いきなりだが・・・
筋「どうした薫!なぜ本気をださない!」
薫(みのりちゃんの前では滅びの力は使えない・・・)
筋「私は本気のお前と闘いたい!そんなにその少女が気になるのなら・・・」
薫「な、何を!?」
筋「はあっ!!」
薫の隙を付き爆風を辺りにちらすキントレ
薫「!!!」
爆風で気絶したみのりを見て、薫は戦闘服に着替える。
筋「それでこそだ。やっと本気を出したようだな」
薫「みのりちゃんを傷つけるような真似は絶対に許さない!」
そのころ
満「は〜、メロンパンおいしい・・・薫、一緒に食べよー。薫?どこ?」
メロンパンを食べおわった満は薫の戦っている気配を感じ、海岸に向かった
満「かっ薫!!」
薫「満・・・」
満「無茶よ一人で!私も戦う!!」
薫「・・・満、みのりちゃんを連れてここから離れて、まきぞえをくらわないように」
満「で、でも!!」
薫、キントレスキーを睨みつける
満(ぞくっ)
満「わ、わかった、あなたの言うとおりにするわ」
薫「・・・」
満はみのりを連れて海岸から離れた
満(あれほどの怒りを感じた薫を見たのは始めてだわ・・・私がいても邪魔になるだけ・・・)
筋「やっと邪魔者がいなくなったな。これで心おきなく戦える!嬉しいぞ」
薫「そんなことのためにみのりちゃんを!!許さん・・・!!お前だけは絶対に許さんぞ!!うおおおおおおおっ!!」
筋「な、何っ!!」
薫(ニヤリ)
380 :
バトル1/2:2007/04/19(木) 17:42:08 ID:Ls8uHWhw
みのりを海岸に寝かせながら満は一人ごこちる。
「キントレスキー……バカな男……。
薫が本気を出さなかったのはあなたのためでもあったのに……」
哀れんだ視線で満が海岸に目を移すと薫がキントレスキーの必殺のストレートを受け止めていたところだった。
「なっ……まさかその細腕で私の一撃を受け止めるとは!
素晴らしい! 素晴らしいぞ薫!!」
「ふざけないでっ!!!!」
「ウォオオオオオオ!!!???」
叫び一閃、薫は受け止めた腕を掴みキントレスキーを投げ飛した。
キントレスキーは空中で器用に体を反転させ、バランスを崩すことなく砂浜に着地した。
口には愉悦の笑みが見える。
「素晴らしいこの緊張感! この闘気!! これぞ私が求めていた……グァッ!!」
キントレスキーの口上が終わる前に薫の蹴りがキントレスキーの腹部にめり込む。
その細い体のどこにそんな力があるのか?
一撃はキントレスキーの筋肉の装甲をたやすく打ち破った。
キントレスキーは体をくの字に曲げて悶絶している。
「これでっ! 満足なの!?」
ダメージが抜け切らないキントレスキーの顔面に回し蹴りが炸裂。 ガードも出来ず吹っ飛んだキントレスキーを薫は追いかけ、腹部を踏みつける。
「勝負あったわね……」
満は海岸から視線をそらした。 一応元とはいえ仲間だったものが一方的にやられるのをみるのは満にとっても忍びないものなのだろう、満もやはり優しい少女なのだ。
「キントレスキー……あなたは一番やっちゃいけないことをしたのよ……。
薫にとってみのりちゃんは力を押さえつける枷じゃないの……。
力の源なんだから……」
381 :
バトル2/2:2007/04/19(木) 17:43:42 ID:Ls8uHWhw
「こんなもののために!! こんなもののために!!!」
喉が潰れんばかりに叫んだ薫は、飛び上がり、地面にたたきつけられたキントレスキーに向って赤い光球……闇の力を集約させたエネルギー弾を連射する。
「こんなもの!! こんなもの!!! こんなものためにぃいいいいいいいい!!!!」
とめどなく続く爆発音、一撃で海岸線の形が変わってしまいそうな威力の破壊球がキントレスキーの体に数え切れないほどめり込んでくる。
「みのりをぉぉ、みのりぉおおおおおおお!!!」
血を吐くような叫びと共に薫は両腕を掲げた。
掲げた腕の先では闇の力を持つ光球がぐんぐん膨れ上がっていく。
その大きさは薫を超え、キントレスキーを超え、直径1km程にまで膨れ上がった。
「みのりを傷つけたのかああああぁぁあぁぁあああああ!!!!!」
絶叫と共にキントレスキーが倒れている海岸線に光球がたたきつけられた。
「グオオオォォォオオォォオオオオ!!!!」
閃光! 数刻後の大爆発!!
土砂が海岸線を埋め尽くさんばかりに跳ね上がり、大地が割れんばかりに鳴動する。
「まったく……やりすぎよ薫……」
満はみのりを爆発からかばうように抱き寄せた。
ゴオオオオオオオォォォゥウゥウゥゥ・・・・・・・
ようやく地鳴りがやみ、もうもうと立ち込めていた砂埃が消えると海岸線は別の形になっていた。
砂浜の三分の一は抉り取られ、巻き上げられた土砂が周囲一体を白く染め上げていた。
その様子を悲しげな瞳で見つめる薫。
穿たれた穴の中に、キントレスキーの姿はかけらもなかった……。
「お疲れ様……」
呆然とした表情で砂浜に下りた薫に、みのりを抱きかかえた満が声をかける。
「……傷つけたくないのに……」
「薫……」
「誰も……傷つけたくないのにっ!!」
砂浜に両膝をついて俯く薫の姿に、満はかける言葉を失っていた。
……流石にやりすぎました……orz
満薫咲とみのりが一緒にいるところに(舞とはぐれてしまい、咲はプリキュアになれない)また、ダークフォールの連中が現われた!!しかも今度は鼻水オバサンだ!!
満「や、やばいっ!!」
咲「満?」
満(早くこのオバサンに退場してもらわなきゃ、また薫がキレるっ!!)
咲「あ、ハナミズターレ!」
水「誰が鼻水よっ!絶対わざと言ってるでしょ!」
咲「だって、覚えにくいんだもん」
水「まあ庶民には私の名前はちょっと難しいかもしれないわねオッホッホ」
咲「しょ、庶民…」
水「次は私の名前ちゃんと覚えておきなさいよ!」
満(…行っちゃった…何しに来たんだろ)
ゴ「また会いましたねえ。おや?プリキュアが一人いませんねえ・・・これは絶好のチャンスというやつじゃないですか?」
咲「ゴーヤーン!!」
満(くっ!!よりにもよってこんな時に・・・咲と薫の怒りを買う前にどこかいっちゃいなさい!!この二人は無茶すると何するかわかんないんだから!!)
咲「満?さっきからぶつぶつ言ってどうしたの?」
満「な、なんでもないわ!それよりもあなた達は先に舞と合流しなさい。私はここでゴーヤーンをくいとめる!!」
咲「そんな!満を置いて行けないよ!」
満「・・・今、みのりちゃんを守れるのはあなた達しかいないのよ」
咲「!!!」
咲「・・・わかったよ。後でかならず行くからね。私、満を信じてるから」
満「ええ。あなた達も気を付けて」
咲、薫、みのりは舞を探しに森の中に入っていった
満「ここから先は通さない!あんたの相手は私よ!!」
ゴ「そうはいきません。プリキュアを倒すのが私の使命ですから。それっ!」
満「な、何!?」
ゴーヤーンは満を無視し咲にエネルギー弾を放つ
咲「うわあっ!!」
薫「咲!!」
咲「・・・私よりも、早く、舞の所へ・・!薫、みのりを・・・」
薫「し、しかし!!」
咲「行け!!早く!!」
薫「!!」
薫は傷ついた咲をしぶしぶ置いて、みのりと森の中に入っていった
しかし咲は今の会話で力尽き、気絶してしまった
ゴ「くっくっくっ・・・弱いですねえ人間って。たったこれだけでやられちゃうんですから」
満「・・・」
満「咲・・・」
ゴ「何を震えてるんですか?あなたの相手は私なんじゃないですか?」
満「さ・・き・・・」
満は傷ついた咲の頬をゆっくりと撫でる
満は咲達が自分達に今までしてくれたことを思い出していた
PANPAKAPANのバイト代のお礼にメロンパンをくれたこと
自分達をかばって戦ってくれたこと
自分がダークフォールの戦士だということを知っても咲は自分達を受け入れてくれた・・・
満「咲、咲!!」
咲が傷ついてから、震えが止まらない。涙も止まらない。
ゴ「何をぐずぐずしているのですか?さっきの威勢はどうしたんですか?あなた達全員、“殺しますよ!!”」
ゴーヤーンの最後のことばを聞いた瞬間、満の中の何かがはじけた!
満「うわああああああああーーーっ!!!」
満は自分の知らぬうちに戦闘服に着替えていた
一気に闇の力を増幅し、その赤いオーラを自らの中に取り込んだ
ゴ「な!?なんですか!?この力は!?」
満はニヤリと笑い、氷、それ以上の冷たい目でゴーヤーンを見る
満「全く・・・咲と薫を逃がした意味がないじゃない」
ゴ「!?」
満「後悔するのね。一番怒らせてはならないこの私を怒らせたんだから・・・」
ゴ「!!」
満「ずっと我慢してたのに、咲を傷つけたあなたが悪いんだから」
満「フフッ楽しみね。あんたがどんなふうに恐怖に顔を歪ませるのか」
もう満には普段の優しさが感じられなくなっていた。満は自分でもわからないくらいのスピードでゴーヤーンの所に向かい首を絞める。
満のその表情は相手をぶちのめしているという恍惚の笑みを浮かべていた
満「よくも、よくも咲を・・・。ボロボロにしやがって・・・」
薫(いやな気配だ…満の殺気がどんどん強くなっている)
薫はやっと舞を見つける
薫「舞っ!」
舞「薫さん」
薫「みのりを見てて。今、咲もここに連れてくるから」
だが、
水「させないわよ。このプリキュアは私が倒させていただくわ。プリキュアが二人揃う前にね」
シタターレが現れた!
この話、どうなるんだ?
「っ……」
いぶかしげに薫は舌を打つ。
正直今の薫にとってミズシタターレはたいした脅威ではない……むしろ問題はシタターレの後ろだ。
満と咲がいるはずの向こうで何かが起こっている。
胸がざわつくのだ、ビリビリと痛いくらいの殺気が肌に突き刺さってくる、しかも殺気は時間がたつことに膨れ上がっていく。
満がまずい状態になっている、一刻も早く行かないととんでもないことになる、そんな予感が膨れ上がる殺気に伴って大きくなっていきより一層胸をざわつかせる。
「どきなさいシタターレ!!」
「おぉーっほっほっほっほ〜〜、べ〜つに宜しいですわよ〜」
でもいいんですの? 私を残したら後ろの二人はどうなるかわかりませんわよ」
「っ……」
後ろを見る、舞が気絶しているみのりを抱きしめ身を硬くしていた。
「でもシタターレ! 今はこんなことをやっている場合じゃないの!
なんとなく貴女も感じるでしょ、後ろから何か恐ろしいものがやってくるのを!!」
「関係ありませんわ! 私をコケにしてくださったプリキュアの一人が変身もできず、貴女も満がいなくて本気を出せない……こんなチャンス私が見逃すわけないでしょ!」
「このっ解らずや!!」
薫は首にかけていた宝石を掴んだ。
薫と満のもうひとつの力の源……滅びの力を封じた宝石を。
薫の体を青い光が包み込む。
光は薫の体に纏わりつき、形を変えていく。
光から出てきた薫は、暗黒色の服をまとったダークフォールの戦士になっていた。
(満がいない以上、こっち(ダークフォールモード)で戦うしかない! 速攻で片をつける!)
「はぁあああああああ!!!」
「かかってらっしゃ……なっ!?」
「!?」
薫がシタターレと拳を合わせようとした瞬間、シタターレの後方から物凄いスピードで赤黒い光球が飛来し、シタターレの胸を貫いた。
「がっ……はっ……」
そのままシタターレは地面に倒れこみ、水へと姿をかえ地面に吸い込まれていった……。
元の姿に帰ったのだ……今の一撃で……。
「!?」
光球が飛んできた方向から莫大に膨れ上がった殺気が漂ってくる。
薫は舞のところへ飛びずさり、みのりと舞をかばうように抱きしめ、光球の出所を睨みつける。
舞は顔を真っ青にしながらガチガチと歯を鳴らしている……それはそうだろう、舞はプリキュアになれるとはいえ、戦いなんて点で無関係の普通の女の子なのだ、
こんな気持ちの悪い……尋常じゃない量の殺気を浴びたらこうなるに決まっている、まだ気を失わないだけこの子は強い……。
「きた……!」
薫は舞を抱く手に力を込めた。
暗がりの向こうから足音が聞こえる、さくさくさくと落ち葉を踏みしめる音が……。
静か過ぎる足音……殺気がこんなにも膨れ上がっているのに足音はあまりに静かでそのギャップがより一層殺気の主の恐ろしさをかもしだしてた。
暗がりを抜けて……殺気の主が姿を現す。
舞が絶句し、薫がため息をつく。
外れてほしいと思っていた……この殺気の主がゴーヤーンであればどれだけ救われたか……。
覚悟を決めた薫が声を上げる……。
「やはり貴女だったのね……満!」
そう、殺気の主は満だったのだ。
薫と同じ暗黒色の服に身を包んだ満は傷ついた咲をお姫様抱っこで持ち上げながら薫達に近づいてくる。
ゴーヤーンもいない、シタターレもいない、敵は一人もいないはずなのに……薫は今日一番の恐怖を感じていた。
近づいてくる満に薫は眼で牽制する。
「ちょっと薫……なんて顔してるのよ?
ゴーヤーンは倒してきたわ、安心なさい」
「……」
満の口調は穏やかなのに殺気が消えることはない……薫の背中を厭な汗が流れ落ちる。
ふと、満が薫の腕で震えている舞の姿に気付いた。
満の口元が歪む。 ルビーのように紅い瞳が細まる。
その表情は一言で言うなら愉悦……そう、狩る者が狩られる者を見つけたときにみせる愉悦の表情だった……。
満のあまりに嬉しそうな顔に、薫は思わず舞たちを抱きながら後ずさりしてしまった。
今、この顔を見て薫は確信した。
満のこの狂わんばかりの殺気が誰に向けられているかを……。
理由はわからない……どうして? 何故?? 疑問符ばかりが頭に飛び交う。
しかしどんなに疑問符を浮かべてもこの確信は揺るいではくれない……。
満は……舞に殺意を抱いている……という確信が……。
……自分で書いておいて難ですが、お話に収拾がつくのだろうかw
満の目が紅く輝く。舞を求め、じりじりと近付いてくる。
薫は舞たちを抱えたまま後ずさりする。
薫「満、何を考えているの」
満「決まってるじゃない。咲が二度と傷つけられたりしないように。
プリキュアに変身できなくなれば誰にも狙われないわ」
薫「だからって舞を‥」
木にぶつかり下がれなくなった薫は舞達の前に出る。
満「どきなさい。どかないなら‥」
満の宝石が紅く輝く。
薫(くるっ!)
薫が身構えると同時に満の腕の中の咲がわずかに動いた。
咲「だめ‥みちる‥」
咲の手が満の胸の宝石を握る。紅い光が咲の手に包まれる。
その瞬間、満の体は糸が切れたようにその場にがたりと崩れ落ちた。
たりない
一つの悲鳴じゃたりない
ゴーヤーンでもミズ・シタターレの悲鳴でもたりなかった
そうよ。人間の悲鳴で水増しすればいいじゃない
目の前の舞のね
そうすれば失った恐怖を埋められる
どうでもいい
久しぶりね。こう思ったのは・・・
満はついに闇に染まった腕を舞に振るった!
オケ。
ってか、389→391(満の内心)→390(薫から見た満)って感じでつながりそうな気がすると思った。
>>390 「ーーー満さん!満さん!」
「ーーーっ!?」
何もなかったように満の周りは元の色に戻っていた
「これ、夢なんでしょ?」
薫は強ばった顔で満をみつめている
満は辺りを見回した
木々も荒れ果て、目の前の舞の目尻には涙が溢れている
満「ま、い?どうして泣いてるの?」
夢じゃない。
薫は今の状況を否定していないように見える
「私がやったのね・・・」
「やめてよ満!」
「私が舞や緑の郷を・・・」
「満のせいじゃないよ!悪いのはゴーヤーンだよ!」
「フフ・・・舞も言ったわね。私達はアクダイカーン様の道具じゃないって」
満は力なく笑った
「アハハ、ほんとは違うのよ。みんな私が悪いのよ」
「違うよ!満は・・・」
「あなた達に何がわかるっていうのよ!ゴーヤーンと戦ってる時、心の中が変な気持ちでいっぱいだった。だけど今はわかるわ。私は楽しんでいたのよ!!」
「相手を傷つけるのが楽しくてしょうがなかったのよ!私は結局ダークフォールの住人なのよ!だから舞だって襲えたのよ!」
「私はあなたたちのようにはなれないわ。だって私が舞を襲ったんですもの。私は、私は、ダークフォール人、私は心も体も人間になれない!」
「バケモノなのよ!!」
満は月を仰いで絶叫した
>>394 咲達は眠っているみのりを抱え、それぞれの家に向かおうとしたが、すっかり遅くなってしまった
きっとみんな心配しているだろう。
咲はそう思いながらも満に話かけた
「ねえ満?私達は満達がダークフォールの戦士だとしてもずっと友達だからね?満は満だよ!なんにも変わらないからね。ねっ!?」
満「ありがとう咲・・・」
思いがけない咲の言葉が嬉しかった
しかし、満の心はすでに、苦く、重苦しいものがひたひたと感じられていた
満(また、今日みたいに何かのきっかけで闇の力が暴走するかもしれない。私は大切な咲にまで牙を向けてしまうかもしれない。)
満(私はみんなのそばにいちゃいけない。大切な人をこれ以上傷つけたくない。私は私自身でダークフォールに蹴りを付ける)
咲「満?おかしなこと考えてないよね?」
満はぎょっとした
咲「いまさら抜けるなんていわないでよね。私達は仲間なんだから。だけどまた満が今日みたいに闇の力が暴走するかもしれない」
咲「だけどそれもひっくるめて満だよ。それに、もう私達が満をあんな目に合わせない。私も満にそうさせない」
満「・・・そうね。どうせ私達はダークフォールからも裏切り者扱いだし、どこにもいくあてがないし、ここにいさせてもらおうかしら」
咲「それでこそ満だよ!」
満「じゃあ、ここでみんなと約束してくれない?また今度私がバケモノになったら私を殺してほしいわ。そうすれば恨みっこなしじゃない」
満がこう言ったあと、一同の空気が濁る。
咲「何子供みたいなこといってんの!?私達、あの夏、満と薫がいなくなって、どんな思いしたのかわかってるの!?それで“ああわかった殺すよ”って言ってもらえれば満足なの!?」
満「あなたになにがわかるのよ!私はこの手で舞を殺そうとしたのよ。これを帳消しになんてできないわよ!それにあの時、フフ・・・、舞の後はこの世界を滅ぼ・・・」
ぱちんという乾いた音が森の中に響いた
咲「最っ低・・・!!」
改行ミスったorz
満「――っ」
満は赤くなった頬を抑える。
咲「満、何にも分かってない!」
咲の目から涙が零れ落ちる。
咲「分かってない、私たちの気持ち、何にも分かってない!」
みのりのように咲は泣きじゃくった。
満「さ、咲……」
薫「舞、咲を頼むわ。満と二人で話したいことがあるの」
舞「え? 薫さん?」
薫は満の背後に回ると満を抱きかかえてそのまま飛び立った。
薫(本当は、私も満も咲や舞、みのりちゃんから離れるのが一番いい…
誰も傷つけずにすむ…だが……)
咲「みちる…かおるぅ……」
薫は満を落ち着かせるために海岸へ向かった
「満あなたはダークフォールモードになった時の狂暴な感情を恐れているようだけど、それはいずれ抑え、コントロールできるようになる」
「だから恐れる必要はない。満はこの力で自分の命と咲を守ったのよ。だから恥じることはない。こういうふうにしかけたゴーヤーンを恨むべきよ」
満はあの戦いの後、手を何度も何度も洗った
しかし、どれだけ洗っても生暖かいぬるっとした感覚が忘れられない
敵を切り裂きその血を浴びて自分が楽しんでいるのを
こんな自分がバケモノじゃないと言えようか?
満は今、咲を信じられない自分に苦しんでいるのだ
今、咲舞の前にダークフォールの連中が現われたらひとたまりもない
今の二人は完全に戦意を失っている
二人揃っていてもプリキュアにはなれないだろう
そんな不安がつのるような爆音が森の中から聞こえた
なんと咲、舞の前にはやられたはずのキントレスキーが現われた
「見つけたぞプリキュア!!満と薫がいない今、やっと一対一の勝負ができる!嬉しいぞ!」
「みちる、かおる・・・」
「咲・・・」
舞はみのりを抱いたまま、咲を心配するが、キントレスキーが現われた時、またあんな殺気を浴びるのかと、恐れ、顔も真っ青だった
「こないならこっちからいくぞ!!」
キントレスキーは一気にスピードを上げ、咲の前に立つ。
すでに戦意を失っている咲は攻撃を避けられず頭をわしずかみにされてしまう
親友がこんな目に合わされていても、舞は恐怖で動けずにいた
二人の危機を感じた薫
だが満はまだ自暴自棄のままだ
「咲達が危ない!満!あなたも一緒に!」
「・・・」
「満!」
満は思った。
このまま私達は咲達と一緒にいないほうがいい
誰も傷つけずにすむ
自分のこのまがまがしい感情も時が経てば癒えるだろう
咲はどこかで幸せに暮らしてくれればいい
それが自分にとっての幸せでもあるから
「咲を失ってもいいの!?」
「・・・」
「このままだと永遠に咲を失ってしまうのよ!それでもいいの!?」
薫は力いっぱい満に伝える
「これでいいのよ。咲が幸せなら・・・」
満はできるだけ強がって言う
「でも・・・」
咲がいなくなる
大切な、大好きな咲がいなくなる
ずっと咲の隣にいたい
「・・・やっぱり嫌よ」
咲ーーー!!
満は本能のまま飛び立ち、森の中へ向かった
薫も満の後を追う
いつのまにか戦闘服からダークフォールモードに変わっていた
赤い宝石が胸に輝く
ぐいぐいと森の中を突き進む満
「な、なんだこの速さは!?」
咲の頭を掴んでいたキントレスキーをはじきとばし、満は咲を抱き抱える
ふと、咲が自分の頬を見ると暖かいもので濡れていた
満?ーーー
満、泣いてるの?
薫「キントレスキー、どうしてあなたがここに!?あなたは私が倒したはず」
筋「倒した、だと?」
ゴーヤ「倒されてなどいませんよ。少しの間姿を変えていただけです」
一同の後ろから落ち着いた声がした。ゴーヤーンがゆっくりと近づいてくる。
満「ゴーヤーン…」
涙に濡れた満の目が怒りに染まる。ゴーヤーンはそれを見てにたりと笑った。
ゴ(あなたのおかげで面白い事を思い出しましたよ満殿…あなた方はダークフォールの戦士
としてはまだまだ未熟…)
ゴ(滅びの力を強力に放出しようとすればあなた方自身が滅びの力に支配される
ことになる…ダークフォールにずっといれば滅びの力の制御も自然と覚えたはず
ですが…自業自得ですね)
ゴ(強すぎる滅びの力にはあなた方の体も耐え切れない…滅びの力が暴走し続ければ
最終的にあなた方は自分の滅びの力で自爆してしまう…)
ゴ(さあ、満殿。薫殿。滅びの力を暴走させてしまいなさい。そして自らの力で
消し飛んでしまいなさい!)
ゴーヤーンの手に光球が生み出される。
ゴ(誰を攻撃しましょうかねえ…)
「ほぅ……お前達か! また会えて嬉しいぞ薫!!」
「咲を……離しなさい!」
「ふむ、そうだな」
トサっ……キントレスキーが気絶した咲を、ゴミを捨てるように放り投げる。
その音で我に帰ったのか、舞が急いで咲に駆け寄り介抱する。
「キントレスキー……あなた……何故……」
そのあまりにぞんざいな咲の扱いに薫の瞳に怒りの炎が燃え上がる。
「プリキュアが変身しないからだ」
さらりと言い返すキントレスキー。
その態度から見える咲たちへの侮蔑の念に、薫が拳を握り締める。
「どうして!? 昔のあなたなら戦わないもの、戦えないものには手を出さなかったじゃない!
咲は変身できなかったのに……どうして!」
「戦うことの出来ないものに価値など無い……それだけだ!!」
「っ……あああぁあぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
薫の中で何かが切れた。
今まで抑えてきた闇の力を全開にする。
「その闘気だ!! その気迫で向って来い!!
それでこそ本気を出せるというもの!!!」
嬉しそうにキントレスキーは叫ぶと、四股を踏むように地に脚を開いてかがみこみ、体に力を込めた。
「ふんぬぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!!!」
大気が鳴動し、森が吹き飛ばんばかりの叫び声と共に、キントレスキーの体が変貌して行く。
丸太のような腕はさらに膨れ上がり、ひと二人でも囲いきれないほどの腕周りになった。
ただでさえ厚かった胸板は破天荒なまでに膨らみ、もはや筋肉というよりは金属の塊のようだ。
髪は怒髪天をつき、高々と尖り立ち、髭が伸びキントレスキーの顔つきを紳士から一匹の野獣へと変えていく。
キントレスキーが己の力を全て介抱した状態キントレスキー・マキシマムフォームに変貌したのだ。
「たあああぁぁああああ!!!」
キントレスキーが変身するや否や跳ね飛ぶ用にキントレスキーへとつっこんでいく薫。
そんな様子にキントレスキーは堪えきれず笑みをもらした。
「はっはっはっは!!! いいぞ! いいぞ薫よ!! これが戦いだ!!
はあああぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
薫の胴回し蹴りとキントレスキーの必殺のストレートが、今交錯しあった。
「薫っ!!」
「おっとっと、あなたの相手はこの私ですよ」
薫に加勢しようと飛び出しかけた満を場違いなまでに穏やかな声が引き止める。
「ゴーヤーン……!」
「はい、さようです。 私の事を忘れてもらっては困りますなぁ」
ニヤニヤと笑みを崩さないゴーヤーン。
感情を読み取れない真っ赤な瞳と、裂けたように開かれた口から零れる微笑がただただ不気味だ。
「どきなさいゴーヤーン!」
叫びと共に満の手から闇の力を込めた光球が放たれる。
ゴーヤーンは飛び上がって光球を回避した。
表情は未だ……微笑が張り付いたままだ。
「お〜怖い怖い、いきなり攻撃だなんて穏やかじゃありませんなぁ」
「うるさいわね……だったら邪魔しないでっ!!!」
満の手から超スピードの光球が連続して放たれる。
しかしひょいひょいと事も無げにゴーヤーンはかわす。
浮かべる表情はやはり……微笑み。
「ゴーヤーン……何故貴方はさっきから笑ってるのよ! 不愉快だわ!!」
「おやおや、満殿がそれを仰いますかぁ」
「……どういう意味よ?」
「私はただ、満殿がずいぶんと嬉しそうなのでつられて笑ってしまっているだけなのですよ」
「?」
咄嗟に満は頬へ手をやった。
……目じりが下がり、口の端が持ち上がり、頬肉が釣りあがっているのが解る。
そう、気付かぬうちに満は笑っていたのだ。
しかし笑っているのを自覚した今、不思議と驚きは無かった。
むしろこれは必然のことであると納得さえ出来た。
納得するとこみ上げる嬉しさと共に、体に力が満ちてくる。
嬉しかった、この力さえあれば咲を傷つけたものを倒すことができるのだから……。
嬉しかった、この力さえあれば咲を守ることができるのだから……!
決めたのだから……咲を守るためなら鬼にでも悪魔にでもにでもなると!!
「ふふふ……そうかもね……。
咲をあんなにしたあなたをまた、倒せるのが嬉しいのかもねっ!!」
満がゴーヤーンに飛び掛った。
ゴーヤーンが顔をますますゆがめて笑う。
嬉しくてたまらなかったのだ、自分の思うがままにことが運ぶのが。
ゴーヤーンの蒔いた闇の種は、今、確実に満の心で芽吹いていた。
…………咲と舞を活躍させてバトルに持っていって終息に迎えるようにしようとしたのに
どうしてこうなっちゃったんだろう……。
薫「はあああああっ!」
薫はキントレスキー目掛けて蹴りを浴びせる。キントレスキーの繰り出したストレートを
紙一重のところで避けると筋肉も裂けよとばかりにキントレスキーを蹴りつける。
筋「がはっ!」
命中したとたんキントレスキーは妙な声を上げたが、しかし同時に薫の足を掴むと
薫を振り回して地面へと叩きつける。
筋「うおおおおおっ!」
雄たけびと共にキントレスキーは飛び上がり薫の真上から
のしかかろうとするのを間一髪、薫は避けるとキントレスキーの背後を取り
滅びの力の光弾を浴びせかける。
しかしキントレスキーはその腕で光弾を防ぐ。左腕からばらばらと
金の破片が落ちる。
筋「どうした、薫。お前の本気はこんなものか」
薫「…」
筋「私はこの姿になったのだ。お前も本気を見せるがいい。お前が見せないというのなら…」
キントレスキーはその目をがっと見開き、薫ではなく舞と咲を見据えた。
薫「!」
筋「うおおおお!」
キントレスキーの一撃が大地を破る。地割れが舞たちに向って一直線に走る。
薫「舞!咲!」
舞い上がった土煙で二人の姿が見えなくなった。
筋「敵に後ろを見せるな!」
キントレスキーの右ストレートが薫の背中を直撃する。
薫「ふ……くくくくく……」
薫は一度地に這ったが笑いながら立ち上がった。
薫「そうね…あなたのことを倒さなければ…あなたを、滅ぼしてしまわなければ…」
滅ぼす…ほろぼす……何もかも……!
薫の胸の宝石が青白く輝き始めた。ゆったりと明滅する。
光が灯るたび、その強さが増していく。
舞「咲!お願い、目を覚まして!」
舞は必死に咲に向って呼びかける。
キントレスキーによる地割れを何とかよけたものの、舞の全身はがくがくと震えている。
キントレスキーが怖いのではない。
先ほど浴びた満の殺気――と似た殺気を、土煙の向こうに見える青い光の中に感じる。
舞(薫さんまで…満さんみたいに?)
舞「お願い、咲、起きて!」
怖い。この場から逃げたい。それでも舞は必死に咲に呼びかける。
舞(咲、私たちが何とかしないと、このままじゃ薫さん達が!)
>>406 咲がいっこうに目を覚まさない
舞が咲を介抱するものの、回復の兆しが見えない
「よそみをしてはいけませんよ。そんなにプリキュアが大事ですか?」
相変わらずゴーヤーンは笑っている
しかし満はわずかに動いたゴーヤーンの口の端を見逃さなかった
(咲ーー!!)
咲がまた傷ついてしまう
(私が本気を出すしかない!だけどーーー)
満はダークフォールモードになることを恐れている。またあの時のように暴走してしまうからだ
海岸で薫からダークフォールモードになることはなんら難しいことではない。
重い荷物を持ち上げようとしても持ち上がらない
ならば、“よし、本気をだしてみよう”。
姿、形が変わるのは結果にすぎない。
これがダークフォールモードなのだ。
ということを教えられた
満は反対に聞いた
“じゃあ薫は暴走を止めることを誰から教わったの?”と
すると薫は自分で学んだと言った
しかしその後、続きがあり、“私一人の力ではない。満やみのりちゃん、何より咲と舞が教えてくれた”のだと
>>407 ダークフォールモードが使えないからといって、このまま咲を見殺しにするのか。
咲がまた傷ついてもいいのか?
また心に殻を閉ざしてひとりで生きていこうというのか。
「そんなのできるわけないじゃない」
満は言った。
「そんなの私は絶対にイヤよっ!」
身体の奥で熱い塊りが爆発した。
何かに突き動かされるように、満は咲目がけて走りだしていた。
また咲を傷つけたくない!
咲を失いたくない!
その本能を超えた走りは咲に向けられたゴーヤーンの攻撃もかき消していた
瞬時のうちにダークフォールモードになった満の走りによって巻き起こされた煙が、ごうごうと音を鳴らしている
満は涙を流しながら両腕に咲を抱き抱えている
>>408 満が泣いてるーーー
ダークフォールモードの満から出される殺気は恐ろしい
赤い光が満から醸し出されている
しかし咲は不思議と恐怖を感じていなかった
流れる満の涙は暖かい
それが咲の胸の奥にまで響いた
「満・・・!!」
咲の瞳から熱いものが溢れ出し、咲の頬を濡らしていった
「満ごめんね・・・。もう泣かないで。ごめんね満・・・」
咲は満がダークフォールの戦士だと知っても受け入れられた
“られたはずだった”
実際にダークフォールモードになった満ね殺気を感じて恐いとさえも思った
しかし咲は手を伸ばして満のうなじにかかった、少し癖のある毛先を優しく撫でた
「すごい寝癖・・・。やっぱり満は満だよ・・・」
「私、満達を信じるとか思っていても、満が暴走した時、満のこと恐いって思ったの。」
「・・・満。私ってひどいこと言ってるよね。ダークフォールモードになったって、今の満、何にも変わってない。私バカだった・・・。満も私もバカだった。ね?そうだよね、満?」
そう言って笑った。
泣きながら笑った。
もうちょっと咲の心情を描けばよかったかなあorz・・・
ああ・・・誤字発見orz
咲「ごめん…ごめんね満…満たちはずっと、私たちを守るために必死になってくれたのに…」
咲の目から溢れる涙は止まらない。
ゴ「何をごちゃごちゃ言ってるんです!?」
ゴーヤーンが滅びの暗黒球を満の腕の中の咲目掛けて放つ。
満は腕を軽く振ると光弾を放ち暗黒球を破壊すると同時に第2波でゴーヤーンを攻撃した。
咲はもぞっと動くと満の腕の中からすり抜け満と正対し、
両腕で満の体を抱きしめる。
咲「今度は私たちが満たちを守るから…必ず守るから…」
咲は満の頬に流れる涙を自分の手で拭き取った。
満はどこか焦点の合わない目で咲を見ている。
咲「だから満、少し休んでて…ね?」
抱きしめる腕に力を入れ、満をその場に座らせる。
満は抵抗する様子を全く見せなかった。咲はそのまま満の体を横たえる。
咲「お休み」
耳元でそっと囁くと、満は素直に目を閉じる。
目を閉じた後も満の涙は流れ続けていた。
咲「……」
舞「咲」
舞はいつの間にか咲のすぐ近くまで来ていた。二人は顔を見合わせて頷く。
少し離れた場所から薫とキントレスキーが戦う爆音が聞こえる。ちらちらと青い光が輝くのも見える。
「デュアルスピリチュアルパワー!」
咲(今度は私たちが…)
舞(満さんと薫さんを…)
咲舞(絶対に、守ってみせる!)
光の中からキュアブルームとキュアイーグレットが現れた。
そろそろ変身しないと咲舞の活躍がなさそうなので。
咲「よくも満と薫を・・・許さない・・・」
あまりの怒りで唇を噛み切り、そこから血がしたたり落ちる
ゴ「やっと変身しましたか。待ちくたびれましたよプリキュ・・・!?」
ゴーヤーンが最後の台詞を言う前に咲の拳が繰り出される
ゴ「な!なんですか!?いきなり殴ってくるなんて!?」
ゴーヤーンは痛そうに自分の顔に手をあてる
咲「・・・はずしてあげたじゃない」
ゴ(拳圧で切れたっていうのですか!?)
どくどくと血がたぎり、力がみなぎってくるのがわかる。
この得体の知れない力は舞と二人でいる時の力とはなにか違う。
しかし咲はその力を恐いとは思わなかった。
今まで感じたことのない怒り、力。
それが今の咲には“楽しい”とさえ思っていた。
舞(さ、き……?)
咲はゴーヤーンに拳を繰り出す。しかしそれが完全にヒットすることはない。
わずかなところで拳ははずれ、ゴーヤーンに細かい傷ばかりを与えていく。
初めは、ゴーヤーンが素早く逃げているのかと舞は思った。しかしよく見ると、
咲はわざと拳をはずしているように見える。
相手をいたぶって楽しんでいるかのように。
上空にきらりと光るものがあった。
舞(……?)
それはとてつもない速さで落下し、舞たちのすぐ近くに落ちる。
筋「ぐおっ!」
大地に落とされたキントレスキーを上空から冷たい目で見下ろすのは、薫。
彼女自身も無傷ではなく、体のあちこちが傷ついている。
頬についた大きな傷からは血が流れ特に目立っていた。
だが薫は、冷たい殺気を帯びながら薄笑いを浮かべキントレスキーを見下ろしていた。
“暴走を止める方法は自分で学んだ”
海岸で薫が満に言った言葉は決して嘘ではない。薫は自らの闇の力を意識の鎖で
がんじがらめに縛り上げてきた。
力が必要になれば、少し鎖を緩める。
もう少し必要になれば、更に緩める。
ただし最後の一本の鎖だけは絶対に緩めない。これを緩めてしまえば
おそらく闇の力が自分の手には負えなくなるから――と、薫はそこまで自覚していた。
しかし、キントレスキーと対峙し、一本、もう一本と鎖を解き放っているうちに
とうとう薫は最後の一本も外してしまった。
キントレスキーが野獣なら、今の薫もまた闇の力に身も心も明け渡してしまった獣である。
筋「うおおおおおおっ!」
完全体と化したキントレスキーが地面を蹴り薫へ向かう。薫も上空から
キントレスキー目掛けて突き進む。
両者の軌跡が交錯、薫の腕がキントレスキーの体を抉る。
筋「うああっ!」
キントレスキーは悲鳴をあげ再び舞たちのすぐ近くに墜落する。
薫は腕を振り上げた。その手に滅びの力が宿る。
滅びの力を込めた弾が薫の手の上でみるみる大きくなっていく。
舞「薫さん、やめて!みんなここにいるから!咲も満さんも!」
その大きさに焦りを覚えた舞が叫ぶ。しかし薫はそれを無視して
滅びの力を投げつける。
舞「満さん!」
横たわる満を抱きあげると「咲も!」と舞は咲の首根っこを掴んで少しでもキントレスキーから
離れようとする。
薫の放った暗黒球はキントレスキーを消し去った。
まだ足りない、まだ物足りないというように薫が再び手の上に暗黒球を産み出す。あ
415 :
414:2007/04/23(月) 23:08:45 ID:VTHTsNIO
最後の「あ」は無視してくださいorz
うざいよ
>>414 薫は第二波の攻撃を舞に向けて放った
舞は自分の持てるプリキュアのすべての力を使ってみんなを守ろうと淡い光から強い光を解き放とうとする
だが、自分が光のバリアーを生み出す前に後ろからさらに巨大な光球が薫に向かって繰り出された!
その光球を受けた薫は、今まで発せられていた殺気が嘘のように感じられなくなり、薫はその場で気を失ってしまった
舞はさらに恐怖を感じた
誰が薫さんを?
でもこの攻撃は・・・
嘘よ!そんなことあるはずない!
舞は、おそるおそる後ろを向くと薄ら笑いを浮かべた咲が立っていた
「咲!?ねえ、あなた咲なの!?どうしてこんなことするの!?」
豹変した咲に泣きじゃくりながら叫ぶ舞
「ちぇ、はずしたかな?」
咲の放った攻撃の後ろ、さらに後ろを見るとゴーヤーンが立っている
茫然と立ち尽くした舞を無視してゴーヤーンと対峙する咲
ゴーヤーンはそんな咲をみて薄気味悪い笑みを浮かべている
(そうですよ。その目ですプリキュア殿。もっともっと怒りを感じなさい。そして爆発させるのです。なぜならキュアブルーム、あなたは・・・)
「こんなやつ、もっと苦しめてやらなきゃ・・・」
「許さない・・・」
「うわあああああーーっ!!」
咲は叫びとともにゴーヤーン目がけて走り出し、片手でゴーヤーンの首を締め上げる
咲は楽しんでいた
プリキュアに変身して満と薫を傷つけた張本人をブチのめすことができるのを
舞は驚きと恐怖を感じていたが、それよりもさらに不安がつのった
今、自分達の心が同じじゃない
同じじゃないと変身が解けてしまう
舞の不安をよそに、咲が空いている腕でゴーヤーンの顔面に拳を振るおうとした瞬間!
