1 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :
――これで…終わりなの?せっかくここまで来たのに…。
板野「ごめん…陽菜…」
板野はぼそりと呟くと、ポケットに手を入れた。
小嶋「…え?」
追い詰められた焦りと、極限にまで達した緊張。
板野の手が震える。
前方で勝ち誇ったように腕を組むのは、予期せぬ人物――ほんの数日前までは仲間として疑いもしなかったメンバー。
「もう諦めなよ。おとなしく監房に戻って」とかつての仲間は言う。
大島「そんな…」
大島がハッと息を洩らした。
彼女達は互いに視線を交じらせ、硬直している。
小嶋の背後に立ち、板野は青ざめた顔をかつての仲間へと向けた。
大島「どうして…やめてよ…」
板野「ここで終わらせるわけには行かないの。ごめん陽菜…」
小嶋「お願い…やめてともちん…」
2 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:38:01.22 ID:oupraDg70
板野の手に握られた包丁。
その刃先は、小嶋の喉元へと向けられている。
――こんなこと本当はしたくない…だけど…やらなきゃ駄目なの…。
手にはじっとりと汗をかいている。
板野はひそかに包丁を握り直すと、声を張り上げた。
板野「陽菜がどうなってもいいの?!」
もう一方の手で、小嶋の腕をぎゅっと掴む。
そしてゆっくりと、刃先を喉元へと近づけていった。
高橋「何考えてるのともちん!」
高橋が厳しい声を上げる。
しかし板野の握る包丁が気になって、その場から動くことができない。
板野「陽菜を助けたかったら、おとなしく道を開けて!」
そう言いながら、板野はこれまでのことを振り返っていた。
――どうしてこんなことになっちゃったんだろう…どうしてあたしは…陽菜に包丁を向けなきゃならないの…?
3 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 14:38:31.39 ID:e2VXfq/yP
丁度プリズンブレイク観てた俺w
4 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 14:38:37.89 ID:9IDgg4Uf0
jailbreak
5 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 14:38:39.96 ID:mgW7nNyZ0
◆4zj.uHuFeyJ8さんの新作キターーーーーーー
6 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:38:44.91 ID:oupraDg70
《19日前》
前田「…ん…ここは…?」
冷たい床の上で目を覚ました前田は、見慣れない景色に怯えた表情を浮かべた。
――確か移動車に乗って現場に向かっていたはず…でもここはどこなの?
高橋「気がついた?あっちゃん…」
前田の様子に気付いた高橋が駆け寄る。
前田「たかみな…ここどこ?みんなは…」
高橋「大丈夫、みんないるよ」
前田「ここは…?」
高橋「わかんない。気がついたらみんなここに寝かされていて…」
前田の問いかけに、高橋は暗い表情を浮かべた。
高橋「一体何が起きたのか…マネージャーさん達もいないし…」
前田はゆっくりと辺りを見回した。
どこかの部屋のようだが、殺風景で家具らしい物は何1つ置かれていない。
メンバーは皆数人ずつかたまり、不安に肩を震わせていた。
7 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:39:59.01 ID:oupraDg70
前田「あ、あれは…?」
部屋の中央に置かれた奇妙な箱が、前田の目に映った。
高橋「わからないんだ。何かのドッキリなのか…でもそのわりには手がこんでるし…」
高橋が肩を落とした瞬間、部屋の中にノイズ音が響き渡った。
それはすぐに機械的な音声へと変わる。
『AKBの皆さん、こんにちは』
前田「え?何?」
高橋「こんな状況だし…妙に気味悪く聞こえる声だね」
仲川「こんにちはー」
素直な仲川が子供番組の要領で元気よく挨拶を返す中、メンバー達は判断のつきかねた顔で、天井に設置されたスピーカーを凝視していた。
『突然ですが、皆さんは自分の役割について考えたことがありますか?自分が本当はどんな人間で、どのような思考を持つのか、振り返ってみたことはありますか?』
音声は淡々と、メンバー達に問いかけてくる。
8 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:40:51.27 ID:oupraDg70
『偉い人達に言われるまま、作られたアイドル像を演じてはいませんか?まるで人形のように…。あなた方は本当に自分の意思で行動していると、胸を張って言えますか?』
その問いかけに、メンバーはそれぞれ黙り込んだ。
――あたしは…正直アイドルすぎるぶりぶりの衣装が好きじゃない…。でも文句も言わず着ている…。
板野は自分の行動を振り返り、愕然とした。
――確かに言われてみれば…AKBの衣装を着ているあたしは、あたしらしくないかもしれない…。
板野はそこで、ひそかにため息をついた。
同時に部屋のあちこちからメンバーの声が上がる。
指原「胸を張りたくても、指原張れるほど胸ないし…」
松井「あたしも」
梅田「ね?」
そんな中、沈黙していた音声が再開された。
9 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:42:56.48 ID:oupraDg70
『そこであなた方には今日からここで、我々が与えたより過酷な役割を演じてもらいます。演じることを通して、本来の自分の役割、自身の考えを見つ直してみてください』
『きっとここから出た時、あなた方は自分自身の本当の姿に気付き、これまでの作られたアイドル像とは違う、新しいアイドルの姿として生まれ変われることでしょう』
大島「演じるって…何…?みんなでコントでもしろって言うの?」
演じるという言葉に、大島の目の色が変わる。
峯岸「優子、そこは普通女優だったらコントじゃなくてお芝居のほうを想像するでしょ」
すかさず峯岸が指摘した。
大島「あ、そっか」
『あなた方が演じる役割…それは囚人と看守です。ここは刑務所の中だと仮定してください。それでは早速、どちらを演じるか、決めていただきましょう。中央の箱からくじを引き、赤色の番号が書かれていれば囚人、青色の番号が書かれていれば看守です』
『自分がどちらかわかったら、箱の下からそれぞれに見合った制服を取ってください。それではお近くの方から順に、くじを引いていただきましょう』
看守と囚人に分かれる実験みたいな感じかなwktk
11 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:43:45.13 ID:oupraDg70
そうは言われたものの、メンバー達は互いの出方を窺って箱に近づこうとはしない。
見かねた高橋が、意を決して立ち上がると、箱へ手を伸ばした。
高橋「みんな箱の前に並んでー。とりあえず言われた通りにしてみよう。あたしから引くよー」
高橋はそう言うと、箱の中を探った。
すぐに1枚の紙を取り出す。
高橋「赤色の7番、囚人です」
高橋がくじを引いたのを見て、メンバー達が動き出す。
囚人と看守…自身の演じる役割が決定したところで、今の状況を把握できるとは思えなかったが、言われた通りにしない限りは情報を提示してもらえることはなさそうだ。
メンバーはみんな諦めの表情で、おとなしくくじを引いた。
12 :
忍法帖【Lv=40,xxxPT】 :2012/02/27(月) 14:43:55.64 ID:8gVu6n+R0
またまた良スレの予感
wktk
13 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 14:44:53.00 ID:e2VXfq/yP
エスだっけ
14 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:44:53.21 ID:oupraDg70
板野「あっちゃんどっちだった?」
前田「青色だから…看守だ!えー、たかみなと分かれちゃったよー。ともちんどっちだったの?」
板野「あたしもたかみなと一緒で囚人」
前田「えー、にゃんにゃんは?」
小嶋「あたしも囚人だよー」
これから何が始まるのか。
メンバーが不安げな顔をする中、小嶋だけはいつもの調子でのんびりと、引いたばかりのくじをペラペラと振ってみせた。
大島「あたしも囚人ー。にゃんにゃん一緒だね」
大島は小嶋のくじを見て、わずかに頬を緩めた。
しかしまだ緊張は隠せないようである。
15 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:45:52.25 ID:oupraDg70
河西「ねぇねぇ佐江ちゃんどっちだったの?」
宮澤「あ、あたしは囚人だったよ。ほら」
河西「なんかあたしが引いたの白紙だったんだけど、ミスか何かかなぁ」
宮澤「え?白紙なんてあるの?」
河西と宮澤が話す中、高橋はきょろきょろと辺りを見回していた。
高橋「えーっと、看守の制服が1つ余ってるみたいだけど、まだくじ引いてない人ー?」
高橋の呼びかけに、怯える佐藤すみれを宥めていた篠田が気がついて、片手を挙げる。
篠田「あ、あたしだ。ごめんごめん」
篠田が看守の制服を手にしたところで、再び音声が始まった。
16 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:46:45.61 ID:oupraDg70
『皆さん、自身の役割はわかりましたね?3名の方はくじが白紙だったと思いますが、そちらの方は料理係です。これから囚人と看守、全員分の食事作りを担当してもらいます。3名の方、手を挙げてください』
河西と米沢、竹内が恐る恐る手を挙げた。
北原「良かったー。ともーみちゃんが料理係にいるなら、まともな食事が食べられそうだね」
看守の制服を手にした北原が、満足げに頷いた。
仁藤「里英ちゃんそこ心配する?」
仁藤が信じられないものでも見たような顔で、北原の発言に突っ込む。
北原「えー、食事は大事だよ」
北原は当然といった顔で、仁藤の言葉に返した。
17 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 14:47:07.13 ID:H+biC8GJO
◆4zj.uHuFeyJ8って
前田「私が犯人?」の人?
柏木「秋元先生が一位?」の人?
18 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:48:12.49 ID:oupraDg70
『料理係のルールですが、食事の配膳をする以外、無闇に刑務所内を出歩くことを禁止させていただきます。寝起きは厨房の横にある部屋を仲良く使ってください。手洗いと入浴は2階にある看守用のものを共用で使っていただきます』
『細かい指示は放送にてお伝えしますので、3名の方は移動をお願いします。厨房は地下です。この部屋を出た左手に階段があります』
河西「米ちゃん、行こう」
米沢「う、うん…」
竹内「あ、よろしくお願いします」
3人は短く言葉を交わすと、揃って部屋を出て行った。
『それではこれから、囚人と看守のルールをお伝えします』
音声は冷静に、説明を続ける。
19 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 14:49:47.43 ID:mgW7nNyZ0
よねちゃんって・・・
20 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:50:13.16 ID:oupraDg70
『囚人の1日のスケジュールは決められています。朝6時起床、起床後すぐに洗面と食事を済ませ、7時から夕方の5時までは作業時間です。途中、1時間休憩が入ります』
『作業についてはその都度、こちらから工具や部品を支給します。作業終了時間までに必ず与えられた仕事を終わらせてください』
大島「1時間の休憩を抜いて…1日9時間労働か」
高橋「まぁそんなの普段に比べたら全然」
大島と高橋はいくらか拍子抜けした表情を浮かべた。
『作業後は1時間ほど休み、6時を夕食の時間とします。そして7時から8時までは自由時間…互いの房を行き来し、自由に話したり、入浴をすることもできますが、それ以外の作業時間内は私語厳禁ですので気をつけてください。作業中は、仕事に専念しましょう』
前田亜「ぼうって何ですかね」
大家「房はたぶん監房のことだよ。牢屋」
前田亜「え?囚人てやっぱり、牢屋に入れられるんですか?」
驚きの声を上げた亜美の手には、囚人の制服が握られている。
21 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:51:07.21 ID:oupraDg70
『くじに書かれた番号順に2人で1つの監房を使っていただきます。自由時間以外でのお手洗いに関しては、看守に申し出てください。看守はそれぞれの監房の鍵を携帯しております』
前田「あ、ほんとだー。ベルトに鍵が付いてる」
前田が気がついて、囚人の制服を探った。
篠田「なんかほんとに…あたし達看守やるんだね…」
篠田は呆れた表情を浮かべている。
『また、囚人の行動範囲は制限されています。監房と作業部屋、手洗いと浴室以外の立ち入りは禁止です。また、時間外での作業部屋と浴室への立ち入りも禁止されていますので、皆さん時間を守って行動しましょう』
仲川「はーい」
仲川はなぜかわくわくとした調子で、元気よく返事をした。
彼女の手にあるのは囚人の制服だが、あまり状況をわかっていないのか、メンバーとお泊り会でもすると勘違いしている節が見受けられる。
22 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:52:27.46 ID:oupraDg70
『看守は囚人の行動を厳しくチェックし、ルールを破った囚人を見つけたらすぐに注意してください。看守は看守の役割というものをきちんと理解した上で行動していただきます。もちろん、看守として制服は正しく着用しましょう』
前田「看守の役割かぁ…」
前田は不安げに囚人の制服を見つめた。
カーキ色のシンプルな制服が、途端に威圧的に見えてきてしまう。
峯岸「うるさい人がいたらとにかく注意すればいいんじゃない?」
峯岸はそう言って、前田の肩を叩いた。
『そしてここからが重要なルールです。1日の作業が終わった時点で、看守は囚人の中からその日1番駄目だった者、ルール破った者を1人決めて、懲罰房へ入れてください。懲罰房へ入れられた囚人は1日そこで反省していただきます』
『1人の囚人が5回懲罰房へ入った時点で、我々が提示した役割は終了となり、あなた方は全員解放されます。それまで、ここから出ることは出来ません』
23 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:54:14.08 ID:oupraDg70
板野「ここから出られないって…どうしよう…」
大島「ともちゃん?」
秋元「仕事とかあるし、いいともなんて生放送だよ?どうすんの?」
指原「ですよね、絶対放送に間に合わないですよ」
『あなた方がきちんと役割を演じているか、ルールを破ったのに野放しにされている囚人がいないか、我々は常に監視しています。くれぐれも演じることを忘れないようにお願い致します』
『囚人の皆さん、看守の命令は絶対ですよ。看守の皆さん、看守としての立場をどうかお忘れなく』
『それからあなた方の私物に関してですが、持込みは可能です。ただし、外部との連絡がつかないように、携帯電話は特殊な電波を流し、電源が入らないようにされていますから使えません』
24 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:54:51.79 ID:oupraDg70
前田「え、携帯使えないって!」
篠田「うん」
峯岸「あ、ともーみ荷物忘れてってる。後で届けてあげなきゃ」
永尾「あの、これ美宥ちゃんの荷物なんですけど…」
峯岸「うん、持って行ってあげてー」
永尾「はい」
前田「米ちゃんのはー?」
平嶋「こっちにあるよ」
平嶋が鞄を持ち上げた時、サイレンが鳴った。
甲高く、妙に勘に触るその音色に、メンバーは皆眉をしかめる。
『それではスタートです。囚人の監房は1階、看守の部屋は2階です。看守は囚人を監房へ入れた後、2階に上がってください。全員着替え終わった時点で作業を開始してもらいます。囚人を迎えに行き、2階の作業部屋へ連れて行きましょう。細かい指示は追って放送が入ります』
音声が切れると、諦めと困惑が入り混じり、複雑な表情を浮かべたメンバー達が肩を落としていた。
25 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:55:45.38 ID:oupraDg70
数分後――。
大島「これに着替えたら作業開始かぁ」
仲俣「なんか緊張しますね。懲罰房って…この部屋と何か違うんでしょうか?」
第9監房では、仲俣がため息混じりに部屋の様子を観察していた。
仲俣「どこの監房も同じ感じなんですかね」
大島「そうじゃない?」
壁際には二段ベッドが置かれ、反対の壁には小さな机。それだけの家具で、ほとんどスペースが埋まってしまうほどの狭い部屋である。
窓はなく、通路からの光と、天井から吊るされた小さな蛍光灯がそんな部屋の中を照らしている。
通路側は鉄格子となっていて、誰かが通ればすぐにその姿が確認できるようになっていたが、開放的というよりは屈辱的な眺めであった。
仲俣は自分が動物園の檻に入れられた哀れな野生動物のように思えてくる。
26 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:56:34.30 ID:oupraDg70
大島「すごいよ、本当に鍵掛けられてる」
大島は鉄格子に掛けられた鍵を観察していた。
下に隙間があるのは、食事を受け渡す時のものだろうと推測する。
念のため頭を通してみようと試みたが、肩でつっかえてしまって小柄な大島でも通り抜けることは不可能だった。
仲俣「一度扉を閉めると、自動的に鍵が閉まるみたいですね」
大島「トイレ行くたびにここから看守を呼んで鍵開けてもらうの?」
仲俣「あ、このボタン…これで呼ぶんじゃないですかね。ナースコールみたいに」
大島「なんか面倒だなぁ…。本当囚人て行動が制限されてる。トイレくらい自由に行かせてほしいよ」
仲俣「なんか大島さん…落ち着いてますね。怖くないんですか?」
27 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:57:07.57 ID:oupraDg70
大島「うーんそうかな…。あんまり緊張とか顔に出ないタイプなんだよね」
仲俣「羨ましいです」
大島「仲俣ちゃん、大丈夫?顔色悪いけど…」
仲俣「はい…わたし怖くて…詳しい説明もなく囚人だ看守だなんて強要されて…こんなわけわからないところに閉じ込められて…わたし達一体どうなるんでしょう?」
大島「仲俣ちゃん…大丈夫だよ。一応さっきの説明で解放してもられることは約束されてたんだし、それまで頑張ろう。何か辛いこととか、我慢出来ないことがあったら聞くから」
仲俣「はい…ありがとうございます」
不安と緊張で硬くなっていた仲俣は、大島の言葉を聞き、ふくよかな頬をわずかに緩ませた。
と同時に、大島と同室に慣れたことを幸運に思うのだった。
28 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:58:29.78 ID:oupraDg70
一方その頃、第7監房では――。
指原「ぱるる一緒の部屋なんだね」
指原はびくびくと視線を泳がせる後輩の島崎の姿を見て、ますます恐怖心を募らせていた。
たまりかねた指原は、島崎に泣きつく。
指原「えぇぇぱるるちょっと落ち着こうよ。ぱるるがそんなだと指原までもっと怖くなっちゃうよぉぉ」
島崎「あ、ごめんなさい」
島崎はそこでようやく気がついて、小さく声を洩らした。
指原「大丈夫だよね。ちゃんと指示に従ってればすぐに解放されるよね」
島崎「そ、そうですよね。ちゃんと…」
指原「うん…」
2人はそれぞれ不安要素を見つけたのか、そこで黙り込んだ。
――ぱるる…ぽんこつと言われてるけど大丈夫なのかな…。何かやらかしたら罰があるとかだったらどうしよう…。懲罰房が何とかってさっき言ってたし…。
29 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 14:59:08.65 ID:oupraDg70
指原はこっそり、島崎の青ざめた横顔を盗み見る。
整ったその横顔は、アイドル好きの指原にしてみればよだれを垂らしてしまうほどの可愛らしさを秘めているが、今はまだ、島崎を溺愛する余裕がない。
――駄目だ、ぱるるは頼れない…。いざとなったら誰か別の…。
指原はそこで、大家が第14監房にいることを思い出した。
指原と島崎のいる第7監房は角部屋である。
――となると…しいちゃんは単純に考えて指原の部屋の真上にいるわけか…。だけど下から上へ話しかけるれるわけないし、自由行動までは話せそうにないな…。
監房には鉄格子が嵌められているので、隣の監房同士ではお互いの顔を見ることは出来なくとも、声を掛け合うくらいは出来そうだった。
指原「あ、あれ?」
島崎「ど、どうしたんですか?」
指原はそこで、おかしな点に気が付いた。
30 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:00:07.14 ID:oupraDg70
指原「囚人の部屋は1階って言われたよね?全部で14房あるはずなのに第7監房の指原達は角部屋…」
島崎「はい、だから第8監房以降は2階じゃないですか?」
指原「でも2階は看守の部屋と作業部屋があるって…じゃあどういうこと?しいちゃん達どこにいるの?」
島崎「そういえばこの天井…妙に低いですよね」
指原「あ、そっか。後から上と下に分けたのかも」
島崎「え?どういうことですか?」
指原「元々は1階だけだったものを、後から1階と2階に分けたんだよ。だから天井が低いんだ。看守の部屋は2階。囚人の部屋は1階だけど、正確には1階と1.5階に分けられているんだよ」
島崎「じゃあ第8監房から先は1.5階になるんですね」
指原「うん、たぶん」
そう考えに行き着いた途端、不思議なもので圧迫感が漂い始める。
指原「どうりで狭いわけだ」
31 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:00:44.51 ID:oupraDg70
島崎「でも狭いわりに…なんだか寒いですねこの部屋」
指原「え?指原寒い?」
島崎「あぁ違います違います。何だか隙間風が…」
指原「あ、そういえば…。角部屋だからかなぁ」
指原はそう言って、監房の中を見渡した。
そうすることで隙間風が入って来る場所に見当がつけられると思ったのだ。
指原「ここだ…」
指原はそこで二段ベッド側の壁に切れ込みのようなものが入っているのを確認する。
島崎「何ですかこれ」
指原「さぁわかんないけど…ここから風が入ってくるみたい。とりあえず枕を立て掛けておこう」
島崎「そうですね」
しかしそうしたところで、鉄格子のほうからはひんやりとした通路の空気が伝わってきてしまう。
2人は狭い部屋で身を寄せ合い、作業までの時間を待つことにした。
32 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:01:33.47 ID:oupraDg70
一方その頃、第13監房では――。
板野「はるきゃん、床だと冷たいからこっち座りなよ」
監房に入ってからほとんど会話のなかった板野と石田だったが、寒そうに震える石田を見かねて、板野のほうから声を掛けた。
石田「あ、大丈夫です」
しかし石田は気を使っているのか、冷えた床にあぐらをかいている。
板野「寒いのもあるけど、まずちゃんと座りなって。足開かないで」
板野には昔から、見た目にそぐわず妙に礼儀正しいところがあった。
すべて両親の教育の賜物である。
女の子があぐらをかいてはいけませんと、板野は小さい頃から厳しく育てられていた。
石田「じゃあ失礼します」
石田は渋々といった調子で、板野が座るベッドに腰を下ろした。
二段ベッドの一段目は、普通に座ると頭をぶつけてしまう。
自然と背中を丸めるような姿勢になってしまうが、床に座るよりはマシだろうと板野は考えていた。
33 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:02:30.91 ID:oupraDg70
板野「どうなっちゃうんだろうね…これから…」
石田「さぁ…」
板野の言葉に、石田は気のない返事を洩らした。
――まただ…。どうしてあたしはいつもこうなんだろう…。
板野は妙に距離を取りたがる石田の言動が気になっていた。
そしてそれは、すべて自分の見た目のせいだろうと考え、心を痛めた。
このようなことは幼い頃から何度も経験している。
しかし一向に慣れることはない。
人から勘違いされる度、板野は傷ついてた。
自分の見た目が、きつそう、怖そう、冷たそうなどと思われてしまうことはわかっている。
そのせいで損をすることも多い。
板野は自分が人から勘違いされやすい外見をしていることも充分承知していた。
しかし話をすれば、たいていその誤解は解けるのだが…。
――はるきゃん、やっぱりあたしのこと苦手だと思ってるのかな…。
石田もまた、先輩に媚を売るような性格ではない。
正直すぎるその態度もまた、他人から見れば誤解されやすいのかもしれないが、そのぶん板野は石田のことを理解してあげられると思っていた。
そしてそんな石田の性格に、好感を持っていた。
だからこそ、この状況を2人で励まし合いたいと考えているのだが、それはなかなか時間がかかりそうだ。
板野「頑張ろうね…はるきゃん…」
今日のところはそっと声をかけるだけに留めて、板野は石田の具合を気遣ったのだった。
34 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:03:21.04 ID:oupraDg70
【くじ引きによって決まった役割】
・囚人
01房―岩佐、鈴木紫 02房―菊地、島田 03房―秋元、小林
04房―高橋、山内 05房―渡辺、佐藤亜 06房―宮澤、仁藤
07房―指原、島崎 08房―横山、中塚 09房―大島、仲俣
10房―高城、鈴木ま 11房―仲川、増田 12房―小嶋、市川
13房―板野、石田 14房―大家、前田亜
・看守
前田、篠田、倉持、片山、多田、仲谷、松原、中田
峯岸、梅田、藤江、内田、野中、松井、田名部
柏木、北原、平嶋、宮崎、小森、近野、佐藤夏、佐藤す
大場、永尾、阿部、入山、中村
・料理係
河西、米沢、竹内
35 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 15:03:25.70 ID:e2VXfq/yP
ともちんが主役か
36 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 15:04:35.10 ID:mgW7nNyZ0
11房はるごんとゆっぱいうるさそうだなぁw
37 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 15:04:59.00 ID:AuoWCqui0
あの実験がモデルか。なんとなく怖い。続き楽しみにしてます!
38 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:05:15.01 ID:oupraDg70
一方その頃、厨房では――。
河西「結構広ーい」
河西は厨房を見渡し、感嘆の息を洩らした。
先ほどまでの緊張も幾分和らいだようである。
日頃から料理好きで、キッチンに立つことの多い彼女にとって、料理係になれたことは幸運だったのかもしれない。
河西は物珍しげに大鍋や中華鍋を手に取り、すでに今日の献立について考えを巡らせていた。
米沢「調理器具は…あ、ここだね。全部吊り下げられてる」
米沢もまた河西を見習い、厨房の中を見て回る。
菜箸やフライ返しの類はすべてシンクの上から吊るされ、手に取りやすいようになっていた。
なかなか使い勝手の良さそうな厨房である。
39 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:06:53.79 ID:oupraDg70
竹内「食材は…ここですね。すごいですよ、いっぱいあります!」
竹内は食料庫を見つけ、中を覗き込んだ。
缶詰や乾物などが入った棚の隣には、家庭用の3倍はあろうかという大きさの冷蔵庫がどんと置かれていた。
中にはぎっしりと肉や野菜が詰め込まれている。
河西「メンバーの分全員の食事だもんね」
河西は竹内の肩越しに食料庫を覗き、ため息をついた。
河西「大丈夫かなぁ…どのくらいの量作ればいいか見当もつかないよ」
厨房に入った時の興奮はすでに覚め、料理係としてのこれからに不安を持ち始めている。
米沢「でもやるしかないよね。囚人と看守役になっちゃった子達はもっと大変だと思うもん。その分しっかりと栄養のあるごはんで、瑠美達がサポートしてあげなきゃ」
河西「うん、そうだね!頑張ろう」
米沢の言葉に、河西が大きく頷く。
竹内「あの…それで言いにくいんですけど…」
竹内がおずおずと口を開いた。
40 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:07:49.77 ID:oupraDg70
米沢「何?」
米沢が首を傾げる。
竹内は米沢の大きな目に覗き込まれ、少しの間もじもじとしていたが、やがて決心したように言った。
竹内「美宥、お母さんのお手伝いをするくらいで…あんまり料理という料理は作ったことないんです。お菓子作りの経験ならあるんですけどぉ…」
そうして竹内は申し訳なさそうに睫毛を伏せた。
河西「だ、大丈夫だよ。包丁くらい使えるでしょ?」
竹内「はい。でもたぶん河西さんや米沢さんと比べたら切るのは遅いと思います」
米沢「あ、平気平気。瑠美達は料理するのが仕事で、それ以外は特に何も言われてないもん。調理時間はたっぷりあるんだから、ゆっくりやろうよ」
竹内「はい、ありがとうございます」
米沢に励まされ、竹内もまた元気を取り戻したようだ。
いつもの可愛らしい笑顔を浮かべ、小さく頷く。
41 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:09:06.06 ID:oupraDg70
河西「それで、早速だけど今日の夕飯は何にする?」
米沢「これだけ食材が集まっていると何でも作れちゃうぶん、献立決めるのに迷うなぁ」
竹内「皆さんそれぞれ好き嫌いとかありますよね」
3人はそこでしばらく頭を悩ませた。
米沢「そういえば、まゆゆは野菜苦手じゃなかったっけ?」
河西「あー、あの子そうだった!どうしよう…でもあっちゃんみたいに野菜大好きなメンバーも多いしなぁ」
竹内「そうですね。美宥も野菜は好きなほうです」
米沢「瑠美は基本何でも食べられるけど…」
河西「あ、じゃあとりあえず今日はポテトサラダとパプリカの肉詰めにしようよ!あたし得意なんだー」
竹内「へぇ、おいしそうですね」
米沢「いいじゃんいいじゃん」
河西「野菜は野菜でもじゃがいもならまゆゆだって食べられると思うし、肉詰めはまゆゆのだけパプリカに詰めないで、小さく丸めてミニハンバーグにするの」
竹内「はい」
米沢「オッケー!じゃあ早速下ごしらえ、始めちゃう?」
河西「うん」
竹内「頑張ります」
42 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:09:38.29 ID:oupraDg70
河西「美宥ちゃんお米研げる?」
竹内「はい、それくらいならいつもお母さんのお手伝いでやってるので」
米沢「じゃあ瑠美はひき肉持って来るねー」
河西「あたしは…じゃがいもの皮むきから始めようかなー。一体何個使えばいいんだろう」
米沢が冷蔵庫に手をかけると、河西はネットから次々とじゃがいもを取り出し、シンクの中に広げる。
竹内はその様子を困ったように見つめた後、慣れない手つきで大量の米を計量し始めた。
河西「美宥ちゃん、それ終わったらこっち手伝ってくれる?」
竹内「あ、はい」
こうして料理係としての役割を務めはじめた3人であった。
43 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 15:09:58.64 ID:DQQooGdX0
>前田「米ちゃんのはー?」
>平嶋「こっちにあるよ」
泣いた
44 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:15:39.16 ID:oupraDg70
一方看守の部屋では――。
前田「着替え終わったー」
前田は看守の制服に袖を通し、満足気に鏡の前でチェックを始めた。
元々は事務所か何かとして使われていたらしいその部屋は、隅にデスクやファイル、文房具の類が集められ、ずらりと二段ベッドが並べられている。
反対の壁際にモニターとソファセットがある以外はがらんとしていて殺風景な印象だが、幸いなことに鏡だけは大きめのものが壁に設置されていた。
身だしなみのチェックだけはまともに行えそうである。
前田「サイズぴったりだったみたい」
看守役のくじを引いた面々は、それぞれカーキ色の制服を見に纏い、腰には囚人の監房の鍵束をぶら下げている。
峯岸「ねぇ、これは?」
峯岸は看守の制服とセットになっていた腕時計を手に、首をかしげた。
45 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:16:48.28 ID:oupraDg70
藤江「スケジュール通りに動けるようにかな」
峯岸「えー、でもこれなんか重たいし、つけたくないなぁ」
藤江「うん」
北原「とりあえずここに置いておく?」
峯岸「そうしよそうしよ」
峯岸が時計を机の上に放ると、北原と藤江も同じようした。
その様子を見て、傍で着替えていた柏木が目を丸くする。
柏木「ちょちょちょ…え?いいの?さっき放送でちゃんと制服を着るように言われなかったっけ?」
峯岸「えぇー」
峯岸はあからさまに不快感を表し、眉を寄せた。
瞬間、柏木は困ったように視線を落とす。
片山「え?何?みんな腕時計つけないの?片山もうつけちゃったんだけど。外そう」
片山は2人の間に流れた不穏な空気に気付かず、つけたばかりの腕時計のベルトに手をかけた。
しかしすぐに焦りを含んだ表情を浮かべる。
46 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:18:21.97 ID:oupraDg70
片山「え?え?何これどうやってつけたんだっけ?外れないんだけど」
中田「またはーちゃんそんな…機械オンチにも程があるよ。まったくばばぁなんだから」
中田はそんな片山の様子を呆れ顔で見守る。
その時、何かに気付いた篠田が、壁際に置かれたモニターを指差した。
篠田「あ、あれ見て!」
篠田の示したモニターには、赤い文字が浮かび上がっている。
【看守は与えられた制服を正しく着用してください。】
峯岸「え?嘘見られてるの?」
文面を確認した峯岸の顔色が変わる。すぐさま放り投げた腕時計を手に取ると、慌てた様子で装着し始めた。
北原と藤江も腕時計を手に取る。
47 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:19:16.41 ID:oupraDg70
前田「ほんとだったんだ…あたし達の様子を監視しているって…」
前田はそこで驚きの表情を浮かべた。
心のどこかで、何かの番組の企画したドッキリか何かだろうと期待していたのだ。
しかし着替えの様子まで監視されているということは、その期待が外れているのは明らかだ。
そう気がついて、先ほどまで悠然と構えていた前田は、一気に絶望感に襲われた。
――誰がこんなこと企画したのかわからないけど、本当にあたし達ここに監禁されてるんだ…。一体これからどうなっちゃうの…?
部屋にいるメンバーも全員前田と同じことに気がついたらしく、暗い表情を浮かべていた。
佐藤すみれにいたっては、すでに泣き出しそうな顔で、目を潤ませている。
野中「あ…」
最後に腕時計を装着した野中が視線を上げた瞬間、モニターに映し出されていた文字が変わった。
【本日分の作業パーツはすでに作業部屋に用意してあります。囚人を誘導し、作業を開始させてください。囚人は作業中、私語厳禁です。】
48 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:19:57.51 ID:oupraDg70
メンバー達が迷っていると、最年長らしく、篠田が先に動いた。
佐藤す「篠田さん…」
篠田「大丈夫だよ。指示に従っていれば、ここから出してもらえるよ」
篠田が動いたのを見て、メンバーはのろのろと、しかしいくらかの希望を見出して重い腰を上げる。
篠田「たかみながいないとどう仕切ったらいいかわからないな」
篠田は誰にも聞こえない声で、ぽつりと呟いた。
彼女は彼女で、これからの看守としての仕事に不安を抱えていたが、怯える年少メンバーがいる手前、それを表に出すことのないよう気をつけていたのだ。
しかしふとした瞬間、やはり本音がこぼれてしまう。
前田「麻里子…大丈夫?」
誰にも聞かれていないと思っていたのに、前田にだけは気付かれてしまったようだ。
前田は心配そうに眉を寄せ、篠田を見上げた。
篠田「平気平気。うちらが何か変なことしたらみんなの解放が遅れちゃうじゃん。頑張ろう」
篠田は無理に笑顔を作り、前田の肩を優しく叩いた。
49 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:20:30.34 ID:oupraDg70
数分後、作業部屋――。
篠田「えーっとこの説明書によると、この吸盤を溶剤でこれにくっつけて、25個ずつ袋詰めしたらダンボールに重ねて入れてください…だってー。まぁあとは取りあえずやってみてから、適当に自分の感覚で」
作業部屋に用意されていた大量のダンボール。
その中には細かい部品と一緒に、作業工程を説明する紙が入っていた。
篠田はそこに書かれた説明文を元に、作業について説明する。
大島「あ、麻里子看守のリーダーになったの?」
篠田「そんなんじゃないよ。優子とりあえず1個作ってみて」
大島「うん」
大島は篠田の説明通りに作業をはじめた。
何事も器用にこなす大島らしく、パーツを見ながら感覚で組み立てていってしまう。
50 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:21:13.93 ID:oupraDg70
宮澤「え、優子すごーい」
少し離れた席から宮澤が首を伸ばし、大島の手元を凝視した。
囚人となったメンバーはテーブルに向かい合わせとなる形で着席している。
その周りを看守役のメンバーが取り囲んでいた。
大島「こんな感じ?」
篠田「うん、いいと思う。じゃあこれを見本として真ん中に置くから、わからなかったらこれ見てやって」
篠田は大島が組み立てたパーツをテーブルに置くと、作業開始の合図をするように、手を叩いた。
高城「はーい」
高城が小さく返事をした以外、囚人はすでに作業について口々に話し始めてしまう。
市川「こうですか?小嶋さん合ってます?」
小嶋「えぇー、あたしに聞かれてもわかんないよー」
高橋「違う違う、反対だよ。だよね?優子」
大島「そうそう」
囚人達のお喋りに包まれた部屋の中、看守もまた近くの者同士、適当に会話を始めた。
51 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:22:00.85 ID:oupraDg70
前田「あたし達は何してればいいの?」
篠田「見てればいいんじゃない?」
峯岸「うちらの分の椅子は?看守ってずっと立ってなきゃいけないの?」
篠田「わかんないけど、そうなんじゃない?」
峯岸「えー、立ってるだけなんて逆に辛くない?やることなくて」
峯岸は軽くストレッチをしながら、小さくあくびをした。
前田「ねー」
前田はしかし、これからのことを考えて不安を抱えたまま、峯岸のように指示された内容について文句を言う余裕はない。
センターとしての重圧に耐えながら、心の中は傷つきやすく、実はネガティブ思考なのだ。
ついつい今の状況を悪いほうへ考えてしまう。
――本当に今日からこんな生活続けるの?いつになったら解放してもらえるんだろう…。
52 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:22:37.32 ID:oupraDg70
そんな前田の隣で、峯岸もまた不安と絶望に打ちのめされていた。
しかし前田のようにその心情を表に出せないのが、彼女の良いところでもあり、悪いところでもある。
周りから明るく優しいみいちゃんを期待されるあまり、どんどん本音を出せなくなっていた。
今もまた、落ち込むメンバーを見て、わざと明るく振舞っているのだ。
仲谷「なんか…内職みたい…」
作業の様子を見ていた看守役の仲谷が、可憐な声を洩らす。
田名部「内職?」
隣に立つ田名部が、不思議そうに仲谷を見た。
彼女にとって、内職という言葉はまったく聞きなれないものだった。
仲谷「あ、あ、お母さんが昔、内職やってたから…」
仲谷はなぜか、バツの悪い顔をして、下を向いた。
その様子を見て、田名部はそれ以上訊くことをやめ、話題を変える。
田名部「まゆゆ…囚人役になっちゃったんだ…」
53 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:23:42.51 ID:oupraDg70
田名部が見つめる先では、渡辺が真剣な眼差しで作業を続けていた。
仲谷「大変そう。手伝ってあげたいけど…看守が作業を手伝ったら駄目なのかな…」
田名部「これを全部終了時間までに組み立てて箱詰めしなきゃいけないんでしょ?この人数だけで終わるとは思えないけど…」
仲谷「うん…」
仲谷と田名部が見守る渡辺の横、そこではすでに作業に飽きた仲川が、何やら作業とは関係のないことに夢中になっている。
仲川「うわーい、ドミノドミノー」
増田「あかんやんそんなことしたら。みんなちゃんと作業してんねんから」
仲川「だってただ作業してるだけじゃつまんないんだもん」
増田「だもんじゃないやろ。ちゃんとせな…」
その時、部屋のどこかから、悲痛な声が響いた。
近野「痛っ…」
54 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:24:52.25 ID:oupraDg70
メンバーが一斉に声の主を探し、視線を走らせる。
すぐに顔を歪める近野の姿が目に入った。
藤江「どうしたの?え?大丈夫?」
藤江が近野の駆け寄る。
しかし彼女もまた、どこかに痛みを感じてうずくまってしまった。
板野「何…どうしたの…」
板野ら、囚人の目の前で、看守役となったメンバーが次々に痛みを訴え、苦痛の表情を浮かべる。
『看守は看守の仕事を理解し、きちんと遂行してください。作業中は私語厳禁です。無駄話をしている囚人を見つけた看守は、すぐに注意をし、真面目に作業を行わせましょう』
『注意しない場合、その看守は仕事放棄していると見なし、罰が与えられます。看守の付けている腕時計からは、罰として強力な低周波が流れます』
55 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:25:31.25 ID:oupraDg70
大島「そんな…じゃあみんなには今、低周波が流れて…」
前田「痛い痛い…優子喋んないで」
大島「ごめん…」
柏木「亜美菜ちゃん、作業中は黙ってて」
佐藤亜「ごめんねゆきりん。わかった、亜美菜これからは喋んないよ」
囚人達はそれまで会話をしながら作業を続けていた。
しかしそれはルール違反である。
看守はそばにいる囚人に話をしないよう注意することで、低周波の痛みから逃れることができた。
倉持「ちゃんと注意して、囚人の子が言うことを聞いてくれたら低周波が止まる仕組みなんだ…」
倉持は感心したように言うと、腕時計の付いた左腕を擦った。
賑やかだった作業部屋が、一気に静まりかえる。
そんな中、いまだに低周波に苦しめられている看守がいた。
大場「痛い痛い…マジでビリビリするこれ」
56 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 15:25:49.21 ID:GN2bT1nl0
つまらん
57 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:26:04.29 ID:oupraDg70
大場はすでに近くの囚人――仲川に私語を慎むようお願いしている。
そして仲川もまた、増田らと話をしたい欲求をこらえて、口を閉じていた。
それなのに、大場の腕時計からは低周波が流れ続けている。
阿部「大場さん、何で低周波受け続けてるんですか?」
阿部が無表情に問いかける。
大場「わかんないよ…痛いこれ…嘘…外せない…」
大場は滅茶苦茶に腕時計を引っかきはじめた。
阿部はなぜかその様子を冷ややかな目で見つめている。
年少ながら、あまり周囲の出来事に左右されない阿部からは、すでに大物の風格が漂っていた。
『仲川さんは作業パーツでドミノをしています。作業中に遊ぶことを許されません。仲川さんの近くにいる看守はすぐに注意をし、やめさせてください』
大場「あ、そうか…そうだったんだ…」
大場はすぐに放送に従い、仲川にドミノをやめるようお願いした。
大場「お願いしまうはるごんさん、それ、今すぐ崩してください」
58 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:27:02.60 ID:oupraDg70
仲川「えー、崩さなきゃ駄目なの?せっかくここまで並べたのに」
大場「お願いします…痛い…痛い…」
仲川はドミノと大場を見比べ、困ったように眉を下げた。
篠田「はるごん…」
見かねた篠田が仲川へ駆け寄る。
前田「あ、麻里子駄目…!ごんちゃんに近寄ったらまた低周波が作動しちゃうかも…」
前田が止めるのをよそに、篠田は仲川にもとへ行き、無言でドミノを崩した。
仲川「あぁ…」
仲川が慌ててバラバラになったパーツをかき戻す。
その瞬間、大場は低周波が止まったようで、大きく安堵の息を吐いた。
阿部「あ、止まったんですか。良かったですね」
大場「ありがとうございます。篠田さん…」
篠田「いいよ。はるごん、注意されたらすぐに従わなきゃ駄目だよ。じゃないと周りの子達が痛い思いすることになっちゃうから」
仲川「はーい」
59 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 15:27:16.95 ID:e2VXfq/yP
ドミノw
60 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:27:30.31 ID:oupraDg70
篠田に注意され、仲川はしょんぼりと肩を落とした。
それからは皆、淡々と作業を続けた。
しかし心の中は激しく動揺している。
――少しでも囚人であるあたし達がおかしなことをしたら、看守の子達に低周波が流されてまう…。ちゃんとしなきゃ…ちゃんと…。
自分のミスで自分自身が罰を受けるのなら納得できる。
しかし、今の場合、罰を受けるのは自分ではなく看守達なのだ。
それもかなり強力な低周波…まともに立っているのも困難なほどの…。
何もしていない看守を、自分のせいで苦しめるわけにはいかない。
看守としても、自分以外のミスできつい罰を受けなきゃいけないなど、理不尽だろう。
囚人となったメンバー達は、看守を苦しめることのないよう、気を引き締めて作業に向き合った。
61 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:28:06.26 ID:oupraDg70
作業終了後――。
菊地「なんか大変だったね、作業」
島田「そうですね。あたし達が喋っていたせいで看守の人達に低周波…。かなり迷惑かけちゃって…明日は気をつけないと」
菊地「そうだね。自分のせいでとか、嫌だよね」
島田「嫌というか、申し訳ないです。ほんと…」
菊地「うん」
第2監房では、同室の菊地と島田が先ほどの作業について話し合っていた。
体育会系で責任感の強い島田は、自分達のせいで看守を苦しめる結果となったことに納得がいかず、強く反省している。
一方菊地は、くじ引きで看守にならないで良かったと思いながら、適当に島田の話を聞き流していた。
河西「はーい、夕飯ですよー」
しばらくすると、料理係の3人がワゴンを押して監房の前にやって来た。
格子扉の下のスペースから、食事の乗ったトレーを差し込む。
62 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:28:47.20 ID:oupraDg70
米沢「下からごめんね。まだあったかいからどうぞ」
米沢は意識して口角を上げながら、囚人の2人に声をかけた。
よほど作業がきつかったのか、菊地と島田は疲れた顔をしている。
その様子を見て、心が痛んだ。
そういう米沢もまた、慣れない大量の食事作りで疲労しているのだが、そんなことは顔に出さないよう気をつけている。
菊地「あ、ポテトサラダだ!おいしそう!」
米沢「ともーみちゃんが味付けしたから、おいしいよー」
島田「すごいですね!河西さん可愛いだけじゃなくて料理も出来るなんて、ほんと尊敬します」
島田は素直に河西へと羨望の眼差しを送る。
河西「えー、そんなこと言ってもおかわりないよー」
褒められた河西は、まんざらでもない笑顔を浮かべた。
63 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:29:25.01 ID:oupraDg70
竹内「あの、お箸にしますか?フォークがいいですか?」
竹内はワゴンからそれぞれ箸とフォークを出し、菊地に訊いた。
菊地「お箸!」
竹内「あ、はい…」
竹内が格子の隙間から箸を手渡す。
島田「あ、あれ?美宥ちゃんどうしたの?」
その時、島田が何かに気付いた。
竹内「え?」
島田「見せて。手…傷だらけじゃん。何があったの?」
竹内「あ、これ…じゃがいもの皮をむいている時、包丁で切っちゃって…」
島田「そんな…大丈夫なの?」
竹内「平気だよ」
島田「待って、あたし絆創膏持ってる」
島田はそう言うと、ベッドの上に置いた鞄を探った。
64 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:29:49.86 ID:oupraDg70
島田「良かったよ私物持込みオッケーで。あたしいつも鞄に絆創膏入れてるんだ」
すぐに目当ての物を見つけ出し、竹内に差し出した。
竹内「ありがとう…はるぅ…」
島田「うん」
河西「良かったねー美宥ちゃん。探しても救急箱なくて…困ってたんだ」
河西はほっと息をついて、竹内から絆創膏を取ると、丁寧に手当てをした。
竹内「ありがとうございます。河西さん…」
米沢「じゃあそろそろ隣の房行くね。まだ上の階にも配らないといけないし」
菊地「あ、ありがとうございましたー。いただきます」
島田「いただきます」
島田は竹内の傷に心を痛めながら、感謝して食事に手をつけた。
河西と竹内が作ったポテトサラダを、島田は今まで食べたものの中で一番おいしいと感じた。
65 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:30:23.01 ID:oupraDg70
30分後、看守の部屋では――。
【本日懲罰房行きとなる囚人を1人決めてください。決まったら、その囚人の番号を入力し、送信ボタンを押してください。自由時間になった時点で、その囚人の名を発表します。】
モニターには、話し合いを促す文字が点滅している。
あらかた食事を終えた看守達は、ぽつぽつとソファに集まり、懲罰房行きとなるメンバーを誰にするか話し始めた。
前田「やっぱりドミノの件があるし…ごんちゃん…なのかなぁ…」
前田が周囲の様子を伺いながら、小声でこぼした。
前田「でもみんなの前であれだけ注意されて…ごんちゃんすごく反省してると思うしなぁ…」
平嶋「そうだね。それで今から懲罰房に入れられるなんて可哀想だよ」
前田「うん」
篠田「懲罰房の中がどうなっているのかもわからないし、初日にはるごんはやめておいたほうがいいと思う」
篠田が静かな声でそう言うと、看守達は思い思いに頷き、その意見に同意した。
66 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:31:21.39 ID:oupraDg70
梅田「じゃあ誰にする?」
前田「誰かなんて…決められないよ…」
梅田「うん…」
片山「でもそうは言っても決めないと、また低周波流されちゃうかも」
峯岸「え、それはやだなぁ…」
篠田「うーん…じゃあえーっと…こもりん、誰かいる?」
小森「はい、見た感じ一番作業ペースが遅かったのはぱるるです!」
北原「小森またそれ話盛ってない?ぱるるちゃん、ちゃんとやってたよ」
小森「でも遅かった」
篠田「だけどはるごん同様、初日からぱるるじゃ可哀想すぎるよね」
内田「じゃあ同じく作業ペースが遅かった人といえば…さっしーですね」
67 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:31:50.05 ID:oupraDg70
多田「あー、遅かった遅かった。さっしー嫌ーい」
多田が大げさなしかめ面をする。
しかし方えくぼが目立つせいか、本人の思惑とは逆に、その表情は可愛らしいものになってしまう。
田名部「そう言って愛ちゃん、実はさっしーのこと好きでしょ?」
多田「嫌いだもん」
松井「らぶたんかわいいよらぶたん」
松井がちゃかすと、少しだけ部屋の空気が和んだ。
前田「ゆきりそはどう思うー?」
前田が無邪気に問いかける。
柏木は焦ったように、目を丸くした。
柏木「え?えーっと…」
そう言って目線を上へ向け、考える仕草を見せる。
――そんなの決められるわけないし…決めたら決めたで色々面倒臭いことになりそうだから嫌だなぁ…。
柏木は本音を隠し、愛想笑いを浮かべた。
68 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:32:24.04 ID:oupraDg70
柏木「えー、わかんない。でもさっしーだと必要以上にびびって周りの人まで怖がらせちゃうから、さすがに初日に懲罰房はちょっと…」
柏木が恐る恐るそう言うと、前田は案外すんなりと同意した。
前田「うん、そういえばそうだったね」
北原「さっしーすぐ腰抜かしたとか吐きそうとか言うし」
小森「大げさですよね」
北原「おまえが言うなよ」
小森「すみません」
ここまでのやりとりを聞いて、篠田がまとめる。
篠田「てことはやっぱり、懲罰房の中がどうなってるかわからない今、初日はへタレよりも打たれ強いメンバーを行かせたほうがいいってことかな?」
篠田の言葉を聞き、メンバーは納得の表情を浮かべる。
69 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:33:00.15 ID:oupraDg70
梅田「じゃあやっぱり才加?」
篠田「うーん…才加でもいいけど、あれで結構繊細だからなぁ…」
提案したところで、篠田のほうでも誰を選んだらいいかわからないでいた。
――優子ちゃんでいいんじゃないかな…。しっかりしてるし。
柏木はそう思ったものの、話がこじれて面倒臭くなるのが嫌で黙っている。
話を振られないよう、目線を下へ向けていた。
阿部「たかみなさん…」
空気を読みすぎる柏木とは間逆に、阿部は思ったことをそのまま口にしてしまう。
そして口にしたところで、本人に後悔の念は見えないところがまた恐ろしい。
前田「え?たかみな?」
阿部の言葉を聞き、思わず前田は立ち上がった。
前田「なんでたかみななの?たかみなだってああ見えて女の子なんだよ?」
峯岸「あっちゃん…それ微妙にひどい…」
前田「え?あぁ…」
70 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:33:43.15 ID:oupraDg70
篠田「うん、でもみなみならこっちも安心できるかも。確かに涙もろいけど、やっぱり頼りがいあるし」
篠田は阿部を気遣ってか、その意見に同意した。
前田はしかし、納得がいかないようで、渋い顔をしている。
前田「でも麻里子…たかみな結構怖がりだし…」
篠田「いや、みなみの性格から考えても今日はこの決定をしておいたほうが良さそうだよ」
前田「え…?」
篠田「たぶんみなみ以外のメンバーを懲罰房行きに選んでも、みなみはそれに反対する。最初は自分が行くと言い張ると思う。そういう子だよ、みなみは…」
篠田の言葉に、前田ははっと目を見開いた。
確かに、その通りであった。
責任感が強く、メンバー思いの高橋なら、目の前の危険にはまず自らが名乗りをあげるであろう。
71 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 15:34:32.55 ID:oupraDg70
前田「そう…だよね…。変に他の子を選んだりしたら、たかみな嫌がりそうだよね」
篠田「でしょ?」
前田「わかった。でも明日はたかみな以外のメンバーを選ぶようにしようよ」
篠田「うん、もちろん」
2人が言葉を交わしていると、それまで黙って話し合いを見守っていた中村がふっとため息をこぼした。
中村「毎日誰を懲罰房行きにするか選ばなきゃいけないなんて…辛いな…」
しっかり者といった印象のある中村だが、感受性が強く他人を思いやる気持ちが強い分、この話し合いはとても辛いものだった。
人が苦しんでいる姿を見ると、いてもたってもいられなくなってしまうのだ。
ましてやその苦しみに誰を突き落とすか決めるのは、看守である自分達。
彼女にとって、これほどきつい選択はない。
72 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 15:35:56.71 ID:e2VXfq/yP
たかみな可哀想
ごんでいいだろ
73 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 15:53:03.57 ID:5tR+BTKv0
遅かったさっしーでw
74 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 15:54:55.98 ID:BY71Rk6f0
んなこといっても最終的に誰かを5回懲罰房にぶち込まないと終われないんだよな
75 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 16:11:54.13 ID:/Pt7oAeUO
篠田「え?」
中村の呟きを、篠田は聞き逃さなかった。
中村「あ、すみません…」
中村はすぐに青い顔をして頭を下げる。
篠田「そうだよね、辛いよね…。麻里子ちゃんにとったらほとんどが先輩なわけだし…」
篠田は中村に駆け寄ると、その細い肩を抱いた。
中村「ごめんなさい…」
篠田「いいよ。明日からの話し合いについて、なるべく麻里子ちゃんが辛くならない方法を考えよう。大丈夫だから」
中村「篠田さん…ありがとうございます」
中村は涙を滲ませると、篠田に向かって何度も頭を下げた。
76 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 16:16:36.28 ID:/Pt7oAeUO
一方その頃、第7監房では――。
指原「やった、もうすぐ自由時間だ」
島崎「他の監房に遊びに行ってもいいんですよね」
指原「そうだよそうだよ。この時間を待ってたんだ」
指原が小さな掛け時計を見上げた時、サイレンが鳴った。
島崎「え?うわぁ」
格子に寄りかかっていた島崎が驚きの声を上げて飛びのく。
サイレンと同時に、鍵がかかっていたはずの格子扉がガラガラと大きな音を立ててスライドした。
島崎「開いた…」
指原「え?自動で開くの?」
島崎「そうみたいですね」
77 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 16:19:38.69 ID:/Pt7oAeUO
『これより1時間を自由時間とします。ただし、立ち入りを禁止されている区域には囚人は近寄らないようにお願いします。自由時間終了前には自分の監房へ戻っていてください』
音声が流れる。
指原はおそるおそるドアに近づき、頭だけを通路へ出してみた。
すると、同じく様子を窺って顔を出した他の監房のメンバーと目が合う。
指原「もう出てもいいみたい…」
通路の様子を見た指原は、島崎を振り返った。
格子扉で擦ってしまったらしい島崎は、痛そうに背中をさすっている。
通路ではすでに第1監房の岩佐と鈴木が出てきて、ちょろちょろと歩き始めていた。
指原「大丈夫?指原これからしいちゃんと亜美のとこ行くけど、ぱるるも一緒に行く?」
島崎「あ、あたしははるぅのところに…」
指原「そっか、じゃあまた後でね」
島崎「はい」
指原が監房を出ようと一歩踏み出した瞬間、またしても音声が流れた。
78 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 16:23:00.77 ID:/Pt7oAeUO
『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第4監房の高橋みなみさん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』
指原「え…たかみなさんが…?」
驚いた指原は、その場に固まった。
上から階段を下りてくる足音が聞こえてくる。
先ほどのように首だけ通路に出して様子を窺うと、第4監房の前に前田と峯岸が立っているのが見えた。
前田「たかみなー?ごめんね、迎えに来たよ」
高橋「あっちゃん…みぃちゃん…」
高橋の声が聞こえた同時に、その姿が通路に現れる。
高橋は驚きと、これから何が行われるのかわからない恐怖とでしきりに視線を泳がせていたが、指原と目が合うと無言で頷いてみせた。
指原を安心させるためにした行為であったが、それでも指原は不安げに前田と峯岸に挟まれて歩く高橋を見つめている。
79 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 16:39:09.42 ID:OpOs3CmsO
え、面白いwww
80 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 16:40:24.13 ID:rumOE+EY0
〜した、〜だった、たまに思い出したように〜する
文章下手糞かw
81 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 16:45:40.38 ID:PGuuUXG40
まとめ載るぞw
82 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 16:46:14.36 ID:9IDgg4Uf0
続き期待
たかみながんばれ!
84 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 16:52:30.34 ID:FdDpHTWR0
ドイツ映画で監獄実験を元にした映画あったよね
esだっけ
85 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 17:03:38.05 ID:BY71Rk6f0
86 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:05:34.37 ID:oupraDg70
指原「何でたかみなさんが…」
高橋はうつむき加減でゆっくりと通路を歩いてくる。
指原と島崎のいる第7監房の前まで来ると、体の向きを変え、奥へと続く通路を歩いて行った。
その先にあるのは重々しい鉄の扉。
前田がその扉を開けると、高橋は二言三言言葉を交わし、素直に部屋の中へと入って行った。
指原の位置からはその様子を見ることができる。
懲罰房は、第7監房の正面に位置していたのだ。
扉の隙間から部屋の中の様子を窺おうとしたが、暗くて確認することができない。
一体あの中に何があるのか。
高橋は懲罰房の中で、これからどんな過ごし方を強要されるのか。
高橋に続いて前田と峯岸が部屋の中へと入って行く。
しかし2人はすぐに部屋の外に出て来た。
青い顔をして、足早に立ち去っていく。
声をかけようとした指原だったが、その様子にしり込みして、結局何も訊くことができなかった。
――さっきの前田さんとみぃちゃんの様子…尋常じゃない…。たかみなさんはあの部屋の中で何をされているんだろう…。
87 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:06:32.94 ID:oupraDg70
指原はすでに自分がいつかは懲罰房へと入れられると覚悟している。
特に器用でも、作業が速いわけでもない自分は、きっと近いうちメンバーの足を引っ張り、懲罰房行きを言い渡されることだろう。
だからこそ、懲罰房の中がどうなっているのか、今から気になっていた。
島崎も指原と同じことを考えていたのか、言葉を失ってただただ懲罰房の扉を凝視していた。
指原「嫌な予感がする…。指原こういうの当たるんだ。ネガティブの勘てやつだよ」
島崎「はい…。一体あの中はどうなっているんでしょう」
指原「わからないけど、すごくまずい気がする。たかみなさん…大丈夫かな…」
島崎「……」
指原は監房から出ると、辺りの様子を窺いながら、懲罰房へと続く通路を進み始めた。
これが他の監房であったのなら、見ない振りができただろう。
余計な考えを起こすこともなかっただろう。
しかし、懲罰房はよりによって自分のいる第7監房のまん前なのだ。
気にするなというほうが無理な話である。
指原は懲罰房の扉の前まで来ると、そっと聞き耳を立てた。
そこで終わりだと思っていた通路は、まだ横へと延びている。
自分のいる建物が、コの字形をしていたことに指原は初めて気がついた。
横に伸びた通路の沿って、さらに同じような鉄のドアが3つ続いていた。
どうやら懲罰房は全部で4つあるらしい。
88 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:07:09.12 ID:oupraDg70
指原「……」
相当厚さのある設計なのか、中からは何の音も拾うことができない。
それでも指原は辛抱強く、扉の前で耳を澄ませていた。
――たかみなさん…そんな…ひどいこと…されてませんよね…?
指原が心の中で、懲罰房の中の高橋に呼びかけていた時、背後で靴音が聞こえた。
指原「ひぃっ…」
声にならない声を洩らす。
振り返ると、そこにいたのは慣れ親しんだ後輩の顔だった。
小森「何やってるんですか?」
89 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:08:05.85 ID:oupraDg70
小森は腰にぶら下げた鍵束が気になるのか、右手でいじくりながら指原に問いかけた。
小森の顔を見た瞬間、指原は安堵のためか急に足の力が抜け、その場にへなへなと座りこんだ。
指原「何って…やっぱり気になるじゃん。小森こそどうしたの?」
小森「自由時間だって聞いたから、遊びに来たんですよ」
指原「あ、そっか。囚人同士じゃなくても、自由時間なら看守も遊びに来れるんだ」
小森「そうみたいですよ。たぶん。えーっとそうですねぇ…特に何も言われてないんですけど」
指原「え?」
小森「あれ?何の話でしたっけ?あ、そうだ指原さん、ラジオ持ってます?」
指原「ラジオ?持ってないよ。何で?」
90 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:09:07.16 ID:oupraDg70
小森「ほら、看守の部屋ってテレビ見られないじゃないですか」
指原「ほらとか言われても知らないよ」
小森「今日プロレス中継があるんですよ。ラジオで聞けないかなーって思ったんですけど」
指原「え?」
小森「持ってないですか。そうかぁ…残念ですね」
小森ががっくりと肩を落とした時、指原が弱々しい叫び声を上げた。
指原「ひぃっ…」
小森「え?どうしたんですか?おなか痛いんですか?」
指原「違うよ。今なんか指原の足に触った!」
小森「え?ゴキブリですかね」
指原「ひぃぃぃやだやだやだやだやだ…」
指原が血相を変えてその場から飛びのく。
91 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:10:07.03 ID:oupraDg70
小森「大丈夫ですか?」
指原「大丈夫じゃないよ。監房なんて格子扉だからゴキブリなんてすぐ入ってきちゃうじゃん!……あれ?」
指原は鳥肌の立った足をぴくぴくと動かした。
その時、床の上の意外なものに気付く。
指原「これは…」
拾い上げる。
それは、もう何度も目にしたことのあるリボンだった。
指原「たかみなさんの…リボン…何でここに…?」
指原はゴキブリのことなどすっかり忘れて、リボンの落ちていたあたりに屈みこんだ。
すると、懲罰房のドアの下にわずかな隙間があることに気付く。
そこから中の様子を窺おうとするも、やはり暗くてわからなかった。
92 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:11:09.08 ID:oupraDg70
小森「リボン?どうしたんですかね」
小森が小首をかしげる。
指原「たぶん、このドアの下の隙間から出て来たんだ…。たかみなさん、何があってもリボン外さないはずなのに、なんで…」
指原の背すじに、冷たいものが走った。
懲罰房の中で、何かが行われている。
それはリボン好きの高橋が、そのリボンを構っていられなくなるほどの事態…。
指原「どういうこと…?」
リボンを持つ指原の手が震えた。
小森は何か言おうとして口を開き、それからすぐに苦痛に顔を歪め、しゃがみこんだ。
小森「……つっ…」
腕時計を付けた小森の腕が、激しく痙攣する。
指原「小森!」
指原が小森に駆け寄ろうとした時、耳障りなサイレンが鳴り響いた。
93 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:11:49.17 ID:oupraDg70
『立ち入り禁止区域にいる囚人がいます。見つけた看守はすぐに注意し、その囚人を立ち入り禁止区域の外へ出してください。懲罰を受ける囚人以外、懲罰房へ近づくことは許されません』
指原「これって…指原のことだ…」
指原が呟いた。
小森「指原さん、すぐに懲罰房から…離れてください…」
強度な低周波で息も絶え絶えになった小森が、声を振り絞る。
指原はすぐに今来た通路を掛け戻った。
第7監房の前まで来ると、背後を振り返る。
うずくまっていた小森は、低周波が止まったらしく、ふらふらと立ち上がるところだった。
それから小森は指原の視線に気付き、頬をふくらませて珍しく機敏な動作でこちらまで歩いてきた。
指原「小森…ごめんね…」
指原が下唇を噛んだ。
困った時や追い込まれた時に出る彼女の癖だ。
94 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:12:31.00 ID:oupraDg70
小森「大丈夫です。でももう嫌ですよこんなの…ほんと痛いこれ、もうやだ…くぅーん…」
小森はそう言うと、腕時計を叩きながら泣き出してしまった。
指原「え?指原のせいだよね?ごめんよごめんよぉぉ」
指原は慌てて小森の頭に手を伸ばした。
小森は自分より背の低い先輩に頭を撫でられながら、しゃくり上げている。
その様子を、どうしたらいいものかと島崎は悩みながら見守っていた。
やがて、騒ぎを聞きつけた大家と亜美が階段を駆け下り、第7監房までやって来た。
2人は第14監房にいたため、真下に位置する第7監房の声がよく届いたのだろう。
やって来た大家に慰められ、小森はようやく笑顔を取り戻した。
そのようなことがあり、指原は懲罰房の前で拾ったリボンについて、その他の囚人達に打ち明けることが出来なかった。
自由時間と点呼が終わり、眠りにつく前、島崎にだけはリボンのことを話しておこうと考える。
しかし怖がりの島崎にいらぬ心配はさせてはいけないと気付き、結局黙っておくことにした。
リボンは枕の下に隠す。
明日、高橋が懲罰房から出て来たら、返すつもりだ。
95 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:13:22.45 ID:oupraDg70
《2日目》
朝食を終えると、囚人達は昨日同様、作業部屋へと連れて行かれた。
その中に、高橋の姿はない。
次の懲罰房行きの囚人が決まるまで、出してもらえないルールなのだ。
つまり、高橋は今日の自由時間が始まるまで、引き続き懲罰房で過ごさなければならない。
板野「たかみな大丈夫なの?懲罰房ってどうなってた?」
板野は作業開始前、隙を見てそっと前田に尋ねてみた。
前田は曖昧に頷くだけで、肝心のことは教えてくれない。
しかし板野は、前田の表情から、懲罰房の中で恐ろしいことが行われていることを悟った。
昔から前田は考えていることが顔に出やすいのだ。
長い付き合いの板野は、彼女の表情パターンについては熟知していた。
96 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 17:16:37.79 ID:dYrsDbgQ0
これ元ネタ何?
