろした。満たちの姿は見えない。
本当に自分の攻撃する先に満達がいるかもしれない……。

「こういう時は一人のほうが戦いやすいものですよ。そらっ!」
爆音と舞の悲鳴が聞こえた。
(舞っ!くそ、この霧をなんとか……)


「天空の風よ!」
少し離れた場所から薫の声が聞こえた。同時に荒々しい風が巻き起こる。
思わず目を閉じた咲が目を開くと、風が霧を吹き飛ばしていた。
薫は舞に駆け寄り抱きかかえている。

「薫殿…余計な真似を……」
薫を睨みつけるゴーヤーンに咲は近づくとその尻尾をつかんだ。
「な、何!?」
そのまま力任せにゴーヤーンの体を振り回し投げ飛ばす。
「いっけえー!」
落ちてくる彼の体に向って特大の、闇と光が混ざり合った光球を浴びせる。
655名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/24(日) 08:11:29 ID:5gS/4HMh
辺りに爆発音が響く。
ごうごうとたちこもる煙の中、ゴーヤーンの姿は現われない。

今度こそ、倒した?
咲は一瞬でも、そう思ったが、姿は見えないもののゴーヤーンの気配は減っていない。
こちらが油断している間に奇襲にかかってくるかもしれない。
咲は更に力を込める。
(見ていて、母さん!)

憎しみからは何も生まれない。
母さんが、こいつに殺されたと聞いた時は怒りで我を忘れるほどだった。

「母さんは、できそこないなんかじゃない・・・」
今まで父、大介はこのことを一言も自分に話さなかった。
きっと彼なりの気持ちや事情があるのだろう。
けど、小さい頃から時々彼に手を引かれて大空の樹に向かい、小さな花壇が咲いている場所へ連れられたこともある。
すると大介は悲しそうな、だけど優しい瞳で、それを見つめていた。
そして、ゆっくりと手を合わす。
『お父さん、ここにいる人は誰なの?』
自分がこの質問をするといつも父は、
『君がもう少し大きくなったら話すよ』
としか話さない。

そしてなぜか父は花壇に焼きたてのパンを備えて、しばらく花壇を見つめたあと家に向かうのだった。

咲は思った。
「母さん、母さんは私のあんなに近くにいたんだね・・・。ごめんね、私どうして今まで気が付かなかったんだろう?」
咲の瞳から涙が零れ落ちた。
656名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/24(日) 10:49:58 ID:ha4AHq68
咲の頬を誰かの拳がかすめ涙を弾き飛ばす。

「満!?」
「泣くのは後!来るわよ!」
爆煙の向こうに巨大な影が立ち上がる。

ぐっと咲が体に力を込めるとその姿が消えた。

「!?」
殺気を感じ振り返るとゴーヤーンが背後に立ち滅びの波動を
咲と満に向け解放する。
「はああっ!」
咲と満を吹き飛ばし、ゴーヤーンは更に掌に暗黒球を生み出す。
両腕を突き出し咲はそれをはね返そうと構える。だがゴーヤーンは
薫と舞にそれを投げつけた!

「…っ!」
舞は翼を鋭く広げ薫を連れてそれをよける。

「どっちを見てるの!」
咲は手に光と闇の力を込めると跳びあがりゴーヤーンの顔を殴りつけた。
「咲!」
満の声に咲はさっと後ろへ引く。満が両手から光弾をゴーヤーンに向けて
乱射する。
上空から薫と舞が精霊の力を込めた光線を撃つ。

(母さん、私に力を!)
咲も気合を込めゴーヤーンに光線を浴びせた。
三方向から攻撃されたゴーヤーンはしばらくの間耐えていたが
爆音を立てて地に倒れる。


(倒し……たの……?)
ゴーヤーンが立ち上がってこないのを見て4人とも攻撃の手を止める。
滅びの力の気配も弱くなっている。しかしまだ消えてはいない。


「ふふ、ふふふふ……」
笑いながらゴーヤーンはゆらりと立ち上がった。
長い髪がすっかり乱れている。


「分かりました、もう手段は選びません…どんな手を使ってでもあなた方を!」
雄たけびを上げると、岩壁に触れ滅びの力を全身から放つ。
轟音と共にダークフォールが崩れ始めた。

