1 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :
高橋「本当にこっちで良かったんでしょうか…」
高橋は不安げに康を見上げ、途方に暮れた。
秋元P「まったくこれだから警察は…」
康は苛立った様子で小刻みに地団太を踏んだ。
先ほどから忙しなく眼鏡を上下させたり、大げさにため息をついたりしている。
それは彼にすれば珍しい仕草であった。
日頃温厚であるはずの康がここまで怒りを露にしているのは何故なのか。
もうかれこれ一時間半もの間、2人は警察署内をたらい回しにされているのだった。
体力に自身のある高橋だが、警察という慣れない雰囲気の中にいるせいか、すでに疲労困憊である。
高橋「やっぱりさっきの角を曲がるんでしたかね?どんどん倉庫みたいな場所に来ちゃってますし」
それでも高橋は康を気遣い、意識して明るい声で言った。
秋元P「そうかもしれないね。案内表示すらないなんて不親切極まりないな、警察は」
康が本日何度目かのため息をつこうとしたその時だった。
2 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:07:13.11 ID:+9B/ba1D0
雅「あの、もしかして未詳をお探しですか?」
どこから現れたのか、制服姿の若い女性がにこやかに2人へ話しかけてきた。
高橋「未詳…はいそうです。わたし達そこへ案内されて来たんですけど、迷っちゃって」
雅「それでしたら上から話が通って来ております。こちらのエレベーターへどうぞ」
女性が指し示したのは、普段高橋が見慣れているエレベーターとは違うものだった。
秋元P「エレベーターって君…これは貨物用じゃないか」
康が呆れ顔で抗議する。
秋元P「これに乗れというのか」
しかし女性はそんな康に臆することなく、笑顔でエレベーターに乗り込んでしまった。
高橋も慌てて女性の隣に並ぶ。
高橋「秋元さん、仕方ないですよ。案内してもらうんですから素直に従いましょう」
高橋の呼びかけに、康も渋々エレベーターに乗り込んだ。
女性は慣れた調子で床に投げ捨てられていたスイッチを拾い上げ、エレベーターを操作する。
3 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:07:59.44 ID:+9B/ba1D0
着いた所は、先ほどの場所とさほど変わらない、倉庫のような広い空間だった。
壁際には幟やカラーコーン、交通安全を謳った垂れ幕などが雑然と置かれている。
中央に申し訳程度にデスクが集められ、電話やパソコンの類が置かれていることから、かろうじてここが機能している部署なのだと見てとることができた。
雅「入りまーす!AKB48の高橋みなみさんとそのプロデューサー秋元康さんが脅迫状のことでご相談があるとのことでご案内致しました。それではお2人、張り切ってどうぞ!」
女性はどうやら決まり文句らしい言葉を大声で述べた。
高橋と康が動揺していると、人の良さそうな顔をした初老の男性がデスクからゆったりと立ち上がった。
野々村「キャッ、雅ちゃん」
男性は案内してくれた女性を見ると、乙女のような仕草で照れた笑いを浮かべる。
その後2人は合図のようなものを送り合い、高橋と康のことは目に入っていないようであった。
男性がさり気なく左手の薬指にはめていた指輪を外し、スーツのポケットに仕舞うのを高橋は見逃さなかった。
もしかしてこの2人は、不倫関係にあるのだろうか。
秋元P「あの…」
2人の様子を窺っていた康が、堪りかねて口を開く。
4 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:08:03.40 ID:sbhrUDY90
メッシ落ちか
5 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:08:27.58 ID:c/cVQZDTO
6 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:08:49.77 ID:+9B/ba1D0
秋元P「聞けばここでご相談に乗っていただけるということで参ったのですが?」
野々村は慌てて高橋達に向き直ると、ようやくそこで挨拶をした。
野々村「そうですそうです。あ、申し送れました、係長の野々村です」
案内してくれた女性は少し拗ねた表情を浮かべると、さっさとエレベーターに乗り込み、どこかへ行ってしまった。
秋元P「よろしくお願いします。早速なんですが、聞いていただけますか?」
野々村「それではどうぞこちらへね、お座りください。あ、瀬文くん?お茶淹れてくれるかな?」
野々村の呼びかけに、高橋達が来たときからずっと直立不動の体勢を取っていた短髪の若い男が、軍隊のような返事をした。
高橋は先ほどからその男が気になっていた。
なぜだか男は高橋を睨むように見つめてきていたのだ。
高橋は彼の視線に気付かないふりをし続けていた。
7 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:09:27.86 ID:+9B/ba1D0
野々村の示したソファに腰を下ろす。
ここへ来る前にあちこちで同じ説明をしていたため疲れたのか、康は高橋から話すよう目で合図してきた。
高橋はそんな康に無言で頷き返すと、野々村に顔を向けた。
高橋「実は数週間前、あたしに脅迫状が届いたんです」
野々村「ほほぉ、それで今日は未詳に犯人を逮捕して欲しいとの依頼ですかな?」
高橋の真剣な眼差しに対して、野々村の態度にはほとんど緊張が感じられない。
しかし彼女はめげることなく、アイドルとしての仕事の時には使わない重々しい声で続けた。
高橋「もちろん犯人逮捕はしてもらいたいのですが、一番心配なのは他のメンバーにまで被害が及ぶことです。脅迫状はあたし宛の一通だけでなく、他のメンバー宛にまで届くようになりました。内容もだんだん過激になってきていて…」
高橋「だからお願いします。正直犯人が誰なのかなんてあたしには興味ありません。それよりもまず警察のお力で、メンバーに危害が加えられるようなことがないよう、守っていただきたいんです」
高橋はそう言って深々と頭を下げた。
8 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:09:34.19 ID:LVvTpx420
9 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:09:56.40 ID:FQHIhF5BO
犯人はヤスシ
10 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:10:24.31 ID:Cwr6L82pO
駄作認定
11 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:10:36.71 ID:+9B/ba1D0
野々村「わかりました。要するに高橋さんには今、危険が迫っている。そのため我ら未詳にボディーガードになってもらいたいと」
高橋「ボディーガードなんてそんな大げさなものじゃなくてもいいです。ただあたし、脅迫状が届いてから毎日本当に不安で…。だけど警察が目を光らせてくれているとなれば少しは安心できるかなって。その程度なんです」
高橋は早口でそう説明した。
野々村は可愛い孫でも見るかのような笑みを浮かべ、うんうんと何度も頷く。
野々村「わかりました。AKB48さんといったら今や国民的アイドル。皆さん本当に可愛らしくて、雅ちゃんもあなた方のファンなんですよ」
――雅ちゃん…さっき案内してくれた女性のことか。
高橋は先ほどの女性の顔を思い浮かべた。
野々村は彼女の名前を口にする時だけ、妙に目じりを下げて、甘い口調になっていた。
野々村「そんなAKB48さんに危険が及ぶとなったら最早日本の一大事。日本のため、雅ちゃんのため、男野々村、全力で皆さんをお守り致しましょう!」
なぜだか今日に力強い話しぶりになった野々村に、一抹の不安を感じながら、それでも高橋は希望に胸が躍った。
12 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:11:31.04 ID:+9B/ba1D0
高橋「じゃあお力になっていただけるんですね」
野々村「はい、必ずや」
強い口調を通り越して、最早歌舞伎役者のような言い回しになってしまった野々村が、大きく頷く。
高橋「良かった秋元さん、これで秋元さんも安心できますね」
高橋は隣に座る康へ笑いかける。
しかし康の表情は曇っていた。
秋元P「失礼ですが、この部署にはお二方しかおられないのですか?」
そう言って康はやや不躾な態度で、野々村と少し離れた場所に立つ例の短髪の男とを見比べた。
秋元P「ご存知とは思いますが、AKBは大所帯のアイドルグループ。お2方だけで彼女達の護衛をするには無理があるかと…」
13 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:12:33.95 ID:+9B/ba1D0
野々村「いえいえもう1人、当麻くんと言って24歳のギャルがいましてね、彼女がまた中々の切れ者でして…」
高橋「あの、今日はその当麻さんという人はいないんですか?」
野々村「もうすぐ来ると思うんですがね…どうだったかな瀬文くん?」
野々村が尋ねると、男は静かに首を横に振った。
瀬文「いえ、自分は当麻には興味がありませんので」
高橋はそこで初めて瀬文と呼ばれる男の顔を見た。
無表情で立つ瀬文の顔には、何を考えているのかわからない独特の怖さがある。
体つきは細いが、スーツの下には鍛え抜かれた筋肉が潜んでいるようで、一部の隙もないように窺えた。
高橋と目が合うと、瀬文はすっと視線を逸らす。
その時、背後でエレベーターの動く音が聞こえた。
14 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:13:13.27 ID:+9B/ba1D0
当麻「すみません、病院行ってたら遅くなりました」
やって来たのは野暮ったいスーツ姿に、真っ赤なキャリーバッグを引いた若い女性であった。
高橋の目が、一瞬で彼女に釘付けになる。
女性の髪はぼさぼさで化粧も薄く、あまり身なりに気を使っていないことが見てとれる。しかし高橋が興味をそそられたのは、彼女の左腕だった。
ギプスで固められ、大げさなほどの包帯で肩から吊っている。
一体どれほどの大怪我をしたのか。
見ていてとても痛々しい姿であった。
野々村「そういうことなら構いませんよ。さっそくだけど当麻くん、お客様が来てるからちょっとこっちいいかな?」
野々村がそう言うと、当麻と呼ばれた女性がその姿からは想像もつかない素早さで駆け寄ってきた。
当麻「事件ですか?何々気になるぅ〜」
上司である野々村に対してくだけた口調で話すあたり、当麻の大物ぶりが窺い知れた。
高橋は立ち上がり、当麻に頭を下げた。
15 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:13:55.44 ID:+9B/ba1D0
野々村「何だか脅迫状のことでお困りでね、未詳で護衛することになったんだよ」
当麻「脅迫状?今時脅迫状ってどんだけ頭悪い犯人なんすかね」
なぜか脅迫状がツボにはまったらしく、当麻はにやにやと笑っている。
しかし高橋の顔を見た途端にその笑顔は引っ込み、驚きの表情へと変わった。
高橋「あの、どうかしたんですか?」
当麻「えー?AKBの高橋みなみさん…通称たかみなさんじゃないですかー?」
高橋「あ、よろしくお願いします」
当麻「それでこちらがプロデューサーの秋元康さん。ですよね?ね?」
当麻の馴れ馴れしい態度に、康は困惑の表情を浮かべた。
しかし当麻は気にすることなく、野々村を無理やりずらして開けたスペースに腰を下ろし、高橋にぐっと顔を近づけてくる。
高橋「……」
その瞬間、当麻から発せられる強烈なにんにく臭に、高橋は思わず身を引いてしまった。
16 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:14:27.86 ID:+9B/ba1D0
当麻「マジでお2人、超有名人じゃないですかー?あ、申し送れました警視庁公安部第五課未詳事件特別対策係の当麻です。お会いできて大分光栄です」
当麻はそう言って、遠慮のない視線で高橋をじろじろと観察する。
高橋「は、はぁ…」
瀬文「当麻!お2人はご相談にいらしているんだ。失礼だろ!」
当麻「チッ、うるせーなハゲ黙ってろよ!」
当麻と瀬文が睨む合う。
――もしかしてこの2人、仲が悪い?
高橋は性格上、2人の間に仲裁に入りそうになったが、しかし今日は依頼人の立場ということを思い出し、ぐっと堪えた。
野々村は慣れているのか顔色1つ変えずに、淡々と説明する。
野々村「まずは犯人逮捕うんぬんの前にね、AKB48さんの安全を第一に考えて捜査もしてこうとね考えているんだけど、どうかな当麻くん?」
当麻は野々村に向き直ると、軽く頷き、再び高橋に顔を近づけた。
17 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:15:00.05 ID:+9B/ba1D0
当麻「で、その脅迫状ですけど、なんだかすごーくおかしなことが書かれていたってことないですか?」
高橋「はい、そうなんです。でもなんでわかったんですか?」
当麻「ここは普通の刑事事件では手に負えない、特殊な事件を扱った部署なんですよー。そんな未詳に回されてくるくらいですから、だいたい想像はつきます。今その脅迫状はお持ちですか?」
高橋「はい、これなんですけど…」
高橋は鞄から数枚の紙を出すと、当麻に手渡した。
警察署に来てからこれを見せるたび、ただの悪戯だろうと一蹴されてきた脅迫状だ。
案の定、脅迫状を読む当麻の顔が、次第に険しくなっていく。
18 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:15:27.57 ID:+9B/ba1D0
1通目。
『高橋みなみさんへ
次の握手会を中止しなさい。
もし中止されない場合には、こちらは然るべき措置を取ります。
しかしなるべくならあなたを傷つけたくはない。
覚えていてください。
私には能力があります。
遠くにいながら、あなたの呼吸を止めることができる。
あなたに触れずとも、その体を切り刻むことができる。
無事でいたいのなら、どうかこちらの指示に従ってください』
19 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:15:56.96 ID:+9B/ba1D0
2通目。
『前田敦子さんへ
次の握手会を中止しなさい。
もし中止されない場合には、こちらは然るべき措置を取ります。
しかしなるべくならあなたを傷つけたくはない。
覚えていてください。
私には能力があります。それはとても恐ろしい力です。
念じるだけで、あなたをいのままに動かせる。
迫り来る電車の前へ飛び出すよう、あなたを操れるのです。
無事でいたいのなら、どうかこちらの指示に従ってください』
20 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:16:36.58 ID:+9B/ba1D0
3通目。
『板野友美さんへ
次の握手会を中止しなさい。
もし中止されない場合には、こちらは然るべき措置を取ります。
しかしなるべくならあなたを傷つけたくはない。
覚えていてください。
私には能力があります。それはとても恐ろしい力です。
手を握っただけで、あなたを遠くへ飛ばすことができる。
次の瞬間には、あなたは誰もいない南極の地でひっそりと凍死するこでしょう。
無事でいたいのなら、どうかこちらの指示に従ってください』
21 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:17:07.26 ID:+9B/ba1D0
秋元P「馬鹿馬鹿しいでしょう。何なんだ能力って。しかしこれでわかる通り、犯人は相当頭のおかしな人物であることは間違いない。だから何をしでかすかわからない。こちらとしても不安なんですよ」
康は忌々しげに、当麻の持つ脅迫状を見ながら言った。
しかし当麻は真顔で康を見つめると、静かに問いかけた。
当麻「本当にそうでしょうか?」
秋元P「君まさか、こんなふざけた内容を本気にしているのか?」
当麻「はい、私はこの犯人の言っていることを信じますよ。ここまで言い切るくらいですから、本当に犯人にはそういう能力が備わっているのだと思います」
突然真面目な口調になった当麻を、高橋は驚いて見つめた。
高橋「どういうことですか、当麻さん」
当麻は今度、高橋に視線を向けると、一気に説明した。
22 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:18:22.22 ID:+9B/ba1D0
当麻「人間の脳は通常10パーセントほどしか使われてません。残り90パーセントがなぜ存在し、どんな能力が秘められているのかわかってないんです」
当麻「だからこそ、通常の人間の能力や常識では図り知れない特殊なスペックを持った人間が、この世界にはすでに存在していると私は思います」
秋元P「それは超能力者や霊能力者の類が本当に存在するということですか?そんな馬鹿な…」
当麻「はい。そんな馬鹿馬鹿しくてどんだけーな能力がある日突然備わってしまう人間が確かにいるんです。私は会ったことありますよ。身を持ってその恐ろしさを知りました。ね、瀬文さん?」
突然話を振られた瀬文だが、落ち着いた動作で頷いた。
見るからに硬派な体育会系といった瀬文が同意したので、高橋は当麻の言葉が本気であると悟った。
先ほどとは違う緊張感が、2人に間には感じられた。
秋元P「まぁそう思うならそれで、とにかく私はメンバーの安全が確保できれば何でもいい。どうかくれぐれもお願いしますよ」
康の言葉に、高橋は慌てて頭を下げた。
高橋「お願いします、皆さん」
23 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:19:03.58 ID:+9B/ba1D0
野々村「そうと決まれば早速ね、当麻くんと瀬文くんでAKB48の皆さんを見張って…」
当麻「はい!」
野々村の言葉を遮って、当麻が挙手をする。
野々村「はいはい何だい当麻くん」
当麻「あのー、いっそのこと握手会を中止してしまうというのはどうでしょう?」
当麻は当たり前のようにそう指摘した。
当麻「犯人の要求を呑んでひとまず握手会を中止にしてしまえば、高橋さん達が狙われるようなことはなくなりますよね?それが一番手っ取り早くて安全なんじゃないですか?」
瀬文「馬鹿、握手会に一体どれだけのファンが来るかわかって言ってるのか!」
当麻が言い終わるか言い終わらないかのうちに、瀬文が彼女の頭を思いきり叩く。
当麻「痛ぁーい。瀬文さんがぶったー」
当麻は明らかに嘘泣きとわかる声を上げ、瀬文を抗議した。
当麻「そんなに大変なことなんですか?握手会って」
24 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:19:40.98 ID:+9B/ba1D0
瀬文「握手会が中止になったらまた後日振り替えの握手会日程を調整しなければならない。忙しいメンバーのスケジュールをやりくりし、ファンががっかりしない対応を取るため、どれほどの人間が動くかわかるだろう」
野々村「お、瀬文くん詳しいねぇ」
当麻「さては瀬文さん隠れファンですね?まさかたかみなさん推しだったりしてー。ちなみに私はこじはるさん推しです」
当麻の言葉はあながち外れてはいなかったようで、照れ隠しなのか、瀬文はまたしても思い切り当麻の頭を引っぱたいた。
高橋の視線に気付くと、露骨に逸らして頬を赤らめる。
高橋はさっきから感じていた瀬文の視線の理由を、そこでようやく理解した。
野々村「僕はね、あのー、ともちんと呼ばれてる子が好きだな。若い頃の妻にそっくりで…」
当麻「係長は黙っていてください」
当麻に一蹴され、野々村は黙った。
気がついたようにスーツのポケットを探って指輪を取り出すと、左手の薬指に戻している。
25 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:20:49.10 ID:+9B/ba1D0
秋元P「確かに握手会を中止にすれば安全は確保されるでしょう。しかし毎回脅迫状が届くたびに中止にしていたのでは、ファンは混乱する。妙な憶測を呼んでしまうかもしれない。そこから悪い噂が立つことも考えられる」
秋元P「どうか皆さんのお力で、メンバーが安全に活動できるようにしてほしいんです」
当麻「わかりました。警察は善良な市民の味方です。お任せください」
そう断言した当麻の右手には、いつの間にか割り箸が握られていた。
――本当にこれで安心できるのだろうか。
高橋は若干の不安を残しながらも、何かを探すように未詳を見渡した。
26 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:21:18.98 ID:+9B/ba1D0
高橋達が未詳に相談に行っている頃、前田は自宅マンションのソファの上にいた。
彼女の隣には、同じグループのメンバーで親友でもある板野の姿があった。
板野「…でね、あっちゃん聞いている?」
前田「あ、ごめーん。聞いてるよ。ちょっと集中してただけ」
板野は呆れたように前田を見つめ、それから彼女の手元に視線を落とした。
集中していると言ったわりに、ジグソーパズルはほとんど進んでいない。
考えごとでもしていたのだろう。
――あたしがこんなことになったから、あっちゃんを悩ませているのかもしれない。
板野は罪悪感に襲われた。
27 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:21:49.76 ID:+9B/ba1D0
前田「なんか眠くなっちゃった」
板野「あ、コーヒー淹れようか?キッチン借りるね」
板野はそう言って、テーブルに置かれたマグカップを持つと立ち上がった。
しかしすぐに立ちくらみのような感覚に襲われ、その場に座り込む。
前田「大丈夫?いいよー。コーヒーならあたしが淹れるから」
前田は板野を座らせると、キッチンへと向かった。
気配を察知した前田の愛犬達が、餌が貰えるのかと思い込み、彼女の足元に纏わりついていく。
愛犬達を引き連れながら、前田はキッチンへと姿を消した。
28 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:22:18.96 ID:+9B/ba1D0
1人になった板野は、脅迫状について考えていた。
――たかみなは今頃、秋元さんと一緒に警察に相談に行っているはず…。
板野にとっての心配の種は握手会が中止になってしまうことだった。
ソロの仕事も増え、忙しくなった彼女だが、握手会をファンとの交流として大切に思う気持ちは昔も今も変わっていない。
――どうか警察の人が、力になってくれますように。
脅迫状の内容が内容なだけに、まともに対応してもられるかわからないと高橋は言っていた。
板野はそのことを思い出し、祈るような気持ちで天を仰いだ。
キッチンからはコーヒーのいい香りが漂ってくる。
板野は小さくため息をついた。
29 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:22:44.93 ID:+9B/ba1D0
前田「おまたせー」
ほどなくしてマグカップをトレーに乗せた前田が戻って来た。
トレーにはコーヒーの他に、サラダとクッキーが乗せられている。
板野「あっちゃん、また食べるの?」
前田「えへへ、なんかお腹すいちゃって」
毎度のことながら、板野は前田の食欲には感服していた。
細い体で、前田は本当によく食べる。
30 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:23:18.70 ID:+9B/ba1D0
前田「それよりともちん、またため息ついてたでしょー?」
板野「え?キッチンまで聞こえた?」
前田「聞こえたよー。心配しなくても大丈夫だって。たかみながうまくやってくれてるよ」
前田に励まされ、板野は大きく頷いた。
板野「そうだよね。警察の人が来てくれれば、何も心配することないよね」
前田「そうそう。ほらクッキー食べなよ。明日は握手会だよ?力つけておかないと」
板野「えー、クッキーで力つくわけないじゃん」
そう笑いながらも、板野はクッキーへと手を伸ばした。
前田はそんな板野を見守るような目つきでもって、見つめている。
31 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:23:50.87 ID:+9B/ba1D0
翌日、高橋は緊張の面持ちで控え室へと入った。
前田「あ、たかみなおはよー」
すぐに気がついた前田が、飼い主を見つけた子犬ように駆け寄ってくる。
高橋「おー、おはよう」
高橋が挨拶を返すと、前田は高橋の耳元に唇を寄せ、小声になった。
前田「今日は警察の人、来てるんだよね?」
高橋が返事をしようとしたその時、背後からキャリーバッグを引く音が聞こえてきた。
32 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:24:08.70 ID:30C4cMKe0
期待してるよー
33 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:24:31.72 ID:+9B/ba1D0
当麻「おはようございます。あなたは確か…前田敦子さん!ですよね?ね?」
前田は当麻を見ると一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔を取り戻し頷いた。
それから当麻の後ろに立つ瀬文の姿を確認した。
瀬文はメンバーが集まる控え室に居心地の悪さを感じているのか、さながら女子高に勤める男性教諭のような気圧された表情で、しかし姿勢だけは崩れることなく堂々と立っている。
前田「警察の方ですね?今日はよろしくお願いします」
当麻「あー、わかりますか?一応ファンのふりして握手会を見張ることにしたんで、周囲に溶け込めるように考えたんですけど」
前田「だって握手会にスーツで来る人なんて滅多にいませんから」
当麻「ですよねー。ほらやっぱり私服のほうがいいって言ったじゃないですか瀬文さん」
当麻に抗議の眼差しを投げかけられ、瀬文の肩がぴくりと動いた。
34 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:25:49.87 ID:+9B/ba1D0
瀬文「格好なんてどうでもいい。要は皆さんが安全に握手会を終えることができるかどうかだ」
前田は瀬文が握りしめている紙袋に目を奪われた。
――何が入っているのだろう。
スーツに紙袋という組み合わせが、彼女の目に不自然に映った。
当麻「それ何ですけど、現時点で脅迫状が届いているのは高橋さん前田さん板野さんの3人なんで、3人に集中して見張りをするんで問題ないですよね?」
当麻は物珍しそうに控え室を見渡しながら、そう言った。
気がつくと、先ほどまで賑やかだった控え室は、当麻と瀬文の登場により静まり返っていた。
35 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:26:45.90 ID:+9B/ba1D0
36 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:27:29.45 ID:+9B/ba1D0
瀬文「1つお聞きしますが、他のメンバーの方々は脅迫状についてご存知なんですか?」
瀬文は相変わらず高橋の目をまっすぐに見ることができないようで、視線を逸らしながらそう訊いた。
高橋「はい。一応みんなにも警戒が必要なんじゃないかと秋元さんと相談して、あたしからみんなに伝えました」
大島「あのー、本当に大丈夫ですよね?まさかあんな脅迫状に書かれてあったようなこと、起きるわけないですよね?」
大島は一歩前に進み出ると、大きな目を見開きながら、当麻に質問した。
大島「3人にもしものことがあったらと思うとあたし心配で…」
当麻「大丈夫です。3人のことも、皆さんのことも必ず守りますんで」
当麻は大島の目力に吸い込まれそうになりながら、そう答えた。
その時だった。
控え室の隅で、か細い声が響く。
37 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:28:02.25 ID:+9B/ba1D0
渡辺「あのぉ…実は脅迫状はそれだけじゃないんです」
柏木に支えられた渡辺が、小刻みに肩を震わせている。
渡辺「今朝、わたしにも脅迫状が届いていたそうです」
当麻「…あなたは?」
渡辺「渡辺です。これがその脅迫状なんですけど…」
渡辺が差し出した便箋を受け取り、当麻はその文面に目を通した。
高橋も覗きこんで、脅迫状を読んでいる。
――どうして…どうしてまゆゆにまで脅迫状が…。
高橋は驚きの表情を浮かべた。
38 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:28:33.22 ID:+9B/ba1D0
『渡辺麻友さんへ
今日の握手会を中止しなさい。
もし中止にしなかったら、私はあなたの命を奪うでしょう。
私にはとある力があります。
私は遠くにいながら、あなたを毒殺することができます。
もうおわかりでしょう?
握手会が終わった時、あなたのもうこの世にいません』
当麻「毒殺…ですか」
当麻の呟きに、メンバーが凍りつく。
39 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:29:00.76 ID:+9B/ba1D0
高橋「毒殺ってどういうことですか?何でまゆゆが?」
高橋の声は上擦っていた。
みるみるうちにその目は涙で濡れはじめる。
瀬文「ただちに差し入れや弁当の類を処分しろ!早く!飲み物も全部だ!」
瀬文が周りにいたスタッフに怒鳴った。
スタッフ達は瀬文の迫力に驚きながらも、次々と控え室から飲食物の類を運び出そうとする。
メンバーの中からは悲鳴が上がった。
小嶋「えー、あたしもうお弁当食べちゃったよー」
小嶋はしかし事態の深刻さがまだ理解できていないらしく、メイクを直す手を休めることなくそう言った。
40 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:29:40.65 ID:+9B/ba1D0
当麻「さすが小嶋さん、脅迫状ごときでは動じないなんてやはり天才の素質が備わっているんですね。いやー、ぶっちゃけ私、アインシュタインの次に小嶋さんを尊敬していますから。実物はやっぱりクソ可愛いっすね!」
当麻もまた突然の事態に驚く様子もなく、ひょうひょうと小嶋に話しかけた。
元来人見知りの小嶋は、曖昧に笑っただけで、当麻と話す気はないようだった。
そんな小嶋の態度に気を悪くすることもなく、むしろ当麻は興味深げに憧れの美女の姿を見つめている。
秋元「大丈夫なんですか、結構みんなごはん済ませちゃってるんですけど」
仲川「あたしまだお菓子しか食べてなかったよー」
口々に話し始めるメンバーを、高橋が貫禄ある仕草で宥めていく。
当麻「あくまでも犯人の狙いは渡辺さん。わざわざ名指しで脅迫状を送りつけてくるくらいですからね。他の皆さんにまでは危害を加える気はないと思いますよー」
高橋「でも誰がどのお弁当を食べるかまで犯人が予想できるわけないし、もし無差別に毒が入っていたのなら…」
41 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:30:10.89 ID:+9B/ba1D0
当麻「大丈夫です。ほら瀬文さーん、余計なことするから皆さん怖がっちゃったじゃないですか」
瀬文「これは緊急事態だぞ」
当麻「犯人の狙いは渡辺さんです。しかし控え室に置かれた飲食物に毒を仕込んだのでは、確実に渡辺さんを狙うことは不可能。だったら犯人はもっと別の方法で渡辺さんを狙ってくるはずじゃないですか」
高橋「メンバーやスタッフがこんなにいる状態で、どうやってまゆゆにだけ毒を盛るっていうんですか?」
当麻「さあわかりませんけど、毒殺っていっても何も飲食物だけを疑う理由なんてないんですよ。毒っていえば例えば蜘蛛とか蠍とか蛇とかだってそうですよね?」
恐怖と不安に硬直する控え室の中で、当麻だけが悠然と構えている。
何か犯人逮捕に対する秘策でもあるのだろうか。
得体の知れぬ当麻の自信に、高橋は苛立ちを覚えていた。
42 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:30:52.68 ID:+9B/ba1D0
高橋「メンバーやスタッフがこんなにいる状態で、どうやってまゆゆにだけ毒を盛るっていうんですか?」
当麻「さあわかりませんけど、毒殺っていっても何も飲食物だけを疑う理由なんてないんですよ。毒っていえば例えば蜘蛛とか蠍とか蛇とかだってそうですよね?」
恐怖と不安に硬直する控え室の中で、当麻だけが悠然と構えている。
何か犯人逮捕に対する秘策でもあるのだろうか。
得体の知れぬ当麻の自信に、高橋は苛立ちを覚えていた。
高橋「そっちのほうがより不可能じゃないですか。まゆゆを毒殺するために、犯人は蛇や蠍を持ち込むというんですか?」
当麻「いえ、これはあくまでも方法の可能性です。実際に犯人がどんな手を使ってくるか私にもわかりません。だけどそのためにこうして私達が来ているんじゃないですか」
当麻はそう言うと、バッグから惣菜のパックと割り箸を取り出し、食べ始めた。
当麻「まあ今からここでああだこうだ言ってても始まりません。犯人は必ず握手会に現れます。そこを私達は逮捕するだけです。今は静かにその時を待ちましょう」
落ち着いた様子で食事を始めた当麻を、瀬文は忌々しげに見つめている。
高橋はメンバーを落ち着かせたり、具合が悪くなっていないかと聞いて回ったりと、忙しく立ち働き始めた。
43 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:31:25.33 ID:+9B/ba1D0
ほどなくして、握手会が開始された。
結局作戦を変更して、客のふりをして潜入するのではなく、握手会スタッフとして堂々と渡辺につくことにした当麻と瀬文は、始終辺りを警戒していた。
渡辺は脅迫状が届いていることなど感じさせぬ笑顔で、ファンと交流している。
まだ子供っぽさの残る少女の、プロ意識の高さに、瀬文は目を見張った。
ふと見れば、他のメンバーも不安だろうに、傍目には心から握手会を楽しんでいるように映る。
高橋「ありがとうございますー」
少し離れた所から、高橋の元気な声が聞こえてきた。
瀬文は先ほどの控え室での、彼女の様子を思い出す。
不安で泣き出すメンバー、震えるメンバーに1人1人声をかけ、じっくりと話を聞いていた高橋。
不思議なことに高橋に話しかけられたメンバーは皆、その後笑顔になり、元気を取り戻したように見えた。
以前SITの一員として部下を引っ張ってきた経験のある瀬文だが、高橋の持つ天性のリーダーシップと責任感の強さは、尊敬に値すると考えていた。
しかし、だからこそ今の状況を一番深刻に受け止め、傷ついているのは高橋だろう。
絶対に彼女を救ってあげたい。
瀬文はそう心に誓った。
44 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:32:07.47 ID:+9B/ba1D0
前田「本当ですかー?ありがとうございますー」
渡辺と背中合わせに立つ位置には、前田がいた。
2通目の脅迫状を受け取ったのは彼女だ。
いくらスタッフに固められているとはいえ、きっとその時の握手会は恐怖でいっぱいだっただろう。
瀬文は前田の姿にも視線を走らせた。
今日の犯人の狙いは渡辺に間違いなさそうだが、念のため前田の周囲にも警戒しておいたほうが良さそうだと瀬文は判断した。
この寒い季節に、前田は防寒よりも見た目を重視した服装で握手会に望んでいる。
華やかに見えるアイドルという職業も、なかなか楽ではないらしい。
瀬文はいつの間にか、健気に頑張る彼女達の虜になっていった。
45 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:32:44.34 ID:+9B/ba1D0
当麻「はいはい駄目駄目ー。次の人が控えてるんだから」
渡辺の横で、すっかり握手会スタッフになりきった当麻が、渡辺から無理やりファンを引き剥がそうとしている。
渡辺のレーンでは、態度の悪い女性スタッフがいると早くも噂になっていた。
笑顔を浮かべながらも、渡辺は時折困惑した表情で当麻を見ている。
その時、バランスを崩したのか、背後にいた前田が渡辺に倒れかかった。
渡辺はその場に座りこむような形で倒れしまう。
助け起こそうとして当麻が動くのと、何かが彼女達の目の前を横切るのとは、ほとんど同時であった。
渡辺「キャーーーー」
一瞬遅れて、渡辺の悲鳴が上がる。
46 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:33:09.68 ID:phR8au6K0
47 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:35:06.39 ID:LVvTpx420
当麻と瀬文ってどこかで聞いたと思ったら「SPEC」か
戸田と加瀬で脳内変換開始w
48 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:38:44.24 ID:aAjY7gz7i
C
49 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:38:47.50 ID:4efee3T2i
やっと追いついた
これは期待できるな
なかなか面白い
50 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:39:16.80 ID:Cwr6L82pO
>>1は何のためにわざわざこんな下らないの書いてるの?
ブログにでも書けば?