97 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 17:18:57.38 ID:/Pt7oAeUO
篠田「時間だ。じゃあ説明通りやってください」
篠田の声で、作業が開始される。
昨日と同じく、細かい組み立て作業だった。
高橋が抜けたせいですっかり元気をなくした囚人達は、お喋りをする余裕もなく、皆無表情で作業をこなしていく。
いつも元気な仲川でさえ、今日は動きが緩慢で、彼女の長所である溌剌さをうかがうことはできない。
仲川「……」
高橋のことが心配だ。
しかし考えると、ますます不安になってしまう。
囚人達が作業に集中しているのは、余計なことを考えたくないという現実逃避が影響しているのかもしれない。
そのお陰なのか、作業は順調に進み、午後になるといくらか終了の見通しが出て来た。
前田「今日は低周波流されないで済みそうだね」
前田は複雑な気分で、しかしほっと安堵の息を洩らした。
峯岸「ね、もうあんな痛い思いしたくないよ」
前田の言葉に、峯岸が同意を返したその時だった。
98 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 17:21:22.97 ID:/Pt7oAeUO
柏木「ちょちょちょ…痛い痛い痛い…」
柏木が大げさにのたうち回った。
続いて柏木の傍にいた片山が、苦痛に顔を歪める。
片山「痛い…」
『作業中は私語厳禁です。私語を発した囚人がいます。看守はすぐに注意してください』
ここへ来て、突如放送が流れる。
前田「え…?誰か喋ったっけ?」
前田はきょろきょろと視線を動かした。
柏木と片山は依然として低周波の痛みに苦しんでいる。
さらには2人の近くにいた北原にまで低周波の痛みは及んでいた。
囚人達も作業の手を止め、互いに窺うような表情を浮かべている。
99 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 17:24:23.54 ID:gCIEgkjsO
100 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 17:24:25.87 ID:/Pt7oAeUO
柏木「ちょっ…誰だかわからないけど今喋った人、作業中はお喋りしないでください。お願いします…」
柏木はそれだけ言うと、その場に倒れこんだ。
篠田「ゆきりん大丈夫?」
柏木「ハァ…ハァ…だ、大丈夫です…もう止まったみたい…」
柏木は篠田のほうに顔を向けると、腕時計を付けた辺りをしきりに擦った。
片山と北原もどうやら低周波の痛みから解放されたようだ。
篠田「誰だろう…喋ってた人っていたかなぁ…」
篠田が不思議そうに首をかしげる。
片山「誰ー?片山達の近くにいた人でしょ?菊地?」
片山が険しい目を菊地に向けた。
菊地は慌てて首を激しく横に振る。
前田「でも…誰の声も聞こえなかったのに…」
101 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 17:27:56.20 ID:/Pt7oAeUO
峯岸「低周波が誤作動したってことかな?」
前田「そんな…」
柏木ら3人の近くにいた囚人は、みんなびくびくと肩をすぼめ、動向を窺っていた。
こうなると全員が怪しく見えてくる。
篠田「たぶんすごい高性能のマイクで音拾ってるんだよ。ちょっと独り言呟いただけでも声を拾われて、ルール違反だと見なされちゃうんじゃないかな?」
篠田が珍しく冷静に分析した。
前田「怖いね」
前田が眉間に皺を寄せる。
宮崎「え?で?誰なんですか?喋った人」
宮崎は悪気のない瞳で辺りを見回した。
単純な好奇心から出たこの発言が、事態を犯人探しへと発展させてしまうなど、予期していなかったのだ。
102 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 17:32:35.17 ID:/Pt7oAeUO
峯岸「そうだね。今後のことも考えて、こういうのははっきりさせておいたほうがいいよ。今喋ってた人、名乗り出てー?」
峯岸が声をかけるが、当然囚人達の中に手を挙げる者などいない。
峯岸「誰もいないの?他の子が可哀想だから喋ってた人正直に名乗り出てくださーい」
峯岸は相手が名乗りやすいよう、わざと軽い調子でもう一度声をかけた。
囚人「……」
篠田「どういうこと…?」
篠田が呟く。
前田は不安そうに篠田と峯岸を交互に見つめた。
作業部屋の空気は重苦しいものとなり、囚人達は皆目を伏せている。
内田「お互いに庇い合うのも、相手のために良くないですよね」
内田が正論を呟いた。
しかし今の状況で誰も正論など求めていないのは明らかだ。
なるべくなら面倒なことに関わりたくない。
そう思うのが普通だろう。
作業部屋は水を打ったように静まりかえった。
103 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 17:36:54.94 ID:/Pt7oAeUO
石田「庇ってるんじゃない。チクりという行為自体が好きじゃないんでね…」
長い沈黙を破ったのは、石田の呟きだった。
看守が名乗り出るよう言っている今、囚人が何か発言しても低周波は流れないらしい。
板野「はるきゃん誰が喋ってたか知ってるの?」
石田「……」
板野は思わず隣に座る石田に顔を向けた。
石田はすでにだんまりを決め込み、仏頂面で腕組みをしている。
内田「チクりじゃないと思うよ。誰だか知ってるなら教えてよ」
石田「相手のために良くないと思うのなら、本人に名乗らせたほうがいいんじゃないの?第三者が犯人はこいつだあいつだなんて言うより、そのほうがよっぽど犯人の今後のためになるでしょ。だからあたしはチクりはやらないんだよ」
石田が淡々とそう語ると、松井が歓声を上げた。
松井「はるきゃんロックだねー」
石田「うるせー」
石田の話が終わると、梅田が静かに口を開いた。
104 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 17:39:01.08 ID:/Pt7oAeUO
梅田「はるきゃんもそう言ってるし、今ここで誰が喋ってたかはっきりさせなくてもいいんじゃない?今はとにかく作業しないと、時間内に終わらないよ」
藤江「あ、そういえばそうだね」
峯岸「えー、じゃあしょうがない。喋ってた人、こっそりでいいから後で看守に教えてね」
峯岸がそう言ってその場をまとめると、囚人達はまた作業に戻っていった。
阿部「なんか今の言い方、学級会みたい」
峯岸の発言に向けて、阿部が呟こうとしているのに気付き、大場は慌てて阿部の口を塞いだ。
105 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 17:42:20.59 ID:/Pt7oAeUO
作業終了後、看守の部屋――。
前田「ごはんまだかなぁ」
峯岸「夕食まで暇だねー」
看守の部屋では、ソファに座った前田と峯岸が雑談を交わしていた。
話題は自然と、先ほどの作業で喋った人物だ誰だったのかに及ぶ。
峯岸「結局誰も名乗り出なかったね」
前田「あ、ゆきりそ達大丈夫だったかなー。低周波」
ちょうど2人の目の前を、北原が横切った。
峯岸は北原を呼びとめて尋ねる。
峯岸「さっき低周波大丈夫だった?」
北原「あ、もう全然。平気平気」
そう言って笑う北原だったが、低周波という言葉を聞いて若干笑顔がひきつったのを峯岸は見逃さなかった。
無駄に大きな目はしていない。
106 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 17:44:09.05 ID:dYrsDbgQ0
>無駄に大きな目はしていない。
余計なお世話だw
107 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 17:45:11.63 ID:/Pt7oAeUO
峯岸「きたりえはああ言ってたけど…ゆきりんもあれから元気ないし…」
北原が立ち去った後、峯岸はそう言って少し離れた場所に座る柏木の様子を窺った。
柏木は疲れたのか、宙を見つめてひとり黙り込んでいる。
誰かに話しかけられれば笑顔で答えるものの、ひとりになるとずっとその調子だ。
前田「やだなぁ低周波…」
峯岸「こうなっちゃうともう、悪いけど囚人の子達のこと信用できないよね」
前田「え?」
峯岸「だって痛い思いするのはあたし達看守なんだよ?囚人の子達はそこんとこわかってないよ。実際に低周波受けてないから、なんでも軽く考えてるんだよ」
前田「え…そんなことないと思うな…」
峯岸「そう?あっちゃんだって自分は何も悪いことしてないのに低周波くらうなんて嫌でしょ?」
前田「うん、やだ…」
108 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 17:47:31.11 ID:/Pt7oAeUO
峯岸「でしょ?もうちょっと囚人の子達には真剣に取り組むよう言ったほうがいいよ。あっちゃんだったらそれくらいみんなに言ってもいいと思う」
前田「え?あたしが言うの?みんなに…?」
峯岸「うん」
前田「やだよー。そんなこと言ったらみんな怒っちゃうかもしれないじゃん。なんで?」
峯岸「だってあたしが言うよりあっちゃんが言ったほうが…ほら…ねぇ?」
前田「え?」
前田は峯岸の言おうとしていることがわからず、首をかしげた。
その様子を見て、峯岸は言葉を引っ込める。
109 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:50:00.40 ID:oupraDg70
前田「あ、これゲームあるよー。みぃちゃんゲームしよゲーム」
前田はすぐに話題を変えて、モニターの下からゲーム機をひっぱり出してきた。
前田「このモニターに繋いでいいのかな?すごーい大画面でゲームだー」
無邪気な前田の様子に、峯岸は束の間怒りを忘れた。
そしてすぐにゲームに夢中になってしまう。
前田「ゆきりそも一緒にやろうよー。テニスゲーム。ゆきりそテニス部だったんでしょ?」
柏木「えぇ?ちょちょちょ、誰もそんなこと言ってないし」
前田「えぇー?じゃあ誰だっけ?テニス部だった人」
110 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:51:12.43 ID:oupraDg70
一方その頃、第1監房では――。
岩佐「どうしよう…」
岩佐はそう呟き、肩を落とした。
岩佐「このまま黙っててもいつかはあたし達が作業中喋ったことバレちゃうのかなぁ…」
鈴木紫「やっぱり名乗り出たほうがいい?」
それはちょっとした気の緩みだった。
黙々と作業を続け、ようやく終わりが見えて来たという安堵感。
2人はそっと、お互い励ましあう言葉をかけただけだった。
誰にも聞こえていないと思っていた。
――まさか、あんな呟きでさえマイクで拾われちゃうなんて…。
岩佐と鈴木は、自身の軽はずみな行動を激しく後悔していた。
111 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:52:10.33 ID:oupraDg70
岩佐「だけどあんな犯人探しするみたいになっちゃって…今更喋ったのはあたし達でしたなんて言えないよ」
鈴木紫「でもはるきゃんにはバレてるみたいだったし。このままはるきゃんが黙っていてくれるとも限らないし…」
岩佐「だったら紫帆里ちゃん、今から看守の人に名乗れる?こういうのって時間が経てば経つほど罪が重くならない?きっとすっごい恨まれるよ」
鈴木紫「確かに…。低周波、かなり痛いみたいだし」
岩佐「でしょ?どうしよう…やっぱりこのまま知らないふりして…」
鈴木紫「でも…もしバレた時…」
岩佐「バレっこないよ。はるきゃんがチクるわけないし」
鈴木紫「う、うん…」
岩佐「やっぱりこのことは2人だけの胸にしまっておこう。明日から気をつければいいんだよ」
岩佐がそう言うと、鈴木は渋々といった感じで頷いた。
――今日のことで、険悪なムードが続かなければいいんだけど…。
112 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 17:52:54.69 ID:oupraDg70
鈴木は自分が責められる以上に、囚人全員が看守から信用を失くしてしまうことを恐れていた。
低周波を受けるのは看守であり、自分達が痛い思いをすることはない。
しかし、懲罰房行きとなる囚人の決定権は看守にあるのだ。
このまま険悪なムードが続けば、もはや次に誰が懲罰房行きを言い渡されてもおかしくない。
――懲罰房に入った囚人は、どうなるのだろう…。
そして鈴木はまた、昨日から懲罰房の中にいる高橋のことも心配していた。
鈴木「たかみなさん、何もなければいいね…」
鈴木が呟くと、岩佐も気がついて、神妙な面持ちで頷いた。
『これより一時間を自由時間とします』
昨日と同じ放送がかかる。
格子扉が勢いよくスライドし、通路へ出入り可能となる。
鈴木「いよいよ発表だね…」
鈴木は祈るように瞳を閉じた。
『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第10監房の鈴木まりやさん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』
113 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 17:55:19.36 ID:W0sVRMrwO
これは長そうっスね
114 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 17:56:58.24 ID:mF9inzyA0
この実験て確か途中で中止になったんだよね?
115 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:02:11.36 ID:oupraDg70
数分後、第7監房――。
指原「まりやんぬ…」
指原は格子扉に指をかけて、懲罰房を見つめた。
宮崎と小森に連れられ、鈴木まりやが懲罰へ入れられる。
そして入れ違いに、高橋が解放され、懲罰房の外へ出てくるのが確認できた。
高橋は通路をふらふらと、時折強く頭を叩いたり、壁にぶつかりながら歩いてくる。
いよいよ第7監房の前までやって来た時、指原は思い切って声をかけた。
指原「たかみなさん大丈夫ですか?」
しかし高橋はそんな指原の言葉を無視して、通り過ぎてしまった。
指原「あの…たかみなさーん、たかみなさんリボン…あぁ行っちゃった…」
高橋は虚ろな目をして、自分の監房へと入って行ってしまう。
島崎「えっと、行きますか?」
島崎が声をかけると、指原は無言で首を振った。
116 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:02:50.32 ID:oupraDg70
指原「いいやまた後にする…。たかみなさんなんだか疲れてるみたいだったし…」
島崎「そうですか…」
島崎は表情を曇らせ、うつむいた。
指原「じゃあ指原、あきちゃが心配だから行ってくるね」
指原は気を取り直して、高城のいる第10監房へ行くことに決めた。
同室であるまりやが懲罰房へ入れられた今、高城は不安を抱えているかもしれない。
指原は階段に向かって歩き出した。
第10監房は上の階にある。
117 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:03:37.06 ID:oupraDg70
一方その頃、第4監房では――。
高橋「ふぅ…」
高橋が戻った時にはすでに、同室の山内の姿はなかった。
きっとどこか別の監房へ遊びに行ったのだろう。
――らんらんがいなくて良かった…。
頬に手を当てれば、明らかに自分の顔が昨日よりこけていることに気付く。
懲罰房から出て来たばかりの自分のこんな姿を、もし後輩の山内に見せたら、ひどく動揺させてしまうことだろう。
出来るだけ山内には、いらぬ心配をかけさせたくなかった。
なるべく深いショックを受けないまま、この監禁生活が終わってくれればと思っている。
こんなひどい目に遭うのは、自分だけで充分だ。
――だけど、まりやんぬが懲罰房へ入れられてしまった…。きっとすでに今頃は、あたしと同じ目に遭って…。
高橋はそう思い、激しく自分の頭を叩いた。
さっきからずっと、平衡感覚がおかしい。
118 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:04:56.05 ID:oupraDg70
高橋「きっと…あれのせいだ…」
おかげで高橋は昨日から眠れずにいた。
だからといって、今から眠りにつくことも無理そうだ。
まだ、気持ちを落ち着けることができない。
ふと視線を上げると、目の前には大島と宮澤、秋元が立っていた。
驚いた高橋は、一瞬びくりと肩を震わせ後ずさった。
3人はいつの間に来たのか…。
大島「たかみな戻ったって訊いたから。大丈夫?」
大島が労わるような笑顔を浮かべ、問いかけた。
高橋「……」
しかし高橋はきょとんとした顔で大島を見つめるばかりで、何も言わない。
秋元「たかみな…?」
秋元が少々乱暴な手つきで高橋の方を揺する。
高橋の体ががくがくと前後した。
宮澤「たかみなどうしちゃったの?大丈夫?」
宮澤が心配そうに高橋の顔を覗き込んだ。
高橋「ごめん、よく聞こえない」
高橋はようやくそれだけ発すると、悲しげに目を伏せた。
119 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:06:03.20 ID:oupraDg70
大島「聞こえ…ない…?どういうことなのたかみな?」
高橋「水の中に潜ってるみたいな感じ。音が遠いんだよ」
高橋の声は妙に大きい。
怒鳴るようにして言った。
秋元「え?ちょっ、声でかいよ」
秋元がなぜか焦ったように言う。
高橋「ごめん、自分の声もよく聞こえないんだ。たぶん、懲罰房に居たせいだと思う」
高橋が苦しげにそう告白すると、大島達は言葉を失った。
懲罰房の中で、一体何が行われていたのか…。
高橋は声量を調節しながら、ゆっくりと語りはじめた。
高橋「懲罰房の中ではずっとヘルメットを被せられてたんだ。それはヘッドフォンみたいになってて、延々大音量で音楽が流れてる」
高橋「ヘルメットを外したくても、自分じゃ取れなくて…眠りたくても音楽がうるさくて全然眠れないし…部屋の中はずっと真っ暗だし…本当…あれは地獄だよ…」
120 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:07:20.25 ID:oupraDg70
一方その頃、第10監房では――。
指原「あきちゃ大丈夫?」
高城「あ、さっしー」
同室の鈴木まりやが懲罰房へ連れて行かれ、落ち込む高城のもとへ、指原が顔を出した。
指原「まりやんぬ…大丈夫かな…」
指原は先ほど懲罰房から出て来たばかりの、高橋のやつれた表情を思い出していた。
高城「懲罰房ってどういうところなんだろ?」
指原「たかみなさんの様子だと…やっぱりひどいところみたい」
高城「え?そんな…」
指原「指原もよくわかんないけど、あんな元気のないたかみなさんを見たのは初めてだったよ…。声をかけても、耳に入っていないみたいだった」
高城「まりやんぬちゃん…」
指原「大丈夫、まりやんぬはしっかりしてるし、平気…だよ…たぶん」
指原は徐々に声を落としながら、それでも高城を元気づけようと言った。
その直後、懲罰房の恐怖と不安に押し潰されそうになっているのは自分のほうだと気付く。
高城はまりやを心配しながらも、指原よりは落ち着いているようだった。
121 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:08:56.10 ID:oupraDg70
高城「まりやんぬちゃんが連れて行かれて…亜樹は今日この監房で1人で寝なきゃいけないみたい。怖いな…」
しかし高城も指原の恐怖が伝染したのか、寂しそうに言った。
高城「1人で眠れるかな…」
指原はもし島崎が懲罰房に入れられてしまったらと考えてみた。
そうなったら、自分はやはりあの監房で1人夜を明かさなければならない。
話し相手も、不安を慰めあう相手もなく、ひとりぼっち…。
高城の気持ちは容易に理解することが出来た。
指原「だったらあきちゃ、今日指原達の監房で寝なよ。指原のベッドで一緒に」
高城「え…?でも、大丈夫かな?」
122 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:10:08.49 ID:oupraDg70
指原「ぱるるだって指原と2人じゃ不安だろうし、あきちゃが来てくれたほうが喜ぶよ。2人よりも3人!くっついて寝れば怖くないし」
高城「さっしー…ありがとう…」
指原「いいよ。その代わりぱるるがもし懲罰房に連れて行かれちゃった時は、指原もここに泊めてね」
高城「うん」
指原「許可とかいるのかな?点呼に来た看守の子に訊いてみるね。いいって言われたらあきちゃこっちおいでよ」
高城「はーい」
指原の提案に、高城はようやく笑顔を見せた。
123 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:11:03.22 ID:oupraDg70
一方その頃、第4監房では――。
宮澤「耳やられちゃってるの?嘘でしょ?」
高橋の話を聞き、宮澤の声が震えた。
高橋「たぶん一過性のものだと思うけど、こんなの続けてたら本当に耳がおかしくなるよ」
大島「たかみなちょっと横になりなよ」
大島は高橋のベッドを整えてやった。
高橋は体を横たえると、静かに瞼を閉じる。
その顔は、頬がやつれ、生気を失っていた。
大島「こんな…ひどい…」
その様子に、大島は怒りを感じていた。
昨日からこんなところに閉じ込めて、何をするかと思えば低周波だ大音量の音楽だなんて…人を馬鹿にするにも程がある。
自分達は人間なのだ。アイドルなのだ。
看守でも囚人でもない。
なぜ自分達がこんな不当な扱いを受けなければならないのだろう。
124 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:12:19.33 ID:oupraDg70
大島「こんな生活がまだ続くの?解放される前に、みんな体がおかしくなっちゃうよ!」
大島が叫ぶ。
直後、秋元も重々しく頷いた。
宮澤「そういえばはるごんも元気なかった。行動が制限されちゃって、いつもみたいに走り回れないからストレス溜まってるんだよきっと。このままじゃ体だけじゃない、精神的にもみんな追い込まれて…」
大島「うん、もう我慢できない!あたし…あたし…ここから出る!出て、助けを呼んでくる!」
秋元「そうだよ。たかみなだってちゃんと病院で看てもらったほうがいい」
宮澤「だよね。それに今懲罰房の中にいるまりやんぬだって危ないし…」
大島「才加行こう。佐江ちゃんはたかみなについててあげて」
宮澤「でも…」
大島「大丈夫。体力には自信あるし。それにここがどこだかもわからない今、外へ出てもすぐに助けを呼べるという保障はない。もしかしたら何時間も…あるいは何日もかかるかもしれないし」
秋元「あたしは走るよ。何時間だろうと何日だろうと、それでみんなが助かるのなら」
宮澤「優子…才加…」
大島「お願い、佐江ちゃん。それまでたかみなを…」
宮澤「うんわかった。任せて」
125 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 18:16:09.69 ID:rSTcal/u0
支援
126 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 18:17:16.56 ID:/Pt7oAeUO
大島「決まりだ。才加、行くよ」
秋元「でもどこから出たらいいの?」
大島「たぶん最初にくじ引きをした部屋。反対側の壁に大きなドアがあった。きっとあれが外へと続く扉だよ」
大島はそう言うや否や、走り出した。
秋元がそれを追いかける。
2人は懲罰房の並ぶ通路を駆け抜けると、その先にドアを見つけ飛び込んだ。
思ったとおり、そこは昨日全員がくじ引きをさせられた広間である。
秋元が素早く室内に視線を走らせる。
ドアは――見つけた!
秋元「あ、あれだね優子」
大島「急ごう。あたし達の行動はモニターされてる。気付かれる前にドアを開けて外へ出るんだよ。そっから先は出たとこ勝負だ。できるね?才加」
秋元「もちろん」
2人は逆境に強くならざるを得ない生い立ちを持っていた。
自分の置かれている環境に満足できないのなら、まず動けばいい。
そういったことを、頭ではなく体で理解している。
どんなに無理な状況でも、立ち向かうことを恐れない。
127 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 18:17:49.51 ID:dYrsDbgQ0
もうちょい更新ペースはよ
128 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 18:19:02.67 ID:/Pt7oAeUO
大島「……」
大島がドアノブに手をかける。
予想はしていたが、やはり鍵がかかっている。
秋元「優子、手伝うよ」
大島「うん」
2人は別段相談をしないでも、やるべきことがわかっていた。
大島の合図で、ドアに体当たりする。
何が何でもこのドアを破り、外へ出るのだ。
大島「せーのっ…」
大島が何度めかの合図をする。
その時だった。
秋元「やばっ、サイレン…」
突如、室内にサイレンの音が鳴り響く。
それは広間だけでなく、建物全体を包む大音量であった。
129 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 18:21:03.17 ID:/Pt7oAeUO
大島「あたし達が脱走しようとしてることがバレたんだ…!急ごうもう時間がない」
秋元「うん」
大島と秋元はさらに体当たりを続けた。
『脱獄者を確認しました。看守は至急、広間へと向かってください』
頭上では例の機械的な音声が、秋元と大島の行動を報告している。
大島「くそっ…」
誰かの足音が近づいてくる。
それは広間の前で止まり、一拍あいてから、入り口が開かれた。
そこから顔を出したのは――。
130 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 18:23:15.53 ID:/Pt7oAeUO
秋元「あ、あっちゃん…!」
入り口の傍に立って、前田は驚愕の表情で大島と秋元を見つめている。
前田「脱獄者って…優子と才加だったの?なんで…?」
そこまで言ったところで、前田は質問の答えがすでに出されていることに気がついた。
こんな生活――続けるなんて無理だ。
逃げ出して、誰か助けを呼んで来なければ…。
大島と秋元の行動には頷けた。
自分が囚人だったとしても、同じことをしていたかもしれない。
いや、看守役をやっている今だって、ここから逃げ出したい気持ちは同じだ。
前田「ここから出て…助けを呼んで来てくれるんだね?」
前田が確かめるように、ゆっくりと問いかける。
131 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 18:25:18.07 ID:/Pt7oAeUO
大島「うん。たかみなに会った?ひどいよこんなの…」
前田「今まで会ってたよ。放送がかかったからここに来てみたの」
秋元「他の看守の子達は…?」
前田「みんなは2階の看守の部屋にいるから、もうすぐ駆けつけて来ると思うけど…」
大島「お願いあっちゃん見逃して!今すぐ助けを呼ばないと…」
前田「うん、そうだね。ドア…鍵がかかってるの?壊すの手伝うよ」
秋元「ありがとうあっちゃん…」
前田が小走りに大島と秋元の傍に駆け寄ってくる。
前田「早く壊して外へ出なきゃね…痛っ…」
そうして前田は、その場にうずくまってしまった。
132 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 18:27:29.13 ID:/Pt7oAeUO
大島「あっちゃん?あっちゃんどうしたの!?」
すぐに大島が前田の元へ走った。
秋元はその間、ドアノブを力まかせに引っ張っている。
前田「痛っ…痛いよ…何これ助けて優子」
大島「低周波?見せて腕時計…外してあげる」
前田「痛い痛い痛い…」
大島「……これ…どうやって付けたの?全然外れない…ちょっと才加、これ取れる?」
前田「痛い…助けて…」
前田の腕時計から、強力な低周波が流されている。
前田は痛みに全身を震わせ、ぎゅっと目を閉じた。
秋元も駆け寄り、2人でどうにか前田の腕時計を外そうとする。
しかし、どういう構造になっているのか、腕時計は外れるどころか、まるで前田の腕にからみつく毒蛇のように、着々と前田の体を痛めつけていく。
133 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 18:29:54.05 ID:/Pt7oAeUO
秋元「何これ…外れないよ…」
前田「痛いよ…ねぇ…どうして…」
前田が苦しみの声を上げた。
腕時計を外そうと奮闘していた大島の手が、ふいに力を失う。
大島はそのまま脱力し、宙を睨んだ。
大島「あたし達のせいだ…」
ぽつりとこぼす。
秋元「え?」
大島「あたし達のせいだ…。腕時計は外れない。このまま脱走を続けたら、あっちゃんが低周波に苦しめられたままだ…」
前田「……つっ…」
秋元「あっちゃん?大丈夫?」
前田「でも…どうにかして誰かが外へ出ないと…助けを呼ばないと…みんな…監禁されたまま…」
前田は痛みに耐えながら、言葉を絞り出した。
134 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 18:31:51.00 ID:/Pt7oAeUO
前田「お願い…優子…才加…みんなを…助け…」
前田が途切れ途切れに言うのを、大島は目に涙を溜めて聞いた。
それから決心したように頷くと、秋元を見る。
大島「戻ろう…」
大島にとっても、それは苦しい決断だった。
このドアを抜ければ、外へ出られるかもしれない。
しかし外へ出るということは、痛みに苦しむ前田を見捨てるということだ。
大島はそれをどうしても出来なかった。
秋元「仕方ない…ごめん、あっちゃん…」
秋元が、悲しげに目を伏せる。
前田「でも…」
大島「あっちゃんをこんな状態のまま放ってはおけない。今は諦めるよ」
前田「……」
135 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 18:33:30.60 ID:/Pt7oAeUO
大島「監房に戻ります!あっちゃんはきちんとあたし達の脱走を止めました。だからもう低周波を切ってあげてください!」
大島は立ち上がると、そう宣言した。
直後、前田の痛みがおさまる。
低周波は切られたようだ。
前田「ごめん…あたしが顔出したからこんな…」
大島「いいよ。どっちみちあたし達は監視されてるんだから」
大島はそう言うと、座りこむ前田に手を差し出した。
前田はうつむいたまま、その手を握る。
秋元も手伝って、前田を助け起こすと、3人はとぼとぼと広間を後にした。
――そう…すべて監視されている。どうしたらここから脱出することが出来るのだろう…。
大島は耳元で前田の荒い息遣いを聞きながら、策を練り始めた。
136 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 18:35:43.99 ID:/Pt7oAeUO
点呼の時間――。
大島と秋元はそれぞれ自分の監房へ帰った。
前田はその後しばらく指先にじわじわとした痛みを感じていたが、時間が経つにつれそれも弱くなり、やがて回復した。
自由時間は終わり、点呼の時間がやって来る。
看守は囚人がきちんと自分の監房に戻っているか確認する義務があるのだ。
倉持「ちゃんと揃ってますかー?返事してくださーい」
倉持は第1監房から順に、中を覗き込みながら、点呼を取っていく。
倉持の登場に、格子扉まで寄ってきてわざわざ手を振る者、話しかける者が多い中、何人かの囚人は疲れが溜まっているのか、布団を被ったままで返事をしている。
倉持はその度、囚人を気遣う言葉をかけていった。
そうしてじっくりと点呼をしていくので、倉持が第7監房までやって来た時、島崎はすっかり寝入ってしまっていた。
137 :
忍法帖【Lv=16,xxxPT】 :2012/02/27(月) 18:37:45.19 ID:ZQA27rj/i
キターゼ!新作か!!!まとめんばー頼むよ!宜しく!!
138 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:38:21.81 ID:oupraDg70
第7監房――。
倉持「さっしーぱるるちゃん2人ともいるねー?」
指原「もっちぃ!良かった、今日はもっちぃが点呼の係なんだね」
倉持「?そうだよ?」
指原「あのね、指原ちょっとお願いがあるんだけど…」
指原が寝ている島崎を起こさないよう小声になると、倉持はそっと格子扉に耳を寄せた。
そういえばいつもいじられるばかりで、倉持自身の耳をじっくり見たことはなかったなと、指原は少々新鮮な気分を味わいながら、相談を持ちかけた。
指原「ほら今日まりやんぬが懲罰房でしょ?あきちゃ、1人で不安みたいなんだよね」
倉持「あきちゃ…そっかまりやんぬと同じ房か」
指原「そうそう。それで今日だけ特別にあきちゃ、こっちの監房に呼べないかなー」
倉持「あきちゃをここに?」
倉持の声が大きくなる。
島崎が呻き声を上げて寝返りを打った。
倉持はびくりと島崎を見てから、どうやら起こさずに済んだとほっと胸を撫で下ろし、再び指原に視線を戻した。
139 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:39:05.57 ID:oupraDg70
倉持「囚人は自由時間と作業の時以外、自分の監房にいなきゃならないの。あきちゃが朝の点呼の時この監房にいたら…看守はまた低周波を流されちゃうよ」
指原「そこはなんとか出来ないかな?もっちぃの人望を使ってさ。駄目?」
指原は両手を顔の前で合わせ、拝むような仕草をした。
倉持はしばらく思案した後に、諦めを含んだため息を洩らす。
倉持「…んもうっ!あたしがそういうの断れないの知ってて、さっしー意外と計算高いんだから」
指原「てへぺろ」
倉持「ふざけないで。いいよ。みんなには内緒にしとく。朝の点呼もあたしがやるようにするから、その時あきちゃには自分の監房へ戻ってもらえば大丈夫かな。いい?ぜーったいにみんなには秘密だからね!」
指原「さすがもっちぃ!優しーい」
倉持「じゃあ点呼が終わったらここまであきちゃ連れて来るね」
指原「はい、お願いしまーす」
140 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:42:08.60 ID:oupraDg70
数分後、第9監房――。
倉持「じゃあおやすみなさーい」
点呼を終えた倉持が、大島と仲俣に挨拶をして、次の監房へと移っていく。
大島「でね、さっきの続きだけど、仲俣ちゃんはどう思う?」
倉持がいなくなると、大島は小声で仲俣に話しかけた。
仲俣「ここから出る方法ですか…。監視されているから難しいですよね」
大島「でもあたしと才加が広間のドアをこじ開けようとして、すぐにはサイレンが鳴らなかったんだ。だから相手も少しの隙もなく完全にこっちの様子をモニター出来ているわけじゃなさそう」
仲俣「ドアをこじ開けようとして、しばらくしたらサイレンが鳴ったんですね?」
大島「うん。ほんの数分だけど。これでわかったことは、少しなら監視の目に隙があること。これを利用して、なんとか脱出の方法を考えないと」
仲俣「そうですね…」
仲俣は無意識のうちに頬へ手をやり、考えるポーズを作った。
――ほんの数分なら、ほとんど監視されていることに違いはない。こんな状態で、本当にここから出る方法があるのかな…。
先輩である大島には悪いが、仲俣が客観的に話を聞く限り、脱出は不可能のように思えた。
しかし、優しい彼女はどうしてもそれを大島に伝えることが出来ない。
141 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:43:57.98 ID:oupraDg70
大島「それにドアは頑丈で、鍵もかかってるし、壊すにしても数分じゃ時間が足りないんだよ。やっぱり他から脱出する方法を考えるか…」
仲俣「窓…ですか?」
大島「そうそう!」
仲俣「窓は監房にないし…トイレにはありますけど、鍵がかかっていて駄目ですね」
大島「割るか」
大島はなぜかそこでにやりと笑った。
その表情から、冗談なのか本気で言っているのか、仲俣には判断が付かなかった。
返事をする代わりに、曖昧に笑って首をかしげる。
大島「でも割ったら音ですぐバレちゃうしなぁ…」
仲俣「トイレは通路を挟んで監房の向かい側…。1階だから窓から抜けられればすぐに助けを呼びに走れますね」
大島「あ、でも待って、さすがにトイレは監視されてないでしょ。だったら音も…」
仲俣「でも、どっちみちそんな乱暴な手段じゃすぐ気付かれちゃうような…」
大島「だよねぇ…」
大島はがっくりと肩を落とした。
それから弱々しい笑顔を仲俣へ向けようとして、顔を上げた。
そこで、何やら仲俣の様子がおかしいことに気がついた。
142 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:45:11.91 ID:oupraDg70
仲俣「トイレと…お風呂…作業部屋…監房…懲罰房…広間…」
仲俣はハッと目を見開き、ぶつぶつと呟いている。
大島「仲俣…ちゃん…?」
仲俣「あたし達はこの建物の中で、行っていないところ、知らない部屋がたくさんあると思います。囚人は作業部屋と監房、トイレとお風呂以外立ち入り禁止区域になっていて、自由に行動できません」
仲俣「それって、もしかしたらこうは考えられませんか?禁止区域になっている場所のどこかに、外へと繋がる道が隠されている。だから脱走を防止するため、禁止区域なんてものが存在するんですよ」
大島「てことは、禁止区域を捜索すれば、外へ出られる場所が見つかる…」
仲俣「そうですよ!まだ希望はあります」
大島「でも禁止区域に入ったら、また看守の子達に低周波が…」
大島は先ほどの広間での、前田の様子を思い出していた。
痛みに襲われ、うずくまる前田。
額にはじっとりと脂汗が浮かんでいた。
もう、低周波で苦しむメンバーの姿など見たくない。
143 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 18:45:48.50 ID:y9IJTamb0
相当書き溜めしてるなw
144 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:45:56.51 ID:oupraDg70
仲俣「せめてこの建物の全体像が掴めれば、どこがまだあたし達が足を踏み入れていない、未知の領域なのか見当がつくんですけどね」
大島「あ、ともーみちゃんに訊いてみようか?」
仲俣「はい?」
大島「ともーみちゃんや米ちゃんは料理係でしょ?料理係のテリトリーは地下。だったら地下の様子がどうなってるのか訊けば教えてくれるかもしれない」
仲俣「あ、そうですね」
大島「2階がどうなっているかは、看守の子の誰かに訊いてみよう」
仲俣「はい、料理係と看守、両者の話を総合すれば、かなり建物の全体像が掴めるはずです!」
大島「うん。よし決まり、明日早速訊いてみよう」
仲俣「あたしも誰か訊けそうな人探してみます」
大島「うん、お願い。だけど、あたし達が建物について探っていることが知れたら、また脱走を疑われるかもしれない。訊く時は、マイクに声を拾われないようになるべく小さな声でね」
仲俣「わかりました」
仲俣は返事をすると、あくびを噛み殺した。
145 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:46:33.83 ID:oupraDg70
大島「もう寝ようか」
仲俣「すみません」
大島「いいよいいよ。疲れたよね。ごめんね。おやすみー」
大島はそう言うと、二段ベッドの階段をリズミカルに駆け上った。
下段に寝転んだ仲俣は、布団を顎の下まで引っ張ると、目を閉じた。
しかしすぐに通路を歩く2人の足音を聞き、半身を起こした。
格子扉の外を、倉持と高城が横切っていくのが見える。
――高城さん…。点呼終わったはずなのになんで…?トイレかな?
そう考えたところで、眠気には勝てず、仲俣は再び横になった。
上段からは、すでに大島の寝息が聞こえてくる。
146 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:48:07.52 ID:oupraDg70
《3日目》
第7監房――。
目を覚ました島崎は、指原のベッドに高城が眠っていることに驚いた。
島崎「え?なんで?」
思わず呟いた島崎の声に反応してか、眠っていた指原が目を覚ます。
指原「あ、ぱるるおはよう」
島崎「おはようございます。あの、なんであきちゃさんが…?」
指原「え?あぁそうだった。指原言い忘れてたよ。ぱるるすぐ寝ちゃったし」
島崎「あきちゃさん昨日からここで寝てるんですか?」
指原「そうなんだよ。まりやんぬがいなくてあきちゃ1人で不安そうだったし。とか言って本当は指原があきちゃがいると安心するだけなんだけど」
指原はそう言ってのびをすると、すぐにまたいつもの猫背に戻り、卑屈な笑い声を洩らした。
147 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:48:51.83 ID:oupraDg70
指原「点呼の時もっちぃにお願いしたらあきちゃ連れてきてくれてさ。でもこのことみんなには内緒ね」
島崎「はい、それはいいですけど、それじゃあわたし邪魔だったんじゃ…」
指原「えぇ?嘘嘘そんなことないよ」
島崎「そうですか?」
島崎はなぜか涙目になり、指原の顔をじっと見つめた。
――ぱるる可愛いな…。
この状況でまだそんなことを考えてしまう自分を反省しながら、指原は必死に島崎を宥めた。
そうこうしているうちに倉持がやって来て、高城を叩き起こすと第10監房へと連れて帰る。
島崎は相変わらずすまなそうな顔をして、涙がこぼれないよう歯を食いしばっていた。
148 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 18:49:53.05 ID:oupraDg70
作業開始――。
朝食が済むと、作業が開始された。
囚人達はすっかり慣れたもので、細かい作業を黙々とこなしていく。
少しでもおかしなことをして、また看守に低周波が流されたらたまったもんじゃない。
そんな思いが、囚人達を団結させていた。
午前の作業をとどこおりなく済ませ、昼食が終わると午後の作業へと入る。
――普段消しゴムはんこ作ってて良かった。こういう細かい作業、結構好き。
仁藤は、すでに作業自体を楽しめるようになっていた。
元々手先が細かく、器用なほうだと自覚している。
周囲と比べてみても、仁藤が組み立てた部品などは見た目が整い、袋詰めの仕上がりも美しい。
マイペースに楽しみながら、しかし作業ペースは速く、仁藤は他の囚人達よりもこの監禁生活で受けるストレスは少ない。
――後これを片付けちゃえば、あたしが配られた分は終わりだ。そうしたら佐江ちゃんの手伝ってあげよう。
仁藤は隣に座る宮澤を一瞥すると、組み立てたばかりの部品を袋に詰め始めた。
149 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 18:51:33.69 ID:5tR+BTKv0
支援。
萌乃かわいいよ萌乃
150 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 18:51:43.19 ID:9DywzeuAO
面白い
がんばって
151 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 18:53:43.26 ID:/Pt7oAeUO
野中「あ、萌乃ちゃんもう終わっちゃったの?早いねー」
傍にいた看守の野中が声をかける。
仁藤は少々誇らしい気持ちで頷いた。
その時だった。
篠田「あれ?でもなんかおかしくない?」
篠田が何かに気付き、首をかしげる。
野中「え…?」
篠田「終了時点で1人100袋になるはずだよね?でもなんか…見た感じ袋が少ないみたいだけど…」
仁藤「え?」
篠田に指摘され、仁藤の顔色が変わった。
――確かに最初に配られた分きちんと終わらせたはずなのに…。
しかし100袋という数字は少し見ただけでは把握しにくい。
仁藤は自分の勘定に自信がなくなった。
152 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 18:55:39.22 ID:/Pt7oAeUO
野中「数えてみれば?」
仁藤「う、うん…」
野中に促され、仁藤は自分が袋詰めした分を数え始めた。
手が震える。
もしかして、自分の勘違いで、本当は配られた部品を失くしてしまったのではないか…。
青ざめる仁藤に気付き、囚人達は心配そうにその手元を見守った。
仁藤「78、79、80……嘘…」
野中「100ないの?」
仁藤「そんな…あたしちゃんとやったのに!なんで?」
仁藤がきょろきょろと自分の周りを見渡す。
余っている部品はない。
だったら自分はやはりきちんとすべて組み立てたのだ。
きっと袋詰めした後に行方不明になったのだろう。
153 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 19:01:02.16 ID:/Pt7oAeUO
仁藤「あたしが袋詰めしたやつ、佐江ちゃんのほうに混ざっちゃってない?」
宮澤「え?どうだろう?よく見てなかった」
仁藤「えー?数えてみてよ」
宮澤「でもまだ途中だから、数えてもわかんないよ」
仁藤「そんな…だったら佐江ちゃんの分の作業手伝うから、終わったら一緒に確かめようよー」
宮澤「あ、そう?」
仁藤が宮澤の分の作業に手を伸ばす。
その時、篠田がつかつかと仁藤に歩み寄った。
篠田「本当に佐江ちゃんの分と混ざっちゃったの?」
仁藤「え?あ、はい、まだわかんないですけどたぶん…」
篠田「大丈夫だよね?部品、なくしちゃったりしてないよね?」
仁藤「はい…たぶん…」
154 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 19:04:31.38 ID:/Pt7oAeUO
篠田「部品をなくしたらその分の作業が仕上がらない。時間内に作業を終わらせてないと、たぶん看守全員低周波受けることになるんだけど」
仁藤「大丈夫です…」
篠田「心配だから、もう一度周り確かめてもらえるかな?ごめんね」
仁藤「そうですよね、見てみます…」
宮澤「あたしも見てみようか」
仁藤「ほんと?ありがと佐江ちゃん」
宮澤「ううん、いいよいいよ」
宮澤は気のいい笑顔を浮かべると、仁藤と一緒に部品を探すため、テーブルの下にもぐりこんだ。
佐藤夏「へぇ、囚人が喋っても今日は低周波こないんだね」
佐藤夏希が興味深そうに目を細める。
155 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 19:09:32.29 ID:/Pt7oAeUO
佐藤亜「作業に関することだから私語にはならないんじゃない?」
亜美菜がそう答えると、途端に夏希の顔が苦痛に歪む。
低周波が流されたようだ。
佐藤夏「亜美菜ちゃん、今の発言は作業と関係ないことみたいだよ?作業中は喋んないでね」
佐藤亜「ごめんなさい…」
亜美菜がそう言ってバツの悪い表情を浮かべた時、宮澤と仁藤はまだテーブルの下にいた。
篠田「あったー?見つかった?」
宮澤「ないみたいー」
篠田「佐江ちゃんそういえば作業大丈夫?時間内に終わる?」
宮澤「あ、そうだった」
すぐに宮澤1人だけがテーブルの下から出てくる。
仁藤はおろおろと、まだ四つんばいになり、床の上を探っていた。
156 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 19:12:10.31 ID:qkHb0N5M0
前田「ゆきりそ」
作者これ好きね
157 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 19:12:22.89 ID:/Pt7oAeUO
宮澤「ごめん萌乃、後1人で探して」
仁藤「う、うん…」
それから数分の間、仁藤は焦る気持ちを抑えながら、必死で失くしてしまった部品がないか探した。
もしかしたら近くにいた誰かのところへ部品自体が混ざってしまっているのかと思い、探して歩く。
囚人達は皆、仁藤の捜索を手助けしたいと思いながら、しかし作業を遅らせるわけにはいかず、なかなか手伝うことができない。
結局、作業終了間近になって、最初に部品が入っていたダンボールの底から、残りの分が見つかった。
はじめに配られた段階から、仁藤の作業分だけ部品が足りていなかったのだ。
仁藤「良かった…」
仁藤はほっとひと息つく間もなく、終了までに残り20袋を終わらせるべく、作業に取りかかった。
篠田「ごめんね、あたしが変なこと言ったから部品探しに時間がかかっちゃったね」
仁藤「いえいいんです。はじめに確認しなかったあたしが悪いんで…」
158 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 19:13:34.30 ID:qkHb0N5M0
宮澤佐江 - 18:36 - Mobile - 一般公開
ゆきりそー( ´ ▽ ` )ノそー( ´ ▽ ` )ノそー( ´ ▽ ` )ノ
これか!
159 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 19:16:56.25 ID:/Pt7oAeUO
作業終了後、看守の部屋――。
篠田「作業無事終わって良かったね」
前田「ねー?萌乃ちゃん終わるかどうかヒヤヒヤしちゃった」
峯岸「ああいうの心臓に悪いよ。時間内に作業が終わらなかったらあたし達また低周波でしょ?やだー」
看守の部屋では、作業が終わった安堵感からか、メンバーはだらけた体勢で雑談を始めていた。
ソファに座る篠田達の横では、梅田と野中が熱心にテニスゲームに興じている。
梅田「勝ったー。わーい」
梅田は野中に勝利するたび、その端正なルックスからは想像もつかない無邪気さで喜んでみせる。
先ほどから、野中は一勝もしていない。
野中「スポーツ系のゲーム苦手なんだよねぇ…」
そんな2人の様子を一瞥すると、篠田はまた話を再開した。
160 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 19:18:07.92 ID:9+bCFTp4O
続き早くみたい
161 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 19:24:00.74 ID:/Pt7oAeUO
篠田「でもさっきの、どうしてなんだろう…。はじめにちゃんと部品は配ったのに」
前田「誰かが間違えたんじゃない?今度からダンボールの底も確認したほうがいいよー」
峯岸「そうだね」
篠田「でも、あたしちゃんと確認したよ?それなのになんで…」
呑気な前田に対して、篠田のほうは何やら納得がいかない様子である。
しきりに首をひねっていた。
前田「そういうこともあるよ。今度から気をつければいいじゃん」
峯岸「まさか萌乃がわざと部品をダンボールに戻したってこと?作業やりたくないから?」
篠田「そういうこともありえるなって…。だって、あんな数の作業をこなさなきゃならないのなら、少しくらいズルしたくなるじゃん?」
162 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 19:25:57.54 ID:/Pt7oAeUO
前田「そんなの麻里子だけだよー」
前田が冗談めかして笑う。
しかし篠田は妙に真剣な顔付きで、考え込んでいた。
もちろん前田の軽口に付き合う素振りはない。
篠田の言葉に、峯岸が口を尖らせた。
峯岸「でも萌乃はそんなズルする子じゃないでしょ。やれと言われたことをやらない人は嫌いなんだよ、萌乃は。生真面目というか不器用というか…」
前田「へぇ」
前田が感心したように頷くと、篠田はパッと笑顔になり言った。
篠田「そうだよね。ごめん、こんな状態だから悪いほうにばっか考えちゃって」
前田「気にすることないよー。それはみんな同じだもん」
篠田の様子に、前田は鼻に皺を寄せ、明るい笑顔で応えた。
峯岸もほっと息を洩らす。
その時、ゲームをしていた梅田が勢いこんで、峯岸に突っ込んできた。
163 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 19:28:04.34 ID:/Pt7oAeUO
峯岸「あぁっ、危ないよ」
梅田「ごめんみぃちゃん」
梅田が爽やかな笑顔で謝る。
梅田「あ、みぃちゃんもゲームやる?」
峯岸「うん、やるやるー。あっちゃん対戦しよ」
前田「いいよー」
前田が立ち上がったので、野中は使っていたコントローラーを手渡した。
前田「ありがと」
前田は肩を回すと、コントローラーを持ち、軽く振ってみせる。
梅田との対戦に疲れた野中は、先ほどまで前田が座っていた辺りに腰を下ろした。
164 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 19:32:42.48 ID:oupraDg70
篠田「あ、そんな端じゃなくて、もうちょっとこっち座りなよ」
野中「はい」
野中は言われた通り、篠田の傍に座りなおした。
篠田はそれきり黙りこみ、難しい顔をしてゲーム画面を睨んでいる。
――篠田さん、さっきなんであんなに萌乃ちゃんのこと気にしてたんだろう…。
野中は篠田の整った横顔をそっと盗み見ながら、首をひねった。
165 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 19:33:33.50 ID:oupraDg70
夕食時、第9監房――。
大島「早く来ないかなー。ごはんごはん」
大島はそわそわと監房内を歩き回りながら、時折格子扉から通路を確認している。
やがてワゴンを押す音が聞こえてきて、料理係の3人が現れた。
河西「お待ちどうさまー」
河西が大鍋の蓋に手をかける。
その瞬間、辺りには甘く優しい匂いが漂った。
仲俣「シチューですか?」
仲俣が目を輝かせる。
米沢「そうだよー。瑠美が作ったから味の保障はできないけど」
米沢が冗談交じりに、器にシチューを盛り付けた。
大島「やったー。シチューうれしい!」
大島はその場で軽く跳びはねながら、にんまりと口元から前歯を覗かせた。
166 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 19:34:21.47 ID:oupraDg70
河西「はい、これ優子の分。どうぞ」
河西が柔らかな笑顔で、シチューの入った器を扉の下から差し入れる。
大島はそれを小動物のような仕草で受け取り、香りを堪能した。
大島「おいしそー」
河西「あ、美宥ちゃん」
竹内「あ、はい。えっと、ごはんにしますか?それともパンですか?」
大島「ごはん!」
竹内は大島の注文に、慌ててごはんをよそいはじめる。
竹内「ごはん、この位でいいですか?」
大島「ありがとー」
仲俣「あたしはパンがいいな」
竹内「はい、どうぞ」
仲俣「…え…?」
竹内がロールパンを皿に移す。
その手元を見て、仲俣は言葉を失った。
――ひどい…。
167 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 19:34:38.68 ID:9+bCFTp4O
いいょいいょそんな感じで
168 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 19:35:16.70 ID:oupraDg70
仲俣の視線に気付き、竹内は気まずそうに手を後ろに隠した。
竹内「えっと、包丁でちょっと切っちゃって…」
仲俣「大丈夫なの?」
竹内「う、うん…。はるぅにバンソーコーもらったし」
仲俣「でも…」
仲俣は気遣うように眉を寄せる。
竹内はそんな彼女に心配をかけないよう、健気に笑ってみせた。
竹内「ほんと大丈夫なの。そんな深い傷じゃないし」
仲俣「……」
竹内「やっぱり…お母さんのお手伝いするのとは大違いだね…」
仲俣「食事作り、大変なの?」
竹内「う、うん…。あ、でも平気。美宥なんて全然役に立ってないもん。大変なのは河西さんと米沢さんのほうだよ」
竹内はそう言うと、ちらりと河西と米沢のほうを見た。
2人は今、大島と話しこんでいる。
169 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 19:46:17.67 ID:oupraDg70
大島「それで聞きたいんだけど、この建物の地下ってどうなってるの?」
河西「どうって…、普通に厨房と、その隣にあたし達が寝泊りしている部屋があるだけだよ」
大島「え?それだけ?」
河西「うんたぶん。でもあたし達、食事を運ぶ時とお風呂とトイレ以外は出歩かないように言われてるから、本当のところは良くわかんないかも」
大島「そっかぁ…」
河西「ごめんね」
米沢「あ、あと廊下の突き当たりに裏口があるよ」
大島「裏口!?」
米沢「?うん」
河西「どうかしたの?」
大島「その裏口って開いてるの?やっぱり鍵かかってる?」
米沢「えーっと…」
170 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 19:47:00.25 ID:oupraDg70
河西「料理係はね、夜に一度外へごみを捨てに行く時間があるの。その時だけは解錠されてるんだけど、普段は鍵がかかってると思う」
大島「てことは3人は1日に1回外へ出てるってこと?」
米沢「ううん。扉の外にごみ袋を置くだけ。外には出てないよ。次の日には昨日置いたごみは回収されてる」
大島「でも外の様子は見られるんでしょ?どうなってるの?」
米沢「暗くてよくわかんないけど…広い空間?になってると思う」
大島「てことはトイレの窓から見る景色と一緒か…」
河西「その先はどうなってるんだろうね。そもそもあたし達今どこにいるんだろう。日本てことは間違いなさそうだけど」
大島「そうだね…。あ、ごみ捨てっていつも夜なの?」
河西「うん。たぶん自由時間が終わる頃かな?7時55分。今から5分間をごみ捨ての時間にしますって放送がかかって、その後にすぐ、奥からガチャンって音が聞こえてくるの。たぶん…裏口の鍵が開いた音だと思う。5分を過ぎると自動で鍵が閉まるみたいだよ」
大島「てことはその5分の間に外へ出ればいいんじゃん」
米沢「え?外へ出るって?」
171 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 19:47:52.22 ID:oupraDg70
大島「いつまでもこんな生活続けられないよ。あたし達をここに監禁してる奴、絶対おかしい。ここから出て助けを呼んで来ないと」
河西「脱獄…するってこと…?」
大島「そんな脱獄ってやめてよ。あたし達本当の囚人じゃないのに」
河西「でも…看守の子達低周波流されたりしてるんでしょ?もし囚人が脱獄したら、もっとひどい目に遭わされるかもしれないよ。やだよあたしそんなの…ここでおとなしくしてたほうがいいって」
大島「でも…」
河西「……」
河西が黙り込む。
その時、隣の監房から高城の声が聞こえてきた。
高城「今日のごはん何ですかー?」
大島「あ…」
米沢「ごめんもう行かなくちゃ」
米沢がすまなそうな顔をして、ワゴンに手をかけた。
それに気がついた竹内が、仲俣から離れる。
172 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 19:48:34.75 ID:oupraDg70
河西「ごめんね優子。でもやっぱり、脱獄はやめておいたほうがいいと思う。優子が危ない目に遭うの、あたし嫌だし。それにもし失敗したら、残ってる他のメンバーが何されるかわかんないよ」
大島「……うん…」
料理係が立ち去った後、仲俣が小さな声で大島に話しかけた。
仲俣「どうでした?」
大島「うん。地下の全体像は掴めた。裏口から出ることが出来そう。だけど、ともーみちゃん達は外へ出ることに賛成はしてないみたい」
仲俣「ここに残される立場としては、誰かが脱獄した後のことが心配ですよね。この調子だと、連帯責任として残ってる囚人全員が罰を受けることになりそう。もしくは看守の人達とか…」
大島「そうだね…。どうにか監視からバレないようにして逃げないと」
仲俣「当然その裏口も監視されてるんですよね」
大島「そうなんだよ。しかもドアが開いている時間は5分。もし外へ出てみて、やっぱり無理そうだから監房に戻ろうとしても、その時にはすでにドアに鍵がかかってしまってるかもしれない。そうしたらもう建物の中には入ることが出来ない」
仲俣「一か八か…賭けに出るしかなさそうですね」
大島「うん…」
大島はうつむいて、唇を噛んだ。
――何か…きっとここから出る方法があるはず…。
まだ、脱獄を諦めることは出来ない。
173 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 19:50:04.42 ID:oupraDg70
自由時間――。
『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第4監房の山内鈴蘭さん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』
昨日同様、自由時間とともに放送がかかる。
今日の懲罰房は山内だった。
大島の耳には、階下から山内のうろたえる声が聞こえてくる。
大島「今日は鈴蘭ちゃんか…」
仲俣「らんらん…」
落ち込む2人のもとへ、じゃらじゃらと鍵束が揺れる音と、1つの足音が近づいてくる。
前田「優子ー?」
前田は胸の前で小さく手を振りながら、第9監房へ入って来た。
大島「あ、どうしたの?」
前田「自由時間になったから、遊びに来たよ。たかみなはまだなんか疲れが残ってるみたいで寝ちゃったし、これから陽菜のとこ一緒に行こうよ」
大島「お、いいねー」
前田の誘いに、大島は大喜びで手を叩いた。
のほほんとした小嶋の雰囲気に触れれば、少しは気が紛れるかもしれないと考えたのだ。
174 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 19:51:05.83 ID:oupraDg70
大島「あ、その前にあっちゃん、ちょっと聞きたいんだけど」
前田「ん?何ー?」
大島「看守の部屋ってどんな感じなの?てゆうか2階ってどうなってるの?」
前田「え、2階?看守の部屋と作業部屋があるだけだよ。あ、あとトイレとお風呂もあるか」
大島「あのさ、どっかに窓とか…」
前田「ないよー」
大島「そうか…」
予想はしていたものの、やはりショックだった。
もちろん看守の部屋のどこかに窓があったとしても、囚人の自分はそこへ足を踏み入れることすら出来ない。
ましてや2階の窓から降りるには、はしごが必要になってくるだろう。
――どうやっても無理か…。
だが、大島にはもう1つ聞いておきたいことがあった。
先ほどの料理係との会話で、迷いが生じていたのだ。
大島「もしあたしがここから脱走するとしたら、あっちゃんは協力してくれる?」
声を落とし、おそるおそるそう尋ねる。
瞬間、前田の表情が曇った。
175 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 19:54:15.84 ID:9+bCFTp4O
良いスレ
176 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 19:57:07.62 ID:kXLInGSU0
リアルDEROみたいなもんか
期 待 し か 無 い
177 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 20:07:42.17 ID:/xjxcoPk0
飯食うなら言ってからにしてよね!
き、期待して待ってるわけじゃないよ!
178 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 20:09:14.03 ID:e2VXfq/yP
これをドラマ化したら絶対面白くね
マジすか3より観たい
179 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 20:32:25.00 ID:PzcjbFRO0
ほ
180 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 20:39:22.27 ID:DjgvZHkq0
題名忘れたけどフォレスト・ウィティカーの出てた映画であったな
181 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 20:43:31.58 ID:rSTcal/u0
>>178 前作もマジすかなんかよりかなり面白かった
182 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 20:44:33.53 ID:/Pt7oAeUO
前田「う、うん…。やっぱり誰かがここから出て、助けを呼んだほうがいいと思うから。でも…」
前田はそこで、言葉を詰まらせた。
大島「あっちゃん…」
――たぶん、あっちゃんは低周波のことを気にしている。昨日あたしと才加があんな目に遭わせちゃったから…。
大島は前田の表情から、低周波への恐怖を読み取った。
昔から、人の顔色を見るだけでだいたいのことはわかってしまう。
それに加えて、前田は考えていることが表情に出やすいのだ。
大島「ごめんあっちゃん。看守にしてみたら、囚人の脱走は怖いよね」
前田「え?そ、そんなことないよ…。必要なことだもん」
ここまで酷い自己満久々にみた
184 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 20:49:57.84 ID:/Pt7oAeUO
大島「うん。でもやっぱり、囚人の脱走を知ってて協力するような真似したら、その看守の子が危なくなる。約束する。もうあっちゃんに痛い思いはさせない。脱走はバレないように、囚人の間だけで計画することにするよ」
前田「優子…」
大島「それならあたしがもし脱走しても、あっちゃんは何も知らなかったんだから低周波を流されることはないでしょ」
前田「う、うんたぶん…」
大島「ごめんね」
前田「あ、でも何か助けられることがあったら言ってね。脱走を協力したってことにならなければいいんだし、大丈夫な程度で答えられることがあったら教えるよ。何でも訊いて」
大島「……じゃあ…、看守はどうして鈴蘭ちゃんを懲罰房行きに選んだの?」
前田「え?」
185 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 20:54:53.87 ID:/Pt7oAeUO
大島「だって鈴蘭ちゃん、すっごく真面目に作業してたし、それに昨日のまりやんぬだって…初日のたかみなだって…。みんな懲罰房に入れられるようなことしてない。それなのに選ばれた。これってどうして?」
前田「そ、それは…」
大島「ずっと不思議だったの。今日の鈴蘭ちゃんを含め、たかみなとまりやんぬ…この3人に共通するものは何なの?何をしたら懲罰房へ入れられるの?」
前田「あ、あのね優子。看守がどういう話し合いをして懲罰房に入れる囚人を決めたか、教えちゃいけないことになってるの。そういう決まりなの。もしバラしたら…あたしはまた低周波…」
大島「あ、そうかごめん」
前田「うん…」
大島「あ、そうだにゃんにゃんのとこ行くんだったね。自由時間なくなっちゃうし、もう行こうか」
前田「そうだね」
少し元気のなくなった前田を気遣いながら、大島は無理に明るい声を出した。
先ほどから無言で2人の会話に聞き耳を立てていた仲俣が、そっと場所をあける。
前田と大島は仲俣の横を通り、通路へ出た。
そして第12監房へと歩いて行く。
186 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 20:57:22.84 ID:/Pt7oAeUO
第12監房――。
小嶋「あ、あっちゃん優子、ちょうど良かった」
2人が顔を出すと、小嶋はいつものおっとりとした調子で手招きした。
前田「何やってたのー?」
見ると、小嶋のベッドにはすでに板野と北原が座っている。
小嶋「遊んでた」
大島「よっしゃ交ぜてー」
大島が背後から小嶋に抱きつき、はしゃぎ声を上げる。
小嶋「あ、優子そこ危ないよ」
大島「え?」
板野「コテあるから」
前田「何ー?あ、ともちん巻き髪になってる」
187 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 21:01:53.90 ID:/Pt7oAeUO
板野「お風呂入る前にちょっとね、陽菜に遊びで巻いてもらった」
北原「小嶋さん普段からヘアアイロン持ち歩いてるんですか?」
北原が興味深げに目を丸くした。
常にストレートの自分の髪型にも、そろそろ飽きてきたところだ。
さり気なくヘアアイロンのメーカーをチェックしている。
小嶋「たまたまバッグの中に入ってた。何でだろ」
前田「自分で入れたんじゃないの?」
小嶋「わかんない。朝バタバタしてたからその辺のもの入れて出て来ちゃったのかも」
大島「小嶋さーん、いい加減部屋掃除してくださーい」
小嶋「アハハ、怒られちゃった。何でー?優子関係ないじゃん、えーん」
前田「じゃあさ、次あたしの髪巻いてー?」
小嶋「いいよー」
大島「次あたし」
小嶋「え?優子は自分でやんなよ」
大島「小嶋さん…」
大島が悲しげに眉を下げる横で、小嶋はのんびりと鼻歌を歌い出す。
足元に置いたままだったヘアアイロンを手に取ると、前田の背後に回った。
188 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 21:04:55.62 ID:/Pt7oAeUO
小嶋「じゃあ始めまーす」
前田「はーい」
前田はくすぐったそうに一度肩をすぼめると、それから背すじを伸ばした。
前田「ともちんとお揃いにしてー。双子ー」
小嶋「え?でも長さ違うから無理だよー」
前田「じゃあいいや」
小嶋「あれー?」
北原「ん?どうしたんですか?」
ヘアアイロンに前田の髪を巻きつけようとして、小嶋は小首をかしげた。
小嶋「あれー?壊れちゃってるよー。このコテ、全然あったまってない」
189 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 21:07:25.05 ID:/Pt7oAeUO
北原「さっきともちんの髪巻いてる時は壊れてなかったですよね」
小嶋「あー、優子さっきアイロン踏んだんでしょ?だから壊れちゃったんだよー」
大島「え?あたし踏んでないよ」
小嶋に睨まれ、大島は大慌てで首を激しく振った。
大島「もし踏んでたら火傷してるって」
小嶋「えー?じゃあどうして?」
前田「なんでだろうねー」
北原「さぁ…」
4人がそれぞれ首をかしげる中、板野は笑いをこらえながら指摘した。
板野「それ電源入れたままにしばらく置いとくと、自然と切れるようになってるんだよ」
小嶋「えーそうなの?」
190 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 21:11:11.78 ID:/Pt7oAeUO
板野「うん。ヘアアイロンはほとんどがそうなってるよ。たぶん火事とか起きないように」
北原「へぇー勉強になる」
板野「常識だよ。使い終わると結構電源入れたままアイロン放置しちゃう人多いしね」
前田「あ、なんかわかる。まだ使うつもりだったんだけど、なんかもういい感じになっちゃうと、この辺で巻くのやめようかなーとか思うもん」
板野「でしょ?」
板野は得意げに鼻先を上に向けた。
前田「ともちん美容関係得意だよね」
板野「うん、好きだからね」
北原「ファッションとどっちが好きですか?」
板野「両方」
北原「へぇー」
北原は数回頷いてみせた。
その間、小嶋は着々と前田の髪にヘアアイロンを当て、巻き髪を作っていく。
191 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 21:12:59.40 ID:+2yJXbJo0
なんでハンドルとID変わってるの?
