1 :
名無しさん@実況は禁止です:
2 :
名無しさん@実況は禁止です:2013/07/31(水) 10:12:54.52 ID:PLaT+K1oP
読んでたよー、最後まで何とか続けてほしい
3 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 10:22:04.16 ID:W/pb9odm0
宮澤「嫌うってそんな簡単に言われても…」
大島「あー、無理だよ。佐江ちゃん基本的に誰に対しても苦手意識とか持たないじゃん」
梅田「え?ちょっ、ちょっと待って!この世界に存在する人物ってまさか…」
梅田がそこで急に焦りだした。
きょろきょろと周囲を警戒しだす。
本多「俺だよ」
するとデスクで陰になった部分から、本多がゆっくりと姿を現した。
本多を見た瞬間、大島がバツの悪い表情を浮かべ、眉を下げる。
大島「あ、すっかり本多さんの存在忘れてた」
本多「大島さん、君達がいなくなるとこの世界は壊れてしまうんだよ。だから脱出させるわけにはいかない」
本多が先ほどとは別人のように、引きつった笑みを洩らした。
大島「本多さん…何する気ですか?」
大島が何かを感じ取り、サッと身を引く。
メンバーを守るように、自分の背中に隠した。
本多「君達の自由を奪い、永遠にこの世界に居てもらう」
本多が銃を構える。
同時に大島も銃口を本多へと向けた。
互いに相手の出方を窺う体勢となる。
柏木「平手打ちするとおとなしくなりますよ」
柏木が自分の経験をもとにアドバイスする。
瞬間、耳のすぐ横を銃弾が掠めた。
大島「ゆきりん、大丈夫?」
大島が背を向けたままで尋ねる。
柏木「はい大丈夫です、たぶん」
大島「くそっ…ゆきりんに何するの!本多さん、銃を下ろしてください!メンバーを傷つけたら、あたし絶対許しませんよ!」
大島が威勢良く言う。
だが実際のところ、手が震えて狙いを定めることが出来ない。
極度の緊張が、大島を襲う。
本多もそれがわかっているのか、勿体つけるように笑うだけで、それ以上撃ってこようとはしない。
こちらの反応を見て楽しんでいるふしが窺える。
――あたしが失敗すれば、メンバーを危険な目に遭わせてしまう…。
大島「…くっ…」
大島は下唇を噛んだ。
その時、ふと手に温かいものが触れる。
篠田「……」
篠田だった。
篠田が大島の手を包み込むように握り、下を向きかけていた銃口をともに支えてくれる。
大島「麻里子…」
篠田「あたしも一緒に戦うよ」
見上げると、篠田は横に立って、にっこりと口角を上げていた。
その笑顔を見た瞬間、大島の全身に力がみなぎる。
梅田「あたしも一緒だよ、優子」
大島「梅ちゃん…」
梅田が一歩前に出て、手にした銃を構えた。
さらにその横へ飛び出す宮澤。
宮澤「優子ひとりを戦わせたりしない」
松井珠「そうですよ、優子ちゃん」
最後に珠理奈が並び、こちらの戦力が揃った。
大島「佐江ちゃん…珠理奈…ありがとう…」
大島が震える声で言う。
もう怖くなんかない。
だって、メンバーがいてくれるから。
大島「…っあぁぁぁぁぁぁぁ…」
本多に向けて銃弾を放つ。
白煙が上がり、本多の姿を消し去る。
ちゃんとやれただろうか。
わからない。
本多からの反応はない。
大島「……」
大島は煙の先に目を凝らした。
一瞬間があき、銃弾が襲ってくる。
7 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 10:38:32.16 ID:4wHynbGbO
板野「危ないっ!」
高橋「防御なら任せて」
板野と高橋が頭上へ舞い上がり、スティックを振るうと、銃弾を次々と消し去った。
高橋「落ち着いて。大丈夫だから。心配しなくても、あたしとともちんがちゃんと守るから。だから優子達はあの男を…」
板野「あいつまだ反撃して来るよ」
板野が冷静に言う。
大島「ふっ…」
大島はなんだかおかしくて、息を洩らした。
背後では峯岸が柏木から拡声器を受け取り、応援の声を上げている。
こんな時でも、無邪気なものだなと思う。
横山「そんなことしたら、逆に相手を刺激しちゃうんじゃないですか?」
真面目な横山が、堂々と先輩にあたるはずの峯岸を注意している声が聞こえた。
――由依、随分とたくましくなった…。
やっぱり自分はメンバーが好きだ。
可愛くて面白くて馬鹿で大真面目で優しくて――。
そんなメンバーが大好きだ。
だから、絶対に戻ろう。
メンバーと一緒に、元の世界に戻るんだ。
大島「……」
大島は再び、本多へ銃口を向けた。
【THE GHOST SHOW】
河西「もう何なのここ…早く家に帰ってお風呂に入りたい…」
河西が泣きじゃくっている。
それに対し、小嶋は特に慰めもしない。
小嶋「でも近くで見たらあの幽霊、可愛い顔してたね」
呑気に言う。
河西「そんなじっくり見ている余裕なかったよ…」
河西は呆れ、その拍子に泣いているのが馬鹿らしくなった。
河西「もういいよ。早く出口探そう」
さっきからずっと病院内を彷徨っている。
こんなに歩いていれば渡辺か指原にでも出会いそうだが、まったくいき会わない。
――そんなに広い病院だったかな?
不思議に思った矢先、背中にぞくりと鳥肌が立った。
――来る…!
