このあいだ、職場の給湯室で同僚OLと遭遇したんだよね。
何となく彼女の背後に立つ格好になって、
お互いに用事を足していたんだ。
ふと、彼女の香水の切れ目から、脂の匂いがした。
耳の後ろと、うなじのあたりからなんだな。
いやホント、クンカクンカクッセーしたわけじゃないんだ。
でも、彼女は肩を強ばらせている。嗅がれていると思っているらしい。
まずいな、困ったなと思っていたら、首筋から耳まで赤くなっているのね。
感じていたんだよ。
こっちは戸惑ったけれど、「ね、」と背中越しに声をかけられたからしかたがない。
彼女の耳の後ろに鼻面を近づけて思いっきり嗅いだよ。
動物の匂い、メスの匂い。
鼻の頭を彼女の肌に触れるか触れないかのところを這わせてさ、
ひっつめで露わになったうなじの臭いと、シャンプーの匂い、髪の脂の匂いを吸い込んだ。
その間、二人とも無言。
「あイク」
訊いてもいないのに、彼女は小さく声に出して、昼下がりの給湯室のしじまを破って
へたり込んだ。
その後は何もない。一週間ぐらい経つけれど、あの事件が起きる前と何も変わらない。
彼女の胸の内は判らないけれどね。