「何!?」
上から岩が落ちてくる中薫と舞が着地し岩を避ける。


「ダークフォールを崩壊させます…あなた方もろとも…あなた方をこの地に埋めます!」
657名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/24(日) 19:42:59 ID:5gS/4HMh
ピシリと、天井にひびが入った。
「私だけが生き埋めになるのなら、あなた方も道連れにします!」
ビシビシと、ひび割れが大きくなる。
すると突然、咲がみんなから離れてゴーヤーンに近づく。
「咲!?」
満が声を上げた時には、すでにバリアが張られていた。
薫も舞も咲を助けようとバリアから抜け出そうとするが、かなわず咲との距離がどんどん離れていく。
「咲!あなた何考えてるのよ!」
満が、どんどんとバリアの壁を叩くが、びくともしない。
そんな満に構わず咲は両腕を伸ばし、二つの力が混じった光弾をゴーヤーンに向かって撃ち続ける。

「やっぱりみんなが助かる方法は、これしか思いつかなかった・・・」
「咲!」
咲の放つ光弾が更に強くなる。ゴーヤーンは防戦する一方だ。
「二つの力を持つ私が、こいつを封印する!これが、私にしかできないこと・・・」
咲のバリアに守られているみんなは、しだいに出口へと向かっていく。

天井から、しっくいのような粉が、落ちてき始めた。

一歩、また一歩と咲から離れて行く。
その時、かすかな声が満に届いた。
「・・・好きだよ満。始めて会った時からずっと好きだった。・・・満、愛してるよ・・・」


「っ!!」
ガラガラと壁が崩れ落ちる。
咲はこのままゴーヤーンと一緒に闇に飲み込まれてしまうだろうと思っていた。
彼女が、自分の前に立つ前までは・・・。


「母さん!!」
658名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/24(日) 21:00:11 ID:U4cQ3f7M
満と舞、薫は咲のバリヤーに守られたまま大空の木の下に出た。
緑の郷に出ると同時にバリヤーが消える。

「満!」
「分かってる!」
薫に言われるまでもない。満は全身の力を込めて滅びの力を地に叩き込む。

(ダークフォールに戻る!戻って、咲を連れて帰る!)
だが満の滅びの力は地面に当たっても穴を穿つだけ、ダークフォールへの
道は開かない。

「どうして!?」
何度も何度も、満は滅びの力を放った。しかし結果は同じで穴が深くなるだけだ。
「咲……、咲……!」
満の目から涙が零れ落ちる。うずくまり拳で地面を叩く。
「咲ーっ!」
満の絶叫が森に響いた。舞も涙を零しながらそれを見ている。
(あの夏と同じ…また助けられなかった……)


「満……」
薫が満の肩に触れると満はばっと薫に抱きついた。
「どうすればいいの?私、咲が…」
「……」
薫には何も答えられない。満に見えないようにそっと精霊の力を地面に放ってみたが、
当然ダークフォールへの道は開かなかった。

「私だって咲のこと、愛してるのに……!」
659名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/24(日) 21:54:02 ID:5gS/4HMh
森の中、みんな涙を流している。
自分達だけが助かっても咲がいないんじゃ意味がない。
満の啜り泣く声だけが辺りに響く。
その時、

「!!」
がさっ、という音が聞こえて、一同は大木の方へ振り返る。

「あ、あれ?みんな、どうして泣いてるの?てっきり私はみんな帰っちゃったのかと・・・」

「咲!」
一同は咲の元に駆け寄る。
「ど、どうしたのみんな!?」
みんな、涙を流しながら咲との再会を分かち合う。
だが、満だけは何故か肩を震わせている。
まるで怒っているかのように。

「でも、どうして?咲はあの時ゴーヤーンと一緒に・・・」
と、舞は問う。
確かにあの時、ダークフォールが崩れた時には咲の姿は見当たらなかったはず。
なのに今、目の前の咲は生きている。

「本当はもう少し早くみんなのところに帰りたかったんだけど・・・」
「?」
咲は照れたふうに、
「なんだかみんな泣いてるから、出ていきづらくて・・・」
「・・・」

「でも、私もあの時は、さすがにやばいって思った。だけど・・・」
「?」

「また、母さんに会った・・・」
咲は、大木のそばにある花壇を優しく見つめた。
660名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/24(日) 23:28:16 ID:UytasDGV
「母さんが、私を助けてくれて…代わりにゴーヤーンのこと、
 封印してくれるって言ってた……私は大切な人のそばにいなさいって」
咲は満を見るが、満は俯いたまま咲と目を合わせない。