ゴ(さすがといったところでしょうか。変身が解けても攻撃はやめない。しかも力はどんどん大きくなっている。くくく・・・おもしろいですねえ)
咲の様子が変だ・・・
変身が解けても力が出せている
こんな咲、今まで見たこともない
まるでさっきの満や薫と同じような・・・
「どうしたのよゴーヤーン・・・まさか恐くて動けないって訳じゃないでしょうね?」
キュアブルームから日向咲の姿に戻っても攻撃はやめない。
(やはりあなたは光と闇を繋ぐゲート!さあ怒りでその門を開いてしまいなさい!そして光は闇に滅ぼされてしまうのです!そして新たな世界に君臨するのが、この私です)
何コレ
キモイんだけど
爆音を立て薫の体が地面に落ちる。
咲の攻撃を受け気絶していた薫はその衝撃で目を覚ました。
ゆらりと立ち上がると再び殺気が身に纏いつく。
耳を澄ませば咲とゴーヤーンの戦う音が聞こえてくる。
だが、薫は戦っている者が咲だとは認識していなかった。
先ほど自分の邪魔をし攻撃してきた者。薫の認識ではそれだけだ。
咲だけではなく、舞やゴーヤーンといった者たちもただ自分とは
違う者、自分の邪魔をする存在とだけ現在の薫には認識されている。
今の薫でも、眼前に満やみのりが出てきたら少し違うかもしれないが――、
それ以外の者たちは漠然としてしか認識していなかった。
満とみのりだけではなく、咲や舞、緑の郷の者たち。
それらを守るために、薫は本来力を出そうとしたはずである。しかし今の薫には
そんな意思はない。
ただ目の前のものを滅ぼしたいだけである。
「矛盾してるわ」
いつもの薫なら自分自身の行動についてこう評しただろう。
薫は確かに矛盾していた――しかし、そんなことには気づかなかった。
もはや薫には、少し前までの自分の思考を思い出すことができない。
そんなものがあったことにさえ気づいてはいない。
ただ自らの体の奥から湧き上がってくる力に従っているだけである。
薫は地面を蹴り走る。目指すのはただ、咲である。
ゴーヤーンの首を絞めている咲を、薫は体当たりで弾き飛ばした。
咲がゴーヤーンから手を離す。
ゴーヤーンは少し離れたところまで飛ばされ、起き上がってその風景に
にやりと笑った。
滅びの力を帯びた咲と薫がにらみ合い対峙している。
「咲!薫さん!やめて!」
舞の声に二人は耳を貸す様子もなく右ストレート同士がぶつかり合った。
「無駄ですよ、キュアイーグレット殿。いえ、今はただの美翔舞殿ですか」
ゴーヤーンは近くの木の枝に座り、文字通り高みの見物を決め込む。
「なんで…どうしてこんな…」
「これが運命ですよ」
ゴーヤーンはへらへらと笑った。
「全てのものは必ず滅びる――今日その時が来たんですよ。
ご覧なさい舞殿、咲殿と薫殿を。もし薫殿が咲殿を消してしまえば、
もうプリキュアに変身できる者は居なくなります。
咲殿が薫殿を消してしまったら、もう咲殿は二度と正気には返れないでしょうなあ。
どちらにしても、これまで散々私の邪魔をしてくれたプリキュアと
満殿薫殿をかなりの部分無力化できるのですから、もう私がこの世界を頂くのに
大した支障はありませんよ」
「そんなこと、絶対に…!」
「舞殿、無理を言うのはおやめなさい。プリキュアに変身できないあなたに
何ができるのです?そうだ、あなたは絵を描けばいいのですよ。
この世界が滅んでいく様をね。見る人は誰も居ないでしょうが」
嘲けるゴーヤーンに向って舞は悔しそうに唇を噛み締める。
「う、うわああああ!?」
薫の叫び声で二人の会話は中断された。おや、とゴーヤーンが呟く。
薫は腹の辺りを苦しそうに押さえたかと思うともんどりを打って地に転げる。
体を丸め、自分の手を見た時薫は恐怖の声を上げた。
舞にも薫が何に恐怖したのかが見て取れた。薫の皮膚が変色していっている。
本来の白に近い肌色から、その戦闘服のような暗黒の色に変わり始めている。
「薫さん!」
たまらず舞は駆け出した。咲が光球を薫に向って放とうとしているのが見える。
薫はそんなことに気づく余裕もなく、びくんびくんと痙攣して地面を跳ね回っている
薫に抱きつく。
(おやおや、全く。薫殿はもう限界ですか…)
ゴーヤーンの目には、薫が消滅寸前と映る。
滅びの力を暴走させ続けた結果はこれだ。
「どいてよ、舞」
咲は相変わらず薫に――舞にも――光球を構え、見下ろしている。
「薫さんに、そんなことしないで!」
「どうして?」
咲は笑った。
「それはいけないことなの?」
「だめに決まってるじゃない!」
舞は咲をきっと見上げた。
「薫さんは、私たちの大切な……」
「良く分かんないなあ。でも舞、どいてよ」
「嫌よ!」
「…それなら…」
咲は腕を振り上げた。薫がまだびくびくと痙攣している。
舞は思わず目を閉じる。…咲の光球を覚悟した。……
近くの木々の震える音がした。
「…よしなさい、咲。あなたには似合わないわ」
光球の衝撃の代わりに冷静な満の声が聞こえてくる。
目を開けると、咲の姿。その後ろに満が――咲を羽交い絞めにしている。
咲の光球は満によって進路を外され舞たちへの直撃は免れたようだ。
「満さん!どうして」
満の体からは張り詰めたような緊張感が漂ってくる。しかし
あのまがまがしい赤い光はどこにもなかった。
力を込めていながら、満は凛とした気配で咲の後ろに立っている。
「咲と薫が苦しんでいる声が聞こえたから。目が覚めたの」
「満さん…」
「咲は任せて、舞。薫を頼むわ」
「分かったわ!」
舞の下の薫ははあはあと荒い息をついている。
痙攣は治まったように見えて、時々思い出したように
体が跳ねる。
「薫さん落ち着いて…しっかりして…大丈夫だから。みのりちゃんも私も
咲も満さんも、薫さんのそばにいるから…」
頼むわと言われても、薫をどうすればいいのか舞に分かっているわけではない。
ただ舞は静かに薫に語り続けた。それしかないと確信しているかのように。
「薫さん」
薫の両手に、舞はそっと自分の両手を重ねる。
薫の手は恐ろしいほど熱くなっていた。今にも燃え出しそうに。
「大丈夫…大丈夫だから…」
舞は指を開き、薫の両手の指と絡める。かっとした熱さが舞の手にも伝わってくる。
「つめ…たい……」
「え?」
「冷たくて…気持ちいい……」
舞の下になっている薫が初めて言葉を発した。しかも言っていることがまともだ。
口調も穏やかである。…舞は顔を上げ、まじまじと薫を見た。
薫は目を閉じ、苦しそうに息をついている。
舞は薫の胸に耳を当て、鼓動を聞いた。恐ろしく早く打っている。
手を握る力を強くした。――薫が、握り返してきた。
自分が慣れてきたせいかもしれないが、薫の手がずいぶん冷めてきたような気がする。
「薫さん……聞こえる?」
もう一度薫の顔を見て囁くと、薫はようやく目を開けた。
放せ、とばかりに満の腕の中で咲は暴れる。
「やめて咲!」
満の腕の中から力ずくで抜け出すと、咲は満と相対し拳を放った。満は逃げない。
ただそれを受け止め、正面から咲を抱きかかえる。
咲がまた暴れる。
満の胸の宝石が赤く光った。
(咲、あなたは私を助けてくれた…だから今度は私があなたを助ける)
(滅びの力で苦しいのなら、私があなたの滅びの力を全て引き受けるわ)
「放せ!」
力が抜かれて行く――咲はその事実に気づき満から離れようと暴れた。
咲の中の滅びの力が満へと流れて行く。それにつれ満の赤い宝石が輝きを増す。
満は腕により一層の力を込め、咲の体を固定した。
「やめろ!」
咲はまだ暴れる。意を決して、満は咲の唇に自らの唇を重ねた。
体を完全に密着させ、満は咲の滅びの力を吸収した。
腕の中の咲の抵抗が次第に弱まってくるのが分かる。
力の抜けた咲を、満は地面へと押し倒す。――そこでようやく、咲の体から
自分の体を引き離した。
「み、みちる……」
咲の目からは今までのようなきつい光が消えている。
たれ目に近い、優しい目つきが咲に戻っていた。
「苦しいの、なくなった?」
「う、うん満……ありがとう。でも、満、満が…」
咲は赤く輝く満の宝石を見て泣きそうになった。また満を暴走させてしまうのかと怖れた。
「大丈夫よ」
満は咲に笑ってみせる。
「咲たちが教えてくれたから――滅びの力をコントロールすることを」
満が胸の宝石に手を掛けると、すっと光は収まった。
「薫さん……大丈夫?」
舞は薫の胸の上で尋ねる。薫の手は舞の髪を優しく撫でている。
「ああ…熱さがほとんどなくなったわ」
暗黒の色に侵され始めていた薫の皮膚も、今はもうほとんど人の肌色に戻っている。
「ありがとう、舞」
「ううん、そんなこと……」
「こうなるような気がしていた」
「え?」
「滅びの力に身を委ねる時、きっと咲や舞たちが私を助け出してくれるような気が
していた」
「うん…」
舞は薫の胸の上で頷く。さて、とばかりに二人は立ち上がった。
ようやく、四人が揃う。正気に返った四人はそのまま木の上のゴーヤーンを
睨みつけた。
「やれやれ、あなた方は本当にしぶといですねえ…」
大げさな身振りでため息をつくゴーヤーンを四人は黙って見つめる。
「作戦がうまく行きませんでしたから、今日はもう帰ることにします。
それでは皆さん、またいずれ」
一方的に言うと、ゴーヤーンは地面に向って飛び降りる。
そのまま開いたダークフォールへのゲートを通り、ゴーヤーンの姿は消えた。
四人は追わなかった。それよりも大事なことがあるのだ。
「ごめん、みんな!」
最初に謝ったのは咲――みんなを攻撃して、と謝る。
「咲、謝るのは私の方よ…最初に暴走したのは私だもの」
「いいえ、私もよ。私があんな風に咲たちを攻撃したりしたから」
満と薫が口々にいい、「暴走していないのは舞だけだ」と、はたと気づく。
「ごめんなさい…」
三人が頭を下げると、舞は慌てて、いいの、と答えた。
「みんながちゃんと帰ってきてくれたから…」
咲は少し離れたところでぐっすりと寝ていたみのりを抱き上げた。
空を見ればもうすっかり遅くなっている。
「本当に遅くなっちゃったなあ、お母さん達怒ってるかも…」
「そうね。でも、無事に帰れるから…」
舞の言うことには妙な重みがある。
「じゃあ、帰ろうか。満、薫、一緒に帰ろう。私たちの町まで」
四人は静かに歩き始めた。波の音だけが聞こえてくる。
顰蹙も買ってるみたいなのでとりあえず終息させてみた。
書こうとしていた人がいたらごめん。
>>425 せっかく終わらせたのにスマン。
それぞれの家への帰り道ーーー
咲「ゴーヤーンの作戦・・・。あいつは始めから私達を・・・」
舞「うん・・・闇と光を繋ぐゲート・・・」
咲「それが、私・・・」
舞「・・・」
自分は普通の人間だ。
咲はずっと思っていた。
しかしプリキュアに変身したり、何より今日、満や薫のような力を使った。
今の咲は『私は人間だ!』と、胸をはっては言えない。
自分の中にもう一つの力が隠されている。
実際にその力で舞達を攻撃したのだから。
満「咲、きっとゴーヤーンは、また私達を狙ってくる」
咲「・・・」
満「だからあなたの中にある滅びの力を・・・」
咲「滅びの力って何よ!?」弾かれたように満は身を堅くする。咲は続けた。
咲「私は普通の人間じゃないの!?私はお父さんとお母さんの子じゃないの!?私は光の力を持つ伝説の戦士プリキュアなんじゃなかったの!?」
舞は『落ち着いて』となだめるが、それが逆効果だった。
咲「落ち着く!?そんなのできないよ!舞は暴走してないから私の気持ちがわからないのよ!」
「私は滅びの力に支配されて、まともにものが考えられなくなった!満や舞や薫にだって攻撃したのよ!しかもその時私は“楽しい”って感じたのよ」
「何がゴーヤーンの作戦よ。この私がブチ切れればダークフォール全部がこっちの世界にくるんでしょ?そうなったら私、舞達の敵になっちゃうかもしれないのよ?私、どうなっちゃうんだろう・・・。私、これからどうすればいいの?」
咲は泣きじゃくりながら満に身を委ねる。
満「・・・咲、ゴーヤーンは滅びの力が暴走すればゲートが開くと言っていた。つまりあなたの、その滅びの力を暴走させなければいいのよ」
咲「そんなこと、急にできないよ・・・」
満「大丈夫よ。私が教えるわ。あなたが教えてくれたんじゃない。滅びの力をコントロールする方法を」
咲「・・・うん」
満は今、思いついたように咲を抱き抱える
咲「え!?ちょっ、満!?」
満「ちょっと咲を借りていくわ」
舞「満さん、何も今じゃなくても・・・」
満「訓練は早いほうがいいわ。いつまたゴーヤーンが襲ってくるかわからないしね」
満はそう言って咲を抱えて海岸に向かった。
舞「咲〜・・・満さぁ〜ん・・・」
海岸に着いた二人ーーー
その後すぐに薫達もやってくる
辺りは月に照らされ闇に満ちている
咲と満がいる場所に薫達が駆け寄る
薫は海岸に行く前に咲の家に寄って、みのりを置いてきた。これ以上、危ない目には合わせたくないから
さて、というように、満は胸に隠してあった赤いペンダントを取り出す
それを見た咲は・・・
咲「ねえ、プリキュアになってから特訓したほうがいいんじゃないかな?」
満「いいえ。このままでやるわ」
そのままなんて危険なんじゃ?と舞が問うが
満「プリキュアの力は光。滅びの力は闇。その両方を持つ“咲”の姿で学んだほうがいいのよ」
咲「で、でも・・・」
また自分の力が暴走してみんなに攻撃してしまうと恐れている咲は中々訓練に取り掛かれない
満「大丈夫よ。あなたはもう暴走しないわ。それともあなたはまた私達を傷つけたいの?」
咲「し、しない!そんなことしないよ!絶対に!!」
満「そう。なら早く始めましょう」
咲「・・・」
うまく丸めこまれたような気がする
咲「でも、どうすればいいの?」
満「始めは力を使うよりも力の引き出し方を学ぶのよ」
咲「引き出す?でもあの時は暴走してたからどうやって出したかわからないよ・・・」
満「そうね・・・じゃあ、あなたがプリキュアになった時、精霊の力を出す要領でやってみて」
咲「うん・・・」
(プリキュアになって精霊の力を使う要領、そして限界を越える意思をっ!)
力をこめながら咲は呪文のように言った。
(私の中のもうひとりの私、お願い目覚めて!)
胸の鼓動が高鳴ってゆく。
太鼓の音のように。
どくどくと胸の底に熱く、硬いものが生まれた。
それがゆっくりと身体のなかをせりあがってくる。
滅びの力が迫っている。
あとはこの熱くて硬いものを解き放ってしまえばいい。
しかし、どうしても衝動を解き放つことができなかった。
恐い
咲は満が言っていたことを思い出していた
あなたたちにはわからないわよ!自分が自分じゃなくなる恐さが!と。
(わかるよ、満。今の私には満の気持ちがわかる)
満は負けなかった。
恐怖に打ち勝って、咲を心の闇から救い出してくれた。
「だから私も負けないっ!」
オナニー
このスレ、見てる人どれくらいいるんだろう。
何げにリレー小説。
だが、それがいい。
>428
(おやあ……?)
ダークフォールのゴーヤーンは滅びの力が発動した気配に首を傾げる。
隠れ家から出て見上げると、ダークフォールの空に大きく亀裂が入り
光が射している。
亀裂といってもわずかなものだ。
(日向咲殿、訓練でもされているんですかねえ……)
部屋に帰って茶を飲み、ゴーヤーンは次の一手を考え始めた。
プリキュアの二人、それに満と薫がどうしてあのような力を出せるかと言えば、
あの四人が強い絆の力を持っているからである。
今回の作戦も、そのせいで失敗したと言っていい。
(ならば、絆を壊してしまえばいいわけですが)
ゴーヤーンは茶碗を置き、具体的な戦術を考え始める。
(あ……熱い!力が…みなぎってくる!)
咲は己の力をほぼ解放しようとしていた。体の内の熱いものは
完全に咲の体を満たしている。
血液が荒々しく流れる。心臓が恐ろしいほど早く打つ。
(早く…滅ぼしたい…何かを…誰かを……)
この熱い塊を早くどこかに吐き出してしまいたい。
咲の視界の色が変わる。はっきりとした、それでいてどこかぼんやりとした
輪郭の世界。
目に紅く、満の姿が映る。咲は微かに目を細めた。
(満、…私の滅びの力の暴走を止める方法なんてない…そのことを、教えてやる!)
もう一人の咲がはっきりと覚醒する。
「うわあああ!」
咲は突進すると、滅びの力を帯びた腕を満目掛けて振り下ろした!
バトルものが延々続いてるけど(完結するのかどうか分からないが)、
他のネタ書きたい人は気にせずにどんどん書いてもらったほうがいいと思う。
【ムプー】プリキュアSS 満と薫を語るスレ11【ププー】
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1175595121/ から転載。
599 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[] 投稿日:2007/04/30(月) 00:58:17 ID:c+MkwSsB
薫「私のみのりちゃんを愛する心はパーフェクトな筈よ!」
咲「あははははっ」
600 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 09:01:04 ID:bsi6ErCK
薫「満・・」
満「なに・・」
薫「どうして、私は咲に笑われたの?」
満「・・・・」
・・・に、続けて
満「つまり、薫がみのりちゃんを思う気持ちは全然パーフェクトじゃないと咲は
思ってるんじゃないかしら」
薫「そ、そんなことはないっ!」
満「咲はみのりちゃんのお姉さんよ。咲がみのりちゃんを思う気持ちの方が
ずっと強いから、笑ったんじゃない?」
薫「そ・・・そんな・・・姉というものはそこまで強いのか・・・」
満「そうよ。・・・薫、姉としての愛を少し勉強してみたら?」
薫「勉強?どうやって?」
満「目の前に、あなたの妹がいるでしょ。少しは妹のことも思ってみたら?」
とか思った。
435 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/01(火) 11:44:12 ID:ww60/x+u
舞にカンチョー攻撃してみたい(^ω^)
436 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/01(火) 17:23:14 ID:ww60/x+u
そしてその反応を見て喜ぶ俺!!!!!
さいこーーー!
437 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/02(水) 20:52:38 ID:mAKUZ8vI
舞『や、やめて。』
438 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/02(水) 21:17:23 ID:mAKUZ8vI
舞『や、や、やめないで・・・』
>>432 「咲!」
振り下ろされた腕を受けとめる満
あまりの強い衝撃に苦悶の表情を浮かべる
だが咲は、そんな満にかまわず、さらに拳を繰り出す。
いつの間にか咲は体全体に滅びの力を帯び、力の衝撃でヘアピンが取れて、普段の優しい目つきはどこにもなかった。
瞳も釣り上がり、目の中も、きつい光に満ちている
「どうしたの満?反撃してこないの?」
咲がじりじりと近づいてくる。
咲は完全に滅びの力に支配されている。
その力に対抗するために満は胸のペンダントを掴んだ。
するとそから赤い光が溢れ、瞬く間に満を包みこむ。
その光の中、身に付けていたグレーの服が真っ黒な、暗黒色に変わる。
光が収まると緊張した赤いオーラを帯び、暗黒色の服を纏った、ダークフォールモードの満が現われた。
それを見た咲はにやりと笑い、満に攻撃する。
しかし満は、それに怯むことなく受けとめる。
「はあ、はあ・・・」
乱れた息を整えるために、満はガードしたまま一飛び、二飛びとバックステップを踏む。
(まだ早すぎたのかしら・・・?咲自身が滅びの力を受け入れていない)
咲がさらに満目がけて蹴りを繰り出す。しかし満は、それを避けずに受けとめる。
「どうして反撃しないの!?私と戦うためにダークフォールモードになったんでしょ!?」
咲は無抵抗な満に拳を繰り出す。
「私は、全てを滅ぼす。この沸き上がってくる力に従って・・・。だから私と戦おうよ、満・・・」
咲はそう言いながら満に近づく。
しかし満は抵抗しない。
あくまで咲の攻撃を受けとめるだけ。
満は涙を流しながら
「嫌よ、咲・・・。あなたとは戦いたくない・・・」
「どうして!?どうして戦わないの!?」
今、満はかつて自分が本当にダークフォールの戦士だった頃を思い出していた。
なにこの神展開
>439
舞「薫さん、このままじゃ満さんと咲が!」
薫「…もう少し、様子を見てみましょう。満と咲の事を信じて」
舞「…どうなれば、滅びの力を制御できるようになるの?」
薫「咲が思い出せばいいのよ。今戦っている相手が自分にとって
大切な存在であるとね。自分が滅ぼそうとしている世界にも大切な
ものが沢山あると」
一方、ダークフォールではゴーヤーンが自らの滅びの力の一部を凝縮した球を
咲に繋がる亀裂へと向って投げ込んでいた。
ゴ(これは私の影響を強く受ける滅びの球…日向咲殿の破壊の欲求は
もはや止められなくなるはず……ふふふ、何が起きるか楽しみですねえ)
ゴーヤーンは近くの水溜りに緑の郷の様子を映して楽しむことにした。
>>441 (狂え!暴れろ!!壊せ!!何もかもを打ち砕け!!)
ゴーヤーンが送った破壊の欲求の叫びは咲に届いてしまった。
「咲!?」
さっきまでとは違う、駆け引きがない、がむしゃらな攻撃だ。
きっと何かきっかけがあって咲はさらに暴走したに違いない。
そう思った満は目を閉じて、意識を集中する。
(きっと何かが咲の闘争本能に火をつけたのよ。この念を送った主の意識が消えれば咲は元に戻る。念の軌跡を辿らなければ)
どこーーー?
緑の郷、聞こえる波の音。
それらのもっと深い、深い場所を探る。
どこなの?ーーー
辿り着いた先は真っ暗な暗黒の世界、ダークフォールだった。
隠れ家でゴーヤーンはそんなことに知るよしもなく、のんきに茶を飲んでいた。
見つけたーーー!!
(破壊の叫びの主はゴーヤーンだったのね!!)
満がゴーヤーンの心の中に入り込む瞬間・・・
「なっなんてこと!このままでは私が満殿の言いなりになってしまいます!そうなる前に・・・!」
ゴーヤーンは大げさに立ち上がり破壊の玉を送った先に向かった
「はあ、はあ・・・」
ゴーヤーンのマインドダイブをうち消したエネルギーはすさまじい。
いつの間にかダークフォールモードから通常の戦闘服に変わっていた。
しかし咲の攻撃は休まることがない。
すると・・・
「とんだ邪魔が入ってしまいましたなあ・・・」
咲の隣につむじ風と共に現われたのはゴーヤーンだった。
相変わらず表情が読めず、ニタニタと笑っているゴーヤーンに満は不快に思う。
「やはりあなただったのね!ゴーヤーン!」
「さようです。日向咲殿に破壊の欲求を送ったのは私です。だけど時間の問題ですねえ。日向咲殿の中のゲートが開くのは」
「どういう意味よ?」
「そもそもゲートとは日向咲殿が激しい怒り、絶望を感じた時に開くのです」
「それがなんだっていうのよ?」
「まだわかりませんか?今、日向咲殿の目の前には私がいます。それがどういうことか、あなたならわかるでしょう?」
「!!」
自分が暴走した原因、咲の中の滅びの力が目覚めた原因が目の前にいる。
「さあ日向咲殿、思う存分破壊を楽しみなさい。私が憎いでしょう?日向咲殿?」
咲は叫びながら持てる全ての滅びの力をオーラに変えて力を発動させようとする。
「やめて咲!そんなやつの言うことに耳を貸さないで!」
「おとなしく見ていなさい。満殿」
突然ゴーヤーンのてのひらから滅びの力が発動し、波に打ち上がっていた魚がウザイナーに変わる。
それは、ほんの30センチぐらいのものが一気に彼女達の背丈を超え、巨大化する。
そしてさらに、その巨大魚の口から数本の触手が伸び、満の手足を縛り付け、堤防の壁に張り付けられる。
「さあ、日向咲殿、あなたの大切な満殿が傷ついてしまいましたよ?それも、私の手によってね」
>442
満「咲、やめて、ゲートを開かないで!」
咲はちらりとだけ振り返り満を見る。咲の周りのオーラがどんどん強くなっていく。
満の胸の宝石もそのオーラに反応するようにびりびりと振動し始めた。
満(くっ…なんて力…本当にゲートが開くんじゃ…)
ゴ「おとなしく見ていなさいと言ったでしょう?」
ゴーヤーンの言葉に合わせるようにウザイナーは満を縛っている触手から
電撃を放った。
満「うわあああ!?」
縛られたまま、がくりと満がうな垂れる。
薫「満!」
ゴ「おおっと」
ウザイナーに向けて光球を放とうとした薫を見てゴーヤーンが
小さなエネルギー弾を舞に放つ。咄嗟に薫は光球の進路を変えエネルギー弾にぶつけた。
ゴ「あなたもですよ、薫殿。おとなしく見ていなさい」
薫は舞を庇いながらじりじりと体の向きを変え、ゴーヤーン、ウザイナー、それに咲を
視界に納めた。
薫の宝石もまた咲のオーラに反応し始めている。
薫(まずい…このままでは…)
ゴ「はっ!」
大きな声をあげてゴーヤーンは手に集めた滅びの力を薫と舞に向けて撃つ。
薫は舞を連れて横に飛び避けたがウザイナーの触手が薫を掴む。
舞「薫さん!」
ウザイナーは薫を振り回すと堤防の壁に叩き付けた。満と同じようにそのまま張り付ける。
ゴ「まったく、姉妹揃って困った方々ですねぇ」
舞「薫さん!薫さん!」
舞はウザイナーの触手を薫から外そうとしたが、生身の舞には歯が立たない。
ゴ「どうです、日向咲殿?もはやここには、あなたの他に私を倒せる者などいないのですよ」
咲「……」
咲の目にぐったりとした満と薫、それに舞の姿が映る。
満「咲…お願い、やめて…」
ゴ「うるさいですよ、満殿」
再び電撃が満を襲った。
薫(満、満・・・)
満(薫?)
薫(今、あなただけにしか聞こえないように話してるの)
満(?)
薫(咲は今、滅びの力に支配されて正気を失っている。)
満(・・・)
薫(咲がこのままでは私達は生きて帰れないかもしれない)
満(な、なにを言いだすのよ!)
薫(だから咲の人の心を取り戻さないと)
満(それは、わかってるわよ・・・けど、どうすればいいのかわからないのよ)
薫(あなたさっきゴーヤーンの心に入ってマインドダイブを止めたじゃない。それを咲にやればいいのよ)
満(だけど、あの時すごいエネルギーを使ったから、もう体力が・・・)
薫(・・・弱音を吐くなんて、あなたらしくないじゃない?)
満(!?)
薫(だからといってあきらめるの?)
満(・・・)
薫(咲を失いたくないんでしょ?)
満(ええ・・・)
薫(だったらあなたがやるしかないじゃない)
満(・・・ええ・・・そうね・・・)
薫(ゴーヤーンはまだこのことには気付いてない。今がチャンスよ!満!あなたのありったけの思いを込めて咲の心の中に!)
満は再び目を閉じて意識を集中する。
満(咲!聞こえる?咲!咲!)
満(咲…)
咲の心の中に入り込んだ満は驚愕した。
光も射さず、荒れた岩場だけが広がる世界はまるでダークフォールのようだ。
満(滅びの力…咲の心の中までもこんな風にしてしまうなんて…)
だが、この世界のどこかに咲本来の人の心が眠っているはずである。
満(咲…聞こえる?咲?)
一層集中して満は咲の心の中を探索する。
満の様子を何も知らずに見ていると、ウザイナーの攻撃で力尽きてしまったように見える。
咲はただ立ち尽くしている…ように見える。
ゴ「どうしました、日向咲殿。何を黙っていらっしゃるのです。
…もしや、満殿と薫殿だけではあなたの怒りを解放するには足りませんか?
やはり舞殿を傷つけなくてはいけないようですなあ」
薫「何を言ってるのよゴーヤーン!」
ゴ「何を言っているの、ですって?咲殿がそれを必要としているのなら仕方ないでしょう」
薫「舞、逃げて」
舞「で、でも」
薫「変身していない今のあなたがゴーヤーンの攻撃を受けたらひとたまりもないわ。
早く逃げなさい!」
怒鳴るような薫の声を聞いて舞は走り出す。
ゴ「おやおや」
薫「ゴーヤーン、舞を攻撃するのは止めて!」
薫はウザイナーの触手から逃れようともがくが、ヒルのように吸い付いて来て離れない。
薫(くそっ…)
意識を集中し、薫もまたダークフォールモードへと姿を変える。わずかに動く手首の
向きを変えゴーヤーンにエネルギー弾を放つが、ゴーヤーンは簡単にそれをよけた。
ゴ「薫殿、いい加減にされたらどうです?その状態で私に勝てるとでも?」
ゴーヤーンは薫のすぐ目の前に現れてへらへらと笑った。
ゴ「所詮あなた方には守ることなどできないのですよ。お友達のことも緑の郷も」
薫(……)
薫はゴーヤーンを無視して意識を集中した。腕が動かせないながらも、
薄くでもバリヤーを張ろうと試みる。
ゴーヤーンの手に滅びの力が宿る。
薫(満、咲…お願い早くして…このままだと舞が…)
それは至近距離から薫に向けて放たれた。
ダークフォールモードから通常の戦闘服へ薫の姿が戻る。
薫の体から力が抜け、意識を失ったのを確認すると、
ゴーヤーンは堤防の上を走っていた舞の前に現れる。
舞「あなたは…!」
ゴ「ようやく邪魔が入らなくなりました。あなたを傷つければ、私の勝ちです」
ぱっとゴーヤーンは舞の腕をつかむと飛行し、砂浜の上、咲の目の前に
舞を連れて降り立つ。
ゴ(待ってましたよこの時を。今、美翔舞殿を傷つければ、日向咲殿は滅びの力を超え、ゲートが開くはずです。くくくっ、ようやくこの世界が私のものになるわけですねえ)
一方、咲の心の中に入った満は、暗がりの中、ようやく咲を見つける。
しかし、咲を見つけた満はさらに驚愕する。
そこにいる咲はいつもの明るさがなく、その場にうずくまり、膝を抱えて座り込んでいるだけである。
満「咲、咲!お願い目を覚まして!」
咲「・・・」
咲「どうして?どうして放っておいてくれないの?」
満「な、何を言ってるの?早く目を覚まして!でないと殺されちゃうわよ!」
咲「・・・それを待ってるんだよ」
満「?」
咲「私が暴走したせいでみんな傷ついちゃった!私のせいだ!私は、プリキュアとしても、戦士としても失格なのよ!だからこのまま放っておいてよ!」
満「ばかっ!!」
乾いた空気の中、ばしん!という、咲の頭をはたく音が響いた。
咲「み、満?」
満「じゃあ、私はどうなるのよ・・・」
満「私だけじゃないわ!舞や薫、みのりちゃん、あなたのお母さん、お父さん、友達のみんなだってダークフォールに支配されて、殺されちゃうわよ!」
咲「・・・う!」
咲「で、でも私は・・・」
満「本当は、そんなことどうでもいい・・・」
満の涙が頬をつたう。
満「私はただ、私を友達と想ってくれた、優しい咲に戻ってほしいだけ・・・!!」
これは泣ける・・・
>>446 咲の隣にいる舞は体全身を震わせ、顔も真っ青だ。
近づいてくるゴーヤーンの攻撃に恐怖し、ガチガチと歯を鳴らしながら、ゆっくりと後退りする。
ゴ「哀れですねえ、美翔舞殿。あなたが友達と思っていた方々も誰もあなたを助けにこない。今まで苦しかったでしょう?でももう大丈夫ですよ。あなたはすぐに楽になれます。あなたが私の攻撃を受けさえすればね!」
ゴーヤーンの掲げた手のひらの中の光球が徐々に大きくなる。
ゴ「さあ潔く死になさい!美翔舞殿!」
ゴーヤーンの手のひらからエネルギー弾が舞に向かって放たれる瞬間!
隣にいる咲が瞬く間に光に包まれた!
その光の眩しさに絶えきれず、ゴーヤーンと舞は思わず目を瞑る。
だが、その光は収まらない。
光の中の咲は、わずかだが、オーラを醸し出していた。
そのオーラは暗く、明るく、暗く、明るくをしばらく繰り返す。
そして光の中の咲はゆっくりと目を開ける。
その瞳は、わずかに釣り上がっているものの、さっきまでのきつく、まがまがしい感じはない。
亜麻色の髪が揺れている。
さらにその髪は、うなじが完全に隠れるように伸びている。
ようやく光が収まり、そこから出てきたのは、プリキュアでもなく、ダークフォールモードでもない、光と闇が合わさった、“フリンジ(二つの力が混じりあう)モード”の咲が現われた!
咲「ごめん、満・・・。もう二度とあなたを泣かせたりしない・・・」
舞に放たれたゴーヤーンの攻撃はいつの間にか咲にかき消されていた。
咲「わかってるよね?ゴーヤーン・・・。この私を怒らせた罪の重さを・・・」
ゴ(く・・・!!日向咲殿に正気に戻られては勝ち目はありません!こうなったら作戦を立て直さないと・・・!)
ゴ「ウザイナー!美翔舞殿を人質・・・」
ゴーヤーンがウザイナーに命令を与える前に、すでに咲はゴーヤーンの目の前にいた。
咲「ウザイナーに命令するのに時間があるのなら、その暇をあんたに与えなければいい!」
咲は拳をゴーヤーンの顎に振るい、さらにボディに打ち込む!
ゴーヤーンは圧倒的な咲の強さに怯みながらも、エネルギー弾を咲に放つ。
しかし咲は片手だけのガードでそれを弾き飛ばした!
咲「どうしたのゴーヤーン。手下がいなけりゃまともに戦えないの?」
ゴ(なんなのです?この力は!?プリキュアにならなくても、これほどの力が出せるなんて!)
ゴ「だが、まだまだ甘いですよ・・・!」
ゴ「いい気になるのもそこまでですよ!日向咲殿!!ウザイナーへの命令は私の念波でも下せるのです!したがって、すでにウザイナーは美翔舞殿を人質に取っているはず・・・!!」
ゴ「何を突っ立っているんですウザイナー!」
ウザイナーは舞を人質にすることはなくじっとしていた。
ゴ「どうして私の命令を…」
ゴ(まさか!?誰かがウザイナーを操っている!?一体誰が!?)
縛られてぐったりとしている薫が薄目を開ける。
薫(咲…舞…私にできるのは、ウザイナーがゴーヤーンの命令を聞かないようにするだけ…
ウザイナーを完全に操るまでの力は私には残ってない…、咲、舞、あとはあなたたちに任せたわ…)
ゴ(こうなったら、まずはあの二人を・・・!)
ゴーヤーンはウザイナーに縛られている満と薫をちらりと見る。
咲(しまった!)
咲は体中にに力を込める。
咲「舞、離れてて!」
舞「え?」
咲「はあああああっ!!」
咲は一気に闇と光の力を極限に高め、放出する。
ゴーヤーンが二人の前に立つ前に、すでに咲はゴーヤーンを追い越していた。
力を込めた手刀を、一気に振り下ろす。
すると強大な闇の力で縛られていた満と薫が、どさどさと地面に落ちる。
咲の振り下ろした手刀はウザイナーの触手を真っ二つにしていた。
二人が救出され、安心した舞は咲に近づく。
舞「咲、今度は私達二人で」
咲「・・・」
舞「咲?」
咲「・・・舞、ゴーヤーンとは私一人でやる」
舞「え!?」
咲「だから舞は早く二人を連れて逃げて!!」
舞「で、でも」
咲「早くしろ!!舞もこうなりたいの?」
舞は驚きつつも、しぶしぶ二人を両手で抱えながら砂浜から離れる。
舞(あんなに怒った咲、始めて見た・・・。でも、今の咲ならきっと・・・!!)
舞の筋肉すげぇ。
>>451 舞「満さん!薫さん!」
舞は時間こそかかったものの、一人ずつ堤防の上に運び、二人を介抱する。
薫「ま・・・い・・・?」
舞の声が聞こえて、うっすらと目を開ける薫。
舞「よかった、気が付いて・・・」
薫はゆっくりと目を開けて、爆音が響く方に耳を傾け、そちらを見る。
薫「満・・・?」
舞「満さんならここよ。大丈夫、咲が助けてくれたから」
薫「咲が!?」
横たわっていた体をがばっと起こし、ゴーヤーンと咲が戦っている様子を見つめる。
薫(あれが、咲、なの・・・!?私は今、満がゴーヤーンと戦っているのだと思った。)
(今までの咲とは違う・・・。穏やかであって、甘さがない。さっきまでのダークフォールモードでもない。だから咲だってことが分からなかったんだわ・・・!)
舞「薫さん?」
薫「…咲は随分雰囲気が変わったわね」
舞「そうね…あんな咲、はじめて見たわ」
薫(咲はプリキュアの力と、今は滅びの力を併せ持つ…ある意味、誰よりも強いわね…)
舞「ねえ、薫さん…満さんの意識がずっと戻らないんだけど…」
薫が見ると、舞は自分の膝を満の枕にして休ませている。
薫「相当無茶をさせたから。回復するまでには少し時間が掛かるかもしれないわ。
2回も人の心に入ったんだから」
舞「どういうこと?」
薫「満はゴーヤーンの心に入ってゴーヤーンを止めて、その後咲の心にも入って
咲を正気に戻したのよ。…よく、やったと思うわ」
舞「そう、だったの」
舞は膝の上の満の頬を軽く撫でた。
舞(私、何も気づかなかったしできなかった…)
薫「舞?」
その瞬間、咲とゴーヤーンの戦っている場所から眩しい光が放たれた。
舞も薫も思わず顔を背ける。
薫(咲…ゴーヤーンを倒したの?)
勝負ありーーーー。
咲は変身を解いて、本来の“日向咲”の姿に戻った。
どうすれば戻れるのか、そんなことは考えるまでもなかった。呼吸をするぐらい自然に、それは成し遂げられていた。
ゴ「くくくくく・・・はーっはっはっはっはっ!」
咲「!?」
ゴ「今、私の世界征服の野望は潰えた!!あなた達の愛に!友情に!勇気に!!悪の力は破れ去ったというわけですか!!全く、笑いだしたくなるほど陳腐な結末ですねえ!!」
ゴ「だが!このままでは終わらせません!せめてあなたの仲間の命!奪いさってから死んでみせましょう!!」
ゴーヤーンは咲を無視し、体力の戻ってない薫達の所へ飛び立つ!!
舞「!!」
薫(舞は私を見ていない・・・)
薫「だが、そんなことどうでもいい!!」
薫は持てる力を最大まで奮い立たせ、ダークフォールモードへと姿を変える。
薫「舞は闇に堕ちた私を助けてくれた!だから今度は、私が舞を助ける!!」
薫はゴーヤーンに向け飛び立ち無数のエネルギー弾を放った。
しかしゴーヤーンはエネルギー弾に直撃されてもそのまま進路を変えずに
向ってくる。
薫(ならば…!)
薫は青白いオーラを放ち、ゴーヤーンに向け最高速度でぶつかっていく。
ゴーヤーンはその手に暗黒球を生じ始めていた。薫はその腕をつかみ、
勢いのままにゴーヤーンを砂浜に落とそうとする。
ゴ「させません…させませんよ薫殿…」
ゴーヤーンは逆に薫の腕をつかむと薫に上からのしかかり自らの体の勢いを上げる。
薫(…!?)
薫とゴーヤーンは一塊になったまま舞と満に向って落ちる。
薫(くっ…このままでは舞たちが…)
ゴーヤーンの持つ暗黒球が大きくなる。
薫(私たちもろとも自爆するつもり!?)
薫「うおおおおっ!」
薫のオーラが一際強い輝きを放つ。バリヤーを自分とゴーヤーンの間に展開すると、薫は
ゴーヤーンをバリヤーにより包み込んだ。
薫(自爆するなら、自分だけでしなさい!)
バリヤーにより、ゴーヤーンの滅びの力を押さえ込む。次第に薫のオーラは弱まっていく。
きりもみしてゴーヤーンと共に落ちながら薫の姿から暗黒色が消えて行く。
ゴ「こ、このままでは、このままでは終わりませんよ!」
ゴーヤーンは自らの暗黒球を現在持てる限りの力を振り絞って大きくする。
ゴーヤーンの体もまた次第に消えて行く。
だが、
ゴ「消えてしまいなさい!薫殿!」
暗黒球がバリヤーの中で炸裂した。それは薫のバリヤーをも破り、ゴーヤーンと
薫の姿を爆煙に包む。
舞「薫さんっ!」
真下にいた舞が見たものは爆煙から離脱する薫…その体はそのまま舞のすぐ近く、
堤防の上に叩きつけられた。
薫「ま、まだ、だ・・・」
体力が残ってない上に、堤防に叩きつけられたダメージがあるのにもかかわらず、薫は、なおも立ち上がる。
ゴ「しぶといですねえ、そんなに美翔舞殿が大事ですか?ならば二人仲良く死んでしまいなさい!」
ゴーヤーンが暗黒球を生み出す。
そして薫は舞を庇うように前に立ち、勝てないとわかっていても、両腕を顔面でクロスし、ガードする。
薫「舞は・・・舞は、私が守る!!」
舞「薫さん・・・!!」
ゴーヤーンが二人に攻撃する瞬間、彼の背後から強い威圧感が感じられた。
ゴーヤーンの攻撃を覚悟した二人は、おそるおそる目を開ける。
ゴーヤーンは二人を攻撃したいものの、何者かによつって、頭を押さえつけられ、攻撃ができない。
咲「・・・ゴーヤーン、あんたの卑劣な戦い方には、愛想が尽きた・・・!!」
彼の後ろにいるのは、先ほど変身を解いたはずの咲だった。
普通の状態であるはずなのに、咲の力は徐々に強くなっていき、ゴーヤーンの頭が、さらに押さえ付けられる。
ゴ「こ、こんなに早く、力のコントロールができるようになるなんて・・・!!」
さらに強くなる力から逃げようと藻掻くが、咲の力がそれを許さない。
その力に伴って、咲の雰囲気も変わっていく。
暗く、明るくを繰り返すオーラが収まると、一定の状態のオーラが咲の周りに纏う。
丸く、優しかった目付きがゆっくりと、釣り上がっていく。
短かった後ろ髪が、ちりちりと、うなじが隠れるまで伸びていく。
そして、放たれた光から出てきたフリンジモードの咲は、一気にゴーヤーンを上空に放り上げる。
全身のエネルギーを右手に集め、上空のゴーヤーンに手のひらを掲げ、狙いを定める。
咲「はあっ!!」
気合いとともに、闇と光が混じり合った光球が放たれる。
海岸全体が響く爆発音。
しばらくは、ごうごうと真っ黒な煙が空を覆う。
そして、爆音が収まり、煙も薄くなり、元の空に戻った時には、ゴーヤーンの姿は、かけらもなかった。
その上空を哀しげに、咲は見つめる。
舞「薫さん!薫さん!」
薫を呼ぶ舞の声に、ハッと我にかえった咲は、変身を解き、舞達の元に駆け寄る。
咲の目に映ったのは、戦いで体力を失った薫と、いまだ目を覚まさない満の姿だった。
咲は満を抱き締める。
自然と涙が溢れてくる。
咲「ごめん、ごめんね満・・・。私が滅びの力をコントロールできないせいで、こんなことになっちゃって・・・」
舞「咲、咲は・・・」
『大丈夫?』と、声をかけようとしたが、満ばかりを見てる咲を見て、思わず言葉を飲み込んだ。
薫「舞、舞・・・」
舞は咲のそばに、どうしてもいたかった。
しかし、
咲「お願い舞、薫のそばにいてあげて・・・。薫、ずっと舞のことを呼んでる・・・」
舞「で、でも・・・」
咲「お願い・・・」
咲に、こうまで言われたら仕方がない。
舞は自分の気持ちに整理がつかないまま薫の手を握る。
(舞は・・・舞は、私が守る!!)