192 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 21:13:30.91 ID:/Pt7oAeUO
前田「見て見て優子ー。どう?」
完成した髪を、前田は嬉しそうに披露した。
そして何か考えこんでいた様子の大島に気付き、一瞬表情を曇らせる。
大島「あ、可愛いー」
大島は我に返ったようで、少し焦り気味にそう言った。
前田「ありがとう」
北原「ボブで巻き髪とかもいいですよねー」
小嶋「そうだね」
板野「あ、あたしそろそろお風呂入ってくる」
大島「じゃああたしも行こう」
193 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 21:15:22.82 ID:/Pt7oAeUO
北原「それじゃああたしもこれで、そろそろ看守の部屋に戻りましょうか」
前田「そうだねー。麻里子にもこの髪見せたいし。陽菜に巻いてもらったって言って自慢しよー」
前田と北原、大島と板野が揃って第12監房を出て行く。
残された小嶋は、床に置いたヘアアイロンを拾い上げ、不思議そうに見つめていた。
大島「にゃんにゃんもお風呂行こうよー。もう自由時間終わっちゃうよ」
大島が戻ってきて、顔を覗かせる。
小嶋「あ、待ってー」
小嶋は床にヘアアイロンを戻すと、大島の元へ駆け寄った。
板野の言った通り、ヘアアイロンはもう電源が切れ、冷め始めている。
194 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 21:18:21.42 ID:/Pt7oAeUO
7時55分、地下通路――。
河西「美宥ちゃん早く!ドア閉まっちゃうよ」
河西は生ごみの入ったごみ袋を片手に、裏口に向かって駆け出した。
ごみ捨てに許される時間は5分。
それを過ぎれば、今日のごみ捨ては出来ない。
また明日もごみを捨てる時間はあるのだが、きれい好きの河西は、生ごみを放置して厨房に臭いが充満するのが許せなかった。
竹内「待ってください、これもまとめちゃいます。えーっと、後はもうごみないですよね」
竹内は持っていたごみ袋の口を閉じると、大慌てで河西の後を追う。
河西「ふぅ、間に合ったー」
裏口を開けて、外へごみを置けばそれで終わりである。
実際は5分もかからない。
しかし時間が制限されていると思うと、なぜだか焦ってしまう。
195 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 21:18:48.86 ID:JjDHSNVKO
うーんこれは……
AKBエンタメクラスタさん転載許可します!!!
196 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 21:20:33.50 ID:/Pt7oAeUO
河西「……」
河西はそこで、大島との会話を思い出した。
――優子はきっと、ここからの脱獄を考えてる。あたしは反対だけど…。
なんとなく気になり、いつもはごみを捨ててすぐ締めてしまうドアを、開けたままにしておいた。
ドアの向こうの暗い景色に目をこらす。
――この先は、何があるんだろう…。
脱獄は反対だが、やはり外は気になる。
何か気付くことはないか、河西はしばらく辺りを見回してみたが、外は明かりもなく、生憎月も出ていない。
黒い絵の具をぶちまけたような、深い夜の世界。
竹内「…河西さん…?」
いつもと違う河西の様子に、竹内が声をかける。
河西「あ、何でもないよ。行こう」
河西は慌てて、ドアを閉めた。
197 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 21:24:28.80 ID:8HZHyoNC0
支援
198 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 21:25:18.14 ID:/Pt7oAeUO
米沢「あ、待って待ってー。まだごみ残ってたよ」
直後、ひとり厨房に残り、ガス台周りの掃除をしていた米沢が、ごみ袋を持って現れる。
竹内「あ、気がつきませんでした。すみません」
米沢「よし、まだ時間あるね。これも捨てちゃおっ」
米沢が裏口のドアノブに手をかける。
米沢「?あ、あれ…?」
直後、不思議そうに首をひねった。
河西「どうしたの?」
米沢「ドア…開かないよ」
河西「嘘?もう5分過ぎちゃった?」
竹内「まだ残り2分あります」
米沢「じゃあどうしてだろう?」
199 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 21:26:56.49 ID:DjgvZHkq0
米平が辞めてちょうど一ヶ月
作者は一ヶ月以上前から書き溜めてたんだな
200 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 21:28:23.49 ID:/Pt7oAeUO
河西「そのごみって、生ごみ?」
米沢「違うよ」
河西「じゃあまた明日のごみ捨ての時間に捨てようよ。その時にはもうドアも直ってるんじゃない?」
竹内「誤作動ですかね」
ドアはごみ捨ての時間だけ自動で解錠する仕組みらしいことは、一昨日からのこと思い返せば容易に想像がつく。
機械の誤作動はありえることだった。
河西「行こう米ちゃん。掃除、まだ途中でしょ?手伝うよ」
米沢「う、うん…」
河西に促され、米沢は厨房へと引き返す。
少し歩いたところで、そっと背後を振り返ってみた。
ドアは相変わらず、閉じられたままである。
――おかしいな。こんなすぐに誤作動を起こすようじゃ、そのうち厨房が生ごみ臭くなっちゃう…。
米沢はそう心配すると同時に、何かに気付きかけた気がして、胸に妙な引っ掛かりを覚えた。
201 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 21:44:47.17 ID:oupraDg70
《4日目》
阿部「なんか嫌な予感がする」
永尾「え…?」
囚人達の作業を監視する中、阿部の発した言葉に、永尾はびくりと肩を震わせた。
阿部の視線の先には、島崎の姿がある。
永尾「ぱるるがどうかしたの?」
阿部「明らかに1人だけ作業が遅い。もしかして、時間内に終わらないかも…」
永尾「嘘?」
永尾はさっと島崎の手元に視線を走らせた。
作業も4日目となり、内容が複雑になっている。
さらにはノルマも増え、囚人達には作業の正確さとスピードが求められていた。
永尾「え?嘘でしょ?」
阿部「まずいよね、あれ…」
すっかり作業に慣れた囚人達の中で、島崎だけが遅れを取っていた。
島崎の前に置かれた仕上がり品を見ても、左右がバラバラに接着されてあったり、なぜか角が取れてしまっていたりと散々な出来だ。
おまけに工程の1つ1つが遅く、1個仕上げるのにかなりの時間を要している。
202 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 21:45:36.32 ID:oupraDg70
永尾「ぱるる…」
永尾は無意識のうちに胸の前で両手を組み、祈るような仕草を見せた。
――頑張って、ぱるる…。
そんな永尾の横で、阿部は退屈そうにあくびをしている。
阿部「もう今日は低周波決まりだね」
永尾「そんな…!やだよ絶対!痛いもん」
阿部「仕方ないよ。もう諦めよう」
永尾「よくこんな状況で落ち着いていられるね」
阿部「だってあたし達看守は作業に手出し出来ないし」
永尾「だけど…、うーん、どうしよう…」
柏木「どうしたの?」
こそこそと話す2人に気付き、柏木が声をかけた。
阿部「あ、柏木さん」
永尾「大変なんです。見てください、ぱるる…」
203 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 21:46:22.78 ID:oupraDg70
柏木「えぇぇ?ちょっ、嘘でしょ?作業あと1時間しかないのに」
永尾「はい…」
阿部「すごいでよね」
島崎は真剣な眼差しで作業に臨んでいる。
決してふざけていたり、手を抜いているわけではない。
だからこそ、タチが悪いのだ。
真剣にやっていないのならば、しっかりやるよう注意するだけで済む。
しかし島崎にとっての100%がこの状態であるのは明らかだ。
絶望的だった。
永尾「ぱるる…間に合いますかね」
早くも永尾は涙目になっている。
すると、慌てていた柏木が急に冷静になった。
阿部「柏木さん?」
柏木は鋭い視線で作業部屋全体を見渡すと、ぱっと目を輝かせ、阿部と永尾にウインクを返した。
永尾「え?」
わけがわからず、永尾はまばたきを繰り返す。
204 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 21:46:57.45 ID:oupraDg70
柏木「待ってて、今助っ人を頼むから」
柏木はそう言うと、その場を離れ、渡辺のもとへ走り寄った。
ほとんどの作業を済ませていた渡辺に、そっと耳打ちする。
渡辺は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、こくこくと頷いた。
柏木「もう大丈夫だよ」
渡辺のもとから戻ってきた柏木は、そこでもう1度ウインクして見せる。
永尾「どういうことですか?」
柏木「まゆゆが遥香ちゃんの分手伝ってくれるって」
柏木がそう説明すると、永尾はほっと安堵の息をついた。
永尾「ありがとうございます」
阿部「ぱるるはもう渡辺さんに足を向けて寝られないですね」
柏木「あ、難しい言い回し知ってるんだね…」
阿部の淡々とした物言いに、柏木はいまいち馴染めない。
205 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 21:47:42.57 ID:oupraDg70
夕食――。
指原「今日はパスタだ!おいしい!」
第4監房では、指原が嬉しそうにフォークでパスタを巻き取っていた。
にんにくの香りが漂い、食欲をそそる。
指原「そういえばぱるるはパスタって言う?スパゲッティって言う?指原のうちでは…んん?ぱるる?」
くだらない疑問を口にしながら、指原は島崎を振り返った。
島崎は湯気のたったパスタの皿に視線を落としたまま、手をつけようとしない。
指原「どうしたの?食欲ない?おなか痛い?」
指原が尋ねる。
島崎ははっと我に返り、慌てて首を横に振った。
島崎「あ、大丈夫です」
指原「?どうかしたの?」
島崎「あ、今日の作業がきつくて…」
206 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 21:48:52.67 ID:oupraDg70
指原「あぁあれは焦ったよね。指原時間内に終わらないと思ったもん」
島崎「わたしは…わたしは…時間内に終わらせられませんでした…」
指原「え?嘘でしょ?じゃあなんで…」
島崎「あ、いえ、作業自体は終わったんです。まゆゆさんがわたしの分、手伝ってくれて…。でも…わたし1人だったら絶対に終わらせられなかった…」
島崎「わたし怖いんです。いつか自分が大変な事態を起こしちゃうんじゃないかって。今日は大丈夫だったけど、明日もまた終わらせられなかったらって…」
島崎は透き通った声でそう言うと、嗚咽を漏らした。
指原「ぱるる…」
指原が言葉を失う。
だったら明日は自分が手伝ってあげるよ。
そう言うのは簡単だった。
しかし、指原にはどうしてもその一言を口にすることができない。
自分だって、もう限界なのだ。
これで他人の分まで手伝っていたら、自分の分の作業が終わらなくなってしまう。
島崎「そうしたらもう絶対、懲罰房に入れられるのはわたしです…。懲罰房…入りたくないよ…」
207 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 21:49:18.24 ID:oupraDg70
昨夜、同じチームの山内が懲罰房へ入れられた。
第7監房にいる島崎には、青ざめた顔で看守に連れて行かれる山内の姿を、どうしても目にしてしまうことになる。
山内は、すでに懲罰房行きを経験した高橋と同じ監房だ。
きっと、高橋から少しは懲罰房の中の様子を聞いていたのだろう。
もし聞いていなかったとしても、高橋の様子からだいたいの察しはつく。
――らんらん…震えてたな…。
その恐怖を知っているからこそ、山内はあんなにも懲罰房を怖がっていたのではないか。
指原「だ、大丈夫だよ。きっとまた…ほらたかみなさんとか…助けてくれるよ。相談してみたら?」
指原は考えた末、それくらいしかアドバイスすることが出来なかった。
島崎「はい…」
それでもやはり今の島崎には効き目がなかったのか、指原のアドバイスは軽く無視された。
島崎に悪気がないことはわかっているので、指原もそれ以上は言わず、冷めかけたパスタに戻る。
島崎もまた、指原の様子を見て、のろのろとフォークを手にした。
208 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 21:49:57.86 ID:oupraDg70
一方その頃、看守の部屋では――。
小森「ごちそうさまでしたー。あれ…?」
夕食を食べ終えた小森は、周囲を見渡し半笑いを浮かべた。
小森「皆さんどこ行っちゃったんですか?」
部屋の中には数人のメンバーがいるだけで、なんとなく寂しい雰囲気である。
松原「気付いてなかったの?え?今更?」
松原が小森の食べ終えた皿を片付けてやりながら、呆れ声を上げた。
小森「あ、皆さんおかわりしに行ったんですね!」
松原「違うよ。なんかガスの調子が悪いとかで様子見に行ったの。それに何人かは定時のチェック」
小森「あぁ」
小森は納得したように頷いた。
しかし本当に理解しているのかは定かではない。
彼女の発言はだいたいにおいて、嘘と勘違いで出来ている。
209 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 21:50:57.12 ID:oupraDg70
宮崎「こもりん食べ終わった?」
宮崎がパスタソースで唇の端を赤く染めたまま、話しかけてきた。
小森は返事をする変わりに、意味深な笑顔を浮かべている。
あえてパスタソースについては指摘しない。
というよりもはじめから、他人のことにあまり注意が向かないのだ。
宮崎「ねぇ暇だし、怖い話でもしない?」
小森「えー?いいですよ」
宮崎「どっち?」
小森「え?あー、わたしはどっちでもいいです」
宮崎「こもりん怖い話苦手だっけ?」
小森「たぶん大丈夫じゃないですか?」
宮崎「なんで他人事なんだよ」
小森「怖い話ってほら、あれですよね?不思議な話っていうか、森で道に迷った女の人が車の中で、」
宮崎「うわぁぁダメダメ!!なんで今からしようとしてる話のオチ言おうとするの?」
小森「あ、はい」
宮崎は慌てて小森の口を塞いだ。
その様子を見ていた松原と、さらには多田と佐藤すみれも交じり、部屋に残っていた面々が集まった。
210 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/27(月) 21:51:38.35 ID:oupraDg70
宮崎がもったいぶった口調で、怪談話をはじめる。
宮崎「これは本当にあった話なんだけど…」
多田「うん」
多田にはまだにやにやとした笑いを浮かべる余裕が窺えたが、すみれはすでに表情が固まっていた。
それでも好奇心のほうが勝り、宮崎のほうに身を乗り出している。
松原はさりげなく、そんなすみれに寄り添うようにして話を聞いている。
宮崎「…でね、その時にはすでにおかしいなーとは思ってたんだって…」
多田「うん」
佐藤す「……」
すみれが息を呑む。
宮崎の話はまだ序盤であるが、この流れではクライマックスでもの凄い恐怖が用意されていることは明らかだ。
宮崎の話しぶりが自信満々なことも、恐怖に拍車をかけている。
おそらく誰に話しても必ず怖がられる、鉄板のネタなのだろう。
211 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 22:07:23.21 ID:/Pt7oAeUO
宮崎「あ、オチにいく前に電気消そうか?暗いほうが良くない?」
宮崎が嬉々として提案する。
多田「いいねぇー」
小森「はい」
スイッチに近いところにいた小森が立ち上がる。
宮崎「あ、違う。こもりんローソクない?」
小森「え?ローソクですか?」
宮崎「ほらあの、机のとことか」
宮崎が指差したのは、部屋の角に追いやられている古いデスクの山だった。
小森「え?ありますかね…」
小森は疑問に思いながら、しかし言われた通りにデスクの引き出しを漁った。
中にはボールペンやクリップなどが乱雑に詰め込まれている。
212 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 22:09:14.02 ID:/2TJ8BLk0
米ちゃん(´・ω・`)
213 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 22:10:27.08 ID:/Pt7oAeUO
小森「……」
宮崎「あったー?」
小森「え?ちょっと待ってくださーい…あ、ありました!」
松原「え?でも火をつけるものがないよ」
小森「マッチもありますー」
小森はローソクとマッチを手にすると、みんなの座るところまで戻ってきた。
松原がローソクに火をつけてやる。
電気を消すと、途端に部屋はおどろおどろしい雰囲気に包まれた。
宮崎「じゃ、続きね…」
宮崎が満足げに話を再開する。
すみれは密かに下唇を噛み、最大の恐怖へ向けて身構えた。
214 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 22:14:19.48 ID:/Pt7oAeUO
それから10分程、宮崎は用意していた怪談話を次々と披露していった。
中には大好きなホラー映画からヒントを得て、自分で創作した話も含まれている。
過剰に怖がるすみれのリアクションを見て、宮崎はほくほく顔だ。
宮崎「じゃあ今度の話はねぇ…肝試しに行った大学生のグループがいたんだけど…」
すっかり調子に乗った宮崎が、さらなる怪談話を披露しかける。
その時、ドアの開く音がして、室内が明るくなった。
小森「あ…」
ドアの傍には大場と入山が立っている。
大場「あ、すみません…」
入山「……」
呆気に取られる先輩達を前にして、大場と入山は恐縮したように頭を下げた。
215 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 22:17:08.45 ID:/Pt7oAeUO
多田「ごめん今怖い話してた」
突然明るくなった室内にまだ目が慣れないのか、多田がまばたきを繰り返しながら言う。
松原「2人もこっちおいでよ」
松原は優しい笑みを浮かべ、手招きをした。
しかしドアの傍の2人は困ったように顔を見合わせるばかりで、動こうとしない。
大場「あの、定時のチェックお願いします」
入山「交代の時間なんです」
松原「え?あ、そうだった」
定時のチェックとは看守に与えられた仕事の1つである。
囚人が揃っているかの見回り、施設内の鍵が破られていないかのチェックなどを決められた時間に行うのだ。
それについては看守全員でぞろぞろ動くのも効率が悪いので、何人かずつローテーションでこなしていた。
216 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 22:20:45.16 ID:/Pt7oAeUO
宮崎「仕方ない。ちゃっちゃと行きますか」
宮崎が立ち上がる。
小森も頷き、優雅な身のこなしで腰を上げた。
松原「じゃあらぶたん行こうか」
多田「はーい」
怪談話をしていた5人が動き出すと、大場と入山は安心した表情を浮かべた。
松原「あれ?2人は?」
部屋を出た松原が、チェックに向かおうとして途中で振り返る。
大場「あ、わたし達は洗濯物を…」
松原「あ、そっか」
皆が使ったタオルやシーツの洗濯も、看守の役目だった。
入山「そろそろ乾燥機終わるんで、洗濯物畳みに行ってきます」
多田「ありがとー」
大場と入山は先輩5人を見送ると、洗濯部屋へ向かって歩き出した。
217 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 22:25:38.63 ID:/Pt7oAeUO
一方その頃、第3監房では――。
小林「あと15分で自由時間〜♪」
小林は格子扉に手をかけ、そわそわと通路を窺っている。
秋元はそんな小林の様子を、微笑ましく眺めていた。
秋元「嬉しそうだね香菜。何かあるの?」
小林「え?特にすることないけど、やっぱうれしいじゃん、監房の外に出られるなんて」
秋元「そうだね。こんなとこにずっと閉じ込められてるよりはまぁ…」
小林「それに香菜、最近友達できたんだ」
秋元「は?」
小林「お風呂の横の壁でおでこを冷やすと気持ちいいんだよ。香菜そこでよく会話するようになったの」
秋元「え?誰と?」
小林「壁と」
218 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 22:28:04.64 ID:/Pt7oAeUO
秋元「へ、へぇ…まぁいいんじゃん?香菜らしくて…」
秋元はなぜか力強く頷くと、よく理解できない友人の背中から、目を離した。
――自由時間が来たら、また懲罰房行きのメンバーが発表される…。
秋元もまた、大島と同じく、懲罰房行きになったメンバーが選ばれた理由について考えていた。
――たかみなにまりやんぬにらんらん…共通点がなさすぎる…。どうして?どうしてあの3人が懲罰房行きに選ばれたの?
秋元はそのことについて、自由時間の間に大島と話し合うつもりであった。
何かヒントが見つかれば、そこから脱獄の方法を思いつくことができるかもしれない。
秋元もまた、脱獄については諦めていなかったのだ。
219 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/27(月) 22:30:02.94 ID:/Pt7oAeUO
小林「あ、開いた開いたぁ」
小林のはしゃぎ声が聞こえ、秋元は脱獄についての考えを中断する。
小林「早く壁のとこ行こ〜」
小林の言葉に、秋元はなんとなく監房の壁を見上げた。
そこにかけられた時計の針は、6時53分を示している。
――自由時間まであと7分ある…。この時計壊れてるのかな…。
監房の扉はいつものように自動で開かれていた。
小林「あれ?才加、出ないの?」
すでに通路へ出た小林が、不思議そうに秋元を振り返る。
220 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 22:30:47.46 ID:QS1GKe0j0
まとめんばーさん!!!!!金色でお願いします!!!!!
221 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 22:40:29.19 ID:4hgH57Br0
続きが楽しみ
222 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 23:03:43.40 ID:6TEztLzh0
支援
223 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 23:04:37.42 ID:4hgH57Br0
ほしゅ
224 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 23:10:20.84 ID:/2TJ8BLk0
225 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 23:12:07.98 ID:DjgvZHkq0
226 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 23:13:40.71 ID:4hgH57Br0
更新まだかな
眠くなってきたなー
228 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 23:48:29.42 ID:PzcjbFRO0
保守
229 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/27(月) 23:49:49.62 ID:/2TJ8BLk0
保守
おやすみー
230 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 00:02:51.43 ID:0lqiNYQf0
保守
231 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 00:30:11.39 ID:0pre9SMu0
保守
232 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 00:37:26.09 ID:XtiWltIW0
作者の書き溜めた分が終わっちゃったってことかな
233 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 00:58:33.01 ID:RiSpCA1p0
作者寝落ち?
234 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 00:58:53.96 ID:VtggC5Pa0
小林「壁と」
(´;ω;`)ブワッ
235 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 01:25:32.96 ID:/sf/XQRS0
誰にもレスをせず淡々と続けてるのが怖いわw
とりあえず早く続きか見たい(#^.^#)
237 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 01:52:35.81 ID:0pre9SMu0
ほ
238 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 02:00:37.01 ID:wKxygggF0
し
239 :
名無しさん@お腹いっぱい:2012/02/28(火) 02:37:02.29 ID:vzqz5Oh80
の
240 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 02:52:58.21 ID:RiSpCA1p0
あ
いわせねーよ
242 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 03:14:55.52 ID:hdZpH0w+O
き
243 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 03:16:44.52 ID:uJ1s9nD0O
あきにゃ〜ん!あきにゃ〜ん!
ヽ('A`)ノ
( )
ノω|
244 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 04:16:05.58 ID:/sf/XQRS0
hoshu
245 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 05:26:38.97 ID:0pre9SMu0
ほ
246 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 05:38:42.29 ID:sLJhVjxeO
し
247 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 05:41:37.50 ID:XtiWltIW0
む
248 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 07:46:31.78 ID:G6QBJFYg0
おはようございます。
保守してくださった方、ありがとうございます。
今日は一日更新できるので、一気に進めたいと思います。
一応書き溜めしてあって、完結もしてますが、たぶん今まで書いた中で一番長い話なので、
ラストまで行けるかどうか微妙です。。
249 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 07:47:09.68 ID:G6QBJFYg0
秋元「え?あぁうん…この時計おかしくない?自由時間まであと7分もあるのに…」
小林「でももう扉開いたし、出てもいいってことでしょ?」
秋元「そうだけど…なんか引っかかるなぁ…。おとなしくしておいたほうが、」
秋元が忠告している最中、突然頭上からけたたましいサイレンの音が振ってきた。
小林「うるさっ…」
小林が丸い目を細め、迷惑そうに天井を見る。
秋元「これ…いつものサイレンの音と違う…」
小林「え?」
秋元「このサイレンまるで…あっ!!まさか…」
秋元が何かに気付き、立ち上がった。
素早く監房の外へ飛び出す。
と同時に、放送がかかった。
250 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 07:48:11.47 ID:G6QBJFYg0
『火災が発生しました。火災が発生しました。火災が…』
音声は狂ったように同じ言葉を繰り返していたが、やがて止まった。
小林「火事?火事?どうしよう…」
小林がおろおろと周囲を見渡す。
小林「火って何で消えるの?ほらチョークの粉みたいなやつ」
秋元「消火器だ!消火器を探そう。火元はどこ?」
小林「厨房かな…」
秋元「いや、それより早くここから避難したほうがいいかも…」
通路には囚人達が次々と飛び出し、泣き出す者、何か叫んでいる者、呆然と立ちすくむ者とが入り混じっている。
まさに地獄絵図だ。
板野「才加…」
階段を駆け下り、板野がやって来た。
251 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 07:49:10.02 ID:G6QBJFYg0
板野「どうなってるの?火事って…厨房?ともーみ達大丈夫かな?」
秋元「早くみんなを避難させないと…」
板野「うん」
板野が地下への階段へ向かおうとすると、上からバタバタと数人の看守が下りてきた。
内田「大丈夫です!火は消えましたー」
中田「火元は看守の部屋です。みんなそこから動かないでくださーい」
片山「じゃないとまた片山達が低周波流されちゃうと思うから」
高橋「火事って…看守はみんな無事なの?」
内田「え?えーっと…」
大島「どうして火事なんてなるの?看守何してんだよー」
中田「ごめんごめん…」
やってきた3人はまだ状況が飲み込めていないようで、囚人達から飛ばされる質問に、うまく答えられないでいる。
とりあえず現場を鎮めるためだけに下りてきただけなのだ。
252 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 07:50:03.32 ID:G6QBJFYg0
高橋「こんな監禁された中で火事なんて起こしたら、みんな丸焼けだよ?理由をちゃんと説明して!」
宮澤「看守の部屋には消火器あったの?」
秋元「火って怖いよ。ちゃんと消さないと、気がついた時には炎になってて手遅れなんてこともあるんだから!」
秋元がよく通る声でそう指摘すると、看守の3人は互いに顔を見合わせ、言葉に詰まった。
高橋「本当に大丈夫なんだよね?」
高橋が試すような視線を送る。
それはよく他人から睨みつけていると勘違いされてしまう表情だった。
前田「たかみな!」
その時、前田が小気味良いステップで階段を駆け下り、囚人達のもとまでやって来た。
高橋「あっちゃん!大丈夫だった?」
板野「火傷とかしてない?みんなは?」
瞬間、高橋と板野に囲まれ、前田は困ったような笑顔を浮かべる。
前田「ごめんね。みんな平気だよ」
253 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 07:50:53.75 ID:G6QBJFYg0
高橋「何があったの?」
前田「うん、ちょっと…。とりあえずみんな看守の部屋に来てくれるかな?頼みたいこともあるし」
高橋「いいよ。よし、みんな行こう」
高橋は前田と並び、階段を上がった。
板野もその後ろを追いかける。
そこではたと気付いた。
板野「あれ?でも看守の部屋って、囚人は立ち入り禁止だよね?入っていいの?あたし達が入ったら、また低周波が…」
板野が尋ねると、前田は足を止め、振り返った。
前田「大丈夫。看守の命令は絶対なんだよ。てことは看守が部屋に入れって命令したんだから、低周波なんて流されないよ。たぶん」
板野「あ、そっか」
板野はあっさり納得すると、階段を上った。
看守の部屋は2階である。
――あっちゃん…うまいこと考えたな…。
囚人は看守の命令に背くことができない。
看守である前田が、自分達看守の部屋へ囚人が来るよう命令したことにすれば、この場合低周波を流されることはないのだ。
254 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 07:51:36.37 ID:G6QBJFYg0
前田「こっちが看守の部屋。入って入って」
前田は2階に上がると、すぐ手前のドアを開き、囚人全員を中に招きいれた。
板野「これって…」
看守の部屋に入った板野は、まずその快適さに驚いた。
自分達囚人の部屋とは大違いだ。
ゲームやソファ、床にはカーペット。それにポットやお茶の類まで用意されている。
しかしそんな扱いの違いに驚かされたのは一瞬で、すぐに部屋の中の、ある一点に視線が奪われた。
高橋「どうしたのこれ?」
高橋が目を丸くする。
高橋「それにこの床…てゆうかこの部屋全体、水びたしじゃん」
大島「ひどいな…」
看守の部屋は隅のほうに置かれた椅子とクッションが焼け焦げ、さらに部屋全体が雨に降られたようにぬれていた。
255 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 07:52:28.50 ID:G6QBJFYg0
篠田「炎を感知したら、上から水が降ってくるみたいでさ、火事だとわかった次の瞬間には、この通り」
部屋には看守全員が集まっていて、中の1人、篠田が説明した。
その物言いには、今更起きてしまったことをとやかく言っても仕方がないという潔さが含まれている。
秋元「みんな無事みたいだから良かったけど…」
板野「なんで火事なんか…」
宮崎「ごめんなさい」
突然、看守の間から宮崎の声が上がった。
続いて小森の泣き声が洩れ聞こえる。
高橋「えっ…?」
宮崎「あたしがローソクなんか使おうとしたから…」
小森「わたしがローソクに火をつけたんです。部屋を出る時消したつもりだったんだけど…くぅーん」
256 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 07:53:19.55 ID:G6QBJFYg0
高橋「2人が火を消し忘れたの?」
松原「ううん、あたしも一緒にいた。あたしがちゃんと確認していれば良かったのに」
佐藤す「あたしも…ごめんなさい…」
多田「ごめんなさい」
指原「えぇ?愛ちゃん大丈夫?怪我ない?」
多田「大丈夫」
すっかりしょげかえる5人の様子と、小火で済んだこともあり、ようやくそこでメンバーは安堵の息をついた。
高橋「いいよいいよ。ごめんね、責めてるわけじゃないから。誰にでも失敗はあるし」
大島「まぁ何はともあれ、みんな何事もなかったんだからよしとしない?」
高橋が慌ててフォローに入り、大島が明るく笑い飛ばす。
板野「それであっちゃん…お願いって言うのは?」
板野は一足先に冷静さを取り戻し、前田に尋ねた。
257 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 07:54:09.56 ID:G6QBJFYg0
前田「あ、そうだ。あのね、この部屋水びたしでしょ?拭くの手伝ってもらえないかな?」
板野「でも…布団とかどうするの?」
峯岸「布団なら替えがあるから今日のところは大丈夫」
板野「そうなんだ。何で拭けばいい?ぞうきんは?」
前田「あ、ともちん手伝ってくれるのー?」
前田はうれしそうに板野の腕を組んだ。
板野「しょうがないじゃん。だってこれじゃあ、看守のみんな眠れないでしょ」
板野が淡々とそう口にする。
高橋「みんなでやれば仕事は速いよ。早く拭いちゃおう」
宮澤「うんうん」
篠田「みなみ…佐江ちゃんありがとう。みんなも悪いね」
小嶋「いいよー」
こうしてメンバー達は手分けして、看守の部屋についた水滴を拭き取る作業に取り掛かった。
細かいところまで気にしていくと、なかなか時間がかかり、すべての作業が終わった時には、自由時間終了15分前になっている。
258 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 07:56:40.59 ID:60kgOQ3yO
ふむふむ
259 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 07:58:49.00 ID:58HWYykmO
大島「うわっ、もうこんな時間!」
小嶋「疲れたよー」
大島「にゃんにゃん、あたしの監房に来て休もう」
小嶋「うん」
看守がお礼を言うと、囚人達は残り少ない自由時間を楽しむため、それぞれの監房へと帰って行った。
260 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:01:47.18 ID:58HWYykmO
第14監房――。
前田亜「…っうーん…」
前田亜美はベッドに寝転がると、大きく伸びをした。
大家「亜美、疲れた?」
大家が心配そうにそんな亜美の顔を覗きこむ。
前田「大丈夫です。座り作業が続いてたから、なんか体動かせて逆に気分がいい」
大家「あぁ、それはあるね」
大家が納得顔で頷く。
そこで大家のベッドから情けない声が洩れてきた。
指原「ふへぇぇぇ…」
大家「あ、さっしー居たんか」
指原「指原冷え性なんだよ。水触ってたから指先が冷たい」
大家「どれ、手貸して。しいちゃんがあっためてやるけん」
大家は手を伸ばすと、指原の指先を包んだ。
261 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:04:00.75 ID:58HWYykmO
指原「おっ、しいちゃん手温かい」
大家「そうやろ」
大家が得意げな笑みを浮かべる。
その時だった。
例の音声が流れ始める。
『報告が遅れて申し訳ありませんでした。本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第7監房の…』
指原「嘘っ!」
大家のベッドにもぐりこんでいた指原が、がばりと起き上がる。
その顔はすでに青くなっていた。
指原「指原達の房だ…やだ…」
指原は頭を抱えた。
『第7監房の…島崎遥香さん。これから看守が迎えに行きます。速やかに自分の監房へ帰り、看守の案内に従ってください』
262 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:08:06.87 ID:58HWYykmO
指原「ぱるる…が…嘘でしょ…」
そう言いながら、指原はどこかでこの結果を予感していた自分に気付く。
いつかは自分か島崎が懲罰房行きになるだろうと思っていたのだ。
へタレかぽんこつか…どちらにせよ懲罰房に入れられるだけの理由があると、指原には半ば覚悟している部分があった。
前田亜「さっしー…」
大家「大丈夫?」
指原はそれでも、体の震えを止めることができない。
――そんな…あんなか弱い子が懲罰房だなんて…。
ついに泣き出した指原の目を、大家はハンカチで拭ってやる。
大家「あぁもう泣くな泣くな」
指原「うぇっ…」
亜美は情けない先輩の姿を、心配そうに見つめていた。
前田亜「ん?」
そこで、天井の辺りからノイズ音が小さく洩れていることに気付く。
まだ放送のスピーカーは切られていなかったのか。
前田亜「変なの…」
亜美が小さく呟いた時、音声は衝撃的な事実を告げた。
263 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:11:07.51 ID:58HWYykmO
『それから本日はもう1人、懲罰房行きとなる方がいらっしゃいます』
前田亜「えぇ?もう1人って…」
機械的な音声に対して、あちこちの監房からうろたえる声が聞こえてくる。
亜美はごくりと唾を呑んだ。
『看守の中に、重大なルール違反を犯した方がいます。看守はきちんと囚人を決められた監房へ収容しなければなりません。囚人は自由時間以外、他人の監房へは入ってはならない決まりです。しかしそういった行為を黙認した看守がいます』
『倉持明日香さん、あなたは第10監房の囚人が、第7監房で眠ることを許可しましたね?これはルール違反です。よって、本日は倉持さんにも懲罰房へ入っていただくことになります』
大家「なんでもっちぃが?」
前田亜「第7監房って…さっしーじゃないですか?」
大家「え?どうなってんの?」
指原「そんな…どうしよう…全部、指原のせいだ…もっちぃ…」
指原は両手で顔を覆うと、嗚咽を洩らした。
264 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:13:56.61 ID:58HWYykmO
大家「何があったん?何でもっちぃまで懲罰房なの?」
指原「2日前…まりやんぬが懲罰房へ入れられることが発表されて…まりやんぬと同じ第10監房のあきちゃが不安そうにしてたから、今日だけ指原の監房であきちゃも一緒に眠らせてあげてほしいって、点呼に来たもっちぃにお願いしたんだよ…」
前田亜「そんな…」
指原「そうしたらもっちぃがあきちゃを指原の監房までつれて来てくれて…こんな…こんな大事になるなんて…」
大家「たぶん、うちらをここに監禁している奴にとって、自分の決めたルールは絶対なんやろ。例え看守でも、ルールを破れば懲罰房に入れられる…」
指原「どうしよう…どうしようもっちぃに悪いことしちゃった…」
大家「……」
耳を澄ますと、すぐ下の通路を歩く足音が聞こえてくる。
足音は4つ。
おそらく看守の2人と、倉持。そして島崎の足音だろう。
懲罰房へ向かっているのだ。
265 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:16:00.57 ID:58HWYykmO
高城「明日香ちゃーんっ!!」
どこからか、高城が倉持のことを呼んでいる。
高城には珍しく、涙声だ。
高城「明日香ちゃんごめん、ごめんねー」
高城の言葉に、倉持が何か言っている。
しかし指原の耳には果たして倉持が何を言ったのか、聞き取ることができなかった。
――でも、聞かなくてもわかる。
指原は確信していた。
「大丈夫だから、心配しないで。あきちゃのせいじゃないよ」
優しい倉持は、きっとそう言って高城を安心させようとしたのだろう。
――もっちぃはそういう人だ…。例え指原が相手だったとしても、絶対に恨んだり、怒ったりしない…。
指原は倉持に対してやりきれない思いで、乱暴に目元を擦ると、涙を拭った。
266 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 08:16:06.95 ID:LNEy6kSCO
メロスは激怒した。
267 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:18:07.45 ID:58HWYykmO
大家「さっしー、そろそろ自由時間終わるよ」
大家が言いにくそうに告げた。
このまま指原をひとりにするのがいたたまれないのだ。
指原「あ、じゃあ指原もう監房に戻るよ。ありがとしいちゃん、亜美」
指原は無理に笑顔を作って、第14監房を後にした。
下へ降りるため階段に向かっていると、背後からバタバタと足音が聞こえてくる。
指原「え?」
前田亜「さっしーちょっと待ってください」
振り返ると、亜美が慌てた様子で追いかけてきていた。
268 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:19:48.57 ID:58HWYykmO
指原「ん?どうしたの?」
前田亜「点呼が終わって15分経ったら、監房の壁を押してみてください。壁に切れ込みがありますよね?」
指原「切れ込み…あぁあるねぇ。隙間風が冷たくて…」
前田亜「約束ですよ。絶対に壁を押すこと。忘れないでくださいね。それ以外の時間は目立つから、押さないほうがいいと思います」
指原「え…何言っての亜美…」
指原は亜美の言っていることがまったく理解できないでいた。
――壁を…押す…?
指原の混乱をよそに、亜美は満足気に頷くと、さっさと自分の監房へ戻ってしまった。
残された指原は少しの間、その場で考え込んでいたが、やがて我に返り、慌てて自分の監房へ、階段を駆け下りた。
269 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:23:06.10 ID:58HWYykmO
自由時間終了後、第4監房――。
高橋「らんらんっ!!」
島崎倉持の2人と入れ違いに、懲罰房から解放された山内は、青い顔をして監房へ戻ってきた。
高橋「大丈夫?すぐに横になったほうがいい。体がふらつくでしょ?」
すでに懲罰房での地獄を経験している高橋には、その辛さがわかる。
耳をやられると、うまく体のバランスを取ることができないのだ。
おそらく高橋の声はほとんど山内の耳に届いていないのだろう。
山内はぼおっとした表情で、高橋の身振りを確認すると、ベッドに横になった。
高橋「今は我慢して。明日の朝には結構回復すると思うから」
山内「はい…」
まだ幼さの残る山内の顔は、昨日とは別人のようにやつれていた。
高橋は山内が目を閉じたのを確認すると、ふっとため息をつく。
高橋「ひどい…」
270 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:24:55.18 ID:58HWYykmO
高橋はそれから苛立った様子で狭い監房内を歩き回った。
監禁されるにしても、もう少し囚人の扱いを改善することはできないものか。
いや、それだったら看守に対しての低周波措置も取りやめにしてほしい。
一体自分達は何のためにここへ監禁されているのだろう…。
考え出すと、怒りと恐怖が倍増するだけだった。
しかし考えずにはいられない。
果たして自分達は、ここから本当に解放してもらえるのだろうか。
山内「あの…たかみなさん…?」
高橋が何度目かのため息をついた時、山内のか細い声が聞こえた。
高橋「何?」
山内「ちょっと、聞きたいことがあるんですけど…」
山内は耳に残る違和感で、うまく話すことができない。
少しずつ区切りながら、高橋へ問いかけた。
271 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 08:29:36.31 ID:G6QBJFYg0
山内「今日の懲罰房はぱるるでしたけど、何かあったんですか?ぱるるはどうして懲罰房に…?」
高橋「さぁ、看守がどういう基準で懲罰行きのメンバーを選んでいるのかまったくわからないんだよね。たぶん…ぱるるは作業が遅かったからじゃないかな」
山内「作業が遅いと懲罰房に入れられちゃうんですか?じゃああたしやたかみなさんも…?」
高橋「どうだろう。あたしは自分で言うのもなんだけど、速いほうだと思うんだよね。ただ、ちょっと仕上がりが雑だったのかも」
山内「そうですか…」
高橋「?どうしたの?」
山内「いえ、もう懲罰房には絶対入りたくないなって思って…これからどういうところに気をつけて作業していったらいいか知りたかったんです」
高橋「そうだよね…。でももう大丈夫だよ。1回入ればしばらくは…うーんどうかな…」
高橋はそこで頭を悩ませた。
ここから解放されるには、1人の囚人が5回懲罰房に入らなければならない。
ということは、誰にでも最高で5回は懲罰房へ入れられる危険性があるのだ。
272 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 08:29:59.17 ID:G6QBJFYg0
山内「あ、ごめんなさい。あんまりそういうの気にしてたら、何も出来ませんよね。すみません…もう寝ます」
高橋の様子に気を遣ったのか、山内は自分から話を切り上げ、毛布をあごの下まで引っ張った。
高橋「あ、ごめんね疲れてるよね。おやすみ」
山内「おやすみなさい…」
山内が再び目を閉じてからも、高橋はしばらく、今後について考えていたが、いつしか睡魔に襲われ、ベッドに突っ伏した。
すぐに深い眠りへと落ちていく。
一方山内は、高橋の寝息の気配を感じながら、じっと天井を眺めていた。
――もう絶対にあんな…懲罰房になんて入りたくない。ひとりぼっち真っ暗な部屋の中で、眠ることもできず…あんなとこにいたら頭がおかしくなってしまう…。
山内は決心した。
――だとしたら、誰か1人に犠牲になってもらえばいい。誰かがみんなの代わりに懲罰房へ入ってくれれば…。
273 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 08:31:08.18 ID:G6QBJFYg0
数分後、点呼の時間――。
前田「たかみなー?寝てるのか。らんらんちゃんも寝てる。ま、いっか、2人ともいることだし」
前田は第4監房の前で、小さくひとり言を口にした。
点呼といっても、いちいち相手に返事をしてもらうわなくてもいいだろうと前田は考えている。
とりあえず全員がちゃんと自分の監房に入っていれば良しとしよう。
そういう考えなので、前田が行う点呼は早い。
次々と監房を覗いて、囚人を確認していく。
そして、第9監房の前まで来た。
大島「あ、あっちゃんが今日の点呼担当なんだ。良かった」
前田が顔を出すと、大島は待ちかねたように格子扉に飛びついた。
前田「どうしたの?」
大島「ちょっとあっちゃんに聞きたいことがあったんだよ。明日聞こうと思ってたけど、ちょうど良かった。今ちょっといい?」
前田「?いいよー」
前田は首をかしげながら、間延びした声を出した。
274 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 08:32:08.35 ID:G6QBJFYg0
大島「あのさ、今日の小火…あれってどうしてああなっちゃったの?」
前田「それはみゃお達のローソクの火が…」
大島「そうじゃなくて。なんでああなるまで、看守は気付かなかったの?みんな看守の部屋にいたんじゃないの?」
前田「え?いないよ」
大島「じゃあどこにいたの?看守の部屋は空だったってこと?」
前田「?うん。みんないろいろ仕事があったし」
大島「仕事?てか前から気になってたんだけど、看守って作業の時間以外、何やってるの?」
前田「あ、ゲームしてるよゲーム」
大島「いやそういうんじゃなくて、ほら、囚人の監視以外に仕事があるんでしょ?」
前田「あぁ、鍵が破られてないかの確認とか、洗濯とかお風呂掃除とか」
大島「鍵の…確認ねぇ…」
前田「うん?あ、優子まだ外へ出る道を探してるの?」
大島「当たり前じゃん」
275 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 08:33:03.17 ID:G6QBJFYg0
前田「でも看守は定時のチェックで、小まめに施設内を見回ってるよ。だから鍵が壊されたり、外されたりしてたらすぐに気付かれちゃうと思う」
大島「…そうみたいだね…」
前田「あ、思い出した!あたし今から布団を乾燥機に入れるの手伝う約束してたんだった!みぃちゃん1人じゃ大変だから」
大島「そうなの?ごめんね引き止めて」
前田「ううん、いいよ。じゃあまた明日ね。おやすみー」
前田は手を振ると、次の監房の点呼へと歩いて行った。
大島は何か考え込みながら、格子扉の外を睨んでいる。
そんな大島の背後から、仲俣が声をかけた。
仲俣「何か…思いつきましたか?脱獄の…」
大島「ううん、さっぱり。あっちゃんのおかげで色々と話を聞くことはできたけど、知れば知るほど脱獄が不可能に思えてくるよ」
仲俣「ほんとですね…」
大島「でもあっちゃんの情報はありがたい。また明日ゆっくり、話を聞けば、脱獄についてのヒントが得られるかもしれない」
仲俣「はい」
276 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 08:34:09.76 ID:G6QBJFYg0
点呼終了後――。
指原「そろそろいいかな…」
指原は壁際に寄ると、隙間風の吹く切れ込みの辺りを探った。
指原「亜美、壁を押せって言ってたけど、何か意味あるのかな?」
不思議に思いながら、そっと壁の辺りを押してみる。
すると、押した部分がくるりと倒れてきた。
指原「うわっうわっ…」
慌てて元に戻そうとして、気がついた。
壁はごみ箱くらいの大きさで、正方形に手前側に倒れてくる。
それはある一定のところで止まった。
――何これ…郵便受けみたい…。
小柄な指原は壁にできた隙間から、頭を通すことができる。
試しに上半身だけ突っ込んで、壁の内側を観察してみた。
中は上下に、細い通り道のようになっている。
277 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 08:35:29.48 ID:G6QBJFYg0
指原「何これ?何のための通路?人…は通るわけないし…」
指原が首をかしげたと同時に、何かが上から落ちてきた。
指原「ひぃっ…!」
咄嗟に目を瞑り、手で顔を覆う。
その手に、何か軽い物が当たった。
――これ…紙?上から落ちて来たの?
指原は一旦壁から離れ、ベッドに腰を下ろした。
バクバクと脈打つ心臓を撫でながら、手にした紙を開いてみる。
指原「?手紙…?」
それは、亜美が書いた指原へのメッセージだった。
278 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 08:36:59.42 ID:G6QBJFYg0
『さっしーへ
驚きましたか?
これ、上から洗濯物を落とすために作られた特別な管だそうです。
あたしの部屋にも壁に切れ込みがあって、いろいろ触ってたら気がつきました。
あたしとさっしーの部屋は角部屋で、しかも上下に位置してるから、この管を使えば手紙のやりとりができるんですよっ!
それから、もっちぃさんのことは気にすることないと思います。
全部が全部自分のせいだなんて思ってたら駄目ですよ!!
もっちぃさんはきっと、指原さんのこと恨んでいないと思います。
それより、悪いのはこんなルールを押し付けて、あたし達をここに監禁している人です。
その人はさっしーや、みんなが苦しんだり悲しんだりしているのを見て、喜んでいるんじゃないですか?
だったら、あたし達に出来ることは、笑ってやることです。
笑って、みんなで仲良く監禁生活を乗り切って、こんな状況を作りあげた犯人をがっかりさせてやるんです。
あと、あたしはさっしーの笑顔が大好きです。
亜美
PS.この手紙を読み終わる頃に、今度はしいちゃんからのメッセージを落とします。
ちゃんと受け取ってくださいね!』
279 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 08:38:41.94 ID:G6QBJFYg0
亜美からの手紙を読み、指原の涙腺はすでに緩みきってしまった。
指原「ありがとう…亜美…」
健気な亜美は、日頃お世話になっている先輩を元気付けることができないかと考え、こんなサプライズを用意したのだった。
それにしても、まさかこの壁の向こうにそんな管が備わっていたなんて、まったく気がつかなかった。
指原「あ、そうだ!しいちゃんからのメッセージ…」
指原はそこで、亜美からの手紙の一文を思い出し、再び壁際に寄った。
さっきと同じように、上半身を管の中へ出して、上を見上げる。
しばらくすると、上からまた何かが落ちてきた。
今度のは重く、手紙というわけではなさそうだ。
指原はそれをなんとかキャッチし、切れ込みを元の壁と同化するよう戻した。
それから、大家からのメッセージというその物体を観察する。
――これ…ICレコーダー?
指原を再生のスイッチを押してみた。
少しの無音の後、唐突に大家の音声が再生される。
280 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 08:40:02.08 ID:G6QBJFYg0
大家『指原元気ー?これ、しいちゃんが持ってたICレコーダーなんよ。驚いた?』
指原「しいちゃん…なんでこんなもん持ってんだよ…」
思わず吹き出すと、目からぽろりと涙がこぼれた。
大家『亜美が手紙だから、しいちゃんは声のお手紙にしてみましたー。しいちゃん意外とロマンチストやけん、あ、自分で意外とって言っちゃった』
大家の音声は、それから長々とくだらないことを喋り、最後に亜美同様、指原を元気づける言葉で締めた。
指原「しいちゃん、ありがとう…」
涙声になりながら、指原はぽつりと呟いた。
島崎が懲罰房に入っているので、監房の中は指原1人だけだ。
しかし、亜美と大家のサプライズメッセージにより、指原はなんだか2人が傍にいてくれているような気分になった。
281 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:49:05.60 ID:58HWYykmO
指原「あ、指原も返事送らなきゃ…」
しかし、壁の向こうの管は、洗濯物を上から落とすためだけに作られたものである。
第7監房の指原が、第14監房にメッセージを送るには、かなり力を入れて手紙なりICレコーダーなりを上へ向かって投げなければならない。
自分の身体能力に自信のない指原は、そのことに気付き、あっさりとメッセージを返すことを諦めた。
――明日、直接お礼を言おう…。なんか照れ臭いけど。
指原はそう考えて、ベッドに入ろうとした。
その時、やはり気になって、通路の向こう、懲罰房のドアに目をやった。
指原「あの中にぱるるともっちぃが…」
やはり監房の先が懲罰房という環境は精神的に良くない。
見ないようにしていても、ついつい視線はそちらを向いてしまう。
そして一度見てしまうと、中にいるメンバーのことが心配になってきてしまう。
指原「……?」
懲罰房は4つあり、指原のいる第7監房の位置からはそのうちの2つのドアが見えるようになっている。
建物自体がコの字形になっているからだ。
指原は今、2つの懲罰房のドアを凝視し、身動きできないでいる。
――あのドア…下から明かりが洩れてる…。
282 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:51:47.73 ID:58HWYykmO
懲罰房の中は明かりが消され、真っ暗だと聞いていた。
しかしこれはどういうことだろう。
なぜ明かりが洩れているのか…。
しかも一方のドアからは明かりが洩れ、その隣からは洩れていない。
指原「あ、そうか」
だが、考えてみると当然だ。
現在懲罰房の中にいるのは島崎と倉持。
倉持は囚人ではなく看守だ。
きっと看守だけは明かりをつけることを許されているのだろう。
それはそれで不公平な気もするが、とりあえず指原は安心した。
――良かった、もっちぃ…。懲罰房の中でも、明かりがついていれば少しは恐怖の度合いが違うよね…。
指原は倉持と島崎のことを思いながら、眠りについた。
283 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 08:54:54.21 ID:58HWYykmO
一方、第6監房では――。
宮澤「萌乃まだ寝ないのー?」
宮澤は二段ベッドの上段から身を乗り出すと、床で何やら作業をしている仁藤に声をかけた。
仁藤「うん、もうちょっと」
仁藤は自分の手元から顔を上げずに返事をした。
宮澤「また消しゴム彫ってるの?」
仁藤が手を動かすような細かい作業が好きで、以前から消しゴムでハンコを作ったりしていることは知っていた。
しかし細かい作業ならば、明日の囚人の仕事で嫌でもやらされる。
さらには今のような監禁された状態で、いつものように趣味に興じられる仁藤の神経が、宮澤には理解できなかった。
ついつい呆れた声を出してしまう。
宮澤「もうそのくらいにしておけば?目が悪くなるよー」
宮澤の口調に、仁藤は少々むっとした声で返した。
仁藤「大事なことなんだよ」
284 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:00:04.59 ID:58HWYykmO
宮澤「そんなの解放されればいくらでもできるじゃん。何も今やらなくても…」
仁藤「佐江ちゃんにはわかんないよ」
宮澤「ねぇー?怒らないでよ。なーに作ってるの?」
仁藤の変化に気付き、宮澤は早めに空気を変えておいたほうがいいと判断した。
明るい声で問いかけてみる。
仁藤「うーん、まだ秘密。うまく出来るかわかんないし」
仁藤はしかし、作業に集中したいのか、宮澤の問いに短く答えるだけだった。
宮澤「あたしもう寝るよー?」
仁藤「うん」
宮澤「萌乃も、体調崩す前に切り上げなね」
仁藤「うん。おやすみ」
宮澤「おやすみなさーい…」
宮澤は素っ気無い仁藤の態度に、これ以上の会話は諦め、布団にもぐりこんだ。
目を閉じると、すぐにとろとろとした眠りに吸い込まれていく。
意識が遠のく瞬間、下から仁藤がやすりを使う音が聞こえてきたが、やがてそれも気にならなくなった。
285 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:01:54.54 ID:58HWYykmO
《5日目》
第5監房――。
渡辺「亜美菜ちゃん…?何してるの?」
早朝、目を覚ました渡辺は、熱心に鏡へ向かう亜美菜の姿を目にする。
佐藤亜「あ、まゆゆ起きたっ。おはよー」
渡辺「お、おはよう…」
振り返った亜美菜の手には、ビューラーが握られていた。
渡辺「メイクしてるの?」
渡辺は寝起きで乱れた前髪を直しながら、問いかけた。
佐藤亜「そうだよ」
渡辺「え?なんで?」
佐藤亜「うん…」
亜美菜はそこで、一瞬だけ暗い表情を浮かべた。
しかしすぐにきゅっと口角を上げ、笑顔を作る。
286 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:06:45.98 ID:58HWYykmO
佐藤亜「亜美菜ね、考えたの。こんな監禁生活…耐えられないよね」
渡辺「うん」
佐藤亜「だけど、どんな環境だって、楽しくするかつまらなくするかは自分次第だと思うんだ。監禁されてたって、亜美菜はなるべく毎日を楽しく過ごしたい。そのためにどうしたらいいか」
佐藤亜「まずは手始めに、きちんとメイクすることにしたの。メイクしてると、なんだか気持ちが明るくなるでしょ?」
渡辺「そう…そうだね…」
渡辺は亜美菜の言う理屈に、頭を殴られたような衝撃を受けた。
――楽しくするかつまらなくするかは自分次第…。
亜美菜の言う通りだった。
こんな状況で、暗い気持ちで過ごしていたら、ますます環境が悪化するばかりだ。
渡辺は知らぬうちに、自分で自分を追い込んでいたことに気付いた。
――確かにこんな生活じゃアニメも見られないし、かわいい衣装を着ることもできない…。
だけど、今の自分にできることを精一杯やろう。
自分が納得できて、心から楽しめることを見つけよう。
渡辺は鞄からスケッチブックを取り出すと、ぎゅっと胸の前で抱えた。
287 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:08:38.52 ID:58HWYykmO
渡辺「そうだね、亜美菜ちゃん。だったらわたしはイラストを描くよ。ちゃんと好きなことする。文句ばかり言って何もしないより、好きなことをしていたほうが、解放までの時間を短く感じることが出来るよね」
佐藤亜「そうだよ。あ、じゃあまゆゆも前髪セットしてあげようか?」
渡辺「それは自分でやる」
佐藤亜「こだわりますねぇ〜。じゃあメイクしてあげようか?」
渡辺「いいの?」
佐藤亜「いいよいいよ。さ、こっち座って。良かったー、亜美菜メイクセット一式持ち歩いてて」
渡辺「え?これは?」
亜美菜の示したところに座ると、渡辺の前にずらりとメイク道具が広げられた。
ブラシやチップ、コットンなどと一緒に、なぜかライターも並べられている。
288 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:10:50.93 ID:58HWYykmO
渡辺「ライターなんて、何に使うの?」
佐藤亜「あ、それ?それはねぇ…こうやって使うんだよ」
亜美菜はそう言うと、ライターを手に取り、火でビューラーを炙りはじめた。
佐藤亜「こうしてビューラーを温めてから使うと、カールが長持ちするんだっ」
渡辺「へぇ、知らなかった」
佐藤亜「ホットビューラーみたいなもんだよ。じゃ、メイク始めるねー」
渡辺「お願いしまーす」
こうして渡辺と亜美菜は、数日ぶりにこの監禁生活で楽しい時間を過ごした。
2人のいる第5監房からは、通路にまで明るい笑い声が洩れている。
289 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:13:17.87 ID:58HWYykmO
作業開始――。
5日目の作業が開始された。
島崎が懲罰房へ入れられたことで、囚人達の中では、作業スピードの遅い者が懲罰房行きになるのだという説が濃厚になっていた。
昨日よりも気を引き締め、他の者に遅れを取らないよう、必死で作業をこなしていく。
作業部屋の空気は張りつめたものへと変化した。
そんな中、どうも作業に集中できないメンバーがいる。
仲川「……」
仲川は、体を動かしていないと調子が悪い。
良くいえば元気、悪くいうなら落ち着きがないタイプだ。
作業のほとんどは座り仕事であるため、仲川の性分では耐えられるはずもない。
5日目にして、早くも限界が差し迫っていた。
――あかん遥香、めっちゃ作業ペース落ちとる…。
290 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:15:20.76 ID:58HWYykmO
1番に仲川の変化に気付いたのは増田である。
増田は顔色の悪い仲川を心配して、さり気なく仲川の作業分を自分の分と混ぜた。
自分では作業ペースが速いほうだと思っている。
少しくらい仲川の分を手伝ったところで、支障はない。
――今日はうちがなんとかするけど、このままだと遥香、体壊すかもしれん…。
増田は仲川の体調のことが気にかかった。
日頃からよく体を動かしていた人間が、突然その運動をやめると、体調が悪くなったり、風邪を引きやすくなったりすることがある。
仲川もそのようなケースに当て嵌まらないといいが…。
そして、仲川の他にもう1人、様子のおかしいメンバーがいた。
291 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:17:21.24 ID:58HWYykmO
岩佐「…ハァ…ハァ…」
岩佐は時折、作業する手を止めてこめかみを押さえている。
頬は赤く、呼吸も荒くなっていた。
体調が優れないのは明らかだが、まだ誰も、岩佐の変化に気がついていなかった。
岩佐のすぐ傍に立つ小森は、何だか今日のわさみん鼻息荒いなくらいにしか思っていない。
岩佐「……」
とうとう岩佐は、机にひじをつき、頭を抱えてしまった。
その時、岩佐の頭痛に追い討ちをかけるような大声が、作業部屋の中に上がる。
山内「あー、もうみおりん?ちゃんとやってよー」
それは、山内の声だった。
全員が一斉に山内と、そして市川に注目する。
292 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:19:14.89 ID:58HWYykmO
大場「ちょっ、私語はやめなよ」
山内「大丈夫、作業に関することだから私語じゃないよ」
大場「……」
山内「ほらみおりんのせいであたしが怒られちゃったじゃん!だいたいみおりん、作業ペース遅すぎ。みおりんがみんなの足引っ張って作業が時間内に終わらなくて、そうしたら看守の人達みーんな低周波になっちゃうんだよ?ちゃんとやってよ」
山内は厳しい声で、市川を叱っている。
市川は泣きそうになりながら、それでもなんとか笑おうとして、複雑な表情を浮かべていた。
市川「え?遅いかな?ごめんなさい、わたすぃ皆さんのあすぃを引っ張らないように頑張ります」
市川はまともに山内の言葉を受け止め、小さくガッツポーズをして気合を入れた。
すかさず山内が嫌悪の表情を浮かべる。
山内「そういうアピールいいから、ちゃんとやってよ」
293 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:21:55.14 ID:58HWYykmO
市川「えー?でもわたすぃもう半分は終わってるよ?」
山内「駄目駄目、全然出来てないじゃん!」
市川「えー?」
山内は手を伸ばすと、市川の仕上げた作業パーツを弾いた。
山内「ほら、ちゃんと接着されてないよ。これじゃあ出来たとは言えないでしょ?」
市川「え?え?でもそれ、まだ乾かすぃてたところで…」
山内「言い訳しないで!いい?ちゃんとやってって言ってんのっ!1人だけ手を抜くなんてずるいよ」
市川「え?あ…すみません…」
山内の剣幕に、市川は気まずそうに肩を落とした。
それから囚人全員を見渡して、何度も頭を下げる。
改めて作業を再開した市川は、今まで以上に集中して取り組んだ。
そんな市川を見て、山内は密かに唇を歪ませる…。
294 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 09:25:27.14 ID:G6QBJFYg0
作業終了後、第12監房――。
市川「……」
結局市川は、山内の駄目出しを恐れて丁寧に作業していたため、作業終了時間間際まで気を抜くことができなかった。
昨日と比べて、格段に作業ペースが落ちてしまったことに、自分でも気がついている。
――どうすぃよう…今日の懲罰房はわたすぃになるかもすぃれない…。
そう考えると、市川の手は震えた。
――それに、らんらんはなんであたすぃのことあんなに怒ってたんだろう?