「満?」
満の目を覗き込むようにすると、
「いい加減にして!」
満の怒りがその瞬間に爆発した。右の拳が唸りを上げて咲の顔面にヒットする。

「咲!」
「満、止めなさい!満!」
舞は咲の体を支え、薫はまだ咲に拳を振るおうとする満を羽交い絞めにして抑える。

「み、満…」
咲は頬を手で押さえて満を見る。満はしばらく薫の腕から離れようと
暴れていたがやがてぼろぼろと涙を落とす。

「私に、自爆なんてするなって言ったくせに…私がいないと意味がないって
 言ったくせに…!私だって、咲がいなかったら助かったって意味がないわよ!」
「…ごめん、満」
満の体から力が抜けたのを感じて薫が腕を放す。
満はそのまま咲の胸に飛び込んだ。

「ごめん、満…ごめんね……」
咲は申し訳なさそうな顔をして泣きじゃくる満の髪を撫でる。

「みんなのこと、守ろうと思ったらあれしか思いつかなくて…」
「…もう、あんなことしない?」
「うん、しないよ…ずっと満と一緒にいる」
咲は満の顔を上げると頬に流れる涙をそっと拭った。
満は咲の顔を見て微笑むとまた胸に顔を押し付ける。
しばらくの間、二人はそうしていた。
661名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/24(日) 23:30:16 ID:UytasDGV
「ところで」
二人の様子を見ていた薫が舞に話しかける。
「今、もう夕方よね」
「そうね、5時くらいかしら?」
「私たち、学校さぼったことになるのかしら」
「そうね……」

「ま、まずいよ!」
舞と薫の会話を聞いた咲が慌てて叫ぶ。
「篠原先生に怒られちゃうよ!どうしよう!」

「どうしようもこうしようもないでしょ」
薫は冷たいほどの落ち着いた口調で答えた。
「薫さん、それってその……叱られるしかないってこと?」
「そうよ。さぼったのは事実だし、理由を説明するわけにもいかないし」
「あ〜、やだなあ…」
ぼやいている咲の腕から満は抜け出し、
「でも、どこに行ってたのかは絶対聞かれるわよ。どうするの?」

「えーと、じゃあさ、ここに来てて、大空の木の下にいたら気持ちよくって眠っちゃった
 っていうのはどう?」
「4人揃って?」「咲1人だったらありそうだけど」
学校への道を戻りながら話し合う。
しかしこれといって良い案が出ることもなく……、

「私たちも咲と同レベルになったってことにするしかないわね」
「仕方がないわ」
「あのー満も薫も、ちょっと言い過ぎなんじゃ……」
舞はそんな三人の会話を見てくすりと笑うと、校門の中に入った。


後日、夕凪中では舞だけではなく満と薫も咲と同レベルになったらしいという
噂が流れることになるのである。
662名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/25(月) 07:28:20 ID:16RNDqtf
篠原先生に叱られたあと、四人で帰る途中・・・。
「咲・・・」
まだ、怒っているのか、厳しい口調で満は咲を呼ぶ。
「な、何!?」
「・・・」
「満?」
咲は満の顔を覗き込む。
なぜか満は体中に力を込めている。
すると、いきなり・・・、

「はああっ!!」
夕凪中の制服から、一気にダークフォールモードへと姿を変える。
「み、満?どうして・・・?」
満の瞳は赤く染まり、満の体からは殺気があふれている。

満はいつもよりも低い声で言った。
「・・・おしおき、よ・・・」
「へっ!?」
「もう咲は私の前からいなくならないって言ったのに、今日、こんなことをしたから・・・」
満は咲を引き寄せ、お姫さま抱っこをする。
「ちょっ、満、離して・・・!」
咲は満の腕から抜け出そうと藻掻くが、普通の状態の自分では、変身した満にはかなわない。

満は、じゃあね、と言って薫と舞にウインクをして、そのまま海岸に向かった。「降ろして〜〜〜・・・!」

しだいに咲の声が小さくなる。
その様子を見ていた薫と舞は、ぽかーんとしている。

すると急に、
がしっ、と舞の肩を薫が掴む。
「か、薫さん・・・!?」
薫も舞を引き寄せる。
「さあ、舞。続きをしよう!」
「えっ?」
舞は薫から離れようと抵抗するが、かなわない。
「私もこうして人間になった。もう私達が繋がるための障害はなくなったのよ!」
「や、やめて・・・薫さん、離して・・・」
「嫌だ」
薫は舞の背中に触れないように、十分に注意を払いながら抱き締める。

背中に触れないように、触れないように・・・。

(変身した舞には、はっきり言ってかなわないからな・・・。背中にだけは触れないようにしないと・・・)

「・・・」
663名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/25(月) 22:30:24 ID:om5APk+T
(薫さん…また私との約束を破るの?)
(ひょっとして私との約束なんてどうだっていいと思ってるの?)