もう何度も黒いワンピース姿の幽霊に襲われている。
逃げても逃げても追ってきて、どこからともなく姿を現す幽霊。
だからこちらのほうも慣れが生じてきてしまい、幽霊が出るタイミングが近づくと、鳥肌がそれを教えてくれるようになっていた。
河西「陽菜ちゃん…近くにいるよ…霊達が」
河西が耳打ちする。
小嶋「ねえ、今度はあたし達のほうが幽霊を脅かしてみるとかどう?」
河西「何考えてるの!そんなことしたら余計に呪われるよ」
小嶋「えー?発想の逆転なのに」
河西「わかんないよぉ…あ、やっぱり出た!キャァー…!」
河西が悲鳴を上げる。
出るとわかっていても、やはり怖いものは怖い。
小嶋のように間近で幽霊の顔を確認することなど出来ない。
河西は再び、一目散に駆け出した。
今度は小嶋もそれを追いかける。
小嶋「待ってー。走らないでよー、歩いてー」
小嶋の声からは、やはり緊張感を窺い知ることが出来なかった。
幽霊は2体で、宙をスーッと音もなく移動する。
それに対し、本人達は一生懸命なのだろうが、はたから見ればトコトコとまるで微笑ましい走りの河西と小嶋。
2人はついに壁際に追い詰められてしまった。
河西「どうしよう…」
河西が必死に視線を左右させる。
逃げ道は――ない。
何かを訴えるような顔で、幽霊が近づいてくる。
河西「お願い来ないで…助けて…ごめんなさいごめんなさい…」
河西の悲痛な声が響いた。
10 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 10:56:20.45 ID:4wHynbGbO
【THE WORLD COMMUNICATED】
大島「これでよしっと…」
大島は捕えた本多を、先ほど自分達が拘束されていた部屋に運び込んだ。
本多の肩口からは血が流れていたが、掠り傷である。
大島はその後、攻撃すると見せかけて銃を置き、白煙の中を走り抜けたのだった。
自分に出来ることを考えた末の結論だ。
例え現実世界でなくとも、やっぱり人を傷つけるのは嫌だ。
無謀かもしれない。
だけどそれでもいい。
元々、走りには自信がある。
大島は恐るべき瞬足で本多に近づくと、彼の手にしている銃を叩き落とした。
白煙の中から突然飛び出して来た大島に、本多は反撃する隙さえ見つけられなかった。
呆気なく捕まり、後ろに手を回された。
大島「すみません本多さん、でもあたし、現実を生きたいんです」
大島は本多に頭を下げると、なるべく彼の体に負担がかからないように、椅子に拘束した。
本多はもう、何も言わなかった。
そこには怒りや悲しみもなく、ならば一体何なのだと問われれば、これを慈愛に満ちた瞳というのだろうか。
本多はただただ穏やかに大島を見つめていた。
大島「本当にごめんなさい」
大島はもう一度、今度はより丁寧に頭を下げると、本多の視線を振り切って部屋を出た。
メンバーの待つオフィスに戻る。
大島「もう大丈夫みたい」
不安そうに集まっていたメンバーにそれだけ言うと、大島は手近な椅子に腰を下ろした。
大島「さてと、これでこの世界の壁は曖昧になったのかな?」
板野「確かめようがないね」
峯岸「あ、じゃあさっきのあたし達みたいに歩き回ってみる?自然と壁を通過して、別の世界に移れるかもよ」
横山「でもわたし達がこの世界に来れたのは、紙ヒコーキを追ったからですよね。今度もそんな都合のいいことが起こりますか?」
峯岸「わかんないけど、試してみるしかないじゃん」
峯岸がぷんと頬をふくらませた。
その隣で、珠理奈が思い出したようにバッグの中を探し始める。
篠田「?」
松井珠「あ、あったあった!これ…」
珠理奈は笑顔で、バッグから円形の物を取り出した。
梅田「うわぁっ!びっくりしたー」
梅田が思わず後ずさる。
実物を見たことはないけれど、それは誰もが想像出来るであろう、マンガに出てくるような爆弾の形をしていた。
篠田「珠理奈もしかしてそれ…」
篠田がおそるおそる尋ねる。
松井珠「作ったよ、爆弾」
珠理奈は平然と答えた。
松井珠「だってあたし、この世界だと天才女子高生ってことになってたんだもん。そりゃあ爆弾くらい作れるよ」
篠田「家でこそこそしてたり、よくわかんない難しい本読んでたのは、やっぱりこれ作るためだったの?あれほど家の中で危険なことしちゃいけないって言ったのに…」
松井珠「麻里ちゃん達の仕事を手伝いたくて、何か自分に出来ないかと考えた末の行動なんだと思うよ、きっと」
篠田「そんな他人事みたいに…まあ別人格がやったことなんだろうけど」
板野「ねえ、それ何に使うの?」
板野が臆することなく、爆弾の元へ飛んできた。
おまけにスティックの先でちょんとつついてみたりもする。
松井珠「壊すんですよ、壁を」
珠理奈がにっこりと笑った。
横山「だから物理的な壁の話じゃなくて、」
峯岸「わかったよ、わかったからもうそれいいよ。珠理奈の話を聞いてみよう?ね?」
横山がまた何か指摘しようとしたので、峯岸が慌ててそれを制止した。
松井珠「世界の壁を見つけるため歩き回る前に、試してみてもいいと思うんです。壁、壊してみましょうよ」
大島「若いってすごいなぁ…頭柔らかいっていうか、色々無茶するなぁ…」
大島が感嘆の息を洩らした。
珠理奈は立って行って、適当な壁際に爆弾をセットする。