ふと見れば、同室の先輩、小嶋はひょうひょうと爪にマニキュアを塗っている。
乾かすためにふぅふぅと息を吹きかけている姿がなんとも色っぽく、市川の目には落ち着いた大人の女性として映った。
――小嶋さんに相談すぃてみようかな…。
思い切って、小嶋に声をかけてみる。
市川「あの、小嶋さん、ちょっといいですか?」
295 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 09:26:15.40 ID:G6QBJFYg0
小嶋「えー?」
小嶋はくるりと市川のほうを振り返った。
小嶋「なーにぃー?」
市川「えっとぉ、今日の作業のことなんですけど、あたすぃらんらんに注意されちゃったじゃないですか」
小嶋「えー?そうなの?いつ?なんで?」
市川「え?聞いてなかったんですか?」
小嶋「ごめん、途中までしか。なんだっけ?」
市川「らんらん、なんだか急に怖くなって、あたすぃのこと目の敵みたいに怒って…」
小嶋「それってみおりんが嫌われてるってことじゃない?」
小嶋はあっさりとそう言い放った。
市川が傷つくとかもしれないという考えは、小嶋の中にない。
ただ、見たまま思ったままを口にしただけだった。
市川「え?やっぱりそうなんですか?」
自分でもなんとなく感じていたが、他人の口からはっきり指摘されると、やはりショックだった。
296 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 09:27:09.92 ID:G6QBJFYg0
小嶋「鈴蘭ちゃんに何かしたの?」
市川「え?そんな、わたすぃなんにもすぃてないですよ」
小嶋「じゃあなんでだろうねー?」
市川「…わたすぃ…これからどうすぃたらいいですか?」
小嶋「うーん、謝るとか?」
市川「らんらんにですか?やっぱりそぉすぃたほうがいいですよね…」
小嶋「うん」
市川「でもわたすぃ、心当たりが全然ないんです…」
小嶋「たぶんみおりんの何かが気に障ったんだよ」
市川「そんな…」
小嶋「とりあえずわかんなくても謝っとけばいいんだよ。それでも駄目なら相談しなね」
市川「小嶋さんにですか?ありがとうございます」
小嶋「ううん、たかみな。たかみなに言えば面倒臭いことなんでもやってくれるから」
市川「……」
297 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 09:27:50.80 ID:G6QBJFYg0
やはり小嶋に相談したのが間違いだったのだろうか。
結局市川にとって、小嶋は遥かに遠い先輩であり、別のチームの人間だ。
小嶋の言うとおり高橋に相談するという手もあるだろう。
高橋ならきっと何かしら動いてくれる。
しかし、市川は今回のことを大事にはしたくないと考えていた。
山内とは同じチームであり、今後も長く付き合っていくことになるだろう。
なるべく穏便に済ませたい。
市川はその幼い外見に似合わず、大人の考えを持っていた。
――チーム4同士のことは、やっぱり同じチーム4のメンバーに相談しよう。
市川の心は決まった。
298 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 09:28:13.94 ID:viWbp3XB0
小嶋さんwww
299 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 09:29:41.39 ID:G6QBJFYg0
自由時間――。
『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第7監房の指原莉乃さん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』
自由時間開始とともに流れた音声。
そこで今日の懲罰房行きを言い渡されたのは、指原だった。
指原「嘘…あぁやっぱり…」
以前から予期していたことだったが、やはりショックだった。
そして、信じられないくらいの恐怖に襲われる。
指原「やだ…怖い…行きたくないよぉぉぉ」
指原はその場に崩れ落ちた。
大島「指原ー!」
板野「さっしー大丈夫?」
決定を聞いた大島と板野が、第7監房に飛び込んでくる。
指原「優子ちゃん…ともちんさん…」
2人の顔を見ると、指原はせきを切ったようにしゃくり上げた。
300 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 09:30:44.52 ID:G6QBJFYg0
指原「懲罰房てなんですか?指原何されるんですか?怖いよぉぉうぇっ…」
泣きじゃくる指原のもとへ、看守がやって来る。
篠田だ。
指原「あ、篠田さん…」
篠田「ごめんさしこ、決まったことだから…」
篠田は苦しそうにそう言うと、大島と板野に目で合図した。
指原は観念して立ち上がると、篠田の後について懲罰房へ向かう。
板野「……」
板野は2人の華奢な後ろ姿を見送りながら、唇を噛んだ。
指原は奥の懲罰房へ入れられ、代わりに手前の2つのドアから、島崎と倉持が出てくる。
やはりこれまで懲罰房へ入れられた囚人同様、島崎と倉持はふらふらと歩いていた。
篠田は倉持に手をかしてやりながら、大島と板野のもとまで戻って来る。
篠田「ごめんね、あたしだって本当はこんなことしたくないんだけど…」
大島「わかってる」
板野「看守だもん、仕方ないよ…」
倉持は時折頭を振りながら、そんなやりとりを聞いていた。
島崎はいつにもまして青白くなっている。
大島「遥香ちゃん、こっちで休みな」
大島は第7監房に島崎を招き入れた。
島崎のベッドがどちらなのかわからなかったが、汚いほうが指原だろうと思い、下段に島崎を寝かせる。
301 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 09:31:38.65 ID:G6QBJFYg0
板野「もっちぃ…その腕…」
ふと視線を落とすと、倉持の腕には痛々しい痣が浮かびあがっていた。
倉持「懲罰房の中でぶつけちゃって…」
倉持はやはり耳をやられていて、喋りにくそうである。
板野「そうなんだ…」
篠田「行こうか。部屋で休んだほうがいいよ」
篠田は辛そうな倉持を気遣い、優しく促した。
倉持「うん」
2人が去った後、板野は思い出して島崎に駆け寄った。
ベッドに横たわった島崎は、浅い呼吸を繰り返している。
額には点々と脂汗が滲んでいた。
かなり苦しそうだ。
302 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 09:32:27.01 ID:G6QBJFYg0
大島「大丈夫?何か欲しいものある?」
島崎「だい…じょうぶです…すみません…」
板野「辛いなら喋らなくていいよ」
島崎「平気…です…。大島さんと板野さんは、わたしに構わず…」
島崎は先輩2人に気遣われている今の状況が居心地悪いのか、遠慮がちにそう言った。
大島「放っておけるわけないじゃん。すごい汗かいて…」
板野「あ、何か拭くもの…」
大島「ハンカチ持ってる?ごめん遥香ちゃん、ちょっと鞄の中漁るね」
大島は島崎の鞄を引き寄せた。
島崎はがばりと起き上がると、大島の腕を掴む。
303 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 09:33:07.42 ID:G6QBJFYg0
島崎「本当に大丈夫ですから。それより自由時間…終わっちゃいますよ…。わたしは1人でも平気です…」
大島「でも、」
まだ何か言おうとする大島を、板野が制止した。
板野「行こうよ優子。遥香ちゃん1人にしてあげよう…」
板野は島崎を気遣い、第7監房を出ることにした。
懲罰房の中で耳をやられ、おそらく近くで他人に喋られるのが辛いのだろう。
大島「じゃ、じゃあ、何かあったら言ってね」
大島は最後に優しく声をかけると、島崎のベッドから離れた。
板野と並んで、第7監房を後にする。
通路へ出ると、向こうから仁藤と大家が歩いてくるのが目に入った。
大島「あ、遥香ちゃんなら今はちょっと…」
仁藤「いえ、違うんです。ちょっとさっしーの様子が気になって…」
仁藤はなぜか気まずそうに目を伏せる。
304 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 09:34:27.37 ID:G6QBJFYg0
懲罰房前――。
仁藤「さっきもっちぃが言ってた。さっしーが入れられてるのは手前から3つ目のドアだって」
大島達が行ったのを確認した後、仁藤と大家はこっそり懲罰房の前へとやって来た。
本来であれば懲罰房の前は立ち入り禁止区域であり、囚人は近づくことができない。
だから、誰にも見られず、早めに事を済ませる予定だった。
大家「さっしー気付くんかな」
仁藤「駄目もとでやってみる」
仁藤は辺りを窺うと、そっと腰を落とし、ドアに身を寄せた。
その時、背後から足音が近づいてきた。
大家「あ…」
松原「あれ?しいちゃん?どうしたの?」
やって来たのは松原だった。
腰の鍵束をじゃらじゃらと言わせ、近づいてくる。
大家「えーっと…」
大家は視線を泳がせ、頭の中で必死に言い訳を考えた。
その時、松原の顔が苦痛に歪む。
松原「痛っ…!」
305 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 09:36:10.03 ID:0XMeYRrrP
わたすぃで吹くw
306 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:39:20.86 ID:58HWYykmO
大家「まずい、低周波だ…」
松原「ここ…立ち入り禁止区域になってるよね?お願い…早く離れて…」
大家「ご、ごめんな…」
大家は慌てて駆け出した。
低周波が止まったのか、松原は脱力し、まだかすかに痛みの残る腕を擦る。
遅れて仁藤が懲罰房のドアから離れ、大家のもとへ駆け寄った。
大家「なっつみぃ平気だったー?」
仁藤「ごめんねー」
すこし離れたところから、2人は松原に声をかける。
松原は引きつりながらも笑顔を作り、2人に平気だというところを見せた。
大家「悪いことしちゃったなぁ…」
仁藤「うん」
大家「それで萌乃、あれはうまくいったの?」
仁藤「たぶん平気。あとはさっしーが気付いてくれるかどうかだけど…」
大家と仁藤は神妙な面持ちでこそこそと話しながら、その場を後にした。
一連の様子を、大島が覗き見していたことにはまったく気付いていない…。
307 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:43:46.51 ID:58HWYykmO
一方その頃、第1監房では――。
岩佐「ハァ…ハァ…」
岩佐は荒い呼吸を繰り返していた。
全身がだるい。
頭がぼおっとする。
寒いのか暑いのかすらわからない。
鈴木紫「風邪…かな…。病院に行ったほうがいいよ」
鈴木は岩佐の肩に布団をかけてやりながら、ため息を洩らした。
自分の言った何気ない一言に辟易する。
――病院なんて…行けるはずない…。わかってるのに…。
岩佐が体調を崩したのは今日の作業中からだった。
少し休めば元気になるだろうと思っていたが、病状は悪くなる一方である。
鈴木紫「どうしよう…」
鈴木は肩を落とした。
308 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:45:33.95 ID:58HWYykmO
平嶋「ん?どうしたの?」
その時、看守の平嶋と多田が顔を出した。
多田「え?わさみん?平気?」
多田が驚き、すぐに岩佐のベッドへ駆け寄る。
鈴木紫「え?2人は…?」
平嶋「さっき小森がね、わさみん鼻息荒いとか言うから、ちょっと気になって来てみたんだ」
多田「熱あるの?わさみん」
岩佐「……」
平嶋はそっと岩佐に近づくと、額に触れた。
平嶋「ひどいね…。完璧熱ある」
平嶋が眉を寄せる。
多田も平嶋の真似をして岩佐の額に触れ、自分の体温と比べてみようとしていた。
309 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:49:05.99 ID:58HWYykmO
鈴木紫「こんな状態だし、ここから出してもらえないかな?」
平嶋「でも、どうやって?」
鈴木紫「ここに監禁している人に言って、せめてわさみんだけでも病院に…」
多田「え?ずるーい」
平嶋「無理だよ。こっちから連絡する手段がないし」
鈴木紫「そんな…このままだとわさみん…」
多田「風邪こじらせちゃうよ。誰か薬持ってないかなー?」
平嶋「頭痛薬くらいなら持ってる子いそうだけどね…さすがに風邪薬は…」
鈴木紫「でも風邪とはわからないよ。念のためやっぱり病院に診てもらわないと」
平嶋「そうだよね」
平嶋は考えるような仕草を見せ、天井を仰いだ。
多田はぎこちない手つきで、岩佐の汗を拭っている。
その時、監房の扉がガラガラと音を立てて閉まった。
平嶋「あ…」
多田「閉まっちゃった!」
310 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:50:41.85 ID:58HWYykmO
鈴木紫「たぶん、自由時間が終わったんです」
平嶋「そうなの?じゃああたし達一旦看守の部屋に戻るね」
平嶋は慌てて鍵束から第1監房の鍵を探し、扉を開けた。
多田「あたし、誰か薬持ってないか聞いてみる!」
多田が通路に飛び出し、階段を駆け上がっていく。
鈴木は、不安げに岩佐の顔を見つめた。
すでに岩佐は昨日よりやつれたように見える。
夕食もほとんど残していた。
鈴木紫「なっちゃん…」
平嶋「ごめん、何も出来なくて…」
監房の外へ出た平嶋は、苦い顔をしてうつむいた。
それからもう、岩佐を見ないようにして、階段へ向かう。
311 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:53:27.93 ID:58HWYykmO
看守の部屋――。
平嶋と多田が遅れて看守の部屋へ戻ると、メンバーはすでに仕事の分担について話し合っていた。
篠田「じゃあ鍵の確認はあたしとみぃちゃんで行くから、洗濯は…」
梅田「いいよ。あたしやる。ね?みちゃ」
野中「うん」
篠田「じゃあ決まりだね。あと残ってるのは…あ、点呼に行かなきゃだよね」
前田「あたし昨日点呼行ったよー」
篠田「じゃああっちゃん以外の子で」
篠田はさばさばと仕切り、分担を決定していく。
メンバーをぐるりと見回し、誰か名乗り出ないか確認した。
篠田「誰か点呼行ってきてくれる人ー?」
平嶋「あ、はいっ!」
平嶋が手を挙げた。
312 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:55:14.65 ID:58HWYykmO
前田「え?でもなっちゃん昨日洗濯の係やってくれたじゃん」
平嶋「いいよいいよ。みんな疲れてるだろうし」
篠田「本当にいいの?なんだったら誰か他にもやってくれる人…」
平嶋「大丈夫。ね?らぶたん?」
多田「へぇ?またあたしー?」
平嶋「わがまま言わないの。いいから行こう」
篠田「じゃあ2人お願いね」
多田「うーん…」
渋る多田を無理やり立たせ、平嶋は看守の部屋を出た。
そのまま下に降り、第14監房へと向かう。
篠田「え?」
峯岸「あれ?」
その時、後ろからついてきていた篠田と峯岸が同時に首をかしげた。
313 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:57:14.05 ID:58HWYykmO
篠田「なんでそっちから点呼取るの?1房から取ったほうがそのまま上に上がってこれて楽じゃない?」
峯岸「うん、みんなそうしてるよね」
平嶋「あ、面倒だから14から行って、最後に1の点呼取ろうかと思って。1房はほら、階段のすぐ近くだから」
峯岸「あ、そういうことね」
峯岸は納得して、さらに階段を下りた。
地下から順に鍵を確認していくつもりらしい。
篠田「そんな、面倒だったら他の子に頼んでも良かったのに」
平嶋「平気平気。ついでだし。ね?らぶたん?」
多田「へぇ?あ、うん…」
篠田と峯岸が姿を消すと、平嶋はほっと胸を撫で下ろした。
314 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 09:59:39.14 ID:58HWYykmO
地下――。
下へ降りた篠田と峯岸は、裏口の鍵が破られていないことを確認すると、ついでに厨房へ顔を出してみることにした。
料理係の3人はいつも忙しそうで、ここのところほとんど会話らしい会話をしていないこともあり、様子が気になったのだ。
峯岸「米ちゃーん?」
峯岸はチームメイトの名を呼び、厨房を覗いた。
料理係の3人は、洗い物をしている。
米沢「あ、みぃちゃん!どうしたの?」
峯岸「定時のチェック。それで3人はどうしてるかなーっと思って」
篠田「へぇ、厨房って初めて入ったけど、広いねー。看守の部屋と同じくらいある」
河西「うん、そうなの」
竹内「あ、あの、このお皿は…」
河西「あ、そこに仕舞ってくれる?」
竹内「はい」
315 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:01:07.82 ID:58HWYykmO
篠田と峯岸の2人が顔を出しても、料理係は手を休めようとしない。
なんとなく邪魔をしているような気がして、2人は早々と厨房を後にした。
通路へ出ると、篠田が渋い顔をして峯岸に話しかける。
篠田「さっきの美宥ちゃんの手…見た?」
峯岸「うん。すごい傷だらけだった」
篠田「あんなになるまで頑張って…大勢の食事作りなんて慣れないことさせて…」
峯岸「これからは好き嫌いなんて言ってられないよね。感謝して食べなきゃ」
篠田「そうだね…」
篠田と峯岸は、厨房で見た光景にショックを受けながら、次のチェック場所へと移動した。
316 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:03:31.87 ID:58HWYykmO
一方その頃、平嶋と多田は――。
平嶋「約束して。絶対にわさみんを病院に連れて行くって」
平嶋は睨むように鈴木を見つめた。
鈴木紫「うん…」
鈴木もまた、真剣な面持ちで顎を引く。
それから寝ている岩佐を背負い上げた。
大柄な鈴木は、華奢な岩佐を担いだくらいで動きが鈍ることはない。
多田「本当に…大丈夫…?」
多田が心配そうに辺りの様子を窺う。
平嶋「しっ!らぶたん静かにして」
直後、平嶋が多田を叱り飛ばした。
平嶋「みんなにバレちゃうでしょ?」
317 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:05:21.90 ID:58HWYykmO
多田「でもでも、監房を出ても、これからどうやって外へ出るの?」
鈴木紫「大丈夫。わたし、力は強いほうだし、ドアを蹴破るくらい…」
平嶋「素早くやってね。監視に見つからないうちに」
鈴木紫「はい!」
鈴木が力強く頷く。
平嶋はそんな鈴木の姿に頼もしさを感じた。
――これでわさみんは助かるかもしれない…。
平嶋は今、やってはいけないことをした。
だけど、もう迷いはない。
岩佐を助けるためだったら…。
多田「本当に看守がこんなことしていいのかな?そんな…囚人を逃がすなんて…バレたらもっちぃみたいに懲罰房へ入れられちゃうよ…」
不安そうに肩をすぼめる多田に、平嶋は優しく語りかける。
318 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:07:36.28 ID:58HWYykmO
平嶋「自分さえ良ければ、わさみんがどうなってもいいの?らぶたんは弱ってるメンバーを放っておける?」
平嶋の言葉に、多田が激しく首を振る。
多田「やだ」
平嶋「でしょ?」
平嶋はそう言って、眉を下げた。
岩佐を…囚人を逃がす。
そう決めれば、行動はたやすい。
看守は監房の鍵を持っているのだから。
逆に考えれば、看守の自分がしてやれることといったら、2人を監房の外へ逃がすことだけだ。
そして、ここから先の頼みは、鈴木だ。
鈴木は若い。
しかし冷静で、度胸もある。
絶対に岩佐をここから出し、病院に連れて行ってくれるだろう。
そして、ここでのことを警察に話し、助けを呼んでくれるはずだ。
平嶋はそう期待していた。
319 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:10:21.22 ID:58HWYykmO
鈴木紫「じゃあ行きます。ありがとうございました」
鈴木は、岩佐を背負い直すと、監房の外へ出た。
平嶋「お願いね」
多田「頑張ってー」
鈴木の背中は頼もしく、表情は凛としている。
平嶋はただただ、岩佐と鈴木の無事を願った。
鈴木紫「あ…」
その時、鈴木がうろたえた声を上げ、歩みを止めた。
平嶋「え?」
慌てて平嶋と多田も監房の外へ飛びだす。
岩佐を背負ったまま、通路に立ち尽くす鈴木。
鈴木の前には、前田が立ちはだかっていた。
平嶋「あっちゃん…なんで…」
平嶋は膝の力が抜け、その場に座りこんだ。
前田が静かに口を開く。
320 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:12:11.79 ID:58HWYykmO
前田「階段のところでなっちゃんと麻里子達が話してるのが聞こえたの。おかしいなって思って…。だってみんな普通は第1監房から順に点呼取ってるよ?なのになっちゃん達は14監房から取るって…。なんか気になって探しに来てみたら…」
平嶋「お願いあっちゃん、見逃して!」
鈴木紫「お願いします!」
多田「わさみん熱があるの」
前田は鈴木に背負われた岩佐を一瞥すると、平嶋に向き直った。
前田「なんで…なんでこんな…もし看守のみんなが知ったら…」
平嶋「わさみんを助けるためにはこれしかなかったの」
前田「それだったら懲罰房に入れられたたかみなだって、本当はちょっと具合悪かったんだよ?苦しんでたんだよ?だけど我慢してここに残ったのに」
平嶋「……」
321 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:17:12.28 ID:58HWYykmO
前田「たかみな言ってた。懲罰房はすごくきつい所だって。なるべくならみんなに入ってほしくないって。でもそんなこと無理だし、せめて看守と料理係の子だけでも懲罰房に入る危険がないのが救いだって」
多田「でも、」
前田「たかみなの気持ち考えたことあるの?本当はたかみなが一番辛いんだよ!みんなに何もしてあげられなくて…たかみなすごい苦しんでる。だったら脱獄なんて変なこと考えないで、なるべく早く解放されるようにみんなで頑張るしかないんだよ」
前田はいつになくきつい口調でそう言い放った。
前田の心の中には、懲罰房から出て来たばかりの倉持の姿が引っかかっている。
看守だけは絶対に懲罰房へ入ることはないだろうと思っていた。
だけど、倉持は入れられた。
ほんの少し、囚人に気を回してやっただけなのに。
ここではそれすらも罪になるのだ。
ルールを破ったとカウントされてしまうのだ。
平嶋や多田は看守だ。
だったら何か事件を起こさない限り、懲罰房へ入れられることはない。
前田は、これ以上無駄な懲罰房行きを増やしたくなかった。
平嶋と多田を懲罰房から守りたかった。
もし看守の2人が懲罰房へ入ったら、高橋はまたショックを受けるだろう。
322 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:19:43.30 ID:58HWYykmO
前田「お願いだから…監房へ戻って…」
前田は今度、鈴木に向かって懇願する。
鈴木は前田と平嶋を見比べ、迷っていた。
その時、岩佐が小さな声で言った。
岩佐「戻ろう…監房に…」
鈴木紫「わさみん…」
岩佐は苦しげに目を細め、鈴木の背中から下りた。
岩佐「あたしはほら、大丈夫だから。一晩寝れば治るよ」
多田「わさみん…本当に大丈夫なの?」
多田が駆け寄ると、岩佐はそれを手で制した。
岩佐「戻ります…。それから、なっちゃんとらぶたんは悪くないです」
監房へ向かって歩き出した岩佐を、鈴木が支える。
2人はよたよたと監房の中へ入っていった。
すぐに前田が扉を閉める。
323 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:22:28.45 ID:58HWYykmO
平嶋「あっちゃん…」
前田「あたし、なっちゃんやらぶたんを、もっちぃみたいな目に遭わせたくない」
多田「……」
平嶋「ごめん」
前田「これからみんなのとこ回って薬を探そうと思う。手伝ってくれる?」
多田「もちろん!」
平嶋「うん」
この時、前田は決意した。
今までの自分は甘かった。
誰かが脱獄を考えたり、ルールを破ったりすれば、必ず他の誰かが傷つく。
誰も傷つかずにここから出る方法を1つしかない。
おとなしくルールを守って生活する。
そして解放される時を待つのだ。
そのためには誰かがよからぬ考えを起こすことを、阻止しなければならない。
それを出来るのは…看守だ。
だったら自分は徹底的に看守の役目を全うしよう。
看守を演じきってみせよう。
それが…みんなを救う唯一の方法だと信じて…。
324 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:25:26.22 ID:58HWYykmO
《6日目》
作業部屋――。
山内「あー!!もうみおりんまた間違えてるよー」
市川「え?あぁそうだった。すみません…」
今日も作業開始直後から山内の攻撃が続く。
市川はすっかり消沈しきっていた。
心なしか自分を見るメンバーの目が冷たくなったような気がする。
――どうすぃよう…わたすぃ、みんなのあすぃを引っ張ってるのかな…。
さらに追い討ちをかけるように、前田の声が飛んでくる。
前田「レモンちゃん焦らなくていいから、作業は確実にやってねー。みんなで頑張って、解放される日まで何事もなく過ごそうよー」
みおりんの口調で吹くwww
326 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 10:30:52.15 ID:G6QBJFYg0
前田の発言力は絶大だった。
特に年少メンバーは前田に対して怖れに似た尊敬や憧れの念を持っている者も多い。
囚人達は小嶋と仲川以外全員が、気を引き閉めて作業にあたった。
それでも前田は、険しい顔つきで囚人達に目を光らせている。
ほんの少しのミスも許さないといった表情だ。
高橋はそんな前田を、訝しげに見つめた。
――あっちゃん、急にどうしちゃったの…?
昔と比べると大分改善されたが、前田は本来引っ込み思案な性格だ。
長い付き合いである高橋はそのことを誰よりも熟知している。
前田がさっきのように先頭切って発言するのは、珍しいことだった。
高橋「……」
高橋はそれから、作業する手を動かしつつ仲川の様子を盗み見た。
仲川は気の抜けた表情で、淡々と作業をこなしている。
くるくるとよく動くいたずらっぽい目が、今は輝きを失い暗く沈んでいた。
――はるごん…もう限界なんだ…。
その他にも、何人かのメンバーは疲労しきった表情で、気力を失いかけている。
――なんとかしなくちゃ…。
327 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 10:31:34.16 ID:G6QBJFYg0
メンバーをどうやって元気づけたらいいか。
高橋は作業中、そのことばかりを考えていた。
作業については完全にうわの空で、うっかり小嶋の分の作業まで手伝うはめになってしまう。
小嶋「えーん、たかみなぁ〜陽菜の分手伝ってー」
高橋「うん…」
小嶋「えー?いいのー?ほんとにぃー?」
高橋「うん…」
小嶋「わーいたかみなありがとー。じゃあこっちお願いね」
高橋「うん…ってえぇ?なんで?なんであたしがにゃんにゃんの分やらなきゃいけないの?」
小嶋「だって今返事したじゃんたかみな」
高橋「……」
328 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 10:32:32.62 ID:G6QBJFYg0
一方その頃、厨房では――。
河西「うーん、目にきた!痛い痛い…」
竹内「河西さん、大丈夫ですか?ティッシュ…」
河西「あー、ありがとう」
河西は大量の玉ねぎを前に、涙を拭った。
今日の夕食のメニューはハンバーグである。
人数分の玉ねぎをみじん切りしなければならない。
料理が得意の河西でも、玉ねぎの刺激には弱かった。
米沢「ともーみちゃん、代わろうか?」
サラダ作りを担当していた米沢が、包丁を置いて尋ねる。
河西「ううん、大丈夫だよ」
河西は真っ赤な目をしたまま、首を横に振った。
竹内「あ、じゃあ美宥が…」
河西「いいよ。美宥ちゃん、また怪我しちゃうよ?」
竹内「はい…」
329 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 10:33:40.75 ID:G6QBJFYg0
河西はここへきて、確実に疲れがたまっている。
そして竹内も、連日の食事作りに苦戦し、きれいだった手が傷だらけになってしまった。
その上、食事の後には毎回大量の洗い物が出る。
水仕事を長くこなしていくうち、3人はアイドルらしからぬ荒れた手になっていた。
米沢「……」
米沢はきゅうりを切りながら、2人の様子を観察する。
涙を拭いながら懸命に玉ねぎを刻む河西の姿は、見ていて心苦しい。
そして、本人は無意識だろうが、竹内は何度もため息をついている。
――なんとかできないかな…。
素人が見ても、2人の精神状態が極限まで追い詰められていることは明らかだ。
ましてや大学で心理学を専攻している米沢からすれば、その変化は手に取るように感じることができる。
――何かのきっかけさえあれば、2人の心は簡単に壊れてしまう…。
2人のために何かしてやりたいという思い。
しかし何もしてやれないという現実。
両者の狭間で、米沢の心は大きく揺れていた。
330 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 10:35:23.67 ID:G6QBJFYg0
作業終了後、第13監房――。
板野「ふぅ…」
作業部屋から戻された板野は、ベッドへ腰を下ろすと、大きく息を吐いた。
隣では、石田があぐらをかいている。
しかし今の板野に、石田の行儀の悪さを注意する余裕は残されていなかった。
石田「大丈夫ですか?」
板野「平気。ちょっと疲れただけ」
石田「あぁ、作業辛いっすよねぇ…」
石田の物言いは、まるで授業を面倒臭がる男子高校生のそれだ。
まだ精神的に余裕が窺える。
板野「そうだね」
板野はそう言って同意したものの、本当のところは違っていた。
疲れてるんじゃない。
ショックなんだ。
――あっちゃん、いつもと感じが違ってた…。
331 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 10:36:20.06 ID:G6QBJFYg0
板野は、前田の変化に衝撃を受けていた。
昨日のまでの前田は、積極的に囚人を注意することなどなかった。
むしろ誰かの背中に隠れ、密かに囚人の作業を応援しているような態度だった。
しかし、今日の前田は違う。
山内の言葉に過剰に反応し、市川を注意していた。
そして、作業スピードの遅い仲川を叱り飛ばした場面もあった。
――あのあっちゃんが、まさかはるごんに怒るなんて…。
板野は作業部屋で見た光景がまだ信じられなかった。
変わってしまった親友の姿を見るのが辛い。
と同時に、恐怖を感じていた。
――この監禁生活で、あっちゃんだけじゃない、他のメンバーも変わってしまうかもしれない…。
板野の心配をよそに、石田は小さく鼻歌を歌いながら、夕食の時間を待っている。
板野は一瞬迷ったが、やはり後輩に相談をするのは気が引けて、自由時間を待つことにした。
――自由時間になったら、たかみなにあっちゃんのことを相談してみよう。
板野はそう心に決めて、作業でがちがちになった首をゆっくりと回した。
332 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 10:37:14.88 ID:G6QBJFYg0
自由時間――。
『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第13監房の石田晴香さん、これから看守が迎えにいきます。監房から出ずにお持ちください』
昨日と同じく放送が流れる。
板野「はるきゃん…」
ベッドによりかかっていた板野は、おそるおそる石田のほうに顔を向けた。
石田「仕方ないです。もう決まったことですから…」
石田は妙に落ち着いている。
もう覚悟を決めたようだ。
せめて怖がって涙の1つでもこぼしてくれたら、まだ救われる。
石田が気丈に振舞うほど、板野の心は痛んだ。
――はるきゃん、無理してるんじゃないかな…。
333 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 10:38:01.64 ID:G6QBJFYg0
見た目にそぐわず不器用な板野は、気の利いた一言を石田にかけてやることができない。
だけど何かしてやりたくて、そっと石田の肩に手を置いた。
板野「大丈夫だから。はるきゃん、無理しないで辛かったらあたしに八つ当たりでもなんでもしてよ」
石田「……ふっ…」
石田は小さく笑みをもらしただけで、やって来た看守に連れられ監房を出ていった。
板野は無言で石田の小さな背中を見送ると、高橋のいる監房へと歩き出す。
334 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 10:40:15.83 ID:G6QBJFYg0
一方その頃、指原は――。
指原「……」
懲罰房から出て来た指原は、第7監房へ戻らず、真っ直ぐに仁藤のもとへ向かった。
その足取りはしっかりして、たった今懲罰房から解放された人物とは信じがたい。
指原「萌乃ちゃん!」
仁藤のいる第6監房へ行くと、同室の宮澤の他に高橋、大島、板野、秋元の面々も揃っていた。
高橋「指原、大丈夫だった?」
大島「ちょっと萌乃ちゃんどいて。指原ここ、早く横になったほうがいいよ」
指原の顔を見た大島が、慌ててベッドを整え出す。
指原「あぁ優子ちゃん、指原大丈夫なんでいいです、そんな…」
大島「?でも…」
高橋「遠慮しなくていいよ。耳やられてるんでしょ?体がふらつくから変に動きまわると危ないよ。とりあえず萌乃ちゃんのベッドに寝かせてもらったほうが…」
高橋が駆け寄り、指原の体を支えようとする。
しかし、指原はふらつくどころか、いつもの猫背でおどおどと直立している。
秋元「?」
全員が不思議そうな顔をする前で、指原は両手を激しく振りながら説明した。
指原「あ、いや、指原ほんとに平気なんですよ。耳やられてませんし」
335 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 10:41:15.52 ID:G6QBJFYg0
秋元「やられてない…?あ、そういえば普通に会話できてるよね」
高橋「確かに…。え?どういうこと?懲罰房の中で指原もヘルメットみたいなやつ被せられたよね?大音量で音楽聴かされて…」
指原「あ、はい」
宮澤「じゃあなんで平気なの?」
指原「あー、正確には指原、音楽聴いてなかったんですよ」
大島「え?」
第6監房には、指原の不自然な様子に混乱する空気が流れた。
そんな中、1人の人物だけはにやにやと笑っている。
仁藤「さっしー…気付いたんだね?」
仁藤は余裕の笑みを浮かべ、指原を見た。
指原「うん。やっぱりあれ、萌乃ちゃんだったんだ」
1人で納得する指原に、高橋達は置いてけぼりをくらったような気分を味わう。
半ば苛立った様子で、秋元が訊いた。
秋元「ちょっと、詳しく説明してくれない?」
336 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 10:44:44.23 ID:vMK7W7n/0
連投規制かな?
支援
337 :
忍法帖【Lv=40,xxxPT】 :2012/02/28(火) 10:44:58.11 ID:hQmcOgBe0
連投規制は大丈夫なのか?心配だ
338 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:50:11.57 ID:58HWYykmO
指原「あ、はい。えっと、懲罰房に入って、やっぱり指原もヘルメットみたいなのを被せられて、大音量で音楽を聴かされたんです。あれほんとしんどいですね。なんか、脳が破壊されてくみたいな…」
指原「で、真っ暗な部屋の中で色々ともがいてたら、足に何か触れたんですよ。手探りで拾い上げてみたら、なんか小さなゴムみたいなやつで…」
大島「ゴム?何それ」
指原「それは方向からいってドアの近くに落ちてました。でも部屋に入る時にはそんなもの落ちてなかった。指原怖くて下を向いていたから、よく覚えてたんです」
指原「で、その拾ったやつをしばらく触ってたら、閃いたんです。形といい大きさといいぴったりなんじゃないかって」
高橋「え?ぴったりって何に?」
指原「耳栓ですよ。指原、それを耳栓の代わりに出来ないかって思いついたんです。ちょうどゴムは2つ落ちてたし。ヘルメット被されてるから付けるのにちょっとコツがいりましたけど、思ったとおりでした」
指原「それ、耳の穴にぴったり嵌ったんですよ。そうしたらほとんど音楽が聞こえなくなって。だから指原は耳をやられなかったんです」
宮澤「はぁ…すごい…。でもなんでそのことを懲罰房の外にいた萌乃が知ってるの?」
宮澤は気が付いて、仁藤を振り返った。
無言で指原の話を聞いていた仁藤が、ゆっくりと口を開く。
いつものおっとりとした口調で説明を始めた。
仁藤「さっしーが耳栓の代わりに使ったのは、ゴムはゴムでも消しゴムなんだよ」
339 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:53:04.11 ID:58HWYykmO
宮澤「消しゴム?」
仁藤「そう。あたしいつも時間があいた時にハンコ作りができるよう消しゴムを持ち歩いていたの。今回それを使って耳栓を作れないかなって考えて、少し前から製作してたんだ」
宮澤「あぁ…だからか」
宮澤は、夜な夜な仁藤が遅くまで何か細かい作業をしていたことを思い出した。
あれはハンコを作っていたのではなく、耳栓だったのだ。
仁藤「さっしーが懲罰房に入れられることになって、前日に完成していた耳栓をあたしは懲罰房のドアの下から差し入れたの。ドアの下に隙間があることは聞いてたから」
高橋「あ、そっか。指原それであたしのリボン拾っておいてくれたんだよね」
指原「はい」
仁藤「さっしーが気付いてくれるかどうかは賭けだったけど、良かった…。看守にはドアに近づいているところを見つかっちゃったけどね」
340 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:55:23.94 ID:58HWYykmO
大島「あぁ、だからあの時…」
大島は、昨日見た仁藤の不審な行動を思い出した。
大家と一緒に懲罰房のドアに張り付いていた仁藤。
あれは、指原に耳栓を届けようとしていたのだ。
そして仁藤の行動が、大島に重大な事実を気付かせた。
大島はそのことを告げようと、高橋達を集めていたのだった。
高橋「そうか。じゃあ今度からその耳栓を使えば、懲罰房も怖くないね」
仁藤「あ、でもまだ耳栓は1組しか出来てなくて。大きさや形を調節したり、やすりをかけたりしなくちゃいけないから…」
秋元「じゃあとりあえずみんなでそれを使い回そう」
板野「急いではるきゃんに届けてあげなきゃ」
341 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 10:57:25.74 ID:58HWYykmO
仁藤「あ、でも懲罰房に近づいているのを見られたら、また看守に低周波が…」
宮澤「あぁ、そうだったぁ…。どうしよう…」
高橋「はるきゃんに耳栓を届けるのは大事だけど、懲罰房に近づくのを見られたらやっかいだなぁ」
仁藤「すみません、あたしとしいちゃんが昨日同じ失敗をしたから、懲罰房の周りは監視側も警戒してるかも…」
指原「……」
仁藤は心底申し訳なさそうに頭を下げた。
指原を助けるためだったとはいえ、懲罰房の監視を強化させる原因を作ってしまったかもしれない。
いくら耳栓があっても、懲罰房へ届けられなければ何の意味もなさないのだ。
それぞれが方法を探る中、大島は自信満々にあることを告げた。
大島「それなら大丈夫。たぶん最初から、この建物の中は監視されてないから」
342 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 11:00:05.84 ID:vMK7W7n/0
支援支援
343 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 11:12:51.46 ID:T7OPRquA0
支援
344 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 11:28:40.34 ID:G6QBJFYg0
高橋「えぇ?」
板野「どういうこと?」
秋元「監視されてないって…なんでわかるんだよ優子」
仁藤「監視されてないなら、看守の低周波はどうなるんですか?監視してなきゃ看守に低周波を流すタイミングもわからないじゃないですか」
指原「そ、そうですよ優子ちゃん。監視してないと、囚人がおかしな真似をしたなんてわかりっこない。だとしたら看守だって低周波を流されることないじゃないですか」
全員が疑問を口にする中、仁藤に代わり今度は大島が余裕たっぷりの笑みを浮かべた。
大島「まぁまぁ、ちゃんと説明するから」
大島はそう言ってみんなを手で制し、説明を開始した。
345 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 11:29:43.06 ID:G6QBJFYg0
大島「まずあたしは、2日目に才加と一緒にここから脱走しようと試みた。だけど失敗した。途中で監視に気付かれて、サイレンが鳴り、看守のあっちゃんがやって来たから」
大島「その時、ちょっとおかしいなって思ったんだけど、それが何かまではわからなかった。だけど、昨日の萌乃ちゃんとしいちゃんの様子を見て、今まで抱いていた違和感の正体に気付いたんだ」
仁藤「あ、あれ優子ちゃん見てたんだ…」
宮澤「違和感?何?」
大島「看守に低周波が流されるタイミングと、その条件だよ」
高橋「?」
大島「囚人がルールを破ると、その近くにいた看守に低周波が流れる。看守がその囚人を注意すると、低周波が止まる。あたし達はそれを、誰かが監視して囚人の動きをどこからか見ているからだと思わされていたんだ」
秋元「実際には、あたし達の動きは向こうから監視されていないってこと?」
大島「そう。あたし達をここに監禁している人物は、あたし達を監視しているんじゃない。盗聴しているんだよ」
346 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 11:29:48.57 ID:xHCi15X30
ほうほう
347 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 11:33:54.06 ID:G6QBJFYg0
指原「と、盗聴?どうしよう指原お風呂で毎回大声上げてハロプロ歌ってたんですけど、それもじゃあ向こうに聞かれてるってことですか?」
大島「いや、たぶんお風呂とトイレは盗聴してないんじゃないかな。よほどの変態でない限り、そんなの聞いても不快なだけだよ。それから、囚人の監房も盗聴されてはいないと思う」
板野「なんでそんなことわかるの?」
大島「あたしは散々、自分の監房の中で仲俣ちゃんに脱獄の計画を相談してる。でもそのことで1度も向こうからの動きはない。普通だったら、監禁している人物が脱走を計画しているのを黙って見過ごしたりはしないでしょ?」
板野「あぁ、そういえば…」
高橋「それはわかったけど、どうやって優子は監視じゃなくて盗聴だって気付いたの?」
大島「通路を走り、広間に入った時点では、向こうにあたしと才加の脱獄は気付かれていなかった。よく考えたら監視カメラにばっちりあたし達の姿は映っているはずなのに、おかしいよね?それからドアを破ろうとして大きな物音を立てたら、脱獄がバレた」
大島「すぐにサイレンが鳴り、近くにいたあっちゃんが駆けつけた。この時あたしは、監視側はただ、あたしと才加の映った映像に気付くのが遅れただけだと納得したんだ。だけど昨日、萌乃ちゃんとしいちゃんが…」
板野「懲罰房に近づいているところを看守に見つかっちゃったんだよね。優子はその現場を見ていたの?」
大島「うん。なんとなく萌乃ちゃんとしいちゃんの様子が変だったから、こっそり遠くから観察してたんだ。2人は懲罰房のドアに近づいているところを、看守のなっつみぃに見られた」
大島「なっつみぃは囚人がルールを破っている場面に遭遇したわけだから、当然低周波を受ける。なっつみぃに注意されたしいちゃんは懲罰房から離れた。すると、なっつみぃの低周波は止まったんだよ」
秋元「うん。それ普通じゃない?囚人に注意して、その囚人が言うことを聞いたら、看守の低周波は止まるよね?」
348 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 11:36:15.31 ID:G6QBJFYg0
大島「ううん、それだとおかしいんだよ。だってまだその時には、懲罰房のドアの前に萌乃ちゃんがいたからね。萌乃ちゃんもドアから離れないと、なっつみぃの低周波は止まらない」
板野「うん。じゃあなんで…?」
大島「なっつみぃはドアの前の2人に気付いた時、はじめにしいちゃんの名前を呼んだ。萌乃ちゃんには声をかけなかったんだ。だからあたし達をここへ監禁している人物は、なっみぃの声を聞き、ドアの前にいるのはしいちゃんだけだと勘違いしたんだ」
高橋「そっか、監視していたのなら萌乃ちゃんもそこにいたことに気付くけど、盗聴しているだけなら気付かない。だってなっつみぃは萌乃ちゃんの名前を口にしていないから」
高橋はようやく大島の言おうとしていることがわかってきて、大げさに膝を叩いた。
大島「そういうこと。ドアから離れる1つの足音…しいちゃんの足音を聞いて、囚人が看守の言うことを聞いたのだと判断し、なっつみぃの低周波を止めた。萌乃ちゃんはそれからすぐにそっとドアから離れたから、気付かれることがなかった」
仁藤「すごーい。なんであたしあの時気付かなかったんだろう…」
指原「耳栓を届けることで頭がいっぱいだったんでしょ。ありがとう萌乃ちゃん」
板野「なんだ…監視されてないならこんなにびびることなかったのに」
板野はくやしそうに下唇を噛んだ。
負けず嫌いな性格なのだ。
349 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 11:37:33.54 ID:G6QBJFYg0
大島「ただし作業部屋はしっかりモニターされてると思うけどね。低周波が流されるタイミングからみて、作業部屋以外の場所はカメラではなく、マイクだけだと思う」
高橋「だけどやっぱり盗聴されているってことは、あたし達の動きはほとんど向こうに把握されてるってことだよね…」
高橋は大島の説明にしばらく興奮していたが、やがて気がついて肩を落とした。
物音を立てずにここから脱獄するなど不可能だ。
大島「いや、姿を見られいない分、これからは気をつけてさえいればもう少し大胆に動ける。頑張ってみんなで脱獄の道を探そう」
秋元「よっしゃっ!」
秋元が気合の言葉を口にし、ガッツポーズを作る。
二の腕が力強く隆起した。
指原「でも指原…体力もないしへタレだし…頭も良くないし…」
仁藤「そんなことないよー」
指原「みんなの足を引っ張っちゃうだけで、いい脱獄方法を思いつけるかどうか…」
指原が弱気の姿勢を見せると、大島はきょろきょろと通路のほうを気にしはじめた。
大島「大丈夫だよ。みんなで考えればなんとかなる。それに強力な助っ人がそろそろ来るはずなんだけど…」
350 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 11:38:39.10 ID:G6QBJFYg0
高橋「助っ人?看守の子が誰か協力してくれるの?」
大島「ううん、一応脱獄のことは看守に内緒にしとく。嫌がられそうだし…あっちゃんはあんな状態だし…」
高橋「あ、優子も気付いてたんだ?」
板野「あたしもそのことでたかみなに相談しようと思ってたんだ。あっちゃん絶対なんかかおかしい」
高橋「何がきっかけはわからないけど、たぶんあっちゃんはあっちゃんなりに考えて、看守のみんなを低周波から守ろうとしてるんじゃないかな…」
大島「うん。だからもう看守の子に協力は頼めないかもしれない。助っ人というのは囚人で…」
小嶋「お待たせー。優子、話って何?」
その時、第6監房に小嶋が顔を見せた。
高橋「にゃんにゃん!」
指原「小嶋さん…!」
小嶋「あ、さっしー懲罰房から出て来たの?せっかくだからもう少し入ってれば良かったのにー」
板野「助っ人って…陽菜のこと?」
板野は若干の不安を抱きながら、大島に問いかけた。
351 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 11:40:17.43 ID:G6QBJFYg0
大島「そう。やっぱりにゃんにゃんなしでは始まらないでしょー。この人、天才だから」
大島は自信満々に小嶋の肩を叩いた。
秋元「陽菜、何か考えがあるの?」
秋元がぱっと目を輝かせ、小嶋に詰め寄る。
小嶋「え?何のことー?」
小嶋は無邪気な笑顔を浮かべながら、のんびりと聞き返した。
大島「にゃんにゃんはまだ何も知らないよ。だけど説明すれば、きっと何かすごいことを考えてくれるよ」
高橋「そうだね!にゃんにゃんがいればあたしも頑張れそうな気がする!」
宮澤「いいなぁー。完全にマスコット扱いじゃん」
板野「あ、それでさしこ、例の耳栓貸してくれない?監視されてないなら今すぐはるきゃんに届けてあげないと」
板野は思い出したように言った。
指原「それなんですけど…」
指原は気まずそうにポケットを探ると、耳栓を取り出した。
352 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 11:42:06.42 ID:G6QBJFYg0
板野「ありがと…って…なんで?」
指原の手にあるのは、割れた消ゴムの残骸だ。
指原「看守の迎えが来た時、焦って外したらうっかり割っちゃって…」
板野「えぇー!!」
指原「ごめんなさい」
仁藤「もぉ何やってんのさっしー!それ作るのにどれだけ時間がかかったか…」
指原「ひぃぃ萌乃ちゃん怒んないでよぉぉ」
仁藤「もぉ!!」
仁藤は怒るというより呆れている。
それを大島が取りなした。
大島「まぁまぁ、萌乃ちゃんまた同じの作れる?」
仁藤「え?はい…」
353 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 11:43:06.19 ID:G6QBJFYg0
大島「壊れちゃったものは仕方ないよ。指原だって悪気があったわけじゃないんだし」
秋元「うん、はるきゃんは可哀想だけど」
大島「うん、今は言い合いしてる暇ないよ。それぞれ力を合わせなきゃ!ね?たかみな?」
大島が目配せをすると、高橋は大きく頷いた。
高橋「今は情報を集めよう。なんでもいいからみんなでこれまでのことを話し合えば、優子みたいに何か気がつくことが出てくるかもしれない。誰も傷つけずにここから脱走する方法を考えるんだよ」
高橋の提案に、集まった面々はこれまでの出来事で何かおかしな点はなかったか、話し合いを始めた。
354 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 11:44:41.54 ID:G6QBJFYg0
点呼――。
梅田「わさみん、紫帆里ちゃんいるねー?」
点呼の時間になり、梅田は第1監房の中を覗いた。
岩佐がけろりとした顔で返事をする。
岩佐「はいー」
梅田「熱下がったみたいだね。作業にも参加できたし、安心したよ」
岩佐「ご心配おかけしました。もうすっかり」
梅田「薬見つかって良かったね」
岩佐「まさかはーちゃんが風邪薬持ってたなんて…」
岩佐はそこで、ふっと吹き出した。
梅田「ねー?他にも頭痛薬と胃薬持ってたよ、はーちゃん。なんかお母さんみたいだよね」
岩佐「ですね」
岩佐の元気そうな様子に安心して、梅田は第1監房を後にする。
もう囚人のほうもすっかり慣れたもので、点呼が来るのを扉の傍で待ってくれている場合が多い。
梅田は順調に点呼を済ませていき、第9監房までやって来た。
355 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 11:48:26.99 ID:58HWYykmO
梅田「優子ー?仲俣ちゃーん?」
大島も他の囚人同様、梅田が来るのを扉の傍で待っていた。
大島「梅ちゃんが点呼の係なんだ!」
梅田の顔を見ると、大島は子犬ように扉にじゃれつき、はしゃぎ声を上げた。
梅田「優子テンション高っ!そんなんで寝れるの?」
大島「良かった〜梅ちゃん来てくれて」
梅田はそこで、大島の態度が他の囚人と違っていることに気付いた。
梅田の顔を見れたことがというより、何か大きな幸運に見舞われたかのような喜び方なのだ。
梅田「どうしたの…?」
梅田が訝しげに眉を寄せる。
大島「看守の子には頼み事できないと思ってたけど、梅ちゃんなら信用できるし」
梅田「え?」
356 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 11:50:17.25 ID:58HWYykmO
大島「ううん、こっちの話。お願い梅ちゃん、何も訊かずにこれ、ポケットに入れてくれない?」
梅田「は?何それ?」
大島が差し出したのは、大家のICレコーダーだった。
自分は何もできないと卑下していた指原だったが、実は役立つ情報を握っていることが後の話し合いで判明した。
大家がICレコーダーを所持している。
そのことを知り、大島はそれを何かに使えないかと考えたのだ。
梅田「これを…どうするの?」
大島「これをポケットに入れて、タイミングを見て録音のスイッチを押してくれるだけでいいんだよ」
梅田「録音?なんで?」
大島「それは聞かないほうがいいと思う。知れば梅ちゃんが危ない」
梅田「え、やだよそんなの」
梅田は反射的に格子扉から身を引いた。
357 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 11:52:37.98 ID:58HWYykmO
大島「お願い梅ちゃん、みんなを助けると思って。録音スイッチを押すだけなら、ルールを破ったことにはならないでしょ?梅ちゃんは、偶然録音のスイッチを押しただけ」
梅田「で、でも…」
梅田の中で、葛藤が生じた。
大島はあきらかに、何か企んでいる。
返事をしてしまったら、自分までその企みの片棒を担いだことになるだろう。
それだけは回避したい。
バレて低周波をくらうのは大島ではなく自分のほうなのだ。
――どうしよう…。
一方で梅田は、同じチームの戦友とも呼べるこの女の子を信頼し、尊敬もしていた。
大島が今まで自分に嘘をついたことがあるだろうか。
大島はいつだって真っ直ぐで、ふざけているように見えるときも、きちんと周りの子を気遣っている。
そんな大島のさり気ない優しさが、梅田は好きだった。
器用すぎるのが災いして周囲から勘違いされたり、損をすることも多い大島だからこそ、梅田は彼女を信じられるのだ。
358 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 11:54:21.27 ID:58HWYykmO
大島「お願い…」
大島は悲しげな瞳で梅田を見つめる。
梅田「……」
大島「お願い梅ちゃん…」
梅田「……し、仕方ないなぁ…」
大島「梅ちゃん!!」
その瞬間、大島の顔がぱっと明るさを取り戻した。
それを見て、梅田は自分の決断が間違っていなかったことを確信する。
――優子を信じよう。きっと、何か考えがあるんだ。そしてその考えは、絶対に悪いものじゃない…。
梅田はそれから、大島の指示を仰いだ。
359 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 11:57:16.60 ID:58HWYykmO
《7日目》
今日も朝から囚人達の作業は続く。
そして、相変わらず市川は山内に責め続けられている。
山内が何か言うたび、前田が過剰に反応するので、市川はすっかり消沈しきっていた。
――あっちゃん…。
高橋は不安げに前田の様子を盗み見る。
前田の周囲には張り詰めた空気が漂い、それは何かのきっかけで崩れてしまうような危ういものだった。
前田が厳しい態度を保つなど、無理な話なのだ。
高橋は今にも壊れてしまいそうな前田が心配でたまらない。
――何を焦っているの…あっちゃん…。
360 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 11:59:52.65 ID:58HWYykmO
前田は意識してか、高橋と目を合わせないようにしている。
少しでも高橋の姿を見たら、自分の決意が揺らいでしまいそうになるからだった。
仲川「ねぇねぇこれどうやってやるんだっけー?」
そして、不思議なことに昨日まで元気のなかった仲川が、今日はやけに威勢がいい。
もちろん私語は抑えているが、作業のことで何か聞きたいことがあると、大声で周りのメンバーに話しかけている。
すっかりいつもの仲川に戻っていた。
高橋はそのことに引っかかりを感じたが、特に悪いことではないので見守ることにした。
361 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 12:02:25.01 ID:58HWYykmO
自由時間――。
『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第12監房の市川美織さん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』
放送がかかる。
島田「みおりん…」
市川の名が呼ばれ、島田はその場に崩れ落ちた。
――とうとうこの時が来てしまったか…。
ここ数日の作業での様子を見る限り、市川が懲罰房へ入れられるのは時間の問題だろうと予期していた。
島田はそれをなんとか止められないかと、思考錯誤していたのだ。
市川から相談を受けたのは、一昨日だった。
362 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 12:05:44.21 ID:58HWYykmO
市川「はるぅ…聞いてほすぃいことがあるの…」
日頃、周りのメンバーからどんなにきついことを言われても、笑顔を絶やさなかった市川が、思いつめた顔で島田の監房を訪れたのだ。
その時の島田は、おそらく山内とのことだろうとすぐに察して、熱心に市川の言葉に耳を傾けた。
しかし、直接山内に抗議する気はなかった。
同じ囚人として、懲罰房に入りたくないという気持ちは痛いほどわかる。
山内がおそらく、市川という名の生贄を差し出せば、自分の安全は確保されるのではないかと考えたことも、予想がついた。
だから市川を慰める言葉をかけるだけで、行動を起こすまでにはいかなかったのだ。
島田「ごめん…みおりん…」
いざ市川が懲罰房へ入れられるとなると、島田は自分の考えの甘さに腹が立った。
後悔しても遅い。
相談を受けながら、市川に何もしてやれなかった自分が憎らしかった。
こんな自分には、呑気に外から市川の心配をする資格などない。
――考えなければ…どうにかみおりんを助ける方法を…。
島田は自分を追い込み、ひとり考えこんだ。
363 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 12:06:44.50 ID:G6QBJFYg0
一方その頃、菊地は――。
菊地「トイレ行ってくるねー」
何やら思いつめている島田を放って、菊地は1人トイレに向かった。
菊地「……ぎゃっ…」
鼻歌を歌いながらトイレのドアを開ける。
その瞬間、嫌な臭いが鼻をついた。
菊地「臭っ!!」
咄嗟にドアを閉め、通路へと後ずさる。
その時、背後から来ていた人物にぶつかった。
秋元「あれ?どうしたの?」
菊地「あぁ才加ちゃん。ごめん、ちょっとトイレ臭うんだけど」
菊地はしかめっ面でそう説明した。
それから激しく首を振って、トイレのドアを指差す。
そんな菊地の態度を、秋元はいささか大げさに感じた。
364 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 12:07:42.23 ID:G6QBJFYg0
秋元「そりゃトイレだもん。いい臭いはしないよ。それにこのトイレ古いし」
秋元はそう言うと、慌てる菊池を無視してトイレのドアを開けた。
そして、やはり菊地と同じ反応を示す。
秋元「何これ…どうしたの?」
秋元はしかし、手で鼻を覆うと、果敢にもトイレの奥へと足を踏み入れた。
臭いの元を探る。
秋元「あ…」
そして、何かに気がついた。
菊地「どうしたの?」
菊地も秋元を見習い、手で鼻を覆うと、顔を覗かせた。
365 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 12:08:26.13 ID:G6QBJFYg0
秋元「換気扇止まってる」
秋元はそう言うと、スイッチを押しなおした。
しかし、換気扇は回らない。
菊地「壊れてるの…?」
秋元「そうみたい。まぁ古いし、こういうこともあるよ」
菊地「えー?じゃあどうするの?ずっとこの臭い?」
秋元「うん。窓開かないようになってるし」
菊地「ひぃー」
秋元「我慢しなよ。別に汚れてるわけじゃないし、臭いだけでしょ?トイレが臭いだけで死ぬわけじゃあるまいし」
たくましい秋元の発言に、菊地は渋々返事をした。
菊地「は、はい…」
366 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 12:10:22.45 ID:G6QBJFYg0
洗濯部屋――。
自由時間も終わり、看守はそれぞれの仕事についていた。
ある者は定時のチェックを行い、そしてある者は掃除や、明日の作業パーツを運ぶなどしている。
柏木「はぁ…面倒臭い…」
そして柏木は今、大量の洗濯物を前に途方に暮れていた。
多田「ゆきりんちゃんとやってよー」
多田は不器用な手つきながらも、次々と洗濯物を畳んでいく。
よく見ると畳み方もバラバラで、皺も伸ばしていないのだが、そこは多田の愛嬌だ。
柏木「はーい…」
年下の多田に叱られ、柏木はばつが悪そうだ。
渋々洗濯物の山に手を伸ばす。
料理や掃除はおろか、洗濯すら母親の手伝いをすることはない。
それなのにいきなり洗濯物の山を前にして、全部畳めというのは酷な話だ。
367 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 12:11:22.18 ID:G6QBJFYg0
柏木「これちゃんと畳まなきゃ駄目なのかな?丸めたほうが早くない?」
多田「えー?」
柏木の様子に、多田はすっかり調子を狂わされてしまう。
多田も本来、几帳面なほうではないのだ。
だが、要領はいい。
洗濯物を前に、多田はあることを閃いた。
多田「ねぇ、この仕事、明日囚人の子達に頼んで、やってもらえないかな?」
柏木「えぇ!?」
多田の提案に、柏木は目をひんむき、元々大きな瞳をさらに拡大した。
柏木「駄目だよそんなの」
多田「なんでぇー?看守の命令は絶対なんでしょ?」
多田はきょとんとした顔で柏木を見つめ返す。
柏木「やぁ…それはやっぱり常識的に考えて…頼みづらいというか…」
368 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 12:11:59.05 ID:G6QBJFYg0
多田「でも言えば誰かがやってくれると思う」
柏木「え?」
多田「さっしーとか…あとわさみんとかさ!」
柏木「そりゃらぶたんの頼みならば大方のメンバーは聞いてくれると思うよ?でもさぁ…やっぱなんか…ずるくない?看守の特権を悪用してるみたいで…」
多田「そうかな?じゃあゆきりんはこの洗濯物、全部きれいに畳める?」
柏木「畳めない」
多田「でしょ?それにやっぱ面倒臭くない?」
柏木「面倒臭い」
多田「じゃあ決まりっ♪明日囚人にやってもーらおっ」
多田は邪気のない笑顔で、小さく跳び跳ねた。
可愛らしいえくぼが浮かぶ。
その姿を見ていたら、柏木はさっきの話がそんなに悪いことのようには思えなくなっていた。
369 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 12:13:58.10 ID:G6QBJFYg0
《8日目》
篠田「手先が器用で作業が速いのは…」
作業部屋の中で、篠田はぐるりと囚人を見回した。
目に付いたのは、仁藤だ。
篠田「萌乃ちゃん、やってくれる?」
仁藤「え?あ、あたしですか…?」
篠田「ごめんね、じゃないと時間内に作業終わらなそうだから」
仁藤「は、はい…」
仁藤は渋々立ち上がると、ダンボールから残りの作業パーツを取ってきた。
――どうしよう…こんなにいっぱい、終わるわけない…。
370 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 12:15:26.06 ID:G6QBJFYg0
確かに自分は他のメンバーと比べて作業ペースが速い。
だからといって、残りの分を全部自分が肩代わりするのはどうかと思う。
それもこれも、今日になって突然囚人の仕事が増えたことが原因だった。
囚人の中から数人が選ばれ、洗濯物を畳むよう指示されたのだ。
そのせいで、洗濯のほうにまわされた囚人の分の作業を、仁藤がやるはめになってしまった。
――1人でこの量、絶対無理…。
困り果てた仁藤は、隣に座る宮澤に目で訴えかけた。
しかし宮澤は仁藤の視線を完全に無視した。
正確には、仁藤が睨んできていると勘違いし、そちらを見ないようにしていただけだが。
仁藤は自身の目つきの鋭さに気がついていない…。
――何で…佐江ちゃん…。ちょっとくらい手伝ってくれたらいいのに…。
仁藤は宮澤がそんな勘違いをしていることを知らない。
すっかり宮澤に無視されていると思いこみ、むかむかとした感情が湧き上がってくる。
結局、見かねた大島が仁藤の分を半分手伝ってやることにして、作業は時間内に終わらせることができたが、仁藤の苛立ちは治まらなかった。
371 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 12:16:10.11 ID:G6QBJFYg0
自由時間――。
『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第3監房の小林香菜さん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』
自由時間開始と同時に、懲罰房に連れて行かれる囚人の名前が発表された。
島田は、そろそろだと立ち上がる。
――みおりんが懲罰房から解放される…。
島田は市川の帰りを待ち望んでいた。
どうしても、市川に告げたいことがあるのだ。
一晩かけて考えに考えた末、出した決断だった。
これを聞いたら、市川はもしかしたら反対するかもしれない。
しかし、もう方法はこれしか残っていないのだ。
市川「……」
やがて、通路の奥から市川が姿を現す。
その足取りは弱々しく、歩くのもやっとといった雰囲気だ。
島田「みおりんっ!!」
島田はたまらず、市川のもとへ駆け寄った。
テニスでつちかったたくましい腕で、市川の体を支える。
372 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 12:17:35.88 ID:G6QBJFYg0
市川「ありがとう…」
市川は妙な発音でそう言った。
おそらく自分の声さえも聞き取りずらい状態なのだろう。
島田「とりあえず、あたしの監房に行こう。今は菊地さん他の監房に行ってて留守だから」
島田は市川が聞きやすいよう、大声で区切りながら言った。
市川が頷く。
2人は寄り添うようにして、第2監房へ入った。
島田「みおりん、ここ…」
島田はまず市川をベッドに座らせた。
市川が腰を下ろすと、小さなベッドが妙に大きく感じる。
こんなにも華奢な体で、市川は独り懲罰房を耐えていたのだと思うと、島田の目に涙がに滲んだ。
島田「ごめん…ごめんみおりん…あたしみおりんに何もしてあげられなくて…。みおりんは…せっかくあたしのこと頼って相談してきれてくれたのに」
市川が小さな頭を振る。
諦めと絶望、2つが交じりあった表情をしていた。
島田「あたし考えたの。このままだとみおりんは確実にまた懲罰房へ入れられる。らんらんに注意するのは簡単だけど、そうして今度はらんらんが懲罰房へ入ることになっても嫌だ。あたしは…せめてチーム4のメンバーには懲罰房へ入ってほしくないんだよ」
市川は懸命に耳を澄まし、島田の言葉を聞いていた。
373 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 12:28:00.00 ID:fo/yY6Wn0
age
374 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 12:34:17.01 ID:vMK7W7n/0
支援支援
375 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 12:41:31.48 ID:58HWYykmO
島田「だからね、ここを出よう。ここから脱獄しよう」
島田がそう言うと、市川ははっと顔を上げた。
それからじいっと島田の顔を見つめる。
瞳の奥から、その真意を探ろうとするかのように。
島田「方法は考えてある。みおりんはあたしを信じて、ついてきてくれるだけでいいから」
市川は黙ったまま、しかしさっきとは明らかに瞳の色が変わっている。
島田「もちろん今すぐは無理だよ。明日、決行する。明日ならみおりんの体力もいくらか回復してるだろうし」
市川「そ、それは…あたすぃ達だけでやるの?」
本当に大丈夫なのだろうか。
確かにここから脱獄できたらどんなにいいだろう。
この数日、そのことばかりを夢見てきた。
しかし、いざ脱獄を決める局面に来て、市川の心は揺れていた。
376 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 12:43:19.17 ID:58HWYykmO
島田「うん。なるべく騒ぎにならないように、ひっそりと出ようと思う」
市川「……」
島田「だからこのことは誰にも言わないで。あたし達だけの秘密。ね?」
島田はすでに市川が一緒に脱獄するものだと決め付けていた。
そしてその強引な話しぶりに、市川はいつしか脱獄を現実のものとして捉え始める。
島田「あ、でも…」
島田はそこで、何かに気がついた。
市川「?」
島田「そうだ、もう1人助けなきゃいけない人がいる」
市川「へ?誰ですか?」
島田「ぱるるだよ。ぱるるも放っておいたらまた懲罰房行きになる。ああいう子だから仕方ないけど、黙って見過ごすわけにはいかないよ。ぱるるも含めて、3人で脱獄しよう」
377 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 12:45:31.95 ID:58HWYykmO
市川「ぱるるも…」
3人で脱獄する。
それが例え島崎だったとしても、2人より3人のほうが心強いことに間違いはない。
それに、島崎はああ見えて芯の強い人だと、市川は思っていた。
――3人でなら…やれるかもしれない…。
市川はそう考え、ようやく島田の提案に同意した。
市川「うん、わたすぃやる!脱獄する!」
島田「良かった、じゃあ早速ぱるるにも言って…」
その時、どこかへ行っていた菊地が監房へ戻って来た。
島田は慌てて口を閉じる。
――菊地さんにあたし達の話…聞かれてなかったかな…。
378 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 12:47:17.62 ID:58HWYykmO
しかし菊地は島田と市川にはまったく興味がないようで、適当に挨拶をすると床に寝転んでしまった。
島田「え?あ、あの…なんで床なんですか?ベッド使ったほうが…」
市川「背中痛くなっちゃいますよ」
菊地「え?そうなの?」
菊地はそこが床だろうがベッドだろうが、気にはしていない。
頭の下で両手を組んで枕変わりにすると、くだらない話を後輩2人に振った。
ちょっと頭が足りなかろうが、仮にも菊地は先輩である。
付き合わないわけにはいかず、島田と市川は愛想笑いを浮かべた。
――早くぱるるにも脱獄の話を伝えに行きたいのに…。
島田は焦る。
菊地の話は終わらない…。
379 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 12:49:21.16 ID:58HWYykmO
一方その頃、第12監房では――。
小嶋「みおりん、解放されたのに戻ってこないなぁー」
小嶋はのんびりと、壁の時計を見上げた。
高橋「戻って来る前に、みんなそれぞれ意見を出し合おう」
高橋が厳しい目で集まった面々の顔を見回す。
第12監房には、昨日大島の話を聞いたメンバーが集合していた。
指原「あ、あれ?萌乃ちゃんがいませんよ」
指原が気がついて、きょろきょろと視線を動かした。
宮澤「うーん、声かけたんだけど、なんか疲れてるみたいだったし、今機嫌悪いよ」
大島「洗濯物を畳むのに、作業する囚人の数が減ったからね。その分の作業を肩代わりさせられたら、そりゃ腹立つよ」
板野「優子は平気なの?結局萌乃ちゃんと作業分担したんでしょ?」
380 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 12:53:04.18 ID:58HWYykmO
大島「あぁ、あたしは平気だよ」
高橋「でもなんで…今日になって看守は洗濯物を囚人にやらせたんだろう…。洗濯って、今まではずっと看守が交代でやってきたんだよね?」
秋元「たぶん…囚人と看守の上下関係が出来上がりつつあるんだ…」
秋元が深刻な顔で説明した。
秋元「よく聞くでしょ?囚人と看守のゲーム。看守になった人は、次第にその権力を行使するようになる。看守をやることに慣れて、性格や考え方そのものが変わってきてしまうんだよ」
秋元「囚人よりも自分達看守のほうが立場が上だと思うようになってね。そこまでいくと、もう誰も看守を止められない」
板野「だからあっちゃん…あんな…」
板野は前田の様子を思い出し、表情を曇らせた。
大島「そうか、だからか…」
メンバーが沈んだ顔をする中、大島はなぜか納得の声を上げた。
高橋「どうしたの?」
381 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 12:55:29.75 ID:58HWYykmO
大島「ずっとおかしいなって思ってたんだけど、才加の話を聞いて納得がいったよ」
板野「え?」
大島「いい?ここから解放される条件は、看守が1人の囚人を5回懲罰房へ入れたらってことになってるよね?」
指原「はい…。あんなとこ5回も入れられたら頭おかしくなっちゃいそうですけど」
大島「だったら最短5日であたし達は解放されるはずだよね?もちろん、そうなった場合は1人だけが犠牲にならなきゃいけないんだけど」
秋元「現実的に考えて、1人が5回連続で懲罰房に入るなんて酷でしょ。だから看守も毎回違う囚人を指名しているんだろうし。今まで連続で懲罰房に入れられた子なんていないよ」
大島「そうだよね。で、今日は監禁されて何日目?」
宮澤「えーっと、8日目」
宮澤が指を折りながら答える。
382 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 12:58:11.32 ID:58HWYykmO
大島「うん、だったらそろそろ、すでに1度懲罰房に入れられた子が、また指名されてもいいと思うんだけど」
高橋「確かに。みんななるべく早くここから解放されたいと思ってる。だったらまた同じ囚人を指名して、早くノルマである5回に辿りつきたいと考えるよね、普通」
大島「でしょ?あたしが看守だったらそうする。でもなぜか、看守の子達は、1度懲罰房へ入れた囚人を2度と入れようとはしない」
板野「もしかして…この監禁生活を引き伸ばそうとしているってこと?」
大島「うん、今の状況を見る限り、そう考えるのが妥当かな」
秋元「くっそぉ…」
大島「看守にとって、この監禁生活はだんだん快感になってきているのかも。囚人は看守に低周波が流されないよう、気を遣ってくれるし、洗濯とか面倒なことは囚人にやらせればいいし」
大島「ピラミッドの頂点にいるのは、自分達看守。そして、その最下層が囚人であるあたし達。人間やっぱり、人の上に立つってことは気持ちがいいものなのかなぁ…」
大島はそう言うと、深いため息をついた。
383 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 13:01:56.29 ID:58HWYykmO
一方その頃、看守の部屋では――。
野中「あー、また負けたぁ」
看守の部屋では、他に娯楽がないこともあり、テニスゲームが大流行していた。
その中で野中は、まだ誰にも勝利していない。
たかがゲームとはいえ、さすがに1勝も出来ないのはなんだか情けない。
野中はがっくりと肩を落とし、コントローラーを置いた。
藤江「勝った勝ったー」
野中に勝利した藤江は、無邪気にVサインを作っている。
中田「みちゃ、ほんと弱いねー」
野中「まだボールを打つタイミングがつかめなくて」
中田「こういうのって感覚だよね」
片山「片山もこのゲーム苦手」
中田「はーちゃんはファミコンの時代だっけ?」
片山「えっ…」
メンバーがゲームに興じる中、梅田はひとり緊張の面持ちでタイミングを計っている。
――そろそろいいかな…。
384 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 13:02:30.79 ID:vMK7W7n/0
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385 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 13:03:40.25 ID:58HWYykmO
なるべく不自然にならないよう気をつけながら、梅田は声をかけた。
梅田「あ、じゃああたし優子のとこ行ってくるねー」
野中「え?梅ちゃん次対戦する約束じゃ…」
梅田「ごめん、なんかこのところ優子とゆっくり話せてなかったから」
野中「そっか…そうだよね…」
少し寂しそうな野中の様子に、梅田の心は痛んだ。
以前から、ゲームに勝つ特訓をしようと約束していたのだ。
野中「じゃあまた今度、ゲームしよ」
梅田「うん」
梅田は何かを振り切るように体を回転させると、看守の部屋を後にした。
386 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 13:08:33.23 ID:58HWYykmO
一方その頃、第12監房では――。
小嶋「……」
監房に集まった面々が深刻な表情を浮かべる中、小嶋はヘアアイロンを取り出し、自分の髪で遊び始めてしまう。
大島の話をどこまで聞いていたのか。
そんな小嶋を一瞥すると、高橋は口を開いた。
高橋「脱獄の話に戻るけど、優子の話をまとめると、やっぱり看守の子達に協力は頼めないってことだよね」
大島「そう。だけどあたしが言いたいのはもうそんなことじゃなくて、だったら看守はどうやって懲罰房に入れる囚人を決定しているのかってこと」
板野「?」
大島「この監禁生活をなるべく長く引き延ばすために、看守は1度懲罰房に入った囚人をあえて避けて、指名していってる。それってじゃあ、看守の誰が言い出したことなんだろう?誰が話し合いを仕切ってるんだろう」
大島「それがわかれば、話し合いにあまり積極的でない人物を見つけ出すことができる。その人物はおそらく、監禁生活を引き延ばすことに反対しているはず。だったらその人物に脱獄計画を話して、協力を頼むことは可能だと思う」
387 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 13:09:46.27 ID:G6QBJFYg0
宮澤「そうか!いい考えだね。看守は監房の鍵を持ち歩いてるし、脱獄の時かなり助けになる」
指原「え?でもどうやって看守の話し合いを聞くんですか?看守の部屋には入れないし、話し合いについて訊いても、看守は囚人にそういうこと教えちゃいけない決まりなんですよね?」
指原がおどおどと問いかける。
すると、大島は意味ありげに笑みを浮かべた。
梅田「優子ー?こっちの房にいたんだね、探しちゃったよ」
その時、梅田が顔を出した。
大島「あ、ごめんごめん」
梅田「これ…例の…」
梅田は辺りを窺うと、声のトーンを落とした。
そっと、大島に何か手渡す。
大島「ありがとう。ごめんね。梅ちゃんはあたしから何も説明されてないし、何も知らない。だから何も悪いことはしていない。これって間違いないよね?」
梅田「う、うん…」
大島「じゃあまた、これ以上あたし達に関わらないほうがいいよ」
梅田「……」
梅田は監房に集まった面々を見渡すと、そそくさとその場を後にした。
388 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 13:12:47.61 ID:G6QBJFYg0
梅田の姿が見えなくなると、大島は手にしたものを高々と掲げてみせる。
指原「そ、それ…しいちゃんのICレコーダー…。なんで?」
大島「昨日借りたんだよ。それを梅ちゃんに持たせた。いい?梅ちゃんはこのICレコーダーの録音ボタンを、偶然何かの拍子に押しちゃったんだよ。偶然、懲罰房行きとなる囚人について、看守が話している時にね…」
板野「え?てことは…」
高橋「そこに看守の声が音声が録音されてるってこと?」
大島「そういうこと」
大島は片目をつぶってみせた。
大島「早速聞いてみよう」
再生ボタンを押す。
少し衣擦れのような音が流れた後、看守達の声が再生された。
389 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 13:13:54.51 ID:G6QBJFYg0
一方その頃、増田は――。
増田「遥香ー?おらんのー?」
先ほどから仲川の姿が見当たらない。
増田は仲川の名を呼びながら、通路を歩いた。
監禁生活が始まり、最初は元気のなかった仲川だが、今やすっかり回復して、あり余る体力にまかせてどこかを走り回っているのだろう。
増田「遥香探すとなると、全員の房見て回らんといかんなぁ…」
人懐こい仲川は、特定のメンバーと行動を共にすることがない。
あちこちに顔を出しては、風のように去っていく。
つまり、探し出すには苦労を要するタイプの人間だ。
増田は次第に、仲川と追いかけっこをしているような気分になってきた。
――もうすぐ自由時間終わってまうやん…。その前に監房へ連れ戻さな…。
本格的に焦りはじめた増田の耳に、仲川の声が届く。
仲川「わさみんあれ歌ってー。あー、やっぱり遥香も一緒に歌うー」
増田は声のした第1監房に向かった。
390 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 13:15:51.26 ID:G6QBJFYg0
仲川「あ、有華ー!どうしたの?」
仲川はやはり、第1監房にいた。
ちゃっかり岩佐の膝の上に座り、呑気にグループの持ち歌を歌っていた。
増田の顔を見ると、膝から飛び降り、抱きついてくる。
増田「もうすぐ自由時間終わるやん。そろそろ監房戻らないかんやろ」
仲川「えー?」
増田「ほら、行くで」
仲川「はーい」
仲川はまだまだ遊び足りない様子で、しかし増田に腕を引っ張られると、渋々ついてきた。
増田「随分探したんやで。どこ行ってたん?」
仲川「んーっと、いろいろ!」
増田「え?いろいろって?」
391 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 13:16:38.54 ID:G6QBJFYg0
仲川「最初にまゆゆのとこ行ってー、その後に通路であっちゃんと会ったからお喋りして、あ、あとトイレも行った!」
増田「トイレて…そんなこといちいち報告せんでいいから」
仲川「うん」
増田はそこで、仲川の服が汚れていることに気付く。
増田「ほんまあちこち走り回るから…」
手で軽く叩いてやり、埃を落とす。
仲川は子供のように気をつけの姿勢を取ると、増田にされるがままになっていた。
仲川「ありがと」
増田「ええからほら、行くで」
増田はそれから、仲川の手を取ると、半ば引きずるようにして監房へと急いだ。
392 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 13:18:26.69 ID:G6QBJFYg0
一方その頃、第12監房では――。
高橋「……」
ICレコーダーに録音された看守達の音声が再生し終わると、拍子抜けした空気が監房内に漂った。
板野「ねぇこれって…どういうこと?」
板野は困ったように、大島へ問いかける。
大島「どっちみち、あたしの期待通りにはいかなかったってことか…」
秋元「うん…」
指原「ど、どうするんですかこれから…こんなんじゃ対処しようがないですよ」
焦った指原が小刻みに足踏みする。
その瞬間、床に置かれた小嶋のヘアアイロンを踏みつけてしまう。
指原「熱っ…くない?へ?」
小嶋「もうさっしー気をつけてよ。壊れちゃうじゃん」
指原「はい、すみません…」
小嶋に叱られ、指原は気まずそうに頭を下げた。
それから不思議そうに首をかしげる。
見かねた板野が教えてやった。
板野「それ、時間が経つと勝手に電源切れるから。熱くないよ」
393 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 13:19:02.46 ID:G6QBJFYg0
指原「あ、そうだったんですか」
指原は納得したように頷いた。
指原「ヘアアイロンなんて、指原そんなオシャンティーなアイテム持ってないんでよくわかんないんですよ」
板野「……」
その時、黙って一連のやりとりを聞いていた大島の頭の中に、あることが閃いた。
大島「それだっ!」
思わず大声を上げた大島に、高橋が反応する。
高橋「えぇぇぇ?優子いきなりどうしたの?」
大島「ヘアアイロンは火傷の危険性があるから危ない。だから一定の時間で電源が切れるようになってる。ガスだって吹きこぼれに反応して自動で火が止まるようになってるし…」
宮澤「へ?何の話?」
大島「つまりはこういうことだよ…」
大島はそれから、残りの自由時間を考えて、手短に作戦を説明した。
394 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 13:19:47.73 ID:G6QBJFYg0
《9日目》
大島「あぁぁもうぉ、無理無理こんなの。絶対無理だよー。ねぇたかみなー?」
作業が開始されしばらく経つと、突然大島が大声をあげた。
目の前に置かれた作業パーツを手で払いのけ、頬杖をつく。
高橋「うん、もうやだよこんなの。疲れちゃったよね?佐江ちゃん?」
高橋はそんな大島の態度を叱るどころか、便乗して宮澤にも同意を求める。
宮澤「うーん、正直作業なんてどうでもいいや」
宮澤もまた、大島同様、作業パーツを手で端に追いやった。
隣に座る仁藤が、迷惑そうに宮澤を見る。
大島「ねぇもうこんなのやめてさ、みんなでゲームしない?はーい、ゲームに賛成の人ー?」
大島は調子にのり、勢いよく立ち上がった。
片手をあげ、囚人達を見回す。
大島「はるごんも作業するより、みんなで遊ぶほうがいいよねー?」
大島の問いかけに、仲川は手にした作業パーツを放り投げて喜んだ。
仲川「遊ぶ遊ぶ遊ぶー。何して遊ぶの?」
395 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 13:21:42.70 ID:G6QBJFYg0
大島「せっかくこの部屋広いし、思いっきり走り回れる遊びがいいなぁ」
仲川「さんせーい」
指原「あ、はいはい!指原は高鬼に一票!」
指原さえも立ち上がり、作業を放棄する。
その時、秋元が大きな物音を立てて立ち上がった。
小林「才加、落ち着いて…」
小林は秋元が大島達の態度に腹を立てていると思い、咄嗟に秋元の腕を押さえた。
秋元「駄目駄目、高鬼なんて」
しかし秋元は怒りを露にするどころか――。
秋元「どうせなら思いっきり体を動かせる…そう…プロレスやろうぜ!」
ノリノリの態度に、小林は目を丸くした。
小林「才加、頭おかしくなっちゃったの?」
一方で看守の小森は、秋元の言葉に目を輝かせた。
小森「プロレス…!」
もちろん倉持も、密かに笑みを浮かべている。
396 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 13:22:21.46 ID:G6QBJFYg0
板野「はい!あたしはドッジボールがいい。やるなら本気で」
板野もまた、新しい提案をしながら立ち上がる。
前田「ともちん…」
前田は小さく、驚きの声を洩らした。
――みんな…急にどうしちゃったの…?
