1 :
名無しさん@実況は禁止です:
島崎「島田ー、ねえもう帰ろうよー」
島田「……」
島崎「そんなに食べたら太っちゃうよー」
島崎は料理に夢中の島田の頭を、持っていた鞄で叩いた。
島田「……!!」
島田の体がゆっくりと傾き、後ろ向きに倒れる。
島田「……」
島崎「えー、どうしよう、島田が豚になっちゃったよ」
2 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 17:20:34.98 ID:ELim5KqDO
以下、好きなマジックミラー号
3 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 17:23:39.02 ID:88bg/LuYO
こんなつまらないスレ立てるなんて、
>>1は病気なの?
4 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 17:27:39.72 ID:DZqug09VO
ぱるると言えば島田だと思ってバッグで頭叩いたら大家で平謝りした事があったな
5 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 17:28:04.14 ID:eDcPrHSTO
あーあまたガラケーユーザーが叩かれる
一時間程前――。
島田「あれ?他のみんなは?戻って来てないの?」
休憩から戻り、移動車の中を見渡す島田。
島崎が最後部座席にいるだけで、他にメンバーの姿はない。
島田「おかしいな、このサービスエリア、トイレと自販機しかないし、他に時間潰すとこないと思うんだけど」
山間の村でロケをした帰りだった。
休憩のために寄ったサービスエリアは寂れていて、メンバーが長居するとは思えない。
島田「ぱるる、何か聞いてない?」
島崎「……」
ドライバー「……」
島崎「……」
島田「……」
ドライバー「皆さん遅いですねぇ…もうそろそろ出発したいんですけど…」
移動車のドライバーは明らかに苛立っていた。
島田「あ、えーっと…じゃあうちらちょっとその辺探してきまーす…」
島田はいたたまれなくなって、島崎を巻き添えに、車外へ飛び出す。
島田「みんなどこだろう?トイレかな?あれー?やっぱりいないね」
島崎「……」
島田「…どこ行っちゃったんだろう…」
島崎「……」
島田「あれ?こんなところに獣道があるよ!足跡も…もしかしてみんなこの道を使って山の中に入ったのかな?」
自販機の裏まで来ると、サービスエリアの裏手へと続く獣道を見つけた。
その先は山である。
島田「とりあえず見に行ってみようか?」
島崎「……」
島田「ダメだ、ぱるる半分寝てる」
島崎を引っ張りながら、獣道を登る島田。
島田「トンネルだ…」
やがてトンネルの前に出た。
島田「向こう側は明るいね。何があるんだろう」
島崎「……」
島田「行こう」
島崎「えー、やだー」
島田「何で?」
島崎「なんか虫とかいそうだし、島田だけ行って来てよ」
島田「いいじゃん、ほらパンあげるから」
島崎「いらない」
それでも島田は自作のパンを押し付けきた。
強引に腕を取られ、島崎はトンネルの中に入る。
島田「ぱるる、そんなにくっつかないでよ。歩きにくい」
島崎「だって眠いんだもん」
島田「あ、見えてきた!ここは…ターミナル?」
トンネルを出ると、ターミナルのようなひらけた場所に出た。
その先には草原が広がっている。
遠くに、小さな街並みから伸びる煙突が確認出来た。
島田「見て、煙が出てる。あそこに誰かいるんだ」
島崎「ねえ、帰ろうよー」
島田「おかしいと思ったんだ、今時あんな寂れたサービスエリアないもん。きっと向こうに見えるのが本来のサービスエリアで、みんな今あっちで休憩してるんだよ」
島崎「……」
島田「それにほら、いい匂いがする!SAグルメとかあるのかな?うちお腹すいちゃったよ」
2人は街並みを目指して歩き、そこでたくさんの飲食店が並んでいるのを見た。
カウンターには湯気の立った料理の皿が無数に出されている。
島田「おいしそう」
島崎「……」
島田「おいしい」パクッ
島崎「お店の人いないのに、勝手に食べたら怒られるよ」
島田「大丈夫だよ、後でちゃんとお金払うから。ぱるるもおいで。ほらこれ、すっごくおいしいよ」
島崎「いらない」
島田を見捨て、島崎はひとり、温泉街のような街並みの中を徘徊する。
橋の上まで来た。
島崎「……」
島崎「…たくさん歩いたから疲れちゃった…」
島崎「……」
島崎「……」
島崎「……」zzz…
島崎「……」ビクッ!!
いつの間にかすぐ傍に、ひとりの少女が立っていた。
島崎「…?」
少女「ここに来てはいけないよ。早く帰りなさい」
島崎「……」
少女「もうすぐ灯りが入る。道を見失う前に、早く!走って!」
島崎「……」
島崎「……」
島崎「……」テクテク
――なんか怖い人だったなぁ…。
島崎は島田のいる店の前まで戻ってきた。
その間に街中の提灯や看板に明かりが灯り、夜の気配が差し迫っている。
島崎「島田ー、ねえもう帰ろうよー」
島田「……」
島崎「そんなに食べたら太っちゃうよー」
島崎は料理に夢中の島田の頭を、持っていた鞄で叩いた。
島田「……!!」
島田の体がゆっくりと傾き、後ろ向きに倒れる。
島田「……」
島崎「えー、どうしよう、島田が豚になっちゃったよ」
食事をしていたのは、島田ではなく、島田の服を着た豚だった。
島崎「……」
島崎「……」
島崎「……帰ろっと…」テクテク
12 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 17:50:11.18 ID:7hhGXxZr0 BE:5033515687-2BP(1527)
島田は豚だからしょうがないな・・・
13 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 18:24:02.48 ID:qlSFCm6N0
島崎は元来た道を引き返し、ひとりで移動車まで戻ることにした。
島崎「……」
だが、草原だった場所は湖と化し、先へ進めない。
困っていると、今度は自分の体が透け始めていることに気づいた。
島崎「……」
島崎「……」
島崎「……」ビクッ!!
またしても突然に、その少女は島崎の前に現れた。
橋の上で出会い、いきなり怒鳴ってきた少女である。
少女「これをお食べ」
少女が何か差し出してくる。
島崎「……」
少女「焼きたてのメロンパンだよ」
島崎「メロンパン飽きた」
少女「じゃあこれはどう?フランボワーズのマカロンだよ」
島崎「……」
島崎「……」
島崎「……」パクッ
島崎「……」モグモグ
マカロンを口にすると、島崎の体は元に戻った。
少女「この世界の食べ物を口にしないと、体が透けて、最後には消えてしまうんだよ。大丈夫、食べても豚にはならないからね」
島崎「じゃあさっきの豚、やっぱり島田だったんだ…」
少女「しっ!伏せて!」
少女に頭を掴まれ、島崎は地面に組み伏せられた。
遠ざかっていく、獣の足音。
そして、猫の鳴き声。
少女「よし、行ったみたいだね」
島崎「猫、苦手なの?」
少女「遥香がここへ入り込んだことがもう知れ渡っているんだよ。さっきの猫は遥香のことを探して、偵察していたんだ。見つからなくて良かった…」
島崎「……」
少女「さあ、立って!」
島崎「……」
少女「早く!」
島崎「……」
少女「立てないの?」
島崎「……」
少女「恐怖で足がすくんだか…」
島崎「ううん、疲れちゃったの」
少女「……」
少女「ま、まじないをかけよう」
少女が島崎の足に触れ、呪文を唱えると、自分の意思とは関係なく体が走る体勢を作った。
少女「しっかり掴まって」
少女に腕を取られ、島崎は風のように街の中やよくわからない建物の中を駆け抜けた。
あっという間に橋が見えてくる。
少女「この中に入るには、この橋を渡らなきゃいけない」
橋の先には、旅館のような巨大な建物。
煙突が伸び、もくもくと湯気を吐いている。
少女「私が合図したら息を止めて。呼吸をしたら、すぐに遥香がここへ入ろうとしていることが知れてしまうよ」
島崎「……」
少女「…止めて」
島崎「……」
橋の中程まで来た時、目の前に一匹の蛙が飛び出して来た。
青蛙「マユ様ー、おかえりですか?」
島崎「やだー、蛙、気持ち悪い」
青蛙「ん?人間?なぜこんなところに…」
マユ「しまった…!」
蛙にマユと呼ばれた少女が、片手を掲げる。
すると蛙は透明な球体に包まれ、動きを止めた。
その隙に橋を渡りきり、引き戸の奥へと2人は身を隠す。