黙っている舞に薫はそっと顔を近づける。

だが、
「いやっ!」
「っ!?」
薫の体が突然吹き飛ばされた。恐る恐る薫が見ると、舞の背中に大きく翼が生えている。

「ま、舞…」
(私は背中に触っていない…自分の意思で変身したの?)
「何回言っても駄目なのね、薫さん」
舞は恐ろしいほど落ち着いた声で話している。

「あ、その…いや…」
舞がため息をついた。
「薫さん、私たち…」
「舞…?」
「もう、終わりにしましょう」
「ま、舞!?」
舞はそのまま薫を見ずに羽根を大きく広げて飛び立ち、自宅に帰った。
今日はお母さんがいる。

「ただいま」
「あら、お帰りなさい。…今日は薫さんは一緒じゃないの?」
「うん……」
俯いたまま舞は自分の部屋に入る。

(薫さんのこと、良く分からなくなっちゃった…優しい人だと思ってたのに…)
664名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/26(火) 00:01:09 ID:hB/O+UBk
「天空の風よ!天空の風よ!答えてくれ!」
薫は舞が帰ったあと、思わず駆け出した。
自分の新たな、風の力を使って舞の所に行こうとするが風は答えてくれない。

薫は、はあはあと息を切らす。
そしてゆっくりと空を見上げる。

「どうして、答えてくれないの・・・?」
薫は自分の掌を見る。
そこに小さな雫が零れ落ちる。
「天空の風よ・・・、私はまた舞を傷つけてしまった・・・。舞は、いつか言っていた。私の気持ちは真直ぐすぎると・・・。だが、私は余りに真直ぐすぎて、自分のことばかりで・・・舞の気持ちを考えていなかった・・・」

そして薫は、ぎゅっと両手に握りこぶしを作る。
「この力は、きっと自分のためには使えないのね・・・。誰かを助ける、守りたいと思う時に、天空は答えてくれる・・・そうでしょう?」

その時、ざ・ざっ、と一つの風が薫の前を横切った。
665名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/26(火) 07:31:44 ID:VLBvBkVb
「舞?」
お母さんが部屋の戸をノックする。
舞はスケッチブックを見ていた顔を上げた。

「薫さんが来てるわよ。あなたに、会いたいって」
「……」
「家に上がってもらう?」
「…いや……」
「舞?」
「今は…会いたくない……」
「そうなの…帰ってもらってもいいの?」
「うん、そうして」
お母さんが部屋から離れていく音が聞こえる。
舞はため息と共にスケッチブックに視線を落とした。

最近は薫の絵ばかり描いていた。

(薫さんのこと、好きだけど……でも…)



「ねえ満、そんなに好き?」
「うん。咲の匂いがするから」
その頃満は、ひょうたん岩の上で咲に持ってきてもらったメロンパンを
頬張って満足していた。

(なんか、風が荒れ始めてきたような気がするナリ…)
666名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/26(火) 08:00:39 ID:hB/O+UBk
薫は来た道を引き返していた。
「舞に会えなかった・・・」
(もう、舞に嫌われてしまったのだろうか?)

(例え舞に嫌われていてもかまわない。もし、今度あいつらが現われた時は、この力で、舞を守る!)


気付くといつの間にかスケッチブックの中は薫ばかりになっていた。
自分では今は薫のことを考えないようにしようと思っていたが、やはり自分の心には嘘を付けないのか。

舞は席を立ち、部屋を出る。
舞が家を出ようとするのに可南子は気付いた。
「舞、出掛けるの?」
「うん、ちょっと散歩に・・・。あまり遅くならないうちに帰るから」
「そう、いってらっしゃい」
舞は、スケッチブックを持って、家を出た。
667名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/26(火) 23:16:32 ID:aO3QdLAF
「ねえ満、満足した?」
「お腹は一杯になったわ」
ひょうたん岩の上、咲が持ってきた10近くのメロンパンを平らげて
満は嬉しそうに咲に寄りかかっている。