舞は今日一日の薫を思い出していた。
ゴーヤーンの攻撃を受けそうになった自分を命がけで助けてくれた。
今まではずっと、自分の気持ちは咲にしか向いていなかったはずなのに、今の自分の心は、大きく揺れている。
その日、満の介抱は咲の家で、薫の介抱は舞の家で、ということになり、四人はそれぞれの家に向かった。
舞(私、薫さんのために何一つしてあげられなかった・・・。だから今度は私が薫さんのために何かをしてあげたい・・・)
舞は薫を自室に連れて行くとベッドの上に薫を座らせた。
舞「大丈夫?」
薫「ええ…大丈夫よ」
舞「お水持って来るね」
台所からコップに水を汲んで持ってくると、薫はベッドに身を横たえて
眠り込んでいた。
舞「薫…さん…?」
声をかけても起きない。このまま寝かせておいた方がよさそうだと判断する。
電気の下では、薫に傷や汚れがかなりついているのが見える。
舞(拭いてあげた方がいいわよね。消毒もしないと…)
こう思うとなぜか胸がどきどきとした。
舞「薫さん、体拭くわね」
一応断ってから体を拭く。汗や埃が薫の白い体から拭き取られて消えて行く。
舞(薫さん、やっぱりスタイルいい…)
目立つ傷には消毒薬を塗る。今の服のまま寝かせるのはあんまりな気もしたので、
自分のパジャマに着替えさせた。薫には少し短い。
舞「おやすみなさい、薫さん」
舞は自分用に毛布を持ってきて、ベッドの下で包まって寝ることにした。
電気を消したものの、今日のことをあれこれ考えてしまう。
舞(咲…満さんのことを…)
ずっと目を覚まさない満のことを咲が心配するのは当然だと分かっているが、
それでも舞の胸はきゅんと痛む。
それに、自分の気持ちもまた分からなくなっている。
舞(私…薫さんに…魅かれてる…?)
寝ようと思っても、つい考え事をしてしまう舞。
早く寝れるように、目を瞑る。
すると、さっきまで気持ち良く眠っていた薫の様子がおかしい。
寝返りをうつ度に、荒い息が聞こえる。
舞「薫さん?」
『私達はアクダイカーン様の忠実なしもべ。さあ、プリキュアになって戦え!戦うんだ、舞!』
夢の中、薫は舞とは戦いたくない!と思っていても、体がいうことをきかない。
キュアイーグレットになった舞に攻撃をし、様々な技を浴びせる。
そして無抵抗な舞に、とどめの一撃を放つ瞬間ーーーー
薫「うわあっ!」
布団を蹴り飛ばし、乱れた呼吸を整える。
だが、また前のように体が熱い・・・。
舞「薫さん!薫さん!」
毛布を跳ねのけ、舞はたまらなくなって薫を抱き締める。
薫の体は、自分の体まで火傷しそうなくらいの熱さになっている。
しかし舞は汗でびっしょりになっている薫の指に自分の指を絡ませる。
舞「薫さん、大丈夫、大丈夫よ。私はちゃんとここにいるから・・・ね?」
舞は薫を抱き締めながら優しく撫でる。
息も戻ってきたので、さっきもってきた、水を飲ませる。
薫は安心したのか、熱さもだいぶなくなり、言葉を繋ぐ。
薫「・・・すまなかった・・・」
舞「?」
薫「あの夏、私達は舞や咲を、攻撃した・・・」
舞「あの夏?」
あの夏、と言われ、ああ、と思い出したと同時に、今の薫の苦悩が伝わってくる。
舞「いいのよ、もう。だって薫さん達、ちゃんと戻ってきてくれたから」
薫「しかし、私はこの手で舞を傷つけた!!だから舞はこれいじょう私と一緒にいないほうが・・・」
ぱちん、という音が舞の部屋に響く。
舞の手は、薫を叩いた痛みで震えているのか、溢れる涙をこらえるために震えているのかは、今の舞にはわからなかった。
舞「それ以上、それ以上言ったら許さないから!!」
舞は、たまらず薫を抱き締め、こらえきれなかった涙は溢れ、薫のパジャマを濡らす。
舞(私、私、薫さんのことが・・・!)
薫「すまない…、久しぶりに滅びの力を暴走させてしまったから、まだ
その影響が残っているみたいだ…」
舞「…それなら、その影響が消えるまで私は薫さんのそばにいるわ。怖い夢も見ないように」
薫「舞?」
舞は薫の横に場所をとる。そのまま薫の体に腕を絡めた。
舞「こうしていれば…すぐに手を握れるから…」
薫「ん…」
おやすみなさいと言い合い、二人はベッドに身を横たえる。
薫の目は少し冴えていた。
薫(…これからも舞たちの近くで生きて行くとしても…こんな風に優しくしてもらうのは
今日で最後にしよう…)
薫(このままだと、私は本当に舞が好きになってしまう…でも、舞は私を見ていない…)
薫(だから、舞を困らせてしまうだけだ…)
数日後、だいぶ薫の体調もよくなり、舞はある提案を持ちかける。
舞「薫さん、体大丈夫?」
おずおずしながら薫に尋ねる。なぜか舞は薫に表情をみられたくないように、うつむきながら。
薫「ええ、これも舞のおかげよ。すっかり力も戻った」
舞「それで、その・・・」
さっきから、もじもじしている舞を薫は、『かわいいな』って思う。
クールに取り繕っていた顔も、思わず頬が緩む。
舞が言いだすまで薫は舞をせかさない。
舞「よかったら、なんだけど・・・」
薫「?」
舞「今度の休みに遊園地に行かない?」
薫「咲と満も一緒に?」
舞の顔は、しばらくうつむいたまま。
だけど今言わなきゃ!と、意を決して薫に思いを伝えた。
舞「ううん、薫さんと、薫さんと二人で!」
しばらく沈黙がつづく。
舞(ああ、きっと薫さんはどうでもいいって断るんだろうな・・・。でも、そんな薫さんも私は・・・)
薫「いいわよ」
舞「?」
薫「行きましょう。遊園地」
薫の返事を聞いた瞬間、舞の顔は、ぱあっと明るくなった。
舞(薫さんはきっと、私から離れようとしてる・・・。これ以上、私が危ない目にあわないために・・・)
『舞は・・・舞は・・・、私が守る!!』
舞(今まではずっと咲しか見えなかった。だけど今の私は薫さんに魅かれてる・・・。もう薫さんを一人にしたくない。恐い夢をみて、悲しい思いをさせたくない)
(今日は、それを証明するために薫さんを誘ったんだから!)
舞(薫さん、もう一人で苦しまないで・・・)
薫「舞、どうしたの?」
舞「えっ?な、なんでもないよ?」
薫「そんな顔しないで。私とデートするのが嫌なの?」
舞「でっ、デート・・・!!」
薫「嫌じゃないんなら、そんな顔しないで。不安になるじゃない。私、昨日はうかれてて眠れなかったのよ」
舞「・・・」
薫「じゃあ、行こうか」 舞「うん・・・」
改行失敗・・・orz
465 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/14(月) 22:37:01 ID:3K1QdQFi
こんなのを待ってたんだよ。
その頃の日向家。
満「ああ、天気いいわね」
咲「薫と舞、今日二人でお出かけだもんね」
満「そうね。薫昨日かなりはしゃいでたから、晴れてよかったわ」
咲「薫がはしゃぐの!?」
満「はしゃぐわよ。言葉には出さないけど、何となく分かるの」
咲「へえ…」
満(でも薫、数日前は『危険な目にはあわせられないから、舞から少しずつ離れる』って
言ってたのに…考えを変えたのかしら)
薫(私はあの時で、舞に優しくしてもらうのは最後にしようと思った。だが、この数日間、舞と一緒にすごすうちに、自分の知らぬうちに舞をどんどん好きになっていった)
薫(舞、あなたのその長い髪、細い腕、全てを抱き締めたい。いつの間にか、そう思うようになって、諦めきれなかった。
だが、私はきっと舞に嫌われている。
私達がダークフォールの戦士だということを隠して、あなた達を騙し、殺そうとしたのだから・・・。
今日、舞に自分の気持ちを全て伝えたい。たとえ舞が自分の気持ちに答えてくれなかったとしても、舞のことが好きだというのは変わりはない。だから私は、これからも、舞を守り続ける)
園内を二人で歩いているなか、ふと、舞が足を止める。
薫「舞?」
舞が見つめるその先は、親子連れで賑わっている、メリーゴーランドだった。
薫は思わずほほえむ。
薫「あれ乗りたいの?行こうか」
薫はメリーゴーランドを指差し、舞の手をとる。
舞「い、いいわよ!恥ずかしいよ!!私スカートだし!」
薫「いいから」
薫は強引に舞をメリーゴーランドに誘い、入り口を通り抜けた。
舞が横座りに馬の上に乗るのを手伝って、薫もその後ろの馬に跨る。
メリーゴーランドが動いている間、薫はずっと舞を目で追っていた。
落ちないように支柱をしっかりと握っている舞は可愛らしい。
メリーゴーランドが止まると薫は舞の乗っている馬のそばにかけより手を差し出す。
舞は薫の手につかまってぴょんと降りようとしたが、ふと薫は悪戯心を出して
そのまま舞をお姫様抱っこで抱きかかえる。
舞「か、薫さん…恥ずかしいよ」
薫「降ろしたほうがいい?」
舞「…」
舞は薫の問いには答えずに、ぎゅっと薫にしがみついた。薫はそのまま歩き続ける。
少し歩いて、遊園地の隅にあるベンチで舞を降ろした。
遊園地の賑わいからは少し離れている。
舞「薫さん?」
薫はちらりと辺りを見回す。近くには誰もいない。絶好の機会だ。
薫「舞…話がある」
ベンチに座った舞の正面で薫は立ったまま、言葉に詰まった。
薫「その…」
一度息を整えてもう一度やり直す。
薫「舞、私は舞のことが…舞のことを…守りたい。これからずっと。
あなたのことが…好きだ」
舞「薫さん!?」
舞の目が大きく見開かれる。薫はたまらず、舞の前に跪くように身を落とす。
薫「舞が好きだ。あなたの優しい声も、長い髪も…何もかも、好きになってどうしようもなくなってしまった…。
だから、あなたをこれからもずっと守りたい。
あなたが私のことを嫌いでも、私はあなたを守りたい…」
一気に言ってしまって薫は視線を地面に落とした。
舞がベンチから立ち上がる気配がした。
メリーゴーランドが回り始める前に薫は舞をお姫さま抱っこをする。
舞「か、薫さん?」
舞は薫の腕からのがれようと、じたばた動くが薫の力にはかなわず、そのまま馬の座席に座らされてしまう。
舞「かっ、薫さんも乗るの?」
いきなり同じ馬に乗ろうとした薫を見て、舞は思わず赤面する。
二人が乗ったのを確認してから係員はメリーゴーランドを始動させる。
薫「ほら、舞」
舞はうつむいたままで、こちらを見てくれない。
舞「薫さんって、強引なのね・・・」
薫「舞、今日はあなたの笑顔が見たかったのよ」
薫は舞の長い髪を優しく撫でる。
舞は、そんな薫に思わず見とれてしまう。
そのころ二人は・・・
満「私達も後で合流するつもりだったけど・・・」
咲「なんだかラブラブで入りこめないなり・・・」
>>469スマンかぶったorz
おまいは俺かwww
続きはどちらからでもオケ?
しかもアンカー間違えた・・・。
>>468へだった
薫に蹴られてくる
どっちもGJ!俺は
>>468の方がシリアスで好き。
473 :
468:2007/05/16(水) 22:32:00 ID:SWejvL5r
>470
わはは。続きは次書く人に任せよう。
>>468 舞は立ち上がり、腕を薫の背中に回し、薫を抱き寄せる。
薫「舞?」
舞「私、私はずっと咲のことが好きだった・・・。私は何度も咲にもう一度振り向いてもらおうって、頑張ったけど、でも、咲は満さんのことを・・・」
薫の胸がちくりと痛む。
舞「だけどあの時から・・・」
『舞は、舞は、私が守る!!』
舞は静かに話し始めた。
真っすぐな気持ちを自分に向けてくれる薫に、しだいに魅かれていったこと。
だけどまだ、咲への思いが断ち切れずに、薫に自分の気持ちを伝えられない。
そしてずっとそれが心の中でジレンマが続いていること。
だから今日は自分の気持ちをはっきりさせるために薫を誘ったということも。
舞「ごめんなさい、薫さん・・・あなたはこんなにも真っすぐな気持ちを私に向けてくれるのに、私の答えはずっと決まらなかった・・・」
薫「・・・」
舞「だけど、今なら、今なら言えるわ・・・。
私、私は、私は薫さんが好き・・・。私も薫さんのことが好き・・・。
だから、これからもっとあなたのことを知りたい。あなたを今よりももっと好きになりたい・・・!!」
舞は薫に回した腕に力をこめて、ぎゅうっと抱き締める。
薫も舞も、思いが涙となって頬を伝った。
少し時間が経つと、薫は腕にこめた力をそっと弱め舞の頬に流れる涙を拭き取った。
舞「薫さん」
薫「行きましょう、舞。遊園地にはもっと色々なものがあるんでしょう?
観覧車に乗ってみたいと思っていたの」
舞「観覧車なら、あっちよ」
舞は薫の横に並び、手を繋ぐ。いつかのように指を絡ませて薫の手を握った。
薫「舞」
薫と舞は目を合わせて微笑みあう。
遊園地の中心部に近づき、辺りが大分賑やかになってきた。
ベンチの上にだらんとのびて座っている二人組が薫の目に入る。
咲「さすがにちょっと気持ち悪いなり〜」
満「だからジェットコースターに3回連続で乗るのは止めといた方がいいって言ったのに…」
薫は二人が目に入ったものの、このまま観覧車に向かう。
手を繋いだまま舞と薫は歩いていく。
その様子を咲が見つける。
咲「あ、あれ。舞と薫?どうしちゃったの?」
満「ばかね。今ごろ気付いたの?」
咲「???」
満「あなたが気付くよりもずっと前から二人はああなのよ」
咲「・・・」
咲「じゃあさ、もう大丈夫だよね」
満「何が?」
咲「今の薫なら、どんな敵が現れたって、きっと舞を守りきる」
咲「もう薫の中の滅びの力は暴走することもないんじゃないかな」
満「そうね・・・」
咲「私だって満がいてくれたから、滅びの力をコントロールできて、フリンジモードになれたんだもん」
満「そうね、私も咲のおかげで暴走を止めることができたし。…好きよ咲」
咲「ええっ!?」
満がさらっと言ったので咲は冗談かと思った。しかし満の目は真剣だ。
満「咲は私のことどう思ってるの?」
咲「ど、どうってその…す、好きだよ。私も満のこと好き…」
ふふっと満は笑った。
満「こう聞かれたらそう答えるしかないものね」
咲「違うよ!私、満のことが本当に好きだよっ!」
満「じゃあ、どこが好きなの?」
咲「どこって…全部…」
満「そんなの詰まらないわ」
咲「だ、だから、満の優しいところとか、私のために必死になってくれるところとか、
寝癖のひどいとことか…全部だよ!」
満は甘えるように咲に身を寄せた。
満「信じてあげる。…咲、大好き…」
咲は腕を回して隣にいる満の体を抱き寄せる。
咲「ねえ、満は私のどこが好きなの?」
満「そんなの決まってるじゃない。全部よ」
咲「ず、ずるい…」
満「さっき、私のこと優しいって言ってくれたけど、それは咲が私にくれたものなの。
だから私は咲が好き…」
満は咲に寄りかかる。咲は満の癖のある髪を撫でながら、黙って満を抱きかかえていた。
二人のそんな様子は薫と舞が乗った観覧車のゴンドラからも見ることができた。
薫(満、やっぱり咲のことを…)
咲と満の様子を舞も見ていた。
しかし、その目はどこか焦点の合わない目だった。
舞(嫌だな、私・・・)
薫は舞の暗い表情を見逃さなかった。
舞「え?ちょ、薫さん?・・・やっ・・・!」
薫はゴンドラの椅子に座ったまま、舞の胸に顔をうずめ、胸の中心にあるワンピースのチャックを少し下ろす。
薫「舞、咲のこと、まだ好きなの?」
舞「そ、それは・・・」
薫「じゃあ、私のことは?」
舞の目が一気に開かれ、赤面する。
舞「す、好きよ・・・。薫さんのこと・・・」
舞は薫を真っすぐ見ずに、俯きながら話す。
薫はそんな舞の様子に不安を抱きながら、少し目を細める。
そして目を閉じて、ゆっくりと舞の唇に近づこうとする。
その時、
薫「っ!!」
舞は自分の唇を奪われないように持っているカバンで薫をさえぎる。
薫「舞・・・」
舞「だ、だって・・・。薫さん、いきなりキスしようとするんだもん・・・」
二人がそんなやりとりをしている中、観覧車はスタート地点に戻る。
薫「舞のこと、かわいいと思うからしたくなるのよ。仕方ないじゃない」
薫は、あくまで無表情に撤し、ゴンドラの扉を開けて、観覧車の入り口から出ていく。
舞「か、薫さ〜ん・・・」
舞「薫さん、待って」
観覧車を降りた薫は大股で早足に歩く。舞は小走りにならないと追いつけなかった。
突然薫は足を止める。
舞「薫さん?」
薫「舞…私、」
薫は舞に背中を向けたまま言葉を絞り出した。
薫「咲の代わりは嫌よ…」
舞「薫さん…」
舞に見せた薫の顔は無表情を装っていたがどこか寂しげだった。
舞「ごめんなさい…」
俯いて舞は謝る。それを見て薫はため息を一つついた。
薫「今日はもう…終わりにしましょう」
舞「ごめんなさい、薫さん…!」
薫の言葉にショックを受けて、舞は後ろを向いて走り出して行ってしまった。
薫は地面にへたり込み、近くにあった木にもたれかかる。
体育座りになって、ひざの上に顔を押し付けて薫は泣いた。涙が溢れてくる。
薫(舞に嫌われていても構わないと思っていた…それでも、舞を守ろうと思っていた…でも…)
薫の心は折れそうだった。一度、自分が手に入れたと思っていたものが
再び遠くへ行ってしまったのは、最初から手に入らないよりずっと辛かった。
誰かの手が薫の背中に触る。
満「薫」
薫「満…」
薫は涙に濡れた目で満を見上げる。満は薫の隣に寄り添うように座った。
薫「なんでここに…」
満「薫の泣いてる声が聞こえたから」
薫「咲はどうしたのよ」
満「今頃、舞と会ってるかもしれないわね」
薫「な!?なんで、そんなことするのよ!?」
満「薫…気持ちの強制はできないわよ。舞が咲を選ぶなら、仕方ないじゃない。
私も…咲がやっぱり舞を選ぶなら、諦めるわ。その時は一緒に泣いてあげる…」
満は薫の背中を優しく叩いた。
舞(私…私…!)
大粒の涙をこぼしながら舞は走る。
咲「あれっ、舞?」
遊園地の出口近くには咲がいた。
舞「咲…」
涙を拭って、思わず舞は2、3歩後ずさりする。
舞「み、満さんは…?」
咲「なんか急用ができたって、どこかに行っちゃった。舞も一人だったら、一緒に遊園地回る?」
舞「咲、ごめんなさい・・・私・・・」
『舞は、舞は、私が守る!』
咲「あっ!舞!」
舞は自分の知らぬうちに駆け出していた。
薫のところに。
大粒の涙を零しながら。
舞(ごめんなさい薫さん。私は・・・やっぱりあなたが・・・!!)
薫はきっと今は泣いている。
自分のせいだ。
自分の気持ちがはっきりしないせいで薫を傷つけてしまった。
薫「舞?」
舞は乱れた息を整えながら薫に近づく。
『不安になるじゃない』
舞は意を決して口を開く
舞「薫さん、キス、していいよ・・・!」
薫「い、いいの?」
舞「私もう咲のことは本当になんにも思ってないの・・・」
薫「・・・」
舞「だから薫さんにだけは誤解されたくないの・・・」
満(ちょっと、薫も舞も少しは私に遠慮しなさいよ!)
そそくさと満は薫のそばから離れ、咲へ向う。
満「咲!まだいてくれたのね、良かったわ」
咲「満…用事って、もう終わったの?」
満「ええ、きっともう大丈夫よ…薫も舞も」
咲「用事って薫たちのこと?」
満「そう」
咲「さっき舞の様子がなんか変だったけど…」
満「舞なら大丈夫よ。薫と合流してたから」
咲「あ、そうなんだ…そうだね、なら安心だね」
満「じゃ、遊園地戻りましょ」
咲「うん!じゃあ今度はジェットコースター以外のに乗ろう!」
満と咲の姿は遊園地の雑踏の中に消えて行く。
舞(本当は少し恐かったの・・・。あなたに近づくたび、気持ちがあふれてしまいそうで、いつも恐いの・・・)
ようやく自分と向き合った舞を薫は、そっと舞の頬に手を触れる。
薫に触れられ、思わず身を堅くする。
しかし突然、
ふわっと舞のスカートが舞い上がる。
いつの間にか、薫に抱き上げられていたみたいだ。
薫「舞は軽いな。羽が生えてるみたいだ」
すると、抱き上げれている舞の顔が、薫に近づく。
そして、額、頬、唇の順に舞は薫にキスをする。
さすがに薫も無表情を装えない。
思わず赤面し、たまらなくなって、舞を抱き締めた。
舞(好き、好きよ。あなたが大好き)
舞(幸せ・・・)
観覧車から少し歩いていくと、巨大迷路が見えてきた。
舞「誰もいないけど、入っていいよね?」
薫「出口まで平均15分だって」
舞「じゃあ競争ね」
薫「ええ」
舞「それじゃ私、先にいってるね」
薫「えっ?」
舞はそう言うと、駆け足で入り口を通り抜けた。
すると薫はなぜか先に出口を目指しスタンプカードを押す場所を見つける。
そしてそこに、かわいいメッセージカードと小さな小包みを置いていき、再び入り口に戻り、舞に追い付こうとする。
舞は出口を目指して巨大迷路を駆け抜けていた。
しかし、その時、
舞の前に現れたのはーーー
舞「あなたは!!」
ミズ「幸せいっぱいねえ。お姫さま」
シタターレが現れた!
薫「舞?」
邪悪な気配を感じ、舞の悲鳴を聞いた薫は舞を探して、巨大迷路を駆け抜ける。薫「舞ーーーー!!」
そしてようやく薫は舞を見つけるが、すでに舞はシタターレに捕らえられていた。
ミズ「あら薫。あなたのお姫さまはここよ」
薫「貴様・・・!!舞を、舞を放せ・・・!!」
怒りは一瞬にして薫をダークフォールモードへと変える。
蒼い瞳に冷たい殺気が宿った。
ミズ「あら薫。反抗的ね」
薫「…放せ、舞を」
ミズ「そんな簡単に放すんだったら最初から捕まえたりしないわ」
シタターレは余裕たっぷりに笑う。
ミズ「薫あなた、つい数日前に滅びの力が暴走して消えかけたんですってね」
薫「…何が言いたい」
ミズ「あなたの心が絶望で染まれば、また滅びの力が暴走してくれるかもしれないわね」
シタターレの手に滅びの力が宿る。
ミズ「お姫さまが消えてしまったら、あなたはどうなるのかしら?」
シタターレの手が舞に伸びる。
シタターレの余裕たっぷりの言葉に薫は薄ら笑いを浮かべる。
ミズ「何がおかしいの?」
薫は今の姿を保ちながら胸の宝石に手をかける。
薫「あなた、知らないのね」
ミズ「?」
薫「私も咲も満も、滅びの力をコントロールできるようになったってことが!!」
ミズ「!?」
薫「うおおおおおっ!!」
薫は今まで抑えてきた闇の力を全開にし、最後の鎖を断ち切った!
舞「薫さん!薫さん!」
舞は、闇の力の殺気を感じ、また前のように薫が暴走するんじゃないかと恐れた。
薫「大丈夫よ、舞・・・」
冷たい殺気を帯びながらも、どこか凜とした薫が、目の前にいる。
薫「私は、約束した・・・」
右手に作った握りこぶしに、ググッと力を込める。
薫「舞にも、私自身にも・・・!!」
薫「私は舞を守る!!守りきってみせるっ!!」
舞「薫さん!!」
シタターレが舞に手をかける前に薫は走りだしていた。
薫「はあああああっ!!」
薫の右ストレートがシタターレに命中する。
シタターレに捕まっていた舞は、その衝撃でシタターレから離れ、地面に落ちそうになったが、薫がそれを受けとめる。
薫「舞!大丈夫!?」
舞「大丈夫よ。薫さんが助けにきてくれたから・・・」
薫「舞・・・」
薫はゆっくりと舞を地面に降ろす。
そして舞を庇うように一歩前に出る。
ミズ「こ、こんなはずは・・・!!」
薫はシタターレを睨みながら、ゆっくりと近づく。
薫「始めてよ・・・。私の目の前で、舞を人質に取る大バカ野郎は・・・!!」
ミズ「ま、待ちなさい薫!」
薫「何を待てというの?」
薫はシタターレに近づいていく。
薫「私の前で舞を人質に取った時点で、あなたの末路は決まってたのよ」
薫の冷たい殺気は消える気配がない…シタターレは身の危険をはっきりと感じた。
ミズ「今日は失礼するわ、覚えてなさい!」
薫「あなたは絶対に逃がさない!」
薫は飛んで逃げようとしたシタターレを追い自らも空を駆ける。
ミズ「薫!しつこいわよ、あんた!」
薫「…私を怒らせたあなたが悪いのよ!はああああっ!」
空中で薫の放った滅びの力はミズ・シタターレを元の姿へと戻した。
薫はごうごうと煙でたちこもる空を哀しげに見つめる。
薫は右腕を左腕で支えながら、空から舞の元に戻る。
薫「・・・」
舞「薫さん!」
舞は子供のように泣きじゃくりながら薫を抱き締める。
薫「舞・・・」
薫が舞に身を委ねた瞬間、ダークフォールモードから、今日のために、舞の兄に借りたボーイッシュな服に戻った。
舞「薫さん!しっかりして!!」
薫「大丈夫よ・・・。ちょっと疲れただけだから・・・」
舞「薫さん・・・」
薫「でも、舞を、大好きな舞を、守れた・・・」
舞「薫さん・・・!!」
舞は、たまらなくなって薫を抱き締める。
舞「でも薫さん、もう無茶だけはしないでね」
薫「そ、それは・・・」
今の薫はきっと相手とさしちがえてでも自分を守るだろう。それが舞には許せなかった。
舞「薫さん」
舞が、ずいっと薫の顔面に近づく。
それをなぜか薫には、かわいいなって感じた
舞「もう薫さん、まじめに答えてよ」
めずらしく頑固な舞に薫は苦笑する。そんな舞に負けたのか、
薫「わかったわ」
舞「ほんと?」
薫「ええ。もう二度と舞の前から消えたりしない」
舞「ほんと?」
薫「ほんと」
舞「ほんと?」
薫「ほんと」
舞「ほんとねっ」
その時、辺りをひとつの風が舞う。
薫は、その風と舞の長い髪が一つになったような錯覚を覚えた。
薫(あなたのその笑顔、あなたの全てを、私が、私が守りたい)
薫はゆっくりと起き上がり、舞の横に立つ
薫「舞、出口を目指そう。渡したいものがあるのよ」
そのころ咲と満は
咲「ね?大丈夫だったでしょ?」
満「え、ええ」
咲「今の薫なら、きっと舞を守ってくれる」
先程まで薫とシタターレが戦っていた気配を満は感じとっていた。
そして咲も、
満(咲、いつの間にこんな能力を?)
咲「!?」
筋「プリキュアはまた一人か。だが、私はまたお前達と戦いたい!」
咲「もう、せっかくの休日をあんた達に邪魔されちゃ、たまんないわよ!」
キントレスキーが現れた!
筋「ふっ、今のお前達になにができる」
満「それはどうかしら」
筋「何?」
満の隣りからオーラが醸し出されている。
満「この様子だと、あなた達、知らないのね」
筋「な、なにを!?」
咲は全身にグググッ・・・と力を込めている。
亜麻色の髪が揺れ、変身が始まっている。
満「私たちが滅びの力をコントロールできるようになったってことがね!!」
光の中からフリンジモードになった咲が現れる。
筋「新しい力を得たようだな、嬉しいぞ!」
咲「ふざけないで!私たちのデート邪魔しないでよ!」
満(…馬鹿ね、キントレスキー。今の咲はあなたのかなう相手じゃないのに…)
哀しい目で満が見ているのには気づかず、キントレスキーは野獣へと姿を変えると
咲目掛けて突進する。
筋「さあ、日向咲!私と戦え!」
咲「だから邪魔しないでって!」
キントレスキーの左ストレートを咲は交わし逆に胸に目掛けて蹴りを入れる。
たった一発でキントレスキーは地に倒れた。
筋「何だと!?たったこれだけで私を…」
咲「だからもう、どっかいってよ!」
筋「そういうわけにはいかん!強い者と戦うことが私の望み!
お前がそこまで強くなったならなんとしても戦わねばならん!」
満(手の施しようがない馬鹿ね…)
咲「私たちは今、デート中なの!すっごく大事なことなんだから!」
筋「ばかもん!デートなどと戦いを比べるつもりか!」
キントレスキーはいきなり起き上がると満の立つところに向け大地を割った。
満は咄嗟に跳んでよける。
今まで立っていた場所に巨大な地割れが走った。
筋「貴様がそんなことを気にしているのなら、先に満を片付けてやる」
咲「…ふざけないで…」
咲の言葉に満の背中がぞくりとした。フリンジモードの咲が本当に怒っている…
咲「満を傷つけないでっ!」
咲の手にはいつの間にか光球があった。
筋「ほう、やっと本気になったようだなうれし…」
キントレスキーの言葉を待たず、咲の攻撃はキントレスキーを消し去った。
満「咲…」
咲「…」
咲は変身を解き、いつもの姿に戻る。その目は哀しい光を帯びていた。
満「ありがとう。王子さまになってくれたみたいで嬉しかった…」
咲「…うん」
咲は満に身を委ねる。
咲「満のこと、絶対私が守るから…」
満「うん…ありがとう…」
薫(咲が何かと戦ってた…でもすぐに相手の気配が消えたわ。心配する必要はないようね…)
舞「薫さん、これ?」
薫と舞は迷路のゴールにたどり着く。
出口を抜けるとすでに夕日が見えていた。
穏やかな波の音も聞こえてくる。
薫「今日はこれをあなたに渡したかったのよ」
舞の手には、小さな十字架がついているペンダントがある。
薫「・・・その、舞の誕生日の時、私たちはダークフォールに捕われていたから・・・ずっと渡せなくて、だけど、ずっと渡したかった・・・。
遅れてごめん・・・。
舞、14才おめでとう」
舞「ありがとう!」
舞の笑顔を見た時、薫の胸は、きゅんとなる。
薫(あなたのその笑顔、私が、私が守りたい・・・)
舞に向き合っていた薫は、舞を抱き締める。
そして、その唇を舞に近付ける。
始めはまた避けられると薫は思った。
だけど舞は抵抗を見せず、舞は薫を求める。
暖かい涙が二人の頬を伝う。
満たされていくーーーー
不安が消えてくーーーー
どんなことだってできる自信が溢れてくるーーーー
舞(ねえ薫さん・・・。あなたの腕の中だけよ・・・。私、世界中で一番幸せな女の子になっちゃうの・・・)
舞「薫さん、お願いがあるの」
薫「なに?」
舞は薫の腕の中に抱きしめられたままで薫に頼む。
舞「このペンダントを私につけて。薫さんの手でつけてほしいの」
薫「そう。分かったわ…」
薫は舞からペンダントを受け取ると、舞の胸のちょうどいい高さにくるように
ペンダントの位置を合わせ、チェーンを首の後ろに回す。
薫「舞…」
薫は後ろから再び舞を抱きしめた。
こんな風に舞に接することが嬉しくてたまらなかった。
舞「薫さん…くすぐったいよ」
舞がこういうが、薫は後ろから手を回してペンダントをもてあそんでいた。
十字架が軽く音を立てる。
舞「ありがとう薫さん…大事にするね」
薫「…ありがとう」
薫はそっと舞から腕を放して離れた。
舞「薫さん、私もう一度観覧車に乗りたいな…」
薫「もう一度?」
舞「うん。今ならきっと夕日がきれいに見えるから、薫さんと一緒に見たいの」
薫「そうね。一緒に見ましょうか」
舞「…うん!」
舞(幸せ…)
薫も同じことを思っていた。
きっと今の自分達は、何を見ても動揺せずに相手のことを思っていられる――そんな気持ちが、
二人共に芽生えていた。
観覧車にはすぐ乗れた。二人を乗せたゴンドラがゆっくりと上っていく。
少しするとジェットコースターの軌道の間に夕日がはっきりと見えるように
なってきた。
大きな夕日を正面から見ながら、薫は眩しそうに目を細める。
横にいる舞を見ると胸のペンダントが夕日を反射してきらきらと輝いている。
薫「不思議ね。同じ夕日なのに、海岸から見るのとまた印象が違うわ。
ここから見る夕日はなんだか…こっちに迫ってくるみたい」
舞「そうね…こうしてここにいると、夕日に包み込まれちゃいそう…」
薫は横目でちらりと舞を見る。同じようにこちらを窺っていた舞と目が合った。
薫「夕日より先に風に包まれてみる?」
こくりと舞が頷くので薫はそっと舞を抱きしめる。
そしてごく自然に、舞に口づけた。舞もそれを素直に受け止める。
今度は二人とも涙を流すことはなかった。
相手と接することで生まれる安らかな気持ちに身を委ねたまま、ゴンドラが
地上に近づくまでずっとそうしていた。
咲「あー、やっぱり舞と薫だ!」
舞「咲!?」
観覧車から降りてみると咲と満が目の前にいる。
咲「暗くなってきたし、そろそろ帰るでしょ?一緒に帰ろうと思って舞たちのこと
探してたんだ。観覧車の人影が薫に似てるって満が言うから」
薫「…満、見てたの?」
満「なにを?」
薫「…なんでもない」
舞「そうね、咲。みんなで一緒に帰りましょう」
咲「あれ、舞、これ…」
咲が舞の胸のペンダントに気づいた。
咲「可愛いね」
舞「あ、これね…薫さんに貰ったの」
咲「へえそうなんだ…すっごく似合ってるよ!」
舞「ありがとう!」
舞がうれしそうな顔をしているのを見ると薫もつい微笑んでしまう。
満が肘でちょんちょんと薫のことをつついた。
薫(…何よ)
満(意外とやるじゃない)
薫(…放っておいて)
咲「薫?」
薫「何かしら?」
咲「舞のこと、これからもよろしくね。心配いらないと思うけど…」
薫「まかせて」
薫の言葉を聞いて、舞はさりげなく薫の腕に自分の腕を絡めた。
四人の影が長く伸び夕凪町へと向かっていく。
次の日・・・
薫「舞、まだ描くの?」
舞の部活が終わった後、待ち合わせをしていた二人。
今日の部活は終わったものの、舞が今日のぶんのスケッチがまだ完成していないから、といって二人はこうして大空の樹の下にいる。
(舞の、絵を描く時の集中力は半端じゃないんだから)
以前、咲にこう言われたことがある。
しかし薫は、絵を描くことに一生懸命で、何かに熱中する舞を見ることが好きだった。
かりかりとペンが音をたてている。
その様子に薫は思わず微笑む。
その時、スケッチブックを閉じる音が聞こえた。
舞「ふー。描けた描けた」
舞が隣にいる薫を見ると、大空の樹にもたれかかって、うとうとしている。
舞「ごめんなさい薫さん。無理に言って付き合わせちゃって」
薫は舞の声を聞くと、ゆっくりと体を起こす。
薫「舞、私寝てた?」
舞「・・・ごめんなさい」
薫「私こそ寝てしまってごめんなさい・・・。でも、いいのよ。こんなことでいいのなら、いくらでも付き合うわ」
舞「あ、ありがとう!」
舞の笑顔に一瞬、胸がときめく。
薫はそっと舞を抱き締め、舞の首にかかっているものに触れ、それをもてあそぶ。
薫「舞、これ・・・」
舞「あの時、薫さんにもらってから、ずっと付けてるの・・・。とても嬉しかったから・・・」
薫「舞・・・」
ミズ「お楽しみの所、邪魔しちゃうわよ」
二人の前にシタターレが現れる。
薫は舞の前に立ち、戦闘服に着替える。
薫「な、なぜ?あなたは私が倒したはずじゃない」
ミズ「倒したですって?違うわよ。あの時の私とキントレスキーはパワーアップしたあなた達を偵察するためにやってきたんだから」
薫「・・・」
舞が薫の後ろでがたがたと震えている。
その舞にシタターレが近付く。
そしてシタターレは舞の全身を見回した所、首にかかっているペンダントに目をつける。
ミズ「こんなものを付けて、王子さまからのプレゼントかしら?」
シタターレは舞の首にかかっているペンダントに触れる。
舞「嫌・・・やめて、それは・・・」
舞はもう泣きそうになっている。
薫「やめろ!舞にさわるな!」
舞が大事そうにしているペンダントを、シタターレは無理矢理引きちぎり、それを地面に落とし、踏み付ける。
舞は粉々になったペンダントを哀しげに見つめている。
ミズ「ふふっ。いい顔。私達はあなた達のその顔を見るために、やられても何度も復活するのよ」
余裕たっぷりに笑うシタターレは、薫の中の心臓が、恐ろしく早くうっていることには気がつかなかった。
ミズ「薫、あなたも馬鹿ね。まだ分からないのかしら?」
シタターレは薫の様子に気付かないまま笑う。
薫「…」
ミズ「あなたはお姫さまに利用されているだけよ。気持ちが通じたとでも思ってるの?