島崎「ごめんね、わたし息しちゃったよ」
マユ「ここから先はひとりで行くんだよ。そこの扉の先に、階段がある。階段を下りたところにある扉の奥が放送室だ。放送室にいる高橋さんという人に、仕事が欲しいと頼むんだよ」
島崎「仕事?したくないんだけど…」
マユ「ここでは仕事を持たない者は家畜にされ、食べられてしまうんだ」
島崎「かちく?」
マユ「牛や豚だよ」
島崎「豚はやだなぁ…可愛くないし」
マユ「いい?断られても根気よく頼むんだよ。諦めちゃ駄目だからね」
島崎「…はーい」
湯女「マユ様ー?マユ様ー?」
建物の中が大騒ぎになっている。
マユ「何事だ!マユはここにいるぞ!」
そうしてマユは島崎を残し、どこかへ行ってしまった。
島崎「……」
島崎「……」
島崎「……」ソロー…
言われた通り扉を開けると、階段がずらりと下まで続いていた。
島崎「……」
到着地点が見えない程、階段は急である。
島崎「……」
さらに手すりの向こうには海。
強烈な海風が島崎を襲う。
島崎「……!!」
肩に掛けていた鞄が、風に煽られ、吹き飛ばされた。
海へと落ちる。
島崎「あーあ、買ったばっかりだったのに…」
その後は何事もなく、階段を下りきった。
そこで見つけた扉を開き、中へ入る。
高橋「3曲続けてお聞きいただきましたが、いかがだったでしょうかぁぁぁぁ!!」
島崎「……」
高橋「いぇーい」
島崎「……」
島崎「…あの、」
放送室では、高橋が機材を操り、たくさんのマイクに向かって叫んでいた。
高橋「…ふぅ…」
島崎「…あの、」
高橋「おぉ!びっくりしたー。誰?どこから入って来たの?」
やっと存在に気づいてもられた。
島崎「あの、ここに来たら仕事が貰えるって聞いたんですけど」
高橋「仕事?誰からそんなこと聞いたの?」
島崎「マユって子から」
高橋「マジか!やばいな」
島崎「ここは何するところですかー?」
高橋「館内放送と各部門を繋げるオペレーターの仕事をあたしひとりでやってるんだ。だから悪いけど、あなたの分の仕事はないよ。他を当たって」
話しているうちにも、電話がひっきり無しに鳴り、天井のスピーカーから曲名らしきものを注文する声が響いていた。
高橋「おっと、仕事仕事…」
高橋は棚からレコードを選び、プレーヤーにセットする。
高橋「続いての曲です…」
島崎「……」
島崎「……」
島崎「……」ポスン…
島崎は疲れたので、ちょっと座ることにした。
高橋「わかってるよ!この間の曲でしょ!」
高橋「もしもし?調理場が誰か寄越してくれってさ。大飯食らいの客が来てて大変らしい」
高橋「はいはいただいま、これが終わったら曲流すから」
高橋「いぇーい」
島崎「……」
高橋はとても忙しそうだった。
――ここで働くのやだな…。大変そう。
高橋「…でー、次の曲次の曲…」
焦る高橋は、レコードを一枚、床に落としてしまう。
それはうまく転がって、島崎の足に当たった。
高橋「いぇーい、続いては、今の時期にぴったりのこの曲…」
島崎「……」
高橋「もしもし?え?客が酔いつぶれた?わかったよ、迎車を呼べばいいんだね」
島崎「あの、」
高橋「いぇーい」
島崎「あの、レコード拾ったんですけど、どうしたらいいですか?」
高橋「いかがでしたでしょうかぁぁぁぁぁ」
島崎「……」
諦めて、適当な棚にレコードを押し込んだ。
それを高橋は目ざとく見つける。
高橋「手を出すなら出すで、ちゃんとやりな!」
島崎「?」
高橋「乱雑に見えて、レコードの収納にはルールがあるんだよ。棚の記号と番号を確認して仕舞うこと!じゃないと、次に探す時手間取っちゃうでしょ」
島崎「……」
確かにレコードを仕舞う棚は、記号と番号で分類がされていた。
島崎はさっきのレコードを本来の場所に仕舞い直す。
高橋「うん、それでいい」
島崎「……」
それから島崎は小間使いのように、高橋の傍で働いた。
言われたレコードを出しては仕舞い、仕舞っては出し、やがてピーク時を過ぎたのか、電話と注文はぱたりと途絶えた。
高橋「ふう…」
マイクのスイッチを切り、一息つく。
高橋「そろそろタノが来る時間だ」
島崎「タノ?」
高橋「いつもここに食事を届けてくれるんだよ」
タノ「お待たせー」
高橋「ほら来た」
タノ「今日はカツ丼だよ。って、あれ?なんで人間がいるの?」
島崎「……」
高橋「この子は人間じゃない。あたしの妹だよ」
タノ「まずいよ。上で人間が入り込んだらしいって騒ぎになってるんだから」
島崎「……」
高橋「悪いけどタノ、この子を猫様のところへ連れて行ってくれない?仕事を探しているらしい」
タノ「なんで?やだよ」
高橋「ほらそこの棚にあるレコード、どれでも好きなの持って行っていいから。ダンスの自主練に使えそうな曲もあるよ」
タノ「…しょうがないなぁ…。そこの子!ついてきな!」
島崎「……」テクテク
タノ「返事しなよ」
島崎「……」
タノ「高橋さんにお礼言ったの?世話になったんでしょ?」
島崎「あ、ありがとうございました」
高橋「いいよいいよー。こっちも助かったから。ありがとね」
島崎「……」
タノ「ほら、さっさと歩きな」
島崎「……」
タノに連れられ、エレベーターの前まで来た。
タノ「ここから先は一緒に行けないから、ひとりで頑張りな。着いた階にあるのが猫様の部屋だから」
島崎「はーい」
エレベーター到着――。
島崎「わぁー、可愛いインテリア」
廊下は島崎好みの、白を基調とした女の子らしいインテリアだった。
一番奥の、取り分け凝ったデザインの扉を開ける。
島崎「……」
猫様「やだ、ノックしてよー」
着替え中だったらしく、猫様はサッと机の陰に隠れ、少ししたら出てきた。
猫と聞いていたが、見た目は普通の人間だ。
島崎「……」
猫様「なぁに?今忙しいんだけど」
島崎「あの、ここに来たら仕事が貰えるって聞いて…」
猫様「えー?そうなの?困ったなぁ…今ちょうどマリナがひつまぶし食べたいって騒いでて、手が離せないんだよね」
島崎「……」
猫様「それに人手は足りてるし」
島崎「……」
猫様「ここの仕事、きついよ?」
島崎「……」
猫様「わかったら出て行ってね」
島崎「……」
猫様「……」
島崎「……」
猫様「いつまでもそこに立っていられると邪魔なんだけど…。わかったよ。この書類にサインしてくれる?こよーけいやくしょだから」
島崎「……」
島崎「……」カキカキ
島崎「書けました」
猫様「えー?漢字かぁ…じゃあフリガナもお願い」
島崎「……」カキカキ
猫様「へえ、島崎遥香って書いてぱるるって読むんだ?」
島崎「……」
――本当は違うけど、まあいっか…。
猫様「読むの大変だから適当に取っちゃうね。はい、今日からあなたはぱるです。自分の名前だよ?」
猫様が書類に手を翳すと、書いた文字がスっと浮かび上がり、消えた。
残ったのは『ぱる』という二文字だけである。
ぱる「ぱる…」
猫様「そうそう」
マリナ「ねぇねぇちょっとー」
奥の部屋から女の子の声が聞こえてきた。
猫様「あ、はーい、今行くね」
ぱる「……」
マユ「失礼します」
猫様「あ、マユ!ちょうどいいところにきた。その子、ぱるっていうの。新人さんだから色々教えてあげてね」
猫様はそう言い残すと、奥の部屋へ消えた。
ぱる「……」
マユ「ついてきなさい」
ぱる「……」テクテク
またエレベーターに乗り込んだ。
ぱる「ねえ、マユさん?」
マユ「私のことはマユ様と呼びなさい」
ぱる「……」
エレベーターを下りたところで、タノと出くわす。
マユ「タノ、この子はマユだ。今日からここで働く」
マユはぱるをタノに頼むと、またどこかへ行ってしまった。
ぱる「……」
タノ「ふうん…」
ぱる「……」
タノ「やったじゃん、あの後どうなったのか心配してたんだよ。仕事貰えたんだね」
ぱる「……」
翌朝――。
タノ「従業員はお客様に疲れを取っていただき、楽しんで帰って貰うことを仕事にしているんだよ」
ぱる「……」
タノ「ここは神々様が疲れを癒すお湯屋なの」
ぱる「……」
タノ「今から宴会場で見せるダンスの練習。初めてだから仕方ないと思うけど、みんなの動きにちゃんと食らいついて行くんだよ」
ぱる「……」
タノ「……」
ぱる「……」
ぱる「あの、朝ごはんはまだですか?」
タノ「朝練の後だよ」
ぱる「……」
ダンススタジオのようなところに、ぱるは数人の少女達と一緒に集められていた。
音楽が鳴る。
ぱる「……」
タノ「ほら、みんなの真似して踊って」
ぱる「……」
わからないので、とりあえず立っておく。
暑いので窓を開けていたら、タノに怒られた。
タノ「馬鹿!早く窓締めて」
ぱる「……」ビクッ!!