51 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:40:26.90 ID:Ei/M5Jvc0
面白いな
ちゃんと完結させてくれよ
52 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:40:40.39 ID:Ge/lEkWY0
今度映画でやるんだっけか
53 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:40:56.06 ID:hwzBtLLa0
>>2 SPECキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
54 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:42:55.34 ID:rABJgKRoi
テレテテ テレテテ テレテテ テレテテ I step ~
55 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:44:06.89 ID:+9B/ba1D0
少し離れた場所で警戒を続けていた瀬文が急いで彼女のもとへと駆け寄った。
倒れた渡辺の足先数センチほどの所。そこに矢が刺さっていた。
瀬文「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」
瀬文は周囲に素早く視線を走らせた。
どこから矢は放たれたのか。
突然の出来事に騒ぎ出すファンの群れに隠れ、犯人はすでに逃走を始めているかもしれない。
考えるよりも先に、瀬文は駆け出した。
しかしやはり犯人らしき姿を見つけることはできない。
56 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:44:43.45 ID:+9B/ba1D0
瀬文が駆け出すのを見て、当麻は呆れていた。
当麻「あの体育会系馬鹿。脳みそまで筋肉で出来てるのかよ」
当麻は天井近くの窓に開けられた穴を確認する。
――あそこから矢が放たれたのだとしたら、犯人は最初から会場に入って来てはいない。
窓の先にはビルの屋上が見えた。
犯人はおそらくあの屋上から渡辺を狙って矢を放ったのだろう。
犯人は相当な弓矢の腕を持つ人物。
あるいはやはり特殊なスペックを持ち、その能力を使って矢を放ったのかもしれない。
前田「まゆゆ大丈夫?」
当麻が窓を睨んでいるうちに、倒れた渡辺を前田が助け起こした。
渡辺は恐怖で足がすくみ、1人では立っていられないような状態であった。
すぐにスタッフが駆けつけ、渡辺と前田を奥へ連れ去る。
当麻も後を追いかけた。
当然のことながら、その後の握手会は中止となり、他のメンバーも控え室へと戻らされることとなった。
57 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:45:22.94 ID:+9B/ba1D0
控え室には重々しい空気が漂っていた。
その後の調べで、矢には即効性の毒が塗られていて、当たればまず命を落としていただろうということだった。
高橋はメンバーの恐怖を和らげようと、意識して明るい声を出す。
高橋「でもさ、犯人は確かに気になるけど、あたしはまゆゆが無事でいてくれてうれしいよ」
高橋の言葉に、メンバーの表情が少しだけ和らいだ。
篠田「本当そうだよね。何はともあれ、まゆゆに矢は当たらなかったわけだし」
柏木「私は麻友が無事なら、正直犯人なんてどうだっていいです。後は警察に任せておけばいいんですよね」
柏木は涙ぐみながら、渡辺を抱きしめた。
毒殺に怯え、食事を摂っていなかった渡辺だが、柏木からきんぴらごぼうを差し出されると、少しだけ食べることができた。
きんぴらごぼうは今朝、柏木の母が作って持たせたものである。
柏木の母の味に、緊張の糸が切れたのか、渡辺は泣き笑いを浮かべた。
渡辺「本当に怖かったよぉ。ありがとう、ゆきりん、あっちゃん」
そんな渡辺の姿を見て、ようやくメンバーの間に安堵の息が洩れた。
58 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:45:50.08 ID:+9B/ba1D0
大島「そうそう!あっちゃんお手柄だったねー」
偶然とはいえ渡辺を助けた形となった前田は、メンバーから賞賛されていた。
もしあの時、前田が倒れかかっていなければ渡辺はまともに矢を受けいたことになる。
前田「たまたまコートを取ろうとして手を伸ばしたらこけちゃって。まゆゆを倒しちゃったんだよね。大丈夫だった?」
渡辺「うん、平気だよ。ありがとう」
前田は渡辺の言葉に、笑顔で頷いた。
高橋「あっちゃんは怪我とかなかった?」
前田「うん。大丈夫ー」
59 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:46:31.48 ID:+9B/ba1D0
こうして徐々に控え室には和やかな空気が流れるようになった。
しかしそこへ、当麻が姿を現した。
メンバーのおしゃべりは一瞬にして止み、視線は当麻へと注がれる。
当麻「高橋さん、ちょっとお話いいですか?」
当麻は高橋を見て、手招きをした。
高橋は神妙な面持ちで控え室を出て行く。
その後ろ姿を、前田は心配そうに見つめていた。
60 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:47:01.58 ID:+9B/ba1D0
当麻は高橋を会場の隅へと連れて行った。
さきほどまで握手会が行われていた会場。
すでにファンの姿はなく、がらんとした空間には寂しさだけが漂っている。
高橋「あの、何かわかったんですか?」
高橋は当麻を見つめる。
事件直後は姿が見えなかった瀬文が、矢が刺さっていた床に屈みこんで何かを調べていた。
高橋「あ、瀬文さんもいたんですね」
当麻「犯人逮捕しようと考えなしに駆け出して、結局収穫なしで戻って来たんですよ、この馬鹿は」
瀬文「隣にいながら渡辺さんを狙う矢の存在に気付かなかったおまえに言われたくない」
瀬文が抑揚のない声で言い返す。
61 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:48:03.50 ID:+9B/ba1D0
当麻「でー、高橋さんをお呼びしたのは他でもない、ちょっと聞きたいことがあるんですよー」
当麻は呑気さの窺える間延びした声で言った。
この人には真剣味が感じられないなと、高橋は心内で批判する。
高橋「はい、何ですか?」
当麻「事件が起きたとき、あのビルの屋上に不審な人物が見えたりしませんでしたか?」
高橋「いえ、あたしはまゆゆから一番遠い、あっちの壁際のほうにいましたから、事件が起きたことさえ最初は気付きませんでした」
当麻「そうですか。メンバーの並び順や組み合わせは誰が決めているんですか?」
高橋「運営の方だと思います」
当麻「レーンの並び順をあなた方が知るのは、いつも当日会場に入ってからですかね?」
高橋「はい、控え室に入ると、自分がどこのレーンに行くか貼り出されてあるんです」
当麻「そうですかー」
当麻は何を気にしているのだろう。
高橋は当麻の考えがさっぱり読めなかった。
62 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:48:46.51 ID:+9B/ba1D0
当麻「ところで、高橋さんの身近に、弓矢の経験がある人とか、異常に運動神経がいい人とかいませんか?」
高橋「は?どういうことですか…」
当麻「うーん、例えばあなた方のスケジュールに詳しいマネージャーさんやスタッフさん、もしくはー……メンバーとか?」
当麻は無邪気にそう言った。
高橋の顔に、明らかな嫌悪が浮かぶ。
高橋「まさかスタッフさんやメンバーの中に犯人がいると疑っているんですか?」
当麻の発言に、高橋は憤りを感じている。
自分達のために頑張ってくれているマネージャーやスタッフ、そして何よりここまで苦労を共にしてきたメンバーを疑われたのが心外といった様子だ。
63 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:49:29.47 ID:+9B/ba1D0
当麻「例えばの話ですよ。やだなぁー、そんなに怖い顔しないでください」
当麻がにやにやと笑う。
高橋はそんな当麻を睨みつけた。
すぐに瀬文が割って入る。
瀬文「当麻!聞き方というものがあるだろ!」
しかし当麻は軽く舌打ちしただけで、すぐにまた高橋に向き直る。
当麻「だってさっきの事件、どう考えても外部の犯行じゃないんすよー。AKB48さんの身近な人物でないと絶対にさっきの犯行は不可能なんです」
高橋「どうしてですか?矢は会場の外…あのビルの屋上から放たれたんですよね?」
高橋が訊くと、当麻はなぜかうれしそうに頷いた。
そして待ってましたと言わんばかりに、一気に話し始める。
64 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:52:12.15 ID:+9B/ba1D0
当麻「握手会のレーンの並び順は当日会場に来ないと、関係者以外は知ることができないんですよね?あのビルの屋上から渡辺さんを狙うには、事前にレーンの並び順がわかっていなければ実行不可能なんです」
当麻「もし渡辺さんがここではなく、もっと別の、奥のほうのレーンだったらあそこから弓矢で狙うことは出来ませんからねー。そうなった場合はきっとターゲットを変更していたんだと思います」
当麻「おそらく犯人が渡辺さんをターゲットに選んだ理由はレーンの並び順にあるんじゃないでしょうか。一番狙いやすい窓側のレーンの渡辺さんを、犯人は弓矢で毒殺することに決めました」
当麻「そして今朝、渡辺さん宛てに脅迫状が届いた。犯人は遅くとも今日の朝までにはレーンの並び順を知っていたことになります。だとしたら自然と犯人は絞り込めますよね?」
当麻「事前に並び順を知ることのできる人物、それは握手会のスタッフとメンバーの方だけです」
当麻の説明に、高橋は言葉を失った。
まさか本当にそんなことがあり得るのだろうか。
いつも親切なスタッフ、優しいメンバー達、あの中に、密かにメンバーに対して殺意を抱いている人物が紛れこんでいるというのか。
高橋は当麻の言葉が信じられなかった。信じたくなかった。
そんな高橋の気持ちを見透かしてか、当麻は尚も続ける。
65 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:52:51.14 ID:+9B/ba1D0
当麻「すぐには信じられませんよねこんとなこと。だけど状況がそれを物語ってるんですよ。教えてください高橋さん、あなたの身近に弓矢の腕を持つ人物はいませんか?」
当麻の問いかけに、高橋はしばらくの間無言を貫いた。
しかし観念したのか、口を開く。
高橋「番組で特技を披露する機会とかあるんで、メンバーについてはよく知っているはずだと思います。あたしが知る限り、メンバーの中には弓矢が得意の子はいません。スタッフさんについてはよく知りませんけど」
当麻「そうですか、わかりました。ありがとうございます」
当麻は意外とあっさり納得し、弓矢が放たれた窓を見上げた。
高橋「お力になれなくてすみません」
当麻「いいっすよ。どうせそんなことだろうと思いました」
当麻の言葉に、高橋は首を傾げる。
最初からそう思っていたのなら、なぜわざわざ自分は呼び出されたのだろう。
66 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:54:16.43 ID:+9B/ba1D0
当麻「あの窓、見た目は小さいですが結構厚いんですよ。あの窓をつき破ったら、渡辺さんに届くまでに矢の勢いは失われてしまうと思います」
当麻「それなのに矢は勢いを失うどころか、床に突き刺さって穴まで空けている。こんなことどんなに弓矢の腕のある人物でも物理的に不可能だと思いませんか?」
高橋はそう言われて、床に目を落とした。
矢の痕は、数センチほどの深さがあるように見える。
確かに言われてみれば妙だ。
高橋「どういうことですか、これ…」
当麻「おそらく犯人は弓矢を撃ったわけじゃないと私は思います」
高橋「撃って…ない…?じゃあどうやって犯人は矢を…」
当麻は自身の見解を話すのが楽しくてたまらないといった様子で、子供のように跳ね回りながら言った。
当麻「やだなー、撃ってないなら答えは1つに決まってるじゃないですかー。投げたんですよぉー」
67 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:55:07.98 ID:hwzBtLLa0
高まるぅ〜
68 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:56:49.89 ID:+9B/ba1D0
高橋「そんな…あのビルからですか?そっちのほうが不可能ですよ」
当麻「それが不可能じゃないんですねー。どうしてだかわかりますか?」
高橋「いえ、わかりません」
当麻「そうですかー。それじゃあ教えてあげる。犯人は特殊なスペックを持っているからです!あ、当たり前すぎて笑えますよね」
当麻「たぶん、異常な運動能力を持つスペック…つまりー、常識では考えられないくらいちょー運動神経がいい人。そんな犯人してみれば、あのビルから窓を突き破って渡辺さんに矢を投げることなんて、紙くずをゴミ箱の放りなげるくらい簡単なことです」
当麻「あ、そうそう、あの毒が塗られていた矢は、衝撃に耐えられるようかなりの重さに改良されていました。それが何よりの証拠です。瀬文さんが馬鹿力で引っ張らないと床から抜けないくらいでしたから」
当麻の言葉に、瀬文が無言で頷く。
高橋「でも仮にそんな能力を持つ人がいたとして、矢を投げることはできても、まゆゆに当たるよう狙いをつけるのは難しいんじゃないですか?ほら、ビルは結構離れた所に建ってますし」
69 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:58:06.44 ID:+9B/ba1D0
当麻「本当に優れた運動能力を持つスポーツ選手なんかは、動体視力も優れているんです」
高橋「そうなんですか…でもそんなことすぐには信じられないですよ」
高橋はそう言って、視線を泳がせた。
当麻「ま、実際に自分の目で見ない限りは信じられませんよね。いいです。ただ高橋さんにはこれから、周りの人物に注意を払ってもらいたくてお話したんです。少しでもおかしな動きをする人物を見かけたら、すぐに私達に教えてください」
当麻はそこで突然真剣な顔になった。
高橋はそんな当麻の迫力に気圧されながらも、こくこくと頷く。
高橋「は、はい…わかりました…」
70 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:58:39.62 ID:+9B/ba1D0
高橋が当麻の説明を受けている間、控え室は徐々にいつもの活気を取り戻していた。
峯岸「この後どうする?今日はもう握手会中止になっちゃったし、みんな暇でしょ?ごはんでも食べて帰ろうよ」
宮澤「お、いいねー」
前田「何食べるー?」
峯岸の提案に、宮澤と前田は無邪気な様子を見せる。
しかし大島は、浮かない顔をしていた。
大島「でもさ、今日のところはおとなしくしておいたほうが良くない?こんな事件が起きた直後だし、犯人だって捕まってないんだから」
大島はそう言って、悲しげに眉を下げた。
峯岸も気がついて、口をつぐむ。
71 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 17:59:02.38 ID:rABJgKRoi
最初普通の刑事ドラマかと思って見てたらいきなり犯人が異常な運動能力でボール投げてきたから何事かと思ったなww
72 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 17:59:15.99 ID:+9B/ba1D0
小嶋「あ、ねぇたかみなはどこいったのー?」
小嶋がきょろきょろと視線を動かした。
篠田「たかみなならさっき刑事さんに呼ばれてどこか行ったけど。にゃんにゃん気付かなかったの?」
篠田は早々と帰り支度を始めながら、小嶋のほうを振り返った。
小嶋「えー?そうなの?なんでぇー?」
前田「たぶん最初に警察に相談したのがたかみなだから、何か説明を受けてるんじゃないかな」
前田は携帯を操作する手を休め、小嶋を見た。
73 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:00:39.60 ID:+9B/ba1D0
小嶋「そっかぁー。明日早いからたかみなに朝電話してって頼もうと思ったのに」
篠田「あ、じゃああたし電話してあげようか?何時?」
大島「えー、麻里子疲れてるってさっき言ってなかった?にゃんにゃん、あたしが電話してあげるよ!」
小嶋「えー、どうしようかなー」
自分で言っておきながら、小嶋はすでに興味を失ったようで、適当に返事をしながらその辺に置かれた紙を引き寄せ、落書きをはじめてしまった。
前田はそのやりとりをぼおっと見守っていたが、すぐに気がついてまた携帯の画面に目を落とした。
その直後、ぴくりと肩を震わせ、周囲を見渡す。
峯岸「あっちゃん?どうしたの?」
前田「あ、ねぇ誰か今、携帯鳴ってるよ?」
74 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:01:19.71 ID:+9B/ba1D0
前田に言われて、大島はちらりと自分の携帯を見た。
篠田も大島に続き、携帯を確認する。
2人はそれから顔を見合わせ、不思議そうに首を傾げた。
大島「えー、何も聞こえないよ」
前田「違うよー。佐江ちゃんの携帯じゃない?」
宮澤が慌てて鞄の底を探る。
宮澤「あ、ほんとだ。お母さんから電話だ」
宮澤は電話に出ると、二言三言話し、片方の耳を塞ぎながら控え室を出て行った。
しばらくして戻って来た宮澤の表情は、先ほどとはうって変わり、影をさしている。
大島「どうかした?」
大島が宮澤の顔を覗き込んだ。
宮澤「さっきの事件、もうニュースとして報道されてるみたい。心配だから終わったらすぐ帰って来いってお母さんが…」
75 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:02:05.14 ID:+9B/ba1D0
その夜、高橋は自宅で1人考え込んでいた。
当麻は自分達の身近に犯人がいると睨んでいる。
そしてその犯人とは特殊なスペックの持ち主。
高橋はもう一度、握手会の様子を思い返してみた。
――やっぱり犯人はメンバーの誰かなのかな。
大混雑の握手会で、スタッフが自分の仕事を離れてあのビルまで行き、矢を投げることは時間的に不可能。それはメンバーも一緒だ。
当麻が言おうとしていたのは、もしかしたら今日の握手会に来ていたメンバーやスタッフの中に、レーンの並び順を犯人に伝え、犯行を手引きした人物がいるのでは、ということだったんじゃないだろうか。
いずれにしても用心しておいたほうがよさそうだ。
なるべくならメンバーを疑いたくはないけれど。
76 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:02:48.87 ID:+9B/ba1D0
高橋はそう考えに至り、大きくため息をついた。
机に置かれた紅茶は、とうに冷めてしまっている。
――犯人がメンバーを狙う目的は何なの?
何度考えても、犯行の理由はわからなかった。
今朝、脅迫状が届いて高橋は心底驚いたのだ。
――誰が何の目的であんな脅迫状を送って来たのだろう。
メンバーの前では気丈に振る舞っていたものの、高橋は1人になると、得体の知れぬ犯人に怯えていた。
――もう何も起きないといいんだけどな…。
77 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:03:14.36 ID:+9B/ba1D0
翌日、瀬文が出勤すると、すでに当麻はソファに座り、野々村と一緒に食い入るようにテレビ画面を見ていた。
瀬文「どうしたんですか?」
瀬文が声をかけると、野々村が振り向いた。
野々村「ああ瀬文くん、おはよう」
瀬文「おはようございます」
野々村の脇から、瀬文もテレビを覗きこむ。
映っていたのはAKBのライブ映像だった。
瀬文「何してるんですか?」
78 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:03:48.53 ID:+9B/ba1D0
野々村「いやね、昨日のうちに資料になりそうな映像を片っ端から当麻くんが集めてくれたんだよ。いやー、これはいいね、ともちんて子も可愛いけど、僕は麻里子様も好きだね」
野々村は嬉しそうに目じりを下げている。
その姿は完全に仕事を忘れていた。
当麻「あ、瀬文さんも見ますか?」
当麻が呑気な顔で振り返る。
瀬文「これのどこが資料映像なんだ?」
昨日、高橋に対してかなりきつい質問を繰り返していた当麻が、瀬文は許せなかった。
――こいつ、本気でメンバーを疑っているのか?
瀬文は当麻を睨みつけた。
案の定、当麻は意に介さずといった具合に、朝からぺらぺらとよく喋った。
79 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:05:19.44 ID:+9B/ba1D0
当麻「昨日はああ言いましたけど、やっぱり犯人はメンバーの中の誰かしか考えられないんですよー。だってー、もしスタッフの誰かが犯人だとしたら、わざわざビルから渡辺さんを狙わなくても、もっと簡単に毒殺することができるじゃないですか」
当麻「そもそも毒殺じゃなくても、渡辺さんが1人になった隙を狙って、首をひねればいい話です。犯人には素晴らしい運動能力というスペックがあるんですから」
当麻「それなのに犯人はビルの屋上から渡辺さんに毒を塗った矢を投げるという回りくどい方法を取った。どうしてだと思います?」
瀬文「変態の考えることなど、俺にわかるわけないだろ」
当麻「犯人はどうしても、あの握手会会場に入ることができなかったんです。だから遠くから渡辺さんを狙うしかなかった。もし会場に入ったら、すぐにファンに気付かれてしまいますからね」
瀬文「どういう意味だ?」
80 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:06:35.01 ID:+9B/ba1D0
当麻「まだわかりませんか?犯人は昨日の握手会に参加していなかったメンバーの誰かなんです。メンバーなら、会場に入って渡辺さんを狙う前に、すぐにファンの人に気付かれてしまいます」
当麻「で、この資料映像。昨日の握手会に参加していなかったメンバーの顔を把握しておこうと思いまして。何しろ人数が多いですからねー。瀬文さんにもメンバーの顔と名前、覚えてもらいますよ?」
当麻に言われ、瀬文は不服そうに腰を下ろし、画面を見た。
正直なところ、テレビでよく見かけるメンバー以外、瀬文にはみんな同じ顔に見えてしまう。
昨日の握手会に参加していたのは、高橋、前田、大島、渡辺、柏木、篠田、小嶋、板野、宮澤、峯岸、秋元、倉持、高城、指原、北原、大家、宮崎、平嶋、佐藤すみれの19人だった。
瀬文は午前中いっぱいを使って、メンバー1人1人の顔を覚えていく。
当麻は昨日のうちに覚えてしまったようだが、なぜだか瀬文に付き合って資料映像を見続けていた。
81 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:07:21.32 ID:+9B/ba1D0
午後になると、当麻と瀬文は彼女達の番組収録の現場へと向かった。
昨日の握手会にいなかったメンバーにも会っておくべきだという当麻の考えに、瀬文が付き合わされた形である。
峯岸「あ、当麻さん!どうしたんですか?」
2人が現場に着くと、すぐに峯岸が人懐こい笑顔で話しかけて来た。
当麻「昨日あんな事件があったばかりですから、心配で見に来たんですよー」
当麻はさらりと嘘をついた。
それから峯岸の足元を見下ろす。
当麻「めちゃくちゃ可愛いっすね、この犬」
当麻の目は、峯岸の連れている小型犬に釘付けになった。そんな当麻を、瀬文は意外そうに見つめる。
――犬に反応するとは、こいつも一応女なんだな…。
瀬文は心内で、失礼極まりないことを呟いていた。
82 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:08:17.93 ID:+9B/ba1D0
峯岸「ジョセフっていうんですー」
峯岸は話題が愛犬に向かうと、うれしそうに目を細めた。
峯岸「今日のロケは愛犬と一緒なんです。メンバーのわんちゃんもほらあっちに…」
峯岸が指し示した方向には、やはり小型犬を連れた彼女達の姿があった。
事件のことはすでに伝わっているはずだが、愛犬と一緒ということもあり、メンバーはややリラックスした表情を浮かべている。
仁藤「こんにちは」
最初に挨拶をして来たのは仁藤だった。
当麻も頭を下げる。
平嶋「あ、昨日の…」
1人だけ中型犬を連れた平嶋が当麻と瀬文に気付き、目を丸くした。
平嶋「何かあったんですか…?」
昨日の握手会に参加していた平嶋は、すぐに状況を察して視線を下げた。
83 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:09:09.44 ID:+9B/ba1D0
当麻「やだなーそんなに怖がらないでくださいよー」
当麻は馴れ馴れしく平嶋の肩を叩いた。
当麻「ちょっと見学に来ただけです。それに心配なんで」
平嶋「そうですか…よろしくお願いします」
藤江「何、どうしたの?」
当麻と瀬文とは初対面になる藤江は、不思議そうに首を傾げるも、丁寧な身のこなしで会釈をした。
その時、藤江の足元にいた犬が、当麻に吠え付いた。
当麻「おぉっ」
藤江「ごめんなさい、ほらマックス!おとなしくしないと…」
藤江は犬の名前を呼び、慌てて抱き上げた。
それが今日の衣装らしい、ピンクのツナギのポケットから餌を取り出すと、マックスに与えている。
餌をもらうとマックスは途端におとなしくなった。
84 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 18:09:17.44 ID:Gzrtfuyv0
85 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:09:41.73 ID:+9B/ba1D0
峯岸「脅迫状のことで調べてくれてる当麻さんと瀬文さんだよ」
峯岸は他のメンバーに2人を紹介した。
昨日はいなかったメンバー、仁藤、藤江、岩佐、近野は、納得した顔で頷く。
近野「あ、よろしくお願いしまーす」
近野が元気よく挨拶したところで、番組のスタッフらしき男性がメンバーに近づいてきた。
どうやら撮影が始まるらしい。
当麻と瀬文は一時退却し、離れたところから彼女達の様子を見守ることにした。
86 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 18:10:18.09 ID:EVlz2JJl0
87 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:10:34.53 ID:+9B/ba1D0
当麻「いやー、皆さんさすがプロっすねー。あんな事件があったのに、カメラが回った途端にすごい笑顔…いえ、私達の姿を見た時から笑顔を作っていましたね」
当麻は感心した様子で、撮影を見ている。
瀬文「当たり前だろう。彼女達はアイドルなんだ」
撮影は順調に進んでいるようで、番組の趣旨に則って彼女達は思い思いに自分の愛犬をアピールしていく。
どうやら最終的にオーディションで残った1頭に、愛犬雑誌の表紙を飾る権利が与えられるという内容らしい。
当麻は楽しげに、メンバーの愛犬達の様子を見つめている。
瀬文「面白いのか?」
ふと疑問に思い、瀬文は当麻に問いかけた。
88 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:12:36.21 ID:+9B/ba1D0
89 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:13:48.96 ID:+9B/ba1D0
当麻「面白いですよ。だってー、犬って可愛いじゃないですか。ほら瀬文さんも見てくださいよー。仁藤さんの愛犬なんてかなり美人で品が良くて、まるで私みたいじゃないですかー?」
瀬文「……」
メンバーの名前を言われてもまだ覚えきっていない瀬文は、それが誰のどの犬なのかわからなかった。
わかっていたとしても、肯定はしていなかっただろう。
当麻ほど品のない女も珍しいと、瀬文は常日頃思っている。
瀬文「俺は断然、あの柴犬だな」
瀬文は平嶋の愛犬、ハチをいたく気に入り、少しだけ頬を緩めた。
その姿を見た当麻が、にやりと笑って瀬文をからかう。
90 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:15:34.44 ID:+9B/ba1D0
区切りのいいところで休憩に入った彼女達は、愛犬達と遊びながら談笑を始めた。
ジョセフとじゃれる峯岸。
ハチに振り回される平嶋。
そして所構わず吠え続けるマックスに手を焼く藤江。
マックスは撮影中も他の犬に吠え付いていた。
そんな中、利口そうな顔で飼い主の膝の上に座っているのが、当麻も気に入った仁藤の愛犬、ナナだ。
当麻は密かに、ナナが優勝するだろうと睨んでいた。
さらに撮影は進み、いよいよ愛犬のオーディションとなる。
メンバーは次々と愛犬に芸を披露させていった。
当麻「次マックスくんですね、本番で吠えないといいですけど」
すっかり番組に夢中になってしまった当麻が、まるで自分のことのように緊張した面持ちで、藤江の愛犬、マックスを見守る。
結局、当麻の予想どおりナナの優勝が決まり、撮影は終了した。
91 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 18:17:33.17 ID:JpFWu/4Y0
92 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:17:44.36 ID:+9B/ba1D0
峯岸「当麻さん、瀬文さんも最後までお付き合いいただいてありがとうございました。実は昨日のことでちょっとだけ不安だったんで、お2人が来てくれて良かったです」
仕事を終えた峯岸は、安心したのか本音をこぼした。
隣で平嶋も頷いている。
当麻「あのぉー、瀬文さんが平嶋さんの愛犬を気に入ってしまったみたいなんですよー。ちょっと触らせてあげてもいいですか?」
当麻は図々しくも平嶋にお願いする。
直後、瀬文に頭を叩かれた。
平嶋「あ、いいですよ、どうぞ」
平嶋はしかし、笑顔で快諾した。
瀬文はおそるおそるハチの頭を撫でる。
ハチは好奇心に満ちた瞳で、瀬文を見上げた。
93 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:18:41.41 ID:+9B/ba1D0
当麻「何だったらその辺散歩させてもらったらどうですか?」
平嶋「あ、でもハチ、興奮すると結構引っ張る力が強くて…」
当麻「大丈夫ですよ瀬文さんなら」
平嶋は心配そうに、ハチのリードを瀬文に手渡した。
当麻「いいないいなー、瀬文さん」
当麻は自分の図々しさに気付くことなく、無邪気に飛び回る。
しかし当麻の動きに驚いたのか、ハチは駆け出してしまった。
突然のことに、慣れていない瀬文はハチに引っ張られ、そのまま数メートルほど引きずられてしまう。
平嶋は慌ててハチを追いかけ、静止させた。
当麻「うわぁー、瀬文さん大丈夫ですかー?」
当麻が半笑いで瀬文を助け起こそうとするも、瀬文は自力で立ち上がり、バツの悪い表情を浮かべた。
94 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:19:50.13 ID:+9B/ba1D0
平嶋「ごめんなさい瀬文さん、怪我ないですか?」
平嶋はハチを叱りながら、瀬文に何度も頭を下げた。
瀬文は平静を装った顔で、彼女に答える。
瀬文「いえ、自分は訓練でこのようなことには慣れておりますので」
その間に当麻はあちこちへと動きまわり、各メンバーの愛犬にちょっかいを出し始めた。
当麻「本番は吠えなくて良かったですね、マックスくん」
前半は他の犬やスタッフの動きに興奮し、吠えてばかりいた藤江の愛犬は、しかしこの頃にはすっかりおとなしくなっていた。
藤江「はい、お陰様で」
藤江は笑顔で愛犬をあやしている。
藤江「でもおやつあげすぎてマックスおなかぱんぱんになっちゃったんですよー」
明るい藤江は、当麻の異様な容姿にも驚くことなく、すぐに打ち解けてしまっていた。
95 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:20:27.98 ID:+9B/ba1D0
当麻「マックスくんと藤江さん、めちゃくちゃそっくりっすね」
当麻も藤江と話すのが楽しいらしく、会話の隙を見ては藤江に他のメンバーについて探りを入れた。
藤江は聞かれるままに、当麻にとって情報となる話題を返していく。
瀬文「当麻、次へ行くぞ」
瀬文が戻って来た頃には、当麻はある程度メンバーの関係性について掴むことができた。
当麻「それでは私達は次の現場へ向かいますので」
当麻と瀬文はメンバーに挨拶をすると、その場を後にした。
96 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:22:27.00 ID:+9B/ba1D0
翌日、未詳にて当麻が資料映像を貪るようにして見ていると、高橋と前田が姿を現した。
高橋「おはようございます」
高橋の登場に、瀬文は密かに姿勢を正した。
当麻「あれ?どうしたんすか」
当麻はモニターの電源を落としながら、2人に体を向けた。
高橋と前田は顔を見合わせると、何かを確認し合うように頷いた。
高橋が口を開く。
高橋「あの、実はまた脅迫状が届いたんです」
瀬文の眉がぴくりと動く。
野々村も身を乗り出し、目を見開いた。
97 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:24:17.79 ID:+9B/ba1D0
野々村「だけど、犯人の希望通り握手会は中止になったはずでは…」
前田「そうなんですけど、なんか今までのとは感じが違うんです…」
高橋「これがその脅迫状なんですけど…」
高橋に手渡された脅迫状を一読した当麻は、歓喜の声を上げた。
当麻「キターーー!」
辺りに響き渡る声で、当麻が叫ぶ。
すかさず瀬文が彼女の頭を叩いた。
瀬文「うるさい!一体何が来たんだ」
当麻「痛ってぇな叩くんじゃねーよ」
当麻は抗議の目を瀬文に向けながら、脅迫状を差し出す。
当麻「読みますか?これどう考えても脅迫状というより予告状として取れるんですよ。かなりレアなケースじゃないですか?」
当麻「ネット上で殺害予告が書かれるなんてことはよくありますけど、これは犯人の生原稿ですよ!今時こんなことする人いますかね?」
野々村「予告状というと、怪人二十面相みたいな犯人だねぇ」
野々村はなぜかこの場に似合わぬしみじみとした口調で言った。
瀬文は野々村を無視して、脅迫状に目を落とす。
98 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:25:26.73 ID:+9B/ba1D0
『あれほど言ったのに、あなた方は握手会を開催しましたね?
私はあなた方を許しません。
前回は失敗しましたが、次は確実にあなた方を狙います。
もう一度言います。私には力がある。
どうかそのことをお忘れなく』
瀬文「殺害…予告?」
瀬文は愕然として言った。
瀬文「まさか本当に特殊能力で人を殺害する気なのか…」
前田は不安げに身を縮めながら、瀬文を見た。
前田「今回は名指しじゃないんです。だからもしかしたらAKBの全員が狙いなんじゃないかと思って…」
瀬文「……」
当麻「そして今回は犯人の要求が書かれていない…」
99 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:26:36.86 ID:+9B/ba1D0
高橋「どうしてなんでしょう?確かに握手会を強行したのは犯人の意に背く行為でした。でも、結局途中で握手会は中止になったんだし、今後再開する予定もない…。それなのになぜ犯人はまだあたし達のことを狙うんですか?」
高橋が切羽詰った様子で、当麻に尋ねる。
当麻「おそらく犯人の目的が変わったんでしょう。始めに脅迫状を書いた犯人は、ただあなた方を怖がらせ、それにより握手会が中止になればいいと考えていた。しかし今度の犯人は握手会にかこつけて、あなた方を殺害することが目的になっていると思われます」
高橋「あの、今度の犯人てどういうことですか?」
前田「始めに脅迫状を書いた犯人て…」
当麻「始めに送られてきた高橋さん前田さん板野さん宛ての脅迫状と、次の送られてきた渡辺さん宛ての脅迫状とでは、内容に変化があると気付きませんでした?」
高橋「内容に…変化…」
高橋は考え込むようにして、当麻の言葉を反芻した。
100 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:28:30.89 ID:+9B/ba1D0
当麻「知りたい?ねぇ知りたい?」
高橋と前田が首を傾げていると、当麻は突然はしゃぐように飛び跳ねた。
瀬文「もったいつけるな!いいから教えろ」
瀬文に一喝され、当麻はぐいっと高橋達のほうへ身を乗り出す。
当麻「最初の3通の脅迫状には、あなた方を傷つけたくはない、だから握手会を中止してくれという犯人の希望が書かれています。具体的に自分がどんな能力を持っているか教えておきながら、はっきりとあなた方を殺害するとは言ってないんです」
当麻「しかし渡辺さん宛ての脅迫状には、しっかりと殺害する意思と、その方法まで書いています。何がここまで犯人の考えを変化させたんでしょう?」
高橋「……」
高橋は唇を噛んで、当麻を見つめる。
その姿はまるで、当麻を睨んでいるようにも見えた。
前田が不安げに高橋に身を寄せる。
101 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 18:29:11.06 ID:DFrg+LmS0
specのパロ?