その時、右腕に痛みが走る。
低周波が流されたのだ。
早く囚人達をおとなしくさせなければ…。
前田「痛っ……」
しかし、看守達が低周波に苦しむ中で、囚人達の声は次第に騒がしくなっていく。
高橋はなぜかドヤ顔で踊りはじめ、大島は机の上に飛び乗り、みんなを煽る。
大島「祭りだ祭りだー」
そして秋元は真顔で反復横飛びを披露し始める。
その隣では、宮澤がチーム4相手にボウリング講座なるものを展開する。
指原は高城にヲタ芸を仕込み、仲川は部屋中を無意味に走り回った。
397 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 13:24:26.06 ID:vMK7W7n/0
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板野w
399 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 13:27:36.33 ID:58HWYykmO
篠田「痛い…ちょっ、みんな静かにして…席に戻って」
柏木「ちょちょちょ、やめてやめて…」
柏木は大げさにのた打ち回ると、囚人に対して注意を繰り返した。
しかしこんな騒がしい状態で、柏木の声は届くはずもない。
連日の作業で溜まったストレスを発散するかのように、囚人達は好き勝手に動き回る。
横山「いけませんなぁ…こないなことしてたら…」
真面目な横山ははじめ、作業に集中していたが、やがて馬鹿らしくなったのか、席を立った。
呆れたように囚人達を見回しているが、その顔はにやけている。
400 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 13:27:43.44 ID:FQ1tIe1X0
支援!
401 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 13:30:05.42 ID:58HWYykmO
横山「ほんま…楽しそうやわ…」
そんな中、仁藤だけはこの状況を受け入れることが出来ず、呆然と立ち尽くしていた。
ふと見れば、傍では北原が低周波に苦しんでいる。
仁藤「ちょっと里英ちゃん?大丈夫?」
北原「どう…いうことなの?なんなのこれ…」
仁藤「わかんない。わかんないよ…」
北原「看守に対しての抗議のつもり…?」
仁藤「知らない。あたし何も聞いてないもん」
北原「痛い…痛いよ萌乃ちゃん…助けて…」
402 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 13:32:32.26 ID:58HWYykmO
痛みのためか、北原の唇はどんどん青紫色に変化していく。
――嫌だ。もうこんなのやだ。ちゃんとしてないのとかあたし絶対無理…。
傍では同期の仲間が苦しんでいる。
それだけではない、今や看守全員が低周波に苦しめられている。
それなのに、囚人は騒ぐことをやめない。
信頼する高橋や大島達が先頭切ってみんなを煽っているのだから当たり前だ。
仁藤はこの状況が耐えられなかった。
――失望したよ…優子ちゃん…尊敬してたのに。それに佐江ちゃんまで…。
ついに仁藤の頬に、涙がつたった。
仁藤「もうやめてよ。看守がみんな痛がってるじゃん。みんなちゃんとしようよ!」
仁藤が涙声で訴える。
その様子に、宮澤はハッと我に返った。
宮澤「まずい…萌乃泣いちゃった…」
宮澤の声に、囚人達が凍りつく。
大島と高橋は互いに目配せをすると、すっと自分の席に戻った。
403 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 13:34:28.89 ID:58HWYykmO
大島「まぁお遊びはこれくらいにして、作業終わらせちゃおうか」
大島がそう言うと、囚人達は一瞬呆気にとられた顔をしたが、すごすごと自分の席に着いた。
看守の低周波が止まる。
前田「何だったの今の…」
前田は訝しげに囚人達を見た。
宮澤「ほら萌乃、もう涙拭いて」
宮澤がイケメンの身のこなしで、仁藤を慰める。
仁藤「元はといえば佐江ちゃん達がみんなを煽ったのがいけないんじゃん…」
仁藤はしかし、キッと宮澤を睨みつけた。
404 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 13:42:29.85 ID:T7OPRquA0
支援
405 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 13:50:48.59 ID:vMK7W7n/0
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406 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 13:51:46.92 ID:fo/yY6Wn0
小ネタちりばめ乙
宮澤がイケメンの身のこなしで・・・
ww
408 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:08:44.10 ID:58HWYykmO
作業終了後――。
大家「作業が云々より、あの時みんなと一緒に騒ぎすぎて疲れたわ…」
監房に戻った大家は、どさりとベッドに倒れこんだ。
亜美も大家と同様、疲れたのかうとうとと枕に頭を沈めている。
大家「でもなんか、やっぱああしてみんなで馬鹿なことしてるんは楽しいな…」
亜美はすっかり寝入ってしまっていたが、大家は気にせずぶつぶつとひとり言を呟いた。
大家「あ、そういえば昨日返されたこれ、結局何に使ったんだろ…」
しばらくすると、大家はICレコーダーのことを思い出した。
昨日、自由時間が終わる間際になって、大島が返しに来たのだ。
今日はまたこれにメッセージを録音して、下の監房にいる指原に送るつもりだった。
あれから大家は何度か、指原に声のお便りを届けている。
409 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:11:07.81 ID:58HWYykmO
大家「……」
録音ボタンを押そうとして、大家の中にふと好奇心が湧き上がった。
大島がICレコーダーを何に使ったのか気になる。
少しの間迷ったが、大家は結局、再生ボタンを押してしまった。
大家「?」
そして、再生された音声に驚愕する。
大家「これ…看守の子達の声…どういうことだろ…」
410 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:12:39.49 ID:G6QBJFYg0
一方その頃、第6監房では――。
仁藤「なんで最初に説明してくれなかったの?」
仁藤は鋭い目つきで、宮澤を見据えた。
宮澤は思わず後ずさりながら、慌てて弁解する。
宮澤「や、だって萌乃、昨日は眠そうだったし…」
仁藤「でもちゃんと聞いてたらあたし…」
そうだった。
はじめに説明されていれば、自分はみんなの前であんなに泣きじゃくるという失態を犯すことはなかったのだ。
仁藤の両手は怒りに震えた。
宮澤「だから、優子が言い出したんだよ。看守の低周波が最高でどのくらいの時間流されているのか調べようって」
仁藤「そのためにわざとあんな騒ぎを起こしたの?看守に低周波が流れるように?馬鹿じゃないの、みんな本気で痛がってたんだよ」
宮澤「それは悪いと思ってるよ。でもああするしかなかったんだって」
仁藤「だいたい、なんで看守の低周波について調べてるの?」
411 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:15:05.85 ID:G6QBJFYg0
宮澤「もし看守の低周波が一定の時間で止まるように設定されていたとしたら、その時間だけ看守には低周波の痛みに耐えてもらえばいいじゃん?そうしたらうちらも看守の低周波を気にしないで脱獄できるし」
仁藤「そんな無茶な…」
宮澤「でも結局駄目だったけどね。あたし達の予想だと、安全のため10分かそこらで低周波は切れると思ったんだ。でも実際はもっと長い時間流れてた」
宮澤「萌乃が泣き出して騒ぐのやめちゃったから、最後まで実験できなかったのは残念だけど、どっちみち無駄だったよ」
仁藤「あ、あたしのせいなの?」
宮澤「ううん、そんなつもりで言ったんじゃないよ」
仁藤「でも、実際そうなんでしょ?」
宮澤「違うって。あのまま実験を続けてても、たぶん低周波は永久に切れなかったんじゃないかな…。囚人が言うことを聞くまで、低周波は流され続けるんだよ」
宮澤「だから脱獄は、誰にもバレないようにやるしかないってこと。脱獄がバレた時点で、看守には低周波が流され続けるんだからね」
仁藤「ちょっ…今はそういうこと聞いてるんじゃなくて、どうしてあたしに何も説明してくれなかったのかってことなんだけど。一昨日、みんなで協力して脱獄しようって約束したのに…」
412 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:16:16.45 ID:G6QBJFYg0
宮澤「あ、ごめん…」
仁藤「あたしじゃ力不足なの?みんなの役に立たない?」
宮澤「そんなことないよ…」
しかし、宮澤はそれ以上言葉を続けられなかった。
頭がボーッとする。
体がだるい。
少し、仁藤の相手をするのに疲れたのかもしれない。
仁藤「佐江ちゃん…?」
宮澤「……」
黙り込んだ宮澤を、仁藤はしばらく睨みつけていたが、やがてふいとそっぽを向いた。
仁藤「もういいよ。佐江ちゃんなんか知らない!」
仁藤なりに宮澤の気を引くため起こした行動であったが、宮澤の反応はいまいちだった。
そうなるともう後には引けなくなり、仁藤はそのまま不機嫌な態度を続ける。
第6監房の雰囲気は険悪なものとなった――。
413 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:16:57.97 ID:G6QBJFYg0
自由時間――。
大家「あれ?放送かからないなぁ…」
自由時間となり、格子扉が自動で開いた。
いつもならこの時点で、懲罰房行きとなる囚人の名が発表される。
しかし今日は、一向にその気配がない。
前田亜「今日はみんなあれだけ騒いじゃったから、1人に絞れないんじゃないですか?」
亜美が寝ぼけた顔でそう答える。
結局夕食の時間を過ぎるまで眠りこんでいたので、亜美はなんとなく体がだるかった。
前田亜「あたしお風呂行ってきまーす」
頭をすっきりさせるため、亜美はいつもより早く入浴に向かった。
ひとり監房に残された大家は、考えに耽っている。
――そんなはずない…。だって、看守は簡単に懲罰房行きになる囚人を決められるはずだから…。
その時、モップとバケツを持った永尾と入山が監房の前に現れた。
この後どうなる
415 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:20:19.21 ID:G6QBJFYg0
大家「え?掃除?」
大家が話しかけると、永尾と入山は姿勢を正した。
永尾「はい」
入山「今日は通路全部モップがけするんです」
大家は順番に2人の顔を見ると、ついに決心を固めた。
――この決断が、みんなのためになるなら…。
ずっと考えていた。
どうにかしてこの監禁生活を終わらせる手はないだろうかと。
1人の囚人が5回懲罰房に入らないと、解放されることはない。
だったら、その囚人に、自分が名乗りをあげることは出来ないだろうか。
自分だったら、きっと連続で懲罰房に入れられても、耐え切ってみせる。
長い研究生時代を過ごしたのだ。
根性だけなら誰にも負けない。
しかし、看守には看守の考えがあるらしく、なかなか自分は懲罰房行きに指名されない。
大家は看守がどのように話し合いをしているのか不思議だった。
大家「あのさ、ちょっと頼みがあるけん…」
永尾「はい?なんですか?」
大家「うちを、懲罰房に入れて欲しいんよ」
416 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 14:20:28.86 ID:FQ1tIe1X0
気になる…
417 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:23:38.45 ID:G6QBJFYg0
入山「え?大家さんを…ですか?」
永尾「そんな…無理です。あたし達に決定権はありませんし」
大家「でもまだ今日の懲罰房行きは決まってないんやろ?だったら今からうちを指名して…」
入山「でも…」
大家「うち、もう全部知ってるけん、大丈夫や。看守だって、毎回誰を懲罰房に入れるか、話し合いするのが辛いんやろ?」
永尾「……」
永尾は無言でこくりと頷いた。
大家は先ほど、ICレコーダーに録音された音声を聞いた。
そこには看守がどのようにして懲罰行きになる囚人を決めているのかがわかる会話が録音されていた。
大家「1人に絞れない…話し合いをするのが辛い…だから…くじ引きなんかしてるんやろ?」
418 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:24:56.59 ID:G6QBJFYg0
入山「え?大家さんなんでそれを…」
大家「聞いたんよ。看守の部屋の音声を。看守は話し合いなんかしてない。くじ引きで懲罰房行きの囚人を決めてるだけなんやろ」
永尾「だって…どうしても話し合いでなんか決められなかったんです…」
大家「だけどそんなことしてたら、いつまでたってもこの生活は終わらんけん。うち、もう覚悟はできとるんよ。うちが5回連続で懲罰房に入る。そうしたらもうこんな監禁生活からみんな解放されるけん」
入山「そ、そんな…5回連続って…危ないですよ」
大家「ここから解放されるには、どっちみち誰かが5回懲罰房に入らなきゃいけん。うち、みんなをそんな辛い目に遭わせたくないんよ。な?もう終わりにしよ?うちが懲罰房に入る。それですべて解決するやろ」
永尾「……」
永尾は大家の提案にどう答えていいかわからず、入山を見た。
入山は、伏せていた視線をきりりと上げる。
印象的な大きな瞳が、決意に満ちて輝いた。
入山「大家さんの気持ちはわかりました。わたし…やっぱりこんな生活からメンバーの皆さんを早く解放してあげたい。だから、大家さんの意見に賛成です」
大家「ありがとう。それなら…」
419 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:25:44.01 ID:G6QBJFYg0
入山「はい。でもわたし達だけで決められることじゃないので、1度看守の部屋に戻って相談してみます。待っててください」
大家「うん」
大家もまた、強い目力で入山を見つめ返す。
それを見て、迷っていた永尾もついに心を決めた。
永尾「それじゃあ早く戻らなきゃ」
入山の服の袖を引っ張る。
入山「じゃあ大家さん、また後で」
去っていく入山と永尾の後ろ姿を見つめながら、大家はぎゅっと拳を握った。
――良かった…これでみんな助かるんだ…。
懲罰房に入るのが怖くないといえば嘘になる。
だけど、メンバーが無事に解放される日が具体的になった嬉しさのほうが、大家の中では勝っていた。
仲間のためなら、自分自身が犠牲になることを厭わない。
大家はこれまで、そうやってアイドルを続けてきたのだった。
420 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:28:23.72 ID:G6QBJFYg0
一方その頃、島田達は――。
島田「いよいよだよ。準備はいい?」
島田は市川と島崎の顔を交互に見つめ、最後の確認をした。
市川「はいっ!」
市川が大きく頷く。
しかし島崎は、おどおどと足元を見つめるばかりだ。
島田「…ぱるる?」
島崎「あ、ううんごめんね。でもちょっと…やっぱり脱獄なんてしたら、残ったメンバーに迷惑がかかると思う…」
島田から脱獄の計画を聞いたのは、ほんの数分前のことだった。
島崎の中では、まだ迷いが解消されていない。
島田「だけど、このままここにいたらぱるるが5回懲罰房に入れられる危険だってあるんだよ?」
島崎「……」
言葉を詰まらせた島崎を見て、島田は強引にその腕を引いた。
よほど嫌なことでない限り、島崎ははっきりと物事を否定したりはしない。
黙りこんだということは、返事はほとんどイエスに近いのだ。
島田は島崎が脱獄に反対しているわけでないと判断して、先へ促した。
421 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:29:29.11 ID:G6QBJFYg0
島田「さ、行ってぱるる」
島崎「う、うん…」
思ったとおり、島崎は島田の強引な誘いに引きずられるまま、行動を開始した。
さきほど説明されたとおり、ベッドから毛布を持ってくると、それを胸の前で抱えて監房を出る。
目指すは――トイレだ。
市川「あ、でももすぃ誰かにこの姿を見られて、何か訊かれたりすぃたら、どう答えるの?」
市川の手にも、折りたたまれた毛布が握られていた。
自分の監房から持ってきたのだ。
島田「あたしの部屋でみんなで仮眠を取るって言えばいいよ」
市川「はーい」
島田もまた、手には毛布を持っている。
島崎「菊地さんには何て言って出て来たの?」
島田「菊地さん寝てたから、そのまま黙って出て来ちゃった」
市川「目が覚めてはるぅがいなかったら、菊地さんびっくりすぃちゃいますね」
市川はなぜかにこにことそう言った。
ここから出られることが嬉しくて、つい顔に出てしまうのだろう。
422 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:33:00.00 ID:58HWYykmO
島崎「本当に…トイレから脱獄できるの?」
市川とは対照的に、島崎は不安顔で尋ねた。
島田「大丈夫だよ。トイレには監視もないだろうし」
島田は自信満々にそう答えた。
みんなの監房の前を横切って、こそこそとトイレへと向かう。
案外誰も、通路を歩く自分達のことを気にしてはいなさそうだ。
ほっと安心しかけた時、寝ぼけた声に呼び止められた。
菊地「あれー?3人してどこ行くの?」
振り返ると、仮眠から目覚めたばかりの菊地が、第2監房の前に立っている。
目指すべき場所は第1監房を過ぎたところにある。
――あとちょっとなのに…。こんなところで足止めなんて…。
島田の肩が、緊張で固まる。
423 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:35:03.19 ID:58HWYykmO
島田「あ、あの、ぱるるの監房でみんなで仮眠を取ろうかなーと」
菊地「あ?そうなの?だから毛布持ってるんだ」
島田「はい、そうなんです。ね?」
島田が同意を求めるように2人を見ると、市川と島崎はそろって首を振った。
市川「はいー」
菊地「でもなんでトイレのほうに行くの?ぱるるちゃんの監房だと、反対方向でしょ?」
島田「えっ!!」
島田はそこで、菊地の何気ない問いに目を丸くした。
――菊地さん、無意識だと思うけどかなり邪魔だな…。
市川は不安そうに菊地の顔とトイレの方向とを見比べ、眉を下げた。
島崎は無表情ながら、足ががくがくと震えている。
424 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:37:06.64 ID:58HWYykmO
菊地「ねー?なんでー?」
島田「あ、あ、あのっ、寝る前にトイレを済ませておこうと…」
菊地「あ、そうなんだ!トイレ臭うから気をつけてね」
島田「はい」
島田はぺこりと頭を下げると、市川と島崎を促した。
3人はそそくさとその場を後にする。
その時、背中からまたしても予期せぬ言葉がかけられた。
菊地「あ、仮眠取るならあたしも一緒に寝ていいー?」
425 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:39:08.76 ID:58HWYykmO
島田「はい?」
振り返ると、菊地はすっきりとした美しい笑顔で、島田達のほうを見つめている。
何か企んでいるようではなさそうだが、邪魔なことに間違いはない。
島田「あ、でもえーっと…」
島田は言葉を探して、視線を泳がせた。
菊地「ん?」
島田「あ、そうそう!菊地さん、ごはん食べてから今までずっと寝てたじゃないですか!まだ寝られるんですか?」
菊地「あ、そうだったねぇ」
市川「寝すぎはよくないですよぉ」
島田「うんうん。夜寝る分なくなっちゃいますよ。ね?ぱるる?」
島崎「うん…」
426 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:41:02.67 ID:58HWYykmO
菊地「あ〜それもそうだね。じゃあやめとこうかな」
島田「うん、それがいいと思います。じゃああたし達、急ぐんで」
島田はそうして話を切り上げると、市川と島崎の腕を引っ張った。
島田「行こう」
市川「はいー」
慌てた様子で去っていく3人の姿は、かなり怪しいものであった。
しかしそれを見ても菊地は、まさかこれから脱獄が行われようとしていることなど気付きもせず、むしろ3人の腹の調子を心配している。
――あんなに慌てて…きっと3人とも大きいほうなんだな…。
菊地はそう納得すると、ぺたりと床の上に座った。
大きなあくびを1つすると、もう頭の中からは島田達の不審な動きはきれいさっぱり忘れ去られている。
427 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:44:42.47 ID:58HWYykmO
一方その頃、看守の部屋では――。
宮崎「わーい勝ったどー」
宮崎は勝利の喜びに思わずコントローラーを放り投げ、小躍りをはじめた。
近くに居た倉持がすかさずそのコントローラーを拾い上げ、元の場所に戻してやる。
野中「……」
野中はまたしてもテニスゲームに敗北し、肩を落とした。
野中「こんなにやってるのに…なんで勝てないの…」
その時、離れたところからその様子を見ていた前田が、気まぐれに口を挟んだ。
前田「教えてもらえばいいじゃん。元テニス部だった人に」
野中「テニス部…ですか…」
――そうか、その手があったか…。
前田の言葉に、野中は希望を見出す。
テニス部であれば、ボールを打つ微妙なタイミングや、試合の戦略など教えてくれるかもしれない。
――だけど、元テニス部って誰だろう…?
428 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 14:48:17.27 ID:tIeaq3i1O
このスレは軽く使い切りそうw
429 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:48:18.87 ID:58HWYykmO
野中が頭を悩ませていると、見透かしたように前田が再び口を開く。
前田「ゆきりそテニス部だったよねー?」
瞬間、柏木が大げさな手振りをしながら立ち上がった。
柏木「ちょいちょいちょい…だからあたしテニス部じゃないって…」
前田「あ、そうだったけ?」
柏木「うん」
前田「じゃあ誰だっけー?」
前田が考えるように視線を上げる。
野中はそこで、ふと思い出した。
野中「あきちゃだ…」
前田「あ、そうそう!そうだった!」
野中の言葉に、前田が激しく首を振る。
前田「やっと思い出したー。すっきりしたー」
野中はちょっと困ったように前田を見ると、誰に言うでもなく口を開いた。
野中「じゃああたしちょっと、教えてもらいに行ってこよう」
すると倉持がスッと動き、野中を呼び止めた。
430 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 14:50:07.57 ID:Aq95X6WU0
島田もテニス部だ
やばいよ〜
431 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:51:10.28 ID:G6QBJFYg0
倉持「待って。あきちゃは確かにテニスの実力あるみたいだけど、たぶん感覚的な部分が多いから言葉で説明するのは下手かも」
野中「あ…」
野中も思い当たるところがあるようで、表情を曇らせた。
高城からの教えを受けたら、頭が混乱して逆に今より下手になりそうな気がする。
倉持「あきちゃいい子なんだけどね、天然だから…」
野中「うん…」
野中は諦めて、浮かせた腰を再び下ろした。
その時、前田の隣に座っていた篠田が、口を挟む。
篠田「テニス部っていうなら、しまごんもそうじゃない?」
野中「え?」
篠田「ほら、前にネ申であきちゃとテニス対決してたよね?」
篠田の言葉に、野中も思い出した。
島田も確かに元テ二ス部の人間だ。
それに、高城よりもしっかりしたイメージがある。
なんとなく、人に物を教えるのが上手そうな子だ。
野中「じゃあ…しまごんに訊けば…」
篠田「うん。ゲームで勝つコツ教えてくれるかもね」
432 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:52:03.32 ID:G6QBJFYg0
野中「あ、じゃあわたし、今から訊いてきます!」
野中はそう言うが早いか、看守の部屋を飛び出した。
前田「麻里子、詳しいねぇ」
野中が出て行った後、前田は尊敬の眼差しで篠田を見た。
お互い忙しい身であることは同じだが、前田は篠田のように後輩に気を配る余裕がない。
そういうこともあるせいか、後輩達からなんとなく距離を置かれている気がして、寂しい思いをすることも多い。
篠田「うん」
篠田はそれを誇ることなく、当然といった表情で短く返事をする。
一度ふざけだすと完全にお子様化してしまう篠田だが、ふとした時に見せる大人らしい落ち着きぶりに、前田はいつも安心させられるのだった。
433 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 14:52:07.91 ID:FQ1tIe1X0
やべえぞ島田ぁ!!
434 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:52:48.00 ID:G6QBJFYg0
一方その頃、島田達は――。
島田「この窓から、外へ出る」
島田はトイレの窓を指差すと、そう宣言した。
市川「でもわたすぃ、この窓だと高すぎて届かない」
市川は困り顔で島田を見上げた。
島崎「わたしも…」
島崎もまた、困り果てた顔で窓を見上げている。
島崎「それに窓の鍵は開かないようになってるよ?」
島田「大丈夫。あたしが割るから」
市川「へぇ?わ、割るって…」
島田「見たところ、そんなに厚い窓じゃないし。脱走防止のため高い位置に設置してあるんだろうけど、そこが逆に油断を招いたんだね。窓さえ割ってしまえば、簡単に外へ出られる」
市川「この毛布は何に使うの?」
市川は、手にした毛布を不思議そうに見つめた。
435 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:53:40.35 ID:G6QBJFYg0
島田「窓を割っただけだと、外へ出る時に破片で怪我するでしょ。あたしが割ったら、その後に窓枠に沿って毛布を引いて、安全を確保する」
島崎「すごいねはるぅ、そこまで考えてたんだ」
島田「まあね」
島崎に褒められ、島田はつんと鼻先を上へ向けた。
それから照れ臭そうに笑顔を浮かべる。
市川「でもはるぅはこの窓に手が届くの?」
島田「うん。悪いけど、2人はあたしを抱え上げてくれないかな?そうしたら手が届くから、一気に割って脱走しよう」
市川「は、はるぅを…?あたすぃとぱるるで抱え上げる?」
市川は島田の案を聞き、声を上擦らせた。
島田「何よみおりん、文句あんの?」
心外だとばかりに、島田は市川をひと睨みする。
島田「別にちょっとくらい、平気でしょ?」
市川「は、はい…」
436 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:54:37.11 ID:G6QBJFYg0
市川と島崎は、それから苦労して島田を抱え上げた。
すると島田は手を伸ばし、思いっきり窓を殴る。
思ったとおり、窓を簡単に割れた。
外から新鮮な空気が流れ込んでくる。
外の気配。外の匂い。
それだけで、島田は不覚にも涙ぐんだ。
しかし、ここで泣いているわけにはいかない。
本番はこれからなのだ。
島田「ありがと。じゃあぱるる、あたしが踏み台になるから行って」
島田は急いで、割れた窓を毛布でガードすると、島崎を指名した。
島崎「え?でもわたし…。はるぅが先に行ってよ」
島田「ううん、あたしがこの中で1番体重あるだろうから、先に小柄な2人が行ったほうがいいと思う。だけどみおりんは小さすぎるし…。だから先にぱるるが出て、外からみおりんを受け止めてあげてほしいんだ」
市川「お願いします」
島崎「わ、わかったよ…」
島崎は1番手というプレッシャーを感じながら、渋々頷いた。
437 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:58:22.02 ID:58HWYykmO
一方その頃、野中は――。
野中「晴香ちゃーん?あれ?」
島田がいるはずの第2監房に来た野中は、菊地の顔を見てぽかんとした表情を浮かべた。
野中「なんで床で寝てるの?ベッドがあるのに」
菊地「あぁ、なんとなく。床の上のほうが落ち着くから」
野中「そ、そうなんだぁ…へぇ…」
野中は菊地の意味不明の行動にたじたじになりがら、本来の目的を思い出した。
野中「あ、そうだ。晴香ちゃんどこ行ったか知らない?」
菊地「あぁ、さっきトイレ行くって言ってたけど…」
野中「そう。ありがとう」
野中は菊地に礼を述べると、第2監房を後にした。
少し迷ったけれど、囚人用のトイレに行ってみることにする。
438 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:00:13.44 ID:58HWYykmO
一方その頃、島田達は――。
島田「早く、ぱるる」
島田はしゃがみこみ、島崎へと声をかけた。
島崎「う、うん…」
島崎は恐々島田の背に足を乗せる。
すると、あんなに高かった窓枠に、手をかけることができた。
このまま腕の力を使い、身を乗り出すようにして外へ出ればいい。
島崎「?あ、あれ?」
しかし、元々筋力もなく、運動神経も鈍い島崎だ。
窓枠に手をかけたまではいいが、そこから先が進めない。
439 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:02:09.34 ID:58HWYykmO
市川「急がないと誰かに見つかっちゃうよ」
市川がトイレの入り口のほうを気にしながら、島崎を急かす。
島崎「ご、ごめんね…えいっ、えいっ!」
焦りで手が震える。
島崎は窓枠にぶら下がるのが精一杯の様子だ。
島田「早くしてぱるる!」
島崎の足の下で、島田が苦しそうな声を洩らす。
いくら軽量の島崎でも、長い間背中に乗られていてはたまらない。
島崎「ごめんね…ごめんね…」
島崎は何度も謝りながら、なんとか窓を通り抜けようと、懸命に体をよじらせた。
440 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:04:10.77 ID:G6QBJFYg0
一方その頃、看守の部屋では――。
入山「…てことなんです」
入山は大家の提案をみんなに話して聞かせた。
看守の部屋が水を打ったように静まり返る。
永尾「……」
永尾は不安げに先輩達の顔を見回した。
前田「でも…さすがにしいちゃんでも5回連続は…ねぇ?」
前田がしかめ面で、峯岸に同意を求める。
峯岸「うん…」
峯岸は決めかねたように、短く返事をした。
前田「麻里子はどう思う?」
前田は今度、篠田に話を振った。
篠田は入山が話を切り出した時から、難しい顔で黙り込んでいる。
篠田「……え?」
前田「ほら、しいちゃんのこと…」
篠田「う、うん…。でも、それより気になることがあるんだけど…」
急げ島田あああぁぁぁ!
442 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:05:04.86 ID:G6QBJFYg0
峯岸「気になること?」
篠田「うん。しいちゃんは看守の会話の録音を聞いて、自分が懲罰房に5回連続で入ると提案して来たんでしょ?」
篠田は真っ直ぐに入山を見た。
篠田に見つめられ、入山は緊張の面持ちで頷く。
入山「は、はい…」
篠田「じゃあそもそも誰がそんな録音したんだろう?これって看守の中に盗聴を働いた人がいるってことでしょ?」
前田「あ、そういえばそうだねぇ」
篠田「別に囚人の味方しちゃいけないってわけじゃないけど、話し合いについては外部に洩らさないようにするっていうルールじゃん」
峯岸「うん。もし洩れたら、ルール違反でその子が罰を受けることに…ううん、録音された会話をしていた人物も一緒に罰の対象になるかも」
藤江「え…やだ…」
藤江は驚愕し、手で口元を押さえた。
それから、自分が昨日、話し合いについて誰かと何か話したりしなかったかどうか記憶を辿る。
大丈夫だ、自分は昨日そのことに関しては誰とも何も話していない。
443 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:06:17.25 ID:G6QBJFYg0
篠田「やだよもう、看守の中から懲罰房に入れられる人が出てくるなんて」
篠田がそう言うと、倉持は気まずそうに顔を伏せた。
あの時は、みんなにたくさんの心配をかけてしまった。
1人の軽はずみな行動で、看守全体が不安になるのだ。
倉持はそのことを身を持って知ったのだった。
――だけど、誰だろう…。看守の会話を盗聴した人って…。
倉持は気になって、密かに看守達の顔色を観察する。
倉持「?」
部屋の隅で、梅田がうつむき、震えていた。
元々白い顔を、さらに白くしている。
――顔面蒼白…。きっとあんな状態のことを言うのね。
倉持はなぜか冷静にそんなことを考え、あえて梅田の様子がおかしいことには触れなかった。
444 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:07:07.04 ID:60kgOQ3yO
梅ちゃん・・・
445 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:07:21.94 ID:G6QBJFYg0
篠田「でも犯人探しは良くないよね」
篠田は今度、さばさばとした口調でそう言うと、暗い雰囲気を和ませる笑顔を浮かべた。
篠田「誰でもそういう間違いはするし、責めたってもう遅いし、うーん…忘れよう忘れよう」
前田「また麻里子、いい加減だなぁ」
前田が篠田の肩を軽く叩く。
これでもう、話は終わったかと思われた。
しかし、和やかなムードになった看守の部屋の中で、1人の硬い声が響いた。
梅田「ちょっと待って!」
柏木「え?」
柏木は声のしたほうに頭を向けた。
梅田が肩を硬直させながら、立っている。
峯岸「梅ちゃん、どうしたの?」
峯岸が不思議そうに首をかしげた。
梅田「看守の会話を録音したのは…あたしなの」
446 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:08:35.33 ID:G6QBJFYg0
前田「…え?」
梅田「ごめん、まさかこんなことになるなんて思わなくて…」
前田「……」
峯岸「何で?誰に頼まれたの?」
峯岸は急に厳しい声になり、無表情に梅田を見つめた。
どちらかというと可愛らしい顔つきをしている分、真顔になった時の峯岸には少々怖いものがある。
梅田「…それは…言えない」
峯岸「何で?」
梅田「約束だから。でも、悪いのはあたしなの。あたし…あたし…懲罰房に入るよ」
篠田「そんな…梅ちゃんわかってるの?懲罰房がどんなところか…」
梅田「うん。でもいい。ちゃんとルールを破った罰は受ける。だからもう、このことはこれで終わりにして。これ以上何も訊かないで」
梅田はそう言って、懇願するようにぎゅっと目を閉じた。
その様子に、看守達は顔を見合わせて黙り込む。
沈黙を破ったのは、篠田だった。
447 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:09:37.93 ID:G6QBJFYg0
篠田「…わかった…。出来るなら梅ちゃんを懲罰房になんか入れたくないけど」
前田「麻里子…」
中田「そんな…自分から名乗り出たんだし、もうこれでチャラじゃないですか?」
片山「正直に告白した分、罰を軽減することは出来ないの?」
梅田「いいの。あたしはちゃんと罰を受ける。あたしを、懲罰房へ入れて…」
峯岸「……」
藤江「やだよ梅ちゃん、行かないで」
梅田「……」
篠田「れいにゃん、梅ちゃんが自分で決めたことなんだよ。梅ちゃんは懲罰房に入ることで、けじめをつけようとしている。だからここは、おとなしく見守ってあげよう?」
篠田は藤江を優しく諭すと、梅田を真っ直ぐに見つめた。
篠田「本当にいいんだね?梅ちゃん…」
篠田の問いかけに、梅田は無言の頷きを返した。
448 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:10:42.03 ID:G6QBJFYg0
一方その頃、野中は――。
看守の部屋で何が話し合われているか知らない野中はひとり、囚人用のトイレの前まで来ていた。
野中「……」
ドアを開けようとしたとき、横から誰かに腕を掴まれる。
野中「ひいっ…」
野中は咄嗟にドアの前から飛びのいた。
仲川「あははー、びっくりした?」
そこにいたのは、仲川だ。
仲川「ねぇねぇ美郷ちゃん?何やってるのー?」
仲川はいつものように人懐こく話しかけてくる。
さっきは急なことで驚いたけれど、仲川の笑顔はどこか人を安心させる雰囲気を持っていた。
仲川につられて、野中の頬が緩む。
野中「晴香ちゃんを探してるんだよ」
やべぇぞ島田
450 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:12:04.25 ID:G6QBJFYg0
仲川「えー?はるごんも遥香ちゃんだよ」
野中「違う違う。島田晴香ちゃん」
仲川「何で探してるのー?トイレの中にいるの?」
野中「うん、そうみたい」
野中は再び、ドアノブに手をかけた。
しかし仲川はその腕を取ると、左右にぶんぶんと振り回しながらおねだりをする。
仲川「ねぇねぇ美郷ちゃーん、そんなことよりはるごんと遊ぼうよー」
仲川に腕を取られ、野中はまるで、親戚の子供に振り回されているような気分になってきた。
野中「え?いいけど…ちょっと待って」
仲川「はるごん鬼ごっこがいい!あ、でも2人しかいないから鬼ごっこにならないねー。もっと人数多いほうが面白いよね!あはは」
野中「ねぇちょっと、あたしの話聞いてよぉ…」
仲川のテンションの高さに、野中は困り果てた。
正直なところ、仲川の誘う遊びに乗るには、野中は疲れていた。
出来るならなるべく走ったり跳んだりするような遊びは避けたい。
しかし、仲川にそれは酷というものだろう。
とにかく時間があれば走り回っていたい人なのだ。
451 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:14:37.94 ID:G6QBJFYg0
野中「じゃあさ、晴香ちゃんと鬼ごっこしなよ。わたし呼んできてあげるから」
野中はそう言うと、さり気なく仲川の腕をほどいた。
仲川「えー?じゃあいいよ…。はるごん、有華のとこ戻る…」
すると仲川はしゅんとした顔で、野中のもとから離れて行った。
――ちょっとかわいそうなことしちゃったかな…。
少し心が痛んだが、本来の目的を忘れてはいけない。
野中は改めて、ドアノブに手をかけると、トイレの中へと一歩足を踏み入れた。
その姿を、仲川が隠れたところから窺っていることに、野中は気付いていない。
452 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:16:16.24 ID:G6QBJFYg0
トイレの中――。
島田「早くぱるる!」
島田はほとんど怒りに近い口調で、島崎を急かした。
島崎は相変わらず、窓枠にぶら下がったまま、まごまごしている。
野中「何…やってるの…?」
トイレの中に入った野中は、島田達の姿を見て、思わず声を洩らした。
脱獄しようとしていることは明らかだ。
窓は割られているし、毛布まで用意している。
野中「どうしてこんな…」
野中の姿を、島田は信じられないものでも見るかのように凝視した。
島田「野中さん…どうしてここに…」
思わず体勢を崩した島田のせいで、島崎は窓枠から手を滑らせ、したたか腰を打った。
島崎「痛い…」
市川「ぱるる大丈夫ー?」
市川が慌てて駆け寄る。
一方島田は、立ち上がり、ちょうど野中と対峙する格好となった。
野中が尋ねる。
野中「脱獄…しようとしてるよね?」
あーぁ…
日付的にまだ半分も来てないのか・・・
455 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:19:39.03 ID:58HWYykmO
島田「はい…」
野中「どうして?バレたら、看守はみんな低周波だよ?こんな窓まで割って…」
島田「ごめんなさい」
島田は素直に頭を下げた。
島田「でも、このこと見逃してくれませんか?もう少しなんです。外に出たら、絶対に助けを呼んできます」
島田の毅然とした物言いに、野中はたじろいた。
島田「お願いします。野中さん」
市川「お願いします」
市川もまた、小さな頭を下げる。
島崎はまだ打ちつけた腰が痛むのか、しきりに擦っていた。
ばれたんか…
みおりんがちゃんと「お願いします」って言えてる…「お願いすぃます」にしてほしかった
458 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:25:33.54 ID:58HWYykmO
野中「そんな…お願いされても…」
野中の心が揺れる。
後輩達の真っ直ぐな視線が、頼もしかった。
――この3人なら、本当に外に出て助けを呼んで来てくれるかもしれない…。
しかし、看守としての立場も忘れてはいなかった。
――だからといって3人を見逃して、もし脱獄が他の人にバレたら…。
野中はちらりと割られた窓を一瞥した。
遅かれ早かれ、窓が割られていることは絶対に気付かれる。
そうしたら脱獄したこの3人を監房に戻すまで、看守の低周波は止まらない。
――そんなのやだ。あたしだけ我慢するならいいけど、看守の子全員が低周波の犠牲になるなんて申し訳なくて…。
459 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:28:10.03 ID:58HWYykmO
野中「本当に…脱獄するの…?」
野中は3人をぐるりと見回す。
島田「はい。絶対に助けを呼んできます」
島田は野中から一切視線を逸らすことなくそう断言した。
野中「…わかった」
その瞬間、野中の心が決まった。
島田「野中さん…!ありが、」
島田が目を輝かせ、礼を述べようとした時、野中が大声を発した。
野中「脱獄者です!トイレにいまーす!早く…早く誰か来てー!」
460 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:31:47.84 ID:58HWYykmO
島田「野中さん…」
島田の表情が、絶望のそれに変化した。
市川「そんな…ひどいです…!」
市川が目に涙を溜め、抗議の視線を野中へと送る。
野中「ごめんね。助けを呼んで来てくれるのはうれしいけど、やっぱりわたしはこうするしかなかったの…」
野中もまた、泣き出す一歩手前という表情で弁解した。
島崎「……」
バタバタと看守達の走ってくる足音が近づいてくる。
野中の声はちゃんと届いたようだ。
峯岸「どういうこと?これ…!」
真っ先に入って来た峯岸が、割られた窓を見て言葉を失った。
461 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:32:53.02 ID:G6QBJFYg0
前田「ここから出ようとしたの?」
大場「ちょっ、何やってんのよあんた達…」
次々とやって来る看守達。
中まで入ってこられず、通路にあぶれた看守達が、状況を把握しようと好き勝手に喋り始めた。
近野「何?誰?誰が脱獄しようとしたの?」
平嶋「レモンちゃんとぱるるとしまごんだよ」
佐藤夏「嘘?3人も?」
阿部「何で脱獄しようとしたんですか?失敗したんですか?」
阿部が率直な疑問を口にしたその時、ついに低周波が流された。
看守達は身を縮め、低周波の痛みに苦しみはじめる。
野中「早く…監房に戻って…」
野中は3人に懇願した。
462 :
◆66aW1ESWJs :2012/02/28(火) 15:37:05.52 ID:58HWYykmO
島田「嫌です。このままおとなしく監禁されてるなんて馬鹿みたいですよ。皆さん目を覚ましてください。自分達を監禁している奴の言いなりなっていいんですか?」
野中「いいから…早く…監房に…」
野中は島田の腕を引っ張ろうと手を伸ばした。
しかし、低周波のせいか、手にうまく力が入らない。
野中「…お願い…このままだとあたし達…」
野中が崩れ落ちる。
島田達はその場から動こうとしない。
島田「今のうちに外へ出よう。看守が動けないでいるうちに」
島田は再びしゃがみこみ、島崎を行かせようとする。
その時、誰かが島田の腕を取った。
島田「……」
463 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:39:16.06 ID:58HWYykmO
篠田「戻ろう。監房に…」
篠田が、泣きそうな顔で島田を見る。
低周波が苦しいんじゃない。
――篠田さんは、みんなが苦しんでいるこの状況を見ているのが辛いんだ…。
島田はそこでハッと我に返った。
島田「はい…」
島田が小さく返事をする。
篠田はそこでようやく安心したのか、ぱっと島田の腕から手を放した。
それから思い出したように、低周波の痛みに苦しみ出す。
島田を止めるのに必死で、今まで痛みのことは忘れていたのだ。
篠田「早く…監房に…」
篠田が崩れ落ちたのを見て、3人は慌てて通路に飛び出した。
まだ自由時間終了まで時間はあるが、とりあえず監房に戻ってしまえば看守の低周波は止まるだろう。
464 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:39:18.21 ID:y0Q6ufdy0
たかみなか?優子か?
