〜回想シーン〜(モクモクモク・・・)
放心状態から脱するにどれだけの時間を要したろうか。
本部の人間と別れた後、私は始発電車に腰を下ろし、車窓から朝焼けを眺めていた。
祝日なのに仕事に従事するもの、水商売から帰路に着く者、何人かのホームレス・・。
世界には諸事情により、これよりもっと酷い状況にある人間もいる。
しかしそれを含めて日常なのだ。
あのまま法案が通過していたらこの日常を噛み締める安寧の時は二度と訪れなかっただろう。
議会が閉幕した後も、講堂は殆ど誰も帰らなかった。
各々が恥ずかし気もなく昔話に耽っていた。
16歳の頃初めて土井氏にファンレターを送った時の甘酸っぱさ、入試の時の緊張・・
幾つかの私的エピソードが集音マイクに拾われ、世界中に発信されても誰も気に留めなかった。
勇気の一声を挙げたロッシートは様々な人間の抱擁とキスを受けながら興奮気味に喋っていた。
鶴の一声を挙げたミスターX氏は私が気付いた時には既に講堂を跡にしているようだった。
一部の過激派はまだ矛を収める事が出来ないのか、何事か怒鳴り散らしながら帰っていった。
。o0○ モワァァァン 〜回想終わり
未曾有の危機を乗り越えた私達はもっと強くなれる。
しかし、強さを履き違え、初心を忘れた時、またこうした危機は訪れる。
本部代表者の言葉を忘れない。「ホームが無い者は試練を迎えた際、アッサリと崩壊する。」
ブレない軸とコアと成り得るべき原点は絶対に忘れない。これからも教義の確かさを伝播し続ける。
固い決意をしまいこんでふと顔を上げると先程の朝焼けから日の光が眩しい。朝だ。世界の朝だ。
しかし、それにしてもミスターX氏がどうしてどうやって来たのか、今以て不明である。
コレもドイラバの奥深さ、そう解釈する他無い私はまだまだ未熟な存在である。
【FIN】