タノ「湯屋の周りには神々の他に、邪悪な者が潜んでいるんだよ。そいつは隙を見て湯屋の中に忍び込もうとしてくる」
ぱる「……」
タノ「だけど自分の力では入口に触れることすら出来ない。つまり窓や扉を長時間開けっ放しにしておかなければ、邪悪な者の侵入を防げるんだ」
ぱる「……」
タノ「よく覚えておいてね。この湯屋のルールだから。もし邪悪な者を中へ導いてしまったら、きっと家畜に姿を変えられるだけじゃ済まないからね」
ぱる「……」
タノ「さあ、わかったら早くみんなみたいに踊って」
ぱる「……」
ぱる「……」
ぱる「……」zzz…
ぱるは立ち尽くした。
タノ「こうするんだよ」
音楽が鳴り止むと、タノがダンスを手とり足取り教えてくれようとした。
ぱる「……」
タノ「これが基本ステップで…」
ぱる「……」
タノ「聞いてる?ぱるも同じことやるんだよ」
ぱる「…ダンス、うまいですね」
タノ「あ、ありがとう…」
ぱる「……」
タノ「でもユウさんには負けるよ」
ぱる「ユウさん?」
タノ「ほらあそこ…」
タノの指し示した方向に、小柄な女性がいた。
鏡に向かい、キレのあるダンスを踊っている。
ユウ「新入り?よろしくね」
こちらの視線に気づき、ユウが歩み寄ってきた。
タノ「ユウさんは今夜のステージでセンターなんだ。ステージに関することはユウさんにまず話を通す約束になってる」
ぱる「……」
ユウ「いきなりで大変だろうけど、みんな最初はそうだったんだから、しっかり頑張りなね」
ぱる「……」
ユウ「……?」
ぱる「……」
ユウ「…???」
ぱる「……」
タノ「あ、ユウさんすみません、この子無口なんです」
ユウ「……」
玄関前――。
タノ「いよいよ開店。今日もたくさん予約が入ってるよ」
ぱる「……」
タノ「開店の時は最初に来たお客様を、従業員が握手をして出迎えるんだよ」
ぱる「……」
タノ「今見えてるのが鬼神様。ここの上客だよ。失礼がないようにね」
ぱる「……」
タノ「見なよ、あそこでスタンバイしているのがミユさん、その隣が彩さん、2人とも神対応で有名なんだ。頑張ればあの2人みたいに神対応手当がつくよ」
ぱる「……」
タノ「……」
ぱる「……」
ぱる「あの、朝ごはんはまだですか?」
タノ「開店したら合間を見てみんな交代で食べるんだよ」
ぱる「……」
ミユ「いらっしゃいませー、あ、髪切ったんですか?」
鬼神「あ、わかる?」
ミユ「わかりますよー」
彩「いらっしゃいませー」
鬼神「彩ちゃん今日も可愛いね」
彩「ありがとうございますー」
ぱる「……」
――すごいなぁ、よくあんな気持ち悪い神様と笑顔で握手なんか出来るなぁ…。
感心していると、ついにぱるの番がきた。
ぱる「……」
鬼神「あ、君新人さん?頑張ってねー」
ぱる「……」
鬼神「…あの、手…」
ぱる「……」
鬼神「君、どっか具合でも悪いの?」
ぱる「……」
タノ「す、すみません、この子握手初めてなんです」
鬼神「お、おぉん…」
鬼神は困惑顔で、次のユウのところへ行ってしまった。
タノ「何で手握らないの?」
ぱる「だって気持ち悪いんだもん」
タノ「お客様なんだよ?」
ぱる「だって手にいっぱい毛が生えてたんだもん」
タノ「……」
大広間――。
タノ「さ、掃除掃除」
ぱる「……」
タノ「まずは床磨きだよ」
ぱる「……」
タノ「見てみなよ。みんなみたいに力を入れて、しっかり床の汚れを落とすんだよ」
ぱる「……」
自分と同じユニフォームを着た少女達が、一斉に床を磨いていた。
一列に並んで、リズミカルに広間を往復している。
ぱる「……」
ユウ「あ、ぱる!頑張って!あたしの隣に来なよ」
ぱる「……」
タノ「すみませんユウさん、じゃあぱるのことよろしくお願いします」
タノは窓拭きに行ってしまった。
ユウ「床がきれいになると、すごく気持ちがいいんだよ」
ぱる「……」
ユウ「さ、雑巾用意して。行くよ…」
ぱる「……」
数秒で、ぱるはみんなの列から遅れた。
だけど他にも遅れ気味の少女がいたので、ぱるはあまり気にしないことにした。
ぱる「……」
結局ろくに掃除も出来ぬまま、広間を出る。
タノ「どうだった?床掃除」
ぱる「……」
タノ「ローテーションだから明日は窓ふき担当になれるよ」
ぱる「……」
タノ「雑巾ゆすいできちゃいなよ」
ぱる「……」
タノ「……」
ぱる「……」
ぱる「あの、朝ごはんはまだですか?」
タノ「え?もうみんな食べちゃったけど」
ぱる「……」
午後――。
午前の働きを見て、ぱるは早々と見切りをつけられた。
ダンスは駄目、愛想も悪く、客に対して素っ気ない。
さらに体力もなく、掃除や配膳など言われたことがまともに出来ない。
タノ「蛙達の前で居眠りしたのも原因してるのかもね…」
そこで与えられた仕事が、誰もやりたがる者のいない、風呂の掃除だった。
タノ「風呂釜汚いなぁ…」
ぱるの教育係であるタノも巻き添えを食う形で、風呂掃除に降格させられてしまった。
ぱる「……」
タノ「まあくよくよしてても仕方ない。早く掃除しちゃおう。夕方からもお客様が来るよ」
ぱる「……」
ぱる「……」
ぱる「…ごめんなさい」
タノ「え?」
ぱる「わたしのせいでタノさんまで…」
タノ「ああ、いいよいいよ、あたしは夜からお客様の前でステージだから。あたしは踊ることが出来れば、後はもうどうだっていいんだ」
ぱる「ダンス好きなんですね」
タノ「うん、いつかお金を貯めて、ダンサーになるための学校に行くんだ。そうしたらこんなとこ、さっさと出て行ってやる」
ぱる「……」
それからタノは、風呂掃除の仕方をぱるに教えた。
タノ「この栓を引くとお湯が出る。この様子だと普通の湯じゃ汚れ落ちないな…。ぱる、番台に行って、札貰って来て」
ぱる「はーい」
タノ「薬湯の札だよ!間違えないでね!」
ぱる「……」テクテク
ぱる「すみません、薬湯の札ください」
番台蛙「なんでおまえにそんな高価な湯を与えないといけないんだ!汚れが落ちないなら手で擦りなさい」
ぱる「……」
番台蛙「そんな困った顔してみせても、駄目なものは駄目!」
ぱる「……」
ぱる「……」
ぱる「……」テクテク
ぱる「……」
タノ「あ、どうだった?ちゃんと札貰えた?」
ぱる「駄目だった」
タノ「蛙め、ほんとケチなんだから」
それからぱるとタノは手分けして、風呂釜を磨いた。
気がつくと、だいぶ時間が経っている。
タノ「まずいなぁ…、ステージの時間に間に合わないかも」
ぱる「……」
ステージ裏――。
タノ「え?ステージが…終わった…?」
ようやく風呂掃除を終えて駆けつけると、ユウが申し訳なさそうにステージの終わりを告げた。
ユウ「お客様がだいぶ出来上がってきちゃってたから、いつもより早めに開始したんだよ」
タノ「そんな…じゃああたしのパートは…」
ユウ「代わりにミユと彩がやってくれたよ」
タノ「……」
ユウ「あの2人客受けいいし、あたしもぼやぼやしてたら彩にセンター譲ることになりそうだよ」
ユウはけろりとした顔で冗談を言った。
タノ「そう…ですか…」
ぱる「……」
ユウ「じゃあ行くね。お疲れー」
タノ「お疲れさまです…」
ぱる「……」
タノ「……」
ぱる「……」
タノ「……」
ぱる「…タノさん…」
タノ「……」
ぱる「…ごめんなさい…」
それからぱるとタノは気まずい関係となり、必要最低限の会話しかしなくなった。
鬼神「あ、ぱるちゃん」
天狗「へえ、君がぱるちゃん?鬼神に冷たくしたっていう…」
山神「すごい度胸だな」
ぱる「……」
そしてぱるはいつしか、塩対応で湯屋のちょっとした名物となっていた。
今ではぱる目当てで訪れる客も少なくない。
猫様「ぱるー?清澄の間のお客様がぱるを指名してるよ。これ運んで」
ぱる「何ですか?」
猫様「豚の角煮だよ」
ぱる「豚…」
なぜかとても嫌な気持ちになった。
猫様「それからタノはお手洗いを掃除してきて」
タノ「え?あたしがですか?」
猫様「だって宴会のステージメンバーから外されたって聞いたけど」
タノ「あ、はい、掃除ですね、行ってきます」
猫様「お願いねー」
タノはあの一件をきっかけに、ステージを下ろされていた。
タノの代わりに役目を得たのはミユと彩で、タノはすっかり居場所をなくしている。
大好きだったダンスも、踊っていない。
37 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 18:47:11.91 ID:qlSFCm6N0
清澄の間――。
ぱる「……」
天狗「やあやあ、ぱるちゃんのお出ましだ」
ぱる「……」
水神「可愛いなぁ」
ぱる「……」
彩「さささ、水神様ー?もう一杯どうぞ」
清澄の間の客はすでに出来上がっており、彩とミユがお酌をしていた。
ぱる「……」
ミユ「あ、角煮?そこに置いて」
ぱる「……」
水神「ぱるちゃんもお酌しておくれよ」
ぱる「……」
水神「……」
ぱる「……」
水神「あはは、相変わらずつれないなぁ」
天狗「そこが可愛いんだよ」
彩「お酌ならあたし達がいるじゃないですかー」
ミユ「天狗様ー?次はわたしとカラオケでデュエットしようって言ってたじゃないですかー?」
ぱる「……」
ぱる「……」テクテク
水神「あ、ぱるちゃんもう行っちゃうの?」
天狗「もう少しここに居てよ」
ぱる「……」
彩「あの子は配膳しに来ただけですよ」
水神「残念だなあ」
ぱる「……」テクテク
ぱる「……」
彩「ちょっと待ちなよ」
廊下を歩いていると、彩とミユが後ろから追いかけてきた。
ぱる「?」
彩「さっきの態度、何?」
ぱる「……」
彩「お客様に対して、あれは失礼でしょ?」
ぱる「……」
彩「塩対応だかなんだか知らないけど、そんなのただ珍しがられてるだけじゃない!ちやほやされるのも今だけよ!」
ミユ「彩姉さん、この子にそんなこと言っても無駄だよ…行こうよ…」
彩「ミユはそれでいいの?ミユがここまでの仕事を掴むまで一生懸命努力してたの、あたし見てたんだよ。だからこの子の態度が我慢ならないんだよ」
ぱる「……」
彩「わかる?みんな頑張ってるの!嫌なことも我慢して、必死に笑顔作って、努力してるの!」
ぱる「……」
彩「あんたの態度は、そういうみんなの気持ちを踏みにじってるってこと、わかってよね。いくら努力しても報われない子だっているんだから」
ぱる「……」
彩「行こう、ミユ」
ミユ「う、うん…」
ぱる「……」
その夜――。
ぱる「……」
ぱるは布団の中で声を押し殺し、泣いていた。
彩の言葉が心に痛かった。
――どうしていつもそう思われちゃうんだろう…。
別に好きで素っ気ない態度を取っているわけではない。
もちろん客の気を引くための作戦でもない。
それなのに、周囲からは楽して人気を得ていると思われてしまう。
ぱる「……」
隣で眠るタノを見つめた。
ぱる「……」
タノにもたくさん迷惑をかけてしまった。
今更、相談なんて出来ない。
ぱる「……」
ぱる「……」
ぱる「……!!」
いつの間にか、枕元にマユが立っていた。
マユ「おいで…」
ぱる「……」
マユに従い、布団を抜け出す。
マユ「島田に会わせてあげるよ」
ぱる「島田?」
2人は豚舎に向かった。
マユ「あれが島田」
マユが一頭の豚を指し示す。
ぱる「島田…島田…あ、わたし、島田のこと忘れてた」
マユ「名前を奪われたからだよ。元の世界にいた時の記憶が薄れていってるんだ」
ぱる「動かない…島田病気かな?」
マユ「お腹がいっぱいで眠っているだけだよ」
ぱる「島田、あんまり食べ過ぎると角煮にされちゃうんだからねー」
それから豚舎を出て、ツツジの下に座った。
マユ「これをお食べ」
ぱる「……」
マユ「お菓子だよ。元気がでるまじないをかけておいた」
ぱる「……」
ぱる「……」モグモグ
マユ「おいしい?」
ぱる「……」コクコク
お菓子を食べると、またしても涙が溢れた。
ぱる「何をやってもうまくいかないの…みんなわたしのことが嫌いなの…わたしが、わたしが塩対応だから…」
マユ「うん」
ぱる「タノさんにもたくさん迷惑かけちゃった…」
マユ「うん」
ぱる「わたし、わたし…」
マユ「……」
それからマユの隣で、ぱるは泣き続けた。
いつしか夜が明けていた。
マユ「そろそろみんな目覚める時間だ」
ぱる「……」
マユ「大丈夫、気をしっかり持つんだよ、遥香」
ぱる「遥香…?」
マユ「あなたの名前。島崎遥香」
ぱる「あ、それも忘れてた…。自分はすっかりぱるだと思い込んでいたよ」
マユ「私が覚えているから、不安になったらいつでも教えてあげる。完全に名前を忘れてしまうと、元の世界に戻れなくなってしまうからね」
ぱる「マユさん、また会える?」
マユ「もちろん」
ぱる「いつもどこに居るの?」
マユ「私には私の仕事があるんだよ。でも平気、ちゃんと遥香のことは考えているから」
ぱる「マユさんはどうしてわたしの本当の名前を知ってるの?わたし達、前にどこかで会ったことある?」
マユ「ある…と思う。私も猫様に名前を奪われているから、記憶がないだけで」
ぱる「……」
面白い?