「だから、次は…」
「う、やっぱり次があるの?」
「当たり前じゃない、今日は私の言うことをなんでも聞いてくれるんでしょ?」
満の『おしおき』は、今日一日自分の頼んだことをなんでもするように、
というものだった。

(でも、いつもだって満の頼みは大体聞いてるような…?)
「何か言った?」
「う、ううん、何も言ってないよ。でも満、なんか風が強くなってきたから
 ここからは離れた方がいいんじゃないかな」
「そうね…じゃあ、連れてって」
満は咲の体に身を寄せる。

「変身するから力入れるけど…」
「構わないわ」
咲は体に力を込めた。髪が揺らめき、目が釣りあがっていく。
とはいってもそこまでだ。こんな時に母さんの力まで出すわけには行かない。

「飛ぶよ」
咲は満を抱きかかえたままふわっと浮き上がり海岸を目指す。
海岸には見慣れた人影があった。

(あれ?薫?舞と一緒じゃないのかな?)
668名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/27(水) 06:27:01 ID:2lEDazu9
咲は薫の様子が心配になり、降り立った。
「咲?」
「どうしたの?今日は舞と一緒じゃないの?」
「・・・」
咲は心配そうに薫を見るが、満は、じとーっと目を細めて薫を見ている。
(全く、ちっとも懲りてないんだから)
満は咲に寄り掛かる。
「行くわよ。咲」
「えっ!?だって薫が・・・」
「今日一日は私の言うことを聞くんでしょ?」
「わ、わかったよ・・・。ごめんね薫・・・」
咲は再び満を抱き抱えて飛び立った。

(風が強くなってきている・・・。舞の心が、乱れている・・・?)
薫は空を見上げるが、すぐに目線を落とし、目を閉じて意識を集中する。

(風よ、教えてくれ・・・。舞は今、どこにいる?力を、貸してくれ・・・。舞を、舞を守りたいんだ。きっと今の舞の心は泣いている。風よ、答えてくれ・・・!)
669名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/27(水) 11:14:17 ID:qvoBBmvM
んー、長くなって終わりが見えないし、そろそろ自HP立ち上げてそこに移った方がよくね?
670名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/27(水) 23:30:52 ID:i7qnQL3G
(風が…)
舞はスケッチブックを抱えたまま当てもなく町を歩いていた。
次第に強くなってきた風が髪を揺らす。

(どこに行こう…)
舞はどこか、集中できる場所を探していた。集中して、絵のことだけに没頭できる場所。
普段ならわざわざ場所を選ぶまでもないが今日はどうしても絵に集中して
他のことを考えるのを止めたかった。

(大空の木…海…だめよ、薫さんとよく一緒にいるところばかり…)

舞の足は駅の方に向かっていた。
切符を買い電車に乗り込む。車内には誰もいない。

(この電車の終点は、確か町外れだったはず…)
スケッチブックを抱えたまま舞はシートに座って俯く。
この電車には咲と一緒に乗ったことがある。その時は満も薫もいなくて――と、
また思考が薫の方に向きそうになったので慌てて振り払う。


終点について、舞は無人の駅から外に出た。道を歩いている人もいない。
少し歩くと、この場所からも海が見える。ひょうたん岩はもう見えないが。

舞は海に背を向けて、線路そばに止まっている古い電車の車両を
中心に絵を描き始めた。
車両はもう使われていないようで、すっかり周りの雑草が伸びてしまっている。

(こんなに寂しい絵を描くのは久しぶり…)



>669
このスレに他のネタを書きたい人はこのSSを気にせずにどんどん書いて欲しいんだが…。
671名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/28(木) 00:35:53 ID:YIOs9LBP
>>670
長いのは一向に構わないが、
ハンドルかタイトルかトリップつけてくれー
他のと判別に困る
672名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/28(木) 00:49:58 ID:uKjISbj6
突然だが単発の番外編を・・・