松井珠「この壁を壊してみてからでも遅くはないですよね?壁を壊して、現れたのが普通に隣の部屋や通路だったら、諦めて歩き回ることにすればいいんですよ。もう人数だけは揃ってるんですから、手分けしてあちこち探し回ればいい」
高橋「いいよ珠理奈、やってみな」
松井珠「皆さんは念のため、そこの物陰に避難していてください。一応火薬の量は調節してありますけど、万が一ってことがありますから。あたしも火を点けたらすぐにそっちへ避難します」
珠理奈に言われ、メンバーは半信半疑のまま積み上げたデスクの裏に回った。
導火線に火を点けた珠理奈が、後から走ってくる。
それぞれ耳を塞ぎ、じっとその時を待った。
爆発音と、衝撃。
焦げた臭いが充満し、甲高い音を立てて火災報知器と、スプリンクラーが作動する。
メンバーはすぐに全身びしょ濡れとなり、避難場所から壁の様子を見るため這い出た。
篠田「あ…」
立ち上る黒煙の中に、4つの人影が浮かび上がっていた。
それだけでは誰なのか判断出来ないはずだった。
だけど、篠田だけは感じ取ることが出来た。
あの女性らしい曲線、長い髪のシルエット、あれは間違いなく――。
14 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 11:05:10.50 ID:4wHynbGbO
篠田「陽菜!!」
なんてことだろう。
珠理奈の思惑どおり世界の壁は壊され、今、別世界にいた小嶋達が姿を現したのだ。
篠田は感激し、駆けていって小嶋の肩に触れた。
小嶋は訝しげにそんな篠田を見、サッと身をよじって距離を置く。
高橋「すぐに元の人格に戻そう」
高橋がスティックを振るうと、小嶋の目の色が明らかに変わった。
小嶋「あー、麻里ちゃんだぁー!みんなどうしたの?」
セーラー服姿の小嶋はいつもの美しい笑顔で、メンバーを見回した。
その隣で、まだ混乱したままの河西が涙ぐんでいる。
それについては、板野と宮澤が駆け寄って宥めることした。
残る2人の人影は――。
北原「あのぉ、あたし達…」
松井玲「皆さんすでに状況を把握してるんですか?」
黒いワンピース姿で、顔にかかった髪を鬱陶しそうに掻き上げる北原と玲奈がいた。
小嶋「あ、そうだよそうだよー。わたし何で逃げてたんだろう。よく見たら幽霊じゃなくてきたりえと玲奈ちゃんじゃん」
小嶋もまた、スプリンクラーのせいで濡れた髪を持て余しながら言った。
北原「だからそれを伝えたくてお2人に近づいたのに、逃げちゃってたんじゃないですか」
河西「だってそんな格好じゃやっぱり怖いよ」
北原「でもほら、こうして明るいところで見たらそうでもないですよね?」
河西「う、うーん…」
15 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 12:01:16.64 ID:4wHynbGbO
小嶋「それよりたかみな、このスプリンクラーと火災報知器止めてよー。止められるでしょ?だって妖精だから」
高橋「えぇ?あ、そうか…」
そうして落ち着いたところで、もう何度目になるだろう、高橋と板野が小嶋と河西にこれまでの経緯を説明することにした。
板野「きたりえと玲奈もちゃんと聞いてよ」
話に加わろうとしない残る2人を、板野が注意する。
北原と玲奈は顔を見合わせ、それからきょとんとした表情で答えた。
北原「あれ?知らないですか?あたしと玲奈ちゃんもお2人と同じ、この世界のヒントなんですよ?」
板野「は?」
松井玲「だからこの世界について知らせたくてずっと小嶋さん達を追ってたんです」
板野「へぇ、そうだったんだ」
松井玲「はい」
玲奈が歯切れのいい返事をした時、後方で悲鳴が上がった。
16 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 13:56:31.51 ID:4wHynbGbO
梅田「ちょっ、ゆきりんどうしたの?」
見れば、柏木が青ざめた顔で座りこんでいる。
そしてその背中を梅田が優しくさすっていた。
柏木「おかしいですよね…だって…なんで居ないんですか?」
柏木は珍しく取り乱している。
高橋「何?どしたどした?」
すぐさま高橋が飛んでいった。
柏木「だってこの顔触れだったら…居ないなんておかしいじゃないですか…」
高橋「?」
柏木「麻友ちゃんが…いないんですよ…」
すると大島が思い出したように言う。
大島「そういえば指原もいないじゃん。これだけメンバーが揃ってればちゃっかり指原も紛れこんでそうじゃない?」
柏木「さっしーはAKBじゃないから」
柏木はなぜかそこで突然冷静になった。
宮澤「え?じゃああたしは?あたしはどうなるの?」
瞬時に宮澤が突っ込む。
峯岸「まさか…まだ他に別の世界を探して繋がらないといけないの?」
大島「そうだね。まゆゆが閉じ込められている世界を探そう。珠理奈、また爆弾用意して」
松井珠「え?爆弾はさっき使った一個しか作ってないです」
大島「うわぁ…」
大島が頭を抱えた。
そこで板野から説明を聞き終えた小嶋が、口を挟む。
小嶋「まゆゆとさっしーなら、わたし達がさっきまで居た世界にまだ残ってるよー」
柏木「えぇ?」
小嶋「ねえ?」
河西「うん、いるいる」
大島「じゃあ早くこっちに連れてこないと」
松井珠「大丈夫です。まだ壁は繋がっています」
珠理奈が先ほど壊した壁を指差した。
破壊された壁の先は、薄暗い廊下が続いている。
大島「にゃんにゃん達、一体今までどういう世界にいたの?そういえば2人ともセーラー服だし、きたりえと玲奈ちゃんに至っては幽霊…」