まだ読んでないけど面白そうだな
102 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:31:31.76 ID:+9B/ba1D0
当麻「答えは簡単です。犯人は2人いる。最初の3通を送ってきた犯人と、渡辺さん宛て、そして今回の予告状を送ってきた犯人。だけど2人の犯人の目的はまったく違う」
当麻「このことから考えると、どうやらこの2人の犯人は共犯関係にあるのではなく、別々に動いているという可能性です。おそらく2人目は便乗犯でしょう。そして恐ろしいことに、この犯人の目的は、あなた方を殺害すること…」
当麻がそこまで言うと、前田は恐怖に頬を引きつらせた。
高橋もまた恐怖で足が震えていたが、必死でそれを悟られないよう耐えていた。
高橋「あたし達は、これからどうしたらいいんですか…?」
当麻「犯人は次のターゲットを明かしていない。メンバーの方全員に説明して、注意を払っていただく必要があります。今後はあなた方全員のスケジュールを私達に教えてください。なるべくあなた方の動きに合わせて、私達も行動します」
高橋「今日だったらあたしとあっちゃんはこれから打ち合わせがあるんです」
当麻「同行します」
高橋「あ、でもそれはたぶん大丈夫です。まだ極秘の仕事なんで、限られた人しかこのことは知りませんから。それより心配なのは、今日だったらこれから何人かのメンバーがDVDの特典映像の撮影があって…」
瀬文「撮影?」
103 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:32:49.58 ID:+9B/ba1D0
高橋「はい、スタジオ内だけならいいんですけど、メンバーの中には屋外での撮影もある子がいて…できれば当麻さん達行ってもらえますか?」
当麻「わかりました」
高橋「お願いします」
高橋は深々と頭を下げた。
隣で前田も軽く会釈をする。
高橋「じゃああたし達は行きます。もう時間なんで…」
瀬文「現場まで送ります」
瀬文の申し出に、高橋は困ったような表情を浮かべる。
高橋「でも…」
瀬文「お2人を仕事場までお送りしたら、すぐに残りの方達の所へ向かいますので。ご安心ください」
結局瀬文に押し切られる形で、高橋と前田は打ち合わせ場所近くまで送ってもらうことにした。
その間、前田は口数も少なく、何かをじっと考えているようで、当麻の相手は主に高橋が行っていた。
104 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:34:01.61 ID:+9B/ba1D0
高橋と前田を無事送り届け、当麻達が教えれた場所へと向かうと、彼女達は既に衣装に着替え、リラックスした様子でスタッフから説明を受けていた。
おそらく今日は見知ったスタッフが多いのだろう。
当麻は、高橋が自分達をここへ来させたがった理由を理解した。
渡辺の事件の後、犯人はメンバーかスタッフの中にいると、当麻は高橋に話した。
高橋としては、メンバーの中に犯人がいるとは信じがたい。
そこで犯人はスタッフの中の誰かだと踏んで、見知ったスタッフの多いこの現場へ、当麻達を向かわせたのだ。
万が一、メンバーに危険が迫った場合、当麻達がすぐ対処できるように…。
――高橋さんという人は……。
当麻はすでに犯人はメンバーの誰かだと睨んでいる。
運のいいことに、集まっているメンバーは皆、握手会には参加していなかった面々だ。
――彼女達の中に、特殊なスペックを持った人間が潜んでいたとしたら…。
当麻はメンバーに視線を走らせた。
少し気の強そうな顔をした少女が、運動着姿で携帯を操作している。
105 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:34:51.41 ID:+9B/ba1D0
当麻「どうも、高橋さんから少しは皆さんにお話伝わってますよね?今日は撮影を見させていただきます」
当麻はさっそくその少女に声をかけた。
大きな瞳が印象的なその顔は――菊地だ。
当麻はすぐに資料映像に映っていた彼女の姿を思い出した。
菊地「あ、よろしくお願いしますー」
菊地が当麻に挨拶すると、スタッフが近づいてきた。
スタッフ「じゃあ菊地、そろそろ運動場出て。撮影始まるから」
菊地が元気良く返事をすると、どこからか声が上がった。
小森「あ、あやりん頑張ってねー」
当麻はその少女の顔を確認する。
小森美果だ。
なぜかバレリーナのような恰好をしている。
106 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:35:43.51 ID:+9B/ba1D0
菊地「小森まだなの?」
小森「あー、なんかカメラの調子が悪いみたいー」
菊地「じゃああたし、先終わったら見に来るねー」
小森と軽く話し、菊地はスタジオの出口に向かった。
当麻と瀬文もその後に続く。
当麻「今日はどんな撮影なんですか?」
菊地「メンバーがそれぞれ自分の特技を披露するんです」
当麻「確か菊地さんは走るが得意なんですよね?ね?運動場に行くってことはー、これからその俊足を披露すると?」
菊地「え?何で知ってるんですか?」
当麻「AKBさんをお守りすると決まってから、皆さんのことは色々調べましたから。菊地さんについてももちろんリサーチ済です。藤江れいなさん…菊地さんとは同じチームKになるんですよね?昨日彼女から聞きました」
菊地「あ、そうなんですか…」
107 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 18:36:16.43 ID:tXQwtEDR0
なんか凄いペースやね
108 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:37:00.99 ID:+9B/ba1D0
運動場に着くと、菊地は軽くストレッチをした。
どうやら100メートル走を行うようだ。
スタッフもてきぱきと準備を始めている。
少しすると、撮影開始の声がかかった。
菊地がカメラの前に立つ。
最初に自己紹介と意気込みなどを話し、続いてスタート位置に着く。
菊地が走り出した時、当麻は思わず息を呑んだ。
隣で、瀬文も驚愕の表情を浮かべている。
瀬文「これは…彼女のスペック…」
当麻「いえ、まだ常識の範囲内です。しかし意識して力をセーブしていることも考えられますが」
当麻はそう言って、ゴールしたばかりの彼女の姿を見つめた。
109 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/16(金) 18:37:36.76 ID:+9B/ba1D0
菊地は納得がいかないのか、スタッフと話し、もう一度スタート位置に戻って来た。
撮り直しをするようだ。
当麻「熱心ですね、菊地さん…」
当麻は菊地の姿から目を離さない。
2回目の走りは、目に見せてわかるほど1回目とはスピードが上がっていた。
当麻「彼女は一昨日の握手会には参加していませんでした。そしてあれほどの運動能力の持ち主…」
当麻が呟く。
――渡辺さんを狙った犯人のスペックは、間違いなく人並み外れた運動能力…。
菊地は今度こそ納得がいったのか、締めの言葉をカメラに向かって話している。
当麻はそんな彼女の姿を、しばらくの間見つめ続けていた。
110 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 18:39:27.95 ID:sMtMfjd8O
永尾が主人公
島田が主人公
112 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 19:21:30.16 ID:aU9xFSaI0
期待age
113 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/16(金) 20:07:34.92 ID:ScwWJ6V/O
菊地の撮影が終わったところで、当麻達はまたスタジオに戻って来た。
スタジオの中では、ぽっちゃりとした少女がジャグリングを披露している。
増田「アハハ、みゃおすごーい」
当麻はその少女――宮崎の顔を確認する。
しかしすぐに興味を失って目を逸らした。
瀬文「見てなくていいのか?」
当麻「あれがスペックの力だとは到底思えません」
当麻の目にとまったのは、小森の姿だった。
メンバー達が宮崎のジャグリングを見守る中、彼女だけ1人、熱心にパソコンを覗き込んでいる。
当麻は小森の背後からそっと近づき、彼女が見つめるモニターを確認した。
バレエの舞台映像のようだ。
小森は当麻の気配に気付く様子もなく、時折モニターに映るバレリーナの動きを真似してみている。
114 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 20:10:48.84 ID:Um/idOKjO
おぉ、スペックssか
期待あげ
115 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/16(金) 20:12:10.06 ID:ScwWJ6V/O
スタッフ「次、小森ー!あれ?どこ?」
小森「あ、はいー」
スタッフの呼びかけに気付き、小森が返事をする。
そのまま優雅な身のこなしでカメラの前に立った。
着ている衣装といい、どうやら彼女はこれからバレエを披露するらしい。
当麻「バレエの衣装って可愛いですよねー。憧れるぅ〜」
当麻がうっとりとした調子で言うのを、瀬文は鼻で笑った。
菊地同様、小森もまたカメラの前で自己紹介と意気込みを話していく。
それから音楽がかかり、小森はゆったりと動き出した。
小森のバレエは見事だった。
そちらの方面に疎い当麻でさえ、彼女の踊りが高いレベルであることが見てとれる。
大技はもちろんのこと、些細な手の動き、足の動きが美しいのだ。
他のメンバーも瞬き1つせず、小森の動きに魅せられていた。
数分の踊りを見せ終わると、これまた優雅な仕草で小森はお辞儀をして撮影を終えた。
スタッフの間から、拍手が起こる。
116 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/16(金) 20:23:23.92 ID:ScwWJ6V/O
小森は自分でも何が起こったかわからないといった表情で、目をしばたたせていた。
菊地「すごいよ小森ー」
菊地が興奮した様子で、小森に抱きつく。
小森「すごい久しぶりだったから不安だったんだけど、間違えずに踊れたー」
小森はそこで安堵したのか、初めて笑顔を覗かせた。
当麻「いやー、見てましたよ小森さん。マジでどんだけーって感じでした」
当麻が拍手をしながら、小森に近づく。
当麻「バレエは昔から習っていたんですよね?」
小森「え?あ、はいそうですー。でももう辞めて3年くらい経つんでうまくできるかわかんなかったんですけど」
小森は当麻が誰なのかわかっていないようだったが、おっとりした口調でそう説明した。
その様子からは、先ほどの優雅な舞を踊っていた同一人物とは信じがたいものがある。
117 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 20:24:55.19 ID:9vLjhPVEi
スペックホルダーって殺す以外に抑えつける方法ないよね
あんまり覚えてないけど大半が銃弾の跳ね返しで死んだようなw
118 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 22:17:54.99 ID:aU9xFSaI0
捕手
119 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/16(金) 22:53:46.60 ID:GwLr1aUT0
やっと追いついた
今度はSPECとコラボか楽しみ
120 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 00:14:08.75 ID:XECZQF0vO
その後、撮影は最後まで何事もなく進み、瀬文はほっと胸を撫でおろした。
しかし当麻はいささか不服そうである。
当麻「結局何も起きなかったじゃないですかー。瀬文さん」
瀬文「馬鹿言え。何も起きないほうがいいんだ」
当麻「だってー、実際に事件が起こって、この目で犯人の持つスペックの力を確認しないと対処のしようがないですよ」
瀬文「事件が起こってから対処法を考えていたのでは遅い。忘れるな、俺達の仕事はスペックを持つ人物を探すことではない。彼女達の安全を守ることが第一優先だ」
当麻「そうですけどぉ、やっぱり会いたいじゃないですか。私達がまだ見たことのない、未知の力を秘めたスペックに」
当麻はそう言って、目を輝かせた。
121 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 00:19:14.26 ID:XECZQF0vO
その夜、高橋は自宅に帰るとすぐに、一本の電話を受けた。
高橋「え?欠席?大丈夫なの?」
電話の相手は板野である。
翌日はCMの撮影を控えていたが、板野は体調が優れず、仕事をキャンセルすることになったのだ。
板野「大丈夫、今から明日撮影に来れそうなメンバーを探すって言ってたし…」
高橋「そうじゃなくて、ともちんは大丈夫なの?気分悪い?」
板野「平気、ちょっと手に力が入らないけど、少し休めばきっと…」
高橋「そう…」
122 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 00:21:52.17 ID:XECZQF0vO
高橋の最近の懸念事項は、脅迫状の他に、メンバーの体調管理にあった。
ここのところ、体調を崩すメンバーが続出している。
忙しすぎるスケジュールに、無理が生じてきているのだ。
どうにかして、無理なくメンバーが仕事をこなせるよう、調整は出来ないものだろうか。
高橋は常々、そのことで頭を悩ませていた。
長年の努力が報われ、今や国民的アイドルグループと言われるまでになった自分達。
だからこそ、今が頑張り時なのだということは充分承知している。
――だけど、みんなかなり疲労が溜まってきている。このままいけばいつかは…。
高橋は体調不良を理由に、グループの卒業を言い出すメンバーが出てくるのではないかと心配していた。
板野「ごめんねたかみな…心配かけて…」
黙り込んだ高橋を気遣って、板野はそう言った。
123 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 00:23:57.40 ID:XECZQF0vO
板野「あたしは大丈夫だから。明日、頑張ってね」
高橋は慌てて、いつもの明るい声を絞り出す。
高橋「ごめんごめん、ちょっと猫が暴れ出したからさー…、ともちんこそ心配しないで、明日はゆっくり休みなね」
板野「うん。ありがとう…」
電話を終えると、高橋は大きくため息をついた。板野にいらぬ心配をかけ、気を遣わせてしまった自分が情けなかった。
高橋「あっちゃんに電話しようかな…」
高橋がそう呟いたとき、携帯の着信音が鳴った。
124 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 00:36:30.18 ID:XECZQF0vO
高橋「もしもし…」
掛けてきたのは前田だった。
高橋「ちょうど今あっちゃんに電話しようと思ってたところだったんだよー」
前田「あ、そうなのー?じゃあタイミング良かったねー」
高橋「ともちんのこと、聞いた?」
前田「うん、体調が悪いって…」
前田の声が暗くなる。
前田「どうしようたかみな、もう時間がないよ…」
高橋「わかってる。あたし達で早くなんとかしないとね…」
高橋は声に深刻さを滲ませる。
電話口で、前田が泣いているのがわかった。
前田の声を聞いて、高橋の胸は切なくなる…。
125 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 00:43:07.99 ID:XECZQF0vO
翌日、CMの撮影現場には、当麻と野々村が現れた。
高橋「あの、今日は瀬文さんは…」
野々村「あぁ瀬文くんはね、ドラマの撮影現場のほうに行ってもらってるよ」
当麻「高橋さんがいるんで、本当は瀬文さんこっちの現場に来たかったんだと思うんですけどね」
当麻はそう言って、何がおかしいのか1人で笑っていた。
高橋「すみません、メンバーはああやって振舞ってますけど、内心すごく不安だと思うんです。どうかよろしくお願いします」
スタジオの中央で談笑するメンバー達を見やりながら、高橋が言った。
126 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 00:45:30.27 ID:XECZQF0vO
野々村「それで今日はともちんて子はいないのかな?」
野々村がきょろきょろと首を動かす。
高橋「あ、今日ともちんはお休みなんです。昨日から体調を崩してて…」
野々村はがっくりと肩を落とした。
野々村「あぁそれはいけないねぇ。早く良くなるように祈っておきましょう」
そう言って本当に祈るような仕草を見せる。
当麻はそんな野々村を無視して、高橋に話しかけた。
127 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 00:47:30.90 ID:XECZQF0vO
当麻「そういえば、調べたら皆さん結構体調崩してお休みされてますよね。さすが人気アイドルは多忙ですねー。そういう時こそスタミナのつく物食べなきゃ駄目ですよ。何だったら今度、おすすめの餃子屋さん紹介しましょうか?」
高橋「あぁそうなんですか…是非…。もしかしてそのお店にはここへ来る前にも…?」
高橋は当麻のにんにく臭い息が気になり、尋ねずにはいられなかった。
直後、失礼だったかなと反省する。
当麻「あ、わかりますぅー?だいたい仕事前と仕事終わりに行くことが多いんですー」
しかし当麻は気にすることなく、むしろ嬉しそうにそう語った。
128 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 00:52:23.99 ID:XECZQF0vO
一方瀬文は、ドラマの撮影があるという彼女達を見張るため、小学校の校舎に来ていた。
スタッフの手により、なぜか教室内は荒んだ雰囲気に作り変えられていく。
――どういうドラマなんだこれは……。
みるみるうちに、一昔前の不良映画のようになった教室の隅で、瀬文は撮影の様子を見学している。
瀬文から少し離れた所には、七輪が置かれていた。
――教室に、なぜ七輪?
瀬文の疑問はますます深まる。
その時、元気な挨拶と同時にジャージと制服を着崩した五人のメンバーが入って来た。
全員、握手会やその後の撮影で見たことのある顔だ。
129 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 00:55:07.98 ID:XECZQF0vO
高城「おはようございまーす」
瀬文に気付いた高城が挨拶をしてきた。
瀬文は咄嗟に敬礼で返してしまう。
中の1人、昨日バレエを披露していた少女が、瀬文につられて敬礼しようとした。
それを隣にいた少女が慌てて制止している。
五人はあらかじめ位置が決まっているのだろう、七輪を囲むようにして座ると、スタッフから説明を受け始めた。
瀬文はその様子を凝視する。
ちょうどスタッフの1人が近づいて来たので、訊いてみることにした。
瀬文「お忙しいところ失礼します。これは何のドラマでありますか?」
瀬文のよく通る声に、スタッフはぎょっとしながらも答える。
スタッフ「あ、学園ドラマですよ」
130 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 00:57:23.97 ID:XECZQF0vO
瀬文「なぜ教室に七輪があるのでありますか?」
スタッフ「あれはまぁ、彼女達のシンボルというか、必須アイテムみたいなものですね」
瀬文「なぜあのような物を使う必要がありますか?」
スタッフ「え、あぁ完成したドラマを見てもらえばわかりますよ。じゃあ僕、やることあるんで…」
スタッフは面倒くさそうに瀬文をあしらうと、どこかへ行ってしまった。
別の場所で行っている撮影が、時間を押しているというスタッフの話し声が聞こえてくる。
きっとさっきのスタッフもそちらの現場に向かったのだろう。
取り残された瀬文は、なんとなく彼女達の会話に耳を傾けた。
どうやらまだ本番は始まらないらしい。
131 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 00:57:50.65 ID:W3kGwykn0
がんばれー
支援
132 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 00:59:53.39 ID:XECZQF0vO
小森「すごいんですよわたしー、踊ってみたら結構体が覚えてて」
指原「小森あれ、例のひらひらのやつ着たの?」
高城「マスタード?」
北原「違うよレオタードでしょ」
仁藤「いやいや、本番だったらチュチュでしょ」
彼女達は昨日の撮影のことを話しているらしかった。
脅迫状のことは知っているだろうに、その落ち着きっぷりに瀬文は感心する。
指原「でもまさかさー、マジすか3の製作とかもうないと思ってたよね」
北原「そしてまさかもう1度チームホルモンやるなんてね」
小森「あー、今気がつきました。わたしのストップウォッチ新しくなってる」
高城「ほんとだー、なんかかっこよくなってるね」
133 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 01:03:04.20 ID:XECZQF0vO
仁藤「ねぇねぇ撮影まだ始まらないのかなー」
指原「あ、玲奈ちゃんの撮影が長引いてるみたいだよ」
北原「ゲキカラの撮影だとスタッフさん妙に力入るよね。うちらチームホルモンの時とは大違い…」
小森「あ、わたしちょっと撮影見てきます」
指原「じゃあ指原も行くー。玲奈ちゃん見たい!」
仁藤「えー、大丈夫なの?撮影の邪魔にならない?」
高城「静かにしていれば大丈夫だよー」
彼女達が動き出したので、瀬文もついて行くことにした。
134 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 01:07:02.46 ID:Fd0C5wVZ0
これは面白い
135 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 01:11:43.68 ID:XECZQF0vO
校舎の2階に上がったところの突き当たりで、撮影は行われていた。
なぜだか壁には血糊が飛び散っている。
そこへ線の細い少女が激突していく。
しかし少女は痛がる芝居を見せるどころか、すぐに立ち上がり不気味な笑みを浮かべていた。
瀬文「お忙しいところ失礼します」
高城「あ、忙しくないですー」
瀬文「あそこで血にまみれている方も、AKB48さんのメンバーでありますか?」
高城「あ、はいー。しいちゃんですか?握手会で会いましたよね?」
瀬文「いえ、あの方ではなく、もう1人の女性であります」
高城「玲奈ちゃん?玲奈ちゃんはAKBじゃなくてSKEですよー」
瀬文「SKEとは何でありますか?」
高城「AKBの姉妹グループです」
瀬文「では、AKBとはまったく別物でありますか?」
高城「一緒に仕事したり別々に仕事したり、色々です」
136 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 01:15:34.72 ID:XECZQF0vO
高城の説明に、瀬文は混乱していく。
しかし玲奈ちゃんと呼ばれている彼女の動きには、目を見張るものがあった。
――なぜ学園ドラマで、こんな血まみれの乱闘シーンがあるのだろう…。
瀬文は疑問に思いながらも、玲奈のアクションに釘付けになった。
素早い動きと、時にエキセントリックとも思われる立ち回り。
一体どれだけの訓練を積んだのだろうと感心する。
指原「わー、しいちゃん頑張れー」
指原が小声で応援する横で、瀬文はいよいよアクションシーンのクライマックスと思しき現場を見つめていた。
137 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 01:18:18.59 ID:8lew74j40
おもしろい。
138 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 01:19:18.48 ID:XECZQF0vO
監督「はい、カットー」
しかしクライマックス直前で、監督の声がかかる。
監督「小森さーん、熱心に見るのはいいけど、カメラに入って来ちゃってるよー」
小森「あ、ごめんなさーい」
小森が謝ると、スタッフの間からは笑いが洩れた。
どうやら内容はともかく、なかなか和やかな雰囲気の現場らしい。
指原「小森前出すぎだよー。こっちおいで」
指原に言われ、小森が小走りで戻ってくる。
瀬文は照れ笑いを浮かべる彼女の姿を一瞥すると、再び演技を開始した玲奈に視線を送った。
139 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 01:24:32.15 ID:XECZQF0vO
夕方になり、当麻と瀬文は合流して、チーム4のレッスン場へと向かった。
まだ顔を合わせたことのない彼女達に会うためだった。
島田「こんにちはー」
最初にレッスン場に入って来たのは、見るからに体育会系といった様子の少女であった。
その後から、ぞろぞろとメンバー達が姿を現す。
これまでに会ってきたメンバーとは違い、レッスン場に入って来た彼女達はまだあどけなさの残る顔立ちをしていた。
レッスン着に化粧っ気のないその顔は、普通の高校生と何ら変わりないように見える。
しかしいざレッスンが始まると、彼女達の顔つきは一変した。
真剣そのものといった様子で、ダンス講師の細かな注文にも真摯に応えていく。
休憩に入ると、当麻は講師に話を聞いてみることにした。
140 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 01:27:35.52 ID:XECZQF0vO
当麻「彼女達はいつもこの時間からレッスンを?」
講師「はい。昼間はみんな学校がありますからね。学校が終わったらここへ来てレッスンを受けて、家に帰れば疲れた体で自主練の日々ですよ」
当麻「アイドルの世界も厳しいんですねー」
講師「彼女達はよく耐えてると思いますよ。やはり自らアイドルを目指して入って来た子達ですし、人数も多いですから、ライバル意識も強くて努力家な子が多いです」
講師は誇らしげにそう言いきった。
当麻は休憩をする彼女達の様子に視線を走らせる。
141 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 01:30:55.37 ID:XECZQF0vO
確かに講師の言葉通り、1人鏡に向かって確認をする者、互いにダンスを教え合う者などの姿が目についた。
その中に1人、不満そうな顔で視線を落とす者がいる。
生き生きとした表情で夢に向かって頑張る彼女達の中で、その存在は明らかに浮いていた。
瀬文「どうした?」
彼女の姿を凝視する当麻に気付き、瀬文が話しかける。
その時だった。
島崎「キャーー」
声のしたほうを振り向くと、先ほどまでレッスン場の隅で1人ステップの確認をしていたはずの島崎が、床に倒れていた。
瀬文が島崎に駆け寄ろうとして、何かにぶつかり弾き飛ばされる。
当麻はその様子を呆然と見つめていた。
阿部「痛っ…!」
142 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 04:40:43.22 ID:nDSmK6oi0
続きが楽しみ…
143 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 07:17:25.27 ID:Fd0C5wVZ0
朝起きの保守
続き気になる
144 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 07:41:38.20 ID:XECZQF0vO
続いて反対側の壁にいた阿部が足を押さえて屈みこんだ。
苦痛に顔を歪めている。
――何が…起きてるの…?
当麻はスタジオを見渡した。
あちこちで悲鳴が上がり、次々とメンバーが倒れていく。
ふいに、当麻の目の前を、何かが横切る気配がした。
一陣の風が巻き起こる。
――まさか、スペック…!!
何者かがこのスタジオの中を動いている。
しかし当麻にはその者の動きを見ることができない。
瀬文「ふざけんじゃねぇぞこの野郎!!」
立ち上がった瀬文が、スタジオ内に視線を走らせる。
しかしやはりその者の動きが確認できないようで、闇雲に動いては、巻き起こる風に当たり弾き飛ばされていく。
市川「……っつ…!!」
そして当麻は確かに目にした。
彼女達の中でも人一倍小柄な市川が風に当たり、宙を舞う姿を。
145 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 07:45:19.28 ID:XECZQF0vO
市川は体を回転させながらふっ飛び、壁にぶち当たると気を失った。
人間1人を飛ばすほどの力…これほどの運動能力があれば握手会で渡辺に向かって矢を投げることもできただろう。
もう何度も弾き飛ばされている瀬文が、よろよろと立ち上がる。
いつの間にか、彼は拳銃を手にしていた。
瀬文「止まれ…止まらないと撃つぞ」
姿の見えない犯人に向かって警告する。
当麻「瀬文さん駄目…!」
瀬文「おわぁぁっ」
当麻の制止は遅く、すでに瀬文の手からは拳銃が消えている。
盗られたのだ。
そして瀬文はまたしても弾き飛ばされ、床の上を転がった。
瀬文「くっそぉぉ、折れたじゃねぇかこの野郎…」
瀬文は肩の辺りを押さえ、左腕を垂らした体勢でなんとか立ち上がった。
その時、当麻のすぐ横で、凄まじい音が響いた。
146 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 07:49:16.72 ID:XECZQF0vO
当麻「あなたは…」
当麻の横には、1人の少女が倒れていた。
気を失っているようだ。
当麻はそっと、少女に近づく。
少女の手には瀬文の拳銃が握られていた。
当麻は無言で、彼女の手から拳銃を取り上げる。
当麻「人並みはずれた運動能力…しかしどんなに優れた能力を持っていても、筋肉の限界は訪れます。彼女は自分の限界を知らなかったんでしょう」
永尾「どうして…」
軽傷で済んだらしい永尾が、当麻のもとへ駆け寄ってくる。
倒れた少女の顔を見ると、驚愕の表情で呟いた。
永尾「らんらん…」
山内は髪を振り乱し、汗ばんだ顔で床に横たわっている。
瀬文も足を引きずりながらやって来た。
瀬文「こいつがやったのか…どうやって…?」
147 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 07:54:02.05 ID:XECZQF0vO
当麻「おそらく自身のスペックを使って、全速力で駆け抜けたんでしょう。さながら走っている車にぶつかられたようなもの。しかし車ではなく彼女は生身の人間です。自身もその衝撃に耐えられず…」
当麻「見てください。彼女あちこちの骨が折れていますよ。自らを犠牲にしてまで…決死の覚悟だったんでしょう」
当麻が静かに言った。
瀬文は片腕で、山内の体を担ぎ上げる。
彼女の体は驚くほどに軽い。
こんな体で、メンバーを弾き飛ばしていたというのか。
永尾「あの、らんらんはどうなるんですか?」
瀬文「これから病院に連れて行く。事情はその後だ」
永尾「らんらんがあんなに早く動けるわけないです。きっと何かの間違いですよね?」
自身も傷つけられているというのに、永尾は懇願するように瀬文に訴えかけてくる。
その瞳は涙で潤んでいた。
148 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 08:03:35.69 ID:XECZQF0vO
当麻「どうやらあなたが一番軽傷のようですね。ひどいのは市川さんでしょうか。すぐに救急車を呼びます。手伝ってください、永尾さん」
当麻は永尾の言葉を遮るようにして言った。
永尾「でもらんらんは…」
永尾はまだ山内の行方を気にする。
瀬文「大丈夫だ。彼女にはまず、怪我を治してもらう」
永尾「でもその後に警察に連れて行くんですよね?らんらんどうなっちゃうんですか?」
永尾は尚も食い下がった。
当麻「ごちゃごちゃうるせーな!見てみろ、彼女の他にも怪我人が倒れてるんだぞ!おまえはメンバーを助けたくねぇのか!」
当麻が一喝する。
永尾はびくりと肩を震わせた。
その瞬間、ついに耐え切れなくなったのか、彼女の目から涙が一筋流れた。
永尾は唇を噛み、必死にそれ以上泣くのを抑えようとする。
そして決心したように、大きく頷いた。
倒れているメンバーを助け起こしにかかる。
当麻はその姿を確認すると、すぐに救急車を手配した。
満身創痍の瀬文が、しかし確かな足取りで、山内を抱え、スタジオから出て行く。
149 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 08:06:25.75 ID:XECZQF0vO
数時間後、すべての処置が終わった山内は、呆然と天井を見つめていた。
自分はどうしてここに寝かされているのだろう。
全身が痛い。
体を動かすことができない。
ドアの開かれる音がして、誰かの足音が近づいてくる。
山内は視線だけをそちらの方向に動かした。
――この人は…スタジオにいた刑事さん…?
山内「あの…」
声を発すると、全身の骨が痛んだ。
当麻「気がつきました?驚いたでしょう」
当麻が山内の顔を見下ろす。
150 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 08:11:02.91 ID:XECZQF0vO
山内「どうして?あたし…」
当麻「あなたはメンバーの皆さんに怪我を負わせ、さらにその時の衝撃で自身も骨折し、ここへ運ばれて来たんです」
山内は当麻の言葉が信じられなかった。
山内「あたしが?みんなに怪我を…?」
山内の頭は混乱する。
自分はレッスンスタジオにいたはずだ。
そして気がついたらここに寝かされていた。
スタジオで何が起きたというのだ。
記憶を辿ろうとしても、靄がかかったようにうまく思い出すことができない。
山内「そんな…嘘ですよね?」
当麻「残念ながら本当です。あなたは自身のスペックを使い、メンバーを傷つけたんです」
山内「スペック?どういうことですか?」
当麻「あなたは普通の人と比べて高い運動能力を持っている。ですよね?」
山内「どうしてそれを…」
151 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 08:12:14.91 ID:1sEIkSLgO
支援。
152 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 08:14:18.88 ID:XECZQF0vO
当麻「私達はあなたが凄まじい速さで駆け抜けるのをこの目で確認しました」
山内「確かにあたしは昔から運動神経のいい方でした。だけど両親はあたしの力に気付き、人前では危険だからセーブしなさいと言ってきました。だからあたしはこれまで決して自分の能力を人に見せたことはなかったんです」
当麻「それなのにあなたは突如自分のスペックを公開してみせた。どうしてですか?」
山内「わかりません…そんなあたし…みんなを傷つける気もなくて…。でも、その時の記憶がないんです。言い訳じゃなくて本当に、何も覚えてないんです。教えてください。どうしてこんなことになったんですか?」
当麻「何も覚えていない…」
当麻が何かを考えるように呟く。
山内「あたしにも何がなんだか…、休憩をしていたら突然頭がボーッとして、気がついたらここに寝かされていたんです。もしかしてあたし、無意識のうちにみんなを傷つけていたということですか?」
当麻「山内さん…」
153 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 08:19:02.25 ID:XECZQF0vO
山内は現実から逃げるように、まるでそうすれば悪い夢から覚めると信じているかのように、ぎゅっと目を瞑った。
当麻はその様子から、彼女は嘘をついているわけではなさそうだと判断した。
当麻「山内さん、ここには私とあなた以外、誰もいません。だから正直に話してください。あなたは今日のレッスンで一緒だったメンバーの中に恨みや憎しみを抱いている人物がいますか?」
山内「そんな…。みんな同じチームの大事な仲間です。恨んでいる人も嫌いな人もいません」
当麻「人間は無意識の時こそ、本音に近い行動をしている生き物です。あなたは誰も憎んでいない。だとすれば、あなたが無意識にメンバーを襲ったとは考えにくい」
山内「どういうことですか?」
当麻「おそらく、あなたは何者かに操られていた…あるいは洗脳されていたか…。一種の催眠状態にあったのではないかと考えられます」
154 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 08:22:23.37 ID:XECZQF0vO
山内「催眠…?」
山内はどうもピンとこないらしく、眉間に皺を寄せた。
当麻が頷く。
当麻「最近、あなたの身におかしなことが起こったり、誰かに何か言われたりしたことはありませんでしたか?」
山内「最近ですか…」
山内は何か思い出そうとして、遠い目をした。
最近…自分は何をしていたのだろうか、誰と会ったのだろうか。
そう考えたとき、山内はここ数日の自分の記憶がひどく曖昧なことに気がついた。
思い出そうと強く考えれば考えるほど、激しい頭痛に襲われる。
何だかもう何日もボーッと過ごしていたような気がして、直後、背すじに冷たいものが走った。
山内「思い出せない…。どうして?あたし今まで何をしていたんだろう。何も…思い出せないよ」
155 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 08:29:45.87 ID:XECZQF0vO
記憶がない…それがこれほど恐怖を感じさせるとは…。
山内は初めて理解した。
レッスンで嫌なことがあって、早く忘れたいと願うことは今まで何度もあったが、実際に記憶がなくなってみると、まるで体の一部を失くしたみたいに心細く、頼りない。
人間は、いいことも悪いことも全部ひっくるめて、記憶の積み重ねで成り立っているのだ。
もう何があっても、自分は決して忘れたいとは願わないだろう。
山内は悟った。
そして突如、誰かのシルエットが浮かぶ。
――この人は、誰…?
山内に残されたわずかな記憶が呼び起こされる。
記憶の中の人物は、逆光で顔を確認することができない。
顔のわからないその人が、何か言っている。
『これで終わりじゃないんだよ』
山内はそこではっとして、目を見開いた。
当麻「何か思い出せたんですか?」
当麻が詰め寄る。
山内「顔はよく覚えてないけど、誰かがあたしに言ったんです。これで終わりじゃないんだよって…」
山内の告白を聞き、当麻の顔色が変わる。
――終わりじゃない…まさかまだ事件は続くということなのか…。
156 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 10:15:35.36 ID:Rs4AywNi0
面白い
完結させてくれ
157 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 12:17:28.75 ID:l/VKMDRs0
SPEC大好きだった〜
続き楽しみ
158 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 13:44:19.20 ID:XECZQF0vO
翌日、当麻はバラエティの収録があるという高橋のもとを訪れた。
高橋に会うということで、もちろん瀬文も一緒である。
風船を膨らませたり、低周波装置をテストしたりと、当麻達の周りではスタッフが忙しく立ち働いていた。
2人は邪魔にならないよう、スタジオの隅で待機している。
高橋「おはようございます」
スタジオに飛び込んできた高橋は、私服姿で、まだほとんどメイクもしていない。
元気よく挨拶はしたものの、そこにいつもの笑顔はなかった。
瀬文はそんな高橋を見て、心を痛める。
彼女が気丈に振舞うほど、無理をしているのではないかと心配になってしまう。
当麻「山内さんの事件のことは、建物の設計ミスにより突風が発生したということで処理されました」
高橋「はい、メンバーはみんなそう聞いているみたいですね」
高橋は声を落としてそう言った。
159 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 13:58:01.64 ID:XECZQF0vO
当麻「永尾さんにはこのことは一切口外しないよう注意しておきました。彼女自身もはじめからそのつもりだったようです。辛かったはずなのに、事件の後もメンバーの方々を介抱して、救急車が来るまで励まし続けていました。たいした方ですね」
当麻は昨日の永尾の様子を思い出しながら説明した。
それから何かに気付き、スタジオの入り口を振り返る。
そこには前田が不安げに立っていた。
当麻「前田さんは…?」
高橋「あっちゃんにはあたしから本当のことを話しました。脅迫状についても詳しく知っているのはあたしとあっちゃんだけなので」
高橋に目で合図され、前田はおそるおそる当麻達のもとへやって来た。
彼女もまた、来たばかりなのか、私服姿である。
160 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 14:02:33.69 ID:XECZQF0vO
当麻「幸いメンバーの皆さんの怪我は打撲や軽い骨折程度で、命に別状はありません。完治に時間はかかると思われますが…」
高橋「大丈夫です。みんなまた元気な姿で戻って来てくれると信じてます」
表情は暗いものの、高橋は力強くそう言い放った。
高橋「みんな、大事な仲間ですから」
その物言いには、事件を起こした山内のことも含まれているのだろうと瀬文は悟った。
前田「あの、鈴蘭ちゃんは…?」
前田も山内のことが気になるらしく、当麻に尋ねる。
当麻「怪我よりも精神的ショックや混乱のほうが大きいです。しばらくは様子を見ながら事情を聞いていきます。ま、彼女からはもう何も出てこないと思いますが」
当麻の言葉に、高橋の眉がぴくりと動く。
高橋「どういうことですか?」
161 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 14:07:05.37 ID:XECZQF0vO
当麻「どうやら山内さん、誰かに操られていたようですね。事件前後の記憶がすっぱり消えています」
高橋「操られていた?誰にですか?」
当麻「それは山内さん自身も覚えていないそうです」
高橋「そうなんですか…」
高橋はがっくりと肩を落とした。
前田「じゃあまだ安心はできないんですね…」
前田も辛そうに表情を歪める。
瀬文「警戒は続けます」
高橋「はい、お願いします…」
162 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 14:13:01.79 ID:XECZQF0vO
高橋と前田は揃って頭を下げ、手を繋ぐと、ふらふらとした足取りでスタジオを出て行った。
その姿は互いに支え合っているようにも見える。
当麻「辛いですね。彼女達と同年代はまだ学生で、親に守られぬくぬくと生活している子がほとんどです。しかし彼女達は常に時間に追われ、体力の限界まで働く。それどころかこんな危険にまで晒されて…」
珍しく当麻は神妙な顔つきになった。
彼女がこんな表情をする時、心の底では怒りに震え、正義の炎を燃やしていることを瀬文は知っている。
瀬文「山内の言葉は、彼女達に伝えなくて良かったのか?」
当麻「はい。言っても不安にさせるだけですから。次の事件が起こる前に、必ず犯人を逮捕します」
当麻が決意の表情を浮かべる。
瀬文もそれに応えるように、強く頷いた。
普段は馴れ馴れしくてがさつな部分が目に付く当麻だが、仕事のパートナーとしては信頼できる。
瀬文は彼女をそう評価していた。
当麻「キャー、何このバッグちょーかわいいんですけど。マジどんだけー」
だが、当麻はすぐに黄色い声を上げ、瀬文を落胆させる。
163 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 14:15:52.27 ID:XECZQF0vO
当麻「バナナ柄のバッグなんて珍しくないですか?誰のだろう」
当麻は隅に置かれた大ぶりのバッグに気を取られていた。
瀬文にはそのバッグの魅力がいまいち理解できない。
瀬文「誰のかわからないものを勝手に触るな」
瀬文は当麻を一喝する。
その時、背後で聞き覚えのあるハスキーボイスが響いた。
大島「あれー?それたかみなのバッグじゃないですかー?」
振り返ると、大島がスタジオに入ってくるところだった。
当麻「高橋さんのですか?」
大島は人懐こい笑顔を浮かべながら、当麻達のもとへ駆け寄ってくる。
164 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 14:23:59.16 ID:XECZQF0vO
大島「たかみなバナナ柄が好きなんですよー」
当麻「へぇ、さすがアイドル。可愛い趣味してますね」
大島「……」
瀬文「高橋さんの忘れ物でありますか?」
大島「きっとそうですね。持っていってあげよう。よいしょっと」
大島はバッグを担ぎ上げた。
しかしすぐに立ち去る気はないらしく、当麻に話しかける。
大島「当麻さんはバナナがお好きなんですかー?」
当麻「はい、好きっす。だけど一番は餃子ですね。餃子柄のバッグがあったら間違いなく即買いです」
当麻は目を見開いて、気味悪く笑う。
しかし大島はそんな当麻を見ても、動揺することなく笑顔で話し続けた。
大島「餃子おいしいですもんねー」
当麻「ねー?」
165 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 14:34:44.54 ID:7yjdQo7e0
筆者さんにゃんにゃん好きそう
166 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 15:18:16.77 ID:XECZQF0vO
当麻と大島はまるでかつてからの親友のような振る舞いで話し込んでしまう。
そんな2人に挟まれ、瀬文は居心地悪く肩を揺すった。
――この子は確か…、子役上がりだったかな…。
瀬文はうろ覚えの知識を引き出す。
彼女の人懐こさと、警察の人間を見ても物怖じしない態度は、幼い頃から大人に囲まれて仕事をしていた経験から来ているのだろう。
瀬文はそう納得した。
――この調子だと、2人の会話はしばらく終わりそうにないな。
自身が無口なこともあり、女性の長話が苦手な瀬文は、今の状況に辟易していた。
167 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 15:20:28.27 ID:Fd0C5wVZ0
168 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 15:21:41.09 ID:XECZQF0vO
当麻「そういえば大島さん、ぺラオ…聴いてますよ。ていうか密かに着うた設定してたりして」
大島「えー、うれしー。ありがとうございますー。で、どうですか?」
当麻「やっぱり皆さんの歌声とメロディーがすごく合ってて…」
大島「そうなんですよー。あの曲メンバーも大好きで」
瀬文「当麻、そろそろスタジオから出て、メンバーの皆さんに挨拶に行ったほうが…」
当麻「AKBの他にも皆さん色々グループ組んでらっしゃるんですね」
大島「そうなんですー。あ、にゃんにゃんもやってますよ?」
当麻「小嶋さんですね。ノースリーブスもいいですよねー」
大島「ねー?」
瀬文「当麻、そろそろ仕事を…」
大島がいる手前、強く言い出せない瀬文は苛立ちを募らせていた。
169 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 15:23:59.20 ID:LOViWnov0
支援
SPECめっちゃ好きだから嬉しいw
時間軸的にこれは地居が死んだあとの話なのかな
170 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 15:25:39.64 ID:XECZQF0vO
大島「あ、にゃんにゃんといえば…」
その時、スタジオ中に破裂音が響き渡った。
驚いた大島が耳を塞ぎ、しゃがみこむ。
スタッフ「あ、すみませーん」
どうやら風船を用意していたスタッフが、誤って割ってしまったらしい。
大島「あ、じゃあそろそろあたしも準備があるんで失礼しまーす…」
大島はなぜだか急に怯えたような表情になり、そそくさとスタジオから出て行ってしまった。
瀬文はそんな大島の様子が気にかかる。
当麻「知らないんですか瀬文さん。彼女、風船が苦手なんですよ」
瀬文より遥かに彼女達のデータに詳しい当麻が、勝ち誇ったように唇の端を上げる。
しかし、お陰で瀬文は先ほどまでの居心地の悪さから解放された。
171 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/17(土) 15:51:47.86 ID:GOMTE6jV0
一方その頃楽屋では、メンバー達の間に重々しい空気が漂っていた。
峯岸「でもさー、うちらもあのレッスンスタジオは通って来てたじゃん?だけど今まで突風なんて起きたことなかったよね。なんかおかしくない?」
彼女達は皆、昨日の事件を聞き、ショックを受けていた。
平嶋「構造上、ある一定の条件が揃うと竜巻みたいなのが起こるって聞いたけど…」
平嶋はそう言って、静かに目を伏せた。
北原「みんな早く怪我が治るといいね…」
北原も沈んだ表情で言った。
篠田「一応全員にお見舞いのお花は贈っておいたけど、後で1人1人病室回ろうと思う」
篠田は最年長らしく、動揺するメンバーの中でも比較的しっかりとした調子で言う。
高橋「そうだね、あたしも出来るだけ顔出すよ」
高橋は大きく頷いた。
172 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/17(土) 15:53:12.67 ID:GOMTE6jV0
高橋「きっと一番不安なのはあの子達だもん。必ず怪我を治して戻ってくるんだよって伝えてあげたい」
高橋の言葉に、メンバーは思い思い返事をした。
高橋「さ、そろそろスタジオの準備も終わるんじゃない?あたし達も支度しなきゃ」
仕切り直すようにそう言うと、高橋は手鏡を出すためバッグを探す。
高橋「あれ?」
大島「たかみなバッグ、スタジオに置き忘れてたよー」
その時、大島が楽屋に入って来た。
手にはバナナ柄のバッグが提げられている。
高橋「ごめんありがとー」
前田「優子どこ行ってたの?」
173 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/17(土) 15:54:11.95 ID:GOMTE6jV0
大島「スタジオ覗いてたら当麻さん達がいたから、ちょっと話しこんじゃった。あたしも早く準備しちゃおー」
大島はそう言うと、素早く服を脱いだ。
高橋「優子、少しは隠して着替えなよ」
高橋は大島の行動が理解できない。
メンバーの中からは笑いが起こる。
大島「いいじゃん女子だけなんだしー」
大島は気にすることなく、さっさと制服風の衣装に着替えてしまう。
高橋は呆れながらも、大島を尊敬の眼差しで見つめた。
大島が来た途端に、楽屋の雰囲気が少し明るくなったからだ。
大島が話しはじめると、メンバーは皆、事件のショックを束の間忘れることができた。
174 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 16:13:03.22 ID:XECZQF0vO
山内の起こした事件から数日が経った。
怪我をしているメンバーも順調に回復に向かっている。
中でも一番の重症を負った市川だったが、ビデオレターでは包帯姿ながらも元気な様子を見せるまでになっていた。
打撲だけで済んだ永尾、阿部が徐々に仕事復帰を決めていくと、メンバーは事件のショックから徐々に抜け出すことができた。
少しずつではあるが、彼女達はまた元の形へと戻ろうとしている。
河西「今日ムチャぶりドッジでしょ?怖いなー」
宮澤「さっき稲葉さんごはんの準備してたよ」
河西「嘘?また?」
宮澤「うっそー」
河西「もうやめてよ佐江ちゃん」
175 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 16:17:31.38 ID:XECZQF0vO
深夜番組の収録で集まったメンバー達は、事件のことを避けるように、わざと冗談を言い合っている。
そんな中、石田は1人苛立っていた。
――れいにゃん、アンケートも書かないでどこ行ったんだろう…。
曲がったことが大嫌いな石田は、白紙のアンケート用紙を睨んでいた。
アンケートのことは藤江も知っているはずなのに、彼女は楽屋を出たまま、まだ戻ってきていない。
どうせアンケートなど書いても、自分のものはほとんど採用されないことを石田は悟っている。
しかしやれと言われたことをきちんとこなさないのは、性分に合わないのだ。
それは他人に対しても同じである。
藤江「えー、そうなんですか?」
石田が貧乏揺すりをはじめた時、藤江はのんびりとした様子で男性スタッフと話しながら楽屋に戻って来た。
176 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 16:20:51.95 ID:XECZQF0vO
石田「あ、れいにゃん、そろそろアンケート回収だよ。早く書いちゃいなよ」
石田はすかさず注意した。
藤江「あ、そうだったね。書かなきゃ」
藤江はそう言ってペンを持ったものの、スタッフとのおしゃべりをやめる気配はない。
年齢も若く、人懐こい藤江は、男性スタッフからの受けがいい。
石田は嫉妬にも似た気持ちで、尚も藤江を急かすが、藤江は生返事をするばかりである。
石田はそんな彼女の態度に腹を立て、そっぽを向いた。
藤江「やだ、そんな昔のこと今更言わないでくださいよー」
藤江は石田の怒りに気付くことなく、スタッフと話し続けている。
少しすると、楽屋に女性ADが入って来た。
AD「そろそろアンケート回収しますねー」
石田「ああほら、言ったじゃん。どうすんの?まだ書いてないでしょ?」
177 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 16:24:50.29 ID:XECZQF0vO
石田は藤江のほうを振り返る。
しかし藤江はきょとんとした顔で、首を傾げた。
藤江「アンケート?大丈夫、書いたから」
藤江はそう言ってADにアンケート用紙を渡してしまう。
スタッフと会話しながら書いたのか…。
石田は藤江の器用さに呆れた。
なぜだか藤江はこういったところで、要領の良さを発揮する。
石田はそんな彼女に、時にペースを崩され、苛立ちを募らせるのだった。
藤江「ごめんねはるきゃん。あのスタッフさんおしゃべり好きだから」
いつの間にかスタッフは姿を消していて、藤江は石田に向かって許しをこうような苦笑いを浮かべた。
その笑顔に、ついつい彼女のことを許してしまう石田である。
石田「いいけど、今度から慌てないようにああいうのは早めにちゃちゃっと書いちゃったほうがいいよ。どうせうちらのなんて採用されないだろうけど」
そうはいえ、素直に彼女を許す言葉が言えない石田は、少しだけ受け答えに毒を混ぜた。
藤江「そうだねー。今度からそうするよ」
藤江が石田の嫌味に気付くことはなかった。
178 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 16:26:04.29 ID:W3kGwykn0
支援
179 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 16:32:06.12 ID:XECZQF0vO
バラエティの収録があるという彼女達を見張るため、当麻と瀬文はスタジオに来ている。
1人、また1人と運動着姿の彼女達が、姿を現しはじめた。
当麻は彼女達の中に、まだ見たことのない顔を何人か見つけた。
後で話を聞いてみようと、狙いを定める。
ディレクター「本番はじめます」
声がかかると、彼女達はドッヂボールをはじめた。
最初のうち、アイドルのドッヂボールと思って甘く見ていた当麻と瀬文だったが、メンバーの中にはとんでもない剛速球を投げる者が潜んでいた。
秋元である。
当麻「彼女、すごいっすね…」
当麻は瀬文にだけ聞こえるよう、小声で言った。
瀬文も小さく頷く。
瀬文「アイドルというよりアスリートだな…」
SIT出身の瀬文でさえ、秋元の鍛え上げられた肉体には舌を巻いた。
180 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 16:33:34.86 ID:8vfCGMbZ0
はぁ追いついた
主人公を戸田に持っていかれてる予感ww
181 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 16:41:19.29 ID:XECZQF0vO
182 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/17(土) 16:42:39.92 ID:XECZQF0vO
どうやらボールに当たると、罰ゲームを受けるというルールらしい。
最初に当たった河西が、AD手製の気味の悪い料理を半泣きで食している。
当麻「なんで彼女泣いてるんでしょう。普通においしそうですけど」
瀬文「おそらく今ここでそんなこと思ってるのはおまえだけだぞ」
罰ゲームの内容も、アイドルらしくないものが多い。
泥棒の恰好をさせられた仁藤の姿を見た時には、さすがの瀬文も吹き出してしまった。
当麻「そろそろ終わりですかね。結構皆さん罰ゲーム受けてますし」
さっきから当麻は鼻をほじりながら、退屈そうにしている。
飽きてしまったらしい。
当麻「今日はもう何も起きそうにないですなぁ。ここ数日犯人は動く気配なかったですし。残念です」
瀬文「そうだな」
不発に終わったとはいえ、彼女達に何事もないほうがいいに決まっている。
瀬文はそう考えていた。
しかし当麻は山内から聞いた言葉を気にして、犯人の新たな動きを待ち望んでいるふしがある。
――不謹慎な奴め…。
瀬文が心の中で当麻を毒づいたその時、彼女達の中から悲鳴が上がった。
183 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 17:42:22.25 ID:b2Wl0Dkc0
面白いです
続きよろしく
184 :
グリーン:2011/12/17(土) 17:43:27.05 ID:FAV8dOyY0
xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx
185 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 18:14:10.71 ID:txe7rkXr0
麻里子と戸田恵梨香は全くの初対面な感じになるんかな
186 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/17(土) 18:33:55.26 ID:LOViWnov0
spec大好きだから脳内再生余裕。
続き楽しみ!