465 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:39:51.60 ID:y0Q6ufdy0
麻里子か
466 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:41:14.48 ID:58HWYykmO
小森「あれ?痛くない…」
しかし、そこで突然看守の低周波が止まった。
島田「え?そうなんですか?」
島田は立ち止まり、看守の様子を窺う。
看守達は不思議そうに腕を擦ったり、首をかしげたりしていた。
前田「わーい、低周波止まったよー」
前田が喜びの声を上げる。
『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました』
その瞬間、放送がかかった。
『本日は看守の話し合いでなく、こちらのほうで懲罰房行きとなる囚人を決めさせていただきました。ただいま脱獄をはかった島田さん、市川さん、島崎さん、懲罰房の中で反省してください』
これまた新しい展開
468 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:43:52.38 ID:58HWYykmO
峯岸「なんで3人が脱獄しようとしたこと向こうにバレてるの?トイレは監視されてないんじゃないの?」
峯岸が薄気味悪そうに眉をひそめた。
大島「たぶん、看守の何人かが通路で3人が脱獄しようとしていたことを話していたから、向こうに聞こえちゃったんだよ」
いつの間に来たのか、大島がすっと峯岸の前に現れる。
気がつけば、騒ぎを聞きつけた囚人達のほとんどが、トイレの前の通路に出てきていた。
峯岸「優子…見てたの?」
大島「うん。美郷ちゃんの声も聞こえたし、看守の後に駆けつけたんだ。ね?」
小嶋「うん」
大島の横にいた小嶋が頷く。
『それから、今回はこの3名の他にもう1人、懲罰房に入っていただく方がいらっしゃいます』
大島「え?誰?」
梅ちゃんか
470 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:48:26.81 ID:58HWYykmO
『梅田彩佳さん。梅田さんは看守ですが、本人の申し出により、ルールを破ったペナルティとして懲罰房の中で反省していただきましょう。くれぐれも、今後はこのようなことがないようにお願い致します』
放送はそこで終わった。
大島「梅ちゃん!どうしたの?」
すぐさま梅田のもとへ、大島が駆け寄る。
秋元もまた、大島に先越されながら梅田のもとへ走った。
秋元「まさか…梅ちゃん…」
しかし梅田は心配する2人に、すっきりとした笑顔を向けた。
梅田「大丈夫だよ。あたしなら平気だから。みんなは悪くない。あたしから言い出したことなの」
大島「ごめん、あのことがバレたんだね?あたしがあんなこと頼んだから…」
梅田「ううん、優子のせいじゃないよ」
大島「でも、」
大島が何か言いかけた時、峯岸がやって来て梅田の腕を取った。
峯岸「…行こうか…」
峯岸は気まずそうに梅田を促す。
471 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:49:14.39 ID:G6QBJFYg0
梅田「うん」
大島「梅ちゃん…!梅ちゃんっ…!」
大島が詰め寄ろうとするのを、秋元が無言で制した。
秋元はそのまま、ゆっくりと首を横に振る。
大島「才加…」
大島は目に涙を溜め、秋元を見つめた。
秋元「おとなしく…帰りを待とう…」
その様子を、大家は離れたところからずっと目にしていた。
――違う…本当はうちのせいやけん…。うちが…あんなこと言い出したから…。
472 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:49:26.31 ID:viWbp3XB0
梅ちゃん • • • (´・_・`)
473 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:49:46.25 ID:G6QBJFYg0
大家はそこで、すべてを悟った。
ICレコーダーに録音されていた看守の会話。
あれを録音したのは、梅田だったのだ。
――あの時、好奇心に負けて再生ボタンを押さなければ良かった。
そうすれば梅田は今頃、懲罰房へ連れて行かれることもなかっただろう。
――うちが看守の会話が録音されているのを聞いたなんて言ったから…。
大家の心は、後悔の念で押しつぶされる寸前を迎えていた。
474 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:50:44.46 ID:G6QBJFYg0
その夜遅く――。
指原「……っ」
指原は、自分のうめき声で目を覚ました。
そんな経験は初めてだった。
またしても同室の島崎が懲罰房に入れられてしまったことが原因だろう。
そして、自分のいる監房からは嫌でも懲罰房のドアが目に入ってしまう。
そのこともあって、指原は寝苦しさを感じていた。
指原「水でも飲もう」
ベッドから出て、料理係にもらった水のペットボトルを手に取る。
喉の乾きを潤すと、いくらか気分が落ち着いた。
指原「……」
見ないようにしようとしても、つい懲罰房のほうに視線が行ってしまう。
その時もまた、指原はほとんど無意識のうちにそちらへ顔を向けた。
指原「あ、あれ…?」
まじでドラマ化希望
476 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:51:18.71 ID:G6QBJFYg0
4つの懲罰房のうち、指原のいる第7監房から見えるのは手前側2つのドアだけだ。
そのうちの、1つのドアの下から、ほんのりと明かりが洩れている。
指原「なんで…?あぁ…」
――そうか。梅田さんは看守だから、特別に明かりを点けて貰えるんだった。
指原はそこで、倉持が懲罰房に入れられた時のことを思い出した。
あの夜も、1つの懲罰房だけドアの下から明かりが洩れていたのだ。
指原「やっぱ看守ずるいなぁ」
納得すると、途端に眠気が襲ってきた。
今度こそいい夢が見られるよう祈りながら、再びベッドにもぐりこむ。
477 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:52:45.12 ID:G6QBJFYg0
《10日目》
作業部屋――。
仁藤「……」
作業は淡々と進んでいく。
囚人のうち3人が懲罰房に入れられており、さらに2人が洗濯物を畳むよう命じられていた。
空席が目立つ作業部屋の中で、囚人達は時間内に作業を終わらせようと必死になっている。
今回もまた、いない囚人の分の作業を仁藤が肩代わりすることになった。
仁藤はイライラしながら、作業をこなす。
隣の宮澤もまた、そんな仁藤に触発されたのか、いつも以上に熱心に作業へ取り組んでいた。
松井「なんか…みんな怖いね…」
松井が呟く。
緊迫した雰囲気や、絶対に笑ってはいけない状況に限って、ついついニヤけたくなってしまうのだが、今日はそれも堪えようと心に決めた。
そのくらい、作業部屋の中には殺伐とした空気が漂っていたのだった。
478 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:54:29.26 ID:G6QBJFYg0
作業終了後、第6監房――。
仁藤「……」
作業部屋と変わらず、第6監房でも冷たい空気が流れている。
あれから、仁藤と宮澤は口を利いていない。
最初は、何かきっかけさえあればすぐにいつもの調子に戻るだろうと考えていた仁藤だが、こうもお互い口を利かない時間が続くと、どんどん修復が難しくなってくる。
仁藤は消しゴムを削りながら、宮澤へ話しかけるタイミングを探した。
――でも…駄目だ。今日こそこれを完成させないと。
仁藤はそこで邪念を振り切り、消しゴムに向き合ってしまう。
宮澤はベッドに座り、ぼおっと天井を見つめていた。
仁藤「…よしっと」
最後のひと削りを終え、やすりをかける工程に取り掛かる。
完成まであと少しだ。
――さっしーが壊しちゃったから、また耳栓仕上げないと…。
夕食が終われば、また自由時間が始まる。
そうしたら懲罰房行きになる囚人が発表されるだろう。
それまでに耳栓を完成させ、届けなければ…。
仁藤は焦る気持ちを抑え、丁寧な手つきで仕上げ作業を続けた。
479 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:55:46.22 ID:G6QBJFYg0
一方その頃、第9監房では――。
大島「昨日の脱獄騒ぎで、看守は今まで以上にあたし達囚人を警戒すると思う。その目をかいくぐってバレずに脱獄するには…」
大島はぶつぶつと、いまだ脱獄計画について考えていた。
仲俣「大島さん、少し休んだほうが…」
そんな大島の姿を、仲俣は心配そうに見守る。
大島の切羽詰った様子が痛々しかった。
いつも余裕があって、元気いっぱいの大島が仲俣は好きなのだ。
――大島さんが焦っているのは、たぶん昨日の梅田さんの一件が関係しているのかな。
仲俣の推測は、間違っていない。
大島はあれから、一刻も早くこんな生活から抜け出そうと必死に考えを巡らせていたのだ。
自分のせいで梅田を懲罰房に入れてしまったという自責の念がある。
もう看守に協力は頼めないだろう。
だったら、自分達だけでどうにかここを抜け出すしかない。
大島「仲俣ちゃんも見たでしょ?昨日…」
仲俣「はい、何ですか?」
480 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:57:09.08 ID:G6QBJFYg0
大島「通路で話していた看守が、レモンちゃん達の名前を口にした途端、低周波が流れた。誰が脱獄しようとしたのかわかった時点で、低周波は流されるようになってるんだよ。だったらやっぱり、脱獄したことがバレていない間は、看守の身は安全ってことだよね」
仲俣「あぁ…そういうことになりますね。でもどうやってここからバレずに出るんですか?ドアを破ろうとすれば音で気付かれてしまいますし」
大島「それが問題なんだよ。レモンちゃん達が割ったトイレの窓はあれから完全にふさがれちゃったし、お風呂にはそもそも窓がないでしょ?そうなるとどこから外に出ればいいのか…」
仲俣「この建物全体がどうなっているのか把握しきれていない現状では、これ以上の道を探すのは無理そうですね」
大島「うん。でもその無理なことを、あたし達は成功させなければいけない」
仲俣「はい…」
大島「そもそも移動するのにまず、この足音が問題なんだ。盗聴されてるから足音がすれば、すぐにとはいかないまでもいずれは向こうにバレちゃう」
仲俣「はい…あ、靴脱げばいいんじゃないですか?裸足になれば…」
大島「それも考えたんだけど、どうしたって無理なんだよ」
仲俣「え?」
大島「靴脱いでみて」
481 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:58:20.38 ID:G6QBJFYg0
仲俣「?はい」
仲俣は言われた通り、靴を脱いで裸足になった。
床に足をおろしてみる。
仲俣「冷た…!」
直後、仲俣は床の冷たさに驚き、慌ててベッドに飛びのった。
大島「そうなんだよ。こんな状態じゃ、いざ外へ出てさぁ逃げようってなった時に、足がかじかんでてうまく走れないと思うんだ…」
仲俣「そういうことですか…」
仲俣は納得し、脱いだばかりの靴を拾い上げた。
大島「まず逃げ道を見つける。そしてそこに行くまでの方法…足音をどうするかを考える。それが問題なんだよなぁ…」
大島はそう言うと、ごろりとベッドに寝転がり、天井を見つめた。
482 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:59:10.68 ID:G6QBJFYg0
自由時間――。
『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第8監房の中塚智美さん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』
放送がかかり、指原は待ちかねたように格子扉の外へ出た。
これで島崎は懲罰房から解放される。
中塚のことはもちろん心配だが、気の弱い島崎が解放されるのは、単純に嬉しかった。
指原「あ…待てよ…」
指原はそこで、はたと気がついた。
脱獄に失敗して懲罰房に入れられた島崎は、きっとみんなとどんな顔をして会ったらいいか悩んでいるだろう。
そして指原のほうでも、島崎にどういう態度で接したらいいか考えていなかった。
――これは非常に気まずいぞ…。
そこで、島崎の帰りを待つことを断念し、指原は第7監房から逃げ出すことにした。
とりあえず島崎のことは後回しにしよう。
もう1つ、気になるのは大家のことだ。
――しいちゃん…あんまり落ち込んでなければいいけど…。
大家は昨日、自分の発言が原因で梅田が懲罰房に入れられたのだと、責任を感じていた。
どことなく、今日の作業中も元気がなかった。
指原「しいちゃんの様子見てこよう」
指原は大家のいる第14監房へ行くため、階段に向かって歩き出した。
483 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:02:15.63 ID:58HWYykmO
一方その頃、第5監房では――。
渡辺「亜美菜ちゃんの顔ー」
渡辺はスケッチブックに亜美菜の似顔絵を描いていた。
佐藤亜「あー、ありがとう。可愛く描いてくれてる」
渡辺「亜美菜ちゃんだとー、もう少し睫毛を長くして…」
佐藤亜「わーい」
亜美菜は子供のような声をあげ、喜びを表現した。
その時、思わぬ人物が顔を出す。
佐藤亜「あれー?どうしたの?」
亜美菜は立ち上がり、その人物を中へ招き入れた。
渡辺もちょっとずれて、座るスペースを作ってやる。
佐藤亜「珍しいね、この房来るなんて」
亜美菜が人懐こい笑みを浮かべ、来客を覗き見た。
484 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 16:03:29.48 ID:viWbp3XB0
肝心の板野が全然出てこないな
485 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:04:34.09 ID:58HWYykmO
仲俣「は、はい…今日はお願いがあって来たんです」
亜美菜に話しかけられ、仲俣は緊張気味に切り出した。
佐藤亜「お願い?」
亜美菜が可愛らしく首をかしげる。
佐藤亜「何何ー?」
仲俣「はい…」
仲俣は唾を呑むと、ここまで無言で様子を窺っていた渡辺に顔を向けた。
渡辺「?」
仲俣「渡辺さん、お願いです…」
それから仲俣は、これまでの経緯を渡辺と亜美菜に説明し始めた。
486 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:06:33.08 ID:58HWYykmO
《11日目》
第9監房――。
河西「夕食でーす。今日は生姜焼きだよー」
料理係がワゴンを押しながら、第9監房へとやって来る。
作業で疲れていた大島だが、生姜焼きと聞いて飛び上がった。
大島「わーい、スタミナつけるぜー」
仲俣は、昨日とは別人のようにテンションの高い大島に、いささか不審の目を向ける。
それから竹内を見やり、表情を曇らせた。
――美宥ちゃん…またバンソーコーの数が増えてる…。
竹内は痛々しい手でごはんをよそっていた。
487 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:08:44.13 ID:58HWYykmO
河西「じゃあゆっくり食べてね。また後でお皿下げに来るから」
河西は元気な大島を見て嬉しくなり、また自分自身も元気を分けてもらえたような気分になった。
ここのところ、厨房に立つのも辛い。
本当だったら朝寝坊したいところを、朝食作りのために早起きしなければならないせいだった。
河西は睡眠が足りていないと、いまいち調子が出ないのだ。
大島「いただきまーす」
料理係が次の監房へ移ってしまうと、大島は早速豚肉にかぶりついた。
その時――。
米沢「優子ちゃん、優子ちゃん」
米沢が戻って来た。
なぜだか焦った様子で、しきりに周囲を警戒している。
それを見て、大島の表情が変わった。
突然真剣な眼差しになり、米沢と話すため格子扉に身を寄せる。
まるで最初から、米沢だけ戻って来ることを予期していたかのような振る舞いだった。
488 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:11:06.08 ID:58HWYykmO
米沢「昨日もらった手紙だけど、返事はオッケーだから」
米沢は大島に耳打ちした。
大島「良かった。米ちゃんならきっといい返事をしてくれると思ってたんだ」
米沢「で、いつなの?」
大島「早いほうがいいけど、今日だとまだ準備が出来ていない。明後日でいいかな?」
米沢「わかった。裏口のドアは5分で閉まる。そして…たぶんだけど1度閉まると、ごみ捨ての時間内であっても鍵は自動でかけられてしまう仕掛けみたいなんだよ」
以前、ごみ捨ての時間内にも関わらず、ドアがロックされてしまったことがあった。
てっきり誤作動を起こしたのか思っていたが、それからも何度か同じことが続き、米沢は鍵のシステムに気付いたのだった。
大島「じゃあ…」
米沢「あ、でも他の2人にはバレないように、ごみ捨ての後こっそりドアにストッパーを挟んでおくから安心して」
489 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:13:37.19 ID:58HWYykmO
大島「うん。ありがとう」
米沢「じゃあ明後日、頑張ってね」
米沢はそう言うと、慌てて料理係の後を追いかけた。
その背中を見つめ、大島はにんまりと笑い、小さくガッツポーズを作る。
仲俣「どうしたんですか?」
仲俣が問いかけた。
大島「ううん、なんでもない」
大島はそう言って誤魔化し、再び豚肉にかぶりついた。
――知らないほうがいいんだよ…。
490 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 16:13:41.12 ID:SSkcU0PIP
ドイツ映画のesみたいだな
491 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:16:14.20 ID:58HWYykmO
脱獄計画の実行に、仲俣を巻き込むつもりなかった。
失敗したときのリスクを考えたら、仲俣には安全に、解放される時を待っていてほしい。
――やっぱり米ちゃんに頼んで良かった…。
そして大島は、米沢の返事に満足していた。
これで脱獄計画がついに現実のものとなる。
大島は昨晩、料理係が配膳に来た時にこっそり米沢に手紙を渡していた。
それは、ごみ捨ての時間に脱獄させてほしいと頼むものだった。
いつもより早めにごみ捨てを済ませてもらえば、残りの時間で大島達がドアを抜け、外へ出ることは可能だろう。
米沢には他の2人にバレぬよう、ごみ捨てを早めに済ませておいてほしいと手紙でお願いしたのだった。
そして米沢はそれを了承してくれた。
――ついに明後日、ここから外へ出られる…。
あとは、残りの問題をどうするかだった。
492 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:18:14.95 ID:58HWYykmO
自由時間、第13監房にて――。
板野「裏口が開いてるって?」
板野のいる第13監房には大島ら数名が集まっていた。
そして、大島の計画を聞いた板野が、驚きの声を洩らす。
板野「嘘?ともーみそんなこと一言も言ってなかったけど」
大島「訊かなきゃいちいちごみ捨ての時間のことなんて話さないよ」
板野「あ、そうか」
秋元「で、料理係がごみ捨てをするのが自由時間の終了間際…うーんぎりぎりだねぇ。もし失敗したら、引き返そうにも監房の鍵がかかってて中に入れない」
大島「そう。だから確実に成功させるしかない」
高橋「いやに自信満々だけど、勝算はあるの?」
高橋が確かめる。
493 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:20:23.36 ID:58HWYykmO
大島「ない。けど、米ちゃんが協力してくれる」
高橋「米ちゃんは…料理係か。まぁそれなら少しは安心だね」
大島「でも時間のことを考えると、大勢で脱獄は難しい。せいぜい3人てとこ」
板野「誰が行くの?」
大島「あたしと才加…それから…あれ?佐江ちゃんは?」
仁藤「監房で寝てます。なんか体調悪いみたいで返事しないし」
大島「そっか…じゃあ佐江ちゃんは無理かな」
大島は残念そうに言った。
494 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:22:25.18 ID:58HWYykmO
板野「じゃああたしが行く」
板野は決意に満ちた表情で、大島を見つめる。
以前から考えていたことだった。
絶対に、何がなんでも脱獄する。
そして、みんなをここから助けたい。
表情に出ないだけで、板野はずっと心の中でメンバーを心配していたのだった。
しかし、大島は板野の立候補を退けた。
大島「ともちんはここに残って」
板野「え…?」
大島「いざという時、あたしと才加がいなかったら、Kメンの子達は誰に相談すればいいの?誰を頼ればいいの?」
板野「優子…」
大島「そういうこと。ともちんがいれば、ここに残されたメンバーの安心感が違うでしょ」
板野「わかった。だけど約束して。絶対に脱獄…成功させてね」
大島「うん、わかってる」
495 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:25:17.20 ID:G6QBJFYg0
秋元「よし、決まりだ。じゃあ3人目は…」
大島「この人を連れて行こう」
小嶋「えー?あたしー?やだー」
大島はここまで興味のなさそうな雰囲気を出していた小嶋に近づくと、その腕を取ってみんなの輪の中に引き入れた。
高橋「えぇ?にゃんにゃん連れてくの?あ、危ないよ…」
高橋は小嶋の二の腕を擦りながら、説得するように言う。
高橋「この人おっとりしてるし、突拍子もない行動起こすから大変だよ…」
小嶋「たかみな触らないで。やだ」
小嶋は高橋から腕を振りほどきながら抗議した。
高橋「あ、ごめん…」
小嶋「なんか触り方が嫌!」
しゅんとしてしまった高橋を放っておいて、秋元が尋ねる。
秋元「なんで陽菜なの?」
ほげ
497 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:26:16.70 ID:G6QBJFYg0
大島「この人、なんだかんだいって強運だし、いろいろ持ってるからねー。まぁ、縁起かつぎみたいなもんですよー」
指原「わかりました!招き猫的な?にゃんにゃんだけに?」
小嶋「あ、さっしーいたんだ?気付かなかったー」
指原「…すみません…」
指原が気まずそうに背中を丸める。
仁藤「それで、裏口までどうやって行くんですか?監視はされてなくても、普通に行ったんじゃ足音で気付かれちゃいますよ」
仁藤がなぜか耳に残る特徴的な声で、割って入った。
大島「萌乃ちゃ…」
大島は仁藤の顔を見て硬まる。
それから気がついたように、大声を上げた。
大島「あー!」
仁藤「え?え?何?」
大島「萌乃ちゃん、まだ消しゴム持ってる?」
498 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:27:19.33 ID:G6QBJFYg0
仁藤「え?消しゴムですか?持ってますけど…」
大島「その消しゴムでさ、これくらいの大きさに切ったやつをいっぱい作って、靴底に貼り付けられないかな?」
大島が指で小さな丸を作りながら尋ねる。
仁藤「出来ますけど…何のために?」
大島「ほら、スパイクみたいにさ、小さい消しゴムをいっぱい靴底に貼り付けたら、足音消せないかな?」
秋元「あぁ!そういうことか!」
仁藤「確かに、それならだいぶ足音が小さくなるかも…」
大島「お願い、明後日までに3足、それ作ってくれない?」
大島は勢いこんで、仁藤に詰め寄った。
仁藤「わかりました。でも…消しゴムを小さく分けるのは簡単ですけど、どうやって靴底に貼り付けたらいいか…あたし接着剤とか持ってないし」
仁藤は大島の勢いにたじろぎながら、そう説明した。
大島が集まった面々を見渡す。
大島「誰か接着剤持ってないー?」
499 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:28:14.50 ID:G6QBJFYg0
秋元「えー?ないなぁ」
高橋「あたしも持ってない」
板野「いつもだったらネイル用の持ち歩いてるけど…今はちょうど持ってないや」
小嶋「おりゃ、おりゃ、あーつくなーれ!あーつくなーれ!」
大島「接着剤の代わりになるようなものでもいいけどー?」
指原「指原も持ってないです」
大島「駄目かぁ…」
大島はがっくりと肩を落とした。
大島「今からみんなに持ってないか訊いて回るか…でもよく考えたら接着剤持ち歩いてる子なんてそうそういないよなぁ…」
その時、秋元が何か閃いた。
秋元「あたし…看守の部屋に接着剤が置いてあるの見た」
高橋「えぇ?なんで?」
秋元「ほら、みゃお達が小火騒ぎ起こして、看守の部屋が水浸しになったじゃない?その時看守の部屋の中にみんな入った…確か…隅の机の上に接着剤、置いてあったよ」
500 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:30:00.58 ID:G6QBJFYg0
指原「でも、囚人は看守の部屋に入れないですよ」
高橋「看守の子に言って取ってきてもらうか…」
秋元「駄目、このタイミングで言ったら、絶対怪しまれる。島田達が脱獄騒ぎを起こしたばっかりだよ?」
高橋「はぁ…そうだよねぇ…」
小嶋「おりゃ、おりゃ、あーつくなーれ!あーつくなーれ!」
板野「あ、でも、看守の部屋に近づくことくらいなら出来るよ」
大島「え?どうやって?」
板野「一昨日かな?洗濯物を畳むように言われて、作業部屋から出さされたんだよ、あたし」
高橋「あぁ、そういえばともちんそうだったね」
板野「うん。作業部屋から出たら、看守の部屋の前に洗濯物が山積みになってて、椅子も用意されてた。あたしと、あの時はらんらんが一緒だったかな?2人で椅子に座って、延々洗濯物を畳まされたんだよ」
大島「つまり、看守の部屋の前までは行けるってことね。洗濯を命じられた囚人は」
板野「うん」
秋元「でも、そこからどうやって看守の部屋にしのびこむか…」
小嶋「…あーつくなーれあーつくなーれ!」
大島「あ、それだ!」
501 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 16:30:48.69 ID:q7vMNpV80
そろそろ長くてだれて来たな・・・
502 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:30:57.62 ID:G6QBJFYg0
板野「?」
高橋「え?」
大島「そうだよ。小嶋さんの言うとおり…火だよ。火を起こせばいい」
指原「どういうことですか?」
大島「看守の部屋の近くでまた火災が起きれば、スプリンクラーが作動して看守の部屋は水浸しだ。そうしたらまた堂々と、拭き掃除をするため看守の部屋に入ることができる」
秋元「その時、看守の目を盗んで接着剤を取ってくれば…」
大島「うん!」
仁藤「これで脱獄ができますね」
板野「あ、でもさ、どうやって火を起こすの?」
大島「あ…」
そこで一同は黙り込んだ。
火を起こせなければ、看守の部屋に入ることは出来ない。
――せっかくここまで話が進んだのに…。
大島はまだ必死に考えを巡らせていた。
何か、何か方法があるはずだ。
指原「あれ?」
その時、指原が何かに気付き、立ち上がった。
指原の視線の先、第13監房の前に立っていたのは――。
503 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:32:17.36 ID:G6QBJFYg0
仲俣「火なら起こせますよ」
大島「仲俣ちゃん…!」
仲俣「すみません、大島さんの様子が変だったから、何か計画があるのかもって思って…。わたしも何か皆さんのお役に立つことができないかと、今まで立ち聞きしちゃってました。ごめんなさい」
大島「いいよいいよ。あたしはただ、仲俣ちゃんを…」
仲俣「はい、大島さんの気持ちは理解しているつもりです。ありがとうございます」
仲俣をそう言って、人懐こい笑顔で大島を見た。
大島「そんな…」
大島はぎゅっと仲俣の手を握る。
秋元「でさ、火を起こせるって…どうやって?」
2人の間に、秋元が割って入る。
仲俣「あぁ、そうでした。あの、第5監房にライターがあるんです」
高橋「第5監房だと…まゆゆと亜美菜か」
仲俣「はい、そうです」
板野「なんでそんなこと知ってるの?」
504 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 16:32:27.55 ID:FQ1tIe1X0
まさかのあつくなーれでwwww
505 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:33:17.51 ID:G6QBJFYg0
仲俣「昨日、遊びに行かせてもらったんですよ。それで、亜美菜さんがライターを持っているのを見ました」
仁藤「亜美菜ちゃんにライター…変な組み合わせ」
仁藤が納得のいかない顔で首をかしげる。
仲俣「メイク用だって言ってましたけど…」
板野「わかった!ビューラー温めるのに使うんだよ」
小嶋「懐かしー。わたしも高校生の時よくやってたよー」
板野「あたしも」
大島「はいはいそこの2人ー?懐かしがってないでー。これからどう動くか、順を追って説明するよー」
美容話に花が咲きはじめた小嶋と板野を、大島がたしなめる。
大島「亜美菜ちゃんのライターで火災を起こし、看守の部屋に入る。接着剤を取ってくる。萌乃ちゃんはそれを使ってあたし達の靴に消しゴムを貼り付け、スパイクを完成させる」
大島「明後日は、ごみ捨ての時間に裏口が開くのを見計らって、一気にあたしと才加、にゃんにゃんの3人が外へ出る。いいねー?」
こうして、大島の脱獄計画がスタートした。
506 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:34:15.53 ID:G6QBJFYg0
《12日目》
峯岸「たかみな手伝ってよー」
峯岸はそう言うと、唇を尖らせた。
高橋「し、しょうがないなぁ。じゃあみんな、手伝おうか」
高橋は渋々といった表情で、腰を上げる。
横山「え?でも残りの作業、どうします?」
珍しく、横山が口を挟んだ。
高橋「みんなでやればすぐ拭き終わるよ。このままだと部屋が水浸しで、看守の人達が大変でしょ?」
横山「そうですね」
こうして囚人達は、作業部屋から看守の部屋へ移動することになった。
大島と板野は、歩きながら目配せをする。
すべては計画通りだった。
――良かった、これで堂々と看守の部屋に入れる…。
507 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:35:09.19 ID:G6QBJFYg0
亜美菜から借りたライター。
それで火災を起こしたのは、板野だ。
洗濯物の畳み方がきれいな板野は、看守の要望で作業から外されることができた。
予定では自ら洗濯物を畳みたいと立候補するはずだったが、看守のほうから指名されたので好都合だった。
思わぬ幸運と、両親の躾に感謝して、板野は看守の部屋の前に向かった。
そうしてポケットに忍ばせておいた紙に火を点け、ドアの下から部屋の中に差し入れたのだ。
篠田「じゃあ雑巾はそこだから、ごめんね、頼むね」
看守の部屋に入ると、篠田がてきぱきとメンバーを割り振る。
その時、阿部がふと疑問を口にした。
それは、誰もが当たり前に考えることだったが、今の大島達にとっては触れて欲しくない事柄だった。
阿部「あの、なんで火災が起きたんですか?」
阿部は真顔で、誰にでもなくそう問いかける。
峯岸「さあ、わかんない。サイレンが鳴ってあたし達が駆けつけた時にはもう火は消えてたし。そういえば火元ってどこなんだろうね?」
前田「わかんない。でも部屋が水浸しってことはここが火元なんでしょ?」
宮崎「あ、ここここ!ここに燃えカスが落ちてますよ!」
前田「ほんとだー」
508 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:38:51.79 ID:58HWYykmO
宮崎「何かの紙ですよね。でもなんで火が点いたんだろう。この部屋、誰もいなかったのに」
小森「おばけですよ、おばけ」
松原「こもりん、怖いこと言わないでよ」
松原が口を尖らせると、小森はにやりと笑った。
多田「やだやだ、そんなおばけとか…わたしもうこの部屋で寝られないよー」
指原「じゃあ愛ちゃん、指原の監房で一緒に寝る?」
多田「あーはいはい…そうですね…」
多田は面倒臭そうに指原を手であしらった。
篠田「でも真面目な話、どうして火が起こったのかわからないと怖いね。おばけとかそういうの抜きにして」
前田「ねー?」
柏木「…みゃお…またローソク使った?」
柏木が訝しげに宮崎を見た。
しえん
510 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 16:42:34.99 ID:Bp60grdL0
支援(∵)
511 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:42:34.36 ID:58HWYykmO
宮崎「えぇ?使ってないよ。だって一回小火起こして、大変だったじゃん。ローソクなんて二度と使わない。てかあれから怪談話してないし」
柏木「じゃあどうしてだろうね…」
宮崎「ゆきりんさぁ、意外と目つき怖い時あるよね」
宮崎が口をへの字に曲げる。
大島「あ、あ、それよりほら、早くこの部屋拭き取っちゃわないと。あたし達まだ作業残ってるし」
秋元「うん」
高橋「そ、そうだよそうだよ!早くしないと!」
篠田「あ、そうだったね、ごめんね」
そのまま疑問を残して、囚人と看守は拭き取り作業に取り掛かった。
――とりあえず、乗り切ったかな?
板野は胸を撫で下ろし、手にした雑巾を動かす。
512 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 16:43:07.14 ID:q7vMNpV80
作者
連投するならsage更新してくれね?
513 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:46:07.32 ID:58HWYykmO
小嶋「麻里ちゃーん、あたしの分の雑巾ないよ」
篠田「え?なんで?そこにあるじゃん」
小嶋「もうない。みんなに取られちゃったー」
篠田「うーん…」
小嶋「やんなくていい?」
篠田「えー?じゃあなんか、代わりに拭いたとこ掃き掃除でもしててよ。ほら、そこにほうきとちりとりあるから」
小嶋「はーい」
前田「あー、にゃんにゃんだけずるいー」
30分ほどで拭き取り作業は完了した。
元の作業を再開するため、作業部屋に戻る。
移動する囚人達。
その中で、大島のポケットが妙に膨らんでいることに、誰も気付いていない…。
514 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:49:17.27 ID:58HWYykmO
自由時間、第8監房――。
『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第8監房の横山由依さん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』
横山「とかいって、うちを騙す気なんやろ?うちが慌てるとこ見て、笑うつもりなんやろ…」
中塚「由依ちゃん?何ぶつぶつ言ってるの?」
中塚が心配そうに横山を見る。
北原「横山ー?迎えに来ましたけど」
横山「…ホンマヤン…」
北原「?何言ってるの?はいはい、ついてきてー。悪いけどもう決まったことだから。ごめんね」
北原に引きずられるようにして、横山は懲罰房へ向かった。
515 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 16:50:25.84 ID:q7vMNpV80
まったく聞いてねぇよw
更新できれば満足とかとんだオナニー野郎だな
516 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:51:08.41 ID:58HWYykmO
横山「なんでうちが懲罰房に入らないかんのやろ…」
北原「…ごめん…」
第7監房の前を通り、懲罰房のドアの前まで来た。
途中で指原に声をかけられたが、横山はもうそれどころではない。
――なんで北原さん、今日こんなにうちに冷たいんやろ…。
横山の中では、懲罰房に入れられる恐怖より、怒りのほうが勝っていた。
517 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:53:55.71 ID:58HWYykmO
一方その頃、第6監房では――。
仁藤「……」
仁藤は靴作りに励んでいた。
こうした作業は得意だ。
集中力もある。
仁藤「…1足目できたっと。良かった、この調子なら明日までに3足出来上がりそう!」
時折ひとり言を言いながら、消しゴムを切ったり、接着剤で貼り付けたりしていく。
仁藤はすっかり自分の世界に入りこみ、周りが見えていなかった。
仁藤のすぐ傍で、宮澤はじいっと目を閉じている…。
518 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:57:02.74 ID:G6QBJFYg0
一方その頃、横山は――。
横山「ここ嫌やわ…」
北原に案内された懲罰房の前で、横山はいやいやと首を振った。
北原「なんでー?」
横山「ここが角で、向こうまで通路が続いてますやろ?そうしたらここ、方角的にあかんわ。鬼門です」
北原「え?あ、そう?じゃあ隣の房にする?」
横山「はい、お願いします」
北原が2番目のドアを指差すと、横山は案外素直に頷いた。
北原の手が震える。
やはり友人を自らの手で懲罰房に入れるのは気が引けた。
しかし、自分が監房まで呼びに行けば、いくらか横山も安心するだろうと考え、懲罰房への案内役をかってでたのだ。
北原「じゃあまた明日、これくらいの時間に迎えに来れると思うから」
横山「はい…」
横山にヘルメットを装着させ、扉を閉める。
そうして外から、中の明かりを消した。
――横山…どうか…耐えて…。
北原は祈るように両手を組み、しばらく懲罰房の前に立ち尽くしていた。
>>515 ごめんよ携帯だったから見逃してた。。
了解しました!気をつけます!
520 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 17:00:16.74 ID:1vIDmRfJ0
優子の萌乃ちゃん呼びは不自然だな
一方その頃、藤江は――。
藤江「はーるきゃんっ!1人ー?」
ひょっこりと第13監房に現れたのは、看守の藤江だった。
1人物思いに耽っていた石田が、目を見開く。
石田「れいにゃん来てくれたんだ?」
藤江「うん、なかなか遊びに来れなくてごめんねー」
石田「いいよ。看守の仕事、大変なんでしょ?」
藤江「うーん…なんだかんだ毎日何かしらの当番についてる」
石田「当番?」
藤江「うん。掃除とかー、あと見回りとか!」
石田「へぇ、見回りなんてあるんだ?」
藤江「うん。あ、はるきゃん気付いてないと思うけど、何回かあたし、深夜の見回りではるきゃんの寝顔見に来てるよ」
石田「嘘?全然気付かなかった」
藤江「だって寝てるもん」
石田「えー?何時頃?」
藤江「うーんと、12時頃かな?あと、3時にももう一回あるよ」
石田「ひぃー、3時って午前でしょ?大変じゃない?」
藤江「大変!眠い!」
藤江はそう言うと、きゅっと口角を上げた。
不平不満も、藤江が口にするとネガティブに聞こえないのが不思議なところだ。
寝不足のはずなのに、相変わらず周囲には健康的美人といった雰囲気が漂っている。
石田「今度もし起きてたら、れいにゃんが見回り来た時声かけるよ」
藤江「うん、そうしてー」
それから石田と藤江は、束の間楽しい時間を過ごした。
石田にとって、この監禁生活で心から笑えたのは、これが初めてである。
一方その頃横山は、懲罰房の中で――。
横山「これが噂に聞いた萌乃ちゃんの耳栓やな」
ドアの近くを何度か探ると、いつの間にか耳栓が落ちていた。
話には聞いていたが、装着した途端に大音量の音楽が気にならなくなるのでありがたい。
――クリスさんの言う通りやった…。
仁藤はすでに、中塚が懲罰房に入れられた時点で新しい耳栓を完成させていたのだった。
そのお陰で、中塚はひどいダメージを受けることなく、懲罰房を耐え切った。
横山もまた、仁藤の耳栓に助けられる。
横山「それにしても、ほんまに電気消されるんやなぁ…真っ暗で何も見えん…」
いくらか余裕の出て来た横山は、床に腰を下ろし、ぼんやりと考え事をした。
その時、指先に何かが触れる。
――何やろ…紙…?
横山「こんなとこにごみ捨てたらあかんなぁ。拾っておきましょう」
真面目な横山は、拾い上げた紙をポケットに突っ込んだ。
日頃から、ぽい捨てなど、マナーには厳しいタイプだ。
横山「もうやることないし、寝るか…」
《13日目》
第7監房――。
指原「どうしよう…亜美が懲罰房に入れられちゃった…」
指原はおろおろと、狭い監房の中を歩き回った。
仁藤「大丈夫だよ、さっしー」
仁藤はベッドに腰掛けながら、のんびりと語尾を伸ばす。
指原「萌乃ちゃん、何でそんなに落ち着いてるの?亜美ああ見えて結構甘えたがりだし…」
仁藤「大丈夫大丈夫」
指原「え?」
仁藤「だってあたし、耳栓作り直したもん」
指原「あ、じゃあ…」
仁藤「今は由依ちゃんが持ってると思う。昨日届けに行ったから」
指原「お、そうか。亜美が懲罰房に入れられたのなら、入れ違いに由依が出てきてる」
仁藤「うん」
指原「じゃあ早速、由依のとこ行ってこよー。耳栓返してもらおうよ」
仁藤「あ、待ってあたしも行くー」
第8監房――。
横山「萌乃ちゃんの耳栓で助かりました」
中塚「うんうん、あたしもあれのおかげで、懲罰房の中でも寝ることができたし。すごいよね」
横山と中塚が耳栓について話していると、その製作者である仁藤と、指原が監房に飛び込んできた。
指原「由依ー!帰ってたんだね」
横山「はい?萌乃ちゃんのおかげで、うちまったく異常がないです」
指原「良かったねー」
横山は指原と仁藤の顔を見ると、嬉しそうに目を細めた。
仁藤「あ、そうそう由依ちゃん、耳栓返してもらえる。これからあーみんに届けてあげなきゃいけないから」
横山「そうでした。ありがとうございます」
横山は慌ててポケットの中を探る。
その時、何かが床に落ちた。
指原「あ、何か落としたよ?」
指原が拾い上げる。
横山「あぁそれ、懲罰房の中に落ちてたの拾ったんです」
指原「…これ…ぷっちょの包み紙だ…」
指原はしげしげと、拾い上げた紙を観察した。
中塚「え?なんでそんなのが落ちてるの?あたしが入った時にはなかったと思うよ」
指原「指原の時も…」
仁藤「これって、誰かが懲罰房の中でぷっちょ食べてたってことだよね?すごい余裕だね…」
中塚「うん。神経図太いなぁ」
横山「そんなにおなかすいてたんでしょうか?」
指原「さぁ…」
4人はほとんど同時に首を傾げた。
指原「あ、これ一応預からせてくれる?」
横山「?いいですよ」
指原「ありがとう」
指原はそうして包み紙を自分のポケットに仕舞った。
特に意味があったわけではない。
なんとなく、おかしなものを見ると写真におさめてしまったり、持ち帰ったりする癖があるのだ。
今回もそうだった。
仁藤「あ、それよりほら、耳栓届けてあげないと」
仁藤が気がついたように言う。
横山「あ、はいこれ」
横山が差し出した耳栓を受け取ると、仁藤と指原は懲罰房に向かって駆け出した。
数分後――。
大島「準備はいい?」
第9監房に集まった面々は、大島の顔を見て大きく頷いた。
大島「そろそろ料理係のごみ捨ての時間だ。米ちゃんがドアにストッパーを挟んでおいてくれる。ごみ捨ての時間になってちょっと過ぎた頃に、あたし達は出発する。そのまま一気に地下まで行き、裏口を目指そう」
秋元「わかった」
秋元がきりりとした表情で返事をする。
小嶋は消しゴムが貼り付けられた靴が気になるか、ふて腐れた顔をしていた。
それでも、脱獄の意思はあるようで、文句も言わず大島の話に耳を傾けている。
大島「あ、それから、」
板野「え?」
片山「あの、ちょっといいですかー?」
その時、片山が姿を現した。
大島は慌てて口をつぐむ。
大島「ん?何何ー?」
平静を装って返事をした。
片山「今日から点呼のやり方が変わったんだよ。だからそれを知らせに…」
高橋「変わったって?」
片山「うん、自由時間が終わったら、自分の監房に戻らずに、1階の廊下に整列していてほしいの。そのほうが早いし…それに…」
板野「?どうしたの?」
片山「ほら、最近色々あったじゃない?別に囚人のみんなを疑っているわけじゃないんだけど、まぁ…その…」
片山は困ったように言葉を濁した。
秋元が助け舟を出す。
秋元「大丈夫大丈夫、疑ってるとか…別にあたし達も看守を悪者みたいには考えてないから。単純に、そのほうが点呼しやすいからだよね?」
片山「え?う、うん…」
高橋「わかったよ、ちゃんと整列しておく」
片山「はい、お願いします」
片山はほっとした顔で頭を下げると、次の監房へ移っていった。
その姿が見えなくなると、大島はふうっと息をつく。
大島「話は聞かれてなかったみたいね。良かった」
しえん
しぇん
秋元「うん。でもこれから点呼の時に整列するってことは…」
大島「あたし達がいないのがすぐにバレちゃう」
板野「大丈夫?そうしたら看守に低周波が…」
宮澤「……」
高橋「……」
仁藤「でももう、やるしかないんじゃないですか?1度やろうとしたことを諦めて、それでいいんですか?」
潔癖な仁藤が、珍しく強い口調で語りかける。
仁藤「米ちゃんにもう話は通ってるし、ここで諦めたら米ちゃんの好意を裏切ることになりませんか?」
指原「米ちゃん…」
仁藤「それにあたし、やっぱりあれだけ苦労して靴を作ったんだし、使ってほしいです。それを使って、ちゃんと脱獄してほしいです」
仁藤の剣幕に、大島は目をむいた。
――萌乃ちゃん…。
日頃は黙々と練習に明け暮れ、曲がったことが大嫌いな仁藤。
その頑固さは時に融通が利かず、メンバーにきついことを言ってしまったりもする。
だけど大島は知っていた。
突然泣き出したり、怒ったり、メンバーに甘えてみたり…。
態度がころころ変わるのは、それだけ仁藤が素直で純粋だということなのだ。
そして大島は、そんな仁藤が嫌いではなかった。
大島「わかったよ。脱獄は中止したりしない。やる!」
大島が決断する。
秋元「うん。要は看守に気付かれる前になるべく早く、助けを呼べる場所まで逃げればいいってことでしょ?出来るよ、きっと」
大島「うん」
2人はすっかり、小嶋の存在を忘れていた。
板野は密かに危惧している。
――陽菜が足を引っ張らなければいいけど…。
しかし、今は小嶋を信じるしかない。
大島「よし、時間だ。行こう」
大島が時計を見上げ、立ち上がる。
いよいよ脱獄の時だ。
535 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 17:16:09.83 ID:OPYLglfn0
一日でめっちゃ進んでるなw
楽しいよ
一方その頃、米沢は――。
米沢「これでよしっと…」
ごみ捨てを済ませた米沢は、ドアの隙間に割り箸を挟み、閉まらないように細工した。
河西「米ちゃーん?何やってるの?」
厨房に向かって歩きかけていた河西に声をかけられる。
竹内も、河西の隣で不思議そうに米沢を見ていた。
米沢「あ、ううんなんでもない。今行くー」
米沢はパッと笑顔を作ると、裏口から離れ、2人の後を追いかけた。
河西「今日なんか風強かったね」
竹内「あ、はい、そうですね」
河西「明日のメニューどうしようか?」
537 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:21:12.33 ID:58HWYykmO
竹内「あ、それなんですけど、仲川さんからリクエストされて…」
河西「え?そうなの?はるごん何が食べたいんだって?」
竹内「チョコとアイスだそうです」
河西「えー?それはさすがにあたしも作れないなぁ」
竹内「材料ないですよね」
河西「可哀想だけど、諦めてもらうしかないね。チョコとアイスじゃごはんにならないし」
竹内「仲川さん、お菓子食べたいって連呼してました」
河西「あぁ、そうだよねぇ…辛いよね」
竹内「はい…」
米沢「何何ー?何の話?」
追いついた米沢が話に入ると、河西は何か、仲川の満足するお菓子が作れないかと相談を始めた。
一方その頃、大島達は――。
大島「思った通り。消しゴムのおかげで足音しなくなってる!」
秋元「うん」
小嶋「……」
3人は階段までやって来ると、1度辺りを見回した。
――大丈夫、誰もいない。
そうして慎重に、しかし素早く、地下へと階段を下りる。
大島「……」
地下へ下りると、大島は口を閉じ、身振りだけで他の2人に指示を出した。
地下は囚人の立ち入り禁止区域だ。
ということは、地下で大島達の声が拾われれば、それだけで脱獄に気付かれてしまうだろう。
秋元「……」
3人は、真っ直ぐに通路の奥、裏口を目指した。
――ここだ…。
そしてようやく、外へと続く希望の扉に手をかける。
大島「……?」
――開かない…。何で…?
大島はそおっとドアを押したり引いたりしてみる。
しかしドアはびくともしなかった。
――米ちゃん、開けておいてくれると言ったのに…。
焦る大島の肩を、秋元が叩いた。
手首を指差し、時間が押し迫っていることをジェスチャーで伝えようとしている。
――そんな…せっかくここまで来たのに…。
3人は、決断を迫られた。
このまま強行突破するべきか、おとなしく戻るべきか。
いずれにしても、もう時間はない。
一方その頃、板野は――。
板野「……」
板野は廊下に整列し、看守が点呼にやって来るのを待っていた。
――優子達、今頃はもう脱獄しているところかな…。
心配ではあるが、きっとやってくれると信じている。
増田「遥香ー?おらんのー?」
すぐ傍で、増田が必死に仲川を探している。
増田「ほんまどこ行ったんやろ…」
板野「はるごんいないの?」
増田「そうなんよ、もうすぐ点呼やのに…」
板野「点呼のやり方が変わったの、知らないのかな?もしかして監房に戻ってるのかもしれないよ」
増田「あぁ、そうやな。ちょっと呼んでくるわ」
増田が駆け出そうとする。
その時、ひょっこり仲川が姿を現した。
仲川「わーいみんな勢ぞろいー」
増田「遥香、どこほっつき歩いてたん?」
仲川「えー?色々」
増田「こういう時くらいじっとててほしいわ。ほんまヒヤヒヤする」
仲川「ごめーん」
仲川が増田に抱きついたところで、看守が数名やって来た。
前田「点呼取りまーす」
仲川「はーいはーい!はるごんはここにいるよー!」
前田「うん、ごんちゃんいるね。じゃあ端から数えていくからじっとしててくださーい」
前田らは通路の1番奥から、囚人の顔を確認していく。
前田「1、2、3、4…」
板野はその時が来るまで、祈るような気持ちで待った。
やがて点呼が終わり、前田が首をかしげる。
前田「あれ?なんか…3人足りないような…」
峯岸「嘘?ちゃんと数えた?」
篠田「もう1度数えてみる?」
看守達はそれぞれ不思議そうな顔で、囚人達を見渡した。
――お願い、もう少しだけ、優子達がいないことに気付かないでいて…。
板野の心臓はもう限界寸前だった。
ぎゅっと目を瞑り、天に祈る。
――どうか…あと少しでいい。時間をください。優子達がちゃんと逃げ切れるまで…。
しかし、板野の祈りが天に届くことはなかった。
篠田「あれ?陽菜がいない…」
峯岸「優子もいないよ」
前田「才加もだ。どうしたんだろう…?」
ついに、看守が3人の不在に気付いた。
――終わった…。
板野はその場に脱力する。
これから3人の捜索が始まるのか。
看守に低周波が流されるのが先か…。
――嫌だ、そんなの嫌だよ…。
その時だった。
大場「捕まえましたー」
階段のほうから、大場が誇らしげな顔でやって来た。
大きな胸をつんと上に向け、悠然と歩いてくる。
その後ろからついて来たのは――。
前田「優子!陽菜!才加!」
前田は3人の名を呼ぶと、直後にあんぐりと口をあけた。
篠田「なんで陽菜まで…」
大島達は肩を落とし、とぼとぼと大場の後ろからみんなの前にやって来た。
篠田「どういうこと?捕まえたって…」
大場「夕食の時、お皿を下げ忘れてたんで、厨房に返しに行こうとしたんです。そうしたら奥の裏口に3人がいるのが見えて」
大場が説明する。
大場「大丈夫です。ちょっと低周波にはやられたけど、すぐに注意を聞いていただけたんで」
大島「ごめん…」
前田「そんな…優子、才加…どうしてまた…」
秋元「ごめん」
峯岸「何で?脱獄しようとしたの?ひどいよ」
峯岸が抗議の視線を向ける。
『大島さん秋元さんの両名は、今回で脱獄を試みたのは2回目になります。よって、3日間の懲罰房行きを命じます。看守はただちに2人を懲罰房へ収容してください』
そして、恐れていた放送がかかった。
板野「そんな…!なんで3日も?そんなことしたら2人が死んじゃうよ!」
板野は姿の見えない相手に向かって抗議した。
目が熱いと感じた時にはもう手遅れで、流れる涙を止めることができない。
悔しい。
悲しい。
情けない。
様々な感情が同時に板野を襲った。
545 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:45:49.46 ID:G6QBJFYg0
>>535 ありがとー。
丸一日休みが今日くらいしかないから一気に進めた。
ラストまで持って行きたいけど今日中には無理そう。。
え〜今日中に頼むよ〜
前田「ともちん…」
前田が同情を含んだ目で、板野を見る。
大場「あれ?あたしなんかいけないことしました?」
大場はけろりとした顔で、板野に視線を送った。
――看守の立場はわかるけど…どうして見逃してくれなかったの…?
もちろん大場が悪くないのはわかっている。
看守として当然のことをしたまでだ。
だけど、せめて今だけは、見当違いだとわかっていても、大場に怒りをぶつけたかった。
板野「ひどい…ひどいよこんなの…」
一同は、板野の泣き顔を呆然と見つめている。
大島「ともちゃん、もういいから…」
高橋「でも優子…」
高橋もまた、全体を睨み回した。
高橋「いいの?これで?3日間なんて…普通におかしいでしょ?」
しかし、高橋もどこかでわかっている。
このままいつまでもここで言い合いをしていたって、しばらくすれば脱獄者をなかなか収容しようとしない看守に低周波が流されることだろう。
大島と秋元もそれがわかっているから、あえて抵抗しないのだろう。
548 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 17:47:19.90 ID:2AGXaSVK0
>>545 俺も楽しく読ませてもらってるぞ
追い付いてるからひたすらF5連打w
秋元「もういいんだよ…」
やはり秋元は、すべてを受け入れた表情で、高橋をたしなめた。
秋元「あたしは大丈夫だから」
高橋「……」
口ごもる高橋を見て、篠田がそっと切り出した。
ここは変に何か言葉をかけるのはよそうと考える。
だから篠田の口調は、多少冷酷に聞こえたかもしれない。
篠田「2人を…連れて行って」
篠田の言葉に、大場が動く。
大島と秋元はおとなしく大場のあとについて行った。
小嶋「あたしはいいのー?良かったー」
小嶋が心底安心したような声を上げる。
しかし即座に篠田に忠告された。
篠田「でもわかってる?次やったら陽菜も3日間懲罰房に入れられちゃうんだよ?きっと」
小嶋「はーい」
小嶋の返事は、なぜか深刻さに欠ける。
550 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 17:48:03.84 ID:OPYLglfn0
>>545 無理かー
でも楽しみが続くのもいいもんだからね
がんばって!
551 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 17:49:47.13 ID:fo/yY6Wn0
たかみな、みぃちゃん以外の尾木メンがバカばっかりな件についてw
>>546 とりあえず旦那帰って来るまでは続けてみる!ごめんよー。
>>548 ありがとー。
>>550 ありがと頑張る!
ちょっとここからスピードアップします。。
大島「……」
連れて行かれる時、大島は無言で板野を見た。
板野が泣いている。
悲痛な顔だ。
自分が懲罰房に入れられるはいい。
しかし、板野の期待を裏切ってしまったことが悲しかった。
宮澤「……」
次に大島は、囚人達の中に宮澤の顔を見つける。
よほど脱獄の失敗がショックだったのだろう。
宮澤の表情は暗く、大島と目を合わせることはなかった。
これから3日間、自分は懲罰房の中で何を考えるのだろう。
きっと、後悔しか出てこないんだ。
大島もまた、絶望していた。
《14日目》
指原「あれ?ぱるるがいない…」
朝、目を覚ました指原は、島崎の空いたベッドを見て、首をかしげた。
指原「トイレかな?全然気付かなかったけど」
しかし、朝食の時間になっても島崎が戻って来ることはなかった。
――どうしちゃったんだろう、ぱるる…。
指原はか弱い後輩のことが心配でたまらなかった。
指原「ぱるるの姿が見えないんだけど、何か知ってる?」
作業が始まる前、迎えに来た永尾に尋ねてみる。
永尾「ぱるるなら、深夜急に気分が悪くなって、今は看守の部屋の隣にあるスペースで寝ています」
指原「え?大丈夫なの?風邪?」
永尾「さぁわたしもわかんなくて、心配なんです。風邪って感じじゃなくて…なんか、ストレスでいろいろやられちゃったみたいで…」
永尾はそう言うと、悲しげに唇を突き出した。
指原は不覚にも、永尾のその表情にドキッとしてしまう。
――愛ちゃん、これは浮気じゃないからね…。
心の中で多田に懺悔した。
もちろん多田はそんなこと望んでいないのだが。
作業終了後、第5監房――。
渡辺「……」
渡辺は熱心にスケッチブックに向かい、何かを描いていた。
佐藤亜「どう?できたー?」
亜美菜が声をかけても、渡辺は返事をしない。
それくらい集中しているのだ。
亜美菜は気を遣い、おとなしく渡辺の姿を見守ることにした。
――汐里ちゃんからの情報だけで、どこまで描けるんだろう…。
そうして亜美菜は、背後からこっそり渡辺のスケッチブックを覗き込んだ。
――まゆゆ、すごい…。イラストだけじゃないんだ…。
渡辺はあともう少しで描き終わるというところだった。
なるべく正確に書こうとすると、つい性格のせいか色々とこだわりが出てきてしまう。
――まゆゆ、頑張って。
亜美菜は心の中で渡辺を応援した。
夕食――。
米沢「ごめんね、割り箸をストッパー代わりにしてたんだけど、風で飛ばされてドアが閉まっちゃったみたいで…」
配膳に来た米沢は、そう言って頭を下げた。
板野「そうだったんだ…。ううん、それなら米ちゃんは悪くないよ。風のせいじゃ…」
米沢「本当にごめんね」
米沢は恐縮する板野の前で、何度も謝罪を口にした。
米沢「今度はもっとうまくやるから」
板野「でも、昨日のことで裏口の警備は強化されると思う。きっと優子も他の脱出方法を考えてるんじゃないかな。あ、配膳に行くなら、優子にそこのところ、訊いてみてもらえる?でも大音量で音楽聴かされてるんだし、無理かな」
米沢「そもそも懲罰房への配膳は瑠美達料理係じゃなくて看守がやっているから、無理だと思う」
板野「そっか…」
米沢「でも、他の方法を考えるにしろ、何か協力できることがあったら言って」
板野「ありがとう」
米沢の好意が嬉しかった。
まだ、米沢も脱獄は諦めていないのだ。
今は1人でも協力してくれる人物がいるだけであり難い。
心配なのは、昨日のことで大島達が脱獄を諦めてしまうことだった。
板野はまだ、脱獄できる日を夢見ている。
石田「……」
2人の会話を、石田は密かに耳に入れていた。
しかし、あえて何も言わない。
他人のやることに干渉しないスタンスだ。
自由時間――。
『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第5監房の渡辺麻友さん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』
佐藤亜「まゆゆ…」
渡辺「そんな…あと少しなのに…」
渡辺はスケッチブックに鉛筆を走らせながら、恐怖に震えた。
――あと少し、あと少しで完成なのに…。
佐藤亜「……」
看守の足音が近づいてくる。
佐藤亜「まゆゆ、それ隠したほうがいいんじゃない?看守の子に見つかったら誤解されるかも…」
亜美菜が不安げに忠告した。
渡辺「でももうちょっと…よし出来たー」
平嶋「まゆゆー?迎えに来たよ」
渡辺「あ、なっちゃん」
平嶋が顔を出す。
渡辺は咄嗟にスケッチブックを破り取ると、丸めてポケットに隠した。
寸でのところで、平嶋には何も見られずに済んだようだ。
平嶋「行こうか」
渡辺「う、うん…」
渡辺はポケットを膨らませたまま、監房を後にした。
第7監房――。
板野「ぱるる、具合悪いんだって?」
1人になった指原のもとに、板野と高橋、小嶋の3人が訪れた。
指原「そうなんです。指原心配で…」
高橋「やっぱりストレスかなぁ」
高橋は島崎の青白い顔を思い浮かべた。
なんとなく、守ってやりたくなる雰囲気を持った子だ。
板野「あれ?これは…?」
板野はそこで、ベッドの下の紙束に気がついた。
指原「ああそれ、亜美からの手紙です」
板野「文通してるんだ?」
指原「はい」
指原はあれから何度も、亜美からの手紙を受け取っている。
健気な亜美は、指原を元気付けようと毎晩壁の向こうの管を使い、手紙を送ってきていた。
それはすでに、指原の密かな楽しみになっている。
小嶋「なんで手紙なのー?直接言えばいいじゃん」
指原「手紙だからなんか気持ちがこもっいて嬉しいんじゃないですか」
小嶋「じゃああたしも麻里ちゃんに手紙書こうかな。でも本人から本人に直接渡すなんて馬鹿みたい」
指原「指原と亜美は、直接手紙のやりとりしてるわけじゃないですよ」
小嶋「えー?」
板野「どういうこと?」
指原の発言に、板野は眉をひそめた。
指原「え?だから…この壁の向こうの管が上の監房にいる亜美に繋がっているんですよ。手紙はその管を使って送られてくるんです」
指原はそう言って、壁の切れ込みを指差した。
高橋「はぁ?管って…え?何?そんなの聞いてないよー」
高橋が目を丸くする。
指原は半信半疑といった様子の高橋に、実際に切れ込みの辺りを押して、管を出現させて見せた。
高橋「うわぁぁすごい、これどうなってんの?」
高橋は壁の向こうを覗き込み、驚きの声を上げる。
指原「亜美の話だと、上の階で出た洗濯物を下へ送るための管らしいです」
板野「じゃあこれ、下に繋がってるの?」
指原「はい、たぶん」
板野「ふうん…」
板野は何か考えるように、息を洩らした。
指原「?」
板野「この管、人が通れるよね?」
指原「あぁはい…大きさ的には可能だと思いますけど…え?ともちんさんまさか…」
板野「うん」
高橋「えぇ?」
小嶋「何ー?何の話?」
板野「この管を使って、脱獄できないかな?」
指原「マジですか?」
指原がとても信じられないといった表情で、板野に問いかける。
板野はにやりと笑うと、口を開いた。
板野「あぁ…マジだよ。マジで脱獄しなきゃ、懲罰房に入っている優子と才加に申しわけねぇだろ…」
高橋「ともちん!」
そうだ。
大島と秋元はこれまで頑張ってくれた。
みんなのために、自分を犠牲にして、今も懲罰房に入っている。
そんな2人と一緒にいて、自分は果たして何か手助けになるようなことをしただろうか。
何か役に立つことは出来たのか。
――あたしはまだ…何もしていない…。
傍観者は嫌だ。
大島と秋元のためにも、今度は自分が動こう。
今度こそ、脱獄を成功させてみよう。
その瞬間、板野の心は決まった。
板野「あたしは絶対に…ここから脱獄してみせる…!」
数分後――。
高橋「…てことは、この管は普通に考えて洗濯部屋に繋がっているんだよね?」
一同は脱獄について具体的に考え始めた。
指原「はい、たぶん…。確かめてないんでわからないですけど」
高橋「そこから外へ出られたりしないかな?洗濯部屋なら監視や盗聴もチェック甘そうじゃない?」
小嶋「さっしーちょっと下に行って確認してみてよ」
指原「ばっ、ちょっ、そんなことしたら捕まっちゃうじゃないですか!」
小嶋「そうだねー」
板野「具体的な建物の見取り図なんかがあればいいんだけど…」
板野はそう言って、顎に手をやり、考え込んだ。
566 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 18:13:14.50 ID:58HWYykmO
仲俣「それなら、渡辺さんが持ってますよ」
ふと声がして、通路のほうを見ると、仲俣がもじもじとして立っていた。
板野「汐里ちゃん…なんで…?」
仲俣「すみません。やっぱり気になって、また立ち聞きしちゃいました」
仲俣が頭を下げる。
高橋「まゆゆが見取り図持ってるって?なんで?」
仲俣「皆さんのお役に立てないかと、わたし、密かに渡辺さんに見取り図を描いてもらえないか頼んでたんです。渡辺さんなら、アニメキャラの微妙な目鼻の配置まで把握してイラストを描くじゃないですか」
仲俣「それだったら建物のだいたいの様子を聞いて、そこから正確な見取り図を紙に起こせるんじゃないかと思って…」
高橋「あぁ確かに…考えられなくはないね」
仲俣「大島さんから聞いて、建物の様子はわかっていたんで、それをそのまま渡辺さんに伝えました。きっと今頃は見取り図を完成させているかも…」
板野「あ、でもまゆゆは今、懲罰房に…」
高橋「よし、とりあえずまゆゆのいた第5監房に行ってみよう」
仲俣「はい」
一同は、仲俣のアイディアに感謝しながら、第5監房へ向かって駆け出した。
そして、亜美菜から渡辺がスケッチブックのページを持って行ってしまったことを聞かされる。
佐藤亜「でもまゆゆ、ギリギリのところで完成させてたみたいよ」
高橋「じゃあまゆゆが戻ってくれば、その見取り図を見ることが出来るんだね?」
佐藤亜「うん」
板野「明日まで待つか…でもそんなんじゃ遅いよ。どうにかして懲罰房の中のまゆゆと接触できないかな?」
指原「え?それはさすがに…」
指原がそう言って眉を下げた時、一同の前を平嶋が横切った。
佐藤亜「あ、なっちゃん!」
平嶋「うーん」
佐藤亜「何やってんの?」
平嶋は食事の乗ったトレーを持っていた。
佐藤亜「まだ食べるの?」
平嶋「ちょっ、違うよ。これから懲罰房に食事を届けに行くの!」
佐藤亜「えー?なんで今なの?」
平嶋「本当は優子ちゃん達にこもりんが届けるはずだったんだけど、あいつ忘れてたんだよ。仕方なくあたしが代わりに届けるところ。2人ともきっとおなかすかせちゃってるよー」
平嶋は呆れたようにそう説明した。
平嶋「ついでにまゆゆにお水を届けてあげようと思って。明日まで出て来られないからね…」
佐藤亜「そっか。ありがとねー。まゆゆに、亜美菜は1人でも大丈夫だよって伝えて」
平嶋「うん。言っとく」
平嶋はにっこりと笑うと、その場を立ち去った。
その後ろを、板野がこっそりついてきていることに、平嶋はまだ気が付いていない…。
懲罰房前――。
平嶋「よいしょっと…」
監房の扉を閉めると、平嶋は今度、隣の扉に手をかけた。
鍵を開ける。
――後はまゆゆにお水を届けて…。
板野「なっちゃん!」
その時、背後から音もなく板野が現れた。
平嶋「うわっ、なんでここにいるの?」
驚いた平嶋は、思わず水の入ったペットボトルを落としてしまう。
板野「ちょっとだけまゆゆと話せないかな?駄目?」
平嶋「え…でも…」
板野「お願い!」
板野が丁寧に頭を下げる。
平嶋「え?でもなんでまゆゆと…ともちん?」
板野「そ、それは…」
平嶋「痛…!」
板野が言葉に詰まると、平嶋が苦痛に顔を歪め崩れ落ちた。
板野「え?」
――やばい、低周波が始まったんだ…。
平嶋「ここ…囚人は近づいちゃいけないんだよ…お願い…離れて…じゃないとあたし…」
平嶋が苦しそうに板野に懇願する。
板野「……」
――だけど、まゆゆと接触できれば、見取り図が手に入る…。
板野が考えている間に、いよいよ平嶋の体力は限界を迎えようとしていた。
平嶋「痛い…」
痛みにもがいていると、手が懲罰房の扉に触れた。
――とりあえずともちんとまゆゆを会わせれば…。
板野はまったく動こうとしない。
それならもういっそのこと、望みどおり渡辺に会わせてやれば、納得してくれるだろう。
そうすれば板野は立ち去り、自分はこの痛みから解放される。
平嶋はそう考え、必死に扉を開けようとした。
しかし手に力が入らず、なかなか思うようにできない。
何度か肩で押すと、ようやく扉が開いた。
平嶋「…うわっ…!」
その瞬間、勢いがつきすぎて懲罰房の中に倒れ込んだ。
通路からの灯りに照らされ、渡辺が呆然と立ち尽くしている姿が見える。
渡辺「……」
板野はそこで、自分が大変なことをしてしまったことに気づいた。
見取り図を手に入れることばかり考え、平嶋に対する思いやりを忘れていた。
板野「なっちゃん…ごめん…」
板野はおろおろと平嶋の周りを行ったり来たりする。
――なっちゃん怪我しなかったかな…。
しかし自分に出来ることといったら、一刻も早くこの場から立ち去るだけだ。
板野「なっちゃん、ごめん行くね」
板野はそう言うと、全速力で通路を引き返して行った。
平嶋「……」
残された平嶋は、不思議そうに腕時計を見つめている…。
一方その頃、第6監房では――。
仁藤「よし、これで全部耳栓完成!早速優子ちゃん達に届けてあげなきゃ」
仁藤は密かに、耳栓作りを再開していた。
懲罰房の中にいる大島と秋元に届けるためだ。
急ピッチで作業を進め、ようやく完成にこぎつけた。
仁藤「……」
仁藤は出来上がったばかりの耳栓を手に、そっと宮澤を振り返る。
宮澤は暗い表情で、うつむき加減にベッドに座っていた。
時折苦しそうに空咳をするくらいで、ほとんど動くことはない。
――佐江ちゃん、具合悪いのかな…?