大島は今更ながら、疑問を口にした。
小嶋「肝試ししてたの、潰れた病院で」
河西「違うよ。映画撮影の下見してたんだよ」
小嶋「あ、そうだった」
大島「もうわけわかんないけど、とにかくまゆゆと指原は居るのね?」
小嶋「うん」
大島「よし、急いで連れ戻そう」
柏木「待ってください、あたしも一緒に行きます」
北原「さっしーはともかく、麻友ちゃんはちょっと連れ出すの厄介かもしれませんね…」
駆け出そうとした大島と柏木に、北原が重い口調で言った。
大島「え?」
柏木「厄介って…」
北原は玲奈と頷き合うと、渡辺の身に起こっていることを説明した。
北原「麻友ちゃんは今、あっちの世界の住人にガードされています」
柏木「あ…」
松井玲「世界を疑い、あっちの世界で信頼を置いている人物を疑い、決別する…。そうしないと壁を抜けてこちらの世界へ来ることは出来ません。例えここに抜け道が開いていても、弾き飛ばされてしまって通過出来ないんです」
大島「まゆゆをガードしている住人は誰なの?」
北原「博って名前の、男子生徒です。彼は巧妙に、着々と麻友ちゃんからの信頼を得ていってます」
北原が告げた。
すると小嶋と河西が不思議そうに顔を見合わせる。
小嶋「博って誰?」
河西「そんな人、最初から病院の中にいなかったよね?」
【THE GHOST SHOW】
渡辺「さっきさ、何か爆発するような音が聞こえなかった?」
渡辺は、小動物のようにびくりと肩を震わせる。
すると博がポンポンと彼女の頭を叩いた。
博「大丈夫だよ。俺がついているから」
渡辺「博くん…」
博「さて、小嶋先輩達を探そうか」
渡辺「うん」
薄暗い廊下を歩く。
それでもまだ非常灯が点いているぶん、表よりは明るいらしく、窓ガラスにはくっきりと自分の姿が映っていた。
呆れるくらい、引きつってびくついた、自分の顔。
――やだ、今のわたし、全然可愛くない…。
渡辺はそこでふるふると頭を振り、窓ガラスに向かって笑顔を作ってみた。
無理やり笑ってみただけでも、いくらか気持ちが明るくなる。
だがそこで、渡辺をおかしな点に気づき、隣の博を見た。
博「麻友ちゃん?どうしたの?」
突然挙動不審になった渡辺を、博が心配する。
渡辺はそれを無視して、再び窓ガラスに目をやった。
――なんで…どうして…ずっとこうだったの…?
窓ガラスに映る自分の姿。
その隣には、誰もいない。
自分独りだけ。
隣にいる博の姿は、まったく映っていなかった。
渡辺の心臓が早鐘を打つ。
これまでの記憶が頭の中を駆け巡る。
そもそも映画研究会に男子生徒なんていただろうか。
いや、いない。
そうだ、だって自分の通っている学校自体、女子高じゃないか。
男子生徒なんて居るはずないんだ。
じゃあ今隣にいる博は何者なんだろう。
博「気がついたんだね…」
渡辺の異変を察知したのか、博がこれまで聞いたことのない低い声で言う。
振り返った。
博は俯いた状態で、その表情を確認することは出来ない。
渡辺「博くんあなた…何者なの?」
渡辺は震える声で尋ねた。
22 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 14:09:17.07 ID:4wHynbGbO
【THE WORLD COMMUNICATED】
松井玲「あたしと里英ちゃんは、まゆゆさんと博を引き離そうと頑張ったんです。だけどこんな姿だし、当然怖がられて逃げられるばかりで、全然話すら聞いてもらえなくて…」
玲奈が申し訳なさそうに言う。
北原「登場の仕方がまずかったのかな?」
松井玲「でも幽霊って設定上、宙に浮いたり、写真の中から飛び出したりしか出来なかったし」
北原「だよねぇ…」
2人がプチ反省会をする中、大島と柏木は壁に空いた穴へと飛び込んだ。
急がなければ、渡辺が危ない。
柏木「寒い…」
薄暗い病院の風景へと周囲が切り換わる。
オフィスに居た時よりも、いくらか気温が低いようだ。
大島「まゆゆー?指原ー?」
不気味な雰囲気漂う病院内を、大島は平然と闊歩する。
大声を張り上げ、もう心霊スポットらしい情緒もへったくれもない。
大島「迎えに来たよー?」
さて、渡辺はどこに居るのだろうか。
【THE GHOST SHOW】
渡辺「博くん、ずっとわたしを騙してたの?」
渡辺は博と対峙した状態で、尋ねた。
顔を上げた博は相変わらず優しい表情で、特にそこから負の感情は読み取れない。
渡辺は不思議と、博を怖いとは思わなかった。
ただ疑問ばかりが頭に浮かぶ。
渡辺「博くんはわたしに何かするつもりだったの?だからこうして部員のふりをして近づいたの?」
博は幽霊に近い存在、いや幽霊そのものなのだろう。
渡辺は確信している。
だって、窓ガラスに姿が映っていないのだから。
それでも尚、博からは幽霊らしいおどろおどろさが感じられなかった。
見た目は普通の人間である。
実態もあるし、手だって握れる。
だけど、今思い返してみると体温が妙に低い気がしていた。
博「俺の役目は麻友ちゃん、君をこの世界にとどめておくことだったんだよ」
博が静かに語りだした。
渡辺「この世界?」
博「そう、本当の麻友ちゃんは国民的アイドルで、現実は別にあって、ここは誰かの深層心理が作り出した偽の世界なんだ」
渡辺「ちょっと待って博くん、全然わかんないよ」