続きが楽しみ過ぎる
保守
続きが楽しみ
191 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 00:03:35.85 ID:esJ1hAR90
続き更新まだかな〜
192 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 00:06:07.65 ID:aoeTCmSS0
犯人は米沢だな
193 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 00:32:11.19 ID:kXH182Hs0
>>192 米ちゃん犯人のやつと同じ人なのかな?これ
あれも面白かった
194 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 00:33:56.74 ID:s7WDB7blO
河西「やめてよ…痛いよ…」
河西が床に崩れ落ち、泣きじゃくっている。
秋元の投げたボールにでも当たってしまったのだろうか。
違う。
1人の少女が、河西に馬乗りになり、殴りかかろうとしていた。
当麻「まさかドッジボールでマジ喧嘩?」
事態を見守る当麻達の前で、少女は止めに入った秋元と宮澤を弾き飛ばす。
それから近くにいた亜美菜に狙いを移した。
佐藤亜「やめて…どうしてこんなことするの?」
少女に蹴られ、亜美菜は床を転がった。
スタッフが慌てて少女を制止しにかかるが、華奢な体のどこにそんな力が潜んでいるのか、少女はスタッフをあっさり突き飛ばしてしまう。
驚いたことに、少女は暴力を振るいながら、笑っていた。
楽しくて仕方がないといった様子で、笑い声を上げている。
瀬文「何やってんだ…」
瀬文が駆け出して、少女の右腕をひねり上げた。
しかし少女は痛がるどころか、さらに強い力で瀬文の手を振りほどく。
195 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 00:38:27.03 ID:s7WDB7blO
当麻「ちょっと瀬文さん何やってんすか。早く止めてくださいよ。これ以上怪我人出すわけにいかないんだから、手加減してちゃだーめだーめ」
当麻がまるで他人事のように口出ししてくる。
瀬文「うるさい、本気でやっている」
瀬文の言葉を聞き、当麻の顔色が変わった。
瀬文は今、左腕を骨折している。
しかしSITで厳しい訓練を積んだ彼なら、少女の喧嘩くらいすぐに止められるだろうと、当麻は軽く考えていたのだ。
――これは普通の喧嘩じゃない。あの少女は本気でメンバーを殺すつもりだ。
当麻はそこでようやく気がついた。
これがあの少女の持つスペックの力なのか。
少女は瀬文から離れ、壁際に非難していたメンバー達の元へ突進した。
196 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 00:39:25.85 ID:8lpXxOyf0
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
197 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 00:42:36.36 ID:Z6WDoGRM0
うんこ終わったか
続けて
198 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 00:51:59.07 ID:s7WDB7blO
内田「ターーッ!」
少女に追い詰められたメンバーの中から、内田が歩み出る。
気合いを入れると、内田は少女の太ももを思いきり蹴り上げた。
少女が崩れ落ちる。
しかしすぐに立ち上がり、内田を遠くへ突き飛ばした。
内田の背中に隠れるようにしてしゃがみこんでいた佐藤すみれが、奥歯をガタガタ言わせて少女を見上げる。
佐藤す「ごめんなさいごめんなさい…」
すみれは頭を抱え、理由もなくひたすら少女に謝っていた。
少女はそんなすみれの姿を見てにやりと笑うと、近くにあったパイプ椅子を掴む。
佐藤す「キャーー」
瀬文「やめろぉぉぉ」
少女は躊躇なく、すみれの頭に椅子を振り下ろそうとした。
しかしそれを寸でのところで瀬文が制止する。
瀬文「やめろ、目を覚ませ」
瀬文と少女の視線が交差する。
少女は相変わらず笑っていた。
199 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 00:53:24.78 ID:kXH182Hs0
にのまえくるー?!
200 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 01:04:48.08 ID:s7WDB7blO
瀬文が少女ともみ合っている間に、当麻はメンバーを少女から遠いところへ避難させた。
その中の1人、藤江が突然叫び声を上げる。
藤江「キャーー…」
藤江は驚愕の表情で少女と瀬文のほうを見つめていた。
乱闘を繰り広げる2人のすぐ傍に、石田の姿を発見したのだ。
藤江「はるきゃんこっち、早く逃げて!」
しかし石田は腰を抜かしたようで、呆然とその場に座りこんでいる。
瀬文「このやろぉぉぉぉ」
少女の拳に、ついに瀬文は倒れた。
瀬文「怪我人だぞ。ちょっとは手加減しろよ…」
少女は倒れた瀬文にはもう目もくれず、今度は石田に向かって、まるで焦らすようにゆっくりと近づいて行った。
瀬文「やめろぉぉぉぉぉ」
もえのー
202 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 03:20:40.46 ID:AHoTk0tr0
支援
203 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 07:03:13.99 ID:DO7LMKmW0
支援
204 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 07:35:53.76 ID:s7WDB7blO
瀬文は叫びながら、必死に自分の体を起こそうとした。
その時だった。
少女の動きが鈍くなり、ばたんと倒れる。
そのまま起き上がる気配はない。
少女は床にのびてしまっていた。
瀬文「大丈夫か?」
しかし瀬文が少女に駆け寄るより先に、当麻がやって来た。
当麻は少女に手錠をはめると、瀬文を振り返る。
当麻「気を失っています」
瀬文「何が起きたんだ?」
当麻「わかりません。突然倒れたんです」
当麻はそう言うと、石田のほうに視線を向けた。
206 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 07:39:28.41 ID:s7WDB7blO
当麻「怪我がなくて何よりです。石田さん…」
石田は放心状態のまま、小さく頷いた。
傍には藤江が来て、石田を助け起こそうとしている。
当麻「一体なぜ彼女はこんなことをしたんでしょう…」
当麻は改めて、気を失っている少女の姿を見下ろした。
自力で立ち上がった瀬文が隣に来て、同じく少女の顔を覗き込む。
少女の運動着には名札がついており、そこにこう書かれている。
『小森美果』
207 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 07:40:19.68 ID:TH8zRPEd0
完結してると思って読んでたら
まだ完結してなかったーーーー!!
SPEC大好きだからめちゃめちゃ面白い。脳内再生余裕 期待してる
208 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 09:54:08.04 ID:s7WDB7blO
取り調べを終え未詳に戻って来た当麻達を、野々村が緊張感のない顔で出迎える。
野々村「で、どうだったのかな?小森さんは」
当麻「どうもこうもないっすよ。山内さんの時と同じです。彼女もまた事件前後の記憶がありませんでした」
野々村「そうかそうか、僕が思うに彼女達2人は一種の催眠状態に陥ってたんじゃないかなぁ。どうだろう?」
野々村は自分の推理に自信があるらしく、ぴんと胸を張った。
しかし当麻は考えに没頭するあまり、野々村の話をほとんど聞いていなかった。
当麻「あんな暴力事件を起こすことが目的だったとして、犯人が小森さんにやらせた理由がわからないんですよね」
野々村「理由?それはまぁ同じメンバーだから近くにいることも多いし、操りやすかったんじゃないかな」
209 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 10:17:08.13 ID:s7WDB7blO
当麻「だとしたらグループには小森さんよりももっと適任なメンバーがいるんですよ。例えば秋元さんなんかはアスリート並みの筋肉の持ち主。小森さんではなく彼女に事件を起こさせたほうが、もっと被害を大きくできたはずです」
当麻「しかし犯人は小森さんに事件を起こさせた。何か小森さんでなければならない理由があったんですよ」
瀬文「これを見れば、その理由がわかるかもしれない…」
おとなしく話を聞いていた瀬文が、いつも持ち歩いている紙袋を掲げた。
当麻「え?何すか?何すか?」
瀬文「小森さんが事件を起こした時、スタジオのカメラが回ったままになっていた。その際撮影されたVTRをお借りしたんだ」
当麻「マジっすか?どうしたんですか瀬文さん。私が彼女達を調べることに批判的だったくせに」
瀬文「少し気になることがある」
瀬文の言葉に、当麻の表情が厳しくなる。
前作よりおもしれー
211 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 10:55:37.18 ID:UjUSeTnj0
早く続き見たい
212 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 11:41:37.22 ID:kXH182Hs0
はやくはやくー!
213 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 12:40:49.80 ID:jc2wgoMC0
戸田恵梨香とたかみなの絡みとか想像できない(笑)
スペック映画必ず見にいくぜ!!
214 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 13:11:17.49 ID:pTEXQw+t0
まぁそう急かしなさんなうっくり待とうぜ
にしても特別ドラマとやらはいつやるんだろうな
215 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 13:42:30.32 ID:jc2wgoMC0
春映画決定!
216 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 14:51:47.84 ID:DO7LMKmW0
続きが楽しみ過ぎる
217 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 15:59:12.82 ID:AHoTk0tr0
支援
218 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 16:20:33.13 ID:s7WDB7blO
当麻「気になること…早速見てみましょう」
当麻は右手だけで器用にVTRをセットすると、再生ボタンを押した。
映像はドッヂボールのはじめから撮影されている。
楽しげにボールを投げ合う彼女達。
その中で1人、小森は途中から妙にふらふらと動きはじめ、不気味な笑顔を浮かべるようになる。
瀬文はその表情に見覚えがあった。
当麻「あー!!」
小森が河西に掴みかかった瞬間、当麻が驚きの声を上げる。
当麻「小森さん、以前にバレエを踊っていた時の優雅な動きとは大違いですね。とても同一人物とは思えません」
画面ではすでに河西が倒れ、必死に抵抗する様子が流れている。
その後も当麻達が目撃した通り、小森の凶行が続く。
瀬文「思った通りだな…」
瀬文が呟いた。
219 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 16:25:10.07 ID:s7WDB7blO
当麻「何ですか?」
瀬文「彼女の犯行を見た時、どこかで似た光景を目にしたような気がした。これは…ゲキカラだ…」
当麻「激辛ー?」
瀬文「彼女達が撮影しているドラマの登場人物だ」
当麻「小森さんが演じてるんですね?」
瀬文「いや違う。彼女の役名は確かムクチ…ほとんどアクションのない役柄だったはずだ」
当麻「じゃあ何で…?」
瀬文「わからない」
瀬文が首を振ると、当麻は考える仕草を見せた。
その間に野々村はVTRを見ながら、好き勝手喋っている。
野々村「ひゃあすごいねー。小森さんて子は格闘家みたいだ」
220 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 16:31:16.73 ID:s7WDB7blO
瀬文「はい、そうなんです。バレエを踊っていた時とはまるで別人でした」
しばらくすると、当麻が口を開いた。
当麻「小森さんは特別にアクションの演技指導を受けていたのでしょうか?」
瀬文「受けてはいたみたいだが、元々そんなにドラマでアクションをする役柄ではない。それよりもゲキカラ役の松井さんのほうが指導は本格的なものを受けていたらしい」
野々村「じゃあ小森さんはどこでこんな技覚えたんだろうねぇ。ほらほら、今のとこ、きれいな飛び蹴りをしているよ。こんなこと普通の女の子がそうそう出来るわけないと思うけどねぇ」
野々村をそう言って、興奮気味に画面を指差す。
当麻は野々村を横目で見ると、静かに語りはじめた。
当麻「野々村係長の言うとおりです。瀬文さんの話を聞く限り、小森さんにあれほどのアクションが出来たとは考えにくい。彼女の持ち味であるバレエのような優雅な動きとは対極にあります。しかしこれで、犯人がなぜ小森さんに犯行を起こさせたのかわかりました」
瀬文「何なんだそれは」
221 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 16:37:14.31 ID:s7WDB7blO
当麻「小森さんもまた山内さん同様、スペックの持ち主だったんです。おそらく小森さんのスペックは筋肉の動きをコピーすること…」
当麻「彼女はドラマの撮影現場で、ゲキカラのアクションシーンを目にしたことがあったんでしょう。その時のゲキカラの動きを、彼女はコピーしていた」
瀬文「確かに彼女は、ゲキカラの乱闘シーンを撮影していた時、その様子を見学している…」
瀬文はドラマの撮影現場での出来事を思い出していた。
小森は熱心に見学するあまり、カメラに映りこんでしまうという失態を犯している。
222 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 16:40:34.88 ID:s7WDB7blO
瀬文「しかしそれだけで彼女をスペックの持ち主と決め付けるのは…」
当麻「いえ、それだけではありません。思い出してみてください。私達は彼女がバレエを踊る現場にも居合わせましたよね?その時、小森さんは踊る直前までバレエの舞台映像を見て動きを確認していました。そしてそのすぐ後に、完璧な舞を踊ってみせた」
瀬文「それがどうした。バレエ経験者なのだから当然だろう」
当麻「しかし彼女は3年のブランクがあります。それなのに撮影前少し確認しただけで、あれほど見事なバレエを披露することができるでしょうか?」
当麻「スポーツの世界では1日練習を休んだだけで取り戻すのにかなりの時間を要します。バレエだって同じはずです。彼女のバレエは妙に完璧すぎたんですよ。まるで直前まで見ていた舞台映像の動きをコピーしているようでした」
瀬文はそう聞いて、撮影現場での彼女の様子を思い出していた。
カメラの前で踊り終わった後、彼女は自分でも驚いているようだった。
223 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 16:47:17.12 ID:s7WDB7blO
当麻「犯人は小森さんのスペックに気付き、何らかの方法で彼女に犯行を起こさせた。ここからわかることは2つです。犯人はスペックの存在に気付くことができる。なおかつその相手を意のままに操ることができる…。かなりの強敵です」
瀬文「メンバーの皆さんの危険はまだまだ続くのか」
当麻「そういうことになります。そして同じグループに山内さん小森さんと2人もスペックの持ち主が潜んでいました。もしかしたら他にも、彼女達の中にスペックを持った人物がいるかもしれません」
当麻「私達は犯人より先にその人物に気付き、犯人に利用されるより前に保護する必要があります。明日からさらに忙しくなりますよ」
当麻の言葉に、瀬文は厳しい顔で頷いた。
きたー
225 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 17:31:57.22 ID:s7WDB7blO
翌日、メンバー達は歌番組の生放送を前に、リハーサルに挑もうとしていた。
篠田「聞いた?こもりんのこと…」
篠田は暗い表情で小嶋に問いかける。
小嶋「聞いたよー。どうしちゃったんだろうねー」
いつもはマイペースな小嶋だが、さすがに今日ばかりは昨夜の事件のショックを引き摺っているようだ。
カメラが回っているところでの犯行、さらに現場に居合わせたメンバーがはっきりと目撃していたこともあって、今回は事件についての詳細を全メンバーが知ることとなった。
宮澤「ほんとびっくりしたよ…止めに入ったけど全然だめで…」
幸い怪我のなかった宮澤は、仕事に復帰している。
しかし河西は顔に痣が残ってしまったため、しばらく休養となった。
226 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 17:34:25.77 ID:s7WDB7blO
篠田「そういえば、ともちんもいないね…」
前田「ともちんまだ体調悪いみたいだよー」
小嶋「えー?なんか長引いているねー。風邪かな?」
小嶋の問いかけに、前田は曖昧に笑ってみせる。
事件のショックに加え、メンバーが揃わないこともまた、彼女達からいつもの笑顔を奪っていた。
前田「たかみなも前の仕事が押してるみたいで、まだ来てないんだよねー」
宮澤「優子もドラマの撮影が終わってから来るから、少し遅くなるみたい。本番には間に合うと思うけど」
篠田「うわっ」
突然、篠田は背中に重みを感じ、前につんのめった。
227 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 17:37:45.10 ID:s7WDB7blO
松井珠「おはようございまーす」
篠田の背中には、珠理奈が抱きついていた。
篠田「びっくりしたー」
小嶋「珠理奈ちゃんおはよー」
珠理奈はメンバーの元気のなさを感じ取ってか、いつもより高いテンションで話し出した。
――珠理奈がいると、なんだか現場の雰囲気が和むな…。
篠田は考えていた。
年齢も若く、いつも元気な珠理奈は、これまでメンバーの前で疲れた様子を見せたことがない。
常に誰かにまとわりつき、下手な駄洒落やギャグを連発して喋り通している。
そんな彼女の性格は、自然と周囲の者を元気付けていた。
228 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 17:41:35.56 ID:s7WDB7blO
当麻達がスタジオにやって来た頃には、メンバーはすっかり事件のことを忘れ、いつもの笑顔を取り戻していた。
当麻はその様子に、違和感を持つ。
――メンバーが事件を起こし、怪我人も出たというのに、この落ち着きはどういうことだろう。
山内の事件の後、メンバーはしばらく失意から抜け出せずにいた。
しかし今回の小森の事件では、一晩明けた途端にみんな元気を取り戻したように、当麻の目には映る。
とても奇妙な光景だった。
前田「あ、当麻さん」
当麻達に気付いた前田が、頭を下げてくる。
229 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 17:45:37.95 ID:s7WDB7blO
前田「たかみなならもうすぐ来ると思いますよ」
前田はそう言って、悪戯っぽい目つきを瀬文に向ける。
内心を見透かされた瀬文は、密かに顔を赤らめた。
講師「高橋と大島は後から合流するから、みんなは先リハーサル始めるよー」
その時、ダンス講師の声がかかった。
前田は慌ててステージへと走っていくと、定位置についた。
当麻「彼女達が歌って踊るの、実際に見るのは初めてですね」
当麻はわくわくとした様子で、ステージを見つめる。
瀬文「ドラマやバラエティやコント…歌とはかけ離れた仕事ばかりだったからな」
珍しく瀬文も興味深げに彼女達の姿に目をやった。
230 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 17:49:33.67 ID:s7WDB7blO
講師「じゃあ曲かけてくださーい」
講師がスタッフに声をかけている。
彼女達はスタートのポーズを作り、スタンバイしていた。
しかしいつまでたっても曲がかからない。
スタッフ「すみません機材トラブルでーす。もうすぐ復旧しますから、ちょっと待っててもらっていいですかー?」
天井の方から、スタッフの声が下りてきた。
結局彼女達は講師の手拍子に合わせて、ダンスのフォーメーションなどを確認していくことにしたらしい。
当麻はそこで、前田の姿に目を見張った。
当麻は彼女達を警戒する中で、何度もふとした拍子に居眠りをする前田の姿を目にしていた。
面と向かって話していても、上の空だったり、眠そうな表情をしていることも多い。
しかしステージに立つ彼女は、そんないつもの姿とは違う。
緊張感に包まれ、もの凄い集中力を発揮しているように見える。
さほど大きな動きをしているわけでもないようだが、なぜだか人の目を惹きつけるダンスを踊っていた。
続ききたー!
232 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 17:55:08.39 ID:s7WDB7blO
当麻「いやー、やっぱりこじはるさんは可愛いすねー。ダンスをミスしても何事もなかったかのように踊り続けるあたり、大物の風格が漂ってますなぁ」
当麻が今度、小嶋の姿に注目したその時、スタジオに大音量で彼女達の曲が流れはじめた。
驚いたメンバーは、リズムを見失い、しばらくステージ上で立ちすくむ。
そんな中、前田だけは1人、ダンスを続行していた。
しかしすぐに彼女もまたリズムを見失ったのか、動きを止める。
講師「じゃあ次の間奏のところから続けてー」
講師が慣れた調子で仕切り直すと、彼女達はまたダンスを再開した。
途中で高橋と大島もやって来て、挨拶を済ませるとステージの輪に加わる。
当麻「さっきの前田さんすごかったですね。1人だけリズムを見失わずに踊り続けてましたよ」
当麻は瀬文に耳打ちした。
瀬文は当麻の息が臭いのか、しかめ面を作るだけで何も言わなかった。
233 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 18:01:07.20 ID:8IdOUzy20
期待あげ
234 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 20:24:00.05 ID:mvuH97wVO
あげ
またメッシ落ちかw
236 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 21:04:27.63 ID:TH8zRPEd0
あっちゃーん!
237 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 21:36:14.85 ID:s7WDB7blO
一通りリハーサルが終わると、高橋が当麻達のもとへ駆け寄ってきた。
高橋「すみません、バタバタしてて」
当麻「いいですよ。昨日は私達がいながら、あんなことになってしまい申し訳ありませんでした」
高橋「いいえ、当麻さん達がいてくれたから、あれだけの騒ぎで済んだんだと思います。怪我をしたメンバーも2、3日で復帰できるみたいですし」
瀬文「精神的ショックが大きくなければいいが…」
高橋「それは大丈夫です。あたしが全力でケアします」
当麻「そうですか」
高橋は力強く胸を張ったものの、表情はどこか沈んでいる。
やはり高橋自身が1番に事件を深刻に捉えてることが窺えた。
238 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 21:39:22.51 ID:s7WDB7blO
当麻「それでなんですけど、なんかみなさん元気ですよね、事件の後だというのに」
高橋「今日は珠理奈や玲奈ちゃんもいますし、気が紛れているんだと思いますよ。珠理奈や、あと優子と佐江ちゃんがみんなを盛り上げてくれるんです」
高橋は、楽屋に戻っていくメンバー達の姿を目で追いながら、そう説明した。
当麻「あれ?市川さん復帰したんですね」
当麻はメンバーの中から、人一倍小さな顔を見つける。
高橋「そうなんです。今日から」
当麻「もう大丈夫なんですか?」
当麻は事件が起きた際の市川を思い出していた。
山内に飛ばされ、かなりの怪我を負ったはずだが…。
高橋「はい、チーム4はもう全員復帰しましたよ」
当麻「さすが若いだけあって回復力はんぱないっすね」
当麻は感心したように息を吐いた。
239 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 21:48:43.96 ID:s7WDB7blO
高橋「あたしは忙しくて1度しか病室行けなかったんですけどね、麻里子や珠理奈がマメにお見舞い行ってくれて、元気づけてあげてたみたいです。それもあって早く回復できたんじゃないかなって思います」
当麻「精神的な面も回復に影響してきますもんねー」
高橋と当麻はそれから短く、事件についての話をした。
チーム4全員の回復は喜ばしいが、やはり小森の起こした事件について、高橋はショックを受けていた。
当麻「辛いでしょうが、今から私がする質問にお答えいただけますか?」
当麻が言うと、高橋はもちろんですと返事をした。
当麻「これだけのメンバーが襲われたんです。本当に高橋さんの目から見て、メンバーの間に恨みや憎悪を持っている人はいないと思われますか?」
当麻の質問に、高橋は全力で首を振った。
きてたー
241 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 22:37:28.70 ID:8lpXxOyf0
前回と比べたらスロースピード?
他の作者と比べたら断然展開早くて助かるけど
242 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 23:15:14.17 ID:NsjEH5sW0
ああ 待つよ 俺は待ってる 信じて待つよ
243 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/18(日) 23:25:47.52 ID:8dURja030
小森の描写が多くて作者さん小森推し?
と思いきややられたわ。続き楽しみ
244 :
◆TNI/P5TIQU :2011/12/18(日) 23:52:06.30 ID:s7WDB7blO
高橋「いません。前にも言いましたよね?AKBの中に人を羨んだり憎んだりする子なんて絶対にいません」
当麻は高橋の顔を覗きこみ、真意を探った。
高橋は挑むように当麻を見つめ返している。
当麻「そうですね。失礼しました。ちょっと頭冷やして、事件について整理してきます」
当麻はそう言って頭を下げると、キャリーバッグを転がしながら大股でスタジオの外へ出て行く。
瀬文が慌ててそれを追いかけた。
残された高橋はじっと床に目を落としている。
――メンバーの中に犯人がいる…?そんなのあたしは絶対信じない。
気を抜くと涙がこぼれそうだった。
高橋は力をこめて目を見開くと、頭を振って気持ち切り替えにかかる。
警察がなんと言おうと、あたしだけはメンバーを信じていかなきゃ駄目なんだ。
高橋はそう自分に言い聞かせた。
ほしゅ
246 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 03:42:29.35 ID:TwSpuh1h0
今日の更新は終わりとか書いてくれたらありがたい
247 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 03:53:25.87 ID:ddNoFZGK0
そうですね。是非お願いします
248 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 05:26:41.05 ID:rXw74l5I0
スレタイにせめてSPEC入れて欲しかった。
最初はオリジナルかと思ったし。
250 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 08:29:32.06 ID:WPNFYZsYO
ほしゅ
251 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 08:30:32.79 ID:Ts9Deddz0
252 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 08:52:51.79 ID:q2sV+ZRh0
スタジオを出て廊下の隅まで行くと、当麻は立ち止まり、考え込んだ。
――高橋さんはメンバーが犯人である可能性を否定している…。
それは無理もないことだろう。
彼女ほどグループのことを1番に考えている人は他にいないのではないか。
だけど、それゆえに見落としていることもあるのではないか。
メンバーを信じるあまり、些細な兆候や不審な点に、鈍感になってしまっているのでは。
――高橋さん以外のメンバーにも、事情を聞いてみる必要がありそうだな…。
当麻は考えを巡らす。
その時、追いかけてきた瀬文に頭を叩かれた。
当麻「痛ーい、何するんですか瀬文さん」
瀬文は頬を高揚させ、肩をいからせている。
瀬文「おまえ、さっきのあれは何だ?」
当麻「え?さっきのって?」
瀬文「どういうつもりで高橋さんにあんなこと言った?」
253 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 08:55:01.82 ID:q2sV+ZRh0
当麻「どういうつもりも何も、高橋さんなら事件を起こしそうなメンバーについて知っているかと思って聞いてみただけですよ」
当麻の答えに、瀬文は眉を吊り上げた。
瀬文「彼女はメンバーを信じている。事件が起きたばかりでショックも大きい時だというのにそんなこと訊いたら、彼女を動揺させるだけだと思わないのか?しっかりしているように見えて、ああいうタイプが1番敏感で傷つきやすいんだ!」
当麻「へぇ、瀬文さんの口からそんな言葉出るなんて意外ですね」
瀬文「悪いか!」
当麻「いえ、ちょっと見直しました。さっきのは確かに聞き方もタイミングも悪かったです。以後気をつけます」
当麻は珍しく素直に謝った。
瀬文はまだ何か言いたそうではあったが、反省する当麻を見て言葉を引っ込めた。
その時、自分の右手に握られている物に気付く。
瀬文「あぁぁ!!」
当麻「うわっ、何ですか」
瀬文の声に驚き、当麻がびくりと肩を震わせた。
254 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 08:56:22.50 ID:q2sV+ZRh0
瀬文「紙袋…破れたじゃねぇか…」
瀬文がどこへ行くにも必ず持ち歩いている紙袋。
それが彼の手の中で握り潰され、破れてしまっていた。
当麻「あー、そんな強く握るから…」
当麻は自分のキャリーバッグの中からピンクのエコバッグを取り出すと、瀬文に投げ渡した。
当麻「とりあえずそれ使ったらどうですか?」
瀬文は少しの間エコバッグと紙袋とを見比べて迷っていたが、渋々紙袋の中身を移し変えた。
当麻「前から思ってたんすけど、その袋の中身って何なんですか?」
瀬文「教えない」
当麻「えー、ケチー」
当麻は唇を尖らせた。
しかし実際にはさほど興味はなかったらしく、すぐに表情を変えると踵を返した。
おはよう!今日も楽しみにしてるよ
256 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 08:59:48.68 ID:q2sV+ZRh0
当麻「さ、それより私達も彼女達の楽屋へお邪魔しましょう。時間がないですよ」
そう言ってずんずんと歩き出した当麻を、瀬文がエコバッグ片手に追いかける。
瀬文「そうは言っても、おおかたお前の目的の半分は弁当を貰うことだろう」
瀬文が指摘した。
当麻はにやりと笑っただけで、意気揚々と楽屋を目指す。
楽屋に入ると、彼女達は静かに準備をはじめていた。
当麻「あのー、お弁当は…?」
篠田「え?メンバー分しか用意してもらってないですけど…」
篠田が困ったように視線を泳がせる。
しかしメンバーのほとんどは、あまり弁当に手をつけていない。
なぜだかリハーサル前とはうって変わり、楽屋は沈んだ空気になっていた。
やはり昨日の事件が尾を引いていたのか。
257 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:01:45.36 ID:q2sV+ZRh0
>>255 ありがとう!今日はパソコン使えるからどんどん更新する!