宴会場――。
タノ「衣装ケースはそこに置いて」
ぱる「……」
今はステージの真っ最中。
ぱるとタノは裏方に徹している。
タノ「……」
タノの顔はとても寂しそうだった。
本当はステージで踊りたいのだろう。
ぱる「……」
タノ「それからマイクスタンドを袖に準備して…」
ぱる「……」
タノ「その後に…あ!ぱる!そっちじゃないよ!」
ぱる「……!!」
ぱるはなぜかステージ裏から、ステージの真ん中に出てきてしまった。
タノ「ぱる!引っ込んで!」
ぱる「……」
足がすくんで、動けない。
彩「なんであの子出て来てるの…」ヒソッ
ミユ「本番中なのに…」ヒソッ
ユウ「ぱる…」
45 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 19:18:06.81 ID:qlSFCm6N0
鬼神「いいぞー!ぱるちゃん、なんか1曲やってくれよー」
彩「すみませんこの子、ステージに関しては素人で…」
山神「なんだよぱるちゃん出ないのかよ…」
ミユ「すみませんすみません…」
天狗「ぱーるちゃん!ぱーるちゃん!ぱーるちゃん!」
宴会場はぱるちゃんコールでいっぱいになった。
ぱる「……」
ぱる「……」
ぱる「……」タタッ…
ぱるは壁際の電話機に飛び付く。
タノ「ぱる!何するの!」
ぱる「もしもし高橋さんですか?ステージに曲をかけてほしいんです」
放送室にあるレコード。
その中に、ぱるの知っている曲が含まれていたのを覚えている。
ぱる「Aの8番のレコード…かけてください!」
彩「ちょっとあんな何勝手なことしてんの?」グイッ
ユウ「待ちな彩!聞こえない?このぱるちゃんコール…」
彩「……」
ユウ「今お客様が求めているのはあたし達のステージじゃない…ぱるなんだよ!」
彩「……」
曲が掛かった。
ぱるはタノに歩み寄る。
ぱる「タノさん、お願いします!わたしと一緒に踊ってください!」
タノ「……」
ぱる「知ってますよね?この曲…練習してましたよね?」
タノ「でも…この曲はトリオだし…」
ぱる「……」
彩「言っとくけど、あたし達は手伝わないからね!ねえミユ?」
ミユ「う、うん…」
タノ「……」
ぱる「……」
ユウ「あたしがやる!これで3人…さあタノ、曲はもう始まってるよ」
タノ「ユウさん…」
ぱる「タノさん早くステージへ」
それから3人はステージで舞い踊った。
ダイナミックなダンスをするユウ。
ぽんこつだけど味のあるダンスをするぱる。
その2人に挟まれ、センターを務めるタノは、圧巻のパフォーマンスを見せた。
いつしかコールはぱるからタノの名前へと変わっている。
タノ「ありがとうございましたー!」
ぱる「……」ペコリ
曲が終わった。
ステージ袖へ引っ込む。
もう彩とミユはいなくなっていた。
タノ「ぱる」
ぱる「……」ビクッ
タノ「…あ、ありがとう…」
ぱる「……」
タノ「あたし今まで口には出さなかったけど、ずっと心の中でぱるのこと責めてた」
ぱる「……」
タノ「だけど今わかった。あれはただのきっかけだった。悪いのは、ステージを下ろされて諦めて、ずっといじけてたあたしなんだよね」
ぱる「……」
タノ「ありがとう、背中を押してくれて」
ぱる「……」
タノ「ぱるのお陰で一歩踏み出せたよ」
ぱる「…タノさん…」
ユウ「ねえ彩とミユいないから、最後の曲も一緒にやってくれない?」
ぱる「……」
ぱるは無言でタノを見た。
タノ「はいユウさん、もちろんですよ」
翌日――。
猫様「今日はうんと気前のいいお客様が来る日だよ」
猫様は朝からはしゃいでいた。
ぱる「はい!」
猫様「あれ?随分気持ちのいい返事するようになったね、ぱる」
ぱる「はい!」
タノ「ぱる、今声裏返ったよ」
ぱる「……」
ユウ「ぱるはそうやって笑ってたほうが可愛いよ」
湯女「あら本当、顔が優しくなるわ」
湯女2「猫様?この子、こう見えて結構度胸あるんですよ。聞きました?昨日のステージ…」
猫様「誰かの穴を、ぱるとタノが埋めてくれたんだっけー?昨日のステージ、アンケートの評価高かったんだよね」
湯女3「今後はユウと3人、トリプルセンターになるのかしらねぇ〜」チラッ
湯女2「楽しみよねぇ〜忙しくなるわぁ〜」チラッ
彩「……」
ミユ「……」
猫様「あ、そうだ!だからー、今日は大掃除ね」
ぱる「はい!」
猫様「客室は蛙達がもうやってくれてるからぁ…」
タノ「蛙め、一番楽な仕事を先取りして…」
猫様「ぱるとタノは玄関掃除、ユウは悪いけどステージの準備しちゃって」
ユウ「わかりました」
猫様「彩とミユは…えーっと、そこの子!名前なんだっけ?」
猫様が従業員達の背後を見る。
そこにいた少女が答えた。
リナ「リナです…」
猫様「うん、リナ。3人は障子の張り替えをお願いねー」
彩「リナ、またグズグズしないでよ」
ミユ「れ、連帯責任になっちゃうから…」
リナ「はい、すみません…」
ぱる「……」
ぱるは思い出した。
リナが自分と一緒に、いつも雑巾がけの列から遅れてしまっていたこと。
配膳の時、何度も皿を割ってしまっていたこと。
――なんかあの子、親近感沸くなぁ…。
ぱるはぽんこつ同士、リナに対して勝手に仲間意識を抱いていた。
清掃時間――。
タノ「ぱるー?バケツの水替えてきて」
ぱる「はーい」
ぱる「……」テクテク
ぱる「……」
リナ「……」
廊下に出ると、リナの姿を見つけた。
リナ「はぁ…」
ぱる「どうしたの?」
リナ「あ、ぱるさん…」
ぱる「……」
リナ「まだ一枚も障子の張り替えが出来てないんです」
ぱる「……」
リナ「あたしひとりでどうしたらいいのか…」
ぱる「彩とミユは?」
リナ「どっか行っちゃいました」
ぱる「玄関もうすぐ終わるから、手伝うよ」
リナ「ほんとですか?あ、でも…」
ぱる「?」
リナ「糊がないんですよ。彩さんとミユさんが持って行っちゃって…だから張り替えられないです」
ぱる「……」
ぱる「……」
ぱる「……」テクテク
リナ「あ、ちょっとぱるさん?」
ぱる「……」テクテク
リナ「…行っちゃった…」シュン
ぱるはリナを置き去りにしてユウの元へ行った。
ステージ裏に目当ての物があることを知っていた。
事情を話してそれを借りると、リナの元へ戻る。
ぱる「……」
リナ「あ、ぱるさん…」
ぱる「……」スッ
リナ「え?え?」
ぱる「…セロハンテープ…」
リナ「これで障子貼るんですか?」
ぱる「セロハンテープ便利なんだよー。何にでも使えるよー」
リナ「は、はぁ…」
その後、湯屋中の障子をセロハンテープだらけにしたぱるは、猫様にこっぴどく叱られることになる――。
一方その頃、裏庭では――。
彩「このままぱるの評価が上がり続ける前に、なんとかしないと…」
ミユ「わたし達、どんどんぱるに仕事を取られちゃう…居場所がないよ」
彩「みんなぱるが本当はどんな子かわかってないんだよ。だからそれをわからせてやればいい。そうすれば後はあたし達が何もしなくても、ぱるは勝手に潰れる…」
ミユ「彩姉さん、何か考えがあるの?」
彩「臭うだよ。少し前からどんどん臭いが強くなってる」
ミユ「臭い?」
彩「邪悪な者の臭い…。仕事をもたず、神々にもなれず、存在を消された者…」
ミユ「まさかそれって…」
彩「うん、名無しだよ」
ミユ「この湯屋に名無しが入り込んでるってこと?」
彩「館内にはまだ入って来ていないけど、近くにいることは確かだよ」
ミユ「でも、わたし達には名無しの姿を見ることが出来ないはずだよ」
彩「だから臭いで判断すればいい。名無しは自ら湯屋の扉を開けることが出来ない。名無しを湯屋の中に入れるには、誰かが扉を開けてやらなければならない」
ミユ「ぱるに…扉を開けさせる…」
彩「そう。そして名無しを湯屋へ引き入れてしまったぱるは、みんなから糾弾される…」
ミユ「ぱるはもうこの湯屋に置いてもらえなくなるかもね」
彩「行こう、ミユ。名無しが今どの辺りに潜んでいるか、臭いを辿るんだ」
ミユ「うん」
夕方――。
タノ「雨が降りそうだね」
ぱる「……」
タノ「はい、先に夕飯貰ってきてあげたよ。ぱる、どうせ食べるタイミング逃しちゃうでしょ?今のうちに食べておきなよ」
ぱる「……」
タノ「ここ置いておくよ。食器はちゃんと自分で下げるんだよ」