所詮あなたはダークフォールから来たバケモノ、王子様にはなれないわ。
本当の王子様が現れたらあなたは追い出されるだけ」
舞「そんなことないっ!」
舞「アクダイカーンのドス黒い野望のために薫さんを利用するあなた達のほうが、私はバケモノに見えるわ!!」
「薫さんは、とても優しい人よ。それに、薫さんの真っすぐなところも私は魅かれたの・・・。私の、私の大切な人をあなた達と一緒にしないで!!」
舞は目尻に涙をためながら叫ぶ
ミズ「わかったような口をきくな!!」
シタターレは滅びの力を舞に向けて発動した。
その衝撃で大空の樹に叩きつけられた。
薫「舞!」
薫は舞に駆け寄り、ゆっくりと抱き起こす。
薫「ごめん・・・舞・・・」
舞「薫さん、あんなやつの言うことなんて気にしないで・・・。私は薫さんがダークフォールの戦士とか、なんだって関係ない。薫さんは薫さんよ・・・」
薫「ありがとう・・・。私が人に優しくできるのは、この気持ちは舞が、舞がくれたものなのよ。だから私は舞か好き。この気持ちを、舞を守りたいって、いつからか思うようになった。そして舞は、私のなくてはならない、大切な存在になった」
舞「薫さん・・・。私、薫さんが誕生日プレゼントにくれたペンダントがすごく嬉しかったから、粉々になった時、すごく悲しかった・・・。でも今の私達は、それがなくても、ずっと一緒にいられると思うの・・・」
薫「舞・・・」
薫は舞に穏やかに微笑む。
シタターレの攻撃を受けた舞は、無理に喋ってしまったのか、気を失ってしまう。
薫「舞!舞・・・!!」
ミズ「お姫さま、気絶しちゃったわね」
薫「・・・」
薫の血液が荒々しく流れ始めた。
余りの怒りで唇を噛み切ってしまい、そこから血がしたたり落ちる。
ミズ「早くお姫さまを助けないと消えちゃうわよ。人間ってほんと弱いんだから」
薫「ま、い・・・!!!」
薫の様子に気付かないシタターレは得意げに薫を挑発する。
シタターレに振り向いた薫はダークフォールモードになっていた。
ミズ「あら」
薫「よくも、よくも舞を…」
ミズ「お姫さま、守れなかったわね。
私を倒す気?構わないわよ、またすぐに復活するから」
薫「うるさい、黙れ!」
突っ込んでくる薫をシタターレはぎりぎりのところでよける。
ミズ「今度はお姫さまが一人だけのときに来ちゃおうかしら」
薫「黙れ黙れ黙れーっ!」
薫の放つ滅びの力に袖を破られながらもシタターレは逃げ続ける。
ミズ(お姫さまを傷つけられて相当悔しいみたいね…)
ミズ「いいことを教えてあげましょうか。
あなたがこちら側に投降するなら、美翔舞にはもう手を出さないと約束するわ」
薫「!!」
ミズ「簡単なことよ。また前のあなたに戻るだけ。美翔舞を守りたいんでしょう?」
薫「・・・」
シタターレは薫に近付き、見下ろす。
薫「私、は・・・」
舞「薫さん!そんなやつの言うことに耳を貸さないで!!」
薫「っ!!」
舞は傷ついた体を庇いながら薫に近づく。
舞「その人が本当にそんな約束を守るって思ってるの?そんなわけないわ!私だったらその人よりも、薫さんを信じる!!薫さんはもう私の前から消えないって言ったじゃない!!あの時の言葉は嘘だったの!?」
薫「舞・・・」
舞は薫の正面に立ち、彼女の頬に触れる。
涙を流しながら言葉を繋ぐ。
舞「あなたが私の前から消えるなんて許さない・・・!!これ以上、薫さんに何かしたらあなたを許さない・・・!!」
舞は薫を抱き寄せ、薫の唇を自分の唇にあてる。
そのまま舞は薫を求める。
二つの舌が絡み合う。
なおも舞は薫を離さず、彼女の中をかき回す。
ここは全年齢板ですぜ。
498 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/23(水) 21:19:40 ID:YWSo6u9c
いいじゃん
>496
ミズ「まったくさかりのついた猫じゃあるまいし!人前でいちゃいちゃするんじゃないわよ鬱陶しい!」
シタターレは二人の頭の上から冷水を浴びせた。
ミズ「ウザイナー!いらっしゃーい!」
はっとした二人の背後からドラゴンウザイナーが迫る。
薫「っ!」
咄嗟に舞を庇おうとした薫の胴をウザイナーが咥える。
舞「薫さん!」
薫「舞!」
薫と舞は手を伸ばしたが届かず、ウザイナーは薫を咥えたまま地下へと潜った。
舞「薫さん!薫さん!」
ミズ「お気の毒ねえ、お姫さま」
舞はシタターレをきっと睨みつける。
ミズ「王子さまはこちらで預かるわ」
舞「薫さんをどうする気!」
舞はシタターレの服をつかんで聞くが、あっさり弾き飛ばされた。
ミズ「ごきげんようお姫さま」
シタターレの姿も地下へ、ダークフォールへと潜る。
舞「そんな…そんな…」
舞は地面に触って薫の名前を呼ぶ。だが、薫はどこからも現れなかった。
薫「放せ!」
ダークフォールへと落ちる途中、薫はウザイナーに向って光弾を乱射するが
ウザイナーは薫を放そうとしない。
ミズ「無駄よ。そのウザイナーは一度噛み付いたら離れないの。でも薫、ちょっとうるさいわね。
ウザイナー、やっておしまい!」
ウザイナーは顎に力を入れ、薫の体を噛み切らんばかりに締め上げる。
しばらく薫は抵抗していたが、やがてぐったりとした。
ようやくダークフォールにたどり着く。
ゴ「ご苦労様でした、ミズ・シタターレ殿…のコピー殿」
ゴーヤーンの後ろからもう一人のシタターレが現れる。
ミズ「今度は帰ってきたのね」
二人のミズ・シタターレが触れると、今まで薫と舞の前にいたほうは吸収されるように消えてしまった。
ゴ「まったく、オリジナルがいればコピーはいくらでも作れるとはいえ、
無事にコピーが帰ってきたのは今回が初めてとは」
ミズ「いいじゃないの、ちゃんと役目を果たしてるんだから。それで?
薫を連れてきてどうしようっていうの?」
ゴ「薫殿のコピーも作ります」
ミズ「薫二人にしてどうすんのよ」
ゴーヤーンは意識を失った薫の体を地面に横たえ、その上に手をかざした。
薄紫の光と共にそっくり同じ薫の体がすぐ横に現れる。
ゴ「コピーの方には私の滅びの力を注入し、ダークフォールに忠誠を誓い緑の郷を滅ぼす
意思を持った薫殿として目覚めていただきます。今の状態では日向咲殿に正攻法で
ぶつかっても勝ち目はありませんからね。
コピーの薫殿に場をひっかき回していただきましょう」
ミズ「こっちのオリジナルの薫はどうするの?」
ゴ「オリジナルが消えるとコピーも消えてしまいますからなあ…、
こちらの薫殿には永遠に眠っていていただきましょう」
舞と心を通わせた薫はダークフォールの闇の中に封じ込められ、
もう一人の薫は全てを滅ぼす意思を持った戦士として目覚めの時を迎えた。
薫が誰かと戦っていた気配を感じた咲と満は大空の樹に向かった。
咲「舞!」
舞「咲!満さん!」
舞は涙を流しながら、薫がダークフォールに連れ去られた事を二人に伝える。
舞「・・・」
咲「舞、薫を助けに行こう!」
舞「で、でも・・・」
咲「何言ってんの。薫は舞の大切な人でしょ?絶対舞の手で助けてあげなきゃ!私達も手伝うからさ!」
舞「・・・うん!」
舞は涙を拭って立ち上がる。
その時、三人の背後から何者かの声がする。
薫「その必要はないわ」
舞「薫さん!」
薫を見つけた舞は彼女に駆け寄る。
満「舞!そいつは薫じゃない!!」
満が気付いた時にはすでに遅く、薫は滅びの力を発動し、舞を弾き飛ばした。
薫「私はアクダイカーン様の忠実なしもべ。美翔舞、あなたとこの緑の郷を滅ぼす!」
咲「どういうこと…?」
咲は舞の体を受け止めて支えた。
目の前の人物は目つきこそ冷たいが薫に見える。
満「こいつは薫の顔をしただけのニセモノよ!本当の薫をどうしたのよ!」
咲達の前に出た満の言葉を聞き薫は薄笑いを浮かべた。
薫「私が本物よ。…あなたはニセモノね、満」
満「なんですって」
薫「霧生満と霧生薫はアクダイカーン様の忠実なしもべ。
裏切ったニセモノはもう一人の薫と一緒にダークフォールで永遠の眠りについてしまえばいい!」
満「!今なんて…」
薫はダークフォールモードになると正面から満にパンチを繰り出す。
満(速いっ!?)
満はガードしようとしたが間に合わず一撃を食らう。
薫「ニセモノは弱いのかしら?それとも、数日前のダメージからまだ回復していないのかしら?」
満「くそっ・・・」
満は胸の宝石に手をかける。すると赤いオーラが満を包み込む。
赤黒く、眩しい光から現れたのは全身に暗黒のレザースーツに身を包んだ、ダークフォールモードの満だった。
満「はあああああっ!!」
満は闇の力を全開にし、最後の鎖を断ち切った。
そして赤い瞳に冷たい殺気が宿った。
それを見た薫は薄ら笑いを浮かべる。
まだ、薫の周りにはダークフォールへの、異界への扉がが開いたままだ。
咲「満・・・」
満「咲、ここは私が食い止めるからあなたはダークフォールに行って薫を助けるのよ・・・」
咲「で、でも・・・」
咲の優しい瞳が満を見上げる。
満「今の光と闇の力を持つあなたなら薫を助けられるはずよ!ここは私にまかせて早く行きなさい!」
咲「でも満が・・・」
満「くどい、じゃああなた、ニセモノとはいえ目の前の薫と戦えるの?」
咲「・・・うっ!」
満「だから早く行きなさい」
咲「う、うん。満も気をつけてね」
満はわずかに咲に微笑む。
咲は開いている異界への扉に飛び込んだ。
舞「っ!」
満「舞っ!?」
咲に続いて舞も飛び込む。
一瞬のことだったので満は手を伸ばし、舞を引き戻そうとしたが、すでに異界への扉は閉じてしまい、地面も薄紫色から元の状態に戻る。
満「舞っ!あなた何考えてるのよ!?」
その時、目の前の薫は満に正拳突きを放つ。
薫「人の心配よりも自分の心配をしたら?」
暗い空洞を抜けた咲と舞。そこは、あの夏に来た時と同じ。
薄暗く、岩場ばかりの暗黒の世界。
咲「痛てて・・・。このどこかに薫が・・・」
舞「う、うーん・・・」
咲「舞!?」
咲はゆっくりと舞を抱き起こす。
咲「舞!どうしてきちゃったの?危ないよ!」
舞「薫さんを、薫さんを助けたいの・・・。薫さんは私の大切な人だから・・・」
咲「舞・・・」
舞「咲、私も一緒に連れてって!あなたの足でまといにはならないから!お願い!」
咲「・・・わかったよ。だけど絶対危ないことはしちゃだめだよ。約束できる?」
舞「う、うん。ありがとう!」
二人は立ち上がり辺りを探索する。
その時ーーー
ミズ「ごきげんよう。お姫さま」
シタターレが現れた!
だが、様子が変だ。
咲「鼻水ターレが二人???」
ミズ「だから鼻水じゃないって言ってるでしょ!!」
二人のシタターレは噛み付くように叫ぶ。
そして右側のシタターレが合図をすると二人のシタターレは一つになった。
舞「!!」
ミズ「日向咲、あなたのコピーも作ってもらおうかしら?」
咲「・・・そういうこと・・・」
咲は全身に力を込める。
髪が揺らめき、長く伸びていく。
丸く優しかった目付きが釣り上がり、鋭くなっていく。
咲「はああっ!!」
まばゆい光から、フリンジモードになった咲が現れた!
甘さは完全になくなり、凜としている。
ミズ「こ、これが新たな力・・・!」
咲「・・・汚い手を使いやがって・・・」
505 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/24(木) 11:20:33 ID:RrgRwcGp
フリンジモード(笑)
満(体の動きが悪い…)
薫の突きをかわし隙を狙って拳を打ち込むがあたらない。
逆に薫の攻撃は既にいくつも満にヒットしていた。
満「はっ!」
大きくジャンプして薫から距離をとる。少し息を整えたかった。
薫「ずいぶん調子が悪いようね、満」
薫は追っては来なかった。満に時間を与えている。
満「…」
薫「『咲の心に入った時無理したから、まだ回復しきっていないみたい』。
…あなた、もう一人の薫に言っていたわね。できればしばらく戦いたくないとも。
最近はいつも咲と一緒にいたから、咲が守ってくれていたのよね」
満(薫の記憶を全部持っているのか…)
薫「そろそろ終わりにしましょうか。私は美翔舞を追わないといけないから、
あまりあなたと遊んでいるわけにもいかないの」
満「っ!」
満が構えるよりも早く薫は満の目前に迫る。
薫「はああっ!」
滅びの力を帯びた薫の右ストレートは満を完全に捉え地に倒す。
更に薫はとどめをさそうとしたが、ふと何かを思いついたように
満を背負うと一路ダークフォールを目指した。
ミズ(ま、まずいわ…今、日向咲と戦うのは危険だわ…)
ダークフォールではシタターレが二人に分裂した姿で咲、舞と対峙している。
咲「あんたたちのこと、絶対に許さない…!」
ミズ(ど、どうにかしてコピーにこの場を押し付けて逃げて日向咲を倒す方法を考えないと!)
薫「通路をふさがないでくれるかしら」
舞「あなたは…」
咲と舞の後ろに薫が現れる。
咲「!?み、満は…?」
薫「満ならここにいるわ」
薫は自分の背中を指した。
薫「消し去ってやろうと思っていたけど気が変わった。
コピーを作ってもらって私のパートナーにする」
咲「そんなこと、させないっ!!」
咲は薫に飛び掛かっていき、拳を振るう。
そしてそれが命中し、薫のバランスが崩れる。
薫「っ!?」
その隙に咲は薫の背中から落ちていく満を受けとめる。
まだ気を失っている満を咲はゆっくり地面に寝かせる。
薫「・・・っ!?私は薫の姿をしているのよ!?よく平気で攻撃できるわね!」
それを聞いた咲はニヤリと口の端を上げる。
咲「やっぱりコピーはコピーだよね・・・。本物の薫の力はこんなものじゃない・・・」
薫「!?」
咲「それに、コピーなら薫の記憶も持っているはずだよね・・・。満が言ってなかった?私がこの姿になると甘さがなくなるって・・・」
圧倒的な咲の強さの前に、薫は後退りし、逃げようとする。
しかし咲は、その隙も与えず、一瞬で薫の真正面に立つ。
咲「よくも、満と薫を・・・。・・・人の心を、もてあそびやがって・・・!!」
いつの間にか咲の掌には光球があった。
薫「うわああーーーっ!!」
このままでは、咲の攻撃をまともにくらってしまうと思った薫は、その場から逃げ出す。
咲「逃がさないっ!はああっ!!」
咲の投げた光球は、見事薫に命中し、コピーの薫は跡形もなく、消え去った。
薫のコピーを倒した咲は振り向く。
咲「今度はあんたの番よシタターレ!!」
ミズ「こ、このままでは・・・!また作戦を考えなくては・・・」
シタターレは身の危険を感じ、逃げようとする。
しかし、
咲「逃がさないって言ったでしょう・・・?」
ミズ「わ、分かった!分かったわよ!でもあんたたち、何しにここに来たのよ。
薫を探しに来たんでしょう?」
咲「その通りよ。私たちが薫を探しに来ることくらい、分かってたでしょ」
ミズ(薫のコピーがもうちょっと粘ると思ってたわよ…)
咲「話はそれだけっ!?」
ミズ「ま、待ちなさい日向咲。今私をここで倒したら薫の居場所は一生分からなくなるわよ」
舞「あの、それってどういう…」
ミズ「眠っている薫をある場所に運んだのは私よ。この広いダークフォールで、
私がいなくなったら薫を探し出すのは至難の業。
良かったらこれから案内してあげちゃおうかなーなんて思ってるけど」
咲「分かってるよね?もし変なこと考えてたらその瞬間に…」
ミズ「分かってるわよ!」
咲「じゃあ、早く案内して」
咲はまだ気絶している満を抱きかかえた。
咲達は薫を見つけるために、ダークフォールを探索する。
しかし、
咲「・・・舞、満をお願い」
舞「咲?」
抱き抱えていた満を舞に渡す。
咲「はああっ!!」
ミズ「!?」
咲は普通の状態から一気に力を込め、闘気を爆発させる。
ミズ「な、なによ!私はまだあなた達に何もしてないじゃない!」
咲「気が変わったのよ・・・。私は、あんたを倒す。きっとあんたは鼻っから私達を案内するつもりはない・・・」
ミズ「!!」
咲「図星だったみたいね・・・。私がそんな罠に引っ掛かるわけないじゃない・・・。あんたに聞くよりも、そこにいる満に聞けば簡単にわかるわよ・・・」
ミズ「!!」
シタターレは滅びの力を掌に宿し、それを満に向ける。
だが、その行為は今の咲にとっては火に油を注ぐだけだった。
咲「いいかげんにしろよ・・・この、クズやろう・・・」
咲はシタターレが攻撃しようとした手首を握り締める。
ミズ「ま、待って!!」
咲「だめ、もう待たない」
咲は片手でシタターレを放り投げる。
そして、もう片方の掌をシタターレに向けて狙いを定める。
咲「はああっ!!」
咲の放った攻撃は、たった一撃で、シタターレを元の姿に戻したのだった。
咲「・・・」
咲は一呼吸置くと、いつもの優しい瞳を持つ姿に戻った。
舞「咲・・・」
戦闘を終えた咲はいつも、重く、苦しい顔をする。
変身した自分は、甘さがなくなり、許せない相手には容赦なく攻撃する。
本当は、誰も傷つけたくない。
そう思っていても、今の自分の行為は矛盾している。
満「う、うん・・・」
舞の腕の中で満が意識を取り戻す。
満の声に、はっとした咲は、満の元に駆け寄った。
満「咲、舞…?あいつ、薫のニセモノは…?」
咲「倒しちゃった」
満「そう…良かった」
満は舞から離れて自分の足で立つ。体のあちこちがまだ痛む。
満(傷が治りきっていないところばかり攻撃してきたわね、ニセモノの奴…)
満「ここはダークフォールね、薫を探してるの?」
舞「そうなの、でもどこをどう探したらいいかよく分からなくて」
満「私についてきて。何箇所か心当たりがあるわ」
足を引きずるようにして満は歩き始めた。
闇の中、薫は荒い息を吐く。
薫は小さな洞穴の中に入れられていた。中にはゴーヤーンの闇の力が充満し、
簡単に意識が戻らないようになっている。
コピーが消滅したとき、その一部は薫の体へと戻ってきた。
コピーの薫の記憶と共に。
舞と満を攻撃した記憶、それに咲に容赦なく消滅させられた記憶。
薫にはそのどちらも、自分が経験したことのように感じられた。
舞と満を傷つけたくないと思っていても、夢の中、何度も自分は二人を攻撃している。
そしてどんなに逃げようとしても咲は自分を跡形もなく消滅させる。
罪悪感と恐怖が薫の心を苦しめる。
ゴ(…なるほど、この状態なら…)
薫の様子を茶室から眺めていたゴーヤーンは、洞穴の闇の力を弱めた。
ゴ(薫殿が意識を取り戻したほうがいいのかもしれませんねえ)
薫「…!」
闇の中で薫の目が開く。薫は洞穴の中から這い出ると
岩にもたれて少し休んだ。
満「ここにもいない…」
舞「薫さん…」
満「次の場所に行ってみましょう」
満が「次の場所」へと案内するのに咲も舞も続く。
舞は少し遠くから会いたかった人の姿を見つけた。
洞穴の出口のそばに立っている薫だ。
舞「薫さん!」
舞の声に薫はぱっと三人の方を見た。だが薫の目が恐怖に染まっていく。
舞「薫…さん?」
満「薫?」
様子がおかしい。三人が近づいていくと薫はじりじりと後ずさりしている。
咲「薫、どうしたの?」
薫「来るな…こっちに来るな!」
震えた声で薫は叫ぶ。
咲(薫…まさか…私を見て怖がってるの?)
舞「薫さん!」
舞はたまらなくなって、薫に駆け寄り、手を差し伸べる。
しかし、薫はそれを弾き返す。
舞「薫、さん・・・?」
薫の体はガタガタと震え、頭を抱え、ふさぎ込んでいる。
薫「やめろ・・・!私は、舞と、満を・・・!!」
舞「!!」
満「今の薫はコピーの記憶まであるっていうの!?」
咲「それで、薫は私を見て・・・」
変身した自分は、コピーとはいえ、薫の姿をした“モノ”を消し去った。
プリキュアの時とは違い、今は闇と光、両方の力を持っている。
咲はいつも、この力を使って戦った後、心の中が、もやもやした感じがして、すっきりしない。
その気持ちが何なのか、今の薫を見て分かった。
それは咲自身の心の問題、罪悪感だ。
自分自身の中の闇の力を使って、同じ闇の力を持つダークフォールの住人を倒すことに。
咲は心の底で、罪の意識を感じてしまっている。
だが、舞や満は、そんな咲を信じている。
闇と光の力を持つ咲だからこそ、闇と光は心を通わせることができる。
それを、今の自分達が証明している。
咲「薫!!」
咲が薫の元に駆け寄ろうとすると、満に止められる。
咲「満、どうして・・・?」
満「待って薫のことは舞にまかせて。舞なら上手くやるわ」
今の、コピーの記憶がある薫はきっと罪悪感でいっぱいだろう。
しかし舞は、そんな薫に動じず、言葉をぶつける。
舞「いつまでそうやって目を閉じたままでいるの!?薫さんは悪くない!悪いのはゴーヤーンよ!」
舞は、自暴自棄のままの薫を、ぐいっと自分の方に向ける。
舞「情けない顔してるわよ今の薫さん・・・。あなたは私の王子さまなんでしょ?」
薫「・・・」
薫は、ようやく顔を上げ、舞を見つめる。
薫「舞・・・」
舞「薫さん・・・」
薫の頬を濡らしている涙を舞は、ゆっくりと拭う。
舞「薫さん・・・」
そのまま舞は、薫を抱き寄せ、彼女の唇に自分の唇をあてる。
舞は薫を求め、しだいに薫も舞を求める。
自然と繋いだ手の指が、絡み合う。
咲「あ、あの〜・・・こういうことは何もここでやらなくてもいいんじゃ・・・」
咲の声に、はっとした二人は、思わず身をすくめて赤面する。
そして二人はお互いを見つめ、微笑みあった。
しかし、穏やかな時間は一瞬で過ぎ去っていく。
ゴ「また作戦が失敗するとは・・・。いったいどうすればあなたを倒すことができるんでしょうねえ。日向咲殿」
咲「ゴーヤーン・・・!!」
ゴーヤーンを見た咲の目は、怒りに染まる。
そして、その目がゆっくりと釣り上がっていき、彼女の髪も揺らめき始めた。
咲が変身する姿を見た薫の手は一瞬ぴくんと震える。舞はそれを感じて
ぎゅっと薫の手を握った。
舞「大丈夫、薫さん。咲は絶対にあなたを攻撃したりしないから…」
薫「…、ええ。分かっているわ」
光に包まれた咲の姿がフリンジモードへと変化する。
咲「ゴーヤーン。あんたのこと、私は絶対に許さない!」
ゴ「まったく困りましたなあ日向咲殿。今のあなたにはどんな作戦も通用しない」
筋「だからそんな姑息な手を使わず戦えば良いのだ」
咲たち四人の背後からキントレスキーの声がした。
薫「…!」
瞬時に薫が戦闘服に姿を変える。
満「薫?」
薫「満、舞をお願い。あなたは戦わないでいて」
薫(さっき満はかなりダメージを受けたはずだから…)
筋「私の相手は薫か。良かろう。これまでのトレーニングの成果を見せてやる!」
咲「覚悟はできてるよねゴーヤーン!」
ゴ「ええどうぞ。いつでもおいで下さい」
舞(どうしてゴーヤーンはあんなに落ち着いているのかしら?)
満(何かを企んで、いる…?)
咲「はああっ!」
咲は光球を掌にゴーヤーン目掛けて突き進む。
満「!?…咲、退いてっ!」
咲「っ!」
満の言葉は間に合わずゴーヤーンに迫った咲の体を網状の光線が包む。
咲の光球は網にぶつかると消えてしまった。
閉じ込められた咲は網を引きちぎろうとするがどんなに力を加えてもびくともしない。
ゴ「滅びの力を持つ者を封じるためのネットですよ。
満殿と薫殿が裏切った時、使うことになるかと思って用意しておいたんですけどねえ。
忘れていました。あなたの滅びの力がどんなに強大でも、これは破れませんよ」
咲「ぐ・・う・・・」
力尽くで網を破ろうとした咲は力尽きて、変身が解けてしまった。
咲は何度も変身を試みようとするが、ネットの中では滅びの力を存分に発揮できずに、髪が揺らめくだけ。
ゴ「どうしました日向咲殿?新たな力で私を倒すつもりだったのでしょう?なぜ変身できないんですか?」
ゴーヤーンはへらへらと笑う。
閉じ込められた咲はゴーヤーンを睨み付ける。
ゴ「御覧なさい、日向咲殿。キントレスキーと戦っている薫殿は、連れ去られていた時のダメージが多く、もはや限界が近い。満殿も傷が完全に回復しておらず体力も危ない。」
ゴ「あなたは力を出せないまま、ここで永遠に仲間達がやられる姿を見続けなさい」
ゴーヤーンの笑い声がダークフォールに響く。
咲「満、薫、舞・・・」
ゴ「?」
咲「満・・満・・」
ゴ「ほう・・・」
咲「こんな、大切な人を守れない王子さまなんて、情けないよね・・・。ごめん、ごめんね、満・・・」
ふいに、ゴーヤーンの口の端が動くが、落ち込んでいる咲は気付かなかった。
ゴ「どうやら咲殿よりも、あちらを攻撃したほうがよさそうてすねえ。その後の咲殿の反応が楽しみです。・・・それっ!」
ゴーヤーンは満と舞がいる方向へ光球を放った。
満は咄嗟にバリアーを張るが、傷ついているせいで、弾き返され、そのまま攻撃を受けてしまった。
咲「満!満!」
ゴ「どうですかな?お姫さまを守れなかった気分は?」
咲「・・・」
傷ついた満を見た瞬間、咲の中の膨大なエネルギーが、行き場を求めて暴れ始めた。
咲「満・・・」
全身の血が逆流する。
ビリビリと、皮膚が細かく震えている。
咲「満・・・!!」
ゴーヤーンは、そんな咲の様子に気付かずに、苦戦している薫を恍惚に眺めていた。
筋「お前の力はこんなものか薫」
ダークフォールモードになりキントレスキーの顔面を蹴って離れた薫を
キントレスキーは紳士然とした姿のまま見下ろす。
キントレスキーには大したダメージを与えられていない。
舞「満さん!満さん!」
地面に倒れた満の目がかっと開くと、その姿は見る見る紅い光に包まれた。
舞「満さん…」
殺気を全身に漲らせた満が立ち上がる。
満「舞。そばにいてあげられなくて悪いけど…少し離れてて」
舞「満さん、薫さんは戦わない方がいいって…」
満「咲と薫だけに戦わせるわけにはいかないの」
筋「私はまだ大して力を出しておらん!貴様はその程度の弱者だったのか!」
薫(くそっ…早く決着をつけてしまわなければ…)
薫はキントレスキーからじりじりと距離をとる。
その背後にダークフォールモードの満が立った。背中合わせになっている。
薫「満、あなたどうして」
満「分かってるでしょ。私たちは咲と舞に大切なものをたくさん貰った…
だから、咲と舞のことは絶対に助ける!」
薫「…そうね」
満「ゴーヤーン、あなたの相手はこの私よ!」
ゴ「ほお?今の満殿が戦おうとするとはね」
満(たとえ刺し違えてでも、絶対に咲と舞を無事に緑の郷へ帰す!)
咲「…!?やめて、満!」
516 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/26(土) 12:33:54 ID:Ex6mu8UT
くそツマンネ!
>>516 んじゃ、もっと萌える話をおまいが書くようにw
518 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/26(土) 19:42:02 ID:Ex6mu8UT
↑
自演乙
>>515 満「咲!?」
(いつの間に、テレパシー能力を・・・?)
咲「ばかなことはやめて・・・。これじゃあ、あの夏と同じだよ」
満「咲・・・」
ゴ「よそ見をしてると危ないですよ。それっ!」
満はゴーヤーンの放った光球を避け切れず、腕をかすめた。
真紅の血が飛び散る。
咲「満ーーーーっ!!」
ゴ「あなたの持つ滅びの力は素晴らしい。どうですか?私達と一緒に緑の郷を滅ぼし、世界の頂点に立つというのは・・・」
咲「・・・あんた達の仲間になれっていうの?」
ゴ「そのとおりです。今までどんな作戦でもあなたを倒せなかった。正攻法ではまず勝ち目はありません。ならば、私達の仲間になってもらったほうが早いと考えたのですが・・・」
咲「・・・ふざけんなよ・・・。誰があんた達の仲間なんかに・・・満と薫を平気で傷つけるようなやつの仲間になんて・・・」
ゴ「ええ、あなたがそうおっしゃることは始めからわかっていましたよ」
咲「!?」
ゴ「仲間になってくださらなければ、満殿と薫殿が・・・どうなるか、わかりませんよ」
残忍なゴーヤーンの声が、咲に冷たく宣言を下した。
そのころ舞は、激戦を呆然と見つめながら手のひらを見た。
舞「(皆戦っているのに、私だけ守られてる……)」
舞「(皆傷だらけなのに………私は見てるだけしかできないの?)」
舞「(なんで、私はこんなに無力なの?)」
握りこぶしを地面に叩きつけ、嗚咽しながら舞は自分を呪う。
…………なんで。
私は、いとしい人すらこの手で、助けられないの……………ッ!
舞の視界が涙で滲む。
瞬間、ダークフォール中に風が吹いた。
ゴォッ………………
満「!?」
薫「!?」
キ「………む?」
3人は一瞬、違和感を感じた。
目を向けると、そこには光を纏う………
薫「舞ッ!?」
バサッ
背中に広がるは銀色の鋭利な、冷たく光る翼。
彼女はゆっくりと立ち上がる。
轟々と舞い上がる紫の髪。
その顔は無表情、ただ延々と涙を流し続ける。
ゴ「ぐっ!なんですかこの力はッ!!」
咲「舞………?」
一瞬にして、咲とゴーヤーンから力が抜けていく。
同時に、咲にまとわりつくネットが輝きを増す。
舞「滅びの力?馬鹿みたいにちっぽけね」
冷酷なアメジストの瞳。
咲のそれとは違い、すべてを凍て尽かせるような絶対零度の輝きは、
まず、金色の体を誇るキントレスキーに向けられた。
キ「おや、役立たずのプリキュアが一体どうしたというんだ?」
薫「ッ!貴様!」
舞を愚弄された事でさらに力を放つ薫。
だが、相変わらず舞は涙を流しながら一言呟いた。
舞「滅びの力、全部同じに見える……」
521 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/26(土) 21:04:22 ID:Ex6mu8UT
おもしろーい
ついに目覚めたか。
>520
舞の取った行動は左手を軽く動かしただけだった。
羽虫でも払うかのようなわずかな動作。しかし次の瞬間キントレスキーの巨体は
鈍い音を立てて大地に倒れた。
薫「舞……どうしてこんなことが?」
舞の凍りついた視線が薫の瞳を射抜く。
薫「ま、舞……?」
舞は無言のままじっと薫を見ている。
その目からは涙が流れているが、舞の顔から感情を読み取ることはできない。
薫の体から力が抜けて行く。立っていることができなくなって薫は膝をついた。
薫「舞……どうして……?」
薫の姿はダークフォールモードから通常の戦闘服に、さらに夕凪中の制服へと戻っていく。
同様の変化は満にも起きていた。
数分前まで激闘が繰り広げられていたダークフォールに凍りついた静寂が訪れる。
立っている者は少し離れた場所にいる舞だけ。
力の抜けた薫たちの方へこつ、こつと静かな足音を立てて舞が近づいてくる。
>>520 筋「プリキュア一人で何ができる!」
キントレスキーは、その強腕な腕を舞に向かって振るう。
薫「舞っ!!」
その時、パァンという乾いた音が響く。
薫が舞を庇う前に、舞はすでにキントレスキーの拳を弾き返していた。
それも、片手の手刀だけで・・・。
さらに舞は、掌をキントレスキーの胸にかざす。
そこから淡い光が放出され、それが彼の体に流れこんでいく。
筋「馬鹿な奴だ。エネルギーを送り込んでどうする・・・」
舞はキントレスキーを無視して、さらに強大なエネルギーを送る。
筋「何度やっても同じことだ。私はこのとおりピンピンしてるぞ!!」
しかし、
筋「!?」
突然、余裕たっぷりのキントレスキーの体に異変がおこる。
彼の筋肉は倍以上に膨れ上がり、正常な細胞が癌化をおこし始めた。
そして、たちまち彼の健康な組織を食い付くし、断末魔と共に、元の砂金に戻っていった。
薫「舞!」
いつの間にか、背中に生えていた羽は消えていた。
糸が切れたように、その場に、がたりと崩れ落ちそうになったが、それを薫が受けとめる。
意識がなくなっても、いまだ舞は、涙を流し続けていた。
薫「舞ーーーっ!!」
525 :
523:2007/05/26(土) 22:09:01 ID:n23nIdEt
うお、10秒差。524の方が好きなのでそっちで続いてくれるとイイナ。
スマンかぶったorz・・・
続きはお好きな所からドゾでオケ?
>524
満「あれ?ゴーヤーンがいない」
薫「……逃げたわね」
力の抜けたゴーヤーンはいつの間にか消え去り、4人だけがこの場に残っていた。
満「一旦戻りましょう。緑の郷へ」
薫「そうね……」
薫は腕の中の舞を心配そうに見る。
咲「待ってよ二人とも!その前にここから出してー!」
満「咲?」
咲の体にはまだネットがまとわりついている。
ゴーヤーンがいたときよりもずっと強い輝きを放ったままだ。
満「なんでこれ、消えないのかしら……ゴーヤーンはいなくなったのに」
満は近寄りネットに手をかける。
満「っ!?」
手を触れようとした瞬間、満は衝撃と共にネットから弾かれた。
咲「み、満……」
満「もう一度やってみるわ」
もう一度試しても結果は同じだった。ネットを破るどころか持つことさえできない。
満「どうなってるのかしらこれ……、さっきより光も強くなって、
咲をずっと閉じ込めようとしているみたい……」
咲「この光、舞が変身した時からずっと出てるよ」
満「舞……舞なら、はずせるのかもしれないわ」
満は薫を見る。
満「薫、舞はどう?」
薫は舞を抱きかかえたまま二人のそばに歩いてきた。
薫「舞……」
腕の中の舞を少し揺らすようにして声をかける。
舞「薫、さん・・・?」
眠っていた舞が、うっすらと目を開ける。
その瞳は、先程戦っていた冷たいものではなく、いつもの穏やかな、優しい目だった。
薫「よかった、気が付いて・・・」
舞「薫さん、私・・・」
なんだか頭が重い。
それに背中がぴりぴりと痛む。
重い頭を支える右手も何故か暖かい・・・。
それに一時の記憶が途切れている。
舞が覚えているのは、みんなを助けたい、守りたいと強く願った瞬間まで。
薫「舞、覚えてないの?」
舞は何を覚えていないのかが分からなかったが、記憶が途切れているのは確かなので、こくりと頷く。
よく見ると、結ってあった長い髪がほどけている。
夕凪中の制服も背中を見ると、左右縦に、引き裂かれたような跡がある。
咲「舞、よかったー。ねえ、舞ならこのネット外せるよね?私でも満も薫も駄目なんだよ」
舞「咲・・・」
薫「舞?」
舞は薫の腕の中から抜け出すと、閉じ込められている咲に近づく。
咲「ねえ、早くあの力使っちゃってよー」
舞「?」
咲「ほんとに覚えてないの?急に辺りが、ぴかーっとなったから何かなって見たら舞が光ってて、それから舞の背中から大きな翼が生えて、キントレスキーをやっつけちゃったんだから!」
舞「???」
舞「良く分からないけど……外せばいいのね?」
舞はネットに手を掛けた。満も薫もその様子をじっと見ていたが、
何も起こることはなく舞は自然に、光を放つネットに触れている。
咲「やっぱり舞なら外せそうだね!」
咲の言葉どおり、舞が触れているうちにネットは徐々に薄れていき
最終的にはなくなってしまった。
舞「どうして」
自分の手を見ながら舞が呟く。こんな力を自分が持っているはずはないのに……。
咲「ようやく助かったなり〜」
満「じゃ、帰りましょ」
満と薫に道を教えてもらって、四人はダークフォールから緑の郷に戻ってきた。
ひょうたん岩の見える海岸である。
咲は開放感からか、すっかり上機嫌になっている。
それとは対照的に舞が何かを考え込んでいるようなので薫は気に掛かった。
咲「じゃあね、みんな、また明日ね」
舞「また明日……」
咲と舞はそれぞれの家に向って帰っていく。
薫「満、あなた今日咲の家に泊めてもらうようにしてくれる?」
満「え?」
薫「お願い。ちょっと行きたいところがあるの」
満「……はいはい」
満が了承したので、薫は舞の後を追った。
家に向かう舞の正面に薫は回りこむ。
薫「舞っ」
舞「えっ?薫さん?何するのっ!?・・・きゃっ!!」
舞は薫の腕の中でもがくが、そんな舞には構わず、薫は舞をお姫さま抱っこをしたまま飛び立った。
舞「いやあー!!薫さんおろしてーっ!!」
薫「今おろしちゃうと落ちるわよ」
薫は苦笑しながら、ぐいぐいと夕暮れの空を飛んでいく。
舞は、ぎゅっと薫にしがみつく。
そして、薫は先程いた場所に引き返していた。
ひょうたん岩が見える海。
海岸の堤防に近づいた薫は、スピードを落とし、その堤防に、舞を座らせる。
舞「薫さん?」
真剣な表情で舞を見つめる。舞の長い髪を撫でながら、薫は自分の顔を舞に近付ける。
そして、自分の唇を舞の唇に押しあてる。
しだいに二人はお互いを求めあう。
舞の中を存分に味わった薫は、ようやく唇を離す。
乱れた息を整える舞。
薫「舞、舞は私が、ダークフォールの住人と知りながらも、私を愛してくれた・・・。」
舞「・・・」
薫「今日見せたあなたの力は、きっと光の力だ」
舞「光の・・・?」
薫「ええ。実際に滅びの力をもっている私達は、あのネットを破けなかった」
舞「・・・」
薫「咲が舞の光にふれたとたん、何故か今までの戦いで付いた傷があっという間に治っていた」
舞「え・・・?」
薫「私は闇と光は相容れないと始めは思っていた。だが、それは違う。
闇と光は心を通わせることができる。私達が、そうであるように。それを教えてくれたのは、舞、あなたよ。だから私は舞が好きなの」
舞「薫さん……」
薫の言葉を聞いて舞は俯いた。
薫「舞?」
舞「怖いの」
薫「何が?」
舞「私、自分がどうなったのか本当に全然覚えてないの。咲の説明を聞いても
良く分からなかったし……、光の力って言われても、自分のこととは
思えないの。だから、なんだか怖くて」
薫「大丈夫よ、舞」
薫は舞の手を握った。
薫「私も咲も、満もいるから」
舞「……うん。薫さん、そういえば満さんは?」
薫「今日は咲の家に泊まる」
舞「じゃあ、薫さんは私の家に来る?」
薫「……いいの?」
舞「うん。来てほしいの」
恥ずかしそうにしている舞を見て薫は微笑を浮かべた。
咲「でも、舞が変身するなんて本当にびっくりだよね〜」
みのりが眠ってしまっているので咲と満は子ども部屋でひそひそと言葉を交わす。
満「舞も咲と同じ、伝説の戦士プリキュアだもの。
考えてみれば、そんなに意外でもないわ」
咲「う。冷静になればそうかもしれないけど」
満「でも舞の力の元は滅びの力じゃない」
咲「そうだね、精霊の力かなあ……」
満「ねえ咲、傷は完全に治った?」
咲「うん、ほら、ここもここも!」
咲が見せる場所はどこもきれいに治っている。
咲「満は?」
満「私は……」
満は咲に腕を見せた。治りかけてはいるがまだ引き攣れたような跡が残り、
完治といえる状態ではない。
咲「やっぱり満の傷、私のよりずっと重いんだ……」
満(そうかもしれないし、私たちがダークフォール生まれだから精霊の力では
完全に治すことができないのかもしれない……)
舞「さあ、どうぞ」
舞は自宅に帰り、自室に薫を招き入れる。
薫「ありがとう」
ふいに、舞は淋しそうな顔をする。
薫「舞?」
舞「・・・今日は、お父さんもお母さんもお仕事でいないの。お兄ちゃんもサークルの集まりででかけちゃって・・・」
薫「・・・」
薫はそっと舞のセーラーカラーに触れる。
一瞬舞は、ぴくんとなるが、それでも抵抗せず、薫に服を脱がさせる。
舞「あんまりじろじろ見ないで・・・」
舞は恥ずかしさで顔を赤らめる。
薫「舞・・・」
薫は舞の髪を撫でながら、そのまま背中に触れる。
すると、また舞がぴくんとなる。
薫は自分が触れている場所を見ると、左右対称に縦に真っすぐ傷跡のようなものがあった。
薫がそこに触れる度、苦しそうな顔をする。
薫「舞?」
すると舞は荒い息を吐き、まるで何かの激痛に耐えるように、その場にうずくまる。
薫「舞っ!舞っ!!」
薫は思わず舞を抱き締める。
舞「嫌っ、やめて・・・こないで・・・」
舞は嗚咽しながら薫を拒絶する。
背中の激痛は治まらない。
そして、その痛みが頂点に達した時、舞の体が光に包まれた!
外は風もないのに、嵐のような風が舞の部屋を、通り抜ける。
薫は強風に、思わず目をふさぐ。
そしてーーーー
バサッ・・・
薫が目を開けると、アメジストの冷たい瞳を持ち銀色の翼をはばたかせている舞が目に入った。
薫「舞・・・」
薫はゆっくり舞に近づく。
薫はまた拒絶されるのかと思った。
しかし舞は、
舞「薫さん、これが・・・私、なの・・・?」
舞は薫をぎゅっと抱き締める。
薫の制服がしだいに舞の涙で濡れていく。
薫「舞・・・」
薫もまた舞を抱き締める。
そして自然に彼女の唇をふさぎ、しだいにお互いが求めあう。
薫が舞の背中の翼に触れる。
薫「綺麗・・・舞にとても似合ってる・・・」
舞「薫さん・・・」
ふいに、舞は薫の傷がまだ治ってない場所に手をふれる。
そこから光が溢れる。
薫「か、体が・・・!?」
これまでの激戦で治りきってない傷が、たちまち消えていく。
舞「・・・こうすれば、薫さんの体、治るかなって思ったの・・・」
533 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/28(月) 00:27:20 ID:KW35qGfe
舞のイメージ壊すな!この!カスがっ!
