75 :
名前は誰も知らない:
君は君の存在の始まった瞬間も世の中のすべてを否定しながら
生きていく事に成るのか。死よりも苦しい現実。
それを忘れさせてくれるのはかつて君を生きながら殺した
おぞましい凌辱の数々。ただひたすら大人の体になる前からずっと
男に体を犯される事によってしか自らの存在を認識する事の出来ない
涙の泉もついえる果てしなく恐ろしく膨大な時間の連続。
どんな手段を持ってしても救われる事の無い発狂への入り口。
誰からも認められず、自分自身ですら自分を認める事の出来ない
終わり無き絶望の日々。殺人よりもどんな暴力よりも不思議で
滑稽で奇怪な理不尽な行為の果てに君の精神は壊れ、その肉体も
また健康を損ない始めている。どんな抗生物質を持ってしても
治療を止める事も遅らせる事も出来ず、安楽死も許されず、
自殺する自由も失い、ただただ無駄に時間をお金を費やして
病魔に耐えなければならない呪われた日々。
あれから一体どれほどの月日が過ぎたのだろう。
君は今精神病院のベッドに縛り付けられているね。
夜になると絶叫して部屋のものを投げつけるから、壁に頭を叩き付ける
からこうしてトイレのついて個室に入れられている。
君はまるで見せ物のようだ。
あれから君はどれほどのものを失ったのだろう。
友達も家族も夢も言葉も、残っているのはあのおぞましい記憶と
君の傷つけられた体だけ。
君を訪ねてきてくれるのも皮肉にも僕一人だけだ。
今日は成人式だというのに君には振り袖一つ着せてやる親ももういない。
今日もまた、君は僕に犯されるのだ。ただこれだけが僕たちの生き甲斐であり
楽しみであるからだ。
誰も信じず、誰からも必要とされず、君はただ、僕への憎しみと快楽だけ
をよりどころにして生きている。
仮に君の病状が回復しても勉強の遅れをどうやって取り戻したら良い?
どうやってコミュニケーションを回復したら良い?
どんな仕事につけば良い?結局僕を頼って僕に犯されながら生きていくほか
ないのではないか。世の中は公平じゃない。傍から見れば不幸ではあるが、
実は君もそれを望んでいるのではないか?僕もまだ30代になったばかりだし。
それにしても今年はずいぶんと暖かい冬だ。