ぱる「…ありがとう」
タノ「じゃああたし、ちょっとユウさんの手伝いしてくる。夜のステージ、頑張ろうね」
ぱる「……」
タノが行ってしまったので、ぱるはひとり黙々と丼を食べた。
彩「あれ?ぱるちゃんじゃない?」
ミユ「ひとりでごはん?」
ぱる「……」モグモグ
彩とミユが現れる。
彩「今日もステージでしょ?頑張ってね」
ミユ「期待してるから」
ぱる「……」モグモグ
彩「じゃああたし達行くね」
ミユ「また後でね」
ぱる「……」モグモグ
彩「あ、そうそう、ぱる…」
ぱる「?」モグモグ…ゴクン
彩「猫様が館内に風を通すように言ってたんだった。そこの引き戸、開けたままにしておいてくれる?」
ぱる「……」モグモグ
ミユ「あ、あの…」
ぱる「……」モグモグ
彩「食べるのは後でいいから」
ぱる「……」テクテク…ガララッ
彩「うん、それでいい」
ミユ「ご、ごめんね食事の邪魔しちゃって」
ぱる「うん」
翌日――。
タノ「また風呂掃除かぁ…」
デッキブラシを持ったタノが言った。
ぱる「……」
タノ「ぱる、ホース持ってきて」
ぱる「……」
タノ「?」
ぱる「……」
タノ「どうしたの?早くしてよ」
ぱる「……」
タノ「?」
ぱる「あの、お昼ごはんはまだですか?」
タノ「ひと段落したら貰って来てあげるから」
ぱる「……」テクテク
ぱる「……」スッ…
ぱる「…ホース…」
タノ「あ、ありがとう。じゃあ始めようか」
ぱる「……」ゴシゴシ
タノ「……」ゴシゴシ
ぱる「……」zzz…
タノ「……」ゴシゴシ
ぱる「……」ゴシゴシ
タノ「駄目だ、全然汚れ落ちない。ぱる、また薬湯の札貰って来て」
ぱる「……」
ぱる「……」テクテク
ぱる「すみません、薬湯の札ください」
番台蛙「またおまえか…帰りなさい!」
ぱる「……」
番台蛙「札はあげないよ」
ぱる「……」
番台「だから困った顔しても駄目なものは駄目!」
ぱる「……!!」
番台蛙「?」
ぱる「…グズグズくん…」
番台の傍らに、グズグズくんが立っていた。
番台蛙「こら、お客様に対して何て口の聞き方してるんだ!あ、すみませんねぇ〜えーっと、グズグズ様…でよろしいですか?こいつはまだ教育中でして、ご無礼をお許しください」
グズグズ「……」スッ…
番台蛙「あ、お客様いけません!その札はこのような者に渡せる札じゃないんですよ!」
グズグズ「……」グイッグイッ
ぱる「あ、札くれるの?」
グズグズ「……」コクン
ぱる「ありがとーグズグズくん」タタタッ
番台蛙「あ、こらぱる待ちなさい!札を返しなさい!」
グズグズ「……」
一方その頃、玄関前では――。
猫様「キャー!!入ってこないでくださーい、やだー」
湯女「お戻りください!お戻りください!」
猫様「く、臭い…」
腐神「……」ズッ、ズズズ…
猫様「ちょっと誰か来てー!」
彩「それならぱるを呼んだらいいんじゃないですか?」クスクスッ
ミユ「そ、そうですよ。ぱるに接客させましょうよ」クスクスッ
猫様「え?そうなの?わかった、誰かぱるをここに…今すぐ!」
湯女2「連れて参りました」
ぱる「……」テクテク
猫様「ぱる、お客様だよ」
腐神「……」ズッ、ズズズ…
ぱる「……!!」
彩「ぱる、早くお客様を湯に案内してさしあげないと」
ぱる「……」
ミユ「頑張って!ぱる…」
ぱる「……」
腐神「……」ズズズ…
ぱる「……」テクテク
腐神「……」ズズズ…
ぱる「……」テクテク
ぱる「……ん」
腐神「……」ザパーン…
ぱる「……」
風呂に入る腐神と、それをただ突っ立って眺めるぱる。
彩とミユは高みからその様子を眺め、ほくそ笑んでいた。
彩「あーあ、どんどんお湯が濁っていくよ」
ミユ「今まで見た中で一番ひどい腐神だもんね。たぶん汚れ落ちないんじゃないかな?」
彩「ぱるがどう動くか、見物だね」
ミユ「…動かないと思うけど」
彩「あ!動いた!」
洗い場は腐神から溢れるへどろでいっぱいに満たされていた。
その中を、ぱるが壁づたいに歩き始める。
ぱる「……」
ぱる「……」カチャリ
ぱるはグズグズから貰った薬湯の札をセットした。
お湯が流れ始める。
彩「なんであの子、薬湯の札持ってるの?」
ミユ「さ、さあ…蛙、随分気前いいことしたね」
彩「信じられない…」
ぱる「……」
腐神「……」チャプチャプ
ミユ「腐神が…ちゃぷちゃぷしてる…」
ぱる「……」
タノ「ぱるー!!」
ぱる「あ、タノさん」
タノ「何だこれ?人が食事取りに行ってる間に…。何があった?」
ぱる「お風呂入れてるの。でも…」
ぱる「……!!」スッテンコロリン
タノ「ぱるー!!」
ぱるは湯の勢いに負け、腐神のほうへと流されていく。
彩「いい気味よ」
ミユ「やだ、汚い…」
ぱる「……」ブクブク…
タノ「ぱる大丈夫ー?返事してー!!」
ぱる「……」ブクブクブク…
ぱる「……!!」ハッ
腐神の体に、何かが刺さっているのを見つけた。
タノ「大丈夫?」
そこにタノが駆けつける。
ぱる「何か刺さってる…」
タノ「えぇ?」
ぱる「…よいしょっと…」
ぱるは気まぐれに、それを引っ張ってみた。
ぱる「取れた」
案外すぐ抜けた。
するとそれをきっかけに、腐神の体から次々と不法投棄物らしきゴミが出てくる。
全部出し切ると、腐神の体は嘘のように小さく縮んでいた。
ぱる「……」
腐神「……」スッ…
ぱる「?」
腐神「良きかな」
ぱる「???」
腐神は天高く舞い上がり、湯屋を去っていった。
残されたゴミの中には、きらりと光る物。
青蛙「むむ!砂金だぞ!砂金が出たぞ!」
事態を見物していた従業員達が、蛙の一言をきっかけに一気に群がってきた。
みんな目の色を変えて、ゴミの中から砂金を探し始める。
ぱる「……」
ぱる「…気持ち悪い…」
ぱるはじっと掌の中の物を見つめていた。
腐神が去り際にくれた、草団子。
ぱる「でも、うれしい…」
ぱるは湯屋に来て初めて、自分が誰かの役に立った気がしていた。
――働くのって疲れるし大変だけど、楽しいな…。
その夜、裏庭にて――。
リナ「そ、そんな出来ません!ぱるさんを罠にはめるなんて…」
彩「だけどあんただって本当は腹わた煮えくり返ってるんじゃないの?後から湯屋に来たぱるが、何の努力もなしにいきなり人気出ちゃってさ」
リナ「そんなことありません。ぱるさんは障子貼りを手伝ってくれた。すごく優しい人です!」
ミユ「だけど湯屋中をセロテープだらけにして、結局リナまで猫様に叱られることになったんじゃない」
リナ「そ、それはそうですけど…。でもぱるさんは、今日だって腐神様をひとりで接客したんですよ?努力してないとか、やる気がないとか、見た目がそういう勘違いされやすいだけで、実際はすごい人なんですよ」
彩「リナ…あんた全然自分のことわかってないね」
リナ「え?」
ミユ「ぱるなんかよりリナのほうが美人だし、頭もいいし、本気出したらこの湯屋一番のスターになれると思うんだよ」
リナ「そんな、見込み違いですよ」
彩「リナって湯屋で働き始めてからまだ一度もステージに立ったことないよね?」
リナ「あ、はい」
彩「勿体ないなぁ…リナがステージに立てばきっとお客様喜ぶのに。観客動員数更新しちゃうかもしれないのに」
リナ「え?え?」
ミユ「知らないの?リナ最近お客様の間で人気だったんだよ?」
彩「でもぱるが来たせいでリナ人気も落ち着いちゃったんだけどね」
リナ「……」
彩「今からでもステージに立てば、一時期の人気を取り戻せると思うんだけどなー」
ミユ「リナ、ステージ立ちなよ」
彩「あ、でも駄目だ。だってほら、今はぱるがステージにいるから。空きがないよ」
ミユ「そっかそっかー、じゃあぱるがいなくなればいいんだね」
彩「ぱるがいなくなれば、きっとぱるの代わりにステージに立つのはリナ…」
リナ「そ、そんな…」
ミユ「なんなら今度、ユウさんにリナのこと推薦しておいてあげようか?」
リナ「……」
彩「どうかな?リナ…」
リナ「……」
ミユ「リナ!!」
リナ「……」ビクッ
彩「ぱるをこの湯屋から追い出す。どう?出来る?リナ」
リナ「…どう…すればいいんですか?」
彩「……」ニヤッ
リナ「どうすれば?どうすればぱるさんをステージから下ろすことが出来るんですか?」
ミユ「実はもう、その下準備は出来てるんだ」