258 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 09:04:28.21 ID:v4qXkdGP0
楽しみだな〜
259 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:05:54.12 ID:q2sV+ZRh0
高城「あ、あたしいつも本番前はおなかいっぱいにしないようにしてるんで、良かったらこのお弁当どうぞ」
当麻「あ、そうですかー?じゃあ遠慮なく」
当麻は図々しく高城の弁当を貰い受けた。
さらには渡辺、柏木からも弁当を受け取っている。
瀬文は呆れてその様子を眺めていた。
峯岸「あっちゃん、よく食べるねー」
彼女達の中ではただ1人、前田だけが弁当を完食している。
瀬文はやはり女性ばかりの雰囲気に居心地の悪さを感じていた。
人数が多いわりに楽屋が狭いというのも、瀬文の居場所を失くしている原因でもある。
メンバーが荷物を取ったり、楽屋を出ようとしたりするたびに、瀬文は壁に寄り、彼女達に通り道をあけてやらなければならなかった。
それでも肩と肩がぶつかってしまうこともあり、瀬文は平静を装いながら、内心ではかなり緊張している。
当麻がちょうど弁当を食べ終わった時、ADが本番が始まる旨を報告しにやって来た。
当麻「じゃあ私達はスタジオの隅で見ていますので、本番、頑張ってください」
口の周りに米粒をつけたまま、当麻が敬礼する。
高橋はそんな当麻を見て、苦笑いを浮かべた。
高橋「あの、ごはん粒ついてますよ」
小嶋は当麻のことが苦手なのか、あまり目を合わせないようにしている。
260 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 09:06:33.95 ID:xgGqcDroO
AKBの高橋は二人いるんだが
261 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:10:07.03 ID:q2sV+ZRh0
楽屋を出た当麻と瀬文は、先ほどリハーサルが行われていたスタジオに向かって歩きはじめた。
瀬文は居心地悪さから解放されて、少しほっとしている。
当麻「そういえばさっき、前田さんに今度おいしい餃子屋さんを教える約束をしました。彼女ああ見えて、食べるのが好きみたいですよ」
瀬文「彼女達は芸能人だぞ。仕事とは関係ないところで個人的に会うのはどうかと思うが」
当麻「やだなー、それも仕事のうちですよ。人間、大事なことを話す時には食事をしながらと昔から決まってるじゃないですか。食事中はリラックスしていて、ついつい本音が出やすく、相手に心を許してしまいがちなんです」
当麻「最初のデートでまず食事に行くのも、豪華な食事を用意した接待も、一見無駄なように見えてちゃんと理にかなった行動なんですよ」
瀬文「お前は前田さんから何を聞きだそうとしてるんだ?」
当麻「別に。誰か対立関係にあるメンバーがいれば教えてもらおうと思っているだけです。もちろん、聞き方は考えますよ。彼女を傷つけないように」
当麻の思惑に、瀬文はため息をつく。
その時、背後から足音が聞こえてきた。
262 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:12:16.34 ID:q2sV+ZRh0
北原「すみませーん」
当麻達が振り返ると、駆け寄ってくる北原の姿があった。
北原「待ってください、これ忘れ物じゃないですか?」
北原の手には当麻の箸とエコバッグが握られていた。
当麻「すみません」
北原はそれぞれに忘れ物を返すと、笑顔を浮かべる。
北原「事件のことであたし達、自分のことばかり考えていたけど、大変なのは捜査してくれている警察の方々も一緒なんですよね。お疲れでしょう?」
瀬文は北原の気遣いに心が痛んだ。
――まだ若い彼女にまで心配をかけてしまった…。
瀬文は自分達警察の不甲斐なさを恥じる。
当麻「それより心配なのは事件のことでメンバーの方々がお互い疑心暗鬼になってしまうことです。皆さん本当に仲がよろしいみたいですから…」
当麻はどさくさに紛れて北原に探りを入れた。
263 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:14:09.66 ID:q2sV+ZRh0
北原「え?まぁはい…そうですね…」
意外なことに北原からは歯切れの悪い返事が返ってきた。
当麻「何か気になることでも?」
すかさず当麻が突っ込む。
北原「いえ、事件とは何も関係ないことですから…」
当麻「どんな小さなことでも、心配事があるなら人に話したほうがいいですよ。話すだけでも気持ちが楽になりますから」
当麻はしゃあしゃあと知ったような口をきく。
そうやって北原の言葉を引き出そうとする魂胆なのは、傍から見ている瀬文にも容易に判断できた。
北原はそんな当麻に乗せられたのか、少しの間迷う仕草を見せていたが、結局口を開いた。
北原「実は萌乃ちゃんと篠田さんが、少し前から気まずいんです…」
264 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:16:01.79 ID:q2sV+ZRh0
瀬文は篠田の顔を思い浮かべる。
高橋のように前に立ってみんなをまとめるというタイプではないが、年上として気を遣う言動が目立つ女性であったはずである。
そんな篠田がメンバーと問題など起こすのであろうか。
北原「前に番組の収録中、喧嘩みたいな雰囲気になって以来、萌乃ちゃんが篠田さんを怖がってるんです。何とかしてあげたいんですけど、あたしどうしたらいいか…」
北原の話は事件とは関係ないことのように思われた。
それでも当麻は、念のため2人の関係を観察してみることを決める。
北原「ね?事件とは関係ないですよね。すみません個人的な相談で」
北原はそう言うと、ばつの悪そうな表情を浮かべた。
横山「北原さーん、たかみなさん達が探してはりましたよー」
ちょうど横山が姿を現したので、北原は頭を下げると、当麻達のもとを離れていった。
しかし途中で振り返り、瀬文の持つエコバッグを見た。
北原「瀬文さんのバッグ、ピンク色でかわいいですね」
北原はいたずらっぽい視線を送ると、横山を追いかけ立ち去っていく。
一瞬遅れて、瀬文は背中のあたりにむず痒さを感じた。
265 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 09:17:15.08 ID:bazZcisR0
>>260 そこは暗黙の了解でしょう
小嶋、前田同様
266 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:22:52.87 ID:q2sV+ZRh0
数時間後、彼女達の仕事が無事終わったのを見届けた当麻達が、未詳に戻って来た。
野々村「ややや、2人ともご苦労だったね。じゃあ僕はこれから雅ちゃんとデートだから、お先に失礼するよ」
入れ違いに野々村が浮き浮きとした足取りで出て行く。
当麻「おつかれやまです」
野々村「おつかれさまんさたーばさーはともちんがイメージガールっと〜♪」
野々村がいなくなると、当麻はどさりとソファに腰を下ろし、テーブルの上にストックしてある蜂蜜を1本飲み干した。
瀬文は何かいいたげにその様子を見ている。
当麻「さてと」
一息ついた当麻が、テレビ画面に向かう。
瀬文「何するんだ?」
267 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:25:17.45 ID:q2sV+ZRh0
当麻「実は以前ちょっと気になったことがありましてなぁ、これからそれを確かめてみるつもりです」
瀬文は無言で当麻の隣に腰を下ろした。
瀬文「何なんだ?」
当麻はプレイヤーを操作しながら答える。
当麻「ほら、ちょっと前にバラエティの収録でメンバーの方が愛犬を連れてお仕事してたことあったでしょう?あの時現場で見ていて、なんかこう、大事なことを忘れているようなもやっとした気持ちになったんですよ」
当麻「オンエア前だけどスタッフに無理言って、今日ようやくその映像を入手したんです」
当麻が再生ボタンを押すと、編集前の映像が流れはじめた。
画面の中で、彼女達は楽しげに愛犬と戯れている。
瀬文「あ、ハチ…」
瀬文は平嶋の愛犬が映ると、身を乗り出した。
268 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:26:42.48 ID:q2sV+ZRh0
当麻「そういえば瀬文さんは平嶋さんの愛犬がお気に入りでしたね。散歩させてもらったけど、ハチに引きづられたんでしたっけ」
映像は進み、ハチが飼い主の呼び声を無視して餌を食べるシーンになる。
当麻「この時、何か引っかかったんですけどねぇ…」
瀬文「あれ、やらないのか?」
瀬文が試すような視線を当麻へと送る。
当麻「まだやりませんよ」
当麻は即答した。
当麻「あれをやるのは、犯人の背中が見えた時です」
瀬文の聞いたあれとは、当麻が考えを整理する時に行う儀式のようなものである。
当麻は墨と筆で事件についてのキーワードを書きながら、推理をまとめるという妙な癖を持っていた。
さらに妙なことに、当麻は書いた半紙をすべてまとめて破り投げることにより、事件の真相を突き止めるのだ。
当麻「大丈夫です。この映像の中に必ずヒントがある…」
当麻は睨むようにして画面を見つめた。
269 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:29:46.05 ID:q2sV+ZRh0
数日後、都内某レッススタジオにはチームBメンバーが集められた。
しかし小森はまだ混乱が激しく、仕事ができる状態ではない。
またメンバーのほうでも、まだ小森と顔を合わせる心の準備が出来ていなかった。
よって1人足りない状態で、レッスンははじまった。
今日は初めての新曲の振り付け練習である。
柏木「亜美菜ちゃん、大丈夫?」
キャプテンである柏木は、復帰したばかりの亜美菜を気遣う。
河西、佐藤すみれの2人も今日から仕事復帰である。
増田「今日はあんま無理せんほうがいいで」
増田が声をかけると、河西はゆっくりと、しかし笑顔で頷いた。
河西「ううん、もう大丈夫だよ」
佐藤す「早く振り付け覚えたいし」
すみれも事件前と変わらぬ元気な笑顔を見せてる。
しかしふとした拍子に、疲れたようにため息をつく姿もみられた。
柏木はそんな3人を見て、キャプテンとしてどう接したらいいか頭を悩ませていた。
270 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:31:09.34 ID:q2sV+ZRh0
講師「じゃあもう一度、頭のところから通しでやってみて」
ダンス講師の言葉に、メンバーが決められた立ち位置につく。
イントロが流れる。
メンバーが瞬時に笑顔を浮かべ、動き出した。
そこでトラブルが発生する。
講師「一旦止まってー」
講師がおかしな顔をして、機材を操作する。
渡辺「調子悪いのかな?音飛びしちゃったね」
レッスンスタジオの中に流れていた彼女達の歌声の音源が、途切れ途切れになってしまった。
練習は中断され、集中力の切れたメンバーの何人かは笑いをこらえている。
講師「スピーカーかな?ちょっと裏見てくるかみんな自主練してて」
柏木「あ、じゃああたしも手伝います」
北原「あたしも」
講師「ありがとう2人とも」
講師は柏木と北原を連れて出て行った。
271 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:32:51.18 ID:q2sV+ZRh0
宮崎「なんかみんなの歌声がさー、テレビでモザイクかけられている人の音声みたいになっちゃってない?」
音源はなぜか今度、倍速になって再生され、それに気付いた宮崎がものまねをはじめる。
周りにいたメンバーが宮崎の物真似を見て笑う。
宮崎「なんか亜美菜ちゃんの声真似してる時みたいになっちゃった」
佐藤亜「やめてよー。亜美菜そんな声じゃないよー」
近野「めっちゃ似てるー。うまーい。アハハハ…あれ?」
その瞬間、近野の表情が変わる。
近野「何これ…やだ…」
272 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:35:11.64 ID:q2sV+ZRh0
音源は次にスロー再生になり、彼女達の歌声は別人のようにくぐもった声でスタジオに流れている。
そして1つの歌詞を繰り返し再生するようになった。
終わり終わり終わり終わり終わり……。
河西「ねぇ何これ気味悪いよ」
河西が眉を寄せ、隣にいた平嶋にしがみつこうとする。
河西に袖を掴まれた平嶋は微動だにしない。
河西「なっちゃん…?」
平嶋は焦点の定まらない目で、ぼんやりと遠くを見ていた。
河西「どうしたの?具合悪い?」
河西がそう問いかけたその時だった。
273 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:36:44.05 ID:q2sV+ZRh0
鈴木ま「キャッ!」
鈴木まりやの真上にあった蛍光灯が破裂する。
まりやは反射的に頭を抱え、後ろに飛びのいた。
しゃがみこんだ彼女の腕に、蛍光灯の破片によってできた傷が無数に浮かぶ。
メンバーは急いで彼女の元へ駆け寄ろうとした。
だがその瞬間、頭上ですさまじい破裂音を聞き、足がすくむ。
274 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:38:29.77 ID:q2sV+ZRh0
一方当麻達は、チームBのレッスンが行われているスタジオに向かうため、タクシーの車内にいた。
当麻「タクシーいいなー。楽だなー」
当麻は座席の背もたれによりかかり、窓の外を見ながら1人呟いている。
瀬文「おまえがあちこちで話しこむからこんなに遅れを取ったんだ。本来だったらとっくに彼女達のレッスンスタジオに着いている時間だぞ」
当麻の左隣で、瀬文はイライラと腕時計に目をやった。
当麻「だってしょうがないじゃないっすか。犯人を特定するためには彼女達の人間関係が重要な鍵になるんです。少しでも多くのメンバーから話を聞かないと」
言い返す当麻の頭を、瀬文が殴りつける。
当麻「痛ぁぁぁ…あれ?瀬文さん腕治ったんですね?」
当麻はそこで初めて、瀬文のギプスが取れていることに気付く。
瀬文「なぜ今気付く…昨日からギプス外れてるんだよ」
当麻「え?マジっすか?もう骨折治ったんすか?早くないっすか?」
当麻は目を丸くした。
275 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:39:47.75 ID:q2sV+ZRh0
瀬文「おまえと違って俺は日頃から鍛えてるからな。体の作りが違うんだ」
当麻「脳みそまで筋肉で出来てるんですよねー?…って痛いっ!またぶったぁぁ」
そうこうしているうちにタクシーはスタジオの入ったビルの前に到着した。
当麻がすぐさま飛び降り、ビルの入り口に向かって歩き出す。
瀬文「あ、おい当麻支払い…」
瀬文が当麻を呼び止めたその時、ビルの上から何かが破裂するような音が聞こえてきた。
瀬文「おいまさか…」
瞬時に当麻の顔つきが険しくなる。
エレベーターに向かって駆け出した。
276 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:44:02.06 ID:q2sV+ZRh0
佐藤夏「伏せてー。みんな伏せてー!頭を守って!」
佐藤夏希が叫んだ。
メンバーはわけもわからず身を低くし、腕で頭を抱えた。
床には蛍光灯の破片が散らばっていて、佐藤の言う通りに伏せることができない。
すべての蛍光灯が吹き飛び、スタジオの中は真っ暗である。
メンバーは互いに誰がどこにいるのかわからず、思い思い声を上げ、助けを求めている。
しかし目が慣れてくると、暗闇の中に1人立ち尽くしている人影があるのに気付いた。
河西「なっちゃん、立ってたら危ないよ」
河西の声で、その人影が平嶋であることをメンバーは知った。
次の瞬間、またしても衝撃音が響き渡り、スタジオの鏡と窓ガラスが弾け飛んだ。
277 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:44:36.80 ID:q2sV+ZRh0
メンバーはもうパニックである。
あちこちで叫び声が上がり、出口を探してスタジオ中を這い回っては他のメンバーとぶつかって床を転がり、転がるメンバーに足を取られた者が頭を壁に打ち付け悶絶し、悲鳴とすすり泣きが響く。
――どうしたらいいの…。
渡辺はなんとか壁際に寄り、背中をつけた。
渡辺「わわわ、やびゃっ…」
その途端、寄りかかる物をなくして後ろにころんと倒れてしまう。
当麻「あ、すみません」
渡辺はそこで初めて、自分が寄りかかっていたのが壁ではなくドアだったことを知った。
ドアを開いたのは当麻だ。
当麻「うわっ、これじゃ何も見えない…」
当麻はそう言うと、キャリーバッグをごそごそと漁り出す。
その間に渡辺は瀬文に助け起こされ、早口で説明した。
渡辺「レッスンをしていたら突然蛍光灯が割れて、それから鏡と窓ガラスも…。中にメンバーがみんないるんです」
278 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:46:25.17 ID:q2sV+ZRh0
当麻はバッグから懐中電灯を取り出すと、スタジオ内を照らした。
廊下から洩れる明かりと、懐中電灯の光が目安となり、その頃にはほとんどのメンバーが当麻達のもとへ逃げ集まって来ていた。
当麻「警察です。まだ誰かいますかー?」
当麻と瀬文はスタジオの中に一歩踏み出す。
足元でガラス片がじゃりじゃりと音を立てた。
騒ぎを聞きつけて戻って来た柏木と北原、ダンス講師が恐怖で震えるメンバー達を廊下に避難させ、宥めていく。
瀬文「これは…ひどいな…」
瀬文が呟いた。
当麻の持つ懐中電灯の光が、暗闇に立つ1人の人物を照らす。
当麻「平嶋さん…」
平嶋は全身を血にまみれ、ぼんやりと宙を見つめながら立っていた。
瀬文は警戒しながら平嶋に近づいた。
瀬文「何してるんだ」
瀬文が話しかけたその時、平嶋は抑揚のない声で言った。
279 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:47:46.02 ID:q2sV+ZRh0
平嶋「あたしがやったんです。すべてあたしが悪いんです。握手会が中止になればメンバーの負担が減ると思った。握手会さえなくなれば、メンバーはお客さんからひどいことを言われて傷つくこともない」
平嶋「だけど握手会を中止にさせるには、犠牲者を出す必要があった。誰か犠牲者が出れば、運営側も握手会を中止にせざるをえない…。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
平嶋はそれだけ言うと、糸を切られた操り人形のように、突然ぐにゃりと体を曲げ、瀬文に倒れかかった。
瀬文「おいしっかりしろ!」
当麻「瀬文さん、彼女、意識は…?」
瀬文「いや、眠っているようだ」
当麻はしかし尋ねる前からそうであろうことを悟っていた。
280 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:51:32.22 ID:q2sV+ZRh0
しばらくして意識が戻った平嶋は、錯乱状態にあり、当麻は彼女から犯行について聞きだすのは無理と判断した。
未詳では当麻、瀬文、野々村の3人が集まり、事件について話し合っている。
野々村「彼女がどういう方法で山内さんと小森さんを操り、襲わせていたのかまではわからないけど、良かったじゃない。これで犯人逮捕、一件落着、オールオッケーなんてね」
野々村は事件が終わり、安心したのか完全におちゃらけている。
当麻「本当にそうでしょうか?彼女が犯人で事件は終わったのでしょうか?」
当麻は納得のいかない表情で、野々村を見返した。
野々村「だってそうでしょ?彼女が自分が犯人だと自白したんでしょ?」
当麻「そうですが…。犯人は何らかの方法で相手を操ることができます。もしかしたら平嶋さんは操られて、嘘の自白をさせられたとも考えられますよね?」
当麻の問いかけに、野々村は口ごもる。
当麻「まだ事件は終わっていない。そう考えて動くほうがいいと思います」
281 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:52:05.74 ID:q2sV+ZRh0
野々村「だけどねぇ、未詳が抱えてるのは彼女達の事件だけじゃないし、ほら、上から雑用頼まれることもあるしねぇ。未詳は下請けの部署だから」
野々村は困ったように視線を泳がせ、係長としての辛い立場を吐露しはじめた。
しかし途中で瀬文に遮られてしまう。
瀬文「自分は、当麻の意見に賛成です」
野々村「あ、そうなの?」
野々村は眉を上げて瀬文を見た。
瀬文「お願いします。捜査を続けさせてください」
瀬文が頭を下げる。
野々村は慌てて頭を上げるよう、瀬文を説得した。
当麻「雑用なら係長がやってください」
当麻はどさくさにまぎれて、野々村に命令する。
結局当麻達に押し切られる形で、野々村は捜査の続行を許可した。
282 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 09:53:03.34 ID:q2sV+ZRh0
当麻「平嶋さんの持つスペックは、念動力のようなものだと思います。蛍光灯や窓ガラスが一瞬で弾け飛んだ。それしか考えられません。直前に起こった音源のトラブルも彼女の仕業でしょう」
瀬文「信じられないな、彼女にそんな力があったなんて」
瀬文は愛犬に優しい眼差しを送る平嶋の姿を思い出していた。
当麻は瀬文の心を見透かしたかのように言う。
当麻「愛犬と一緒のロケを見て、何か引っかかったと私、瀬文さんに言いましたよね?それはたぶん平嶋さんのことだったんですね」
瀬文「おまえには、彼女の持つ能力がわかっていたのか?わかってたなら彼女が事件を起こす前に対処できたはず…」
瀬文が責めるように当麻を見る。
当麻はそれを手であしらうと、説明を続けた。
当麻「あの時はまだ平嶋さんがスペックを持っていたなんて気付いていませんでしたよ。ただ、あの映像の中に妙な違和感を持っていただけです」
瀬文は舌打ちをすると、忙しなく貧乏揺すりをはじめる。
当麻「私の勘もあながち馬鹿にはできませんなぁ。他にも違和感を持つ映像が見つかるかもしれません。引き続き彼女達を警戒すると同時に、彼女達に関係する映像を片っ端からチェックしていきましょう」
当麻はそう言って、静かな闘志を燃やした。
283 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 09:54:44.31 ID:bazZcisR0
感動のラスト(T ^ T)
284 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 09:56:26.16 ID:bazZcisR0
>>283 おっとフライングでしたかすいません…
ますます面白くなるんですね
285 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 10:32:35.39 ID:q2sV+ZRh0
数日後、当麻達はチームKのレッスンが行われるというスタジオに足を運んだ。
当麻「小森さんの起こした事件を除外すると、メンバーはレッスン中に襲われていることになります。普段ばらばらで仕事をしている彼女達ですが、さすがにレッスンのときはチームのメンバーが全員集合する。だから狙われやすいんですよ」
当麻「流れからいってチーム4、チームBときたので、今度はチームKが狙われる番かもしれません」
チームKは新曲のPV撮影を控え、レッスンも最終段階にきている。
――事件が起きるとしたら、レッスン最終日となる今日…。
当麻はそう予想していた。
憧れの板野が在籍するチームとあって、今日は野々村も顔を見せている。
野々村「この前CMの撮影現場にお邪魔した時はともちん欠席だったからなぁ、やっと会えるよ」
野々村はこの時のため、朝から浮かれていた。
少しすると、スタジオにメンバーが入って来た。
その中にはもちろん、板野の姿もある。
286 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 10:33:29.07 ID:q2sV+ZRh0
野々村「キャッ、ともちん!」
野々村の目の色が変わった。
ダンス講師の到着を待っているらしい彼女達の中から、当麻は板野だけを呼び出す。
板野は不思議そうな表情を浮かべながら、しかし快く当麻の呼びかけに応じた。
板野「こんにちは」
当麻「もうお体は大丈夫なんですか?」
板野「はい、お陰様で。ずっとレッスン休んでたから、今日は今までのぶん取り返さないといけないんです」
野々村「頑張ってね」
板野「ありがとうございます」
板野は初対面の野々村にも笑顔で礼を述べる。
――見た目によらず、礼儀正しい子だな…。
瀬文は密かに板野に対する評価を変更した。
握手会の現場で彼女を見かけたときには、突っつきにくそうな子だなと一方的に思っていたのだ。
287 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 10:34:21.22 ID:q2sV+ZRh0
野々村は板野に握手してもらい、有頂天である。
当麻は板野の顔色の悪さが少し気になった。
ふと見れば、レッスン着から伸びる彼女の手足には、いくつかの痣が残っている。
板野「じゃあそろそろ行きますね」
板野は丁寧に頭を下げると、メンバーの輪の中に戻っていった。
当麻「どうですか?実際に本人に会ってみて」
野々村「顔が小さくて可愛いねぇ。僕があと30年遅く生まれていたら、プロポーズしたいよ」
当麻「今の言葉、雅ちゃんにも伝えておきますね」
野々村「あ、駄目だよそれ。彼女怒ると怖いんだから」
野々村の慌てる様子を見て、当麻はにやにやとしている。
もえのwww
289 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 10:57:38.92 ID:q2sV+ZRh0
そうこうしているうちに、ダンス講師が現れ、レッスンがはじまった。
野々村はやはり板野に釘付けであるが、当麻と瀬文は彼女達1人1人に変化がないか見張る。
――今までの例で考えたら、この中にスペックを持った人物が潜んでいて、事件を起こすはず…。
当麻はまばたきもせず、レッスンを見つめた。
しかし予想に反して、レッスンは順調に進んでいく。
ついに最終的な確認の段階となった。
当麻「何も起こりませんね」
当麻は瀬文に耳打ちする。
その時、彼女達の中から悲鳴が上がった。
290 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 10:58:45.00 ID:q2sV+ZRh0
峯岸「ちょっとともちん、しっかりして!」
メンバーに囲まれ、板野はぐったりと座りこんでいた。
大島「どうしたの?」
峯岸「わかんない。急にふらつきはじめて…ともちん?ともちんしっかりして!」
当麻達も板野のもとへかけよった。
野々村「救急車呼んだほうがいいかな」
野々村が携帯電話を取り出すと、板野が即座にそれを止めた。
板野「やめてください。ちょっと立ちくらみがしただけですから」
板野の真剣な眼差しに気圧され、野々村は渋々携帯電話をスーツのポケットに仕舞う。
大島「病み上がりだもんね…。ちょっと無理しちゃったかな」
板野「うん、ごめんね。頑張りすぎちゃった」
秋元に支えられ立ち上がった板野は、照れ笑いを浮かべた。
291 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 10:59:17.78 ID:q2sV+ZRh0
梅田「続けられそう?」
板野「大丈夫だよ」
しかしダンス講師の判断で、板野は先にレッスンを上がることとなった。
板野「ごめんね…」
板野はメンバーに何度も謝り、さらにレッスンスタジオから出る際は、深くおじぎをして出て行った。
当麻はそんな板野の姿を、無言で見つめている。
大島「まだ体力が戻ってないだけだよね。撮影の日にもう一回ともちんを交えて練習しようよ」
大島は心配するメンバーを励ますように言った。
しかしそんな大島の言葉もむなしく、板野はその後、PVの撮影を欠席することとなる。
この夜、自宅で倒れた板野は病院に運ばれ、そのまま入院することになったのだ。
292 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:01:02.04 ID:q2sV+ZRh0
チームKのレッスンスタジオから帰った当麻達は、手分けしてメンバーに関係する映像を片っ端からチェックしていた。
瀬文「こんなものを繰り返し見て、果たして犯人について何かわかるのか?」
連日の作業に、瀬文は辟易している。
当麻「わかりません…。だけど何もしないよりはマシです。可愛い女の子のビデオを見てると思えばいいじゃないですか」
そう言いつつも、当麻の目は真剣そのものである。
当麻「あ…」
そして当麻はついに発見する。
――おかしい。この矛盾した行動はなんだろう。彼女…。
293 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:01:47.01 ID:q2sV+ZRh0
当麻は1人のメンバーの動きが気になった。
すぐに瀬文が見ていた映像を停止させる。
瀬文「何すんだ、せっかく集中していたのに」
当麻「これはもういいです。彼女が映っていませんから。代わりにこっちを見てみてください」
当麻はそれからも瀬文にどの映像をチェックするのか、細かく指示を出した。
当麻「いいですか?映像は彼女の姿が映っている部分だけでかまいません。後は早送りしてもらっていいです。そしてなるべくコンサートの舞台裏やメイキング映像など、普段の表情を映したものを中心にチェックしていってください」
当麻は膨大な映像の中から、彼女の姿だけを探し出す作業に入った。
294 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:05:32.35 ID:q2sV+ZRh0
そのまま夜が明け、当麻達がデスクに突っ伏していると、野々村が意気揚々とエレベーターからおりてきた。
野々村「おはよ〜クシャーテリアなんちて。さぁ今日こそ事件についての手がかりを掴まなきゃねぇ。て、あれ?君達もしかして昨日からずっとここにいるの?」
瀬文が顔を上げる。
瀬文「はい」
野々村「駄目だよそんなんじゃ。捜査は体が資本だからね、僕みたいにしっかりと休んでおかないといざという時動けないよ。さ、早速今日も資料映像というやつを見ていこうかね」
野々村「思ったんだけどそれぞれ担当を決めて、メンバー1人ずつ見ていったらどうかな?僕はともちんの映ってる映像を見るから…」
野々村が再生をボタンを押そうとすると、当麻が動き、それを阻止した。
当麻「大丈夫です係長。もう事件についての手がかりを知ることができましたから」
野々村「え?」
野々村は驚愕の表情を浮かべ、それから答えを求めるように瀬文を見た。
295 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:06:17.78 ID:q2sV+ZRh0
瀬文「当麻の言った通りです。映像はすべてチェックしました」
野々村「え?じゃあ僕はどうしたらいいのかな?」
瀬文「どうぞ通常通り、座って柿ピーでも召し上がっていてください」
野々村「あ、そうなの?でも万が一ということもあるから僕の目でもチェックして…」
再び手を伸ばそうとした野々村を、当麻がはじく。
当麻「だーめだーめ、借りてる資料映像も含まれてるんだから、そろそろ返さないと」
野々村「でも返しちゃったら捜査は…」
当麻「すべての映像はこの中にありますから。ご安心ください」
当麻はそう言って、自分の頭を指差す。
野々村は残念そうに手を引っ込めた。
その時、3人の背後でエレベーターの動く音が響いた。
296 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:14:07.20 ID:q2sV+ZRh0
雅「入りまーす。捜査中の事件のことで、高橋みなみさんと前田敦子さんをお連れしました。それではお2人、はりきってどうぞ!」
雅の背中越しに、高橋と前田が頭を下げる。
2度目の訪問となるが、前田は未詳の風景がよほど物珍しいのか、きょろきょろと視線を動かしはじめた。
野々村「キャッ、雅ちゃん」
野々村が色めき立って、ポーズを作る。
当麻は野々村を放っておいて、高橋と前田をソファへ案内した。
高橋「すみません朝からお邪魔して」
前田「あたし達、やっぱりいても立ってもいられなくて…」
当麻「残念ながら、事件についてお話できることはまだ何もないんですよ」
当麻が首を振る。
高橋「いえ、今日はお話を聞きにきたんじゃないんです。ちょっとあたし達なりに考えたことがあって、聞いていただけないかと…」
前田「少しでいいんです。馬鹿げてると思われるかもしれませんが」
当麻「いえ、馬鹿げた話を聞くのが未詳の仕事ですから。どうぞお話ください」
当麻はそう言ってぐいと身を乗り出した。
その瞬間、腹の虫が鳴る。
297 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:14:39.63 ID:q2sV+ZRh0
前田「おなかすいてるんですか?」
前田が目を丸くしていった。
当麻「朝ごはんまだなんですよ。お陰様で昨夜は徹夜でしたもので」
高橋「ご迷惑おかけしております」
当麻「朝ごはんといえば前田さんのお母様が作る朝食は素晴らしいですね。是非一度、ご馳走になりたいものです」
前田「は、はぁ…」
前田は困惑の表情を浮かべる。
――当麻さん、一体どこまであたし達のこと調べてるんだろう。
高橋もどうしたものかと視線を泳がせていた。
見かねた瀬文が、当麻に代わり話を促す。
瀬文「それで、お話というのは…」
高橋は頷き、ゆっくりと口を開いた。
298 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 11:21:53.90 ID:TxKDsCBn0
( ・ω・)ノ あ。わたし犯人わかっちゃったんですけど・・
299 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:37:15.87 ID:q2sV+ZRh0
高橋「考えたんですけど、山内小森なっちゃんと、グループの中にスペックを持った子が3人も含まれていました。最初は正直、本当にこの世に特殊能力なんてものが存在するなんて信じていなかったんですけど、今はもうわかります」
高橋「それで、もしかしたら他にもメンバーの中にスペックを持った子が隠れているんじゃないかって思ったんです」
当麻「その可能性については、私達も考えていたところです。しかし誰がスペックを持った人物なのか、はっきりとした見極め方法がないのでわかりません」
前田「でもここはそういう特殊能力が関わった犯罪を捜査しているところなんですよね?」
瀬文「はい、そうですが…」
前田「だったら過去の事件の資料などから、メンバーの名前が乗った事件を見つけだすこととかできないですか?もしかしたら以前にも能力を使って事件を起こしていたかもしれないじゃないですか」
当麻「わかりました。一応調べてみましょう。ただ、過去の事件まで遡って調べるとなるとかなりの時間を要しますが」
高橋「そんな…。あたし達時間がないんです。もっと手っ取り早く犯罪に関わった人物の名前だけまとめたリストとかないんですかね?」
300 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:38:01.59 ID:q2sV+ZRh0
高橋にしては無茶なことを言う。
瀬文は意外に思い、高橋を見つめた。
高橋もまた瀬文の視線に気付き、顔を向けてくる。
2人の目が合った。
瀬文は高橋から目を逸らさなかった。
高橋「え?」
瀬文らしからぬ様子に、高橋が驚く。
瀬文は彼女のファンであるあまり、これまで高橋と視線を合わせることができずにいたのだ。
瀬文の変化に気付いた高橋が、確かめるように言う。
高橋「今あたしが言ったみたいのリストが…あるんですね?」
当麻は慌てて瀬文を突き飛ばした。
当麻「てめぇハゲ、何バラしてんだよ!」
瀬文「いや、俺は何も…」
当麻「あのリストを持っていることが上にバレたら…」
当麻にしては珍しく取り乱している。
高橋は慌てて頭を下げた。
301 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:38:58.88 ID:q2sV+ZRh0
高橋「ごめんなさい。そんな大事なリストだなんて…。あたし達誰にも言いませんから、こっそり当麻さん達でそのリストを調べてもらえないですか?」
高橋は必死に懇願した。
前田も繰り返し頭を下げる。
2人の様子に、ついに当麻が折れた。
当麻「わかりました。しかし極秘のリストです。今から確認してみますから、お2人は席を外してもらえますか?」
前田「ここで待ってたら駄目なんですか?」
当麻「極秘事項ですので、どうかご勘弁を。あ、そうだ、お勧めの餃子屋さんがあるって言ったじゃないですかー?地図書くんで、そこで餃子でも食べて待っててもらえますか?あたし朝ごはんまだなんで、後から調べて向かいますんで。食べながら話しましょう」
当麻はそう言うと、空腹を思い出したのか胃のあたりを擦った。
高橋と前田は渋々頷くと、エレベーターに乗り込む。
高橋「じゃあよろしくお願いします。例えそのリストからメンバーの名前が出てきてもあたし達驚きませんから」
高橋は去り際、そう言って、またしても深々と頭を下げた。
302 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:39:45.78 ID:q2sV+ZRh0
エレベーターを降りると、高橋は当麻に渡された地図を見た。
お世辞にもうまいとは言えない地図である。
高橋「これじゃあお店を探し出すの時間がかかりそうだね。早く行こう、あっちゃん」
前田「あ、でもたかみな、あたし先にお手洗い…」
前田が探るように辺りを見回していると、雅が姿を現した。
雅「お手洗いならこの廊下を歩いて、突き当たりを右です」
前田「あ、ありがとうございますー」
前田はそちらの方向へ歩いて行った。
高橋も追いかけようとすると、雅がサイン色紙を取り出す。
雅「あのぉ、サインいただけますか?」
高橋「あ、いいですよー」
高橋は途端にアイドルスマイルとなり、愛想よくサインを書きはじめた。
雅「キャーすごーい。後であっちゃんにもお願いできますかね?」
雅は仕事を忘れ、はしゃいでいる。
高橋と雅のやり取りを背中で聞きながら、前田はゆっくりと廊下を進んで行った。
303 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:45:49.54 ID:q2sV+ZRh0
一方その頃、未詳では野々村がおろおろと当麻の周りを歩き回っていた。
野々村「当麻くん、さっき言ってたリストってもしかしてあれのこと?ほら前に公安の里中くんがハッキングして手に入れたスペックホルダーのリスト」
当麻「そうですよ」
当麻はパソコンのモニターを見つめながら、あっさりと白状した。
リストは以前、当麻達が関わった事件がきっかけで手に入れたものである。
特殊なスペックを持った人物のデータが書かれ、公安で極秘に管理していたのだ。
もちろん未詳がそんな貴重データを手にしていることが公になれば、公安に抹消されることだろう。
野々村「まずいよー。それ本当にまずいよ。バレたら僕ら首だよ?あのリストは破棄したって言ってたじゃないか」
当麻「破棄するわけないじゃないですか。こんな超貴重物件。ここには公安が調べたスペックを持つ人物の名前、そしてその能力についての情報が詳しく集められているんですよ」
野々村「だけど、ほら高橋さん達にはバレちゃったじゃないか。もし彼女達がどこかでこのリストの存在を喋ったらそれが公安にも伝わって…あぁぁ」
野々村は頭を抱えた。
304 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:46:40.91 ID:q2sV+ZRh0
当麻「この馬鹿がリストが存在することをバラすから」
瀬文「俺はバラしていない」
当麻「てめぇの不自然な行いで高橋さんが勘づいたんだろ!」
当麻に言われ、瀬文は悔しそうに黙り込む。
当麻はその間にも、もの凄い速さで膨大なリストをチェックしていく。
当麻「名前欄はイニシャルや伏字も多いので特定するのは難しそうですね」
当麻はリストを最後までチェックすると、大きくため息をついた。
野々村「本当に?もう最後まで調べたの?」
当麻「はい」
当麻は当然といった表情で返事をする。
当麻「それより空腹でもう頭働きませんよー。てことで私はこれから餃子食べに行ってきます。高橋さんと前田さんにもリストにメンバーの名前がなかったことを報告しなくてはいけませんしね」
当麻はそう言って素早く財布を掴んだ。
305 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:47:10.65 ID:q2sV+ZRh0
当麻「瀬文さんも朝ごはんまだですよね?一緒に行きますか?ていうかてめぇがリストの存在をバラしてこんなことになったんだから、お詫びに奢れ」
当麻はぞんざいに言うと、掴んだ財布をデスクに放り投げた。
瀬文「いいけど、また馬鹿みたいに食うなよ」
責任を感じていたのか、瀬文は渋々頷くと、紙袋を手にする。
当麻「私今、おなかすいて頭働いてないんで、リストの見落としがあるかもしれません。係長は残って、もう一度リストをあらい直していてください。リストはここに開いたままにしておきますから。最後までチェックし終えたら、係長の希望通り破棄してもらっていいですよ?」
野々村「ラジャー」
野々村は愛嬌たっぷりにそう言うと、早速リストを調べ出した。
一刻でも早くリストを消去したい一心での行動である。
瀬文はそんな野々村の背中を気の毒そうに見つめる。
当麻「早くー。瀬文さん行きましょうよー。高橋さんが待ってますよ」
当麻が急かすと、瀬文は慌ててエレベーターに乗り込んだ。
306 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:50:53.21 ID:q2sV+ZRh0
当麻達が餃子屋に入ると、高橋と前田は注文を終え、餃子が焼き上がるのを待っているところだった。
当麻「お待たせしましたー」
当麻はとことこと店内を歩き、前田の向かいに腰を下ろした。
瀬文もその後に続く。
