ttp://web.archive.org/web/20070104054813/www.tbs.co.jp/anatsu/mama/km.html vol.1 (1) はじめに…小島慶子です。
入社12年目、まさか自分が子どもを二人も産んで働くようになるとは思ってもみませんでした。
このページをごらんの方の中には、これからアナウンサーになりたいとお考えの女性も多いかと
思います。アナウンサーを志すと言うことはずっと仕事をして輝いていたい…という志があるからだと
思いますが、私も学生のころ「男女変わらず働けて、一生続けられる仕事をしよう」と思っていました。
でも一生仕事していたら結婚も、子どもも無理かもしれない…と言う不安は、女性なら誰でも持つもの。
当時の私はそんな不安以前に、想像すらしていなかったことなのですが、11年経ってみると、
働きながら結婚して子どもを持つことは、決して不可能なことはありませんでした。
アナウンサーと言うと華やかで多忙なイメージがあり、お母さんになるのは難しいと考える方も
いらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。
仕事を持ちながら結婚、出産、育児をすることの苦労はどんな職業についても同じように
経験するものでしょう。
そうやって仕事と家庭を両立しながら働いている人がたくさんいるということを知ってほしいですし、
自分にもそれが出来ると言う気持ちで、仕事にも家庭にも充実して生きる女性を目指して欲しいと
思います。
そんな、女子アナウンサーを目指す学生の皆さんへの応援の気持ちもこめて、参考になればと
筆を執りました。何も特別なことは書いてありません。
必死に子育てする働くお母さんの一例に過ぎませんが、女性が仕事を持つことの現実的な一例として、
参考にしていただければ幸いです。
vol.1 (2) どんな人が子育てに向いているか
働きながら産み育てるのは大変です。 2人も産んだので確信を持って言えます。
しかし何が大変かというと、挑戦するべきことが多くて大変なのです。大変だけど面白い。
つまり、子持ちになると、もともとチャレンジ精神旺盛で、忙しいと燃える、初めての仕事には
わくわくするというタイプの人には非常にエキサイティングな毎日が待っています。
今までの仕事が単調に思えるくらい、毎日が新鮮な驚きとチャレンジに満ちています。
まず生き物相手ですので予定が立ちません。昨日うまくできたことが今日もそのとおり
行くはずがないので、毎日がその場勝負です。
何しろ仕事の前に保育園に送り出して、仕事が終わったら迎えに行って、ご飯を食べさせて
お風呂に入れて寝かせるまで、分刻みで進行しないといけない上に、子供は思い通りに
動いてはくれないのです。
感情のままに行動する小さな人間相手ですので、就職活動で「私は人間が好きです!」
なんて言っていた手合いには、本望です。
すなわち、仕事大好き、忙しいの大好き、飽きっぽくて面白がりや…という、一見母親には
まったく向いていなさそうなキャラクターの人ほど、仕事と育児との両立には向いていると
いえます。それに絶対に飽きません。
大事なのは、子供に振り回されている自分を笑える気持ちです。うんちやおしっこやよだれの
ことであたふたしている自分、たとえば牛乳だらけでにやにやしている幼児相手に
マジ切れしている自分は、ひきめで見るとかなり笑えるものです。
そうしたいわば自己ドリフ化能力さえあれば、子育てはかなり楽しめるコントです。
つまり母親としてはかなり不真面目とも言える態度の人が、実は仕事と育児の両立には
向いていると思われます。
vol.1 (3) 妊娠は楽しい
そもそもお腹が大きくなること自体許せないという人は、是非思春期のころを
思い出してみて下さい。大人になることに喜びと恐れを抱いたあのころ。日々自分の体が
変化していくさまは、実に驚きと発見に満ちていました。
妊娠とはつまりあれです。しかも変化しているのは、自分の体プラス「もう一人」。
今日は背骨、肝臓、と考えるわけではないのに日々自分のおなかの中で精巧に
出来上がっていく人体。なんとも不思議です。しかも産めばちゃんと元に戻ります。
戻らないと思っている人もいるかもしれませんが、意外と戻ります。
今はお医者さんが体重管理を口うるさく言ってくれるので、産むまでに増やしすぎなければ、
産後は半年ぐらいで大体戻ります。
大体でいい理由は、みんな臨月のころと比べて「すっきりしたねえ」などと言ってくれるので、
妊娠前より多少太っていようが誰も気づきはしないのです。
ちなみに妊娠して、赤ちゃんが大きくなってくると、妊婦のお腹は公共の場所になります。
中にもう一人別の人格が入っているという感覚からでしょうか、職場の人々に祝福をこめて
妊婦のおなかを気安くなでるようになります。
私も2度とも、ああ私のおなかは公のものになったと感慨深いものがありました。
普段余り会話しないおじさんが、おめでとうといってくれたりすると、心温まる思いがします。
妊娠・出産は仕事の邪魔と考える人もいるかもしれませんが、私の場合は2度とも、
実にたくさんの人が「がんばってね」と応援してくれました。
仕事をしながら産んだ先輩も少なからずいて、「働きながらのほうが絶対に子育ては楽しい」と
口々に励ましてくれました。そういう点では、職場にはワーキングマザー同士の
強いきづながある気がします。一人じゃないんだ、みんながんばっているんだと
考えられるだけでも大きな支えになります。
たくさんの人に応援されて産めるのはいいものだと思いました。
vol.1 (4) 絶叫マシン好きはぜひ出産を
余談ですが、世の中にはお金を払って辛い思いをするのが好きな人がいます。
絶叫マシンなど、何で大枚はたいて並んですすんで酷い目に合うんだろうかと思いますが、
人生に刺激とスリルを求める人がいることもまたよくわかります。
そんな人にはぜひ出産をお勧めします。
医学の進んだ現代日本では、お産で死ぬことはまずありません。でも死ぬかと思うことでは、
絶叫マシンと同じことです。絶叫するところまで同じです。
テレビドラマで出産シーンを見たことがあると思いますが、あんなに品良く産む人はごく稀です。
周囲に聞いてみたところ、経産婦のほとんどは、分娩の瞬間「う、うまれる」ではなく「出る」と
叫んでいます。そのときはもう体は自分のものではなく、生まれてくる子供のペースで
お産が進んでいるからです。落ちたくなくても垂直落下する絶叫マシンと同じです。
終わってみればなかなか珍しい体験でした。
エキサイティングであることは太鼓判です。人生に変化と刺激を求める人は是非。
この経験によって何を得たかというと、「自分の体でさえ思い通りにならないのだから、
身の上に起こることを素直に引き受けて生きていこう」という謙虚さと覚悟です。
仕事だけに生きて、仕事イコール自己表現、と考えていたころに比べるとなんとたくましく、
広い視野を持って人生と向き合えるようになったかと思います。
そういう視点は仕事にもまたプラスになることは言うまでもありません。
次回もまた、仕事と育児の両立にかこつけていろんなことを書いてみようと思います。
これを読んで、私も両立できるかも、と思う人が増えてくれれば幸いですが…
失礼いたしました。