博「大丈夫、すぐに全部わかる時が来るよ。そうしたら俺は、麻友ちゃんの前から消える」
渡辺「消える?消えるってその…成仏…」
渡辺が訊くと、博が吹き出した。
博「成仏なんかしないよ。ただこの世界ごと、消えるだけなんだ。元々こんな姿で麻友ちゃんの前に現れたのも、設定が甘かっただけで、本来であれば普通の同級生として現れるはずだった」
渡辺「わかんない…わかんないよ…じゃあ博くんは何なの?意図的にわたしの前に現れて、騙して…それなのに今はわけわかんない話を打ち明けて…わたし、一体どうしたらいいの?」
博「麻友ちゃんはそのままでいいんだよ。俺がいなくなっても、麻友ちゃんには本来の仲間がいるから。麻友ちゃんの傍にいるべき人間は俺じゃないんだ」
博「ごめん、ずっと騙してて。麻友ちゃんがこの世界からいなくなったら、世界は壊れて俺も消失する。ずっとそれが恐怖だった。俺は卑怯だ。君を守るふりをして、本当に守りたかったのは自分の存在意義だったんだよ」
博「だからこんなに長く引き止めてしまった。そしてもう一つ理由があるとしたら、俺はたぶん、麻友ちゃんのことが…」
博はそこで口をつぐみ、遠くを見た。
渡辺「え?何?」
博「どうやらここまでみたいだ。迎えが来たよ」
博が渡辺に視線を戻し、微笑む。
渡辺「……」
誰かが自分の名前を呼んでいる。
誰だろう。
聞いたことない声だ。
――でもなんだろう…すごく懐かしいよ…。
気がつくと、頬が濡れていた。
渡辺は自分が泣いていることに気づく。
なぜ泣いているのかはわからない。
それなのに、涙が止まらないのだ。
博「ほら、行って…」
博が渡辺の背後を指差した。
振り返る。
そこには2人の女性がいた。
渡辺「誰?知らない人達だよ、」
そう言いながら再び博のほうへ顔を向けた。
渡辺「え……」
そこに、博の姿はなかった。
26 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 14:17:39.04 ID:4wHynbGbO
渡辺「なんで…どこ行っちゃったの?博くん!博くん!」
渡辺が叫ぶ。
その間に2人の女性が駆け寄って来て、渡辺の体を抱きすくめた。
渡辺はなぜかとても安堵して、ひくひくとしゃくり上げる。
女性達が口々に「もう大丈夫だよ」「一緒に戻ろう」と言う。
その声に交じって、確かに博の声が聞こえた。
『バイバイ…』
ああこれでもう終わりなのだ。
渡辺は悟った。
小さく呟く。
渡辺「バイバイ…」
【THE WORLD COMMUNICATED】
渡辺をメンバーの元へ無事合流させ、本来の人格と記憶を取り戻させた。
病院の廊下で見つけた時、なぜ渡辺は泣いていたのか。
それについては大島も柏木も、深く追及しないことにする。
とにかくこうしてメンバーが揃ったことが嬉しい。
だがゆっくり喜んでいる時間はない気がした。
早くこの深層心理の世界から脱出したい。
小嶋「たかみなー?ヒントを出す役割なんでしょ?早くこの世界から出るヒントちょうだい」
小嶋が言う。
高橋「ちょっ、無理だよそんなの。わかってたらもっと先に言っておくし」
小嶋「えー、じゃあどうしたらいいのー?」
大島「そもそもここは、一体誰の深層心理なんだろう?」
宮澤「え?誰って?」
大島「メンバーの中の誰かの深層心理なわけでしょ?まったくなんでこんなことになっちゃったかなぁ…」
板野「自分の深層心理の中に自分以外の人間を取り込むのって、どうやったら出来るものなの?」
板野はなぜか玲奈に尋ねた。
松井玲「さ、さぁ…でも考えられるきっかけとしたら、ストレスとか不安…ですかね?」
板野「ストレスか…」
篠田「じゃあ単純に考えて、たかみな?」
高橋「えぇ?あたしかい!」
篠田「だって総監督だし、これだけの人数をまとめるのにストレス感じてるとか?」
高橋「いやいやいやいや、ストレスためるくらいだったらはじめから総監督なんて務まりませんよ」
篠田「またまたぁ〜」
高橋「いやいやいやマジで」
篠田「ふうん…まあいいや」
高橋「いいんかい!」
篠田「他に考えられるのって誰?」
大島「うーん…まあストレスなんて大なり小なりみんな色々ありますからねぇ…」
大島はそこで妙に年寄り臭い言い方をした。
メンバーがそれぞれ頭を悩ませ、無言になってしまう。
気を利かせた北原が、小さな声で発言した。
北原「ひとまず誰の深層心理かは置いておきましょうよ…」
高橋「そうだね。考えてもしょうがないしょうがない」
高橋が瞬時に頭を切り替える。
高橋「今は脱出方法を探すのが先だよ」
松井珠「はい!じゃあストレスを解消してみる!」
峯岸「単純な発想だなぁ…」
篠田「ああでもいいんじゃない?ここが誰の深層心理なのか特定出来てなくても、その方法なら全員が今ここでそれぞれ好きなことしてストレス解消に努めれば、問題が解決されて脱出できるかもしれないし」
峯岸「えー?麻里子までそんなこと言って…」
高橋「まあでもそれなら別に負担にもならないし、やってみて損はないと思うよ。こんな世界に閉じ込められていること自体ストレス溜まるから、気分転換にもなるし」
峯岸「じゃあたかみなはどうするの?」
高橋「あたしはそうだなぁ…歌ってストレス解消とか?」
峯岸「じゃああたし踊ろうかな」
宮澤「優子は?」
大島「あたし?裸になる!」
梅田「えー?嘘でしょ?」
大島「いいじゃん別に」
渡辺「えぇ…どうしよう…この世界に宝塚のDVDあるのかな?」