言い争いをして以来、仁藤はまったく宮澤と口を利いていなかった。
もうこの気まずい空気を終わりにしたいと考えているが、宮澤のほうから話しかけてこないのでは、なんとなくこちらもきっかけが掴めない。
――佐江ちゃん、他の子とは普通に喋るくせに…。
仁藤は無意識のうちに、宮澤を睨むように見つめてしまった。
仁藤「あれ…?」
そこで仁藤は恐ろしい事実に気付く。
――まさか佐江ちゃん…。
ここ数日、宮澤の声を聞いただろうか。
自分とは会話がなくても、他のメンバーとは喋っているはずだ。
しかし、仁藤以外のメンバーも集まっている場所でも、宮澤は何も発言していない気がする。
仁藤「佐江ちゃん!」
仁藤はケンカ中だったことも忘れ、宮澤に駆け寄った。
宮澤が無言で仁藤を見る。
その目は、生気を失い、どこまでも暗い闇をたたえていた。
仁藤「…佐江…ちゃん…?」
仁藤はおそるおそるもう一度呼びかけた。
やはり宮澤の返事はない。
仁藤「佐江ちゃんまさか…声が出ないの?ねぇ!そうなんでしょ?いつからなの?どうして?なんで今まで教えてくれなかったのよ!」
仁藤は宮澤の両肩を掴むと、激しく揺すった。
何の反応もしてくれない宮澤を前に、ついにこらえきれなくなった仁藤は、その頬を涙で濡らす。
仁藤「ねぇ佐江ちゃん!返事してよぉぉ」
《15日目》
渡辺「これ…」
懲罰房から解放された渡辺が、紙くずをポケットから出す。
皺を伸ばして広げると、みんなに見えるよう中央に置いた。
第13監房に集まった面々は、渡辺の出した紙面を食い入るように覗き込む。
渡辺「話に聞いたのを図に起こしただけだから、実際は間違ってるかもしれないけど…」
渡辺は自信なさげにそう付け足した。
渡辺「でも、考えられる限り、忠実に再現できるよう、部屋の広さやバランスには気をつけました」
板野「……」
高橋「どう?ともちん」
板野「…やっぱり」
指原「え?じゃあ…」
板野「うん。見て、この地下の部分…ちょうどさしこのいる第7監房の真下にあたる部分が空白になってる」
渡辺「あ、それはわたしの想像というか、話に聞いた感じだと料理係の隣の部屋にもう1つ部屋がありそうなんです。もし地下が、ここより広さ的に縮小されていないのならですけど」
板野「…でも、この見取り図のお陰で自分の考えに自信が持てたよ。ありがとう、まゆゆ」
渡辺「いえいえ」
渡辺が恐縮した様子で、両手を激しく振る。
板野「それからなかまったーも…ありがとう」
板野が視線を向けると、仲俣は神妙な面持ちで頷いた。
板野「とにかくこの見取り図を見る限り、第7監房の真下に何があるのか、調べてみる価値がありそうだよね」
高橋「壁の向こうから下に降りてみるの?」
高橋が眉をひそめた。
板野「うん、それしかない。あたしの想像だと、壁の向こうの管は洗濯室に繋がっていると思う」
指原「…でも…あの管すごく狭くて1人が通るのやっとだし、それに下はかなり深いですよ?はしごか何かないと下りられません」
仁藤「飛び降りるのならあたし得意だけど」
仁藤が思いついたように発言する。
板野「駄目だよ。もし怪我でもしたら…」
高橋「うん、ここはもっと慎重に行ったほうがいい。もう失敗はできないよ」
板野「うん、そうそう」
仁藤「はい…」
小嶋「じゃあ看守の子に頼んではしご持ってきてもらおうよー」
高橋「無理だよ。優子と才加が脱獄に失敗して、看守はきっとナイーブになってる。この状況で協力なんて…してくれるわけない…」
高橋はそう言って、くやしそうに舌打ちをした。
指原「ですよねぇ」
指原も高橋の様子に影響され、大きくため息をついた。
――いけない、たかみなが元気をなくすと、全体のモチベーションが下がる…。
板野はそう気付き、さり気なく高橋の肩を抱いた。
高橋も我に返ったようで、板野に向かって数回頷いてみせる。
――今はみんなで団結しなきゃいけない時だ。佐江ちゃんもあんな状態だし、これ以上雰囲気が暗くなることだけは避けなきゃ…。
板野「…ん?」
そこまで考えた時、板野はふとあることに思い至った。
板野「ううん、看守の協力を得られるかもしれない」
高橋「えぇ?」
板野の発言に、全員が目を丸くした。
板野は多少居心地の悪さを感じながら、ゆっくりと宣言する。
板野「状況は変わった。これまでとは明らかに違う」
仁藤「?違うって…」
仲俣「何ですか?」
板野「佐江ちゃんだよ」
高橋「?」
指原「あ…佐江ちゃん今声が出ないって…」
渡辺「え?そうなの?」
仁藤「うん。たぶん極度のストレス下に長時間置かれたことが原因みたい…」
渡辺「それって治るの?もしかして佐江ちゃんこのままずっと…」
仁藤「心理的なもので、体自体は問題がない場合が多いから、たぶん大丈夫だと思う。でも…いつになったら声が戻るのか…まったく予想がつかないんだ…」
渡辺「そう…」
渡辺はそれだけ言って、声を詰まらせた。
高橋「でも…佐江ちゃんの変化がなんで看守に関係あるの?」
高橋は話を戻すと、板野の問いかけた。
板野「この状況で佐江ちゃんの変化はすごく厳しいと思う。だって考えてみて?元気のない佐江ちゃんなんて、見てるの辛いでしょ?」
仁藤「う、うん…」
高橋「普段元気なぶん、余計に痛々しく見えるというか…」
板野「でしょ?だったら看守の子もあたし達と同じ気持ちだよ。佐江ちゃんのことを知ったら、きっと脱獄に協力してくれると思う」
指原「あ、そっか!そうですよね!佐江ちゃんのことを逆手に取るようで、ちょっと卑怯な気もしますけど…やっぱりみんな佐江ちゃんには元気でいてほしいですよね!」
小嶋「これがさっしーだったら、不思議とそうは思えないんだけどねぇ」
指原「小嶋さん…ひどい…」
指原が本気の涙目になり始めたので、高橋は再び話を戻した。
高橋「じゃあ早速看守の子達に協力を頼んでみよう。始めるなら早いほうがいいでしょ?」
しかし、立ち上がりかけた高橋を板野が制する。
板野「あ、待って駄目」
高橋「え?」
580 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 18:33:18.65 ID:zbvmORGVO
耳栓使って早く五回やっちゃえば良いのにと思うのは俺だけ?
それにしても面白すぎる
頑張れともちん
頑張れ作者さん
582 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 18:35:55.54 ID:2AGXaSVK0
>>1が19日目だからそれまでは何しても失敗するんだなっていう目で見てしまう
583 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 18:38:16.27 ID:GCTuNRyO0
584 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 18:42:24.03 ID:2AGXaSVK0
585 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 18:44:34.98 ID:L0x67E6l0
しーちゃんが五回連続入るって言う案は消えたんだね…
てかもの凄く囚人グループを応援したくなるね、この話w
マジすかよりこれをドラマ化したらおもしろいのに
586 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 18:45:20.80 ID:2AGXaSVK0
つーか看守側がクズすぎる
現状しーちゃんの案がICレコーダーの件でうやむやになってて
それでもしーちゃん5回入れる案通そうとしたら誰かしら看守川が身体の心配しだすだろ
それで看守納得させるために耳栓あるから、とか言ったらまたそれ見過ごす看守も罰受けるんじゃないかともめる
ルールで互いに信頼出来ない状態作り上げてるから面白いんじゃない
板野「万が一のことを考えて、協力を頼む看守は少ないほうがいいと思う」
高橋「あ、そうか…」
仲俣「じゃあ誰に協力を頼めば…?やっぱり篠田さんですか?」
板野「ううん、もっと適任がいるよ」
仲俣の問いかけに、板野は悪戯っぽく八重歯を見せた。
小嶋「えー?誰ー?」
板野「…ゆきりんだよ」
渡辺「え?ゆきりん?でもゆきりん基本面倒くさがりだけど、根は真面目だし…」
板野「大丈夫。佐江ちゃんのことを知ったら、絶対にゆきりんは脱獄に協力する」
板野は自信ありげに、そう断言した。
数分後、第6監房――。
柏木「えぇぇ?ちょっ、嘘ですよね?」
通路を歩いていた看守に伝言を頼み、柏木を呼び寄せた板野達は、宮澤の様子を伝えた。
半信半疑の柏木だったが、いざ宮澤の姿を目の前にすると、表情を曇らせた。
柏木「どうして…佐江ちゃん…」
柏木は口元を手で覆うと、その場に崩れ落ちた。
許せなかった。
宮澤をこんなふうにした奴が。
自分達を監禁して、ここまで追い詰めた奴を、本気で憎いと思った。
温厚な柏木の中に、初めて憎悪の炎が燃え上がる。
板野「……」
一方板野は、柏木の反応に、罪悪感を持たずにはいられなかった。
みんなのため、脱獄のためとはいえ、宮澤をダシに使ったこと。
そしてそのために、柏木を悲しませてしまったこと。
――ここから出たら、2人に謝ろう…。
板野はそう心に誓った。
柏木「どうしたらいいですか?あたし…何をしたらいいですか?」
ようやく最初の衝撃から抜け出してきた柏木が、珍しく強い口調で問いかける。
板野はそんな柏木に、脱獄の計画を話して聞かせた。
話に耳を傾けるうち、怒りに満ちていた柏木の目が、すっと覚めていく。
板野はその変化に驚いた。
――これってまさか…。
>>580 懲罰ってレベルアップするのかと思ってた
2回目は別の罰かと
そう、それはまさしく、ブラックの目だった。
怒りや憎しみを内に秘め、冷酷さを露にした目。
柏木「あたし…何でもしますから…」
柏木は本心からそう宣言した。
――やってやる。佐江ちゃんのためだったら、どんなルールも破ってやる…。
柏木は悲しみを怒りに変え、そしてそれさえも超越した悟りの域に入った。
柏木「もう怖いことなんてありません」
こうして柏木は、脱獄計画に協力することを誓った。
《16日目》
米沢「ともちん…これ…」
夕食の時間、第13監房までやって来た米沢は、ワゴンからこっそり白い棒を差し出した。
板野「?」
首を傾げる板野に、米沢は数本の棒を無理やり握らせる。
米沢「昨日ゆきりんから聞いたよ。脱獄、協力してくれるんだってね。それで瑠美も何か出来ないかって探してみたんだけど、やっぱりはしごは見当たらなくて…」
板野「そっか…ゆきりんもそうなんだよ。はしごは見つからなくて…で?この棒何?」
米沢「つっぱり棒!これで下へ降りるための足場を作れないかと思って」
板野「え?そっか、管は狭いし、長さ的にもこれだったらもしかして…」
米沢「うん」
板野「ありがとう、米ちゃん」
板野はきゅっと口角を上げ、米沢を見上げた。
米沢が照れくさそうな笑顔を浮かべる。
米沢「他にも何かあったらいつでも言って。直接話すには配膳の時くらいしかチャンスはないけど、今度からゆきりんに伝言を頼んでくれたら瑠美に伝わるから」
板野「そっか、看守なら自由に厨房にも顔を出せるんだもんね」
米沢「うん。あ、じゃあ行くね」
板野「うん、また…」
米沢が去った後、板野はこぼれる笑みを抑えきれず、つっぱり棒に目を落とした。
――これで下に下りることができる…。そうしたら何か脱獄の道が見つかるかもしれない…。
ひとりニヤニヤする板野。
それを、石田が無言で見つめている…。
自由時間――。
大島「よいしょっと…これでいいや」
自由時間になり、晴れて3日間の懲罰房から解放された大島と秋元は、板野の計画を聞き、目を輝かせた。
やはり懲罰房の中でも、脱獄の意思を失うことはなかったようで、板野はほっと一安心する。
小柄で運動神経のいい大島が第7監房の壁から管の中に入り、つっぱり棒で足場を作ると、ついに下へ降りる準備が整った。
大島「誰が先に行く?」
大島が第7監房に集まった面々を見回す。
板野「あたしが行く」
板野が一歩前に出た。
大島「わかった、お願い」
大島が道を開けると、板野はその小さな体を管の中へ押し込んだ。
中はもちろん暗い。
しかし上から大家と亜美が光を入れてくれているお陰で、なんとか足元を確認することができた。
大島の準備は完璧で、足をかけてもつっぱり棒が外れることはない。
こうして板野ははしごを使う要領で、するすると下へ下りていく。
案外早くに、地面に足が付いた。
板野「……」
辿りついたその部屋は、やはり板野の予想通りだった。
597 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 19:09:38.49 ID:G6QBJFYg0
高橋「ひぇぇぇ、本当に洗濯部屋になってたんだね」
後から下りて来た高橋が部屋の中を見て、驚きの声を上げる。
板野は気がついて、洗濯機のスイッチを入れた。
もしかしたらこの部屋も盗聴されているかもしれない。
洗濯機が作動していれば、その音で自分達の声はいくらかかき消されるはずだ。
高橋「でもやっぱり、窓はないねぇ…」
板野「うん」
そのままゆっくりと部屋の中を観察していく。
通路に出るためのドア、それからその左手の壁の向こうに、料理係の部屋があるはずだ。
だとしたらここから脱獄するには――。
板野「よし、掘ろうよ」
板野は決断した。
窓がないから出られない。
鍵がかかってるから出られない。
もうそんなこと言ってられる状況でないことは明らかだった。
出口がないなら作ればいい。
――ここは角部屋…だとしたらこの壁の向こうは必ず外に繋がっている。
作戦はシンプルだ。
壁に穴を掘って外へ出る。
原始的だが、これが一番確実な気がした。
高橋「えぇぇ?それマジで言ってんの?」
高橋が苦笑いを浮かべる。
板野が冗談でも言っていると思いこんでいるのだろう。
板野「うん。あたしはいつも本気だよ」
高橋「だけど…」
板野「最初の頃とは違う。米ちゃんやゆきりんもそうだし…まゆゆとなかまったーも協力してくれてる。それにしいちゃんと亜美ちゃんにも話は通ってる。優子と才加も戻って来た。人数なら充分だと思う。みんなで協力すれば、すぐに穴は掘れるよ」
板野の言葉を、高橋は半信半疑で聞いていた。
本当にそんなこと可能だろうか。
道具も何もなく、穴を掘るなんて――。
それに、穴を掘っている間は、看守にそれを発見されないための策を練らなければいけない。
板野はすでに方法を見つけているのだろうか…。
大島「あたしは賛成!何のための仲間なの?1人じゃ無理なことも、みんなで団結すれば乗り切れる。こういう無理な状況に立ち向かうために、あたし達は一緒にいるんじゃない!」
遅れて地下に下りて来た大島が、そう言って高橋の腕を取った。
大島「でしょ?あたしが今言ったこと、たかみなが教えてくれたことなんだけど」
高橋「優子…」
そして高橋は思い出す。
辛いとき、苦しいとき、隣にはいつもメンバーがいた。
つい1人で何でも抱え込みがちな高橋を、陰でそっと支えてくれていたのは…メンバーだ。仲間だ。
どんな問題も、みんなで励ましあって乗り切ってきた。
だからきっと、今回も――。
高橋「うん。ごめん優子…あたしすっかり忘れてたよ」
大島「いいよ。さ、どうする?ともちゃん。もう作戦は出来てるんでしょ?」
大島が明るく仕切り直す。
つい先ほど懲罰房から出てきたばかりとは思えない笑顔だ。
板野「うん、掘るならやっぱり、こっちの壁かな」
板野が指差したほうの壁には、大型の洗濯機が2台並んでいる。
大島「え?でもそっちは洗濯機があるし、ほらほら、こっちだったらこの棚を移動させるだけで穴が掘れるよ」
大島が指摘すると、板野はふるふると首を振った。
板野「ううん、違うの。だってそれだと、穴が空いてるのが看守にバレちゃうでしょ?でもこっちなら、掘った穴を洗濯機で隠せるよ」
大島「あ、そっか」
板野「うん。でもいちいち洗濯機をどかして穴を掘って、夜にはまた元に戻して…面倒だけどね」
板野はそう言うと、苦笑いを浮かべた。
高橋「や、やるよ!面倒でもなんでも、ここまで来たらやるしかないじゃん!」
俄然張り切りだした高橋を見て、板野は自分の決断が間違っていなかったことを確信する。
――大丈夫、みんながいれば今度こそ脱獄できる…。
板野の心は、期待で高鳴った。
板野「とりあえず1度、上に戻ろうよ。詳しく作戦を練らないと」
第7監房――。
板野「まずは穴を掘るための道具を探さなくちゃ。これはゆきりんにお願いして探してもらう。あと、ゆきりんには洗濯の係をかって出てもらわないといけないかも」
一度上に戻った板野は、待ちかねていたメンバー達を前に、作戦を説明した。
渡辺「ゆきりん大変だね」
板野「堀り途中の穴は洗濯機で隠すけど、念には念を入れて、他の看守の子を洗濯部屋に近づけないようにしたほうがいいと思うから」
渡辺「うん」
小嶋「あ、ゆきりん連れて来たよー」
渡辺が頷いたとき、小嶋と柏木が監房にやって来た。
秋元「あれ?早かったね」
小嶋「うん、看守の子見当たらなくて伝言頼めなかったから、直接看守の部屋まで行ってゆきりん呼んできた」
高橋「え?にゃんにゃん看守の部屋行っちゃったの?」
小嶋「?いけなかった?」
高橋「看守の部屋って囚人は立ち入り禁止区域だよ。指示もないのに近づいたら…」
小嶋「うーん、でも大丈夫みたいだったから、いいんじゃない?」
小嶋はあっけらかんとした様子でそう言い放つと、板野に話を促した。
板野が考えたばかりの作戦を、柏木に説明する。
柏木はすぐさま穴を掘るための道具を探しに、監房を飛び出した。
数分後――。
柏木「はぁ…はぁ…」
よほど急いだのか、顔を真っ赤にして監房に戻って来た柏木は、持ってきた道具をベッドの上に広げた。
柏木「とりあえずこれだけ…もっと時間があれば他に見つかるかもしれないけど」
秋元「え?これ何?」
秋元が訝しげにベッドの上の道具を拾い上げる。
柏木「さぁ、よくわかんないけど、調理器具であることは間違いないかと…。全部米ちゃんに言って貸してもらったんです」
柏木が首を傾げる。
指原「なんか見たことない道具」
仁藤「あ、それじゃがいも潰すための道具だよ」
指原「へぇ〜」
指原は秋元の手に握られた調理器具を、しげしげと眺めた。
他にもベッドの上には、お好み焼き用のヘラやケーキのデコレーション用ナイフが置かれている。
柏木「なるべくステンレス製の…丈夫なものを選びました」
板野「うん、ありがとう。急かしちゃったみたいでごめんね」
柏木「大丈夫。佐江ちゃんのためだもん」
秋元「え?」
渡辺「え?」
柏木「え?あ、ううん、みんなのためだよ、そう、みんなの…」
柏木は慌てて訂正した。
板野「よし、じゃあもう一度みんなで下に降りて、穴を掘ろう。自由時間終了まであとちょっとしかないけど」
高橋「よっしゃ」
高橋は気合を入れると、ヘラを手にした。
柏木「じゃああたしは他の子達に怪しまれないうちに、看守の部屋に戻りますね」
柏木が出て行くと、指原が見張りに付き、板野達は再び洗濯部屋に下りて行った。
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xイ _イヽ、 ヽ. |
〃 川 ヽ.ヾヾ. .|
リ ヽ.v|} .|
彡イ__ rェ'v' | 支援だ
彡彡〃二二、_>'卞》, |
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l´⌒>’`ゝ:;;ゝ f ゝ-'´`く:.:. i /'
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605 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 19:19:55.37 ID:viWbp3XB0
ツッパリ棒一つでそんなに簡単に移動できる構造なのかw
看守が脱出すればいいんじゃね?
607 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 19:34:20.34 ID:K2mk+Sfm0
608 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 19:35:58.52 ID:OPYLglfn0
つっぱり棒は万能さ キリ
609 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 19:36:14.22 ID:GCTuNRyO0
看守はここの何不自由ない生活が馴染んできてるって描写あったじゃまいか
610 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 19:44:23.90 ID:USzlO86S0
米ちゃんのツッパリ棒事件をまだ覚えているとはなかなか
611 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 19:55:39.47 ID:JKMjuKKiO
ゆきりそが脱走すれば
ちょっと外出てたらいつのまにかすごい進んでるw
613 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 20:01:04.82 ID:0pre9SMu0
ほんとに面白すぎるわ
支援
つか
>>1は女の人なんだね
ようやく追いついた
支援
615 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 20:35:18.51 ID:58HWYykmO
1です。
支援ありがとうございます。
まだ寝る前にちょこっと書くかもしれないけど、今日はひとまず終わりだと思います。
明日午前中バイトだから午後から再開します。
明日こそ完結できるように頑張る!
読んでくださってる方、ありがとうございました!
616 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 20:35:42.75 ID:OPYLglfn0
ハラハラするー
女の人なん?
617 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 20:44:38.94 ID:L0x67E6l0
618 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 21:00:08.70 ID:vMK7W7n/0
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,x彡 ミ{、{v、⌒ヽ、 __________
xイ _イヽ、 ヽ. |
〃 川 ヽ.ヾヾ. .|
リ ヽ.v|} .|
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620 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 21:26:20.80 ID:4d+ouxzN0
621 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 21:26:57.92 ID:g8qaou8M0
>>592 俺も同じことを思ってた
耳栓があるから平気と2回目に挑んだ人が酷い目にあって、
このままレベルアップするとしたら5回目ってどんなだよ、ガクブルという展開だと思ってた
たまにどこかに消えるはるごんはやっぱり何かを見つけてんのかね
623 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 21:30:40.50 ID:eot6BvTg0
624 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 21:52:24.57 ID:vMK7W7n/0
とりあえず看守組がクズすぎて疑う
>>1は看守組のメンバーに好きじゃないメン結構入れてるっぽいな
多田や峯岸なんてステマのレベルだと思う
面白いからいいけどw
625 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 22:05:17.55 ID:sLJhVjxeO
ちょっと看守に我慢してもらえばすぐ脱獄できると思うんだけど
626 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 22:08:36.55 ID:GCTuNRyO0
>>624 この人の作品偏りないと思うけどな寧ろ色んなメンのネタ把握しててすごいなって思う
今作協力してる米ちゃんは前作犯人だったしねw
627 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 22:10:00.70 ID:NQdCArze0
前田さんが頑張ってることに
高みなが気づいて居ないのが辛い(/ _ ; )
628 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 22:11:28.30 ID:0RV4Br+AO
>>624大場とかね…
優子達3人連れてきた時はイラッとしたw
629 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 22:12:44.99 ID:0DZQC5Tr0
ぽんこつぱるるにあと3回ヘマをさせ看守にばれない様に耳栓させて懲罰うけさせたほうが早くないか?
630 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 22:14:17.53 ID:OPYLglfn0
何気にはるきゃん好きなんだろうな
どこまでも自分を貫かせてる
631 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 22:14:32.78 ID:g8qaou8M0
>>625 ちゃんと読んでいないのはよくわかった
>>628 大場は何の問題もないだろ
洗濯物をやらせようと提案した多田、それを許した柏木
そして、翌日やってるってことはそれを許可した看守全員が問題だろ
竹内の傷がカギ・・・
633 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 22:31:17.22 ID:4d+ouxzN0
>>615 これは依頼なんですけど今までの作品をブログ解説して載せていただけないでしょうか…
ドラえもんの奴も読みました
634 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 22:57:19.47 ID:0RV4Br+AO
>>631いや悪くはないんだけどねw
>>大場「あれ?あたしなんかいけないことしました?」
>>
>>大場はけろりとした顔で、板野に視線を送った。
ってとこでちょっと、ね。
議論したい奴は終わってからまとめサイトのコメ欄でやってくれ
邪魔でしょうがない
というか、トリップがコロコロ変わるのはなんなの?
それのせいでレス読み飛ばしてしまってた
637 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 23:25:08.80 ID:pHtNl07+0
これってなんかの映画とかモデルになってる?
638 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 23:25:39.57 ID:L0x67E6l0
639 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 23:57:33.71 ID:Jik6FIhx0
作者さん寝たのか?
640 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 00:00:00.06 ID:1rp29tc/0
まゆゆ亜美菜部屋で癒されます
応援してます!
作者さんバイト頑張ってねー 続き楽しみにしてるよー
642 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 00:20:45.21 ID:/eUIhdVc0
>>635 保守保守言ってるだけでもつまんないだろーが
明日まで更新ないって言ってんのに
とゆーわけで保守
643 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 00:25:26.56 ID:ELFg/3Dz0
今までのも「AKB小説シリーズ」としてどっか保管してほしい
644 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 00:39:15.08 ID:XkQwqfhQ0
きたりえがあんまり出ないな妄想癖から新たな発想が出て来ないかな
645 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 00:46:35.19 ID:2lPSqMDi0
これはぽんこつの物語だ
とも〜みがいい役で嬉しい!
>>637 多分esって看守と囚人にわかれて実験する映画っぽい
脱獄のとことかは個人的にプリズンブレイクのイメージで読んでる
648 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 01:28:30.24 ID:SoJ00R650
ほしゅほしゅ
649 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 02:08:42.03 ID:/eUIhdVc0
ほしゅ
650 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 02:15:54.74 ID:jZwD6Jyu0
保寝る
651 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 02:18:25.12 ID:2dk9Cvj7O
>>636 前作くらいのスレで同じこと聞いたことあるけど、PC用と携帯用のトリップがあるみたいよ
保守ううぅうううぅぅぅぅ
保守
最高に楽しませてもらっているが、優子の萌乃ちゃん呼びとともちゃん呼びが気になる・・・
654 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 02:42:09.57 ID:FeHw9GmK0
やっと追い付いた
書き溜めしてくれてありがたいけど逃すと大変だなw
今回のすごい好きだ
今までだと特殊能力のやつ
明日が待ち遠しい保守
655 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 02:44:26.54 ID:SoJ00R650
続きが楽しみなのです
ほしゅが増え過ぎて次スレまで行くのを避けたいと予想
作者さん乙!
見取り図がうまく想像できないんだけど、厨房の隣に洗濯室があるってこと?
そしたら洗濯室の前にはゴミ捨て用のドアがあるのかな
わかる人教えて!
658 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 03:19:36.59 ID:VETBEOKT0
こまけえことはいいんだよ!
(画像略)
659 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 03:20:20.52 ID:FeHw9GmK0
>>657 地下に洗濯室と台所の部屋があって壁に穴開けて繋げようとしてるんじゃね?
660 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 04:13:34.84 ID:D7PnnFEM0
661 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 04:20:23.47 ID:/eUIhdVc0
ほしゅ
662 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 05:43:24.81 ID:DtICOK1QO
保守
663 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 06:09:48.96 ID:SoJ00R650
おりゃ!
ふむふむ
665 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 07:39:21.08 ID:8O3DHX6H0
一気に読んだ。メンバーの性格が良く出ていると思う。
666 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 08:00:11.45 ID:JYeWDmGaO
ほしゅ
667 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 08:01:18.82 ID:iAY6a/P70
jailbreakスレか
668 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 08:59:24.84 ID:ZZ2hxSeB0
ほしゅ
669 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 09:38:03.91 ID:SoJ00R650
悲しみの弾に撃ち抜かれ
670 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 09:55:34.37 ID:/eUIhdVc0
ほしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅ・・・・
671 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 11:14:31.72 ID:8N9k3yzu0
ほしゅ
672 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 12:01:30.44 ID:/eUIhdVc0
ほしゅしゅしゅしゅ・・・
看守が罰受けるときは部屋に明かりが付いてるんだよな?
なんで倉持は痣だらけになって出てきたんだ…
すまん、話の大筋とは関係なさそうだが気になった
674 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 12:28:20.20 ID:7yTKLA3u0
大音量の音楽をずっと聞かされてて眠れないのは一緒だからふらふらしてぶつかったんじゃないの
675 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 13:00:46.14 ID:ZBh0RrLK0
大島・秋元もう3日懲罰房入ってしかも平気らしいからあと2日我慢してくれないかな?
676 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 13:02:39.45 ID:ElPlyWyC0
>>675 その二人は三日入ったけど回数は一回とみなされてるんじゃないの?
677 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 13:06:37.28 ID:/eUIhdVc0
今日更新ないのか・・・?
風邪っぴきの俺にはこのスレが一番の薬なんだが
678 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 13:11:29.01 ID:938d7Uat0
懲罰房でヘッドフォン被せるため誰かがいるんだよね?
679 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 13:14:34.77 ID:61U0jH2U0
保守してくださった方ありがとうございます。
続き書きます。
680 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 13:15:42.80 ID:FeHw9GmK0
自由時間終了間際――。
指原「早く戻ってこないと点呼の時間になっちゃうよぉ…」
指原はそわそわと、監房の中を歩き回った。
直後、下から板野達が戻って来る。
大島「結構掘れたよ。最初の段階で壁を崩すのに手間取ったけど」
大島が泥に汚れた顔で、清々しく言う。
指原「うわぁぁ優子ちゃん顔拭いてください。もうすぐ点呼なのに」
指原は慌ててタオルを差し出した。
大島「ありがとう。あ、このタオル臭い」
指原「ひぃぃすみません」
指原が慌ててタオルを取り返そうとしていると、板野は深刻な顔でうつむいた。
秋元「…ともちん?」
板野「駄目だよ、全然駄目。掘る時間が少なすぎる」
秋元「今日はまぁ足場作ったり、道具調達したりいろいろあったからね」
板野「うん…でも、どうにかしてもっと穴を掘る時間を確保できないかな」
秋元「無理だよ。もうすぐ点呼だし、そうしたら自分の監房に戻らなきゃ」
板野「……」
板野は残念そうに目を伏せた。
その瞬間、思わぬ物が視線の先に映る。
――こ、これは…。
板野「さしここれ、ちょっと借りられないかな」
板野は机に置かれたICレコーダーを手に取ると、指原に訊いた。
昨夜、大家が指原に向けてメッセージ送ってきた時のものだ。
指原「たぶん大丈夫だと思いますけど…え?どうしたんですか?」
板野「うん、ちょっと考えがあるんだ」
板野はそう言うと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
点呼――。
増田「遥香ー?」
例によって行方不明の仲川を増田が必死に探す中、囚人達は1階の廊下に整列した。
板野は石田の隣に並び、様子を窺う。
仲谷「じゃあ点呼取っていきまーす」
仲谷の美しい声が通路に響く。
直後、列の前方が騒がしくなった。
増田「遥香がまだ来んのよ」
仲谷「えー?どうしましょう」
増田「悪い、もうちょっと待っててくれへん?どこの監房にも人がおらんかったら、さすがに遥香も点呼やって気付くはずやから」
仲谷「うん」
仲谷が優しく目じりを下げる。
板野は今がチャンスとばかりに、隣の石田に話しかけた。
板野「はるきゃん、ちょっと聞いてくれる?」
石田「はい、なんですか?」
石田はいつものクールな表情のまま答えた。
板野「あのさ、ちょっとお願いできるかな?これにあたしの声を吹き込んであるんだけど…」
石田「?」
石田はそこで初めて、板野のほうに顔を向けた。
そしてICレコーダーに気付き、訝しげに眉を寄せる。
石田「何すかそれ」
板野「これでもしもの時、あたしが監房にいるように偽装してほしいんだけど」
石田「は?もしもの時って…」
板野「あたしは今日、さしこの監房で寝る。だけどあたしが自分の監房にいないとマズいでしょ?」
石田「だったらなんでわざわざ囚人のルール破るんですか?」
板野「どうしてもやらなきゃいけないことがあるんだよ」
石田「?」
板野「お願いはるきゃん」
板野が頭を下げると、石田は何か言いたげに息を洩らした。
石田「……」
板野「……」
石田「……12時と3時には気をつけてください…」
しばらくして、石田がぽつりとこぼした。
板野「え?」
石田「前にれいにゃんから聞いたことがあったんです。看守は毎晩12時と3時に監房の前を歩いて、中にちゃんと囚人がいるか確認しています。さっしーの監房で寝るなら、その時間は身を隠したほうがいいです」
板野「はるきゃん…じゃあ…」
石田「別にともちんさんのためだけじゃないです。ただ、あたしはともちんさんが正しいことをしようとしてると信じてる。ともちんさんの目を見ればわかる。あたし、偽善は嫌いだけど、正しいことは…好きなんです」
石田はそう言うと、板野からICレコーダーを受け取り、ポケットに忍ばせた。
タイミングよく、仲谷が点呼に回ってくる。
どうやらいつの間にか、仲川も点呼の列に加わったらしい。
――これでまだ、穴堀りを進められる…。あとは明日の朝の点呼をゆきりんにやってもらえば、他の看守にバレずにあたしは自分の監房に戻れる…。
板野はそう考え、少し離れた場所に立つ大島へ視線を送った。
大島もまた、目配せをしてその視線に答える。
柏木への伝達は、大島が行う手はずになっていた。
午前12時、第13監房――。
石田「……」
浅い眠りから目覚め、石田はハッと息を呑んだ。
看守の足音が近づいてくる。
見回りの時間なのだ。
石田は枕の下からICレコーダーを引っ張り出すと、胸の前で握りしめた。
手探りで、再生ボタンの場所を確かめる。
――お願いだから、何事もなく過ぎて…。
しかし、石田の思いをよそに、看守の足音が監房の前で止まった。
こちらの様子を窺っているような気配が漂ってくる。
石田の胸は、緊張のため早鐘を打った。
――誰なの…?
布団を被り、寝たふりをしている石田からは、看守が誰なのか確認することができない。
やがて、ささやき声が石田の耳に届いた。
篠田「……寝てるの?」
――篠田さんだ…!
石田はさり気なく寝返りをうった。
篠田がふっと息を吐く音が聞こえてくる。
――お願い、早く行って…!
しかし篠田はまだ、その場にとどまっていた。
怪しいところなんて何もないはずだ。
板野のベッドは、人が寝ているように見えるよう、細工してある。
ぱっと見では、布団のふくらみに不自然な点などない。
篠田「…ともちん?」
篠田が再び、ささやき声を洩らす。
石田はそっと、再生ボタンを押した。
『…んっ…ふぅ…』
ICレコーダーから、板野のリアルな息遣いが流れた。
篠田「なんだ、寝てるのか」
篠田は納得したようで、次の監房へと移っていく。
布団の中で、石田は密かに安堵の息をついた。
一方その頃、第7監房では――。
指原「篠田さん行きましたから、もう出て来て大丈夫ですよ!」
指原は洗濯室に向かって声を落とした。
少しすると、手を泥だけにした板野が上がってくる。
指原「大丈夫ですか?今日はもうこの辺にして、そろそろ寝たほうが…」
いつもきれいなネイルアートで彩られていた板野の手が、今は見る影もない。
艶々の髪も乱れ、汗ばんでいた。
指原「明日になればまたみんなで穴堀りできますよ…」
指原は板野を休ませようと、早口で喋った。
しかし板野はそれを受け入れようとはしない。
板野「ごめんね、あともう少しだけ…」
指原「でも、今無理したらともちんさんの体が…」
板野「あたしなら大丈夫。こう見えて結構体力あるから」
指原「でも…」
690 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 13:23:45.28 ID:D7PnnFEM0
夕方ぐらいに更新すると書いてた気がする
板野は指原から目を離し、島崎のベッドを見やった。
そこには今、誰も寝ていない。
体調を崩した島崎は、いまだ看守の部屋の隣にあるスペースから出てこられないでいた。
板野「ぱるる…大丈夫かな…」
指原「え?ぱるるですか?」
板野「あたしはなるべく早く脱獄したいと思ってる。佐江ちゃんもそうだけど、ぱるるも…早くここから出してちゃんと病院で看てもらったほうがいいよ」
指原「そうですよね…」
板野「だからもうちょっとだけ頑張る!」
板野はそう言うと、再び地下へと降りていってしまった。
残された指原は、また監房内をうろうろと歩き回る。
――ぱるるもここにいてくれたら、一緒に脱獄できるのに…。
指原は祈るように、天井を仰いだ。
《17日目》
柏木「はぁ…面倒臭い…」
いくら宮澤のため、みんなのために脱獄に協力すると言っても、洗濯は苦痛だ。
柏木はため息まじりに洗濯機を操作した。
柏木「あ、あれ?動かない…」
しかし、日頃洗濯機に触れることすらしない生活を送っている柏木にとって、洗濯機は未知の機械。
なんとなく操作してみたけれど、まったく動いてくれない。
――どうしよう…。みんなにはあたしが洗濯するって宣言しちゃったのに…。
その時、背後でドアの開く音がして、誰かが洗濯部屋に入って来た。
片山「どうー?ちゃんとできた?」
柏木「あ、はーちゃん!ちょうど良かった、これどうやって動かしたらいいかな?」
柏木は天の助けとばかりに、片山へ泣きつく。
693 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 13:31:02.57 ID:/eUIhdVc0
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,x彡 ミ{、{v、⌒ヽ、 __________
xイ _イヽ、 ヽ. |
〃 川 ヽ.ヾヾ. .|
リ ヽ.v|} .| 待ってたぞ
彡イ__ rェ'v' |
彡彡〃二二、_>'卞》, | 支援だ
,xイ ,.x≦《tッ= 〕f‐〔テ.} 》 |
_,,x≦三ニ≡《__》" ヽrく \
__xチ'<,  ̄ ̄ f⌒ ,,.. }:. , // ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
l´⌒>’`ゝ:;;ゝ f ゝ-'´`く:.:. i /'
{ 仆i , :. ,xェュ,: |
. ∧ ゝム ',:. r''ニ二え |
∨ ゝ、_ >, ` ::: 、.|
\ { : 、.::.:.:.:.|
}川 : :.:. . ー'',r'
l「 ̄ ̄≧x、,_ :::::::::::/
/ `>x、x、,__ ,/|\
,.x'ー‐、 `ヽ、`>xく. ),. \ー-
,.rチ--、__>x、 ヽ \ |XXト、 \
 ̄ '`ー──} \XXXト、
___ ` 、 | \XX.ト、
 ̄  ̄ ' , \ \XX
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片山「スイッチ入れればいいんじゃない?」
柏木「スイッチってどこ?」
片山「わかんない。片山、二層式洗濯機なら使えるんだけど」
柏木「ちょっ、昭和?」
片山「?あぁもう、適当に押したら動くんじゃない?」
柏木「えぇー?」
柏木は信じられないものでも見るかのような目つきで、片山を見つめた。
片山は半笑いで肩をすくめている。
――はーちゃんに訊いたあたしが馬鹿だったわ…。この人、機械全般使えないのよ。
自分のことは棚に上げ、柏木が呆れていると、運良く中田がやって来て、手早く洗濯機を操作した。
695 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 13:34:19.49 ID:D7PnnFEM0
中田「もう2人して何やってんの」
柏木「ごめんなさい…」
中田「なんでゆきりん洗濯機触ったことないのに、突然洗濯係なんてかって出たの?」
中田が不思議そうに尋ねる。
柏木「あ、あ、えーっと…花嫁修業でもしようかなーっと…」
中田「ふぅん、先が思いやられるねぇ…」
中田はそれ以上の疑問を持つことなく、あっさりと納得した。
柏木はほっと安堵の息をつく。
片山「さ、今みんなでテニスゲームやってるから、ゆきりん次、片山と対戦しよっ!」
柏木「へぇー、はーちゃんコントローラーの使い方わかるんだ?」
3人で並んで洗濯部屋を後にする。
ドアを閉める時、柏木はふっと洗濯機のほうを振り返ってみた。
あの後ろに、外へと繋がる穴が隠されている…。
自由時間――。
『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第9監房の仲俣汐里さん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』
仲俣が懲罰房へ連れて行かれ、板野達の間に重苦しい空気が流れた。
しかし、落ち込んでいる時間はない。
今はとにかく、脱獄のための穴を完成させなければ。
大島「仲俣ちゃんは明日には戻ってくるし、一緒に脱獄はできるよ」
大島がみんなを励ます。
大島「萌乃ちゃん、仲俣ちゃんに耳栓届けてあげてくれる?」
仁藤「え?」
仁藤はびくりと肩を震わせ、視線を泳がせた。
板野「?」
仁藤「じ、実は…作った耳栓全部、壊れちゃったんです…」
高橋「えぇぇぇ?」
仁藤「夜なかなか寝付けない子とかに耳栓貸してあげてて、それで、昨日あきちゃが耳栓を握り締めて…粉々にしちゃったみたいで…」
指原「え?あきちゃ何してくれてんのよ」
大島「全滅?確かあたしと才加が使ってた他に、もう1組あったよね?」
仁藤「はい…。あ、たぶんあきちゃ本人はそんなに力入れたつもりはないと思うんだけど…」
大島「じゃあ仲俣ちゃんは…」
仁藤「…すみません…」
仁藤はしょんぼりと肩を落とした。
高橋「仕方ないよ。悪気があってしたことじゃないんだし」
仁藤「……」
板野「なかまったーには耐えてもらって、脱獄の時はみんなで支えになってあげようよ」
大島「うん、そうだね」
大島はそう言うと、するすると地下へ下りてしまった。
高橋「よし、あたし達も行こう」
高橋の声を合図に、残りのメンバーはそれぞれの道具を手に取った。
その夜遅く――。
島崎「指原さん、ご心配おかけしました」
監房に戻って来た島崎を見て、指原は思わず涙ぐんだ。
指原「ぱるる!もう体は大丈夫なの?無理してない?」
島崎に駆け寄り、セクハラのようにその細い体をベタベタと触る。
島崎は困ったように笑いながら、指原にされるがままになっていた。
指原「本当に心配したよ」
島崎「ごめんなさい…」
指原「でも良かった」
指原はそう言って笑顔になると、きょろきょろと辺りを見回した。
指原「えっと、看守は?ぱるる1人で戻って来たの?」
島崎「いえ、みなるんに連れて来てもらったんですけど、鍵を開けたらすぐ行っちゃいました」
指原「よし、じゃあ大丈夫かな」
島崎「?」
701 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 13:56:11.93 ID:/eUIhdVc0
702 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 14:00:56.21 ID:eufAaFg20
この作者さん今まで書いた作品ってどこかにまとめありますか?
703 :
◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 14:04:18.77 ID:bz+qZL1eO
>>701 たぶん大丈夫だと思います!
結構終わりが見えてきた
指原「実はぱるるがいなかった間に、なんとこの部屋から外へ脱獄できるようになりました!」
指原は妙なポーズを作ると、もったいぶった調子で発表した。
島崎「……」
しかし、喜ぶと思った島崎は無表情のままだ。
指原「え?ぱるる?」
島崎「あ、ごめんなさい。ちょっとびっくりしすぎて」
指原「良かった。指原はてっきり、ぱるるが嬉しすぎて魂抜けちゃったのかと思ったよ」
島崎「…はい」
指原「みんなでここから脱獄するんだよ」
島崎「みんなって…?どうやって脱獄するんですか?」
不思議そうに首を傾げる島崎に、指原は今までの経緯を説明する。
はじめは要領を得ない様子だった島崎も、次第に呑みこめてきたのか、笑顔を取り戻した。
島崎「いつですか?いつ脱獄するんですか?」
指原「それはねぇ…明日だよ!」
指原はVサインを作ると、にんまりと笑った。
《18日目》
米沢「ともちん、これ…」
夕食の配膳時、米沢がこっそり差し出したのは包丁だった。
板野「え?これ何?」
板野は驚いて、思わず身を引いた。
米沢「あ、ごめん。これ、持っててほしいんだ」
板野「どうして?」
米沢「ここから外へ出られたとしても、その先にどんな危険があるかわからないでしょ?もしもの時のために、身を守るものを持っていたほうがいいと思って」
米沢はなぜか言い聞かせるように説明した。
板野がおそろく、包丁をすぐには受け取らないであろうことはわかっている。
しかし、米沢はどうしても持って行ってほしかった。
脱獄に協力したはいいが、その結果、外に出た板野達が危ない目に遭ったのでは、やりきれない。
一度は自分がきちんとドアにストッパーをしておかなかったために脱獄が失敗し、大島と秋元が懲罰房へ入れられるという事が起きたのだ。
米沢はこの時、自分を激しく責めた。
もう二度と、あんな思いはしたくない。
板野「こんなの…持ってられないよ」
板野はやはり、困ったように包丁を突き返す。
しかし米沢は諦めなかった。
米沢「瑠美は一緒に脱獄できない。だったらこれを、瑠美の代わりに持って行ってほしいの。そうすることで、みんなと一緒に行動している気になれる。お願い、ともちん」
米沢の必死の懇願に、渋々板野は包丁を受け取った。
板野「でも…なんであたしなの?優子とか才加のほうが…」
米沢「ううん、ともちんのほうがいい。ともちんはきっと、これをうまく使うよ。自分のためじゃなく、みんなを守るために使うよ。瑠美、そう信じてる」
板野「米ちゃん…」
米沢の言葉に、板野は責任を感じながら包丁を見つめる。
確かに、手ブラで脱獄するよりは、いざという時安心な気がした。
米沢への感謝の気持ちをこめて、板野は包丁をそっと枕の下に隠す。
米沢「で?いつ決行?」
板野「今日だよ」
米沢「頑張ってね。ともーみちゃん達ももう疲れが限界なんだ。早くここから解放してあげて」
板野「うん」
板野は強い目で、米沢を見つめた。
――絶対に今度こそ、脱獄してみせる…。
自由時間――。
板野「用意はいい?」
板野は第7監房に集まった面々を見渡回し、確かめるように問いかけた。
一同が思い思いに頷きを返す。
仲俣「…あっ…」
しかし仲俣は、ふらつく体を支えきれずに、秋元に倒れ掛かった。
秋元「ちょっ、大丈夫?」
仲俣「すみません…でもあたしやっぱり…」
大島「耳をやられてるんだね?」
仲俣「はい…」
仲俣が力なく頷く。
それから、決めていたことを打ち明けた。
仲俣「あたしやっぱり、ここに残ります」
板野「え?」
高橋「大丈夫だよ。あたし達がサポートするから、一緒に逃げよう。ここまで一緒に頑張ってきたじゃない!」
仲俣「…いいえ…。あたしはやっぱり、皆さんの足手まといにはなりたくないんです」
仁藤「そんな足手まといだなんて…」
仲俣「それに、あたし懲罰房の中で考えてきたんです。宮澤さんもこの脱獄計画の仲間ですよね?でも体があんなで…皆さんと一緒には逃げられない」
仲俣「だったらあたしもここに残ります。残って、皆さんがいなくなって不安な宮澤さんの、力になりたいんです」
板野「なかまったー…」
仲俣「いいですよね?これで。一緒に逃げないからといって、あたしは変わらず、皆さんの仲間だと思ってます」
仲俣はいつになく強い口調でそう言うと、涙ぐみながら懸命に顔を上げていた。
そんな仲俣の肩を、秋元が力強く叩く。
痛くないといえば嘘になるが、仲俣はぎゅっと歯を食いしばり耐えた。
710 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 14:12:32.87 ID:/eUIhdVc0
>>1 把握。楽しく読ませてもらってるよー
>>702 まとめんばーに20世紀少年のはあったと思った
711 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 14:14:27.73 ID:/eUIhdVc0
このアンカの付け方おかしいね・・・失礼;
秋元「わかったよ。じゃあ佐江ちゃんを…頼んだよ」
仲俣「はい…」
板野「じゃあ…そろそろ行こうか…」
宮澤と仲俣を残していくことに後ろ髪を引かれながら、板野がそっと切り出した。
高橋「うん!」
小嶋「はーい」
こうして板野、高橋、大島、秋元、小嶋、渡辺、指原、仁藤、島崎の9人は、地下へと降りて行った。
上の監房では、やはり大家と亜美が光が通るよう計らってくれている。
米沢と柏木の協力もあって、ここまでこぎつけることができた。
たくさんのメンバーに支えられながら、一同は外を目指す。
一方その頃、厨房では――。
河西「なんか…ずいぶんすっきりしちゃったね…」
河西は呆然とした表情で、厨房を見渡した。
竹内もその隣で、傷だらけの手を擦りながら、困惑している。
米沢「ごめん、このほうが使いやすいかと思って」
河西「うん、あたしも衛生的にはこのほうがいいと思うけど…」
河西は遠慮がちにそう言った。
なんとなく、少し前から米沢が厨房の模様替えしていることは知っていた。
以前は上から吊るされていた調理器具が引き出しに詰め込まれていたり、鍋がシンクの下に仕舞われていたり。
ほこりや油が飛ばないので衛生的であることに間違いはないが、なんとなく、すぐ手の届くところに物が置かれていないのは、寂しい感じがする。
――それに、前より調理器具の数が減ったような気がするんだよね…。気のせいかな…。
河西は引き出しの中を覗いて、首をかしげた。
篠田「あ、良かった。まだ洗い物間に合う?このお皿、夕食の時に下げ忘れちゃって…」
その時、篠田が厨房の中に入って来た。
手に数枚の皿を乗せている。
河西「あ、うん、大丈夫だよ」
河西は慌てて引き出しを元に戻すと、篠田へ駆け寄った。
篠田は皿を手にしたまま、驚いたように厨房を見回している。
篠田「びっくりした…厨房、模様替えしたんだね」
河西「うん、米ちゃんがいろいろ片付けてくれて…」
篠田「すごいじゃん!今度陽菜の部屋も片付けてあげてよ」
米沢「あはは、それは瑠美でも無理です」
篠田「だよねぇ…」
715 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 14:20:38.52 ID:VETBEOKT0
この作者実は米沢推しでしょ
同じ米沢推しの俺にはわかる
それから篠田は少しの間料理係と雑談を交わし、看守の部屋へ戻っていった。
――今頃はみんな、脱獄している頃かな…。
篠田が出て行った後、米沢はみんなの成功を願いながら、皿を洗う。
竹内「あ、米沢さん、ごみ捨ての時間までにごみまとめちゃいましょうか?」
米沢「うん、お願い」
この厨房で作業をするのもあと少しだ。
もうすぐ、自分達はこの監禁生活から解放される…。
河西「……」
そして、どこか思いつめた様子の米沢の姿を、河西は無表情に見つめている。
一方篠田は――。
篠田「なんか…嫌な予感がする…」
厨房を出た篠田は、ひとり通路を歩きながら、考えた。
――何か引っかかる…。ここのところ、ちょっとおかしなことが続いてるし…。
ただの偶然かもしれない。
そう思ったけれど、篠田の不安は消えることがなかった。
妙に片付いた厨房の様子。
確か、前に来た時はつっぱり棒から調理器具を吊るしてあったはずなのに。
――それから気になるのはゆきりんの変化…。
今になって急に、柏木が洗濯係を買って出たのはどうしてだろう…。
洗濯物を畳むのでさえ、あれほど面倒臭がっていたのに…。
――そしてこれは、気のせいだといいんだけど…。
支援
篠田の頭に残るのは、一昨日の深夜に聞いた板野の声だった。
深夜の見回りをしていた時、なんとなく第13監房に違和感を持った。
だから、監房の中で眠る板野に声をかけてみた。
そしてあの時、返ってきた板野の声に、不自然さを感じた。
――あれは間違いなくともちんの声…。でも、なんでだろう?あの声は…。
そう、生々しさがなかったのだ。
睡眠を中断させられた人間特有の無防備な感覚が、板野の返事にはなかった。
あれはまるで、あらかじめ用意されていたかのような声。
これは確信ではなく、ただの勘にすぎないが、本当はあの時――。
篠田「ともちんは監房の中にいなかった…?」
口に出してみると、途端に現実味を帯びて響くのはどうしてだろう。
篠田はますます、自分の考えが当たっているような気がしてきた。
そう、あの時板野は監房の中にいなかったのだ。
あれはたぶん、石田が何かの方法で、板野が監房に中にいると細工したのだろう。
だとしたら、板野は一昨日の晩、どこにいたのか――?
篠田「まさか…」
篠田は呟いた直後、床を蹴った。
看守達のもとへ走り出す。
720 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 14:33:18.94 ID:7WR+ue5a0
テストあるのについ見ちゃうよ…
篠田さん勘いいな
一方その頃、板野達は――。
板野「全員いるよね?」
洗濯部屋にたどり着くと、板野は小声になり、仲間達の顔を確認した。
一同は神妙な面持ちで頷く。
秋元「……」
秋元が無言で洗濯機をずらし始めた。
その様子を見守りながら、板野はごくりと唾を呑む。
――いよいよだ…。外へ出られるんだ、あたし達…。
洗濯機の裏には外へと続く穴が、自分達を待ち構えてくれている。
みんなで協力し、必死に掘った穴。
看守達に気づかれないよう一心不乱に掘った穴。
ネイルが剥がれることも、爪の間に泥が入ることも、髪が乱れることも気にせず、ただただここから解放されることを夢見て掘った。
それが必ず、自由に繋がっていると信じて――。
高橋は弱気になる自分を何度も奮い立たせ、リボンが汚れることも厭わなかった。
大島は小柄な体をうまく使い、狭かった穴に身を入れてどんどん拡大してくれた。
秋元は硬く歯が立たなかった壁を最初に壊し、その後の作業をやりやすくしてくれた。
渡辺は前髪が崩れることすら忘れて、文句も言わずひたすら穴を掘り進めてくれた。
小嶋は特にこれといって活躍してくれなかったが、傍にいてくれるだけで場を和ませた。
仁藤も指原も、本当に良くやってくれたと思う。
そして宮澤のために残ることを決めた仲俣の勇気と思いやり。
一度は脱獄を決意し、失敗したにもかかわらず、希望を捨てず計画に乗ってくれた島崎。
――必ずみんなで脱獄して、助けを呼びに行ってみせる。
板野は緊張と仲間への感謝で、胸の詰まる思いだった。
面白いな
さる避け?なのか
トリ2つあるからID抽出で見てると多少面倒だけど
頑張ってくれ
724 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 14:39:58.32 ID:eufAaFg20
小嶋は活躍しなかったwシュールw
大島「才加、早く」
大島が待ちきれない様子で、秋元を急かす。
一同は期待に胸躍らせ、秋元が洗濯機をずらすのを見つめた。
秋元「それなら優子も手伝ってよ…えぇぇ?」
その時、秋元が驚愕の声を洩らす。
板野「どうしたの?」
板野は秋元に駆け寄った。
秋元「なんで…」
秋元の背中越しに、板野はそれを見る。
信じられなかった。
自分の目を疑うという経験を本当にすることになるとは、思ってもみなかった。
秋元がずらした洗濯機。
その向こうにあるはずのもの。
みんなで掘った自由への扉。
だけど――。
板野「どうして…」
そこに穴はなかった。
壁は塗り直され、完全に穴が塞がれていた。
高橋「えぇぇ?なんで?なんでないの?昨日までは確かにここに…」
高橋が震える声でささやく。
秋元「塗り直されてる…てことは、誰かに穴の存在を気付かれたんだ」
指原「でも洗濯はずっとゆきりんがやってくれてたみたいだし、看守は気付きようがないですよ」
渡辺「うん」
島崎「わたし達…これからどうするんですか…?」
島崎が不安げに先輩達の顔を見る。
小嶋「ゆきりんが裏切ったんじゃないの?」
渡辺「そんなことないよ!ゆきりんは絶対そういうことしないよ!」
高橋「確かに…まゆゆの言うとおりだ」
大島「うん、それはない」
仁藤「ていうか穴が塞がれてるってことは、脱獄もバレてたってことですよね?だったらあたし達ここにいるのまずくないですか?」
仁藤が冷静に指摘したその時、管から何か落ちて来た。
仁藤「え?」
板野はそれを拾い上げる。
小さな紙が折りたたまれている。
広げると、そこにはこう書かれていた。
『緊急の点呼がある。すぐに戻って』
板野「点呼って…なんでこんな時間に?まだ自由時間の最中なのに…」
それは様子を見ていた大家と亜美からのメッセージだった。
紙を持つ板野の手が震える。
大島「とにかく戻ろう!早く!」
大島はそう言うが早いか、島崎の手を引っ張り、管を登らせた。
島崎はのろのろと第7監房に戻り始める。
高橋「急いで!」
島崎「はい…すみません…」
島崎のにぶい動きに苛立ちを覚えつつ、一同は点呼までに整列するため、来た道を急いだ。
729 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 14:48:34.98 ID:/eUIhdVc0
ユダは誰だー
wktk
1階通路――。
篠田「これから点呼をはじめます」
篠田は通路に整列した囚人達に向かって、そう宣言した。
仲川「なんで今から点呼なのー?遥香びっくりしちゃったよー」
仲川が無邪気に質問すると、篠田は困ったように苦笑いを浮かべた。
篠田「今日は看守がみんな具合悪いみたいでね、早めに寝かせてあげたいから、いつもより早く点呼を済ませちゃうことにしたんだ」
仲川「えー?大丈夫なの?誰?誰が具合悪いの?遥香お見舞い行ってもいい?」
篠田「駄目だよはるごん、看守の部屋にはるごんは入れないんだよ」
仲川「えー?」
篠田の答えに、仲川は不満そうに口を尖らせた。
仲川「看守の子とは遊べないし、お菓子も自由に食べられないし…もうやだこんなの…」
ぶつくさと言いはじめた仲川を、増田がてきぱきと慰める。
増田「もうちょい我慢したら、みんなでここから出られるんやから…」
仲川「はーい」
仲川が黙ったところで、篠田は点呼を開始した。
いつもは、ざっと人数を数えるだけだが、今日は1人1人顔を確認していく。
――まさかとは思うけど、誰か脱獄してるなんてことないよね…?
しかし、囚人の列を見る限り、なんだかいつもより短いようが気がする。
篠田「はい、ぱるるは…いるね」
島崎「はい」
篠田「で、次は…え?もう終わり?え?待って8人足りない…」
気がついた途端、篠田の背すじに冷たいものが走った。
――どうして足りないの…?まさか本当に…。
自分の勘は当たってしまったのだろうか。
篠田「陽菜がいない。それに優子とみなみ…え?8人は一体どこに?」
篠田は柄にもなく焦り、囚人の列をもう一度確認した。
やはり8人足りない。
篠田「誰か、8人がどこに行ったか知らない?」
囚人達に呼びかけるも、みんな困惑した表情で互いに視線を合わせるだけだ。
その中で、仲俣はびくびくと動向を窺っていた。
――大島さん達…今はどこにいるの?なんでぱるるだけ戻って来てるんだろう…。
助けを求めるように、大家と亜美のほうを見る。
2人は仲俣の視線を受け、わからないとでも言うように、無言で首を振った。
――どうしよう…何かうまい言い訳を考えなきゃ…。この場をうまく治めないと…。
仲俣が必死に頭を働かせはじめた時だった。
733 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 14:58:38.73 ID:I20fHm3n0
あーーー気になる
支援
大島「ごめんごめん、すぐ見つかると思ったんだけど」
大島が照れたような笑いを浮かべ、亜美菜の背後から顔を覗かせた。
篠田「え?優子、隠れてたの?」
大島「ごめん、ちょっと麻里子をからかってみた」
篠田「もう、やめてよー。あれ?でも陽菜は?」
篠田はわざと怒った表情を作り、大島を見た。
それから気がついたように、辺りを見回す。
小嶋「麻里ちゃん残念、あたしはここだよー」
小嶋は横山の背後から、ふっと頭を出した。
小嶋に続き、さっきまで点呼の取れなかった囚人達が、次々と顔を覗かせる。
篠田「まさかみんなして隠れてたの?」
高橋「そ、そうだよ!麻里子全然気付かないんだもん」
高橋が焦ったように言う。
額は脂汗でてかてかに光っていた。
篠田はそんな高橋を疑わしそうに一瞥したが、特に何も指摘しなかった。
篠田「まぁいいや。これで全員点呼取れたし。でもこれからはこんなことやめてねー。あたしてっきり8人が脱獄したのかと思ってびびっちゃったじゃん」
指原「だ、脱獄なんてそんな、あ、するわけないじゃないすか!ねぇ萌乃ちゃん」
仁藤「うんうん」
篠田「本当なの?萌乃ちゃん」
仁藤「え?あ、はい」
――もう、何で篠田さんあたしにばっかり突っかかるんだろう…。
篠田「信じていいよね?じゃあ今日はちょっと早いけど、もう監房に戻ってくれる?ごめんね」
篠田はそう言うと、申し訳なさそうに監房のほうを手で示した。
囚人達はぞろぞろと、それぞれの監房へ戻っていく。
――麻里子、何か気付いたみたいだけど、とりあえずは疑われなくて良かった。
板野は監房へ向かって歩きながら、ほっと胸を撫で下ろした。
直後、誰かに二の腕を突つかれる。
板野「?」
そちらの顔を向けると、仲川が人懐こい笑顔を浮かべて立っていた。
736 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:00:43.64 ID:/yrini2q0
ユダはぱるるとみた
板野「ん?」
仲川「ねぇねぇさっきのかくれんぼ?遥香もかくれんぼやりたい!」
板野「うん、今度一緒にしよう」
仲川「わーい。麻里ちゃんびっくりしてたよねー?」
板野「そ、そうだね…」
仲川は可愛いいけれど、今はそのお喋りに付き合っている余裕がない。
板野は早く監房に戻って、作戦を練り直したかった。
板野「あ、はるごん?なんかゴミついてるよ」
板野はそこで気がついて、仲川の服についたゴミを取ってやった。
仲川「あ、ありがとー」
そのまま床に落としてしまうこともできたが、どんな時でもポイ捨ては許せない板野である。
少し迷ったが、そのゴミをポケットに仕舞った。
仲川「あ、有華待ってよー」
運良くそこで仲川が増田のもとへ走り出したので、板野はその隙に自分の監房へ戻ることができた。
《19日目》
第13監房――。
板野「どうして穴が塞がれてたんだろう…」
自由時間を迎え、第13監房に集まった面々は、昨日のことについて話し合った。
大島「塞がれていたってことは、誰かに穴の存在を気付かれたってこと…だよね?」
秋元「でもあれから看守が洗濯機の裏の穴について何か訊いてきたりとか、ないよね?」
高橋「看守は気付いてないの?」
板野「ううん、もしかしたら、気付いていてあえて何も言ってこないのかもしれない。今はきっと、誰があの穴を掘ったのか探っているんだと思う」
指原「犯人探しですか?」
板野「うん。大丈夫だと思うけど、もし看守から何か訊かれたとしても、脱獄がバレるようなことは言わないでね」
仁藤「はい」
仲俣「わかってます」
昨日より耳の調子の良くなった仲俣が、真剣な眼差しで頷いた。
仲俣「これから、どうするんです?」
739 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:04:24.16 ID:/eUIhdVc0
そろそろ各フラグの回収期かねー
あれとこれと、それがどーなるか
みんなこーやってwkwk読んでるんだろうなぁw
板野「またあそこに穴を掘るのは危険すぎる。違う道を探すしかないよね」
渡辺「あ、見取り図持ってきたよ」
渡辺は慌てて、折りたたまれたスケッチブックのページをみんなの前に広げた。
それからしばらく、一同は見取り図を前に、頭を悩ませた。
洗濯部屋から出る方法が消えた今、残された道はどこにあるのか――。
板野「難しいねぇ…」
板野はため息をついた。
みんな真剣な顔で、それぞれ考えを巡らせている。
そんな中、小嶋だけは呑気に、隣に座る指原にちょっかいを出していた。
指原「痛いですよ小嶋さん、やめてくださいよーもぉぉ」
小嶋「アハハ、さっしー変な顔になってる」
指原「もぉなんでわざわざ痣のあるところ押すんですかぁ」
小嶋「だってさっしーのリアクション面白いんだもん」
小嶋はにやにやと笑いながら、指原の腕についた痣を押している。
そのせいで指原は考えに集中することができない。
大島「ちょっとにゃんにゃんやめなよ。指原痛がってるじゃん」
大島は指原に対して嫉妬にも似た気持ちを抱きながら、小嶋をたしなめた。
板野「さしこその痣、昨日管を通る時についたの?それとも穴堀りの時?」
板野は指原の腕を見て、眉をひそめる。
痣とはいえ、昨日失敗した脱獄計画でもし怪我でもしていたのなら、なんだかやりきれない。
ここ数日の頑張りが、昨日ですべて無駄になってしまったのだ。
指原「あ、これはほら、前に懲罰房に入れられた時についたんです」
渡辺「あぁ、懲罰房の中真っ暗だもんね…右も左もわかんない」
仲俣「本当に…怖かったです…」
板野「そういえばもっちぃも前に、懲罰房の中でぶつけたとか言って、足に痣作ってたなぁ」
板野は倉持の言葉をぼんやり思い出した。
指原「え?もっちぃ電気点いてるのに?」
指原が笑いをこらえた顔で問いかける。
指原「意外に抜けてるんだなー」
秋元「そこが可愛いんじゃない?」
指原「そうですよねー」
仁藤「あときれいな顔して中身は変態ってとことか」
指原「ギャップ萌えだ」
仁藤「?」
指原の周りで無駄話が広がる中、板野はふと気がついた。
742 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:07:15.50 ID:/yrini2q0
ドキがムネムネしてる
もう全員が疑わしい
ごんも疑わしい
板野「ねぇなんでもっちぃだけ電気点いてるの?」
指原「え?看守だからじゃないですか?前に梅田さんが懲罰房入れられた時も、1つだけ懲罰房から明かりが洩れてたんで」
高橋「そっか、指原の監房からは懲罰房のドアが見えるんだった」
指原「はい、そうなんです。もっちぃの時も梅田さんの時も、1つの懲罰房から明かりが洩れてるのが見えて…」
小嶋「あー、なんかそれずるいねー。看守だけ暗闇じゃないなんて。優子達も懲罰房に入れられた時、真っ暗だったんだよね?」
大島「うん。そうだよ。いいよねにゃんにゃんは、結局まだ懲罰房に入れられてないじゃん」
小嶋「いいでしょー?」
それからひとしきり看守と囚人の不公平さについて話した。
やはり、ここから早く脱獄しないと、不満が募る一方だ。
しかし、気持ちばかりが焦って、なかなか次の脱獄方法を思いつけない。
お互い言葉には出さないものの、やはり一同には昨日の失敗のショックが響いていた。
板野「……」
板野は気分を変えようと、一度見取り図から目を離した。
立ち上がり、両手をポケットに突っ込むと、その場をぐるぐると歩き回る。
体を動かしながらのほうが、考えに集中できる気がした。
しかし、思うようにアイディアは浮かんでこない。
板野「…痛っ…!」
その時、指先に何かが触れた。
高橋「?どうした?」
板野「これ…」
板野はそっとポケットから手を抜き出す。
その手には、ぎざぎざとした種子があった。
板野「なんだろこれ」
そう言ってから、板野は思い出す。
昨日仲川の服についていたゴミだ。
結局ポケットに入れたまま、捨て忘れていたのだった。
小嶋「なーに?それ」
板野「わかんない」
小嶋「えー?なんか気持ち悪いー!」
小嶋が笑いながら言う。
その隣で、大島がふいと眉を上げた。
大島「あ、それオナモミだよー。懐かしー」
板野「オナモミ?」
大島「うん、ほらよく草むらを歩くと、服とか靴下に付いたりしなかった?くっつき虫とか言って、小さい頃友達と投げ合ったりしたなぁ」
小嶋「ねぇそれ貸してー?」
小嶋が無邪気に板野に向かって手を差し出す。
板野「え?気持ち悪いんじゃなかったの?」
小嶋「うん。でも面白そうだからさっしーに向かって投げてみる。サプライズー」
指原「小嶋さんそれ、予告しちゃってますから!サプライズじゃないですから!」
小嶋「?ねぇともちん、それもう1個ないの?」
指原「ひぃぃ」
板野「え?もう1個?ちょっと待ってね…」
板野はもう一度ポケットに手を突っ込み、中を探った。
板野「えーっと、あ、これ!は…違うし…。もうないよ」
小嶋「えー?そうなの?」
高橋「あれ?それ何?」
高橋は板野がたった今ポケットから取り出した紙に気がついた。
板野「あぁこれ?昨日しいちゃんと亜美ちゃんが点呼があるよって知らせてくれた時の紙。ポケットに入れたままだった」
高橋「よく見たらそれ、ぷっちょの包み紙じゃん」
板野「あ、ほんとだ。どうしたんだろ?」
板野は見慣れたその包み紙をもう一度広げ、しげしげと眺めた。
指原が気がついて、目を見開く。
指原「あぁそれそれ!たぶんそれ指原のです」
板野「あ、さしこのだったんだ?」
指原「たぶんしいちゃん達、指原の監房からその紙を落としたんじゃないですかね?咄嗟に目に付いて、メモ用紙代わりに使ったのかな?」
板野「へぇ」
指原「あ!」
板野「?何?」
指原「そういえばそれ、もともとは横山が懲罰房の中で拾ったんですよ」
大島「え?懲罰房の中でぷっちょ食べた人いるの?すごくない?」
秋元「さすがに懲罰房の中でそんな余裕はないよね」
仲俣「はい」
小嶋「えー?誰だろう気になるー」
小嶋が間延びした声を上げた瞬間だった。
板野「まさか…」
そして板野は、小嶋の持っている種子を見つめる。
――どうして今まで気付かなかったんだろう…。
748 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:15:21.87 ID:hK+8st5t0
はるごん大活躍の予感!