>532
薫の傷を一通り治すと、舞は倒れそうになった。薫は舞を支えてそっとベッドに寝かせる。
深夜、二人の眠っているベッドでは奇妙なことが起きていた。
薫が寝返りを打って舞に近付くことがあるとその度に舞からは薫を拒絶するように微かな光が漏れる。
朝、薫が目覚めると舞はもう起きていた。
朝食の用意をしている。
舞「おはよう、薫さん。まだ寝てても大丈夫なのに」
薫「舞と一緒にいたいから」
舞「もう…」
薫が伸ばした手に舞は手を重ねようとする。
薫「…っ!」
二人の手が重なる間際、舞の手が光り薫の手に熱い痛みが走った。
舞「薫さんっ!?」
舞は薫に触れようとする。
だが、その光はとまらず、薫の激痛は治まらない。
薫「舞、あなたのその力は・・・いずれ抑え、コントロールできるようにな、る・・・。だから、恐れることは、ない・・・。私達の、ダークフォールモードがそうであったように、きっと、舞も・・・」
薫は痛みを押して、舞を安心させるように、笑顔を作って語りかけ、舞を抱き締める。
舞「だめよ!これ以上、触れたら、薫さんが!薫さんがっ!!」
舞は嗚咽しながら薫から離れようとする。
薫「嫌だ・・・!私は舞を信じている。だから舞を離さない!離すものか・・・!!」
舞「薫さん!!」
その時、また舞の体に光が纏い、それがぱあっと辺りを照らす。
そして光が収まり、舞は恐る恐る背中を見る。
すると、今までは光と共に生えてきた翼が、今の舞の背中には、どこにもなかった。
舞(良かった……)
昨日この力のおかげで薫の傷を治せたときは本当にうれしかった。
自分がみんなを助けられたらしいと聞いたときもうれしかった。
しかし今、この力が薫を傷つけているのを見ると
この力がないほうが安心できるような気がする。
薫「舞、大丈夫?」
舞の体の光が消えた。
舞「ええ、大丈夫よ。……薫さんは?」
薫「私のことは心配しないで」
薫の腕が少し緩んだので舞はするりと抜けて朝食の支度を続ける。
勢いを削がれたように、薫も大人しくしていた。
数日後。
満「最近、舞はどうなの?」
薫「どうって?」
満「あの光が出ることは?」
薫「全然ないわ。……ダークフォールから帰ってきた日の翌日が最後だったんじゃないかしら」
満「そう。……あんまりこんなこと言いたくないけど」
薫「?」
満「気をつけなさい、薫。舞の力には」
薫「私は舞を信じている」
満「ええ、分かってるわ。でも、舞の精霊の力は咲の滅びの力に匹敵するほどの力。
……下手に触ると、滅びの力で生み出された私たちには命取りよ」
薫「……」
薫は一人、考えこんでいた。
光と闇、やはり相容れないのか・・・。
いくら口で、舞を信じるといっても、滅びの力を持つ自分は舞の出すあの力に少なからず恐怖した。
だが舞は、自分がダークフォールの戦士だと知っても、人として愛してくれた。
舞は強い。
こんなことで迷ってる自分は弱い。
落ち葉がさくさくと、音をたてる。
気付くと薫は、ある場所に来ていた。
始めて四人が出会った場所だ。
薫は大空の樹にもたれて一休みする。
ミズ「あら薫、今日はお姫さまはどうしたの?」
シタターレが現われた!
薫「っ!」
何度でも復活するシタターレに、薫は苛立つ。
薫は夕凪中の制服から一気にダークフォールモードに変身しようと試みる。
しかし、何故かオーラだけが醸し出されて薫の姿は変化しない。
薫「!?」
ミズ「隙だらけね王子さま」
いつの間にか、胸の宝石がシタターレによって封じられている。
ミズ「あなた達がダークフォールモードになる時、一瞬の溜めがある。そこを狙えば、あなた達なんか簡単に消滅できるわよ」
薫はシタターレから離れようと藻掻くが、手も足もでない。
薫(舞ーーーーー!!)
シタターレはぱちっと指を鳴らした。薫とシタターレの周りに水が吹き上がり壁のように
二人を取り囲む。
不意にシタターレは薫を突き飛ばした。
薫「!?」
ミズ「あなたたちの場合、これさえ取っちゃえばいいんだから楽なものよね」
シタターレの手には青い宝石がある。薫は思わず胸に手をやった。
いつもあるはずの場所に宝石がない。
ミズ「これであなたは滅びの力が使えない。役立たずもいいところね」
薫「……」
ミズ「助けを呼ぼうとしても無駄よ。ここは私のフィールド、誰も入ってくることは
できないわ」
シタターレの背後に邪悪な気配が立ち上る。
ミズ「薫、これから存分に可愛がってあげるわ。裏切り者に相応しい消滅を迎えさせてあげる!」
部活の咲を残して、満は珍しく舞と二人で帰路についていた。
満「……!」
舞「どうしたの、満さん?」
満「薫の気配が……薫が危ない!」
満は薫の気配がするほうに向かって真っ直ぐ走り始める。舞も大慌てでその後を追った。
満達は薫の気配が出されている方へ向かう。
舞「!!」
するとそこは、いつもは光と緑が溢れる美しい場所が、今はシタターレにより、彼女にとって、有利なフィールドになっていた。
満「薫!」
満は薫を助けようと、瞬時にダークフォールモードに変身する。
満「はああっ!!」
満は滅びの力を右ストレートに宿し、彼女が作った水の壁を壊そうと、突っ込んでいく。
しかし、
満「うわあっ!!」
満の拳は壁に当たったものの、あっという間に弾き返された。
ミズ「そう、慌てないで。あなたも薫を消滅させたあと、たっぷりと可愛がってあげるから!!」
シタターレの高笑いが森の中に響く。
舞「満さん、薫さん!」
ミズ「お気の毒ねえお姫さま。一人じゃプリキュアにもなれないし、そこでおとなしく王子さまが消滅するのを見ていなさい」
舞「・・・」
舞(また、なの・・・?)
舞(また、私は大切な人を、助けられないの・・・?)
舞は悔しそうに唇を噛み締める。
舞(・・・薫さんを助けたい!闇とか光とか関係ない!私は、薫さんが好き!!)
舞の想いが強くなる度に、彼女の中の熱い塊が、背中を伝う。
同時に痛みが伴う。
背中を中心に、皮膚がぴりぴりする。
舞(私の中に、みんなを助ける力があるのなら、お願い、目覚めて!!)
その時、舞の体が光に包まれた。
強い想いからなのか、激しい痛みからなのかわからないが、涙が溢れてくる。
しだいに制服の背中が、びりり、と悲鳴をあげる。
そしてそこから、
バサッ・・・
銀色に輝く、二つの大きな翼があった。
舞の瞳の色も変わる。
舞はゆっくりと立ち上がる。
そして両腕に力を込める。
舞「力が、暴走しない!?」
今ならいける!
これなら愛しい人を助けることができる!
今の舞には、もう迷いはなく、真っすぐに自然とそう思えた。
舞(滅びの力が、2つ……)
今、舞が感じるのはシタターレの持つ巨大な滅びの力、それに満の力。
舞は一度目を閉じてからシタターレへ凍りつくような視線を向ける。
フィールドの中のシタターレは舞の気配に気づかないまま、
水流で薫の皮膚を切り裂く。
舞(……)
舞がじっとシタターレを見ていると、フィールドが次第に元の緑の郷の姿へと
戻っていく。
ミズ「何!?」
満「はああああっ!」
ようやく異変に気づいたシタターレの一瞬の隙を見逃さず、満は光弾をシタターレに
向かって放つ。
ミズ「くっ!?」
咄嗟にシタターレはガードしたが、更に満は突きを放つ。
だが舞はその光景を見てショックを受けた。
舞(ミズ・シタターレと満さんが……同じに見える……)
滅びの力を振るって戦う者。
二人はその点で全く同一のものとして舞には感じられた。
満は自分の大切な仲間だと分かっているのに。
舞は思わず、ミズ・シタターレと満が戦っている方へ手を向けた。
効果はすぐに二人に現れた。
満はダークフォールモードが強制的に解除され、ミズ・シタターレは力が抜けてしまっている。
満「やはり、舞の力は・・・」
満は膝を地につかせ、乱れた息を整える。
舞は満とシタターレに向けた掌に力を込める。
舞(嫌、やめて・・・!)
舞の心とは裏腹に滅びの力を持つ二人を消滅しようとする。
その時、
薫「舞っ!」
舞は薫の声に、はっとなる。
傷だらけの体を支えながら舞に近づく。
そして、抜けている力を振り絞り、すがり付くように舞を抱き締める。
薫「やめろ・・・!舞・・・!今の舞なら、きっと力をコントロールできる!!このあいだだって、できたじゃないか!翼を生やさずに、力を使えていた・・・。それは、舞が自分自身を、そして私を信じているからだろう・・・!?」
咲(満、舞、薫っ!)
部活を終えた咲は懸命に大空の木への道を走っていた。
戦いの気配がずっと続いている。
薫「舞、落ち着いて。信じて、自分自身のことを。あなたは絶対にその力を
コントロールでき……」
薫の言葉が突然止まった。
薫「ぐ……」
胸を押さえて苦しみだす。
舞「薫さん!?薫さん!?」
満「ミズ・シタターレ!何を!?」
シタターレは薫の宝石を叩き割ろうとしていた。
ミズ「もうあんた達にこれ以上付き合ってられないわ。可愛がるなんて言ってないで
今薫を消滅させる!」
満「やめなさい!」
ミズ「あんたの宝石もよこしなさい!」
シタターレは高身長を生かし満にのしかかるようにして首に手を掛ける。
抵抗する満を押さえつけて宝石を奪い取った。
満「返せ!」
ミズ「冗談じゃないわ!ゴーちゃん!」
シタターレは二つの宝石をぽんと高く放り上げる。
咲「満、舞、薫ーっ!」
二つの宝石に空から強大な滅びの力が降り注いだ。
満と薫は声を上げることもできずにその場に崩れた。
咲が見たものは、どす黒いオーラに封印された二つの宝石、高笑いしながら
去っていくミズ・シタターレ、倒れた満と薫、それに薫に必死で呼びかける舞。
咲「満……」
咲は落ちてきた二つの宝石を拾い上げると満の元へ急ぐ。
紅く輝いていた宝石も今は暗黒に閉ざされている。
ゴ「お久しぶりですな、咲殿、舞殿」
後ろからゴーヤーンの声がした。咲はきっと睨みつける。
ゴ「おやおや、私はこの前の話の続きをしにきただけですよ」
咲「続き?」
ゴ「この前言ったでしょう。あなたが私達の仲間にならなければ、満殿と薫殿が
どうなるか分からないとね」
咲「……」
ゴ「咲殿も舞殿も良くお考え下さい。あなた方が我々の下に来れば、その封印は
解いて差し上げますよ。あなた方の力で無理に封印を解こうとすれば
宝石自体を壊してしまうでしょうけどねえ」
舞「……」
ゴ「満殿、薫殿は本来ダークフォールのしもべ。お二人のことが本当に大切なら、
あなた方もダークフォールのしもべになればいいのですよ」
では、といってゴーヤーンの姿は煙のようにかき消えた。
咲の手の上には二つの宝石が残り、満と薫は静かに横たわっている。
咲「満、薫・・・」
咲は掌にある二つの宝石を握り締める。
咲「満・・・、満・・・!!」
咲は余りの怒りで唇を噛み切る。
そこから血がしたたり落ちる。
そして丸く優しい瞳が鋭く釣り上がっていく。
オーラを身に纏い、髪がゆらめく。
咲「よくも、よくも満を・・・!!あいつら、あいつら絶対に許さないっ!!」
光に包まれた咲は、しだいに変化していく。
そして、甘さもなくなっていく。
咲「うわああああーーーっ!!!」
静かな森の中、咲の悲しい絶叫だけが響いた。
咲が変身すると舞の体がぴくりと動いた。
舞(嫌……こんなこと……)
どうしても感じてしまう。咲が巨大な滅びの力を持っていることを。
咲「え……?」
隙だらけだった咲の体から滅びの力が抜けて行く。優しい目に戻った咲は
振り返って舞を見た。
咲「舞?」
舞「ご、ごめんなさい!こんなことするつもりはなかったの!でも滅びの力を
感じると私の力が……」
咲「舞……」
咲は二つの宝石の中から青みがかった方を選んだ。
それを舞の掌に置く。
咲「薫は舞がその力を絶対コントロールできるようになるって信じてるって。
満がこの前言ってた」
舞「……」
舞はきゅっと封じられた宝石を握り締めた。
咲「きっと舞の光の力は、色んな生きものの力を、癒す力だと思うんだ」
舞「・・・」
変身が解けた咲は真剣な目で舞に話し掛ける。
舞は自分の掌にある青い宝石を見つめる。
舞は今まで力を使った時のことを思い出していた。
実際に自分の力で、咲や薫の傷を治したこともある。
きっと、この力を使えば大切な、愛しい人を助けることができる。
舞「・・・」
舞は、ぎゅっと宝石を握り締める。
舞(私は、薫さんを、薫さんを、愛している人を、助けたい!!)
咲「っ!?」
舞の想いが強くなった時、彼女の体が光に包まれる。
同時に痛みが伴い、熱い塊が彼女の背中を伝う。
舞「ぅ、あっ・・・!!」
舞は背中の痛みにより、その場に蹲る。
咲「舞っ!?」
体中がびりびりする。
背中の傷跡が疼く。
その膨大なエネルギーを放出しようと、それが背中を中心に暴れまわっている。
舞は思った。
自分が今この痛みに負けたら、また冷たい瞳に変わり、大切な人を傷つけてしまう。
舞「嫌よ!私は、私は負けない!絶対にこの力で、薫さんを助けるんだからっ!!」
その時、光に包まれた舞が、さらに強い光を放った。
同時に一塵の風が舞を横切る。
しだいに光は収まっていく。
眩しくて、思わず目を塞いだ咲は、恐る恐る目を開ける。
するとそこには、結っていた髪はほどけているものの、いつも光と共に生えていた翼はない。
瞳の色も冷たい光を放っておらず、穏やかで優しい、いつもの瞳だ。
そしてあくまで、凜とした舞の姿が今、咲の目の前にあった。
咲「舞、今はすごく優しい目をしてるよ」
舞「うん……みんながちゃんと見える」
舞は横たわる薫の体に手を当て力を入れた。光がぱっと薫を包み込み、その傷を癒す。
咲「舞、満もお願い」
こくりと頷くと舞は満にも手を当てた。満の傷もすうっと消えて行く。
しかし二人は目を覚まさない。
咲「ねえ、舞。この宝石の封印、舞の力で解けないかな?」
舞「ええ、やってみるわ」
舞は薫の宝石を右手の上に置き、左手で包み込むようにする。
舞(私の力を……私の大切な人を助けるために!)
舞の手の内に強い光が煌いた。しかし手を開くと宝石には依然として
どす黒い妖気が纏わりついたまま、薫も目を覚ますことはない。
舞「だめだったみたい……」
咲「き、気にすることないよ、舞!それなら別の方法を考えようよ!」
舞「……うん。でも、別の方法って……?」
咲「まず満と薫をどこか休める場所に連れて行ってあげよ」
咲と舞は満と薫をPANPAKAパンに連れて行くと、咲のベッドに寝かせる。
咲はそっと満の頬に触れた。舞も今は変身を解き、哀しそうに薫を見ている。
咲「私たちがやるしかないね」
舞「うん……」
咲「絶対、ゴーヤーンを倒す……二人の宝石の封印を解かせる!」
舞「うん!」
咲「行こう、舞。満と薫には何回も助けてもらったんだもん、
今度は私たちが助けなくちゃ!」
舞「ええ、咲。早く行きましょう」
咲と舞は満と薫の宝石をポケットに入れると、手を繋いでまず大空の樹に向った。
咲「とりあえず、来てみたのはいいものの・・・」
舞「満さんと薫さんがいないんじゃ、どうやってダークフォールにいけばいいのかしら・・・」
二人はしばらく考えこむ。
そこで舞が、思いついたように言った。
舞「満さん達が滅びの力でダークフォールに行けたのなら・・・」
咲「そうか!私の滅びの力を力を使えば、ダークフォールへの扉が開くかもしれない!」
咲はそう言うと、力を全身に込める。
しだいに髪がゆらめき、目付きが鋭くなっていく。
咲「はああっ!!」
光の中から現われた咲は、掌を地面にかざし、意識を集中する。
すると、今、緑が溢れていた場所が、たちまち薄紫色に変わる。
滅びの力を発動している咲を見ても、舞の力は発動していない。
二人は目を合わせ、しばらく見つめ合う。
咲「行こう!」
二人は異界への扉に飛び込んだ。
薄暗い通路を突き抜けていく。
変身している咲は、着地する時の衝撃を受けないように、舞にバリアを張る。
しかし、
咲「へっ!?うわあっ!!」
バリアに守られている舞は無事に着地できたものの、自分のことを忘れていた咲は結局、地面に尻餅を付いた。
咲「いって〜・・・」
舞「咲、大丈夫?」
咲「うん・・・きっとゴーヤーンは、私達を待ち伏せしているはず・・・」
咲(ダークフォールってどのくらい広いんだろう……)
二人は無口になりがちだった。歩いていても同じような景色がずっと続いていて、
同じところばかりぐるぐる回っているような気がしてくる。
満や薫と一緒に来た時は二人が案内してくれてたから安心していられたのだが、
今はどうしても不安に駆られてしまう。
舞「咲、あれなにかしら?」
咲「?」
舞の指差す方には何か光るものがある。
咲「行ってみよう!」
舞「うん!」
二人は思わずそれに釣られた。行き止まりになっている狭い道に飛び込む。
だがちらちらと光っていたものは二人が近づくと消えてしまった。
咲「あれ?」
舞「消えちゃった……幻?」
咲「そうだったのかも……」
二人が入ってきた方向から鈍い音がする。慌ててそちらに行くと、
狭い道の入り口に鉄格子のようなものがはまっていた。
ゴ「お二人とも、ようこそおいでくださいました。お考えはまとまりましたか」
慇懃な口調でゴーヤーンがやってくる。
ゴ「ダークフォールのしもべになる決意は固まったんですか」
咲「そんな決意、するわけないでしょ!」
咲は叫んで鉄格子をつかむが、鉄格子は咲を弾く。
舞(私の、力で!)
舞は体に力を入れた。体が熱くなり背中が疼く。
舞(私の力で絶対にみんなを助ける!)
光の中、目は優しいまま変身した舞の姿が現れる。
ゴ「ほお……」
舞が鉄格子に触れ手を振るとそれは消えてしまった。
ゴ(やはり美翔舞殿の力は高純度な精霊の力……)
咲「ゴーヤーン、私たちはあんたを倒して満と薫を助ける!」
ゴ「まったくおろかな方たちですね」
ゴーヤーンはわざとらしく溜息をついた。
ゴ「ならば仕方ありません」
ゴーヤーンがその手に力を込める。
咲「え? なんで?」
手の中のオーラは滅びの力らしからぬ白い輝きに満ちていた。
咲「変身が・・・」
ゴーヤーンの光を受けた咲は優しい瞳に戻る。
咲「も、もう一度・・・」
咲は再び全身に力を込めて変身を試みる。
ゴ「何度やっても同じことですよ」
ゴーヤーンは再び咲に掌を向ける。
しかしまた、咲の変身が強制的に解除される。
まるで舞が力をコントロールできなかったような力をゴーヤーンは使っている。
咲「な、なんで・・・」
力が抜けた咲は地面に膝をつく。
ゴーヤーンは口の端をあげる。
ゴ「利用させてもらったのですよ。舞殿の力を・・・」
咲「?」
ゴ「舞殿の力を受けて力が抜けたシタターレ殿を分析し、それを抽出しました・・・。舞殿の力で満殿と薫殿の体力が回復するのなら、私にもその力を使えると思ったのですよ」
咲「そ、そんな、ゴーヤーンまで闇と光の力を・・・」
ゴ「これで、あなたは私を倒せない。おとなしく私の仲間になるしかないのですよ」
ゴーヤーンの高笑いがダークフォールに響く。
しかし、
ザッ、と地面の音をたて、舞は咲を庇うように前に立つ。
咲「舞!?」
ゴ「ほお、戦闘向きではないあなたの力で私と戦おうというのですか・・・」
咲「だめだよ!舞、危ないよ!!」
変身している舞はさらに力を込める。
舞「咲・・私はもう、見ているだけ、なんて嫌なの・・・」
咲「でも・・・」
舞「あなたが戦えないのなら、私がやるしかないじゃない・・・!!」
突然、舞の体に光が纏う。
同時に痛みが強くなっていく。
どくどくと血がたぎり、背中を中心に膨大なエネルギーが暴れ回っている。
背中の傷跡が疼く。
舞「ぅ、ぁああっ!!」
舞は地面に膝をつける。 痛みに耐えるために、歯を食い縛る。
咲「舞っ!!」
舞「・・・大丈夫よ。私は、絶対にこの力で、みんなを助ける・・・!」
心が力に支配されないように舞は咲に微笑む。
舞「っ!!」
背中の傷跡がさらに疼きだす。
そして、そこがわずかに膨らみはじめ、舞の制服が破れる音が聞こえてくる。
破れているところを見ると、そこから白く綺麗な肌が見える。
そして舞の背中の痛みが頂点に達したその時ーーーー!
薄暗いダークフォール一帯が光に包まれた。
バサッ・・・
舞の背中からは銀色の美しい翼が生えていた。
しかし、その瞳は前のような冷たい瞳ではなく、凜としている。
舞はゆっくりと立ち上がる。
ゴ「何がおかしいんですか舞殿?」
舞「・・・しょせんあなたは私の力を利用しただけ。結局、オリジナルの私には勝てないわ」
咲(あわわわっ・・舞が戦って、ゴーヤーンに傷つけられたなんて目覚めた薫が知ったら、きっと薫キレちゃうよ・・・)
いつもは最前戦で戦っている自分は、今は戦えない。
咲は、そんな自分がひどくもどかしかった。
だがゴーヤーンは変身した舞の姿を見てにやりと笑う。
ゴ「あなたがそのような姿になるとはね。しかし誤解していらっしゃるようなので
一つお教えしましょう。私の持つ光の力自体はあなたのコピーでも、
それを使うのは私です」
舞はゴーヤーンの言葉に興味を示さずに手に光の力を溜める。
ゴ「光の力は闇に支配され、闇に従属してこそその真価を発揮するもの!」
舞「そんなことない!」
舞は手に溜めた光のエネルギーをゴーヤーンに向けて解放する!
ゴ「はああああっ!」
ゴーヤーンもその掌から光のエネルギーを打ち出した。
二つの光がぶつかり合い閃光が飛び散る。
舞とゴーヤーンの真ん中で煙を立て光線はどちらも消えた。
即座にゴーヤーンは掌に暗黒球を生み出す。
舞は手を伸ばしゴーヤーンの滅びの力を奪おうとするが、ゴーヤーンが光の力で張った
バリヤーに阻まれる。
ゴ「舞殿。あなたは私に咲殿を抑えるヒントをくれました。感謝しますよ」
巨大な暗黒球をゴーヤーンが舞に向けて放つ。
舞は咄嗟に翼を動かし逃げようとしたが
舞(逃げたら咲が危ないっ!)
その場に踏みとどまり羽を大きく広げて咲を守る。
咲「舞、やめて!」
咲(私……なんで、見ているだけしかできないの!?)
ゴ「さようなら舞殿!」
その時舞の姿を青いオーラが包んだ。咲ははっと自分のポケットに触る。
満の宝石を入れたポケットが、服の上からでも分かるほど熱くなっている。
その時、ゴーヤーンが舞に放った暗黒球は、いつの間にか弾かれていた。
舞を守っている青い光によってーーーー
ゴ「な、なぜ!?満殿と薫殿は封印されているはず!!」
ゴーヤーンは大げさに、その場で地団駄を踏む。
舞「薫さん・・・」
舞はポケットに入れている宝石を服の上から触れる。
暖かいーーー
それと同じことが咲にもおきていた。
力が抜けていた咲は立ち上がる。
ポケットから溢れる赤い光に包まれている。
咲「満、満が力をくれてる!・・・力が、力がみなぎってくる!!」
咲は再び変身を試みる。
すると、ゴーヤーンの出す光は、その赤いオーラに打ち消されていく。
咲は全身に力を込める。
優しい瞳が釣り上がっていく。
髪が揺らめき、甘さがなくなっていく。
咲「ゴーヤーン、あんたがどんな力を使おうとも、あんたに私達は倒せない・・・」
咲はグググッ、とさらに力を込める。
咲「忘れたわけじゃないよね?私も闇と光の、両方の力を持ってるってことを!!」
ゴ「!!」
光の中、咲はしだいに変化していく。
咲「はああっ!!」
まばゆい光と共に、変身した咲が現われる。
咲「この姿になったらもう、あんたを倒すまで力を止められない・・・。」
ゴ「!!」
咲「ゴーヤーン・・・あんただけは、絶対に許さない・・・!!」
咲はゴーヤーンを睨みつけ、飛び掛かって行った。
咲が光と闇の混ざった光弾を放つのを見てゴーヤーンも同じ力を放つ。
だが咲の力はゴーヤーンの力を打ち消し更にゴーヤーンに迫る。
ゴ「!」
紙一重のところでよけたゴーヤーンを舞の光線が襲う。
ゴーヤーンはそれもぎりぎり交わし、少し離れた岩場の上に着地した。
ゴ「新たな力を得たあなた方にとって、
もはや満殿と薫殿は弱点でしかないと思っていたのに」
咲「ふざけないで…満は私の弱点なんかじゃない!」
咲の拳にいつもとは違う紅い光が宿る。
ゴ(ならば、仕方ありませんね……)
咲と舞に気づかれないようにゴーヤーンは体に力を込める。
ゴ(二人の宝石を封印しているのは私の力。封印を強め、このまま宝石を破壊します!)
咲「させないっ!!」
咲はゴーヤーンに飛び掛かっていき、頭をわし掴みにする。
そこから離れようと藻掻くが咲の力はしだいに強くなっていく。
ゴ「な、なぜ私の考えてることが・・・!?」
咲「この力を手に入れて、あんた達と戦ってると自然に身に付いたのよ・・・。あんた達に感謝しなきゃね・・・」
咲はにやりと口の端を釣り上げ、薄ら笑いを浮かべる。
ゴ「ま、待ちなさい!私を倒せば満殿と薫殿がどうなるか・・・」
身の危険を感じたゴーヤーンは命乞いをするために咲と取引きしようとするが、咲は、そんな言葉に動揺せず、さらに力を込める。
咲「あんたがどうなろうと知ったことじゃない・・・。私達の力で満と薫を元に戻す・・・」
ゴ「ま、待って・・・!!」
咲「だめ、待たないよ・・・」
咲はゴーヤーンの様子を見て、にやりと笑い、彼を上空に放り投げる。
咲「自分の犯した罪の重さと愚かさを、思い知れ!!」
咲は放り上げたゴーヤーンの体に狙いをつける。
咲「あんただけは絶対に許さない!」
光と闇の力が合わさった光球を全力でゴーヤーンに放った。
咲の後ろから舞も精霊の光を放つ。二人の力は絡み合いゴーヤーンに伸びていく。
上空から爆発音とともに恐ろしい悲鳴が聞こえた。
ゴーヤーンの気配が感じられなくなる。
咲「……」
咲はどこか空しい気持ちを抱えて変身を解いた。
舞「咲」
同じように変身を解いた咲が近づいてくる。
咲「終わったね」
二人は満と薫の宝石を取り出した。宝石にべっとりと貼りついていた黒い妖気が
次第に薄れ、元の輝きを取り戻していく。
咲「満が……」
舞「薫さん……」
咲「舞、早く満と薫のところに行こう!二人にこれを渡さないと」
舞「そうね!」
咲と舞は走り始めた。宝石が道を照らしてくれたので帰り道はすぐに分かった。
咲「満!」
舞「薫さん!」
二人を寝かせた咲の部屋へ飛び込む。
満と薫はまだ目を覚ましてはいなかった。
咲と舞が掌に載せた二人の宝石をそれぞれの体にそっと近づけていくと、
手の上で宝石が細かく震え始める。
その瞬間、ぱあっと紅と蒼の光が咲の部屋を照らした。
二人は眩しくて思わず目を閉じる。
しばらくの間、光は収まらなかったが、たちまちその光が眠っている満と薫を包み込む。
二つの光はしだいに収まっていく。
舞は恐る恐る目を開ける。
すると、何か暖かい感じがした。
どうやら自分は薫の腕の中にいるようだ。
同じように咲も満の腕の中にいた。
舞「薫さん薫さん!」
薫はさらにぎゅうっと舞を抱き締め、自分の唇を舞の唇にあてようとする。
舞「や・・・やだ、薫さんっちょっと・・・」
舞「みんなみてるよ!ねっちょっと待って・・・」
薫「舞・・・」
舞「私は大丈夫よ・・・。薫さんのほうが・・・」
舞は薫に抱き締められたまま声をかける。
薫「・・・」
舞「薫さん、泣いてるの?」
舞が薫に問い掛ける。
そこでようやく薫は舞をゆっくりと自分の体から離す。
舞を見つめるその蒼い瞳からは、たくさんの雫が溢れていた。
舞は、そっと指で薫の涙を拭う。
薫「……もう会えないかと思った……」
舞「薫さん」
薫「二度と、舞に会えないかと思っていた……でも咲と舞が私たちを助けてくれた……」
咲「ううん、それは違うよ」
舞「私たちも満さんと薫さんに助けてもらったの」
満「どういうこと?」
薫「??」
咲「ダークフォールでピンチになったとき、二人の宝石が私たちに力をくれて守って
くれたんだよ。だから、満と薫も私たちのこと助けてくれたんだよ!ありがとう!」
満「そうだったの……」
満と薫は上体を起こして胸の宝石に触れた。宝石は何事もなかったかのように
二人の胸に収まっている。
満「良かった……」
満はいきなり咲のことを抱きしめた。
咲「み、満、苦しい!」
その様子を見ていた薫はすっとベッドから立ち上がる。
舞「薫さん?」
薫「二人だけにしてあげて、私たちは出ましょう」
舞「そうね……」
舞と薫が部屋を出て行くと、満は腕の中の咲にそっと口づけた。
咲「み、満!?」
満「咲は私の王子様なんでしょ……お姫様のことはキスして起こすものよ」
咲「な、何言ってるの!?」
満「嫌?」
咲「嫌ってわけじゃ……ないけど……」
満「じゃあ、ちゃんとやって」
咲「ちゃんとって」
咲は反論しかけたが、満が黙って目を閉じたのを見て口をつぐむ。
満の顎をわずかに上げるとそのまま唇を重ねた。
咲と満はしばらくお互いを求め合う。
満(咲!?)
咲は満が思っていたよりも強引で、唇を離した後、満をベッドに押し倒す。
咲は真剣な表情で、
咲「好きだよ満。始めて会った時から、ずっと好きだった」
満「咲・・・」
咲は横たわっている満の体を、じっと見つめる。
満「咲?」
咲は少し顔を赤らめて、
咲「あんまり満のスタイルが綺麗でかっこいいから、なんだかみとれちゃって・・・それに比べて私なんか・・・」
そんな咲に満は思わず吹き出す。
咲「わ、笑うことないじゃない・・・!」
満「咲、私はありのままのあなたを好きになったの。だから自分のことをそんなふうに言わないで」
咲「で、でも・・・」
満「それに・・・」
咲「?」
満「変身した時のあなたも、強くてかっこよくて、私は好きよ」
咲「!!」
咲は急に重く、苦しい顔をする。
満「咲?」
咲「私、は・・・」
咲は言葉を絞るように言う。
咲「変身した時の自分は、あまり、好きじゃない・・・」
満「・・・咲?」
満「どうして?」
咲「変身すると、許せない相手には容赦できなくなって、
その時はそれでいいけど変身が解けた時すごく苦しいから……」
満「咲……」
満は咲の頭を胸に抱いた。
満「ごめんね」
咲「満?」
満「私たちがあなたに甘えすぎてしまったから」
満は咲の髪を優しく撫でる。
咲は満の胸に顔を埋めた。
咲「満には、見られたくなかった・・・」
満「何を?」
咲「変身した時の私・・・」
満「・・・」
咲は満の胸に顔を埋めたまま、
咲「あの姿になると、心の中の闇が目覚めたみたいで、それに私の、戦闘の時の恐ろしい顔は・・満が知ってる私じゃないから・・・」
咲は顔をみられたくないのか、さらに満の胸に顔を埋める。
そんな咲を満は優しく抱き締め、頭を撫でる。
満「バカね・・・」
咲「えっ?」
満「・・どんな姿をしていても、あなたはあなたじゃない。あの力があったからこそ、私達はこうしてここにいるのよ・・・」
咲「満・・・」
満「以前、私がまだダークフォールモードを制御できなかったとき、
『満は満だよ』って咲が言ってくれたんじゃない。
私は咲のおかげで自分の力をコントロールできるようになったんだから」
咲「うん……」
満「咲、自分を恥じないで。私は咲に感謝してるし、
咲がいてくれて、あの力から逃げないでちゃんと使いこなしてくれて
本当に良かったと思ってるわ」
満は自分の胸の上にある咲の顔をそっと持ち上げて
まじまじと見た。
満「私は咲が好きよ。今の顔も、変身したときの顔も、全部好き。
咲も、自分のことをあまり嫌わないでほしいの」
咲「……ありがと、満」
満「咲……?」
咲は満の顔に手を伸ばす。頬を撫でていたかと思うと、不意にまた唇を重ねた。
その日の夜、満は咲の家へ、薫は舞の家へと泊まることになった。
今日も舞の家族はいない。
ここのところ、舞の家族が留守の時は、たいてい薫が来るようになっている。
舞に淋しい思いをさせないように。
舞は、夕食の準備をしている。
薫は、そんな舞が微笑ましいのか、思わず頬が緩む。
ふと薫は、咲が前に言っていたことを思い出していた。
咲『舞は、ああ見えてホントは激しい一面もあるんだから』
薫『まさか』
自分の知ってる舞は、華奢でおとなしくて繊細な、思わず守ってあげたくなるような、そんな舞だ。
咲『付き合ってみればわかるよ。あっ!それと浮気は絶対ダメだからね!』
薫『?』
咲『舞ってば、すごく独占欲強いから。浮気なんかしちゃダメだよ!』
この話は、その時の会話だけで終わったのだが、薫の中ではずっとそれが引っ掛かっていた。
まだ付き合いが浅いから、まだお互いのことがわからないのは仕方がない。
だけど今の舞には自分の知らない舞がいる。
浮気はだめ、
激しい一面、
目の前にいる舞の中に、いったいどんな舞がいるのだろう?
薫は、そんな思案をしながら舞を見つめていた。
しかしふと、料理をしている舞の手が止まる。
こちらの視線に気付いたのだろうか?
舞「薫さん?」
563 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/03(日) 18:35:37 ID:DwJuH/Jy
書籍化けってーい!
面白すぎる。
薫「な、何?」
舞「手空いてる?ちょっと味見をしてほしいの」
薫「ええ……」
薫「おいしいわ、すごくおいしい」
舞「本当、よかった」
嬉しそうな顔をする舞を薫は覗き込む。
舞「か、薫さん?どうしたの?」
薫「舞……私、どのくらい舞のこと知ってる?」
舞「え?」
薫「私は舞のことをあまり良く知らないような気がして……」
舞「そんなことないわ、薫さんは私のことすごく良く分かってくれてるじゃない。
私だって、薫さんのこと……」
薫「?」
舞「まだまだ知らないこと、一杯あるから」
薫「そんなこと……私も満も、咲と舞からたくさんのことを教えてもらったのよ。
舞が私のこと知らないなんて、そんなはずないわ」
舞「そうかなあ……」
薫「?」
舞「きっと、薫さんにはまだまだ私の知らない素敵なところがたくさんあると思うの」
薫(それはあなたも同じよ、舞……きっとあなたには、もっと素敵なところがたくさん……)
舞「きっと、ゆっくり接していればお互いに段々分かって来ると思うの。
……これ、テーブルに運んでもらえる?」
薫「ええ」
二人は夕食を一緒に食べ始めた。
夕食を食べおわった舞は食器の洗い物をしている。
その様子を見つめる薫。
目の前に、こんなに可愛い子がいると、自分がどうにかなってしまう。
薫はたまらなくなり、席を立つ。
がたん、という音とともに舞の手も止まる。
舞「薫さん?・・何するの!?きゃっ・・・!?」
突然、薫は包み込むように舞を抱き締める。
舞は薫から離れようと抵抗するが、かなわない。
舞「離して・・・。じゃないと片付けができないでしょ?」
薫「嫌だ」
薫はさらに舞の唇を奪う。
そして舞のエプロンの蝶々結びをほどく。
ひらりと床にエプロンが落ちる。
薫はさらに舞の手前を探り、制服のリボンをほどく。
舞の上半身があらわになる。
普段の舞では薫の力にはかなわない。
薫は唇の後は、うなじにキスをする。
そして空いている手で舞の制服の中を探る。
舞「薫さん、やめて・・・」
薫の手は手前から背中に移る。
舞が一瞬ぴくんとする。
そして薫の手が、ある場所に辿り着く。
その場所は他の場所よりも、なぜかざらざらする。
薫がそこに触れると、舞の息は急に荒くなる。
薫「舞っ!?」
舞「ぅ、ぁあっ・・・!!」
薫が手を離した瞬間、舞はその場に蹲る。
薫「舞っ!!」
薫が舞を落ち着かせようと背中をさするが、それが逆効果のようで、舞は歯を食い縛り顔をしかめる。
舞「大丈夫、よ・・・。ちょっとびっくりしただけだから、ね・・・?」
舞は薫を安心させるためにあえて笑顔で努める。
薫「ごめん、舞・・私、私・・・」
薫は今まで舞にしてきたことを思い返し、目を伏せる。
しかし舞の体の光は纏ったまま。
さらに背中の傷跡辺りの筋肉が膨張し、びりりと制服が悲鳴を上げる。
そして、
キッチン全体が光に染まった。
バサッ・・・
光が収まると、そこには美しい翼を生やした舞がいた。
しかし、もう完全に力を使いこなしている舞の目は、優しいままだ。
だけど、その笑顔は、どこか引きつっているように見える。
薫「舞・・」
薫が変身した舞の体に触れる。けど、痛くない。
薫は安心したのか、舞にさらに近づく。
しかし、
どさっ
薫「!?」
突然、自分の視界が変わる。
なぜか自分は床に仰向けになり目の前には舞がいる。薫「舞っ!?」
薫は抵抗しようとするが、なぜか舞の力にかなわない。
舞「もう離さないわよ薫さん。薫さんがいけないんだからね。片付けの邪魔なんかするから・・・」
舞は薫の唇を塞ごうとする。
薫(やっぱり舞も咲みたいに、変身すると性格が少し荒っぽくなるのかしら・・・?)
薫は舞の背中に手を回しかけたが舞がぴくりと反応したので止めて
手を降ろし、舞にされるがままになる。
舞はいつもよりもずっと強く薫を求めてきた。
薫も舞に身を預けてそれに応じる。
気持ちが昂ぶるにつれ舞の放つ光は強くなっていく。
薫は皮膚にちりちりとした痛みを感じ始めた。
精霊の力と滅びの力がぶつかりあっている。
舞(好きよ、薫さん……)
普段は舞の心の奥に隠している感情が今は前面に出ている。
行動もストレートにそれを反映する。
舞(絶対に離さない……あなたは私だけのもの……)
翼が大きく伸び、二人の体を包み込む。
薫の息遣いがだんだん荒くなってきていることに舞はまだ気づいていなかった。
舞(あなたに私の印をつけておきたい……誰にも取られないように……)
舞はそっと薫の首筋に触れる。薫が苦しそうに息をついた。
その瞬間、首にみみず腫れのようなものが走ったかと思うとそこから血が静かに
流れ出した。
舞「薫さんっ……!?」
全身から血の気が引く。舞の光は消え変身も解けた。
舞「薫さん!薫さん!」
薫「舞……」
薫は首筋を押さえて自分で血を止めた。
舞「ご、ごめんなさい、私……」
薫「謝るのは私よ。先に始めたのは私なんだから」
舞「で、でも薫さんが……」
薫「私なら大丈夫よ。舞、あなたの背中を見せて」
舞「え?」
薫「いいから」
舞の背中は二本の傷が生々しく走っている。
薫(さっき、傷を深くさせてしまったかもしれない……)
薫は舞に服を着せると、台所の片づけを手伝った。
その夜、薫は中々寝付けなかった。
薫(私たちは、近づけば近づくほどお互いに傷つけあってしまう……)
やはり、光と闇の間には隔てがあるのか。
しかしそんなことはないはずだと薫は思った。
薫(咲は光と闇、両方の力を持っている……二つが相容れないなら、そんなことはできないはずだ)
薫(明日咲に相談してみようか……)
568 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/05(火) 19:44:48 ID:kwXcO86Z
長すぎてツマンネ。
誰か短篇作れ
>>567 次の日、珍しく四人で帰っている。
咲「えっ!?舞が変身した!?」
薫の相談を受けた咲は驚きを隠せない。
舞と薫は恥ずかしそうに俯いている。
咲「まさかまた、舞の力が・・・」
咲は舞が力をコントロールできなかった時のことを思い出し、舞と薫を心配そうに見る。
一方、満はジト目に近い目で薫を見ている。
舞「ち、違うの!!昨日のは私が悪いの!!・・・ちょっとびっくりしただけだから・・・」
舞はまた、俯いてしまった。
顔を赤らめて・・・。
咲「何にびっくりしたの?」
舞「そ、それは・・・」
舞が吃ったまま、しばらく沈黙が続く。
しかし、薫の一言ですぐに沈黙は破られる。
薫「違う」
咲「薫?」
薫「昨日のは舞のせいじゃない。私のせいだ。私が、私が先に、舞のことを・・・」
するといきなり薫は舞を引き寄せ、抱き締める。
舞「きゃっ!薫さん・・!?何するの!?」
舞は薫から離れようと抵抗する。
薫はそんな舞にかまわず、舞の頬に触れ、彼女の顔を、まじまじと見る。
薫「あの時私は、こんなに可愛い子がそばにいるから、どうしようもなくなってしまった・・・。ごめん、舞・・・」
薫はさらに舞を抱き締め、顔を近付ける。
舞「や、やめて薫さん・・みんな、見てるよ・・」
咲「あ、あの・・・。言ってる事とやってることが違うのですがー」
咲は薫を止めるにも止められず、あたふたしている。
一方満は、薫を睨んだまま。
イライラしているのか、肩を震わせている。
そしてついに薫が舞に口付けたその時、
ばしん、という薫の頭をはたく音が辺りに響いた。
咲「み、満?」
満「聖女に手を出さないの!!少しは自重しなさい、薫っ!!」
舞「た、助かった・・・」
はたかれた場所を擦る薫。
薫「何よ満!邪魔しないで!あなたは私の味方なんじゃなかったの!?」
満は、はあ、とため息をつく。
満「いくらあなたと舞が恋人同士でも、相手に対する礼儀ってものがあるわ!!」
満は薫の目の前に立ち、言い放つ。
薫は反論できず、後頭部を支えたまま。
満「とにかくあなたが反省するまでーーーー」
満「舞・禁止令。さわるの禁止」
満が薫に宣言した時、薫の心の中で、ずがーんという稲妻のような音が響く。
そしてさらに、
満「特に、ちゅー禁止」
再び薫の中で稲妻が響いた。
薫おねえさん、盛りのついた淫獣並みw
薫「ま、待って満!反省したわ、反省したから!」
満「だめよ。そんな簡単に反省できるわけないでしょ、今のあなたが」
薫「うっ……」
満「だいたいいちゃいちゃしすぎなのよ。戦いの後だったりしたから大目に見てたけど、
このままじゃ24時間年中無休で舞にべたべたしたがるに決まってるわ。
私がいいと言うまで舞禁止!分かったわね!?」
咲(満、すごい剣幕なり……)
薫「わかったわよ……」
薫はしゅんとうなだれる。
舞(怒られてる薫さん、可愛いかも……)
舞「薫さんそんなに落ち込まないで、ね?」
薫「舞」
伸ばしかけた薫の手を満の手刀が叩き落す。
満「ほら、もう。今言ったばかりじゃない。当分は駄目ね。あ、それと舞の家への
お泊りも禁止するから」
薫「なっ!?」
満「当然でしょ?」
薫「で、でも舞のご家族は家を留守にすることが多いのよ」
満「だから?」
薫「だから、舞を一人にさせておくわけにはいかないじゃない。
ダークフォールの連中がいつまた来るか分からないし」
満「精霊の力を使いこなせる舞の方が、はっきり言ってあなたより強いと思うけど?