当麻「おじさん、茹5、焼5、にんにく多めで」
当麻は席に着いて早々、慣れた調子で注文する。
瀬文は定食を頼んだ。
高橋「それで、何かわかりましたか?」
高橋は待ちかねた様子で切り出す。
307 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:51:24.13 ID:q2sV+ZRh0
当麻「それが全然。リストは不発でした。今、念のため係長が調べ直していますが、まぁ何も出てこないでしょうね」
高橋「そうですか…」
高橋が落胆の声を洩らす。
前田もしょんぼりと肩を落とした。
当麻「まぁまぁ、手は他にも考えていますから、今はほら、餃子食いなっせ!元気出さないと」
当麻はそんな2人を前に、呑気な声を上げた。
ちょうど注文した物がテーブルに届いたので、4人は食事を開始する。
瀬文は高橋が目の前に座っていることで、緊張の色を隠せないでいた。
しかしにんにくの香りに誘われ、餃子に箸を伸ばす。
それから気がついて、前田の前に置かれた皿を凝視した。
前田の注文した量は、当麻といい勝負である。
――顔に似合わず、結構食うんだな…。
前田は大量の餃子を、次々と口へ運んでいく。
さすがの当麻も口を出さずにはいられない。
当麻「アイドルなのに、そんなに食べて大丈夫なんですか?」
前田は照れたように笑うと、口元をぬぐった。
308 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:52:11.26 ID:q2sV+ZRh0
前田「大丈夫ですー。仕事で体使うんで、食べたもの全部消費しちゃうんですよ」
当麻「ハードなんすね…」
当麻は納得すると、餃子のタレに大量の辛子を投入した。
高橋「あ、ちょっとすみません…」
高橋はおもむろにバナナ柄のバッグから携帯を取り出すと、餃子の写真を撮りはじめた。
高橋「ブログに載せるんですよー」
高橋は当麻達の視線に気付き、そう説明する。
前田「あ、あたしも撮ろー」
前田も気がついて、鞄の中を探り始めた。
が、すぐにその手が止まる。
前田「どうしよう…。携帯、置いてきちゃった」
309 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:53:01.25 ID:q2sV+ZRh0
高橋「え?家?あれ、でもさっきまで持ってたよね」
前田「トイレかな?あ、ソファに置いてきちゃったのかも」
前田が困ったように眉間に皺を寄せる。
瀬文「自分、今から取って来ます」
瀬文が立ち上がる。
しかしそれを当麻が制止した。
当麻「とか言って瀬文さーん。お会計逃げる気なんでしょ?言ったじゃないですか、今日は瀬文さんの奢りだって。私財布持って来てないんですからねー?」
当麻はそう言って箸を置くと、右手を伸ばして瀬文を無理やり椅子に座らせた。
当麻「てことなんで前田さん、悪いんですけど自分で携帯取って来てもらえますか?」
前田「はい」
前田は渋々頷くと、席を立った。
いつの間にか彼女の前にあった皿はすべて空になっている。
310 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:53:30.80 ID:q2sV+ZRh0
高橋「あたしも一緒に行こうか?」
前田「いいよ。たかみなまだ食べてるでしょ?」
写真を撮っていた高橋は、まだほとんど餃子に手をつけていなかった。
高橋「でも、1人で大丈夫なの?」
前田「平気だよ。だって警察の中だもん。1番安全でしょ?」
前田はそう言って、笑顔で餃子屋を出て行った。
311 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:54:29.21 ID:q2sV+ZRh0
署内に戻った前田は、未詳を目指して歩いていた。
しかし途中でどこを曲がったらいいのかわからくなってしまい、途方に暮れる。
運よくそこで、雅の姿を目にした。
――さっきトイレから出た時サインを頼んで来た人だ。あの人に聞いてみよう。
しかし雅に話しかけようとした時、彼女の隣に背の高い男性の姿を見つけて、前田は声をかけそびれてしまった。
2人は親密な様子で、備品庫と書かれた部屋に入ってしまう。
――彼氏かな?でもたかみなの話だとあの人は野々村さんの愛人だったはずなのに…。
なんだか複雑な大人の関係の気配を感じ取った前田は、無闇に立ち入らないほうがいいなと判断した。
その後、すれ違った女性警官に道を聞き、前田は未詳へと辿り着いた。
312 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 11:54:35.64 ID:NL6OyNvI0
やっと追いついたーどきどき楽しみ
313 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 11:56:52.32 ID:q2sV+ZRh0
未詳では、野々村がリストと格闘していた。
入って来た前田に気づくと、驚いて椅子から飛び上がる。
野々村「あれ?これまたどうして…?」
前田は慌てる野々村の様子がおかしくて、吹き出してしまった。
前田「携帯忘れて取りに来たんです」
野々村「あぁそうかそうか」
前田は先ほど案内されたソファを探した。
しかし携帯は見当たらない。
前田「あれー?どうしたんだろう?」
野々村「ん?見つからないの?」
前田「ここに来るまでは持ってたんで、たぶん置き忘れたのはここで間違いないと思うんですけど」
野々村「そうなの?じゃあおじさんが探すの手伝ってあげようかね」
前田「ほんとですかー?ありがとうございます」
314 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 12:06:24.85 ID:q2sV+ZRh0
野々村と手分けして探すが、前田の携帯は出て来なかった。
とうとう野々村が言った。
野々村「ここじゃなくて、どこか別の場所に忘れたんじゃないのかな?」
前田「そうですね。あたし勘違いしちゃったのかなー」
前田は首を傾げ、照れ笑いを浮かべる。
野々村は額の汗をぬぐった。
野々村「やれやれ、どっこいしょ」
散々探し回ってよほど疲れたのか、野々村は倒れこむようにソファへ腰を下ろした。
彼のそんな姿を見た前田は、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
――やっぱりさっきのこと、野々村さんに伝えたほうがいいのかな…。
前田は決心して、野々村へ顔を向けた。
315 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 12:07:12.05 ID:q2sV+ZRh0
前田「野々村さん、さっき雅ちゃんと背の高い男の人が備品庫にこっそり入って行くの見たんです。なんか2人、結婚するみたいですね。段取りを相談していましたよ」
野々村「え?」
野々村は前田の言葉を聞き、一瞬で魂が抜けたような顔になった。
しかしすぐに平静を装い、まるで自分自身を納得させるかのように、小刻みに頷きながら言った。
野々村「そうか、彼女結婚するのか。知らなかったよ…」
前田は野々村を見つめ、眉を寄せた。
前田「雅ちゃんのとこ、行ってあげなくていいんですか?」
野々村「いやいや僕には関係ないことだからねぇ」
そう言いつつも、野々村がショックを受けているのは明らかだった。
316 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 12:07:49.63 ID:q2sV+ZRh0
前田「あたしそういうのよくわかんないけど、雅ちゃんきっと、野々村さんが来てくれることを待ってると思うんですけど」
前田は説得するように言う。
前田「結婚なんて一時の気の迷いかもしれないじゃないですか」
野々村はしばしぼんやりと前田の顔を見つめていたが、突然立ち上がり、エレベーターへと駆け出した。
前田「野々村さん!」
エレベーターに乗った野々村を、前田は呼び止める。
野々村「何だい?」
前田「頑張ってくださいね」
前田は真剣な眼差しを野々村へ向けた。
317 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 12:12:28.99 ID:q2sV+ZRh0
餃子屋に前田が戻って来ると、高橋はタイミングを見て席を立った。
高橋「じゃああたし達はそろそろ…仕事があるんで」
前田も促され、立ち上がる。
瀬文「長くお引止めしてしまい、申し訳ありませんでした」
瀬文は丁寧に頭を下げた。
高橋「いえいえ、あたし達のほうこそ、無理言ってすみませんでした」
前田「当麻さん、餃子おいしかったです」
当麻はいまだ箸を握ったままで、2人に挨拶する。
当麻「何かわかったらすぐにお2人に連絡しますから」
高橋は神妙な面持ちで頷くと、椅子の上に置いていたバッグを肩にかけた。
当麻「あ、そうそう、前から言おうと思ってたんすよー。そのバッグめっちゃ可愛いっすよね」
当麻は高橋のバッグを凝視する。
目を見開き、唇を尖らせて魚のような表情をした。
318 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 12:13:00.87 ID:q2sV+ZRh0
高橋「あ、わかりますー?メンバーには不評なんですけどね」
当麻「わかりますよー」
当麻は箸を投げ捨てると、立ち上がり、高橋のバッグに手を伸ばした。
高橋は躊躇しながらも、当麻にバッグがよく見えるよう、向きを変えた。
前田「たかみな、もう行かないと…」
前田は壁にかけられた時計を見て、そわそわとしはじめる。
瀬文「当麻、いい加減にしろ」
瀬文に引き剥がされるようにして、当麻はバッグから手を放した。
瀬文「すみません。こいつに構わず、行ってください」
瀬文はもう一度高橋に頭を下げる。
その時、高橋の携帯が鳴った。
319 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 12:14:18.61 ID:q2sV+ZRh0
高橋「はいもしもし…」
電話に出た高橋の顔色が変わる。
前田は高橋の表情を見て、不安の色を浮かべた。
高橋は短い会話を終え、前田に顔を向ける。
前田「たかみな?」
高橋「ともちんの容態が…急変したって…」
前田「えぇ!!」
前田は口元に手をやり、驚愕の表情を浮かべた。
当麻「板野さんどうかしたんですか?確か、入院されてるんですよね?」
高橋「いえ、きっと大丈夫だと…思います…」
当麻「そういえば板野さん、以前からよくお仕事をお休みしてましたよね?どういったご病気なんですか?」
高橋「さぁあたし達も詳しくは…。あ、もう本当に時間がないんで、あたし達行きますね」
高橋は呆然としている前田の手を引っ張ると、慌しく店を出て行った。
店の前でタクシーを止め、乗り込む。
320 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 12:14:49.92 ID:q2sV+ZRh0
2人の姿が見えなくなると、瀬文は当麻へと向き直った。
瀬文「何考えてるんだ」
当麻は片手で頬杖をつき、正面を見据えていた。
当麻「今後の予定ですよ。さて、それじゃあ私達はSKEの現場へと向かいましょうか」
瀬文「SKE?なぜだ?」
瀬文の問いに、当麻は意味深な笑顔を浮かべた。
321 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 12:23:15.57 ID:q2sV+ZRh0
その夜、高橋と前田はすべてを終え、板野の入院する病院へと向かった。
病院へ到着すると、玄関前にはすでに1人の少女が立っている。
少女は高橋と前田の姿を見つけると、駆け寄ってきた。
高橋「ごめん、突然こんなこと頼んで」
前田「びっくりしたでしょ?でもこのことは誰にも言わないから、どうかお願い…」
少女は無言で首を振った。
高橋「行こう、ともちんの病室はもう聞いてるから」
高橋を先頭に、病院へと入る。
病院特有の匂いのする廊下を、3人は無言で進んだ。
板野のベッドがある病室までやって来る。
322 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 12:24:03.27 ID:q2sV+ZRh0
前田「ともちーん?」
前田はそっとドアを引いた。
カーテンの隙間から、板野の青白い顔が覗く。
高橋「ともちん大丈夫?」
高橋の呼びかけに、板野の返事はない。
どうやら眠っているようだ。
高橋と前田は顔を見合わせて頷くと、少女を振り返った。
高橋「今のうちにお願い」
高橋に言われた少女は、前に進み出た。
ベッドの端に立つと、眠っている板野の顔の上に手の平をかざす。
その時だった。
突然乱暴に病室のドアが引かれる音がして、足音が響く。
前田「誰ですか?」
前田が鋭い目つきで後ろを振り返った。
323 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 13:04:31.99 ID:nlGE6vvWi
こんなとこで焦らすなんて!
続きはー!?
325 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:13:03.48 ID:q2sV+ZRh0
昼ごはん作ってた!
続き書きます
326 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 13:13:54.86 ID:NL6OyNvI0
327 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:14:04.93 ID:q2sV+ZRh0
当麻「そんなことしても無駄っすよ」
そこには当麻が勝ち誇った顔で立っていた。
後ろには瀬文もいる。
前田「どうして…」
前田が驚きの声を洩らした。
高橋は無言で当麻達を睨む。
高橋「知ってたんですね?当麻さん…」
前田「まさかあたし達、はめられたの…?」
前田がくやしそうに奥歯を噛みしめた。
当麻「未詳なめないでください。こんな小娘2人に踊らされるほど、警察は落ちぶれてにゃーだよ」
当麻は2人をおちょくるような笑顔を浮かべると、瀬文にたしなめられ、背すじを伸ばした。
状況を理解できていない少女が、おろおろと高橋達と当麻達を見比べている。
当麻「どうやらまだわかっていない人がいるみたいですね。どういうことだか説明してあげましょうか?ねぇ、聞きたい?聞きたい?」
当麻は慣れなれしく少女に詰め寄る。
高橋は少女から当麻を引き剥がしながら言った。
328 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:15:13.49 ID:q2sV+ZRh0
高橋「もういいですよ。あたし達の負けです」
当麻「そうですよ。あなた達のした事は決して褒められたものじゃありません。だけど事情によっては、評価してあげてもいいですよ。てことでどうしてあたし達がここに来たか、今から説明しますね」
当麻はそう言うと、板野の足元へ腰を下ろした。
いつの間に目を覚ましたのか、板野は細く目を開いて、ぼんやりと天井を見つめている。
前田「ともちん!気がついたの?」
前田が話しかけると、板野は無表情のまま、ゆっくりと1度瞬きをした。
当麻「それじゃあ時間もないみたいですから一気に説明しますねー。まず今回の事件で送られてきた最初の3通の脅迫状。あれを書いたのは高橋さん、ですよね?」
当麻が手の平を向けると、高橋は無言で頷いた。
329 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:16:06.96 ID:q2sV+ZRh0
当麻「高橋さんが脅迫状を送った理由は、板野さんを助けるためなんですよね?詳しいことはわかりませんが、板野さんは今、大変なご病気をなさっている。おそらく現在の医学では治療することが困難な病気」
当麻の言葉に、板野の眉がぴくりと動く。
当麻は少しの間板野を見つめていたが、彼女から何も聞き出せないとわかると、今度は前田に顔を向けた。
板野に寄りそうにようにして立っていた前田が口を開く。
前田「ともちんは徐々に筋肉が力を失っていくという難病です。お医者さんには治る見込みがないと言われました」
当麻「そのようですね。おそらく今はかなり進行した状態…。かろうじて目の周りの筋肉は動かせるようですが、もう声を発することはできなくなっている」
当麻が淡々と言った。
板野の目からは涙が一筋流れている。
前田は慌ててバッグからハンカチを取り出すと、板野の頬を拭った。
330 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:17:39.97 ID:q2sV+ZRh0
当麻「高橋さんは以前からスペックホルダーのリストの存在を知っていましたね?そして未詳という部署が存在することも」
当麻は今度、高橋に向き直った。
瀬文も高橋のほうに視線を向ける。
高橋「はい。人から聞いて、そういう特殊能力者のリストがあると知りました。たぶんそういう事件を扱っている未詳なら、そのリストを持っているんじゃないかと思って」
当麻は1度頷くと、説明を続けた。
当麻「あなたは特殊能力者を語り、偽の脅迫状を書いた。そうすれば相談と称して堂々と未詳の中に入ることができる。そうして頃合いを見計らい、あたし達からスペックホルダーのリストについて聞き出そうと考えた。ですよね?」
高橋は何か言いかけて口をつぐみ、それからゆっくりと首を振った。
当麻「スペックホルダーのリストの中から、病を治すスペックを持った人物のデータを探すことが目的だった。その人物と接触し、板野さんから病を取り除いてもらう。それがあなたの考えた計画ですね」
当麻「そして今日、あなたと前田さんはその計画を実行に移した。スペックホルダーのリストから情報を盗んだのは前田さんですよね?」
当麻に聞かれ、前田は小さく返事をする。
前田「そうです。ごめんなさい」
すかさず高橋が間に入った。
高橋「あっちゃんは悪くないんです。ともちんのために、あたしに協力してくれてただけで…」
当麻は高橋が話そうとするのを、手で制した。
当麻「大丈夫です。わかってますから」
高橋が肩を落とす。
331 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 13:17:47.01 ID:nlGE6vvWi
定番と言えば定番だがこれは想像できなかった
ともちん…
333 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:18:50.31 ID:q2sV+ZRh0
当麻「携帯を忘れたと言って未詳に戻り、うまく言って野々村係長を退席させた前田さんは、スペックホルダーのリストから病を治すスペックを持った人物のデータを検索した」
当麻「その人物のデータを見つけた時、驚いたでしょう?まさかこんな身近に探していた人物が潜んでいたなんて」
当麻はそう言って、面白そうに少女を見た。
高橋達と一緒に病室にやって来たその少女――松井珠理奈は、年齢に似合わぬ強い視線で、当麻を見返す。
当麻「あたし達は最初から前田さんがデータを盗みに来るとわかっていました。だからあえて松井さんのデータをスペックホルダーに付け足しておいたんです」
高橋「付け足した?」
当麻の言葉を聞き、高橋が声を高くした。
高橋「どういう意味ですか?」
334 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:23:36.97 ID:q2sV+ZRh0
当麻「スペックホルダーには病を治すスペックを持った人物のデータはありませんでした。だから私は、前田さんがデータを盗みに来た時に備えて、松井さんの名前を書き加えておいたんです」
前田「あたしが見たデータはダミーだったんですね。じゃあ珠理奈には病を治す能力はないってことですか…」
前田は落胆の表情を浮かべる。
前田「そんな…せっかくここまで来たのに…ともちん…」
当麻「いいえ。ご本人は気付いているかわかりませんが、私達は松井さんが能力者である可能性が高いと睨んでいます。思い出してみてください。山内さんの起こした事件で、骨折など重傷を負ったメンバーが多数いました」
当麻「しかしそのメンバー全員が、すでに仕事に復帰している。こんなことって考えられますか?いくら若いとはいえ、こんなに早く骨折が治るなんてありえませんよ」
当麻は気分が乗ってきたのか、立ち上がり、病室内を歩き回りながら自分の推理を説明していく。
――こうなるとますます話が長くなるんだよな…。
瀬文はひそかに呆れていた。
335 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:30:27.90 ID:q2sV+ZRh0
当麻「不審に思った私は、怪我をしたメンバー全員に接触した人物をあらい出しました。その結果、チーム4全員のお見舞いに行ったのは、高橋さんと篠田さん、松井さんの3人しかいませんでした」
当麻「高橋さん篠田さんはわかるとして、SKEである松井さんがあまり接点のないチーム4のメンバー全員を見舞うのはちょっと珍しいですよね?」
当麻「松井さんは篠田さんにくっついてチーム4の病室を訪れた。その目的はおそらく、彼女達の怪我を治すためだったんじゃないか。そう考えた私は、スペックホルダーに松井さんの名前を書き足しておいたんです」
高橋「珠理奈…本当なの?珠理奈がチーム4の怪我を治したの?」
高橋は珠理奈を見つめる。その目は希望と不安が入り混じり、涙で潤んでいた。
松井珠「昔から、その人に触ると怪我が治ったり、元気のなかった人が元気になったりすることがあって、もしかしたらそうなのかもって思ってたんです」
松井珠「だからチーム4の怪我のことを知って、治してあげたいと思って、お見舞いに行く篠田さんに無理やりくっついて行ったんです」
瀬文は珠理奈のいた楽屋の雰囲気を思い出した。
小森の起こした事件でメンバーはみんなショックを受けているはずなのに、妙に明るかった彼女達。
もしかしたらあれも、ここにいる珠理奈の力なのではないだろうか。
彼女は本当に、人を癒す能力を持っていたのだ。
当麻「瀬文さんの怪我や、チームBの皆さんの怪我を治したのもあなたですね?」
松井珠「はい…」
瀬文は狭い楽屋で、彼女達の何人かと肩をぶつけてしまったことがある。
――ぶつかったメンバーの中にこの松井さんもいて、俺の怪我を治してくれたのか…。
瀬文は脅威の目で、珠理奈を見た。
336 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:35:21.77 ID:q2sV+ZRh0
当麻「松井さん、板野さんの病を取り除くことができますか?」
当麻が静かに問いかけた。
珠理奈は横たわる板野に視線を向け、大きく頷く。
松井珠「できます」
そう宣言すると、珠理奈は板野へと近づき、手をかざした。
それを当麻が制止する。
当麻「待ってください。高橋さんはこの部屋から出ていてください」
高橋「え?何でですか?」
当麻「理由は後で説明します。板野さんを助けたかったら、少しの間ここから出ていてください」
当麻の言葉に、高橋は首を傾げながら病室を出た。
高橋が廊下に出ると、瀬文は申し訳なさそうに一礼し、ドアを閉める。
――どういうつもりなの…?当麻さん、何を考えているんだろう。
高橋は不安に思いながら、冷たい廊下で1人、板野の回復を願った。
337 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:42:51.91 ID:q2sV+ZRh0
高橋が病室を出ると、当麻は珠理奈を促した。
珠理奈が再び板野の顔の上に手をかざす。
それは僅かな時間だった。
傍目には何も変化していないように思えた。
しかし珠理奈が手を引っ込めた瞬間、板野はゆっくりと動きはじめたのだ。
前田「ともちん!」
前田が板野の手を握る。
板野はベッドから半身を起こすと、口を開いた。
板野「珠理奈、ありがとう…」
珠理奈はかすかに顎を引いた。
瀬文は板野の姿を確認すると、廊下の高橋を呼んだ。
高橋「ともちん…」
病室に入って来た高橋は、板野の回復を見ると、両手で顔を覆い泣き崩れた。
板野は困ったように高橋を見る。
それから当麻と瀬文に視線を向けた。
次に彼女が発した言葉は、意外なものだった。
338 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:43:45.16 ID:q2sV+ZRh0
板野「ごめんなさい…」
高橋が泣きながら板野のもとへ駆け寄り、彼女の肩を抱く。
高橋「どうして…どうしてともちんが謝るんだよぉ…」
板野「あたしがこんなことになったから、たかみなとあっちゃんは偽の脅迫状を書いたり、警察のデータを盗んだり…。全部あたしのせいなんです。2人は悪くないんです。お願いです、2人を連れて行かないでください」
板野はそう言うと、嗚咽を洩らした。
当麻は気の毒そうにそんな板野を見つめる。
当麻「お2人がデータを盗んだのは犯罪ですが、あれは私達が仕組んだことですから罪に問うつもりはありません」
前田「仕組んだ?どういうことですか?」
当麻「あんな簡単にデータが盗めて、疑問に思わなかったんですか?全部私達の演技ですよ。どうですか?騙されたでしょ?」
当麻は悪戯っぽい視線を、前田に送った。
339 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:47:10.62 ID:q2sV+ZRh0
当麻「いくら瀬文さんが馬鹿でも、あんなにわかりやすくスペックホルダーのリストの存在を認めるわけがない。それにいくら空腹だからって、私が大事なデータを野々村係長に任せたまま、外出するわけないじゃないですかー」
当麻「野々村係長だっていくら雅ちゃんを他の男性に盗られちゃうかもしれない一大事でも、データを開いたままあなたを未詳に残して出ていくなんてことしませんよ。妙にうまく物事が進んでいるって、不審に思わないほうが不思議です」
その言葉を聞き、前田はくやしそうに唇を噛んだ。
当麻「前田さん、あなたはちょっと、自分の能力に溺れていたようですね?」
当麻が確かめるように訊く。
板野「能力?」
板野が掠れた声で尋ねた。
高橋「どういうことなの、あっちゃん…」
高橋は驚きの表情で前田に視線を向けた。
前田「……」
前田は小刻みに肩を震わせながら、黙り込んでしまう。
当麻はにやりと笑った。
340 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:48:33.08 ID:q2sV+ZRh0
当麻「隠すことないじゃないですかー。スペックを持ったアイドル、素敵じゃないですかー。ね?松井さん?」
当麻は珠理奈に同意を求めた。
しかし珠理奈は当麻を無視して、前田を見つめている。
前田「こんな能力持ってたって…全然いいことないんです…」
前田は絞り出すようにそれだけ言うと、ぽろぽろと涙を流した。
前田「知りたくないことまで知ってしまう。誰かが言った悪口、あたしへの批判の言葉…そんなのが毎日毎日あたしの元へ届く。こんな能力さえなければ、何も知らずにいられたのに…」
高橋はそっと板野から手を話すと、前田の背中を宥めるように擦りはじめた。
前田は激しくしゃくりあげ、それ以上話すこともままならない様子である。
瀬文は当麻を睨みつけた。
瀬文「彼女が傷つくような訊き方をするなと忠告したはずだ」
当麻「別に私はそんなつもりがあって言ったんじゃありませんよー。純粋に前田さんの持つスペックに感心していただけです」
当麻が口を尖らせた。
珠理奈は今度、当麻に強い視線を向ける。
341 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 13:51:13.04 ID:q2sV+ZRh0
当麻は肩をすくめると、もう一度板野の足元に腰を下ろした。
板野がさっと足を動かし、スペースを空ける。
当麻「前田さん、あなたは普通じゃ考えられないくらいものすごーく耳がいいんですよね?何キロも離れた先の音を聞き分けるくらい。だからどこにいても、自分への批判の声が聞こえてきてしまう。ですよね?」
当麻の言葉に、前田がかすかに頷く。
当麻「過去のあなた方の映像を見させてもらって、気がついたことがありました。前田さん、あなたは時間があるとどこでも寝てしまう。移動中の車内、撮影の合間、それにメイク中でさえ、暇さえあればあなたは眠っています」
当麻「それから体型に似合わぬその食欲。きっと人並みはずれたその聴力は、普通の人の何倍も脳を使っているんだと思いますよ。だからすぐに脳は休息を求めて眠くなる。栄養を求めて食欲が増大する」
当麻「私だって人の何倍も食べなきゃ頭働きまへん。特殊なスペックを持ったあなたなら、なおさら脳に栄養が必要だったんですよね?」
板野「あっちゃん、だからあんなに食べてたんだ…」
前田「でも、どうしてあたしの能力に気付いたんですか?」
高橋に宥められ、ようやく呼吸を整えた前田が尋ねる。
前田「今まで誰にも気付かれたことなかったのに…」
てっことは、まゆゆは誰が狙ったんだ
343 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:00:26.26 ID:q2sV+ZRh0
当麻「歌番組のリハーサルですよ。あの時は機材トラブルで、皆さん講師の手拍子に合わせて踊っていた。しかし途中で機材が直り、大音量で曲がかかってしまった」
当麻「その時、メンバーはみんなリズムを失い、ダンスが踊れず動きが止まってしまいました。しかしあなただけは踊り続けていた」
当麻「あなたはセンターで踊っていたから後ろにいるメンバーの動きを見ることが出来ない。講師の手拍子に集中するあまり、大音量の中でもその手拍子を聞き分けて、1人だけ踊り続けてしまったんです」
当麻「それからすぐにメンバーが動く音が背後で聞こえなくなっていることに気付き、自分もリズムを見失ったふりをして踊るのをやめたんですよね?」
前田「…見られてたんですか」
当麻「はい、ばっちり見てました。それに握手会で渡辺さんが襲われた事件。あの時あなたはコートを取ろうとしてよろけて渡辺さんを倒してしまったと証言した。結果、渡辺さんは事なきを得た。しかしそれはあなたの性格上、矛盾した行動なんですよ」
板野「矛盾?なんで…?」
当麻「私達は事件の映像をもう一度確認してみました。あなたはコートを取るため、列に並ぶファンを少し待たせてしまう」
当麻「しかし次にあなたと握手しようと並んでいたのは、小学生の女の子です。子供好きのあなたが、いくら寒くてコートを着たいからといって、並んでくれている小学生を待たせるなんてことは絶対にしないはずです」
当麻「きっとどうしてもあのタイミングでコートを取らなければならない理由があった」
当麻「あの時、あなたには聞こえていたんです。隣のビルの屋上から渡辺さんを狙う山内さんの荒い息遣い、矢を投げた音…。そこで渡辺さんを助けるため、咄嗟にあなたは渡辺さんにぶつかり、彼女を倒して矢の攻撃から守ったんです」
当麻「それから私と瀬文さんは他にもあなたの映っている過去の映像をすべてチェックしてみたんです」
高橋「えぇ?すべてですか?」
瀬文「徹夜でした」
高橋は脅威の目を瀬文に向ける。
瀬文は高橋のほうを見ず、宙を睨んでいた。
344 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 14:02:05.05 ID:iKnHvNHeO
最初の脅迫状は握手会サボりたい河西の仕業だと思ってたのに…
345 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:03:22.89 ID:q2sV+ZRh0
当麻「そうしたら結構あるんですよ。騒がしい楽屋で、前田さんだけが携帯の着信音に気付いたり、遠くで物が落ちたのに気付いたりってことが」
当麻「しかし同時に、あなたが携帯に集中していてスタッフの説明をまったく聞いていなかったり、メンバーが円陣を組んでいるのに気付くのが遅れて、1人だけ歯ブラシを加えたまま慌てて参加することになったり、ミスを犯す場面も多いんです」
当麻「これってどういうことなんでしょう?人の何倍も聴力に優れたあなたが、そんなミス犯すなんてありえません。なぜその時々で能力を発揮したりしていなかったりするんでしょう?」
当麻の問いかけに、前田は言葉を詰まらせ、高橋を見た。
それがすべてを明らかにしていた。
当麻「そうですよね。見たところあなた自身が自分の能力をコントロールしているわけではなさそうです。それなのにその素晴らしい聴力を発揮している時と発揮していない時がある。原因はおそらく、そこにいる高橋さんですね?」
高橋「え?あたし?」
高橋は驚きの声を上げ、びくりと肩を震わせた。
346 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:04:48.54 ID:q2sV+ZRh0
高橋「えぇぇー?なんであたしなんですか?あたしなんにもしてないですよ」
高橋が大げさに顔の前で手を振る。
前田はその様子を、黙って見つめていた。
当麻「確かに高橋さん自身は何もしていません。よって自覚がないのも当たり前です。高橋さんはたぶん、傍にいるだけで能力者の持つスペックを無効化できる特異体質の持ち主なんです」
当麻が説明すると、珠理奈が納得の声を上げた。
松井珠「あ、だからさっきたかみなさんだけ病室の外に出したんですね」
当麻が頷く。
当麻「そうです。調べると、前田さんはよく高橋さんの傍にいることが多い。その様子はまるで、飼い主にまとわりつく子犬ようです。だいぶ高橋さんに依存しているようですね」
当麻「高橋さんの傍にいれば、能力が発揮されず、遠く離れた音が聞こえてこなくなるからです。彼女が傍にいてくれさえすれば、聞きたくもない他人の噂話や悪口が耳に届くことはない。前田さんにとって、これほど心の休まる場所は他にありません」
前田「ごめんねたかみな…」
前田が肩を落とした。
高橋「え?なんで謝るの?」
347 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:05:45.54 ID:q2sV+ZRh0
前田「たかみなの傍にいれば、あたしを傷つけるような言葉が聞こえてくることはない。だからあたしはいつもたかみなにくっついてたの。たかみなを…利用してたんだよ。自分が安心したいがために…」
高橋「あっちゃん…」
高橋が目を伏せた。
そこに板野が割って入る。
板野「違うでしょ、あっちゃん!」
前田「ともちん…」
板野「利用してたなんて、悪い言い方しちゃ駄目だよ。あっちゃんは心からたかみなのことを信頼していて、だから傍にいたんでしょ。自分を貶めるような言い方しちゃ駄目。そんなことしたら、あっちゃんを信じてくれてるたかみなのことも否定する意味になっちゃうよ」
板野の言葉に前田は再びしゃくり声を上げた。
348 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 14:09:14.06 ID:VWbg7szP0
どんだけ構成力あるんだよw
うますぎる
349 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:10:39.17 ID:q2sV+ZRh0
高橋「大丈夫だよ。あっちゃんがそんなつもりであたしと一緒にいるなんて思ってないから」
高橋が穏やかな声をかけた。
前田は高橋に寄りかかると、小声でごめんと呟く。
当麻「さて、このように聴力に優れた前田さんには、未詳から餃子屋に移る間、高橋さんから離れ、1人きりになる時間があった。そうですよね?」
高橋「確かにあっちゃんは未詳を出た後、お手洗いに行きました。その間あたしは雅ちゃんて人にサインを頼まれてて…あ!もしかして雅ちゃんも?」
高橋はそこで気がついて、当麻を見た。
当麻「はい。詳しい事情は話していませんが、雅ちゃんには高橋さんと前田さんを少しの間離しておくよう協力してもらいました。1人になった前田さんは必ずその聴力を使って、未詳の会話を聞くと思ったからです」
当麻「だから私達は事前に決めておいた会話をし、わざと前田さんに聞かせました。未詳での私と瀬文さん、野々村係長の会話から、野々村係長が1人残ってリストをチェックし直していると知った前田さんは、携帯を忘れたと嘘をつき、未詳に戻りました」
当麻「そして野々村係長が未詳から出るタイミングを見つけていた。そこへまたしても協力者、雅ちゃんの登場です」
当麻「彼女が偽の結婚話をしていることを聞き取った前田さんは、これを利用する手はないと早速野々村係長にそのことを話し、うまく彼を退席させた。そうして未詳に1人残り、リストから松井さんの名前を見つけたのです。それがあたし達の罠だと知らずに…」
高橋「でも、どうしてあたし達が病を治すスペックを探しているとわかったんですか?」
高橋が首を傾げる。
高橋「ともちんの病気のことだってあたしとあっちゃんしか知らないはずなのに…」
350 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 14:22:32.96 ID:WPNFYZsYO
ほしゅ
351 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:23:55.93 ID:q2sV+ZRh0
当麻「あなた方は未詳に来るのが早すぎたんですよ。いくら立て続けに事件が起きて不安だからといって、高橋さんのような人がメンバーの皆さんを疑うわけないんです。私が以前にメンバーの中に犯人がいる可能性を示唆した時だって、怒りまじりに否定したじゃないですか」
当麻「そんな高橋さんが、なぜか今日になってメンバーの中にまだ能力者が潜んでいるかもしれないからリストを調べてほしいとお願いしてきた。私はそこに引っかかりを感じました」
当麻「なぜ高橋さんと前田さんはこんな、ちょっと考えれば不審極まりない行動をとったのか。もしかしたら何か別の理由があって、早急にリストを確認する必要があったのではないか」
当麻「それだけ急ぐのであれば、だいたい想像はつきます。人の生死に関わる問題がからんでいるはず。だから病を治すスペックを持っている可能性の高い、松井さんの名前をデータに書き足したんです」
当麻「そして私達は次に、お2人の身近で、長く患っている人間は誰なのかと考えました。答えは簡単。入院中の板野さんです。だから私は、高橋さんのバッグに発信機をつけると同時に、松井さんの仕事場へ連絡をしました」
当麻「すると松井さんは急に体調を崩したといい、仕事を休んでいる。偶然でしょうか。いいえ、松井さんはきっと高橋さんに呼び出され、板野さんを救うためにその時にはもう新幹線に乗っていたのだと思います。違いますか?」
当麻が尋ねると、珠理奈はその通りだと答えた。
松井珠「話を聞いた時は驚いたけど、板野さんを助けられるのはあたししかいないと思ったんです。急に休んじゃってSKEのみんなには迷惑かけちゃったけど…」
当麻「そして私達は高橋さんの発信機を辿り、この病室までやって来た。するとベッドに横たわる板野さんがいた。すべては私の考えたとおりでした」
高橋はそこまで聞くと、がくりと膝からくずれ落ちた。
352 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:25:59.30 ID:q2sV+ZRh0
高橋「すみません。あたし、自分達だけでどうにかできると思ってた。うまくデータを盗み出して、珠理奈にともちんの病を取り除いてもらって。これですべてうまくいくと驕ってたんです。裏では当麻さん達が協力してくれていたとも知らずに…」
前田「ごめんなさい…。あたし達だけだったら、珠理奈ちゃんの能力に気付くことさえできなかったと思います。でも当麻さん、なんでこんなあたし達の馬鹿な計画に乗ってくれたんですか?」
当麻「やっぱり板野さんには死んでほしくないっていうのが一番ですね。野々村係長の推しメンですし。でも板野さんに限らず、救える命があるのに放っておくなんて真似、警察は…少なくとも私達未詳は絶対にしません」
当麻はそう言って、思い切り鼻をすすった。
当麻「先ほど言った通り、お2人を罪に問うつもりはありません。未詳を騙し、脅迫状でメンバーを不安にさせたことは反省してもらいますが、それが友人の命を救うために起こした行動なのだとしたら、誰にもあなた方を責める権利はないと、私は思います」
高橋「ありがとうございます…」
高橋が深々と頭を下げた。
353 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 14:27:45.70 ID:ddNoFZGK0
続きがきになるきになるぅ〜
354 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:33:27.12 ID:q2sV+ZRh0
当麻「ただし、迷惑料としてちょっと未詳に協力してもらうことにはなりますが」
前田「え?協力…?」
当麻「はい。あなた方の計画に便乗して事件を起こした、真犯人を突き止めるんです。最初の3通の脅迫状は高橋さんが書いたものですが、それ以降の脅迫状については書いてないんですよね?」
高橋「はい、だからまゆゆに脅迫状が届いた時はびっくりしました」
当麻「誰かが脅迫状を書いたのは高橋さんだと知り、それに共鳴して事件を起こした。山内さん小森さん平嶋さんを操って、メンバーを襲わせたんです」
当麻「真犯人はたぶん、脅迫状が病を治すスペックを探すためだという高橋さんと前田さんの目的までは知らない。だから真犯人は、脅迫状の内容をそのまま、高橋さんの意思だと思い込んでしまった」
当麻「高橋さんが握手会を中止にさせたがっていると思った犯人は、高橋さんの願いを実現させてあげようと、犯行を起こした。おそらく事件を起こさせた真犯人はかなり強く、高橋さんに対して敬意の念を抱いている」
板野「そんな…。たかみなのことを尊敬してるなら、メンバーみんなそうですよ」
当麻「はい。しかし真犯人はそれ以上に高橋さんへの尊敬をエスカレートさせ、盲目的に高橋さんを崇拝している人物と考えられます」
当麻は自信たっぷりにそう言い切った。
高橋が困惑の表情を浮かべる。
355 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:34:59.92 ID:q2sV+ZRh0
前田「じゃあにゃんにゃんはありえないね。だってにゃんにゃん、たかみなのことちょっと馬鹿にしてるもん」
高橋「尊敬してもらえるのは嬉しいですけど、崇拝なんて…。あたしそんなに立派な人間じゃないですよ」
高橋の言葉を、瀬文は密かに首を振って否定していた。
しかし高橋はそれに気付かず、動揺している。