渡辺は真剣に悩んだ。
その隣で、柏木がおずおずと挙手する。
柏木「あのぉ…ちょっといいですか?」
高橋「ん?」
柏木「盛り上がっているところ大変言い出しにくいんですけど…」
柏木はそこまで口に出して、言い淀んだ。
高橋「何何?言いたいことあるなら全部出さないと、すっきりしないよ」
柏木「あぁはい…だから、その方法だと無理なんですよね…」
篠田「無理?」
柏木「だって、ここにいないじゃないですか、本人」
宮澤「本人?」
柏木は立ち上がり、横山と目配せする。
横山が無言で頷いた。
柏木「さっしーですよ」
横山「ここはたぶん、指原さんの深層心理だと思うんです」
高橋「え?ちょっ、何でそうなるの?」
横山「ここに来る前、わたしはゆきりんさん達と怪獣に荒らされた街を歩きました。怪獣が存在する以外、見た目はほとんど現実と変わらない世界でした。ポスターや雑誌には、メンバーのグラビアやインタビューが出ていて…」
篠田「そういうところも現実と一緒なんだね」
横山「はい、だけど一つだけ、現実とは違う事柄があります。こっちの世界では、現実世界に当然あるはずのものが、ないんです。不自然に消されているんですよ」
板野「何?」
31 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 14:25:15.25 ID:4wHynbGbO
横山「メンバーなら誰もが頭に刷り込まれ、見慣れている文字。AKB48という言葉が、ポスターや雑誌、CМ商品のパッケージからきれいさっぱり消されているんです」
横山「この深層心理の世界を作り出した人物は、おそらくAKB48という言葉を、避けているんじゃないでしょうか?だからこの世界にはAKB48のロゴや文字がない」
柏木「あたしは、怪獣の下を車で通過した時、その体にサインが刻まれているのを見ました。『制作:タンスのゲン』ってサイン…」
柏木「よく見たらあの怪獣は、木製だったと思います。こんなこと考えつくのって、さっしー以外考えられないですよね?」
横山「そう思った時から、辛い経験から博多へ移籍した指原さんこそがこの深層心理の持ち主であると確信しました。指原さんにとっては、楽しい思い出と同時に悲しい思い出もあるAKB48」
横山「だから無意識のうちに、その言葉を遠ざけた。そしてこの別々の世界で、優子ちゃん、まゆゆさん、ゆきりんさんに近づいた3人の男性の影」
横山「それはそのまま、指原さんが過去に男性問題を起こしたことへの暗示ではないでしょうか?」
柏木「自分と似たような状況にあたし達を置くことで、さっしーはあたし達がどう動くのか、見ようとした」
大島「指原は…あたし達を試したの?」
柏木「いいえ、試したというより、これはさっしーの願いなんですよ」
大島「願い…」
柏木「男性の誘惑に打ち勝ち、アイドルを貫く。さっしーはそうなることを願い、そこに救いを求めた。本来のAKB48という姿を、再現させたかった」
大島「指原…」
大島はぎゅっと下唇を噛む。
柏木と横山の仮説が正しいとすれば、指原が現在、かなり精神的に不安定になっている現れだ。
全然気づかなかった。
気づいてやれなかった。
いつもヘラヘラとした笑顔の中に、一体指原は何を抱えていたのだろう――。
大島「指原は今どこに…」
大島がそう言うと、渡辺はハッと息を呑み、両手を口元にあてた。
だがその反応に気づかず、メンバーの話は続く。
小嶋「さっしーはまだきっと病院の中だよ」
大島「あたしちょっと行って、指原探してくる。ちゃんと話聞いてやらなきゃ」
梅田「あたしも一緒に行くよ、優子」
大島「ありがと梅ちゃん」
大島と梅田が、また廃病院へと続く穴まで駆け出そうとする。
その時、渡辺が立ち上がった。
渡辺「待ってください!」
大島「?」
渡辺はそれから、沈んだ声で告げた。
渡辺「実はさっしー…あの病院の中で誰かに斧で襲われて、わたし駆けつけたんですけど、間に合わなくて、だからさっしーはもう…」
梅田「嘘…でしょ…?」
渡辺「さっしーはもう、いないんです…」
大島「……」
峯岸「そんな、じゃああたし達どうなるの?深層心理の持ち主本人がいなくちゃ、手のほどこしようがないじゃん!」
河西「もうやだ!早く元の世界に戻りたいよぉ…」
オフィスの中は、一気に絶望に包まれた。
深層心理のの持ち主、指原がいない。
本人がいなければ、話して問題を解決することも、不安や悩みを解消させてあげることも出来ない。
ずっと、このおかしな深層心理の世界は続くことになる。
――そもそも指原はなぜ自分の深層心理の世界で、自分自身を殺す必要があったのだろう…。
大島は考えた。
自己嫌悪の表れ?
違う。
指原はなんだかんだいって自分に満足している気がする。
じゃあ一体何だ?
指原が自分自身を世界から消した意味――。
大島「消したんじゃない…途中退場したんだ…」
大島は渡辺の元に歩み寄ると、向こうの世界での指原の様子を尋ねた。
渡辺が思い出しながら、説明する。
指原が文化祭で上映する映画の脚本を書いたこと。
――それはいかにも指原が好きそうなことだな。文章書くの得意みたいだし。
猫背なせいで、いつもリュックサックが肩からずり落ちていたこと。
――これもあり得る。普段から猫背だし…。
廃病院に下見に行くことを躊躇していた渡辺に対し、指原のほうは結構乗り気だったこと。
――ん?あれ?指原って怖がりじゃなかったっけ?