元々満達は何も食べずに生きていけますが、ただ、緑の郷の食べ物がおいしいので、つまんでいるだけなのです。
その証拠に・・・

舞「みんなーお昼ご飯よー。何がいい?」
満「!!」
筋「!!」
紫「!!」

満「メロンパン!」
筋「チョココロネ!」
紫「クリームパン!」

咲「どうしてうちの商品ばかりなんだろう・・・?(母さんまで・・・)」
舞「ダークフォールの人達って甘党なのかしら・・・?」
薫「どうでもいい・・・」
673名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/28(木) 12:34:05 ID:baZAZBau
これだけ長文連続で貼り付けられたら、まともにレスが拾えなくなって他の会話なんて成立するわけねーべ
まぁだからと言って別に話のネタがあるわけでも無いが
674名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/28(木) 13:21:40 ID:uKjISbj6
満はわりと社交的で自分を抑えるすべを持っている。
薫は良く言えば素直。
悪く言えば空気を読まないバカ正直(笑)
675名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/28(木) 18:34:12 ID:3qJDOh7T
消えてしまえ!!
676名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/28(木) 19:01:03 ID:uKjISbj6
ここってどんだけ住人いんだ?
677名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/29(金) 07:48:53 ID:4qZwwVMi
>>670
そのころ咲と満は、大空の樹に着いていた。
変身した咲は、満を抱えてここまで来たのだ。
満を樹のそばに降ろすと咲は変身を解く。

「ねえ、咲・・・」
「ん?」
「前から聞きたかったんだけど、どういうふうに変身するの?それと変身してる間はどんな感じなの?」
「え、えっと・・・」
そんなにいっぺんに言われても・・・と思って咲は思わずあたふたしてしまう。
そしてしばらく思案する。
「うーん、そうだなあ・・・。変身する時は、怒りにも似た気持ちで意識を集中するんだ・・・」
「怒りに似た気持ち?」
「うん、例えば、満があいつらに傷つけられた時とかを思い出して・・・」
「・・・」
「だから変身すると、許せない相手には容赦できなくなってしまう。それに何だか変身している時は自分の気持ちが強く出ちゃうみたいで・・・」
ああ、それで咲が変身すると甘さがなくなるのね・・・と満は思った。
「でも、一歩間違えると・・・」
「?」
「その怒りに飲み込まれて、自我を保っていられなくなるんだ・・・」
咲は何故か、力をこめている。
「咲!?」
髪が揺らめき始める。
瞳が釣り上がっていく。
「咲!やめて!」
滅びの力をいきなり発動させようとする咲を満は、ぎゅっと抱き締め、止めようとするが・・・。

「あいつら、よくも母さんと満を・・・!許・・さ・・ない・・・!!」
678名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/30(土) 07:48:11 ID:jWwKWvw8
ここって見てる人いるのか?
679名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/30(土) 08:08:25 ID:WBiU9ibm
>>678
エミリー見てるよ!
680名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/30(土) 09:38:04 ID:jWwKWvw8
>>670どうやってこの話を締めればいいんだ?
681670 ◆XYc/M5xvME :2007/06/30(土) 17:39:10 ID:FIi8/0Qi
>680
薫が追いかけて舞追いかけて、和解すればいいと思う。
満と咲はこのまま平穏に終わればよさそうだし。

締めろと言われれば締めるが、680はまだこの設定で書きたいんじゃ?

リレー小説として始まった話だったし完結させたくてずっと参加してたけど、
680としては一人で好きなように話を展開させたくて、迷惑だったんじゃないかと
ここ1,2日思い始めたので書き込みを止めていたんだが。

もうこの設定で書きたいことがない、あるいは新しい展開にするために
今の展開を一旦締めろということなら締める。少し時間かかりそうだが。
682名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/30(土) 19:03:21 ID:jWwKWvw8
>>681色々とスマンorz
次の展開は次を書く人にまかせよう。
683長編リレー ◆XYc/M5xvME :2007/06/30(土) 20:31:01 ID:FIi8/0Qi
>677

風の向きが突然変わった。薫は閉じていた目を開ける。
(シトラスの、香り……?)
微かなものだったが風に乗ってシトラスの匂いが漂ってきた。風上に向って薫は走り出す。

しばらく走ると線路に出た。ちょうど駅から電車の出るところで、閉じた踏み切りの前で
薫は少し足踏みをする。騒音を立てて電車が通過して行く時何気なく上を見ると、
(舞!?)
電車の中に一人座る舞の姿が見えた。

「舞!」
思わず声に出し追いかけようと線路沿いを走るが、薫の足でも
電車には追いつけない。ぐんぐん小さくなっていく電車が豆粒のようになったところで薫は
走るのを止めた。体に力を込めてみたがやはり変身はできない。
薫は足を駅へと向けた。