特にダークフォールに対しては」
薫「……」
満「まあでも、薫がそんなに心配だって言うんなら……」
薫「えっ!?」
薫は期待を込めて満を見つめる。
満「私が舞の家に泊まるから。薫、あなたは咲の家に行ってなさい」
俺的には戦闘よりも
>>569からの笑い含みの百合ネタみたいな流れがいいな。
咲舞満薫は充分頑張ったんだからもう戦わなくっていいよって感じなもんで。
満「じゃあ、そういうことで」
満はいきなり舞をお姫さま抱っこする。
薫「!!」
舞「み、満さん!?」
満は咲と薫に振り返り、パチリとウインクをして、
満「じゃあね」
満は、そのまま舞を抱えて飛び立ってしまった。
咲と薫は、あっけにとられて、ぽかーんとしたまま。
結局、その日の夜は薫は咲の家へ、満は舞の家へと泊まる事になった。
薫「ああっ!!もうだめだっ!!」
薫は咲の部屋に着いた途端、咲のベッドにバターンと俯せに倒れこむ。
咲「か、薫・・・。何がそんなにダメなの?」
薫「舞にさわりたくてたまないの!私もうダメ・・。舞〜舞〜舞〜・・・」
咲「な、何考えてるの薫!?」
薫「舞の体、髪かな?抱き締めるとシトラスの香りがして落ち着くのよ・・」
咲「そ、そうなんだ・・・」
薫「また舞のクレープが食べたい・・・」
咲「・・・」
薫「でも、昨日舞の激しい一面を見た気がする」
咲「えっ!?」
薫は首筋に貼ってあるばんそうこうを、ちょいちょいっと指差した。
咲「えっ!?まさか!!」
薫は赤面し、俯きながら静かにこくりと頷いた。
瞬間、かーっと顔が赤くなる咲。
薫「でも・・・」
咲「?」
薫「変身しても、していなくても舞は舞だ」
咲「うん・・・」
薫「たとえ舞がどんな姿をしていても、私は舞が好き」
咲「そうだね・・」
ああ、一文字抜けてるorz・・・
577 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/06(水) 19:33:18 ID:Mr9IB2n7
もう終われよ!
SSのくせに!
満は舞を抱えたまま美翔家の前に降りる。
満「舞、着いたわよ。……舞?」
舞「っ!ご、ごめんなさい!」
目を閉じていた舞が慌てて満の腕から降りた。
舞(薫さん、いっつも私を抱っこした後キスするから癖で目を閉じちゃった……)
満「それはそうとね、舞」
舞「?」
満「今日本当に泊まってもいいの?」
舞「ええ、もちろん。どうして?」
満「私が泊まるの嫌かなって」
舞「そんなことないわ」
満「そう、良かった。なんだかんだ理由をつけて薫が来そうな気がするから」
舞はその言葉を聞いて少し笑って満を家に招きいれる。
満「前から聞きたかったんだけど」
舞「何?」
満「薫のどこがそんなにいいの?」
舞「え……」
満「私と薫は生まれたときから一緒にいるから、却って良く分からないのよ」
舞「えっと、その……」
舞は顔を赤らめた。
舞「優しいところ、かな。それにすごく真っ直ぐに私を思ってくれるところ」
満「ふうん……、今の薫は自分の気持ちに真っ直ぐすぎるような気がするけど」
舞「そ、そうね」
しばらくして舞は食事の支度を始める。
満「そういえば咲の家も、お父さんとお母さんがみのりちゃんを連れておでかけ
するから今日帰ってくるのは遅くなるって言ってたわ。
親戚の用事があるとかで」
舞「そうなの……それじゃ咲と薫さん、ちゃんと食事してるかしら?」
満「咲がいるから大丈夫じゃない?薫も料理できないわけじゃないし」
舞「ね、ねえ満さん」
満「ん?」
舞「あの、咲と薫さんの分も作って持って行っちゃだめかな?」
満「……いいんじゃない?私もついて行くけど」
舞「じゃ、じゃあすぐ作るね!」
満(はりきっちゃって、もう)
その頃、薫と咲は庭先に出て話しこんでいた。
薫「昨日もそうだったんだけど、どうしても私と舞は……その、
深く近づこうとすればするほど……」
咲「う、うん」
薫「舞の精霊の力と、私の滅びの力がぶつかってしまうみたいだ」
咲「うん」
薫「舞の背中を撫でたりすると、舞の力が出てきてしまう」
咲「……うん」
薫「興奮している時は特に力も出やすいみたいで……お互いに傷つけてしまう」
咲「う〜ん」
薫「これはもうどうしようもないのかしら」
咲「……そんなこと、ないと思う」
薫「……」
咲「だって、舞の力は薫の体を治すことだってできるんだよ。私見たもん」
薫「うん」
咲「だから、今は精霊の力と滅びの力がぶつかり合っててもそのうち受け入れられるように
なるんじゃないかなあ」
薫「そう、だろうか」
咲「私思うんだけど、舞の力ってきっとまだ成長してる途中なんじゃないかな」
薫「もっと強くなるって言うこと?」
咲「強くなるって言うか……優しくなるんじゃないかな」
薫「優しく?」
咲「だって今、舞自身がすごく辛そうに見えるよね。変身する時。
もっと、舞の体も痛くないように変身できるはずだと思うんだ。
きっとその時には薫の滅びの力も受け入れられると思うよ」
薫「そう、ね……そうかもしれない」
咲「ねえ、薫?」
薫「うん?」
咲は薫の上体をぎゅっと抱きしめる。
薫「さ、咲!?」
咲「薫って心配そうな顔するとすごく満に似てるんだね。
満はね、こうやって私になでなでされると安心するんだって」
薫「さ、咲、私は満じゃない!」
咲「分かってるよ、でも薫に元気になって欲しいし。
舞じゃないとだめなんだろうけど」
薫(でも、ちょっと暖かい……)
満と一緒に夕食の差し入れを持ってきた舞は薫が咲に抱かれているところを
見てしまった。
舞(薫さん……咲と何を!?)
ガシャーンという、差し入れの弁当箱を落とした音に気付いた咲と薫は振り返る。
薫「舞っ!?」
舞「・・・」
満(あ、やばい)
舞は肩を震わせながら、つかつかとこちらに向かってくる。
舞は笑っている。
無論、その笑顔は引きつっているのだが。
何か飛んでくる、
あ、避けられな・・・
バチン!!
薫「がはっ」
薫は常人ではありえない光の力で二メートルぐらい吹っ飛ばされた。
薫(そういえば咲が・・・)
『舞ってば独占欲が強いから絶対に浮気なんかしちゃだめだよ!』
舞「薫さん?どうしてこうなったのか、ちゃんと説明してね・・・」
舞の笑顔は、いまだ引きつったまま。
舞は変身して薫の首根っ子を掴んで問い掛ける。
薫「してない!浮気なんてしてない!私が好きなのは舞だけだ!!」
(でもちょっとだけ、ちょっとだけ咲のことが暖かかった・・・。でも、ちょっとだけよっ!!)
満「・・・」
その後、薫は舞に二回張り倒された。
咲も交えて舞になんとか説明して、やっと誤解が解けて納得してもらった。
当の薫は頬の痛みよりも、舞に張り飛ばされたということがショックで、しばらく放心状態だった。
舞は、そんな薫を、そのまま首根っ子を掴んで、ずるずると引きずりながら自宅に戻った。
咲と満は、そんな二人を見守ることしかできなかった。
そして、美翔家に戻った薫と舞は、
薫「お願い舞!機嫌直して!」
舞は変身を解き、薫を無視して、落としてしまった料理を作り直している。
舞「・・・」
薫「舞・・・私また、舞のクレープが食べたい・・・」
舞「・・・」
薫「舞・・・」 薫は舞に近付き、ぎゅっと抱き締める。
舞「やだっ!薫さん、離して・・・!!」
薫はさらに強く舞を抱き締める。
薫「舞、私がこんなことをするのは、あなただけよ・・・」
舞「薫さん・・・」
薫はそのまま舞の口に自分の口を近づける。
舞が嫌がらなかったので二人の唇は静かに触れ合った。
触れるだけに留めて薫はすぐに口を離す。
舞「薫さん……」
薫「舞……、私が好きなのはあなただけ……」
舞「もうっ」
舞は急に顔を赤くした。
舞「そんな風に言われたら怒れないじゃない、私まだ怒ってるのに」
薫「え、……だから私は浮気なんか……」
舞「だって薫さん、咲に抱かれてる時すごく嬉しそうだったもの」
薫「うっ……それは、その……なんだか落ち着いたから……
でも私の好きなのは舞だけよ。信じて!」
舞は無言で、作り直したお弁当を薫に手渡す。
薫「舞?」
舞「二人分あるから、咲と満さんに渡してきてあげて。
すぐに帰ってきてね」
薫「ええ、分かった。すぐに帰ってくるわ」
薫は家を出て飛び立った。
薫から受け取った夕食を食べ終えた咲と満は就寝の準備をしている。
薫は、二人に夕食を渡した後すぐに帰ったのだが・・・。
咲「満〜・・・口ぐらい聞いてくれたっていいじゃない・・・」
満「・・・」
咲「さっきのは薫に元気になってほしくて・・・」
満「・・・」
咲「私が好きなのは満だけだよ!お願い信じて・・・」
咲の優しい瞳が今は伏せており、もう泣きそうになっている。
満はベッドに腰をかけて跳ねている髪を整えている。
満「咲・・・」
咲「えっ?」
満「・・・」
咲「?」
満「変身して・・・」
咲「へっ!?」
満「変身した、かっこいいあなたに会いたい・・・」
咲「・・・戦いでもないのに、あの力は使えないよ・・・」
満は、じっと咲を見つめて、
満「お願い・・・」
咲「わかったよ・・・」
咲は体に力を込める。
光が咲を包み、変化していく。
髪が長くなり、瞳も釣り上がっていく。
咲「やっぱりやめようよ・・・。私がこの姿になったら満を傷つけちゃう・・・。自分の気持ちが止まらなくなっちゃう・・・」
満「いいわよ・・・。あなたになら、あなたになら何をされても・・・」
咲「満・・・!!」
光が収まり、変身した咲が現われる。
満「きゃっ!!」
変身した咲は、そのまま満をベッドに押し倒した。
満は目の前の咲を、まじまじと見る。
満「やっぱりかっこいい・・・。変身した咲も、私は好きよ・・・」
咲「今更後悔しても、遅いわよ・・・」
薫「ただいま」
薫が舞の家に戻ると二人分の夕食が用意されている。
舞「お帰りなさい。……本当にすぐね」
薫「ええ。約束したから」
舞「向こうで咲と何かあるかと思ったわ」
薫「そんなことない!舞、何度も言ってるけど私は決して浮気なんか……」
薫は舞の体を抱きしめようとするが、舞は手で薫を押し戻した。
薫「舞?」
舞「いくつか、約束して欲しいことがあるの」
薫「?」
舞「まず、浮気は絶対しないこと」
薫「ええ、約束するわ」
舞「それと、人前では抱きついたりしないこと」
薫「う……」
舞「守れる?」
薫「わ、分かった約束する……でも舞、今まで嫌だった?」
舞「嫌ってわけじゃないけど、やっぱりあんまり良くないと思うの」
薫「そうか……分かった……」
薫は再び舞を抱きしめようとしたが、「今はだめよ」と止められる。
舞「ご飯が先。我慢できる?」
薫「ええ、……できるわ」
舞(薫さんがこれで少し落ち着いてくれるといいんだけど……)
もう夜も遅く、舞と薫は寝る準備をしている。
薫の長い髪をときながら舞は思う。
舞(薫さん私はずっと咲のことが好きだった・・・。だけど、あの時から・・・)
『舞は、舞は、私が守る!!』
舞(あなたの真っすぐな瞳と気持ちに、しだいにひかれていったの・・・)
舞(だけどあなたの窮屈すぎる愛情も、私にとっては最高の束縛・・・)
舞(でも、生きていくなら、あなたとがいいな・・・)
一方、咲と満は・・・。
満は咲の全てを受け入れた。
咲もまた、満の全てを味わおうとする。
二人はお互いのことを存分に堪能した。
満(幸せ……)
ひとしきり互いを求めた後、二人はようやく体を引き離す。
少し体が熱くなっていた。包まっている布団が冷たく感じられる。
咲「ねえ、満……」
満「なに?」
咲の変身はいつの間にか解けてしまっていた。
咲「これからもずっと一緒だよね?」
満「え?」
咲「満たちって、時々どこかに行っちゃいそうになるんだもん」
満「大丈夫よ、約束する。……これからもずっと、私は咲と一緒にいる。
咲も約束してくれるわよね?」
咲「うん。約束するよ満」
満「嬉しい……」
満は咲の胸に顔を埋めた。
咲「満?」
満「私の気がすむまでこうさせて」
咲「うん……」
満(咲って、すごく甘い香りがする……、咲といられるだけでこんなに幸せな気持ちに
なれるなんて……)
『プリキュアを倒せばアクダイカーン様がお喜びになる。
アクダイカーン様の喜びは私たちの喜びだ!』
あの夏から考えると、自分たちは大きく変わった。
満(咲と一緒にいるのが、今の私の幸せ……薫もきっと……)
咲の胸に顔を埋めた満の頭を撫でながら、
咲「満…私、満のこと、絶対守るから…」
満「うん…」
咲「でも…」
満「?」
咲は空いている左手に握りこぶしを作る。
咲「もし、またダークフォールのやつらが、満を狙って傷つけたら…!!」
急に、優しかった瞳が釣り上がっていく。
髪も揺らめき始める。
満「咲!?」
咲「私は、あいつらを許さない…!!」
満「咲!!」
満は咲の滅びの力の発動を止めるように、ぎゅっと抱き締める。
咲「み、満!?」
満が抱き締めると咲の光は収まり、瞳も優しいものに戻った。
満(やっぱりのこの力は、咲の怒りに反応するのかしら?)
満「ねえ、咲」
咲「ん?」
満「今、変身しようと思ったの?」
咲「思ったわけじゃないけど、今までのこと思い出したら自然に……
だってあいつら、散々満のこと……」
咲がまた変身しかかったので、満は抑える。
咲「満?」
満「今は優しい咲がいい」
咲「さっきは変身した方がいいって言ってたくせに〜」
満「だめ?」
咲「だめじゃないよ。でも、満」
満「なに?」
咲「私、満が傷つけられたりしたら絶対変身しちゃう。
持てる力を全部出して満を守るから」
満「うん」
咲は胸の中の満をぎゅっと抱きしめた。
舞(薫、さん……)
薫の長い髪が舞の顔に掛かる。
舞禁止令があったからか、その後舞に怒られたりしたからか、
今日の薫は荒々しいほど強く舞を求めていた。
背中の傷にだけは直接触らないように注意を払いながら
舞を抱きしめる。
薫(シトラスの匂い……)
舞の体に顔を近づけるたび、薫はその匂いを感じる。
どうして他の人間がこの香りに気がつかないのか不思議なほど、
薫にははっきりと感じられた。
ひとときを終えると、薫は舞の隣に横たわる。
舞「ねえ、薫さん」
薫「なに?」
舞「変身した時の私のこと、どう思ってる?」
薫「……綺麗よ。凄く綺麗」
舞「ん……」
薫「どうしたの?」
舞「変身すると薫さんを傷つけてしまう時があるから……」
薫は無言で舞の髪を撫でた。
舞「……」
薫「舞は私のことをいつも助けてくれるし、傷を治してくれたこともある」
舞「……」
薫「それに、舞は私のことを人として愛してくれた。
だから、きっと舞の力もそのうち私のことを認めてくれると思う……」
舞「うん……」
舞は薫にきゅっと抱きついた。
翌朝、学校に行くまでの道で2組はばったりと出会った。
咲「おはよう、舞、薫!」
舞「あ、おはよう!」
満と薫の視線はお互いの手に注がれた。
二人ともそれぞれ咲と、舞と、しっかり手を繋いでいる。
視線を上げると目が合った。二人は思わず微笑み合う。
咲「満?」
舞「薫さん?どうかしたの?」
満「な、何でもないわ」
薫「ええ、何でも。学校に行きましょう」
学校へと続く道を、四人はゆっくりと歩き始めた。
登校中の四人。
薫(どうだったの?)
満(何が?)
薫(私の言いたい事ぐらいそばにくれば分かるでしょう。どうだった?変身した咲と・・・)
満は、かーっと顔を赤くする。
満(言いたい事がわかるのなら、別に言わなくてもいいでしょ・・・!!)
満は、ぷいっとそっぽを向く。
満(でも、変身した咲ったら、とてもいじわるなんですもの・・・)
『ねえ満・・・。お願いしてよ・・・』
『はっきり言ってくれないと分からないなあ・・・。じゃあ、このままやめちゃうよ?』
『だめ、まだだめだよ・・・』
満(でも・・・)
薫(?)
満「かっこよかった・・・」
満(優しい咲もいいけど、たまには変身した咲に・・・)
薫(・・・)
舞(薫さん、いつも私を優しく真っすぐ見つめてくれる、大切な人…)
舞が、そっと薫の手を握ったので薫も優しく握り返す。
しかし、
舞「きゃっ…!!薫さんっ!?」
薫はいきなり舞を引き寄せ抱き締める。
咲&満「!!」
薫「舞…」
舞「やだっ!薫さん離して!!人前では抱き締めないでって言ったばかりじゃない…!!」
薫「舞…」
薫はさらに舞を抱き締め、背中に手を回す。
舞のうなじに触れようと、長い髪を探る。
そしてついに、その探っている手が、ある場所に触れてしまった。
舞は一瞬、ぴくんとなるが、薫はそれに気付かない。
舞「……」
満(私、しーらないっ…)
咲「み、満!?」
満は咲を引きつれて学校に向かう。
薫「舞っ!?」
薫は急に無言になった舞の顔を覗き込む。
その瞬間、ぱあっと光が辺りを照らす。
バサッ…
薫の目の前には、背中には美しい翼を生やした舞がいた。
薫「…」
舞「薫さん…」
薫「!?」
薫は異様に落ち着いた舞の声に、びくっとする。
舞「この前約束したこと、もう忘れたの?」
薫に振り返った舞の笑顔は引きつっている。
薫「い、いや…。舞のお団子頭を見るとつい、抱き締めたくなるっていうか、何と言うか…」
舞の姿を見た薫は、しどろもどろになる。
舞「薫さん、ちっとも反省してないようね…」
ずいっと薫の顔に近付ける舞。
薫「…」
舞「ちょっとおしおきしなきゃね…」
592 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/11(月) 23:54:10 ID:i/eXPrUu
長編さすがにここでは、、、ホムペ作ってやれば?
ここ人いねーな
romならいる
続けてください
薫「お、おしおき!?」
薫はまた張り倒されるのかと咄嗟に身をすくめ目を閉じた。
だが何も起きないので恐る恐る目を開ける。
薫「舞?」
舞は薫のすぐそばにいた。
薫(舞の気配を全く感じない…、この距離で感じないはずはないのに)
舞は薫の胸に手を当てている。舞の手から広がった光の力が薫の体を薄く覆っていった。
舞「はい、これでいいわ」
舞が手を離す。少し圧迫感はあるが、光の力に包まれていても痛いと言うことはなかった。
薫「舞、……その、何を?」
舞「おしおき、よ」
すぐ近くから舞が厳しい目で薫を見上げている。
薫(舞?変だ、いつものシトラスの香りがしない…)
舞は変身を解いてくるりと後ろを向くとさっさと歩き始める。
薫「ま、待って、舞」
薫は慌てて追いかけて舞の肩をつかもうとした。
薫「?」
寸前で何かが薫の手を阻む。痛くはないが、舞に触れようとすると跳ね返される。
舞が振り返った。
舞「薫さんの体を、私の力で覆わせてもらったの。私にさわれないように」
薫「…それが、おしおき?」
舞「ええ、そう。薫さんが反省するまで、私には触らないで」
きっぱりと舞が宣告する。
薫「そ、そんな……」
舞「満さんの話を聞いたときは、ちょっと厳しいかもって思ったんだけど、
やっぱり薫さんはこのくらいしないと反省できないみたいだから」
薫「わ、分かった二度と人前で舞に抱きついたりしないから!」
舞「昨日も同じ約束をしたじゃない」
薫「舞〜……」
薫の声には耳を貸さずに舞は歩き続ける。
薫(舞の匂いを感じないのもその力のせいかしら……それにしても、このままじゃ私……)
その後、薫は舞に声をかけようてしても舞は、そのまま無視して避け続ける。
いつもは四人で昼食をとるのだが、舞だけは、薫を避けるために一人で昼食をとっている。
舞(薫さん・・・いつも私に、優しくしてくれる・・・)
舞(でも・・・)
舞の箸は止まっており、食も進んでいない。
舞(最近の薫さん、私のことしか見えてない・・・。私が、私が好きになった薫さん・・・)
『舞は、舞は、私が守る!!』
舞(私が好きになった、かっこいい薫さん・・・。どこへいってしまったの・・・?)
三人で食べている咲、満、薫もいつもとはだいぶ様子が違った。
満「あのね、薫。さっきからため息ばっかりつくのやめなさい!」
咲「満、まあまあ」
満「せっかくおいしいメロンパンを食べてるのに台無しだわ」
薫「だって、満……舞が、ずっと私のこと……」
満「そうね、避けてるわね。でも薫が悪いわ、どう見ても」
薫「それは……」
満「だから言ったじゃない。舞に無理やり抱きつくのは止めなさいって」
咲「あ、あのさ薫。この前確か、舞に触れないともうだめだって言ってたよね。
今もそんな感じ?」
薫「…うん」
咲「困ったね……」
薫「だめだ、もう舞がそばにいないと何もやる気が起きない…」
満(情けないわね…)
598 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/12(火) 23:42:14 ID:0gpvP7lB
長すぎるし、会話ばっかりでつまらない。
小説っぽく書けよ・・
食べ終わっていない弁当を片付けた舞は、一人屋上の手摺りにもたれかかる。
(薫さん、ごめんなさい・・・。おしおきであなたが私に触れないようにする、なんてのは建前で・・・)
舞の瞳から涙が零れる。
(精霊の力を持つ私と滅びの力を持つ薫さん・・・。やっぱり私たちは相容れないの・・・?)
(薫さんは、知らないよね・・・。私、前の学校では友達も少なかったの・・・)
(自分以外は敵だと思い込んでいたの。だから弱点なんて見せられなかった・・・)
『お前みたいなやつが一人で生きていかれるものか』
(恐くて恐くてたまらなかった。足のしたには底なしの海。みんな私をみはってるんだ。早く落ちないかみはってるんだ。)
(人を信じられない自分が嫌い。怯えるあまりに人を傷つけてしまう自分が嫌い・・・)
(泣いてるの?薫さん・・・どうして・・・?)
『嫌なの。舞がいなくなるのは』
(嫌、嫌って言ってくれるの?消えなくていいの?いてもいいの?私、本当にあなたのそばにいてもいいの・・・?)
「でも、あなたを傷つけることしかできないこんな体なら・・・」
舞は、そっと胸な手を置き、体に力を込めた。
咲「舞、何してるの?」
舞ははっとして体にこめていた力を消す。
咲の人懐こい顔が近づいてくる。
舞「さ、咲」
咲「お弁当、食べた?」
舞「うん…薫さんと満さんは?」
咲「二人は教室だよ。…あのさ、舞」
咲は舞の耳に口を近づけてひそひそと、
咲「薫、相当こたえてるみたいだよ」
舞「…そう」
咲「舞に触れないってこともそうだけど、それよりも舞に避けられているのが
悲しいみたい」
舞「……」
咲「満は『薫が悪いのよ』って言ってるし、約束破ったのは薫が悪いって
私も思うけど、その…せめて普通に接してもいいんじゃ…さわらせなくても
いいから」
舞「咲…」
咲「なに?」
舞「私と薫さん、恋人になるなんてやっぱり無理があったのかもしれないって思うの」
舞は、そう言って胸に手をあてて力を込める。
瞬く間に光に包まれた舞はさらに力を込めた。
「舞!?」
すでに舞の制服は、込めた力の反動で、布切れ状態になっている。
背中には銀色の美しい翼が生えている。
だが、いつもの変身とは、どこか違う。
もうすでに舞の両足は消えかかっている。
「舞、何を・・・!?」
「咲、もういいの・・・」
「!?」
「私は、薫さんが好き・・・。今でも・・・きっとこれからもずっと・・・。だけど、あの人を傷つけることしかできないこんな体なら、私は薫さんと恋人にはなれない・・・」
「・・・」
「だから、この世界の掟にならって、私は消えます・・・」
「じ、じゃあ今朝、薫に舞の力を送り込んだのは・・・!?」
「そう。薫さんに、このことを知ってほしくなかったから・・・。大好きな人を悲しませたくないから・・・!!」
「舞!!」
咲は舞の体に触れようとするが、弾き返されてしまう。
「だめよ・・・。いくら光の力を持っていても、咲の中には滅びの力もあるでしょ?だからもう、誰にも私の消滅を止めることはできない・・・」
「そ、そんな・・・」
教室では急に飛び出していった咲を案ずる満がいる。
一方、薫はため息ばかりなのだが・・・。
満の表情は厳しい。
咲が向かった屋上から何か、強大な力が感じられる。
それも、その力は自分達には無い力だ。
だが、その力は徐々に少なくなってきている。
「舞?」
満は立ち上がり、屋上のほうを見る。
薫は満の声に、はっとする。
「舞が、舞がどうしたの?」
「・・・」
満は舞が薫に自分の力を送り込んだ意味がようやくわかった。
今、自分が舞の気配を感じても、薫は感じなかった。
舞は薫に、わざと“そういうふうに”したのだ。
満がようやく口を開く。
しかし、その様子はどこか重苦しい。
「舞が・・・」
「?」
「舞が、消滅する・・・!!」
「っ!」
満の言葉を聞いた瞬間に薫は立ち上がった。椅子を蹴り倒し屋上へ向って走る。
(舞が消える!?どうして!?)
薫には何も感じられない。階段を駆け上り屋上の扉を開ける。
「舞っ!」
消えつつある舞はその声にびくりと体を震わせた。
「来ちゃったのね、薫さん…」
「舞!どうしてこんな」
薫は舞に駆け寄ろうとしたが光に跳ね返される。
「もう、私の消滅は止まらないわ…薫さん、あなたは幸せになって」
「ふざけないで!」
怒声と共に薫は一瞬にしてダークフォールモードになった。
舞が朝薫に送り込んだ力が弾けて消える。やっと舞のことを感じられるようになった。
「舞、私はあなたのことを」
青い滅びのオーラを纏った薫の姿に舞の力が反応した。
これまで舞を消滅させようとしていた力がまず薫の存在を消滅させようと
向ってくる。
薫は歯を食いしばり光の力に耐える。
(舞の力を全て、私への攻撃に回させる!そうすれば舞は消えないはずだ…)
薫の全身がかっと熱くなる。バレッタがどこかへ吹き飛んでいった。
「薫さん、やめて!」
「嫌だ!」
光の力に耐えながら舞を抱き締めている薫の皮膚は、すでに焼け爛れている。
ダークフォールモードになっている薫のレザースーツも力の反動で、あちこち引き裂かれている。
「やめて薫さん・・・。これ以上やったら死んじゃうよ・・・」
「舞が無事ならかまうものか!!」
薫は、光の力が自分に攻撃するように、さらに舞を抱き締める。
「舞、ごめん・・・。今朝、無理矢理抱きついたりして・・・」
「・・・」
「もう、舞に困らせるようなことはしないから」
「薫さん・・・」
「好き、好きよ・・・。」
「・・・」
「私は、光とか闇とか関係ない!舞は、舞は・・・私が守る!!」
(薫っ……)
満は眩しさに目を細めながら舞と薫の様子を見ていた。
二人のいるところからは強い光が放たれていて姿は良く見えない。
ただ薫の力も次第に弱くなっているのが感じられる。
(このままじゃ薫が……)
「薫さん…」
光の中で舞と薫は見つめあっていた。
「舞…好きだ……」
薫は舞にキスをする。体の内にも熱が入り込んでいく。
薫の胸にかけた宝石は急速に光を失い始めていた。
(熱い…でも、構わない…)
薫はダークフォールモードを維持していられなくなり、通常の戦闘服へ、
更に制服姿へと戻る。制服もあちこちが引き裂かれている。
薫は更に強く舞を抱きしめた。
「舞、いつしか私達は、人間になりたいって思うようになった・・・」
「?」
「いずれ私達は消滅する。滅びの力がなくなれば、生きていけない」
「!!」
「だが、舞達と同じ人間だったら、ずっと舞達と一緒にいられる・・・」
「薫さん・・・」
「舞、私達が闇の底から蘇ったのは、あなた達と一緒に生きていきたいから・・・」
薫は体中の痛みに顔をしかめる。
だが、薫は再び舞にキスをする。
(熱い・・・。しかし舞の光の力に耐えて、それが私の体中に回れば私はきっと人間に・・・。だって舞の力は精霊の力なのよ。私達のような滅ぼすだけの力じゃない・・・!!)
「私が人間になれば、きっと舞の消滅も止められる!!」
「薫さん・・・!!」
薫はさらに舞と繋がろうと、舞をその場に押し倒した。
薫は痛みを押して舞を求める。
舞の二つの膨らみを弄ぶ。
「舞、私は舞のことを愛している・・・」
「・・・」
「だからもう、自殺なんてばかなことはやめて。一緒に生きていこう。舞・・・」
「薫さん、本当は私、あなたとずっと一緒にいたい・・・!風と、風と一緒に、生きてみたいの・・・!!」
「舞っ!?」
舞は状態を起こし、薫にキスをする。
舞が自分から薫にしたのは、これが始めてだった。
舞の輝きがさらに増す。
一方、薫の周りにも、なぜか舞と同じような光が纏っていた。
「薫さん…!」
舞が薫の体を自分の体に押し付けるように抱きしめる。
「舞…」
互いを求める気持ちが極致に達した時、舞の体から閃光が放たれた。
咲も満も思わず目を閉じる。
光が止まり目を開けると、舞と薫は折り重なって倒れていた。
もう舞から光は出ていない。涙を流しながら気を失ってしまっている。
それは薫も同じことだったが、舞の服が元に戻っているのと比べ
薫は服が引きちぎれたまま、傷も生々しく残っているので
舞と薫はどこかちぐはぐに見えた。
「薫…」
満は薫の体を抱きかかえる。あちこち火傷しているのが分かった。
「薫、大丈夫そう?」
「とりあえずは、ね。咲、私たち早退するから」
「うん、分かったよ…」
「あと、舞のこともお願い。家に連れて帰ってあげたほうがいいと思う。
確か今日は、舞のお母さんが家にいるはずだから」
「うん」
「じゃあね」
満はふわりと飛び上がると海岸を目指した。
ひょうたん岩には寝かせる場所がないので堤防の影に薫を寝かせる。
とりあえず服は着せたが、傷を治すことはできない。
(体力が回復するまで、寝かせておくしかないわね……)
満は自分と薫を包むように赤いバリヤーを張る。
そのままじっと薫のそばに座っていた。
「ん・・・」
満の隣で寝ている薫がわずかに動く。
「舞っ!!」
薫は上体をがばっと起こし、辺りをきょろきょろと見回す。
「薫、気が付いたのね」
「満、舞は?」
「舞ならそこで眠ってるわ」
「舞・・・。よかった・・・」
薫は安心したのか、舞に顔を近付ける。
(薫?・・・目の前にいる薫は薫だけど、どうして?薫から滅びの力が感じられない。目の色も、まるで舞達のような・・・)
「舞、舞・・・」
薫が舞をゆっくりと揺さ振り起こす。
「薫、さん・・・?」
すると舞は、うっすらと目を開けて薫が目の前にいるのを確認したあと、いきなり薫のことを抱き締めた。
「薫さん!!」
「う、嬉しいじゃない・・・。抱きついてくるなんて始めてじゃない・・・。私もだ、抱き締めちゃうわよ・・・!!」
すると舞が薫を抱き締めている間、淡い光が舞の体から放たれている。
そしてそれが薫の体を包み、たちまち体中の火傷を治していく。
「舞、ありがとう」
二人はしばらくお互いを見つめあった。
さて、というように薫が立ち上がる。
「舞のお母さんも心配しているみたいだから私、舞を送っていくわ」
「はいはい」
薫はそういって舞をお姫さま抱っこをする。
そして体に力を入れて飛び立とうとした瞬間・・・。
「か、薫さん!?」
べちょっとその場に潰れてしまい、薫が舞の下敷きになっている。
「も、もう一度・・・」
しかし何度やってもバランスを崩してしまい、その場に潰れるだけ。
「ど、どうして・・・」
薫は少し舞から離れる。
「薫さん?」
薫は意識を集中する。
そしてダークフォールモードになる要領で体中に、気合いを込める。
「はああっ!!」
だが、薫の怒声が響いたあと辺りは、しーんと静まり返っている。
「薫、あなた・・・」
薫はまじまじと自分の手のひらを見る。
「まさか、まさか私、人間に・・・!?」
薫は歩いて舞を送っていった。満はその場に残る。
満も自分の手のひらを見た。赤い力が簡単に宿る。
(薫は、滅びの力を失ったのかしら…)
それはたぶん喜んでいいことだ。
今の薫なら滅びの力が消えても消滅しないのかもしれない。
だが満はどこか複雑だった。
(薫とはずっと一緒だと思ってたけど…)
(滅びの力が消える時、私一人だけが消滅しちゃうのかな…)
舞の家に迎う途中、
「人間になれたのは嬉しいけど、まさか力までなくなるなんて・・・」
薫は、しゅんとうなだれる。
「だ、大丈夫よ。今すぐには無理だけど、きっと薫さんならすぐに慣れると思うわ。私達も薫さんが早く慣れるようにサポートするから」
「ありがとう。でも・・・」
「?」
薫は、ぽつぽつと話しだす。
「・・・今度ダークフォールのやつらが襲ってきたら私は舞を守れない・・・。もうダークフォールモードに変身できなくなったし・・・」
薫は俯いたまま。
「薫さん!そんな顔しないで!!私の光の力があれば大丈夫よ。私だって戦えるんだから!!」
「し、しかし舞に戦わすわけには・・・」
舞は、ふいに薫の胸に顔を埋めた。
「ま、舞!?」
たちまち薫は赤面し、どうしたらいいのか分からず、あたふたしてしまう。
「聞いて・・・」
「うん・・・」
薫は舞の髪を優しく撫でる。
「私、ずっと考えていたの・・・。今日のこと」
「うん」
「私は精霊の力、薫さんは滅びの力。私達がいくらお互いが好き同士でも自然の力には逆らえない。実際に私の力であなたを傷つけたこともあるわ・・・」
「・・・」
「だから私、その掟にならって消えよう、と思ったの・・・」
「・・・」
「あなたを傷つけることしかできないこんな体なら、って・・・でも・・・!」
「?」
「薫さんは負けなかった。私でさえ負けそうになったのに・・・。薫さんはこんな、自殺さえもしようとした私を、助けてくれた・・・!!」
薫の制服が舞の涙で濡れていく。
「だからもう、私の中の力をこんなことに使わない。あなたを、あなたを守るために使うわ!」
薫はそっと舞を抱き締めた。
舞を守ると薫はずっと思っていた。
いつの間にか、舞自身も強くなっていたようだ。
嬉しいやら、悲しいやら・・・。
(何か立場が逆転しているような・・・?)
「お帰りなさい、舞……あら、あなた薫さん!?」
舞の家に着くと舞のお母さんが家にいた。
「送ってもらったの。お母さん、薫さんには何度か会ってるでしょ?」
「ああ、ごめんなさいね。前会った時とは少し雰囲気が違うような気がしたから。
舞を送ってもらってありがとう」
「いえ……」
薫は言葉少なく答え、「また明日ね」とだけ言ってそのまま舞の家を後にした。
(普通の人にも、私は以前とは違って見えるのかもしれない…)
ゆっくりと来た道を戻りながら薫は考える。
本当に人間になったのだろうか。
自問自答しながら海岸に戻ってきた。
「満、……満?」
薫はあたりを見回した。満の姿がどこにも見えない。
「満?どこ?」
海岸を歩き回ってみたが、満はやはりどこにもいない。
(満が戦っている気配は感じないけど……)
そう思った次の瞬間、薫の背筋に冷たいものが走った。
(もしかして今の私は、満が危険な目にあっていても何も気づかないんじゃ!?)
舞は自室で着替えをしている。
(ばれちゃったのかな?お母さんに・・・私達のこと・・・。でも・・・)
舞は振り返り、背中を見下ろす。
そこには二本の生々しい傷跡が走っている。
(こればっかりは秘密にしておかなくちゃ・・・)
一方、薫はPANPAKAPANに向かっていた。
もうすぐ咲は部活が終わって帰っているはずだ。
だからきっと満もそこにいるはずだ。
「はあ、はあ・・・」
ほんの数百メートル走っただけなのに、もう息が荒い。
飛び立とうとしても、その場で潰れてしまう。
「人間って大変なのね・・・」
薫自身が望んで人間になった。
自分が人間になったから舞は消滅しなかった。
今の自分は舞の光の力を感じても痛くない。
舞達と同じようにこれからも生きていける。
もう、自分達の間に障害はなくなったのだ。
だが、満は・・・?
もし滅びの力が消滅したら自分は助かっても満は消滅する?
自分だけがのうのうと生きていかれるもののか。
薫は思った。
自分が人間になれたのなら、きっと満も人間になれるはず。
そうすれば自分達は消滅しない。
最も、滅びの力がなくなれば咲のフリンジモードの力もなくなってしまう。
薫は懸命に走り、やっと咲の家に辿り着いた。
すると咲はもう帰っているらしく、庭先で満と話し込んでいた。
薫が息を切らして二人に近づく。
二人を見た薫は、思わずその場でずっこけてしまう。
「あれー?薫、どうしたの?」
「・・・」
薫が見たものは楽しそうにしている咲と、おいしそうにメロンパンを頬張っている満だった。
(余計な心配をするんじゃなかったわ・・・)
(相変わらず要領が悪いんだから。人間になってもかわってないわね)
「薫もパン食べる?」
咲がメロンパンを薫に差し出す。
「ありがとう、咲。もらうわ」
横から満が手を出してメロンパンを奪った。今食べかけているのを右手に持ったまま、
左手でそれをしっかりと持っている。
「もう、満は〜」
咲は笑って、今度はチョココロネを薫に渡す。薫は渡されるままに受け取った。
「それで、薫どうかしたの?なんかすごく慌ててたみたいだけど」
「なんでもないわ…」
はあ、とため息をつくと満を一つ睨む。満はメロンパンを口にくわえて知らん振りを
している。
「ふ〜ん?ねえ、舞は?」
「舞なら家よ…ちゃんと送ってきた。傷が治ってるとは言っても、今日は少し
休まないといけないと思うわ」
「そうだね…、薫、滅びの力がなくなったって満から聞いたけど」
薫は少し恥ずかしそうにうなずいた。
「舞が私のこと守ってくれるって…言ってた」
「じゃあこれからは舞が薫の王子様?」
ぶっと薫はチョコを吐き出しそうになる。
「いや…舞はどう見てもお姫様よ」
「そうなの?今ここで満と話してたんだけどさ、薫がこれからはお姫様なのかなあって」
(咲、満、何の話で盛り上がってるのよ!)