廃病院での待ち合わせに、懐中電灯を用意して来てくれたこと。
――何で指原そんなにやる気満々なの?夜中に潰れた病院に忍び込むなんて相当怖くないか?普段の指原なら真っ先に逃げ出しそうなのに…。
大島「そうか、わかった。指原はまゆゆ達を廃病院に誘導するために向こうの世界に現れたんだ!だから役目を終えた後は、自身が殺害されるという方法を取って世界から退場した」
渡辺「じゃあもしかしてさっしーは…」
大島「せっかく自分の深層心理の中なのに、わざわざ辛い思いしたいなんて考えずらいよ。だとしたらさっしーは自分自身にもっと別の役を用意していて、入れ替わったのかもしれない。そしてそれはきっと…」
そこで大島は柏木に視線を移した。
柏木「?」
大島「ゆきりん、ここに出前のメニュー表とか置いてない?」
柏木「ありますよ。給湯室の冷蔵庫の横に」
大島「ありがとう」
大島はテクテクと示された方向へ歩いて行ってしまった。
渡辺と柏木はそれをきょとんとした顔で見送る。
宮澤「優子ー?おなかすいちゃったの?」
大島「そうそう」
大島はすぐに給湯室から戻ってきた。
手には中華料理店のメニュー表。
柏木「あ、そのお店、この世界でのあたしのお母さんって人がパートしてるお店です」
大島「あら偶然。あたしこの店好きで、結構出前頼むの。エビチリが絶品なんだよね」
柏木「へぇー」
メンバーは全員、大島の唐突な行動に首を傾げていた。
大島は平然とデスクの上から受話器を取ると、注文を始めてしまう。
大島「エビチリお願いします。ライス?いいですいいです、とにかく大至急届けさせてください」
通話を終えると、大島はニヤニヤとしながら忙しなく辺りを歩き回った。
そんなにエビチリが来るのが楽しみなのだろうか。
篠田「呑気だねぇ…」
板野「ともの餃子も頼んで欲しかった」
小嶋「あーじゃあー、わたしはレバニラ炒め」
出前は案外すぐに届いた。
古風なユニフォーム姿に三角巾を被った少女が、おかもちを持って現れる。
宮澤「あぁー!!!」
宮澤は少女を見た瞬間、驚きの声を上げて立ち上がってしまった。
その場にいる全員が例外なく、驚愕の表情。
目は少女に釘付けである。
高橋「指原…」
中華料理店のスタッフに扮した指原が、挙動不審に口を開いた。
指原「え?え?出前頼んだのって、ここでいいんですよね?」
北原「ミューズの鏡ってわけか」
大島「なかなかやるなぁ指原…」
と、世界は白み始め、やがて完全な空白となった。
37 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 14:39:34.04 ID:4wHynbGbO
【MOTORGIRLS VS CAR DEVILS】
大島「ここは…?」
気が付くと大島は、渡辺と睨み合っていた。
互いにすぐ気付いて、肩の力を抜く。
渡辺「わたし、ここ知ってる…」
大島「あたしも。確かあたしとまゆゆのチームが対立してる世界…だよね?」
大島の背後にはバイクの列、渡辺の背後には外国車が並ぶ。
メンバーはそれぞれ手にバットやナイフなど物騒な物を持ち、どうしたものかと途方に暮れていた。
高橋「おぉ!妖精の姿じゃなくなった!」
高橋が嬉しそうにスカートの裾をひらりとはためかせる。
峯岸「どういうことこれ…あたし達全員、また別の世界に移動しちゃったの?」
梅田「さっきまでオフィスにいたはずなのに…」
松井珠「そうなんです。世界はまだ残ってたんですよ」
珠理奈が興奮気味に言った。
松井玲「ねえ、さっしーは?」
玲奈が首を動かす。
指原「あ、はい!」
車の陰から、指原が姿を現した。
指原「何?どうしたの玲奈」
松井玲「さっしー?あれ?中華料理屋さんの格好じゃなかったの?」
指原「この世界では一応指原、カーデビルスのメンバーだからね。たぶん指原を含めたメンバーが全員ひとつの場所に集合した時点でこれまでの世界はクリア…その後全員揃ってこの世界に移動するっていう設定みたいだよ」
高橋「え?ちょっ、ここへ来てまさかの他人事?」
河西「この世界はさっしーの深層心理が作ったものなんじゃないの?」
指原「そうみたいですね。でも正直指原もどうしたらいいのかわからないんですよ。なんか色々…すみません」
指原が深く息を吐く。
本当に申し訳ないと思っているらしく、いつも以上に背中を丸めていた。
意図してやったことではないので、あまり責められない。
篠田「この調子だとまだまだいろんな世界が存在してそうだね…」
松井珠「それを全部見つけて、一つ一つ壊さないと駄目?あたし、こっちの世界だともう爆弾作れないよ。こっちではただの工員の娘で、しがないバイク乗りだもん」
メンバーの間がガヤガヤと騒がしくなる。
皆一様に疑問や不安を口にし、顔を見合わせる。
その中でひとり、指原は居心地悪そうに体を小さくしていた。
39 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 14:42:50.21 ID:4wHynbGbO
大島「指原…」
メンバーの間を抜け、大島は指原に歩み寄る。
指原「優子ちゃん…」
大島「教えて。現実世界に何か不満があるんでしょ?」
指原「そんな指原別に不満なんて…」
指原は両手を顔の前で振り、否定の動作を示した。
指原「お陰様で総選挙1位にさせてもらったし、HKTは順調だし、お仕事もたくさんいただいてるし…」
大島「でも、何かあるはずなんだよ」
指原「……」
大島「大丈夫、言ってごらん?指原の本心を」
大島は神々しさすら感じる柔和な笑顔で、指原に語りかける。
指原は何か言おとして、結局口をつぐんだ。
自然とメンバーが集合し、そんな大島と指原を取り囲む。
大島「みんな受け止めてあげるから。自分の深層心理の世界なんだから、この際何でもわがまま言っちゃえよ」