次の電車は30分後である。バスを使うことも考えたが、路線図を良く知っているわけではない
のでとりあえず止めておいた。電車の方が多分確実だ。

誰もいないホームから、ようやくやって来た電車に乗り込む。
(舞はどこまで行ったのかしら……)
閉まっていた窓を大きく開けると風が車内に大きく吹き込んできた。
薫一人しか乗っていないので遠慮なく風を味わう。終点まではいくつか駅があるが、
どこで舞が降りたのか薫は少しの間考える。
だが考えても分かるはずもなく…、

(風を信じるしかないな…)

目を閉じ、薫は風の運んでくる情報を聞き漏らすまいと意識を集中した。
この前薫が使った、風の精霊の力は舞が薫にくれたものだ。
だからきっと、舞の心が乱れているなら薫にそれを伝えてくれる……筈である。

舞の気配を感じることなく、薫は終点に着いた。少し不安を覚えながら駅に降り、
改札を出て再び目を閉じる。

(舞?)
風に乗ったわずかな気配を感じたような気がして薫はそちらの方へ足を向ける。

駅舎の裏手に、舞は座っていた。
使われていない車両の前で一心に絵を描いている。

「舞」
薫の声にも舞は反応を見せない。

(絵を描いているなら仕方ないわね、終わるまで待たないと…)
舞を見つけたことで安堵しながら、薫はその辺りをうろうろして時間を潰した。
684長編リレー ◆XYc/M5xvME :2007/06/30(土) 20:32:28 ID:FIi8/0Qi
ふう、と舞が息をついてスケッチブックから顔を上げたので薫はごくりと唾を
飲み込み話しかける
「舞」
「えっ!?」
舞はスケッチブックを取り落としそうになり慌てて体勢を直した。

「薫さん…」
振り返って薫を見ると少し後ずさりする。
「どうして、ここが分かったの?」
「風が教えてくれた。…舞の心が泣いているって」
「だって、そもそも薫さんが…」
「分かっている。すまない、舞。私が悪かった」
「……」
「舞との間に障害がなくなったのが嬉しくて、つい…気持ちのままに動いてしまった。
 舞をあんなに傷つけるとは思ってなかったんだ。反省してる」
「…本当に?もう、あんなことしない?」
「ええ。しないわ」
「……」
舞は無言で後ろを向くと、今まで描いていた車両に向って歩いていく。
「舞?」
長い草をかき分け、車両の後ろ側に行くと線路しか見えない。

「…舞?」
心配そうな表情で薫は舞に近づく。
「次の電車は30分後だから、それまでは誰もここを見ることはないわ」
「?」
舞は薫の手を取った。

「薫さん…キスして、いいよ」
「…いいの?」
「うん。二人きりの時に、キスしてほしい…」
薫は舞の体をそっと抱きしめると、目を閉じた舞に顔を近づけそのまま
軽く唇同士を触れさせた。舞がそれを受け入れるのを見て、より強く舞を求める。

顔を離すと、舞は目を開けて微笑んだ。
「いつも絵に出てくるの」
「え?」
「薫さんのこと、考えないようにしようと思って絵を描いていたのに、
 いつの間にか絵の中に薫さんを描いてしまっていて…」
舞が見せたスケッチブックの一番新しいページには古い車両の中に薫が乗っている。

「舞、この絵にあなたを描き入れることはできる?私の隣に」
舞は薫を見上げて「うん」と答えた。
「でも、薫さんの表情も描き直さないといけないから。こんな悲しそうな顔じゃなくて、もっと…」
「楽しみにしてるわ」
薫は舞と手を繋ぐと駅のホームに戻る。電車を待ち、二人で夕凪町へと帰った。
685 ◆XYc/M5xvME :2007/06/30(土) 20:34:00 ID:FIi8/0Qi
>682
いや、こちらこそ色々とすまん。
話を続けにくかったみたいなんでとりあえず舞と薫の話は終わってもよさそうな雰囲気にしておいた。
686名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/01(日) 13:01:13 ID:YvftL1Ej
どーすんだよこれ 俺は知らないからな
687長編リレー ◆XYc/M5xvME :2007/07/01(日) 20:12:27 ID:o+OuhgAx
薫がまだ一人で電車に乗っているころ、咲と満は……。

「やめて咲!今日は私の言うこと聞いてくれるんでしょ!」
満が乱暴とも思える力で咲を揺さぶり、咲はやっと変身を解く。
「満…」
「ねえ咲、あなた前、変身した時の自分のこと好きじゃないって言ってたじゃない。
 今でもそう?」
咲は俯いて考える。