彩「後はリナがちょーっとだけ嘘をついてくれさえすれば、すべてうまくいく」
リナ「……」
63 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 19:38:35.35 ID:OnBCOWdfO
翌日――。
ぱる「……」
タノ「ぱるは今日非番かぁ…」
ぱる「……」
タノ「あたしは仕事行って来るよ。ぱる、暇だからってあんまり寝すぎちゃ駄目だからね」
ぱる「はーい」
ぱる「……」
ぱる「……」
ぱる「……」zzz…
正午を過ぎた。
ぱる「……」
ぱる「……」
ぱる「……!!」
窓の外で何か動くのを感じ、ぱるは目を開けた。
遠く空の彼方、一匹の龍が飛んでいる。
ぱる「……」
龍は白い鳥のような生き物に群がられ、とても飛びにくそうにしていた。
ぱるは何かを感じ取り、窓を開けてその龍を部屋に呼び寄せる。
龍が入ったところで、急いで窓を閉めた。
窓に当たり、白い鳥のような物がバラバラと海に落ちていく。
64 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 19:39:56.12 ID:OnBCOWdfO
龍「…ハァ…ハァ…」
ぱる「……」
龍はずっと攻撃されていたらしく、体から血を流していた。
ぱる「……」
ぱる「……」
ぱる「…マユ…さん?」
龍「…シュー…シュー…」
ぱる「…マユさんだよね?」
と、龍は部屋から飛び出して行ってしまった。
行き先を目で追うと、猫様の部屋へと入っていく。
――やっぱりさっきの龍、マユさんだ…。
ぱる「……」タタタッ
階段を下りると、タノに出くわした。
タノ「おっと、ぱる!聞いてよ、今さ、奥座敷が大変なことになってるんだ」
ぱる「……」
タノ「名無しが入り込んだんだよ。下に行ってみな。ほんとすごい臭いだよ」
ぱる「……」
タノ「ぱる?」
ぱる「名無し?」
タノ「前に言ったでしょ?邪悪な者だよ。今奥の座敷に閉じ込めてる」
ぱる「……」
65 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 19:41:27.62 ID:OnBCOWdfO
タノ「猫様は外出中だし、あたし達だけでどうにか出来るかどうか…」
ぱる「……」
ぱる「……」テクテク
タノ「あ、ぱる?」
ぱる「マユさんのところに行ってくる」
タノ「マユ様?」
ぱる「うん」
廊下はすごい騒ぎになっていた。
みんな鼻をつまみ、奥の座敷へ向かって声をかけている。
湯女「えー、名無し様?何がお気に召さないのでしょう?」
青蛙「何か目的があるのなら話せ!湯屋に何をしに来た?」
ぱるはそんなみんなを無視して、エレベーターに行こうとした。
名無し「…連れてきて…ぱるさんを…連れてきて…」
と、そこで名無しの声が聞こえた。
青蛙「何?ぱるだと?」
湯女2「えーえー、ぱるならほらここに居ますよ」
ぱる「……」
湯女3「ぱる、さっさとお行き。名無し様がお呼びだよ。うまくご機嫌を窺って、さっさとこの湯屋から出て行ってくれるよう仕向けるんだ。まったく、すごい臭いだよ」
ぱる「……」
湯女「ぱる、ぼさっとしてないで早く!」グイッ
ぱるは湯女達に腕を掴まれ、無理やり奥座敷に入れられてしまった。
名無し「……」
ぱる「……」
名無し「……」
ぱる「……グズグズくん…」
そこにはグズグズが居た。
ぱる「名無しって、グズグズくんのことだったんだ…」
名無し「違いますよ、ぱるさん!うちですうち!」
ぱる「?」
グズグズが頭部分を外す。
するとそこに現れたのは、可愛らしい少女の顔だった。
ぱる「…りっちゃん…」
グズグズの中身は川栄だった。
川栄「そうです川栄です」
ぱる「どうしたのー?」
川栄「どうしたもこうしたもないですよ。あ、うち猫様に名前取られなかったんですけどぉ…」
ぱる「うん」
川栄「働く時にみんなと一緒に書類にサインはしたんですよ」
ぱる「うん」
川栄「でもうち、慌てて書いたから自分の名前、漢字間違って書いちゃって」
ぱる「うん」
川栄「そしたらよりによって猫様に取られた文字が、その間違って書いた部分だったんですよ」
ぱる「うん」
川栄「だからうち、最初から名前を取られなかったってことになっちゃって」
ぱる「うん」
川栄「そうしたらみんなみたいに仕事は貰えないし、呼ばれる名前がないから名無しってことになって、みんなからうちの姿、見えなくなっちゃったんです」
ぱる「あ、でも臭いはわかるみたい」
川栄「足ですか?グズグズくんの着ぐるみ蒸れるから仕方ないっすよ。勘弁してください」
ぱる「りっちゃんグズグズくん好きだったの?」
68 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 19:46:37.96 ID:OnBCOWdfO
川栄「ていうか湯屋の中でこれしか着ぐるみ見つけられなかったんで。仕方なく着てたんですよ」
ぱる「うん」
川栄「着ぐるみ着てれば、みんなにはうちの姿見えるみたいで」
ぱる「うん」
川栄「あれ?そういえば何でぱるさんに会おうと思ったんだっけ?」
ぱる「なんでー?」
川栄「……」
ぱる「……」
川栄「…あはは」
ぱる「あ、どうせならお茶飲みながら話そうよー」
ぱるは奥座敷から顔だけ出すと、外に居る湯女にミルクティーを2つ注文した。
湯女「ミルクティーを飲んだら、名無し様はお帰りになるのかい?」
ぱる「わかんなーい」
ミルクティーが届くと、ぱると川栄は話を再開した。
ぱる「りっちゃん、みんなから邪悪な者って呼ばれてたんだよー」
川栄「マジっすか!」
69 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 19:48:06.64 ID:OnBCOWdfO
ぱる「あれー?でも邪悪な者は確かー、自分で湯屋の中に入って来られないはずだけど」
川栄「あ、そうなんですよー。うちかなり拒否られてましたもん。でも何日か前に偶然引き戸が開けっ放しになってるのを見つけて、で、入ってこれたんです」
ぱる「そうだったんだー。良かったねー」
川栄「はい、マジで助かりましたよ。それまでずっと野宿でしたから」
ぱる「うん」
川栄「そうそう、思い出した。野宿する場所探してたら、上から鞄が降って来たことあって…これなんですけど、これって、ぱるさんの鞄ですよね?」
ぱる「わぁー、拾ってくれてたんだ?」
川栄「海の中まで取りに泳ぎました」
ぱる「ありがとー。これ気に入ってたんだよね」
川栄「可愛いですよね、その鞄。どこで買ったんですか?」
ぱる「サマンサのだよ」
川栄「あ、板野さんのやつですね」
ぱる「板野…さん…?」
ぱるはそこで不思議そうな顔をした。
川栄「まさか板野さんのこと忘れたんじゃないですよね?」
ぱる「……」ビクッ
思い出した。
ぱるの手が震える。
ぱる「そうだよ、わたしは島崎遥香。板野さん…板野さんに…会いたいよ…」
川栄「てかぱるさん、何でそんなにすぐ記憶取り戻せるんですか?他のみんなは全然記憶なくなっちゃってて、性格も別人みたいになってるのに」
ぱる「さっきりっちゃんがわたしの本当の名前を読んでくれたし、それにわたしも、書類に間違ったサイン書いちゃってたんだよね。だからだと思う」
川栄「あ、そうだったんすか。奇遇っすね」
ぱる「フリガナ書けって言われて、面倒だったからぱるるって書いちゃった」
川栄「他のみんなは正直に自分の名前とフリガナ、書いちゃったみたいですね」
ぱる「あ、ねえ、さっきから言ってるみんなって誰のことー?」
川栄「え?ぱるさん気づいてないんですか?ここにはうちとぱるさん以外にも、メンバーが紛れ込んでるんですよ」
ぱる「そうだったんだー」
川栄「マユ様って呼ばれてる人もそうだし」
ぱる「……!!」
川栄「どうしたんすか?」
ぱる「忘れてた…わたし、マユさんのところに行かなくちゃ!」
ぱるは奥座敷を飛び出した。
71 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 19:53:10.99 ID:OnBCOWdfO
ユウ「ぱる!」
ぱる「?」