749 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:15:53.65 ID:bMn6QSR10
はるごん...
板野の頭の中に、これまでの記憶が蘇る。
監禁初日から今日までのこと。
そう、よく考えてみれば、初日からあの人の行動はおかしかった。
そして監禁生活の最初の頃、元気のなかった仲川が、ある時急に明るさを取り戻した。
――今まであたしが目にしたこと、聞いたこと…。
1つの事柄だけを見ているうちは、真実に気付くことはできない。
すべてを重ね合わせて考えた時、それはようやく形となって現れる。
そう、これまで起こった出来事は、ほんの些細なことまですべて無駄ではないのだ。
それらはすべて、板野に重大なヒントを与えてくれていたのだった。
懲罰房のシステム、耳にダメージを受ける囚人達、看守に低周波が流れる条件、島田達が起こした脱獄劇、第7監房の壁の向こうにある、洗濯用の管――。
板野「あ、あたしちょっと行ってくる!」
板野はそう言うが早いか、監房を飛び出した。
高橋「あ、待ってともちん、どこ行くの?」
高橋の声さえ、今の板野には届かない。
板野はある人物に会うため、全速力で走った。
第1監房――。
岩佐「あ、ともちんさん!」
板野が顔を出すと、岩佐が嬉しそうに立ち上がった。
岩佐「どうしたんですか?」
笑顔で尋ねる岩佐を無視して、板野はある人物の前に向かう。
仲川「ともちんだー!」
仲川は鈴木の膝の上に座り、はしゃぎ声を上げた。
板野「はるごん…なんか靴、汚れてるよ」
仲川「あ、ほんとだ」
鈴木紫「あ、こっち座りますか?」
鈴木が気を遣い、ベッドを指し示した。
しかし今の板野の耳に、鈴木の声は入らない。
板野「……」
鈴木紫「?」
仲川「ともちんどうしたのー?怖い顔して」
仲川が尋ねる。
板野は一度唾を呑むと、ゆっくりと口を開いた。
板野「ねぇはるごん?はるごんは…一体どこから外に出てるの?」
C
754 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:28:16.10 ID:Yz3CTBYj0
はるごおおおおん!!
755 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:34:34.65 ID:mDXh5VIQO
じらさないでくれ!
756 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:36:11.50 ID:8pLrMTbZ0
+ +
∧_∧ +
(0゜・∀・) ワクワクテカテカ
(0゜∪ ∪ +
と__)__) +
757 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:36:16.92 ID:/yrini2q0
うおおおおおおおおおおおおおおおおおお
758 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:38:30.81 ID:/eUIhdVc0
バン バン
.. ノノハヽ
バン ∩o・ο・) 続きはよ
/_ミつ / ̄ ̄ ̄/__
\/___/
バンバンバンバンバンバンバンバン
.バン ノノハヽ バンバンバンバンバン
バンバン∩o・ο・) はよ はよ
/_ミつ / ̄ ̄ ̄/__
\/___/
ドゴォォォォン!!
; ' ;
\,,(' ⌒`;;)
(;; (´・:;⌒)/
ノノハヽ (;. (´⌒` ,;) ) ’
Σノノ;・ο・)((´:,(’ ,; ;'),`
⊂ ⊂ / ̄ ̄ ̄/__
\/___/
うおおおぉぉぉ!!! また新しい展開!!!
760 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:44:43.58 ID:Uix4HU0K0
これからどうなるんだあああああ
761 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:46:55.18 ID:/yrini2q0
このタイミングで焦らすなんてやりおる
762 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:50:18.33 ID:59mGVtEi0
はるごおおおおおおおおおおん
763 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:50:51.79 ID:mX3gniDG0
はるごんw
《20日目》
篠田「なんか嫌な予感がする…」
看守の部屋で、篠田はむっつりとソファに座り、腕組みをしながら言った。
前田「?」
前田が不思議そうに首をかしげ、篠田の言葉を待つ。
峯岸「なぁに?それ…」
待ちきれなくなった峯岸が問いかけると、篠田は少し苛立った様子で説明した。
篠田「勘…かな?なんだかすごく嫌な予感がするんだよ。もしかしたら、何か悪いことが起きているかもしれない」
峯岸「悪いことって?」
篠田「囚人が脱獄するってこと」
前田「そんなの起きたらまた低周波が流されちゃうよー」
峯岸「でも今のところなんともないし、麻里子の考えすぎじゃない?」
篠田「うん、でも一応確かめておいたほうがいいと思う。行こう」
篠田はそう言うと、立ち上がった。
ドアのほうへ歩いていく。
前田「ちょっと待って、行くって麻里子、どこへ?」
前田がちょこまかと追いかける。
峯岸「また一昨日みたいに点呼取るの?結局あれも麻里子の考えすぎで、実際は何もなかったじゃん」
峯岸は不満げに口を尖らせた。
それでもやはり置いてけぼりをくらうのが嫌なのか、後ろをついてくる。
篠田「ううん、違うよ。行くのは洗濯部屋」
前田「なんでー?何かあるの?」
篠田「うん、ちょっとね…」
前田は篠田の意味深な発言に不安を覚えながらも、一緒に看守の部屋を後にした。
3人が出て行くのを、柏木は無言で見送っている。
766 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:55:59.48 ID:Yz3CTBYj0
洗濯部屋――。
前田「中に何かあるの?」
洗濯部屋の前まで来ると、前田はもう一度篠田に問いかけた。
篠田「うん、たぶん。あっちゃん、中を確認してみて」
前田「?わかった」
前田は状況を掴めぬまま、言われた通りドアノブに手をかける。
しかし――。
前田「あれ?開かないよ…」
ドアノブが回らない。
前田は焦ったようにドアを押したり引いたりしてみる。
だが、ドアはびくともしなかった。
峯岸「代わって、あたしがやってみる」
前田を押しのけ、峯岸が前に出る。
しかし同じことをしてみても、ドアが開く気配はない。
峯岸「鍵がかかってるのかな?」
峯岸はすぐに諦め、困ったように前田と篠田の顔を覗き込んだ。
その時だった。
大島「早くしてよ才加」
秋元「ちょっ、焦らせないでよ」
板野「でも早くしないと看守に見つかっちゃうんだけど」
高橋「あたしも手伝うから…」
ドアの向こうから、4人の声が洩れ聞こえてくる。
前田「なんで…?」
囚人は洗濯部屋に入れないはずだ。
しかし中からは4人の声がする。
――一体何が起きてるの…?
そこで前田は気がついた。
鍵をかけたのは、4人かもしれない。
どうやって入ったのかわからないが、鍵を閉めて中でこそこそ話しているということは――。
前田「脱獄しようとしてる?」
前田が呟いたまさにその瞬間、5人目の声が耳に届いた。
小嶋「ねぇー?やっぱり脱獄なんて無理なんじゃない?」
小嶋の声だ。
前田「なんでにゃんにゃん…脱獄って?」
峯岸「たかみなと優子、それにともちんと才加もいる…!」
前田「そんな…駄目だよ…ねぇみんな、ここを開けて!」
前田はすぐにドアへ飛びつき、激しく叩いた。
遅れて峯岸も、前田と同じ行動をする。
しかし、いくら呼びかけても、5人は答えない。
前田「どうしよう…脱獄するって言ってたみたいだけど…」
困り果てた前田は、助けを求めるように篠田を見上げた。
篠田はすでに、鍵束を手にしている。
篠田「開けよう。すぐに捕まえなきゃ」
篠田は素早く鍵を鍵穴に差し込んだ。
カチャリと小さな音が、開錠を知らせる。
篠田「そこまでだよ!」
篠田は声を張り上げながら、勢い良くドアを開いた。
前田「たかみなー?」
前田もその後ろから部屋の中へ駆け込む。
前田「……」
しかし、そこに5人の姿はなかった。
峯岸「いない…。でも確かに声は聞こえたのに…」
峯岸がきょろきょろと部屋の中を見回す。
篠田「……」
篠田はまっすぐに洗濯機に近づくと、屈みこんでその周辺を探った。
そして、ある物を手にして立ち上がる。
前田「それは?」
篠田「ICレコーダーだよ」
篠田が再生ボタンを押すと、先ほどの5人の音声が流れた。
峯岸「これって…どういうこと?」
峯岸が頬を引きつらせる。
わけがわからなかった。
どうしてここにそんなものがあるのだろう。
何のために音声を流したのだろう。
篠田「…嵌められた…っ!」
いまいち状況が読みこめない前田と峯岸を前に、篠田はくやしそうに唇を噛んだ。
前田「?」
篠田「嵌められたんだよ、あたし達は、みなみ達に」
前田「たかみなが?なんで?」
篠田「決まってるじゃん、この隙に脱獄するためだよ!急がなきゃ、本気で逃げられる…!」
篠田がそう言った瞬間、前田は苦しげに顔を歪ませ、その場に崩れ落ちた。
前田「…痛っ…。そう…だね…本当にみんなが逃げたのだとしたら、早く捕まえないと…」
だけど、低周波の痛みで体が思うように動かない。
隣で峯岸も苦しそうに息を吐いている。
篠田「行かなきゃ」
篠田は険しい表情で、走り出した。
残された2人は、尚も痛みにのたうち回る。
前田「お願い…麻里子…みんなを…捕まえて…」
その時、前田の肩を誰かが叩いた。
前田「…?」
振り返ると、そこにはよく見知った顔が並んでいた。
中の1人が、やはり痛みに耐えた表情で、一歩進み出る。
そして一言、「ついて来て」と言う。
第7監房――。
島崎「……」
島崎は落ち着かない様子で、先ほどから立ったり座ったりを繰り返している。
指原「どうしたの?ぱるる…。そんなにそわそわして」
指原が尋ねた。
島崎「あ、たかみなさん達、うまく脱獄出来たかなーって気になって」
指原「そうだよね、心配だよね。でも今度こそうまくいくよ。だって作戦は完璧だもん」
島崎「あ、そうですよね」
指原「でもなんで指原とぱるるは居残りなんだろう?そりゃ大人数で逃げたら目立つっていうのはわかるけどさ」
島崎「やっぱりわたしがぽんこつだからでしょうか…」
島崎は指原の言葉を聞き、悲しげにうつむいた。
その時、遠くからバタバタと走る足音が近づいてきた。
指原「ん?」
篠田「ぱるるいる?」
そうして監房に飛び込んできたのは、篠田だった。
島崎「篠田さん…」
島崎は子猫のような顔で、おっとりと立ち上がる。
島崎「どうしたんですか?」
それから篠田の様子に気付き、表情を曇らせた。
篠田「聞いた話と違うんだよ、どういことだか説明して」
島崎「え?でも間違ってはいないはずですけど…」
おかしなやりとりを始めた篠田と島崎を、指原は驚愕の表情で見つめた。
――本当だ、ともちんさんの言ってたこと…。
一方その頃、米沢は――。
米沢「大丈夫かな…」
米沢は天を仰ぎ、呟いた。
今頃高橋や板野達は脱獄を始めているだろう。
結局、自分は何かの役に立つことはできたのだろうか。
みんなはちゃんと逃げることができるだろうか。
緊張と不安で、心臓が早鐘を打つ。
河西「米ちゃん?」
そんな米沢を、河西は心配そうに見つめた。
竹内「どうかしたんですか?」
竹内の手には、なぜかローソクが握られていた。
米沢「え?ううん、なんでもないの」
米沢は慌てて笑顔を作り、誤魔化した。
しかし河西の表情を変わらない。
それどころか、さっきよりなんとなく悲しそうな顔になっている。
河西「もういいよ、米ちゃん。隠さないでよ…」
米沢「…え?」
まさかはるごんがこの脱獄の鍵?
河西「あたし、ずっと前から気付いてたよ。配膳の時、米ちゃんよく優子やともちんと何かこそこそ話してたよね?あれって…あたしよくわかんないけど、脱獄…のことだったんでしょ?急に厨房の模様替えをしたのも、何か関係があるんでしょ?」
米沢「ともーみちゃん…」
米沢は河西の言葉に脱力し、肩を落とした。
――知ってたの?なんで…?
ふと気付くと、竹内も真剣な眼差しで米沢を見ている。
米沢「まさか…美宥ちゃんも?」
竹内「はい」
竹内が頷いた。
竹内「気付いてました」
米沢「そんな…。なんで今更そんなこと…」
米沢の疑問に、河西が答える。
777 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:11:52.27 ID:vWIk0XrYO
篠田さんIQ高すぎだろWWW
河西「さっき隣が騒がしかった。看守の子に低周波が流されてるみたいだった。あれってつまり、今現在、誰かが脱獄をしてるからじゃないかな?そうだとしたらもう、あたし達も黙ってられないよ。全力でその脱獄をサポートする!」
河西が声質に似合わぬ強い口調でそう言うと、竹内も同意するように目で合図した。
竹内「美宥達にもできることは必ずあるはずです。そのために美宥は、河西さんとずっと相談してきたんですから」
米沢「美宥ちゃん…。そこまでしてくれてたなんて…」
米沢は頭が下がる思いで、ちょっと頼もしくなった後輩の顔を見つめた。
米沢「ごめんね、2人に秘密にしようとしてたわけじゃないんだけど…もしバレた時のことを考えたら、危険な目に遭わせたくなくて…」
河西「わかってるよ。米ちゃんは、あたしや美宥ちゃん…みんなのために脱獄に協力してたんだよね?」
米沢「……」
河西「でももう、あたし、黙ってみんなに助けてもらうのは嫌なの。自分もみんなの役に立ちたいの。そのために…」
河西が目配せをすると、竹内が持っていたローソクを高く掲げる。
竹内「行きましょう。看守のみんながいるところに…」
米沢「え?」
状況が呑みこめていない米沢を引っ張って、河西と竹内は部屋を出る。
とにかく早急に看守達と合流しなくては…。
一方その頃、前田は――。
前田「助かったよ、ありがとー」
前田は腕時計を擦りながら、笑顔を浮かべた。
もう低周波の痛みは襲ってこない。
平嶋「良かった、みんな何事もなくて」
平嶋は前田の笑顔を受け、ほっと一息ついた。
前田「でも、なんでなっちゃんはここが安全だってわかったの?だってここ…」
平嶋「懲罰房…だもんね。不思議だよね」
平嶋がいたずらっぽい笑顔を浮かべ、頷く。
洗濯部屋の前で脱獄を知り、低周波に襲われた前田と峯岸は、平嶋と柏木、梅田に声をかけられた。
3人に誘導されるまま懲罰房の中に入ったところで、なぜか低周波が止まった。
懲罰房の中には、すでに看守達が顔をそろえていた。
峯岸「ほんと低周波が流されないのは嬉しいけど、なんでこの中だけ安全だってわかったの?」
平嶋「あたしもこれに気付いたのは偶然なの。懲罰房の前でともちんに遭遇したことがあってね、でもともちんは囚人だから、懲罰房には近づいちゃいけないことになってるでしょ?」
平嶋「だからやっぱりあたしは、低周波に襲われることになっちゃったんだけど、その時なぜかあたし無我夢中で、懲罰房の中に飛び込んじゃったんだよね…」
前田「うん…」
平嶋「そうしたら不思議なんだけど、低周波が止まったの。まだそこにともちんがいるのにだよ?おかしいでしょ?でもそれで気付いた。もしかしたら懲罰房の中では、低周波が遮断されてしまうんじゃないかって…」
峯岸「すごいなっちゃん!大発見じゃん!」
大げさに賞賛する峯岸に、平嶋は照れ笑いを浮かべた。
前田「でも…たかみな達が捕まるまで、あたし達はここに避難してなきゃいけないの?」
平嶋「うん、低周波に襲われないためにはそれしかないね」
平嶋はそこで現実に引き戻され、表情を暗くする。
前田「だけど麻里子しかたかみな達を追ってないよ?麻里子1人で、全員捕まえられるのかな?」
峯岸「そうだよねぇ…」
平嶋「え?麻里ちゃん低周波痛くないの?」
前田「あ、そういえばそうだねー。どうしてだろう?」
前田はそこで気がついたように、首をかしげた。
平嶋「もしかして麻里ちゃんだけ低周波流されてなかったりしてー」
平嶋が冗談めかしてそう言うと、前田は鼻に皺を寄せて笑った。
前田「それはないよー。そんなのずるいじゃん」
平嶋「だよねー」
前田「それよりこれから先あたし達はどうすればいいか話し合わないとじゃない?」
平嶋「みんなに集合かける?こういうのってみぃちゃんがやったほうがいいんじゃない?ねぇみぃちゃん?……みぃちゃん…?」
平嶋が振り返ると、峯岸は難しい顔をして考え込んでいた。
峯岸「なんで麻里子は洗濯部屋の鍵なんて持ってたんだろう…。看守が持たされているのは監房の鍵だけなのに…」
前田「みぃちゃんどうかしたのー?」
前田が問いかける。
すると峯岸はハッと我に返り、不思議そうな顔をする2人の同期を見つめた。
峯岸「もしかした麻里子には本当に、低周波が流されていないのかもしれない…」
一方その頃、第7監房では――。
あんぐりと口を開け、目を見張る指原に、篠田は気がついた。
キッと睨むと、指原に近づく。
篠田「その顔…まさかさしこも1枚噛んでるんじゃないの?」
篠田の視線に射抜かれ、指原はおどおどと身を縮めた。
しかし、ここで負けては駄目なのだ。
今頃、高橋や板野達はみんなのために頑張ってくれている。
だったら自分も、ちゃんと役目を果たさなければ――。
指原「聞きたいですか?」
指原は精一杯余裕の顔を作り、篠田に問いかけた。
予想通り、篠田は指原の挑発に乗ってくる。
――ここでなるべく話を引き伸ばして、時間を稼がなきゃ…。
麻里子さま • • •
指原「この監禁生活を企てたのは…篠田さん…ですよね?」
指原はまず最初に核心をついた。
篠田はもうすっかり諦めたようで、すんなりそれを認める。
篠田「そうだよ。でも…なんでわかったの?」
所詮相手は指原。
篠田の態度には余裕が窺える。
一方指原は精一杯ない胸を張っているが、弱腰なのは明らかだ。
指原「あ、あの、別にこれから話すことは指原の推理じゃないんです。全部…ともちんさんが考えたことで…」
篠田「ともちんが?」
篠田は意外そうに、唇の端を上げた。
指原「はい。ところで篠田さん…その、低周波、痛くないんですか?看守のみんなには今頃低周波が流れてるんですよね?なのにどうして篠田さんは…?」
指原はそう言って、不思議そうに篠田の腕時計を見た。
篠田「ああ、これ?」
篠田は指原の視線に気付き、腕時計を外してみせる。
指原「え?外れるんですか?」
787 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:28:57.30 ID:K04lJA6d0
麻里子とぱるるかぁ…意外だな
すごい面白くて待ちきれない
篠田「そう。あたしのはダミーだからね。これでわかったとおり、あたしの腕時計から低周波は流れていない」
指原「やっぱり…そうだったんですか…」
篠田「?やっぱりって?いつから気付いてたの?」
指原「え?あぁ指原もともちんさんから話を聞いて…でも、実際に篠田さんがここへ来るまでは半信半疑でした。でも、これで納得できました。ありがとうございます」
指原は早口で説明すると、いつもの癖でつい礼を口にした。
篠田「?」
指原「ともちんさん言ってました。看守は低周波を流されている時、手に力を入れることも困難な状態に追い込まれているって。だけど…ほら、ぱるる達がトイレの窓から脱獄しようとした時あったじゃないですか?」
指原はそう言うと、ちらりと島崎を見た。
島崎は呆然とした表情で座りこんでいる。
指原「あの時、看守は低周波を流され、ぱるる達に早く監房に戻るよう促しました。だけど、抵抗するぱるる達はその場を動かなかった。無理に引っ張って監房に連れて行こうにも、看守はみんな低周波で手に力が入らない」
指原「そんな中、篠田さんは…篠田さんだけは…動けてましたよね?」
指原が問いかけると、篠田は忌々しげに睨み返してきた。
しかし指原は必死で自分を奮い立たせ、説明を続ける。
指原「あの時、看守は低周波を流され、ぱるる達に早く監房に戻るよう促しました。だけど、抵抗するぱるる達はその場を動かなかった。無理に引っ張って監房に連れて行こうにも、看守はみんな低周波で手に力が入らない」
指原「そんな中、篠田さんは…篠田さんだけは…動けてましたよね?」
指原が問いかけると、篠田は忌々しげに睨み返してきた。
しかし指原は必死で自分を奮い立たせ、説明を続ける。
指原「そう、低周波で手に力が入らない状態のはずなのに、篠田さんはぱるる達のもとまで行き、島ちゃんの服を引っ張っることができた」
指原「なんで篠田さんだけあんなことができたんでしょう?ともちんさんはあの時の光景を思い出し、篠田さんへの疑惑を深めたんです」
篠田「何それ…あたしあの時以外は特におかしなことなんてしなかったと思うけど?」
指原「覚えてませんか?初日に囚人と看守を分けるためのくじ引きを行った時のこと。あの時、篠田さんはくじ引きで看守になりました。だけどよく思い出してみると、篠田さんは実際にくじ引きなんて引いてないんですよね?」
指原「最後に看守の制服が1つ余っていたから、必然的に最後までくじを引いていない篠田さんは、看守ということになる。だからわざわざくじ引きなんて引く必要はない」
篠田「……」
指原「篠田さんは、自分が看守になるため、わざと最後までくじ引きを引かなかったんじゃないですか?たぶん、あのくじ引きのボックスには、最初から看守のくじだけ1枚少なく用意されていたんです」
指原「そうすれば、最後までくじを引かなかった人は、必ず看守になれる。だけど、そんな真似どうして篠田さんに出来たのか?それは…そもそもくじ引きを用意して、この監禁生活を計画したのが篠田さん本人だったからです」
指原はそこまで言うと、緊張から解かれたようにほっと息を吐いた。
だけど、まだ自分の役目は残っている。
何もできない自分だけど、口だけは達者だ。
板野の頼まれた謎解き――と称した時間稼ぎを必ず成功させなければ…。
篠田「で?言いたいのはそれだけ?あたしがすべての黒幕だってこと?残念だけど…その推理はちょっと乱暴すぎない?もしかしたらあたしは誰かに脅され、仕方なくみんなをここに監禁したのかもしれない」
篠田「あたしは真犯人に犯行を手伝わされていただけってことも考えられるでしょ?。じゃなかったから、大切なメンバーをこんなところに閉じ込めたりしないよ」
指原「いえいえ、篠田さんが黒幕に間違いないんです」
指原はそこで、大きく首を振った。
指原「篠田さんが誰かに脅されて仕方なく犯行を行ったなんて考えられないんですよ。むしろ積極的に駒を使い、この監禁生活を自分の思い通りになるよう動かしていたんです。篠田さんの駒…ここにいるぱるるを使って」
指原はそう言うと、島崎へ視線を向けた。
指原に睨まれた島崎は、小刻みに震えながら、顔を青くしている。
島崎「あ…あたし…ですか?そんな…どうして…?」
指原「ぱるるの裏切りに気付かせてくれたのは…この紙だよ」
篠田「それ…ぷっちょの包み紙じゃん」
指原「この紙、前に横山が拾ったものなんです」
篠田「それがどうかしたの?ぷっちょなんてメンバーなら誰でも食べるじゃん」
指原「この紙が落ちていた場所が問題なんですよ」
篠田「え?」
指原「実は横山が拾ったこの包み紙、懲罰房の中に落ちていたんです」
島崎「……」
指原「てことは誰かが懲罰房の中でぷっちょを食べていたってことになりますよね?でもそれって、ものすごく神経図太くないですか?指原だったら絶対無理ですそんなこと」
指原「だって大音量で音楽を聴かされ気が狂いそうな上、監房の中は暗闇ですよ?めっちゃ怖かったですよー懲罰房の中」
指原「だけど逆に考えれば、懲罰房の中にいても、音楽がなくて電気が点いていれば、何も怖いことなんてないですよね。そりゃ他の人と会話できないのは心細いですけど、それだったら指原でもぷっちょを食べる余裕くらいはあるかなーと思います」
篠田「何が言いたいの?さしこ…」
792 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:36:29.38 ID:Yz3CTBYj0
予想外だった
面白すぎる
指原「だから、懲罰房の中に入れられて、恐怖を味わっているふりをしながら、実は中でのんびりぷっちょを食べていた裏切り者がいるってことですよ。そしてそれは、篠田さんの駒であり従順な手先…ぱるるです」
島崎「そんな…わたしそんなことしていません」
指原「ううん、指原は懲罰房の扉の下から明かりが洩れているのを2回目撃してる。ほらここ、懲罰房の扉がよく見えるでしょ?」
島崎「……」
指原「1度目はもっちぃも懲罰房に入れられた時。2度目は梅ちゃんも入れられてた。だから指原は、看守だけ特別に懲罰房の中でも明かりを点けてもらっているんだと勘違いしてた」
指原「だけど、ともちんさんから聞いたんです。もっちぃは暗い懲罰房の中で足をぶつけて、痣を作ってるって。おかしくないですか?もっちぃが真っ暗な懲罰房の中にいたのなら、どうして扉の下から明かりが洩れていたんでしょう?」
指原「誰が明かりの点いた懲罰房の中にいたんでしょう?もっちぃと同じ日に懲罰房の中に入っていたのは…ぱるる」
島崎「ひっ…」
島崎は、指原の告白に小さく悲鳴を洩らした。
794 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:39:19.82 ID:/yrini2q0
まりこが黒幕まではわからんかった
篠田、妙に監禁にノリ気だと思ったら…
指原「梅ちゃんが懲罰房の中に入れられたのと同じ日に、懲罰房の中にいたのは島ちゃんとレモンちゃん、そして…やっぱりぱるるです。状況が、ぱるるを裏切り者だと証明しているんですよ」
指原「それにぱるるは懲罰房から解放された直後、ハンカチを探してあげようとした優子ちゃんをすぐに制止しました。耳をやられているはずなのに、なぜか即座に優子ちゃんの発した言葉に反応できたんです。おかしくないですか?」
指原「どうしてぱるるは懲罰房の中で耳をやられなかったのか。だからともちんさんは昨日、あえてぱるるにだけ偽の脱獄計画を話しました。洗濯部屋から逃げるってことにしたんです」
指原「そして、それがまさか嘘だとは思いもしなかったぱるるは、そのまま篠田さんに密告しました。で、篠田さんはまんまと罠に嵌り、洗濯部屋で優子ちゃん達の音声を聞かされたはずです」
指原「ぱるるに偽の情報を掴まされたと悟った篠田さんは、真実を問い質そうとぱるるの元を訪れた。実際はもう、ともちんさん達は他の場所から脱獄しています」
指原が一気に言うと、島崎は観念したのか、その場に崩れ落ちた。
島崎「ごめんなさいごめんなさい…だって篠田が…あ、間違えました篠田さんです。呼び捨てじゃないです」
篠田「ちょっ、今はそんなこといいから」
島崎「はい、篠田さんが…わたしずっと篠田さんに憧れてて…少しでも近づきたくて…。篠田さんからこの計画を打ち明けられた時、従えば必ず篠田さんと肩を並べて、堂々と新曲を歌うことができると…」
指原「え?何何?なんの話?」
篠田「ぱるる、その先は黙って」
指原「へ?」
島崎「ごめんなさい。洗濯部屋の穴を塞いだのもわたしなんです。指原さんが寝ているうちにここから下へ降りて、こっそり壁を塗り直したんです…」
指原「……うん…」
島崎「だって皆さんが脱獄を成功させちゃったら、篠田さんに怒られると思って。なんとか阻止しなきゃってわたし必死で…」
指原「…で、篠田さん、どうしてこんなことしたんですか?何が目的なんですか?」
指原は泣きじゃくる島崎から目を離し、篠田に尋ねた。
篠田「…聞きたい?」
篠田は挑発的な目で指原を見る。
798 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:43:09.75 ID:Yz3CTBYj0
篠田がwwww
799 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:44:28.94 ID:mX3gniDG0
ぱるるの篠田呼びw
800 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:44:52.12 ID:q3CmFaYu0
面白いΣ(゚д゚lll)
おもしろーーーーい\(^o^)/
801 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:46:11.92 ID:/eUIhdVc0
指原、気丈に頑張ってるけど
囚人服の下半身、色が変わってるんだろうな(´・ω・`)
803 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:46:43.11 ID:vWIk0XrYO
し…新曲とは一体…
指原「はい。教えてください」
篠田「…秘密。でもさしこが、みんながどこから逃げたのか教えてくれたら、説明してあげてもいいけど?」
篠田はそう言うと、試すように指原を見た。
しかし指原には、何の迷いもない。
指原「だったらいいです。聞かないです。その代わり指原も言いません」
指原らしからぬきっぱりとした物言いに、篠田は一瞬たじろいた。
だが、こういう時こそ先輩の威厳を見せるべきだ。
篠田「教えて…さしこ…。教えなさい」
篠田が低い声で言う。
その間、島崎はひたすら泣きじゃくっていた。
指原「駄目です」
指原は怯まなかった。
相変わらずびくびくと視線を泳がせ、涙ぐんでいるが、きつく下唇を噛み、必死にこらえようとしている。
篠田「言って!」
指原「だ、駄目ですよぉぉぉ」
篠田「教えて!」
指原「いやいや無理です無理です」
篠田「くそっ…」
篠田はさっさと見切りをつけ、指原を肩で押しのけると、監房を飛び出した。
指原「あ、篠田さんどこ行くんですか?」
慌てる指原の声を背中で聞いたが、無視だ。
どうせこれ以上脅したって指原は口を割らない。
簡単に口を割るとしたら…囚人の中では菊地くらいか?
いや、あいつは馬鹿すぎる。
それにそもそも脱獄計画のことさえ知らない可能性が高い。
だとしたら考えられるのは…あいつだ!
篠田は自分に懐いているメンバーの顔を思い浮かべ、ほくそ笑んだ。
あいつならきっとあちこちの監房に顔を出している。
それならもしかして脱獄計画についても、耳に入れているかもしれない。
篠田はそう考え、足を速めた。
806 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:52:51.46 ID:ElPlyWyC0
はるごんか?w
807 :
忍法帖【Lv=4,xxxP】 :2012/02/29(水) 16:53:33.33 ID:8N9k3yzu0
はるごん逃げてぇぇ!
指原「ぱるる…」
一方その頃指原は、おろおろと島崎の周りを歩き回っている。
指原「ぱるるもう…泣かないでよぉ」
島崎のことを恨んでいないといったら嘘になる。
あんなに頑張って掘った洗濯部屋の穴を、一晩で埋められてしまったのだ。
普段ぽんこつな人ほど、覚醒した時のギャップは恐ろしい。
だけど、指原はまだ、島崎を憎みきれないでいた。
指原「ぱるる、指原別にぱるるのこと怒ってないよ?ともちんさん達…みんなも、ぱるるの裏切りに気付いたけど、それでぱるるのこと嫌いになったりはしてないよ?」
島崎「…へ?そうなんですか?」
島崎は驚いたように顔を上げ、真っ赤な目を指原に向けた。
指原「だって指原だって誰かに憧れたら、その人のために何かしてあげたいって思うもん。普通のことだよ」
809 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:55:53.38 ID:/eUIhdVc0
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,.x'ー‐、 `ヽ、`>xく. ),. \ー-
,.rチ--、__>x、 ヽ \ |XXト、 \
 ̄ '`ー──} \XXXト、
___ ` 、 | \XX.ト、
 ̄  ̄ ' , \ \XX
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指原「ぱるるの場合、それが度を過ぎてただけでしょ?これから色々なこと経験して、そういうこともうまく出来るようになるよ、きっと。誰だって間違いは犯すんだし」
島崎「でもわたし…みなさんにひどいことしちゃった…」
指原「でもそんなぱるるを利用して、偽の脱獄計画を篠田さんに密告させたのは指原達だし。これでもうおあいこだよ」
島崎「指原さん…」
指原「でも本気で悪いと思ってるなら、これからちょっと手伝ってくれる?」
指原がそう訊くと、島崎の表情が幾分明るくなった。
島崎「わたしでいいんですか?今からでも、みなさんのために手伝えることありますか?」
指原「うん。ゆきりんから聞いてるの。なっちゃんが看守の低周波を一時的に遮断する方法を見つけたって。今からそこへ行って、あの腕時計が外せるかどうか、色々試してみよう」
島崎「はい!」
wktk
一方その頃、懲罰房では――。
河西「いたいた、こんなところに集まってたんだー」
河西は懲罰房の中に看守達が集合しているのを見つけ、のんびりと話しかけた。
平嶋「この中にいると低周波が遮断されるんだよ」
平嶋が説明する。
前田「あ!ともーみちゃんどうしたの?」
河西に気がついた前田が駆け寄ってくる。
河西「ちょっと思いついたことがあって、実験させてー」
前田「?」
河西はそう言うと、隣の竹内から素早くローソクを受け取り、火を点けた。
前田「え?何ー?」
前田はわけがわからず、ひきつった笑顔を張り付かせる。
河西「いいからあっちゃん、じっとしてて…」
河西はそう言うと、米沢に目で合図した。
米沢が無言で動き、前田の腕を押さえつける。
前田「え?え?」
峯岸「ちょっとともーみ何やってんの?危ないじゃん!」
峯岸が口を挟むが、河西は一向に気にすることなく、ローソクの火を前田の腕時計に近づけた。
前田「熱っ…!」
前田が顔をしかめる。
次の瞬間、腕時計のベルト部分がじわじわと収縮し、変形した。
前田「何…これ?」
驚く前田に、河西が言う。
河西「あっちゃん、悪いけどちょっと、懲罰房から出てみてくれない?」
前田「へ?」
河西「いいから…」
妙に真剣な河西の眼差しに面食らいながら、前田は言われたとおり、外へ出てみた。
前田「……」
河西「どう?あっちゃん…」
河西が眉をひそめて問いかける。
峯岸「ちょっとあっちゃん、外出て大丈夫なの?」
峯岸が焦ったように声をかけた。
前田「…あれ?」
前田は不思議そうに腕を振ったり、擦ったりしている。
峯岸「あっちゃん?」
前田「あれー?痛くないよー。何の反応もしない」
前田はそう言うと、その場でうれしそうに飛び跳ねた。
峯岸「どういうこと?ともーみ…」
河西「外すことが無理なら、熱で腕時計の機能を破壊できないかと思ったの。良かった…成功したみたい…」
河西は緊張の糸が切れたのか、へなへなとその場に座り込んだ。
前田「ともーみちゃんありがとー」
それから河西と米沢、竹内の3人は手分けして、看守達に腕に付けられた腕時計を破壊していった。
ようやく最後の1人の腕時計を破壊し終わった後、指原と島崎がやって来る。
指原「なんだ…懲罰房に集まってたなんて考えもしなかったから…」
島崎「あちこち探しちゃいましたよね…」
島崎が息切れを起こしながら言う。
前田「?」
指原「あれ?前田さん低周波平気なんですか?」
指原そこで、前田の平然とした様子に気がつき、驚きの声を上げる。
ふと見れば、看守達は全員普通に立っている。
どこも痛くなさそうだ。
指原「どういうこと…」
前田「ともーみ達が何とかしてくれたんだよー」
前田のあっけらかんとした声に、指原と島崎は脱力した。
島崎「そんな…また皆さんのお役に立てなかった…」
とりわけ島崎は心底残念そうに、肩を落としている。
そんな島崎の言葉に、前田が反応した。
前田「ううん、まだやれることはあるよ…」
島崎「え?」
島崎の顔を一瞥すると、前田はスッと真剣な表情になり、宙を睨んだ。
――あたしは今まで、重大な間違いを犯していた…。
早く脱獄したみんなを探し、協力しなければ。
――みんなにはひどいことしちゃってたな…。許してくれるといいけど…。
看守として、厳しい立場に出てしまった自分を、前田は反省した。
あの時はまだ、それがみんなのためだと信じていた。
でも…それは間違っていた。
すべて篠田に仕組まれていたのだ。
今ならわかる。
ちょっと気付くのが遅れたけど、今からでもみんなのために戦おう。
みんなと一緒に戦おう。
絶対に脱獄を成功に導いてみせる…。
前田は改めて心にそう誓った。
前田「行こう。たかみな達を手助けしなくちゃ!」
一方その頃、篠田は――。
篠田「はるごん!」
トイレから出て来たばかりの仲川を見つけ、走り寄る。
篠田の剣幕に、仲川は反射的に逃げようとしてしまった。
鬼ごっこかと勘違いしたのだ。
仲川「なーに?麻里ちゃん怖い顔して」
仲川はこんな時でも無邪気な笑顔で篠田にまとわりつく。
仲川「何して遊ぶの?ねぇねぇ」
仲川は篠田が自分と遊ぶために探しに来たのだと思っている。
そんな仲川を、篠田はやきもきしながら落ち着かせた。
仲川の両肩に手を置き、視線を合わせるため腰を折る。
仲川「?」
篠田の真剣な目に射抜かれ、仲川はぎょっとした表情を浮かべた。
818 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:08:02.97 ID:vWIk0XrYO
この話にはまだ裏がありそうだな……おもしろい
819 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:08:31.43 ID:UnHL8usE0
田野ぴー
篠田「ともちん達が脱獄したの。はるごん、何か知ってない?」
仲川「え?遥香は何も知らないよ」
しかし、仲川の視線はわかりやすく泳いでいる。
篠田は確信を得た。
――はるごんは絶対に何か知っている…。
篠田「本当に何も知らないの?どこから逃げたとか、どうやって逃げたとか」
篠田がここまでむきになるのには理由があった。
どこから脱獄したかにより、捜索する方向を絞ることができる。
建物の周りをぐるりと捜索していたのでは非効率だ。
その間に脱獄者はどんどん遠くへ逃げてしまう。
篠田「何か知ってて、隠してるんじゃないの?」
仲川「本当に遥香は何も知らないんだよ。痛い麻里ちゃん、手を放してよ」
篠田「嘘つくとはるごんも懲罰房に入ることになるよ」
仲川「遥香嘘なんかついてないもん!変だよ麻里ちゃん…」
篠田「正直に話してくれたら、はるごんだけ特別に好きなお菓子たくさん用意してあげる」
仲川「お菓子?」
仲川の目の色が変わった。
篠田「そう…お菓子…食べたいだけあげるよ」
仲川の心が揺れる。
しかし、ここで屈するわけにはいかないことはわかっている。
仲川「い、いらないよ遥香。お菓子なんかいらないもん!」
822 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:11:19.59 ID:8pLrMTbZ0
なんだ!
なんなんだー
すべてはどこから始まっているんだー
はるごーんww
篠田「……」
篠田はそこで、仲川の不審な動きに気がついた。
先ほどから妙にある一点ばかりをちらちら見ているのだ。
篠田「?」
仲川の視線の先にあるのは、さっき出て来たばかりのトイレ。
――もしかして…。
篠田は仲川から手を放すと、真っ直ぐトイレへ向かった。
仲川「あ、トイレには何もないよ」
すがりつく仲川を振り切り、トイレのドアを開ける。
アンモニアの臭いが篠田の鼻をついた。
――そういえばこのトイレ、換気扇が壊れているんだった…。
篠田「ん?換気扇?」
825 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:13:38.82 ID:3T5VmM8N0
826 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:15:34.96 ID:Yz3CTBYj0
換気扇壊れてた事すっかり忘れてたわ
827 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:15:51.23 ID:ElPlyWyC0
なるほど〜換気扇か
篠田はほとんど確信を持って、換気扇に近づいた。
見たところ、なんだか設置が甘いような気がする。
壁から少し浮いてしまっているのだ。
篠田「……」
換気扇に手を伸ばす。
少し揺すると、換気扇はそのままごっそり外れた。
そして換気扇のあった場所には、空洞が残る。
それはちょうど、人が通れるくらいの空洞。
外の新鮮な空気が篠田の顔を撫ぜた。
篠田「ここから逃げたのか…」
篠田はそう言うと一気に駆け出し、広間を突っ切った。
そして鍵束を取り出すと、外へと続く扉に差し込む。
鍵を開け、飛び出した。
間に合うか?
いや、必ず間に合って見せる。
脱獄者を全員捕まえるんだ――。
一方その頃、板野達は――。
板野「……」
板野は走った。
建物を出てからどのくらいの時間が経ったのか。
指原はちゃんと時間稼ぎをしてくれているだろうか。
そして、今頃きっと看守達は低周波に襲われてしまっているはずだ――。
――あたし達の脱獄は、誰も幸せにしないのかもしれない…。
何もない草原をひたすら走りながら、板野は次第に不安を募らせた。
本当はおとなしく、解放されるまであの中で過ごしていたほうが良かったのでは。
みんなのためとはいえ、自分達が脱獄したことで、看守を苦しめる結果になったのは間違いない。
――ずっと走っているのに、人も建物も見えてこない…。
変わらぬ風景が、さらに板野の不安を増長させる。
830 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:19:01.05 ID:ZKyacNCm0
ぱるるは優子たちがトイレの方に移動していくのに気付かなかったのかなぁ
大島「みんな大丈夫?ちゃんとついてきてる?」
先頭を走るのは大島だ。
大島は時折背後を振り返りながら、メンバーを誘導する。
だが、そんな大島にも行くあてがあるはずもなく、ただ当てずっぽうに走っているのだった。
小嶋「えーん、ちょっと待ってよー。ちょっとだけ休憩しよ?ね?」
ついに最後尾の小嶋の足が止まる。
高橋「にゃんにゃん…」
高橋も立ち止まり、小嶋の様子を確認すると、早足で近づいた。
高橋「大丈夫?」
小嶋「駄目…もう走れない…」
板野「そんな…!もう少し頑張ってよ。なるべく早く人のいる場所に出て助けを呼ばないと…」
小嶋「えー、そんなこと言ったって走れないものは無理」
秋元「そんな簡単に無理とか言っちゃ駄目だろ?東京マラソンに比べたらこんな…」
小嶋「知らないもん、そんなの」
秋元「……」
832 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:21:29.06 ID:ElPlyWyC0
小嶋さん…
やっぱり小嶋さんwwwwwwwwww
小嶋さん推しだけどこれは腹立つwwwwwwwwww
835 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:23:42.65 ID:xbHc3rK/0
お前ら小嶋さんに甘くないか?
絶えず走り続けた疲労が、ここへ来て爆発した。
小嶋は不機嫌な表情になり、そっぽを向く。
見かねた大島が提案した。
大島「仕方ない…。みんな背を低くして、周囲から姿が確認できないくらい小さくなって、ここで少し休もう。だけど回復したらすぐに走るよ。いい?」
小嶋「わかったー」
板野「……」
大島の案に喜ぶ小嶋が、その場に腰を下ろそうとする。
その時、遠くからエンジン音が聞こえてきた。
高橋「車だ!誰か通る!事情を話して乗せてもらおう。人のいる場所に連れて行ってもらうんだよ」
高橋が気がつき、小さな体を精一杯伸ばすと、両手を振った。
車はスピードを落とし、高橋の前で止まる。
高橋「……え?」
一瞬で、高橋の表情が強張った。
高橋「なんで…?」
運転席のドアが開き、誰かが出て来た。
その細くしなやかな体付きは――篠田だ…!
板野「車使うなんてずるい!」
これはさすがに想定外だった。
そして板野は、篠田の姿を見て、悲しげに肩を落とす。
板野「やっぱり黒幕は…麻里子だったんだね…」
予期していたことだった。
だから指原にすべてを話した。
だけど板野は心のどこかにまだ、篠田を信じたいという気持ちが残っていたのだ。
しかし目の前で不敵な笑みを浮かべる本人を見て、その希望は無残にも打ち砕かれた。
――どうして…麻里子…。
落ち込む板野達に、篠田は悠然と腕組みをしながら近づいてきた。
838 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:24:15.96 ID:eufAaFg20
一番小嶋に甘いのはメンバーw
篠田「もう色々、わかってるみたいだね。だけど、それが何?わかったからって、何?これまでのルールは変わらないよ?みんなはまた監房に戻って、囚人を続けるしかないんだよ」
小嶋「えー?」
大島「嫌だ…あそこには戻りたくない!なんでなの麻里子?麻里子が黒幕だというなら、あたしお願いする。どうかお願い、あたし達を…みんなをあそこから解放して!」
大島は眉をハの字に曲げると、篠田を見つめた。
しかしそんな大島の表情を見ても、篠田の態度は変わらない。
篠田「それは無理なんだよ、残念だけど。さ、おとなしく監房に戻ろう。早くしないと、看守達がいい加減低周波でどうにかなっちゃうかも」
篠田の脅しに、大島は言葉を詰まらせる。
今や看守達全員が、人質に取られてるようなものだ。
秋元「ひ、卑怯だぞそんなの!やるならフェアにやれよ!」
たまらず秋元が叫んだ。
しかし、秋元の手はぷるぷると震えている。
――怖いんだ…才加も…優子も…みんな、看守の子達が今頃どうなってるのか不安なんだ…。
板野は秋元の姿を見つめ、それから高橋、大島と順番に目で追った。
3人とも恐怖と不安に震え、そして、絶望しかかっている。
このままだと脱獄を諦め、篠田の言うことを聞いてしまいそうだ。
――これで…終わりなの?せっかくここまで来たのに…。
840 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:26:14.58 ID:Ssmr/rs00
だからこじはるに包丁突きつけたのね
841 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:26:45.02 ID:8pLrMTbZ0
/⌒'ノノハヽ
(( ⊂ ⊂川бвб)
えーん、もう走れない〜
その時ふと、視線の端に小嶋が映った。
小嶋はこんな状況でも、まったく焦る様子がない。
平然としている。
板野はそんな小嶋の姿を見て、閃いた。
――陽菜ならどんな時もパニックを起こさない…そして麻里子は陽菜に弱い…。
脱獄に失敗した時も、小嶋だけ懲罰房に入れられなかった。
そしてなぜか小嶋は、看守の部屋まで柏木を呼びに行ったこともある。
囚人は立ち入りを禁止されている看守の部屋に、なぜ小嶋は簡単に入ることができたのか。
答えは簡単だ。
篠田がうまく看守達を先導し、監禁生活の中で小嶋だけを守っていたからだ。
板野「ごめん…陽菜…」
板野はぼそりと呟くと、ポケットに手を入れた。
小嶋「…え?」
小嶋が聞き返したのとほぼ同時に、板野は米沢から預かっていた包丁を取り出し、小嶋へ向けた。
追い詰められた焦りと、極限にまで達した緊張。
板野の手が震える。
前方で勝ち誇ったように腕を組むのは、予期せぬ人物――ほんの数日前までは仲間として疑いもしなかったメンバー。
843 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:27:20.19 ID:Yz3CTBYj0
繋がったね
wktk
篠田「もう諦めなよ。おとなしく監房に戻って」
大島「そんな…」
大島がハッと息を洩らした。
彼女達は互いに視線を交じらせ、硬直している。
小嶋の背後に立ち、板野は青ざめた顔をかつての仲間へと向けた。
大島「どうして…やめてよ…」
板野「ここで終わらせるわけには行かないの。ごめん陽菜…」
小嶋「お願い…やめてともちん…」
板野の手に握られた包丁。
その刃先は、小嶋の喉下へと向けられている。
――こんなこと本当はしたくない…だけど…やらなきゃ駄目なの…。
手にはじっとりと汗をかいている。
板野はひそかに包丁を握り直すと、声を張り上げた。
板野「陽菜がどうなってもいいの?!」
もう一方の手で、小嶋の腕をぎゅっと掴む。
そしてゆっくりと、刃先を喉元へと近づけていった。
845 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:29:24.73 ID:ElPlyWyC0
ぉおおおおおwwwwこれはwww
846 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:29:58.44 ID:9OyXfstKO
高橋「何考えてるのともちん!」
高橋が厳しい声を上げる。
しかし板野の握る包丁が気になって、その場から動くことができない。
板野「陽菜を助けたかったら、おとなしく道を開けて!」
そう言いながら、板野はこれまでのことを振り返っていた。
――どうしてこんなことになっちゃったんだろう…どうしてあたしは…陽菜に包丁を向けなきゃならないの…?
建物の中にはまだ、前田や峯岸…看守達がいる。
そして残してきてしまった囚人達。
この計画を実行させようと、たくさんのメンバーの力を借りた。
柏木と米沢、梅田は自分の立場が危うくなるのも厭わずに、協力してくれた。
最後まで一緒に頑張ってくれていた渡辺、指原、仁藤、仲俣。
なんだかんだ言って、やっぱり芯の通った石田の存在も大きい。
横山のくれたヒント、詳しいことは何も聞かずに手を貸してくれた大家と亜美。
まさか仲川が最後にして最大の助けになるとは、思ってもいなかった。
それから…宮澤…。
具合の悪い宮澤を建物の中に残してしまうことは、最後まで心残りだった。
早くあんな生活から解放してあげたいと、切実に願う。
やっぱりどんなときも、宮澤には笑顔でいてほしいのだ。
――そうだ、みんなのためにも、ここで諦めちゃ駄目だ…。
板野は自分の心を鬼にして、小嶋へ包丁を向け続けた。
板野のそんな気迫が伝わったのか、高橋達も無言で見守っている。
そうしてしばらく、板野と篠田のにらみ合いが続いた。
篠田「……」
先に折れたのは篠田だった。
やはり小嶋の存在は絶大だ。
篠田「わかったよ、手出しはしない。だから陽菜を放して」
篠田はそう言うと、車のキーを投げてよこした。
素早く大島がキャッチして、ポケットに仕舞う。
篠田「これで文句はないでしょ?逃げたきゃさっさと逃げなよ」
悔しげに唇を噛む篠田を見て、板野はサッと包丁を引っ込める。
板野「ごめんね…」
小嶋「?え?大丈夫」
大島「よし行こう。麻里子はあたし達の姿が見えなくなるまで、そこから動かないで!いいね?」
大島が走り出す。
板野もその後を追おうとした。
その時――。
849 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:31:52.86 ID:EmmIqHhv0
これからどうなるんだー
850 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:32:02.19 ID:/yrini2qI
くそおおお
低周波大丈夫って伝えたいいいい
そして篠田さん無免許おおお
851 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:33:11.39 ID:xbHc3rK/0
一番小嶋さんに甘いのは篠田さんだったじゃねえか!
高橋「…やめ…て…」
高橋の呻き声が耳に届く。
板野「え…?」
振り返ると、高橋はいつの間にか、すらりとした少女達に拘束されていた。
秋元「おい…嘘だろ…」
秋元が驚きの声を洩らす。
大島「何やってんだよてめぇーら!たかみなに触るんじゃねぇ!」
大島が怒りに目を血走らせる。
しかし、少女達はにやにやと笑うばかりだ。
少女達がそれほどまでに余裕なのは、やはりメンバーの柱である高橋を人質に取っていることが大きいのだろう。
少女達はそれぞれ、小型のナイフを所持している。
853 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:35:02.43 ID:4ZWwCUQTO
くそ、一気読みのつもりが追いついてしまった…!!!
おもしろいなーw
みなみを拘束したのわ誰だあああぁぁぁ
板野「たかみな…!」
篠田「…遅かったじゃん、みんな」
板野が声を発した直後に、篠田が上機嫌にそう言った。
板野「え?」
――もしやみんな…麻里子の仲間なの…?
驚く板野を見て、篠田が説明する。
篠田「あたしは黒幕じゃない。メンバーの監禁を計画したのは、この子達だよ」
その時、にやにやと笑うばかりだった少女達の中の1人が、前に進み出た。
857 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:40:23.07 ID:8pLrMTbZ0
んんん黒幕ぅぅううううう
まさか・・・
支店か
859 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:40:44.60 ID:UnHL8usE0
乃木坂?
860 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:40:54.64 ID:ElPlyWyC0
ぇえええええええええええええ?w
861 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:41:37.97 ID:ZKyacNCm0
急展開や!!
えー!!
まじかよ…
864 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:42:34.97 ID:Uix4HU0K0
どうなる…
865 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:43:28.16 ID:eufAaFg20
JKTクルー?w
866 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:43:38.00 ID:vWIk0XrYO
要チェックや!!!
867 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:43:41.68 ID:/eUIhdVc0
ここでCMとかやめてええええええええ
じらさないでええええええええええ
868 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:43:50.39 ID:4ZWwCUQTO
残り、130余レス
走り切れるか
珠理奈「篠田さんは優しいからね。あたしの願いを叶えるため、進んでこの計画に協力してくれたんだよ」
板野「珠理奈…」
板野は呆然と、その見慣れた顔を凝視していた。
玲奈「そういうことです。ごめんなさい…」
珠理奈の隣で、玲奈が苦笑いを浮かべる。
板野「玲奈ちゃんまで…それにみんな…SKEが黒幕だったの?」
珠理奈「そうだよ?」
珠理奈は当然といった顔で、口角をきゅっと上げた。
大島「なんで…なんでそんなことするの?!」
大島の悲痛な叫びが草原に響き渡る。
高橋は相変わらず恐怖に顔を引きつらせ、少女達の腕を振りほどこうと必死にもがいていた。
珠理奈がゆっくりと髪をかき上げながら宣言する。
珠理奈「あたしはなぁ…AKBのセンター…取りに来たんだよ!」
870 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:46:49.86 ID:q3CmFaYu0
難波か栄か?乃木坂か?
871 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:47:16.72 ID:ZKyacNCm0
お前玲奈ちゃんに負けとるがな!!
ここでSKE出て来るかー それは予想外出来なかったぞ
板野「……」
玲奈「あ、あとあれも言っておいたほうがいいと思うよ」
珠理奈「うん。それから目指すはSKEの天下統一!あんたらAKBをステージから引きずり落とした暁には、あたしらが晴れてそのステージで新曲を披露する!篠田さんと一緒にね!」
玲奈「あ、でも新曲だけじゃなくて、これからはSKEの曲全部披露できると思うよ。だって…AKBさんはもうここから…出られないんだから…」
玲奈はそう言うと、にっこり笑った。
秋元「ちょっ、ふざけんじゃねぇぞ!」
秋元がドスをきかせる。
しかし珠理奈は怯むどこから、挑発的な目を向けてきた。
珠理奈「…たかみなさんがどうなってもいいの…?」
秋元「…ぐっ…」
2人共キャラ違いすぎんだろ だがそれもまた面白い
珠理奈「これから監房に戻して、もっともっと精神的に追い詰めてやる。二度とステージに立てないくらい、ボロボロにしてやるから」
玲奈「篠田さん、お願いします」
玲奈が頭を下げる。
篠田は真っ直ぐ大島に近寄ると、先ほど渡した車のキーを取り返そうとする。
大島はそれに対し、必死に抵抗した。
大島「どうせその車にあたし達乗せて、またあの中に連れ戻す気なんでしょ?絶対返さないからね!」
篠田「でもこのままだと、みなみが危ないと思うよ」
大島「…え?」
大島はそこでふと我に返り、高橋を見る。
あいかわらずナイフを向けられ、身動きの取れない高橋。
その時、草の間から数人の人影が飛び出した。
内田「ターーッ!」
佐藤亜「たかみなをいじめないで!えいっ!えいっ!」
倉持「逆水平!んもぅ…あんまり悪いことしてると耳噛んじゃうぞっ!」
内田が少女達の手に握られたナイフを次々と叩き落としていく。
亜美菜が体当たりをして怯んだ隙に、倉持が見事な逆水平を決めた。
板野「みんな…!」
篠田「嘘?なんでここにいるの?低周波は…?」
驚く篠田、そしてSKEの面々の前に、次々とメンバーが姿を現した。
前田「ともーみちゃん達が腕時計壊してくれたの。これでもう低周波なんか怖くないよー。他の囚人の子達も、みんな監房から出してあげた」
前田がはしゃぎ声を上げる。
峯岸「やっぱり麻里子…それに珠理奈達まで…」
峯岸の肩が、怒りと絶望に震える。
その背後から、待ち望んだ顔が現れた。
tgskじゃなかったか
878 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:52:44.35 ID:8pLrMTbZ0
まさかのSKEだった件…
宮澤「たかみな、早くこっちに!」
宮澤はいつもの明るい表情に戻り、高橋を手招きしている。
大島「佐江ちゃん!」
高橋「声が戻ったんだ?」
高橋が駆け寄りながら尋ねる。
宮澤は大きく頷くと、両手でVサインを作って見せた。
宮澤「もう平気。萌乃がこれまでのこと説明してくれて、もうあたしも落ち込んでられないと気付いたんだ。遅くなったけど、あたしもみんなと一緒に戦う」
仁藤はそんな宮澤を支えるようにして、微笑んでいる。
宮澤と和解できたことが心から嬉しいようだ。
秋元「佐江…」
秋元がふっと涙をこぼした。
指原「ぱるるもいます!」
指原が声を張り上げると、島崎がおずおずと前に進み出た。
島崎「あの…わたし…ごめんなさい…」
阿部「え?なんでぱるるは謝ってるんですか?」
大場「いいからあんたちょっと黙ってなよ」
不安気に立ちすくむ島崎のもとへ、板野が駆け寄った。
板野「あたしこそ、計画のことで罠に嵌めるような真似してごめんね」
島崎「いえ…そんな…」
大島「ねぇー?信じていいんだよね?ぱるるはもう、あたし達の仲間だよね?」
島崎「はい!」
大島の問いかけに、島崎は毅然とした表情で答えた。
島崎「わたし、これからいっぱい頑張って、今までのぶん取り返します」
島崎の目がスッとその色を変える。
怯えが消え、冷静さをたたえている。
指原はその変化に驚くと同時に、自分も負けてはいられないと猫背を直した。
板野「……」
板野はぐるりと集まったメンバー達を見回す。
真剣な表情で頷く前田。
すでに言いたいことがたまりすぎて、うずうずしている峯岸。
意味もなく走り回り、体力をアピールする仲川。
冷酷さをたたえ、ネズミのようになっている渡辺。
料理係の3人は、手にフライパンを持ち、戦う準備は万端のようだ。
みんな…板野達を信じてかけつけてくれた仲間達…。
――大丈夫、あたし達はやれる。今までどんな困難も、みんなで力を合わせて乗り越えてきたんだもん…。
板野はすっと顔を上げると、真っ直ぐ相手を睨んだ。
宣言する。
板野「もう卑怯な真似はやめて、真っ向勝負といこうか。あたし達は…受けて立つよ」
―END―
終わり?
883 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:59:05.13 ID:8pLrMTbZ0
おおおおおおお!!
乙!最高だ!
なんでスレタイ板野だったんだw
おつかれ様でした
第二章まだ〜?
886 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:01:43.72 ID:7YUfm6lqO
僕は灰色でお願いしますまとめんばーさん!!
887 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:02:01.58 ID:DtICOK1QO
終わりかよ
えええw シーズン2は?
889 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:02:42.03 ID:ELFg/3Dz0
おもしろかったー
二章を見据えてのSKEなら納得
890 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:02:50.16 ID:/yrini2qI
SKEは2人だけか
めっちゃ面白かったよ!!乙!!
891 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:03:05.62 ID:VETBEOKT0
たかみな一人くらい死んだってよくね?
とっとと逃げればいじゃん
892 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:03:12.70 ID:Uix4HU0K0
気になるところで切れるのはSPECパロと一緒ですな。とにかく乙!
893 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:03:16.33 ID:ZKyacNCm0
そういえばスペックのときもこんな感じで終わってたな
894 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:03:45.45 ID:4ZWwCUQTO
これは、こうなったら本店が負けるわけないって結末なのかな?
895 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:03:48.49 ID:DVCNp9n20
>>881 ドラえもんの奴とか今までのAKBの小説とかどっかにまとめてください
896 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:05:13.21 ID:8N9k3yzu0
まさかのSKEだったか!
ともあれ面白かった!
乙でした。
まさかの終わり!? 続きが気になるぞおおおぉぉぉ 第2章希望だあああぁぁぁ
898 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:07:07.26 ID:/eUIhdVc0
おつつ
これだったらSKE出さなくていいでしょうにw
899 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:07:34.97 ID:vce3xduV0
最後はフェアじゃないけど伏線は丁寧に張られてて良かった
900 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:07:38.14 ID:tMdXSChq0
第二章はあるのかな
なければJR出す意味がない気が・・
901 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:13:18.43 ID:7yTKLA3u0
おわり???
902 :
名無しさん@お腹いっぱい。:
乙です
とても楽しかったです。ただ個人的にはるごんが敵であってほしかった。行方不明の真相あたりはゾクゾクしたので