「うーん……今は、良く分からない。満が好きって言ってくれるし、それに……
 母さんから受け継いだ力だから」
「そうね…」
「でもやっぱり、私の中の闇みたいなものが……」
咲の表情がまた変わって来たので満はぐっと手を握って咲を止める。

「ダークフォールのこと思い出したの?」
「うん……満や母さんのことを考える時、どうしてもあいつらのことも
 考えちゃう時があって」
「大丈夫よ、ゴーヤーンは咲のお母さんが封印してくれたんでしょ?
 あなたの代わりに。咲はその……大切な人のところにいなさいって」
「うん、そう。満のそばに」
満は顔をやや赤らめる。咲は手を引いて満を自分の方に抱き寄せた。

「さ、咲!?」
「満、好きだよ……」
そのまま顔を近づけようとした咲に、
「ちょっと待って」
と満は制止する。
「咲にお願いがあるの」
「なに?」



薫と舞は駅から少し急いで舞の家に向っていた。時間が大分遅くなってしまったので、
家族が心配しているかもしれないと思ったので、小走りになって家に向う。
家について玄関を開けると、可南子がすぐに出てきた。少し怒っているように見える。

「舞、遅くならないようにしなさいって言ったじゃない」
「ごめんなさい、絵を描いていたら時間が経ってて……」
「気をつけなさいね」
「ごめんなさい……薫さんありがとう、また明日ね」
舞は振り返り、自分の後ろにいた薫に向って手を振る。
「ええ。……また明日」
舞の家の扉が閉まると、薫はそのまま一人で歩き始めた。

「薫さーん!」
舞の声が聞こえたのは最初の交差点にも着く前だった。
「舞?どうしたの?」
「あ、あのね……」
走って追いかけてきた舞はしばらく息を整える。

「お母さんが、もし良かったら家に夕食、食べに来たらって」
「え?」
薫は意外そうな顔をする。
「薫さんに是非食べてもらいたいものがあるんだって」
舞は薫の手を取った。薫はそのまま舞について行く。
688長編リレー ◆XYc/M5xvME
「はいどうぞ〜」
可南子は食卓の上に山盛りのメロンパンを出す。

「お母さん、薫さんに是非食べてもらいたいものって、これ?」
「そうよ、満さんが咲ちゃんに教えてもらって作ったからおすそ分けって
 さっき持ってきてくれたの。料理もつくったから一緒に食べてね、薫さん」
「……はい」
(お母さん、やっぱり私たちのこともう気がついちゃってるのかな……)

初めてつくったものにしてはメロンパンは意外とおいしかった。
パンを頬張りながら、満は咲に褒められて喜んでいるんだろうと薫は思う。
満は今日咲の家に泊まるのだろう、という話になり、家に誰もいないなら
薫さんも泊まっていったら?と可南子に勧められる。

「え…でも、その……」
「遠慮しないで。舞が普段から、お世話になってるみたいだし」
お世話はされていても、したことはない。薫はそう思ったが、好意に甘えることにした。


「お母さん、私たちのことに気づいていると思うの……」
夜遅く、部屋で二人きりになると、舞は薫に話す。
「そうなの?」
「うん。昔、私が咲のことを好きなのも気づいてたみたいだったし」
「……」
「だから今も」
「それで私に今日泊まるように?」
「うん。多分。今日私たちが喧嘩したのは絶対分かってるはずだから」
「その……私は、親との関係が良く分からないんだけど…
 何かしたほうがいいの?」
「普通にしてればいいと思う」
「……そう」
「私たちがお互いに好き同士で、ずっと一緒にいたいと思っていることは
 お母さんにも伝わってるような気がするから」
「……」

薫は舞のそばに近づき、背後から舞のことを抱きしめる。
今は舞もそれを拒絶しなかった。薫にされるままになっている

舞の背中に走る2本の生々しい傷跡を見たとき、薫の顔は曇った。
(この傷は、ずっと残ってるんだな……)
舞の精霊の力は強い。滅びの力を消し去り、また全ての生き物を癒すこともできる。
しかし舞自身の背中にはその力によりついてしまった傷がはっきりと残っている。

ふと、思ったことがあって薫は体に力を込めた。
(舞のためだ!)
そう思った瞬間薫の体から光が生じる。
「薫さん?」
背後の薫の気配に気づいて舞が振り返る。
「動かないで」
変身した薫は舞の背中に手を当てた。