奥座敷の外では、ユウや他の従業員が待ち構えていた。
ユウ「どうだった?名無し様は出て行ってくれそう?」
ぱる「うーん、わかんない。帰ると思います」
ユウ「そっか、良かった、とにかくぱるが無事で。名無し様、すごい臭いだったでしょ?」
ぱる「うん、でも慣れてるから」
ユウ「?」
彩「でもさー、不思議だよね。普段からみんな気をつけてたのに、名無し様はどうやってここに入り込んだんだろう」
ミユ「誰かが手引きしたんじゃないのかなー?」
青蛙「何?臭う、臭うぞ!この中に反逆者がいるぞ!誰だ!」
湯女「まぁ…」
ぱる「……」
ユウ「……」
リナ「……」
彩「…リナ?」コソッ
リナ「……」ブルブル、ガタガタ
ミユ「リナ、約束したよね?」コソッ
リナ「…あ、あのぉ…」
青蛙「何だ?申してみろ!」
72 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 19:54:24.60 ID:OnBCOWdfO
リナ「あのぉ、わたし、見ちゃったんです…。ぱるさんが…そのぉ…、名無し様のために引き戸を開けっ放しにしていたところ…」
ぱる「……」
湯女2「何だって?本当かいぱる」
ぱる「……」
ユウ「ぱる…」
ぱる「……あ…!」
青蛙「思い当たることがあるんだな?ぱる」
ぱる「……」
ユウ「ぱる、違うなら違うって言わないと…」
ぱる「引き戸…開けたかもしれない…」
ユウ「えぇ?」
彩「……」ニヤリ
リナ「……」ビクビク
ぱる「だって彩とミユが開けておけって言うから…」
ユウ「彩!ミユ!」
彩「ちょっと嘘つかないでよ、あたしそんなこと言ってないし」
ミユ「う、うんそうだよ。ぱるはわたし達に罪をなすりつけようとしているんだよ」
ぱる「……」
タノ「ちょっと待って!」
そこで、これまで姿の見えなかったタノが、ぱるの前に飛び出して来た。
73 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 20:20:55.08 ID:R+xR3uR10
C
74 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 20:22:47.06 ID:qlSFCm6N0
ぱる「……」
タノ「ぱるは嘘なんかつく子じゃないよ!」
彩「…っ、おまえにぱるの何がわかるんだよ!?こいつはな、出来ないふりして誰かが代わりにやってくれるのを待つ、甘ったれでしたたかな女なんだ!タノ、おまえはぱるに騙されてるんだよ!」
タノ「そんなの信じない」
ミユ「信じたくないだけじゃなくて?」
タノ「ぱるは…この子は…本当にいい子なんだ!」
彩「じゃあ聞くけど、タノは今までにぱるの本音を聞いたことある?本心でぶつかられたことある?ぱるが本当は腹の底で何を考えているのか、タノには理解出来てるって言えるの?」
タノ「……」
ぱる「……」
タノ「ぱるは…ぱるは…」
ぱる「……」
タノ「ぱるは…ぱるは別に何も考えてなんかないんだよ!」
ぱる「……」
彩「……」
ミユ「…え?」
タノ「ぱるは何も考えず、ただありのままの自分でいるだけだ!だから塩対応なんだよ!誰かに媚びたり、機嫌を窺うような真似をしない」
ぱる「……」
タノ「だからぱるは滅多に笑わない!作り笑顔をするくらいなら、無表情でいることを選ぶ!」
ぱる「……」
タノ「同僚としては、ぱるは馬鹿だなって思うよ。もっとうまく立ち回ればいいのにって、見ててイライラすることもあるよ。だけど…」
ぱる「……」
タノ「だけど友達として見たら、こんなに信頼出来る子はいないよ!嘘をつかない、妙なお世辞も言わないぱるだからこそ、あたしはぱるを信じられるんだ」
ぱる「……」
タノ「ぱるはやる気ないように見えるけど、裏では布団を被って泣いていたこともあった。あたしのために立ちたくもないステージに出た。このぱるが、自ら動いてあたしに踊る場所をセッティングしてくれた」
ぱる「……」
タノ「そういう優しい一面を見ようともせずにぱるを責めることを、あたしは許さない。笑わなくたって無口だって、ぱるがこのままでいつづける限り、あたしは全力で彼女を信頼し、そして守るよ!」
彩「……」
ミユ「……」
ぱる「…タノさん…」
リナ「ご、ごめんなさい…」
ぱる「……」
タノ「え?リナ?」
リナ「ごめんなさい、わたし嘘つきました」
ぱる「……」
ユウ「リナ?どういうこと?」
彩「リナ!裏切ったら承知しないよ!」
リナ「……」ビクッ
ユウ「彩!黙りなさい!」
彩「……ぐっ」
ユウ「リナ?どういうことなの?」
リナ「彩さんとミユさんに、ぱるさんが名無し様を手引きしたって嘘をつけば、ステージに立たせてやるって言われて…それで…わたし…」
ぱる「……」
リナ「ぱるさんごめんなさい」
ぱる「……」
リナ「ぱるさんを騙して、引き戸を開けさせたのは彩さんとミユさんなんです…ごめんなさい…」
タノ「リナ…これで涙拭きなよ」
リナ「……」グスンッ
ユウ「彩…ミユ…」
彩「も、元はといえば全部ぱるが悪いんだ!ぱるがあたし達の居場所を奪うから!」
ユウ「……」
ミユ「せっかくタノがステージを下りて、やっとわたし達の出番が回ってきたのに…ぱるがそのタノをまたステージに戻してしまった。それどころか自分までステージに立つようになった」
ユウ「それで現実から逃げて、途中でステージを放り出したのは2人でしょ?タノとぱるはあんた達の穴埋めをしてくれた。だからあたしはタノとぱるを評価した」
彩「だってあれ以上あの場にいたら、あたし達…すっごく惨めじゃないですか…」
ミユ「そうよそうよ」
ユウ「そうやって格好ばっかり気にするところが良くないんだよ。あんた達がステージから下ろされたのは、あんた達自身の原因だよ」
彩「そ、そんな…」
ミユ「……」
ユウ「だけど認めたくないから、あんた達はうまくいかないことをすべてぱるのせいにした。ぱるを恨むことで、自分を正当化しようとしていたんだ!」
彩「……」
ユウ「出迎えの握手だってそうだよ。ぱるの塩対応が物珍しくてお客様が群がった時、あんた達は何をしてた?」
ミユ「……」
ユウ「ぱるのペースに巻き込まれ、自分というものを見失った。普段から努力して自分の対応に自信を持っていたら、平常心でいられたはずだよね?自分を見失ったのは、それだけ努力をしていなかった証拠」
彩「ユウさん…あたし、あたしは…」
ユウ「あんた達は神対応と呼ばれる立場に甘んじ、いつしか傲慢になっていたんだ!」
ミユ「……」
ユウ「それについて目を覚まさせてくれたぱるに感謝はすれど、恨む権利なんかどこにもないよ!」
彩「……」
ミユ「……」
ぱる「……」
ユウ「知ってるよ。ずっと見てたよ。昔の彩とミユは今みたいな子じゃなかったよね?昔はもっと、向上心の塊みたいだった。あの頃の気持ちを、思い出してよ…」
彩「ユ、ユウさぁぁぁぁぁん!」
ミユ「ごべんなざぁぁぁぁい…」
ユウ「よしよし、これから頑張ろうね」
ぱる「……」
ぱる「…ふぅ…」
ぱる「……」テクテク
タノ「あ、ぱる?どこ行くのー?おーい!」
ぱる「……」テクテク
猫様の部屋――。
ぱる「……」ギィ、キョロキョロ
猫様の部屋まで歩いて来た。
室内に猫様はいなかったが、傷ついた龍はいた。
ぱる「マユさん…」
龍「……」
ぱる「これ、腐神から貰ったお団子なんだけど、食べる?」
無理やり龍に団子を食べさせた。
ぱる「……」
特になんの変化も見られなかった。
ぱる「……」ゴソゴソ
鞄の中を探ると、カチカチになった島田のパンが入っていた。
ぱる「……」ガッ
これまた無理に龍へ食べさせる。
龍は悶絶し、意識を取り戻した。
ぱる「……」
すると背後で誰かの足音が聞こえた。
マリナ「あー!ここに入って来ちゃいけないんだよー?」
振り返ると、女の子が立っていた。
ぱる「……」
マリナ「猫様に黙っててあげるかわりに、マリナと遊んで?ちょうど暇してたんだー」
ぱる「……」
マリナ「何して遊ぶ?トランプ?あ、オセロもあるよ」
ぱる「……」
マリナ「ねえマリナの話聞いてる?あれ?なんか肩に紙くずがついてる」
ぱる「……」
――さっき龍を部屋に入れようとした時についたのかな?