当麻「とにかくお2人が協力してくれるとなれば、真犯人を突き止めることは難しくなくなりました。高橋さんと前田さんはこれからなるべく離れて行動してください」
当麻「そうして前田さんはメンバーの会話を聞き、少しでも怪しいところのある者がいたら私達に教えてください。いいですね?」
前田は不安そうに高橋を見ていたが、当麻に促され、渋々頷いた。
前田「しばらくはたかみなと離れています」
当麻は前田から了承を得ると、満足げに再び鼻をすすった。
356 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:36:23.48 ID:q2sV+ZRh0
翌日から、高橋と前田は約束通り、楽屋でも少し距離を置いて過ごすようにしていた。
楽屋にはもちろん、板野の姿もある。
高橋とあまり話せなくなってしまったことは寂しいが、板野が元気に仕事をこなしているのを目にするだけで、前田は満足だった。
当麻と瀬文は今日も彼女達の仕事場に顔を出している。
しかしメンバーの中には、まだ刑事の姿があることを不審がる者が出てきた。
篠田「当麻さん達、まだ事件が起きると思ってるのかな?脅迫状を書いたり、こもりんを使ってメンバーを襲わせたのはなっちゃんだったんでしょ?もう警察が捜査することなんてないはずじゃ…」
篠田の問いかけを、高橋はのらりくらりとかわすしかない。
そんな高橋の煮え切らない態度に、篠田はますます不信感を抱きはじめている。
横山「あ、たかみなさん、スタッフさんが打ち合わせしたいって探してはりましたよ」
テレビ局の廊下で、篠田から質問攻めにあっていた高橋は、横山の言葉を天の助けのように思った。
高橋「じゃあ麻里子、そういうことだからまた後で話そう」
高橋はそう言って、横山に教えられた打ち合わせ室へと走り去る。
篠田は納得がいかない顔で、高橋の後姿を見つめていた。
357 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:37:29.14 ID:q2sV+ZRh0
横山「篠田さん?どうかしはりました?」
横山が不思議そうに篠田の顔を覗き込む。
篠田「何でもないよ。行こうゆいはん…」
篠田は首を振った。
横山「え?行くって楽屋ですか?」
篠田「うん」
横山「そんなんあかんやん、篠田さん忘れてんのですか?」
篠田は横山に言われ、自分がうっかりしていたことに気付く。
忙しい篠田は、収録の合間などに雑誌の取材を受けることも多い。
今日も何誌かの取材が控えていた。
篠田「あっちゃんも一緒に取材なんだよね。呼んでこよー」
横山は篠田の後ろ姿を見送ると、北原のもとへ行こうと、楽屋へ急いだ。
358 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 14:37:47.21 ID:VFbMO1NL0
犯人の米沢がまだ登場してないんだけど
359 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:40:00.81 ID:q2sV+ZRh0
楽屋では倉持にされるがまま、高城が耳をいじられていた。
柏木はそれを馴れた様子で無視している。
彼女にとっては既に見慣れた光景なのだ。
倉持「あきちゃ〜耳ぃ…」
柏木の横には渡辺がいる。
平嶋が起こした事件で再び恐怖を味わった渡辺だが、幸い大きな傷もなく、仕事を続けている。
ただし1人になるのが不安らしく、柏木の傍から片時も離れようとはしない。
横山が楽屋に戻ると、北原は当麻と楽しげに話しこんでいた。
当麻「名古屋といったら味噌カツですもんねー」
北原「あと手羽先も!」
当麻「そういえば手羽先餃子って知ってます?」
北原「え?何ですかそれ、知らないですー」
なんだか当麻に北原を奪われたようで、横山は落ち着かない。
360 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:40:48.98 ID:q2sV+ZRh0
横山「なんやねんほんまに…。なんで事件解決したのに刑事さんおんの…」
横山はそこで自身の独占欲の強さに気付き、密かに恥じた。
気持ちを落ち着けようとしたその時、楽屋内を走り回る仲川とぶつかってしまう。
仲川「あ、ごめんねゆいはん」
仲川はそのままどこかへ走り去っていった。
横山「もうなんで楽屋ん中走るんやろう」
横山はぶつぶつと言いながら、バッグから箱を取り出す。
――こんな時は八つ橋に限るわ…。
八つ橋は時に彼女にとっての精神安定剤となる。
361 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 14:41:26.58 ID:ID5k4ZE80
>>358 こういう類は、すべて米ちゃんなのかwwwww
あの小説は面白かったけど
362 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:42:05.50 ID:q2sV+ZRh0
大島「あー八つ橋!」
匂いで気づいた大島が、横山のもとへ寄ってくる。
横山「実家から送ってもらったんですよ。1つどうぞ」
大島「んじゃ遠慮なく…いただきまーす」
大島が手を伸ばす。どこから現れたのか仲川もやって来て、はしゃいだ声を出した。
仲川「いいなー、八つ橋」
横山「お1つどうぞ」
仲川「わーい、ありがとう」
仲川の大声に誘われ、他のメンバーも横山の周りに集まり出した。
横山はそれぞれに八つ橋を振る舞う。
363 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:43:46.90 ID:q2sV+ZRh0
当麻「ん?なんか匂いますねぇ」
北原と話しこんでいた当麻が、鼻をひくひくさせながら楽屋の中を見回した。
北原「八つ橋じゃないですか?」
ふと見ると、横山の周りに人だかりが出来ていた。
当麻と北原もそちらのほうへ移動する。
高城「八つ橋もらったから、あたしのじゃがりこも今度由依ちゃんにあげるね」
横山「ほんまですかぁ?ありがとうございます」
当麻「あー、おいしそうですねー。生八つ橋…しかも黒豆八つ橋じゃないですか」
当麻は目を見開いた。
瀬文がお決まりのように当麻の頭を叩く。
瀬文「当麻!いじきたないぞ」
当麻「痛っ!いいじゃないすか見てるだけなんだから」
当麻と瀬文のやりとりを聞いて、横山が申し訳なさそうに眉を下げる。
横山「すみません、1ダースなんで今日のメンバー分しか用意してないんですよ」
横山の言葉を聞くと、当麻は心底残念そうに肩を落とした。
横山「すみません…」
364 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 14:45:24.07 ID:ID5k4ZE80
北海道に当麻って地名あるよね
365 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:45:28.64 ID:q2sV+ZRh0
肩をすぼめる横山を見ても、当麻は大人げなく八つ橋を連呼している。
見かねた柏木が自分の分を当麻へ譲った。
当麻はうれしそうに八つ橋を口へ運ぶ。
当麻「上品な味ですねー」
瀬文「舌バカのおまえに味なんてものがわかるのか…」
当麻「あとはもう少し胡椒がきいてれば…いや七味唐辛子でもいいな…」
瀬文は呆れて、それ以上何も言わなかった。
当麻「あ、そういえば高橋さんと前田さん、出てったっきり戻ってきませんねー」
当麻が口の端にあんこをつけたまま言う。
366 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:46:54.39 ID:q2sV+ZRh0
大島「たかみななら、たぶんスタッフさんと打ち合わせだと思いますよ」
松井珠「前田さんは篠田さんと一緒に取材ですよね」
すでに八つ橋を食べ終えた大島と珠理奈が、お茶を飲みながら言った。
当麻「篠田さんか…取材ってどこですか?」
柏木「たぶん2階じゃないでしょうか」
当麻「そうですか」
当麻は以前、北原が篠田と仁藤の対立についてこぼしていたことを思い出した。
取材終わりの篠田に話を聞いてみることにしよう。
当麻はそう決めて、素早く立ち上がる。
当麻「じゃあ私達はお2人の取材の様子を見てきますのでこれで。八つ橋、ごちそうさまでした」
当麻と瀬文は廊下に出ると、階段に向かって歩き出しだした。
しかしすぐに北原に呼び止められる。
367 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:47:53.13 ID:q2sV+ZRh0
北原「あの、篠田さんに話を聞くつもりですか?」
当麻「はい…何か?」
北原「前にあたしが言ったこと…篠田さんと萌乃ちゃんが気まずいって話…。あれについて聞くんですよね?」
当麻「大丈夫ですよ。別にお2人のどちらかを警察が疑っているわけではありません」
北原「はい、それはわかります。犯人はもう自白しましたし…。あたしが心配なのは…その…」
北原はそこでもじもじと口ごもった。
当麻「お2人の対立について、私達に喋ったのが北原さんだと、本人にバレるのはマズい…」
当麻が尋ねると、北原は小さく頷いた。
北原「そうです。もし知ったら、篠田さんも萌乃ちゃんもきっと嫌な気分になると思うし…」
北原は怯えたように視線を泳がせた。
瀬文はそんな北原の様子が、可哀想に思えてくる。
368 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:48:40.71 ID:q2sV+ZRh0
瀬文「ご心配はいりません。北原さんから聞いたなどとは絶対に本人達には言いませんから」
北原「本当ですか?」
当麻「はい、本人達には問題のバラエティの映像を見たと伝えます。北原さんの名前は出しません」
北原「良かった…」
北原はほっとしたのか、ようやくわずかに頬を緩めた。
北原「お願いします」
北原は丁寧に挨拶すると、2人のもとから立ち去っていった。
瀬文「北原さんは、少し気を回しすぎな気がするが…」
北原の姿が見えなくなると、瀬文がぽつりと呟いた。
当麻「あれだけ女が集まっているんですから、色々と気を遣う部分もあるんでしょう。さ、私達も急ぎましょう」
当麻は素早く切り替えて、歩きはじめた。
369 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:51:43.67 ID:q2sV+ZRh0
一方打ち合わせを終えた高橋は、スタッフと別れ、1人暗い廊下を歩いていた。
――節電か…。暗くてちょっと怖いな…。
高橋の歩みが自然と速くなる。
廊下の角を曲がった時、何者かに腕を引っ張られた。
高橋「キャッ、何?」
咄嗟のことに、抵抗する隙もなかった。
高橋は暗く狭い場所に閉じ込められた。
高橋「え?何?どこ?ちょっと出してよ、出して!」
高橋は闇雲に周囲の壁を叩く。
その拍子に足に何かが当たった。
手探りでその物を確認した。
――モップ…?てことはここ、掃除用具入れか。
気がついてみると、辺りに雑巾のような臭いが漂っている。
高橋は口元を押さえた。
――ひどい臭い。吐きそう…。
高橋はもう一度、片手で壁を叩いた。
370 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:53:23.69 ID:q2sV+ZRh0
高橋「ねぇ悪ふざけはやめようよー。誰だか知らないけど早くここから出して!」
それから外の様子を窺うため、耳を澄ませた。
――誰か…いる…!
外には人が立っている気配、かすかな息遣いが感じられた。
高橋「もう充分びびったからいい加減開けてよー」
高橋はそれを冗談で済ませようと、半ば懇願するように外の人物に向けて声をかけた。
頭の片隅では、ひょっとして相手は何か目的があって自分を閉じ込めたのかもと、悪い想像が働きはじめてた。
すると、それまで何も言わなかった外の人物が、高橋に声をかけた。
『ちょっとここでおとなしくしててね。後で必ず出してあげるから、絶対に声を出しちゃだめだよ』
外の人物は確かにそう言った。
高橋は意味がわからず、それがさらに恐怖心を煽る結果となった。
371 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 14:55:22.17 ID:q2sV+ZRh0
突然、高橋の背後で、砂嵐のような耳障りな音が大音量で響く。
プレイヤーのタイマーがセットされていたようだ。
高橋「何これ、うるさっ…」
高橋は反射的に耳を塞いだ。
気配だけで、外の人物が立ち去ったことに気付く。
ここはあまり人の通らない廊下。
さらに清掃員しか入ることのない掃除用具入れ。
高橋は絶望感に襲われた。
――どうなるんだろう、あたし…。
砂嵐の音は高橋の精神を刺激する。
――考えなきゃ考えなきゃ…ここから助かる方法を…。
高橋はそこで前田の顔を思い浮かべた。
――あっちゃんになら、あたしの声が届くはず。
高橋は自分を奮い立たせ、気がおかしくなるを必死で堪えた。
そして叫ぶ。
高橋「あっちゃん、あっちゃん助けて!」
372 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:01:24.13 ID:q2sV+ZRh0
高橋の声は、前田の耳に届いていた。
しかし前田はそれをどうすることも出来ない。
助けを欲しているのは、前田も同じだった。
前田は1人の少女と対峙している。
前田「どうして…」
少女の視線は前田に向いているものの、その目は何も捉えていないように見える。
感情さえ窺い知ることのできない、虚無の目だった。
前田「やめて…お願い…」
取材を終えた前田は、まっすぐ楽屋へ戻るつもりだった。
しかし途中で隣を歩いていた篠田が急に苦しみ出したのだ。
前田は助けを求めて、急いで近くの救護室へ飛び込んだ。
そしてそこで思いもよらぬ人物と対面した。
前田は全身をがたがたと震わせている。
吐く息が白い。
一体何が起きているのか。
373 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:02:05.53 ID:q2sV+ZRh0
少女が無言で手をかざす。
すると、前田の横に置かれている水槽が凍りはじめた。
前田はそれを見ると、反対方向へ思い切り飛びのいた。
その一瞬後に、凍結した水槽が割れる。
先ほどまで前田が立っていた床に、水槽の破片が突き刺さった。
前田はもう、自分が寒さで震えているのか、恐怖で震えているのかわからなくなっていた。
少女が舌打ちをする。
前田「どうしてこんなことするの?」
前田が奥歯をがたがたと言わせながら、声を振り絞った。
前田「馬鹿な真似はやめて!」
少女は今度、前田のすぐ横に置かれた薬棚に向かって手をかざす。
前田の聴力が、ガラスの凍る音を知らせる。
前田は今度、部屋の奥へと飛びのいた。
直後、弾けたガラスが、前田の立っていた場所へ散らばる。
374 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:03:00.14 ID:q2sV+ZRh0
少女はまたしても舌打ちをすると、今度は前田自身に向けて手をかざした。
前田の体が先ほどよりも強く震える。
――寒い。痛い。
このままだと死ぬかもしれない。
前田は必死に視線を動かし、助かる道を探した。
――急がなきゃ、このままだと体がもたない…。
その時だった。
少女の背後で扉が開き、待ち望んだ顔が現れた。
前田「当麻さん!」
375 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:05:32.38 ID:q2sV+ZRh0
当麻「帰りが遅いんで探してみたら…。うっわー、何この部屋、寒すぎじゃないすか」
当麻がしかめっ面を浮かべ、その場でぴょんぴょんとジャンプした。
少女は振り返り、今度は当麻に向けて手をかざす。
瀬文「何してやがる…」
瀬文が当麻の背後から現れ、少女の手を蹴り飛ばした。
少女が床を転がる。
しかしすぐに起き上がり、瀬文に手をかざした。
瀬文はその場に固まり、寒さに震えはじめる。
倉持「何してるんですかー?え?」
いつの間に現れたのか、外の廊下にはメンバー達の顔がちらほらと見えはじめていた。
どうやら騒ぎを聞きつけて集まったらしい。
板野「あっちゃん!」
板野は前田を呼び、それから目を丸くして、口元へ手をやった。
前田の髪はところどころ凍っている。
仲川はわけもわからず、しかし前田が危険なことにだけは気付き、少女へと体当たりした。
バランスを崩した少女が再度床を転がる。
その隙に瀬文は少女の手を背中へと回し、かじかむ手でなんとか手錠をかけた。
376 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:07:25.41 ID:q2sV+ZRh0
板野が駆け出して、前田を抱きしめる。
板野「大丈夫だった?何があったの?」
安心したのか、前田はその場にへたりこんでしまった。
瀬文は仲川に深々と頭を下げると、スーツの上着を脱ぎ、前田の肩へかけた。
前田「ありがとうございます。あとたかみなが、たぶん廊下の隅の掃除用具入れに閉じ込められています。助けてください…」
前田はそれだけ言うと、気を失った。
廊下にいたメンバー達が、救護室へと駆け込んでくる。
倉持が持っていたひざかけで前田を包むと、高城が背中に乗せて廊下へと運び出した。
板野「早く暖かい場所に運ぼう。あっちゃんの手、すごく冷たいよ…」
板野の案内で、前田は楽屋のストーブの近くへと連れて行かれる。
当麻はメンバー達の中から珠理奈の顔を見つけると、目で合図を送った。
珠理奈には自分のやるべきことがすでにわかっていた。
瀬文の肩に背中に手をかざした後すぐに部屋を出て、前田のもとへと走る。
377 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:12:56.29 ID:q2sV+ZRh0
大島「どうして…何があったんですか…」
メンバー達が立ち去った後、ただ1人残った大島が、涙を滲ませ、その場に崩れ落ちた。
瀬文「……」
瀬文の足元で、手錠をかけられた少女が横たわっている。
大島は制止する当麻を振り切って、這うように少女の傍へと近づくと、そっと手を伸ばした。
当麻「気を失っているだけです。心配ありません」
当麻が言う。
大島はいやいやと首を振ると、少女へ覆いかぶさり、泣き声を上げた。
大島「何でこうなるんですか?どうして?どうして手錠なんかされてるの…」
当麻は大島に睨まれ、渋々説明した。
当麻「おそらく彼女は物を凍らせるスペックの持ち主。その能力を使い、前田さんを襲ったんです」
大島「そんな…本気でいっているんですか?現実にそんな力が存在するわけないじゃないですか。早く手錠外してあげてください。後で話せば、誤解だってわかりますよ」
瀬文「彼女は危険人物だ。それはできない」
大島「違います。危険人物なわけありません。そうだよね?何かの間違いだよね?ねぇ…梅ちゃんがあっちゃんのこと襲うわけないもんね?」
大島は気を失った梅田を揺り動かしながら問いかける。
梅田はおだやかな顔のまま、目を閉じて何も言わない。
378 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:13:27.77 ID:q2sV+ZRh0
当麻「連れて行きます」
当麻は苦しげにそう言うと、瀬文に合図した。
瀬文が梅田を抱きかかえる。
大島は瀬文の腕にしがみついた。
大島「やめてください!梅ちゃんを連れて行かないで!」
小さな子供ように泣きじゃくり、しかし大島は決して瀬文の腕を放そうとはしない。
当麻「大丈夫ですよ。お話を聞いたらすぐに帰します。その後のケアが必要となりますが…」
大島が驚いた顔で当麻を見上げた。
大島「本当に…?」
当麻「はい。私達も梅田さんが犯人だとは思っていませんから」
大島は当麻の言葉に、ようやく力を抜いた。
瀬文が梅田を連れ、部屋を出て行く。
当麻もまた、高橋を救出するため、その場を後にした。
救護室には、大島だけが残された。
ガラスの飛び散った室内で、大島は1人しゃがみこみ、嗚咽を洩らしている。
379 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:14:52.67 ID:q2sV+ZRh0
その後、無事救出された高橋も交えて、当麻達は話し合った。
真犯人は高橋の崇拝者である可能性が高い。
しかし高橋本人まで襲われた今、その可能性は否定せざるをえなくなっていた。
高橋「掃除用具入れの外からあたしに話しかけたのは、たぶん麻里子だと思います。いえ、絶対にあの声はそうです…」
高橋ははじめ、閉じ込めた犯人を庇って何も言わなかったが、当麻に諭され、ついに白状した。
前田「あたしも麻里子が気分が悪いって言って、だから救護室に行ったんです。そうしたら梅ちゃんがいて…」
高橋「でも何か理由があるんですよね。麻里子がそんなことするわけないし」
高橋が言った通り、その後の当麻達の調べで、篠田は事件前後の記憶がないことが判明した。
山内、小森、平嶋と、能力者が操られ、犯行を起こすケースが続いていたが、篠田は何も特殊能力を発揮していない。
ここからわかることは、真犯人は高橋の特殊能力を無効化するという特異体質に気がついているということだ。
だからこれまでとは違い、何の能力も持たない篠田に、高橋を襲わせたのである。
380 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 15:17:28.84 ID:ddNoFZGK0
上からマリコーーーー!!!
381 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:19:05.83 ID:q2sV+ZRh0
未詳にて野々村を交えながら、当麻は今後の動きを提案した。
当麻「このタイミングで高橋さんと前田さんが襲われたのが、ただの偶然とは思えませんなぁ。たぶん犯人はこちらの動きに気がついている」
当麻「高橋さん達が未詳側に付くとこれからの犯行がしずらくなるため、やむなく襲ったんでしょう。犯人の本当の狙いは、チーム4とチームBである可能性が高いですから」
当麻が説明する。
瀬文「どうしておまえに犯人の狙いがわかる?」
当麻「最初に山内さんが起こした事件…あの事件で被害に遭ったのはチーム4の皆さんでした。それから次に小森さんの事件。あの時小森さんはたくさんのメンバーがいるスタジオの中で、最初に河西さんを襲いました」
当麻「河西さんはチームB。そして制止した秋元さん、宮澤さんを突き飛ばすものの、それ以上は襲わず、標的を佐藤亜美菜さんに移しました。それから佐藤すみれさん、石田さんの順で襲った」
当麻「彼女達4人はみんなチームBのメンバーです。小森さんはあのスタジオの中で、チームBのメンバーだけに標的を絞っていました」
瀬文「そういえば次の平嶋さんが起こした事件、あれも現場となったのはチームBのレッスン中…。握手会で襲われた渡辺さんも確かチームBだったのでは…?」
当麻「そうです。犯人の狙いはチーム4とチームBだけに限られているんです。チームKのレッスンでは何も事件が起きませんでした。だとしたら今最も危険なのは復帰したばかりのチーム4の皆さん…」
当麻「もしかしたら犯人はまた彼女達を、スペックを持った人物を操って襲わせるかもしれません」
382 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:19:34.86 ID:q2sV+ZRh0
野々村「あぁ、それじゃあ彼女達を、未詳で保護するというのはどうかな?」
野々村が珍しく厳しい顔で言った。
野々村「もちろん彼女達を動揺させ、また不安にさせてしまうこともわかっている。だけど、人の命を守るのが僕達警察の仕事…」
瀬文「賛成です。明日にでもレッスン中の彼女達を保護しましょう。真犯人を捕まえるまで、外部から接触できない場所に移します」
野々村「うん、頼むよ瀬文くん」
383 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:21:27.84 ID:q2sV+ZRh0
翌朝、瀬文は野々村との約束通りチーム4のメンバー全員を保護した。
午後にはすべてを済ませ、未詳に戻ってきた瀬文を当麻が絶賛する。
当麻「いやー、仕事が速いっすね瀬文さん」
当麻の大げさな態度に、瀬文は訝しげに眉を寄せた。
瀬文「どうした?」
当麻「いえね、実はチーム4メンバーの保護、失敗すると思ってたんですよ」
瀬文「は?」
当麻「だって警察に保護されたら、真犯人はそれ以上チーム4のメンバーに手出しできなくなっちゃうじゃないですか。高橋さん前田さんが襲われた一件からわかる通り、私達の動きは真犯人に読まれているはず」
当麻「だからチーム4メンバー保護の計画のことも知って、真犯人はそれを妨害してくると思ったんですよ。なのにこんなにあっさり保護できちゃうんだもんなー。驚きました」
瀬文「当麻…そう予想していてあえて俺を彼女達の保護に向かわせたのか?」
瀬文が苛立った声を出す。
当麻「ちょっと確かめたいことがあったんで。いやー、おかげでだいぶ真犯人の持つスペックが絞りこめましたよ」
当麻は悪びれもせずに言う。
384 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:23:56.04 ID:q2sV+ZRh0
当麻「犯人には私達の動きがわかっている。高橋さん前田さんが捜査に協力することを知り、直後にお2人を襲ったことからもそれはわかりますよね。だけど犯人はどのようにしてその情報を掴んだのでしょう?」
野々村「犯人は人の心が読めるスペックを持っている…とか?」
当麻「いいえ違います」
当麻はにやけた顔で野々村の回答を否定した。
当麻「係長と私は午前中何をしてましたっけ?」
野々村「僕は彼女達の雑誌の撮影、番組収録…まぁ色々と現場に行って見て来たね」
当麻「私もです」
当麻はそれから試すように、瀬文に視線を向けた。
当麻「私と係長は手分けして、午前中にチーム4以外のメンバー全員と顔を合わせてきたんです。いやー、人数多いですから大変でしたよ。スケジュール調べたりとかね」
野々村「僕なんて米沢さんの通ってる大学まで行ったからね」
瀬文「それになんの意味がある?」
米沢w
386 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:25:19.69 ID:q2sV+ZRh0
当麻「やだなー、意味ありありですよー。犯人がもし人の心を読むというスペックを持っていて、こちらの動きを知ったのなら、今回だって私か野々村係長の頭の中からチーム4保護の計画を読み取り、妨害行動に出たはずじゃないですか」
野々村「でも意外とあっさりチーム4全員保護できちゃったね」
当麻「だったら、ここからわかることは、犯人が持っているのは人の心を読むスペックではない」
瀬文「じゃあどうやって犯人は高橋さん前田さんの件でこちらの動きを知ったんだ?」
当麻「たぶんー、私が思うに、その人の体や持ち物に触れて、そこの残る残留思念を読み取る、サイコメトリー能力じゃないでしょうか?犯人はサイコメトリーという特殊能力で私や瀬文さん、もしくは高橋さん前田さんの体か持ち物に触わり、こちらの計画を知ったのです」
瀬文「本当にそうだとして、だったらどうやってその能力を立証するんだ?」
当麻は瀬文の言葉に、頭を掻いて黙り込んだ。
嫌な沈黙が未詳の中に漂う。
387 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:26:28.38 ID:q2sV+ZRh0
瀬文「おまえ、そろそろあれをやったらどうなんだ?」
瀬文は当麻を促した。
当麻「あれ?」
瀬文「例のあれだ。無理やりでもいいからやれ。もう時間がない」
当麻「わかりましたよ。だいたいの要素は揃ってますから」
当麻はそう言うと、億劫そうに立ち上がり、キャリーバッグの中から習字セットを取り出した。
野々村「何するの?」
野々村が瀬文に尋ねる。
瀬文「係長は黙って見ていてください」
瀬文は確信に満ちた顔をしている。
388 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:28:02.12 ID:q2sV+ZRh0
当麻は習字セットを広げると墨を磨り、筆を取った。
半紙に向かう。
当麻の目が見開く。
それから一心不乱に文字を書きはじめた。
『脅迫状』
『握手会』
『病を治すスペック』
『愛犬家』
『平嶋夏海』
『八つ橋』
『バナナ柄のバッグ』
『高橋みなみ』
『フレッシュレモン』
当麻は書いた文字を並べて、一通り見渡すと、それらを集めて床に置いた。
足で押さえつけ、片手で器用に半紙を破いていく。
そして破いたものを1つにまとめると、頭上へ投げた。
紙片が雪のように、当麻の上へ降り注ぐ。
その中で彼女は静かに目を閉じた。
その瞬間、スローモーションのように紙片が舞うのを、瀬文と野々村は目にした。
すべての紙片が床を埋め尽くした時、当麻が目を開く。
勝ち誇った顔で言う。
当麻「いただきました」
389 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 15:29:06.79 ID:q2sV+ZRh0
待ちかねた瀬文が早速尋ねる。
瀬文「で、どうするんだ?」
野々村「あーあ、こんなに散らかしちゃって」
野々村は床を見下ろして呆れた声を出す。
野々村「誰が片付けるのこれ」
当麻「あ、係長、捜査に自白剤って有効ですか?」
野々村「は?」
瞬間、当麻がにやりと笑った。
390 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 15:48:16.57 ID:R+l4ln6h0
気になるー
保守
391 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 16:15:18.38 ID:v4qXkdGP0
続きまだかな
392 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 16:25:52.80 ID:ddNoFZGK0
晩ご飯作ってんじゃね
393 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 16:35:11.89 ID:91VK5lgf0
気になる
394 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 17:03:34.00 ID:WPNFYZsYO
ほしゅ
395 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 17:20:37.94 ID:8ikdbdhd0
待ってるよ
396 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 17:21:58.15 ID:VFbMO1NL0
元祖SPECは最終回がクソだった
そういえば真野ちゃん出てたんだよな
大詰めだね
398 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:41:25.33 ID:q2sV+ZRh0
>>396 真野ちゃんのサトリかわいかったなー
続き書きます!
399 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:41:54.85 ID:q2sV+ZRh0
翌日、コンサートを目前に控えた彼女達の楽屋に瀬文は来ている。
瀬文の手にはいつもの紙袋が握られていた。
――どうして俺だけ…。
瀬文は心の中で、当麻に対して悪態をついていた。
昨日何かひらめいたようだった当麻だが、突然今日になって、瀬文にだけ仕事を任せて雑用に走ったのだ。
おかげで瀬文は1人、肩身の狭い思いをしながら彼女達の楽屋にお邪魔することになった。
大島「あ、今日当麻さんは一緒じゃないんですねー」
大島が気さくに話しかけてくる。
梅田の事件でショックを受けていた彼女だが、今日はコンサート当日である。
必死の思いで、気持ちを切り替えたのだろう。
瀬文「はい、彼女は別件で…」
大島「あー、そうなんですかぁ」
大島の隣では小嶋がうとうととしながら、携帯を操作していた。
これからコンサートだというのに、メンバーはあまり緊張していないように見える。
壁際で直立不動の体勢を取る瀬文の肩を、誰かがふわりと触わった。
咄嗟に応戦の構えをしてしまった瀬文を、驚いたように珠理奈が見る。
400 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:43:04.59 ID:q2sV+ZRh0
松井珠「すみません、お疲れみたいだったから…」
珠理奈に触れられ、瀬文は何だか肩の辺りが軽くなったように感じる。
瀬文「申し訳ない」
松井珠「いえ、あたしにできるのはこれくらいしかないですから」
それから珠理奈は声を落として訊いた。
松井珠「まだ何か捜査してるんですか?」
瀬文「いえ、詳しくはちょっと…」
松井珠「そうですよね、ごめんなさい」
珠理奈はそう言って口角を上げると、増田のところへ行ってしまった。
気を取り直し、瀬文はまた楽屋内に視線を走らせる。
仲川「ねぇねぇさっき差し入れでクッキーあったよクッキー」
先ほど瀬文にぶつかって来た仲川が、懲りずに楽屋内を走り回っていた。
瀬文は目だけを動かし、カウントをはじめる。
――これで触れていないのは、あと小嶋と石田だけか…。
401 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:44:13.25 ID:q2sV+ZRh0
瀬文の紙袋の中には、当麻が用意した自白剤が入っている。
コンサートが終わった時、メンバー全員に飲ませる予定だ。
瀬文は気が進まなかったが、これ以上事件を長引かせるわけにいかないと当麻に説得された。
犯人がサイコメトリー能力を持っているのなら、瀬文の体や持ち物に触れて、今日の計画を知ることとなるだろう。
だとしたら最後まで薬を飲むのを拒んだメンバーが犯人とわかる。
メンバーには自白剤をラムネと偽って飲ませる予定なのだから。
サイコメトリー能力を持つ犯人以外、この薬がラムネではなく自白剤なのだと知ることはない。
しかしそうやってこの計画を成功させるためには、メンバー全員に瀬文の体か持ち物に触れてもらわなければならない。
瀬文は朝から苦労して、彼女達に接近していた。
自分が痴漢にでもなった気分である。
瀬文「すみません、実は当麻から頼まれていて、この袋にサインしていただけますか?」
瀬文は小嶋へと近づき、そうお願いした。
小嶋は眠そうな目で、とろとろと言われた通りサインを書きはじめる。
――これで残りは石田1人…。
402 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:44:55.11 ID:q2sV+ZRh0
石田は楽屋の隅、仏頂面で腕を組みながら座っている。
どうやらその横で男性スタッフと仲良く話す藤江が気に入らないらしい。
瀬文は小嶋に礼を言うと、おそるおそる石田へ近づいた。
わざとらしいのは承知で、ネクタイピンを彼女の近くへ落としてみる。
藤江「あ、落としましたよー」
しかし藤江に拾われてしまった。
瀬文は今日何度もメンバーの前でネクタイピンを落としている。
彼女達からはよくネクタイピンを落とす変な人と認識されていることだろう。
瀬文「これは申し訳ない」
藤江「いいえー。よく落としますね」
藤江はやはり瀬文のおかしな行動に気がついていた。
結局その後すぐにコンサートが開始され、瀬文は石田への接触を断念する。
403 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:45:28.67 ID:q2sV+ZRh0
コンサート中にやって来た当麻は、しかしあっさりと瀬文の努力を無駄にした。
当麻「まぁいいでしょう。石田さんは平嶋さんの事件で被害に遭っていますから、容疑から除外できます」
瀬文「だったら他にも接触しなくていいメンバーもいたんじゃないか」
当麻「いいじゃないですか。可愛い女の子に触れて瀬文さんも楽しかったでしょ」
瀬文「楽しくない」
瀬文は当麻の頭を思い切り叩いた。
瀬文「だいたい自白剤の使用を認めるなんて係長も…」
当麻「もういいじゃないですか、これで今日こそ真犯人が捕まえられるんですから」
当麻は自信たっぷりに言いきる。
――果たして本当にこんな作戦が成功するのだろうか…。
瀬文はまだ不安だった。
404 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:46:21.40 ID:q2sV+ZRh0
高橋「おつかれさまでしたー」
アンコールも終わり、ステージを降りた彼女達が楽屋へ戻って来る。
みんな汗で髪型は崩れ、化粧も落ちているが、どこか満ち足りた表情をしていた。
当麻「前田さん、ちょっといいですか?」
当麻は楽屋で早くもくつろぎ出した前田に声をかける。
前田「あ、当麻さん来てたんですかー」
当麻は前田に小声で説明した。
当麻「梅田さんに襲われた時、前田さんは軽い凍傷を負いましたよね?」
前田「はい。でもそれはすぐに珠理奈に治してもらって…」
当麻「でも念のために検査を行いましたよね?」
前田「はい」
当麻「検査結果が出たそうなんですが、他に気になる点が見つかったとかで…」
前田「えー?そうなんですか?」
当麻「野々村係長が送りますんで、すぐに病院に向かってください」
前田「え…あ、はいわかりました…」
前田は不安そうな顔で視線を動かした。
高橋を探しているようだ。
405 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:47:12.21 ID:q2sV+ZRh0
前田「高橋さんも聴力の検査結果が詳しく出ているそうなので、一緒に病院に行ってください」
当麻は高橋を呼び寄せると、前田と一緒に2人を野々村が待つ廊下の隅へと連れて行った。
当麻「詳しくは野々村係長のほうから、お願いします」
当麻は一礼すると、楽屋へと戻って行った。
残された高橋と前田を顔を見合わせ、野々村の言葉を待つ。
406 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:48:19.72 ID:q2sV+ZRh0
楽屋に戻った当麻は、キャリーバッグから拡声器を取り出し、スイッチを入れた。
当麻「えー、みなさん聞こえますかー?ちょっと向こうのテーブルに集まってください」
コンサート後の高揚で騒がしかったメンバーが静かになり、一斉に当麻へと視線が向けられた。
当麻「今回捜査に協力していただいたお礼に、警察からささやかなプレゼントがあります」
仲川「えー、何だろ何だろお菓子かな」
仲川が一番に動き、示されたテーブルに駆け寄る。
テーブル近くにはすでに瀬文がスタンバイしていた。
仲川につられ、他のメンバー達もテーブルへ移動する。
あっという間にテーブルの周りは人でごった返した。
当麻「えー、では瀬文さんお願いします」
瀬文が紙袋の中身をテーブルの上に広げる。
大島「これ何ですか?」
早くも大島が手を伸ばした。
407 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:49:13.51 ID:q2sV+ZRh0
当麻「それはまだ日本未発売のフルーツタブレットです。食べた人の体温や体調によって味が変化するようになっているんですよ」
峯岸「へぇ、面白い」
峯岸も興味津々で手を伸ばす。
当麻「でしょー?味は全部で15種類でーす。皆さんどんな味になるか試してみてください」
当麻の言葉に、メンバーはこぞってタブレットを手にした。
小林「才加のはきっとバナナ味だよ」
秋元「えー、バナナはもういいよ」
メンバーはおしゃべりをしながら、タブレットを口にし始める。
当麻「飲みこまないで、ちゃんと噛んでくださいねー」
当麻は再び騒がしくなった彼女達に聞こえるように、またしても拡声器を使用する。
それから瀬文に目で合図した。
瀬文が頷く。
注意深くメンバーの動きを見張った。
――誰も、タブレットを口に含むことに躊躇している者はいない…。
本来であれば犯人はこれがタブレットではなく自白剤だと気付いて、口に含むのを拒むはずである。
しかし彼女達は全員、面白そうにタブレットを口にしてしまった。
408 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:49:51.73 ID:q2sV+ZRh0
――計画は失敗だったのか…。まさか唯一俺に触れていない石田が真犯人で、自白剤だと知らずに食べてしまったか…。
瀬文が混乱していると、当麻がどこからか大皿を抱えて来た。
板野「何ですかそれ…」
板野が気がついて、当麻に尋ねる。
当麻は持ってきた大皿をテーブルの中央に置くと、試すようにメンバーを見回した。
当麻「これも私達からのお礼で、フレッシュなレモンです。ささ、どうぞ召し上がってください」
しかしメンバーは互いの様子を窺いながら、手を出そうとはしない。
当麻「え?どうしたんですか?おいしいですよ、レモン」
当麻はそう言うと、1つを手に取り、噛り付いた。
メンバーがしかめっ面をする。
409 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:50:36.99 ID:q2sV+ZRh0
大島「酸っぱくないんですか?生のレモンなんか齧って…」
大島が眉を下げた。
当麻は平然としている。
当麻「甘ーい、おいしーい、バカうまっ!大島さんもどうぞ、騙されたと思って食べてみてください」
当麻に勧められ、大島がおそるおそるレモンを口へ運ぶ。
半信半疑だった顔が、驚きの表情へと変わった。
大島「ほんとだ甘い…。え、どうしてですか?」
当麻は大島の問いかけににやりと笑った。
当麻「実はさっき皆さんが食べたタブレット、15種類の味がするなんて嘘なんです」
秋元「嘘?え?どういうこと?」
410 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:52:05.09 ID:q2sV+ZRh0
当麻「ミラクルフルーツって知ってます?西アフリカ原産の果物で、ミラクリンという成分を含んでいるんです。ミラクリンは酸味や苦味を甘く感じさせる働きを持つ」
当麻「皆さんにさっき食べてもらったのはそのミラクリンが配合されたタブレットです。だから私や大島さんは酸っぱいはずのレモンを、甘く感じて、こうしておいしくいただくことができているということです」
当麻はレモンを齧りながら説明した。
瀬文は当麻が何をはじめたのかわからず、無言で動向を見守っている。
――こいつ、自白剤を用意したと俺にまで嘘ついて…何を始める気なんだ?