薫は不機嫌そうな表情でチョココロネを食べた。
「でも・・・」
急に満の食が止まる。
「今の薫なら大丈夫そうだけど、もし平和になって滅びの力がなくなれば私だけ消滅しちゃうのかな・・・」
さっきまでは、あんなに楽しそうだった空気が満の一言で濁ってしまう。
「そうなれば咲のフリンジモードの力もなくなってしまう・・・」
「・・・大丈夫だよ」
咲は笑って言った。
「前に言ったじゃない。満が危ない時は、私の持てる力を全力で出して満を守るから、って」
「咲・・・」
「私、滅びの力がなくなって変身できなくなってもいい。私には闇の他に光の力もあるんだから。もし、満が消えそうな時は私の滅びの力をあげる。そうすれば満は消えない」
「私は変身できなくなるよりも、満がいなくなるほうが嫌なんだもん」
満は、きゅっと咲の服の裾を持ち、咲の胸に顔を埋める。
「み、満!?」
「咲、ありがとう・・・」
満は咲を抱き締める。
咲もまた、満を抱き締め、優しく頭を撫でる。
そして静かに満が話し始めた。
「咲、今夜もまた・・・」
「?」
満は顔を赤らめて。
「変身して、してほしい・・・」
「また〜?あの時からそればかりだね。私、あれやると結構疲れちゃうんだけどなあ」
咲は満を焦らすように言う。
「で、でも、いずれ、あの姿のあなたが消えてしまうのなら・・・」
満はさらに咲の服の裾を掴む。
「・・・わかったよ・・・。でも変身した私がいじわるで嫌だって、満、言ってなかった?」
「!!そ、それは・・・」
咲は笑って、
「じゃあさ、覚悟してね?私、変身すると容赦できなくなるから・・・」
薫(やれやれ・・・。何も心配することはなかったようね)
そしてその夜、咲と満は・・・。
「なんかみのり、寝つきが悪いみたいだなあ…」
咲はベッドの中のみのりをそっと見る。普段はすぐに眠ってしまうのだが
今日は中々眠れなかったみたいで、今も寝返りをよく打っている。
「大丈夫、みのりちゃん?」
「大丈夫は大丈夫だと思うけど、隣であんまり大きな音を立てたら起きちゃうかも」
「……」
「今日は、無理かな…」
満は無言で戦闘服に着替えた。
「満!?」
満は咲を抱きかかえると、そのまま窓から外に出る。空を飛んでひょうたん岩に着くと
そこで咲を下ろす。
「み、満…」
「咲、変身して」
「えーと、ここで?」
「ここなら誰にも見られないから」
「満……その、そんなに…我慢できないの?」
一つうなずいて満は自分の変身を解いた。
「お願い、咲。少しの間だけでも忘れたいの」
「忘れるって何を?」
聞きながら咲は体に力を込める。髪が揺らめき始める。
「自分が一人だけ、消えちゃうかもしれないこと」
「…」
「それに消えちゃうんなら、その前に少しでも強くあなたと繋がっていたい」
「大丈夫だって…満のことは私が守るよ…」
咲は鋭い目つきになって、岩の上で満を押し倒した。
(ちょっとやり過ぎちゃったかなあ…)
しばらくすると、満は気を失ってしまっていた。咲は変身したまま満を抱き上げると
自分の部屋に戻る。
「おやすみ、満」
自分も変身を解いて眠りに落ちる。
その夜、咲は奇妙な夢を見た。満がお別れを言いに来る夢だ。
『生まれた場所に帰らないといけなくなったから』
『生まれた場所ってどこよ!?ダークフォールでしょ!あんなところに満を行かせないよ!』
『…さよなら』
「満っ!」
自分の声で目が覚めた。隣に満はちゃんと寝ている。時計を見るとまだ朝の4時だ。
咲はもう一度目を閉じた。
咲は、もう一度眠ろうとしたが、さっきの夢が頭から離れない。
(あいつらが消えたら、満も消えてしまう・・・。でも満だって人間になれるはず。・・・だけど満には、あんな危険なまねはさせたくない・・・)
咲はしばらく考えこむ。
(私の中の滅びの力は本当に消えるのだろうか?この力は私自身の怒りや満のおかげで目覚めたんだから、この力は私だけのものなはず・・・)
(だったら・・・)
咲は寝返りを打つ。
(あいつらが消えた時に私が人間じゃなければ、満は消えないはず・・・)
(フリンジモードを上手くコントロールして自我を保っていれば、今までと変わらない・・・でも・・・)
(あの時以来、私の中のゲートは開いていない・・・。私がブチ切れなければ何も変わらない。だけど・・・あいつら、満のことを・・・!!)
咲が握りこぶしを作ったとたん、髪が揺らめき始めた。
(ああ、だめだめ!!自分で今言ったばかりじゃない!!こんなんじゃあいつらの思う壺よ!!)
咲は、かぶりをふり、怒りを抑える。
(難しいなあ・・・。でも、満を守るためだ!この力をずっとコントロールしていかなくちゃ!!)
咲は再び布団の中に潜り込んだ。
その頃薫はまだ薄暗い海岸を散歩していた。
満は咲の家に行ってしまったし、舞の家に泊まるわけにはいかないしということで
薫は一人で一夜を明かしていた。そのせいか、まだ早いのに目が覚めてしまった。
(今日も、いい天気になりそうね…)
薫は大きくのびをした。冷たい空気が肌に気持ちいい。
「機嫌がいいようだな」
背後に足音を聞き、薫ははっとして振り返る。キントレスキーが薫を見下ろしていた。
「探したぞ」
「…何しに来たの」
「お前と満を片付けに来た。日向咲や美翔舞と戦う時にうろうろされると目障りだからな」
「……」
キントレスキーに向って構えながら、薫は少しずつ海の方へと後退する。
「どうした、薫。ダークフォールモードに変身してもいいんだぞ。
…ならばこちらからいくぞ!」
一瞬でキントレスキーは薫との距離を詰める。その拳が薫の顔をとらえる。
よけきれずに薫は簡単に砂浜に倒された。
「どうした。…まさか貴様、滅びの力が使えないのではないだろうな」
「私、は…」
「うん?」
「人間だ」
「何を言っている」
「私はもう、滅びの世界の者ではない…舞たちと同じ、人間になった…」
「理解できんな」
キントレスキーは薫の胸倉をつかんで持ち上げる。
「人間になって、滅びの力を失ったとでもいうのか」
「そうだ……」
「愚か者め!」
「何と言われても…」
キントレスキーは薫の体をそのまま砂浜に投げ捨てた。
起き上がろうとした薫を蹴り上げ数メートル先に落とす。
「貴様にもう用はない。この世界が滅ぶのをただ見ているがいい」
そのままキントレスキーは海岸を離れる。
「ぐ……」
薫は立ち上がろうとしたが、体に力が入らない。
(舞、満、咲…)
(満、満・・・!!)
眠っていた満は苦しむ薫の声が聞こえて、はっと飛び起きた。
すると満はダークフォールモードに変身して窓を開け、飛び立っていった。
(咲、ごめん!!)
満が飛び立った後、外から冷たい空気が部屋の中に入る。
咲はそれを感じて飛び起きた。
すると、さっきまで隣りで寝ていた満がいない。
「満っ!?」
咲の中で昨日の夢が甦る。
「まさか、まさか・・・」
咲は血相を変えて着替えた後、乱暴にドアを開け、家を飛び出した。
「満!満・・・!!」
咲は戦いの気配がする方へと、懸命に走った。
「満ーーーっ!!」
「さ、き・・・?」
咲が見たものは、薫を人質に捕らえられ、手出しできず、傷ついた満だった。
一方、薫も息はあるが人間になったので、無抵抗なまま、体力も危ない。
それを見た咲の瞳が怒りに染まる。
「ど、どうして、こんなこと、を・・・?」
体中が震えている。
「おまえ達と戦う時に、この二人がいたら目障りだからな。だから先に片付けておこうと思ったのだ」
キントレスキーは冷淡に吐き捨てる。
「そ、そんなことのために、満と薫を・・・!!」
咲の髪が揺らめき始める。
目付きも鋭くなっていく。
血がたぎり、心臓も恐ろしく早く脈打っている。
髪が伸びていき、咲の周りのオーラも強くなっていく。
「許さない・・・!!よくも、よくも・・・!!」
「順番は守るんだな、日向咲。今は満だ」
キントレスキーは右手に力を込める。その腕に白く輝く光が宿り始める。
「それは…!」
「ゴーヤーンに教えられたのだ」
キントレスキーがその光を咲に向けると、咲の変身が強制的に解除されていく。
「安心しろ、もちろんお前の番になった時にはこのような力は使わん。
正々堂々、変身したお前と勝負してやる。だから待っていろ。さて…」
キントレスキーは左腕で傷ついた薫が抱きかかえている。
その腕に力が篭り薫を締め上げる。
「ぐぐ…」
「止めなさいキントレスキー!薫はもう、戦えないのよ!あなたの相手ではないでしょ!」
「その通りだ満。…お前にとっても、薫はもう用無しだろう」
「…何を言っているの」
「お前達二人は、単体での力もそれなりにはあるが二人揃って戦う時に最も強さを発揮する。
アクダイカーン様はそのためにわざわざお前達を二人にした。
だが…、薫は滅びの力を捨て去った。お前にとって薫の存在はもはや意味がない。
かかって来い満、お前はこれから一人で戦わなければならんのだ。
薫が傷つこうが死のうが気にするな」
「ふざけないでっ!薫を放しなさい!」
「…言っても分からないようだな」
キントレスキーの拳が満に走る。満は抵抗しないまま、砂浜に叩きつけられる。
キントレスキーは薫を盾にするように抱えながら満を睨みつけた。
「さあ、満。私は戦士として生まれたお前と戦った上で倒したいのだ。
お前がダークフォールの戦士なら、薫もろとも私を攻撃してみろ!」
「キントレスキー、何が正正堂堂よ?あんたの卑怯な戦い方には、愛想がつきた・・・」
咲は再び変身を試みる。
「無駄だ」
キントレスキーは右手に白い光を宿し、咲に向けるが咲の周りのオーラによって、弾き返される。
「何っ!?」
キントレスキーは何度も咲の変身を解除しようとするが、通用しない。
「よくも、よくも、満を傷つけたな・・・!!満を、満をダークフォールになんか行かせない・・・。満はずっと私と一緒にいるんだ・・・!!」
「咲・・・!!」
優しかった瞳が釣り上がっていく。
甘さもなくなっていく。
「はああっ!!」
気合いとともに、変身した咲が現われた。
「満に攻撃なんかさせない・・・」
いつもよりも低い声で言う。
咲は満を庇うように前に立つ。
「覚悟はできてるよね?この姿になると、ちょっと興奮した状態になるんだ・・・」
咲はニヤリと口の端をあげる。
(まずはあいつに捕まっている薫を助けなければ・・・)
「ふん……」
キントレスキーは薫の体を投げ上げた。満が咲の後ろから飛び出して薫をキャッチする。
「順番を待てないのなら仕方ない。うおおおおっ!」
キントレスキーは体に力を込める。野獣へとその姿を変えて行く。
(……っ!?)
咲の体の中の滅びの世界へのゲートが反応した。野獣になってもキントレスキーの
変化は止まらない。胸にゴーヤーンマークが入り、いつも以上のオーラがその体に
まとわりついている。
「日向咲。これまでの私の特訓の成果を受けてみろ!」
「あんたの特訓なんてどうでもいい!私は満と薫を守る!」
咲は滅びの力と光の力を両手に宿らせる。
キントレスキーと咲の右ストレートが交錯し、拳をぶつけ合ったまま両者は睨みあう。
拳の間に爆発音が走り咲がよろめく。足を払いに来たキントレスキーをかわし、
少し距離を取った。
(咲…)
満は薫を抱いて咲の戦いを見ていた。
(やっぱり…私は人間になるわけにはいかない。私まで戦えなくなったら、
咲たちにかかる負担が大きくなりすぎる……)
「本当にキントレスキーったらのせられやすいんだから」
背後に聞き覚えのある声を聞き、満は嫌な気分で振り返る。
「あなたも来てたの…ミズ・シタターレ」
「ええそうよ。今回はまずあなた達を片付けるのが先なのよね」
満は立ち上がり、薫を庇うように赤いバリヤーを張ってシタターレを睨みつけた。
(満一人だけ消滅させるわけにはいかない!!)
咲は持てる力を全開にし、闘気を爆発させる。
爆風に一瞬怯んだキントレスキーを咲は見逃さなかった。
「はああっ!!」
咲の拳がキントレスキーのゴーヤーンマークを打ち砕いた!
そしてさらにキントレスキーの膝を地につかせる。
(こいつらが消えても、満が消滅しない方法が、今わかった!)
咲は、なおも拳を振るう。
(私の中の滅びの力は、どんなものにだって、なくさせない!私自身もそれを消さない!私が人間じゃなくて、この状態で自我を保っていれば、満とずっと一緒にいられる!!)
(こいつらが消えても私が滅びの力を持っていれば満は消えない!!)
咲は叫びながらキントレスキーに突っ込んでいった。
「あら?薫はもうやられちゃったのね」
シタターレは満の様子を見て笑う。
「うるさい…」
ダークフォールモードの満の目が赤く光る。
「お姫様といちゃいちゃしてたからかしら、薫も弱くなったものね」
「薫は弱くなんかない!」
飛び上がり、光球をシタターレに向って叩きつける。シタターレはさっとよけると、
水流を満にぶつける。満は水流を自らの体で受け止める。
「気の毒ね、満。薫が後ろにいるから攻撃をよけるわけにはいかないわよね」
「……」
はあはあと満は荒い息をついた。元々満と薫は素早く移動し相手をスピードで翻弄しながら
攻撃するのを得意としているため、動きが制限された戦いは苦手なところがある。
「み、みちる……」
倒れていた薫が声を出す。
「薫!?」
「私のことを…気にしないで。満の戦いやすいようにして…
私のことを庇う必要なんてない…」
薫は砂の上で体を動かしゆっくりと立ち上がる。
「薫…」
「私は、舞と一緒に生き続ける。だから滅びの力にも負けない!」
咲はキントレスキーに向かって突っ込んでいく。
右手には二つの力が交じり合った光球があった。
キントレスキーは、それに怯む様子もなく、右ストレートを放つ。
その、拳が咲に当たろうとした瞬間、
「はああっ!!」
咲はキントレスキーが攻撃をかわせないように光球を顔面にぶちこむ。
そして、彼の断末魔とともに、跡形もなく消え去った。
「・・・」
悲しそうな瞳で、ごうごうと、たちこもる煙を見ている。
とどめの一撃を放ったその右手は、わずかだが震えていた。
咲の、どこに吐き出せばいいのかわからないほどの、たまらない気持ちによって・・・。
咲は一息ついた後、後ろを振り返ると、シタターレの攻撃を受けている満が目に入った。
「満っ!!」
それを見た咲の目は、悲しみから怒りに変わった。
満の首を締め上げているシタターレを突き飛ばした。
そして、シタターレから離れた満をうまくキャッチし、お姫さま抱っこで抱えて、シタターレを睨み付ける。
自分の大切な人が傷つけられてしまった!
咲の体の中で行き場のない膨大な怒りのエネルギーが暴れ回っている。
それに伴って、さらに強いオーラが咲を包み、咲の体も変化していく。
「咲!?」
亜麻色の髪が、ゆっくりとさらに伸びていく。
その長さは、もうすでに肩が隠れるほどにまで伸びていた。
それでも咲の変化は止まらなかった。
(まずいわね…)
変貌する咲の姿を見てシタターレは身の危険を感じる。
体を水に変えるとそのまま砂浜に吸い込まれるように消えていった。
「咲…」
満は咲を見上げる。
咲の変身は途中で止まり、元の優しい瞳に戻る。
「満、薫…大丈夫?」
「私なら大丈夫よ。でも、薫は…」
舞は戦いの気配を感じて懸命に走っていた。
だがその前にシタターレが現れる。
「慌ててるのね、お姫様」
「あなたは!また、来たの…」
「ええそうよ。日向咲のおかげで、何度でも復活できるわ」
「…どういう意味…」
「滅びの力を保ってくれているからねえ。
日向咲の中の滅びの力がある限り、私たちが完全に消滅することはないわ」
「…」
「それはそうと。あなたの王子様は腰抜けになったものね」
「薫さんに何したの!」
「さあ?」
シタターレはそのまま姿を消した。
舞は海岸に急ぐ。
「薫さん!」
舞は慌てて堤防を駆け降り、傷ついた薫のもとへ向かう。
薫を見ると頬にも目立つ傷があった。
体のあちこちにも傷があり、焼け爛れているような跡が何か所もある。
「ひどい・・・。まってて今治してあげるから」
舞は薫の前にしゃがみ、てのひらを彼女の胸に近付ける。
すると、そこから淡い光が溢れ、たちまち薫の傷を治していく。
すると、舞の力を感じた薫が目を覚ます。
「舞っ!!」
がばっと上体を起こす。
「よかった、気がついて・・・」
舞は薫を見つめながら、そっと彼女の手を握る。
「・・・」
しかし薫は何故か俯いたまま。
「薫さん?」
薫は絞りだすように言う。
「・・・情けないな・・・。私、こんなんじゃ舞を守れない・・・」
「そんなこと気にしなくていいのに」
「でも、舞は私が守ると…」
「今まで薫さんはずっと私を守ってくれたから、今度は私が薫さんを守りたいの」
「舞…、それは嬉しいけど…今日はダークフォールの連中は舞のところにはこなかった?」
「ミズ・シタターレがちょっと…攻撃はしてこなかったけど、何か話していっちゃったわ」
「何を言っていた?」
薫は心配そうに聞く。どうせ碌でもないことを吹き込んだに決まっている。
「うん……その」
言いにくそうに舞は咲を見た。
「?どうしたの、舞?」
「ううん…なんでもない」
薫も咲も満も不思議そうに舞を見たが、舞はそれ以上のことは何も言わなかった。
「舞」
学校での休み時間、薫は屋上で手すりに持たれている舞を見つける。
数日前のことがあるからそんな舞を見ると心配になった。
「どうしたの?」
「薫さん…」
「何か、悩んでいるの?」
「うんちょっと…ちょっとだけね…」
「私に話してみて」
「……実は今朝、ミズ・シタターレが……あの人たちが何度でも復活するのは
咲が滅びの力を保ち続けてるからだって、言ってたの」
「……なるほど」
「このままみんなが何度倒しても、きっとあの人たちはまた来る」
「うん…」
「だったら、今度あの人たちが来たときに倒した後、咲の力を……」
「だめだ、それはだめだ!」
薫は大慌てで舞の言葉を否定した。
「滅びの力が完全になくなったら、今の満は消えてしまう。だからそれだけはだめだ!」「ええ、そうよね…分かってる」
(みんなが平和になるには、滅びの力をなくすしか……)
屋上に二人を探しに来て会話をこっそり聞いてしまった満は、
見つからないようにそっと教室に戻った。
教室に戻ろうとした満は、何故か、そのまま下駄箱の方へ向かい、学校を後にする。
満は、全ての思いを振り切るように、がむしゃらに走った。
満は自分の知らぬうちに、咲と出会った、大空の樹に着いていた。
その大木に、満は触れる。
すると触れたとたん、大粒の涙が零れ落ち、何度拭っても拭っても涙が溢れてくる。
満は、しばらく泣いた後、思い立ったように体に力を込めた。
「はああっ!!」
一瞬にしてダークフォールモードになった満の胸の宝石が、よりいっそう輝く。
「咲、好きよ・・・。好き、大好き・・・」
(滅びの力がある限り、あいつらは復活する。これ以上、咲に負担をかけたくない・・・!)
満は胸の宝石をぎゅっと抱き締める。
紅い光がさらに強くなり、満を纏うオーラも光を増す。
「さよなら・・・」
満は宝石を破壊するぐらいの勢いで握り締めた。
「っ!!」
教室にいた咲は突然立ち上がる。
何かおかしい。
一瞬、満の気配が大きくなったと思ったら、だんだん小さくなっている。
そして今も・・・。
「満っ!!」
咲は、いてもたってもいられなくなり、教室わ飛び出した。
「満さん…!」
舞は手すりにもたれていた体を起こした。
「満がどうかしたの!?」
「満さんの力が、変な動きをしているの!」
「…!」
舞と薫も学校を飛び出す。
(痛い…)
締め付けられるように体が痛い。満はその場にしゃがんだ。
紅い光を身に纏いながら地面を見た満にある考えが浮かぶ。
(どうせ消えるなら…私の最後の力であいつらに少しでもダメージを与えて…
咲を少しでも楽にしてあげたい…)
満が地に手をかざすと、ダークフォールへの扉が開く。
咲は、息を切らし大空の樹に向かった。
そして大木の前に立った咲は満を呼ぶ。
しかし、返事はない。
だが、確かに満はここにいた。
自分の中の滅びの力が、そう感じさせる。
「まさか、まさか・・・」
数日前の悪夢が甦る。
咲はさらに意識を集中する。
すると、小さいが満の気配が自分の立っている地面の下、さらにもっと深い所から感じられた。
「今朝以来、あいつらが現われた気配はない。まさか満、自分から・・・?」
咲は体中に力を込める。
髪が揺らめき、優しい瞳が釣り上がっていく。
「行かせない・・・!!満をダークフォールになんか行かせない!!満は、私が守る!!」
まばゆい閃光とともに、変身した咲が現われた。
咲は右手に滅びの力を込める。
力を込めた時、一瞬だけ右手が暗黒色に染まったが、すぐに元に戻った。
すると、かざした右手の辺りから、薄紫色の異界への扉が開く。
咲はダークフォールを目指して深い穴の中に飛び込んだ。
「咲!満さん!」
学校を飛び出した舞と薫は、満の気配がする場所にやってきた。
「咲も、満もいない・・・」
薫は二人を探したのだが、みつからない。
すると、わずかに残っている咲と満の気配を感じた舞が地面にしゃがんで意識を集中している。
「舞?」
「・・・やっぱり遅かったみたい・・。咲も満さんも今はダークフォールにいるはずだわ」
「そんな、どうして・・・今朝以来、あいつらはでてきていないでしょう?」
薫の問いに舞はこくりと頷く。
「まさか満さん・・・」
舞は数日前の自分の行動を思い出した。
すると突然、舞は、その場で泣き崩れる。
「舞!?舞!!」
「満さんを助けなきゃ・・・!!何かきっと満さんが消滅しなくてすむ方法があるはずよ・・・。でも、私の光の力では、ダークフォールにいけない・・・いったいどうしたら・・・」
舞は地面に手をかざしてみるが扉は開かない。薫も手に力を込めてみたが、
人間になった薫には何もできない。砂埃が立ち上がるだけだ。
「満さん……」
舞はぼろぼろと涙をこぼしている。薫は地面を一つ蹴った。
(私は無力だ……滅びの力を失うと、満のことを助けにいくことさえできないなんて……)
俯いて手で顔を覆った薫の腕に制服の下の青い宝石が触れる。
今はもう滅びの力を持たない、普通の宝石になってしまっている。
「……」
薫は無言のまましばらく宝石を手の中で弄んだ。
「舞」
「え……?」
「私と満は生まれたときからずっと一緒にいた。姉妹みたいなものよ」
「ええ…」
「私が人間になっても、それは変わらない。満は私にとってたった一人のの姉妹」
「……」
「私と満が今でも繋がっているのなら…」
薫は宝石を握る手に力を込める。
(満…お願い。あなたの滅びの力を少しだけ分けて欲しいの。
ダークフォールへの扉を開く分だけ。お願い、満…あなたのいる場所に行きたい…)
薫は目を閉じ、握る手にさらに力を込める。
手が少しずつ熱くなってくる。青い宝石に微かに赤い光が混ざる。
「薫さん……」
「くっ……」
息が苦しくなってきた。満のものとはいえ、滅びの力は人間が触れるには危険なのだ。
(もう少し…もう少し耐えればダークフォールに行けるだけの滅びの力が溜まる…!)
深く、暗い通路を通り抜けて落下する咲。
長い通路がようやく終わり、地面が見えそうになった時、
「うわあっ!」
どしん、と音を立てて尻餅を着く咲。
「何でいつも自分のバリアを張るのを忘れちゃうんだろ?」
咲は、一息ついて立ち上がる。
「このどこかに満が・・・」
咲は満の気配を感じ、奥へと進んだ。
一方、満はシタターレを見付け、対峙しているところだった。
「あら満、一人でだなんて、今日は王子さまと一緒じゃないの?」
「・・・だまれ・・・」
「じゃあ、何をしにきたのかしら?」
満はニヤリと口の端をあげて、
「・・・おまえ達を倒しにきた・・・」
二つの滅びの力を感じる・・・。
咲はやっと満を見つけた。
「満っ!!」
満の体から赤い殺気が放たれる。
「はあああああぁっ!」
声と共に満はいつも以上のスピードを出してシタターレに突進し
殴りかかる。
「っ!」
満の正拳をまともに食らったシタターレはよろけるが、すぐに身を翻すと
右手に出した水球を満に投げつける。
「あなたに構ってる時間はあまりない……」
満は胸の前で腕をクロスさせ、気合と共に滅びの光弾を放つ。
一撃で、ミズ・シタターレは水に戻った。
荒くなった息を沈めるように胸を抑え、満は先を急いだ。
(ゴーヤーンを倒さなければ。ダークフォールの連中がみんな消えた後、
滅びの力を完全に消せば咲が楽になれる…)
「満!待ってよ、満!」
(私の声、聞こえてないのかな?)
どんどん先に進んでいく満を咲は不審に思いながら追いかけた。
満が先を、どんどん進んでいくと、その先にはゴーヤーンが待ち構えていた。
「おやおや、二人揃って何をしにきたのですか?」
二人と言われて、満は、ようやく後ろにいる咲に気付いた。
「咲!?どうしてここに!?」
「それはこっちの台詞だよ!満、まさかまたばかなこと考えてないよね!?」
「それは・・・」
変身している咲は、ずいっと満に顔を近付ける。
「許さないからね・・・。満が私の前から消えるなんて」
咲は、すっと満の前に立つ。
「咲?」
「満、離れていて・・・」
咲は、きっ!とゴーヤーンを睨み、対峙する。
「あんただけは、絶対に許さない!!」
咲は闇と光の力を全開にし、ゴーヤーンに突っ込んでいった。
(満だけが人間じゃなくて、私だけが人間だなんて、ずるいよね・・・。満とずっと一緒にいるためには、闇の住人と戦い続けて、私自身も闇の住人にならなきゃ!!自我を保っていればどんなに満と触れ合ってもこれならきっと大丈夫)
「どいて咲!」
満の手が後ろから咲の肩をつかむ。普段よりずっと強い力で、咲は思わず止まった。
「へ?…うわあ!」
満はそのまま咲の体を自分の後ろへ投げ飛ばす。
地面に咲の体を落とす瞬間満は少し手を緩め、やわらかく着地させる。
「満っ…」
「咲、もう私に…近づかないで」
「な、何言ってんの満!?」
「今すぐ緑の郷に帰りなさい!」
満は光弾をゴーヤーンに乱れ撃つ。
(あなたが今ダークフォールに来てしまったら、私が
しようとしていることを止めるに決まってるでしょ!?)
満の目が赤く光り、殺気が溢れ出す様に流れてくる。
(満…初めてダークフォールモードになったときみたい…)
(始めて、ダークフォールモードになった時のような・・・?)
咲はしばらく思案した。
(満、まさか闇の力を・・・!!)
咲は闇の力を増幅させる満をみて、背筋が凍り付く。
このまま闇の力に満が飲み込まれたらひとたまりもない。
(まさか、自爆する気!?)
満に突き飛ばされた咲は満に駆け寄る。
「満!ばかなことはやめて!このままじゃ満が・・・!」
咲はぎゅっと満を抱き締める。
「・・・やっぱりあなたなら私を止めると思ったわ・・・。でも、もう遅い。私の消滅は止まらない・・・」
「何考えてんのよ!!私は満とずっと一緒にいるんだ!消えるなんて許さないよ!」
咲はいきなり満の胸にかかっているペンダントを掴んだ。
「咲!?」
「満は私が守る!!だから、滅びの力よ、私の体の中に!」
どくどくと、満から溢れる滅びの力が咲に流れていく。
すると、それに伴って咲のオーラも強くなり、髪がさらに伸びていく。
そして咲の両頬には二本の線が縦に入った、くまどりが現われた!
「うわあああああーーっ!!」
「きゃっ!」
「い、痛たた…」
「薫さん、ごめんなさい!」
舞と薫は満の力でようやくダークフォールに入ることができた。
舞がしりもちをつきそうになった寸前に薫が舞の体を受け止めたので舞は無事である。
「大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ…」
薫は舞を立たせると手を軽く払って立ち上がる。
「?」
「舞?」
舞は、薫の手から光のかけらがこぼれたような気がした。
しかしすぐに消えてしまって良く分からない。
「どうかした?」
「ううん、なんでもない。気のせいだったみたい」
「そう…行きましょう、早く満を」
「ええ」
二人はダークフォールの最深部に向けて歩き出す。
しばらく歩いたところで舞が突然足を止めた。その場に突然うずくまる。
「舞!?」
「うっ……」
舞の体の中で精霊の力が強くなる。痛みは背中の傷に集まってくる。
(何、これ……気持ち悪いくらいの滅びの力が……)
「舞!」
さすろうとした薫の手を弾き、舞の背中から翼が姿を現した。
変身した舞は、荒い息を整える。
「舞、今変身しようと思ったの?」
舞は首を左右にふる。
「この感じ・・・」
「?」
「前と同じような・・・。満さんが暴走した時のような力が、奥の方から・・・」
今の薫は力を感じられないので舞は分かりやすいように最深部の方に指を差した。
「行こう!きっとこの先に満が!」
薫は舞の手を取り、最深部へと駆け出した。
薫達がダークフォールへ着いた時には咲の変身は完了していた。
亜麻色の髪が背中が隠れるぐらいに伸びており、頬のくまどりが目立つ。
「・・・」
咲は無言でゴーヤーンの前に立ち、対峙する。
だが、咲の、さらに変身した姿をみたゴーヤーンは冷静に呟く。
「日向咲殿・・・。以前から、あのお方とよく似た気配を感じると思ったら・・・。やはり、あの女の娘だったのですね・・・!!」
「・・・!?」
ゴーヤーンは咲に向かって光球を放つ。
しかし咲はそれを、ひらりとかわす。
「よく、かわしましたね・・・。どうやらあなたは、あの女の姿、能力さえも受け継いでいるようですね」
「あの女?どういうこと?それよりなんであんたはいつも私達を狙うの?」
「それは、あの女、そしてあなた、満殿と薫殿が、裏切り者だからです!」
するとゴーヤーンは咲に拳を放ち、岩場に咲を叩きつける。
一方咲は、傷が目立つものの、たいしたダメージは受けておらず、むくりと立ち上がる。
「あの女は今から十数年前、緑の郷の偵察という使命をわすれて、人間の男と心を通じ合わせ、あまつさえ、あなたという子供まで産ませたのです!!」
「・・・!!・・・じゃあ、今の私のお母さんは・・・!それにあんたの言うあの女って・・・!!」
「そうです、教えてあげましょう!!」
「あなたの本当の母親は私達と同じダークフォールの戦士!そしてあの女は緑の郷征服のための先兵だったのです!!」
「ダークフォールの戦士!?それに緑の郷の征服だって!?」
「そうです、だからこそ許せないのです!いずれあなたの父親も消してあげましょう!私のこの手で、あなたの母親・“紫霧”(しぎり)殿を殺した時と同じようにね!!」
スマン・・・。不都合だったら抜かしてくれorz・・・
まあなんだ、
続けて
「そんな…」
ゴーヤーンの言葉を聞いた満はため息をついた。
満は咲に滅びの力を奪われ、通常の戦闘服に戻って座り込んでいる。
「私のお父さんを…?」
「私の計画を散々狂わせてくれましたからね。満殿、薫殿におけるあなたと美翔舞殿のようなものですから!」
言葉と共にゴーヤーンは薫と舞に腕を向けた。
舞もゴーヤーンの力を抜こうと腕を向けるが、
「無駄ですよ!ここは滅びの国の中心部近く、精霊の力などここでは無力!」
「逃げろ舞!」
薫は舞を突き飛ばすと滅びの力に向けて突進する。
ゴーヤーンは滅びの力を薫に向けて解き放った!
(紫霧も、あの男を守ろうとして私の力を食らったものでしたが…、
裏切り者は愚かですねえ)
「うおおおおおっ!!」
薫はゴーヤーンに向かって拳を放つ。
しかし彼はそれを簡単にかわし、滅びの力を纏った拳を薫のボディに打つ。
ゴーヤーンの攻撃を食らい、バランスを崩した薫をさらに彼は彼女を蹴り上げ、数メートルほど弾き飛ばした。
「薫さん!」
舞は慌てて駆け寄り、薫の傷を治そうとするが、このダークフォールの中心部では、何も効果がない。
そんな二人を見てゴーヤーンは、にたにたと笑う。
「愚かですねえ、滅びの力を失い、人間になった薫殿は何もできない。このまま黙って見ていなさい!薫殿が殺されるのを!あの時の、紫霧殿を守れなかった日向大介殿のようにね!」
「・・・」
咲は水溜まりに映っている自分の顔を、まじまじと見る。
髪が長く、頬にくまどりが入り、人間ではない自分の姿を・・・。
「これが、私・・・?」
咲は両手で顔を覆う。
「・・・そして、これが、母さんの力・・・?」
今まで咲は普通の女の子として生きてきた。
いや、生きさせてくれた。
「じゃあ、今のお母さんは・・・?」
きっと、みのりがあの夫婦の本当の子供だろう。
自分だけがあの家族とは違う。
だが、本当にそうなのか?
沙織は、きっと自分が自分の子供ではないこと分かっている。
だけど今まで沙織は、『お母さん』は、自分とみのりを贔屓もせずに、別け隔てなく自分を育ててくれた。
自然と涙が溢れてくる。
「・・・お父さん、お母さん、・・・母さん・・・」
両手に握り拳を作り、きっ!と、ゴーヤーンを睨み付ける。
「一度ならず二度までも・・・お前に私の家族を殺させはしない・・・!!」
(咲…咲だけに戦わせるわけにはいかない…)
満は滅びの力を集中しダークフォールモードになろうとするが
力が入らない。
(どうして…変身はできているのに…)
力を入れようとしてもすぐに体が崩れる。
(みんながこっちに来たのは、私のせいなのにっ…!)
ゴーヤーンは咲の姿を見てにやりと笑う。
「日向咲殿。あなたは実にすばらしい」
「……?」
「紫霧殿の力を受け継いだばかりか、闇と光をつなぐゲートとしての
能力も持っている。…あなたは世界を滅ぼすために生まれてきたんですよ」
「何を!?」
「あなたの持っている能力は、他の誰の能力よりも世界を滅ぼすに適したものです。
ダークフォールの住人と緑の郷の住人の間に生まれたあなたこそ、
世界を滅ぼすための申し子…」
「ふざけるなっ!私のお父さんも母さんも、そんなことのために私を…」
「気づいていなかっただけですよ。
あなたを育てることが世界を滅ぼすことになるとはね。咲殿。
以前力を暴走させた時、楽しかったでしょう?
今はその感情を押さえ込んでいるだけでしょう?
自分の運命にそろそろ従ってはどうですか」
「それにもう一つ、いいことを教えてあげましょう。あなたが滅びの力を持ち続ける限り、私達は何度でも復活する!」
「!!」
ゴーヤーンの言葉を聞いた咲と満はショックを受ける。何故なら自分の滅びの力が消えれば満が消えてしまうから・・・。
先に、このことを聞いていた舞と薫は、やはりこれが真実なのだと確信する。
ゴーヤーンはニヤリと笑い、
「・・・皮肉ですねえ・・・。あなたの父親、そしてあなたまでもがダークフォールの住人を愛してしまうなんて・・・
闇と光が共存するなんて不可能なんですよ。さあ日向咲殿、私と一緒に世界を滅ぼし、世界の頂点に立つのです!あなたがいる限り滅びの力は消えないのだから。人間は、それに征服されればいいのです」
ゴーヤーンの話を聞いた咲はニヤリと口の端を上げる。
「何がおかしいのです?」
「・・・あんた達を倒しても何度でも復活するから何をしても無駄だって?」
「・・・?」
「・・・あんたもバカね。自分で墓穴を掘るなんて・・・。
私の中には闇と光の力もある。共存が不可能なら、これを使えば、あんた達だけを封印することができる」
「!!」
咲は両手に二つの力が交じった光球を作る。
「・・・今からあんた達を倒して、このダークフォールの地下深くに封印すれば二度と緑の郷へ上がってこれない・・・」
亜麻色の長い髪がなびき、オーラも強くなる。
「あんたを倒して、みんなで緑の郷に帰る!!そして、母さんや満達が愛した緑の郷を、守ってみせる!!」
「日向咲殿、ここがどういう場所かお忘れですか」
ゴーヤーンが手を振ると、咲の手から光の力が消えた。
「!」
「少し頭を冷やしていただきましょうか」
ゴーヤーンが地に滅びの力を打ち込むと咲の下の地面が大きく口をあける。
「うわあああ!?」
驚きの声と共に咲の体は地に飲み込まれた。
満が立とうとした時には穴自体が消えてしまってしまっている。
(ここよりも更に深いところがあるというの!?)
「ふふふ…」
満はゴーヤーンを見た。手に今まで見たことのない力が篭っている。
「さすがは紫霧殿の力…」
(咲の力がゴーヤーンに入っている!?この下はどうなってるの!?)
ゴーヤーンは舞と薫に近付く。
「まずあなた方を倒してから、日向咲殿とゆっくりお話をしましょう」
「薫!舞!」
満はようやく立ち上がるが、ダークフォールモードにはなれないまま。
(薫も舞も戦えない…私がなんとかしなきゃ…)
ダークフォールの中心部から、さらに深い場所に落とされた咲は落下の時に頭をぶつけてしまい、気を失っている。
頭の痛みでまだ目が覚められず、変身も解けてしまっている。
意識もはっきりとしていない。
『咲、咲・・・』
「・・・?」
『咲・・目を覚まして、咲・・!!』
真っ暗な暗黒の世界。
なのに誰かが自分を呼ぶ。
これは、夢・・?幻・・・?
「う・・・」
夢の中、目は虚ろなまま、重い頭を支え、ゆっくりと咲は起き上がる。
「だ、誰・・・?」
『時間がないの・・・聞いて』
「!!」
ようやく咲は目を覚ます。
すると自分の目の前には誰かが立っている。
髪の長い、女?の人・・・?
薄暗くて、相手が誰なのかはよくわからない。
『あなたなら、きっと理解できる・・・』
「?」
『闇と光の両方の幸福を・・・。そして二つの世界を幸せにできる・・・』
「な、何・・・?あなた、あなた、誰なの!?」
『そして・・・』
『お父さんを守ってあげて、咲!!』
「!?」
『あなたならできる、いいえ、あなたでなければできないのよ・・・』
『そして、その宿命を果たして!私とあの人の心と力を受け継いだあなたが・・・!!』
「!?そ・・・、それじゃあ、あなたは・・・!?」
『ごめんね・・・育ててあげられなくて・・・』
彼女は、そう言ってから振り返り、先へ進んでいく。
「待って!ねえ、待ってよ!!」
あまりの早さで、咲は追い付けない。
「母さん!!」
「待って、母さん!待って!」
咲は追いかけたが女の人の姿は闇にまぎれて消えてしまった。
「母さん…」
闇の中咲はうずくまる。
『闇と光の両方の幸福を・・・。そして二つの世界を幸せにできる・・・』
「私、そんなことできないよ…」
あたりを見回したが、闇が広がっているだけだ。どうすれば元の場所に戻れるのかさえ
分からない。
力を入れようとしてもそのまま力が闇に飲み込まれていく。
「みちるぅ……」
咲の口から会いたくてたまらない人の名前がこぼれ落ちた。
「満殿。困った方ですね……」
満はゴーヤーンの攻撃から薫と舞を守るため薄く赤いバリヤーを張っている。
ダークフォールモードではないのでバリヤーの力も弱いが、今の満には
これが精一杯だった。
「あなたのことは消すわけにはいかないんですよ。
日向咲殿と話し合うときに何かと使えそうですのでね、あなたが」
「咲は…お前と話すことなどない!」
「やれやれ」
ゴーヤーンは首を振る。
「ならば、仕方ありませんね!」
満がはっと気づいたときにはゴーヤーンの顔が目の前にあった。
彼の手が満のバリヤーを突き抜け腕をつかまれる。
咄嗟にゴーヤーンの腕をつかみ返し投げ飛ばそうとしたが、
ゴーヤーンは満を捕まえたまま飛び上がると滅びの力と共に満の体を地に叩きつける。
「満!」
薫は満のそばに駆け寄り倒れた満の手を取る。
「満…」
満は何も答えない。
(私が…私に、力があれば…)
「まだ消滅はしないでしょう」
すぐ近くに降りたゴーヤーンの声が冷たく響く。
「ゴーヤーン……」
「ご自分の心配をされたほうがよろしいですよ、薫殿。
あなたと舞殿は私にとって邪魔なだけの存在……
人間になるとは、つくづく愚かなことをしましたね。
結局、あなたは何も守れないままここで消滅する…」
「私は、大切な人を守る…」
「それならやって…ぐえっ!?」
いつの間にかゴーヤーンの後ろに立っていた舞が彼の背中を蹴り飛ばした。
だが大したダメージは与えられずゴーヤーンは顔に怒りを浮かべて立ち上がる。
「よくもやってくれましたね、舞殿……力が使えないからと言って、もう容赦しません!
ここで仲良く消えてしまいなさい!」
「舞!」
ゴーヤーンの手に光球が浮かんだのを見た薫は舞を押し倒しよけさせる。
「ほう、よけましたか。でもそこまでですよ」
ゴーヤーンが近づいてくる。
(私に、力があれば…舞を…みんなを、守りたい……!)
「うあああああ!」
重なっていた舞と薫の掌の間に白い輝きが生まれる。
「風!?馬鹿な……」
一陣の突風がダークフォールを吹きぬける。思わず目を閉じて
髪を押さえたゴーヤーンの前に薫が立ち上がる。
通常の戦闘服でもなくダークフォールモードでもなく、
舞が纏うキュアウインディの姿、風のプリキュアに近い姿をしている。
「ほう…この場所で強引に精霊の力を使うとは……」
「天空の風よ!」
薫は風を生み出しゴーヤーンを吹き飛ばす。その一方で、
(満、聞こえる!?聞こえたら返事して!)
懸命に満に心の中で言葉を送った。
(かお…る…?)
(滅びの力が使えそうだったら、地面に打ち込んでみて咲を追いかけなさい!
今、あなたにしかできないの!)