大島は今度、冗談交じりに軽く指原の頭を小突いた。
指原は信じられないといった顔で、メンバーを見渡す。
北原「さっしー、たまには甘えなよ」
柏木「いつも甘えられたらちょっと気持ち悪いけど、今日くらいいいんじゃない?」
小嶋「だんだんさっしー可愛く見えてきた」
横山「何言われても、わたしは指原さん好きですよ」
松井玲「うん、わたしも。さっしーを信じてる」
指原「みんな…」
指原は決心したように頷くと、ゆっくりと口を開いた。
指原「あの、じゃあちょっとだけ…いいですか…?」
大島「うん」
指原「こんなこと言って、単なるわがままと思うかもしれないですけど…」
大島「いいよ」
指原「それに皆さんに対してすごく失礼になるし…」
大島「わかったわかった、もういいから」
指原「あ、はい…あの、指原はセンターって柄じゃないし、自分でも踊ってて落ち着かないし、でもせっかく1位にしてもらって今更そんなこと言い出しにくくて…」
指原「言ってもどうせネタだとか、裏では1位になって調子乗ってるだとか言われて叩かれそうだったし」
大島「……」
41 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 14:45:28.91 ID:4wHynbGbO
指原「だから最近、去年のことばっかり考えちゃってたんですよね。楽しかった思い出ばっかり浮かんで、去年は1位だからしっかりしなきゃとか色々考えずに済んだし」
指原「前田さんが抜けて、これからもっとAKBを盛り上げていかなきゃってみんな団結してる頃で、優子ちゃんはすごく頼もしくて、センターで、キラキラしてて、後はみんな優子ちゃんを信じて突っ走るだけみたいな雰囲気」
指原「そんな雰囲気が、指原大好きだったんですよ。まあその後色々あって指原はAKBじゃなくなっちゃったけど…」
指原の話を聞くうち、大島は、この世界の真実がわかった気がした。
メンバーがそれぞれ数人ずつ別々の世界に閉じ込められていたこと。
それはそのまま今の現状を暗示していたのだ。
卒業や移籍などが重なった結果、もうこのメンバーが一緒にステージへ立つことは不可能になった。
だけどこの深層心理の世界で、指原はちゃんとヒントを用意していた。
そのお陰で、別々だった世界が繋がり、1つになって、メンバーは集まることが出来た。
これもまた、指原の望みだったのだ。
しかしこれだけではまだあと一歩足りない。
まだ現実には戻れない。
指原の望みは完全には叶えられていない。
現実に戻るには――。
42 :
◆x1G.Xq6aH2 :2013/07/31(水) 14:47:01.27 ID:4wHynbGbO
大島「踊ろう!みんな一緒に」
大島が高らかにそう宣言した瞬間、音楽が流れ出した。
ギンガムチェックのイントロ。
メンバーは慣れた様子でフォーメーションを作る。
指原が笑っている。
センターを外れた指原は、水を得た魚のようになぜかとても生き生きしていた。
大島は嬉しくなる。
卒業した篠田がいる。
河西がいる。
移籍した宮澤がいる。
研究生の峯岸がいる。
みんなここにいて、みんな馬鹿みたいに笑顔だ。
楽しい。
すごく楽しい。
あぁでも…もうすぐ曲が終わってしまう。
これで現実に戻れるだろうか。
指原自身は満足出来ただろうか。
いや、今はこんなこと考えるのはよそう。
精一杯楽しむのだ。
――あ、曲が終わる…。
大島は堪えきれず、最後に大きく飛び上がった。
ほとんど同時にメンバーもジャンプする。
どこからか、紙吹雪が吹き出る。
これで、フィナーレだ――。
【????】
大島「ん…んん…」
体がだるい。
おかしな体勢で眠ってしまったらしい。
ひとつ大あくびをして、大島は顔を上げた。
見慣れた楽屋の風景。
果たしてこれは現実だろうか。
高橋「優子起きた?ここって本当に現実?あたし達戻って来られたのかな?」
高橋が明らかに直前まで眠っていたであろう、腫れぼったい目をしながら問いかけてくる。
他のメンバーも次々と目を覚まし、周囲を確かめていた。
もしここがまだ指原の深層心理の中だとしたら、どこかにきっとおかしな点が見つかるはずだ。
慎重に物の位置や、壁付近を調べる。
そんな行為は、深層心理の世界には登場しなかったメンバー達が楽屋に入って来るのを見るまで、続けられた。
小嶋「わーい、本当に戻って来られたんだねー」
小嶋が安堵の息をつく。
楽屋に入って来たメンバーは、何事もなかったかのように談笑したり、メイクを直したりしている。
日常、見慣れた風景。
そう、ここは正真正銘、現実世界だ。
すると今度は、これまで自分たちの身に起こっていたことが、嘘のように思われてくる。
あれはもしかしたら、夢か幻だったのではないだろうか。
横山「他人の深層心理の世界に閉じ込められるなんて、よく考えたらありえませんよね」
横山はすっかりいつもの調子を取り戻し、現実に馴染んでいる。
大島「あ、そういえば指原は?」
柏木「ここですここ」
柏木が悪戯っぽい視線を向ける先、指原はまだデスクに突っ伏し、穏やかな寝息を立てていた。
柏木「よく寝てる」
小嶋「さっしー子供みたい」
柏木「こんな寝顔見てたら、やっぱりさっきまでのことは夢だったんじゃないかって思えてきますね…」
柏木が感慨深げに言う。
大島は何かに気がつき、寝ている指原の髪に触れた。
大島「ううん、夢じゃないよ。あたし達は本当に、さっきまで指原の深層心理の中に居たんだよ」
そうして今さっき指原の髪から摘まみ取った小さな物を、メンバーによく見えるよう高く掲げた。
大島「最後の紙吹雪、指原の奴、付けて帰ってきたみたいだね」
―END―
45 :
名無しさん@実況は禁止です:
乙