当麻「皆さんの大好きなサプライズというものを私もやってみました。嘘ついてごめんなさい、さ、面白いですから皆さんもレモンを食べてみてください」
当麻が大皿を手で指し示すと、メンバー達は次々にレモンを手に取り、食べ始めた。
宮澤「ほんとだすごーい、甘い!」
河西「おいしいねー」
楽屋内は彼女達の驚きの声で満たされる。
そんな中、当麻は大皿を睨み、それからメンバー達をぐるりと観察した。
大皿には、レモンが2人分残されている。
411 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:52:45.05 ID:q2sV+ZRh0
当麻「まだ食べていない方が2人いらっしゃいますね?どなたですかー?レモンは人数分用意してきたんですけど」
指原「あ、里英ちゃんとゆいはんまだ食べてないの?」
気がついた指原が、2人の肩を叩いた。
指原「ねぇマジですごいよ、さっきのタブレット。レモンうめー」
北原と横山は無言で目を伏せた。
当麻「お2人もどうぞ、召し上がってください」
当麻は意味ありげな笑顔を浮かべた。
当麻「お2人もさっきタブレット、ちゃんと食べましたよね?だったらどうぞ試してみてください」
当麻はそう言いながら飛び跳ねるようにして2人の間に割って入ると、無理やりレモンを握らせた。
当麻「ささ、思い切って一口でどうぞ」
412 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:53:51.26 ID:q2sV+ZRh0
北原はなぜだかくやしそうに目をつぶると、一気にレモンに齧りついた。
その様子を見て、横山もおそるおそるレモンを口へ運ぶ。
横山「ぺっ」
しかしすぐに顔をしかめ、レモンを吐き出した。
近くにいた指原が驚きの表情を浮かべる。
指原「なんで?甘くないの?レモン…」
一方北原はだいぶ耐え抜いたが、やがて我慢しきれなくなり、レモンを吐き出してしまった。
それを見た当麻が、楽しげに2人の背中を擦る。
当麻「だよねー。こんな酸っぱいレモン、食べられたもんじゃないですもんねー。タブレットなしじゃ」
その間におしぼりを持った仁藤が2人に駆け寄り、吐いたものを片付けようとする。
仁藤「もぉ馬鹿だなー。タブレット食べなかったの?」
仁藤は半ば怒りながら、おしぼりでテーブルを拭いた。
413 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:54:30.98 ID:q2sV+ZRh0
当麻「食べたくても食べられなかったんですよ、お2人は」
当麻がもったいぶった調子で説明する。
瀬文「当麻おまえ、何をしたんだ?」
瀬文は自分まで当麻に騙されていたことが気に食わない。
苛立たしげにそう問いかけた。
瀬文「今ので何かわかるのか?」
当麻は瀬文を一度見ると、それからまた北原と横山に視線を戻した。
当麻「あなた方は瀬文さんが紙袋から出したタブレットを、自白剤だと思いこんでいたんですよね?だからメンバーの皆さんがタブレットを口にした時、食べたふりをして実際はポケットかどこかに隠した。ちょっと失礼しますねー」
そう言って当麻は2人のポケットに手を突っ込んだ。
北原「ちょっとやめてください」
抵抗も虚しく、当麻はあっさりとタブレットを2粒見つけ出す。
当麻「ほらあった。やっぱり食べてなかったんですね。レモンが食べられなかったのも当たり前ですね」
瀬文「2人はなぜタブレットを自白剤だと思いこんだんだ?」
414 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:56:27.23 ID:q2sV+ZRh0
当麻「そんなのもうわかるでしょう。お2人のうちどちらかが、サイコメトリー能力を使い、瀬文さんがメンバー全員に自白剤を飲ませようと計画していることを読み取ったからです」
当麻「瀬文さんは私に騙され、紙袋の中身が自白剤だと思い込んでいた。この中で紙袋の中身が危険だと思っていたのは瀬文さんだけです」
当麻「それなのにあなた方2人はタブレットを疑い、口にしなかった。自白剤のことを知るはずもないあなた方が、なぜそんなことしたのでしょう?サイコメトリー能力で瀬文さんの思念を読み取ったからですよね?私の予想だと…北原さん、それはあなた…ですよね?ね?」
当麻がにんまりと笑う。
北原は焦った様子でそれを否定した。
北原「馬鹿なこと言わないでくださいよー。ちょっとおなかいっぱいだったからタブレットは後で食べようと思って仕舞ってただけです。あたしにそんな能力あるわけないじゃないですか」
大島「そうですよ。特殊能力なんてそうは…」
大島はそう言いかけて、しかし先日自分の目で見た梅田の能力を思い出し、言いよどんだ。
415 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:57:09.34 ID:q2sV+ZRh0
当麻「コンサートが終わったばかりの状態で、タブレット1つも食べられないほどおなかがいっぱいなんてありえないっすよ」
当麻は大島を一瞥すると、また北原に向き直った。
当麻「さぁ、どうなんですか北原さん。真実を教えてください」
メンバーの視線が北原に注がれる。北原は唇を噛み、床を見つめていた。
楽屋内が静まり返る。
板野「あ、あっちゃん…」
ふと、気配に気付いた板野が小さく洩らす。
いつの間にか野々村に付き添われ、前田が楽屋の入り口に立っていた。
板野「病院に行ったんじゃなかったの?」
前田「ううん、野々村さんに言われて、向こうの部屋でずっと待ってたの…」
当麻は前田のもとへ駆け寄ると、小声で尋ねた。
当麻「どうですか?」
416 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:57:58.29 ID:q2sV+ZRh0
前田「はい、メンバーはみんな緊張のせいか心拍数が高まっているけど、中でも2人は特別に脈が速いです」
当麻「やはり前田さんあなた、皆さんの心臓の音が聞こえるんですね」
前田「はい…」
当麻「脈が速いということは、嘘をついている…」
前田「そうですね。だいたいそんな場合が多いと思います」
前田は悲しげにそう言った。
当麻「ありがとうございました。もうすぐ終わるんで、向こうの部屋で待っててもらえますか?」
前田「いえ、あたしもここでみんなと一緒に話を聞きます。向こうだとたかみなもいて当麻さん達の話は聞こえてこないし、それにメンバーとしてきちんと真実が知りたいんです。お願いします」
当麻「いいんですか?犯人があなた方の持つスペックについてもバラすかもしれませんよ。混乱を避けるために、今はここから離れていたほうが…」
前田「大丈夫です。あれからたかみなとも話し合ったんです。例え能力について知られても、メンバーはきっと今まで通り接してくれると信じています」
前田はいつになく強い瞳でそう言い切った。
417 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 17:59:52.20 ID:q2sV+ZRh0
当麻「わかりました。それでしたら高橋さんもここへ呼んで来てください」
前田「ありがとうございます」
それから当麻は北原と横山のもとへ戻り、話を再開した。
当麻「一連の事件はすべて北原さんと横山さんによる犯行です」
渡辺「でも、犯人はなっちゃんで…。自白もしたんじゃないですか?」
当麻「いいえ、あの自白は平嶋さんの意思ではありません。握手会がメンバーの負担になるから中止にさせたかったなんて、どう考えても1期生である平嶋さんが思うわけないんですよ」
当麻「AKB発足当初からのメンバーである彼女が、どんなに辛いからといって握手会を蔑ろにするわけないんです。ずっとメンバーとしてここまで頑張ってきたんですからね。握手会の大切さは身にしみてわかっているはずです」
当麻「平嶋さんは、こちらの2人によって操られていたのでしょう」
柏木「操られていた…?どういうことですか?」
418 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:00:40.48 ID:q2sV+ZRh0
当麻「まず順を追って説明します。サイコメトリー能力を持つ北原さんは、ある時、脅迫状を書いたのが誰なのか知ってしまった。そしてその人物を尊敬するあまり、脅迫状の内容を自分が実現させてあげようと考えた」
倉持「え?てことは脅迫状を書いたのはきたりえとゆいはんじゃないってことですか?」
倉持は混乱する頭を整理するかのように、ゆっくりと区切りながら尋ねた。
当麻が即座に顎を引く。
当麻「そうです。混乱を避けるため今まで黙っていましたが、最初に届いた3通の脅迫状は高橋さんが書いたものです」
小嶋「えー?なんでたかみななのー?」
当麻「今ここで詳しくは説明できませんが、やむにやまれぬ事情があったんです…」
当麻はそう言って板野を一瞥した。
板野は下を向き、黙って床を見つめている。
419 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:01:50.85 ID:q2sV+ZRh0
当麻「しかしはっきりさせておきたいのは、高橋さんはある目的のため脅迫状を書きましたが、それはメンバーの皆さんに危害を加えるためでも、本当に握手会を中止にさせるためでもありませんでした」
当麻「しかし北原さんは脅迫状の内容通り、事件を起こそうと考え、今度は自身が脅迫状を書き、渡辺さんを狙ったのです。4通目からの脅迫状は高橋さんではなく、北原さんが書いたものでしょう。ですよね?」
当麻の問いかけに、北原は無言を貫いている。
横山は熱心に当麻の視線を追い続けいた。
当麻と目を合わせようとしているのである。
しかし楽屋に高橋と前田が姿を現すと、諦めて下を向いた。
高橋「みんなごめんね、脅迫状のこと…騙してて…。時期がきたら必ず説明するから」
高橋はそう言って、涙を流した。
前田はそんな高橋を支えるかのように、ぎゅっと手を握っている。
420 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:03:48.96 ID:q2sV+ZRh0
当麻「北原さんにはサイコメトリー能力がありますから、以前からメンバーの中に特殊なスペックを持った人物がいることに気付いていました。そこでそれを利用するため、横山さんに計画を持ちかけた」
当麻「横山さんにはおそらく、相手を意のままに操れる…相手の脳に直接語りかけるスペックがあるのでしょう。計画に乗った横山さんは、北原さんが見つけ出した第一の能力者、山内鈴蘭さんに接触し、渡辺さんを狙うよう命令した」
当麻「しかしこれは前田さんの機転により失敗に終わりました。すると今度は、チーム4メンバーに狙いを定め、再び山内さんに襲わせたのです」
峯岸「もしかしてあの事故のことですか?あれは建物の設計ミスで急な突風が起きたんじゃ…」
当麻「いいえ、皆さんに余計な心配をさせないためそう説明していましたが、実際は並外れた運動神経というスペックを持った山内さんの凶行により起こったことでした」
峯岸「そうだったんですか…」
峯岸は大きく息を吐いた。
驚きが隠せないのか、大きな目をいつも以上に丸くしている。
421 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:05:53.46 ID:q2sV+ZRh0
当麻「それから北原さんは第二の能力者、小森美果さんにメンバーを襲わせます。横山さんの命令により、小森さんは収録中大立ち回りを演じ、メンバーに怪我を負わせました」
当麻「彼女には見たままに筋肉を動かせるというスペックがあります。目にした動きを、筋肉が記憶してしまうのです」
当麻「ドラマの現場で松井玲奈さん演じるゲキカラの動きを目にしていた彼女は、その動きをコピーしてメンバーを襲いました」
宮澤「そうか…あの動き、どこかで見たことあると思ったら…」
小森が事件を起こした現場に居合わせていた宮澤が、思い出したように言った。
宮澤「ゲキカラだったんだね…」
当麻「そうです。そして北原さんは第三の能力者、平嶋さんにレッスン中のチームBを襲わせました。横山さんの命令により洗脳された平嶋さんは、レッスン中に自らその能力を発揮し、メンバーを恐怖の渦へと陥れました」
当麻「被害に遭った皆さんはもうお察しでしょうが、平嶋さんのスペックは念動力です。こうして平嶋さんにメンバーを襲わせ、また偽の自白をさせ、ここで北原さんと横山さんの計画は終わるはずだった」
当麻「しかしここで、お2人にとって予想外の出来事が起こったのです」
当麻が言葉を区切ると、高橋と前田は息を飲み込んだ。
大島が不思議そうに首を傾げる。
大島「予想外?何ですか?」
422 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:07:29.15 ID:q2sV+ZRh0
当麻「高橋さんと前田さんの、捜査への協力です。詳しい説明ははぶきますが、北原さんと横山さんにとって、2人が捜査に協力するととてつもなーく不都合が生じる」
当麻「そこで北原さん横山さんは急遽、2人を襲うことを決めた。登場したのは第四の能力者、梅田さんです」
当麻「実際に目撃した方もいらっしゃいますが、梅田さんのスペックは念じるだけで物を凍らせることのできる能力」
当麻「梅田さんを操り、隙を見て前田さんを襲わせ、同時に篠田さんを操って高橋さんを掃除用具入れの中へ閉じ込めたのです」
当麻「篠田さんは能力者ではありませんでしたが、小柄な高橋さんを閉じ込めるだけなら何も能力者に限定しなくても出来ますもんね」
当麻が言い終えると、すでに号泣していた指原が、北原の腕を取った。
指原「そんな…刑事さんの話、間違ってるよね?里英ちゃんがメンバーを襲わせたりするわけないもんね?ね?違うよね?里英ちゃん!」
指原のそれは、問いかけというより懇願に近かった。
意地でも北原の無実を信じているようである。
指原「ゆいはんだってほら…人に命令したりするような子じゃないし…」
そこでようやく、北原が口を開いた。
423 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:08:05.69 ID:q2sV+ZRh0
北原「そうです。どうしてたまたまタブレットを口にしなかっただけで犯人にされちゃうんですか。証拠だってないのに」
当麻はその言葉を待っていたかのように、にやりと笑った。
当麻「証拠ならありますよ。あなたは実際に私達の目の前で、自分が能力者だと証明してみせたんです」
北原「え?」
424 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:08:57.85 ID:q2sV+ZRh0
当麻「私達が楽屋に忘れ物をした時、あなたが追いかけてそれを届けてくれたことがありましたよね。私の箸とエコバッグ…覚えてますか?」
北原「あぁ…そういえばそんなことありましたね。それがどうかしたんですか?」
当麻「私は楽屋で皆さんのお弁当をご馳走になりましたから箸はわかるとして、なぜエコバッグが瀬文さんのだとわかったんですか?」
北原「だからそれは…えーっと、なんとなく瀬文さんの物かなって思って渡しただけです」
当麻「ピンクのエコバッグをですか?」
北原「はい…」
425 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:10:12.81 ID:q2sV+ZRh0
当麻「普通の感覚なら、ピンク色のバッグを見て女性の持ち物だと思うはずです。仮に楽屋で瀬文さんがエコバッグを持つ姿を目にしたのだとしても、この通り私はこんな体ですからね、瀬文さんが私のバッグを持ってあげているのだろうと考えるのが一般的ではないでしょうか」
当麻はそう言って、包帯で吊られた自分の左腕を指差してみせた。
当麻「それなのにあなたは、ピンクのエコバッグを見て瀬文さんをからかう仕草をした。強面の瀬文さんにピンクのバッグという取り合わせがよほどおかしかったのでしょう」
当麻「あれは完全に、バッグが瀬文さんの物だと思い込んでいたからこそ見せた行動です。あなたはバッグに触れ、そこに瀬文さんの思念が残っていたから、それをそのまま瀬文さんの持ち物だと思ったんです」
北原は当麻の言葉を聞き、再び黙りこんだ。
横山が不安げにそんな北原を見つめる。
泣きすぎた指原が呼吸困難のような症状を引き起こし、大家に支えられていた。
426 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:11:48.12 ID:q2sV+ZRh0
当麻「それにチームBがレッスン中に襲われた時、あなたと柏木さんはスタジオの外にいて無事だった。直前に機材トラブルがあり、音響室を覗きに行っていたからです」
当麻「キャプテンである柏木さんがダンス講師に付き合って機材トラブルを直しに行ったのはわかるとして、なぜあなたまで一緒に行ったのでしょう。そこに私は不審を抱きました」
当麻「そうです。あなたはこれからスタジオで起こることを知っていたからです。だから避難するため、柏木さんにくっついてスタジオの外へ出たのです」
当麻がそこまで言うと、北原は膝から崩れ落ちた。
北原「そうです…。すべてあたしがやりました。でも横山は違います。横山は何も知らないんです。犯人じゃありません」
横山「北原さん…」
当麻「いいえ、横山さんは間違いなくあなたの共犯ですね。横山さんにも事件についての証拠があります」
北原「え…」
427 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:13:09.66 ID:q2sV+ZRh0
当麻「八つ橋ですよ」
当麻はそこで黒豆八つ橋の味を思い出したのか、しばしうっとりとした表情を見せた。
瀬文「当麻!」
瀬文に呼びれ、当麻は我に返る。
それから意気揚々と説明を再開した。
当麻「高橋さんと前田さんが襲われた時、あなたは八つ橋を持って来ていましたね?私が欲しがると、メンバー分しかないから駄目だと断った。ま、結局あたしは柏木さんの分を譲ってもらいましたが」
当麻「確かあの時、八つ橋は1ダース…つまり12個あった。だけどそれだとちょーっと計算が合わないんですよねー」
瀬文「どういうことだ?」
当麻「だってー、あの時メンバーの皆さんは横山さんも含めて14人いましたよね?12個だと2人分足りないんですよ」
北原「横山は数え間違えただけじゃないですか?」
428 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:14:26.25 ID:q2sV+ZRh0
当麻「いいえ、あの時いたメンバーの中で1番後輩であるあなたが、先輩2人に八つ橋を渡せなくなってしまうというミス犯すはずがありません」
当麻「横山さん、あなたはあの時点で、2人のメンバーが八つ橋を食べるどころじゃなくなることを知っていたんじゃないですか?」
当麻「2人のメンバー…つまり高橋さんと前田さんが襲われることを知っていたから、12人分しか八つ橋を用意しなかったんです」
当麻の説明に、大島が驚愕の声を洩らした。
大島「本当なの…ゆいはん…」
大島に見つめられた横山が、やがてしゃくり声を上げる。
横山「ごめんなさい…うち…うち…」
驚きと落胆で静まり返った楽屋の中で、横山の泣き声だけが響く。
最初に沈黙を破ったのは、小嶋だった。
429 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:15:52.20 ID:q2sV+ZRh0
小嶋「でもー、握手会を中止にさせたかったのなら、ゆいはんが直接運営側に中止させるよう命令すれば良かったんじゃないのー?」
レモンの件からずっとうわの空といった様子だった小嶋だが、どうやら話は聞こえていたらしい。
宮澤「そうだよ。別に脅迫状通り本当にメンバーを襲わなくたって…」
河西「握手会が辛いのはわかるけどね」
小嶋の声をきっかけに、メンバーは各々自分の考えを述べはじめた。
小嶋「ねぇなんでー?なんで運営の人に直接命令しなかったのー?」
小嶋はなぜか妙なところにこだわりを見せ、珍しく自分から当麻に話しかけてきた。
当麻「北原さんと横山さんの目的が、脅迫状を書いた人物の希望を叶えるためだけでなく、チーム4チームBの全滅にあったからではないでしょうか?」
小嶋に話しかけられて、当麻ははしゃいだ声で説明した。
当麻「どうですか?納得できましたか?」
小嶋「えー、わかんない」
430 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:16:55.92 ID:q2sV+ZRh0
当麻「でしたら詳しく説明しましょう。北原さんは脅迫状を書いた人物を尊敬している。そしてその人物の希望を叶えるため、犯行を計画した。それと同時に、かつてからの自分希望も実現させようと考えたのです。北原さんの希望…それはチーム4とチームBの全滅…」
柏木「そんな、チームBを全滅させるなんて…。きたりえだってチームのメンバーなんですよ」
柏木の目つきが鋭くなる。
柏木「チームBの何がいけないんですか?」
佐藤亜「そうだよー。亜美菜チームB大好きだよー」
柏木の隣にいた佐藤亜美菜も、口を尖らせる。
当麻「そもそも脅迫状の件について、北原さんは読み間違いをしているんです。北原さんは今日まで、最初に脅迫状を書いたのが高橋さんだとは思っていませんでした。そうじゃないですか、北原さん」
当麻が再び問いかけると、北原は小さく頷いた。
431 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:18:28.09 ID:q2sV+ZRh0
当麻「北原さんはあるメンバーの持ち物から、脅迫状についての思念を読み取り、その物の持ち主こそが、脅迫状を書いた人物本人なのだと勘違いしてしまった。ここで問題になるのは、果たしてそのメンバーとは誰なのか、ということですね」
当麻はそう言って、メンバーを顔を順番に見つめる。
メンバーは何が始まるのかと期待と不安の入り混じった表情を浮かべていた。
当麻の視線が、あるメンバーに固定される。
大島「え?あたし?」
大島はそう尋ねながらも、すべてを悟った表情をしていた。
432 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:19:09.45 ID:q2sV+ZRh0
当麻「大島さん、あなたは何かの拍子に、高橋さんが書いた脅迫状を目にしてしまったのですね。たぶん、高橋さんのバッグの中から、脅迫状の下書きのような物を見つけてしまったのでしょう」
高橋「優子…じゃあはじめから知ってたの?」
高橋は驚きの表情で大島を見た。
大島「ごめん…。脅迫状についてはたかみなが書いたって知ってた。だけどきっと何か事情があるんだろうってみんなには黙ってたんだ。自分の心の中だけに留めておこうって」
高橋「そうだったんだ…」
大島「でも、何で当麻さんわかったんですか?あたしが脅迫状について知ってるって…」
大島は眉を上げ、当麻に視線を返した。
433 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:20:54.59 ID:q2sV+ZRh0
当麻「風船ですよ」
大島「風船?」
大島はその言葉だけでも鳥肌が立つのか、身を縮め、ぶるっと震えてみせた。
当麻「そのリアクションからもわかるとおり、あなたは風船が大の苦手なんですよね?しかしあなたは風船がセットされているスタジオの中に、自ら入って来たことがあった。覚えてますか?」
当麻「あの時私は、高橋さんの忘れ物であるバナナ柄のバッグを手にしていました。脅迫状について知っていたあなたは、私達に高橋さんのバッグを探ってほしくなかった」
当麻「中から脅迫状の下書きでも発見された日には、高橋さんが犯人として捕まってしまうかもしれない。あなたとしてはどうしてもそれは避けたかった」
当麻「だから私からバッグを取り上げるため、苦手な風船があるにも関わらず、スタジオの中へ入って来たんです。普段の風船嫌いなあなたでしたら、絶対にそんな行動起こしません」
大島「そうです。当麻さん達がもしたかみなのバッグの中を見たら、たかみなを犯人として考えるかもしれない…。そう思ったら風船の恐怖なんて忘れていました」
434 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 18:21:47.84 ID:8ikdbdhd0
>河西「握手会が辛いのはわかるけどね」
リアルwwwwwwwwww
435 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:22:26.16 ID:q2sV+ZRh0
当麻「そう。そして北原さんは大島さんの持ち物から脅迫状についての思念を読み取り、脅迫状の内容をそのまま大島さんの意思だと思いこんだのでした」
当麻「北原さんは以前から大島さんのことを尊敬している。彼女に一生ついていくとまで宣言している。これはもう、心酔といってもいい」
当麻「そうして大島さんをリスペクトするあまり、北原さんはいつしか、AKB全体のイメージを大島さんに近づけさせたいと考えるようになった」
当麻「大島さんはチームKです。チームKは4チームの中でもかっこいい、元気、体育会系などという言葉をイメージさせるグループ。そしてその間逆となるのが、チーム4、チームBという、可愛らしさをイメージさせるグループです」
高橋「まさか…北原はAKBをチームK化するために今回の犯行を…?」
当麻の言おうとしていることに気がついた高橋が、震える声で言った。
高城「だからチーム4とチームBだけ被害に遭ってたんだね」
仁藤「チームKのレッスン中は、能力者である梅ちゃんがいたのに何も事件が起こらなかった…」
436 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:24:06.99 ID:q2sV+ZRh0
当麻「その通りです。チームAは柱ですから消滅させるわけにはいきません。しかしチーム4、チームBが消滅すれば、チームKの持つイメージが大きくAKBに反映されることとなる」
当麻「不幸にも北原さんはチームBの所属。ですがチーム4、チームBの面々が今回の事件で恐怖心を抱き、脱退を希望したら、チームは消滅します」
当麻「おそらく横山さんはチームBがなくなれば残った北原さんがチームKに所属になるのではと考え、協力したのでしょう。横山さんは北原さんのことをいたく気に入っていらっしゃるようですから」
当麻「そして北原さんは、AKBを大島さんの色に塗り替えるために犯行を起こしたのです」
北原「ごめんなさい…」
当麻の話に耳を傾けていた大島が、静かに北原のもとへ歩みよった。
437 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:25:34.60 ID:q2sV+ZRh0
大島「ありがとう。きたりえがそこまであたしのこと尊敬してくれてたなんて知らなかったよ。でもね、AKBはメンバーそれぞれの色が交じり合ってAKBなんだ」
大島「あたし1人の色になったら、それはもうAKBじゃない。誰か1人の色に限定していたら、つまらないグループになっちゃうんだよ」
大島「尊敬してくれるのはうれしいけど、きたりえにはきたりえの色がある。あたしはいつも隣で、きたりえの色と合わさって、きたりえと…みんなと…たくさんの色を作っていきたい。これらもずっと…ね?」
大島は北原の手を握り、優しく語りかけた。
北原「でも…あたし…みんなに取り返しのつかないことしちゃった…」
北原はいやいやと首を激しく振る。
高橋「でもみんな…生きてる…。生きてる相手になら、これからいくらでも謝罪ができるんだよ。どんなに時間がかかっても1人1人とまた心を通わせられる日がきっと来る」
高橋は横山の背中を撫でながら言った。
大島「待ってるから…ずっと待っててあげるから、北原の帰りをメンバー全員待っててあげる…」
北原はそこで悲壮な声を上げ、号泣した。
438 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:27:06.62 ID:q2sV+ZRh0
瀬文「連れて行く」
瀬文と野々村が北原達を抱え、歩き出した。
メンバーの前で手錠をかけなかったのは、瀬文の優しさだろう。
高橋「あたしも行きます」
高橋がそれを追いかけた。
高橋「いいですよね?当麻さん」
当麻「お願いします」
当麻は高橋に向けて敬礼する。
高橋はそれに力強く頷くと、瀬文達を追いかけ楽屋から出て行った。
439 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 18:29:34.31 ID:bazZcisR0
終わりかな?
無茶苦茶いい話でした
440 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 18:32:37.32 ID:bazZcisR0
>大島「待ってるから…ずっと待っててあげるから、北原の帰りをメンバー全員待っててあげる…」
特に良かった一節です
441 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:34:26.41 ID:q2sV+ZRh0
北原達が出て行った楽屋内には、まだ混乱が残っている。
倉持「どうしてこんなことになっちゃったんだろう…」
倉持は心を落ち着かせるためか、無意識に高城の耳を触りながら言った。
小嶋「えーん、きたりえとゆいはんどこ連れて行かれちゃうのー?」
大島「……」
峯岸「すぐに戻って来るよね、大丈夫だよね」
前田「だといいけど…」
当麻は残った2つのレモンを食べながら、彼女達の様子を見ていた。
――これで事件解決…。うーん、でもまだ何か忘れているような…。
当麻にはまだもやもやとした違和感が残っていた。
そんな中、泣き止まない指原は鼻水まで流している。
442 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:35:37.26 ID:q2sV+ZRh0
大家「しいちゃんが鼻水拭いたるけん、泣くな!」
大家がティッシュを差し出し瞬間、指原の鼻水がぽたりと落ちる。
しかしそれは床に着地する前で、落下を止めた。
メンバー全員の動きが停止する。
廊下を歩くスタッフの足音さえ聞こえてこない。
水を打ったように静まり返った楽屋内。
ある者は涙を拭こうとして、ある者はメンバーに抱きつこうとして、それぞれ動きを止めている。
そんな中、1人少女がゆっくりと立ち上がり、歩きはじめた。
すべてが静止した世界の中で、少女だけが動くことを許されている。
少女の口元が、愉快そうに歪む。
――高橋まで行かせたことは、間違いだったようね…。
少女は当麻の目の前まで来ると、そっと彼女の髪に触れた。
443 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 18:38:24.99 ID:bazZcisR0
444 :
◆4zj.uHuFeyJ8 :2011/12/19(月) 18:38:34.72 ID:q2sV+ZRh0
当麻「うわっ、え?何これ?」
少女に触れられた瞬間、静止していた当麻が動き出した。
メンバーの姿を見て、驚きの表情を浮かべる。
当麻「みんな…止まってる?」
それから目の前の少女の存在に気付いた。
当麻「まさかあなたが…?時間を止めるスペック…」
少女が視線を落とし、くすりとほくそ笑む。
それから当麻を見据え、口を開いた。
藤江「あたしが第五の能力者。さあ当麻…どうする?」
静止した世界の中で、藤江と当麻は無言で対峙している…。
―END―
445 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 18:40:04.82 ID:bazZcisR0
>>444おいおいおいおいおい
次作もあるんですか?
446 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 18:41:02.70 ID:6cBwXYL7O
うまい!
この終わり方はいいと思う
447 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 18:41:11.47 ID:NL6OyNvI0
えっこれからでend?!
スペックもそんなもんだったけども!
448 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 18:42:32.02 ID:dj4f7ape0
時を止めるはあまりにバランスクラッシュだからもう出ないのかと思ったらwww
449 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 18:45:54.13 ID:v4qXkdGP0
この作者さんの話大好き。次の作品が楽しみ〜
450 :
サド ◆AKB48.oSZE :2011/12/19(月) 18:50:33.20 ID:jfV2r3rOi
藤江wwwww
451 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 18:54:05.04 ID:yzMu1ERx0
次回作を熱望
452 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 19:00:03.74 ID:jaEWC0o10
この作者さんが以前書いた作品を教えてくださいな
453 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 19:21:02.88 ID:UDXuUKkv0
まさかのれいにゃんかよ!
うわー!うわー!!よかった!ドキドキしたよ!
続きまってる!
455 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 20:28:17.98 ID:OJzmgq170
おもしろかったー!でもゆいはんの京都弁の下手さには笑ったw
456 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 20:46:50.32 ID:1iWdeUAi0
アンケートはそういうことね
457 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 20:58:52.89 ID:7NeHUKZL0
SPECの恵梨香ちゃん結構可愛いねw
458 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 21:04:19.36 ID:otaIb3V20
すげー楽しかった。ありがとう
459 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 21:16:11.94 ID:WPNFYZsYO
ほしゅ
460 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 21:24:59.33 ID:NL6OyNvI0
うん傑作だった
こういう無駄のない伏線からゾクゾクする作品を地下板で見れるとは感激です
次回作待ってます!
461 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 21:29:01.43 ID:UDXuUKkv0
そうなると藤江が黒幕的存在なのか、はたまた藤江を操るより高スペックの
持ち主がいるのかなどまだまだストーリーが尽きないでしょうし
飽きが来なさそうですね
462 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 21:32:58.17 ID:jaEWC0o10
というかなんで藤江が第五の能力者なんだ?
山内、小森、平嶋、梅田、前田、高橋、北原、横山が能力者なんだよね
463 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 21:35:35.01 ID:dj4f7ape0
>>461 いやいや、こういう投げた終わりでしょうww
もちろんいい意味でね
464 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 21:36:18.14 ID:NL6OyNvI0
>>462 前四人は操作されて能力を発動したからじゃないかな?
465 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 21:58:51.45 ID:wJFAYnb70
藤江が2位になったカラクリが分かったな…
466 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 22:43:05.05 ID:OkTkaul/0
おもしろかったです!
>>462 珠理奈が抜けてる。
高橋は特異体質で、能力者ではない、ということかな?
468 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/19(月) 23:34:33.38 ID:RrZykur70
ようやく読み終わった
オモロカッたよん
作者 乙
米沢の使い方が神
470 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/20(火) 01:54:12.21 ID:cQj75cNf0
いくらパロディーでも、ここまでの構成力は圧巻。SPEC大好きだし面白かった
推しじゃないのに珠理奈のヒーラーSPECが妙にピッタリだった
一っぽいからかな 神木くんの
最近こうゆう小説みたいなの好きでチェックしてるけど個人的には一番面白かったな!
伏線を嗅ぎ分けられるかどうか絶妙なラインで詰め込んでると思うし、メンバーごとの定番から旬なネタまでもさりげなく組み込んでるので細かい描写が多くても疲れずに読めた。
前半は正直そこまで気になる作品だと思わなかったけど後半は別物に感じる位よかった。
spec系は見たことないから評価が過大になってしまったかもしれないけどとても面白かったです!
1です。まだ残ってたのでひっそりとお礼。。
読んでくださった方、コメくださった方ありがとうございました
やっと念願のたかみなメインでSS書けた!
優子ゆきりんあっちゃんたかみなと来て、次は誰をメインに書こうか考え中。。
次も書けたら、その時はよろしくお願いします
ありがとうございました!
473 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/20(火) 10:21:39.05 ID:4tnGhHV30
過去作はどこかで読めますか?
474 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/20(火) 10:30:41.23 ID:rfPDnXeX0
>>472 毎度楽しませてもらっています
これからも無理しないよう願いつつ期待してます
476 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/20(火) 11:02:41.09 ID:iLynIjnyO
477 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/20(火) 11:25:06.92 ID:VJ+mrYD20
>>472 とてもおもしろかった
優子の小説だけまだ読んでないんですけど
どこかにありますか?
478 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/20(火) 11:54:21.99 ID:a4UTpXUM0
479 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/20(火) 13:16:47.45 ID:CIJDye5s0
優子とゆきりんの読みたいです!
どこにありますか?
つぎも楽しみにしてます!
たかまるぅー!
481 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/20(火) 13:55:30.32 ID:rfPDnXeX0
優子はバトロワテイストでゆきりんは金田一かな?
文章があっさりしてるとこがいいよね
483 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/20(火) 22:22:18.97 ID:OK+5Q8YrO
これは傑作
484 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/20(火) 23:23:53.20 ID:iWDhmZ0W0
まとめんばーに掲載されたな。
485 :
名無しさん@お腹いっぱい。:
まさにspecらしい後味の悪さというか、終わっても
モヤモヤする感じが良く出てましたね
投げた終わり方になるのが仕様でしょうけど、いずれれいにゃん絡みで
続編も読んでみたいですね