(う……うん……)
満は薄く目を開けると、自分の滅びの力を地面に這わせた。
下の空間への扉が開く。
「おのれ……薫殿……」
ゴーヤーンはすぐに体勢を立て直す。
「私の中には、今咲殿の力が流れ込んでいます!そんな精霊の力で
対抗できるとでもお思いですか!」
ダークフォールの地下深く、重い体を引きずりながら満は咲を探す。
辺りは岩場ばかりの暗黒の世界。
(ダークフォールに、こんな所があったなんて・・・)
ダークフォールで生まれた自分でも知らなかった場所。
尚更、咲を探すのは至難の業であるが、いつかのように、満は意識を集中する。
(咲、聞こえる?咲!)
満は咲の気配を探りながら奥へと進む。
「満?」
うずくまっていた咲は満の声に、はっとして立ち上がる。
「咲!」
満は、ようやく咲を見つけて彼女に近づくが、いつかのように咲の元気がない。
「何、情けない顔してるのよ。あなた、只者じゃないと思ってたけど、やっぱり混じってたのね」
「・・・」
「咲?」
咲は俯いたまま、ゆっくりと言葉を絞りだすように話す。
「満・・・」
「?」
「さっき、母さんに会った・・・」
「!?」
「…咲のお母さん、どこへ?」
(ゴーヤーンは咲のお母さんのこと殺したなんて言ってたけど…)
「分かんない。ふっと現れて、追いかけたんだけどすぐ消えちゃった…」
(咲のお母さんの思いが形になって現れたのかしら…)
「満…」
「ん?」
「私、どうすればいいんだろう。私にはできないよ…」
「何が?」
「闇と光、両方の世界を幸せにするなんて。母さんはお父さんを守ることと、
両方の世界を幸せにすることを私に頼んでいったの。
でも、私…いきなり自分が滅びの世界の血を引いてるって言われただけでも
どうしたらいいかよく分からないのに…」
「馬鹿ね…」
満は咲の肩を抱いた。
「どんな生まれでも、あなたはあなたでしょ。何も変わらないわ」
「うん…」
「それに、前、ずっと私のこと守ってくれるって言ってたでしょ?
あれは両方の世界を幸せにするってことじゃないの?
両方の世界の住人を幸せにしてくれるって意味じゃないの?」
「満…」
「私はあなたのお母さんに会ったことはないけど、
もしもあなたのお母さんが私たちと同じように緑の郷を愛したなら…」
「……」
「きっと、今の優しいあなたに自分の信じる道を行って欲しいと願っていると思うの」
「うん…」
「咲…あなたの道を進んで。私もあなたについていくわ」
「満」
咲は横目で満を見た。
「…だったら、もうあんなことしないよね?」
「あんなこと?」
「自爆しようなんて…」
満は目を伏せる。
「咲に負担をかけたくなくて…滅びの力がなくなればゴーヤーンたちが
来なくなるから」
「一人だけでそんなこと決めないで…満がいなくなったら、負担がなくなったって
満がいなくなったら意味がないよ」
「うん…」
満は咲の額に唇を寄せた。
満は咲の額にキスをする。
そして、そのまま咲の唇にあてる。
「っ!?」
満が咲を求める前に、咲の方が早かった。
満の中をかき回す。
満は抵抗せずに咲にされるがままになっている。
しばらくお互いを求め合うと二人は唇を離す。
咲は満を見つめている。
強く、真っすぐな瞳で。
「満、私もう迷わないよ。母さんや満が愛した緑の郷を守る!そして、満のことも私が守る!!」
満は、そんな咲を見て微笑む。
「・・・とは言ったものの・・・」
ふと咲は、この場所の天井を見上げる。
「咲?」
「どうやったらここから出られるんだろう?」
二人は、しばらく思案する。
「咲・・・」
「えっ?」
「・・・変身してみたら?」
咲は俯きながら、
「さっき何度も試してみたけど、できなかった。だから今もきっと・・・」
「咲」
咲の台詞を言い終える前に満が言葉を挟む。
「満?」
「だからといって諦めるの?さっきあなたもう迷わないって言ったじゃない」
「う・・・」
「それに、今のあなたはついさっきまで落ち込んでいたあなたじゃないわ。きっと今のあなたなら・・・」
「わかったよ・・・」
咲は体中に力を込める。
今、自分の周りにある闇に負けないくらいの力を込める。
髪が揺らめき始める。
どくどくと、自分の中の二つの血が混じり合っていくのがわかる。
(母さん、私に力を!満を助ける、みんなを守る、力が欲しい!)
薫は苦戦していた。
「どうしました、薫殿!」
ゴーヤーンはすっかり勢いを取り戻している。
薫は口の中が切れて出てきた血をふっと吐き出した。
この場所では精霊の力は弱い。薫にとってこの変身がはじめてだったこともあり、
力もまだ十分には使いこなせていなかった。
「薫さん!」
薫に迫るゴーヤーンの頭上に舞が踵落しを決める。
「舞!」
舞に向ったゴーヤーンの手を薫の拳が撃ち攻撃を防ぐ。
だがゴーヤーンも流れた体から滅びの力を薫に放つ。
「ぐっ!」
小さいながら竜巻を起こしゴーヤーンを一瞬怯ませると薫は跳び下がり岩壁を背にした。
その隣に背中から翼を生やした舞が降りる。
(精霊の力が完全に使えれば……ゴーヤーンにエネルギーを送り込んで倒すことだって
できるのに…)
舞は歯痒かった。戦っていても、ゴーヤーンにはあまりダメージを与えられていないと
いうことは見て取れる。
「なるほど、あなた方お二人おとなしく消えるつもりはないようですな…」
「当たり前よ」
薫は口から流れる血を拭って答えた。
「ならば、仕方ありませんね…」
ゴーヤーンが体に力をこめる。彼の周りにどす黒いオーラが立ちこめる。
「うおおおおおっ!」
「何!?」
薫は目を疑った。ゴーヤーンの姿が変化して行く。黒いオーラに包まれて良く見えないが、
3頭身といっていい体が徐々に伸びいく。
更に大きいのは滅びの力の変化で、そばにいるだけで圧倒されるような滅びの力が四方八方放たれる。
「日向咲殿がかなり私に滅びの力をくれましたのでね」
闇のオーラの中、ゴーヤーンの声が自信たっぷりに響き渡る。
「さようなら舞殿薫殿!」
ゴーヤーンは暗黒の波動を舞と薫に放った!
「薫さん!」
薫は舞の前に立ち、つむじ風を起こすがゴーヤーンの攻撃によって、簡単にかき消されてしまう。
(もう駄目だ!)
二人はゴーヤーンの攻撃を覚悟して目を伏せる。
二人が目を伏せたと同時に爆発音が辺りに響いた。
「!?」
どうして?
自分達はゴーヤーンの攻撃を食らったはずなのに、体が痛くない。
恐る恐る目を開ける。
するとそこには、長い髪をなびかせる・・・、
「咲・・・!!」
舞は思わず声を上げる。
「よかった、間に合って・・・」
咲の腕の中には満がいる。空いている腕をゴーヤーンに向けている。
どうやら咲が彼の攻撃をかき消したようだ。
「ごめん、みんな。私がもたもたしていたせいで・・・」
咲は満を下ろし、ゴーヤーンの前に立ち、きっ!と睨み付ける。
「よくも、よくも母さんを・・・!!あんただけは許さない・・・!!だけど・・・」
「母さんは言った。宿命を果たせと!だが私は、あんたを殺さないでおいてやる!光があるから闇がある。だけどあんたが共存を望んでいないのなら、私はあんたを封印する!
そして私達は、母さんが愛した、緑の郷に帰る!」
「ほう……」
ゴーヤーンは長く伸びた尻尾をばしんと地に打ち付けた。
ダークフォールの地が震える。
「闇の力を使ってあの場から脱出するとは」
「闇の力だけじゃない、私は二つの力を持っている」
「やはり滅びの世界の者と緑の郷の者が交わるなどとはあってはならないことですね……」
咲とゴーヤーンが言葉を交わしている間に薫は満を抱き上げる。
「はああっ!」
ゴーヤーンが声を上げると皆が立っている地面の色が薄くなった。
地下に充満していた闇の力がゴーヤーンへと入っていく。
「私を封印できるものならやってみなさい、日向咲殿!
たとえあなたが闇と光を繋ぐゲートでも、私こそがこのダークフォールの主人!」
「!?どういう意味…?」
薫が思わず呟いた言葉にゴーヤーンはにやりと笑う。
「アクダイカーンは所詮私の作り上げた傀儡。紫霧と比べれば私の望みどおりに
動いてくれましたがね。もっとも、アクダイカーンの造ったあなた方は
紫霧と同じようにできそこないでしたが!」
最後の言葉と共にゴーヤーンは滅びの光球を両手から放つ。
「満、舞、薫、下がってて!」
咲は皆の前に出ると光の球に向って突進しその掌に受け止める。
「っあ!」
一瞬閃光が輝いたがすぐに光の球は消える。
「咲、上!」
舞の言葉に上を向くと真上からゴーヤーンが咲を叩き潰そうと迫る。
咄嗟に腕を顔の前に構えるがゴーヤーンの拳は咲の顔を捉えた。
「咲!」
バランスを崩しかけた咲を後ろから舞が支える。だがゴーヤーンは二人に滅びの波動を
撃ち弾き飛ばす。
「舞!」「咲!」
満と薫がすぐに動いた。壁に叩きつけられそうになった咲と舞の体を受け止める。
「ぬああ!」
ゴーヤーンが両腕を上に突き出し一声吠えた。四人の居る地面から滅びの力が吹き上がる。
「え、ちょっと…!」
驚いている間に四人の体は吹き上げられ飛ばされた。咲は皆が傷つかず着地できるよう
バリヤーを張るが、自分の分を忘れてそのまま地に落ちる。
「ふん…」
四人がばらばらになったのを見てゴーヤーンは体に力を込め霧を発生させる。
薄い霞はすぐに濃く辺りを包み込んだ。
咲がはっと顔を上げたときには既に濃霧が自分を包んでいる。
誰の姿も見えない。
意識を集中し滅びの力と精霊の力を探ろうとしたが、感じられなかった。
霧のせいで自分以外の者の気配が感じられなくなってしまっている。
「はああっ!」
目の前の霧を破りゴーヤーンの光線が咲を捉える。正面から食らった咲はそのまま
岸壁に叩きつけられる。すっと霧は戻り、ゴーヤーンの姿を隠した。
「くそ……っ」
咲も腕に力を込める。だがその時ゴーヤーンのあざ笑う声が聞こえた。
「私を攻撃するのは構いませんよ。でも、あなたの大切な方にその攻撃が
当たってしまうかもしれませんよ?」
はっと咲は腕を下ろした。満たちの姿は見えない。
本当に自分の攻撃する先に満達がいるかもしれない……。
「こういう時は一人のほうが戦いやすいものですよ。そらっ!」
爆音と舞の悲鳴が聞こえた。
(舞っ!くそ、この霧をなんとか……)
「天空の風よ!」
少し離れた場所から薫の声が聞こえた。同時に荒々しい風が巻き起こる。
思わず目を閉じた咲が目を開くと、風が霧を吹き飛ばしていた。
薫は舞に駆け寄り抱きかかえている。
「薫殿…余計な真似を……」
薫を睨みつけるゴーヤーンに咲は近づくとその尻尾をつかんだ。
「な、何!?」
そのまま力任せにゴーヤーンの体を振り回し投げ飛ばす。
「いっけえー!」
落ちてくる彼の体に向って特大の、闇と光が混ざり合った光球を浴びせる。
辺りに爆発音が響く。
ごうごうとたちこもる煙の中、ゴーヤーンの姿は現われない。
今度こそ、倒した?
咲は一瞬でも、そう思ったが、姿は見えないもののゴーヤーンの気配は減っていない。
こちらが油断している間に奇襲にかかってくるかもしれない。
咲は更に力を込める。
(見ていて、母さん!)
憎しみからは何も生まれない。
母さんが、こいつに殺されたと聞いた時は怒りで我を忘れるほどだった。
「母さんは、できそこないなんかじゃない・・・」
今まで父、大介はこのことを一言も自分に話さなかった。
きっと彼なりの気持ちや事情があるのだろう。
けど、小さい頃から時々彼に手を引かれて大空の樹に向かい、小さな花壇が咲いている場所へ連れられたこともある。
すると大介は悲しそうな、だけど優しい瞳で、それを見つめていた。
そして、ゆっくりと手を合わす。
『お父さん、ここにいる人は誰なの?』
自分がこの質問をするといつも父は、
『君がもう少し大きくなったら話すよ』
としか話さない。
そしてなぜか父は花壇に焼きたてのパンを備えて、しばらく花壇を見つめたあと家に向かうのだった。
咲は思った。
「母さん、母さんは私のあんなに近くにいたんだね・・・。ごめんね、私どうして今まで気が付かなかったんだろう?」
咲の瞳から涙が零れ落ちた。
咲の頬を誰かの拳がかすめ涙を弾き飛ばす。
「満!?」
「泣くのは後!来るわよ!」
爆煙の向こうに巨大な影が立ち上がる。
ぐっと咲が体に力を込めるとその姿が消えた。
「!?」
殺気を感じ振り返るとゴーヤーンが背後に立ち滅びの波動を
咲と満に向け解放する。
「はああっ!」
咲と満を吹き飛ばし、ゴーヤーンは更に掌に暗黒球を生み出す。
両腕を突き出し咲はそれをはね返そうと構える。だがゴーヤーンは
薫と舞にそれを投げつけた!
「…っ!」
舞は翼を鋭く広げ薫を連れてそれをよける。
「どっちを見てるの!」
咲は手に光と闇の力を込めると跳びあがりゴーヤーンの顔を殴りつけた。
「咲!」
満の声に咲はさっと後ろへ引く。満が両手から光弾をゴーヤーンに向けて
乱射する。
上空から薫と舞が精霊の力を込めた光線を撃つ。
(母さん、私に力を!)
咲も気合を込めゴーヤーンに光線を浴びせた。
三方向から攻撃されたゴーヤーンはしばらくの間耐えていたが
爆音を立てて地に倒れる。
(倒し……たの……?)
ゴーヤーンが立ち上がってこないのを見て4人とも攻撃の手を止める。
滅びの力の気配も弱くなっている。しかしまだ消えてはいない。
「ふふ、ふふふふ……」
笑いながらゴーヤーンはゆらりと立ち上がった。
長い髪がすっかり乱れている。
「分かりました、もう手段は選びません…どんな手を使ってでもあなた方を!」
雄たけびを上げると、岩壁に触れ滅びの力を全身から放つ。
轟音と共にダークフォールが崩れ始めた。
「何!?」
上から岩が落ちてくる中薫と舞が着地し岩を避ける。
「ダークフォールを崩壊させます…あなた方もろとも…あなた方をこの地に埋めます!」
ピシリと、天井にひびが入った。
「私だけが生き埋めになるのなら、あなた方も道連れにします!」
ビシビシと、ひび割れが大きくなる。
すると突然、咲がみんなから離れてゴーヤーンに近づく。
「咲!?」
満が声を上げた時には、すでにバリアが張られていた。
薫も舞も咲を助けようとバリアから抜け出そうとするが、かなわず咲との距離がどんどん離れていく。
「咲!あなた何考えてるのよ!」
満が、どんどんとバリアの壁を叩くが、びくともしない。
そんな満に構わず咲は両腕を伸ばし、二つの力が混じった光弾をゴーヤーンに向かって撃ち続ける。
「やっぱりみんなが助かる方法は、これしか思いつかなかった・・・」
「咲!」
咲の放つ光弾が更に強くなる。ゴーヤーンは防戦する一方だ。
「二つの力を持つ私が、こいつを封印する!これが、私にしかできないこと・・・」
咲のバリアに守られているみんなは、しだいに出口へと向かっていく。
天井から、しっくいのような粉が、落ちてき始めた。
一歩、また一歩と咲から離れて行く。
その時、かすかな声が満に届いた。
「・・・好きだよ満。始めて会った時からずっと好きだった。・・・満、愛してるよ・・・」
「っ!!」
ガラガラと壁が崩れ落ちる。
咲はこのままゴーヤーンと一緒に闇に飲み込まれてしまうだろうと思っていた。
彼女が、自分の前に立つ前までは・・・。
「母さん!!」
満と舞、薫は咲のバリヤーに守られたまま大空の木の下に出た。
緑の郷に出ると同時にバリヤーが消える。
「満!」
「分かってる!」
薫に言われるまでもない。満は全身の力を込めて滅びの力を地に叩き込む。
(ダークフォールに戻る!戻って、咲を連れて帰る!)
だが満の滅びの力は地面に当たっても穴を穿つだけ、ダークフォールへの
道は開かない。
「どうして!?」
何度も何度も、満は滅びの力を放った。しかし結果は同じで穴が深くなるだけだ。
「咲……、咲……!」
満の目から涙が零れ落ちる。うずくまり拳で地面を叩く。
「咲ーっ!」
満の絶叫が森に響いた。舞も涙を零しながらそれを見ている。
(あの夏と同じ…また助けられなかった……)
「満……」
薫が満の肩に触れると満はばっと薫に抱きついた。
「どうすればいいの?私、咲が…」
「……」
薫には何も答えられない。満に見えないようにそっと精霊の力を地面に放ってみたが、
当然ダークフォールへの道は開かなかった。
「私だって咲のこと、愛してるのに……!」
森の中、みんな涙を流している。
自分達だけが助かっても咲がいないんじゃ意味がない。
満の啜り泣く声だけが辺りに響く。
その時、
「!!」
がさっ、という音が聞こえて、一同は大木の方へ振り返る。
「あ、あれ?みんな、どうして泣いてるの?てっきり私はみんな帰っちゃったのかと・・・」
「咲!」
一同は咲の元に駆け寄る。
「ど、どうしたのみんな!?」
みんな、涙を流しながら咲との再会を分かち合う。
だが、満だけは何故か肩を震わせている。
まるで怒っているかのように。
「でも、どうして?咲はあの時ゴーヤーンと一緒に・・・」
と、舞は問う。
確かにあの時、ダークフォールが崩れた時には咲の姿は見当たらなかったはず。
なのに今、目の前の咲は生きている。
「本当はもう少し早くみんなのところに帰りたかったんだけど・・・」
「?」
咲は照れたふうに、
「なんだかみんな泣いてるから、出ていきづらくて・・・」
「・・・」
「でも、私もあの時は、さすがにやばいって思った。だけど・・・」
「?」
「また、母さんに会った・・・」
咲は、大木のそばにある花壇を優しく見つめた。
「母さんが、私を助けてくれて…代わりにゴーヤーンのこと、
封印してくれるって言ってた……私は大切な人のそばにいなさいって」
咲は満を見るが、満は俯いたまま咲と目を合わせない。
「満?」
満の目を覗き込むようにすると、
「いい加減にして!」
満の怒りがその瞬間に爆発した。右の拳が唸りを上げて咲の顔面にヒットする。
「咲!」
「満、止めなさい!満!」
舞は咲の体を支え、薫はまだ咲に拳を振るおうとする満を羽交い絞めにして抑える。
「み、満…」
咲は頬を手で押さえて満を見る。満はしばらく薫の腕から離れようと
暴れていたがやがてぼろぼろと涙を落とす。
「私に、自爆なんてするなって言ったくせに…私がいないと意味がないって
言ったくせに…!私だって、咲がいなかったら助かったって意味がないわよ!」
「…ごめん、満」
満の体から力が抜けたのを感じて薫が腕を放す。
満はそのまま咲の胸に飛び込んだ。
「ごめん、満…ごめんね……」
咲は申し訳なさそうな顔をして泣きじゃくる満の髪を撫でる。
「みんなのこと、守ろうと思ったらあれしか思いつかなくて…」
「…もう、あんなことしない?」
「うん、しないよ…ずっと満と一緒にいる」
咲は満の顔を上げると頬に流れる涙をそっと拭った。
満は咲の顔を見て微笑むとまた胸に顔を押し付ける。
しばらくの間、二人はそうしていた。
「ところで」
二人の様子を見ていた薫が舞に話しかける。
「今、もう夕方よね」
「そうね、5時くらいかしら?」
「私たち、学校さぼったことになるのかしら」
「そうね……」
「ま、まずいよ!」
舞と薫の会話を聞いた咲が慌てて叫ぶ。
「篠原先生に怒られちゃうよ!どうしよう!」
「どうしようもこうしようもないでしょ」
薫は冷たいほどの落ち着いた口調で答えた。
「薫さん、それってその……叱られるしかないってこと?」
「そうよ。さぼったのは事実だし、理由を説明するわけにもいかないし」
「あ〜、やだなあ…」
ぼやいている咲の腕から満は抜け出し、
「でも、どこに行ってたのかは絶対聞かれるわよ。どうするの?」
「えーと、じゃあさ、ここに来てて、大空の木の下にいたら気持ちよくって眠っちゃった
っていうのはどう?」
「4人揃って?」「咲1人だったらありそうだけど」
学校への道を戻りながら話し合う。
しかしこれといって良い案が出ることもなく……、
「私たちも咲と同レベルになったってことにするしかないわね」
「仕方がないわ」
「あのー満も薫も、ちょっと言い過ぎなんじゃ……」
舞はそんな三人の会話を見てくすりと笑うと、校門の中に入った。
後日、夕凪中では舞だけではなく満と薫も咲と同レベルになったらしいという
噂が流れることになるのである。
篠原先生に叱られたあと、四人で帰る途中・・・。
「咲・・・」
まだ、怒っているのか、厳しい口調で満は咲を呼ぶ。
「な、何!?」
「・・・」
「満?」
咲は満の顔を覗き込む。
なぜか満は体中に力を込めている。
すると、いきなり・・・、
「はああっ!!」
夕凪中の制服から、一気にダークフォールモードへと姿を変える。
「み、満?どうして・・・?」
満の瞳は赤く染まり、満の体からは殺気があふれている。
満はいつもよりも低い声で言った。
「・・・おしおき、よ・・・」
「へっ!?」
「もう咲は私の前からいなくならないって言ったのに、今日、こんなことをしたから・・・」
満は咲を引き寄せ、お姫さま抱っこをする。
「ちょっ、満、離して・・・!」
咲は満の腕から抜け出そうと藻掻くが、普通の状態の自分では、変身した満にはかなわない。
満は、じゃあね、と言って薫と舞にウインクをして、そのまま海岸に向かった。「降ろして〜〜〜・・・!」
しだいに咲の声が小さくなる。
その様子を見ていた薫と舞は、ぽかーんとしている。
すると急に、
がしっ、と舞の肩を薫が掴む。
「か、薫さん・・・!?」
薫も舞を引き寄せる。
「さあ、舞。続きをしよう!」
「えっ?」
舞は薫から離れようと抵抗するが、かなわない。
「私もこうして人間になった。もう私達が繋がるための障害はなくなったのよ!」
「や、やめて・・・薫さん、離して・・・」
「嫌だ」
薫は舞の背中に触れないように、十分に注意を払いながら抱き締める。
背中に触れないように、触れないように・・・。
(変身した舞には、はっきり言ってかなわないからな・・・。背中にだけは触れないようにしないと・・・)
「・・・」
(薫さん…また私との約束を破るの?)
(ひょっとして私との約束なんてどうだっていいと思ってるの?)
黙っている舞に薫はそっと顔を近づける。
だが、
「いやっ!」
「っ!?」
薫の体が突然吹き飛ばされた。恐る恐る薫が見ると、舞の背中に大きく翼が生えている。
「ま、舞…」
(私は背中に触っていない…自分の意思で変身したの?)
「何回言っても駄目なのね、薫さん」
舞は恐ろしいほど落ち着いた声で話している。
「あ、その…いや…」
舞がため息をついた。
「薫さん、私たち…」
「舞…?」
「もう、終わりにしましょう」
「ま、舞!?」
舞はそのまま薫を見ずに羽根を大きく広げて飛び立ち、自宅に帰った。
今日はお母さんがいる。
「ただいま」
「あら、お帰りなさい。…今日は薫さんは一緒じゃないの?」
「うん……」
俯いたまま舞は自分の部屋に入る。
(薫さんのこと、良く分からなくなっちゃった…優しい人だと思ってたのに…)
「天空の風よ!天空の風よ!答えてくれ!」
薫は舞が帰ったあと、思わず駆け出した。
自分の新たな、風の力を使って舞の所に行こうとするが風は答えてくれない。
薫は、はあはあと息を切らす。
そしてゆっくりと空を見上げる。
「どうして、答えてくれないの・・・?」
薫は自分の掌を見る。
そこに小さな雫が零れ落ちる。
「天空の風よ・・・、私はまた舞を傷つけてしまった・・・。舞は、いつか言っていた。私の気持ちは真直ぐすぎると・・・。だが、私は余りに真直ぐすぎて、自分のことばかりで・・・舞の気持ちを考えていなかった・・・」
そして薫は、ぎゅっと両手に握りこぶしを作る。
「この力は、きっと自分のためには使えないのね・・・。誰かを助ける、守りたいと思う時に、天空は答えてくれる・・・そうでしょう?」
その時、ざ・ざっ、と一つの風が薫の前を横切った。
「舞?」
お母さんが部屋の戸をノックする。
舞はスケッチブックを見ていた顔を上げた。
「薫さんが来てるわよ。あなたに、会いたいって」
「……」
「家に上がってもらう?」
「…いや……」
「舞?」
「今は…会いたくない……」
「そうなの…帰ってもらってもいいの?」
「うん、そうして」
お母さんが部屋から離れていく音が聞こえる。
舞はため息と共にスケッチブックに視線を落とした。
最近は薫の絵ばかり描いていた。
(薫さんのこと、好きだけど……でも…)
「ねえ満、そんなに好き?」
「うん。咲の匂いがするから」
その頃満は、ひょうたん岩の上で咲に持ってきてもらったメロンパンを
頬張って満足していた。
(なんか、風が荒れ始めてきたような気がするナリ…)
薫は来た道を引き返していた。
「舞に会えなかった・・・」
(もう、舞に嫌われてしまったのだろうか?)
(例え舞に嫌われていてもかまわない。もし、今度あいつらが現われた時は、この力で、舞を守る!)
気付くといつの間にかスケッチブックの中は薫ばかりになっていた。
自分では今は薫のことを考えないようにしようと思っていたが、やはり自分の心には嘘を付けないのか。
舞は席を立ち、部屋を出る。
舞が家を出ようとするのに可南子は気付いた。
「舞、出掛けるの?」
「うん、ちょっと散歩に・・・。あまり遅くならないうちに帰るから」
「そう、いってらっしゃい」
舞は、スケッチブックを持って、家を出た。
「ねえ満、満足した?」
「お腹は一杯になったわ」
ひょうたん岩の上、咲が持ってきた10近くのメロンパンを平らげて
満は嬉しそうに咲に寄りかかっている。
「だから、次は…」
「う、やっぱり次があるの?」
「当たり前じゃない、今日は私の言うことをなんでも聞いてくれるんでしょ?」
満の『おしおき』は、今日一日自分の頼んだことをなんでもするように、
というものだった。
(でも、いつもだって満の頼みは大体聞いてるような…?)
「何か言った?」
「う、ううん、何も言ってないよ。でも満、なんか風が強くなってきたから
ここからは離れた方がいいんじゃないかな」
「そうね…じゃあ、連れてって」
満は咲の体に身を寄せる。
「変身するから力入れるけど…」
「構わないわ」
咲は体に力を込めた。髪が揺らめき、目が釣りあがっていく。
とはいってもそこまでだ。こんな時に母さんの力まで出すわけには行かない。
「飛ぶよ」
咲は満を抱きかかえたままふわっと浮き上がり海岸を目指す。
海岸には見慣れた人影があった。
(あれ?薫?舞と一緒じゃないのかな?)
咲は薫の様子が心配になり、降り立った。
「咲?」
「どうしたの?今日は舞と一緒じゃないの?」
「・・・」
咲は心配そうに薫を見るが、満は、じとーっと目を細めて薫を見ている。
(全く、ちっとも懲りてないんだから)
満は咲に寄り掛かる。
「行くわよ。咲」
「えっ!?だって薫が・・・」
「今日一日は私の言うことを聞くんでしょ?」
「わ、わかったよ・・・。ごめんね薫・・・」
咲は再び満を抱き抱えて飛び立った。
(風が強くなってきている・・・。舞の心が、乱れている・・・?)
薫は空を見上げるが、すぐに目線を落とし、目を閉じて意識を集中する。
(風よ、教えてくれ・・・。舞は今、どこにいる?力を、貸してくれ・・・。舞を、舞を守りたいんだ。きっと今の舞の心は泣いている。風よ、答えてくれ・・・!)
んー、長くなって終わりが見えないし、そろそろ自HP立ち上げてそこに移った方がよくね?
(風が…)
舞はスケッチブックを抱えたまま当てもなく町を歩いていた。
次第に強くなってきた風が髪を揺らす。
(どこに行こう…)
舞はどこか、集中できる場所を探していた。集中して、絵のことだけに没頭できる場所。
普段ならわざわざ場所を選ぶまでもないが今日はどうしても絵に集中して
他のことを考えるのを止めたかった。
(大空の木…海…だめよ、薫さんとよく一緒にいるところばかり…)
舞の足は駅の方に向かっていた。
切符を買い電車に乗り込む。車内には誰もいない。
(この電車の終点は、確か町外れだったはず…)
スケッチブックを抱えたまま舞はシートに座って俯く。
この電車には咲と一緒に乗ったことがある。その時は満も薫もいなくて――と、
また思考が薫の方に向きそうになったので慌てて振り払う。
終点について、舞は無人の駅から外に出た。道を歩いている人もいない。
少し歩くと、この場所からも海が見える。ひょうたん岩はもう見えないが。
舞は海に背を向けて、線路そばに止まっている古い電車の車両を
中心に絵を描き始めた。
車両はもう使われていないようで、すっかり周りの雑草が伸びてしまっている。
(こんなに寂しい絵を描くのは久しぶり…)
>669
このスレに他のネタを書きたい人はこのSSを気にせずにどんどん書いて欲しいんだが…。
>>670 長いのは一向に構わないが、
ハンドルかタイトルかトリップつけてくれー
他のと判別に困る
突然だが単発の番外編を・・・
元々満達は何も食べずに生きていけますが、ただ、緑の郷の食べ物がおいしいので、つまんでいるだけなのです。
その証拠に・・・
舞「みんなーお昼ご飯よー。何がいい?」
満「!!」
筋「!!」
紫「!!」
満「メロンパン!」
筋「チョココロネ!」
紫「クリームパン!」
咲「どうしてうちの商品ばかりなんだろう・・・?(母さんまで・・・)」
舞「ダークフォールの人達って甘党なのかしら・・・?」
薫「どうでもいい・・・」
これだけ長文連続で貼り付けられたら、まともにレスが拾えなくなって他の会話なんて成立するわけねーべ
まぁだからと言って別に話のネタがあるわけでも無いが
満はわりと社交的で自分を抑えるすべを持っている。
薫は良く言えば素直。
悪く言えば空気を読まないバカ正直(笑)
675 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/28(木) 18:34:12 ID:3qJDOh7T
消えてしまえ!!
ここってどんだけ住人いんだ?
>>670 そのころ咲と満は、大空の樹に着いていた。
変身した咲は、満を抱えてここまで来たのだ。
満を樹のそばに降ろすと咲は変身を解く。
「ねえ、咲・・・」
「ん?」
「前から聞きたかったんだけど、どういうふうに変身するの?それと変身してる間はどんな感じなの?」
「え、えっと・・・」
そんなにいっぺんに言われても・・・と思って咲は思わずあたふたしてしまう。
そしてしばらく思案する。
「うーん、そうだなあ・・・。変身する時は、怒りにも似た気持ちで意識を集中するんだ・・・」
「怒りに似た気持ち?」
「うん、例えば、満があいつらに傷つけられた時とかを思い出して・・・」
「・・・」
「だから変身すると、許せない相手には容赦できなくなってしまう。それに何だか変身している時は自分の気持ちが強く出ちゃうみたいで・・・」
ああ、それで咲が変身すると甘さがなくなるのね・・・と満は思った。
「でも、一歩間違えると・・・」
「?」
「その怒りに飲み込まれて、自我を保っていられなくなるんだ・・・」
咲は何故か、力をこめている。
「咲!?」
髪が揺らめき始める。
瞳が釣り上がっていく。
「咲!やめて!」
滅びの力をいきなり発動させようとする咲を満は、ぎゅっと抱き締め、止めようとするが・・・。
「あいつら、よくも母さんと満を・・・!許・・さ・・ない・・・!!」
ここって見てる人いるのか?
679 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/30(土) 08:08:25 ID:WBiU9ibm
>680
薫が追いかけて舞追いかけて、和解すればいいと思う。
満と咲はこのまま平穏に終わればよさそうだし。
締めろと言われれば締めるが、680はまだこの設定で書きたいんじゃ?
リレー小説として始まった話だったし完結させたくてずっと参加してたけど、
680としては一人で好きなように話を展開させたくて、迷惑だったんじゃないかと
ここ1,2日思い始めたので書き込みを止めていたんだが。
もうこの設定で書きたいことがない、あるいは新しい展開にするために
今の展開を一旦締めろということなら締める。少し時間かかりそうだが。
>>681色々とスマンorz
次の展開は次を書く人にまかせよう。
>677
風の向きが突然変わった。薫は閉じていた目を開ける。
(シトラスの、香り……?)
微かなものだったが風に乗ってシトラスの匂いが漂ってきた。風上に向って薫は走り出す。
しばらく走ると線路に出た。ちょうど駅から電車の出るところで、閉じた踏み切りの前で
薫は少し足踏みをする。騒音を立てて電車が通過して行く時何気なく上を見ると、
(舞!?)
電車の中に一人座る舞の姿が見えた。
「舞!」
思わず声に出し追いかけようと線路沿いを走るが、薫の足でも
電車には追いつけない。ぐんぐん小さくなっていく電車が豆粒のようになったところで薫は
走るのを止めた。体に力を込めてみたがやはり変身はできない。
薫は足を駅へと向けた。
次の電車は30分後である。バスを使うことも考えたが、路線図を良く知っているわけではない
のでとりあえず止めておいた。電車の方が多分確実だ。
誰もいないホームから、ようやくやって来た電車に乗り込む。
(舞はどこまで行ったのかしら……)
閉まっていた窓を大きく開けると風が車内に大きく吹き込んできた。
薫一人しか乗っていないので遠慮なく風を味わう。終点まではいくつか駅があるが、
どこで舞が降りたのか薫は少しの間考える。
だが考えても分かるはずもなく…、
(風を信じるしかないな…)
目を閉じ、薫は風の運んでくる情報を聞き漏らすまいと意識を集中した。
この前薫が使った、風の精霊の力は舞が薫にくれたものだ。
だからきっと、舞の心が乱れているなら薫にそれを伝えてくれる……筈である。
舞の気配を感じることなく、薫は終点に着いた。少し不安を覚えながら駅に降り、
改札を出て再び目を閉じる。
(舞?)
風に乗ったわずかな気配を感じたような気がして薫はそちらの方へ足を向ける。
駅舎の裏手に、舞は座っていた。
使われていない車両の前で一心に絵を描いている。
「舞」
薫の声にも舞は反応を見せない。
(絵を描いているなら仕方ないわね、終わるまで待たないと…)
舞を見つけたことで安堵しながら、薫はその辺りをうろうろして時間を潰した。
ふう、と舞が息をついてスケッチブックから顔を上げたので薫はごくりと唾を
飲み込み話しかける
「舞」
「えっ!?」
舞はスケッチブックを取り落としそうになり慌てて体勢を直した。
「薫さん…」
振り返って薫を見ると少し後ずさりする。
「どうして、ここが分かったの?」
「風が教えてくれた。…舞の心が泣いているって」
「だって、そもそも薫さんが…」
「分かっている。すまない、舞。私が悪かった」
「……」
「舞との間に障害がなくなったのが嬉しくて、つい…気持ちのままに動いてしまった。
舞をあんなに傷つけるとは思ってなかったんだ。反省してる」
「…本当に?もう、あんなことしない?」
「ええ。しないわ」
「……」
舞は無言で後ろを向くと、今まで描いていた車両に向って歩いていく。
「舞?」
長い草をかき分け、車両の後ろ側に行くと線路しか見えない。
「…舞?」
心配そうな表情で薫は舞に近づく。
「次の電車は30分後だから、それまでは誰もここを見ることはないわ」
「?」
舞は薫の手を取った。
「薫さん…キスして、いいよ」
「…いいの?」
「うん。二人きりの時に、キスしてほしい…」
薫は舞の体をそっと抱きしめると、目を閉じた舞に顔を近づけそのまま
軽く唇同士を触れさせた。舞がそれを受け入れるのを見て、より強く舞を求める。
顔を離すと、舞は目を開けて微笑んだ。
「いつも絵に出てくるの」
「え?」
「薫さんのこと、考えないようにしようと思って絵を描いていたのに、
いつの間にか絵の中に薫さんを描いてしまっていて…」
舞が見せたスケッチブックの一番新しいページには古い車両の中に薫が乗っている。
「舞、この絵にあなたを描き入れることはできる?私の隣に」
舞は薫を見上げて「うん」と答えた。
「でも、薫さんの表情も描き直さないといけないから。こんな悲しそうな顔じゃなくて、もっと…」
「楽しみにしてるわ」
薫は舞と手を繋ぐと駅のホームに戻る。電車を待ち、二人で夕凪町へと帰った。
>682
いや、こちらこそ色々とすまん。
話を続けにくかったみたいなんでとりあえず舞と薫の話は終わってもよさそうな雰囲気にしておいた。
どーすんだよこれ 俺は知らないからな
薫がまだ一人で電車に乗っているころ、咲と満は……。
「やめて咲!今日は私の言うこと聞いてくれるんでしょ!」
満が乱暴とも思える力で咲を揺さぶり、咲はやっと変身を解く。
「満…」
「ねえ咲、あなた前、変身した時の自分のこと好きじゃないって言ってたじゃない。
今でもそう?」
咲は俯いて考える。
「うーん……今は、良く分からない。満が好きって言ってくれるし、それに……
母さんから受け継いだ力だから」
「そうね…」
「でもやっぱり、私の中の闇みたいなものが……」
咲の表情がまた変わって来たので満はぐっと手を握って咲を止める。
「ダークフォールのこと思い出したの?」
「うん……満や母さんのことを考える時、どうしてもあいつらのことも
考えちゃう時があって」
「大丈夫よ、ゴーヤーンは咲のお母さんが封印してくれたんでしょ?
あなたの代わりに。咲はその……大切な人のところにいなさいって」
「うん、そう。満のそばに」
満は顔をやや赤らめる。咲は手を引いて満を自分の方に抱き寄せた。
「さ、咲!?」
「満、好きだよ……」
そのまま顔を近づけようとした咲に、
「ちょっと待って」
と満は制止する。
「咲にお願いがあるの」
「なに?」
薫と舞は駅から少し急いで舞の家に向っていた。時間が大分遅くなってしまったので、
家族が心配しているかもしれないと思ったので、小走りになって家に向う。
家について玄関を開けると、可南子がすぐに出てきた。少し怒っているように見える。
「舞、遅くならないようにしなさいって言ったじゃない」
「ごめんなさい、絵を描いていたら時間が経ってて……」
「気をつけなさいね」
「ごめんなさい……薫さんありがとう、また明日ね」
舞は振り返り、自分の後ろにいた薫に向って手を振る。
「ええ。……また明日」
舞の家の扉が閉まると、薫はそのまま一人で歩き始めた。
「薫さーん!」
舞の声が聞こえたのは最初の交差点にも着く前だった。
「舞?どうしたの?」
「あ、あのね……」
走って追いかけてきた舞はしばらく息を整える。
「お母さんが、もし良かったら家に夕食、食べに来たらって」
「え?」
薫は意外そうな顔をする。
「薫さんに是非食べてもらいたいものがあるんだって」
舞は薫の手を取った。薫はそのまま舞について行く。
「はいどうぞ〜」
可南子は食卓の上に山盛りのメロンパンを出す。
「お母さん、薫さんに是非食べてもらいたいものって、これ?」
「そうよ、満さんが咲ちゃんに教えてもらって作ったからおすそ分けって
さっき持ってきてくれたの。料理もつくったから一緒に食べてね、薫さん」
「……はい」
(お母さん、やっぱり私たちのこともう気がついちゃってるのかな……)
初めてつくったものにしてはメロンパンは意外とおいしかった。
パンを頬張りながら、満は咲に褒められて喜んでいるんだろうと薫は思う。
満は今日咲の家に泊まるのだろう、という話になり、家に誰もいないなら
薫さんも泊まっていったら?と可南子に勧められる。
「え…でも、その……」
「遠慮しないで。舞が普段から、お世話になってるみたいだし」
お世話はされていても、したことはない。薫はそう思ったが、好意に甘えることにした。
「お母さん、私たちのことに気づいていると思うの……」
夜遅く、部屋で二人きりになると、舞は薫に話す。
「そうなの?」
「うん。昔、私が咲のことを好きなのも気づいてたみたいだったし」
「……」
「だから今も」
「それで私に今日泊まるように?」
「うん。多分。今日私たちが喧嘩したのは絶対分かってるはずだから」
「その……私は、親との関係が良く分からないんだけど…
何かしたほうがいいの?」
「普通にしてればいいと思う」
「……そう」
「私たちがお互いに好き同士で、ずっと一緒にいたいと思っていることは
お母さんにも伝わってるような気がするから」
「……」
薫は舞のそばに近づき、背後から舞のことを抱きしめる。
今は舞もそれを拒絶しなかった。薫にされるままになっている
舞の背中に走る2本の生々しい傷跡を見たとき、薫の顔は曇った。
(この傷は、ずっと残ってるんだな……)
舞の精霊の力は強い。滅びの力を消し去り、また全ての生き物を癒すこともできる。
しかし舞自身の背中にはその力によりついてしまった傷がはっきりと残っている。
ふと、思ったことがあって薫は体に力を込めた。
(舞のためだ!)
そう思った瞬間薫の体から光が生じる。
「薫さん?」
背後の薫の気配に気づいて舞が振り返る。
「動かないで」
変身した薫は舞の背中に手を当てた。