マリナがぱるの肩から紙くずを取り上げる。
するとそれはマリナの手から飛び上がり、床に吸い込まれて消えた。
マリナ「え?」
代わりに床からは、半透明の老婆の姿が現れる。
ぱる「……」
マリナ「誰ー?」
湯婆婆「やれやれ、やっぱりちょっと透けるねぇ…」
老婆は自分の体を確かめながら言った。
湯婆婆「あたしは湯婆婆という者さ。このお湯屋のオーナーだよ」
ぱる「……」
湯婆婆「そっちの龍はあたしから大事な物を盗もうとしたから、とっちめてやったのさ」
ぱる「……」
マリナ「大事な物?なぁに?あのね、猫様が言ってたんだけど、大事な物はきちんと隠しておかないといけないんだって!じゃないと悪い人に盗まれちゃうから」
マリナ「それで猫様はマリナのことをこの部屋から出さないようにしてたの。マリナが誰かに拐われないように」
湯婆婆「それを盗まれるとあたしはこのお湯屋のオーナーでなくなっちまうんだよ。まあ元々見込みのある子に譲って、そろそろ隠居しようかと考えてたんだけど、いざ盗られるとなると癪だろう?」
ぱる「……」
マリナ「他人の物を盗むのは良くないんだよ?でも動物を虐めるのも良くないんだよ?龍も動物だよね?だったらこれ、動物虐待になるんだよ?それでね、」
湯婆婆「まったくよく喋る子だねぇ…ちょっと黙ってな」
湯婆婆が手でチャックを引くような真似をすると、マリナはそれきり喋らなくなった。
ぱる「……」
湯婆婆「あんたは無口だね」
ぱる「……」
湯婆婆「あたしを見ても驚きやしない。たいした子だよ」
ぱる「あの、マユさん元に戻りますか?」
湯婆婆「島田のパンを食べさせただろう?あれにあたしがまじないをかけておいたから、じきに良くなるさ」
ぱる「なんだ…まずくてむせてるのかと思った…」
湯婆婆「ダーハッハッハッハッ…!面白い子だね、ぱる。あたしの家においでな。あんたには借りがあるからね。腐神からたっぷり砂金を絞り取ってくれただろう?湯屋も随分潤ったよ」
湯婆婆「そのお礼として、元の世界に戻るための手助けをしてあげよう。これ以上猫様というやつにここを仕切られるのも心配だからね」
湯婆婆の姿は消えた。
ぱる「……」
おいでと言われても、肝心の家の場所がわからない。
ぱる「……」
マリナ「……」グイグイ
ぱる「?」
ぱる「……」テクテク
マリナに引っ張られ、奥まで行くと、小さな扉があった。
扉の先は放送室へと繋がっていた。
ぱる「……」
マリナ「……」
高橋「おぉ!!びっくりしたー。どしたどした?」
ぱるは壁の電話機を見た。
これでタクシーを呼べないだろうか。
ぱる「タクシー呼んでください」
高橋「オッケー、1台でいい?」
ぱる「はーい」
呼んで貰ったタクシーに乗り込む。
なぜかマリナもついてきた。
行き先を告げると、到着までぱるは眠りこける。
ドライバー「お客さん、着きましたよ」
ぱる「……」
タクシーを降りると、外灯が待っていた。
外灯の道案内で、湯婆婆の家まで歩く。
マリナ「……」テクテク
外灯「……」ピョンピョン
ぱる「……」テクテク
随分頭のいい外灯だなとぱるは思った。
湯婆婆「おや?早かったね」
ぱる「お邪魔しまーす」
マリナ「……」ニコニコ
湯婆婆の家で、ぱるはフルーツの盛り合わせを御馳走になった。
湯婆婆「あんたの仲間はある日突然やって来てね、隠居を考えていたあたしは、中でも一番見てくれのいい子に魔力を与え、オーナーとしての素質を見ることにしたんだ」
ぱる「……」モグモグ
マリナ「……」モグモグ
湯婆婆「だけど何を間違ったか、猫様というやつは湯屋の経営はまるで駄目。おまけに魔力を好き放題に使い、しまいにはあたしが持っている強い魔力そのものを奪って、自分が最高権力になろうとしてきた」
ぱる「……」モグモグ
マリナ「……」モグモグ
湯婆婆「……」
ぱる「……」モグモグ
マリナ「……」モグモグ
湯婆婆「……」モグモグ
ぱる「それで、どうやったら元の世界に戻れますか?」モグモグ
湯婆婆「まあ待ちなね。今作っているところだから…」
湯婆婆は工房のような部屋に消えた。
84 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 20:33:22.21 ID:R+xR3uR10
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名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 20:33:51.19 ID:OnBCOWdfO
ぱる「……」モグモグ
マリナ「……」モグモグ
ぱる「……」モグモグ
マリナ「……」モグモグ
ぱる「……」モグモグ
湯婆婆「さあ出来たよ。持って行きな」
ぱる「あ、これぱるぱるさんの眼鏡に似てる…」
湯婆婆「真実を見通せる眼鏡だよ」
ぱる「ありがとうお婆ちゃん」タタタッ
ぱる「……」ピタッ
湯婆婆「?」
ぱる「……」クルッ
湯婆婆「??」
ぱる「あの、タクシー呼んでもらえますか?」
湯婆婆「おや?迎えならもう来てるだろうに」
ぱる「?」
表に出ると、一匹の龍が待っていた。
86 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 20:35:09.14 ID:OnBCOWdfO
ぱる「マユさん…」
龍「……」
マリナ「……」ニコニコ
龍に跨がり、ぱるとマリナは空を飛ぶ。
海の上に差し掛かった。
ぱるは思い出して、眼鏡を掛けてみる。
ぱる「マユさん…」
龍「……」
ぱる「ありがとう」
龍「……」
ぱる「夜中にわたしが落ち込んでる時、連れ出して島田に会わせてくれて」
龍「……」
ぱる「それからお菓子を食べさせてくれてありがとう」
龍「……」
ぱる「あの時マユさんから貰った八ツ橋、とってもおいしかったよ」
龍「……」
ぱる「あなたの本当の名前はヨコヤ『マユ』イ。わたしの同期で、友達だよ」
龍「……!!」
と、龍は横山に姿を変えた。
島崎とマリナは横山と手を繋ぎ、空中を漂う。
横山「ありがとうぱるる…やっと自分の本当の名前を思い出せたよ」
島崎「うん」
それから3人は仲良く空を飛んで湯屋に帰った。
途中で川栄がヒッチハイクのようなポーズを取っているのが見えたので、拾ってあげた。
87 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 20:36:45.82 ID:OnBCOWdfO
湯屋の前――。
猫様「マリナ!」
マリナ「……」ニコニコ
猫様「ぱる…帰って来たんだね」
島崎「……」
猫様「なぁにそれ?変な眼鏡だねー」
島崎「……」
猫様「今まで湯婆婆のところに行ってたんでしょー?元の世界に戻りたいなら、クイズに正解しなきゃ駄目だよー?」
島崎「……」チラッ
湯屋の前にはたくさんの豚が集められていた。
その周りを野次馬が取り囲んでいる。
野次馬の中には、タノや高橋らの顔もあった。
猫様「この豚の中から島田を探し出せたら、もうここで働かなくていいよー。好きなところに帰りなね」
島崎「……」コクン
島崎「……」ジー…
島崎「……!!」ハッ
島崎「あれー?島田いないよー?」
豚の中に島田はいなかった。
自分でもよくわからないが、なんとなくそんな気がした。
湯女達「大当りぃ〜」
瞬間、豚に化けていた湯女達が元の姿に戻り、クイズに正解した島崎を祝福する。
88 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 20:48:59.20 ID:OnBCOWdfO
島崎「……」
猫様「じゃあ約束通り、雇用契約はなかったことにするから、好きなところに帰りなよ。島田は先に戻ってるよ」
島崎「……」
猫様「?」
島崎「……」
猫様「どうしたのー?行かないのー?」
高橋「まさか歩きたくなくて、タクシー呼んでもらうの待ってるんじゃ…」
横山「ぱるる帰ろ?」
川栄「まだっすよ、横さん。まだみんなを助けてません」
横山「あ…」
島崎「……」
島崎はまず最初に野次馬の中からリナを見つけ出して、言った。
島崎「あなたの本当の名前はイ『リ』ヤマアン『ナ』…」
入山「ぱるるさん…」ハッ!!
次に高橋と対峙した。
島崎「あなたの本当の名前は『高橋』みなみさん…」
高橋「ぱるる…」ハッ!!
次にユウと対峙した。
島崎「あなたの本当の名前はオオシマ『ユウ』コさん…」
大島「ぱるる…」ハッ!!
次に彩と対峙した。
89 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 20:50:01.95 ID:OnBCOWdfO
島崎「あなたの本当の名前は梅田『彩』佳さん…」
梅田「ぱるる…」ハッ!!
次にミユと対峙した。
島崎「あなたの本当の名前はワタナベ『ミユ』キ…」
渡辺「ぱるる…」ハッ!!
それからマリナと猫様のところに戻った。
島崎「『マ』ツイジュ『リナ』ちゃんと、小嶋陽菜さん…」
松井「ぱるる…」ハッ!!
小嶋「えー?」ハッ!!
横山「皆さん、早く帰らないとまた道を見失ってしまいますよ」
横山に連れられ、みんな帰って行った。
島崎「……」
タノ「……」
島崎は最後にタノの元まで行き、笑いかけた。
タノ「え?」ビクッ
島崎「……」ニコニコ
タノ「え?え?」
島崎「あなたの本当の名前はイ『タノ』トモミさん…」
板野「ぱるる…」ハッ!!
2人は手を繋ぎ、マイペースに帰り道を歩いた。
やがてトンネルを抜ける。
移動車に戻ると、メンバーが話しかけてきた。
90 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 20:51:12.90 ID:OnBCOWdfO
松井「あ、おかえりなさい」
小嶋「ともちん遅いー」
板野「ごめん」
渡辺「ぱるる、どこまで行ってたん?なかなか戻らへんから、お手洗いで居眠りでもしてるんやろかと心配してたんやでー?」
横山「さすがにそれはないやろ」
島崎「……」
渡辺「時間大丈夫やろか?」
横山「りっちゃん、今何時?」
川栄「時間すか?いやぁ…それはちょっと難しいですね。長い針が真上です」
島崎「……」
高橋「ほらともちん、席ついて?そろそろ出発だよ」
板野「ごめんねたかみな」
梅田「あれ?ぱるるどうしたのその眼鏡…ぱるぱるさんみたいだよ」
大島「うん、面白いねそれ。ちょっと貸して」
島崎「……」
――あれ?なんでわたし眼鏡なんて掛けてるんだっけ?
島崎「島田〜、後ろの席行くからちょっと詰めてよー。通れないよー」
島田「これで精一杯なんだよ!」
入山「あ、どうぞ」
入山が立ち上がり、通路を空けてくれる。
島崎と板野は最後部座席に並んで腰を下ろした。
91 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 20:52:56.62 ID:OnBCOWdfO
高橋「お待たせしました。お願いします」
ドライバー「じゃあ車出しまーす」
島崎「……」
板野「……」
島崎「……」
板野「……」
島崎「…板野さん…」
板野「ん?」
島崎「わたしが責められてた時、庇ってくれてありがとうございました」
板野「え?」
島崎「え?」
板野「……」
島崎「……」
板野「責められたって何?いつのこと?」
島崎「え?わたし何か言いました?」
板野「言ったよ。なんか変なこと」
島崎「えー?言ってないですよー」
板野「言ったもん!そういうの気になるからちゃんと教えてよー」
島崎「えー?」
板野「……」
島崎「んー…」
板野「…ぱるる?何かあったの?」
島崎「んー…」
板野「……」
島崎「んー、考えたけど、よくわかんない」
島崎は困ったように笑った。
―END―
92 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/08/03(土) 21:11:23.46 ID:N1pt402M0
乙
面白かったですぞ
93 :
名無しさん@実況は禁止です:
おつ